闘拳転生 (天然パーマF)
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第1話 始まり

ここは、剣と魔法が蔓延る世界。

この世界の住民たちは、地球人を遥かに超えた身体能力と、魔力という不可思議な力を持っている。

俗に言う異世界というやつだ。

 

そんな世界に俺は転生してしまった。

 

予め言っておいたほうがいいだろう。

この俺、”ジータ・アックス”には前世の記憶というものが存在している。

誰も信じてはくれないだろうけどね。

 

だが、確かに俺とは別の人間の記憶が存在しているのだ。

地球というこの俺がいる世界とは別の世界、そこの日本という国で生きている人間の男の記憶が。

 

おかげで俺の体の中には、この世界でのジータの記憶と、地球で生きていた男の記憶が同居している。

 

ちなみに、この前世の記憶は初めからあったわけではない。

この記憶が目覚めたのは5歳の誕生日を迎えた時だった。

 

誕生日の朝に起きた瞬間、俺の脳に1人の男の生涯と膨大な知識(主に漫画やゲーム)が流れ込んできた。

そんな膨大な情報量を一気に取得しても頭がパンクしなかったのは、この体が優秀だからなのだろうか。

 

なぜ、いきなり記憶目覚めたのかはわからないが、こうして俺は2人の男の記憶を持つ人族の少年になってしまったのだ。

 

あまり受け入れたくはないがな。

前世の俺は、誰が見てもクズとしか言えない人生を送っていた。

 

親のスネをかじり続けるクソみたいな人生だった。

やる事なす事、すべてが腹立つ。

 

パソコンの画面に映った美女で抜いているだけの毎日。

仕事を探したりは一切ない。

ただただ、現実から逃げ続けているだけのしょうもない男だった。

 

そんな男の死因は、心臓発作。

生活習慣も悪かったし、いつ死んでもおかしくない体だったのだろう。

あっさりとした幕引きだった。

 

俺も今世でそういった人生を送るのか?

いや、二度とあんな事をするわけにはいかない。

 

この世界ではちゃんと生きてみせる。

異世界転生したから最強目指すとかはしないが、最低限自分一人でしっかりと生きていけるくらいにはなりたい。

 

現に、今の俺の生活は──

 

 

俺が過去を振り返っている時、家の玄関の扉が開く音が聞こえてきた。

誰が来たのかは予想できる。

 

いや、逆にそれ以外だったら困るんだが。

俺は自室を出て、家の玄関へと向かった。

 

そこには金色の髪と端正な顔立ちを持つ、青年のような男が立っていた。

腰には日本刀のような剣を差しており、俺が生前いた国だったら速攻で警察の世話になるだろう。

 

「おかえりなさい、父さん」

 

そう、この美男子こそが俺の親父なのだ。

親父の名は”アウロ・アックス”。

 

この世界に()()()()()しかいない、俺の家族だ。

 

親父はアスラ王国の騎士で、剣神流という剣の流派の聖級、剣聖の実力を持っている。

剣聖にもなると光の速度で剣を振れるらしいから、父は相当な実力者と言えるのだろう。

 

俺が知らないだけで剣聖はたくさんいるのかもしれないが、剣聖より上は剣王一人と剣帝二人、そして剣神一人しかいないらしいので、やっぱり強いのかもしれない。

 

「飯はできているのか?」

 

「うん、部屋に置いたよ」

 

「そうか……」

 

親父はそういい、自分の部屋へと歩いていった。

そして誰も入ってくるなと言わんばかりに、扉を強く閉めた。

 

……ここまで見ればわかるかもしれないが、俺と親父の仲は決して良くはない。

別に忌み嫌っているというわけではないが、親父は明らかに俺を遠ざけているのだ。

 

仕事で二ヶ月くらい家を開けるということも結構あるため、俺は親父無しで生活することも多かった。

 

ちなみに、母は俺を産んで直ぐに亡くなってしまったので、顔も見た事がない。

おかげで一人暮らしの生活には、すっかり慣れちまった。

今世で俺が目標としていた事は、あっさりと達成してしまっていたのだ。

 

