Fate / SAO (YASUT)
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1.プロローグ

まずはpixivのから。


「グルァァ―――!」

 

 明らかに人間ではない生き物………“亜人”が手斧を振るう。

 軌道は読めている。この程度、今まで戦ってきた者たちに比べれば、止まっているも同然だ。

 武器を振るうことなく、俺は手斧を躱す。

 そして。

 

「―――――同調、開始。」

 

 すれ違いざまに、一瞬で斧の構造を読み取る。

 

 構成材質―――――解明。

 刃に使われている素材は何のことはない、ただの鉄。

 材料と作る工程さえ解れば、誰にでも作成できるだろう。

 

 憑依経験―――――不明。

 否、“零”。

 経験を読み取れないことから、作られて間もない武器だということが解る。

 

 基本骨子―――――いや、必要ない。ここまでの情報で十分だ。

 即座に、次の動作に移行する。

 

「はっ―――――!」

 

 左手に握られた“ロングソード”を横凪に振り切る。

 武器を振るった直後の、不意をついた反撃。

 タイミング、角度、あらゆる面において完璧な一撃。

 しかし、そこには一つだけ誤算があった。

 それは何のことはない、純粋な障害。

 “剣速”。すなわち、己の身体能力。

 

 渾身の力を込めて剣を振るう。

 しかし剣は、込められた力に全く見合わない、予想以上に“遅い”速度で振るわれた。

 

 本来ならば、この一刀で目の前の亜人は地に沈む筈だった。

 だが亜人は、剣が直撃する寸前に手斧を構え、こちらの攻撃を間一髪防いだ。

 剣速が遅かったせいで、防御を許してしまったのだ。

 武器と武器がぶつかり合い、火花を散らす。

 

「っ………!」

 

 瞬時に次の手を模索する。

 自分の動きが鈍い。普段の………いや、この世界に来る前とは雲泥の差。

 まるで、未熟だったあの頃に戻ってしまったかのようだ。

 

 だがそれは、あくまでも己の身体能力のみらしい。

 思考は冴えている。

 初めて見るはずの亜人が相手でも、はっきりとその動きが読める。

 

「グガァァァ―――!!」

 

 手斧による攻撃が難なく躱され、さらに反撃を受けたことで怒りが頂点に達したのか、亜人は怒りながら斧を叩きつけようとする。

 左手の剣は振り抜かれ、奴には俺が隙だらけのように見えているんだろう。

 そう見えるのも無理はない。

 何故なら、そう見えるように立ち回っていたのだから。

 

「はっ……!」

 

 隠し持っていた短剣を空いている右手で取り出し、亜人の斧を真下から鋭く斬り上げた。

 

「ッッッ―――――!!?」

 

 再び火花が散り、同時に斧が上空へ高く弾かれる。

 突然武器を失ったことで、亜人は怯み、目を見開いた。

 

 左手に握られた剣にもう一度意識を集中させる。

 目の前の亜人は今、どこからどう見ても隙だらけだ。

 更に武器は弾かれ、残された左手には盾のような装備もない。

 

 つまり、今のコイツに防ぐ手段はない。

 

 必殺の意思を持って、もう一度剣を振りぬく。

 剣は使い手である俺の意思に従い、一寸の狂いなく亜人を斬り裂いた。

 

「グゴッッ……! グルゥゥ―――――……!!」

 

「…………っ、くそ。」

 

 ………やはり、というべきか。

 剣速が落ちているのだからもしかして、とは思ったが………やはり、威力もかなり落ちている。

 全ての行動に制限が設けられている感覚。

 “敵が強い”というのならば、まだ遣り様があるだろう。

 だが、“自分が弱くなっている”というのは、どうにも戦いづらい。

 

 胴体に致命傷を受けた亜人は、大きく後方へ下がり、俺と距離をとった。

 しばらくすれば奴は体勢を立て直し、また襲いかかってくるだろう。

 

「―――――。」

 

 右手の短剣を持ち替える。

 

 左手にはひと振りの長剣を。

 右手には鋭い短剣を。

 

 今度は正真正銘、初めから二刀流のスタイルで追撃する。

 これで終わりだ―――――

 そう確信を持って攻撃に入ろうとしたところで、背後で待機していた“彼女”が動いた。

 

 

 水色のドレスを纏った少女。

 以前とは違い、金の髪は全て下ろされている。

 両手に握られているのは、可憐な格好に似つかわしくない無骨な剣。

 

 青のドレスも、銀の甲冑も、黄金の聖剣も、既に彼女は持ち合わせていない。

 けれど。

 その美しさは衰えることなく、確かにそこに在った。

 

「はっ―――――!」

 

 俺の背後から彼女は飛び出し、恐るべき速度で亜人を一閃する。

 その剣筋は、俺なんかとは比べるまでもない。

 

 “セイバー”。

 

 剣の英霊を名乗るに相応しい一撃で、亜人は今度こそ霧散した。

 

 

 ◆

 

 

「………すごいな。今のが“ソードスキル”ってやつなのか?」

 

