ルディ(♀)、体液魔法を開発する (範婆具)
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ルディ(♀)とロキシー(♀)の魔術試運転のお話(前編)

何の因果か、女の体に転生してしまったルディ(前世は男)。
自分の性別の差異に苦しむも、そんな時にある魔術を作る事を思いついて…?


「はぁ…」

空しい溜息が空気に紛れて消えていく。

自分が今の状況を受け入れられていない故の、諦めの声だ。

 

「どうしたのルディ?そんな顔して、何かあったの?」

 

 

自分の憂鬱そうな声を聞きつけたのか、ゼニスが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

 

「すみません母様。ちょっとぼーっとしてて…」

 

「そう?だったらいいけど…あら、ちょっと髪が跳ねてるわ。じっとしててね~。」

 

心配させないようにゼニスに笑いかけると、

ゼニスも俺を見て微笑む。俺の顔を見ている内に髪が跳ねているのを見つけたのか

長く伸びた髪を綺麗に揃えてくれた。

そう、今の俺は長髪なのだ。

前世が男だった俺がどうしてこんな格好をしているのか、それは至極単純な理由であった。

 

「ふふ、やっぱりルディは長髪も似合うわねぇ…もう少し長く伸ばせたらよかったんだけど…」

 

「いえ、剣術の修業がありますからそこまで長くするとちょっと…」

 

「そう?でもルディ。あなたも女の子なんだし、

いろんな髪型にしてみるのもいいと思うわよ?」

 

そう、今の俺の体は女の子なのだ。

今の俺の両親に当たるゼニスとパウロという二人の要素を受け継いだからか、

自分の顔は少なくとも悪い方の外見ではない。

というか両親がクッソべた褒めしているので少なくとも普通よりは良い容姿なのだろう…

普通に考えれば好条件なのだが、

俺はどうしても欠けている一つの要素が気になって仕方がなかった。

 

「息子(ちんちん)が…ない…!」

 

誰もいない自分の部屋で一人悲しげにつぶやく。

今の自分の股間をまさぐってもそれらしき物はない。

当たり前だ、今の自分は女の子なのだ。そんな物がある訳がない。

 

(前に前世で、もしも生まれ変わるなら美少年か美少女がいい…

そんな事を思ってしまった事はあるが、

実際になってみて初めて失う物の大きさに気付いてしまった。

すまない、俺の息子よ…)

 

普段はおくびにも出さないように努力はしているが、それでも結構ダメージがある。

この気持ちを紛らわせるにはどうしたらいいのか…

5歳児程度の今の体で性欲を発散させる行為などまず出来ない。

体もぺたんこで胸を触るのも少し空しくなるし、

というかそもそも女の性欲の発散方法が未知数すぎて出来ない。

だから今の俺がやれるとしたらキスぐらいなのだが、

まず勇気も相手もいない俺ではまず無理だ。

画面の前でヒロインを攻略していたあの頃はいくらでも見ていたはずなのに、

実際に女の体になってみると、その体は未知で溢れていた。

 

(いかん、思考が鈍くなっている気がする…ダメだ、こんなんじゃ…)

 

思考がはっきりしない、涙が溢れそうになる。

折角生まれ変わって頑張って生きようとしていたのに、

こんなくだらない理由でダメージを受けている自分自身にも嫌気が差していた。

 

(あったはずのものがない、この気持ちをどう発散させればいいんだ…)

 

思考が行き詰まりになる、もう駄目だ。明日になるまで寝ていよう。

明日になったらこの事は忘れて、すっぱり女の子として生きてみるのだ。

それも案外悪くないかもしれない。

 

無理やりにでも思考を切って就寝しようと毛布を手繰り寄せると、

目をゆっくりと閉じる。視界がなくなって聞こえてくるのは、いつも通り

隣の部屋から聞こえてくる両親達の情事の音だった。

それも無理やり聞こえないふりをして寝ようとする俺の頭の中で、

何か引っかかるものがあった。

 

(剣術…パウロ…ゼニス……魔術…そういや、前に見てたアニメで…)

 

ぐるぐると頭の中で単語が躍る。単語から文章、記憶へと繋がって頭の中で何かが浮かぶ。

なんだろう、何かが引っ掛かっている…この音と、魔術…?

 

「…そうだ!」

 

ふと何かがつながった気がして、俺はがばっと布団をめくると

魔術の勉強用にと出されていた紙にがむしゃらに文字を書いた。

 

(そうだ、確か昔見てたのに、こういうのが…)

 

情事、つまり性行為。

ロキシーとの魔術の勉強で少しずつ魔術を齧っていた俺には、

直感的にこの行為が魔術に使えるのではないか、という妙な確信があった。

性行為でなくともいい、体液の交換…もしくは性的興奮。

昔見ていたアニメにチラリと出てきた、

キスをして魔法を使えるようになるという不思議なアニメ。

あのアニメでできた事が、もし実際に現実で出来るとしたら…?

 

俺の現世と前世の記憶が俺の中の何かを後押しする。

俺が今女だという事は事実だ、認めよう。

どれだけくじけようと、

いつかこのなくなってしまった息子との折り合いも付けなくてはいけない。

でも、今はそれを紛らわせるような行為がしたい。

不純な動機であったとしても、自分でどこにもない何かを作ってみたかった。

 

「やってやる…やってやるぞー!」

 

紙に文字を走らせながら俺は吠える。

 

…後から考えると、これはきっと私が道を踏み外さないように出来る

最後のチャンスだったのだろうけれど…当時の私は、そんな事考えもしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

最近の俺の日課がもう一つ増えた。

この日課は誰にもバレてはいけない、俺個人の私的な物。

だから他の時間帯でもやれることを精一杯やって、

夜にこっそりとその日課を今は進めている。

今は朝の日課をこなしている所だ。

 

「父様、今日も指導ありがとうございました!」

 

「お、おう。今日も元気だなルディ?」

 

「えへへ、最近すごく楽しい日課が出来たので!」

 

木でできた剣を使った稽古をパウロにしてもらい、健康的な汗を流す。

残念ながらあまりパウロは乗り気ではなかったが泣き落としてまで剣術を受けていたのだが、

中々成果が上がらず、悩んでいたが最近では悩む時間も無くなっていた。

 

「師匠。準備が出来たので魔術の指導お願いします!」

 

「はい、今日も気合いが入ってますねルディ。

…ただちょっと髪が乾かしきれてませんから、少し乾かしてからにしましょうか。」

 

次は魔術の勉強。個人的にはこっちの方が興味があり、

ロキシー本人も良い人だと思っている自分にとってはすごく楽しい。

剣術の指導の後、汗を流してから行うのについ手間を省いてしまう事もあるが、

そういう時はロキシーが頭をポンポンと撫でながら乾かしたりお世話してくれる。

正直情けない話ではあるが、ロキシーにこうしてもらえる事も

俺の中ではひそかな楽しみだった。

 

そして魔術の時間も終わり、時間も流れ…

 

「ご馳走様でした!父様、母様、師匠!おやすみなさい!」

 

「おやすみルディ、また明日な。

 

「夜更かししないでゆっくり寝てね、ルディ。」

 

「また明日お会いしましょう。おやすみなさい。」

 

三人に手を振って自分の部屋へと入る。

さぁ、今日の最後の日課を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇあなた。最近ルディが元気になってきたわね。」

 

「そうだな、最近何か落ち込んでる事が多かったからな…

喜ばしい事ではあるんだが、なにか趣味でも見つかったのか?」

 

「………」

 

「まぁ明日にでも聞いてみるか。ロキシーちゃんもおやすみ。」

 

「ええ。おやすみなさい。」

(…少し、気になりますね…)

 

 

 

 

 

 

 

カリカリカリ、静かな部屋の中で音が響く。

文字を書くときにどうしても重なってしまう髪を持ち上げて、

俺の紙に文字を

いや、正確にはもう一つ、

壁の向こうからいかがわしいというかいやらしい声とか音が聞こえてきているが、

今の俺にとっては普段はお盛んだなーとしか思わないそれも、

今はとてもありがたかった。

 

「ふふふ、これで…後は最後の理論を詰めればいけるはず…!」

 

俺は今、とても満ち足りた気分だった。

最近日課になっていた、魔術の作成、その理論と実践法が最終段階に向かっていたのである。

 

正直最初は感情の赴くまま書き殴っていた魔術詠唱だったが、

気を紛らわせるため、そして何かを作り出すために荒い部分を修正していくと、

幾分かマシな状態に出来て、

少しずつ魔術を作成しているのだという気持ちがむくむくと俺の中に湧いてきた。

 

(基本は体液交換。魔力を体を深く重ね合わせた上で性的興奮を高めれば、

体内の魔力を循環させて回復させつつ身体機能を活性化させられる…)

 

魔術については師匠から教わった事がほとんど。

そもそもこの世界で魔術を作るという事がどのような事なのかが分からない。

それでも、直感的な物と教えてもらった理論を組み合わせていくと、

案外使える魔術になりそうになってきたのが、本当に面白くてたまらなかった。

 

「…よし!出来たぁ!」

 

紙の最後まで文字を書ききると、魔術の詠唱部分と発動方法、

そしてその効果をを描いたちっぽけな魔術が完成した。

この魔術が完成出来たのがとてもうれしくて、

俺は思わず声を荒げてしまう程嬉しかった。

 

(――まぁ、こんな魔術出来たとしてみんな使うわけがないけど…

そこはまぁ浪漫重視って事で。)

 

まぁ、こんなアホみたいな魔術を使う人など早々いない。

ましてや自分も今相手がいないのだから使うことはできない。

いつか自分にもし相手が出来た時に取っておこう。

そもそもこんな怪しい魔術を使っても怒らない人を探す必要がある訳だが…

 

「さてと、後はこれを誰も来ない所に隠して…」

 

「ルディ、なにしてるんです?」

 

などとあれこれ考えていたばかりに、

俺は背後の扉がほんの少し開いていたことに気付けなかった。

こっそりと自分の書いた魔術をどこかに隠そうとした俺の背後から、

聞きなれた女性の声が聞こえてきた。

 

