転生者マックスの冒険(仮) (ネコガミ)
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第1話『冒険者パーティーも大変だ』
「ねぇ、マックス、ノアのことなんだけど……」
俺はマクシミリアン。いわゆる転生者だ。
この中世ヨーロッパ風のファンタジー世界に転生して18年の俺マクシミリアン……愛称マックスはある決断をしなければならない状況にあった。
ある決断、それは……同じ冒険者パーティーのメンバーの一人を、パーティーから追放する決断だ。
「やっぱり限界だと思うか?」
「うん、これ以上はノアの命も危険だし、それに連れて私達も危なくなると思う」
パーティーメンバーの一人であるミリアことミリアリアがそう言うと俺はため息を吐く。
「同じ村の出身だから、あいつの意思を汲んでなんとかしてやりたくはあるんだけどなぁ……」
「マックスのそういう優しいところ、とても素敵だと思うな。でも……」
そう言って彼女はため息を吐いた。
彼女も俺と同様にノアと同じ村の出身だ。それに同い年の幼馴染みでもある。きっと俺以上にノアの今後を真剣に考えたことだろう。
その上であいつがこれからも俺達と一緒にやっていくのは難しいって考えたんだ。これ以上今のあいつとパーティーをやっていこうとするのは俺のワガママになっちまうな。
「パフィーはどう思う?」
「どう考えても無理やん。お荷物を背負い込む(しょいこむ)にも限度があるで」
この特徴のある訛りで話すのはドワーフ娘のパフィー。年齢は14歳でミリアの1つ年上だ。
まぁドワーフという種族の特徴故かミリアの年上とは思えないぐらいに色々と小さいけどな。
「うん?なんや?ちょっとイラッときたで?」
「気のせいじゃないか?それじゃマリアはどう思う?」
危ない危ない、若くても立派なレディ。女の勘はしっかり持ってるから気をつけないとな。
「パーティーから抜けてもらうべきだ。彼も13歳とまだ若い。幾らでもやりなおせるだろう」
凛とした雰囲気を持つマリアことマリアンヌは、俺が生まれた村を領有する辺境伯家の令嬢なのだが、ちょっとした縁があって一番早く俺とパーティーを組んでいる古参メンバーでもある。ちなみに年齢は16歳。
これまで彼女達三人は俺とノアの意思を尊重してノアの成長を待ってくれていた。
けどノアはポーターの役割以外は難しいのが現状だ。
この世界で魔法を使うには基本的に各属性の精霊と契約しなければならない。
属性は火、水、土、風、聖、光、闇、無の全部で8種類ある。
そして各属性の精霊達は初級、下級、中級、上級、特級の5つの位階がいるんだが、各属性のどの位階の精霊と契約出来るかは人それぞれ違うんだ。
例えば俺は火と水が下級の精霊と、そして聖と無が特級の精霊と契約出来ているが、他の属性は初級の精霊とすら契約出来ていない。
それで職種によってどの属性が有用なのかはわかれるが……少なくとも冒険者や騎士に傭兵といった戦闘をする職種は、最低でも無属性の初級の精霊と契約出来ることが望ましい。
何故か?それは……無属性の初級の精霊と契約出来ると【身体強化】の魔法が使えるからだ。
この【身体強化】の魔法は本当に重要で、これがないとモンスターと戦うのが非常に難しくなる。まぁ、ゴブリンやホーンラビットといった低位のモンスターなら、やり方次第で【身体強化】の魔法が無くても勝てるけどな。
他にも冒険者なら依頼を受けて遠出することもあるんだが、その旅路も【身体強化】の魔法が無いと疲れて依頼をこなすのが難しくなってしまうのが現実だ。
前世の世界の様に交通機関が発達してないからなこの世界は。
さて、今回追放するという話になったノアなんだが……彼はどの属性のどの位階の精霊とも契約出来なかった。つまり魔法が使えないんだ。
そんな彼が俺のパーティーでポーターをやってこれたのは、彼の心の強さとギフトの【アイテムボックス】があったからだ。
ちなみにこの【アイテムボックス】は無属性の精霊と契約出来ると魔法として使える様になるんだが、ギフトの【アイテムボックス】とは性能がかなり違う。
先ず魔法の方の【アイテムボックス】は契約出来た無属性の精霊の位階で物を収納出来る容量が変わるし、物の出し入れの度に魔力が必要になる。
対してギフトの【アイテムボックス】は物の出し入れに魔力は必要なく、更に容量は特級の無属性の精霊と契約出来た時の容量に匹敵……場合によっては超えることもある。
ちなみにノアの【アイテムボックス】は特級のそれを超えている。今のところ容量の限界がわからない程だ。だからこそ戦闘能力がほとんどない彼と3年もの間パーティーを組み続けてこれたわけだけどな。
「はぁ……わかった。明日の夜にでもノアと話をする。各自ノアに預けてある荷物の整理をしてくれ」
「うん、わかった」
「りょーかいや」
「あぁ、了解した」
女性3人が冒険者ギルド内にある食堂の椅子から立ち上がり去っていくと、俺は椅子の背もたれに身を預ける。
「冒険者になって8年……パーティーメンバーを追放するのは初めてだ。正直に言って気が重いよ。あの時、俺の肩を叩いた部長もこんな気持ちだったのかねぇ?」
そう言って大きくため息を吐いた俺は、テーブルの上の皿に残っていたフライドポテトを口に放り込むと、椅子から立ち上がって冒険者ギルドを後にしたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
連載も考えていますが、現状は既に投稿をしていた別作品の更新を優先します。
次の投稿機会がありましたらまたお会いしましょう。
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