 武器を収めながら、セイバーに称賛を贈る。

 先程の彼女の一撃は、今までの俺の剣に比べると凄まじい威力だった。

 もしあれを俺自身に撃たれたら、おそらくこの剣では防ぎきれないだろう。

 

「………はい、どうやらそのようです。」

 

 自分の剣をじっと見つめながら、セイバーは答える。

 しかし、表情は明るくない。

 

「特定の構えをとった後、意識を集中することが発動の条件のようです。

 ですが、やはり、私には扱い辛い。」

「? なんでさ。俺なんかが言うのは差し出がましいけどさ。さっきの一撃、結構凄かったぞ。」

「はい。しかし、放つには特定の構えを取る必要があります。相手がただのモンスターだから良かったものの、人間が相手では限界があるでしょう。

 これは確かに強力な武器です。ですが、ソードスキルという“誰かに作られた武器”に頼りきるのは危険だ。」

「あー………それは、確かに。」

 

 ソードスキルに頼りきる、か。

 きっとそれは、俺風に言うなら“投影に頼りきる”ということだろう。

 投影魔術で持ち主の技術はある程度再現できるが、あくまでも“ある程度”どまりだ。

 それだけでは勝てない。

 だからこそ、“干将・莫耶”による“エミヤシロウ”の剣を磨いてきたのだ。

 

「ですから、明日からまた剣の鍛錬を行いましょう。

 場所は………そうですね、“あの男”が現れた広場で。 

 今一度、貴方の剣を見せて頂きたい。」

 

 手を腰にあて、いつか見た不敵な笑みを浮かべながらセイバーは言う。

 長らく忘れていた彼女の笑みに、思わず頬が緩む。

 そういえばこうだった、という思いと、これほど素晴らしいものだったか、という疑問が渦巻く。

 

 いや。

 そんなことはもはやどうでもいい。

 何故ならば。

 これからは、彼女の笑みを何度でも見ることができるのだから―――――

 

「―――――そうだな。よし、覚悟しとけよセイバー。あの時とは違うってことを、嫌というほど思い知らせてやる。」

「ええ。ですが、私とて負けるつもりはありません。これでも“セイバー”ですから。」

 



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2.始まりの街

キリト視点から開始。


 始まりの街に、恐ろしく強い女剣士がいた。

 

 俺がこのことを知ったのはあの日―――――《始まりの街》を出た日から三週間後。

 第一層フロアボス攻略会議が始まる、数時間前のことだった。

 

「にひひ、まいど~。」

 

 にんまりと笑う、俺より頭一つほど背の低い女性。武器は左腰に小型のクロー、右腰に投げ針。頬には動物のヒゲのような三本の線。

 ―――――“鼠”。それがアルゴという情報屋のもう一つの名前だ。

 

 情報量として、俺は五百コルをアルゴに渡した。ちゃりん、と金銭独特の効果音が鳴り、所持金が減少する。

 購入した情報の内容は、『強力な女性プレイヤーについて』という、なんというか、考え方によっては下心丸出しな内容だ。

 けど、別に下心があったわけじゃない。理由は他にある。

 先程出会ったアスナという細剣使い。超高速の細剣スキル『リニアー』を得意とする、アインクラッドでは珍しい女性プレイヤーである。

 彼女の放つ『リニアー』は、俺ですら戦慄せずにはいられない程の完成度で、初めて見たときには目を奪われたものだ。

 ただ、そこで一つ疑問が生まれてしまった。

 

 アインクラッドに女性プレイヤーはどれくらいいるのか、である。

 

 そこで俺は情報屋であるアルゴに、「強い女性プレイヤーはいるのか」と聞いてみたのだ。

 答えはイエス。かつて恐ろしく強い女剣士―――――おそらく、アスナとは別のプレイヤー―――――が、始まりの街にいたらしい。

 

「………ん?」

 

 そこで俺は、言葉の違和感に気づいた。

 

「なあ、“いた”ってどういうことだ? もしかして………」

「うんにゃ、まだ死んでなイ。それどころか、ピンピンしてると思うヨ。

 というかキー坊、ホントに知らないのカ? 二人組の剣士のコト。」

「え……二人組?」

「さっきキー坊と一緒にいたレイピア使いの他にもいるんだヨ。超強力な女性プレイヤーが、ネ。

 しかもこれが生粋の外国人で、金髪で碧眼の美人なんだヨ。で、いつも褐色の肌をした白髪の男を連れてるんダ。

 遠目にチラッと見た奴は、まるでお姫様とボディーガードだ、なんて言ってたナ。」

「ふぅーん。」

 

 外国人か。確かに、世界初のVRMMOなんだから、そういう人がいてもおかしくはないだろう。確か、自動翻訳機能もあったはずだ。会話で困る、なんてことはまず無いはず。

 だけど。

 

「お姫様……ってことは、実はそこまで強くないんじゃないか? 案外、強いのはボディーガードさんの方だったりして。」

「キー坊、発想力が貧困だナ。世の中には文武両道なお姫様もいるゾ?」

「う………そう、か。そりゃ、そうだよな。」

 

