アイリス・エーカー、ISの存在に心奪われた女だ! (113(いちいちさん))
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プロローグ

西暦2107年

 

EU軍事演習場

 

 都市に見立てた施設内を一機のISが高速で飛行していた。全身が銀色に塗られ、全体的に曲線のフォルムをしており、背中と腰のスラスターと翼は戦闘機を彷彿させる。最大の特徴は顔を覆う黒いバイザーと左右に伸びたブレードアンテナ、そして指揮官機を表すトサカ状のアンテナ。

 そのISは無数に配置されたバルカン砲からの攻撃に一発も被弾することなく正確に的を撃ち抜いていく。ISが交差点に差し掛かると新たなバルカン砲による死角からの攻撃が開始された。しかし、その攻撃は全て左腕に装備された”ディフェンスロッド”の回転により跳弾させられた。ISはそのまま急速に上昇すると宙返りした態勢のまま全ての的を撃ち抜いた。

 

「「「「おおおぉ・・・!!」」」」

 

 その様子を客席で見ていた軍事関係者や研究者、IS委員会の職員らも感嘆の声を上げた。ISはそのまま舞を披露するかのように客席の前で飛行を続けている。

 

EUイナクト、EU初のドイツ製正式量産型第3世代ISか・・・」

 

 その様子を客席から見ていた一人の少女。眼鏡を掛け長い茶髪をポニーテールにした背の高い少女、レベッカ・カタギリはそう呟いた。

 

「EUはフランスのデュノア社を始め、第3世代機の開発で遅れを取っていた。早めにどうにかしたかったんだろう」

 

 すると彼女の後ろから現れた金髪ボブの小柄な少女がそう言った。

 

「おや、良いのかい?ISWAD(アイスワッド)のエースがこんな場所にいて」

「勿論良くは無い」

 

 そう言ってその少女、アイリス・エーカーはレベッカの隣に座った。

 

「しかし、EUは豪気だよ。ISの10周年記念式典に新型の発表をぶつけてくるんだから」

「どう見る?あの機体を」

「どうもこうも、うちのフラッグの猿真似だよ。独創的なのはデザインだけだね」

『そこ!聞こえてっぞ!』

 

 すると、二人の会話を聞いたイナクトが二人に近付いて来た。バイザーが二つに分かれて開くと黒髪セミロング、つり目で左目の泣きぼくろが特徴的な少女が現れた。

 少女は容姿に似合わず荒っぽい口調で話しかけてきた。

 

「今何つった?ええ!?コラァ!」

「集音性は高いようだな」

「フフッ、みたいだね」

《パトリシア、貴様何をしている!さっさと戻らんか!!》

「す、すみません!少佐ぁ!」

 

 すると、イナクトに通信が入り、彼女は急いで演習場に戻って行った。

 

「成程、アレがEUのエース、パトリシア・コーラサワー少尉か。噂通りの様だな」

「そうだね」

 

 二人が話していると、アイリスの携帯端末に連絡が入った。

 

「ん?・・・私だ。・・・そうか分かった」

「どうしたんだい?」

「私と君にISWAD本部への帰投命令だ」

「いきなりどうして?」

「分からないが、緊急の要件らしい」

 

 

 

 

アメリカ合衆国 ISWAD本部

 

「EUの新鋭機視察、ご苦労だった」

「それで、緊急の要件とは?」

「・・・実は先日、世界初の男性IS操縦者が日本で発見された」

「何ですって!?」

「本当ですか!?」

 

 ISWAD本部長である女性の話を聞いて二人は驚きの声を上げる。

 

「ああ、事実だ」

「まさか・・・父ですら起動することが叶わなかったISを、起動できる男が存在したなんて・・・」

「誰なんですか?その男は」

「名前は織斑一夏(おりむらいちか)、かの”ブリュンヒルデ”織斑千冬(おりむらちふゆ)の弟だ」

「あのミス・ブシドーの!?」

「・・・研究する価値があると思いますか?」

「上もそう思っている様だ」

 

 そう言うと彼女は二冊のファイルを二人の前に取り出した。

 

「君たち二人に作戦命令が来た」

「・・・IS学園への入学?」

「そうだ、君達にはIS学園へ入学し、織斑一夏とそのISについてのデータを収集してもらう。早急に対応しろ」

「ハッ!アイリス・エーカー中尉、レベッカ・カタギリ技術顧問、受領しました」

 

 

 こうして半年後、二人はIS学園へと入学することになった。

 

 

 

 



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第1話 アイリス、IS学園に立つ

日本 IS学園 1年1組教室

 

「これは・・・想像以上にキツイ・・・」

 

 この学園で唯一の男子生徒である織斑一夏は教室中から自身に向けられるプレッシャーに顔色を悪くしながらそう呟いた。

 

「(ふむ、彼があのミス・ブシドーの弟・・・)」

 

 そしてその様子を横目で窺うアイリス。

 

「(日本男児はハーレムを強く所望するとカタギリから聞いていたが、あの様子を見るに彼は例外の様だな)」

 

 彼女は日本を訪問するにあたって自身の親友であり日本オタクであるレベッカから日本についての知識を教わっていたが、彼女の教えは何処かずれていた。

 

「皆さん入学おめでとう!私は副担任の山田真耶(やまだまや)です!」

 

 

シーン・・・

 

 

「「「「・・・・・・・・・・」」」」

「ハッ!よろしくお願いします」

「はっ・・・あ、ありがとう!」

 

 教卓に立った副担任の山田先生が挨拶をするが、アイリス以外の生徒の視線は一夏に釘付けになっており、アイリス以外誰も反応しなかった。

 

「あっ、今日から皆さんはこのIS学園の生徒です。この学園は全寮制、学校でも放課後も一緒です。仲良く助け合って楽しい三年間にしましょうね!

 それでは自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

 生徒の自己紹介が始まった。番号は五十音順なのでアイリスの番は直に訪れた。

 

「(日本では自己紹介が大切だと聞いた。あとキャラ付けなる物も)」

 

 アイリスはレベッカから聞いた事を思い出しつつ立ち上がった。

 

「アメリカの代表候補生、アイリス・エーカー中尉だ。これから三年間共に勉学に励む者同士、よろしく頼む」

 

 彼女の自己紹介に一夏のみに向けられていた視線が向けられる。

 

ひそひそ

「アメリカの代表候補生?」

「中尉ってことは軍人?」

「エーカーってあのグラハム・エーカーと何か関係が?」

「小っちゃくてかわいい」

ひそひそ

「(彼女が噂の代表候補生・・・油断できませんわね)」

「(なんだ?彼奴ってそんなに凄い奴なのか?)」

「皆さん静かにしてください!それでは次の人」

 

 彼女の名前を聞いて教室が少し騒がしくなったが、そのまま自己紹介が続けられた。そして遂に一夏の番が来た。

 

「えー、えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします・・・ッ!」

 

(◇_◇)(◇_◇)(◇_◇)(◇_◇)(◇_◇)(◇_◇)(◇_◇)(◇_◇)キラーン!

 

「ウッ・・・(いかん、ここで黙ったままだと暗い奴のレッテルを貼られてしまう!!)」

 

 

 

 

 

「・・・以上です!!」キリッ

 

ズコーッ!!!

「えっ?」

 

 一夏の言葉にクラス全員がずっこけた。

 

「(成程、これがジャパニーズズッコケか)」

「あれぇ!?駄目でした?・・・グアッ!」

 

 アイリスがどうでもいい事を考えていると、突然一夏の頭を殴られた。

 

「痛ったぁ・・・ゲッ!千冬姉ぇ!グアッ!」

「学校では織斑先生だ」

 

 二度も打った。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物にするのが仕事だ」

「「「「きゃあああああああ!!!」」」」

 

 彼女が自己紹介すると、教室が歓声に飲まれた。

 

「千冬様!本物の千冬様よ!!」

「私、御姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」

「この気持ち・・・まさしく愛だ!!」

「毎年よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ・・・私のクラスにだけ集中させてるのか?」

 

 その言葉にクラスはさらにヒートアップしていった。

 

「千冬姉ぇが俺の担任?」

「で、挨拶も満足にできんのか?お前は」

「いやぁ・・・千冬姉ぇ俺は」

「織斑先生と呼べ」

「はいぃ・・・織斑先生ぇ・・・」

「静かに!諸君らにはこれからISの基礎知識を半年で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半年で体に沁み込ませろ。良いか?良いなら返事をしろ、良くなくても返事をしろ」

「「「「はい!」」」」

「(これが織斑千冬…!正にブシドーだな…!)」

 

 

 HR後の休み時間、世界で唯一の男性操縦者である一夏の姿を一目見ようと教室の前には人だかりが出来ていた。しかし、そんな事には目もくれずアイリスはある話をする為に千冬先生の元に向かった。

 

「ミス・ブシドー、会えて光栄です!」

「その呼び方はやめろ、米軍内で何故かその呼び名が流行っているらしいが、そもそもそのミスブシドーとは何だ」

「父によると、日本では貴女の様な女性をそう呼ぶと教わりました!」

「・・・何年前のアメリカ人だ」

「父はあなたのファンでして、会った時に伝えてほしい事があると言っていました」

「何だ?」

「「君の存在に心奪われた。是非()()()()戦ってみたい」と」

「ッ!」

「白騎士のパイロットは不明とされていますが、父はモンド・グロッソの戦いを見て貴女だと確信したらしいです」

「・・・」

「その様子だと事実のようですね。大丈夫です、この事は私と父しか知りませんし、言いふらすつもりもありません。()()()()()()()()()()()

 

 

 一時限後の休み時間、授業の内容がほとんど分からず、更にISの参考書を間違えて捨ててしまった事を千冬先生に怒られた上、一週間以内に全て覚えろと脅された一夏は凹んでいた。そこに金髪縦ロールのお嬢様な見た目のクラスメイトが話しかけてきた。

 

「ちょっとよろしくて?」

「んぁ?」

「まあ!?なんですのそのお返事!わたくしに話し掛けられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

「悪いな、俺君が誰だか知らないし」

「わたくしを知らない!?セシリア・オルコットを!?イギリスの代表候補生にして入試首席のこのわたくしを!」

「あ、質問良いか?」

「ふん、下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

「・・・・・・代表候補生って何?」

 

ズコーッ!!!

 

 またもやクラス全員がずっこけた。

 

「あ?」

「信じられませんわ!日本の男性というのは皆これ程知識に乏しいものなのかしら!?常識ですわよ常識!」

「で、代表候補生って?」

「国家代表IS操縦者の、その候補生として選出されるエリートの事ですわ!単語から想像したら分かるでしょう?」

「そう言われればそうだ」

「そう、エリートなのですわ!本来ならわたくしの様な選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡!幸運なのよ!その現実をもう少し理解して頂ける?」

「そうか、それが二人もいるってことは相当ラッキーなんだな」

 

 一夏はそう言ってアイリスの方を見た。アイリスは二人の会話に興味無しで教科書の準備をしていた。

 

「ちょっと!今はわたくしが話しているんですのよ!大体、何も知らないくせによくこの学園には入れましたわね?唯一男でISを操縦できると聞いていましたけど、期待外れですわね」

「俺に何かを期待されても困るんだが・・・」

「まあでも、わたくしは優秀ですから貴方のような人間にも優しくしてあげますわよ?分からないことがあれば泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ?何せわたくし、()()()()()教官を倒したエリート中のエリートですから」

「あれ?俺も倒したぞ教官」

「はあ!?」

「ほう?」

 

 その言葉を聞いて今まで話に興味がなかったアイリスも一夏に視線を向けた。

 

「倒したって言うか・・・いきなり突っ込んできたのを躱したら、壁にぶつかって動かなくなったんだけど」

「(教官の自滅とはいえ、ISの素人が教官の攻撃を躱すとはな・・・)」

「わ、わたくしだけと聞きましたが・・・」

「女子ではって落ちじゃないのか?」

「貴方!貴方も教官を倒したって言うの!?」

「えっとぉ、落ち着けよ!なあ」

「これが落ち着いていられ・・・」

「私も倒したぞ」

 

 セシリアに迫られる一夏を見兼ねてアイリスが言葉を発した。

 

「何ですって、貴女も?」

「あれ?でもさっきセシリアだけだと聞いたって言ってなかったか?」

「ああ、()()ではな」

「入試?」

「私には色々と事情があってな。特別に推薦枠として入学した。その際に一応模擬戦を受けたので私も倒している」

「まさか・・・推薦枠など今まで聞いた事がありませんわ!」

「当たり前だ、今回が初の試みだからな」

「それはどういう・・・」

 

 そこで休憩時間を終えるチャイムが鳴った。

 

「ッ!・・・話の続きはまた改めて、よろしいですわね!」

「ああ」

「・・・(あれ、いつの間にか俺の事忘れられてね?)」

 

 

 

 

放課後 学生寮

 

「カタギリ、帰ったぞ」

「おや?お帰りアイリス」

 

 寮の自室に帰ったアイリスはノートPCを操作しているレベッカに声を掛けた。彼女は画面から目を逸らす事無く口を開いた。

 

「どうだった?噂の織斑一夏君は」

「どうもしない、何処にでもいる普通の少年だったよ。一見はな」

「ほう?」

「それで、整備・開発科の授業はどうだった?」

「全く退屈な授業だったよ。今更基礎知識を習ったところで得られるものは何も無い」

「おいおい、まだ初日だぞ?」

「元々、誰かさんとは違ってIS適正が低い僕の役割は一夏君のテータ解析と君のフラッグの整備だからね。ここでの授業はただのおまけさ」

 

 彼女、レベッカ・カタギリは父である米軍のIS開発主任ビリー・カタギリの天才的な頭脳を受け継ぎ、既に飛び級で大学を首席卒業している。更に、もう十年若ければISのコアを解明していたとまで言われ、父の師でもあったレイフ・エイフマン教授から直々に教えを請いている。

 その為、このIS学園での授業は彼女にとって最早常識でありそもそも入学する必要自体無いのだ。

 

「まあ、軍の命令には従わないとね。それに、君のフラッグは父さんが直々にチューンした機体だ。僕にしか整備できない」

「フッ、あてにしてるぞ。親友」

 

 

 

 

IS学園 職員室

 

「ハァ・・・」

 

 織斑千冬は自身が担任であるアイリス・エーカーと、整備・開発科一年一組のレベッカ・カタギリの資料を手に溜息を吐いた。

 

「先生、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ」

「この二人、やはり?」

「ああ、間違いなく米軍からの差し金だろう。狙いはやはり一夏についてか」

「どうします?やはりここは早めに拘束した方が・・・」

「いや、証拠もないのに拘束することはできない。それに、連中が一夏に危害を加える事は無いだろう。彼奴らはそういう事を嫌っている、あくまで一夏と専用機についてのデータ収集止まりだろう」

「たしかに、そうですね」

 

 千冬はそう言いつつ資料に目を落とす。

 

「レベッカ・カタギリ。米軍のIS開発主任ビリー・カタギリの一人娘、大学を首席で卒業後米軍IS機動部隊”ISWAD”の技術顧問に就任。ISの開発にも携わっている天才だがIS適正はC」

 

 そしてもう一つの資料に目を向ける。

 

「アイリス・エーカー。米空軍のエース、グラハム・エーカーの一人娘。ISに高い適性がありそれを見込まれ僅か12歳でISWADに入隊。その後数々の戦果を挙げ、現在フラッグのみで編成された”第8独立戦術飛行隊”通称「オーバーフラッグス」の隊長を務める。IS適正はS

「本当に凄いですよねこの二人」

「ああ、二人共近年稀に見る天才、内一人は世界でも僅か数人しかいないSランクという事で特別推薦枠として入学を許可したが・・・そもそもこの二人はIS学園に入学する必要すら無いエリートだ。そんな二人を態々入学させる理由はやはり一夏だろうな」

 

 そう言いつつ、彼女はアイリスからの言葉を思い浮かべる。

 

「是非また戦ってみたい、か・・・」

 

 

 

 

約10年前 太平洋

 

 煙を上げながら撤退する艦隊の上空を数機の戦闘機が飛行している。

 

「弾道ミサイル2341発を全て迎撃し、各国の艦隊を()()()()()()()()()()()()壊滅させた、白騎士・・・」

 

 アメリカ空軍最新鋭VTOL戦闘機”F-91 Gセイバー”を操縦するエースパイロット、グラハム・エーカーはそう呟いた。

 

《どうしますか?隊長》

「撤退だ、我々の敵う相手ではない。ハワード、臨時で指揮を任せる。」

《隊長はどうするんですか?》

「私は今から単独で白騎士に向かう」

《まさか・・・無茶です!!》

「熟知している。白騎士との戦闘で死者は出ていない、彼女の目的は恐らくアレの性能を世界に知らしめることだけだ」

《しかし・・・いえ、分かりました。どうかご無事で》

「感謝する!」

 

 僚機の撤退を確認したグラハムは最高速で白騎士に向かった。

 

《ちーちゃん!また敵だよ!》

「ああ、分かっている。米軍のGセイバーか、しかしこのスピードは・・・」

《スペックの二倍以上のスピードで迫って来てるよ!》

 

 白騎士の操縦者である織斑千冬とISの開発者であり今回の事件を引き起こした張本人の篠ノ之束(しのののたばね)はセンサーに映る機影に気付いた。

 

「荷電粒子砲での撃墜ではパイロットが死亡する危険性がある、プラズマブレードで撃墜する」

《えーいいじゃん別に。どうせパイロットがちーちゃんだってことは絶対にバレないんだから》

「五月蠅い!この計画に参加する代わりに絶対に死者を出さないと約束しただろ!」

《ちぇっ、分かりましたよー》

 

 そう言って千冬はグラハムへ向けて飛び出した。

 

「む、接近警報、やはり近付いて来たか!」

「(このスピードなら回避できない、一気に主翼を切断させてもらう!)」

 

 そう言って千冬はすれ違いざまにプラズマブレードを振った。しかし。

 

「何ッ!?」

「読んでいたさ!」

 

 寸での所で機体を僅かに傾ける事で攻撃を回避したグラハムは通常ではありえない速度で旋回し、逆に白騎士を追い始めた。

 

「馬鹿な!?旋回時のGで死ぬぞ!!」

「貰った!!」

 

 白騎士をロックオンした機体からミサイルが二発発射される。しかしそれらを全てブレードで撃破するともう一度グラハムに向かって行った。

 

「初めましてだな、白騎士!」

「何者だ?」

「グラハム・エーカー、君の存在に心奪われた男だ!!」

※通信はつながっておらず、完全に独り言です。

 

「仕方ない、砲撃を避けた瞬間を狙う!」

 

 千冬は砲撃を避ける位置を計算し、その瞬間に撃墜する為に動いた。

 

「さあ、避けてみろ!」

 

 千冬は万が一直撃しないようギリギリ当たらない位置に粒子砲を発射した。しかし、それに対してグラハムはまさかの方法を実行した。

 

「なッ!?」

 

 グラハムはGセイバーを垂直離着陸モードに切り替えることで空中でまさかの急ブレーキをかけたのだ。

 

「人呼んで、グラハムスペシャル!!」

 

 グラハムはそのまま白騎士に向けてミサイルと20㎜バルカン砲を撃ち出した。白騎士はミサイルを全て撃ち落とすもバルカン砲を数発受けてしまった。

 

「クッ、私が被弾するとは…!」

《ねえちーちゃん、もう殺っちゃおうヨ!》

 

 二機はその後も激しい空中戦を繰り広げたが、先に根を上げたのはグラハムであった。

 

「ウッ!?・・・クッ、この程度のGに体が耐えられんとは・・・」

 

 過度なGによる身体への負担で吐血したグラハムがそう言った。身体だけでは無く、急速な旋回や急停止などで機体にも多大な負荷が掛かりいつ墜落してもおかしくない状況だった。

 その為、グラハムは撤退することを決めた。

 

「何だったんだ、彼奴は・・・」

 

 遠ざかって行く機体を見つめながら、千冬はそう呟いた。

 

 

 

 

IS学園 職員室

 

「グラハム・エーカー、血は争えないという訳か・・・」

 

 千冬は誰に言うでも無く呟いた。

 




F-91 Gセイバー
 米軍の最新鋭VTOL戦闘機。設計はレイフ・エイフマン教授
 ISの登場がなければ世界最強の戦闘機の名を欲しいままにしていた傑作機。現在もISの総数が非常に少ない為全ての米空軍基地に配備されている。
 なお、高速飛行中の垂直離着陸モードへの移行は本来想定されていない。

 見た目はユニオンフラッグの飛行形態を100%戦闘機にしたような形。名前の由来はガンダムF91とGセイバーから。


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第2話 刮目させて貰おう、少年

IS学園 1年1組教室

 

「これより、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めてもらう」

 

 朝のHRで千冬先生がそう言った。

 

「クラス代表者とは、対抗戦だけでなく生徒会の会議や委員会の出席など、まあクラス長と考えてもらっていい。自薦他薦は問わない、誰かいないか?」

「はい!織斑君を推薦します!」

「え!?」

「私もそれが良いと思います」

「お、俺!?」

 

 唯一の男子として持ち上げられる一夏。アイリスとしても一夏がISで戦う機会が増える事でデータ収取が楽になる為、是非彼に選ばれて欲しいと考えた。

 

「他にはいないのか?いないなら無投票当選だぞ?」

「ちょっと待った!俺はそんなのやらな・・・」

「納得がいきませんわ!!」

 

 このまま流れで決まりそうになっていた時、セシリアが待ったを掛けた。

 

「そのような選出は認められません!同じ代表候補生であるアイリスさんなら兎も角、男がクラス代表なんて良い恥晒しですわ!このセシリア・オルコットにその様な屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!大体、文化としても後進的な国で暮らさないといけないこと自体、わたくしにとっては耐えがたい苦痛で・・・」

 

 言いたい放題である。

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ、世界一不味い料理で何年覇者だよ」

 

 あんまりな言い分に流石の一夏も言い返さずにはいられなかった。

 

「な!?美味しい料理は沢山ありますわ!貴方、わたくしの祖国を侮辱しますの!」

「(先に侮辱したのは其方だろうに・・・)」

 

 セシリアの言葉にアイリスは心の中で突っ込んだ。

 

「決闘ですわ!!」

「ああ良いぜ、四の五の言うより分かりやすい」

「わざと負けたりしたらわたくしの小間使い、いえ奴隷にしますわよ!」

「ハンデはどのくらい付ける?」

「は?あら、早速お願いかしら?」

「いや、俺がどのくらいハンデ付けたらいいのかなーっと」

 

 その言葉を聞いた瞬間、教室は笑いに包まれた。

 

「織斑君それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのって、ISが出来る前の話だよ!」

「むしろ男と女が戦争したら三日持たないって言われてるよ?」

「うっ(しまった・・・そうだった・・・)」

「いや、そうとも限らない」

 

 アイリスの言葉に、視線が彼女に集中する。

 

「どういう事?アイリスさん」

「そうだよ、ISを使える女の方が男より強いじゃん」

「ISを使える事だけが勝敗を別つ絶対条件では無いという男を私は知っている」

「誰なの?」

「私の父だ」

 

 その言葉に教室は再び笑いに包まれた。

 

「お父さんって!何々、未だにお父さんに怒られるのが怖いの?」

「うちのお父さんなんて、毎日お母さんに怒られて凹んでるのに!」

「私の父は()()()でISを撃墜した男だ」

「またまた~噓でしょ?」

「戦闘機なんて前時代的な物にISが負ける訳無いでしょ」

「いや、私知ってる!」

 

 皆がアイリスの言葉を否定する中、一人のクラスメイトがそう言った。

 

「ニュースで見たよ!一年前、たった一機でISに戦いを挑んだGセイバーのパイロット、グラハム・エーカー!」

「グラハム・エーカー?」

「えっ、あれって作り話じゃ?」

「事実だ」

 

 千冬先生の言葉に、全員が驚いた。

 

「世界で唯一ISを撃墜した男。グラハム・エーカー少佐はアイリスの父だ」

 

 その言葉に再びアイリスに視線が向けられる。

 

「そう言う訳だ。それでは勝負は次の月曜、第三アリーナで行う。織斑とオルコットはそれぞれ準備をしておくように・・・織斑!」

「はいっ!」

「気張って行けよ?」

「は、はい!」

 

 

 一時限目の授業

 

「織斑、お前のISだが準備まで時間が掛かるぞ」

「へ?」

「予備の機体が無い。だから、学園で()()()を用意するそうだ」

「専用機?一年のこの時期に?」

「つまりそれって、政府からの支援が出るってこと?」

 

 千冬先生の言葉でクラスが騒がしくなる。

 

「専用機が有るって、そんなに凄い事なのか?」

「それを聞いて安心しましたわ!」

「なッ!?」

 

 先程まで自分の席に着席していた筈のセシリアが突然一夏の前に現れた。

 

「クラス代表の決定戦、わたくしと貴方では勝負は見えていますけど?流石にわたくしが専用機、貴方は訓練機ではフェアではありませんものね」

「お前も専用機ってのを持ってるのか?」

「ご存じないの?よろしいですわ、庶民の貴方に教えて差し上げましょう。このわたくしセシリア・オルコットはイギリス代表候補生、つまり現時点で既に専用機を持っていますの。世界にISは僅か467機、その中でも専用機を持つ者は全人類70億の中でもエリート中のエリートなのですわ!」

「467機?たった?」

「ISの中心に使われているコアって技術は一切開示されてないの。現在、世界中にあるISは467機。その全てのコアは篠ノ之束博士が作成した物なのよ?」

「(それって(ほうき)の姉さん・・・)」

 

 一夏は幼馴染である篠ノ之箒(しのののほうき)の事を横目で見た。彼女はIS設計者である篠ノ之束の実の妹なのである。しかし、本人はその事に複雑な感情を抱いている。

 

「ISのコアって完全なブラックボックスなんだって。篠ノ之博士以外は誰もコアを作れないんだから」

「でも博士は、コアを一定数以上作ることを拒絶しているの」

「国家、企業、組織機関では割り振られたコアを使用して研究、開発訓練を行うしかない状況なんだよ」

「(ISのコア・・・教授が生きておられたら、解明できていたかもしれないな・・・)」

 

 アイリスは世界で最もISの真実に近付いた人物、レイフ・エイフマン教授の事を思い浮かべる。彼は一年前、とある事件により死亡している。

 

「本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なのでデータ収集を目的として専用機が与えられる。理解できたか?」

「な、何となく」

 

 

昼休み

 

「あの、アイリスさん」

 

 アイリスが食堂に向かおうとしていると一夏に話し掛けられた。

 

「何だ?」

「ISの事、教えてくれませんか?あんなこと言った後で格好悪いですが、このままじゃセシリアに何もできずに負けそうなんです」

 

 何の話かと思えば、ISについての教授のお願いだった、しかも何故か敬語で。傍から見れば小柄で幼い顔をしたどう見ても年下にしか見えないアイリスに対して、年上にしか見えない一夏が頭を下げているという不思議な光景が広がっている。

 一夏的には、初対面という事とは別に、アイリスからは年上と言うか武人的なオーラが感じられたのでつい腰が低くなってしまうのだ。

 

「別に構わないが、機体が無い今の状況では基本的な事しか教えられないが?」

「それだけでも大丈夫です!どうかお願いします!」

「ま、待った一夏!!」

 

 そこに待ったを掛けたのは幼馴染である箒だった。

 

「そ、それくらいなら私が教えてやる!」

「えっ?いやでも、やっぱりここは代表候補生でISの専門家のアイリスさんに教わった方が・・・」

「機体が無いのに何を教わるんだ!基礎知識なら私でも十分教えられる!」

「いやでも」

「それに!アイリスさんは代表候補生で色々と忙しいだろ!」

「えっ?そうなのか?確かに代表候補生って響きからして大変そうだけど・・・」

「そうだろう!・・・それに、このままじゃ一夏と二人きりの時間が減ってしまう・・・

「ん?何か言ったか?」

「い、言ってない!」

「(ふむ。成程、これが噂に聞くツンデレ幼馴染と鈍感系主人公か。カタギリに教えてもらったライトノベルとやらによく出てくる人種だったな)」

 

 二人の会話を何所かズレた考えで聞いているアイリス。大体レベッカの所為である。

 

「(ここは助け船を出してやるか)確かに、機体が無い状況では基礎知識くらいしか教えてやれないだろう。それなら、初対面の私よりも幼馴染の彼女から教わった方が気が楽じゃないかな?」

「アイリスさんまで・・・うーん、確かにそうなのかな?」

「では少年、頑張ってくれたまえ」

「あ、ちょっと!アイリスさん!」

「そう言う訳だから、今日から放課後私がみっちり鍛えてやるからな!」

「ええっ!?」

 

 

 

 

一週間後 IS学園 第3アリーナ

 

「あれがイギリスの第3世代IS”ブルー・ティアーズ”か」

 

 アイリスは観客席からステージ上に浮かぶセシリアの蒼いISを見て呟いた。

 

「(しかし何だな、絶対防壁が有るからとは言えISスーツは何故ああも露出が激しいのか・・・)」

 

 ISを効率的に運用するための専用装備としてISスーツという物があるのだが、何故かその殆どは俗に言うスクール水着のようなデザインなのだ。

 ISは特殊なバリアーで守られている為装甲による防御を必要としない。その為フラッグやイナクトの様な全身装甲に近いISはあまり多くない。

 

