英雄は勘違いと共に (風に逆らう洗濯物)
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第1章 弔いは霧の中で
第一話 はじまりは突然に


読み専のため、初投稿です。
よろしくお願いします。


 ●

 

 頭が、ぼんやりとする。

 まるで夜、眠りに落ちるように、

 まるで朝、目覚める前のまどろみのように、

 思考がまるで定まらない。

 

 今、俺は目を開けているのだろうか……

 それとも目を閉じているのだろうか……

 

「……。? ……、……」

 

 ……? 

 声が、聞こえる。……どこかで聞いた声だ。

 いや、聞いたこともない声だ。

 わからない……

 

「……か? ……い……ですか?」

 

 どこか懐かしい声だ、

 でも、やっぱり知らない声だ。

 優しげで、でも凛とした綺麗な声……

 この声は何を言っているのだろう。

 

 わからないけど、なんとなく、次は分かる。

 そんな気がした。

 

「生きてますか?」

 

 優しい声に目が醒める……いや、視界が分かるようになる。

 目に入ったのは整った顔、朝顔を思わせる紫色の瞳は細められ、やや眠そうなジト目でこちらを覗き込んでいる。

 あたりは暗く、木々の合間の街灯が俺と彼女を照らしている。

 

「きみ、は?」

 

 見覚えのない顔、見覚えのない景色。

 今は何時だろうか、そして、彼女は誰なのだろうか。

 まだ少しぼんやりとした頭を働かせる。

 

「私? 翔子です、野薙翔子。それよりお兄さん、

 こんな時間にこんな場所で、ぼーっとしてどうしたの?」

 

 野薙翔子、知らない名前だ。

 そして、どうやら遅い時間であるらしい。

 ゆっくり周りを見渡す。

 ほどほどに生えた木々、歩きやすそうな土の道に、道なりに適度に設置されたベンチと電灯。

 淡く青白い光はゆらゆらと周りを浮かび。

 後ろからは静かな川のせせらぎが聞こえ、穏やかな気持ちにさせてくれる。

 

「あー、なんだ、川の音を聞いていた」

 

 特に理由も見つからず、そんなふうに言葉を返す。

 記憶をいくら辿っても検討がつかないのだ。

 昨日は何をしていたのか、

 今日の昼に何を食べたのか、

 そんなことも曖昧で頭の中から出てこない。

 

「ふーん……ねえ、お兄さん、写真。とってもいい?」

 

 突然彼女はそんな事を言い出した。

 薄いピンクのパーカーを少しずらすと、

 えらく丈夫そうなカメラを両手で構え、

 こちらに笑いかけてくる。

 

「……? あぁ」

 

 カシャっとどこか懐かしい音が響く。

 フラッシュもなく、この夜の闇も気にせず、

 淡い光に照らされただけの俺を彼女は真面目な顔をして撮る。

 

「……うん、いいね。お兄さん、儚げな感じがするから、蛍のひかりによく映える」

 

 彼女は満足そうに頷く、

 肩にかかる長い黒髪が軽く揺れ、

 彼女の手元より、満足げな微笑みに目が奪われる。

 

「なぜ、写真を?」

 

 俺が訪ねると彼女はキョトンとした顔で首を傾げる。

 

「なんでって……なんとなく。いい写真になりそうだったから」

 

 わかるでしょ? と言う言葉が聞こえるほどに、

 不思議そうな顔で彼女はこちらを眺める。

 なんとなく、わからないような、わかるような。

 とりあえず頷いてみる。

 

「だよね? んじゃ、お兄さんまたね」

 

 にっこりと笑うと軽く手を振って、

 彼女は小走りで去っていく。

 綺麗な黒髪とフードを靡かせながら、

 まるで風のように。

 

 俺は、それを見送ると、また、静かに目を閉じた。

 言ってみた手前、川の音でも聞いてみよう。

 何か、思い出すかも しれない……。

 

 ────────────────────────────────ー

 

「ねぇ、お兄さん?」

 

 彼女の声で目が覚める。

 昨日会った、あの少女の声だ……

 あたりは暗く、光が舞い。

 昨日と同じすこし眠そうな瞳が、俺の顔を覗きこむ。

 

「あぁ、何だ?」

 

 まだ眠い気はするが、なんとなく目が冴えてくる。

 今日の俺は何をしていたのだったか……

 確か昼には蕎麦を食べたんだったな……

 

「お兄さんって、いつもここにいるの?」

 

 彼女が不思議そうに問いかける。

 今日もカメラ片手に、小首を傾げながら。

 俺の顔を覗き込む。

 ……いつも、だっただろうか? 

 こんな人も居ない時間に1人、ベンチに座り自然を眺める。

 そんな趣深い人間だっただろうか? 

 

「……わからない、そうだったかもな」

 

 思い至らないものは仕方がない。

 とにかく彼女に返事を返す。

 夜の風は涼しくて、だんだんと眠気を取ってくれる。

 

「そっか……じゃあこんどおすすめの場所教えてね! 

 写真に映えるとこ!」

 

 にっこりと彼女が微笑む。

 淡い街灯に照らされて楽しそうなその顔が見える。

 やっぱり、知らない顔だ、古い友人でもなんでもない。

 なぜ、こんなに楽しそうなのだろう? 

 

「じゃ、またね!」

 

 問いかける間もなく彼女は立ち去る。

 電灯の下で振り返り、大きく手を振って、風のように去っていく。

 昨日と同じ景色だ、これは夢なのだろうか? 

 現実なのだろうか? 

 なんとなく、悩んでみるも答えは出ず。

 ふと目に入った灰色の宝石がついたリストバンドを

 軽く撫でて、俺は再び目を閉じた。

 

 ────────────────────────────────ー

 

 ○

 

 夜を駆ける影が一つ、そしてそれを追う影が数十。

 静かな街並みに靴音や鈍い足音を響かせながら。

 ここ、冬木の川辺公園に足を踏み入れる。

 

「数が……多いかな……」

 

 1つの影。

 金髪の少女は一つ呟くと自らを追いかける多数の影に目を向ける。

 それは、獣だった。

 夜の闇に紛れ10、20と並ぶ針のような鋭い眼光が、ただ一点。

 少女の喉元を狙っている。

 

「獣避けはもう無いし、やるしか無いか」

 

 少女は腰のポーチに手を伸ばし、

 その頼りない手ごたえに顔を顰めてから、

 後ろ手に2本の太刀を引き抜く。

 

 自分にも英雄と呼ばれた自負がある。

 この程度の相手にやられるはずもない。

 

 逆手に構え、片足を後ろへ。

 姿勢をそのまま街灯の照らす背後へと跳ぶ。

 

「よし、来い!」

 

 その合図と共に、影は一斉に少女へと飛びかかった。

 

 ●

 

 甲高い音が響く、夜の静寂に紛れるように。

 荒い物音が鳴る、昼の喧騒を思い出すように。

 

 ここは冬木の川辺公園。

 夜にはホタルが飛び、川のせせらぎが耳を癒す。

 そんな場所だ。

 当然、普段はこんなに物音があるはずもない。

 

 ──文句の一つでも言ってやろう。

 そう思い、寝転んでいた俺は眠い目を擦り。

 ゆっくり体を起こすと、そちらへ目を向けた。

 

「なんだ、あれ? 獣と……女の子?」

 

 そこに居たのは異形の獣。

 おそらく犬のものであろう2対4本の足に加え、

 前脚や胴体にまばらに生えた1対の鎌足。

 身体は鈍色の甲殻に覆われ、まるで獣を素体に、

 昆虫を生み出そうとしたかのような異形が多数存在している。

 

 それに対するは金髪の少女。

 長い金髪は月明かりを弾き、

 深緑に染められた上着がその身体を夜の闇に溶け込ませている。

 少女は二刀の太刀を逆手に構え、相対する獣の群れを睨みつけている。

 

 そんな異常な光景を、ぼんやりと眺めていた。

 腰が抜けた訳でも、恐れを抱いた訳でもなく。

 ただ風景でも眺めるように。

 

 『グゥァァ!』

 

 「甘いよ!」

 

 そうしている間にも少女は獣と戦い、

 鋭い爪を紙一重でかわしながらも1匹ずつ確実に、

 その首を切り落としていく。

 一才の油断なく電灯に背を預け、構えをとる少女を見て。

 

 ──俺は再び目を閉じた。

 当然だ。現実にあんなもの、いるはずも無い。

 であれば夢。

 次、目を開ければ何時もの景色が見えるはず……

 

 そうして再び眠りへ戻ろうとして……背筋が凍った。

 動物の第六感というやつだろうか。

 ヒヤリとした不気味な感覚に思わず、

 少女達とは別の方向に視線を走らせる。

 

 『ォォオォ…。……ォオォ…。』

 

 影が写った。

 ドラゴンのように巨大で、

 それでいてやせ細った不気味な影が。

 影は遠くの大通りから、ゆっくりと、

 霧をその身に纏いながら足をすすめている。

 

 悪寒がした、アレには敵わないと、

 アレは全てを狩る者だと。

 はっきりとした恐怖が目を覚ます。

 あれだけぼんやりとしていた意識が、無理矢理に覚醒する。

 

 「まだ、余裕‼︎」

 

 少女に目を向ける、彼女は未だに獣と戦っている。

 あの存在には気づかずに、

 ただその身を襲う小さな脅威を跳ね除けている。

 

 「ッ…!」

 

 無意識のうちにその足を踏み出していた。

 戦い方なんて何も知らない。

 あんな化け物を見た事もない。

 ましてやあの少女は、一見して力もある。

 それなのに駆け出していた。

 

 ──……見捨てられない。

 

 やさしさとも言うべき弱さがその力を、言葉をこの身に宿す。

 口から言葉が紡がれる。

 まるで親しい友人を呼ぶように。

 まるで忘れていた物を思い出すかのように。

 自然とそのパスワードを発していた。

 

「……ウイング……セットアップ!」

 

『──―Ready、マスター、ご武運を!』

 灰色の宝石が点滅し、そんな幻聴が聞こえた気がした。

 

 

 駆け出しながら光に包まれ、その身体が装甲に覆われる。

 ところどころに古傷のついた流線型の鋼の装甲。

 その背には巨大なブースターが鎮座し、

 スラスターからは灰色の炎が轟轟と燃え盛っている。

 変身とも言うべき不思議な現象が、

 灰色のリストバンドを中心に彼を戦士へと作り替えていた。

 

 一瞬、灰色の炎がその激しさを増す。と同時に衝撃が1つ。

 彼は獣を2体、跳ね飛ばしていた。

 鎧を纏った戦士はその勢いを殺さず進路を変える、

 目指すは最も明るい街灯の下。

 

「そこの金髪少女! 捕まれ!」

 

 声を上げ、手を伸ばす。

 驚いた顔をした少女は一度頷き、獣の顔を足場に大きく跳躍。

 彼が伸ばした手に捕まった。

 

 軋む右腕。人1人分の重さと空気の抵抗はあまりに重く、

 バイザーがなければその顔は苦痛に歪んでいただろう。

 しかし戦士はその痛みごと少女を抱え、そのまま上空へと舞い上がった。

 