 はぁ、とアルゴが溜息をついた。

 ……しまった。これくらいよく考えたら……いや、よく考えなくてもわかることだった。

 

「まあでも、気持ちは分かるゾ。いくらそのお姫様が強いといっても、まさかボディーガードの男より強いはずがなイ。

 だとしたら、どうして外国人の方だけが有名なんだろう。それ以上に強いはずのその男は、どうしてそれほど話題にならないんだろうってナ。キー坊はそういうコトが言いたいんだロ?」

「あ、ああ、そうそれ! 実はそれが言いたかった。」

 

 嘘つけ、と言わんばかりの視線を向けられるが、全力でスルーする。

 

「………で、実際はどんなモンかナと思って、前に一度始まりの街に戻ったんダ。

 見つけた場所はアイツ……“茅場晶彦”が現れた広場。」

「へぇ。で、感想は?」

「それが、目を疑わずにはいられなかったナ。

 お姫様?とんでもなイ。あれはそんなヤワな印象じゃなイ。ホンモノの剣士、いや騎士ってところかナ。」

「ふーん。でも、意外だな。恐ろしく強いのに、始まりの街で見たのか?」

「見たのはかなり前。今はどうだか知らないケド、あれ程の腕なら今頃最前線で―――――ン?」

 

 言葉が途中で途切れる。次の瞬間、彼女の注意は俺から逸れていた。

 アルゴの視線は、俺ではない誰か………いや、どこかを見ている。

 そしてそれは、俺も同様だ。

 

 音。

 

 鉄と鉄をぶつけ合ったような音が、少し遠くから聞こえた。

 鍛冶屋プレイヤー、もしくはNPCが武器や防具を鍛える音かと一瞬思ったが、きっと違う。

 まず鍛冶プレイヤーという可能性だが、これは殆どゼロに近い。第一層の攻略を目指すなら、他の戦闘用スキルを上げるべきだからだ。もう少し攻略が進んでからならともかく、他にスキルを育てる余裕のない序盤、しかも最前線プレイヤーが鍛冶スキルを上げるのは賢いとは言えない。

 次にNPCだが、これも違う。NPCは武器や防具を強化する時、常に一定のリズムでハンマーを振るう。だから、聞こえてくる音はもっと規則的なものになるはずだ。こんな不規則で、しかも鍛えてる武具を破壊しかねないような音を出すはずがない。

 

「………何の音だ、これ。」

「噂をすればなんとやら、ってやつだナ。」

「え?」

「丁度いい、説明する手間が省けタ。ほら、行くゾキー坊。イイものを見せてやるヨ。」

 

 ニヤリという笑みをこちらに見せたあと、アルゴは鉄の音が鳴る方向へ足を進める。

 そして彼女の背中は、理由も分からず呆然としている俺に「ついてこい」と言っていた。

 

 断る理由が見つからないので、俺はアルゴの後ろをついて行く。

 通る場所が人気のないところばかりなのは、情報屋という職業ゆえか。

 しかし歩を進めるに連れ、次第に周囲の人は多くなっていった。

 ここまで来て一つ確信を持った。鉄同士が衝突するようなこの音は、剣の音だ。剣と剣がぶつかりあい、火花を散らす音。

 つまりこの先ではプレイヤー同士の戦い―――――“デュエル”が行われている、ということか。

 デュエルには幾つか種類があり、その中には“初撃決着モード”というものもある。これは、先に強攻撃をヒットさせるか、相手の体力ゲージを半減させた方が勝利するというシステムで、普通に行えばゲームオーバーにはならない。つまり、本来なら死者が出ない仕様のデュエルである。

 だがそれにしたって、デュエルというのはやはり危険だ。この世界では体力がなくなった瞬間に死ぬ。体力ゲージを常に最大をキープしたいと思うのは、人間としての本能だろう。

 それに、互いが全力で殺し合っている可能性もゼロではない。

 もしそうだったとしたら……

 

「肩の力抜けヨ、キー坊。心配しなくても、キー坊が思っているようなことにはなってないサ。」

「えっ……い、いや……けどさ。」

「大丈夫だって言ってるダロ。………お、見えてきたナ。ほら、あそこダ。」

 

 しばらくすると、一際大きな広場に出た。

 平らな地面が広がっており、周囲にはNPCもおらず、障害物になりそうなオブジェクトも殆どない。多人数で行動するプレイヤー達ならともかく、基本的にソロプレイな俺にとっては日向ぼっこくらいにしか来そうにないところだ。

 そんな喉かな広場の中央で。

 俺は、想像を遥かに超えた凄まじい光景を目にした。

 

 

「っ、ハッ!!」

 

「ぎっ―――――!」

 

 

 両者の剣が衝突した。

 ガキン、という鈍い音の後、広場全体に巨大な衝撃波が発生する。

 剣の音に引き寄せられやってきた野次馬達(俺を含む)は、そんな二人の剣舞から目が離せなかった。

 

