鋼の異世界(世紀末)と自衛隊奮闘録【第3部・多元世界編・完結】 (MrR)
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異世界との接触
プロローグ:駐屯地が異世界の洗礼を味わった


 試しにハーメルンにも挙げてみます。
 色々とヤバくなったら逃げます。



 Side 緋田 キンジ

 

 何の取り柄も無い田舎町に存在する境界駐屯地。(駐屯地=陸自の基地の一つ)

 

 そこで腐れ縁の宗像 キョウスケと一緒に女クソ上司の佐伯 麗子に言いように使われながら自衛官としての日々を過ごしていた。

 

 そんなある日、境界駐屯地で謎の物体が見つかった。

 

 駐屯地内に出現した大きな謎の物体――それをゲートと呼称。

 

 一先ず周囲を取り囲んでの戦闘配置だ。

 

 ゲートの外装はアレだ。

 

 中世ヨーロッパの神殿みたいな感じではなく、宇宙戦艦が潜り抜けそうなワープゲートみたいな外観だ。

 この時点でイヤな予感はした。

 

 万が一の事になったらどうなるかは知らないし誰も想定してない。

 

 日本人と言う奴は想定外の事にはとことん弱い民族だ。

 

 自衛隊なんかもそうで、武力行使と言う最終段階を踏むにはクソ面倒な手続きを踏まないといけない。

 

 命のやり取りでそんな事をしてるウチに部隊は全滅するだろう。

 

 だからパト○イバー2とかフロント○ッション3(自衛隊が反乱起こす物語)のような物語が誕生するのだ。

 

 それはともかく――

 

 ゲートから現れたのは剣と魔法の異世界らしい住民ではなく、赤いオークとかトロルとか作品によって色々と言われている2m越えの厳つい巨体の原始的な集団だった。

 しかも手には武器を持っている。

 棍棒とかの鈍器ではない。

 様々な銃だ。

 ガトリングガンやロケット砲まで持ってる。

 

 交渉する余地もなくそのファーストコンタクトで大勢死んだ。

 

 俺とキョウスケは隊長の制止を聞かずに後退した。

 言い訳なら後でなんとでも説明がつく。

 その隊長も死んだだろうし。

 

 大きな大爆発が起きたのはその直後だ。

 

 

 駐屯地内は当然蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。

 そりゃそうだ。

 ガトリングガンやロケットランチャーで武装した人型の何かが暴れ回っているのだ。

 米軍とかならともかく、軍隊なのか武装した災害救助隊なのかよく分からん組織ではちと荷が重い状況である。

 

「で、俺達命令違反しまくってるけど大丈夫か!?」

 

 相方の宗像 京介が銃を発射する。

 一旦後退して建物の壁に隠れて、銃を発射。

 

 俺も肩に銃の反動と激しい目眩や動悸を感じながら銃を撃つ。

 ちゃんと弾が当たっているのかどうかすら分からない。

 

「現場の判断って奴だよ!! 面倒な手順踏んでる場合か!!」

 

 と、俺は怒り混じりに言い返した。

 漫画の自衛隊の武力行使は大体、漫画だから許される漫画ならではの描写だ。

 現実の場合は本当に複雑で面倒である。

 

 それよりも今は敵だ。

 

「あいつら銃弾当たってもピンピンしてるぞ!?」

 

「5・56mmじゃ無理だな・・・・・・7・62mmか・・・・・・せめて12・7mm弾かそれぐらいの重火器じゃないと殺せない」

 

「だな」

 

 自衛隊の駐屯地には各種重火器が大なり小なり配備されている。

 それこそ対戦車用の重火器もだ。 

 

「だがこの状況だと武器取りにいく時間も惜しい――」

  

 俺はそう言う。

 

 万が一、一体でも町に入り込ませたら大惨事だ。

 誰かが貧乏くじを引いて足止めしないといけない。

 

「しゃあねえ、地道にヘッドショットを決めて殺してくしかねえな」

 

「やり合う気満々かよ」

 

 俺は相方のキョウスケの態度に呆れていた。

 

「あんなヤツらを市街地に解き放ってみろ? 史上最悪の大惨事になるぞ?」

 

「同じ考えか――」

 

 と答えつつ頭を働かせる。

 遠くから敵を観察する。

 

「あいつら――武器は強力で身体は頑丈だが――統率が取れた行動しているワケじゃないみたいだ」

 

「ああ。まるでそれぞれが人殺しを楽しんで動いている感じだ」

 

「そこを上手く利用して各個撃破していくしかない」

 

「その案しかねえな」

 

 俺もキョウスケも腐っても自衛官らしい。

 銃の残弾を確認し、そして心を落ち着けるように覚悟した。 

 

 

 無事な仲間と合流しつつ、はぐれた相手の群れを各個撃破していく作戦は上手くはまった。

 

 さらには敵の武器を鹵獲して使用したり、敵の武器を狙撃して破壊したりと戦術面で成功を収め、更には重火器で武装した味方が増援として駆け付けてくれた時には大勢は決する。

 

 余所の駐屯地から増援が来た時には戦闘は終結。

 

 化け物相手とは言え、初めての実戦で皆まいっていた。

 

 俺と宗像 キョウスケ及び、戦闘を独断で行った自衛官達はMP(ミリタリーポリス。自衛隊相手の警備員、風紀委員)に連れられる事になったが正直今は独房にでもなんでも引き籠もりたい気分だったのでありがたかった。

 

 これが地獄の始まりだとは知らずに。 




 ご意見、ご感想お待ちしております。


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プロローグ2:VS世紀末の悪党

 Side 緋田 キンジ

 

 女性自衛官と言うより、出来る会社のOLみたいな容姿をしている女、佐伯 麗子。

 長身で黒髪の長いポニーテールで胸も大きくスタイルも抜群。

 鋭い目つきで男勝りで綺麗な整った顔立ちをしている。

 

 最悪な事に、悪い方向に出来る女で色々と曰く付きだ。

 境界駐屯地に来たのは上司受けが悪くて左遷されたと言うのが有力である。 

 

 階級は上で俺と宗像の上司に当たる。

 

 俺は事情聴取の後に反省房送りになり、反省房の扉を挟んでクソ上司と会話している。

 

 今は夜中だろう。

 

 外は物音でとても騒がしい。

 

「よくもまあこんだけ好き勝手やったな? 普通なら監視付きの懲戒免職もんだぞ」

 

「ですが佐伯一尉殿――そうでもしなければあの場で事態を収束するのは――」

 

「そんなかしこまった言い方はせんでいいキンジ」

 

「・・・・・・で? 上の方はどうなってるんで?」

 

「マトモな政権でも混乱するような案件だ。今の惰性で選ばれたような政権では無理だろう」

 

「だよな~全部アメリカに丸投げします?」

 

 皮肉下にそう答えると――

 

「現代兵器で無双出来る相手ならそうするだろうが相手はガトリングガンやロケットランチャーで武装した蛮族だ。それにまだ相手の事や向こう側の世界すらよく分かってないんだ――その辺の決定はまだまだ時間が掛かる」

 

 まあ当然かと言う答えが返ってきた。

 

「あのゲートはどうなってます?」

 

「とりあえず周辺を厳重にガードしている。12・7mm弾や重火器、戦車や戦闘ヘリまで配置している。この駐屯地内で済ませるならそれで済ませるつもりだ」

 

「どうしてそんな情報を一介の自衛官の自分に?」

 

「こんな事を言うのは癪だが、この駐屯地で使い物になって私が掌握出来る戦力はお前とキョウスケぐらいだからな」

 

「またあんな化け物と戦わせるつもりなのか?」

 

 正直イヤだったが――

 

「イヤなら懲戒免職でも受けるか? 不良自衛官?」

 

「はあ・・・・・・」

 

 それを言われたら仕方ないと思った。

 自衛官になったのは親の当てつけだからだ。

 ここで辞めたら親を喜ばせる事になる。

 

 

 反省房から解放されて前線送りで最初に目にしたのは目も眩むような閃光と吹き飛ばされそうな程の爆発とキノコ雲だった。

 イヤな予感を感じつつも現場に駆けつけると、世紀末の悪党との戦いが始まっていた。

 

 オマケに世紀末風なパワードスーツや殺人ロボット、武装車両付きである。

 武装もガトリングガンにロケット砲などが飛び交い、自衛隊達に少なくない被害が出ている。

 

 だめ押しにレーザー兵器まで確認出来た。

 ピストルタイプで次々と自衛官の命を奪っている。

 

 自衛隊の隊員達も開き直ったのか(命令よりも 死の恐怖が勝ったのか)自衛権とかアレコレ無視して応戦している状況だ。

 

 戦車や装甲車も必死に応戦している。

 

 俺とキョウスケもそれに混じって戦いに参加。

 

 どうにか撃退した時には敵味方のグロテスクな死体が彼方此方に転がっていた。

 




とりあえず連投です。


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プロローグ3:一ヶ月後・突入

 Side 緋田 キンジ

 

 あれから一ヶ月以上が経過した。

 

 もはやゲートの事を隠し通すのは不可能だった。

 

 毎度毎度戦闘が激し過ぎる上に死者も毎回出てるからだ。

 

 PTSDなどを発症した自衛官も少なからず出た。

 

 あと辞職や転属願いを出す自衛官も大勢出たらしい。

 

 調査が進んで分かった事は向こう側の世界は核戦争でも起きたかのように荒廃していて技術レベルはとても高いと言う事だ。

 

 問題は技術レベルだ。

 

 核融合炉搭載で12・7mm弾程度(車を縦に並べて数台纏めて貫通するレベルの破壊力)なら防ぐパワードスーツ。

 

 軍事用と思われる戦闘用ロボットの存在。

 

 手持ち式のレーザー兵器などを実用化。

 

 ゾンビやオーク(仮称)の存在の有無。

 

 そして反応弾(創作物に出て来るクリーンな核爆弾)の実用化などだ。

 

 他国は火中の栗を日本に拾わせるつもりなのか静かだった。

 

 辛いところは日本に押しつけて美味しいところは全部かっ攫うつもりなのだろうと思った。

 

 そして俺やキョウスケなど、最初の戦闘の頃から自衛隊の規則破ってでも生き延びた自衛官達はマスコミ連中からは叩かれたが一部界隈や同じ自衛官からは概ね尊敬され、キョウスケと一緒に三尉から二尉に昇進。

 

 ゲートの向こうで隊を率いる事になった。

 

 

 向こう側の世界は荒れ果てた軍事基地だった。

 白骨化した遺体などが並んでいたそうだが既に埋葬済み。

 軍事基地の探索及び、拠点化が施設科の手で進められている。

 

 手に持った武器はこれまでの戦闘からの教訓から旧式ながら口径が大きい64式に。

 さらには12・7mm弾搭載の車両の随伴や各種重火器の携帯が絶対条件になっている。

 

 空は戦闘ヘリが飛び回り、地上は戦車や装甲車が走り回っている。

 

 隊の皆はピリピリとしていた。

 隊員はほぼ余所から掻き集められた連中で自衛隊の中では希少な女性自衛官(WAC)も混じっている。

 詳しい説明は省くが、今回の作戦が特殊すぎるせいだろう。

 

「早速おいでなすった!!」

 

 もはや聞き慣れた敵襲警報。

 二足歩行で手のあるのサメの化け物の群れが全力疾走して此方に向かって来ていた。

 

 多少の銃弾を浴びても怯みやしねえ。

 

 砲台代わりの戦車や装甲車から12・7mm弾などが火を噴くが数が多い。

 

 血気盛んにサメ達は空高く大ジャンプを決めて基地のバリケードを飛び越えて自衛隊達に襲い掛かる。

 

「攻撃開始!! 味方に当てるなよ!!」 

 

 この世界は地獄だと思いながら俺は攻撃命令を出した。

 

 とにかくこの世界の生物はタフだ。

 

 弾丸を雨のように浴びせないといけない。

 もしくは大口径、破壊力のある武器で攻撃しないと殺せない。

 

 そして判断に少しでも迷ったら待ってるのは死だ。

 

 この日も自衛官は死んだ。

 

 死因はサメの変位種による死亡。

 

 自分もこうなるのではないかと思いつつ、凄惨な光景で精神をやれている部下達に鞭打ちながら後処理をした。 

 

 




次で連投終わりです。


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第一話「一週間後」

 これで連投終わりです。


Side 緋田 キンジ

 

 突入から一週間経過した。

 

 かなりの自衛官が脱落したが(物理的な意味も含めて)、任務は続行だ。

 

 そろそろ籠もってないで偵察する事になったが――先行して偵察に出た連中は行方不明になっていた。

 

 その偵察隊のメンバーの行方を捜すのも任務の一つになっていた。

 

 酷い時は戦闘ヘリが墜落したり、戦車を失ったりする。

 

 残された記録から分かった死因は様々だ。

 

 ゾンビやオーク、サメの群れにやられた。

 

 他にも武装勢力や殺人ロボットの襲撃などだ。 

 

 士気も低くなり、元の世界に帰る隊員は増えている。

 

 現地で手に入れた武器は原則、規則で上に渡さないといけないらしいのも拍車が掛けている。

 上の連中は自分達よりも大国の機嫌取りに奔走しているのだろう。

 

 このままだと自衛隊、反乱引き起こすんじゃないかと思う。

 

 それとも政府の連中は俺達が反乱を引き起こすと考えてるのではなかろうか。

 

 まあ、んな事よりもだ。

 

 現在おれたち第十三偵察隊は偵察任務と消息を絶った偵察車両の行方を探りながら見晴らしの良い道路を車両と供に歩いていた。

  

 道路は雑草が生い茂り、路面もボロボロでひび割れや陥没し放題の最悪のコンディションだ。

 

 道路を歩くよりも土の地面を歩いた方が歩きやすかった。

 

 そうして件の消息を絶った偵察車両を見つける。

 日本語で書かれたナンバープレートや日の丸のマークが無ければ分からなかっただろう。

 

「ヒデェ・・・・・・物資所か身包み全部剥がされてるぞ・・・・・・」

 

「ああ・・・・・・」

 

 キョウスケの言う通り酷い物だった。

 金目になりそうな物は全部略奪されてその辺に放置されていた。 

 死体からも衣服を剥ぎ取り、下着やドックタグすらも盗られていた。

 

 車は金になりそうな物は片っ端から剥ぎ取られていた感じだ。

 

 この分だとドライブレコーダーも見つからないだろう。

 

「ナンバープレートもありゃしねえぞ――遺体を持ち帰るしかなさそうだな」

 

「そうだな――」

 

 そう思っていた矢先――

 

「人を発見!!」

 

 部隊内でルーキーと仇名を付けられていた兵士がそう言うや否や発砲してきた。

 遠くの物陰から次々と武装集団が現れる。

 

 

 俺達は退避行動を取りながら増援を待つことにした。

 廃墟群に全力疾走して身を隠し、そして銃弾を発砲。

 相手の武装が強力でも生身の敵はどうにかなる。

 

 だが問題はパワードスーツだ。

 

アレはパワーローダーと呼ばれる核動力で動くパワードスーツであり、装甲も12・7mm弾程度なら止めてしまう程の装甲だ。

 

 ヘビのマークがついているがソレが奴達のトレードマークなのだろう。

 

「どうする? このままじゃ遠からず被害が出るぞ?」

 

 キョウスケに言われるが――

 

「包囲される前に武装を置いて逃げるしかない」

 

 と、俺は答えた。

 このまま戦っていたら勝ち目はない。

 

「その案に賛成したいが車には全員乗れないぞ?」

 

 キョウスケの言う通り全員は乗れない。

 それに敵にも車両はある。

 誰かが引き留めないといけない。

 

「増援は? 基地とは目と鼻の先だろう」

 

 キョウスケは質問を変えた。

 

「あと数分――戦闘ヘリが来るし近くの部隊が急行してくれている」

 

「その前に殺されそうだけどな!」

 

 などと言い合いしつつ応戦する。

 

その時だった。

 

「アレは――武装トレーラー!?」

 

 隊員の一人がそう言う。

 遠方に大きな灰色のトレーラーが見える。

 敵の増援だろうか。

 どうやら数分も持ちそうも無さそうだ。

 

 それどころか生半可な増援では逆に餌食になる。

 俺は貧乏くじを引いて撤退する覚悟を決めた。

 

「青いパワードスーツ出現――敵を攻撃しています!」

 

「なんだって!?」

 

 部下の報告に俺は驚いた。

 スコープで遠距離から様子を覗く。

 細心でヒロイックなシルエットの暗い青のパワードスーツが次々と手に持った武器――二丁拳銃(パワードスーツサイズで大口径)スタイルで次々と撃ち倒していく。

 

 他にも違う機種の黒いパワードスーツが出現した。

 背中の大きなバインダーや一つ目、頭頂のトサカ、エアダクトのような口元とマッシブな外観と良い、明らかに別人。

 マシンガンとバズーカで容赦なく敵を倒していく。

 

 形成の逆転を悟ったのかあっと言う間に敵は撤退していきやがて、助けてくれた人々と合流した。

 俺は念入りに部下達に「撃つな」と命じ、接触を図った。

 最初に見た濃紺のパワードスーツ、二丁拳銃使いはヘルメットを外す。

 

 まだ若い。

 

 十代半ばぐらいだろう。 

 

 水色髪で少年漫画の主人公のように刺々しくボサッたい。

 野性味と十代半ばの女の子らしさが同居している雰囲気だった。

 

「私はリオ。通りすがりのトレーダーよ。アナタの名前は?」

 

 これがリオ達との出会いだった。




ご意見、ご感想お待ちしております。


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第二話「出会い」

 Side 緋田 キンジ

 

 遺体の搬送しつつ使える武器は鹵獲していく。

 

 この際だから何処かに集積所つくって隠し持った方が良いかもしれない。

 

 リオとパンサー・・・・・・パンサーと言うのは偽名だろう。

 

 そしてリオと呼ばれた女の子らしい子も黄色い作業現場などで使いそうなパワードスーツを身につけて使えそうな物を回収していく。

 

 死体を見ても気にした風な様子を見せず、装備などを剥ぎ取っていった。

 

 パワードスーツも死体入りだろうがお構いなしでとても逞しく感じた。

 

 増援部隊も駆けつけたがその増援部隊の人間も呆気にとられながらも少女達を眺めていた。

 

「で? 君達はどうしてここに?」

 

 俺が代表してリオと言う少女に尋ねた。

 リオはヘルメットを被り直して周囲を警戒しながら

 

『ここで何が起きているのか知りたいの』

 

 と言ってこう続けた。

 

 何でも最近この土地――グレイヴフィールドがとても騒がしいらしく調査依頼が入っているらしい。

 

 グレイヴフィールドは余程の命知らずでないと近寄らないような場所であるが資源や土地、交通の利便さなどの理由から勢力争いが活発化しているようだ。

 

『私は話したよ。次はアナタ達の番』

 

「あーそれなんだが」

 

 正直信じてくれるかどうかダメ元で話してみる事にした。

 

『馬鹿にしているの?』

 

「まあそれが普通の反応だよな・・・・・・で、君達これからどうする?」

 

『その話が本当ならゲートを見てみたい』

 

「とりあえず上に掛け合ってみるよ――それと助けてくれてありがとうな」

 

『うん』

 

 

 Side リオ

 

『リオ? あの人達どう思う?』

 

 一通り荷物をトレーラーに詰め込んだパメラが通信を入れてきた。

 彼達――ジエイタイの事を言っているのだろう。

 

『言ってる事はデタラメっぽいけど嘘をついている感じはしないんだよね~それに来ている服も綺麗だし~身嗜みあんだけ整っている集団なんて初めてみたよ』

 

 パンサーもほぼ私と同じ事を感じたようだ。

 

 嘘をつくにしてはもっとマシな嘘があるだろう。

 

 問題は身嗜みや武装だ。

 とても綺麗だ。

 

 一人二人ならともかく、全員がそんな武装集団なんていないだろう。

 何か変な思想に染まっている様子もない。

 

『で? どうする? この分だとヴァイパーズの連中報復に来ると思うんだけど?』

 

 パンサーが一番の問題を口にした。

 

 ヴァイパーズ。

 この辺り一帯で恐れられる傭兵集団だ。

 

 傭兵集団とは名ばかりで実際は軍隊や傭兵気取りの野盗集団である。

 

 確実に報復されるだろう。

 

 身嗜みはともかく武装も貧弱そうで確実に殺される。

 

 だから私は手を差し伸べる事にした。

 

『ごめんパメラ』

 

『わかってるよ、リオ。アナタは何時もそうだもんね』

 

 パメラはまたかと言った感じで返してくれた。

 

『私はそっちの方が面白いけどね。この人達に興味あるし』

 

 パンサーは何時もの軽い調子だった。 

 彼女は考え無しのように思えるがただの考え無しの女がパワーローダーを身に纏って今日まで生き延びられる筈がない。何かしらの考えがあるのだろう。

 

 私は基地まで同行する事を伝えた。

 

 




もう少し連投してみます。


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第三話「基地」

 Side リオ

 

 ジエイタイ達の言う基地に辿り着いた。

 

 元々は拠点だった場所に居着いて要塞化が進んでいるようだ。

 

 更には上空を空飛ぶ乗り物が飛び回っている。

 

 ヘリと言う乗り物だそうだ。

 

 陸には戦車や装甲車、車両などの乗り物が並んでいる。

 

 強固な陣地だ。

 

 これだけの勢力にも関わらず、パワーローダーや戦闘ロボットを一台も保有してないと言う。

 

 末端の兵士の武装も貧弱。

 

 ヴァイパーズとの戦いになった時、大丈夫なのかどうか分からなくなってしまう。

 

 一先ず私とパンサーはこの基地の代表者に案内される事になった。

 

 

 基地の代表者、五籐 春夫 陸将

 

 叩き上げの軍人と言う物はどう言う物かは分からないが目の前の人間のような人物を言うのだろう。

 

 ここに至る部屋も清潔。

 

空調が効いていて快適。

 

 執務室のソファーもそうだ。

 

 身嗜みもしっかりしていて今迄遭遇した事はないタイプ。

 

 水も綺麗で冷えていてとても美味しかった。

 

 もしかするとここの人達は何時でもこれが飲めるのだろうか?

 

 装備といい、信じられないぐらいに豊かだ。

 

 五籐 春夫と言う人物の傍には補佐官らしい水島 静香 一尉と言う女性がいた。

 黒髪のショートヘアーで髪もキッチリと整えられていて身嗜みも私も比べて抜群に良い。

 

 私と五籐と水島さんの三人で一先ず会話が進む事になった。

 

「まずは我々の部下を救って頂き感謝を申し上げたい」

 

 と、五籐と呼ばれる男が挨拶した。

 

「こう言う時、どう言えば良いのか分かりませんけど・・・・・・私は助けたかったから助けただけです。この世界は残酷ですから」 

 

「それでもです」

 

「で? 用件はそれだけでしょうか?」

 

「内容は要相談ですが、我々と協力して欲しい」

 

「これだけの力を持っているのに協力ですか?」

 

 交渉事は苦手だ。

 私は本音を叩き付ける。

 

「・・・・・・こうは言ってはなんだが、この世界で我々の無力さを痛感した。既に多くのジエイカンが犠牲となり、それどころか死体に鞭を打つような真似までされている。そのためなら何でもやるつもりだ」

 

「五籐陸将――それは――」

 

 ここで黙っていた女性ジエイカンの水島が制止に入る。

 

「いいんだ水島君。今の地位を捨ててでも部下を守らねば大勢死ぬ事になるだろう。勿論そちらの要求は可能な限り通すつもりだ」

 

 そして頭を下げた。

 水島と呼ばれた女性も頭を下げる。

 

 私はどう判断してよいか悩んだ。

 

 一度パメラに相談した方が良いのかも知れないが――

 

 だがそれよりも話しておかないといけない事がある。

 

「恐らくこの基地は大規模な襲撃を受けると思います」

 

「報告に上がっていたヴァイパーズの事かな?」

 

「はい。彼達は間違いなくこの基地に襲撃を仕掛けてくると思います。軍備や戦い方を見た限り、負けはしないでしょうけど勝った時には多大な被害が出ると思います。直ぐにでも軍備を強化する必要があります」

 

 私は相手に提案した。

 

 

「で、リオ? アナタ勝手に仕事を引き受けたの?」

 

 基地の中、トレーラーの外。

 周囲には遠目から人集りが出来ている状況。

 想像通りパメラに怒られた。

 

「まあいいじゃん。飯や水も出してくれるそうだし、ここの連中も無力な市民を守れってワケでもないっしょ?」

 

 パンサーは楽天的だ。

 

 黒髪のポニーテール。

 黒い肌。

 大人っぽい目つきに唇。

 大きなバスト。

 胸の谷間丸出しのライダースーツと言う衣装のせいで。

 男の兵士達の視線が注がれている。

 

「確かにパンサーの言い分も一理あるわね。だけど本当に変な軍隊ね。これだけ立派な軍備なのに末端の部隊はメチャクチャ弱いし、パワーローダーや戦闘ロボットを一台も持ってないなんて・・・・・・別世界から来たなんて話も間違いじゃないかもね」

 

 とパメラは言う。

 

「うん。衣装や髪の毛が綺麗過ぎるもんね。靴もピカピカだし。武器は貧弱だけど、力入れるところ間違えてないかな?」

 

 などとパンサーは言ったがそこは私も同意見だ。

 

「ともかく私が再度交渉しにいくわ」

 

 そう言ってパメラはこの場を後にした。

 

 

 Side 佐伯 麗子

 

「幕僚長殿、本当に鹵獲した武器を実戦投入するんですか?」

 

 私は耳を疑って思わず尋ねてしまった。

 幕僚長直々に基地の纏め役が並ぶ中でそう提案がなされたのだから。

 

「正直私としても遅すぎたと思うがね」

 

「上はなんと?」

 

 次に水島一尉が声を掛ける。

 

「・・・・・・許可は降りた。自衛隊の死者数が多すぎてようやく政治家達も尻に火がついたのだろう」

 

 と言う後ろ暗い内部事情を暴露した。

 

「安心したまえ、責任は私が取る。この後、パメラさんと契約内容の確認と防衛計画について相談するつもりだ」

 

「今からですか?」

 

 この基地の纏め役の一人、近藤 信也 三佐が尋ねる。

 

「砲台代わりの戦車などはそのままだが、問題は防衛戦を突破されて白兵戦に突入した場合だ。化け物相手に何時までも小銃だけでは前線で戦う兵は心許ないだろう」

 

 五籐陸将は「それに」と言ってこう続けた。

 

「水島君には話したがこの決断に至るまで多くの自衛官が死にすぎた。前線に働く自衛官に対しては決して許される事ではないだろう。それを肝に銘じて取り組んで欲しい」



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第四話「戦闘準備」

 Side 緋田 キンジ 二尉

 

 戦闘準備で基地内が慌ただしくなってきた。

 

 敵の斥候らしき姿も確認されている。

 

 ドローンなどもフル活用し、敵襲に備えている。

 

 施設科(工兵部隊)、特科(砲兵部隊)の連中や機甲科(戦車部隊)、航空科部隊(ヘリ部隊)も慌正しくなってきた。

 

 通信科部隊も張り切っている。

 

 まるで基地全体で何かの反攻作戦の準備を行っているようだ。

 

 それはともかく俺達普通科(一般兵)は武器科、輸送科預かりになっていたこの世界の兵器を引っ張り出し、パメラ主導の元でメンテを開始。

 

 上の方は部隊編成などで大忙しのようだ。

 

「ドランタイプとジャンクローダーもこの際使うしかないわね」

 

 と、パメラが整備しながら言う。

 

 ドラン。

 横長のレンズと口元の大きな突起物、マッシブなシルエットが特徴の機体だ。

 対弾性能も高く、パワーアシストでガトリングガンを使用可能だそうだ。

 

 ジャンクローダー・・・・・・世紀末感溢れるパワードスーツもパワーアシストがあるため、防御性能に不安が残るがドランと同じような運用が可能だ。

 

 中にはドランとジャンクローダーを組み合わせたキメラ型も存在していた。

 

「てかここ軍事基地よね? パワーローダーとかそれなりの数放置されてたと思うけど・・・・・・」

 

 と、当然の疑問をパメラが投げかける。

 

「ああ、それな。向こうに――お偉方のために持って行ったと思う」

 

 キョウスケが代表して話すとパメラは「はぁ!?」と驚いた。

 

「あんたら馬鹿なの!? そんなだからこれだけ軍備持っているのに無様晒して死にかけるのよ!? リオの人の良さに感謝しなさいよ!」

 

 と、怒られてしまった。

 自衛隊には自衛隊の事情と言う物があるのだが第三者の彼女から見れば自分達はバカの集団に見えてるのだろう。

 

「たく、条件はいいけど追加で報酬たんまり貰わないとやってられないわ・・・・・・」

 

 などと言いながら自衛隊の男たち顔負けであれこれ指示を飛ばしている。

 

 

「レーザー兵器は実弾兵器とは違うから」

 

 場所を移し、リオから射撃場でレーザー兵器を含めて様々な現地の超兵器のレクチャーを受ける。

 

 他にもレールガンとかプラズマガンなども存在していた。

 

 パンサーはおっかなびっくりで腰が引けてる自衛官達が面白いのか「頑張りなよー」などと大きな胸を揺らしながら声援をしている。

 

「まさかこんな超兵器使う事になるとは・・・・・・もっと早く使いたかった」

 

「まあな」

 

 キョウスケの言う通りだ。

 もっと早く使えていればどれだけの人間が助かった事か。

 今はともかく戦闘に備えて使い方などをマスターしなければならない。 



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第五話「戦闘開始」

 Side ヴァイパーズのとある人間

 

 このグレイヴフィールドに美味しそうなカモの集団(自衛隊)が現れた。

 

 これを逃す手はないと俺達は大慌てで装備を調えて襲撃計画を実行した。

 

 武器はともかく、水や食料、資源などが沢山あると考えるとヨダレが出ちまいそうだ。

 

 俺達は五百人程のグループで深夜に襲撃することを決めた。

 

 武装車両やパワーローダー、戦闘ロボなども導入している。

 

 どこから来た連中かは知らないが、殺して奪い取って、しばらくは好き放題出来るほどの宝が眠っている。

 

 何人かくたばるだろうが取り分が増えるだけだ。

 

 ああ、女と酒もいりゃいいんだが。

 

 そんな事を考えながら仲間達と夜中に敵の陣地に迫っていると――

 

 空から何かが迫ってきた。

 

 大きい。

 

 見た事もない乗り物だ。

 

 だが敵だろう。

 

 いい資源になりそうだと思いながら銃やレーザー、プラズマガンを発射する。

 

 相手は武装を積んでいない。

 

 ただこっちを見ているだけ。

 

 何がしたいんだと思ったその時、遠くで砲撃音。

 遅れて他のグループがいた辺りで大爆発が起きた。

 

 それが二度続いて敵の攻撃だと何となく分かった。 

 

 楽な仕事だと思ったのに!!

 

 俺達は先を急いだ。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 戦闘は深夜に開始された。

 

 複数の方向から小隊規模(約五十人)。

 

 総勢でおよそ一個大隊規模(約五百人)の敵が包囲してきた。

 

 パワーローダーや武装車両、戦闘ロボットの姿まで確認出来ている。

 

 敵の火力と突破力が凄まじいが今回は此方もパワーローダーや各種重火器で武装している。

 

 俺はドラン。

 

 キョウスケはドランベースでジャンク品を継ぎ接ぎしたようなパワーローダーを身に纏っていた。

 

 観測ヘリを通しての特科(砲兵部隊)、機甲科(戦車などの部隊)で四グループは潰せた。

 

 それでもまだ約300の部隊が迫っていて白兵戦に突入。

 

 戦車や装甲車の装甲では実体弾は耐えられてもプラズマやレーザー、ビームなどの武器に耐えられないので独自の判断で乗員に退避許可を出している。

 

 それでも戦車や装甲車、ヘリが何台か潰されたりしたが。

 

 リオ達は他の場所へ。

 

 おれたち、第十三偵察隊に割り当てられた場所――正門付近の陣地。

 そこで敵を迎撃する事になった。

 

 一番激しい場所だ。

 

 戦車も戦闘ヘリも破壊されたが相手の武装車両も破壊されている。

 正直被害と戦果が割りに合わないがそんなの知ったこっちゃない。

 

 敵のパワーローダーや歩兵部隊と激しい銃撃戦になっている。

 

 その銃撃戦を物ともせずに敵のロボットが突撃してくる。

 

 人型のアサルトタイプ。

 両腕にレーザーやブレードなどを搭載した様々な機種が存在する。

 

 四脚のセントリータイプ。

 両腕がミニガンだったりロケット砲だったり。

 背中にキャノン砲やミサイルランチャーを積んでいたりと様々だ。

 

 浮遊型のドローンタイプ。

 武装はそれ程でもないがそれでも数が多い。

 

 この三つだ。

 独自のAIも内蔵しているらしく何か喋っているが今は気にしている暇はない。

 

 とにかくシールドで身を隠しながらレーザーライフルで次々と狙撃していく。

 正直恐いがそれは皆も同じだ。

 なけなしの勇気を奮い立たせて必死に応戦する。

 

 キョウスケはミニガンで弾幕を張り、他の隊員はルーキー含めて果敢に攻め立てていた。

 

『あのクソ上司(佐伯 麗子)、ハズレ引かせやがったな!!』

 

『この土地に来た時点でアタリもハズレもないだろ!! いいから攻撃に集中しろ!!』

 

 と、俺は愚痴垂れるキョウスケに檄を飛ばす。

 敵の集中砲火が凄まじい。

 シールドもドロドロに溶けて言っている。

 

 パワーローダーはロボットアニメみたいなアクションをきめて戦うのが基本みたいだが俺やキョウスケの腕じゃまだ無理だがそうも言ってられない。

 

 このままじゃシールドと運命を供にする事になる。

 

 俺はアサルトタイプのロボットを破壊して覚悟を決める。

 

 

 Side リオ

 

 私が正門に来た時。

 

 見たのはドランが空中を飛翔し、地上を駆け回る姿だった。

 

 それに続くように継ぎ接ぎのジャンク型のドランが地上を滑べるように移動しながら戦い始めた。

 

 その光景に少しばかり目を奪われたがともかく私は私のするべき事をやる。

 

 敵の数が多く、手強い。

 

 ヴァイパーズの中でも上位の連中が来ているのだろう。

 

 パンサーも腕利きだがこの分だと時間が掛かる。

 

 とにかく援護をしないと。

 

 地上を滑走し、二丁のビームピストルで敵のロボットや兵士に向ける。

 

 敵も当然応射してくるが横っ飛びで簡単に避けられる。

 

 もう何度も繰り返した動作。

 

 味方の援護もよい。

 

 恐れる要素はない。

 

 それよりも味方の――ヒダ キンジとムナカタ キョウスケのパワーローダーの動きを見て興奮している。

 

 私はパワーローダーが好きだ。

  

 色んなパワーローダー乗りを見てきたけど初めてであそこまで動かせるのは驚きだった。

 

 まだぎこちなさがあるけど、どんどんそれも解消されて行っているように見える。

 

 

 Side 緋田 キンジ 

 

 リオの援護も加わってどんどん数が減っていく。

 キョウスケも慣れてきたのか敵を勢いよく撃破して行っていた。

 

 俺もロボットアニメの真似して動いて戦っていたら、敵も嘘のように減らせていけた。

 

『なんだよ!? なんなんだよお前らは!?』

 

 敵のパワーローダー。

 ドランがそんな事を言っている。

 其方から仕掛けておいてまるで被害者みたいな態度だ。

 

 俺は相手の攻撃を引きつけ、滑るように回避して敵の左横に回りこう返した。

 

『俺達はただの自衛隊だ!!』

 

 と、レーザーライフルを至近距離で連射。

 装甲が融解し、貫かれて爆発する。

 

 敵が後退していき――

 

 そして――

 

『緊急警報!! 大型の生物が其方に接近してきている!!』

 

 このタイミングで新手。

 襲撃者であるヴァイパーズの生き残りを食い散らかしながらそいつは現れた。

 

 四足歩行の巨体。

 庭付きの二階建て住宅に匹敵する大きさ。

 

 三つの頭部でその三つがサメ。

 

 B級映画から這い出てきたような怪物が目の前に現れたのである。

 

  



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第六話「サメべロス襲来」

 Side 緋田 キンジ

 

 前回までのあらすじ。

 

 パワーローダー身に纏って野盗相手に調子扱いてたら頭が三つあって四足歩行するサメの化け物が現れました。

 

 以上、終わり。

 

 

 三つ頭のサメの化け物が口から光線を吐いて残っていた戦闘ロボットを焼き尽くし、大きな両足の爪で野盗連中を引き裂いていく。

 

 B級映画のような現実感のない光景だがこの世界では紛れもなく現実だ。

 

 戦車や戦闘ヘリが照準を向けるが――

 

『素早い!?』

 

 二階建ての一件家ぐらいの大きさの癖に素早い。

 縦横無尽に駆け抜けながら光線を吐き散らす。

 

 光線に巻き込まれて自分達の戦車や戦闘ヘリに光線が直撃して爆散した。

 あの様子だと乗員は即死だろう。

 

『ダメだ!! 素早すぎて戦車やヘリじゃ狙いがつけられない!!』

 

 キョウスケの言う通りだ。

 戦車や戦闘ヘリだけでなく一般兵の攻撃も当たらない。

 回避するので手一杯だ。

 このままでは何れ犠牲者が出る。

 

 だからここは――

 

『どうにかして動きを止める!!』

 

 俺はドランの出力を信じて、ブーストを噴かしてサメの化け物に食らいつく。

 リオも同じ考えだったようでパワーローダーを全開まで吹かして食らいついた。

 キョウスケも性能で明らかに劣るだろうにブーストを全力で噴かして攻撃を加え続ける。

 

(正直恐いが・・・・・・)

 

 巨大なサメの化け物相手の戦いは恐い。

 どうしてこんなヒーローの役割をしてんだろう俺は。

 この世界との門が開いてからそんな役回りばっかりだ。

 

 泣き出したい気持ちを堪えながらも必死に張り付く。

 三つの頭から吐き出される光線の射角には限界があり、どうやら後ろには無理みたいだ。

 

 それでも百八十度を超える射角に飛び込み縦横無尽に動き回る四つ脚の巨大な生物に近付くのは凄い度胸がいる。

 

 だが女の子だって、命の恩人だって頑張ってるんだ。

 日本だとまだ女子高生で将来なんてボンヤリとしか考えたことも無さそうな年齢の子がだ。

 

 ここらでいいところ見せたいじゃないか。

 

(ダメージは与えちゃいるが――本当に効いてるのかこのサメ!? 皮膚何で出来てるんだ!? あれか!? ゴジ○的な何かなのか!?)

 

 リオがビームピストルを。

 

 俺がレーザーライフルを。

 

 キョウスケがミニガンで攻撃を加えてはいる。

 

 自分達をうっとおしく感じているのかサメの化け物が身体を動かしてあの手この手で払い除けようとしてくる。

 

 徐々にだが速度が落ちてきている。

 

『今だ、三人とも離れろ!!』

 

 拡声器で佐伯 麗子の声が聞こえた。

 同時に――空間を抉る程の何かがサメの化け物を貫いた。

 左脚の前後が抉られる。

 

『レールガンか!?』

 

 試し打ちで見た事がある。

 レールガン。

 この世界の兵器だ。

 確か手持ち式のサイズの奴があった。

 破壊力があり過ぎるので流石に封印していたが。

 

 あのクソ上司が取り出したのだろう。

 タマには役に立つな。

 

『気を付けろ! まだ生きてるぞ!』 

 

『!?』

 

 地面に倒れ伏したサメが光線を吐き散らす。

 大慌てで俺達は一旦離れた。

 そこへ戦闘ヘリや戦車部隊がトドメの攻撃を出す。

 

 戦車の砲弾が。

 

 戦闘ヘリのミサイルが。

 

 惜しげも無く次々とサメの化け物に撃ち込まれていった。

 

 煙が立ちこめ、晴れた後には死体に変わったサメの化け物が横たわっていた。

 

 リオは念のためにビームピストルを頭部に撃ち込んでいたので俺もそれに習い、念のため『もう一発レールガン撃ち込んでくれ』と発射要請をしておいた。

 

 長い戦いは終わった。

 

 犠牲者も出たが勝利は勝利だ。

 

 この後戦後処理は大変だろうが一先ず今日を乗り切れた事を喜ぼう。 

 



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第七話「戦後処理」

 Side 緋田 キンジ

 

 戦後処理は丸一日潰すことになった。

 

 休憩しながら遺体を探したり、戦車や装甲車、戦闘ヘリのスクラップを運んだり、敵の遺体を埋葬したり、使えそうな武器を拾ったり、ロボットのパーツなどを拾い集めたり。

 

(しかしあの子達の報酬がなぁ・・・・・・)

 

 リオやパメラ、パンサーへの報酬。

 

 男性自衛官だけでなく、WAC達からも時のヒーロー扱いだ。

 

 ウチの隊のWACも憧れに似た感情を持ってパワーローダー装着者の志願していいるぐらいだ。

 

 そんなヒーロー達の報酬なのだが・・・・・・

 

 戦利品の一部の譲渡。

 まあこれは分かる。

 

 そして食料や水。

 太っ腹に一年分ぐらいだが傭兵として考えた場合はそれでも安すぎるぐらいだ。

 ついでにもお菓子などもプレゼントされたらしい。

 

 特に喜んだのは風呂やジュース、料理だったらしい。

 衣類なども特別進呈された。

 

 自衛隊に対してきつかったパメラは目の色を変えて「是非今後ともお付き合いさせてください!!」と頭を下げたらしい。

 

 リオによると「こんな経験、産まれて初めてでお姫様になったような気分だった」らしい。

 

 パンサーも「いや~凄い快適な暮らししてんだね。この条件なら飛びつく人達多いと思うよ~」

 

 と、喜ばれたようだ。

 それを聞いた自衛官達は皆、複雑な気持ちで苦笑いをした。

 

 相当辛い人生歩んできたんだな――

 

 そうそう。

 

 勝手に鹵獲品を使った問題だがお咎め無しだ。

 

 一体どんな手品を使ったのやら。

 

 たぶんだが脅迫紛いな交渉でもしたんだろう。

 

 次に俺やキョウスケが所属する第十三偵察隊に新たな任務が下った。

 

 それはリオ達との出発に合わせ、同行して他の町に向かって調査しろと言う任務だった。

 

 佐伯 麗子辺りの入れ知恵だろうが、単純に動ける部隊が少なく、再編せざるおえない部隊も多く出たからだ。

 

 なので自分達に任務が回ってきたらしい。

 

 そのための準備だ。

 

 グレイヴフィールドの南側に町があるのでそこを目指す感じになる。

 激しい戦闘も予想されるのでそれ相応の武器や、武器管理に厳しい自衛隊にしては珍しく万が一の場合の武器の放棄なども許可されていた。

 

 リオ達も元々はグレイヴフィールドに起きている異変を報告するためにここまで来たのだ。

 

(しかしこの任務どうなるのかなあ・・・・・・)

 

 元々自衛隊が派遣された任務の内容はこの世界の調査だけでなく、ゲートが開いた理由の調査なども含まれている。

 

 それが今ではこの世界のテクノロジーの収拾になっている感が否めない。

 

 まあ俺如き一介の自衛官が考えたところでどうにもならないだろう。

 

 なるようになると思って諦めるしかない。




もうそろそろ連投終わりです。


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=幕間:第13偵察隊のWAC=





*本編に入る前にキャラクター紹介

 

 =第13偵察隊のWAC=

 

○水瀬 キョウカ

 

 階級;二曹

髪の色は青。

 男性に負けたくないと言う理由で異世界行きを志願した女性。

 身長は平均レベル。

 

○高倉 ヒトミ

 

 階級:二曹

 

 ブラウンのショートでヘアーで男性並みの背丈とクールな雰囲気を身に纏うメガネを掛けた女性。

 冷静で落ち着いた雰囲気を持つ。

 

 

 Side 水瀬 キョウカ

 

 ――話は異世界に突入する前に遡る。

 

 私は昔から変わっているとよく言われていた。

 

 私は強い女性に憧れていた。

 

 だから私は自衛隊になった。

 

 それは自衛官になってからも変わらず、私は自衛隊として有事の時に備えて日々鍛錬を積んでいた。

 災害救助とかにも参加するがもっぱら戦闘訓練だ。

 

 より高みを目指すために休暇を取ってPMC(傭兵会社)の戦闘訓練でも受講しようかなとか考えていた矢先。

 

 日本で初めての実戦が起きた。

 

 その場所は何の変哲もない、特徴もなにもない片田舎の駐屯地でだ。

 

 相手は並のテロリスト顔負けの重武装で、ガトリングガンやロケットランチャー、小型の高威力爆弾――一種の反応弾に近い兵器(放射能汚染がない核爆弾みたいな兵器)だと判明した。

 

 最初は何かの冗談かと思った。

 

 回りの皆もそう思った。

 

 だが詳細が分かるにつれ、更に新たな敵の出現なども含めて真実だと分かった。

 

 日本中が大パニックとなり、本当に戦争が勃発したかのような騒ぎだった。

 

 最悪なのは、そっち系の自衛官がよく読む――異世界自衛隊物のように剣と魔法のファンタジー世界のような奴が相手ではなく、高度な現代兵器で武装しているらしいとのこと。

 

 レーザー兵器やパワードスーツらしき装備まで確認されているらしい。

 

 更にはゾンビの出現まで確認されている。

 噛まれてゾンビ化する事はないがとんでもない身体能力であり、群れを成して襲い掛かってくるらしい。

 

 厳重に封鎖しようにも襲撃が不定期で感覚も短いために中々封鎖作業も進まず、死傷者やPTSDを患った自衛官が大量に出た。

 

 その現状に危機感を抱いたのか上の方は突入を決意。

 志願者も破格の待遇で募集された。

 

 

 境界駐屯地には次から次へと最新兵器や日本各地から志願者が集められていた。

 

 町の周辺は避難作業が進んでおり、いるのは物好きなマスコミやジャーナリストぐらいだ。

 

 海外からも来ている。

 

 駐屯地内はとてもピリピリしていた。

 

 ゲートの先では既に戦闘――不正規戦が始まっており、死体となって元の世界に帰ってくる自衛官も出ているらしい。

 

 現地に到着すると配属されたのは運が良いのか悪いのか、この騒ぎの最初の頃から戦い続けている例の二人組。

 

 緋田 キンジ 二尉。

 

 宗像 キョウスケ 二尉。

 

 この二人がいる第十三偵察隊に配属された。

 

 二人とも軍人と言うよりかは優男系の容姿でまだ若い。

 真面目な自衛官と言うより力抜いて適当に自衛官の職をやってますと言う感じだった。 

 

 この二人は一連の騒動で最初の頃から規律的に自衛官にあるまじき行動を取ったために上からは問題児扱いされているそうだが、周りからは英雄視されている。

 

 二人の周りだけはピリピリした空気が収まっているようにも見えた。

 

 

 突入準備が近付き、他のWAC(女性自衛官)と知り合う事になった。

 

 名を高倉 ヒトミ。

 

 ブラウンのショートヘアー。

 知的そうなメガネ。

 ホッソリとしているが背丈に恵まれている。 

 本人には失礼かもしれないが美男子にも見えなくもない。

 

 彼女とは割り当てられた部屋も一緒でよく会話をする機会は多かった。

 

「私が自衛隊に入ったのは単純に自衛隊に助けられたから、憧れたからかな」

 

「でも今回は災害派遣とかじゃなくて実戦になるのよ?」

 

「何度も考えたし、周りからも止められた。覚悟の上さ」

 

「どうして?」

 

 安易に尋ねるべきではなかったのかもだが、この時は反射的に口が動いてしまった。

 

「ウチはいわゆる自衛隊家系みたいな物でね。昔は理解に苦しんだけど、今は自衛隊と言う職業が理解出来る。それにさ、国のために、人のために立ち上がって誰かのために戦うのってそんなに変な事かな?」

 

 私は彼女が眩しく感じた。

 言動や様子から察するに夢見がちな少女と言う感じではない。

 幸か不幸か彼女は自衛官なのだ。

 

「変なことじゃないわ。私はただ強くなりたいとかそんな理由でここに来たんだし・・・・・・」

 

「何かの物語でいたね。もしかして特殊部隊とかに入りたいのかな?」

 

「そうね。この事件が起きなかったら自衛隊を退職して海外のPMCかフランスの傭兵部隊入りしてたかもしれないわね」

 

 日本の特殊部隊は女性は入れない。

 なのでそう言う選択肢も視野に入れていた。

 

「ああうん。君はその、凄く変わってるね」

 

「遠慮しないでいいわよ。自覚はあるから」

 

 なんだか照れくさくなった。

 

 

 異世界での戦闘は突入初っ端から地獄だった。

 

 現代兵器の攻撃を交い潜り、基地でサメの化け物との白兵戦となる。(プロローグ3:一ヶ月後・突入)参照。

 

 レーダー車両や特科(砲撃部隊)の車両、戦車に戦闘ヘリなどが投入されている(戦闘機の投入はまだ先)この現状ならば数キロ先の敵ぐらい見つけて簡単に敵を排除出来そうな物であるが、それだけで上手く行くならアメリカ軍は紛争地帯で苦労はしてないだろう。

 

 拠点となっているこの廃墟の軍事基地。

 その周辺は緑豊かな自然を挟んで様々な廃墟が建ち並んでおり、レーダーや偵察ヘリをすり抜けて基地まで肉薄出来てしまうのだろう。

 

 基地周辺に配置したセンサーで感知した頃にはかなりの規模の敵との白兵戦になる。

 

 そしてこの世界の生物や人間はとても好戦的で凶悪だ。

 

 レーザーなどのハイテク兵器やロケットランチャー、ミニガン、パワードスーツなどで重武装している。

 

 単純な装備の水準で言えば自衛隊よりも上の連中が野盗として歩き回っているのだ。

 

 さらにはゾンビやオーク(自衛隊仮称)などの襲撃も多く、脱落したり戦死する自衛官も多く出た。

 

 酷い時は戦車や戦闘ヘリすら失う事すらあった。

 

 これには私もヒトミも堪えた。

 

 緋田 キンジ隊長と宗像 キョウスケ副隊長も堪えてはいるみたいだが、私達よりかはマシのように見えた。

 

 外見の優男然とした姿から想像も出来ないぐらいにこの二人はタフだ。

 

(負けてたまるか)

 

 二人を見ていくウチに私は思った。

 

 この世界で立派に戦い抜いてやる。

 

 そう心に誓った。

 

 

 この世界では深夜でも気が抜けない。

 入れ替わり立ち替わり様々な連中が基地に突撃してきて戦闘が発生する。

 

 戦闘の度に何かを失い、着実に自衛隊は消耗していっていた。

  

 偵察隊も派遣されたが元に戻ってこれたのは僅かだ。

 

 そしてとうとう自分達の番である。

 

 私は正直恐かった。

 

 武者震いと言えれば良かったが死ぬかもしれない。

 

 だけどそれを認めたくないので武者震いと言う事にしておいた。

 

「ヒトミは恐くないの?」

 

「恐いさ」

 

 ヒトミも消耗しているが立派な自衛官としての誇りを今だ保ち続けていた。

 この世界で経験した地獄を経てこれなら大したもんだと思った。

 

「死ぬのが恐い。だけど何も成し得ずに死ぬのはもっと恐いかな・・・・・・」

 

「そうね・・・・・・」

 

 誰も彼もがドラマチックに死ねるわけじゃない。

 それをこの世界で痛感していた。

 

 

 同じ偵察隊の無惨な姿を見て思わず吐き気を覚えた。

 ヒトミも辛い気持ちのようだ。

 

 そして立て続けに襲撃。

 隊長の指示で近くの廃墟群に立て籠もったが敵の数と装備の質が違いすぎる。

 

 このままでは死ぬ。

 

 隊長が殿を務めるかどうかと言っていた。

 

 自分達の隊長は立派なんだなと思ったその時。

 

 彼女たち――リオやパメラ、パンサーが現れた。

 

 圧倒的戦力差を覆す鋼鉄の鎧を身に纏った少女達。

 

 非現実的な光景で唖然とした。

 

 たぶんこの光景を私は生涯忘れはしないだろう。

 

☆ 

 

 リオやパメラ、パンサーはある意味私の理想像のような少女達だった。

 

 同時にこの世界の過酷さを体現したかのような少女だった。

 

 例えば水一つや食料で喜んだりとか。

 

 紛争地帯の少年兵とかこんな感じなのだろうかとか思ったりした。

 

 そして自衛隊にも遂に変化が訪れた。

 

 この世界で得た鹵獲武器の解禁。

 

 そして鹵獲したパワーローダー(元・死体入り)の実戦投入などだ。

 

 パワーローダーは数が限られているため、各部隊の隊長格などに優先配備された。

 

 今迄使っていなかった事に大層驚かれたが。

 

 実際パワーローダーは戦術的にとても脅威だ。

 

 歩兵のアサルトライフル程度なら止めてしまう。

 最低でも対装甲目標用の重火器か対物ライフル、12・7mmクラスの武器が必要な相手だった。

 

 話を戻そう。

 

 ウチの第十三偵察隊では緋田 キンジ隊長や宗像 キョウスケ副隊長が身に纏った。

 

 そして敵の大隊規模の、パワーローダーやエネルギー兵器、戦闘ロボットで構成された未来の武装勢力相手に隊長と副隊長は優位に戦って見せた。

 

 さらにはリオまで加わり、四足歩行で頭が三つある巨大なサメの化け物と激闘を繰り広げた。

 

 他の自衛官達も――特に特科や機甲科、戦闘ヘリ部隊の活躍もあったがそれよりもパワーローダーの戦術的優位を再確認した。

 

 

 リオとパメラ、パンサーの三人の活躍もあったが、ウチの隊長と副隊長も凄かった。

 

 ヒトミも「パワーローダーの装着者に志願してみようかな」と声を漏らす程だった。

 

 そしてリオたち三人は基地内で今や時の人。

 超人気アイドルみたいな状態だった。

 

 しかも同姓にも人気がある――まだ十代半ばの少女が大立ち回りしたのだ。

 自衛隊と言う戦闘を生業とする職業の人達に人気が出ない筈がない。

 

 更に可愛い事に自衛隊の生活や報酬にとても大喜び。

 

 食事にも喜び、寝床があることにも喜び、歯磨きにも戸惑い、お風呂や衣服にも喜んだ。

 

 それがとても可愛らしかったのか年配の自衛官やWACから「中身は可愛い娘ね」とか「ウチの娘とは大違いだ」とか微笑ましく、ある物は苦笑して見守っていた。

 

 それはそうと傭兵の相場は幾らかは分からないが安すぎるようにも感じた。

 

 しかも基地の生活ゴミまで拾い漁って報酬としてくださいと言ってくると来た。

 

 だがこの三人の娘達の物の価値観は今の自衛隊にとってはとても重要な情報である。

 

 更に言えばこのグレイヴ(英語で墓と言う意味)フィールドはおっかない場所であり、普通の人間ならまず立ち寄らない危険地帯だそうだ。

 

 連日の襲撃の真相が理解出来た。

 

 何て言う場所に異世界のゲートが開かれたのだろうか。

 

 もっと平和な場所に開いて欲しかった。

 

 だがそんな事言っても始まらない。

 

 ヴァイパーズと呼ばれる武装勢力との大規模戦闘やそれ以前の活動で自衛隊にかなりの損害が出ている。

 

 自分たち第十三偵察隊はそのまま偵察任務を続行。

 

 さらにリオたち三人と一緒に町へ同行することになった。

 

 一体なにが待ち受けているのだろうか。

 




次で連投終わりです。


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世紀末世界に生きる人達
第八話「旅立ち」


 Side 緋田 キンジ

 

 本来ならもっと数を送り込みたかったが部隊再編や相手の警戒心を刺激しないためにも俺たち第13偵察隊の他に第7偵察隊が送り込まれた。

 

 第7偵察隊も腕利きの連中らしい。

 

 特に印象に残ったのが

 

 宮野 ヒデト 一尉

 

 三木 ケイイチ 二尉。

 

 日高 ヨウコ 二等陸曹

 

 の三人。

 

 宮野 ヒデトは好青年と言った感じで三木 ケイイチは甘いルックスでホストとしてもやっていけそうだ。

 

 日高 ヨウコは勝ち気な自衛官の典型的な自衛官のWACと言う感じで人当たりもよく、ウチの女性WACと仲良くやっている。

 

 ウチと負けず劣らず個性的な面々だ。

 

 階級は宮野一尉が上でいざと言う時は彼の指示に従う事になった。

 

 リオたち三人が乗った荷物を積んだトレーラー。

 

 後ろにはパワーローダーを積んだ大型トラック二両。

 

 ハンヴィーに指揮車両と豪勢な装備の数々。

 

 まあ使う奴が殉職したり、世紀末世界から離脱したせいで放置されていたのを使ってると言う大手を振って喜べない事情もあるのだが。

  

 

 Side リオ

 

 パメラはとても上機嫌だった。

 

 私もそうだ。

 

 激しい戦いはしたが十分過ぎる程のお礼をもらったからだ。

 

 リビルドアーミーの連中とは大違い。

 

 あいつらは今より、よりよい未来や戦前の世界を取り戻すなどと言ってるが実際は野盗と大して変わらない。

 

 ヴァイパーズや野盗と結託しているなんて言う話もあるぐらいだ。

 

 そう考えるとジエイタイの人達は大丈夫だろうか。

 

 ヴァイパーズも今は大人しいが、必ずまた報復に出るが気前よく今の調子で接していたら必ずリビルドアーミーがやって来る。

 

 その事をジエイタイに伝えておいた。

 

 彼達はまだこの世界の事を知らないらしく、まずはコンタクトを取るつもりらしい。

 

 本当に大丈夫だろうか――

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 道中、やはりと言うか襲撃はあった。

 

 元々自分達がいるグレイヴフィールドは危険地帯だと聞いていたし、その事もこの世界に来てから実感している。

 

 以前と比べると装備も整ってるし、隊員達の心構えも違う。

 

 リオ達もいるのだ。

 

 楽にとは言えないが野盗程度や少数の変異生物程度なら相手にならなかった。

 

 そして――

 

 

 日が暮れる前にグレイヴフィールドから離れた場所でキャンプする事になった。

 

 丁度近くにもリオと同じく同業者らしき人々がチラホラいたので丁度良かった。

 

「グレイヴフィールドか。こうして外から見ると巨大な墓みたいな町だったんだな」

 

 キョウスケが言う通りだった。

 名は体を現すと言うがその名の通り、呪われた墓場のような場所なのだろう。

 

 俺は「そうだな」と返して情報収集を始めることにした。

 

 情報集めも今の自衛隊にとってとても大事なことだ。

 

 リオ達の同業者から色々と話を聞くことにした。

 




これで投稿は一先ず終了。
ご意見、ご感想、ポイント評価お待ちしております(震え声


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第九話「情報収拾」

 Side 緋田 キンジ

 

 俺はリオ達と一緒にトレーラーが集まるこの場所を案内してもらう事になった。

 

 ここにはグレイヴヤードなどを含めた周辺の探索ポイントで金稼ぎをしている人々が集まっているようだ。

 

 その人達相手に商売を持ち掛けている人達もいるらしい。

 

「皆、トレーラーとか保有してるんだな」

 

「単独行動は基本、近くへ行くぐらいでしかいけないから。どうしてもトレーラーが必要になるし、複数人で行動している」

 

「でも君らたったの三人なんだな?」

 

「仲間募集中。出来れば女性がいいんだけどね。男性を入れると色々と問題が起きるからってパメラが」

 

「あ~女性三人に男一人は色々と問題は起きるな」

 

 確かに女性三人のところに男性一人は色々と問題があるだろう。

 ただの男ならともかく、この神も仏もいない世紀末世界の男だ。

 軟弱な高校生男子をメンバーに入れるのとはワケが違う。

 

「アマゾネスって言うグループみたいに女性だけで構成された有名なグループがいるんだけどその人達が羨ましい」

 

「そう言う人達もいるのね」

 

 アニメや漫画みたいに美女軍団ではなく、おっかないゴリラのような女性だらけなのを想像した。

 まあこの三人みたいにひょっとしたら~なんて事も考えたが。

  

「そういやパメラは?」

 

「ジエイタイから貰った報酬を元手に色々と取引してると思う。ここにはキャラバンの人達も大勢いるし、たぶんジエイタイの噂はあっと言う間に広まると思う。ジエイタイと接触したい、関わりを持ちたいと言う人達は増える」

 

「大丈夫かな――」

 

 とか言いつつ内心では(まあ、なるようになるか)などと思った。

 それにマトモな人との交流が増えればある程度は人の安全も確保出来るだろう。

 

 通信で伝えといた方がいいかもしれない。

 

 

 Side  宗像 キョウスケ

 

 パメラの付き添いで買い物をする。

 基本はコインと呼ばれる硬貨か、物々交換でのやり取りらしい。

 武器、弾薬、食料など、記録にとっていく。

 驚いたのはパワーローダーまで扱っているところだ。

 

 そして物の価値観。

 

 やはり水と食料は貴重品らしく、纏まった数さえあれば武器弾薬やパワーローダーとも交換が可能なようだ。

 

 価格破壊もいいところだ。

 

 逆に罪悪感のような物が湧いてくる。

 

 パメラはそんな事知ったことかと、カートを引いて羽振り良く買い物していく。

 

「どうしたの?」

 

 と、パメラが不思議そうに尋ねてくる。

 

「いや、この世界の食糧事情について考えてた」

  

「私から言わせてもらえばアナタ達がおかしいんだからね? こんな気前よくしてると野盗やヴァイパーズだけじゃなく、そのうちリビルドアーミーとかにも目をつけられるわよ」

 

「リビルドアーミー・・・・・・この世界で一番ケンカを売っちゃいけない連中のことだろ」

 

「そうよ」

 

 評判は悪いが先日、激戦を繰り広げたヴァイパーズとは比べものにならないぐらいに装備が整った武装集団らしいとは聞いている。

 

 ヴァイパーズでもアレだったのだ。

 

 正直戦う事は考えたくない。

 

「それにしてもアレだな・・・・・・なんか周囲からの視線が――」

 

 周りからチラチラと目をやる。

 羽振り良くパメラが買い物しているからだと思ったがどうやら違うようだ。

 

「そりゃ当たり前よ。アナタ達ジエイタイは目立つから」

 

「そんなにか?」

 

「軍服着てるのにそんな綺麗な恰好して物珍しそうな態度してたら誰だって珍しく思うわよ」

 

 遠回しに田舎もの呼ばわりしているようだが、彼女の意見が正しいのだろう。 

 

「まあとにかく、アナタ達は情報提供する代わりに町までの護衛も兼ねてるんだし、パワーローダーや武器も最低限ここで仕入れてくわよ」

 

「そいつはどうも」

 

 至れり尽くせりだ。

 言い方はキツイが照れ隠しなのか顔は真っ赤だ。

 あえてそこに言及しないでおくのがマナーだろう。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 リオの同業者達と顔を合わせる。

 

 リオやパンサーは名が知れた人間らしい。

 

 対照的に自分は珍しげに見られるか、警戒されるか。

 

 紹介された同業者は男性もいるが女性の同業者が多い。

 

 農業やりながらトレジャーハントしてますと言う人や、一攫千金夢見てやってるなど事情は様々だ。

 

 情報についてだが冷えた飲料水を渡すと気前よく色々と喋ってくれる。

 

 上手く行きすぎて(大丈夫かこれ?)と不安になってしまう。

 

 ・・・・・・まあ目標は達成できてるから別にいいか。

 

 



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=幕間:トレーダーのアネットその1、その2=

 Side リオ

 

 私は別のトレーダーグループのアネットと話し込んでいた。

 

 もっぱら話題はグレイヴフィールドに現れた新たな勢力、ジエイタイのことだ。

 

 アネットは私達と同い年ぐらいで女性グループを私達よりも多く纏めている。

 服装も黒いミニスカの長袖の衣装で茶色いロングブーツ。

 頭も真っ黒な軍帽を被っている。

 長い金髪でどこか育ちの良いお姫様然としていて羨ましかった。

 

 後ろでは専用の大型トレーラーにアネットのグループ達がジエイタイから配られた水を飲んで大はしゃぎしていた。

 

「ふーん、あの方達はジエイタイと言うんですね」

 

 と、言いつつ照れくさそうに500mlのペットボトルの美味しい水と銘打たれた飲料水を大切に飲んでいた。

 

 ジエイタイから貰った情報料代わりにもらった大切な水である。

 

「うん。町と関わりを持ちたいらしいから案内している」

 

「信用できますの?」

 

「ヴァイパーズや野盗相手に戦ったりしてるからその辺は大丈夫だと思う」

 

「つまり、今の段階では敵ではないと――」

 

「遠からずウチにリビルドアーミーが接触してくると思うしそこで最終的に判断出来ると思う」

 

「アーミーの連中、騎士団とぶつかる事になるかと思いましたが――どうなるか分かりませんね」

 

 騎士団。

 

 鋼鉄の騎士団とも言う。

 この世界の勢力の一つ。

 言ってしまえば自警団だ。

 

 リビルドアーミーとは違い、此方は住民達に好かれているのが最大の特徴だろうか。

 

「その前に先ずは町に案内してみる。依頼もあるしね」

 

 町――シップタウンを見たらたジエイタイの人達はどう思うだろうかとちょっと気になった。

 

「これからどうするの?」

 

「たぶんここのトレーダーやキャラバンはジエイタイに接触したいと言う人は大勢出ると思いますわ。あの方達、リビルドアーミーよりお人好しそうですし・・・・・・違う世界から来たと言う話も信じてもいい気がしますわ」

 

 と、呆れたように溜息をついた。

 パメラと同じような事を言っている。

 

 この世界は残酷だ。

 お人好しほどバカを見る世界なのだ。

 これからジエイタイの元に人の良さにつけ込んであれこれ企む人間が大勢押し寄せるだろうが、そこはジエイタイを信じるしかないだろう。

 

 幸いにして彼達は勉強熱心だ。

 この世界の事や私達の事を頑張って知ろうとしている。

 そして酷い目に遭いながらも彼達はお人好しだった。

 

 だからジエイタイの事を信じてもいい。

 

 私はそう思っていた。

 

 パメラにはまた呆れられそうだが。 

 

 

 Side アネット

 

 リオと別れて黒髪で活発な作業着姿のニッパがヒョコッと顔を出してきた。

 

「リオっち、もっとゆっくりしてきゃいいのに」

 

「まあリオさんにはリオさんの都合があるでしょうし、私達もグレイヴフィールドのジエイタイに会いにいきますわよ」

 

 と、これからの方針を伝えた。

 

 ニッパは特に驚いた様子は見せず、

 

「そう言うと思ってました。もうトレーダーやキャラバン、賞金稼ぎ連中の間でも噂になってるようですよ。遠目からジエイタイの人達見てきましたけど、身嗜みが整って装備も綺麗でしたね」

 

 そう羨ましそうに言ってました。

 

「私も見ましたわ。リオさん身体も身嗜みも綺麗になってましたし。男女別のお風呂に入ったとかトイレが綺麗だったとか、空調が効いて涼しかったとか、料理が美味しかったとか・・・・・・」

 

 正直私もとても羨ましい。

 なにその天国みたいな場所!?

 本当にそんなところあっていいの!?

 

「情報量の対価で水配っていく連中ですもんね。リビルドアーミーこんな事しませんし騎士団の連中もここまで気前よくありませんよ」

 

「と、とにかくレースは始まっていますわ――ジエイタイと接触して見極める必要がありますわね」

 

「お、やる気ですね、姉さん」

 

「当然ですわ――」

 

 ジエイタイと言う謎の勢力の出現。

 この停滞した一帯を引っ繰り返すかもしれない。

 

 だがこの時代、お人好しは損をしやすいのが暗黙の了解。

 子供向けのお伽話のような存在が実在いたとしたら間違いなくリビルドアーミーが絡んでくる。

 

 あいつらはこの荒廃した世界の復興を謳いながら実態は野盗連中と変わらない。

 選ばれた人間による優れた統治などと抜かして搾取、弾圧するのだ。

 

 大半の兵士も見てくれだけの腑抜け連中が多い。

 装備はいいだけ。

 

(ジエイタイはどうかしら。少なくとも見込みはあるようだけど――)

 

 リオの様子や話を聞く限りでは信用してもいいかもしれないなどと思う反面。

 支配者気取りのリビルドアーミーがどう絡んでくるかが心配だった。

 

(ここで心配しても仕方ありませんわね)「ニッパ、出発準備。各員には戦闘態勢を取らせなさい」

 

「分かりました姉さん」

 

「さて、吉と出るか凶と出るか・・・・・・」

 

 私は不思議と今のこの状況を楽しんでいた。

 

 同時に嵐の予感を感じていた。

 

 




ご意見、ご感想お待ちしております。


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第十話「新たな戦力」

Side 緋田 キンジ

 

 俺達はシップタウンに向けて移動を開始――する前に装備を整える。

 

 現地の武器で装備を切り替えなど、地球でやったら間違いなく怒られるがここは異世界で相応の許可を上から貰っている。

 

 アサルトライフルも対物ライフルもこの世界のものに切り替えている。

 

 パワーローダーもドランだけでなく、フェンサーやギャリアンなどの新しいモデルを購入できた。

 

 性能的にはリオの"ゲイル"やパンサーが使う"ジェネ"などの機種に負けない奴らしい。

 

 フェンサーは万能型。

 丸っこいヘリみたいな頭部が特徴だ。

 

 ギャリアンは防御力とパワーに優れたタイプらしい。

 こっちは車のフロントガラス(車の正面に位置するガラス)みたいな目をしていて口元にエアダクトがある。

 

 両方とも緑色であり、ガタイが良いシルエットで昭和のロボットアニメとかで出てきそうなシルエットだ。

 

 問題は誰が乗るかだ。

 

 第13偵察隊だけじゃなく、第7偵察隊の面々もいる。

 

 ジャンケンに決めるワケにもいかないので隊長同士で顔をつきあわせて相談することにした。

 

 第七偵察隊の隊長、宮野一尉。

 

 人当たりの良さそうな人物で階級は上だがそう言うの気にしないタイプらしく、此方の意見にも耳を傾けてくれた。 

 

「正直に言うと、今の状況で完熟訓練は難しい。慣れてない人間が使うのは止めといた方が無難だ」

 

「ウチの隊だと俺かキョウスケになりますね」

 

「自分の隊だと僕か三木になるな」

 

 てことは四人か。

 

「キョウスケには最低でもドランを回す。ジャンクは流石にな・・・・・・」

 

「ああ確かに」

 

 懐事情の問題があったとは言え、流石にジャンク品との継ぎ接ぎなパワーローダーを乗せるのはかわいそうだ。

 

「欲を言えばフェンサーかギャリアンを貰いたい」

 

「じゃあ自分はフェンサーで」

 

「わかった。じゃあ自分がギャリアンを使おう。操縦訓練も念入りにしとこう」

 

「ですね」

 

 新型機は各隊の隊長機が使用する感じになった。

 

 

 少し離れた場所の平野で操縦訓練をする。

 

 手にはパワーローダー用のアサルトライフルを手にしていた。

 これは念のためだ。

 

(ドランよりも動きが軽いな・・・・・・)

 

 そう心の中で評価して他の面々を見る。

 パンサーやリオもパワーローダーを身につけて監督役をしてくれていた。

 

 キョウスケはドランを。

 第7偵察隊の三木 ケイイチと言う人もドランを身に纏っていた。

  

 ウチの隊(第13偵察隊)や第7偵察隊からどうしても志願者が出て空きが出たパワーローダーに搭乗して訓練している。

 

 一日潰す覚悟で操縦訓練をする事になった。

 

『敵が接近!! 数は戦闘車両、パワーローダー含めて10!! ――野盗連中よ!!』

 

 トレーラーにいたパメラから通信が入る。

 おえつら向きに敵が来たようだ。

 

 パワーローダーは継ぎ接ぎのパワーローダーやドランが精々。

 機動性がある戦闘車両の方が恐いかもしれない。

 

『パワーローダーをつけてない隊員は一旦退避! 三木は自分と一緒に左翼から、緋田君たちは右翼から攻めてくれ! リオさん達は皆の後退支援を頼む!』

 

 と、第7偵察隊の宮野一尉が指示を飛ばす。

 

『隊長がサマになってますね。了解、いけるかキョウスケ?』

 

『ジャンクであそこまでやれたんだ。いけるさ』 

  

 俺は『そうかい』と返して右翼。

 敵から見て左側から攻める。

 敵は攻撃してくるが攻撃対象が広がり、攻撃がばらけてリオたちに討ち取られる。

 

『バカ正直に突っ込むだけで連携もクソもないな』

 

『まあ野盗だしな』

 

 左右から挟み込むようにして突っ込んで来た戦闘車両を難なく破壊。

 後は出遅れたパワーローダーを残すのみ。

 

 後方からの援護射撃がはじまり、敵が怯んだところを宮野一尉たちと一緒にトドメを刺す。

 具体的にはパワーローダー用のアサルトライフルで蜂の巣にする。

 

『とんだ訓練になったな』

 

『まあ、相手が弱くて助かったよ』

 

 キョウスケの言い分にそう返した。

 ウチの隊員や第7偵察隊の面々も同じ気持ちだろう。

 

 まあそれはともかく。

 

『夜も近いし、一度キャラバンやトレーダー達の元に戻って夜営するか?』

 

『私も賛成。夜の移動は危険』

 

 俺の提案にリオの賛同もあり、宮野一尉も同意して引き上げることになった。

 

 




ご意見、ご感想お待ちしております。


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第十一話「その頃の自衛隊基地」

 Side 佐伯 麗子

 

 夜になり、第13、第7偵察隊の定時報告が来たのでそれを陸将に報告する。

 

 耳を疑うような事をしているが、少し基地を出るだけでも数回戦闘が発生していた。

 

 今もまたどこぞの連中が攻撃を仕掛けて来たばかりだ。

 

「武器の現地調達か。前代未聞だな」

 

 と、陸将の執務室で五籐 春夫 陸将が考え込む素振りをみせる。

 

「ですが従来の装備のまま戦えと言うのは竹槍で戦えと言っているような物です。それを分かっているから鹵獲武器の使用を解禁をしたのでしょう? 現地調達も大目に見るべきです」

 

「ふむ・・・・・・」

 

「納得出来ないのなら現地協力者のパメラ氏から装備の貸し出しをしてもらってると言う体裁はどうでしょうか? 」

 

「霞ヶ関の先生方にはどんな正論や理屈を説いても理解してくれん人間が多くて困るが――やらないよりかはマシだな」

 

「ええ」

 

 五籐 陸将も苦労してるんだなと思った。

 霞ヶ関のお偉いさんたちはこんな状況でも得点稼ぎに出世競争ときた。 

 そんなだから何時まで経っても"学校の学生会議より酷い"とか言われるのだ。

 

 

 話も終わり、偶然出会った水島 静香 一尉と一緒にラウンジスペースで話し合う。

 

「聞いた? 近々この場所に査察団が来るって」

 

「こんな修羅の世界まで得点稼ぎとはご苦労なことだ」

 

 いったいどんなケチをつけてくるのか想像するだけでも腹立たしく思えてくる。

 

 こちらは24時間交代制でドローンまで飛ばして防衛体制を敷き、いまなお施設科が命懸けで基地の改修作業を進めている状況だ。

 

 施設科だけでなく、この土地で留まって戦い続けてくれている全ての自衛官が勲章物の勇気を出してくれている。

 

 あの二人(緋田 キンジ、宗像 キョウスケ)もな・・・・・・

 

「しかもマスコミまで入れろとか言う話まで来てるの」

 

「ここの状況を外の連中は理解しているのか? 核武装した武装勢力がウヨウヨしている場所だぞ?」

 

 不意打ちで核兵器撃ち込まれて消し炭になる可能性だってあるのだ。

 さらにはB級映画から飛び出してきたようなモンスターまでいる。

 

「言いたい事は分かるわ――」

 

「まったく・・・・・・此方の状況を把握しているのか・・・・・・」

 

 そんな場所にマスコミを入れればどうなるのか明らかだ。

 この土地はどんなに防備を固めても襲撃される。

 命の保証なんてできやしない。

 

「正直この基地は危ない状況だわ――」

 

「まあな」

 

 隊員達も披露が溜まり続けている。

 自衛隊にとってはもはや未知の領域の場所だ。

 PTSD(戦場によるストレスで起きる精神障害)を発症していると思わしき自衛官も少なからず出ている。

 

「弾薬の補給や整備点検なども追いつかない状況よ。それに貴重な乗り手も少なくなってきている」

 

「末期戦的な状況だな」

 

「悪い知らせが他にもドンドン入ってくるわ。自衛隊の反対派が反対運動して自衛隊を妨害しているとか――」

 

「そう言う連中も守らなければならないから自衛隊は辛いな」

 

「そうね」

 

 最前線の近くで反対活動をするとはよほど死にたがりのバカらしい。

 まあバカでなければ反対活動などできやしないのだろうが。

 

「問題は山積みね。機甲科とか敵の火力が高すぎて戦車の装甲が役に立たない。アレじゃ金の掛かった棺桶よ」

 

「確かにな・・・・・・」

 

 最新鋭の10式戦車だろうと一世代前の90式戦車だろうこの世界では棺桶同然だ。

 敵の火力が高すぎるし、特にレーザー兵器で装甲をドロドロに溶かされてそのまま人間の蒸し焼きが出来上がるか――その前に燃料か砲弾に引火、誘爆してそのまま爆発炎上するパターンもあった。

 

 アレでは戦車ではなく、約10億円(*10式戦車一両当たりの値段)の棺桶だ。

 

 これは戦闘ヘリや装甲車なども例外ではない。

 

「上は対策するとか言ってるけど――」

 

「その前にどれだけの人間ガ死ぬと思ってるんだ? いっそ現地でパワーローダーの装甲を増加装甲にして貼り付けた方がまだマシだ」

 

「方法はアレだけど、確かにその方が有効ね。まさかパワーローダーの装甲って実体弾だけじゃなく、レーザーやビーム系の兵器にもある程度耐えられるなんて」

 

 これは私も驚いた。

 機種にもよるらしいがレーザーやビーム、プラズマにも耐えられるそうだ。

 まあ食らいすぎるとパワーローダーより先に搭乗者が先にくたばるそうだが。

 

「また警報!?」

 

「たく、ゆっくり休む暇もないな!」

 

 私と水島は駆け出す。

 問題だらけの状況だが戦うのを止めると言う選択肢はない。

 

 もっともこの過酷な問題が近いうちに劇的に改善される事になるなど、この時ばかりは思いもしなかったが・・・・・・

 





 また映画とか海外ドラマを見始めたんで更新滞るの気を付けないと……

 ご意見、ご感想お待ちしております。



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第十二話「夜襲」

 Side 緋田 キンジ

 

『このゾンビども何処から湧いてきた!?』

 

 夜中。

 まさかまさかのゾンビの群れ。

 数は三百体ほど。

 

 現地ではアンデッドと呼ばれている。

 もうこいつらと戦うのは何度目だろうか。

 

 俺たち先陣を切るようにつっこみ、俺はパワーローダーの大火力で片っ端から粉砕していく。

 

『いっそ元の世界でゾンビ物のショートフィルムとして売り出すか!?』

 

『生き延びられたらな!』

 

 軽口を言うキョウスケもドランを身に纏い、ミニガンで一掃する。

 他の隊員も必死に応戦する。

 

『三木は自分の援護を! パワーローダーを身につけてない人間は車両に搭乗して攻撃を開始! 目標は近くの敵を最優先に! 味方だけでなく民間人を援護するんだ!』

 

 第7偵察隊の隊長、宮野 ヒデト一尉が矢継ぎ早に指示を出す。

 

『オーライ! 聞いたな野郎ども! とにかく敵の足を止めろ!』

 

 副官の三木 ケイイチ二尉もドランを身に纏いアンデッドを撃破していく。

 

『離れているとはいえさすがグレイヴフィールド。アンデッドの数も桁違いね――リオ、パンサーは自衛隊の人達の援護を。私もトレーラーの搭載火器で援護するわ』

 

 パメラの指示にリオは『分かった!』、パンサーは『大切なクライアントだからね!』と快諾した。

 

 敵の数は多いが、武装もいいし味方の援護もいい。

 トレーダーやキャラバンの人達も援護してくれる。

 このままなら敵の殲滅も時間の問題だろう。

 

 

 Side パメラ

 

 トレーラーの運転席でAIにある程度武装の使用権限を与えて指揮をとる。

 

(この短時間でジエイタイも動きがよくなってきている・・・・・・)

 

 戦闘中にふとそんな事を考えた。

 ジエイタイは最初は頼りなかったが僅かな期間で戦いに適応している。

 

 元々軍事組織であるらしいのは聞いていたが、ヴァイパーズやリビルドアーミーなどとは違う次元の戦闘組織だ。

 

(それにこの動き――皆を守るために戦ってるの?)

 

 パワーローダーを身に纏ってない車両部隊も、誰かに頼まれたワケでもないのにまるで他の人々を守るように動き回っている。

 

 ヴァイパーズはもちろんリビルドアーミーはまずやらないだろう。

 騎士団ぐらいだろうか。

 

(・・・・・・今は戦闘に集中しないと)

 

 意識を戦闘に向ける。

 概ね戦闘は収束しつつある。

 

 第三者がアンデッドをぶつけたと言うワケでもなさそうだ。

 初動対応がよかったので被害もない。

 

 このままならあともう一息で戦闘は収束するだろう。

 

 

 Side リオ

 

『いやー楽でいいね――ちょっとジエイタイの人達、無鉄砲なところあるけど、聞いた感じそう言う組織みたいだし』 

 

 私の思ってることは全てパンサーが代弁してくれた。

 

『うん。パンサーの言う通りなんだと思うけど』

 

『けど?』  

 

『私は嫌いじゃない』

 

『ふーん。ああ言うのが好みなんだリオッち。でも程々にしときなよ? パメラも心配するし、身が保たないよ・・・・・・』

 

『うん』

 

 これはパメラにも言われていること。

 お人好しが過ぎると。

 そんな私になんだかんだで付き合ってくれるパメラには感謝の言葉しかない。

 

『それよりもこのアンデッドの群れ――』

 

『ああうん、リオッちも思った? 誰かが誘導してきた可能性ね』

 

 アンデッドなどの化け物を誘導し対象にぶつけて弱らせたところをトドメを刺す。

 この世界ではよくある手段だ。

 

『お二人の想像通りよ。第二波来るわ!! そこそこ規模の大きい野盗連中か、それともヴァイパーズか・・・・・・』

 

 と、パメラが通信を入れてきた。

 

 どうやら想像は当たっていたらしい。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

『新手のお出ましか!』

 

『パワーローダーの数もそこそこ多い――試運転の時みたいにはいかないな』

 

 キョウスケの言う通り敵の数は武装車両やパワーローダー含めて五十ほどだ。

 

『各員は一度退いて態勢を建て直して!! 三木や緋田、宗像はその時間を稼いで!』

 

 宮野一尉が指示を飛ばす。

 やる気満々のようだ。

 

『了解! お二方は大丈夫かい?』

 

 と、三木さんに言われて、『俺はまだやれます!』と返事し、キョウスケも『俺もまだいけるぜ!』と返した。

 

 第7偵察隊や大自分が指揮する第13偵察隊もやる気満々のようだ。

 

『気を付けて!! 一体スピードが速い奴が先行してくる! 敵影はパワーローダー! 機種はワッド!』

 

 パメラから報告が入る。

 地上を滑るように、滑空するように何かが猛スピードで駆け抜けてくる。

 此方の攻撃を地面を泳ぐようにして回避する。

 

『なんだあの機動は!?』

 

『ホバー走行よ! この開けた戦場では奴の独壇場よ!』

 

 ワッドと言う機種。

 カラーはブラウン。

 第二次世界大戦の戦車のように丸っこい傾斜的な装甲を多用している外観だ。

 目はモノアイ、口元はエアダクトで動力パイプが両側についている。

 脚がとてもゴツイが異常な機動性がこのゴツイ脚に秘密があるんだろう。

 

 なんだか日本の某有名ロボット作品に出て来るアレを思い出しながらも攻撃する。

 反撃のマシンガンやロケット弾が飛んできた。

 更に後方からは野盗連中支援射撃まで飛んでくる。

 

『一旦後退するか!?』

 

 猛烈な射撃に三木が後退要請を出すが――

 

『俺達も忘れちゃ困るな!』

 

『今日は機嫌がいいんだ! まだまだ暴れたりないんだよ!』

 

 と、武装した民間人――武装した車両やら、様々な機種を身に纏ったパワーローダーを着た人々が負けじと援護射撃をしてくれる。

 

『クソ・・・・・・どうなってやがんだ!? ここは退くぞ!?』

 

 敵のリーダー格のパワーローダー、ワッドは高い機動性で地上を滑りながら相手の攻撃を回避するがそれだけだった。

 どんどん後方の味方が潰されていき、危機的状況になって後退を決意した。

 

『させると思った?』

 

『!?』 

 

 パンサーの漆黒のトサカや一つ目、口元のダクトや大きな背中のバインダー型ブースターが特徴のパワーローダー、ジェネが、右手にマシンガン、左手にバズーカを持って地表スレスレを飛行しつつ相手目掛けて飛び込み、銃弾を相手の脚部に叩き込んで敵のリーダー機の傍を通り過ぎる。。

 

『お、俺がこんなところで――』

 

『まあ相手が悪かったね♪』

 

 ホバーが停止した相手の背後にトドメのバズーカを躊躇いなくお見舞いした。

 パワーローダーには弱点が存在し、共通してどうしても動力炉やブースターがある背後が弱くなってしまう。

 

 これは重装甲のパワーローダーでも変わらない。

 

 パワーローダー同士の戦闘の基本は如何に相手に背後を取らせないかが基本だとか。

 

 これが決定打になり野盗は総崩れになって殲滅されていく。

 やってるのは自衛隊ではなく、この世界に生きる人々だ。

 この辺りこの世界の住民は容赦がない。

 

 

 とりあえず後片付けを行い、死体を適当に埋葬。(アンデッド含む)

 スクラップになった元死体入りのパワーローダーや武器を譲渡したら現地住民に「お人好しすぎんかね?」、「そんなんでよく生きてこられたね?」と呆れられた時はこちらも苦笑した。

 

 当初の頃はともかく、今は武器弾薬にも余裕がある。

 無理して鹵獲しなくてもいいだろう。

 

「あんたらお人好しだってのは分かってたけど、ここまでとはね~そんなんだと逆に裏があるんじゃないかって疑われちゃうよ?」

 

 と、パンサーからも言われた。

 水に余裕があるせいかシャワーを浴びて着替えたようだ。

 

「まあそれがこの世界の普通なんだろうな」

 

「基地にいた時も思ったけど、殺しに来た敵やアンデッドの埋葬まで、ジエイタイってこんな事までするんだ・・・・・・」

 

 休憩しているとどこからともなく顔を出してきたリオからも言われた。

 呆れてる感じではなく、感心しているような様子だった。

 

「まあな。アンデッドだって元は人間だろうし、野盗もこんな世界だからな――死んだ後ぐらいは多少よくしてやっても罰は当たらないと思うぜ」

 

「何というか凄いね。私達とは根本から考え方が違うんだ」

 

「あ~一応これでも何人もの仲間をこの土地で失ってるし、それに君達に迷惑が掛からないようにはするさ。そうしないとパメラさんに怒られそうだし」

 

「う、うん――」

 

 俺は慌てて予防線を張った。

 

 

 夜が明ける。

 

 ハードスケジュールになるが交代しつつ朝食を取ってから休憩してから出発。

 

 ここでも一悶着あり――日本から持ち込んだ食べ物と自分達の物と交換して欲しいとか言う話とかもあったりもしたが――

 

 とにかく目指すはシップタウンだ。




 ご意見、ご感想来ないけど頑張って更新します。


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第十三話「シップタウン」

 最近、Fallout4の面白い二次創作小説がハーメルンに現れて嬉しいMrRです。
 ちなみに作者は現在バニラ(MODなし)でプレイ中。


 Side 緋田 キンジ

 

 輸送ヘリから補給物資を満載したコンテナを積み込んで定時報告。

 

 なにやら自衛隊基地に来訪者が詰めかけてきて慌ただしくなっているようだ。

 

 シップタウンでの用を済ませたら一度元に戻った方がいいかもしれない。

 

 

 シップタウン。

 

 そこは世界が荒廃する前に使用されていた陸上戦艦を中心に発展した町だそうだ。

 

 遠目からでも町の全景は確認出来る。

 

 陸上戦艦の周囲に町があり、そしてバリケードが築かれて見張り台や銃座などが彼方此方にある。

 

 そして早速、町の正面ゲート前でヴァイパーズと鉢合わせして戦闘開始だ。

 

『この世界に来てからドンパチばっかだな!』

 

 キョウスケの言う通りだ。

 この世界に来てからドンパチしない日の方が少ない。

 

『ともかく此方にも攻撃を仕掛けて来ている以上、応戦するしかない! 町の防衛部隊に攻撃を当てないように注意するんだ!!』

 

 了解と返事をして俺達は応戦。

 襲撃しているヴァイパーズの側面から殴りつけるようにして射撃。

 今の戦力なら殲滅も容易い。

 

 なぜ側面かと言うと町の防衛部隊への誤射を防ぐためだ。

 シップタウンの戦力と十字砲火する流れとなり、相手は散り散りになって逃げていった。

 

『危ないところを助けていただきました。アナタ達は一体・・・・・・』

 

 と、町の防衛部隊のリーダーらしき人物――パワーローダーを身に纏っている人が寄ってきた。

 

 俺とその人物に割って入るようにリオ達が駆け寄った。

 

『私から事情を説明する』

 

 と、リオが言って防衛部隊のリーダーらしき人物に駆け寄る。

 事情を話し始めた。

 

 

 あれよあれよと言う間に厳選されたメンバーでシップタウンの代表者と顔合わせになった。

 

 付いてきたのは当然ながらリオとパメラとパンサー。

 他には宮野一尉がいる。

 

 後は留守番である。

 

 代表者の部屋はシップタウンのランドマークである船の艦長室と思われる個室だった。

 

 そこには意外にも長い髪の毛をお団子さんにしてメガネをかけた母性的で大きな胸の軍服風の姿の女性がいた。

 パンサーも相当でかかったが彼女も負けないぐらいにでかい。

 容姿も控えめに行って美女だ。

 

 意外すぎるその姿に俺は思わず驚いてしまう。

 女性は困ったように「皆、驚くのよね」と困ったように赤面してしまう。

 

 今のところ容姿も性格も満点級の美女だ。

 

「私はマイア、このシップタウンの代表よ。それでリオ、パメラ、パンサー、無事に戻ってきてくれてありがとう。何があったのか説明できるかしら? 一応前もっては聞いているんだけど詳しい話を聞きたいの?」

 

「なら私が――」

 

 と、パメラが前に出て話はじめた。

 

 

 パメラは概ねの内容を話し終えた。

 

「そう。想像以上に大事だったのね――報酬は指定額以上に払うわ」

 

「いいんですか?」

 

 と、パメラが困ったように返事した。

 報酬分以上の宝は既に俺達から受け取っていてその負い目があるのだろう。

 

「それぐらいの事をしてくれたんですもの。最悪、私もその基地へ向かわないといけないのだけれど――今は離れられない」

 

「どう言うことですか?」

 

「野盗連中やヴァイパーズが活発化してきているの。今日戦ったのは先遣隊だと思う。ここの守りを疎かにするワケにはいかないわ」

 

 と、マイアさんが言うが――

 

「じゃあ、ジエイタイの人達に頼めば? 周辺の野盗連中とも戦争中だし、ヴァイパーズやリビルドアーミーとも遠からずウチにぶつかるし――」

 

 パンサーが爆弾を投げ込む。

 

「ちょっとパンサー・・・・・・勝手に話を・・・・・・」

 

 俺は慌てて止めた。

 だが宮野一尉が「いや、だけど彼女の言い分にも一理あるだろう」と思わぬ人物から援護射撃が来た。

 

「でも宮野一尉――」

 

「確かに危険だし、あれだけ戦闘をやっておいて今更かもしれないが今回ばかりはデリケートな案件なのは分かってる」

 

 と、宮野一尉は言う。

 それにと続いて「大丈夫だ。相手が中世ヨーロッパの野盗集団じゃなくてSF兵器で武装した連中だって事も分かってる」と言った。

 

 おそらく銀座に異世界のゲートが開いた某有名作品の事を言っているのだろう。

 参考資料として自分を含めて多くの自衛官が目を通したと言われている。

 

「緋田二尉。極論すると僕達の任務はこの土地の調査となぜゲートが開いたかと言うこと、そしてこの土地の武装勢力から日本を守ることだ」

 

「まあそうですね。もしこのゲートを閉じたとしてもまた何処かにゲートが開いた場合、日本の責任になるかもしれないから、ゲートの調査と原因究明のためにこの世界の調査。そしてこの世界の核武装した武装勢力から日本を守るために来たんですよね?」

 

 と、俺は言う。

 

「そうだ。その任務を遂行するためにはシップタウンはとても重要な場所と言っていい。それに相手は核武装の可能性がある武装勢力だ。自分達が国内出動だろうと海外派遣の範疇だろうとしても大義名分はある。ワザと長ったらしく任務の再確認をして何を言いたいかと言うと」

 

「この町を守る大義名文は揃ってる」

 

 俺"たち"は結論づけた。

 

「長ったらしいやり取りだったけどつまり町を守るつもりなの?」

 

「ごめんねパンサー。自衛隊は一応日本と言う国に所属する組織である以上、勝手に行動するワケにはいかないんだ」

 

「まあ、どの道この町を守るために戦う事になると思いますけどね」

 

 宮野一尉の言葉を補足するように俺は言う。

 このシップタウンはこの世界で初めて訪れた文明的な町だ。

 それにあの女クソ上司のことだ。

 なにか適当に理由付けてでも町を守るためにドンパチしてこいと言うに決まっている。

 

「なんか疲れる生き方してるね。もっとこう肩の力を抜いて生きられないの?」

 

 パンサーの言い分に俺と宮野一尉は苦笑した。

 

「ともかく一度上の方に連絡してきます」

 

「お願いします。私も町の方でも出来うる限りの援助と情報を集めますが決断は早めに。恐らくヴァイパーズは近いうちに再び攻撃を仕掛けて来ますから」

 

 とマイアさんが忠告してくれた。

 

 

 ランドマークの陸上戦艦を離れて仲間達の元に合流。

 

 町の人々から奇異の目線で遠巻きに見られていたようだ。

 

 宮野一尉が代表して上と連絡したが「万が一に備えてシップタウンの防衛を行って欲しい。援軍を寄越す」と言われてマイアさんの元へ逆戻りになった。

 

 パメラとパンサーは自分達のガレージにトレーラーを入れに行く。

 俺達も専用の大きなガレージを貸し与えられてそこに車両を積み込み、拠点とする事になった。

 

 色々と指示を出している時、ふとリオが俺の元に訪れて話したい事があるようだ。

 

 少し場所を変えて人気のない場所へ。

 

 理由は――

 

「どうしてこの町を守りたいの?」

 

 と言う事だった。

 

「仕事だからと言うのもあるし、守りたい、助けたいと言うのもある。本音を言うとイヤだけど――女の子や子供だって戦ってるんだ。俺達が戦わないでどうするよ」

 

「・・・・・・優しいんだね」

 

「そりゃどうも。たぶん皆も何だかんだ言って俺と同じような気持ちだと思うぜ」

 

「私も私を助けてくれた人みたいになれたらいいなと思って今みたいになったけど、よくバカにされる」

 

「ウチの世界でもバカにする奴いるな――」

 

 偽善だの、なんだの言って。

 何時からそう言う人を助けたいからとか、人を守りたいからとか言う理由がバカにされるようになったのだろうか。

 

「ジエイタイに入ったのも人助けがしたかったから?」

 

「そんな立派な理由じゃないな。キョウスケは生活費を稼ぐためで俺は親と根本的に上手く行かなくて自衛隊に入った」

 

「親と仲が悪いの?」

 

「ああ、悪い」

 

「そう――あんなに豊かなのにそう言うのもあるんだね」

 

「そうだな。人間根っこはどんなに豊かになっても変わらないかもしれないな――ガッカリしたか?」

 

「正直言うと」

 

「そうか。ま、なにもかもが満点な世界なんてのは存在しないんだろうさ」

 

「この世界のことどう思ってる? 嫌い?」

 

「・・・・・・この世界に関わって大勢の同僚が死んだよ。俺も何度も死にかけた。だけど君達に会えたのが救いだった」 

 

「え?」

 

「女の子に告白するみたいで照れくさいな・・・・・・ありがとな。俺達を守ってくれて」

 

「う、うん」

 

 なぜか顔を真っ赤にしてモジモジする。

 どうしたんだこの子?

 いや、まさか――な。

 




 小説家になろうでもいいましたがよりよい作品作りのために海外ドラマや映画を観ていますがそれで作品作りが疎かにならないように頑張りたいですね。

 ご意見、ご感想お待ちしております。


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第十四話「防衛計画」

 Side 緋田 キンジ

 

 俺達は敵襲に備えて準備をしていた。

 

 夜襲の可能性は十分にありえるからだ。

 

 そんな時に防衛隊の隊長のキーツさんが部下を引き連れてマイアさん(町の代表者から)貸し出された大きなガレージに訪ねてきた。

 

 名はキーツさん。

 初老の老兵と言った感じでヨレヨレの軍服を着こなし、自分達を疑っているのか「本当におぬしら、この町を守るために戦うのか?」と尋ねてきた。

 

「そうですがなにか問題が?」

 

「はっきり言うぞ。リビルドアーミーのスパイかなにかかお前ら?」

 

「はあ?」

 

「騎士団にしては装備も身嗜みも良すぎる。それになんの報酬もなく物を配って懐柔していくやり方が気に食わん」

 

「そう言われましても・・・・・・」

 

 さて。

 どう答えたもんか。

 自衛隊はアンチ・自衛隊と長年に渡り非暴力と対話を続けてきた。

 

 反自衛隊な人間は駐屯地の行事などでも必ずと言っていいほど現れる。

 現れなかったら奇跡だ。

 時には自衛隊でもないのに自衛隊の心構えを説くプロ市民ならぬプロ自衛官なども現れる始末。

 

 とりあえず、相手の意見を聞くことにした。

 

「もしも裏切ってみろ。その頭に鉛玉を撃ち込むぞ」

 

「は、はあ・・・・・・」

 

「御主等プライドと言う物がないのか?」

 

「自分達、自衛隊はシップタウンを守るように命令を受けています。シップタウンの市民達に危害を加えるような真似はいたしません」

 

 と、カッコイイ自衛官を無理して演じて返事をしてみた。

 似合わないのは分かってるから皆も笑わないでくれ。

 

「ふん、口先だけではどうとでも言える。精々無様を晒さんようにな」

 

 そう言い残してキーツさんは立ち去っていった。

 

「まあ言ってる事はある程度、筋は通ってるよな」

 

「私達余所者だし」

 

「タダより高い物はないって言う世界観だしアレが普通なんだろう」

 

 などと言った感じでみなキーツさんには不思議と好意的な感情を寄せていた。

 と言うか今迄が上手く行きすぎていたとも言える。

 

 そしてキョウスケが近付いて来てこう言う。

 

「では緋田隊長殿。立派な自衛官としてどのような防衛計画をたてるお積もりですかな?」

 

 などと悪ノリして笑いが起きる。

 まあ暗い雰囲気で戦うよりかはいいかとコメディアンな役割を演じることにした。

 

 

 防衛計画であるがこれが難航した。

 

 このシップタウンには東西南北にゲートがあり、その何処を攻めるか分からない。

 

 最悪内部での白兵戦すら想定しなければならない。

 

 幸いなのは観測班としてシップタウンのランドマークである陸上戦艦に配置出来たことだろうか。

 

 更にはパメラやリオ、パンサーなどを通して協力者を彼方此方に戦闘態勢で配置した。(自衛隊としては市民を戦いに参加させるのは本来アウトだが・・・・・・)

 

 水や食料で懐柔した形になり、またキーツさんに愚痴られるが死んだら愚痴も聞けやしないと割り切ることにした。

 

 こうして着々と防衛体制が敷かれていく。




 風邪ひいたかもしれん。
 ご意見、ご感想お待ちしております。


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第十五話「シップタウン防衛戦」

 すいません投稿遅れました。
 最新話です。


 Side 緋田 キンジ

 

 俺たち第13偵察隊は南門。

 この町に訪れた時に戦闘した場所が北門だったので丁度反対側だ。

 

 宮野一尉たち第7偵察隊は町の中央のランドーマーク、陸上戦艦を中心に何時でも動けるようにしている。

 

 ちなみに南門に配置したのは、理由は色々とあるが――あのキーツさんの決定らしい。

 

 護衛と言う名の見張りの兵士までいる。

 

 外側の様子より自分達を監視している様子だった。

 

 ここまで露骨だといっそ清々しい物を感じる。

 

「て言うかあの爺さん、また北門に敵が来ると思ってるのか?」

 

 キョウスケが愚痴るように言うが――

 

「まあこっちに来る可能性もゼロじゃないんだ。言われた通りにしておこうぜ」

 

「とか言っといて本音はどうなんだよ?」

 

「敵の練度とか戦力、此方側の戦力を考えるとヘタに戦力を分散させずに、戦力を一カ所に纏めて一点突破した方がいい」

 

「なんだ。ちゃんと考えてるんじゃねえか」

 

「単純な数学の問題だ。100対100なら勝率は五十パーセント。だけどこっちは戦力を東西南北に四分割して100対25だ。こちらの勝率は低い。相手はそれを四度繰り返せばいい」

 

「分かり易い解説だな」

 

「さらにヘタな場所を攻めるよりかは勝手を知ってる場所を攻めた方が良いだろう。逆に先日のように包囲殲滅を目論んでるならそれはそれで楽に済む」

 

「・・・・・・イヤな予感してきたんだが」

 

「うん、俺も」

 

 その予感は当たる事になる。

 

 

 Side 防衛部隊 隊長 キーツ

 

『敵の猛攻が激しいです!』

 

『奴達、真正面から攻めてきやがった!』

 

『西ゲートも戦闘中!』

 

『東ゲートも手が離せません!』

 

『南ゲートにも敵が!』

 

(他のゲートの敵は囮。恐らくこっちが本命じゃろう)

 

 ゲートに攻撃が加えられて崩壊していく。

 敵の数が多い。

 戦闘ロボットや武装車両、パワーローダーなども含めると300近くはいる。

 近隣のヴァイパーズの総兵力だろう。

 

(このままでは突破される――!!)

