甘雨と結婚したい人生だった者の妄想 (むーしゃか)
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甘雨と結婚したい人生だった者の妄想

璃月のとある店の前にて

 

講談師は新たなネタを仕入れ、今日も講談を始める。

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今宵語るは生まれたばかりの昔話

 

昔昔の戦争時代、ここが璃月と呼ばれるより前のお話

 

とある夫婦の儚き昔話

 

 

昔昔のその昔、岩王帝君によばれし1人、

 

仙獣の血を引く少女がいた。

 

仙獣の血を引く少女は岩王帝君のため、民のため、精一杯怪物と戦った。

 

ある日少女が木の下で休息をしていた時

 

声を掛ける少年現れた。

 

「汝、こんな所で寝ていては、不覚を取ってしまうぞ」

 

少女が目覚めた時、少年は既に隣に座していた。

 

身に覚えのない身なり、砂埃の付いた服

 

違和感を感じた少女は見渡した。

 

辺りに散らばるは多量の怪物の残骸。

 

少女は悟る。今この時助けられていた、と。

 

「目覚めは良いか?だがここで寝ていては、危なかろ?」

 

これが夫婦の出会いであった。

 

2人は生活してゆくと共に、惹かれ合う事となり

 

契を交わすこととなる。かの魔神を倒し、幸せに暮らすために。

 

これはまたの機会にお話させて、頂きましょう。

 

だが契は破られた。

 

魔神との決戦前、少年は岩王帝君に刃を向けた。

 

だが仙人により、暗殺は執行されなかった。

 

少年には神罰が降る。

 

責任を感じた少女は自身の手で罰を降した。

 

夫婦の最後の会話は

 

「裏切り者」

 

と、少々悲しき結末に終わる。

 

罰に撃たれた少年は

 

崖から海へ沈んでいった。

 

少年沈みし後

 

少女の目には涙が浮かんでいました。

 

 

そして魔神戦争が終結後

 

少女の胎内には命が宿っていたそうな。

 

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店の椅子に腰をかけ、何も頼まず講談を聴く高身長の男。

 

目を閉じ過去を思い出していた。

 

「今の時代にあの友の話を聞くことになるとはな……」

 

 

 

 

 

場所は移りここは洞天と呼ばれる空間。

 

璃月の仙人がとある旅人の為に作り出したツボの中の世界

 

璃月の山を模したその空間の隅に、畑があった。

 

畑のそばで種の準備をしている青い髪にツノの生えた少女。

 

名を甘雨と言い璃月に住む仙人である。

 

「甘雨ーー!!」

 

手を振りながら甘雨の名前を呼ぶ小さな生き物と

金髪の少年が足並みを揃えて甘雨に近づいていく。

 

「空さん、パイモンさん!こんにちは!」

 

「おまたせ!少し遅くなっちゃった」

 

「香菱に新作のメニューの味見を頼まれてパイモンがね…」

 

「おい!それは言わないって言っただろ!?友達の頼みだから当然だろ!?」

 

コントのような会話を織り成す小動物と少年

小動物はパイモンと呼ばれ、宙に浮く不思議な子。

金髪の少年は空と呼ばれ、妹を探す異邦人だ。

 

甘雨はふふっと笑みを零し2人の会話を聞いていた。

 

「ここの畑はいいですね、色んな野菜を育てることが出来そうです。花も出来るんでしょうか…」

 

そして傍に置いていた袋から種を取りだした。

 

「おぉーー!……って…どれがなんの種なんだ?」

 

「これは主に根菜…です。人参や大根です。あとはキャベツとか…豆類、芋…」

 

今日、甘雨は空とパイモンと一緒に野菜を一緒に育てるため、種を植える約束をしていたのだ。

 

「(四方平和の材料に人参がいるんだっけ…)じゃあにん」

 

「トマト!!なぁなぁそらぁ、たまごとお米とかはあったよな?オイラオムライスが食べたいぞ!!」

 

足をバタバタ、ヨダレを少し垂らしたパイモンが空の声を遮る。

なんとも言えない顔をした空は気にしてはいけない。

 

「トマトですね、ではトマトを植えましょうか」

 

丁寧な動作で種を植える甘雨。

見よう見まねで空とパイモンも種を植える。

 

「よし植えれたな!早く〜早く育て〜!!」

 

「すぐには育ちませんよ、ゆっくり待つのも大事です。」

 

 

 

「……できたか?」

 

「まだだと思うよ…」

 

「うぅ〜オイラお腹ぺこぺこだぞ〜」

 

「ゆっくり待つのも大事です。」

 

数分毎にパイモンが駄々をこねはじめたし、

種を植えれたから甘雨はまた仕事に戻るそうだ。

 

「時々見に来ますので、収穫の際はまたお呼びしますね!」

 

「オイラ達も気にかけておくよ!」

 

「お腹すいたら食べちゃってもいいからね。」

 

「ふぇっ!?そんな、えぇ…」

 

もじもじと照れながらも少し嬉しそうだ。

 

「あっ、空さんパイモンさん、今度時間空いてますか?」

 

洞天を出る直前、甘雨が足を止めて問う

 

「え?特に予定は無いぞ?」

 

顔を見合せハテナを浮かべる

 

「私の娘が皆さんに会いたいって言っていまして、近頃遠出から帰ってくるそうなんです」

 

「そうなのか?それだけなら容易いぞ!なんならサインも書いてやるぞ!!」

 

「パイモンあんまり調子にのらないの」

 

「……むすめ?」

 

「はい!お願いしますね!では…」

 

「まてまてまて!?」

 

衝撃のカミングアウトを危うく見逃す所だった。

 

帰ろうとする甘雨を全力で引き止める。

 

「えぇ…と?私何か忘れてましたか?」

 

「情報が少ないぞ!?」

 

「そう…なのですか?」

 

「娘いたのか!?」

 

「はい。」

 

「結婚してたのか!?」

 

「……はい。」

 

「おっ……」

 

「パイモンストップ」

 

結婚について聞いた時、甘雨の表情が少し曇った

 

空はそれを察し、パイモンを1度引き止める。

 

「あぁ…すまん、いきなり過ぎたか…?」

 

「いえ…大丈夫です。…その…」

 

「え…と…旦那さんは?」

 

「昔…亡くなってしまいました。」

 

「あ……。」

 

沈黙が続く。気まずさが勝ったのか甘雨が口を開く。

 

「とりあえず私はこれで失礼しますね」

 

甘雨はそそくさと洞天を出ていった。



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謎の伴侶

おれもかんうといちゃいちゃしたい

今回長いです


「…あ…どうしよう空、なんか気まずい感じになっちまったような…」

 

頭を掻きながらパイモンが言う。少しは反省して欲しいのだが。

 

「でも、気になるよなぁ…甘雨の夫…」

 

反省するどころか追求しようとしている。

 

「なぁなぁ、甘雨を知ってる奴らに聞き込みに行こうぜ!!野菜が育つまで暇だろ!?」

 

「(言い始めると止まらないんだよなぁ…パイモンは…)」

 

ワキワキさせながら洞天を出るパイモン。

空はため息をつきながらそれに続いていく。

 

洞天を出た直後、璃月に向かう途中。

 

丘の上に見覚えのある紫のシルエットを見つけた。

 

「空!あれって刻晴じゃないか?甘雨の夫について聞いてみようぜ!」

 

仕事中だろうか、彼女は書物を開いていた。

 

「こんにちは、刻晴」

 

「…ん?あら、空にパイモン。こんな所で会うなんてね。どうしたの?」

 

「オイラ達刻晴に聞きたいことあるんだ!少しいいか?」

 

「えぇ、いいわよ。何かしら」

 

彼女は1度書物を閉じ、質問を待つ。

 

「甘雨の夫って知ってるか?」

 

「甘雨の夫?知ってはいるけど、会ったことは無いわ」

 

「やっぱり知ってた!!って…会ったことは無いからどんな人か知らないのか…」

 

ガックリと肩を落とすパイモン。

刻晴は思い出すように話をした。

 

「えぇ、無いし、知らないわよ。あ、でも幸卵には会ったわ。何処か抜けてるように見えて、すごくしっかり者だったの」

 

「え?え?こう…こうう?誰だ?」

 

「幸卵。甘雨の娘よ。あなた達知らなかったの?」

 

「そうなのか!?名前すら知らなかったぞ…?」

 

「君たち本当に知らないのね…」

 

「うぐぅ…なんにも言えない…」

 

「それと…あ、ごめんなさいそろそろ行かなきゃいけないわ」

 

「ありがとう刻晴」

 

「いいえ、お安い御用よ。またね」

 

軽く会釈した刻晴と別れ、璃月へ向かう。

 

望舒旅館が見えた時のこと

 

「…なぁ空、魈って、甘雨と長い付き合いだよな、夫のこと知ってるんじゃないか?」

 

ふとパイモンがそう呟く

 

「確かに、魈なら知ってそうだね」

 

「呼んでみようぜ!おーーい!!魈ーー!!いるかぁー!!」

 

「……」

 

「やっぱり来ない…というか前にもこんなことあったような…」

 

不満げな顔をしたパイモンが呼んでみろよ、と踵を返してくる。

 

「…しょ」

「どうした」

 

いた。

 

「オイラの声は無視か!?やっぱり酷くないか!?」

 

パイモンが足をばたばたさせて怒っている。

 

魈は全く気にしていないようだ。

 

「甘雨の夫について何か知ってる?」

 

「甘雨の?……あぁ、奴のことを、我は知っている」

 

知っているらしい。

 

「どんなやつだったんだ?」

 

気を取り直したのか、パイモンが食いつく。

 

が、魈も少し目を逸らした。

 

「奴の名は…游潾…」

 

「ゆう…らん…?游潾って言うんだな!」

 

「奴が今生きていたなら…友、と呼べていたのかもしれない」

 

また重い空気が流れる。

 

「(なぁ、空、こいつら游潾と何があったんだろうな?)」

 

「すまない…我からは…これ以上言いたくない…」

 

「これ以上は、留雲借風真君に聞くといい。彼女は、お前たちで言う、”おしゃべり”というやつだ。時々話しすぎるくらいなんだ」

 

「…そっか」

 

「我は戻るぞ」

 

「ありがとう、魈」

 

魈に別れを告げ、魈に勧められて留雲借風真君の住処がある奥蔵山に向かう。

 

「留雲借風真君いるかなぁ?」

 

数時間山を登った後……

 

 

 

留雲借風洞天の前にて

 

「主ら、何か用か?」

 

「めちゃくちゃ普通にいるじゃないか!?」

 

鶴の様な仙人がさも当然のように待ち構えていた。

 

「降魔大聖護法夜叉から主らがここに向かっていると聞いたのでな」

 

「魈が?」

 

「うむ。游潾について、知りたいのだろう」

 

「そうだぞ!そのために来たんだ!」

 

「そうか、我も暇していたのだ、いいだろう。まずはそこに座るが良い」

 

案内されるがまま石でできた椅子に腰かける。

 

腰をかけた途端留雲借風真君は語り始める

 

「奴は突然この地に現れた。今の主らのように奴は旅をしていたらしい。旅人として、昔の璃月に足を踏み入れたのだ」

 

「旅をしていた彼は沢山の知恵を持っていた。が、どうしても、神の知識には疎かった。故に岩王帝君に対しても無礼が多い、そんな不思議な男だった」

 

「それと同時に奴は不気味だった。奴は渦の魔神のような気配を纏っているのにも関わらず、休息を取っていた甘雨を助けたというのだ。最初、誰もが強大な敵が来たのではないか、と警戒していた」

 

「甘雨を助けたのに敵だと思われてたのか!?」

 

「あぁ、だがその時は杞憂に終わった。何事も無く、奴は岩神の領地に滞在し、我らと共に怪物と戦っていた」

 

「そりゃそうだぞ!わざわざ味方を倒してまで敵を助けるはずないもんな!」

 

「我ら、いや主に甘雨と生活をしていた奴は、甘雨に惹かれ、同時に甘雨もまた、奴に惹かれていたらしい」

 

「うぅ…そこの間が気になるぞ…」

 

「我は甘雨のことを小さい頃から知っているが、このぷらいべーとな所まで知り尽くしている訳では無いぞ?」

 

「あぁ…気にしないでくれ!続けてくれ!」

 

「奴らは幸せそうだった。岩王帝君の見届けた契約を交わし、互いを大切にしていた。が…」

 

「そこで…が……は不穏すぎるぞ…どうしたんだ!?」

 

「魔神と決着が付いた戦の前、奴が…游潾が全てを捨て、岩王帝君に刃を向けたのだ」

 

「なんでだ!?裏切ったのか!?」

 

「うむ。奴は雷の如く斬りかかり、直前に魈や若陀龍王達に抑えられた」

 

「奴は、魔神の手下であった。言わば、魔神の作り出した怪物だ」

 

「怪物だったのか………それって、甘雨の夫は怪物ってことか!?」

 

「そういうことだ。やがて奴は岩王帝君への反逆、主に甘雨との契約を全て破ってしまったことを理由に、相応の罰を与えられることとなった」

 

「…甘雨が可哀想になってきたぞ…」

 

「甘雨は、自分が味方に引き入れた事に責任を感じたらしい。落とし前は自分で付けると、自らの伴侶に弓を放った。そして矢を受けた游潾は拘束を受けたまま、無理やり海へ身を投げたのだ」

 

「…」

 

「分かったか?我にしては分かりやすく八割くらい省いたつもりだ」

 

「これで八割省いたのか…」

 

「あぁ、ともかく、游潾は我らにとっても、裏切り者、という訳だ。少々引っかかる点はあるがな」

 

「引っかかる点?」

 

「游潾は裏切り前、我らからも好印象だったのだ。打ち解ける者も多い。さらには民にも優しかったのだ。正直、甘雨だけの責任とも言いきれない」

 

「そして何より、游潾は最後の最後まで甘雨を”俺の妻”などと抜かしていたのも今となっては気になるところだな」

 

「なるほどな…ありがとう!時間とって悪かったな!」

 

「気にするな、これくらいの時間など、我らにとっては一瞬だ」

 

そう言い残し、飛び去っていく。

 

「なんか、今日のあいつ、優しかったな?」

 

パイモンが不思議そうに呟いた。

 

「あ、そういえば甘雨にいつ幸卵と会うか聞いてなかったな!はやく璃月港に行こうぜ!」

 

奥蔵山を後にした2人は璃月の港へ向かった…

 

「…甘雨の事は頼むぞ…」

 

 

 

璃月港、とある店の前

 

「おい…あそこにいるのって…鍾離じゃないか!!」

 

パイモンが指を指しながら言う。失礼なヤツめ。

 

「ん……?空に…パイモンか。どうした、お前たちも講談を聞きに来たのか?」

 

いつも通り何も頼まずに講談を聞いていたようだ。

 

「あーえと違うんだ。オイラたち、游潾について聞きたいんだ…」

 

「……游潾か…丁度講談で彼のことを思い出していたところだ…」

 

鍾離は目を閉じ、空を仰ぐ。

 

「さっきある程度留雲借風真君から聞いたんだけど、鍾離はどういう印象を持ってるんだ?」

 

「そうだな…変な奴…だな」

 

「え…変ってどういうふうに?」

 

「彼はあらゆる元素…当時は俺の使う岩以外の元素を使役していたんだが、毎回他の仙人に負けていたからな」

 

「岩以外の元素を使うって、やばいやつじゃないか!?そんなやつに勝つなんて、魈もめちゃくちゃだなぁ…」

 

「中々俺は気に入っていたぞ」

 

「そうなのか…でも殺されかけたんだろ?」

 

「うん?まぁ、そうだな」

 

「なんだ?その微妙な反応、あいつがもういないことと関係するのか?」

 

「死んでいる?彼はまだ完全に消えきっては…」

 

「鍾離先生、今よろしいですか?」

 

眼鏡をした女性が話しかけてきた。

どうやら用があったらしい。

 

「あぁ、今行く。すまない、この話の続きはまたにしよう」

 

「あーうん。ありがとな!」

 

「消えきっては…いないって言おうとしたのかな?もしかしたら生きてるのかもしれないな!甘雨に伝えてやろうぜ!」

 