 片方は、ドレスを纏った金髪碧眼の女性。目測に過ぎないが、年齢はアスナと同じくらい、だろうか。

 そんな女性が額に汗を滲ませながら、対峙している相手を懸命に攻めている。

 その剣速は、アスナに勝るとも劣らない。

 もう一方は、褐色の肌に白髪の青年。黒のズボンに灰色の上着。首元には赤銅色のマフラーを巻いている。年齢はおそらく二十を超えているだろう。

 女性が猛攻を繰り広げているのに対し、こちらは高速の斬撃を必死に防いでいた。

 

 どちらも手にしている武器は『スモールソード』。片手剣士の初期装備であり、始まりの街で買うこともできる最弱の剣だ。

 そう、最弱の剣のはずだ。

 だというのに、そんな安物の剣同士の戦いだというのに、得物が衝突するたびに火花が散り、空気が震える。

 剣舞。俺は二人の戦いをそう称したが、早くも訂正せざるを得ない。

 これは剣舞ではなく死闘。初撃決着モードなんて生温い。HPを削るのではなく、ただ単純に、そして純粋に、二人は相手の首だけを狙い続けている。

 

 しかし、だからこそ手を出すことは出来ず、止めることもできず、ただ呆然と見ているしかなかった。

 実力が拮抗した二人の死闘。一瞬でも相手を上回った瞬間、勝敗が決着する。

 そんなギリギリの戦いは、男なら誰でも一度は夢見るはずだ。

 止めなければならない、という思いとは裏腹に、最後まで見届けたい、という思いが生まれた。

 少なくとも、ここで彼らの戦いを見ている奴らは皆そう思っているはずだ。だからこそ二人を止めることなく、こうして傍観している。

 

 ふと、思い至った。

 これは生と死のやり取りで、紛れもなく死闘だ。

 だが同時に、極限まで拮抗した戦いだからこそ、こう呼ぶこともできるのではないか。

 

 ―――――『剣舞』と。

 

 二人の戦いは危険だと思ったが、同時にどこか美しくもあった。

 

 極限状態での剣の戦い。

 巨大な魔物を剣で倒すことだけではなく、こういったデュエルもまた『ソードアートオンライン』の醍醐味なのだろうと、俺は二人を見てそう思った。

 

「おー、相変わらずあの二人は恐ろしいナ。どこからどう見てもマジの殺し合いだヨ。」

「ああ…………って、ちょっと待て。止めなくていいのか、アレ。」

 

 血気迫る表情でバトってる二人を恐る恐る指差し、アルゴに訪ねた。

 するとアルゴは、途端に表情を苦くした。

 

「………どうなっても知らないゾ。ちなみに、止めようとしたヤツは前にもいたナ。」

「へぇ………どうなったんだ?」

「腕が吹っ飛んダ。」

「ふーん…………………え?」

 

 腕が…………吹っ飛んだ?

 それはあれか?

 剣が吹っ飛ばされたとかの比喩じゃなくて?

 

「そいつは二人を力ずくで止めようとしたんダ。で、斬り合いの中に乱入した結果、握ってた剣は一瞬で弾き飛ばされ、直後に腕もスパーン。

 ま、いい教訓にはなったサ。デュエル中のプレイヤーの間には絶対入るなって。

 それに、ソイツのおかげで腕がなくなっても元に戻るって分かったんだから、情報屋としても感謝してル。」

 

 

 ◆

 

 

「っ、ハッ!!」

 

「ぎっ―――――!」

 

 セイバーの渾身の一撃を、手にした片手剣でかろうじて防ぐ。

 鈍い音が響き、同時に強烈な痛みが腕を襲う。

 だが、この程度で終わるほどセイバーは甘くない……!

 

「っ―――――………!!」

 

 間髪いれず繰り出される高速の斬撃。

 その剣筋を十手先読みし、防ぎ、躱し続ける。

 正面から戦っても、俺はセイバーには決して勝てない。そこには、努力では決して埋められない才能の壁がある。剣だけではダメなのだ。

 故に俺は、セイバーの全てを読み取りながら戦う。剣筋だけではない。足さばきや微妙な表情の変化、ありとあらゆる全てを、だ。

 そして、敢えて隙を見せ続ける。攻撃を受ければ間違いなく即死。そんな致命的な隙を。

 セイバーは一瞬でそこを突いてくる。しかし、だからこそ防ぎ続けることができる。

 敢えて隙を作ることで攻撃の的を絞っているのだ。攻撃を受ければ即死。受けなければ無傷。

 そこまでのリスクを背負うことでようやく、俺は彼女と互角に戦える。

 

「っづ、オオォオ―――――!!!!」

 

 裂帛の気合と共に、渾身の斬撃を放つ。

 僅かな、しかし確かな隙をついた完璧な一撃。

 それを、セイバーは―――――

 

「ッ………!」

 

 当然のように防いだ。

 しかしそれは、あくまでも防いだだけ。

 こちらの攻撃を完全に殺しきれなかったのか、セイバーの軽い身体は地を滑り、そのまま後方へバックした。

 こと剣に関してはあらゆる面でセイバーが上だ。

 だが、ここは電脳世界。普通の世界とは少々違う。

 この世界での基本的な強さは全て、各々のレベルが決めると言っても過言ではない。そして、俺とセイバーのレベルは同じ。

 つまり、筋力や敏捷、スタミナなど、あらゆる身体能力が同レベルにまで引き下げられている。

 

「………っ、はっ……ぁ」

 

 息が上がってきた。スタミナは限界が近い。

 そしてそれはセイバーも同様のはず。攻撃を防ぎきれなかったことからも明らかだ。

 ここで、思い切って勝負に出る……!