「(だからと言ってやはりアレはどうなのだ?私自身は既に慣れているから今更羞恥心を感じる事は無いが、父は「柔肌を晒すとは・・・破廉恥だぞIS!!」と言っていたな。カタギリによると日本には肌を晒すほど強くなる文化があるらしいが)」

 

 アイリスがどうでもいい事を考えていると、ようやく銀色のISに乗った一夏が現れた。

 

「あのIS、まさか・・・まあいい。刮目させて貰おう、少年」

 

 遂にセシリアと一夏の試合が始まった。

 開始直後、セシリアからのビーム攻撃に一夏は直撃してしまった。その後も何とか回避を試みるも被弾を繰り返し徐々にエネルギーを削られていく。一夏はブレードを取り出しセシリアに接近しようとするも激しい銃撃に中々近付けないでいた。

 

「このブルー・ティアーズを前にして初見でこうまで耐えたのは貴方が初めてですわね。褒めて差し上げますわ!」

 

 セシリアが余裕顔でそう言った。

 

「でも、そろそろフィナーレと参りましょう!」

 

 そう言うとブルー・ティアーズの翼と思われた四つのパーツが突如本体から離れビームを撃ちながら一夏に迫る。

 

BT兵器(長距離遠隔攻撃システム)か!?」

 

 縦横無尽に飛び回る無線ビットを見たアイリスが僅かに顔を顰めてそう言った。

 ビットによるオールレンジ攻撃により追い詰められる一夏、しかし。

 

「一か八か!!」

 

 ビームをブレードで弾くと一気に加速して行った。

 

「何と!?」

 

 一夏はそのまま攻撃を躱しつつセシリアに近付いた。そしてそのままビットの一つを叩き落したのである。

 

「分かったぜ!この兵器は毎回お前が命令を送らないと動かない!しかもその時、お前はそれ以外の攻撃が出来ない」

「(BT兵器の弱点をこの短時間で理解するとは・・・しかし)」

 

 アイリスは一夏の洞察力の高さに素直に感心した。しかし、それ故に慢心により生まれた隙をアイリスは見逃さなかった。

 一夏は残りのビットを全て切り落としあと一歩の距離までセシリアに近付いた。しかし。

 

「掛かりましたわ」

「しまった!?」

 

 一夏は隠されていたもう二つのビットから発射されたミサイルに直撃してしまった。

 その様子に誰もが一夏の敗北を悟った。しかし、アイリスだけは違った。

 

「いや、違う」

 

 煙が晴れると、そこには先程までの鈍い銀色ではなく全身が眩い白に染まり、全身の形を変えたISが居た。

 

「やはり、先程まで()()()()で戦っていたのか」

 

 そう、一夏は先程までパイロットのデータが反映されていない初期設定の状態で戦っていたのだ。一次移行(ファースト・シフト)が完了し、本当の意味で彼の専用機白式(びゃくしき)となったのだ。

 彼は今までとは段違いのスピードでセシリアに近付くとプラズマブレードを振り上げた。しかし・・・

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

「えっ!?」

「ハッ!」

 

 あと一歩のところでエネルギー切れにより一夏の負けとなった。

 

 

 

 

放課後 IS学園 学生寮

 

「成程、粗削りではあるけど初期設定の機体でここまで動けるとはね」

 

 一夏の試合映像を確認しながらレベッカはそう言った。あの試合の後、アイリスは自己訓練の参考資料として試合映像を譲り受けていた。(千冬はアイリスの狙いに気付いていたが物的証拠が無い他、参考資料として試合映像を生徒が入手することは普通に許可されている事なので記録映像を渡した。アイリスもその事を知っていたので盗撮などは行わずに堂々と映像を譲り受けた)

 

「彼自身の事もだけど、このISは少し特殊だね」

「特殊?」

「ああ、このISは()()()()した時点で単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を使用できるようになっている」

「単一仕様能力を?」

「ああ、白式には織斑千冬の専用機であった暮桜(くれざくら)と同じバリア無効化能力「零落白夜(れいらくびゃくや)が搭載されている様だ」

「成程、正に姉弟機と言う訳か」

「知っての通り単一仕様能力は二次移行(セカンド・シフト)に移行して初めて発現する物だ。君のフラッグの様にね」

「開発は日本の倉持技研だったな」

「その筈だけど、あそこがそんな技術を持っていたなんて報告は無かった筈なんだけどね」

「今まで隠していたのか。それとも・・・」

「第三者による物か」

 

 そこまで考えて二人は話を変える事にした。

 

「所で一夏君の事はどう思う?」

「たった一週間でISの素人があそこまで動けるようになるとは考えられん。普通の人間ならな」

「彼はもしかすると君と同じで天性の才能があるのかもしれないね」

「そうかもしれんな・・・ところでカタギリ」

「何だい?」

「気になっていたんだが、ここ最近機嫌が良さそうだな。それに、帰りが遅い時もある」

 

 実はIS学園に入学してから何時も退屈そうだったレベッカが、ここ最近機嫌が良いのだ。また、何時もはアイリスよりも早く帰ってきてPCを操作していたレベッカが偶に帰るのが遅い時があるのだ。

 

「ああ、言って無かったかな?実は最近同士が出来てね」

「同士?」

「ああ、更識簪(さらしきかんざし)君と言ってね。フラッグの整備中に偶然出会ってね、最初は何故だか凄く警戒されていたんだけど、アニメや漫画の事で盛り上がってからは警戒を解いてくれてね。今じゃあIS開発の合間にアニメの鑑賞会なんかもしているよ」

「IS開発?」

「ああ、彼女の専用機らしいんだけど、詳しい話は僕も知らない。自分の力で完成させたいらしいけど、一人の力じゃあ出来る事も限られてるから僕も色々手伝ってるんだ」

「ほう?カタギリが直々に手を加えるというなら良い機体に仕上がるだろうな」

「それは少し違うよ、完成させるのはあくまでも彼女だ。僕はただ彼女の背を押してやるだけだよ」

「そうか・・・所で、立ち聞きは良くないな?」

 

 アイリスがそう言うと、天井から微かに物音がした。

 

「フフフ・・・」

「何だい!?」

 

 突然聞こえてきた笑い声にレベッカが驚いて椅子から立ち上がると、天井の一部が開きそこから「蜘蛛」と書かれた扇子を持った銀髪の少女が降って来た。

 

「誰だい君は!?」

「地獄からの使者・・・ではないけれど。初めましてフラッグファイターさん?」

 

 レベッカの問いによく分からない回答をした後、その少女はアイリスに話しかけた。

 

「貴女は、かの”荒熊の娘”ソーマ・スミルノフ中尉を降し、見事ロシア代表操縦者の座を手にした現IS学園生徒会長更識楯無(さらしきたてなし)殿とお見受けします」

「あら?ご存じ頂けていたとは光栄ですわ、アイリス・エーカー中尉?所で、よく気付いたわね。私も本気で気配を消していた積もりなんだけど?」

 

 彼女は「見事!!」と書かれた扇子で口元を隠しながらそう言った。

 

「ただの乙女座の勘ですよ」

「乙女座?女の勘じゃなくて?」

「彼女、いつもそんな感じなんですよ」

 

 アイリスの言葉に呆れた顔をした楯無に対して、苦笑いを浮かべたレベッカはそう答える。

 

「それで、何の御用でしょうか?」

「私はただ、未来の生徒会長がどんな人物か見に来ただけよ?」

「そうですか。私には、どちらかと言うとカタギリの方を気にしているように見えますが?」

「どういう事だい?アイリス」

「まさか?別に、米軍が織斑一夏の事だけじゃなく()()()にまでちょっかいを掛けてるんじゃないか・・・何て事は全然考えてないよ?」

「はて?何を仰っているのかよく分かりませんが?」

「気にしないで、ただの独り言だから」

 

 そう言って部屋を出ようとする楯無。

 

「あっそうだ!」

 

 扉を開けた彼女は振り向くと、レベッカの事をじっと見つめた。

 

「・・・妹の事、どうかよろしくね」

 

 先程からの威圧的な声では無く、何処か気まずさと安心感が混ざった様な声でそう言うと部屋から出て行った。

 

「アイリス、彼女は・・・」

「さぁな。何にせよ、彼女のお眼鏡に適ったようだな、カタギリ」

「え?あ、ああ・・・?」

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 アメリカンフラッグ

IS学園 グラウンド

 

 アイリス達はISの実技授業の為、ISスーツを着てグラウンドに集合している。

 生徒の殆どが学校指定のISスーツを身に着けている中、代表候補生など一部のメンバーは専用のISスーツを着用している。

 アイリスもその一人であり、ラッシュガード型で白地に黒いラインが入っており、左胸にISWADのシンボルマークである剣を思わせるマーク、背中にフラッグの頭部を模ったオーバーフラッグスの部隊章が描かれたISスーツを身に着けている。

 

「では、これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、試しに飛んでみろ」

「えっ!?」

「分かりましたわ」

 

 飛行の手本として一夏とセシリアの名が呼ばれた。この二人は前の決闘で飛行している姿をクラスメイトが見ているという事で選ばれたのだろう。

 千冬先生の言葉にセシリアはすぐさまISを展開するが、一夏は展開に戸惑っている様だ。

 

「あ、あれ?」

「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで()()と掛からないぞ」

「・・・集中・・・来い、白式!」

 

 セシリアに遅れて一夏もISの展開を完了した。

 

「よし、飛べ!」

「はい!」

「ようし・・・うおっ!?」

 

 合図でセシリアは高速で飛行して行くが、一夏は大きく振ら付きながら飛行を開始した。

 

「(ふむ、やはりオルコットに比べて練度の低さが窺えるな)」

 

 アイリスは振ら付きながら飛行する一夏を見て、決闘の際よくあそこまで動けたなと改めて思った。

 

「織斑、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ」

 

 思考している間に千冬先生から急降下と完全停止の指示が出た。

 セシリアは流石代表候補生という事もあり危なげ無く着陸した。しかし、一夏の方は全く減速する事無く地面に向かって猛スピードで突っ込んできた。

 

「おうわああっ!!」

「ッ!?」

ズドオォォン!!!

 

 そしてそのまま地面に激突して土煙を上げた。

 

「一夏!?」

「織斑君!?」

 

 その光景に箒と山田先生が声を上げた。しかし。

 

「全く、何をやっている少年」

「えっ、あれ?」

 

 煙が晴れた先には、ISを展開し白式を支えるアイリスの姿があった。

 黒を中心に所々白が入った直線的なボディ、白式やブルー・ティアーズよりもかなり細いスラッとした脚部と腕部、戦闘機を彷彿させる背部と腰部の翼の付いたスラスター、黄色のバイザーと後ろに伸びたブレードアンテナ、左利きの為右腕に装備されたディフェンスロッド、翼にマーキングされたオーバーフラッグスの部隊章。

 これこそが彼女のIS”カスタム・フラッグ”である。

 

「何あの機体?」

「って言うか何時ISを展開したの?」

「展開したのに気付かないほど速いなんて・・・」

「馬鹿者、グラウンドに穴を空けるつもりか」

「すみません!」

 

 皆がアイリスの展開速度に驚いている中、千冬先生は一夏に対して注意する。

 

「ちょうど良い。エーカー、手本を見せてやれ」

「ハッ!分かりました」

 

 そう言うとアイリスは飛び立った。

 

「あれが、アイリスさんのIS・・・」

「アメリカのアイリス社が開発した第3世代IS”アメリカンフラッグ”、第2世代機だった”アメリカンリアルド”の後継機だよ。今から一年半前、当時世界中で第3世代機がまだ実験段階だった中での正式採用、それもワンオフ機じゃなくて量産機っていう事で大騒ぎになったんだ」

「基本色は水色。汎用性と省エネを重視した機体で、エネルギー消費を抑えるため機体の徹底的な軽量化が採られてるの。それにISの防御は基本的にシールドバリアーに頼りきりだけど其処も省エネ化するためにディフェンスロッドを装備することで防御時のエネルギー消費を抑えてるの」

「武装は基本的に主武装の20㎜ハイブリッド・リニアライフル、副武装のソニックブレイド&プラズマソード、左腹部の7.62㎜機銃、脚部ミサイルユニットの四つだけ。高火力なワンオフ機と比べてシンプルだけど、戦う場所・操縦者を選ばない量産機としては理想的なんだ。武装にも省エネ化が施されていて、ソニックブレイドはプラズマソードと切り替えて使う事でエネルギー消費を抑えられるし、特に凄いのはハイブリッド・リニアライフルでね、セミ・フルの切り替えは従来のリニアライフルと変わりないんだけど、実弾の上にビームをコーティングすることで威力を上げつつエネルギー消費を抑えられる様になっているんだ。しかも、ビームもしくは実弾単体でも撃てるからエネルギーが少ない時は実弾、弾切れの時はビームって感じで切り替えて使うことが出来るんだよ」

「此処まで徹底した省エネ化がされているのは単一仕様能力を使用する為なんだ。単一仕様能力はかなりのエネルギーを消費する事が多いから燃費が悪くなることは避けられないんだ。だけどフラッグはこの大幅な省エネ化のお陰で今までの実験機なんかとは比べ物にならないほど稼働時間が伸びてるんだよ」

「だけど、世界初の量産型第3世代機ってことで色々と量産に手間取って、今だに完全な機体変更は出来ていないんだって」

「その所為でフラッグはまだたった15機しか生産されていなくて、エースパイロット達に優先的に配備されてるんだ。だからフラッグに乗れる操縦者は敬意を込めて「フラッグファイター」って呼ばれてるんだよ」

「へえー、よく分かんないけど凄いんだな」

 

 クラスメイト達の説明に全てを理解できないまでもとりあえず凄さは伝わったのでそう返しつつも、高速で空を自在に飛び回るアイリスの姿に一夏の眼は釘付けにされる。

 

「すっげー・・・」

「でもアイリスさんのは色が違うよ?」

「それによく見たら形も少し違うみたい」

「セシリアさんは代表候補生なんでしょ?何か知らない?」

「いえ、わたくしも初めて見ますわ。事前に調べたアイリスさんのデータにはあのような機体の事は何も書かれていませんでしたわ」

 

 

 

 

数か月前 アメリカ合衆国 ISWAD本部 

 

 格納庫内、アイリスとレベッカ、そして開発主任であるビリー・カタギリの三人は一機のフラッグの前で話をしていた。

 

「バックパックと各部関節の強化、機体表面の対ビームコーティング、武装はアイリス社が試作した新型の30㎜ハイブリッド・リニアライフルを取り寄せたよ」

「壮観です!カタギリ主任」

「エイフマン教授の自宅からフラッグに関する強化プランのデータが見つかってね。それを僕が引き継ぎ実現させたんだ」

「”オーバーフラッグ・カスタム”じゃあ長すぎるから名前は”カスタム・フラッグ”だね」

「今後、全てのフラッグに同様のカスタムを施す予定だよ。このカスタマイズによって第一形態の機体も第二形態並みの性能にアップされる、正にオーバーフラッグ(フラッグを超える)だね。と言っても、君の機体の様に二次移行した上でのカスタム化には劣るけどね。二次移行して本当の意味でのオーバーフラッグになるという事さ」

「おお・・・これが中尉のフラッグですか!」

 

 ビリーが機体の説明をしていると、格納庫の入り口から眼鏡を掛けた茶髪でショートカットの少女と、赤髪をドレッドヘアーにした褐色肌の少女の二人が入って来た。

 

ハンナ・メイスン准尉ダリア・ダッジ曹長、アイリス・エーカー中尉の要請により参上しました」

「来たな。二人には話した通り、私は数か月後IS学園に入学する。私がいない間、オーバーフラッグスを頼むぞ」

「ハッ!誇りあるフラッグファイターとして、必ずや守る事を約束します!」

「その忠義に感謝する!」

 

 

 

 

放課後 IS学園内食堂

 

「織斑君、クラス代表決定おめでとー!」パンパンパンッ

 

 現在食堂では「織斑一夏クラス代表就任パーティー‼」なる催しが行われていた。

 

「何で俺がクラス代表なんだよ」

「それはわたくしが辞退したからですわ。まあ、勝負は貴方の負けでしたが、しかしそれは考えてみれば当然の事。何せわたくしが相手だったのですから」

「ぬぅ・・・」

「それでまあ、大人げなく怒った事を反省しまして、一夏さんにクラス代表を譲ることにしましたの!」

「いやーセシリア分かってるねぇ!」

「そうだよねー、折角男子がいるんだから持ち上げないとねー!」

「人気者だな一夏・・・ふんっ!」

「何でそんなに機嫌が悪いんだよ・・・」

 

 勝負で負けた一夏であったが、セシリアが辞退した事によりクラス代表に決定した。新聞部による撮影などで盛り上がる中、アイリスは少し離れた位置で静かに飲み物を飲んでいた。

 其処へ飲み物を手にしたレベッカが近付いて来た。

 

「おや、良いのかい?こんな所に居て」

「こういう騒がしい場は趣味に合わん」

「だろうね」

 

 彼女はそのままアイリスの隣に座った。

 

「見てみなよ彼を、全く絵に描いたようなハーレム系主人公だね」

「彼は今の状況を煩わしく思っている様だがな」

「ハハッ、そうだね。それにあのイギリス代表候補生・・・セシリア君と言ったか、あれは完全にホの字だね」

「ホの字?」

「惚れてるって事さ。それよりもどうだった?フラッグの調子は」

「良好だ。やはり空は良い」

「君は昔からそればっかりだね。僕が言うのも何だけど、そろそろ彼氏の一人や二人見つけたらどうだい?あそこの一夏君とか」

「断固辞退する。私は既にISという存在に心奪われている」

「そうだったね。尤も、僕もISに魅入られた一人なんだけれども」

 

 

次の日 1年1組教室

 

「もう直ぐクラス対抗戦だね!」

「そうだ、二組のクラス代表が変更になったって聞いてる?」

「ああ、何とかっていう転校生に変わったんだってね」

「転校生?今の時期に?」

「うん、中国から来た子だって」

「ふん、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?」

「どっちかと言うとアイリスさんの方なんじゃないか?それにしてもどんな奴なんだろ、強いのかな?」

「むうっ・・・」

 

 クラスでは目前に迫るクラス対抗戦と、二組の転校生の事で持ち切りだった。

 

「今の所専用機を持ってるのって一組と四組だけだから余裕だよ!」

「その情報古いよ!」

 

 教室の入り口から突然聞こえた声にクラスの全員が振り返った。其処には制服の肩回りを改造したツインテールの少女が立っていた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから!」

(りん)?お前鈴か!」

「そうよ!中国代表候補生凰鈴音(ファンリンイン)!今日は宣戦布告に来たってわけ!」

「鈴・・・何格好つけてるんだ!すっげー似合わないぞ!」

「な、なんてこと言うのよアンタは!?アウッ!」

 

 一夏と鈴が話していると後ろから来た千冬先生に鈴の頭が叩かれた。

 

「痛ったぁ、何すんの!?ふぁっ!?」

「もうSHRの時間だぞ」

「ち、千冬さん!?」

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ邪魔だ」

「す、すみません・・・また後で来るからね!逃げないでよ一夏!」

 

 そう言って鈴は二組の教室へ帰って行った。

 

「彼奴が代表候補生・・・」

「(ふむ、あれが中国の代表候補生か)」

 

 

昼休み IS学園内食堂

 

 アイリスは食事をしながら一夏たちのテーブルを見た。一夏と親しげに話す鈴、話を聞く限り彼女も一夏の幼馴染らしい。そして其処に混ざる箒とセシリア。

 

「成程、アレが俗に言う修羅場という奴か」

「おりむー大変だねー」

「・・・と言うかなぜ君がいるんだ」

 

 三人の不穏なやり取りを見てそう呟くアイリスと、何故か一緒のテーブルに座っているクラスメイトの布仏本音(のほとけほんね)

 彼女とはクラスが同じな割に殆ど交流が無かったが、レベッカに連れられて簪と顔合わせをした際、偶然彼女も一緒にいた為最近はそこそこ交流が増えた。

 

「ねえねえ、何か三人があいりんのこと見てるよー」

「ん?」

 

 アイリスが顔を向けると何故かあの三人がこちらを睨んでおり、暫くするとまた話が始まった。どうやら誰が一夏の特訓をするかという話になった時、一夏がつい「どうせ教えて貰うならアイリスさんが良いんだけど・・・」と口を滑らせた為一瞬此方に敵意が向いたらしい。結局、アイリスは一夏に対して異性としての興味が一ミリも無かったため三人も彼女を敵視する事を直にやめたようだ。因みに一夏への特訓は箒とセシリアが行う事が決まった。

 こうしてクラス対抗戦までの日々は過ぎて行った。

 

 




オーバーフラッグ
 元々フラッグが二次移行した姿をオーバーフラッグと呼称していたが、カスタマイズした通常のフラッグも総じてオーバーフラッグと呼称する様になった。


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第4話 決戦!クラス対抗戦

IS学園アリーナ

 

 クラス対抗戦当日、アイリスはレベッカと共に観客席にて試合を観戦していた。

 第一回戦は一夏と鈴の試合である。

 

「アレが白式、直接見るのは初めてだよ。相手は中国の第3世代機甲龍(シェンロン)か。今回の彼はどんな戦い方をするんだろうね?楽しみだよ」

「ああ」

 

 鈴の機体は、赤色がかった黒色で両肩の丸型のカスタム・ウイングが特徴的な中国の第3世代IS”甲龍”である。

 二人が見守る中、試合が始まった。

 開始と同時に白式が飛び出し甲龍もそれに合わせて動き出す。両機は激しい鍔迫り合いの後一旦離れ。何やら会話した後再び格闘戦を始めた。

 

「両機共近接格闘型。機体性能は勿論の事、操縦者の腕に左右されるね」

「ああ、見た所やはり甲龍のパイロットの方が力量は上だろう。彼と彼女では経験も練度も違いすぎる」

「なら、やはり勝つのは甲龍の方かい?」

「どうかな?彼はこれまでも圧倒的な力量の差を土壇場で覆している」

「そうだね、ホント君と同じで予測不能な人だよ彼は」

 

 その時、白式が謎の砲撃を受け地面に墜落した。

 

「今のは・・・」

衝撃砲だよ、空間自体に圧力をかけ砲弾として打ち出す兵器だ。()()()()()()()()()()()()()()()だから回避が難しい厄介な代物さ」

「近接武器しか持たない白式としては完全な射撃型であるブルーティアーズよりも厄介な相手だな・・・(さあ、どうする少年?)」

 

 白式は見えない砲撃に曝されながらも何とかそれを回避している。しかし、次第に白式の動きに変化が訪れた。

 

「おや?彼、何かしようとしてるみたいだね」

「恐らく瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使用するつもりだろう。ただし、それが通用するのは恐らく一回限り。その瞬間に勝負が決まる」

 

 そして白式は甲龍の一瞬の隙を突いて急加速した。その時。

 

ドカアアァァァン!!!

 

 突然、何かがアリーナの遮断シールドを突き破り地面に衝突した。

 

「何だ!?」

「攻撃!?・・・あれは!?」

 

 燃え盛る炎と煙の中から一機のISが現れた。

 全身が黒く両腕が巨大な全身装甲型であり、既存のISには含まれない機体だった。

 

「IS!?何処の機体だ!?」

『試合中止!織斑!凰!直ちに退避しろ!』

 

 サイレンと共に観客席の隔壁が閉じ、生徒達はパニックになりながらも避難を開始する。

 

「アイリス、僕達も避難を・・・」

「いや、無理だな」

「何を言って・・・扉がロックされている!?」

 

 何故かアリーナの出入り口がロックされており生徒達は避難できないでいた。

 

「どうやらただの襲撃では無い様だな・・・カタギリ、離れていろ」

 

 そう言うとアイリスが首に掛けていたドッグタグが光り出し、一瞬でフラッグを纏ったアイリスが現れた。

 

「ミス・ブシドー」

《エーカーか》

「非常事態につき独自の判断でISを展開しました。アリーナの扉がロックされています」

《此方でも確認している。それで、どうするつもりだ?》

「今から私のISでアリーナの扉を破壊する許可を頂けないでしょうか」

《分かった。今は非常事態だ、仕方がない。破壊した施設の修理費は米軍に請求するから安心しろ》

「感謝します」

『皆さん離れてください!今からISでこの扉を破壊します!』

 

 千冬先生に許可を貰ったアイリスはスピーカーで生徒達に声を掛けながら扉の前に移動した。

 周りに誰も居なくなった事を確認すると、プラズマソードで扉を切り裂いた。

 

『皆さん!慌てず順番に避難してください!』

 

 アイリスの言葉に生徒達は何とか落ち着いて避難する事が出来た。そして客席にはアイリスとレベッカだけが残った。

 

「君はどうするんだい?」

「フッ・・・ミス・ブシドー、出撃許可を頂きたい」

《・・・本気か?》

「私が思うに、恐らく此処以外にもハッキングを受け、鎮圧部隊は到着に時間が掛かっている。違いますか?」

《ああ、その通りだ》

「今二人の救援に向かえるのは私だけです。それに、貴女は私の実力を知っている筈です」

《・・・ハア・・・分かった、出撃を許可する。その代わり、必ず無事に戻れよ》

「感謝します!・・・そう言う訳だカタギリ」

「全く、やはり君は予測不能な人だよ」

「誉め言葉と受け取ろう」

 

 そう言うとアイリスは格納庫へ向けて飛び立った。

 

 

IS学園アリーナ

 

 一夏と鈴は正体不明のISと戦闘を繰り広げていた。しかし、直前まで試合をしていた為二人共エネルギー残量が残り少なくなっていた。

 

「クッ・・・このままじゃあ・・・」

《織斑、凰、聞こえるか!》

「千冬姉ぇ!」

《良いかよく聞け、今其方にエーカーが向かっている》

「アイリスさんが!?」

《ああ、エーカーが到着次第、お前達は退避しろ》

「えっ!?でもアイリスさん一人じゃあ!」

《彼奴はそんなに簡単にやられる奴じゃない》

 

 その時、アリーナの格納庫から一機のISが高速で飛び出してきた。

 

「アイリスさん!」

「少年!凰!良く持ちこたえた。あとは私に任せてもらおう」

 

 アイリスは二人を守る様に前に立つとそう言った。

 

「アンタ一人でやる気!?」

「そうですよ!幾らアイリスさんが強くても一人でなんて・・・」

「君達にISでの実戦というものを見せてやろう」

 

 そう言ってアイリスは敵ISに向かって飛び出した。リニアライフルを撃ちつつ接近すると敵ISもアイリスを認識したようで後を追い始めた。

 

「先程からの単調な動き・・・もしや無人機か?」

 

 アイリスは敵ISの動きに人間らしさを感じない事に気付いた。敵ISは操縦者が完全に見えない全身装甲型で、動きも何所かプログラムされているような単調なものばかり。その為。アイリスは敵ISは無人機だと当たりを付けた。

 

「無人ISなど聞いた事も無いが、まあいい。パイロットが乗っていないという事なら手加減は要らないな!」

 

 アイリスは射撃を回避しつつ、追ってくる敵ISに目を向けた。

 

「ほう、追い付いてくるか。なら、コレはどうかな?トランスフォーメーション!!」

 

 彼女がそう言うと、フラッグの形状が変化し始めた。

 胸部装甲やカスタム・ウイングの向きが身体と平行になり、手に持っていたリニアライフルがウイングと一体化し真上から見るとまるで戦闘機のような形状になった。

 これこそが彼女の単一仕様能力”トランスフォーメーション”である。

 彼女は先程までの倍以上の速度で飛行を開始した。それに対して敵ISも必死に追い付こうと加速する。

 彼女はそのまま急旋回をすると、今度は彼女が敵ISを追いかける形となった。そのままリニアライフルを発射し、それらは全て敵ISに命中した。敵ISも旋回しビームを撃ちつつ近付いてくるがアイリスはそれらを全て回避し、すれ違い様に放たれたプラズマブレードをも回避する。

 

「正確な射撃だ。だが、それ故に避け易い!」

 

 両機共に急旋回を行いまたも向かい合う形となる。

 敵ISはこれまでマシンガンの様に撃っていたビームをチャージする事で太い一本のビームとして撃ち出してきた。

 アイリスはそのビームを人型に変形する事で回避する。

 

「名を借りて、アイリススペシャル!!」

 

 彼女はそのままライフルとミサイルを放つ。

 敵ISはそれらを全て腕でガードする。そこへプラズマソードを振り上げたアイリスが一気に近付いて来た。

 

「切り捨て、御免!!」

 

 アイリスはそのまま敵ISの右腕を切断した。その直後相手が放った左腕のパンチを躱すと敵ISの頭部を思い切り蹴り上げた。

 

「やはり無人機だったか」

 

 アイリスは切断した右腕から垂れた配線等を見て確信する。そしてそのままプラズマソードを敵ISの胸の中心に突き刺し、アリーナに高速で落下した。

 

 

IS学園 モニタールーム

 

「敵ISの沈黙を確認!」

「凄い・・・本当に一人で倒してしまいましたわ・・・」

「だから言っただろう、心配ないと」

 

 モニターには、地面にできたクレーターに横たわる敵ISとその上でプラズマソードを構えたアイリスの姿があった。そこに一夏と鈴が近付き何か話している。

 

「(しかしあの動き)」

 

 千冬は望遠カメラで捉えていたアイリスの戦闘を見てある事を思い出していた。

 そう、彼女が行っていた動きは約10年前に戦ったグラハムと全く同じ動きだったのだ。

 