だが、寂しい。

 

親父とベタベタ触れ合いたいというわけではないが、もう少し家族の愛情ってものが欲しい。

もしかしたら、俺は少しファザコンなのかもな。

 

まあ、親父しか家族がいないから自然とそうな……ってなぜ受け入れようとしてるんだ俺は。

 

 

……本当に虚しくなってくるなぁ。

 

親父は俺が7歳の時までは、それなりに家族として接してくれていた。

一緒に町の店を見て回ったり、剣を教えてもらったりなど、俺と親父は仲のいい、一般的な親子だった。

 

だが、ある日から親父は俺に冷たく振る舞うようになった。

一緒に店にでかけるというのも一切なくなり、剣の修行も途絶えてしまった。

 

他にも、仕事で家を空ける期間がかなり長くなった。

今までは長くても二週間程度だったが、今では二ヶ月だ。

 

これに関しては、仕事が忙しくなってしまったとだけ解釈できるかもしれないがな。

 

まあ、こんな感じで俺と親父からは少しずつ会話がなくなり、以前のような仲睦まじい親子ではなくなってしまったのだ。

 

 

一体、何があったのだろう。

俺の事が嫌いになってしまったのだろうか。

思い当たる節はないが、何か気に触ってしまったのか。

 

だとしたら、いつまで経っても根に持ちすぎだな。

さすがの親父も、そこまで嫌な奴じゃないだろう。

 

だとしたら、俺と仲良くしたら困る事でもあるのだろうか。

神様から俺と仲良くしてはならないみたいなお告げでもあったのだろうか。

いや、さすがにそれはアホらしいな。

 

そんなクソみたいな神はギリシャ神話くらいしか……ってこんな事を考えてどうするんだ俺は。

 

だが、7歳の時からもう4年、11歳になった今でも、親父が俺に冷たくなった理由を考えているが、ちっとも検討がつかない。

 

……いつか、話をしないとな。

できるかわからんけど。

 

俺は布団の中に入った。

すぐに、眠りに落ちた。

 

 

 

---

 

 

 

突如、目が覚めた。

外はまだ暗く、夜である事がわかる。

だと言うのに、なぜ目覚めてしまったのか。

 

それは、俺の中の何かが危険を知らせていたからだ。

 

一体、何が?

気のせいかもしれないが、何かしらの気配を家の中から感じる。

親父が寝ぼけて闘気を放っているとかだったら良いが、あの人に限ってそんな事はない。

 

だとしたらこの気配はなんだ。

恐ろしく、禍々しく、そして巨大な何かの気配。

俺みたいなクソガキでも感じ取れてしまうほどの強大な存在が、この家にいる。

そうとしか考えられない。

 

親父が危ない。

そう思い、俺は部屋の外に出た。

 

親父は俺に対して冷たく振舞っている。

親子らしい会話もしてくれないし、これと言って何もやってくれたりはしない。

 

だが、俺の家族だ。

それも、たった一人の。

失ってたまるか。

 

 

だが、運命というのは最悪なものだった。

俺が感じている不穏な気配は、親父の部屋から出ていたのだ。

 

俺は親父の部屋の前に立った。

心臓の鼓動が聴こえる。

恐怖と緊張で押し潰されそうになるが、進むしかない。

 

俺は扉を開けた。

 

何もあって欲しくなかった。

ただただ、のんびり寝ているだけの親父が居て欲しかった。

 

 

 

そこには────銀髪の男に胸を貫かれている親父の姿があった。



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第2話 誓い

俺は、この状況をどう受け入れれば良いのだろうか。

恐怖の権化のような銀髪の男が、俺の父の胸を素手で貫いている。

 

普通、こんな状況に出くわしてしまったらパニックになるだろうが、あまりにも意味不明な出来事すぎて、俺の心は少し冷静になっていた。

 

「親父……?」

 

もちろん親父からの返事はない。

胸を貫かれているからだろう。

先程は自分が冷静になっていると言った俺だが、本当にそうなのだろうか。

 