「…え?」

 

「こんばんはルディ。女の子がこんな時間まで起きてちゃいけませんよ?」

 

にっこりとほほ笑む、俺の師匠であるロキシーが扉の前にいたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロキシー・ミグルディア。俺の師匠になってくれた人。

この世界ではまだ生まれて数年、魔術などほとんど知らなかった俺に

いろんな事を教えてくれた師匠。

小柄で青い髪が目を引く彼女は丁寧に俺に魔術を教えてくれたし、

仕事や家事がある二人に代わって俺にお風呂に入れてくれた事もあった。

前世の年齢と性別は何もかも違い、どう対応すれば分からなかったのに

ロキシーは俺の事を年の離れた妹のように扱ってくれた。

その分ロキシーが無防備になる事も多く、下着を見たり体を見たりも出来たりして、

とにかくいろんな意味でお世話になった彼女が、今目の前にいる。

 

「あ、あの、師匠。これは…」

 

「ごめんなさい、良くないとは思ったのですが

夜更かしをしていないかと思いつい覗いてしまいました。

何やらすごく楽しそうに書いていたので邪魔するのもよくないかと思ったので。」

 

ヤバい、これはヤバい。

今の所ロキシーは普通に対応してくれているが、

それは今俺が抱えている魔術書(仮)の内容が見えていないからだろう。

普段は誰かが入ってきてもすぐにごまかせるようにベッドの上で書いていたのに、

気が急いて机の上で書いてしまった自分をぶん殴ってやりたい気分だった。

 

「そ、それで師匠。ご用件は…」

 

「いえ、早めに寝た方がいいと言いに来ただけですよ。

ゼニスさんも言っていましたが、夜更かしするのは成長によくないですから。

特にルディは女の子ですし、今のうちに気を付けておかないと…」

 

よ、よし。自分が何か書いてる事はバレてしまっているが

やはり何を書いたかは把握していないようだ。

このまま会話をいい感じの所で打ち切って早めに魔術書を処分せねば…」

 

「………」

 

すると急にロキシーの動きが止まってしまった。

…なんだ?体が完全に固まってしまったかのように一点を見つめたまま

ロキシーが動かなくなってしまっていた。

 

「師匠、どうしたのです…か…」

 

思わずロキシーにどうしたのかと尋ねてしまうが、返事は返ってこない。

ロキシーが見ている方向には床しかないはずだ。

机の上の魔術書は全て自分が隠し持ったはず、何も問題はない――

 

「あ」

 

そんな事はなかった。

見事に魔術書の一部、それも1ページ目が床に不時着していた。

運よくロキシーの視力が低いことに期待して、ゆっくりと目を瞑るも…

 

「ルディ」

「はい」

「少し、お話を聞かせてもらえますか?」

 

はい、ダメでした。

すっかり顔を赤くしたロキシーを前にして、俺はお説教を受ける事となった――

 

 

 

 

 

 

 

 




(後編へ続く)


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ルディ(♀)とロキシー(♀)の魔術試運転のお話(後編)

後編です。女性同士のキス描写があるのでご注意を。


「それで、なんですか?この魔術は…」

 

「はい、その…」

 

ロキシーのお説教は少しばかり長くなったが、思ったよりは軽く済んだ。

観念した俺は魔術を学んだ事で興味が湧いて、魔術を作成してみたかったと

子供のような言い訳をしてしまったが、それが結果的に功を奏した。

 

「子供が、それもまだ魔術を習ったばかりの子供だから魔術を探求したくなる気持ちはわかる」

 

「だが理論と実践方法を書くだけとはいえ、魔術は攻撃系のものが多い、

何かの間違いで暴発したら大変なことになっていた」

 

「今後は気を付けて魔術を扱うように、

そして新しい魔術を作成するというのは一朝一夕に出来るようなものではないため、

もし作成するにしても監督出来る魔術師についてもらう事。」

 

内容としてはこのような感じのお説教を受けた。

確かに自分が攻撃系魔法でも開発して、条件の緩いものであったら大変な事になっていた。

そこは深く反省しよう。

しかし強くうなだれていた俺を見て一通りお説教の終わったロキシーは、

慰めるように俺の頭の撫でながらあることを言い出した。

 

「ですがあなたの作った魔術、という物には興味があります。

もし魔術が不完全であったとしても、新しい魔術を作るというのは並大抵の事ではないし

もし良ければ見せてほしいのですが…」

 

はい、急にもじもじしながらこんな事を言い始めた。

 

(さてはちょっと俺が作った魔術について気になっているな…?)

 

普段なら作った魔術の内容的にも見せられるようなものではないので、

適当言ってお茶を濁していた所だったのだろうが今日の俺は違う。

説教された後だからかどこかやけっぱちな気分で、

作った経緯は誤魔化して詠唱や発動方法についてぶちまける事にした。

 

「あの、その…実は夜聞こえてくる音が気になってしまって、

どうしても抑えきれず…これを作ってしまいました。」

 

そう言って詠唱方法や発動方法、効果などを書いた紙を全てロキシーに手渡した。

年齢的に知ってはまずい部分は書かず、あいまいな表現にしているため、

ロキシーになぜこんなに性知識が豊富なのかと思われることはないだろう。

そう思いながら少しロキシーが魔術書を読み終わるのを待つと…

 

「………へ、へぇ。こういうのですか、なるほど…

ありがとうございました。参考に出来る部分も多そうです、ええ。」

 

何がなるほど、なのか。一通り読み終わった後、耳を真っ赤にして

ぷるぷると手を震わせながら俺に魔術書を手渡してきた。

すっげぇ動揺しているのが手に取るように分かってしまう。

いやいくらなんでも動揺しすぎだろう。正直かなりかわいい。

 

「あの、師匠…それでこの魔術書の事は…」

 

「あ、ああ…そうですね。正直私が危惧していた攻撃系の魔術ではなかったですし

問題はないとは思いますが…この魔術、まだ一度も試してないですよね?」

 

こくり、と首を振って頷く。当たり前だ。

この魔術はまともに相手がいないと出来ない。

一応相手が魔術師でなくとも発動できる設計ではあるが、

相手がいなければ絶対に使うことが出来ない。

無論魔術書を書いていた時の俺にそんな伝手はなく、一度も使用していないのである。

 

「ですよね…ええ、ある意味よかったですよ本当…

あの、こういう事は大事な人とやるものですからね?

仮に完成したとしても気軽にやりすぎてはいけませんよ?」

 

「はーい。」

 

ううむ、結局最後までお説教をされてしまった。

だが恥ずかしがるロキシーの様子が見れたし、ある意味収穫はあったとも言えるか――

 

「…それで魔術の試運転…どうしますか?」

 

「え?何言ってるんですか師匠。そもそもこれは相手がいないと出来ないと書いて…」

 

「ええ、そうですね。ルディの周りで大人であり、魔術関係に明るく、

この魔術書の内容を知った上で多少のトラブルにも対応出来る人でなければ危ないでしょう。」

 

「…うん?」

 

耳まで真っ赤にしたロキシーが早口で話を進めている。

こ、これはもしかして…

 

「私と、あなたで、魔術の試運転をしましょう。」

 

一つ一つ、区切るようにゆっくりと言葉を繋ぐロキシー。

顔は真っ赤に染まっていたが、目はいたって真剣そのものだった。

 

 

「……マジですか、師匠」

 

「ええ、マジです。」

 

 

拝啓、どうやら俺はいきなり師匠とキスをすることになりそうです。

 

 

 

 

 

 

 

俺の部屋の中に、ロキシー師匠が少しだけかがんで俺を見ている。

これがキス待ちという奴だろうか、前世で全くなかったイベントだが

まずこんなシチュエーションでやるものではなかった気がする。

大体、いくら1年も一緒に過ごしたとはいえ恋人にするような行為を…

いくら今同性にするといっても、さすがにするのは憚られる。

前世ではどうしようもなかった俺でも、こんな形でするのは良くないのではないか、

という最後のストッパーのようなものがかかっていた。

 

「…あの、師匠。」

 

「なんですか」

 

「いえ、今一度考え直すという事は…」

 

「何を言っているんですか?考えは変わりませんよ。

この魔術の試運転を出来ずにまたルディが別の魔術を作ったりしたら大変ですし、

もしかしたらこの経験がラノア魔法大学で役に立つかもしれません。

それにたかが同性同士のキス、それも子供相手なんですから全然抵抗なんてありませんよ。」

 

ストッパーの導きに従い一応ロキシーにやめないかという提案を送るも結果は御覧の通り。

先程より頬の赤みは引いて冷静に見えるが青い髪の間から見える耳は真っ赤。

そしてこの早口でまくし立てる口調。すごく覚えがある。

間違いなく今のロキシーは冷静ではない。

 

「い、いえ。ですから、こういうのは…」

 

やはり一度断るのがいいか、そうしたら冷静になるかもしれない。

そう信じて口を開こうとした俺の目の前で、雫が床に落ちた。

 

「…私の残せる物はそう多くないかもしれない。

だから弟子の作った物を形にしてあげたいんです…」

 

ぽろぽろと、涙がロキシーから流れ落ちる。

師匠が師匠でいられる時間はあまり残っていないのかもしれない。

それは俺にも薄々分かっていて、だからこそ魔術を必死で学んだ。

でも、今俺はその人から涙を流させてしまっていて――

 

「…わかりました。試運転、やりましょう。」

 

ええい、もう構うか。女を泣かせる男は最低だ。

そうパウロも言っていたし、自分もそう思っている。

ロキシーに悲しそうに泣かれるのは嫌だし、どうせならうれしくて流す涙が見たい。

もし後で何かしっぺ返しが来ても知った事か!