第1話になります。いかがだったでしょうか。
この話では、まず最初のオマージュ要素が出てきましたね。
『勘違い』好きなら、きっとご存知なのではないでしょうか。
ちなみに今回は伏線を置く回にさせていただいております。
勘違いはまた、次回に。

それではコメントお待ちしております。


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第二話 自己紹介

お待たせしました。第2話になります。


 ○

 

「ありがとう、助かったよ」

 

 大きな橋を越え、獣たちが見えなくなった頃。

 慣れない言葉に、頬を掻きながら少女が感謝を口にする。

 

 時刻は11時過ぎ、鳥は巣に帰り。

 乗り物の光すらも珍しくなる時間だ。

 そんな時間だからか、彼の後ろで燃え盛る炎と轟音はよく目立つ。

 それに、この鎧の燃料がいつ無くなるとも分からない。節約はした方がいいだろう。

 

「そろそろ降りよう、あっちにいい感じの林があるみたい」

 

 目を向ければ、小さな噴水に大きな広場。

 どうやら遠くに見える灯台を目安に、この町2つ目の公園。

『海鳴公園』へと飛んできたらしい。

 これ幸いにと公園の一角を指差し、林の影に2人でゆっくりと降り立つ。

 

「……けがは? 手当は?」

 

 降り立つなり、鎧の彼は低い落ち着いた声で、

 無愛想にもこちらの心配をしてくる。

 やはり、気づいていたのだろう。

 

 ──そう、あの一瞬。

 ボクは疲労が溜まったのか、それとも他の原因があったのか。

 回避の瞬間、足を挫いてしまったのだ。

 

 幸い長引く傷でもなく、彼に運ばれる最中にはもう良くなっていたが、あの時点では致命傷だった。

 ……彼の助けがなければ、あの鈍く光る大鎌にこの身を切り裂かれていただろう。

 それはつまり、全身鉄鎧の彼とは異なり死に繋がるのだ。

 

「あははは! 君はやさしいね。

 大丈夫、これくらいなら直ぐに治るよ」

 

 あえて大きな声で笑う。

 確かに黒いインナーは破れ、紙で切った程度の切り傷が四肢に残ってはいる。

 しかし革の防具は健在で、出血の続くような傷もない。

 ──あなたのおかげで命を拾うことができたのだ。

 その事を言外に伝えるべく、あえて笑ってみせる。それが伝わったのか、鎧の彼は一つ頷いてくれた。

 

「君、傭兵かな? 炎で空を飛ぶなんて珍しいね」

 

 せっかくなので彼に質問をする。

 ボクの地元では珍しい、装甲重視の金属鎧。

 それを身につけ、魔法による浮遊ではなく、ドラゴンのブレスと見間違えるような業火で宙を駆ける。

 そんな戦い方は本当なら自殺行為だし、珍しい所の話じゃない。

 

 すると彼は考え込むように首を傾げ、黙り込んでしまった。

 

 しまった、機密か何かだったのだろうか……

 

 ●

 

 ……傭兵??? 

 現実味のない出来事に内心テンパりながら、少女の怪我を確認し、

 一安心。

 突然かけられた言葉に思考が停止する。

 俺は昨日もバイトをしながら日銭を稼ぎ、コンビニで昼食を買うような生活を送っていたんだが……

 

 当然。心当たりは無く、『どうしてそうなった!?』と問い返そうとして、ふと気がつく。

 ──この鎧を見て言っているのだろうか。

 

 確かにブースターを使い飛行する全身鎧とか言うオーバーテクノロジー、そんな物を見れば国の特殊戦力とか、SFに出てくる傭兵企業の武装兵器だとかそんなありもしなさそうなものを考えてもしかたない。

 しかし、俺はそんなものではない。

 

 ……そんなものではないが。

 

 少女を見る。

 年齢通り華奢な体。

 あの危険極まりなさそうな獣に囲まれ、無傷に近い状態でやり過ごせるとは到底思えない。

 そんな小さな体で戦っているのだ、裏に秘密組織だなんだ。と物騒な話が隠れててもおかしくはない。

 そう思い、適当に誤魔化す。

 

「……俺からすれば、そっちの格好の方が珍しい」

 

 俺が訳知り顔で返すと少女は「そうかな?」と首を傾げ、自分の格好を確かめる。

 肩にかかる程度の金髪を大雑把にくくり、黒いインナーと緑のジャケットにショートパンツ。

 足が見えるのは防御力的にどうなんだ? と思わなくも無いが、年季の入った胸当てや肘当てを見る限り、何か意図があるのだろう。

 

 年は中学生くらいか、正面に立っていても全く威圧感は感じない。

 むしろ、そんな幼さで鎧を纏い剣を振うなんて……いつから日本はそんな国になったんだ。と、恐らく見当違いな事を思うばかり。

 

 そもそもさっきの化け物や獣はなんだったのか。今更になってそんなことが気になってくる。

 

「さっきのあれは?」

 

 やめておけばいいのに、好奇心からかそんな事を口にする。

 もし、何かの研究所から逃げ出した。とか、自分は気づかないうちに異世界に来ていた。とか、であればどうするつもりなのか。

 自分の手に負えないのは間違いない。

 

 もっとも、空から見た感じ。

 ここが住みなれた冬木の街である事は間違いないようだが。

 少女は不思議そうに首を傾げた。

 

「さっきの魔物の事?」

 

「困るよね、毎晩襲われるよ?」と当たり前のように語る少女。

 少し眩暈がした。

 

 魔物といえば、ゲームなどに出てくる力を持った獣の総称である。

 当然現実に現れるようなものじゃない。

 そんなものが毎晩出てくるのであれば、俺はもう挽肉にでもなっているに違いない。

 

 ところどころで出てくるファンタジーの世界はなんなのか。

 一周回って笑えてくる。

 だが、少なくとも少女視点では、現地生物と言う事になるらしい。

 

「そうか……あの化け物は何かわかるか?」

 

「化け物?」

 

 少女は首を傾げる。

 どうしてか、この実力者であろう少女は気づいていなかったらしい。霧の向こうから獲物を狙うあの飢えた獣を……

 正直思い出したくも無い不気味さなんだが、この反応を見るにアレは少女絡みではないのだろう。

 一安心だ。

 

 アレはファンタジーと言うより、妖怪だとかそっち方面の不気味さだったしな。と、訳の分からない事を考え。

 

「いや、なんでもない。忘れてくれ」

 

 ──話題を切り捨てる。

 恐らくアレはろくな者じゃない。

 もしアレを狙っているなら、止めようと思ったが、この感じだと獣の方もただ襲われたのを退けていただけらしいし。

 この少女も知らない方がいいだろう。

 

「ふーん、了解。ところで君はこれからどうするの?」

 

 これから、と聞いて少し真面目に考える。

 財布の中には1万円札が少々。

 贅沢をしなければ部屋も借りれるだろう。

 

 ……ただし、そのためにはあの化け物がいる大通りまで戻らないといけないが。

 そもそも化け物はあの1体だけなのだろうか? 

 もし、似た様なやつが複数居るとしたら……? 

 もし、ここが姿形の似ているだけの異世界だったら……? 

 

 そこまで考えて俺は考えるのをやめた。

 ……現状はこの少女と居るのが一番安全である。

 

 ○

 

 あれは? と聞かれてつい、魔物の話などしてしまった。

 彼の様な、地元の傭兵が知らないはずも無いのに。恐らく、口下手な彼は化け物とやらの事を聞きたかったに違いない。

 

 実力者の彼でも恐れるほどの存在か……

 思わず思考に潜ってしまう。

 ……やはり、ソレを退治しにいくのだろうか? 

 若干の不安に彼の方を向くと彼は頷き、一つ言葉を発した。

 

「せっかくだ、君の護衛でもしよう」

 

 ──意外な申し出だった。

 思わず、差し出された彼の右手を両手で握りしめてしまう。

 彼の手は鎧を着けている分重く、硬かったが。

 それが余計に何処か不安だったボクに安心感を与えてくれる。

 

「本当!? 助かるよ! 実はボク、ここに来たばっかでわからないことばかりなんだ。地元では2つ名で呼ばれたりするけど、ボクよりすごい人なんて山ほどいて、魔物退治だってやっぱり皆んなのおかげで! …………。

 とにかく! 君みたいな凄腕の傭兵がいれば百人力だね!」

 

 ──言葉が雪崩の様に飛び出していく。

 まだ、彼の素性がわかったわけでもないのに、うかつにも自分語りまでしてしまう。

 転移の罠らしき光に包まれてはや3日、この土地の文化や暮らしと、騙し騙しやって来たのだ。

 正直なところ1人でこの町を調べるのは限界だった。

 

「それじゃ、自己紹介しなくちゃね! ボクはレッド・ロータス。レッドでいいよ!」

 

 ボクは満面の笑みで彼に笑いかける。

 鎧姿の彼は表情が見えないものの、ケガを心配してくれるような優しい性格だ。

 変に気を使って真面目な顔をし続けては困らせてしまうだろう。

 

 それにどんな人なのか気になるのも事実。

 あわよくば警戒を解いて顔を見せてくれないかなぁ……

 なんて少し思う。

 

「……大輝だ。中村大輝」

 

 大輝が力強く言い切る。

 ナカムラ・ダイキ。彼らしい力強い名前だ。

 忘れないように心の中にメモを残し、ボクは「よろしくね!」と返す。

 

 ……しかし、ファミリーネームが先にくるとは珍しい。

 やはりここは地元から相当離れている、

 もしくは国すらも違うに違いない。

 

「あぁ……」と返事を返してくれるダイキは何処か上の空な様子。

 恐らく、これからの事を考えてくれているのだろう。

 その静かに、次の目標に向かっていく姿は傭兵らしく好感が持てるが、目標を獣の殲滅とかにされてはたまらない。とボクは口を開く。

 

「じゃあ、早速なんだけど、この辺で特別な力について詳しいところ知らない? カミカクシとか、転移とか」

 

 こんな事を言ってしまえば、別の場所から来たと言っている様なものだが今更だろう。

 それに実際、別の場所から来たのだ。

 このニホンと言う場所。不思議な事に言葉は通じているが、文字も文化も違い、そもそも隣接する国がない島国らしい。

 当然ボクは船に乗った覚えも無ければ。ニホンと言う国に聞き覚えもない。

 キカイってものもよくわからないし。

 とにかくわからないことだらけだ。

 

「山に寺がある。神隠しはわからないが、ヒントにはなるだろう」

 

 寺……って言うのは地元でも聞いたことがある。

 確か神様を祀る神殿の一種だったはずだ。

 そう言う場所であれば、魔力など不思議な力もたまりやすいと聞く。彼の言う通り、何か手がかりがあるに違いない。

 

「お寺かぁ……うん、そこに行ってみよう」

 

 目的地を決めボクらは歩き出す、まずは桐生寺、この町随一の心霊スポットと名高い山奥の寺だ。




第二話、いかがだったでしょうか。
今回は、主人公パーティの自己紹介になります。
そして今回オマージュさせていただいたのは、物語の舞台、冬木。
と、言っても全てが同じではありません。
水辺には公園があったり、中央には巨大な図書館があったりと相違点がたくさんあります。

今後も勘違いや、裏設定を入れつつ書いていきます。次話をお楽しみに!