気になるところだったが鍾離と別れ、甘雨を探すことにする。

 

今は仕事中だろうか?会えるといいのだが。

 

「オイラお腹空いたぞ……万民堂に寄ろうぜ!」

 

一度食事を摂ることにした。香菱はいなかったので、とりあえず店主に適当なものを頼み、パイモンと一緒に食べていた。

 

そしたらたまたま甘雨が後ろを通り過ぎて行った…

 

少し急いで料理を平らげ後を追う。

 

「甘雨ー!」

 

「?空さんに、パイモンさん。どうかされましたか?」

 

買い物途中だろうか、荷物を少し持っていた。

 

「幸卵はいつ帰ってくるんだ?会う日決めてなかったから、決めようと思ったんだ!」

 

あ、という顔をした甘雨頬を少し赤らめ

 

「ごめんなさい、そうでしたっけ。今日には着くと思うので…明日とか…」

 

「おう!大丈夫だ、空いてるぞ!」

 

「本当ですか!良かったです!では明日…また万民堂の前に…お願いしますね!」

 

笑顔のまま振り返ろうとする甘雨をパイモンが引き止める。本当に言うつもりなのだろう。

 

「甘雨の夫、游潾さ!多分だけどまだ死んでないかもしれないって、鍾離が言ってたぞ!!」

 

甘雨が少し目を見開いた

 

「帝君が…?本当……ですか?」

 

「本当だったら…嬉し…」

 

「こんにちは〜往生堂でーす!」

 

視界の下から突然生えてきた少女に会話を遮られる。

 

「ふぇっ!?あなたは…」

「胡桃!?びっくりしたなぁ…」

 

「はーい!こんにちは!空さんにパイモンさん、甘雨さんも〜!」

 

「死んでしまって霊魂になってしまったような人をお探しかと思いまして〜来ちゃいました〜!」

 

笑顔で中々不謹慎ポイ発言をする胡桃。丁度良いので一応聞いてみることにする。

 

「甘雨さんの夫ですか?もしかして、前々からずっと甘雨さんについてる子のことかもしれないです?特徴は…マフラーしてます?」

 

「え…?はい。そうですけど…」

 

「あー私が初めて会った時からずっとついちゃってるねー。あとこの子多分生霊みたいなものだから、この人まだ生きてるよ?複雑な状況に置かれてる可能性はありますけど」

 

「流石だな!胡桃!良かったな甘雨!また会え…」

 

「……」

 

「なにか思うことがあるのかもな、今日は解散しておこうぜ、ありがとな、胡桃!」

 

「いえいえ〜死人関係で何かありましたら店までお越しくださいね〜」

 

 

…………次の日

 

「幸卵の母がお世話になってます」

 




おまけ。
幸卵

神の目 雷
所属 璃月港
命の星座 海獣座

仙獣の血を宿す母と、怪物の父を持つ少女。身体のほんの一部は水元素を元に出来てるらしい。

元素スキル
避雷針
雷にはお気をつけて…

元素爆発
秘術・雷鳴隕
先生直伝!幸卵のひっさつわざー!!


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幸せの卵から産まれた水

甘雨と甘雨の娘━━━━━幸卵と会うために馴染みの食堂万民堂へ向かう。

だが事態は数時間前に動き始めていた。


「北斗から…?」

 

璃月の空に浮かぶ建物。群玉閣内部。

 

凝光が事務処理をしていた時、急に伝言が来たというのだ。

 

簡単に訳すと、”海が変だ、準備しとけ”とのこと。

 

渦の追従者が再来するかもしれないらしい。前回の反省点を踏まえてまた対策を練ろう。

 

秘書に刻晴にもこの事を伝えておくよう頼み。目の前の資料に目を通す。

 

「少し悪寒がするわ…いつもより用心しておきましょう」

 

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だいたい同時刻……璃月の浜辺

 

「だいたいこれで十分か?」

 

空はパイモンと共に星螺を集めていた。

 

「こんなもの公子は何に使うんだろうな…」

 

そう言って戦闘狂気味の仲間の顔を思い出す

 

((よろしくね!相棒!!))

 

ニッコニコの彼を思い出してしまい、少しイラッとした。

 

「この辺にはもうないな!甘雨たちとの約束もあるし、港に戻ろうぜ!」

 

お腹も空いたし〜とパイモンは港に向かって歩き始めた。

 

星螺をしまい、パイモンの後を追っていく。すると

 

「ん?なぁ空、あれって…人か?」

 

パイモンが海を指差し訴えかけてくる。

 

そちらに目を向けるとなんとびっくり人の死体…

 

にしか見えない。うつ伏せの向きで海をぷかぷか浮いている。

 

あれ…生きてる?

 

「おい何してるんだ?早く助けようぜ?」

 

まぁ、仮に死んでしまっていたら往生堂に弔って貰わねば。

 

見捨てて呪われたら堪らない。

 

とりあえずパイモンと共に砂浜へ引き揚げる。

 

「おーい、大丈夫かー?」

 

「うーーーーーーー」

 

驚いたことに、生きているようだ。

 

うめき声を上げている彼は見慣れない服を着ている。

 

ぺちぺちぺちぺちぺちぺち…

 

パイモンが頬を叩いていると倒れていた男が急に起き上がった。

 

むくっ…、、、

 

「あれ、ここは…どこだ?」

 

目を丸くして辺りを見回す。

 

「んぇ?ここは…璃月だけど…知らないのか?」

 

「りーゆえ…?聞いた事ないな、それにしても、君達の服装異邦人かい?」

 

「そうだな…異邦人なんだけど、お前の方がよっぽど珍しい格好じゃないか?」

 

というか服はボロボロで、片袖もない。現代で言う浴衣…に近い服なのだが…

 

「…?そうなのか?こういう服は普通だったと思うのだが…」

 

「よく分からないけど…てあぁーー!!おい空!約束の時間もうすぐだぞ!!」

 

言われて時計を見ると、約束の時間が刻一刻と迫ってきていた。

 

「悪いけどオイラたち急ぐんだ、もし困った事とか何かあったら、あそこの港にいるから、探してくれ!」

 

「約束…?契約のことだろうか?よく分からないが、承知した。助けてくれたのかすらも分からないが、謝辞を。」

 

「じゃあなー!」

 

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万民堂…

 

息を切らして万民堂まで来ると、甘雨は既に居て、

 

「はぁ…はぁ…ごめん甘雨…少し遅れた……あれ?」

 

もうひとつの人影があった。幸卵だろうか。

 

「あれ?空にパイモン!2人も来てたの!?今丁度甘雨に新作メニューを試食してもらおうと思ってたところなんだ!!!」

 

「♪〜」

 

そこには料理をする香菱とその手伝いをするグウォパーがいた。

 

「ふぁいぼうぶ……ですよ、幸卵もまだ来てません。幸卵、まだ寝てるのかなぁ…」

 

甘雨が料理を頬張りながら話す…飲み込んでからで良かったのだが…

 

「甘雨の娘さんも来るの?へぇ〜その子にも感想聞きたいなぁ〜」

 

そんな雑談をしながら香菱の料理を頂くことにする

 

すると1人の少女が入ってきた。

 

「おー皆様お揃いでー大変遅れてしまいたーいへん申し訳ないと思っているー」

 

マイペースでおっとりというか、眠そうトーンで話す少女。

 

服はダボダボのコート、に見るに堪えないほどボロボロのマフラー。

極限まで肌の露出を減らしたような格好。

髪は短く頭には甘雨と同じく角が2本生えていた。少し小さいが片方の角が枝分かれしている。

 

眠そうな瞼をこちらに向け、少ししてぺこりと頭を下げた。

 

「幸卵の母がいつもお世話になっております。」

 

涙を拭いながらさも母親のように語り始める。

 

「こ、幸卵会いたいって、それ言うためだったのぉ…?」

 

ふええ〜と情けなめな声で幸卵に寄りかかる。

 

身長は甘雨より少し低いらしい。

 

「仲良しなんだな!」

 

パイモンと顔を見合せ、和んでいた。

 

「おまたせー!料理出来たよ…っと、幸卵ちゃんは食べれないものとかある?」

 

「幸卵もー、基本的にはママ…お母さんと一緒で菜食主義の民なのだ〜」

 

一瞬素が出ていたが、いつもはママと呼ぶらしい。

 

「ふむー、ふむ、これ私好きだ!!」

 

ピコーん!とアホ毛を立たせつつ幸卵が美味しそうに咀嚼している。

 

突然の一人称変更にも驚きつつ空達も食事を再開し、

 

聞きたいことがあったので聞こうとしたその時。

 

「おやおや〜?私達以外にも招待されたお暇な方々がいらっしゃいますよーだね?」



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その青く澄んだ川は戯れることを知らない

前回後書き書くの忘れました。はい。ごめんなさい。

だんだん短編じゃ無くなってきた。

幸卵
神の目
彼女が師匠に生き方を教わっていた時、「お前は何を望む」という問に対し”家族でいること”と答えた彼女の手には神の目が握られていた。




「さようなら…っ」

 

涙を流しながら彼女は言う。

 

「……」

 

手を伸ばす。彼女を繋ぎ止めようと…

 

だが。

 

”また” 届かない

 

何度見た?

 

何度、掴めなかった?

 

何度、何度、繋ぎ止められなかった?

 

何度………繰り返すんだろう?

 

「おーい、大丈夫かー?」

 

また始まるのか…

 

ぺちぺちぺちぺちぺちぺち…

 

痛い、痛い、痛いー痛い?

 

重い瞼を開け、覚えのない景色に困惑し頭が回らない。

 

「あれ、ここは…どこだ?」

 

声を絞り出し痛みを与えた何者かに言葉を投げてみる。

 

「んぇ?ここは…璃月だけど…知らないのか?」

 

相手は会話が可能なようだ。良かった。だが、

 

「りーゆえ…?聞いた事ないな、それにしても、君達の服装異邦人かい?」

 

意識を無理やり覚醒させ、謎の2人組を認識。何者かを探る。

 

「そうだな…異邦人なんだけど、お前の方がよっぽど珍しい格好じゃないか?」

 

やはり異邦人…どう考えてもこの2人組の方がおかしいだろ…

 

「…?そうなのか?こういう服は普通だったと思うのだが…」

 

素直に思ったことを口にした。すると彼らは

 

「よく分からないけど…てあぁーー!!おい空!約束の時間もうすぐだぞ!!」

 

急に叫び出し、約束とやらがあるということだ。

 

「悪いけどオイラたち急ぐんだ、もし困った事とか何かあったら、あそこの港にいるから、探してくれ!」

 

確か約束とは、簡易的でも契約のようなものだったはずだ。確証が持てないので、記憶が薄いということにし、振る舞う。

 

「約束…?契約のことだろうか?よく分からないが、承知した。助けてくれたのかすらも分からないが、謝辞を。」

 

感謝の言葉だけは延べ見送っていく。

 

「じゃあなー!」

 

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「なんだったんだろうか…彼らは」

 

どうせまた夢が始まるのだろうか…だが、先程彼らが指さした「港に」と呼ばれる場所は1度も出てきた覚えがない。

 

「行くあても無い。向かうとしよう。」

 

見覚えのある山。全く知らない島…岩?なんだあれ?

 

何も分からないまま、歩みを進める。

 

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なんだ…ここ…?

 

見た事のないほど高い建築物。

 

更には入り組んでいるのに建物として成り立っている。なんなんだ。ここ。

 

わけも分からずただ歩く。彼は道行く人々から怪奇の目で見られていることを知らない。

 

「…………ドコ…ココ…」

 

訳が分からない。

 

知らない槍持ってる人達に追われるし

 

段差ばっかりだし

 

岩が浮いて…それは別に珍しくもないか。

 

…疲弊感が凄い。

 

「……あれは。」

 

フラフラ〜っと歩く寒くもないのにコートを前開きで着る少女。

 

だが気になるのは。彼女の首元にあるマフラーと頭の角らしき装飾。

 

「俺の…マフラー。」

 

あの時。何処かに飛ばされた。大事なマフラー。

 

「ん〜?」

 

じっと見ていたら。目が合ってしまった。

 

「君は……甘雨の知り合いかい?」

 

笑顔を作り質問をする。

 

「お母さんを…知ってるの?」

 

薄目だった目が開き、黄色の瞳孔を覗かせる。

 

「…母さん…か。」

 

お母さん…と。確かにそう言った。

 

ならば、もう誰かの伴侶となり、幸せに暮らしているのだろうか。

 

 

「大切に…してあげてくれ。」

 

笑いかけ、その場を去る。

 

「うん……結局誰なんだろう?」

 

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玉景台・月海亭前広場

 

少し休もうと思い、槍を持った人々にバレないよう隅に逃げ込む。

 

「おや……?珍しいこともあるものだねぇ」

 

胸がキュッとなり恐る恐る声の主を見ると

 

お婆さんがいる。

 

「はぁ…どうしまし…!?」

 

「幻覚でも見ているのかねぇ。あの時いなくなっちまったもんかと思ってたよ。」

 

ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

俺は、このお婆さんを、、知っている。

 

「まさか…忘れてしまったのかい?あんたも、時には流されるのかねぇ…」

 

「えと…」

 

やっべ、名前が…

 

「まぁ、ピンばあや、とでも呼んでおくれ。」

 

「あ、はい。ピンさん」

 

いつの記憶だろう。てかこの人夢にも全然出てこなかったしなぁ。

 

「いたぞ!あいつだ!!」

 

「不味い…見つかったッ!」

 

槍を持った方々が来た。逃げ疲れたこともあり。右手に元素の力を…

 

「私の知り合いがお騒がせしたようで、申し訳ないねぇ…」

 

「え?」

「え?」

 

「山を超えた向こうの田舎の方から、わざわざ逢いに来てくれてねぇ…この町のルールも、全く理解してないみたいなんだよ」

 

「はぁ…そうでしたか。無事合流出来たことは何よりですが、皆さんの迷惑になることだけは、遠慮いただきたいということは、忠告しておきます。では。」

 

「助かった…ピンさん」

 

緊張の糸がほぐれ、地面に座り込む。

 

「いいのよ。貴方に確認したいことがあってね…」

 

そう言うとピンばあやはこちらを見て、問うた。

 

「魔人戦争から何年経っているか、覚えているかい?」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

信じられないことを聞いた。

 

璃月というこの港。最大の貿易港?