 

 そうなればシップタウンは地獄だ。

 住民は殺され、奴隷にされ、全財産は奪われ、シップタウンがヴァイパーズの物になる。

 それだけは避けねばならない。

 

 だが敵の火力が激しくて反撃もままならない。

 どうすればいい?

 

 などと思っていたその時だった。

 

『なんだ――空飛ぶ乗り物?』

 

 このタイミングでリビルドアーミーかと思ったが突然ヴァイパーズを攻撃してきた。

 更に後方から町の住民達がパワーローダーや武装車両に乗り込んで駆けつけて来る。

 その中にはジエイタイと言うあの怪しげな集団も混じっていた。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

(隊の指揮は任せて北門に向かえ。あのジイさんの憎まれ口は嫌いじゃないんでね)

 

 と、キョウスケに南門の守りを任せて、俺はパワーローダー「フェンサー」を身に纏い、北門に向かった。

 更にリオと合流。

 パメラとパンサーは東門に向かったらしい。

 

 第7偵察隊も一部は西門に向かったようだ。

 

 問題は北門。

 

 第7偵察隊の観測班によると300はいるらしい。

 他の門は100と言ったところか。

 総勢600の戦力である。

 

 自分の考えを推し進めた上でそれを実行できる戦力を保有していて(本当に野盗連中なのか?)と驚いたものだ。

 

 先日、自分達の基地を襲撃したのと同じぐらいの規模である。

 

 他のゲートの部隊は陽動で北門の300の戦力で正門を押し潰してこの町を制圧する作戦なのだろう。

 

 駆けつけた時は事前工作――地球から持ち込んだ物資で現地住民を懐柔する作戦で傭兵として雇ったのだ。

 

 そしてリオも此方に来た。

 そういや無線渡してたな。

 恐らく傍受して此方に来ちゃったのだろう。

 

『そのパワーローダー、あの時の――』

 

 ドランタイプのパワーローダーから特徴のある声が聞こえた。

 キーツ隊長の声だ。

 

 俺は――

 

『キーツ隊長殿、命令違反の説教は後で! 今はこの場を乗り切るのが最優先ですよ!』

 

『ッ、すまん!!』

 

 と、すかさず返してリオと一緒に戦闘へ突入した。

 自衛隊の増援――ヘリ部隊も間に合ったようだ。

 

 ヘリ部隊もこの世界での戦闘で慣れてきたのか、一部が敵の攻撃を引き付け、機動力で相手を攪乱して残りがトドメを刺すと言う教科書に乗せたいレベルの連携プレイを取得している。

 

『調子にのるなよ! ヴァイパーズの恐ろしさはここからだ!』

 

『なんだありゃ!? 戦車か!?』

 

 敵の大将格が乗ってると思わしき戦車が現れた。

 それにしても大きい。

 普通の戦車の倍以上。

 

 陸を走る小型の戦艦と言っていいサイズだ。

 

 具体的に言えば全高五mはある。

 10式戦車で2m30cm。とあるアニメで猛威を振るった第二次大戦のドイツ軍戦車マウスでも3m60cmだ。

 主砲以外にも小型の砲塔がある。

 

 現代の地球では第二次世界大戦には廃れたタイプだ。

 理由は様々だが――この世界の軍事兵器だ。欠陥兵器ではないだろう。

 

『主砲の射線から離れろ!!』

 

 俺は嫌な予感がしてそう指示を飛ばした。

 少し遅れて相手の主砲が火を噴いた。

 正門の傍。

 バリケードで覆われている部分が抉れるようにして吹き飛んだ。

 

 バリケードの先の建造物も見事に抉れている。

  

 さらに複数ある副砲塔からはレーザーが雨のように発射される。

 周りの敵も勢いづいてきた。 

 

 火力は敵の戦車に集中しているが中々貫けない。

 

『どう言う装甲してやがんだ!?』

 

 この世界の驚異的な――文明が崩壊する以前のテクノロジーに舌を巻く。

 履帯(キャタピラ)や砲台も頑丈だ。

 

『ダメ、生半可な火力じゃ通用しない。高出力のレーザーか、ビーム、プラズマ――あるいはレールガンとかじゃないと!!』

 

 リオの言う通りなのだろう。

 手持ちの対パワーローダー用の火器では通用しない。

 戦闘ヘリ部隊のミサイルも撃ち落とされたり、直撃してもピンピンしている。

 とんだ化け物戦車だ。

 

『どうにかして近付いて――せめて周囲の敵や副砲だけでも破壊してくれれば――』

 

『分かった』

 

『分かったって――どうするんだ?』

 

 リオは叫ぶ。

 

『皆聞いて!! このままだとあの戦車に全滅させられてしまう!! だからお願い、周囲の敵や副砲を引き付けて!! ジエイタイの人が何とかする!!』

 

『なんちゅうこっちゃ・・・・・・』(*←緋田キンジ)

 

 なんか俺達二人であの化け物戦車をどうにかする話の流れになってるぞ。

 化け物戦車は主砲を副砲を連射して他の敵と一緒に大暴れしている。

 戦闘ヘリ部隊も一時退避している。

 

 入れ替わるように援護射撃が始まった。

 指示通りに副砲や他の敵に対して猛烈な射撃を行っている。

 

『あーもう!! やってやんよ!!』

 

 俺はヤケクソ気味に空中へブースターを噴かして飛翔。

 後にリオが続く。

 続いて急降下。

 

 戦車の後部に着地する。

 狙う場所は編み目の熱い部分。

 そこかしこで熱された温風が吐き出されている。

 

『やっぱりラジエーターを狙うつもり!?』

 

『それしか方法はない!!』

 

 5mの巨大なサイズで動力はたぶん核融合炉なんだろうが、冷却システムもそれ相応の物が積んである筈だ。

 それを早急に探し当てて破壊しないといけない。

 

『何を考えてるのかしらねえが!!』

 

『好きにはさせねえぜ!!』

 

 と、敵のパワーローダーが乗り込んできた。

 素早くリオがビームピストルで撃ち倒すが次々と乗り込んでくる。

 俺はその間に冷却部の破壊に挑む。

 

 と言っても暴発覚悟でそれらしいダクト部をパワーローダーの力で殴りつけて穴空けて銃口を差し込んで撃つだけの作業なのだが。 

 

『もう限界!!』

 

『離れるぞ!!』

 

 俺達は急いで離脱した。

 どんどん戦車が赤熱化し、彼方此方で火花やスパークが起きる。

 そして目映い閃光を放って周辺の味方(ヴァイパーズ)を巻き込んで大爆発を引き起こした。

 

『ぶ、無事か?』

 

『なんとか――』

 

 リオも俺も無事らしい。

 一瞬、爆発に巻き込まれて死んだかと思った。

 

 後ろを振り向くと軽くキノコ雲が出来ていた。

 アレじゃ近くにいた連中や巨大戦車の乗員も全員死んだだろう。

 シップタウンの人々も爆発の衝撃で死んだように横たわっている。

 本当に死んでないよな?

 

『キンジ!? キンジ!? 無事か!? 物凄い爆発が起きたぞ!?』

 

『生きてるよ――見事な爆発オチだ』

 

『たく――心配かけさせやがって――』

 

 と、キョウスケに言われた。

 あの爆発でもパワーローダーの通信機は無事だったらしい。

 

 徐々に敵、味方ともに起き上がりはじめる。

 そして敵は呆然として、味方からは大歓声が上がり始める。

 

 敵部隊は逃走を開始。

 ヘリ部隊も燃料が限界なのか帰投していった。

 

 そして始まる追撃戦。

 北門の被害は甚大であるが、あの戦車の事を考えれば不幸中の幸いだ。

 

 これから楽しい楽しい戦後処理の時間が待ってるんだろうなと思う。




 ご意見、ご感想お待ちしています。


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第十六話「一夜明けて」

 Side 緋田 キンジ

 

 一夜明けて祝勝会――と言うワケにも行かず、俺達自衛隊は不眠不休の作業をしていた。

 

 増援部隊もヘリや車両などで輸送されてくる。

 

 車両部隊は現地住民のトレーラーや車両などと随伴付きの護衛と言う形だ。

 

 俺はリオともども――パワーローダーをパメラ氏の手でフルメンテさせてしまう形となり、二人揃ってドランタイプで瓦礫の撤去作業をしている。

 

『ジエイタイって・・・・・・凄いね・・・・・・こんなこと・・・・・・するんだ』

 

『無理すんな。昨日の疲れとかもあるだろう。ぶっちゃけ自衛隊はこう言う事するのがメインな職業だからな』

 

 眠たそうなリオにそう言う俺。

 自衛隊は武装災害救助隊とか便利屋扱いされることが多く、疑問や議論、批難される事すらあるが自衛隊にとってはやめられない理由はある。

 

 一番の理由は自衛隊が人を集めるための最大の得点稼ぎだからだ。

 自衛隊は万年人手も予算も不足気味である。

 

 人を集めるために災害救助などで、例え訓練を疎かにしてでも出動しなければならないのだ。

 

 当然俺もそう言う災害救助に何度も駆り出されたので手慣れたもんだ。

 今はパワーローダーなんて代物があるし地域住民も友好的。

 うるさいマスコミや市民団体もいないので楽なもんである。

 

「押さないでください!!」  

  

「並んで順番に!! まだちゃんと量がありますから!!」

 

 などと食糧配給テントには長蛇の列が並んでいた。

 医療車両やテントなども長蛇の列である。

 ちょっとした基地祭状態になってきている。 

 

 

 瓦礫の撤去や遺体の処理などを終えた段階で他の部隊とバトンタッチ。

 

 一休みして夜になる。

 

 そこで改めて正門の方に行くと人集りが出来てお祭り状態になっていた。 

 

「冷たい!!」

 

「こんな冷えてるのはじめてだ!!」

 

 などと市民達が缶ビールを掲げて軽く道端で宴会を開いていたり。

 

「押さないでください!」

 

「野外浴場は順番待ちです!」

 

 などと野外入浴セットの簡易銭湯が長蛇の列になっていてお祭り状態になっていた。

 

「凄い事になってるね」

 

「リオか・・・・・・」

 

 トコトコとリオがやって来た。

 

「自衛隊って何時もこんな事やってるの?」

 

「流石に毎日はやらないよ。タマにだな。基地祭とか、災害派遣の時とか――」

 

「友達が喜んでたよ」

 

「そいつはいいね。不審感もたれるかもしれないけど――それも自衛隊続けてれば何時もの事だし」

 

 自衛隊にとって市民から罵声を浴びせられるのはよくある事だ。

 過酷な訓練こなして、市民のために頑張った上で市民から平和の敵扱いされ、グッとこらえて頑張れたら一人前みたいなところあるしな・・・・・・それに比べればマシだな。

 

「ああ、そうそう。キーツ隊長が会ったら頭を下げるがキンジ達、自衛隊にはすまなかったと伝えておいてくれだってさ」

 

 キーツ隊長。

 ここのシップタウンの防衛部隊の隊長だったな。

 

「正直言うとキーツさんの考え方の方がマトモだと思うけど・・・・・・まあ許せないか。普通の自衛官なら自衛隊としての仕事をしたまでですとか言うんだろうけど・・・・・・」

 

「やっぱりキンジ達は優しいんだね?」

 

「いや、そうでもないぜ。自衛隊だって様々だ。あ――女で破滅したり、ギャンブル狂いとかいたりするからな」

 

 そう言うとリオは笑った。

 

「そう言うところだよ。なんかお兄さんみたい」

 

「そ、そうか」

 

 なんだか照れくさくなってしまう。

 

「リビルドアーミー・・・・・・来ないでほしいな。たぶんこんな楽しい事も夢のように終わってしまうから」

 

「まあその辺りは相手の出方次第じゃないかな・・・・・・」

 

 俺達はあくまで一自衛官だ。

 リビルドアーミーと敵対する事を決めるのはもっと上の方。

 そのウチ、ドカドカと外交官やら政治家達がこの世界に乗り込んでアレコレ我が物顔で口出してくるかもしれない。

 

 いや、それ以前にあのゲートはどうやって、誰が? 何のために開いたのだろうか?

 

 その辺の謎も解き明かさないといけない。

 

 ゲートには現在も二十四時間態勢で様々な観測機器で観測している。

 不自然なぐらいに安定しているそうだがどうなるかは分からない。

 

(まあ自衛隊に入ったのも半ば自棄みたいなもんだしな・・・・・・この世界に骨を埋めるか? だけどキョウスケとかは家族を養う目的とかもあるからな――)

 

 そこまで考えて俺は「まあなるようになるか」と思い至った。

 人間の明日の事も分からないのだ。

 一ヶ月先、一年先のことなんて誰にも分かりやしない。

 

 考えられるのは今日の飯とか一ヶ月の給料とかそんなぐらいだ。

 

「考え込んでたけどどうしたの?」

 

「日本で生きるのも色々と大変なんだよ」

 

「例えば?」

 

「銃刀法違反とか学力とか戸籍とか交通ルールに一般常識とか・・・・・・とにかく沢山だ」

 

 などと言いながら俺とリオは喧騒の中に消えていった。

 

 後で知ったがキョウスケやパメラ達に後をつけられて監視されて恥ずかしい思いをする事になった。

 

 とにかくこの場は派遣された部隊に任せて一旦自衛隊基地に帰投する事になるだろう。

 

 自衛隊は基地はどうなってるのか不安だ・・・・・・

 

 あの女クソ上司はなんだかんだで生きてそうだが。



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変化する日々
第十七話「帰投」


 Side 緋田 キンジ

 

 第7偵察隊は引き続き現地に残り情報収集。

 

 俺達、第13偵察隊は自衛隊基地に、いったん帰還することになった。

 

 リオとパメラ、パンサー達は引き続き護衛やアドバイザーとしてくっついてくる事になった。

 

 周辺情報の整理などもあるが、現状把握も大切だ。

 

 シップタウンから離れ、パワーローダーや武器などを仕入れたトレーダーの集会所を経由する。

 

 そこでも自衛官達は大人気だったようだ。

 

 そしてさらに北へ――グレイヴフィールドの中に戻る。

 

 自衛隊だけでなく、トレーダーやキャラバンの人間とすれ違う回数も多い。

 

 戦闘が不自然なぐらいにない。

 

 首を捻りつつも自衛隊の基地の近くに行くにつれてその理由が直ぐに分かった。

 

「なんじゃこりゃ・・・・・・」

 

 なんと自衛隊基地の直ぐ近くの廃墟を中心に人が住み着いているではないか。

 トレーラーが横並びになり、バリケードを作ったり、銃座を配置したりしている。

 住み着いた住民によると「自衛隊相手に商売」を持ち掛けているらしい。

 

 自衛隊は武器や弾薬、情報、武力を欲している。

 

 そしてこの世界の人々は水や食料だけでなく、生活必需品を提供してもらっているのだとか。

 

 自衛隊はPXを出張販売して物を売り買いしたりしているのだとか。

 

 テロリストも真っ青な、元の世界の現代戦車を容易に破壊できる重武装した市民達が住み着くと言う狂った状況下。

 

 基地内では早々にパワーローダーの纏まった数が配備されて訓練を行っている。

 

 現地の人間も指導や訓練として招かれていた。

 

 取りあえず俺は久々にクソ上司の顔を拝みに行くとする。

 

 

「ああ、帰ってきたのか。かなり派手にやったみたいだな」

 

 応接室で佐伯 麗子はソファーでグッタリしながら語りかけた。

 俺は一先ず「なにがあったんですか?」と尋ねることにした。 

 

「パメラ氏に言われた通り水や食料などで物や情報を得る作戦が上手く行きすぎたようだ。それで次々と雪崩れ込んできて――皆、自衛隊基地を壊滅させるレベルの重武装だぞ? 正直生きた心地がしなかった・・・・・・」

 

「ここ一応危険地帯ですからね・・・・・・」

 

「それにヴァイパーズ相手に大立ち回りして、戦後処理した話を聞きつけて――なんか騎士団とか言う連中も挨拶に来たりして――本当に大変だった」

 

「騎士団?」

 

「この世界の自警団らしい。なんか聖人みたいに崇められた」

 

「まあ嫌われるよりかは良いんじゃないですか?」

 

 佐伯 麗子は「それもそうだな」と言ってこう続けた。

 

「もうそろそろリビルドアーミーの連中が来るんじゃないかって上の方は待ち構えている状況だ」

 

「実は既に偵察達を送って様子見をしてるのでは?」

 

「それも考えている」

 

「で? 話はこれで終わりですか?」

 

「いや、こっからが本題だ」

 

「本題?」

 

「これまでの功績やこの世界での教訓を踏まえて、第13偵察隊、第7偵察隊は独立部隊として稼働させて権限を大幅に向上させる」

 

「うわ~厄介そう」

 

「君ならそう言うと思っていた。まあ、自衛隊としてドが過ぎない限りは自由に行動できる権限だな。現状を把握するためにも暫くこの基地に引き籠もってもいいし、今日か明日にでもシップタウンに戻ってもいい。戦闘行為も大幅に緩和される」

 

「大丈夫なんですか? 特に戦闘行為の大幅緩和部分――」

 

「勉強料が高くついてその料金の返済のためには批難、批判は覚悟の上らしい」

 

「らしい?」

 

「この世界にずっと居続けて分からないだろうが向こうの世界はこの世界の技術で未曾有の大混乱が起きている。世界のパワーバランスがひっくり返り兼ねない程にな。そのパワーバランスを巡って、パワーバランスを維持するために大国間同士で牽制し合っているのが向こうの世界の現状だ」

 

「レーザーやビームにプラズマ、レールガンに小型化した核融合炉とかですもんね」

 

 佐伯 麗子の説明は難しい。

 

 どうにか上手く噛み砕いて説明しよう。

 

 大国とか軍事国家とか:「日本が手にした技術を独占したい! だけどテロリストとか自分達に恨みがある国とかに渡ったら大変だ!! 一先ず協力して自分達の利益を確保するぞ! 時が来て隙を見せたら他の国を蹴落として独り占めするけどね!!」

 

 とまあこんな感じだ。

 日本は日本で、

 

 日本:「本当はこの世界の技術を独り占めしたい!! だけどそうすると外交圧力を掛けられて国が干上がっちゃう!! それはヤダだから非核3原則とか憲法とかある程度、度外視して分け前を言う通りに与えるから手を出さないで欲しいかな!?」

 

 とかこんな感じだろう。 

 

「ともかく、政治家連中も大国からの圧力と国民の機嫌取りで必死だ。それに一応はゲートの発生を探ると言う大義名分もあるしな」

 

「それはそれで厄介な事になりそうですね」

 

 佐伯は鼻で笑った。

 

「ここは剣と魔法のヨーロッパ風ファンタジー世界ではない。豊富な資源やら水が綺麗で緑豊かな大地とかそう言うのとかは縁がない不毛の土地だ。自国にこの世界のゲートをなんて考えもしないだろう。せいぜい核のゴミ捨て場か人間の流刑地ぐらいしか利用法はないだろう――まあ国によってはやりかねんがな」

 

「ノーコメントで」

 

「ともかくこの土地を独占するにしても関わり続けるにしてもリスキーだ。だが既に関わってしまった。だから上手く関わり続ける方法を模索しなくちゃいけない」

 

「佐伯一尉もヤキが回りましたね。そんな大役を自分なんかに務まると思います?」

 

「それぐらい追い詰められてる」

 

「まあ給料分はやりますよ」

 

 そう言って立ち去ろうとしたが――

 

「・・・・・・はっきり言っておこう。君はなんだかんだ言って根は善人だ」

 

「そんなんだと部下に嫌われますよ。佐伯一尉」

 

 遠回しに俺は佐伯 麗子の言いなり通りに。

 まるで愛国者の如く立ち回るようになると言うのだ。

 

 ・・・・・・だからクソ上司なんだよ、アンタは。

 



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=幕間:トレダーのアネットその3=

 *今回の物語は=幕間:トレーダーのアネットその2=終了直後からはじまります。

 

 シップタウンで緋田 キンジやリオが騒動に巻き込まれている間に自衛隊基地になにがあったのか描かれています。

 

 Side アネット

 

 仲間達や他のトレーダー、キャラバンと一緒にグレイヴフィールドを突き進む私達。

 

 途中で何度か襲撃を受けるも数の暴力で押し潰すように粉砕していく。

 

 すると上空に空飛ぶ飛行機械が現れ始める。

 

 それに呼びかけ、誘導に従い、基地の近くに案内された。

 

 なんでも受け入れ準備とかで時間が掛かるそうだ。

 

 ジエイタイと呼ばれた兵士達は警護しているのか、監視しているのかよく分からない態度で――遠巻きに物珍しげに此方を観ていた。

 

 此方から話し掛けられると驚いたような様子であり、不謹慎ながらそれがなんだか面白く感じた。

 

 とりあえず防備を固めるために他のキャラバンやトレーダーと一緒に防衛拠点を作ることにした。

 

「ニッパ。様子はどう?」

 

「あ、姉さん。簡易的ですが拠点は完成しました」

 

「ご苦労様」

 

「それとジエイタイの人達、根本的に女性に慣れてない感じですね。あとなんか待たせてるお詫びで冷たいジュースくれました。ジュースってこんなに美味しかったんですね」

 

「本当に気前いいのね――」

 

「なんか頂いてばっかで悪いからコイン(この世界における貨幣)置いておきました。皆も同じくコイン出してます」

 

「それがいいわね」

 

 冷たい飲み物。

 特にジュースなんて飲んだことがない。

 と言うか存在でしか聞いたことがない。

 あっても生温くて、冷蔵庫で冷やさないといけない。そうして初めて美味しいジュースを味わえるのだ。

 

 それを配るなんて嬉しい通り越して恐さや不気味さを感じる。

 

 

『どうもはじめまして。この自衛隊の基地の代表者である五島 春夫陸将です――皆様と交流するにあたって知ってもらいたいことがありまして――』

 

 取りあえずそれぞれのグループの代表格が集まり、向こうの基地の代表が集まり、自分達の目的などを説明することにした。

 

 ここはグレイヴフィールド。

 

 商売のために皆来ている。

 

 興味があるからと言う理由でこの危険地帯まで来たバカはいないだろう。

 

 そうして交流を深めて分かった事だが、彼達は此方の技術や貨幣を求めているらしい。

 

 別世界から来たと言うのはさして重要ではない。

 

 彼達は私達と交流、商売を持ち掛ける準備があると言うことだ。

 

 早速パワーローダーや銃火器、コインなどで自衛隊の持ち物と交換しようとする人間が出て来る。

 

 この世界では銃や弾薬も重要だが水や食料の方が貴重だ。

 

 多くの人間が野垂れ死に、禁断の行為に走った者もいる。

 

 それは別として、パメラやリオが上手いこと説明してくれていたのか自衛隊の商品はどれも魅力的な物ばかり。

 

 水や食料だけでなく、服や靴、見たこともない嗜好品の数々。

 

 向こうの世界ではガラクタらしい電子機器なども用意している。

 ペットボトルや空き缶までも。

 

 さらに野外入浴セットと言うお風呂まで準備してくれた。

 

「いやーあの人達本当に気前いいですね」  

 

 などとニッパは購入した服に着替えて野外入浴セットでサッパリした様子だった。

 私も風呂に入ってサッパリした。

 温かく、心地よく、水の心配とか気にせず入れるなんて夢心地だ。

 

「そうね――私はちょっと不気味さを感じてますけど」

 

「まあそれが姉さんらしいっちゃ姉さんらしいんですけど――」

 

「・・・・・・そうね。この流れに乗じて勝負してみるのもいいかもしれませんわね」

 

「姉さん?」

 

 

 自衛隊と契約する事にした。

 

 商品の仕入れやパワーローダーの訓練指導、整備の仕方の講習、基地の警備やジエイタイの護衛だ。

 

 事前に聞かされていたが、ジエイタイは貧弱らしく早急に強くなる必要があるのだとか。

 

 さらには調査――この世界の事を知りたいらしい。

 

 ここには何があるのか。

 

 そこにはどう言う生物が住んでるのか。

 

 そう言ったあれこれだ。

 

 報酬も出るとのことでみな必死である。

 

 人間、稼ぐ時に稼がなければならないのだ。

 

 そして数日が経過し、ジエイタイがシップタウンに救援部隊を差し出したり、騎士団の人々が訪れてジエイタイの手伝いをはじめたり――リオやパメラ達がこの土地に帰ってきたのはそんな時だった。

 

「聞いたわリオ。シップタウンで随分暴れたみたいじゃない」

 

 と、リオに挨拶する。

 どうやら今は一人のようだ。

 

「うん。ジエイタイの人達の御蔭でシップタウンは救われた。それよりもアネットはなにしてるの?」

 

 誇らしげにリオは語る。

 リオ達やシップタウンの手助けもあったのだろうが、ジエイタイも中々やるなと評価を改める。 

 

「ジエイタイの人達にパワーローダーの動かし方を教えているの。時折模擬戦とかもしたりするけど。ニッパとかはパワーローダーの整備やそのやり方を他の方に教えてるわ。なんでもこの基地、人手不足らしくて私達の手も借りたいみたい」

 

「ジエイタイの人達、この世界に来るまで実戦したことないみたいで、来るの恐がってるんだって。よっぽど平和だったんだね」

 

「別世界ともなるとその辺の常識も違うのですね」

 

 別の世界。

 ニホン。

 いったいどういう土地なんだろうか。

 正直言うと、ちょっとだけなら行ってみたいとか思ったりもした。

 

 



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=幕間:第13偵察隊のWACその2=

 Side 水瀬 キョウカ

 

 自衛隊の基地に戻ったのは随分久しぶりな気がする。

 

 だけどちょっと見ない間にかなり様変わりしたようにも感じた。

 

 ここに来て初めての時はピリピリした雰囲気だったが、それもかなり和らいでかなり賑やかになっていた。

 

 特にこの世界の住民の出入りが目立つ。

 

 普通の自衛隊の駐屯地なら考えられないことだ。

 

 複雑な状況ではあるが私はプラスに捉えようと思う。

 

 なにしろこの世界の戦場は自衛隊どころか世界レベルから見ても未体験の領域なのだから。

 

 この世界での兵器の扱い――特にパワーローダーに慣れるのは急務だと思った。

 

 

 緋田 キンジ隊長に副隊長の宗像 キョウスケ。

 

 この二人はパワーローダーを身に纏ってからの戦果が華々しい。

 

 第7偵察隊の宮野隊長や三木副隊長もだ。

 

 同じく第7偵察隊女性WACの日高も羨ましがっていた。近いうちに彼女もパワーローダーを身に纏うつもりだろう。

 

 それにパメラにパンサーの二人もパワーローダー装着時の戦闘力は素人目から見ても一級品だ。

 同じ女性として負けたくない。

 

 さらに今この基地にはこの荒れ果てた世紀末世界を腕一つで乗り越えた女性戦士達が集結している。

 

 ちょっとした*梁山泊状態だ。(*武術、武道の達人が集結しているような状態の例え)

 

 この状況を活かさない手はない。

 

 基地側も同じように思っている。

 

 私達、第13偵察隊と第7偵察隊の報告書と記録映像はその流れを促進させる事だろう。

 

 この世界で経験している事は地球でも経験するかもしれない活きたデーターであり、実戦で起きないとも限らない。

   

 なにしろ既に地球の戦場は無人ドローンが必要不可欠のSF小説のような状況になっている。

 

 分かり易く言えばロボットが人を殺す時代なのだ。

 

 昔の人間からすれば考えられない状況だが現実なのだ。

 

 そしてこの世界ではその一種の完成形が闊歩している。

 

 パワードスーツもその完成形が大量に出回っているのだ。

 

 未来の日本の国防に必ず役に立つ。

 役に立たせなければそれは日本が終わる時だろうと思っている。

 

 超大国ソ連だって崩壊したのだ。

 日本だけが永遠に存続すると考えるのは楽観的すぎる。

 

 

 ふとここまでの旅路を私は思い出す。

 

 基地から出た後も戦闘の連続。

 

 グレイヴフィールドから出てトレーダーやキャラバンの人達と出会い、事前から聞かされてはいたが価値観の違いに困惑した。

 

 ルーキー(第13偵察隊の隊員)や同じ女性WACの高倉も同じ感想だった。

 

 なにしろ水や食料で銃や武器、弾薬やパワーローダーが購入できるのだから。

 

 逆に言えば陰ながらそれだけ貧困状態なのだろうこの世界は。

 

 だから新たなパワーローダーを容易く手に入れられたのは皮肉だ。

 

 そしてゾンビ――アンデッドをぶつけて消耗したところを襲撃する方法を本気でやってくる敵側も恐ろしく感じた。

 

 シップタウンでは激戦だった。

 

 特に本命の北ゲートは危うく陥落しかけたらしいが、自衛隊の増援や隊長とリオの活躍で撃退する事に成功した。

 

 正直、隊長とリオが羨ましい。

 

 手柄を立てたことではない。

 

 その強さにだ。

 

 私もこの世界に揉まれて地球に居た頃よりかは強くなったと思う。

 

 だけど私が求める強さにはまだまだ足りないと思った。

 

 

 Side 高倉 ヒトミ

 

 基地内のWACが燃えている。

 

 男性も勢いがあるがWAC達に押され気味なところがある。

 

 私達、第13偵察隊と第7偵察隊の記録、そしてこの自衛隊基地に着たアニメ世界さながらの戦う女性達が原因なんだと思う。

 

 かくいう私も同じ。

 

 水瀬と一緒に必死にパワーローダーの操縦訓練を受けている。

 

 パワーローダーは様々な機種があり、ドランやギャリアン、フェンサー、ゲイル、ジェネなど。

 

 それ以外にもかなりの数のパワーローダーがこの基地に持ち込まれている。

 

 改めて驚いたのはその兵器としての完成度。

 

 この世界ではともかく地球で運用するには十分すぎるぐらいに整備性に優れているのだ。

 

 だからこそこの荒廃した世界でも運用が続けられるのだろうと思った。

 

 間違いなく私達の世界のパワーバランスを変えられる兵器であり、急速に普及するのも時間の問題だろうと思った。

 

 それを恐ろしく感じたがもう遅い。

 サンプルとして本国に何台も送って、恐らく同盟国のアメリカにも送っているだろう。

 

 政治的取引とかで他の国にも送っていると考えていい。

 

 戦場で12・7mm弾に耐えうる核動力のパワードスーツがレールガンやレーザー兵器を片手に暴れ回る世界が実現しようとしている。

 

 日本は軍事面では周回遅れが基本の国だ。

 

 間違いなくその世界に乗り遅れるだろう。

 

 核動力じゃないにしても、パワーローダーの装甲素材の製法だけでもミリタリーバランスが崩れかねない。

 

 他の人に話したら考えすぎだと言われるだろうが、今は大量配備されたドローン、ロボットが人を殺す時代だ。

 

 パワーローダーが戦場の主役になる時代を誰が否定できるのだろうか。

 

 恐らくパワーローダーは巨大な人型機動兵器などが出現しても何かしらの形で残り続けるだろう。

 

 そう確信出来るぐらいのスペックを感じている。

 

 逆に言い換えれば私達、この土地にいる自衛官は世界の最先端の真っ只中にいるとも言える。

 

 水瀬も言っていたがこの状況を逃さない手もない。

 

 それに私も自衛官としての誇りはある。

 

 この世界の、まだ女子高生ぐらいの歳の女の子達に負けてなんかいられない。

 

 そう思いながら他のWAC達と同じく訓練に励んでいた。




ご意見、ご感想お待ちしております。


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第十八話「自衛隊基地での一日」

 Side 緋田 キンジ

 

 佐伯 麗子に色々と言われたが一先ず自衛隊基地でゆっくりする。

 

 正直言うと任務の疲れや連戦が続いたからだ。

 

 この自衛隊基地にいても襲撃はくるが以前よりかは大幅に改善されていて、ウチの部下達は皆熱心に訓練に打ち込んでいる。(キョウスケはパメラとパワーローダーを弄っている姿をよく見かける)

 

 理由は様々だがこの世界の人々やパワーローダーの影響が大きい。

 

 それに実戦と言う名の襲撃回数も多いが、以前に比べれば天国だ。

 

 今この基地にはこの世界の人々だけでなく、パワーローダーやこの世界の兵器に必死に適応しようと訓練している自衛隊などが頑張っている。

 

 ちょっとドン引きするぐらいに。

 

 敵も相変わらずゾンビやらオーガやらサメやら暴走した無人機械やらだが――最近は人間の敵は来なくなった。

 

 恐らく死んでしまったのだろう。

 

 昔は恐がっていたが慣れとは恐ろしい物で実戦経験を積むためのいい機会だと考え始めている節がある。

 

 ヤバイ宇宙線を浴びてなければいいんだが――

 

 そして俺はと言うとこの世界の住民向けのPXの運営の手伝いをしていた。

 

 向こうの世界から持ち込まれる物資の供給をパワーローダーを身に纏って手伝っていた。

 

 パワーローダーは軍事用パワードスーツだ。

 

 力加減に気をつけなければならないがこうした力仕事には打って付けのマシンだ。

 

 作業効率がとんでもなく上がり、施設科や輸送科部隊でも導入されることになったらしい。(非核3原則の問題があるので地球では表だって使えないが・・・・・・)

 

 ここまでの汎用性を持つパワーローダーはある種の軍事兵器の到達点なのかもしれない。

 

 さて、問題の商品だが――

 

 食料や水に服――下着類などもバンバン売れた。

 

 野外入浴セットの提供などの相乗効果で石鹸やらシャンプーとかタオルとかも売れている。

 

 他にもお菓子やらオセロとか、トランプとか、やはりと言うかロボットプラモとかその手の模型雑誌とかも売れた。

 

 ちなみに商品などはゲートが開かれた境界駐屯地周辺の店から業者買いしたりしてこの世界に流し込んでいるらしい。

 

 境界駐屯地周辺の人々に多大な迷惑を掛けたお詫びである。

 

 この世界の武器や医薬品、パワーローダーだけでなく、この世界の通貨であるコインを使って物を売買している。

 

 コインと円の相場については手探りな部分もあるが、パメラやリオ、パンサーなどの協力者などの情報を元に調整している段階である。

 

「つか皆、娯楽に飢えてるのね・・・・・・」

 

「うん。みな夢中だよ」

 

 リオと一緒に娯楽に飢えた人々を眺めた。

 

 屋外でテーブルや椅子を並べてオセロやトランプに勤しむ面々を見て小学校みたいな光景だなと思った。

 嗜好品など掛け合って戦ってるのはこの世界らしいと思ったが。

 

 これでゲームとか持ち込んだらどうなるのやら。

 ・・・・・・まあ電圧とかの関係もあるし、それよりかは分解されてパーツにされるかもしれないなと思った。

 

「と言うかキンジ強いね――オセロ」

 

「うん。ああ、なんでかな?」

 

 かく言う俺もテーブル挟んで椅子に座ってリオとオセロをしている。

 PXでの作業も一段落し、休憩していたらリオに誘われて――と言う形。

 結果は連戦連勝である。 

 

 これはリオが弱いだけでなく、こう言う娯楽に慣れ親しんでないのが原因だろう。

 

「私達の世界ってなんか大切な物を忘れちゃってたんだね」

 

「まあそれはどんな世界でもそうだと思うよ。日本人だってそう言うところあるし」

 

「そうなの?」

 

「まあな」

 

 科学技術云々ではなく、精神的な部分でだと思う。

 少なくとも俺はブラック企業が乱立し、毎年大災害で死ぬぐらいの人間が自殺する国家を誇れる国家だと思いたくない。

 

 今はどうだが知らないが一時期、子供がなりたい職業ランキングでネット動画配信者がランクインしている辺り、子供は現実を見ていると思う。

 

 一体どこでこの国は間違えてしまったのだろう。

 

 それを考えるとこの世界特有の事情があるとはいえ、リオやパメラ、パンサーは立派だと思う。

 

 まあ先進国と紛争や貧困が絶えない国の子供を比べるようなものかもしれないが・・・・・・

 

「なんか考え事?」

 

「ああ。ちょっと自分の国ってどこで間違えたのだろうと思ったんだ」

 

「そんなにおかしいの?」 

 

「おかしい」

 

「ジエイタイもそうなの?」

 

 と、困った質問をされた。

 

「あ~自衛隊にどう言うイメージを抱いているか知らないけど、自衛隊だって犯罪を犯すし、ギャンブルとか――その、なんだ? 女遊びして破滅したりする奴とかいるし」

 

 これは本当の話だ。

 駐屯地に必ず一人そう言う奴はいると思った方がいい。

 

「ちょっと安心した」

 

「?」

 

「変な言い方だけど、なんか自衛隊って私達と変わらない部分があるんだねって思ったの」

 

 と、リオは照れくさそうに言った。

 そして俺は思ったわけだ。

 この子はなんていい子なんだろうと。

 

「それと分かった。キンジっていい人なんだね」

 

「え?」

 

 ちょっ? 

 なにこれ?

 なんかドキッとするんだけど。

 

「よく言ってた。下心ある人間は相手の心地の良い言葉ばかりしか言わないって。だけどキンジは違う。キンジはどう言うつもりだったかは知らないけど、ジエイタイやニホン相手でも油断しちゃダメ、痛い目を見るって言ってるように聞こえた」

 

 と、リオは照れくさそうにそう語った。

 俺は「あ、ああ、そうか・・・・・・」としか返せなかった。

 

「だから教えて。ニホンやジエイタイの良いところも悪いところも」

 

「え? 今から?」

 

「暇なんでしょ? そうだ。自分達ぐらいの同い年の子ってニホンではなにしているの?」

 

 そう微笑まれて俺は照れくさくなり、「えーと、それはだな――」と前置きして語る事になった。

 

 とうぜんオセロは中断。

 話の内容は日本についてのあれこれを会話する。

 なんか次第にギャラリーが集まって来て「ニホンも大変なんだな」とか「情けねえな」とか、「俺だったらぶっ殺してる」だの言葉が飛び交う。

 

 一体なんなんだ?

 

 

 Side ???

 

 遠巻きからジエイタイの一人を観察する。

 

 リビルドアーミーとはまだ接触してない様子。

 

 情報によればあのギャラリーに囲まれている線の細そうな自衛官、ヒダ キンジがシップタウンで暴れ回ったジエイタイの隊長さんの一人らしい。

 

 こう言う時女性と言うのは楽だ。

 

 男を誘惑して色々な情報を引き出せる。

 

 ・・・・・・ジエイタイはチョロすぎると言うか何というか、女性と接した事がないのかってぐらいに免疫がなくて可愛いなんて思ったりもしたけれども。

 

 もう何と言うか物語に出て来る騎士様とかのレベルだ。

 

 どう言う人生歩めばああ言う高潔な軍人達の集団が誕生するのだろう。

 

 リビルドアーミーとは色んな意味で次元が違う。

 

 ・・・・・・早速コンタクトをとってみようかしら。



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第十九話「ヴァネッサと言う女」

 Side 緋田 キンジ

 

「どうも、突然すみません。わたくしヴァネッサと言うものです」

 

 日本の説明会も一段落したところで現れた闖入者。

 名をヴァネッサと言うらしい。

 何て言うか会社のキャリアウーマンだか出来るOLのような雰囲気が漂っている。

 短いピンクの髪の毛に程良い大人の魅力を感じさせるナイスバディな体付き。

 この世界相応の、世紀末ライズ(継ぎ接ぎ、当て布、汚れ)された堅そうな黒いスーツにスカートにブーツ。

 太もものホルスターには拳銃が収まっている。

 

 何というかとても怪しい。

 現代日本人が無理して世紀末風キャリアウーマンのコスプレしているような違和感を感じれた。

 

「アナタ何者?」

 

 とリオが尋ねる。

 

「ヴァネッサです。リオと緋田 キンジさんとお近付きになりたくてこうして接触を図った次第です」

 

「正直言って胡散臭いぞ」

 

「キンジの意見に同意見・・・・・・周囲にいる何人かはアナタの手下?」

 

 そう言われて俺は周囲を見渡す。

 確かに此方をチラチラと遠巻きに様子を伺っている奴はいるが。

 

「流石リオ様。お見破りになられましたか。安心してください。ここはグレイヴフィールドです。ここでドンパチすれば今後の商売だけでなく、私の生命にも危険が及びます」

 

「あなたもしかしてリビルドアーミー?」

 

 リオが俺が言いたいことを尋ねる。

 

「そうとも言えますね。リビルドアーミーがブイブイ言わしてややこしい事態になる前にこうして私が接触して下調べにきたんです」

 

「リビルドアーミーとは違う派閥みたいなもんか?」

 

「その認識でかまいません。いや~話が早くて助かります」

 

 図々しいがここまでくるといっそ清々しさを感じる。

 

 それにリビルドアーミーはこの世界の住民に嫌われている筈だ。

 なのにこの場所で誰かに聞く耳立てられてるのに明かすと言うことは相当な度胸だろう。

 

 正直油断できない。

 

「リビルドアーミーはぶっちゃけ装備は立派なだけの蛮族集団みたいなもんですから間違いなく戦闘は避けられませんね。さて、本題に入りましょうか?」

 

「本題?」

 

 俺は警戒しながらヴァネッサと言う女に尋ねた。

 

「私と契約しませんか? 色んな情報が手に入りますよ」

 

「キンジ? この人を信用しちゃダメ」

 

 ヴァネッサの提案にリオが切り捨てた。

 

「まあまあそうは言わずに。基地に開いている日本に通じているゲートの秘密とかも手に入るかもしれませんよ」

 

「・・・・・・話す相手間違えてないか? そう言うのは俺みたいな下っ端ではなくて、上の方に話すべきじゃないのか?」

 

「なら上の方への仲介よろしくお願いできますか?」

 

 あー言えばこう言うなこの女。

 どこでこのトークセンス身につけてきたんだか・・・・・・

 

「デタラメ言ってる可能性あるのに仲介できるワケないだろ」

 

「では少しだけ――そちらの境界駐屯地にゲートが開かれたのは偶然ではありません。少しだけネタバレするとニワトリが先が卵が先かと言う感じですね」

 

「ねえ、キンジ? これどう言うこと?」

 

 リオが俺に尋ねてくる。

 

「正直説明するのが難しいが、俺の世界に、俺が配属されていた基地にゲートが開いたのは偶然ではないって言いたいらしい」」

 

 と、説明するとヴァネッサは――

 

「その通りでございます。異世界のゲートがそこら辺にポンポン開くのならこの世界はもっと混沌とした状況になっているでしょう。まあそれでもゲートが開きやすい場所と言うのは存在します。アキハバラ、ハラジュク、ギンザ、オオサカニホンバシなんかも怪しいですね」

 

 秋葉原。

 原宿。

 銀座。

 大阪日本橋。

  

 どれも聞いた事はある地名だ。

 

「・・・・・・本当に何者だ?」

 

「今は謎の事情に詳しいお姉さん程度でよろしいかと。さて? 上の方と引き合わせてもらえます」

 

「わかった」

 

「キンジ? 本当にいいの?」

 

「この世界の人間にしては此方の世界のことに詳しい気がする。それに言ってる事が嘘か本当か俺で判断していい状況を越えている――」

 

 一件丸投げに聞こえるがもしもこの女の言う事が本当だった場合、目も当てられない惨劇が引き起こされる可能性がある。

 

「うーん、情報の押し売りはやはり主義に反しますね。まあそちらの上の方には対価をお支払いしておきますが」

 

「それ、厄介事を押しつけるの間違いじゃないだろうな?」

 

「そうなる可能性もありますね」

 

「・・・・・・はあ」

 

 イヤな予感がしてきた。

 だが多くの人命が掛かっているかもしれないのだ。

 ここはグッと堪えて案内することになる。 

 

 

 今頃上の方は大騒ぎだろう。

 もしかして他の場所にゲートが開かれるかもしれないと言う、とびっきりの爆弾情報が投げ込まれたのだから。

 

「で? どうしてここにいるんだ?」

 

 夜中になったにも関わらず、ラウンジでまた俺に接触を試みてきた。

 自衛隊の基地内を監視付きでだが平然と歩き回っている。

 周りの自衛官はギョッとしている。

 

「どうもこのたびジエイタイの皆様と協力関係になりましたヴァネッサです」

 

「名前を何度も名乗るのはなんでだ?」

 

 ふとその事を疑問に思った。

 

「名前を覚えて貰うためのコツみたいなもんですよ。ちなみにヴァネッサと言うのは偽名じゃありませんよ? ヴァネッサは本名です」

 

「シツコイぐらい名乗らなくていい・・・・・・んで、ヴァネッサさん? なんか用ですか?」

 

「今後ともよろしくお願いしますと言う挨拶みたいなものですよ」

 

 どんな用件かと思えばそんな事かと思った。

 

「あんまり関わりたくないんですがね」

 

「まあそう言わずに。例えゲートが閉じても開けばいいだけの話ですしね」

 

「おいそれどう言うことだ」

 

 またとんでもない爆弾発言したぞこの人。

 

「ふふふ、いい女には秘密がつきものなんですよ? それではまた――あ、今度来た時に服と化粧品のラインナップ増やしておいてくださいね? それとロボットのプラモデルとかも」

 

「はあ・・・・・・俺に言われてもな」

 

 なんかとても疲れた。

 なんなんだあの人は。

 もしかして今回の騒動の黒幕かその一味とかじゃないだろうな。

 

 などと思いながらご機嫌な様子のヴァネッサを見送った。

 



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リビルドアーミーとの戦い
第二十話「リビルドアーミー」


 Side 緋田 キンジ

 

 真っ昼間のことだった。

 

 謎の飛行機械。

 両サイドにローターがついたヘリ? のような乗り物が複数。

 それが突如として自衛隊基地の前に降りたって現れた。

 

 人々は「リビルドアーミーだ」、「とうとう着やがったんだあいつら」、「どうなるんだこの場所・・・・・・」などと恐れていた。

 

「ふーむ・・・・・・噂は本当だったか・・・・・・」

 

 などと髭を蓄えた偉そうな白い軍服らしい物を着た男が兵士達を引き連れて周囲を見渡しながら言う。

 

「お前達がジエイタイと言う連中か?」

 

「は、はい。そうですが・・・・・・」

 

 嫌らしそうな目つきで屋外出店されたPXを見ながら言う。

 

「食料や水を配って何を考えている?」

 

「いえ、現在はこの土地の規則に則り、売買させて頂いております。我々はこの土地の住民との交流を深めるためにこうした活動をしているのです」

 

 と、自衛官は特に問題なく答えた。

 

「ふん、交流か。実にくだらん。水や食料がなければ此奴らはお前達に見向きもしないぞ」

 

「はっ! そうならないように努力していきます!」

 

 自衛官も頑張ってそう返す。

 この自衛官、自衛官の鏡だよ・・・・・・そう感じてしまう程にこの人は自衛官として立派だった。

 

「まあいい。我々リビルドアーミーに逆らえばどうなるか――少し教育してやらんとな」

 

 唐突に殴る蹴るの暴行が始まる。

 

「突然何をするんだ!?」

 

 俺は思わず叫んだ。

 

「教育だよ? 見て分からんのか!?」

 

 そして問答無用で俺も殴られる。

 

「キンジ!?」

 

「リオ、手を出すな!!」

 

「ほう、お前の女か?」

 

「だったらどうする?」

 

「そうだな、試しに外の女で味見してもいいかもしれんな――」

 

 なんつー思考回路だ。

 独裁者の軍隊か何かかこいつら。

 リオはと言うと銃を向けている。

 他のリビルドアーミーの兵士も銃を向けていて一触即発の空気だ。

 

「ジエイタイでもリビルドアーミーには逆らえないのか・・・・・・」

 

「良い場所だったのにな。ここは・・・・・・」

 

 周囲も暗いムードが漂っている。

 

「この女と、そうだな――ここに置いてある水と食料を全部持って行け。今回はそれで済ませてやろう」

 

「ふざけないで!!」

 

 メチャクチャな要求にリオが叫んで発砲した。

 

「キサマ――」

 

「そうやって一体幾つの村や町を滅ぼしてきたの!?」

 

「ふん、リビルドアーミーに逆らったのだ! 当然だろう! この荒廃した世界を支配してやろうと言うのだ! 光栄に思うがいい」

 

「それで何人殺すつもり!?」

 

「ふん。外の世界の蛮族の犠牲など幾ら出ても痛くも痒くもない! 多少間引いたところで問題はなかろう!」

 

「やはりリビルドアーミーは敵だ」

 

 そう言って敵意をむき出しにした表情で睨み付ける。 

 

「よせリオ・・・・・・熱くなりすぎだ」

 

 俺はそんなリオを止めた。

 

「でもキンジ――」

 

「ほう? 腰抜けが――まだ立ち上がるか?」

 

「残念ながら水と食料の提供は断らせていただきます。それとこれ以上の狼藉を働くのであれば――それ相応の処置を取らせていただきます」

 

 そして次々と完全武装した自衛隊が現れた。

 中にはパワーローダーを身に纏った自衛官もいる。

 流石に分が悪いと思ったのかリビルドアーミーの連中は退いていく。

 

「貴様達!? こんな真似してタダで済むと思っているのか!? 我々はリビルドアーミーだぞ!?」

 

「我々は自衛隊です。決して正義の味方ではありませんが――アナタ達の行為を眼前で容認する程、軟弱な組織ではありません」

 

「クッ――」

 

 周囲から歓声が上がる。

 厳罰覚悟で、自衛隊としての本分を捨て去る覚悟までしてのハッタリだ。

 これで退かないなら戦闘しかない。

 

 相手は「退くぞ」と言ってその場から立ち去る。

 

「キンジ、本当に行かせていいの?」

 

 リオは若干泣きながらそう言った。

 

 リビルドアーミーの連中は飛行機械に乗って退散していく。

 

「――昔、漫画でこう言うシーンあったな。ケンカする相手にも値しないってのはこう言う事か」

 

 俺はと言うとそんな事を考えていた。

 

「でもあいつら――このままじゃ引き下がらないと思うよ」

 

「それは私も同意見ですね」

 

 リオの言い分を付け足すように唐突に現れたのは――

 

「「ヴァネッサ!?」」

 

「どうもヴァネッサでございます。いや~正直見ていてヒヤヒヤしましたよ。それはそうと急いで戦闘準備した方がよろしいかと。あいつらはこの基地を襲撃する腹づもりです」

 

 衝撃的――ではないか。 

 なんとなくだがヴァネッサの言う通りにしてきそうだと思った。

 

「だけどここはグレイヴフィールドだろう? 部隊を空輸するにしても降ろす場所があるのか?」

 

 当然な疑問を投げかける。

 ここグレイヴフィールドは以前より勢いは衰えているがサメの化け物とか出る危険地帯だ。

 部隊を展開させるのはリスクがある。

 

「確かにその通りなのですが、一つ方法があります」

 

「方法?」

 

「野盗連中やヴァイパーズが使用していた施設をそのまま活用すればいいのです」

 

「――確かにその方法ならいけるか」

 

 単純な方法だった。

 今にして思えばグレイヴフィールドにはそう言う安全地帯のような場所が幾つもあるのだろう。先に行われた自衛隊基地の襲撃もそう言う理由があると考えれば合点がいく。

 

 そこを奪って拠点として活用してしまえば良いのだろう。

 

 あいつらならそれぐらいはやるだろう。

 

 

 Side リビルドアーミー ガルノフ

 

 =旧ヴァイパーズ施設跡にて=

 

 クソ、なんだあの若造。

 

 ジエイタイの連中め!!

 

 恥を掻かせおって!!

 

 こうなれば少し痛い目を合わせてくれる。

 

 理由など幾らでもでっちあげればいい。

 

 それにしてもこのヴァイパーズどもが使っていた施設跡、汚いのなんの。

 

 外の世界の蛮族の住処など、どこもこんなものか。

 

 元は学校だったらしいが今はこうしてリビルドシティからの援軍を受け入れる場所に最適だ。

 

『クソ、なんだこいつら!?』

 

『だから外はイヤなんだよ!? 化け物が襲ってきやがる!!』

 

 しかし完全に安全と言うワケではない。

 様々な化け物が遅い掛かってくる。

 

 今相手にしているサメの化け物やらもそうだ。

 我が軍のパワーローダーやロボット軍団、飛行戦力の前では敵ではないがな。

 

 死んだとしても競争相手が減ったと思えばいい。

 

 それよりも今はジエイタイからどれだけ物を分捕れるかだ。

 

 あれだけの水や食料を分け与えていると言う事は何か秘密があるに違いない。

 

 それを牛耳ればと思うとワクワクする。

 

 今から楽しみだ。



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第二十一話「決意」

 Side 佐伯 麗子

 

 リビルドアーミー。

 

 噂通りの集団だった。

 

 突然チンピラの如く勝手に絡んで少し言い返されただけで報復に出るなど、沸点が低いのにも程がある。

 

 そいつらが来ると言う事で戦闘態勢を執っている。

 

 ヴァネッサと言う女は正直信用できないが、ドローンなどから得られた情報からして確かなようだ。

 

 全くの無傷とは行かないだろうがこの世界に関わって初めての時から此方も戦力を増強させてきた。

 

 後はあいつら(緋田 キンジと宗像 キョウスケ)に託すか。 

 

☆ 

  

 Side 緋田 キンジ

 

(どうするよコレ・・・・・・)

 

 困った事が起きた。

 この基地に留まっている現地住民にいちおう避難するように言ったのだが言うこと聞かない。

 戦う気満々のようだ。

 どんだけ恨みを買ってるんだリビルドアーミー。

 

「やっぱり、みんなやる気みたいだね」

 

「リオか・・・・・・」

 

「リビルドアーミーに苦しめられた人は少なくないから。村や町を焼き払われて、みな怯えながら暮らしている。だけどやり過ぎると取り分が減るからと言う理由だけで生かされている町も多い。シップタウンとかもそう」

 

 と、リオは悲しそうに言った。

 

「大丈夫だ。俺達はまけねーよ」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

 リオを安心させるように言った。

 

 本当は俺も恐い。

 ヴァイパーズや野盗連中とは違う、腐っちゃいるが本格的な軍事組織が相手だ。

 だが戦わないと言う選択肢はない。

 

 

 基地敷地内。

 

 俺はパワーローダー、フェンサーを身に纏って周囲を見渡す。

 

『中々良さそうな機体が回ってきたな』

 

 キョウスケは新たに仕入れたバレルと言う重厚感漂う背中に背負った二門の大砲が特徴的な砲撃型のパワーローダーを身に纏い、装着していたドランをルーキーに回した。

 

『ヒトミ、いける?』

 

『キョウカこそ』

 

 同じく第13偵察隊のWACの水瀬 キョウカ、高倉 ヒトミもパワーローダー、ブロッサムと呼ばれる機体を装着している。

 

 ブロッサムは丸っこく流線的でホッソリとしたシルエットでリオのゲイルと同じく機動戦重視の機体らしく、中々高性能のようだ。

 

『しかしパワーローダーもここまで揃うと壮観だな』

 

『ああ』

 

 キョウスケの言う通り、自衛隊が保有しているパワーローダーの数は百台を越えている。

 

 周囲の他の部隊の隊員はドランやバレルなどを身に纏っている。

 

 基本他の部隊はやはりと言うかドランなどが中心だ。

 ドランは手に入りやすいパワーローダーなのだろう。

 

 中には見たこともない機種が存在する。

 

 こんなに様々な機種を動じ運用すると整備とか大変そうだが――パワーローダー全般に言えることだがそんなに手間は掛からないらしいと言うのだから凄いものだ。

 

 他にも戦闘ロボット、アサルト型やセントリー型に浮遊型も実戦投入されていた。

 

 もう軍備が世界的に見て周回遅れな陸自の姿はなかった。

 

 最新鋭通り越して未来兵器で武装した最強の陸上自衛隊である。

 

 

 Side リオ

 

 私はゲイルを身に纏う。

 もちろんリビルドアーミーと戦うためだ。

 

『リオっちやる気だね。そんなにあの人達(自衛隊)気に入ってるんだ?』

 

 ジェネを身に纏ったパンサーがそう言う。

 

『そう言うパンサーこそ、やる気なんだ』

 

『まあね。ここの自衛隊の人達に夢のような暮らしさせてもらってるしね。いざって時の蓄えはあるけど無くなっていいかは別問題』

 

『うん。パンサーもなんだかんだでお人好しなんだね』

 

『えーひどーい。パンサーはこれでもお人好しだよ?』

 

 なんだかおかしくなって二人で一緒に笑ってしまった。

  

『パメラもなんだかんだ言って手伝ってくれるみたい』

 

『あの子も素直じゃないんだから――ま、私達なんだかんだで変わり者でお人好しの集まりだったと言う事じゃない?』

 

『そうみたい』

 

 パンサーの言う通り。

 私達はこの世界では変わり者のお人好し集団だった。

 自分でもまさかここまでとは思ってもいなかつたが。

 

 あの人達、ジエイタイの人達に感化されたのかもしれない。

 

 そして私達はリビルドアーミーと戦うためにジエイタイの人達の下へと向かった。

 



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第二十二話「思わぬ横槍」

Side  杉谷 正嗣 総理 & 日本政府の政治家たち

 

 リビルドアーミーと激突するとの知らせは日本政府の中枢。

 国会の政治、官僚達にも激震が走った。

 私こと杉谷 正嗣 総理もそうだ。

 

 最初は耳を疑った。

 

「あいつら(世紀末世界にいる自衛隊たち)正気か!?」

 

「好き放題やりおって!! 増長させすぎたのではないか!?」

 

「この事がバレたら大問題ですぞ!?」

 

 と言った感じで騒いでいる。

 

「我々の目的は調査であって、戦禍を拡大するために自衛隊を送り込んでいるのではない!!」

 

「そうだ!! 防衛省は何をやっている!!」

 

「大体、核動力で動くパワードスーツで武装した連中を助ける必要などない! 核テロリストなど放置してリビルドアーミーと交渉するべきだ!」

 

「そうだ。リビルドアーミーの問題だって自衛隊が都合よく隠蔽したのではないか!?」

 

 私の意見を大声で叫んで代弁してくれていた。

  

「アメリカはなんと!?」

 

「遠回しに静観を決め込むつもりだよ!!」

 

「渦中の栗を拾わせるだけ拾わせて良いとこどりするつもりか!?」

 

 などと言っていたがそろそろ本題に入らねばならない。

 

「君達の熱意は分かった。さて、どうやって自衛隊の暴走を止める?」

 

「理由なんて後でどうにでもなる! とにかく乗り込んで黙らせればいい! 人事も総入れ替えだ! これは調査であって戦争するために自衛隊を送り込んだのではない!」

 

「最悪、力尽くで黙らせればいい!!」

 

「なら私が行きましょう」

 

「福田くん。君かね」

 

 福田 幸三。

 眼鏡で丸っこい中年太りした体系の男。

 平和思想家で自衛隊の解散をスローガンにかがげている。

 

「なに、簡単ですよ。兵士ではなくマスコミと一緒に乗り込めばいいんです」

 

「大丈夫かね?」

 

 と、尋ねるが。

 

「あの境界駐屯地のテロリスト予備軍を一掃するいい機会です。せっかくですし外務省からも誰か派遣してもらいましょう。リビルドアーミーとの交渉はドーンと任せてほしいものです」

 

 

 Side  園田 外交官

 

 国会の代議士である福田さんに連れられて境界駐屯地へ。

 左系のマスコミも引き連れている。

 

 境界駐屯地周辺は市民団体達が反戦運動をしていた。まあこれは予想通りだ。

 

 だが駐屯地の中は素人目から見ても殺気立っていた。 

  

 資料を見たがリビルドアーミーと言う本格的な軍事組織との実戦が近いのもあるのだろうが戦後初の実戦が行われた土地であり、最前線の間近だからと言うのもあるだろう。

 

 自分も緊張してきたが、リビルドアーミーとの戦いを止められるのかどうか正直疑問である。

 

 福田さんは強引に駐屯地内に入り、厳重にシェルターで封鎖されたゲートを潜り、そして荒廃した世紀末の世界へとたどり着いた。

 

 境界駐屯地比べ物にならないぐらいに武装化されており、パワードスーツや武装したロボットが彼方此方に闊歩している。

 

 マスコミの人達ははしゃぎながらカメラを回し、福田さんは茫然としていたが付き添いの人に言われて正気に戻り、「ほら見てみろ! 好き勝手にさせるからこうなるんだ!」と、得意げに語った。

 

 自衛官だけでなく現地住民らしき人間まで基地内をうろついており、遠巻きに物珍し気に、自衛官は明らかに嫌悪感をもってそそくさと退散していった。

 

 福田さんはそのまま司令室に向かい、基地の代表である五藤 春夫 陸将の元へと向かった。

 

 ご丁寧にマスコミの人間まで引き連れてだ。

 

 絶対に歓迎されないだろうなと思いつつ歩を進めた。

 



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第二十三話「思想の対価」

 Side 園田 外交官

 

 リビルドアーミーと交渉を設けられないかと頼んだ。

 

 五藤陸将は事務的な態度で「善処します」とだけ答えた。

 

 他の自衛官も事務的な態度だ。

 

 福田さんはそれが気に入らないのか、「文句があるのなら言ってみたらどうだ?」、「さんざんこの世界で好き勝手にやってきたんだろう?」、「私が来たからにはもうそんな事はさせんからな!」と言いたい放題だ。

 

 ☆

 

 上等な部屋に案内され、福田さんと外交の打ち合わせと言う名の接待が待っていた。

 

 マスコミの人達は外で取材を続けるようだ。

 自衛隊の人達に反対されたが福田さんが強引に、半ば脅迫する形で取材させることにした。

 

「しかし自衛隊が好き勝手してくれたお陰でいい攻撃材料が揃った。財務省の連中も大喜びだな。外務省での君の株も上がるぞ。ワハハハハハハハハハハハ!!」

 

 先程からこんな態度で上機嫌だ。

 

「それよりもリビルドアーミーとの交渉、本気で上手くいくと思ってるんですか?」

 

「なあに、心配はいらんよ。多少国益は損なっても、最悪この自衛隊の連中や現地住民がどうなろうが成功させてみせるさ」

 

「は、はあ……」

 

 よっぽど上機嫌なのか、よく自衛隊の基地内でそんな事を大声で言えるもんだ。

 SNSが普及した昨今、たった一つの失言が命取りになる世の中だと言うのに。

 よくこんなんで今迄、政治家をやってこれたものだと思う。

 

 政治家は学力とか頭の良し悪しじゃなく、よくも悪くも金とコネさえあればなれるとつくづく思わされる。

 

 

 五藤陸将はどんなマジックを使ったのか、リビルドアーミーとの会談の場を設けることができたようだ。

 

 場所は自衛隊基地を指定。

  

 リビルドアーミーは完全武装の大軍で襲来した。

 

 この時点で既に嫌な予感はした。

 

 マスコミは生放送でお茶の間に届けると生き込んでいる。

 

 見た目、オスプレイのような乗り物から白と青のヒロイックなパワードスーツも一緒だ。

   

 福田さんは護衛の人達と何やら揉めている。

 

 いや、それよりもどうして会談の場に大量のパワーローダーが?

 しかも武器を所持して。

 数が多すぎる。

 

 まてまて。

 一種の砲艦外交のつもりなのかもしれない。

 そうだ。

 きっとそうに違いない。

 

『我々リビルドアーミーの答えを出そう。会談に応じると言ったが――これが答えだ!!』

 

 そして光のシャワーが降り注いだ。

 福田さんは自衛隊のパワーローダーのシールドに守られてどうにか生き延びた。

 

「ま、待ってくれ! 平和的に! 平和的に話し合いをしようじゃないか!?」

 

 と、パワーローダーの陰に隠れながら福田さんは叫ぶが。

 

『話し合いだと!? 我々と対等のつもりか!? 大人しく我々に従えばいいのだ!!』

 

「せ、せめてそちらの条件を提示してくれ」

 

『きさまら二ホンの物、全部を寄越せ!! できなければお前も含めて全員殺す!!』

 

「そ、そんな滅茶苦茶だ!? これは交渉じゃない! こんなの脅迫ではないか!?」

 

『これ以上の問答は面倒だ! 全員死ね!』

 

 嫌な予感は的中した。

 自衛隊の人々に促されるまま退避する。

 

 マスコミの人達も逃げ始めた。

 光のシャワーが建造物の彼方此方に直撃して爆発を起こしている。

 基地の内外でも戦闘は始まり、生きた心地はしなかった。

 

 自分はまだ生きているのか?

 実はもう死んでいるのはないか?

 

 これは現実なのか?

 夢なのか?

 

 もう何がなんだか分からなかった。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 基地から少し離れた場所。

 自分達がいた基地を囮にしてリビルドアーミーを包囲する形で他の部隊も展開している。

 

 ヴァネッサさんは「会談の場は用意できますけど、話し合いは無理ですよ? 間違いなく戦闘になります」と言っていて覚悟はしていた。

 

 会話の内容も無線越しにしっかり聞いていたが、ただ宣戦布告しに来ただけじゃねーか。

 

 それはそうと基地を囮にすると言う思い切った策が当たり、戦いは優勢に進んでいる。

 

 反撃開始と行きますか。



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第二十四話「それぞれの戦い」

Side 緋田 キンジ

 

『政治家、マスコミ関係者退避完了!!』

 

『戦況は我々が優勢!!』

 

『敵はビーム兵器を標準装備している!! 数も多い!!』

 

『こいつら装備はいいだけの素人だ! 各員連携プレイで対処しろ!! 本物のチーム戦と言う物を教えてやれ!!』

 

 戦いは被害が出ているが優勢である。

 時間が経つに連れて段々と軍事組織としての地力の差が出始めて着実に削られていく。

 

 特に乱戦になると強力なビーム兵器が災いして同士討ちが多発すると言う情けない体たらくを晒していた。

 

『なんなんだこいつら!?』

 

『相手は旧式のパワーローダーだろ!?』

 

『それでもリビルドアーミーか!? 数で圧倒しろ!?』

 

 戦意が高いリビルドアーミーのパワーローダー兵士がこの状況を打破しようとするも――

 

『敵の指揮官機を優先して討ち取れ! 態勢を建て直せるな!!』

 

『こいつら格闘戦は素人だ。冷静して対処しろ』

 

『パワーローダーの御蔭でチャンバラの時代、再来ってか?』

 

 自衛隊側の方が少数ながらもリビルドアーミーの兵士を次々と討ち取って戦局の優位を維持する。

 特に格闘戦に持ち込まれてからは――殴る、蹴る、ハンマーなどの鈍器でぶっ潰す、ヒートホークやヒートサーベル、高周波ブレード、チェーンソー、プラズマ・ビームサーベルなどで切り裂く――などで一気にリビルドアーミーのパワーローダーの撃破ペースが上がっていく。

 

 ――他にも

 

「幾らパワーローダーでも、対物ライフルのヘッドショットを食らえば!!」

 

「LAM( 110mm個人携帯対戦車弾)を食らえ!!」

 

 普通科(歩兵)の人々が生身で果敢に挑んでパワーローダーを撃破する。

 パワーローダーは確かに強く、対物ライフルすら弾く程の頑丈さだ。

 

 だが当たり所が良ければ――対物ライフルでヘッドショットを決めればパワーローダーは破壊できずとも中の人間の首を着弾の衝撃でへし折れる可能性もあるし、装甲の継ぎ目や関節部を狙えば有効打になり得る可能性もある。

 

 特に推進剤などが詰まったバックパックはパワーローダーの弱点であり、ここをやられると最悪味方を巻き込んでの大爆発を引き起こす。

 

 また頑丈とは言え、概ねパワーローダーのサイズは2mを越えない範囲だ。

 巨大ロボとかではない。

 

 対戦車用、歩兵用重火器の直撃を食らえば対物ライフルを防げる装甲でもタダではすまない。

 パワーローダーが無事でも爆発の衝撃で内部の人間が死亡する可能性もある。 

 

 パワーローダーも無敵の鎧と言うワケではないのだ。

 

『此方、特科(砲兵)部隊、射撃開始』

 

 特科達も負けじと敵パワーローダー集団を芸術的な砲撃精度で纏めて撃破していく。

 

『戦車隊、撃ち方はじめ!!』

 

 戦車部隊が次々と攻撃を開始する。

 それに続くように様々な軍事車両が攻撃を開始する。

 周囲にはパワーローダーの護衛付きだ。

 

『ハウンド隊――攻撃開始。基地の外の連中を掃討する。味方には当てるなよ』

 

 攻撃、戦闘ヘリ部隊が次々と敵の飛行機械やパワーローダー破壊する。

 リビルドアーミーも負けじと反撃しようとするが地上の援護が良いせいでいいようにやられていく。

 

『面白いように倒されていくな。リビルドアーミーってこんな弱かったか?』

 

『バカ、ジエイタイの連中が強すぎるんだよ』

 

『グレイヴフィールドに基地かまえるぐらいだ。そりゃ強いわ』

 

『シップタウンでヴァイパーズ相手に大暴れもしたって話、本当だったんだな』

 

『今後の付き合いのためにも良いとこ見せないとね』

 

 現地住民の人々もこの流れに乗ってリビルドアーミーと戦う。

 信じられない程に優位に戦い、多少困惑しつつも奮戦する。

 

 そしてその戦いの中には俺達も――

 

『リオ、パンサーを中心にフォーメーションを組むぞ!』

 

 俺は無線を傍受し、送られてくる戦場のデーターに目を通しながら指示を飛ばし、戦闘する。

 

 やはりと言うかリオとパンサーの二人が頭一つ飛び抜けた強さだ。

 次々とリビルドアーミーを撃破して言っている。

 撃ち漏らした敵は俺達、第13偵察隊で処理していっている感じだ。

 

『あいよ! なんだかんだで隊長が板についてるじゃねえか!』

 

 キョウスケは俺を補佐しながらパワーローダー、バレルの両肩キャノン砲と手に持ったアサルトライフルで敵のパワーローダーを破壊していく。

 

 ルーキーもドランで手堅く立ち回って戦い、WACコンビの水瀬 キョウカと高倉 ヒトミもパワーローダー、ブロッサムで機動性を活かした戦いで部隊をサポートし、敵を翻弄。

 

 味方の支援もよく、数々の実戦を潜り抜け、装備もいい。

 

 俺達含めた自衛隊は概ね、リビルドアーミーと互角以上に渡り合う事ができていた。

  

 



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第二十五話「決着」

 Side リビルドアーミー ガルノフ

 

=指揮用大型輸送機:マザーバード・ブリッジ=

 

「クソ!? あいつら軟弱な軍事組織ではなかったのか!?」

 

 ワシは声を荒らげる。

 徹底して蹂躙して殲滅して、奪える者は全てを奪う。

 そう言う算段だった。

 

 なのに現実は想定外の様相を呈していた。

 

「味方部隊の損耗率拡大!!」 

 

「既に半数以上が撃破されています!!」

 

「このままでは全滅してしまいます!!」

 

 届いてくるのは悲報ばかり。

 此方が襲撃してくるのは予測していただろうが、こうまで一方的に叩き潰されるとは。

 

「クソ――やむおえん!! これなれば味方もろとも吹き飛ばしてくれる!!」

 

 負けるわけにはいかん。

 今後の出世のためにも、自分の地位のためにも多少の犠牲はやむおえない。

 

「核で吹き飛ばす!!」

 

 こうなればと思い――戦術核で吹き飛ばそうと決意した。

 

「て、敵から降伏要請が――」

 

「そんな者無視しろ――いや、都合がいい。降伏受諾してそのまま撃ち込んでくれる!!」

 

「正気――いえ、了解しました・・・・・・」

 

 ハハハ!! このまま死ねばいい!!

 我々に逆らうからこうなるのだ!!

 

 

 Side 五籐 春夫 陸将

 

 基地の外。

 指揮通信車両代わりにこの世界で導入した大型トレーラーから指揮を行っていた。

 元々はこの世界が荒廃する前の指揮車両だったのかもしれない。

 

 そこで敵の降伏要請を受諾を確認したその時だった。 

 

「敵の一機に動きあり!! 指揮官機と思われます!!」

 

「ハッチを開いて弾頭ミサイルのようなものを!!」

 

 そこまで聞いて私は瞬時に命令した。

 

「航空自衛隊や地上のミサイル部隊に撃墜要請!! それ以外の物は全力退避だ!!」

 

「了解!!」

 

 そして戦闘ヘリ部隊、地上のミサイル部隊の攻撃が敵機に面白いように直撃していく。

 

 

Side リビルドアーミー ガルノフ

 

=指揮用大型輸送機:マザーバード・ブリッジ=

 

「どうにかならんのか!?」

 

 攻撃が集中して機体が揺れる。

 発射しようと言う段階で此方の手がバレたのか?

 

「高度低下!!」

 

「機体維持不可能!!」

 

「被害拡大止まりません!! このままでは誘爆して――」

 

 そしてブリッジの中に熱風と爆炎が――

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

『あの様子だと一種の核爆弾を使おうとしてたみたいだな』

 

 キョウスケも『みたいだな・・・・・・味方巻き添えにしてでも吹き飛ばすとかとんでもないぜ』と毒付くように言っていた。

 

 基地から遠く離れた上空で敵のフラグシップ――大型輸送機? を破壊したら目が眩み、衝撃破で地面と大気が揺れる程の盛大な汚い花火が上がり、それが終止符になった。

 

 地上と空で「これ以上の戦闘続行行為を続ける物は容赦なく攻撃する!!」と脅すように降伏を呼びかけている。

 

 リビルドアーミーも現実を理解したのか嘘のように降伏を受諾した。

 

 中には自棄になって戦闘を続行する者もいたが即効で討ち取られる。

 

 ともかくこれで戦闘は終結だ。

 

 そう言えばあの国会議員戦意やマスコミはどうするつもりなのだろうか気になるがここから先は戦後処理の時間だ。

 

 それに今の騒ぎでまた変な化け物が寄ってくるかもしれない。

 

 全く面倒なことをしてくれる。



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第二十六話「その頃の日本」

 Side  杉谷 正嗣 総理 & 日本政府の政治家たち

 

 ネットもテレビも今は大騒ぎだ。

 

 あの世界での戦闘が生中継でテレビで一部始終とは言え流れてしまった。

 

 福田の奴め、完全にしくじりおって!!

 あれでは我々がバカみたいではないか!!

 

 リビルドアーミーもまさかあそこまで好戦的だとは思わなかった。

 まさか核まで使おうとするとは!!

 

 リビルドアーミーのせいで自衛隊に弱味を握られたようなものだ!!

 

「どうにかして和平交渉を――」

 

「威力は低いとは言え、相手は負けそうになったら核兵器を使うような連中だぞ!? 核テロリスト相手に交渉しろと言うのか!?」

 

「だからそんな奴と戦争を続けるつもりか!?」

 

「正しいとかどうとかの問題じゃない!! そんなヤバイ連中がこの国で核兵器を湯水のように使ってみろ!! 政治レベルどうこうの範疇を超えている!!」

 

 政治、官僚達はパニック状態だ。

 まるで世界の終わりが間近に迫ってきているような状況だ。

 

 万が一侵入されても自衛隊の責任にでもすればよかったが福田のバカがノコノコと和平交渉しにいってしくじったせいでそれもやり辛くなった。

 

 幸いなのは他国が黙り込んだことだ。

 

 恐らく何かしらの方法で今回のマスターフィルムを入手したのだろう。

 あるいは自衛隊の連中がワザと流したのか。

 

 ともかく異世界くんだりまで行って核戦争をやりたくないと言うのが本音だろう。

 

 政治家なんて連中は自国の利益や国民の生活よりも、長くて数ヶ月先の自分の政治生命とかが大切なのだ。

 

 それにゾンビや化け物、醜いエイリアンみたいな生物とかまでいるのだ。

 

 自衛隊以外に誰にやらせる?

 

 どの道自分の政治生命は終わったようなものだ。

 クソが。

 

 

 Side 園田 外交官

 

 元の世界、境界駐屯地内は慌ただしい。

 

 この世界にいの一番に退避し、そして自分達を殺しに来た敵により核兵器が使われた事を聞いて気を失いそうになった。 

 

 自衛隊に感謝するよりも、リビルドアーミーに恨み節を吐くよりも、ただただ助かった事に感謝した。

 

 もうあんな世界に行くのはゴメンだ。

 

 福田さんは病院に搬送された。

 マスコミの人達も同じだ。

 彼も自分と同じような心境なのかもしれない。

 

 私は戦争を知らなかったが始めて経験した。

 

 戦争など何処か遠い世界の出来事だと思っていたがその認識は誤りだった。

 

 既に戦争は始まっていたのだ。

 

 しかもかなり複雑かつ厄介な形でだ。

 

 この世界との政治的な都合。

 

 あちら側の世界の都合との板挟み。

 

 リビルドアーミーと言う核武装して平然と味方諸とも吹き飛ばそうとする頭のおかしい連中と殺すか殺されるかの生存競争だ。

 

 こんなの戦争では――いや、そもそも戦争とはそう言う物なのかもしれない。

 我々が勝手に美化していただけで。

 

 そしてこの境界駐屯地は最前線の目と鼻の先の場所だ。

 

 にも関わらずやかましい市民団体は元気だ。

 

 戦争反対。

 自衛隊の核兵器の導入を許すな。

 平和的に解決しろ。

 

 などと言っている。

 自分もアレと五十歩、百歩の連中だったと思うと、自分はなんのために外交官になるために勉強してきたんだろうと思うようになってきた。

 

 必死に努力して賢くなった気でいたが違う。

 自分は賢いと勘違いしたバカになってしまったのだ。

  

 段々と虚しくなってきた。

 暫くはなにもしたくない。

 

 再就職できるかな・・・・・・



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第二十七話「第二ラウンドの準備」

Side 五籐 春夫 陸将

 

 基地はかなりダメージを負ったがそれよりもやるべき事は多い。

 捕虜の搬送。

 残骸、遺体の処理。

 被害報告。

 物資の損耗率、補給要請。

 

 などなどだ。

 とにかく基地の修復は後回しだ。

 

 更にはヴァネッサ氏からリビルドアーミーがこのまま引き下がる事はないと言われて急ピッチで連戦の備えを行っている。

 

「アレだけの大部隊でも先遣隊なのでしょう。次はもっと大部隊で来るとなると厳しいですな」

 

 と、近藤 信也 三佐が言う。

 

「ああ。ヴァネッサ氏を信用しすぎるワケにもいかんが、今度は空中戦艦なんて代物まで出張ってくる可能性も高いそうだ」

 

「空中戦艦!?」

 

「俄には信じられんが――この世界の技術力はまだまだ底が知れん――至急、ありったけの対艦ミサイルを要請――いっそ簡易的なイージス・アショアを設置した方が早いかもしれんな」

 

 イージス・アショアとはいわばイージス艦の機能を持った基地のことだ。

 色々あって導入が進んではいないがこの世界で元の世界での問題などないだろう。

 と言うか導入しないと死人が増える可能性がある。

 

「プラズマミサイルやレールガンもありったけ準備しておきましょう」

 

「許可する。使える手はなんでも使え。でなければ死ぬぞ」

 

 

 Side 佐伯 麗子

 

 先の戦いは流石に死ぬかと思った。

 基地を吹き飛ばすレベルの破壊力の核兵器だからだ。

 

 体の放射能汚染とか大丈夫かって?

 この世界のチート薬品、放射能除去剤とかその手の薬品とかでどうとでもなっている。

 

 福島の問題も解決出来そうだし、核兵器を抱えた大国に外交上優位に立てそうだが、そんな未来が来る前に核兵器で消し墨になりそうだ。

 冗談抜きで。

 

 今は何時もの基地内のラウンジで同じ階級で女性WACの水島一尉と休憩がてら会話していた。

 

 担当の第7偵察隊が基地にいなくて幾分か負担は減っているらしい。

 

「聞いてるが思うが、もう一戦あるらしいぞ」

 

「ええ、聞いてるわ。元の世界から援軍を要請しようにも無駄死にになるだけ・・・・・・それよりも破格の資材コストでロボット軍団を増産した方がいいわ」

 

「君もすっかりこの世界に染まったな」

 

「まあね――で、第13偵察隊はどうする気なの?」

 

「あいつらには優先的にいい武装とパワーローダーを回してある。自惚れかもしれんが・・・・・・自衛隊の最強部隊はあいつらかもしれん」

 

 あの二人(緋田 キンジと宗像 キョウスケ)には聞かせられんがな。

 

「そうね――否定出来ないわ。他の部隊も元の世界でも十分通用する部隊になってるわ。皮肉な事にね」

 

 この世界の地獄がそう変えた。

 そう思うと水島一尉の言う通り本当に皮肉である。

 

 



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第二十八話「この世界の人々は決断した」

 Side アネット

 

「まったく、リビルドアーミーの連中とやり合う事になるとは思いませんでしたわ」

 

「でも姉さん、報酬はかなり貰いましたね。ここらで引き際弁えて退散します?」

 

「うーん」

 

 ニッパの言う通り。

 報酬+リビルドアーミーからかなり分盗った分で暫くは楽な暮らしが出来るだろう。

 

 聞けば再度の襲撃の可能性を考えてもう一戦やり合うらしい。

 しかも空中戦艦まで出張ってくる可能性があるのだとか。

 

 ニッパの考えが正しいのだろうが――

 

「では何処へ向かいます?」

 

「え?」

 

「無理強いはしませんわ。報酬も持っておいきなさい」

 

「姉さんはどうするんですか?」

 

「一度限りの人生、勝負を仕掛けてみようと思いますの――疲れたのかも知れませんわね。水を巡って、食料を巡って、未来に不安を覚えながら生きていく日々――」

 

「姉さん・・・・・・」

 

 ニッパは何も言わなかった。

 彼女は脳天気そうではあるが、この世界出生きていく道理やルールは分かっている。

 

「だからこそ、懸けてみたいと思いますの。新しい未来に」

 

「ジエイタイの人達は?」

 

「無理強いはしないと。食料や水も好きなだけ持って行けって――泣きながら――全くお馬鹿さん達ですよね――」

 

「仲間達と相談してきますけど、たぶん皆残ると思いますよ。姉さんがいたからここまで辿り着けたんですから」

 

「そう――」

 

 本当にバカばっかりなんですから。

 リオやパメラ、パンサーにしてもそう。

 すっかり彼達――ジエイタイの人達に感謝して。

 

 日本の人達が全員そうなのか。

 それともジエイタイの人達が特別なのかは分からないが。

 

 少なくともここにいるジエイタイもとんでもないお人好しのバカ達だ。

 普通ならこの世界で数日も保たずに野垂れ死ぬような連中だ。

 

 そんなんだから惹かれたのだろうか・・・・・・

 

 ああ、私もバカなんだ・・・・・・

 

 そう思ってしまうと笑ってしまう。

 

 Side 緋田 キンジ

 

 戦闘準備の真っ只中。

 なんか妙な集団が現れたと聞いて対応することになった。

 

 全員が全身白尽くめでガスマスクをつけ、スナイパーライフルを持った集団だった。

 

「なあ、リオ? 彼達の事は分かるか?」

 

 物は試しにリオに聞いてみた。

 

「主に地下部に潜む部族達よ。私達も詳しくは知らないけど――地下族って呼ばれている」

 

 俺は「地下族ね・・・・・・」と言いつつその人達に近寄る。

 

「えーとアナタ達は何しにここへ」

 

『失礼。アナタはジエイタイの方ですな?』

 

「はい――」

 

『我々は地下族と呼ばれている物です。リビルドアーミーと戦うと聞いてここに駆けつけて来ました』

 

「えーとこの辺りに住んでいるんですか?」

 

『はい。ずっとアナタ達を監視していました』

 

「え!? ずっと!?」

 

『最初はリビルドアーミーの新手かと思いました。もしくはそこから派生した組織かと――だけど調べていくウチに違うと来た。そしてリビルドアーミーと戦う事を決意した』

 

「いや、リビルドアーミーと戦う事になったのは場の流れと申しましょうか・・・・・・」

 

『それでも我々にとっては一族の命運を左右しかねない程の大事な事です。リビルドアーミーは年々力をつけ、そう遠くない未来――奴達にこの世界は支配されるでしょう。そしてそれはアナタ達が敗北すれば同じなのです』

 

「・・・・・・俺達の世界の資源がリビルドアーミーに渡れば終わりって考えか」

 

『その通りです。潤沢な食料や水、資源――それが渡ってしまえばもはやリビルドアーミーは誰にも止められません。このまま滅び去る未来を待ち受けるよりかは勝負に出たいと言うのが我が一族の考えです』

 

「あ~一応言っときますけど――確かにリビルドアーミーと全面戦争みたいな状態になってますけど、俺達の目的はなんでこの世界にゲートが繋がったのかの調査が目的ですからね? その辺りは分かってます?」

 

『承知の上です。それに――我々にも非があります』

 

「え?」

 

『この状況に至るまで、手を差し伸べるどころか我々は立ち上がる事は出来なかった。出来る事と言えばお亡くなりになったジエイタイの身柄を綺麗にして返すことぐらいです』

 

「もしかして行方不明になっていた他の偵察隊の――」

 

 武装が貧弱だった、元の世界の武装を使用していた初期の頃。

 偵察隊を四方八方に派遣して多くの犠牲者を出した悲劇がある。

 その時の自衛官はまだ全員が見つかってないと聞いていた。

 たぶんその人達なのだろうと思った。

 

『一族を代表してお詫び申し上げます。基地の代表者にもお伝えください』

 

「分かった・・・・・・」

 

『それともう一つお詫びとしてグレイヴフィールド内の抜け道や自分達の持ってる情報を教えましょう』

 

「ッ!? 分かった、すぐに基地の代表者に会わせる。俺に伝えるよりその人に伝えてくれ!!」

 

『感謝致します』

 

「それにしてもそれってアナタ達の生命線ですよね? よく教える気になりましたね?」

 

『これまでの非礼のお詫びです。既に仲間達がグレイヴフィールド内のリビルドアーミーに戦闘を仕掛けております。時間稼ぎにはなりましょう』

 

「助かる――律儀なんだな――」

 

『信用を得るためには行動で示さなければならない。それが我々の部族の教えな物でして』

 

「とにかく案内するよ」

 

『分かり申した』

 

 

 Side リオ

 

「うわ~凄いね。謎に包まれてた地下族の人達まで味方につけちゃうなんて」

 

 と、地下族を案内するジエイタイの事をパンサーが賞賛していた。

 地下族は恐ろしい連中で野盗やヴァイパーズだけでなく、リビルドアーミーですら易々と手を出せない殺し屋集団だった。

 

 想像よりも義理堅かったのにも驚いたが、それよりもあそこまで下手に出るなんて思わなかった。

 

「情けは人のためにあらずって言うのかしら――」

 

「なにそれ?」

 

 パメラの言葉に私は首を捻る。

 ここに来たと言う事は整備作業も一段落したのだろう。

 

「ジエイタイがいた国の言葉よ。よく意味が誤解されるらしいんだけど、人への情けのお礼は巡り巡って自分の元に何かしらの形で返ってくるって言う私達には無縁な言葉よ」

 

「さっきのはまんまそれだったね」

 

 パンサーの言う通りさっきの光景はその言葉を言い現した物だった。

 周囲もザワついている。

 

「どうする? 俺達もまた一発かますか?」

 

「報酬が出るかどうかは分からないが――リビルドアーミーにもう一発かませるなら悪くないかもしんねえ」

 

「あのジエイタイの連中、自分達だけでもやるつもりみたいだぞ」

 

「正気かよ? まあ、泣きそうな顔で物資あるだけ置いていってくれたもんな」

 

「今度はもっと大部隊で戦艦まで出て来るかもしんねーんだろ? 勝ち目あんのか?」

 

「それでもやるってよ」

 

 と口々に言い合う。

 

「私は――戦う」

 

 私は再び決意し直すように言った。

 

「なに? やっぱり惚れてるの?」

 

 パンサーは冗談めかしに言うが。

 

「かもしれない」

 

 私は否定せず、パメラが「えっ!?」と驚く。

 パンサーは「おおー! いいね-!」などと盛り上がっていた。

 

「ヒダ キンジって人?」

 

「うん」

 

 私は言った。

 言ってしまった。

 

「そう――パンサーはどうなの?」

 

 パメラはパンサーに尋ねた。

 

「私どちらかって言うと彼方此方放浪するのが性に合ってるタイプなんだけどね? ジエイタイの人達嫌いじゃないし、こう言う祭りに参加しないと損じゃん」

 

「アナタもなんだかんだで好きなのね――まあ私はリオと一蓮托生だし、付き合うか・・・・・・」

 

「パメラも素直じゃないんだから。私も一緒に戦いたいっていいなよ」

 

 そう言われてパメラは「パンサー・・・・・・あのねぇ・・・・・・」と恥ずかしそうにしていた。

 

 なんだかおかしくなってしまう。

 

 不思議な物だ。

 先程とは比べものにならない程の大規模な戦いになるかも知れないのに。

 

 私の勘違いか、それともジエイタイの人達の不思議の魅力がなせるワザか。

 

 リビルドアーミーに勝てる。

 

 そんな気がするのだ。

 



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=幕間:死神=

 Side ???

 

 そこそこ発展した町がリビルドアーミーに支配されたり、リビルドアーミーと戦う道を選んで滅ぼされたりする。

 

 他にもヴァイパーズや野盗。

 

 化け物どもや暴走機械に理不尽に蹂躙されたりする。

 

 そしてまたどこかが発展し――また滅びて――

 

 そうやって発展と衰退をこの世界は繰り返してきた。

 

 そんな世界の過酷さを学びながら生きていく。

 

 できなければ死ぬだけだ。

 

 

 俺は野盗やらヴァイパーズやら、リビルドアーミーと戦い続けた。

 怒りのままに戦った時期もあるし、最近は食い扶持を稼ぐために戦っている。

 

 だけど、戦っても戦っても世の中って奴はよくはならない。 

 精々一時凌ぎだ。

 

 もうなにもかも忘れて、稼ぐだけ稼いで何処かで静かにのんびり暮らそうかと考えた。

 

 そんな時に妙な連中が現れた。

 ジエイタイと言う連中だ。

 

 グレイヴフィールドの無人軍事基地に居着いた謎の集団。

 ヴァイパーズの大部隊からシップタウンを守りきった連中だ。

 

 だがそれよりも気前よくぶつぶつ交換で水や食料を分け与えてくれたりとか、コインさえ払えば風呂まで入らせてくれるらしい。

 

 さらには色んなもの――ちゃんと枚数揃ってるトランプやオセロなどを売買したりしている。

 

 化け物やら野盗やらが来ても率先して戦ってくれる。

 

(今はこんなだけど、何時か化けの皮が剥がれるんじゃないのか)

 

 などと思いながら接してきた。

 別の世界から来たとか言っているが本当かどうかも怪しい。

 鎌掛けてみたりもしたがハズレに終わった。

 

 ジエイタイでも女やギャンブルで破滅したり、ジャンキーがいたりとか犯罪に走る奴がいるとかジエイタイの口から出た時は驚いたが――それでも用心するに越したことはないと思った。

 

 リビルドアーミーとの戦いの時も俺は積極的には戦わなかった。

 片手間に戦いながら観察する感じだ。

 

 一度は乗り越えても二度、三度と戦い続けられない。

 そうして滅んできた場所を何度も見てきた。

 

 だがそれでもジエイタイは戦い続けようとしている。

 ヘタすりゃ核で吹き飛ばされるかもしれねえのに、先程よりも大部隊で空中戦艦も敵に回すかもしれないのにだ。

 

 そしてジエイタイが取った行動は良い意味で裏切られた。

 半泣きになりながら物資を置いていき、総力を挙げて戦闘準備である。

  

 どう反応すればいいのやら。

 人が良すぎると思っていたがドが過ぎるぐらいに人が良すぎる。

 

「逃げりゃいいのに」と言ってはみたがそれでも「本当は恐いですけど、自分達にも守るべき物はあるんです。今までお世話になりました」と返してきた時は本当になにがなんだかと思った。

 

 なに? 俺がおかしいのか?

 それとも彼奴らみんなバカなのか?

 

 バカみたいに正直で言っている事が矛盾してんじゃねーか。

 

 どいつもこいつも情けない顔して覚悟してますとか言っちゃって。

 でもやっと分かった。

 

 こいつら、とんでもないお人好しのバカなんだ。

 バカもここまで貫き通せばいっそ見事だ。

 

 それを分かった途端、少しぐらい手を貸してやろうかと思った。

 

 

 グレイヴフィールド内部。

 

 リビルドアーミーの拠点の一つ。

 

 学校と言う勉強と言うのをする場所だったらしい。

 昔の人間は豪華な建物で勉強してたんだなと思う。

 

 今は野盗か、それともヴァイパーズの安全地帯だったんだろうが、今はリビルドアーミーに占拠されている。

 

『敵襲!?』

 

『敵は何体だ!?』

 

『分かりません!!』

 

 俺はパワーローダーを身に纏って次々と斬り裂いていく。

 リビルドアーミーの連中は基本、接近戦にトコトン弱い。

 武器はいいだけの素人だらけだ。

 

 俺のパワーローダーは黒いステルス性特化。

 そして近距離戦闘特化型。

 パワーローダーのセンサーにはまず引っかからない。

 接近戦に持ち込めばほぼ無敵だ。

 

 オマケだ。

 両翼にファンがついた飛行機械「バード」や物資を破壊していく。

 

 

(まあこんなもんか・・・・・・)

 

 敵の殲滅を終えて帰還する。

 これで少しは時間稼ぎにはなるだろう。

 地下人と鉢合わせする前に退散するとしよう。

 

 



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第二十九話「激戦前の一時」

 Side 緋田 キンジ

 

 作戦内容は至ってシンプルだ。

 やられる前にやる。

 と言うのもリビルドアーミーの思考を考えた場合、核兵器でグレイヴフィールドもろとも俺達を吹っ飛ばすなんて言う選択肢も十分にありえるからだ。 

 

 討伐部隊は敵の空中戦艦の進路を先回りして破壊するための準備を整えると言う内容だ。

 そのために簡易型のイージス・アショアの設置が不眠不休で進められている。

 他にも対艦ミサイルやレールガンなど様々な手を準備中とのことだ。 

 

 第13偵察隊の任務は進路場に先回りして撃破支援の手伝いだ。

 

 そのためには危険地帯であるグレイヴフィールド内部で待ち構えると言う内容だったが――地下族の人達との出会いで全てが変わった。

 

 

 グレイヴフィールドの地下施設。

 いや、地下の商業施設群の成れの果てを進む。

 そこは文字通りのダンジョンと言って良い。

 

 パワーローダーで様々な機器を運搬しながら荒廃した地下を進む。

 

『グレイヴフィールド内のリビルドアーミーには破壊工作を仕掛けております』

 

『その全ての場所を陸将殿に順次伝えておりまする』

 

 それを聞いて緋田 キンジは『ありがとう』とパワーローダー越しに返しながら(その気になれば米軍ともやり合いそうだな)と恐ろしさと頼もしさを感じた。

 

 同時に世界各国の軍隊などがどうしてゲリラに苦戦するのかもなんとなく理解出来た。

  

☆ 

 

 地下族の案内は的確だった。

 どこか危険地帯でどこが道が塞がっているのかを全て把握しているのだ。

 

 少々危険だがと前置きしてグレイヴフィールド中央部のビル群に案内された。

 ひび割れて部分的に倒壊していたりする場所だ。

 だが遠い場所を観測するには持って来いの場所でもある。

 

 そこに様々な観測機を設置する。

 

『未来兵器が相手なんだろ? 俺達の存在なんか丸見えじゃないのか?』

 

 と、キョウスケが当然の疑問を口にするが――

 

『ご安心ください。このグレイヴフィールドは今尚、様々な生命体が闊歩している魔窟。ゆえにセンサーやレーダーは殆どアテになりません。念入りにデコイやジャミングを設置しておりますが』

 

『ああうん――キンジ、この人達頼もしすぎるんだけど』

 

『ああ。本当に敵に回さなくて良かったな』

 

 正直リビルドアーミー敵に回すより恐いんだが。

 もしも敵に回してたら本当に自衛隊は壊滅していただろう。

 

 大国の軍隊でもどうなるか分からない。たぶん追い詰められて地下に毒ガスとか絨毯爆撃、バンカーバスター(貫通力が高い耐要塞用兵器)かますかぐらいはするだろうが、それすらこの人達には無力な気がする。

 

 

『設置完了――パワーローダーって便利だぜ』

 

 コンテナの中に様々な機器を入れてこうしていたが、生身だったら重労働だったし、短時間でここまで見晴らしの良いビルの数階先の場所まで辿り着くことは出来なかっただろう。

 

 地下人の人達は念のための脱出手順を説明してくれていた。

 本当に用意がよくて頼りになる。

 

 パワーローダーから出てビルの廃墟から双眼鏡で周囲を探索する。

 

「グレイヴフィールド全体が見回せるな・・・・・・自衛隊基地はあっちで――あいつらが来たのは丁度(グレイヴフィールドの)反対側か」

 

 そう言って双眼鏡を向ける。

 空中戦艦だけでなく、大量の飛行機械を惜しげもなく導入してきた連中だ。

 何かしらの動きは察知できる。

 

「こうしてグレイヴフィールド見渡すと、まだ見たこともない化け物とか妙な機械がうろついてんな・・・・・・よく今迄おれたち生きて来れたな・・・・・・」

 

 などとキョウスケは顔を青くしながらグレイヴフィールド内を見渡していたので俺は「仕事、仕事」と意識を切り替えるようにいった。

 

「つうか、リオ。君達も来てたの?」

 

「うん。ダメだった?」

 

「――まあいいか」

 

 リオやパンサーが居るのはもう考えないようにした。

 

 日本の十代少年少女ではない。

 

 この世界の十代少年少女の精神構造はヘタな大人よりしっかりしている。

 子供扱いするのは逆に失礼なように思えた。

 

 とりあえず準備その物は完了している。

 

 交代制で見張りを続ける。

 

 通信は念のため、控えるが。

 

「リオ、その――なんだ? どうしてここまで付き合ってくれるんだ?」

 

「一緒にいたいからじゃダメ?」

 

「一緒にね・・・・・・」

 

「それにこの世界の命は軽いから。離ればなれになるのが恐いの」

 

「ああ・・・・・・」

 

 自衛隊基地周辺でも修羅な状況だもんな。

 俺も最初の偵察任務の時は死にかけたし。

 

「ずっと、ずっと生きていくのに必死だった。生活が安定して来たのもキンジ達と出会う前ぐらいだった」

 

(どう言ったもんか・・・・・・)

 

 安易な同情は傷つけることになる。

 だけど、どう言えばいいのか分からず無言になる。 

 

「だけどキンジ達と出会って変わった。生活もそうだけど、パメラもパンサーも――短くて大変な日々だけど、未来に希望がもてるようになった」

 

「未来に――希望?」

 

「みんな明るく振る舞ってるけど、本当はそれを上手く誤魔化して生きているの。私だってそうだったから」

 

 そんな話を聞いたせいか。

 俺も過去を語り始めた。

 

「・・・・・・俺がリオぐらいの年齢の時は――そうだな、親と上手く行かなくて、荒れてたと思う」

 

「――親と上手く行かなかったの?」

 

「正直言うと、この世界のことはまだ知らないことが沢山だ。でも、自分の過去を話すのはなんだかリオ達に話すのは失礼に当たるかなって思うとやめておいたんだが」

 

「ううん。聞かせて」

 

 俺は「そうか」と返して話し始める。

 

「俺の家族は控えめに見てもおかしな連中でな。いわゆる自衛隊は解散しましょう、平和の敵だとか平然いっちゃうような連中だったんだ」

 

「ジエイタイが平和の敵?」

 

「軍隊があると戦争になるから解散しましょうって言う、そう言う考え方だったんだよ。ウチの親」

 

「えーとそれだけ平和なの?」

 

 まあそう反応するのも無理もないよな。

 

「あまり自衛隊がこんなこといっちゃいけないんだが、リビルドアーミーと五十歩百歩ぐらいの事を平然とやらかす国が隣にいる状況を平和って言うんなら平和なんだろうな」

 

「・・・・・・ちょっと理解できない」

 

「リオの反応が普通なんだろうな――周りもそんな反応だった。だから俺は親から逃げるようにして自衛隊に入った。国を守りたいとかどうとかじゃなくて、ぶっちゃけ親への反抗が理由だ」

 

「そうなんだ・・・・・・」

 

「ああ、だけど色んな人と接していくウチに俺はなにをやってんだろと思いもしたよ。正直自衛隊を辞めて自分の人生を見つけようかなって考えたりもしたけど――この世界に関わって、もう少し続けてみようかなって思った」

 

「どうして?」

 

「まあ色々だ。それに日本でのんびり暮らすには・・・・・・ちょいと暴れすぎたかな?」

 

「え?」

 

「日本で人を殺すのは、例え相手が悪人であっても犯罪なんだ。理由があって無罪放免される事があるけど、どんな理由があっても人殺しは周りから迫害されてしまうんだ」

 

「そう――なんだ」

 

「だから日本で元の生活に戻って暮らせるかどうかも怪しいのさ」

 

「複雑なんだね、キンジの世界って」

 

「そうだな――」

 

 本当に複雑だな、俺達がいる世界は。

 

 

 Side 宗像 キョウスケ

 

 ふと俺は思う。

 

 もうそろそろ止めた方がいいんじゃないかと。

 

 あの二人の会話、通信機越しとかで筒抜けなんだけど。

 

 いい会話だけど完全に恋人同士の会話だぞ。

 

 誰が止める?