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第三話 桐生寺

第三話になります。よろしくお願いします。


 ●

 

 月が西の空へと傾き始め、月明かりがうっすら夜道を照らす頃。

 町を抜け、立派な惣門をくぐり、緩やかな坂道を登る事、約20分。

 二人は山の上にある桐生寺へとたどり着いていた。

 

 桐生寺は入り口に巨大なイチョウの御神木が待ち構え。

 至るところに紫陽花が咲く、自然豊かな寺だ。

 本殿へは一直線に道が繋がっており、手水舎や絵馬掛所を右に。

 石畳をまっすぐ進むと、大きな常香炉を手前に置く本殿が見えてくる。

 

「おー! ここが桐生寺かぁ、スゴイね!」

 

「あぁ」と返事するのが精一杯の俺とは対照的に、レッドは楽しそうに寺を見渡し、イチョウの巨木を見上げるなりウズウズした様子だ。

 ……やはりありがちなファンタジー世界には、東洋風の建築物は少ないのだろうか。

 

「登っていい?」

「ダメだ」

 

 違った。意外と年相応なところもあるらしい。

「えーケチー」と言って拗ねるレッドに、それより何か調べるんじゃ無いのかと声をかける。

 予想できた事だが、この少女は常識がない。

 服装もあいまって、まるで物語の中からやってきたかのように思える。

 ここで何か発見があり、元の場所に帰せるといいが…。

 

 ため息をしながら、珍しく真面目な事を考えていると、石畳の上をコツコツ鳴らす足音が一つ。

 当然、騒がしく御神木を見上げる2人のものではなく。

 本殿の奥の方から眼鏡をかけた知的そうな男が歩いてくる。

 

「こんばんは、こんな夜更けに参拝ですか?」

 

「ご立派ですね」と特徴的な糸目をさらに細め、微笑む男性はスーツ姿。

 こんな時間に出歩いているとは思わないが、まさに役場か何かの公務員といった風貌であった。

 対する全身鎧の不審者が思わずと言った様子で問いかける。

 

「失礼、あなたは? ……ご住職では、ないですよね?」

 

「えぇ、まぁこう言う者です」

 

 そう言うと男性は胸ポケットから名刺を取り出し、渡してきた。

『冬木大図書館、館長:南郷 大地』

 ……冬木大図書館と言えば、襲われるまでいた川辺公園からも見えるかなり大規模な図書館だ。

 あの辺りの都市整備のシンボルの一つにして歴史保護の観点からも重要視されている観光スポットだと記憶している。

 そこの館長。つまりめっちゃお偉いさんだ。

 

「実は館長と同時に、町の重要遺産管理人もやっていましてね。数年間住職のいないここも、私の保護対象なっているのですよ」

 

 そう言うものなのだろうか? よくわからないがとりあえず納得する。

 あいにくこちらは、日銭を稼ぐのもやっとなフリーターだ、少女の期待する実力も、広い情報網もお持ちではない。

 が、管理人と言うからには挨拶は必須だろう。

 

「参拝は可能ですか?」

 

 その言葉に南郷さんは眼鏡の位置を正すと、若干の思考の後に答えを返してきた。

 

「大丈夫ですよ。ただ夜の山は熊が出るといいます。参拝後は速やかにお帰りになってください」

 

 好感の持てる返しだ、全身鎧とか言う、ザ・不審者を心配する言葉。

 真のエリートと言うものは差別的な視点を持たない聖人の事らしい。

 俺は満足げに頷いた。

 

 ○

 

 数巡の会話の後、「では、私はこれで」と言って男は去っていった。

 先程の会話を思い出す。

 ──相手の立場を利用した巧みな情報収集。

 話術は得意でないだろうと思っていた彼が見せてくれた技術に、本当にたくましい味方を得たと再認識する。

 

 夜の山は危険か……つまり、何かあるなら山の中なのだろう。

 

「山は危険らしいがどうする?」

 

 引き返すか? と言う言葉を付け足す彼の表情は相変わらず見えないが、何を言いたいのかはよくわかる。

 ……つまり、自分は雇われだから、一応確認はする。

 と言うだけの話だ。

 彼の中では、既に森に行くことが決定してるに違いない。

 ボクはいたずらっぽい笑みを返す。

 

「もちろん!」

 

 一直線で寺の奥へと向かう。

 明らかに怪しそうな男が来た方向だ。

 この先に何かあるのだろう。

 

 森の調査も視野に入れ。

 何故か整備されている湧水で水袋を満たしたボクは。

 まっすぐに本殿へと入っていった。

 

 ●

 

 こ れ は ひ ど い

 

 RPGの勇者ばりに躊躇なく。

 霊験あらたかな水を、懐に入れる少女を見て心の中で思わず呟く。

 

 まぁ、文化の差と言うだけなのだろうが。

 その内カミナリでも落ちないかヒヤヒヤする。

 迷いなく仏殿の方に向かう少女に声をかけ、適当な理由をつけながら離れにある建物の方へ向かう。

 

 実際何かあるなら、居住スペースだろう。

 ……そもそも南郷さんが管理しているとの事だから、重要な書物は全部図書館にあるんじゃないだろうか。

 と、途中でそんな事に気づきつつ、見て回ること数時間。

 

 月は傾き、そろそろ太陽と入れ替わるだろう時間。

 流石に徹夜はこたえたのか眠くなりつつある脳にムチを打ち、少女に声をかける。

 

「何も、無いな。……どうする?」

 

「うん、予定通り森にいこう!」

 

 眠そうな俺とは対照的に。元気そうな少女は、どこで拾ったのかもわからない、年季の入った小刀を片手にそう答える。

 

 ……いや、ホントにどこで拾って来たのソレ、なんか凄い禍々しいんだけど! 

 

 小刀はまるで瘴気に包まれているかのごとく、紫色の煙が絶えずその頭身を包み隠していた。

 白木の柄と鞘がセットになっていて鍔は無く、どちらかと言うとヤクザとかが持っていそうな刀だ。

 

 そんな明らかな危険物を、気にもせず太刀と一緒に腰に括り付ける少女。

 思わず戦慄しながら問いかける。

 

「そ、それは?」

 

 少女は自慢でもする様に笑うと再び刀を取り出し、こちらに見せびらかしてくる。こわい。

 

「いいでしょー! あそこの上にあったんだ〜」

 

 少女が指差す先には、壁の高い位置に固定された一枚棚。

 その上には神社か何かを模した模型に、榊の葉が飾られていた。

 

 ーー神棚である。

 

 まごう事なき神棚である。

 何故寺に? と思わなくもないが、古来より家内安全を願い設置する神具である。

 そんな所にあった刀が普通なはずあるだろうか……いや、ない! (反語)

 

「……。いい刀だな」

 

 とりあえず褒める事にした。

 明らかに禍々しく、聖剣というより、魔剣というような風貌だが。

 触らぬ神に祟りなし。悪印象より、好印象だ。と思い込む。

 

「だよね! だよね!」と嬉しそうに刃をなぞる少女にヒヤヒヤしながら、早足に木造の建物を出る。

 

 ……これ以上ここに居ると、いつ仏さまを怒らせるともわからん。

 別に俺は信心深い仏教徒と言うわけでは無いが、居るかいないかなら、居た方がおもしろいと思う程度には日本人らしい宗教観をしてるので、余計な祟りには会いたくないのである。

 

 

 そうして、南郷さんのせっかくの忠告を忘れた俺は、小走りになりながら敷地を抜ける。

 一度振り返り、少女がついて来ている事を確認すると。

 そのまま森に向かって行くのだった。




第三話、いかがだったでしょうか。
だんだんと勘違い小説らしくなって来ましたね。
それに伴い、視点変更が増えていきます、
小説自体は加筆修正して改善していくつもりですが、
ご意見等・訂正等ありましたら。よろしくお願いします。

それでは次回もお楽しみに!


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第四話 森の中で

まずは、読んでくださったあなたに感謝を。
そして、評価ありがとうございました。
今後とも自分なりに書いてまいります。

それでは引き続き、第四話。
よろしくお願いします。


 ○

 

 調査が終わるなり、早足に森へ向かう彼。

 その姿を見て、ボクは気を引き締める。

 

 ……魔力調査はボクに任せて、周囲の警戒に回ってた彼の事だ。何かの接近に気づいたに違いない。

 もしくは既に気づいていたが、あえて待っていてくれたのかもしれない。

 

 それでいて、広くスペースもある寺ではなく。

 森の中を選んだのは、周りの被害を考えたという事。

 ──つまり、相当な実力者が相手だ。

 

「やっぱり」

 

 森へ入るとその事を証明するかの様に、あちこちに残る戦闘痕。

 ところどころ木は切り倒され。

 ここに居るのは熊などでは無い事が容易に考えられる。

 さらには数刻前に見た魔物の死骸。

 10や20では足りないソレが、乱雑に転がっている。

 

「速い」

 

 彼はソレらに目もくれず、グングンと森の中へと進んでいく。

 鎧姿で走りづらいはずの山中を、驚異的な体幹操作でむしろ利用しながら駆けているらしい。

 それは窮地を救ってくれたあの背中と重なり、僅かな尊敬を抱かせた。

 

 

 走り出す事数分。

 月明かりが辺りを照らす。

 木々は一時的に途切れ、ただ広い空間へとたどり着いた。

 彼はボクに声をかけてくる。

 

「レッド、刀を捨てろ」

 

「うん」

 

 その言葉に従い、太刀を地面に置く。

 武器を捨てる、つまりは対話の姿勢だ。

 ここまで待ってくれたからには、

 相手も応じてくれると判断したのだろう。

 

 ──カランと鞘が地を打つ音。

 ボクの太刀が地面に落ちると同時に、

 木々の間から故服を身に纏った、無精髭の男が薙刀を片手に現れる。

 

「ヒュー、やるねぇ。あの距離で俺の隠密を見破っただけで無く、槍の振りづらい森へ誘い込むと来たもんだ。あんた、ただモンじゃないな」

 

 ヘラヘラとした口調とは対照的な油断ない純粋な闘気。

 薙刀の鋒は低く下げられ、真剣な瞳が彼の一挙一動に注目している。

 

 対する鎧姿の彼は、構わず正面から相手を見つめる。

 ── 一見隙だらけな様に見える自然体。

 だが、ボクはあの鎧が音を置き去りにする事を知っている。

 あの油断を誘う姿勢こそが、必殺の構えなのだ。

 

 ピリピリと張り詰めた空気の中。彼の右手が動く。

 男が迎え撃つために腰に力を入れ……

 

「中村大輝だ」

 

 彼の発した言葉に、思わず力を抜く。

 男は苦虫を噛み潰した様な顔で構えを解き、胡乱げに睨みつけた。

 

「戦う前に名乗りを上げる……ってタイプでもねぇか。その様子じゃ……」

 

 彼は片手を差し出したまま、男の名乗りを待っている。

 ボクに武装を下ろさせた通り、本当に戦うつもりはないのだろう。

 

 男はガシガシと頭を掻くと、深くため息を一つ。

 彼の片手に、手を叩きつけ名乗りを上げた。

 

「はぁ……馬岱だ! そう名乗ってる」

 

 馬岱の名乗りに満足げに深く頷いた彼は、良き友を迎え入れる様に改めてその手を握り返した。

 

 ●

 