 

岩王帝君が、仙人達が導く時代が終わり人々が導く時代になったこと。

 

あの時から。数千年も経っているということ。

 

訳が分からないね。

 

「夜叉も…もう…そうか。」

 

(でも、岩神がいなくなってしまっては…俺との契約はどうなってしまうんだろう)

 

「気に病むことは無いよ。長い長い時間が過ぎていく度に無くなっていくものだ。私達は悠久の時間を生きてきたからね」

 

何も言えなくなってしまった。

 

「それに…」

 

「おばあちゃん、頼まれたもの、用意しといたよ。」

 

また見知らぬ少女が出た。

 

「うん?君は誰だい?」

 

そりゃそうか。

 

「この子は游潾。古い知り合いだよ」

 

ばあやが紹介をしてくれている。

 

「ほう。つまるところ…君も仙人ということなのかな?」

 

君もということは、この少女は仙人と面識…目の前のばあやも仙人だったか。気づくのが遅かったか。

 

「あんた、自己紹介を忘れてるよ」

 

「おっと、これは失礼した。私は煙緋。法律に関する仕事をしていてね。」

 

服装を整え微笑んだ。そして、懐から小袋を出し

 

「でおばあちゃん。これどうぞ。」

 

「迷惑かけるねぇ」

 

「いいのいいの」

 

微笑ましい光景を見ているようだ。

 

ふとばあやが

 

「いい機会だから、この子から今のこの場所について、簡単に教えてもらうといい。これから生きる為にも知っておいた方がいいじゃろう。」

 

「いいのか…?確かに、お願いしたいところではある。」

 

煙緋、と呼ばれる少女は本を開き…

 

「うん。空いているようだから教えてあげよう。この璃月のルールについて。」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「勉強になった。ありがとう。」

 

少女に頭を下げる。

 

「いいの。気にしないで。いつでも頼ってくれて構わない。」

 

優しいな。装いまで新しくしてもらってしまった。マフラーがないのが違和感だが。

 

「游潾、あなたは、これからどうするんだい?」

 

…これから…か。

 

彼女が幸せなら俺はそれでいい。旅にでも出るか。また。世界を回ろうか。

 

「旅に…出ます。」

 

するとばあやは驚いていた。

 

「甘雨には会わないのかい?あの子も喜ぶと思うわ…」

 

澄んだ顔で言う。

 

「彼女には子供もいますし、今更俺が出てきたところで。邪魔なだけでしょう。」

 

今度はばあやが疑問符を浮かべるような顔をしていたが

気にせず別れを告げた。

 

「ばいば〜い」

 

「あの子は何を言っておるんだろうか…?」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「おやおや〜?私以外にも招待されたお暇な方々がいらっしゃいますなぁ〜」

 

「お前は!!って…なんだ胡桃か…」

 

パイモンが若干呆れている

 

「酷いな!?そんなにガックリさせることした覚えないんだけど!?」

 

胡桃は相変わらずのようだ。突然出てくることも多い。

 

「というか、胡桃また会ったね。」

 

空が何気ない言葉を発した時

 

「また?私達最近会ったっけ?」

 

「?」「?」

 

空、パイモン、胡桃、甘雨の頭に?が浮かぶ。

 

「え、でもたしかに昨日…なぁ甘雨?」

 

パイモンが甘雨の方を見ると椅子に座った甘雨がこくこくと頷く

 

「えっ、少なくとも絶対に甘雨ちゃんとは会ってないと思うよ?まさか君たち本当に幽霊と…」

 

どこからかライトが胡桃を下から照らす。

 

どろどろ〜と胡桃が不気味な笑みを浮かべていた。

 

「ウピャァー!?怖いこと言うなよ…」

 

パイモンが空の後ろに隠れる

 

「あっははー!冗談冗談!!とも言いきれないんだけどね。…その私になんて言われた?」

 

と冗談交じりのにっこりとした表情から一転真剣な顔をして話す。

 

空とパイモンが甘雨の方を見て、事を説明する。

 

「游潾…さんね…で、おまけに生霊説があると。」

 

「どうなんだ?」

 

不安そうな顔でパイモンが聞く

 

「游潾さん…見た目の話を聞く限り私は見た事ないけど。甘雨に生霊が付いてるのはあながち間違いじゃないね。」

 

「え?」

 

「確か…あの…渦の魔人…だっけ?群玉閣が落ちちゃって〜ていう時。あの時くらいまではあなたのそばにいたんだけど…今は居ないみたい。この事からひとつの憶測に過ぎないけど…」

 

「…あの時…死んじゃったってこと?」

 

口を閉ざしていた幸卵が俯いたまま言った。

 

「そうだね。それはありえる話だし、とにかく私も…」

 

「堂主、すまない。お待たせした。」

 

入口から一人の男が顔を出した。鍾離だ。

 

「おっきたね客卿くん。待っていたよ!」

 

「鍾離じゃないか!!久しぶりだな!」

 

「旅人、まさかこんなところで会うとはな。」

 

「うん。久しぶり!」

 

久しき友人と挨拶を交わす。

 

グウォパーが椅子を押してきてくれ、「ありがとう」と、腰を下ろす。

 

「おぉ〜ししょー。おひさしゅーございます〜」

 

俯いていたから心配だったのだが、元の口調に戻っていたのを見て少しだけ安心した。

 

「ご無沙汰しています」

 

「甘雨に幸卵。久しぶりだな。」

 

親子も繋がりがあるようで……とパイモンと身を寄せ相談開始

 

(あれ、甘雨と幸卵って鍾離が岩王帝君ってこと知ってるのか?)

 

(稲妻に行く前に話した時、一部の人間と、仙人には伝えたって…)

 

(甘雨ってややこしい立場にいるよな…仙獣の血が流れてて、人と変わらないような生活してるだろ?)

 

(でも甘雨と岩王帝君て、凄く古い契約があるんだよね?伝えてないなんてことあるのかな…?)

 

(うぅ…今考えてる事じゃないし、正面から聞く事も出来ない…今度時間があったら聞こう…)

 

帝君と半仙獣とその娘は何事も無くただの雑談話をしている。

 

「して旅人、旅は順調か?」

 

ふと鍾離がこちらを見て、決まり文句のような台詞を吐いてくる。

 

「前話した稲妻のとこから…何も進展してない。」

 

予想通りだったのかフッと笑い

 

「行き詰まった、ということか。だが、時に立ち止まることも良いだろう。生き急いだとなっては失うものも多い。」

 

どこか遠い場所を見て、茶を啜っている。

 

「幸卵も、何か進展はあったか?」

 

「……行秋さんに文献を写したものを頂いたけど…それ以外は特に…いつも通りだった…」

 

幸卵がマフラーをギュッと握り消えそうな声で返答する。

 

「そうか。」

 

「え?幸卵も旅をしてるのか?」

 

純粋な疑問。ただ、今聞くのは間が悪かったか?

 

「お父さんの…手がかりを探してるの。このマフラーしか、ないから。」

 

存外に重い話でした。ごめんなさい。

 

「みんなー!お待たせー!新作のころっけだよー!お肉が入って無いやつもあるから!植物油で揚げたから安心してね!」

 

暗い雰囲気をかき消すように香菱とグウォパー、胡桃がお皿を持ってくる。

 

胡桃、いないと思ったら手伝ってたのか。柄にもなさそうな、、

 

「空くん、キミ今とんでもなく失礼なこと考えてなかった?」

 

顔を近付けられじと〜っと目を向けられた。

 

……恥ずかしくなってそっぽを向いた。

 

「あれ?照れちゃった?お〜顔赤いぞ〜」

 

からかわれ始めたから助け舟を…

 

「あつっ!?でも美味いぞこれ!」

 

無理そうなので諦めた。

 

「サクサクサクサクサク」

 

「はむっ」

 

……

 

「みんな、どうかな?」

 

香菱は緊張気味か、少しモジモジしている。

 

「美味しい」

 

「美味いぞこれ!」

 

「うん〜美味〜個人的にはこのソースが気になるなぁ〜合いすぎだよ〜」

 

「ふむ、これも美味い。外側がサクサクしていて、内側もホクホクだ。…揚げ方に工夫を加えたか?やはり流石だな。」

 

各々で感想を出す

 

「ほんと!?良かったぁ〜温度の低い油と高い油で二度揚げしてみたんだぁ!」

 

表情がパッと明るくなった。

 

(二度揚げ…そう言えば彼の得意料理は揚物だったか…彼はもう意思だけになってしまったが…あの時は本当に驚いた…)

 

「…お母さん?」

 

幸卵が心配そうな顔をしている。甘雨の方を見ると…

 

甘雨の目から涙が溢れそうになっていた。

 

「え?あ…ごめんなさい…懐かしくって…すごく、美味しかったです。」

 

 

 

”肉と…野菜を混ぜたやつを揚げてみたやつだ!俺自慢の……え?肉ダメなの?まじか、、、じゃあこの大豆を肉みたいにしたやつだ!これなら食えるだろ?味が肉って…ええ〜…”

 

初めて彼が作ってくれた時のことをまた思い出してしまった。

 

久しく揚げた食べ物は口にしていなかった。

 

彼の料理は出来不出来の差が酷かったが、つい食べ過ぎてしまったこともあった。

 

また…食べられるだろうか…次は…次があるとしたら…幸卵と3人で…

 

 

 

会食(ほぼ試食会)を終え、個別に解散していく。

 

胡桃は「急用が出来てね〜」と鍾離を連れて行ってしまった。

 

甘雨も「仕事に戻りますね、楽しかったです!」と笑顔で仕事場に戻って行った。

 

ご馳走様〜と万民堂を後にし、幸卵と適当に港を歩くことにした……

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

考えないようにしていた。

 

寂しくなってしまうから。

 

恋しくなってしまうから。

 

ずっと頭に残る言葉も。

 

ずっと頭を過る笑顔も。

 

娘に会う度に、本当にどうしようもなかったのか。

 

娘に…

 

「わぷっ」

 

考え事をしていたらぶつかってしまった。

 

「あ…申し訳ございません…余所見を……」

 

振り向いたその男性は見覚えのある顔だった。

 

「うん?大丈夫だ。汝…君も怪我はな…い!?」

 

「游……潾……!!」




おまけ。
幸卵キャラボイス



元素スキル2
避雷針!

元素スキル3
にょきっと!

元素爆発2
天道万象。なんちゃって…

元素爆発3
唯一、残されたものだから。

ダッシュ1
負けないよ〜

ダッシュ2
羊っぽく〜…めぇ〜

宝箱を開ける
ありゃ?これなんだ?

HP低下1
喉乾いた…水ぅ…

HP低下2
師匠は…こんな時…

戦闘不能1
ママ…わた…しは…

戦闘不能2
パパ…どこにいるの…?

戦闘不能3
渦に…飲まれる…

ダメージ
いったぁー?

重ダメージ
ごふぁぁー!?

チーム加入
父さんに…会えるかな

チーム加入2
幸卵の力が必要かな?

チーム加入3
楽しくやろうね〜


今日も元気に謎テンションで書いてたら長くなりました。


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あの甘かった雨は今、苦味さえ感じる。

お気に入り100件ありがとうございます。
原神というコンテンツの人気さが伺えますね。

前回のあとがきにミスがございました。
元素爆発3
唯一、私に残されたものだから。
です。申し訳ございません。

游潾の詳細ついてはあまり詳しく書く予定が無いのですが、気になる、興味があるという方がいるのであれば、とても嬉しくなって書きます。


「游…潾……!?」

 

夢なのかと疑うほど信じられない光景に目を疑う。

 

「……甘雨……数千年ぶりだな」

 

また泣きそうになった。涙腺は無くなりかけている。

 

「どうして…っ?今までも、どごに…ぅぅ…生ぎて…」

 

涙ぐんでしまって言葉にならない。

 

「まーた…なりやがったなぁ…まぁ、そりゃそうか」

 

何から話せばいいか、もう分からなくて、

 

「…うん…子供もいるんだしな…」

 

ぶつぶつと一人でなにか言っている。

 

「游…り…ん…わた…しは、、ずっと…」

 

ようやく声に出すことが出来たから、伝えたいことを伝えようとした。

 

「…甘雨、幸せそうで何よりだ。俺も嬉しいよ。家族を大切にな!」

 

ニッっと、笑顔を作り振り返って行ってしまった。

 

何を言っているのか分からない。確かに、今私は幸せなのだろう。娘や、旅人達。それでも、彼がまたどこかへ行く理由が、分からなかった。

 

「游潾…!待って…」

 

追いかけようと、手を伸ばそうとした時。ザーっと静かな時間が生まれ、長い時間に感じた。

 

雨が降り始めていて、それと同時に

 

彼の姿は無くっていた。

 

ポロポロと涙が零れ落ちる。

 

おかしいな。さっきまで嬉しくて涙が溢れてたのに。

 

今、ものすごく悲しい。

 

夢だったのかな…

 

「お母さん…風邪ひいちゃう」

 

隣を見ると、心配そうな顔で幸卵が傘を差してくれていた。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「…逃げちゃったな…」

 

予想外に元嫁と遭遇し、気まずくなって早々に会話を切り上げ雨に紛れてきた。

 

「………」

 

伝えたいことは沢山あった。それでも。今の彼女の幸せを壊してしまいそうだから。

 

今の俺は邪魔なのだから。

 

空を見上げる。

 

曇天からは雨が降り注いでいて、

 

「甘くねぇなぁ…」

 

「游潾。やはり生きていたか。」

 

聞き覚えがあるような、そんな声を聞き、声の主の方へ視線を向ける。

 

「…どちら様で」

 

高身長で、きちっとした身なりの男。イケメンやないかい。

 

どうして俺の名前を知っているのか。

 

「…ふむ、そうだな。俺は、「今」鍾離と名乗っている。」

 

「今……なっ!?」

 

突然脳裏によぎる一人の人物。気付かなかったがその人物と気配が一致している。

 

「解ったか?」

 

そう言い彼は小さな岩元素の塊を浮遊させる。

 

「あぁ、岩神」

 

死んだ…と言うのは建前らしい。神の座を降りた今、一般人を装い生活しているらしい。

 

「そうか……数千年ぶりだな、友よ。」

 

 

近くの店に移動…

 

 

ずっと夢を見ていて、彼も夢に出てきていたから実感はあまりない。

 

「そうだな。数千年ぶりだ。そして、その数千年ぶりに…」

 

頭を下げる

 

 

 

「契約に従い、帰還した。」

 

 

 

彼は静かにこう言った。

 

「お前と契約を交わした岩王帝君はもう居ない。が、代わって俺がお前の契約の終わりを見届けよう。だがな、游潾…少し遅かったんじゃないか?」

 

数千年も経って少し…と言うのは流石だろう。

 

「ははっ、大変お待たせした。」

 

「あの時、魈がお前のマフラーを拾って来た日、お前はこれで契約を完遂したというつもりではないだろうな、と疑ったものだ。」

 

懐かしい話だ。これも夢の中で何度も交わした契約なのだが。

 

古い話をした。懐かしい話をした。

 

俺が夢を見ていた時の話も聞いた。

 

岩のように固かった彼は少し、柔らかくなっていた。

 

「皆とは会ったのか?」

 

「…ピンばあやとは、会った。人の世について、聞いたよ」

 

「…?甘雨とは会っていないのか。彼女なら月海亭に…」

 

「あぁ、大丈夫、そのうち行こうと思ってる。」

 

やはり聞かれた。言いたくない。

 

悟られないように誤魔化す。

 

「彼女も喜ぶだろう。これで数千年間の思いも報われるか…」

 

「……」

 

心が痛かった。後半何を言っているか分からなかったが彼女にはもう会えないのだ。昔話も相まって、彼女の姿が、笑顔が頭に強く浮かぶ。

 

「ならば早く行くといい。次は俺の酒に付き合ってくれないか。花を見ながらでも。」

 

「…あぁ。」

 

今彼は一般人のようだから、ピンばあやから分けてもらったモラという物を自分のお代分だけ置いていってその場を去った。

 

 

「…………」

 

(む、金を忘れたな……)

 

少し外す、とどこかに行ったきりの鍾離を探しに来た胡桃が

モラを忘れ、金を払えずに店の席で静かに座っている鍾離を助けるのはまた別のお話。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

何も考えずに璃月を出て。北の方角に何も考えず歩き続ける。

 

仙人たちに見つかるのも面倒だから。完全に気配を消して歩く。

 

相当歩いたので木のふもとに腰をかける。

 

「…」

 

まだ頭に残っているあの笑顔。忘れた方がきっと幸せなんだろうな、と。

 

1度休もう。睡眠をとる必要は無いが。気持ちの問題だ。

 

だが、しばらく寝れず、少し遠目に移る民間人や兵士達を見る。

 

道外れにはひるちゃーると呼ばれる者達が眠っている。

 

「あの時のまんまるちゃんはもう居ないか…」

 

というか自分の記憶に印象強いのはまるい彼女であり。

 

とある戦いをきっかけに、彼女はどんどん細くなって…さっきの姿くらいにはなってたか。夢の見すぎだな。

 

ぼーっとしていた。

 

ふと、重みを感じたあたり。

 

「すぅ……すぅ……」

 

頭に御札を貼った幼女が、俺の太ももを枕にしてぐっすりとご就寝。

 

それはいいとして。

 

「…誰?……??」

 

ほっぺをつつく。冷たいな…

 

炎元素の塊を傍に置いておく。毛布じゃなくて済まないね

 

「おーい…」

 

「んん…うん…すぅ…」

 

ダメだこりゃ。

 

気持ちよく眠る幼児を起こすのも野蛮だ。嫌でもないし。

 

「娘がいたら…こんな感じだったのかな…。」

 

思い出すのは甘雨との最後の夜…ああああああああ!!