何を言えばいいのか、ここから何をすればいいのか。

俺のこの平凡な脳みそには何も浮かんでこなかったが、ただ一つ理解できたのは、親父はもう長くはないということだけだ。

 

「ん?お前は誰だ?」

 

そして、俺の声に反応したのは親父ではなく、銀髪の男だった。

男は俺のほうを振り向き、こちらを凝視している。

 

恐怖。

まさに、この言葉が最もふさわしい男だと言えるだろう。

その身から発している雰囲気は、まさに恐怖の権化。

おまけに男は酷い三白眼をしているせいで、余計にその恐怖を引き立たせている。

 

今すぐこの場から逃げ出したいが、そうもいかないだろう。

 

「ジータ・アックス」

 

俺は、自分の名前を呟いていた。

名乗らないと、殺されると思ったからだ。

 

男は、親父をボロ雑巾のように地面に投げ捨てた。

親父は、ピクリとも動いていなかった。

 

”死”。

この言葉が、俺の頭に過ぎった。

 

男はつい今、親父を殺した事を一切気にしていない様子だった。

そして、表情を一切変えずに俺に話しかけてきた。

 

「ふむ……アウロ・アックスの息子か。

驚いたぞ。アウロに息子はいなかったはずなのだがな。

これもヒトガミからの助言か?」

 

こいつは一体、何の話をしているのだろうか。

まるで親父の生涯をすべて知っているかのような言い方だ。

 

俺が考えすぎている可能性もあるが、今のはあまりにも不自然な言い方だった。

ひょっとして、こいつは未来でも見えてるのか?

 

そして、ヒトガミとは一体何なのだ?

ここまで恐怖を撒き散らしている様子を見ると、相当な憎悪を抱いているらしいが、何者なのだろうか。

 

そんな事を考えても仕方がないのは分かる。

だが、考えざるをえない。

親父の友達なのか?上司なのか?それとも……

 

「一応聞くが、お前はヒトガミという言葉を知っているか?」

 

おそらく来ると思っていた質問が来てしまった。

ふざけて知っていると言ってやってもいいが、間違いなく俺にも死が訪れるだろう。

 

「知ら、ない」

 

俺の声は明らかに震えていた。

この男への恐怖、たった一人の家族を失った悲しみ。

誰も居なかったらすぐにでも泣き叫びたい気分だった。

 

「そうか……お前の様子を見た感じ、本当に知らないようだな。ならいい」

 

男は親父のそばにしゃがみこみ、穴が空いていて血で真っ赤になっている胸に手を当てた。

これ以上、親父を傷つけるつもりなのか?

させる訳にはいかない。

 

俺はそれを止めるべく、動き出そうとした。

これ以上、親父を貶めることだけは許せなかった。

もちろん恐怖を感じていたが、それ以上に怒りのほうが勝っていた。

 

その時だった。

男の手が光り輝き、親父の胸に空いていた穴が塞がった。

 

 

もしかして、助けてくれたのだろうか。

 

「多少、傷を治した。あと5分程度は生きれるだろう。

最後の別れを済ませておくのだな」

 

親父の胸が上下に動き始めていた。

微かに呼吸ができている。

 

今のがもしかして、魔術なのだろうか。

俺が知らないだけなのかもしれないが、死にかけていた人間を一時的にでも、治癒できるのは相当な魔術の使い手なのだろう。

 

だが、なぜ治してくれたのだろう。

あの恐ろしい雰囲気と、今の行動がまったく一致していない。

 

「それと……ジータ・アックスだったな。

言っても無駄だと思うが、夢でヒトガミという者が出てきたとしても、一切耳を傾けるなよ。

この龍神オルステッドに殺されたくなければな」

 

男はそう言い、入り口で固まっている俺の横を通り、部屋から出ていった。

後ろを振り向いたが、もうそこに男の姿はなかった。

 

 

龍神オルステッドか……。

昔、聞いたことがある。

この世界の強さにおける頂点たち、七代列強。

その第二位が龍神であることを。

 

