恋姫†無双 黒の剣士(偽)と聖杯戦争 (月神サチ)
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登場キャラ設定集 SAO+IS組

目次

メモ

SAOプレイヤー組

SAO_NPC組

IS組

 

 


 

メモ

 

通称:通称または『前世』での名前。(プレイヤー組は全員通称)

   現名及び真名がない場合はこの名前で通っている

実名:前世のプレイヤー組の本名またはフルネーム。通称と同じ場合等は表記ナシ。

現名:この世界での名前。無い場合は表記ナシ。

真名:この世界での真名。無い場合は表記ナシ。

 姿:数の姿を持ってるキャラ、イメージが必要なキャラの場合に表示。

   姿が固定されてる場合は表記ナシ。

 

備考

IS組の介入などがあり、SAOの原作版とゲーム版のどちらとも言えないルートを突っ走ってる。

以下確定情報

・ストレア、フィリア、ユウキとはSAOで会っている。

・レイン、セブンとはALOで邂逅。

・プレミア、ティア、キズメルはSA:Oにて邂逅、

 ユイやストレアと共にキリトのナーヴギア+追加記憶装置に定住。

・アンダーワールドではスーパーアカウントをヒロインズは使用している。

・ユージオは生存、整合騎士としてのアリスは現実に、

 アリス・ツーベルクはユージオと共に残る道を選んだ。

 

 

 

以下SAOプレイヤー組

 

 

 

通称:アスナ

実名:結城明日奈

 姿:創造神ステイシア

 

言わずとしれたキリトの正妻。

SAO組のヒロインを制御しつつIS組の癖が強すぎるメンツを一夏に任せる役割分担を行っている。

料理上手で包容力がある一方、怒らせるとかなり怖い。

なお、キリトに対して怒る原因が以下なので最後の以外は全て順当である。

・原作でやったような無茶振りの数々。

・仮想現実(ペインアブソーバーレベル0)で事故死

・上記条件(ペインアブソーバーレベル0)でマグマダイブ(回避不可の死)

・仮想現実にダイブ中にリアルで襲撃食らって半死半生*1

・上記のダメージからの復帰と別件で計2回精神崩壊

・行く先々で女の子引っ掛けてる

 

容姿はアンダーワールドでの【創造神ステイシア】。

SAOのアスナと服装以外変わりないと言ってはいけない

あまりに姿が酷似してるのと前世でもほとんど使ってないためアスナからも忘れられているが、無制限地形操作の神聖術を使える。

ただ、使用にかかる負荷が非常に大きいため、安定して使えるとしても花壇の手入れ程度である。

なお、武器が神器のままだが、「なんで持ってるかわからないけど、手に馴染むし、そのまま使っておこう」ってことで、愛用されている。

 

 

通称:リーファ

実名:桐ヶ谷直葉

 姿:地母神テラリア

 

キリトの従妹にして、義理の妹。

この世界線では周りに触発され、一線を超えている。

直葉の姿ではなく、リーファ*2の姿をしている。

また、地母神テラリアの権能である《無制限自動回復》という自己天命(HP)回復能力を所持している。

しかし、デメリットも所持したままなので、使用は憚られる。

もっとも、任意発動なのと、所持してることに自覚がないため、日の目を浴びることは多分無い。

そのため、持っていた武器が神器である理由に首を傾げることがあったようだ。

 

 

通称:リズ(リズベット)

実名:篠崎里香

 姿:鍛冶屋(マシニスト)(アンダーワールドのハイレベルアカウントでSAOのリズと大体同じ)

 

SAOからキリトたちと付き合いのある少女。鍛冶や工作系のポジのせいか、(束さんから材料精錬の手伝いをさせられたことも要因のようだが)リアルでも鍛冶や工作技能がかなり高い。

SAOでキリトとなし崩しで関係を持った世界線であり、「MORE DEBAN」にならず、大勝利を勝ち取っている。*3

鈴、シノンと並び、常識人ポジでツッコミに回ったりすることが多い。

束さんからは『(精錬系について凡人としては非常に)優秀』という評価を受けてるが、リズ的には『規格外の思考が読めないし、振り回される』という理由から、敬遠している。

 

 

通称:シリカ

実名:綾野珪子

 姿:賢者(ラーニング)(アンダーワールドのハイレベルアカウント)+背負ってるのがバックパック

 

SAOからキリトたちと付き合いがある少女。相棒のピナはいるが、フェザーリドラという、ドラゴン系の小型の幻想種のため、普段は背負っているバッグに仕舞っているか、いつの間にかピナ自身が取得していた不可視化(インビジブル)で透明になってもらって傍に居てもらっている。

SA:Oでの経験*4などから経営、会計方面の才覚が開花した。

そのため、天然スパコンの数名*5とも得意分野では同じレベルで会話できる。

 

 

通称:シノン

実名:朝田詩乃

 姿:太陽神ソルス

 

SAOでキリトたちと縁を持った少女。かつてはトラウマを抱えていたが、それを乗り越えている。

自分が持ってる権限に唯一気がついており、《広範囲殲滅攻撃》と《無制限飛行》が使えることも一応確認済み。

最も、やらかしたらどうなるかをキリトという前世からの反面教師から察しているため、相当な自体にならない限り、使用は自重している。

それを差し引いても、卓越した弓術により、フェイルノート並の命中率を誇るため、スカウトされることが多かったようだ。

 

 

 

以下SAO_NPC組

 

通称:ユイ

実名:メンタルヘルスカウンセリングプログラム試作1号(MHCP001)・コードネームユイ

 

キリトとアスナの娘。

ピクシーの姿に変身できたりする。

キリトやアスナの補助をすることが多い。

キリト(パパ)に頼んで特別な施術をしてもらったため、彼が持つ異能の一部や宝物庫の使用権が使えるようになっている。

 

 

通称:キズメル

 

SA:Oで仲間になった森を守るダークエルフの剣士。

指揮官としての才や冷静な判断力もさながら曲刀を使い、舞うように戦う戦闘力の高さも持つ。

どちらかというとオトナとして仲裁役をすることがおおく、気苦労が多かったりする。

なお、ツッコミ役に回らないのは、自分の感覚と一般人の感覚がズレてると自覚してるため。

エルフの補正を受けるのか、森の中ではキリトの不意を突けることもある。

恋姫のマンハント勢に声をかけられる日は遠くないかもしれない……。

 

 

通称:プレミア

 

SA:Oのヒロイン。

もともとはデータ設定が無いNPCだったが、プレミアという名前をキリトたちからつけられ、彼らと行動することで情緒含め成長した。

なお、双子であるティアのスタイルの良さから、「自分もいずれは……」と思っていたようだが、肉体の成長が固定されている事実を理解し、ショックにより鈴の貧乳党に加入。

なお、姿可変であるティアを貧乳党出禁にするよう進言したり、姿可変であるその能力をよこせと喧嘩したりしたこともある。

最近は腹ペコ属性を手に入れ、アスナや一夏の料理があるところにはたいてい出現するようになった。

 

 

通称:ティア

 

SA:Oのもうひとりのヒロイン。

紆余曲折の末、キリトたちの仲間になった。

プレミアと髪色が違う(こっちは白銀)瓜二つの姿と、成長した姿の2つを持っており、基本後者の姿で行動している。

プレミアのように腹ペコ属性は持っていない。

過去の経験からか、人の悪意に敏感。

日常でも悪意に対して、素のキリト以上の感知能力を発揮する。

 

 

通称:ユージオ

現名:張任

真名:ユージオ

 

キリトの同世代同年齢の友人。

今世でも青薔薇の剣を持ち、にゃんばんを除く南蛮勢力の鎮圧に多大な功績を持っている。

記憶についてはつい最近取り戻した。

思うところはあるが、アリスを養えていることと、蛮族から無辜の民を守ることをやめることができなかったため、なし崩しで劉璋軍に残っている。

 

 

通称:アリス

現名:李厳

真名:アリス・ツーベルク

 

ユージオの幼馴染。

もうひとりのアリスの存在について、思うところはあるが、彼女がキリトへの想いを受け継いでくれたと思い、ユージオとともにいることを選べた。

今世はユージオのパートナーとして兵站管理や指揮を担っている。

 

 

 

以下IS組

 

 

通称:一夏

実名:織斑一夏

 姿:イメージ……閃乱カグラの斑鳩(いかるが)

 

キリトの幼馴染。

TSし、アスナに並ぶ献身性と家事力を持つヒロインに躍り出たキャラ。

前世では大小併せ3度に渡るアスナとの正妻戦争を行っている。(1勝2敗)

平時は縁の下の力持ちポジに回って、アスナや味方の補佐に回ることが多いが、

戦闘になると千冬や箒、束さんと連携して先陣に突撃する切り込み隊長に回る。

なお、TSする前から直葉に「お兄ちゃんを狙ってる……」と疑われていたが

TSしてそれが実際のものになったため、SAO組ヒロインからは

「これは精神的BLでは?」と一時期議論されたこともある。

 

 

通称:千冬

実名:織斑千冬

 

一夏の姉。

一夏がキリトと知り合い桐ヶ谷家と縁を持った。

身体能力は束を若干上回り、卓越した指揮能力を持つが、他の分野では束に後塵を拝している。

束さんが箒を焚き付けてキリトを襲わせた一件が契機となり、一夏に背中を押され、キリトと関係を持った。

家のことはテンでだめだったが、一夏の根気強い訓練により、最低限の料理はできるようになった。

 

 

通称:箒

実名:篠ノ之箒

 

一夏とキリトの幼馴染。原作(IS)と違い、疎遠になることはなく、鈴とも顔なじみ。

若干頑固なところもあるが、(キリト、一夏絡みを除けば)信賞必罰をしっかり行えるため、

判断役を任されることが多い。

なにげに束の妹だからか、身体能力や毒物耐性なども人一倍高く、前述の性格から

試食役を依頼され、悶絶したりすることもある。

 

 

通称:束

実名:篠ノ之束

 

『興味が在るもの以外はどうでもいい』を地で行く女性。まあ、理解者や超越者がいたことやキリト、一夏、千冬、箒の尽力により、『どうでもいいとカテゴライズしたものも一応覚えておく』、『茅場とか須郷とか菊岡のように他人に迷惑かけないよう気をつける』レベルに改善・漂白されている。

細胞レベルでチート(本人談)かつ天災としての才能は健在で、ネタ発明からガチの発明まで色々作ったりしている。

『自分も一般人と同じ目線に立てる』などの理由からVRMMOにハマったこともある。

 

 

通称:鈴

実名:凰鈴音

 

自由人に振り回される良識人ポジの少女。

一般人ポジかつ、ツッコミ役に回ることが多いため、リズと仲が良い。

シリカやセブン、プレミアと貧乳党を結成したり、休日でも街で市民の声を聞いたりするなど、バイタリティ溢れている。

 

 

 

 

 

 

*1
この一件で、キリトの肉体を守る超人的防御力が『意識不明またはそれに準ずる状態だと機能しない』ことが判明

*2
正確には地母神テラリア+直葉のセルフイメージによるリーファ

*3
なお、発覚した数時間後にはアスナからキリト共々折檻された模様

*4
小型の屋台で肉まん屋を経営

*5
束、カーディナルと条件付きでユイ、ストレア、プレミア、ティア



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登場キャラ設定集 SAO,IS,サーヴァント勢以外

※注意
未登場キャラが登録されていることがあるため、間接的にネタバレがある場合があります。

データは随時追加予定



目次

 

 

劉備軍関係者

 

曹操軍関係者

 

孫家関係者

 

袁家関係者

 

漢中+益州関係者

 

司馬家

 

洛陽関係者

 

その他陣営

 

 


 

 

メモ

 

名前:姓+名

 字:ない、または決まっていない場合は表記ナシ。

真名:(説明略)

 姿:複数の姿を持ってるキャラ、イメージが必要なキャラの場合に表示。

 

 

 

 

 

 

孫家関係者

 

名前:孫静

 字:幼台

真名:夕蓮

 姿:らき☆すたの高良みゆき(+10歳前後した感じ)

 

孫堅の妹で文官。二張を従える文知派で文知派の二張と孫堅や孫策の折衝役。

天然が入っているが、仕事についてはきっちりこなしている。

おっとりしてるせいか身内からは「この人は自分が守護(まも)らねば」と認識されている。

これで未亡人なんだから世の中わからないものである。

 

 

名前:孫皎(そんこう)

 字:叔朗(じょろう)

真名:瞬

 姿:まどかマギカの鹿目まどか

 

孫堅の姪で孫策の従妹で孫権の従姉。周泰、陸遜とは幼馴染。

心優しく、芯が強い。基本的に戦闘はさっぱりだが、代わりに五斗米道(ゴッドヴェイド―)の関係者だった老婆から医術を学び、多くの命を救っている。

兵士たちの手当をすることもあるから、孫家の聖女とか呼ばれていたりする。

 

 

名前:孫奐(そんかん)

 字:季明(きめい)

真名:歌留多

 姿:妖狐×僕SSの髏々宮カルタ

 

孫堅の姪で孫権の従妹で孫尚香の従姉。基本的に孫静の護衛兼秘書として働いている。

口数が少なく、行動も一見不可解なため、不思議ちゃん扱いされることが多いが、

ちゃんと物事を理解した上で行っており、後々振り返ると最適な行動をしてることがほとんど。

健啖家で美味しそうなものが大好き。

 

 

名前:張紘

 字:子綱

真名:紫水

 姿:ポケモンのカトレア

 

孫呉の二張の片割れ。雷火の遠戚にあたる。

年齢的に雷火と同じくらいなはずだが、後述する体質のせいか、精神年齢がけっこう若い。

月の満ち欠けに強い影響を受けており、満月の前後は常人の半分程度の睡眠時間で卓越した手腕を見せるが、新月前後はほとんどうとうと寝ぼけて半ば夢遊病状態でいる(なお寝ぼけている間の不幸回避を初めとした回避性能と幸運値はかなり高いため、寝ぼけているときの不運が起きることはない)

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袁家関係者

 

備考

袁家

 

長男:袁成、長女:袁逢、次女:袁隗

 

袁成と妾の子  →袁紹

袁逢と旦那の子 →袁術

 

 

 

名前:袁逢(えんほう)

 字:周陽(しゅうよう)

真名:静香(せいか)

 姿:やや灰色の混じった金髪のウェーブの髪と赤い瞳の美女

 

漢の司空を務めた政治家。

のほほんとしてるようにみえるし、実際のほほんとしてるが、

エンジンかかると仕事があっさりと終わる。

袁術の実母。

 

 

名前:袁隗(えんかい)

 字:次陽(じよう)

真名:燐香(りんか)

 姿:赤みかかったブロンドヘアーと、新緑の瞳の女性。

 

漢の司徒を務めた政治家。(第9話時点で汝南に帰還)

事故死した袁紹の両親や病死した袁術の父、仕事で中央に行ったまま戻ってこない袁逢に代わって二人の世話をした。

二人が独り立ちできる頃に司徒として招聘され、黄巾党の乱をきっかけに辞任して隠居を選んだ。

若干上から目線なことが多いが、スタンスがノブリス・オブリージュのため、直接の上司じゃないなら割と名君に見える。

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漢中+益州関係者

 

名前:張魯

 字:公祺

真名:蜜璃

 姿:鬼滅の刃の甘露寺蜜璃

 

恋多き娘。五斗米道(ゴッドヴェイドー)の3代目教祖。

ご飯だいすき、恋愛話大好き。

怪力でどこかポンコツだが、カリスマ性や政治能力(特に農業方面)が優れている。

 

 

名前:張衛

 字:公則

真名:ユースティアナ(ペコリーヌ)

 姿:プリコネのペコリーヌ

 

ご飯大好き、美食大好きな娘。

姉と同じ血を引いてるだけあり、怪力でお腹が空きやすい。

姉より仙術が得意な分、毒などの耐性も高く、ゲテモノも食べたりする。

 

 

名前:閻圃

真名:雪泉

 姿:閃乱カグラの雪泉

 

どこぞの良妻を名乗る狐*1といい勝負な服装をしてる女性。

一応本人も戦えるが、軍師や後方で働くほうが性にあってるらしい。

法正、李厳とは文通友達だったりする。

 

 

名前:法正

 字:孝直

真名:ねりこ

 姿:アルノサージュのねりこ

 

他人をおちょくることが好きなどこか年寄りくさい言い回しをする女性。

文官仕事から軍師の仕事まで幅広い分野で才を発揮する。

劉表との小競り合いや大規模な戦いのうち、防衛戦において負けなしなので劉璋も軽んじることができない。

 

 

名前:呉懿

真名:レナルル

 姿:アルノサージュのレナルル

 

永安太守の女性。

前世では帝国の宰相や特殊警察の長官を経験しており、卓越した指揮能力を持つ。

イオンを妹のように大切に想っている。

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司馬家

 

名前:司馬防

 字:建公

真名:飛燕(ふぇいえん)

 姿:ポケモンのシロナ

 

名門河内司馬家の当主。

司空、太尉を歴任した経験を持つ。

今は古い顔見知りである何進の命で大長秋*2になっている。

何進、何太后には自分が仕事で居ないときに子守をしてくれたなどの恩がある。

それはそれとして、横暴に対しては実直に諫言する。

娘が8人おり、司馬八達と呼ばれていたが、長女、三女、四女、六女、末娘の5人が反抗の末出奔しており、所在が不明*3となっている。

 

 

名前:司馬朗

 字:伯達

真名:水銀燈

 姿:ローゼンメイデンの水銀燈

 

司馬家の長女。

勝手に婚約を結ばれたことと、相手が自分を政治の道具としてしか見てないことにキレて、親にも反発。その在り方に賛同する妹たちを連れ、出奔。

現在は連れてきた他姉妹とともに袁紹幕僚として法の番人として采配を奮っている。

 

 

名前:司馬懿

 字:仲達

真名:伽音

 姿:カノイール・ククルル・プリシェール

 

司馬家の次女。

母の意に沿い、国を治めるための官僚となるために努力をしてきた少女。

……最近頭を強打したことで記憶の錯乱が在るようだが*4、仕事などはしっかりと行っている。

婚姻云々に思うところはあるが「家を、ひいては命をつないでいくために必要でしょう」と自分に言い聞かせている。

 

 

名前:司馬孚

 字:叔達

真名:白楼

 姿:アズレンのフォーミダブル

 

司馬家の三女。

淑女として振る舞う美女。

ただ、抑圧されてきた反動か、『司馬防の三女』ではなく『司馬孚という個』として見てもらいたい願望が発露。

長女の出奔に同行し、袁紹の幕僚として内政で采配を奮っている。

 

 

名前:司馬馗

 字:季達

真名:霧影

 姿:アズレンのプリンツ・オイゲン

 

司馬家の四女。

口数が少なく、本心が見えない娘。

ただ、押さえつけられることが嫌いで反発気味だったが、長女の爆発に便乗して出奔。

冀州にきて間もない袁紹の配下となり、目をみはる兵站管理を見せ、田豊に一目置かれる。

 

 

名前:司馬恂

 字:顕達

真名:黄月

 姿:艦これのビスマルク

 

司馬家の五女。

締めるところはしっかりと締め、遊ぶ時は思いっきり遊ぶという、切り替え上手。

長女たちの出奔を止められなかったことから、より自己研鑽を重ねるように。

どこかポンコツっぽいのは何故だろうか……。

 

 

名前:司馬進

 字:恵達

真名:銀水

 姿:這いよれ! ニャル子さんのニャル子

 

司馬家の六女。

他の姉たちと違い、真っ向から母に反発してたりしていた娘。

長女の出奔にしれっとついていき、袁紹の支配域の治安維持部隊のトップにいつの間にか君臨している。

 

 

名前:司馬通

 字:雅達

真名:銀華

 姿:アズレンのベルファスト

 

司馬家の七女。

儒学に沿い、姉を、親を立てることを是としている。

従者として振る舞い、私情よりも他者を優先することで『良き従者』として認識されることを選んだ。

長女と母の喧嘩は儒学に基づいて母の肩を持ち、出奔する姉妹を見送った。

 

 

名前:司馬敏

 字:幼達

真名:黄蓮

 姿:アズレンのエルドリッジ

 

司馬家の末娘。

ポワポワした顔しており、口数は少ないが、行動力もあって割とフリーダム。

見た目がロリだが、成人してるってこれもうわかんないね。

いつまでも子供扱いする母への反逆と長女の行く末が心配だからという理由で長女についていった。

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洛陽関係者

 

名前:許相

真名:咲恋

 姿:プリコネのサレン

 

太尉の任を終え、肩の荷が降りて羽根を伸ばそうとした矢先、何進の大将軍・太尉の兼任が発生し、補佐として指名された。

現在太尉府主簿として大将軍・太尉を兼任する何進の補佐をしている。

実際は何進の仕事を丸投げされている。

 

 

名前:王元姫

真名:スズメ

 姿:プリコネのスズメ。

 

ドジで有名な許相のメイド。

普段は致命的にドジをやってるが、誰かが一緒に仕事してるときやココぞというときは絶対ミスしないため、「彼女が一人で仕事してミスしてない」ときはその仕事がとても重要と周囲から認識されている。

 

 

名前:楊彪

真名:秋乃

 姿:プリコネのアキノ

 

方向音痴で誰かに案内されないと迷子になる。

袁隗の後任として司徒に任じられた。

許相とは古くからの馴染みで、袁家とは名門繋がり。

側近が大体のことをやってしまうので、世間知らずだったりする。

 

 

名前:崔琰

真名:美冬

 姿:プリコネのミフユ

 

楊彪の側近にしてめちゃくちゃ律儀な人として有名。

同時に効率の良さに目が行きがちで、本末転倒してることもよくある守銭奴としても知られている。

また、槍術を始め、基本的な武術を修め、そこらの腕自慢など片手で倒せる実力者と、属性過多。

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*1
Fateシリーズに出てくる玉藻の前のこと

*2
皇后の命令を伝達し、皇后が外出する際に付き従う

*3
実際は袁家にいることを識ってるが、戻ってこいというつもりがないため、わからないということにしている

*4
サージュ・コンチェルトの記憶を思い出しただけ



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プロローグ
第0話 女神


「――目を覚ましたかな?」

 

目を開くとそこは深海の底を思わせるような暗さと、水泡が浮かんで宙へと消えていく不思議な空間であった。

 

しかし、周りの景色は光がないはずなのに、太陽の元にいるかのようにモノの形や色ははっきりと見える。

 

周りの泡の色も、口から出る泡の大きさも――

 

「――!?」

 

吐息が水泡となって泡立つのを見てオレは慌てるが――。

 

「――落ち着いて。ここで呼吸は意味をなさないから」

 

傍でオレの顔を見ていた女性がそういうのと共に、思考が落ち着く。

 

腰まであるシルバーブロンドの癖のない髪に蒼い瞳をしている美女である。

 

「……ここは……?」

 

呼吸が出来ている事態にもはや驚くのを諦め、疑問を解消していくことを優先することにした。

 

「ここは……君のイメージしやすいように言えば『管理システムの領域』となるかな? 最も、君の知る『SAOを始めとしたMMO』の管理システムではなく、『いくつもの泡沫世界の管理システム』となるけどね」

 

「……?」

 

理解できるようで理解が追い付ききれない。

 

「まあ、3回ほど前の人生で何度か読んだことがある神様転生とかで特典をくれた神様とでも思ってくれればいい。強いて違う点を挙げるとするなら、君が最後にいた世界を管轄してる存在とは別口とだけ。あの世界が突然滅びた理由について問い合わせは受け付けません」

 

最後の言葉と共にフラッシュバックする記憶。

 

なら元の世界の管轄の神とやらに問い合わせさせてくれ、と思ったがたぶん色のいい返事をしてくれないのだろう。

 

「そういうこと。とりあえず……『飽きたからポイ捨て』みたいなノリで廃棄された世界のキリト君。交換条件で『君と共に居た友人たち』と住むことができる新しい世界を始めとした色々な便宜を提供しよう。条件はコレね」

 

と目の前にデータが表示される。

 

「…………アンタが約束を守る保証は?」

 

そういえばコイツは何て呼べばいいのだろうかと思いながら問いかける。

 

「ふむ……なら君が瞑想中に私と連絡とれるようにしておこうか。あとこっちの契約書を持っておくといい」

 

と羊皮紙っぽいものを渡してきた。

 

そこには「以下契約を契約者キリトが遂行することを条件に女神エフィーリアは有形無形の支援を行う。なお、必須と書かれた項目以外は成否を問わない」という感じの文面がかかれていた。

 

それがオレの中に滑り込んで溶け込む。

 

たぶんストレージに入っただけだろう。

 

「……アンタの思惑に乗ってやる。――ただし、騙すならただじゃおかないからな」

 

「無論。何だったら――」

 

と間合いを一瞬に詰めてきて

 

「――!???」

 

「――ふふ、女神の口づけ、おまけに初物だ。これだけ入れ込んでいるということで、奮起してくれたまえ。もし続きがお望みなら、契約完遂してからだ。待ってるからね?」

 

突然沸いた胃痛と共に、意識が遠くなる。

 

――……そろそろオレ、後ろから刺されるかもしれない……。

 

そう思いながら、意識を失った。

 



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第1話 問おう、アンタがオレのマスターか

キリト(偽)君は何故NARUTOに出てくる輪廻写輪眼(本人視点右目・切り替え可)と永遠の万華鏡写輪眼(左目・切り替え可)を始め、忍術や常人離れした身体能力や、王の財宝モドキ(射出がどうも出来ない)を持ってるのかを、記憶を引き継げなかったため持っていません。
記憶は摩耗した転生する前(本人視点)とキリト君時代の二つ(+聖杯がもたらしたその時代の一般常識)だけです。
そのあたり、よろしくお願いします。

それではどうぞ


「すごい」

 

「本当に人が現れたのだ」

 

「……まさか本当にこんなことが……」

 

目を覚ますとそこは書庫らしい場所で、目の前には3人の少女が佇んでいた。

 

左から艶の良い黒髪ロングヘアーの少女、ルビーレッドの髪と蒼い瞳の少女、赤毛の活発そうな少女。

 

そして魔力のパスがつながっているのは真ん中の少女だ。

 

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。――問おう、あんたがオレのマスターか?」

 

すると問いかけた少女がハッとして口を開く。

 

「は、はい! 私、劉備、字は玄徳。 貴方を呼びました!」

 

「……確かにパスは繋がってるな。さて、口振りから多少知ってるようだが……」

 

左右の2人を見てから

 

「2人の名前とかも聞かせて欲しい。代わりに可能な限り、オレについてや聖杯戦争についておしえるから」

 

オレは冷静に現在の状況などを得ることにした。

 

「にゃ? 鈴々たちの名前? 鈴々は名を張飛、字は翼徳なのだ」

 

「私は関羽。字は雲長だ」

 

「……セイバーと名乗ったが、それはクラス名で、真名はキリトで通っている。キリトと呼んでくれ」

 

オレがそういうと、三人は目を丸くする。

 

「え、サーヴァントの真名って、ほかのサーヴァントに知られたら、逸話とか弱点が分かるから、クラス名で呼ぶのが普通なんじゃないの?」

 

劉備の問いかけにうなずく。

 

「確かにそうだ。……だが、真名をしられて露呈する能力や情報は氷山の一角……むしろ油断してくれるから露見した方が良いまである」

 

「なら、私のことも桃香って呼んで欲しいかな。真名を預けてくれてるのに、私も預けないのは不平等かなーって」

 

「……良いのか?」

 

「うん!」

 

何故か彼女の笑顔に胃にダメージが入る(女難センサーがアラートを鳴らす)が、必要経費と割りきる。

 

「ならお兄ちゃんのことをキリトお兄ちゃんって呼ぶから、鈴々のことも鈴々って呼んで欲しいのだ」

 

ふたりがかりでうるうるした目をしてきて根負けする。

 

「……分かった。桃香、鈴々」

 

「なあに?キリトお兄さん」

 

「キリトお兄ちゃん」

 

オレの呼び掛けに2人ともニコニコしながら答える。

 

「「チラッ」」

 

そして2人が関羽の方を見て、それにたじろぐ関羽。

 

「えっ、私も……?」

 

「お兄さん、真名を預けてくれたよ?」

 

「鈴々たち、桃園で姉妹の誓いしたのだ。愛紗だけ仲間外れにするつもりないのだ」

 

2人に勝てるわけがないみたいで、たじたじになってる関羽がかわいそうになってきた。

 

「お二人さん、真名を預けるかは本人の意思だから同調圧力かけるのはやめておくべきだ」

 

そっと助け船をだすが――

 

「いや、2人のいう通りだ。敵対してるわけではないし、私だけ仲間外れはその……寂しいから、な。愛紗と呼んでもらえれば」

 

まさかの助け船が火計で燃やされて戻ってきたでござる。

 

「お、おう……愛紗」

 

「はいっ」

 

やべえ、すごい煌めいてる笑顔だ。

 

犬のしっぽが幻視されたが気のせいのはず……。

 

アスナが黒パンにクリーム塗ったアレをこっそり食べて懐かしんでたアレや一夏のエプロン姿褒めたときのデレデレといい勝負だなぁと思いつつ、話を戻すことにした。

 

「それで……まあとりあえず、聖杯戦争とかについて説明してくか……」

 

オレはアイテムからホワイトボードと筆記具一式だして3人には学校とかで使う机と椅子のセットを出して座らせた。

 

「はい、まず聖杯戦争について。聖杯戦争とは、願いを叶える奇跡の道具『聖杯』を巡って戦う特殊な戦争です。そしてそれを手に入れるには召喚される七騎のサーヴァントのうち、六騎が脱落する必要があります」

 

「お兄ちゃん、絵が上手なのだ」

 

説明しながら、ざっくり絵を描いていく。

 

「ちなみに、本来の用途を使うには、七騎全部脱落してもらう必要があるけど、コレは魔術の極めた先に見えてくる目的を達成する為の要素だから今回は横におきます」

 

「せんせー! それだとせんせーも脱落する可能性ないですか? この本くれた人は『聖杯は早い者勝ち、叶えたらおしまい』っていってました」

 

桃香が元気よく手を上げて質問してきた。

 

「それは詐欺です。オレを含め、ほとんどのサーヴァントは聖杯の仕組みとかに干渉できないので、願いを叶えるためには6騎以上の脱落が必須になります。ちなみに聖杯は不良品な可能性もあって、その場合は願いをかなえてくれなかったり、方法がろくでもないなどの致命的な欠陥抱えてることがあるのでその場合は破壊します」

 

「そ、そんな……」

 

3人とも(*´・ω・)とする。

 

「まあ、オレの場合、桃香の手の甲にある令呪全部といくつか道具使って裏技使えば脱落した扱いになる代わりに、現世に残れるけどな」

 

「本当?」

 

「なら早速やるのだ」

 

「……キリト殿が乗り気ではないあたり、何かあるのでは?」

 

 

オレの言葉に反応してすぐに行動に移ろうとした桃香と鈴々。

 

しかし愛紗がオレの態度から察して水を向けてくれた。

 

「令呪3つともオレの受肉のために使うことになるし、結果として脱落になるから聖杯を得るのは難しくなる」

 

「私は悪い人の手にその聖杯?が渡ってほしくないだけで、マトモな人が使ったり、ダメな聖杯破壊するのに抵抗ないけど……」

 

さらっと答える桃香。

 

「んー……今黄巾党と呼ばれる賊が蔓延ってるが、それを何とかしたいとかの願いもかなえられると思うぞ? まともな聖杯なら」

 

「たしかに、そうだと思うけど……そこは、私たちがどうにかするべきことだと思うし、立ち直れるって私は信じたいから。あ、もしかして、お兄さんが叶えたい願いがあるからためらってる……?」

 

ハッとした様子でオレを見る桃香。

 

「いや、オレとしても脱落するより、生き残ってやるべきことを果たす方が望ましい。……ただ、この方法で受肉してしまえば、オレを従える強制命令権である3画の令呪を失うし、受肉したから、マスターとのパスはなくても存在することができる。つまり、今こうして大人しくしてるが牙を剥くかもしれない。オレを信じるのは時期尚早じゃないか?」

 

「うーん、私はお兄さんがお人好し過ぎて注意してるだけに見えるけど、2人はどう思う?」

 

「桃香様と同じ意見です」

 

「お兄ちゃん、悪い子ぶってるけど、ものすごくいいお兄ちゃんなのだ」

 

「……」

 

悪役みたいなロールを何度かしたが、どうもダメらしい。

 

「それで、お兄さん、どうしたらいい?」

 

「……『令呪を以て命じる、セイバー受肉せよ』。これで1画消えるから続けて2回『令呪を重ねて命じる、セイバー受肉せよ』でいいはずだ」

 

「令呪を以て命じます。――お兄さん、受肉してください」

 

間髪入れずに令呪を発動して、一画目の令呪が消える。

 

「――令呪を2画重ね命じます。――お兄さん、受肉して」

 

あれ?なんか胃痛がしたが気のせいだろうか。

 

胃痛が引くとともに肉体が実体を得たのを実感する。

 

「……まだ、お兄さんとのつながりを感じる。良かった」

 

何だろうなぁ、浮気(一夏の勘違い)を咎められたときと同じ圧を桃香から感じる。

 

いや、オレまだ彼女に好かれるようなことしてないんだけど!?

 

「とりあえずあとは」

 

いつの間にか取得していた影分身を使い、分身にそこそこ離れた場所に移動してもらって、対象未指定で外道・輪廻天生の術を発動してもらい*1、そのまま昇天してもらう。

 

すると聖杯からセイバー脱落の情報が入ってくる。

 

……使える術者が限られるし、バグを見つける変態(ANY%RTA勢)もいないはずなのにどうやってこの方法を発見したのか、謎だがとりあえずヨシ。

 

「ところでお兄さん」

 

「……どうした?」

 

「お兄さんって生前女の子に好かれたの? 私の目にお兄さんの能力とか見えたんだけど、スキル?ってのに『女難:EX(位階測定不能)』って見えるからモテるのかなーって」

 

「「……ふーん?」」

 

アスナ、一夏、みんな……。

 

オレ、志半ばで果てるかもしれないや……。

 

 

 

 


 

 

 

「……? セイバーが脱落? 戦闘があったという聖杯からの報告はない……マスターと仲たがいして自滅した……というわけでもないはずだが……聖杯を騙すなんて芸当がセイバークラスに出来るとは思えない……。ルーラ―として何故私が呼ばれたか分かりませんが、とりあえず、課せられた使命を全うするためにも、調査に移りましょう」

 

食べかけの焼売を口に放り込み、お代を置いて、その場を後にする少女。

 

――ルーラ―が召喚されている時点で、穏やかな戦争とはいかないようだ。

*1
輪廻天生は対象指定しないとただの自殺の術になる



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第1章 黄巾党征伐
第2話 黒の剣士(偽)と老人 そして旅立ちへ――


色々端折り過ぎたので出発までのシーンを挿入しました。

次話は加筆修正したら投稿します。

それではどうぞ。


「――アンタ、何者だ?」

 

3人に連れられ、書庫から出たオレは、そのまま執務室らしきところに案内された。

 

そこには、豊かな白い髭を蓄えた、一見好好爺にしか見えない老人がお茶をのみながらくつろいでいた。

 

しかし――オレには人ならざるなにかを感じ、直ぐに抜刀できるようにかまえながら先の言葉を投げかけた。

 

「お、お兄さん!この人は厳岳さんっていって――」

 

「劉備。かばわなくてよい。――下手に隠していたくもない腹を探られるより、誠実に語る方が良いからな」

 

老人はふぉっふぉっふぉ、と笑ってから、真面目な顔で告げた。

 

「ワシは厳岳。――まあそれは仮の名じゃな。ワシを知るものは『南華老仙』と呼ぶ。まあ、端的に言えば『舞台装置』としての役目を終え、朽ちるのを待つばかりの老い耄れじゃ」

 

「……桃香がアンタをかばう理由、桃香に英霊召喚の方法を教えた理由、『■■■』という女神に心当たりは?」

 

立て続けに投げつけると、どうどう、というジェスチャーをしてから口を開く。

 

「一辺に聞かれても困る。一つずつこたえるかの。――まず、劉備がワシをかばうのは、ワシがこの娘の後見人をしたり、ワシがこの世界において仙人に相当する存在であることを理解しており、その上でワシを一人の人間として認めてくれてるからじゃ」

 

桃香を見ると素直に頷く。

 

「……桃香様が厳岳殿を祖父のように慕うのは存じてましたが、そのような理由があったんですね」

 

「鈴々たち、聞きにくかったから初めて知ったのだ」

 

ほえー、と2人が驚いている。

 

「次に英霊召喚を教えたのは……聖杯戦争という存在を知らずに巻き込まれるよりは、当事者として介入していた方が、ワシの知る情報から判断した限り『良いはず』と判断したのがある」

 

「……判断材料が不十分な気がするが、まあ良いだろう。最後の質問の答えは?」

 

オレは、反射的に少し警戒心を剥き出しにしながら問いかける。

 

「この外史を摘み取り、手を加えた者の1人とだけじゃ。ワシは『管理者』ではないが『外史が産み出した舞台装置』ではある。ゆえに断片的にではあるが、情報を手に入れておる。――■■■という女神、2人の魔女を名乗る存在、そして聖杯を以て外史の抹消を望む管理者がこの聖杯戦争に関わっておることをな。逆に言えば、それだけじゃが」

 

「……とりあえずは信じる。あと、黄巾党を討伐する義勇軍を結成したいと3人が言っていたが、なにか吹き込んだ覚えは?」

 

最後の(つもりである)問いかけに、老人はきょとんとしてから首を横に振る。

 

「噂が、流れてきてまもなく彼女からそう言い出した。ワシがしたのは、何度か彼女が無くした家宝を買い戻したり、失せ物探しをして探すのを手伝ったり、彼女の家族の葬儀や独り身になった後の後見人してたくらいじゃ」

 

眼を変化させて騙っていないか見ていたが、終始変化がないのを確認して元に戻した。

 

「……そうか。疑ってすまない」

 

「構わぬ。それはそれとしてお主ら、近いうちに此処を旅立つのであろう?役目を終えた老い耄れとはいえ、仙人として在るから家の面倒は見ておくぞ」

 

その言葉に桃香があっ、と零す。

 

「あ、家のことすっかり忘れてた……」

 

「あと馬を3、4頭、明日までに用立てておこう。荷を預けるも乗るもすきにするといい」

 

好好爺に戻った翁はふぉっふぉっふぉ、と笑いながらそう告げた。

 

「それじゃ、明日までに荷物を纏めてくれ。オレはいくつか確認したいことややっておきたいことを済ませておきたい」

 

そう桃香たちに告げると、

 

「別行動……まあ、お兄さんに無理に付いてくつもりないけど……」

 

「先のやり取りといい、除け者のされてるようにも感じますね」

 

「隠し事は誰にでもあるけど……なんかもやもやするのだ」

 

3人の反応が芳しくない。

 

「……」

 

フー……っと息をはいてから、影分身を使う。

 

「分身に要件とかはやってもらって、オレは付いてく。それ以上の妥協はしないぞ」

 

「「「よかったー」」」

 

「それだから女に甘いだの、ユイからジト目とど正論で精神攻撃されるんだよ、オリジナル」

 

何故か分身に後ろから攻撃される悲しみに包まれながら、喜ぶ3人の買い出しや、荷物整理などを敢行した(途中で金銀財宝持ってることバレて、おねだりに屈しまくったり、荷物を預ければ良いじゃないと気がつかれて、下着含めた色々な荷物を預けられたが、割愛する)。

 

 

 


 

 

次の日の朝、町の外れにて。

 

オレが出した荷馬車に翁が連れてきた四頭の馬を繋げて確認をし、あとは出るばかりとなっていた。

 

「それじゃ、達者でな」

 

「おじいちゃんも元気に、なのだ」

 

「お世話になりました」

 

「またね、おじいちゃん」

 

翁の言葉に3人が荷台の幌から顔を出して笑顔で答えたり、手を振る。

 

「キリト殿。3人を頼むぞ」

 

「ああ。表向き脱落したとはいえ、一応契約は続いてるしな」

 

最初以外は小声で答える。

 

そして、これ以上会話も不要と判断したオレは、鞭を使い、荷馬車を発車させた。

 

緩やかだか、人の歩みより早く進む荷馬車により、老人の姿は背にした町の風景に瞬く間もなく飲まれ、その町の風景も、ほどなくして小さくなっていった。

 

 


 

 

 

「それにしてもすごいね、この荷馬車」

 

幌に包まれた荷台から御者台に出てきた桃香がオレのいる御者台の隣に座る。

 

「逆にソレに慣れたら、野宿とかできなくなるだろうな」

 

一見只の幌で覆われた荷馬車だが、中はかなり大型の広いゲル*1のようになっている。

 

トイレやシャワーこそないが、キリト(オレ)のいた時代のキッチンや、羽毛布団セットをはじめとした寝具、ソファーなどの寛げるスペースまで完備されており、食料も時代考証をドブに捨てたようなの(チンするやつ)とかはじめとしたものがしこたま入ったボックスなどがある。

 

そのため、『動く引きこもりの部屋』と自分の中で呼んでたりする。

 

「不浄と湯浴み以外完備されてるとは……キリト殿のいた世界とやらはとても優れた世界なのですね……」

 

愛紗も驚きと困惑半々くらいの様子でそう零す。

 

「寝台がすごいのだ、乗ったら跳ねるの、初めてなのだ」

 

鈴々も喜んでいる。

 

「……さて、黄巾党とやらが跋扈してる東に向かう――その前に、寄り道していいか?」

 

オレの言葉に3人が首を傾げる。

 

「なにか在るのですか?」

 

「普通にいく方が早いと鈴々思うけど……」

 

「理由が聞きたいかなー」

 

3人に敵う訳もなく、素直に白状する。

 

「一応受肉してるけど、サーヴァントとしての能力持ってるんだけど、そのなかに『啓示』ってスキル……能力を持ってるんだ。ソレが『新野にある学院で臥龍と鳳雛を手にせよ』って言って来てな。コレを無視して良いことないから、可能なら寄りたいんだけど……」

 

それに対して彼女たちは互いの顔を見合ってから口を開く。

 

「お兄さんがそういうなら?」

 

「たぶん鈴々たちにも良いことになると思うのだ」

 

「逆走になったり、よほど時間がかかったりしなければ否とは言いません」

 

「よし、次の目的地は新野だ。出発!」

 

「「「おー!」」」

 

3人の了承もとれたので進路を南西に切り替える。

 

――さて、予想通りなら、あの2人だが……。

 

ちらりと3人を見る。

 

――あの2人も3人みたいになってそうだな。

 

などとオレは思いながら、次の目的地へ思いを馳せるのであった……。

*1
遊牧民族たちが使う移動式の家




セイバーのざっくりステータス

真名:キリト(桐ヶ谷和人)

ステータス(マスター:劉備)
筋力:C 耐久:B 敏捷:A+ 魔力:C- 幸運:A++ 宝具:?

