ALL OUT WAR (村田ですよぉ!)
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第一話 死神
...死神ってやつを、お前は見たことがあるか?
俺は死神など信じていなかった。だが...出会っちまったんだよ、絶対に存在しないと思っていた、『死神』ってやつに。
「くそっ!墜ちる!」
「ファルケン4、ロスト!ったく、味方が次々に墜ちて行きやがる!」
味方が次々に墜ちていった。全員腕はあった。
...敵は一機だけだった。俺は...あの機体の尾翼に描かれていた髑髏がトラウマになった...あいつは、正に「死神」だ。
「君たちが新兵か。」
エメリア合衆国空軍では、新兵の入隊が行われていた時期だ。
「君たちは今日からこのドッグフィッシュ隊に入隊してもらう。」
「変な名前ですね」
新兵の一人が言った。
「やっぱりそう思うかい。」
笑いながら隊長が言った。
ロベルト「自己紹介が遅れたな。私はドッグフィッシュ隊隊長、 ロベルトだ。よろしく頼む。
こう見えても前の戦争の修羅場は潜り抜けて来たさ。お前らひよっこの面倒は見てやれるよ。
では、そこの君から自己紹介を頼むよ。」
ドナルド「ドナルドであります。隊長が士官学校の軍曹のような人でなくて助かりましたぜ。」
ロベルト「ヘヘッ、だが厳しいときは厳しいから覚悟しとくんだな。次は君だ、自己紹介をしてくれ。」
エミール「エミールであります。よろしくお願い致します。」
ロベルト「君はあのロビ・エアクラフトの社長の息子か。
なぜエメリア軍に?」
エミール「...家柄で特別扱いしてくるような社会は嫌いだったので。」
ロベルト「ガハハッ、軍では家柄なんてもんは関係ねえからな。
....っと、最後は君だな。」
ヴィーカ「ヴィーカであります。
....皆様の足を引っ張らないよう頑張ります。」
ロベルト「君はエメリアでは珍しい女性パイロットになるな。
ドッグフィッシュ隊に女の子が来てくれるのは初めてだよ。」
ヴィーカ「戦場では性別など関係ありませんよ」
ロベルト「言ってくれるじゃないか。ところで、君は士官学校を満点で卒業したって話だな。いい才能を持っているじゃないか。」
ヴィーカ「才能なんてありませんよ、努力しただけです。」
ロベルト「嫌いじゃないぜ、そういうの。戦場では才能を過信したやつから死んでいくんだ。俺はそれを目の前で見て来たよ。」
自己紹介の後、隊員たちは軽い交流を行った。
ロベルト「ではドッグフィッシュ隊2番機をヴィーカ、3番機をドナルド、4番機をエミールとする。あとでそれぞれの戦闘機も決めるからな。楽しみにしてろよ。」
その後の休憩時間、隊員達は各々の時間を過ごしていた。
ドナルド「やっぱり二番機はヴィーカだったか。」
エミール「彼女のこと知ってるのか?」
ドナルド「小さい頃から仲が良くてさ、あいつは優等生だったよ。」
エミール「士官学校も満点だもんな。才能があるんだよ。」
ドナルド「俺も最初はそう思ってたよ。確かにあいつには人並みの才能がある。ただ、あいつの凄さは才能なんかじゃない、努力さ。あいつは俺らが馬鹿なことやってるときもずっと机に向かってた。」
エミール「なぜ空軍に来たんだろうな。」
ドナルド「さぁな。」
そんな話をしていると、滑走路に黒い死神のような機体が見えてきた。
ドナルド「すげぇな!新型機か?」
エミール「あぁ。Fu-43って戦闘機だ。今武装を積んで最終飛行試験をやるんだと思うよ。」
ドナルド「詳しいんだな。さすが社長の息子だ。」
次の瞬間、突然警報が鳴り響いた。
《国籍不明機が4機接近中!各員戦闘態勢!》
エミール「試作機を狙いに来たか!」
ドナルド「おいおいおいおい!今は他の機体も整備中で上がれる機体はねえぜ!」
敵機「ファルケン隊、今回の目標は敵航空基地の破壊だ。ついでに新型も破壊してやれ。オーバー。」
エメリア兵「早く!あの新型で迎撃を!」
滑走路に轟音が鳴り響いた。敵が投下した爆弾が滑走路を火の海にした。
警報が鳴り響く中、一人新型機へ走っていく影が見えた。
ドナルド「おいおいおいおい!あれはヴィーカじゃねーのか!?」
エミール「嘘だろ!」
2人のところへ、ロベルトがやってきた。
ロベルト「ヴィーカ!無茶しやがって!