 

 ルーキー辺りに止めに行かせるか?

 

 メチャクチャ良いムードでヘタに止めに入ったら殺されそうなんだけど。

 

 他の隊員も、パメラもパンサーも、地下人の皆さんも様子がおかしい。

 

 本当、どうしましょう・・・・・・



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=幕間:キョウスケとパメラ=

 Side 宗像 キョウスケ

 

 先程のやりとり――キンジとリオの会話を聞いてまだ恥ずかしさが残っている。

 

 パメラも同じらしい。

 

 パメラ。

 黒髪のボブカットの少女でメカニック、リオやパンサー達の大黒柱的な存在。

 今回はトレーラーを自衛隊に預けて専用の黄色い整備用パワーローダーを身に纏ってここまで来たらしい。

 

 俺はなんだかんだで色々と接点が多い。

 昔から機械弄りとか好きだったのもあるのだろうが、パワーローダーの整備とか、出会って初期の頃からアレコレ教えて貰ったりとか。

 

 あと、リオがキンジに懐いた流れでアレコレと俺にパメラが聞きに来て――と言う流れで接点が出来た。

 

「はあ・・・・・・あの二人、あんな仲になるなんて」

 

「俺も驚きだ。まあけど日本基準で考えると――っておたくら年齢幾つよ?」

 

「女の子に年齢尋ねるのってマナー違反だって教わらなかった?」

 

「悪いが失礼を承知でたのむ。日本だと二十代の男性が年下の十代女子・・・・・・それも15から18ぐらいの女の子と付き合うのは問題があるんでな」

 

「リオと言ってたけど色々と複雑な国なのね」

 

「まあな」

 

「年齢なんて数えるだけ無駄って奴は多いけど私達はきちんと覚えてるわよ。十六歳ね」

 

「見た目通り本当に若いな」

 

「まあね。向こうの世界の十六歳の女の子ってなにやってるのかしら」

 

「少なくともお前らの方がしっかりしてるから安心しろ」

 

「ふーん?」

 

 最近の女子高生の生態なんて殆ど知らないが、ここまでシッカリと自立した十六歳なんて日本には希少種だろう。

 

 大半以上が親のタダ飯食らって、小遣いもらって、自分で稼いだこともなく、金のありがたみとか知らず、勉強する意味とか分からず、悩み無く遊べる時間とか趣味に熱中できる時間とかの大切さとかも分からず――良くも悪くも平和なのだ。

 

 あんまり比較が過ぎると、平和の意味どうこうの議論にすら発展しかねないからやめておいた。

 

「ふと思ったんだけど自衛隊の人達って女の人に興味持たないの?」

 

「なんだ急に?」

 

 パメラの急な話題に俺は流石にたじろいだ。

 

「女性の自衛官の人達もそうだけど、多くが未婚って聞くじゃない」

 

「あ~したくても出来ないって言うか、何て言うか・・・・・・そもそも自衛隊はそう言うの五月蠅いし、出会いの場とか少ないからさ。それに俺達任務でこの世界に来てるから任務中に女を作るって色々と体裁悪いからさ――」

 

「ふーん? ようするに女つくっちゃいけないんだ? ヒダ キンジは作ってるのに?」

 

「すいません。自分達もよくわかんないです。その辺りの線引き。と言うか自衛隊って基本男所帯だけど世間の目とかあるからそう言うのに厳しくて・・・・・・」

 

 だから女とかそっちの系の店で破滅する男自衛官が出てくるのだ。

 

「自衛官も色々と大変なのね~」

 

「まあな。自衛官の恋愛問題は死活問題だしな・・・・・・」

 

「気をつけなさいよ? 自衛隊を狙ってる女性達は多いんだから」

 

「どうなってんだ女性達の自衛隊評価」

 

 ちょっと恐くなってきたぞ。

 

「グレイヴフィールドまで辿り着ける女性達は皆タフだからね。よっぽどでない限りは私が養ってやるわって言う連中ばかりよ」

 

「この世界の女性は逞しいねほんと」

 

「そんだけジエイタイは好かれてるってことよ」

 

「ヘイヘイ・・・・・・」

 

 二度も言うが本当に恐くなってきたぞ。

 独身自衛官がこの世界の女性に狩られるの?

 アマゾネスなの? この世界の女性って?

 

 ともかく任務に集中しよう。

 

 うん、そうしよう。



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第三十話「空中戦艦襲来」

 Side リビルドアーミー 空中戦艦艦長 ワイルダー

 

 =空中戦艦エアーベース・ブリッジ=

 

「見えてきた。アレがグレイヴフィールドか・・・・・・」

 

 遠くに見える廃墟を見て私は呟いた。

 まだ早朝で暗いが、嘗て栄華を誇った大都市の末路がよく見える。

 

「核で吹き飛ばしますか?」

 

「アンサム君。奴達も核兵器を持ってる可能性があるのを忘れてはいないか? これは戦いであると同時に駆け引きなのだよ」

 

「し、失礼しました」

 

 これだからリビルドアーミーは野蛮人だらけと言われるのだ。

 核兵器はこの世界では珍しくともなんともない。野盗やらオーガだって何故か持ってる。

 

 なんならパワーローダーの動力炉を大量に取り出し、改造して括り付けて、大砲で打ち出せば即席の強力な核兵器が作れる。

 

 我々は核攻撃に失敗した。

 相手は核攻撃をしないと考えるより、核攻撃をする前提で物事を進めた方が良い。

 

(ガルノフのバカはやってくれたよ。無能なせいで空中戦艦まで差し向けて相手を殲滅しなければならなくなったのだから)

 

 リビルドアーミー・・・・・・リビルドシティは周辺の恐怖支配で成り立っている。

 

 その恐怖支配に抗う連中は次々と潰した。

 

 一度は退ける骨のある連中はいたが、大体は空中戦艦を差し向けた段階で終わった。

 

 今回もそうなるだろう――

 

「高速で飛翔する物体接近!! これは――ミサイル!?」

 

「なに!? 迎撃しろ!?」

 

「一発や二発ではありません!! 数十発が同時に――地上からも攻撃が来ています!!」

 

 迎撃に成功したのか爆発の振動音が艦に伝わる。

 爆発の規模からして核ではないようだ。

 

「監視は何をしていた!? このマヌケ共が!? 弾幕を張って迎撃!! このまま敵の基地まで突っ込むぞ!」

 

「しかし、それでは――」

 

 副官のアンサムが躊躇う姿勢をとるが――

 

「言っただろ、駆け引きなのだよ!! 後退、あるいは立ち止まれば敵の良いカモだ!」

 

「ですが罠の危険性も――」

 

「相手は弾道ミサイルや戦艦に砲撃をかますほどの軍事力と弾道ミサイルを惜しげも無く撃ち込んでくるテクノロジーを持っているのだ! お互い核爆発に巻き込まれる至近距離での殴り合いに持ち込んだ方が勝算がある!」

 

「無理にそうしなくても援軍を――」

 

「アテにならん援軍など、いない方がマシだ! このまま全速前進で飛び込むぞ!」

 

「りょ、了解――」

 

 ヤレヤレだ。

 ガルノフが敗れたのは油断だけではなかったようだな。

 丁度良い。

 雑魚の後始末にも飽きてきたところだ。

 

 こいつは楽しめそうだな。

 

 

 Side 五藤 春夫 陸将

 

 =大型トレーラー・臨時総司令部=

 

 我々は前回と同じく自分の基地を囮にするようにして展開している。

 基地周辺には多数のデコイ(囮)を用意しておいた。

 

 敵の――リビルドアーミーの空中戦艦。

 白と青の二色で配色されている。

 

 戦艦と言うよりも空飛ぶ、翼が付いた巨大なトレーラーのような印象を抱いた。

 サイズは*イージス艦よりも横幅があり大きい。

 

 イージス艦は――

 

 

 *イージス艦のサイズ

 

 全長:約160m。

 

 全高:諸説あるが船底からマスト込みで少なくとも約30mぐらい。

 

 幅:約20m.

 

 

 に対して、リビルドアーミーの戦艦は全長は約250m、全高60m。

 幅は50m以上で翼(ブースター?)の部分を含めると100mを越えるかもしれない。

 

 まさか自分が現役の時にこんな化け物と一戦交える事になろうとは――

 

「敵艦全速力で此方に突っ込んで来ます!!」

 

 部下の報告を聞いて「どうやら敵は思い切りのよい指揮官のようだな」と思った。

 

「非戦闘員はシェルター、あるいは元の世界に退避!! 攻撃の手を緩めるな!!」

 

「了解!! イージス・アショアフル稼働! 攻撃、迎撃準備よし!!」

 

☆   

 

 Side リビルドアーミー 空中戦艦艦長 ワイルダー

 

 =空中戦艦エアーベース・ブリッジ=

 

「敵の攻撃苛烈!! 市街地の彼方此方から攻撃が――」

 

「狼狽えるな!! 砲撃で潰していけ!! 現地にいる味方はどうした!?」

 

「交戦中です!!」

 

「だろうと思ったよ――敵の本拠地にはどれぐらいでつく!?」

 

「もうすぐです!!」

 

「到着次第、艦砲射撃で敵の基地を潰す! バード(ヘリ)部隊、パワーローダー部隊を出せ!」

 

「りょ、了解!」

 

☆ 

 

 Side 五藤 春夫 陸将

 

 =大型トレーラー・臨時総司令部=

 

「敵空中戦艦目視できる距離に到達!」

 

「発砲開始! 基地施設を重点的に狙っています!」

 

 予測はしていたが前代未聞の至近距離での殴り合いになるとは。

 

「此方も反撃開始! 敵空中戦艦に火力を集中させろ!!」

 

 だが負けてはならぬと気合を入れて指示を出す。

 

「敵空中戦艦から飛行機械及び、パワーローダー部隊発進!!」

 

「此方もパワーローダー部隊を出せ! 攻撃部隊に一歩も近づけさせるなと伝えろ!」

 

「了解!」

 

 さて、ここからが正念場だぞ・・・・・・

 

 

 Side リビルドアーミー 空中戦艦艦長 ワイルダー

 

 =空中戦艦エアーベース・ブリッジ=

 

「敵パワーローダー部隊と交戦!!」

 

「敵の攻撃苛烈! 被害が拡大しています!」

 

「空中航行維持できません!」

 

「敵の基地に戦艦を着陸させろ!」

 

「しかし――」

 

「敵を片付けてからゆっくり修理すればいい!! それともこのまま空で散りたいのかね!?」

 

「りょ、了解!!」

 

 ここでアンサム君が「やはり突撃は無謀だったのでは!?」と言うが――

 

「逆だよ! 今ここで仕留めねば出世どころかリビルドアーミー全体の脅威になりえる! それとも君は滅び行く組織の中で成り上がりを夢見るバカなのかね? そうなりたくなければここで多少泥を被ってでも勝つ必要があるのだよ!」

 

「りょ、了解!」

 

 まさかこんな日が来ようとはな。

 

 自分の認識は間違っていた!

 

 ああそうとも、間違っていたさ! まさかここまで強大な軍事組織だったとは。

 

 少なくともこの周辺に何時? 何処で誕生した?

 

 しかもグレイヴフィールドなんぞで?

 

 ガルノフのバカを笑えんな。

 

 ともかく我が軍も退路がないことは分かっているだろう。

 こうでもせんとやる気を出さんからな。 

 

 

 Side 五藤 春夫 陸将

 

 =大型トレーラー・臨時総司令部=

 

「敵スモーク展開!!」

 

「電波妨害発生!! レーダーにノイズが!?」

 

 そこまで聞いて私は敵の目論見に気づいた。

 

「敵はパワーローダーによる白兵戦で勝負をつけるつもりだ!! スピーカーを使っても構わん!! 総員に此方も白兵戦の準備をさせろ!!」

 

「りょ、了解!!」

 

 もはやノーガードの至近距離の殴り合いだ。

 まさかこうなるとは思いもしなかったが嘆いてばかりはいられない。

 ここで何としても奴達を食い止める。 



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第三十一話「大激突」

 Side 緋田 キンジ

 

 まさか敵の戦艦が腹を括って突撃をかますとは思いもせず、意表を突かれた。

 

 慌てて自分達の基地に戻った頃には既に激戦が始まっている。

 自分達の基地に敵の空中戦艦が座礁し、空中と地上で激しい砲火が飛び交っていた。

 

 前代未聞の大規模白兵戦である。

 

 地下族の人達はグレイヴフィールド内部のリビルドアーミーを合流させまいと必死に今も戦っている。

 

『敵――!? 背中にファンがついている!?』

 

 リビルドアーミーのパワーローダーは前回戦った機種だ。

 背中に二つファンがついた飛行ユニットをつけている。

 他にも飛行機械が飛び回っていた。

 

『クソ――電子機器にノイズが――電波妨害か!?』

 

 そう言いつつパワーローダー、バレルで迎撃するキョウスケ。

 両肩のキャノン砲と両手に持った銃火器で弾幕を張る。

 

『直接照準で狙うしかない!!』

 

 そう言ってパワーローダーを身に纏ったリオは相変わらずの芸術的な二丁拳銃の射撃技術で空中の敵を狙い撃っていく。

 

『後ろのファンを狙って撃ち落とせ! そっちの方が手っ取り早い!』

 

 キョウスケは『的確な指示ありがとうよ、緋田隊長!』と軽口を飛ばしつつ、狙いを後ろのフライトユニットに切り替えた。

 

 敵の動きは見た目よりも素早いが打ち落とせない速さではない。 

 

『俺達はどうする!? このまま戦い続けるか!?』

 

『泥沼になるだろうがそれがベストだ! この状況でヘタに動き回れば敵だけじゃなく、味方の攻撃で戦死するぞ!』

 

『だよな!』

 

 ジャミングの影響でレーダーも無線もアテにならない。  

 第二次大戦の戦場はこんな感じだったんだろうか。

 

(ともかく数を減らさないと!!)

 

 近付く敵を片っ端から潰していく。

 

『なに!?』

 

 突然基地の彼方此方から猛烈な砲火がリビルドアーミーに襲い来る。

 

『アレは――トレーダーやキャラバン――この世界の住民か――』

 

 この世界の住民は前回に引き続き参戦してきた。

 次々とリビルドアーミーのパワーローダーや飛行機械を破壊し、空中戦艦にダメージを与えていく。

 

 

 Side アネット

 

 私もパワーローダー、バルキリ―で戦う。

 ややピンク寄りの赤塗りにした私専用の機体。

 

 ニッパ達もバルキリータイプを身に纏って戦う。

 

 他のトレーダーやキャラバンも武装車両に乗り、ある者はパワーローダーを身に纏い、この場に駆けつけた。

 

 この場にいない人々もそれぞれの戦いを始めている。

 

 全てはあの日々――働けば水や食料に困らない、風呂にも入れる、娯楽がある日常。

 

 そして私は――望んだ未来のためにこの場所に立っている。 

 

 

 Side ???

 

『こう言う状況は慣れねえが! やれねえワケじゃねえ!!』

 

 ここに集まった連中は皆、覚悟を決めている。

 理由は様々だが未来に命を懸けたのだ。

 

 その未来はどう言う未来かは分からないが――少なくとも今よりかはマシな未来だと信じてな。

 

 それに――

 

『前金はたんまり貰ってるんでな!! そんぐらいはキッチリ働くぜ!!』

 

 そう言って次々とリビルドアーミーの連中を切り捨てていく。

 本当にガラにもない事をやっている。

 

 ジエイタイの連中に感化されていたのは分かっていたがここまで感化されていたとは思わなかった。

 

『なんだ!? 何が起きている!?』

 

『目視できないだと!? 何処にいる!?』

 

『探せ!? 何処かにいるはずだ!?』 

 

 残念だがこの機体はステルス性特化型。

 お前らリビルドアーミーのセンサーでも捉えられやしねえよ。

 

『オラオラ!! 死にたい奴から掛かってきな!! お前らに殺された連中があの世で待ってるぜ!!』

 

   

『荒野の野良犬どもが群れやがって!!』

 

『バカ!! 乱射するな!! 味方にもあたるぞ!!』

 

『こんな無茶苦茶な作戦――』

 

『増援はまだか!?』

 

『敵が勢いづいて――攻撃が止まらない!!』 

 

 援軍の参戦で敵の撃破率が急上昇して行っている。

 

『ははは、笑うしかねえ・・・・・・』

 

 キョウスケの言う通り笑うしかない。

 この勝負――勝ったな。 

 

『まだだ、まだ終わりではない!!』

 

 男の声が響いた。

 

『勝負はこれからだ!! リビルドアーミーの恐ろしさを見せてやる!!』

 

 同時に艦内から大量の無人兵器やパワーローダー。

 武装車両が出て来る、

 

『まだあんなにいたのかよ!?』

 

 キョウスケが驚くのも無理の無い程の数だった。

 

『恐らく温存していた戦力とか予備戦力、全てを放出したんだろう。籠城戦してもジリ品になるから勝負に出たんだ』

 

 俺はそう感じた。

 

『なんかパワーローダーの中にヤバそうなのがいるんだが――』

 

『ああ・・・・・・』

 

 キョウスケの言う通り、確かにやばそうなのがいる。

 他のリビルドアーミーのパワーローダーと違い、明らかにシルエットが違う青色のパワーローダー。

 二本角で二つの瞳、口と思わしき突起物。

 右手にライフル、左手にシールド。

 両肩の上にコンテナ。

 背中に大きなバックパック。

 重厚そうなシルエット。

 

『ぬおおおおおおおおおおお!!』

 

 にも関わらず、素早い動きで次々と戦闘ヘリやパワーローダー、車両を討ち取っていく。

  

『まさか――アレはアインブラッドタイプ!?』

 

 リオが何か知ってそうだが――

 

『アレを放置していたらまずい!! 自信が無い奴は下がれ!!』

 

『結局貧乏くじか!!』

 

 キョウスケの言う通り。

 今も尚、物凄い勢いで――青い閃光――とでも言うべきか。

 次々と味方が火花に散っている。

 

 そしてついにこちらにも――

 

『来るぞ!!』 

 

 俺達は戦闘に突入した。 

 



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第三十二話「アインブラッドの脅威」

 Side 緋田 キンジ

 

 全神経を張り巡らせ、敵の青く厳つい新手のパワーローダーと壮絶な戦闘を展開する。

 リオとパンサー、キョウスケ、ルーキー、WACの水瀬 キョウカ、高倉 ヒトミのコンビ達、他の偵察部隊の隊員総出で当たっている。

 

 相手は数の不利を物ともせず、たった一機で暴れ回っていた。

 パワーローダーの腕もあるんだろうがマシン性能の差が桁違いだ。

 右手のライフル――ビームライフルの破壊力にしてもまるで戦車から放ってるかのような大爆発が起きている。

 掠っただけでも装甲が融解して最悪爆散しかねない。

 

『ダメ――性能が違いすぎる』

 

『押さえ込むのも難しい!!』

 

 リオとパメラのコンビでさえも技量でどうにか押さえ込んでいる感じだ。

 リオのビームピストルもパメラのマシンガンとバズーカも当たりはするが決定打にはならなかった。

 

『ここは私が!!』

 

『私も行きます』

 

 水瀬、高倉ペアのブロッサムも加勢する。

 その流れで俺とキョウスケ、ルーキーも加勢した。 

 

『ルーキー!! 無茶だ!?』

 

 俺はルーキーは下がらせようと思ったが。

 

『無茶は覚悟の上です! やらせてください!』

 

『死んでもしらんぞ、クソ!!』

 

 舌打ちした。

 今は説得する時間すら惜しい。

 これで死んだら墓石にはバカ野郎って刻んでやる。

 

 

 戦いは命のやり取りをするのと同時に、自分達の限界を試しているかのような状況だった。

 

 どこまで限界性能を引き出せるか。

 

 どこまで眼前に強敵に食い下がれるか。

 

 そのために俺達は――戦い続けている。

 

 死の恐怖で心が押し潰されそうになる。

 マシンすらも無茶な動作で悲鳴を挙げているのが分かる。

 だがそれでも奴には届かない。

 

 キョウスケも地上を滑るようにブースターを噴かしながら的確に攻撃してくれている。

 

 水瀬も高倉も頑張って訓練に励んでいたのかコンビネーションで――俺達にも会わせて連携してくれている。

 

 ルーキーも、他の隊員も微力ながら援護をしてくれている。

 

 だけど届かない。

 

 この化け物を倒すにはどうすればいい!?

 

 どうすれば止められる!?

 

『ええい!! 貴様達だけに構ってはいられんのだ!!』

 

 そしてコンテナから超小型のミサイルらしき物が発射される。

 それを迎撃しつつ回避行動を取る。

 ミサイルの爆発、誘爆。

 視界が遮られる。

 

『まずはお前からだ!!』

 

『ッ!?』

 

 そして眼前に奴が――ビームライフルを向けて――やられる――死ぬ。

 

 死ぬ――

 

 し――

 

 しに――

 

 しにたく――

 

 死にたくない!!

 

『なに!?』

 

 咄嗟にビームライフルをライフルで破壊した。

 破壊される。

 ビームライフルの爆発を咄嗟にシールドで防いで距離を離す。

 

『やってくれる!!』

 

『うぉおおおおおおお!!』

 

『シールドの死角から!?』

 

 相手の右側面からパワーローダー用ライフルで仕掛ける。

 咄嗟に相手はシールドで防ぐが。

 

『後ろががら空きだぜ!!』

 

 キョウスケも仕掛ける。

 攻撃自体は当たっている。

 

『しまったブースターが!?』

 

 これまでの一人の大立ち回りが祟ったのか、それともキョウスケの攻撃が効いたのか、あるいは両方か――推進系統に障害が発生したようだ。

 

 味方の攻撃が次々と当たっていく。

 だがそれでもまだ倒れない。

 

 敵はサーベルを引き抜き、そして俺の方に迫り来る。

 ブースターを失っているのに素早い。

 

『まだだ! 一人でも多く道連れにしてくれる!』

 

『俺は――生きる!』

 

 そう言って対パワーローダー用ライフルを乱射しながら突撃する。

 

『俺も忘れんなよ!!』

 

『なに!?』

 

 そしてキョウスケも突撃する。

 反撃に転じようとしたが――

 

『機体が――損傷が激しくて――』

 

 動きが目に見えて鈍くなった。

 どうやら限界を迎えたらしい。

 

『『うぉおおおおおおおおおおおお!!』』

 

 俺とキョウスケはありったけの弾を叩き込んだ。

 全弾使い果たすつもりでだ。

 敵の機体は各部から煙や火花が起きて――そして――

 

『このままでは・・・・・・我々は、リビルドアーミーは負ける――』

 

 それが最後だった。

 盛大な大爆発を起こした。

 

 

 あのアインブラッドと呼ばれる機種のパワーローダーが敵部隊の艦長、ワイルダーと言う人物だったらしい。

 

 それが倒された段階で敵は降伏を申し出て此方もそれを受諾した。

 どうやら敵の方はそう言う風に段取りしていたようだ。

 

 念のため核ミサイルの使用を警戒したがその素振りもなかった。

 

 今回は敵味方ともに大勢の犠牲者が出た。

 勝ちはしたが素直に喜べない。

 

 あと、リオに「心配したんだから」と泣かれたのは辛かった。

 だがこれも生きていると言うことなのだろう。

 

 さてと。

 俺達の任務はまだ途中だ。

 

 そのためにも、また以前の日々に戻れるように全力を尽くさないといけない。

 

 悲しんでばかりもいられないのだ。

 



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一時の平穏
第三十三話「新たなる日々」


 Side 緋田 キンジ

 

 リビルドアーミーとの戦いの規模から見れば少ないが、犠牲は出た。

 空中戦艦が直接乗り込んで核融合炉のパワードスーツがビームライフルなどの未来兵器で武装して殺しに来たのだ。

 犠牲が出ないほうがおかしい。

 

 そんなワケで遺体処理と戦死者の確認、基地の復旧作業を行う。

 

 こんな状況でも――いや、こんな状況だからこそ襲撃は来る。

 

 俺はフェンサーではなく、俺達第13偵察隊は緑色のカラーにしたドランを身に纏って出撃する。

 

 キョウスケ達も同じだ。

 

 何時も使っているパワーローダーはメンテナンス中である。

 

 リオやパンサーもそうであり、ドランを使用している。

 

 基地内にはまだ空中戦艦が不時着しており、基地機能は未だ万全とは程遠い。

 相手は最近ナリを潜めていたヴァイパーズだった。

 

『こいつらこんな時にきやがって!!』

 

 と、キョウスケが愚痴るが、

 

『こんな時だからこそ来るんだよ!!』 

 

 俺はそう返した。

 本当にイヤなときはイヤなことが連続して起きる。 

 

 だが――

 

『ジエイタイの皆さんは休んでな』

 

『ここは俺達に任せろ!!』

 

 そう言ってこの世界の人々が立ち上がる。

 

『リビルドアーミーとやりあったんだ!! 今更テメェらヴァイパーズ如きに恐れるか、ボケが!!』

 

『戦艦でも用意して出直してこいや!!』

 

 と、強気にヴァイパーズへ射撃を加える。

 なんつーか凄い強気だな、皆さん。

 疲れとかないの君達?

 

 

 Side 五藤 春夫

 

「襲撃は何とか退けてはいるが――この戦艦は直せるのかね?」

 

 私は空中戦艦の艦内を歩き回りながら言った。 

 

「今は何とも――暫くは解析で手一杯のようです。幸いな事にデーターが残されており、修理のための資材は積んでいたようですからそれを使えば一週間以内にはどかすぐらいには持って行けます」 

 

 と、佐伯一尉が言う。

 

「そうか・・・・・・苦労をかけるな」

 

「いえ」

 

 今回の戦いで多くの殉職者を出した。

 近いうちにその責任を問われるだろう。

 その前にやれるだけの事はやっておきたい。

 

 

 Side ???

 

 =ヴァイパーズの拠点の一つ=

 

 たく、こいつらはうじゃうじゃ沸いて来やがるな。

 

 リビルドアーミー程じゃねえがテメェらにも恨みがある奴は大勢いるんでな。

 特に今は時期が悪い。

 ジエイタイが弱って上手く漁夫の利を啜ろうたぁ人生舐めるのも大概にしろや。

 

「まただ!?」

 

「一体何処に敵が――」

 

『何故だ!? 何故敵の姿が見えない!?』

 

 こいつらは生きるために人の命を啜って生きている害虫だ。

 一匹でも逃して情けを掛けたら悲劇が起きる。

 だからここで皆殺しにする。

 

『敵は白兵戦装備だ!?』

 

『撃ちまくって炙り出せ!!』

 

 そう言う手は何度も経験してんだよ!!

 一気に近付いて纏めて二体のパワーローダーを葬り去る。

 

 

(片付いたか・・・・・・戦利品は他の連中にくれてやるか・・・・・・)

 

 残っているのは残骸と死体だけだ。

 

 前金も報酬もジエイタイから十分貰ってるしな。

 今のところは死体漁りする必要もないしそんな暇もない。

 

 ヴァイパーズだけじゃなく野盗連中も活発化している。

 そのうち他の地域のヴァイパーズや別のグループ、野盗連中も雪崩れ込んでくる。

 時間稼ぎが必要だ。

 

 

 Side  シップタウンの代表者・マイア

 

「そうですか・・・・・・リビルドアーミーの空中戦艦までもを・・・・・・」

 

 その報せを聞いた時は最初は信じられなかった。

 今ではシップタウンやその周辺の地域ではジエイタイの話題で持ちきりだ。

 

 それだけでなく、今尚野盗やヴァイパーズ相手に戦い続けていると。

 

 まるで物語の中の英雄譚のようだ。

 

 場の流れもあるだろうが――彼達程、この世界に貢献してくれた人々は後にも先にも現れないだろう。

 

 ジエイタイは復興とリビルドアーミーやその他の横暴を効かせる反抗の象徴と化している。

 

 だからこそ冷静になって、シップタウンの代表者としてこの状況を見極めなければならない。

 

 指導者が衝動に駆られて判断をしてはいけない。

 

 どちらにせよ、戦力の増強は急務だ。

 

 ジエイタイとリビルドアーミーの激突の報せを聞いて野盗やヴァイパーズ達が活気づいている現状尚更だろう。

 

 最終的にリビルドアーミーとジエイタイ、どちらに付くかになる。

 まだ先送りは効くが近いうちに決断しなければならない。

 

 

 Side ヴァネッサ

 

 いや~まさかリビルドアーミーの空中戦艦を撃破するなんて凄いですね、ジエイタイの人達。

 

 それだけでなく周囲の人々を味方につけるなんて、人徳がなせる技なんでしょうかね?

 

 これでリビルドアーミーは慎重にならざるおえませんね。

 

 反抗勢力が活気づきますし暫くは大人しくするでしょう。

 

 それはそうとアインブラッドタイプのパワーローダーまで撃破するとは・・・・・・

 

 いやはや第13偵察隊とリオさん達がここまで戦果を挙げるなんて想定外でした。

 

 正直アインブラッドを出して来た時は焦りましたが・・・・・・。

 

 これはジエイタイの人達にもアインブラッドタイプが必要な時が来ますね。

 

 



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第三十四話「あれから・・・・・・」

 Side 緋田 キンジ

 

 パワーローダーも元通り。

 

 空中戦艦も基地の傍に停泊?

 とにかくどかした。

 いざというときは臨時基地、移動基地司令本部にする腹積もりらしい。

 てかこの空中戦艦どう言う原理で浮いてんだ?

 ロボットアニメのご都合主義粒子かなんか?

 

 野盗やヴァイパーズの襲撃ラッシュも収まり、施設科などが復旧作業を行い、新兵の出迎え、訓練を行っている。

 

 向こうでは今回のリビルドアーミーとの一連の戦いは大々的に報道され、注目を集めていたようだ。

 

 それで大論争を巻き起こしているらしい。

 

 こりゃ自衛官の志願者減るなとか思った。

 

 それはそうと――

 

「で? 佐伯一尉? なんのようで?」

 

 佐伯 麗子一尉。

 どうやらまだしぶとく生きていたらしい。

 今はパワーローダーの格納庫で肩を並べて話し合っていた。

 

「ヴァネッサからの情報だ。ヴァイパーズが此方の態勢が整う前に決戦を仕掛ける腹積もりかもしれん」

 

「ヴァイパーズか・・・・・・」

 

 厄介な連中だ。

 また大部隊で包囲されてパワーローダーで突っ込まれて白兵戦に持ち込まれたら被害が出る。

 

「他にも北部や東部もなんだかんだで忙しくて手付かずだ。そちらの調査を任せてもいい」

 

「そう言えば俺達独立部隊扱いでしたっけ?」

 

「まあな。第7偵察隊もシップタウンから離れて独自に活動している」

 

 宮野一尉たち、今頃どうしてるかな・・・・・・

 

「なんなら一旦日本に戻って休暇してもいいぞ」

 

「日本に戻ってもやることねえしな・・・・・・」

 

「なんならこの世界で知り合ったお嬢さん達を案内するか?」

 

「血液検査とか色々と大変だろう」

 

「それは仕方ないと思って諦めてもらうしかない」

 

 リオやパメラ、パンサーを日本に案内したいと言う気持ちはあるが、文化の違いで何からの騒動が起きるのは目に見えている。

 

 それに一番の問題は血液検査だ。

 

 絶対いやがるだろうなと思う。

 

 ちなみにこれは自衛官も同じで日本に戻る場合は事前に上に報告し、健康診断を受けて正常判定を受けてから戻れると言う感じだ。

 

 あのウイルスのせいで第三次世界大戦かよってレベルで人が大勢死んだのだ。

 あのレベルの新たなウイルスが持ち込まれでもしたら大変な事になるのだから、ここまで警戒するのは分からんでもない。

 

「まあ、どうするかはよく考えて決めておくことだ」

 

「どうも――」 

 

 さて、どうしたもんかね――

 

 

 基地の外に出てリオ達と相談することにした。

 

 周囲は相変わらずオセロだのトランプだのの、地球産娯楽製品が大ブーム中だ。

 

 PXも繁盛している。

 

 勿論今後についてだ。

 

 キョウスケとも後で相談する。

 

「うーん。私はヴァイパーズの動きが気になるかな?」

 

 と、リオが答えた。

 

「北部と東部とかは行ったことあるし、案内してあげよか?」

 

 パンサーはそう答えた。

 

「そういや北部や東部には確か――」

 

「北部はまあ町とか色々と転々としている感じかな。東部はシェルターの人達とか海に出る感じ」

 

「ああ、資料だけでしか知らない」

 

「西部はまあリビルドアーミーの勢力圏の町とか村とかで、南部はシップタウンの他に軍艦墓場って呼ばれる場所がある。別の軍事基地やら町やらがある感じかな」

  

 と、簡潔にパンサーは語った。

 この当たりも資料通りだ。

 

「さて・・・・・・どうしたもんか?」

 

「ならパワーローダーの聖地はいかがですか?」

 

「ヴァネッサ!? 突然現れるな?」

 

 ここでヴァネッサが唐突に現れた。

 

「どうもヴァネッサです。前回の戦い正直危なかったでしょ? 私的には戦力を増強する事を提案します」

 

「確かに・・・・・・前回戦って死にかけたしな・・・・・・だけどどうすればいいのやら」

 

「この世界を一度見て回るのはどうでしょうか? シップタウン以外にも様々な場所がありますよ」

 

「言わんとしている事は分かるが何を企んでいる?」

 

「私としては第13偵察隊の人達に強くなって欲しいだけです。特にアインブラッドを撃破出来るレベルの搭乗者は希ですから」

 

「強くなってどうさせるつもりだ?」

 

「神殺し」

 

「かみごろし?」

 

 唐突にとんでもない単語が出てきた。

 こんな神も仏もいない世界に神?

 何かの例えか?

 

「この世界に関わり続ければ何れ分かることです。そのためにも力をつけておいてください」

 

 そう言ってヴァネッサは去って行った。

 

「カミ? そんなのいると思う?」

 

「何かの例えじゃない?」

 

 リオの疑問にパンサーがそう答えた。

 俺もそう思う。

 

 だが神殺しと言う単語を出した時のヴァネッサの表情は何時もと違って真剣だった。

 

 例えのような存在だとしてもそう言う絶対的な何かがいるのかもしれない。

 



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第三十五話「久々に元の世界」

  Side 緋田 キンジ

 

 気晴らしに。

 

 本当に気晴らしに久々に日本へ戻った。

 

 と言っても境界駐屯地周辺。

 

 訓練に励んでいる自衛官や、完全装備で哨戒任務中の自衛官がいたり。

 

 そして市民団体がゾンビのようにフェンス越しに群がり、無秩序な抗議活動を行っている。

 こいつらは本当に暇だな。

 

 それよりも問題なのは――

 

「ここがキンジの世界――」

 

「何というか綺麗ね」

 

「うわ――何と言うか空気すら違う感じがするね」

 

 リオ、パメラ、パンサーの順に周囲をキョロキョロとしている。

 

 服装も向こうの世界で元の世界から持ち込んだ物を購入した奴を着ているので違和感はないが、自衛隊の基地に私服姿の少女三人は目立つ。

 

 なんかのラノベかよ。

 

「つかよくあの条件で納得してくれたな」

 

 キョウスケの言う通りだ。

 血液検査とか諸々の検査をパスしたのはともかくその条件で難色を示すかと思えばキッチリ説明すれば納得してもらえた。 

 

 それだけ行きたかったのだろうか。

 

 ちなみに他の隊員にも休暇言い渡してこの世界に来ている。

 中々休みも取れなかったし激戦も多くあった。

 バチはあたらんだろう。

 

 問題は――

 

「この包囲網をどう抜け出すかだな――」

 

「ああ・・・・・・」

 

 ゾンビみたいに群がる市民団体。

 キャンプや仮設トイレまで持ち込んでいる惨状だ。

 反対活動が激しいと言われている地域もこんな感じだろうか。

 

『戦争はんたーい!!』

 

『自衛隊は話し合いで解決しろ!!』

 

『核武装をするな!!』

 

『原爆被害者は黙っちゃいないぞ!!』

 

 などと言いたい放題だ。

 核武装云々に関してはパワーローダーの事を言っているのだろう。

 それに関してだけは議論の余地はあるが、それ以外は全くの的外れだ。

 

 戦争は相手側から問答無用で生中継で布告したし、核兵器を保有して必要とあらば使う連中にどう話し合えと言うのだ。

 

 いっそ向こうの世界に送り込んでみたいと思った。

 

「どうもヴァネッサです。いや~ここが緋田さん達の世界ですか」

 

「まだ自己紹介続けるんかい・・・・・・つかアナタも来たのか」

 

 俺は呆れながらOLみたいな格好をしたヴァネッサを見た。

 

「ヴァネッサさんは努力を怠らない人ですから。それと私もこっちの世界には興味あったんですよね」

 

「正直言うと、実はこの世界の住民でしたって言われても俺は納得するぞ」

 

 キョウスケも「俺もだ」と続いた。

 

「しかしゾンビみたいに群がってますね。あいつら自衛隊がいなくなったら米軍に守ってもらうつもりでしょうか? 銃を持って戦う度胸もないくせに」

 

「ほら見ろキンジ! この姉ちゃんこの世界の事情に詳しいじゃねーか!」

 

「本当に何者なんだ・・・・・・」

 

 日本のローカル事情に詳しすぎる。

 明らかに不審な点が多い。

 ヴァネッサさん本当に何者なんだ。

 

「まあともかくアレだ。あれこれ考えて問い詰めても煙たがられるのがオチだ。ここは放置するぞ」

 

「そうだな。あいつら検問とかして毎回毎回警察が追い払ってるって聞いたぞ」

 

「ああ、ウチの家族がいないか別の意味で心配だ」

 

「冗談抜きでいそうだな。探してみるか」

 

「あいつらに関わるぐらいならあの世界に戻ってサメと殺し合った方がマシだ」 

 

 本当にどうして俺は親ガチャ失敗したのかね。

 

「外出手続きするから取りあえずバスに乗って取りあえず基地から離れるぞ」

 

「そこまでしないと外に出られないんだよな」

 

 生身の人間の出入りは禁止なので基本、外に出る時はバスを使用する事になっている。

 

 バス停にもその手の集団がいるのだが、もうそこは諦めるしかないだろう。

 

 

 俺とキョウスケたち第13偵察隊。

 そしてリオとパメラとパンサー。

 なぜかヴァネッサのメンバーでバスに乗り、外へと向かう。

 

 バス停でもやはり待ち構えていたが基地周辺程ではない。

 ヴァネッサさんはすっかり三人のツアーガイド状態だ。

 だからなんで詳しいんだよアンタ。

 

「さて、ここから自由行動だな――金降ろしてあの三人の嬢ちゃん+1と一緒に俺の家に来るか?」

 

 と、キョウスケが言う。

 まあ行くとこそんぐらいしかないだろうしな。

 キョウスケも俺の家庭の事情を鑑みてそう提案してくれている。

 ここは有り難く乗っかっておこう。

 

 

「平和だけど何か変な人が多いわね」

 

 と、パメラが言う。

 変な人と言うのは反日団体の連中の事だ。

 どうやら境界駐屯地周辺を我が物顔で闊歩していてコンビニでも見掛けられた。

 

 その上、「このコンビニは自衛隊に物を売ってるんじゃないのか?」とか完全にヤクザの地上げか何かかみたいな光景だ。

 

 今の政府は左寄りだし、たぶん放置なんだろうな。

 

「どうして自衛隊に物を売っちゃいけないの?」

 

「「「あ」」」

 

 リオが極めて常識的な事を尋ねる。

 俺とキョウスケとヴァネッサの三人の声がハモった。

 

「お嬢ちゃん、自衛隊は向こうの世界で人を沢山殺しているんだ。そんな連中に物を売るなんてますます状況が酷くなるんじゃないか?」

 

「どうして状況が酷くなるの? 基本自衛隊の人達から仕掛けた事は無かったよ? この目で見たから」

 

「冗談はいけないなお嬢ちゃん。あいつらはそうやって戦争がしたいだけの集まりなんだ」

 

「自衛隊の人達って女やギャンブルで破滅したり犯罪起こしたりする人はいるらしいけど、私が観た感じだとそこまで好戦的な人はいなかったよ?」

 

 アチャーとなった。

 

「つーかオジさんら日本人でここは民主主義の国で国民の投票で決めるんでしょ? 投票権持ってる国民に訴えって変えていくのが普通なんじゃない?」

 

 何か話にパンサーが入っていった。

 見た目は軽薄そうな爆乳の黒ギャルだが言ってる事は今時の学生でも答えられないような模範解答だ。

 相手が恐くないのか――いや、恐くないよな。

 必要とあらば生身で銃撃戦かます連中だし。

 

「リオ。たぶんこの人達相手にしても無駄な連中だから」

 

「でも――」

 

「でもじゃない。アンタもこんなバカな事してる暇があったらもっと人の役に立つ事をしなさい」

 

 パメラが一番言ってる事キツいんですけど!?

 

「お嬢さん達、我々をバカにしているのかね? そんなことしたらタダじゃ置かないぞ」

 

 相手側も煽り態勢が低いのかケンカ腰になってくる。

 他のメンバーが止めようとするが――

 

「タダじゃおかないってどう言う意味よ? 殺すって意味? それなら対応も変わってくるけど」

 

 パメラが睨み付けながら言う。

 

 この三人娘にタダじゃおかないとかヘタな脅迫は通用しない。あの世界でヘタな脅しは逆に引っ込みがつかなくなる。

 

 てかパメラは大人しそうな印象があるがなんだかんだであの世界の女の子なのだ。

 女の子だからこそ、舐められない相手にはこう言う強気な態度で、暴力通り越して殺人すら厭わない覚悟が必要になるのだろう。

 

「お、お嬢さん達――大人の冗談を」

 

 流石に身の危険を感じ取ったのか譲歩を始める。

 所詮は弱い物いじめしか出来ないチンピラみたいな連中だ。

 あの世界で命のやり取りをしてきた女子とは潜ってきた修羅場のレベルが違う。 

 

「冗談で殺すつもりだったの? 冗談で殺してもいいんなら私も冗談で人を殺してみようかしら? そんだけ生きてそんな事してるんだからそれぐらいの覚悟はあるわよね?」

 

 と言ってパメラが銃器ような物を取り出そうとして――

 

「もう十分だろ? おさがわせしてすいません」

 

「キョウスケ?」

 

 パメラの前に立ち塞がるようにキョウスケがたった。

 

「もう良いだろう? 相手にするだけ無駄だ。行こうぜ」

 

 そう言って立ち去ろうとする。

 俺もリオの手を引いて立ち去ろうとした。

 

「いいの? あいつらアンタラの事、バカにしたけど」

 

 あっ――

 

「お、お嬢ちゃんたち、その人達とどう言う関係かね?」

 

「私達は向こうの世界の住民で自衛隊は大切な仲間だから。それで十分?」

 

 リオが代表してそう言った。

 

 あの――ちょっと――リオさん

 

「向こうの世界の住民――核兵器を平然と使って人を殺しまくるあの――?」

 

「どうしたのよ突然?」

 

 パメラの疑問ももっともだろう。

 

 今度はオジさんの方が震え出した。

 よく見ると他の連中も何やら騒がしく感じている。

 こいつらにとっては初めて見る向こうの世界の住民なのだ。

 

「う、嘘だろ? 見掛けは普通の女の子だぞ?」

 

「だけどあの子達の様子見た――」

 

「き、きっとそう言う風に洗脳されて――」

 

 などとコソコソと話し合い、やがてこう言った。

 

「き、君は人を殺したことがあるのかね?」

 

「この世界ではまだないけど、向こうの世界では沢山。もっと小さい子供でも人を殺せるぐらいじゃないと生きていけないから」

 

 直感的に何かを悟ったのかオジさんは「ひ、人殺し!! 人殺し!!」と叫んで出て行った。

 

 他の連中もばつが悪そうにその場を去って行った。

 

「て言うかアンタいい加減にそれ向けんのやめてくんない? なんなのソレ?」

 

「ひぃ!?」

 

 そしてパンサーがキレてスマフォ持った人の胸倉を掴み挙げた。

 物凄い怪力で持ち上げてる。

 

「ヤバイヤバイ。落ち着いてパンサーさん!!」

 

 そう言われてパンサーは「たく、このタマ無し野郎が」と強引に降ろしてツバを吐きかける。

 

 降ろされた人は悲鳴を挙げてスマフォを落としてその場を立ち去った。

 パンサーはそのスマフォを踏みつけて破壊した。

 

「たく。同じ日本人でもどうしてこうジエイタイの人達と差が出るのかね――ああ、でもジエイタイの人達でもクズはいるのか」

 

「あの店員さん」

 

 俺は店員さん目をやった。

 

「いえ、本当はこんな事を言っちゃいけないんですけどあいつらが幅を利かせるようになって困ってましたから、何とか誤魔化しておきます。アナタ達は早くこの場を立ち去って」

 

「分かった――」

 

 そう言って俺達はコンビニを後にした。

 基地を出て一時間もしないウチにこれとか前途多難にも程があるぞ・・・・・・



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第三十六話「公安の女、X」

 Side 緋田 キンジ

 

「しかし――駐屯地の周辺はアレだけど人が多いな。外国人の姿も多いぞ」

 

「たぶん異世界特需って奴じゃね?」

 

 今近所のショッピングモールにいる。

 流石に市民団体の連中はいない。

 

 だが人で賑わっており、外国人もよく見掛けられる。

 スパイかジャーナリストか――あるいは物好きな観光客であろうか。

 

「核で武装した軍隊が異世界から攻めてくるのに観光ってか? 呑気だね」

 

 キョウスケに愚痴を漏らすが、

 

「まあそんだけ平和ってこったろ」

 

 と、キョウスケは返した。

 俺は「そうかねぇ」と返す。

 

 今いる場所は子供向けの玩具屋だ。

 ヴァネッサが引率役で――特にロボット系のプラモやゲーム機の映像とかに興味津々だ。

 

「つかキンジ、SNS覗いてみたけど早速あの三人話題になってるぞ」

 

「うわ本当だ――」

  

 市民団体相手に口論になり、胸倉を掴み挙げてツバを吐きかけたことまで書いている。

 

 しかもそれをやったのが向こう側の世界の住民であることもバッチリ書かれていた。

 

 さらに一部始終がバッチリ録画までされている。

 たぶんあの場に居合わせた客が撮影したのだろう。

 

 多少の否はあるが、概ねあの三人娘に賛同がなされているのが救いか。

 

 もちろん彼女たちが向こうの世界の人間なのかどうかについても議論が起きている。

 エルフ耳とか角とか羽とか生えてるとか分かり易い特徴はないのだからこれは当然だろう。

 見た目はタダの女の子だ。

 

「・・・・・・気づいてるとは思うが」

 

「・・・・・・ああ、だけどまあ放置でいいだろう」 

 

 バス停辺りから付けられてる。

 敵か味方かは分からないが。

 

「流石ですね。此方の尾行に気付くとは」

 

「あーおたくは?」

 

 黒服のスーツ姿の女。

 黒いサングラス。

 長い黒髪の美女。

 

 全身黒尽く目でとても怪しい。

 怪しすぎて逆に怪しまれないのではとか想像してしまう。

 

 そんな俺の思考を読み取ったように彼女はこう言った。

 

「公安の女、Xです」

 

「「怪しいわ!?」」

 

 公安の女、Xってなんだ。

 メチャクチャ怪しいわ。

 怪しすぎてGの13のスナイパーも引き金を引くのを躊躇うレベルだ。

 

 そもそも公安の人間が堂々とこんな怪しい格好をして人通りの多い場所で所属を明かすだろうか。

 

「なあ? この姉ちゃん本当に公安か?」

 

「いやいや、そう言うコスプレイヤーかもしんないんだろう? てかもしかしてあちら側の世界の住民? それともヴァネッサの知り合い?」

 

「あ――」

 

 キョウスケのヴァネッサの知り合い説を出した途端、なんだか納得してしまった。

 

「お二人の疑問はもっともです。だけど安心してください。私はアナタ達の味方です」 

 

「なにを安心して信用しろと?」

 

「だけどここまで逆に怪しいと一周回って信用できるのでは?」

 

「おい、キョウスケ――気は確かか?」

 

「逆に考えるんだキンジ。何か起きたらこいつのせいにすればいいんだって」

 

「あ、確かに」

 

「お二人とも女性の前で不穏な会話を堂々としないでもらえます?」

 

 俺は「その元凶が何を言うか」と返し、キョウスケはキョウスケで「もっとこう、スパイ映画とか観て勉強した方がいいんじゃ?」と返した。

 

「まあいいです。コンビニの一件はどうにか処理しましたけどなるべく問題は起こさないで欲しいですね。特に緋田さんは間違っても実家には近寄らないでくださいよ」

 

「分かってるよ。両親とあいつらを引き合わせるのは火薬庫に爆弾投げ込むようなもんだ」

 

 俺はもう謎の女Xが公安の人だと言う前提で話を進めることにした。

 

「それとさっき、ヴァネッサさんの名前が出ましたけど知り合いでしょうか?」

 

 それを聞いて俺は、

 

「なに? オタクらとも知り合いなの?」

 

 と、尋ね返した。

 ヴァネッサさんと知り合いらしい。 

 

「はい。コンタクトを取ってきました」 

 

「本当になにもんだ」

 

 キョウスケの言う通り本当に何者なんだ。

 ヴァネッサは。

 

 謎がどんどん出て来る。

 

「それと実は――休暇が一段落した後でいいですから第13偵察隊の人達に頼みがあるんです」

 

「頼みだって?」

 

 なんかイヤな予感がしてきた。 



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第三十七話「キョウスケの家に」

 Side 緋田 キンジ

 

 キョウスケの家は久しぶりだ。

 田舎の町工場と言う奴らしい。

 キョウスケが機械いじりが得意なのはこの辺りが原因だろう。

 

 喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、キョウスケの家はとある事情で裕福だったりする。

 

 と言うのも日本は超少子高齢化社会でその波は職人業界にも及んでおり、また日本政府と言うか日本の社会も日本が技術立国でありながら技術社や職人を冷遇する社会体制なのも拍車を掛けており、キョウスケの家はある種の独壇場なのである。

 

 だけど歳には勝てず、引退も視野に入れて農業に手を出し始めたようだ。

 

「へえ~ここがキョウスケの家なんだ」

 

「中々良い感じの家じゃない」

 

「綺麗な家が多いけどなんかウチら好みって感じ」

 

 リオ、パメラ、パンサーの順で反応した。

 

 キョウスケは苦笑しながら「念のため言うけどここに泊まるワケじゃないからな」と釘を刺して隣の綺麗な家を指さした。

 

「あらま、キョウスケってば。こんな可愛い子をこんなに連れてくるなんて――」

 

 家に上がってキョウスケの母さんに挨拶したらすっかりハイテンションになった。 

 父さんも「自衛隊の仕事大変だって聞くけど、本当に大変なのか?」とあきれ顔した。

 

「それにキンジちゃんも一緒に――」

 

「どうも――」

 

 どちらかと言うとキョウスケの母親の方が実の母親らしく感じている。 

 

「どうもヴァネッサです。宗像 キョウスケさんの仕事仲間です」

 

 そしてやはりくっついてきたヴァネッサ。

 もう俺は色々と諦めた。

 

「あらまあご丁寧に。このお嬢さんも向こうの世界で知り合った人かい?」

 

「まあそんな感じだ」

 

 と、キョウスケは苦笑しながら答える。

 本当になんなんだろうな、この女は。

 

「ちょっと兄貴!? この美女軍団はなんなの!? 剣と魔法のファンタジー世界じゃ無くて暴力が支配する世紀末の世界じゃなかったの!?」

 

 ここでオカッパ気味のヘアースタイルのキョウスケの妹が搭乗する。

 宗像 マユミ。

 女子高生でリオやパメラ、パンサー達と同い年ぐらいだ。

 他にも宗像 ユキがいたが都会の大学とかで上京したと聞いたな。

 

 

 Side 宗像 キョウスケ

 

 久しぶりの実家だ。

 やはりと言うかリオ達の事をあれこれ聞いてくる。

 

 途中からヴァネッサが間に入って応体してくれた。

 

 そして妹のマユミはと言うとリオ達と早速意気投合していた。

 

 問題はキンジだが――

 

「大丈夫かキンジ? おたくの両親が来たらどうする?」

 

「そん時は腹括って俺が相手するよ」

 

「オーライ。そっちの方が助かる」

 

 緋田 キンジは両親が嫌いだ。

 まあ当然だ。

 両親が左翼よりのせいで大変な人生を歩んできたからな。

 同じ立場だったら間違いなくグレてるか洗脳されているだろう。

 

 だがキンジは幸か不幸か賢い奴だった。

 もしかすると天才少年と持て囃される人間だったのかもしれない。

 それが両親との軋轢を生んだ。

 

 それがなければこうして腐れ縁は続かなかっただろう。

 

 全く持って人生って奴は分からんもんだ。

 正直複雑だ

 

 

 Side パメラ

 

(ここが日本の住宅――それにキョウスケの家か・・・・・・)

 

 キョウスケとは何だかんだで馬が合う。

 よく一緒にパワーローダーを整備する仲でもある。

 気がついたらリオとキンジのように恋したい仲になっていた。

  

「ねえねえ、三人はあの二人とどんな仲なの?」

 

 と、キョウスケの妹さんのマユミが尋ねてくる。

 

「死にかけてたところを助けてからずっと行動を共にしてるの」

 

 パンサーが代表して答えた。

 強ち間違いでもない。

 

「私はキンジと結婚してもいいかなって思ってるの」

 

「私はキョウスケとはどうかな~?」

 

 リオに釣られてキョウスケとの仲を考える。

 マユミは顔を真っ赤にして驚いた様子だった。

 

「ちょちょちょちょ、ちょっと待って? 二人とも、ちゃんと意味分かってる?」

 

「あ、そう言えばこの国では私達ぐらいの年代の子が結婚するのって珍しいって聞いた」

 

 思い出したかのようにリオが言った。

 

「マユミはそう言う相手いないの?」

 

 パンサーがマユミに尋ねた。

 

「い、いないわよ!? そっちこそどうなってるのよ!?」

 

 マユミは顔を真っ赤にして尋ねた。

 

「って言われても、大体私達ぐらいの年齢の子が結婚するのって普通だし?」

 

 パンサーが代表して言うと「本当に違う世界なのね・・・・・・」とマユミは呆れたような様子になりながら続けてこう言った。

 

「――やっぱり人も殺したり?」

 

「うん」

 

「殺さないと殺されるしね」

 

「安心して。誰彼構わず殺すってワケじゃないから」

 

「正直信じられないというか話がぶっ飛んでると言うか・・・・・・」

 

 顔を真っ青にして少し後退った。

 人を殺さずに一生を終えるのが普通の国だと聞いていたが本当らしい。

 それだけここは平和なのだろう。

 

「その辺はキンジかキョウスケ辺りに聞くといいよ。つかそれを言うならキンジもキョウスケも結構殺してるよ?」

 

 ここでパンサーは新たな話題を出した。

 

「そ、そうなの?」

 

「うん。この前の戦いで敵も味方も大勢死んだし」

 

 パンサーの言う通り、リビルドアーミーとの戦いは本当に危なかった。

 特にキンジは危うく死にかけたらしいし。

 

「あ、もしかして――何か生中継の戦闘の後、なんか駐屯地に大量の兵器や武器、弾薬が運び込まれて、大量の殉職者が出て――大規模な戦闘があったって聞いたけど、それかな・・・・・・」

 

「あ――たぶんそれだと思う」

 

 マユミの説明にパンサーはそう答える。

 

「キンジも兄貴もどうしてそんな危ない目に遭わなければならないんだか・・・・・・ちょっとしか観れてないけどまんまSF映画の戦争だったし。あんな危険な目に遭ってまでどうして戦おうとするのかな――」

 

「本人に聞けば?」

 

 マユミの悩みにパンサーはそう返した。

 

「そうなんだけど――そもそも兄貴はウチの家計とか私達の学費を稼ぐために自衛隊に入ったんだし、あんな激しい戦争にいくなんて聞いてないよ。遺族も怒るよ」

 

「これはキンジの受け売りだけど、自衛隊は武装した災害救助隊でも便利屋でもなくて、有事の際に戦う組織なのが仕事だって聞いていた」

 

 リオが模範的に答えるが――

 

「確かにそうなんだけどさ・・・・・・」

 

「それにあの世界に行った志願者は覚悟して戦う道を承諾している。あまりどうこう言うと彼達を汚すことになる」

 

 言い淀むマユミにリオが続けてそう答えた。

 

「そんなこと言われても分からないよ・・・・・・なんか妹の私より兄貴の事理解してない?」

 

「それは分からないわ。けど、彼達も好き好んで戦ってるワケじゃないと思う」

 

 と、リオは言った。

 私はと言うとリビルドアーミーとの決戦前後の事を思い出しながら

 

「そうね。ジエイタイの人達、死ぬかもしれないのに泣きながら私達の事を心配してくれてたもんね――泣きながら水とか食料とかただ同然で放出してさ――」

 

 だけどそれが私達の、皆の覚悟を決めた理由の一つになった。

 

「あの土地で出会ったジエイタイの人達は何て言うか、ほっとけないって言うか、馬鹿正直って言うか、なんなんだろうね。最初は物資があるからそう言う態度に出れるんだと思ったんだけど――平和な日常に身を置いておきながらジエイタイになる道を選んだからこそ辿り着けたのかな?」

 

 パンサーの言ってる事は私達の意見を代弁してくれていた。

 

 自衛隊を否定する大勢の人間。

 様々な物で溢れた町。

 銃を持たなくてもいい、人を殺さなくてもいい平和な日常。

 

 こんな世界でも、この国でも私達よりも酷い貧困の暮らしをしている人間はいるらしい。

 

 そう言うことをキチンと伝えてくれる辺り、キンジもキョウスケもお人良しなのだろう。

 過度に夢を見てショックを受けないように。

 

「ねえ、マユミ。教えてくれない?」

 

 私は勇気を振り絞って言った。

 

「え? なにを?」

 

「この世界のこと。学校とかのこと。色々と教えて」

 

 私はマユミにそう頼んだ



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第三十八話「望まぬ再会」

 Side 緋田 キンジ

 

 少し遠くからリオとキョウスケの妹さん、マユミちゃんの様子を見ていたが、上手くやれているようでホッとした。

 

 家の周りの気配は例の公安の女、Xが回してくれた人達だろう。

 

 正直怪しいがそれを言うならヴァネッサとかだ。

 

 怪しすぎるのだがヘタに踏み込んで暴れられたら何が起きるか分からない。

 

 もしかしてこの世界にも既にヴァネッサの手勢が潜り込んでることも考えた方がいいように思えた。

 

「キンジ、休んでるところお前にお客さんだ」

 

「誰だ?」

 

「何となく分かってたんじゃねえのか? お前の御両親さんだよ」

 

 それを聞いてハァと溜息をついた。

 

「どうする? 追い返すか?」

 

「いや、自分で相手するよ。口ケンカだけで済む」

 

 そう言って俺は玄関に向かった。

 

 

 キョウスケの家の前で話すのは迷惑になる。

 近くの人気が少ない公園に場所を移した。

 

 俺の両親との再会。

 

 正直もう会うことはないかと思ったが――何となく予感はしていた。

 

「キンジ――」

 

 と、オヤジが名前を言ってくる。

 

「オヤジにお袋・・・・・・話だけは聞いてやる。何の用だ?」

 

 突き放すようにそう尋ねた。

 

「自衛隊なんかもう辞めて家に帰ってくれ! 仕事も用意してやる!」

 

 と、オヤジが言ってくるが――

 

「用はそれだけならもう二度と関わるな。親子の縁はそっちから切ったし俺もそれを承諾したんだ」

 

「待ってくれ! お前が自衛隊で好き勝手に暴れてるせいで自分達はどれだけ酷い目に遭ってるか――」

 

「そうよキンジ!! 許すから言う事を聞いて頂戴!!」

 

 オヤジの言い分もアレだがお袋の許すからと言う上の目線の言葉を聞いて「なにも変わっちゃいないな」と思った。

 

 それはそうと――

 

「お前らまだ市民団体で活動しているのか?」

 

「あ、ああ。息子が自衛隊にいるおかげでな。抗議もしやすくなるだろうと言って」

 

「くたばれクソ親父」

 

「ちょっと、実の父親に対してそんな言い方・・・・・・」

 

 お袋がそう言うが俺は正直我慢の限界だった。

 

「反省や謝罪をするならともかく、未だに俺を利用しやがって! 俺が子供の時からそうだ! お前らのせいでどれだけ辛い目に遭ったか分かってるのか!? わかんねえだろうな!?」

 

「お前それでも俺の息子か!?」

 

「ああ、信じられない事にな!? もうウンザリなんだよ! お前らのところに戻るぐらいならあの世界に戻って命のやり取りやった方がまだマシだ!!」

 

 そう言って立ち去る。

 後ろでなにか喚いていた。

 

 だが俺は立ち止まらなかった。

 

 どうしてあんな人間が誕生するのか不思議でならない。

 

 本当にワケがわかんねえよ。

 

 

 道を戻るとキョウスケが出迎えてくれた。

 

「お疲れさん。周辺に響いてたぞ」

 

「悪いな」

 

「気にすんな。この展開は予想してた」

 

「あれで大人しく引っ込むとは思えない。またなんかやらかすぞ」

 

「公安の姉ちゃんぶつけりゃいいだろ?」

 

 キョウスケの言う通りなのだが――

 

「念のため警戒は怠らないでおこう」

 

「そうだな」

 

「もしも次があれば――それが最後かもしれないな」

 

「・・・・・・お前がそう言うんならそうなっちまうんだろうな」

 

 なんとなく予感はしている。

 もしも次に会う時があれば別れの時になるだろうって。



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第三十九話「謎の女、Xからの頼まれごと」

Side 緋田 キンジ

 

 現在はキョウスケの家はゲームパーティーの真っ最中だ。

 

 順番交代制で様々なゲームをプレイしている。

 

 リオ達は初めてみるゲームに驚きながらもどんどん順応していった。

 

 俺やキョウスケも混じったりして大盛り上がりだ。

 

「そう言えばキンジ――頼まれ事なんだが」

 

「ああ、この世界にいるテロリストの掃討だろう」

 

 

 時間は遡り、ショッピングモールで謎の女、Xの出会った時のこと。

 

 任されたのはテロリストの掃討任務だ。

 

 だがテロリストの掃討に自分達、第13偵察隊は適していない。

 

 あの荒廃した世界ならともかく元の世界でなら適任者はもっといる筈だ。

 

 そして差し出されたのは遠方から取られた写真。

 

 そこには見たこともないパワーローダーの姿があった。

 

「どうなってやがる? パワーローダーが流出したとしても変だ。この世界で組み上げたか?」

 

 キョウスケはもっともな意見を言っていた。

 写真に写っているパワーローダーは見たこともない黒い三つ目の機種だ。

 リオ達に見せれば何か分かるかも知れないが―― 

 

「パワーローダーはともかく武器まで製造出来るなんて普通じゃない。遠目から見ても最低でも12・7mm。ヘタすりゃ20mmぐらいのライフル弾だぞこれ」

 

 俺はその点を指摘した。

 パワーローダーは整備もしやすいだけでなく、少ない資材で製造もできる。

 戦車一両製造出来る金さえあれば冗談抜きで数百台は作れると思う。

 設計図などが漏れて独自開発した線も無くはない。

 

 だが銃器はパワーローダーのように製造はできない。

 それが出来れば今頃日本は密造銃で溢れ返っている。

 

 ましてやパワーローダー用の専用武器となると、兆候ぐらいは掴める筈だ。

 

「警察や自衛隊は抑えられましたが、外国の工作員は突入しましたが全滅しました」

 

「だろうな。それこそ中世の軍隊が現代の軍隊に挑むようなもんだろ」

 

 キョウスケの言う通り、大方生身の集団だろう。

 幾ら練度や技術があっても生身でパワーローダーに挑むのは自殺行為だ。

 

 それにこれだけの軍備を持った連中である。

 

 監視用のドローンや警備用の戦闘ロボットなども所持している可能性だってある。

 

 例えパワーローダー対策はしていても結果は変わらなかっただろう。

 

「敵は放棄された鉄道トンネル内部に潜んでいます。存在は伏せていますが時間の問題でしょう」 

 

「で? こいつらの出所と排除を頼みたいってか?」

 

 俺は皮肉下にそう言った。

 

「これは公安だけでなく、防衛大臣、防衛省からの正式な指令です。ただのテロリスト相手ならともかく、対パワーローダー戦のスペシャリストは今の日本であなた達ぐらいしかいないのです」

 

 筋は通ってる。

 向こうの世界のパワーローダー部隊は被害もあってか、現在再編中もあり動かせない。

 

 それに敵の戦力も未知数だ。

 自画自賛みたいな物の言い方だが、考え得る限りの最強の戦力をぶつけるしかないだろう。

 

「・・・・・・選択肢はないか。リオ達には依頼の拒否権ぐらいは与えろよ。あと支援態勢は最上級の物を用意しておいてくれ」

 

「分かりました」

 

☆  

 

 そして時間は戻る。

 

「まさか元の世界でパワーローダー戦とはな・・・・・・非核3原則とか大丈夫かね?」

 

「さあな。だけどこの国はよくも悪くも前例が出来ちまうと順応しちまう国だからな」

 

「あーそれもそうだな」

 

 日本と言う国は昔から前例が出来てしまうと受け入れられてしまう国なのだ。

 自衛隊の災害派遣とか、海外派遣もだってそうだ。

 

「話を戻すぞ。今回の敵、リビルドアーミーか?」

 

「いっそヴァネッサに聞いた方が早いかもしんねーぞ」

 

 俺はそう提案してキョウスケも納得した。

 そして俺達はヴァネッサを呼びつけることにした。

 

 

 家の外に出てヴァネッサを呼び出し、公安の女Xから借りた資料を見せる。

 

「とうとうここまで知っちゃいましたか」

 

 ヴァネッサは特に隠し立てすることもなくそう言った。

 

「知ってる連中なのか?」

 

「はい。はっきり言ってリビルドアーミーよりヤバイ奴です。と言うか今回の一連騒動の黒幕に繋がる連中ですね」

 

「・・・・・・本当なのか?」

 

 俺は慎重に言葉を選んでヴァネッサに尋ねる。

 

「はい。ですがここから先の事を知ればもう引き返せませんが、よろしいでしょうか?」

 

 と、真剣な表情、声色で俺達二人に尋ねた。

 

 俺はと言うと――

 

「お前が以前言ってた神に関わる事なのか?」

 

 俺はそう尋ねた。

 

 神。

 

 そう呼ばれる存在が確かにあの世界には存在するのだろう。

 あの謎の三つ目の黒いパワーローダーなどがそうだ。

 

「言わなくても何となく分かるでしょう」

 

「あいつらは神の先兵か何かなのか?」

 

 キョウスケはそう言うが、「それ以上はお答えはできません。まだ引き返せます」とだけ返してこう続けた。

 

「ただ、一つ親切心で申せば――リビルドアーミーとやり合うのがマシだったぐらいの地獄の蓋を開けるぐらいの覚悟が必要だと――忠告させていただきます」

 

 そう言ってヴァネッサは立ち去った。

 この会話は公安の女、Xの方でも聞いてる筈だ。

 

「どうする? そうとうヤバイっぽいぞ」

 

 キョウスケはひあ汗を流して俺に言った。

 

「ああ・・・・・・この日本に何が潜んでるんだ?」

 

 俺もどう形容すればいいのか分からない不安と恐怖を感じた。



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第四十話「将来」

 Side 緋田 キンジ

 

 とりあえず棚上げして都会に行くことにした。

 

 何時も通りすぎる人々の日常は彼方での出来事が嘘のようだ。

 

 彼方の世界の出来事など、この世界の人間にとっては嘘なのだろう。

 

 リオ達は彼方此方町を見てはしゃぎ回っている。

 

 そうそう。

 

 Xさんによると謎の武装勢力は此方の呼びかけにも全く応じず、容赦なく攻撃を加えてくるだけらしい。

 

 海外からの工作員やジャーナリスト、マスコミも消されているらしい。

 もうこれは運が悪かったとしかいいようがない。

 

 Xさん曰く、警察も自衛隊を抑えるのは時間の問題のようだ。

 

 特に自衛隊――上の方は何を焦っているのか戦闘ヘリや戦闘機、戦車や装甲車などを送り込もうとしている。

 

 そしてどう受け取っていいのか、米軍も本格的に動こうとしているらしい。

 

 ぶっちゃけもう米軍に丸投げした方が手っ取り早い気もしたが――向こうの世界の戦いを経験した身としては、米軍ですら敗北する予感はしている。

 

 米軍が最強なのは大規模かつ真っ当な戦争の時であり、高品質かつ高性能な軍事兵器を大量に運用し、それを末端の兵士に行き渡らせる程の財力と維持力、そして強力な戦力を的確に運用する能力があってこそだ。

 

 最強ではあるが無敵ではない。

 例え同盟国であっても、他国で大規模な部隊展開など出来る筈がない。

 

 爆撃機や大陸間弾道ミサイルを持ち込んだとしても何かしらのイヤな予感が付き纏う。

 

「リビルドアーミーの一件が一段落したと思ったら一気にまたきな臭くなったな」

 

「ああ、そうだな」 

 

 隣にいたキョウスケも同意した。

 だがキョウスケは「だけどな」と言葉を続ける。

 

「あれこれ考えても仕方ねーと思うんだけど。今は休暇を楽しもう」

 

「まあな・・・・・・」

 

 遠回しに自分らしくないと言われているような気分だ。

 両親とあんなことがあったせいもあるのかな。

 

 

 ふと気がつけばリオとショッピングモール内で二人きりになった。

 キョウスケとヴァネッサが気を遣わせてくれたのだろう。

 

「こう言う世界で住んでたんだ・・・・・・キンジって」

 

「まあな。でもタマにあっちの世界が恋しくなるのはなんでだろうな」

 

 荒れ果てたあの世界。

 それが何故だか恋しくなる時がある。

 どうしてかは分からないが、そう言う時があるのだ。

 

「私も・・・・・・変なのかな?」

 

 顔を真っ赤にしてどこか色っぽい感じで言われる。

 

「さあな。だけどそう言う選択の自由はあってもいいと思うぜ」

 

「そう?」

 

「ああ、おかしいことじゃないと思う」

 

「――ありがとう」

 

 心がドキドキするような微笑みをリオは返してくれた。

 

「どういたしまして」

 

 俺は照れくさくなって視線を逸らしてそう返した。

 

 

 Side キョウスケ

 

 都会に来て色々と買い物に付き合う。

 

 そしてショッピングモール内でパメラと二人きりになる

 

 気を利かせてパンサーとヴァネッサが席を外してくれた。

 

 まあ悪戯心かもしれないが。

 

「正直、私と結婚するってどうよ」

 

「なんの脈絡もなくとんでもない事をいうな?」

 

 ド直球すぎて呆れたわ。

 

「だって私、その、リオやパンサーとは違ってその――何て言うか、地味だし――」

 

「俺は可愛いと思うけど――」

 

「そ、そう」

 

「結婚か・・・・・・」

 

 ふと緋田 キンジの奴の事を思い浮かべる。

 もうそろそろ腐れ縁解消してもいい頃合いかもしれないなと思った。

 実家の仕送りも十分してるしな。

 ここらで自分の人生って奴を考えてもいいかもしれないと思ったのだが――

 

「どうしたの?」

 

「いや・・・・・・ずっと、なんだかんだでくそ真面目に生きてきたせいでな。夢とか将来の目標みたいなもんみたいなのが思いつかないんだわ」

 

「将来の目標?」

 

「ああ。子供の頃は好き勝手に色々と考えたけど――年齢重ねるごとに現実って奴を知って、妥協点探して自分を誤魔化して生きている。そんな感じがしてな」

 

「そうね-――私達はつい先日まで危険を厭わずに生きるために戦ってきた。皆そう。それが当たり前だった。あなた達の御蔭で私もそう言うのを考える事ができた。だから結婚とかも考えられるようになった」

 

「結婚ってそんな簡単に決めていいものなのか?」

 

 俺は呆れながら言うが。

 パメラはムッとなって顔を真っ赤にして

 

「じゃあ逆に聞くけど結婚ってどう言う時に決めたらいいわけ?」

 

「それを言われると困るな――」

 

「でしょ?」

 

「だけどもうちょいお互いの事を知ってから、その、結婚? してもいいと思うぞ」

 

「なんかキョウスケ結婚から逃げてるみたい」

 

「かもな」

 

 俺が父親になる。

 実感が湧かなかった。

 

 キンジはどうなのだろうかと気になってしまうが――

 

(まあキンジはキンジ。俺は俺だよな)

 

 俺は改めてそう考えた。



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未確認武装勢力掃討作戦
第四十一話「謎の敵」


 Side 緋田 キンジ

 

 休暇を切り上げ、俺達は日本に突如として現れた謎の敵をどうするかについて考えた。

 

 自衛隊はなんだかんだで軍事組織であり、任務として言い渡されたら「イヤです。ごめんなさい」は通用しない組織だ。

 

 謎の敵の正体についてヴァネッサに尋ねた方が良いのか迷いつつもそのまま対策本部が設置された自衛隊の陣地に入り込んだ。

 

 陣地の位置は敵の戦力を考えれば至近距離だが市民への配慮などもあり、出来る限り遠くに、それでいて人気のない場所に設置している。

 

 周囲はマスコミや市民団体の影もあり、警察が押さえ込んでいる。

 あとは他国の工作員や野次馬とかだろう。 

 

 陣地の周囲には戦車や装甲車など置いていれば素人でもただ事ではないと気付く。

 内部には天幕が立ち並び、居並ぶ兵士達はみな緊張した様子だった。

 

 その陣地で謎の女、Xや佐伯 麗子、第13偵察隊の面々などと合流。

 

 そして陣地の纏め役である、小林一佐と顔を合わせた。

 

「君達があの世界の地獄を生き抜いたエース部隊か。よく来てくれた」

 

 その言葉を聞いてキョウスケが――

 

「おい、俺達どんな風に説明されてんだ」

 

 と言うので俺は「説明の通りなんだろう。きっと」と返しておいた。

 

「小林一佐。状況は?」

 

「最悪だ。他国の工作員はしゃしゃり出たようだが壊滅したと見て良いだろう。マスコミのヘリも撃墜された。様子を見る限り即死だろうな」

 

(工作員もマスコミも運が悪かったな)

 

 そう思い、今回の騒動を詳しく知っているヴァネッサの方に目を配るが相変わらずの営業スマイルだ。

 

「偵察部隊を派遣しようにも敵のテクノロジーとの差を考えると発見して全滅する可能性が高い。被害覚悟でドローンを飛ばしてどうにか情報収集をしている」

 

「賢明な判断です。小林一佐」

 

 パワーローダーのセンサーとパワーローダー専用武器の射程範囲は想像以上に広い。

 2、3キロ先は楽勝で攻撃範囲に収まるだろう。

 武装によればそれ以上先も射程範囲だ。

 センサーの性能もそれ相応だ。

 

 生身で偵察をするのは自殺行為である。

 

「敵は鉄道トンネル内部に潜んでいる。数は確認出来た範囲で既に五十体近くはいる」

 

「「五十体!?」」

 

 完全武装のパワーローダーの五十体は生身の完全武装の歩兵の五十人とはワケが違う。

 その気になればこんな陣地にあっと言う間に壊滅する。

 パワーローダーとその専用武装の前では現代の戦車や装甲車も戦闘ヘリも棺桶同然だ。

 

「急いで戦闘準備だ! 相手がその気になればこの陣地の戦力程度じゃ一溜まりもないぞ!」

 

 俺は指示を飛ばした。

 敵の目的は不明だが今襲い掛かられたら一溜まりもない。

 陣地もろとも吹き飛ばされる可能性がある。

 

 小林一佐は少し驚いた様子を見せたが「どうやら噂通りのようだ」と不敵な笑みを浮かべていた。

 

「警報!? このタイミングで!?」

 

 運が良いのか悪いのか警報が発令。

 爆発音と銃撃音が鳴り響く。

 

 

 佐伯 麗子の先導の元、陣地後方のトレーラーに案内された。

 

「せいぜいくたばらないでくださいよ、佐伯一尉」

 

「そちらこそな、緋田二尉」

 

 そう言って俺達はパワーローダーに乗り込む。

 

『キンジ? 大丈夫?』

 

『リオか』

 

 パワーローダー、ゲイルを身に纏ったリオが待機していた。

 パメラの作業用のワークローダーを身に纏とい、パンサーはジェネを身に纏っていた。

 

『やっぱりウチらがついてないと心配だね、お兄さんがた』

 

 パンサーの言葉に

 

『返す言葉もないな。正直不安で仕方なかった』

 

 と、俺は正直に答えた。

 

『もっと私を頼っていいから――』

 

 リオにもそう言われた。

 

『お嬢さん方、言いたい事は山程あるだろうが敵襲だ』

 

 キョウスケが話を強制的に終わらせる。

 

『味方の陣地で白兵戦になるなこれは・・・・・・出来る限り接近戦で仕留めていくいかない』

 

 パワーローダーの火力は高い。

 装甲車や戦闘ヘリ、武装によれば戦車すら破壊できるほどに。

 味方の陣地で、更には陣地の周囲に民間人すらいる状況で乱射するには危険すぎる。

 

『俺は役立たずだな――』

 

 キョウスケのパワーローダー、バレルは砲撃型。

 中距離~遠距離型でご自慢の両肩に背負った二門の大砲は役立たずだ。

 陣地に被害が出る。

 

 パンサーも戦い方が中距離~遠距離タイプなので心配だ。

 リオはビームではあるが二丁拳銃による戦いだし彼女の腕なら大丈夫だろう。

 

『おいでなすった!!』

 

 キョウスケの言う通り敵が来る。

 黒い三つ目のパワーローダーが複数。

 手には大きな銃器を持っていた。

 



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第四十二話「小休止」

 Side 緋田 キンジ

 

『こいつら相手が生身だろうがなんだろうが殺して回ってやがる!?』

 

 キョウスケの言う通り、三つめの黒いパワーローダーは人間だけを殺すマシーンのようだ。

 それに底知れない不気味さを感じる。

 陣地は半分は既に逃げ遅れた自衛官達による血の海であり、遠くの方ではマスコミのヘリが市街地に落下している。

 救助作業などしている暇もない。 

 

『まるで幽霊みたいなユラユラと!!』

 

 相手の動きは幽霊のように左右にユラユラと動いていてまるで幽霊を相手にしているようだ。

 機動力もあり、狙いも正確で装甲も厚い。

 狭い陣地内を何の障害も感じていないかのように駆け回っている。

 

『接近戦だけでどうにかなる相手じゃねえぞ! 陣地からの撤退はまだか!?』

 

 キョウスケは悲鳴のように叫ぶ。

 確かにキョウスケの言う通り接近戦だけで勝てるような相手ではない。

 一旦後退するかどうか悩んだ。

 

『なんだ!? 戦闘ヘリに機甲部隊!?』

 

 俺は驚いた。

 味方の戦闘ヘリに装甲車や戦車。

 完全装備の歩兵が雪崩れ込んで来たからだ。

 

『援軍!? こんなに早く!?』

 

 キョウスケも驚いた様子だった。

 敵も一旦後退する。

 

『こちら、女クソ上司こと佐伯一尉。その部隊は後方で待機して難を逃れた部隊だ――』

 

『そうかい・・・・・・』

 

 それだけ返しておいた。

  

『こちら小林一佐だ。第13偵察隊は臨時に編成した守備隊の援護を頼む。その間に我々は生存者の救助を行う』

 

『了解――』

 

 ふと俺は突入する事を進言しようかと思ったが、ここはあの荒廃した世界ではなく日本で小林一佐も本格的な実戦は初めてだ。

 

 それに自衛官はなんだかんだ言って軍事組織であり、上の命令は絶対である。

 

 俺達も隊員やリオ達に態勢を整える時間を与えたかった。

 

『あいつらひでえことしやがる・・・・・・軽く地獄絵図だぜ』

 

 キョウスケの言う通りパワーローダーの武器で殺害されたら人間はどうなるだろうか想像するまでもない。

 

『緋田隊長、これからどうするんですか?』

 

『水瀬(第13偵察隊のWAC)か。上からの命令でもあるしな。このまま待機する。長丁場になると思うから武器、弾薬、体の管理はしっかりな』

 

 そう言い終えると俺は『佐伯一尉、境界駐屯地から支援物資を回せますか?』と佐伯一尉に通信した。

 

『お互いよく生きてたな・・・・・・言われずとも手配済みだ。このままだと味方の被害が拡大する。最悪強行突入する心構えでいてくれ』

 

『やっぱり貧乏くじ引かせおって・・・・・・了解』

 

 心の中でくたばれクソ上司と毒付きながら通信を切る。

 

『俺達だけで強行突入? 凄い無茶振りな任務だな。これで死ななかったら奇跡だろ』

 

『まあな――』

 

 キョウスケの意見がもっともなんだろう。

 

『聞こえますか?』

 

『今度はXさんか――どうぞ』

 

『上の方は事態をより厳重に受け止めたようで増援を派遣するつもりのようです』

 

『気持ちは感謝するが、ヘタに増援を送り込んでもこの辺り一帯が死体かスクラップの山になるのは覚悟しておいた方がいい。少なくとも増援はパワーローダーで完全武装した第7偵察隊クラスじゃないと余計に被害が出るぞ』

 

 第7偵察隊。

 宮野一尉率いる部隊でシップタウンでの防衛戦から久しく会ってないが腕は確かな部隊だ。

 

『アナタ程の実戦経験者がそう言うのならそう言うのですね・・・・・・手配するように進言してみます』

 

『頼む――』

 

 それだけ言って通信を切った。

 

『なんだかんだで隊長が板についたな、キンジ』

 

『不本意ながらな』

 

 そう返しておいた。

 

 次の作戦をどうするかまで時間はあるだろう。

 

 それまでどうするか。

 

 その前に敵の襲撃がこない事を祈ろう。



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幕間:隊員との雑談

*前回のお話終了直後のお話です。

 

 Side 緋田 キンジ

 

 ―ルーキーの場合―

 

『改まってどうしたんですか?』

 

『あまり話す機会が無かったもんでな。ここらで個人面談しておこうと思って』

 

 まあ状況が状況なんでお互いパワーローダーを身に纏ったまんまだが。

 

『まあ確かにあっちでは忙しかったですもんね』

 

 本当にルーキーの言う通りだ。

 

『悪いな。もっと早くやっとけば良かったよ』

 

『ははは』

 

『で、ルーキー。この部隊はどうだ?』

 

 そろそろ本題に入る。

 

『正直貧乏くじ引きまくってるような部隊ですけど、今は転属しようとは考えてませんね』

 

『どうしてだ?』

 

 俺は疑問に思った。

 

『もう花形のエース部隊みたいですしね、自分達』

 

『まあ確かにそうみたいだな・・・・・・』

 

『危険な仕事が多くてこれからも沢山恐い思いするんだろうけど、隊長達を放ってはおけないですから』

 

『言うようになったなルーキー。ルーキーの呼び名は卒業かな?』

 

『いえ、けっこうその呼び名気に入っているんでルーキーのまんまでお願いします』

 

『分かったよ、ルーキー』

 

 

 ―水瀬  キョウカ 二曹の場合―

 

『こうしてじっくり話をするのは初めてか?』

 

『本当にどうしたんですか突然?』

 

『なあに。暇つぶしみたいなもんさ。それにリオと一緒にいると人目がな・・・・・・』

 

『あ、自覚あったんですね』

 

 うっさいわ(汗

 

『あの世界行きを志願した理由もこの部隊にとどまる理由もやっぱ強い女性になりたいからか?』

 

『ええそうね。よく変わってるって言われるわ』

 

『今の今までそのスタンス貫き通せてりゃ十分立派だよ』

 

『でも本音を言えばもっと強く――リオやパンサーみたいになりたい』

 

『ああ』

 

 あの二人は別格だからな。

 今でも勝てるイメージが湧かない。

 もう一つの世界行きを志願した男性隊員だけでなく、WAC(女性隊員)達からはアイドル通り越して今じゃスター扱いされてるんだっけか。 

 

『あの二人に何度か戦いを挑んだ事があるけど勝てなかった。それだけじゃない。あの世界の人達の操縦技術に追いつくにはまだまだだと思い知らされたら』

 

『凄い熱意だな・・・・・・』

 

 心の中で産まれる性別間違えたんじゃないかと思ってしまう。

 男顔負けとはこう言う事か。

 

『だから私は最後まで付き合いますよ。隊長』

 

『はあ・・・・・・とんでもない奴が隊員になったもんだ』

 

☆ 

 

 ―高倉 ヒトミ 二曹の場合―

 

 もう一人のWAC、高倉 ヒトミに声をかけた。

 

『こんな時に個人面談ですか?』

 

『強引でもこう言う時にでもやらないと時間を作れないと思ってな』

 

『まあ確かに色々と忙しかったですし、自由行動の時は皆それぞれ好き勝手にやってましたからね』

 

 理解力がある女性で助かる。

 

『確か――自衛隊に憧れて――って、言ってたけど、もう現状自衛隊の範疇から外れてるぞ。その辺はどうなんだ』

 

『確かに自衛隊は武装した災害救助隊みたいなイメージがあってそのイメージで自衛隊に入りましたが、同時に覚悟はしていました・・・・・・まああの世界に行ってその覚悟の脆さを突きつけられたりもしましたが』

 

『大丈夫か?』

 

『大丈夫です。私は後悔していません。自衛官としての本当の使命を果たす時が私達の代になった。ただそれだけだっただけです』

 

『立派だな』

 

 素直にそう思った。

 

『本音を言うと恐いですが――それでも私は、自衛隊や市民に尊敬される自衛官になられたのか、ちょっと不安です』

 

『大丈夫だ、俺が保証する。もう立派に自衛官よりも自衛官しているよ。あれだけの激戦を潜り抜けたんだ。自信を持て』

 

 と、嘘偽りなく伝える。

 

『はい。これからも自衛官としての勤めを果たします』

 

『その高潔さは買うが殉職は許可しないからな』

 

『了解しました。隊長こそ、なんか死ぬイメージは湧きませんけどリオさんをあまり心配させちゃダメですよ?』

 

『了解――』

 

 高倉の言う事ももっともだ。

 返す言葉もみつからない。



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第四十三話「援軍」

 Side とある自衛官

 

『また攻めてきた!!』

 

『素早くて狙いが!!』

 

『これがパワーローダーか!?』

 

 敵の未来兵器――戦闘用パワードスーツ、パワーローダーとその専用火器の戦闘力は想定を遥かに超える物だった。

 

 装甲車だろうが戦車だろうが、戦闘ヘリだろうが容赦なく破壊されていく。

 

 第13偵察隊とその支援者達がいなければとっくの昔に全滅していただろう。

 不謹慎かもしれないが彼達が救世主のように思えてならなかった。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

『このままじゃ増援が来る前に味方が全滅するぞ』

 

 キョウスケの言う通りだ。

 

『この調子じゃ、突入態勢が整う頃にはこの一帯、スクラップか死体だらけになる――』

 

 俺は周囲を見渡しながらそう言った。

 

『隊長どうするんですか?』

 

 恐る恐ると言った感じでルーキーが尋ねてきた。

 

『無茶は承知で俺達だけでも攻勢を仕掛ける』

 

『偵察という名の決死隊だな・・・・・・許可は下りるのか?』

 

 キョウスケの言う通りだ。

 小林一佐や上の性格からしてまず降りないだろう。

 

『・・・・・・とにかく負傷者を下がらせて。この際だ。スクラップになった兵器は遮蔽として利用しよう』

 

『オーライ。現状維持か。だが俺達だけじゃ長くは保たんぞ――どうして城攻めする側が持久戦してるんだ』

 

 これも、全く持ってキョウスケの言う通り。

 普通は逆である。

 だが圧倒的なテクノロジー差でそれが引っ繰り返されてるのだ。

 指揮官の小林一佐も貧乏くじを引いたようなもんだ。

 

 

 Side 佐伯 麗子 一尉

 

 陣地の天幕を奪還し、再びそこで小林一佐と一緒に指揮を執っている。

 公安の女、Xやヴァネッサなどもあれこれ動いている。

 

 現在は悪夢の長期戦、消耗戦。

 

 此方の戦力は小出しの状態になっている最悪の状態だ。

 

 このままでは幾らあいつらでも保たないだろうが、だからと言って第13偵察隊だけを放り込んでも敵の物量に押し負ける可能性がある。

 

 最終手段として空自による爆撃、特科部隊による砲撃で粉砕する――をすると、敵が一斉に此方に雪崩れ込み、事態の収拾がつかなくなる恐れがある。

 

 それにイヤな予感がする。

 やるなら此方も攻勢を仕掛ける時がベストだろう。

 

『こちら第7偵察隊――宮野一尉――現地に到着。これより空挺降下を開始する』

 

『こちら境界駐屯地第4小隊。現地に到着次第空挺降下を開始する』

 

(見計らったかのようなタイミングで来てくれる)と私は心の中でほくそ笑んだ。

 

「了解した。第4小隊は第7偵察隊と一緒にこの陣地の守備隊を援護! この陣地の守備隊は再度態勢を整え次第、攻勢を仕掛けるぞ!」

 

 流れはこちらに来たようだ。

 小林一佐も勝負をする覚悟を決めたのか攻勢を仕掛ける事を選択する。

 

☆ 

  

 Side 緋田 キンジ

 

『やれやれ。どうなる事かと思ったが――なんとかなるもんだな――』

 

『久しぶり。緋田二尉』

 

『お久しぶり宮野一尉――活躍は聞いてるよ』

 

 お互いパワーローダー越しで軽く再会の挨拶を交わす。

 輸送ヘリから次々とパワーローダーが降下してくる。

 

 報告にあった第4小隊達だろう。

 

 豪勢な援軍である。

 

 そんな時に上から指示が来て――

 

『指示が来た。俺達で先行して部隊の突破口を開けだってさ』

 

『こちらも同じ指示だ――行こう』

 

『ああ。階級はそちらが上だ。以前みたいに指示を頼む』

 

『分かった』

 

 俺達は第7偵察隊と一緒に敵陣地目掛けて掛け出した。



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第四十四話「突入開始」

 Side 緋田 キンジ

 

 キョウスケが『こいつら一体一体が強い!!』

 

 水瀬が『しかもウジャウジャ湧いてくる!!』

 

 と言いつつ応戦する。

 一体一体確実に撃破していきながら前進する。

 空爆や、特科の砲撃も開始されたが見事に迎撃された。

 

 最初に聞いた五十体どころか確実に百体以上のパワーローダーがいる。

 全部同じ機種の無人機だ。

 

『大丈夫!?』

 

 リオが敵のパワーローダーを拳銃――ビームピストルで蜂の巣にして尋ねる。

 

『なんとかな!!』

 

 俺も敵を専用ライフルで穴だらけにして返す。

 動力が核融合炉なので爆発も派手だ。

 

『もうそろそろ目的地だ!!』

 

 宮野一尉たちに先導され、敵が陣取ってる鉄道のトンネル跡に雪崩れ込む。

 

 

 トンネル前にはやはりと言うか大量の敵パワーローダーが待ち受けていた。

 

 此方も後続の部隊――普通科の重火器、装甲車の銃座、戦車の砲撃、戦闘ヘリの上空支援などの支援射撃を受けつつ突破を試みる。

 

『後続の連中も無茶しやがる!!』

 

 そう言いつつキョウスケはバレルの両肩の大砲を使って敵を着実に撃破していく。

 

『敵を後続の部隊に近づけさせるな!!』 

 

 宮野一尉とその部隊も的確に敵を撃破していく。

 

『私達も負けてらんないよ!! 』

  

 パンサーも勢いに乗じてマシンガンとバズーカの火を噴かせ、リオとペアを組み、次々と敵を撃破していった。

 

 激しい戦闘ではあるが此方が優勢である。

 

 

 =数分後=

 

『粗方片付いたか――』

 

 俺は周囲を警戒しながら言う。

 

『後はトンネルの内部だな――』

 

 キョウスケは一息つくように周囲を見渡す。

 

 敵の残骸だけでなく、味方の死体やスクラップになった車両や戦闘ヘリも転がる。

 それを乗り越えるように次々と味方が敵陣地のトンネル前を陣取っていく。

 ただし敵に反撃が予想されるのでトンネルの穴の前には立たないでおいた。

 

 ここに至るまで沢山の犠牲を出したがどうにか作戦目標を達成出来た。

 

 問題はここからだ。

 

『トンネル内部だがどうする? たぶん敵が沢山待ち構えているぜ?』

 

 キョウスケの言うようにその可能性が高いだろう。

 俺もその可能性に懸けた。

 

『スモークやチャフ、デコイを展開し、ワンテンポ遅れて飛び込むしかない――』

 

 第7偵察隊の宮野一尉が作戦を提案する。

 

『その後は神頼みか――』

 

 宮野一尉の言う通りにするしか現状方法はないだろう。

 それでも被害が出る可能性はある。

 シールドが必要になるなこれは。

 

『突入準備だ。シールド装備で行くぞ』

 

『やっぱ貧乏くじ引きまくってますね、この部隊は』

 

『言うなルーキー』

 

 ルーキーの言う通りだ。

 やっぱりこの部隊なんか呪われてるんじゃねえのか。

 

 

 ジャミング。

 

 スモーク。

 

 デコイ――もうかなり数が少なくなったドローン達を突っ込ませる。

 

 そしてシールドを構えて一気に内部に突入。

 

 そこで目にした物は――

 

『なんだこれは!?』

 

 広大な空間だった。

 SF――スペースオペラ系の宇宙基地の内部と化している。

 とてもだが廃棄された鉄道内部とは思えない。

 宇宙人の母船内部に迷い込んだ気分だ。

 

『呆けてる場合じゃない!! 来るぞ!!』

 

『チッ、三ツ目小僧どもか!!』

 

 キョウスケの叱咤でハッとなり、迫り来る三つ目小僧に銃を向ける。

 

『増援要請と突入要請だ!! 入り口を確保して内部を制圧していくぞ!! 冗談抜きで国家の危機だ!!』

 

 俺はそう指示を飛ばす。

 まるでもなにも侵略者達の地球の侵略の前線基地にしか見えない。

 事態は想定の斜め上を行っていた。

 

 ヴァネッサが相手を神と称していたがその理由はなんとなく分かってきたようにも思える。

 

 とにかく生き残らないと――

 



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第四十五話「地下要塞制圧戦」

 Side 佐伯 麗子 

 

「し、信じられない!?」

 

「いったい我々は何と戦っているんだ!?」

 

「俺達はこんな連中と戦っていたのか!?」

 

 トンネル内分の画像データーが送られて来て自衛官達に動揺が広がっている。

 何かしらの拡張工事が行われている可能性はあったがまるで宇宙人の地球侵略の前線基地みたいになっていたのだ。

 驚かない方が無理があるだろう。

 

 士気が明らかにガクンと下がったがここまで来て引くに引けない。

 

 さらなる増援を送り込まないといけないがその戦力も枯渇しつつある。

 

 ここが勝負の本番だろう。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 現在戦闘を続行中。

 

 後続の部隊も次々と内部に突入していく。

 驚いたり、硬直したりしていたのでもう階級とか関係成しに怒鳴りつけて戦うように言う。

 

『この三つ目ども一体何者なんだ!? 実はバックに宇宙人でもいんのか!?』

 

 キョウスケの言う通り、本当にバックに宇宙人がいそうでちょっと恐かったが言わないでおいた。

 

 なんだかんだ言って俺達、第13偵察隊、第7偵察隊も相手に慣れてきたもんで撃破率が向上していっている。

 

 ルーキーは手堅く周囲を見ながら援護し、水瀬と高倉のWACペアはコンビを組んで敵を着実に屠っている。

 

 パメラは後方支援。

 

 リオ、パンサーも負けじと次々と破壊していく。

 

 第7偵察隊の宮野一尉や三木 二尉、日高 二曹も頑張っている。

 

『新手!?』

 

 だがそんな優位な状況に待ったをかけるように敵の新手が現れた。

 

『遂に人型機動兵器のお出ましか!?』 

 