「(全く・・・性格といい何もかもが似ている親子だ)」

 

 こうしてクラス対抗戦は乱入者により中止する事となった。



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第5話 ダブル転校生 

IS学園 1年1組教室

 

 波乱のクラス対抗戦から数日後、何故かクラスでは今月開催されるトーナメントで優勝すれば一夏と付き合えるという話が広まっていた。

 

「(布仏め、また誤情報を広めているな?)」

 

 アイリスはこの噂の元凶は布仏だと断定した。その後、何時もの様にSHRが始まった。

 

「今日は何と、二人の転校生を紹介します!」

 

 山田先生の言葉で、教室に二人の生徒が入って来た。

 

シャルル・デュノアです。フランスから来ました、皆さんよろしくお願いします!」

 

 最初に入って来た金髪を後ろで結んだ美少年?が自己紹介をした。

 

「お、男?」

「はい!此方にボクと同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を・・・」

「「「「きゃあああああああ!!!」」」」

 

 その言葉を聞いた瞬間、教室は歓喜の悲鳴に包まれた。

 

「男子!二人目の男子!!」

「しかもうちのクラス!!」

「美形!守ってあげたくなる系の!!」

「(・・・いや、彼女はどう見ても女だろ)」

「皆さんお静かに!まだもう一人の挨拶が終わっていませんよ!」

 

 クラスの皆が騒ぐ中、アイリスは体付きや重心の掛け方などで即座に彼女が女だと気付いた。

 

「騒ぐな、静かにしろ!」

 

 千冬先生の一言で騒がしかった教室は一気に静まり返った。

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官!」

 

 千冬先生の言葉に先程から忘れられていた銀髪ロングヘア―で左目に眼帯を付けた小柄な少女が一歩前に出た。

 

「(教官?てことは千冬姉ぇがドイツに居た頃の・・・)」

ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「(ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・EUの虎の子部隊の隊長が何故こんな場所に?)」

 

 アイリスは彼女の名前と容姿からドイツ軍のとあるIS部隊の隊長だという事に気付いた。

 なお、そう言う彼女自身もアメリカ軍のIS部隊の隊長だという事を忘れてはならない。

 

「・・・あのぉ、以上ですか?」

「以上だ」

 

「え?軍人キャラ二人目?」

「小柄な所も被ってる」

「金髪ボブと銀髪ロングでちょうど対みたい!」

「この子も小っちゃくてかわいい!」

「「・・・何だこの空気は」」

 

 先程の紹介の時とはまた違う雰囲気にアイリスとラウラは同時に呟いた。

 

「あの、織斑先生。事前の会議では確か転校生は三人って聞いていたんですが・・・」

「ああ、一人は遅刻だそうだ。全くあの馬鹿者は・・・」

 

 千冬先生と山田先生が何かを小声で話していた。

 

「・・・貴様が」

「ん?」

 

 少しの間困惑していたラウラだったが、一夏と目が合うと殺気が籠った鋭い眼付きで彼を睨んだ。

 

「やめろラウラ」

 

 彼女が前に足を踏み出そうとした所で千冬先生から制止の声が掛かった。それによりラウラは不機嫌そうな顔をしつつも踏みとどまった。

 

「・・・私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか・・・」

「ん?何か言ったか?」

「今日は二組と合同でIS実習を行う。各人は直に着替えて第二グラウンドに集合。それから織斑」

「はい!」

「デュノアの面倒を見てやれ、同じ男子同士だ」

「は、はい!」

「それとエーカー」

「はい」

「ボーデヴィッヒの面倒を見てやれ、()()()()()仲良くしろよ」

「ハッ!」

「解散!」

 

 その言葉の後、皆それぞれ動き出す。一夏とシャルルは同じ男子という事で更衣室へ向かった。

 

「初めまして、ボーデヴィッヒ()()”シュヴァルツェ・ハーゼ”の活躍は耳にしています」

「此方こそ、エーカー中尉。かのオーバーフラッグスの隊長と直接会えるとは思わなかった。よろしく頼む」

「ハッ!」

 

 二人は軍人らしいやり取りをした後、グラウンドへ向かった。

 

 

IS学園第二グラウンド

 

「本日から実習を開始する」

「「「「はい!」」」」

「先ずは戦闘を実施して貰おう。凰、オルコット」

「「はい!」」

「専用機持ちなら直に始められるだろ。前に出ろ」

 

 千冬先生に呼ばれて二人は前に出る。

 

「対戦相手はどなたですか?」

「対戦相手は・・・」

「わああああああああ!!」

 

 突如上空から声が聞こえた。全員が上を向くと、何とI()S()()()()()山田先生が此方に向かって突っ込んできた。

 

「退いてくださーい!!」

「やばっ!?」

 

 そのまま彼女は一夏の所にピンポイントで落下した。

 煙が晴れると白式を纏った一夏が山田先生を受け止めていた。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「御免なさい!有難う織斑君!」

 

 一夏は以前アイリスに受け止められた時の事を思い出し咄嗟にISを展開する事で落下してきた山田先生を受け止めたのだ。

 しかし、一つ問題があるとすれば今の状態は俗に言うお姫様抱っこの体勢だった。

 

「あ、もう降ろして貰って大丈夫です!」

「あっはい」

「「「・・・・・・」」」

「あれ・・・俺って良い事した筈だよな?」

 

 一夏は直に山田先生を降ろすも、何時もの三人からジト目で睨まれた。一夏は自分が人助けをした筈なのに何故か睨まれている事に疑問を感じた。

 

「さて小娘共、さっさと始めるぞ」

「え?あの、二対一で?」

「いや、流石にそれは」

「安心しろ、今のお前達なら直負ける」

「「む・・・」」

「では、始め!!」

 

 千冬先生の合図で三人は一斉に飛び立った。

 

「山田先生大丈夫かな?」

「心配ない少年。彼女の強さは私が保証する」

「あ、アイリスさん」

「彼女とは入学テストで戦った事がある。ああ見えてかなりの腕前だ」

 

 アイリスは入学テストの際山田先生と戦っており、その腕前は彼女が太鼓判を押す程である。何を隠そう山田先生は元日本代表候補生だったのである。

 

「デュノア、山田先生が使ってるISの解説をして見せろ」

「あ、はい!・・・山田先生のISはデュノア社製ラファール・リヴァイヴ”です。第2世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第3世代にも劣らないものです。現在配備されている量産ISの中では最後発でありながら世界第三位のシェアを持ち、装備によって格闘、射撃、防御といった全タイプに切り替え可能です」

 

 解説が終わるのとほぼ同時に鈴とセシリアが撃墜された。

 

「くっ、まさかこのわたくしが・・・」

「アンタねぇ、何面白いように回避先読まれてるのよ・・・」

「これで諸君にも教員の実力が理解できただろう。以後は敬意をもって接する様に。次に、グループになって実習を行う。リーダーは専用機持ちがやる事、では別れろ!」

 

 千冬先生の言葉で生徒達は一斉に分かれる、しかしその殆どは男子である一夏とシャルルの所に集まってしまったので、一部の生徒は強制的に分散させられた。

 アイリスの所にもそこそこの人数が集まっており、大半がクラス対抗戦の時の活躍で彼女のファンになった生徒であった。

 こうして実習の時間は過ぎて行った。

 

 

昼休み

 

 アイリスは校舎の屋上で一夏達と食事をとっていた。元々は箒が一夏だけを誘ったのだが、何時もの様に鈍感な一夏が大勢で食べた方が美味いという理由で皆を誘ったのだ。

 メンバーは一夏、シャルル、箒、セシリア、鈴、アイリスの六人。ラウラも誘ったのだが見事に無視されたので、仕方なく何故かカバンから軍用レーションを取り出しているラウラを置いてこの六人で来たのだ。

 因みに何時もは食堂を利用しているアイリスであるが、今回は食事に誘われたという事で購買で昼食を買ってきている。

 メニューはグラタンとハムサンドである。なぜそれを選んだかというと、彼女曰く「乙女座の勘が選べと言っていた」とのこと。

 

「ええと、本当にボクが同席して良かったのかなぁ」

「いやいや、男子同士仲良くしようぜ!今日から部屋も同じなんだし!」

 

 今までただ一人の男子という事で肩身の狭い生活をしていたので、男友達が出来て嬉しい一夏であった。

 女性陣はそれぞれ持参した料理を一夏に振舞う。

 

「おお、酢豚だ!」

「今朝作ったのよ!食べたいって言ってたでしょ?」

「一夏さん、わたくしも今朝は偶々偶然早く目が覚めまして、こういう物を用意してみましたの!」

 

 そう言ってセシリアはサンドウィッチが詰まったバスケットを差し出した。

 

「それじゃあこっちから・・・・・・ヴッ!?」

 

 セシリアのサンドウィッチを食べた一夏の顔がみるみる青くなって行く。

 

「如何?どんどん召し上がって頂いて構いませんのよ?」

「い、いやぁ・・・」

「失礼」

「ちょっと、アイリスさん!」

「失礼と言った」

 

 セシリアの制止を無視してアイリスはサンドウィッチを一つ取り口に入れた。

 

「はっきり言おう、不味い

「なっ何てことおっしゃいますの!そのような訳、はむっ・・・・・・不味いですわ・・・」

「少年、折角の好意に言い難いという事は分かる。しかし、彼女の為にもハッキリと言った方が良い。その代わり、相手への感謝の言葉も忘れないようにな」

「あ、ああ!セシリア御免!折角作ってくれたのに・・・でも俺、スゲー嬉しかったぞ!」

「は、はい!美味しく作れるようになりましたら、また作って差し上げますわ!」

「おう!楽しみにしてるぜ!」

 

 はっきりと味を伝えた事で、セシリアの料理の腕が上がるよう願うアイリスであった。

 

「私のはこれだ」

 

 そう言って箒は手作りのお弁当を取り出した。

 

「おお!凄いな!どれも手が込んでそうだ」

「つ、ついでだついで!あくまで私が自分で食べる為に時間を掛けただけだ」

「そうだとしても嬉しいぜ。箒、有難う!」

「ふ、ふん!」

「頂きます!・・・おお旨い!これって結構手間が掛かってないか?」

 

 その後、何故か成り行きで食べさせ合いが始まったが、平和な昼食であった。

 

 

放課後 IS学園学生寮

 

「成程、フランスからねぇ」

「これは恐らく・・・」

「ああ、間違いなくデュノア社が絡んでいるね。デュノア社は第2世代機で大きな成功を収めたものの、未だに第3世代機の開発に遅れを取っている。そこへ来て半年前のイナクトの発表、それにより次期第3世代機のシェアは完全にドイツに取られる形になったからね。今じゃフランスはEU内でも爪弾きの存在になりつつあるよ」

「だから連中は功を焦ってあの様な大胆な真似を」

「男として接触した方が一夏君に近付きやすいからね。ISの情報も集めやすいだろうね」

「我々も少年とそのISについてのデータ収集が任務だから、あまり人のことは言えないがな」

「まあ、あっちと違って僕達はそれ程一夏君を重要視していないからね。エイフマン教授が亡くなったのは本当に残念だけど、ISに関する優秀な人材も設備も依然我が国がトップだからね」

 

 現在アメリカはIS開発においては日本を差し置いて世界一位の実績を持つ。その為、織斑一夏のデータ収取についても研究の価値があるというだけで、フランスの様に強行策に出るほどの重要視はされていないのである。

 それも、エイフマン教授やカタギリ親子等の優秀な人材が日々研究に尽力してくれたお陰である。

 

「本当、教授が残した功績は計り知れないな。勿論、君たち親子も」

「フフ、それは君もだよ?アイリス」

 

 ふと此処でアイリスは朝から気になっていた事をレベッカに伝えた。

 

「所でデュノアについてなのだが、なぜ誰も彼女を女として認識しないのだ?」

「アイリス、日本にはね「男の娘(おとこのこ)」という文化があるんだよ」

「男の子?」

「男の(むすめ)と書いて男の娘と読むんだ。少女のような可愛らしい顔をした男性の事を日本では男の娘と呼ぶんだよ」

「成程、それで誰も疑問に思わなかった訳だな」

 

 アイリスの日本に関する勘違いは止まらない、加速する。

 

「それともう一人」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐、ドイツのIS配備特殊部隊”シュヴァルツェ・ハーゼ”隊長。これまた大物だね」

「彼女も我々と同じく一夏とISのデータ収集が目的だろうが、一つ気になる事がある」

「何だい?」

「彼女は何故か少年に対して強い恨みがあるようなのだが、何か知らないか?」

「ああ、成程ね」

「知っているのか?」

「大体は予想できたよ。まず彼女について何だが、詳しい経歴は不明だけど、年少でありながらドイツ軍内で上位に入る好成績者だった。しかし、訓練中に起きた事故で左目を失ってからは成績は右肩下がり。しかし数年前、ISの教官としてやってきた織斑千冬と出会ってからはこれまでの汚名を返上するかのように部隊最強まで上り詰めた。まあ、簡単に言えば彼女は織斑千冬の熱狂的な信者という事さ」

「成程、しかしそれが何故少年への恨みに繋がるのだ?」

「数年前の第二回モンド・グロッソの事を覚えているかい?」

「ああ、成程・・・」

「そう、決勝戦当日、織斑千冬は棄権している。世間へは適当な理由で誤魔化しているけど、実際は謎の組織に誘拐された一夏君の救出に向かっていたんだ。その際、ドイツ軍が彼女に情報を伝えた見返りとして軍のIS教官として招いたって訳だね」

「それで彼女はミス・ブシドーの大会二連覇を逃した遠因として少年に対して恨みを抱いていると」

「皮肉なことだね。棄権の原因となった一夏君の事件があったからこそ、彼女は織斑千冬と出会えた訳だからね」

 

 

 

 

翌日 1年1組教室

 

「皆さん、今日も嬉しいお知らせです!何とまた一人クラスにお友達が増えました!」

「どういう事?」

「二日連続で転校生だなんて」

「皆さん静かに!本当は昨日紹介する予定だったんですが、到着が遅れた為今日する事になったんです。それでは入って来てください!」

 

 山田先生の言葉で教室の扉が開く。

 

「なッ!?」

 

 入ってきた人物を見て、ラウラは真っ先に驚愕の声を上げる。其処には黒髪で眼鏡を掛けた背の高いつり目の少女が立っていた。

 

「よう!IS学園の諸君!EUのエース、パトリシア・コーラサワーだ!皆遠慮せず、パティって呼んでくれよな!」

 

 



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第6話 無敵のコーラサワー参上!

ドイツ軍IS基地 駐車場

 

 駐車してある銀色のオープンカーから一人の少女が下りてくる。

 

「悪いが、そろそろ時間だ。この埋め合わせは今度な!」

 

 助手席に座る金髪の青年にそう言いつつウインクする彼女こそ、EU空軍のエースであり、2000回以上のスクランブル発進をこなし模擬戦でも負けなし、更に過去7度のIS戦を通常兵器で生き抜いた通称「不死身のコーラサワー」パトリック・コーラサワー大尉と、EU軍IS部隊の作戦指揮官であり天才的な戦術家である通称「鉄の女」カティ・マネキン准将の娘、パトリシア・コーラサワーである。

 彼女はドイツ軍IS特殊部隊”シュヴァルツェ・ハーゼ”への転属の為、ドイツ軍IS基地へ訪れていた。

 

 

「EUのエース、パトリシア・コーラサワー只今・・・ブッ!?」

 

 パトリシアが部屋に入った途端いきなり顔をグーで殴られた。其処には小柄な少女を中心とした六人の女性が立っていた。

 

「遅刻だぞ、少尉」

「何だ小娘!?よくも女の顔を・・・ブッ!?」

 

 自身を殴った少女に突っかかるも今度は逆の頬を殴られる。

 

「二度も打った・・・親父にも打たれた事無いのに・・・」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐、シュヴァルツェ・ハーゼの隊長だ。EUのエースだか知らないが此処はそんなに甘くないぞ」

 

 彼女を殴った張本人であるラウラは地面に倒れるパトリシアに冷たく言い放った。しかし、当の本人は・・・

 

「あっ(良い女じゃないか・・・!)」

 

 何故か一目惚れしていた。

 パトリシアは直に起き上がると見事な敬礼をする。

 

「遅刻して申し訳ありません!少佐殿!(惚れたぜ~!)」

 

 なお、現在付き合っていた彼氏とは話し合いの末、円満に別れる事となった。

 

 

 

 

日本 IS学園1年1組教室

 

「よう!IS学園の諸君!EUのエース、パトリシア・コーラサワーだ!皆遠慮せず、パティって呼んでくれよな!」

「なッ!?」

「あ!少佐ぁ!来ちゃいました~!」

 

 パトリシアはラウラを見つけるとまるで子犬の様に近付こうとし・・・

 

「ブッ!?」

「馬鹿者、さっさと席に着かんか」

「も、申し訳ありません教官!」

 

 千冬先生に殴って止められた。

 

「(EUのエース、まさかこんな所でもう一度出会う事になるとはな)」

 

 パトリシアを見てアイリスは心の中で呟いた。

 

 

昼休み

 

「あ!少佐、またレーションで済ませようとしてる!ちゃんと食べないと大きくなれませんよ!」

「ええい!離せパトリシア!」

「駄目です!こうでもしないと少佐、食堂に来てくれないじゃないですか!」

「私は上官だぞ!」

「此処は軍じゃなくて学校なんですから今は関係無いです!」

 

 パトリシアは昼食を軍用レーションで済ませようとするラウラを無理やり食堂へ連れて行こうとする。

 身長が150㎝以下のラウラに対してパトリシアは160㎝以上な為、脇の下から持ち上げるようにして運ばれて行くラウラであった。

 

 

IS学園内食堂

 

「それで、どうしてお前が居るんだ。私は聞いて無いぞ」

「はい、少佐を驚かせようと秘密にしてました!」

「というか、どうやって入学したんだ。そもそもお前は歳が違うだろ」

 

 そう、パトリシアはラウラより()()()()なのだ。

 

「上層部へ私が直談判しに行きました!上層部からも「お前は一年からやり直して、その性格を治して貰ってこい!」と応援されました!」

「・・・それは貶されているだけだぞ・・・なぜ来たんだ」

「少佐を守りたいからであります」

 

「何々?禁断の恋?」

「キマシタワー?」

「あぁ・・・白百合のかほりが・・・」

 二人の会話に盛り上がる一部の生徒達であった。

 

 

IS学園 第二グラウンド

 

 アイリス達は以前と同様に二組と合同での実習授業をしていた。

 

「ウッ!クソッ!」

「どうした少年、間合いが遠いぞ?」

 

 アイリスは一夏との模擬戦を行っていた。一夏は何度も彼女に対して攻撃を仕掛けるも、それ等は全て躱されお返しにリニアライフルを食らわされていた。

 結局エネルギー切れにより一夏は負けてしまった。

 

「つまりね、一夏が勝てないのは単純に射撃武器の特徴を把握して無いからだよ」

「うーん、一応分かっていたつもりだったんだが」

 

 模擬戦後、一夏は観戦していたシャルルからアドバイスを貰いつつ射撃の練習を始めた。

 

「あれ、ドイツの第3世代じゃない?」

「ん?」

 

 クラスメイト達の声を聞いて一夏が振り向くと、其処にはISを纏ったラウラが居た。彼女の機体は黒を基本色とした、右肩の大型レールカノンが特徴的なドイツの第3世代機である”シュヴァルツェア・レーゲン”である。

 

「織斑一夏、私と戦え」

「嫌だ、理由がねぇよ」

「貴様に無くても私にはあ「少佐ァ!」・・・」

 

 するとラウラの後ろからISを纏ったパトリシアが現れた。

 

「置いて行かないでくださいよ少佐!」

「五月蠅い!人が話している所に割り込むな!」

「なあシャルル、パトリシアが乗ってるあの機体ってなんだ?」

「あれはドイツの量産型第3世代IS”EUイナクト”だね」

 

 二人が口論を始めてしまった為、一夏はパトリシアの機体についてシャルルに聞いた。

 

「何かフラッグに似てるな」

「イナクトはフラッグを参考に作られてるから似てるのは当然だね。イナクトは第2世代機である”EUへリオン”の後継機として開発されたんだ。元々はフラッグと同時期に開発が始まったんだけど、フラッグの完成が早過ぎた事もあって途中からフラッグの機体構造を一部取り入れたんだ。武装も腹部機銃が無いとこ以外はフラッグと大体一緒だね。これだけ聞くとただのフラッグのコピーに聞こえるけど、フラッグより後に完成しただけあって機体の完成度はフラッグより上だし、量産計画も同時進行させていたお陰で発表からまだ半年しか経ってないのに既に8割以上のへリオンがイナクトへの機体変更を完了しているんだよ」

 

 シャルルの説明が終わったタイミングでパトリシアが一夏に近付いて来た。

 

「お前が織斑一夏だな!」

「そうだけど」

「単刀直入に言う、今日の放課後、第三アリーナでオレと勝負しろ!」

「何でだよ!?」

「お前が少佐を誑かしてんのは分かってるんだぞ!」

「いや、何でだよ!?大体、俺ラウラに嫌われてるし」

「お前に勝って少佐を取り返してやる!」

「聞けよ!全く、分かったよ」

「よし、決まりだな!」

 

 パトリシアの勢いに負け、一夏は試合を了承してしまった。その言葉を聞いてパトリシアは振り返り歩き出そうとして、アイリスに気付いた。

 

「お、あんたフラッグファイターだろ?」

「ああ」

「今度のトーナメントでフラッグとイナクトどっちが上か白黒はっきり付けてやるからな、覚悟しろよ!」

「フッ、望む所だと言わせてもらおう」

 

 実はアイリスと一度会った事があるパトリシアだが、その事は忘れてしまっている様だ。一夏の件とはまた別で勝負を申し込むパトリシアであった。

 

「一夏、コーラサワーはああ見えてIS部隊のエースでもあるベテラン操縦者だ。気を抜くなよ」

「はい、分かりました!」

 

 

 

 放課後 第三アリーナ

 

 其処では一夏とパトリシアの模擬戦が行われようとしていた。

 

「(そうさ、彼奴を倒せば少佐の気持ちだって!)」

「全く、どうしてこうなった」

 

 やたら張り切っているパトリシアを見てため息をつくラウラであった。

 試合開始の合図が鳴り、二人は同時に飛び出した。

 

「ハッ、刀一本で挑もうってか?貴様、オレが誰だか分かってんのか?EUのパトリシア・コーラサワーだ!模擬戦でも負け知らずのスペシャル様なんだよ!!」

「クッ!速い!」

 

 一夏はイナクトに切りかかるも簡単に避けられてしまう。

 

「此奴はラッキー!」

「グッ!?アッ!?」

 

 避けられて体勢が崩れた所に連続で攻撃を食らう一夏、それによりシールドエネルギーがどんどん削られていく。

 

「うおおおおお!!」

「鈍いんだよォ!」

 

 一夏は瞬間加速で飛び出すも、あっさり躱され更に背中にタックルを食らわされる。

 

「グアッ!?」

 

 そのまま一夏は蹴りを食らい地面へと落下する。

 

「クソッ・・・」

「何だこの程度か?ええ?おい!」

 

 パトリシアは地面に膝をつく一夏の前に降り立ち、左手でソニックブレイドを構える。

 

「少佐のキッスはいただきだァ!!」

 

 パトリシアはそのまま白式へ向けて突進する。そして。

 

「うおおおお!!」

 

スパァン!!

 

「へえ?」

 

 ソニックブレイドを持ったイナクトの左手首が切断され宙を舞う。更に殆ど満タンだった筈のシールドエネルギーが一撃で3分の1減った。

 

「は・・・てめぇ、分かってねぇだろ!」

 

 パトリシアはリニアライフルを撃つが一夏はそれを躱し剣を振るう。

 

「オレは!」

 ディフェンスロッドでガードするもそれごと左腕が切断される。

 

「スペシャルで!」

 右腕でガードするも切断される。

 

「2000回で!!」

 体を仰け反る事で胴体への直撃を避けるもバイザーを切断される。

 

「模擬戦なんだよォ!!!」

 シールドエネルギーが0になりそのまま後ろへ倒れ込む。

 

 彼女の名誉の為説明するが、彼女は決して弱くはない。寧ろ、幾度となく実戦に参加し、模擬戦を大小合わせて2000回以上勝利している事から「無敵のコーラサワー」の異名を持つEU屈指のエースパイロットなのである。

(なお、現在は千冬とラウラの二人に負けている為無敵では無くなってしまったが、彼女の事を良く思わない一部の人間から皮肉を込めて未だにそう呼ばれ続けている。しかし、本人は「(教官と少佐以外には)無敵のコーラサワー」と勝手に解釈して自称している)

 これだけの実力でありながらIS適正はA止まりである。一説ではパトリシアの割と自分本位な性格にISコアの方が付いて行けていないのではと考えられている。(アイリスは逆にISに心奪われている為適性が高いのではと考えられている)

 

 彼女の敗因は大きく三つある。

 一つはラウラの気を引こうと功を焦った事。

 二つ目は一夏の単一仕様能力を知らなかった事。

 最後に調子に乗って態々リーチの短いソニックブレイドで止めを刺そうとした事。

 である。

 

 

IS学園 学生寮

 

「フフッ、何とも彼女らしい負け方だね」

「しかし、彼女の慢心があったからこそ今回は勝てたが、あの実力は本物だ。二度目は通用しないだろう」

「彼女も君と同じで相当規格外だからね。そうだアイリス」

「何だ」

「実はISWAD本部から荷物が届いてね、アイリス社が開発していた新型のリニアライフルが完成したんだ」

「ほう?」

”トライデントストライカー”、単射用30㎜砲一門と連射用12.7㎜砲二門が一体となった新型のハイブリッド・リニアライフルだよ」

「ますますトーナメントが楽しみになって来たな。所で今回のトーナメント、簪は出場するのか?」

「いや、今回は参加しないよ」

「そうか、期待していたのだがな」

「機体の方は9割方完成してるけど新装備の完成に手間取っていてね、次のトーナメントまでには完成する予定だよ。その時はまたテストに付き合ってくれよ?」

「分かっているさ」

 

 こうして学年別トーナメントまでの日々は過ぎて行った。

 



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第7話 幸せのコーラサワー誕生!