ドナルド、エミール!とっととハンガーへ向かうぞ!」
エミール「機体はまだ整備中では?」
ロベルト「流石に整備終わってるのが一個ぐらいあるはずだ!」
3人が走っている間に、ヴィーカは死神に乗り込んだ。
エメリア兵「おい!あの新型を動かしてる馬鹿はどいつだ!」
ヴィーカ「管制塔へ、ドッグフィッシュ2、ヴィーカ、出ます。」
管制塔「悪いことは言わない!すぐにそいつから降りろ!」
周囲の制止も無視して、死神は空へと上がった。
ドナルド「あいつ...!パイロットスーツも着てないのに!」
エミール「そもそもあの機体はピーキーなやつだ。操作できるとは思えないが。」
敵機「新型が上がったぞ!ファルケン隊各機!さっさと料理してやれ!」
ヴィーカ(父さん...私はやってみせる。)
敵機「何だあの機動は!」
死神は、身をよじるように空を駆ける。
ヴィーカ(ロックオンした...このボタンか?)
死神は無慈悲な弾丸を敵ヘと放った。
「くそっ!墜ちる!」
「ファルケン4、ロスト!ったく、味方が次々に墜ちて行きやがる!」
敵機「隊長!撤退しましょう!」
敵隊長「...やむを得ん。エメリア軍の戦力を見くびっていたな。」
しっぽを巻くように、敵機は帰っていった。
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第二話 アルケー・システム
ヴィーカは黒いFu-43 に乗りこれを撃破した。
しかし、この機体は、危険な機体だとされているものだった。
ロベルト「おい!ヴィーカ!何やってんだ!」
ロベルトが乗ったFu-4が、ヴィーカのFu-43へと近づく。
ヴィーカ「申し訳ありません」
ロベルト「その機体は危険なんだ!そんな機体に!」
ヴィーカ「.....」
ロベルト「っ!...詳しい話は降りたあとでしよう。ともかく、無事でよかったよ」
そのまま2機は消火が行われる滑走路へ着陸した。
ロベルト「げぇっ...こんな騒ぎになるとはな」
エメリア大統領の姿が、そこにはあった。
ロベルト「大統領と...おまけに国防長官まで...」
二人は機体を降りた後、黒服にエスコートされながら大統領の所へ向かった。
国防長官「ロベルト隊長....」
ロベルト「誠に...申し訳ありません...」
大統領「いや、そういう話ではないんだ。」
ロベルト「...!」
大統領「あの試作機は彼女にまかせてほしい。」
ロベルト「!?..なぜ..?」
国防長官「簡単だ。彼女が適任なんだよ、あの死神を任せるのには。」
ロベルト「お言葉ですが、あの機体は貴方が想像するよりもずっと危険な機体なのです。前の紛争で私はそれを痛感しましたよ。私の戦友は、それで....。」
国防長官「その戦友とやらの娘なんだろ?彼女は。」
ロベルト「何っ....!」
国防長官「まぁそういうことだ。これは合衆国の今後の為の"やむを得ない"決断なんだよ。では。」
ロベルト「....」
護衛と共にその場を後にする大統領と国防長官を見送りながら、ロベルトはその場に立ち尽くした。
ヴィーカ「隊長。」
ロベルト「...?」
ヴィーカ「聞かせてください。貴方の戦友...いや、私の父の話を。」
ロベルト「...分かった。」
ロベルト「人の歴史は争いの歴史だ。我々人類は今まで数々の争いを経験してきたさ。その争いの中で、当然、戦場ではエースと呼ばれる、才能のあるやつと、才能の無いやつの2つが出てくるだろ?仮に、自軍の兵士が、全員才能のある奴だとしよう。そしたら、」