 

また甘雨が頭の中を全力で走り回ってる。

 

顔を少し赤らめて迫ってくる甘雨がががががが

 

背に顔を埋め、体を預けてきたり

 

服の裾をキュッと握って何を言わずについてきたり

 

「まずい…ますます思考が幸せな事に…!!」

(まずい…ますます思考が酷いことに…!!)

 

 

待て待てそもそも俺は普通じゃない…子供なんてできるはずがないんだから…

 

心を落ち着けるためにまた視線を遠目に…ん?

 

道から随分逸れた場所に鞄を背負った赤色の幼児がひるちゃーるにおわれていた。

 

「あの子大丈夫か…?こっち来た」

 

顔が見える程度まで近付いてきた所で振り返り、兎のようなものを取りだしひるちゃーるに投げつける。

 

ドカーン…

 

「……????」

 

爆発した。

 

思わず膝に眠る少女の耳を塞いじゃったし。びっくりした。

 

そのまま赤い幼児は走り去っていった…

 

と思ったらまた前を走り去って…

 

ぐるぐるしてないか…?あの子。

 

きょろきょろしているし、疲れてそうだ。

 

目が合ってしまった。

 

あ、こっち来た。

 

「お兄ちゃん、ここ、どこか知ってる?」

 

不安そうな顔をしているし、息も少し荒い。

 

「えと、望舒旅館?だっけあれの近くだよ?とりあえず、座り?」

 

ポンポン、と眠る幼児と反対側に合図する。

 

「望舒旅館?えーっと、モンドじゃないのかな…どうしよう…」

 

ゆっくりと腰掛け、体育座りする。

 

「モンド…?」

 

知らない場所だな…機会があれば行きたいものだ。

 

「うん!クレーの住んでるところ!」

 

そうか、君の住んでるとこなのか。

 

「君はクレーっていう名前なんだね。僕は游潾。まぁ…旅人だよ」

 

簡単に自己紹介。旅人だと言っておく。

 

「旅人?空兄ちゃんと一緒だ!!」

 

「空?」

 

「よく一緒に遊んでくれるんだ!一緒にお魚ドカーンしたりね、優しいお兄ちゃんなの!」

 

「へぇ、そりゃあいいな!」

 

知らないことが増えている。また旅をするのも楽しそうだ。

 

「…ふぅ…」

 

おっと話をしすぎたかな、息が荒かったし。

 

「手、出して?」

 

「?」

 

両手でお椀を作ってもらう、

 

近くの湖の水を操る。水球を作り、浄化する。不純物も取り除き飲水に変える。

 

クレーの小さな手に水球を置いてやる。

 

「ごめんね、少し喋らせすぎたかな?水のんで、一旦落ち着こう。」

 

クレーはなにこれ!っと興味津々である。嬉しいがあまり興奮するとまた余計に疲れちゃうよ…?

 

こくこく…

 

「ふぅ……」

 

クレーさんお疲れのご様子。体重をこちらに任せてくる。

 

「ジン団長…クレー疲れたよ…」

 

「少し休みな。安心して眠ってくれ。」

 

「うん……」

 

道に迷った(?)少女も眠ってしまった。

 

幼い女児2人に体を預けられ、ふと思う。

 

この状況…まずいんじゃね?

 

犯罪臭丸出しでは…?

 

今さら気付いてももう動けないし。2人が起きるのを待つ。

 

━━━━━約30分後

 

「こんな所にいたんですか、七七。探しましたよ…」

 

うとうとしていると突然…今度は爽やかイケメンか。

 

今度こそ知らない人だ。知り合いに蛇を首に巻いた人などいない。

 

ん?あれ蛇?

 

「なんだ?用か?」

 

少し敵意を出してしまった。が彼は笑顔で

 

「はい、その膝の上で眠っている子を迎えに来ました。」

 

「一応聞くが、どういう関係だ?」

 

嘘を言うようには見えないが、念には念を。この子も小さいしな。

 

「私は白朮。璃月で店を営んでおりまして、七七には手伝いをお願いしています。」

 

大丈夫そうだな。

 

「ふら〜っと出ていったと思ったら、全然帰ってこなくて…優しい方にお世話になったようで安心しました。」

 

「七七とやら、迎えが来たようだから、起きな?」

 

全然起きない。うぅ…と服を掴まれるほどには懐かれているのか…

 

いや枕か。

 

「ほら七七、帰りますよ………もう…」

 

ため息をひとつついて、七七を背負った。

 

「七七がご迷惑をおかけしました。今度何かしらのお礼をさせてください。」

 

と、店の所在を書いた紙を頂いた。

 

「ありがとう。時間がある時寄らせてもらうよ。」

 

軽くお辞儀をして帰って行った。

 

「…………家族みたいだな。なんか。」

 

羨ましくないかと言われれば羨ましい。

 

左腕にもたれ眠るクレーを撫でる。

 

それからまた数十分後━━━━━━━━

 

日も傾いてきて、赤くなる頃。次のお迎えがやってきた。

 

「なぁ空、あれってクレーじゃないか?隣にいるのは〜あっ!」

 

聞いたことがある声だ。確かこの声は。

 

「朝砂浜で倒れてたやつじゃないか!?体調はどうだ?」

 

異装の旅人と、浮遊する小動物のコンビだ。

 

「あぁ、恩人達か。身体に異常はない。おかげでな。」

 

右手をグッと握る。彼らには感謝しなければな。

 

「んぅ…あれ…?クレー…寝てた…?」

 

重い瞼を擦りながらクレーが目覚める。

 

「どうしてクレーと一緒にいるんだ?お前…ってそういえば名前なんて言うんだ?」

 

名前…どうするか。下手に名前を言って、足を付けられるのは勘弁だ…ここは…

 

「游。游という名だ。君達は…?」

 

潾、じゃ女性っぽい名前だしな。

 

「オイラはパイモンだ!こっちは空!よろしくな!游!」

 

空?…確か…

 

「栄誉騎士のお兄ちゃんたち…?」

 

クレーの知り合いか

 

「おう、そうだぞ!でもなんでこんなところまで…?」

 

「クレーね、お外に遊びに出て、珍しい生き物がいたから追いかけてたんだけど…知らないところまで来ちゃったの…」

 

しゅん…と、下を向いてしまった。

 

「ジン団長…怒ってるかなぁ…」

 

「大丈夫だよ。多分怒ってない。」

 

「そうだぞ!というかむしろ心配してると思うぞ…」

 

どうやら俺の出る幕では無いようだ。

 

家に帰れば、、、待っていてくれる人がいる…か。

 

「知ってるならこの子が住んでるモンドとやらに送ってやってくれないか?どうしても土地勘が古くてね。」

 

ジン団長とやらも心配してるだろうし。

 

 

2人に連れられて、クレーも帰って行った。。

 

「またね、游。」

 

「ばいばいお兄ちゃん!モンドにも遊びに来てねー!クレー待ってる!」

 

手を振る。おいおいこんな可愛いこと言われたら今度行かなきゃな。

 

さて。1人になった所で少し寝るか。情報が詰められ過ぎて疲れた。

 

いくら睡眠の必要がなくても、惰眠を貪ること自体は好きだ。

 

辺りが黄昏に包まれてきた。

 

………………………

 

目を覚ますと。辺りはもう昼頃で。

 

「游潾ー、ここにいたんですね。岩王帝君がお呼びです。」

 

声の主を見て。理解する。

 

 

また。あの夢だ。




おまけ
普通に長いです。
興味ある方は、ぜひ。

幸卵
キャラクター詳細

璃月で季節問わず暑そうな装いをする少女。コートを前開きでマフラーをしている。ちなみに彼女自身はあまり気にしていない。目撃情報もまばらで、時には望舒旅館、時には玉景台。時には飲食店で…秘書の甘雨と共に。昼夜問わず、深夜にも見たと言う人もいる。
よく見かけることが出来る場所は遺跡後、本屋、孤島、海沿い。いつも何かを探し求めるように行動しているのか目はどこか虚ろだった。
他の国へも旅に出たが、彼女にとってそれは思い出にすらない。
ただの、親探しなのだから。
マフラーは母親から貰った大事な父親の最後の形見である。数千年前から付けていて、酷い有様ではあるがマフラーとしての役割は果たしている。渦の力が込められており、雷元素を通すと金色の三つ首竜となる。彼女はこれを父親に繋がる最後の手がかりだと思っている。

キャラクターストーリー
幸卵は寂しがり屋である。本来なら、親にずっと甘えていたい性格で、産まれて物心が着いた数千年前から今もその気持ちが消えた事はない。物心がついたその時から父親はおらず、母親と、周りの仙人たちに育てられた。仙人たちはなにかと幸卵を甘やかしてくれてはいたが、幸卵は家族が大好きであった。人の子の家族を見ては「どうしてこううにはおとうさんがいないの?」と涙ながらに訴えてばかりだった。やがて幸卵は成長したが同時に彼女の心は穴が空くばかりになっていた。

甘雨が岩王帝君との契約を交わし、「仕事」と呼ばれるようになったそれを遂行するため、後の璃月に移った時、幸卵は仙人たちの元に残った。この時くらいから彼女はもう我儘も言わない心の空いた少女だった。”誰にも迷惑をかけないように”ひたすら自分を殺し続けた。ひっそりと父親の手がかりを探すある日。留雲借風真君は彼女に”主はそこまでして主を殺す必要は無い。主には主の権利がある。子としての権利はいつ無くなるか分からぬ”その言葉で彼女は仙人たちの元を離れ、大好きな母親の元へ向かった。

彼女はふんわりとした表情をしている。それは表面の仮面に過ぎず、本来の彼女は喜怒哀楽をあまり知らない。幼い頃から疑問に思い続け、母親からの愛しか受け入れなかった。彼女が本心から喜怒哀楽を知るのは母親と一緒にいる時のみである。本人は、仙人達や岩王帝君を嫌いでは無いし信頼しているのだが、愛情だけは抵抗がある。と供述している。物心付く前、あやしてくれていた岩王帝君をひっぱたいたり、「おいで」と両手を広げた彼に対しそっぽを向いたことでも仙人たちの間で有名な話である。名付け親の彼は意外と落ち込んでいたらしい。

幸卵はこの世に生を授かった当時、数日生きていられるかどうかさえ分からなかった。裏切り者との子なんて、忌々しいだけ。母親も毎日のように頭を抱えていた。幸卵が産まれ、すやすやと眠る幸卵を抱き涙を流す母親に帝君は言った。”いくらその血が罪人のものであろうと、その血が穢れていようと、この子はこの世に産まれ力強く生きようと存在している。この罪も無い無垢な子を殺めてしまう。そんなことをしてしまえば、それこそ生命への冒涜である。”と。

幸卵の名付け親は岩王帝君である。幸卵がまだ母親の胎内にいる時、母親が帝君に対し、もし育てることになったとして名を頂けないか。そして幸卵という名には”お前にとってこの子が幸せの卵であるように”というどちらかと言えば当時の母親の事を思い付けられた名前のようであった。だが幸卵自身母親のことが大好きであり、この名前に満足している。幸卵は自分が生まれ、本当に母親にとっての幸せになれているのかと不安らしい。

岩王帝君との関わり
幼い時、人の姿の帝君に対しなかなか不敬な態度を取り続けたことは有名な話だった。逆にあまり知られていない話として、龍の姿となった岩王帝君には異常に懐いていたそうだ。父親に関係しているのか、分かっていない。
成長し、帝君からも戦いの知恵を学んだ。彼女は岩元素の神の目を授かる気満々だったのだが、最後の帝君からの問いに対し、答えを出した彼女の手には雷の神の目が握られていた。現実を受け入れられなかった彼女はしばらく砂浜で砂の岩王帝君(龍体)を作り続けたらしい。


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夢は川の水循環のように。

誤字報告エンド感想助かってるわよ
お気に入り500ありがとうなのだわ
前回くらいにお気に入り100ありがとうって言ったばっかな気がするわね

そういえばあたしタグの意味理解してなくて書いてないわね
書いた方がいいのかしら妄想だからいいかしらねいいわね

游潾について知りたいと思ってくれる人
過去話を詳しく知りたいと思ってくれる人
是非コメントください。晒します。という事をここで明確に宣言しますん

今回短めだわ。申し訳ない(´;ω;`)


何回目だったかはもう覚えてない。

 

途中から数えても無駄だと思ったからだ。

 

そして夢は俺が帝君の領地に足を踏み入れて、海へと堕ちるまでのこと。

 

━━━━━甘雨と生活した日々。

 

未練がないと言えば嘘になるんだろう。

 

事実、目覚めるまで同じ夢を繰り返していた。

 

ただ夢の始まりは毎度毎度違う場所。違う時。

 

最初からの時もあれば、裏切った直後から始まることもあった。

 

何度も繰り返して、

 

辿り着いた…夢の終わる条件━━━━━━

 

 

 

「游潾ー。ここにいたんですね。岩王帝君がお呼びです。」

 

目覚めた世界で会った甘雨よりはふくよかな体型をしている。全盛期のまんまるちゃんに比べたら細すぎるけどな。

 

まぁ、つまり夢なんだろう。ここは。またあの夢なのだろう。

 

「あー?いわがみ様が俺をー?ったくあの人はぁ〜」

 

あくびのフリをしながら頭を搔く。

 

今この時はどういう状況なのか。俺の物語のどの場面なのか。

 

探る為に適当に返事をする。

 

「岩王帝君には岩王帝君のお考えがございますっ早く準備してください!」

 

腕を引っ張って急かしてくる。やはり可愛い。

 

「別に個人的なものならいいのではないか?集会でもないはずだろう…?」

 

ピタッと甘雨が歩くのをやめ

 

「その…今回呼ばれたのは…」

 

モジモジしながらこちらを上目遣いで見てくる。

 

「あのことだと思うんです……」

 

この反応であのこと、な。

 

まぁひとつしか心当たりは無い。

 

「なるほど。いわがみ様の返答が来るんだな。」

 

甘雨が下を向いてしまった。

 

「不安か?」

 

小さく頷く。

 

「そうか。」

 

右手を差し出す。すると甘雨の左手が絡むように握ってくる。

 

(要するに現代でいう恋人繋ぎじゃ、)

 

そのまま甘雨と共に帝君の元へ向かう。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「来たか。」

 

ローブを身にまとった岩王帝君と、傍に使える若陀龍王。

 

「大変お待たせいたしました。」

 

跪き、頭を下げる。

 

「そう畏まるな。今日は別に今命令をするとかそんなものでは無い。」

 

許可を頂き、立ち上がる。

 

「では、どのような要件で?」

 

岩王帝君がこちらを向いた。

 

「わかっているとは思うが。先日のお前らの婚約についてだ。」

 

今回の始まりの場面は、帝君に婚約の許しを頂く場面だったらしい。

 

「聞き入れて頂けますでしょうか。」

 

いつもの流れなら今回も…

 

「あぁ、お前の働きも賞賛に値する。甘雨との婚約を許す。式は俺が見届けよう。」

 

許していただけた

 

甘雨が涙目で抱きついてくる。柔らかい。

 

「ありがとうございます。甘雨は私が必ず…式?」

 

この言葉も何回目だろう。

 

「あぁ、民も行っている催しでな。婚約の際には親族や友人を呼び会を開くらしい。」

 

「この話を留雲借風真君に話したのだが…酷く乗り気だった。よっぽどお前の婚約が嬉しいのだろう。」

 

彼女は相変わらずだし。

 

甘雨は照れてるし。

 

若陀は半分呆れている。

 

「彼女はもう既に準備を始めている。”子の祝儀だぞ!早急に衣装を用意せねば!上質な料理も用意しなければ…”と言っていたな…」

 

ため息混じりの若陀。岩王は笑っている。

 

「良いのでは無いか?彼女が張り切るのも頷ける。」

 

「式は…いつ頃で?」

 

困惑した顔色をしながら問う。

 

「あぁ、2日後だ。衣装が完成するのが2日後らしくてな。出来次第直ぐに開くそうだ。」

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

すぐにでも夢から覚めたい。目覚めたあの世界で、違う世界を見たい。

 

また夢に囚われ、また過去を思い出し、後悔する。

 