IS学園アリーナ

 

 学年別トーナメント当日。アイリスはレベッカと共に観客席にて試合開始を待っていた。

 本来は個人戦を行う予定だったのだが、前回の襲撃を考慮し二人一組で戦う事になった。

 

「まさかいきなりこの組み合わせになるとはな」

「面白くなりそうだね」

 

 一回戦目の組み合わせは一夏&シャルルチームとラウラ&パトリシアチームとなった。

 

「一戦目で当たるとはな・・・待つ手間が省けたという物だ」

「そりゃあ何よりだ」

 

 一夏とラウラは互いに睨み合う。そして遂に試合開始の合図が鳴った。

 

「うおおおお!!」

 

 合図と同時に一夏はラウラへ向けて飛び出した。それに対してラウラどころか隣に待機しているパトリシアすらその場から動かなかった。

 

「何!?」

「開幕直後の先制攻撃か」

 

 ラウラが手を翳すと一夏の体は刀を突き出した態勢のまま動かなくなった。

 

慣性停止結界(AIC)。成程、余裕な態度の訳はこれか」

アクティブ・イナーシャル・キャンセラー、確かに一対一ならこれ程有利な兵器は無いね。でも、あくまでこれはチーム戦だからね」

 

 動けない一夏に対してゼロ距離からレールカノンを撃とうとするラウラ。しかし、直前に死角から現れたシャルルが射撃で銃口を逸らそうとする。

 

「そうはさせねえよ!」

 

 放たれた弾丸がレールカノンに当たる前にパトリシアがそれをディフェンスロッドで弾く。

 

「しまった!?」

「見事だパトリシア」

「グアアッ!!」

「一夏!?」

 

 一夏はレールカノンの直撃を受け吹き飛ばされる、そしてそれを追うラウラ。

 

「行かせない!」

「おっと、アンタの相手はオレだぜ!」

「クッ!邪魔だよ!」

「そっちこそ、少佐の邪魔はさせねぇよ!」

 

 一夏の援護に行こうとするシャルルだが、パトリシアに阻まれる。

 

「クソッ!」

 

 一夏はシュヴァルツェア・レーゲンから放たれるワイヤーブレードを捌きながらこの状況をどう切り抜けるか考える。

 

「(いきなり食らっちまった、シャルルはパトリシアに足止めされてるし・・・どうする?)」

「どうした?お前の力はこんなものか?」

「クッ!」

「不味い、このままじゃ一夏が!」

「オラオラ!どこ見てんだよ!」

 

 押される一夏を心配するシャルル、しかしパトリシアの攻撃が激しくとても援護できる状態では無い。

 パトリシアはシャルルが持つライフルを破壊すると一気に近付く。

 

「貰ったァ!!」

「フッ」

「何!?」

 

 しかし、シャルルは即座にマシンガンとショットガンを出現させてパトリシアに向かって一斉に撃ち出す。パトリシアはディフェンスロッドで防ぎつつ後退する。

 

「うおおっ!?」

「よし!」

 

高速切替(ラピッド・スイッチ)、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの豊富な拡張領域を利用した武装の高速切り替えか。面白い事を考えるね」

「通常、戦闘時の武器切替は大きな隙となる、しかし、その切り替え時間を極限まで短縮する事で先の様な意表を突いた攻撃が行えるという訳だな。あれは機体そのものの機能と言うより彼女の技だな」

 

 アイリスとレベッカは先程シャルルが行った行動について話す。パトリシアは通常の切り替え速度で計算して戦っていた為、予想外の速さに対応しきれなかったのだ。

 

 

「一夏!!」

 

 シャルルが振り返ると、今まさにAICにより止められた一夏がレールカノンで撃たれる直前だった。シャルルはすぐさまライフルでラウラを攻撃するが、パトリシアが放った銃撃で銃口がそれレールカノンに命中した。ラウラ自身には当たらなかったが、攻撃に気を取られた為一瞬AICを解除してしまう。その隙を見逃さなかった一夏が零落白夜を発動しラウラを切り裂く。

 

「グッ!?」

「少佐ァ!?」

「やっと一撃を食らわしてやれたぜ!」

 

 攻撃されたラウラはすぐさま一夏と距離を取る。致命傷は避けたものの零落白夜の効果によりシールドエネルギーを一気に半分近く削られてしまった。

 

「これでお相子だな」

「クッ、舐めるな!」

 

 一夏に向かい飛び出すラウラ、しかし。

 

「一夏!」

「おう!」

「何ッ!?」

 

 一夏はシャルルに投げ渡されたライフルを構えるとラウラに向かって発砲した。射撃武器を持たないことを前提に動いていたラウラは、射撃を回避しようとするも数発命中してしまった。

 

「射撃も上手くなった、それでこそだ少年」

 

 試合を観戦しているアイリスは射撃訓練をしていた一夏を思い出しつつそう言った。

 

「てめぇ!よくも少佐を!」

 

 追い詰められるラウラを見て援護に向かおうとするパトリシア。そこにシャルルが立ちはだかる。

 

「行かせないよ!」

 

 シャルルは残ったショットガンを撃ちつつ新たに武器を展開しようとする。

 

「それはもう見たぜ!!」

 

 それを見てパトリシアは何時でも反撃できるようプラズマソードを構えつつディフェンスロッドで防御しながら接近する。

 

「これはまだ見せてなかったね!」

 

 武器を展開しようとした右手はブラフだった。左腕のシールドがパージされそこからパイルバンカーが現れた。

 

「何ッ!?」

 

 パトリシアは咄嗟にディフェンスロッドでガードするも盾ごと左腕を粉砕されアリーナの壁まで突き飛ばされる。

 

「なんじゃそりゃあああぁぁぁ!!!」

「パトリシア!?」

 

 壁に叩き付けられるパトリシアに気を取られた隙に一夏はラウラに接近する。

 ラウラはそれをAICで防御するも、横から近付いて来たシャルルによりパイルバンカーが放たれ、同じく壁に激突する。

 

「やっぱりな。セシリアと同じでその技を使う時は自分も動けなくなるみたいだな!」

 

 AICの弱点として、多量の集中が必要となる為発動中は使用者も無防備になるという事が挙げられる。一夏達はそれを利用したのだ。

 

「痛っててて・・・ハッ!?少佐!?ご無事ですか!?」

「・・・・・・・・・」

 

 起き上がったパトリシアが通信により無事を確認するが、何故かラウラからの反応が無い。

 

 

「(私は・・・負けられない・・・負ける訳には・・・行かない・・・)」

《願ウカ?汝、ヨリ強イ力ヲ欲スルカ?》

「(寄越せ・・・力を・・・比類なき最強を!!)」

 

 眼帯の奥の瞳が金色に輝く、すると突然、機体が激しい電撃を放ち出した。

 

「うぐあああああああああああああああ!!!」

「な、何だ!?」

 

 突然の光景に一夏やシャルルだけじゃなくパトリシアも驚愕する。

 ラウラの機体はまるで粘土の様に形を変えラウラを飲み込んで行く。

 完全に飲み込まれた後、機体は形を変えて一機のISになった。

 

「レベルDの警戒態勢を取れ」

「了解!」

『非常事態発生!トーナメントの全試合を中止、状況レベルDと認定!鎮圧の為教師部隊を送り込む!』

 

 千冬先生の言葉によりサイレンと放送が流れ、アリーナの隔壁が閉じられる。

 

「行くぞカタギリ!」

「あ、ああ!」

 

 アイリスとレベッカは格納庫へと走り出した。

 

「カタギリ、あれは何だ?」

「分からない!資料にはどこにも・・・まさか」

「何か知ってるのか?」

VTシステム・・・まさか、ありえない!」

「そのVTシステムとは何だ?」

ヴァルキリー・トレース・システム、モンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をそのまま再現・実行するシステムだよ!パイロットへの負担が高く実用は困難とされていた」

「そんなものが?」

「ああ、過去に米軍でも研究されていたんだ」

「何?」

「勿論父やエイフマン教授とは関係ない別の部署の話だよ!米軍だって一枚岩じゃないからね。でも、あのシステムは数年前に研究機関ごと全て抹消された筈なんだ」

「抹消?」

「ああ。その存在を知った篠ノ之博士の逆鱗に触れたみたいでね、博士の手で世界中の研究機関が一つ残らず消滅させられてからはあらゆる企業・国家での開発が禁止されているんだ」

「それをドイツ軍は秘密裏に開発していたのか」

「それに見たかい?彼女の左目を」

「左目?」

「あれは恐らく人体実験による後遺症だ!奴ら、此処まで・・・!」

 

 レベッカは普段の様子からは考えられないほど感情的になっていた。

 二人は格納庫に到着してアリーナを見た、そして。

 

「フッ、どうやら私の出番は無かったようだな」

 

 

 

 

数分前 IS学園アリーナ

 

 変化したISの攻撃により一夏とシャルルはISを解除されていた。そしてその周りを教師が乗るISが包囲していた。しかし、織斑千冬の動きを再現した機体に容易に近づくことが出来ずにいた。

 其処に一機のISが近付いて行く。

 

「てめぇ・・・オレの少佐をどうしやがった・・・」

 

 其処には左腕が損傷しながらも右手でプラズマソードを持つパトリシアが居た。彼女はこれまで見たことも無い憤怒の表情を浮かべていた。

 ISはパトリシアを攻撃するも、それ等を全ていなしていく。

 

「てめぇ、オレが誰だか分ってんのか?EUのエース、無敵のコーラサワーだ!!」

 

 そう言ってプラズマソードを構える。

 

「オレは!」

 振りかかって来た斬撃をいなす。

 

「スペシャルで!」

 刀を持った左手を切断する。

 

「2000回で!!」

 掴みかかろうとする右手を切断する。

 

「模擬戦なんだよォ!!!」

 プラズマソードを解除しソニックブレイドで機体の表面を縦に切り裂く。

 

 

 

 

 

 

 

 

『遺伝子強化試験体”C-0037”君の新たな識別記号は”ラウラ・ボーデヴィッヒ”』 

 

 私はただ、戦いの為だけに作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。私は優秀だった、最高レベルを維持し続けた。しかしそれは、世界最強の兵器ISの出現までだった。直ちに私にも、適合性向上の為肉眼へのナノマシン移植手術が施された。

 しかし私の身体は適応しきれず、その結果出来損ないの烙印を押された。そんな時、あの人に出会った。

 彼女は極めて有能な教官だった。私はIS専門となった部隊の中で、再び最強の座に君臨した。

 

『どうしてそこまで強いのですか?どうすれば強くなれますか?』

『・・・私には弟がいる』

『!?』

 

 違う、どうしてそんなに優しい顔をするのですか。私が憧れる貴女は、強く、凛々しく、堂々としているのに。

 だから許せない、教官をそんな風に変える男。認めない。

 

 

ドイツ 基地内士官宿舎

 

「男性初のIS操縦者・・・織斑一夏・・・」

 

 此奴が、此奴さえいなければ・・・

 その時、部屋のインターホンが鳴る。扉を開けると赤いバラの花束を持ったパトリシアが立っていた。

 

「少佐、私です!パトリシア・コーラサワーです!」

「何の様だ、パトリシア」

「少佐をお食事に誘いたいと思いまして」

「・・・少尉、今世界は初の男性操縦者の発見で揺れ動いている。その事について考えるような事は無いのか?」

「はい、無いです!」

 

 ラウラは即答した言葉に呆れるも、パトリシアのそのあまりにも真っ直ぐな瞳に一瞬だけ魅了された。

 

「・・・全く・・・何もかもが馬鹿らしくなってしまうではないか・・・」

「何です?」

「待ってろ、用意をしてくる」

「・・・・・・ふふ・・・ぃやったァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 切り裂かれた機体からラウラの身体が解放される。機体はそのまま崩れ去り、支えが無くなり倒れ込むラウラをISを解除したパトリシアが優しく抱き抱える。

 

「大好きです、ラウラ

「あっ・・・」

 

 パトリシアの腕の中でラウラはそのまま意識を失った。

 

 

翌日 1年1組教室

 

 その後、トーナメント自体は中止になったものの、個人データの測定を理由に一回戦のみ後日行う事が決まった。しかし、今はそれどころではなかった。

 

「お前は私のにする!決定事項だ、異論は認めん!」

「いや~無敵のコーラサワー改め、幸せのコーラサワーになりましたぁ!」

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします!」

「えっとぉ。デュノア君は、デュノア()()、という事でしたー」

 

「「「「なんじゃそりゃあああぁぁぁ!!!」」」」

 

 ラウラとパトリシアの婚姻宣言?とシャルルの性別が女性だった事により教室は騒然となった。

 

 



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第8話 拭えぬ過去

IS学園外 ショッピングモール

 

 シャルロットと一夏は臨海学校用の水着を買いに来ていた。

 事の発端はパトリシアの

 

「恋の手ほどきなら、このオレ様に任せな!」

 

 という言葉だった。

 彼女はシャルロットの恋心に早々に気付き、同じEU仲間として色々とアドバイスをしてきたのだ。

 実際、ラウラと出会う前は普通に男性と付き合っていたパトリシアのアドバイスは的確で、今回は一夏が水着を所持していないという情報から買い物に付き合ってもらうという体で二人きりのデートを画策したのである。

 因みにパトリシアはラウラとの関係を既に両親に報告しており、父のパトリックからは「惚れた女は死んでも離すな!この俺のようにな!」と言われ、母のカティからは「お前はどこまで馬鹿なのだ!全く、そこまで来たら最後まで責任を取れ!」と言われた。因みにパトリシアには弟がおり、カティは既に娘の事は色々と諦めて息子に託している。

 結局一夏とのデートは色々あったが無事に終わった。

 

 

臨海学校当日 AM11:00

 

 一夏達は夕方まで自由行動という事で浜辺で遊んでいた。

 何時もの如く一夏が女子達に揉みくちゃにされている中、アイリスはパラソルの下でノートPCを操作しているレベッカの隣に座っていた。

 

「おや良いのかい?皆に混ざらなくて」

「そう言うカタギリはどうなんだ?」

「僕は皆と違ってインドア派だからね。」

 

 レベッカはホルターネック型の白いビキニ姿で長身の彼女にマッチしていた。

 それに対してアイリスは何故か旧型のスクール水着でありご丁寧に名前付きである。

 こうなった経緯としては、水着に対して全く興味が無いアイリスに対してレベッカと簪のオタクコンビが色々と悪乗りした結果こうなったのである。

 

「む?あそこにいるのはボーデヴィッヒ少佐とコーラサワー少尉か」

「本当だね」

 

 ふと砂浜を見渡すとラウラとパトリシアがかき氷を食べさせ合っていた。二人共お揃いの黒い水着を着ており、身長差もあって年の離れた姉妹に見えないこともない。

 

「ああいうのを日本ではバカップルと言うんだったか?」

「そうだよ。全く見事なバカップルぶりだねぇ、コレは真っ先にサメに襲われるヤツだよ」

「そうなのか?なら二人に泳ぐ際は注意するよう伝えなければ」

「伝えなくていいよ、あくまで例え話だから」

 

 レベッカの話を真に受けるアイリスであった。

 そんなこんなで合宿初日は過ぎて行ったのである。

 

 

翌日

 

「おはようございますアイリスさん。早起きですね」

「おはよう、早く目が覚めてしまったので外の空気を吸おうと思ってな」

 

 一夏とアイリスが廊下を歩いていると、座り込んでいる箒を見つけた。

 近付いてみると、「ひっぱってください♡」と書かれた看板と謎の装置が突き刺さっていた。

 

「なあ、これってもしかして・・・」

「知らん。私に聞くな」

 

 一夏と箒は心当たりがあるようだが、箒はそのまま放って行ってしまった。

 

「どうするのだ少年?」

「まあ、このままにしておくのも悪いので」

 

 そう言って一夏は装置を掴んで思い切り引っ張った。

 するとそれは簡単に引っこ抜け、空から何かが降って来た。

 

ドカアアン!!!

 

「うわあ!?」

「クッ!?」

 

 アイリスは咄嗟にISを展開して一夏を守る。土煙が晴れると其処には巨大な人参が突き刺さっていた。

 

「何だこれは?」

『キャハハハ八ッ!』

 

 人参から突然笑い声が聞こえたかと思うと、それが縦に割れ中からうさ耳の様な物を付けたピンク色の髪をした女性が現れた。

 

「引っ掛かったねいっ君!ブイブイ!」

「お、お久しぶりです束さん」

「まさか、篠ノ之博士!」

 

 アイリスはISを解除すると彼女を見た。彼女こそISの開発者にして数年前から行方不明になっていた篠ノ之束である。

 

「うんうんお久だねぇ!所でいっ君、箒ちゃんは何処かな?」

「えっとぉ・・・」

「まあ私が開発したこの箒ちゃん探知機で直見つかるよ!じゃあねー」

「お待ちください、篠ノ之博士」

 

 言うだけ言って走り出そうとする束をアイリスが引き留める。

 

「・・・何?」

 

 彼女は振り向く事も無く今までとは違う冷たい声で答えた。

 

「一年前のISWAD本部襲撃事件、あれは貴女の仕業ではありませんよね?」

「うんそうだよ」

「本当ですか?」

「私が襲撃する理由がないじゃん」

「エイフマン教授はISコアの真実に近づいていた。だから貴女は口封じに教授を抹殺したのではないですか?」

「まさか、私が教授を殺す訳ないじゃん?寧ろ、一体何時此処まで辿り着いてくれるか楽しみだったんだよ?有象無象共の中で唯一私を理解してくれた人だったんだから」

「・・・・・・」

 

 二人は暫くの間見つめ合う。先に口を開いたのはアイリスだった。

 

「・・・フッ、嘘は言っていない様で安心しました。疑って申し訳ありません博士」

「良いって良いって、それじゃあね~」

 

 そう言って束は走って行った。

 

「あの、アイリスさん。今の話・・・」

「すまない少年、軍事機密だ」

「あ、はい。すみません・・・」

「それでは私は用事が出来たのでな」

 

 そう言ってアイリスは歩き出した。

 彼女はそのまま整備・開発科が泊っている部屋に行きレベッカを呼び出した。

 

「そう言う訳で、私の見立てでは篠ノ之博士はシロだ」

「そうかい・・・それを聞いて安心したよ・・・」

「カタギリ?」

「篠ノ之博士は僕の目標でもある人だからね・・・」

 

 そう言ってレベッカは額に手を置いた。そこには前髪に隠れて薄らと縫い跡があった。

 

 

 

 

一年前 アメリカ合衆国 ISWAD本部

 

 基地のシンボルである三つのタワーの一つ、その中にある部屋に車椅子に乗った一人の老人がパソコンを操作していた。

 彼こそ米軍のIS開発主任レイフ・エイフマン教授である。彼はISのコアについての資料を作成中、発信者不明のメッセージが届いた。

 

「ん?」

《お前は知り過ぎた》

 

 その直後、基地の警報が鳴りだした。

 

「司令!レーダー、通信、共に途絶!強力なジャミングのようです!」

「カメラで追え!館内放送で各隊員へ通達しろ!」

 

『全部隊へ通達、現在所属不明のISが三機当基地へ接近中。繰り返す・・・』

 

 警報を聞いたビリーとレベッカは格納庫から外へ出て空を見上げた。そこには三機のISが此方へ迫って来ていた。

 三機のISの内、黒色のISに赤色のISが何かのケーブルを繋げると、黒いISの右肩に装備された大型のビームキャノンがチャージされ、滑走路へ向けて放たれた。

 ビームはそのまま滑走路から格納庫、本体施設と順番に破壊していった。

 

「「「「うわああああ!!!」」」」

 

 格納庫の外に出ていたカタギリ親子や整備士達はビームの衝撃波と爆風で吹き飛ばされる。

 ビリーは飛ばされる直前、咄嗟にレベッカを強く抱きしめた。

 格納庫で出撃準備をしていたGセイバーやリアルドのパイロットや整備士達、本部職員、そしてエイフマン教授は一瞬にして蒸発した。

 

 

「ぃやっほう!すっげぇ!流石姉貴!やることがえげつねぇぜ!」

 

 三機の内のオレンジ色をしたISのパイロットミハエル・トリニティは崩れ去る基地を見ながらそう言った。

 

「お?来たぜ来たぜ・・・雑魚がわんさか!」

 

 そう言って振り返ると15機のGセイバー部隊が接近してくる。

 

『隊長!ISが三機です!』

「見ればわかる!ISWAD本部が・・・」

 

 部隊長であるグラハム・エーカーは基地の惨状に顔を顰める。

 

《グラハム!》

「カタギリ!?」

 

 その時、グラハム機にビリーからの通信が入る。モニターには自身の傷もお構い無しに気絶したレベッカの額に血濡れのハンカチを押さえつける彼の姿が映った。

 

《教授が・・・エイフマン教授が!!》

「何だと!?・・・クッ、堪忍袋の緒が切れた!!許さんぞIS!!」

 

 彼の言葉に激怒したグラハムはISへ向かい突撃する。

 

『撤収するぞ』

「何でだよ?少しくらい遊ばせてくれよ姉貴!」

 

 ミハエルは黒いISのパイロットヨハン・トリニティの言葉を無視して動き出す。

 

「なぁに直済むさ。破壊して蹂躙して殲滅してやる!行けよファング!!」

 

 掛け声と共にISから六本のビットが撃ち出される。

 

「それがどうした!!」

 

 グラハムはそれを全て避けるとミサイルを発射する。

 

「何!?」

 

 彼女は避けられる事を想定していなかったのか避ける事無くミサイルに命中する。

 それに続いて三機編隊によるミサイル攻撃が次々と命中していく。

 その中で背後から一機のGセイバーが突貫して来る。副隊長であるハワード・メイスン中尉の機体である。

 

「これが俺達()の力だ!!」

「ハワード!?」

 

 ハワード機はバルカン砲を撃ちながら接近して行く。

 

「このままではやられる・・・訳ねぇだろ!!」

 

 その時撃ち出されたビットがプラズマソードを展開しハワードの機体に突き刺さった。

 

「グアアアッ!!」

「ハワード!?」

「ハワード・メイスン!!」

「隊長・・・娘を・・・」

 

 機体はそのまま地面へ墜落し爆散した。

 

「ファングなんだよォ!!」

『気が済んだか?撤収する』

「姉貴ィ?」

 

 撤収を始めようとする彼女達、しかし。

 

「お?姉貴ィ、奴さんまだやるつもりだぜ?」

 

 一機のGセイバーが接近してくる。

 

 

『隊長!』

「・・・撤退だ」

『しかし!』

「命令だ!撤退しろ!!」

『・・・ハッ!』

「・・・プロフェッサー・・・ハワード・・・」

 

 僚機の撤退を確認し自身も撤退を開始しようとする。しかし。彼の脳裏に娘達の姿が浮かぶ。

 

「・・・やはり許しておけん!!」

 

 グラハムは機体を180度回頭させる。

 

『隊長!?無茶です!』

「そんな道理、私の無理でこじ開ける!!」

 

 

 

 

 ISWAD本部から数キロ離れた上空。アイリスを隊長としたフラッグ三機とリアルド二機の部隊は基地に向かって高速で飛行していた。 

 

「味方信号ロスト!?」

「そんな・・・お父さん・・・嫌、いやあああ!!!」

「ハンナ!?」

 

 父の死により錯乱するハンナをダリアが支える。幾ら軍人と言えど、まだ十四歳の少女に父の死は大きすぎる事である。

 

「教授だけでなくメイスン中尉までも・・・クッ!許さんぞ!!」

 

 自身の恩師と友人の父の死に怒るアイリス。その時、突如フラッグが光に包まれた。

 

「隊長、その姿は!?」

「これは、二次移行!?」

 

 光が収まるとアイリスのフラッグは形を変えていた。バックパック等の各部パーツが大型化し、非対称だった頭部のブレードアンテナが大型化し左右対称になった。

 バイザーには二次移行完了と単一仕様能力解放の文字が浮かび上がった。

 更に単一仕様能力であるトランスフォーメーションの機体データによる最適化という表示を見てアイリスはある事を思い出す。

 

 

ISWAD本部 格納庫

 

「教授、アイリスのフラッグですが、どうしてGセイバーの飛行データがプログラムに組み込まれているのですか?」

「ああ、それかね。何時か必ず必要になると思ってのう」

 

 アイリスはビリーとエイフマン教授の会話を偶然耳にした。

 

「何時かとは?」

「それはその時になってからのお楽しみじゃな」

 

 

 トランスフォーメーションは通常時の飛行と動きが異なる為、本来はパイロットが慣れるまで時間を有する事になる。しかし、エイフマン教授が組み込んでいたGセイバーの飛行データをISが読み込むことで飛行時の姿勢制御等をIS側が自動で行ってくれるのだ。

 更に、組み込まれたデータはグラハム機のものな為本来行わないようなトリッキーな動きにも対応してくれる。

 エイフマン教授は単一仕様能力が操縦者のイメージ・インターフェイスを用いる事から、アイリスが戦闘機を操る父の姿に強い憧れを持ち、そのイメージが何らかの形でISに現れる事を読んでいたのだ。

 

「教授・・・感謝します!」

「隊長!」

アキ!お前はハンナを頼む!」

「了解!」

「私が先行する!ダリア!イェーガン!援護を頼む!」

「「了解!」」

 

 アイリスは飛行形態に変形し、高速で飛行する。

 

 

 ISWAD本部上空ではグラハムとミハエルの激しい空中戦が繰り広げられていた。

 

「クッ!この!」

『ミハエル、いつまで遊んでいるつもりだ』

「此奴すばしっこい!」

 

 するとヨハンのレーダーにISの影が映った。

 

「接近する機体、フラッグか。このスピードは?」

「見つけたぞIS!!」

 

 アイリスは高速で接近しつつリニアライフルによる攻撃を行う。そしてすれ違った後通常モードに変形しプラズマソードを構える。

 

「クッ!」

『来てくれたかアイリス!』

「父さん!」

 

 グラハムは彼女の動きに合わせてヨハンにミサイルを撃つ。ヨハンはそれを回避するも、回り込んだアイリスの攻撃を食らう。

 

「グッ!?」

「姉貴!グアッ!?」

 

 ヨハンに気を取られたミハイルにダリアとイェーガンが攻撃を与える。

 

「クッ!ファング!」

「そんなもの!!」

 

 ミハエルはファングにより攻撃するもダリアはそれをプラズマソードで全て切り捨て鍔迫り合いになる。

 

「素人が!機体性能に頼りきりなんだよ!!」

「グッ!てめぇ!」

「ビットさえ無けりゃ、貴様程度にメイスン中尉がやられる筈無かったんだ!」

「押される!?」

 

『ミハ姉!ヨハ姉!』

「ネーナ!お前は撤退しろ!」

 

 戦闘に参加していなかった赤いISのパイロットネーナ・トリニティは二人に声を掛けるもヨハンの指示で撤退を開始する。

 

「イェーガン、奴を逃がすな!」

『了解!』

 

 逃げ出したネーナをイェーガンのリアルドが追う。

 

「人の心配をしている場合か?」

「グッ!」

 

 アイリスは肩のビームキャノンをプラズマソードで破壊する。更に上空からグラハムがバルカン砲で援護する。

 度重なる攻撃でヨハンのISのシールドエネルギーはどんどん削られて行く。

 

「姉貴!」

「貴様の相手はこの私だ!」

 

 ヨハンは援護に向かおうとするもダリアに阻まれる。そして。

 

「グッ!?」

 

 遅れてやって来たハンナとアキからの銃撃を食らう。ハンナはそのままプラズマソードを構えミハエルに突撃する。

 

「お父さんの仇ィ!!」

「ぐあああっ!!」

 

 ハンナのプラズマソードが機体の胸に突き刺さる。ミハエル本人はISの絶対防御により無事だったが機体はエネルギー切れにより地面に落下する。

 

「ミハエル!?グッ!」

 

 ミハエルが撃墜された事に気を取られた隙にアイリスはもう一本のプラズマソードを取り出し相手のプラズマソードを弾き飛ばす。アイリスはそのままプラズマソードを振り上げる。

 

『どれほどの性能差であろうと!』

 

 上空からグラハムのGセイバーが迫る。

 

「「今日の私は、阿修羅すら凌駕する存在だ!!」」

 

 アイリスが機体の右腕を切断し、グラハムが撃ったミサイルが命中しシールドエネルギーがゼロになった。

 

「ば、馬鹿な・・・」

 

 ヨハンのISはそのまま地面へ落下した。

 

『隊長!』

「イェーガン、逃げたISはどうなった」

『すみません、逃がしました。ジャミングと機体性能の差で・・・』

 

 相手の強力なジャミング能力と、第3世代機と推定される機体に対して第2世代機であるリアルドでは追い切れなかったのである。

 

「分かった、帰投してくれ」

『了解!』

 

 

 その後、鹵獲した機体とパイロット達の話から、おおよその情報が掴めた。先ず彼女達が使っていた機体は、数か月前、輸送中に謎の勢力に強奪された某国が開発していた試作装備の実験機である”スローネアイン””スローネツヴァイ”であることが分かった。

 スローネアインは別のISと接続する事で高出力のビームが撃てる試作大型ビームキャノン。スローネツヴァイはBT兵器であるファング。取り逃がした”スローネドライ”にはISのセンサーすら妨害できるジャミング能力が備わっているが、鹵獲した機体は本来より大幅に改造されている事が分かった。これらの機体は徹底的な調査がされた後、本来の持ち主である研究機関に返還された。

 彼女たちについては調査がされたものの、経歴などは一切不明だった。彼女たちは三姉妹で長女がヨハン、次女がミハエル、三女がネーナと言う名前で、遺伝子調査により実姉妹である事は確認された。

 彼女達は自分達が何処の所属でどういう命令を受けたか等は話したが、取り逃がした末妹に関してだけは絶対に口を割らなかった。

 彼女達の所属先はある要注意団体である事が分かった。その団体は異常なまでの女尊男卑主義で過去に幾つかのテロに加担した疑いがある組織だった。

 直に強制捜査が入りメンバーは全員拘束された。メンバーのリーダーは「エイフマン教授がISのコアを解明する事で女尊男卑のバランスが崩れる事を危惧したので抹殺を図った」と犯行を認め、彼女に情報を流していた軍の内通者も無事拘束された。

 しかし、今回の事件には不可解な点が数多く存在する。先ずこの団体だが、確かにテロに加担したりと過激な集団ではあるが、そこまで規模は大きくなくISを強奪し改修する様な設備も人材も持っていないのである。そもそも極秘に開発されていたISの輸送計画をどうやって知りえたのか。また、軍の内部にスパイを送り込むのは容易ではなく只の一団体が行える事では無いのである。また、組織の資金や人材の動きに不明な点が多く、調査するも手掛かりは何一つ残されていなかったりと、証拠は無いがバックに更に大きな組織の影がある事は明確である。

 今回の事件は国や軍にとって大きな汚点になる出来事だった。その為世間には全てを発表するのではなく、ISによるテロ活動を米軍が鎮圧したという内容で公表した。また、グラハムが通常兵器でISを撃墜したという事実は事件の詳細を隠す良い隠れ蓑となった。

 今回の襲撃により、ISWAD本部長並びにIS開発主任レイフ・エイフマン教授、ハワード・メイスン中尉他、ランディ少佐、ステュアート大尉等の優秀なパイロットを含む数十名が亡くなった。

 また、今回の活躍によりアイリスの部隊は対IS部隊として再編成され、新たにフラッグ二機が配備された。それによりフラッグのみで構成された精鋭部隊として、アイリスの二次移行したフラッグにちなんで「オーバーフラッグス」と名付けられた。

 これにより多くの謎を残しつつも今回の事件の幕は閉じたのである。




※ハンナはアイリスより一歳年下であり、ダリアは一歳年上です。
※今回登場したトリニティ姉妹は今までの娘設定では無く性別の違う同一人物です。
 偶にこういう性転換したキャラも居るのでご了承ください。


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第9話 銀の福音

臨海合宿二日目

 

 アイリス達は訓練場である海岸沿いの岩場に集まっていた。

 

「よし、専用機持ちは全員集まったな」

「ちょっと待ってください、箒は専用機を持って無いでしょう」

 

 メンバーの中に専用機を持たない箒がいる事を鈴が指摘する。

 

「そ、それは・・・」

「私から説明しよう、実はだな・・・」

「やっほー!」

 

 千冬先生が説明を始めようとした直後、何故か束が崖を滑り降りてきて千冬先生に向かいダイブした。

 