 

「はっ………!」

 

 足に力を集中させ、全力で地面を蹴る。

 風を切り、大地を駆け、高速でセイバーに迫る。

 

「くっ………、っ!」

 

 セイバーもまた俺を見て覚悟を決めたのか、体勢を即座に立て直した後、こちらに剣を構えて疾走を開始した。

 

 両者は加速し、剣を構えて突進する。

 後戻りは出来ない。

 勝利か敗北か。

 それは、この刹那の瞬間に決まる。

 

「せっ―――――!」

 

「ハッ―――――………!!」

 

 一閃。

 爆撃めいた一撃が炸裂した。

 剣と剣が交差し、二つの刀身は一瞬だけ光を帯びたあと、辺りに衝撃波を撒き散らす。

 轟、と風が唸り、数々のオブジェクトが鳴動した。

 

「―――――。」

 

 余りにも長く続いた剣舞はあっけないもので、この一瞬で勝敗は決した。

 目の前にはセイバーの姿。右手に握られた剣は大きく振るわれ、振り抜いた格好のまま硬直している。

 そしてそれは俺とて同じ。まるで時間が止まってしまったように、両者の動きは停止している。

 ただ一つ違う点は、その手に握られた剣。

 セイバーの握る『スモールブレード』は至って健在。先程まで派手に使われていたのだから所々ガタが来ているが、それでもまだ“在る”。

 対し、俺が握っている『スモールブレード』は、刀身が腹の辺りから真っ二つに折れてしまっていた。

 

「………参った。降参だ。やっぱり、セイバーは強い。」

 

「降参」の音声に反応し、目の前に『LOSE』……敗北の文字が現れる。

 同時に折れた剣を手から落とし、両手を上げて降参のポーズをとった。

 

「いえ、シロウの方こそ流石です。仮初めの体ではありますが、剣士としての実力は十分に理解できました。

 今の貴方ならば、他のサーヴァントが相手でもいい勝負ができるでしょう。」 

 

 剣を下ろし、柔らかい笑みを浮かべながら言うセイバー。

 

「はは。勝てる、とは言わないあたり、セイバーらしいな。」

「当然です。シロウは確かに強くなりましたが、それでもまだまだです。

 それに、過ぎた慢心は自身の敗北を招きます。加えて今の私達は、本来よりも著しく弱体化している。

 間違っても以前のように、一人で戦う、などと吐かれてもらっては困りますから。」

「心外だな。流石にもうそんなこと言わないぞ。」

「信用できませんね。あの時は未熟だったからこそよかったものの、力をつけた今の貴方なら、問題ないから一人で戦うと言い出しかねない。」

 

 …………むぅ、流石はセイバー。

 確かに今の俺なら、万が一の時そう言い出しかねない。

 

「ぐ………反論できない。」

「ですから、今後も常に私と共に行動して頂きます。ここは我々の知らない世界。どこに危険があるか分かりませんから。」

「分かってる。俺だって、初めからそのつもりだ。」

 

 俺たちは剣と鞘だ。二つ揃うことで初めて真価を発揮する。

 ………いや、そんな難しい話じゃない。

 セイバーに傷ついて欲しくない。ただそれだけのこと。

 それだけは今も昔も、そしてきっと未来永劫変わらないだろう。

 

 

「あのう、すいませーん!」

 

 

「………ん?」

 

 鍛錬が一段落したところで、少し離れた場所から男の声が聞こえた。

 男は人の良さそうな笑みを浮かべながら、こちらに歩いてくる。

 金属の鎧を纏った青年。左右にウェーブしながら流れる長髪は青く染められており、人目を引く美男子、という印象だ。

 剣に加え、銀の盾、銀の鎧という装備は、どこか騎士を連想させる。

 

「えっと、まずは自己紹介から。オレはディアベル。レベルや装備を見たらわかると思うけど、最前線でパーティー組んで戦ってます。」

 

 青年……ディアベルは初対面であるにも関わらず、ハキハキと自分のことを話した。

 外見中身、共に申し分ない。世間一般的には、こういう男がイケメンと称されるんだろうな。

 

「俺はえみ……いや、シロウだ。見ての通り、片手剣使いだけど。」

「同じく、セイバーと申します。」

「うん。シロウさんに、セイバーさんか。もしかして、君達が噂になってる二人組の剣士なのかな?」

「あー……………まあ、そうなる、かな。」

 

 つい最近気づいたことだが、俺達はアインクラッドではかなりの有名人なのだ。

 いや正確には、『セイバーが有名人』なのだ。

 剣の腕はもちろんだが、それ以上に女性であることが注目される原因だろう。

 ここはゲームの世界だ。ゲームと言うだけあって、基本的に女性プレイヤーは少ない。

 おまけに生粋の英国人ときた。これで注目するなという方が無理だろう。

 