しばらく俺は思考を放棄して、試運転に全力を挙げる事にしよう。

 

「…いいんですか。ルディ?」

 

「ええ。私が作った魔術…試運転さえ出来れば晴れて作成したと胸を張れます。

あまり誇れる物でもないですが…師匠が喜んでくれるなら、やらせてほしいんです。」

 

「…もう、まったくもう…

ほら、こっちに来てください。ルディ。試運転、始めましょう?」

 

「…はい。その…体液の交換、というのは初めてですので…

師匠、頑張りますね?」

 

「え、ええ。任せておいてください。

異性の男性ならともかく、女性の子供のルディですから。

私がしっかりサポートしてあげますよ。」

 

いつの間にかすっかり夜の帳が降りた中、二人が

短くも楽しい談笑をする。

女性の膝の上に座りにこりと笑いながら話す少女に対し、

青髪の女性は少しお姉さん風を吹かせながら落ち着かせるように少女の頭を撫でながら

苦笑も交えた会話をしていた。

途中からゆっくりと、しかし確実に口数は減り、その度に二人の頬は赤くなっていく。

やがて二人は吸い寄せられるようにお互いの顔を近づけると、

決して離さないようにお互いの手を握り合いながら詠唱を始める。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~」

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~」

 

「……………し、しょう…」

 

「……………いきますよ、ルディ。」

 

詠唱が終わると、近かった二人の距離はさらに縮まる。

愛を囁くように目の前の女性の名前をつぶやくと、二人は瑞々しい唇を近づけ――

啄むように、おっかなびっくりと。

次第にゆっくり、深く食い込ませるように…唇を重ね合わせた。

 

「んっ…ちゅっ、ちゅぷっ…んぅ…」

(………やわらかい、師匠の唇…綺麗だなぁ)

 

「ふっ…うううん…ん、ちゅっ…」

(落ち着きなさい、私…これは練習…あくまで試運転…)

 

唇を重ね、お互いのとろとろになった液体を送り合う。

恋人ならおかしくない行為を、まだ小さく見える二人の――それも女性がするというこの光景は、

この情事を見ている者がいれば大いに背徳感を感じたかもしれない物だった。

その光景を作っていた二人が余裕を保っていられたのは最初だけ。

ぞくぞくと背中を駆け抜ける快感を二人は交わし合う液と唇の間で感じていた。

 

(あ、あれ?想定より明らかに、ふわふわして――)

 

(な、なにこれ…?こんなの、一人でする時よりも、ずっと…)

 

動揺する二人が見過ごしていたのは、魔術書にも書かれていなかった副次効果。

実際に試運転するところまで分からなかった、「行為中の快楽の強化」というバグによる物だった。

ディープキスをいきなりやってしまった二人の身体の中には、

明らかにディープキスだけでは会得出来ない、数倍に増幅されたのかと思うような快感が

一気に頭から下腹部に二人の中を突き抜けて――

 

「~~~~~~~~~っ、う、あっ…!?」

 

「んっ!?んううううう~~~~~~っ!!??」

 

身体の中に広がり、未だに増幅を続ける快感に襲われた二人。

一方は女性の快楽は「初体験」までは済ませていないが自分で快感を得る機会はあり、

もう一方は異性としての自分で快感を得た経験はあれど、今の身体で快楽を得る機会はなかった。

経験値の差は総合的にあまりない二人であったが、

下手をすれば二人の総合的な快楽を超えるような気持ちよさが、

二人の脳を焼き切るようにして快楽を前にしても、

お互いを見つめたまま決して唇は離さなかった。

 

(ししょう、ししょう…っ!!)

 

(だいじょうぶ、です…っるでぃ、平気ですからねっ…!)

 

初めての女の快楽に戸惑うルディも、

快楽に戸惑うルディを快楽の波の中でも必死に意識を繋ぎ留めながら頭を撫でるロキシーも。

お互い唇を決して離さないまま、時間は過ぎていき――――

 

 

「はぁ、はぁ、はぁっ…」

 

「んっ…ぅ、ふぅ…っ…」

 

十数分か、三十分か。二人にとっては時間の感覚が狂ったまま時は過ぎ、

お互いが快楽に耐えきれず床に崩れ落ちた所で、試運転は終わった。

 

二人とも肩で息をしながら、必死に息を整える。

しかしそこに苦痛はほとんどなく、試運転が終わった後も細かく震える膝、

そしてルディとロキシーの唇と唇を未だに繋ぐ白い糸のような液体がそれを証明していた。

 

 

そして――

 

「…その、せんたく…しましょうか?ルディ。」

 

「そ、そうですね…お風呂も、入らないと…べたべた、しますし…」

 

ロキシーは置いていた帽子を目深に被り赤く染まった顔を必死に隠し、

ルディはロキシーの方を見れないのか、ロキシーの服をぎゅっと掴んで離さず。

二人は少しだけ明るくなってきた家の中でこっそりと、

服を洗い、二人でお風呂に入る事になったのだった…

 

 

(魔術書を書いて寝るはずだったのに…どうしてこうなった?)

(なんで、こんな事になったんでしょう…?)



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ルディ(♀)とロキシー(♀)の魔術試運転のお話(おまけ)

後編のその後のお話。おまけです。


「………はぁ。」

 

どうしてこうなった。最近よく俺が口にしてしまう言葉の一つである。

俺はついこの間、ある目標を達成した。

それは良い事と悪い事、二つを同時に引き起こしたのである。

まず良い事だったのは、自分の作った魔術…まだ名称は決めていないが、とにかく

魔術がうまく作れた事が試運転の際に判明したこと。そしてもう一つは…

 

「…この恰好にも、結構慣れてきたな…」

 

今の俺の恰好は白いワンピースに麦わら帽子。

パウロとゼニスがおしゃれでもしたらどうだと渡してくれたものだ。

最近何か大きな事をやったというのをロキシーから聞いたらしく、そのご褒美らしい。

すっごい恥ずかしい、穴があったら入りたい。なんで正直に報告してるんだロキシー…

正直、自分をかわいくする…というのも少しわかってきた気がする。

少しだけ、俺も自分の今の性別と向き合えるようになったのかもしれない。

 

そして、悪い事。それは…

 

「あら?ルディ、お休み中でしたか?」

 

「あ、いえ…師匠も、その…お休みですか?」

 

空を見上げて草原に寝転んでいると、

いつの間にいたのかロキシーがこちらを覗き込んでいた。

なんて答えたらいいか分からずに目を逸らすけど、

どうしても顔の一部分、唇に視線が吸い寄せられてしまい、思わず目を背けてしまった。

 

「あら、どうかしましたか?」

 

そしてそんな俺を見て微笑を浮かべる師匠、ロキシー。

今でこそこんな表情を浮かべているが、あの直後はそりゃもう色々すごかった。

ギリギリパウロやゼニスがいる所ではこらえていたが、俺と二人っきりの授業になった途端

ぷしゅーっと煙をあげるんじゃないかと思うほど顔を真っ赤にして停止してしまい、

何度か声をかけて揺すらないと正気に戻ってくれなかったのである。

 

「……いえ、師匠はいつもきれいだな、と…」

 

「へっ!?そ、そうですかありがとうございます。」

 

そして変化二つ目。あの試運転をした夜の翌日から、

俺が少し髪がきれいだ、師匠はかわいいと言っても

 

「ありがとうございます」と少し照れた様子で言ってから「でもルディもかわいいですよ」

と頭を撫でたり膝に乗せたりと明らかに気分を良くしていたのだが、

今褒めるとああして髪をくりくりと指に引っ掛けていじくりまわし、

顔を真っ赤にして目を背ける。正直めっちゃかわいいと思うが、

その様子を見る度にパウロやゼニスの前ではよく隠せてるなと思う。

 

そして、最も変わった部分といえば――

 

「…あの、ルディ?少しよろしいでしょうか…?」

 

「…はい、なんでしょうか?」

 

頬を赤くしたまま、片手を差し出してくるロキシー。

このポーズ、仕草…やはりあれだ。

 

「あの魔術書の詠唱部分を少し変えたら、

もう少し魔力を回す効率を上げられるかもしれません。ですので…

また、もう一度…試運転を、しませんか?」

 

帽子を目深に被って、どんどん声を小さくしながら、

ロキシーはそれでも最後までしっかり言い切る。

あれ以来、何かと理由をつけてはロキシーは俺の作った魔術の「試運転」

を手伝ってくれている――というか積極的に二人になれる場所でやろうとしている。

 

「前にも言いましたが、魔術は本来危険な物が多いので

魔術の練習を行う際は周りに人がいないような所でやるべきなんです。」

 

本人はそう言っていたが、果たして真相はどうなのか。

 

(ああ、自分は師匠をとんでもない道に引きずり込んでしまったのかもしれない…)

 

顔を真っ赤にしながら片手を差し出し、ぷるぷると震えるロキシーを見ながら俺は思う。

でも今更、この人を突き放す事は出来ない。

あの時の温かさ、ぬくもりと―――を知ってしまったから。

だから今日も俺はこの人の手を取って、誰もいない秘密の場所へと向かう。

 

「…今日も、よろしくお願いしますね、ルディ。」

 

「ええ、いつもありがとうございます、師匠。それでは始めましょうか。」

 

時折草の擦れる音と、子供達や大人達の喧騒に紛れながら。

二人の魔術訓練は、日が傾くまで続けられるのだった…



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ルディ(♀)とシルフィ(♀)の家庭教師の出会いのお話

今回は溜め回。シルフィとルディが出会うお話です。


「…おおおー-…村の中ってこんな風になってたんだ…」

 

現在、どういう訳か死んだはずなのに異世界でまた生まれ、

女の子の身体になってしまった俺ことルディは生まれて初めて一人で村の中を歩いていた。

 

村のあちこちを歩いてみると、時々いる村人に挨拶をする。

偉丈夫や子供がいる母親、その子供など、いろんな人が俺に笑顔で挨拶を返してくれた。

挨拶しても特に怖い事はなかった。ロキシーがトラウマを溶かしてくれたお陰だ。

…そのロキシーとも体液魔術の試運転の件で色々やってしまったが、今は考えない事にしよう。

 

(正直まだ完全に人が怖くない訳じゃないけど…これは今後の課題だな。)

 

少しばかり問題もあるが、これはもう慣れの問題だ。

時間をかけてゆっくり解決していくしかないだろう。

そして人の交流も楽しかったが、特に俺の興味を引いたのは村の景色だった。

 

(…うわー、すげぇ…色んな色の葉がついてる木があちこちに…)

 

正直、自分の貧弱な語彙力では表すことが出来ない風景がそこは広がっていた。

異世界の植生も関係しているのか、ずっと見ていても飽きない光景がそこには広がっていた。

(せっかくだし、もうちょい見ても…いやいや、

今日は村を半分は見ておきたいし、今は我慢だ!)