 手のひらに走る痛みに目が覚める。

 目の前にはむさ苦しい男の顔。

 半分意識が飛んでいたが、どうやら握手を求めているらしい。

 よくわからんが握り返す。

 

 ……失礼だが半分くらい寝てて覚えてない。

 確か根っこやらに躓きつつも急いで寺を離れて。

 レッドにあの禍々しい刀を捨てておけ、と言ったことは覚えているのだが……。

 

「よろしくね! 馬岱さん!」

 

「あぁ、嬢ちゃんもよろしくな」

 

 ──視界の端で会話する2人が見える。

 俺がくだらない事を考えている間にも、レッドは馬岱と言う男に話しを聞いていくつもりらしい。

 

「……座って話そう」

 

 これ幸いにと俺は2人を近くの岩場に誘導し、自分も大きめの岩にドカッと座る。

 公園のベンチには負けるがなかなかの座り心地だ。

 ……この分なら眠るにはちょうどいいだろう。

 眠気に負けそんな事を考えた俺は、そのまま目を瞑った。

 

 ○

 

 馬岱さんから話を聞く。

 過去に行われた、英雄が行う儀式決闘。

 そして万能の願望機。

 

 全く聞き覚えのない話だ。

 さらには町全体が霧に覆われ、町からも出れないと言う。

 正直信じられない。眉唾物な話だ。

 

「大輝、ほんとなの?」

 

 彼はボクの問いに間髪入れず頷く。

 それなら先に伝えておいて欲しかったのだが……まぁ、ボクを帰すだけなら教える理由もないか。

 

 一度整理しよう。

 突然ここに呼ばれたボク。

 獣とのキメラじみた魔物。

 町を覆う霧。

 そして儀式決闘。

 

 一番怪しいのは『英雄』が行うというその儀式だ。

 過去に行われたと言うソレ。

 その性質はボクがここへ来た理由になりうる。

 

「もしかして、儀式は終わってないんじゃないの?」

 

 その考察を馬岱さんに話すと、彼は大きく頷く。

 

「あぁ、俺もそう思っていた」

 

 やはり、と思う。

 儀式がどの様なものか、詳しくは知らない。

 しかし、『英雄』が関係する以上、ボクに関係してくる。

 もといた場所で、英雄と呼ばれてしまったボクに。

 

「実は儀式に勝利したのは狂戦士でな。

 ……理性もない化け物同然だったから封印されたんだ」

 

 封印、か。恐らくそれが儀式を狂わせたんだろう。

 そして願望機と呼ばれる、神秘の結晶。

 空間を歪ませるくらい造作もない。

 思考を続けるボクを他所に、彼は続けて言う。

 

「それに、霧の見当もついてる。恐らくソイツの能力だ」

 

「それって?」

 

 思わず彼に問いかける。

 能力とまで言うほどだ、よほど特異な力。

 所謂、神の祝福の事だろう。

 

「異界化だ。それもかなり広範囲の」

 

 異界化、主に高位の悪魔が使うソレ。

 なるほど、人には過ぎた力だ。

 狂ってしまうのも無理はない。

 

「それが発動してるってことは……」

 

 馬岱さんが頷き、絞り出したかの様に声色を深め、告げる。

 

「封印が解けちまったんだ」

 

 解けてしまったと語る彼は、拳を握っていた。

 何者かに向けて高まる怒気。

 おそらく、いや、ほぼ確実に。

 ソレを行った者が居るのだろう。

 

 首を振って表情を戻した彼は立ち上がる。

 そして、真っ直ぐにボクらへ向かって頭を下げてきた。

 

「恥を偲んでアンタらに頼みたい。アイツを、ルードを倒すのを手伝ってくれないか!」

 

 熱い言葉だった。

 憎むべき敵を撃つのではなく、共に戦った友を救うのだと。

 言外に意思が伝わってくる。

 そして、それは。

 ボクはもちろん。彼の心も動かしたに違いない。

 

「うん!」「もちろんだ!」

 

 こうしてボクらの次の目標が決まった。

 次に目指すのは馬岱さんの友が待つ、廃教会。

 あの大通りを抜けたその先だ! 

 

 ●

 

 夢の中でネズミの国に行き、土産がいるか聞かれて「もちろんだ!」と、答え目が覚める。

 惜しい事をしたと、軽く後悔をしながら二人の会話に混ざったら……。

 ──次の目標があの化け物になっていた件について。

 

 なんでさ!? 

 どうしてそうなった!? 

 そりゃ寝てたのは俺が悪いけど。マジでアレと戦うの!? 

 多分あれドラゴンか何かだよ!? 俺ら、炎の紋章とか持ってないよ!!? 

 

「……勝算はあるのか?」

 

 発案者であろう男に目を向ける。

 薙刀に中国のものであろう民族服。

 佇まいは武人と言った感じであり。実力者である事は理解できる。

 この男が無理なら絶対無理だろう。

 俺の言葉に男は一つ頷くと懐から1丁のボウガンを取り出す。

 

「これは?」

 

「祈りの弓だ、不浄を祓い、自然に返す。そう言った力を持つらしい」

 

 断言してくれ、頼むから……。

 そう思うも仕方なく、仮にその通りの力を持つと仮定して考える。

 遠距離からの光属性攻撃かぁ……まぁ、なんとかなるんじゃね? 

 後は誰がその間敵を引きつけるかだが……。

 レッドを見る、少女は力強く頷いてくれる。

 

「任せて! 弓の扱いなら、ある程度心得があるよ」

 

 そっちかぁ……

 まぁ、少女を死地に追いやらないで済んだと喜ぼう。

 となれば……。

 俺はバイザーで見えない事も忘れて、いい笑顔で馬岱の方を向く。

 

「わかってる、共に戦おう」

 

 爽やかな顔で道連れ宣言をされてしまった。

 当然である。

 少女を働かせて、大人が働かない道理はない。

 仕方なしに一つ頷くと2人を連れ森を抜ける。

 

 朝になりルードが町で暴れては事だ。

 そう言う男の言葉に背を押され。

 2人を抱えた俺はそのまま空へと舞い上がった。




第四話、いかがだったでしょうか。
今回も、冬木に関わり深いオマージュ要素がありました。
そして馬岱と言う男。
彼が身に纏うのは、胡服。
中国、戦国時代の騎兵服です。

ハイペースで進む物語ですが。
次話をまた、お読みいただければ幸いです。


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第五話 濃霧の気配

第五話になります。

今回は少しシリアス路線が入ります。
皆さまを置いて行かないよう、加筆修正を行なっておりますので、読み返すと描写が増えていたりする事もあります。
拙い文章ですが、今後とも本作をよろしくお願いします。

それではどうぞ!

※主人公とヒロインの温度差は勘違い小説の華。


 ○

 

 大輝が手を合わせ祈っている……。

 目の前の獣に。

 そして荒れてしまった自然に対して。

 

 ──それは神聖な光景だった。

 明けの日差しが、彼の白銀の装甲が。

 その全てが光り輝き、彼の姿を照らし出す。

 それはまるで、彼の美しい心を表す様で……

 

「行こう、廃教会へ!」

 

 振り向く彼の芯のある声。

 

「応!」「うん!」

 

 思わず出遅れる。

 だってあまりにもカッコよかったから。

 これはきっと憧れだ、この胸の高鳴りは。

 みんながボクに重ね見た『英雄』。

 それは彼の様な人を言うのだろう。

 

 ボクは僅かに揺れた魔力を手足に乗せて、彼の隣へと駆けていった。

 

 ●

 

 時は少し遡る。

 

 寺を出発し、飛行を続けること約30分。

 俺たち3人は昨晩、獣に襲われた川辺公園に戻ってきていた。

 辺りは陽の光にうっすらと照らされ、いつも以上に閑散とした風景をさらしている。

 

 俺はその光景を見て、呆然と立ち尽くした。

 

 川や公園を彩る木々は倒れ。あたりに木片が散らばっている。

 道の上には、犬の様な生き物の死骸。

 押し潰されたかの様なそれが、草花を赤く染めている。

 

 そして辺りに散らばる金属片。

 ──俺の唯一と言っていい財産。原チャリである。

 

「なんてことを!!」

 

 俺の怒りに、レッドと馬岱が同意する様に頷いている。

 

 ……同意してくれるか! 

 日銭を稼ぐのがやっとの俺が、苦労して買った相棒。

 それがこんな無残な姿になっている。その悲しみに! 

 

 手を合わせ、かつての相棒に黙祷した俺は振り返り、力強く二人に言う。

 

「行こう、廃教会へ!」

 

「応!」「うん!」

 

 俺たちの敵は廃教会にあり! 

 

 

 

 コンクリートが剥がれ、歩きにくい大通りを進むと、うっすらと霧に囲まれた教会が見えて来る。

 

 錆びついた金属門に崩れたレンガ壁。

 敷地内には洋風の墓石が無数に広がり、まるで人の出入りを拒んでいる様だ。

 その奥に見える教会は半壊し、それがより一層不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「霧が少ねぇ……」

 

 隣で薙刀を肩に乗せながら、大股に歩く馬岱が呟く。

 

 既に視界は狭く。足元も見えない。

 それでも彼にとっては足りないらしい、

 ……アサシンかお前は。

 半ば呆れながら俺は口を開く。

 

「なら、濃い方へ向かえばいい」

 

 その言葉に何やらハッとした2人は頷くと、その場で構える。

 

「なるほど」「そりゃわかりやすい!」

 

 ニヤリと笑う二人。

 同時に凄まじい衝撃波。

 あまりの衝撃に俺の背後にあった瓦礫が、ガラガラと崩れ落ちる。

 交差する太刀と薙刀。鋭い刃と刃がお互いの得物を映しあっていた。

 

 そう、二人はお互いの武器を目にも止まらぬ速さでぶつけ合ったのである。

 

 ……えぇ? 何ソレこわい。

 

 ○

 

「「ハァッ!!」」

 

 大輝のアイディアを受けた僕たちは。

 時々霧を晴らしながら、常に霧が濃い方へ進んでいく。

 なるほどいい案だ。

 

 発案者であり索敵能力のある大輝が敵の警戒をし、ボクと馬岱さんで敵を誘い出す。

 先程から出てくる魔物程度であれば、霧が晴れる分むしろ戦いやすくなり。

 ターゲットが来るのであれば霧の濃さで明白。

 

「嬢ちゃんまだまだいけるな?」

 

 心配なのは体力だが、さっきの話し合いで軽食も済ませた。

 十分に休むことの無かった、あの頃と比べれば何ら問題はない。

 こんなのは食後の運動にすぎないのだ。

 

「よゆーだよ!」

 

 また、ボクも馬岱さんも、武器の心配はしていない。

 それはお互いの技量を並では無いと理解している上。ボクらレベルであれば、自然と武器に魔力が回るからだ。

 魔力を纏わせる事で、武器はミスリルすらも断ち切り、炎をも跳ね返す武具へと変わるだろう。

 

「へッ、そりゃいい!」

 

 馬岱さんの豪快な薙ぎ払いに続いて、油断なく魔物を切り捨てる。

 所々で出てくる、鎌をその身に宿した獣。

 ボクを連日襲ってきた、あの魔物だ。

 ここに居ると言う事は、狂戦士と未関係ではなかったらしい。

 そんな事を考え、敵を切り捨てる事数分。

 共同墓地を抜けようかという頃に、突然彼が足を止め、背後に振り返る。

 