「さっきまでのデュエル、本当に凄かった。そんな二人の実力を見込んで、頼みがある。」

 

 ディアベルの陽気な雰囲気が消え、代わりに真剣味を帯びた表情が現れた。

 それに釣られ、こちらの表情も引き締まる。

 

「もうしばらくしたら、この街の噴水広場で会議を開く。第一層のフロアボス攻略会議だ。それに二人も参加してほしい。」

 

 



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3.第一層・フロアボス

 やがて、四十六人はそこに辿りついた。

 眼前には禍々しい門。

 この奥に、超えるべき巨大な障害が待ち受けている。

 

 青い髪の騎士ディアベルは、門の前に立った後全員を見渡す。

 “絶対に勝つ”

 彼の瞳からは、そんな意思が読み取れた。

 

 ディアベルは青い髪をなびかせて振り向き、左手を門の扉に当て―――――

 

「―――――行くぞ!」

 

 短く叫んだあと、豪快に扉を押し開けた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 第一層ボス《イルファング・ザ・コボルドロード》には、《ルインコボルド・センチネル》と呼ばれる取り巻きのモンスターがいる。

 俺とセイバーの担当はそいつらの排除。

 

「は―――――!」

 

 渾身の力で《ルインコボルド・センチネル》の斧を斬り上げる。

 斧の柄が半ばからへし折れ、奴の得物が破壊された。

 その瞬間、後方に控えていたセイバーが飛び出し、無防備になったところを一閃する。

 体力ゲージが尽き、センチネルはデータ片と姿を変え消滅した。

 

 そうして、取り巻きのモンスターを何体か撃破した後。

 

 状況は大きく覆った。

 

「だ………だめだ、下がれ!! 全力で、後ろに跳べ―――――ッ!!」

 

「っ……!?」

 

 黒い片手剣士が絶叫に近い大声をあげた。

 彼の視線の先では、フロアボスである《イルファング・ザ・コボルドロード》が巨大な太刀を振り上げているのが見えた。

 太刀が光を纏い、同時にソードスキル発動を示す効果音が響く。

 次の瞬間―――――

 

「なっ―――――………!」

 

 イルファング・ザ・コボルドロードの巨体が宙に跳んだ。

 空中では体が捻られ、得物に力が篭められる。

 それに呼応するように、太刀が放つ光は一段と大きくなった。

 

 対し、今まで奴の相手をしていた剣士達は硬直していた。

 あれほどの巨体が一瞬にして、自分たちの背丈を越えるほど跳んだのだ。無理もない。

 だが、そのわずかな隙が彼らの生死を左右する。

 

「グルォオオ―――――!!!!!」

 

 咆哮と共に、溜められた力が解放された。

 着地と同時にずうん、と床が揺れ、赤く発光した太刀が竜巻の如く振るわれる。

 フロアボスの相手をしていた剣士達がまとめて薙ぎ払われ、吹き飛ばされた。

 

「―――――。」

 

 床に倒れこむ六人の剣士。

 そして頭上には、回転する黄色い光が取り巻いていた。

 

 一時的行動不能状態。

 

 これで彼らは約十秒間、一切の行動ができない。

 本来ならここで、他の皆が彼らのフォローに行かなければならない。

 だが、動くものは誰一人としていなかった。

 

 いや、違う。

 彼らは『動けない』のだ。

 事前に綿密な作戦会議をしていたこと。

 余裕のムードが続いていたこと。

 そして、今回のリーダーとも言えるディアベル本人が一撃で打ち倒されたこと。

 それらが複雑に絡み合い、彼らの体を縛っている。

 

「グルルゥ―――――」

 

 獣の王の、低い唸り声。

 禍々しい視線の先には青髪の騎士―――――ディアベル。

 追撃が来る。

 それは、ここにいる誰もが予想できた。

 

 だが動ける者はいない。

 吹き飛ばされた六人は肉体的に、そして他の者達は精神的に行動不能状態にある。

 いや、動けたとしても助けようとは思わないだろう。

 

 なぜなら、奴の武器が変わっていたから。

 事前に配られた情報では、奴が使う武器は巨大な斧と湾刀のみだったはずだ。

 しかし今のコボルドロードの手には、鍛えられた鋼の太刀がある。

 情報にはなかった武器。更にあの武器は、この世界ではまだ確認されていない。

 あの巨大な太刀からどんな攻撃が繰り出されるのか、誰にも分からない。助けに行ったとしても、巻き添えを喰らって自分が殺されてしまう可能性だってゼロではないのだ。

 

 そして、それは俺とて同じ。

 彼を助けるために自分が死ぬのは、余りにも馬鹿げている。

 それを、俺は―――――

 

 

「止めろ、テメェ―――――!!!!!」

 

 

「っ……! シロウ―――――!」

 

 体は既に動いていた。

 隣にいたセイバーの声が右から左へ通り過ぎる。

 

 こんなことをしても意味はない。

 敵は完全にディアベルを狙っている。

 もしここで彼の犠牲を容認すれば、攻撃後の隙に一撃叩き込むことができるだろう。

 四十人の内のたった一人。

 いや……正確には、六千人の内のたった一人。

 大した数ではない。

 

 ―――――それでも。

 俺には認めることができなかった。

 目の前に救えるかもしれない命があるのなら、俺は、全力で手を伸ばす―――――!

