テイワット日誌 (星塵《》)
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風が故郷に誘う日

原神の押しはノエルです。


 空を飛んでみたいと思ったことはあった。

 そして試してみたこともあった。

 

 それでも想像した半分も自在に動かすのは無理だった。

 だから恋焦がれるのかもしれない。あの自由の翼に。モンドの空を駆ける羽に。

 

 ***

 

 拝啓。

 モンド領付近へ赴いた際、久しぶりにモンドの風に触れることが出来ました。

 半年ぶりに見た馴染みの赤の花びらは故郷へ帰りたい気持ちが募ります。

 今度、璃月の土産を持って帰ります。夜闇の中で淡く光る希少な石らしいです。

 

 こんな感じでどうだろうか。

 毎回うんうんと悩みながら家族に送る手紙を書いていた。真夜中を過ぎた頃でも寝付けない日は焚火に当たりながら夜空を眺めて綴る。

 どこで何が起こるかわからない。危険との隣り合わせが野宿では当たり前だ。

 俺は冒険者ではないし、なにより腕が立つ方ではないので外で朝を待つのは結構緊張する。

 それでも旅は良いものだ、とモンドに訪れた旅人達や冒険者は酒場で口々に言っているのを聞いて本当にそうだなと実感できていた。

 見分を広めなさい。書物などの文章だけでは手に入らない知識や経験を積みなさいと医者である父さんは口うるさく言っていたものだ。

 

「へえ、でもその通りだと思うよ。見て触れて初めてわかることは沢山あるからね!」

 

 退屈に夜を明かす毎日だが、今日は少し違った。

 俺の居場所まで風が誘った相手は幼げな植物学者だ。随分前にググプラムを売ってもらった覚えがあるが少女は俺のことなど覚えていなかった。というのも少し前に旅人に会って以来、人とは会話をしていないそうだ。

 

「こうも話をしないと独り言が多くなって困るよね」

 

 少女はけらけらと笑った。

 

「そうだ。この夜の記念に持っている植物を交換しない?」

「……それって君が欲しいからだよな?」

「そうだけど」

 

 あっけらかんと少女は言うもまあ、たまには古き良き物々交換も良いかもしれない。

 俺は横に置いているずっしりとした鞄から一輪の花を取り出した。焔の光に照らされて尚、白く際立った美しさは何度見ても飽きない。

 

「瑠璃百合だね。それもとても質が良い。ここまで持って帰って来るのにとても時間がかかったはずだけど」

「まあ、それは秘密だ」

「ふーん。妹が見たら欲しがると思う。璃月港まで行くのも大変だし、なにより良い値段するからね」

「君はあまり興味がないのか?」

 

 少女は少し考え、首を横に振った。

 

「そんなことはないよ。現物を見る機会なんてモンドにいたらあまりないから。でも、私が本当に見たいのは原生している物なんだよ!」

 

 やっぱり生だよ! と興奮気味な少女に俺は少し後ずさる。

 学者という種族は総じて癖が強いのはどうしてなのか。俺の考えをよそに少女のうんちくが止まる気配はない。うとうとし始めた俺は頷くように眠りにつくのだった。

 

『ドドリアンにしようかと思ったけど、あなたの鞄の中には沢山のドドリアンが入っていたので代わりにセシリアの花を添えておくね。風の導くままに』

 

 目が覚めればもう早朝で、紙切れと花が鞄の上にある。火元はしっかり片付けられていた。

 固まった体をほぐすように伸びをすれば、背中を押すように優しい風が肌を撫でつける。

 

「……一度帰ってみようか」

 

 澄んだ空を見上げて俺は故郷に戻りたい気持ちでいっぱいだった。



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時拾いの風 1

読んで下さってありがとうございます。
最初のストーリーの記憶はあるけれど細部が思い出せなさすぎてやばい。
あと、口調どんなだったか。


 幼少期の思い出を憶えているだろうか。

 とんでもなくどうだって良い日常の一部。生きてきた中で驚愕に震えた一場面。うろ覚えの将来の夢。いざ何があったか掘り返そうとすれどパッと思いつかないのが常だろう。

 それでもふとした拍子に何か昔の情景を掴んでしまうことがある。匂いだったり、色、場所と様々だが俺は特に音に想起させられる。

 