「戻るぞ」

 

 一体どうしたのか、そう問いかけようとしたボクを遮り馬岱さんが言う。

 

「足音だ、ソレも多数。獣じゃねぇ」

 

 足音、気づかなかった。

 ボクの探知は魔力に由来する。そのため、先ほどの霊地や、この魔力霧の中じゃまるで役に立たない。

 そう言った点を考えても彼らが先に気づくのは当然だった。

 

「敵だね!」

 

 ボクは油断なく二刀を構え、馬岱さんもその矛先を背後に向ける。

 

 そうして構えるボクらの前に、霧の中からゆらりと人影が現れる。

 それは一見、人だった。ボサボサの頭とヨレヨレのシャツだけ見れば、何もおかしな事はない。

 

 しかし、表情が違った。

 だらしなく半開きになった顔。

 ギョロギョロとこちらを見るその瞳。

 理性はカケラも感じられず、ただひたすらに獣のような凶暴さを兼ね備えたそれは……。

 

「ゾンビだと……ツ!?」

 

 彼の怒りに震えた声。

 それはそうだろう、彼にとってそれは。

 あってはならない者。

 許すわけにはいかない生命の冒涜。

 ボクの世界では『グール』とも呼ばれるそれが、僕らを囲む様にこの濃霧を切って現れた。

 

 ●

 

 恐怖のあまり動けない俺の体を、奴らの剛腕が薙ぎ払うように打ちつけた。

 人の限界を超えた力を受けた俺は、近くの墓石にその背を打ちつけ、座り込む。

 

「ぐ……はぁ……」

 

 苦しい、息ができない。肺から押し出された空気に意識が朦朧とする。

 そしてゾンビは……

 

「大輝!」

 

 首を切り落とされ、血を撒き散らしながら、そのまま後ろに倒れる。

 絶え間無く動く金の軌跡が、次々と目の前の存在達を刈り取っていく。

 

「大輝! ボサっとすんな! 撤退だ!」

 

 馬岱の声が響く。

 彼の槍はあたりの霧ごと、ゾンビを吹き飛ばす。

 それだけで四面楚歌は崩れ、退路ができる。

 

 情けない俺は、ただぐるぐると思考する。

 何かしなくては……

 でも奴らはアレだけいる……

 何で、どうして。

 訳の分からない恐怖が、俺の胸を締め付ける。

 

 今日の事を思い出す。

 

 ──ヘッドライト一つ見えない夜更けだった。

 ──閑散とした、声ひとつ聞こえない朝焼けだった。

 ──ひと1人騒ぎ立ててはいなかった。あんなに荒れた道路だったのに。

 

 吐き気がする。

 でも、昼を最後に何も食べていない喉からは何も出なくて……

 考えるのが、苦しくなった俺は。

 そのまま意識を失った。

 




第五話いかがだったでしょうか。

墓地と言えばゾンビ、王道ですね!
そして、勘違い要員にシリアスをぶち込む暴挙。
しかし、ご安心を。
何とか紡いで見せましょう。この物語。

それでは次話をお楽しみに!


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第六話 揺らぐ心

お待たせしました。第六話になります。
感想、評価。とても励みになっております。
今後とも細々書いていきますので、よろしくお願いします。

今話は墓地から脱出し、とある屋敷で身を休めているところからです。
それでは、どうぞ。


 ○

 

 太陽が辺りを照らし、南の空へ登り始めるころ。

 住む者もいない武家屋敷に、三人はその身を寄せていた。

 

 所々に傷が目立つ畳の上で、ボクはその瞳に魔力を通し、眠る大輝の診断を行う。

 負傷も無ければ、呪いもかかっていない。

 いたって正常な健康体だ。

 それでも目覚めないのは……心の問題だろう。

 

「……大輝の様子は?」

 

 襖に背を預け、タバコの煙を吐き出しながら、馬岱さんが口を開く。

 

 ボクはそれには答えず、目の前に眠る彼を見る。

 若い、男だった。

 目つきが悪く、色白で堀の深い顔。

 髪は肩にかからない程度で、Tシャツにジャケットを羽織った、大学生くらいの男。

 

 体には薄く残る切り傷や、胴を横断する古傷があり、なるほど。戦う者の身体であるのは間違いない。

 

 しかしそれ以上に注目すべきは、魔力量。

 全身を静かに循環するそれは、人の身に流れるには過剰にすぎる。

 この分では、彼に軽い不死性すら与えているに違いない。

 

「身体は問題ない。でも、これは」

 

「人の身に余る……ってんだろ?」

 

 その言葉に頷き、改めて魔力を込めた瞳で、今度は馬岱さんを見る。

 大輝と同じ膨大な魔力。

 四肢へに轟々と流れ込む黄金のソレは、まるで地脈を直視しているようで……。

 

「思い出したぜ、そいつも俺と同じ『英雄』だ。それも、ガキ庇って一緒にくたばっちまうタイプのな」

 

 苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた彼は、天を仰ぐと吐き捨てるように言った。

 

「それで、ほかに質問は?」

 

 正直ボクも頭の整理はできていない。それでも、大輝がこんな状態な以上。少しでも情報は手に入れなくてはならない。

 

「あの、グールは?」

 

 馬岱さんは、苛立ちを隠さず吐き捨てる様に言った。

 

「わからねぇ、『死神』か『冥府の火』か、それ以外か……」

 

 その言葉に間髪入れず問いかける。

 

「死神って?」

 

「……英雄だ」

 

 少し考えるように答えた彼に、違和感を感じつつ質問を続ける。

 

「冥府の火って?」

 

「……何かの組織だ」

 

 ハッキリ答えない彼の様子に疑問を持つ。しかし、聞かねばならない。大事な事だ。

 

「……死神の能力は?」

 

「……」

 

 不自然に会話が途切れる。英雄の怒気を肌で感じる。

 自然でいて、荒々しい魔力が彼を中心に吹き荒れているのを感じる。

 軽く混乱する。一体どうしたのか、彼は何を考えているのか。

 そして彼は敵なのか、味方なのか。

 

 思わず拳を握り、馬岱さんの襟を掴む。

 ──彼と会ったのは危険と言われた森だった。

 ──彼に連れられて行った場所で敵に襲われた。

 ──彼は、『英雄』で、大輝もまた『英雄』だ。

 勘違いかもしれない、でも、それでも。ハッキリさせないといけない。

 

「答えて!!」

 

 馬岱さんが拳を握る。その手から血がこぼれるのも構わずに。ただ、怒りを込めてその腕を振り上げる。

 

「……わからねぇ。……わからねぇんだよ。俺じゃ!」

 

 

 

「馬岱!」

 

 声がした、ボク達の後ろから。

 低く、それでいて誰かを愛せる声が。

 

 馬岱さんの手が止まる。

 その手を握るのは、灰色のリストバンドをした青年の手。

 

「血が、出ている。落ち着け」

 

 鋭い目を心配そうに光らせた、彼が傷ついた英雄の腕を止めていた。

 

 ●

 

 セ──────フ! 

 

 いや、危ない所だった。

 情けなく気絶した俺なんかのために、二人が喧嘩するのなんて見てられないし。俺も無事では済まないだろう。

 

 そもそも、あの時は寝不足からか、空腹からか最悪の方向に思考を進めたが……

 ……魔物がいるんだ。アンデットだって居てもおかしくない! 

 そもそもあそこは墓地、むしろ動死体は通常モブだろ! 

 ──そう思い込んだ。

 

 あー本当に情けない。

 それより今は2人を止めるのだ。

 もしコイツらが居なくなったら、ゾンビがいる疑惑の町が、不思議パワーマシマシの霧とやらで脱出できないままになってしまう! 

 そうなるまえに先ずは……

 

「大輝!!」

 

 レッドが俺の胸に飛び込んでくる。

 

「悪りぃ……取り乱した」

 

 馬岱がバツが悪そうに顔を背ける。

 

 なんとも言えない雰囲気だがもう二人は争う気は無いらしい。

 抱きついてきた少女を撫でながら、俺は一つ思う。

 あっさりしすぎじゃない?? 

 

 ○

 

 心配そうな大輝に、先ずは体を休めてといい含め。

 ボクは、武家屋敷の道場とも言うべき場所へ向かう。

 正直大輝の事が心配ではある。

 が、ボクらの『英雄』はあの程度もう乗り越えたらしい。

 それよりも一つ、確かめる事がある。

 

「来たかよ……」

 

 ボクが足を踏み入れるなり、座禅をしていた馬岱さんが声をかけてくる。

 ボクはそれを聞き流すと、彼にただ長いだけの木の棒を投げ渡す。

 

「構えて」

 

「ヘッ」と悪態をついた彼は木の棒を拾う。

 真剣な眼差しで。その頼りない槍を構える。

 ──違和感があった。

 彼と共に歩き、そして探索したあの時……

 

「いくよ!」

 

「ハァッ!」

 

 真っ直ぐに。

 そう。真っ直ぐすぎる一撃が、ボクの心臓に迫る。

 ボクは一刀目を槍の軌道へ滑り込ませ、その勢いに逆らわず身体を回転。

 続く二刀目で彼の首を狙う。

 

「チッ……!」

 

 しゃがむと同時に槍を手放した彼は、低姿勢のまま斜め前に駆ける。

 大きく踏み込んだかと思うと、空中に浮いた槍を掴み無理矢理反転。

 薙ぎ払う様にその槍を凪いだ。

 

「甘い……よッ!」

 

 ボクは、それを木刀で受け止め、槍を蹴るように後ろへ跳躍。

 構え直し、重心を下へ。

 地を滑るようにして、彼の周りを駆ける。

 馬岱さんはめんどくさそうに頭を掻くと、大股での踏み込み。

 ボクの走る軌跡に槍を薙ぎ払う。

 

「……オラァ!!」

 

「!!」

 

 ボクは目の前に振るわれた槍に、勢いを乗せ木刀を叩きつける。

 軌道を逸らし、上に跳ぼうとして、あまりの衝撃に腕が痺れる。

 ボクは静かにその手を離した。

 

「カラン」と言う乾いた音が二つ。

「チッ」っと不機嫌そうな声が一つ。

 それを聞き、ボクは苦笑いと賞賛で返す。

 

「上手い。 力もある。 技術もある。 咄嗟の判断は並の人間以上だろうね」

 

「そうかよ……」

 

 不機嫌そうな彼は続きがあるんだろとばかりにこちらを見る。

 

「でも、荒い。そして真っ直ぐすぎる」

 

 ボクが断言すると少し辛そうな顔で彼は返してきた。

 

「わかってた事だ」

 

 その言葉にボクは確信する。

 

「その技。そして力。君のものじゃ無いんだね」

 

「あぁ」と彼が返す。やはり、と思った。

 ──初めて会った時、彼は『名乗っている』と語った。

 ──共に歩く時、時々明確な隙があった。

 ──共に霧を晴らした時、力任せに槍を振るっていた。

 

 その小さな違和感は『英雄』と言い張るにはあまりにも大きかった。

 彼が扱うのは槍だ。

 それも先端に刀のついた。

 槍とは繊細だ、立ち回り次第で間合いを失ってしまう。

 刀とは繊細だ、一つ間違いで簡単に割れてしまう。

 そのどちらもが、彼の豪胆な性格に噛み合わず。明らかな矛盾を生んでいた。

 

 そう、彼は。『英雄』では無いのだ。




第六話 いかがだったでしょうか。
著者は戦闘描写が難しかったです。
ただ、それなりに盛り上がる話しになったかなと思います。

今話は馬岱さんについて、情報が出てきましたね。
主人公達より先に、周辺情報が深掘りされる仲間…
実はこれがこの小説のスタンダードになります。
是非とも設定を予想しながら、物語を読んでいただければ幸いです。

それでは、また次話をお楽しみに!