スキル
騎乗:C
対魔力:B+
黒の剣士:A(勇猛、矢避けの加護、剣術、直感の複合スキル)
女難の相:EX
啓示:B
魔眼:EX
忍術:A++

宝具:不明


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第3話 出会いと再会の新野にて 前編

あれから数日。

 

時折休憩をはさみながらの馬車の旅の末に新野にたどり着いた。

 

町外れの宿を選び、馬車を停める。

 

「3人とも、着いたぞ。……宿とこっち、どっちで寝る?」

 

「流石に宿かなー?」

 

「居心地良くて、堕落してしまいそうですしね」

 

「鈴々も2人と同じなのだぁ」

 

フニャフニャのへちょ状態の3人が何とか羽毛布団などの魔力に抗って出てきて、寝間着から着替えを始める。

 

「あのー、オレ見てるのに脱ぎ始めるのはやめてほしいかなー」

 

即座に外に顔を向ける。

 

「お兄ちゃんになら、見られてもいいかなーって」

 

「えっと、前読んだ本でこんなやりとりでたしか……『見せるためにやってるんだよ?』だっけ」

 

「……! キリト殿の御目汚しをしてしまい、申し訳ありません」

 

特に気にしてない鈴々にアピールしてるらしい桃香、2人と違い我に返ってあたふたする愛紗。

 

「うら若き乙女が野郎に晒すことを気にしないのは良くないぞー。あと愛紗は自分を卑下しないように。着替え終えたら出てこいよ」

 

オレはそう告げてから幌の入り口を下ろす。

 

「――キリト?」

 

響いてきた鈴のような声に反応して振り向くと、そこには濡れ羽色の肩にかからないくらいの髪と、水底まで見えるような透き通った蒼い瞳の少女が、少女とにた顔つきで、髪を白く、6年ほど成長したような姿の娘が眼を見開いてこちらを見ていた。

 

「……プレミア、ティア?」

 

2人とも手にしていた袋などを無意識か手から零しながら御者台のそばまで歩いてきた。

 

オレも御者台から降りて、2人を見る。

 

「キリト、また会えて……嬉しいです」

 

「あなたも元気そうね」

 

ほろほろと涙を流す少女(プレミア)と緊張の糸が切れたように、安心した顔を見せる(ティア)

 

「オレもまた会えて嬉しいよ」

 

と2人を抱き締めて撫でる。

 

しかしその瞬間、背中に寒気と胃に激痛が走る。

 

「パパ……?」

 

「キリト君……?」

 

「お兄さん……?」

 

御者台挟んで反対側と、幌の入り口の方から声がする。

 

動かない身体を精一杯動かして振り替えると、そこには入り口から顔を出して困惑してる桃香たちと、悲しそうな顔をする腰まである黒髪と黒い瞳の少女にライトブラウンの瞳と背まである髪を靡かせた娘がオレを見ていた。

 

「ユイ、アスナ……!? 2人とも……無事でよか」

 

「キリト、まだ私は撫でてもらいたいです」

 

「それとも、私たちは適当にあしらっていいとか思ってる?」

 

オレの服を掴んで撫でろと要求してくるプレミアとティア。

 

「「……」」

 

「オレ、どう転んでも詰みなんだけど……」

 

あっちを立てればこっちが立たずという状況に追い込まれたオレは、肩を落とした……。

 

 

 


 

 

「どうも、『キリト君の妻の』アスナと言います」

 

「パパとママの娘のユイです」

 

「『キリトのあいじん』のプレミアといいます。こっちは妹で『愛人2号』のティアです。こっちの方が体つき言いとか思った人、後で反省文提出してください」

 

「……『愛人2号』のティアよ。もっとも、彼には自称や潜在的愛人が他にもいるみたいだけど」

 

「私は劉備、字は玄徳です。お兄さんを召喚したマスター……ってのです。真名は桃香で、普通に桃香と呼んで下さいね」

 

「私は関羽、字を雲長という。キリト殿にはとても良くしていただき、大変お世話になっています」

 

「鈴々は張飛、字は翼徳なのだ。お兄ちゃんは鈴々たちの力になってくれてとっても助かってるのだ」

 

近くの飲食店にドナドナされ、長方形テーブルの誕生日席にオレ、右側にアスナたち、左側に桃香たちが座っていた。

 

そして挨拶から何故か(表情は笑顔なのに)お互いを敵視している。

 

胃が痛いぞ???

 

「……みんな、食べに来たのに、お互い威圧してどうする。余波に宛てられた店員さんも怯えて裏に引っ込んだぞ?」

 

オレがそういうと、アスナが絵顔のままこちらを向く。

 

「キリト君に優しくされたりして、勘違いしたり、手遅れになる前にしっかりと釘を刺してるだけだよー?」

 

「オレ、そういうつもりは」

 

「パパ、論より証拠です。前科多数のパパに弁解の余地はないですよ? 束さんとかだったら『ならそんなことできないくらい疲れれば良いよね?』って搾られますよ?」

 

「……」

 

アスナに反論しようとして、インターセプトしたユイの言葉にぐうの音も出ずに撃沈する。

 

「……まあ、キリトのいう通り、食べに来たのに何も注文しないのは良くないので、注文はさっさと済ませましょう。食べながらや、食べてからでも会話はできますからね」

 

アスナもお腹すいたのか、プレミアの意見を採用し、店員を呼ぶのであった……。

 

 


 

 

「それでキリト君と一緒にここまでねー」

 

「私たち話しましたし、お兄さんのこともっと知りたいです」

 

空腹なのもあったのか、ピリピリしていた空気は料理が届いたタイミングを頂点に、ゆっくりと雲散霧消し、オレの話を肴にしたほんわか女子会へと変貌を遂げていた。

 

「まあ、私たちもキリト君についてくから、その間に話すわね。……にしても水鏡女学院に臥龍と鳳雛ね……プレミアちゃんやティアちゃんは誰か心当たりある?」

 

アスナがふむ、と考えて2人に水を向ける。

 

「私とティア……ではないので、おそらくあの2人ですね……」

 

「水鏡先生の特にお気に入りな2人……諸葛亮と龐統でしょうね」

 

「たぶんその2人だろうな」

 

オレは上がった名前に感じるところがあったから肯定的な反応をしておく。

 

「「……あっ」」

 

「ん? どうしたの、二人共」

 

オレの言葉から少し間が相手から二人が何かを思い出したように立ち上がる。

 

アスナがオレたちの言葉を代弁して問いかけると、

 

「学院の買い出しで外出してたんでした」

 

とすっかり忘れてたな―という感じで答える。

 

「それ大変じゃないの!?」

 

プレミアのアスナを始め、桃香たちも立ち上がる。

 

「まあ、買い出しでの買い食いとかはたまにあるし、そこまで心配されていないと――」

 

「プレミア! ティア!やっと見つけた! なぁに買い出しサボってるのよ!」

 

「あとキリトがここにいるって近くの宿前の馬車の上で昼寝してた自称分身から聞いたけど、本当かしら!?」

 

ティアが良い終える前に店の入口から入ってきたのは、ピンク色の髪とそばかすが特徴的な娘、リズペットと、焦げ茶系の髪をツインテールにした翠玉を思わせる瞳の少女、凰鈴音であった。

 

「すみません、リズ、鈴。キリトに再会できてアスナたちとご飯食べに行くことになってすっかり忘れていました」

 

「しれっとオレに責任なすりつけしようとしてないか???」

 

「なら仕方ないわね」

 

「え、それで納得するのか?」

 

プレミアとリズのやり取りに困惑する中、鈴がオレに声をかけてきた。

 

「……一夏は一緒じゃないのね。どこにいるか知らないけど、アンタの存在を知覚していの一番に合流してると思ったけど」

 

「そう……なのか? というか、オレも色々確認したいことがある。オレが奢るからさ。あとプレミアたちとのやり取り的に二人も女学院関係者みたいだし、この後そこにも用事あるから荷物運び手伝うついでに取次してもらっていいか?」

 

「ふーん? まあ、良いけど」

 

「それじゃ、何頼もうかしらねー」

 

オレの言葉に二人が近くの席動かしてオレたちの席につなげる。

 

「ミイラ取りがミイラになってますね……」

 

「気にしたら負けだ」

 

ユイの言葉を制して二人からも話を聞くことにした―――。



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第4話 出会いと再会の新野にて 後編

サブタイトルの計画性の無さよ……。

それはそれとして――

素敵な仲間が増えますよ!


「つまり、気がついたらこの世界にいて、みんな生活してた記憶も持っていた。ついでについ数日にオレがどこかに現れたという感覚があって、西の方に居そうというのは分かってた。ただ、どこに行けばいいかわからないから、それとなくオレについてそれぞれのツテで情報収集始めたところ……って感じか」

 

アスナ、ユイ、プレミア、ティア、リズ、鈴の6人の話をまとめて要約すると、6人ともうなずいた。

 

「ちなみに、他のみんなについては……」

 

「知ってる範囲だとリーファちゃんとシリカ、シノンとキズメルが幽州にいることと、益州に束さんと箒ちゃんがいる位?」

 

「あとストレアとフィリアさん、アルゴさん、レインさんとセブンさんが諸国漫遊してるので行方不明なんですよね……。一応、たまに人づてにどこかで何かしてるのは聞きますから、元気にしてるのは知ってるんですけど」

 

こっちに連絡来ないんですよね、とこぼすユイ。

 

「所在が分かってるのがここにいる6人にリーファ、シノン、キズメル、シリカ、束さんに箒。生存確認できてるのはストレア、フィリア、アルゴ、レインにセブン。完全に所在不明なのがユージオ、少女の方と整合騎士のアリス二人、ユウキ、一夏、千冬さんにクライン、エギルにメディナ……」

 

思考にノイズが走る。

 

「……? どうしたの?」

 

「……それとオレが思い出せない記憶の関係者が、この世界にいる。彼女たちにも、会わなければならない……」

 

「えっと……キリト君?」

 

「お兄さん?」

 

アスナとオレの言葉にオレはハッとした。

 

「とりあえず、二人が食べ終えたら買い出しの手伝いをして、水鏡女学院に行くとしよう。桃香たちもアスナたちもそれでいいか?」

 

「私達は問題ないよ」

 

「私もユイちゃんも大丈夫」

 

「私とティアは戻る、という表現が正しいですが問題はありません」

 

「奢るって言ったくせにしれっと急かすようなこと言うんじゃないわよ……」

 

「早食いは健康にも悪いんだからそこらへん気にしてほしいわね」

 

桃香、アスナ、プレミア、リズ、鈴の言葉を聞いたオレは、みんなの食事が終わるまで仙術チャクラの生成をしておくことにした。

 

 

 


 

 

 

それから約1時間後。

 

オレたちはそこらの貴族の屋敷より広い敷地を持つ水鏡女学院の正門前に来ていた。

 

「とりあえず、アンタはここで待ってなさい。水鏡女学院、一応で男の立ち入りは許可が必要だから」

 

リズが正門に向かおうとしたオレを阻む。

 

「なら許可というか、取次の方頼む」

 

「分かってるわよ」

 

オレの言葉にリズはうなずく。

 

「なら、私はキリト君と待ってよっと」

 

「私も待ってます。リズ。ティアや鈴たちと一緒に先生への取次とかやっておいてください」

 

しれっと左右の隣を確保し、腕に抱きつくアスナとプレミア。

 

しかしプレミアの方はそうは問屋が卸さないとリズが肉薄する。

 

「プレミア。アンタも来るの」

 

と見るも鮮やかな手付きでオレの腕にしがみついていたプレミアを剥がし、ドナドナする。

 

ティアも呆れ顔でそれに続き、鈴も肩をすくめながら学院の中に入っていった。

 

「……ん?」

 

いつの間にか剥がされたプレミアに代わって、桃香がオレの腕を確保していた。

 

「……あの、二人共、腕動かせない」

 

「やっと会えたのに甘えちゃダメなの?」

 

「私は、お兄さんに甘えちゃ、だめ……?」

 

「……まあ、それでいいならいいけどさ」

 

オレは肩をすくめる。

 

「ママは、パパに甘えられて嬉しそうです」

 

「お姉ちゃん、甘えるのは良いけど、ずっと甘えるのは良くないと思うのだ……」

 

優しく見守るユイと、ムッとしてる鈴々。

 

「しかし、キリト殿の言葉通りなら、たくさんの方がキリト殿と知己なのですね。……義勇軍を作るにしても、その人達の手を借りれるならそれに越したことはないですが……」

 

愛紗がふむむ、と考え込み始める。

 

「多分、キリト君が戦うなら、ほとんどの娘がキリト君と一緒に戦おうとするかな。……最初の壁で乗り越えるのに苦労しそうだけど」

 

後半を小声でこぼすアスナ。

 

「そうであるならとても心強いです「でも」」

 

愛紗が肯定的な返答に嬉しそうな顔を見せたが、アスナが告げる。

 

「黄巾党が終わった後、集めた義勇兵をどうするのかとか、自分たちはどうするのかとか、ある程度考えてないと、そのしわ寄せが多分貴女達のできないところの大部分を支えてくれるキリト君に負担が行くことになる。今すぐにどうするか考えておけって言ってるわけじゃなくて、義勇軍として黄巾党征伐に協力して、それが解決したらどうするつもりか、それまでに考えをまとめておいてほしいかなって」

 

「……うん、分かった」

 

アスナの言葉に桃香がうなずく。

 

「えっと、そちらの方々が、諸葛亮と鳳統に仕官してもらいたいと……?」

 

声がした方を振り向くと、そこには黒髪の穏やかそうな女性がおり、隣にリズがいて女性の言葉にうなずいていた。

 

「はじめまして、桐ヶ谷和人。真名であり、通り名をキリトと言います。先触れもなく押しかけて申し訳ありません」

 

とオレは一礼する。

 

「りゅ、劉備です」

 

「関羽です」

 

「鈴々は張飛なのだ」

 

「アスナと言います。よろしくおねがいします」

 

「ユイと言います。はじめまして」

 

それに続いて桃香たちも挨拶し、アスナとユイも挨拶をする。

 

「私は司馬徽。皆からは水鏡先生と呼ばれてます。この水鏡女学院の院長をさせていただいています。それでは、リズさんに客間へ案内してもらいますので、少しお待ちいただければと」

 

「わかりました」

 

オレがそう言うと、水鏡先生はくるりと背を向けて歩きだす。

 

リズがそれに続き、ついて来なさいと目で告げてきたのでそれに習ってついていく。

 

廊下、教室っぽい場所を通り抜ける時に、年齢の様々な娘たちに好奇の目で見られて少し居心地悪かったが鉄の意志でスルー。

 

ある程度進んだところにあった部屋に入り、着席を促されたのでオレ、桃香、アスナが座り、アスナの上にユイが座る。

 

すると一瞬先生は目を外に向けて、すぐに目線を戻した。

 

「それでは、もうすぐ来ると思いますので何故あの二人に仕官を望むのか、お伺いさせてもらいますね」

 

「それは――」

 

夢にて荘厳な声の人物から劉備に仕えるように告げられたこと、これから国が乱れるから頼れる者たちを集め、その時に備えよとも言われたこと、おそらく義勇軍を結成するから、運用の知識などを学ぶようにと告げられたこと。

 

その中に臥龍鳳雛のことが含まれており、新野の水鏡女学院へ赴けと告げられたことも話す。

 

もちろん全部アドリブだからリズ含め、周りの娘から目を丸くされたが、先生は真面目に聞いてうなずく。

 

「荒唐無稽と一蹴するのは簡単ですが……管輅の占い通り、『一対の剣を持つ黒衣の剣士』が『臥龍と鳳雛を欲する』のが現実となった今、真実なのでしょう。……劉備さん」

 

「は、はい!」

 

「彼は色々尽くしてくれていますが、彼の集めた人たちを活かすも殺すも、貴女の決断次第となるでしょう。困ったら頼るように。……ただ、同じ思想のものばかりでは偏ってしまいます。どうか、そのことを忘れることないように」

 

「わ、わかりまし……た」

 

先生は桃香の言葉に満足したのか、手を叩く。

 

「朱里、雛里。聞いていたでしょう? あとは貴女達の判断に委ねますが、どうしますか?」

 

すると戸を開けて入ってくる二人。

 

後ろにはプレミアたちがいた。

 

「私達は……着いていきたいかなと」

 

「でも私達、戦えないので、足を引っ張っちゃうかなって……」

 

「二人には知恵を貸してもらいたい。戦うのはオレたちがやるから心配するな」

 

「鈴々たちに任せるのだ!」

 

二人の言葉にオレと鈴々が答える。

 

「二人は頭がすっごく良いって聞いてるし、力貸してくれないかな?」

 

と桃香が問いかける。

 

すると二人が顔を見合わせてからうん、とうなずく。

 

そしてこちらを向き、口を開く。

 

「私は諸葛亮、字を孔明といいましゅ。真名は朱里です」

 

「私は鳳統、字を士元。真名を雛里といいましゅ」

 

二人は噛んだことに気がついてはわわあわわし始める。

 

「二人共よろしくな」

 

オレが笑顔を向けると二人が顔を真っ赤にして、水鏡先生の後ろに隠れる。

 

「あらあら」

 

「あー、先生。私も、キリトに着いていきたいのですが……」

 

「私も」

 

「右に同じ」

 

「二人と同じく」

 

リズの言葉を皮切りに、3人も連携的に反応を見せた。

 

「構いませんが……そちらの受け入れは可能なのですか?」

 

おっとりしてるのか、器が大きいのか、さほど驚いていないが、心配と言いたげにこちらを見る。

 

「問題ありません。ただ、6人の荷物整理などが在ると思うので、明日の昼に改めて迎えに来ようと思っています」

 

「一日と少しの時間があれば確かに身支度は整えられるでしょう。……6人とも、私物で渡しておきたいものは早めに渡して、返すべきものはしっかりと返し、彼についていけるよう、荷物をまとめるのですよ」

 

「「「「はーい」」」」

 

「では、入り口まで私が見送りますね」

 

 

 


 

 

 

水鏡先生に見送られ、宿に戻ったオレたち。

 

まずアスナとユイの引越の手伝いをしつつ、怪しまれないように食料の買い出しなどを始める。

 

「私達がすることってある?」

 

「今のところはないんだよな……強いて言えば、アスナたちと仲良くしてほしいってところか?オレの胃に穴が開いて倒れたり、オレの精神が限界に来て行方くらますのは望ましくないだろう?」

 

「……色々尽くしてもらいすぎて、申し訳ないですね。私達が役に立つところでは私達に任せてくださいね?」

 

「お兄ちゃん、戦いとかは基本鈴々に任せるのだ。そうじゃないと、なんていうか、居心地がちょっと悪いくらい色々してもらってるのだ」

 

「うん。私は二人ほど強くないし、朱里ちゃんたちみたいに賢くもないけど、義勇軍(予定)の一番上として、頑張るからね?」

 

「……オレのお願いについては?」

 

3人の言葉にオレのお願いを聞くって返事がなかったので問いただすと、そっぽをみんな向いた。

 

「……なるべく、がんばるから」

 

「桃香様に同じく」

 

「たぶん、大丈夫……なのだ」

 

「不安になってきたなぁ……」

 

 

 


 

 

 

翌日の昼――。

 

「さて、そろそろ出立するぞー」

 

オレがそう言うと、別れを告げてるティアたちが女学院の同胞たちに手を降ったりしてこちらにやってくる。

 

「中は広いからな」

 

って既に入ってるアスナ達に手招きさせて入らせる。

 

「キリトさん」

 

振り返ると御者台の近くに水鏡先生が来ていた。

 

「みなさんの旅路、幸多きことを祈っていますよ。……どうか、この乱れつつある大陸に再び平穏をお願いします」

 

「……最善を尽くします」

 

オレはそう答えると、馬にムチを入れて出発する。

 

たぶん荷台の後ろから顔をだしたりしてるのか、女学院の生徒たちが別れの言葉などを言っているのが聞こえてきたが、すぐに遠くなり、消えていく。

 

「あ、そういえば」

 

と桃香が御者台にやってきた。

 

「他に寄り道とかする予定は無いんだっけ?」

 

「一応な。特に啓示からもお告げてきなのないし。強いて言えば補給とオレの仲間の行方確認のために、徐州までの道で比較的大きい都市には立ち寄っておきたいくらいだ」

 

「なら、汝南、寿春、小沛の経路が良いはずです。寿春あたりで義勇軍を募るがいいかもしれません」

 

とユイがひょっこり顔を出して提案してくれた。

 

「私もそう思うから、つぎの目的地は汝南ってことでよろしくね」

 

「ああ。分かった。みんなにも通達しておいてくれよ」

 

「はーい」

 

桃香とユイが中に戻って行く。

 

「……さて、みんなを探す方は悪くないとして……なんかオレを探してる聖杯戦争関係者がいるっぽいのがなんか引っかかる。正体不明なのが不安を加速させるが、とりあえず警戒するしかないか……」

 

とこぼしていたら、

 

ライダーとアヴェンジャーの召喚が行われた、という通知が脳に響く。

 

「……アヴェンジャーねぇ……。変なのが呼び出されていなきゃいいけど」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「サーヴァント、ライダーだ、グララララ。……何だぁ、ココは?」

 

「アンタこそ誰よ」

 

とある森の中にて。

 

三日月型の白いひげをした、6mほどの大男と、それをみて驚いているピンク色の髪の少女。

 

「っていうか、アンタ大きくない? 何食べたらそんなになるの?」

 

「自由奔放すぎるガキだなぁ? 親の顔が見てみたい」

 

「あー、アンタも私を子供扱いするんだー。やっぱり……おっぱい小さいからかな」

 

「いや、そこは問題じゃねえと思うぞ」

 

見当違いのつぶやきに、大男が真面目にツッコミを入れていた。

 

 

 

 


 

 

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。……真実を知り、因縁と決着をつけてもまだ復讐者として世界に記録されているのは不本意だし、聖杯とやらに願うものはないんだが……呼ばれてた以上、全力を尽くす」

 

現れたのは銀髪の髪を後ろで束ねた青年。

 

その瞳は穏やかな光を湛えており、復讐者とは思えない丸い雰囲気をまとっていた。

 

「あら、聞いたこと無いクラスね。……それはそれとして、そっちのメイドは誰かしら?」

 

『少女』は青年の後ろを指差す。

 

青年が振り返り『メイド』を見ると、目を見開いて飛び退き、少女を守るようにしながら武器を構える。

 

「エーリス……! 何をしに来た!」

 

「今回は純粋にウィルフレド様のメイドとして、ウィルフレド様の憂いを取り除き、おはようからおやすみなさいまで尽くす所存です」

 

「……引いたサーヴァントがアタリかわからないけど、オマケの方は能力的に見て高いのは間違いないわね……」

 

「ちなみに私は、令呪などの影響も受けませんし、『力を大幅に制限されている』『奇跡の魔女』様も殺すことは可能です。……まあ、ウィルフレド様が酷使されるなど、目に余る場合に限りますが、その場合はご覚悟願います」

 

「……制御不能の駒とか最悪ね。どこかで厄介な他のサーヴァントと相討ちして退場してほしいくらいだわ」

 

「そうなることを願い、奇跡を起こしてはいかがでしょうか、『奇跡の魔女、大ベルンカステル様』」

 

「「……」」

 

「……どうしよう、胃痛がしてきた……」

 

どうやら青年は、ココでも苦労人らしい。

 

 



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第5話 黒の剣士(偽)と汝南袁家 前編

あれから数日後。

 

朝日が差し込み始める頃に汝南にたどり着く。

 

「さてと……そこの宿にするか」

 

オレは入ってすぐのところにある大きな宿の前に馬車を停め、宿に入る。

 

「ここの宿、12人泊まれることはできるか?先払いでとりあえず1泊分支払うから」

 

オレがそういうと、ガタイの良い、漢女っぽい人が出てきた。

 

「ずいぶん多いわね。夜と朝分の食事付き?それとも素泊まり? 一応前者の方がお得だけど」

 

「食事付きで。代金はこれで足りるよな?」

 

と巾着ごと金を渡す。

 

「……多すぎるくらいね。10泊くらいできるわよ?」

 

「馬四頭の餌代と荷馬車を店先かその近くに置く代金で4泊ならどうだ?余りは従業員の賄い一品追加とかに回したりしてくれ」

 

オレがそういうと、漢女は笑顔を見せる。

 

「良いわ。気前が良い客は歓迎よ。ただ馬車の方は馬小屋近くに移させて貰うのと、荷物の盗難保証出来ないから6泊ってことで。もちろんウチの従業員が盗んだら落とし前はちゃんとするから、それ以外の保証はなしってことで」

 

「わかった。荷物番が馬車についてても構わないな?」

 

「良いけど、夜露に濡れるとかの文句は受け付けないわ」

 

「了解。それじゃ、馬車の移動先へ誘導よろしく」

 

 

 


 

 

皆を起こし、分身を荷馬車と馬たちのそばに配置してから、誰がオレと町を散策するかで揉めるのを横目に、朝食を食べたり、ユイの頬をふにふにしたりした。

 

じゃんけんをいつの間にかアスナたちが桃香たちに教えたのか、じゃんけんで決めることに。

 

オレと朱里、雛里とティアという組み合わせになったが、悪くない組み合わせな気がした。

 

「……で、どこに行くの? 長期滞在の予定はないから、適当に人探しする感じになるけど」

 

宿を出て、町の中心に進む俺たち。

 

「2人が行ってみたいところに立ち寄って、余った時間を町の散策と人探しに当てる感じかな。人探しは必要だけど、緊急性は低いし、何より2人と仲良くなる方がオレにとっては優先度高いしな」

 

ティアの言葉にオレはそう答えた。

 

「はわわ、私たちと仲良く……ですか?」

 

「キリトさんみたいなかっこいい人、畏れ多いといいますか……」

 

2人とも帽子を目深に被りながら慌てたように反応する。

 

「……キリト、男に免疫ほとんどない2人を誑かすのはやめなさい。束さんか一夏とかに浮気認定されてまた搾られるわよ?」

 

「これで浮気認定とか、オレ女性と会話しない方が良いまであるな。……いや、騙されないぞ。男とばっかり会話してたら、オレとそいつの掛算するようなそっち系の本が流通しだすからお断りだ!」

 

「キリトさんと……別の男の人……ゴクリ」

 

「あの本みたいなこと……キリトさんが……?」

 

2人の反応をみた瞬間に確信する。

 

――ダメだこの2人、腐ってやがる……。

 

「ちなみに私はノーマルだし、キリト以外はお断り。あと人としての肉体得たから子供もたぶん授かれる」

 

「道のど真ん中でいうことじゃないよね!?」

 

頭抱えたくなったか、堪えて立ち直る。

 

「――で、2人とも、どこか行きたいところは?」

 

「はわ、できたら書店に行ってみたいかな……って」

 

「あわわ。義勇軍を結成したときの、部隊の運用について、私と朱里ちゃんが主軸でやると思うので、その辺りの本をできたら……」

 

「ならそうするか。代金はこっちが持つし、荷物も持てるから好きな本を買うと良い」

 

オレがそういうと、2人は眼を丸くしてオレに詰め寄る。

 

「な、なら、兵法書でいくつか欲しいものが」

 

「私は、農書で欲しい本あったらかっても!?」

 

「必要ならな」

 

 

オレの事実上のGOサインに、2人は喜び、ティアは甘やかしすぎ、とオレを窘めた。

 

 

 


 

 

 

「すごい……学院で見たこと無い本がたくさんある……」

 

「あっちにもすごい本がある……」

 

目をキラキラさせて、本の森へと突撃を敢行する二人。

 

まあ、気配的に店に自分たち以外は入り口の店員さんだけだから問題はまあ無いだろう。

 

「……貴方は行かないの?」

 

オレが動かないことに首をかしげるティア。

 

「……まー、宝物庫漁れば多分ここの本だろうと全部『在る』はずだからな。特に問題ないかなーと」

 

「なら二人にあげたりしてもいいんじゃないの?」

 

「宝物庫の中の蔵書探すだけで普通の人間の寿命尽きるからな。それに、無意識で取り出すと、この時代よりはるか先の人間の注釈とかが付いたものを出しそうになるのもある。なるべくこの世界のモノはこの世界で完結させておきたいってのがオレのわがままだ」

 

「……ま、キリトがそう言うならいいけど」

 

しれっとオレの腕を掴んでオレに背を預け、あすなろ抱きのような格好になる。

 

「キリトは行く先々で女の子を無自覚に落としてくんだから、もう少し振る舞いを自覚するべき。……私ですらもやもやするから、アスナや一夏達は計り知れないわ。そろそろ刺されるわよ?」

 

「前歴在るんで善処はしてるけど、多分今後もアスナたちに折檻されるのは不可避だと思う」

 

オレが遠い目をしながらそう零すと、ティアが肘で脇を小突く。

 

「そういうところはだらしないんだから。……でもそういう甘いところのおかげで私は救われたんだけど」

 

甘えてくるティアをなでたり頬を指でつついてふくれっ面されたりしてると、こちらに戻ってきた二人がオレたちを見て顔を真っ赤にし始める。

 

「はわわ、私達がいない間にあんなことを……」

 

「たしか、キリトさん何人も侍らせてるって言ってたし、あれくらいは日常茶飯事なのかなぁ?」

 

「作戦通り、ね」

 

「外堀を埋められていたか」

 

ティアのこぼした言葉にティアが振り返ってジト目をする。

 

「お手つきしておいて今更外堀も何も在るのかしら?」

 

「ごもっとも……っと、二人共、欲しいものはそれだけか?」

 

うなだれてから思考をリセットし、二人に確認する。

 

「え、えと。大丈夫です」

 

「切り替えが早いですね……」

 

「それじゃ、会計済ませるかな」

 

二人から本を受け取って、そのまま会計済ませたのは良かったが……。

 

「「「……」」」

 

「今回はキリトが悪いわね」

 

呆れた顔でオレたちを見るティア。

 

「いや、だって……まさか艶本……しかも過激なのを本の中に挟んで買うとは思わなくて……」

 

「「~~~~」」

 

「これ以上突っつくと二人泣き出すわよ? 私弁護しないからね?」

 

「とりあえず、本は後で渡すから。……ちょうどそこに甘味処あるからそこで食べていこうか」

 

ティアの言葉にオレは話題そらしのために視線を泳がせ、近くにあった店を指定する。

 

「……見苦しいにも程があるけど、悪くないわね。私は今回第三者ポジだし」

 

そう言いながら、店に入るティアと、それに続くオレと二人。

 

先客がいたようで、金色の髪の幼女と、それを甲斐甲斐しく世話する濡羽色の髪のおかっぱヘアーに白いCAみたいな服の女性が甘味を楽しんでいた。

 

他にはその二人に時折目線を向ける男二人組や、甘味処なのに酒を持ち込んだのか飲んだくれてるやつとかもいたがそれをスルーして席を取る。

 

壁際の席に陣取り、オレ、ティアが入り口より、朱里と雛里が壁側の奥側になった。

 

「さて、何を食べようか――」

 

「――袁術! その生命もらった!」

 

背後から立ち上がる声と駆け出す音がして、オレは反射的に振り返り、双剣を抜刀し、少女の方に駆けてきていた男の短剣を切り飛ばし、蹴り飛ばす。

 

そして一の矢がダメだったときの保険か、もうひとりが駆けてきたが、それもオレは反対の剣で男の得物を叩き切り、回し蹴りを食らわせる。

 

「――反射的にやっちまったな……」

 

壁にめり込む二人を見ながら、オレはそう零す。

 

「……えっと……助けて……くださった……んですよね?」

 

濡れ羽色の髪の女性がきょとんとした様子で聞いてきた。

 

「……そうなるんだろうな」

 

「お主、妾を助けたのかえ? ……なら、妾はその恩を返さねばならぬな! 返さねば汝南袁家の当主としての面目がたたぬからの」

 

「マッチポンプ……オレがけしかけてアンタたちに近寄る口実かもしれんぞ?」

 

オレがそう言うと、少女が驚いて女性を見る。

 

「なんと!? 七乃、そうなのかえ?」

 

「んー、そういうことがありますけど、今の反応的に彼やそこの3人がそこの暗殺者とつながってる可能性はほぼ無いですね。とりあえず、お支払いはこちらでしますので、袁術様の屋敷でおもてなしさせてもらえますか?」

 

オレは反射的に3人を見るが、彼女たちはどうぞどうぞという態度を見せた。

 

「……それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうか」

 

オレは分身を動かしてアスナたちに連絡をしつつ二人に案内されることにした。

 



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第6話 黒の剣士(偽)と汝南袁家 後編

あの後、案内され、街の真ん中あたりにある大きな屋敷に案内されたオレたち。

 

客間に案内され、蜜柑がいくつか乗った皿を俺達の前に置かれる。

 

「お招きいただき光栄です。桐ヶ谷和人……キリトと御呼びください」

 

「……ティアよ」

 

「はわわ、名を諸葛亮、字を孔明といいましゅ」

 

「私は、龐統、字を士元といいましゅ」

 

オレたちが名乗ると、思い出したように女性が口を開く。

 

「そういえば名乗っていませんでしたね。私は張勲と言います。こちらは汝南袁家の御当主、袁術様です」

 

濡れ羽色の髪の女性が笑顔でそう告げた。

 

「うむ、くるしゅうない。そこの蜜柑は好きに食べて良いぞ。ただし、はちみつは妾のものじゃ。……助けてもらったからの、どーーーーしてもというなら、お主に少し分けても構わぬが」

 

袁術が幼さを感じさせる笑顔を、後半は葛藤の末の苦渋の決断を下すような顔を見せた。

 

「……従姉の麗羽さんにさえ分けようとしない美羽様が私以外に蜂蜜を分けても良いというなんて……初めてききましたね」

 

張勲が袁術の言葉に眼を丸く、呆然としている。

 

「……キリト、相当気に入られたようね。袁術の「分けてもいい」はたぶんキリトだけに向けて言ってるみたいだし」

 

ティアのジト目が刺さる。

 

「それよりも」

 

袁術が二の矢を放とうとしたティアを遮る。

 

「この名門である汝南袁家当主のわらわから何か欲しいものとかあるかえ? 命の恩人じゃからの。遊んで暮らせる金でも、わらわに仕えて名門が勧誘したという実績を得るでも、袁家の宝物蔵にある由緒ある宝を3つ、4つ欲しいでも構わん。わらわとしては、仕官してわらわがお主を甘やかし、お主がわらわたちを守ってくれれば文句無しなんじゃが」

 

「……魅力的な提案ですが……」

 

オレの反応が『それでは物足りない』と言ってるよう聞こえたのか、袁術が困ったように眉を寄せる。

 

「なんじゃ? 足りぬのか?もしやわらわを娶りたいと思うておるのか?……思うのは構わぬし、わらわとしても良い提案ではあるが、氏も定かではないお主がわらわを娶るとして市井の者たちにどのような陰口をいわれるか想像は容易い上、相応の振る舞いを学んでもらわねばならんが」

 

「申し訳ありませんが……オレの望みは、『黄巾党征伐の派兵及びその軍団の客将としてオレとその主と関係者を採用すること』です」

 

「「「!!!」」」

 

オレの言葉に張勲と我らが臥龍鳳雛が反応する。

 

「……ああ、お主には主がおるのじゃな? ならそやつらもまとめて、わらわの食客として面倒みるぞ?」

 

「いえ、結構です」

 

オレがバッサリと袁術の厚意を切り捨てると、張勲の眉が若干上がり、袁術が残念そうな顔になる。

 

「……あなたの考えてることは理解しました。こちらにとっても利がある提案でしょう」

 

張勲が口を開き、一息いれてから続けた。

 

「しかしあなたやあなたの関係者が黄巾党で、兵士たちを扇動し、お嬢様や私を害さぬ保証がありません。お嬢様と私は、『袁家の当主』と『その付き人』で2人についていけば、その家柄の威光と富のお零れという恩恵を得られるから従う人がいます。……が、荒野に放り出されれば、私達はどこにでもいる手弱女と言わざるを得ません」

 

静かにこちらを見る。

 

「私は主の傍から離れるつもりはありませんし、かといって、一軍をホイホイ一応恩人とはいえ、ほとんど知らない相手に預けることも、美羽様と一緒に軍を率いて、汝南を留守にすることもできません。……先の命を助けていただいたのは感謝していますが、それはそれ。貴方が一軍を預けたとしても私達に牙をむかないと、どうやって証明してくれますか?」

 

「七乃! わらわたちの恩人に失礼じゃぞ!」

 

「……いや、妥当ではある。張勲、アンタの懸念は最もだ。……さて、駄目で元々だったからいいが……他に欲しい物は特にないからな……どうしたものか」

 

「なら、オレに考えあるんだが、聞いてくれるかぁ?」

 

部屋の入り口から声がしたので反射的に振り向く。

 

そこには健康的な小麦色の肌と背まで伸びたピンク色の髪をした、男勝りな気配を纏う美女が、こちらを獲物を見つけた獣のような嬉々とした瞳でこちらをみていた。

 

「孫堅さん、人の家に勝手に踏み込んで来たんですか!?」

 

「ちゃんと門番たちに伝えたぞ?『いつもの催促にきた』ってな。そうしたらアイツら、『客間で誰かと話しております』って言ってアッサリ通したぞ?」

 

孫堅と呼ばれた女性の言葉に頭を抱える張勲。

 

「それで、アンタの考えって?」

 

「答えてもいいが、代わりに名前教えな。オレは孫堅。字は文台だ」

 

「……桐ヶ谷和人。キリトで構わない」

 

オレの名乗りに疑問符を浮かべる孫堅。

 

「オレの勘が当たってるなら真名だろ、キリトって呼び方(ソレ)。初対面の相手に預けていいのか?」

 

「構わない。それで、アンタの考えを聞きたい」

 

オレの言葉に引っ掛かってもモヤモヤしてるような様子を見せるが、頭を振ってから、彼女は口を開く。

 

「さっきの話、袁術が兵の動員と兵糧の支給を担当、討伐軍の軍権をオレに渡して、キリトは軍の客将として参加ってことでどうだ?キリトは袁術の後援を持って一軍を指揮する客将として名を挙げられる。オレは予定より少ない兵と兵糧で討伐軍を動員、指揮できる。袁術はオレのそこそこある貸しをチャラに出来、キリトの御願いを叶えられる上、黄巾党討伐の兵を州外に出した実績が作れる。ここの3人が最大限の利益を得られる悪くない案だと思うが、どうだ?」

 

立て板に水とは良くいったもので、スラスラと語られた。

 

「動員は2万、食糧は帰還含めて3ヶ月分なら」

 

張勲が間髪置かずに条件を提示してくるが

 

「動員は最低3万、帰還含めるなら食糧は最低6ヶ月分。代わりに行く先々で委任状を提示して、ちゃんと袁術が兵を出したことを周知させる」

 

すると張勲は困った顔をする。

 

「そちらの動員の食糧については関知しないというならその条件飲みますが」

 

「食事内容の格差でどっちか反発して揉めるのは避けたい。そっちがだす兵士は2万でいいから、代わりにオレのとこの兵5000の分も合わせて食糧6ヶ月で余った分は返還、足でた分はオレが持つ」

 

「……今回ので美羽様の貸しはチャラですからね?」

 

張勲がため息混じりに孫堅の折衷案に折れる。

 

「キリト、お前も今のうちに吹っ掛けて置いたほうがいいぜ? 袁術は気前いいが、張勲いるとアレコレ理由着けてケチってくるし、たぶんお前を絡み取りにくるぜ?」

 

想定以上の結果を得られたのか満足そうにする孫堅がオレにアドバイスしてきた。

 

「……委任状にオレの客将についても追記しておいてくれ。あとは特にない」

 

「控えめだな……」

 

孫堅は面白そうにオレを見ながらそうこぼした。

 

「必要ないのに欲張りすぎるのは長期的な利益にならないからな。吹っ掛けないことで次に活きてくることも世の中あるからな」

 

「こちらとしては大助かりですけど、目の前で言われるとなんだかなーって」

 

張勲がオレと孫堅のやりとりに苦笑する。

 

「……キリト、私としては、あなたが話を勝手に進めようと一向に構わないけど、桃香たちになんて言うつもり?」

 

「……あっ」

 

 

 


 

 

 

すぐさまみんなを分身駆使して召集し、揃った瞬間に土下座して赦しを請う。

 

その姿に孫堅や袁術、張勲、朱里と雛里が眼を丸くしてた気がするが気にしない。

 

「確かに客将として活躍するなら、人手を集めたり兵糧調達とかの負担が減るから、別の場所で活躍しやすいよね。私たち桃園の三姉妹は許します」

 

反射的に顔を上げる。

 

そこには笑顔のはずなのに怖い顔に見えるアスナの姿。

 

「でも、私は一夏君の分も含めて、君が女の子にちょっかいかけてたことを怒ります。今夜は徹夜ね?」

 

「……ハイ」

 

探偵もので自供した犯人のようにうなだれるオレ。

 

すると孫堅がオレの傍にやってくる。

 

「キリト……お前『黒の剣士』って通り名持ってたりしないか?」

 

「「「!?」」」

 

オレは反射的に顔を上げて彼女を見た。

 

同時に捕まれる両肩。

 

オレが見たのは――獲物を捕まえたと歓喜する獣のごとき獰猛な笑みを浮かべる孫堅であった。

 

「どうやら『孫家に栄光と繁栄をもたらす黒の剣士』ってのはお前のことのようだな、キリト……!」




次回!
キリト(腹上)死す!デュエルスタンバイ!