 

「ウグルオ―――――ッ!!」

 

 コボルドロードは再び咆哮を上げ、太刀を振り回した。

 太刀は地面すれすれの軌道を描く。

 このままでは、ディアベルは再び奴の剣戟を喰らうことになる。

 しかし彼はまだ、行動不能状態から回復できていない。

 躱すことは勿論、盾で防ぐことすらできない。

 

 ―――――なら、俺自身が盾になればいい。

 

「シロウ、さん……!?」

 

 ギリギリのタイミングでディアベルの正面に立つ。

 間に合った。

 だが、太刀はすぐそこまで迫っている。

 

「伏せろ!」

「■■■―――――!!」

 

 巨大な太刀と細い片手剣が衝突する。

 熱と衝撃波を撒き散らし、甲高い鉄の音が響いた。

 

「がっ―――ァ――…………!!」

 

 電流が流れたかのように、腕に激痛が走った。

 視界はノイズのように荒れている。

 微かに見える視界の左上。

 体力を示すゲージが恐るべき速度で減少していく。

 全快だったはずの体力ゲージは、四割ほど激減したあたりでようやく止まり、

 

「ぐっ、オオォオ―――――ッ!!」

 

 持てる力の全てを注ぎ込み、太刀を弾き上げた。

 重い鉄の音と同時に、再び衝撃波がフロア全体に轟く。

 

 ―――――同時に。

 硝子が割れるような、余りにも軽い効果音が耳に届いた。

 

「っ―――――…………」

 

 音源は右手。

 自分の目で確認するとそこには、ひび割れ、崩れゆく愛剣の姿があった。

 

 《武器破壊》

 

 この世界の武器にも耐久値がある。

 耐久値が高ければ長い間愛用することができるし、低い物なら最悪、一回の戦闘で壊れてしまう物もある。

 はっきり言って、この剣の耐久度は高くない。

 加えて先程の重い剣戟。

 剣は奴の一撃に耐えきることができず、破壊されたのだ。

 

「っ……、剣が…………!」

 

 ディアベルが後ろで驚愕する。

 だが、その表情を確認することはできない。

 する時間がない。

 

「グルォォォ―――――!!!」

 

 敵は既に、次の攻撃の準備に入っていた。

 その瞳は確実に俺を捉えている。

 巨大な太刀の刀身が赤い光を帯び、今まさに、俺の知らないソードスキルを放とうとしていた。

 

「―――――。」

 

 武器は崩れ落ち消滅した。

 今の俺は徒手空拳。

 防御という手段は既に潰えた。

 

 となれば、残された選択肢はわずか二つ。

 

 一つは回避。

 だが、それは厳しい。

 何故ならここは、既に敵の攻撃範囲内だからだ。

 ディアベルを連れて外まで逃げるのは不可能。

 奴の構えから攻撃の軌道を読むことはできるが、この体は俺の反応についてこない。

 つまり。

 残された選択肢は、実質一つだけ。

 

「―――――は。」

 

 呼吸を整え、息を吐く。

 同時に、首に巻かれた赤銅のマフラーを脱ぎ捨てる。

 奴の太刀を凝視し、攻撃動作を確認。

 刀身はより一層血のように赤く輝き、頭上高く振り上げられていた。

 逃げ場はない。

 一秒後、俺はあの剣に惨殺されるだろう。

 

「―――――投影(トレース)開始(オン)。」

 

 自ら禁じ手としてきた呪文(コード)を唱えた。

 この瞬間、打ち倒すべき対象は変更される。

 

 外敵などいらぬ。

 打ち倒すべきは己自身。

 思い描くは最強の自分。

 

 手を広げ、まだ現れぬ架空の柄を握り締めた。

 

 ―――――光が漏れる。

 星の光ではない。

 それは、王の光にして権力の象徴。

 即ち『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)

 かつてとある少女が引き抜いた、王を選定する剣。

 

 輪郭が現れ、やがて幻想は実体を持つ。

 確かな重量を感じた後、俺は剣を構えた。

 体力ゲージは既に半分を切っており、あと僅かでレッドゾーンに突入する。

 この世界でのゲームオーバーは死を意味する。

 僅かでもしくじれば、衛宮士郎の首は無残に弾け飛ぶだろう。

 

 

「――――――――――来い。」

 

 

 心配など無用。

 イメージは既に完成している。

 それでも足りない部分は、剣が補強する。

 『勝利すべき黄金の剣』

 かの騎士王の剣をもって、獣の王を打倒する―――――

 

「■■■■―――――■■―――――ッッ!!!!」

 

「はッ―――――!!」

 

 赤い太刀と黄金の剣が交差した。

 攻撃と攻撃が相殺され、両者の剣が弾かれる。

 