「ちーちゃーん!!」

 

 千冬は飛び掛かって来た束を片手で受け止めた。

 

「やあやあ会いたかったよちーちゃん!さあハグハグしよう愛を確かめ・・・」

「五月蠅いぞ束」

 

 束は散々千冬にすり寄った挙句、箒へのセクハラ発言により木刀で殴り飛ばされた。

 

「おい束、自己紹介ぐらいしろ」

「ええーめんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ!ハロー!終り~」

 

 皆が超の付く有名人の登場に驚いていると束が空を指さした。

 

「さあ!大空をご覧あれ!」

 

 すると空から菱形の物体が降って来た。

 

「じゃじゃーん!これが箒ちゃん専用機こと紅椿(あかつばき)!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製だよ!」

 

 謎の物体が消失しその中から赤色のISが現れた。

 

「何たって紅椿は天才束さんが作った第4世代型ISなんだよ~!」

「第4世代!?」

「各国で、やっと第3世代機が普及し始めた段階ですわよ!?」

「我が国でもまだ研究段階だが・・・」

「なのにもう・・・!?」

「そこがほれ、天才束さんだから。さあ箒ちゃん、今から初期化と最適化を始めようか!」

 

 束の言葉で箒はISに乗り、システムのセッティングが始まった。

 

「箒ちゃんのデータはある程度先行して入れてあるから、あとは最新データに更新するだけだね!」

「やはり速い、カタギリ主任以上だ」

 

 束が高速でセットアップする姿を見てアイリスが感嘆の声を上げる。

 

「はい初期化終り!超早いね流石私!そんじゃ、試運転も兼ねて飛んでみてよ!箒ちゃんのイメージ通りに動く筈だよ?」

「ええ、それでは試してみます」

 

 そう言うと箒は高速で飛び出した。

 

「何これ早い!」

「これが第4世代の加速・・・という事?」

「速い、カスタム・フラッグの飛行形態でさえ追い付くのがやっとという所か」

 

 紅椿の速度と加速力に驚く一同。箒は動きを確かめるように自在に飛び回る。

 

「じゃあ、刀使ってみてよ!右のが雨月(あまづき)で左のが空裂(からわれ)ね!」

 

 箒が雨月を振ると、数発のビームが撃ち出され雲を切り裂く。

 

「良いね良いね!次はこれ撃ち落としてみてね!」

 

 束は何処からともなくミサイルランチャーを出現させ紅椿へ向けて発射する。

 箒は空裂を振りかざすと斬撃がそのままエネルギー波となりミサイルを全て撃墜する。

 

「すげぇ・・・」

「うんうん良いね!うふふふふ!」

 

 紅椿の圧倒的な性能に皆が驚愕する中、千冬だけが彼女を険しい表情で見つめていた。

 

「た、大変です!織斑先生!」

 

 するとそこに血相を変えた山田先生が走って来た。

 

「これを!」

 

 山田先生は千冬先生に携帯端末を手渡す。

 

「特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし・・・テスト稼働は中止だ!お前たちにやって貰いたいことがある」

 

 

 

 

臨海学校宿泊施設 教員室

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代のIS、”シルバリオ・ゴスペル”通称「福音」が制御下を離れて暴走、監視空域から離脱したと連絡があった。情報によれば無人のISという事だ」

「無人?」

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過する事が分かった。時間にして五十分後、学園上層部からの通達により我々がこの事態に対処する事になった」

「ミス・ブシドー、一つ質問を」

「何だ、エーカー」

「この事態にオーバーフラッグスは対応していないのですか?」

 

 アイリスは今回の事態にオーバーフラッグスが動いていない事に疑問を持った。

 

「現在オーバーフラッグスは同時刻に発生した軍用オートマトン暴走事故の対応に追われており作戦には参加できないらしい」

「分かりました、有難うございます」

「教員は学園の訓練機を使用して空域、及び海域の封鎖を行う。よって本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

「はい!?」

 

 千冬先生の言葉に一夏は驚きの声を上げる。

 

「つまり暴走したISを我々が止めるという事だ」

「マジ!?」

「大丈夫だって。何たって無敵のコーラサワー様が付いてるんだからな!」

 

 ラウラの言葉に大げさに驚く一夏に対して、パトリシアはサムズアップをして見せる。

 

「それでは作戦会議を始める」

 

 メンバーはISの機体性能等を観て作戦を話し合う。

 

「この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは、一回が限界だ」

「一回きりのチャンス、という事はやはり、()()()()()()()()()()()()()()で当たるしかありませんね」

「うんうん・・・て、えっ!?」

「アンタの零落白夜で落とすのよ!」

「それしかありませんわね。ただ問題は・・・」

「どうやって一夏をそこまで運ぶか・・・エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから移動をどうするか」

「目標に追い付ける速度が出せるISでなければいけないな・・・」

「ちょっと待て!俺が行くのか!?」

「「「「当然!」」」」

「ユニゾンで言うな!」

「織斑、これは訓練ではない。実戦だ」

「ッ!!」

 

 千冬先生の言葉で一夏の顔は真剣なものとなる。

 

「もし覚悟が無いなら、無理強いはしない」

 

 その言葉に、一夏は拳を強く握りしめる。

 

「・・・やります。俺が、やって見せます!!」

「よく言った少年!」

 

 一夏の決意を込めた言葉にアイリスは頷く。

 

「よし、それでは現在専用機持ちの中で最高速度が出せる機体は・・・」

「ちょっと待ったー!」

 

 すると突然、天井の一部が開きそこから束が現れた。

 

「その作戦はちょっと待ったなんだよー!」

「(前にも見た光景だな・・・)」

 

 アイリスは飛び降りてくる束を見ながら前にも同じような事があった事を思い出す。

 

「ちーちゃんちーちゃん!もっと良い作戦が私の頭の中にナウプリンティング~!」

「出ていけ!」

「此処は断然紅椿の出番なんだよ~!」

「何?」

「紅椿のスピードは現行機の何と3倍以上!赤だけに、なんてねー!まあつまり、この中で一番早いのは箒ちゃんなんだから、いっ君を運ぶ役は箒ちゃんで決定って事で!」

「お待ちください、篠ノ之博士」

 

 束の案に待ったを掛けたのはアイリスだった。

 

「少年を運ぶ役目はこのアイリス・エーカーにお任せ頂けませんか?」

「えーでもそれじゃあいっ君と箒ちゃんが二人きりでキャッキャウフフじゃなくて、フラッグ程度じゃ追い付けないでしょ?」

「私のカスタム・フラッグの飛行形態なら追い付く事は可能です。紅椿が白式を載せて運んだとしても、敵機から攻撃を受けた場合片方が囮になる為に必ず分離する必要があります。その間白式に攻撃と移動両方を行わせるのは非効率です。ですので、私が白式を常に運び続け、紅椿が囮となり敵機の足を止める方が確実です。それに、そもそもこの件は我が国の問題です」

「んー確かにそうかもねー」

「よし、その案を採用しよう」

「ちょっとちーちゃーん!?」

 

 千冬先生はアイリスの提案を採用した。それに対し束は、何か計画と違うという様な不満そうな顔をした。

 

「少年、私が君の翼と成ろう」

「は、はい!お願いします!」

 

 アイリスは少年の方を向きそう言った。

 

「よし、本作戦は、織斑、篠ノ之、エーカーの三名による目標の追跡、及び撃墜を目的とする。エーカーは隊長として、現場では独自の判断で二人への指示を行え。作戦開始は三十分後、各員直ちに準備にかかれ!」

 

 こうして福音討伐作戦は開始された。

 

 

 

 

海岸沿い AM11:30

 

 作戦開始時間、浜辺にはISを展開した三人が待機していた。

 

「作戦開始時間だ。二人共、準備は良いか?」

「はい!」

「何時でも行ける」

 

 アイリスはカスタム・ウイングを収納した白式を背中からフラッグで掴むと、飛行を開始する。

 

「篠ノ之は先行してくれ」

「分かった!」

「それでは行くぞ、少年」

「はい!」

 

 フラッグが飛行形態に変形すると、紅椿を先頭に高速で飛行する。

 

「暫時衛星リンク確立、情報照合完了。目標の現在位置を確認」

 

 先頭を飛行する紅椿から通信が入る。

 

「よし、今から目標へ接近する。篠ノ之は後方から援護を頼む」

「了解」

「行くぞ少年!」

 

 フラッグを先頭とし一気に加速する。暫くすると目標である福音が見えてきた。

 

「あれがシルバリオ・ゴスペル」

「加速する、目標との接触は十秒後だ」

「了解!」

 

 フラッグは高速で福音に接近し、白式は零落白夜を発動し剣を構える。福音は接近に気付くと速度を上げ逃走を図る。

 

「うおおおおおお!!」

 

 フラッグが福音に限界まで近づいたタイミングで白式が剣を振るう。しかし、相手はそれをギリギリのタイミングで躱した。

 

「躱した!?」

「来るぞ!」

 

 福音は背中の翼から大量のビームを撃ち出す。フラッグはそれを躱しつつ接近を試みる。

 

「篠ノ之、援護を頼む!」

「了解!」

 

 紅椿はフラッグとは逆から福音に接近する。それに対して福音は狙いを紅椿へと移し攻撃を始める。

 

「もう一度行くぞ少年!」

「はい!」

 

 攻撃が止んだ隙に二人は急速に接近する。相手は此方の接近に気付きまたも直前で回避された。

 紅椿は展開装甲をエネルギーソードに切り替えて遠隔操作する事により福音を攻撃し、バランスが崩れた所を後ろから刀で拘束する。

 

「一夏、アイリス、今だ!」

「おう!・・・なッ!?」

 

 動きを封じられた福音に向かって行く二人、しかし。

 

「放してくれ!」

「なッ!?何をする少年!!」

 

 直前で一夏は白式のカスタム・ウイングを展開しフラッグの腕から抜け出すと海面に向かい一直線に飛び出した。

 

「なッ!?一夏!?グッ!」

 

 突然の行動に驚いた隙に福音は紅椿の拘束を逃れる。

 

「どうしたというのだ少年!・・・ん?あれは!?」

 

 アイリスが海面をズームすると、そこには何と漁船が航行していた。一夏はその手前に停止すると福音からの流れ弾を全て撃ち落とす。

 

「ふぅ・・・」

「何をしている!折角のチャンスに!」

「船がいるんだ!会場は先生たちが封鎖した筈なのに!」

「船?」

「密漁船みたいだ!」

 

 箒も海面をスキャンすると国籍不明の漁船を発見した。

 

「クッ!この非常時に・・・」

『奴らは犯罪者だ!構うな!』

『見殺しにはできない!』

「IS操縦者と言えど、軍人では無く民間人・・・非情には成り切れんか!」

 

 アイリスは一夏の所まで移動すると人型形態に戻りディフェンスロッドで攻撃を防ぐ。

 

「少年!ここは私に任せて攻撃に参加しろ!!」

「でも!」

「これは命令だ!!貴様が作戦の要であるという事を忘れたか!!」

「早くしろ一夏!!」

「あっ!?」

 

 箒が一夏に気を取られて福音から注意を逸らした瞬間、大量のビームが紅椿へ向けて発射される。それに気づいた一夏は瞬間加速で紅椿に近付く。

 

「篠ノ之!!」

「なッ!?」

「間に合ってくれ!!」

 

 一夏は箒を突き飛ばすも攻撃が直撃し爆発が起こる。白式は煙を上げながら海へ落下した。

 

「一夏ァ!!」

「クッ!!」

 

 アイリスは直に一夏を救出すべくフラッグで海に飛び込んだ。

 

 

 

 



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第10話 雪羅

臨海学校宿泊施設

 

「与えられたミッションを失敗した上、少年の命を危険に晒してしまった。隊長失格だな、私は・・・」

「アイリスさんの所為ではありませんわ」

「そうだよ、まさか封鎖されている筈の海域に船がいるなんて誰も予想できないよ」

「それに、半分はアイツの自業自得でもあるんだから」

 

 アイリス達は一夏の救出後、作戦を中断し施設へと戻って来ていた。

 一夏はISの絶対防御のお陰で一命は取り留めたが、今だ昏睡状態にある。

 

「だが、問題なのは箒の方だ」

「ええ、あれは新兵とかがよく成るやつですよ」

 

 箒は一夏の撃墜原因が自分にあると責任を感じ、重度の鬱状態となっていた。

 

「・・・全く、ファースト幼馴染が聞いて呆れるわ!」

「何処へ行きますの鈴さん?」

「ちょっと喝を入れてくるだけ!」

 

 そう言って鈴は歩き出す。

 

 

臨海学校宿泊施設 教員室 PM10:30

 

「皆揃ったな」

 

 一夏を除くアイリス達全員は再び作戦室へ集まっていた。

 

「知っての通り、福音は現在ここから30キロ先の海上で停止状態にある。理由は不明だが、何時また動き出すか分からない状況で援軍を待っている暇は無い。よって今から此処にいる全員には福音に対して奇襲攻撃を仕掛けてもらう」

「攻撃!?一夏さんも居ないのに!?」

「前回の作戦では福音に追い付ける者が他に居なかった為三人で行ったが、相手が動いていないのなら話は別だ。確かに白式が使えないのは痛いが、現在の戦力で十分対処する事は可能だ。それに現役軍人が三人も居てくれるんだ、皆も彼女達の実力は疑ってはいないだろ?」

 

 そう言って千冬先生はアイリス、ラウラ、パトリシアの三人へ顔を向ける。

 

「ハッ!今度こそ作戦を遂行して見せます!」

「教官のご期待に応えて見せます!」

「EUのエースの実力を見せてやろうじゃねぇか!」

「やる気十分の様だな。白式が使えない今、作戦遂行の要となるのは紅椿だ・・・篠ノ之」

 

 千冬先生は箒を見る。箒は右頬を赤くした顔で真っ直ぐ見つめ返す。

 

「やります、今度は油断しません!」

「うむ、良い眼だ。それでは一時間後に作戦を開始する。全員準備しろ!」

 

 

海岸沿い PM11:30 

 

 全員はISを展開し待機していた。

 

「作戦開始時間だ、全員準備は良いな?・・・作戦開始!」

 

 アイリスの合図で全員飛行を開始した。

 

 

 

 

現在位置から30キロ先の海上

 

 停止状態にあった福音にブルー・ティアーズとシュヴァルツェア・レーゲンによる長距離砲撃が命中する。爆煙の中から再起動した福音が飛び出した。

 

「続けて砲撃を行う!」

「了解しましたわ!」

 

 ラウラとセシリアは再度砲撃を開始する。福音は攻撃を回避しつつ二人へ迫る。

 

「此処は通さない!」

「少佐の所へは行かせねぇよ!」

 

 そこにシャルロットとパトリシアが立ち塞がる。福音は二人に向けて攻撃を開始した。

 

「おっと!そんな攻撃当たるかってんだ!」

「今度はこっちの番だよ!」

 

 二人は攻撃を回避すると銃撃を開始した。福音は攻撃を回避しつつも徐々に海面へ誘導される。

 

「行くぞ凰!」

「何時でもオッケーよ!」

 

 そこに海面ギリギリを飛行する甲龍を抱えたフラッグが迫る。二機は直前で二手に分かれそれぞれリニアライフルと龍咆を撃ちながら接近する。

 福音はそれを何とか回避するも変形したフラッグからのプラズマソードを右腕に受ける。そして逆側から来た龍咆の青龍刀を左腕で受ける。

 

「「うおおおおおお!!」」

 

 福音は高速で上昇する事で両側からの攻撃をいなす。しかし、真上には何時の間にか接近していた紅椿が二刀の刀を振り上げていた。

 

「はあああああああッ!!」

 

 箒はそのまま刀を振り下ろし見事福音の翼を両方とも切断した。福音はそのまま海面に落下し水飛沫を上げた。

 

「やったぜ!オレ達の勝利だ!」

「油断しないでパトリシア!」

 

 喜ぶパトリシアをシャルロットが制す。

 その時、海面から巨大な水柱が上がり、その中心には稲妻を走らせながらエネルギーの翼を生やす福音がいた。

 

「二次移行!?」

「まさか、このタイミングで!?」

 

 福音は頭上にエネルギーを溜め始め、次の瞬間、巨大なビームを紅椿へと向けて発射した。

 

「グアッ!」

「箒!?」

 

 紅椿はシールドでガードするも衝撃で吹き飛ばされる。

 福音はまたもエネルギーを溜め始める。

 

「やらせるか!!」

 

 アイリス、鈴、シャルロット、パトリシアは四方向からそれぞれ攻撃を与える。すると福音は先程の様な攻撃では無く360度全方向へ向けてビームをばら撒いた。

 

「何!?」

「嘘でしょ!?」

 

 四人はそれぞれ躱すか防御するが少なくないダメージを負った。

 

「援護する!」

「了解!」

 

 ラウラとセシリアも援護射撃を開始する。

 福音は攻撃を回避しつつエネルギーを溜め始める。

 

「!!オレの少佐に・・・」

 

 それを見てパトリシアはラウラと福音の間に移動する。

 

「手を出すなァ!!」

 

 福音はそのままビームを発射する。パトリシアはディフェンスロッドを高速回転させることでプラズマフィールドを発生させるも防ぎきれないと判断し機体全体でビームを受ける。

 

「パトリシアァ!!」

 

 パトリシアの活躍によりラウラはビームの直撃を免れるも、イナクトはそのまま海へ落下した。

 すると、福音は攻撃を止め突如高速で移動を開始した。

 

「何処へ向かう気だ?」

「この方角は・・・まさか!?」

 

 

臨海学校宿泊施設 教員室

 

「織斑先生!目標が移動を開始!」

「予測ルートは?」

「それが・・・此方へ向かっています!

「・・・全教員へ戦闘準備をさせろ」

 

 

 

「行かせるか!」

 

 アイリスは飛行形態に変形し福音を追い始める。しかし、カスタム・フラッグの力を持ってしても追いかけるのがやっとである。

 

「クッ・・・!!」

 

その時、フラッグの横を紅椿が高速で抜き去って行った。

 

「行かせはせん!!」

 

 紅椿は福音に追い付くと刀を振る。箒は福音を切り裂くも、両方の刀を掴まれる。

 箒はその体勢のまま福音を止めるべく逆噴射を始める。すると福音はエネルギーを溜め始める。

 

《篠ノ之!武器を捨てて離脱しろ!》

「ッ!!・・・うああああああッ!!」

 

 アイリスが警告するも、箒は放さずに逆噴射を続ける。

 

「私は篠ノ之柳韻(しのののりゅういん)の娘、篠ノ之箒だ!!」

 

 紅椿の働きにより福音の足を止める事に成功するも、箒はビームの光に飲み込まれた。

 

 

 

 

 一夏は青空が映る湖に立っていた。

 ふと見上げると、目の前に白髪の少女が立っていた。

 

「(何故だろう、懐かしい・・・)」

『呼んでる・・・行かなきゃ』

「えっ?」

 

 空を見上げると、ある光景が浮かび上がる。

 人型に戻り攻撃を続けるアイリス、シールドを展開し鈴を守るシャルロット、狙撃手でありながらビットを展開し直接戦闘を開始するセシリア、味方機に当てる事無く的確に砲撃を行うラウラ。

 

「これは・・・」

 

 一夏が少女の方を向くと、其処には誰も居なかった。

 

『力を欲しますか?』

 

 その声に振り向くと、其処には一機のISが佇んでいた。周りはいつの間にか夕暮れに変わっていた。

 

『力を、欲しますか?』

「・・・ああ」

『何の為に?』

「友達を・・・いや、仲間を守る為に」

『仲間を?・・・』

「ああ、何て言うか、この世界(IS)って結構戦う必要があるだろ?道理の無い暴力って結構多いからさ、そう言うのからできるだけ多く仲間を助けたいと思う。この世界で一緒に戦う仲間を」

『そう・・・』

『だったら、行かなきゃね』

「えっ!?」

 

 気が付くと隣には先程の少女が立っていた。

 

『ほら、手』

「あ、ああ」

 

 一夏は言われるがまま彼女の手に自分の手を重ねる。

 

 

 

 

「・・・此処は」

 

 一夏は病室で目を覚ました。

 

 

臨海学校宿泊施設 教員室

 

「フラッグのエネルギー残量、20%を切りました!」

「オルコットはエーカーの援護へまわれ」

《千冬姉ぇ!》

「一夏君!大丈夫なの!」

《はい!心配をお掛けしました》

「・・・織斑、行けるのか」

《はい、俺はもう大丈夫です》

「・・・分かった。では行ってこい!」

《はい!白式改め雪羅(せつら)、織斑一夏、出ます!》

 

 一夏は白式の第二形態”雪羅”を纏い飛び立った。

 

 

 

 

「箒!」

「一、夏?・・・一夏!?」

 

 海岸の岩場に墜落した箒の前に一夏が降り立つ。箒は一夏の声で目を覚ますと直に体を起こした。

 

「身体は!?・・・傷は!?」

「大丈夫だ、戦える」

「良かった・・・本当に・・・」

「おいおい、泣くなよ?」

「な、泣いてなど・・・」

「あ、そうだ。今日は七月七日だろ?誕生日おめでとう」

「えっ?」

「彼奴を倒したら皆で祝おうぜ?プレゼントも買ってあるしな」

 

 そう言って一夏は立ち上がる。

 

「それじゃあ、行ってくる!」

 

 一夏はそのまま福音へ向けて飛び立った。

 

「一夏・・・(私は共に戦いたい、あの背中を守りたい!)」

 

 箒がそう強く願った、その時。紅椿が突然輝きだした。

 

「これは!?」

 

 残り少なかったシールドエネルギーが全回復し、モニターには単一仕様能力絢爛舞踏(けんらんぶとう)解放の文字が浮かび上がった。

 

 

《ごめん皆!遅れた!》

「「一夏!?」」

「一夏さん!?」

「待ちかねたぞ少年!!」

 

 一夏の登場に皆の士気が上がる。

 一夏はそのまま福音へ突撃する。福音はそれを躱し一夏へ攻撃を仕掛ける。

 

「任せて!」

 

 シャルロットが一夏の前に立ちシールドで防御する。

 

「乱れ撃ちですわ!!」

「行くわよ!!」

「撃て!!」

 

 セシリア、鈴、アイリスは福音へ向けて一斉射撃を開始する。福音は全てを躱し切れず被弾するも立て直す。

 

「捉えた!!」

 

 ラウラの砲撃が福音に命中する。すると福音はお返しとばかりにビームを発射する。

 そこにボロボロのイナクトが割り込みディフェンスロッドでラウラへの直撃コースを全て弾き飛ばす。

 

「パトリシア・コーラサワー!只今戻りました!」

「ッ!!・・・遅刻だぞ少尉!!」

 

 福音と雪羅は激しい空中戦を繰り広げていた。

 

「逃がさねぇ!!」

 

 福音を追う一夏。しかし、零落白夜を発動する雪羅のシールドエネルギーはみるみる減って行く。幾ら二次移行したと言えど、零落白夜の欠点が解消された訳では無い。

 雪羅のエネルギーが残り僅かとなる。

 

「クッ・・・」

《少年!!》

「!?」

 

 そこへ飛行形態となったフラッグが高速で接近して来る。

 

「勝利への水先案内人は、このアイリス・エーカーが引き受けた!!」

 

 福音はフラッグへ向けて攻撃を始めるが、アイリスは被弾もお構い無しに全速力で突撃する。

 

「抱き締めたいな、福音!!」

 

 フラッグは直前で人型に戻り福音を抱き抱えたまま海へ飛び込んだ。

 

「アイリスさん!!」

「一夏!これを受け取れ!」

 

 そこへ箒が現れる。一夏は言われるがまま紅椿と手を交わすと、瞬く間にシールドエネルギーが回復する。エネルギーを回復し、それを相手に分け与える。これこそが紅椿の単一仕様能力”絢爛舞踏”である。

 

「行け!一夏!!」

「おう!!」

 

 海面から水飛沫を上げて福音が現れる。そこに朝日をバックに一夏が迫る。

 

「今度は逃がさねぇ!!」

 

 雪羅の雪片弐型が福音の胸に突き刺さる。二機はそのままの勢いで海面を滑り浜辺へ激突する。

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

 福音は一夏へ手を伸ばそうとするも、エネルギーがゼロになり機能を停止した。

 一夏は立ち上がり福音から刀を抜く。その横に箒が降り立つ。

 

「終わったな・・・」

「ああ、やっとな」

 

 

 

 

臨海学校宿泊施設

 

 施設の前にアイリス達は集まっていた。皆それぞれ大小の怪我を負っているが、その表情は明るい。

 

「作戦完了!皆、良く頑張ってくれた。数々のアクシデントが発生する中、よくぞ任務を遂行してくれた!」

 

 千冬先生の激励の言葉に皆笑顔を浮かべる。

 

「今日はゆっくり休んで早く怪我を治すように!」

「「「「はい!」」」」

 

 

 

 

臨海学校宿泊施設 病室

 

《隊長!お怪我を・・・!》

「これくらいどうという事も無い。私が居ない間、良く頑張ってくれた」

《いえ、肝心な時に隊長の力に成れず、申し訳ありません》

 

 アイリスはオーバーフラッグスのハンナと連絡を取っていた。

 

「そう言うな。所で今回の件、其方で解った事は?」

《はい、どうやらISとオートマトンは同じ人物からハッキングを受けていたみたいなんです》

「犯人は特定したのか?」

《いえ、何重にもダミーが張り巡らされていて特定は困難の様です。しかしこの状況・・・》

「ああ、似ているな・・・白騎士事件に」

 

 

 

 

夜 海岸沿い

 

 浜辺の崖の上に束は座っていた。

 

「あーあ、白式には驚くなぁ、まさか()()()()()()()()まで可能だなんて。まるで・・・」

「まるで、白騎士の様だな」

 

 彼女の背後には千冬が立っていた。

 

「コア№001、お前が心血を注いだ一番目の機体にな」

「やあ、ちーちゃん」

「例えばの話がしたい。とある天才が、一人の男子を高校受験の日にISがある場所に誘導できるとする。そこにあったISをその時だけ動く様にしておく。すると、男が使えない筈のISが動いた様に見える」

「うーん、それだとその時しか動かないよねぇ?・・・ウフフッ!実の所、白式がどうして動くのか、私にも分からないんだよねぇ?教授なら何か分かったかなぁ」

「・・・まあいい、今度は別の話だ。とある天才が、大事な妹を晴れ舞台でデビューさせたいと考える。そこで用意するのは、専用機と、何処かのISの暴走事件だ。暴走事件に際して妹の乗る新型の高性能機を作戦に加える。妹は華々しくデビューと言う訳だ」

「凄い天才が居たものだね~」

「ああ、凄い天才が居たものだ・・・嘗て、十二か国の軍事コンピューターをハッキングした天才がな?」

「・・・ねぇちーちゃん、今の世界は楽しい?」

「そこそこにな」

「・・・そうなんだ」

 

 気が付くと束の姿は何処にも無かった。

 

 

 



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第11話 三国同盟(仮)

本編とは殆ど関係ない息抜き回です。


日本 東京 秋葉原

 

「悪いねアイリス、買い物に付き合ってもらって」

「問題ない、ちょうど暇だった所だ」

「本音もごめんね」

「いいっていいって~」

 

 アイリスは現在、レベッカ、簪、本音の三人と共に夏休みを利用して秋葉原に買い物に来ていた。

 

「簪、君の専用機はまだ完成しないのか?」

「すみません、もう少し調整が必要でして」

「私は我慢弱い・・・」

「ねえレべっち、何であいりんの方がかんちゃんの機体を気にしてるの?」

「フフッ、アイリスは機体が万全な簪と戦いたいのさ」

 

 

 無事に買い物を済ませた帰り道。

 

「所でカタギリ」

「何だい?」

「荷物持ちに不満は無いが・・・なんだか多くないか?」

 

 アイリスは現在レベッカが買った漫画やアニメの荷物持ちをしているのだが、その量が明らかに多いのだ。因みに傍から見れば小柄な少女が両手に大荷物を抱えており大丈夫なのかと心配しそうになるが、伊達に軍人をしている訳では無い為実際は見た目以上の筋力を持っている。

 

「ああ、言って無かったね。実はその殆どはドイツにいる友人への送り物なんだ」

「ほう、初耳だな」

「あれ?知らなかったんですか師匠?」

 

 アイリスはレベッカにドイツの友人がいる事に驚き、簪はアイリスが知らなかった事を意外に思った。因みにアイリスは簪のテスト飛行に付き合う内に何時の間にか師匠と呼ばれるようになっていた。

 

「お~いみんな~!」

 

 そこに本音が一枚のチラシを持って近付いて来た。

 

「本音?何処に行ってたの?」

「それよりも見て見て~」

 

 本音はチラシを皆に見せる。其処にはとあるメイド喫茶での”メイド無料体験会開催中”と書かれていた。

 

「おや?どうやらこの先にあるメイド喫茶でメイドの無料体験会が開かれているようだね」

「私、メイドやってみた~い!」

「メイド・・・良いですね!ぜひ師匠のメイド姿を見てみたいです!」

「私の?」

「そうと決まれば早速行ってみようか」

 

 イマイチ状況を理解できていないアイリスはあれよあれよと言う間に三人に連れて行かれた。

 

 

某メイド喫茶

 