 キョウスケの言う通り。

 全高は5mぐらいか。

 まるで黒いゴリラのような外観の人型機動兵器だ。

 右腕に四連装砲。

 左腕に二門の大砲。

 右肩に大きなキャノン砲、両肩にハッチ。

 背中に大きなバーニアと突起物がついた何かだ。

 

『各機散開!! トンネルに近い連中は内部に退避!! 急げ!!』

 

 イヤな予感がしたので俺は階級とかそう言うの無視して指示を飛ばした。

 同時に敵のゴリラの背中の突起物が発射。

 上空で小型ミサイルに分裂して遅い掛かってくる。

 

 次々とミサイルが降り注いでいき――味方が爆炎の中に消えていく。

 

 

 ミサイルの爆風で吹き飛ばされながら俺は立ち上がる。

 

『あ――くそ・・・・・・生きてるのか? 実は体の半分消し飛んでるとか言う状態じゃねえよな?』

 

『生きてるか? 第13、第7偵察隊及び、リオ達も無事だぞ』

 

『佐伯一尉か・・・・・・そいつはありがたい』

 

『それだけの軽口叩けるんならまだ無事だな・・・・・・』

 

『ああ、それよりも味方で俺達以外の生存者は?』

 

『・・・・・・ほぼ壊滅した。装甲車、戦車の乗員の生存はほぼ絶望的だ。僅かにトンネル内部に逃げ込んだ連中だけが生き残っている』

 

『生き残った連中は下がらせろ。囮にしかならん』

 

『分かった――お前達はどうする? 戦うつもりか?』

 

『どの道、誰かが殿務めないとあのゴリラ一体に全滅させられちまう――クソ三つ目連中も追加で来やがった。何体いやがるんだ』

 

 そう毒付いた瞬間に激しい砲火がゴリラや周囲の三つ目連中に降り注いだ。

 

『こちら第4小隊。加勢に来たぞ』

 

『第4小隊――今迄どこにいたんだ?』

 

 そういやいたなと思いつつ尋ねる。

 

『悪い。撃ち漏らした敵の排除とかで道が混んでてな』

 

『そうか』

 

 と言いつつ、ゴリラを観察する。

 右肩のキャノン砲は光学兵器。

 両肩のハッチの内部はミサイル。

 右腕の四連装砲は実弾兵器。

 左腕の二連装砲も光学兵器。

 後ろの背中の突起物は分裂ミサイル。

 

 見掛けによらず機動力があり、第4小隊の攻撃を地面を滑るように回避しながら反撃する。

 

 だが倒せない相手じゃない。 

 

『いけるキンジ?』

 

『ああ、大丈夫だ』

 

 リオが傍に駆け寄る。

 敵の数も少なくなってきた。

 ここが最終ラウンドだろう。

 

『全力で仕掛けるぞ。目標は敵の背後の大型ミサイルと左肩のハッチだ。やれるな?』

 

『うん!』

 

 ブーストを全開に噴かして仕掛ける。

 後先考えない機動だ。

 リオやパンサー、キョウスケもついてくる。

  

 敵の周囲をまるでアメコミのスーパーヒーローのように飛び回り、攻撃を敵の火器やバックパック、特にミサイル周りに集中させる。

 

 リオやパンサーが次々と的確に敵の火器に攻撃を当てていく。

 キョウスケ達やルーキー、水瀬や高倉のWACペア、第7偵察隊の皆も負けちゃいない。必死に攻撃している。

 ゴリラが次々と破壊されていく。

 

 敵の射撃が飛んでくる中、俺は狙いを背後の大型ミサイルに絞った。

 

『あたれえええええええええええええええええええええええええ!!』

 

 高機動戦闘中によるフルオートでの射撃。

 弾が吸い込まれるように敵背後の大型ミサイルに着弾。

 大爆発を起こす。

 敵のゴリラが火を噴き、周囲の三つ目のパワーローダーを巻き込んでゴロゴロと墜落して壁に激突。

 

『まだやる気か!?』

 

 しかしゴリラがまだ立ち上がろうとする。

 俺は――まだ残っていた左肩のハッチを攻撃する。

 

 今度は左肩が大爆発を起こした。

 

『あいつゾンビか何かか!? まだ起き上がろうとするぞ!?』

 

 キョウスケが言うようにゴリラはまだ立ち上がろうとする。

 

『撃て撃て!!』

 

 俺は構わずに攻撃指示を出す。

 味方の一斉砲撃が手負いのゴリラに突き刺さる。

 幾ら重装甲でもこれだけの火力を受ければ一溜まりもないだろう。

 

 そしてゴリラは煙を吹き出し、スパークと小爆発を引き起こして――大爆発を引き起こす。

 

 

 その後は敵の掃討作戦に移行。

 

 自衛隊員に多大な犠牲を出しながら敵の大規模拠点を確保。

 

 敵の正体や施設の調査などは他の部隊に引き継ぎ、俺達、第13偵察隊は引き上げた。

 

 まさかここまでの大規模戦闘になるとは思わなかった。

 

 だがまだやる事がある。

 

 喧騒鳴り止まない陣地に戻り、俺はヴァネッサに向かってこう言った。

 

「相手は何者なんだ?」

 

 と 



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第四十六話「敵の正体」+第四十七話「世紀末世界への帰還」

すいません、同じ話を二つ投稿していました。


 第四十六話「敵の正体」

 

 Side 緋田 キンジ

 

 場所を移し、天幕の一つを借りて人払いをする。

 

 キョウスケを含んだ第13偵察隊。

 

 宮野一尉たち第7偵察隊。

 

 佐伯 麗子一尉もいる。

 

 ヴァネッサは観念したように「そうですね。私もあれだけの戦力をこの世界に持ち込んでいるのは正直想定外でした」と話した。

 

「一つずつ聞いていくぞ。あいつらの正体は何者だ? 神とかそう言う呼び方じゃなくてだ」

 

 俺は代表して尋ねた。

 

「戦乱と破壊をもたらす存在――いや、何者かと言ったところでしょうか。それがあの世界に潜んでいるのです」

 

「戦乱と破壊もたらす存在?」

 

「裏でリビルドアーミーを操り、そして貴方がた見てきた通り、独自に強大な戦力を保有し、平行世界にまで手を伸ばすだけでなく僅かな期間であれだけの拠点を構築する存在なのです」

 

「境界駐屯地にゲートを繋げたのもそいつか?」

 

「そこまでは分かりませんが、何かしらの形で関わっているしょう」

 

「なぜ日本を狙う?」

 

「と言うよりも既に世界の他の場所にもゲートが開かれている可能性を考えた方がいいでしょう」

 

 その言葉を聞いて俺を含めて――皆、最悪の想像が過ぎった。

 あんな前線基地が世界中に存在していて潜んでいるヤバイ状況。

 冗談抜きで世界の危機だ。 

 

 先に言葉を発したのは佐伯 麗子だ。

 

「前もって言っておくがはいそうですかと馬鹿正直に世界の人間がその所在を明らかにするとは思えん。日本国内はともかく、外国になるとどうにもならん」

 

 と、麗子は言った。

 

「日本を優先した理由はやはり他の世界に通じるゲートが幾つもあるからでしょう」

 

「そう言えば以前そんな事言ってたな」(*第十九話「ヴァネッサと言う女」参照)

 

 確かヴァネッサと最初に会った頃だ。

 あの頃から怪しさ全開のエセキャリアウーマンキャラだった。 

 

「奴に目的などあるのかどうかすら不明です。その名は――フォボス。それが奴の名前です」

 

 フォボス。

 火星の衛星の一つ。

 

 また、ギリシア神話の恐怖の神の名。

 

 それが俺達が戦った敵の名前だそうだ。

 

 

 

 第四十七話「世紀末世界への帰還」

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 ヴァネッサが明かした話は信じていいかどうかな部分もあるが嘘と切り捨てるにしては多くの物を見てきてしまった。

 

 とんでもない強大な存在がいる。

 

 それだけは確かだ。

 

 またヴァネッサの話は機密事項として口外禁止。

 佐伯 麗子の預かりとなった。

 

 それよりも問題なのは自衛隊と日本政府である。

 

 

 自衛隊は被害が甚大。

 

 虎の子の機甲兵器がかなりの数をスクラップにされた。

 

 さらには貴重な多くの兵士までも想定外の犠牲を強いられた。

 

 万年予算不足で超少子高齢化のご時世の自衛隊からすれば大きな痛手だ。

 

 SNSが普及した現代社会で日本政府も今回の一件は全て隠し通せるワケもなく、また多くの被害、殉職者が出ているので「とんでもない戦闘があった」ことは人々に伝わったようで波紋が広がっている。

 

 

 そして俺とキョウスケは一尉に昇進した。

 

 どう言う意味での出世かは分からないが――隊の指揮は引き続き俺がとる事になった。

 

 残りの休暇は今後の活動方針を決める上でも他の隊員達と一緒にあの荒廃した世界で過ごすことにした。

 

 それに元の世界で過ごすと厄介事に巻き込まれそうな気もするしな。

 

 

 相変わらず基地にはリビルドアーミーの巨大戦艦が横たわっていてどうにかするために海自や空自の人間の技術屋達を総動員しているらしい。

 

「とりあえずパワーローダーをどうにかしないと――敵との戦力差が――」

 

「ああ。このままじゃジリ貧だ。出来れば嬢ちゃん達の分もな」

 

 ここまで生きてこられたのは間違いなくリオ達の御蔭だがそのリオ達ですら苦戦を強いられる場面が多くなってきている。

 

 敵のパワーローダーとの性能差とかの問題もあるのだろう。

 

 腕でカバーするのは限界が来ている。

 

 そこで提案してきたのはヴァネッサだった。

 

「新しいパワーローダーを色々と準備させて頂いています」

 

 との事だった。

 

 それを導入されるまで待てばいいかな? とかも想いもしたが周辺各地で妙な動きを探知している。

 

 戦闘態勢をシッカリ整えて過ごす事になるだろう。

 

 まあその前に――

 

【第7偵察隊、第13偵察隊、第4小隊・祝勝会】

 

「まさかこっちの世界でパーティー開いて待ち受けてたとはな」

 

 キョウスケも呆れ気味だ。

 基地の格納庫でパーティーである。

 この待遇に呆気にとられた。

 

「まあいいんじゃないか? ずっと暗い話題ばっかって言うのもアレだし、明るくなれる時に明るくなった方がいい」

 

「なんだかんだ言って隊長らしくなったよお前さん」

 

 と、キョウスケに言われたので俺は「ありがとよ」と返しておいた。

 

 日本で起きた戦いで散っていった人々のために黙祷からはじまったパーティーは盛り上がった。

 

 大画面による家電ゲーム大会やこの世界でブームになったオセロ大会にビンゴ大会。

 

 パワーローダー同士の展覧試合。

 

 さらには日本から持ち込まれたご馳走の数々――

 

 俺達は帰ってきた。

 

 この荒廃した世界に。

 

 今迄以上に困難な道が待ち構えている。

 

 それでも前に進もうと思う。

 



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決戦、ヴァイパーズ
第四十八話「因縁の毒蛇」


 Side 緋田 キンジ

 

 危険地帯と言われていた、はじめて自衛隊がその地に足を踏み入れた場所、グレイヴフィールド。

 

 今も予断は許さないが一時に比べて落ち着いている。

 

 それでも軍備増強は急務だ。

 

 リビルドアーミー。

 

 最近動きを見せてないヴァイパーズ。

 

 そして裏で暗躍するフォボスなる存在。

 

 特にフォボスは世界を跨いで暗躍している。

 

 冗談抜きで世界の危機だ。

 

 だが世の中には順序と言う物がある。

 

 状況が落ち着いている今のウチに、まずはヴァイパーズを完全壊滅させる方針となった。

 

 ヴァイパーズはリビルドアーミーの支援を受けているらしく、戦力的にも油断は出来ないし、何をしでかすか分からない恐さがある。

 

 また周辺住民にとっても危険な存在でもある。

 

 ここらで壊滅させといた方が世の中のためだ。

 

 それに奴達も此方を潰すつもりのようだしな(第三十四話「あれから・・・・・・」参照)

 

 ヴァイパーズはシップタウンの北西。

 

 グレイヴフィールドの南西の方角に大規模拠点、あるいは本拠地があると言われていて大部隊が集結しつつあるそうだ。

 

 ここから西の方角に存在するリビルドアーミーの本拠地、リビルドシティとの方角的にも、リビルドアーミーとヴァイパーズの支援を行うのは都合がいい立地だと言うのもあるのだろう。

 

 様々な情報を統合するに近いうちに本気で一戦交えるつもりのようだ。

 

 既に末端の連中が暴発して周辺を荒らし回っているらしい。

 

 戦いはもう既に始まっている。

 

 

 Side 五藤 春夫 陸将

 

 危険な手ではあるがやむをえんと思った。

 

 この世界に来てから自衛隊初の前代未聞の作戦が続いている。

 

 今度の作戦もかなりの危ない作戦だ。

 

 作戦案は二つ。

 

 基地に襲撃を仕掛け、撃滅する。

 

 敵が動いて進軍しているところを叩く。

 

 この二つのどちらか。

 

 あるいは両方行うかになる。

 

 最低でも此方の戦力の半分を投入する賭けになるだろう。

 

 フォボスやリビルドアーミーの件もあるし、なるべく戦力を温存しておきたい。

 

 だがヘタに守りに入ると痛い目を見る。

 

 どうするべきか悩んだ――

  

 

 Side 緋田 キンジ

 

 俺達、第13偵察隊とリオ達はまずシップタウンに向かう事にした。

 

 安全路が確保されているので多少強行軍でもいける。

 

 その前にまず、グレイヴフィールドの外側にいるキャラバンの人達と情報収集することにしたのだが――

 

『ヴァイパーズの連中、本当に活発化してやがる』

 

 俺はそう毒付いた。

 キャラバンと合流した時には戦闘が始まっており、急いで介入。

 現地にいた自衛隊とキャラバンやトレーダーの住民と一緒に撃退した。

 この分だとシップタウンも危ないだろう。

 

 無茶になるがシップタウンに急ぐことにした。



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第四十九話「シップタウンへの帰還」

 Side 緋田 キンジ

 

『初めて来た時の事を思い出すな!』

 

 キョウスケの言葉に『ああ、そうだな!』と返す。

 

 シップタウンに到着したら敵襲を受けていた。

 

 敵はヴァイパーズ。

 

 戦車や武装車両、パワーローダー、無人兵器の混成部隊だ。

 

 キョウスケの言う通りシップタウンに初めて来た時もこんな感じだったが今回は敵の数が多い。

 

 ヴァイパーズが決戦に備えていると言う話やリビルドアーミーの支援を受けていると言う話は現実味を帯びてきた。

 

『ほう、自衛隊の新手か――』

 

『通信?』

 

 突然の通信。

 相手は戦車サイズの、大きな緑色のカニのようなマシンに乗っている。

 

『私はヴァイパーズのクラーベだ。キサマを殺す者の名だよ』

 

 上から目線の低い男の声がした。

 そしてカニのようなマシンが地面を滑走して突っ込んでくる。

 

『速い上に堅いぞ!!』

 

 キョウスケ達が攻撃を仕掛けるが相手は時に避け、時に受け止めて攻撃を仕掛ける。

 

『あんなのに接近戦を持ち込まれたら終わりだ!! 散開しろ!!』

 

 俺は指示を飛ばす。

 キョウスケやリオ達が散り散りになる。

 そして俺の方に向かって来た。

 胴体からミサイル、ビーム砲。

 そして胴体の前部両椀についているハサミからもビーム砲が飛び出た。

 

 見た目通りに高火力だ。

 

 それをギリギリで避ける。

 

『キョウスケはやらせないよ!!』

 

『チィ!!』

 

 パンサーの黒いパワーローダー、ジェネからマシンガンとバズーカが浴びせられる。

 だがそれを軽く回避し、反撃に転じる。

 見掛けによらず旋回力も高い。

  

『隊長達はやらせない!!』

 

 ルーキーがドランで弾幕を張り、他の敵を遮断する。 

 

『ヒトミ!!』

 

『分かってる!!』

 

 水瀬 キョウカと高倉 ヒトミのペアもパワーローダーブロッサムでルーキーと一緒に遮断してくれる。

 他の第13偵察隊の隊員達も同じだ。

 

『やってくれる!!』

 

 俺とキョウスケ、リオとパンサーの四人がかりでクラーベが駆るカニ型マシンを追い詰めていく。

 ブーストを後先考えずに使ってのドッグファイト。

 距離を離されてのヒットアンドアウェイや長距離戦に持ち込まれたら負ける。

 今がチャンスなのだ。

 

『もらった!!』

 

 そしてヴァイパーズのクラーベが乗るカニ型マシンにキョウスケのパワーローダー、バレルの両肩キャノンが着弾する。

 破壊には至らないがダメージは通ったようだ。

 

『チッ――引き際か――総員撤退!!』

 

 敵の数が少なくなり――形勢の不利を悟ったのかクラーベとカニ型マシンは他のヴァイパーズの仲間達と一緒に撤退していった。

 

 敵ながら引き際も鮮やかだ。

 

 どうにか修羅場を潜り抜け、シップタウンに入り込む事にする。

 

『やはりパワーローダーの性能差が――』

 

『ああ――正直キツいな――』

 

 キョウスケも愚痴りたい気持ちも分かる。

 敵も段々手強くなっている。

 ヴァネッサのパワーローダーを待つか、それと中継ぎで他の機種に乗るか。

 悩みどころである。

 

『・・・・・・シップタウンに入ろう。現状確認だ』

 

 その問題は脇に置いておき、シップタウンに入ることにした。



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第五十話「代表者の決断」

 Side 緋田 キンジ

 

 ゲートの中に入ると早速歓迎された。

 

 最初に来た時と違ってちょっと戸惑ったりもした。

 

「おお、無事だったか」

 

「キーツさん」

 

 なんだか久しぶりな気がするな。

 シップタウンの防衛隊隊長、初老の老兵のキーツさんと再開した。

 最初は険悪な仲でヴァイパーズのスパイ呼ばわりされりもしたが、なんだかんだあって今は親しい関係だ。

 

「聞いたぞ。おぬしら中々に暴れ回っているそうじゃないか」

 

「そっちも元気そうで」

 

「ははは――歳はとりたくないもんだ。ヴァイパーズの連中もとうとう本腰を入れてこの辺り一体を制圧しようと考えているようだ」

 

「ええ。近々大規模な軍事行動を起こすつもりのようです。その事でシップタウンはどうするのかお伺いしにきました」

 

「成る程な――それでシップタウンが戦わないことを選択したらお主らはどうする?」

 

「いえ、それも無理もない選択かと――本音を言えば、無理して戦うよりも身の安全を第一に考えてくれた方が嬉しいです」

 

 文字通りの心の底からの気持ちだ。

 この世界は――現代日本と根本から色々と事情が異なる。

 戦わなければ生き残れない世界であり、同時にヘタに弱者扱いされるとプライドを傷つける恐れがあるのだが――それでも言いたかった。

 

「じゃが、リビルドアーミーとの戦いの傷はまだ癒えきっておらんじゃろ? 無理をすな」

 

「あなた達は立派です。文字通り命を賭して自分達の土地を守ろうとしている。正直援軍はありがたいのですが――敵はリビルドアーミーやヴァイパーズだけじゃないでしょう」

 

「確かにな・・・・・・ヴァイパーズの後釜や食い残しを狙っている野盗連中は大勢出るのは想像はつく」

 

「言いたい事は分かります。この土地をヴァイパーズやリビルドアーミーの連中に奪われたらしまいだと。だけどその戦いを乗り越えた後も考えて動いてもバチは当たらない筈です」

 

「ふむ――成長したな・・・・・・」

 

「へ?」

 

 キーツさんに褒められて俺は「?」となった。

 

「老兵の戯れ言じゃよ。それに最近人を見る目に自信が無くなってきたからな。まさかリビルドアーミーにケンカを売る連中とは思わなんだし――」

 

「はあ・・・・・・」

 

「老人の長話に付き合わせて悪かったな――マイアは――」

 

「ここにいます」

 

「マイアさん!?」

 

 シップタウンの代表者マイアさん。

 長い髪の毛をお団子さんにしたヘアースタイル。

 メガネをかけた母性的な顔立ち。

 大きな胸で軍服風の姿の女性。

 

 彼女の登場に周りも静まりかえる。

 

「私は悩んでいました。ですが自分が自分の出来る範囲で自衛隊を手助けするつもりです」

 

「ちょっと、そんな重大な決断を決めていいんですか? ヴァイパーズだけじゃなくリビルドアーミーの連中とかも――」

 

 と、俺は助け船を出すが――

 

「私なりにちゃんと考え、様々な人々にも相談した結果です。それにリビルドアーミーのやり方を考えれば適当に難癖をつけて攻めてくるのは明白です」

 

「あ~そうだな・・・・・・」

 

 当事者だからマイアの言い分は分かる。

 リビルドアーミーのやり方はチンピラのソレだった。

 

「このまま静観を決め込んで、もし自衛隊が敗北したら未来はリビルドアーミー、あるいはヴァイパーズによる暴力の支配になるでしょう。そうならないように、勝算があるウチに自衛隊と一緒に戦う道を選択するのが最善だと判断しました」

 

「・・・・・・これがこの世界の指導者か」

 

 比べるのは間違いかもしれないが、日本の政治家とは根本的な部分で格が違う。

 

 俺は暗号通信でシップタウンの決断を自衛隊――五籐陸将に伝えた。



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第五十一話「再強襲」

 Side 緋田 キンジ

 

 俺達は以前貸し与えられた専用のガレージにトレーラーを入れる。

 パワーローダーの整備に入った。

 

 俺も手伝える範囲で手伝う。

 

「なんだかんだでこのパワーローダーとも長い付き合いになったな」

 

 と言うとキョウスケが

 

「シップタウンに初めて来る前に購入した奴だもんな」

 

 そう、思い出すように言う。

 

 パワーローダーフェンサー。

 随分長く身に纏ったような気がする。

 購入当時はまさかここまでの付き合いになるとは思わなかった。

 

「ヴァネッサの新型パワーローダーを待つのもいいが、また戦闘が起きるかもしれないし、準備はしておこう」

 

「了解――もういっそ、設計図もらって材料買って一から作った方が早い気もするがな」

 

「まあな」

 

 この世界の自衛隊が大量にパワーローダーを保有するに至った理由はこの世界のキャラバン、トレーダーの人々から大量購入したのもあるが、一から作って量産したのもある。

 

 この世界と日本とが繋がってるからこそ出来る荒技だ。

 

 と言うかこの世界、工作用マシンと設計図さえあれば幾らでもロボットやパワーローダーを製造出来る恐るべき世界でもあるのだ。

 

 噂ではこの技術を応用して新型の戦車や戦闘ヘリを作ろうという動きが自衛隊にあるのだとか・・・・・・

 

 正直恐いが、それぐらいやらないとフォボスやリビルドアーミーには太刀打ちできないだろうとも思っている。

 

「俺達もそうだがリオやパンサーのパワーローダーも限界だろう?」

 

「まあな。あの二人でも腕だけで切り抜けるのはな――」

 

 キョウスケが言わんとしている事もわかる。

 その辺も問題だろう。

 

「って、警報!?」

 

「敵の第二波か、クソ――!!」

 

 恐らくはヴァイパーズだろう。

 思ったよりも敵の襲撃感覚が早い。

  

 

 襲撃されている場所は北ゲート前だ。

 

 敵の数は先程よりも多くなっている。

 

 敵の戦車や戦闘車両、そしてクラーベと名乗った奴が乗る大型のカニ型マシンが先陣を切る。

 

 その周囲にはパワーローダーが飛び回り、後から無人のロボット兵器が続く。

 

 一気に乱戦に持ち込まれ、北ゲートは崩壊しようとしていた。

 

 そもそも北ゲートは前々回の戦いでヴァイパーズのゲテモノ戦車に破壊され、(第十五話「シップタウン防衛戦」参照)修復したはいいが急ごしらえの物で以前よりも防御力は格段に落ちている。

 

 突破の時間の問題だ。

 

『フハハハハハハ、シップタウンも終わりだな!』

 

 クラーベの勝ち誇った高笑いが周囲に響くが――

 

『勝手に終わらせんじゃねえ!!』

 

 俺はパワーローダー、フェンサーの専用ライフルを撃ち込む。

 しかし全く効いていない。

 

『どんな装甲してやがんだ』

 

『このキャンサーの前に散るが良い!!』

 

『誰が――!!』

 

 だがこのままじゃ不利だ。

 援軍が来ても生半可な数じゃそのまま押し切られる。

 などと思っていると敵のミサイルが飛んできた。

 それを高速でブーストを噴かして飛び回り、ミサイルを手に持ったライフルで迎撃する。

 

 しかしミサイルの近距離爆発の衝撃で地面に叩き付けられた。

 

『このまま散るが良い!!』

 

『ッ!!』

 

 ハサミを向けられる。

 ビームが発射される直前――

 

『俺達もいるぜ!!』

 

『私も!!』

 

 キョウスケとリオのコンビが接近してクラーベのキャンサーに仕掛ける。

 しかしクラーベは「チッ」と舌打ちしていったん距離を離して火砲を一斉射する。

 

『あのゲイル、バレル、ジェネ、フェンサーを狙え!! あいつらが守りの要だ!』

 

 不味いと思った瞬間。

 敵は攻撃を俺達四人に集中させてきた。

 猛烈な砲火でどうにか致命打を避けるがこれでは長くは保たないだろう。

 

 シップタウンの防衛隊や自衛隊の駐留組、他の第13偵察隊のメンバーも敵の物量に押されて此方の援護が出来ない様子だ。

 

(このままでは!!)

 

 何か打開策を考えなくては。

 そう思ってしまう。

 

『どうもヴァネッサでございます。緋田 キンジ様、物資が届きました!!』

 

 と、オープンチャンネルでヴァネッサの声が聞こえる。

 

 そして戦場のど真ん中にミサイル――いやカプセルが四つ落下する。

 

 同時に煙幕弾が撃ち込まれた。 

 

『今のウチです! カプセルの内部に新しいパワーローダーを用意しておきました! 宗像様やリオ様やパンサー様にも用意しております!』

 

 そしてパワーローダー内のディスプレイ画面に誘導シグナルが設置される。

 

 上空に航空機――マザーバードと呼ばれるリビルドアーミーが使う飛行機械が通り過ぎ、そこからピンク色のパワーローダーが落下してきたが今は構っている暇はない。

 

 俺はカプセルに向かって掛け出した。

 



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第五十二話「新戦力」

 Side 緋田 キンジ

 

(こいつは・・・・・・いや、悩んでいる暇はないか)

 

 誘導に従い、カプセルの元に辿り着くと一目見た時驚いた。

 そこには以前戦ったリビルドアーミーのアインブラッドタイプと共通点を見出すシルエットだったからだ。(第三十二話「アインブラッドの脅威」参照)

 

 グリーンの本体。

 緑色に銀色の二本角。

 黄色い瞳。

 右肩の四連装ロケットランチャー。

 左肩のキャノン砲。

 右腕にはアサルトライフル。

 左腕にはアームガン。

 後ろの腰にはナイフ。

 両足側面にも二連装の銃口機器がついている。

 

 アインブラッド・ガンブラスト

 

 そいつがこいつの名前。

 

 これだけの重武装なのに動きがフェンサーよりも軽い。

 思いのままに動く。

 軽くビームのアサルトライフルを薙ぎ払うように発射して敵のアインブラッドを一掃。

 戦車にはミサイルやキャノン砲を撃ち込んでいく。

 

『スゲェ・・・・・・』

 

 武器も特注なのか破壊力が今まで使用してきた武器に比べて段違いに高い。

 

『早速暴れてるじゃねえか! 俺達の分も残しておけよキンジ!』

 

 キョウスケに与えられたパワーローダーはバレルの改良型らしき機体だ。

 両肩に背負うように装備されたキャノン砲。

 手に持った銃器。

 両腕に備え付けられたアームガン。

 両足にはミサイルコンテナ。

 

『早速行くぞ!! オラオラ!!』

 

 両肩のビームキャノン。

 両腕の実弾のアームガン。

 両足のミサイルコンテナが一斉に火を噴く。

 

 敵集団の一塊が丸ごと消えた。

 

『クソ――これ以上は――』

 

 状況の急展開に焦る様子のクラーベ。

 しかし――

 

『出遅れてごめん、キンジ』

 

『私たちの出番じゃん!!』

 

 リオとパンサーが。

 青と黒の閃光がカプセルから飛び出た。

 

 青い方はリオが使うゲイルの改良型。

 背中に大きな飛行ユニットが搭載されている。

 二門のキャノン砲が搭載されている。

 手には二丁のライフルを持っていた。

 サイドスカートにも折り畳み式のキャノン砲が接続されている。 

 

 黒い方はジェネの改良型と思われる。

 大型のブーストバインダーはそのまま。

 サイドスカートにリオの機体と同じく折り畳み式のキャノン砲が接続されている。

 武装はライフルにシールド。

 外見にも大きな変化は見られないがスピードが速くなっている。

 

 両者は息をピッタリ合わせて次々と進路上の敵を破壊していく。

 

『いや~流石ですね。最新鋭機をこうも使いこなすとは――』

 

 と、ヴァネッサは言う。

 ピンク色のパワーローダー。

 二つ目にトサカ。

 戦闘機やF1カーのような流線的なフォルム。

 なにより最大の特徴は肩にマウントされた浮遊兵器――空飛ぶ剣だろうか。

 それが空中を自由自在に飛び回って次々と敵を串刺しにしたり、ビームを発射したりする。

 

 一種の男の夢が実現したような平気だ。

 

『こんな時になんだが――本当に何者なんだ、アンタ?』

 

 と、俺は何気に無双しているヴァネッサに尋ねた。

 

『ここまで来たら私の正体についても詳しく話しますね。今は生き延びることを優先してください』

 

『了解。約束破るんじゃねえぞ』

 

 そう言って俺は次々と全身の火器で敵をスクラップにしていく。

 面白いように敵が破壊されていき、今迄の苦戦は何だったんだと言いたくなるような戦いだった。

  

『バカな!? なぜだ!? 我々ヴァイパーズにとってこれは通過点の筈――』

 

 グラートは必死に応戦しつつ後退していく。

 俺はグラートの言に『いいように利用されてるくせによく言うぜ』と返しておいた。

 

 敵が退いていく。

 

 傍にリオが来た。

 

『どうするキンジ?』

 

『放っておくよ――さすがに3度目はないと思うが』

 

『だけど3度目の正直っていうぜ?』

 

 確かにキョウスケが言うようにその可能性もあるが。

 それ以前にヴァネッサの正体が気になっていた。

 

 こうしてシップタウンを守る4度目の戦いは幕を閉じた。



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第五十三話「ヴァネッサの正体」

 Side 緋田 キンジ

 

 戦後処理はこの土地に駐留していた他の自衛隊の部隊に任せて、シップタウンで使わせてもらっているガレージに主だったメンバーが集合する。

 

 ちなみにパワーローダーを運んできてくれた大型航空機、マザーバードはシップタウン外部に置いてある。

 

「さて、私の何から聞きたいですか? 流石に年齢とか3サイズは――」

 

 などとヴァネッサは茶化してくる。

 俺はため息をついて「正体を明かしてくれと話した」

 

「ハッキリ言いますと二重スパイですね」

 

「二重スパイ?」

 

 リオが珍しそうに言った。

 

「敵の内部に潜入して味方の有利になるような情報を探って味方に教えるお仕事の人と言う認識で構いません」

 

 と、丁寧にヴァネッサはリオに教えた。

 この世界では良くも悪くも単純だからスパイと言う概念が分からない人もいるだろう。

 

 説明自体は特に問題はない。

 

「スパイなのは何となく想像していたが二重スパイってのはどう言うことだ?」

 

 キョウスケの言うとおりだ。

 スパイなのは何となく分かっていた。

 

 出なければリビルドアーミーの最初の会談をセッティングなんて出来ないだろう。(第二十三話「思想の対価」参照)

 だが二重スパイとなるとまた話は変わってくる。

 

「二重スパイってなんなの?」

 

 当然の疑問をパメラが投げかけてくる。

 

「スパイのフリをして敵の内部に潜り込んでるのに敵に対して有利な情報を流し続ける人の事ですね」

 

「つまりどういうこと? 私そんなに頭よくないんだけど?」

 

 お手上げ気味にパンサーが尋ねる。

 少々ややこしいが「つまり敵じゃないんだな?」と締めくくる事にした。

 

「その通りです。私は表向きはリビルドアーミーのうさんくさいスパイキャラを演じていました」

 

「自分でうさんくさいって言っちゃってるよこの人……」

 

 気持ちは分かるぞキョウスケ。

 俺も同じ気持ちだ。

 

「で、ここからが本題です。本来の雇い主はレジスタンスであり、そしてプレラーティ博士です」

 

「プレラーティ博士? どっかで聞いたことがあるような、ないような……」

 

 キョウスケは頭を捻って思い出そうとする。

 

「恐らく偽名でしょうね。青髭のお話の元になったジル・ド・レェ元帥に関わりがある人物ですね。暇なら日本のネットで調べてみるといいでしょう――」

 

 ヴァネッサは軽く解説してくれた。

 

「で? そのプレラーティ博士ってのがヴァネッサ――君の雇い主なのか?」

 

「はいそうです。プレラーティ博士の目的と私の目的は合致していましたしね」

 

「日本で戦った連中のことか?」

 

「はい。その通りです」

 

 どんどん謎が解き明かされて線で繋がっていくのを感じる。

 

「プレラーティ博士やヴァネッサはどうしてフォボスと戦うんだ?」

 

 キョウスケがそう問いかける。

 

「プレラーティ博士は分かりませんが、私は――仲間や故郷の仇でもありますから」

 

 ヴァネッサの雰囲気が変わった。

 

「そもそも私はこの世界の人間ではありません。かといって緋田 キンジ様達の世界の住民でもありません。他の並行世界の人間なんです」

 

「「なっ!?」」

 

「「「え!?」」」

 

 俺達は驚いた。

 ここに来てまた他の世界の住民?

 

「プレラーティ博士もそうですよ?」

 

「これどうする? 上に報告するか?」

 

「正気疑われる内容だが――嘘をついている気配もないが――今はともかく最後まで話を聞こう」

 

「そうするか、キンジ」

 

 俺は「続けてくれ」と、話を進めることにした。

 

「私が元居た世界は人類同士でパワーローダーを使った戦争をしていました」

 

「まさかさっきの戦闘で使っていたパワーローダーはその世界の?」

 

 先程の戦闘を思い出しながら訪ねる。

 

「はい、その通りです。これでも私は地球連邦軍の特殊部隊に所属していましたが内乱が起きました」

 

「内乱?」

 

「原因は地球連邦の腐敗ですね。当然民衆は不平不満の声を挙げますが、それを強行的に封じ、民衆はさらに過激な手段で腐敗を正そうとして、地球連邦はそれに対抗するためにより強硬な手段で――を繰り返していくうちにと言うやつですね」

 

「それがヴァネッサの世界か」

 

「ですが、それを調停する存在が現れました」

 

「フォボスか」

 

 俺は結論を先に答えた。

 

「その通りです――奴は調停者を名乗りましたがやってる事はより過激な武力の弾圧でした。相手が地球連邦だろうがなんだろうがお構いなしです」

 

「話のスケールがデカくなってきたな……で、どうなったんだ?」

 

 キョウスケは呆気に取られながら話の続きを促す。

 

「奇跡的に退けましたが――残ったのは荒廃した世界です。一部の人間は考えました。フォボスがやったように他の並行世界にいって資源なり何なり得て建て直せばいいんじゃないかと」

 

「その一人がヴァネッサなのか」

 

「そうです緋田様。いや~最初は自分たちの運の無さを嘆きましたよ。まさか元の世界よりも地獄な世界と繋がるなんて――もしかするとフォボスはそこまで計算していた可能性もありますね。私からは以上です」

 

 少しばかりの沈黙。

 最初に言葉を発したのはパンサーだった。

 

「まあ難しい話で理解が追い付かない部分があったけど敵じゃなくてウチらの味方ってことでいいんでしょ?」

 

「そうだな。その解釈でいいか」

 

 俺もパンサーの解釈に乗っかることにした。

 

「私が言うのもなんですがそれでいいんですか?」

 

 珍しくヴァネッサがあきれた様子を見せた。

 

「強いて言うなら、もっと早くパワーローダーを回して欲しかったな」

 

 キョウスケが愚痴を言う。

 

「それは私の予測が誤ったとしか言いようがありません。それに資源不足でしたから――これでも急ピッチで完成させたんですよ? それに戦力を過剰に増強させると早い段階からフォボスに目を付けられる可能性もありましたから――」

 

 とのことだ。

 彼女は彼女なりに色々と考えてくれていただろう。

 

「レベルが低い状態でラスボスと戦うような状況は確かにごめんだな。わるい」

 

 と、キョウスケは納得したようだ。

 

「今はフォボス云々は置いておこう。問題はヴァイパーズだ」

 

 俺は話を切り替えることにした。

 

「ヴァイパーズですが、此方の掴んだ情報によると陸上戦艦で打って出るつもりのようです」

 

「なっ!?」

 

 陸上戦艦と言うワードを聞いて俺は驚いた。



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第五十四話「今後の方針」

 Side 緋田 キンジ

 

「陸上戦艦ってアレだよな。この町のランドマークの――アレが動いて襲い掛かってくるのか……」

 

 キョウスケが頭を抱えながら言う。

 

「この事は俺達の上の方には?」

 

「既に証拠突き付けて伝えています。ちなみに陸上戦艦のサイズはリビルドアーミーの空中戦艦並のサイズです」

 

 

 リビルドアーミーの戦艦

 

 全長は約250m

 全高60m。

 幅は50m以上で翼(ブースター?)の部分を含めると100mを越える。

 

 日本のイージス艦のサイズ

 

 全長:約160m。

 全高:諸説あるが船底からマスト込みで少なくとも約30mぐらい。

 幅:約20m。

 

*第三十話「空中戦艦襲来」の時に用いたデーターを引用しています。

 

 

「どうするんだ? これじゃ迂闊に手を出せないぜ?」

 

 キョウスケの言葉にパメラが

 

「だけど相手は陸上戦艦よ。稼働したらそれこそ手に負えないわ」

 

 と言う。

 お互い正論だ。 

 

「動き出す前に破壊するか――」

 

 俺はポツリとそう言う。

 

「それ、俺達がやんの?」

 

 呆れたようにキョウスケが言う。

 

「つかどの道そうなるんじゃないか?」

 

「ああ――」

 

 佐伯 麗子 一尉。

 女クソ上司の顔が頭をよぎる。

 

 あの女のことだ。

 なにかしらの理由でっち上げて破壊するように言ってくるに違いない。

 

 キョウスケも同じ事を思ったのか「あの女ならやりかねねえ……」と呟いている。

 

「……とりあえず上からの指示待ちだな」

 

 俺はいったん棚上げすることにした。

 

 

 正直一気に色々とありすぎたし、あまり先の事を考えてもどうにもならないので休憩がてら他の作業に入る事にした。

 

 ヴァネッサはパメラと一緒にパワーローダーの整備や改修を行ってる。

 

 特にドランタイプの改良についてだ。

 

 ドランタイプはこの世界でもっとも普及しているパワーローダーだ。

 

 自衛隊やシップタウンの人々も使っている。

 

 その改良、バリエーション案を制作。

 

 それを自衛隊に売り込むようだ。

 

 そこで役に立ったのが日本のアニメとかに出てくるロボットだ。

 

 日本のロボットアニメの歴史は長く、現実のミリタリー兵器顔負けな設定資料が作られている作品もある。

 

 実際、自衛隊やそれに触発された人々により様々なバリエーション機が誕生している。

 

 長々と語ったが、ガン〇ムのザ〇Ⅱを改良して手軽にザ〇改か高機動型〇クにするような方法を見つけるような作業だと思ってくれればいい。

 

(まあ戦力の増強は必須だよな……)

 

 正直ドランタイプは軍事兵器としては悪くないのだが今後の事を考えると性能的にキツイ物がある。

 

 まあ上の方ではドランタイプのシルエットが悪役メカっぽいのが不評らしいが。

 今は贅沢言ってられない。

 

 俺はと言うとシップタウンに駐留していた自衛隊やシップタウンの防衛隊と一緒に復旧作業を手伝う。

 

 フェンサーは整備を後回しにし、アインブラッド・ガンブラストは戦闘用のため復旧作業には向いてない。

 

 なのでドランを身に纏って頑張ることにした。

 

 

 Side 佐伯 麗子

 

 自衛隊基地の会議室。

 

 そこでヴァイパーズ壊滅のための作戦が練られていた。

 

 陸上戦艦と言う存在と、シップタウンでの戦闘から敵戦力の見積もりを図り直しているところから始めている。

 

 最悪な事態としてリビルドアーミーやフォボスの介入まで想定した上での作戦プランも考えている。

 

 やはりと言うか第13偵察隊と第7偵察隊の力、そして現地住民の協力は必須だろう。

 

 さらにドランの改良プランや即戦力となる高性能なパワーローダーの導入などなど――とにかく打てる手は全て打っておきたかった。

 

 そうした現状下でヴァネッサの正体の告白と協力体制の申し出はありがたかった。

 

 疑問、疑いの声は当然あったが、13偵察隊の連中にそれとなく監視するように命ずると言う形で納得してもらった。

 

 新しい並行世界云々のお話はもっと上の方に丸投げすることになったが……

 

 まあ色々とあったがどうにか空中戦艦をどける事に目途が立ち、同時にヴァイパーズ壊滅のための作戦準備も再開している。

 

 ここから先は負けが許されない綱渡りの勝負。

 

 頼る人間の一部に緋田 キンジと宗像 キョウスケのあの二人がいるのは私もヤキが回ったかと嘆いた。



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=幕間:雛鳥 ツバキの記録・基地の周囲の近況=

 Side 雛鳥 ツバキ 二曹

 

 どうも陸上自衛隊のWAC(女性自衛官)、雛鳥 ツバキです。

 

 主に基地周辺の居住者向けのPXとかの運営の手助けをしてたりしています。

 

 その一方でこの世界ではどう言う物が価値があるのかとかそう言う物を調査するのも仕事だったりします。

 

 この世界では基本、何でも売れます。

 

 コンビニやホームセンターから仕入れた水や食料、衣類に下着類、日用品、ジュース、酒。

 

 あ、オセロやトランプとかも人気商品ですね。

 ついでにトランプの各種ゲームのルールブックなども売れてます。

 特にオセロは単純なので定期的に盛り上がってますね。

 

 さらにゴミまでにも価値がついたりする世界です。

 恐るべきこの世界の驚異的リサイクル能力でしょうか。

 

 一番恐ろしいのは上で語った品々で武器弾薬や核融合炉搭載のパワードスーツ、パワーローダーとかと交換出来ちゃったりするんですから価格破壊もいいところですよ。

 

 あ、家庭用ゲーム機などについては一悶着ありました。

 色々と考えた末に問題が起きそうなので規制となりました。

 

 代案としてアーケードゲーム機、特にレトロ系の奴が導入されました。

 これがかなり好評ですね。

 

 大盛り上がりしています。

 

 

 話が変わりまして自衛隊基地周辺は自衛隊よりもヤベェ武装で身を固めた市民達の世紀末的住処が立ち並んでいます。

 

 パワーローダーにビームガトリングやらレールガンやらプラズマライフル、戦車や武装車両などで自衛しています。

 どっちが守られている側なんでしょうねこれ。

 こんなんだから他国もこの世界の介入に二の足踏んでるじゃないでしょうか。

 

 襲撃を仕掛けてきたヴァイパーズやら化け物やらもよく死んでいます。

 

 特にリビルドアーミーの一件で協力者となった地下族の人達が化け物よりも化け物のように強い。

 

 この民族全員シ〇・ヘイヘかよってレベルでヤバいです。

 

 生身なのにバンバン、パワーローダーを身に纏った連中を狙撃して殺害しています。

 

 その驚異的な戦闘能力から自衛隊の訓練に協力をお願いされているとかなんとか……

 

 絶対敵に回したくないですね。

 

☆ 

 

 ああそうそう。

 

 最近目玉としてバトリングやパワーローダーの改造、レースなどもブームになっていますね。

 自衛隊の人達もよく見学に来ています。

 

 カスタマイズは日本のロボットアニメとかを参考にしてカスタムを行い、披露し合う感じです。

 ロボットアニメとか漫画とかを参考にしたカスタマイズが主流でそれを披露し合ったり。

 

 曰く、日本のロボットプラモやその改造例は大変参考になるんだとかなんとか。

 

 そう言うのが好きな自衛官の人達はよく足を運んで写真に撮っています。

 

 バトリングと言うのはパワーローダー同士の戦いを見世物にする感じです。

 

 ルールがキッチリ決まっていて、三回連続ダウン判定で試合終了、ダウンから10カウントでKO、殺しはご法度、場外で負けとかそんな感じの過激な競技です。

 

 他にも両者同意の上での町から少し離れた場所での野良試合とかもあるそうですね。

 

 レースはいわゆるパワーローダーよりも乗り物派の人達によるレースです。

 バイクやら戦車、武装車両が景気よく走り回っています。

 

 曰く、日本から良質な部品が手に入るから、カスタマイズもバトリングもレースも困らないとかなんとか。

 

 リビルドアーミーでこの世の終わりのような状況だったのが嘘みたいです。

 まあ今度は私たち自衛隊、ヴァイパーズと一戦やり合うのだとか。

 

 現地の人達はヴァイパーズと一戦交えると聞いてやる気満々です。

 本音を言うとあまり無茶しないでほしいなぁとは思いますね。 

 

 早く過激なこと終わんないかなぁ……

 

 



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第五十五話「訓練」

 Side 緋田 キンジ

 

 シップタウンの復旧作業も一段落。

 

 休憩を挟みつつ、上の方の作戦が決まったのを耳にする。

 

 基本は前回、リビルドアーミーの空中戦艦に行った作戦に改良を加える形になるらしい。

 

 つまりは遠距離からの飽和攻撃だ。

 

 さらに今回は陸自だけでなく、空自も作戦に参加させるつもりらしい。

 

 地雷を仕掛ける事も考えたが進路が予測できず、予測できたとしてもパワーローダーを使ったとしても設置に時間が掛かり、中途半端な罠は逆に相手の警戒心を引き上げるし危険も伴うとのことで没になったようだ。

 

 問題は最終プランだが――発動しない事を祈ろう。

 

 

 シップタウンの外で訓練を行っている。

 

 新型機のテストとかだ。

 

 水瀬と高倉にもブロッサムの改良型。

 

 ルーキーや他の隊員たちにはドランなどの改良型を回している。

 

 機種はバラバラでちょっとした混成部隊になってきている。

 

 何気にヴァネッサも混じっていた。

 

『これがオールレンジ攻撃か!?』

 

『回避の練習にはもってこいだな!!』

 

 ヴァネッサの使用機体――ドラグーン・ルージュのオールレンジ攻撃は特に回避のいい訓練になった。 

 オールレンジ攻撃はその手のジャンルが好きな人間にとってはロマンみたいなもんだ。

 

『オールレンジ攻撃の回避方法は周囲に飛び回る物体を全部意識してとかではなく、まずはどうやって対処するかを考えてからですね』

 

『オールレンジ攻撃は精密さが要求されます。それが逆に弱点でもあります』

 

『オールレンジ攻撃の対処方は引き付けて避けるか、纏めて迎撃するか――とにかく無敵ではありません』

 

 と言った感じでヴァネッサもアドバイスを飛ばしてくる。

 

 このオールレンジ攻撃チャレンジは後に自衛隊の間で回避機動の練習訓練として大ヒットして広まる事になるのだがそれはまた別の機会だ。

 

 

 Side リオ

 

 私は今、新しくなったパワーローダー、

ゲイル・リヴァイヴで水瀬 キョウカさんのブロッサムと相手していた。

 

 パンサーもジェネⅢで高倉 ヒトミさんと相手をしている。

 

 自衛隊の女性とは何度も戦っているが、とにかくこの二人は手強い。

 お互い新型機と改良機だ。

 

 二人のブロッサムは女性的なホッソリとしたシルエットが変わり、背部にフライトユニットなどが追加されている。

 武器もシールドとビームライフルで地上を滑るように移動しながら攻撃を仕掛けてくる。

 

 性能差もそんなにないだろう。

 

 此方もビームライフル二丁と背中のフライトユニットに接続されたビームキャノン。腰のレールキャノンの動作を確かめながら応戦する。(もちろん訓練などでペイント弾やビームの出力を落としている)

 

 新型機の性能はいい。

 以前よりも思い通りに動かせる。

 

 パンサーもビームマシンガンやレールキャノンなどの新型武器を手にヒトミさん相手に暴れまわっていた。

 

 ヒトミさんは難なく回避しながら反撃に転じている。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

「あー疲れた」

 

 俺はパワーローダーを脱ぎ捨てでくたびれていた。

 オールレンジ攻撃の訓練は大変だった。

 

「俺もそうだがよくあんな重装備で動けるな」

 

 キョウスケもそんな軽口をとばしているがなんだかんだ言ってくたびれ気味だ。

 

「まあ準備は万全にしておくにこしたことはないさ」

 

「だな。そろそろ敵も動き出すと思うんだが……」

 

 そんな話をしていると高倉 ヒトミがやってきた。

 

「隊長、通信所から報告が」

 

「なんだ?」

 

「敵の陸上戦艦が動き始めました。まだ進路は分かりませんが厳戒態勢で最終プランに備えておくようにとのことです」

 

 その報告を聞いて俺は「ついに来たか」と思った。

 

 



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第五十六話「陸上戦艦制圧作戦」

 Side ヴァイパーズ 陸上戦艦 艦長 グレイドゥ

 

 コマンダーはこの陸上戦艦で全て粉砕しろとのことだった。

 

 そのためにまずはシップタウンを粉砕する。

 

 勿体ないが俺達を怒らせたのがいけなかった。

 

 後は立ち回り次第ではお坊ちゃん連中揃いのリビルドアーミーを出し抜ける。

 

 俺はそう思っていた。

 

「艦長!! 敵の攻撃、ミサイルです!!」

 

「来やがったか!! 撃ち落とせ!!」

 

 早速仕掛けてきた。

 次々と前面のパネルには敵の攻撃が表示される。

 だがどれもこの陸上戦艦には届きはしな――

 

「敵の――空飛ぶマシン!?」

 

「なんだと!?」

 

 空飛ぶマシンだと!?

 まさかリビルドアーミーの野郎が裏切りやがったのか!?

 などと思った矢先に攻撃が次々と撃ち込まれ、振動が起きる。

 

「怯むな野郎ども!! 撃ち落としてやれ!!」

 

 とにかく潰せばいいだけの話だ。

 リビルドアーミーだろうとジエイタイとか言うお人良し集団だろうと。

 ここで叩き潰してやる。

 

 

 Side 五藤 春夫 陸将

 

 基地の司令室にて状況を確認していた。

 

 この世界の戦艦の頑丈さはやはりと言うか想定以上だ。

 対艦ミサイル打ち込んでもまだ進撃を続けているらしい。

 

 余力があるウチに此方も最終手段を切る必要がある。

 

 そうしないと全てが手遅れに――シップタウンが焼け野原になってしまう。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 以前語った通り作戦自体はシンプルだ。

 遠距離からの飽和攻撃。

 その隙に空自の戦闘機による対艦攻撃。

 

 それでもダメな場合は最終プランが作動する。

 

 それは部隊を敵の陸上戦艦に降下させ直接破壊。

 その混乱に乗じて援軍の部隊を送り込むと言うものだった。

 

 選抜されたのは第7偵察隊、第4小隊、

 

 そして俺たち第13偵察隊だ。

 

 まだ自分達単独で降下しろと言われないだけマシだろうが――

 

 アルバトロスと呼ばれるレーダーを背負った――戦前の純白の大型飛行機で佐伯 麗子一尉が直接出迎えて来た時は(なんでお前、ここにいんの?)と思った。

 

「このアルバトロスに搭載されているECMやフレア、チャフを全て作動させて可能な限り接近する」

 

「なんかロボットアニメの見過ぎみたいな作戦だな……」

 

 キョウスケも「ああ、正気じゃねえ……」と呟く。

 

「この世界その者がロボットアニメみたいなもんだろ。新型機を回してもらったんだろうからその分だけ働け」

 

「クソ、覚えてろよ……」

 

 なんつー上司じゃ。

 水島 静香 一尉が担当している第7偵察隊の面々が羨ましい。

 

「なんで? 優しく励ましてもらうのがよかったのか?」

 

「いや、いい。なんかそれはそれで寒気がするから」

 

 マジでイメージできねえわ。

 想像するだけでも気色悪い。

 

「おい、どういう意味だこの不良軍人」

 

「不良言うが最近は働いてばっかだぞ? 絶えず前線送り状態だぞ? それでも不良と申すか?」

 

「おちつけキンジ――とりあえず生き延びることを考えようぜ」

 

 キョウスケに止められて俺は引き下がった。

 

「なんかキンジ、佐伯さんと話している時って子供っぽくなるんだね」

 

「ああ、あれはね――」

 

「うん、その、そう言うのもキンジなんだね」

 

「はあ……」

 

 なんかリオに一人納得された。

 

 そうこうしているウチに作戦開始である。

 

 後部ハッチが開き、低空飛行――陸上戦艦の真上に飛び乗るように他の部隊――総数七十機近くのパワーローダー部隊と一緒に降下していく。

 

 陸上戦艦はまるで第2次世界大戦の大艦巨砲主義の戦艦をSFの宇宙戦艦に仕立て直したかのような造形をしていた。

 

 巨大な大砲に彼方此方に機銃が設置されている。

 

 俺達はブリッジの真正面に降り立った。

 

 次々と陸上戦艦の機銃や砲台が爆発していき、そして迎撃のパワーローダーや無人ロボットなどが出現してきた。

 

『時間はないぞ!! 後数分もすればシップタウンの射程圏内に入る!!』

 

『つまりそこまでに片付けろってことだろ!!』

 

 佐伯の指示を俺はそう解釈した。

 

 奇襲に動揺しているのか敵の戦力は小出しになっている。

 面白いように砲台が破壊されていき、レーダー設備も無力化する。

 

『後部、左右、前部から敵が這い出てくるぞ!! 警戒しろ!!』

 

 佐伯の言う通り次々と敵が這い出して来る。

 陸上戦艦の動きも心なしか加速していた。

 

『進路予測完了! 何度やってもシップタウンに向かっている!』

 

 その佐伯の言葉を聞いて確信に変わった。

 

『こいつらシップタウンに戦艦を突っ込ませるつもりだ!』

 

 俺はそう結論づけた。

 

『内部に突入して動力炉を破壊するか!?』

 

 キョウスケが提案するが――

 

『いや、そんな事しなくても推進装置を破壊した方がいい!!』

 

 俺は代替え案を提案する。

 

『私も同意見です』

 

『ヴァネッサ――』

 

『装甲で隠れていて分かり辛いですが、この陸上戦艦は一種の巨大なホバー走行で稼働しています。ただホバー部分はブロック構造なため、各ブロックを破壊しないと完全には止まりませんが――中に突入して破壊するよりかはまだマシですね』

 

『早速やるか――』

 

 俺は行動を開始しようとしたが――

 

『その前に敵さんが大勢お出ましだぜ』

 

 キョウスケが言う通り、ワラワラと四方八方から敵が湧きだしてくる。

 

『此方上空の戦闘機隊、援護に向かう』

 

『ヘリ部隊も加勢する』

 

 上空からミサイルや機銃の雨が降り注ぎ、敵を撃破していく。

 

『敵部隊の発進と増援を確認――こちら陸上自衛隊、戦車部隊及びパワーローダー部隊は陸上戦艦の足止めと艦内部から出てきた敵部隊と交戦する』

 

 こちらに接近しつつある地上部隊も陸上戦艦から発進した敵部隊と交戦を開始。

 

 激しい戦いがさらに激しくなってゆく。

 

 陸上戦艦の甲板での戦いも同じ。

 爆音、銃声が絶え間なく鳴り響いていた。

 



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第五十七話「陸上戦艦制圧作戦その2」

 Side 陸上自衛隊 戦車 パワーローダーを中心とした増援部隊

 

『敵をこのまま進軍させるな!! ホバー部分を狙え!!』

 

『戦車隊!! 目標は敵陸上戦艦!! 他の目標はパワーローダー部隊に任せろ!!』

 

 俺達の任務は陸上戦艦の足を止める事と周囲に展開した敵部隊の排除だ。

 

 次々と敵を掃討していく。

 

『お前達に殺された仲間の恨み、晴らさせてもらう!!』

 

 一機のパワーローダー、自衛隊のドランの改良型――が全身からミサイルを解き放つ。

 

 中にはレールガンやらビームキャノンを搭載している機体までいる。

  

『ダ、ダメだ!? 逃げろ!?』

 

『逃げるたって何処へ!?』

 

『み、ミサイルがぁああああああああああ!?』

 

 次々と面白いように吹き飛んでいく敵の機体。

 哀れにも見えるが敵は市民の虐殺を目論み、平然と実行するような連中だ。

 ここで逃せば悲劇が起きる。

 

 ここは心を鬼にして狩り続ける。

 

『レールガン!! 発射!!』

 

 戦車部隊に交じって――ここまで護衛されてきたレールガンタンクがその威力を発揮。

 戦艦のホバー部分に突き刺さり、爆発炎上する。 

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 戦いその物は激しいが戦況は優勢である。

 

 陸上戦艦事態も増援で駆けつけたヘリ部隊や地上部隊が頑張ってくれているおかげで速度が落ちてきている。

 

 それでも必死に抵抗を続けているので油断は出来ない。

 

 俺の機体もキョウスケの機体も火力重視なため、同士討ちにならないように気を遣いながら敵を撃破していく。

 

 リオとパンサー、水瀬と高倉は彼方此方飛び回りながら手身近な敵から片付けていく。

 

 ルーキーも高機動型に改造されたドランで頑張っている。

 

『テメェらよくも好き放題してくれたな!? このグレイドゥ様が直々に相手をしてやる!!』

 

 艦橋手前の昇降口から大型の機体――パワーローダーのシルエットから外れた全高4mサイズのロボットが現れた。

 頭部がなく、胴体の上にキャノン砲やらミサイル、両腕にガトリング砲、キャノン砲と思いつく限りの重火器を乗っけている。

 

 周囲にも部下と思わしき連中やセントリーロボット、アサルトロボット、浮遊ドローンなどが浮いている。

 

『クソ!? 戦艦への被害とかお構いなしかよ!?』

 

 俺はそう愚痴りながらスクラップになった砲台に身を隠した。

 

『だが奴を倒せばここでの戦いは終いだ!!』

 

 確かにキョウスケが言うように奴が隊長格――もしくは指揮官格と見て間違いないだろう。

 

 ここで倒せば終わる。

 

 

 Side ヴァイパーズ 陸上戦艦 艦長 グレイドゥ

 

 ここまでコケにしやがって。

 

 この特注仕様のギガンデス(乗ってる機体の名前)であの世に全員送ってやる!!

 

 目につく敵は全員ぶっ殺せば終いだ!!

 

 ハハハハハハハハハハハ!!

 

 Side 緋田 キンジ

 

『好き放題に打ちまくりやがって!! 錯乱してやがるのか!?』

 

 敵の激しい砲火から身を隠しながらキョウスケが言う。

 

『側面に回り込んで仕掛けるしかない!! 俺が左でキョウスケが右から仕掛けてくれ!! リオやパンサーは上からだ!! 他の隊員は援護!! カウント5で仕掛ける!』

 

『それしかなさそうだな!! クソ!!』

 

 なんだかんだ言いながら付き合いいいよな。

 

『3、2、1――いま!!』

 

 俺とキョウスケは左右に別れた。

 リオとパンサーは上から。

 他の隊員は援護してくれる。

 

『総員13部隊を援護しろ!!』

 

『『『『『了解』』』』』

 

 他の味方も援護に入る。

 

 思ったように敵の弾幕がばらけた。

 

 味方の援護射撃が効いている。

 

『せっかくだ!! ミサイルを持っていけ!!』

 

 上空から戦闘機のミサイルが発射される。

 それを敵は慌てて撃ち落とそうとし――上空で大爆発が起きる。

『今だ!!』

 

 俺もそれに続くように全身の火器を開放。

 右肩のミサイル、左肩のキャノン砲。

 左腕のアームガン、右腕のアサルトライフル。

 両脚部の二連装小型レーザー砲。

 

 全て解き放った。

 

『こっちも受け取れ!!』

 

 キョウスケも続いて両肩のビームキャノン、両腕のアームガン、両脚部のミサイルコンテナからミサイルを発射する。

  

『私も続く!!』

 

『OK、リオ!!』

 

 リオとパンサーも持てる火器を上空から解き放った。

 

 当然敵の隊長機を中心に大爆発が起きる。

 

『まだ生きてやがるぞ!?』

 

 敵の隊長機――ロボットはしぶとかった。

 全身ボロボロになりながらもまだ稼働している。

 

『なんでだ!? なんで突然お前らみたいな奴が現れるんだよ!! クソが!!』

 

 そう言いながらまだ破壊を止めようとしない。

 まるで駄々っ子を相手にしているようだ。 

 全身から小爆発や煙、火花を吹き出しながらもなお――

 

『離れろ!! 爆発するぞ!!』

 

 俺は退避指示を出してその場を離れた。

 

 遅れて敵の隊長機が大爆発を引き起こす。

 

 最後は自爆。

 

 本当に錯乱していたようだ。

 

『どうやらそれが敵の指揮官だったようだ。敵は後退した――』

 

 佐伯が上空から様子を伝えてくる。

 

『基地から連絡だ。辛いだろうが我々も態勢を立て直し次第、ヴァイパーズの本拠地に攻め込む』

 

 いよいよヴァイパーズとの最終決戦がはじまる。

 

 一先ず俺達は周囲を警戒しながらこの場を離れることにした。

 



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幕間:隊員+リオ達との雑談

 Side 緋田 キンジ

 

 周囲を警戒しながら俺達、第13偵察隊は動かなくなった陸上戦艦で休息をとる事にした。

 

 =宗像 キョウスケ=

 

「最終プランは発動しちまったが、それでも前回の時よりはすんなりいったな」

 

「前回の時?」

 

「リビルドアーミーの空中戦艦の時だよ」

 

 キョウスケにそう言われて「ああ、あの時か」と思い出した。

 

 あの時は基地に特攻かましてからの大乱戦になって酷いことになったもんだ。

 

「まあ、言い変えればそれだけ俺達強くなっちまったってことなのかな?」

 

「だな。この世界に来てかなりの期間が経過したし、死に物狂いで色々と手を伸ばした結果がこれなんだろう」

 

「違いない」

 

 今回はそうした自衛隊側の努力の勝利だと思った。

 

 =水瀬 キョウカ=

 

「今回の作戦も大活躍でしたね隊長」

 

「結果的にはな――俺たちもうエース部隊な扱いされてるんだっけ?」

 

「エース部隊みたいなではなくエース部隊ですよ、実質」

 

「うーん、実績考えるとそうなるのか?」

 

「だけど実際活躍しているのって隊長と副隊長、リオさんパメラさんですよね? それにおんぶ抱っこしているみたいでちょっと――」

 

 確かに水瀬の言い分も分かる。

 

 俺やキョウスケはともかく、リオとパメラは外部協力者で日本で言うならまだ女子高生ぐらいの年齢だ。

 

 アニメやマンガじゃあるまいし――でも彼女達はそういう世界から飛び出してきた人間かの如く大活躍している。

 

 一種のライバル意識みたいなものを感じているのだろう。

 

「そのためにブロッサムをカスタマイズしたんだろうし、この前の訓練でもリオと激戦繰り広げてたじゃないか」

 

「WACの意地って奴ですよ。ともかくリオとパンサーの二人が私の当面の目標かな?」

 

「まあ程々にな」

 

 

 =高倉 ヒトミ=

 

「水瀬と話をして来たが大丈夫かなあれ?」

 

「確かにライバル意識を持っているようですが、実戦の時にはそう言う私情を挟むほど子供ではないでしょう。今迄だってそうですし、さっきの戦いでもそうだったでしょ」

 

 高倉の言う通り。

 そう言うやらかしはなかった。

 

「それでも不安なんだよな~」

 

 それでもどうしても不安になってしまう。

 

「まあいざとなったら私の方でもなんとかしてみます」

 

「よろしく頼む。最悪ヴァネッサに頼んで新しいパワーローダーでも頼んで機嫌とるか……」

 

「出来れば私もよろしくお願いしますね」

 

「了解――」

 

 =ルーキー=

 

「ドラン、高機動型になってパワーアップしたけどどんな感じだった?」

 

「確かに性能はとても上がりましたね。隊長達の新型機も羨ましいですけど、こう言うカスタム機体もいいもんですよ」

 

 との事だった。

 ルーキーの言わんとしていることはなんとなく分かる。

 オタク自衛官、ガンダ〇の中でもファーストとか好きなのはこう言うMSV的なのに惹かれたりするのだ。

 

「そんなにか?」

 

「はい。他の部隊にも高機動型や改修型などのデーターは行き渡ってると思いますんで、配備されるのも時間の問題かと」

 

 と、ルーキーは太鼓判を押していた。

 

「まあ、パワーローダーは整備性と製造コストが売りのスーパーマシンだからな……」

 

 実際自衛隊の基地の格納庫は様々な機種のパワーローダー博覧会とかしている。

 それでも整備員達が文句言わないのは整備がとてもし易いからだ。

 稼働率は常に九十パーセント以上と言う驚異的な数字だ。 

 

「ですね。地球でもパワーローダーが普及する日はそんなに遠くないでしょう」

 

「だよな~」

 

 非核3原則などでパワーローダーの配備に揉めてるのは日本ぐらいだろう。

 核保有国からしてみれば、廃棄が難しい核物質の使い道が出来て大助かりだろう。

 

「まあそれは生き延びてから考える事だな」

 

 と、俺は結論付けた。

 人間明日のことすら分かりはしないんだ。

 未来の事まで分かりはしない。

 

 =リオ=

 

「ついにヴァイパーズと決着か……まさかこうなるとは思わなかった」

 

「俺もまさかだよ。フォボスの一件もあるんだろうがここまで自衛隊が動くとは思わなかった」

 

「そうなの?」

 

 不思議そうに首をかしげる。

 

「リビルドアーミーの一件とか日本に行った時にもでくわしただろう? なんか平和のために話し合いどうこうって奴」

 

「ああ、いたいた。キョウスケの妹さんに少し話聞いたけど日本が戦争に負けたのが原因だって聞いた」

 

「まあ概ね間違いではないな。戦争を仕掛けたから国が焼け野原になった。核を二発打ち込まれた――そう言う思考回路の人間が世紀跨いで活動してるんだわ、ウチの国」

 

「だけど言いたい事は分かる気がするけど、けど上手く言えないけど話し合いで全てが解決できるんなら、世界はこうはならななかったと思う」

 

「言葉の重みが違うね……」

 

 荒れ果てた世界で生きてきた人間が言うと言葉の重さが違うなと思った。

 

 =パンサー=

 

「リオと何の話してたの?」

 

「平和について語り合ってた。それとも恋愛について語ってほしかった?」

 

「恋愛ね~私もいい相手見つかるかな~?」

 

 パンサーは顎に人差し指を当てて考える。

 

「パンサーさんなら普通に見つかると思うんだが……気のせいか?」

 

「まあ運とかもあるしね。こればっかりはしゃーないよ。まあ、もう暫くは自由に生きてみるわ」

 

 いわゆる、いい女なんだなとか思う反面、俺はツッコミを入れたくなった。

 

「じ、自由? かなり危険地帯に踏み込んでるんですけど」

 

「まあ細かいことは気にしない気にしない」

 

「細かいことなのか?」

 

 これ、俺がおかしいのか?

 

 =パメラ=

 

「新型機のメンテ、想像以上に難しくなかったわ」

 

「本当に大助かりだよ君には」

 

「まあ日本からいいパーツとか回してくれるのもあるからね。それに――」

 

「それに?」

 

「リオもパンサーも、皆言わないけどなんだかんだでこの部隊の人達好きなのよ。リオはアナタを愛しているのもあるし、私はキョウスケだけど――だけどそれだけじゃないのよ。こうしてくっついているのは」

 

 そう言われると照れくさくなる。

 

「……本当にありがとうな」

 

 恥ずかしさを我慢しながらの精いっぱいで絞り出せた言葉がこれだ。

 俺もまだまだらしい。

 

 

 =ヴァネッサ=

 

「あ~ヴァネッサさん? まさかここまで協力してくれるとは思わなかったよ」

 

「本当はもっと早く本腰入れて協力していればと思う部分がありましたよ。でもフォボス絡みで吹っ切れた部分もありますね」

 

「フォボスか……ヤバい奴に目をつけられたもんだな」

 

「まあフォボスは今のところ放置しておくしかないでしょう」

 

「ああ。今はヴァイパーズなんだが……それでもフォボスやリビルドアーミーが介入してくる可能性が恐いな」

 

「リビルドアーミーは伝手を通じて内部工作や破壊活動を仕掛けているんでそれは問題ないでしょう。フォボスはどうにもなりませんがあいつとて戦力は無限ではありません」

 

「根拠は?」

 

「日本での戦いでのデーターですね。もしも万全な状態ならとっくに日本は制圧されているでしょうし」

 

 嘘はついてないんだろう。

 フォボスはそれだけの相手だという事だ。

 

「――たく、フォボスは本当に何考えてるんだか」

 

「ですが遠からず明らかになると思います。緋田様たちはその真実に近い立ち位置にいると思います」

 

「本当にヤバい奴に目を付けられたな、日本は――」

 

 とんでもない巨悪に目をつけられた。

 隣国の対応含めて世界各国の対応でも精一杯の日本に――ましてやリビルドアーミーの一件であれだけの大ポカをやらかした政治家連中に太刀打ちできるとは到底思えない。

 

 かと言って自分達にどうにか出来るのかと不安にも思うが――佐伯 麗子たち、さらに五五藤陸将たちはもしかすると来るべきフォボスとの戦いの時のために動いているのかもしれないと思った。 

 



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第五十八話「基地攻略戦」

 Side 近藤 信也 三佐

 

 最初の山場、陸上戦艦は乗り越えた。

 

 自衛隊基地には五藤陸将を中心としたこの世界の自衛隊の纏め役。

 

 また幕僚長からお偉方も出席している。

 

 緊張しながらも作戦の遂行状況とこれからの作戦について語る。

 

「陸上戦艦の制圧は完了。続いて本作戦は速やかにヴァイパーズの本拠地を叩く流れになります」

 

 作戦の流れは単純だが問題は敵の本拠地の守備だ。

 

「陸上戦艦を失い、かなりの戦力を削りましたがそれでも、未だに驚異的なテロ集団である事には変わりません。また基地の周囲には幾多の砲台、タレットや様々な種類の無人兵器が展開しています」

 

 と、ここまで解説して間を取った。

 

「五藤君、いくら一武装勢力とは言え正攻法の手段が通じる相手なのかね?」

 

「確かにこの世界のテクノロジーは驚異的です。ですがこの世界特有の事情により、弱点も存在します。続きを近藤君」

 

 五藤陸将に促されるがままに開設を続ける。

 

「敵の武装は確かに驚異的ではありますが、どこまで行っても軍隊ではなく、一武装勢力でしかありません。テクノロジー差を十分考慮すれば砲撃や爆撃、航空支援などは十分に通用します。現に陸上戦艦相手にも一定の成果を上げる事に成功しました。問題は――」

 

「弾薬の生産か――」

 

 誰かが言った。

 幕僚長から来た人物の一人が言った。

 

「その通りです。砲撃やミサイルなどの使用量を考えた場合、まだまだ不足です。本来は弾薬の供給が十分な量まで待つと言う方法もあったのですが――」

 

「日本で起きた武装勢力との戦い――『Pファイル』の件が絡んでいるのか?」

 

 幕僚長から来た誰かが言った。

 Pファイル。

 日本で起きた戦い、フォボスなる存在が率いる集団の資料の完全版。

 あまりにも突飛な内容ではあるが、混乱を防ぐために一部の人間にしか開示されない超極秘資料。

 

 それがPファイル。

 日本の安全保障どころか世界の危機が記された劇薬のような内容だ。 

 

 早い話、Pファイルとはある日突然、未来兵器で完全武装した武装勢力が並行世界の壁を跨いで、世界中の彼方此方で地球侵略のための前線基地を築いているかもしれないと言う内容だ。

 

 一般に公開できるわけがない。

 

 間違いなく大パニックになる。

 

 とりあえずここは「自分にはお答えできる立場にはありません」と前置きして話を続ける。

 

「ヴァイパーズの殲滅作戦は先程の陸上戦艦攻略作戦と変わらず、遠距離からの飽和攻撃、砲撃による基地への直接攻撃後、地上部隊で一気に制圧すると言う作戦です。問題は砲台の迎撃精度です」

 

「レーザーやビーム、あるいはレールガンによる迎撃システムの前では簡単に防がれてしまうかもしれないという事か」

 

「その通りです。ですので現在は強行偵察型に改修したドランにより、砲台やレーダー設備の配置を確認しつつ、それを破壊してから遠距離や航空支援からの攻撃でトドメを刺すと言う形になります」

 

「どうやって砲台を破壊するつもりだ」

 

「危険ですがこちらもレールガンなどを使用します」

 

 その単語を聞いて幕僚長の人々は驚き、悟りを開いたかのようにこう答えた。

 

「そうか――もう我々の頭では追い付かんな。歳はとりたくないもんだ」

 

 とだ。

 彼達の気持ちは分かる。

 レールガンだのレーザーだのが飛び交う戦場など、常識離れにも程がある。

 日本で学んだ常識が通用しないのが世界なのだ。

 

「確かに我々の時代は終わったかもしれんが、それでも何が出来るのかを考えて支えるのも我々の勤めだろう?」

 

「それにここは退役自衛官の同窓会じゃない。日本の未来を守るために、前線で今も戦う将兵のためになにか出来ることはあるのではないかと思って来たのだろう」

 

「そうだな……すまない。弱気になってしまった」

 

 と、語り合う。

 彼達は国防と言う物に真摯に取り組み、支えてきた防人なのだ。

 

 

 Side とあるヴァイパーズ隊員

 

『戦艦がやられたった本当かよ!!』

 

『クソ!! 砲台が狙われている!!』

 

『レーダー設備もだ!!』

 

『早く反撃しろ!? 監視は何をしている!!』

 

 次々とレーダー設備や砲台が破壊されていく。

 何か狙いがあるのだろうが何を狙ってかは分からない。

 だが何かとてつもなく嫌な予感がした。

 

 

 Side 陸上自衛隊 強行偵察型ドラン部隊

 

 強行偵察型に改修されたドランを身に纏い、狙撃に特化したレールガン装備のドラン部隊に座標を送る。

 

 次々と面白いように砲台やレーダー設備が破壊されていく様子が分かる。

 

『こちらスカウト――敵の目と盾は奪われた。どうぞ』

 

『了解。作戦開始する』

 

 やや遅れて砲兵部隊による弾丸の嵐。

 続いて上空の航空機、戦闘機から地上目標への攻撃が行われた。

 

『こちらスカウト――敵基地の脅威沈黙』

 

『了解。作戦は最終フェイズに移行。スカウトとハンターはそのまま突入部隊の支援を行え』

 

『了解』

 

 

 Side 陸上自衛隊  ヴァイパーズ基地 突入部隊

 

 俺達、パワーローダー部隊は戦車や戦闘ヘリ部隊と一緒に進軍する。

 突入場所であるヴァイパーズ基地だ。

 

『あの攻撃と砲撃の中、敵の連中まだ生き残ってるんですかね?』

 

 確かに部下の言わんとしている事は分かるが――

 

『この世界に常識は通用しない。それにリビルドアーミーや未知の勢力の介入も考えられる。気を抜くな』

 

『りょ、了解』

 

 油断したくなる気持ちは分かるが、この世界は地球での常識は通用しない。

 

 突然サメの変異種みたいな化け物に襲われるわ、オーガやらアンデッドなる存在がいたり、他にもUFOや昔のアメリカの創作物に出てきた火星人の侵略メカみたいな存在も確認されている。

 

 こうしている今もどこかで化け物たちが近づいてきているかもしれないのだ。

 

『クソ!! 噂をすればなんとやらだ!! 応戦しろ!!』

 

 オーガと呼ばれる赤い原始的な生物の群れに遭遇。

 いったい何処で入手したのかフットボールサイズの核爆弾とかレーザー兵器とか保有してやがる。

 

 数分後。

 

 派手に核爆発が起きた。

 突入部隊の損害は軽微なれど精神的には大ダメージである。

 



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第五十九話「基地攻略戦その2」

 Side 緋田 キンジ

 

 他の進行部隊が想定外のトラブルに出くわしたらしいが作戦は続行。

 

 俺達はヴァイパーズの軍事基地に進行を仕掛ける。

 

 砲台やセントリーロボット、ドローンなどは破壊されており、抵抗らしい抵抗はないまま進行する。

 

『注意してください。この手の軍事基地は地下ドッグを備えていて、恐らくそこにまだ戦力が温存されている可能性があります。最悪撤退して再度砲撃を行う事も選択肢の一つですよ』

 

 との事だ。

 上に伝えて砲撃準備をするように伝えておいた。

 

『こちらアルバトロス(佐伯 麗子 一尉)。上から様子を探っているが敵の部隊が見えない。撤退をしている人影も見えない。恐らくヴァネッサ氏の意見が正解だろう』

 

 補足するように上空にいる佐伯が言ってきた。

 

『つまり地下ドッグを制圧しないといけないのか――』

 

 敵が立て籠もる地下ドッグの制圧。

 考えただけでも気が滅入る。

 

 そうして敵の基地までたどり着いた。

 

 ヴァネッサや佐伯から事前に地下へと通じる通路やエレベーターなどのおおよその位置がついている。

 

 警戒しながら周囲を見守る。

 

『こちらスカウト。敵影無し』

 

『こちらハンター。敵影見当たらず』

 

 遠くから敵基地を見張っているスカウト、ハンターのパワーローダー部隊も敵影が見当たらないようだ。

 

 直接乗り込むしかないらしい。

 

『ソナー(音源)やサーモ(熱源)センサーに反応!! 敵基地から敵部隊が一斉に出現するぞ!! 離れろ!!』

 

 と、思った矢先に佐伯が注意を飛ばす。

 自分達だけなら離脱は簡単だが味方部隊もいるのでそう簡単には離脱できない。

 

『俺達が惹きつける!! 他の部隊は一旦後退しろ!!』

 

『了解!! ご武運を!!』

 

 そうして地下から這い出てきた敵部隊を次々と攻撃する。

 無人機や有人機。

 基地の内外の彼方此方から敵が出てくる。

 

 それでも味方部隊は敵を撃破しながら後退していく。

 スカウトやハンター部隊、ヘリ部隊の援護射撃もいい。

 

 俺はビームアサルトライフルを撃ちながら指示を飛ばす。

 

『中央部の昇降口から敵が――熱源や音源が大きいぞ!! 注意しろ!!』

 

 佐伯が慌てたように注意を飛ばしてくる。

 基地の中央のリフトから現れたのは緑色の巨大な怪物、全高10m程の怪物だった。

 双胴型の小型の陸上戦艦かと思った。

 上半身らしき部分は人型を保っている。

 機体後部にはミサイルハッチ。

 上半身肩部には三連キャノン砲、大型ミサイルコンテナ。

 各部には迎撃用のタレット。

 両腕はキャノン砲。

 

『よくもここまでコケにしてくれたな――』

 

『通信!?』 

 

 その事に驚いた。

 発信源はあのデカブツからだ。

 

『俺はヴァイパー。ヴァイパーズの司令官だ』

 

『親玉自ら登場か――』

 

 敵の大将も腹を括ったらしい。

 

『お前らを全員皆殺しにしてから、また成り上がってやる』

 

『まだお前らやる気なのか!?』

 

 当然の疑問をキョウスケが投げかける。

 

『世の中は力が全てだ。力がない物は搾取され、ゴミのように死んでいき、力がある奴が世の中を牛耳る事が出来る。そのためなら何度だって立ち上がってやる!!』

 

『そのために一体どれだけの人間を殺すつもりだ!?』

 

 とんでも理論に思わず叫び返してしまった。

 

『それがこの世界のどおりだ!!』

 

『……キンジ、もう話が通じる相手じゃない』

 

『ああ、そうだな――各員散開!! 生き残る事だけを考えろ!!』

 

 キョウスケが言うように倒すしかないだろう。

 戦いの火蓋は敵の一斉放火から始まった。

 

 地面が、大気が揺れる程の一斉者。

 そこに残りのヴァイパーズや無人機が襲い掛かってくる。

 

 それを返り討ちしながら後退していく。

 

 随分と距離を離されてしまった。

 

 基地から脱出して砲撃やミサイルで潰すことを考えたが――あのデカ物。

 ヴァイパーズの司令官や他の敵が味方部隊へ特攻紛いの急速接近している。

 アレでは砲撃もミサイルも使えない。

 

『此方ハンター!! あのデカ物にレールガンが通らない!!』

 

『どんな装甲してやがんだあの化け物!?』

 

 ハンター部隊もレールガンで狙撃してくれているがレールガンが通用しない。

 あの化け物の装甲は常識破りの頑丈さらしい。

 

『ハンターは他の敵を狙うか、敵の武装の破壊に集中してくれ!! 第13偵察隊はあのデカブツの撃破を考えるな!! 散開、包囲して時間稼ぎに徹しろ!!』

 

 キョウスケの『了解、隊長殿!』を皮切りに部下達から『了解』と返事が返ってくる。

 

 パメラとリオ、ヴァネッサは距離を離して果敢に挑んでいく。

 

 俺も応戦する。

 敵は巨体で素早い。

 近付きすぎると全高10m程の巨体に跳ね飛ばされるし全身の火器で蜂の巣にされる。

 

 それでも今ここでこいつを倒さなければならない―― 



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第六十話「基地攻略戦その3」

 Side 緋田 キンジ

 

『相手は対物ライフルサイズとは言え、レールガンが通用しない装甲だぞ!? どうするんだ!?』

 

 空中を飛び回り、時に地を掛け、敵の火力から必死に逃れながらキョウスケの通信に耳を傾ける。

 

『恐れる事はありません』

 

 驚いたことに返事をしたのはヴァネッサだった。

 

『通用するとしたら強力なビーム兵器かレーザー兵器、プラズマ兵器などでしょうが武装までは頑丈に出来ていない筈です。それにこの戦いは私達だけで戦っているワケではありません。落ち着いて回避に徹して態勢を立て直すのがよろしいかと』

 

 と、ヴァネッサが続けた。

 

 ヴァネッサはキャリアウーマンだか裏方要因みたいな印象があるが、いちおうとある並行世界では特殊部隊の出身だったと聞いている。(*第五十三話「ヴァネッサの正体」参照)

 

 俺達よりも、下手すればリオ達よりもこういう局面に場慣れしているだろう。

 

『13偵察隊の諸君!! 離れろ!!』

 

 そう言われて俺は『敵から離れろ!!』と後退指示を出す。

 基地に突入して一旦後退していた陸上部隊の攻撃準備が整ったのだろう。

 その中にはレールガンタンクの姿もある。

 

『レールガンタンク以外は敵の火器を狙え!! 手を出させるな!!』

 

『兵隊モドキにチーム戦と言うのを教えてやれ!!』

 

 パワーローダー部隊や戦闘ヘリ部隊が距離を保ちながら包囲するように全高10mのデカブツを包囲。

 

 ビーム、レーザー、プラズマ、レールガンなどが雨のように浴びせられる。

 

 いくら重装甲でもこれだけ高威力の兵器を雨のように浴びせられれば一溜りもない。

 

 地球の軍艦ならとっくの昔にスクラップになっているだろう。

 

『野郎!? まだ動くのか!?』

 

『正真正銘の化け物だな!!』

 

『クソ、まだ攻撃してきやがる!!』

 

『怯むな!! スクラップになるまで撃ち続けろ!!』

 

 相手の反撃にも負けず、部隊は必死に攻撃を仕掛ける。

 相手も無傷ではない。動きも鈍ってきていた。

 

 俺はここを勝負時だと感じた。

 

『ダメージは確実に通ってる!! 手っ取り早くミサイル発射口を狙うぞ!!』

 

『了解、隊長殿!!』

 

 俺は指示を飛ばし、キョウスケの軽口を聞き流しつつ、第13偵察隊の面々で一斉に――味方の誤射に気をつけながらミサイル発射口を狙う。

 

『クソ、発射口を――!?』

  

 次々とミサイルコンテナ――10mサイズの機動兵器に合わせたサイズの――部位にあらゆる火器が吸い込まれていき――瞬間、大爆発が起きる。

 

 

『みな、生きてるか――』

 

 俺は地面に着地して呼び掛ける。

 

 キョウスケが『なんとかな――』、リオが『私も大丈夫――』と、次々に生存報告が入ってきて俺はホッとする。

 

 見ると10mの左半身が大きく抉れていた

 黒焦げになって小爆発や煙をあげている。

 

 俺は嫌な予感がした。

 

『これだけのデカブツだ! 動力も相応の筈だ!! 総員撤退だ!!』

 

『あ、ああ!!』 

 

 そう。

 

 この世界の兵器の動力は基本核動力である。

 

 パワーローダーでもかなりの大爆発を起こすレベルだ。

 

 では10mサイズの化け物の動力が爆発を起こすとどうなるか?

 

 俺は慌てて退避指示を飛ばした。

 

『逃げろ逃げろ!!』

 

『退避退避!!』

 

『ここまで来て冗談じゃねえ!!』

 

 皆慌てて退避した。

 

 俺の予想が当たったのか小爆発や火花が更に激しくなり――

 

『貴様ら全員――道連れに!!』

 

 俺は思わず『あの爆発でまだ生きてるのか!?』と叫んだ。

 

 キョウスケも『嘘だろ!?』と言う。

 

 いくら小口径のレールガンを防げる頑丈な装甲でも目が眩んで地響きや大気の揺れが起きる程の大爆発だ。

 その衝撃はモロに浴びているのにヴァイパーズの司令官はまだ生きていたらしい。

 控えめに言って化け物である。

 

 ゆっくりとだが稼働している。

 

『悪いが一人で死んでくれ!! 俺達は生きる!!』

 

『だな!!』

 

 俺は置き土産でミサイルを全弾発射して逃走。

 キョウスケも後に続く。

 

 後ろで何か言っている気もするが振り返るつもりはない。

 現実はアニメや漫画のようにドラマチックではないのである。

 

 やがて――二度目の大爆発が起きた。

 

 

『ははは――俺達生きてる――』

 

 俺は言った。

 

『ああ、生きてるな――生きてることが信じられれねえ――』

 

 キョウスケも言った。

 

『凄い爆発だったね』

 

 リオも言った。

 

『あーこれまたパメラに叱られるパターンじゃん』

 

 パンサーも言った。

 

 基地があった場所にはキノコ雲が上がっている。

 よく生き延びたもんだと思ったが後でパメラに何を言われるかと思うとそっちの方が恐かった。

 

 そしてレーダーレドームを背負った白い飛行艇が降りてきた。

 現れたのは佐伯 麗子だ。

 

「お前らの悪運に感服するよ――地上部隊も全員無事だ。よくやったな」

 

『いや、終わってない』

 

「なに?」

 

 俺はそう言って敵が居る方向に向かった。

 猛スピードで接近するパワーローダーを探知した。

 

『俺も相当に悪運が強いらしい――』

 

 緑色で蛇のエンブレム。

 

 ラジコンのようなアンテナが左後部についた一つ目の頭部に厳ついシルエットの重装甲のパワーローダー。

 ホバー式なのか地面を猛スピードで滑走している。

 

 右手には大きなバズーカ。

 背中の両サイドにはそれぞれ別種のミサイルだかロケット弾とかを載せている。

 両肩のサイドには機関砲らしき物を乗っけてある。

 

 無傷ではないがやる気満々のようだ。

 

『その声は――お前、ヴァイパーか』

 

 あの全高10mのデカブツに乗っていた奴。

 ヴァイパーズの元締め。

 それがこいつだと確信した。 

 

『我々はまだ終わってはいない。ヴァイパーズは復興させる。俺が再び蘇らせる』

 

 ミサイルとバズーカ(ビーム式)、両肩の機関砲(レーザー)が返事だった。

 ビームバズーカとレーザーの機関砲を回避し、迫りくるミサイルを迎撃する。

 

『なら俺がここで終わらせてやる』

 

 今こいつを逃すと再びヴァイパーズが復活する。

 そうならないためにもこの男をこの場で倒すことにした。



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第六十一話「決着」

 Side 宗像 キョウスケ

 

(援護したいが――無理だな――)

 

 まさかウチの隊長が敵の総大将と一騎打ち。

 援護したいがしぶとく生き延びていた敵の無人機がしぶとく稼働して襲い掛かってくる。

 どの道、激しく動き回っている両者の現状では援護も難しいが。

 

(どうにか生き延びろよ!!)

 

 と思いながら『とにかく今は生き延びる事を考えろ!!』と隊員達に指示を飛ばす。

 伊達にみんなここまで生き延びちゃいない。

 生き延びろよキンジ。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 一対一の対決。

 

 互いの銃撃が平野で交差する。

 

 敵のパワーローダーも俺のパワーローダーも互いに地面を滑走し、時には空中を飛び、位置取りを行う。

 

(こっちも連戦で悲鳴を挙げてるが――相手も思ったより動きが鈍い――)

 

 相手も自分と似たような状態なのではないかと思った。

 

 あの10mのデカブツに生身か、あるいはパワーローダーを身に纏って搭乗していたかは分からないが。

 

 あの状況ではどちらにしろ――爆発するきっかけとなったミサイルコンテナの大爆発の時点で爆発による衝撃波で人体にダメージを負っていたはずだ。

 

 それは例えパワーローダーを身に纏っていたとしても同じである。

 

 それを分かっていながら戦闘を仕掛けたのは――いわゆる死に場所のような物を求めているかのようにも思える。

 

(だが手加減するワケにもいかない!!)

 

 後でキョウスケやリオに色々と言われそうだが――ここでコイツは絶対に倒さなければならない。

 

 ミサイルやレーザー機関砲、ビームバズーカの砲火を避けてこちらもビームアサルトライフル、アームガン(左腕の固定式の実体弾)、背中の四連装ミサイル、キャノン砲で応戦していく。

 

『この強さ――アインブラッドタイプとは言え!?』

 

『伊達に修羅場は潜っちゃいないんでな!!』 

 

 敵の損傷率がどんどん上がっていく。

 致命打は避けてはいるが、どんどん火花や煙が出始めている。

 やはり戦う前からダメージを負っていたのだろう。

 

『こうなれば――!!』

 

 此方の攻撃をビームバズーカを盾代わりにして防いで一気に詰め寄ってくる。

 視界が塞がれ――

 

『せめて貴様だけでも!!』

 

 そして左腕から光学ブレードが伸びて横薙ぎの一撃を仕掛けようとしてくる。

 俺は――

 

『なんとぉおおおおおおおお!!』

 

『っ!?』

 

 俺は空中に飛び上がり、前に一回転。

 上下逆の逆さになり、がら空きとなった背中にビームアサルトライフルを撃ちこむ。

 それを背中の別種のミサイルコンテナをパージして防いで致命打を避けるが至近距離で自分のミサイルコンテナの爆発を諸に浴びる結果となる。

 

 俺は地面に着地して銃を構えた。

 

『俺の野望は――俺の野望が――こんなところで――認めん、認めん!! 認めんぞぉおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 俺は相手の意見に耳を貸さずビームアサルトライフル、四連装ミサイル、キャノン砲、両脚部二連装レーザー砲を一斉発射した。

 相手は避ける事もなく、攻撃が重い白いように当たる。

 

 そして――爆発が起きた。

 

 ヴァイパーのパワーローダーの残骸が彼方此方に降り注ぐ。

 

『美味しいところ持っていきやがったなこのやろう』

 

『悪い、キョウスケ。先行した俺も悪かったけどそっちの援護があれば楽に片付いたと思うんだけど』

 

『それを言われるとキツイな――先行せずに皆で迎撃していれば確実だったと思うが、相手の腕前を見れば乱戦に持ち込まれて被害が出ていた可能性もあるし――まあ、あんまこういう事するんじゃねえぞ。リオが心配する』

 

『ああ……そうだな』

 

 リオの名前を出されて俺は深く反省した。

 俺は自衛官でアニメや漫画のヒーローじゃないのだから。

 

『まあ――これでヴァイパーズも壊滅かな?』

 

『まだ残党が残っている可能性もあるが――敵の総大将を倒したのとこの拠点を制圧――と言うより壊滅させたのは大きいな』

 

『あの大爆発だもんな。地下部分はともかく、地上の建造物は壊滅だな』

 

 キョウスケが言うようにヴァイパーズの総大将が乗っていた巨大機動兵器の大爆発で基地の建造物に多大なダメージを負っている。

 地下ブロックにも被害が及んでいるだろう。

 

『はあ……気になる事は多いがともかく帰り支度するか』

 

 リビルドアーミーとかフォボスとか考えることは多いが今は勝利を喜ぶことにした。

 

『そうだな。作戦は終了だな』

 

『ああ――』 

 

 

 作戦終了後。

 

 俺たち第13偵察隊は独立部隊としてこの世界周辺の偵察任務に戻る事となる。

  

 だがその前にパワーローダーの整備や物資の補給などをしなければならない。

 

 他の部隊も連戦で疲れている。

 

 そのため暫くはヴァイパーズの元基地に駐留し、休む傍ら基地の調査、あわよくば復旧、再利用のためのお手伝いをする事になったのであった。

 

 



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新たなる旅立ち
第六十二話「その頃の自衛隊基地・その2」


 Side 五藤 春夫 陸将

 

 この荒れ果てた自衛隊基地もすっかり様変わりしてしまった。

 

 対艦用の大型レールガンに対艦用プラズマミサイルなどを配備。

 空自の航空機部隊や陸上自衛隊の機甲部隊も日々強化されていっている。

 

 基地の近くではリビルドアーミーの空中戦艦の解析作業。

 近日中にはヴァイパーズの陸上戦艦も運び込まれる予定だ。

 

 更にはヴァイパーズの基地から得られた様々な物資や対物ライフルサイズのレールガンすら防ぐと言う装甲素材なども運び込まれている。

 

 基地の周囲も高いバリケードで囲まれ、様々な迎撃システムで守られている。

 

 それでも血気盛んに襲い来る怪生物に突破されたりするのがこの世界の恐いところである。

 

 正直言うと地球外生命体と戦争している気分になる。

 

 だがそうも言ってられない。

 

 リビルドアーミーはもとよりフォボスの件だ。

 

 フォボスの存在のせいで我々の目的はこの世界の調査からフォボスなる武装勢力の討伐にシフトしたと言っていい。

 

 前回はどうにか撃退できたが底知れぬ不気味さがある。

 

 それに動きを見せないリビルド―アーミーも不気味ではある。

 

 一体何を企んでいる?

 

 

 Side 雛鳥 ツバキ 二曹

 

 どうも陸上自衛隊のWAC(女性自衛官)、雛鳥 ツバキです。

 

 自衛隊基地周辺はもっぱらヴァイパーズ撃退の事で話題になっていますね。

 

 自衛隊の間でも喜ぶ声が多いです。

 

 思えばヴァイパーズとの因縁はこの世界に来た時から始まってましたから。

 

 自衛隊本来の任務から外れてるのは分かってますがそれでもこの世界の平和に大きく貢献できたのは喜ばしいと思います。

 

 まあそれでも血気盛んに襲い来る連中は多いんですが。

 

 アンデッドやらオークやら未知のB級映画モンスターやら野盗やら。

 

 ヴァイパーズ基地の自衛隊の人々は大丈夫でしょうかと思ったりします。

 

 

 Side ???