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第7話 汝南出立前

「つーわけで、オレの娘や部下孕ませたら返すから、それまで貸してくれねえか?もちろんオレも種もらうが」

 

「それは困るかなぁ……」

 

「正妻の片割れとして、断固拒否します」

 

オレは今――青空の元、簀巻きにされ、逆さで木に吊るされている。

 

孫堅の爆弾発言のあと、彼女から顎に良い一撃をくらい、行動不能にされ、簀巻きにされてドナドナ(たぶん孫堅の本拠地へ)されそうになった。

 

しかし、アスナや桃香がみんなと連携してそれを阻止。

 

オレは孫堅に木に逆さに吊るされ、孫堅による『オレを餌に迎撃』などあったが割愛。

 

とりあえず、武器を収めて何故あんな暴挙に出たのか、問いただし、冒頭に至る。

 

――などとあのあとの流れを振り返り、思考を現実に戻す。

 

天地逆転したオレの視界には孫堅と桃香とアスナが揉めてるのが見える。

 

……さすがにそろそろ、意識が……キツく……。

 

なってきたので身代わりを使い脱出。

 

アスナの隣に出現すると、ユイがオレを捕まえ、頬擦りしてくる。

 

……ユイ、慰めてくれて……

 

「『今回は』パパに悪いところはありません。あと、パパは絶倫ですけど、種馬ではありませんからね!」

 

「基本的にオレが折檻食らう原因、9割くらいオレ以外だから、『今回は』って強調されると悲しい」

 

慰めてくれたはずなのに悲しみのほうが大きく感じるのはなんでだろうなぁ……?

 

「キリト君」

 

アスナに呼ばれ、そちらを向く。

 

「キリト君は……どうするつもり?」

 

「……」

 

オレが答えに窮すると、ユイとプレミア以外の女性陣がジト目をする。

 

「……キリトは傷心から私たちの会話を聞き逃していたみたいですね」

 

「プレミアちゃん。分かってるわよ? ……まあやらかした後なんだから、もうしばらくはしっかりしてほしいかなーと思っただけで」

 

後半仕方ないなーって顔をするアスナ。

 

すると桃香が口を挟む。

 

「えっと、孫堅さんのところにお世話になるかは、お兄さんのが決定するってことになって、私とアスナさん……というか孫堅さん以外は『断固反対』で一致してるけど……」

 

「なんならウチで囲ってもいいぜ? 女を毎日とっかえひっかえして、あとは好きにしてくれりゃいいからな」

 

孫堅の言葉に肩を竦める。

 

「……悪いが、仕官するつもりも、召し抱えられるつもりも、ましてや囲われるつもりも、ない。オレはオレの目的のために動く。未来は不確定だが、膝を屈する必要が来ない限り、アンタのところに繋がれて種馬とかになるつもりはない」

 

オレが彼女の眼を見ながら断言すると、からからと彼女は笑いだす。

 

「雷火以上の頑固だな、キリト。ま、それならそれで構わねぇ。英雄色を好むとは良く言うが、色に惚けて堕落するようじゃダメだしな」

 

ただし、と続ける孫堅。

 

「征伐軍の指揮権はオレにある。そして軍師や武将を使いこなすにゃ、そいつのことを理解しておかねえとダメだ。あと食い合わせと同じで武将間の相性とかも確認する必要があるから、ウチの連中と手合わせしたり、軍議とかで意見出したりについての拒否権は認めねえ。そこは譲れなねえぞ?」

 

「……交流と称した宴とかで酔い潰せば同意は誤魔化せるとか、相性確認と称して閨に引きずり込むとかは通用しないしさせないからそのあたりよろしく」

 

オレがチラッと簀巻きになってる身代わり(丸太)を見ると孫堅もそれを見て舌打ちした。

 

「妖術の類が使えるから逃げるのも容易いってか?……の割にはオレが連れていこうとした時はやらなかったよな? ……まあいい。オレの勘は絶対じゃねえしな」

 

首を傾げたりしたが頭を振ってこちらに向く。

 

「とりあえずしばらくはよろしくな、キリト」

 

「ああ。よろしく。オレを籠絡しようとする思考はともかく、武将としての能力、この上ない頼もしさと思ってる。大船に乗ったつもりでいて構わないな?」

 

オレが手を差し出すと、獰猛な笑みを見せた。

 

「誰に言ってやがる。オレは江東の虎、孫文台だぞ?オレの有り様を後ろで見ててもいいからな?」

 

 

 

 

 


 

 

 

それから数日後。

 

「……壮観だな」

 

城壁の下に並ぶ兵士たちと、それの傍に待機してる荷駄隊を見つつ、オレはそう零した。

 

「兵2万に3万の兵が6ヶ月活動できるだけの備蓄も持たせてあります」

 

「どうじゃ、キリト。名門汝南袁家の当主であるわらわにかかればこの程度たやすいことじゃぞ。じゃからわらわのところに仕官して、名を挙げて、それから正式に……でもよいのじゃぞ?」

 

張勲と袁術の言葉にたいして反応に困りながら苦笑する。

 

「感謝してるよ。仕官は丁重にお断りするけど」

 

「ぐぬぬ……」

 

「キリト―! 出立するぞ」

 

城壁の下にいた炎蓮(真名を押し付けられた挙げ句、そう呼ばないと反応しなくなった。コレでアスナと桃香がへそを曲げて慰めることに。解せぬ)に言われたので城壁から飛び降り、着地する。

 

そこにはアスナたちもおり、馬車もスタンバイされていた。

 

「寿春で雪蓮たち……ああ、オレの娘の孫策のことな。そいつらと合流する。――野郎ども!出立だぁ!!!!」

 

「「「「応!!!」」」」

 

進軍とともにオレは馬車の御者台に乗り、馬にムチを打つ。

 

「おっと、オレを忘れるなよ」

 

しれっとオレの隣に座る炎蓮。

 

「えぇ……どうして?」

 

「いいじゃねぇか。減るもんじゃねえだろ」

 

そういいながら四つん這いで荷台に潜り込む彼女。

 

「何だこりゃ!? どうなってやがる!?」

 

壁尻っぽい状態で叫ぶ彼女。

 

「みんな、よろしく」

 

オレは鋼の意志で放置を選択。

 

そのまま中に引きずり込まれる炎蓮。

 

「……ところでお兄さん」

 

代わりにでてきたのは桃香、愛紗、鈴々、そして朱里と雛里だ。

 

「……なんだ?」

 

オレは反射的に逃げようとしたが、両腕を愛紗と鈴々にロックされた。

 

コレでは印が結べない!

 

「アスナさんやプレミアちゃんには手を出してるのに……私達には手を出さないのなんで?」

 

笑顔だったはずなのに、開いた瞳は総てを飲み込むような深淵の如き黒に染まっていた桃香。

 

愛紗と鈴々はハイライトこそ消えていないものの、自分を女と見られていないと感じて憤慨とアスナたちのようにされたいという嫉妬の炎を見せている。

 

朱里と雛里はどっちかというと、仲間はずれにされると思ったからのアクションで、生まれたての子鹿みたいに涙目になっている。

 

「アスナたちは前世からの関係者! あとアスナは一応正妻!」

 

「『前世の』正妻だよね? なら今はまだ誰とも結婚してないって理論が通じると思うんだけど……」

 

オレの膝の上に乗って、胸を押し付けながらこちらを覗き込む桃香。

 

理論的には正しい。

 

だが、ここでそれを肯定すると、待っているのは惨劇である。

 

オレの理性も本能もオマケに啓示も告げてきているのだから間違いない。

 

「だが今生でも添い遂げるつもりでは在るぞ!?オレには結婚指輪もあるし」

 

「ならリズさんとか、ティアさんとか、鈴さん、プレミアちゃんについてはどうなのかな? プレミアちゃんは愛人って言ってるけど、そのあたり、どうなの?」

 

「……」

 

愛人である→さっきと言ってること、矛盾してない?なら私達がお手つきされてもおかしくないと思うよ?

 

愛人ではない→なら私達も彼女たちみたいにしてほしいなー。

 

詰 ん だ ☆

 

「お に い さ ん」

 

オレの唇に柔らかいものが触れ、甘い香りがオレを包む。

 

目の前には桃香の求めている、蕩けた顔があった。

 

「……えへへ、ごめんね。アスナさんにはお願いたくさんして、折れてもらったから。さ、馬車の番はプレミアちゃんとティアさんがしてくれるから、中でたのしもうね」

 

妖艶な笑みを浮かぶ彼女がそう言って先導すると、愛紗、鈴々に掴まれて中に引きずり込まれるのであった……。



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第8話 孫家の人たちと宴とルーラーと?

評価や、感想が欲しい……でも、滅多に貰えない……!
現実は、非情である。


あれから1週間程。

 

もうすぐ寿春というところで伝令が駆けてきた。

 

「報告! 北の方から孫堅様に会いたいと申し出るものが来ております。いかがいたしましょうか!」

 

騎馬が馬車の横に来て並走しながら報告してきた。

 

すると炎蓮が顔を出す。

 

「そいつらの頭、オレと同じ髪色で、孫策とか名乗ってたか?」

 

「! そ、そういえばそうです!」

 

「ならオレのバカ娘だ。北から来たなら、寿春に先についてやがるな。オレとキリト、あとは2,3人連れて寿春に先行するから寿春に戻って2万駐屯できるか確認取ってくるよう行って来い」

 

「は、はい!」

 

慌てて去っていく伝令。

 

「さて、アスナと桃香は来るとして、あと一人選ぶとしたら誰くるんだ?」

 

爆弾を放り込む炎蓮。

 

呼ばれていない面々は火花をちらし始める。

 

「キリトが決めたらどうだ?」

 

「爆弾を投げ込むな!」

 

「まあ、キリトが決めたなら、みんな納得すると思うよ」

 

「「「……」」」

 

みんなの視線がオレに刺さる。

 

「……鈴。頼めるか」

 

「! ええ! もちろん」

 

オレがそう告げると鈴が(ほぼ無いとは言ってはいけない)胸を張ってそう答えるとオレの傍によってくる。

 

そして勝ち誇った顔を何故かリズに向けると、リズがハンカチを噛み始めた。

 

「そんじゃ、残ったメンツはキリトの分身の連絡待ちつつ軍の指揮頼むわ」

 

炎蓮がそういうと並走させてた4頭の馬のうち、一番ガタイの良い馬にヒラリと乗る。

 

「オレはコレに乗るけど、4人でどう乗り分ける?」

 

「しれっとまたオレに選択させるの、嫌がらせかな? ……オレは並走できるから4人それぞれで馬にのって行ってくれ」

 

「つまんねえ選択しやがって……」

 

「まあ、そこがキリトよね」

 

「できれば、相乗りしたかったけど」

 

「みんな同じだろうし」

 

炎蓮、鈴、アスナ、桃香からの残念と呆れの声にオレはへこむが気を取り直す。

 

「それじゃ、先行するぞ、遅れるなよ」

 

炎蓮がそう告げ、馬を走らせると、3人も馬を走らせる。

 

オレは分身を作り、荷台に放り込んでから、4騎と並走して寿春を目指すのであった。

 

 

 

 


 

 

 

 

寿春の城にたどり着くと、早速案内される。

 

そこの太守名代(太守は喪に服しているらしい)に挨拶し、先にきていた孫策たちが大広間にいるからそちらへどうぞと言われたので炎蓮についていく形で向かった。

 

大広間にはいると、左側に一列となって並んでる女性たち。

 

そのうちの一人は孫堅そっくり……おそらく孫堅の長女で武勇と勘の良さを受け継いだ(炎蓮談)孫策なのだろう。

 

炎蓮が目線で右側に並べと伝えてきたので、3人にもアイコンタクトで伝えて並ぶ。

 

炎蓮は入り口の反対側、玉座前に立ってオレたちのどちらからも一定距離を置くと、口を開く。

 

「とりあえず双方自己紹介してもらうぞ。オレは説明面倒だからな!」

 

「そこは私たちのとりまとめとしてビシッとやってほしいんだけど?」

 

「ブレないな」

 

孫策?とオレが思わず反応する。

 

そして彼女と目が合う。

 

――あなた、お母様に振り回されてるのね……その、ごめんね?

 

――いや、そちらも普段大変なようで……。

 

信頼とか築いていない、初対面なのに、コンタクトが通じるくらい、あの女傑の奔放さは筋金入りのようだ。

 

「まずはキリトたちから頼むわ。他にもメンツいるが、代表3人とキリトのお気に入り一人の4人をとりあえず覚えてくれ」

 

「……まずはオレからでいいか。桐ヶ谷和人。まあ皆からキリトと呼ばれてる。よろしく頼む」

 

「私はキリト君の正妻で、アスナと言います」

 

きっちり釘刺しを忘れないアスナである。

 

「私は劉備、字を玄徳といいます」

 

「鳳鈴音よ、鈴って呼ばれてるわ」

 

オレたちの自己紹介が終ると炎蓮が口を開く。

 

「ちなみに、キリトってのは真名らしいがそれで呼ばれることの長いから、和人だと反応がかなり遅れるみたいでな。だから本人も許可してるしお前らもキリト呼びで良いぞ」

 

「「「はーい」」」

 

孫策たちが気の抜けた声で返事する。

 

しかし、それが気に入らなかったのか、それとも元々計画してたのか定かではないが、彼女はいきなりとんでもないことをいい放つ。

 

「あ、オレ黄巾党征伐終わったら、家督雪蓮に譲って隠居して、キリトについていくからよろしく」

 

「「「「「はああああ!?」」」」」

 

流石のオレも初耳である。

 

「ちょっと!?お母様ふざけてるの!?」

 

「炎蓮さん!? キリト君を搾るだけじゃ飽きたらないんですか!?」

 

「アスナ、言い方もう少しなんとかならない?」

 

孫策(もう間違いないだろう)さんの言葉はともかく、アスナの言い方がストレートすぎたのでツッコムオレ。

 

「一応、私がお兄さんの上司だから、私の下につくことになるけど……いいの?」

 

「桃香、つっこむところそこじゃないわよ」

 

鈴が桃香の問いかけにつっこむが、炎蓮は気にせず答える。

 

「よほどアホかましたり、キリトコキ使うとかしたら反乱とか考えるぜ?こちとら江東の虎だ。気に入らねえヤツを上にして我慢なんざ性に合わねえしな」

 

からからと笑いながらも、炎蓮の目が笑っていない。

 

手綱を握らねば、有言実行しかねない。

 

じゃじゃ馬どころではないが、頑張るしかないな。

 

――ん? なんかおかしいような?

 

何かおかしいことに疑問を持つが、思考の海に潜る前に動きがあったのでそちらに注視することにした。

 

「いや、大殿! 貴女についてきた儂らを捨てるというのですか!?」

 

「ここに来ていない他の者へなんと説明するつもりですか!?」

 

「そこのキリト君……だっけ? 彼に何か吹き込まれた? でもその程度で動じるとはちょっと考えられないけど」

 

薄紫色の髪をポニーテールにした、スタイルの良い美女と黒髪に眼鏡の知的美人に青い髪のお姉さん系の美女が炎蓮に噛みつく。

 

「老いた大木の傍に新芽が生えたなら、老木切って新芽を育てるべきで、いつまでも老木をそのままにして新芽の育つ余地を摘み取るのは駄目だろ?それと同じだ。オレがいる限り、バカ娘たちは『お母さん(オレ)が最後にはなんとかしてくれる』って無自覚に頼るはずだ。その分オレに万一があって、オレがくたばったら、絶対しばらく勢力の活動が停滞する。だから後釜が育ってて、宿将が後進を育てつつ、次の主を支えられる今が一番穏やかに譲れると思うが、間違ってるか?」

 

「「「………」」」

 

一理あると無意識に認める彼女たち。

 

それを見逃さず、彼女は追撃する。

 

「それに、オレがキリトについてくってことはだ。劉備とも閨を共にしてるコイツを通じて劉備がお前らに牙を剥いたりするのを抑制できるし、同盟とかもオレを通じればやりやすくなるってことだ。『実質味方』がいるのといないのでは、かなり違うっての、少なくとも祭は知ってるだろ?」

 

「むむむ、確かにそうじゃが……」

 

険しい顔をする美女たち。

 

「まあ、家督引き継ぎは賊討伐が終ってからだから、今のうちに雪蓮はオレから盗めるところは盗んでおけよ?当主としてのあり方でも、オレが握ってる宿将の弱みでもなんでもな」

 

「確定事項になってるし……ああもう!分かったわよ!」

 

ヤケになった孫策が認めたのを見た炎蓮は満足そうに頷く。

 

「さて、雪蓮たちの自己紹介してもらうか。雪蓮から、順にやってけ」

 

急に話題が変わったことに若干狼狽する一同。

 

しかし流石は英雄、孫伯符。

 

すぐに切り替えて口を開く。

 

「私は孫策、字を伯符。孫堅の長女で好きなことは楽しい戦いとお酒を飲むことよ。キリトにはお母様も真名預けてるし、私も今のやりとりで気に入ったから預けるわ。雪蓮よ、よろしくね」

 

とウィンクしてきたので

 

「お、おう。よろしくな、雪蓮」

 

と返しておく。

 

雪蓮はとなりの黒髪に眼鏡の知的美人に肘で軽くつつく。

 

「……私は周瑜、字は公瑾だ。……雪蓮……孫策とは断金の交わりと認める仲だ」

 

複雑そうな顔でオレをみるがオレにはどうしようもないのでスルー。

 

「次は儂か」

 

薄紫色の髪をポニーテールにした、スタイルの良い美女が周瑜の自己紹介終ったことを確認すると自己紹介を始める。

 

「儂は黄蓋、字を公覆と言う。大殿に仕えし孫家の宿将じゃ」

 

からからと笑いながら告げたあと、隣の青い髪のお姉さん系の美女にバトンタッチする。

 

「最期は私ね。孫家の宿将の一人。名は程普、字が徳謀よ。んー……キリト君、私的に外見も、性格も好みだから、孫家にきてくれたら嬉しいかなーってお姉さん思ってまーす。……とだけ言っておこうかな。正妻さんの目が本気になってるけど、嘘付きたくないし」

 

後半からアスナの怒気で桃香があわあわしていたが、距離的に無理だったので諦める。

 

「ま、そのあたりは討伐軍を動かしてる間に頑張って見ればいいさ。もっとも、色々女に弱いが、譲れないところは雷火より頑固だから、難しいだろうがな!」

 

からからと笑う炎蓮。

 

それから兵士がやってきて、袁術の動員軍が到着したことが告げられるのであった……。

 

 

 


 

 

 

太守名代を含め宴を行うことになったが、名代は「こちらは将兵を休ませる場を提供し、相応の対価をもらっておりますので」と辞退されたので、オレたちだけで行うことにしたのだが……。

 

「ん~~っ! このお酒、酒精が強くてなかなかに来るわい」

 

「こっちの肉、中身生に見えるのにしっかりと火が通ってて美味しいわね」

 

「これ牛の乳から作ってるのね。臭みもないから食べやすいわ」

 

オレが材料を用意し、アスナやプレミア、鈴を中心に調理した品々を並べ、それをみんなで思い思いに堪能する立食形式にしたのだが、腕を惜しみなく振るったせいか、彼女たちの胃をしっかりと掴んでしまったかもしれない。

 

「キリト、お前なかなかのワルだよなぁ。旨いもん食わせて胃を掴んで、股緩くなったところを閨に引きずり込んで食って自分の勢力に組み込んでるんだからよ」

 

「人聞きが悪すぎる! そんなつもり全くないから!」

 

炎蓮の言葉を全力で否定するオレ。

 

「……いや、距離詰める方法がご飯とは限らないのと、閨に引きずり込む前にすでに手遅れとかの違いあるけど、大体炎蓮さんの言う通りな気が……」

 

「コイツ、どれだけ警戒してもその隙間から嫌悪されない絶妙な具合で心に入り込むから質が悪いのよね」

 

「普段頼りになるけど、ふとした時に見せる弱さとか見ると『私が今度は支えなきゃ』って思っちゃうんだよね」

 

「キリトは絶倫ですし、その整った顔や、困ったときに颯爽とやってくる間の良さとかも相まって、『触ると取り込まれる』というレベルの危険度を持つ対女性兵器と前千冬さんがぼやいていましたしね」

 

「パパはママたちじゃ飽きたらないみたいです。まあ、生物のオスとして正しいと知ってはいますが、限度があると思うのです」

 

「ごふっ」

 

アスナ、リズ、桃香、プレミア、ユイの言葉に膝から崩れ落ちる。

 

「でも何だかんだで全員繋ぎ止めてるあたり、コイツは凄いよな」

 

「「「たしかに」」」

 

炎蓮の言葉に女性陣が心をひとつにしていると、雪蓮が顔を朱に染めながらやってきた。

 

「キリト~楽しんでるかしら~?」

 

「い、一応」

 

「んー……せっかくだし、交流って名目の宴なんだから、もっと私たち友話しましょ?お母様やアスナさんたちもキリト貸してくれるわよね?」

 

「……キリト君。ワンナイトとかやらかしたら、引っこ抜くからね?」

 

「どこを!?なにで!?」

 

「私たちは大丈夫ですから、キリト君どうぞ」

 

「じゃ、遠慮なく」

 

アスナに対する質問が棄却され、雪蓮にドナドナされ、雪蓮たちがいるところに連れてこられた。

 

「この宴の主賓連れてきたわよー」

 

「おお、でかしたぞ、策殿!」

 

「うんうん、お姉さん好みのいい顔してるわね」

 

「……私以止める人がいないとは……すまない、キリト殿」

 

雪蓮の言葉に喜ぶ黄蓋と程普。

 

変わって申し訳なさそうにする周瑜。

 

「いや、まあ。言い方アレだけど、慣れてるから……」

 

「それでも、謝罪はさせてくれ」

 

「ああ。お互い苦労するな」

 

2人でため息はいてると、雪蓮が割り込む。

 

「ちょっとちょっと、なに辛気臭い空気にしてるのよ2人とも。せっかくの宴なんだから、楽しまなきゃ」

 

「分かってはいるが、炎蓮どのに振り回されるキリト殿の姿をみてると、雪蓮に振り回される私と同じような心境なのだろうなと思わずな……」

 

「むー、そんなに振り回してないですー」

 

膨れっ面で反論する雪蓮。

 

「ほーう? では大殿が任せた仕事をサボって酒を飲み、夕暮れまで木の上で眠り、連帯責任で私まで雷火殿に怒られることになった原因はどこのどなただったかな?」

 

「むむむ……」

 

それを見た周瑜が我慢の限界にきたのか、怒気を纏いながら反論を始め、それにぐうの音も出ない雪蓮。

 

そのやりとりをみていたら、横から誰かに掴まれ、抱き寄せられた。

 

「ふふふ、キリト君捕まえた」

 

「どうしたんです?程普さん」

 

頬にあたる柔らかいものの正体について考えることを止め、とりあえず犯人に理由を聞いてみる。

 

「せっかくの宴なのにキリト君と話せないのは寂しいからさ、今が好機と思って、捕まえちゃった」

 

「おいおい、粋怜、独り占めするなど狡いぞ」

 

程普の正面にやってきたのは黄蓋。

 

「あら、目敏いのは、私だけじゃなかったか、残念」

 

肩をすくめてオレを解放する程普。

 

「お主も飲んでおるか?ほれ、儂が注いでやろう」

 

「あ、祭に抜け駆けされたー」

 

オレが持ってた杯になみなみと酒を注ぐ黄蓋。

 

それを見て不満そうにする程普。

 

「ほれ、粋怜のやつもお主に酌をしたいそうじゃ、男ならくぐーっと一気に飲んでみせい!」

 

仕方ないので一気して*1、程普に杯を差し出す。

 

「顔も好みで頼りがいとからかい甲斐がある上、お酒もイケるなんて、ますますお姉さん気に入っちゃった」

 

妖艶な流し目をしてくるがスルーを決め込むと肩をすくめて杯に酒を注いでくれた。

 

また一気し始めたところで

 

「お酒そそいでくれたお返しで、私に種をそそいでくれてもいいのよ?」

 

耳元でささやかれ、盛大に噎せた。

 

「キリト君、ウブなのかむっつりなのかわからないわねぇ」

 

「据え膳食わぬはなんとやらじゃぞ?」

 

背中を撫でながら、そうオレの反応を肴にお酒を飲む程普とオレを煽る黄蓋。

 

「止めとけ。オレが気絶しても辞めずにだし続けるし、一晩で20人近くに種吐き出せる位の猛者だぞコイツ。うぶな訳ねえだろ」

 

いつの間にかオレの背後を取ってあすなろ抱きする炎蓮。

 

それを聞いて目を丸くする2人。

 

「凄まじいわね」

 

「戦場で疲れ知らずの大殿を気絶させるとは……恐ろしい一方、儂も摘まみ食いしたくなるのう」

 

「こいつらが勢力作って、同盟したら適当に理由つけて人交換すりゃいいだろ」

 

「そろそろ戻らないとアスナが怒りだすから!」

 

身代わりで離脱して逃げ出すオレ。

 

その日はそれ以上、オレに接触してこなかったが、アスナたちに搾られたのは言うまでもないかもしれない。

 

 

 


 

 

 

「んー……んー?この辺のはずだけれど……形跡がほとんどないわね」

 

とある街の一角で首をかしげる女性。

 

「裏を返せば、戦闘とかで脱落したというケースは除外できるから……自害させられたのかしら?」

 

「……まあ、とりあえず、セイバーが本当に脱落したのか引き続き聞き込んだりしてみないとね。ついでに美味しいものたべよっと」

 

女性は踵を返し、街の中心に戻って行く。

 

それを見ていた老人がひとり。

 

「……ルーラー……アレは……ウルスラという名前か。……キリト殿は黄巾党征伐に行ったはず。とりあえず徐州方面に人を出して手紙を持たせておくか。見つからぬなら、凱旋したころに改めて伝えれば良いからな」

 

どこぞの家政婦のように顔を半分だして観察と思考をこぼすと、屋敷のなかに老人は戻っていった……。

*1
キリトはサーヴァントかつ十八で特殊な訓練を受けているので、普通の人はやめましょう



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第9話 自覚する者たち、乗り越える者たち、そして様子見する者

「東4里の位置に黄巾賊3万! 将軍僭称の旗はありません!」

 

「ご苦労。下がって休め」

 

「はっ!」

 

あれからまた数日後。

 

斥候が東に敵を発見したので陣を構え、詳細を再確認させる斥候を再度放って続報を待ってたらわりと直ぐに斥候が報告をあげてくれた。

 

斥候を労い、下がらせる炎蓮。

 

それから不適な笑みを浮かべる。

 

「――さて、向こうはこっちに気がついてないだろうが、何時までも気が付かねえとは限らねぇ。さて、どうするべきだ?」

 

「周辺の地形把握、あとは斥候を増やして奇襲の警戒。そしてこの優位を可能な限り損なわないよう、迅速に行動指針を決めるって感じだな」

 

試すようにオレを見る炎蓮に対しオレは冷静に告げる。

 

同意するように朱里、雛里、周瑜が頷く。

 

「兵は拙速を尊ぶとも言うしな。合格だ。……雪蓮、桃香。軍師が居るからって甘えて聞き逃すなよ?」

 

「分かってるわよ」

 

「しっかりと聞いてます!」

 

やれやれする雪蓮と、ふんすふんすする桃香。

 

「そんじゃ、目的と手段と分水嶺を明確にしてくぞ。まずは――この場での目的と、オレたちが最終的に目指してる目標を――そこで鈴音と話してるリズ、言ってみろ」

 

江東の虎は気が緩んでる奴がいるのを見逃さず、1人を指名して気の緩みを締め直す。

 

「え? えとえと……『この場の目的』は東にいる黄巾賊の撃破、『最終的な目標』はこの乱の収束……よね?」

 

慌てて答えるリズ。

 

最後疑問文だったのは炎蓮的に大きいマイナスのようで、ため息をついた。

 

「最後的な目的はそれだけじゃねえが……まあ概ね合ってる。あとはもっと自信もって言えるように前もって頭の片隅においておくように。オレたちは『指揮する側』だ。そのオレたちが目的を間違えていたら、判断を誤り、無駄な損耗をすることになりかねんからな。……将でないならとやかく言うつもり無かったがキリトがここにつれてきてるってことは、『一廉の武将として扱ってる』ってことでもあるしな」

 

「は、はい……」

 

ションボリするリズを一瞥し、程普に問いかける。

 

「次は粋怜、さっきのリズが出した目標を前提とした場合、『今回の目標で撃破、何を以て達成』と判断する?」

 

「んー……『潰走させる』かしらね。黄巾党の首領を討伐するために今見つけてる一団を根切りにする必要はないし、戦略的な『全滅』させないといけない訳じゃないしね。だから『特別な理由でも無ければ潰走させる』でいいと思うわ」

 

彼女の答えに少しつまらなそうな顔をする炎蓮。

 

「アホな答え抜かしたら禁酒言い渡してやろうと思ったがまともな答えを返しやがって。しっかり予防線も張ってるし……」

 

「うわ、ふざけなくて良かった」

 

炎蓮の言葉を聞いて胸を撫で下ろす程普。

 

「そんじゃ、祭。『敵を潰走させる』手段は?」

 

「攻めて戦意を挫く……または計略を駆使する。あるいはその両方と言ったところじゃろ、大殿」

 

概ね満足したのか軽く頷く炎蓮。

 

それから次の回答者を選んでから再び問いを放つ。

 

「ま、そうなるわな。……さて、愛紗、分水嶺……つまり今回の黄巾賊撃退で『最終目的を達成するために、今回の目標達成を諦める状況』があるとしたらそれは何か答えられるか?」

 

「む、それは……将兵の殆どが倒れ、こちらが賊に背を向け逃げねばならぬ時では?」

 

「根切り完了の一歩前じゃねえか。後がない背水の陣でボロ負けとか、本拠地防衛戦で主要な将兵が内応して一気に形勢不利とかの、滅多にない状況だぞそれ……」

 

ドン引きしながらこぼす炎蓮。

 

そしてアスナに視線を向ける。

 

「アスナは分かるか?」

 

「兵糧が焼かれたり奪われたりして軍団を維持するのが困難になるとか……一当てしたときに敵の練度が高かったりして、本格的にぶつかると損害が大きいと判断したときかな」

 

「それらともう少しある理由ひっくるめて「次も戦える状態でなくなりそうなとき」ってオレなら答える。こっちは『この一戦さえなんとかなればいい』訳じゃねぇ。だから次も戦えるようにしないといけねぇわけだ。そうすると次も戦えるように将兵の死傷を抑えないといけねえし、何日もかかる長期戦にならねえよう、早めにケリをつける必要がある。兵糧は時と場合によるが、今回は特に考慮する必要がある」

 

炎蓮がこちらを見てあと頼むとぶん投げてきたので彼女の言葉を引き継ぐ。

 

「そして改めて言うがオレたちは兵士達に命令する側の将であり、策を弄する軍師だ。オレたちの判断で失わなくて済む命が喪われてしまうことがあることを、今一度思いだし、頭にいれた上で軍議に臨んでくれ。……オレに何で言わせた?」

 

「旦那を立てただけだぞ?」

 

ドヤ顔する炎蓮。

 

オレは目線を外してから一同に告げる。

 

「……それじゃあ、この周辺の地図とかを元に、作戦立ててくから案がある人は挙手して。指名されたら発言するように」

 

「無視とか酷くねぇか!?」

 

珍しく取り乱した彼女を見て、雪蓮たちが驚いたが、詳細は割愛する。

 

 

 


 

 

 

「想定どおりに敵が来ましたね」

 

「ある程度は無視して中盤くらいに強襲を仕掛けるからな?」

 

林のなかに潜むオレ、愛紗、黄蓋にリズと鈴。

 

「……」

 

「そんなに辛いなら、無理に戦わんでも良かろうに……」

 

顔を青くするリズと鈴だが、黄蓋の言葉にも首を横に振る。

 

「……彼女たちの覚悟を私やキリト殿は尊重した。あとは本人の責任です。万一に備えてキリト殿の分身が彼女たちの傍に控えていますし、口寄せの契約とやらで遠くにいる別の分身が避難させることもできますから……」

 

愛紗の言葉を聞きつつ、オレは少し前のやり取りを思い出す。

 

 

 

 

 

「みんなが覚悟決めて戦うってのに、アタシたちだけ安全地帯でぬくぬくしてろなんて言われて引き下がれると思うの?」

 

「たしかに……私たち賊に襲われたりとかされたことないし、血生臭い現場に居合わせたことないけど。……でも私だって身体能力は普通の人に比べたら格段に高いから、足手まといにはならないわよ」

 

作戦の最後、アスナがリズと鈴に、この戦いは後方で控えててと伝え、2人が憤慨する。

 

そんな彼女から出た言葉に、オレは淡々と告げる。

 

「……ここはALOじゃない。かつてのSAOや、現実とおなじだ。死んだらおしまいだ」

 

「そんなの分かってるわよ! は、アンタやアスナ、プレミアやティアが戦ってるのに戦えるアタシたちが見てるだけなんて……!」

 

オレたちと共に戦いたいという願い(りそう)人を殺すという越えるべきではない壁(げんじつ)が2人の心を板挟みへと叩き込み、葛藤もたらしているのは明白だった。

 

「……ならキリトに2人を付ける。そいつらの尻拭い、最後までやってやれよ」

 

炎蓮はこれ以上の説得は不毛と断じたのか、オレに丸投げする形で了承した。

 

 

 

 

などと思い出していると、愛紗が状況を告げる。

 

「想定どおり、味方が通過しましたね」

 

オレはそれに頷き、言葉を続けた。

 

「ああ。……伝令、伏兵部隊に通達。オレの号令がかかり次第、敵軍の横っ腹に痛撃を与える。各自待機せよ。とな」

 

「「「御意」」」

 

傍にいた兵士達が音もなく姿を消す。

 

もうしばらくすると、味方の兵士たちの最後尾に少し遅れて黄巾党が通りすぎていく。

 

両面の力を解放し、およそ1/3が通りすぎたのを確認してから、オレは号令をかける。

 

「総員、突撃!」

 

 

オレは言い終わる前に最初の1人目に肉薄、袈裟斬りで仕留める。

 

そして次の一息で3人、横薙ぎ、逆さ袈裟斬り、首を一閃。

 

「なっ――」

 

驚いている敵に左手の剣を投擲。

 

そいつの心臓を貫き、その背後の射線上にいた雑兵たちの身体も同様に剣が穿つ。

 

そして空いた手で近くの雑兵を掴み、躊躇い無く全力で敵の後続のいる法へ投擲。

 

残酷なことをしていると分かっているが、それでも躊躇い無く殺戮を行い――しかし頭は恐ろしいほど冷静に状況判断を行い、客観的な視点でその様子を脳裏に記録し続けたのであった……。

 

 

 


 

 

 

 

一刻後。

 

オレたちは戦闘跡地から東に3里ほど離れたところに天幕を立てていた。

 

「味方の死者は一桁、代わりに精神的負傷で袁術のところの1割近くが精神的にやられたか」

 

頭をガシガシ掻きながらそうこぼす炎蓮。

 

「その代わりといったら何だが、リズも鈴も乗り越えたから……素直に喜べないが」

 

「何で喜べないのかしら?」

 

「……まあ、戦うのははじめてだけど、死体とか葬儀の手伝いとか経験あるから、死とはある程度折り合いつけられてたからね」

 

オレの言葉にちょっと不満そうな鈴と心当たりをこぼすリズ。

 

「そっちは悪くないが再起不能かもしれねえ兵士どうすっか考えねえとならねぇ。キリト。お前ならどうする?」

 

脱線しかけた状況から軌道修正する炎蓮。

 

オレは冷静に告げる。

 

「……しばらくは様子見だな。死と対面したことがあるやつなら、間もなく立ち直るだろうし、人を殺したことを悩みながらも折り合いを付けることになるだろう。それでも駄目なら部分解散という名目で対象者を汝南に帰す。分身に監視させてな」

 

「まあ、いつまでも足引っ張る奴を連れてくわけにもいかねえしな。それが妥当だろう」

 

頷いてから日が傾きつつある空を見る。

 

「――伝令! 」

 

炎蓮の言葉で伝令たちが現れる。

 

「明日の夜明けと共に出立する!食事と交代で睡眠を行い、英気を養うように全軍に通達しろ!」

 

「「「はっ!」」」

 

そして通達事項を聞き次第駆け出す。

 

「……さてと、オレたちも飯にすっか」

 

と炎蓮が言い、みんなもその気になるが、オレは首を横に振る。

 

「オレは用事があるから分身置いてく。みんなで食べててくれ」

 

「あ? 何かあったか?」

 

「キリト君?どうしたの?」

 

首傾げる一同。

 

「……近くの山に妙な気配がするから、調べてくるだけだ。すぐ戻る」

 

すぐに木分身を作り、そのまま瞬身でその場を後にする。

 

分身が問い詰められてるが、言い訳をひたすら繰り返すことでいなしてるが、絞られて力尽きるのも時間の問題かもしれない……。

 

 

 

 


 

 

 

「あら、逆探知されたのかしら?」

 

気配を手繰り、先ほど告げた場所とは異なる場所にいくと、目の前には夜なのに目立つ金色の髪とロリータ系?のピンクの少々幼さを感じさせる服装をした少女が出迎える。

 

「……そういうことにしておいてくれ」

 

「まあいいわ。せっかく来てくれたし、もてなさないのは無粋よね?」

 

そう彼女が言って指を鳴らすと、周囲の空間が書き換えられ、深紅を基調とした広い洋風の部屋に変化する。

 

「毒とか入ってないわ。さ、どうぞ」

 

いつの間にか居た黒い羊頭の悪魔が配膳し、紅茶などを用意してから、オレが座るための席らしきところを引いて、少女の誘導を補佐していた。

 

オレはとりあえず座り、紅茶を飲む。

 

「……もう少し警戒するとかないのかしら?」

 

オレが戸惑う姿見れなくて不満そうにそう零す少女。

 

「そう言われても困るな。……オレはキリト。アンタの名前は?」

 

左目の固有瞳術を使うか一瞬悩んだが止めて普通の目の状態で彼女を見ながら問いかける。

 

「ラムダデルタ。この『ゲーム盤』で遊んでるプレイヤーの一人ってところかしら。あ、駒にゲーム盤とか言ってもわからな」

 

「なるほど。アンタがこの世界をおもちゃにしてる連中の、魔女の片割れか」

 

オレが断言した瞬間に瞬間移動したのかオレの視界から消え、同時にオレは振り向きざまに剣を抜刀して山羊頭を逆さ袈裟斬りする。

 

「――アンタね?『サーヴァントとして参加してるどこからか入り込んだプレイヤー』ってのは」

 

少し離れたところで身構えるが、そこは射程範囲である。

 

――まあ、今戦う理由は無いが。

 

「理由も経緯も不明だが答えはイエスだ。――で、戦うか?ラムダデルタ」

 

「今回は様子見だから必要ないわ。――聖杯戦争が始まったら手を組むのも悪くないけど、そうすると私が支援する勢力が大陸を統一するのにかなり苦労する未来が見えるから困りものだわ」

 

「……」

 

構えを解かずに様子を見る。

 

「ま、ベルンには負けたくないから、必要なら手を組むってことで。今日のところは帰らせてもらうわね」

 

そう言って消えるラムダデルタ。

 

消えた証拠に空間が元の森の空き地に戻り、気配が消える。

 

両方の目に六道仙人モードも発動して確認したが結論は同じで探知範囲には既に居ないことが分かった。

 

それに安堵してから北を向き、その場を後にする。

 

殺した屍が野に晒されたままなのが我慢できない、オレのワガママのために。



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第10話 黒の剣士(偽)と小沛の魔性と再会と

あれから半月後。

 

道中で何度か賊を討伐したり、鍛錬で彼女たちや兵士たちを鍛えたりしながら北上し、小沛にたどり着く。

 

先触れを出したおかげで特に混乱もなく街の近くに陣を張ることができた。

 

「はじめまして。陳珪と申します。黄巾賊討伐のため、遠路はるばる来ていただきましたこと、感謝していますわ」

 

城の大広間にて。

 

淡い青紫の髪と、陰陽を表す勾玉のそれぞれを左右の髪飾りにしている美女が妖艶な笑みを浮かべながらオレたち(一応トップ孫堅なのに、オレの方を主に)を見ながら自己紹介をしてきた。

 

オレたちもそれに対応して自己紹介をしていく。

 

――それにしても色々でか

 

邪念を察知したのか、アスナがオレの足を一切こちらを見ずに踏みつける。

 

思考を切り替えるとジト目をしながら足をどける彼女。

 

「――ということなのですが、キリトさん、いかがですか?」

 

などしていたら、会話に乗りそこねてしまった。

 

「……えっと……」

 

「悪いがオレの部下じゃねえし、いきなり自分のところに鞍替えしないかとか言われても困惑しかねえだろ。逆になんでイケると思ったのかわかんねえぞ?」

 

炎蓮の言葉でオレがスカウトされてたことに気がつく。

 

「あら、それは残念。でも私のこことかに熱い目線を送っていたから、女の子に囲まれてても、そういう欲求を解消できてなかったのかなと思いまして。私は有能な武人にして様々な仕事も出来る方を手に入れられる。彼は私と契ることで行き場のないものを発散出来るので悪くないとおもってましたが」