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第七話 海を眺めて

お待たせしました。
第七話になります。よろしくお願いします。


 ────────────────────────────────

 

 湖が荒れている。

 

 黄金に輝く魔力の奔流。視界を染めるほどの輝きと魔力のうねり。それが極限まで圧縮され、対峙するナニカに向けて放たれる。

 

 海を照らす巨大な砲撃は、桜色の奔流を思い出させる。

 場違いにもソレを見る俺の視界を、舞い上がった塵煙が隠した。

 

 ──バイザーが視界をクリアにする。

 遠くに映る闇色の真円。

 見覚えのある複雑怪奇な魔法陣に、思わず口を開く。

 

「フォーカス・ブースト!」

『──―Ready, 〝Focus Boost〟!!』

 

 途端、全身を打つ巨大な圧力。常日頃なら気絶して終わるソレを気合いで耐える。

 視界は流れ。立ち尽くす騎士を通り越す。

 痛みに喘ぐ口を無理矢理開き、言葉を紡ぐ。

 

「■■■■■・ブーストッ‼︎」

 

 大気の歪む、音が聞こえた。

 

 ────────────────────────────────

 

 ●

 

 

 変な夢を見て目を覚ます。

 夢の内容は覚えていないが、何となく目が覚めたので背筋を伸ばし、灰色リストバンドを腕に巻く。

 

「……よし」

 

 二人が置いてってくれたらしいサンドイッチを頬張り、武家屋敷の玄関へ。伸び切った雑草を踏み締めると、そのまま住宅街とは逆へ歩き出す。

 

 この冬木には川辺公園の他に、海にも公園がある。

 蛍が舞う静かな川辺公園とは対照的に、爽やかな風が吹き、アビが小魚を頬張る。そんな生命を感じられる癒しスポットだ。

 

「やっぱり、人はいないか……」

 

 人気のない道を歩く。

 よく育った木々、適度に置かれたベンチ。

 その見慣れた光景は、俺の心に少しばかりの不安を与える。

 

 海の見える道を進む。人の気配のしない海と、公園。

 隣人が居ないだけで、こうも変わるのかと驚き、目を伏せる。

 

 ……楽観視してたが、もしかしたらこの街は。

 

 公園の中央に着く。

 相変わらず足音一つないその様子に、心が痛む。

 自分は今どんな顔をしているだろうか……

 そう思い、鏡代わりになりそうな噴水へと体を向ける。

 そして視線を上げ……

 

 ──噴水の端に腰掛け、静かに海を見つめる幼女を見つけた。

 赤いリボンを結んだ黒髪に、赤いワンピース。

 小学生くらいの少女が、悩ましげに海を眺めている。

 

 まさかの第一村人発見である。

 俺は急かす心を落ち着かせ、少女を怖がらせない様に穏やかに声をかける。

 

「やあ、海でも見てるのか?」

 

 振り向く少女、目尻に浮かぶ涙。

 やっぱり目つきが悪いって損だなと、後悔に浸る俺。

 次の瞬間、少女が口を開く。

 

「大樹さん! おじさんを助けて!!」

 

 流れる涙、そして少女の両手は。

 俺の手を掴もうとして……。通り抜けた。

 

 ○

 

 馬岱さんと和解し、そのまま稽古を少ししたボクは機嫌良く縁側を歩く。

 

「やっぱり強いね! 馬岱さん。大剣とか使ってみない?」

 

 ボクの提案にいつも通り顔を顰めると、首を振って呆れた様に言葉を返す。

 

「どこにあんだよ、そんなもん。それに、俺はコイツでいいのさ」

 

 彼は薙刀を軽く揚げてみせた。

 朱色に染まる柄は、随所に傷が残り、年季を感じられ。

 穂の根元には、馬の尾を彷彿とさせる飾りがつけられており、無骨な槍に芸術性を与えていた。

 

「そっかぁ、じゃあ仕方ないね」

 

 彼の返しに、笑みをより深くしたボクは機嫌良く襖を開け……。

 ──もぬけの殻となった布団を視野に入れる。

 玄関へ向かう襖は開け放たれ、彼が出て行ったのは確実だろう。

 

 ボクは一瞬呆然とすると、念のため急いで部屋中を探し回る。

 布団! 

 ……いない! 

 押し入れ! 

 ……いない! 

 タンス! 

 ……いない! 

 

「馬岱さん!! どうしよう! 大輝がいなくなっちゃった!!」

 

「落ち着け!」

 

 ボクの頭に馬岱さんの手が振り下ろされる。

 いたい。

 

「ガキじゃあるまい。タンスに入るわけねぇだろ」

 

 それはそうだ。ボクは袋棚にかけた手をそっと戻し、馬岱さんに向き直る。

 

「でも!」

 

「それに、見て見ろ。用意しといた昼飯がねぇ」

 

 彼の指差す先には、空になったお盆が一つ。

 どうやら残さず食べてくれたらしい。

 少し嬉しい。

 

「飯を食うってのは健康の証だ。自暴自棄とかじゃねぇさ」

 

「だから待ってやろうぜ」と語る馬岱さんはニカっと笑うと台所に向かう。

 どうやら、夕食を用意するつもりらしい。

 

 まだ、心配は抜けないが、ワタワタしていて仕事がなくなるのも癪に触る。

 急いで立ち上がったボクは、台所へと駆けて行った。

 

 ●

 

「つまり、おじさんが偽物に騙されて、儀式に挑戦していると」

 

 ──“そうなの。”

 

 俺の言葉に頷く黒髪リボン少女。名を凛花と言うらしい。

 気づいたら、幽霊状態でここに居た彼女は、唯一の肉親であるおじさんが、自分の偽物に騙される所を見たと言う。

 

 ──“頼れるのはダイキさんだけなの。お願い! ”

 

 しかし自分では何も出来ず、どうにか出来ないか考えていた所に、運良く見える俺が登場。

 もともと知り合いだった俺に、おじさんを助けてほしいらしい。

 

 ……人違いじゃないかなぁ……。

 心の中でそう呟く。

 俺は少女に見覚えも無ければ、死霊術師だと言うおじさんに面識はない。

 

 ──“やっぱり、ダメ……? ”

 

 落ち込む少女の姿が見える。弱々しい半透明な少女はやはり見覚えがない。

 本当なら断るべきだろう。

 義理もなければ、危険が伴う。

 

 ──しかし。

 今の俺には力がある。『仲間』と言う力が! 

 それにおじさんは死霊術師と聞く。

 であれば、あの時のゾンビが彼の仕業である可能性も0では無い。

 よって……

 

「任せてくれ」

 

 力強く頷く。

 打算あり気の他力本願だが、この幽霊っ子を見て、助けたいと思う心もある。

 

 危険極まりないこの町で、戦場に向かう理由はそれだけで構わないのだ。

 




第七話 いかがだったでしょうか。
今話は、貴重な日常パート。に、なってるといいなぁ。
年が明け、忙しくなる頃合いですが。
無事完結できるように頑張って参ります。
皆様の評価、感想、ご質問など。お待ちしてます。

それでは、次話をお楽しみに!


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第八話 オーパーツ

大変お待たせしました。第八話になります。
リアルの都合で毎日投稿が難しくなって参りました。
なるべく早くあげられる様に頑張ります!


 

 ●

 

 噴水広場でおじさんの事を引き受けた俺は、そのまま海岸の方に降りる。

 どうやらそこに、渡したいものがあるらしい。

 

 ──“あった! あそこだよ! ”

 

 頭の中に響く声。

 凛花の指差す先に、白銀に光る何かが落ちている。

 それは2枚の板だった。恐らく何かの部品であったであろうそれは、半分で断ち切れ、機械的な複雑な配線が飛び出している。

 そして、異様なのがその光沢。

 太陽の光を反射するだけではなく、

 不定期に。

 脈打つ様に。

 不思議な光の脈動が、その物体を目立たせている。

 

 ──“多分、これが私の依代なの”

 

 幽霊少女が呟く。

 なるほど、これと共に別の場所に連れて行ってほしいと……。

 ……え、これ触らないといけないの? 

 思わずそれを見る。

 

 心なしか先ほどより早くなった気がする脈動。

 正体不明のオーパーツという事もあり、最近厄介ごとだらけの俺は気遅れする。

 

 ──“やっぱり、迷惑だよね……”

 

 落ち込んだ少女の声。

 慌てて俺は少女に言う。

 

「大丈夫だ! 男に二言は無い!」

 

 キラキラとした視線が、俺に突き刺さる。

 情けない事だが、俺には断りきれないダメ親の才能があったらしい。

 ため息を一つ。大きく深呼吸をし、まっすぐにオーパーツを見た俺は、手を伸ばす。

 

「うぉ!?」

 

 手に触れた瞬間。オーパーツが破裂する。

 眩い灰色の閃光。視界を煙と光が覆う。

 目が慣れてくると、見慣れたバイザー。

 どう言う訳か、俺は例の鎧を装着していた。

 

 ──“すごーい! どうやったの!? ”

 

 驚く少女の声に、俺も混乱する。

 突然変身した事もそうだが、バイザー内に浮かぶ文字。“Focus Boost”

 自慢にもならないが、俺は英語が苦手だ。

 ……ふぉくっぼおすと? ダメだわからん

 腕を組み、全力で首を傾げる。

 

 ──“ふぉーかす、ぶーすとだよ! ダイキさん! ”

 

 少女からサポートが入る。どう言う仕組みかは知らないが、少女は俺と視界を共有しているらしい。

 てか、よく見たら装甲自体も少し変わっている気がする。

 全体としては大きな変化はないが、背中のブースターに着いた三角形の翼。

 不可思議に脈打つそれは、どこからどう見ても先ほどのオーパーツだった。

 ……寄生された!? 