もう、彼女とは関わらないようにしようと思っていたのに。

 

また惜しくなる前に。夢を終わらせよう。

 

夢の物語が終わるには、甘雨を悲しませなければならない。

 

それ以外でも嫌悪や失望などでもいい。

 

彼女から俺へ対する好意や信頼という感情を無くさせること。

 

そうすればまた、夢は始まりへと戻る。

 

これに気付いた頃。

 

自分が魔人だと明かした。それだけで夢は終わる。

 

婚約した後、自分の首を切ったりもした。首を切ったくらいじゃ死ねないのだが。彼女は酷く落ち込んでしまっていた。

 

そんな事をしていたからか、段々何も思えなくなっていた頃もあった。

 

民を皆殺しにしたりもしたし。

 

仙人を殺したりも。

 

甘雨を殺す事だけは出来なかった。

 

どれだけ感情を消して、どれだけ心を押し殺しても。

 

穢す事だけが精一杯だった。

 

こんなことをしてきた故の結論だ。

 

結局最後には裏切るのだ。そこで必ず夢は終わる。

 

 

目覚めて感情もある程度戻っている。あまり酷い事はしたくない。

 

だから婚約前に手早く正体を明かして裏切ろうと思っていた。

 

「帝君から許しを貰えて良かったです…」

 

帰り道。甘雨が身を寄せてきて。

 

控えめな笑顔だが、本当に嬉しそうである。

 

俺が今やろうとしていることは、この笑顔を壊す行為で。

 

この子が絶望した表情を引き出す行為で。

 

目覚めた後、もうあの顔を見なくていいのか、と喜んでいた。

 

また自分を殺して夢の彼女を傷つけなければならない。

 

早く逃げる為にも、もう彼女と会わない為にも。

 

心を決め、言葉を発する。

 

「なぁ、甘雨。話があるんだが…」

 

「えっ…?なんですか?破棄とかじゃ…ないですよね…っ」

 

何故ここで破棄を心配するのかは不思議だが、何千何万と繰り返しただろう夢の中では数回やったかもしれない。

 

人気の無い場所に移動する。甘雨は落ち着かない様子だ。

 

「俺はオセルが生み出した魔人だ。お前らの敵だよ。」

 

マフラーが水の竜を模した形状へと変化。9つの首を持つ、魔神のように。

 

涼しい顔で言っているが…心が痛い。

 

甘雨は…下を向いて胸に手を当てていて、とろんとした目つきでこちらを見る。

 

「はい…知ってます。」




おまけ。

幸卵
モチーフ武器 槍

めくるめく螺旋の角
メイン元素チャージ サブ雷元素ダメージ
元素爆発後、会心率、会心ダメージ、元素ダメージプラス10%

目が眩むほど回り続ける渦の文様が描かれた古い角。天からの雷に打たれたのか雷の力が宿っている。

海の魔物は見知らぬ海域に迷い込む。
自らを生み出した怪物の姿、気配もない不思議な海。
海は荒れ狂い天は雷降り注ぐ曇天。
呪いが満ち満ちているその地で海の魔物は神を見た。
岩の神の領域へと手を伸ばすはずだった魔物はいつしか別の神の領域へと踏み込んでいた。
神域へと無許可に踏み入れた。
罰は終わらない。
永遠に。


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愛する人と大罪人

中々忙しく、投稿が遅れて申し訳ない。
なんて少しづつ書いていたら保存出来ておらずデータ飛んでました…
ちゃんと完結させますんでよろしくお願いします…


「俺はオセルが生み出した魔人だ。お前らの敵だよ。」

 

「はい…知ってます。」

 

何を今更…と言いたげな顔をして、微笑んでいる。

 

「…は?いや…だから俺は…」

 

訳が分からない。いつもの夢ならここで俺は…

 

予想外の出来事に頭が回らない。

 

冷や汗もでてきた。

 

「知ってるんです…」

 

涙ながらに彼女は言う。

 

分からない…分からないわからない!!

 

マフラーから1匹の蛇を作り出し…

 

人1人覆える程の火球を作り出す。

 

「お前を…お前の仲間を殺す為に…俺はここにいるんだぞ。分かってるのか!?」

 

感情的になってしまう。

 

所詮火球も脅しに過ぎない。だって俺は…

 

「無茶はだめです…よ?」

 

甘雨が近付いてくる。

 

分かっているようだ。

 

俺が彼女を殺せないこと。

 

「来るな…来るな来るな来るな!!裏切ってるいるんだよ!?お前が何を知って…」

 

1歩ずつ後退りする。

 

道を歩いていたはずなのに、背後には壁があって。

 

追い詰められた形になり、その場に崩れる。

 

火球も維持出来ていない。

 

甘雨が膝立ちになり、両手で顔を包んでくる。

 

手袋越しにも分かる温もりに、甘雨の甘い匂い。

 

何も考えられない。

 

甘雨に顔を上げさせられる。

 

甘雨と見つめ合う形になった。

 

甘雨が顔を近付けてきて━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

現代。

 

「はぁ…」

 

半仙の少女は溜息をついていた。

 

昨日游潾に再会してから、仕事があまり進まなくなってしまっていた。

 

”ママ〜大丈夫〜?なんかヘンだよ?これくらいなら幸卵にも出来るから。休んできて?”

 

”ううん、大丈夫。ありがとね。”

 

数分後

 

”じー……”

 

”ど、どうしたの幸卵?”

 

”やっぱり進んでな〜い〜。いつものママなら8倍くらい進んでるの”

 

”あぅ…そんなに…?”

 

”うん。幸卵が言うんだから間違いなし”

 

”凝光様には…”

 

”幸卵が言っておくので”

 

”休むことを推奨します”

 

 

半分無理矢理だが、休息をとるために外に出ていた。

 

時間的にも昼寝をしている頃だし、気が乗っていないのも確かだ。

 

(幸卵にも心配かけてしまいました…でも嬉しかったですね…)

 

娘の笑顔を思い出して、少し気持ちが楽になる。

 

楽になったことで睡眠欲も出てきた。

 

近くに大きめの木が見えたので、そちらに向かう。

 

「えっ…」

 

甘雨はそこでまた信じられない者と遭遇する。

 

見慣れない服装だが。

 

その顔はよく知っている人物で。

 

木にもたれかかって眠っている。

 

悩みの種である游潾本人だった。

 

信じられない光景に目を見張る。

 

どうしたらいいのか分からず、戸惑ってしまう。

 

言わなきゃいけないことがあるのに、また昨日会った時と同じ。

 

眠っている彼に駆け寄る。

 

「夢じゃないんですよね…」

 

寝息もたてず目を閉じている彼を見て呟く。

 

「游潾…?」

 

ピクリともしない彼を見て不安も込み上げる。

 

本当にもう死んでしまっていて、先日は最後に逢いに来てくれたのではないか。

 

なんて。

 

游潾に体の正面を向けたまま膝の上に座る。

 

懐かしい感覚と共に安心感に包まれた。

 

少し後ろに下がり游潾の胸に耳を当てる。

 

布越しの体温と、川のせせらぎが確かに聞こえる。

 

生きていることに安堵を感じると共に、

数千年間押し殺してきたはずのヒトとしての欲求に駆られる。

 

静かに眠る游潾。

 

いつものマフラーをしておらず、首元があらわになっている。

 

「この傷……弓矢の…」

 

少し苦い思い出が蘇る。それでも今込み上げる欲求が、その思い出も押し殺してしまう。

 

「自分を…慰めるのはもう…」

 

口を少し開けてだらしなく眠る游潾に、そっと顔を近づけて

 

「…これくらいは、いいですよね…」

 

 

「ん…ちぅ………」

 

 

少しだけ満たされた感覚と、それにつられたのか、強烈な睡魔に襲われる。

 

(お昼寝の…時間…でした……)

 

意識が遠のいていく…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

游潾の夢

 

「……!?」

 

目を覚ますと懐かしい空気に包まれた。

 

ずっと前の風に匂いがして、目の前には愛した人。

 

あの時に戻った感覚。

 

「なぁ…甘雨…」

 

…彼が口を開いた。

 

本当に過去に戻った様だった。

 

この時、私が彼の事情を知っていたら、変わっていたのだろうか。

 

無駄と知っていても考えるのを辞めることが出来ない。

 

すると游潾が、澄ましているようでどこか寂しげな顔で話した。

 

「俺は渦の…」

 

驚いた。あの時は1度も話してくれなかったのに…

 

でも今は…分かっている。

 

だから「知っている。」と正直に言った。

 

彼は驚くどころか…恐怖していたようだった。

 

何を怖がっているのかは分からない。

 

ゆっくり近付いていくと。

 

彼は私を拒絶しようとした。

 

寂しかったけど、何かおかしいと思った。

 

当時の彼らしくない。済ましているようで寂しげな顔は、どちらかと言うとこの前会った彼の顔だった。

 

何かを不安に思っているような。

 

いや、怖がっているの?游潾?

 

大丈夫…だから…

 

「ずっと待ってるよ…?」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

キスをしたあとまた意識が無くなって花畑に寝転んでいた。

 

いつも通りの夢に戻ってしまった。

 

きっと今のは…游潾の…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

現代

 

 

「……ゆぅ…りん…?」

 

目を覚ますと、人肌は無かった。

 

どこまでが夢だったのだろうか…

 

術の気配がして、顔を上げる、

 

木に札が貼られていた。

 

「結界呪符?」

 

彼がよく使っていたような…?

 

ということはやはり彼は…

 

「ままぁーー?」

 

娘の声が聞こえた。

 

「こ、幸卵!?」

 

こちらを見つけると、勢いよく飛び込んできた。

 

「ままぁ〜!!えへへ〜」

 

お腹に顔を埋めた幸卵にぎゅぅ〜っと抱きしめられる。

 

「もう…飛び込んで来ないで…」

 

そうは言っても表情が柔らかくなってしまう。

 

娘の頭…もとい角を撫でると、嬉しそうな声を漏らす。

 

「それより、どうしてここに来たの?」

 

「お仕事もひと段落着いたから〜まま探しに来たらね〜」

 

「知らない術の気配がしたから来てみたんだぁ〜」

 

仰向けになった幸卵がはにかみながら話す。

 

どうしても、甘やかしたくなってしまう。

 

沢山甘やかしたけど、わがままになっていないのは、不思議だけど。

 

「まま〜結局この術なんだったの?」

 

「えと、これはね…」

 

ここで突然父のことを話してしまっていいのだろうか。

 

こんな大事な話を簡単に話しても…

 

「まま?」

 

「え?うん、これはね…」

 

でも十分、大きくなったから

 

「幸卵、少し、大事な話をするね。」

 

「わかった、お母さん。」

 

察して起き上がった幸卵が真面目な顔をする。

 

「お父さんの事なんだけどね。」

 

「……游潾っていう人…だよね…」

 

少し暗くなったような…?

 

「うん。その、游潾がね、最近お母さんの目の前に現れるようになったの。」

 

「!?」

 

歯ぎしりをした。何かあったのだろうか?

 

「幸卵…?大丈夫…?」

 

「ギリギリギリギ……あっうん大丈夫だよ気にしないでお母さん」

(どうして?今更ままを…)

 

「それでね、さっきお昼寝してる時もいたはずなのに…起きたらこれが貼られてた。」

 

「じゃあ、これはお父さんの…?」

 

「うん。きっと。」

 

「………貰っていい?」

 

「えっ!?いいけど…」

 

「お父さんの手がかりだから…絶対…見つけるの。」

 

「幸卵……」

 

「まま〜そろそろ帰るの〜」

 

ニコッといつもの幸卵に戻る。

 

「うん、そうだね。もう少し、仕事しないといけない…かな?」

 

「うぇ〜?」




游潾が目を覚ます。

現実に戻ってきたのだな、と安堵していると重みを感じる。

甘雨が眠っている。

ぎゅっと服や手を握ったまま眠っている。

勘弁して欲しいと思った。

離れられなくなってしまうじゃないか…

覚悟をしているようで、しきれていない。

角を撫でる。これも久しぶりのような気がした。

最初は全然触らせてもくれなかった。

だんだんと気を許してくれて、角を撫でると安心した表情をしてくれるようにも。

全部壊してしまったけど。

そして、夢の最後を思い出す。

待ってる…とキスをされた…のか…?

少し曖昧だが、何故か唇が暖かいというか、湿っているというか…

本当にキスをされたような感覚…?

このまま襲う前にここを離れることに。

体を溶かしすり抜けるように。

彼女が襲われぬよう、結界を貼っておく。

「甘雨、ごめんな。流石に俺は……」


2人の再会は遠くないうちにまた。

だけど必ずしもそれがいい形になるとは限らない。


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幸せの卵は今幸せだろうか?

お久しぶりです生きてます
誤投稿大変申し訳ございませんでした


ない。

 

ここにもない。

 

この古い文献にも

 

このボロボロの書物にも

 

あの魔人に関する情報は無かった。

 

手がかりはないか。

 

そう思っていつしか璃月以外の国にも足を運ぶようになった。

 

彼は、元々旅人だったらしい。

 

度重なる遠征の果て、見つけたのは

 

不思議な装いの男がいた。

 

それくらいだ。

 

彼が最後を過ごした璃月でさえ、有益な情報は得られないのだから。

 

当然のことだろう。

 

それでも彼女は追い求める。

 

”神に叛逆せし裏切り者”

 

多々ある文献、伝承の中で、ひと握りにも満たない程にしか登場しない魔人。

 

数少ない文献の中で彼は既に処刑されている。

 

だが、それでも探すくだらない理由がある。

 

「生きているんでしょ…?お父さん。」

 

 

────────────────────────────

 

ぶかぶかのコートを羽織る小さな少女。

 

母親譲りの綺麗な髪…だったのだが今は手入れをせずくせ毛が起こり放題。

 

その頭には、麒麟の角が2本。片側の角は枝分かれをしたように歪な形をしている。

 

少女の母親は仙獣と人の子であり、その子に当たる少女にもその血が流れているため長寿であり、その小さな見た目とは裏腹に長い時を生きている。

 

眠そうな目をしているが、ただ死んでいるだけである。

 

口元はボロッボロになったマフラーを普段から身に付けていて、口まで覆ってしまっている。表情も読みにくい。

 

目が死んでいて、表情も読みにくい彼女だが、感情を出さない訳では無い。喜怒哀楽は存在する。

 

ただ、信じた者の前だけでしか表さず、大半が社交辞令なのだ…

 

 

「ていう感じなのだ〜」

 

ふわっとした口調で長々と身分を明かす。

 

「眠そうだと思ってたけど、違うんだ…」

 

「何時からこうだったかは〜曖昧なんだけどね〜」

 

話し相手は旅人とパイモン。彼女の母親とも契約を結んでいるらしい。

 

とまぁ今はたまたま出先で会っただけなのだが。

 

一仕事終えた後でもある。

 

いい感じの大きさの岩に腰かけ、焚き火を囲んで雑談をしている。

 

「そういや幸卵、そのマフラーっていつから使ってるんだ?すぅっごいボロボロだけど…」

 

当然の質問。新しいのにしないのか、と言わないあたり彼らの人の良さが伺える。

 

「気になってしまったのかね…?仕方ない。他言無用で頼むのだぞ…?」

 

ふふふ…とばかりに取り出したのはしっかりとした契約書。

 

「お前もやるんだな……」

 

引き気味ではあったが署名をすると、幸卵が早速話し始める。

 

「これはね、幸卵のお父さんの物なんだ…」

 

───────────────────────

 

遠い昔─

 

1人の母親と少女が歩いていた時のこと。

 

名前も知らない家族の会話が聞こえた。

 

「おーい、そろそろご飯の時間だー。お母さんも待ってるから一緒に帰ろうー」

 

「分かったよ父ちゃん!みんなまたねー!」

 

「ばいばーい。…ぼくもお腹空いたからかえろー!」

 

幼き少女は声の方をじっと見つめる

 

「幸卵、どうしたの?」

 

母親が疑問に思うと、幼き少女は言の刃を向ける。

 

「まま、こううの、「おとうさん」は、どこにいるの?」

 

隠していたつもりもなかったが、ずっと気にしないまま生きて欲しいとも願ってしまっていた。

 

無理だと分かっていても、そう願う他なかった。

 

少女は幼い。だから真実を告げるにはまだ早いから…

 

「幸卵のお父さんは今ね、すっごく遠いとこにいるの。幸卵がいい子にして待ってたら、早く帰ってきてくれるよ。」

 

騙してなんかいないよ…母親はそう自分に言い聞かせる。

 

「そうなの?分かった!!いい子にしてる!おとうさんにあいたいなぁ…」

 

目をキラキラさせながらルンルンで歩く無垢な少女。

 

「ごめんなさい…幸卵…」

 

何も悪くないはずの母親が、悲しそうな表情をしていたのを少女は見逃さなかった。

 

だが

 

「ままも、お父さん、に会いたいんだよね!こうう、いい子にするからすぐ会えるよ!」

 

その笑顔が、母親の心を癒し、同時に抉りもした。

 

「うん、そうだね。頑張ろうね、幸卵。」

 

笑顔を作り、少女の頭を撫でる。

 

「えへへ…」

 

──────────────────────

 

「私がお父さんの事を認識した時のことだよ〜」

 

(なぁ空、やっぱり幸卵のお父さんは…)

 

「ずーっといい子にしてたのに…全然帰ってこないの〜おかしいと思わない?」

 

「そう、だね」

 

「だから、幸卵が、迎えに行くことにしたの」

 

──────────────────────

 

「ねぇ、まま。」

 

書類の整理をしながら彼女は話を切り出す。

 

「どうしたの?幸卵」

 

「…お父さんを探しに行きたい。」

 

「……………そっか…」

 

その後、暫く会話がないまま働き続けた数日後。

 

幸卵は仕事の手伝いもこなしつつ、旅の支度を進めていた。

 

あるとき甘雨が引き出しからボロボロの布を取りだして

 

「幸卵…おいで…?」

 

「まま?なに?」

 

とてとてと寄ってきた幸卵の首にそのボロボロの布を巻いた。

 

「これ…なに?」

 

幸卵はきょとんとしている

 

「これは游潾のマフラーなの」

 

「…」

 

「あの人が遺した唯一の形見。持って行って。」

 

幸卵は疑問を抱いた。

 

”裏切ったくせに、どうして遺したのか?”