 店に来たアイリス達はやたらテンションの高い店長に直に着替えさせられ接客に立たされた。

 

「ご主人様、貴官のご帰還を歓迎します」

 

 アイリスはメイド姿で軍人風の挨拶をする。店長曰く「その見た目と性格のギャップが凄く良い!」との事。

 

「金髪ロリ武人口調メイドとか誰得?・・・俺得」

「これはこれで・・・良い」

 

 お客からの評判はそこそこ良かった。

 

「お帰りなさいませ旦那様。こちらの席へどうぞ」

 

 レベッカは何故か執事服だった。元々の長身と中世的な顔立ちが相まって中々に似合っていた。

 店長曰く「ティロリロリン!?と来た!」との事。

 

「スゲーイケメン・・・」

「俺男だけど惚れたわ・・・」

 

 お客からの評判はなかなか良かった。

 

「お帰りなさいませご主人様。席へご案内します」

 

 簪は清楚系銀髪眼鏡メイドとなった。店長曰く「シンプルイズベスト!!」との事。

 

「何か凄い落ち着く」

「普通に可愛い!」

 

 お客からの評判はかなり良かった。

 

「おかえりなさ~いご主人様~!さあさあ座って座って~!」

 

 本音は大きめのメイド服を着たほんわか妹系メイドとなった。店長曰く「萌え袖!!しかも隠れ巨乳!!」との事。

 

「萌え袖妹キャラ良いね!」

「ロリ巨乳は正義」

 

 お客からの評判は凄く良かった。

 

「おや?この写真は・・・」

 

 レベッカは店内に飾ってある一枚の写真に気が付いた。其処には暗い青髪で眼帯と皮手袋を着け、何故か腰に鞭を装備したメイド服の女性が写っていた。

 

「へぇ、彼女も来ていたのか」

 

 

 

 

ドイツ軍IS基地

 

ハルフォーフ副隊長、カタギリ様より日本から荷物が届いています」

 

 シュヴァルツェア・ハーゼの隊員である白髪で褐色肌の女性、ネフェル・ナギーブ少尉はモニターの前に佇む女性にそう言った。

 

「流石はミス・カタギリ、仕事が早い。料金は何時もの口座へ振り込んでおけ」

「分かりました」

 

 暗い青髪で左目に眼帯を着けたこの女性こそ、レベッカの友人でありシュヴァルツェア・ハーゼ副隊長、クラリッサ・ハルフォーフ大尉である。彼女は振り向くと後ろに整列した同じく眼帯を付けた三人の少女達に向かって声を掛ける。

 

「喜べお前達、我が同士、ミス・レベッカより日本から新たな物資が送られて来た!」

「流石、日本の漫画やアニメをこよなく愛する黒兎隊副隊長のご友人!」

「私達にはできない事(日本へ行く)を平然とやってのける!」

「そこに痺れます憧れます!」

「更に、日本で新たな同士を見つけたらしい。これにより我々への物資供給回数が増える見込みだ!」

「「「おおー!!」」」

「・・・(まさか噂に名高いシュヴァルツェア・ハーゼがオタクの集まりだったとは・・・)」

 

 隊員達が盛り上がる中、ネフェルはそう思った。彼女は元NATOIS部隊隊員であり、その優秀さからシュヴァルツェア・ハーゼにスカウトされたのである。因みにパトリシアの約一年前に入隊している為、彼女の先輩に当たる。

 

 

 こうしてIS学園の夏休みは過ぎて行った。




ネフェル・ナギーブ少尉
 元ネタはソルブレイヴス隊のあの人。
 シュヴァルツェ・ハーゼにスカウトされていなかったらオーバーフラッグスに入隊していた可能性のある人物。後から入隊した隊員の為、左目のナノマシン手術は受けていない。
 搭乗機はEUイナクトカスタム 機体色は紫

 レベッカとクラリッサは休暇で日本に来た時に偶然出会い意気投合したという設定です。


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第12話 白式鹵獲作戦

IS学園 講堂

 

 新学期、アイリス達は講堂で全校集会に参加していた。

 

『それでは、生徒会長から説明をさせていただきます』

 

 放送を受け、舞台上に生徒会長である楯無が立つ。

 

「さてさて、今年は色々立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったね?私の名前は更識楯無、君たち生徒の長よ。以後よろしく!」

 

 彼女の挨拶に何故か一夏が驚愕していた。

 

「では今月の学園祭だけど、クラスの出し物を皆で決めるように!」

 

 そう言って手に持っていた扇子を広げる。其処には「締切間近」の文字が書かれていた。

 

 

1年1組教室

 

「えっと・・・うちのクラスの出し物の案ですが・・・全部却下!!」

「「「「ええー!!」」」」

「阿保か!誰が嬉しいんだこんなもん!」

 

 クラス代表の一夏がそう言うとクラス全体から落胆の声が上がった。

 黒板型モニターには「織斑一夏のホストクラブ」「織斑一夏のツイスター」「織斑一夏のポッキーゲーム」「織斑一夏の王様ゲーム」と表示されていた。

 

「とにかく、もっと普通の意見をだな・・・」

「メイド喫茶はどうだ?」

「「「「・・・え?」」」」

 

 一夏の問いにアイリスが答える。一夏を含むクラス全員は予想外の人物から出た予想外の提案に固まった。

 

「ア、アイリスさん?」

「実は先日友人達と秋葉原に行ってな、其処でメイド喫茶なる物を体験した」

「私もやったよ~!」

「客受けは良いだろう、それに飲食店は経費の回収が行える」

「うん・・・良いんじゃないかな?一夏には執事か厨房を担当して貰えばOKだよね?」

「えっ?」

 

 シャルロットの言葉にクラスの皆も賛同し、1組の出し物は「ご奉仕喫茶」に決定した。なお、そこに一夏の意思は含まれないものとする。

 

 

 

 

学園祭当日

 

「此方へどうぞ、お嬢様」

 

 一夏は執事服を着て接客していた。因みに店は一夏目当ての客で行列が出来ていた。

 

「ふぅ・・・大分客足も落ち着いて来たな」

「ちょっといいですか?」

「はい?」

 

 仕事が一段落した一夏にスーツを着たオレンジの髪をした女性が名刺片手に話しかけてきた。

 

「・・・巻紙礼子(まきがみれいこ)さん?」

「はい!織斑さんの白式に是非我が社の装備を使って頂けないかなぁと思いまして!」

 

 IS装備開発企業『みつるぎ』の渉外担当”巻紙礼子”と名乗る女性は一夏に対してIS装備の売り込みを行ってきた。

 

「えっと、こういうのはちょっと・・・」

「まあそう言わずに、此方の追加装甲や補助スラスター等どうでしょう?さらに今ならもう一つ脚部ブレードも付いてきます!」

「いや、本当にいいんで・・・」

「お客様、申し訳ありません」

 

 セールストークに押されている一夏の下にアイリスが現れた。

 

「そう言う話でしたら事前に学園側に申し付けください」

「ちょっと・・・」

「仕事もありますので、それでは」

「すみません、失礼します」

 

 アイリスの助けもあって一夏は無事に離れることが出来た。

 

「はぁ・・・有難うございますアイリスさん」

「気を付けたまえ少年、ああ言う輩は一度話を始めると離して貰えないからな」

「はい、最近こういう話が多くなりまして・・・」

「ふむ、追加装備に興味があるのなら是非我が国のアイリス社を検討してくれ」

「ってアイリスさんもですか!?」

「冗談だ」

「そうですよねぇ、ハハハ・・・」

「大変そうね?」

「い、何時の間に!?」

 

 気が付くと一夏の後ろにメイド姿の楯無が立っていた。

 

「フフフ、時に一夏君?生徒会の出し物「観客参加型演劇」に協力しなさい!!」

「はあ?」

「兎に角、お姉さんと一緒に来る!ハイ決定!」

「ええっ!?」

「貴女もどうぞ?」

「私は遠慮する、興が乗らん」

「あら残念」

「ちょっとアイリスさん!止めてくださいよ!」

「無駄だ、こういう時の楯無は何を言っても聞かん」

「そういう事!」

 

 そう言う訳で何故かいきなり現れた楯無に一夏は連れ去られてしまった」

 

 

 

 

IS学園男子更衣室

 

「はぁ・・・はぁ・・・ここまで来れば・・・」

 

 現在一夏は生徒会出し物である箒、鈴等のいつものメンバーや1組女子の皆に追い掛け回されるシンデレラっぽい謎の演劇から逃げ回っている内に男子更衣室へと辿り着いていた。

 因みにアイリスは不参加を表明し、ラウラとパトリシアの二人に至っては出し物を見て回ると言って出て行ったきり帰って来ていない。

 

「またお会いしましたね」

「はぁ・・・えっ?・・・どうして巻紙さんがこんな所に?」

 

 すると何故か先程売り込みに来ていた巻紙礼子が立っていた。

 

「はい・・・この機会に白式を頂きたいと思いまして」

「・・・はあ?」

「いいから・・・とっとと寄越しやがれよ!!

「なッ!?」

 

 彼女はそう言って一夏に対して回し蹴りを放つ。一夏は咄嗟に飛び退いてそれを躱すと驚愕した顔で彼女を見る。

 

「貴女は一体!?」

「私かい?企業の人間に成りすました謎の美女だよ!」

 

 そう言うと彼女の背中から蜘蛛の足の様な物が飛び出した。

 

「ッ!?白式!!」

 

 それを見て一夏は即座に白式を展開する。

 

「待ってたぜ?そいつを使うのをよぉ!!」

「クッ!!」

「食らえ!!」

 

 巻紙礼子が手を翳すと其処からビームが発射された。一夏はそれを回避する。

 

「へっ、やるじゃねぇか」

「確かみつるぎの巻紙さんって言ったっけ?何で!?」

「フッ、仕方なく巻紙なんて名乗っていたけどな、コレ見てビビんなガキが!!」

 

 そう言うと彼女の身体が突然光り出し、全身装甲型の蜘蛛の様な形状をしたISが展開された。

 

「なッ!?IS!?」

『そうさ、”アラクネ”だよ。此奴の毒はきついぜ?そらよ!!』

 

 アラクネと呼ばれるISの蜘蛛の足の様な複数の脚部からビームが放たれる。

 それらを一夏はロッカー等を盾にしながら躱していく。

 

「はあッ!!」

 

 一夏はアラクネへ向けて剣を振るうが相手はそれを避けて壁へ張り付く。

 

『悪の組織の一人ってヤツかもなぁ?』

「ふざけんな!!」

『ふざけてねぇっつーの、ガキが!!』

 

 そう言って地面へ降りるとポーズを取りながら名乗りを上げる。

 

『秘密結社亡国機業(ファントム・タスク)が一人、オータム様って言えば分かるかぁ?』

「亡国企業?」

『知らないのかい?じゃあ冥土の土産に教えてやるゥ!!』

 

 オータムが放ったビームを躱した一夏が一気に近付く。

「貰ったァ!!」

『甘ぇ!!』

 

 しかし、それは脚部のガードで防がれてしまう。

 

「チッ!それなら・・・ハアアッ!!」

『へっ!』

 

 またもや近付いてくる一夏にオータムは攻撃を仕掛ける。しかし一夏はそれをスライディングで避け、伸ばされた腕部パーツを切断する。

 

『何!?』

「よし!このまま!」

 

 連続で攻撃を繰り返す一夏に徐々に押され始めるオータム。しかし。

 

『フッ・・・ハアッ!』

「なッ!?」

 

 手から放出された蜘蛛の糸の様な物に体を拘束されてしまった。

 

「クッ!このッ!」

『ハハッ!楽勝だぜ全くよォ!』

 

 糸により引き上げられる一夏。彼の胸に謎の装置が取り付けられる。

 

『さて、白式を頂くとするか』

「ッ!?」

 

 取り付けられた装置から電撃が放たれる。

 

「グアアアアアアアッ!!」

『ハハッ!そうそう、ついでに教えてやんよ。第二回モンド・グロッソでお前を拉致したのは我々亡国企業だ!感動のご対面だなぁ?』

「グッ・・・てめぇ・・・!!」

『ハハハ!機体だけ残して消えちまいな!!』

「あら?そう言うのは困るわ?」

 

 その時、カッターの様な水が蜘蛛の糸と装置をピンポイントで切断した。

 

『誰だてめぇ・・・どっから入って来た!!』

「少年の友達、生徒会長の更識楯無よ!」

《テーテテーッテテテッ!テレッテテー!テンッ!》

 

 そこにはロッカーの山に座り、何故かスマホで音楽を流している楯無の姿があった。

 

「た、楯無さん!?」

『何だてめぇ・・・食らいやがれ!!』

「!?危ない!!」

 

 オータムの攻撃が迫る中、何故かその場から動かない楯無。そして・・・

 

ザクッ

 

「!?」

 

 彼女はそのままアラクネの腕に体を貫かれた。

 

 



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第13話 IS学園攻防戦

IS学園司令室

 

 一夏とオータムが戦闘を開始した直後。

 

「ロッカールームに未確認のIS反応です!」

「山田先生、敵の増援に警戒、一般生徒には避難命令を。制圧用オートマトンと教員部隊へ出撃命令」

「了解しました!」

 

 千冬先生の命令により山田先生が指示を出す。するとその直後、突然モニターにノイズが走る。

 

「先生!レーダー並びに通信途絶、オートマトンも停止しました!」

「ジャミングか、対ECMシステムは?」

「作動しています!」

「それでもこれか・・・まさか例のISか?」

 

 

IS学園データルーム前通路

 

 IS学園の核とも言えるデータルームへ続く通路、電波妨害により機能停止した警備用オートマトンを背景に二機のISが睨み合っていた。

 

「まさかな、よもや君に出会えようとは・・・乙女座の私にはセンチメンタリズムな運命を感じられずにはいられない」

「どうして・・・何でアンタが此処に居るのよ!!」

 

 アイリスの前には嘗てISWAD本部を襲撃したネーナ・トリニティの姿があった。

 

 

IS学園校舎外 南側

 

「司令部聞こえるか!此方パトリシア、応答してくれ!・・・駄目だ通じねぇ。其方はどうですか?」

「此方も繋がらん」

 

 現在ラウラとパトリシアは偶然校舎外に居た所に山田先生からの放送を受け、ISを展開し待機していた。

 二人は放送の直後から謎の電波障害を受け、司令室との通信が出来なくなっていた。

 

「ISのレーダーやセンサーまで無力化するとかどんだけ強力なジャミングなんでしょうね?」

「ああ、幸いIS同士の近距離での通信なら可能のようだ」

「それだけが救い・・・ん?何だ」

 

 パトリシアは此方に接近してくる謎のISに気付いた。パトリシアは直にデータベースから機体を識別するが、該当する機体は見つからなかった。

 

「アンノウンだぁ?どうしてこんな時に・・・」

「パトリシア」

「分かっています。私が先行するので少佐は援護をお願いします」

 

 そう言うとパトリシアは戦闘モードになりラウラの射線に入らないよう相手に近付いて行く。

 

『おいおい何処のどいつだぁ?アメリカか?中国か?まぁ、何処だろうと人様の領土に土足で踏み込んだんだ、ただで済む訳ねぇよなァ?』

 

 パトリシアはISのスピーカーで喋りながら近付く。普通に聞けば相手を挑発している様な言葉だが、実際は戦闘後に相手側から抗議された際に言い返せるよう尤もな理由を口に出してそれをISに記録させているのである。

 パトリシアはISを目視できる距離まで近付くと停止した。謎のISは蝶の様な見た目をした青いISだった。

 

『貴様、オレが誰だか分かってんのか?EUのパトリシア・コーラサワーだ!分かったんなら大人しく所属と目的を言え!』

 

 パトリシアは相手へ警告する。すると相手も停止したかと思うと突然六機のビットを展開して来た。

 

「何だ!?」

 

 突然の攻撃に反応するパトリシア。前方からの攻撃を急上昇で躱しながら左からの攻撃をディフェンスロッドで弾き、右側のビットをリニアライフルで二機撃ち落とすも後ろからの攻撃を食らってしまう。

 

「おわあッ!?」

「パトリシア!?貴様よくも!!」

 

 パトリシアが攻撃を受けた為ラウラもレールカノンによる砲撃を行う。しかし、それ等は三機のビットによるビームシールドにより防がれる。

 

「何だと!?」

 

 敵ISは更に六機のビットを展開するとラウラに対して攻撃を開始した。

 

 

IS学園校舎外 北側

 

「繋がりませんわね」

「そうね」

 

 セシリア、鈴、箒、シャルロットの四人はISを展開し、出動してきた教員部隊と合流しアリーナ上空で待機していた。

 

「なに、あれ・・・」

「あれは・・・」

 

 するとシャルロットと箒は北側より接近するISらしき機影に気付き、全員が其方を向いた。

 

「まさか・・・」

「何て数だ・・・」

 

 そこには何と五十機以上のISらしき機体が空を覆っていた。

 

 

IS学園司令室

 

「どうだ?」

「駄目です。通信繋がりません」

 

 司令室では山田先生達教員が復旧作業を急いでいた。其処に一人の教員が飛び込んで来た。

 

「伝令!!Sフィールドにてボーデヴィッヒ、コーラサワー両名が所属不明のISと交戦中!またNフィールドよりISらしき機体が多数接近中!」

「何だと!?」

 

 

IS学園校舎外 北側

 

「何だ此奴らは!?」

「分からん!!兎に角撃ちまくれ!!」

「Nフィールドより敵が接近中!かなりの数だ!!」

《かなりじゃ分からん!!》

 

 現在、箒達含む防衛部隊は謎の敵と交戦を開始していた。

 敵は腕が大きい上半身だけのISの様な機体で、エネルギーシールドを展開した状態で箒達に突撃してくる。

 

「此奴ら自体はそこまで脅威じゃないが数が多すぎる!」

 

 ISモドキ自体は攻撃を与え続けると直に爆発四散するが、何しろ数が多すぎる。

 その時、一人の教員がISモドキに捕り付かれる。

 

「こんなISの出来損ない如きに・・・何!?」

 

ドカアァァン!!!

 

「小林ィ!!」

 

 何と教員に捕り付いたISモドキが自爆したのである。爆発が直撃した機体は煙を上げそのまま地上へと落下した。

 

「まさか特攻!?」

「此奴らの目的はそれか!?」

 

 これによりISモドキの不可解な行動の意味にようやく気付いた面々であった。

 

 

IS学園男子更衣室

 

「た、楯無さん!?よくも!!」

『・・・お前、手応えが無いだと?』

「フフフ・・・ハハハハハ!」

バシャリ

 貫かれた筈の楯無が笑い出すと突然体が崩れ始め液体となった。

 

『此奴は・・・水か!?』

「すり替えておいたのよ!」

『グアッ!?』

 

 オータムの背後からISを纏った楯無が現れランスで突き飛ばす。オータムはそのまま壁に激突し土煙を上げる。

 

「OKじゃあ、もう一度自己紹介させてもらうわ。私は更識楯無、そしてIS”ミステリアス・レイディ”よ!」

 

 楯無のISは機体色が水色で一対の翼の根元から水が羽の様に広がっている。

 煙が晴れると同時に楯無に向けてビームが放たれる。それをランスの周りに集まった水がバリアーとなり全て防ぐ。

 

『今直ぐ殺してやる!!』

「ウフ、何と言う小物発言かしら」

 

 オータムはなおも攻撃を続けるが一向にバリアーを貫けないでいた。

 

『その水、()()()水じゃねぇな!』

「そうよ?この水はISのエネルギーを伝達するナノマシンによって制御されてるのよ」

『チッ!』

 

 オータムはアームからブレードを展開し切りかかる。しかし突然水がロープのように機体に巻き付いてくる。

 

「しかも脳波コントロールできる!」

 

 オータムはそのまま先程と同じように壁に叩き付けられた。

 

「しかも手足を使わずに戦えるこの私に勝てると思ってるの?」

『ガキが・・・舐めやがって!!』

 

 オータムは力ずくで水の拘束から逃れようとする。しかし、水が一瞬赤く光ったかと思うと爆発した。

 

『ガアッ!?』

「ナノマシンを瞬時に発熱させることで起こした水蒸気爆発よ。効いたかしら?」

『まだ・・・まだだ!!』

「あらしぶとい、と言ってもこの程度じゃスミルノフ中尉には遠く及ばないわね?あの時は本当に驚いたわ・・・まさかこの私が物理で追い詰められるなんて思わなかったもの・・・」

 

 楯無はオータムの事など眼中に無いかのように遠い眼をする。よく見たら少し足が震えていた。

 

「・・・嫌なこと思い出しちゃったじゃない。そんな貴女には、特別に生徒会長である私の最強の技で止めを刺してあげるわ!」

 

 そう言うと楯無は脚部にマウントしてある剣の柄を握り引き抜く。しかし、其処に刃は無くその代わりに水が集まり刃を形作って行く。

 

「とくと見るがいいわ!!これが私の最強必殺技”ソードビッカー”!!

 

 そう言うと彼女は相手に向かって()()()()()

 

「投げるんかい!?」

『そんなもの!!』

 

 一夏は剣を投げた事にツッコみ、オータムは剣を躱す。しかし躱された剣は向きを変え相手を追い始めた。

 

「忘れたのかしら?その水はコントロールできるって事を」

『クッ!なら!!』

 

 避けられないと分かると機体にエネルギーシールドを展開し迎え撃つ。しかし、剣はあっさりとシールドを貫き彼女の胸に突き刺さる。

 

『ガアッ!?』

「絶対防御が有るから死にはしないでしょうけど、痛いでしょ?」

『グッ・・・だがこの位・・・!?』

 

 なおも動こうとするオータムのバイザーに突如エラーの文字が浮かび上がる。

 

「私の単一仕様能力”ソードビッカー”は相手を貫いた後、ナノマシンが機体内部へと入り込み()()()()()()して行くの。怖いでしょ?」

 

 オータムの機体は貫かれた胸部装甲を中心にひび割れて行き、至る所のバーツがボロボロに損傷して行く。

 

「流石にISのコアは破壊不可能だけど、これじゃあもう戦えないわね?」

『グッ・・・まだだ!!』

 

 するとオータムは損傷していないシステムを使い機体本体と蜘蛛の様な下半身を切り離す。

 

「あら?それ取れるの?」

 

 切り離された機体はそのまま一夏の方へ向かって行く。

 

「来るのか!・・・ん?」

 

 一夏が剣を構えると機体からタイマーのような音が聞こえてくる。

 

「まさか!?」

 

 一夏がその正体に気付いた直後、機体が大爆発した。

 

 

IS学園アリーナ

 

 突如アリーナの壁を破壊し二機のISが飛び出してきた。

 

「アンタが・・・アンタ達さえ居なければ!!姉ぇ姉達は!!」

「まるで自分が被害者の様な口ぶりだな?だが、先に武力介入してきたのは君達の方だという事を忘れるな!!私の空を汚し、同胞や恩師を奪い、友人を悲しませ、剰え親友の顔に傷跡を残したのは君達だ!!」

 

 アイリスはかつて無い程激怒していた。一年前、多くの物を奪ったISが目の前に居て黙っていられる程アイリスは大人では無かった。

 アイリスはネーナからの攻撃を躱すと的確に攻撃を当てていた。

 

「レーダーもセンサーも無力化してるのに・・・どうしてそんなに戦えるのよ!!」

「君はISの操縦を全てコンピューター任せにしているのか?」

 

 アイリスはレーダーや自動照準システムを使わずマニュアル操作で戦っていた。その状態で優勢である事が、彼女の技量の高さが窺える。

 その時、アリーナの床が突然爆発した。

 

「何だ!?」

「何よ!?・・・あれは!?」

 

 すると爆発で空いた穴からISモドキに抱えられたボロボロのオータムが現れた。彼女は二人に目もくれずに何処かへと飛び去った。

 

「何よ彼奴、あれだけ偉そうなこと言っておきながらやられてるじゃない!」

 

 オータムの敗走により状況が不利だと気付くとネーナも撤退を開始しようとする。

 

「逃がすか!」

ガガ!私を守りなさい!」

 

 ネーナがそう言うと、ガガと呼ばれた三機のISモドキがアイリスへ向かって突撃してくる。

 

「私の邪魔をするな!!」

 

 アイリスはプラズマソードで三機を切り裂く。切り裂かれたガガはそのまま空中で爆散した。

 煙が晴れると其処にはネーナの姿は無かった。

 

「逃げられたか・・・」

 

 

IS学園校舎外 北側

 

 

「全くしつこいですわ!」

 

 セシリアはビットを展開してガガを撃ち落として行く。

 

「これじゃ限がありませんわ・・・あら?」

 

 するとセシリアはとある事に気付いた。攻撃をガードしたガガが暫くするとシールドが解け失速したかと思うと独りでに爆発した。よく見れば撃ち落とされるガガの中にはシールドが切れた後、攻撃を受ける前に既に爆発している機体が多くあった。

 

「皆さん!どうやらこのISモドキは長時間の戦闘が出来ないようですわ!」

「つまり無理に撃ち落とそうとしなくても、逃げ回っていれば勝手に自滅してくれるってことね!」

「でも燃料切れでも自爆するなんて、どれだけ迷惑な敵なんだ」

 

 彼女達が敵の弱点に気付いた時、今まで邪魔していた妨害電波が急に無くなった。

 それによりオフラインになっていた防衛システムが再稼働し、学園中に設置されていた対空ミサイルやバルカン砲、重武装の制圧用オートマトンがガガを次々に撃ち落として行く。

 

「ようやく終われるようですね」

「ああ、長かった」

 

 これによりNフィールドでの戦闘は終了した。

 

 

IS学園校舎外 南側

 

 ラウラとパトリシアの二人は敵ISのオールレンジ攻撃に苦しめられていた。

 

「クッソー!これじゃあジリ貧だぜ!」

「クッ!」

「・・・中々に粘るな」

 

 二人が押されている事は事実だが、敵ISのパイロットは逆に今も撃墜されずに戦う二人を見て称賛する。

 

「・・・ん?オータムとネーナが撤退したか・・・潮時だな」

 

 敵ISのパイロットはオータムとネーナが撤退した事に気付くと、二人をビットで牽制しつつ撤退を開始した。

 

「敵が逃げて行く?」

「クッ・・・」

 

 ラウラとパトリシアは消耗している状態での深追いは危険と判断し、撤退する敵ISを黙って見ている事しか出来なかった。

 

 

IS学園男子更衣室

 

 ロッカールームは爆発により見るも無残な状態になっていた。

 部屋の端に水でできたドーム状のバリヤーが張られていた。その中には身を守る態勢の一夏と楯無が居た。

 

「大丈夫一夏君?」

「はい・・・あの女は?」

「どうやら逃げられたみたいね。爆発の威力がどれ程か分からなかったから、攻撃に使っていたナノマシンも全部呼び戻しちゃった所為で仕留めきれなかったみたい」

「すみません・・・俺を庇った所為で・・・」

「良いのよ、生徒を守るのも生徒会長の務めだもの」

 

 そう言って彼女は一夏に向けてウインクをする。

 これによりIS学園襲撃は、施設への被害や負傷者は出たものの、一人も死者を出す事無く終結する事に成功したのであった。

 



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第14話 戦う理由

学園祭での戦闘から一日後

 

 IS学園は復旧作業の為、至る所にブルーシートが張られ工事用の重機とオートマトンが休み無く動いていた。

 特に戦闘が激しかったロッカールームとNフィールドは至る所に爆発の跡が残され、ガガの残骸が山となっていた。

 

 

IS学園司令室

 

 そこでは山田先生と千冬先生が今回の襲撃について話し合っていた、

 

「ISアラクネはコアを抜き出して破壊、機体形状がEUで研究開発中の屋内戦用IS強化装備”アグリッサ”に酷似していましたがEU側は関与を否定、エーカーさんが遭遇したISは一年前にISWAD本部を襲撃後、国際指名手配されていたIS、スローネドライ。もう一機は機体形状が大きく異なりますが、調査の結果イギリスから強奪されたブルー・ティアーズ二号機”サイレント・ゼフィルス”の様です」

「亡国企業と言う輩か・・・」

「はい、次のターゲットが白式だったようです」

「更に、スローネドライの行動から学園のデータベースに侵入しようとしていた様だな」

「恐らく白式のデータが目的だったと考えられますが、此処のデータベースにはそれ以外にも多くの重要データが保管されていますから、エーカーさんが未然に防がなければ重大な情報漏洩になっていました」

「恐らくS、Nフィールドの戦闘どころか織斑への襲撃さえも陽動だったのだろう。そうでなければ織斑を襲撃する前にジャミングを行っている筈だ」

「そうですね。実際我々は織斑君の襲撃にばかり気を取られていて、スローネドライの侵入には全く気付きませんでしたし・・・と言うかどうしてエーカーさんはあそこに居たのでしょう?」

「本人曰く乙女座の勘だそうだ。米軍もデータベースを狙っていたとも考えられるが、それならもっと前から行動を起こしていても不思議では無いし、この混乱を利用してスローネドライと共にデータを盗み出しても良かった筈だ」

「そうですね・・・私も彼女は白と信じたいです」

「例のISモドキの調査はどうなっている?」

「はい、殆どの機体は損傷が激しくデータの復元は困難でしたが、奇跡的に不発した機体が残っておりその機体から抜き取ったデータによりますと、あの機体はIS用戦闘支援ドローン”ガガ”という名称でISのエネルギーを充填したエネルギータンクを動力とした兵器の様です。しかし、データにはガガの機体プログラムと「敵ISへのシールドを用いた自爆攻撃」というAIへの命令以外には亡国企業への手掛かりは何も残されていませんでした」