 

自らの胸元に手を当てる陳珪。

 

それとともにオレへ女性陣からのジト目や怒気が向けられる。

 

これは罠だ!と言いたかったが、たぶんこの場で何を言おうと黙殺されるだけだ。

 

現実は非情である。

 

「……なるほどなぁ。アスナが折檻する気持ち、よく分かったきがするぜ」

 

オレを見ながらジト目する炎蓮。

 

「とりあえず、屋敷を用意していますので、皆様そちらでゆるりと滞在してください。ご案内しますわ」

 

と彼女が先導する。

 

オレはアスナ、桃香、プレミア、鈴にインペリアルクロスの状態で囲まれながら、炎蓮を追いかける形でその隊列に並び、大広間を後にしたのであった……。

 

 


 

 

その後、搾られたり、夕食として宴が催され、そこで陳珪から後で来てくださいといわれたり、ひと悶着あったりして、いつの間にか月明かりがきれいな夜の時間になっていた。

 

「来てくださって嬉しいですわ」

 

いつもよりこころなしか露出が高くなってる服の陳珪がそういいながらオレの前にお茶を差し出す。

 

「……で、用件はなんだ? アンタのところで骨を埋めろと言われても困るし、客将からでいいといいながら、諸々で雁字搦めにしようとしてもオレは普通に行方くらますから意味は殆どないけど」

 

普通にお茶を飲みながらそう告げた。

 

「あまりせっかちな方は嫌われますよ?」

 

ニコニコしながら何かを待ってるかのようにオレを宥める彼女。

 

――ああ、媚薬で欲情させて、既成事実で嵌めるつもりか。

 

ほんのり感じた熱と肉体の高揚感を理性と体内調整で正常範囲に戻しながら続ける。

 

「それじゃ、長期戦と行こうか」

 

「ふふふ、では……今の漢という国について、あなたの忌憚のない意見を聞かせてもらいますか?」

 

「――形あるものはいずれ壊れる。大樹も老い、朽ちて倒れるようにな*1

 

「それを寄る辺とする生き物たちはどうするべきでしょうか?*2

 

オレの言葉が気に入ったのか、そのまま問いを投げかけてきた。

 

「新たな大樹を探すのが良いだろう。だが、次の寄る辺となる大樹が目と鼻の先にあるとは限らない。まだ大丈夫と考えるか、新天地に赴き、新しく永く住まうことのできる大樹を探すかはそれぞれだろうさ*3

 

その言葉に目を細める彼女。

 

「あなたは大樹足り得る存在ではなくて?*4

 

「――オレは大樹たりえない*5

 

「……何故かしら? 力もある、才もある。人望もあるし、良き人材に巡り会えている。それに天運も持ち合わせていると私は思うけど」

 

出来るはずなのに、できないというオレが不思議なのか、眼を丸くして好奇心の色を見せながら問いかけてきた。

 

「オレは人を率いる柄じゃない。出来ることは殺すこと。桃香……劉備や孫堅のような、人を知らず識らずのうちに惹きつけ、希望をもたせる者たちじゃなければ待っているのは付いてきた者たち諸共滅ぼす最悪の結末だろう。――軍略に優れた項羽が武で大陸の殆どを征したが、最後は劉邦が人心を集めたことで倒され、国として長続きしなかったようにな」

 

「……なら、あなたが大樹とするつもりは、その二人のどちらかしら? 袁術の客将と委任状に書いてあったけれど、今回の一件で名を挙げたらあの二人のどちらかを主として立てていくつもりよね?」

 

興味が止まらないのか、質問は続いていく。

 

自分と話が出来る相手を認識できたせいか、頬が紅潮している。

 

「オレは劉備を支える。……だが乱世になりつつある今の状況。彼女に比肩する大器を持つ者たちが現れてもおかしくはない。嘗ての戦国時代のようになることもオレは想定し、彼女の願う、民が明日に希望を持ち生きることが出来るように全力を尽くすだけだ」

 

「……ふふふ、なら今のうちに密約を交わしましょうか」

 

そう彼女が言うと自らの服に手をかけ、留め金を失う衣が重力に逆らえず落ちていく。

 

晒される肢体に思考が停止していると、そのままオレの傍にやってくる。

 

「あの劉備さんが国を興し、その国の領土が私達のところに接したら、私達は無条件で下ります。ですから、粗雑には扱わないでくださいね?」

 

こころなしか息が荒い陳珪。

 

どうやら彼女も媚薬を飲んでいたようである。

 

「――ということで。蝙蝠みたいと思われるかもしれませんが、私はこの地が大切だから……許してくださいね?」

 

なにかの拍子に入れ替えられることでも想定してたのだろうか。

 

オレはかなりズレた思考をしながら、妖艶な笑みを浮かべる彼女の手を払いのけず、受け入れたのであった……。

 

 

 


 

 

 

翌日。

 

オレは戻って即座に『別の女の匂いがする』と襲撃を受け、身代わりと分身を駆使して撹乱しながら街を出て北側に逃げていた。

 

「……のどかな田園風景がひろがるな」

 

一般市民に変装したオレは周りを見回したりしながらほとぼりが冷めるの、いつだろうな―と思いながら散策する。

 

「……ん?」

 

そこで見に覚えのある気配が2つ、もう少し先の畑にあったのでそちらの方に進む。

 

するとそこには、黒髪の肌がやや白い姉妹が畑の傍で座り、休憩してる姿だった。

 

「……一夏、千冬さん……」

 

小声で喋ったはずなのに、ビクッと反応してこちらを向く二人。

 

「……キリト……?」

 

「……みたいだな」

 

妹のほうがオレの名を呼び、姉がうなずくと、妹が駆け出してオレにその勢いで抱きつく。

 

「ぐはっ」

 

「キリト! 会いたかったよ……!」

 

滝のごとくといえばいいのか、盛大な涙を流す彼女。

 

あとから続いて姉も近づいてくる。

 

こっちは理性的に勢い載せて抱きついてくることはなかった。

 

「ふたりとも、こんなところに居たんだな」

 

「気がついたら二人で過ごしてて、身よりもないから小作人として働いていたんだ」

 

「大変だったよ……」

 

遠い目をする二人。

 

「一夏も千冬さんも、無事で良かった」

 

抱き寄せて撫でる。

 

「……ふたりとも、一体どうした……の?」

 

二人の近くに居たらしい、健康的に日に焼けた肌と陳珪を彷彿させる髪色と瞳をした少女がやってきて、二人に声をかけた。

 

オレは二人を離すと、二人が振り返り、少女に告げた。

 

「陳登、ごめん。私達、待ってた人が迎えに来たみたいだから……。この地を離れるね」

 

「! ……そっか。残念。色々話せる友達ができて、嬉しかったよ」

 

一夏の言葉の意味を即座に理解した彼女は、少し寂しそうに、だけど引き止めては行けないとわかっているからか少し声が震えながらも堂々と告げる。

 

「君は、陳珪……彼女の娘か……?」

 

オレの言葉に驚いてこちらを見る。

 

「……だから……?」

 

「いや、単にあの人の面影があると思っただけだ。済まない」

 

オレが真剣に伝えたので悪意は無いと理解したのか、少し警戒していた態度が柔らかくなる。

 

「お母さんに、会ったんだね。……私は最近家に戻ってないけど、元気そうだった?」

 

彼女の言葉に首を傾げるオレたち。

 

だが、一夏たちの恩人でもあるし、とりあえず答えることに。

 

「ああ。元気そうだったぞ? ……色仕掛けしてきたのには驚いたが」

 

おもわず滑った口が放った言葉に陳登が眼を丸くし、一夏と千冬はジト目を向ける。

 

出した言葉は戻らない。

 

「え? え? い、色仕掛け……?」

 

「だから喜雨……陳登とどこか似た匂いが……」

 

「……大方、アスナか親しいものたちにバレて折檻から逃げて気がついたらココに来てたというのが真実なんだろうな。そんなことだろうと思ったが」

 

混沌と化す前に、オレは土下座をする。

 

「色々と詫びますからとりあえず一夏と千冬さんはオレの所属してるところに加入してください。あと陳登さん、オレから陳珪さんと陳登さんに諸々の謝罪があるので同行お願いします。そのついででもいいので親娘でお話する時間を設けたほうがいいとおもいます!」

 

「……一夏」

 

「千冬姉。キリトはまた自分を犠牲して周りが最大の利益を得る選択肢を選んだみたいだね」

 

呆れた声でそう告げた後、陳登へ話しかけたのか

 

「喜雨、わるいけどキリトのお願い、聞いてあげてくれる?」

 

と助け舟を出す一夏。

 

「え、あ、うん……」

 

素直にうなずいてくれた彼女。

 

……オレの命を犠牲に彼女のぎこちない親子関係の改善と一夏千冬さん引き抜きに伴うマイナスイメージの払拭とアスナたちの怒りを鎮める。

 

――トレードのレートとしては最上かもしれない。

 

などと思いながら、立ち上がり、3人とともに小沛の街へと踵を返すのであった……。

*1
意訳:国が興り、滅びるのが歴史の常。漢は大陸を一つにしている国だが、腐敗も目立ち、乱れつつある。そろそろ寿命ではないだろうか?

*2
意訳:なら私達民はどうするべきかしら?

*3
意訳:オレとしては次の誰かを見つけるべきだとは思う。最も頼る存在がすぐ現れるとも、傍に都合よく現れるとは限らない。だから選択肢としては現状維持に務めるか、新しい相手を自ら探すかのどちらかじゃないのか?まあ、どっちを選ぶかは人それぞれだが

*4
意訳:あなたなら国を興して大陸を統一すること、出来ると私は思うけど、その意思はあるのかしら?

*5
意訳:オレにはできない



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第11話 黒の剣士(偽)と小さな一歩

「たのもー!」

 

ノックもせずに開けて執務室に入るオレとそれの続く一夏、千冬さん、陳登。

 

オレたちの姿に木簡を動かす手を止め、眼を丸くする陳珪。

 

「一体、どうなさったのですか? あと朝起きたら既に居なかったので、驚きましたよ?」

 

「その件についてはこの通り」

 

土下座するオレ。

 

「誘われたとはいえ、誘惑に屈したオレが悪い。なかったコトにできないし、するつもりはないが、同時に関係をこれ以上持つつもりも続けるつもりもない。万一のときの責任は取るが、それだけのつもりだ」

 

「……思ったより強いのね。他の女の子に強く出れないから、一度関係を持ってしまえばあとはずるずると引きずり込めるとおもったけど……今回は諦めるしか無いわね」

 

とため息交じりに木簡を置く陳珪。

 

「……かっこいいと思った男の人をお母さんが既に手を付けてたときって、どんな顔すれば良いんだろう……」

 

土下座してるからわからないが、ハイライト消えてそうな眼をしてそうな陳登の声。

 

「……わら「こういうときは、早いうちに腹を割って話せ。下手に自分の中に溜め込んで我慢すると、限界を超えた時、自分の手に負えないくらいの激情にふりまわされるからな」」

 

どこぞの14歳みたいなセリフを吐こうとした一夏の腹に一撃いれたらしい千冬が彼女なりの助言を陳登へ送った。

 

「……3人共? ありがとね」

 

そう陳登がいうと腹の下あたりに腕が差し込まれ、そのまま持ち上げられる。

 

「え? 千冬さん?」

 

「親子喧嘩に私達は居ないほうがいいだろう。――それはそれとして、アスナたちがどこにいるか検討つかないから案内しろ」

 

「あっはい」

 

オレはそのままドナドナされることに。

 

なお、一夏は一撃がクリティカルだったのか、気絶したまましばらく微動だにしなかった。

 

 

 


 

 

 

「……オレの命もあと僅かかな……?」

 

陳珪が案内してくれた屋敷にて、オレは簀巻きにされていた。

 

「キリトくんが素直に白状してれば、もう少し穏やかに済んだとおもうんだけどなー?」

 

その言葉に女性陣*1が揃ってうなずく。

 

「にしても、一夏たちこんなところに居たのね。驚いたわ」

 

「リズ、元気そうだね」

 

リズの声かけに笑顔をみせる一夏。

 

うん、かわいい。

 

「キリト君、随分と余裕そうだね」

 

アスナが笑顔なのに怒気をまといながらそう零すので、色々縮み上がる。

 

「にしても、今のところ桃香さんたち三姉妹に、朱里ちゃん、雛里ちゃんと炎蓮さんと陳珪さんか……1ヶ月程度でそれだけ毒牙にかけるなんて、手が早いかな……」

 

ジト目を向ける一夏。

 

「こいつは女を引き寄せる体質らしいからな。束も真面目に考察とかして、恋愛原子核みたいな論文書いたこともあるくらいだし。……とりあえずこいつは後で折檻するとして、情報交換や、今後どうするつもりなのかを聞きたい」

 

千冬がそう告げたことにより、彼女たちの視線が外れる。

 

まあ、オレは屠殺前の豚も同然なので抵抗を諦めておとなしくその成り行きを見守る。

 

「黄巾賊討伐で名を挙げたら、私が故郷である上庸の太守になって、そこから勢力を西と南……益州に伸ばしつつ、できたら荊州や中原にも手を伸ばしたいかなって思ってますけど……」

 

「江東つーか荊州の半分から以東は雪蓮とか袁術とかいるからしばらくは手を付けねえほうが良い。どっちかというと益州全土を獲ってから、他の地域に目を向けるのが安定だと思うぜ」

 

「それも大切ですが、中央とのつながりも作ったりしないといけません。私達が朝敵になったら、その大義名分から反乱を起こす人とか、私達を狙う人たちがでないとも言えませんから……」

 

「厳岳殿ならツテを持っていそうですから戻ったら尋ねるのもよいかもしれませんね」

 

「というか、国を起こすとしても組織体制がしっかりできてないと機能不全起こしてすぐ瓦解しかねないから、そのあたりも早めに決めないとね。……アタシたちの場合はキリトが潤滑油みたいになるから意見の相違での喧嘩とかはまず無いでしょうけど」

 

なんか眠くなってきたのでオレは意識をシャットダウンする。

 

 

 


 

 

「パパ、起きてください」

 

目を開くと、かわいいオレの(ユイ)の顔が視界に映る。

 

「あれ……みんなは?」

 

あの後折檻されると思って、諦めていたが、特に何もされた形跡もなく、彼女たちも居なくなっていた。

 

「色々話が弾んで、いつの間にか昼になってたので、みんな近くにある一夏さんおすすめの店に行きました。ママからパパをそろそろ起こしてあげてといわれましたので起こしにきました」

 

「そう……か」

 

オレは縄をほどき、立ち上がると、扉が開かれる。

 

「あれ? 一夏たちは……?」

 

首を傾げるのは陳登。

 

「パパ以外のみんなは街で各々ご飯を食べに行ったみたいです」

 

「そう……ならキリトと……」

 

「私はパパの娘のユイです」

 

ユイの自己紹介に、陳登とその後ろに居た陳珪が目を丸くする。

 

「娘……!? ……あ、えっと、ユイ……ちゃん。お母さんと仲直りもできたから、一緒にご飯、どう?」

 

上目遣いで聞いてくる陳登。

 

「お言葉に甘えようか、ユイ」

 

「またママたちに怒られますよ?」

 

「無下にしたらしたで怒られる。前例は何度もあるし、どっちにしろ怒られるなら、厚意を無碍にしない方を選びたいかなって」

 

そう答えると、うーむと考えるユイ。

 

直ぐにうなずいて答える。

 

「たしかにそうですね。 パパ共々、おねがいします」

 

「うん」

 

「あらあら、礼儀正しい娘ね」

 

陳珪も微笑ましいのか笑顔を見せる。

 

そうしてオレたちは陳登に連れられ、屋敷を後にした。

 

 


 

 

 

「好きなの頼んでいいよ? 私がお金出すから」

 

「いや、流石にそれをやると後でオレが血祭りにされるからオレに出させてくれ」

 

大通りから離れた路地の一角、少し古ぼけた感じの店に入ったオレたち。

 

どうやら陳珪は来たことがないらしく、興味深そうに周りを見ている。

 

そして陳登からの開口一番がオレにとって大問題だったので、慌ててインターセプトをかける。

 

「……お礼だから、気にしなくていいのに……」

 

ふくれっ面する陳登に対し、ユイがペコペコする。

 

「前に、それでパパが大変な目にあったので、ママたちが生理的な状態まで警戒しちゃうようになったんです。すみません……」

 

「本当にすまないな」

 

「色々あなたも大変な目にあってきたのね……」

 

ユイとオレの真剣な顔が通じたのか、陳珪も心配そうにオレに視線を向ける。

 

「……ここが仕入れてる食べ物はどれも私の知人が育てたものだし、料理人のおじさんの腕はすごいから、期待していいよ」

 

「なら、私はどれにしようかな……パパはどれがいいですか?」

 

話題を変えるべきと判断した聡い陳登とそれに乗るユイ。

 

そして採譜に目を通しながらどれにするか選び、注文する。

 

「……」

 

少し続く沈黙。

 

それを破ったのは陳珪だった。

 

「キリトさん、ありがとうございます」

 

「え? お礼を言われるようなこと、した覚え――」

 

「――結果論かもしれませんが、あなたのおかげで、口喧嘩をし、疎遠になりつつあった縁を取り戻せました。あなたが居なければ、疎遠だった時間はかなり長いものとなっていたと思います。だから、ありがとうございます」

 

「……あまりオレが関わったわけじゃないけど……」

 

「きっかけになったんですから、パパはもっと誇る……べき……?」

 

理由を思い出したのか、語尾が弱くなるユイ。

 

「喜雨、礼のものを」

 

「うん」

 

懐から取り出した紙。

 

そこには目録が。

 

「これは……」

 

「小沛は立地と治安から兵は出せないけど、物資の支援って形でお礼をすることにしたから……受け取ってくれる?」

 

ささやかなものだったが、嗜好品とかも入ってる辺り、一生懸命捻出してくれたのだろう。

 

「返礼はあまりできないが、オレが持ってるもので何かあとでお返しさせてもらうつもりだ」

 

「できたら、農書とかだと……」

 

「だったら、名品を……」

 

「「え?」」

 

二人の意見が食い違い、発生した沈黙。

 

「どっちも心当たりあるから、用意する。だから仲直りしてそうそう喧嘩再開しないでくれ」

 

どうやら、もうしばらくは油断ができなさそうだ。

 

 


 

 

 

あのあと色々あったが割愛。

 

数日後、オレたちは黄巾党征伐のため、出立するに伴い二人に別れを告げることに。

 

「それじゃ、オレたちはこれで」

 

「帰りにまた立ち寄ってくださいね」

 

「今度は、とれたての作物、たくさん用意するからね」

 

二人の言葉にうなずいてから、オレたちは出立する。

 

――これから何が待っているのか。

 

期待と恐怖を持ちながら、オレたちは進む。

*1
言うまでもないが雪蓮たちの孫家組は居ない。街で遊んでいるようだ



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第12話 黒の剣士(偽)と袁術の襲来

あれから半月、オレたちは徐州に入りしていたのだが……。

 

「叔母上が司徒の役目を終え、家に戻ってきてくれたのでな、妾たちも同行することにしたのじゃ」

 

家を留守に出来なかった状況から変化したらしく、わずかな手勢と馬車だけで追いかけてきたらしい袁術と張勲がやってきた。

 

オレたちに話があると天幕を立ててそこに集め、先の発言から説明が始まっていた。

 

「前の約束について、再度調整が必要そうだな」

 

頭を痛めたようなジェスチャーをする炎蓮。

 

「兵糧については、そちらが5000、こちらが2万の比率で再分配で、劉備さんたちとその右腕であるキリトさん、そのお仲間はこちらの客将として責任所在とかもおなじようにすればよいかなと」

 

「……」

 

「これが双方納得する案だと思いますが、違いますか?それとも何処かで募兵したり、義勇軍吸収したりしてます?」

 

炎蓮が怪訝そうな顔をしてることに気がついたのか、張勲が正論と未確認項目を追撃する。

 

「……いや? 間違ってねぇし、募兵も義勇軍吸収もしてねぇ。……てっきり難癖付けて分配を渋ると思っただけだ」

 

炎蓮の言葉を聞いてやっと炎蓮の態度に納得したのか手をポンとたたく。

 

「目先の小さな利益考えればその手は有効ですけど、貸し借りとか長期的に考えると不利益の方が大きいですからね。あとその程度気にするほど、汝南袁家は柔ではないと言うことです」

 

「七乃の言う通りじゃ。まあわらわたちが来た結果、お主が得られる利を少なからず失わせたからの。何らかの補填を……できる限りするのじゃ」

 

「そこは躊躇い無く言い切ってほしかったな」

 

袁術の言葉にヤレヤレと呆れる炎蓮。

 

「では、改めて客将としてお世話になりますね、袁術さん」

 

「うむ、くるしゅうないぞ、劉備」

 

桃香の言葉に頷く袁術。

 

「さて、このままでは兵士貸して手柄だけ横取りみたいなことになって、私たちの立場がないので何も手土産なしに合流したわけではないことを披露しましょうかね」

 

「あら、曲芸でもしてくれるのかしら?」

 

不満そうな雪蓮に対し、張勲は首を横に振って否定する。

 

「そんな身軽で木にもするする上れる孫策さんとおなじにされても困ると言いますか……。持ってきたのは現在の徐州、青州とその周辺の情報です」

 

そういって机の上に地図を広げる。

 

「まず、青州は麗羽さん……袁紹さんが西涼の馬騰さん……の娘さんを筆頭とした西涼連合と涼州周辺の豪族である董卓さん、幽州の牧である公孫賛と共に順調に賊の駆逐という成果を出してます。もっとも、3人を矢面に立たせて成果は自分の物だと袁紹さんは喧伝してます。タチ悪いですねぇ」

 

「ふんぞり返って成果だけ自分の物とは、ろくでもないのじゃ」

 

「ですねぇ」

 

袁術の言葉に賛同しつつ、張勲が駒を4つ、青州の北側におく。

 

「次に、徐州北西部から禁軍と曹操さんの連合軍が適度に敵を追いたてつつ、進軍してます。ちなみに禁軍の指揮官には盧植さんや皇甫嵩さんという、名と実力を兼ね備え、公正に評価できる方がいますので本来なら論功行賞に心配無いのですが……」

 

「?」

 

「何か問題あったか?」

 

尻すぼみになる張勲に首をかしげる一同。

 

頭を振って彼女は告げる。

 

「十常侍の息がかかった人が軍監*1という、かなりの確率で袖の下を要求してきそうな情報もあるので、どうしたものかなーと」

 

それに袁術、孫策を筆頭にそれぞれの面々が渋面をする。

 

「あんなのにくれてやる金など無いのじゃ」

 

「だけど集りを無視すると何吹聴するか分からないのよね。……集ってもやるバカもいるけど」

 

「……賄賂を貰わないと都合の悪い嘘を言うなんて、立場を悪用してて、嫌ですね……」

 

桃香がこぼすと、張勲が補足する。

 

「まあ、彼らも彼らでそれなりの立場になったのに上に持ってかれたり、立場維持にけっこうお金が必要だったりするので、やらなきゃ地位に合った生活出来ないとか一応都合がありますがそれはそれですしね」

 

「今の政治の腐敗がもたらした結果ね……」

 

鈴がため息を吐きながらそうこぼす。

 

「それで、孫堅さんはどうします? せめて私たちは足並み揃えておいた方がいいかなーと」

 

炎蓮の様子を見ながら張勲が問いかける。

 

「……面倒だ。要求されても(びた)一文も出さねぇ」

 

「なら私たちもそうしますね。……と、脱線しましたがとりあえず今の周辺状況はこんなところです。とりあえず他に情報交換したいこととかなければ……無さそうなので解散と言うことで」

 

「召集してすまなんだの」

 

袁術の謝罪の言葉でその軍議?は締め括られた。

 

 

 


 

 

 

「これはすごいのじゃ。湯浴みや厠が無いのが気に入らぬが、わらわですら見たことの無い食べ物や薄いのに雲のような柔らかい寝具があるのじゃから細かいことは気にせぬ方がよいの」

 

袁術の発言からなんとなく察した人も多いと思うが、馬車の中身見られて乗っ取られた。

 

「そちらもすごいですけど、いれたものが腐らない上に消費してもいつの間にか補充されてる蔵なんて、見たことないですよ」

 

宝物庫使えてたせいで感覚バグってたけど、馬車についてる倉庫も大概イカれていたことを今になって思い出す。

 

「それで……オレがこれを何と交換なら譲ると思う? 補充速度が不明だが少人数なら補充の方が早く、適温に保たれた空間で眠れるこの馬車の荷台に偽装したゲルを」

 

「……袁家の今持ってる財産全部投げても首縦に振ってくれなさそうですしねぇ。困りました」

 

「……わらわも使っては、だめなのかえ?」

 

頭の中で算盤弾いてるのか、真面目な顔で張勲が零し、無意識の泣き落としを繰り出す袁術。

 

しかしうちの財産管理してるアスナが認めるわけもなく。

 

「ダメです。孫策さんたちにも教えてないんですよ? なんとなく違和感持ってるみたいですけどね」

 

「わらわはキリトと話しておる!客将の陪臣がなにを」

 

「あ、アスナはオレの正妻兼財布管理担当してるんで、最終判断は彼女が握ってます。拗ねると絶対了承してくれません」

 

「おおお、お主キリトの正妻じゃったか、そうかそうか。気立ても良さそうじゃし、キリトの隣で支える良き妻なのじゃろうなぁ」

 

凄まじく慌てふためきながら褒めていく袁術。

 

「凄まじい手のひらの回転ぶりだな……」

 

「一夏、対抗しなくて良いのか?」

 

呆れた顔の一夏の言葉に首を傾げる千冬。

 

「いや、まあ正妻戦争*2で負けたとかもあってその辺りはあんまりアピールしないつもりだからね。……あと表向きの序列より、必要な時に、必要な助けができるようにいつでも備える。そっちのほうがキリトにとっては重要だからね」

 

「我が妹ながらノロケよって……」

 

まあ、オレ的には二人が並んでるんだけどね……言ったら序列が乱れるからとアスナや一夏に折檻されるか、束さんがリズあたり焚き付けて下剋上戦をまたやりそうだから黙っているが……。

 

「キリト君」

 

「ん? 話付いた?」

 

完全に意識が違う方を向いていたので確認する。

 

「ついてないよ? ……よく考えたら、全くおなじアイテムあるし、そっち渡せばいいからね。あとはキリト君が欲しいものを提示して、それを2人が呑めるかどうか、かな」

 

「お手柔らかにお願いしますね」

 

手揉みしながらそうお願いしてくる張勲。

 

さて……どうするかな。

 

「……んー……なら貸し1ってことにしておくか。困ったときに頼らせて貰うって感じで」

 

「む……思いつかなんだか……」

 

「利子が増えてそうで怖いですねぇ」

 

オレの言葉に不完全燃焼な様子の袁術と意外と言いたげな顔の張勲。

 

「キリトは女に甘いから」

 

「無意識に相手の気持ちを揺さぶるキリトの十八番の一つですね。油断すると私やティアみたいに絡め取られます」

 

「リズもプレミアも言いたい放題言うなぁ……」

 

オレは遠い目をしながら零す。

 

「とりあえず取引成立ということで、用意ができ次第、渡していただけたらと」

 

張勲がそういうので、オレは指を鳴らして馬車の隣に同じものをよびだす。

 

「出したから確認よろしく。あと馬は自前でどうぞ」

 

「えっ? えっ……??」

 

オレの言葉に外へ出て、いつの間にか現れていたそれに目を丸くする。

 

「うむ、良いものを貰ったのじゃ。お主の頼み、わらわのできる限りの範囲じゃが、なんとか叶えてみせるからの」

 

そういうと袁術が新しい方に移って中に入ってから、顔を出す。

 

「あと、お主だけ特別に、わらわを真名である美羽と呼んでよいからの?」

 

「あ、それなら私のことも七乃で構いませんからね」

 

馬を兵士に連れてこさせながらそう告げる張勲。

 

「ああ、よろしく。美羽、七乃」

 

それから、馬を馬車につなげたかと思うと、直ぐに自分の物天幕へと移動したのであった……。

 

*1
軍の監視を行う人のこと。だいたい外部関係者か、軍の派閥とは違う派閥の人間がつく。なお不正の温床

*2
キリトたちの前世で繰り広げられた仮想世界で行われた筆舌し難い女の戦い。キリトの関係者(全員女性)が2つの陣営に割れてアスナ、一夏をそれぞれの陣営のトップとして祭り上げた。最終的に一夏が敗北宣言をすることで終了した。詳細はお気に入り1万超えたら見れるかも



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第13話 黒の剣士(偽)と英雄集結 前編

あれからさらに半月。

 

オレたちは徐州と青州の間にある要塞に黄巾党の本体が在ることを突き止め、進軍して居た。

 

しかし、袁術から早急の対応が必要なことが起きたと言われ、袁術の馬車にオレ、桃香、炎蓮、雪蓮が代表して集まる。

 

「車騎将軍からの召還命令?」

 

「はい~。なんでも黄巾賊の本拠地には30万の兵詰めていて、個別に戦うと各個撃破される可能性あるから、そうなるくらいなら一度全軍集めて多少なり連携したほうがいい。……というのが向こうの主張でして、逆らうとろくなこと無いので従うしか無いんですよねぇ」

 

雪蓮の言葉に対し七乃が本音を面倒そうに零す。

 

「従いたくはねぇが、逆らうのは面倒……か」

 

「わらわとて気が乗らぬからのう……」

 

めちゃくちゃめんどくさそうにする炎蓮と美羽。

 

「……お兄さんは乗り気みたいだね」

 

桃香の言葉に4人がオレに視線を向ける。

 

「オレの予想だけど、その召還で集められた人たちは……今後何処かしらで名前を聞くような一廉の人物になると思ってる。だからどんな相手か見ておきたいってのがオレの本音だな」

 

「……よし、張勲」

 

「孫堅さん、どうしました?」

 

オレの様子を見た炎蓮の呼び掛けに首をかしげる七乃。

 

「たしか軍議に参加するときの暗黙の了解だと一つの軍勢につき頭1人、護衛または側近を計3人が基本だよな?」

 

「まあ、そうですねぇ。軍勢が片手で数えられるならその限りではないですが、今回は例外に入りませんからね」

 

それを聞いた炎蓮は、美羽の方を向く。

 

「ならオレの方は、雪蓮が頭で、同行者として周瑜、黄蓋、程普を出す」

 

「はぁ!? お母様血迷った!?」

 

「なんで血迷った扱いしやがるんだ。……家督譲る前だから、多少ボカしても庇える状態だ。その状態で軍議に一軍の長としての参加できるなんざそうそうねえっつーのに……。血迷った扱いされるなんて悲しいなぁ」

 

「え、あ、その」

 

炎蓮が遠い目をすると雪蓮はあわてふためく。

 

「親の心、子知らずじゃなぁ」

 

「江東の虎が見せた珍しい優しさが蹴られましたねぇ」

 

「……そういうこともある」

 

「急に言われたからそうなるのもしかたないかなーって……」

 

美羽、七乃、オレ、桃香の言葉で膝をつく雪蓮。

 

「雪蓮が怖いなら別にオレが頭として出るがどうする?」

 

「……分かったわよ。私が出るからお母様は雷火たちへの言い訳をちゃんと考えてよね」

 

なんか親子のやり取りに突入したので、七乃が口を開く。

 

「私たちの方は、特に要望無ければ美羽様、私、劉備さん、キリトさんの4人になりますが異論ありますか?」

 

「わらわはそれでよいぞ」

 

「うーん……」

 

「……桃香。オレが同席できるなら情報共有の方法があるから、この案が一番丸いぞ?」

 

「それもあるけど、そうじゃなくて……」

 

悩んでいたので判断材料を提示したが彼女は首を振る。

 

「……お兄さんを同行させたら、会う女性(ヒト)を手当たり次第に魅了しそうで……」

 

「オレを一体なんだと……!」

 

カチンと来たので口を開くが

 

「気が多い?」

 

「種馬じゃねえの?」

 

「女殺しかしら」

 

「傾国の男じゃろ」

 

「そのうち後ろから刺されそうな美形の男の人ですかねぇ?」

 

5人に敵わず、膝をつく。

 

「……オレじゃなくて、アスナあたり代理でよろしく。オレはおとなしく引っ込んでるから」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

あのあと女性陣に宥められたり、尻ひっぱたかれたりしてオレが折れる形で同行することに。

 

……あれ? オレが同行したいと言ったのに渋ったの桃香じゃないかな?

 

閑話休題(それはさておき)

 

軍議が行われる天幕へ向かうオレたち。

 

認識の相違がないかオレは疑問を口にする。

 

「車騎将軍皇甫嵩と前将軍盧植……軍監の蹇碩 (けんせき)……禁軍関係者は要注意ってところか?」

 

「風鈴先生……あ、盧植先生ね? あの人のところで小さいころに教えてもらったことあるけど、悪い人じゃないよ?優しいし」

 

「皇甫嵩さんは私面識ありますね。大抵のことをそつなくこなせる仕事人って感じで、清濁併せ呑むこともできますが、仕事が恋人って感じで、私生活が殺風景じゃないかなーと個人的に思う人です。こっちもよほどの変節が無ければ袖の下を積極的にってことはないですね」

 

七乃がそう零すと、雪蓮も口を開く。

 

「……蹇碩は皇帝の遠戚に当たるし、宦官だから、相応の権力を持ってるわ。何度かお母様のところに使者として来たことあるけど、なにかと理由をつけて他人を貶すやつだから、傲慢で嫉妬深いと見ていいわ」

 

「あとなにかと袖の下を求めるから強欲でもあるな。……次を残せぬ分、今に執着してるとも言えるだろうな」

 

雪蓮の言葉に補足を入れる周瑜。

 

「ということは要注意は蹇碩だけか。……まあおとなしくしてれば――」

 

「あら、そこにいるのは美羽さんではありませんこと?」

 

オレのセリフに割り込む背後からの声。

 

オレたちが振り替えるとそこには4人の美少女。

 

1人目は袁術と同じ髪色のいかにもお嬢様という雰囲気の娘。

 

2人目は濡羽色のおかっぱヘアーの何処か幸薄そうな娘。

 

3人目がボーイッシュな雰囲気と青みかかった若草色の髪をした美少女。

 

最後がパールホワイトの髪と黒いシニョン、赤縁メガネが印象に残る、何故か苦労人の雰囲気を纏った娘である。

 

……あれ、最後の娘、黒いストッキング履いてるけどスカートとか履いてないから下着丸見え――

 

「えいっ」

 

オレの足を躊躇い無く踏みつける桃香によって、意識が逸らされる。

 

「……大丈夫デス」

 

「良かった」

 

「こほん!」

 

オレと桃香のやりとりで話の腰を折ってしまった。

 

「すまない、続けてくれ」

 

「……まあいいですわ。私は冀州州牧にして四代三公の名門!袁家にその人ありと吟われし、袁紹、字を本初と言いますわ」

 

「私は、顔良です。よろしくお願いいたします」

 

「アタイは文醜だ、よろしくな」

 

「私は田豊。袁紹様の参謀よ」

 

そんな4人を見て美羽が

 

「妾の子の癖に偉そうにしおって……」

 

と零す。

 

「あら、美羽さん、なにか言いまして?」

 

「なんでもないのじゃ」

 

地獄耳か袁紹が突っ込んでくるが、袁術は知らんぷりを決め込む。

 

「ところでそちらの方々は?」

 

「妾の客将をしておる劉備と、その腹心のキリト、そっちは孫堅のところの孫策に周瑜、孫堅のところの宿将である黄蓋と程普じゃ」

 

「はじめまして、劉備、字を玄徳と言います」

 

「……キリトだ」

 

「……袁術の紹介にあった孫策よ。よろしく」

 

「周瑜だ」

 

「……」

 

「祭、なんで無言なのよ。あ、程普です、よろしくね」

 

美羽の紹介に対応する一同。

 

それを品定めするように見る袁紹。

 

そしてオレの目の前まで来ると口を開く。

 

「……人使いの荒い袁術さんのところに居たら潰されますわよ? 悪いことは言いませんから、私のところに来ることをおすすめしますわ」

 

「なんじゃと!?」

 

「はい?」

 

「……」

 

劉備が笑顔のまま怒気を放っている。

 

「いや、姫も人使い荒い気が」

 

「猪々子さん?」

 

「なんでも無いです」

 

文醜もポロッと零すが袁紹の言葉に慌てて訂正する。

 

「まあ、この賊討伐が終わるまでって約束だからな。問題は無い」

 

「ならその後は」

 

「劉備についていく。もっとも劉備は故郷の上庸に根を張るつもりのようだが」

 

「……そう……ですの……」

 

「そういうことだ。――美羽、行かなくて良いのか?」

 

「うむ。では麗羽姉さま、失礼するぞ」

 

ドヤ顔をする袁術。

 

それにオレたちはついていく。

 

「……女殺しですねぇ」

 

などと七乃がぼやいていたのでつっこもうとしたら、今度は別の一団に遭遇する。

 

「あ、桃香」

 

「あれ、えっと……」

 

赤毛の少女が一発で桃香の真名を告げたのに、桃香は答えられない。

 

「「キリト(さん)!」」

 

「お兄ちゃん!?」

 

赤毛の少女の後ろに居た4人――シリカ、キズメル、シノン、リーファがオレのそばに駆け寄ってくる。

 

「皆、元気そうで何よりだ」

 

「お兄ちゃんこそ……元気そうで良かった」

 

「だってお兄さん、アスナさんたち以外に、私を含めて6人、既に毒牙にかけてるし、元気は有り余ってると思うよ」

 

「「「「!?」」」」

 

安堵の表情を見せながら、4人を代表してオレに声をかけるリーファ。

 

しかし桃香の投下した爆弾で空気が硬直する。

 

「……キリト」

 

顔をうつむかせたリーファが、こちらに顔を向けないままオレを掴む手の力を強くする。

 

「あの、リーファさん?」

 

「「……」」

 

ハイライト消えた目でオレを見るシリカと凍てつくような視線を向けるシノン。

 

「行方知れずとなってた男が、再会して早々に新しい女に手を出してたと分かれば流石にな」

 

キズメルが困り顔でそう零す。

 

「……何を言いたいか分かる?お兄ちゃん」

 

「アスナと一夏がいるから、そっちに話を通してください。たぶん黄巾賊討伐終わったら、って言われると思うけど」

 

「……わかった」

 

とりあえず許されたのか、掴むのを止めて離してくれた。

 

「キリトさんって本当に気が多いですよね」

 

「節操なしの間違いじゃない?」

 

「遅効性の神経毒を無自覚にばら蒔いてる危険生物と何ら変わりないからな。討伐対象に認定されてないのが不思議なくらいだ」

 

「あー、そこの五人?」

 

後ろから声を掛けられたのでそちらを向くと、赤毛の娘が申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 

また、その後ろには袁術たちがおり、先程までいなかった白を基調とした服の青い髪の娘が増えていた。

 

「互いに紹介するから、そっちで話し込んでないてこっちに来てくれ」

 

「お、おう」

 

赤毛の娘の指示にオレたちは従い、それぞれの主の側へ移動する。

 

そして幹事みたいなポジになったその娘が口火を切る。

 

「それじゃ、改めて。私は公孫賛。幽州の州牧だ」

 

それに続き、青い髪の娘が口を開く。

 

「私は常山の趙雲、字は子龍だ。」

 

「次は私ね。私はリーファ。そこにいるキリト君は義理のお兄ちゃんで、恋人……だね」

 

リーファの言葉に場の空気が体感数度下がる。

 

「あら……私はシノン。彼には(GGOとかで)傷物にされたこともあるけど、今は事実婚って関係ね」

 

さらに下がる体感温度と、締め付けるような胃痛。

 

「え、え? あ、えとえと。私はシリカと言います。キリトさんとは……人にはちょっと言えない関係です!」

 

「……キズメルだ。キリトとは風呂や同衾してる間柄とだけ」

 

「「「!?」」」

 

アスナや一夏が以前から言及してたから動揺してない桃香と、それ以外で大違いだ。

 

「なっ、それは本当か、キズメル殿!」

 

「他3人同様に何度も言っていたぞ?もっとも貴公は生娘たちの集団妄想と一蹴していたようだが」

 

趙子龍がこちらに向き直り、間合いを詰めて物理的に揺さぶってきた。

 

「私を謀ろうとしてる4人と口裏合わせてるだけではあるまいな!?」

 

「なんでそうなる?なんなら4人にある特徴的な黒子の場所あげてやろうか?」

 

「「「「それはだめ!」」」」

 

「あっはい」

 

いつの間にか、オレと4人のやりとりを見ていた彼女が、真っ白になって地面に女の子座りする。

 

「……では、私は……つまり……?」

 

「?」

 

なにやら小声で零す趙子龍。

 

聞き取ろうとするが、キズメルが制した。

 

「彼女の名誉のために、聞かなかったことにしておいてくれ」

 

「わ、わかった。とりあえずこっちも自己紹介するべきだとおもうが……」

 

話題変更と自己紹介してないことを思い出したので、そこを言及すると、桃香が手を上げる。

 

「なら私から。私は劉備、字を玄徳。お兄さんの契約者で、リーファさんたちと『同じ』関係だったりします。こっちがお兄さんで真名にして通り名がキリトさんです」

 

「と、桃香にまで手を出してるのか……!? いや、格好いいの分かるけどさ……」

 

戦慄してる公孫賛。

 

それを横目に紹介を続ける桃香。

 

「それでこちらは袁術さんとその側近の張勲さん」

 

「くるしゅうない」

 

「どうもー」

 

「それから、孫策さん、周瑜さん、黄蓋さん、程普さんです」

 

「孫伯符よ。よろしくね」

 

「はじめまして」

 

「よしなに」

 

「よろしくね」

 

挨拶も終わったところで、

 

「で、ここに並んでる娘たちで未だ手を出してないのは?」

 

シノンが今日の献立を聞くように自然体で問いかけてきた。

 

「桃香さん以外手を出してないです」

 

「……熱とかない?大丈夫?」

 

しれっとオレの額に手を当てて確認しだすシノン。

 

「なんで手を出してないと病気かなにかと考えてるんだ……?」

 

「VRMMOでもリアルでも上からしたまでストライクゾーン広く手を出してた奴がおとなしくしてるって言われたらそうおもうのが自然だと思うけど」

 

「確かに、一夏さんや千冬さん、箒さん、束さんにも手を出してましたし……」

 

「お兄ちゃん、怒らないから他に何十人、手を出したか白状しようか」

 

「……桃香含めて6人だ」

 

3人の攻勢に折れたオレは素直に白状する。

 

「……さっき劉備さんも6人って言ってたけど……他にいない?」

 

「居たらアスナと一夏に半殺しにされてるから」

 

「……劉備さん、その6人って?」

 

シノンの問いかけに対し、指で数えながら桃香は答える。

 

「私に愛紗ちゃん、鈴々ちゃんに朱里ちゃん、雛里ちゃん、そして炎蓮さんだから間違ってないかな」

 

「……ずいぶんと先を越されたなぁ」

 

「白蓮ちゃん?」

 

遠い目をし始めた公孫賛を見て首をかしげる桃香。

 

しかし公孫賛がなんでもない、と切り上げる。

 

「それはそれとして、そろそろ向かわないとな」

 

中天に至りつつある太陽の方を向きながら、そう公孫賛が零す。

 

「たしかにな」

 

「では参るかのう」

 

 


 

 

そうやって少し進むと、ライトブラウンのロングヘアーでポニーテールをしてる四人の娘の一団と眼鏡をかけた年上女性二人組、金髪ツインドリルの少々小柄な少女が率いる一団、すみれ色の髪をしたどこか儚い雰囲気をまとう少女とそれに従う一団に遭遇。

 

「……なにこれ、抗争でも始まるの?」

 

「抗争って……。リーファさん、そんな危ない人達の集まりみたいに言っちゃダメですよ」

 

彼女たちの視線が一斉にこちらを向く。

 

「あら、貴女袁術じゃない。……私が人づてに聞いてた限り、孫堅に兵を貸すだけで汝南にいるって話だったのだけど」

 

ツインドリルの少女がそう口を開くと、美羽が口を開く。

 

「叔母上がもどってきたからのう。安心して家を開けられるのじゃ。それにわらわの命の恩人たちがお主のような人材狂いに言いくるめられて雁字搦めにされては夢見が悪くなるのでな」

 

「お嬢様、2つ目の理由は言わないほうが丸く収まったんじゃ……」

 

「あ……」

 

七乃と美羽の漫才みたいなやり取りを聞いたあと、少女はオレたちや孫策たちに目線を向ける。

 

「そちらは孫文台が長女、孫伯符……二人の会話を聞いていた態度からして、袁術の命の恩人ではないわね」

 

「あら、そうかしら? デカイ貸しになるからやるかもしれないわよ?」

 

「そして貴女の後ろに従ってた3人も違う。――周家の当主と孫堅の宿将二人が袁術の命助けてるなら、もっと孫策の反応が見て取れるから違うわ」

 

そのあと公孫賛たちの方を向く。

 

「そして幽州の公孫賛とその客将たち……彼女たちが袁術の命の恩人という線は薄いわ。彼女の発言から、彼女の恩云々が起きたのは汝南に彼女が居たころのことのはず。さて、残るは袁術のそばにいるそこの男女の組になるけど……どっちが袁術の恩人かしら?」

 

しれっとそれなりの情報網を持ってることをアピールしつつ、足りない部分を発言から要素を取り上げていく少女。

 

「……汝南で偶然立ち寄った店で助けただけだ」

 

「お兄さん!?」

 

「すっとぼけておけばいいのに余計なことを……」

 

オレに視線が集まり、ついでに桃香に驚かれ、シノンにディスられたがオレはへこたれない。

 

「へぇ……たしかに美形ではあるし、背にしてる『黒い二振りの剣』がこの大陸の造りではないけど業物に見える。常に私達全員の一挙一動を把握してるし、間違いなく在野にいる人物としては垂涎モノね」

 

「……」

 

オレは口を開きかけたがオレたちが向かおうとした天幕が開く。

 

「軍議開始の時間がまもなくというのに、誰も天幕に居ないとはどういうことだ!」

 

ガタイは良いが中身が伴ってなさそうな男がオレたちを見る。

 

「私が少し迷惑をかけてしまったの。……あと軍議は中天を超えたあとってしてたから、まだもう少し余裕があるわ」

 

紫縁の眼鏡をかけた赤褐色の女性がそう言うと、男は顔をしかめて、露骨に舌を打ってから天幕の中に戻っていった。

 

「ということで、交流や勧誘は軍議のあとで。軍議のために中に入ってくださいね」

 

その言葉でオレたちは天幕の中へと入ることにした。

 

 



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第14話 黒の剣士(偽)と英雄集結 後編

「では軍議を行う!」

 

天幕に集められた諸侯。

 

司会進行は蹇碩がやるようだ。

 

……傲慢、強欲、嫉妬の罪の化身みたいな奴らしいが、この軍議まともに進むのだろうか?