 

 死神さんは今日も元気ですよっと。

 

 リビルドアーミーを撃退し、ヴァイパーズを壊滅させるとは恐れ入った。

 

 ヴァイパーズはリビルドアーミーと並んで恐れられる存在だった。

 

 ここからリビルドアーミーの連中がどう動くかでこの世の中の流れがまた変わってくるだろう。

 

 それはそうと、ジエイタイの基地の人々には十分よくしてもらって楽しんだし、俺はそろそろ別の地域に行くとするか。

 

 また漁夫の利狙いでよその地域の野盗連中が防御が薄い地域を襲撃したり、ヴァイパーズの残党の動きも気になる。

 

 こんなことしているあたりジエイタイの人間に影響されたかもしんねーな。

 

 ま、帰る場所が出来るのってはいいもんだ。

 

 今のジエイタイの様子だとリビルドアーミーが再襲来しても大丈夫そうだし。

 

 暫く留守にして暴れまわるとするか。



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第六十三話「その頃の緋田 キンジ」

 Side 緋田 キンジ

 

 今はフェンサーを身に纏って――アインブラッドは整備中で使えない――応戦中。

 

 相手はオーガの群れだ。 

 

 われら自衛隊の基地の防備体制――正確には元・ヴァイパーズの本拠地は先の戦いの影響(*核爆発)もあって最悪と言っていいがそうも言ってられず、基地に立て籠もって応戦中である。

 

 オーガはタフでパワーローダー並みの重火器で武装して死を恐れず、血気盛んに襲い掛かってくる。

 だから核攻撃とか核自爆はやめてくれ。

 

 心臓に悪い。

 

 

 ヴァイパーズがいなくなったせいか入れ替わりにヴァイパーズの残党やら野盗、化け物が連日のように攻めてくる。

 

 さっきも語ったがこの基地にいる自衛隊の戦闘部隊は先のヴァイパーズとの戦いで疲弊している。

 

 基地も地下ブロックに立て籠もる感じで防衛体制を敷いている感じだ。

 

 戦車も半ば固定砲台扱いである。

 

 幸いなのは入れ替わりの増援部隊や施設のリフォームや増設のための部隊や資材などがどんどん来ている事だろうか。

 

 新たな商売のタネを感じ取ってか前の自衛隊基地から付いてきた人々の協力もあるのも救いっちゃ救いだ。

 

 

 戦闘を終えて夜になる。

 

 地下ブロックは思いのほか広大である。

 地上部分も陸上戦艦のための整備ドッグまであり、元々は大規模な基地だったであろう事が伺える。

 

 ここをどうするかは上が考えることだろう。

 

 なんなら住民を住まわせてもいいかもしれない。

 

「ねえ、キンジ。いよいよ――その、リビルドアーミーと戦うの?」

 

 廊下で突っ立っていたら隣にリオがいた。

 

 ヴァイパーズの大将とタイマン挑んだ事を「もっと仲間を頼って欲しい」と苦言を言われたと同時に「助けにいけなくてごめん」と言われて色々と複雑な気持ちになったりもしたが――まあその話は置いておいてリオの質問に答えなければならない。

 

「以前ならともかくフォボスの件もあるしな――上もフォボスとリビルドアーミー、同時に戦争仕掛けられるような事態は避けたいんじゃないか?」

 

「そうなんだ――」

 

「自衛隊は無敵じゃないからな――それに元々この世界にはどうしてゲートが開かれたのか、そういう調査のために訪れたんだし……まあ今はフォボス討伐のために動いてるけど」

 

 なにしろフォボスには交渉と言うものがまるで通用しない。

 幽霊を相手にしているような不気味さすら感じられる。

 

「全てが終わったらキンジは帰っちゃうの?」

 

「それなんだが……責任とって自衛隊やめてこの世界に住むのもありかな~なんて思ってる。まあ想像だにしない苦労はすると思うけどな」

 

「それってつまり――」

 

 リオは顔は赤くした。

 俺も照れくさくなって「まあその時はよろしく頼む」と返しておいた。

 

 その未来を得るためにもこの土地周辺は平和にしておきたいと思った。

 

「また敵襲か」

 

 空気を読まずに敵襲警報である。

 俺はすぐに出撃準備に入る。

 

「私もいく」

 

 そしてリオもついてくる。

 どこか嬉しそうだ。 

 

 色んな意味で飽きないな、この世界は。 

 



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第六十四話「これからについて」

 Side 緋田 キンジ

 

 旧・ヴァイパーズの本拠地。

 

 ブリーフィングルームの一つ。

 

 ヴァネッサ。

 

 俺やキョウスケに第13偵察隊の面々。

 

 及びリオやパメラ、パンサー。

 

 そして佐伯 麗子。

 

 上記の面々が居る。

 

 情勢が落ち着いている今、独立部隊として何を為すべきかを語るためだ。

 

 本当は宮野たち第7偵察隊の面々も居て欲しかったが、彼達はヴァイパーズの壊滅作戦の終了から一段落してから別行動になっているのでここにはいない。

 

「リビルドアーミーはスグには動けませんが、遠からずウチに再び動き出すのは頭に置いてください」

 

 前置きするようにヴァネッサが言った。

 

「問題のフォボスですが奴の居所は予測の段階ですが――可能性が高い場所はあります」

 

「なんだと!?」

 

 佐伯 麗子の反応は全員の気持ちを代弁しているものだった。

 

「と言うかもう消去法でそこしかないと言うのが我々の見解です。ここから遥か南の方角。そこにある無人機が大量に徘徊している荒野。ロストエリアと呼ばれている場所です」

 

「ロストエリアって――グレイヴフィールドが可愛く思える程の危険地帯じゃない――」

 

 ヴァネッサの解説を補足するようにパメラが言う。

 

「私達は幾度も調査を行いました。リビルドアーミーも空中戦艦で足を踏み入れましたがそれでも突破は出来ませんでした」

 

「つまり今の俺達じゃ手出し出来ないって事か」

 

 キョウスケの返答に「はい」とヴァネッサは簡潔に返した。

 

「てことは、リビルドアーミーをどうするべきかになりますよね?」

 

 ルーキーが恐る恐る言うが――

 

「どうするもこうするも戦うしかないだろ。空中戦艦差し向けられたり、核撃ち込まれそうになったりしたんだ。和平はまずありえない。休戦条約も信用できない」

 

 キョウスケの意見は概ね正しい。

 状況は三つ巴だ。

 

「戦力増強だけじゃなく、リビルドアーミーを倒すのでもなく、私は味方を増やすべきだと思います」

 

 ここでWACコンビの高倉 ヒトミが言った。

 

「私もその意見に賛成よ。それにこの世界はロストフィールドに辿り着くのも手間そうだし、そこまでのルートを把握しておくのも重要だと思うわ」

 

 WACコンビの水瀬 キョウカも最もなことを言う。

 

「で、どうする? 隊長さん?」

 

 そしてキョウスケが俺に尋ねる。

 

「この周囲で味方になってくれそうな場所は?」

 

 と、俺はヴァネッサに質問した。

 

「やはり騎士団の方々でしょうか?」

 

 騎士団。

 確かこの世界の自警団だったか。

 

 思い出したかのように佐伯 麗子が

 

「確か第7偵察隊にそのメンバーが一緒に合流していたはずだ。まあ失礼な事をしなければ門前払いはされんだろう」

 

 と言って俺は「そういやそんな話聞いたことあるな」と思い出した。

 

「いっそ第7偵察隊に任せるか? 他の候補は?」

 

「戦力はともかく、一緒に戦うとなるとやはり気持ち的な障害が大きいですね。リビルドアーミーと戦っているレジスタンスはフォボス相手になるとどうなるか――と言う感じですし」

 

「それでも何か候補があれば――少しでも可能性があればそれに賭けたい」

 

 相手が相手だ。

 少しでも勝率は挙げておきたい。

 それにフォボスはヴァネッサの世界や俺達の世界にも手を出している。

 この世界だけが無関係ではいられなくなるように思うし、危険性だけでも伝えておかないとと思った。

 

「分かりました――今一度整理してピックアップしておきましょう」

 

 と言ってヴァネッサは立ち去った。

 

 入れ替わりに今度は佐伯 麗子が口を開いた。

 

「こんな状況だが、昔から急がば回れと言うだろう? いっそ北や東の方に手を出してみるか?」

 

 と、提案してきた。



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第六十五話「リビルドアーミーのランシス」

 Side 緋田 キンジ

 

 旧・ヴァイパーズ基地の方は他の部隊に任せて第13偵察隊は独自に行動を開始。

 

 表向きはヴァイパーズやリビルドアーミーとの一連との騒動で棚上げになっていた周辺地域の偵察。

 

 行動方針は味方集め、情報収集という事になった。

 

 正直言うと何から手を付ければいいのやらという感じではあるが何もしないよりかはマシだと思い、行動を開始した。

 

 佐伯 麗子も一旦元の自衛隊基地に戻ることになった。

 

 そうして新たな旅立ちの矢先――晴天の平野をパメラ所有と偵察隊所有のトレーラーを中心に車両の列を作って進んでいる時に奴達が現れた。

 

 大型の飛行艇・マザーバードと一緒に現れたのはリビルドアーミーである。

 

 と言うかこの世界で飛行戦力を持ってるのは限られているので考えるまでもない。

 

『初めましてだなジエイタイの諸君!! 私はランシス!! 貴様達を倒す者だ!!』

 

 俺は(なんか面倒そうな奴が来たな~)などと思いながらアインブラッド・ガンブラストで出る。

 

 見た目ヒロイックな白と青色の飛行ユニットを搭載したパワーローダーたちも一緒だ。

 

 その中で全身が真っ青でフライトユニットを積んでいる機体から大声を張り上げて突撃してくる。

 

 アレが声を大にして名乗ったランシスと言う隊長機だろうか――とても速い。

 

 単純なスピードならリオのゲイル・リヴァイヴやパンサーのジェネⅢに匹敵するだろう。

 

 中身は別物と見た。

 

『このジェスト(*リビルドアーミーのパワーローダー)は私専用にカスタマイズされたのだ! ただのジェストとは思うなよ!』

 

 そう言いつつ隊長自ら切り込んで俺達を翻弄する。

 

『早すぎて狙いがつけられねえ!!』

 

 キョウスケのパワーローダー、バレル・リヴァイヴは中~遠距離用の砲撃型だ。

 

『こいつら――今迄のリビルド―アーミーとは違う!?』

 

 WACコンビの水瀬 キョウカはそう評しながら迎撃する。

 敵はフォーメーションを組んで距離をとり、手堅く攻めてくる。 

 フォボスの連中とは違った意味で厄介だ。

 

『ジエイタイ――中々攻め難い! 噂通りの連中か!』

 

『なんなんだこいつは!?』

 

 それにしてもランシスと言う男、テンションが高い。

 

『私には私の意地があるのだよ! リビルドシティやリビルドアーミーのためにも負けられんのだ!』

 

『一人で勝手に盛り上がってるんじゃねえ!? 大体リビルドアーミーなんか文明人気取りのチンピラ集団だろう!?』

 

『ええい、人が気にしている事を的確につきおって!』

 

『あ、気にしてたんだ……』

 

 本当に何なんだこいつは。

 だが手強い敵には変わりない。

 ここで倒しておいた方がベストか?

 

『敵の戦力は大体把握した! 次は負けん! 総員撤退!』

 

『あっ――』

 

 そう言って次々と部下達が大型飛行艇のマザーバードに乗り込み、そして最後に隊長であるランシスが乗り込んでその場を去った。

 

 なんつーかとても騒がしくて嵐のような奴だが、戦闘力といい、引き際といい、手強い相手であることには変わらなかった。

 

『ごめんキンジ。あまり倒せなかった』

 

『私も今回は全く活躍できなかったわ』

 

 リオ、パンサーの順にそう言う。

 この二人でもそうなのだから相手は一筋縄ではいかないようだ。

 

『リビルドアーミー……正直これまで甘く見すぎていたかもな』

 

 気を引き締めなおして俺は任務を続行するのであった。

 佐伯 麗子に言われた通り、グレイヴフィールドを時計回りになぞるように進む事にした。

 

 目的地は正確には決まってない。

 

 フォボスやリビルドアーミーの事が不安ではあるが、気にしすぎてもどうにもならない。

 

 俺達は進むことにした。

 



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第六十六話「ガッツ軍曹」

 Side 緋田 キンジ

 

 パメラ所有と陸自所有の大型トレーラーを中心に車両の列が平野(荒野)を進む。

 

 何をするべきかは分かっているけど具体的にはどうするべきかは分からない。

 

 そんな状況下でも手探りで歩み続ける。

 

 現在地はグレイヴフィールドの東部。

 

 なにもない平野。

 

 廃墟が点々としている。

 

 思えばこうしてこの世界をほぼ自由気ままにうろつくのは初めてだ。

 

 世界が終わるかどうかの瀬戸際なのかも知れないのにこう言うのは不謹慎なのだろうが楽しい気持ちになる。

 

 あの佐伯 麗子の意見に従うのも癪だが今は東から北へと時計回りに動き回っている。

 

 各方面に偵察隊は出しているが、この世界に来てからと言うもの激戦続きで戦力の消耗が激しく、中々手が回らないと言うのが現状だ。

 

「東らへんは確かリビルドアーミーの空中戦艦が通った道だな」

 

 この世界で仕入れて導入したトレーラーの格納庫内部でキョウスケに話しかけるように言う。

 

「ああ。その作戦で確か自衛隊の連中――最初の攻撃部隊も立ち寄っていたし、そんなに詳しくは見なくてもいいだろう」(*第三十話参照)

 

 つまり偵察する必要はないと言う事だ。

 

「このままグレイヴフィールドを中心にグルっと回って北部に向かいたい」

 

「了解。なんか見つかるといいな」

 

 などとキョウスケも呑気だった。

 

 

 グレイヴフィールド北東部。

 

 元は軍事拠点の一つだったんだろう。

  

 兵器の残骸などが転がっている。

 

 問題なのはアサルトドローン。

 

 人にきわめて近い動作をする緑色の戦闘ロボット達が待ち構えていたことだ。

 

 一台や十台ではない。

 

 目に見える範囲で一個小隊分(五十体近く)ぐらいはいる。

 

『貴様達も略奪者か!?』

 

『えーとどう言えば良いんだこういう時。邪魔なら立ち去るよ』

 

 と、俺はパワーローダーを身に纏いながら言った。

 

『私はガッツ軍曹。上官不在のため、私がここの指揮を執っている』

 

『あーすまないけど、俺達は君たちの上官じゃないんだ』

 

『すまない。メモリーが破損していて一部情報が欠落している。目覚めてから変な化け物やら話の通じない略奪者ばかりで混乱している。何が起きたか分かるか?』

 

『あ~俺達もよく分からないんだ』

 

『そうか――それで戦争はどうなった?』

 

『たぶん終わってると思う。しかも最悪な形で』

 

 世紀末物の導入部にありがちな核戦争エンドを思い浮かべながら言った。

 

『ならば話は早い。部隊を再編して戦後復興を行いたい』

 

『あーそれについてなんだが……』

 

『むう?』

 

 俺はこの世界の現状と俺達の身分などを詳しく話した。

 長話になってくれたがちゃんと聞いてくれて理解してくれた上でこう言った。

 

『なるほど。今はリビルドアーミーと君たちジエイタイが戦争していて、その裏でフォボスとか言う連中が暗躍しているのか』

 

『まあそんな感じだ』

 

『ことの真偽はともあれ、状況を見極めて行動したい。リビルドアーミーに関しては我々も何度か戦ったことがある』

 

 そう言ってスクラップにしたパワーローダーの方に目をやるガッツ軍曹。

 リビルドアーミーがよく使っている白と青のパワーローダーだ。

 中にはヴァイパーズのマークがついている奴やら野盗が使用していたと思わしきパワーローダーまであった。

 

『で? どうするんですか?』

 

『とにかく戦力の増強が必要だ。ここから北西に軍用工場があったはずだ――』

 

 一先ずパワーローダーを身に纏って戦闘態勢を整えている仲間達の元へと戻った。

 

『話は終わったか?』

 

 とキョウスケが言う。

 

『ここから北西に軍用工場があるとか言ってたが――ヴァネッサ?』

 

 俺はヴァネッサに尋ねた。

 

『はい。確かに軍用工場はありますね。今はリビルドアーミーの支配下に置かれている筈です』

 

 との事だった。

 厄介な事になったと思う。

 

『次の作戦は決まったようなものだね』

 

 リオが言う。

 

『とりあえず情報の共有と作戦について考えようか』

 

 俺は次の作戦についてガッツ軍曹に相談することにした。

 



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第六十七話「軍事工場制圧作戦」

 Side 緋田 キンジ

 

 軍用工場奪還作戦についてだ。

 

 久しぶりの生身での偵察である。

 

 パワーローダー部隊や敵の飛行機械。

 

 無人機が哨戒している。

 

 それだけでなく、セントリーガンなどの砲台も配置されいてた。

 

 最悪ビームだかレールガンだかを想定しておいた方がいいだろう。

 

 放置しておくのも厄介だ。

 

 上に通達しておいた方がいいかもしれない。

 

☆ 

 

 Side 佐伯 麗子

 

「敵の軍事工場の奪取か……早々思い切ったことをする」

 

 言うのは簡単だが間違いなく激戦になる案件だ。

 増援も準備しておいた方が良いだろう。

 

「グレイヴフィールド内のリビルドアーミーは掃討されましたが、こんな目と鼻の先に奴達の拠点があったとは――」

 

「敵は躊躇いなく核兵器を使用する連中です。放置するのは危険ですね」

 

 作戦プランについては同意を得られた。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 作戦は夜間に決行された。

 

 高速移動可能な機体による奇襲作戦。

 

 リオやパンサー、WACコンビの水瀬 キョウカ、高倉 ヒトミ、ルーキーと言う珍しい組み合わせのメンバーだ。

 

 他の面々は奇襲が成功した段階で別方面から仕掛ける段取りである。

 

 

 Side リオ

 

 ゲイル・リヴァイヴの速度で一気に敵の軍事工場を急襲する。

 敵には目もくれず、パンサーと一緒に砲台やレーダー設備などを片っ端から破壊していく。

 

 水瀬さんと高倉さん、ルーキーさんの3人は次々と敵を破壊していく。

 

 ずっと一緒に戦ってきたのだ。

 

 弱い筈はない。

 

 とにかく敵を出来うる限り引き付けてもう一つの作戦を成功させないといけない。

 

『そのパワーローダー、報告にあった奴か!』

 

『敵の隊長機!?』

 

 リビルドアーミーのパワーローダーが工場内部から追加で出てきた。

 

 目を惹いたのが敵の隊長機の機体。

 

 真っ赤な赤い機体。

 

 二つ目で後ろの大きなバインダーが特徴のフォルムだ。

 手にはシールドとライフルを持っている。

 

『私はスカーレット!! お前達を倒す者の名だ!!』

 

 スカーレットと言う女性の装着者が相手らしい。

 

『この前の青いのも強かったけど――』

 

 相手のパワーローダーは際立った特徴はない。

 だがとても速い。

 この前戦ったランシスに匹敵する速さだ。

 

『これ程腕の立つ装着者がいたとは!! ランシス様が仕留めきれなかったのも頷ける!』

 

『ランシス? この前の青い奴のこと?』

 

 互いに銃火が飛び交う。

 空中を飛び回り、距離を変えて好機を狙う。

 

『隊長!!』

 

『この黒いジェネ! 強い!』

 

『悪いけど連携は分断させてもらうよ!』

 

 リビルドアーミーのパワーローダーはパンサーのジェネⅢに。

 隊長機と連携を分断される形になった。

 

 それをルーキーやWACの二人が援護する。

 

『クソ! 腕利きとは分かっていたがこれ程とは――』

 

『このままいけば――!!』

 

 私は背中のビームキャノンや腰のレールキャノン。

 二丁のビームライフルを巧みに操りながら相手を力押しで追い詰めていく。

 

『スカーレットはやらせない』

 

 淡々とした少女の声。

 新たに表れたのは全高5m程のロボットだった。

 

『なにあのデカブツ!?』

 

 パンサーが驚くのも無理もない。

 

 黄色い大きなロボット。

 バレル・リヴァイヴとコンセプトは同じの重火器、重装備仕様のパワーローダー。

 

 背中の大きな大砲二門。

 右腕のガトリング砲。

 左腕の二門のシールドライフル。

 厳つい肩の内臓式のミサイル。

 両足にはミサイルコンテナ。

 キャラピタ式のローラーダッシュ式。

 

 それ達が一斉に火を噴く。

 

『皆大丈夫!?』

 

『なんとか――』

 

 と、ルーキーが。

 

『とにかくあのデカブツをなんとかしないと――』

 

 水瀬 キョウカさんの言う通りだがこう言う時どうすれば――

 

 助け舟を出してくれたのはルーキーだった。

 

『危険だけど工場や敵を盾にするようにして立ち回るしかない! そうすればあの重火力が向けられる心配はない!』

 

 的確な指示を飛ばすルーキー。

 ルーキーもここまで戦い抜いたエースの一人なのだと私は実感した。

 私もそれに倣って隊長格の一人「スカーレット」を盾にするように立ち回る。 

 

『状況判断が速い!! 各員、敵を引き離せ!!』

 

『いや、もう遅い!』

 

『キンジ!!』

 

 ここでキンジが工場内部から出てくる。

 

 リビルドアーミーの兵士たちも一緒だ。

 

『隊長!! 工場が制圧されました!!』

 

 リビルドアーミーのパワーローダーの報告に敵兵士達は動揺する。

 それはスカーレットも同じだ。

 

『なに!? まさかこいつらは囮――嵌められたと言うのか!?』

 

『ええい、こうなれば工場を破壊しろ!! 敵に渡るよりかはマシだ!!』

 

 そう決断するが工場の彼方此方からアサルトロボットの兵士たちが銃撃を加えてくる。

 5mの巨大ロボも次々と集中砲火を浴びて後退せざるおえない状況だ。

 

『一旦後退して立て直す! 後に奪還――』

 

『いいや、俺達の勝ちだ』

 

 キンジがそう言う。

 当然スカレーットは『なに?』となる訳だ。

 

『敵の援軍です!!』

 

 遠くから自衛隊のヘリ群が飛んでくる。

 中にはパワーローダーを満載していると思わしきヘリまであった。

 

『ッ――そう言うことか!! 合流ポイントは此方で指示する!! 無事な物は撤退を支援しながら後退しろ!!』

 

 と、スカーレットは指示を飛ばしながら黄色い巨大ロボと一緒に殿を務めて後退する。

 

 

 戦闘は終結。

 工場の設備の把握と砲台の復旧作業などが行われている。

 

 アサルトロボット達とジエイタイの人達が共同で作業を行っていた。

 

「上手く行ってよかったねキンジ」

 

「ああ、ガッツさんも大喜びだ」

 

「思ったんだけど、逃してもよかったの?」

 

 ふと私はそんな疑問を投げかける。

 

「それも考えたんだけど、俺達の今回の作戦目標は工場の奪取だ。自棄になられて破壊されたら元も子もないしな」

 

「そこまで考えてたんだ」

 

「まあ今回は上手く行ったけど。リビルドアーミー……層が厚い組織なんだな」

 

「うん。それは私も感じた」

 

「……悩んでも仕方ない。ともかく今は休もう」

 

 

 Side スカーレット。

 

 私達はあの後、合流地点まで後退。

 

 白髪の青年。

 ランシス様と合流した。

 

「例の部隊か……成る程……我々はグレイヴフィールドへの足掛かりを失われた訳だ」

 

「も、申し訳ありません、ランシス様」

 

 私は頭を下げて謝罪する。

 

 あの工場は重要な拠点。

 グレイヴフィールドにいるジエイタイと言う危険分子を討伐するための重要な足掛かりだったのだ。

 

「構わんさ。怒鳴り立てて時間が戻る訳でもあるまい。それに私としてもアイツらには興味がある」

 

「あいつら?」

 

「諜報部によれば、ジエイタイと言う連中がグレイヴフィールドの基地に――こことは違う世界から来たと言っていたが――我々の空中戦艦を退け、そしてヴァイパーズの陸上戦艦含めて指導者をも打ち取ったそうだ」

 

「私も聞いたことがあります。誤報かと思いましたが……」

 

「だが事実、空中戦艦は堕とされ、ヴァイパーズの本拠地もジエイタイと言う連中の手に落ちた。それを成し遂げたエース部隊がいると言うが――私と君が戦ったあの部隊と見て間違いないだろう」

 

「なんですって!?」

 

 それを聞いてあの敵の強さに納得がいった。

 

「我々は運がいい。生きてこうして会話が出来るのだからな――」

 

 ランシス様は「だが」と、話を続ける。

 

「我々リビルドアーミーは腐っても軍事組織だ。メンツと言う物がある」

 

「では奴達を追うと?」  

 

「そうならざるおえんだろう。既に他の連中も動き出している」

 

「奴達は出世の餌と言うことですか」

 

「餌ではない。襲い掛かれば死に物狂いで抵抗してくる獰猛な獣だ――」

 

 その言葉の意図を悟った。

 だがあえて私はなにも言わなかった。

 

「さて、どれだけ生き残るだろうか」

 

 そう言って彼は微笑んだ。

 



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第六十八話「日本からの迷い子」

 Side 緋田 キンジ

 

 ガッツ軍曹たち、アサルトロボット達により制圧された軍事工場。

 設備の復旧や武器弾薬や新たなアサルトロボットを増産している。

 戦後復興するための下準備であろう。

 

『協力感謝する。ここの守備は任せてくれ――戦力が整い次第、グレイヴフィールドの奪還作戦に挑むつもりだ』

 

「本当にやる気なんですね、戦後復興」

 

 司令室にて俺はガンツの熱意に押されながらも苦笑で返した。

 

『その前に自衛隊の基地に一度顔を出して総司令官殿に礼を良いに行きたい。今回の作戦は君達の協力無しでは成しえなかった』

 

「そ、そですか」

 

 五藤陸将がどんな反応するか楽しみだ。

 

 

 ――我々は軍人としての務めを最後まで果たす。

 

 ――貴官らの行く末に幸運があらん事を。

 

 そう言われて俺達はアサルトロボット総出で送り出された。

 

 目指す方角は東。

 

 グレイヴフィールドの北の方角に向かっている感じだ。

 

 ヴァネッサによれば北の方角にも色々とあるようだが殆ど廃墟だそうだ。

 

 ただ、最近は北にある元高級住宅街に人が集まってきているらしく、そこを覗きに行く事にした。

 

 

 廃墟の小さな町を越え、途中砦と化していたガソリンスタンドに立ち寄る。

 

 周辺は賑わっていて、グレイヴフィールドを抜け出した頃に初めて立ち寄ったキャラバンやトレーダーの集会所を彷彿とさせた。

 

 さらに遠くでは件の高級住宅街が見えた。

 

 高級住宅街は周囲は川で流れており、橋で繋がっている。

 裏には小さな山が存在した。

 

「バリケードに高台、タレット……守りは厳重だな」

 

 隣でキョウスケが双眼鏡をのぞき込みながらそう言う。

 高級住宅街の守りは確かに厳重だ。

 このガソリンスタンドの守りも中々ではあるが。

 

「話には聞いてたが野盗程度じゃ突破は無理だな。パワーローダーやロボットまで配備されてる」

 

「ガソリンスタンドで集めた話によると高級住宅街の裏手には軍のバンカーやアインブラッドタイプのパワーローダー、レールガンやレーザー砲台とか配備されているらしい」

 

「敵に回したくはないな」

 

 キョウスケの言う通りだとしたら心底そう思う。

 この世界に最初に来た時から大分強くなったがそれでも未だに苦戦を強いられる時がある。

 

 ここは慎重に接触しようと思った。

 

 

 旅人を装う感じでトレーラーで内部にお邪魔する。

 リオと一緒に見て回った。

 

 キョウスケはパメラと一緒に見て回っている感じだ。

 

 他のメンバー、隊員などは交代制で観て回る感じである。

 

「建物は修復したり新しく新築して暮らしているんだね」

 

 と、リオが驚いたように言う。

 雑多な戦闘ロボットやパワーローダーなども徘徊していて警備は厳重だ。

 

 キョウスケの事前情報通りレールガン砲台やレーザー砲台らしき物もある。

 空中戦艦でも容易に近づけんぞこれ。 

 

「すいません、もしかして自衛隊の方ですか?」

 

「君は?」

 

 ふと少年に声を掛けられる。

 黒髪の少年。

 日本人的な顔立ち。

 まだ十代半ばと言った感じだ。

 

 服装はこの世界の物だが身嗜みはどこか日本の住民を思わせる。

 

「自分はこの町の市長をやらせて頂いています、狹山 ヒロトです」

 

 それが狭山 ヒロトとの出会いだった。 

 



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第六十九話「狭山 ヒロトのお話」

 Side 緋田 キンジ

 

 来客者である自分を出迎えるために四階建てのコンクリート建造物に招かれた。

 しかもエレベーター付き。

 

 部屋にはソファに絨毯、カーテン、ドリンクサーバーなどが色々と置かれている。

 

「改めまして初めまして。狭山 ヒロトです。高校二年生でなぜかこの土地に跳ばされて頑張ってきました」

 

 そして傍にはメイド服を着た美女がいる。

 青く長い髪の毛。

 ボリュームあるバスト。

 あんまりじろじろ見るとリオから冷たい視線を向けられそうだ。

 

「私はサポートアンドロイドのシズクです。狭山様の補佐をさせて頂いています」

 

「あ、アンドロイドなのか?」

 

 俺はその事に驚いた。

 狭山君は苦笑しながら「他にも仲間はいますが代表して連れてきました」と言った。

 

「本題ですけど――自衛隊はどうしてこの土地に?」

 

「あ、そこからなんだ――」

 

 狭山君は此方の事情をあまり知らないようだ。

 

「まあ異世界から来たことまでは知っている感じですが」

 

「ちょっと長い話になりそうだね」

 

 

 そこから長い話になった。

 

 簡潔に言えば狭山 ヒロトはこの高級住宅街に飛ばされて、アンドロイドのシズクに出会い、一緒にこの高級住宅街を中心にして発展させていったそうだ。

 

 建造物などはドローンが作ったらしい。

 

 そこから化け物やら野盗やらと戦ったり。

 

 リビルドアーミーに目を付けられたりしながらも頑張ってきたようだ。

 

 

「ヴァイパーズは壊滅して、リビルドアーミーと全面戦争中で、オマケにフォボスって言う奴が暗躍しているんですか……」

 

 と、狭山が嫌そうに言う。

 逆の立場で考えてみれば厄介ごとを持ち込まれたのと同じだ。

 この反応は当然だろう。

 

「だけど狭山様、これは渡りに船と言う奴では?」

 

 シズクさんはそう言うが――

 

「でも今更、日本の法律を押し付けられるような真似をされるのはどうかと思うんだけど」

  

「あ~そこか……」

 

 狭山君は意外と政治家の素養もあるらしい。

 自衛隊と協力体制を取るとその流れで従属を強いられて日本の法律を押し付けて町の運営を行う事を危惧しているのだ。

 

「どうする? キョウスケ?」

 

 困り顔でリオも顔を向けてくる。

 

「まあ今、この世界で使わせてもらっている自衛隊基地の周辺と考えればいいだろう。日本の法律の適応外さ」

 

 そして最後にこう付け加える。

 

「政治家やら外交官がしゃしゃり出て脅迫染みた真似をしても突っ撥ねればいいだけだし」

 

 と、言い終えるとホッとしたように「無理やり連れ戻すとかそう言うの覚悟してたんですけど――」と言ってきた。

 

 こう言う心配するのは仕方ない。

 この世界で長く生きてないと分からない感覚だろうが、この少年は俺以上にもうこの世界の住民なのだ。

 

「特殊な事情で自衛隊への視線は色々と厳しいからな。それに政治家先生方はリビルドアーミーとのイザコザやらフォボスとの一件で色々と忙しいし暫くは大丈夫だよ」

 

「ホッとしていいのやら悪いのやら」

 

 狭山君がホッとすると――

 

「一種のハーレム状態ですもんね」

 

 唐突にメイドロボのシズクさんが爆弾を投げてきた。

 

「そ、そう言うのじゃないから?」

 

 慌てて否定する狭山君だが俺は「は、はーれむ?」とちょっと思考停止してしまった。

 

「ああ、それはね」

 

 助け舟を出したのはリオだった。

 

「この世界は法律なんてない、武力が物を言う世界だから――政略結婚って言うんだっけ? そうやって信頼関係を築く手段とかあるの。弱い集団が強い集団に取り入ったりするためのお決まりの方法だね」

 

「成る程な……そう言えば俺達が足を運んだところって強い武道派な集まりばかりだったな」

 

 俺はまだまだこの世界の事について理解に及んでなかったらしい。

 

「うん。皆、必死だったよ。今は大丈夫だけど、体を差し出すから村を救って欲しいとか、今後こういう関係を続けていくためにも結婚してほしいとかさ――」

 

「だけど皆様はまんざらでもないかと」

 

「でも日本に帰れるようになったし、一度親に顔を見せた方がいいかなとかは思ってるんですよ」

 

(親か……)

 

 当然の事を言う狭山君に対して俺は複雑な気持ちになる。

 あの屑両親は今頃何をしているのだろうか。

 

「ここに残りたいか?」

 

「はい。ここに残りたいです――ふと思ったんですけど自衛隊が管理しているゲートを使用するにはどうすればいいんですか?」

 

「とにかく自衛隊の上の方と接触する必要があるな。五藤陸将は話が分かる人だし、何なら公安の人もつくと思うから」

 

 公安の女X、彼女も今は何してるんだろうな。

 

「そうですか――あーよかった」

 

 一通り話し終えたところでサイレンが鳴り響く。

 

「敵襲か?」

 

「はい。何が来たかは分かりませんが、未だに不安定ですから中々離れられないんです」

 

「成る程な――」

 

 元の世界に帰るのも色々と問題がありそうだなと俺は思いつつ戦闘態勢を整えるために走った。

 



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第七十話「パワーローダー博物館」

 Side 緋田 キンジ

 

 町中に警報が鳴り響き、人々が戦闘態勢に入る。

 

 こんな装備や警備が厳重なところを襲い掛かるなど普通ではないだろう。

 

 戦闘ロボットや町に配備されていたパワーローダーも次々と稼働を始める。

 

 俺とリオは慌ててキョウスケやパメラ達との合流を急ぎたかったが――

 

(パワーローダーを載せたトレーラーが橋の向こう側なんだよな……)

 

 相手の防犯の都合を考え、不用意に刺激しないように橋の向こう側に置いてきたのが裏目に出た。

 

 高級住宅街の周囲をグルっと防壁で囲まれ、その更に外側は川が流れている要塞だ。

 更には裏手には軍のバンカー。

 彼方此方に砲台。

 内部もパワーローダーを身に纏った警備兵やロボットなどが巡回している

 

 ここまで厳重だと下手に外に出るのは止めておいた方がいいかもしれない。

 

 隣にいた狭山 ヒロト君とシズクさんは落ち着いていた。

 

「大丈夫です。ここは簡単に落ちません――シズク? 敵は何か分かる?」

 

 とヒロトはシズクに尋ねた。

 

「レーダーリンク中――照合によるとリビルドアーミーですね」

 

 キッパリとそう答えた。

 リビルドアーミーと言う単語を聞いて俺は驚いた。

 

「リビルドアーミーだって? 先日奴達の前線基地を制圧したばっかだぞ?」

 

 と、答えた。

 ガッツ軍曹と一緒に前線基地を制圧したのだ。

 もしかすると他にもあれぐらいの規模の前線基地があるのかもしれない。

 

「詳しくは戦いの後で――敵は戦力を町を取り囲むように分散して降下してきます。かなりの部隊ですね」

 

「狙いは砲台だろ――」

 

 シズクの解説に俺はそう結論付けた。

 砲台がなければ空中戦艦なり大型の飛行機械による空挺降下で一気にこの町を制圧できる。

 

 以前の時のように戦艦で犠牲覚悟で突っ込まれなければの話だが、あんな真似をする指揮官は二人も三人もいないだろう。

 

 でなければこんな回りくどい真似はしない。

 

「狭山様のアインブラッドは整備中。緋田様たちのパワーローダーは?」

 

「町の外、ゲート前に停めてある。何人かはこの町の中にいるからな……」

 

 シズクにそう言って俺は通信で呼び掛けてみる。

 トレーラーの近くにいた隊員達に命じて取り合えず退避するように言った。

 

「生身でパワーローダーを相手にするのは勘弁だ。動かせるパワーローダーはあるか?」

 

 そう言うとシズクさんは「狭山さんが趣味で作ったガレージに何台かは」と言った。

 

「いい趣味してんな狭山君」

 

「ど、どうも」

 

 と、狭山君は照れていた。

 本当にこの世界で成り上がっちゃったんだなこの子。

 正直羨ましい。

 

「ガレージに案内してくれ」

 

「分かりました。こちらへ」

 

 と、狭山君が案内してくれた。

 

 

 ガレージ。

 と言うか格納庫には綺麗にパワーローダーが並べられていた。

 

 最も普及しているパワーローダードラン。

 

 初めて会った時にパンサーが身に纏っていたジェネ。

 

 初めて会った時にリオ身に纏っていたゲイル。

 

 俺が長く使用していたフェンサー。

 

 第7偵察隊の隊長、宮野が使っていたギャリアン。

 

 フェンサーとギャリアンを購入した夜、襲撃してきた野盗が使用していたワッド。

 

 キョウスケが使っていたバレル。

 

 ウチのWACコンビが使っているブロッサム。

 

 暫く遭ってないトレーダーのアネット達が使っていたバルキリー。

 

 リビルドアーミーのジェストまである。

 

 他にも見たことがないパワーローダーが沢山ある。

 

 金が取れるレベルのパワーローダー博物館だ。

 

 内装も狭山君の趣味丸出しでポスターやら何やらが色々と飾られている。

 

 だけど今は有事なので整備員と思わしき人々が忙しく搭乗を呼びかけていた。

 

 俺とリオは互いに顔を見合わせて頷き合うと迷わず俺はフェンサー、リオはゲイルに向かった。

 

 

 長いこと高性能機に乗っていたので動きの鈍さは多少感じていたが思った程でもなかった。

 

 ゲイルを身に纏ったリオも不思議そうに体を見つめている。

 

 整備の腕が良いんだろう。

 

『お二人とも大丈夫ですか?』

 

『て、狭山君も戦うのか?』

 

 狭山君もパワーローダーを身に纏っていた。

 見掛けはただの黒いドランだ。

 大型化したバックパック、右側にミサイルコンテナ、左側にレーダーか何かの様な機器をつけている。

 

『特殊部隊仕様のドランです』

 

『色々とバリエーションあんだな、ドラン』

 

『ではお先に』

 

 そう言って狭山君はその場を去っていた。

 速い。

 ドランとは思えないスピードだ。 

 ルーキーが使用している高機動型ドラン以上だ。

 

『キンジ』

 

『ああ、悪い。行くぞ――』

 

 俺達はトレーラーを止めてあった正面ゲート前に向かった。

 

 



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第七十一話「驚異のカーマン」

 Side 緋田 キンジ

 

(このフェンサー、違和感がないな)

 

 身に纏っている以前使っていたフェンサーとの違いが分からない程に違和感がない。

 

 リオが言うにはパメラは腕が良い整備士だ。

 それも俺もよく知っている。 

 

 更に日本から持ち込んだ素材や部品なども使っていて以前使っていたフェンサーは格段にグレードアップされている。

 

 にも関わらず差が感じられないと言う事は、部品の質と整備の腕が良い場所なのだろう、この町は。

 

 今の自衛隊なら即戦力だ。

 

(気持ちを切り替えて今は――)

 

 そうこうしていくうちに正面ゲートと壁。

 その先には住宅街に繋がる二車線の橋があるが――正面ゲートの激しい銃撃戦を見る限り自分の判断は正解だった。

 

 町の防衛部隊が――パワーローダーや各種ロボット、タレットがリビルドアーミーに向かって攻撃を行っている。

 

 中々に優秀な防衛部隊と防衛設備である。

 

 下手に前に出ると後ろから誤射されかねないと思い、バリケードの上まで登って味方の傍に並び立ち、空を飛ぶ敵のパワーローダーに銃撃を浴びせかけた。

 

『シズクさんからある程度話は聞いてます――』

 

 と、パワーローダーを身に纏った警備部隊の人間から状況報告がきた。

 

『緋田 キンジだ。状況はどうなってるか分かるか?』

 

『概ね此方が優勢ですが――』

 

『あいつらの事だ。まだ何か手があるぞ』

 

 そう言って発砲を続ける。

 

 こう言う優勢な状況の時に限って嫌な事が起きるのだ。

 新戦力を投入してきたりとか思わぬ戦術を取ったり――とにかくただのやられ役では終わらないのだ。

 

『アレは――ヴァイパーズが保有していた大型戦車か!?』

 

 一度目のシップタウンの滞在でヴァイパーズが嗾けてきた全高5mの戦車を思い出す。(第十五話「シップタウン防衛戦」)

 カラーリングや細部などは異なるがアレと同型の大型戦車だ。

 

『不味い!! ゲートから離れろ!!』

 

 主砲が此方を狙っている。

 このままではあの時と――

 

 瞬間、爆発が起きた。

 赤い二門の大砲を背負った砲撃機体。

 

 キョウスケのバレル・リヴァイヴ。

 二門の背中のビームキャノン。

 両腕のアームガン。

 両足のミサイルコンテナからミサイル。

 

 パンサーのジェネⅢもビームマシンガン、両腰部のレールキャノンで上空から畳みかける。

 狙いは戦車の上面。

 背後のエンジン部分。

 

 二人の攻撃が面白いように着弾していく。

 特にパンサーの攻撃が効いたのか戦車は黒煙を挙げ、火花を散らしてその場で停止した。 

 

『一両だけじゃない!! 二両、三両――近づいてくる!!』

 

 何がなんでも強引に突破したいのか、更に三両程追加で来る。

 敵が全方位から攻撃を仕掛けているのはこれを突入させるために町の警備を薄くさせるための――つまりは陽動だったのだ。

 

 キョウスケとパンサーの二人は別れて攻撃を浴びせながら背後に回ろうとするがリビルドアーミーの兵士たちがそれを阻止しようと抵抗してくる。

 

『なら――!!』

 

 俺は空中にブースターを吹かしてジャンプ。

 一気に川を飛び越えながら上空の敵へ射撃を浴びせる。

 リオも続いてくれた。

 

『キョウスケ!! 今のウチに――』

 

『少しは息のいい奴がいたわね!!』

 

『ッ!?』

 

 背筋がゾワッとした。

 女口調の男の声。

 そして全身ピンクの奇怪なパワーローダーを身に纏う。

 どこが奇怪かと言うとまるで複数のパワーローダーからパーツを寄せ集めて作ったかのような――そんなパワーローダーなのだ。

 

『私はリビルドアーミーのカーマン!! この特別のパワーローダー、カーマンスペシャルでお相手するわ!!』

 

『キンジ! なんか変なのがいる!』

 

『ああ! なんなんだあのオカマは!?』

 

 若干涙声になっているリオに同情しながら俺はカーマンに。

 

『あらやだ、失礼ね。このカーマンに向かってオカマ呼ばわりなんて』

 

『どっからどう見てもオカマだろうが!?』 

 

 俺はキレながらパワーローダー用ライフルを発射する。

 

『そんなボウヤは私自らの手で躾けてあげるわ!』

 

『もういい!! お前はもう黙れ!? 背筋がゾワッとする!?』

 

 お互いに銃火を交えながらそんなしたくもないやり取りをしていた。

 

『あらやだ、戦いの中で興奮してるの?』

 

『黙りやがれ!!』

 

 こいつはこの場で可及的速やかに殺さなければいけない。

 俺はそう思った。

 だが相手のカーマンスペシャルと言ったか――は鈍重そうな外見通り

 

 背中の二門のビームキャノン。

 両腕のアームガン。

 右腕にはビーム薙刀。

 左腕のシールド。

 両脚のレーザーバルカン

 

 と重火力でありながら

 スピードも併せ持っている。

 

 体感的な強さはリビルドアーミーの敵の指揮官にして空中戦艦の艦長自ら操ったあのアインブラッドタイプぐらいかそれ以上だろう。

 

 まあ中身の色々な補正とかもあるんだろうが……

 

『ンフフフフフフ! 惜しいわねボウヤ! 敵でなければ部下として可愛がってあげたのに!』

 

『誰がなるか!?』

 

 泣きそうになりながら俺は必死に応戦する。

 もう無我夢中だった。

 なんなんだこのオカマは。

  

 リオも『この人恐い……』とか呟いている。

 

『あーその、お取込み中なの悪いけど――』

 

『ぱ、パメラさん?』

 

 パメラが通信を開いてきた。

 

『あのパワーローダーは無茶苦茶な外観だけど、どう足掻いても、どんなに頑張って整備されていても無理な継ぎ接ぎなのは変わらない! つまり長期戦に持ち込めば――』

 

『そういう事か!』 

 

 パメラの言いたい事は分かった。

 俺はリオに『とにかく回避をしまくって狙いを定めさせるな!』と指示を出す。

 

『まさか――この短時間でカーマンスペシャルの弱点に気づいたの!?』

 

『仲間のおかげでな!』

 

 あのオカマのパワーローダーは確かに高性能のパワーローダーだ。

 だが子供の発想のようなカスタムをされた機体ではどうしても機体のバランスや構造に無理が生じる。

 武装にしたってそうだ。

 

『このままこの人の相手をしていてもいいの?』

 

『それよりも敵部隊と連携されると厄介だ! 今の状況を続けて2対1の対決に持ち込んだ方がいい!』

 

 キョウスケやパンサーの元に向かわせるワケにもいかない。

 敵部隊と合流されて合流されるのも厄介。

 それにこいつをこのまま放置するのは危険だ。

 

 だから無理をしてでも、本当は関わりたくもないがこのオカマと相手をしていた方がいい。

 

 そのまま二対一の戦いを続ける。

 敵はアレだが腕は確かだ。

 その上、防御に徹せられて攻めきれない。

 下手に攻撃の手を緩めれば即座に反撃されそうだ。

 戦いの様相は狙い通りの持久戦ではあるが、神経がとても磨り減る程の戦いだった。

 

『カーマン、何をしている!?』

 

 すると金色のリビルドアーミーのパワーローダーが現れた。

 造形的にはアインブラッドタイプである。

 声からして成人男性か?

 

『あらやだ。成金の坊やってば――』

 

『お前がダラダラしていたせいで戦車部隊は全滅だ!? どう責任をとる!?』

 

 言われてみると確かに敵の戦車三両は全滅していた。

 キョウスケとパンサーがやってくれたらしい。

 

『アナタの采配にも問題があると思うけど――まあ私はここで退かせてもらうわ。楽しかったわよ、ボウヤ。また機会があれば会いましょう』

 

『もう二度と会いたくねーよ……』

 

 リオも『同感……』と漏らしていた。

 

 そしてカーマンは去っていった。

 なんで何処となく嬉しそうな声なんだよ。

 敵も引き上げていく。

 

『今迄戦った中で一番強かったかもしれん――色々な意味で』

 

『うん――とにかく、パワーローダー返しにいこう?』

 

 リオに『そうだな』と返して俺はガレージへと戻った。



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第七十二話「互いの気持ち」

Side 緋田 キンジ

 

 戦いで大きく負傷しながらも(*精神的に)フェンサーを元の持ち主に返した。

 

 一体なんだったんだアイツ(カーマン)は。

 

 また戦わなきゃいけない気がするぞ。

 

 それはそうと――狭山 ヒロトが発展させた町、アルカディアに少しばかろ滞在する事にした。

 

 パワーローダーの整備だけでなく移動手段のトレーラーの整備も行うためだ。

 

 それにリビルドアーミーの動きも気になるし、恐らくこの町の近くに何かしらの拠点があると思われる。

 

 それを探る上でもここの滞在は丁度よかった。

 

☆ 

 

「改めて思うけど、ここも凄い発展してるんだね」

 

 リオは周囲をキョロキョロ見渡しながら言う。

 

「初期条件とかもあるんだろうけど、狭山君の人徳や手腕とかもあるんだろうな」

 

 俺はそう分析しつつ町を見て回っていた。 

 今は人で賑わう町のメインストリート。

 様々なものが置いてある場所に来ている。

 

(さて、何をするべきか)

 

 補給物資の調達やら生活必需品を手に入れたりとか、整備の手伝いに情報収集とか、やるべきことは本来沢山あるが皆が作業を分担して受け持ってくれているので殆どない。

 

「私は一緒に見て回るだけでもいいよ」

 

「いいのかそれで?」

 

「うん」

 

「――たく、どうして俺を気に入ったんだか」

 

「ただ異世界の人で自衛隊の人だからとかじゃないと思う。それにキンジは相手の事が好きになった時、相手のどこが好きになったとかちゃんと上手く説明できるの?」

 

「それは――」

 

 リオの言う通り。

 本当にどうして互いの事が好きになったのか上手く説明できる男女は何人いるのやら。

 本当は説明できる――

 

 リオは年下のまだ女子高生ぐらいの女の子だ。

 

 それに口に出すのは恥ずかしい。

 

 クールそうな外見だがそれに反して可愛いらしく、純真なところがある。

 

 強くて格好良くて頼りになって漫画やアニメの世界から飛び出してきたような美少女ヒロインかなんかだと思う時がある。

 

 なのに自分は――と情けなく思う時がある。

 

「クールで強くてカッコいいけど可愛らしくて、純真で――そのなんだ。まるで物語の世界から飛び出してきたかのような――そんな美少女だと思ってる」

 

 と、心の中で思った事を簡潔に纏めて伝えてみた。

 リオは顔を真っ赤にして「そ、そうなんだ――」と返した。

 

「私もキンジのこと――本当は危なっかしいと思うけど、強いだけじゃない、頼りがいのある人で、皆からなんだかんだで慕われていて――こうして皆と旅が出来るのはキンジのお陰だと思ってるから――たぶんキンジはキンジが思っている以上に人徳って言うのがあるんだと思う」

 

「そそそ、そうか――」

 

 年下とは言え、リオみたいな美少女に顔を真っ赤にされて言われるのは来るものがあるな。

 

 俺は場の空気を変えるために場所を移動することにした。

 

 

 Side 宗像 キョウスケ

 

 トレーラーの留守番を他の隊員に任せてパメラと一緒に見て回る。

 キョウスケはリオとデートみたいな感じだ。

 

 まあ俺も似たようなもんだが――

 

「ふと思ったんだけど、私で本当にいいの?」

 

「唐突になんだ?」

 

 なんで急に恋バナになるんだ。

 

「ほら、私――リオやパンサーみたいにそんな容姿――」

 

「とは言うがよ、ちゃんと背格好工夫すれば化けると思うぜ?」

 

「ほ、本当?」

 

「でも俺としては今の姿の方が親しみが持ちやすいからな」

 

「ああ、家があんな感じだったもんね」

 

「そう言うこった。だからお互いこうして距離も縮まったんだろう」

 

「そう――ね――」

 

「どうした?」

 

「正直自分に自信なかったから――いい男と巡り合えないんじゃないかって思ってたから」

 

 その言葉を聞いて俺は(キンジとリオのこと笑えないな)と思いながらこう言った。

 

「そうだな。俺もパメラとこう言う仲になれるなんて思わなかった。正直嬉しい――かな」

 

 恥ずかしいがここは度胸見せる場面だ。

 俺は正直に言う。

 

「本当に?」

 

「ああ。なんなら将来一緒に整備工でもやるか?」

 

「自衛隊の仕事はどうするの?」

 

「あ~まあ今の生活できるのって自衛隊の仕事があってなんぼだけど、別に一生自衛隊を続けなきゃいけないワケでもないし――それに、平和に生きていくためにも今の世の中をよくしていかないとな」

 

「そうね」

 

「安心しろ。たぶんキンジもだが、もしもあのゲートが閉じるとかそう言う話になったら俺はパメラの傍にいるから」

 

「それって――」

 

「こ、これで満足か?」

 

「う、うん――ありがとう」

 

 は、恥ずかしかった。

 キンジの奴に知られるワケにはいかないなこりゃ。

 

 同時に思う。

 女に縁が無い人生だとは思ったが、恋するってのも悪くはないんだな。

 



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第七十三話「学校」

 Side 緋田 キンジ

 

「へえ。ここには学校もあるのか」

 

 俺は感心したように言う。

 自衛隊でも基地周辺で学校を開いているがそれに負けない設備である。

 

 狭山君とシズクさんが教壇に立ち、授業を行っていた。

 町の代表者である狭山君曰く、教師不足らしい。

 それに狭山君も学校の成績はいい方ではない高校生であり、シズクさんの補佐がないと授業が成り立たないらしい。

 

 まあ、本人が言うにはこの世界の子供は学習意欲が高いので教え甲斐があるらしい。

 確かに授業を見学しているとそんな風に感じた。

 

 ふと日本の学生時代を思い出すと肩身の狭い思いをしたものだと思う。

 

 眼前に広がるような感じではなかった。

 

「どうしたのキンジ?」

 

「いや、ちょっとな……」

 

 どうやら顔に出ていたようでリオに心配された。

 いかんなこれは。

 

「せっかくなんで色んなお話をしてくれませんか?」

 

「色んなお話?」

 

 唐突に狭山君に提案される。

 

「あ、もちろんバイオレンスなのは多少脚色する感じで――生徒達の質問に答える感じでお願いします。最悪自分でも分からないとかそんな感じで誤魔化してもらって大丈夫です」

 

 との事だった。

 

 俺は「まあそれなら――」

 

 と言った感じで質問に答えることにした。

 

 これがいけなかった。

 

 なにしろ質問を答える内容がとても難しい。

 

「どこからきたの?」

 

 と言う質問は「狭山君と同じ世界から来た」で切り抜けられた。

 

 そして次に来た「ジエイタイってどんな職業なの?」と言う質問は難問だった。

 

 狭山君もしまったと言う顔をしていた。

 

 なにしろこの質問、自衛隊ですら答えるのも難問だ。

 

 だからと言って子供の前で「武装した災害救助隊です」とかは論外として、「憲法九条うんたらかんたらで軍隊ではない武装組織です」とか答えるのもアレだ。

 

 だからと言って日本の軍隊と言うのもなんか誤解を与えそうな気がする。

 

 本当に難しいのだこの質問は。

 

 ある程度誤魔化すのは仕方ないと思った。

 

 なので――

 

「日本の組織で日本の人のために働く組織だよ」

 

 と、答えた。

 

「軍隊じゃないの?」

 

 ほら来たと思った。

 当然そう言う質問が飛んでくる。

 なので先程の狭山君からの助け舟通りにここは――

 

「うーん、実は自分達もよくわからないんだ」

 

 と答えておいた。

 実際そうだしな。

 

(自衛隊って本当になんなんだろうな――)

 

 この世界では好きに暴れまくってるが元の世界では色々と罵倒されたりしている。

 元からして矛盾を孕んだ組織だ。

 だけどこれだけは言っておおう。

 

「でも人のために頑張るお仕事なのは確かだよ」

 

 と、言っておいた。

 後は後輩や日本国民の皆様に丸投げするような感じでこの質問を乗り切った。

 

 

 一通り質問に答えた。

 答え辛い質問から簡単に答えられる質問まであって、色々と苦慮したが楽しかった。

 

 代わりにリオが答える場面もあった。

 

 やがて時間が過ぎて休憩時間になり教室外で――

 

「すいません、まさかあんな展開になるとは」

 

 狭山君が頭を下げる。

 

「いえ、自分も勉強になりました」

 

 俺もそう言う。

 確かに大変だったが楽しかったのは事実であるし。

 

「――また教壇に立ってもいいかな?」

 

「あ、立ってくれるんですか?」

 

 狭山君が意外そうに言ってくれた。

 

「ああ。学校って嫌な思い出が多かったけど、ここの学校と地球の学校は別物みたいだしな」

 

 俺はそう言って明るく過ごす教室を見た。

 

 この世界で教師か――自衛隊辞めたらここでそれするのも悪くないかもしれないな――

 

 などと俺は考えていた。

 

 



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第七十四話「アイシャと整備工場」

 Side 宗像 キョウスケ

 

 整備で一段落したパメラを連れて俺は町へと出かけた。

 

 町のために体張って戦ったおかげか、住民からの受けがよい。

 

 狭山君と同じ世界の人間だと言うのもあるんだろうが。

 

 同時にこの世界から、この町から狭山君がいなくなるんじゃないかと言う不安の声も上がっている。

 

 これは俺達の責任ではないか、何故だか俺は申し訳ない気分になった。

 

 この世界で生きるというのはどれだけ過酷なのか正直言うと分からない。

 

 だがその片鱗は見てきた。

 

 最初の頃のパメラ達なんかがそうだ。

 

 なにしろ水や食料、地球での普通に近い暮らしだけで命を張ってくれたのだから。

 

 そう思うと今更だが申し訳なく感じてくる。

 

「どうしたの?」

 

「実は――」

 

 俺はバカ正直に今の気持ちを話した。

 

「なんだかんだ言ってとことんいい人達なのね、あなた達は」

 

 と、苦笑して返してくれた。

 

「まあ、だから皆あなたたちに付いていったんだろうけど」

 

「そう言ってくれると助かる」

 

「あまり気を病むのはやめときなさい。逆に失礼になる場合だってあるんだから」

 

「そうか――」

 

「さてと、これ一応デートって奴だから好きな場所に行っていいのよね?」

 

「デートね」

 

 そういやこの世界に来る前はそんな経験したことなかったなと思う。

 パメラはやはりと言うか整備工場――特にパワーローダーなどが整備されている場所に立ち寄った。

 

 こう言う工場見学は学生時代、小学生のころから経験済みだがパワーローダーと言うバリバリの軍事兵器となれば見ているだけで楽しいもんだ。

 地球なら見学ツアーでも組めば料金取れるだろうと思う。

 

「パワーローダーに目が行くけど整備体制や整備機材も凄く整ってるな」

 

「うん。自衛隊とかの設備に負けてないよ。あのシェルターの力もあるんだろうけど」

 

 そんな事を遠巻きに眺めていたら迫りくる影が一つ。

 金髪の左側サイドポニーの少女だった。

 ツナギ姿でフライトゴーグルにスカーフ、各種工具を身に着けている。

 自分は整備員だとファッションで主張しているような少女だった。 

 

「君らアレか? 外から来た話題のジエイタイの人達か」

 

 疑問形で質問してくるので俺は「そうだけど?」と返した。

 

「私はアイシャ。この工場を任されている」

 

「任されている? 一員じゃなくて?」

 

 パメラが当然の疑問を投げかける。

 

「まあそれが普通の反応だろうな。私も何時の間にかこうなったとしか――」

 

「と言うと?」

 

 詐欺にしては妙なので話を聞いてみる事にした。

 

「私はこの町がここまで発展するだいぶ前からここに来た人間でな。その頃からパワーローダーを中心に整備を任されて気が付いたらこうなっていたんだ。なんなら中を案内してやろうか?」

 

「は、はあ……」

 

 俺はアイシャに中を案内される事になった。

 

 

 アイシャは工場内の人間では「お嬢」と呼ばれているらしい。

 

 遠目から見ていて分かっていたが中で近くから覗いてみると立派な設備である事が分かる。

 

 働く人員の情熱も一級品だ。

 

 様々な種類のパワーローダーが整備されていく。

 

「実はお願いがあるんだが」

 

 案内している時にアイシャが提案を持ち掛けてきた。

 だが内容は大体予想がつく。

 

「俺達のパワーローダーを整備させてくれ? とかだろ?」

 

「よくわかったな――」

 

「まあな。俺達のパワーローダーはある意味新型機だからな。技術者にとって新型のマシンに触れるって事は凄い価値があることだし、大体予想がついた――俺とパメラも同伴なら別に構わないぜ。それとウチの隊長の許可もとらないとな」

 

「いいのキョウスケ? 勝手に決めて?」

 

「この工場に興味が出たのもあるけど今はリビルドアーミーの再襲来に備える事が先決だろ? それにアレだけのパワーローダーを俺達だけで整備するのは手間だしな」

 

「確かにそうだけど――」

 

 俺の言ってる事は全部本当だ。

 

 工場に興味が出たと言うのは本当だ。

 

 俺やキンジたち第13偵察隊の面々、それにリオやパンサーも整備は手伝っちゃいるが最終的なチェックはパメラが行っていて負担が大きい。

 

 だから楽させてやりたいと俺は思った。

 

「交渉はそちらの隊長さんの返事待ちと言う事だな」

 

 笑みを浮かべるアイシャ。

 俺達のパワーローダーを触れるのが待ちきれないと言った感じだろう。

 

「ああ。よろしく頼む」

 

 そう返事を返してキンジを探すことにした。

 

 それから少しあと。

 キンジに約束を取り付け、整備工場で整備を行う事になった。 

 



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第七十五話「次の作戦に向けて」

 Side 緋田 キンジ

 

 整備工場前。

 

 早速トレーラーからパワーローダーが下ろされて整備工場に搬入されていく。

 

「なんだか悪いな」

 

「いえ、こちらとしても悪い話ではないので正直ありがたいです。さきのリビルドアーミーの一件で自衛隊の人達の印象はいいですが、それでもまだ懐疑的な気持ちを持つ人は多いです。だから上手くは言えないんですけど、こうして持ちず持たれずの関係を築けたらいいなと僕は思ってます」

 

「なるほど」

 

 本当に日本人なのって感じで狭山君は色々と考えを働かせてくれているようだ。

 日本のヘタな政治家連中より優秀なのでは? と思ってしまう。

 

「リビルドアーミーは動きが見せないのが気になるが――」

 

「力押しじゃ被害が出るのは分かるから、今度は慎重に策を練ってるか、あるいは此方の出方を伺いつつ増援を待っている最中かもしれません」

 

「なるほどね」

 

 狭山君、本当に優秀だなと思う。

 初期条件がいいだけでこれだけの街を作り上げたワケではないようだ。

 

「一応見張りを付けてますが――今のところ動きはありません。此方から少数精鋭の部隊で突いて見たいと思います」

 

「その話乗った――リビルドアーミーはその気になれば核兵器(厳密には地球の核兵器とは違う部分があるが)を使うような連中だ。あまり放置して態勢を整えさせるのも危険だろう」

 

「初期の頃ならともかく自分は立場上、あまり前線には出れませんから――シズク達と一緒に町の防衛に専念したいと思います」

 

「て事は少数精鋭の部隊は俺達で行く事になるか――」

 

「此方からも脱出支援用の部隊を待機しておきますね」

 

「本当に君高校生?」

 

「そう言われたのは初めてですね」

 

 狭山君は苦笑する。

 

 

 Side 宗像 キョウスケ

 

 早速工場内部が賑わってきた。

 他の工場からも人が集まってきている。

 

 新型を触れられると言う機会もあってか大賑わいだ。

 

 アイシャも満足そうに眼を輝かせながら彼方此方見て回っている。

 

「まあ気持ちは分かるわ」

 

 と、パメラは恥ずかしそうに苦笑していた。

 

「ドランやブロッサムの改良型に見た事もないパワーローダー……ジエイタイも中々の組織だな。希少価値の高いアインブラッドタイプまで保有しているとは……むむむ!? このゲイルタイプやバレルに似た機体も一見改良型に見えるけど――それにこのピンク色の機体はもはや未知の機体――」

 

 などとアイシャは自分の世界に入って早口で言っていた。

 その傍でなぜかヴァネッサがセールスマンよろしく機体解説をしていた。

 こうして見るとあの姉ちゃん(ヴァネッサ)特殊部隊じゃなくてセールスマンにしか見えないんだけど腕は本物なんだよな~などと思う。

 

 まあこうして眺めているのもアレだし俺とパメラも整備に交じる事にした。

  

 

 Side リビルドアーミー オードン

 

 現在戦闘態勢を整えていると同時にどう攻めるかを考え中だ。

 あの町単独でも厄介なのにジエイタイとか言う連中までも絡んできた。

 

 だが多くの出世競争相手がアイツらに負けている今、ここで倒せば一気に出世できる。

 

 これを逃さない手はない。

 

 問題はカーマンの奴だ。

 

 アイツは実力は確かでなんだかんだで人望はあるんだがリビルドアーミー内部でも何を考えているのか分からないところがある。

 

 だが奴の実力は必要だ。

 

 最新鋭のパワーローダー「ゴルディアス」の力があっても難しいだろう。

 

 あの町の代表者、サヤマ ヒロトもアインブラッドタイプを保有しているらしいし。

 

 次こそ確実に叩き潰してやる。



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幕間:隊員+リオ達との雑談

 Side 緋田 キンジ

 

 戦いの前にちょっと皆と話をしてみることにした。

 

=宗像 キョウスケの場合=

 

「リビルドアーミーの連中もしつこいな」

 

 キョウスケは言う。

 

「それには同意するよ。こんな荒廃した世界で一体どこから戦力を持ってきてるんだか」

 

「さあな――だが、なんとなくだけど決着は近いように感じる」

 

 俺は「根拠は?」と尋ねる。

 

「これまでの勘だが、この旅を終えてから一つの区切りになると思う」

 

 =水瀬 キョウカの場合=

 

「やっぱり鍛え直しですかね」

 

 水瀬の一言に俺は「どうした突然?」と返す。

 

「前も言いましたけど、やっぱり隊長や副隊長、リオやパンサーさんにおんぶ抱っこしているし、最近はヴァネッサさんもとんでもない人だと分かって――自分の未熟さを改めて痛感しています」

 

「まあパワーローダーの性能差とかもあると思うし仕方ないんじゃないのか?」

 

「それを言い訳にしたくないってのが本音ですかね」

 

「あと自画自賛になるかもだけど比較対象がオカシイのもあるんじゃ? リオとかパメラとか――ヴァネッサとかもう別次元のマシンだし」

 

「そうですけど悔しいですね」

 

「はは……」

 

 =高倉 ヒトミの場合=

 

「水瀬は相変わらずだったよ」

 

「ええ、何時もあんな調子でして――まあこんな状況にも関わらず何時も通りだと言うのも彼女の強みだとは思うんですが」

 

「そうだな」

 

「それと隊長、少し真剣な話をしてもよろしいでしょうか」

 

「ああ、どうぞ」

 

「この先、私達はどうなっていくのか――時折不安になっていく時があるんです」

 

「そうだな。流されるがままに歩んでたけど結果的に次々と激闘に放り込まれてだもんな……だけど俺は降りたくはないかな」

 

「リオさんのためですか?」

 

「そうだな」

 

 俺は即答した。

 

「羨ましいですね。そう言う相手がいて」

 

「高倉さんなら見つけられると思うんだけど」

 

 そう言うと高倉は笑みを浮かべ、

 

「ふふふ、褒め言葉として受け取っておきます」

 

 =ルーキーの場合=

 

「本当に随分遠くに来ちゃいましたね」

 

「どういう意味でだ?」と俺は念のため尋ねた。

 

「色々な意味でですよ。異世界の人達守るために戦ったり、成り行きとは言え、こんな未来兵器を自衛隊で扱うようになったり、国家存亡の危機に関わるようになったりとか――」

 

「まあ言わんとしている事は分かるよ。俺もここまで来ちまうとは思わなかった。生身で64式銃を持って歩いてた頃が懐かしいよ」

 

 あの頃――この世界に来て初期の頃は今思うと自殺志願な装備だったんだなと思う。

 

「そうなると不安に感じますね」

 

「確かにな。最悪の場合は俺の権限で部隊を離れるのを許可するよ」

 

「隊長は……どうするんですか?」

 

「俺はこの世界に馴染んじまったみたいだからな。最後までいくよ」

 

「そうですか――」

 

 悪いなルーキー。

 俺はもう自分の道を見つけちまったらしい。

 

 

 =リオの場合=

 

「皆とお話しているの?」

 

 リオが尋ねる。

 

「強引でもこう言う機会を作らないと中々な。あとメンタルケアとかの一環みたいなもんだ。それに修羅場に放り込むわけだしな――最終確認とかを兼ねてやったりしている」

 

「ジエイタイの隊長って大変なんだね」

 

「まあな」

 

「それと優しいんだね」

 

「……そう言われると照れ臭いな」

 

 俺はリオから視線を逸らす。

 

「うん。キンジの事は良く分かって来たから。なんだかんだ言ってこの部隊の人達はキンジを含めてお人好しだから」

 

「そうか――」

 

=パメラの場合=

 

「この一連の騒動に片をつけたらどうなるのかしらね」

 

「どうした急に?」

 

「いや、まあ色恋沙汰どうこうとかあるじゃない。それよそれよ」

 

「そうだな」

 

 俺達と関わったせいで将来の伴侶どうこうの話になって複雑化しちまったからなぁ……

 

「その場合パンサーはどうなるのかな?」

 

「私達と出会う前みたいに独り身で彼方此方彷徨うのかしら……」

 

「パンサーだとそうしそうだな。まあなるようにしかならんか」

 

「……うん」

 

 =パンサーの場合=

 

「私の話してたみたいだけど、どっかのキャラバンやトレーダーに身を寄せて上手くやる形になるかな~? なんならこの町やジエイタイ基地周辺に居ついてもいいし」

 

 パンサーはあっけらかんと言う。

 

「気軽にいうな……はぁ……教師にでもなった気分だ」

 

「この旅も――戦いにも最後まで付き合うつもりだし、パメラの言う通りなるようになるよ」

 

「そうか……ありがとなパンサー」

 

「どういたしまして――私を選んでくれるいい男はいないかな?」

 

「それは探せば見つかると思うんだけどな――前もしなかったか? このやり取り?」

 

 =ヴァネッサの場合=

 

「新めてこう言うのもなんだけど、なんだかんだでこの旅に同行してくれてありがとうな」

 

「私も打算ありきで引っ付いてきた部分もありますがここは素直に受け取っておきましょう」

 

「――お礼言った後に真剣な話をするのもなんだけど、最終的な目的は何なんだ? やっぱりフォボスの打倒? それとも元の世界の復興?」

 

「まあその辺りは順序立てて行う感じになりますかね。私これでもプレラーティ博士の指示で動いているもんでして」

 

「そうか」

 

「フォボスも気になりますがまずはリビルドアーミーですね。彼達はそろそろ本腰を挙げて潰しに来ると思います」

 

「どうにか講和に持ち込みたいけど難しいよな」

 

「まあそうですね。講和に持ち込むのは厳しいかと」

 

 相手が一方的に宣戦布告して核兵器とかも使って来たしな。

 せめて休戦条約でも結べたらいいんだが最後まで戦う事になりそうだ。



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第七十六話「敵拠点襲撃と謎の影」

 Side 緋田 キンジ

 

『まさか拠点が作られていたとはな』

 

 狭山 ヒロトの町から西の方角にある森林地帯。

 

 俺はパワーローダー、アインブラッド・ガンブラストを身に纏い、脱出支援部隊がいる現地に到着した。

 キョウスケやリオなどの戦闘要員も一緒だ。

 

 少し離れた夜の木々の中で観察し、敵の拠点を見つける。

 

 リビルドアーミーの飛行機バードやそれよりも大型のマザーバードが何台も着陸し、パワーローダーや無人機が闊歩して前線基地を作り上げている。

 

『小型の陸上戦艦――情報通りだな』

 

 陸上戦艦らしき物が目に入る。

 それにしてはサイズが小さい。

 と言っても自分達が使っているトレーラーよりかは遥かに大きい。

 

 陸上戦艦と言っても色々と種類があるらしく、リビルドアーミーが今回持ち込んだのは指揮通信艦、移動司令部とも言うべきサイズの陸上戦艦だった。

 それを中心に基地が建設されている。

 

 地球の海の軍艦の基準で言えばフリゲート艦か軽巡洋艦に位置する艦なのだろう。

 

『どうする? 仕掛けるか?』

 

 パワーローダー、バレル・リヴァイヴを身に纏ったキョウスケが尋ねる

 

『ああ。それが今回の任務だからな――』

 

 俺達は先に仕掛ける事にした。

 

 

 Side リビルドアーミー オードン

  

 それは深夜にはじまった。

 

『敵襲!! 敵襲!!』

 

『あいつら向こうから仕掛けて来やがった!?』

 

 どうやら先手を打たれたらしい。

 ロボットはともかく基地の兵達が浮き足立っている。

 

『落ち着きなさい! ここは一旦ロボット達に任せて態勢を立て直すのよ!!』

 

『りょ、了解!!』

 

 相変わらずドきついピンク色で奇妙なデザインのパワーローダーを身に纏って指示を飛ばすオカマ ――ことカーマン。

 今はありがたかった。

 

 自分の専用のパワーローダー、ゴルディアスで出撃する。 

 

 と、同時に敵のパワーローダー部隊が目に入った。

 報告にあったジエイタイとやらのアインブラッドタイプ。

 それと見た事のない新型だらけの部隊。

 

『敵部隊、散開!!』

 

『次々と物資やマザーバード、バードが破壊されていきます!!』

 

『狙いは我々の孤立を――では今カーマン達が戦っている連中は――』

 

 気が付いた時には敵も引き上げてきた。

 ロクに戦わないまま戦闘終了。

 

『清々しい程に鮮やかな手際ね。ただ戦い慣れているだけじゃない。戦闘訓練を受けたプロよ――』

 

『分かっている――』

 

 カーマンに言われて余計に腹立たしく感じた。

 

 これからどうするべきだ?

 

 一戦大体的に交えるか?

 

 それとも引き返すか?

 

 

 Side ???(十代半ばの褐色肌の金髪ツインテールの少女)

 

 いや~遠方から見ておったが鮮やかな手際だったの。

 

 アレがヴァネッサが言っておった噂のジエイタイか。

 

 パワーローダーの性能もあるじゃろうが噂通りの戦いぶりじゃの。

 

 リビルドシティから来た甲斐があったわい。

 

 流石に今のリビルドアーミーを、リビルドシティを変えられるとは思ってはおらんがキッカケぐらいにはなるじゃろう。

 

 代表者や周りの連中もやりすぎじゃ。

 

 このままでは遠からずウチに破滅する。

 

 だから私みたいなのがこうして動くことになったのじゃが。

 

 それはそうと、どうやって接触しようか――今から楽しみじゃわい。

 



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第七十七話「リビルドシティからの使者」

 Side 緋田 キンジ

 

 敵拠点の襲撃――威力偵察ついでに物資を破壊して狭山 ヒロトの町へと戻った俺達。

 

 到着したころには朝になっていた。

 

 苦戦を強いられると思ったが少々拍子抜けだった。

 

 

 パワーローダーを町の整備工場に預け、

 狭山 ヒロトとミーティングしてひと眠り。

 

 眠り終えた頃には昼間になり、ふらりと立ち寄った整備工場前でキョウスケとバッタリ遭遇した。

 

「よお? もっと休んでなくて大丈夫かい?」

 

「そちらこそな――」

 

「なんだ? 浮かない顔だな?」

 

「昨日の夜襲、正直上手く行きすぎてなんだかなぁと思ってな……何かの罠か?」

 

 と、疑問をぶつけるようにキョウスケに言う。

 

「それだけ俺達が強くなったってことじゃねえのか?」

 

「そうか?」

 

 そうキョウスケに言われても今一実感が湧かないのだが。

 まあ油断せずにいこう。

 

「それで狭山君はなんて?」

 

「様子見だとよ。撤退か、あるいは奇襲を仕掛けるか、増援が来るまで待つか、自棄になって周辺の集落に破壊活動でもするのか――その4択だと踏んでる」

 

「撤退か、奇襲、増援待ちは考えてたが周辺の破壊活動は考えてなかったな」

 

 と、キョウスケは褒めるように言う。

 

「本当に平凡な高校生だったのかとちょっと疑わしく思える時があるな」

 

 俺がそう言うと、キョウスケは「この世界で俺達みたいに――あるいはそれ以上の過酷な体験を味わったんだろうぜ」と、返した。

 

「それで? これからどうするんだ?」

 

「相手の状況次第でまた増援頼む事になるかもしれん。一応現状は報告してるよ」

 

「大変だな隊長」

 

「まあな――正直、このままリビルドアーミーと全面戦争は避けたいが――相手が相手だしな」

 

「確かに難しいかと。でも希望はあります」

 

 と、ここでヴァネッサが登場する。

 

「ヴァネッサ、唐突に現れたな」

 

 キョウスケが俺の気持ちを代弁する。

 

「すいません、事が事だったので――」

 

 と、珍しく低姿勢で返事をするヴァネッサ。

 

「で、そこのお嬢さんは何者だ?」

 

 キョウスケはヴァネッサの横にいた白いワンピースに丸い帽子をつけた小奇麗な褐色肌で金髪のツインテールの少女に目をやる。

 ヴァネッサと行動を共にしていると言う事はただの少女ではないだろう。

 

 それに衣服も靴まで綺麗すぎるし髪の毛も丁寧に整っている。

 お洒落に気を遣う女学生のような女の子はこの世界では一部地域を除けば絶滅危惧種だ。

 それが出来る暮らしをしながらこの土地に来たと考えるべきだろう。

 

 俺とキョウスケを警戒しているとニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべて少女は「人間観察は楽しいか?」と尋ねてくる。

 

「悪い。珍しい背格好してたもんでね」

 

 と俺は警戒しながら言うと――

 

「まあそう言う事にしておくか――そうじゃな。あまり大声では言えんがリビルドシティの権力者の一人だ。使者として狭山 ヒロトやジエイタイの人間に会いに来た」

 

 その言葉を理解するのに少々時間を要した。

 

 

 場所を狭山 ヒロト君が使う応接室に移動し、俺とキョウスケを中心に主だったメンバーが集まった。

 

 ソファにはリビルドアーミーの使者を名乗る金髪ツインテールの褐色肌の少女がいる。

 

「妾の名はアーティス・ラドクリフ。気軽にアーティスでよいぞ」

 

 アーティスと名乗ったリビルドアーミーの少女はそう言ってニコッと笑う。

 

「これまでのリビルドアーミーの連中も色々といたが、とんでもない変わり種が来たな」

 

 呆れたようにキョウスケが言う。

 きっと皆も同じ気持ちだろう。

 

「本題に入ろう。何をしにここへ?」

 

 町の代表者の狭山君が意を決したように尋ねる。

 

「リビルドアーミーを、リビルドシティの暴走を止めるための算段じゃ」

 

「それで僕達やジエイタイの力を利用しようと」

 

「端的に言うとそうなるの」

 

「それで君に何のメリットが?」

 

 と、アーティスに尋ねる狭山君。

 口を挟まず俺は会話の流れを見守った。

 

「簡単じゃ。このままじゃとリビルドアーミーと全面戦争になるのは目に見えておるじゃろう。お主等もそれを前提で動いておるじゃろう。だが勝てたとしてもお互いはタダでは済まんじゃろ? だが話はそう簡単ではない」

 

 そう言ってアーティスは間を置いてこう続けた。

 

「知っての通り、リビルドアーミーは傲慢じゃ。話し合いなど応じるつもりもないじゃろう」

 

「だろうな。話し合いしても騙し討ちを平然と仕掛けて来やがったし」

 

 リビルドアーミーと出会った頃の事を思い出しながら俺は言った。

 

「それが大多数を占めておる。妾もなんとか色々と手を回して組織体制の改善を目指したがな――レジスタンスに支援したり、ヴァネッサ達と協力体制を築いたりと」

 

「いいのか? そんな重要情報をペラペラ喋って? 俺達がアンタらを売るかもし知れないぜ?」

 

 キョウスケが脅すように言うが――

 

「その時はその時じゃ。あの世で妾の見込み違いじゃったと嘲笑うとしよう」

 

「そうかい――まあヴァネッサと連れて来たんだしある程度は信頼できるか」

 

 少々罰が悪そうにキョウスケが言う。

 

「ヴァネッサ、お主信頼されとるのう?」

 

「ええ、まあ――緋田隊長の人徳が成せる技でしょうか」

 

 ヴァネッサに言われて「え? 俺?」などと俺はちょっとキョトンとなった。

 

「まあええわい。ともかくリビルドアーミーも一枚岩ではない――じゃがこの戦いを終わらせるにはどうにかして今の町の代表者とその取り巻き連中を倒さなければならない段階に来ておる」

 

「オタクらで暗殺なり、なんなりすればよろしいのでは?」

 

 と、狭山君の付き人のメイドアンドロイド、シズクさんが物騒な事を口走る。

 だがそれも当然だ。

 

「そうもいかんのじゃ。奴達のバックには得体の知れない何かがいる。そいつを倒さんかぎり、真の支配者にとって都合の良い奴がトップになるだけじゃ」

 

「フォボスの事か?」

 

 俺はそう尋ねた。

 

「いいや、別の奴じゃ――得体の知れなさ加減では同等じゃがな」

 

 と言った。

 

 そこで異常を知らせるサイレンが鳴り響く。

 

 



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第七十八話「大激突」

 Side 緋田 キンジ

 

 俺達はリビルドアーミーからの使者、アーティスからの話を切り上げて迎撃態勢に入った。

 

 敵はリビルドアーミー。

 

 敵の飛行船であるマザーバードが複数来ていてかなりの大部隊らしい。

 

『久しぶりだな!! アインブラッドタイプ!!』

 

『このテンションの高さにブルーのジェスト(リビルドアーミーのパワーローダー)!?』

 

『ランシスだ!』

 

 二重の意味で面倒な奴が来たと思った。

 他にもガッツ軍曹と一緒に戦った時に出くわしたスカーレットとか言う女性の赤い機体やあの工場の中から出てきたデカブツまでいる。

 

『場の流れとは言え、この機会を逃す手はないわ!』

 

 と、ドぎついピンク色のパワーローダーを身に纏ったカーマンまでくる。

 

 相手のエース級だけでなく地面も空中も大部隊。

 地面には移動基地代わりの小型の陸戦艇や戦車まで出張っている。

 

 タイミング的に間違いなくアーティスが絡み。

 それだけ殺したい相手なんだろう。

 

 佐伯 麗子を通して上の方に増援の要請を送っておいた。

 

 それまで持ち応えられるか?

 

 

 Side リビルドアーミー オードン

 

 今回は最初からパワーローダー、ゴルディアスで前線に出る。

 

 大部隊の増援を得られた時は最初喜んだが経緯を知り、ランシスがいるとなると少々気持ちは複雑だったが。

 

 ともかく数で押し潰す。

 

 敵の手練れをどうにかすれば後は物量差で何とかなるだろう。

 

 

 Side アーティス

 

 シズクと言う女性アンドロイドに連れられて町の裏手にあるシェルターから様子を観察する。

 

 ヴァネッサはドラグーンタイプのパワーローダーで私達の護衛を務めてくれている。

 

 戦いは一見激しく見える。

 

 だが数で勝るリビルドアーミー相手にジエイタイもこの町の住民もよく戦いおる。

  

 手厳しい評価じゃがこれぐらいやってもらわねばこれから先の戦いはキリ抜けられんがの。

 

 

 Side リビルドアーミー オードン

 

『敵の守りが予想以上に硬い!!』

 

『空の連中は何をやっている!?』

 

『敵のパワーローダーをどうにかしろ!!』

  

 次々と味方から悲鳴のような、情けない声が聞こえる。

 かく言う自分も敵の猛攻で殺されないように立ち回るので手一杯だ。

 

 カーマン達の部隊は敵のエース級相手に

 

 敵のパワーローダーも防衛設備も想像以上に手強い。

 このままだと前回の二の舞だ。

 

 既にマーザーバードもレールガンや対空砲の砲撃でやられている。

 

 司令部代わりの陸上戦艦もじきに同じ末路を辿るだろう。 

 

 どうすれば――

 

『援軍――空中戦艦です!!』

 

 その声に一瞬信じられなかった。

 空中戦艦の援軍である。

 

 だが同時に嫌な予感がした。

 

 なにしろあの空中戦艦の艦長はグレムスの艦であるからだ。

 

 

 Side リビルドアーミー 空中戦艦 艦長 グレムス

 

「まさかこのワシが小僧どもの尻拭いをするために駆り出されるとはな」

 

「艦長はご不満で?」

 

「まあな――だが代表者直々の命令でもある。穏健派連中を叩けば上の顔の覚えもよくなるだろう」

 

 でなければこんな場所にワシは来るつもりなどなかった。

 だがここで穏健派と深い繋がりのあるアーティスとその目障りな反乱分子を潰せば上の顔の覚えもますますよくなるだろう。

 

 ゆくゆくはワシがリビルドシティを牛耳る。

 そのためには目の前の連中を滅ぼさなければならない。

 

(ランシスやオードンなども何を考えているか分からんからな……この機会に消しておくか――)

 

 そう思い、ワシは艦砲射撃を命じた。

 

「ですが今砲撃すれば味方に当たりますが?」

 

「構うか――なあに、戦いで誤射は付き物だ――なあ?」

 

「りょ、了解!! 艦砲射撃を行います」

 

 そうだ。

 それでいい。

 ワシの邪魔をする奴は全員死ねばいい。

 

 ゆくゆくは代表者も消し去ってやるがまだ時期が早い。

 

 まずはこの場にいる邪魔者を全員だ。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

『敵味方無差別攻撃かよ!?』

 

 敵の空中戦艦の援軍に驚いたがまさかの敵味方巻き込んでの無差別砲撃に驚いた。

 一旦退避する。

 

『内部抗争って奴だろう!! 邪魔者を消し去るつもりだ!!』

 

 キョウスケも愚痴りながら退避する。

 

『あの空中戦艦は我々で何とかします。今は生き延びる事を考えてください』

 

 と、シズクさんから通達があった。

 俺はその言葉を信じて『了解――早めに頼む』と返した。

 

 空中戦艦から来た連中は敵も味方も一通り砲撃し終えると部隊を展開した。

 だがあまり前に出ず、空中戦艦を守るようにして進路を確保している。

 指揮官が味方を平然と砲撃に巻き込む奴だ。

 

 味方もそう言う風に立ち回りたくなるんだろう。

 

(それにしても酷い光景だ) 

 

 敵も味方も倒れ伏していて滅茶苦茶だ。

 どっちが敵で、どっちが味方なのか分かりやしない。

 

 アーティスは――こう言う光景を止めるために行動を起こしたのかもしれない。

 

『射撃開始!! 目標、空中戦艦!!』

 

 シズクの声でハッと我に返る。

 同時にシェルターがあるらしい山の彼方此方から光があがり、その光が空中戦艦に突き刺さる。当然周囲に展開していた味方にもだ。

 

 慌てて空中戦艦は味方と一緒に後退していく。

 

 同時に取り残されたリビルドアーミーも撤退していこうとするが――

 

『妾の名はアーティス。リビルドシティの統治者の一人じゃ。この場にいる人間、及びリビルドアーミーの人間に話がある』

 

 と、ここでアーティスの通信が入った。

 



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第七十九話「アーティスの演説」

 Side 緋田 キンジ

 

 戦いが終わり、アーティスがこの場にいる全員へ街中に設置されたスピーカーや軍事兵器などに設置された通信機器などを通して少女は語り始める。 

 

『今もお主らが経験した通り、リビルドアーミーの実体がこれじゃ。目的を達成するためなら手段を選ばず邪魔者を焼き払い、今の光景を作り出す。これこそがリビルドアーミーの、リビルドアーミーを牛耳る連中の正体なのじゃ』

 

『リビルドシティやリビルドアーミーのそもそもの目的はこの荒れ果てた世界の復興にあった。しかし、何時しかその手段や方法は皆が知る通り、暴虐の限りを尽くし、手段を選ばず、ヴァイパーズなどの野盗連中を支援をして効率よく支配するための物となった』

 

『このままではいずれリビルドシティは崩壊を迎え、そうなればこの世は混乱を迎える。我々は変わらなければならない』

 

『リビルドシティを変えるために妾は反逆者と言われても仕方のないぐらいの事をした。レジスタンスにも手を回し、そしてジエイタイやこの町の人間にも協力を申し出た』

 

『そして私は更に動こうと思う。この場に残ったリビルドアーミーの兵士達よ。今自分達が受けた仕打ちを受けてどう思った?』

 

『今のリビルドアーミーのありようを見てどう思う?』

 

『だから問う。妾に協力して欲しい。リビルドシティを、リビルドアーミーを本来の姿に戻すために』

 

『重大な選択じゃ。よく考えて決断してほしい』

 

 そう演説は締めくくられた。

 リビルドアーミーも狭山の町の人達も明らかに混乱している。

 

 

 結局考える時間が欲しいとの事でリビルドアーミーは動かなくなった陸上戦艦(味方の空中戦艦の砲撃でやられた)を中心に町の近くで留まった。

 

 取り合えずこの場を狭山君達やアーティス、ヴァネッサ、そして事態の確認に来た自衛隊の増援部隊に任せる事にした。

 

 気が付けば夜中になり、休憩時間で自分たちのトレーラー周辺でその事を話し合う俺達。

 

 あのリビルドアーミーが味方になるかもしれない。

 

 正直複雑な気持ちだ。

 

 アーティスの言わんとしている事も分かるのだが早々割り切れないと言うのが本音である。

 

「なんかとんでもないことになったね」

 

 と、リオが言う。

 彼女も戸惑っている様子だ。 

 

「ああ、確かにな――俺も正直戸惑っている」

 

「うん……私達はどうするの?」

 

「そうだな。このまま惰性でリビルドアーミーと戦い続けるよりかはいいかなと思う」

 

「そう――」

 

「まあ、自衛隊も割り切れん奴も多いだろう。俺も正直殺されかけたりしたしな――だけど、リビルドアーミーが憎いからと言って全員皆殺しにするようなのもちょっとどうかなと思う」

 

「だけどヴァイパーズの時はそんな感じだったような――」

 

「確かにそれを言われると痛いな……正直話し合いが通じる相手じゃなかったし、リビルドアーミーも話し合いすっ飛ばして論外な状態だったからな――だがここに来て対話の可能性が出てきた」

 

「話し合いで解決できる?」

 

「最後は武力解決だとしても、平和に終わる可能性があるのは大きいと思う」

 

「私バカだからちょっと分からない部分があるけどいいことなんだ――」 

 

「リビルドアーミーと戦うのはともかくリビルドシティで平和に暮らしている罪のない人間を殺すのは勘弁だな――って言う話さ」

 

「そう、だよね。リビルドアーミーも、リビルドシティに住んでいる人達も人間なんだよね……今迄考えたことなかった」

 

「そうか――」

 

 なんか悲しい気持ちになった。

 戦時中の日本の人間も戦争中の相手の国の事をリオみたい感じで「倒すべき敵」みたいな感じにしか考えていなかったんだろうか。

 

「正直今更感があるし、説得力はないが……自衛隊も誰も彼もが好きこのんで戦いたいワケじゃないんだ。特に相手を皆殺しにするまで戦いたいワケじゃないんだ――こんな世界だから仕方のない事かもしれないけど、なんて言うか、その、リオは今のリオのままでいて欲しい」

 

「――うん」

 

 困ったような戸惑っているような、そんな表情をリオはしていた。

 



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第八十話「決断」

 Side 緋田 キンジ

 

 翌日になってもリビルドアーミーは「考える時間が欲しい」との事である。

 

 味方同士で銃火を交える事になるのだ。

 

 悩むのは当然だろう。

 

 町には自衛隊の部隊なども駐留を開始。

 

 狭山君とアーティスは自衛隊と交渉を開始。

 

 グレイヴフィールドにある自衛隊基地に向かう事になるだろう。

 

 俺達もパワーローダーを身に纏い、戦後処理を手伝う。

 

 

「行く先々で派手にやってるみたいじゃないか」

 

 戦後処理がひと段落し、パワーローダーを脱いで休憩していたら、嫌らしそうな笑みで嫌味ったらしく佐伯 麗子が言ってきた。

 と言うかこの町に来てたのか。

 

「何か用ですか?」

 

「上司として大切な部下の顔を拝みに来たのもあるな」

 

(嘘つけ……)

 

「冗談だ。まさか日本人の少年がこの世界に迷い込んでここまで町を発展させていたとはな。リビルドアーミーもアーティス氏との交渉も前向きに応じたいと思っている。おかげで上の方――もっと上の方も大忙しだ」

 

「そうなっているのか」

 

「まあな――狭山 ヒロトの事の扱いをどうするかで揉めている部分もあるが、問題はアーティス氏だ。このままだとリビルドアーミーと全面戦争、殲滅戦になりかねない状態で上の方としては何としても避けたかった」

 

「で? 自分達の自由時間は終わりな感じですか?」

 

 状況的に考えてノンビリと彼方此方見て回っている雰囲気ではないだろう。

 

「一旦休暇のために戻るといい。上がどう言う判断するにしろ、たぶんこれが最後になるだろう」

 

 

 Side リビルドアーミー 空中戦艦 艦長 グレムス

 

 リビルドシティの中枢府のタワーに戻り、ワシは代表者の眼前に立っていた。

 

 リビルドシティの代表者

 

 ゼネシス。

 

 初老の男でこのリビルドシティだけでなくリビルドアーミーを牛耳る男だ。

 

「失態だったな、グレムス」

 

「も、申し訳ありません」

 

「まあいい。あの町の住民(狭山 ヒロトの町)の連中があそこまで力をつけていたのも想定外だったのもある」

 

「こ、今度こそ、我々が焼き払いましょう」

 

「ふむ――どうしたものか――アーティスの小娘が本性を現し、レジスタンスの活動も活発化している。それにジエイタイとか言う連中の動きも気になる――」

 

「不穏分子が活発化していますな」

 

「本来ならレジスタンスから潰したいが中々尻尾を掴ません――全てのリビルドアーミーを一旦リビルドシティに招集。その後、不穏分子を根こそぎ叩き潰していく」

 

「決戦を?」

 

「それが私の望みだよ、グレムス君」

 

 それを聞いてワシはどう判断すればいいのやらと言う感じだ。

 だが上手く立ち回れば出世も出来そうだ。

 ワシはそう考えることにした。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 リビルドアーミーの隊長格は全員帰還を選んだ。

 

 隊員格の中には降伏や、リビルドアーミーを抜ける奴も現れ、アーティスに協力を申し出る人間も現れた。

 

 本当は全員纏めて捕虜にすべきなのだろうが、暴れられて損害、被害を出るのもイヤだ。

 

 狭山 ヒロトやアーティスの訴えもあるしそうする事になった。

 

「お主らの慈悲深さに感謝するぞ」

 

 町の外から撤退するリビルドアーミーを見送る中で、アーティスにそう言われたが正直言うと慈悲深いかどうかなど分からない。

 

「正直この選択が正しいのか疑問に思うけど――だけど久しく忘れてたよ。人間と殺し合ってるってこと」

 

「人間の心は弱い。そう思わないと生き残れないし、心が壊れてしまうのじゃろうから当然じゃろうて」

 

「それが正解なんだろうな」

 

「――恐らく、リビルドアーミーは本腰を挙げて潰しに来るぞ。フォボスも動き始めるじゃろう」

 

「だろうな――」

 

「その時、おぬしはどうするのじゃ?」

 

「……俺は自衛官には親への反抗のつもりでなった」

 

「ほう?」

 

「だけど今は違う。色んな奴、色んな人に出会って思った。手の届く範囲の大切な人を守りたいって。貧乏くじだって言われてもいい。戦うよ」

 

「見ず知らずの世界の人のために戦うか? ジエイタイは日本国民やその財産を守るために存在するんじゃろう?」

 

「よく知ってるな――まあ、その定義で言えば俺はもう真っ当な自衛官じゃないな」

 

「そうか」

 

「それにもう見ず知らずじゃない。この世界を見て来た。この世界の人のために命張ったのも一度や二度じゃない。色々見て来た。楽しいことや恐ろしいことも知ってる――まだ沢山見てない場所や世界があるんだろう――落ち着いたらそれを見てみたい気もするな」

 

「思ったよりもロマンチストなんじゃな」

 

「かもな」

 

 柄にもない事を喋ってしまう。

 少し不安や悩みの種が解消されたかもしれない。

 俺は仲間たちの元へと戻った。



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決戦前の一時
第八十一話「世界の危機」


 Side 緋田 キンジ

 

 俺達はグレイヴフィールドの自衛隊基地へ戻り、そこから日本へと戻った。

 

 隊員とは一旦解散。

 

 キョウスケの家へ向かう事にした。

 

 もちろんリオやパメラ、パンサーもいる。

 

 ヴァネッサはアーティスの付き添いなどで席を外した。

 

 こうして休暇を取ったのは何となく、決戦の予感を感じ取ったからだ。

  

 日本のテレビもネットも相変わらず、世紀末の世界の情勢などお構いなしだ。

 

 芸能人が結婚しただの浮気しただの、支持率がどうとかだの、次の選挙の争点だのなんだの。

 

 中には――何処かから漏れたのか、リビルドアーミーとの全面戦争について言及している番組などもあったが、話し合いで解決だの、武力で戦うしかないだの、最後は自衛隊に丸投げな議論をしている。

 

 まあ平和な国とはそう言う物かもしれない。

 

 本当に全面戦争が始まる前とは思えない状態だ。

 

 基地の周辺では相変わらず反戦団体の集会所と化している。

 

 まあそれはともかく、前回の例もあるのでパワーローダーや武器などを持ち込んでいた。

 

 またフォボスの連中がこの世界に秘密基地なりなんなり作っていて、掃討作戦に駆り出されたら大変だからだ。

 

 

 手続きが完了するまで、日本側の基地内で過ごしていると呼び出されて――

 

「で? またおたくか?」

 

 公安の女性――謎の女Xと出会った。

 ソファーに座ってくつろいでいる。

 相変わらず黒尽くめで怪しさ全開だ。 

 

「はい――例の件、フォボスについてです」

 

「世界中にでも現れたか?」

 

 冗談めかしに言いながら俺も反対側のソファーに座る。

 

「正にその通りとしか言いようがない状況でして――日本国内にも複数」

 

「まじかよ――」

 

 そんなとんでもない事になっていたのか……

 

「今は極秘事項として扱っていますが、情報が市民に洩れるのは時間の問題でしょう」

 

「……どうするんだ? 世界中回って虱潰しに潰していけとか言うんじゃないだろうな?」

 

 正直嫌だぞ――体力的にも精神的にももたん。

 

「ありえないでしょうね。どこの国も超テクノロジーが欲しくて独占しようと考えるでしょう。まあ結果は散々ですが――」

 

「どうして結果が分かるんだ?」

 

 独占云々は分かるが結果が分かるのがどうしてだと思った。

 

「それだけ目に見えて分かる大被害が出ているからですよ。国によっては弾道ミサイルや爆撃機が撃墜されたりしてます」

 

「だろうな……」

 

 フォボスの戦闘力は身を持って知っている。 

 21世紀地球の科学力でどうかにするにはテクノロジー差を理解した上で持久戦に持ち込んでハイテク兵器による大部隊を投入して戦うしかない。

 

「そう言えば俺達が破壊したフォボスの残骸はどうなっているんだ?」

 

「あれから解析しましたが――」

 

「その様子だと有益な情報も技術も得られなかったんだな」

 

「はい」

 

 中々上手くいかないらしい。

 

「今話したこと全部、耳に入れてるのは?」

 

「この基地の主だった人間には――」

 

「そうかい――」

 

 てことは佐伯 麗子の奴も知ってたに違いない。

 休暇させたのもこれ絡みだったんだろう。

 

「最近、国の終わりではなく、世界の終わりと言うのを感じています。その命運をこの世界にいる自衛隊に丸投げする他ないのが今の状態です」

 

「日本政府はどうしてる?」

 

「ハッキリ言って混乱状態で、収拾がつかない状態です。アテにはなりません。自衛隊も戦力が日々減少している状況です。他の国も似たような状況です。第3国にも出現情報があります」

 

 まあ想像通りだ。

 まともな国家でも対応は難しいだろう。

 まともでない国に対応は酷だと言うものだ。

 

「リビルドアーミーとフォボス、両方相手にしなきゃならんのか――」

 

 酷い状況だ。

 考えようによっては他国の横槍が入る余地などないだろう。

 

「幸いなのは拠点を攻撃、あるいはする素振りを見せなければ攻撃してこないのですが、何時襲ってくるか分からない状況です――」

 

「……はあ、親への反抗で自衛隊に入った罰が当たったか……まさか世界の命運なんてもんに関わる事になるとはな」

 

「フォボスと対決するつもりで?」

 

「敵の本拠地の凡その位置も分かっているからな。それにもう俺は向こう側の世界の住民だ」

 

「そうですか……私から伝えられる情報は以上です。せめて休暇中の安全は我々が確保します。幸運を」

 

 そして謎の女Xは退席した。

 

 ふと俺は思った。

 

「俺も、現実に向き合ってみるか――」

 

 やり残しはよくないと思い、俺はある事を決意した。

 



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第八十二話「一つの決着」

 Side 緋田 キンジ

 

 自衛隊基地の周辺は相変わらず反戦、反自衛隊団体の集会所だ。

 

 もしかすると世界が終わるかも知れないのかも知れないのに元気なもんである。

 

 それだけまだ平和だと言うことだろう。

 

「最後の休みになるかも知れないのに無理しなくても――」

 

 自衛隊基地の外に出てキョウスケから言われる。

 

 両親と決着をつけに行く事を話したからだ。

 

「まあ言いたい事は分かるが最後の休みどうこう言うのはよしてくれ。縁起でもない。なんならこっちに残るか?」

 

「公安の姉ちゃんから話は聞いてるよ。世界が終わるかどうかの瀬戸際なんだろう?」

 

「だからな。やり残したことはないようにしておきたい」

 

「ああ――あの世界で色々と酷い目に遭ったが、お互い言いこともあったな」

 

「それは言えてる」

 

「――じゃあ、行って来いよ」

 

「ああ」

 

 

 家に帰ったら運よく両親がいた。

 

 玄関前で立ち話になった格好だ。

 

「何しに来たんだバカ息子が!!」

 

 と、父が言った。

 母が「まあここは抑えて――」と父を宥める。

 

「前回ケンカ別れしたからな。それぐらいの愚痴は聞いてやるよ。今日は決着を付けに来た」

 

「決着だと?」

 

 当然の反応を父がする。

 

「ああ、なんだかんだ言って育ててくれた恩はあるしな――」

 

「キンジ、今からでも遅くないわ――自衛隊なんかやめて――」

 

 と、母が言う。

 

「悪いが、それは出来ない。自衛隊を辞めたとしても、もう戻れない」

 

「ほら見ろ母さん!! こいつはもう根っからの自衛官だ!! 人殺しなんだ!!」

 

「よしなさい父さん!! 自分の息子でしょう!?」

 

「相変わらずだな二人とも――」

 

 俺はなぜか笑みを浮かべた。 

 

「どうして二人が付き合って、愛し合って、産んだのかは分からない。正直産まれて来なきゃよかったって思った時はある。だけど今は違う――産んでくれてありがと」

 

「ちょっと、どう言う意味それ?」

 

 お母さんが戸惑う様子を見せる。

 

「お母さん。俺はアンタの事嫌いだったよ。正直殺したいとさえ思った事がある。お父さんもそうだった。どうしてこんな二人の親から産まれたんだろうって何度も思った」

 

「な、なにが言いたいんだ?」

 

 お父さんもそうだ。

 戸惑っていた。

 

「もしも、やり直せるなら――普通の親になってくれ。いっそ自衛隊は嫌いなままでいい。反戦活動をしたりとか反自衛隊を他人に押し付けるような生き方はしないでくれ――」

 

 俺は本音を言った。

 

「何を言ってるんだ!? なんで正しい事をしているのに、まるで悪いことをしているみたいに言われなきゃいけないんだ!?」

 

 父は条件反射のようにそう言った。

 

「お父さん、俺はね――いろんな場所に連れて行って欲しかった。海外とか旅行とか遊園地とか――でもお父さんもお母さんも何時も俺を反戦や平和の道具にしてたよね?」

 

「それは――」

 

 父さんは初めて言い淀んだ。

 

「俺は学校で変人扱いされてたの知ってた? キョウスケがいなければ今頃俺はきっと自殺していたと思う」

 

「キンジ――」

 

 母さんは悲しそうな顔をした。

 

「自衛隊に入ったのは父さんと母さんの当てつけなのは変わらない。半ば税金泥棒状態だったのも言い訳がしようがない。人殺しなのも否定はしない――」

 

「さっきからなんなんだ!? なにが言いたい!?」

 

 父さんは動揺しながらそう言ってくる。

 

「――父さん、俺は僅かだけど期待していた。生き方を変えてくれるんじゃないかって。だけど、変えられなかったね。それでも父さんは父さん、母さんは母さんだ。二人ともお元気で」

 

 そう言って俺は去って行った。

 

 

 気が付くと夜になり、キョウスケの家に行くと、玄関前でキョウスケとリオが立って行た。

 

「決着はついたのか?」

 

「分からない。だけど伝えたい事は伝えた」

 

 二人は変われなかったがあんなのでも両親だ。家族だ。

 放置していたらきっと悲惨な末路を辿るだろう。

 だけど――そうなったらもう自己責任だ。

 

 などと思っていたらリオに抱き着かれた。

  

「どうしたリオ」

 

「だってキンジ――泣きそうな顔してるもん!!」

 

「……ごめんな、リオ。この世界って複雑に見えて、賢く見えるけど、バカな事が大半なんだよ」

 

「そんなことない、そんなことない!! そう言う世界だからキンジはキンジになれたんでしょ!?」

 

「そうか――俺の人生、無駄じゃなかったのか――」

 

 そう言われてホッとした。

 

 キョウスケは「用を思い出したから悪いが少し席を外すわ」と家の中に入って行った。

 

 俺はリオと抱き合って泣いた。

 

 みっともなく泣いた。

 

 ――気づいた事がある。

 

 大人と言うのは子供の延長線上の過程でしかないこと。

 

 大人になったから大人になれるわけじゃないこと。

 

 自分は強くなったと思った、大人になったと思ったがこの様だ。

 

 根っこは全然変わっちゃいなかった。

 

 自衛隊に入ったのは、本当は父さんや母さんに愛されたかったんだと思う。

 

 振り向いて欲しかったんだと思う。

 

 だけど今は違う。

 

 今抱きしめているこの子や手の届く範囲を守るために――俺は戦おうと思う。

 



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第八十三話「ガールズトーク」

 Side 宗像 マユミ

 

 最近世間がきな臭い。

 

 とても騒がしい。

 

 勘の部分もある。

 

 だけど私の平凡な毎日は続いている。

 

 そんな時にまた兄貴ともう一つの世界から来た三人の美女がやって来た。

 

 今回はヴァネッサと言う人はいないようだ。

 

 久しぶりの再会に喜んだが同時に不安がよぎった。

 

 何かとても悪いことが起きるんじゃないかって。

 

 実際前回も、別れた後に日本国内で大規模な実戦らしき物があったと言われている。

 

 詳細は分からない。

 

 だが今も世界中で、日本国内で、ネット上では世界中の軍隊と戦っている謎の存在の情報が出回っている。

 

 だけどそれを聞こうとは思わなかった。

 

 聞いてしまうと引き返せないような、命の危険に関わるような怖さがあるからだ。

 

 それはともかく――

 

「二人ともゲーム好きですね……」

 

 今はリオさんはキンジさんの付き添いしている。

 何があったか聞くのは野暮だろう。

 

 残ったパメラとパンサーさんが私の部屋でゲームをしている。

 何気にまた来るかなと思ってラインナップを増やしておいた。

 

「向こうの世界、娯楽が乏しいからね~」

 

「まあ中々遊ぶ暇が取れないってのもあるけど確かにそれもあるわね。向こうに持ち込んだゲーセンの個体ってこっちじゃもう型落ちの奴なんでしょ?」

 

 パンサーさんとパメラさんの二人が仲良くゲーム機でプレイしながらそう言う。 

 

「その――二人は、また戦いに行くの?」

 

「まあね。今度ばっかりは死ぬかもしれない」

 

「そうね。たぶん大規模な戦闘になると思う」

 

 パンサー、パメラさんの順にあっけらかんとそう言う。

 

「そう――私は、正直恐いよ。これが最後の別れになるかもって思うと。だけど、二人は戦うんだよね?」

 

「そだよ。まあ本音を言えば良い男捕まえるまでは死にたくないかな?」

 

「相変わらずねパンサーは。まあこうなったらとことんキョウスケやリオに付き合うって決めてるから」

 

「二人とも本当に戦いに行く前とは思えないね」

 

 神経が図太いと言うか、肝が据わってると言うか。

 私は呆れてしまった。

 

「そう言えばマユミは彼氏できた?」

 

「いや、だから私達の年代で彼氏はいない方が多いって。三十代で結婚とかも珍しくないから」

 

 パンサーさん絶対ワザとこの話題ふったよね。

 

「そう言うパンサーさんは良い相手見つかりそうなんですか?」

 

「うーん、お誘いの声はあるんだけどね。中々ガツンと来るのが来ない。そう言う相手なら別に胸目当てでもいいかなーなんて思うんだけど」

 

「それは止めといた方がいいよ。胸目当ての男性なんてロクなのいないよ」

 

 と、私は止めるが――

 

「最初はそうでも意外といい男かもしんないじゃん?」

 

「なんつーかこう、前にも言ったけど恋愛感覚まるで違うのね」 

 

 恋愛とか死生の考え方、命のやり取りについてとか、住んでる世界が違うことを感じてしまう。

 

「私も最初は驚いたし――結婚30代が当たり前とか、十代で結婚は異常とか」

 

 ふとパメラさんがそう言う。

 

「まあ、あんまり私達の考え押し付けんのもよくないんじゃない? ジエイタイの人達ってその辺けっこう気を遣ってるみたいよ?」

 

 と、パンサーも語る。

 

 そんな二人を見て、私はこう思った。

 

「……また会えますよね」

 

 と。

 

「うん、また会いにくるわ」

 

「……はい」

 

 パメラさんの返事に頷き、

 

「約束するよマユミ。出来なかったら全財産やるよ」

 

「それは遠慮しときます」

 

 と、パンサーさんの申し出を断った。

 パンサーさんの全財産って、武器、弾薬とか向こう側の世界の通貨とか困るんですけど……

 

 なんだかおかしくなって笑ってしまった。

 

 また会えるよね?