 

「…待ってまま、唯一の形見って?えっと、いいの?」

 

母親はこれでも裏切り者をまだ信じているらしい。

 

唯一の形見なら尚更渡してもいいのか…?

 

「幸卵が、連れて来てくれるんでしょ?」

 

優しい笑顔で母親は言った。

 

 

小さい頃…お父さんを探しに行くと決めた。

 

どれだけの年月が経とうと、お父さんは帰ってこなかった。

 

いい子にしてたら帰ってくるって。言ってたのに。

 

お母さんは、時々寂しそうな表情をする。

 

何も知らなかった少女は母親に、大きくなったら私が探して、連れてきてあげる!

 

元気だして、と。

 

だが。

 

彼を調べていくうちに裏切ったという事も知った。

 

たしかこの頃からだ。他人に自分を偽るようになったのは。

 

何を信用すればいいのか分からなくなったな。

 

それでも、探すと決めた。

 

お母さんが少しでも寂しい顔しなくなったらいいなと。

 

 

「連れて来てくれるなら形見なんてなんか失礼だと思わない?」

 

「それにもし游潾がこのマフラー見たらすぐに気付ける…でしょ?」

 

そう言って幸卵の首にマフラーを巻く。

 

「……うん。」

 

甘雨は幸卵を抱き締めた。

 

「気を付けてね。」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「てな感じで譲り受けたのである〜」

 

焼いただけの唐辛子を食べながら話していた。

 

「…それって何年前の話?」

 

素朴な疑問。

 

「……………」

 

幸卵の目の作画が死んでしまったが…

 

「いつだっけなぁ…覚えてないなぁ〜」

 

「そんな古いのかよ…」

 

いつも通り…と言うべきかパイモンは呆れ気味だ。

 

「でも大変だったよ〜?海渡る時とかさ〜お金勿体ないから歩いていってたんだよ?」

 

唐辛子を焼きながらへらへらしている。

 

「海を歩くの…え?泳いですらないのか!?」

 

流石にこれには驚きが隠せて…

 

でも海の上を走る人はいなくもないか。

 

「歩けるけど走れはしないよ〜?踏み込むと沈んじゃう〜もごもごもごもご」

 

「そういやもう日も沈んでくけど、なんの仕事だったんだ?」

 

近くの旅館までは距離がある。

 

空達にはピンばあやから貰った壺があるが…

 

「ん〜?仕事のこと〜?それはね…」

 

食べかけの唐辛子を置いて…その場に立つ。

 

すると幸卵の背後から、明確な敵意を持った影が飛び出してくる。

 

「幸卵っ!!」

 

空が叫ぶと同時にバチッと音がした。

 

「わっ!!眩しぃ!!」

 

手で目を覆い、徐々に目が光に慣れてくる。

 

幸卵の目の前には宝盗団のメンバーと思われる人が倒れており、背中辺りから棒状の黄色の光が突き出ている。

 

「リラックスしてるのに襲ってくるなんて〜……行儀が良くないですね」

 

「幸卵…それ…体貫通してないか…?」

 

突っ伏しているため下がどうなってるか分からないが、貫通しているようにしか見えない。

 

「大丈夫〜雷で麻痺してるだけだから〜心臓麻痺してなければ死ぬことは無いよ〜」

 

笑顔だが、どこか冷たい表情をしている。

 

「やりやがったなぁ!?」

 

するとわらわらと囲むように宝盗団が湧いてでる。

 

「こんなに居たのか!?」

 

パイモンが空の背後に隠れる。

 

「そうそう、私の仕事はこいつらを始末…じゃなかった、捕まえるのが目的なのです。わざわざ来てくれるなんて、煽ったかいがありますね〜」

 

「だから、手を出さなくて大丈夫ですよ。」

 

マフラーを少しあげて、口元を完全に隠す。

 

「どこからでも来ていいよ。手加減は出来ないけどね?」

 

「舐めやがって!!」

 

「…先生直伝っ幸卵のひっさつわざぁー!!」

 

両手を挙げて勢いよく振り下ろす。

 

すると空から黄色い雷をバチバチと纏った塊が降ってくる。

 

地上に衝突すると拡散し、その雷に触れた宝盗団が倒れていく。

 

「な、何が起こってるんだ!?うぐっ!?」

 

ビリッとした感触を全身に感じた。

 

雷元素が付与されたようだ…ただ、

 

「ちょっとこの雷元素…重くないか…?」

 

体の感覚が鈍い…麻痺しかけているようだ。

 

「ごめんね…?並以上くらいの魔物や人間じゃ麻痺してしばらく動けなくなる程度なんだけど…」

 

塊の衝突によって生み出された砂埃の向こうから声がする。

 

「それまぁまぁ強くないか…?」

 

パイモンはもう手足が動かないらしい。

 

ぷらーんと気だるげにしている。

 

「そのうち治ると思うし〜幸卵が全部やるから、大丈夫〜だよ?」

 

砂埃が晴れていく…が、そのシルエットには見覚えがない。

 

「そんな他人事な…ってなんだよその姿!!」

 

手足は麻痺してもツッコミの”勢い”だけは麻痺しない。

 

黄色い雷を纏い、綺麗な赤だった瞳は光る黄色の瞳へ。

 

枝分かれした角に雷が集中し、もう片方の赤と黒の角には青い紋様が浮かぶ。

 

そして、、、マフラーだったものから、2対の魔物が。

 

「これ?雷元素付与状態だよ〜活性化するからね〜だからここからが本領発揮」

 

顔付きが変わり、かろうじて動ける宝盗団を狩り始める。

 

麻痺しかけている体ではまともに抵抗出来ず、距離の離れた所から瓶を投げたとしても、2対の魔物が撃墜してしまう。

 

「ば、化け物……お頭…俺たちじゃ手に負えねぇ…な、なんだよそれ…!ごふっ!?」

 

「螺旋…?これ幸卵の槍だよ?」

 

平気で槍を突き刺している。

 

「幸卵、やり過ぎないようにね?」

 

「急所は外してるよ〜」

 

笑顔が少し怖い。

 

「アジトをぶっ壊した挙句?俺の子分を可愛がってくれたようじゃぁねぇか?あぁ?」

 

「うるさいなぁ?黙ってよ〜あなたも同じように捕まるんだから」

 

笑顔だが心から笑っていない。

 

無情に槍は振るわれた。

 

「あばばばばびびばばびば」

 

「あー…」

 

「もう暗いし、こいつら麻痺させとくから、休んでていいよ?」

 

休まないの?とでも言いたげな顔をしている。

 

「…空、とりあえず…休むか?」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「そういや、幸卵は雷元素でなんて言うのか…高速移動…瞬間移動みたいなことはしないのか?」

 

「うーん……やったことないかな。身体能力の問題かなぁ、使う必要も無いし、雷元素付与すると変化して身体能力また上がるし…」




おまけだよん

幸卵について
行秋
「彼女は魔人の文献を漁りによく来るよ。僕の面倒な頼み事も探り合い無しで聞いてくれたりしてね、正直助かってる節はある。代わりに僕も彼女の探す魔人の手掛かりを探している。僕も気になっているんだ。彼女をあそこまで執着させる魔人をね。」

幸卵について
重雲
「妖魔退治をしていた時に会ったことがある。あとは…行秋と一緒に本を探していた時にもいたな…?詳しくは知らないけど遠回しに利用されているような…でもこの前挨拶した時はそんな子じゃなかったような…」

幸卵について
香菱
「幸卵ちゃんは割と常連さんだよー?でも私がいなかったら帰っちゃうみたいなんだ。それに、グヴォパーも嬉しそうなの!凄い仲良しみたいでね!私も嬉しくなっちゃう〜」

幸卵について
凝光
「流石は甘雨の娘、と言うべきなのかしら。彼女は各地を旅しながら甘雨の仕事を助けてるそうね。行動力も体力も群を抜いているわ。そういえば彼女は突然璃月七星の元へ殴り込んで甘雨の補佐をさせて貰えるようにお願いしに行った、という話を聞いたことがあるわ。母親思いのいい子ね。」

幸卵について
刻晴
「幸卵ちゃん?あの子本当に可愛いわよ。この前甘雨の仕事場に行った時も私が来た事に気付かなくてずっと甘えてたの。普段あんまり表情を表してくれないから、あの時以来あの子の見方が変わったわ。ずっと部屋に閉じこもっているように感じたけど、案外扉から覗いているのかもね。」

幸卵について
七七
「幸卵は、七七にとっても姉妹みたいなの。薬草取りに行く時も、お昼寝する時も、よく、一緒に来てくれるの。でも、七七、幸卵が本当に笑ってるところ、心から、笑ってるところ、見た事、ないの。」

幸卵について
申鶴
「彼女のことは…あまり知らない。気になる点は枷もないと言うのに、何故あれほどまで何かを抑制しているのか…という事だ。」

幸卵について

「甘雨と奴の子…か。あの子は仙と人、ましてや魔の血を宿した少女だ。あの少女を支えているのは間違いなく甘雨の存在だろう…だが、あまりに不安定過ぎる。我が…彼女らの心配だと…?何を言っている。我は少女の父親に…この話はやめておこう。」

幸卵について
鍾離
「幸卵か…フッ。彼女についてはなんとも言い難いものがあるな。彼女が赤ん坊の頃引っぱたかれたことがあってな。慕われてはいると思うが、好かれてはいないだろう。」

幸卵について・名前
鍾離
「彼女の名は、母親にとっても、幸せの卵であるようにとその卵が産まれた時幸福になるようにと名付けた。だが今思えばその名は彼女の為とは決して言えないのだろう。同時にこの意味を知った時母親を愛す彼女にとって重荷になっていたのはと思うこともある。彼女は大変満足のようだがな。」

幸卵について
甘雨
「幸卵…ですか?自慢の…娘です。仕事もお手伝いしてくれて、頼りにもなるんですよ?でも、昔からずっと甘えん坊で、私もつい甘やかしてしまうことも多かったです…もう、本当に可愛いんです!今も、なんだかんだ2人の時は甘えてくれますし…」

幸卵について・心配
「私が岩王帝君と契約して、この璃月で仕事を始めた頃の事です。私は…幸卵を置いていくことにしました。人としても成熟しましたが…あまりに仙の道を進んでいましたから…きっと随分と寂しい思いをさせてしまいました…幸卵が産まれた時には既に游潾も……私は…母親として、幸卵の母親として生きることが出来ているのでしょうか?」

幸卵について
八重巫女
「姉君の娘さんか?1度しか会ったことは無いが、知っておるぞ。姉君に似て仕事の腕は確かじゃ。だが彼女の目は寂しい生き方をしてきた者の目であったな…」


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日常は渦の中へ

素早い誤字報告大変感謝です。

大きな変更点が1つ
本編2話の謎の伴侶にて、留雲借風真君、鍾離との会話内容に夜叉がいたんですが、こちらで調べた結果、魈がモラクスに仕えたのは魔神戦争終結後の可能性がありましたので、そちらの方向で進めさせていただきます。すまんかった。
過去編読んでくださってる方には影響します…

アンケ結果微妙に見たい人もいるみたいだけど無いです。多数決なんで。でも気が向いたら描きます

#我の中の幸卵像みたいな感じでTwitter募集しようかな。

調子乗りましたすまんかった

前回本編なんか文章の途中で終わってた…ぽいのに気付きませんでしたすまんかった。

こいついつも謝罪してるな


「うーん……やったことないかな。身体能力の問題かなぁ、使う必要も無いし、雷元素付与すると変化して身体能力また上がるし…」

 

「我も仙人の端くれじゃ〜元々の能力もあってだな〜」

 

突然白髭を生やしてドヤ顔で言う。

 

「どこまでも規格外なヤツらだな…」

 

「でも幸卵は…岩の神の目が欲しかったんだ〜」

 

また少し俯いてしまった。苦労しているみたいだ。

 

「どうしてだ?凄く使いこなしてるじゃないか。」

 

こんなに強いのに…?と首を傾げる。

 

「私は……師匠…というのかな?先生に憧れてたから」

 

「先生は岩を使ってて〜すごく強かったんだ〜その力でみんなを護っててね〜私もそうなりたいって思ってたの。だから凄く悲しかったよ?」

 

「でも先生は”その力が望む物でなくともその力がどんなものであろうともお前の使い方次第で如何様にも変化する。そう気を落とすな。護りたいのならその雷で害を成す者達を貫け”ってさ。本当にすごいよ先生は。」

 

「そうなんだな…今度先生についても聞かせてくれ!」

 

「え?先生って…空達も知ってる人だよ?」

 

幸卵の目が点になった。

 

「へ…?」

 

 

 

 

「さてっとそろそろおねむの時間でございますよ〜」

 

と立ち上がり、支度を始める。

 

「幸卵はここで寝るのか?」

 

「ん〜宝盗団の皆様方に逃げられたら困りますしねぇ。取り敢えずこの方々が麻痺してる間に担当の兵士に場所だけ伝えて戻ってくるかな〜寝るのはその後〜」

 

「ちゃんと休まなきゃだめだよ?」

 

壺を取り出しながら空が言った。

 

「大丈夫だ〜空くん!お母さんは幸卵の倍以上頑張っているのだ〜!まだまだ休んでられない〜よっ!」

 

ない胸を張った。

 

「じゃっ幸卵は璃月まで走ってくるね!また今度〜」

 

バチィっと音を立てて走り去った。というより消え去ったという方が正しいのかもしれない。

 

「オイラ達は寝るか…」

 

 

 

次の日………

 

 

璃月港

 

「まま〜ただいま〜」

 

言葉のテンションとは裏腹に執務室のドアを乱暴に開け机に向かう母親の胸に突撃する。

 

「幸卵、おかえりなさい。」

 

飛び込んできた幸卵を受け止めて頭を撫でる。

 

「まだ仕事が終わってないから、待っててね」

 

「………幸卵も手伝うのだ〜」

 