 

正直家から植物図鑑でも持ってきてどんな植物が生えているのか確認してみたかったが、

今はそれどころではない。早く村の全体像を把握しておきたいのだ。

正直そこまで急ぐ必要もない気がするが、

一人で外に出たのが初めてな俺はすっかりはしゃいでしまっていた。

 

(次はあっちに行ってみようか…おや?)

 

そこでふと、誰かの声が聞こえて俺は足を止めた。

 

「…おい!いい加減帰れよ魔族!」

 

「消えちまえ!緑髪の魔族!」

 

…おう、いじめですか。

折角いい気分だったのに台無しである。

複数いる子供が泥をぶつけながら相手を罵倒していた。

そのせいですっかりフードは泥だらけになり、ぶつけられていた子は必死にフードを被って耐えていた。

 

(…どうする、止めたいけど今の身体だと止められるかどうか…)

 

男の身体なら割って入って止める事も出来たかもしれないが、あいにくと今の身体は女性だ。

下手に割って入って余計に悪化しました、なんて事になったらしゃれにならない。

魔術で止めるべきか…?それも危ないかもしれない。

もし魔術を使って怪我をさせた場合、いじめっ子が親にチクってパウロにばれるかもしれない。

そうなったらかなり面倒なことになるかも…

などと頭の中で考えていたら、いじめっこが別の動きをし始めた。

 

「…こ、これでも…」

 

手に持っているのは泥ではなく、石…!

いかん、それはまずい!

友達になってくれるかもしれない子が怪我をするかもしれないと思った瞬間、

俺は駆け出していた。

 

「やめろおおおおおおおおおおお!!!!」

 

咄嗟に無詠唱で作り出したウォーターボールを目の前のいじめっ子…

ではなく、地面に向かって思い切り叩きつけた。

 

ビシャアッ!!

 

「おわあっ!?」 「な、なんだぁ!?」

 

目の前で弾けた水の玉が思いっきり地面にぶつかってしぶきを上げる。

水が入らないように反射的に慌てて目を背けたいじめっ子の隙を狙って、

俺は泥をぶつけられてフードを被っていた子を助け出した。

 

「ふざけんなー!」「追えー!」「なんだお前、そいつのなかまか!」

 

「ほら、行くよ!」

 

「えっ、あっ…う、うん!」

 

いじめっ子の怒号を無視してフードを被っていた子と一緒に全速力で走り出す…が、いくらパウロとの修行で鍛えているとはいえ、

あくまで常人の範疇を出ない小娘の速度、しかも普通の子供と手を繋いで走っているのだからすぐに追いつかれそうになる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…!」

 

「ごめんなさい、もうちょっとだけ耐えてくださいね…!」

 

やはり息が切れているのだろう、苦しそうな声を上げるフードの子に対して声をかけると、

ふるふると首を振って大丈夫だと意思を示していた。

なら、大丈夫か。後は…

 

「なんだこいつ、変な水出してきたぞ!」

 

「へんなの使ってくんなー!」

 

「女のくせに生意気だぞ!」

 

 

「生意気で悪かったですね!ほら、女に負けるのが悔しかったらこっちまで来てみなさい!」

 

後ろで文句を言ういじめっこsに対してこちらも挑発。

 

後は目の前の麦畑に飛び込めば…!

 

「よいしょっ!」「ふわっ!?」

 

フードの子よ、危ない目に合わせてゴメン。

後でしっかり謝ろうと心に決めながら一瞬だけフードの子を担いで麦畑に飛び込む。

目くらましようにまたウォーターボールを地面にたたきつけて一瞬だけ視界を制限すると、

いじめっ子達は一瞬あっけにとられたがすぐに麦畑に飛び込んできた。

 

 

「…おい!どこ行ったー!?」「探せ―!」

 

麦畑に飛び込んでがむしゃらに進む。

左右のあちこちから声が聞こえてくる。麦畑のおかげで俺達の姿は見えていないが、

あいつらは俺達を探して回っているのだろう。

 

(…後はあっちに向かって…そりゃ!)

 

「おい!あっちにいるぞー!」「そこかぁ!」

 

無詠唱で距離の離れた場所からウォーターボールを出現させる。

水の玉がふわふわと麦畑の上を漂っているおかげであいつらはすぐに気付いたようで、

見当違いの場所を探していた。後はこれを数回繰り返せば、

子供の体力なら諦めて引き返してくれるだろう。

「…あ、あの…あ、あり…と…」

 

「…もう少ししたらあいつらもいなくなると思うから、それまで待っててね?」

 

「う、うん…」

 

フードの子が小さく遠慮がちに服を引っ張りながら何かを伝えようとしているが、それはもう少し後に聞こう。

ちょっと頬も赤いし、息が上がっているのだろう、乱暴な方法で連れてきてしまったし後でもう一度謝ろう。

そう思いながら、俺はフードの子が不安にならないようにいじめっ子が麦畑から去るまでずっと手を握っていた。

 

「やっぱり…かっこいいなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと…さっきはごめんね。手荒な方法で助けちゃって…」

 

「う、ううん。そんなことないよ!…あ、ありがとう…」

 

いじめっ子達が諦めて帰った後、フードの子と俺は麦畑から出ると、

フードの子から人があまり来ないらしい木の傍で向かい合い、改めて話をする事にした。

俺が先程走らせたり麦畑に突っ込んだりした事を謝ると、

フードの子からは強く否定したが大きな声を出したのが恥ずかしかったのか、顔を赤くして目を背けてしまった。かわいい。

だがしかし、フードを目深に被る前の美形な顔を俺は見逃さなかった。

…これは将来女泣かせに育ちそうな感じのいい顔だな。中性的なのもポイントが高い…

そしてその顔はかなり汚れてしまっている。ちょっと落としてあげた方がいいだろうか。

 

「それと、重ね重ね言うようだけどごめん。

ちょっとだけ前かがみになって?泥を落とすから。」

 

「え?あ、うん…ひゃあっ!?」

 

すごい素直に前かがみになってくれた子のフードをめくると、

少し抵抗していたが泥を無詠唱で出したお湯で泥を流すと大人しくなった。

…正直さっきからやってる事が危ない感じだが、今は目を背けよう。

後は最近考えてた火と風の魔術を合わせて…と。

 

「あ、ありがとう…あ、あったかいね…?」

 

「今乾かしてるから少し待ってね?

服についてるのは後で家で洗ってもらいなよ。」

 

おどおどしながらもなんだか少し楽しそうな顔をしている子の髪に

俺はゆっくりと風を当てていく。正直服もどうにかしてあげたいが、

服までびしょ濡れにしたら風邪をひいてしまうかもしれないのでやめておいた。

この子はいつもこんな事をされてるのだろうか…?

フードの子が着ていた服は泥だらけで、かなり執拗に汚されていた。

少しばかりゼニスの家事を手伝っているせいか、この服の汚れはすぐには落ちない事が分かってしまった。

石をぶつけようとしていた事も腹が立ってしまったが、この場にいじめっ子がいないのにそんな事を考えてもどうしようもない。

今はこの子に声をかけて少しでも支えてあげたいと思った。

 

「あいつら、いつもやってくるの?

反撃しないとずっとああしてくるよ、あいつら。」

 

「え、あ…うん。…そ、その…ボクが、怖くないの?」

 

つい言ってしまった忠告に、少しばかりフードの子はびくりと体を震わせると

こちらを見てぷるぷると震えていた。

その言葉の意味…彼女の髪は、緑色だったのだ。

 

フードの子の髪の色は師匠が前に言っていた、この世界で恐れられているらしいスペルド族と一致する緑の髪。

しかしスペルド族にあるはずの宝石はない。

実はさっき逃げているときに額が少しだけ見えていたので、あの時点でこの子を警戒する理由はなくなっていた。

…どちらかというと、そのピコピコ動いているエルフっぽい耳に興味があるけど。

 

「いや、私は特に怖くないよ?師匠が魔族だったから。君の家族か誰かが魔族だったりするの?」

 

「…!う、ううん…」

 

そこからぽつりぽつりとフードの子は身の上話をした。

どうやら父親は普通の人間、母はエルフのハーフらしい。

父親も母親も特に魔族ではないらしく、隔世遺伝のようなものらしい。

途中から感極まって泣き出してしまったので、

やってしまったと慌てながら俺はその子の頭を撫でたり手を握って落ち着かせることになった。

 

「そ、その…なんで、助けてくれたの?」

 

何とか落ち着いてくれたので、今は二人で村の中を歩いている。

泣き出してしまったのが少し気まずかったのか、フードの子は少し後ろを歩いていた。

…うーん、助けた理由…理由か…

 

「うーん、なんというか…君が気になったからかな?

いじめられてるのが気に食わなかったのもあるけど…」

 

「へっ!?」

 

ヤバい、ごく普通に返事をしようとしたらなんか口説き文句みたいになってしまった。

フードの子も顔を赤くしてしまっている。いや、ナンパではない…よな?