 

「先ずは各々の軍勢の長よ、連れてきた側近及び護衛を含めて紹介せよ。……そちらの席の者から順にな」

 

蹇碩の一声で示された側の、蹇碩に一番近いところにいた袁紹から、同行させた3人についての紹介が始まる。

 

袁紹、公孫賛の紹介が終わると、ライトブラウンのポニーテールをした4人の娘の、一番背丈が高い娘が口を開く。

 

「あたしは馬超。こっちが妹の馬休と馬鉄に従妹の馬岱だ」

 

慣れるまで服の色と顔つき、あと発育具合で判別になりそうだから、遠目で間違えて怒られそう()

 

次はすみれ色の髪の少女が、深緑の髪の娘、赤毛で日焼けした肌と刺青が特徴的な娘と若草色の髪の少女を順に示す。

 

「私は董卓と申します。こちらは臣下の賈駆、呂布、陳宮です」

 

3人は軽く会釈する。

 

「次は私ね。姓を曹、名を操。字を孟徳よ。そして部下の夏侯惇に夏侯淵、そして荀彧ね」

 

ツインドリルの彼女はどうやら曹操だったようだ。

 

その後、孫策、袁術と続き、禁軍の統括者とその軍監の紹介となる。

 

「私は蹇碩。こちらは車騎将軍の皇甫嵩殿と、前将軍の盧植殿だ」

 

どうやら赤みかかったブラウンの髪と紫縁メガネのどこかキャリアウーマン風の女性が皇甫嵩で、物腰柔らかなパールホワイトの髪の女性が盧植らしい。

 

「では、現在の状況を」

 

そういって蹇碩は傍にいた兵士たちに地図をもってこさせ、真ん中の机に広げる。

 

「周辺の地形は地図のとおり。そして賊は現在、ここより北東10里ほどの位置にいる。元々は廃棄された邑だったようだが、賊の癖に頭を使ったか増築と改修をしてそれなりの城壁を持つ中規模以上の都市の様相を呈している。……忌々しい」

 

ぽつぽつと零れる言葉に軽蔑と嫌悪感が滲んでいる。

 

が、必要事項はちゃんと提示しており、オレが裏で集めた情報と照らし合わせても『聞かれなかったから言わなかった』とか『その程度誤差』とか『騙して悪いが』の類いがないので、そこは評価に値するだろう。

 

蹇碩が皇甫嵩を見て、皇甫嵩が口を開く。

 

どうやらここから蹇碩は高みの見物のようだ。

 

「現在、こちらの総動員兵力は12万であり、敵の総兵力は30万といったところだ。さて、私たちが選べるのは『力攻めの攻城戦』か『釣りだして野戦に持ち込む』か『何らかの方法で内部に侵入して市街地戦にもちこむ』辺りになるだろう。……どれが良いか、またはより良い案があるか……意見あるものは居るか?」

 

皇甫嵩がオレたちに目を向ける。

 

すると公孫賛と馬超が申し訳なさそうに手を上げる。

 

「公孫賛、なにか意見か?」

 

「えっと、申し訳ないのですが、私の舞台は騎馬兵がほとんどのため、攻城戦、市街地戦となると十全な成果を発揮できません」

 

「こっちも主力が西涼騎馬隊で公孫賛と同じだ」

 

「それぞれ1万ほどだったな。これで野戦以外では実質兵力は10万しかないと考えねばならん」

 

失望の声色で蹇碩がわざとらしくため息をつく。

 

「……他に意見があるものは?」

 

蹇碩を横目にやや苦虫を噛み潰したような顔になりつつも、軍議を続ける皇甫嵩。

 

すると田豊が手を挙げる

 

「田豊だったな? 発言を許す」

 

「はっ。……案としては陽動部隊と遊撃部隊、潜伏部隊に分けてそれぞれに敵の誘引、誘引した的の強襲、撤退する敵兵に紛れて都市内部に潜入を担当してもらいます。具体的には陽動部隊に敵を誘引して貰い、野戦に入り、遊撃部隊が強襲し、撃退します。その敗走した敵に紛れ、都市に潜伏し、陽動部隊、遊撃部隊の攻城戦に合わせ、内部で撹乱をしてもらいます」

 

そういってから一同を見る田豊。

 

「潜伏部隊には、内部から門を開かせる、可能なら破壊して城壁の存在価値を破棄させるってことね?」

 

盧植が助け舟を出す。

 

「前将軍のおっしゃるとおりです。それと、可能であれば、都市の各地や食料庫に火を付けてさらなる混乱を誘発、首魁である張角らの討伐ができれば最上ですが、内部からの門を開くのが目的です。最悪どれか1箇所で構いません。兵が少ない門が空いた場合は騎馬隊に突入してもらい、市街地を縦横無尽に駆け巡ってもらい、その間に残りの門を制圧しますし、他の門ならそのまま陽動をしていた部隊に制圧してもらう方向で行けば良いかと」

 

すると蹇碩が口を開く。

 

「案としては悪くない……が、理想論だ。作戦を聞く限り、潜伏部隊は一騎当千の猛者を主軸にした少数精鋭。遊撃部隊は先の騎馬主体の軍団2つ、陽動部隊は残る軍となるだろう」

 

「そのつもりです」

 

「……その潜伏部隊、私には役目を果たせるとは到底思えん」

 

「え?」

 

蹇碩の言葉に田豊が動揺する。

 

「では逆に聞こう」

 

蹇碩は指を折り、数えながら問う。

 

「――1つ、生存率が圧倒的に低いところに、己の腹心を、自らの精鋭を送り込めるか? 一騎当千の猛者だろうと死ぬ時は死ぬし、作戦に失敗し、虜囚になった者の末路は悲惨だろう」

 

わざとらしく間を空ける蹇碩。

 

「……2つ、裏を返せば主に命じられ、送り込まれる者は『どんな状況下でも絶対に生きて帰る確証がある部下』か『死んでも構わぬ捨て駒』と主に見られてることになる。前者と自ら思い込めるほど頭が足りてぬなら、作戦を最後まで覚えていられるか危ういだろうし、後者と思われるなら悲嘆して特攻して散ることもあるだろう」

 

それを聞いて顔色悪くなる数名。

 

「3つ、選べぬなら、部下に、兵士に志願させるとしよう。……『他の方法なら必要ない犠牲者』として、自ら命を投げ捨てられる者がどれだけいるかね?2つ目にいささか被るが、余程の狂信者でなければ命を投げ出すのは出来ぬであろう」

 

人がよすぎる者が思い悩む表情を見せる。

 

「そして最後。敵はある程度減らした前提として……20万ほどか。防衛戦にそのうちの多くの目が向いたとしても、残る目を掻い潜り目的を達することができる数が集まるかね?」

 

「……ッ!」

 

歯噛みする田豊。

 

「……? キリトと言ったな。なにか言いたいことが有るのか?」

 

オレの挙手に気がつき、問いかける皇甫嵩。

 

彼女の言葉で、オレに一同の視線が集まる。

 

「潜伏部隊。誰もやらないなら、オレが引き受ける」

 

「!?」

 

「正気?」

 

動揺する一同。

 

「気でも狂ってるのか? 自殺志願は他所でやって貰いたいものだな」

 

蹇碩がそう吐き捨てる。

 

「そのつもりはなかったが……失礼した」

 

オレはそういって下がりながら、相互マーキングを使った飛雷神によるスイッチを行い、その場から離脱した。

 

 


 

 

――分身視点

 

オリジナルと入れ替わり、ダンスダンスする軍議を横目にボーッとしてると、いつの間にか桃香がオレの隣に来ていた。

 

「(お兄さん分身だよね?)」

 

小声で目線以外こちらを向かないようにしながら彼女が問いかけてきたので軽く頷く。

 

「(お兄さんは何処に行ったか分かる?)」

 

オリジナルがオレの目を通じて認識してるためか、即座に「伏せとけ」と通知される。

 

「(開示できない)」

 

「(うーん、単独行動しないでほしいんだけどなぁ……)」

 

本体の視界に広がる惨劇を見ながら、既に手遅れと言いたかったが、本体から再度釘を刺されたので沈黙する。

 

「……敵は斥候などを出していないことからしばらく猶予がある。明日改めて軍議を行うので、各自案を用意すること。解散!」

 

かなり時間浪費したのを空を見て確認した皇甫嵩が解散を宣言する。

 

するとそそくさと蹇碩は去っていき、皇甫嵩と盧植がオレたちのところにやってくる。

 

どうやら盧植が先に公孫賛にも何かの合図をしてたのか、それにつられたように公孫賛たちもこちらにやってきた。

 

「桃香ちゃん、白蓮ちゃん。お久しぶりね」

 

「先生、お久しぶりです」

 

「中央に仕官していたと聞きましたが、まさか前将軍になってるとは思いませんでした」

 

3人が会話し始めていたのを見てると、こほん、とそばで咳払いの声。

 

そちらを向くと皇甫嵩がオレを何か品定めするような目で見ていた。

 

「……皇甫車騎将軍、如何しました?」

 

今初めて気がついた風を装い、問いかける。

 

「少し話がしたいの。……私の天幕に来てくれるかしら?」

 

「「「!!!!」」」

公孫賛についてきてたリーファたちが目を見開く(なお、シノンはジト目)。

 

「……」

 

「あ、お兄さんを『共有』したい場合は他の人に相談が必要です。詳しくはお兄さんから聞いてくださいね」

 

オレのアイコンタクトに対してややズレた回答を繰り出す桃香。

 

「……どういう意味か半分以上わからないけど、とりあえず彼を借りていいってことは分かったわ」

 

皇甫嵩が困惑しながら、分かった部分をピックアップしてうなずく。

 

「それはそれとして、リーファさんたちは、アスナさんたちに会うよね? 私が袁術さんの客症になってて、お兄さんが私の家臣だから、袁術さんの天幕にいるんだけど」

 

「アスナさんたちとも話をしたかったので、ぜひとも」

 

なんか桃香がリーファたちに話し始めるので、皇甫嵩はオレについてくるよう合図してから天幕を後にする。

 

オレもそれに続き、去ろうとしたが、どこからか熱い視線が気になったので振り返る。

 

その視線のもとには曹操がおり、オレをじっと見ていた。

 

「……」

 

気に入った、と口元が動いた気がしたが、オレはそれを見なかったふりをして、皇甫嵩の後に続くこととした……。

 



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第14.5話 暗躍する者たち

注意
今回は第14話と第15話の繋ぎ兼舞台裏なので、読み飛ばしても大きな影響はないです。(影響ゼロとは言っていない)
それを踏まえた上で、どうぞ。


――分身視点

 

彼女の天幕にたどり着くが、そこで違和感を覚え、武器を構える。

 

「――悪いがこの眼はよく見えるからな。隠れてるつもりなら慢心したまま身体を分割するぞ?」

 

半分はったりだったが、そのカンは間違ってなかった。

 

なぜなら眼を切り替えると丸テーブルに備えられた3つある椅子の1つに座る、ゴシックな服に身を包んだ青い髪の少女がいたからだ。

 

「あら、ばれていたのね」

 

そう少女が言い、指を鳴らす。

 

すると皇甫嵩が糸が切れた操り人形のように体勢を崩したので慌てて支えた。

 

同時に少女の姿も『眼や仙人モードに頼ることなく』見えるようになる。

 

「心配しなくていいわ。少し眠ってるだけだから。それより、貴方と取引をしたいのよ」

 

「取引?」

 

皇甫嵩の安全の為に逃げるか、情報の為に残るかを天秤にかける。

 

第3の選択肢で『皇甫嵩にマーキングつけて逆口寄せできるようにしつつ、残る』があることを思い出したので少女に感知されないようにしつつ、マーキングを施す。

 

あと、逃げなかったのはオレが木分身でフリージアしても問題ないのもある。

 

情報を引き出し、本体と共有することを優先することにした。

 

「そう。『聖杯戦争から降りた貴方』と手を組みたいの。『サーヴァントの能力』を持ちながら、『聖杯を手に入れられず願いを叶えることができない』稀有な浮き駒となった貴方と」

 

オレは即座に皇甫嵩を美羽たちの天幕にいる分身に口寄せさせる。

 

それに眉を少し動かしたようだが、オレは無視して続ける。

 

「名前すら名乗らないやつに手を組めと言われてもなぁ……。相互利用を協力と言うが、最低限の自分から出せるメリットと、自分の立場を提示しないと取引相手は判断できなくて困るんだが」

 

オレがそういうと、彼女が幻術を使ってきたので、かかったふりしながらレジストする。

 

まあ、オレに幻術使っても、本体や他の分身がいる限り問題ないのだが……。

 

それに気がつかないのか、少女は独り言をこぼす。

 

「サーヴァントが2騎……片方が『サーヴァントとして参加してるプレイヤー』。……ラムダが余程のサーヴァントを出さなければ聖杯戦争で負ける可能性は潰せることになるわね」

 

その言葉と共に彼女の後ろに紫色の髪をしたメイドと、白銀の髪を後ろで2つに束ねた青年が現れる。

 

「何のようだ?」

 

青年が問いかけると少女が答える。

 

「今日から貴方のお仲間が増えたから、顔合わせしておこうと思ったのよ。ほら、挨拶しなさい?」

 

「? その人、契約も幻術も洗脳もないのに従うのですか?」

 

メイドがそうこぼしたのでオレは間髪いれずに少女に肉薄し、その首を掴む。

 

「!?」

 

「悪いが武器を捨てたらそのまま動かないでくれ。……魔女と言えど女に傷をつけたくはないからな」

 

オレがそういうと2人は顔を見合わせ、武器を地面に置き、こちらに蹴って寄越す。

 

「……私を、騙した……の……」

 

首を掴む手をほどこうと抵抗する少女。

 

しかしその力は見た目相応のものでしかない。

 

「先に幻術で精神を閉じ込めようとしたのはそっちだからな。……しゃべれないのはさすがに酷か」

 

オレは自分の腕を切り離し、そのまま切った腕を使って簡易的な見た目の牢を生成する。

 

「けほっ……なんのつもり?」

 

彼女の問いかけに、腕を再生させながら答える。

 

「自分がやられる側になったこと考えてなかったから、お灸を据えただけだ。ちゃんと『名前』と『オレに協力を提案した理由』と『そっちが提示できるメリット』を教えてくれたらとりあえず解放するつもりだ。ちなみにオレの名前は『キリト』で、オレが出せるメリットは『モノとカネをほぼ無制限に出せる』こと位だな」

 

すると少女は2人を一瞥したあと、しぶしぶと言った様子で語る。

 

「私は『奇跡の魔女、ベルンカステル』。協力を提案した理由は『もう1人のプレイヤーであるラムダデルタに対抗するための切り札にしたかった』ってところね。メリットとして『ラムダのことをよく知ってるから、適切な対抗策を講じることができる。聖杯戦争はともかく、この大陸の動乱の末が彼女の支援する陣営で塗りつぶされる未来を回避出来る』ってところかしらね」

 

嘘をいっていないので、とりあえず解放する。

 

「……随分と甘いのね?」

 

「オレにとってここは『もう1つの現実(ゲーム)』であって『リセットし放題な幻想(あそび)』じゃない。それと次やらかした時の安全は保証しない。快楽殺人(レッドプレイヤー)や、罪を重ねすぎた訳でもないようだからな。今は見逃す。それだけだ」

 

「そう」

 

ベルンカステルは短くこぼす。

 

それと、とオレは言葉を続ける。

 

「……今はまだ、聖杯戦争もサーヴァントが出揃ってないし、この時代の動乱も本格化してない。先手の優位性は否定しないが、吟味せずに食いつくのは愚かだろう?今回オレを駒にしようとしたことを水に流す代わりに貸し一にすればオレにもメリットはある」

 

「……いいわ。『魔女、ベルンカステルが宣言する。キリトへの非礼を対価に彼からの要望を1つ叶える。そして改めて共闘、またはそれに類することをどちらかが申し出て、それが締結されるか、所属する陣営同士が敵対するまで不干渉を維持する』。貴方は聖杯戦争から手を引いてるし、私が行く予定の陣営と手を組むことにもなりそうだから」

 

そういうと青年とメイドをベルンカステルは一瞥する。

 

すると2人はそのまま消えていく。

 

おそらく霊体化したのだろう。

 

「皇甫嵩には置き手紙をして置くわ。あとは……また会いましょう」

 

そういうと彼女も消え去る。

 

「……さて、皇甫嵩の件、どうにかしておかないとな」

 

オレは音を立てずにその場をあとにした……。

 

 

 


 

 

 

 

――本体視点

 

「どうなってる……?」

 

「張角様は何処に?」

 

「今の一瞬で何が起きたんだ……」

 

ざわめく会場。

 

中央にある舞台に今の今までいた人物がおらず、ついさっきまで共に熱狂を共有していた周囲の観客の過半が死んでいる。

 

訳の分からない状況に混乱を通り越して呆然とする生存者。

 

「あとは……」

 

直ぐそばにいる、手足を縛られ、猿轡された3人を見る。

 

「!」

 

3人が顔面蒼白にしているが殺すつもりはない。

 

「自分達の名前をうっかりしゃべれないようにしておかないとな」

 

仮面越しに3人へ『自らの名前と姉妹の名前を誤認する』よう幻術をかけ、3人を眠らせる。

 

「……さて、ここでの用事は済んだ。3人をつれていくとするか」

 

オレはそういって、その場をあとにした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

――???視点

 

「さて、どうしたものかしらね」

 

不機嫌そうな華琳が天幕にて私たちを見ながらそうこぼす。

 

「我々だけで敵を討ち取れば良いだけでは?」

 

春蘭が首をかしげながらそうこぼす。

 

「こっちは1万、向こうは30万。兵力の差が大きすぎるわ!」

 

桂花が春蘭の言葉に噛みつくが、春蘭は鼻で笑う。

 

「こちらが1万で敵が30万なら、1人30人倒せばいいだけだ。……計算あってるよな?秋蘭?」

 

妹に検算を頼む春蘭。

 

妹の秋蘭は笑顔で頷く。

 

「あってるぞ、姉者」

 

「――と言うことだ。それくらい簡単だろう?」

 

「兵士が全員アンタと同類と思うな猪武者!」

 

どや顔する春蘭に腹が立ったのか、桂花が机を叩きながら怒声をぶつける。

 

「……」

 

意見をまとめてるのか、沈黙を保つ他の面々。

 

「申し訳ありません、ご報告が」

 

見張りをしてる兵士の1人が入ってくる。

 

「? 何が起きたの?」

 

「賊の根城から逃げてきたという3人の娘を保護しました。如何いたしましょう」

 

「……連れてきなさい。話を聞くわ」

 

そういって華琳が立ち上がると、他の面々も作業を中断する。

 

「……スパイ……にしてはタイミングがおかしい。本当に逃げてきたのかしら……」

 

女言葉に変換されて出てきた自分の考えが正しいのか、判断がつかないので、その3人の様子を見ることで決めることにした……。

 



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第15話 黒の剣士(偽)と帰り道

あれから半月後。

 

オレたちは『何者か』によって半壊された街と賊を討伐し、『教祖の遺体を守る番人』を名乗る怪物を倒して張角、張宝、張梁の死体を回収。

 

それぞれ多少交流をして面識を得たりした後、不完全燃焼な状態で帰路についていた。

 

「で、本物の教祖たちは何処にいるのかしら?」

 

実は拡張可能だったりする荷台の中。

 

しれっと公孫賛のところからオレのところに戻ってきたシノンが問いかけてくる。

 

「みんなも見たあの死体だろ。『そうじゃないならオレはもう知らない』かな」

 

「……」

 

ジト目を向ける一同。

 

「また同じようなこと起こったらどうするの?」

 

一夏の問いかけにオレは肩をすくめる。

 

「原因はこれだからな。もしあの死体が偽物でも、これがないなら同じ規模の乱は起こせない。県1つの混乱を起こすのが精々になるだろうな」

 

そういいながら『大平道妖術の書』を取り出して見せる。

 

まあ封印の鎖で縛ってるから、見た目が禍々しい、ちょっと黒歴史感じる本にしか見えないが。

 

「……まあ、お兄ちゃんが勝手したお陰で、私たちも予定より早く合流できましたし、結果オーライってことで」

 

リーファが助け船を出してくれた。

 

そんな会話をしてると、分身から炎蓮が来たことを告げられ、まもなく入り口から彼女が入ってきた。

 

「やっと終わったぜ。疲れた」

 

どうやらあいさつ回りが面倒だから主要な家臣や縁のある豪族に当てた手紙を代わりとして書いていたらしい。

 

かなりの量だったようだが、彼女はこの短期間でやりきったようだ。

 

……強くない?

 

「お疲れ様、炎蓮」

 

「そう思うなら不満解消に付き合え。具体的にはヤらせろ」

 

「その流れはおかしくないか?」

 

オレの言葉に発情期の獣のような返事をする炎蓮。

 

そしてそれにドン引きするキズメル。

 

「これがオレなりのキリトへの愛情表現なんだよ」

 

「完全に獣の愛情表現ですよね……」

 

「なんかいったか?」

 

「何でもないです」

 

慌てて首をふるシリカ。

 

「……ん、どうやら上庸の太守に厳岳が推挙されてたが、その厳岳が桃香が戻り次第、太守の座を譲るって宣言したようだな」

 

オレは頭に入ってきた情報を確認しながらそうこぼす。

 

「上庸に戻ったら忙しくなるんだね……」

 

「これで我々も流浪の一団ではなく、根を張った一勢力の主と家臣団になるんですね」

 

「鈴々はお兄ちゃんが戦闘で頼ってくれるように鍛練するのだ」

 

「はわわ、内政の勉強が活かせる時が来たんですね」

 

「お兄さんのお仕事減らせるよう、頑張らないと」

 

桃香、愛紗、鈴々、朱里、雛里が想いをこぼす。

 

「オレは、政務処理の補佐しつつ、各組織の監査辺りか?」

 

オレがそういうと、炎蓮が続く。

 

「なら、オレは桃香がアホしないか見ながら、周辺の豪族とかとツテ作る方を担当するかねぇ。規模が変わらないなら最初さえなんとかすりゃあとは大手を振って暇作れそうだし」

 

「そうすると、平時は治安維持の部隊の管理で有事は武官として切り込み隊長かなぁ。ユイちゃんには、キリト君の監査方面の補佐してもらえばいいし」

 

「パパのお手伝いも、ママのお手伝いもがんばります!」

 

アスナはかつての経験から、治安維持組織の管理、ユイはオレの補佐を考えているようだ。

 

「アタシは……武器整備しながら、シリカやキズメル、鈴とインフラ整備の補佐で、有事は後方支援ってところかしら?」

 

「んー、私はリズさんが言ったことと内政のお手伝いって感じですかね」

 

「リズやシリカの補佐か。特に異存はない。それと余力があれば他のところを手伝うつもりだ」

 

リズ、シリカ、キズメルは地固めの方面を担ってくれるようだ。

 

「え、これ私もいわないとダメ?」

 

「単なる希望だから必須じゃないけど、どこら辺できるか考えておいた方が無難だとはおもう。鈴の適正的にアスナさんの補佐が丸いかな。……っと、私はリーファや姉さんと一緒に兵の調練や賊討伐、治安維持とかの仕事かなぁ」

 

「一夏。私に調練ができると……?……まあ、割り振られたなら、相応の仕事はするが」

 

鈴が目を丸くする隣で、一夏が宥め、千冬が微妙そうな顔を見せる。

 

「私は一夏さんと同じかなぁ。内政で頭使うより、身体動かしたいし……」

 

「私はリーファと逆で戦闘そこまで得意じゃないから内政の仕事かしらね」

 

「私とティアはどれもある程度できるとおもうので、固定の仕事よりは、キリトの補佐の立場が安定しそうですね」

 

「しれっと良いところに滑り混むわね……まあ私はプレミアの案が妥当だから同調するけど」

 

リーファ、シノン、プレミア、ティアも要望を出していく。

 

「つまり桃香を一番上として、内政希望が朱里、雛里、リズ、シリカにキズメル、シノン。豪族窓口に炎蓮。武官として愛紗、鈴々、一夏、千冬さん、リーファ。どちらも兼任って感じで他の面々ってところか」

 

「もうちっと外交とかオレのところに人割り当てた方が良い気がするが、それ以外は大方アリだとおもうぜ」

 

オレのまとめを聞いた炎蓮から、大方悪くないと評価された。

 

「豪族の窓口は炎蓮殿だけで足りるのでは?」

 

愛紗が首をかしげると、他の面々も頷く。

 

「太守の規模ならオレだけでしばらくは事足りるだろうが、桃香が州牧になったらオレが過労で死ぬ。部下増やせばある程度なんとかなるのは否定しねえが、限度有るからな」

 

「なるほど」

 

「外交の適任は?」

 

シノンが純粋な興味の色を瞳に宿して問いかける。

 

「喧嘩腰になるから場面を選ぶがオレ。経験積んで腹芸の1つや2つ軽く出来るようになるのを見越して朱里か雛里。ちと煽りのやり方が悪いと掛かりそうなところさえ目をつぶればアスナあたりか?あと中央の老獪とやりあえるキリトだな。キリトに仕事押し付けすぎになるから、基本最後の手にしたいところだが」

 

炎蓮の割りと説得力ある回答に納得するオレ。

 

「お兄ちゃん。万能素材感あるよね」

 

「素直に喜べないなぁ」

 

リーファの言葉に肩をすくめる。

 

「うーん……」

 

「どうしたの、桃香さん」

 

悩む素振りを見せた桃香に、アスナが問いかける。

 

「やっぱり、中央にお兄さんの分身がいた方が良いのかなぁって」

 

「あ」

 

「おい、 キリト。お前みんなに伝え忘れたのか?」

 

炎蓮がオレにあきれた顔をする。

 

「……ツテ作るため、炎蓮の紹介状持たせて、中央に分身派遣してました。伝え忘れててスミマセン」

 

「もう、報告、連絡、相談はちゃんとしてね」

 

「面目ない……」

 

子供を優しく窘めるように叱る桃香。

 

素直に謝ると「次から気をつけてね」とまとめて締めくくる。

 

「とりあえずはこんなところ? あ、あとはお兄さんの人探しかな」

 

「噂も入ってこないクラインさんやエギルさん、ユージオさんの行方も探さないとですしね」

 

桃香の言葉にシリカが捕捉をする。

 

「……自由人してそうなユウキや放って置くとなにするか不安なアリスにアンダーワールドの人もいるみたいだしね。整合騎士の多くはここの世界では役目に縛られてないし、キリトと切り合う方が楽しいとか言って敵対する可能性あるの厄介ね」

 

悩みの種多いわね……とリズがしかめっ面する。

 

「まあ、頼れるところはみんなに可能な限り頼らせてもらうよ。オレにも限度有るからな」

 

「よーし、みんなでがんばるぞー」

 

「「「「おおーっ!」」」」

 

 


 

 

 

――馬超視点

 

「しっかし、一晩で敵が半壊して、教祖とその兄弟が死ぬって一体何が起きたんだ……?」

 

なんか締まらない終わり方で解散し、帰路についてるアタシたち。

 

「……キリト」

 

「ん? どういうことだ、呂布」

 

近くで馬に揺られてた呂布が独り言のようにアタシの言葉に反応した。

 

「……キリトが、1人で、戦った」

 

「一晩で虐殺したっていうのか?」

 

「……ん」

 

頷く呂布。

 

「あの優しそうなお兄さんが? ……蒲公英にはちょっと信じられないなぁ……」

 

しれっと割り込んできた蒲公英にため息をはいてると、呂布がまたこぼす。

 

「2回目のキリト、血のにおいがした。優しいけど、必要なら戦うことは躊躇わない」

 

「恋殿、あんな黒ずくめの怪しいのなどさっさと忘れてしまった方が良いですぞ。ああいう、顔の良い男は乙女を誑かす下衆と相場が決まってるのです」

 

陳宮が呂布のそばに来て窘めるように告げると、呂布は困った顔をする。

 

「……キリト、下衆じゃない。たぶん、女難……?なだけ」

 

「尚悪いのです!」

 

「大変です!」

 

のんきに会話していたら、斥候が現れる。

 

「どうした?」

 

「それが――」

 

斥候の言葉にアタシとそばにいた面々は驚愕する。

 

「蒲公英。鶸と蒼呼んでこい」

 

「う、うん!」

 

「ねね」

 

「分かってるのです!」

 

アタシの言葉に蒲公英が、呂布の言葉に陳宮が反応して、慌てて去っていく。

 

「涼州でなにがおきてやがるんだ……?」

アタシの疑問に答えるヤツがいるわけでもなく、声は空に溶けていった。



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第16話 黒の剣士(偽)と上庸太守、そして……?

第一章はこれでとりあえず一区切り。
次から数話は第二章までのコミュ回です。



あれから半月。

 

寿春にて孫策たちと別れ、汝南で美羽たちと別れたオレたちは、美羽の軍勢からオレたちのところに来たいと希望したおよそ100の兵を伴い、上庸に帰還する。

 

「上庸の英雄の帰還だ!」

 

「キャーッ!こっち向いてー!」

 

噂は(オレも厳岳も言及してないのに)広がっていたらしく、黄色い悲鳴や歓声がオレたちを出迎えた。

 

(他の兵士と同じ格好になって、先頭にいてよかったかもしれない)

 

こうなる気がしてたので、事前に御者をアスナに代わってもらい、オレは他の兵士と同じ格好して、列の先頭でカリスマ系スキルをフル活用して兵士たちを統率。

 

一糸乱れぬ行軍を見見せながら街の大通りを進み、城へと入場する。

 

全員が入場すると、大手門が閉じられる。

 

それを見計らい、号令を下す。

 

「――全体、止まれ!」

 

規則正しくなっていた足音がきれいに止まる。

 

すると手をパチパチと叩く音が響く。

 

「素晴らしいですな」

 

厳岳がそう言いながらやってくる。

 

「まあ、本体が特殊な人心掌握したから出来た芸当だけどな」

 

ため息混じりに両手に花状態となってる分身が姿を見せて呟く。

 

「あ、箒に束さん」

 

一夏がその姿を認めると、2人も反応を見せる。

 

「一夏。元気そうだな」

 

「いっちゃんもちーちゃんも、あすちゃんも元気そうで良かった。まあ、このキリト君から話は聞いてたけど」

 

「アタシたちの名前を呼ばないあたり、まだ『比較的どうでも良いリスト』のままなのかしら……」

 

「単に全員の名前呼ぶの面倒だからあの人の中でトップ3の人呼んだだけな気がする……」

 

リズの言葉に鈴が冷静に答えを弾き出す。

 

「えっと……そちらの方は……」

 

愛紗の問いかけに、アスナが驚きの早さで反応をする。

 

「あのウサギの耳みたいなのつけてるのが束さんで、黒髪の人が箒ちゃんだよ」

 

「よろー」

 

「篠ノ之箒だ、真名はないが、下の名前……箒と呼んで欲しい」

 

炭酸の抜けきったようなへにゃ顔の束さんが緩い返事をする一方、しっかりと自己紹介する箒。

 

「あ、こっちも挨拶しないと」

 

そう言って桃香たちも挨拶していく。

 

真名も2人に預けるようだ。

 

……オレの竿姉妹(みうち)だからとのことだが、なにか突っ込まないといけないような……。

 

「分身殿、兵士の宿舎案内を。私は引き継ぎや城の案内をする」

 

「わかった。……オリジナル。カリスマ解除したら、爺さんに着いていってくれよな」

 

「おう」

 

厳岳の言葉に頷く分身。

 

そしてオレは分身の言葉に頷いて一瞬で服をいつものに戻し、桃香たちに着いていく。

 

 

 


 

 

「では、上庸の太守を劉玄徳に譲る。この地を豊かなものにして欲しい」

 

上庸太守の印が厳岳から桃香に渡され、参加者から拍手が送られる。

 

「では早速ですが……。私の仲間も手伝ってもらうので、人事について、変更があるけど、すぐには無理だから、公表は明後日、変更は10日後に行います。よろしくお願いします」

 

その言葉に対し、もとからいた文官でや武官特に異論はなく、確認する限り不満分子もいないようだ。

 

……ここの立地(大都市圏がないし、人が集まりにくい)や悪意に敏感な人が多い(その割に普段はのほほんとしてる人がほとんど)とかの理由からか、野心あるような人間は中央か別のところに行ってしまい、結果として平和な勢力的空白領域になってるらしい。

 

桃香による解散の宣言でオレたちと厳岳以外居なくなったあと、改めて口を開く。

 

「さて……今後はどうするつもりかの?」

 

厳岳が桃香に問いかける。

 

「基本的に内政重視かな。お兄さんが本気になれば戦争したりしても負ける可能性ないとおもうけど……お兄さんに頼りっぱなしは駄目だし、必要ないことはしない方向です」

 

「自領をキリトのインチキ能力で桁違いに富ませ、近隣から人が流れて来るように仕向ける。他所がそれに難癖つけて戦争仕掛けてきたら逆侵攻で併呑してくってことだな」

 

「その返しは想定してなかった」

 

炎蓮の言葉に困惑して口調まで崩れる桃香。

 

「とりあえず、今日はこれで政治の話は終わりにして……部屋割り決めたり荷解きしたりしない?」

 

「「「賛成」」」

 

アスナの言葉に一同が賛成する。

 

 

 


 

 

 

あのあと、部屋割りで(オレの部屋をどこにするかで)揉めたり、夜の順番で女性陣が喧嘩したりしたが、割愛(前者は飛雷神使えるから距離は誤差だし、後者は触らぬ神になんとやらである)。

 

そしてオレは今――

 

「――で、キリト。どっちに付くか決めた?」

 

「安心しなさい。ソイツの行動パターンは手に取るように分かるから。それに此方に付けばソイツに首輪つけられるプレイは回避できるわよ?」

 

「物量とパワーが物を言うゲームでこの私を倒せると思う? 悪いことは言わないから私のところに来なさいよ。ベルンみたいな悪趣味な赤ちゃんプレイとかしないから」

 

――気がついたら魔女2人にドナドナされていた。

 

「……判断材料ない時点で完全に好みの問題なんだがそのあたり自覚ある?」

 

「あら、私たちの能力とか、サーヴァントを把握してると思ったけど?」

 

「その魔眼を使い、いろいろな生き物から情報を集めてるようだけど?」

 

妙に連携した2人の口撃にオレは

 

「残念だが『畜生道の口寄せや穢土転生を使った口寄せはしてない』し、『こき使ってる分身は隠れたり変身してない』からな。そもそも『2人が普段どこにいるかも、どの陣営かも把握してない』ぞ」

 

赤き真実を突きつける。

 

「……良いわよ。教えてあげる」

ラムダデルタがそう告げたあと、手を付き出して命令をする。

 

「来なさい、ランサー」

 

その言葉に反応して現れたのは、青い髪をポニーテールにした、コートがなければ露出が凄いと言われそうな美少女。

 

「……? (記憶にない前世から色々引き継いだりしてるオレが言えた義理ないけど)純粋な英霊には見えないな。……彼女以外の、2人ほどの誰かの力を持ってるように見えるな」

 

「あら、正解よ。この娘、片方のお陰で『魂喰いの効果が大幅に補正掛かる』だけじゃなくて、『能力上昇』もあるわ。あと、もう片方の恩恵で『継続系のダメージで死なない』し、『白銀の機械仕掛けの人形兵器』を宝具として持っててそれに乗れるのよ」

 

「……魂喰いはあまりしたくないが……救いようのない悪人だけに留めている」

 

ランサーが眼を閉じて、自分に言い聞かせるようにそう溢す。

 

「とか言ってるけど、たぶん喰った数100越えてるけどね」

 

ベルンがしれっと溢す。

 

「願いを叶えるための努力の一環よ。逆にこれやれば持ってる要素あわせて誰にも負けなくなるんだから文句言わないで欲しいわね……っと、まだアピールタイムは終わってないわ」

 

「脱線したのはアンタでしょ」

 

「はい、ベルンは自分の番まで黙ってる! ……さて、どこまで話したっけ? ……ああ、サーヴァントについては説明したから次はどこの陣営に身を置いてるかよね」

 

するとオレの前に移動してから手のひらの上にミニチュアサイズの旗を出して告げる。

 

「――私と相性抜群!努力する天才、曹孟徳の陣営よ! 彼女には黙ってるけど私の祝福を与えてるの。だから、諦めず諦めず努力するかぎり、彼女の願いは叶うのよ」

 

そう言い終えると旗を消してから告げた。

 

「貴方も知ってるでしょ?この世界が元となった世界の歴史。『天運を持つ英傑が努力できて、おまけにそれを確実な強さにする魔女がいる』時点で結果は分かるでしょ?」

 

「……そうかもしれないな」

 

そうオレがいうと、ラムダデルタは満足そうに頷く。

 