 

 絶対だよ?



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第八十四話「プレラーティ博士」

 Side 緋田 キンジ

 

 俺達――キョウスケやパンサー、リオ、パメラは公安の女、Xにバスに乗せて連れられてとある場所に案内された。

 

 そこは町外れにある大きな研究所のようだ。

 

 他にも第13偵察隊、第7偵察隊の面々なども集められている。

 

 警備は厳重で内部も世紀末世界でしか運用されてないドローンなどが普通に稼働していた。

 

 パワーローダーの姿もある。

 

 普通の施設ではないことは確かだ。

 

「やあ、君達と出会うのを心待ちにしていたよ」

 

 施設の最奥。

 モニターが並んだ部屋。

 

 そこに白衣を着た長い金髪の生意気そうにませて居る金髪の美少女がいた。

 背格好は世紀末世界で出会ったアネットに似ているが別人だとハッキリと分かる。

 

 傍にはヴァネッサやアーティス、佐伯 麗子までいる。

 

 だがそれよりも――

 

「不思議と初めて会ったようには思えないな」

 

「私も――そんな感じ」

 

 俺とリオは彼女に対して奇妙な感覚に囚われた。

 

 まるで初めて会ったような感覚が感じられない。

 昔から知っているような感じなのだ。

 

 キョウスケとパメラ、パンサーも同じような事を呟いていた。

 

「たぶん私は色んな並行世界を渡り歩き、並行世界をあるいは他の世界の自分自身に憑依したり――転生とも言うのかな? その影響が君達に出ているのだろう」

 

「いきなりとんでもない爆弾発言が飛び出したな」

 

 並行世界を渡り歩いている?

 

 他の世界の自分に憑依したり転生したりしている?

 

 ヴァネッサの例(もう一つの並行世界の地球の存在)やら並行世界跨いだ侵略者やら自衛隊の境界駐屯地に世紀末の世界へと繋がるゲートとかあるのだ。

 

 今更かもしれない。

 

「並行世界の研究、並行世界へと通じるゲートの研究などと言う物に手を出した罰があたったんだろうな。人には早過ぎる領域だったと反省しているよ」

 

「懺悔は後で聞こう。これだけの面々を集めてパーティーでもしようってことじゃないんだろう?」

 

 俺は代表して話しかけた。

 

「君はどの世界でもそんな感じだな。まあ安心したよ――本題に入る前に種明かしをしておこう」

 

「種明かし?」

 

 キョウスケが当然の疑問を呟いた。

 

「境界駐屯地に開いたゲートについてだ」

 

 彼女が言うには境界駐屯地のゲートは彼女が作った物らしい。

 

 より正確に言えば並行世界に存在するプレラーティ博士の誰かだ。 

 

 製造場所は今は自衛隊が使っているあの基地。

 

 それが何らかの要因か、それとも偶然か――作動してあの場所――境界駐屯地に開いたようだ。

 

「境界駐屯地にゲートが出現する可能性は高かった」

 

「前にヴァネッサから聞いたがゲートが開き易い場所だったんだろ?」

 

 日本でフォボスと初めて戦った終わりにヴァネッサから聞いた話を思い出しながら俺は言った。

 

「まあな――ここからが本題だ。君達はフォボスを倒す前にリビルドアーミーと決着を付けなければならない状況だ」

 

 そしてモニターに様々なデーターが表示される。

 

「そのためには早々にリビルドアーミーに退場して貰わなければならない。そのためにレジスタンスが一斉蜂起し、そして敵の中枢に突入――真の黒幕にさっさと退場願おう」

 

「真の黒幕――確かアーティスの嬢ちゃんが言うにはフォボスとは違う支配者がいるんだっけか」

 

 キョウスケの説明を引き継ぐようにアーティスが言う。

 

「その通りじゃ。色々とあの手この手で調べたが何かがいるのは確かじゃ――人かどうかも分からん。実はコンピューターとか言うオチでも驚かんぞ」

 

 と、アーティスが言う。

 それを聞いてキョウスケが「笑えない冗談だ……」と言う。

 

「ともかくこうして集まって貰ったのは他でもない――ある作戦のためだ」

 

 そして最後に佐伯 麗子が説明する。



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終わりのはじまり
第八十五話「とんでもない作戦」


 Side リビルドアーミー 空中戦艦 艦長 グレムス

 

 リビルドシティから少し離れた場所。

 そこで他の艦隊と共に部隊を展開する。

 

 まさか、こんな真昼間に仕掛けてくるとは――

 

 敵も空中戦艦を投入してきているがたったの一隻。

 

 後は有象無象の連中の影が確認できる。

 

 普通にやれば勝てる。

 

 そう思った矢先の事だった――

 

「リビルドシティでレジスタンスが一斉蜂起しました!!」

 

「ジエイタイと思われる部隊の姿も見えます!!」

 

「な、なんだと!?」

 

 突然の報せにワシは耳を疑った。

 同時に敵の猛攻がはじまる。

 

「陽動だとしても数はたかが知れているだろう!? シティの防衛部隊に任せて敵を叩くぞ!!」

 

 クソ!? 何がどうなっている!?

 

 リビルドシティが陥落すれば出世どうこうどころじゃないぞ!?

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

『まさかこんなとんでもない作戦でリビルドシティに潜り込むとはな』

 

 俺はパワーローダー、アインブラッド・ガンブラストを身に纏いながら言った。

 

『まあ真正面から空中戦艦とかとやり合うよりかはマシか?』

 

 パワーローダーを身に纏ったキョウスケも同じことを言う。

 

 ここはリビルドシティ。

 高層ビルや舗装された道路。

 控えめに言って綺麗な街並みだ。

 都会と言っていい。

 とてもリオ達の世界とは思えない。

 

 同じ世界のリオ達ですら驚いている。

 

 俺達は自衛隊基地があり、この世界への玄関口の一つであるグレイヴフィールドから西の方角にあるリビルドシティへと入り込んだ。

 

 街中はアーティスの計画通りレジスタンスの一斉蜂起が真昼間から始まっている。

 そのせいか人影らしき物が見えない。

 

 町の外周部では自衛隊の面々達や物好きな志願者達が空中戦艦などを相手に陽動戦を仕掛けている頃だろう。

 

 自衛隊側も動かせる戦力は全て動かし、鹵獲した空中戦艦も投入している。

 

 俺達はここまで簡単に潜り込めた理由はヴァネッサやプレラーティ博士のおかげだ。

 

 ゲートを新たにリビルドシティのこの場所に作って直接繋ぎ、乗り込んだのだ。

 

 それに至る経緯は簡単ではなかったらしい。

 

 更に言うなら敵の中枢に乗り込むのだ。

 

 だがここまで多くの修羅場を潜り抜けたメンバーだけあって腹は決めていたらしい。

 

 後続から特注の白い大型トレーラーがやってくる。

 そこにはパメラやプレラーティ、アーティス、佐伯 麗子に第7偵察隊の担当の水島 静香 一尉も乗り込んでいる。

 

『目標は中枢府のデカいタワーだ!! いくぞ!!』

 

 皆が一斉に『了解』と言う掛け声と共に駆け出す。

 

 既に中央にはレジスタンスが辿り着いているが――

 

『敵のエース級!? まさか私達の作戦を読んでいたの!?』

 

 リオが驚く。

 そこには今迄戦った敵のエース級が待ち構えていたからだ。

 

『どうやってここまで来たかは知らんがここから先は通さんぞ!!』

 

 と、青いパワーローダー、専用のジェストに身に纏ったランシスが言う。

 傍にはエース級と思われる専用機を身に着けた部下が二人いる。

 

 他にもカーマンや金ピカの奴がいた。 

 

 だが他にも手勢はいなかった。

 

『どうやら敵さんもワケありみたいだなこりゃ』

 

 キョウスケが言う様になにか訳がありそうだ。

 

 そうこうしている間に中枢府からドローンなどが湧いて出てくる。

 

 

 第7偵察隊は雑魚の相手を。

 

 俺達第13偵察隊の主だったメンバーで敵のエース級と戦う。

 

『カーマンか!!』

 

『あら、覚えていてくれていたのね。嬉しいわ』

 

 こんな場所でピンク色の継ぎ接ぎのパワーローダーを使う奴が二人も三人もいないだろうからスグに分かった。

 

『他の部下はどうした?』

 

『部下は置いてきたわ――私達左遷させられちゃって泥船に付き合わせたくないし。それにリビルドアーミー云々について何も思わないワケではないわ――だけど私は義理堅い乙女なの。それを果たすためにここに立ってるの!!』

 

 これが答えなんだろう。

 部下はたぶん巻き込まないために一人できたとかそんな感じに思える。

 

『たく――産まれる性別間違えたんじゃないのか?』

 

『うふふ、褒め言葉として受け止めておくわ』

 

『だけどここで立ち止まる訳にはいかない!! 全力で押し通る!!』

 

『それでいいわ!! それでこそ私が見込んだ男よ!!』

 

『褒め言葉として受け取っておくよ!!』

 

 そして俺とカーマンは激突した。 

 

 

 Side リオ

 

 私は青いジェストーーランシスと名乗る男のパワーローダーと激突する。

 空中で互いに激しく位置取りし、銃火を交える。

 

 付き人の赤いパワーローダーや大型の重火力の塊の大型機動兵器の姿もいるが――他の仲間達が上手くやって連携を分断してくれている。

 

『せめてアインブラッドタイプならば対抗出来たかもしれんのに!! 性能差が!!』

 

『なら道を譲って!!』

 

 彼の言う通り性能差は歴然としている。

 それを必死に腕と気迫でカバーしていた。

 

 それは凄いと思う。

 

 だがこれは命のやり取りなのだ。

 手加減したら此方が死ぬ世界なのだ。

 だから退くように言う。

 

『私にも意地があるのだよ!! 時代の流れを読み切れなかった責任もある!! これは私に夢を託した部下へのケジメでもあるのだ!!』

 

『そこまで分かっていながら――』

 

『何度も悩んださ!! その上で決断した道だ!! 』

 

『そんな不器用な生き方――私には分からない!!』

 

『分からんでいい。所詮は自己満足よ!!』

 

『そこまで分かっていながら――』

 

『だから躊躇うな!! 君が成すべき事を成すために戦え!!』

 

『――なら私は――』

 

 私は意を決したようにゲイル・リヴァイヴをフルスロットルにする。

 

 

 Side 宗像 キョウスケ

 

『俺の相手はあの時の金ピカか!!』

 

 相手は狭山 ヒロトの町を襲った金ピカの奴だ。

 性能はよく、動きは素早いが粗さが目立つ。

 腕は大したことは無さそうだ。

 

『まさか左遷させられた先で出世のチャンスが回ってくるとはな!!』

 

『まだ出世とかに拘っているのかおたく?』

 

『当然だ!! このオードン、ゴルディアスの力で成り上がって見せる!! そしてリビルドシティをゆくゆくは自分の物にする!! そのために生きてきたのだ!!』

 

『じゃあ俺は愛する者のために戦うだけだ!!』

 

『こんな戦いの場所で愛する者だと!?』

 

『それの何が悪い!?』

 

 そう言って俺は気合入れて戦いに挑む。

 

 

 Side ゼネシス

 

 戦況は思わしくないようだ。

 ここの陥落も時間の問題か。

 

「代表!! 敵がここまで攻め込んできてます!! 避難を!!」

 

 と、付き人が言うが――

 

「ふん――代わりの奴にでも任せればよかろう」

 

 私は一蹴した。

 

「ですが――」

 

「くどい――それに見物だ。まさかあの小娘(アーティス)がここまでやるとはな――それに興味がある。真の支配者の姿をな――」

 

 この町を支配していた黒幕。

 その正体についてだ。

 それを見届けられたのなら悔いはない。

 

 与えられた道を歩み、

 

 与えらえた使命を代行し、

 

 今日まで生きて来た。

 

 その審判が私の代で下る事になろうとは――

 

 まあ、運が悪かったとしかいいようがないな。

 

「秘蔵の酒でも飲むか――」

 

「は、はあ?」

 

 覚悟を決めて好き勝手にやってみると言うのも思いのほか悪くはない。

 人生、覚悟を決めて行動すれば面白いのやもしれんな。

 

「くだらん、実にくだらん人生だった――」

 

 なんだか様々な物から解放されて心地よい気分だ。

 

 終わりを迎えられるのも悪くはない。



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第八十六話「リビルドシティの支配者」

 Side ???

 

 地上が騒がしい。

 

 しかし人間とは愚かな物だ。

 

 例えどんな世界になっても人は人であるかぎり争いは捨てられない。

 

 救おうとしてもそれに逆らう連中はどうしても現れる。

 

 だからそれを前提として支配する枠組みを作った。

 

 それがリビルドアーミーであり、リビルドシティである。

 

 だがフォボスが言う様に私は選択を間違えたかもしれない。

 

 人を越えた絶対的な存在による武力による支配。

 

 それこそが人類を繁栄させる方法だ。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

『地下から高エネルギー反応複数!! 何かがくるぞ!!』

 

『なに!?』

 

 佐伯 麗子の慌てた声が通信機に響くと同時に地面が揺れる。

 中枢府のタワーを中心に彼方此方に穴が開き、そこから何かが現れる。

 

『アレは――バルキリータイプのパワーローダーか?』

 

 全身真っ白でトレーダーのアネット達が使うパワーローダーに外見が酷似している。

 翼らしき大きなバインダーまである。

 

 そして――白い翼の大きなバインダーを携えたパワーローダー――二本角に二つ目、アインブラッドタイプの特徴を模した奴が現れた。

 

『まさかお主がリビルドシティの、影の支配者か?』

 

 アーティスが若干声を震わせながらトレーラーから尋ねる。

 

『影の支配者か――まあ君達の視点から見ればそうなるね。名前はノアとでも呼んでくれたまえ』

 

 そしてヘルメットを取る。

 目鼻立ち整ったまだ若い金髪の少年だ。

 狭山 ヒロト君と同い歳ぐらいだ。

 

 だが何処か人形のような無機質さと超然染みた何かを感じる。

 

『リビルドシティがここまで追い込まれるなんてね。本当はリビルドシティが崩壊しても傍観するつもりだったんだけどね』

 

『なんだと!?』

 

 自分が支配している町が滅んでもいい?

 何を言ってるんだ?

 

『僕はリビルドシティを管理していた。僕独自のやり方でね。長い年月をかけて、人類を管理、運営するために――まさか並行世界を跨いで邪魔者が現れるとは思わなかったけど』

 

『その邪魔者が俺達、ジエイタイか』

 

『その通りだよ――フォボスが警戒するわけだ。こうして目の前に立ちはだかるとは――』

 

『フォボスを知っているのか?』

 

『勿論だよ。彼とは密約を交わしている』

 

 密約?

 一体何の密約だ?

 嫌な予感がして来たぞ。

 

『分からないかな? 簡単さ――この世界の管理運営するための支配権だよ』

 

 その言葉に想像はしていたが直接口から利かされると絶句してしまう。

 

『不思議に思わなかったかい? どうしてこの世界でフォボスが暴れないのか? それはフォボスの役割を僕が代行しているからさ』

 

『話は分からない部分もあるが――我々はフォボスとやらの手駒でしかなかったのか?』

 

 ランシスが震えた声で尋ねる。

 

『その通りさ。今このビルの最上階で呑気に酒を飲んでいる、代表者も僕の意思を代弁する都合の良い存在にしか過ぎない。彼は従順ないい駒だよ――』

 

『ちょっと待て――いや、待ってください!!』

 

 金ピカのパワーローダーに身を纏った奴――オードンと言ったか。

 が――問いかける。

 

『じゃあリビルドアーミーは何なんですか!? そのフォボスとやらの――』

 

『便利な道具だよ。変わりは幾らでもいるね――』

 

『なっ――』

 

 オードンはショックを受けたと思う。

 面と向かってブラック企業の常套句を言われたのだから。

 

『だけど状況が変わった。僕はリビルドアーミーとリビルドシティを捨てて、フォボスと本格的に手を組む事にするよ』

 

 その場にいた全員が絶句したと思う。

 何を言ってるんだこいつは?

 

『この世界の支配方法を変えるのさ。人を越えた存在による圧倒的な武力による支配。結局はそれが正しいやり方なのさ』

 

 ノアはマスクをかぶる。

 同時に仕掛けて来た。

 

『来るぞ!!』

 

 俺達は迎撃態勢を整える事にした。

 



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第八十七話「驚異のノア」

 Side 緋田 キンジ

 

『突然出て来たかと思えば、リビルドシティの人間を見捨てるだと!? なに考えてるんだ!?』

 

 俺は雨のように降り注ぐ相手のビームをかわしながら言う。

 

『君達、自衛隊やプレラーティ、ヴァネッサなどが出張って来なければ私もこんな真似をしなくても済んだ』

 

『散々自分の好きなようにこき使っといて役に立たなくなったらポイか!? ふざけんじゃねえ!?』

 

『元々リビルドアーミーの崩壊は予定されていた事だ。ただ世界の理想を実現するために修正が必要になっただけの事だ』

 

『こいつ、とんでもない事実をいけしゃあしゃあと!!』

 

 会話していてとんでもない気味の悪さと邪悪さを感じた。

 同時に――短いやり取りの中で分かった。

 こいつはこの世界の敵だ。

 

『僕も願いのは恒久的な平和だ。それを成し遂げるためには手順を踏まなければいけなかった』

 

『その手順のために何人殺すつもりだ!? それだけの力や汚いやり方をする覚悟さえあればもっと違う選択は出来ただろう!?』

 

『どんなやり方でも犠牲は付き物さ。ならいっそ大局的に物事を見据えて計画的に犠牲を出した方がいいとは思わないかい?』

 

『お前は何様のつもりだ!? 神にでもなったつもりか!?』

 

 この手で始末をつけたい気持ちに駆られるが思いのほか相手のガードが堅い。

 空中から背中のバインダーを複数飛ばして全方位からのオールレンジ攻撃を仕掛けてくる。

 

 一緒に出て来た他の無人機も同じようにバインダーを飛ばしてオールレンジ攻撃を仕掛けて仲間達とやり合っている。

 

『先も言った通りリビルドシティはなにかしらの対抗勢力を作るように仕向けて滅ぼすつもりだった。同時に理想的な世界を作るための研究材料としての側面もあったのさ――ある意味では当初の計画通りに動いてくれた君達には感謝しないといけないね』

 

 言ってる事はとても腹が立つがどうしても聞かなければならない事があった。

 

『じゃあどうして今こうしてしゃしゃり出て、フォボスと手を組んでまで俺達と戦う道を選んだ!?』

 

『僕の結論はこうだ。人が人を支配する限り人の争いはなくならない。なら人の力を越えた絶対的な力で支配する』

 

『小難しく言ってるがようはリビルドアーミーに見切りをつけて、今度はフォボスの力を利用して支配を目論んでるだけじゃねえか!?』

 

 ここでキョウスケが口を挟んだ。

 言ってる事は乱暴だがキョウスケの言い分が正しい。

 

『第三者的に見ればそうなるだろうね』

 

 そしてリビルドアーミーの、リビルドシティの支配者であるノアはそれをさも当然と言わんばかりに肯定した。

 

『よく聞け皆の衆――これがリビルドシティの真実じゃ』

 

 ここでリビルドアーミーの代表者の一人。

 自分達に協力してくれている少女、アーティスから全周波で通信が流れ始める。

 

『皆戸惑っておるじゃろう。突然過ぎて何が何だか分からないのかも知れない。私も正直どう言ってよいのか分からん。じゃが今迄のやり取りの中で少しでも迷いを感じたのなら、どうか銃を下げて欲しい。真に我々が戦うべき敵は中枢府におる』

 

 と、アーティスは演説する。

 

『さすがアーティス。君には反乱軍のシンボルとして動いてもらう計画に据えていたが、その目に狂いはなかったようだ』

 

『まるで何もかもが自分の計算のウチみたいな言い方しやがって――』

 

 適当に言って実はその場の思い付きでそんな風に言ってんじゃないかと思いたくなる。

 

『実際その通りだ。そして君では僕に勝てない。フォボスにもね』

 

『そのフォボスだがお前を裏切らない保証はあるのか?』

 

 俺は攻撃を回避しながらもっともな指摘をぶつけた。

 

『なるほど、中々いい質問だ。確かにフォボスは僕を裏切るかもしれない。だがそれがどうしたと言うんだい?』

 

『なんだと?』

 

『僕は目的の達成のためなら手段を選ばない。この身を犠牲にしてでもね』

 

 言葉どうこうで止まるとは思っていなかったが、感覚が人間のソレとは隔絶している。

 力強い意思を感じたとかじゃない。

 まるで死ぬのが当たり前のような気軽さで受け入れている。

 

『さて、今回はこの辺でお暇させてもうらおう』

 

『逃げるつもりか!?』

 

『決着をつけたいなら来るがいい、ロストエリアへ。そこにフォボスと僕は待っている』

 

『ロストエリア――』

 

 グレイヴフィールドが可愛く思える程の危険地帯。

 フォボスがいるとされていた場所だ。

 

『アレは――ゲートか!?』

 

 境界駐屯地に現れ、リビルドシティに来る際にも作ったゲートが新たに現れる。

 そこにノアは逃げ込んだ。

 

『キンジ、分かってるとは思うが――』

 

 キョウスケが引き留めるように言う。

 

『ああ。ここを収めるのが先決だよな』

 

 ノアが残した手駒を片付けるのが先だった。



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第八十八話「ラストダンジョンへの通路」

 Side 緋田 キンジ

 

『なんとか倒したが……』

 

 俺は周囲を見渡しながらそう言う。

 短い時間ながら敵は手強く激戦だった。

 せっかく整備した自分のパワーローダーも傷だらけである。

 

 幸いリビルドアーミー陣営は驚くほどに大人しい。

 それどころか戸惑いながらも自分達に加勢もしてくれた。

 

 それはそうと――

 

『ラスボスへと繋がるゲートが出現した状態だが――』

 

 と、キョウスケが言う。

 眼前には文字通りラスボスへ通じる大きなトンネルのようなゲートが存在している。

 

『冗談抜きで世界の命運が掛かっている状況だ。安易に判断できない。まずは上からの報告待ちだな』

 

『ああ――』

 

 俺は常識的に物事を考えて判断する。

 キョウスケも納得したようだ。

 

 敵の戦力は未知数。

 向こう側はどう言う状況かも分からないときた。

 俺達は海外のFPSゲームのスーパーソルジャーじゃない。

 少なくとも一個小隊で突入するのは無謀だ。

 

『正直言うと、あえてこいつを無視して地道にロストエリアへ突入した方がいいんじゃないのか?』

 

『まあそうだよな――どう見ても罠くさいし』 

  

 キョウスケの意見には概ね同意だった。

 

『だが一先ずこれを置いといて――戦況はどうなってるんだ?』

 

 ここで佐伯 麗子から通信が入って来た。

 

『リビルドアーミー及びリビルドシティは降伏を受諾した。一部は戦線を離脱したがそいつらの問題は後回しだ。現在アーティスやリビルドシティの代表者ゼネシスを通して停戦を呼び掛けているが』

 

『混乱は避けられないよな――』

 

 真の支配者に捨て駒呼ばわりされて見捨てられたのもあるが、リビルドシティの住民からすれば自衛隊に敗北してこれからどうなるか分かった物ではない。

 

『私はリビルドアーミーの混乱を抑えるために動くわ。オードン? アナタはどうするの?』

 

 リビルドアーミーのカーマンはそう言ってオードンに話しかける。

 

『……正直言うと、どうすれば良いのか分からない状況だ』

 

『まあそれが普通よね。だけど立ち止まっていたらそれこそノアの奴の思うツボよ。それだけは頭に入れときなさい』

 

 そう言ってその場を立ち去った。

 続いてここまで付いてきた宮野一尉が――

 

『本体の呼び出しや受け入れ準備、周辺の偵察をしてくるよ。この場は任せていいかい?』

 

『ああ』

 

 そう言って宮野一尉は自分の隊と一緒に離れていった。

 

『――オードン』

 

『ランシスか』

 

 ランシスがオードンに話しかけた。

 

『部下にはカーマンと同じく混乱を抑えるように命じておいた。貴君のやり方は正直気に入らなかったがリビルドアーミーを変えたいと言う熱意は認めていた。だから部下達も、カーマンも君の下で戦っていたのではないのかね』

 

『……短いだろうが、考える時間が必要のようだ』

 

『お互いにな』

 

 そう言ってランシスが此方に向き直る。

 

『そして――戦いに敗れた我々はどうなる? 処刑するのか?』

 

『さあな。少なくともこの町の代表者は重要参考人として取り調べを受けて、解放みたいな感じにはなると思うけど、そう酷い事にはならないよ』

 

『優しいんだな』

 

『自衛隊だからな』

 

 以前リオに言われた通り、ヴァイパーズの時は此方も生きるのに必死で相手が相手なせいで非情にならざるおえなかった部分がある。

 

 リビルドアーミーに対しても複雑な感情は捨てきれていない。

 なかには恨みすら持っている奴もいるだろう。

 核兵器すら使われたしな。

 

 だがもう十分だろう。

 

 少なくとも俺はどっかの国みたいに先制攻撃されたからと言って民間人を爆撃機で大量虐殺して念入りに核兵器を使って民族浄化規模の大量虐殺をしたいわけじゃない。

 

『それで――これからどうする?』

 

『やるべき事は分かっているがどうするべきか悩んでいる』

 

 そう言って俺はゲートの方を見る。

 

『あのゲートの向こうには敵の親玉がいる。お前らを見限った奴もな――だがゲートの向こう側がどうなっているか分からん以上は手出しができん。だから別のルートから突入しようって言う考えで行こうかと思う』

 

 そこでプレラーティ博士から通信が入った。

 

『少し時間をくれ。その問題は何とかなるかもしれん。その間にゆっくりと休んでおくといい』

 

 との事だった。

 

☆ 

 

 一旦リビルドシティに開けてゲートを潜って日本に戻り、パワーローダーを整備する。

 

 そこで俺は公安の女Xと出会った。

 

 フォボスの進行が世界規模でかなり厳しい状況になっているそうだ。

 とうとう一般人にもその存在が認知されて、中には異星人からの遭遇だとか騒ぎ立てている人間もいるようだ。

 

「もはやどこの国が核兵器を使用してもおかしくない状況です――世界最後の日と言うのが現実味を帯びています」

 

「もう時間がないか……」

 

 ヴァネッサの世界――この世界よりも軍事力が優れた世界ですら世界が荒廃して相手を撤退に追い込むのが精一杯だった。

 

 この世界の通常戦力でフォボスを撃退するのは困難だろう。

 

 遅かれ早かれどこかの国が核兵器を使用すると思われるが――ヴァネッサの世界でもやったと考えれば望みは薄いだろう。

 

 そもそもにして敵の本体は別の世界にいるのだ。

核兵器で先遣隊を叩いてどうこうなる問題ではない。

 

「さて、どう出るべきか……」

 

 ない知恵絞って頭を捻るが答えは出なかった。

 



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第八十九話「俺の気持ち/私の気持ち」

 Side 緋田 キンジ

 

 最後の作戦について説明された。

 

 その内容は特攻と言うか力技と言うか何と言うか驚きの方法だった。

 

 自衛隊も動かせる戦力は全て動かす。

 

 ヴァネッサも出せる戦力も全て出し、パワーローダーも新型を出せる分は全て放出する算段のようだ。

 

 作戦の第一段階として動かせる戦力を全てロストエリアに動かしている最中だ。

 

その間でも世界中でフォボスとの戦いが続いている。

 

それは日本でも同じだ。

 

 正直言うと助けに行きたい気持ちもあるが最終作戦を控えている今、出動するワケにもいかない。

 

 歯痒い気持ちとはこの事か。

 

「で、リオ? 話があるってなんだ?」

 

 向こうの世界とは違い、夜でも星があんまり見えない空。

 

 プレラーティ博士の施設の人気の少ない場所で俺とリオは二人きりになった。

 今の状況でこう言う場面だ。

 どう言う話をするかは分かる。

 

「自分でも上手く言えないんだけど――その、本当は出撃しないで欲しいの」

 

「奇遇だな。俺もリオにそう言いたかった」

 

「……そう、だよね。だけど無理だよね」

 

「止めないのか?」

 

「戦う事の大切さは身に染みているから。だけど今はキンジを失う事が怖い。でも止めちゃいけないって分かっているのに――」

 

 俺はリオを抱きしめた。

 

「ごめんなリオ。俺も上手く言えないんだけど、一緒に戦って欲しい」

 

「私に戦って欲しくないって言ったのに?」

 

「俺も本当はそうしたい。けどリオはさっき言っただろ? 戦う事の大切さの意味って奴を――」

 

「うん……」

 

「俺は――ずっと逃げてばかりの人生だったかもしんない。現実から目を背けて戦いに逃げていた。それが俺の正体だって最近気が付いたよ」

 

 両親を思い出す。

 俺の戦う理由の根っ子には、ただあの二人に反抗するためだった。

 認めたくはないがそれは変えようのない事実だ。

 

「そんなことない。そんなことないよ」

 

「時には逃げることも大切だ。だけど今は戦う時なんだ。フォボスとノアと戦う決心がついたとかじゃない。これから先のこと――“俺とリオ”の十年、二十年先の事を――それを考えるためにも、その未来を勝ち取るためにもフォボスとノアをここで倒す」

 

「……私はバカだから、キンジの言う事よく分かんないけど私のことを大切に想ってることは分かった」

 

「そうか」

 

 それから少しの間抱きしめ合って。

 俺は意を決したように言った。

 

「俺はリオのために戦うよ」

 

「じゃあ私はキンジのために戦う」

 

 そして俺とリオは唇を重ねた。

 

 

 最後の戦いの準備が整った。

 向こう側の世界――リビルドシティに戻り、ノアが明けたゲートの前に可能な限りの戦力を集結させる。

 

 地球側でも何処の国が何時フォボスの先遣隊に核兵器を使うか分からない状況だ。

 世界中の戦力も持ちこたえられないだろう。

 このままじゃ戦後世界どうなるか分かったもんじゃない。

 

 フォボスの下に辿り着いたとしても俺がいた世界の地球上で部隊を展開させるフォボスをどうにか出来る手段があるのかどうかも分からない。

 

 そもそもフォボスとノアを倒せるかどうかも分からない。

 

 博打の要素が多すぎる。

 

 その博打の要素を少しでも減らすためにも最初はノアが作ったゲートにありとあらゆる無人兵器を突っ込ませて遅れてから俺達が突っ込む事になった。

 

 パワーローダーの装備も変更し、大型のブースターユニットとキャノン砲、ミサイルポッドを内蔵した緑色の戦闘機のようなバックパックをつける。

 

 宮野一尉やランシス達もアインブラッドタイプに身を包んでいる。

 ヴァネッサ曰く出せる限りのアインブラッドタイプを出し尽くしたとか言ってたな。

 

 此方の戦力は出揃った。

 

 作戦開始まであと僅かだ――



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第九十話「突入開始」

 Side 五藤 春夫 陸将

 

 私自らが以前の戦いで鹵獲した空中戦艦に乗り込み、強行軍でロストエリアにまで辿り着いた。

 

 傍にはリビルドシティから同行してきた空中戦艦や大型飛行船マザーバード、そしてヴァネッサさんの世界の空中戦艦などがついて来てくれていた。

 

 基地は他の人間に任せてある。

 

 ロストエリア――砂漠の都市に荒廃した町が立ち並び、そこには無人兵器が大量に闊歩していて既に話を聞きつけて駆け付けた人間たちが戦闘を開始している。

 

 レーダーは敵の反応で埋め尽くされている。

 しかもまだまだ増え続けている。

 

 まさか自衛官になって世界の命運を賭けた最後の戦いに挑むことになるとは――世の中分からないものだ。

 

 

 Side ロストエリアに展開したとある陸上自衛隊の隊員

 

 ロストエリアまで強行軍で駆けつけて来て一足先に戦闘をおっぱじめたが散々だった。

 

 正直空中戦艦が早く駆け付けてくれてありがたかった。

 次々と飛行型のパワーローダーや飛行機械。

 更には空自の戦闘機や見た事もない戦闘機が出動する。

 

 敵も負けじと見た事もない兵器をぶつけてくる。

 全てが生体反応無しの無人機。

 機種も様々だ。

 

 倒しても倒してもキリがない。

 100体倒せば追加でさらに1000体投入してくるような状況だ。

 遠くには陸上戦艦や空中戦艦の姿すらある。

 

 こちらも戦力は十分だが 正直生き残れるかどうか分からない状況である。    

 

 

 Side 謎の女X

 

 また予想を裏切る異常事態が発生した

 

 突如フォボスの軍勢が世界中から姿を消して――恐らく撤退を開始したのである。

 その事に私は喜びよりも驚愕を覚えた。

 

(まさか、此方の作戦が読まれた!?)

 

 世界中に展開しておきながら戦力を引き上げるとは。

 

 何らかの異常が起きたと考えていいだろう。

 

 向こうの世界の戦いが優勢なのかもしれない。

 だが世界中に展開した増援部隊が合流すれば戦況はどうなるか分からない。

 

 ただ私は無事を祈ることしかできなかった。

   

 

 Side 緋田 キンジ

 

 俺達は突入を開始した。

 

 俺たち第13偵察隊。

 

 第7偵察隊。

 

 第4小隊。

 

 リビルドアーミー、リビルドシティからの志願兵。

 

 ヴァネッサの世界の人間の兵士。

 

 更には投入できるだけの戦車や装甲車などの機甲戦力全てが投入された。

 

 はるか後方でも前方でも激しい戦闘が繰り広げられている。

 

『来たね』

 

『ノアか!!』

 

 ノアの天使のようなパワーローダーとバルキリー型の無人パワーローダー。

 そしてフォボスの三つ目の幽霊のような動きをするパロ―ローダーや全高5mのゴリラのようなゴテゴテと武装を搭載した機動兵器までいる。

 

 既に先遣隊として投入された無人兵器部隊と激しい戦闘を繰り広げているがノア本人には傷ついた様子はない。

 

 後ろには巨大な黒いダムのような施設が見える。

 

『フォボスはどこだ!?』

 

 俺はノアに叫んだ。

 

『フォボスはもう目の前にいるよ』

 

 そう返してきて俺は『どう言う意味だ!?』と聞き返したその時。

 

『私こそがフォボス。私こそが人類を管理する存在である』

 

 後ろの真っ黒い巨大なダムのような施設が空中に浮上を開始する。

 どんどん空に上がり、巨大な漆黒の円盤が姿を現した。



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第九十一話「最終決戦」

 Side 緋田 キンジ

 

 突如として黒い巨大円盤を見上げる。

 

 なぜか敵の攻撃がやんでいた。

 味方も攻撃の手を止める。

 

 後方で戦っている自衛官も同じような感じだろう。

 

『我が名はフォボス――この世界を支配する者』

 

 おどろおどろしい。

 まるで妖怪のような男の声だ。

 

『大人しく自分の世界に引っ込んでればいいものを、他の世界にまで手を出す理由はなんだ?』

 

 俺は愚痴交じりにそう言った。

 

『それが使命だからだ』

 

『人類を支配するためのか?』

 

 皮肉に込めて俺は言った。

 

『人類を救うためだ』

 

『やってる事と言ってることが矛盾してるじゃねえか』

 

 何が人を救うだと思った。

 フォボスのやってる事は昭和のアニメの悪党と同じだ。

 それで何が人を救うだ。

 やってる事はただの大量殺人ではないか。 

 

『この世界の人類は人類同士で争い滅びた。私はこの世界を救うために様々なプランを検討した』

 

 その様々なプランの一つのウチがリビルドシティ、リビルドアーミー、そしてノアだったのだろう。

 

『だが計算の結果、人類は争いを止められず、過ちを繰り返す生物だと理解した。そこで私は考えた――反抗する気も起きない程の圧倒的な力による支配を』

 

『なんつー極端な』

 

 キョウスケの言う通りなんつー極端な理論だと思った。

 インテリぶってるラスボスを演じているが突然ゴリラよりも酷い極端な思考回路になっている。

 

『そのために私は力を求めた。同時に様々なプランを試した』

 

『私の世界への進行もその一環ですか?』

 

 ヴァネッサが言った。

 

『そうだ。支配の試行錯誤、様々な技術、資源の収集と言う点では役に立った』

 

『人様の世界に攻め込だのがそれだけの理由だったとはな』

 

 俺は呆れてそう口に出してしまう。

 

『もう一つの世界が開いたのは本当に誤算だった。同時に脅威に成長したのは想定外だった』

 

『俺達の世界の事か』

 

『私の支配を揺るがしかねない世界、想定外の世界、特に際立った技術を持っているワケでもない平凡な世界。いずれ勝手に世界大戦を起こして自滅するであろう世界がだ』

 

 無茶苦茶な言い草だ。

 攻め込んでおいて失礼でもある。

 だがフォボスにとってそんな世界が、俺達の世界が脅威に感じたらしい。

 

『狭山 ヒロトもそうだ――踏み込んだ世界を支配しようなどと考えず、手を差し伸べ、人々に変革を与えていく存在である――そうした存在を見てきて私は考えた』

 

『俺達を仲間に引き入れると?』

 

 俺は言った。

 

『そうだ。私の手を取れ。共に世界の秩序を担う存在になろう』

 

『その秩序を作り上げるために何人殺すつもりだ?』

 

 皆の気持ちを代弁するつもりで尋ねた。

 

『秩序を作り上げるためには犠牲は必要だ。それは歴史が証明している』

 

『は、ラスボスの決まり文句をペラペラと喋りやがって!!』 

 

 日本のサブカル文化で聞き飽きた常套句だ。

 

『私を愚かと言うか?』

 

『ああ、愚かだ!! この世界ではどうだか知らんが正直漫画やアニメだので聞き飽きたような御託を並べやがって!! 今時流行らないんだよそう言うの!!』

 

 続けて俺は言う。

 

『人類は愚か!? だから支配しなければならない!? 犠牲は必要!? そして今度は俺達に仲間になれ!? 詐欺師でももっとマシな事を言うだろうよ!! 越権行為だろうがなんだろうが言ってやる!! 俺達の答えはNOだ!!』

 

『ならば滅びよ――』

 

 そして攻撃が再開されようとして――

 

『お前がな』

 

 プレラーティ博士の声とともに空中に戦艦が数隻ワープアウトしてくる。

 同時に猛烈な艦砲射撃が黒い巨大円盤に直撃。

 周囲に展開していた敵部隊も巻き添えを食う。

 

『まさかフォボスの奴、君達を勧誘するとは此方としても想定外だったがありがったかったよ。だがこうしてワープアウトするための最後の調整するまでの時間が稼げたよ』

 

 と、プレラーティが言う。

 次々と戦艦からパワーローダーや戦闘機が発進。

 戦車なども降下し、戦闘に突入。

 

 同時に戦闘も再開された。

 

 フォボスの巨大な黒い円盤からは大きな黒煙が出来ている。

 

『戦艦をワープアウトさせてくるとは――まさかこう言う手段を取ってくるとはね』

 

 ノアはそう言いながら背中のバインダーをパージしてオールレンジ攻撃を仕掛けてくる。

 俺は空中に飛行してかわしながら反撃する。

 

『お前、もしかしてこの流れ予測してたんじゃないのか?』

 

『さてね』

 

 などとノアは煙に巻く。

 

 フォボスは周辺に光線を撒き散らしながら反撃するが至近距離からのワープアウトしてきた空中戦艦の一斉砲撃を受けて徐々に沈黙を受けている。

 

 にも関わらずノアは余裕を崩さない。

 ハッタリなのか。

 それともまだ隠し玉があるのか。

 俺は隠し玉があると思った。

 

『少々ここは騒がしい。一旦退くとしよう――』

 

『逃げるつもりか!?』

 

 そう言ってノアは逃げようとしたが――

 

『こいつだけは我々が引導を渡す!!』

 

『君も来ていたのかランシス』

 

 リビルドアーミーのランシスが来ていた。

 パワーローダーは青いカラーリングで二本角で二つ目、背中のフライトユニット。

 どこかリオのゲイル・リヴァイヴに似たパワーローダーだ。

 

 それがノアに二つのビームサーベルで接近戦を挑んでいる。

 ノアは左手をかざし、バリアを張ってそれを防いだ。

 

『いいだろう。先ずは君から仕留めよう――』

 

 そしてノアも戦闘態勢に入る。



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第九十二話「最終決戦その2」

 Side ランシス

 

『アインブラッドタイプを引っ張り出してくるのは想定済みだ――それで僕に勝てるとでも?』

 

『勝てる勝てないじゃない!! 必ず勝つ!!』

 

 そう皆に誓ったのだ、私は!!

 

『ランシス、援護を――』

 

『不要だ!!』

 

 緋田 キンジと言う自衛官の援護の申し出は断った。

 

『プライドと言う奴かい?』

 

 ノアが挑発するように語り掛ける。

 

『ああそうだ!! 私はリビルドアーミーのためだけではない。この世界のためと思って手を汚し続けて来た!!』

 

『そんな君だからスペアプランだったのさ』

 

『スペアプランだと!?』

 

 近接戦で猛攻を嗾けてはいるが、相手は余裕を崩さない。

 バリアに阻まれ、敵のバインダーによるオールレンジ攻撃で手痛い反撃を食らう始末だ。

 

『アーティスが万が一失敗した場合の保険と言う奴さ』

 

『そうやって貴様はどれだけの人間の人生を弄んできた!?』

 

『これもこの世界のためさ――ッ!?』

 

 すると遠方から大きなビームが飛んでくる。

 射線を追うとオードンやカーマンがいた。

 オードンはゴルディアス。

 カーマンはピンク色のカーマンスペシャル。

 

 そして私の部下のスカーレット、リシャがいた。

 他にも部下が沢山ついてきている。

 

『隊長、無理をなさらずに!!』

 

 と、スカーレットが言ってきた。

 

『どうしてついてきた!?』

 

『私達は隊長についていくと決めたのです!! それ以外に理由は不要ですか!?』

 

 と、捲し立てるようにスカーレットは言う。

 

『そう言う事よ!! 雑魚は任せときなさい!!』

 

 カーマンがそう言ってノアの周辺を飛び回っているバルキリータイプのパワーローダーを的確に破壊していく。

 リシャや部下達もカーマンに続いていた。

 

『オードン、君も歯向かうか。能力あるけど己の才に自惚れて破滅すると思ったけど、予想外の展開だよこれは』

 

『何でもかんでもお前の思い通りになってたまるか!!』

 

 そう言ってオードンは大きなビームバズーカを発射するが今度は避けられてしまう。

 

『そう何度も当たらないよ』

 

 そう言ってノアは大空高く飛び上がり、距離を取り、バインダーを周辺に集めて展開。

 私は(まずい!!)と思ったが――

 

『全攻撃をノアに集めて!! 攻撃させちゃダメよ!!』

 

 カーマンとその部下達がビーム攻撃を集中させる。

 ノアはバリアで攻撃を防ぎながら回避行動をとるが――

 

『そこだ!!』

 

 バインターの一つを切り落とし、ノアにビームサーベルで斬りかかる。 

 バリアに阻まれる。

 

『何度やっても――』

 

『そこだ!!』

 

『ッ!?』

 

 オードンもビームサーベルを抜いて斬りかかった。

 

『俺達の事はいい!! バインダーに攻撃を集中させろ!!』

 

 斬りかかりながらオードンは指示を飛ばす。

 

『ええい!! うっとおしい!!』

 

 ノアは力任せに両者を引き剥がす。

 同時にオードンは胸部からビーム砲を発射する。

 ランシスもフライトユニットに内蔵されていた二門のビーム砲を乱射する。

 

 ノアは若干黒焦げになりながら撤退していった。

 

『ここは私達に任せて二人は追いなさい!!』

 

 カーマンがそう言い、

 

『カーマンの言う通りに!! 隊長!!』

 

 スカーレットもそう言った。

 

『行くぞランシス!!』

 

『まさかお前と手を組むことになろうとはな!!』

 

『言ってろ!!』

 

 私はオードンと軽口を叩き合いながらその場を後にし、ノアの後を追った。

 

 

 Side カーマン

 

 ボウヤ達が言ったわね。

 

 ちょっと見ない間に男をあげちゃって……

 

 後、やる事があるとすればこの場で出来る限り敵を惹きつける事ぐらいかしら。

 

『スカーレット、あなたランシスの後を追いたくなかったんじゃないの?』

 

 ランシスの副官であるスカーレットに尋ねる。

 

『いいえ、構いません。隊長を信じてますから』

 

『そう。部下に恵まれたのねランシスは』

 

 ランシスもオードンも不器用な男だったわ。

 だけど不器用な男は不器用な男なりにこの僅かな短期間で成長したみたいね。

 

『じゃあ、はじめようかしら』

 

 私のパワーローダー、カーマンスペシャルの火器が一斉に火を噴く。

 最後の最後まで魅了してあげるわフォボスちゃん。 

 

☆ 

 

 Side スカーレット

 

 本当は隊長と一緒に行きたかった。

 

 だけど私は隊長を信じた。

 

 この戦いにリビルドアーミーだけでなく世界の未来が掛かっている。

 

 その願いを隊長に託した。

 

(悪逆非道のリビルドアーミーがまさか世界を救うために戦う事になるとはな――)

 

 過去の自分に言っても信じてはくれないだろう。

 フォボスと同じぐらいの巨悪の自分達が平和のために戦うなど皮肉が効きすぎている。

 

 だけど、今この瞬間こそがリビルドアーミーが目指した、隊長が夢見た瞬間なのだろう。

 

(だからこそ生き抜く!!)

 

 だから私は戦い抜こう。

 まだ変わったばかりなのだ。

 ノアを、フォボスを倒したその先に辿り着いてようやくはじまるのだ。

 隊長の理想が。

 

 その理想を、リビルドアーミーが、リビルドシティが変わるところを見届けたい。

 

 この場にいるリビルドアーミーの兵士達も同じような気持ちだろう。

  

(必ず帰って来てくださいよ、隊長……)

 

 その気持ちを押し殺しながら私は部下達に必死に支持を飛ばす。

 



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第九十三話「最終決戦その3」

 Side 緋田 キンジ

 

『倒しても倒してもキリがねえ!!』

 

 リビルドアーミーの人達が敵の大将格の一体を撤退に追い込んだのには成功した。

 しかし状況は劣勢だ。

 敵の数が多すぎる。

 

 プレラーティ博士が言うには自分たちの世界に展開してきた戦力を引き上げてこの土地に集結させて言っているらしい。

 

 敵はどうやらこの展開をある程度呼んでいたようだ。

 

『大丈夫だ。希望はある』

 

 と、空中戦艦にいるらしい佐伯 麗子がそう言う。

 

『つったって――』

 

『遅くなりました!!』

 

『狭山君!?』

 

 唐突に狭山君がパワーローダー部隊を引き連れてやってきた。

 狭山君が重厚で厳ついアインブラッドタイプと思わしき白いパワーローダーを身に纏っていた。

 

『敵の防衛線が緩んだので突破して援護に駆け付けてきました! 他にも続々と援軍が到着しています!』

 

『狭山君の言う通り、次々と援軍が駆けつけて来ている!!』

 

『まだ来るのか!?』

 

 確かにレーダーには味方のシグナルを出しながら次々とこの戦域にパワーローダーが突入してきていた。

 

『無事か若いの!!』

 

『キーツさん!? こんなところまで来てたんですか!?』

 

 と、シップタウンの防衛部隊の隊長さんであるキーツさんがやって来ていた。

 

『リオ、パメラ、生きてる!?』

 

『『『アネット!?』』』

 

 リオとパメラ、パンサーと同じトレーダー仲間のアネット達。

 背後には様々な種類のパワーローダーが並んでいた。

 小声で『私もいますよ~』とアネットの仲間のニッパの声がした

 

『こちらガッツ軍曹だ!! 緋田 キンジ隊長はいるか!?』

 

『ガッツ軍曹まで!?』

 

 ロボット兵士軍団であるガッツ軍曹達は様々なビークルに乗って突入してくる。

 戦車や武装車両。

 ヘリまで様々だ。

 

 様々な砲火が火を噴き、敵を圧倒している。

 

 それだけでなく、一部の空中戦艦も敵の防衛線を突破してきたらしい。

 

『御覧の通り、この戦域は大丈夫だ!! 第13、第7偵察隊、第4小隊はノアの後を追え!! その先に高エネルギー反応がある!!』

 

 と、佐伯 麗子が言う。

 やはりまだ何か隠し玉があるようだ。

 

『了解!! くたばるなよ!!』

 

『もしも死んだらクソ野郎って墓石に刻んでやるからさっさといけ!』

 

 俺と佐伯 麗子はそうやり取りしながらこの場を後にした。

 

 

 俺たち第13偵察隊、第7偵察隊、第4小隊の面々でノアの後を追う。

 

『ここは第4小隊に任せろ』

 

『しくじるんじゃねえぞ!!』

 

 地下施設に入り込もうとしたが入口で第4小隊が殿を務め、

 

『私はここで食い止める。こう言うのは柄じゃないと思ったんだけどね』

 

『隊長達は先に!!』

 

『第7偵察隊も殿に回る!!』

 

 そして途中でルーキー、水瀬 キョウカ、高倉 ヒトミなどの第13偵察隊、第7偵察隊の面々が途中で敵の足止めを行う事になった。

 

 残ったのは俺とキョウスケ、リオ、パンサー、ヴァネッサだ。

 

 辿り着いた先は大きな通路と門だった。

 

 そこで――ランシスとオードンが白と赤の配色の二本角で二つ目のパワーローダー、アインブラッドタイプと激戦を繰り広げていた。 

 バリアを張り、ビームライフルとシールドを持ち、胴体からビーム砲を放ち、赤いバインダーを飛ばしてオールレンジ攻撃を仕掛けている。

 

『まさかパワーローダーを製造していたのか』

 

『まあね』

 

 と、ノアが答える。

 

『ここは?』

 

『フォボスの中枢へと繋がる通路さ。仲間たちはどうしたんだい』

 

『命懸けで食い止めてくれている』

 

 正直相手している暇はない。

 どうにかして素早く突破したいと思った。

 

『こいつは私とヴァネッサで止める!! 二人は先に行って!!』

 

 リオは決死の覚悟を決めたように言うが――

 

『させると思うかい?』

 

 次々と敵のパワーローダーや、無人兵器が雪崩れ込んでくる。

 敵も必死らしい。

 

『まだだ!! まだ終わりではない』

 

 ランシスがボロボロになった機体を引き摺りながら立ち上がる。

 

『俺もこのままでは終わるつもりはない!!』

 

 オードンも立ち上がった。

 

『まだこの絶望的な状況下で機体に立ち向かうつもりかい?』

 

『ああ、やってやるさ!』

 

 ランシスとオードンが再び仕掛ける。

 その後に続くようにリオとパンサーが続く。

 

 そして俺とキョウスケは――

 

『この巨大なゲートをどうするかだが――』

 

 キョウスケが言う様に力尽くで突破は難しいだろう。

 試しにキョウスケがバレル・リヴァイヴで攻撃を仕掛けるがビクともしない。

 

『ゲート脇の端末に接続できるか?』

 

『なんだと?』

 

 ここで唐突にプレラーティ博士から通信が入る。

 

『いいから言う通りにするんだ』

 

『分かった』

 

 俺はゲート脇にある端末を見つける。

 

『今から言う通りに行動しろ』 

 

『ああ――』

 

 キョウスケが時間を稼ぎ、俺は言われるがままに端末を操作する。

 そして――

 

『ゲートが開いた!?』

 

 ノアが驚愕していた。

 

『なぜゲートが開かれた!? なぜだ!?』

 

『さあな、プレラーティさんの言われた通りに操作しただけだし』

 

『あの魔女の仕業か!?』

 

 瞬間、ノアは次々と攻撃が着弾していく。

 

『悪いが隙だらけですよ』

 

 ヴァネッサがオールレンジ攻撃で次々と畳みかけ、ヴァネッサの支援を受けたリオとパンサー、ランシス、オードンの4人が次々とノアに畳みかけていく。

 

『しまった――機体が――』

 

 ドアが開いた瞬間。

 ノアが驚愕して立ち止まった大きな隙。

 その隙を突かれて次々と攻撃する。

 

『くっ!! こんなはずでは!?』 

 

 どうにかノアはリオ達の波状攻撃から抜け出したが大ダメージを負っている。

 長くは持たないだろう。

 

『それにしてもよく知っていましたね、博士』

 

『こんな事もあろうかとと言う奴だ。さあ、先を急ぎたまえ』

 

『ああ。キョウスケは?』

 

『俺もここで殿に回るわ。代わりにリオを行かせるよ』

 

『そうか――』

 

 俺は先を急ぐことにした。

 キョウスケとリオが入れ替わるように傍に並んで飛んでいる。

 

 目指すはフォボスの中枢だ。

 

 

 Side ランシス

 

 まだ動く。

 

 まだ諦めてはいない。

 

 私もオードンのパワーローダーもまだ動く。

 

 多勢に無勢の状況でも関わらず戦えている。

 

 敵の猛攻を前に――ジエイタイの援護もあるが――それでも戦えていた。

 

『まさかこんな形で追い詰められるとは――』

 

 ノアは狼狽している。

 オールレンジ攻撃や手持ち武器で必死に抵抗しているが構わない。

 

(この一撃に懸ける!!)

 

 私は託されたのだ。

 この瞬間を。

 それはオードンも同じだ。

 互いにビームサーベルを持ち、不思議と息が合った空中機動で相手を撹乱し。

 ジエイタイの援護射撃でノアの距離を詰めて――

 

『くぅ!?』

 

 オードンのパワーローダーの胴体からのビーム砲が着弾して、相手は怯んだ。

 その隙を見て私は勝負に出た。

 オードンも同じ気持ちなのか私に合わせてくれた。

 

『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』

 

 そしてノアのパワーローダーに私とオードンのビームサーベルが届く。

 確かな手応えを感じた。

 

『ランシス――ノアは倒したはいいが――』

 

『ああ――』

 

 オードンの言わんとしている事は分かる。

 敵も大将を守るために必死だ。

 フォボスの手勢が大量に詰めかけている。

 ジエイタイと自分達を入れて四人では長くは持たないだろう。

 

 後は突入したあの二人に託すしかないな――

 



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最終話「そして終焉へ――」

 Side 五藤 春夫 陸将

 

 空中戦艦に報告が上がる。

 戦闘は優位に運んでいる。

 巨大円盤や敵の戦艦もあらかた撃沈した。

 

 しかし敵の物量は底なしだ。

 

 恐らくワープ技術の類を使っているのだろう。

 

 何時までこの状況が続くか分からない。

 だが逃げるつもりはなかった。

 

 今日のこの日まで私は沢山の命を犠牲にしてきた。

 この場で潰えるならそれも天命だと受け入れよう。

 

(だから必ず生き延びるんだぞ)

 

 この場で戦う自衛官のこと。

 そして突入していった自衛官のこと。

 

 一方的な想いなのかもしれないが、彼達と戦えて幸せだった。

  

 Side 緋田 キンジ

 

 フォボスの中枢。

 とんでもなく広い広大な空間だ。

 プロ野球の試合も軽く出来るだろう。

 その広間の中央には天地を繋ぐタワーが存在していた。

 

 迎撃システムらしきドローンも浮遊している。

 

『プレラーティ――因果律に呪われた魔女め――まさかあやつが手引きをしてくるとはな――』

 

 と、フォボスが気になる事を言っていたが――

 

『色々と聞きたい事はあるが――手短に終わらせるぞ』

 

『ここで私を倒したところで何になる? 言っておくがここで私を倒しても――』

 

『黙れ』

 

 俺は攻撃を開始した。

 同時に柱から、浮遊ドローンから次々と反撃の砲火が飛び出てくる。

 それを避けながら俺とリオは攻撃を続ける。

 

『お前がいなければ人類は滅ぶとかそんな事を言うつもりなんだろうが――まあその時はその時って奴さ』

 

『なに?』

 

『ぶっちゃけて言えばテメエに支配されて繁栄するぐらいなら滅んだ方がマシだ。大体テメェの言ってることは気にくわないんだよ。ウチの両親とたいして変わりゃしねえ』

 

『愚かな。そんな短絡的な思考で私を滅ぼすか』

 

 次にリオがこう言う――

 

『フォボス――既に人々は変わりつつある。私達は私達の道を行きます』

 

 と激しい攻撃を繰り返しながらリオは言った。

 

『まあそう言うこった――終わりだフォボス』

 

 俺もリオに続くように全身の火器を一斉に解き放った。

 だがバリアで阻まれる。

 

『クソ! そう簡単にはいかないか!』

 

 俺は舌打ちした。

 

『この場で果てよ。潰えよ。私はフォボス』

 

『それがどうした!!』

 

 リオは攻撃を続ける。

 

『何度でも言う!! 私達は生きたいんだ!』

 

 リオは叫んで攻撃を続けた。

 

『アナタに支配されなくても、私達は生きていける! 未来を選択できる!』

 

 さらにリオは攻撃を続ける。

 

 リオの言葉を聞いて俺も奮起した。

 

『そうだな。俺も選択するか!! 自分の望んだ未来って奴を!!』

 

 俺もあらゆる火器をフォボスにぶつける。 

 心なしかシールドが弱まっている気がする。

 

『神を滅ぼすつもりか? その手で? 私を滅ぼしてみろ! 待っているのは絶望の未来しか――』

 

『黙れ!!』

 

 俺はフォボスの言葉を切り捨てた。

 

『お前はとんでもない秘密を知っているのかもしれない、実は本当に絶望の未来とやらが待ち受けているかもしれない』

 

『そうだ! 人類が存続するには――』

 

『だがお前の支配を受け入れる理由にはならない!!』

 

『なっ――』

 

 俺とリオは必死に攻撃を続ける。

 施設全体が小爆発を、火花を引き起こし始めている。

 皆戦っているのだろう。

 

 同時にバリアが弱まっていき――やがて――

 

『ま、待て!』

 

 バリアが消滅。

 俺は聞かなかった。

 

『リオ!!』

 

『キンジ!!』

 

 俺とリオは最後の賭けに出た。

 全ての火器を全弾使い潰すつもりで発射。

 次々が着弾し、フォボスと呼ばれる柱から火花が飛び散りはじめた。

 

『私は――また――いずれ――』

 

『その時はその時だ』

 

 俺とリオはビームサーベルを抜き、トドメの一撃を見舞った。

 

 神を名乗った物は電流の火花と小爆発を起こして爆炎の中に沈んでいく。

 やがてスクラップへと変わった。

 外の喧騒がとても静かに感じる。 

 

『これで終わったの?』

 

 リオが不安そうに尋ねる。

 

『正直俺には分からない……だけどここにいるフォボスは倒した。それだけは確かだ』

 

 自分に言い聞かせるように俺はそう言った。

 最後の言葉を聞いて正直不安なのかもしれない。

 

 だけど俺は言った。

 

 その時はその時だと――

 

『……帰ろう』

 

『うん――』

 

 俺とリオは仲間達の下に戻ることにした。

 

 

 Side 宗像 キョウスケ

 

『決着がついたみたいだな』

 

 施設の機能が停止していく。

 無人機も活動停止。

 

 俺は倒れ伏したノアを見る。

 さすがのノアも味方の援護があったとは言え、傷ついた状態で五対一は無謀だったようだ。

 

『君達は絶対的な力による支配を拒んだ。確かめるといい。神の支配を拒んだ世界を――』

 

 まるで呪いのような言葉だ。

 俺は『ああ、確かめて生き抜いてやるさ』とだけ返した。

 

 この世界を支配していた巨悪は確かに倒した。

 だからと言って何もかもが平和になるのはゲームの世界だけだ。

 これから先もきっとロクでもない戦いが続く。

 

 もしかするとノアとフォボスのやり方に理解を示してしまうような目に遭ってしまうかもしれない。

 

 それでも俺は戦うさ――

 

『……ヴァネッサ、どうした』

 

『いえ――これは、私達の悲願でもありましたから――』

 

『そうか』

 

 涙声のヴァネッサを少し放置しておくことにした。

 

『リビルドアーミーの皆さんはこれからどうする?』

 

 俺はランシスとオードンに振り替える。

 

『決まっている。リビルドアーミーを建て直す』

 

 ランシスが言うが――

 

『だが支配者であるノアは死んだし、やり方の方針転換に否を示す奴も出てくるだろう』

 

 オードンはそう言う。

 俺は『問題は山積みだな』と返した。

 

『パンサー……これからどうする?』

 

『うん。まあ一息ついて考えたい。それよりもキョウスケはパメラの事を考えなよ』

 

『そうか――そうだな――取り合えず皆と合流して外に出よう』

 

 俺達は外を目指す事にした。

 キンジもリオも後で追いつくだろう。

 

 

 Side 五藤 春夫 陸将

 

 空中戦艦は不時着。

 そのまま突入班を支援するために私自らも戦闘に参加した。

 そして――敵の攻撃が止んだのを見て私は悟った。

 

 正直詫びねばならない。

 

 最初、この作戦を聞いた時、私は無謀すぎると思った。

 

 だが彼達はやり遂げた。

 

 やり遂げて見せたのだ。

 

 この場に参加した、フォボスと戦った誰もが英雄となったのだ。

 

(未来は見れた。幸運にもこの目で生きているウチに)

 

 後は我々の仕事だ。

 

=フォボスとの戦いが終わり、暫くして――=

 

 Side 佐伯 麗子 三佐

 

 あの突撃バカどもは今頃どこで何をしているのだろうか?

 

 あの戦いのドサクサで私は三佐に昇進した。

 

 同僚の水島 静香もだ。

 

 五藤 春夫陸将はあの荒廃した世界での行動の数々の責任をとる形で辞職する形になった。

 引き留められたそうだが断ったそうだ。

 まあ、あの人らしいと言えばらしいが。

 

 そうそう。

 前の政府は今回の全責任をとる形で内閣総辞職となった。

 今は選挙期間中である。

 次はマトモな政権である事を期待しよう。

 

 そして世界の方だが、なんだかんだ言って世界は平穏を望むらしく、今は世界中に展開したフォボスが残した技術の解析に大忙しのようだ。

 

 日本はこちらは他の並行世界の地球との交流やプレラーティ博士による並行世界とを繋ぐゲートと言うカードがある。

 

 更に言えばフォボスの奴、私達が知らない他の世界にもチョッカイを出していたお陰でその世界の調査と言う大義名分が出来た。

 

 問題は自衛隊の人手不足――大勢の人間が殉職し、そして自衛隊から離れていった。

 

 だが他国の懐事情も似たようなもんで世界中の軍隊は大打撃を負った。

 暫くはフォボスの大規模侵攻のおかげで平和だろう。

 

 悪の侵略者のせいで平和とは皮肉な事ではあるが……

 

 それでも平和は平和だ。

 

 なんだかんだで平和は一番。

 

 この平和とは程遠いこの世界に身を置いて私は平和の尊さを実感している。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 リビルドアーミーの支配者であるノアを倒し、そしてこの世界を影から操り、二つの世界に手を伸ばしていたフォボスを倒した。

 

 問題は山積みである。

 

 野盗やヴァイパーズの残党、リビルドアーミーの離反した部隊などが最もたる例だろう。

 

 さらに厄介なことにフォボスの奴、俺達ですら知らない他の世界にも手を伸ばしていた可能性が示唆されており、その調査のための部隊も編制する事になった。

 

 だが悪い話題ばかりでもない。

 

 ヴァネッサの世界と日本とで交流するとか、

 

 狭山 ヒロト君が市長として滞在する事が日本政府から正式に許可されたりとか、

 

 フォボスの無人兵器の残骸を資源に変えて復興の手助けにする取り組みなども行われている。

 

 悪いことも良いこともひっくるめてこの世界は歩んでいた。

 

 その傍ら俺とリオは――まあキョウスケとパメラもそうだが法律的な問題でとりあえず婚約と言う形になったがそれでもリオとパメラは嬉しそうだった。

 

 そして俺たち第13偵察隊の任務は続いている。

 

 再び東へ西へ、北へ南へと厄介ごとに巻き込まれ、首をツッコミながら旅を続けている。

 

 この世界は広い。

 まだ知らない土地が沢山ある。

 

 想像だにしない驚異もある。

 

 それでも俺は歩み続けようと思う。

 

【鋼の異世界(世紀末)と自衛隊奮闘録 END】





 どうもMrRです。

 本作品いかがでしたでしょうか?

 正直この作品、個人的に悪いところが多くてハーメルンで掲載した場合、低評価の嵐が吹き荒れそうでビクビクしておりました。

 この後書きを書いている時点ではそうはならなくてちょっとほっとしています。



 この作品の悪い点は後半になるに行くにつれて顕著になっていきます。

 多数のキャラクターが登場するところではもっと物語にゆとりを持たせて進行させるべきだったと反省しております。

 さらに登場人物を序盤からもっと絞るべきだったとも思います。

 その点は深く反省しており今後の作品作りに活かせたらと思いました。

 今ハーメルンに掲載している少年少女のパワーローダー戦記はこの作品よりも前に書かれた作品で、ある程度手直ししていますがその悪い癖が残っている状態ですね(汗



 今のところは新連載を考えておらず、今ある連載を完結させてちょくちょく短編を書けていけたらな、などと思います。

 また海〇雄山とかボトム〇とかやるかも知れません。

 それではこの辺で。

 MrRでした。
  


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外伝・アフターストーリー(*不定期更新)
死神が辿り着いた景色


 Side ???

 

 =フォボスとの最終決戦時=

 

(まさかリビルドアーミーの連中と一緒に戦う事になるとはな!!)

 

 愚痴るように言うが本音では悪くはない気分だ。

 リビルドアーミーだけでなく、懐事情は苦しいだろうに様々な勢力がこの場に応援に駆けつけて来てくれている。

 

(相手の事は軽く聞いてたが、相棒のステルス能力が効いちゃいないか)

 

 俺の身に纏うパワーローダーはステルス能力による奇襲戦法、白兵戦が売りだ。

 だが敵のフォボスの軍勢には効果が無いらしい。

 それでも相棒は″アインブラッドタイプ″だ。

 そこらのパワーローダーとは性能が違う。

 

 俺はこの機体のステルス性能だけに頼り切っちゃいない。

 でなければとっくの昔に死んでいる。

 戦いはそんなに甘くはない。

 

『た、助かった!!』 

 

『それにしてもなんだあの機体は!?』

 

(本当にリビルドアーミーを助ける事になるなんてな――)

 

 本当に人生とは分からないもんだ。

 ちょっと前まで一緒にリビルドシティに攻め込んで。

 今はまさかリビルドアーミーを助けるために戦うとは。

 

 それどころか世界を救うなんて言う戦いに参加する事になるなんざ思いもしなかった。

 

 

 =フォボスの決戦後終了直後=

 

 世界は救われたらしい。

 

 その事よりもどんちゃん騒ぎして報酬はたんまり貰ったことのほうが嬉しかった。

 

 リビルドアーミーの真の支配者を倒し、フォボスと言うこの世界を影から支配してた黒幕を倒したことよりもだ。

 

 俺はバカ騒ぎを切り出して死神としての姿に戻った。

 

 俺が悪党ならこの事態を利用して悪行を働く連中は必ず現れるからだ。

 

 て言うか間違いなくやる奴は出てくる。

 

 話によればリビルドアーミーの一部が離反したり、ヴァイパーズの残党が残っていたりするからな。

 

 そう言う連中も動き出すだろう。

 

 

 =フォボスの決戦から少しあと=

 

 俺はジエイタイ基地やリビルドシティから離れた、なんの特徴もない小さな村のために武器を振るう。

 ジエイタイの連中に感化されたかもしれない。

 

 敵は野盗の一団の一つ。

 

 フォボスはおろか、リビルドアーミーやヴァイパーズの連中と比べればなんてことはない雑魚だ。

 

 ステルスモードを利用して一気に近づき、格闘戦で仕留める。

 格闘戦で使用する特注のビームサイズ、俺は死神の大鎌と呼んでいるが――を使い、パワーローダーだろうが武装車両だろうが分け隔てなく次々と切り裂いていく。

 

 敵は訳も分からず地獄に直行していく。

 戦いが終わるのにそう時間はかからなかった。

 

(世の中は変わっても変わらないことはあるもんだ)

 

 この世界では嫌な読みほどよく当たる。

 

 リビルドアーミーはいままで、悪行の数々を重ねて来たせいで信頼されないがそれでも周辺の治安維持のために奔走しはじめるとは夢にも思わなかった。

 

 ジエイタイもあれだけの激戦の後だと言うのにこれまでと変わらず接してくれているどころか治安維持のための活動に全力を挙げているようだ。

 

 だがどうしてもその手が及ばない部分が出来てしまう。

 

 森の中にあったこの小さな村もその一つだ。

 

 こう言う場所が幾つもあるに違いない。

 最悪ジエイタイやリビルドアーミーの手も借りないといけないかも知れないな。

 

「どうお礼を言えばいいのやら――」

 

 村長に礼を言われる。

 

「取り合えず金目になりそうなもんはこっちで回収するわ。それと成功報酬で衣食住の手配をよろしく」

  

「わかりました」

 

 俺はジエイタイじゃない。

 これぐらい要求してもバチは当たらないだろう。

 

 これがこの世界での日常。

 これがこの世界での現実。

 

 だが今は希望がある。

 

 そのために俺は死神の大鎌を振るおう。

 



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雛鳥 ツバキの記録

 Side 雛鳥 ツバキ 三尉

 

 どうも陸上自衛隊のWAC(女性自衛官)、雛鳥 ツバキ三尉です。

 

 数々の激戦が終わり、なにやら新たな戦いが始まってますがこの世紀末世界で元気にPXの手伝いしてます。

 

 階級が上がってるのは戦時昇進とか人手不足とか色々な理由が重ねってるからですね。

 

 相変わらず周囲は騒々しく賑やかでドンパチ実戦もありますが。

 

「リビルドアーミーの連中の姿も増えたな」

 

「まあここはジエイタイのお膝元だ。あんな事があった後だし悪い事はしないだろう」

 

 変わった事があるとすればリビルドアーミーの兵士も見掛けられるようになったことでしょうか。

 

 ――まったく、この世界の人間は血の気が多いんだから。

 

 ――しょっぴくこっちの身にもなってくれよ。

 

 最初は険悪なムードになったりして基地のMPが出動するなんてこともありましたが、最近は様々な勝負で決着をつけるようになりました。

 

「クソ、オセロ強い奴誰か呼べ!!」

 

「こっちもオセロ強い奴を招集しろ!!」

 

 パワーローダーのタイマンとかもあったんですけど何故かオセロやゲーセンのアーケードゲームなどの遊戯にも勝負が及んでいます。

 

 いやほんと、どうしてでしょう。

 

「どうしてジエイカンはオセロ強いんだ?」

 

「さあ?」

 

 そして自衛官が勝ってケンカ両成敗的な結末も珍しくありません。

 

 そうそう自衛官ですが――自衛官の恋愛事情は悲惨な物であり、よく問題視されています。

 

 それを知ってか知らずか世紀末のアマゾネスなお姉さま方達が狙っていますね。

 

 カップル成立しているのか仲良く歩いているところもよく見られます。

 

 と、こんな感じで思ったよりかは平和ですね。

 

 リビルドアーミーとの決戦やフォボスとの最終決戦の時はどうなるかと思いましたが。

 

 なんとか収まるように収まった感じですね、

 

 戦いが終わった後も、守備隊の大部分が留守にしている間はハイエナの如く野盗連中やらがやって来て大変でしたが地下族の人達やここに残った人達――本土側にいた自衛官も投入されての防衛戦となりました。

 

 もちろん私も参加しました。

 

 自分でこう言うのも何ですがヘタな自衛官よりも強いですから、私。

 

 何気にパワーローダーを身に纏って戦う事も出来ます。

 

 これでも元は後方勤務なんですよ?

 

 信じられます?

 

「防衛戦、呆気なく終わったな」

 

「ああ。この世界の生物や無人兵器とかの方が手強かったな」

 

 ちなみに防衛戦は楽勝でした。

 

 と言うのも隊員達も戦い慣れていて防御システムはここに来た時に比べれば格段に良くなっています。

 

 パワーローダーに身を包み、レーザーなどで武装した自衛官達が常駐。

 

 機甲兵器もレールガンタンクだけでなくSF兵器で武装した戦車や戦闘ヘリ部隊もいます。

 

 さらには無人ロボット軍団まで徘徊しています。

 

 基地自体も迎撃システムは対リビルドアーミーの空中戦艦や陸上戦艦を想定した物であり、迎撃や攻撃システムにはイージス・アショアの改良型が搭載。

 具体的にはビームやレーザーの迎撃システム、レールガンの砲台、プラズマミサイルなどが飛んできます。

 

 さらに味方には地下族や世紀末SF武器で武装した地元住民(パワーローダー付き)もいます。

 

 何が言いたいかと言うと、こんなのガチでフル装備したアメリカ軍でも落とせねえよ。

 

 それでも防衛システムを掻い潜って時折やべー奴が襲撃してきたり――円盤とか火星の侵略ロボットみたいな外観の三脚ロボットとか、無人戦車とかマンモスみたいな生物とか、トリケラトプスとかサメとか。

 

 失礼、本題から逸れましたね。

 

 ともかく野盗ではもはや相手になりません。

 

 と言うかここでの日常生活の延長線上みたいな?

 

 そんな感じなんですかね?

 

 そうそう、フォボス討伐部隊が帰還した後は本当に盛り上がりました。

 

 それもリビルドアーミーなども交えてです。

 

 リビルドアーミーが受け入れられたのも祝勝会と言う名の催しのおかげなのかもしれません。

 

 そして五藤 春夫 陸将の最後の置き土産だったように思えます。 

 

 この催しは大盛り上がりで最終的にはパワーローダー同士の交流戦になりました。

 

 その時の映像は今も残っています。

 

 地球とこの世界のトップクラスのエースたちのぶつかり合いで噂では上の方で研究されているとかなんとか。

 

 さらにはもう一つの地球世界、すなわちヴァネッサさんとの世界とも交流もはじまりはじめるとの事でこの荒廃した世界は便宜上、第一異世界、もう一つの地球世界を第二地球と分類するようです。

 

 それぞれ呼び名を変えているのは機密扱いにするための工夫でしょう。

 

 あ、そうだ。

 ここから北にある狭山 ヒロト君が作り上げた町とも交流が始まるとの事です。

 狭山 ヒロト君はアドバイザーのような役回りで手を貸してくれるのだとか。

 ちょくちょく、ラノベの主人公のように女性を侍らせてここの売り場にも顔を出してくれます。

 

 そして最後に地球での騒ぎ。

 

「聞いたか? 駐屯地もろとも転移したってよ」

 

「ああ、最初は耳を疑ったぜ」

 

 駐屯地もろとも転移して新たな異世界への道――第二異世界が発見されました。

 フォボスは様々な世界にちょっかいを掛けていたらしく、その調査のためにどうこうと言う話が来た矢先の出来事です。

 

 これからどうなることになるのやら。

 

 既に第7偵察隊は送り込まれて、第4小隊、第13偵察隊などの精鋭部隊も送り込まれる事になるんでしょうかね。

 

 特に第13偵察隊。

 世界を救った部隊とかもっともパワーローダー戦に精通した部隊とかエース部隊とか色々言われてますね。 

 実際は緋田 キンジ一尉と宗像 キョウスケ一尉のせいでちょいと不良軍人ぽいイメージがありますが。

 

 戦況次第で間違いなく送り込まれるんでしょう。

 

 第4小隊はここの守りとかもあるので早々配置転換はし辛いでしょうがどうなることやら。

 

 今語れるべきことはこれぐらいでしょうか。

 

 現在は防衛機密などの事情で当分の間、この世界での勤務が決まっています。

 久しぶりに地球に帰ってゆっくりしたいですが何時の日になるのやら――

 

 そんな事を思いながら今日もPXで経営の手伝いをします。



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リビルトアーミーのその後

 Side ランシス

 

 フォボスとの戦いが終わり少しばかりの時間が経過した。

 

 リビルドシティの真の支配者ノアが倒れ、代表者はゼネシス様からアーティス様になった。

 

 だが問題はここからだった。

 

 ジエイタイ――二ホンを始めとした周辺地域の住民との関係改善。

 

 さらには弱体化したのを良い事に野盗からすら狙われる始末。

 

 悪い事は続き、今のリビルドアーミーのやり方が気にくわないからと言って辞めるだけならともかく、装備もろとも離反する連中まで出てくる始末だ。

 

 グレムスなどは空中戦艦もろとも消え去って行方知らずだ。

 

 だがアレだけの巨大移動物体。

 

 行き先は限られてると言っていい。

 

 だが世の中何が幸いするか分かったものではなく、弱体化して資源、物資が乏しくなったリビルドシティ、リビルドアーミーにとって面倒を見る人間の数が大幅に少なくなったのはありがたかった。

 

 更にはジエイタイや、もう一つの世界(ヴァネッサの出身世界)からの援助物資もあり、暫くは交流無しでも存続は可能になった。

 

 だがアーティス様はそれでよしとせず、自ら村や町に出向いて頭を下げてこれまでのリビルドアーミーの行いを謝罪し、そして物資を出来うる限り分け与えていった。 

 

 私はそれの付き添いだ。

 

 移動も空中戦艦や飛行機械ではなくトレーラーである。

 

 無論、周囲はパワーローダー部隊などで防備についている。

 

「それにしても良かったのか? 私について来て?」

 

 傍には赤髪のボブカットの女性。

 私の副官のスカーレットがいた。

 トレーラーの運転を任せており、私は助手席に座っている。

 

「いいんです。隊長についていくと決めましたからリシャ(同じくランシスの部下)も同じです」

 

「そうか」

 

 もう何も言うまいと思った。

 リビルドシティの方はゼネシス様とオードン、カーマン達に任せてある。

 

 オードンの「どんな手を使ってでも出世してリビルドアーミーを変える」と言う願いが叶ったのも皮肉ではある。

 

「念押ししておくが、リビルドシティはこれから大変だ。どの道以前のような力任せの振る舞いは許されん。ただ強いだけでなく、政治的な感覚が重要になってくる」

 

「ええ――ジエイタイともう一つの世界との交流、周辺地域との関係改善をどう上手く進めるかがこれから重要になってくるんですね」 

 

「そうだ。アーティス様なら上手くやれると思うがまだ若い。出来る限り心労や負担を取り除かねばならん」

 

「アーティス様の事を信頼なさると?」

 

「信頼しているが、経緯はどうあれリビルドアーミーを変えたのは私でもオードンでもない。アーティス様だ」

 

 私はこう続けた。

 

「例えそれがノアの思惑の一部だったとしても、ジエイタイやもう一つの世界の力を借りたとしてもだ」

 

 と。

 そしてこう付け加えた。

 

「それに今の仕事には満足している。少なくとも野盗みたいな真似をしなくても済むからな」

 

「ですが辛い道程ですよ? 未だに我々の事をよく思っていない人々は沢山います。それに離反した連中の討伐隊を編成しなければならないでしょう」

 

「スカーレット、君は優秀な副官だ。私がそれを理解していないと思ったのか?」

 

「確かにそうですが――」

 

「話に聞けばジエイタイそう言う時期があったと聞くしな」

 

「あのジエイタイがですか?」

 

 不思議そうにスカーレットは言った。

 私も最初は驚いた。

 

「そうだ。昔は軍隊ごっこしている連中だの何だの言われて世間からのイメージは低かったらしい。それどころか以前は我々リビルドアーミーのように他国へ侵略活動すらしていたようだ」

 

「そんな事が……」

 

「深い理由があるそうだが、侵略は侵略だとジエイタイの連中は言っていたよ。その戦争に敗北し、ジエイタイが誕生したらしい」

 

「そう言えばジエイタイとはどう言う意味で? 軍隊ではないとかどうとか言っていたような気もしますが」

 

「君も勉強しているのだな――その辺は私も調べたが相当複雑な経緯があるらしい」

 

 敗戦国になり、戦勝国の主導の下で国は再建されていき、今に至ると言う。

 時間がある時にでも学んだ方がいいか。

 

「我々もなれますかね? ジエイタイのように」

 

「なるならないの問題ではない。ならねばならんのだ」

 

「……はい!」

 

 我々の道程はとても険しい茨の道だ。

 だが成し遂げねばならない。

 それが今の私の目標であり、夢だ。 

 

 



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リオの物語

 Side リオ

 

 これは私とパメラとパンサーが自衛隊と出会う前の物語。

 

 私とパメラは日々は大変だったが村で生活していた。

 

 物心を付いた時から生きる事の厳しさを教えられる。

 

 銃の扱い方とかも教わる。

 

 畑仕事とか労働も頑張らないといけない。

 

 女の場合は特に辛い。

 

 政略結婚の道具などにされたりするし、最悪身体を売って稼がないといけない。

 

 だけどそれすら天国だと知ったのは故郷が滅んだ時だ。

 

 住む場所も財産も全てなくなった。

 

 そして各地を一緒に脱出したパメラと放浪した。

 

 私達は励まし合って生きてきたが辛い生活だった。

 

 身を売る事も何度か考えた事もある。

 

 そうして恩師である女性に拾われた。

 

 恩師である女性は私達に生きる術を教えてくれた。

 

 厳しさと優しさを兼ね備えた女性だった。

 

 正直私とパメラはこの女性の事を信用していなかった。

 

 弱者は強者に食い物にされる。

 

 それがこの世界の常だから。

 

 何か裏があるに違いない。

 

 私はそう思って警戒していたが、同時にもうあの日々には戻りたくないと言う気持ちもあった。

 

 そうして数年が経過した。

 

 私は殺しの術を。

 

 パメラは技術や数学を学んだ。

 

 私の心配――恩師である女性は聖女のような女性だった。

 

 強くて、厳しくて、優しくて――

 

 そんな女性だった。

 

 そして――独立の日は唐突にやって来た。

 

 恩師の女性の死。

 

 最後に彼女の口から聞かされた言葉。

 

 ――お前達との日々は楽しかった。

 

 死を悲しんだ。

 

 とても辛かった。

 

 だけど生きるためには下を向き続けてはいられない。

 

 私達は懸命に生きるために頑張った。

 

 パンサーと出会ったのはその頃だ。

 

 最初は競争相手だったが色々とあって気が合い、共に行動する事になった

 

 私とパメラ、パンサーの三人で仕事をやる。

 

 そうして生活が安定し始めてきたが、貧乏暇なしな状況で予断を許さない状況だった。

 

 正直依頼とは言え、グレイヴフィールド行くのは危険だとは思ったが、チャンスにはそれ相応の危険はある物だ。

 

そうして飛び込んで――彼達と出会った。

 

 自衛隊の人達に――

 

 そこからも色々と大変ではあったが生活その物はまるで天国だった。

 

 食べる物にも着る物にも水にも困らない。

 

 水浴びどころかお風呂やトイレもしっかりしている。

 

 そして彼達は成し遂げた。

 

 ヴァイパーズやリビルドアーミー、フォボスすら打倒して見せた。

 

 この荒廃した世界は徐々にだが良くなくなってきている。

 

 師匠が、あの人が見たらどう思うだろうか……

 

 出来るのならばもっと傍にいて欲しかった。

 

 

 私はキンジ達に無理に言って恩師の、師匠の墓参りをした。

 

 キチンとした墓を作り、そしてパメラと一緒に花束を捧げた。

 

 キンジ達は気を遣ってくれて席を外してくれた。

 

 私達、懸命に生きたよ?

 

 愛する人にも恵まれたんだよ?

 

 信じられないでしょう?

 

 私も今でも信じられない。

 

 それでね、決めた事があるんだ。

 

 師匠が私にしてくれたように、キンジ達が私達にしてくれたように、キンジと一緒に幸せの輪を広げていこうって。

 

 具体的にどうすればいいのか分からないけど。

 

 けど、キンジ達と一緒ならきっと見つけられると思うんだ。

 

 だから見てて師匠。

 

 私達のこれからを。

 

 私達が作り出す未来を。

 

 



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パンサーの物語

 Side パンサー

 

 私は何処で産まれたのかどうか分からない。

 

 名無しの女の子。

 

 様々な場所を渡り歩いていくウチに――家族と呼べる場所はあった。

 

 だがその家族も無残に壊されるのなんてのは日常茶飯事。

 

 パンサーと言うのは崩壊したグループ名だ。

 

 そのグループが崩壊したその日から私はパンサーを名乗る事になった。

 

 

 私は思うに腕が立って、運も良かったのだろう。

 

 人にも恵まれた。

 

 でなければ体を売る事を真剣に考えていたかもしれない。

 

 幸か不幸か男好みの体をしているらしいし。

 

 何時しか私は様々なグループを転々として傭兵稼業を続けていた。

 

 女一人でやるのは当然苦労した。

 

 特に男子所帯だと、自分の体――特に大きな胸が災いしてトラブルの種になって、私は男と言うのを学んだ。

 

 自然と女性所帯と一緒に仕事をやるようになって、行きついた先がリオ達だった。

 

 リオとパメラは元々有名なコンビであり、何度か競い合うように仕事をした事もある。

 

 腕試しにパワーローダー同士で勝負をした事もあった。

 自分はパワーローダーの操作技術には自信がある方だがリオは私よりも上だった。

  

 それからリオを意識するようになったと思う。

 

 それからチョイチョイ組むようになり――

 

 そしてあの事件が起きた。

 

 

 周囲をパワーローダーに囲まれる。

 相手は商売敵たち。

 傭兵と野盗の家業を両立してやっているようなチンピラが相手だ。

 

 偽の依頼を掴まされて私とリオ、パメラは囲まれてしまった。

 

『私達を嵌めるなんていい度胸じゃん』

 

『パンサー、やれる?』

 

『勿論だよ』

 

 そして私とリオは競い合うように敵を倒していった。 

 圧倒的に不利な状況だったが敵は想像以上に素人だらけで仲間同士の射撃武器で同士討ちする始末だ。

 半数も減らしていくと逃げて行った。

 

 誇り高い死よりも無様でもいいから生き述べればいい。

 そう言う思考が普通なのだ。

 

 ましてや相手はチンピラ紛いの傭兵である。

 根性なんて期待する方が馬鹿なのだ。

  

 

 この事件以降から本格的に行動を共にするようになり、そしてシップタウンでの依頼から自衛隊の人達に出会う。

 

 自衛隊の人達は本当に不思議な人達だった。 

 

 立派な軍事組織のわりに武装は貧弱。

 

 なのにとても気前がいい。

 

 リビルドアーミー襲来の時なんかも自分達よりも私達の事を心配するような精神性だった。

  

 まあだからこそ、リビルドアーミーの支配地域を変えられたのだと思う。

 

 この第13偵察隊に居続けるのもそう言うのだろう。

 

 もしも自衛隊が、ただ物を配って威張り散らすだけの奴だったら私だけでなく、パメラやリオも早々に見切りをつけていただろう。

 

 この世界で生き抜くには強いだけではダメなのだ。 

 

 人を見る目も大切なのだ。

 

 そして私にとって自衛隊の人達は――少なくともこの世界にいる自衛隊達は見る目が適った人達だった。

 

 この人達の誰かとなら結婚してもいいかな、なんて考えている。

 

 これは私に限った話ではなく、他の女性達もそう言う考えを持つ者は多くいた。

 

 そう言う点ではリオやパメラがとても羨ましかった。

 

 私も巡り合えるかな。

 本気で愛せる相手。



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大規模模擬戦

Side 自衛隊のとある高官

 

 今回の模擬戦は多くの軍事関係者が詰めかけていた。

 霞が関の先生方も足を運んできている。

 

 模擬戦の内容は簡単に言ってしまえば現代兵器VS未来兵器。

 

 あの世紀末の世界で得た戦闘兵器、パワーローダーの比較試験だ。

 

 しかも未来兵器を扱う側はエース部隊も混じっている。

 

 第4小隊。

 

 第7偵察隊。

 

 そして第13偵察隊。

 

 今では世界を救った部隊と言われている。

 

 彼達の噂を聞きつけたのか米軍までも観戦に駆け付けている。

 

 戦いはドローンを活用した映像が大型スクリーンに映し出される形だ。

 

 

 Side 自衛隊 通常兵器部隊サイド

 

 戦車や戦闘ヘリまで出しての大規模な模擬戦。

 相手は未来兵器で身を包んで実戦経験が豊富な部隊だと言う。

 

 なんでも世界を救ったとか何だとかそう言うエリート中のエリート部隊だとか。

 世界を救ったと言われる部隊の話は有名であるが、自衛隊の人手不足を解消するための広報戦略と言う見方もある。

 

 そう言うのは創作物だけの話で誇張が過ぎると。

 

 かく言う自分や周りもそんな感じだった。

 

 

 模擬戦がスタート。

 

 まず最初は日本で編成された通常部隊。

 

 10人の分隊規模の新米部隊である。

 

 こちらは戦車や戦闘ヘリを含めた中隊規模(約200名)だ。

 

 脅威ではあるが、動きがギコちない。

 

 まだパワーローダーと言う兵器に慣れていないのだろう。

 

 分隊規模とは言え、中退規模の自分達相手に被害は出ている 

 

 これだけでも驚異的な戦果とも言える。

 

 だが同時に期待外れ感があった。

 

 いくら未来兵器でも現実はこんなもんかと。

 

 そんな認識は崩れ去った。

 

 

 あの荒廃した世界所属の第四小隊。

 

 世界を救った部隊の一つ。

 

 選抜メンバー十人からの相手だった。

 

 漆黒のドランと呼ばれる機種のカスタムタイプのパワーローダーを身に着けている。

 

 いざ模擬戦が始まってみると、最初に戦った部隊が別次元とも思える程の戦闘力だった。

 

 とにかく早く、的確に敵を見つけ出し、瞬く間に撃破判定を出していく。

 

 まるでタイムアタック状態だった。

 

 

 Side 自衛隊 新米パワーローダー部隊。

 

 我々はパワーローダーと言う兵器の認識を改める必要があると感じた。

 

 今眼前で行われている訓練はそれ程の内容だった。

 

 地上を猛スピードで滑走し、次々とアグレッサー相手に撃破判定を与える姿。

 

 エースと呼ばれる姿に相応しい。

 

 同時に自分達の未熟さを痛感する事実であった。

 

 この日のために厳しい選考や訓練を受けて乗り切ってきた。

 

 だと言うのに自分達の結果は何なのだ。

 

 ようするに自分達は天狗になっていたと言う事を思い知らされた・。

 

 

 次の第7偵察隊はよりチームとしての完成度が高かった。

 

 使っている機種もバラつきがあるが、高度な連係プレイであっと言う間にアグレッサー部隊を撃破していく。

 

 最後の第13偵察隊はまるで第7偵察隊のスコアに挑むような撃破スピードだった。

 

 第4小隊の選抜部隊も凄かったが、第7と第13偵察隊は噂通りの別格だった。

 

 同時に思った。

 

 自分達もこの領域に至りたいと思った。

 

 あんな風にパワーローダーを動かしたくてたまらないと。

 

 戻ったら早速訓練だと思った。

 

 

 Side 緋田 キンジ 一尉

 

 正直言うと別の意味で実践より緊張した。

 

 お偉方の前で、こんな大舞台で実践での成果を披露するなんて――境界駐屯地で自衛官やっていたあの頃からは考えられなかった。

 

 出世したと言うことだろうか。

 

 第7偵察隊のスコアをどうにか抜けたし、今日はもうこれで終わりかな~などと思っていたら――

 

「なんだ、もう帰る気でいたのか」

 

 そこで佐伯 麗子。

 今は昇進して三佐になってる――が現れた。

 

 

『まさかこんな大舞台で第七偵察隊と模擬戦するとはな』

 

 俺もキョウスケと同じ気持ちだった。

 相手はやる気満々なようだった。

 

『しゃあない。リオから発破かけられたからな』

 

 そう言ってやる気を奮い立たせる。

 

『俺もパメラから言われたし、頑張るとしますか』

 

 キョウスケも俺と同じような理由でこの模擬戦に勝つ気でいるようだ。

 他の隊員からは「張り切りすぎてミスしないでくださいよ」と茶化されたので「お前らも相手みつけろ」と返しておいた。

 

 

 Side 自衛隊 新米パワーローダー部隊。

 

 第7偵察隊と第13偵察隊との模擬戦。

 

 それは世界最高峰の戦いだった。

 

 地上と空中を自由に行き交い、激しく位置取りして相手に食らいつく。

 

 まるで人型の戦闘機同士のような激しい戦いだ。

 

 その光景に圧倒されたのか、誰もが黙って戦いの行く末を見守っている。

 

 もしもこれが模擬銃ではなく実銃だったらもっと激しくなっていただろう。

 

 思わず手に汗握って魅入ってしまう。

 

 興奮してしまう。

 

 同時に悔しい。

 

 この戦いに交じれない事が。

 

 まるで高度な戦闘機同士の曲芸飛行。

 

 実戦で磨かれた粗削りだが高度なテクニック。

 

 それが戦いの中でより鋭く、より高度に昇華されていく。

 

 だがこれが戦いである以上、勝敗は決してしまう。

 

 最後は隊長機同士の一騎打ち。

 

 互いに死を恐れていないかのような接近戦での荒々しい激突。

 

 僅差で緋田 キンジ率いる第13偵察隊の勝利で終わった。

 

  

 後にこの訓練は日本や世界におけるパワーローダーの訓練に大きな影響を与え、伝説となる。

 

 同時に第4小隊、第7、第13の肩書きに偽りなしと世に知らしめる結果となった。

 

 

 



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第2部:もう一つの異世界
プロローグ:新しい異世界への扉


 Side 第7偵察隊隊長 宮野 ヒデト 一尉

 

 フォボスとの戦いが終わり、少しばかりの時間が経過した。

 

 あの荒廃した世界は復興に向けて動き出し、自衛隊も治安維持活動などで忙しく動き回っている。

 

 元の世界はフォボスの大規模世界侵攻で混乱しているが徐々に混乱は収束しつつある。

 

 そんなご時世の中で大事件が発生した。

 

 自衛隊の駐屯地の一つ、狭間駐屯地の消失である。

 

 それが飛ばされた世界に行かなければならない。

 

 あの荒廃した世界の自衛隊基地ならともかく地球の自衛隊駐屯地の通常戦力では相手によっては全滅もありえるからだ。

 

 本当は第四小隊や第13偵察隊の力も借りたかった。

 

 だが第4小隊は忙しいし、第13偵察隊も忙しい。

 

 手が空いてるのは自分達、第7偵察隊含めた他の部隊と言うことであった。

 

 不幸中の幸いでプレラーティ博士の尽力により、すぐに転移場所やゲートの生成は出来た。

 

 パワーローダーを身に纏い、出来うる限りの重武装で急遽編成された一個大隊と一緒にゲートを潜る。

 

 

 昼間の狭間駐屯地に辿り着くと既に戦闘に入っていた。

 

 戦闘は謎のパワーローダー同士……いやパワーローダーに似たファンタジー系な造形の見たこともないパワードスーツが地上や空中で戦っていた。

 

 仲間割れか?