と散らかった書類を整理し始める。

 

すると気になる文章が目に入った。

 

「北斗…?あの船長さん?」

 

要約すると海に違和感があるからまた渦の魔神の何かしらが出るかもということ。

 

「まま、これって?」

 

「ん?確か幸卵は旅に出てたんだものね。前に…」

 

甘雨は幸卵に群玉閣再建、海灯祭の時の事を話した…

 

「はぇ〜申鶴さんともその時初めて会ったのか〜」

 

「そこじゃないでしょ…もう。」

 

そんな雑談をしつつも書類の山がどんどん無くなっていく。

 

「えへへ〜でもあの魔神も懲りないね〜あっ、ままも参加するんだよね?じゃぁ幸卵も頑張ろ〜っと」

 

幸卵が少し伸びをしていた…すると

 

…コンコン

 

「甘雨?今いいかしら、渦の残滓の事なんだけど…」

 

刻晴の声だ。丁度今話していたことについてらしい。

 

「はい。大丈夫です。どうぞ。」

 

ガチャッ…

 

 

 

「こちらが想定していたよりも早いわ。北斗からもすぐ迎撃準備しないとまずいかもって報告が来てるの。」

 

刻晴が地図を取り出し駒を置いていく。

 

「全体的な構成は前と変わらないわ。ただ北斗に渦の残滓の後方まで広く展開してもらうことになるわね。」

 

船の駒を動かしていく。

 

「でも彼らは群玉閣に怒りを向けるはず。だから防衛の要になるのは凝光が指揮する群玉閣陣営ね。」

 

「それで私達は近くの島々から支援する感じよ…場合によっては追撃戦も有り得るから覚悟しておいて。」

 

「あと前の反省点を……甘雨?」

 

新しい紙を取り出して違和感に気付く。

 

仕事にのめり込む甘雨が、虚ろな目をしていたのだ。

 

「あなた最近また休息をとっていないでしょ…頑張りすぎはダメっていつも言ってるわよね?」

 

ため息をついているが刻晴なりに心配はしている。

 

刻晴が椅子を持ってきて甘雨を座らせる。

 

「いえ…私は……幸卵も退屈ではないか…と…」

 

「それはそうかもしれないけど…幸卵ちゃん?」

 

椅子に座った甘雨の顔を覗き込んでいた。飲み込まれそうな程暗い色をした目だった。

 

「まま。」

 

「どうしたの?」

 

無理に笑顔を作っている。

 

「お父さんのこと?」

 

「…っ」

 

ほんの少し笑顔が崩れた。

 

「お母さんらしくないよ?」

 

「幸卵ちゃ…」

 

制止しようとした刻晴を甘雨が”大丈夫です”と止める。

 

「幸卵のお母さんはね、完璧なようで抜けてて仕事ばっかりだけど、色んな人の為に毎日頑張ってて、幸卵にも優しくてすごく強いの。」

 

「でもお母さんだって不安なこといっぱいあるのも知ってる、幸卵も大きくなって少しは頼ってよ。家族だもん。」

 

幸卵が笑う。

 

「……」

 

無言で幸卵を抱き寄せた。

 

「幸卵…」

 

「お母さん。お父さんのことは任せて。必ず…見つける。」

 

「…落ち着いた頃にまた来るわ。」

 

刻晴が気を利かせて席を立とうとした。

 

「刻晴さん。ご心配おかけしました。私は…大丈夫ですので続きを、お願いします。」

 

さっきまでの違和感はどこへやら。活き活きとしている。

 

「そ、そうかしら。なら続けるわ。それと幸卵ちゃんは今回…」

 

少しワクワクする。誰かを護る為の力にしたいから。

 

「待機ね。」

 

(・д・。)…………待……機……?

 

「璃月港に残って、逃げ遅れた人がいないか確認して欲しいの。任せてもいいかしら?」

 

仕事がないということではないようだ。

 

「うぃ〜」

 

不服気味に了承する。

 

「空がまだ滞在してるなら協力してもらいたいわね…」

 

「甘雨、申鶴は今どこにいるかわかるかしら?」

 

「借風真君に聞いてみます」

 

「こちらの予算はどう致しましょう?」

 

「じゃあ兵器の方の…」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

モラの関係する話になってきた。

 

モラは嫌いだ。簡単に人を人で無いものにしてしまう。

 

欲望に歪んで消えていった人を何人も見てきた。

 

その点お母さんや仙人のみんなは欲が薄い。ないと言いきってしまってはそれは生物としてどうなのだろうと思っている。

 

欲の点で言えばお母さんはおかしかった。なんか…こう淫らな…。

 

でもお父さんのせいだってのも分かったからあんまり気にしてない。

 

私は…

 

「……?」

 

誰かが服の裾を引っ張っている。

 

「幸卵…?」

 

振り向くとちまっとお札の貼られた帽子をかぶった少女が。

 

「七七ちゃん…?」

 

「幸卵、それ以上歩くと、落ちる。」

 

前を向くと、海だった。下を向いても、海。

 

「あちゃ〜心配させたようだの〜というか七七ちゃんが港にいるなんてどうしたの〜?」

 

七七は海を指さした。

 

「また、来るから、みんなに、危ないよって、伝えに来たの。」

 

「…だいぶまだ人いるんだね」

 

周りはいつもと変わらない光景。様々な人々が様々な目的のため忙しなく動いている。

 

「七七のはなし、やっぱり聞いてくれない」

 

しゅんとしてしまった。

 

「大丈夫だよ。人間は後悔するまで学ばないって言うし。前の襲撃で何も失わなかった幸せな奴らで。失った人の気持ちも分からず他人に当たるだけの勝手な生き物だ。」

 

「幸卵、怒って、る?」

 

今どんな顔をしているだろうか。怖い顔を作ってしまってるのだろうか。

 

「怒ってはいない。はず。」

 

「あ、千岩軍。」

 

たちまち市民が移動を始めた…

 

「……な、七七は悪くないよ…?」

 

 

 

 

避難に遅れた人はいなかった。

 

空を見上げれば黒い雲と、吹き荒れる風の音。

 

本当に来るようだ。

 

七七と桟橋に座る。

 

七七には避難するように言ったのだが”1人は、危ない、だから、だめ。七七が、いっしょにいる”と。

 

相手は怪物で幸卵が対峙する訳では無いのだが。

 

波に飲まれたら危ないからかな………………

 

 

 

 

 

「北斗……頼りにしているわ。」

 

雨の降る船着場にて豪華な装いの女性と海賊の女性が。

 

「おうよ。任せとけ!」

 

力強い拳を掲げ、荒れた海へ出る。

 

「今度こそ。私達で成し遂げる。」

 

強い覚悟と共に防衛の要となる群玉閣へと向かう。

 

 

 

「皆、もういつ来てもおかしくないわ。配置に着いて!」

 

璃月の海にある孤島に千岩軍の兵士が集まっていた。

 

「甘雨、無茶はしないでね?」

 

「はい。」

 

各々武器を持ち、物資の確認を始める。

 

「うぅ〜空〜本当に大丈夫か…?オイラ前よりなんか嫌な感じがするぞ〜?」

 

パイモンは相変わらずビビっている。

 

「パイモンは心配しすぎだよ?」

 

「だって魈も…

”我はこの地を護る。お前達の港はお前達で護れ。だが……渦の残滓にしては気配が濃い。万が一にも想定外がありやむを得ない場合は我を呼べ。”

って…」

 

「安心しろ、汝が危なくなったら我が護る。」

 

今回申鶴は手を出さないようにとの事だ。

 

前回の事もあるのだろう。

 

「多分そこにオイラは入ってないだろうな……」

 

 

 

「ふむ。今回はどうだろうか。見定めさせてもらうぞ。凝光。」

 

璃月を見渡すように1羽の鶴が佇んでいた。

 

 

人気の無い璃月港…

 

「誰もいない。昨日はあんなに賑わっていたのに。」

 

静かな港に、一人の男。

 

「あぁ、渦か…この感じも久しぶりだな。」

 

男は不敵な笑みを浮かべた。

 

「ん…?」

 

二つの人影が見えた。

 

「桟橋に少女が2人…」

 

何故気になったのか。注意を向けてみる。

 

「あれは…俺の札だな。何故彼女が…?」

 

愛しい者の為の札だったから。

 

「場合によっては…」

 

 

 

璃月港・桟橋

「七七ちゃ〜…この嵐…みんな大丈夫かなぁ…」

 

「七七たちの、ほうが、危ない、と思うの」

 




おまけ

改めて幸卵の見た目について
本編のどこかで書いただろうけど
これが最新版これが1番正しい

幸卵
母親譲りの瞳をしているが、少し青みが強い。
(雷元素付与で黄色に変化)
二重で眠そうな目
犬歯が上側左右にある

髪型はセミショートぐらいでぼさぼさ。
髪色も母親譲り
幸卵から見て右側の角が普通の麒麟
左側の角が麒麟の角が歪に枝分かれしていて青くなっている。(オセルの色がイメージ)

身長は甘雨より低い
胸は無い
厚めでぶかぶかのコートを前開きで
ロングスカートも前開きのもの
ズボンを履いている
装飾はふわふわ(だといいけど多分服に合わないなぁ)

ボロボロのマフラー


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相対するは流るる幸

お久しぶりです生きてます。
いつの間にかスメールですね。
甘雨ちゃんも復刻来ましたし、みなさん引きましたか?
私はここみんを引きましたね。え、何故?私これ以上甘雨引いても…

戦闘描写難しいですね。


璃月の東に位置する名も無き孤島。

 

渦の残滓に対抗するため、千岩軍が集まっている。

 

現場指揮に刻晴、補佐の甘雨。協力者として空や申鶴もいる。

 

「こちら側の準備はあらかた終わったわね…あとは…」

 

荒れた海を眺める。

 

既に海は荒れ、雨も強くなり始めてきた。

 

だが標的の姿が見当たらない。

 

 

「…うぅっ全然現れないな…冷えてきたぞ…」

 

雨が強くなり、警戒態勢をとるため外に出ていたのだ。パイモンが身震いしている。

 

「空、身体は冷えていないか…?」

 

「うん。大丈夫だよ。」

 

申鶴は相変わらず空のことを常に気にかけてるようだ。

 

「仙人ってなんかオイラに冷たいよな…さむっ」

 

 

しばらくしてバサバサと羽音をたて、刻晴の傍にある岩に降り立つ者がいた。

 

「留雲借風真君?どうしたんだろ?」

 

「留雲借風真君。我々に何か御用ですか?」

 

「いや。1つ気になったことがあってな。此度の襲撃は予兆からしても余りにも遅い。」

 

それに…嫌な予感がする、と。

 

 

「刻晴様…一度戻られますか?」

 

確かに雨で兵の体力も奪われているだろう。

 

「そうね…一度…」

 

態勢を整えようとした時。そうはさせないとでも言うように突然海に巨大な渦が出来た。

 

「ッ!!全員配置について!来るわ!!」

 

合図と共に千岩軍が一斉に動き始める。

 

大きな音を立てて姿を現す。

 

璃月上空・群玉閣

 

「やっと現れたわね…刻晴達の方は大丈夫かしら…?雨で体力を奪われ…まさかとは思うけど、それが狙いかしら…?」

 

防衛戦の総指揮をとる凝光。空中要塞にて思考をめぐらす。

 

「それでも私たちは負けるわけにいかないものね。砲台の準備は出来てるわね?それじゃあ、始めましょうか。」

 

璃月に岩元素のシールドを展開した。

 

武装船隊南十字・旗艦

 

「姉御〜やつが現れましたァ〜!」

 

「おう、バッチリ見えてる!!気合い入れ直せーお前ら!!」

 

姉御と呼ばれたその海賊、北斗。

 

交代で見張り、砲台等の準備を行い、刻晴サイドより少し緩めの体制を取っていた。

 

「待ちくたびれたぜ…よし、船を出す。背後に回るぞ!!」

 

 

三陣営が行動を開始した頃。

 

「現れたか…」

 

璃月より西の地にて一人の仙人が海の方角を眺めていた。

 

「以前よりも力は増している…?待て、この短期間でそこまでの力を溜め込むなど………」

 

「……」

 

璃月・船着場

 

 

「あれが渦の残滓ですかー大きいですなー」

 

一切の緊張感も無いまま遠くを見る2人。

 

すると目の前に岩元素のシールドが展開された。

 

「凝光様の、盾、展開、七七たちも、避難?」

 

璃月に残っているのはもう2人のみ、璃月にシールドも展開され、仕事自体はもう終わっている。

 

「えぇ〜ままたちのかっこいいとこ見たかったなぁ〜」

 

避難しますか、としぶしぶ重い腰を上げた。

 

「やぁ、こんにちは。1つ、聞きたいことがあるんだけど。いいかな?」

 

背筋が凍る。避難誘導もした。逃げ遅れた人の確認も隅々までした。

 

旅人等も千岩軍により止められているはず。

 

だったら誰━━━━━━━

 

ゆっくりと振り返るとそこにはゆったりとした服装に小綺麗なマフラーの男。気配は全く感じなかった。だが…

 

(渦…?)

 

彼からは感じるはずの無い渦の気配。母達が戦っているはずの存在と気配が酷似している。

 

七七を自身の背後に呼び。警戒する。

 

気配は人では無い…それに気付いていると悟られたらどうなるかは分からない。気付かない振りをすることにした。

 

「…ここは今立ち入り禁止区域。質問にも答えることは出来ない。立ち去って欲しい。」

 

「…そうだな、残念だ。」

 

分かってくれたかな?

 

渦の男は少し何かを考え、海に向かって歩き始めた。

 

「待って。どこに行くつもり。」

 

警告も無視して進もうとする彼の前に槍を出す。

 

「何処へ?もちろんあそこだが。」

 

彼は当然だと言わんばかりに戦場を指さした。

 

攻撃が始まればすぐにでも戦場となりうる場所へ見知らぬ者が何をするというのか。

 

あまりにも怪しすぎる。

 

「……みんなが、この場所を護るために戦おうとしているの…あなたは…そこに何をしに行くの?」

 

私はまだ子供のように見られてる。それは分かってるし、仕方ないことかもしれない。

 

だからと言って、この男をはいそうですか行っていいですよなんて言えるはずがない。

 

この渦は…大きすぎる。

 

少しでも、お母さん達の負担を減らさなきゃ…

 

「…様子を見に行くだけだよ…」

 

暗い声で返事をした。言い訳にもならない言葉からしても、もう分かっているようだ。

 

「………怪しすぎるよ〜…そんなの〜…通せないよね?」

 

辺りに鳴り響く雨と波の音。そして微かに聴こえる砲撃音。

 

既に戦いの火蓋は切られていたようだ。だが睨み合う両者は互いに動かない。

 

数分の沈黙……すると男はため息をつき、1歩前に出ようとした。

 

男の足が地に着いた時、幸卵の姿は無かった。

 

男の背後にまわり、自前の槍を突き付ける。

 

「……」

 

男の腹部を狙ったそれは身体を貫く前にピタッと止まってしまう。

 

「片手…かぁ…」

 

男は片手で難なく受け止めてしまった。幸卵には殺さないように、という意識はあっても、手加減した訳では無いだろう。

 

男は振り向いてすらいないかった。

 

掴まれた自身の槍を蹴り上げ、掴んだ手を振りほどく。

 

1度、七七の傍まで距離を取った。

 

「う〜ん…どうしようかなぁ…」

 

出来れば一撃で仕留めたかったが、それは叶わなかった。

 

相手の力が、技量が全く計れない。

 

「力だけなら〜何とかなるんだけど…」

 

「七七ちゃん、少し下がっててね」

 

相手に聞こえないように小さな声で伝える

 

「ん…」

 

七七が下がったのを確認してから左手に雷元素を集める。

 

「……雷…か。」

 

男は手を見て目を細める。だが自分から行動は起こしていない。

 

男が分析をしていると、幸卵は右手に持つ槍を男目掛けて投擲した。

 

男はこれも難なくいなす。が、幸卵がまた消えている。

 

背後にも気を回すが気配はない。

 

今度は…背後ではなく真上だった。

 

雷の音も立てず静かに飛び上がった少女は左手に持った雷元素創造物を真っ逆さまに叩きつける。

 

「避雷針ッ!!」

 

かなりの力を込めた一撃。創造物はバチバチとその大きな威力を隠しきれない。

 

「…!!」

 

男は紙一重でその攻撃を躱す。

 

地面に幸卵の創造物が突き刺さった。さらに、創造物を中心にして、雷撃が走り、ドーム状の膜を張る。

 

「危ないじゃないか。」

 

完全に避けきれてはおらず、痺れた左手を見て男は言う。

 

「余裕そう、だね?」

 

ニコっと笑う幸卵だが、次の行動に移っている。

 

雷元素に変化、一息で間合いを詰める。

 

幸卵は素手の戦い方を心得ていた。型や流派なんてものは存在しないが、神の目の加護もあり並ではない。

 

雷元素が纏われた拳で殴りつける。

 

対し男はいなすだけてま全く反撃をする気が無い。

 

(動きが速く…攻撃の苛烈さが増したか…恐らくはさっきの…?)