「そういうこと。ま、ベルンにもアピールさせなきゃかわいそうだし、ベルン、お次どうぞ」

 

そういうと、ラムダデルタはオレのとなりに戻り、代わりにオレの前にベルンカステルが出てきた。

 

「私のサーヴァントは知ってるわよね? アヴェンジャーとそいつにくっついてきたオマケ。 ……まあ、復讐者を名乗る割には、穏やかな顔をしてるのがクラス間違ってるきがしてならないけどそれは割愛ね」

 

一区切りつけてから、ベルンカステルはラムダデルタと同じように、ミニチュアの旗を手のひらの中に出して見せる。

 

「私の所属してる陣営は孫家よ。もっとも、私は外史だからできるifを堪能するつもり。……もっとも、孫家三代の初代を貴方に寝取られたけど」

 

「人聞きの悪いことを……」

 

「まあ、いいわ。……私は苦難に直面しようとも細い勝ち筋を見いだし、勝利を手繰り寄せ続け、三國のうち最後まで存在した国を建てた一族……彼女たちを助けるわ。ラムダの手はこのゲームが優位と言ってるけど、ラムダの手を読める私が一枚上手よ? ……あと、母娘で血なまぐさい殺しあいさせるつもりがないなら、普通私のほうに味方するわよね?」

 

そう言い終わると、ベルンカステルも元の位置に戻る。

 

「それで、」

 

「あなたは」

 

「「どっちを選ぶのかしら?」」

 

両サイドからそう問いかけられる。

 

オレの答えは……。



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第1章 閑話
閑話 1-1


活動報告で閑話のリクエスト募集してたりします。

まあ、気が向いたら程度の感じで置いてあるだけなので、リクエストが来なくても驚きませんが()

それはさておき、オチのない閑話をどうぞ。


あれから一月。

 

人事異動について、前相談した人事案では仕事量と裁量の縮小から、給金減額になるだろうし、そうしたら不満が出そうだと、人の良い文官が伝えてくれたため、組織編制を考え直した。

 

結果、文官組は桃香直下の決裁担当として、下から上がってきた内容の決裁や各部署の監査を担当となった。

 

武官組は前任者は悉く老人だったので、交代というかたちで引き継ぎとなった。

 

この時に合わせて4000弱が兵士、警備隊、防衛部隊になっていることが分かった。

 

ただ、平和ボケ地域なのを差し引いても色々ガバガバだったので、慌てて対応に追われ、調練に警備体制の見直しに、募兵にてんてこ舞い。

 

で、予算や支給についての見直しについて、多忙状態の武官組が対応出来る訳もなく、文官組が対応することに。

 

ちなみにオレ、ユイ、ティア、プレミアは文官兼武官してる上に、桃香の補助など手を回してるので、多忙極まりなかったりする。

 

特にオレは分身なかったら絶対過労でぶっ倒れてるからな……。

 

ちなみに厳岳の爺さんは目安箱の管理や街の顔役との顔繋ぎ、炎蓮と豪族の折衝役、空いてるときに桃香の手伝いをすることになり、結構多忙だったりする。

 

あと益州牧の劉璋が贅沢と圧政とはいわないが他より重い税などを課してることが判明したりして、足場が固まり次第、劉璋と敵対することがオレたちの共通認識になったりした。

 

それはさておき。

 

「……よし。不備なし! 今日はこれでおしまい! お疲れ様!」

 

武官組の書類回りと、文官本来の仕事をやり終えて死屍累々となってる文官組の書類に眼を通し、オーケーを宣言する。

 

すると弱々しい声で勝鬨のような声がそれぞれから出る。

 

「や、やりましたぁ……」

 

「字が判読できないから、確認するために書いたやつ探してあちこち回るのは想定外だったわ……」

 

「はわわ……でもこれで暫くは武官さんたちの書類仕事しないでいいから安心かな……?」

 

「朱里ちゃん、まだ他の県の確認できてないからあしたはそっちもだよぉ」

 

「……目が…疲れた……」

 

「崩し文字の禁止を出したほうが良い気がするわ」

 

シリカ、リズ、朱里、雛里、キズメル、鈴は何らかのダメージを受けている。

 

もっとも、キズメルについては、目の酷使以外は割りと余裕あるようだか……。

 

「……この調子では皆さんが倒れてしまいますし、明日は休みにしたほうが良い気がします。……幸い、私やプレミアさんやティアさんはまだ余力ありそうですから、私たちとパパでこなせば大丈夫だと思います」

 

対称的にピンピンしてるのはユイ、プレミア、ティア(とオレ)。

 

まあ、3人には本人了承の下、特別な施術してるのもあるのだが……。

 

それはさておき。

 

「とりあえず、皆さんが本当に動けないのであれば、私やティアが運びますね。……あ、キリトに部屋までお持ち帰りされて、お世話され、おいしくいただかれるつもりで疲れたフリなさってるのですね。頭の回る方々です」

 

「「「「違うから!」」」」

 

プレミアの言葉に全力で反応する文官組。

 

「まあ、うん。とりあえず明日文官組は休みにして、桃香にも伝えとくから。ゆっくり休んでくれ」

 

オレは告げ、念のため分身をそれぞれに付けてから、部屋を後にする。

 

目的地は言うまでもなく、桃香のいる執務室。

 

桃香に付けた分身が一応伝えてるが、念のため……な。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「私も、休みたい!」

 

オレが来た瞬間にそう叫ぶ桃香。

 

オレの分身もいきなりのことで面食らっている。

 

「……オレ以外の他メンツと違って、桃香は一月ほとんど休みなしだったもんな……うん」

 

前世で労基に伝えたら労働基準法で逮捕待ったなしである。

 

それを差し引いても、この時代の太守としては多忙だし、夜遅くとか、朝早くとか、徹夜こそないものの、丸一日休みがないのは異常事態である。

 

……オレがそのあたり感覚バグっているせいなので、何か言える権利はない。

 

「なので私もおやすみします! 分身じゃないお兄さんと1日遊んだりしたいです!」

 

「視察と称してあちこち言ってはそこで子供とふれあったり、ご飯食べたり、割りとエンジョイしてる気が……」

 

分身から零れた言葉に、桃香が涙目になっていく。

 

「お兄さん……」

 

オレは分身にハリセンで突っ込みいれてから桃香の傍に行き、抱き締めて頭を撫でる。

 

「分かった。分身の判断で決裁はだいたいなんとかしておくから、明日は2人で何処かに出掛けようか」

 

「……えへへ。うん!」

 

今泣いたカラスがもう笑うように、彼女の空模様は通り雨から快晴へと変化する。

 

「それじゃ、何処にいくかね。行きたいところなければこっちで決めるけど」

 

オレがそういうと、思い付いたように手をたたく桃香。

 

「なら私のお家がいいかな」

 

「その心は?」

 

オレが問いかけるとてれてれしながら彼女は答える。

 

「アスナさんがたまに話してた2人っきりの新婚生活……って言うの、私も体験したいかなーって。……だめ?」

 

「まあ、(家事とかはオレがやればいいから)いいけど……」

 

そうオレがゴーサインだすと、桃香はふんすふんすしながら告げる。

 

「私もお兄さんに手料理食べさせるからね!……あ、一応しってると思うけど、私は愛紗ちゃんみたいなこと*1にはならないから、安心してね?」

 

「桃園の誓いした義理の妹に対して容赦ない発言だな……」

 

「愛紗ちゃんに負けない数少ないところだし……」

 

「まあ、うん。要望は理解した。……折角だから今夜から家に行くか?」

 

「! うん!」

 

政務も終えてること、緊急が来たら分身が対応できることを確認し、オレは桃香を伴い、執務室を後にした。

 

 

 


 

 

 

「……ん」

 

体内時計で5時(大陸基準)になり、目が覚める。

 

となりには一糸纏わず幸せそうに眠る桃香の寝顔。

 

昨日は桃香の家にいき、部屋を軽く掃除して、床につき、少々長い夜を過ごした。

 

それはさておき。

 

「……どうするかな」

 

オレの腕枕で幸せそうに寝てる彼女を動いて起こすこともできないことを自覚したオレは、独り言くらいしかできないことを自覚するためにそうこぼす。

 

「……ん……? もう、朝?」

 

オレの声で起きてしまったのか、寝ぼけまなこでオレを見る桃香。

 

「ちょっと早いから、もう少し寝ると良い。ご飯オレが適当に作って――」

 

「私が作るから!」

 

飛び起きて寝台からその勢いで降りようとし、着地に失敗する桃香。

 

身体をぶつける前にクッションを出してカバー。

 

なんとか怪我せずにすんだ。

 

「……怪我はないな?」

 

「うん……ごめんね?」

 

しょんぼりする桃香の頭を撫でる。

 

「無事なら良い。……あとできれば謝るよりは、御礼のほうが嬉しいかな」

 

そうオレがいうと、笑顔を見せる桃香。

 

「うん、お兄さんありがとね」

 

そのままキスしてきた。

 

「……悪い桃香。ムラッときた」

 

「お兄さんのえっち」

 

そういいながらも満更ではない顔をしながら、またベッドに戻る桃香。

 

まだオレたちの朝は遠いようだ……。

 

 

 


 

 

あれから数時間後。

 

「♪~」

 

厨房にて、桃香が鼻歌交じりに中華鍋で炒飯を作る傍ら、オレは(あつもの)*2と焼売を作っていた。

 

「こっちはもうできるけど、そっちはどう?」

 

「大体できた。あとは羹の味の最終調整ってところかな。……桃香的にどうだ?」

 

味見用の浅い小皿に少し羹をのせて渡す。

 

「んっ……んー。もう少し塩多め……かな」

 

一舐めした桃香の答えを聞いて、味を調整。

 

「炒飯できたよっと」

 

わりと慣れた手付きで2人分を皿に盛り付けていく桃香。

 

オレも焼売と羹をよそい、食器と合わせて配膳する。

 

「うん、良い感じにできたね」

 

ニコニコとする桃香。

 

そして対面の席に座るオレたち。

 

「それじゃ……いただきます」

 

「いただきます!」

 

桃香がオレの言葉に続けて挨拶し、食べ始める。

 

「うん、うまい。炒飯は米がパラパラとなってるし、卵も良い塩梅だ」

 

オレがうんうん頷くと桃香もほっとした顔をする。

 

「お兄さんに美味しいって言ってもらえて良かった。お兄さんの作った羹も焼売も美味しいよ♪」

 

そう何個も焼売をテンポ良く食べるが、早食いじゃあるまいし、慣れてる訳もなく、順当に喉を詰まらせる桃香。

 

「誰も盗りはしないって。ほら、水」

 

すかさず渡した水を一気に飲んでから、大きく一息する桃香。

 

「……お兄さんの焼売美味しかったからつい……」

 

「なら、オレが少しずつ食べさせるなら一気食いしないし大丈夫か」

 

オレはそう結論だしてから、桃香の席に移動し、桃香を膝に乗せる。

 

「え、お兄さん?」

 

「ほら、あーん」

 

炒飯を蓮華で掬い、差し出す。

 

「あ、あーん……」

 

勢いに負けて食べる桃香。

 

「自分で作った炒飯の感想は?」

 

「……胸がいっぱいで分からないよ」

 

顔真っ赤で顔を背ける桃香。

 

「かわいいなぁ」

 

「お、女の子の恥じらう顔見てかわいいって……趣味悪いよ……」

 

「事後に意味もなく腹筋触ってうっとりしてる桃香も人のこと言えないと思うぞ」

 

「そ、それは……」

 

オレのクリティカルヒットに困惑する彼女。

 

そんな彼女の前に焼売を出すと、反射的に彼女は頬張る。

 

……雛の餌付けに見えるなぁ。

 

などと思いながら、朝食の時間を満喫するのであった。

 

 

 


 

 

 

朝食が終わり特にすることなかったので、庭の手入れをすることに。

 

いや、2人で遊びにいけとか言われそうではあるが、視察のついでに行った先で買い物したりしてるし、チェスや将棋、囲碁は桃香的に微妙というのもあったのだ。

 

それならいっそ、普段やらないことを2人でやって、夫婦の共同作業みたいなことしたい、と桃香が切り出したのである。

 

そして家のなかは厳岳の使用人の手入れがされてるので、あまり手をつけられてない庭の手入れが選ばれたのであった。

 

「こんなもんかな?」

 

「こっちも大体終わったよ」

 

傍にいた桃香が笑顔でそう告げる。

 

なお、いつもの服では破れたり絡まって解れてしまうかもしれないので、作業用の服(赤の長袖にツナギ……あれ? どっかの配管工?)に着替えてもらっている。

 

まあ、モデルが着れば大体の服が絵になるように、桃香が着てるからか特に違和感はない。

 

「? どうかしたの?」

 

「いや、何でもない」

 

思考を切り上げ、頭を振る。

 

「それより、花壇になにか植える余地できたけど、何を植えようか」

 

「うーん……桃の木植えたいけど広さ足りないし……」

 

「なら、オレが選んでも?」

 

悩む桃香に問いかけると、彼女は頷く。

 

かくいうオレもかなり悩みつつ、ラベンダーをチョイス。

 

「不思議な匂い……。初めての匂いだけど、私はこの匂い好きだよ」

 

「ならこれを植えようか。……ある程度量ためられたら香水とかにもできるけど……」

 

「やるやる!」

 

「それじゃ、小まめに手入れしたりしないとな」

 

その後も、山も谷もオチもない2人での時間が続く。

 

長閑で、平和なひととき。

 

こんな穏やかな時間を、大切にしていきたい。

 

そう改めてオレは自分の想いを自覚したのであった……。

 

 

*1
暗黒物質を生成したり、愛紗以外が吸ったら暫く行動不能になる黒煙を発生させたり、食べた相手に悪夢を見せるヤバい代物を錬成したりする。そのため愛紗はアスナやオレの付き添い無しでは厨房出禁になっている。

*2
いわゆるスープ



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閑話 1-2 たまには戦闘でも

今日も短め。

ネタが……思い付かねぇ。

あとSAO組とIS組の設定集を同時刻投稿します。

未登場メンツは追々追加してきます。

それでは、どうぞ。


ある日のこと。

 

オレは練兵場にて、愛紗、鈴々、アスナ、リーファ、キズメル、一夏、千冬さん、箒に対して鞘付きで武器を構えていた。

 

兵士たちがオレの実力に疑問を抱いていたりするから、実演して黙らせたい。

 

という武官組のオーダーを受けたので、彼女たちを相手に戦闘することに。

 

「流石に数の暴力で勝てないのでは?」

 

遠巻きに見守る兵士たちの1人がそうこぼす。

 

「普段のキリト君ならそうなんだけど、本気なら私たちが殺しにかかっても勝てないかなぁ」

 

アスナがそうこぼしたあと、審判役の束さんが気だるそうに告げる。

 

「それじゃ、キリト君撃破演習。戦闘開始」

 

言い終わる前に千冬さんがオレに肉薄し、得物の太刀を一閃する。

 

「いきなりだなっ!?」

 

屈んで足払いするも跳躍してオレの後ろへ回避し、後続にバトンタッチする千冬さん。

 

それに続くように、鈴々、愛紗が連携する。

 

「いくのだ!にゃにゃにゃにゃにゃー!」

 

小柄なのに8尺の蛇矛で連撃を繰り出す鈴々を双剣のでいなすと、死角から袈裟斬りで愛紗の一撃。

 

「――」

 

オレは回避して背後から迫っていた千冬さんと鈴々が衝突するように仕向ける。

 

「にゃ!?」

 

「なっ!?」

 

「しまっ」

 

「まずは1人」

 

鈴々を鞘付きの剣で袈裟斬りして場外へ蹴り飛ばす。

 

スタンバイしてたシリカ、ティアが鈴々をキャッチして、怪我のチェックをし始めるのを確認しながらオレは戦闘に意識を戻す。

 

「ならこれはどうだ!」

 

声で千冬さんがオレの注意をそらしながら、太刀を投擲する。

 

そして避けられる候補にはアスナ、一夏、愛紗の攻撃が置かれている。

 

「こうするしかないよなぁ!?」

 

その太刀をアスナへ向かうようにそらす。

 

「一対多でも相変わらず強いね!」

 

アスナが飛んできた武器を回避することでできた空間を利用し、手ぶらの千冬さんへそのまま突撃する。

 

「キリトならそうすると思っていた!」

 

曲刀とラウンドシールドを構えたキズメルが現れ、千冬さんの前に構えており、オレの袈裟斬り、横一閃、ブラフからの突きをギリギリながらいなしてみせた。

 

「私たちも」

 

「忘れてもらったらこまる!」

 

左右からリーファ、箒がそれぞれ下段と上段狙いで得物を振りかぶる。

 

目の前にはキズメル。

 

後ろには肉薄してくるアスナたち。

 

斜め前に逃げれば千冬さんの攻撃がくるから――

 

上しかないのである。

 

上に跳躍して、月歩で間合いを取ってから仕切り直す。

 

「張飛様を倒した上、あの人数相手に余裕を見せてる……!?」

 

ざわざわと外野がうるさいのでそちらからの声を意識からシャットアウトする。

 

「やっぱり今のキリト君強いよね」

 

「剣士として本気でお兄ちゃんとしてはまだ本気出してないんだから規格外もいいところだよね」

 

「そっちからこないなら、こっちからいくぞ?」

 

そういってまずは指揮官ができるアスナを狙う――ふりをして、彼女たちの注意を引き、一団のサイドへと勢いそのままで、さながらドリフトしながら回り込む。

 

「これで3人」

 

横薙ぎでサイドにいた一夏、千冬さんの背を一撃。

 

鞘がなければ上半身と下半身が分離していただろうなぁ。

 

そう思いつつ、2人を場外へ弾き飛ばし、間合いを取る。

 

残るは愛紗、アスナ、リーファ、箒、キズメルの5人。

 

「……束さん」

 

「なに?アスちゃん」

 

「降参はアリでしたっけ?」

 

「決めてないけど、アリじゃない?」

 

束の言葉にアスナは少し考える素振り見せてから告げる。

 

「今回の演習、私たちの負け。降参でいいかしら?」

 

「キリト君、どうする?」

 

審判役だが、ルールが決まってない部分はちゃんと把握して、こちらに確認取る束さんベネ。

 

「……アリじゃない? 奇襲仕掛けて来なければっ!」

 

肉薄して愛紗と箒が上段と中段を横一閃してきたので、屈んで回避し、足払いする。

「これで5人!」

 

体勢を崩した2人の肩に一撃与え、場外へ足を掴んで放り出す。

 

「アスナ……誉れは浜に捨てましたとか言うなよ?」

 

「私鎌倉武士じゃないからね??」

 

残るはアスナ、リーファ、キズメル。

 

「……ちなみに今降参したら、許してくれる?」

 

「既に騙し討ちで怒り心頭だから、当番表はこっちの強権で書き換えとく。しばらくオレはいかないからな」

 

「……私は降参。これ以上怒らせても良いことないし」

 

「アスナさんが降りるなら私も。キズメルさんいても流石に無理」

 

「……だめだな、勝てる方法がない。隙が無さすぎる。降参だ」

 

3人の宣言を確認する束さん。

 

「ならこれにて演習はキリト君の勝ちで終了!」

 

 

 


 

 

あのあと、兵士たちの希望で鍛練を行い、全員ボコボコにしたり、新設した医療班に怪我の手当て方法の指導をしたりして気がついたら夜に。

 

「あのー、なんで私縛られてるのかなぁ?」

 

下着姿で亀甲縛りされ、椅子に縛り付けられてるアスナ。

 

「キリト君からの罰として、何が良いか聞かれたからー、『見せつけて上げるのが一番の罰になるんじゃない?』って私が答えたかなー」

 

隣には今日の順番の束さん。

 

「……! キリト君、冗談だよね?」

 

「アスナ……撃って良いのは撃たれる覚悟あるやつだけなんだ」

 

「そんなぁぁぁぁ!!」

 

彼女の悲鳴が虚しく夜の屋敷に響くのだった……。



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閑話 1-3 たまには家族の話を

そのうちオリジナル勢の設定集が追加されるかも。

とりあえず孫家のオリキャラについてちょっとだけ触れてます。

それではどうぞ。


ここ数日雨がふり続いている。

 

まあ、土砂降りではなく、小雨なので洪水などの心配はないのだが……。

 

「やっぱり気が滅入るわね……」

 

「雨は楽しいし、泥まみれは嫌いじゃないけど、お兄ちゃんに抱きつけないのは困るのだ……」

 

屋敷の共有スペース(リビング兼ダイニングみたいな感じ)にて暇をもて余してるのはリズと鈴々という、赤寄りの髪のコンビ(当然非番)だ。

 

これでたぶんまだ寝てる桃香や手料理振る舞ってやると息巻いてた炎蓮が来ればカルテットになるんだが……。

 

「おはよー……」

 

噂をすれば影とは言ったもので、寝ぼけ眼の桃香がやってきた。

 

「あれ? 今日は休み?」

 

「そうだよー。急ぎかそれに類することならお兄さんの分身がなんとかするし、違うなら明日に対応するから、少し長めに寝れたんだー」

 

「キリトー、オレが丹精込めた料理できたぞ」

 

桃香から少し遅れ、炎蓮がカートにいくつもの料理をのせてやってきた。

 

「時間かかってたから予想してたとはいえ……多くない?」

 

「キリトなら食えるだろ。……半分本音だが、たぶん桃香とか鈴々も食うと思って多めに作ったんだよ」

 

「アタシは食べると思わなかったんですかー?」

 

リズがふてくされぎみに問いかけると、思い出す仕草しながら炎蓮が告げる。

 

「最近食いすぎて太ったから食事制限して痩せないととかいってなかったか? 別に食うのは構わねえけど……」

 

「ぐぬぬ」

 

「わたしこの炒飯と干焼蝦仁(エビチリ)もらおうかなー」

 

「鈴々はこの丼と叉焼と羹貰うのだ」

 

桃香と鈴々は2人のやりとりを横目に欲しいのをチョイスして、自分のところに取り寄せた。

 

「桃香も体重とか気にしてたし、1人より2人のほうがいいと思うぜ? あと真面目にメシは食っとけ。食べねえと落ちねえ身体になるわ、そういう生活に合わねえ体質なら遠くねえうちに破綻するからな」

 

「……! 分かったわよ! この天津飯貰うから!」

 

そういいながらカートから天津飯略奪していくリズ。

 

それをからからと笑いながら見守る炎蓮。

 

「若いやつはたくさん食って、たくさん動きゃ大体どうにかなるもんだ。食事制限するよりはよっぽど健康に良いしな」

 

「……さすが3児の母と言うべきか?」

 

「褒めてるつもりか? ほら、お前もさっさと食えよ」

 

そう言いながら料理を押し付けてくる炎蓮。

 

「炎蓮も食べようぜ」

 

「オレは味見で散々摘んだからぶっちゃけいらな」

 

言い終わる前になる腹の音。

 

「あらー、炎蓮さんー? 江東の虎と呼ばれた貴女が食事制限ですかー?」

 

ニヤニヤしながらリズが炎蓮を煽っている。

 

「ぶっころ」

 

「はいはい、どうどう」

 

暴走するまえに炎蓮を取り押さえる。

 

「炎蓮は気にし過ぎなのだ。たくさん食べてしっかり動けば、太ったりしないのだ」

 

「ぐはっ」

 

鈴々の言葉にリズ、桃香がダメージを受ける。

 

「なんだこの地獄絵図……」

 

「……まあいいや。キリトの奥の手を使えばそのへんどうにでもなるみたいだし」

 

なんか吹っ切れたのか、適当な料理を食べ始める炎蓮。

 

「しっかし、雨かぁ……」

 

しかし炎蓮の手はすぐに止まり、何処か遠いところを見てるような目になる。

 

「なんか思い出でもあるんですか?」

 

いつの間にかリカバリーしてご飯を再び始めていた桃香が問いかける。

 

「妹と仲違いして、夕方になっても帰ってこないもんだから、暗くなるってのに雨の中探し回ったのを思い出しただけだ」

 

「炎蓮の妹……全然想像できないのだ」

 

食べ終えて皿の上に蓮華を置きながら告げる鈴々。

 

「確かに……姉と同じで血気盛んだったり?」

 

リズがちょっと意地の悪そうな顔で問いかけると、炎蓮は首を横に振る。

 

「オレの妹か怪しいくらい、普段はおとなしいやつでなぁ。戦はからっきしだが、礼儀作法から、どっから拾ってきたのかわからんが、地味に役に立つ知識まで、幅広くいろんな分野の知識に精通してるんだ。雷火たち……ウチの文官の張昭と張紘が来るまでは、オレの代わりに外交や内政をしてくれてたし、雪蓮がトチ狂ってなけりゃ今でも文官たちの取りまとめをしてるはずだ」

 

「姉妹って大体似るって聞いてますが……そうでもないんですね」

 

ほえーと驚く桃香。

 

「いや、束と箒、千冬と一夏、プレミアとティアとか見てみろよ。性格、趣味嗜好に得意分野とか全然違うだろ?キリト好きなのは共通してるけど」

 

「「「たしかに」」」

 

炎蓮の言葉に桃香、リズ、鈴々がうなずく。

 

「……あ、ちなみにオレとあいつ……妹の共通点あるな。――どっちも旦那に先立たれて未亡人だし、どっちも子持ちってところ。あっちは2人で、こっちは3人ってのと、オレは今、実質旦那がいるから元未亡人ってのが正しいか。……キリト、未亡人とか好きそうだからなぁ。アイツに会ったら手篭めにしそう」

 

「いきなり横っ面ぶん殴るような風評被害と提案止めてくれない??」

 

困惑しながら突っ込むが

 

「お兄ちゃんならありえるのだ」

 

「こればっかりは」

 

「炎蓮さんのほうが正しいかも……」

 

女性3名からも攻撃が飛んできた。

 

ワケガワカラナイヨ。

 

「……って、それはそれとして。妹さんって話聞いてる限りじゃ、夕方になっても帰ってこないような人に聞こえないんだけど」

 

「………………くだらねえ理由だから言わねぇ」

 

「あ、コレ絶対、炎蓮側がアホみたいなことして、更にしらばっくれたから話がこじれて、妹さん爆発したんじゃな」

 

「リズ、最後の言葉はそれでいいか?」

 

立ち上がって鬼のような形相をしていた炎蓮を捕まえて座らせ、膝枕する。

 

「キリトォ……オレがこんなことでオレを辱めたリズを許すと」

 

「今夜にそういう時間用意するから、追いかけっこは禁止です」

 

オレがそう言いながら頭をなでていると、割とスグにおとなしくなる。

 

「炎蓮だけずるいのだ!」

 

「私達も対応してほしいな―」

 

「あ、アタシも……」

 

「3人共別にいいけど……」

 

食べ終わった3人にも順番で対応する。

 

「――そういえば炎蓮さんの妹さんって子供いるんだよね? どんな人?」

 

桃香が膝枕堪能してから思い出すように問いかける。

 

「あん? 姉のほうは五斗米道だったか……そこで少し齧った程度の婆さんから色々教えてもらって、けが人の手当をする金瘡医してたりするな。妹の方は母親の護衛をしてて、何考えてるのかわかんねえやつだが、無手だとオレでも負けることがあるくらい強いぞ」

 

「ほえー」

 

「孫家だけでもかなり幅広いことに対応できるのね……」

 

「孫策とも戦ってみたいけど、その炎蓮の妹の次女の方とも戦ってみたいのだ」

 

三者三様の反応をみせる彼女たち。

 

「いつしかそういう日が来るかもしれねえな」

 

そういってから続ける。

 

「オレだけ言うのはなんか不公平じゃねえか?」

 

「たしかに?」

 

「そういわれるとそうねぇ」

 

「そう……かも?」

 

炎蓮の言葉に3人はうなずく。

 

「ならオレもちっとばかし話したし、お前らも教えろよ」

 

その言葉をきっかけに、3人も家族について話し出す。

 

リズは鍛冶職人の家で生まれ育ったこと。

 

水鏡女学院に行くのをきっかけに親から独り立ちしたけど今でも手紙はやり取りしてることを。

 

桃香は父親を知らないが、母親に育てられ、割と高い頻度で説教と罰という理由で河に放り込まれたこと。

 

母が亡くなってからは母を支援してくれていた厳岳*1さんに世話になっていたことを。

 

鈴々は物心ついたときから村一番の腕っぷしがあったから、力仕事をしてたこと。

 

山で寝てたら人さらいに捕まって、逃げたはいいが、帰れなくなり、3年ほど放浪していたら愛紗と出会ったことを。

 

「人に歴史ありだなぁ」

 

「まったくだぜ、オレよりも若いってのに、大変だったなぁ。鈴々に至っては言葉が足りてないが、聞いてる限り波乱万丈だしよ。……お、雨が止んだか?」

 

そう炎蓮の言葉に、一同が外を見る。

 

そこまで長い時間は経っていないはずだが、いつの間にか雨は止み、光が差し込んで、雨粒に光が反射して輝いている。

 

「そんじゃ、晴れたし洗濯して干すとするか。――4人共手伝ってくれるよな?」

 

「もちろん」

 

「ええ、当然よ」

 

「頑張るのだ」

 

「晴れたんだしな、今やらなきゃいつやるってんだ」

 

4人共オレの問いかけには良い返事を返してくれた。

 

前に進むのも大切だが、たまには振り返ることも良いかもしれない。

 

そう思わされる一日だった。

*1
第二話に登場してる爺さん。その正体は外史の舞台装置以上、管理者未満の存在『南華老仙』



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第2章 涼州異変と益州侵攻
第17話 涼州の異変


ほんへ、始まるよ!

導入だから短め


「涼州で反乱……?」

 

大広間に集合した一同。

 

一同に召集をかけた朱里が告げた言葉を、桃香が鸚鵡返しする。

 

「はい、細作部隊と商人の情報から、黄巾賊征伐に西涼軍閥の半数と涼州東側の戦力がいないうちに反乱が発生。馬超さんたちが戻った時点で州全域が制圧され、州境で戦闘が発生。馬超さんたちは撃退され、長安にて敵の動向を探ってるとのことです」

 

「……西涼の錦馬超や対羌族の要とも言われた董卓が負けた……? 反乱軍は西涼軍閥の二大巨頭の馬騰、韓遂でも動いたか……? いや、それならなんで……」

 

厳岳の爺さんが珍しく?ぶつぶつと言葉をこぼしている。

 

「爺さん、涼州について知ってることを教えてくれると助かる」

 

オレが話を振るとビクッとしてから話し始めた。

 

すかさず周辺地図とそれをのせる机を出して配置。

 

「あー……まず、涼州は主な都市が3つある。一つが長安の北西方面にある『安定』。長安との距離やこれから話す西涼軍閥とかの関係で、涼州の牧が居るのも大体ここだ。たしか今の涼州牧は董卓でここに駐屯してる」

 

安定を指差しながら告げ、西にある『天水』に指を動かした。

 

「次は『天水』。ここと北の『武威』が纏めて『西涼』と呼ばれてる。オレの知る通りなら、ここは軍閥を作っててそいつらは西涼軍閥とよばれてる。……で、天水にはその西涼二大巨頭の片割れ、馬騰及びその一族がいて、太守をしてる。羌族とか、それより西の地域と交易してる地域でもある」

 

トントンと指でたたく。

 

「馬超は馬騰配下兼後継者筆頭だから、基本ここにいるんだ。だからきいた話から、引っ掛かるのだが……まあそれはそれとして」

 

少し手に迷いがあったが、『武威』に手を動かす。

 

「最後が武威。西涼軍閥二大巨頭の片割れである韓遂が治めてる」

 

1度言葉を切ってから告げた。

 

「西涼は漢の北西の端にあり、天水と共に北と西にいる蛮族へ睨み効かせてるって意味じゃ心強い防人に見えるし、実際のところ大体間違ってない。……ただ、中央始め、大陸の連中は西涼を『蛮族の血も混じってるし蛮族』って認識して、扱いが粗雑なことも多い。それの扱いに限界きたら反乱が起きたりするんだが……」

 

「今回は毛色が違うってことだな?」

 

オレの言葉に爺さんが頷く。

 

「儂として不可解なのは『馬超も攻撃された』ことだ。涼州で反乱なら西涼軍閥の反乱のはずで、馬超が攻撃されることはあり得ぬ。寝返ったとか相応の原因なしで自分の身内を攻撃するなど、普通ではあり得んからな」

 

「たしかに?」

 

桃香がふむ、と頷き、他面々も同意する。

 

「だから、『西涼の反乱は西涼軍閥の全員が起こしてる』って前提が怪しくなる。『今回の反乱に馬騰が加担していない』、『そもそも反乱したのは西涼の軍閥じゃない』のどちらか臭いが……」

 

「判断材料が足りないって事ですね」

 

朱里が言葉を引き継ぐと、厳岳の爺さんは頷く。

 

「そういうことだ。……何が起きてるのか、後で占ってみるしかあるまい。ひとまずは静観じゃな」

 

「……何事も無ければ良いけど」

 

アスナの言葉に一同が頷く。

 

「……オレたちもなにやらゴタゴタに巻き込まれるかもしれんな」

 

オレは近づく気配を探知して、そう告げた。

 

「漢中太守の張魯様より、使者とのこと! 如何いたしますか!?」

 

「……ここに通して下さい」

 

「はっ!」

 

急いで駆けていく兵士。

 

「……張魯の祖父から張魯に至る親子三代を知っているが、手紙ではなく、使者を寄越すとは……。余程火急の要件かもしれぬな」

 

険しい顔をする厳岳の爺さん。

 

間もなく現れたのは、青地に白の模様をした着物……それを肩がはだけて見えてるというヤバい服装をした、水色の瞳の少女だった。

 

「張魯漢中太守配下の閻圃殿ですな」

 

厳岳の言葉に頷いた。

 

「ご紹介に預かりました閻圃です。用件ですが、単刀直入に言います。劉玄徳太守様に援軍の要請を依頼しに参りました」

 

「援軍?」

 

閻圃の言葉に桃香が首を傾げた。

 

「はい。今、漢中は涼州からの侵攻してきている異形の軍団と、益州牧の劉璋の侵攻軍……2つの軍勢が漢中を目指し、進軍中なのです。」

 

「「「「!???」」」」

 

「2つの軍勢の動きは偶発的なのかそれとも意図したものなのか……それは分かっておるのか?」

 

爺さんの問いかけに閻圃がうなずく。

 

「使者などのやり取りは行われていません。そのため完全に偶発的なものと思われます」

 

それを聞いたオレは決める。

 

「桃香、先行して異形の軍団とやらの足止めにオレは向かう。分身を置いておくがリソースが足りなくなったら留守組の誰か魔力供給頼む」

 

「あ、お兄さん!?」

 

「キリト、そこなら儂が『運べる』から、少し待て」

 

飛び出そうとしたオレは踏みとどまり、振り返る。

 

「あとお主だけ行っても現地で話がこじれる未来しか見えん。閻圃に同行してもらうべきじゃ」

 

「ぐぬぬ」

 

オレの歯ぎしりをよそに、桃香が指示を飛ばしていく。

 

「と、とりあえず私達は、軍の編成、誰が残るか、兵をどれだけ残すかの確認を!」

 

「豪族たちに目を光らしておきたいからオレは残る。ついでに警備隊の引き締めはやっとくぞ」

 

「はわわ、兵糧は半年動けるだけのものにするとして……桃香様、決裁おねがいしましゅ!」

 

炎蓮が適宜フォローしたり、朱里が雛里たちとともに計算を弾き、決裁を求めたりする。

 

――オレが居なくてもちゃんと回るようになってて、なんかみんなの成長を感じた気がした。

 

なんか感傷に浸っていたら、爺さんが準備できたことを告げる。

 

「よし、キリト、準備できた」

 

そしていつの間にかオレの隣にきていた閻圃の方を向き、冷静に告げる。

 

「今から儂の術で漢中に送り届ける。そやつだけで北の抑えは問題ないから、南の攻勢は援軍くるまでそっちで耐えてほしいとも伝えてくれ」

 

「はい、わかりました」

 

「妙に話がすんなり通る……あ、この人もアンタのこと――」

 

言い終わる前にオレと閻圃は光りに包まれ、気がついたら見慣れぬ城の前に立っていた。

 

「……では行きましょうか」

 

「色々納得できないが、そうするしか無いよな!」

 

オレはそう自分に言い聞かせ、先にすすむ閻圃を追いかけるのであった。



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第18話 北の軍勢との戦い

「蜜璃様、ユースティアナ様、戻りました」

 

「あれ?まだ数日しか経ってないですよね?」

 

文官にあれこれ指揮をしてるピンク色の毛先が若草色の娘ではなく、オレンジ色の髪の少女がこちらに来ながら問いかける。

 

「かのご老人の仙術にて送って頂けました。それと……彼が北の軍勢を足止めするとの事です」

 

「えっと……このお兄さんが?」

 

おずおずと聞いてくる少女。

 

「困惑するのはわかるし、普通はそうなる。――行動で証明するだけだ」

 

「それでは……早速向かいますか?」

 

閻圃の問いかけにオレはうなずく。

 

「雪泉さん。私がついていきますので、劉璋軍の対応の方、お願いしてもいいですか?」

 

「厳岳殿の紹介とはいえ、殿方と妹様を二人っきりには……。蜜璃様にちゃんと許可取ってください」

 

じっと見つめるきれいな瞳に負けたのか、閻圃は判断を上司にぶん投げたようだ。

 

娘の方に聞きに行った少女を横目に、オレは閻圃に問いかける。

 

「ところで、あの2人は……」

 

「あちらの桃色の髪の方が張魯様。今話をしていた方が張衛様です。……くれぐれも不埒な真似はなさらないように」

 

「あっはい」

 

会話してると張衛が戻ってきた。

 

「許可とりました! 雪泉さんは劉璋軍の防衛の指揮おねがいします!」

 

「では、交代しましょう。――漢中以北の彼への道案内だけで問題ないと思いますよ」

 

そういうと、張衛のハイタッチに応じる閻圃。

 

「では、お兄さん! 単独で足止めできるとのことですが、一度馬で敵の軍勢を見に行くのが良いと思いますが、どう思いますか?」

 

「オレもちょうど提案したいと思っていた。――ただし、オレは馬に乗るより、走ったほうが早いからオレは馬いらない」

 

「そうなんですか? ヤバいですね」

 

可愛らしいポーズしながらそう零す張衛。

 

「とりあえず、厩舎で馬を用意してもらいにいく感じか?」

 

「はい。時間が在るなら徒歩でいいんですが、流石に急ぎなので」

 

そのままオレの手を掴んで、すごい勢いで引っ張っていく。

 

ドナドナを歌うべきだったかな?