「うっ……」

 

いや、あいつの事など、どうでもいい。

今は親父が最優先だ。

 

「親父!」

 

俺は親父に駆け寄った。

親父は閉じていた目を開き、俺を見た。

 

胸の傷は確かに治っている。

本当にこれで死ぬのだろうか。

全部治っているようにも見える。

だが、あそこまでの大物がそう言った嘘をつくようには見えない。

 

「ジータ……か?」

 

顔色が真っ青だった。

瀕死の状態である事は間違いないのだろう。

だが、諦めきれない。

 

「あまり無理しないでくれ。すぐに医者を……」

 

「……この時間帯にやっている医者はない…。

それに俺も、もう長くは……ゲハッ!」

 

「親父!」

 

親父は口から大量の血を吐いていた。

もう喋らなくていい。

俺はそう言おうとした。

 

だが──

 

「さ、最後に一つ……このアウロ・アックスの、いや、ジータ・アックスの父としての頼みだ……」

 

まだ男が去って1分も経っていないというのに、親父はもう死にかけている。

もしかすると何もしないなら5分という事なのか?

 

だとしたら……もう遅い。

親父は……言いたい事は最後まで言い切らないと気が済まない人間だから……。

 

俺は、覚悟を決めた。

 

「お、俺は……強さの才能は乏しかった…

父としてもクズだったし、ろくでもない人間だ……。

だがジータ、お前には才能が……強くなれる才能がある……」

 

「だったら、鍛えてくれたって良かっただろ……!」

 

俺はそう言わざるを得なかった。

いつの間にか、目に涙が溜まっていた。

 

「すま、ない……神様にな、言われたんだ……

息子を強くしてはいけないって……

いや、今となっては言い訳にしかならないか……」

 

親父はみるみる弱っていく様子だった。

声も段々小さくなってきているし、顔色がさらに悪くなっている。

 

話をしなければ、まだ生きることはできる。

だが、俺は親父を止めることができない。

 

親父が話を始めたら止まらないというのもあるが、それ以上に、俺は親父と話す事が嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。

 

親が死ぬっていうのに嬉しいという感情を抱いてしまっている辺り、俺もろくでもない人間なのかもしれない。

だが、それでいい。

 

親父と話せるのなら、俺はクズでもいい。

 

「ジータ」

 

「なんだい、親父」

 

「いや、その”親父”っての……今まで聞いたことなかったなぁって……」

 

あ、そうだった。

今まで、俺は”父さん”と呼んでいたんだ。

心の中では親父と呼んでいたが。

 

「そうだった、ごめんよ父さ──」

 

「いや、親父でいい……そっちのほうが、俺も楽だ…」

 

……なぜ、今まで俺は親父をそう呼んでやれなかったのか。

そう呼べたなら、父と俺は仲良く過ごせたのではないか。

こんな今になって後悔する事などなかったのではないだろうか。

 

「悪いが…これで、最後だ……」

 

親父はそう言い、体を起き上がらせた。

俺も、親父も、覚悟は完全に決まっていた。

 

「いいか、ジータ……俺、いやこの父も、そして龍神も、……

 

すべてを超えろ

 

……」

 

 

 

 

 

 

---

 

 

 

 

 

 

俺は、親父の遺体を町共同の墓地に葬った。

親父の役職が騎士だったのもあり、それなりに良い場所に遺骨を納めることができた。

 

「……」

 

我が家は、たった一人になってしまった。

あの龍神オルステッドによって。

 

だが、自然とオルステッドを恨む気にならなかった。

 

俺のオルステッドへの感情はただ一つ、超えるべき男。

いや、もう一つある。

それは、尊敬だ。

 

歪んでいる。

間違いなく、俺は歪んでいるといえる。

 

自分の親を殺した相手を尊敬?

ありえない。

 

俺は間違いなく、人間のクズだ。

だが、誰から何と言われようと構わない。

 

龍神オルステッドを超える。

それは、父の夢でもあり、そして……俺の夢だからだ。



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