「ガガ・・・短時間とは言えISと同性能の戦闘が可能なAI兵器とは厄介だな。それに、コアを用いらないから大量生産も容易だ」

「そうですね。今回は只の特攻でしたが、今後携行武器の使用が行われた場合にはかなり厄介な相手となります」

「そうならない事を願いたいものだ」

 

 

 

 

某所にあるホテルの一室

 

「クソッ!クソクソッ!!何なんだよ彼奴は!次に会ったら絶対にぶっ殺す!!」

「落ち着けオータム」

 

 そこではIS学園襲撃から帰還した亡国企業のメンバーが集まっていた。

 自身が手も足も出なかった楯無に対して怒りをあらわにするオータムをサイレント・ゼフィルスのパイロットである()()()()()()()な黒髪の少女”エム”が止めていた。

 

「あーあみっともない。作戦前あれだけ偉そうにしていた奴が負けて帰ってきた上に、コアを残して機体を全損させるとはね」

 

 ネーナがオータムへ向けて馬鹿にしたような口調で言う。オータムは楯無から逃げる事には成功したものの、彼女のISであるアラクネはナノマシンにより既に修復不可能なほど破壊しつくされており、あと一歩機体を切り離すのが遅かったら確実に脱出不可能になっていたのである。

 

「何だとネーナ・・・そう言うお前だって誰にも見つからずに侵入できるとか言ってたくせに見つかってるじゃねぇか!!」

「うぐっ・・・あれは仕方が無かったのよ!まさかあんな所にアイツが居るとは思わなかったんだもん!ていうか何で居たのよアイツ!生徒は全員学園祭に夢中だった筈でしょ!!」

「ネーナも落ち着け」

「五月蠅いわね!アンタこそこの中で一番強いくせに何たった二人に足止めされてるのよ!」

 

 オータムの言葉で今度はネーナの方が五月蠅くなる。ネーナを止めようとするエムだが逆にネーナから言い寄られてしまう。

 

「ああ、あの二人は強かった」

「そう言う事を聞いてるんじゃないのよ!」

「やめなさい二人共」

 

 怒るオータムとネーナに対してエムとは違う人物から声が掛けられる。

 

「五月蠅いわよ?」

スコール!」

「スコ姉!」

 

 スコールと呼ばれたバスローブ姿で金髪ロングヘア―の女性の言葉にオータムとネーナの二人は嬉しそうな顔をする。

 

「落ち着きなさい二人共、奇麗な顔が台無しよ?」

「「はい!」」

「・・・下らない」

 

 一気に大人しくなった二人を放ってエムは歩き出す。

 

「エム、サイレント・ゼフィルスを整備にまわしといて頂戴。あれはまだ調整が必要よ」

「分かった」

 

 そう言ってエムは部屋を出て行った。

 

 

エムの自室

 

 ベッドしか無い殺風景な部屋の隅でエムは佇んでいる。

 

「もう少し・・・もう少しで・・・私の復讐が始められる・・・そう、やっと会う事が出来る・・・」

 

 そう言ってエムは手に持ったペンダントを開く。其処には織斑千冬の写真がはめてあった。

 

 

 

 

IS学園学生寮

 

 アイリスは自室でレベッカと話をしていた。

 

「亡国企業?」

「ああ、少年の話によると奴らは自分達の事をそう呼んでいたらしい。聞いた事はあるか?」

「噂なら聞いた事がある。第二次世界大戦中に設立して以来、百五十年以上もの間活動をしている裏の世界で暗躍する秘密結社。都市伝説だと思っていたけど・・・」

「その組織にスローネドライが居た。どうやら一年前の事件に関与していたのはそいつらの様だな」

「各国の諜報機関が百五十年以上も追っていて未だに尻尾を掴ませない様な組織だ、エイフマン教授の抹殺を図ったのも彼らなら、手掛かりが全く無かった事にも辻褄が合う・・・」

「・・・カタギリ?」

 

 レベッカは無意識の内に額の傷痕に手を置いていた。心配したアイリスはレベッカに話しかける。

 

「・・・ああ、御免。つい癖でね」

「あまり無理をするな」

「フフッ、僕は大丈夫だよ」

「・・・カタギリ」

 

 するとアイリスは立ち上がるとレベッカの方を向き敬礼をする。

 

「レベッカ・カタギリに宣誓しよう。私、アイリス・エーカーは必ずやスローネドライを倒す事を」

「ぁ・・・フッ、頼んだよ。フラッグファイター」

 

 突然の行動に一瞬動揺したレベッカだったが、彼女の言葉に力強く返事をした。

 

 

 




レベッカの傷は現在の医療技術で完全に消すことが可能だったが、彼女自身が戒めとして残すことを決めた。


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第15話 トランザム

IS学園格納庫

 

 アイリス、レベッカ、簪、本音の四人は格納庫にある一機のISの前に集まっていた。

 

「完成したか」

「ああ、遂に完成したよ」

 

 アイリスの問いにレベッカが答えるのと同時にISの周りに映し出されていた「作業中」と書かれたブルースクリーンが消え、ISの全貌が明らかになる。

 そのISは全身が黒く塗られた鎧武者の様な出で立ちだった。

 

”マスラオ”、簪の専用機だ」

「カッコいいね~!」

「フラッグの面影が垣間見える。見事な造形だが、以前模擬戦をした打鉄弐式(うちがねにしき)とは大きく変わったな」

「はい!見た目にはかなりこだわりました!」

 

 マスラオの外見は手足や胴体部がフラッグに近い形状をしており、まるで兜を被ったフラッグの様であり日本の量産型ISである打鉄の後継機であった打鉄弐式とは大きく異なる外見をしていた。

 

「二人で話し合っている内にやりたいことが増えて行ってね、お陰で整備・開発科で利用できる予算限度額を大きく上回ってしまったよ」

「ですがレヴィがアイリス社に話を通してくれて、マスラオの開発・戦闘データを共有する代わりに開発費用とフラッグの開発データを頂くことが出来ました」

 

 元々は整備・開発科の予算で機体の改造をしていたのだが、外見や新装備等をこだわり過ぎた結果、予算限度額を大幅に過ぎてしまったのである。そこでレベッカは簪と話し合った末、アイリス社のコネを使い何とか開発費を手に入れたのである。

 因みに簪はレベッカの事を親しみを込めてレヴィと愛称で呼んでいる。

 

「良かったのか?君の専用機のデータを渡しても」

「はい、此処までしてもらったんですからこれくらい安いものです。それに、アイリス社の協力が無ければマスラオは完成しませんでした」

「ある意味この機体は初の日米共同開発のISと言えるね。この機体のデータは現在研究開発中の第4世代機にも反映される予定だよ、完成した暁には日本でのライセンス生産も検討されているよ」

「カタギリ主任が開発中の第4世代機か・・・楽しみだな」

「そうそう、君と模擬戦を行うにあたって隠し玉を用意しといたから」

「隠し玉?」

「はい、私が考案したシステムをレヴィと協力して機体に実装したんです」

「前から言っていた新装備の事か、それは楽しみだ」

「それで、その・・・」

「どうした?」

 

 簪は何処か言いずらそうに言葉を詰まらせる。

 

「・・・師匠!今度のタッグマッチで私とパートナーになってくれませんか!」

 

 

タッグマッチトーナメント当日

 

『どうも皆さん!今日は専用機持ちのタッグトーナメントでーす!』

 

 アイリス達は現在、アリーナで行われる開会式に参加していた。生徒会長である楯無による説明が始まる。

 

『出場選手の皆さんは、日々の訓練の成果を存分に発揮し、全力で挑んでください!専用機を持たない生徒の皆さんにとっては、試合内容はとても勉強になると思います!しっかりと見ていてください!それでは、実りのある時間に成る様期待を込めて、開会の挨拶とさせて頂きます!』

 

 挨拶が終わり、各自試合の為の準備に取り掛かる。アイリス&簪チームは一回戦目で一夏&箒チームとの試合となった。

 

 

IS学園アリーナ 観客席

 

「どうも~レベッカちゃん!隣良いかな?」

「おや、更識会長。良いですよ」

 

 観客席に座るレベッカの隣に楯無が座る。

 

「妹の事、任せて悪かったわね」

「いえいえ、お陰様で楽しく過ごさせて貰っています」

「本当は一夏君にお願いしようと思ってたんだけど・・・貴女達に任せて正解だったわ」

「そう言って貰えると有難いです」

 

「あ!出てきたよ!」

「何?あの機体?」

「始めて見る機体だね?」

 

 二人が会話をしていると、準備を済ませた四人がISを纏いピットから現れた。しかし、簪のISを始めて見た生徒達から困惑の声が上がる。

 

「あの機体は・・・フラッグじゃない?」

「打鉄にも似ているが・・・」

 

 一夏と箒は機体を見てそう呟いた。そこには兜に設けられたV字型のバイザーで顔を半分隠した簪の姿があった。

 

「さっきは任せて正解だったって言ったけど・・・正直間違いだった気がして来たわ」

「誤解している様ですが、デザインを考えたのは簪ですよ?偶々見ていた時代劇に影響されたとか言ってました」

「純情メガネっ子だった簪ちゃんがこうなるなんてね・・・」

 

 楯無は妹の豹変ぷりに少しだけ引いていた。

 

「折角の妹さんの晴れ舞台なんですから、しっかり見ていてあげてください」

「言われなくても分かっているわ?」

 

 そう言うと二人は観戦に集中する。

 

 

IS学園アリーナ

 

 カスタム・フラッグとマスラオが横に並ぶ。

 

「師匠、白式の相手は私に任せて貰えませんか?」

「フッ、無論だ。少年の相手は任せた」

「はい!」

 

 試合開始の合図と同時に二人は飛び出した。

 

「来るぞ一夏!」

「おう!」

 

 接近する二機に箒と一夏は向かい打つべく動き出す。簪は左右で刃の長さが違うビームナギナタを回転させつつ一夏に接近する。対してアイリスはリニアライフルを撃ちつつ箒に近付いて行く。

 

「はああッ!!」

「フッ!!」

 

 一夏は二つの刃による連続攻撃を巧みに躱しつつ反撃を試みる。そして両者一歩も譲らずに鍔迫り合いとなる。

 

「・・・フフッ」

「何!?」

 

 簪は不敵に笑うと頭部に装備されたリニアマシンガンを撃つ。至近距離から放たれた攻撃に一夏は避けることが出来ずに被弾してしまう。

 

「一夏!?」

「君の相手はこのアイリス・エーカーが引き受けた!!」

 

 一夏の援護に向かおうとする箒をアイリスが遮る。機体性能としては第4世代機である紅椿の方が圧倒的に上であるが、技量で上回るアイリスに苦戦を強いられる。

 

「クッ、流石だなアイリス」

「フッ、其方こそ、以前とは比べ物にならない程強くなった」

 

 これにより両者共にパートナーと分断される事となった。

 

「白式・・・流石に見掛け倒しでは無いみたいですね?」

「何?」

 

 不意打ちによりダメージを与えられた一夏であったが、距離を取ると銃弾を全て刀で弾く。それを見た簪は攻撃を止め、一夏へと話しかけた。

 

「織斑一夏さん、実を言うと以前の私は貴方を恨んでいました」

「恨む?どうして?」

「私の本来の機体であった打鉄弐式は、貴方の白式と同じ開発元でした。貴方の登場により、白式開発に人員を回され打鉄弐式は未完成のまま開発を中断されました」

「それは・・・すみません」

 

 簪の話を聞いた一夏は試合途中であったが、とりあえず頭を下げて謝った。

 

「でも、今はもう気にしていません。寧ろ貴方には感謝しています」

「えっ?」

「貴方のお陰で、私はレヴィや師匠と知り合えて、打鉄弐式以上の機体を開発する事が出来て、毎日を楽しく過ごせています」

「それは、どういたしまして?」

 

 すると簪は口元に笑みを浮かべる。彼女は薙刀の柄を両手で持つと、柄が中心で別れて二本のビームサーベルとなる。

 

「だから、貴方に見せてあげます!盟友と作りし、我がマスラオの奥義を!!」

 

 その言葉と共に、突如マスラオが赤く染まる。すると次の瞬間、視界から消えた。

 

「ッ!?」

 

 一夏はISのセンサーと直感を頼りに左側へ刀を構えると、高速で接近してきたマスラオの斬撃を防ぐ。

 防がれたと見るや直に白式から離れると、またもや高速で斬撃を放つ。一夏も必死で防御するが徐々にエネルギーを減らされて行く。

 

 

TRANS-AM(トランザム)、簪が考案し、僕と共に開発した新システム。平たく言うと常時瞬時加速モードです。機体の腰部装甲裏に設置した二基のエネルギータンクを全て推進力と機体保護に回す事で一定時間加速し続ける事ができます」

 

 レベッカは隣に居る楯無に装備の説明をする。

 

「簡単に言ってるけど、機体と操縦者に尋常じゃ無い負担が掛かるわよね?大丈夫なの?」

「勿論操縦者の安全は保障されていますよ。尤も、ISの補助があるとは言え操縦者にはかなりの瞬発力と動体視力が求められます。それに、加速している限りエネルギーは減り続けますし、操縦者保護に半分近いエネルギーを使っているので現時点での稼働可能時間は一分程しかありません。また、見て分かるように機体は常時放熱され続けている為、解除後には機体がオーバーヒートしてしまい性能が大幅に低下してしまいます」

「つまりこの一分を逃げ切れば勝ちって事ね?」

「そうなりますね。まだまだ問題はありますが、今後は戦闘データを基に改良して行く予定です」

 

 

「一夏!?」

「何処を見ている!!」

 

 突如高速で動き出した簪に追い詰められる一夏を見て、箒が援護に向かおうとするがアイリスに阻まれる。

 

「あれには流石に私も苦労したよ。さあ、どうする少年?」

 

 一夏は簪の攻撃によりその場から動けないで居た。

 

「グッ!?」

「耐えますね・・・でも!!」

 

 限界稼働時間が十秒を切った時、簪の猛攻により一夏がバランスを崩す。

 

「隙ありイィ!!」

「しまった!?」

 

 簪のビームサーベルが一夏を完全に捉えた、その時。

 

ドカアアァァァン!!!

 

「「!?」」

 

 以前と同じように、突然何かがアリーナの遮断シールドを突き破り地面に衝突した。

 



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第16話 アリーナの激戦

IS学園司令室

 

「織斑先生!襲撃です!」

 

 モニターに複数の所属不明ISが映し出される。

 

「此奴は・・・」

「以前現れた無人機と同じ物・・・いえ、発展機だと思われます!」

「数は?」

「十機です!各アリーナのピットに出現、待機中だった専用機持ちの生徒が襲われています!」

「クッソ・・・()()()()・・・」

「えっ?」

「教師は生徒の避難を優先、オートマトンはアリーナ前で待機、戦闘教員は全員突入用意!」

「了解!」

「(やってくれるな・・・だが、甘く見るなよ?)」

 

 山田先生が指示を出す中、千冬はこの騒動を起こしたであろう人物へ向けて心の中でそう言った。

 

 

IS学園アリーナ

 

「何なのよコイツら!」

「鈴さん下がって!」

 

 鈴とセシリアは翼が生えた二機の無人ISと戦闘を行っていた。

 二人は一機の無人ISに攻撃を命中させるが、爆煙の中からもう一機が飛び出しビームを放つ。

 

「「!?」」

「させないよ!」

 

 三機の間にシャルロットが入りシールドでビームを受け流す。

 

「助かりましたわ!」

「けど、まだだよ!」

 

 其処にもう一機の無人ISが加わり三対三となる。すると突然、鈴達の後ろから水の剣が飛来する。剣は一機の無人ISに突き刺さると爆発し、剣が刺さったISはそのままバラバラに砕け散った。

 

「嘘!?たった一撃で!?」

「全く、派手にやってくれたわね」

「生徒会長!?」

 

 敵ISが一撃で撃破された事に驚く鈴達の後ろからISを纏った楯無が現れた。

 

「よくも簪ちゃんの晴れ舞台に水を差してくれたわね?情け無用の女、更識楯無!行くわよ!!」

 

 そう言って楯無は飛び出した。

 

「クッ!こいつ等!」

「少佐!」

 

 鍔迫り合いとなっているラウラの横からパトリシアが飛び出し敵ISを蹴り飛ばす。その後ろから別のISが斬りかかるがそれをラウラがAICで停止させレールカノンで吹き飛ばす。

 

「助かったぞパトリシア!」

「此方こそです!」

 

 

 一夏と簪は背中合わせの体勢になる。二人の前にはそれぞれ敵ISが待ち構える。

 

「簪さん、ここは一旦」

「分かっています、決着は後に取っておきましょう」

 

 そう言って雪片弐型とビームナギナタを構える二人。

 

「と言っても、エネルギー残量は残り少ない・・・」

「此方も、本体エネルギーは残っていますが機体のオーバーヒートがまだ・・・」

 

 一夏は先程の猛攻によりエネルギー残量は4分の1を切っており、簪はトランザムによる機体の排熱が追い付いていなかった。

 

 

 アイリス、箒の二人も二機の敵ISを相手取っていた。

 

「篠ノ之!君の単一仕様能力は使えるか!」

「どうした?・・・そう言う事か!」

 

 アイリスの問いかけに一夏達がピンチという事に箒も気付いた。

 

「使えるが、先ずはこいつ等をどうにかしない事には」

「この二機は私が引き受ける!」

「大丈夫なのか?」

「無論だ!」

「・・・分かった、頼んだぞ!」

 

 そう言って箒は二人の所へ向かう。それを追おうとする敵ISの前にアイリスが立ちはだかる。

 

「君たちの相手は、私がしよう」

 

 アイリスは二機へ向かって攻撃すると、相手もアイリスを優先目標と捉えたらしく近付いてくる。それを見たアイリスは飛行形態となり二機を連れたまま上空へと飛び立つ。

 アイリスは二機を一夏達と十分離した所で加速し二機を置き去りにする。そのまま急旋回をすると地上へ向かって高速で飛行する。

 

「アイリススペシャル!!・・・」

 

 アイリスは敵ISの攻撃を変形で躱し、そのまま一機をプラズマソードで突き刺し地上へ落下する。地面へ衝突する直前にアイリスは敵ISを蹴り飛ばし、もう一度変形して飛び立つ。

 

「・・・(アンド)リバース!!」

 

 アイリスはリニアライフルとミサイルでISを攻撃する。敵ISは回避行動を取るが、突然の攻撃に避けきれずにミサイルが命中しそのまま墜落した。

 

 

「グッ・・・」

 

 一夏と簪はそれぞれ鍔迫り合いの体勢になっていた。

 

「クソッ、エネルギーが・・・」

『一夏!更識!除け!』

「「!?」」

 

 その時、頭上から箒の声が聞こえた。二人が見上げると両腕を弓矢のように変形させた紅椿を纏う箒が居た。

 

「一夏さん!」

「おう!」

 

 二人は合図と共に同時に敵ISを突き飛ばす。そこに箒が弓矢型のブラスターライフル穿千(うがち)を放ち、それに直撃した敵ISはそのままアリーナの壁まで吹き飛ばされた。

 

「サンキュー箒!そんな事も出来たのか!」

「知らん、今使えるようになった!それよりも手を!更識も!」

「手?」

「簪さんも、ほら!」

 

 箒の単一仕様能力を知らない簪は困惑するも、一夏に手を引かれ箒と手を合わせる。すると機体が光り出しエネルギーが回復して行く。

 

「凄い!エネルギータンクまで満タンに!」

「助かったぜ!これで心置きなく戦える!」

「彼奴らは任せた!私はアイリスの所に戻る!」

「おう!」

 

 箒は二人を回復させるとアイリスの援護に戻って行った。

 

「それじゃあ俺達も行くか!」

「はい!」

零落白夜!!

トランザム!!

 

 二人は煙の中から現れた敵ISへ向けて飛び出す。

 

「はあああっ!!」

 

 一夏は敵の攻撃を躱すと相手の右腕を下から斬り上げて切断し、そのまま振り下ろして左腕も切断する。

 

「止めだ!!」

 

 最後に胴体を斜めに切り裂くと敵ISは機能を停止した。

 

「無人IS如きが、私の道を阻むな!!」

 

 簪はトランザムにより相手の射撃を躱しながら接近する。

 

「斬り捨て御免!!」

 

 簪は二刀のビームサーベルによる目にも留まらぬ斬撃を放つ。切り刻まれた敵ISの装甲は一瞬にしてズタズタにされる。

 そしてそのまま両肩にサーベルを突き刺し地面に固定すると、頭部二連装リニアマシンガンと腹部二連装ビームマシンガンを撃ち込む。

 至近距離から蜂の巣にされた敵ISは煙を上げて停止した。

 

「どうやら彼方も終った様だな?」

「ああ」

 

 それぞれプラズマソードと雨月で敵ISの胸を貫いたアイリスと箒は一夏達の方を向いてそう言った。

 

 

 別ブロックでの戦闘もそろそろ終わりに近づいていた。

 

「「はあッ!!」」

 

 鈴とシャルロットは青龍刀とパイルバンカーで一機の敵ISを同時に貫く。

 

「フッ!」

「一丁上がり!」

 

 ラウラとパトリシアは前後からプラズマ手刀とソニックブレイドで敵ISを挟み撃ちし貫く。

 

「撃て!」

「狙い撃ちですわ!」

 

 セシリアと教員部隊は一斉射撃により敵ISを撃ち落とす。

 

「これでお終いね?」

 

 次々に撃破されて行く敵ISを見ながら、ランスで貫いた敵ISを下敷きにした楯無はそう言った。

 

 

 

 

IS学園司令室

 

 山田と千冬の二人は今回の襲撃事件の事後処理を行っていた。

 

「やはり無人機の発展機、コアは未登録、現在は全て保管されています」

「政府には全て破壊したと伝えろ」

「ですが、それでは学園を危険に晒す事になります!」

「おいおい、私を誰だと思っている?学園の一つや二つ、守ってやるさ・・・命を懸けてな」

 

 千冬は真剣な顔でそう言った。

 



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第17話 天災束さん!

某所のホテル内レストラン

 

「うんうん!このお肉美味しいね~あ!ワイーン!」

「お気に召しまして?束博士」

 

 そこではISの開発者、篠ノ之束と亡国企業幹部、スコール・ミューゼルが共に食事をしていた。

 

「うーんそうだねぇ、そこの()()()()()のスープ以外はね~」

「それで、我々亡国企業にISを提供する話、考えて頂けましたでしょうか?」

「はっはは!嫌だよ面倒くさいじゃーん。それに、教授を殺した相手の為に作るのは嫌だね~」

「おや?まさか貴女の口からそのような言葉が出るとは思いませんでした」

 

 スコールは身内以外には一ミリも興味を示さない束から、他人の話が上がるとは思わずに聞き返した。

 

「誰だってお気に入りの玩具を壊されたら怒るでしょー?」

「フフ、エイフマン教授の事は実に残念でした。彼には是非我々の協力者になって頂きたかったのですが、彼は極度の愛国者で有名でしたからね。祖国アメリカを裏切る位なら自害する様な人物でしたので、それならISのコアを自力で開発し米軍の戦力が強化されるのを阻止する為、致し方なく抹殺してしまいました」

 

 そう言って指を鳴らす。

 すると、何処からともなく表れたオータムとネーナに後ろから拳銃を突き付けられる。

 

「ん~?フフッ・・・我らが主よ。あなたが我に与えし尊き御力を以て・・・」

「ん?」

「何よいきなり?」

 

 後頭部に二丁の銃を突き付けられている状況で突然謎の言葉を喋り出す束に三人は怪訝な顔をする。

 

「速やかにあなたの命を実行せん。川は主の元に流れ、魂は一つとならん。父と子と精霊の御名において!」

 

 そう言うと束は立ち上がると同時に二人の拳銃を上に弾き飛ばすと、目にも留まらぬ速さで突きを放ち二人は肺から息を吐きだす。最後に回し蹴りで二人共ワイン棚に突き飛ばされた。

 

「私ってば肉体も細胞単位でオーバースペックなんだよね~」

 

 ワイン塗れで気絶する二人をバックにそう言いつつ、弾き飛ばした拳銃をキャッチする束。するとレストランの一階と二階の扉が開きアサルトライフルを持った兵士が二十人程入ってくる。

 

「わーお。トーシローばかりよく集めたものですねぇ?」

「私の兵士達は皆優秀よ?」

「ただの案山子ですな~」

 

 そう言うと近くに居た二人の兵士の肩を撃つ。

 

パンパンッ「一つ、二つ」

「「グアッ!」」

「撃て!」

 

 束の発砲を合図に一斉に射撃を開始する兵士達、しかし、それを束は弾道を計算し最小限の動きで回避して行く。

 

パンパンッ「三つ、四つ」

「「ガアッ!」」

 

 束は顔を向けずに二階の相手に向かって右手の拳銃を左脇の下から撃つ。

 

パンッ「五つ」

「グアッ!」

 

 今度は顔を左に向けた状態で右側の相手を撃つ。

 

パンッ「六つ」

「ウッ!」

 

パンパンッ「七つ、八つ」

「「グアッ!」」

 

 そのまま一分もしない内にスコール以外の全員が肩や足を押さえた状態で床に倒れた。

 束のうさ耳の様なカチューシャの先端がくるりと一周回ると顔の前にモニターが現れ「死者0人負傷者22人」という文字が表示される。

 

「にひひ~凄いでしょ~」

 

 束は両手の拳銃を体の前で縦に並べて上下に向けた独特のポーズでスコールの前に立つ。

 

「ちーちゃん位なのさー私に生身で挑めるのは!」

 

 そう言って拳銃を指で回しながらスコールへ近付くと、額に銃口を向ける。

 

「自分の胸に聞いてみなァ?貴様はツイてるかァ?ってね!」

「クッ・・・」

 

 その時、壁を突き破ってISを纏ったエムが現れた。彼女は束に向かってライフルを突き付ける。

 

「動くな」

「んお?ふーん、面白い機体に乗ってるね~」

 

 そう言うと後ろに飛び退き、エムはそれに合わせてライフルを撃つ。

 束はバク転をしながら階段を上って行き、射撃していたエムは壁に飾ってあった彫刻を撃ち抜いた所で束を見失い撃つのを止める。

 

「何処へ行った・・・」

「此処だよ!」

「!?」

 

 ()()の壁際に立つ束を見つけるとすかさず発砲するエム。しかし。

 

「何処を撃っているの!」

「ッ!?」

 

 スコールの声を聞いて撃つのを止めると、束の姿が突然ぐにゃりと曲がり出し消えていく。

 

「映像!?私の(ISのセンサー)を盗んだ!?」

「そうだよ~」

 

気が付くとISのライフルの上に束が立っていた。

 

「開発者の私が言うのも変だけど、ISに頼りきりなんだよ。ちゃんと(肉眼)で見ないと」

 

 そう言うとスカートの中から十数本の触手が現れサイレント・ゼフィルスに絡みつく。

 

「君達が私を仲間にしたいらしいからこうして来てあげたけど、全く君は悪い子だね~人に向かってライフルを撃ってはいけませんってお母さんに習わなかったのかなぁ?」

「グッ・・・」

 

 ビットを展開するも全て触手に絡め捕られる。絡みついた触手によりISが解体されて行く。

 

「ぬふふふふ~怖かろ~」

「何が違うというの・・・貴女だって人間じゃないの!」

 

 圧倒的な姿を前にしてスコールが放った言葉に、束が振り向く。

 

「そうだよ?私は機械じゃない。人類の宇宙進出の為に天才を強化したものだよ?」

 

 最後にバイザーを解体しエムの素顔が露になる。

 

「おぉ~?」

 

 束はエムの顔をまじまじと見る。すると突然笑い出した。

 

「あははははっ!君、名前は?」

 

 突然の事にエムとスコールの二人は固まってしまう。束はエムを床に優しく降ろすと、触手を収納し顔を近づける。

 

「当てて見せようか?・・・織斑マドカ(おりむらまどか)かな?」

「「!?」」

 

 名前を言い当てられた事に二人は驚愕する。

 

「当たったー!ねぇ、この子の専用機なら作っていいよ~?」

 

 そう言って束はエムの手を取る。

 

「だからさー私の所においでよ~!ねぇねぇ、この子貰っていいよね?」

「そ、それは困りますが」

「えー?何だよぅケチ~。まあいいや!ねぇねぇマドっちーどんな専用機が欲しい?遠距離型?近距離型?特殊武装は?まあその話は追々でいいかなぁ?」

 

 束のマシンガントークに再度固まる二人。

 

「マドっちには今度クーちゃんを紹介してあげるね?よーし、ご飯を一緒に食べよう!おー!」

 

 こうして亡国企業による篠ノ之束との接触は、束の一方的な会話で締め括られた。



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第18話 修学旅行襲撃事件 前編

京都行新幹線 車内

 

「フフ、勝利の女神はわたくしに微笑みましたわね?」

「どうかな?」

「なっ!?」

「さあ、どうする篠ノ之?」

 

 アイリスは現在、セシリア、箒の三人で座席で向かい合いババ抜きに興じていた。

 セシリアが一歩優勢な中、アイリスは箒に対して一枚だけ明らかに飛び出しているというよくあるやつを行っていた。

 箒は暫く考えた後、あえてその一枚を引く事を選んだ。

 