 

 

 


 

 

 

「本当に馬と同じ速さで走れるんですね、ヤバいですね」

 

馬に乗りながら、街道を駆ける張衛とそれに並走するオレ。

 

「ん?」

 

反射的に宝物庫からアイスピックを取り出して投擲する。

 

「AAAAAA!」

 

投擲した先には羽としっぽ以外が目の化け物がおり、目を穿たれ、地面に堕ちた。

 

「え、どうしたんですか?」

 

馬の速度を落とす張衛。

 

「奇妙なやつを見つけたから……これ」

 

オレは死体を拾って見せる。

 

「蝙蝠……ではないですね。たぶん北の軍勢の斥候かなと」

 

「よし、見つけ次第撃ち落としてく。あとは索敵してるから、いつでも止まれるようにだけしておいてほしい」

 

「わかりました! にしてもすごいですね。走りながら飛んでいたこの化け物を撃ち落とせるなんて……お姉ちゃんの家臣になりません?厚遇しますよ?」

 

しれっと勧誘する張衛。

 

「悪いが、主は劉備だからな。忠臣は二君に仕えずというだろう?」

 

「うーん、だめでしたか。まあ、今回は心強い味方で居てくれるので、安心ですね」

 

「まあ、勢力が統合されるとかになったのなら、今後も轡を並べることがあるかもしれないな」

 

「……なるほど。お姉ちゃんも私も、権力や富を求めてるわけではないので、仲良くできるかもですね!」

 

そうやり取りを交わしてから、オレたちは北上していく。

 

 

 


 

 

 

「これで、50だ」

 

傾国の剣の見えない斬撃で目玉蝙蝠を一刀両断し、それを確認しながら走り続ける。

 

「斥候にしては多いですね。……もしかして、お兄さんが倒した斥候が戻ってこないから警戒されてるんでしょうか……」

 

「……可能性はある……っと、ちょっと横道に逸れるぞ」

 

そういって馬を誘導して、主要街道から逸れる。

 

「え、どうしたんです?」

 

「敵の気配が近かったからな。あとは後方撹乱したほうが足止めになりそうだと思ったのも理由だ」

 

「わかりました。お兄さんを信じます」

 

そのまま少し進むと、林を隔てて主要街道が見える位置にだどりつく。

 

「!」

 

馬に止まるよう指示し、張衛にも静かにするよう告げる。

 

「(どうしたんですか?)」

 

馬を降りて小声で尋ねる張衛。

 

オレは林の向こうを指差す。

 

そこには大小様々な怪物が闊歩しているのが見えた。

 

「(……報告で聞いてたとおりの異形の軍団ですね……人型はそこそこいるみたいですが……)」

 

「少し撹乱してくる、そこで待っててくれ」

 

「はい?」

 

オレは即座に右目の固有瞳術を発動して、彼女の傍に影を置く。

 

そして直ぐに瞬身を使って行軍の上に出現する。

 

「まずは撹乱の一撃だ!」

 

右手に持つ傾国の剣の見えない斬撃を3つ、先頭、自分の真下、見えるギリギリにいる後方へ飛ばす。

 

見るまでもなく、眼の知覚の限り、30前後の命が吹き飛び、眼下のモンスターも10ほどが切り裂かれた。

 

「さて、個による郡の蹂躙をはじめようか」

 

まずは着地地点にいた狼人間を兜割りで一刀両断。

 

続いて西洋風の鎧を動かす亡霊の核を夜空の剣で作り出した槍を蹴り飛ばして穿つ。

 

「OOOOOOOOO!」

 

巨大な石の人形……ゴーレムがこちらに振りかぶるが

 

「遅い!」

 

懐に潜り込み、一閃。

 

この状況で、オレに集まるものと逃げるもので別れるが――

 

「南に逃がすかよ!」

 

斬撃を飛ばし、逃げるモンスターを切り飛ばしていく。

 

「ぎゃ、ぎゃっ!」

 

空を飛んで逃げる大型のモンスター。

 

夜空の剣と傾国の剣を投擲して厄介そうなのを確殺。

 

そして両手の武器が無いことに気がついたモンスターたちが向かってくるが――。

 

「火遁・龍焔業歌」

 

そのまま後続へ向け、炎を放つ。

 

焔は何もなければ末尾まで燃え続けてくれるはずだ。

 

「――」

 

振り向きざまに印を組み

 

「―――塵遁・限界剥離!」

 

南側にいるモンスターの足首より上、頭までしっかり入るように対象にし、発動。

 

敵が綺麗に分解され、残った足首やしっぽの切れ端が、そこに生き物が居た証を残している。

 

「何者じゃ!」

 

声が聞こえる前にその場を回転して回避。

 

オレの居た場所が巨大な氷塊に一瞬にして変化していた。

 

「――アンタこそ何者だ?こんな怪物の群れをつれて、どこに遠足にいくつもりだ?」

 

そう言いながらオレが声のする方を向くと、どこぞのコスプレ並に際どい部分しか隠していない黒髪ツインテのロリ(一応紫のロングコートを羽織ってる)がこちらを宙空からみおろしていた。

 

「我はキャスター……の片割れ!ココに来たのは領土拡大のためじゃ」

 

「……そうかよっ!」

 

バックステップ、片手で宙返りして炎、雷の魔法攻撃を回避する。

 

「お主は召喚した眷属では対処できぬからの、妾が直々に倒してやるのじゃ」

 

両手に夜空の剣と傾国の剣を呼び戻し、夜空の剣を投擲する。

 

「はっ、どこを狙って」

 

記憶解放術(リリース・リコレクション)!」

 

悪魔の木、ギガスシダーのリソースを再現し夜空の剣から大木が顕現。

 

そして

 

「木遁、木龍の術!」

 

予め夜空の剣に付与しておいた魔力を元に、木遁を遠隔発動。

 

「ぬわああ!?」

 

木遁の龍に縛られる(推定)幼女。

 

「この、妾を侮ると……あれ? MPがどんどん減ってる……?」

 

もがいていたが、直ぐに力の抜けていってるようで、混乱する幼女。

 

「……おい」

 

左目の永遠の万華鏡写輪眼を発動しながら幼女に呼びかける。

 

「お主!我をなんだと――」

 

月詠にかかった彼女の意識は途絶える。

 

「さて、取り調べを――!?」

 

飛んできた札を回避する。

 

そして木龍にあたった札は、燃えると共に、木龍だけを腐らせた。

 

木遁を使ってギガスシダー本体に影響が出ないよう、木龍をパージし、記憶解放術を解除して剣を呼び戻す。

 

「やれやれ、やはり横着はいけませんね」

 

メガネを掛けた、青い髪の道士服の男が幼女をキャッチし、俵抱えする。

 

「……管理者か」

 

「そういう貴方はサーヴァントですね。……あぶり出すのも一応目的にあったとはいえ、想定より早い段階で」

 

言い終わる前に斬りかかるがフッと消える。

 

「……消えた? いや、オレの知覚不可で相互干渉不可なエリアに逃げたか……」

 

眼を使って索敵するも、気配がぼんやりとあるだけで見当たらない。

 

『――こちら方面の侵攻は必須ではなかったので、コレで構いません。むしろ、サーヴァントを見つけ、ある程度情報を得られたのですからプラスです』

 

その言葉とともにその気配すら消えた。

 

「……」

 

右目の術を使う。

 

すると次の瞬間には、張衛の隣に立っていた。

 

「あれ?いつの間に? お兄さんっぽい影がなにやら身振り手振りしてたから、おとなしくしてたんですけど……」

 

馬をなだめながらこちらを向いて驚く張衛。

 

「ほとんど撃退した。あとは討ち漏らしがこっちに逃げてこないかの確認だけで大丈夫なはずだ」

 

「え?まだ1刻もたってないですけど……え??」

 

「……なら証拠を見に行こうか」

 

オレはそう言って、彼女を馬にのせたら、馬をなだめながら先導し始めた。

 

 

 


 

南側には足から上や、しっぽの切れ端いがい存在しない、伐採後の切り株の群れのような景色が街道に続き、北側は燃えて原型を止めていない様々な肉の塊や炭の塊が道に林立し、さながら炭の森のようになっていた。

 

「……これ、お兄さんが……?」

 

「……そうだといったら、どうする? オレを妖術師として討伐の激を周辺に飛ばすか?」

 

オレがそういうと、彼女は首を横に振る。

 

「違います。――こんな風になってしまっては、どこも食べるところがないので、もったいないと思っただけです。……足も食べることもできますが、これだけだと……うーん……」

 

「……ん??」

 

てっきり嫌悪されるか、畏怖されるとおもっていたので、この反応は予想外である。

 

「あの、オレのこと、なんとも思わないの??」

 

「特には? 漢中では規模の大小の差はありますが、異能と呼ばれるようなモノを使える人がいるんです。そのため、そういうのを使える人にも割と寛容なんです。――私も仙術系掌術の一つで傷を癒やす術つかえますから」

 

そういって馬を降りて、オレの腕に自分の手を当てる。

 

そして青い光が触れた部分と当てている彼女の手を包むと、体力がわずかながら回復するのを感じた。

 

「……お兄さん、とっても体力あるんですか? いま普通の人ならお腹に穴が空いてもふさがって、立ち上がれるくらいの回復量を注いだんですが……」

 

「まあ、うん。桁違いとだけ」

 

そうオレが言うと、彼女は手を離した。

 

「うーん……とりあえず、討ち漏らしをみつけたら、焼いたり、足だけにしないで、食べれるようにしてもらえると助かります!」

 

「え、あ、はい」

 

オレはそう答えるしかできなかった……。

 



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第19話 黒の剣士(偽)と腹ペコ少女

あれから数時間後。

 

張衛に妖術師認定されて敵対されることがないと分かったので、自重をほぼ殴り捨てた。

 

日もくれてきたので、近くにあった洞窟の入り口で料理を作ることに。

 

「色とりどりの食材ですね! ……少しずつ調理して食べられるか確かめますか」

 

南に逃げていた討ち漏らしを数体狩ったので、それを差し出すと、彼女は小躍りしてそう告げた。

 

「毒とか怖くないのか?」

 

「私、厳岳さんや、おじいちゃん、お父さんから仙術を学んだおかげか、常人なら即死の毒でも、お腹下すくらいで済むんです。なので、少し食べる程度なら、基本問題ないんですよ」

 

「そうなのか……」

 

「とりあえず、焼く、煮る、蒸すくらいしかできませんが……」

 

馬にしれっともたせてた中華鍋3つを、それぞれ石で囲った焚き火の上に載せていく。

 

「お兄さん、水出せるんでしたよね? この鍋に水をおねがいします!」

 

「……水遁・水龍弾(弱)」

 

宙空に小型の水龍を生成して、鍋にダイブさせる。

 

「おお! すごいです。お兄さんがいればご飯に不自由しなさそうですね」

 

「……実際不自由しないけどな」

 

宝物庫から干し飯と干し肉を取り出してみせる。

 

「う」

 

「う?」

 

「羨ましいです! その術どうやって覚えたんですか?私にも使えますか? どんなものでもだせるんですか? 限界はあるんですか?」

 

すごい勢いで詰め寄ってきたため、思わず後ずさりしてしまった。

 

「これはオレの生まれつきの能力のようなものだ。――生み出してるわけじゃなくて『ほぼ無尽蔵に存在する』だけだから……生成してるわけではない……(はず)」

 

そういうと、一転してしょんぼりした顔をする。

 

「ざんねんです……」

 

流石にいたたまれなくなったので、代案を提示する。

 

「代わりと言っては何だが、戻るまでは色々飯とかだすからそれで勘弁」

 

「……! いいですよ!」

 

数秒考えるような素振りをみせてから、快諾する張衛。

 

選択をミスした気がしてならないが……。

 

その後、オレは芋やらとうもろこしやら、肉やらを提供し、彼女が作る横でカレーとご飯を別途つくったりして。

 

「色が独特……ですけど、とっても美味しそうな匂いがしますね!なんですか、これ」

 

いつの間にか渡した分を食べきり、味見してたものも平らげていた彼女が眼をキラキラとしながら問いかけてきた。

 

「カレーという料理だ。オレはご飯とあわせるのがすきで……」

 

やや深さのある皿に炊きたてご飯を盛って、カレーを注ぎスプーンを添える。

 

「ご飯と併せて食べてみると良い」

 

「はい!」

 

一口食べる張衛。

 

しばらく硬直していたが、咀嚼し、嚥下すると、すごい勢いで食べ始める。

 

「―――!おかわり!」

 

すぐに無くなり、おかわりを請求してきた。

 

「オレの分もあるから後1杯な?」

 

「は、はい……」

 

そういいながら頑張って味わって食べる張衛。

 

それを横目に、自分の分を用意して、食べていく。

 

「うん、美味い。アスナがいればもっと美味いカレーができたんだろうが……」

 

「?」

 

オレのこぼれた感想に首を傾げる張衛。

 

「ああ、オレの嫁のことだ。――料理が上手くて、包容力があって……でも怒らせると怖い人なんだ」

 

「そうなんですね……その人、他にも料理が上手だったり?」

 

気になったのか、問いかけてきた張衛。

 

「そうだなぁ。洋食……大秦やそれより西の国の料理はアスナが得意だな。大陸の料理は鈴、和食……オレの故郷の料理は一夏が一番得意だろうなぁ」

 

「その人達の料理……食べてみたいですね」

 

じゅるり……と想像してよだれが出ている。

 

「アスナたちは援軍にたぶんついてくるから、頼んでみるよ」

 

「本当ですか!? 約束ですよ、お兄さん!」

 

「お、おう……」

 

オレは勢いに押されてうなずいた。

 

「楽しみだなぁ……。あ、私の真名『ユースティアナ』です。お兄さんに預けますね」

 

「!? 預けるに足ると思った理由は??」

 

オレが困惑しながら問いかけると、彼女は笑顔を見せる。

 

「美味しいものが大好きで、大切な人を想ってるときに優しい顔ができる。それに信用に足りると私が思ったからです。あ、でもペコリーヌって名前のほうが、通りは良いんですよねぇ……。お兄さんは好きな方で呼んでくださいね」

 

「あっはい。……あ、そういえば未だ名前言ってなかったな。キリトだ。真名であり、通り名だが、そのあたり気にしなくていいから」

 

「ほえ、真名が通り名……わかりました。キリトお兄さん!改めてよろしくおねがいしますね!」

 

「ああ。よろしく、ペコリーヌ」

 

 

 


 

 

 

 

特に何もおきることはなく、次の日の朝となる。

 

2人で朝食の支度をしてると甲高い鳴き声が響く。

 

「お、鷹が戻ってきた」

 

寝る前に漢中に飛ばした鷹(口寄せ契約動物)を腕にのせ、背中に着けた筒から書簡を回収する。

 

「お姉ちゃんたちからの返事は……?」

 

「……『にわかに信じがたいですが、他の斥候も進軍してたはずの敵の消滅を確認しました。敵の戦闘能力を完全に把握していませんが、兵士ではどうにもならないのを知っているので、そちらの報告を信じることにします。念のため、第二波や討ち漏らしがないか、天水、長安への分岐点まで北上しながら偵察と陽平関の被害状況の確認をお願いします。あとペコリーヌ、男は狼なのだから油断しないように。水浴びなど持っての他です』……だそうだ」

 

「……とりあえず、北上ですね?」

 

「そうなるかな」

 

ペコリーヌの言葉に頷く。

 

「っと、話をしてたらできたぞ。今日は一工夫した、炒飯鴨肉包みだ」

 

大皿にのせて渡したのは鴨1羽の中身を抜き取り。代わりにキャベツと炒飯を詰めて焼いた一品だ。

 

「すごい!おいしそうです!」

 

眼を輝かせるペコリーヌ。

 

「1人1羽な。作るのちょっと手間だし」

 

「はーい。あ、私も羹できたんでどーぞ!」

 

お椀によそった羹を彼女は渡してくれる。

 

「……しっかり食べて、しっかり動き、ぐっすり眠る。 この生活……すごく……健康的です」

 

「? お兄さんどうしました?」

 

首をかしげるペコリーヌ。

 

「なんでもない。さっさと食べて仕事しようか」

 

 

 

 


 

 

 

 

ご飯を食べたオレたちは、指定された地点目指し、北上していく。

 

稀にはぐれモンスターがいたので討伐するくらいであとは特筆することはなく順調にすすむ。

 

そして昼過ぎる頃には涼州と益州を隔てる関である陽平関にたどり着く。

 

「……ボロボロですねえ」

 

「だな」

 

ペコリーヌがいう通りで、大きな鉄の門の扉は片方が止め金が壊れており、南側に倒れ伏せて敵を阻む能力を喪失しているし、壁もあちこちにガタがきてる、という有り様だ。

 

「……どうしましょうか?」

 

「前より丈夫に直しておくか」

 

印を結んで木分身を用意し、宝物庫、忍術を惜しみ無く使用して修復と改築をしていく。

 

「……ここは分身に任せて、とりあえず北の方見ておこう。たぶん敵はいないと思うが……」

 

「……」

 

提案するも反応無し。

 

「ペコリーヌ?」

 

「え、あ、はい!大丈夫ですよ!?」

 

わたわたする彼女。

 

「……やばそうなら言えよ? きついなら馬車用意するなり対応するから」

 

「了解ですっ!」

 

なんか空回り気味な彼女が気になりつつも、仕事を優先することにして、思考を切り替えた。

 

 

 


 

 

 

 

 

――ペコリーヌ視点

 

(うーん、お兄さんをどうにか味方にできないでしょうか……)

 

私は馬を走らせながら、それに並走するお兄さんをみる。

 

時おり紅い目に変わる黒目と、黒髪。

 

整っており、女性から好かれそうな顔をしてる。

 

持っている剣から、外套から、服の上下までほぼ黒づくめで申し訳程度に服の縁等に白い線の入った少々珍しい服装。

 

そして驚いたのが私の見たことない術と、それらを多用しても動じず、触れたときに感じた底の見えない体力。

 

まだ本気じゃないとかんがえれば、敵対して本気になられたら漢中の腕利きをそろえたところで時間稼ぎにもならないだろう。

 

「……どうした?」

 

こっちを向いてることに気がついたお兄さんが首を傾げた。

 

「ううん、なんでもない」

 

「ならいいけど」

 

嘘だが、お兄さんは無理に聞いてこなくて、私にはとても有り難かった。

 

(……お姉ちゃんも雪泉さんも私も、五斗米道(ゴットヴェイドー)の布教を認めてくれて、重税や悪政がないなら別に地位や名声は要らないんだよね。……お兄さんを味方にできるなら、劉備さんたちに臣従するの、ありかな?)

 

よく知る厳岳という老人の後釜として上庸太守となった劉備の噂を思い出す。

 

――子供に優しく、人の痛みを理解できる方。

 

――間違ってることを間違ってると言える真っ直ぐな方。

 

――家臣の意見を聞いた上で決断できる方。

 

――才ある人たちに好かれ、受け入れる大器の人。

 

(……うん)

 

「お兄さん」

 

「ん?」

 

「後で構わないので、お姉ちゃんたち宛の手紙を書いて鷹さんに運んでもらって良いですか?」

 

「構わないが……何を連絡するつもりだ?」

 

首をかしげるお兄さん。

 

「門を修理することとか、益州側に敵が残ってる気配なしって感じの報告(とお兄さんと劉備さんの評価と臣従の提案)」

 

「…………とりあえず、良い時間だから一休みしよう」

 

そういってお兄さんが速度を緩めたのでそれに合わせ、そのまま適当な空き地に移動した。

 

 

 


 

 

 

――キリト視点

 

手紙を書くとのことなので、料理の支度と警戒を請け負ったオレ。

 

「……伊勢海老の塩焼きでも出そうかな」

 

などと独り言を零しながら適当に料理を作っていると。

 

「お兄さん」

 

とてとてとペコリーヌがやってきて、オレに書簡を渡してきた。

 

「あの人宛でいいんだな?」

 

オレの問いかけにうなずくペコリーヌ。

 

宛先に変更が無いのでそのまま鷹に渡して鷹を飛ばす。

 

「……お兄さん」

 

「ん? どうした?」

 

申し訳無さそうな顔でオレに話しかけたペコリーヌ。

 

少しためらった顔をした後に告げた。

 

「もし漢中の統治をお兄さんや劉備さんにお願いしたら、了承してくれる?」

 

「……」

 

色々突っ込みどころがあったが、言い過ぎないように冷静に一息ついてから答える。

 

「――悪いが多分今言われても無理としか返せない。『そっちが何を求めてるのか』、『こっちに何を対価として用意できるのか』、『何が絶対に譲れない条件なのか』、『周辺勢力や中央との外交状態がどうなってるのか』とか諸々が全くわからないのに二つ返事で了承できない。絶対後で揉めるし」

 

「……つまり、『私達から可能な限り条件を全部提示』して、『お兄さんたちと交渉して条件とか待遇をすり合わせて』、『双方依存はないってことでまとまれば』いいんですね?」

 

「そうなる。もっともいきなりそれを言われても困る。――大方今の手紙にも臣従についての提案を書いたんだろう?」

 

オレがジト目でみると、きまずそーにうなずく。

 

「……北の分岐路までは分身に見てもらう。オレたちは飯食ったらそのまま漢中に戻るぞ。たぶん手紙でのやり取りだと、齟齬が生まれて歯車が狂いかねない」

 

「あっはい」

 

口寄せで飛んでいったばっかりの鷹を呼び寄せて、宝物庫から出した肉を食わせる。

 

「報告内容書き直して、どうぞ。終わるまで飯お預けな」

 

「そ、そんなぁ」

 

悲鳴にも似た声が青空のもと響き渡った……。

 



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第20話 臣従と出立前の軍議と

劉備援軍組メンバー
桃香、愛紗、鈴々、朱里、雛里
キリト、アスナ、リーファ、シノン
ユイ、キズメル、プレミア、ティア
一夏、千冬、炎蓮

留守組
リズ、シリカ
箒、束、鈴、厳岳

おや、MORE DEBANの様子が……?


翌日、オレたちが漢中に戻ると、東門周辺と城を兵士や物資が慌ただしく往復する姿が目に入る。

 

「何事ですかね?」

 

なんだっけなーと彼女の言葉を聞きながら記憶を掘り返す。

 

「ああ、ウチの兵士たちが到着したんだろうなぁ」

 

分身からの連絡の中に「兵士にマラソンさせる。連絡は爺さんが、物資輸送はオレがやっとく」とあったのを伝え忘れていた。

 

爺さんが連絡をしてたから、対処がされてるのだろう。

 

「え、早くないですか????」

 

「軽量の防具以外は装備させずに走らせたし、中継地点で飯とかを用意させてたからな。移動の荷物になる武器防具食料はオレの分身が宝物庫開けるからそこ経由すればいい」

 

いわゆる豊臣秀吉が使った使ったとされる中国大返しと同じような手段である。

 

違う点は預けた装備が兵士より先に目的地に到着してるところくらいか。

 

「なる……ほど?」

 

困惑してる彼女には悪いが、すり合わせとか報告諸々をしなければならない。

 

「とりあえず城に行くぞ。ペコリーヌから伝えたいこともあるだろ?」

 

「え、あ、はい。そうですね」

 

ちょっと混乱気味なペコリーヌの返事を半分にしながら、オレは彼女の馬を先導し、城へと向かうのであった。

 

 

 


 

 

 

「お兄さん!(キリト君!)」

 

大広間に通され、そこでアスナたちと合流するオレとペコリーヌ。

 

「……ほら、やっぱりお兄ちゃん新しい女引っ掛けてるよ」

 

ジト目でリーファがそういった瞬間、ウチの女性陣の眼が冷たいものに変貌する。

 

「不埒なことはしてないです。強いて言えば餌付けしたくらいで」

 

「「「「ギルティ」」」」

 

弁明するも、一蹴され、膝をつくオレ。

 

「えっと……自己紹介は、もう一度したほうがいいかしら?」

 

「あとで私達が個別にやるので、大丈夫かと」

 

張魯の問いかけに桃香がそう告げる。

 

それにうなずいたあと、張魯は問いかけてきた。

 

「とりあえず、北の軍勢について、報告お願いします。陽平関の修理まではここの全員に共有済みです」

 

「あのあと、北の分岐点まで見に行ったが、敵の影はナシ。おそらくこっちへの侵攻はオマケ扱いで第二波を考えてなかったんだろう。……裏を返せば他の……それこそ長安方面がどうなってるか調べたほうがいいまであるな」

 

途中で脱線してることに気がついたのでかぶりを振ってリセット。

 

「分岐点確認後、撤退、そのまま修理中の陽平関を通過、そのまま漢中へ戻ってきた」

 

「……わかりました。……集まってもらって申し訳ありませんが、少しこちらで話を詰めておきたいことがあるので、そちらも情報共有などどうでしょうか?」

 

最初以外は劉備に問いかけるように話しかけた張魯。

 

「あ、はい。大丈夫ですよ」

 

「すみません。では一刻後までに戻りますので、その間こちらをお使いください」

 

そういってペコリーヌ、張魯が去っていく。

 

「……あれ?閻圃は?」

 

「閻圃さんはキズメルとユイちゃん、プレミアちゃん、ティアと共に兵の受け入れ対応してるよ」

 

アスナがオレの傍でジト目で匂いを嗅ぎながら、そう答える。

 

「……あの娘の匂いがガッツリついてる……」

 

「本当にお兄ちゃん、手を出してないの?」

 

「もう少しオレの言葉を信じて????」

 

シノン、リーファがジト目でそういうと、愛紗がやってきて告げる。

 

「キリト殿……キリト殿のことを、我々は信用しているのです。同時に、女性絡みのことは疑うべきということも我々の共通認識なのです」

 

「……左様で」

 

オレがうなだれると、朱里と雛里がやってきて頭をなで始めた。

 

「お兄さん……私達はお兄さん信頼してます」

 

「……裏切ったら、嫌ですよ? 例えば……洛陽で分身さんが女の子引っ掛けたりとかしてませんよね……」

 

「え、なんでそれを……はっ!?」

 

オレが驚いて顔を上げると、その場に居た一同の背後に怒りと嫉妬のオーラが現れる。

 

「……ちょっと、お説教の時間だね、おにいさん」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「えっと……その、色々お話をするにあたって、キリトさんの意見もお伺いしたかったのですが……」

 

真っ白に燃え尽きてるオレをみる張魯に、オレは頸を横にだけ振る。

 

ペコリーヌと閻圃がドン引きしているが、必要な犠牲だったので諦めよう。

 

「すみません。キリト君の意見は大体分かっているので、私が代わりに答えますね」

 

「あっはい……。では、改めて」

 

こほん、と咳払いしてから張魯が告げた。

 

「――劉備様。漢中及び五斗米道(ゴッドヴェイドー)は民に重税や悪政を行わぬ限り、劉備様に臣従致します」

 

「え、ええええ!?」

 

眼を丸くしてオレをみる桃香。

 

悪い、オレは今燃え尽きてるんだ。

 

そっとしておいてくれ……。

 

「……その条件だと何を命令されても基本逆らえないことになるけど良いの?」

 

アスナの問いかけに、張魯はうなずく。

 

「もちろん。ただ……漢中の民は皆五斗米道(ゴッドヴェイドー)の信者ですので……彼らの酷使は悪政や重税と等しいとなりませんか?」

 

「……ここは受けとけ、桃香」

 

炎蓮が出てきてそう告げた。

 

「え、でも……中央になんて……?」

 

「オレの勘が正しければ中央がこっちにかまってる暇なくなるからな。あと対外的に3人の立場は据え置きにしておいて、連携とれるようにしておけばいい。物資のやり取りは交易って名目で帳簿こさえておけばもんだいないだろうしな」

 

桃香の言葉に答えた後、眼を細めて続ける。

 

「……劉璋の噂は聞いてるだろ? そしてそれを止められるやつが今の所いねえ。今後を考えるなら、安定した地盤を持っておくに越したことはねえんだ。――上庸からじゃ、益州の心臓部には手を伸ばしにくいが、漢中からなら行ける。……この意味わかるよな?」

 

炎蓮の言葉にうなずいた桃香は、張魯を見つめ、告げた。

 

「――わかりました。その臣従を認めます。北の脅威から、皆さんを守ります。――代わりに、益州の大部分を牛耳り、横暴を働く宗室……いえ、元宗室で現属尽の劉璋討伐を始め、主に内政方面で力を貸してもらいます」

 

「かしこまりました」

 

恭しく頭を垂れる張魯。

 

ここに非公式だが臣従の契約が締結されたのであった――。

 

 

 


 

 

 

「それでは、漢中郡防衛の軍議を始めましょう」

 

劉備の右隣に蜜璃(張魯の真名、臣従の証として預けられた)、左隣にオレが配置され、朱里、雛里、ユイの軍師組のところに雪泉(閻圃の真名、臣従のry)、愛紗たちの中にペコリーヌが編入された状態で軍議スタート。

 

「雪泉さん、状況報告お願いします」

 

司会進行のユイの言葉に雪泉がうなずく。

 

「敵はおよそ3万。現在剣閣と白水関の間を進軍中です。遅滞戦術で敵の遅延を行っているので、白水関にたどり着くのに7日以上かかると見ています。また、すでに漢中から白水関へ後詰をだしているので、もし強行軍がきたとしても落とされることはありません」

 

そういいながら、中央の机にある地図の上に駒を配置していく。

 

「随分と動員してるな」

 

「私達がよほど気に入らなかったのでしょう……。事実、劉璋軍一の武勇を誇り南蛮鎮圧の第一人者である張任にその妻である李厳。喧嘩師で東の番人とも呼ばれている厳顔とその弟子の魏延、知恵者で防衛戦に敗北なしの法正と劉璋軍の文官武官が勢揃いしています」

 

「なら、こっちも」

 

「手加減は不要ね」

 

桃香とアスナの言葉に一同がうなずく。

 

「お待ち下さい。張任なのですが……街一つ氷に閉ざす異能を持っておりまして、使えるときと使えないときがあるのですが……使える場合はかなり厄介なのです」

 

雪泉の言葉に、アンダーワールドダイブ経験者が互いの顔を見合わせる。

 

――氷と聞いて心当たりが一人いるんだよね……。

 

「張任さんの特徴をおしえていただけたらと」

 

アスナが問いかけると、雪泉が思い出すようにうんうんうなりだす。

 

「たしか……アリス……李厳の旦那……これはもういいましたね。……黄金色の髪で……青い瞳をしており、夫婦で同じ髪と瞳の色をしています。……武器が青い剣で……」

 

「雪泉さん、ありがとう。……その人、私たちの古い友人のはず。私達次第だけど、上手くいけばこっち側に引き込めると思うわ」

 

「そうなのかー?」

 

アスナの言葉にこの世界の面々を代表して鈴々が疑問を投げかける。

 

「私達の知ってる彼ならね……でしょ? キリト君」

 

「……だな」

 

オレがうなずいた後、一夏があれ?と声を出す。

 

「一夏、どうした?」

 

「今思い出したんだけど、箒と束さんって益州に居ただろ? だから張任がユージオのことだとしたらあの2人なら知ってておかしくないと思ったのはオレだけか?*1

 

オレは分身を通じて質問を投げる。

 

「……二人共梓潼が活動圏で、張任の活動範囲とまったく合わなかったから噂にすらならなかったらしいぞ」

 

「なるほど……?」

 

「認識範囲外だったみたいだから仕方ないな」

 

オレの言葉にシノンが首を傾げ、炎蓮はうなずいた。

 

「んで、劉備軍8千、白水関詰めの千と後詰めの4千併せて1万3千。……数の上では不利だが防衛戦で相手が数を活かせない。――慢心せずにいけば勝てる戦いだぞ」

 

オレの言葉に桃香がうなずいてから告げる。

 

「みんな、暴政をしてる劉璋を倒すためにいくよ!」

 

「「「「応!!!」」」」

 

*1
『第4話 出会いと再会の新野にて 後編』にて2人の所在は益州と言及されている



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第21話 再会の親友と防衛戦の戦後処理

3日ほどかけて白水関にたどり着いた一同*1

 

兵士たちの殆どは険しい顔をしてるが、一部は気が緩んでいた。

 

……まあ、緊張も過ぎれば身体に毒だから多少は良いんだが……。

 

「まだ来ていないみたいね」

 

兵士たちをねぎらっていく蜜璃を観ながらそう零すアスナにうなずく。

 

「遅滞戦術が功を奏してるみたいですね」

 

雪泉がどこか得意げに言う。

 

「……なら斥候を定期的に出しつつ、関の防御を追加するか」

 

「アンタがその気になったら要塞になるでしょ。自重しなさい」

 

とシノンから軽くアクション付きでツッコミされた。

 

「……そのほうが私達楽になるような気がするが……」

 

「いや、たぶんキリトナシだとメンテ不可な代物になりそうだからシノンのツッコミが正しいと思う」

 

キズメルが首を傾げると、一夏が有り得そうな指摘をしてくれた。

 

そんな感じで気の緩みがオレたちの中にも広がる。

 

「……暇になったなぁ」

 

炎蓮がそういった後、オレにすり寄ってきた。

 

「炎蓮。終わるまでお預けだ」

 

「嘘だろ、キリト!?」

 

困惑する炎蓮に対し、オレは両目の目をオンにしながらみる。

 

「お兄さんの目が本気になってるから止めたほうが良いですよ。生殺しとかされるかもしれないし」

 

「……そうする」

 

桃香の言葉にうなずいて、そっと距離を置く炎蓮。

 

おれは即座に木分身を作っていく。

 

「アスナ、リーファ、シノン、一夏、プレミア、ティアは兵士たちの士気維持のために食事作り手伝って」

 

「「「は、はい!」」」

 

動き出した分身についていく6人。

 

「愛紗、鈴々、千冬さん、炎蓮は兵士の調練。4交代で構わないから」

 

「了解!」

 

「わかったのだ」

 

「ああ」

 

「了解」

 

慌てて4人が分身についていく。

 

「朱里、雛里は雪泉と一緒に兵の受け入れの対応と指揮系統の確認」

 

「「「はい!」」」

 

「桃香は蜜璃と同行して、仲が良いことを兵士たちに示してくれ」

 

「は、はい!」

 

そしてユイ以外が居なくなった。

 

「……パパ、私なにかやりますか?」

 

「……オレとしばらくここでぼーっとしてほしい」

 

「パパ……」

 

そっと顔を擦り寄せるユイ。

 

優しいユイの抱擁にオレは安堵するのであった……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

あれから数日後……

 

「ユージオォォ!!!」

 

「キリトォォォ!!!」

 

オレは白水関を背にして、眼の前にユージオと鍔迫り合いしていた。

 

どうしてこうなったかというと、敵が来たからいの一番で門の前に降りてユージオの名前を呼んだら本人が出てきて、お互い出鼻を挫けるということで一騎討ちが始まった(計画どおり)

 

それはさておき

 

「元気そうだなぁ! 安心したぞ」

 

「キリトこそ、また女の子引っ掛けてるのかい?」

 

軽口を叩く余裕はある。

 

周りの兵士たちはオレたちの攻撃の余波から避けるようにしながらも、白水関への攻撃を続けている。

 

「オレは引っ掛けてるつもりはないんだがな!」

 

「またアスナたちに怒られるよっ!」

 

どちらも有効打が決まらない。

 

さながら研ぎ澄まされた舞のように剣戟とオレたちのステップは続く。

 

「ユージオ、こっちに来ないか? 条件、待遇面は考慮するぞ!?」

 

「それ言われたら弱いんだよね! でも今僕が抜けたら迷惑書ける人もいるから困りものだ!」

 

青薔薇と黒い木の枝が飛び交う。

 

「なら――」

 

「これで――」

 

「「決着だ!」」

 

オレとユージオは全く同じタイミングで踏み込み、それぞれのソードスキルを繰り出した。

 

「……やっぱりキリトは、強いなぁ」

 

そういって膝をつくユージオと、駆け寄ってくる娘。

 

「ユージオ!」

 

「大丈夫、峰打ちだったから……」

 

駆け寄ってきたアリスにそう告げる。

 

ユージオの声やそばで見たときの様子が問題ないと分かって安堵するアリス。

 

しかし、劉璋軍兵士たちはそうは取れなかったようで――。

 

「あの張任将軍が負けた……?」

 

「嘘だろ?負け知らずのあの将軍が……?」

 

「いやだ、オレは死にたくない!」

 

誰かがそういって武器や防具を捨て逃げ出したのをきっかけに、兵士たちが逃げ始める。

 

「な、にげるな! 奴らを殺せ!」

 

慌てて劉璋と思わしき男が檄を飛ばすが誰も相手にせず。

 

「このまま追撃戦すれば確実にほとんどの将兵を討ち取れるが……」

 

絶対民に恨まれるからなぁ……

 

と思って兵士たちに追撃禁止を宣言する。

 

波が引くように逃げていく兵士たちが消えたあと、残ったのはユージオ、アリスに3人の女性。

 

どうやら劉璋も勝ち目無しと逃げたらしい。

 

「……で、そっちの3人は何で逃げない?」

 

オレが問いかけると、それぞれが口を開く。

 

最初に答えたのは、褐色肌にパールグレーの髪とバニーガール風の服に赤ずきんを合わせたような格好の美女。

 

……え?

 

「我は劉璋に見切りをつけたからそちらに降ることをきめたからじゃな」

 

次は薄紫の髪と豊満な身体をもて余してるらしい美女が告げる。

 

「儂もあの見切りをつけたがただで降るのも癪なのでな。腕利きと儂で一騎討ちを所望するぞ」

 

最後はどこぞの名医のような髪型と髪色をして強気そうな娘が答える。

 

「私も師匠と同じだ。――もっともその男以外に私を倒せる者が居ないなら、張任と師匠の次……三番手か四番手になるだろうがな」

 

その言葉を聞いた武闘派メンツがピクリと反応した。

 

「お兄ちゃーん! そっちのおばさんは鈴々が戦うのだ!」

 

「そっちの女は私に殺らせてください!」

 

「オレは構わないぞ。ただし殺すなよ?」

 

鈴々と愛紗の言葉に目の前の女性2人もピクリと反応し、怒気を膨らませた。

 

「ほう……おばさん、か……」

 

「そこらのやつが私を倒せると思われてるとは……」

 

「血の気が多い者たちはこまるのう……」

 

いつの間にかバニーコスの女性がとなりに来ていた。

 

「お主……ガションと呼ばれたことあるかの?」

 

「そういうあんたは雑貨屋ねりこって店経営の経験は?」

 

「……とうだいもりという言葉に聞き覚えありそうじゃな」

 

愛紗と鈴々が門から出てきて、2人と相対し、戦い始めるのを横目に会話をしていく。

 

「キリト、法正のことをしってるのかい?」

 

「オレの記憶違いじゃないならな」

 

アリスと共にオレを挟んだ法正?の反対側に移動しながら聞いてきた。

 

「まあ、我はこやつと面識はあるが、顔や声が知らぬのよなぁ。……まあ、我の知る者で間違いないが」

 

「とりあえず……オレはキリトだ。真名だけど気にしなくていいから。よろしく」

 

「ふむ……我は法正じゃ。真名はお主がよく知る『ねりこ』じゃ。……キリト、そっちに降るから身元保証たのむぞ」

 

「わかった」

 

そんな会話をしていたら決着がついたようだ。

 

鈴々、愛紗ともにこっちに手を振っている。

 

「ちなみに、劉璋軍は武官と文官で皆からも認められた者たちが悉くこちらの軍門に降ったからの、なにもせずとも空中分解すると思うぞ」

 

ねりこの言葉に目を丸くする。

 

「我、険悪な勢力の臣下同士ではあったが、閻圃と文を交わすとかしておるし、劉璋軍で仕事せぬ劉璋に代わって陳情対処など我がしておったのじゃから、この程度わかるんじゃよ」

 

そう話す彼女の目が、どこかの遠くをみてるようで、少しかなしくなったのであった……。

 

 

 

 


 

 

 

その後各自の武器を没収した上で白水関に戻る。

 

そして大広間にて主要メンツを集めて防衛戦の戦後処理を始めた。

 

自己紹介は割愛。

 

「では、張任さん、李厳さん、法正さん、厳顔さん、魏延さんは劉璋麾下から私の麾下に降るってことで大丈夫ですね?」

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

「とりあえず……この紙に書いてる規則守ってね?」

 

そういって各自に紙を渡す。

 

「……大丈夫そう?」

 

「全く問題ないのう」

 

「儂も構わん。寧ろ儂もイケる口か?」

 

「やっぱりキリトはキリトだよね。この辺りは問題ないよ」

 

「なっ……劉備様にこの男は手を出して……!?」

 

なんか若干1名ダメそうなんだが……。

 

「魏延さん、無理なら隠居するか、他の人の所に行っても良いですからね?」

 

そう劉備が魏延の手をとりながらそういうと

 

「そそそ、そんなことはありません!私の忠誠は劉備様に」

 

顔が真っ赤になっていき、言い終わる前に鼻血出してたおれる魏延。

 

「馬鹿弟子の不始末と諸々はこちらで話をつけておく。ねりこ。お主は今後の動きとそれにあった情報提示たのむぞ」

 

「うむ、わかった」

 

厳顔が魏延を担いで出ていくので兵士に救護所への案内を頼んでおいた。

 

「さて、今後どうするつもりなのかききたいのう」

 

「益州全土を制圧するよ。……それと同時並行で劉璋の悪政を中央に上奏して益州牧の地位を手に入れるつもり」

 

「正当性の獲得は大切じゃな。……成都始め、益州は我の知人が多い。うまく内応させてみせるぞ」

 

「心強いです」

 

こうして、劉璋軍撃退だけでなく、劉璋軍の大幅な弱体化と自陣営の強化ができて一石三鳥の結果を得ることができたのであった……。

 

*1
張衛ことペコリーヌは漢中にて留守番。内政仕事の対処もするようだ



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第22話 益州牧劉備と益州制圧 その1

益州制圧、ちょっと話数かけるかも……。


あれから数日後の梓潼の北門付近にて。

 

「梓潼の制圧完了しました、桃香様!」

 

「あ、うん。お疲れ様、焔耶*1ちゃん」

 

「桃香様のご命令とあらば!この程度食前の運動にもなりません!すべて私におまかせください」

 

「……むりしない程度に、ね?」

 

「はいっ!怪しい奴が居ないか先入りして見回りをしてきます!」

 

「……いっちゃった」

 

会話のドッジボール具合から何となく察することができるかもしれないが、順調に進む益州制圧と裏腹に、焔耶が暴走気味で制御が効かず、悩ましいことになっている。

 

オマケに彼女以外の命令は聞かず、オレに対してはもはや居ないものとして扱ってる不始末である。

 

「桃香様。バカ弟子の手綱を握れてないこと、誠に申し訳ない」

 

「桔梗*2さんが悪いわけじゃないからね?」

 

申し訳無さそうな桔梗を桃香が宥めている。

 

「だけど……流石にあれは問題しかないというか……キリト君を無視なのは流石に……いや、キリト君毒牙からの自衛手段と考えれば正しい……?」

 

「アスナ、多方面から考えすぎよ」

 

アスナの言葉にシノンが突っ込む。

 

「いっそキリトと桃香のしてるところに彼女を放り込んで手篭めにしてしまうのが早いと思います」

 

「それは最後の手段!!」

 

プレミアのぶっこんできた内容をやるつもりが無いと遠回しに釘刺し。

 

「あのバカ弟子もいける口なのか、キリト殿は。なら儂はキリト殿的にどうなのかきになるのう」

 

「我も行けるみたいじゃし、お主も全然ありだと思うぞ」

 

「……ねりこさんとはいつの間に関係を?」

 

ねりこと桔梗さんの言葉を聞いてジト目になる一夏。

 

「この世界に降り立ってからねりこには手を出してない。前世の一つでデートとかしたことはあるけど」

 

「……嘘付いてたらどうしようかなと考えたけど、本当にそうみたいね」

 

アスナがじーっとみてからうなずく。

 

「キリト、うそつかない」

 

「お兄ちゃん……」

 

オレのカタコトの言葉になんとも言えない顔をするリーファ。

 

「劉備様!」

 

慌ただしくやってくる兵士。

 

「どうしたの?」

 

「中央からの使者が参りました! 如何致しましょうか!」

 

「んー……使者の方には安全を考慮してこの天幕でもてなすことと、その無礼についてお詫びを伝えておいてくれる?」

 

「はっ!」

 

そう言って去っていく兵士。

 

「ところで中央の使者って何の使者だろう」

 

そういいながら桃香がオレをみる。

 

「――聞いてのお楽しみってことで」

 

「焦らしはプレイだけで良いんだけどなぁ」

 

「逆に考えれば、これは真っ昼間から公然で行われてるプレイということになりますね。……キリトは変態です」

 

「プレミアさん、斜め上からの殴りかかりは止めて!?」

 

ちょっとからかったつもりが、とんでもない形で帰ってきたことに慌てていると、使者が来たことが告げられた。

 

そしてそこに来たのは――

 

「え、風鈴先生!?」

 

桃香が目を丸くする。

 

「お久しぶりね、桃香ちゃん。元気そうで何よりよ。……っと、積もる話はあるけど、先に使者として、仕事をするわね」

 

そうほんわかした雰囲気の彼女告げた後、懐から書簡を取り出した。

 