 

避雷針を避けきれなかったことによる左手の痺れが抜けず、右手だけでいないしている。

 

(右手もそろそろ麻痺してきそうだな…)

 

超電導反応により男の右腕も痺れ始めていた。

 

幸卵の攻撃を男がいなした時、男の表情が一瞬崩れる。

 

「……ッ!!」

 

左膝で男の右腕を蹴り上げた。そして身体を捻りがら空きになった胴体に右脚で強烈な一撃を食らわせる。

 

男はそのままぶっ飛ばされ壁へと衝突する。

 

「…元気だなぁ…この時代の子供は……」

 

やれやれと言った様子で頭を搔いていた。まともに蹴りを食らってなお平然としている。

 

「全然…効いてない…ね。」

 

槍と雷元素共鳴し手元に引き寄せる

 

(どうしようかな〜これなかなか厳しそう………七七ちゃんにお母さん達への元に向かって……いやそれより避難してる人達の……)

 

ふと違和感に気付く。

 

この辺りだけ雨が降っていなかった。

 

(雨の音はまだする…)

 

嫌な予感がした。

 

「…!?」

 

幸卵が空を見上げると小さな水玉が浮いていた。

 

「あー気付いたか、思ったより早かったな。まぁ、関係ないけど。」

 

男は立ち上がり、驚愕する幸卵を置いて海へと歩き始める。

 

「…!!通さな…」

 

慌てて反撃しようとする幸卵に、無数の水玉が高速で降り注いだ。

 

「少し眠っててくれ。安心しろ。聞きたいこともあるんでね。」

 

「避けきれ……」




おまけ……だけどなんか幸卵ちゃんについて知りたいことある?


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ぼろぼろのマフラーと雷蛇。

こんにちは。またまたお久しぶりです&誤字報告ありがとうございます。

気付けば12月。短編の予定が何故かここまで続いております。読んでいただいてありがとうございます。

物語も終盤…てのはどうでもいいのですが、皆さん放浪者こと柿原…じゃなくてスカラマシュは引きましたでしょうか。
わたしはもちろんレイラちゃんが好みでしたので完凸したんですよ。
あまりにでなくてクソ課金させられましてね…スカラマシュくんはお預けです。

そしてそして私が璃月キャラクターで唯一持ってない胡桃ちゃんの復刻がついにくるかもーー!!!なんて騒いでたらヨォーヨちゃんですよ。

ふざけんな!!また課金要素増やすんか!!
てことで胡桃とヨォーヨちゃん引いたらとりあえず課金辞めようかなって思ってます。


 

璃月の東に位置する名も無き孤島━━━━━━━

 

「……攻撃班は次の合図に備えて!!さっきの反撃で損害のあった班はある!?怪我人がいるならすぐ医療テントに行って!」

 

刻晴の指揮の下、千岩軍が忙しなく動いていた。

 

「攻撃班!準備は……って何してるの。」

 

帰終機を改造し人間にも扱えるようにした兵器。

 

構える千岩軍の中に…旅人とパイモンと申鶴がいる。

 

「おう!いつでも撃てるぞ!」

 

「安心しろ、我もいる。」

 

「いや、手伝えることは何かな〜って…ね?」

 

気持ちはありがたい、しかし彼等に今消耗してもらう訳には…

 

(ただ実際人手が足りてないのは事実ね…)

 

「まぁ、凄い助かるのだけれど……」

 

 

「3人で1つを扱う必要はないんじゃないかしら…?」

 

 

「刻晴様」

 

「どうしたの?甘雨」

 

旅人達のコントの相手をしていると秘書の甘雨が走ってきた。

 

「こちらの損害状況や残り物資の報告です…」

 

曰く、雨で体力を奪われていたものの、上手くテント班と現場班が回っているらしい。物資の方は準備してきた分が残っているらしくしばらく不足することは無いそうだ。

 

「ですが渦の攻撃はまだまだ苛烈になると思われますので、油断はできません…」

 

懸念点含め抜かりなく報告をする。流石なのだが…

 

「ねぇ甘雨、他に何か?」

 

「ふぇっ!?あれ、えと…あっ群玉閣や北斗さんの……」

 

慌てたような表情をして言い忘れがあったのかと目を回しながら言葉を紡ぐ。

 

「確かにみんなの状況も気になるけど甘雨…あなた少し暗い顔してたわ」

 

「………」

 

 

 

武装船隊南十字・旗艦

 

「姉御〜さっきの攻撃で物資が一部ダメになっちまったァ〜」

 

「なんだと!?くぅ〜…おめぇら!!ここで引く訳には行かねぇ!!意地見せたらぁ!!」

 

海賊達は北斗に鼓舞され雄叫びを上げる。

不安定の海の上。さらに限りある物資の中でもここまで戦えるのは流石と言ったところだろう。

 

すると遠くから雷の音が聞こえ始めた。

 

「雷まで鳴り始めたな……どんどん天候が悪くなりやがる…」

 

ドゴォーン……!!

 

「おぁっ!?だいぶ近くに落ちたのか…?お前ら大丈夫か!!」

 

 

群玉閣

 

「……ふぅ。」

 

群玉閣から岩元素創造物を射出、璃月のシールドの維持。これらを並行してやるには流石に体力を消耗する。

 

(ここまでは想定通り…だけれど。)

 

群玉閣にも、雷の音が聞こえ始めた。

 

(かなりの悪天候ね…?北斗や刻晴達は大丈夫かしら…)

 

そして、大きな雷が1つ。

 

「この方向…?璃月港を確認してもらえる?」

 

 

名も無き孤島

 

……

 

刻晴は普段から仕事ばかりしている甘雨の事を気に掛けている。

 

それ故にか今甘雨の声がいつもより少し低かったことに気付いていた。

 

「心配事があるなら話して?あ…その…大事なところでミスをしてもらっても困るもの!」

 

あまり私情を持ち込むのもどうかと思った刻晴は咄嗟に現場と関連付けた。

 

「おいおい空…雷まで鳴り始めたぞ…」

 

「本当だね〜高く浮いてるとパイモンに落ちるかも?」

 

「ぴゃっー!?やめろよ!怖いこと言うなよ!!」

 

雷の音にびびるパイモンに旅人が冗談で返す。

 

するとパイモンは旅人の腹部辺りに潜り込んでしまった。

 

「雷…は高い場所へ落ちるのか?」

 

「絶対に高い所に落ちるとは言わないと思うけど、高い所に落ちる〜っているのはよく聞くかな?」

 

気の抜けるほのぼのした会話を背に重苦しい空気が漂う。

 

「その…」

 

ついに甘雨が口を開いた時、大きな雷が落ちた。

 

「っ!?」

「ひゃっ!」

「おわっ!?」

「ぎゃーーーーーーーーーー!!」

 

「今の雷はっ!?損害確認ッ!!」

 

「我々には問題ありませんがしかし…」

 

千岩軍の兵士が報告に来る。損害は無いが少し焦った表情だ。

 

「どうしたの?」

 

「璃月港に落ちた可能性が高いとのことです!!」

 

 

璃月港・数分前

 

「あっ……」

 

呆気にとられた。

 

空を見上げれば無数の刃。

 

雨が少しずつ収束し鋭利な針を形成している。

 

「…何度も言わせてもらうが命を取る気は無い。あまり抵抗するな…」

 

やる気の無い低い声で男は何度目かの忠告をした。

 

ぱしゃ…と水溜まりを踏み歩く音が聞こえる。

 

「…!!通さないっ」

 

海へ歩く男に反撃しようとした少女に合わせ水針が降り注いだ。

 

「あーそれは避けきれないかなぁっ!?」

 

男に向かって踏み込んでしまった幸卵は、頭上からの攻撃をいなせる体勢ではない。

 

「顕現せよ。」

 

感情の乗らない静かな声と共に辺りの空気が凍えていく。

 

そして紛れもなくそれは氷元素の力であり、水元素である水針は凍結していく。

 

「ぁ」

 

小さく声を漏らす。

 

水針を凍結させたもののその勢いは止まらない。要するにまだ危ないのだ。

 

声の主は片手剣を手に取り自らと幸卵に当たる氷を砕いていく。

 

「七七ちゃ〜ありがと〜…だけど全部弾こうとしないのっ!!」

 

七七と呼ばれた少女は表情一つ変えずに氷を砕き続ける。

 

だが残りの水針を見ても全てを凍らせて砕くなんてことをするのは無謀すぎた。

 

体勢を整えた幸卵は七七の服を引っ張り走り出す。

 

「七七ちゃ〜。置いてけぼりにしちゃってごめん〜」

 

何も言わずに戦闘を初めていた故に、走りながら幸卵は謝っていた

 

「けが、なくて、良かった。」

 

未だに服を掴まれたまま七七は言葉を返す。

 

七七も加勢しようとしたがその時下がっててと言われた為に入りづらかったようだ。

 

「………直接的な攻撃は…されてない。」

 

 

男は海を前にして足を止める。

 

背後から大きな水音を何度も立てる音が聞こえる。

 

誰かが走ってきているのだろう。大方予想はつくのだが。

 

振り向くと先程の甘雨の娘と御札を貼られた小さな子。

 

水針に追われながら走ってきていた。

 

思ったより早いか…とも考えたが戦っていたのがそもそも桟橋だ。

戦う中で徐々に璃月の町の方に移動していたとはいえ、そこまで遠くない事に気付く。

 

「ここ狭いから戦いにくいんだよなぁ……」

 

どうでもいい愚痴をこぼし、少女達に向き合う。

 

ついでに水針を止めてやった。無駄に疲れるらしい。

 

「……あんまり執着すると嫌われるぞ」

 

「幸卵は…執着されるの嫌いじゃないよ〜?」

 

多少息切れを起こしながら少女は笑顔で返す。

 

「……そうか。」

 

対し男は灰色の空を悲しい表情で見ていた。

 

「………この嵐はまだ酷くなる。」

 

どこか遠くの方から雷の音がする。

 

「出来ることなら早めに済ませたいが…」

 

少女達に目をやれば、既に戦闘の準備は出来ている様子。

 

傷もいつの間にか治っていた。

 

「七七ちゃ〜今度こそまっかせてよ〜もう油断しない、本気でやる。」

 

「ん。でも、無理だめ。」

 

マフラーを握り、バチバチと雷が伝っていく。

 

体全体から雷元素が発せられ、隣にいたはずの七七は後ろへと下がっていた。

 

だが幸卵から放たれる雷元素に、男は違和感を感じる。

 

(あれは雷元素というより…自身が感電反応を起こしているのでは……雨だからか?いや何か引っかかる…)

 

自前の槍を天に掲げ若干薄気味悪い笑顔を浮かべる。

 

「…ここまで本気でやるのは〜いつ以来かなぁ〜」

 

 

「天動…万象」

 

 

師匠のパクリではあるが…と思いながら小さくつぶやく。

 

すると天から金色の雷が螺旋の如く、渦巻きながら落ちて来る

 

雷は槍を伝い、やがて幸卵の全身へと纏われた。

 

雷がマフラーに伝わった時、マフラーの端が蛇の顔へと変わっていく。

 

「…!?その力…何処で手に入れた!!?」

 

瞳孔を大きく開き、初めて男は動揺する。

 

「…ずっと…ずっと昔、パパとママからもらった幸卵の力だよ?」

 

先程の薄気味悪い笑顔と真逆に優しい笑顔で返した幸卵は雷元素へ変化、瞬時に男の背後へ回り込む。

 

「おい…お前の父の名は…!!」

 

慌てた様子で振り向いた男に対し幸卵は…

 

「答える必要…ある?」

 

冷たい声で返答し、すぐさま槍を突き付ける。

 

「くッ」

 

辛うじて弾くものの、男の手には限界がきているようだ。

 

「む〜弾かれたか…何気にさっきの肉弾戦で初めて雷変化してみたけど〜もうちょっとかなぁ〜」

 

もう若干油断し始めているような発言だが、幸卵の眼はしっかりと男を見ていた。

 

辛うじて弾いた男は幸卵から距離をとる。今の状態で彼女と戦うには分が悪い。

 

(海にさっさと逃げればいいが……逃げるのは癪だ。)

 

くだらないプライドと戦うも、それが己の信念なんだろうと解釈して受け取る。

 

「なら俺も少し頑張るか…」

 

そう呟いた男は手に岩元素を纏う。

 

「そんなもの…」

 

砕いてやる…と言わんばかりの猛攻。だが、

 

砕けない。さっきまで優勢だったものの、男が少し元素を纏っただけで変わってしまった。

 

雨の水元素との共鳴で感電しているはずだが…その気配もない。

 

ひたすら、自身の体力が減り続けるだけだった。

 

(短期決戦のつもり…だったけど…やばぃ、いたぃ…)

 

金色の雷は自身の体を蝕み続ける。感電反応もお起こり続けていたのだ。

 

「ごめん七七ちゃ〜!あれ貸してー!!」

 

少々涙目になりながら、幸卵は七七に叫ぶ。

 

「うぃ、行けっ。」

 

小さく頷き、氷血を札に変える。その札から鬼の人魂のような、球体を召喚する。

 

「ありがと〜助かるッ!」

 

その球体は幸卵のそばで浮遊し、時折男に体当たりする。

 

「冷たッ!?」

 

球体が男の腕に体当たりすると、男の腕が凍結していく。

 

 

「そういえば氷元素だったな…厄介…だが…」

 

目の前にもっと厄介なのがいる…

 

本気を出せば容易いが、こちらの負担も大きく殺す可能性もある。

 

そんな中、気になることもあって殺す訳には行かない。

 

「……はぁっ!!」

 

思男が思考しているところに、幸卵が雷の槍で氷元素との反応を起こす。

 

「ぐぅッ!!」

 

氷元素と雷元素の反応では…物理攻撃に弱くなる、防御が柔らかくなると聞いたが…

 

メインの槍、サブに球体の氷と蛇の雷、槍も元素化している…

 

だが何故だか先程より槍の威力が増している…?

 

バキッ…!!

 

岩元素が砕けた。力を温存しすぎたか…

 

 

「捉えるッ…」

 

一瞬の隙。岩元素を貼り直す前に…と槍を突き付ける。

 

が━━━━

 

「かはっ………!!」

 




あなたのお負けよ!!

幸卵・天賦

通常攻撃・金雷古槍術

避雷針 Lv13(棒を突き立て範囲攻撃。その後雷フィールドを展開し、範囲内にいる全ての生物に雷元素を付与する。雷元素が付与されている間移動速度+23%重撃などによるスタミナ消費-23%)

秘術・雷鳴隕 (雷を自身に落とし、一定時間ごとに雷元素ダメージを与える蛇を2対召喚。自身の通常攻撃が変化し雷元素ダメージに)

混血・渦の魔人(元素反応ひるみ・行動不能を無効にするが元素被ダメ+10%)

混血・麒麟(避雷針の雷フィールドの中にいるキャラの元素ダメージ+15%)

混血・家族(水元素と氷元素のキャラクターと編成されている時、感電と超電導の効果アップ)

みたいな?強すぎてもなんだかんだ創作だからおけぃ!!


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