「南無三!!」

「・・・フッ」

「グッ!」

 

 しかし、無情にもそれはジョーカーだった。

 

「オレ京都って初めてです!楽しみですね少佐!」

「ああ、楽しみだ」

 

 その後ろの席ではラウラとパトリシアがこれから向かう京都について期待を膨らませていた。

 

「それ、一夏のカメラ?」

「おう、修学旅行の記念写真を撮るのに家から持って来たんだ」

「記念写真?」

「ああ、クラス代表は皆と別行動で旅行風景とかを取って回るんだってさ」

「大変だねぇ」

 

 シャルロットと一夏は記念写真の事等を話し合っていた。

 

「ふふ、良い旅行になりそうですねぇ?」

「そうだな」

 

 その光景を見た山田先生は千冬先生に向かってそう言い、千冬先生も短く返した。

 

 

京都市内 宿泊施設前

 

「皆さん良いですか?この後は各班自由行動になりますからね!」

「夕方の清水寺の拝観は集団行動だ。その時間までには現地に集合する事、分かったな?では解散!」

「「「「はい!!」」」」

 

 先生達からの説明の後、解散となった。

 アイリスが歩き出そうとすると山田先生に呼び止められる。

 

「あの、エーカーさんに荷物が届いてますよ?」

「私に?」

 

 先生に着いて行くと、そこには大きめのキャリーケースが置かれていた。

 

「おや?どうしたんだいアイリス?」

「師匠?」

 

 アイリスの下にレベッカと簪が合流する。すると突然、ケースが揺れ始め地面に倒れる。

 

「じゃじゃーん!!カバンの中から来た女、更識楯無!!」

《テーテテーッテテテッ!テレッテテー!テンッ!》

「更識会長!?」

「お姉ちゃん!?」

「・・・何をやっているのですか?」

 

 するとケースの中からツアーガイドの恰好をした楯無が何時ものテーマ曲と共に現れた。

 

「今回の旅行にはこの私・・・ってちょっと!?」

「お姉ちゃんは帰って!」

 

 折角現れた楯無であったが、簪に再び箱詰めされた。

 

「まだ何も言って」ガチャリ

「手伝ってレヴィ!師匠も!」

「あ、ああ」

「・・・まあいいだろう」

 

 箱詰めされた楯無はそのまま運送業者のトラックに積み込まれ運ばれて行った。

 

「何だったんだい?一体・・・」

「良かったのか?」

「はい」

 

「・・・フフ、すり替えておいたのよ?」

 

 見送る三人の後ろにある柱の陰に、何時の間にか隠れていた楯無はそう呟いて去って行った。

 

 

 各班での自由時間が好きた後の夕方。皆は清水寺に集まっていた。

 

「一夏!」

「お?どうした?」

「今日撮った写真、見てみたいな!」

「良いぞ、ほら」

「へぇ、こんなに回ったんだぁ」

 

 シャルロットは一夏が撮って回った写真を見せて貰っていた。

 

「わたくしにも見せてくださいな!」

「織斑君!私も見たーい!」

「「「「私も!」」」」

「えっ!?」

 

 何時の間にか集まっていたクラスメイトに揉みくちゃにされる一夏。その時、手からカメラを放してしまった。

 

「あっ!しまった!」

 

 そのまま境内の外に落ちるかと思われたカメラだったが、直前でアイリスにキャッチされた。

 アイリスはそのまま保存されている写真を見た。

 

「ふむ、良く撮れているな」

「有難うございます!アイリスさん!」

「気を付けたまえ少年」

 

 アイリスは一夏にカメラを手渡すと何処かへ歩いて行った。

 

 

 清水寺からの帰り道、一夏は夕焼けに染まる清水寺を撮影しようと、カメラ片手に良い撮影スポットを探していた。

 

「何処が良いかな?」

 

カチッ

 

「?・・・お前は!?」

 

 物音に反応して振り向くと、そこには夕日をバックにエムが立っていた。

 実は一度、夜道でエムに襲撃をかけられていた一夏はすぐさま身構えた。

 

「織斑一夏・・・お前を殺す」

「クッ!」

「来い!黒騎士(くろきし)!!」

「白式!!」

 

 エムがISを展開すると同時に、一夏も白式を展開する。

 

「マドカって言ったな、どうして俺を狙う!」

「フッ、貴様は通過点に過ぎない。真の目的は、織斑千冬を殺す事だ」

「ッ!?千冬姉ぇを!?」

 

 黒騎士と呼ばれた黒い蝶の様なISがランスを構えると、そこからビームが発射される。一夏は急上昇する事でそれを躱した。

 

宿泊施設行きモノレール車内

 

「集合時間15分前、皆さんも集まり始めましたね」

「ああ」

 

 山田先生と千冬先生は一足先にモノレールに乗り生徒の点呼を取っていた。

 

「全く、一夏は何時まで写真を撮っているのかしら?」

「師匠はまだ帰って来ていないみたいですね」

「そう言えば見かけないねぇ」

 

 鈴、簪、レベッカの三人は前に戻って来ていた。

 すると突然、モノレールの扉が勝手に閉まり、動き始めた。

 

「「「「!?」」」」

「織斑先生!これは!」

「至急、学園に連絡をして、国防軍に救援要請をしてくれ」

「了解しました!」

 

 車内がパニックになる中、千冬は指示を飛ばす。

 

「どうなってるの!?」

「とりあえず、制御システムに侵入する」

「私も手伝う!」

「頼む、指が足りない」

 

 レベッカと簪はモノレールの暴走原因を調べる為、制御システムへハッキングを行う。

 

 

 一夏を探して歩いていた箒とセシリアへ向けて突然レールカノンが放たれた。

 弾は二人の足元へ命中し爆発が起きるも、一早く気付いたセシリアが急遽ISを展開させ爆風から箒を守る。

 

「!?」

「何ですの!?」

 

 二人が見上げると、建物の屋根の上に復元されたアラクネを纏うオータムが居た。

 

『生きてたか!クソガキ共!』

「あの機体は、資料で見た・・・」

『オータム様とアラクネだ!覚えとけ!!』

 

 

 京都の某所

 

「全く・・・どうして何時も何時も貴女に会うのよ!!」

「やはり君と私は戦う運命にある様だな?」

 

 またもやネーナとアイリスはISを纏い対峙していた。

 

 

 京都市内の数か所に停車してある大型トラックのトレーラーが開くと、十数機のガガが格納されていた。固定具が外されると、一斉に飛び立っていく。

 

「少佐、あれは・・・」

「ああ、戦闘用意だ」

 

 ラウラとパトリシアは京都上空に無数に飛来するガガを見てISを展開する。

 

モノレール車内

 

「カタギリ、更識、メインフレームの方に侵入して車両が止められるか試してみろ」

「「はい」」

 

 千冬先生の指示で二人はシステムへの侵入を試みる。

 

「駄目です!システムごと乗っ取られています!」

「クッ、手の込んだ事を・・・」

 

 しかし、車両のシステムは全て乗っ取られていた。

 

「織斑先生!この車両へ向けて複数のエネルギー反応が接近!このパターンは以前襲来したガガの様です!」

 

 更に、多数のガガがこの車両へ向かって来ていた。

 

「・・・少し時間を下さい」

「やれるのか、カタギリ?」

「あと七分、いえ五分下さい」

 

 そこでレベッカがシステムへのハッキングを開始した。

 

「私も手伝う!」

「いや、君は凰さんと一緒にISでこの車両を守ってくれ」

 

 手伝いをかって出た簪へ向けてレベッカがそう言った。

 

「機体の整備は万全だ、君の言う奥義にも更に磨きをかけておいたよ。僕は戦えないから、君達が車両を守ってくれ」

「・・・分かったわ!」

「そう言う訳だ。凰と更識はISを展開後、車両の守備へ回れ!」

「「了解!」」

 

 

京都タワー

 

「フフ・・・」

「こんな所で優雅に街を眺めてるなんて、セレブは考える事が違うわねぇ」

 

 京都タワーの上では楯無とスコールが対峙していた。

 

グストーイ・トゥマン・モスクヴェ(モスクワの深い霧)だったかしら?貴女の機体」

「それはかつての名前よ?今の名前はミステリアス・レイディ(霧纏の淑女)よ」

「そう」

「・・・何を企んでいるの?亡国企業」

「あら?何処までご存じなのかしら?更識楯無さん」

「貴女達の好きにはさせないわ」

「良いシチュエーションが出来たのに、ちょっと遅かったみたいね?ハアッ!!」

 

 すると突然、スコールの背中から金色の尻尾の様な物が飛び出し楯無を掴み上げる。

 

「もう始まったのよ!!」

「グッ・・・ええ、そうね」

 

 すると突然、楯無の身体が霧に変わり、スコールの身体に纏わり付く。

 

「!?」

ドカアァァン!!!

 

「貴女の思い通りには成らないわ。だって私の可愛い後輩達が頑張ってくれているんだもの」

 

 何もない空中から霧が晴れる様にISを纏った楯無が現れる。

 ミステリアス・レイディはナノマシンに周りの景色を投影させる事で姿を隠す事が出来るのである。

 

「騙し討ちなんて卑怯じゃないの?」

 

 煙が晴れると、長い尻尾の様なフレキシブルアームが特徴的で甲殻類の様なシルエットをした、黄金色のISを纏ったスコールが立っていた。

 

「全身金色なんて悪趣味ね。百年でも戦おうって言うの?金ジムさん?」

 

 楯無はスコールの金ぴかなISを見てそう言った。

 因みにジムとはアイリス社が開発した試作戦闘用EOS”GM”の事である。頭部が似ていたのでそう言った。

 

「ふふ、貴女も私色に染め上げてあげるわ。私のIS、”アルヴァトーレ”でね!!」

 

 アルヴァトーレのフレキシブルアームが開き、巨大なビームが放たれた。




国家防衛軍
 数十年前に勃発した第三次世界大戦により日本国憲法の見直しが成され、自衛隊を前身に新たに設立された軍事組織。
 現在日本が保有しているISの8割以上が此処に所属している。

XAEA-97 ジム
 アイリス社が試作した戦闘用EOS。
 AEAとはAttack・Extended・Operation・Seeker・Americaの略である。97は2097年製を意味する。
 軍上層部の満足する性能では無かった為制式採用されなかったが、後の制式採用機である”AEA-98 ジェガン”の基盤となった。
 現在AEA-98はアメリカ陸軍等に配備されているが、ISの登場により殆ど空気と化しており後継機等の開発は行われていない。

 この作品の世界線では原作より技術が発展している為、EOSが制式採用されている設定です。また、サイズも約3~5mと割と大きめの設定です。
 元ネタは機動戦士ガンダムに登場するRGM-79 ジムと、逆襲のシャア、F91、UC等に登場するRGM-89 ジェガン。

 スコールの機体がガンダム00のアルヴァトーレにしか見えなかったので、この作品でのスコールにはアルヴァトーレに乗って貰いました。


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第19話 修学旅行襲撃事件 中編

京都市街地上空

 

 ラウラとパトリシアは背中合わせになり、ガガに30㎜キャノン砲を二門搭載した”ガガキャノン”からの攻撃を防いでいた。

 

「クソッ!こっちは街中で無暗に撃てねぇってのにバカスカ撃ちやがって!」

「パトリシア、此処での戦闘は不利だ。出来るだけ引きつけながら郊外へ移動するぞ」

 

 二人は人口密集地での戦闘を避ける為、郊外へ移動を開始した。その間にもガガは二人だけで無く治安維持用のオートマトンや警察車両へ向かって砲撃を行っていた。

 軍用の物と違いテーザーガンと捕縛網しか装備されていない警邏用オートマトンはガガからの攻撃で次々に破壊されて行き、対人装備しか持ち合わせていない警官隊は住民の避難誘導を行っており戦力として期待できない。

 

「ラウラ!パトリシア!」

「貴女達!」

「シャルロット!先生!」

 

 二人の下へISを展開したシャルロットと引率の教員達が合流する。

 

「他の生徒達は!?」

「駅に残っていた生徒達は全員シェルターへ避難したわ。でも大半の生徒達を乗せたモノレールが暴走してしまっているの」

「何ですって!?じゃあ直に助けに行かないと!」

「向こうは織斑先生達が何とかするらしいわ。私達は軍の到着まで敵を出来るだけ引き付けて置いてくれとの命令よ!」

「分かりました。教官がそう仰られたのなら私達は従うまでです」

「よし!やってやるぜ!」

 

 ラウラ達は押し寄せるガガ部隊へ応戦を開始した。

 

 

モノレール車内

 

「甲龍、出るわ!!」

「マスラオ改め”スサノオ”いざ出陣!!」

 

 鈴と簪はISを展開し車外へ飛び立つ。二人はそれぞれガガを撃ち落として行く。

 

「数が多いわね!」

「一機も行かせない!」

 

 しかし、幾ら性能差があろうとも二機に対して二十機以上という戦力差は苦しく、また以前と違い標的がモノレールである為、此方に積極的に攻撃を行って来ないという事が更に二人を追い詰めて行く。

 

「ッ!?しまった!!」

 

 ガガキャノンの攻撃がレール付近に着弾するも、運良く車両への影響は無かった。

 

「クッ、トランザムは切り札として取って置きたいけど・・・今はそんなこと言ってる場合じゃない!」

 

 これ以上モノレールへの攻撃をさせない為に、簪はトランザムの使用を決めた。

 スサノオのトランザムは戦闘データを基に改良され、活動可能時間は三分にまで伸びていた。

 

「トランザム!!」

 

 高速で移動するマスラオは次々とガガを撃ち落として行く。

 その時、爆煙に紛れて一機のガガが瞬時加速でモノレールへと突撃する。

 

「「!?」」

 

 二人はそれに気が付くも既に間に合わない距離だった。

 誰もが諦めかけた、その時。

 

ドカアァァン!!!

 

 何処からか発射されたミサイルによりガガは撃破された。

 

「あれは!?」

 

 線路の向こうから国防軍所属の攻撃ヘリである”AH-88J ヘルハウンド”が多数飛行して来た。

 ヘルハウンドは次々にガガを撃ち落として行く。

 更にその後ろから数機の輸送機が飛行し、格納庫から”99式空挺EOS ヘルダイバー”が投下されて行く。

 地上では輸送ヘリから”97式戦闘用EOS ハンニバル”が降り立つ姿が確認できる。

 

「良かった・・・間に合った」

 

 二人は国防軍の到着に安堵した。

 

『二人共聞こえるかい?』

「レヴィ!そっちは大丈夫?」

『ああ、モノレールのコントロールは取り返した。今は最寄りの駅へ向かっている所だよ』

「良かった!」

『今、京都の数か所でIS同士の戦闘が行われているみたいなんだ。こっちは大丈夫だから二人は援護へ向かってくれ』

「「分かったわ!」」

 

 レベッカの話を聴き、二人は援護へ向かった。

 

 

京都市郊外上空

 

 一夏とエムは戦闘を繰り広げていた。

 

「千冬姉ぇの所には行かせねェ!!」

「フッ、中々やる様だな?」

 

 エムはモノレールへと向かおうとするが、それを先回りし攻撃を加える一夏。

 エムは当初、一夏に対して殆ど警戒心を持っていなかったが、予想以上に食らい付いてくる一夏に対して考えを改めた。

 

「織斑一夏、貴様がどういう男かは調べが付いている・・・フッ」

「なッ!?」

 

 何と、エムは一夏に対してでは無く街へ向かって腕部ガトリングガンを放った。一夏はすかさず割り込み攻撃を全て防ぐ。

 

「正義の味方とは大変だな、守る物が多くて」

「クッ!街を狙うなんて卑怯だぞ!!」

「勝つ為なら何をしたって良い、それが悪役という物だ」

 

 エムはランサービットを構えるとビームを放つ。一夏はそれをシールドを展開する事で防ぎきる、しかし。

 

「甘いな」

「なッ!?」

 

 一瞬にして背後に回り込んだエムが斬撃を放つ。

 

「グアッ!?」

 

 何とかそれを剣で防ぐも、衝撃を殺しきれず川へと落下した。

 

「フッ・・・次はお前だ、織斑千冬」

 

 一夏を撃墜したエムはそのままモノレールへと向かい始めた。

 

「しかし・・・ネーナは何をやっているのだ?」

 

 本来の計画ではスローネドライのジャミングによりさらに大きな混乱が起きる筈だった。

 しかし、実際にはジャミングは行われず警察や国防軍により事態は収束へと向かい始めている。

 

「・・・ん?この反応は・・・」

 

 ISのレーダーに接近する二機のティルトローダー機を捉えた。

 

『スカーレット隊、ホワイトディンゴ隊発進!目標、所属不明IS!ホワイトディンゴ隊は先行するスカーレット隊の援護を行え!』

 

 輸送機からそれぞれ三機の打鉄が降下する。紅色の隊長機とマシンガンを装備した機体が先行し、スナイパーライフルを装備した機体が狙撃用バイザーを装着し発射態勢に入る。

 その後ろから白色の打鉄を隊長機とした三機のISが近付いて行く。

 

「足の速いのが二機と狙撃タイプが二機・・・たった六機で私を止められると思っているのか?」

 

 エムがそう言うと、機体から六機のビットを射出する。

 

「・・・・・・!!」

 

 射撃態勢に入っていた狙撃型に対してオールレンジ攻撃を仕掛ける。打鉄は初弾を躱し反撃するもライフルを撃ち抜かれ、刀を展開する隙を突かれビームがバイザーに命中し、体勢が崩れた所に集中砲火を食らい撃墜された。

 もう一機はマシンガンで弾幕を張るも背後からの攻撃を受け撃墜された。残った隊長機は急上昇した後、グレネードランチャーを発射する。発射された弾頭はある程度進むと破裂し散弾をばら撒いた。この攻撃により六機のビットは全て撃ち落とされた。

 エムは更に六機のビットを射出し攻撃を仕掛ける。それに対して隊長機は弾切れのランチャーを捨て刀を構え、エムへ向かいビームを避けながら高速で接近する。接近され過ぎた事でオールレンジ攻撃が出来ないと判断し、大剣を構え待ち構えるエム。

 両機は何度か打ち合った後、隊長機が突きを放つのに対しエムは二対のランサービットから渦状のビームを放ち、防御体勢を取った隙を突き胴体を切り裂いた。

 

「雷電機撃墜!スカーレット隊、全滅!!」

「三分も経たずにか・・・」

「ホワイトディンゴ隊、交戦を開始!」

 

 

京都市街地上空

 

 京都上空では、楯無のミステリアス・レイディと、金色のバリアーを纏ったアルヴァトーレが交戦をしていた。

 楯無はランスに装備されたガトリング砲で攻撃するも、全て球状のバリアーに防がれる。

 

「なら、これは!」

 

 効果無しと見るや、ナノマシンを含んだ水を水蒸気爆発させる技”クリア・パッション(清き情熱)”を行うも、バリアーを突破する事は出来なかった。

 

『フフフ、その程度でアルヴァトーレに対抗しようなど、片腹痛いわ!!』

 

 スコールはそう言いながら両腕のビームライフルと機体側面に装備された大量のビームマシンガンで攻撃を行う。

 

「クッ、貴女のそのバリアー、何処かで見たことがある気がするんだけど?」

『気付いた?そうよ、あの織斑千冬のIS”暮桜”の能力を研究し、防御兵器として開発した我々の新装備、”アンチエネルギーフィールド”とでも呼びましょうかね?』

 

 そう、亡国企業は暮桜のデータを秘密裏に研究し、零落白夜の能力をバリアーとして利用する事に成功したのだ。

 

「道理でね・・・でも、それには大きな欠点があった筈よね?」

『そうね、このままじゃあエネルギー消費が激しすぎて実用化は不可能だったわ。でもね、このアルヴァトーレにはコアの他に大容量のエネルギータンクが六基装備されているの』

「何ですって?」

『つまりIS七機分に匹敵するエネルギーをこの機体は持っているのよ!!』

 

 本来、IS一機だけのエネルギーではフィールドを維持する事もままならなかったが、六基のエネルギータンクにより強引に実戦での運用を可能にしたのだ。

 

「(不味いわね・・・零落白夜が相手じゃ幾らソードビッカーでも防がれる可能性がある。接近してバリアーを破るのも難しい・・・)」

『どうする?諦めて命乞いをすれば許してあげない事も無いわよ?』

「ご冗談を・・・」

 

 その時、何処からともなく球状のビームがアルヴァトーレに撃ち込まれた。スコールはフィールドを発生させそれを打ち消す。

 

「お姉ちゃん!!」

「簪ちゃん!?」

 

 するとそこに簪が現れ楯無の隣へ移動する。

 

「今の攻撃は貴女なの?」

「うん!スサノオの最大火力技だったんだけど・・・全然効いていないなんて」

 

 今の攻撃はスサノオの新装備である”トライパニッシャー”という、腹部と両肩にあるエネルギー放出口からエネルギーを収束・圧縮し、球状の高火力ビームを発射する技であったが、エネルギーを打ち消すフィールドの前では意味を成さなかった。

 

『驚いたわね、モノレールの方は良かったのかしら?』

「向こうはレヴィと国防軍が何とかしてくれたわ。残りは貴女達だけよ!」

『ふぅん、でも、一機増えた位でこのアルヴァトーレに勝つ事は不可能よ!』

「気を付けて簪ちゃん!奴のバリアーは白式と同じでエネルギーを打ち消すことが出来るわ!」

「白式と同じ・・・お姉ちゃん、此処は私に任せて」

「何か考えがあるの?」

「うん、あのバリアーは私が何とかする。だからお姉ちゃんは用意をしてて」

「・・・分かったわ。可愛い妹の頼みだものね」

「お姉ちゃん、有難う!」

『話は終わったかしら?』

 

 そう言ってスコールはビームライフルを放つ。二人はそれぞれ別方向へと散開する。

 

「貴女の相手はこの私です!」

 

そう言うと簪はアルヴァトーレに向かって正面から突撃する。

 

『フッ、突撃しか能の無い小娘が調子に乗らないで!!』

 

 そう言うとフレキシブルアームを開き、ビームが発射される。簪はそのままビームに飲み込まれた。

 

『フハハハハ!!残念だったわね更識楯無!貴女の妹は只の馬鹿だった様ね!!』

「・・・それはどうかしらね?」

 

 その時、アルヴァトーレのセンサーが反応した。

 

『!?グアッ!!』

 

 スコールは突然の攻撃に反応が遅れた。即座にフィールドを発生させると至る所から連続で攻撃が来る。

 

『これは!?』

 

 そう、簪はビームが当たる直前にトランザムを発動させていたのである。

 

『グッ!ちょこまかと!!』

 

 スコールは弾幕を張り撃ち落とそうとするものの簪はそれを全て躱していく。

 

「行くわよ、シラヌイウンリュウ

 

 簪は一対の()()()を握り締めそう呟いた。

 

 

数日前 IS学園格納庫

 

 簪とレベッカは目の前に置かれている二本の実体剣の前で会話をしている。

 

「簪、何故スサノオには実体剣が装備されているか分かるかい?」

「零落白夜に対抗する為、でしょ?」

「ああ、エネルギーを打ち消す白式に対してビームサーベルは不利だ。だからこそアイリス社で開発をお願いしていたこの実体剣を取り寄せたんだ」

「幾ら零落白夜でも質量のある実体剣は打ち消せないものね」

「このシラヌイとウンリュウにはソニックブレイドと同じ高周波振動機能と、リニアライフルと同じビームコーティング技術が使われている。上手く使ってくれ」

 

 

「(まさか最初に使う相手が亡国企業だとはね・・・)」

 

 簪は迫り来る攻撃を躱しながらそう思った。

 

「これで決めます!!」

 

 簪はアルヴァトーレの背後に回るとフィールドに剣を突き刺し、そのまま二本の剣を使い強引に切り開いた。これにより空いた穴からマシンガンとトライパニッシャーを撃ち込む。

 

『フィールドがッ!?』

 

 攻撃により一部のエネルギータンクや供給ラインが損傷し、フィールドが消える。

 しかし、同じタイミングでトランザムの活動限界が来て解除される。

 

『小娘が!!』

「きゃあッ!?」

 

 スコールは動きが止まった簪をアームで突き飛ばす。しかし、突き飛ばされた彼女を楯無が受け止めた。

 

「ありがとう簪ちゃん、よく頑張ったわね」

 

 オーバーヒートした機体を左腕で抱き抱えた楯無は優しく話す。

 

「後は私に任せなさい」

 

 そして、右手には水で作られた剣を握る。

 

「さあ!受けて見なさい!!ソードビッカー!!

『クッ!!』

 

 楯無はアルヴァトーレに向けて剣を投げる。スコールは通常のエネルギーシールドで防ごうとするが簡単に突き破られ、咄嗟に大型のクローアームでガードする。

 クローに突き刺さった剣はそのまま機体を侵食して行き、クローを中心に罅割れて行く。

 

『ば、馬鹿な・・・私の、アルヴァトーレが!?』

ドカアアァァァン!!!

 

 機体全体に広がった亀裂から光が漏れ出し、遂に光に包まれ爆発した。

 

「勝ったの・・・お姉ちゃん・・・」

「ええ、私達の勝利よ」

「やったぁ!!」

「おっとっと」

 

 左腕に抱き抱えていた簪は、勝利を実感し楯無に正面から抱き着いた。簪も勢いで少し振ら付くも抱き締め返す。

 

「ありがとう簪ちゃん。貴女がフィールドを消してくれたお陰で勝つ事が出来たわ」

「私だけじゃないよ、機体を整備してくれたレヴィや、信じてくれたお姉ちゃんのお陰だよ!」

「フフ・・・ッ!?」

「キャッ!?」

 

 その時、ISのセンサーに警報が鳴り、楯無は咄嗟に簪を抱いたまま飛び退く。

 すると、先程まで浮いていた場所にビームが撃ちこまれた。

 

「嘘・・・」

「あれは!?」

 

 何と、煙の中からビームライフルを構えた金色のISが現れた。そのISは翼の様なカスタム・ウイングを展開すると、アルヴァトーレの残骸から飛び立った。

 

『流石は更識家当主とその妹君、まさかここまで私を苦しめるとは』

「どうして!?確かにソードビッカーは当たった筈!?」

「・・・そう言う事ね」

『フフフ、姉の方は気付いたみたいね?』

「どういう事!?」

『折角だから教えてあげるわ。貴女達が破壊したと思ったのはアラクネの下半身と同じ機体の強化パーツ、そうね、インフィニット・アーマー(IA)とでも呼びましょうか』

「何ですって!?」

『だから、機体が侵食される前にパーツを分離したの。これが私のISの真の姿、”アルヴァアロン”よ!!』

 

 そう、今まで戦っていたアルヴァトーレは、アラクネやEUで開発中のアグリッサと同じ機体の強化パーツだったのである。

 

「でも、それじゃあもうフィールドは使えないわよね?」

『フフ、甘いわよ?フィールドを常時発生させる事は出来ないけど、一時的になら可能よ!貴女がもう一度ソードビッカーを撃って来たとしても、その瞬間にだけフィールドを発生させれば済む話。疲弊した貴女達にはそれで充分よ!!』

「クッ・・・」

 

 楯無と簪はこれまでの戦闘により消耗している。特に簪は二戦連続な上にトランザムの使用により機体がオーバーヒートしている。それに対してスコールはこれまでの戦闘ではタンクのエネルギーを使用していた為、実質無傷と言ってもいい。

 

『さあ、私色に染まりなさい!!』

「「ッ!!」」

 




AH-88J ヘルハウンド
 アイリス社が開発した攻撃ヘリ。国防軍所属の機体な為型式にJが付く。
 元ネタは機動警察パトレイバーシリーズに出てくる攻撃ヘリ。

AEJ-97 ハンニバル
 国防軍所属の戦闘用EOS。世界初の戦闘用EOSとして注目されていたが、後継機のヘルダイバーやISの登場により現在では旧型機となっている。
 AEJのJとはJapanの略。
 元ネタは機動警察パトレイバーシリーズに出てくるAL-97B改ハンニバル。

AEJ-99 ヘルダイバー
 米軍のジェガンを参考に開発された国防軍所属の戦闘用EOS。ハンニバルより小型、軽量な為、専用の装備による輸送機からのパラシュート降下が可能となり、空挺EOSと呼ばれている。
 ISの登場後に開発された機体だが、結局はISに地位を奪われた。
 元ネタは機動警察パトレイバーシリーズに出てくるARL-99ヘルダイバー。

スカーレット隊
 国防軍所属のIS小隊。隊長は「真紅の稲妻」の異名を持つ雷電紅音(らいでんあかね)、搭乗機体は紅く塗られた打鉄改。
 元ネタは機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争に登場するスカーレット隊と、MSVに登場するジオン軍パイロット、ジョニー・ライデン。

ホワイトディンゴ隊
 国防軍所属のIS小隊。隊長は「白狼」の異名を持つ松永吹雪(まつながふぶき)、搭乗機体は白く塗られた打鉄改。
 元ネタは機動戦士ガンダム外伝コロニーの落ちた地でに登場するホワイトディンゴ隊と、MSVに登場するジオン軍パイロット、シン・マツナガ。

打鉄改
 打鉄の改良機。打鉄と打鉄弐式の中間の様な機体で主に隊長機として運用されている。


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