「青藍島に来た理由は………ナオキです」 (ナオキ)
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ナオキです

社会派淫夢です。先輩は女の子、異論は認める。


「……大丈夫だよアサちゃん、兄ちゃんが守ってやるから」

 

 

そう言って橘淳之介は、妹である橘麻沙音の頭を撫でる。

数ヶ月前に両親が交通事故で死亡して、この世にたった二人残された兄弟。

 

妹を守る立場の兄はどれだけの覚悟でこの島に来たのだろう。まだまだ両親に甘えたいであろう妹の寂しさはどれほどのものであっただろう。

 

かつて暮らしていたこの島に約10年の時を越えて舞い戻り、祖父母の家に生活の拠点を移したものの新たな生活に不安は尽きない。

 

何故、この島の住人はおかしいと思わないのだろう。

何故、こんなことが許されているのか。

 

そんな疑問を胸に兄弟は学校へと向かう。

 

この島の名前は青藍島。島の周囲を囲う海の見事な蒼色から名付けられたそうだが、現在では違う意味で言われることがある。

『性乱島』。文字通り性の乱れる島、なるほど確かにこの島を言い表すのにこれほどぴったりな言葉は無いだろう。

 

かつてこの島は寂れていた。

産業は何一つ上手くいかず、高齢化に人口流失……もはやどうにもならない状況。日本中の様々な地域で見られる問題だ。

 

そんな状況だったからだろう、誰が考案したのかは今となっては分からない。

しかし、確かに島は息を吹き返した。性産業によって。

 

青藍島は『ドスケベ条例』なるものを打ち出し、それによって島を生き返らせる計画を立てる。

島の全域にドスケベ条例は適応され、いつでもどこでも性行為を行うことが可能になった。島はリゾート地として開発され、観光客が多く押し寄せ、本島からの移民も増え人口の問題も解決した。

 

確かに、この条例によって生活が豊かになったものもいるだろう。島は発展し昔よりも便利になった。

全て事実だ。例え誰であっても性産業に携わり生活の糧としている人たちを馬鹿にすることなど許されない。

 

そんなことは分かっている。

……そんなことは分かっている。分かっているけれども。

 

 

橘淳之介は叫びたい。

『何故君達は、愛の無いセックスを受け入れられるのだ』と。

少年の疑問に答える者は誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ兄、この道で本当に合ってるの?」

 

「……地図を見てるんだし大丈夫だよ、多分」

 

「そう言ってさっきはヌーディストビーチに出ちゃったじゃん……兄の方向音痴は妹の折り紙つきさ」

 

「……嬉しくない」

 

 

 

二人並んで歩く制服の男女。側から見ればカップルが一緒に登校しているように見えるが、実際はそうではない。

この二人の名は橘淳之介と橘麻沙音、その名から分かるように兄弟である。

 

この日は彼ら兄弟がこの島に引っ越して来て初めて学校に通う日だ。その学校の名前は水乃月学園という。

橘淳之介は極度の方向音痴であり、つい先程も道を誤りヌーディストビーチに辿り着いてしまっていた。故に妹の心配はもっともである。

 

 

「………あ!見てアサちゃん、あそこを歩いている人水乃月の制服じゃない?」

 

 

淳之介の視線の先には一人の男。確かに彼は、淳之介と同じ服を着ていた。

 

「あの人に聞いてみれば分かるよ」

 

そう言って彼に淳之介は小走りで近づいていく。

 

「すみません……」

 

淳之介が話しかけた男は、振り返る。

身長は170センチ強と、180センチ近くある淳之介に比べればだいぶ低い。だが顔立ちは非常に整っており、異性からモテるだろうと予想できる。

 

 

「俺たち引っ越して来たばかりで……その制服、水乃月ですよね?学校までの道のりがあっているか聞きたいと思って……」

 

「……実は僕も今日から水乃月に通うんです」

 

 

その男の返答は橘を驚かせる。初めて話しかけた相手もまた転校生、滅多にあることではない。

そして淳之介はその珍しさよりも、同じく転校生がいるという事実に安心感を覚えた。特にこの島では尚更だ。

 

 

「そうなんですか、こんなこともあるんですね……。せっかくなので一緒に学校まで行きませんか?何しろ方向音痴なもので……」

 

「いいですよ、よろしくお願いします。木村直樹です、高校二年生ですが……そちらは?」

 

「橘淳之介です。俺も二年です……こんなことってあるんですね」

 

 

二人は全く同じ境遇にいることの珍しさに思わず笑いが漏れる。

そして淳之介の隣に麻沙音は追いつき、挨拶をして3人で歩いていく。引っ込み思案の麻沙音は淳之介の背後に隠れることは多かったものの、互いに最初の印象は良かった。

 