 

「…と、とにかく!その、気にしなくていいから!」

 

「で、でも…今度はあなたがいじめられちゃうんじゃ…」

 

照れてるを誤魔化すためにわざと大きな声で言った俺に、

フードの子は申し訳なさそうに声を小さくして答えた。

いやまぁ、それはあるかもしれんがさっきみたいに何とかなるだろう、それに…

 

「…いいよ。だって私もう友達いるもん。いじめてくるような奴と友達になるのは

あっちが謝らない限りしないよ。」

 

「え?そ、その…友達…いいの?」

 

「うん、その手伝いとかで忙しくない時に一緒に遊べたらなって…ダメかな?」

 

 丁度自分も友達が欲しかったのだ。この世界で初めての友達がこの子なら文句はない。

かなりの美形できっと女の子にもモテるような女の子になる、そんな予感がするし…

何より、この子となら気が合いそうだ。

なので勢いも付けて少し顔を近づけて友達アピールする。

どうだ…どうだ…?

 

「…あ、その…忙しくないので、大丈夫!

こ、こちらこそよろしくお願いします…」

 

なんか頭を下げられてしまった、いや別に友達になるだけだよ?

なんでお嫁に行きそうな台詞を…いやこの子ならお婿か?

 

「う、うんよろしく。私の名前はルディ。

えーっと…君の名前を教えてもらっていい?」

 

「う、うん。私の名前はシル…」

 

おっと、強い風が吹いたな…

シルフィ?なんだかかっこいい名前だ。

 

「シルフィ…風の妖精さんみたいな名前でいいね!

これからよろしく!」

 

「あ…う、うん…!」

 

思わず口に出してしまったが、どうやら高評価だったようで嬉しそうだ。

折角なので手を差し出して握手もしておこう。初の友達が出来た記念だ。

 

「…えへへ。」

 

(…なんか嬉しそうだし、もう少し握ってようかな?)

 

こうして、初めての友達作りは成功し、俺達は握手を交わした。




【おまけ:その後の話】

(手を離さずにシルフィの顔見てたら恥ずかしくなってきた…)

(…うう、なにしてるんだろうボク…
折角友達になってくれた子なのにずっと手を握っちゃった…)

…その後、なんだかシルフィがとても嬉しそうで手を離すに離せず
しばらく手を握り合った状態で向かい合ってしまい、お互いの顔をまじまじと見つめてしまったが、
ちょっと失敗だったかと思うので、後日会ったらなかったことにして話す事にしようと心に決めた。










【おまけ:シルフィside】

家に帰ると、汚れていた服を見てお母さんがびっくりしていた。
なんでもない…と言おうとしたけど、お母さんは何か察したように服を洗濯してくれた。
お母さんには申し訳ないけど、少しだけいい事もあった。
お母さんに友達が出来た事を言うと、嬉しそうにボクの身体を抱きしめてくれた。
ボクの髪が緑色なせいでお母さんやお父さんには迷惑をかけてしまっているけれど、
ボクの事を大切に思ってくれていることがどうしようもなく嬉しくて、ボクも少し泣きながらお母さんの身体をぎゅっと抱きしめた。

「えへへ…友達、友達…」

夜、嬉しくてついベッドの上で呟いてしまう。
いじめられた事は悲しいけど、今日の出来事はそれを帳消しにするくらい嬉しかった。

(…初めての友達があの子だなんて、嬉しいなぁ…)

前から少しだけ見かけた事のある女の子。茶髪にきれいな顔をしていたからよく覚えている。
青色の髪をしていた女の子と一緒にいた子。
今日は見かけた時よりももっと印象が変わった。あの子はとてもかっこよかった。

(えへへ、明日も会えるかなぁ…)

すっかり浮かれた気分で今日の事を思い返しながら、ボクはいつの間にか眠ってしまった。


(…いつか、あの事も聞けるかな。)


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ルディ(♀)とロキシー(♀)の家庭教師の終わりのお話

今までのお話の後のお話。
ロキシーが家庭教師を終えるまでのお話です。


魔術に使う杖をもらった後に

明日が卒業試験だと、ロキシーにそう告げられたのは少し前の事だった。

それまでロキシーいろんなことを教えてくれて、何かとかわいがってくれた。

そんな師匠がいなくなる…俺の心の中にぽっかりと穴が開いた気分だった。

 

(でも、それでもやらなきゃいけない。ロキシーだっていつまでもここにいられる訳じゃないし、

俺自身も変わらなきゃいけない…やるしかない、か。)

 

自分の最近少しずつ伸び始めた髪を櫛で整えながら決意を固める。

前世とは違う性別の身体だけど、自分の髪を整えるという行為はそれ程嫌いではなくなった。

こうしていると、深く考え事が出来るような気がするのだ。

しかしそうしていると、考えるのが億劫なことまで浮かび上がってしまう事もあって…

 

(…ただ…どうしようかな、あの魔術の試運転…)

 

溜息をつきながら自分の部屋の隅…のさらに見つからないようにベッドの下。

その下にある箱に「絶対に触れないように」と書いて厳重に保管している物。

自分の書いた記念すべき、もしかしたらすごい事かもしれない魔術書の作成…

そして恥ずかしい記憶の詰まった魔術書をついついチラ見してしまった。

 

ロキシーに作成していた魔術…体液交換による魔力回復、身体強化を図る魔法――

俺は仮称として体液魔術と呼んでいるが、どうかこの魔術もこの呼び方も広まらない事を祈る。

この魔術書を完成させたはいいものの、ロキシーに見つかってしまい

あれよあれよという間に一度も使った事のない魔術の試運転を二人で行うことになった。

そして体液交換魔術の最も簡単な方法のキス(正確にはディープキスだが)

を試した所、思いっきり副作用が出てキスした時の感覚が…

その、ものすごい事になってしまった。

正直とんでもない事をやってしまったと思っているし、師匠にも申し訳が立たない。

師匠には最初にやらかしてしまった後に全力で謝罪を行ったのだが、

 

「そ、その…気にしないでください。私もその…快楽に身を委ねてしまった事は事実ですから。

まだあなたは子供なんですよ?

この年でこの程度の副作用しか出さない魔術を開発出来ているのはすごい事です。」

 

涙目で頭を下げていた俺の頭をよしよしと撫でてくれた。

なんだこの師匠…天使か?

 

「しかしこの魔術の恩恵自体はかなり大きい…無視できる物ではないでしょう。

副作用を無視する訳にもいきませんし、改良を加えて世に出すべきでしょう。」

 

そう言ってお許しどころか魔術の改良許可までいただいてしまった。

まぁ、許可は取れたものの俺の周辺でこの魔術を試せる人などいる訳もなく…

それから俺と師匠はこの体液交換魔術で行うキスに思いっきりドハマりしてしまい。

何かにつけて「試運転」を行う事になってしまった。

 

草むらで、どこか人のいない家屋の裏で。岩の影で。

人のいない所などいくらでもあり、その隙に唇を重ね合う。

いけないとは思いつつも、どうしても癖になってしまっていた俺達の衝動は止める事が出来ず、

結果として試運転しまくったおかげでロキシーが無詠唱魔術を使える謎のパワーアップを果たし、

さらにパウロとの稽古で身体強化の具合を確かめる事が出来たのはなんとも皮肉だ。

でも、そんな日々もおしまい、それならば…

 

「ちゃんと、師匠にお別れをしないとな…」

 

気恥ずかしさと高鳴る鼓動を抑え、ちょっとだけ潤む瞳を眠いからだと強がって。

卒業試験の時はちょっとだけ綺麗な恰好で師匠に会おうと思いながら、

俺は布団の中に身を投げた―――

 

 

 

それからロキシーが出ていくまでは、あっという間に過ぎていった。

卒業試験をするために家の外…村の中に行って、トラウマを何とか乗り越えたり。

怖がっていた俺を優しく抱き留めながらロキシーが馬に乗せてくれたり、

水聖級魔術を教わり、俺もロキシーが使った水聖級魔術を出したりして、

水聖級魔術師を名乗ってもいい、それをロキシーに言ってもらえた。

 

「それから…これから私はお世話になったこの村を出ていきます。

だからその前にもう少しだけ言いたい事を言っておきましょう。」

 

そう言うと、ロキシーはいつも通り俺と手を繋ぎながら誰もいない草原へと向かう。

俺はそれに一切抵抗せず、神妙な顔をしたロキシーの話を聞いていた。

 

「はい、何でしょうか師匠?」

 

「あの体液魔術の事です。

私との試運転中には出来ませんでしたが、

きっとあなたなら何度か改良を重ねていく内に無詠唱でも出来るようになるでしょう。

以前も言いましたが、あなたの作成した魔術の効果はどれも効果の高いものばかりです。

ですから、その扱いを間違えないようにしなさい。」

 

話した内容は俺が作成している――そして師匠も試運転に関わっている体液魔術の事。

成程、言う事は最もだ。強く意識しておこう。

 

「そして、決して無詠唱で出来るようになったからと言って、

無暗やたらに使ってはいけませんよ。

友達だからいいよねと言ってキスを何度もして完成させようとしたり、

そこら辺の知らない人にこの魔術を使っては絶対にいけません。」

 

…ん?なんだか話の流れが…?

 

「で、ですから…そういう事は、関係性を深めた人とするべきというか、

いえ、決してこの魔術の完成を遅くしろと催促しているわけではありませんよ?