 

 それとも自分達を助けてくれているのだろうか?

 

 それはそうとこれではどちらが敵でどちらが味方かは分からない。

 

 それにあの未知のパワードスーツは接近戦を主体に戦うようだ。

 

(まずいな……)

 

 パワーローダーの火器は(物によるが)戦車すら破壊できる。

万が一味方だった場合、当てるワケにはいかない。

 

『こっちに襲い掛かって来た!!』

 

 同じ第7偵察隊の隊員、日高 ヨウコが攻撃を避ける。

 敵は銃のような外観の兵器から未知の光線兵器を搭載しているらしい。

 

 僕は(やるしかない!!)と腹を括る。

 

『第7偵察隊は敵の迎撃に当たる!! 味方の被害を最優先に抑えるために追い払う事だけを考えるんだ!!』

 

 そう言ってパワーローダーギャリアンからパワーローダー用のライフルを発射する。

  

 

 どうにか追い払う事に成功した。

あのファンタジー系のパワードスーツ集団は恐ろしい事にパワーローダーに匹敵する戦闘能力を持っていた。

 

 自衛隊側も被害は出ているが、状況を考えれば不幸中の幸いだろう。

 

 現在ゲートから続々と新たな部隊が到着して負傷者の手当てや基地のインフラの確認、防衛陣地の構築を行っている。

 

 ひとまず状況は落ち着いたが一体何が起きているのだろうか?

 

 そして残ったパワードスーツ部隊、その先頭にはドラゴンような翼を持ち、尻尾がある金色の一本角を持つ白いパワードスーツ。

 ファンタジー物に出てくる騎士のようなデザインのようであり、どこか生物的な要素を感じられる。。

 それが武器を捨てゆっくりと僕達の眼前で立っている。

 全高は2mあるかないかぐらいか。

 そして装甲が開き、中から現れたのは――

 

『え!?』

 

 白髪の中性的な顔立ちの優しそうな少年、いや少女?

 パイロットスーツのようなピッチリとした黒と白のボディスーツに身を包んでいる。

 年齢はまだ十代半ば。

 立ち振る舞いも粗野な感じはしない。

 体つきは線が細くて分からないが鍛えられているように見受けられる。

 

 何故だかあの荒廃した世界で出会った騎士団の少女を思い出す。

 

「僕はバハムス帝国の皇子、フィア――僕に敵意はありません。それで貴方達は何者なんでしょうか?」

 

 それが第二の異世界との物語のはじまりだった。

 



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第一話「第2の異世界へ」

 Side 緋田 キンジ 一尉

 

 俺達はあの荒廃した世界の旅を続けていた。

 

 プレラーティ博士はバックアップに回り、ヴァネッサにパワーローダーのオーバーホールを頼んで別行動。

 

 第13偵察隊はリオやパメラ、パンサー達と一緒に今日も行動する。

 

 

 とある町にて――   

 グレイヴフィールドから少し離れたとある町にて。

 俺はパワーローダー、フェンサーを身に纏いながらオーガの群れと激しく銃撃戦を行っていた。

 

 オーガは狂暴でダークファンタジーの世界から抜け出たような生物であり、バカ力でミニガンを振り回す程のパワーを持つ。

 タフで並大抵の銃火器が利かない。

 

 そんな生物相手にパワーローダーの大口径火器を叩き込む。

 

 オーガは弱点として知能指数が見掛け通りに低いので十分な火力を保持していれば簡単な罠にも引っかかりやすい。

 

 面白いように策が嵌まり、その数を減らしていく。

 

「いや~なんと言えばいいのやら」

 

『それが自分達、自衛隊の仕事ですから』

 

 町の住民に感謝され、そう返すが後ろでキョウスケは笑いを堪えている。

 分かってるよ。

 自分には似合わないって。

 

『でもキンジ。実際この小さな村でオーガを救うってとんでもない事だよ――他の人のために報酬をある程度要求しておいた方がいい』

 

『そうだな』

 

 と、リオからアドバイスを受ける。

 本来、自衛官が一般市民に助けた報酬を要求するのは言語道断事だが、この世界では日本とは根本的に事情が違う。

 

 自衛隊たちはタダで助けてくれたのに君達は報酬を要求するとは何事だと言う話になる。 

 最悪この村は誰にも助けて貰えなくなるなるからだ。

 

「いつも通りこう言うのは私の出番ね」

 

 と、パメラが出る。

 パメラはメカニックだけでなく、こう言う商談を一手に引き受けて来た経緯を持つのだ。

 

 そうして村長と報酬のアレコレで交渉して、村で一泊して祝勝会を開くこととなった。

 

 自衛隊に起きた大事件。

 

 自衛隊の駐屯地が一つ異世界にもろとも転移したと言う話を聞いたのはこの後だった。

 

 

 超特急でグレイヴフィールドの自衛隊基地に戻り、そこからプレラーティ博士の下を経由して異世界に転移した狭間駐屯地へと向かった。

 

 本当に強行軍である。

 

 念のため、アインブラッドタイプを含めた以前使用していたパワーローダーが必要になると感じたので、ヴァネッサにも連絡を入れておいた。

 

「基地の外――凄い緑豊かだね。心なしか空気も根本的に違うみたい」

 

 と、狭間基地に辿り着いたリオが言った。

 

「来たようだね」

 

「宮野一尉――」

 

 ここで宮野一尉が現れた。

 第7偵察隊の隊長で先行してこの世界に来て一戦おっぱじめていたらしい。

 

「ある程度移動中にどう言う世界かは聞いている。パワードスーツがあるファンタジー世界なんだってな」

 

「そう言う事になるね」

 

 自衛隊がファンタジー世界に行くのは創作物でよく聞く話だがまさかのパワードスーツ物である。

 

 まだパワードスーツで巨大ロボットとやり合うよりかはマシかと思う。

 

「この世界もこの世界で物騒みたいだな」  

 

「まあね」

 

 俺は周りを見渡しながら言う。

 イージスアショアを中心にレールガン砲台やらレールガンタンク、レーザータレット。

 アサルト型、セントリー型、ドローン型のロボットまで導入している。

 それに生物が焼け焦げたような独特な死臭の濃さ。

 

 油断は禁物らしい。

 現代兵器で異世界無双などとは考えない方がよさそうだ。

 

「とっ、早速お出ましか!?」

 

 サイレンが鳴り響いた。

 急いでパワーローダーを装着し、上の指示に従い迎撃態勢をとる。

 

 敵は――ファンタジー物に出てきそうな重騎士たち――報告にあったマジックメイル達だった。

 

 それが地上と空中から来ている。

 

 パワーローダーの攻撃を盾で防ぎ、中にはバリアのような物を張って火球や光線を放ってきたりしてくる。

 

 応戦して射撃するが違和感を感じる。

 

『ッ! 電波障害云々の話は本当らしいな!』

 

 この世界ではどう言うワケかレーダーやセンサーに影響が出るらしい。

 パワーローダーのロックオン機能やレーダー機能もどこまでアテになるか分からない。

 

 まるで地球の現代文明の天敵のような世界だがやるしかない。 

 

 



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第二話「マジックメイルVS自衛隊」

 お待たせしてもうしわけございません。
 最新話の投稿です。


 Side 緋田 キンジ 一尉

 

 色々と聞きたい事、確認したい事は沢山あるが今はこれを乗り越えてか

らだ。

 

 敵の数は300程。

 全員がマジックメイルによる部隊だ。

 

 万が一自分達が敗北して突破された時は戦車や戦闘機を容易に破壊できるパワーローダーと互角にやり合える異世界産パワードスーツがゲートの向こう側に乗り込んでくる。

 

 そうなった先は考えるまでもないだろう。

 

『こっちは12・7mm以上の火器を使ってんだぞ!? あいつらどんな装甲や魔法使ってやがる!!』

 

 パワーローダー、バレル(通称ガンキャノ〇)で必死に応戦しながらキョウスケが叫ぶ。

 自分達がよく知る異世界ものなら自衛官の普通科が使うアサルトライフルでばたばた倒れていくのに相手はパワーローダーが使うアサルトライフルでも倒すには至らなかった。

 

『文字通りの魔法の技術なんだろうさ!!』

 

 と、俺はパワーローダー、フェンサーで応戦しながら返しておいた。

 なんかそう言う世界観っぽいしな。

 

 敵は想像以上に強いが、倒せないと言うワケではない。

 リオもゲイル(フライト仕様)で空中戦をこなしながら戦い、パンサーもジェネの手持ち式レールキャノンとビームカービンで的確に敵を減らしていく。

 

 女性WACコンビのブロッサム(通常仕様)も連係プレイで対応し、ルーキーや他の隊員のドラン(通常仕様)も皆の活躍に食らいつくようにして敵を減らしていく。

 

 さらにこの基地に配備された戦力に第7偵察隊の宮野一尉率いるパワーローダー隊がいる。

 

 砲台も無人機もフル稼働で敵を減らしていく。

 

 特にレールガンタンク(先行配備型)やレーザーガトリング対空迎撃車両(先行配備型)のコンビが凄く活躍している。

 

 レールガンタンクが敵の部隊を纏めて吹き飛ばし、レーザーガトリング対空迎撃車両が近寄る空中の敵を片っ端から消し炭に変えていく。

 

 搭乗員も世紀末世界でスキルを磨いた凄腕である。

  

 他にも特科部隊(砲兵部隊)がドローンやパワーローダー隊の観測データーを基に近距離砲撃を実行。

 砲弾も世紀末世界の技術で強化された特注の奴だ。

 隊員曰く、「要塞だって吹っ飛ばしてやるだ」そうだ。

 

『敵の隊列が乱れて来たぞ!!』

 

 キョウスケが言う様に此方の猛攻で敵の隊列が乱れ始めて来た。

 そこを後方で控えていたレールガンによる狙撃部隊が襲い掛かる。

 味方ながら容赦がない。 

 

 中には対物狙撃銃でマジックメイルをヘッドショットして相手の首の骨をへし折る生身の隊員もいた。

 

 

 Side 敵の隊長機 デスモンド

 

『クソ!! クソ!? 異世界の軍勢がこれ程強力だとは――』

 

 想定外の強さだ。

 何度か攻め続けているが基地の辿り着く前に敵のマジックメイルに敗北している。

   

 更には見た事もない鋼鉄の塊に大きな大砲や筒をつけた兵器(*レールガンタンク、レーザーガトリング対空迎撃車両)などが現れて纏めてマジックメイルを吹き飛ばしてしまう。

 

 異世界の技術を収集し、逆族皇子を討伐するための任務がどうしてこんな事に。

 

『敵の援軍!! 反乱軍です!!』

 

 味方の報告が魔導通信で耳に入る。

 兵達が動揺する。

 

(今の劣勢状態で反乱軍は加わったら――)

 

『デスモンド様!? ここは――』

 

『分かっている!! 撤退しろ!!』

 

 副官に言われて私は撤退を決意した。

 この屈辱は忘れんぞ異世界軍。

 

☆  

 

 Side 緋田 キンジ 一尉

 

 取り合えず敵を撃退し、戦闘態勢のまま宮野一尉と話をする。

 パメラやキョウスケがパワーローダーの整備をしているが俺と宮野一尉は重要な話があるので軽く点検だけで済ませて後回しにしてもらった。

 

『で? 俺達何処まで話したっけ?』

 

 復習も兼ねて宮野一尉にそう尋ねると『たいして説明していないよ――』と返す。

 続けて彼はこう言った。

 

『今は帝国軍と反乱軍との戦いに巻き込まれて反乱軍との戦争に加担してしまっている状態だ』

 

『第3次世界大戦(*第一部ラストあたりの出来事)が終わった後だってのに――大丈夫か?』

 

『日本は前例がない事態にはとことん弱いけど、一度前例が出来てしまえば対処できる国だからね』

 

『それはごもっともだな……』

 

 つまり大丈夫ってことらしい。

 日本も変わったもんだ。

 

『その帝国軍と反乱軍の戦いはどういう理由だ?』

 

『悪政を働く帝国に皇子様自らが立ち上がって反乱を引き起こしたと言ってるね』

 

『本当かそれ?』

 

『本当かどうか分からないから自衛のための戦闘に留めている。本当は政治家や外務省の出番なんだけど――以前に(*)大失態しちゃったせいなのか、僕達に丸投げ状態らしいよ』(*;第一部・第二十三話「思想の対価」参照)

 

『そうか……』 

 

 第三次大戦後のごたごたもあるがまだ外務省も政治家も立ち直れていないのか。

 もしくは手柄泥棒するタイミングでも見計らっているのか。

 俺としては後者だと思う。

 

『で? 今回の一件――駐屯地の転移は反乱軍か帝国軍か、どっちが関わってると思う?』

 

 俺はその事を尋ねた。

 

『正直言うと分からない。どっちもやる理由が十分あるからね』

 

 帝国軍も反乱軍も動機は揃っている。

 だがどうして自衛隊の駐屯地もろとも?

 

『それと聞き流せない情報が一つある』

 

『なんだ?』

 

 宮野一尉が聞き流せない情報に俺は不安を覚えた。

 

『どうやらこの異世界に飛ばされたのは境界駐屯地だけじゃないみたいなんだ』

 

 それを聞いて俺はどんな表情をしただろうか。

 驚いたと言うよりも俺は耳を疑ったと思う。

 




 徐々にですが以前のペースの投稿感覚に戻せるように頑張りたいと思います。


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第三話「道中にて」

 Side 緋田 キンジ

 

 何時までも基地に引き籠っているワケにもいかないので、情報を集めるために近くの村に行く事にする。

 

 それに第7偵察隊の隊長、宮野一尉が言っていたように自分達、自衛隊以外にも転移者の存在が確認されているらしい。

 

 俺はその事が気掛かりだった。

 

 他にもこの世界はレーダーが効きづらく、絶えず偵察機を飛ばしておかないといけないようだ。

 今も上空を偵察中のヘリや飛行機が飛んでいる。

 哨戒中のパワーローダー隊の姿もあって偵察仕様のドランが最低でも一機随伴している。

 

 セントリー、アサルト、浮遊型のロボットなどはこの世界の性質だと諸刃の剣に、一般市民に危害を加えかねないので使用は控えているらしい。

 

『まあ任務だからって言うのもあるが、本当のところはどうなんだ?』

 

『どうって?』

 

 荒廃していた世界で使用していたトレーラーを護衛する形で俺とキョウスケはパワーローダーを身に纏い、周囲を警戒しながら前進していた。

 

『自衛隊とかの任務抜きでだよ。まあ不謹慎だけど新たな異世界にワクワクしてる部分もあるっちゃあるけどな』

 

『遠足気分だな。まあ自分も似たようなもんだけど――それにリオも嬉しがってる』

 

『パメラもだよ。日本にいた時はあまり大自然って奴を見せてやれなかったからな』

 

 あの荒廃した世界では大自然ってのは宝石や金銀財宝並みの価値がある。

 リオやパンサー達はパワーローダー越しでも分かるぐらいにこの世界の自然に興味深々だったようだ。

 

『それだけでも来た価値があるってもんだな。それにまだ魔法があるって分からないが正統派っぽい異世界だもんな』

 

『確かにワクワクするよな。まあ――現代火器で無双ってのは出来ないみたいだが。そう言うの考えたの誰が最初なんだ?』

 

 ふと俺はそんな事を疑問に思った。

 

『なんとかの使い魔とかが最初らしい』

 

 うろ覚えながらそのタイトルを出されて俺は『ああ、あのタイトルか……』となった。

 

 銀座に異世界のゲートが開かれた奴と一緒に参考図書として読んだ経験がある。

 

 どちらかと言うと、『どうして現代兵器が異世界で無双できる認識になったか』と言う理由でだが。

 

『他にも――宮野一尉の言葉が気になる』

 

『狭間駐屯地以外にも飛ばされてるって話か?』

 

『正直嫌な予感がしてな』

 

『……フォボスやノアの事件でちょいと過敏になってるんじゃないのか?』

 

『それもあるかもな』

 

 フォボスやノアは呪詛めいた最後の言葉を残していた。

 既にくたばって今回の一件で何かしらの関りがあるとも思えないが。

 だが時折妙に気になる時があるのだ。

 

『俺もそんな時もあるが――まあお互い無理せずにな』

 

『ああ』

 

 正直この事件もどうなるのか――放置してたらしたらで前回並みかそれ以上の大災厄になりそうな気もするがまだそうなるとは決まったワケではない。

 

 自衛隊は神でも預言者でもないのだ。

 

 今は無理せずに頑張る事を考えればいいと思った。

 

『そろそろ村だぜ』

 

 キョウスケに言われて気づく。

 村の周囲は木々や柵で覆われ、自然豊かなせいか観光地にも見える。

 

『ああ。歓迎してくれるといいんだが……』

 

 と、冗談めかしに言うが。

 

『挨拶代わりに魔法をぶっ放されるのは勘弁な』

 

 続けてキョウスケが言う。

 ここは内乱中の国である。

 門の前には土色の鎧――エネルギー反応からしてマジックメイルに弓や剣、槍を持った見張りがいた。

 

 マジックメイルはともかく弓や剣、槍で見張りをしている人間を見てこの世界の世界観を丁寧に解説してくれているようであった。

  

『と、止まれ! この村になんのようだ!』

 

『こっちもワケの分からん世界に放り込まれてな。情報収集のためにこの村へ立ち寄っただけだ』

 

『……そちらのマジックメイル(*キンジたちのパワーローダーのこと)は置いていけ。全員は中に入れることはできない。監視もつけさせてもらう』

 

 との事だった。

 俺はその条件で『分かったよ』と返事をした。

 

 かなり警戒心が高いが内乱中の国の村はこんなもんかと思った。

 

 こうして俺は村の中に入る事にした。



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第四話「プルミア村」

 Side 緋田 キンジ

 

 メンバーを半分に分けてこの村――プルミア村と言うらしい――に入る。

 リオがどうしても付いて行きたがったのでリオも連れていく。

 

 もう半分はキョウスケに任せる形になって「リオとのデートを楽しんで来い」と言われた。

 中学生かお前は。

 

(それにデートって言う雰囲気でもないよな)

 

 プルミア村はかなりピリピリしている。

 村の中に入ると木造住宅が並んでおり、そこに武装した民兵が徘徊していた。

 俺達は民兵と土色のマジックメイルに囲まれる形で村長の屋敷に案内された。 

 

「君達だなこの土地に召喚されたと言う異世界人と言うのは」

 

「そうです」

 

 厳密には違うのだが、ややこしくなるので話に合わせる事にした。

 

「この村には何をしに?」

 

「この国で起きている事を知りたいです」 

 

「内乱のことか?」

 

「出来れば詳しい話などを――それと自分達以外にも異世界人が呼び出されたと言う話も気になります」

 

「それだけか?」

 

「はい。我々も突然この世界に呼び出されて戦いに巻き込まれてしまって――この国の子供でも分かるような基本的な事すらも分からない危うい状態なのです」

 

「――本音を言えば長居をして欲しくない。話を聞いたら早々に立ち去って欲しい」

 

 そう言うとリオが「ちょっと――それは――」と言おうとしたが俺は手を制して「お願いします」と言った。

 

「それでいいのキンジ?」

 

「ああ。かなり危険な状況みたいだしな。話をしてくれるだけでもありがたいと思わないとな」

 

 リオに言って村長に「お話をお願いします」と言った。

 

 

「バハムス帝国軍に反乱軍、反乱軍を率いるフィア皇子――そして謎の勢力達か――」

 

「バハムス帝国ってどうしてそんなに侵略をしてるのかしら」

 

 リオの疑問も最もだ。

 

 話を整理しよう。

 

 バハムス帝国はいわゆる悪の侵略国家で様々な方面に戦争を嗾けているらしい。

 

 フィア皇子はその現状を憂いて反乱を引き起こしたのだそうだ――この一派が反乱軍と呼ばれている。

 

 そして自分達を含めた謎の勢力が帝国内に現れ始めて最近大問題になっているらしい。

 

 軍隊が壊滅したとか、見た事もない魔獣が出たとか、町が廃墟になったとからしい。

 

(どうするべきか……)

 

 今更感があるが、元々自衛隊は自国の領土さえ満足に守れるかどうかさえ怪しい軍隊ではない武装組織である。

 

 エグイ言い方をすればバハムス帝国で幾ら人が死のうが日本に影響がなければ知ったこっちゃないのだ。

 

 だがそうも言ってられない。

 

 また駐屯地もろとも自国領内に異世界転移されるような、同じような事件が起こされたらたまったものではないからだ。

 

 もしもこれが外国の軍事基地とかだったら日本政府や自衛隊の責任問題にも発展してしまうのである。

 

 だからこうして異世界で再び火中の栗を拾うような活動する事になってるのだ。

 

「どうするキンジ?」

 

「……悩んでも答えは出ないし。まだ物資に余裕があるから先に進もう」

 

 この世界ではレーダーや無線機の類が制限されている。

 何時でも何処でも補給物資や増援を呼べるとは限らない。

 なのでせめて活動ための物資は多めに持っていく事にしていた。

 

 俺は「お世話になりました」とだけ頭を下げて先に進もうとした。

 

 村が騒がしくなり、鐘を叩く音が響いた。

 

「敵襲!! 敵襲!!」

 

 と、しきりに村人が叫んでいる。

 俺達も急いで戦闘準備に入る事にした。 

 



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第五話「プルミア村での戦い」

 Side 緋田 キンジ

 

 襲撃その物は何となく想定していたが相手は想定外の連中だった。

 グリーンカラーに蛇のエンブレム。 

 マジックメイルではなく武装車両に戦闘ロボット、そしてパワーローダーの群れ。

 

 そいつらを見間違える筈もない。

 

「どうしてヴァイパーズがこの世界にいんだよ!?」

 

 ヴァイパーズ。

 世紀末世界から個人的にも自衛隊にとってもの因縁の相手だ。

 組織を纏めていた奴を倒して、残りは残党化したが――どうして別の世界跨いでこの世界で活動しているのだ。

 

 いや、それよりも――

 

(この村の戦力じゃ歯が立たない!!)

 

 この世界の軍隊とやり合ったから分かる。

 村の戦力はせいぜいマジックメイルは片手の指で数える程しかない。

 それも軍用かどうかも怪しい機種だ。

 

 既に防衛線が突破されて村の中を好き放題に暴れ回っている。

 そこにキョウスケたちがパワーローダーを身に纏い、トレーラーもろとも乗り込んできた。

 

『こいつらの相手は俺達に任せな!! すぐに着替えてこい』

 

「助かる!!」

 

 俺はパワーローダーバレルを身に纏ったキョウスケにそう言い、リオ達を引き連れトレーラーに走った。

 

 とにかく状況が状況だ。

 放置すれば秒単位で数人、人が死ぬ。

 急いでトレーラーの中に入り、フェンサーを身に纏って武器を取る。

 

『どうしてジエイタイの連中がこの世界に!?』

 

『ひ、怯むな! 数で押し潰せ!』

 

 敵も俺達、自衛隊がいる事に戸惑っているようだ。

 あの様子だと前の異世界で痛い目を見た感じだ。

 

『パメラはこの事を自衛隊基地に連絡してくれ! 最悪増援要請だ!』

 

『分かったわ!』  

 

 パメラに指示を飛ばして戦闘に入る。

 

『ヒッ!?』

 

『は、はや!?』

 

 一気に至近距離まで近づき、敵の顔面を殴り飛ばす。

 核融合炉搭載のパワーローダーが全力で殴れば相手の顔面を粉砕するなど造作もない。

 例え同じパワーローダーだとしても、相手の頭部が千切れ飛ばずともヘルメット越しに相手の顔面を粉砕する事は可能だ。

 

 その凄惨な光景にたじろいだもう一機をリオが正確に撃ち抜く。

 

『自分達の使う火器は強力だ! 下手にぶっ放すと周囲に被害が出る事を忘れるな!』

 

 と、指示を飛ばす。

 パワーローダーの火器は最低でも12・7mm弾クラス。

 そんな物を好き放題にぶっ放せば守るべき対象である村が戦いの余波で廃墟になる。

 だから慎重にならざるおえなかった。

 出来れば接近戦で確実に仕留めていきたい。

 キョウスケのバレルのような機種はこう言う局面では不利だ。

 背中の二門の大砲の火力が周囲の被害を考えた場合、逆に足枷になってしまう。

 

『つまりこう言うことだろう!?』

 

『ガハッ!?』

 

 だがキョウスケも、パワーローダーでの戦いは慣れたもんであり、接近戦に持ち込んで相手のパワーローダーの顔面を殴り飛ばす。

 

 他の隊員も同じで拳やビームサーベルなどで白兵戦を挑んで敵を蹴散らしていく。

 伊達に世界を救ったワケではないのだ、俺達は。

 

『おー皆やるじゃん、私も負けてらんないね』

 

 パンサーもリズムよく的確な射撃で次々と敵を屠っていく。

 建造物への被害を抑えながら戦うと言うオーダーもキチンとこなしてだ。

 

『私もキンジの期待に応えてみせる!』

 

 リオもライフル2丁持ちで上空から次々と射貫いていく。

 彼女やパンサーだけハリウッドのアクション映画のヒーローのようであった。

 

 あっと言う間にヴァイパーズは数を減らしていき、全滅も時間の問題だった。

 

『なんだこいつは!?』

 

『ヒィイイイイ!!』

 

 忘れていたがここはあの荒廃世界ではない。

 別の異世界である。

 

 ――グルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 全高約20m(尻尾部分含む)はあろうかと言う緑色のドラゴンがやって来たのだ。

 

 



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第六話「VSドラゴン」

 Side 緋田 キンジ

 

 なんかの小説で言ってたな。

 自衛隊が怪獣と戦うのは伝統だと。

 

 前の異世界でも三つの首があって四足歩行のサメの化け物と戦ったりしたな。

 

 などと半ば現実逃避しながらドラゴンとやり合う。

 20m程の巨体に見合わず俊敏で炎を撒き散らし、村の建造物が玩具のように破壊されていく。

 

 生物の形をした厄災。

 

 神話の一ページのような非現実的な光景。

 

 対する自分達はパワードスーツにそれ専用の重装備。

 

 なろう系小説のドラゴンならとっくの昔に瞬殺される筈だが此方の攻撃、通じてはいるんだが致命傷には至ってない。

 

 恐らくこのドラゴンはアレだ。

 

 マジックメイルを部隊規模で投入して討伐出来るとかそんな感じの扱いなんだろう。

 

『たく、まさかまさかのドラゴン退治とはな!! とんだ厄日だぜ!!』

 

 キョウスケが愚痴を言いながらバレルの両肩キャノン砲を発射する。

 ドラゴンの動きは図体によらず俊敏とはいえ、キョウスケの腕とこの距離ならまず外さない。

 胴体に直撃する。

 

 が――

 

『大して効いちゃいないか……』

 

 呆れたようにキョウスケが言った。

 

 攻撃は通っている。

 だが致命傷には至っていない。

 鱗を吹き飛ばし、黒い焦げ目をつけたぐらいだ。

 ドラゴンは更に暴れ狂う。

 

『で、どうする? このままだと戦闘が終わる頃にはこの村は更地になるぞ?』

 

『だからと言ってこいつを放置するワケにもいかない。キョウスケはメンバーを選抜して救助作業お願い出来るか!?』

 

『ああ、死ぬなよ』

 

『そう簡単にくたばってたまるか!!』

 

 そう言って俺はドラゴンに挑みかかる。

 ダメージは全く通ってないワケじゃない。

 

 ただ強固な皮膚に包まれていて通り辛いだけだ。

 より破壊力がある、あるいは貫通力のある武器で攻撃を続ければ倒せる。

 または強力な武器で攻撃された部位に攻撃をすればダメージは与えられる。

 

 そう思って戦いを続ける。

 

 

 Side プルミラ村 村長

 

 見た事もないマジックメイルを身に纏った兵士達に守られながらドラゴンと異界の兵士達の戦いを見つめる。

 

 多くの村人もその光景に魅入っていた。

 

 マジックメイルでもドラゴンは災害である。

 

 例えマジックメイルを身に纏っていた騎士団がいたとしても甚大な被害が出る。

 

 にも関わらず、異世界の兵は我々を助けながら少数で足止めして、避難させるために戦ってくれている。

 

 まるでお伽噺に出てくる騎士様のように。

 

 最初の襲撃からしてそうだった。

 

 今思えば率先して我々を守るために戦っていてくれていたのだろう。

 

 そしてドラゴンと戦っている現在も背中から炎を吹き出して空を飛び回り、手に持った杖のような物から強力な魔法を放ち、ドラゴンのブレスを巧みに避けながら近い距離で戦い続けている。

 

 自分なら怖くて出来ない。

 この世界の騎士でも出来るかどうか分からない戦い方だ。

 

 やがてドラゴンは傷つき、大量の血を流し、空に羽ばたいて退いていく。

 

 撃退し終えた後も彼達はそれを誇らず、ただ懸命に救助活動をはじめた。

 

 その事に嬉しさよりも逆にあきれ返ってしまった。

 

 ドラゴンを撃退出来たのなら普通は喜ぶ。

 

 大歓声を上げる。

 

 そう言う相手なのだ。

 

 にも関わらず彼達はまるで村人の命を救おうと懸命に活動している。

 

 彼達は自分達の事をジエイタイと名乗ったが――彼達は何者なのだろうか。 



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第七話「守るための戦い」

 Side 緋田 キンジ

 

 俺達、第13偵察隊は火を消すのではなく、火の回りの物をどかす、あるいは破壊すると言う方法で最小限に被害を留める方向で動いた。

 同時に火の中に突入して捨て身の救助活動も行う。

 

 並行して自衛隊の増援部隊がプルミア村に入る。

 医療体制を優先した部隊だ。

 バトンタッチして周囲の警戒に移る。

 

 敵ならこう言う時こそ仕掛けてくるからだ。

 

『たく、戦争って奴は嫌になるね!! 敵襲まで心配しなくちゃならねえからな!』

 

『ああ全くキョウスケの言う通りだよ! 噂の反乱軍の皇子様は何やってんだ!?』

 

 などと俺とキョウスケは思わず悪態をつく。

 この国が内乱中なのは分かっているがこうして無関係な人間の犠牲を目の当たりにすると愚痴の一つや二つも言いたくなる。

 

『嫌な予感はあたるみたい! 来る!』

 

 空中のリオから言葉が出る。

 敵はこの世界のマジックメイル。

 地上と空中から押し寄せてくる。

 帝国軍だろう。

 

『どうする? 説得するか!?』

 

『やるだけやってみるか!!』

 

 俺はキョウスケに言われて自棄になりながら言葉を発した。

 

『こっちは日本国の陸上自衛隊だ!! 現在この村の住民の治療を行っている!! 治療が完了次第この村から引き揚げる!!』

 

 そして帝国軍の返事はマジックメイルから放たれた火球だった。

 

『やるしかねえのかよ!!』

 

 キョウスケが怒りを交えながら攻撃を開始する。

 

『ああ、みたいだな!! 総員戦闘開始!! 村人には何があっても巻き込ませるな!!』

 

 俺も攻撃を開始した。

 

 

 Side リオ

 

(変わらないな――キンジ達は)

   

 この別の世界でもキンジたちは変わらなかった。

 誰に頼まれたワケでもなく。

 ただただ見も知らずの誰かのために戦う。

 

 それが不思議と嬉しかった。 

 そんな人だから婚約しようと思ったんだと思う。

 婚約出来て嬉しかったんだと思う。

 

(キンジ達がキンジ達であるかぎり、私も変わらない。戦い続けよう)

 

 自衛隊は例え救助された相手に文句を言われても、石を投げられても人を助ける人々だったと言われている。

 

 だが本物の殺し合い、本物の命のやり取りを経験する事になり、多くの人間が自衛隊から離れて行ったと言う。

 

 無理もない。

 

 誰だって命は惜しい。

 

 死にたいと思っても死ねない。

 

 死ぬ決断はできない。

 

 故郷の村を焼かれてパメラと一緒に彷徨って、色んな辛い事が沢山あったからそれは身を持って知っている。

 

 ここの村人をそうはさせたくない。

 

 あの世界のような出来事は広げたくない。

 

 

 Side パメラ

 

(リオも相変わらずね――)

 

 ずっとリオやパンサーを支え続けてきた。

 メカニックとしてでもなく、経済面からも。

 色々と苦労した。

 

 自衛隊との生活は大変だけど夢のようでもあり、その夢はまだ続いている。

 

 正直、男にも恵まれるとは思っていなかった。

 

(私も頑張らなくちゃね――)

 

 私はトレーラーの武装を動かし、指示を出しながら戦い続ける。

 旦那様――キョウスケはなんだかんだ言いながら面倒見がとてもいい。

 たぶん自衛隊の任務云々抜きでもこの村の事は放ってはおかないだろうし。

 

(正直リオやパンサーの事が羨ましく思うことがある)

 

 パローダーを身に纏って、カッコよく戦って、戦火を挙げて。

 時々それが羨ましく感じる時がある。

 

 だけど――私には私に出来ることはある。

 

(私は私の出来る事をしよう――)

 

 そう決意して戦いに挑む。

 

 

 Side パンサー

 

 私ってここまで付き合い良かったっけ?

 

 そう思う時がふとある。

 日本に来たり、また別の異世界にいったり。

 行く先々でドンパチ繰り広げて。

 

 リオとパメラは男を作ってそろそろ私も卒業かな~なんて事を考えたことはある。

 

 だけど、なんだかんだで孤独と言うのは辛い。

 

 孤独と言うのは怖いところがある。

 

 誰にも知られずに死んでいくのは恐怖でしかない。

 

 あの荒廃した世界を女が一人、孤独で彷徨うと言うのは自殺と同じである。

 リオとパメラのように恩師と呼べる人がいた。

 

 気の合うグループがいたがそれが全滅する事もあった。

 

 そんな生活を続けていき、徐々に精神的に摩耗していってたと思う。

 

 正直リオとパメラと出会えてよかった。

 

 自衛隊の人達に、キンジやキョウスケ達に会えてよかった。

 

 だから今は――

 

(矛盾しているかもしれないけど、今を守るために今を戦い抜く!!)

 

 私はジェネを最大稼働で振り回して次々と敵のマジックメイルを落としていく。



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第八話「守るための戦い・その2」

 Side 狭間駐屯地 基地司令

 

 狭間駐屯地で突発的に起きた遭遇戦を司令本部で耳にする。

 そこから流れてくる情報を聞いて私は思わず唸り声を挙げた。

 

「第13偵察隊――世界を救った部隊の肩書は伊達ではないか――」

 

 と。

 我々の増援もあるのだろうが世界を救った部隊の称号は伊達ではなく、今も尚戦線を支えて被害を最小限に抑えるために戦い続けているらしい。

 

「司令!! 部隊発進準備整いました!!」

 

「すぐさま送り込め!!」

 

「了解!!」

 

(時代は変わりつつあるのですね。五藤さん――)

 

 私は時代の変化を感じ取りつつ、窓から増援部隊の発進を見届けた。

 空戦型パワーローダーゲイルと戦闘ヘリを中心とした戦闘部隊。

 あっと言う間に現地に到着するだろう。 

 

 戦闘ヘリはともかく飛行型のパワードスーツ、それも小型の核融合炉を搭載した部隊を実践で投入するなど、つい最近までなら考えられなかったことだ。

 戦いは士官学校、訓練校のテキストの改革から行わなければならない段階に入ってしまっている事を痛感した。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

『ここぞと言うばかりに攻めて来やがって!? 仮にも自国の領民だろうが!』

 

 キョウスケが愚痴を言いながら敵のマジックメイル部隊を迎撃する。

 

『どうせこいつらにとっちゃ、ここの村人はどうなってもいい存在なんだろうぜ、きっと!』

 

 と言いつつ、俺もパワーローダー、フェンサーで迎撃する。

 状況はあと数分もしないウチに乱戦になるだろうと言う事だ。

 そうなったら味方だけでなく、建造物や村人への被害が拡大する。

 それだけは避けねばならない。

 

 幸いにして先の戦いで大活躍したレーザーガトリング対空迎撃車両やロボット部隊、増援のパワーローダー部隊が頑張ってくれている。

 

 だが敵も負けじと攻め立てて来て防衛がドンドン厳しくなってきている。

 いくら此方が腕利き揃いだとしても限度と言う物がある。

 

『こいつらリビルドアーミーと一緒なんだ。自分達さえよければ何だってする』

 

 そんな状況下でもリオは戦意が衰えてないのかそう言い、

 

『正直こいつらのやり方、ムカつくじゃんよ』

 

 と、パンサーもリオの意見を後押しするように言う。

 

『プロペラ音とジェット音?』

 

 耳に聞き慣れた音がする。

 

『増援よ!!』

 

 トレーラーにいたパメラが言った。

 すると空中に飛行型パワーローダー、ゲイルと戦闘ヘリ部隊がやって来た。

 

 特にゲイルは軍艦でも相手するつもりなのか、リオと違って拠点攻撃のための重装備型が混じっていた。

 他にも制空権を確保するための通常型も混じっている。

 

『援護を開始する。村の上空と外周部の連中は任せろ』

 

 それだけ言うと増援部隊のパワーローダーと戦闘ヘリから武装が次々と解き放たれる。

 

『な、なんだアレは!?』

 

『て、鉄の槍!? 矢!?』

 

『つ、追尾して――うわぁあああああああああ!!』

 

 上空にいた敵や村の外にいた敵はミサイルの餌食になっていく。

 しかもただのミサイルではなく、荒廃したあの世界で得られた技術で破壊力含む性能が増したミサイルである。

 10式戦車でも一撃でスクラップになり、想定外の頑丈さを見せたマジックメイルも容易く粉砕していく。

 

『ぎゃあああああああああああ!?』

 

『なんだこの攻撃は!?』

 

『幾ら陸戦型が頑丈でも――あああああ!?』

 

 それを逃れた敵は今度は機関銃やレールガン、ミニガン、レーザーガトリングなどを文字通り雨のように浴びせられる。

 

『に、逃げろ!?』

 

『退却!! 退却!!』

 

『こんな戦いで命落とせられっか!!』

 

 生き延びた敵は一目散に逃げて行った。

 一先ずこれで戦いは終わりである。

 

『終わった――が、素直に喜べないな』

 

 俺は周囲を見渡した。

 荒れ果てた村を見る。

 村人の今後の生活を考えると素直に喜べない。

 かと言って手を差し伸べてもいい物かとも思ってしまう。

 

『キンジ、辛い?』

 

『……ああ』

 

 その心中を察したのかリオが呼び掛けてくる。

 本当にぶん殴る相手は分かっている筈なのにそいつをぶん殴って戦いを終わらせられない自分の無力さが憎かった。

 

『隊長、とにかく現状確認と補給の準備が必要だ』

 

『ああ――』

 

 キョウスケが言う様に感傷に浸っている暇はない。

 この世界にいない筈のヴァイパーズの一件もあるし、また何かしらの脅威が来る危険性がある。

 それにここは敵の領土内だ。

 

 だから再び戦いに備えなければならない。

 

『だから戦争は嫌なんだよ、畜生』

 

 そう愚痴らずにはいられなかった。

 



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第九話「新たな出会い」

Side 緋田 キンジ 一尉

 

「村を捨てる?」

 

 日が暮れてきても村での自衛隊による救助活動が進む中、俺は村長の決断を聞いて一瞬耳を疑った。

 

「君達が必死に戦ってくれたのには感謝しているが、帝国軍に目を付けられた以上はどうなるか。それに村もこの有様では生活する事もままならん。こうなってしまった以上は村を捨てるしかない」

 

 との事だった。

 

(どうする? 止めなくていいのか? それとも保護するか?)

 

 キョウスケが当然の事を言ってくるが――

 

(ここは日本国内じゃない。戦地だ。自衛隊基地の近くに難民のための施設を作ったとしても攻撃目標になる。あの世界とは勝手が違うんだ)

 

(確かにな――)

 

 あの世界では一般人の武装が下手な自衛官よりも凶悪だった。

 ガトリングビーム砲とか戦車とかバリバリにチューニングしたパワーローダーで武装した猛者たちなのだ。

 この世界の普通の住民と比べるわけにはいかない。

 

 まあ本音を言えば放っておけないのだが、逆に付き纏うと攻撃の巻き添えになりかねない。難しいところだ。

 

 最終的な判断は村長たち次第だろう。

 

「これからどうするの? キンジ?」 

 

 ここでリオが尋ねてくる。

 

「想像以上に戦闘が激しかったからな。補給しないと――」

 

 この世界は電波干渉があるので、補給要請は早め早めにしとかないと物資が不足してしまう。 

 

「機影確認!! 反乱軍です!!」

 

 などと考え事をしていると自衛隊の隊員が慌しくなってきた。

 

「反乱軍って事は味方だよな?」

 

 確認するようにキョウスケが言ってくるので俺は「ああ――そうみたいだ」と返しておいた。

 

 

 反乱軍のリーダー。

 フィア・バハムスとその部隊だった。 

 

 白髪の中性的な美少年。

 黒と白のボディスーツ。

 

 白いドラゴンのようなマジックメイル。

 金色の一本角。

 

 画像で観た通りフィア・バハムスの特徴と一致している。

 

「で? フィア・バハムス皇子? 何しに来たんですか? もう戦闘ならとっくに終わってますけど?」

 

 と、俺はちょっと棘を含んだ言い方でフィアに接する。

 

「すみません。もっと早くに来れたら良かったんですが――戦況は余談を許さない状況で各地で帝国軍以外にも未知の勢力が暴れている以上、放っておくわけにはいかなくて」

 

「……そうですか」

 

 そう言われたら納得せざるおえなかった。

 現にヴァイパーズの残党が何故かこの世界でのさばっているのだ。

 これは撃ち漏らした自衛隊の責任でもある。

 

 そう思うとこの世界に関して責任感や罪悪感のような物を感じた。

 

「それで用件は?」

 

「この村の救援もあるんですがジエイタイの手を借りたくて――」

 

「内容によりますね。一緒に帝国軍を攻め滅ぼしましょうなんて言うのはもっと上の方に掛け合ってください」

 

「違います。異世界に通じる門です。何処に通じているかは分かりませんが奴達はそこから異世界に攻め入るつもりです」

 

「はあ!?」

 

 思わず俺は素が出た。

 

「失礼――その情報は確かなんですか?」

 

 気を取り直して俺は確認をとる。

 

「はい。仲間達がそれを防ぐために頑張っていますが一刻の猶予もない状態です」

 

 まさかまさかの急展開である。

 地球か。

 あの荒廃した異世界か。

 ヴァネッサの世界か。

 はたまた自分達の知らない世界かは分からない。 

 

 だが見過ごすにしてはとんでもない情報だった。

 

「どうするんだ?」

 

 キョウスケが判断を求めてくる。

 

 俺は「一先ず上の方に判断を仰いでくる」と言っておいた。

 

 現場の判断で決めるにしてはとんでもない内容だからだ。

 この世界に跳ばされてきた狭間駐屯地の司令官に話を通しておくべきだと思った。

 

 

 トレーラーからあの荒廃した世界で手に入れた純白の大型飛行機械、アルバトロスと言うレーダーレドームを背負った飛行機に乗り変える。

 

 これに乗るのはヴァイパーズの陸上戦艦に殴り込んだ時以来か。(第一部:第五十六話「陸上戦艦制圧作戦」参照)

 

 補給物資、荷物の搬入作業を終えて場所のチェックを行っている段階だ。

 

 フィア皇子はと言うと横になって休んでいた。

 

 傍で守っているのはリオと同い年ぐらいの女の子でボディスーツを着ている。 

 彼女もマジックメイルの装着者なのだろうか。

 長い金髪の美女。

 気高い騎士然とした佇まいだ。

 

「私に何か?」

 

「いや、皇子様疲れてるのかなって」

 

 そう言うと彼女は悲しそうに「はい――」と言った。

 

「度重なる連戦や異世界の今の騒動でクーデターは想定外に長期化してしまい、兵士達を鼓舞するために彼方此方で連戦を重ねている状況です」

 

「そうか。やらしい対応しちまったな」

 

 何だか荒廃世界と関りを持った初期の頃を思い出す。

 装備もまだ貧弱で一日何度も襲撃があって、それが毎日のように続いて――そう思うと何か悪い事をしたなと思う。

 

「申し遅れました。私はセシリー・ゴルディアーナ。セシリーとお呼びください」

 

「じゃあセシリーさん、教えてくれませんか? この国の事とかクーデターの事とか」

 

 ある程度の事は聞いてるがどうしても色んな人間から話を聞きたかった。

 

「分かりました。私の知る範囲の事を語ります」

 

 そう言って彼女はこの国で起きている事を話し始めた。 

 

 



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第十話「出発準備」

 Side 緋田 キンジ

 

 セシリーからこのバハムス帝国で起きているクーデターについて話を聞くことにした。

 

 まあ、ある程度の内容は事前に聞いているが念のためと言う奴だ。

 

「確かバハムス帝国って覇権主義国家で――侵略戦争しかけてたんだよな?」

 

 俺はこの世界での当たり前の事を聞く。

 

「はい。その野心はとどまる事を知らず、もはや戦争のために戦争をしている状態になったのです」

 

 セシリーは申し訳なさそうな顔をした。

 

「そしてクーデターを引き起こしたと?」

 

 確認のために話を続けた。

 

「はい。帝国内でもやり方に疑問視する声は多く、こうして立ち上がったのですが……まさかこんな混沌極まる事態になるとは」

 

「そもそもどうしてこんな事に?」

 

「召喚魔法を使ったと思われますが――幾ら大規模な召喚魔法を使ったとしてもここまでの事態になるとは考えられません。何か別の要因で暴走したとしか考えられません」

 

 と、セシリーは言う。

 

「召喚魔法で異世界から勇者でも呼び出そうとしたのか?」

 

 今度はキョウスケが尋ねた。

 

「勇者を呼び出すつもりだったかどうかは分かりませんが、強力な素質を持った人間をマジックメイルに乗せて異世界人による軍団を作り上げようとしたのではないか? と思っています」

 

「なろうのテンプレ展開だな」

 

 俺はそう愚痴った。

 セシリーは「なろうのテンプレ?」と首を傾げて食いついて来たが俺は「すまん続けてくれ」と話を促した。

 

「実際に相当数の特注のマジックメイルを準備していました。強力なマジックメイルの力を引き出すにはそれ相応の適正地が必要になりますから」

 

「よく分かったな」

 

 感心するように俺は言う。

 

「相応のマジックメイルを準備するには相応の資金が必要となります。完全に隠し通すのは困難です」

 

「一理あるな」

 

 マジックメイルの製造費用は分からないがかなりの額が必要になるらしい。

 それを部隊単位でとなると、セシリーが言うように隠し通すのは困難なのだろう。

 

「だけどその目論見は失敗したわけだが、当初の目論見はどうなったんだ?」

 

 との事だ。

 これで、なろうのWEB小説みたいに自分達の世界の学生とかが何十人も召喚されていたら笑えない。

 説得に応じればともかく、最悪銃を向けなければならなくなる。

 

「この様な状況になってしまいましたが、本来の目的その物は達成出来ていると思います――ただ、未確認の謎の武装勢力も同時に、それも各方面で大量に出現して我々も混乱していて事態の全容を把握出来て来ていないのが現状です」

 

 キョウスケは「確かにな――」と同意した。

 あの世紀末世界の悪党どもまでこの世界で暴れまわっているのだ。

 それに関しては何だかとても申し訳ない気持ちになった。

 

「それについて話があるんだが――」

 

 俺はセシリーさんに敵の事について、世紀末世界の悪党の事について軽く教えておいた。

 驚きはしたがスグに納得したようだ。

 

「正直俺達は末端の隊員だ。何処まで介入していいか分からないが一先ずはもう一つのゲートの方に向かってみる」

 

 出現したと言うゲートが気掛かりだ。

 俺達は純白の大型飛行機、アルバトロスに乗り込んでゲートの方に向かう事にした。

 

「此方から連絡要員を寄こしますがよろしいでしょうか?」

 

「連絡要員?」

 

「はい」

 

 との事だった。

 俺は「上の方にも一応話を通してくれ」と佐伯 麗子に中継して話を通すことにした。

 

 その間に出発の準備を進めておく。



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第十一話「連絡要員のエリオット」

 Side 緋田 キンジ

 

 アルバトロスの内部。

 一個分隊分の人員、物資、パワーローダーとなると狭く感じる。

 前はパワーローダー身に纏って搭乗したせいかもしれない。

 

 リオやパメラ、パンサーはどちらかと言うとトレーラーを置いて来て不安がっている様子だった。(トレーラーは自衛隊預かり)

 

「狭くてごめんな」

 

「いいえ、かまいません」

 

 俺は連絡要員として寄越された少年に謝罪する。

 

 連絡要員として寄越されたのは一人の少年だった。

 青いマジックメイル付きで名前はエリオット。

金髪のボブカットで大人しそうな中性的な顔立ちと華奢な身体つきが特徴だった。

 

 年頃は中学生か高校に入りたてぐらいだろうか。

 彼は狭い格納庫内をキョロキョロと見渡していた。

 

「そんなに珍しいのか?」

 

「は、はい。見る物全てが変わっていて、それにこう言う乗り物もあるんだなって思って」

    

「この世界に空飛ぶ乗り物ないのか?」

 

 興味本位に尋ねてみた。

 

「ありますけどそんなに数はなくて――」

 

「ある事はあるんだな」

 

 内心で俺は警戒した方が良さそうだと思った。

 

「何度か乗ったこともあるんですよ。異世界にもこう言うのあるんですね」

 

「まあ厳密に言えばウチの世界の物じゃないんだがな」

 

「え? どう言う事ですか?」

「別世界で手に入れた奴なんだこの飛行機。それを使っているんだ。パワーローダーにしてもそうだ」

 

「と言う事は他にも世界があると言う事なんですか?」

 

「まあな」

 

 世紀末世界。

 

 ヴァネッサの世界。

 

 そしてこの世界。

 

 3つの世界が確認できている。

 

「他の世界ってどんな場所なんですか?」

 

「説明が難しいな――」

 

 口で説明するよりも一度見て貰った方が早いが、世紀末世界は油断すると死ねる世界だし、ヴァネッサの世界もフォボスとの戦いで荒廃して復興途中だと言う。

 

 案内するにしても自分達の世界がいいな、などと考えた。

 そもそも渡航許可が下りるかどうか不明だが。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、そもそも渡航許可とか下りるのかどうか考えていた」

 

「え? いや、そこまでしてくれなくても――」

 

 エリオットは申し訳なさそうに慌てた素振りをみせる。

 

「まあ今はそれよりもゲートの事だな」

 

 俺は話題を切り替えた。

 

「はい。また侵略の手を伸ばすんでしょうか」

 

「……正直今回の一件、上の方はどこまで介入していいのかどうか悩んでいる部分もあるが、俺個人としては出来る限りの事はしてやりたい」

 

「どうしてそこまで?」

 

「さあな。あの世界の影響なのかもしれない」

 

 以前の自分ならこんな事考えもしなかっただろう。

 だがあの世紀末世界での一連の出来事を経験してからずっとこんな感じだ。

 それまでは税金泥棒な感じの自衛官だったのに。

 

「正直ー僕は、このままで良いのかなと思ってます」

 

「どうした急に?」

 

突然雰囲気が変わり、語り出すエリオット。

 

「本音を言えば悩んでいます。バハムス帝国は確かに間違っていましたが、クーデターと言う手段も間違いだと思ってます」

 

 まるでこの国で起きている事に罪悪感を感じているように語るエリオット。

 

「……言わんとしている事は分かるが、君一人が考え込む事じゃないだろ」

 

 その姿に疑問は覚えるが俺はそう言った。

 もしかするとエリオットは今回の一件に深く関わっているかもしれない。

 ただそんな風に思っているだけかもしれないが。

 

 だがどちらにせよ、国の責任を少年一人に全ておっかせぶるのは間違いし、まるで自分だけの責任のように考えるのも間違いだとも思う。

 

「でも……」

 

「なあに。なる様になるさ」

 

「自分は、そんな風には考えられないです」

 

(真面目なんだな)

 

 などと思った。

 

「ならば迷えばいいさ。一緒にいる限りは愚痴ぐらいは聞くよ」

 

「え?」

 

「世の中、絶対に間違っている事は分かるが、何が正しいかなんて完全にはわかりゃしないもんさ」

 

「……なら、どうすれば?」

 

「一人で抱え込まない事かな。少なくとも今の俺は仲間達がいたからここまで辿り着けた」

 

「仲間達……」

 

「まあ、俺が言えるのはこれぐらいだよ。連絡要員君」

 

 そう言って準備に取り掛かる。

 エリオットは「えっ」と目を丸くしていた。

 

 

 パワーローダーを身に纏い、秘匿回線で同じくパワーローダーを身に纏っているキョウスケと会話する。

 

『中々いい兄貴役してたみたいだな』

 

 開口一番キョウスケにそう言われた。

 

「そうか?」

 

『それよりもあのエリオットって奴――もしかして――』

 

「気のせいかも知れないし、そうじゃないかも知れないが――そう言う可能性は考えておいた方がいいだろう」

 

 キョウスケも同じく感づいているようだ。

 あのエリオットと言う少年からは*アーティス(リビルドシティの代表者)と同じような雰囲気を感じた。

 勅勘的な物だがただの連絡要員ではないだろう。

 

『一先ずその事は脇に置いといて今はもう一つのゲートに集中しようぜ』

 

「そうだな」

 

 もう一つのゲート。

 一体何が待ち受けているのだろうか。

 



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第十二話「新たなゲートと来訪者」

 Side 緋田 キンジ

 

 アルバトロスはゲートから離れた場所に降下。

 徒歩でゲート周辺まで移動する事になる。

 

 相手はなろうに出て来るような、現代兵器で無双できるテンプレ中世風ファンタジー国家じゃないのだ。

 

 マジックメイルと言う驚異の武装で身を包んだ連中が相手である。

 

 改めて解説するが――この世界は地球のレーダーや通信などに影響が出るらしいく、地球側は不利なのである。

 

 分かり易く言えば遠距離からミサイルや砲弾の雨を撃ち込めば良い的な戦法は通用しないのである。

 

 なのでこうして目的地まで徒歩で移動する必要があるのだ。

 

 リオもフライトユニットは使わず徒歩で移動してくれている。

 

 ちなみにパメラはアルバトロスで上空で待機。

 

『で? ついてくるのか?』

 

『はい。そのつもりです』

 

 連絡要員のエリオットは白いマジックメイル「ウィング」を身に纏っている。

 手には銃らしき武装を持っている。

 首からぶら下げていたペンダントからマジックメイルを装着するシーンは目を疑ったが。

 

 ウィングは空中戦闘用の汎用機らしき、敵(反乱軍)も味方(帝国軍)も使用しているので誤射しないように注意が必要だ。

 

『危なくなったら下がれよ』

 

『分かりました』

 

 とは言うが不安である。

 雰囲気的にはリオやパンサーぐらいにはやれそうな感じはあるが。

 

(あれこれ考えても仕方ない――)

 

 と思い、目的地に急いだ。

 

 

 目的地のゲート周辺。

 崖と崖に挟まれた谷底に挟まれるように大きなゲートが存在している。

 イージス艦ぐらいなら普通に通れそうなサイズの奴だ。

 

 ちなみにイージス艦は長さ(船尾、船頭)約150m、幅約18m、高さ約16m(*船底から船の頭頂部までの長さ)ぐらいだ。

 

 既に帝国軍と謎の部隊が交戦状態に陥っている。

 ここから政治的判断が絡む重要な局面だ。

 

 俺達自衛隊はスパ〇ボの自軍みたいに色々と好き放題に行動できるワケじゃない。

 あくまで日本の防衛組織なのである。

 どうしても日本の利益、不利益で動かないといけない。

 

 世紀末世界ではなし崩し的に「やれる前にやれ」な方針で世界を救う事になったが、政治的な視線でみれば日本だけが損をするような、本来ならあってはならない事なのだ。

 

 ほんと、公務員って嫌になっちゃうね。

 

(取り敢えず偵察任務だな――)

 

 気を取り直して偵察を行う。

 

 反乱軍はいないのは最悪3つ巴になるからだろう。

 

 バハムス帝国軍がいるのは問題ない。

 帝国のマジックメイルが戦闘中だ。

 

 問題はマジックメイルが戦っている相手だ。

 

『アレは――』

 

 外観はパワーローダーの様なパワードスーツ兵器だ。

 マジックメイル部隊と一進一退の攻防を続けている。

 

 一つ目。

 アサルトライフル。

 緑色のカラー。

 日の丸のマーク。

 

 とてつもなく面倒事な予感がした。



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第十三話「新たなゲートと来訪者その2」

 Side 緋田 キンジ

 

『日の丸のマークって……』

 

『キョウスケ、言いたい事は分かるがあんなパワーローダー見た事はないぞ』

 

『まあ確かにな』

 

 今頃上の方は大騒ぎだろう。

 未知のゲートから日の丸の、日本の国旗をつけたマークをつけた未確認のパワーローダー、あるいはそれに準ずる装備を身に纏った部隊が現れたのだから。

 

 最初は『まさか自分のところの世界と繋がったのか?』と思ったが冷静に考えれば違う。

 自衛隊が使用しているパワーローダーは、特に本土ならドランタイプだ。

 

 もしかすると自分達の知らない特殊部隊が存在してパワーローダーを独自開発している可能性もあるが、たまたま日本の領土に出現し、何かしらの要因で実戦投入されているとは考えにくい。

 

 じゃあヴァネッサの世界かと思ったが――地球連邦政府に日本は統合されている筈だからその線もない。

 

 残るのは可能性はある意味面倒な部類だが、地球外生命体やらあの世紀末世界並、もしくはそれ以上にヤバい世界ではないのが救いだろうか。

 

『どうする? 助けますか?』

 

 エリオットにそう言われて――

 

『――そうするか』

 

 俺は決断した。

 アルバトロスに乗って上空で待機している佐伯は『火中の栗を拾う理由はなんだ?』と問われた。

 

『俺達は彼方側の情報が欲しい。どうなるにせよ、第一印象がいいに決まっているだろう。それに現状、帝国軍にゲートを確保されて戦力増強されるような事態になるのも問題だ』

 

 それを聞いて佐伯は『成る程、筋は通っている』と返す。

 

『最後に帝国軍との戦いその物は問題ないんだな?』

 

『法的にグレーな部分もあるが、念のため停戦を呼び掛けて欲しい』

 

『まあ、それは自衛隊の宿命だな』

 

 などと思って動く事にした。

 崖の谷底では激しい戦闘が繰り広げられている。

 その更に真上から見下ろす形で双方に呼び掛けた。

 

『此方日本国自衛隊だ。双方に停戦を要請すると同時に、状況の説明をお願いしたい』

 

 当然バハムス帝国側は攻撃を仕掛けてくる。

 だが日本の国旗をつけている連中からは。

 

『日本軍ではないのか?』

 

『自衛隊? 味方なの?』

 

 と言う音声での呼びかけがあった。

 まだ皆歳が若いな。

 

 俺は内心では(食いついた)喜びながらも『我々は其方の状況が知りたい。攻撃してこない限り、一時的に協力してこの場は共闘をする事を約束する』とだけ返す。 

 

 自分でもよくこんなセリフをすらすら口から出たもんだと感心した。

 

『立派なスピーチだったぜ緋田隊長殿』

 

『それはどうも宗像殿』

 

 キョウスケと軽いやり取りをして側面上方からバハムス帝国のマジックメイル部隊を攻撃する。

 理想的な十字砲火のポジションだ。

  

 不謹慎ではあるが、面白いように敵が撃墜されていく。

 

『おのれ!! 退け!! 退け!!』

 

 バハムス帝国の司令官は優秀らしく、形成の不利を悟ってすぐさま後退した。

 

 

 谷の真下に降りて向き合う形で相手の日本の国旗をつけたエンブレムをつけた連中と向き合う。

 

『ここが内乱中の異世界で、君達が日本軍ではなく、日本と言う国の自衛隊と言う防衛組織の人間か……俄には信じ難い』

 

 との事だった。

 実物を見ても普通はスグに信じられないか。

 此方としては第四の並行世界が確定して正直どうしたもんかとも思う。

 

『まあスグには信じられないよな――』

 

『だがここが異なる世界で内乱の真っ只中だと言うのは分かった』

 

『今はそれだけ分かってもらえれば十分です』

 

 ある意味で厄介な状況だ。

 これで上の方が資源を獲得するためにバハムス帝国に軍事侵攻を掛けるとなった政治、外交的に止めようがない。

 

 資源豊かな異世界、未知のフロンティアと言うのはそれだけ魅力的な禁断の果実なのだ。

 



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幕間:隊員+リオ達との雑談

 Side 緋田 キンジ

 

 取り敢えずゲートの前で待機して色々と作業をしながら隊員達やリオ達と会話することにした。

 

 =宗像 キョウスケの場合=

 

「何だかとんでもない事になったな。これで異世界四つ目で現れたのは並行世界の日本軍だと来た――」

 

「ウチの両親が発狂しそうだな」

 

 俺をその姿を想像しながら苦笑する。

 

「ああ悪い」

 

「いやいい。それよりも今後の事だけど――」

 

「まあどうなるかは分からないけど、なる様にはなるだろう」

 

「そうだな」

 

 実際キョウスケが言う様にそうなる事を祈るしかない。

 

 =水瀬 キョウカの場合=

 

「この世界だけでも手一杯なのにまさかここで新たな異世界だなんて」

 

「救いなのは、見掛けたら突然襲い掛かってくるような連中じゃなかった事だな」

 

「緋田一尉? それは比較の基準が間違ってると思うんですけど?」

 

「ああ。大分あの世界に毒されているな」

 

「まあこの世界は世界で戦いばっかりでしたから仕方ないですよ」

 

「まあなぁ……」 

 

 =高倉 ヒトミの場合=

 

「新たな異世界だけでも驚きなのに日本軍――異なる世界の日本の軍隊ですか」

 

「正直まだ出会ったばかりだから何とも言えないけどね」

 

「隊長は楽観的なんですね」

 

「と言うか今は相手と身内の出方を待つしか無いってのもあるけどね」

 

「そうですね――まあ万が一が起きないのを願いましょう」

 

「そうなるな……」

 

 =ルーキーの場合=

 

「なんつーか、第二の異世界に来てもやってる事はあの世界と同じですね」

 

「まあ戦う敵が違うだけで戦いばっかりだからな」

 

「本音を言うとノンビリ観光出来たら良かったんですけど、そうは行きませんよね」

 

「そうだな。休暇プラン考えとくか」

 

 

 =リオの場合=

 

「日本軍――正直言うと不安かな?」

 

「まあリオの反応が正しいんだろうな」

 

「もしかして戦うの?」

 

「どうとも言えんと言うのが本音かな。少なくとも用心はしておこう」

 

「うん。分かった」

 

 =パンサーの場合=

 

「前に聞い話だけど自衛隊がおかしくて、日本軍のがキンジ達の世界基準に合わせると正しいんだよね?」

 

「まあな。自衛隊は政治的なアレコレで誕生した組織だからな」

 

「今思うと面倒な手続きしないと戦闘出来ない組織によく入ったね」

 

「そう言われるとキツイな。まあ、あの時まで自衛隊なんて武装した災害救助隊か便利屋みたいな組織だったからな。ぶっちゃけ戦争の事なんて遠い世界の話みたいな感覚はあった」

 

「改めて聞くととんでもない組織だったんだね、自衛隊」

 

「まあな。今はちょっと血の気が多くなっちまってるけど」

 

 =エリオットの場合=

 

「正直不安です」

 

「うん?」

 

「この国どころか、この世界がどうなるのか……」

 

「――最低でももう一つ世界と繋がってるし(リオ達の世界)、その辺もどうにかしないとな」

 

「どうしてこんな事に――」

 

「まあそう悪い方に考え過ぎんなって。まだ新たな敵になるかどうかも分からないんだしさ」

 

「分かってはいるんですけど――」

 

「だよな……」

 

 エリオットの心の重荷をを取り除くのは難しいようだ。

 

 =佐伯 麗子の場合=

 

『上の方は大慌てだ。取り敢えずその場で待機して相手から出来うる限りの情報を引き出してくれ』

 

「簡単に言いますけど――」

 

『言いたい事は分かるが今は彼達の情報が些細な事でも重要になってくる』

 

「上のアレコレは知らないが、まあ思惑に乗ってやりますよ」

 

『偉く協力的だな』

 

「自分も彼達に興味があると言うだけですよ」

 

『そう言う事にしておこうか』

 

 確かに佐伯 麗子に言った言葉は嘘じゃない。

 それにまだ敵になるかどうかも決まったワケじゃない。

 取り敢えず自分に出来る事をしようと考えた。



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第十四話「日本軍と人類の天敵との接触」

 Side 緋田 キンジ

 

 自分達は一部パワーローダーを脱ぎ、相手側も一部パワーローダーを脱いだ。

 

 大柄の男と眼鏡を掛けた勤勉そうな女性が現れる。

 パワードスーツを身に纏うための装備なのだろうかパイロットスーツの様な物を身に着けている。 

 

「日本軍の石崎大尉だ」

 

「同じく日本軍の朝倉中尉だ」

 

 仏頂面の大柄の男の方は石崎大尉。

 眼鏡を掛けた女性の方は朝倉中尉と言うらしい。

 

「緋田 キンジ、そちらで言うところの大尉です」

 

「宗像 キョウスケ、同じくそちらで言うところの大尉です。この第13偵察隊の副隊長をやっています」

 

 俺とキョウスケも自己紹介した。

 

「階級も違うのか?」

 

 石崎大尉が尋ねて来た。

 

「それも含めて色々と長い話をしなければなりませんね」

 

 そう言うとキョウスケが「ふと気になったんですが彼方のパワードスーツは一体?」と切り込んでいった。

 

「アレはパワーローダーだが?」

 

 今度は朝倉中尉が答えた。

 

「奇遇ですね。此方のパワードスーツ兵器もパワーローダーと呼ばれているんですよ」

 

 俺はそう答えた。

 

「そちらにもプレラーティ博士がいるのか?」

 

 爆弾が落ちた。

 プレラーティ博士なんて言う偽名丸出しの博士が並行世界にもいる可能性は――

 

(よくよく考えてみればあったな……)

 

 フォボスとの最終決戦の時、フォボスへと繋がるゲートが開いた時、フォボスはプレラーティ博士の事を知っていた様子だった。

  

 そもそも境界駐屯地――自分達が元居た世界とリオ達が元居た世紀末世界へのゲートが開いた先のあの基地にゲートが開いたのはあの世界のプレラーティ博士が関与していたらしい。

 

 付け加えて言えばプレラーティ博士は座標さえ分かれば空間転移用のゲートや並行世界へのゲートを開発する程の超天才科学者である。 

 

 何らかの理由で他の世界でパワーローダーを開発していたとしても別に不思議ではないだろう。

 

「いる事はいるが、このパワーローダーは別の世界で拾った奴を使ってる」

 

 本題を逸らす様にして会話を続けた。

 プレラーティ博士は最重要機密だ。

 あまり進んでペラペラ喋ると佐伯や上の方から何か言われそうだ。

 

「話に出ていた世界の奴をか?」

 

「はい、核戦争かなんかで荒廃した世界の奴です」

 

「大丈夫なのか?」

 

 石崎大尉はもっともな問いをする。

 

「土地や環境が劣悪な中でも戦えると言う事はそれだけ信頼性があるって事なんです」

 

「成る程。兵器に求められる要点は十分に満たしていると言う事か」

 

「そう言う事です」

 

「今はゼレーナとの戦いでその辺は度外視されているからな」

 

 なんか不吉なワードを発したぞ。

 

「その、ゼレーナってのは何ですか?」

 

 俺は恐る恐るその単語について尋ねた。

 

「言ってしまえば人類の天敵だ。そっちの世界にはいないのか?」

 

 石崎大尉はイヤな思い出を思い出すかのような苦渋な表情でそう口を開いた。

 

『お喋りのところ悪いが未知の反応が複数!! 来るぞ!!』

 

 俺は気になる話の内容を一時中断し、石崎大尉に謎の反応の接近を伝えてパワーローダーの装着に向かった。

 

 それは見たこともない銀色のSFアニメに出てきそうな戦闘機だった。

 更に後方には大きな青い飛行船、いや、宇宙船? らしき姿まであった。

 

『嘘だろ!? この反応――どうしてこの世界にゼレーナがいるんだ!?』

 

 と、石崎大尉は叫んだ。

 

 それを聞いた時、俺は一瞬何が何だか分からなかった。

 



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第十五話「人類種の天敵」

 Side 緋田 キンジ

 

 嘗てフォボスが言っていた。

 

 ――神を滅ぼすつもりか? その手で? 私を滅ぼしてみろ! 待っているのは絶望の未来しか――

 

 俺はその言葉を『黙れ!!』と切り捨てた。

 

 リビルドシティを支配していたノアも呪詛に近いような言葉を残していたとキョウスケが言っていた。

 

 今この状況。

 

 人類の天敵との戦いがその絶望の未来なのだろうか。

 

 敵の戦闘機型を、パワーローダーの様な人型を次々と撃墜していく。

 

 石崎大尉の世界のゲートから次々と戦車や装甲車、陸戦型、空戦型のパワーローダーを含めた戦闘部隊が入り込んでくる。

 

 更には――想像以上に早いがマジックメイルの部隊の支援も入った。

 どうにか敵の物量に抗えている。

 

『増援要請を送った!! 持ち応えさせろ!!』

 

 佐伯 麗子が有難いことにちゃんと仕事をしてくれている。

 災害派遣だの何だのでアゴで使われていた関係が懐かしい。

 

『つっても!! 敵の数が多い!! 制空権も敵にある以上、何処まで持ちこたえられるか――』

 

 空は敵の大群が埋め尽くし、敵の数がどんどん増えている。

 倒しても倒しても何処からともなく増援が来る。

 このままだと数分もすれば戦闘不能に陥るだろう。

 

『こいつら――ゼレーナはあんたらの世界の敵だろ? どうしてここにいるかなんてのは――まあ今更だよな』

 

 石崎大尉に呼びかけるように俺は呟いた。

 

 あの世紀末世界の悪党連中だっていたのだ。

 別に他の世界のヤバい奴がいたとしても別におかしくはないだろう。

 この分だと自分の知らない世界の敵までいるのかもしれない。

 

『愚痴は後だ。今はこの場を切り抜ける事を考えろ』

 

『オーライ』

 

 キョウスケにそう言われて戦闘に集中する。

 

 他の隊員はこれまで一緒に修羅場を潜り抜けただけあってタフであり、また石崎大尉の世界の日本軍の支援もいい。

 

 やはりと言うかリオとパンサーの二人の技術が飛びぬけている。

 パンサーは着実に敵を落としていき、リオはゲイルの性能を最大限に開放して空中を飛び回り、火花を散らして空を自由自在に泳いで回っているようだった。

 

『凄い――まさか違う世界にもこれ程の凄腕がいると言うのか』

 

 石崎大尉が誰の事を指しているのかどうかは知らないが驚いているようだった。

 大方パンサーかリオ辺りだろう。

 俺達視点から見れば石崎大尉達の腕も相当なもんだが。

 

『こちら航空自衛隊、エアライダー隊到着。初めての実戦がこんなワケの分からん奴が相手だとはな――』

 

『戦闘機隊も来たぞ!! 対艦ミサイルも積んでる!!』

 

 3つの世界の部隊が結集し、大部隊となっている。

 心強く、胸躍る状況だ。

 フォボスとの最終決戦の時を思い出す。

 

『プラズマ仕様の対艦ミサイルだ!! 受け取れ!!』

 

 航空自衛隊のパワーローダー隊、戦闘機隊は相手の情報を取り、景気よく敵の群れのリーダー機と思われる空中の宇宙船型に戦闘機隊のプラズマの対艦ミサイルをぶっ放す。

 

 他の機体もレールガンやビームガトリングなど景気よくぶっ放している。

 勢いよく敵部隊が撃墜されていく。

 

 石崎大尉もエリオットが声を失っているが大丈夫だろうか。

 

『敵の宇宙船型――まだ動くぞ!!』

 

『クローアームか!?』

 

 地面に墜落し、そのまま終わるかと思いきやクローアームを展開。

 更により濃密な弾幕を周囲に展開する。

 迂闊に近寄れない。

 

『クソ! このままでは――Aliceの増援を待つか!?』

 

 石崎大尉が言うが――

 

『そのアリスが何なのか分からないがこのまま押し切るぞ!!』 

 

『ま、待て!!』

 

 石崎大尉の静止を振り切るようにして俺達、第13偵察隊は攻撃フォーメーションに入る。

 

『それよか大尉、あの深夜アニメに出てきそうなテンプレの敵に弱点はないのか?』

 

 キョウスケが石崎大尉に呼び掛ける。

 

『あのサイズだと体の何処かにコアがあるはずだ!! そいつを叩けば!!』

 

『了解――!!』

 

 石崎大尉の言葉にそう返して俺達は空中を舞う。

 地上型のパワーローダーでも後先を考えなければ短時間なら空を飛べる。

 

『奴の体内に高エネルギー反応を感知! たぶんそこが例のコアよ!!』

 

 パメラが通信を送ってくれる。

 

『分かった!! ちょっくら決めてくる!!』

 

 キョウスケが気合を入れて返事をした。

 

『全部隊、第13偵察隊の援護を!! 当てるなよ!!』

 

 航空自衛隊も援護に入ってくれる。

 石崎大尉も、マジックメイルの部隊も援護に入ってくれた。

 

『キンジ!』

 

『リオか!』

 

 傍にリオが来てくれる。

 俺はリオに合わせるようにパわローダーの動きをコントロールする。

 リオが調整をしてくれる。

 

『砲撃来るぞ!!』

 

 相手のビーム砲で左右に別れる。

 そして相手の船体に沿う様に回り込み、コアがある周辺に集中砲火を浴びせる。

 リオも挟み込むように攻撃。

 他の隊員も食らいついたらしく、至近距離からコア周辺への攻撃を開始。

 

『コアの露出を確認! 今だ!』

 

 佐伯 麗子が叫んだ。

 銀色の丸い球形状のコアの露出を確認。

 総攻撃を開始する。

 

 数秒後――白いガラス片のようになって、そして塵となって何もかも消えていき、人類の天敵、ゼレーナは撃破された。

 



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第十六話「寄り道の異世界」

 Side 緋田 キンジ

 

『どうにか倒したが――アレで全部とは思えないな』

 

 キョウスケの言いたい気持ちはとても分かる。

 

『だが今は石崎大尉達と接触してあの敵の情報を集めるのが優先だ』

 

『まさか俺達の世界にも攻めてくると?』

 

『薄々その可能性は考えてるんじゃないのか? そもそも俺達がこうしてここにいるのは、上の得点稼ぎのためもあるけど、バハムス帝国が俺達の世界に攻めてくる可能性とかもあるからだろ?』

 

『上の連中、今回の一件知ったらこの世界との関りを断とうとするんじゃないか?』

 

『自分達の世界の、地球の何処かに別世界の宇宙からの侵略者が出現するゲートが現れた――なんて事になったらそれこそ責任問題になるだろう――』

 

 言ってて自分でも頭がおかしくなりそうな説明だ。

 なんだこの地獄のような状況。

 世紀末世界の時より酷くなってないか?

 

『その時は俺達、自衛隊に責任をおっ被せて知らん顔をするだけだろ、あいつら』

 

 キョウスケの意見に俺は『あー確かにありえそうだな』と納得した。

 

 政治家だの役人だの言う連中は、国民が毎年3万人以上自殺して死のうが、国民の命よりも今日の飯と酒、一か月後の給料、半年後の地位が重要なのだ。

 

 フォボスで世界が滅びかけたが、喉元通り過ぎれば何とやらと言う奴である。

 

『何か急に投げ出したくなってきたけど、石崎大尉と話をして、あの深夜アニメに出てきそうな人類の天敵についての情報を集めよう』

 

『ああそうだな。まだ世紀末世界に引き籠ってた方がマシだったかもしんねえ』

 

 キョウスケの意見に俺は『同感だ』と返した。

 

 

 並行世界の神奈川県、横須賀基地。

 

 元の世界では東京湾に接するように米軍基地やら海上自衛隊の基地やらが密集している場所だ。

 離れた場所には航空自衛隊の基地もある。

 

 運が良かったのか悪かったのか日本軍の横須賀基地にゲートが開かれたらしい。

 

 少し離れて場違いな大きな学園もある。

 

 軍服を身に纏った大人達に交じってとても場違いなのがいた。

 

 なん昔か前の深夜アニメに出てきそうな、人体剥き出しでフレームを身に纏い、四肢にメカの手足をくっつけたメカ少女達がいた。

 ご丁寧に猫耳みたいなヘッドギアやら煽情的で目に毒な競泳水着型のSFチックなボディスーツを身に纏っている。

 

『石崎大尉? アレは?』

 

『アレがアリス――対ゼレーナ戦のための人類の切り札です』

 

『アリス――そう言えばゼレーナと戦っていた時も言ってましたけど、何なんですかアリスって?』

 

『特殊なパワーローダーを身に纏った超能力を持つ少女達です。それを含めて話しましょう』

 

『分かりました』

 

 一応説明してくれるらしい。

 その見返りで俺達の世界についても説明する事になっている。

 担当は佐伯 麗子。

 遅れて狭間駐屯地の基地司令が詰めた話をする段取りである。

 

 俺やキョウスケ達も世紀末世界には最初から最後まで、当事者として出席しなければならない。

 

『どうしたリオ?』

 

 リオがゲイルを身に纏った状態で不思議そうにキョロキョロとしていた。

 パンサーも同じだ。

 

『いや、なんかまた別世界だと聞いてたけどキンジ達の世界とそう変わらない感じなんだなと思って――あの変なパワーローダーはなんだろ?』

 

 まあこれが普通の反応だと思いつつ俺は

 

『さっき戦った連中と戦うための切り札らしい』

 

 と、リオに説明した。

 

『アレが?』

 

『その辺も含めて話をしてくれるそうだ』

 

『ふーん』

 

 一先ず納得してくれたようだ。

 

 そして格納庫にパワーローダーを預け、基地内のブリーフィングルームで説明を受ける事になった。



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第十七話「人類の天敵と人類の希望」

 

 Side 緋田 キンジ

 

 まず石崎大尉にこの世界の基本的な情報から教えられた。

 

 この世界は西暦2048年であること。

 

 人類の天敵であるゼレーナとは数十年規模で戦い続けていること。

 

 世界中にゼレーナの拠点が存在すること。

 

 そしてこれまでの戦いで人類の半数がゼレーナの犠牲になったこと。

 

 ある意味ではこの世界も世紀末だかディストピア状態だ。

 

「想像以上に酷い状況だな」

 

 キョウスケの呟きに「ああ――」と、耳を傾けた。

 

 そして人類の天敵、ゼレーナに有効打になりえるのがAliceと呼ばれる精神エネルギーを操る少女、女性だそうだ。(これに関しては思うところがあったが、もう背に腹は代えられない状況だと思われるのであえて言及はしなかった)

 

 小型の雑魚的は通常部隊でも倒せるそうだが、大型になるとAliceでないと甚大な被害が出るらしい。

 

 それがこの世界での常識だそうだ。

 

 次にAliceだが精神エネルギーをネイキッド型パワーローダーに身に纏わせるだけでなく、スキルと呼ばれる様々な特殊能力を持つらしい。

 

 また一番大きいのはその精神的エネルギーを纏った攻撃がゼレーナに対してとても有効なのだとか。

 

「さっきの戦闘で石崎大尉が驚いたのは単純に火力で押し切ったからか」

 

 それで俺は合点がいった。

 

「他にもゼレーナの特性についてだが――」

 

 続けて石崎大尉はゼレーナの特性について語った。

 と言ってもあいつら外宇宙から飛来してきたらしく、太陽系だけで既に人類を何度も滅ぼせるだけの物量はあるのではないかと言われている。

 

 他にもコピー能力や学習能力もあり、先の戦いで戦ったゼレーナの姿は他の文明の兵器に擬態した姿ではないかと言われているそうだ。

 

「想像以上にヤバい状況だな。あの世界にも拠点が出来てると考えた方がいいんじゃないか?」

 

「そうだな――」

 

 あのファンタジー世界にゼレーナの拠点が出来ているのは覚悟した方がいいかもしれない。

 

 石崎大尉の説明が終わり、次に佐伯 麗子が先頭に立って自分達の世界の事について語った。

 

(なんか随分昔の話のように感じられるな)

 

 佐伯 麗子が語る言葉について俺はそんな印象を持った。

 

 よくもまあ税金泥棒自衛官からここまで出世したもんだと思う。

 

 それはそうと、先程からエリオット君は顔を青くしながら話を聞いているが大丈夫だろうか……

 

 石崎大尉と副官の朝倉中尉は――困惑している。

 

(このリアクションは当然だよな――)

 

 ある日、駐屯地に修羅な世界の世紀末世界のゲートが現れて交流する羽目になって。

 

 そして今度は駐屯地もろとも内乱中の異世界に転移したりして。

 

 次は新たな異世界と来た。

 

 頭の悪い創作者が考えたような状況だ。

 

(まあ説明は終わりだ。細かい交渉とかは上の方にぶん投げましょう)

 

 責任放棄ともとれる考え方だが――言っちゃ悪いが自分は、例え世界を救ったとしても一自衛官である。

 

 ここでどうこう判断するのは一自衛官としての範疇を越えている。

 

 例え軽い口約束だとしても上の交渉材料に使われでもしたら危険だ。

 

 組織に属する人間の痛いところである。

 

「なあ、キンジ。さっきからお嬢さん方がメッチャこっちを見てるんだけど」

 

 ふとキョウスケが指を指してきた。

 アレが恐らくAlice能力者達なのだろう。

 

 部屋の外からジーと此方を見つめてくる。

 

「俺に言われてもなぁ……まあ無視が妥当じゃないのか?」

 

「だな――」

 

 少し女子高に迷い込んだ男子生徒の気分が分かった気がする。

 ともかくお互いに必要な事を伝えたのでこの場を後にした。

 



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第十八話「Aliceの少女」

 Side 緋田 キンジ

 

 横須賀基地内のラウンジでくつろぐ俺達、第13偵察隊。

 

 話題はもっぱらこの世界のこと、人類の天敵ゼレーナやAliceと言う力を持つ少女達のことだった。

 

「またバハムス帝国や世紀末世界の連中で手一杯なのに、ゼレーナと戦うのか……一気にスケールデカくなってないか?」

 

「まあな……」

 

 キョウスケが言いたい気持ちは分かる。

 いきなり外宇宙の敵まで参戦してきたのだ。

 戦う身としては勘弁してくれよって言う気分である。

 

「リオさんやパンサーさんってAliceじゃないんですか?」

 

「さっきの戦闘データ見ました! 凄かったです!」

 

 そしてリオとパンサーはと言うと、Alice能力者らしき白い制服の少女達に囲まれていた。

 

「あれどうすんの?」

 

 キョウスケが指さして言うが俺は「まあ戦い続きだったし、放っておこう」と言っておいた。

 リオやパンサーも十代の少女だ。

 ちょっとぐらい、らしい事させてもバチは当たらんだろう。

 

「それはそうとエリオット、大丈夫か?」

 

「はい。正直理解が追い付かない部分がありますが、一旦しかるべき場所に報告に戻った方がいいのかもしれません」 

 

「ゆっくりばかりもしてられないか……だが今は色々あってどうもできん。報告するための資料の作成の手伝いぐらいならかまわないぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 と、丁寧に返事をした。

 

 続けてエリオットは――

 

「正直言うとこの先どうなるのか不安で、心細くて――どうにかなってしまいそうです」

 

 俺はどう言葉を掛けるべきか悩んだ。

 

「でも僕は――信じてみたい。皆さんのことを」

 

「……そうか」

 

 強いなと思った。

 

 

 Side リオ

 

 私はAliceの少女達と色々と会話していた。

 

 キョウスケの妹、マユミもそうだったが――彼女達はより一層に童話の世界の穏やかな住民のように思えた。

 

 とても死線を潜ってるとは思えない雰囲気だが、微かに戦う者の心構えのような物を感じている。

 

「リオさんってAliceじゃないのにゼレーナを倒せるぐらい強くて凄いなって思います」

 

 ピンク髪のショートヘアの可愛らしい女の子。

 愛坂 イチゴが言った。

 Aliceの一人で周囲が言うには歴代最大の適正地らしい。

 ただし戦闘技術ではまだまだ先輩方には及ばないとかなんとか。

 

「それを言うならこの世界の軍隊の人達だってパワーローダーで戦ってるでしょ?」

 

「それはそうだけど――私、能力はあるみたいなんですけど上手く動かせなくて――」

 

「それはイチゴが未熟だからだ」

 

「トウカ先輩、そんなにハッキリ言わなくても」

 

 御剣 トウカ。

 黒髪のポニーテールヘアでキリっとした感じの、少女らしからぬ軍人然とした雰囲気を持つ女の子だ。

 常に日本刀を携帯している。

 

「だが正直言うと、君達の実力に興味はある」

 

「私達と戦いたいってこと?」

 

 トウカの一言で「ちょっとトウカ先輩?」と、イチゴが慌てた様子を見せる。

 周りも、パンサーも含めて口々に「面白そう」と言い始めた。

 

「あー念のため釘刺しとくけど任務があるし、補修用の機材の関係でダメだからな」

 

 と、そこでキンジが言ってきた。

 ようするに模擬戦はダメらしい。

 

 パメラも「キンジの言う通りよ。なるべく資材は節約しないと――」と言う事らしい。

 

「ならシュミレーターはどうだ?」

 

「シュミレーター?」

 

 トウカの提案に私は首を捻った。

 



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第十九話「世紀末の少女 VS Aliceの少女」

 Side 緋田 キンジ

 

「へえーこんな設備あるのか」

 

 などと呑気に俺はリオとAliceの一人、黒髪ポニーテールの女武士のような雰囲気の少女、御剣 トウカとこの世界のパワーローダーを身に纏ったリオとの戦いを大きなスクリーンから見守っていた。

 

 御剣 トウカは体のライン浮き彫りな青いパイロットスーツにヘッドギアを身に纏い、両腕、両脚、腰、胸部、背中にブルーのメカ装備を身に纏っている。

 

 アニメの世界ではあるまいしこれで戦場に出るのは少々不安のように感じてしまうが、石崎大尉やAliceの少女達が言うにはご都合主義的なバリアにAliceの能力を上乗せして守られているのでよっぽどの攻撃でないとバリアは貫通しないらしい。

 

 一方でリオはこの世界の緑色の量産機のパワーローダーを身に着けている。

 本来なら相手にはならない――と言うのがこの世界の人間の共通認識だが中々いい勝負をしている。

 

 若干ではあるがリオが押している。

 

 もちろん御剣が弱いワケではない。

 リオが強すぎるのもあるし、Aliceの少女は恐らく対人戦にはあまり慣れてないのだろう。

 

 御剣さんはAliceの中でも固有スキル持ち、加速持ちらしいのだが――最初はともかく、どんどんとリオは速さに慣れて来て、逆に御剣さんが追い詰められていっているような状態だった。

 

 

 Side 御剣 トウカ

 

(もしやとは思っていたが想像以上だ――私のAliceが何処まで持つか――)

 

 Aliceの力、加速を使って一旦は巻き返した。

 加速すれば戦闘機以上の速度は出せる。

 だが小回りが効かず、制御が難しい能力でもある。

 

 そして相手――リオさんはアクションムービーの主人公のように二丁拳銃スタイルで此方に着実に直撃弾を与えてくる。

 

 同じ条件での戦いならとっくの昔にリオさんが勝っていただろう。   

 

 それ程までの実力差だった。

 

 

 Side 愛坂 イチゴ

 

 モニターの前ではとんでもない事になってます。

 まさかリオさんがあそこまで強かったなんて。

 

 石崎大尉や朝倉中尉もAliceでは無いのにも関わらず強かったですけど、リオさんは明らかに別次元の強さです。

 

 二丁拳銃スタイルに拘っていますが、時折別の武器を巧みに使い分け、自分で空中に放り投げたグレネードを手に持った銃で撃ち抜くと言う曲芸技なども披露したりしていてます。

 

 拳銃だけでなく、他の銃器や武器の扱い方もとても上手い。

 

 私には到底真似できません。

 

 一体どんな経験すればこうなるのか……

 

 などと思っているウチに決着が付きました。

 

 どうにかトウカ先輩が性能頼みでゴリ押しして決着をつけましたがとても勝利とは言い難い結果でした。

 

 シュミレーターマシンから出たトウカ先輩はとても消耗していて呼吸が荒く、汗をとても流していました。

 

 実戦の後でもトウカ先輩はこうなるのは稀です。

 

 気の強い人達が多い先輩方も静かでした。

 

 トウカ先輩はまるで幽霊のような足取りでその場を後にしました。

 

 私は追い掛けようとしましたが止められました。

 

 

 Side 御剣 トウカ

 

 シャワールームで私は訓練での汗を流す。

 

 今の私は疲労感よりも悔しさが込み上げていた。

 

 敗北だ。

 

 自分の未熟さ。

 

 そして自分が井の中の蛙だったのが悔しく思えた。

 

 同時に訓練中、何度も感じた疑問が再び沸き上がる。

 

 一体どんな経験――どんな修羅場を潜ればあれだけの強さを手にできるのだろうかと。

 

 願わくば聞いてみたいと私は思った。

 

 



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第二十話「自衛隊VS日本軍」

 

 Side 緋田 キンジ

 

 大盛り上がりに終わったリオとAliceの少女の戦い。

 

 それに触発されたのか石崎大尉や朝倉中尉達もシュミレーターをフル稼働させて戦う事になった。

 

 対するは自分率いる第7偵察隊、宗像 キョウスケ、水瀬 キョウカ、高倉 ヒトミ、ルーキーなどが参加した。

 

 パワーローダーの条件は同じ。

 

 双方ともにこの世界のパワーローダーを使用している。

 

 正直言うとパワーローダーの訓練は不安だった。

 

 変な話だが実戦よりも緊張している気がする。

 

 ギャラリーは横須賀基地の人間やAliceの少女達だ。

 幾ら大規模でも、パワーローダー同士の戦いでここまでAliceの少女たちが興味を示すことはないらしい。

 

 よほどリオと御剣さんとの戦いが衝撃的だったのだろう。

 

 戦う場所は基地内部だ。

 

 

 Side 石崎大尉

 

 戦いは基地内部。

 

 数もパワーローダーも互角だが彼達の戦闘スキルは侮れない物がある。

 それは分かっていたが――

 

『こちらアルファチーム!! 相手は凄腕です!!』

 

『ベータチーム! 此方も苦戦中!!』

 

 敵の判断速度、部隊の展開スピードが素早い。

 まともに相手をしたらやられる。

 

『そんな!! 壁を蹴って!?』

 

『こいつら接近戦を!?』

 

『ダメだ!? 接近戦じゃ歯が立たない!!』

 

 状況が巡るましく変わり、前時代的な近接戦闘に状況が移行しつつあった。

 ゼレーナやAliceの少女達との戦いで、パワーローダーによる接近戦を行う者は稀だ。

 

 正直自殺行為と言ってよい。

 

 それを抜きにしてもパワーローダー同士の白兵戦など、ほとんどない。

 なのであまり重要視されてなかった訓練項目だが――その部分を突かれてしまったようだ。

 

『落ち着け!! 距離を離して対処しろ!!』

 

 そう指示を飛ばすが――

 

『きょ、距離を離しても食らいついてきます!!』

 

『こんな狭い通路でここまで動けるのかよ!?』

 

『クソ!!』

 

 本来なら敵部隊を誘い込んで本命の自分達の部隊がトドメを刺すと言う作戦だったのだが、このままでは陽動部隊が全滅して作戦が破綻する。

 

 どうするべきかと思ったところで撃墜判定が次々と知らされてくる。

 そしてキルゾーンとして設定していた広間に敵が雪崩れ込んできた。

 控えていた部下達に応戦させる。

 

『銃の軌道を読めるのか!?』

 

 驚きながらも銃弾の雨を降らせる。

 そうしないと瞬く間に敵の反撃でやられてしまう。

 

 せめて一矢報いたいところだが相手のパワーローダーの動かし方の概念が我々とは別次元の領域だ。

 

 射撃戦に持ち込んでも接近戦に持ち込んでもやられる。

 

 あと一分もしないウチに撃破判定をもらうだろう。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 シュミレーターを使った演習は終了。

 結果は俺達の圧勝に終わった。

 

 色々と条件を変えたり、人を変えたりもしたがそれでも勝利した。

 

 佐伯 麗子からは「やりすぎだバカ」と言われた。

 

 まあ政治的なあれこれを考えると八百長だの接待的なあれこれもアリなんだろと思うが、俺もキョウスケもそこまで器用に出来ちゃいない。

 

 そして今は何をしているのかと言うと――

 

「いや、完敗でした」

 

 周りが交流会と言う名のパーティーになっており、そんな中で石崎大尉と二人きりで話し込んでいた。

 こう言う時は大概、リオかキョウスケかの二択なのだが――こう言うのは正直慣れてない。 

 

 相手は自分よりも軍人している軍人――いや、自衛隊は軍隊でなく、自衛官は軍人ではないのだが――その辺の説明は本当にややこしい。

 特に人手不足の昨今は武装した災害救助隊の公務員みたいな感じの扱いに拍車が掛かってるし。

 

 まあそれはともかく――

 

「正直言うと、自分達の動きが悪影響にならないか心配ですね」

 

「パワーローダーでゼレーナを倒す方々を何を仰いますか」

 

「はあ……」

 

 やはりAliceでないと人類の天敵倒せない的な世界観なんだろうなと思った。

 まあパワーローダーの装備の性能の問題もあるだろうが。

 

 リオやパンサーなどは別だ。

 あの世紀末世界を生き抜いてきた猛者だ。

 自分達、温室育ちの自衛官と比べる事すらおごがましい。

 

「ですが――少し不安もありますね」

 

「不安?」

 

「ええ、この世界はゼレーナと言う脅威がありながら人類は一致団結出来ずにいますから」

 

「はあ――」

 

「日本国内だけでも軍の過激派、反Alice派などがいるんです。早めにこの世界から立ち去った方がいいかと」

 

「確かにな――」

 

 確かに面倒な事になりそうだと思った。

 異世界のバハムスやゼレーナの事だけでも手一杯なのにこれ以上負担は増やしたくない。

 

 名残惜しいがこの場所から旅立つ準備を進める事にしておいた。



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幕間「旅立ち前に――」

 Side 緋田 キンジ

 

 俺はラウンジでエリオットを見かけた。

 見た目は可愛い系の美少年なのもあり、また人当たりもよいせいかAlice少女達に受けに受けた。

 

 それもひと段落して彼は今、ノートに必死に書き込んでいる。

 必死の形相を見れば何を書き込んでいるのかは大体想像つく。

 

「あ、いたんですね」

 

「報告の内容は纏まったか」

 

「はい。正直もうどうすればいいのやら分かりませんが一先ず反乱軍と合流したいと思っています」

 

「……正直自衛隊の立場から言わせてもらえばバハムス帝国と反乱軍の戦いは介入するかどうか決めあぐねている状態だが――」

 

「ですよね――今回の事態の発端は僕達の世界の問題ですし」

 

「だが俺個人としては真相究明と事態の収拾も重要だと思う」

 

「真相?」

 

「もう人事で済ませるには無視出来ない程に状況が悪化してる。他人事を決め込んだら事態が収拾できなくなる」

 

「それが緋田さんの意思ですか?」

 

「と言うか経験則だ。以前、世界を救えたのは五藤さん(*元陸将、現在は第一部での一連の騒動の責任を取るために退役している)の決断によるところが大きいし――今度は俺の番かもしんねーな」

 

「世界を救った――」

 

「ああそれはだな」

 

 そこから少し昔話をした。

 世界の壁を跨いで暗躍したフォボスについてだ。 

 

 フォボスについては昭和の悪の侵略者みたいな感じでサラッと解説して、どうして世界を救ったのかについて語った。

 

 実際フォボスは惑星全土に部隊を展開する程の軍事力とテクノロジーを持ち、それに対抗するために世界各国は大量破壊兵器――核兵器の使用が秒読み段階だったのだ。

 

 それを止めただけでも十分世界を救った事になるのだが。

 まあ正直、今となっても実感わかないけどな。

 

 ただ無我夢中で戦って気が付いたら倒せてた感じだし。

 

「そんな凄い人達だったんですか?」   

 

「うん? まあ――そうなるのかな?」

 

 そう言われて照れ臭かった。

 自衛隊は嫌われて耐えてナンボなところがある。

 それこそ守るべき国民から罵声浴びせられてもその国民のために戦うのが自衛隊である。

 

 世紀末のあの世界の時もそうだったがこうして褒められると、どうしても落ち着かないと言うか、らしくねーなと言うかそんな気分になるのだ。

 

「ともかく俺達の任務は真相も究明だが、バハムス帝国やあの世界に現れたゼレーナも気になる。ここでの事は他の連中に任せてあの世界に戻るつもりだ」

 

「はい――それなんですが反乱軍の拠点を目指しましょう」

 

「拠点?」

 

「平たく言えば士官学校です。今は反乱軍の拠点となっています」

 

「学校が?」

 

「そこでこれまでの事を報告するつもりです」

 

「そうか――俺達も同行するよ」

 

「ありがとうございます――」

 

 そしてエリオットは深々と礼をする。 

 俺は「どういたしまして」と言ってその場を去り、明日に向けて準備をする事にした。



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第二十一話「世紀末の懐かしい奴」

 Side 緋田 キンジ

 

 ゲートを通して2048年の日本からバハムス帝国の領土に戻った俺達。

 

 そこで待ち受けていたのかのように襲撃を受ける。

 

 丁度見送りに来ていた日本軍の人達も巻き込んでだ。

 

 相手は――

 

『クソっ!? ヴァイパーズの連中か!?』

 

 と、俺は毒つく。

 

『リビルドアーミーとマジックメイルの連中もいるぞ!?』

 

 キョウスケがそう指摘する。

 ヴァイパーズがいるのならリビルドアーミーの連中もいるのも不思議でない。

 

 そもそもヴァイパーズはリビルドアーミーの手駒として支援を受けていた武装勢力である。

 手を組んだとしても不思議ではない。

 

 問題はマジックメイルだ。

 

『まさか、帝国と組んだと言うんですか!?』

 

 エリオットが悲鳴のような叫びをあげる。

 正直最悪だ。

 だが良い事もある。

 

『ここはプラスに考えようぜ、倒すべき相手を纏めて叩き潰せるってな!!』

 

『はっ!! 血の気が多いな今日の隊長!!』と、キョウスケに言われる。

 

『言ってろ! どの道こいつらを討ち漏らせば罪のない民間人に被害が出る!! 全部倒していくぞ!!』

 

 それを聞いてキョウスケは『無茶なオーダーを――聞いたな野郎ども!? 腹を括れ!!』と鼓舞をする。

 

『私達も頑張るよ、パンサー!!』

 

『うん!! マジックメイルともども叩き潰してやるじゃんよ!!』

 

 リオに続いてパンサーもパワーローダーで飛び込む。

 息の合ったコンビネーションで次々と、競い合うように敵を撃破していく。

 

『続くぞキョウスケ!!』

 

『あいよ大将!!』

 

 俺も負けじとリオとパンサーに続く。

 

 

 Side 石崎大尉

 

『分かっていたが凄い――』

 

『これが自衛隊の力なのか――』

 

 緋田 キンジ一尉達と応戦しながら自衛隊の戦いぶりに目をやる。

 

 見慣れぬ敵が混じっているがやはり緋田一尉達の戦いぶりは凄い。

 

 まるで競ってるかのように撃墜スコアを稼いでいる。

 

 同伴してきたAliceの少女は″初めて″の対人戦と言う事もあり、動きがぎこちなかった。

 

 緋田一尉達の入れ替わりで来た他の自衛隊の部隊も合流をはじめ、形勢は徐々に覆されて行っている。

 

 恐ろしさも感じるが頼もしさの気持ちが勝っていた。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

『見た事ある奴が混じってるな――』

 

『ああ、あいつは確か――』

 

 緑色のカニのようなヴァイパーズの兵器。

 あの世紀末世界のシップタウンで戦った奴だ。 

 

『まさかこんなところで会うとはな!!』

 

 ヴァイパーズのクラーベが怒り交じりに攻撃してくる。

 

 

 ヴァイパーズのクラーベとの因縁は、まだ世紀末世界で活動していた頃に遡る。

 

 俺達の地球でフォボスの先遣隊と一戦を交え、再度世紀末世界に帰還し、自衛隊の方針がリビルドアーミーやフォボスと決着をつける前にヴァイパーズとケリをつけると言う形になった。

 

 そして俺達は一度、シップタウンに立ち寄ってみるとヴァイパーズの急襲を受けていた。

 

 一度は退けるも二度の戦いで俺達は苦戦を強いられる事になる。

 

 その二度目の戦いで出会ったのがクラーベだ。

 

 その時から緑色のカニ型のマシンに乗っていてとても手強かった。

 

 正直ヴァネッサが新型機を持って来なかったら危なかったと思う。

 

 *詳しくは第一部、第五十一話「再強襲」を参照

 

 

 ヴァイパーズは壊滅し、てっきりコイツは何処かで野垂れ死んでいたかと思ったがまさか異世界で再会するとは思わなかった。

 

 あの時と同じくフェンサーであり、クラーベも大型のカニ型マシンに乗っている。

 

『クソ!! 何故押し切れん!?』

 

 クラーベは苦戦している事が意外なのかそう漏らした。

 

『あの時とは条件が違うんだよ』

 

 あの頃から俺達のパワーローダーの相乗技術も向上している。

  

 さらに日本軍やマジックメイルの部隊、ウチのパワーアップした自衛隊の部隊もいるのだ。

 

 前回は危なかったが今回は危ない橋を渡らずに済みそうだ。

 

 対して相手は所詮、上級野盗連中。

 

 リビルドアーミーも残党化して練度が低下し、ヴァイパーズと連携をとるどころか捨て駒のように扱っている。

 

 バハムス帝国の部隊は両者を捨て駒のように扱っている。

 

 これでは勝てる戦いも勝てはしないだろう。

 

 ドンドンと敵の数は減っていき、クラーベは少なくなったヴァイパーズやリビルドアーミーと一緒に何処かへ去って行った。

 

 マジックメイル達も引き上げていく。

 

『さてと――とんでもない見送り回になったな』

 

 と、石崎大尉に声をかける。

 

『いえ、こうしてまた共に戦えて光栄でした。我々は我々なりにこの世界の調査を進めます。ご武運を――』

 

『ああ――』

 

 そして俺達は反乱軍の拠点を目指して進む事にした。

 



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第二十二話「公安の女X~狭間駐屯地編~」

 Side 緋田 キンジ

 

 一旦、狭間駐屯地に戻り、これまでの事を話す。

 

 狭間駐屯地の近くに新たな村が開拓され、内乱で行き場を失った避難民達が集まって規模がデカくなっている。

 

 一方でそんな事など知ったことなど様々な連中がこの村に襲撃を仕掛けていると言うのだ。

 

 この世界の野盗やモンスター、帝国軍、世紀末世界の野盗にヴァイパーズ、リビルドアーミー、果ては人類の天敵ゼレーナまで。

 

 あの世紀末世界の初期の頃を思い出す連戦続きだ。

 

 反乱軍も手を貸してくれていて、帝国軍の情報をある程度横流ししてくれているそうだが――彼方此方で帝国軍に対して反抗活動が活発化している。

 

 だがこのままだと反抗活動がドを過ぎて異世界にて世界大戦が勃発する可能性も出て来た。

 

 人類の天敵、ゼレーナまでいる状況下でだ。

 

 そうなったらどうなるか?