両者とも今日から同じ学校に通う転校生であるということが大きいのだろう。

この島に良い印象を抱いていない橘兄妹であるが、それは木村も同じだった。どこでも構わずドスケベを始めるこの島で送る学園生活に不安を抱いていたことには変わりない。

 

だが両者ともこの島に来た経緯は語ることはなかった。

橘兄妹は両親が死亡したというつい先程出会った同級生に語れる内容ではないし、木村もこの島に来たということは何かしらの理由があるのだろうと察し、淳之介は聞かなかった。

 

だが、この島に来て初めて偏見なしに会話できる人と出会えたことで、淳之介は単純に嬉しかった。

 

彼ら3人は水乃月学園への道を進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

「──────………木村直樹です。ここに来る前は空手やってました。分からないことも多く皆さんに迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」

 

 

そう言い切ると、木村の新たなクラスメート達からは大きな拍手が送られる。さらに視線も飛んで来る。特に女子が多かった。

木村は実際整った顔立ちをしており、イケメンの転校生というのは女子生徒の憧れるシチュエーションの一つでもある。

 

「はい、それじゃあみんな木村と仲良くするように。ただし質問責めにして困らせるなよ!」

 

髪を短く刈った体育会系の担任がそう言うと、生徒達は返事をする。

「本当に分かってんだろうな」と教師が言い、クラスのお調子者であろう男子が「大丈夫でございます!」と答えるとクラスが笑いに包まれる。

そのやり取りから、生徒と教師の距離が近く生徒同士の仲も良いクラスだと木村は理解した。

 

 

「それじゃあ授業を始めるぞ、木村は机の上に置かれた教科書を使ってくれ」

 

 

そう言うと授業が開始される。

授業の進行速度は速くも遅くもない。ごく一般的なペースだ。

 

水乃月学園は特別に進学校ということもなく、これならば問題ないと思う木村は黒板に板書を記す教師をチラリと見た。

木村はその教師とかつて世話になった先生の姿を重ねる。

 

 

 

 

『……本当にすまない、木村。俺があいつらの企みに気づいてさえいればこんなことには……』

 

長身で引き締まった身体を持つ彼は木村に土下座をする。そして頭を床に擦り付けたまま微動だにしない。その声は震えているように聞こえる。

 

『……顔を上げてください、秋吉先生。僕、先生のこと恨んでませんから』

 

『すまない、すまない……』

 

 

ついには号泣しながら謝罪の言葉を口にし続ける秋吉と呼ばれた男。

彼は木村が通っていた高校の体育教師であり、そして迫真空手部の顧問でもあった。木村は学校生活を送る上で様々な点で秋吉の世話になっていた。

 

 

場面は移り変わり、次に木村は病院の一室にいた。

シンプルな内装に、棚に並べられたカルテなど、どうということのない平凡な医務室だ。

 

 

『……木村直樹くん、で良いんだよね』

 

『はい』

 

 

木村の前に座りパソコンに色々と打ち込んでいる白衣の男、平野は秋吉の紹介で連れてこられた高名な精神科医である。

何処と無くミステリアスな雰囲気を漂わせる平野は、木村がとある時間をきっかけとして心に深い傷を負ってしまったのを治療するために秋吉から依頼されたのだ。

 

 

『君の心に残った傷は普通に生活していたのでは治らないだろう。……日常においてハンデとなってしまう。だから僕はこの治療を提案するよ』

 

 

平野はパソコンにとあるウェブサイトと表示させ、木村に見せた。

そこには青藍島と書かれており、木村は今まで聞いたことのなかった島だ。

 

『平野先生……ここは?』

 

『この島は青藍島といってね……まぁ調べれば大体の情報は出て来る訳だが……ともかく君にはこの島に行って欲しいんだ』

 

『治療、ということですか?』

 

『あぁそうだ、最低でも二年、この島で過ごして欲しい。ご両親には僕が伝えておく……それに、お金の心配はしないでいい』

 

 

島で暮らすことが治療……その意味が分からない木村であるが、それは後々理解することになる。

木村を見る平野の目は真剣そのもの、何より彼が日本有数の精神科医なのだからその指示に従うのが良いだろう。

 

 

『……分かりました、僕は、青藍島に行きます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ木村くんってさ、この島に来る前は彼女っていたの?」

 

 

授業が終わった後の休み時間、木村の席の周りには人だかりができていた。

みんな良い人そうで、木村は一応安心した。特に女子が多く集まっているような気がする。

 

 

「いや……特にはいなかった、です」

 

「えぇー、じゃあ私が立候補しちゃおうかな?」

 

「おいやめろよ、木村が困っているだろう」

 

「……ははは……」

 

 

木村はこの島に来る前、青藍島についてある程度調べて来た。だから知っている、この島ではドスケベ条例なるものが規定されており、それによってどこでも男女の営みをして良いと。