ええ、ありませんとも。ですけど戦闘でもしこれを使う事になった場合、

無詠唱で体液魔術を発動できれば大きく戦況を変える事も出来るかも―――」

 

…片手を振りながらもじもじし始めたロキシー、かわいい。

うん、成程。そういう事か。

ロキシーは俺にきっと忘れてほしくないし、覚えていてほしいのだろう。

安心してほしい、少なくともこの魔術は慎重に開発するし、

何なら封印する気すらあるのだ。

このロキシーの仕草に俺の今の小さな胸が今の発言でドクドクと高鳴っているのが分かる。

だから、これからやらなくてはいけない行動は一つだ。

 

「師匠。」

 

「ひゃ、ひゃい!なんでしゅ――」

 

言い終わらない内に、頬にキスをする。

試運転中にも幾度かしたけど、やはりすごく柔らかい。

弾力があって、本当にこの世に存在するのかと疑ってしまいそうになる。

 

「なっ、あっ…!?」

 

「大丈夫ですよ、師匠。忘れたりなんてしませんし、

いつか、また会ってもきっと覚えていますから。

…師匠との試運転なんて、忘れられる訳ないじゃないですか―――」

 

動揺するロキシーに一気に思いを伝える。

気持ち悪いと思われていないだろうか少し心配だったが、

とにかく自分の気持ちを伝える事が大事だと思い一気に言い切った。

そうして伝えて、ちゃんと伝わっただろうかと考える暇もなく、

今度は師匠の顔が近づいてきて――

 

 

「…これは、試運転とは別のキス、ですか?」

 

「ええ、そうです。そんな風に言われたら…

したくなっちゃうじゃないですか。」

 

一度のキスで止まる事はなく、何度も、何度も。

この日俺たちは「試運転」ではないキスを交わした。

草木の鳴る音が普段より煩かったり、小さな子供の声が遠くから聞こえても関係なかった。

時折泣きそうになるけど、それでも笑って唇を重ねる。

柔らかい唇の感触を味わうように、忘れないように。

明日になって、両親の前でも感極まって泣いてしまわないようにと一生懸命キスをした。

目の前の顔を真っ赤にした少女も、きっとそう思ってくれるといいな。

そう思いながら、最後の口づけをして唇を離した。

嬉しそうに笑う師匠を見て、つい笑顔をこぼしながら泣いてしまったけれど、

きっと今のは水聖級魔術を使った時の雨だ。そう思いながら二人して笑った。

 

それから日が暮れて、一度就寝した後にロキシーは俺と両親に見送られながら村を出て行った。

ちょっと気合いを入れておしゃれした俺を嬉しそうに撫でると、

最後に俺にお守りを残して彼女は笑顔で村を出て行った。

 

「いつか綺麗なお姉さんになって、会えるといいですね。」

 

最後にそう言って、くれた事はずっと記憶に残っている。

俺はあの人に恥じないような弟子になれていただろうか、それは分からないけど…

 

(せめて、あの人に恥じない生き方をしよう)

 

俺は深く心の中に誓った。

あの魔術も…あまり外には出したくないが、完成させよう。

そう思いながらロキシーの姿が見えなくなるまでお礼を言った俺の頭の中には、

彼女と過ごした日々、そして彼女の笑顔。たくさんしたキス。

その事がずっと、頭の中に残り続けていた。

 

 

 

ドアを開ける。家の外に出ると、草木の擦れる音がする。

家の外に出ると、パウロとゼニスが仕事…いや、その最中にいちゃついてるのが見えた。

しかし見ているだけでは何も始まらない。スタートラインはここからだぞ、俺。

 

「あ、あの…」

 

少しだけまだ勇気の要る言葉を伝えようと二人に向かって口を開く。

 

「ん?どうしたルディ、手伝いなら今は特にないから本を読んでても…」

 

「い、いえ。ちょっと外に遊びに行きたいのですが、良いでしょうか?」

 

俺の言葉を聞くと、パウロのきょとんとした表情からにやりと変わったのが見て取れた。

 

「おう、いいぞ!ただあんまり遠くには遊びに行くなよー?

迷子になったら俺かゼニスの名前を出せば誰かしら助けてくれるだろうが、

変なガキがうろついてないとも限らないしな!その時は俺が〆てやる!」

 

「もう、あなたったら過保護なんだから…

いってらっしゃいルディ。日が暮れるまでに帰るのよ!」

 

「はい、分かりました母様、父様!」

 

ちょっとパウロの発言は気になったが、それはまぁ良しとしよう。

外出許可をもらえた事がちょっと嬉しくて、

思わずパウロとゼニスの所に駆け寄った俺は少しばかり両親との交流を深めた後、

まだまだ知らないこの家の外へと出かける事にした。

 

(師匠、俺…頑張りますね。)

 

心の中で師匠に挨拶をしながら、俺は家の敷地の外へと一歩踏み出した――



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番外編:ちょっとした小ネタ集
番外編:シルフィ(♀)、ルディ(♀)の耳を攻める


唐突ですが番外編です。
まだシルフィ(♀)とルディ(♀)が幼い頃…にあったかもしれないお話。


(どうしよう、ルディの耳を手で触っただけで、

こんな反応するなんて…普段なら絶対しないよね)

 

木陰の下、緑髪の少女シルフィは茶髪の少女、ルディを膝枕しながら未知の体験をしていた。

その未知の体験というのは、たった今ルディが発した声にある。

それはシルフィがつい悪戯心を発揮し、

普段抱き着かれているお返しとばかりに片耳をつつーっと撫でてしまったその時の事…

 

「ひぅっ…んぅっ…」

 

小さくか細い声、しかし確かな刺激に対しての反応がシルフィの膝に置かれたルディから発される。

普段聞いたことのないその声に、シルフィは僅かに動揺してしまった。

 

(どうしよう、やっちゃった)

 

しかし、それ以上に気になったのは、今の声を本当にルディが出したのかという事。

 

(ボクに魔術を教えてくれて、いつも引っ張ってくれるルディが、あんな声を…

 

もう一度、寝てる間に耳を触ったら…また声を出したり…するのかな?)

一度感じた疑問はむくむくと膨れ上がり、シルフィの普段の臆病さは鳴りを潜め

小さな悪戯をする子供の、しかしそれ以上の好奇心が彼女の心を支配する。

そして彼女の指は、自然にルディの両耳に迫っていった――

 

(これはそう、体調の確認。声がちゃんと出てるかも確認するために、

ちゃんと両耳を触って確かめなくちゃ)

 

ほんの少しばかり嘘を混ぜて、さっきよりも触る手の数を多くして耳に触ろうとするシルフィ。

その手はゆっくりと、しかし確実に自分の膝の上からルディの首、そして顔に近づいていく。

まずはほっそりとした首、そこから形の整ったきれいな顎。もちもちした小さな頬へと向かう。

そして本命の耳へと後数mmの所まで近づいた。

 

 

(えっと、さっきはこうやってなぞる様な感じで…)

 

同じ声を聴くためには、先程と同じような動きを再現するべきだとまだ幼い頭で考えたシルフィは

犬や猫の背中を撫でるように近すぎず、遠すぎずの距離感でつつーっとルディの耳を撫でた。

 

 

「んっ……ふぅぅっ…!」

 

最初の時と違い、両耳を撫でられ、ルディの身体がわずかに跳ねる。

その反応には幼い体にも関わらず僅かな艶が含まれていた。

 

(うんうん、さっき聞いたときはこんな感じの声だったよね。

でもなんか、さっきよりも違うというか…もしかして、これ…もう少し確かめてみよう。)

 

さっきと同じような声が出た事に確認が取れてほっとするシルフィ。

しかし最初の声とは何かが違う、そう思ったシルフィは他の手で耳を攻めてみる事にした。

 

 

(次は、こっちをこうして…耳たぶの方を下から触ってみよう)

 

「んっ…あっ、そ……は…」

 

(やっぱり声が違う…でももう少ししっかり聞きたい。今度は…耳の穴の近くを触ってみて…)

 

「あぅ…んぅ…!」

 

(や、やっぱり…!これってお父さんとお母さんが夜してる時に聞こえてくる声だ!)

 

三度の検証により、ようやく謎が解けてすっきりしたシルフィ。

しかしその顔はイケない事を知ってしまった事で真っ赤に染まっていた。

 

(こ、これって…あんまりよく分からないけど、やりすぎたらよくない奴だよね?

悪戯なんだし、これくらいにしてやめといた方がいいかも…)

 

ようやく真相にたどり着いた事で、頭が少し冷えて冷静になるシルフィ。

 

慌てて何かしたように見えないよう手を隠し、

ルディの頭をゆっくり地面に降ろして証拠を全て消し、

 

ルディが起きたときにちゃんと謝ろう。

 

気持ちを一新したシルフィがそう決心してルディの頭を降ろそうと再び視線を降ろしたその時――

 

「もっと、して…」

 

頬を上気させ、口を半開きにしてとんでもない寝言を呟いている

幼馴染のルディの姿がそこにはあった。

 

(っ!?!?)

 

シルフィの悪戯により、未だに夢の世界から意識が覚醒していない状況にあるにも関わらず

ルディは彼女自身もまだ知る事のなかった自身の弱い部分である耳を攻められ続けた。

そして両親の顔の良さと最近シルフィとやり始めた肌の潤いを保つためのケアをしているため、

ルディはまだ幼いとはいえど将来美少女になる事が約束されているような容貌をしていた。

その二つが組み合わさる事で、まどろみの中でくすぐったさに加えて快感を確かに受け取ってしまったルディの顔は

快楽で惚け、初めて出来た距離の近い友達に向けてはいけないような顔を向けてしまっていた。

その表情は、自らの手でその表情を作り出してしまったシルフィの冷静さを欠くに十分な破壊力で―――

 

「…もっとやっていい、って事なの?ルディ…

いいよ、そっちがその気なら、ボクももっとやってあげるからね…!」

 

明らかに目の焦点が合ってないシルフィはそう呟くと、

ルディの耳に手だけではなく顔もぐっと近づける。

 

(耳を触る時に手だけじゃなくて、口に、やさしく挟んだらどうなるんだろう…?)