 風音だ。

 そよ風ならまだしも吹き付けるような鼓膜を震わす重い音が過去のトラウマを掘り起こしてやまない。グッと胃の中のものを吐き出してしまいたいと思わせる重圧感なのに地面に足がついていないと思わせられる気持ちの悪さが頭の中で雑音みたいに寄り添ってくるのだ。

 

「酷く風が荒れているな」

 

 モンドで生きてきた中で過去一番の荒れ具合は言わずもがな、モンド領内で何か起きているのは明白だった。

 

 かの領地にはおぞましき咆哮が轟き、風を震わせるらしい。

 一度港へトンボ帰りし、そこからモンドへの帰路で寄った望舒旅館では絶えず情報が飛び交うようで風魔龍の話しがちらほらと窺えた。

 戻ってきた今でこそ実感が湧く。今までの比でない荒れ狂った空は暗雲で、一雨きてもおかしくなさそうだ。

 

「今日は珍客の来訪が多いな。お前も、そう思わないか?」

「・・・・・・どういう意味ですか」

「いや何、予期せぬ出来事というものは様々なものを運び込んでくるものだと思ってな。災い転じて福となす、なんてな」

「それで俺に何か?」

 

 つれないなと呟く褐色の男の薄い笑みから読み取れるものは何もない。寒々しい碧の長髪と淡い青掛かった瞳が俺を見据えているのに相も変わらず別の風景を写しているようだった。

 

「すまんすまん。コソコソと人気を伺いながら歩く不審者がいると聞いてやって来てみれば見知った顔だったというだけの話さ」

 

 知り合いに会うことの何がおかしいのかと宣うモンドの騎馬兵団長殿は空を仰ぐように見渡し、

 

「久しぶりに会えて嬉しいぜ?」

 

 

 ガイア・アルベリヒという人物を評価するならば信用に値するが信頼はおけない存在だろう。遊戯盤の駒ではなくそれらをいとも容易く動かして見せるプレイヤー側。

 故に戦況を変えるトリックスターにはなれずとも盤面を自身の流れに変えて見せる力を何度か見たことがあった。

 

 俺という捨て駒をどのような算段で動かし、何をさせようとしているのか皆目見当つかない現状では下手に動くとかえって面倒ごとが増える可能性しかない。

 

「周りを見たらわかるだろう? ちょっとしたやんちゃでモンドの都はとっちらかってしまったわけだ。騎士団の人間は忙しい限りだぜ。『尊敬できる旅人さん』にまで力を借りるほどにな」

 

 やれやれと言わんばかりにガイアは何かを俺に軽く投げつけた。危なげなく受け取る。

 小さな欠片に張り付くように芽吹く青みがかった小さな花。見た目以上にずっしりとした重みに驚くもそれ以上に俺の探していたものを何で知っていたのかにびっくりしてしまった。

 

「それやるよ。先払いってやつだ」

「・・・・・・俺弱いですよ」

「はははっ、それはとんだジョークだな。それに今ここでの対応は戦闘だけが全てでないだろうさ」

 

 ***

 

「それでコイツの面倒を見てやってくれないか? 久しぶりに返ってきて家族に甘えたいだろうが、この状況だ」

 

 長身のガイアからしてみれば、いや、目の前の女性からしても俺の身長は低い。ポンポンと叩くのやめろとはたき落とそうとするも軽い身のこなしで去って行く。

 

「まあ、適当にしておいてくれ」

 

 奴はとんでもない者を俺になすりつけていったのだ。

 

「お任せ下さい。私がしっかりシンラ様のお世話をさせていただきます!」

 