 

 ──“これで、問題なくダイキさんと一緒にいけるねー! ”

 

 嬉しそうな少女の声が響く。

 なんだか悩むのも馬鹿らしくなった俺は少し能天気に呟く。

 

「あぁ、そうだな。……ところで、フォーカス・ブーストって」

『──―ready,〝Focus Boost〟』

 

 どこかから電子音が響く。そしていつも以上に強力なタービン音。

 嫌な予感を感じる間も無く。

 俺は耐えようの無い重力に、意識を失った。

 

 ○

 

「おーそーいー」

 

 ところ変わって武家屋敷。

 和室で手足を伸ばしながら、机に突っ伏す少女が一人。

 夕食のシチューの仕込みを終えた少女。レッドである。

 

 現在馬岱は情報収集兼食材調達中。

 大輝が戻ったときの行き違いを考慮して、彼女が留守番を担当していた。

 

「特訓でもしようかなぁ……でもここじゃなー」

 

 真剣に悩む少女、二本の太刀を机に置き。

 手入れでもしようか、と思い至った所で思い出す。

 白木の鞘と柄からなるシンプルな小刀。

 寺から拝借してきた聖剣である。

 

「んふふー、やっぱいいなぁ〜」

 

 魔力を目に通し刀を見る。

 地脈を感じさせる黄金の魔力。

 神秘の代表と言えるそれが、この剣には定着し、むしろ周りの空間へと揺らぎを与えていた。

 強力な祝福がかかっている。その証拠である。

 

「どんな力があるのかなー」

 

 二つの太刀の隣に小刀を並べたボクは、鼻歌を歌いながら、武器の手入れを開始した。

 

 ●

 

「……ぃ。? 生きてますか?」

 

 聞き覚えのある声に目を覚ます。

 こちらを見つめる紫の瞳。そして整った顔。

 ただ、それ以上に気になるのは、視界いっぱいに柔らかそうな山が二つ見える事。

 そう、俺は所謂膝枕と言うものをされていた。

 思わず顔を逸らし、今度は彼女のふとももが視界に入る。

 

「あ、元気そう」

 

 ……元気そう。じゃないが! 

 思わず起き上がりかけて、この姿勢だと山に突っ込むと理性的な判断をくだす。

 決して、この極上の枕を味わっていたいわけでは無いのだ。(断言)

 

「久しぶりだな……」

 

「そう? 一日くらいですよ?」

 

 彼女が面白そうに笑う。その楽しそうな顔は記憶通りで思わず俺も顔が綻ぶ。

 ……よかった、彼女は何かに巻き込まれていないらしい。

 

「あぁ、そうだったか」

 

 少しおかしくなって、軽く笑いながら返す。

 思えば短い間に、濃い経験をしたものだ。

 

「それでお兄さんは、なんで岸に打ち上げられてたの?」

 

 彼女が海の方を見る、視界の先には小魚を摘むアビの群れ。

 

「あっ」

 

 彼女は思わずと言った感じで横に置いたカメラを取り、下にいる俺に構わずカメラを構える。

 すっかり俺のことを忘れているらしい彼女は俺の顔にその双山を押し付ける。

 

「ぅぉ…ッ」

 

 カシャっと懐かしい音。

「うーん」という悩ましい声と共に、俺の呼吸が幾分か楽になる。

 

ーー“ぁわわ…”

 

 広がった視界の端に、ワタワタと不審な動きをしながら、手のひら全開で目を隠す幽霊少女。

 思わず間髪入れず身体を起こす。

 幸い彼女は横に置いた、日記帳らしき物に記録していてぶつかることはなかった。

 

 無言で立ち上がった俺は、スッと幽霊少女に近づく。

 

「どこまで見た」

 

 少女は「ぴぇっ」と言う謎の鳴き声と共に答える。

 

 ──“久しぶりだな……。から”

 

 ……ほとんど最初からじゃねぇか!! 

 思わず気恥ずかしさから、顔を抑える。

 少しだけ彼女の香りがし、複雑な気持ちになった。

 

 俺がそんな事をやってると、彼女が面白そうに声をかけてくる。

 

「おにーさん。突然一人でどうしたの? そっちに何かいます?」

 

 その顔には若干の揶揄いが混ざり、カメラを構えている。

 俺がそっちを向くなり、カシャっとシャッター音。

 満足そうに頷いた。

 

「消しといてくれ……」

 

「ダメだよ、面白いしー、って、あれ?」

 

 写真の確認をした彼女が、一瞬動きを止める。

 しばらくすると写真とこちらを交互に見つめ、興味深そうに口を開く。

 

「ほんとに何か居るじゃん」

 

 ──“見えるの!? ”

 

 彼女は幽霊少女のいる方に、目を向ける。

 思わず幽霊少女が近づくが、その視線は少女のいた場所を見るばかり。

 実際に見えてるわけでは無いらしい。

 

「写ったのか?」

 

「うん、お兄さんは……見えてるんだね?」

 

 俺が凹んでいる少女の方に目を向けると、彼女もそちらに目を向ける。

 どうやらオカルトを信じるタイプらしい。

 そこに何かいる事を疑う様子はまるで無かった。

 

『〜♪』

 

 俺が何かを言おうとするタイミングで、可愛らしいオルゴール音が一つ。

 彼女は指を唇に当てると、パーカーのポケットからスマホを取り出した。

 何度か頷く彼女。しばらくするとその両手を合わせ申し訳なさそうに告げる。

 

「ごめん、急用できちゃった。せっかくだからまた今度、話聞かせてね」

 

 そう言うと彼女は、ヒラヒラと手を振って立ち去っていく。

 相変わらず、風のように自由な子だ。

 苦笑いをしながら、見慣れたピンクのパーカーを見送ると、俺は屋敷への帰路についた。




第八話 いかがだったでしょうか。
若干のラブコメも入れていきたい、今日この頃。
一話にて登場のヒロイン翔子さんのエントリーです。

では、また次話をお楽しみに!


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第九話 洋館へ

大変お待たせしました。
第九話になります。よろしくお願いします。


 

 ○

 

 日も傾き、カラスの鳴き声が空に響くころ。

 ボク達は、馬岱さんの報告を聞きながら、早めの夕食を摂っていた。

 

「霧が動いていないのは良かったけど……ゾンビが増えてる。かぁ」

 

「あぁ、たいした敵じゃ無いが。街のいたるところで見るとなりゃ、なあ?」

 

 馬岱さんが言葉と共に、固いパンを強引に噛みちぎる。

 その表情は義憤に駆られ、不快感を隠そうともしていなかった。

 大輝は同意する様に頷き、手を挙げる。

 

「その事で一つ、伝えることがある」

 

 口数の少ない彼からの意外な申し出に、視線が彼に集まる。

 いつも、重要な局面で正確な判断を下してきた彼の事だ。今回も何か重要な話に違いない。

 僕達が期待する様に見ていると、彼は突然庭の方を向く。

 その視線は何も無い空中に留まり、彼が何かを思い出しているのは明白だった。

 

「それをしているのは、雁夜と言う死霊術師だ」

 

 ボクと馬岱さんは共に首を傾げる。

『死神』でも『冥府の火』でもなく、一介の死霊術師? 

 それが町全体に手先を潜ませる……そんな事が出来るのだろうか。

 

「大輝、それは流石に……」

 

「不可能」と言おうとするボクを遮り、大輝は庭の方を見ながら言葉を続ける。

 

「死神の腕。それを用いれば可能だ」

 

『死神』大輝から出たその言葉に、ボクと馬岱さんの気が引き締まる。

 ……正直、大輝からその言葉が出るとは思わなかった。

 馬岱さんの事を考えるに大輝もまた、『英雄』を受け継いだ者であり。儀式について明るくはないと思っていたからだ。

 

「死神の腕って?」

 

「死神の召喚に使われた、聖遺物だ」

 

 召喚に使われた聖遺物。確かにそれがあれば、『死神』の真似事は出来るだろう。

 だが、それ以上に聞き流せない事がある。

 

「死神は召喚された英雄なの!?」

 

 もしそうであるならば、ボクもまた儀式に呼ばれた事になる。

 ボクの問いに、彼は少し考えるように腕を組むと、静かに語り出した。

 

「厳密には、神降ろしに近い」

 

 神降ろし、限定的な神霊の憑依現象のことだ。

 それ自体は神事の際に行われる。珍しくは無い。

 ……だが、それはつまり。

『死神』が英雄の異名ではなく、神そのものであった事を意味している。

 ──その時点で、儀式は破綻していたのだ。

 

「てことは、死霊術師は神降ろしをしてる可能性が高いって事か」

 

 馬岱さんの言葉に「あぁ」と彼が頷く。

 となると、本当に勝ち目がない。

 そもそもの存在の格が違うし、この異界の霧の中で魔物や狂戦士など、さまざまな敵を相手取りながら勝てる保証はない。

 

「そんなのどうやって……」

 

 絶望に顔を青くするボクを正面から見つめて、彼は言う。

 

「大丈夫、まだ止められるはずだ!」

 

 真っ直ぐに確信を持った彼の言葉に思わず息が詰まる。

 どうして、戦うことを選択できるのか。

 ボクにはまるでわからない。

 しかし、彼ならやってくれるかもしれないとそう思った。

 

「わかった。その術師を止めに行こう」

 

 そんな自分の判断に苦笑いをしながら。

 ボクは目の前の『英雄』を見てそう言った。

 

 

 彼の言葉に従い屋敷を出発し。なぜ彼が、今戦えると判断したのか理解する。

 

「あれは……」

 

「ゾンビ……だな」

 

 ボクと馬岱さんが呟く。

 敵の乱入。懸念事項だったそれは、目の前の隊列を見て、無駄な悩みだったと理解できた。

 十や二十じゃすまない大量のゾンビ。

 それらと共に、列をなす不気味な人魂。

 無数のアンデット達が、その隊列を崩さずに教会へと向かっていた。

 

 死霊術師が儀式に参加する以上、狂戦士は、確実に分かっている敵だ。であれば、その討伐に戦力を割くのは自然なこと。

 むしろ昨夜、ボク達が巻き込まれた事の方がイレギュラーだったに違いない。

 大輝は悩み不安定な心で、その事に気づいたに違いない。

 思わず彼を見ると、真っ直ぐ何も居ない路地裏を視野に入れ一言。

 

「慎重に進もう」

 

 歩き出す彼の言葉に静かに頷き、思考を切り替える。

 イレギュラーが現れたとなれば、使役能力のある術師は何か行動に移すに違いない。

 ボクは瞳に魔力を回し、辺りを見る。

 空に2羽。物陰に5匹。

 禍々しさを感じる、紫の魔力光が視界に映った。

 

「見られてるね」

 

「ぽいな」

 

 警戒し敵を把握しながら進むボク達とは対称的に、鎧の彼は全て気づいているのか、

 空に舞うカラスへ視線を向け。

 ネズミの隠れる路地裏を通り。

 あえてその姿を見せながら、目的地へと向かっていく。

 

 一体彼はどこまで読み切っているのか、ボクの中の憧れは大きくなるばかりである。

 

 ●

 

 迷路じみた商店街の裏路地を、迷い迷い進むこと数十分。

 金属門や煉瓦塀に葛の葉が絡んだ、一見廃墟にしか見えない洋館へとたどり着いた。

 洋館の鉄門は大きく開け放たれ、両脇に立つ枯れ木の上に大量のカラスが停まっていた。

 

「こっからどうする?」

 

 ──“どうするー? ”

 

 カラスの止まり木と化した枯れ木を、睨みつけながら馬岱が言う。

 ……カラス、お嫌いなんですか? 

 恐らく的外れなことを思いつつ、俺は少し考え。馬岱と凛花に言葉を返す。

 

「当然。正面から行く」

 

 洋館は不気味なほど、静かである。

 よってこっそり入れば、ゾンビにも合わず。幽霊少女とおじさんを合わせてやれるに違いない。

 

 馬岱はニヤリと笑うと一歩前に出る。

 息を吸ったかと思うと、あろう事が大声で叫び始めた。

 

「逃げ隠れる臆病者よ! 出てくるがいい。『英雄』馬岱は、ここにいるぞ!!」

 

 その宣言をするやいなや、彼は目の前の鉄格子を一閃のもと切り倒した。

 

 ……バカなの!? 脳筋なの!? 