ヴィーカ「戦争に勝つのは簡単ですね。自軍側の戦死者も少なくなる。」
ロベルト「ああ。その通りだ。だから、エースを量産しようと、革新的な技術をいくつも投入したわけさ。その代表例が、あのFu-43にも、私の戦友であり、君の父でもある人が乗った機体にも組み込まれた、アルケー・システムだ。アルケーシステムはこれまでの戦争で集めた莫大なエース達のデータを基に、機体の操縦を補助するシステムだ。ただ、このアルケーシステムは、エース達の様々な思念なのか、そういうものまで具現化してしまう。パイロットは、そんな思念をずっと裏で聞かされ続ける。そして、それがずっと続くと、パイロットの精神はみるみるすり減り、最終的にはぶっ壊れちまうって訳だ。私の僚機だった君の父も、それで廃人になっちまってさ」
ヴィーカ「確かに...変な声が聞こえました。あの機体に乗っているとき、夢の中でうなされるような、そんな不安感を強く感じました。」
ロベルト「アルケーシステムは後世に残してはいけないシステムだ。だから君も、その機体に乗るのはよせ。」
ヴィーカ「.....」
しばらくすると、また警報が鳴った。
《エメリア軍施設が攻撃を受けている!ドッグフィッシュ隊は直ちに出撃せよ!》
ヴィーカはまた、あのFu-43のもとへと駆けていった。
ロベルト「おい待て...!」
ヴィーカはさっさとコックピットに乗り込んだ。
ヴィーカ「ご心配なく。私はシステムになど飲まれたりはしません。」
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第三話 アナザー
ロベルト「ドッグフィッシュ1、ロベルト、出る!」
ヴィーカ「ドッグフィッシュ2、ヴィーカ、出ます。」
ドナルド「ドッグフィッシュ3、ドナルド、行きますぜ。」
エミール「ドッグフィッシュ4、エミール、出撃します。」
ドッグフィッシュ隊が全機、空へと上がっていった。
ドナルド「いいよな、ヴィーカは」
ヴィーカ「何が?」
ドナルド「そいつ、新型だろ?俺なんか渡されたのはオンボロだぜ?これでどうやって戦えと..」
ヴィーカ「...」
エミール「おいドナルド、ヴィーカの機体は危険なんだぞ。」
ドナルド「んあ?どこがだよ?飛行中にクソを垂らせねぇってことか?それなら俺のも同じだぜ?」
エミール「ロビ社と長い間関わってきたから言えるんだ。あの機体は―」
ドナルド「へっ、流石社長の息子さんだな。」
エミール「その言い方はよせ!」
ロベルト「喧嘩はよせよ。もうすぐ敵さんがお見えになる。」
そんな頃、AWACSからの命令が下された。
AWACS「こちらはAWACSホークアイ。ドッグフィッシュ隊はこれより本機の管制下に入る。」
ロベルト「久々だな、ホークアイ殿。」
ホークアイ「そうだな、ロベルト大尉。」
ロベルト「前の戦争で一緒に生き残ったんだ。安心して戦えるよ。」
ホークアイ「こちらもだ。ただ、そっちにはアルケーを積んだ機体もいるんだろ?」
ロベルト「ヴィーカか、」
ホークアイ「ヴィーカ....女か?まさか...」
ヴィーカ「貴方達の戦友の娘....と言えば良いでしょうか。」
ホークアイ「やはりか。」
ロベルト(あいつと同じ道を辿らないことを願うが....ヴィーカ....)