 

運の悪い事に、まだルディは髪の毛をゆらゆらと風に揺らしながら夢の中。

そして村人もシルフィ達の様子に気付いた様子はなく、

仮に気付いたとしてもまた昼寝でもしてるんだろうとしか思われない。

誰にも気づかれないこの時間、シルフィはルディの耳を思う存分堪能する事に決めた。

 

「はむっ…んっ…ふーっ…ちゅっ…」

 

「ひぅっ…んぅっ…たべ…られ…あうっ…」

 

結局お日様が天辺から夕焼け空になる頃までの間、

村人の誰も気づくことなく小さな悲鳴のような声と粘着質な音は絶え間なく続き、

夕飯の時間になってようやく目覚めたルディは

不思議な夢の中で感じた未知の感覚に体を悶えさせ、

シルフィは顔を真っ赤にしてルディと一緒に帰る事になった―――

 

それからしばらくの間、

シルフィはルディの茶髪からのぞく小さな耳を見る度に

顔を赤くして目を背ける事になったのだが、それはまた別の話…




シルフィ×ルディ子の耳舐めプレイという
電波が飛んできたので書いてしまいました。
反省はしているが後悔はしてません。


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番外編:ロキシー(♀)とルディ(♀)、事故でうっかりキス

また番外編です。
ロキシー(♀)とルディ(♀)の魔術の授業中にあった…かもしれないお話。


ロキシーが家庭教師になってからしばらく後、俺はロキシー師匠に魔術を習っていた。

 

「いいですかルディ。私は威力が高い魔術も教えますが、

決して村の中では威力の高い魔術を試そうとはせず、私の前で使用してくださいね。

魔術が制御出来ていないと暴発する危険性もありますから。」

 

「はい、師匠!」

 

俺がロキシーと魔術の勉強をする際には必ず一度は口を酸っぱくしてこう言われる。

一度魔術を試し撃ちした時の威力を聞いていたのだろうか、ロキシーは出来るだけ人がおらず

あまり周りに被害を出さないような場所で練習をさせる事に拘っていた。

だから安心して俺はロキシーから魔術のやり方を習い、練習を行っていた。

 

――それ故の油断もあったのだろう、俺は失敗をしてしまったのだ。

 

その事故が起きたのは雨が上がった直後、水溜まりがまだ残っている時に

魔術の練習をしていた時に起きた。

今でも明確な原因は分からない。

ただその日は水溜まりに向かってファイアボールの魔術を撃つ練習をしようとしていたのだが、

少し魔力を入れすぎた状態で魔術が成功してしまった。

 

「あわわわっ!?こ、これどうしたら…!?」

 

「落ち着いてくださいルディ!今私が消しますからあなたはこっちに――」

 

どんどん手元で膨らんでいく炎の玉。

自分の身体よりも大きくなるのではないかという程に膨れたそれを前にして、

俺はただ慌てふためくしかできなかった。

そんな状態の俺の傍にロキシーが慌てて駆け寄り、

魔術を使ってファイアボールを消そうとしたその瞬間…

 

一気に炎の玉が爆ぜ、そこからすぐに俺の視界は暗転した。

勢いよく吹き飛ばされたのだと俺が認識出来た時にはもう遅く、

俺の身体は俺の意思とは関係なく飛んで行き――

 

「ルディ、危な――」

 

魔術の発動も間に合わず、

何とか俺を受け止めようとしたロキシーの胸元に体は勝手に突っ込んでいき…

 

唇と唇が、触れ合った感触がした。

 

ちゅっ。

ぶつかった瞬間に音が発生していたなら、きっとこんな音がしていたのかもしれない。

そんな事を考えてしまう程、ロキシーとキスしてしまった事を俺ははっきりと認識していた。

唇が熱く、やわらかい感触がする。女性相手のキスとはこんな感触だったのか。

非常事態にパニックになったはずの俺のわずかな冷静な部分が

ロキシーとのキスを客観的に受け止めていた。

しかしまぁ、実際にこんな状況でキスしてしまったとして唇と唇が触れ合っている時間は

そう長くならない訳で―――

 

「きゃっ!?」「うぎゃあっ!?」

 

二人分の悲鳴が辺りに響く。女子力のない方の悲鳴は確実に俺の方だろう。

ファイアーボールを打ち消す時間はどうやらなかったようで

ロキシーは逃げるのが精いっぱいだった俺を受け止めると、

一緒になって地面を転がってしまった。

 

「ご、ごめんなさい師匠…威力の調節ができませんでした…」

「い、いえこちらこそすみません。対処が間に合いませんでした。」

幸いにも思いっきり体を地面にこすり付けた程度でケガはしなかったものの、

それはそれこれはこれ。

ロキシーに心の底からやってしまった後悔の気持ちを込めて謝罪すると、

ロキシーは俺を怒ったりせずにまだ体勢を崩したままの俺を抱き上げてくれた。天使かな?

 

そうか、俺はこの天使のような人の唇を奪ってしまった訳か…死にたい。いや死にたくはないが。

どうする?落ち着いてきたらキスした事を言うべきなのか分からなくなってきた…

いや待て俺、ここでキスをなかったことにしても、

後で罪悪感が残って元の関係で魔術を教えてもらう事が難しくなるかもしれない。

ここは一時の恥を忍んで、そしてロキシーには本当に申し訳ないがきっちりさっきの事を謝ろう。

 

「あ、あの…師匠…」

「ふぅ、かなり汚してしまいましたね…今日はここまでにしてお風呂に…

ルディ、どうかしましたか?」

「さ、さっき…キスしてしまってごめんなさい!」

 

キスの事を告げた所で、俺は素早く土下座した。

 

土下座すると自然と視界は狭まる。今は地面から元気に生い茂る雑草と土しか見えない。

必然的に相手の顔は見えなくなるので、否が応でも自分の中の緊張感が高まっていた。

 

(ロキシーはどう感じているんだろう、なにをしてるんだろう)

土下座しているのはまだ数秒のはずなのに、時間が何分、何時間も経ったように感じる。

俺が前世でやってしまった事は女性の身体になった事で相当許されない事だと思い始めていた。

しかし今回のもかなり有罪だ。事故とはいえ、

もしかしたら初めてだったかもしれないキスを奪ってしまったのだ。

しかもそれを被害者であるロキシーの前で謝っているから重圧感がすごい。

それでも土下座の体勢は解かない。

 

「…ルディ。」

 

(こわい、なきそう、どうしようどうしようどうしよう…)

 

ロキシーから話しかけられた。視界が滲む。それでも何とか顔を上げてロキシーの顔を見て――

 

「ルディ、大丈夫ですから、そんな恰好しなくても大丈夫ですよ。ほら、立って立って。

ほら、かわいい顔が台無しになっちゃいますよ?」

 

そこには、土に汚れても全く美しさを損なわない少女がほほ笑んでいた。

ロキシーは土下座の体勢を取っていた俺を立ち上がらせると、ごしごしと顔を拭いてくれた。

 

「あ、あの…師匠、怒ってませんか?」

 

「怒る訳ないじゃないですか。私は大人ですよ?キスの一つや二つ経験しています。

ルディとのキスなんて、なんてことありませんよ。」

 

そう語るロキシーは本当になんてことないように言ってくれて、俺の顔をハンカチで拭いてくれた。

…やっぱり、師匠はすごいなぁ。

 

「…それとも、私とのキスは嫌でしたか?やはり同じ女性ですし――」「い、嫌じゃなかったです!むしろ――」

 

改めて俺は師匠への尊敬を強く感じていた所で、

いきなり俺のハートを揺さぶるような問いかけが来てしまい反射的に答えてしまった。

いかん、本気だと思われないように急いで誤魔化さねば…!

 

「…むしろ?」「い、いえ!なんでもありません!ほら師匠、お風呂入りましょう!」

 

「分かりましたよー。もう、調子いいんですから。」

 

誤魔化そうと全力で走って、ロキシーと二人で家のお風呂に向かって走る。

自分の女の子としての部分が反応して、

きゅんきゅん来てるのを誤魔化すために早く走った、なんて事では…ない。

ちょっと頬も熱かったけど、

あんな事故みたいなキスでドキドキするのはなんかダメな気がしてしまう。

普段ならちょっと嬉しいロキシーとのお風呂も、

なんだか正面から見れなくて、そっぽを向いてしまった。

明日にはちゃんと魔術の訓練を受けられるように今日は早く寝よう。そうしよう、うん…

しかし早く寝るために部屋の中で布団にくるまって目を閉じると、

どうしてもあのキスを思い出してしまう。

 

ダン、ダンダンダンダン、ダンダンダンッ!

 

(ああ、もう。早く寝たいのに…さっきから部屋の隅からも音がするし、何なんだろう?)

 

結局その日、俺は中々寝付けずに短い時間しか寝る事が出来なかった。

しかも寝ている間に見ていたのは、

青い髪をした小柄な王冠を被った誰かが自分と同じ茶髪のお姫様を連れ出す夢で…

 

結局、翌日俺は寝不足で訓練する事になり、

夢の内容を忘れるために一心不乱で素振りをするのだった――

 

 

 

 

ルディが布団の中で寝付けずにいた一方で――

 

ダン、ダンダンダンダン、ダンダンダンッ!

 

「うああああああああああああああああああああっ……

わ、私のファーストキスがああああああ…!!!!

お、落ち着きなさい私!相手は小さな子供ですよ!?それも女の子なんですよ!?

むしろ男の人相手ではなかった訳ですし、予行演習のようだと思えば…」

 

(ルディの唇、ふにふにして……ちょっと甘くて…)

 

「ダメです私!思い出すな私!ちょっといいなとか思ってないんですからねぇぇ!?」

 

 

ロキシーは思いっきり布団の中で悶え、

布団をバシバシと叩きながらごろごろ転がって悶絶していたのだが、

ルディが気付くことはなかった――




テンパってる師匠はかわいい、
そういう気持ちで書きました。


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ルディ(♀)がシルフィに耳かきしてもらう話

今回はまた番外編です。
今回はルディ(♀)がシルフィに耳掃除されるお話。


俺の名前はルディ・グレイラット。何故か死んだかと思ったら

女性の身体になって別の世界で生きる事になった元男である。

そんな俺は今、師匠から教わった魔術をこの世界で出来た初めての友達、シルフィに教えている最中である。

シルフィ「ねぇねぇ、今のどうだった!?ちゃんと詠唱出来てたかな!」

ルディ「うん、詠唱はちゃんと出来てたしもうすぐエクスプロージョンも撃てそうだね。」

目を輝かせながらピコピコと耳を動かして俺に魔術が上手くいったか聞いてくるシルフィ。

うーむ、やはりかわいい…前に性別を間違えていたことでちょっとぎくしゃくはしたが、

性別が女性だと分かった後でもその可愛さに1mmも変化はなかった。

そんな風に今日も俺はシルフィの魔術を教えつつ、シルフィのかわいさを再確認していると、

シルフィが何か不思議そうな顔をしてこちらを見つめてきた。

シルフィ「?あの、ルディ?ボクが今詠唱したのはファイアボールだよ?」

ルディ「…え?」

どうやらシルフィがさっき撃ったのはファイアボールだったらしい。そんな馬鹿な。

俺の耳にはちゃんとエクスプロージョンという単語が聞こえていたはず…

シルフィ「………あ、あのさ、ルディ。ちょっと耳貸して…?」

ルディ「え!?あ、ああうん…」

明らかに普段ならしないような間違いに動揺していると、

シルフィがいきなり遠慮がちに顔を近づけて何か言おうとしていた。

シルフィの上目遣いは兵器レベルのかわいさであり、それに俺がNOと言えるわけもなく耳を近づけると…

シルフィ「あ、あのさ…もしかして…ルディ、最近耳掃除してないの?」

…え?