 

 ○

 

 馬岱さんが堂々とした名乗りを挙げ、門の敷居を跨ぐなり、屋敷の屋根から。木の上から。塀の陰から。

 人の眼に捉えるのが難しい速さで。

 カラスが、ネズミが。一斉に襲い掛かる。

 

「ハァッ!!」

 

 常人であれば、散弾の嵐と変わらぬそれは。

 一切怯む事ない『英雄』に、一刀のもと。切り払われた。

 

 どこか、腐敗臭のする亡骸が、一瞬遅れて地に落ちる。

 油断なく槍を構えた彼は、駆け出す。

 

「グルルァ!」

「遅い!!」

 

 中へは入れまいと、屋敷から飛び出して来た狼を切り捨て、一切引くことなくグングンと屋敷へ先行して行った。

 

「行こう」

 

 ボクがそう声をかけると、大輝は光に包まれ。白銀の装甲を身に纏う。

 

「あぁ、止めに行くぞ!」

 

 彼の言葉に甘いな、と思う。

 ……敵の儀式に対する渇望は明白だと言うのに。

 彼は止めに。『救いに』来たのだ。

 

「うん!」

 

 ボクは笑みを深め、彼と共に屋敷へ駆けて行った。




第九話 いかがだったでしょうか?
今回は死霊術師の洋館へ向かいましたね。
物語の裏では当然、さまざまな人物達が動いています。
誰が、どこで繋がって居るのか是非考察してみてください。

では、次話をお楽しみに!

追伸、更新はしばらく土日になります。


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第十話 鎧の審判者

大変お待たせしました。第十話になります。
よろしくお願いします。


 ●

 

 羽が宙を舞い、腐肉が地に落ちる。

 スプラッタなその光景を視界から外し、俺達は洋館へ足を進める。

 既に馬岱は屋敷に入り、周囲は静けさを取り戻していた。

 

 ──“なんか静かだね〜”

 

 凛花の言う通り。

 物音の大半を占めていたカラスがいなくなったことで、辺りには静寂が広がっている。

 生き物の気配は無く、周囲に広がる血の池がこの場所の不気味さに拍車を掛けていた。

 宿主のいない蜘蛛の巣は照明を覆い隠し、薄暗い道を弱々しく照らしている。

 

「音がしない……。大輝……手を繋いでいこう」

 

 ……少し怖くなったのだろうか? 

 レッドが少し迷いながらこちらに手を差し出してきた。

 俺は頷いて手を握り、彼女と共に洋館への扉を開いた。

 

 ○

 

 扉をくぐると、そこには一直線の廊下が広がっていた。

 いや、廊下というのは正しくない。

 正しくは回廊。

 大理石の石柱が両脇に並び、それが奥へ奥へと続いている。

 背後には既に扉はなく、大理石の間からは深淵の闇が覗いていた。

 

「外……? いや、これは? 

 なるほど、……結界か」

 

 大輝の言う通り、ここは結界の中だ。

 それも神霊のみが持つことを許される、神域の類だろう。

 あまりに濃厚な魔力量に、心は不調を訴え、身体は歓喜している。

 

「くぅ……んん! ごめん、大輝。警戒は任せるよ」

 

 この分では、繊細な魔力操作など望めない。

 もし、別々に入っていた場合。合流するのも困難になっただろう。

 そんなことを考え、彼を見上げると彼はボクをじっと見つめる。……な、なにかな? 

 

「……いや、何でもない」

 

 なんでもないらしい。

 なんでもないのにジロジロ見るとは、失礼な者だ。うん。

 

 そんな風に和気藹々と進んでいると、石柱に囲まれた広い空間に出る。

 中央には装飾の凝った鎧が鎮座し、その周りを囲む様に緑青色の炎が、松明の上で燃え盛っていた。

 

『咎人達よ、そして強き者よ。何故、この場へと参った』

 

 咎人か、確かに無断で神域へ足を踏み入れたのだ、そうも言われるのもおかしくはない。

 しかし意外だ、コレが『死神』か、もしくは他の存在かは知らないが。

 てっきり無言で襲い掛かってくると思ったのだが。

 隣の彼を見ると、相手を観察するように動きを止めている。

 代わりに話せと言うのだろう。

 濃厚な魔力に若干の胸焼けのようなものを起こしつつ、ボクは口を開く。

 

「ん……ボク達は、雁夜さんを止めに来た」

 

『何故止める』

 

 敵はその言葉を聞くなり即座に疑問を返してくる。

 なるほど、いかにもな反応だ。

 無機質で居て善悪を問う返答。

 つまり、相手は審判者。

 わかりやすく言うなら、神域を守る精霊といった所なのだろう。

 

 であれば、無駄な問答だ。

 どうせ聞き入れる事はない。

 それでも、礼儀として一応答える。

 

「救うために!」

 

 ボクは堂々と答え、過剰な魔力と共に太刀を抜き放つ。

 それは敵の盾に弾かれ、その衝撃が魔力波となってボクを吹き飛ばした。

 同時に緑青の炎が燃え上がり、鎧へと吸い込まれていく。

 

『ならば、我を倒して行くがいい』

 

 不気味に瞬く鋼の装甲、燃え上がる剣と盾。

 ボクは好戦的に笑い、躊躇なく全身を魔力に浸した。

 

 ●

 

【悲報】レッドも戦闘狂だった。

 荘厳な感じのする柱を抜け、松明が円を描く広間にたどり着いた俺達。

 中央に立つ鎧を認識した瞬間。

 どうしようもない悪寒が走り、口を開くことさえ出来なくなった俺を他所に。

 何故かいきなり喧嘩を打ったレッドは、青いはずの瞳を、赤く光らせ駆け出していた。

 

 ……正直何もわからん。

 右へ左へ、残光を残しながら金の線が見えるから、レッドが物凄いスピードで敵の周囲を行ったり来たりしている事はわかるんだが。

 動きも見えず、音も遅れて聞こえるとなれば、早々お手上げである。

 次々襲い掛かる衝撃波に、吹き飛ばされないよう、こっそりブースターを焚くのが、関の山だ。

 

 ──“ダイキさん、ここ怖いよ……”

 

 ……俺も怖い。

 とは言え、少女二人に情けない姿を見せるわけには行かないので、幾分か悪寒がマシになったあたりで周囲を見渡す。

 

 あるのは蛇が幾重も掘られた不気味な石柱。

 そして闇だけである。

 出口は何処なのかまったく分からない。

 ……レッドは放って置いて探索でもしよう

 そう思い、一歩踏み出した所で目の前を何かが通り過ぎる。

 

「ヒェ……」

 

 隣の柱に突き刺さるソレは、緑青に輝く金属片であった。

 俺が咄嗟に柱に隠れたのは言うまでもない。

 

 ○

 

 胴を狙い、頭を狙い、右へ。左へ。

 敵を斬りつけ、突き、叩き。

 鎧の弱点を探しながら、考える。

 実体の存在しないものを狩る方法は意外と少ない。

 

 一つ目は聖なる神秘に頼る事。

 コレは最も一般的で、最も有効な手だ。

 聖水や神官による祈りなど方法は様々であるが、共通して言える事は神やそれに準ずる者に頼っている事が挙げられる。

 そのため、神域に住む精霊に効果が期待できるかと言えば疑問が残る。

 

 二つ目は膨大な魔力をぶつけ、存在を希薄化させる事。

 コレも一般的で魔法使いなどがよく使う方法だ。

 とは言え、これはボクには無理だ。他の方法を使うしかない。

 

 となればボクが取れる方法は、三つ目。

 ──依代を破壊する事。

 これしかない。

 しかし、先程から試している通り、傷は付けども壊れる様子もない。

 なるほど……諦めるべきなのだろう。

 

 ボクは、笑みを深めて一つ呟く。

「極めて高い斬撃への耐性、そして、実体が無いからこそ怯む事がない」

 

 自嘲気味なボクの言葉に、何かを感じたらしい。

 敵が、その剣を、盾を降ろし、口にする。

 

『故に、汝の勝ち目はない』

 

 そんな敵を見て、ボクは二刀へ意識して魔力を送る。

 敗北を避けるための加護では無く、勝利を掴むための実体へと。

 変化するのは先の鋭いだけの鈍刀、美しさある刃文はなく、ただ頑強実直なだけの鉄塊である。

 

「所で。ノコギリがなぜ切れるか知っているかな?」

 

 太刀を逆手に、その鋒にのみ加護を宿す。

 

『幾重もの刃で切り裂く故だろう?』

 

 その言葉に笑い、一直線に敵へと駆ける。

 敵は変わらず、腕を下げこちらを憐れむ様に見下ろしている。

 ボクはそんな敵の胸に、十字に刀を振り下ろした。

 

 ──ギィィイイと不快な金切り音。

 ボクの脇を、緑青の破片が飛んでいき。

 遠く、柱に突き刺さる。

 

「違うよ。複数の刃で、削ぎ落としているからさ」

 

『馬鹿……な』

 

 目の前の鎧から、僅かに溢れ出る緑青の炎。

 その奥に輝く闇色の魂に、ボクは祝福の宿る一刀を振り降ろした。

 

 ●

 

 遠くでガシャンと音がする。

 柱の陰からひょいと顔を覗かせると、緑青の炎の中心に倒れる鎧。さらにソレを見下ろすレッドの姿が見える。

 ……激戦の予感に柱に隠れたら、戦いは終わってた件について。

 安堵感から息を吐く。

 

「終わったか?」

 

 俺の言葉にレッドが振り向く。

 振り返った少女の顔は上気し、若干視点も合ってない様に見える。

 

「んふふー、いえーい!」

 

 かわいい……じゃなかった。何かおかしい! 

 

 ──“ダイキさん! 炎が! ”

 

 凛花に言われ、足元を見る。

 熱さは無く、何の力も持たない様な気がしていたソレは、吸い込まれる様に少女に集まっていた。

 ……え、どうすりゃいいの? これ……

 

「んぅ……ねぇ、大輝?」

 

 少女が流し目でこちらを見る。

 その目は赤く、普段の理性のカケラも感じられ無い。

 そんな艶のある少女に、若干ドギマギしながら俺は返事をする。

 

「どうした」

 

 俺の返答に嬉しそうに微笑むと、手にしていた小刀を腰に戻し、足元に投げ捨てた二刀を拾い上げる。

 

「ふふ…。イクよ?」

 

 瞬間、凄まじい死の予感を感じ、思わず呪文を口にする。

 

「フォーカス・ブーストッ‼︎」

『──―ready,〝Focus Boost〟』

 

 俺とレッドは錐揉み回転しながら、松明の中心に現れた扉へ突っ込んで行った。




第十話いかがだったでしょうか?
作者は戦闘描写が、相変わらず短めになってしまい若干の勿体無さを感じております。
いつか上手く書けると良いのですが…

また、週一投稿になってしまい申し訳ないです。
なんとか書き貯めたい所ですが難しく、どうにかやっております。
そんな状態ですから、思い出したように開く程度でも構いません。
是非、完結までお付き合いくださいませ。


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