ホークアイ「では戦況の説明と行こう。まず先程の不明機による攻撃はヴァールハイト国のものだと判明した。」
ロベルト「宣戦布告もなしに....か。」
ホークアイ「ああ。卑怯な連中だ。そして今、ヴァールハイトの連中はエース部隊をひっさげてロビ社の研究基地へ攻撃を仕掛けようとしている。」
エミール「たしかあそこにもアルケーを積んだ機体が....」
ホークアイ「君の言うとおりだ。あそこにはアルケーの試作機がまだある。万が一強奪でもされたら大変だ。死守してくれ。」
ロベルト「了解」
ホークアイ「指定空域に入った。作戦を開始せよ。」
狩りの始まりだ。
ドナルド「っしゃあ!やってやるぜ!」
エミール「はしゃいでるが撃墜されるなよ?」
ロベルト「おい!待て....これは!」
突然、ドッグフィッシュ隊の機体に異変が起こる。
ロベルト「レーダーがロックされている....妨害電波か?」
エミール「敵のジャミングか!」
ホークアイ「いや、発信源は―」
敵機「ヘヘッ、強奪に偽装した譲渡とはね。」
敵機「ロビ社もやってくれるじゃないか。ね、グレーテ少佐。」
グレーテ「....何か裏がある気がするけど。」
ホークアイ「発信源はロビ社の施設だ!くそったれ!」
ロベルト「譲渡しようってのか...?」
エミール「クソ野郎!だからロビ社は嫌いなんだよ!」
ドナルド「おーいおい、初陣からこれとはついてねーな。」
ロベルト「敵の隊長機、グレーテか?」
ヴィーカ「誰ですかそれ。」
ロベルト「最近ヴァールハイトで噂になってんのよ。まるで機体を手足のように操れるんだって。」
ヴィーカ「そんな人にアルケーが渡ったら...」
ロベルト「....エメリアはまずいかもな。」
ドッグフィッシュ隊の機体は全てジャミングされていてまともに戦えない。しかしその中でも敵機は容赦がない。
ロベルト「ケツにつかれたか!くそったれ!」
ドナルド「撃ってこねぇな...舐めてんのか?俺らを。」
ヴィーカ「レーダーが見えなくても大丈夫ですよ。」
そうすると、ヴィーカが駆る死神は敵飛行隊の隊長、グレーテの機体へと急加速した。
ヴィーカ「アルケーシステム.....私に力を...!」
Fu-43「アルケーシステム、スタンバイ」
ヴィーカ「っ....!」
ロベルト「システムを過信するな!システムの声に耳を傾けるな!」
グレーテ「何よあの機体!あれがアルケーシステムなの?」
死神は、グレーテの機体の後ろへと食らいつく。
ヴィーカ「レーダーが使えなくても...!機銃なら...!」
たちまち、グレーテの機体は蜂の巣となった。
敵機「隊長!早くベイルアウトしてください!」
グレーテ「この私が.....!」
グレーテはベイルアウトした。
ヴィーカ「はぁ.....はぁ....」
ロベルト「意識を保て!システムに飲まれるぞ!」
ホークアイ「ジャミング装置のハッキングに成功した!ジャミングを解除する!」
ジャミングが解除され、機体の異常はなくなった。
ロベルト「レーダーが復活したか!」
敵機「おい!なんでロックオンされてるんだ!ジャミングしてくれるんじゃなかったのか?」
敵機「ぐわっ!」
ドナルドのミサイルが敵機に直撃した。
ドナルド「ヘヘッ、俺のファーストキルだな。」
ロベルト「やるじゃねぇか。」
エミール「...!おい!下を見ろ!」
滑走路から飛び立つ、新型が見えた。
ロベルト「盗まれたのか...!もう1機の死神が...!」
ヴィーカ「迎撃します!」
ロベルト「アルケー同士でやり合うな!死ぬぞ!」
グレーテ「ベイルアウトした着地点にアルケーの機体があったとはね...!反撃と行くわよ!」
二機の死神が、初めて敵対し合う。
ヴィーカ「アルケー!言うことを聞け!」
Fu-43「アナザーを検知....」
ヴィーカ「いつもと動作が違う...!?」
エミール「始まってしまったか....」
ロベルト「何が起こっている!?」
エミール「アルケーシステムは、同じアルケーシステムを搭載したい機体"アナザー"の存在を検知すると...そのアナザーを潰す死神となるんだ。制御なんかできない。どちらかが死ぬまで暴走を続ける。」
ロベルト「救う方法はないのか!?」
エミール「....無理があろうかと」
ロベルト「クソっ!見殺しにするしかないのか!ヴィーカを!」
エミール「あの死神達の間に割って入る事も可能ですが...この機体では無理です。」
ロベルト「くそったれ!」
ヴィーカ「何がアナザーだ!いくら拒否しても、お前は私の機体だ!私に従え!」
グレーテ「フフフ....始めましょうか。死神たちのパーティーを。」
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