 

ルディ「…えっ、そ、その…た、確かに耳掃除は最近してもらってないけど…なんでわかったの?」

シルフィ「その…今日ボクと話してる時に変に聞いてない時があったから…

それにさっきのも明らかに聞き間違えてたし、もしかしたらって…」

 

確かに私は最近耳掃除をしてもらっていない、何故か分かったかと聞いたら

シルフィの発言から滅茶苦茶証拠が出るわ出るわ…

そういえば今日何故か何回かシルフィの発言が聞こえない事があったし、

さっきの発言なんか明らかに聞き間違えていた。

…うん、そんなに溜まってたのか…早い所掃除してもらった方がいいな…

 

ルディ「そ、そっか…全然気づかなかったよ、ありがとうシルフィ…

それじゃこのまま魔術の授業やるのも危ないし、今日は一旦ここまでって事で…」

シルフィ「えっ…?きょ、今日の授業終わりなの?今から耳掃除しちゃえば…」

ルディ「それは出来ればしたいんだけどね…私、自分で耳掃除出来ないから…」

 

本当はもう少し魔術の授業をしたかったが仕方ない。

断腸の思いでシルフィにお礼を言ってから去ろうとしたら引き留められてしまった。

だが、それは出来ないのである。なぜなら俺は…この体では耳掃除が死ぬほど下手なのだ。

ルディ(ゼニスがやってくれる時はすごい上手くやってくれて、

いつの間にか寝ちゃうぐらいなのに…)

 

何故かゼニスがやってくれる時は普通に出来るのに…不思議な物だ。

しかし今までの少ない経験上、自分で耳掃除する事は難しいし、そうなると誰かにやってもらう方がいいだろう。

魔術の授業も詠唱部分はしっかり唱えないと危ない事があるし、残念だがシルフィには明日また授業を…

 

シルフィ「そ、そうなの…?それならさ…ボクが耳掃除…してあげよっか?」

ルディ「…えっ?」

 

…えっ?

 

 

シルフィ「…そ、それじゃあ…いい?私もはじめてだから上手く出来ないかもだけど…」

ルディ「う、うん…自分じゃ上手く出来ないし、オネガイシマス…」

 

…どうしてこうなった…?

俺はいつの間にか耳掃除用の柔らかい棒を持ったシルフィに膝枕してもらい、

耳に来る綿棒を待つ状態になっていた。

いや、言い訳をさせてほしい、最初はシルフィの耳掃除に少しだけ抵抗したのだ。

子供だけで耳掃除するのは下手したら加減を間違ってしまうかもしれないし、

危ないから少し考えた方がいい、そう言って説得したのだが…

 

シルフィ「そ、そっか…ボクが治療魔術かければいいかなって思ってたけど、

そうだよね、危ないよね…ご、ごめんね…?」

 

そんな事言いながら涙目で上目遣いされた。その仕草に俺はあっけなく陥落し、

こうして耳掃除を待つ状態である。…女性の涙に滅茶苦茶弱いな、俺…

 

ルディ「し、シルフィ?その、無理しなくていいからね?

元はと言えば耳掃除してなかった私が悪いんだし…」

シルフィ「む、無理してないよ!いいからじっとしてて、危ないよ!」

 

一応最終確認を取ると耳をピコピコさせながら顔を真っ赤にしてそう言ってきた。

あっはい大人しくしてます、シルフィの膝枕柔らかくて最高です。

そうして大人しく膝枕を堪能していると、耳にシルフィの手が触れたようで

小さな指のつるつるとした感触が伝わってきた。

 

シルフィ「そ、それじゃ…いくよ…?」

ルディ「う、うん…や、やさしくしてね…?」

いかん、なんか嫁入り前の娘のようなセリフが出てきてしまった。落ち着け俺。

これは別に結婚した直後でもなくただの友達が膝枕して耳掃除をしようとしてくれているだけだぞ…?

 

ルディ(いや、十分緊張するイベントだな…うん。)

 

ええい、この際緊張してしまうのは仕方ない、割り切ろう。

この緊張をシルフィにさえ伝えなければいいんだ。落ち着け…

 

シルフィ「えっと…ここ、かな?」

 

シルフィの操る棒の先端がゆっくりと耳の穴に触れる。

そうだ、緊張する事はない。このまま普通に終わらせてしまえば…

 

(こりっ)

ルディ「ひぅんっ!?」

 

シルフィ「…へっ?」

 

シルフィの耳かき棒が耳の穴の淵をなぞったと思ったら、

その瞬間、時が止まったように俺達は動けなくなった。

 

シルフィ「え、えっと…もしかして今の声って…」

ルディ「ち、ちがいます」

シルフィ「まだなにも言ってないよ…?」

 

耳を上に向けているのでシルフィの顔は見えない。

だが話す声が震えてくるのは伝わってきた。違うんだシルフィ、訳を聞いてくれ。

 

ルディ「今のは空耳です。いいですね?シルフィ?」

シルフィ「え、ええ…?わ、分かった…」

 

ヨシ、誤魔化せたな!後は普通に耳掃除を耐えれば…

 

シルフィ「あ、ここ結構すごいな…」(くいっ、くいっ)

 

だ、大丈夫…耐えればいいのだ、耐えれば…

 

シルフィ「ここを、こうして…上に持ってきて…(こりこりっ…)

 

た、たえればぁっ…

 

シルフィ「これで…よし!」(すぽんっ…ぐにっ)

 

「ふひゃうっ!?」

 

だ、だめだ…声が、押さえられないっ…!

な、なんで…?自分でやる時はちょっとこそばゆくて出来なかったぐらいなのに、

シルフィにされると、なんか声が…!

 

シルフィ「…ルディ、あの、これって…」

 

明らかにシルフィも勘付き始めている、どうにかして誤魔化さなければ!

な、なきそうだけど我慢して…

 

ルディ「…シルフィ、あの…耳が、びんかんなだけなので…

だから、気にせずやっちゃってください…」

 

シルフィ「………………っ!?」

 

あ、あれ?思ったのとなんか違う感じの声が…

これだと変に思われてしまうかもしれない、急いで弁解を…

 

シルフィ「…うん、そっか。わかったよ。」

ルディ「わ、分かってもらえましたか…!」

 

よ、よかった。弁解は必要なかったようだ。

分かってくれたのが嬉しくて、つい顔の向きを変えてシルフィの方を向くと――

シルフィの目は、笑っていなかった。

 

シルフィ「よく分かったから、おりこうさんだから、ちょっとだけ頑張ろうね?

いつもはボクが教わってる分、ルディにいっぱいお返ししてあげたいから…ね?」

 

ルディ「し、シルフィ…さん?」

 

あ、やばいぞこれ。明らかに目の焦点が合ってないっていうか、

何かに目覚めちゃった感じの顔をしているというか…

ヤバい、今耳掃除を続けられたら大変なことになる予感がする!

 

ルディ「そ、そうですか、ありがとうございます。それでは私はこれで…」

シルフィ「えいっ」

 

急いで逃げようとした私の肩にシルフィの手が伸びて、体重がかかる。

草むらの上に転がった私に、シルフィが覆いかぶさるようにして俺の身体を包み込むと、

顔を赤くしながら微笑を浮かべてこちらを見てきて…

 

シルフィ「…いいから、ボクにお世話…させて?」

ルディ「…ふぁい。」

 

はい、勝てませんでした。

結局俺はこの後、ぎゅっと抱きしめられてもう一度膝枕の体勢に戻されて…

 

シルフィ「ふふ、いい子いい子…それじゃあ、こっちはどうかなー?」

ルディ「ま、まってしるふぃ、そっちはさっきやっひぇ、ひうぅっ…」

 

夕方、家に帰る時間になるまでずっと念入りに耳を掃除され、

ゼニスが掃除する必要がないくらいにきれいにされてから家に帰る事になりました…




おまけ

【シルフィの家】

シルフィ父(ロールズ)「…なぁ、仕事に帰ってきてから
シルフィがずっと布団に潜ってるんだが…何かあったのか?

シルフィ母「さぁ…友達と遊んできた後に布団に潜り込んで、ずっとあのままなんですよ。
どうしたんでしょう…?」

(布団の中)
シルフィ「あ"あ"あ"あ"あ"っ…………!!!!ボクは一体何をやってるんだぁ…!
ちょ、ちょっとあの時のルディがかわいく見えたからついあんなに弄って…
明日どんな顔してルディに会えばいいのぉ…!)



【グレイラット家】

パウロ「…どうしたルディ、さっきからずっと耳を抑えてるが…」

ゼニス「そういえば最近耳かきしてなかったし、溜まってるのかしら?
ルディ、私がお掃除してあげようか?」

ルディ「い、いえ…お気遣いなく…既にやってもらった後ですので…」
(どうしよう、耳かきしてもらった後からずっとあのぐりぐりされた時の
気持ちいいのが耳に残って…く、くせになったらどうしよう…?)


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