だからこそ身構えていたのだが、流石に教室でおっぱじめるようなことは無いのだろう。木村はとりあえず安心した。

 

 

「まぁ何はともあれ、今日からよろしくな、木村!」

 

 

クラスのお調子者の男子がそう言う。木村もよろしくと返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前の授業の終了を告げるチャイムが響く。木村は弁当を片手に、校内で落ち着ける場所を探しに行くことに決めた。

そうして教室を一歩出る……そこは地獄であった。

 

学校の廊下で性行為を行う男女、それも一人や二人ではない。

この校舎にいる男女の殆どがこうして性行為に励んでいるのではないだろうか。木村に遅れて廊下に出て来たクラスメート達も、羞恥心がはるか彼方へ行ってしまったのではと思うほど自然に性行為を行い始める。まるでそれが当然であるように。

 

「……な、なんだよこれ……」

 

 

木村の脳裏にフラッシュバックするのは忌々しいあの事件の記憶。

思い出すことすら憚られる、だが克服しなければならない記憶。

 

 

だが、今の木村に目の前の状況を耐えることは不可能であった。ほぼ無意識に、木村は走り出す。

この光景から逃げるため。

 

 

 

 

 

やっとの思いで木村が辿り着いたのは、誰も使っていなかった教室であった。

内側から鍵を閉め、誰も入って来られないようにする。そしてやっと一息つくことが出来た。

 

 

「………僕もうダメかもしれないです、平野先生……」

 

 

部屋の隅で蹲り蚊の鳴くような声でそう零す木村。

 

 

「先生には僕がそんなに強い人間に見えたのでしょか……?僕は強くなんかありませんよ、これっぽっちも」

 

 

 

 

『おい木村ぁ、ラーメンでも食いに行くか?』

 

『いいぞ〜これ』

 

 

柔道着を着た二人の人間を木村は見る。

女子にしては高い170センチという身長の美少女である田所と、日本兵のような力強さを感じさせる坊主頭の男三浦。

 

彼らは木村が所属していた迫真空手部のメンバーであり、木村は先輩である彼らを心から尊敬していた。

木村はまだまだ発展途上であるが先輩二人の実力は高く、全国の強豪が練習試合に来るほどであった。

 

そんな先輩二人と、師範である秋吉、そして木村で過ごした日々は確かに楽しかった。

 

誰にも言って無かったが、木村は田所に恋をしていたのだ。人間的にも迫真空手の実力者としても田所を尊敬していた木村は、いつからか彼女に好意を抱くようになる。

 

 

『(身体の動き)硬くなってんぜ』

 

『い、いえ……すいません』

 

『ったく、しょうがねぇなぁ』

 

 

毎日遅くまで部員3人で居残り練習をして汗を流す。それが木村は幸せだった。

 

 

だが、そんな日々は終わりを告げる。

思えば、3人で風呂に入ろうと三浦に誘われた時点で何かがおかしいと気付くべきだったのだ。だが木村は憧れの先輩からの誘いを断れず、そして田所の裸体を見れることに舞い上がり二つ返事で了承した。

 

もう木村は逃げられない。

 

 

 

 

三浦の身体を洗う田所に、それをチラチラと見る木村。

バレないようにこころがけていたが、先輩二人にはバレバレであった。

 

そして木村も先輩二人の身体を洗わされる。断ることは出来ない、流石の木村もマズイと思い始めたが先輩の機嫌を損ねることはしたくなかった。

 

 

 

風呂から出たのち、三浦は木村に詰め寄る。

 

『お前さっき俺ら着替えてる時チラチラ見てただろ』

 

『いや、僕見てないですよ』

 

『嘘つけ絶対見てたゾ』

 

 

 

 

それからはあっという間であった。三浦からの追求にいつの間にか田所も加わり、木村は追い詰められて行く。

この時に、無理矢理にでも逃げるべきだった。

 

 

『見たけりゃ見せてやるよ』

 

 

その言葉で全てが始まる。

二人に蹂躙させる木村の身体。やめてくれと言っても二人は止まらない。

 

『やっぱ好きなんすねぇ』

 

『やめてくれよ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ授業が始まる……。戻らなきゃ……」

 

 

時計を見て見ると、午後の授業の開始まで5分もない。

数ヶ月前の嫌な記憶を思い出してしまったことを後悔しながら木村は廊下を歩いて行く。

流石に始業直前だけあって性行為を行っている生徒は少なかったが、情事の後に残るなんとも言えない匂いが周囲に濃く残っている。

 

 

「……本当に大丈夫なのかな」

 

 

木村の呟きは誰にも聞かれず消えていった。

 

 




ぬきたし面白いので皆も買って、どうぞ


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