「――皇帝、劉宏より。汝劉玄徳に『宗室』であることの認定と『益州牧』、『蜀王』、『漢中王』に任ずる……んん?」

 

呼んでいて違和感しか無くて、途中で読むのを止めて黙読を繰り返し始める盧植。

 

オレ以外のオレたち陣営のみんなも困惑。

 

「役職兼任になんか問題在るかな?」

 

オレがわざとらしくユージオに話を振る。

 

「いや、ないけど……州牧だけじゃなく、宗室認定に蜀王と漢中王の2つも兼任なんて前例、きいたことがないから……」

 

「私の記憶でもはじめてですね。……周辺の勢力から睨まれなければ良いですが」

 

ユージオの隣りにいたアリスも零す。

 

「……と、とりあえず、皇帝の勅、受けますか!」

 

「はい、受けます」

 

そういって書簡を受け取る桃香。

 

「さすが桃香様! 皇帝からも認められる人徳! 素晴らしいです!」

 

それを見てテンション爆上がりな焔耶とそれにドン引きな一同。

 

「えっと……あと劉璋討伐も上奏が認められました。討伐をお願いします」

 

「はい、がんばりますね」

 

盧植の言葉にうなずく桃香。

 

「……さて、使者としての仕事が終わったから、私の中央の仕事もおしまい」

 

「え、そうなんですか?」

 

キョトンとする桃香。

 

「ええ。だから差し支えなければ、ここでお世話になっても良いかしら?」

 

「! はい、もちろん」

 

師匠が来てくれたことに笑顔を見せる桃香。

 

「それじゃ、改めて今後の方針を決めるとするか」

 

オレがそう言うと、いつの間にか戻ってきた若干一名を除いてうなずいた。

 

「――現在梓潼の制圧が完了し、今後の方針が『益州制圧』って大雑把な方針しかできてないから細かく詰めるが……『劉璋の拠点となっていた成都』を桃香と元劉璋軍の誰かを中心とした少数で落としてもらうのと同時並行で『江州、建寧』を迅速に落とす組に分けて行動することを提案する」

 

「……桃香様に成都制圧をしてもらうのは、『蜀王の称号』と『益州の後継者』としての実績にするためですね?」

 

雛里の問いかけにうなずく。

 

「少ない兵で人徳を持って降伏を呼びかけると、民は新たな主と認め、それを受け入れた……のほうが美談にしやすいしな」

 

「そうすると、江州、建寧制圧組の目的は『敵が戦意を取り戻す可能性を迅速かつ確実に刈り取る』ためですね?」

 

「……永安については放置で良いんですか?」

 

ふたりの質問がきたのでまとめて答える。

 

「前者についてはそのとおり。そして後者についてだが……『そこに劉璋を追い詰め、劉表の動きをみる』ためにあえて手を出さない」

 

「? 劉表の動き……?」

 

桔梗が首を傾げると、ねりこが合点がいったとばかりにうなずいてオレの代わりに答える。

 

「此奴ワルじゃのう。――成都、江州が陥落してしまえば建寧など袋の鼠になるから普通選ばぬ。あそこは北と南以外は山に囲まれており、南は荊州に出る道が無い実質袋小路でのう。――他との交易なしでは割と簡単に干上がるという立地でもある。その出口をふさがれては『詰み』になるから選べぬ。……そうすると劉表のいる荊州と隣接しておる永安ににげるしかあるまい。……ここまではよいな?」

 

一同にねりこが理解度を確認し、問題なさそうなので続けていく。

 

「さて、追い詰められた劉璋。しかし味方が益州内におらん。――孤軍奮闘するというアホな回答はナシで、現実的な行動として何が在るかわかるか、桔梗」

 

「……孤軍奮闘でないなら普通『ほかから味方を引き入れる』しかな……ココで劉表がでてくるのか!」

 

膝を打つ桔梗。

 

「えっと……どういうことなのだ?」

 

鈴々がわからない代表として質問すると、雪泉が答える。

 

「永安に落ち延びた劉璋は益州に味方が居ない状態です。そして孤軍奮闘したらどうやっても勝てる見込みが無いんです。そんな劉璋に残された道は普段隣の州で仲良くしてる劉表に助けを求めるってことになります。――ここで劉表が介入してくるなら、皇帝に逆らう逆賊となって、こちらが焼くなり煮るなり好きにできます。だって、皇帝から『益州牧』と『漢中王』、『蜀王』に任じられ、宗室として認定されてますからね。大義名分はこちらにあります」

 

「ほえー」

 

「つまり『劉璋を餌に劉表の器を測り、耄碌してこっちにちょっかい出してきたこと理由に潰せる』から『息の根をあえて止めない』ってことだな」

 

「ってことになるんだが他に案ある?」

 

「「「「異議なーし」」」」

 

ほぼ全員の回答を確認したオレは朱里を見ながら告げた。

 

「それじゃ……オレはどっちにもついてくから、あとの司会進行は朱里に任せた」

 

「はわっ!? 最後までキリトさんがやらないんですか?」

 

「いや、だって……オレの出した方針についても解説できる面々がいるし、あとは誰をどこに割り振るかになるから、オレよりほかの人……仕事割り振るの得意な朱里に任せるべきだとおもったんだ」

 

「き、キリトさんの期待に答えるため、がんばりましゅ!」

 

「……やはりこやつ、相当な女誑しでは?」

 

おめめぐるぐるな朱里をみながらねりこが酷い疑いをふっかけてきたのであった……。

*1
魏延の真名

*2
厳顔の真名



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第23話 益州牧劉備と益州制圧 その2

備考
このキリトくんの前世ではサージュ・コンチェルトの2作品をクリア済み
そして今回は益州攻略……では無かったりする。

それではどうぞ



半月後……オレは江州と永安の中間地点にある臨江という都市の城に滞在していた。

 

そしてそこの大広間にてビデオ通話状態で各地の面々と会話をしていた。

 

主要都市の玉座の間と主だった将に通信端末を渡していた

 

「それじゃ、第一回、益州の定例報告やるぞー。臨江だが……特に劉璋の動きはナシ。細作とかの姿も一切ない。至って平和な状態だ」

 

『こちら上庸。厳岳じゃ。こっちも至って平和。強いて言えば留守組の者たちがキリトの帰りはいつなのかと煩いくらいかのう。あと上庸―漢中間の街道整備も順調だ』

 

「分身経由で通達してんのになぁ」

 

オレは遠い目をした後、頭を振ってから

 

「……とりあえずあとで対応しておくわ。次、ペコリーヌ頼む」

 

と次へと話を振る。

 

『はいはーい。漢中は現在有り余ってる蔵の米の3割を開放して成都と江州に輸送してます。また政教分離で『五斗米道(ゴッドヴェイドー)は治世の不備不満による抗議を除き、反乱行為はしない』って宣言をお姉ちゃんに通知してもらった後、医療の得意な信者を各地に派遣してます。あと上庸―漢中間の街道の整備してます。どれも順調ですよ、ヤバいですね☆』

 

「街道整備、食事をしっかり出しておいてくれ。上手くやれば建築部隊候補になるからな。」

 

『もちろんです!』

 

ペコリーヌの言葉にうなずいてからキズメルをみる。

 

「次はキズメル、頼む」

 

『ああ。――梓潼についてだが、平和そのものだ。あと漢中からの米の輸送も順調だ。ただ、改めて調べたところ、税率周りが少々高いから調整したい、その辺りは朱里に裁量権任せてるのか?』

 

「裁量については一応通知してるが、税率周りは代行と補佐2人からこっちに上げてくれ。そうしたら精査して判断下すから」

 

『む、すまない。そこ以外は問題ない』

 

キズメルの言葉にうなずいてから桃香の方を向く。

 

「次は桃香、報告頼む」

 

『はーい。成都はねりこさんのおかげで滞りなく政務とか回ってて、私のすること無い気が……ハッ、私の存在意義が問われてる!? お兄さん! 私捨てないよね?』

 

「オレが受肉してるとはいえ、オレのマスターだし、勢力の長だし、皇帝の縁者だし、人を惹きつける人望のおかげで色々助かってるから。存在意義とか考えなくていいからな?」

 

『ならいいんだけどぉ……あ、あと梓潼から米がたくさん届いたけど私の就任祝いって名目でご飯振る舞うってことでよかったっけ?』

 

「むしろそのために漢中から輸送してもらったから。ただしねりこに聞いて、全部炊いて振る舞うんじゃなくて、俵のまま配る分と炊いて配る分、城の有事用の兵糧にする分を決めてくれ」

 

『はーい』

 

「その勢いで愛紗、報告よろしく」

 

愛紗に話をふると、わたわたしながら報告を始めた。

 

『えとえと、江州も統治は順調です。反発的な人は桔梗殿が説得してくださってましたし、東はキリト殿が目を光らせてくださってるので内乱の芽がないかの確認だけで済んでいてとてもありがたいです。あ、あと漢中からの米が届きました。建寧分は随時輸送を始めています』

 

「困ったこと有ったら雛里やプレミアに相談して、それでも無理ならオレとか端末経由で誰かに質問投げてくれ」

 

『はい、がんばります!』

 

良い返事をする愛紗にうなずいてから、アスナに視線を移す。

 

「それじゃ、アスナ、建寧の状態報告よろしく」

 

『建寧とその周辺の街レベルは大体抑えたけど、邑にまだ統治者が代わったことの浸透ができてないから、行商人とかも使って根付かせてく予定。南蛮の略奪についてはユージオ君とシノのんにお願いして対処してるわ。防衛部隊ができたら、部隊長をアリスちゃんにして、シノのんと交代になる予定。あとまだこっちには米が届いてないから、できれば米の配布は足並み揃えたいかなーと』

 

「なら米の配布はアスナのところの準備ができ次第やるという方針で。――他に連絡は……なさそうだな。引き続き、よろしく」

 

『『『了解』』』

 

そういって通信が切れた。

 

「お疲れさまです、パパ」

 

とてとてとやってきて、玉座に座ったオレの膝に座るユイ。

 

艶のあるきれいな黒髪を手ぐしで透きながら「ありがとな」と返す。

 

「これで益州はほぼ掌握しましたし、劉表がどう動くか……ですよね」

 

「問題はないと思うがな……」

 

「ところでどうしてパパは私以外……ママさえ置いて単独行動同然のことをしてるんです?」

 

痛いところを突いてきた娘の言葉に、手が止まった。

 

「……なんか厄介事が起きるらしくて、被害を回避するためにサーヴァントのスキルの啓示って奴の言うとおりにしたらこうなった。なんでこうするべきかちょっと自分でもわかってない」

 

「パパ……大丈夫です。また女の子が増えそうになったら、ママにノータイムで通報しますから」

 

「なんで浮気ってことになるかなぁ????」

 

オレがジト目で髪の毛わしゃわしゃすると彼女は照れながらも笑顔を見せる。

 

「冗談です。最近のパパはおとなしいですし」

 

「変なこといわないの」

 

ほっぺふにふにの刑を始める。

 

「ふぁふぁ、ひゃへへふははひ~」

 

――などと遊んでいたら、兵士がやってきた。

 

「申し訳ありません! 客人がいらっしゃってます」

 

「「客人?」」

 

オレとユイは思わず互いの顔をみる。

 

どちらにも心当たりがないと分かったので、とりあえず会って確かめることに。

 

「……あー、通してくれる?」

 

「はっ!」

 

兵士が踵を返すと同時にユイを膝から下ろす。

 

「念の為柱の陰に隠れてて」

 

「はい。いつでも通報準備は大丈夫です」

 

「それはいらないからね????」

 

オレは頭を抱えたくなったが、気を取り直すことにした。

 

 

 

 


 

 

 

「貴方が聖杯戦争を一抜けしたセイバーさん?」

 

現れたのは片目が隠れる黒髪と紅い瞳をした黒い服の美少女と

 

「あ、アーチャー、喧嘩腰はダメだよ」

 

――背まであるライトブラウンのロングヘアーに、蒼い瞳をした娘であった。

 

「……もしオレが聖杯戦争で一抜けしたセイバー(そう)だと言ったら?」

 

オレは後者に色々確認したいことがあったが、先に相手の要件を聞くことを選ぶ。

 

「……アーチャーも、聖杯戦争から抜ける方法を教えてほしい。もし補助とかが必要なら、手伝ってもらいたいです」

 

と答える娘。

 

「……確かにオレの知る裏技を使えばそれは叶うだろう。もっともそれをするための前提条件がいくつか在る。そのうちオレが眼を貸せば解決できることだから省略するし、ぶっちゃけ五体満足な時点で条件は2つになる。……まずアーチャーは分身、あるいはそれに準ずる自分の分体を作れるか?」

 

「……できますが……眼を貸す?」

 

首を傾げ、マスターと顔を見合わせる。

 

「次にマスター側は令呪いくつ残ってる? 3画あるのが一番ラクだが」

 

「あ……一つ、使ってるから……2画しかないです」

 

見てるこっちが悪人に見えてくるレベルの落ち込み具合を見せる娘。

 

「……マスターとしてのパスは在るんだな?」

 

「え? あ、はい」

 

「なら裏技を使える条件は満たしてるし、足りない部分は補填できる。ところで――それをオレがやったところでオレに何のメリットがあるんだ?」

 

「え?」

 

「ですよね」

 

オレの言葉に正反対の態度を見せる娘とアーチャー。

 

「――ぶっちゃけオレは聖杯戦争から手を引いてるし、そちらとの面識も誰かからの紹介もないのにいきなり相手の都合で願いを叶えて対価なし……ってのは虫が良すぎると思うんだけど……ちがうかな?」

 

「そ、そう言われると……そう……ですけど……」

 

「なら何を対価にすればよいか教えてもらえます? 大抵のもの……それこそ原典ならほぼ大抵の宝具を用意できますが」

 

オロオロする娘を観ていられなくなったか、アーチャーが一歩前に出て問いかけてきた。

 

「アーチャーからは対価をもらわない。そしてアーチャーからマスターへ何も渡さない前提で――マスターが何を差し出せるか。それ次第だ」

 

「え? 私、何も持ってない……服も、これしかないし……」

 

「……下衆な要求にしか見えませんけど?」

 

睨みつけてくるアーチャー。

 

「別に服をよこせとか奴隷になれとかそういう要求はしてない。やったら今の嫁たちに半殺しにされるしな」

 

「なら一体何を……記憶?」

 

アーチャーが近い答えを出してきた。

 

「――マスターからは知識提供という形で頭脳労働系の労働契約、アーチャーはオレや身内に手を出さない保険を兼ねてオレにもマスター契約を結ぶ。このへんが落とし所だと思うぞ。期間としてはしばらく……聖杯戦争終わるかほとぼり冷めるまでくらいだな。ああ、衣食住についてはちゃんと保証するさ」

 

「私の……知識……?」

 

困惑する娘に畳み掛ける

 

「――この世界を見て思うところがあるようだしな。『この世界の外から来た』んじゃないか?」

 

「え、なんでそれを――」

 

「ちょ、マスター!」

 

「決まりだな。あとは――トレインしてきた厄介なエネミー排除してから決めるか!」

 

オレは傾国の剣を入り口のすぐ上に投擲すると、直ぐ側の風景が剥がれて人の形になる。

 

「げっ、バレてたのか」

 

「――オレの眼は色々視えるからな」

 

手に傾国の剣を呼び戻しながら告げる。

 

「なっ!? 全く気配しませんでしたわ」

 

一瞬にして黒い洋服から赤と黒を基調としたドレスに変化して両手に拳銃を構えて侵入者をみるアーチャー。

 

「うーん、バレるのは予想していたが……何もしないと小言を言われそうだ。ちょっと小手調べだけさせてもらうか」

 

そういってその人?は髪の毛を抜いて息を吹きかけた。

 

するとその髪の毛たちが抜いた人と同じ姿を取ってそれぞれが棒を耳元から取り出してこちらに襲いかかってきた。

 

「――このっ!」

 

アーチャーが周囲から黄金の波紋とともに様々な聖剣魔剣に槍や薙刀、斧などを出現させて射出する。

 

過半はそれでなんとかなるが、数がまだある状態で2人に肉薄し――

 

「悪いが、今この2人はオレの客人だ。――手は出させない」

 

黒い炎を全身にまとった3対の手をもつ骸骨が敵の分身?を薙ぎ払う。

 

「……一筋縄じゃいかないということはよく分かった。だが、脱落したことになってるセイバーを改めて脱落させれば、1騎分になるようだし、そちらが同盟に近い状態になったという情報を手に入っただけで良しとさせてもらう」

 

そう言うと霊体化して逃げていった。

 

「……さて、さっさと終わらせようか」

 

須佐能乎を解除してから2人をみる。

 

「え、あ、はい」

 

「……セイバー、さん。強いんですね」

 

娘の言葉にオレはまだ名乗ってなかったことを思い出す。

 

「キリトだ。……呼ばれても特に支障はないから真名を教えておく」

 

「私は時崎狂三です。よろしくおねがいしますね」

 

アーチャー改め、狂三がそう妖艶な笑みを浮かべて告げた。

 

「わ、私はイオナサル・ククルル・プリシェール……イオンと呼んでください」

 

あわわわしながら娘が名乗る。

 

――まあ、イオンのことは知ってるし、思うところしかないが……。

 

「よろしく、二人共」

 

そうオレは返した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『キリト君、また勝手に女の子囲ったのでギルティ』

 

『オマケにそっちのマスターは前世の一つで端末越しとはいえ、結婚してたのにそれ黙ってた? ギルティ追加で』

 

『あとサーヴァント襲撃を避けるためにここ数日分身を出さなかったのと、それについてもユイ以外に黙っていた……これも余罪ですね』

 

「はい、すみませんでした」

 

「「えぇ……」」

 

画面に並ぶアスナたちに土下座するオレとオレの罪を数える嫁'sとそれに困惑する狂三とイオン。

 

なお、ユイはまたか、という態度。

 

うーん、慣れって怖いね。

 

『とりあえず……そのアーチャーさんの処遇は妥当だとおもうから、お兄さんの方で対処してね。あ、無理矢理は駄目だからね? たぶん合意の上でやると思うけど』

 

『あとは、夜全員口寄せで呼ぶこと。もちろん、分身無しで全員満足させないとだめだからね?』

 

「ワカリマシタ」

 

『じゃ、とりあえずユイちゃん、パパの面倒お願いね』

 

「任せてください」

 

そうユイが言うと通信が切れる。

 

「……えっと、あなた……でいいんだよね?」

 

「いくつも前の人生での話だがな。……そこは積もる話になるし、先にやることを済ませたい」

 

「あ、うん。ごめんね」

 

イオンが素直に下がってくれてありがたい。

 

「とりあえず、イオンにはこれを」

 

オレの宝物庫から令呪を追加して3画に

 

「え? ええ?? 令呪って貴重なものじゃ……?」

 

「とりあえず3画使って受肉するように命じて」

 

「あ、うん……。『令呪を全て以て持って命じる。アーチャー、受肉せよ』」

 

令呪が消えるとともに狂三の存在がどこか不安定なものから実体を常に伴う状態へと変化した。

 

「それじゃ、やるか」

 

オレは自分の右目に手を添えた後、狂三の左目に添える。

 

「え? え? こ、これは?」

 

目に感じた違和感と、オレの手が離れた後の左目が見た世界に困惑してるのが手にとるようにわかる。

 

今オレの右目が無いから閉じてるし、左目でしか見てないけど。

 

「とりあえずこれで準備はもんだいなし。後は分身作って」

 

「あ、はい」

 

影から分身が出てきた。

 

その娘の左目が輪廻写輪眼になってるのを確認。

 

「今からオレの手の動きを分身は真似して」

 

「は、はぁ……」

 

オレは一つずつ印を結び、狂三の分身もちゃんとできてることを確認しながら続ける。

 

「これで最後な」

 

「わ、わかりましたわ」

 

最後の印を結んだ瞬間発動するのは、外道・輪廻天生。

 

「こ、これは……ちからが、ぬけ……」

 

そのまま消えるとともに、聖杯からアーチャー脱落の通知が届く。

 

「これでおわりですの?」

 

「いや、まだ終わってない。すぐ終わらせるけど」

 

おれはまた彼女の左目に手を当てたあと、自分の右目に手を添える。

 

「? 戻った? 一体何を?」

 

困惑する狂三に説明しようとしたが、長くなるのでとりあえず後回し。

 

ちゃんと戻ってきた自分の目に安堵しつつ、彼女の首と胸の間になるべく目立たないように呪印を刻む。

 

「何をやったかは後で図解付きで説明する。――とりあえずこれで擬似的なマスター権限とパスをつけた。無理に剥がすなよ?」

 

「ええ、ここまでしてもらって恩を仇で返すつもりありませんわ」

 

「これであの人たちから開放……されないのかな」

 

イオンがしょんぼりするのでオレはため息交じりに答える。

 

「オレのマスターと嫁たちが認めてくれてるから、ウチで二人共保護するさ。――一応分身も突けるから、こまったらそれに頼れ」

 

「「はーい」」

 

とりあえず想定していた最悪の事態は避けれたのでヨシとする。

 

――その分自分に舞い込んでくる不幸は見て見ぬ振りをすることにして。

 



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第24話 益州牧劉備と益州制圧 その3

あれから更に数日後。

 

オレは塩漬けにされた無念の顔してる劉璋の頸を横目に、使者のたわわなアレをみていた。

 

「……と言うことなので、逆賊劉璋はこの通り、頸だけとなりました。しかし劉表様は手柄などは欲しません。ただ同じ皇室として手を貸しただけに過ぎないとのことで……。……あの、大丈夫ですか?」

 

「ああ、申し訳ない。ここ数日仕事で寝る時間が確保できなかっただけだ。劉璋を招き入れ、荊州牧簒奪を目論んだそちらの腐敗していた県令を処断する口実にもなったということも、即物的な対価は不要ということもな。黄漢升殿」

 

オレの言葉に少し動揺の色を見せたがすぐに落ち着く黄忠。

 

「キリト殿の慧眼に驚くばかりでございます」

 

「経験と可能性の模索の積み重ねが人より少し多かっただけにすぎない。……それはさておき、成都に我が主がいるから、そちらまで経路で足止めをなるべくされないよう、自分の文を認めておきましょう。今宵文を認めるのと、もてなしも無く使者を送り出したら主に怒られるので、今日はここの城で御付きの者たちと共に休まれては如何かな?」

 

「お言葉に甘えさせていただきます」

 

オレの提案に頷く黄忠。

 

色々揺れて大変そうである()

 

(パパ……使者さんのおっぱいガン見してたのをママたちには伝えたので、三徹目、頑張ってください)

 

(ユイ……とうとう直接脳内に通知するように……)

 

案内役を買ってでた狂三に誘われ、退出する彼女たちを見送ったあと、そばにいたイオンにジト目を向けられていた。

 

「……えっと……」

 

「やっぱりあなたっておっぱい好きなんだね。あの世界*1で私にしょっちゅうセクハラしてたし、ねりこさん来たときとかもそっちに視線いってたし……」

 

「セクハラ云々は別途謝罪する。それはそれとして、あんなもの見せられたら目が行くのは過半の男のサガなんだ……本能に完全に打ち勝てた訳じゃない……」

 

真面目に答えると、少し考える素振りを見せるイオン。

 

「……まあ私は、許すよ。嫉妬ちょっとあるけど、私のこと蔑ろにしないって信じてるし」

 

「本当に?」

 

「うん。でも――娘のユイちゃん煩わせてるのは、ダメだと思うなぁ」

 

「ごもっとも」

 

イオンとの再会は嬉しいが、怒られる頻度が雪だるまのように追加されてることについては、素直に喜べなかった……。

 

 

 

 


 

 

 

 

オレは使者がいなくなり次第人払いし、緊急招集をした。

 

ビデオ通話状態になる中空。

 

開口一番にオレは謝罪する。

 

「すまん、しくじった」

 

『アンタらしくもない。何があったの?』

 

シノンが目を丸くして問いかける。

 

「劉璋が荊州に逃げて、逃げた先の県令がそれ使って反乱企てたってことで、劉璋共々処断された。桃香のところへ半月以内に劉璋の頸持った黄忠がたどり着くはずだ」

 

『えぇ……まあ、私が見たほうがいいのか……』

 

『? 劉璋の頸を撥ねる手間が減っただけでは?』

 

桃香の言葉に続き、焔那が疑問を投げ掛けた。

 

間髪置かずに焔耶が誰か(たぶん桔梗)に殴られる。

 

『馬鹿弟子で申し訳ない……』

 

『えっと……経緯や理由はどうであれ、《桃香様様が討伐するはずだった劉璋》を《劉表が討伐した》ってことになって、これが公になれば桃香様は《勅を果たせなかった不忠義者》といわれても反論出来なります』

 

『しかし、劉表はこちらに頸を渡す意志があるようです。……ただ、対価無く渡して来ても、何らかの対価を求めても《不忠義者と言われる不名誉》を払拭するほど……あるいはそれ以上の対価を吹っ掛けることができてしまうんです』

 

雛里の言葉に朱里が補足する。

 

『……対価の吹っ掛けは理不尽だし、そもそもそこの色情狂がそこ*2見落としてたのが原因だと思うが。責任とって腹を切るべきでは?』

 

「その意見については、(半分意図的に)やらかしたとしか言えないな」

 

『お兄さんの場合は、腹を切っても死なないから、別の罰用意しないとね。……それより、劉表が頸と引き換えに何を要求してくるかと、それに対して最初にこっち提示する対価、最終的な妥協点を考えとこうか』

 

『『『賛成!』』』

 

桃香の一声でとりあえず最悪は回避できたのだった……。

 

 

 

 


 

 

 

 

更に数日後。

 

永安が勢力的空白地帯になったので、兵士を集め、色塗り(制圧ともいう)を開始する。

 

「各部隊長は指定された地域に赴き、村や町の長たちにオレが夜なべして用意した勅の写しを提示して、州牧変更に納得させること。そして反乱分子がいたら確保すること。以上、行動開始」

 

「「「はっ!」」」

 

散開していく部隊長クラスを見送るオレ(となんかついてきたイオンと狂三)

 

「……さて、オレは手勢二千でやってくぞ」

 

「「おー」」

 

そのまま永安に進み、街に近づくと馬に乗った使者が数騎、やってくる。

 

「もう少しお待ちを!呉懿様が参りますので!」

 

「……一刻まで待つ」

 

オレがそういうと血相を変える使者たち。

 

1人残して慌てて戻っていった。

 

そしてまもなく戻ってくる使者2人とそれについてきた1人の人物。

 

肩にかからないくらいの長さに揃えたブロンドヘアーと冷静さを感じさせる蒼い瞳、やや茶色が入った黒い服を着こなすキャリアウーマンのような雰囲気を持つ女性だった。

 

「遅くなり申し訳ありません。私は永安太守の……え? イオン?」

 

「レナルル……さん?」

 

呉懿とイオンが互いを見つめて呆然とする。

 

「……あー、呉懿さん。うちの人と話すのは開城交渉終わってからでお願いします」

 

オレがそう告げるとはっとした様子で我に返る。

 

「改めて……永安太守の呉懿と申します。そちらの要求をまずお伺いします」

 

「とりあえず要求は『将兵の武装解除』と『劉玄徳益州牧の統治の承認』、あとは『それに抵抗する人物の拘束の承認』だな。将兵と文官の扱いについては『臣従、引き続き雇用を希望する場合は今後軍規や法に従う』ことと『異動命令が発生に従う』ことが必須だ」

 

オレの言葉に頷く呉懿。

 

「いずれも問題ありません。……永安郡の各県に兵士を派遣済みのようですし、私からの説得は永安の都市の将兵と文官、民だけで良さそうですね」

 

「話が早くて助かる」

 

オレの言葉に頷いたあと、彼女は冷静に告げた。

 

「では――各員に通達。将兵に武装解除、文官と民に統治者の交代を通知。同時に城門の解放を行いなさい」

 

「「「はっ!!!」」」

 

散開する使者。

 

それを見たあと、こちらを見て何かいいたげな顔をする。

 

「……ああ、イオンと話したいのか。構わないが、同席はさせてもらうぞ」

 

「分かりました」

 

オレ(とずっと傍に控えてた狂三)は有言実行でプライベートな時間を示すように人払いを命じ、イオンから少し離れる。

 

「……イオン、久しぶりね」

 

「レナルルさん!」

 

呉懿に抱きつくイオン。

 

「イオン、元気そうでよかったわ。一応、ここでは呉懿って名前で、真名がレナルルだから、私が真名を許してない人にはちゃんと呉懿って紹介してね?」

 

「うん。……あ、レナルルさんに紹介するね。この人がキリト。……アーシェスやデルタを通じて私たちを助けてくれた人だよ」

 

イオンはそういってわざわざオレのところにきて、腕に抱きついた。

 

「! 貴方のお陰で多くの人が救われたわ。本当にありがとう」

 

そういって頭を下げるレナルル*3

 

「オレはイオンのためにできることをしてただけだ」

 

それ以上は無粋なので切り上げる。

 

「それで、こっちは時崎狂三ちゃん。私の……友達?」

 

後半疑問符な説明をするイオン。

 

それに反応してスカートの端をつまんで軽く礼をする狂三。

 

「ご紹介に預かりました時崎狂三ですわ。イオンさんの従者(サーヴァント)であり、友人であり、竿姉妹候補ですわ」

 

「……最後が私の聞き間違えなら良いのだけれど、なんていったのかしら?」

 

「竿姉妹ですわね」

 

「誰と誰か……誰の竿姉妹?」

 

周囲の温度が下がっていく気がしたオレ。

 

しかし、狂三は意に介さずに答えた。

 

「私と、イオンさんが、キリトさんの竿姉妹、ですわね」

 

「私はキリトと一緒のベッドで寝たりはしたけど、そういうことまだしてないから……!」

 

オレを助けるつもりで回避不可の袋小路に追い込んでいくイオン。

 

「……キリト殿」

 

「はい」

 

「イオンを大切にすると言い、イオンのジェノメトリクスで婚姻まで行ったというのに、他の女性に現を抜かすとは――」

 

「ちなみに劉備軍の主要な女性の将と文官と彼は肉体関係ありますし、なんなら私、イオンさん、法正さん、厳顔さん、魏延さん、廬植さん、あと建寧の人妻の方を除けば全員竿姉妹ですわね」

 

「……!?」

 

レナルルが頭を抱えたまま倒れそうになったので慌てて支える。

 

「あの、大丈夫です?」

 

「……複数の女性と関係を持つ例は歴史にもありますが、イオンの大切な人がそれと聞いて、眩暈がしただけです」

 

「まあ、貴女も既にイオンさんを通じてキリトさんというウイルスに触れてしまってるので、竿姉妹(こちら)側に来るのも時間の問題かと」

 

「狂三、オレをウイルス扱いしないでくれる???」

 

「……私が同衾するときは必ずイオンも交えて」

 

「話し聞いてる???」

 

暴走してる狂三とレナルルにオレは頭を抱えるのであった……。

 

 

 


 

 

 

「ということで永安郡は占領完了。統治は呉懿……レナルルにしばらく任せます」

 

『紹介に預かりました、呉懿です。真名をレナルルと申します。劉備軍の末席に加わり、微力ながら力を尽くします』

 

『そやつ、イオンの前世で宰相として辣腕振るっておったから、統率力と処理能力を評価して文官系の重臣として抜擢するべきじゃな』

 

レナルルの言葉にねりこが待ったをかける。

 

『……何故それを知っているのか知りませんが、下ったばかりの私には過ぎたものかと。……そもそも、永安太守のままの時点で過剰な気がしますが』

 

『故事の隗より始めよ……ではないが、《劉備軍に下った者で才能あるものはしかと評価される》という風評の実例作りじゃな。ユージオや桔梗も同じ例になるかのう。同時に《ただし、素行も加味される》例として我が実例になれば言うことなしじゃろ?』

 

『貴女は意図的に手を抜きすぎてますのでしっかり働いてください』

 

傍観者決め込んでたアリスが突っ込む。

 

『それでは意味なかろうに』

 

『……すみません、話を遮りました。続けて下さい』

 

アリスが根負けして続きを促す。

 

「永安の統治が軌道に乗り次第、イオン、狂三と共にオレの直轄に組み込見たいが構わないか、桃香」

 

『代わりは誰の予定?』

 

桃香の問いかけにオレは直ぐ答える。

 

「蜜璃と補佐にリーファ、雪泉だ。できれば仕事が一段落したら直ぐにこっちに向かってくれ。五斗米道(ゴッドヴェイドー)の布教も許可する。ついでに人事異動だが、漢中の抜けた穴は鈴と一夏に対応してもらって、愛紗と箒を交代だ。愛紗には鈴々や千冬さんと共に上庸を前線と想定して兵士の調練を頼みたい。何か連絡は……無さそうなので解散」

 

これであとは劉璋の頸の交渉次第になるだろうな。

 

オレはそう思いながら、甘えてくるイオンを撫でて一息つくのであった……。

*1
シェルノサージュでのこと。詳しくはプレイして確かめたまえ!

*2
劉璋が逃げて勝手にくたばる可能性

*3
まだ真名を預かってないが、劉備軍だと真名交換がデフォなのでそのうち交換するのと、真名のほうがしっくりくるので真名表記



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第25話 益州牧劉備と益州制圧 その4

今回はキリト以外の視点です。
たぶん次が終わればしばらく洛陽の分身回想編になります。


――成都 桃香視点

 

お兄さんが前言っていた通り、黄忠さんが数人のお供を連れてやってきた。

 

「こちらが劉璋の頸となります。ご確認お願いします」

 

そういって差し出した箱をねりこさんが受け取って、こちらに持ってきた。

 

「うむ、劉璋の頸で間違いないのう」

 

「みたいですね」

 

死体は見たことあるが、やはり見てて楽しいものじゃない。

 

そしてまだこちらのものになってないので、ねりこさん経由で黄忠さんに戻す。

 

「……えっと、そのままお渡ししますが……」

 

困った顔の黄忠さんに、桔梗さんが告げた。

 

「紫苑よ。我が主はもらった後に何かしら要求されても困るから、先に色々決めておきたいそうだ」

 

桔梗さんの言葉に納得したように頷く。

 

「色々勘ぐらせて申し訳ありません。劉表様からは『特に対価は不要。強いて言えば隣り合う州の牧として、同じ宗室としてよしなに』とのことです」

 

えっと、この場合は……どうするんだっけ?

 

私がワタワタしてると、ねりこさんが小声で教えてくれた。

 

「『親しき仲にも礼儀ありと言います。ささやかですが謝礼の品をお受け取りください』じゃよ」

 

「親しき仲にも礼儀ありと言いますし、私の気が収まりません。心ばかりかもしれませんが、金子などを用意しましたので、お持ち帰りください」

 

ワタワタしたまま話したせいか、桔梗さんとねりこさんが微妙そうな顔をした。

 

「……ふふふっ」

 

黄忠さんがまるで子供の成長を微笑ましく見守るお母さんのような笑顔を見せた。

 

「ここからは腹を割って話しましょう。腹の探り合いして、お互いにいたくもない腹を探られるのは不快ですからね」

 

「あ、はい」

 

「劉表様は荊州牧としての方針が『荊州の繁栄と不要な戦争の回避』となっています。そのため、『新しい州牧の劉備様がこちらに敵対しない、攻め込まないという取り決め』ができるなら、『劉璋の頸はいらない』とのことです」

 

すごく、本音を暴露された気がする。

 

「領境での小競り合い、賊徒などについては?」

 

ねりこさんが冷静に質問すると、

 

「いずれも大事になる前に双方の県令、太守、州牧が動いて穏便に収めるよう、動く方向で。無論後者はどちらかの手の者であろうと討伐ですが」

 

と黄忠さんが答える。

 

「『劉璋程度の頸はくれてやるし、交流とか境での揉め事もこっちもある程度配慮するから、こっちと揉めないように努めてくれ』ってことか。……儂としては問題ないと思いますが桃香様はいかがお考えで?」

 

桔梗さんが試すように私を見る。

 

ねりこさんは……面白がってるだけか。

 

私は息を吸い、吐いて、また吸ってから答えた。

 

「此方としても不要な争いは望みません。荊州にこちらから侵略や宣戦布告を行うつもりはありません。しかし――」

 

私は自分を落ち着かせるために息をする。

 

「――こちらに攻め込んで来たのなら、報いは受けてもらいますし、荊州で圧政や暴政を行うようになったのなら……。私は……私たちは、荊州の民のために立ち上がると思います。……この言葉と、心ばかりですが礼を持って、お帰りください」

 

「「「……」」」

 

な、なにも反応ないけど空回ったかな……?

 

「分かりました。しかとお伝えさせていただきます」

 

そういって頸の入った箱を置いて、兵士に持たせていた金子の箱を受け取り去っていく黄忠さん。

 

彼女が見えなくなると、2人が口を開いた。

 

「良い啖呵だったのう」

 

「キリト殿も一層桃香様を善き主として認めてくれるでしょうな」

 

「オレもそう思う」

 

「「「!?」」」

 

いつの間にかいたお兄さんに驚く私たち。

 

「お兄さん、いつの間に!?」

 

「オレ普段から桃香を護衛してる分身。あと普段夜か仕事忙しい時以外は姿消してるだけだから」

 

そういって背中を向けるお兄さん(の分身)。

 

証拠に黒い外套に「壱」という数字が白字でかかれている。

 

夜にお兄さん(本体)が来ない時に相手してくれる分身で間違いなかった。

 

「本体からの伝言な。『民のことを思える桃香が主で良かった』だそうだ。とりあえず伝言したから任務に戻る」

 

言うだけ言って分身さんが風景に溶けて消える。

 

まあ見えないだけで居るんだろうけど。

 

「とりあえず……私たちはできることをしていこう」

 

――民の平和な生活を護るためにも――

 

私は改めてそう誓うのだった……。

 

 

 

 


 

 

 

――永安 イオン視点

 

「今夜、イオンの部屋に行っても良いか?」

 

仕事が一段落してお茶を飲んでいた私は驚いて噎せてしまった。

 

「けほっ……いきなりどうしたの?」

 

「いや、イオンからのデートも、わりといきなりだったし……なかなか言い出す機会がなくて……ごめん」

 

申し訳なさそうにするキリト。

 

「で、でも、心の準備する時間があるから、だ、だだだ大丈夫!」

 

「……その態度を見て大丈夫と思う人居ないと思うのですが……」

 

狂三ちゃんからの言葉が痛いよ……。

 

「イオン……待たせてごめんな」

 

そういってキリトは部屋を後にした。

 

「……とうとう私のマスターもキリトさんの毒牙にかかって劉備軍竿姉妹部の一人に……」

 

言い終わる前に狂三ちゃんの後ろからアームロックをかけるレナルルさん。

 

「狂三さん、イオンを困らせないでください」

 

「わ、分かりましたから、離してくださいませ!」

 

……2人のやり取りを横目に自分の部屋に戻る。

 

何か折れた音がしたきがするけど、たぶん気のせい。

 

 

 


 

 

 

夜も暮れ、明かりの真空管を灯す(動力源は城の地下の魔力溜まりを電気に変換したものらしい)

 

じっとしてるのがどうしてかできなくて、自分を落ち着かせるように姿見で変なところないか30回以上確認していると、ノックが4回された。

 

「あ、あいてますにょ」

 

思いっきり噛んでしまった……。

 

わたわたしてるとキリトが入ってきた。

 

「イオン、大丈夫……じゃなさそうだな。落ち着いて、ほらヒッヒッフー」

 

「ヒッヒッフー……ってこれ、ラマーズ法だよね!? 私妊婦じゃないよ??」

 

私がそういうと、彼は苦笑した。

 

「分かってるさ。でも――緊張は無くなっただろ?」

 

「あ……」

 

言われて気がつく自分の状態。

 

「その、ありがとね」

 

「端末を通じていたし、オレにとってはいくつも前の前世の話だが、夫婦になった相手のことだ。覚えてるさ」

 

そういって私を抱き締めるキリト。

 

「……キリトもドキドキしてる。早鐘みたいに動いてる」

 

「……」

 

珍しく(?)狼狽えるキリトを見て、彼も私と同じ人なんだと実感する。

 

「イオン……漸くこうしてふれあえたな」

 

「うん」

 

「こっちから話せること無かったけど、これからは色々話してくから」

 

「うん」

 

「あと数多くの女の子と関係あるし、これから増えるかもだけど許してほしい」

 

「うん……うん?」

 

思わず頷いたけど、女の子として納得できない。

 

彼の今のパートナーや、回りに居る娘たちがいるし、納得しないとなんだけど……。

 

「……本当は認めたくない」

 

「……ごめん」

 

独り占めできないと分かるから、せめて抵抗だけでもと彼の胸板にペチペチと力のこもらないパンチをしてから、私も彼を抱き締めた。

 

「……今夜は、私だけを見てくれないと、嫌だよ?」

 

「……そこのクローゼットにいる2人がいるから、気になって難しいかも」

 

私の言葉に、ばつがわるそうに答えるキリト。

 

そしてキリトの言葉に観念したのか、クローゼットから出てきたのはいつの間にか侵入してたレナルルさんと狂三ちゃんだった。

 

「……イオンの親代わりとして、見守ります」

 

「主の傍にいるのは従者の役割ですわ」

 

キリトが2人の言葉に居心地がわるそうな顔をする。

 

「流石に空気読んでほしいなぁ」

 

「……イオン、何かあったら直ぐ呼ぶのよ?」

 

「できれば混ざって魔力供給してもらいたかったのですが……退散しますわ」

 

そういって出ていくふたり。

 

そうするとそっと私の額にキリトがキスをした。

 

「……イオン、怖かったら言うんだぞ?」

 

「大丈夫。……この時をずっと、待ってたから」

 

私は少し背伸びして、彼の唇にそっとキスをした。

 

「……悪い、手加減できないかもしれない」

 

彼はそういうと、私をお姫様抱っこし、寝室へ連れていくのであった……。



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