 モンドのメイド服と騎士風の甲冑が組み合わさった異装の女性。

 やる気に満ちた端正な顔と華奢に見える体つきからは到底推し量れない馬鹿力と体幹は騎士顔負けなのは鍛冶のおじさんの談。そんな今も騎士団入隊試験を挑戦する彼女、ノエルは西風騎士団の右腕的存在に大事なお仕事をいただいたのだ。

 

 張り切ったノエルがお辞儀をするとほのかにバラの香りが漂った。



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時拾いの風 2

お気に入りが増えてたので嬉しい。
書きたいことは沢山。
オリ主人公の詳細とか、原神主人公の存在とか。



***

 

 偽りこそ美しいのか、偽りでも美しいのか。

 いつか本物になり得るのか。

 造花は何も答えない。

 

***

 

 

 

 モンドにある西風騎士団の一室、俺はどうしたものかと頭を悩ませていた。

 見惚れるような屈膝礼をする彼女はメイドの極みなのだろうが、如何せん視線のやり場に困る。

 

「ノエルさん、俺は客人ではないので普通に呼んでいただいて大丈夫ですよ?」

「そうなのですか? ガイア様からは懇切丁寧に接してくれと言われましたが」

「それ冗談で言ってると思いますよ」

 

 様付けで呼ばれるのはむず痒いものがあるし、何より俺はそのような敬称を付けられるほどの人間じゃない。あれやこれやと言い訳付けて普通に話してくれと言うと渋々ながら了承してくれた。

 

「シンラ君が戻って来られたのならお父様方も大変喜ばれますね」

「……そうかな」

「ええ、私はそう思いますよ。それに同じ西風騎士団を目指す者ですから」

「いや、俺はもう」

「もう?」

 

 首を傾げるノエルに俺はその次の言葉を紡げないでいた。

 もう諦めましたと言えば良いじゃないか。それでこの会話は終了。ただそれだけのことなのに、未練でもあるかのようで二の句が継げなかった。

 

「もし、困っていることがあるなら気軽に私に仰ってくださいね」

 

 騎士団メイドですからとノエルは微笑んだ。

 

「何でも仰ってくださいね?」

 

 (この人、めっちゃうずうずしてる!?)

 

 チラチラと外が気になって仕方がない癖に尊敬するガイアの言付けを無碍にすることはしたくないという所だろう。

 廊下から響くドタドタとした集団の足音を聞く度にびくりと体が停止する姿はさながらそういう玩具のようだった。スネージナヤ辺りに行けば売っているかもしれない。

 

「すみません。俺にはまだ口にすることなんてできないです。もし俺の悩みが打ち明けられるようになったら聞いてくれますか?」

「もちろんです。シンラ君の言葉、待ってますから」

「それでなんですが——なあ、覗いてないで入ってきたら良いんじゃないか? 」

 

 つい先ほどから息を潜めて伺う者が一人。俺の投げかけた言葉でゆっくりと申し訳なさげにドアが開く。

 

「……あ、あはは。なんだか大事な話をしてたから入りづらかったんだぁ」

「アンバー様!? いらっしゃってたのですか」

 

 たははと頭を掻くアンバーは俺を見るとキョトンとした。

 

「シンラ、久しぶりだね! んー、ちょっと背が低くなった?」

「アンバーがデカくなっただけだろ」

 

 前回会った時と身長があまり変わらない俺は、昔よりさらに上を見上げなければならない少女が相も変わらず元気に満ちていることに安堵していた。

 

 

***

 

 

 童話ばかり読んで引きこもりがちだった俺を外に引っ張り出してくれた少女がいる。お姉ちゃんと慕い、後ろを引っ付いて歩く過去の自分を思い出すと今でも火を吹きそうなくらい顔が熱くなるかもしれない。

 騎士団の医師の一人だった俺の父さんは、璃月港からキャラバンの護衛をしていた男の命を助けたことがきっかけで友人となった。その男はその後に西風騎士団に所属し、モンドで家庭を築いた。それが後のアンバーの祖父だ。

 家族間で交流があったからかアンバーは無口だった俺を所構わず面倒を見ようとしたからか、今でも弟扱いしてくる。

 