「■■―――――■■■ッ―――――!!!!」

 

 攻撃は一撃では止まらず、二撃、三撃と、息つく暇もなく放たれた。

 軌道は縦横無尽。破壊力は比べ物にならない。

 太刀が振るわれるたび、嵐が吹き荒れる。

 最強の剣を持ってしても、イルファングの攻撃は確実にこちらの体力を奪っていく。

 

 ―――――されど、全ては想定の範囲内。

 

 機会を待つ。

 竜巻のごとく荒れ狂う太刀を防ぎ、時にはいなし、そして躱し続ける。

 

「………ッ!」

 

 イルファングが赤い太刀を大きく構えた。

 

 …………来る。

 

 連撃の最後と思われる大振りの一撃。

 大振りである分、攻撃力は今までとは段違いだろう。

 

 ―――――そして。

 タイミングを見計らっていたかのように、彼女は疾風となって俺の元に駆けつけた。

 

 両手で握られた剣。

 後ろで結い上げられた金の髪。

 青いドレスと銀の甲冑。

 それらは全て、かつての彼女を再現している。

 

「■■■■―――――!」

 

 襲い来る赤い斬撃。

 床をも砕きかねない凶悪な一撃を、彼女は怯むことなく迎撃する。

 

「はあぁぁ―――――ッ!!」

 

 赤く染まった太刀と、鍛えられた鋼の剣が激突した。

 部屋全体が震えるほどのインパクトが生まれ、同時にイルファング・ザ・コボルドロードがノックバックする。

 

「うっ―――!!?」

「っ………! セイバー!」

 

 同様に後方に弾き飛ばされるセイバーを、全身を使って受け止める。

 が、よほどの衝撃だったのか、そのまま三メートルほどセイバーと重なったままバックさせられた。

 足の裏をしっかり地面につけ、なんとか後ろに倒れないように踏ん張る。

 

「!………っと。大丈夫か、セイバー。」

「………ええ、なんとか。それよりも、シロウは無事ですか?」

「ああ。とはいっても、ギリギリだけどな。」

 

 視界の左上を見る。

 全体が赤く染まっており、少々―――――いや、かなり危ない。

 もし生身の体だったら、傷のせいでまともに動けないかもしれない。

 

「っ…、そうだ、ディアベルは!?」

「はい、既に後ろに。」

 

 セイバーにそう言われて、後ろを振り返った。

 

 ウェーブのかかった青髪の青年。

 ここからはかなり離れているが、確かに彼の姿はあった。

 ―――――生きていた。

 

 一旦戦線から離脱し、今は回復に専念しているらしい。

 きっと、俺が戦っている間に下がったのだろう。

 

「貴方のおかげで彼は救われました。仲間もいることですし、彼が死亡する可能性はもうないでしょう。」

「………そっか。よかった。」

 

 胸を撫で下ろす。

 たとえ異端の力だったとしても、それで誰かを救うことができたのなら、使って正解だった。

 

「では、今度は貴方が下がってください。私が護衛します。」

「なんでさ。俺ならまだ戦える。剣だって作った。」

「そういうことではありません。

 …………貴方は、今の自分の状況が分かっているのですか?」

「……………。」

 

 言われるまでもない。

 体力ゲージは既に瀕死。

 あと二……いや、一撃で俺は死ぬかもしれない。

 

「だけど、俺がいかないと―――――」

 

 

「ぬおおおおッ!!!」

 

 

 最後まで言い切る前に、俺の言葉は野太い雄叫びによってかき消された。

 褐色の肌の男性プレイヤーが巨大な斧を投擲し、イルファング・ザ・コボルドロードの太刀と激突する。

 先程のセイバー並、あるいはそれ以上の衝撃がフロア全体を揺らした。

 

「うぁっ………!」

「っ………、見ての、通りです。指揮はあの黒い剣士がとっています。

 どうやら彼は、敵の攻撃パターンを全て知っているようです。

 あとは彼らに任せても問題ないでしょう。」

「…………みたい、だな。」

 

 イルファングに肉薄しているのは六人の剣士。

 六人は敵の攻撃に対し、盾や大型の武器で防御に徹している。

 そして、彼らの間を軽やかに舞う女剣士。

 彼女はその速さと正確なソードスキルにより、少しずつ、しかし確実にダメージを与え続けている。

 指揮をとっているのは、黒のレザーコートを着た剣士。彼が攻撃を読み指示を出すことで、戦況を優位に運んでいるようだ。

 

「シロウ。」

「―――――分かった。大人しく下がるよ。」

 

 俺はセイバーに従い、ディアベル同様後ろへと下がり、回復に専念することにした。

 

 

 だがこの後、俺がフロアボスと剣を交えることはなかった。

 回復後は本来の役割である取り巻きのモンスター、ルインコボルド・センチネルの相手に集中したからだ。

 また、その後の戦闘が順調に進んだというのもある。

 

 

 メンバー総勢、四十六人。

 死者、ゼロ。

 第一層フロアボス攻略は、スタートダッシュに相応しい結果で幕を閉じた。

 

 



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