 難儀なことにこの歳になっても俺の身長は伸びないあの頃のままなだけに、アンバーが手のかかる弟に対する扱いを改めようとしないのだ。

 

「ガイア先輩に帰ってきたことを知らされた時は驚いたけど。タイミングが悪いね」

 

 故郷が恋しくなって帰ってきましたと、率直に言えば可愛がられるかもしれないので絶対に口にしたくない。

 話題を逸らしてしまおうか。

 

「それでどうしたんだよ、アンバー。まさかサボりに来たわけじゃないだろ?」

「そりゃあね。こんな状況でこそわたしが動かないわけにはいかないよ」

 

 アンバーが懐から一枚の封書を取り出した。

 

「これはジンさんからシンラ宛に渡されていた物、特別期間同行書だよ」

 

 現在大団長不在の騎士団において実質的なトップであるジン代理団長からのお手紙。封蝋されて久しく、数年は開けられていないのは明白だった。

 

「同行書?」

「うん。あんたは風魔龍の一件が終わるまでわたしの管轄下に入ることになったの。つまり、部下ってこと!」

「へぇ……はあ!? 聞いてないぞ! 騎士団は一般市民を戦わせる気か!」

「前に騎士団試験受けておいてよく言うよね……まあ、安心してよ! シンラがやることは負傷者の手当だから」

「教会の人間が動いているし、騎士団の方でも手回しはされてる。実際俺一人居なくても変わらないだろ」

「またそうやって暗いこと言ってる。シンラは少し自信を持って行動すべきだとわたしは思うけどな〜。どちらにしろその手の抗議はジンさんとガイア先輩にしてね」

 

 アンバーは「はいはい」と手を叩く。

 

「では最初の任務を言い渡します! シンラ及びノエルは囁きの森へと探索派遣された冒険者の捜索をお願いします!」

「捜索? あの辺りはそこまで危険な場所じゃないだろうに」

「今日そちら側を調べたの。そしたらうわあって思うほどヒルチャールの目撃数が多くて驚いたよ」

 

 普段奥のそのまた奥に住む奴らの主な生息地はダダウパの谷と呼ばれるヒルチャールの部族が密集した場所だ。数百年前の傷跡が今でも残った跡地を巡る学者は珍しくない。

 であればこそ地理的に間反対の場所に仮拠点があちこちに見つかったという。

 

 潰して回るのは容易だが、それは懸命な判断ではないと騎士団での見解だった。外ばかりに気を配れば内側から食われる可能性もあるというのがモンドのなんともし難い現状である。

 

「ジンさんが言ってたんだ。このワタワタした中で愚人衆(ファデュイ)がちょっかいを掛けてきてるって」

「下手に動けば警戒されるのか」

「そうかもしれないね。その点、わたしなんかが動く分には問題ないからね」

 

 他の国が間接的に関与してそうだ。いっそ私たちが騒ぎを大きくしましたと声高に宣言してくれた方がまだ納得がいくレベルで使節団の動きは怪しいそうだった。

 ジンは龍災の件でここ数日何度も益にもならない話し合いをさせられているともアンバーは言った。

 

「一応シンラは冒険者の体でこの仕事を受けてもらうからね。冒険者登録は昔してたよね?」

「まあ、そこまでする必要があるかはわからないけどな」

「ガイア先輩の言葉を借りるなら『身軽な虫は羽音が大きいだろ?』」

 

 全く似てないモノマネをするアンバーは俺が苦い笑いを浮かべるも気にすることなく、

 

「その辺の詳しい話は冒険者協会で聞いてくれればいいからね。じゃあノエル、この子の面倒よろしくね?」

「おい、な「はい! お任せください!」」

 

 俺の抗議は虚しくアンバーはじゃあねと颯爽と部屋を出て行ってしまった。

 

「俺は虫かよ……」

 

 呟いた声が、風でガタガタと揺れる窓の音で掻き消えていった。

 

 

 

 




次かその次くらいに戦闘書きたい。


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