 

 自衛隊は、日本は静観を決め込めばいいのでは? と言うのが正しいのだろう。

 正直反吐が出る考え方だがこれが正しい。

 

 だがその戦火に日本も後々になって巻き込まれる可能性を俺は危惧していた。

 

 

 =狭間駐屯地・応接室=

 

「久しぶりだな」

 

「ええ、そうですね」 

 

 この異世界の駐屯地で久しぶりに公安の女Xと遭遇した。

 

 公安の女Xとはリオ達の地球ツアー(第一部、第三十六話初登場)からの付き合いであり、色々と俺達に手を回してくれている。

 

 同時にこの人が現れると言う事は日本か、あるいは世界で大体まずい事が起きている可能性が大だったりする。

 

「単刀直入に言いますと日本政府はこの世界からの撤退を考えています」

 

「だろうと思ったよ」

 

「この世界の現代兵器が通じにくいと言う特性、想像以上の異世界軍の軍事力、さらに未知のエイリアンと言うオマケまでついてますからね――」

 

「んで、俺達に何をさせる気だ? この世界でも救って欲しいのか?」

 

「結果的にそうなりますかね。あの荒廃した世界とは違い、魔法などの未知の存在やマジックメイルなどの軍事技術、この世界の手付かずの鉱物資源を手に入れたいと考える先生方も多いのです」

 

「絵に書いたような、″取らぬ狸の皮算用″だな」

 

「ですがフォボスの一件で世界中にパワーローダーなどの超技術がばら撒かれたので、何としても新たな世界でリードできる超技術を欲していると言う考えもあるのです」

 

 公安の女Xの言う通り、そう言う後ろ暗い裏事情があるからあの世紀末世界の扉が開き続けているのだ。

 この世界と関りを持つ意味も彼女が語った通りの意味、まんまだろう。

 

 勿論この女性は俺の″取らぬ狸の皮算用″の意味も理解しているのだが上の先生方達はその意味を分からないことを前提で考えた方がよさそうだ。

 

「ですが、この世界の世界大戦に巻き込まれた状態で鉱物資源を得たいと考える程、先生方は欲深くはないでしょう」

 

「ならいっそ帝国に取り入ってクーデター陣営を鎮圧させたらどうだ?」

 

 意地悪く、エリオットに心の中で謝罪しつつもそんな提案をしてみた。

 言ってる事はド外道その物であるが、国益と言う奴を考えるだけならそれが一番だ。

 

 例えバハムス帝国と言う国家がクソでも、日本は長年に渡ってミサイルを撃ち込んだり戦闘機で領空侵犯させてくる連中とお付き合いしてきた実績がある。

 

「確かにそうですが――望みが薄いかと。特に先の失敗もありますから弱腰です」

 

「リビルドアーミーの時だな……」

 

 リビルドアーミーとの会談――と言う名の宣戦布告の時を思い出した。

 アレで弱腰になってんのか。 

(*詳しくは第一部、第二十三話「思想の対価」参照)

 

「たく、呑気に給料泥棒の不良自衛官やろうと思ったのに、どうしてこうなったんだか……国連よりも国連らしい事している気がするぜ――」

 

「確かに世界救っちゃいましたもんね」

 

「ともかく反乱軍の拠点に行く。その前にヴァネッサと合流したい」

 

「ヴァネッサさんとですか?」

 

「今のパワーローダーじゃ正直限界だからな。基地に戻ったのはヴァネッサとコンタクトを取る意味合いもある」

 

「どうしてそこまでするんですか?」

 

「やりたいように生きる――リオ達を見習っただけさ」 

 

「やりたいようにですか。簡単ですけど、難しいですね――それでは私はこの辺で」

 

 そう言って公安の女Xは立ち去った。 

 

「さてと、準備しますか」

 

 そうして俺は様々な準備に取り掛かった。



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第二十三話「三将・火のマグナス」

 Side 緋田 キンジ

 

『このタイミングで襲撃が来るとは!!』

 

 マジックメイルの部隊。

 バハムス帝国の連中だ。

 

 更には敵の指揮官機と思われる赤色の機体

 

『気をつけてください!! アレは三将軍、マグナスの機体です!!』

 

 マジックメイルを身に纏い、応戦しながら注意を促すエリオット。

 

『――火のマグナスのイフリートか!!』

 

 事前に受けていた報告を思い出す。

 

 三将軍、火のマグナス。

 

 マジックメイルはイフリート。

 二本角の炎の騎士と言ったところか。

 

 他にもシルファー、タイタスなどのマジックメイルを保有しているらしい。

 炎の件を振り回し、超高温の火球で辺り一帯を火の海に変えている。

 

 周りの赤いマジックメイルもこれまでの連中と違って腕利きだ。

 

『はっ!! 中々やるじゃねえか異世界軍さんよぉ!! 俺のイフリートは今迄の連中とは一味違うぜ!!』

 

 俺と変わらないぐらいの男の声だ。

 

『キンジ、相手の機体――もしかすると!!』

 

『ああ、アインブラッドクラスだな――』

 

 リオの言わんとしている事は分かる。

 相手のマジックメイルはパワーローダーで例えるなら間違いなくアインブラッド級だ。

 

 俺達の今のパワーローダーで何処まで立ち向かえるか――

 

『おらおらいくぜ!!』

 

 そう言って空中から炎の光線を薙ぎ払うように発射してくる。

 戦車だろうと何だろうと直撃すれば一溜りもない熱量だ。

 

『このままだとアイツ一機にこの駐屯地は陥落するぞ!?』

 

『だが手持ちの手札でやるしかないだろう!!』

 

 キョウスケが言いたい事は分かるが打開策が見つからない以上はこうして今のパワーローダーで応戦するしかない。

 

『何体か凄腕が混じってるな!! いいぜ、相手になってやる!!』

 

『俺狙いか!!』

 

 そして俺はマグナスを誘導するように基地から離れた。

 

『一人で囮を買って出るか? このマグナス様相手に?』

 

『こう言うのは慣れっこなんでな! 来いよ!』

 

『面白れぇ!!』

 

 そしてマグナスと一騎打ちに持ち込む。

 相手の攻撃を一発でも受ければ致命打になる。

 対して相手のマジックメイルの装甲、障壁は頑丈だった

 

(腕は此方が上だが機体の性能差が!!)

 

『はっ!! やるじゃねえか!!』

 

『伊達に修羅場は潜ってないんでな!!』

 

 作戦としてはこいつを他の部隊から孤立させて、あとは味方が他の敵を倒すのを待って撤退に追い込む作戦であるが――

 

(このままでは俺が持たない!!)

 

『勝負を決めさせてもらうぞ!!』

 

 そう言って巨大化した炎の剣と一緒に斬りかかってくる。 

 俺は後先を考えずにリミッターを解除した。

 

『速い!?』

 

 フェンサーの限界を超えた速さで敵を翻弄する。

 懐に潜り込んで――一発ぶん殴る。

 

『クッ!!』

 

 更にタックルを決めて吹き飛ばし、至近距離からアサルトライフルを撃ち込む。

 

『舐めるな!!』

 

 だが相手も流石なもんですぐさま体制を建て直し、反撃の火球光弾を連発してきた。

 それをある程度のダメージを受けながら攻撃を続ける。

 

『俺のイフリートをここまで追い込むとはな――遊びは終わりだ!! イフリート・ロア!!』

 

『!!』

 

 至近距離から基地に大ダメージを与えた熱戦が放たれる。

 だが恐がってはいられない。

 

『こいつ!? 避けた!?』

 

 そしてもう一発ぶん殴り、同じ個所に銃弾を連射する。

 

『はは、なんつー腕前の野郎だ。そしてすげぇ度胸だよ。だがここまでだ!!』

 

 まるでバリアが弾けるように炎の壁が迫って来た。

 それから全速力で離れる。

 

 逃れはしたが同時にリミッター解除の代償が機体に襲い掛かる。

 俺は片膝をついて倒れた。

 

(チッ――ここまでか――)

 

 そう思った時だった。

 

『エリオットか!?』

 

 よりにもよってと思った。

 

 そして青いマジックメイルを脱ぎ去り、生身でマグナスと対峙する。

 同時に髪の毛は金髪から白髪になった。

 マグナスはと言うと――

 

『まさか――アナタ様は――』

 

「三将軍マグナス。これが君の望んだ戦いかい?」

 

 まるでエリオットは別人のように雰囲気が変わっている。

 彼は誰だ。

 いや、それよりも――反乱軍のリーダーであるフィアとソックリだった。

 

『フィア皇子!? どうしてここに!?』

 

『まさかとは思っていたが――そんな重要人物だったのかエリオット……いや、フィアか――』

 

「エリオットでも構いません――正直僕は悩んでいました。この反乱について正しいのかと。だけど色々と見て回って覚悟を決めました。父上の蛮行を終わらせるために、僕は剣を取ります」

 

 そしてフィアは閃光と共にマジックメイルに包まれた。

 白いドラゴンを模したマジックメイルに。

 

『フィア皇子!? 何故反乱軍に与するのですか!? アナタは現実を分かってはいない!! 綺麗事だけでは世の中は――』

 

『以前なら君の言う事にも理があるように感じただろう。だけど、その倫理がこの状況を招き、更に状況を悪化させようとしている事に気づくべきだ』

 

『――ならば力尽くで!!』

 

『僕のマジックメイル、アルビオンには勝てないよ』

 

 そして両者は激突する。



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第二十四話「皇族フィア・バハムスとアルビオン」

 

 Side フィア・バハムス

 

 とても短い期間だけど、エリオットの仮面を被ってだけど、緋田さん達との旅は楽しくて、そして色々な人達や考え方、世界のあり様に触れられた。

 

 同時にこの世界に待ち受ける未来をも知った。

 

 だから決意した。

 

 もう逃げない。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 エリオット――いや、フィア。

 そしてマグナスの両者が空中で激突している。

 

 空中戦でありながら最近になって重要視され始めた近接戦。

 地球ではパワーローダーの普及で再びお目に掛かれるようになったが――ここまでハイレベルの代物じゃない。

 

 少なくとも俺には無理だ。

 リオやパンサーだってここまでのレベルじゃない。

 

 今の自分には見守るしかなかった――

 

(なワケには行かねえよな!!)

 

 すぐさま次の行動に移した。

 

 

 Side フィア・バハムス

 

『まさか噂の皇太子様がここまでやるとはな!!』

 

『退いてくれ!! もう状況は僕達が考えている以上に複雑なんだ!!』

 

『ふん!! そっちからクーデターを引き起こしておいて言うことか!?』

 

『だからと言って意思を曲げるわけにもいかない!!』

 

 本来なら言い返す道理はない。

 

 だがクーデターその物が間違いだったとは思っていない。

 このままではバハムス帝国はダメな方向に歯止めが効かなくなっていくからだ。

 

 だけど事態はもうクーデターを成功させればいいとかそんな状況を超えている。

 マグナス将軍はそれを分かって貰えないことが悲しいけど、今は――

 

『倒してでも意思を押し通す!!』

 

『よく言った!! 坊ちゃん皇太子!!』

 

 マグナス将軍のイフリートと僕のアルビオンの剣が激しくぶつかり合う。

 確かにマグナス将軍は強い。

 イフリートの性能を最大限にまで引き出している。

 

 そんな相手に優勢に立ち向かえた緋田さんは凄いと思うところがある。

 

 しかし今は――

 

『負けるわけにはいかない!!』

 

 気合一閃。

 マグナスを剣で吹き飛ばす。 

 

『チィ……引き時か――』

 

 マグナスは撤退をしようと考えた。

 その時だったから。

 

(遠くから巨大物体が――まさか空中戦艦!? それにアレは――)

 

 遠くから空中戦艦が近づいてくる。

 同時に複数のマジックメイル――黒色のマジックメイル達は皇族の親衛隊だ。 

 

 そして中心にいるのは禍々しいデザインのマジックメイル。

 まるで物語に出て来る魔王を象ったようなデザイン。

 大きな大剣。

 本当に同じマジックメイルかと思ってしまう。

 

『久しいな。フィア・バハムス――我が息子よ』

 

『父上――』

 

 父上。

 

 そして自分が討つべき皇帝陛下。

 

 グラン・バハムスがその姿を現した。



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第二十五話「バハムス帝国:グラン・バハムス皇帝」

 Side フィア・バハムス

 

 まさか父上自らが出向いてくるとは思わなかった。

 

 だが同時にチャンスでもある。

 

『父上―いや、グラン・バハムス!! 何をしに来たかは分からないけど、この場に現れたのならここで打ち倒す!!』

 

『ふふふ―』

 

 不敵に笑う父上。

 

『なにがおかしい?』

 

『まさか、あの軟弱な小僧が指導者の一人になって立ちはだかるとはな――まあいい。この場に現れたのは正式にある事を宣言するためでもある』

 

『宣言だと?』

 

『そうだ』

 

 そしてグラン・バハムスは言った。

 

『異世界への武力侵攻を正式にな』

 

『なっ!?』

 

 とだ。

 

『なにを考えてるんですか!? クーデターをしでかしておいてなんですけど、この国の状況を考えてるんですか!?』

 

 正気とは思えなかった。

 異世界の武力侵攻など、いくら強大な軍事力を持つ帝国と言えども不可能だ。

 

 さらにゼレーナのような正体不明の敵までいる。

 

 もはやこの世界の国々どうこうの問題ではない。

 この世界の人間がどうなるかの問題なのだ。

 

『この世界をバハムス帝国の名の下に統治し、絶対なる帝国を築き、愚民どもを導く。それにはこの世界だけでは足りんのだよ。統治を成し遂げるにはより強い力が必要なのだ』

 

『本気――なんですね』

 

 僕は諦めがつきながら尋ねる。

 

『ああ――そのためにあえて宣言する。バハムス帝国皇帝、グラン・バハムスは領土内に存在する全ての世界に宣戦布告する』

 

 自衛隊の人達もあんまりな事に困惑している。

 

『だが私は寛大である。自衛隊の諸君、これまでの戦いには目を見張る物があった。もしも我が覇道に馳せ参じるのであれば相応の待遇で迎えよう』

 

 と、勧誘まではじめた。

 

『それってつまりお前達の部下になって同胞を殺せってことだろう!!』

 

『ふざけんな!!』

 

『誰がそんな事をするか!!』

 

 自衛隊から反対の声が上がる。

  

 そして――

 

『狭間駐屯地の基地司令、前原 秀幸一佐だ。我々自衛隊は国民の生命と財産を守るために存在している。グラン・バハムス皇帝――貴方の言葉には何一つ賛同は出来ない』

 

 と、狭間駐屯地の司令が返した。

 

『つまりそれはこの場で死にたいと言う事だな?』

 

 皇帝は最終確認を行う。

 

『どうとっても構わない。私は部下に死ねと命じるような命令を下す事は出来ないが、同時に、部下に日本人を、何の罪もない民間人を殺せと命令するぐらいなら貴方と戦う道を選択するまでです』

 

 丁寧な口調だが断固たる決意が感じられた。

 戦う気なのだ。

 恐怖の象徴であるバハムス帝国の皇帝と。

 

『ますます気に入った。だが惜しい。この場で殺さねばならんとは――攻撃開始。あの基地を占領し、そしてあの基地内にあるゲートから奴達の世界へ進行するぞ!!』

 

 膠着した戦いの狼煙を皇帝の名の下に再び切り落とした。



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第二十六話「アインブラッドの再臨」

 Side 緋田 キンジ

 

 どうにか生き延びたが状況は好転していない。

 

 むしろ悪化している。

 

 敵の総大将が空中戦艦と一緒に殴り込みしに来たのだ。

 

 皇帝が身に纏っているマジックメイルも相当自信があるのだろう。

 

 実際、息子のフィア・バハムスと父親のグラン・バハムスとで激しい戦いが繰り広げられている。

 

 状況は互角に見えるがフィアが押され始めており、狭間駐屯地もその余波を食らって損害を受けている。

 

 援護したくても戦いが激しすぎる上に両者の距離が近く、めぐるましく移動するので援護は困難だ。

 

 仮に自分のパワーローダー、フェンサーが万全の状態でも太刀打ち出来るかどうか怪しい。

 

 黙ってこの状況を見ているのは性に合わないが、並大抵のパワーローダーでは足手纏いになる。

 

(どうすればいい――)

 

 その時だった――

 

☆ 

 

 Side フィア・バハムス

 

(強い!!)

 

 僕のマジックメイル、アルビオンが押されている。

 皇帝のマジックメイル、グランシュナイドの性能が想像以上なのだ。

 

 皇帝のマジックメイルの操作技術は予想よりも高いのもあるかも知れない。

 

 確かに皇族なので厳しくは操縦技術は仕込まれているだろうが、それだけではこの状況にはならない。

 相手のマジックメイルは規格外に強いのだ。

 

(このままだと自衛隊の人達に被害が――だけど被害を考えてたらやられる!!)

 

 などと思いつつ戦い続ける。

 隙を見せられないこの状況、非情に徹して戦うしかない。

 

 などと考えていたその時だった。

 

 突如としてピンク色の飛行船が現れ、そして『お久しぶりです、ヴァネッサです!! やっと調整が終わりました!!』と言って何かを射出した。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 来たかと思いつつ、ピンク色の大型飛行機――久しぶりに目にするヴァネッサが使うマザーバードから自分の眼前にカプセルが射出される。

 

 その中にはオーバーホールが済んだアインブラッドタイプがあった。

 

 早速それを身に纏う。

 

 周囲ではピンクのマザーバードから増援のパワーローダー部隊が参加して体制を立て直していく。

 

 ピンクのマザーバード本体は敵の浮遊船にミサイルを発射。

 敵浮遊船は後退しながらそれを光の弾で迎撃しようとするが何発か着弾した。

 

『お届け物がどうにか間に合いましたね』

 

 と、ヴァネッサから通信が入る。

 相変わらず特殊部隊の兵士とか諜報員と言うよりかは営業が得意なキャリアウーマンみたいな雰囲気の女性である。

 

「タイミングがいいな。もしかして見計らってた?」

 

『とんでもありません。大急ぎで急ピッチでした』

 

「まあそう言う事にしておくか」

 

 俺はアインブラッド・ガンブラストを起動させる。

 

 グリーンの本体

 緑色と銀色の大小重ね二本角。

 黄色い瞳。

 キャノン砲にミサイルポッドを内蔵した大型のブースターユニット。

 左腕のアームガン、両足側面の二連装銃。

 専用のアサルトライフルに後ろ腰にナイフ。

 

 フォボスとの最終決戦時の武装だ。

 

 キョウスケやリオ、パンサーにルーキー達もフォボスとの最終決戦時のパワーローダーを身に纏う。

 

 

 Side フィア・バハムス

 

 緋田さん達が新しいパワーローダーを身に纏った。

 今迄も凄かったが――緋田さん達はまるで枷が取れたかのように次々と帝国軍のマジックメイルを撃墜している。

 

 その勢いが止まらない。

 

 流石の皇帝も事態の変化に気づいたのか『今日はここまでのようだ』と軍を引き下げた。

 

 助かったと同時に取り逃がしたことを残念に思う。

 

 だがウジウジと悩んではいられない。

 

 皇太子としての身分を明かしたのだ。

 

 これから大変なことになるだろう。

 

 そう思うとなんだか別の意味で大変な気持ちになってきた。

 



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第二十七話「戦い終わって」

 Side 緋田 キンジ

 

 夜になっても狭間駐屯地の復旧作業は急ピッチで行われている。

 

 ヴァネッサ達や反乱軍の面々などは基地の警護についてくれていた。

 

 それはそれとして問題はエリオット――もとい、フィア・バハムスのことだ。

 

 俺達、第13偵察隊は基地司令や謎の女Xたちと一緒にブリーフィングルームに集まった。

 

「つまり俺達が最初に会ったフィア・バハムスは影武者だったのか?」(第二部第九話「新たな出会い」参照)

 

 キョウスケが先陣を切るように誰もが疑問に思っている事を話してくれた。

 

「その通りです。アレがエリオットで魔法を使い僕に変装した姿――そして僕がエリオットとして貴方達を探るために潜り込んだ姿なのです」

 

「どうしてそんな無茶な真似を――いや、アレだけ強かったら納得だな」

 

 フィアの言い分にキョウスケは続けて何か言おうとしたが、相手の三将軍や皇帝との戦いぶりを思い出して納得した。

 

「それでも危険な真似だったのは変わりないし、それに無理して正体を現す事は無かったんじゃないのか?」

 

「それを言われると痛いですね」

 

 俺の言葉にフィアを苦笑して返し、こう続けた。

 

「変装したままでも良かったんですけど、あのマジックメイルを呼び出せば正体がバレてしまいますから」

 

 との事だ。

 どうやら俺達を助けるために正体を明かしたようだ。

 

「君、絶対人が良いって言われてるだろ」

 

「なんで分かるんですか?」

 

「はあ……」

 

 今度は俺が苦笑した。

 人の良さについては無自覚のようだ。

 

「本題に入ろう――これからどうするかについてだ――」

 

 と、重苦しそうな雰囲気で狭間駐屯地の基地司令が告げる。

 

「正直に言うと上の方ではこの基地を爆破、放棄して全隊員は元の世界に戻ると言う声もでている」

 

 その意見に俺は(だろうな)と思った。

 日本国民をATMか何かかと勘違いしている政治、官僚様達からすればこれ以上の厄介事はごめんだと言うことだろう。

 

「ですが最悪の状況――例えば帝国が日本本土へ直接攻撃を仕掛けた場合の事を考えた場合、話は変わってきます」

 

 ここで話をXさんが引き継ぐ。

 

「そう言えば政治家や外務省の人達来ないな?」

 

 思い出したかのようにキョウスケが言う。

 

「前回の失敗がありますからね。本土で和平だの何だの言ってますよ」

 

 俺はすかさず「だけど皇帝直々に宣戦布告されだろう?」とXに言った。

 

「実は日本国民にはパニックを避けるためと言う事でその事実はまだ伏せてあるんです。恐らく何かあった場合、全責任を自衛隊に擦り付けるためでしょう」

 

「役人どもが考えそうなことだ」

 

 キョウスケが吐き捨てるように言う。

 本来こう言う態度を諌める立場の基地司令も黙認していた。

 

 前の世紀末世界の時もそうだったが日本政府の連中は基本、日本国民の事よりも金、権力、女(男)が重要なのだ。

 

 でなければ日本経済はとっくの昔に回復している。

 

「最悪の事態を考えた場合、基地の放棄は悪手でしかありません。私も出来る限りアナタ達のバックアップに回ります」

 

 Xさんは「それと――」と言ってこう続ける。

 

「ヴァネッサさん、プレラーティさんなども日本政府を脅迫してでも現状維持を迫っています」

 

 なんともありがたくて頼もしい言葉だと思った。

 基地司令若干ひいてるな……

 

「ともかく予定は変わらない。準備が出来次第、帝国領内の士官学校に向かう」

 

 気を取り直すように俺は言った。

 フィアの言う通りなら反乱軍の拠点になっているからだ。

 だからそこに向かう事にする。

 

 



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第二十八話「道中にて」

Side 緋田 キンジ

 

 反乱軍の拠点となっている士官学校へ向かう。

 と言っても想像以上に反乱が長期化したせいで士官学校でも反乱軍の拠点でもなく、難民キャンプ化しているらしい。

 

 まあそれはともかく―― 

 

『どうして世紀末世界の陸上戦艦がうろついてんだ!?』 

 

 空路――アルバトロスやピンクのマザーバードで一気に士官学校へ目指していたらヴァイパーズのマークがついた陸上戦艦を目にした。

 

 場所は火の手や黒煙が上がり、廃墟と化しつつある村。

 

 少数ながらマジックメイル達が抵抗しているので加勢する。

 

 もしも帝国側だったらその時はその時だ。

 

『あのマークは自衛隊とか言う連中の!?』

 

『どうしてこんなところに!?』

 

『応戦しろ!!』

 

 すっかりヴァイパーズの間でも有名になったもんだ。

 とにかく敵の集中砲火をどうにかしなければならない。

 

『応戦しつつ別々の方向に散開しろ!! 的を絞らせるな!!』

 

 俺は指示を飛ばす。

 

 第13偵察隊だけでなく、フィアの親衛隊やヴァネッサ配下の隊員までいる。

 それぞれ実力は保証済みなのでその点は安心だ。

 指揮権はフィア、ヴァネッサ達がそれぞれ保有している感じだが、俺の指示などには意見を傾けてくれているのでありがたい。

 

『数はこっちが上なのに!?』

 

『ダメだ、かなわねえ!!』

 

 戦闘開始から一分も経たないウチにもう士気が崩壊している。

 陸上戦艦の方にも火の手や黒煙が昇りはじめていた。

 

『おかしいな――前はもっと苦戦した筈なんだが――』

 

『それだけ俺達が強くなったか、相手が弱くなったか……もしくは両方だろう』

 

『そう言うもんか……』

 

 キョウスケの言葉に釈然としないものを感じつつも敵を競うように倒していく。

 相手は一体でも逃すと何やらかすか分からない連中だ。

 無慈悲に殲滅する。

 

 

 戦いその物は十分も掛からなかった。

 パワーローダーの残骸が村の廃墟の彼方此方に散乱している。

 陸上戦艦は黒煙や火花をあげ、武器は全て潰されて鎮座していた。

 

 まだ陸上戦艦や村のどっかに敵が残っているかもしれないので油断は出来ないが――

 

『村人は無事なのはいいが――これじゃ生活できんぞ』

 

『だな』

 

 幸いにして村人達は自警団のマジックメイルの奮闘もあってか、避難していたようだがキョウスケの指摘通り、家などの生活基盤を破壊されてしまっている。

 このままでは飢え死んでしまうだろう。

 

『ならあの戦艦に住んでもらえば? 暫くは持つっしょ?』

 

 ここでパンサーがそう提案してきた。

 その提案にあの世界のシップタウンを思い出す。

 

『気が進まねえがしゃあねえ、内部の掃討戦と行きますか』

 

 装備を外す必要があるが戦艦内部の残敵掃討に動くことになった。

 

 

「そ、その、あ、ありがとうございました」

 

 緊張した様子で自警団の少年少女たちが礼を言ってきた。

 クーデターを引き起こしたとはいえ、皇太子がいるので萎縮してしまっている感があるが――

 

 少年少女だけなのは帝国の戦争による徴兵や内乱。

 ヴァイパーズのような連中の跳梁を許し、戦える大人達が先に死んでしまって残ったのは子供達だけと言う悲惨な有様だったのだ。

 

 それを聞いてフィアは辛そうだった。

 

 

 村人達は此方を遠巻きに眺めていたが、特にやる事はないので戦後処理と言う名の遺体片づけを行っていた。

 

 本当はこのまま立ち去って目標地点に向かうことも考えたが、なるべくパワーローダーなどの整備や偵察は万全にしておきたかったと言うのもある。

 

 それにより空いた時間で暇潰しで予備のパワーローダーで戦後処理と言う奴である。

 

 そんな時だった。

 

「モンスターの群れが来たぞ!!」

 

 と、新たなトラブルが舞い込んできた。

 

 



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第二十九話「モンスター襲来」

 Side 緋田 キンジ

 

 そう言えばこの世界、ドラゴンとか出る世界だったな。

 すっかり忘れてたわ。

 

一定の方向からモンスターと呼ばれる生物の群れ。

 

 まるでファンタジーモンスターの見本市。

 

 ゴブリン、オークやイノシシやオオカミ、クマみたいな生物がいる。

 

 そして更に遠方には因縁のアイツ。

 

 ドラゴンがいた。(*第2部第六話「VSドラゴン」参照)

 

 別個体と言うワケではなく、弾痕や爆炎の跡がクッキリ残っているのを見ると同一個体だろう。

 

 どうやらリターンマッチに来たようだ。

 

 すぐさま戦闘用のパワーローダーに乗り換えて迎撃に出る。

 

 とにかく数が多い。

 

 援軍要請は既に送っているが今回は望み薄だ。

 

 幸いなのは此方の味方の殲滅力――ヴァネッサが届けてくれたパワーローダーの火力やマザーバードの飛行船からの火力支援がいいところだろうか。

 

 次々と粉砕していくが数が多い。

 それに前回戦ったドラゴン――中々に頑丈だ。

 実はこいつ、あの荒廃した世紀末産じゃないかと思えるほどの。

 

『数が多い!!』

 

 キョウスケは愚痴を漏らしながらパワーローダーの大火力で薙ぎ払っていく。

 

『このままだと村人達に被害が!!』

 

 リオも的確に空中の敵を撃ち落としていく。

 

『言いたい事は分かるんだが――』

 

 この戦力でも無理がある。

 人数的な問題だ。

 特にリオやパンサー、キョウスケにフィアの負担が大きい。

 俺もドラゴンを相手どっていてこのままでは――と思ってしまう。

 

『さしもの異世界軍もこのモンスターの群れの前ではどうしようもできまい!』

 

 そこで新たに帝国のマジックメイル部隊が現れた。

 

『その声、デスモンドか!?』

 

 フィアが反応する。

 どうやら知り合いのようだ。

 

 デスモンド。

 確かこの世界に来て初めて戦った相手だった。

(第2部第二話「マジックメイルVS自衛隊」)

 

 その後もプルミア村での一件や2048年の日本との見送りの時に襲い掛かってきた時も指揮や手を回していたらしい。(第2部第七話魔守るための戦い」、第二十一話「世紀末の懐かしい奴」)

 

『デスモンド、こんな事をして何になるんだ!?』

 

『黙れ!! 民衆だの大義など所詮は圧倒的な力の前にはゴミ同然!! みな帝国にひれ伏せばいいのだ!!』

 

 それを聞いて俺は――

 

『……救いようのねえ屑野郎だな』 

 

 感じたままに言葉を発した。 

 

『なんだと?』

 

『大義はともかくそんなに人助けが悪い事なのかよ? 人間をゴミのように扱ったからクーデターを起こされたんだろう?』

 

 リオは何を思ったのか『キンジ……』と俺の名を呼ぶ。

 

『それはこの皇子が――』

 

『悪の独裁国家の末路なんてのは三つに一つだ。衰退状態を維持したまま世界に見放されるか、その隙をついて他国に滅ぼされるか、今回みたいにクーデターを起こされるかだ』

  

『悪だろうが正義だろうが関係ない!! 勝てばいいのだ!!』

 

『クーデターを起こされた原因すら考えん連中に未来はねえよ!!』

 

『だが現状はどうだ!? あのゴロツキども(ヴァイパーズ)に続いてこのモンスターの群れ、そして我々の相手が務まるとでも!?』

 

 怒り任せに事実を言うデスモンド。

 しかし俺は――

 

『この程度で戦意を失くすと思ったか? 確かにキツイがこの程度の修羅場でくたばるようならとうの昔に死んでたよ』

 

『もういい! 寝言はあの世で言え!! 総員攻撃開始!!』

 

 と、デスモンドが襲い来る。



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第三十話「援軍」

 Side 緋田 キンジ

 

 デスモンドとモンスターの群れではなく、デスモンドとモンスターの群れと俺達との三つ巴戦でもある。

 

 たんなる、なろう小説のヤラレ役ではないらしく、デスモンドは距離を離してモンスターに襲われないように遠距離からモンスターをも巻き込んで撃ちまくっている。

 

『この襲撃は単なる偶然ではありません!! 恐らくモンスターを操って僕達に嗾けてるんだと思います!!』

 

 フィアの助言に『流石ファンタジー、そう言う事もできんのね……』と俺は呆れを漏らす。

 

『ヴァイパーズやリビルドアーミーまで来やがった!!』

 

 すっかりやられ役が板についてきたヴァイパーズやリビルドアーミー。

 

『こいつらもしかすると狭間駐屯地みたいに拠点事飛ばされてきた感じかな?』

 

 そう言うとキョウスケに『考察は後だ隊長。今は生き延びるのが先決だ』と言われた。 

 確かにそうだな。

 

(だがこのままだと消耗戦になるな――)

 

 などと考えつつドラゴンを相手取る。

 

 このまま戦いが長引けば村が廃墟どころか何も残らない焦土と化す。

 なんとかしなければと思うが現実は非情だ。

 

 などと諦めていたその時――

 

『反乱軍の増援です!!』

 

『なに!?』

 

 驚くデスモンドたち。

 どうやら反乱軍の増援が来たようだ。

 

『こいつら学園を拠点にしている連中か!?』

 

『学生連中どもに何が出来る!!』

 

 などと息巻いている。

 正直に言うと帝国兵の連中には同感だが――同時にこれまでの経験則で当て嵌めるのも危険だと告げている。

 

『フィア!! 助けに来ました!!』

 

 セシリー・ゴルディアーナを筆頭に援軍に来た反乱軍の部隊が戦闘開始と同時に次々とヴァイパーズやリビルドアーミー、帝国兵が爆散していく。

 

 やったのはセシリーを筆頭にフィアと同じく特別仕様のマジックメイル達だ。

 

『聞いていたけど本当に正体明かしちゃったんだね、フィア。まあらしいっちゃらしいけど』

 

『エリオット――』

 

 ややこしいが――援軍に来たマジックメイルの中にはエリオット――フィアが変装していたモデルとなった人物がいるようだ。

 

『まあ弟のお人好しさは今に始まった話ではないがな』

 

『兄さん――』

 

 とフィアが身に纏うアルビオンにソックリなマジックメイルがいる。

 アレの中にいるのがフィアの兄なのだろう。

 

『デスモンド様!! ここは退却を――』

 

『反乱軍の首謀者が!! 皇太子が二人もいるんだぞ!? この好機を逃せと言うのか!?』

 

『しかし――』

 

 この状況はデスモンドは取り乱していた。

 まあ無理もない。

 目の前に反乱軍の筆頭格が二人もいるのだから。

 

『アレが異世界の軍隊か』

 

『兄さん、今は――』

 

『分かっている。デスモンド達は任せておけ』

 

 そう言ってフィアの兄はデスモンド達を相手に向かった。

 俺達は――

 

『モンスターの動きが乱れた!!』

 

 リオの言う通りモンスターの動きに乱れが生じ始めた。

 操り手のデスモンド達にフィアの兄や反乱軍の増援部隊が向かったせいだろう。

 

 こうなってしまえばもう戦いは決まったも同然だ。

 

『じゃあドラゴンと決着をつけるとしますか!!』

 

『手伝うよキンジ!!』

 

 俺とリオはドラゴンに向かって飛び掛かる。

 周囲を飛び回り、時には近接戦を仕掛け、時にはリオと同時に射撃で翻弄。

 着実にダメージを与えていく。

 

『お前には何の罪もないが――運が悪かったと思ってくれ』

 

 そしてトドメは俺が差す。

 鼻の上に降り立ち、眉間にライフルを照射。

 ドラゴンの巨体が崩れ落ちる。

 

『あんまり嬉しくなさそうだね』

 

『まあな――』

 

『そう――』

 

『リオはどうなんだ?』

 

『分からない。生きるためにガムシャラに色々としてきた人生だったから』

 

『そうか』

 

 産まれてからずっとあの世界で生きて来たんだ。

 まだ感覚が分からないんだろう。

 何時かリオにも分かる様になると俺は信じてる。

 

『デスモンドの奴は撤退した。他の帝国軍や世紀末の連中もだ』

 

 キョウスケが報告に来る。

 俺は『そうか』と返す。 

 

『まあ、色々とやらなきゃいけないことはあるけど、まずはフィアの兄さんに挨拶しないとな』

 

 気持ちを切り替えて俺はそう言った。



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第三十一話「もう一人の皇太子」

 Side 緋田 キンジ

 

 被害状況や、避難民の確認。

 

 戦死者の埋葬作業をこなしつつ、仲間達と村人達をどうするかの相談をする。

 

 勿論そこにはフィアの兄もいた。

 フィアは中性的な美少年みたいな感じだ兄の方は体格が若干よく、ちょっとワイルドな雰囲気が漂っていた。

 

「アルク・バハムス――まあ反乱の首謀者の一人だ」

 

「どうも日本の陸上自衛隊の緋田 キンジ一尉です。弟さんにはお世話になりました」

 

 実際、皇帝自らが襲来して来た時なんかはヤバかった。

 

「しかし、民衆の受け入れ先でこうも悩むとは、一々これでは体が持たんぞ」

 

「まあそれが自衛隊なもんでして――」

 

「ドラゴンを倒した男がやる事とは思えないな」

 

 アルクはフィアと比べて言葉遣いや態度がかなり違っていた。

 ある意味では皇太子らしいと言えばらしいかもしれないが。

 

 そんなアルクと休憩中に二人話す事になった。

 

「異世界ではこれが普通なのか?」

 

「いや、違うと思いますよ――」

 

 自衛隊は世界的に見て変わった組織だ。

 うつろ自衛隊とかがおかしいのだ。

 

「変な連中だ」

 

「そう言われるとそうですね」

 

「――まあいい。正直色々と探ってはいるがどうしても分からんことがあったな。それを確かめておこうと思ってな」

 

「分からないこと?」

 

「基本国家が軍隊を差し向けるのは何かしらの利益を得るためだ。まあ中には大義のためだの何だので動く事もあろうがな」

 

「ウチの政府は火中の栗を拾ってまで得られる利益をどうするか、考えが纏まってない感じですがね」

 

 と、思い出す様に俺は言った。

 

「君はどうなんだ?」

 

「先日、世界が滅びそうな程の戦いがありまして――このままだとそうなる可能性がありますから嫌々戦ってるだけです」

 

 これに関しては嘘はついてない。

 不良軍人やるのも平和があってこそだ。

 

 それを言うとアルクは虚を突かれたように固まった。

 だが少し間を置いて笑い始める。

 

「何だかんだで弟と同類か君は――いや、それ以上か。まさか怠け者やるために世界の危機に立ち向かうとは」

 

「正義だの平和だので飯は食えませんけど、平和じゃないと飯は産まれませんから」

 

「成る程、それは道理だ。まさかここでそんな正論を聞く事になろうとはな」

 

 ツボに嵌まったのかさっきから笑ってる。

 大丈夫かこの子。 

 

「正義だの大義だの答えたら意地悪な質問でもしてやろうかと思ったが、想像以上に変わり者だったとは。気に入ったよ」

 

「はあ――そんなに変わってますかね? だけどああ言っておいてなんですがこの世界に来る前には修羅の土地でドンパチしてたんですよ?」

 

「報告者にあった他の異世界と言う奴か?」

 

「この世界が控えめに言って天国に感じるような世界です。まあそんな世界でも人は逞しく生きてましたけどね」

 

 正直あの世界は地獄だ。

 だが地獄でも人は逞しくて生きていた。

 

 悲しい事は沢山あったが、あの世界があったからこそリオやパメラ、パンサー達と知り合えた。

 

 だからあの世界の全てを否定する事はできない。

 

「このまま長々と雑談するのもいいかも知れんが本題に入ろう」

 

「本題?」

 

「もう聞いているかもしれんが、クーデターは短期間のウチに終わらせるつもりだった。だがこの世界に起きている異常事態のせいで長期化しているのが現状だ」

 

「まあ確かにあの世界(世紀末)の連中やら、他の世界の人類の天敵(ゼレーナ)やらいますしね……もしかして他にも厄介な連中がいるかもしれないし」

 

「そして皇帝陛下はあろう事か、異世界への侵攻と言ういらぬ野心を抱いてしまった。恐らく其方の世界に繋がるゲートを作って直接進行するつもりだろう。これ以上の収拾がつかなくなる前に動くつもりだ」

 

「ちょっと待ってください。ゲートを作れるんですか?」

 

「異世界の侵攻は一見すると場当たり的でもあるが、かなり前から計画が練られていたようだ。それが派生して異世界から強力な戦士を呼び出そうとし――失敗して今の状況に至るワケだがな。必要なデータは揃いつつある。少なくとも日本と間違えてアメリカ辺りにゲートが開くなんて言う喜劇には期待せん方がいいぞ」

 

「最悪だ……」

 

 報告する事が増えた。

 同時にタイムリミットもあるようだ。

 

「皇帝は底無しの野心家だが、同時に戦争屋でもある。流石に異世界進行となると念入りな準備が必要なのは分かるだろう。だが準備は整うまでの時間はそう長くはないだろう」

 

「どんどん問題が増えてるな」

 

「だが同時に帝国を討つだけを考えれば好機でもある。皇帝は異世界の連中を手中下に収める事を考えたが思ったよりも上手くは行ってない。逆にその対応で手一杯になっているのが現状で、他国の攻撃や占領した領土で反乱の恐れがある」

 

「つまり帝国本土は手薄になっているのか」

 

「不本意ながらな。此方も仕掛けるが準備が必要になるだろう。その前に片付けられる問題は片付けておきたい」

 

「つってもどうすればいいのか分からないですね」

 

「そのために弟と一緒に一旦学園を目指せ。あそこなら情報が集まっている筈だ」

 

 俺はハァとため息をついて「何時になったら休めるかな……」と言った。



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第三十二話「学園へ――」

 Side リーナ・バハムス

 

 兄さん達(フィア、アルク)が不在の間、私は学園の生徒達や反乱軍に参加してくれた兵士達と一緒に学園の守りに徹していました。

 

 最近連日のように様々な敵が攻め込んできてますが被害が思ったより少ないのが奇跡なようなものです。

 

 だけど今回は――

 

 3将が二人、地のグレイと風のフェイン。

 

 空中戦艦セットで本気で潰しに来ています。

 

 このままでは不味いです。

 

 幾ら優秀なマジックメイルや乗り手であっても3将二人と空中戦艦のセットは厳しいです。

 

 兄さん達が不在のこのタイミングを狙われるとは運が悪いです。

 

「リーナ様!! 援軍です!!」

 

「援軍!?」

 

「異世界軍とフィア様、アルク様です!!」

 

 との事だった。

 

 Side 緋田 キンジ

 

 タイミングが良いのか悪いのか。

 

 マジックメイルの養成学校――士官学校。

 反乱軍の拠点の一つ。

 

 より正確にはその士官学校を中心に栄えた町と言うべきか。

 

 俺達は戦闘中の帝国軍の横っ面を殴りつけるようにして援軍として参加した。

 

 主力は学生と反乱に賛同した兵士達。

 そして義勇兵が大半だそうだ。

 

『お前らが噂の異世界軍か!!』

 

『その雰囲気、3将の一人か』

 

 茶色い重騎士のようなマジックメイル。

 両肩に観のけた以上のシールド、手には大きな槍を持っている。

 周辺には倒されたマジックメイルが倒れ伏していた。

 

『いかにも。我は地のグレイ。このマジックメイル、ダイナスは並の攻撃ではビクともせんぞ!!』

 

『そうかい!!』

 

 なら攻撃が通るまで攻撃を当て続けるまでだ。

 

『ちっ!?』

 

 などと思ったら奇襲攻撃を受けて咄嗟に交わす。

 凄いスピードだ。

 戦闘機並みかそれ以上かも知れない。

 

『私は風のフェイン。フェザリアのスピードについて来れるかい?』

 

 女の3将。

 世紀末世界によくいた男勝りな感じの女性だ。

 

『この人は私が相手をする』

 

『じゃあ私も――』

 

 と、リオとパンサーの二人が風のフェインの相手に向かった。

 マジックメイルとパワーローダー。

 ガチの空中決戦が始まる。

 

『じゃあ俺達はこのオッサンを相手にするぞ』

 

 キョウスケは『了解』と返事する。

 

 

 Side フィア・バハムス

 

『フィア兄さん!! 無事だったんですね』

 

『リーナ、君までマジックメイルを――』

 

 どうやら相当状況的に追い込まれていたらしい。

 無理もない。

 まさか3将のウチの二人に空中戦艦までも送り込んできていたようだし。

 

『再開を喜び合ってる暇はないぞ弟』

 

『アルク兄さん――』

 

『この程度で敵が終わるとは思えん。3将が二人もいて撤退や後退の判断をしないのは気掛かりだ。何か策があるぞ』

 

 と言ってくる。

 確かにそうだ。

 ただ強いだけでは3将とは呼ばれない。

 

 何か策が――

 

『敵増援!!』

 

『学園周囲に包囲陣形です!!』

 

 飛び交う報告を聞いてアルクは『この程度では終わらん。まだ来るぞ』と注意を促してくる。

 

『さらに空中戦艦と3将の一人、火のマグナスが来ています!!』

 

『3将全員を投入してきたか。どうやら異世界に行く前に決着をつけたいようだな、父上は!!』

 

 その報告を聞いて笑い飛ばす様に言った。

 

『更に異世界の物と思われる空中戦艦や軍勢まで!!』

 

 更に凶報が届く。

 

『本気で潰しに来ているのか――』

 

 僕はそう思わざるおえず、ルークは達観したように『みたいだな――』と言った



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第三十三話「学園決戦」

 Side 火のマグナス

 

 普通に考えれば状況は此方が優位だ。

 だが――

 

『他の三将が拮抗しています!! 士気に影響が――』

 

『敵の異世界軍の戦力が想定よりも遥かに上です!! 突破するどころか逆に被害が拡大しています!!』

 

『敵の増援部隊が接近との報告あり!!』

 

 圧倒的に優勢な状況にも関わらずこれだ。

 土のジイさんや風の姉さんが苦戦するとは。

 敵に皇太子や優秀な学生、そして自分が手合わせした異世界軍の連中のせいだろう。

 

 あの皇太子二人と敵の異世界軍は生半可な戦力では倒せない。 

 

『どうやら俺も前線に行かねえとならねえようだ』

 

 俺は覚悟を決めた。

 

『いいか!! 異世界軍の撃破を優先しろ!! マジックメイル同士の戦いに持ち込めば此方の勝ちだ!!』

 

 と、俺は指示を飛ばす。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

『ぬうぅ!!』

 

『やるなジイさん!!』

 

『ワシのマジックメイルがここまで押されるとは――』

 

 俺は帝国の3将の一人、土のグレイと戦っている。

 機体相性的な部分もあるが概ね此方が優勢だ。

 接近戦同士のド突き合いなら話は分からなかっただろうが。

 

 かといって一方的ではない。

 射撃兵装を上手く織り交ぜた間合いの取り方や鈍重な外観に見合わぬ素早い動き。

 伊達に3将は名乗ってはいないと言う事だろう。

 

 だからこそ疑問がある。

 

『アンタ程の人間がどうして帝国に従ってるんだ?』

 

『帝国の大義のため、理想のため!!』

 

『お堅い軍人の模範解答だな――正直クーデター側の言い分、全部を信じちゃいないが、帝国のやり方が正しいとは信じちゃいない。皇帝陛下の口から直接一方的に宣戦布告されたからな』

 

『だとしても、ワシは――』

 

 頑固なジイさんだ。

 だが勢いが目に見えて衰えた。

 

 

 Side リオ

 

 私は3将の一人、風のフェインと空中で激突する。

 パンサーは周囲のマジックメイルと戦っていた。

 

『ええい!! 異世界の軍勢に私のスピードについて来れる人間がいるとは――』

 

 風のフェイン。

 マジックメイル名マハドーラ。

 緑のマジックメイルで大きな翼のようなパーツが特徴的だ。 

 

『これぐらいの速度出すだけならわりかし多いよ? 異世界の人達?』

 

『なっ?』

 

 これは本当だ。

 私も驚いた。

 

 戦闘機と言ったか。

 あの人達と模擬戦をやった事はある。(まるで実の娘のように可愛がられたが腕は確かだ)

   

 リビルドアーミーのバードを越える速さで飛び、空中を猛スピードで飛び回る。

 あの荒廃した私達の世界でも自衛隊にとって重要な戦力として位置づけられていた。

 

 そんなのが地球には日本には何百機も存在していてそんな世界にこの国は宣戦布告をした。

 

 自衛隊は最初は頼りないイメージだったが段々と、僅かな期間で強くなっている。

 もうリビルドアーミーですら太刀打ちできなくなっている程に。

 

 この世界のレーダーが通用しにくいと言う特殊な環境にも慣れつつある。

 自衛隊は実戦経験だけで言うなら世界最高峰の組織になってしまったと誰かが言っていたがその通りだと思った。

 

『その話が本当だとしても私は負けられないのだ!!』

 

『どうしてそこまで戦う?』

 

『貴様には分かるまい! 帝国で女性が生きていくと言う意味が!』

 

『よく分からない。私は帝国の人間じゃないから。だけど女性が荒野で生きていく辛さなら分かる』

 

『荒野?』

 

『荒れ果てた荒野、秩序が存在しない暴力が支配する世界で生きて来たから。女性が選べる選択肢なんて限られている』

 

『強い女なんだな――君は――』

 

『アナタもそうだったの?』

 

『私は――』

 

 キンジ。

 ごめん。

 この人たち、本当に悪い人なのかな?

 私にはとてもそうには思えない。

 

 

 Side ルーク・バハムス

 

 戦線はかろうじて膠着状態だ。

 3将相手にこの戦力差だ。

 

 これを良い状態と観るか悪い状態と観るかは人によって変わるだろう。

  

 より正確に言えば異世界軍が強すぎて、帝国軍側はムリヤリ戦力差で膠着状態を維持しているダケにすぎない。

 

 俺も前線に出て働いているが敵の頭数が多いだけで歯応えがない。

 

 追加でモンスターすら投入してきている始末だ。

 

 他にも各戦線から無理矢理引っこ抜いて来た戦力やら。

 

 敵も必死になって攻め込んできている。

 

 ここには反乱軍の旗印3人がいるのだ。

 

 ここを落とせば反乱は鎮圧したも同然。

 

 無茶苦茶になって攻め込むのも分かると言うものだ。

 

 本当はこう言う賭けの類は嫌いなのだが不思議と負ける気はしない。

 

『敵さらに増援――なんだアレは!?』

 

 などと考えていたところでまた凶報。

 今度は何がきた?



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第三十四話「学園決戦その2」

Side 緋田 キンジ

 

『このパターン!! ゼレーナだ!!』

 

 上空にいる飛行艇、アルバトロスから佐伯 麗子から連絡が来る。

 

 ゼレーナ。

 並行世界に存在する筈の人類の天敵。

 戦場の臭いに惹かれたのかこの場所にやって来たようだ。

 

 反乱軍だろうが帝国軍だろうが無差別に攻撃をしていく。

 戦力も戦闘機やらヘリコプターやら人型機動兵器やら様々。

 今回もSF物に出てきそうな宇宙船みたいなのが群れのリーダー格らしい。 

 

 しかもゼレーナの中にはマジックメイルやもう一つの地球や俺達の世界のパワーローダーの姿まであった。

 この分だとアインブラッドタイプまで複製されていると観て間違いないだろう。

 

『どうするジイさん? 撤退するか?』

 

 俺は3将の一人、土のグレイに提案する。

 

『お主らはどうするつもりだ?』

 

『あいつらと一戦交える』

 

『見ず知らずの土地で死ぬつもりか?』

 

『悪いがリオを残して死ぬつもりはないんでな』

 

『一旦我々は後退する。他の3将にも後退を呼びかけよう』

 

『感謝する』

 

 そして土の爺さん達は後退していった。

 上空の3将も退いてくれたようだ。

 

『このタイミングでゼレーナとは運が良いのか悪いのか』

 

 入れ替わりにキョウスケがやって来た。

 

『最悪だな。統制が取れてない帝国軍やリビルドアーミー、ヴァイパーズは錯乱状態だ。これじゃ迂闊に近寄れない』

 

『いっそ帝国軍や世紀末の連中が全滅するのを待つか?』

 

『その頃には廃墟通り越してここら一帯焦土だがな』

 

 どうしたもんかと思う。

 

『味方の増援だ!!』

 

 ここで佐伯 麗子から通信が入る。

 

『味方? 何処の部隊だ?』

 

『もう一つの地球、日本軍からの部隊だ!!』

 

 同時にゼレーナの部隊の側面から攻撃が開始される。

 

『聞こえますか緋田一尉!』

 

『その声は石崎大尉!?』

 

 こんな僅かな期間で異世界の奥深くにまで来ていたのかと驚愕する。

 

『はい、ゼレーナの方は我々とAliceの部隊とで押さえます! その隙にこの戦いを終わらせてください!』

 

『って言われても手が足りないんだよな――』

 

 ここは威勢よく任せろと言う場面なんだが実際問題手が足りないのだ。

 などと思っていたらマジックメイルの大軍が各方面から。

 

『我々は反乱軍の援軍として参った!!』

 

『なに?』

 

 耳を疑った。

 反乱軍の援軍と言わなかった?

 

『帝国にこの国を行く末を任せる事はできない!!』

 

『侵略のための侵略にこれ以上民草を苦しめるような真似はできん!!』

 

『攻撃開始!!』

 

 次々とマジックメイル達が。

 飛行船が戦線に突入していく。

 

『呆けている暇はないぞ!! 敵部隊の一部が陣形を整えて再突撃してくる!!』

 

 と、佐伯 麗子から聞きたくなかった現実が聞こえてくる。

 キョウスケも『まだやる気か敵さん』と愚痴っていた。

 

『普通なら撤退だろこれ』

 

『まあしゃあないと思って戦うしかねえだろ』

 

『此方も増援だ――』

 

 また佐伯 麗子から通信が入る。

 俺は『どこの増援?』と返す。

 

『自衛隊だ。第7偵察隊も一緒だぞ』

 

 それを聞いてハッとなった。

 自衛隊。

 そして第7偵察隊と言う事は宮野一尉だ。

 

 遠方から様々な型の輸送機。

 アルバトロス型の飛行艇に乗ってそこからアインブラッドタイプと一緒に降下してくる。

 

 パーソナルマークは第7偵察隊の物だ。

 どうやら宮野一尉はギャリアンからアインブラッドタイプに乗り換えたらしい。

 他の隊員もアインブラッドタイプなどの新型だ。

 まあ彼の功績を考えれば遅すぎたぐらいだが。

 

『第7偵察隊はこれより支援に向かう!!』

 

『『『『『『『『『了解』』』』』』』』』

 

 威勢よく進路上の敵を蹴散らしていく第7偵察隊。

 敵がゼレーナだろうが帝国兵だろうが世紀末の連中だろうが蹴散らしていく。

 

『他にも各戦線にあの世紀末世界の連中も混じっている。敵の最後の攻勢を凌げばこの戦い、勝ちだ』

 

『OK、やってやろうじゃねえか』

 

 ヴァイパーズやリビルドアーミーまでいるのだ。

 同じ世界の連中も迷い込んでいても特に不思議な話ではないだろう。

 後は最後の攻勢を凌げばこの戦いは勝ちだ



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第三十五話「学園決戦その3」

 Side 緋田 キンジ

 

 補給作業中。

 

 同時にフォーメーションの組み直し中。

 

 更には戦況の確認。

 

 現在戦況は最悪の状態から脱したが、まだゼレーナと帝国軍はやる気満々だ。

 

 特にゼレーナは此方の事情など知った事かと暴れ回っていて、帝国軍はそれを傍観している。

 

 ゼレーナと消耗したところを一気に仕掛けるか。

 それとも同時に潰すタイミングで仕掛けるか。

 

 その二択だろうな。

 

 学園内部の周辺では子供や大人などが入り混じって慌しく動き回っている。

 上の方は指揮系統の統一化などでクソ忙しい状況だろう。 

 

 そんな状況下だが出来る事をやるしかない。

 

 ゼレーナと激戦中の傍ら帝国軍と味方で散発的に戦闘が行われていた。

 俺達は第13偵察隊は補給完了が済み次第、ゼレーナを叩くために出撃する。

 

 

 帝国軍の作戦はシンプルだ。

 物量を活かしての真っ向勝負に出たのである。

 

 此方の作戦はゼレーナと対処する部隊と帝国軍と対処する部隊に別れての防衛線である。

 

 しかしゼレーナとの決着がつく前に進行を再開するとは思わなかった。

 

 ゼレーナと決着つくまでノンビリすると思ったんだがな。

 

 まあそのゼレーナも日本軍やAlice部隊によってかなり損耗している。

 

 それを考えると判断は間違ってはいないのか。

 

(だからって仕事が楽になるワケじゃないけどな!!)

 

 ファンタジーな世界観な街並みなのにここだけSF映画のような絵面だ。

 戦車や戦闘機、戦闘ヘリ。

 人型機動兵器。

 パワーローダーやマジックメイル。

 

 そして逃げ遅れた帝国兵やヴァイパーズにリビルドアーミー。

 もうこの状況で敵も味方もないので放置しておくことにした。

 

 こちらも自衛隊や反乱軍の戦力、そしてどっからか湧き出て来た世紀末世界の人々――さらに新体制になったリビルドアーミーや騎士団と呼ばれる自分とはあまり関りがなかった人々が補佐に回っている。(騎士団は主に第7偵察隊の宮野一尉達が中心になって関わっていた)

 

 こうなったらもう数の暴力で瞬く間にゼレーナが数を減らしていく。

 

 

 Side フィア・バハムス

 

 ゼレーナの方はもう問題ない。

 

 問題は眼前に展開している帝国軍の戦力だ。

 

 空中戦艦も3将も残っている。

 

 学園の防衛設備も限界に近い以上、此方も打って出るしかない。

 

☆ 

 

 Side 火のマグナス

 

『数は優位なれど、我が方が劣勢!!』

 

『降伏、戦線離脱する部隊も出ています!!』

 

『ええい!! 何をしている!? 敵は少数だぞ!?』

 

 数は此方が上だ。

 だが士気の面では低い。

 

 こうして現実を突きつけられると今更ながらフィア皇子が正しかったのかと思いもしてしまう。

 

 だがもう遅い。

 

『反逆者を討つ!!』 

 

 俺は俺の道を貫き倒す。

 そこに正義も悪もない。

 

 

 Side 土のグレイ

 

 戦況は芳しくない。

 

 このままでは負けるだろう。

 

 だがこのまま退いては皇帝陛下は納得しまい。

 

「ワシのマジックメイル――ダイナスはどうなってる?」

 

 整備士に尋ねる。

 

「ハッ!! ダイナスはまだ整備は不完全ながらもう一戦ぐらいならいけますが――よろしいのですか?」

 

「構わん、今は時間が惜しいのだ」

 

 ワシは出撃準備に入った。

 

 

 Side 風のフェイン

 

 先に戦ったあの子、異世界の少女を思い出す。

 強かった。

 実力じゃない。

 心の在り方が。

 

 帝国は男尊女卑社会だ。

 

 そんな社会で女性の私が将軍の地位に就けたのは運が良かったのもあるし、女性勢力を少しでも黙らせるための演出でもあった。

 

 そんな事は分かっている。

 

 アルク、フィア、リーナ達、反乱軍の皇族にそちら側について欲しいと頼まれた事はある。

 

 だが私は帝国の女性として罪を犯し過ぎた。

 

 出世して帝国を変えると言う目的のために。

 

 気が付けば私もまた滅び去る帝国の一人になっていたのだ。

 

 それを理解してほしい。



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第三十六話「学園決戦・決着編」

 Side 緋田 キンジ

 

 ゼレーナとの戦いを終えて、すぐさま敵の主力部隊との戦いに向かう。

 

 激しい大乱戦みたいだが此方が優勢だ。

 

 反乱軍や増援部隊、第7偵察隊の面々や味方のリビルドアーミーなどの世紀末世界の連中も頑張っているらしい。

 

『見つけたぜ!!』

 

『お前か!!』

 

 三将の一人、火のマグナスがやって来た。

 

『悪い事は言わねえ、軍を引きあげな』

 

『それが出来ない立場なんでな――』

 

『あの皇帝陛下だもんな』

 

 そりゃこれだけの大兵力を動員して負けましたなんて事になったらどうなる事やら。

 

『俺は帝国で成り上がるためならなんでもやった!! 帝国を変えられると信じて!!』

 

『チッ!!』 

 

 攻撃の勢いが増してきた。

 こいつ――まさか――

 

『お前、死ぬつもりか』

 

『優秀だからって出世できるワケでもなく、無能だからと言って出世できないワケじゃない。俺はここまで来れたのは――ただ、運が良かっただけだ』

 

『ならフィアに懸けてみないか?』

 

『あの坊ちゃん皇太子にか?』

 

『ああ。良くも悪くもこの戦いでこの国は変わるだろう。一先ず生きて身の振り方を考えてみろ』

 

『またお前達を襲うかもしれんぞ?』

 

『その時はその時だ。その時になってから考える』

 

 俺はそう返した。

 

『いいのかよ隊長? 倒せるウチに倒さなくても』

 

 キョウスケがそう言ってくるが、

 

『あの世紀末世界とは勝手が違うんだ。それにこの世界は帝国だけで成り立ってるワケじゃない。帝国を打倒したとしても帝国に恨みを持った連中が牙を向いてまた混乱が起きるのは目に見えている』

 

『そのために俺達は殺すに殺せないってか?』

 

『それもあるがな――もう疲れたんだよ。戦いのための戦いなんて奴はな。難しい事はよく分からんが戦いは終わらせるもんだろ。戦うにしても飯や給料のために戦いたい』

 

『――クックックックッ……ハッハッハッハッハッ。言ってる事はアレだが気に入った。いいぜ、今回は退いてやる』

 

 どうやら矛を収めてくれるようだ。

 

『話はついたようじゃな』

 

 今度は三将の一人、土のグレイが現れた。

 

『じゃがワシは最後まで、帝国の人間として戦うとしよう』

 

『爺さん――』

 

 触れたら切り裂かれるような覇気を身に包んだ土のグレイとの対決。

 これは一筋縄ではいかなそうだ。

  

 

 Side フィア

 

『もうやめてくださいフェインさん!!』

 

『フィア皇子!! 迷いは不要です!! 己の大義を成したいと言うのなら私を斬りなさい!!』

 

 僕はフェインさんが操るマハドーラと対決する。

 流石に強いが――深い悲しみを感じる。

 

『フェインさん! それじゃ皇帝と変わらない! アナタだって本当は何が正しくて何が間違っているのか分かっている筈だ!!』

 

『しかし――』

 

『だから殺さない!! 殺してたまるか!!』

 

『フィア皇子――』

 

『フェインさん。私からもお願いします』

 

『リーナ!?』

 

『リーナ皇女まで!! このような場に!!』

 

 リーナがこんな場所に。

 周囲を固めているのはフェインさん達の部下?

 

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

『クッ、機体が動かん……』

 

『機体が頑丈だったからな。加減もある程度効いた』

 

 行動不能までどうにか追い込んだ。

 それまでの暴れっぷりは凄いもんだった。

 アインブラッドじゃなけりゃ死んでたかもな。

 

『少し頭を冷やしな爺さん』

 

 俺は呼び掛ける。

 

『――敗北、じゃな』

 

『ああ』

 

『だがこれで良かったかもしれぬ。グラン皇帝陛下は異世界進行を目論んでいたが、ここまでの大敗をすれば流石に取りやめるじゃろ……じゃが根本的な解決にはならん』

 

『どうするつもりだ?』

 

『ワシは――分からなくなったよ』

 

『……』

 

『今この帝国――いや、世界は危機に瀕している――じゃが皇帝陛下はそれを認めんじゃろう――恐らく最後まで戦う事になるだろう』

 

『だろうな』

 

『ワシの命はどうなっても構わん。その代わり臣下達の、民草の身の安全を保障してくれ』

 

『最初からそのつもりだ』

 

 気が付けば戦闘は終結していた。

 帝国は大損害を被り、三将は降伏と言う形でだ。

 

 そのため帝国の異世界への遠征は頓挫する事となる。

 

 そして――



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幕間「現状整理」

 Side 緋田 キンジ

 

 戦いが終わり、少しばかりの猶予期間が出来た。

 

 最低限の戦災復興を終えての祝勝会、そしてまた戦災復興であると同時に、皇帝がいる帝都への進撃計画。

 

 だが無視できない情報が幾つかある。

 

 まず人類の天敵ゼレーナの巣がこの世界で見つかったらしい。

 

 更にヴァイパーズやリビルドアーミーの拠点も見つかったようだ。

 

 そこで帝国への進撃準備が整うまでに両者にご退場を願うと言うのが今後の方針となった。

 

 その準備が整うまでに俺達は戦災復興を行う。

 

 この世界にも随分と長く居ついているような感じになるが実際はそうでもない。

 

 なのにも関わらずあの荒廃した世紀末世界が恋しくなるのはなんでだろうな。

 

 

 Side フィア・バハムス

 

 色々と大変だったがその方が僕にとって救いだったかもしれない。

 

 何しろ我が家のように思っていた学園があれ程の大激戦に晒されたのだ。

 

 見知った顔や教官、生徒は無事だったのは奇跡に等しい。

 

 その辺りは学園長や兄、妹の采配が見事だったと言うべきだろう。 

 

 だがホッとしてばかりもいられない。

 

 次の戦いで全ての決着がつく。

 

 そして国をどう立て直していくのか。

 

 どう導いていくのか。

 

 それが問題だった。

 

 だが先ずは皇帝を。

 

 父上を打倒しなければならない。

 

 そうしなけれればアレコレと考えてもただの戯言に過ぎない。

 

 だから必ず父上の打倒を成し遂げなければならない。

 

 

 Side 元リビルドアーミー 空中戦艦 艦長 グレムス

 

 この世界に跳ばされて来てからと言うもの、飯の心配はしなくてもよくなったが、猟犬のように邪魔者が来る。

 

 リビルドシティでの戦いが終わり(第一部八十七話以降)、リビルドアーミーは大きく分けて二つに別れた。

 

 新体制のアーティスに付き従うか、付き従わないかだ。

 

 ワシはあんな小娘な付き従うつもりはなく、同じ考えを持つ者と一緒に行動を共にしていた矢先にこの世界に飛ばされた。

 

 遺憾ながらヴァイパーズとも再び結託した形になった。

 

 最初は色々と苦労したが、この世界での勝手が分かっていくウチに再び成り上がってやろうと考えるに至った。

 

 だがあいつら。

 

 自衛隊の連中が再び姿を現してからと言う物、どんどんと再び転落人生を歩んでいる。

 

 このままでは済まさんぞ。

 

 絶対に返り咲いてやる。

 

 

 

 Side バハムス帝国 グラン・バハムス 皇帝陛下

 

 異世界軍。

 

 まさかここまでやるとは。

 

 大勢の軍勢だけでなく、三将まで失い、異世界への進行は待ったを掛けなければならなくなった。

 

 恐らく次の戦いで全てが決まるだろう。

 

 例え何があっても我が理想は変わらん。

 

 武力による大陸統一。

 

 永遠帝国の実現。

 

 それが理想。

 

 それがわが夢。

  

  



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緋田 キンジ会話集

=宗像 キョウスケの場合=

 

「どうやら終わりが近づいてきたようだな」

 

「ああ。みたいだな」

 

 キョウスケもなんとなく戦いの終わりが近づいて来ているのを感じ取っているみたいだ。

 

「まさかまた世界の命運なんてもんに関わるとは思いもしなかった」

 

「俺もだ――本当になんとか大戦の世界だな」

 

「それはそうとリオとはどうなんだ?」

 

「敵味方のマジックメイルの乗りの女の子達と仲良くやってるよ」

 

「コミュ力すげえな」

 

 本当にそうだ。

 パンサーやパメラも上手く溶け込めているらしい。

 世紀末育ちは凄いのかね。

 

「こんな事終わらせてノンビリ異世界観光と行きたいもんだな」

 

「ああ、それは分かる」

 

 基本俺達は戦ってばっかだもんな。

 キョウスケの愚痴も分かる。

 

=ヴァネッサの場合=

 

「どうもヴァネッサです。パワーローダーの調子はいかがでしょうか?」

 

「いや……絶好調なんだけどさ、今回の戦いヴァネッサさんあんまり関係ないだろ? その辺どうしてかなと気になってさ」

 

 ヴァネッサはゼレーナがいた2048年の日本でもなく、世紀末世界の存在でもない。

 言うなれば第2の並行世界、異世界の住民なのだ。

 目的はフォボスと言う巨悪を倒すためである。

 

 それを終えた今、深く関わるのはどうしてだろうかと疑問に思う。

 

「確かにフォボスは倒されましたが、復興のための資源獲得とかで働かないといけないですし、それに並行世界を跨いだ脅威の探索も任務の一つなのです」

 

「ゼレーナか」

 

「それと帝国もです。まさか並行世界の転移技術を持っている上に、平然と侵略戦争を仕掛けるその精神性は驚異の一言です。もう自分達の世界さえよければと言う状況ではないのです」

 

「耳が痛い話だ」

 

 実際、自分達のところの日本もそうなっているがその事にどれだけの人間が気づいているだろうか。

 

「なので私としてもこの戦いは最後まで付き合うつもりです――それに個人的にアナタ達の事を気に入ってますし」

 

「はは、ありがとう」

 

 

 Side ランシス

 

 アイマスクのような仮面をつけた青い髪の男。

 リビルドアーミーのランシス。

 世紀末世界では何度か戦った仲だが、まさかこうして肩を並べて戦う状況になるとは思わなかった。

 

「この世界でもリビルドアーミーは嫌われ者のようだな」

 

「まあ先任者どもが好き勝手にやりたい放題したみたいだからね」

 

「こうなるなら何があっても殺しておくべきだった」

 

「アンタだけの責任じゃねえよ。自衛隊だってヴァイパーズを討ち漏らして一体どれだけの悲劇がこの世界で起きたことか」

 

 特に自衛隊にとってヴァイパーズとは因縁深い相手だ。  

 そして俺は一度はヴァイパーズに致命的なダメージを与えた――と思っていた。

 

「ヴァイパーズだが想像以上にリビルドアーミーから援助を受けていたようだ。さらにフォボスとの戦いのドサクサに紛れて流出した装備も多い。更に拠点事この世界に跳ばされて来ているとはな――この一件は何があっても譲らん」

 

「ああ、任せる」

 

「しかし奇妙な話だ」

  

「うん?」

 

「まさかこうして自衛隊と肩を並べて、それも異なる世界に来て戦う事になるとは――」

 

 どうやら彼も同じことを考えていたようで俺は苦笑した。

 

 

 Side リオ

 

「皆と打ち解けているみたいだな」

 

「うん。ここの人達もなんか実力至上主義? みたいな感じで気に入られちゃってるみたい」

 

「まあそれもあるんだろうが、この帝国はいわゆる男尊女卑社会でリオはよりかっこよく見えたんじゃないか?」

 

「男尊女卑ってつもり、女よりも男の方が偉いって考えだよね?」

 

「ああ」

 

「私のところの世界はケースバイケースなところがあるけど、一応は男尊女卑なのかな? 政略結婚とかあるし」

 

「あ~確かに」

 

 法も秩序もないあの世界で自衛隊やリビルドアーミーなどの手が届かない物騒な地域では基本、政略結婚、重婚、一夫多妻制はいまだ常套手段だ。

 

 実際、日本から迷い込んでいた狭山 ヒロト君がそんな感じになっていた。

 

 あの子元気にしているかな?

 

「キンジはお嫁さん沢山の方が良い?」

 

「リオ一人でいい」

 

 俺は即答した。

 

「それはそれでちょっと寂しいかも」

 

「そう返されるとなんだかなぁ……他にもいて欲しいの?」

 

「うん……子育てとか家事とかって大変って聞くから、不安になる時があるの」

 

「まあ俺も自衛隊だ。その辺は俺も手伝うよ」

 

「う、うん」

 

 



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雛鳥 ツバキの記録・異世界編

 Side 雛鳥 ツバキ 三尉

 

 どうも陸上自衛隊のWAC(女性自衛官)、雛鳥 ツバキ三尉です。

 

 世紀末世界での手腕を買われて、こうして激戦地となった学園でもPXのお手伝いをしています。

 

 世紀末世界とファンタジー世界では勝手が違うのではと思いますけども元気にやってます。

 

 男尊女卑社会で女性が多いと言う事なのでファッション雑誌やら衣類、化粧品などを持ち込んでみたら飛ぶように売れていきます。

 

 あと化粧講座とかも大人気ですね。

 

 化粧の知識や簡単な作り方を教えて少女達のテンションがとても高いです。

 

 どうしてこんな事するかと言うと、これにはちゃんとした理由もあるのです。

 

 激しいの戦いの中で精神を病んでしまう人は少なくありません。

 

 そうした人たちの精神を癒すために様々なセラピーが研究されています。

 

 その一つが化粧や身嗜みを整えて精神的にハリを持たせるメイクアップセラピーと言う奴ですね。

 

 他にもこうした精神的治療は行われています。

 音楽とかもそうですね。

 

 本格的な吹奏楽部隊ではなく、音楽の心得がある人間が音楽を鳴らしています。

 

 そして手軽に出来る世紀末世界でも大人気だったオセロとか。

 ルール簡単だから誰でも熱中できて、日本でも嘗て大ブームだった庶民的ゲームはこの世界でもブームになりそうです。

 

 それに触発されてか大道芸人やら男手衆やらが立ち上がり、トラブルなどもありますし、建物は未だボロボロですが、見る見るうちに活気を取り戻していきました。

 

 あと、やはりと言うか。

 その。

 世紀末の方々も迷い込んでしまっていたせいかバトリングまではじめちゃいまして。

 

 マジックメイルとは違う一風変わった。

 と言うか東京ビッグサイトのオタクの祭典にそのままコスプレ枠で出席できそうな人達が見せ物として戦っています。

 

 まあやるとは思いました。はい。

 

 異世界の珍しいマジックメイルに似た兵器の戦いが見れるとあって観客は超満員です。

 

 ちなみに今この土地には帝国全土から血の気の多い反乱軍の人達が帝国との最終決戦に向けてウォーミングアップしている状況なので、何故だか最終決戦前の腕試しにと参加する人まで出て来る始末です。

 

 決戦参加する前に燃え尽きたりしないよねこれ?

 

 私責任取れないよ?

 

 そんなこんなで学園もとい避難所はどうにか上手くやれてます。

 

 緋田さんや宮野さん達は大丈夫でしょうか?

 

 まああの人達がやられる姿が思い浮かばないのは本当に何故なんでしょうね。

 

 異能なんちゃらとかじゃありませんよね?

 

 ともかく私は出来る事を頑張りましょう。

 

 えいえいおー。

 



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第三十七話「因縁の終わり」

 Side 緋田 キンジ

 

 自然豊かな穏やかな場所。

 それ相応にモンスターはいるがそんなに危険な生物はいない。

 

 そんな場所に場違いな丘群が。

 まるで違う風景画から無理矢理張り付けたような違和感を感じる。

 アレがヴァイパーズとリビルドアーミーの拠点らしい。

  

 上空ではリビルドアーミー同士の空中戦艦同士がぶつかり合い、バードやパワーローダー、ジェスト同士が激突する。

 

『クソっ!? 自衛隊め!! 何度俺達の邪魔をすれば気が済むんだ!!』

 

 と、ヴァイパーズのクラーベが緑色のカニ型ロボットに乗って愚痴を吐く。

 

『そもそもお前達が好き放題に暴れ回らなければ、こうはならなかっただろうが!!』

 

 と、俺はクラーベの言を否定しながら俺は敵を破壊していく。

 

『数が多いな!!』

 

 キョウスケも次々と撃破していくが数が多い。

 

『大半は無人機だ!! 雑魚には構うな!! 指揮官機を狙え!!』

 

 と、上空にいる佐伯 麗子からの指示が飛び、俺は『了解!!』と返した。

 

 

 Side リビルドアーミー ランシス

 

『恐怖の象徴だったリビルドアーミーも地に堕ちればこんなものか!!』

 

 空中で次々と撃破していく。

 まるで歯ごたえがない。

 弱すぎる。

 いや、元から弱かったのか。

 

 だとしてもこれは酷い。

 あんまりだ。

 

 よくこんな腕で生きていけたものだと思う。

 それだけ嘗てのリビルドアーミーが強大だったと言う事なのだろう。

 

 次々と面白いように攻撃が着弾し、黒い黒煙と小爆発を起こしながら敵側の空中戦艦が不時着する。

 

『ええい若造めが!! 好きにはさせんぞ!!』

 

 そして黒いアインブラッドタイプが出て来た。

 中はグレムス。

 このリビルアーミーの中心人物だ。

 

『なぜだ!? なぜこうなった!? なぜ貴様のような若造が!!』

 

『お前とは違うのだよ!! 満たされていながらただ飢えた獣のようにしか生きられん貴様とは!!』

 

『ワシが……満たされている!?』

 

『そうだ!! 満たされている立場いながらそれに甘んじ、堕落し、そして辿り着いた先が今の貴様だ!!』

 

 空中で激しい銃火を交えながら私はグレムスを糾弾する。

 

『古きリビルドアーミーは!! この異世界の土地で葬り去られるのだ!!』

 

『ぬ、ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?』

 

 ビームサーベルで上から下へと斬り捨てる。

 手応えあり。

 グレムスは爆散した。

 

『スカーレット(ランシスの副官)!! 降伏を呼び掛けろ!! ヴァイパーズの方は引き続き警戒を怠るな!!』

 

『はっ!!』

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

『ええい!! リビルドアーミーの役立たずめ!!』

 

『お前との因縁もここで終わらせる!! 覚悟しろ!!』

 

『黙れ!! お前らを皆殺しにして必ずあの世界もこの世界もわが手に!!』

 

『山賊風情に出来るわきゃねえだろ!! 現実見やがれ!!』

 

 クラーベの機体はもう満身創痍だ。

 それでもしつこく後退して部下達や無人機に持ち場を任せる。

 

 同時に拠点になってる丘の頂上のリフトから20m級の人型機動兵器が這い出てくる。

 まるでカプセルに手足くっつけて様々な武装を限界近くまで載っけたような外観だ。

 

『まだこんな隠し玉があったのか!!』

 

『でもやる事は変わらねえ!! ここで倒す!!』

 

 キョウスケも俺もやる気満々だ。

 皆もそうだ。

 ここで終わらせる。

 ヴァイパーズとの因縁を。

 

『ええいちょこまかと!?』

 

『悪いがデカい相手にはもう慣れっこなんでな!! 速攻でケリをつけさせてもらう!!』

 

 最後にヴァイパーズと決着を付けた後も絶えず戦い続け、この異世界で更なる修羅場に直面した。

 何時までも過去の栄光に縛られて立ち止まっている相手に負ける道理はない。

 

『クソクソ!! なんでな!? なんでこんなことに!?』

 

 手当たり次第に全身の火器を乱射するが当たらない。

 逆に全身の火器がウィークポイントになって着実にダメージが与えられていく。

 

『この俺が!! この俺がああああああああああああああああああ!?』

 

 状況が加速度的に悪くなっていく。

 そんな状況に抗っているつもりなのかクラーベは叫び声をあげる。

 

『終わりだ!! 合わせてくれリオ!!』

 

『うん、わかった!!』

 

 全身の火器を一斉に放出しつつ突撃。

 左右に別れて円を描くように目標を中心に旋回。

 そしてトドメは左右に別れて一斉射撃でフィニッシュ。

  

『そんな、脱出装置が――くそがぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

 大爆発とともにクラーベは爆散した。

 

『呆気なかったね――』

 

 と、リオが言う。

 

『まあ、だからこそ他所の勢力と手を組んで暗躍していたんだろう』

 

 俺は付け足す様に言った。

 

『ヴァイパーズの連中もリビルドアーミーの連中も、残党はいるだろうがもうこれまでのようには活動できない筈だ――終わったな』 

  

 キョウスケは締めくくる様にそう言った。

 

『緊急事態だ!! すぐさま帝都に向かうぞ!!』

 

 安堵とした雰囲気は佐伯 麗子の声でかき消された。 

 

 一体何が起きた?



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第三十八話「帝都決戦」

 Side 緋田 キンジ

 

 あの場をランシスに任せて俺達はアルバトロスに乗り、帝都へと向かった。

 

「ゼレーナが巣ごと帝都に向かってるだって!?」

 

 佐伯 麗子から驚愕とも言える報告を受けた。

 

「目的は分からんが――既にゼレーナと帝国軍とで戦闘が開始している。フィア皇子達は民間人を逃すために急行したようだ」

 

「しょうがねえ、俺達も付き合うか――」

 

 その決断にキョウスケは

 

「人が良すぎるだろ隊長。まあ、だから俺達はついて来たんだろうがな」

 

 と返す。

 

「それにイヤな予感がする」

 

「イヤな予感って?」

 

 リオが尋ねて来た。

 

「皇帝って異世界を進行するための準備をしていたんだろ? そこに何処からか紛れ込んだかもしれないゼレーナが来た。最悪の可能性は――」

 

 俺の言いたい事が分かったのか皆顔を真っ青にする。 

 佐伯 麗子ですらそんな表情だ。

 

「まさかゼレーナの奴、帝国が作ったゲートを利用して俺達の世界に!?」

 

 キョウスケが俺の言いたい事を代弁した。

 

「最悪だ。まだ決まったワケじゃない」

 

 と、俺は言うが

 

「でも、どの道民間人の人達を放置はできないよ」

 

 リオがそう訴えて来た。

 俺は「そうだな」と言って出撃準備を整えた。

 

 

 Side フィア・バハムス

 

 まさかこんな事になるなんて最悪だ。

 帝都で民たちの避難をさせているが――

 

『デスモンド!! 状況を分かっているのか!?』

 

 ゼレーナと一緒にデスモンド達、帝国兵が襲い掛かって来た。

 民達を犠牲にしてでも僕を殺したいらしい。

 僕は民達を守る様に立ち回っているので上手く戦えないでいる。

 

『分かっているとも!! ここで貴様を殺せば今迄の失敗を帳消しにできる!!』

 

『もう僕の言葉が届かないか……』

 

 などと諦めていたその時――

 

『こんな形で決着をつける事になろうとはな』

 

『父上まで!! アナタまでこの状況で戦いを仕掛けるおつもりですか!?』

 

 物語の魔王のようなあの禍々しいマジックメイルを身に着けた、グラン・バハムス皇帝が現れた。

 親衛隊の連中も一緒である。

 

『民などと言う有象無象など、幾らでも増える。なんなら今回の犠牲を全てお前やあのゼレーナとか言う連中のせいにしてしまえばよいのだ』

 

『アナタと言う人は!!』

 

 人の情は一欠けらでも残ってるんじゃないかと何処かで願っていた。

 だがそんな気持ちは吹っ切れた。

 もう皇帝には人の情なんてものは存在しない。

 悪の独裁者だ。

 

『ぬう!?』

 

 皇帝に向かって攻撃が飛んでくる。

 現れたのはキンジとリオさんだ。

 

『他の連中は避難誘導とゼレーナの対処に回っている!! それとまだ数は少ないが此方の味方についてくれる帝国兵も出始めている!!』

 

 と、簡潔に状況を説明してくれた。

 それにしても帝国兵の中から味方してくれる人がいるなんて。

 

『独裁国家の屋台骨なんて脆いもんさ。滅びる時はあっと言う間だ。後は滅ぼして国を再建するだけだな』

 

『このグラン・バハムス皇帝の前でよく吼えるわ若造が』

 

『そもそもお前が欲出して世界征服なんか前時代的な事を考え出さなけりゃよかっただけの事だろうが』

 

『どうやら死にたいようだな!! 守りたい民もろとも吹き飛ぶが――』

 

 そこで攻撃が中断された。

 見覚えのある攻撃だ。

 

『皇帝――もうアンタにはついていけねえ』

 

『火のマグナスか』

 

 三将の火のマグナスだった。

 

『皇帝には恩義があります。運命を共にする覚悟もありました。だけどもう付いていけません』

 

『裏切るつもりか?』

 

『言った筈です!! ついていけないと!! アンタのやり方で世界を統一したとして、一体どれだけの人間が死ぬんですか!? 実現した世界でもどれだけの人間を殺すおつもりですか!?』

 

『だからこそ絶対的な力が必要なのだと言っておるだろうが!!』

 

『狂ってるな――』

 

 自然に俺は呟いた。

 マグナスの訴えなど、どこ吹く風だ。

 

『話は終わりだ!! 纏めて消え去るがいい!!』

 

『――消え去るのはお前だ!! 皇帝!!』

 

 マグナスは口調を変えて皇帝に飛び掛かる。

 俺とリオはそれを咄嗟に援護した。

 

『この程度で揺らぐワシではないわ!!』

 

 と、マグナスを振りほどき、相変わらずの巨体に似合わぬ信じられない機動性で襲い掛かって来た。

 

 

 帝都上空。

 皇帝の親衛隊。

 ゼレーナ。

 自衛隊。

 日本軍。

 反乱軍。

 Aliceの少女。

 

 などなどが入り乱れての大乱戦と化していた。

 俺達は気が付けば異世界へと通ずる門と思わしき付近に辿り着いていた。

 そこにゼレーナ達が次々と集結している。

 

 やはりこいつらの目的はコレだったのか。

 

 うっすらとだがビル群の風景が。

 日本の首都にあるランドマーク的な建造物が見える。

 

 少なくともゲートの向こう側は日本である事は間違いない。

 

『日本まで侵攻するとは呆れた支配欲だよ!!』

 

『それの何が悪い!! 所詮、世の中など、支配するかされるかなのだ!! 支配されないためには圧倒的な力で邪魔者を消し去る!! それが何故分からん!!』

 

『お前と会話していると頭が痛くなってくるよ――昭和のアニメのラスボスかよ……』

 

 そんなやり取りの隙をついてフィアが一閃する。

 

『フィアか!! 父親を殺すつもりか!?』

 

『アナタは存在しちゃいけないし、皇帝になんかなってはいけない人だったんだ!! その間違いを正すためにも、ここで倒す!!』

 

 二閃、三閃。

 相手との体格差を物ともしない一撃が皇帝に叩き込まれていく。

 援護したいがここまで激しい接近戦を展開されたら手が出せない。

 せめて邪魔者を排除する。

 

『バカな!? この皇帝がこんな小事で倒れるだと、この皇帝が!?』

 

『終わりだぁああああああああああああああああ』

 

 そして最後の一閃。

 胴体を貫き、機能を停止した。

 

 皇帝の親衛隊と思しき人々は動揺が広がっている。

 

『終わったな――と言いたいが、まだゼレーナの連中がいるぞ』

 

『うん――』

 

 今、フィアはどんな心中なのか察する事はできない。

 だが今は非情ではあるが、イヤでも奮い立たせなければいけない時だ。

 

 

『この世界の人類よ――初めましてと言うべきかな? 私はゼレーナと呼ばれる存在の女王、クイーン・ゼレーナだ』

 

 そして――今度は帝都全体に届いているであろう声量で妖艶な女性の声が響き渡る。

 同時に遠方から白銀の巨大戦艦がやって来る。

 

 



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第三十九話「絶望の女王」

 Side 緋田 キンジ

 

『クイーン・ゼレーナ!?』

 

 まさか言語を使うとは思いだにしなかった。

 それも女性でだ。

 

『私は学んだ。様々な世界の人間の事を。そうして私は思った。人間の素晴らしさと恐ろしさを』

 

『素晴らしさと恐ろしさ?』

 

 リオは困惑する。

 

『我々ゼレーナはあらゆる平行世界に存在し、そしてある一定水準の文明を観察し、データーを収集し、そして――殲滅するか、家畜にするかの選別を行い、また別の文明を探し出す』

 

『えげつねえ生態してやがる……』

 

 もしもゼレーナの創造主がいたとしたらとんでもない極悪人か偽善者の集団だろう。

 

『喜べ。貴様たちは私達の家畜になるのだ。その驚異的な軍事技術と新たな文明を探る当てるための平行世界のゲート――私は何としても手に入れたい』

 

 言ってる事はグラン皇帝とたいして変わらん。

 ただの世界征服宣言だ。

 

『この声――ソフィア姉さん――』

 

 そしてフィア・バハムスは何かを思い立ったように飛び去った。

 場所はクイーン・ゼレーナがいると思わしき銀色の巨大戦艦にだ。

 

『キンジ、追うよ!!』

 

『ああ!!』

 

 

 道中の敵を蹴散らしながらクイーンゼレーナの元へと向かう。

 

 銀色の巨大戦艦。

 全長にしておよそ数kmほどある超巨大戦艦だ。

 

 彼方此方で戦いが勃発している。

 

 クイーンゼレーナはブリッジの中。

 様々なケーブルに繋がれていた長い白髪の美しい女性だった。

 

「ほう、ここまで辿り着くとはな――この小僧と同じく並の実力者ではないらしい」

 

『お前がクイーンゼレーナ?』

 

『似ている――ソフィアお姉さんと――』

 

 とフィアが言う。

 

『ソフィアお姉さん? そう言えばさっきもそんな事言ってたな』

 

『ええ、ずっと行方不明になっていたんです――死んでいたと思ったんですが』

 

 その答えはスグに出た。

 

『それはそうだ。この体はソフィア・バハムスと呼ばれる女性の体だ』

 

『『『なっ!?』』』

 

 一瞬思考が凍り付いた。

 

『このソフィア・バハムスの記憶によれば、バハムス帝国はかなり昔から異世界への渡航実験を繰り返していたらしい。この女性は皇帝の怒りに触れて――』

 

『皇帝の手で異世界に放り出されたのか!!』

 

 と、フィアは泣きながら言った。

 

『その通りだ。そして私達はあのAliceの少女達がいる世界で出会った。私はソフィアの記憶を調べていくウチにある計画を思いついた――』

 

『この世界を並行世界の巨大な交差点にすることか』

 

 俺はそう答えた。

 

『ああ、そうだとも。帝国が行った召喚魔法に干渉し、その結果は混沌とした世界が出来上がった』

 

 つまりコイツは一連の騒動の黒幕の一人らしい。

 こんなところで全てのピースが繋がるとは。

 

『あとは知っての通りだ――さあて、最後に聞いておこう。私に従うか、従わないかだ』

 

『答えは決まっている! 断る!』  

 

 フィアが率先して答えた。

 

『お姉さんは優しい人だった。そんな事は言わない! だからこの手で終わらせる! 全てを!』

 

 そして俺はそんなフィアの後頭部を軽く殴った。

 

『な、なにを!?』

 

『熱くなり過ぎだぜ坊主? 俺達もいる事を忘れるなよ』

 

『うん、そうだよ。キンジや私だけじゃない。大勢の人達が味方してくれる』

 

 俺とリオはそうフィアを諭す。

 

『それにまだ姉さんが救えないと決まったワケじゃない』

 

『愚かな――救うだと? 私が依り代にしているこの女を? 面白い事を言う』

 

「不可能なんかじゃありません!!」

 

 そこにAliceの少女、愛坂 イチゴと、

 

「そうだ!! Aliceの少女に不可能はない!!」

 

 御剣 トウカが現れた。

 二人とも無事ではないがまだ戦えそうな感じだ。

 

『今度はAliceの少女か――まあいい、纏めて始末してやろう』

 

『来るぞ!!』

 

 艦橋を中心に船体の一部が変化していく。

 まるで翼を持った二本角の邪神の上半身のようだ。

 居合わせた人間が皆必死になって攻撃するが――

 

『Aliceだろうと魔力だろうと、たかだかパワードスーツで何が出来る?』 

 

 と全方位攻撃で一蹴されてしまう。

 

『どうするキンジ?』

 

 応戦しながらリオが尋ねてくる。

 

『一点突破だ――弱点をどうにか見つけて全ての火力を叩き込むしかない』

 

 と、返した。

 

『想像以上にヤバい状況のようだな――』

 

 プレラーティ博士から通信が入って来た。

 

 

 Side フィア・バハムス

 

『まさかこのタイミングでソフィアと対面する事になるとはな――』

 

『アルク兄さん――』

 

『お互いの全魔力を開放してぶつけるしかない』

 

『……』

 

『まさかこの期に及んで助け出すとか言い出すんじゃないだろうな?』

 

『はい、助けたいです』

 

『――は、バカもここまでくると見事なもんだ。じゃあ救って見せろ』

 

『はい!!』

 

 

 Side 愛坂 イチゴ

 

「私達のAliceの力を結集してぶつけるしかないと思うんです」

 

「確かにこのまま長期戦になれば不味いな――他のAliceも集めよう、成功確率を一パーセントでも多くあげるんだ」

 

「はい!!」

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

『死ぬ前の相談は終わったか?』

 

『ああ、お前を倒す相談はな。後は場当たり的な運任せの大勝負さ』

 

『何をするつもりだ?』

 

 そして複数の光の柱が彼方此方で。

 そして様々な機体が星のように輝き始めた。

 マジックメイルやAliceの少女が何をしたかは分からないが、俺達――パワーローダー組はリミッターを解除した。

 

『最後の大勝負だ!! 行くぞ!!』

 

『なっ!?』

 

 絶対的に優勢を誇っていたクイーンが押され始めていく。

 修復速度よりも破壊速度が勝っていく。

 

 皆の力でクイーンの各所が破壊されていき、小爆発を引き起こしていく。

 

 でも足りない。

 

 これではまだ手が届かない!!

 

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 殴る。

 殴る。

 殴る。

 

 ひたすた殴り倒して装甲を破壊していく。

 そしてクイーンレジーナの驚愕の表情が見えた。

 

『ソフィア姉さぁあああああああああああああああああああん!!』

 

 そこにフィアが飛び込み、ソフィアを抱きしめて離脱。

 最後はAliceの少女たちが――

 

『いっけえええええええええええええええええええええええええええ!!』

 

 本当に人が成しえる技なのか少女達が星になって船体を。

 周囲のゼレーナを破壊していく。

 

 そして――



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最終話「それから」

 Side フィア・バハムス

 

 僕と姉さんは何もない平野に降り立った。

 

「本当に助け出すとはな――」

 

「だって、姉さんだから」

 

「まあ確かにこの体はソフィア・バハムスの物であり、そしてソフィアはまだ生きている」

 

「え? どう言うこと?」

 

「ゼレーナにも色々いると言う事だ。成長しすぎたのだろうな、我々は――当初、ゼレーナはただ増殖し、破壊をもたらすだけの存在だった」

 

 そう言って夕暮れになりつつある空を見上げる。

 

「だが知的生命体と戦いを続けていくウチに、相手の事を学習する事を学んだ。その学習は留まる事を知らず――そしてある試みを行った」

 

「その試みって」

 

「知的生命体になり、知的生命体を学習しようと言う試みだ。そんな時に出会ったのがソフィアだった」

 

「姉さんと?」

 

「お前の姉さんは我々が知る人類とは違っていた。魔力なる力があるとか異世界人だとかではなく、我々に手を差し伸べてきた」

 

「ははは、姉さんらしいや」

 

「そして彼女はあろう事か一方的に賭けを持ち出してきた」

 

「賭け?」

 

「人類を愚かではないと判断したその時は悪い事はもうしないと」

 

「姉さん……」

 

「まあ賭けはお前の姉の負けだ。特にこの世界の帝国連中どもはな」

 

「確かに……そうだね――」

 

 そう言われると何か不思議と色々と諦めがついてきた。

 お姉さんの奪還についても。

 

「だが興味は湧いた。この賭けを保留として、私は私なりに人間と言う物を学んでみようと思う」

 

「え?」

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 異世界騒動は一件落着した。

 俺達は戦災復興の手助けのためにまだバハムス帝国にいる。

 

 クイーン・ゼレーナ。

 ソフィア・バハムスの体を乗っ取った存在は俺達の周囲を付き纏っている。

 理由は面白そうだかららしい。

 

 フィアからは「お姉さんをよろしくお願いします」と頭を下げられた。

 どうしてこうなった。

 

 Aliceの少女達や48年の日本軍はもうビックリした。

 何しろゼレーナとの対話の可能性が出て来たのだから。

 だけどあの世界でゼレーナはやり過ぎた。

 

 だから俺達かこの異世界での預かりと言う形になった。

 押し付けられたとも言うが、下手打ってゼレーナとの全面抗争とかになったら目も当てられないしなぁ……

 

 まあ落ち着く形で落ち着いたか。

 

 リオは「何だか落ち着く形で落ち着いてよかったね」と嬉しそうだ。

 

 確かにそうなんだが……まあいいか。

 

 平和が一番ってことで。

 

 

 =一ヶ月後=

 

 

 俺達はまた現れたゲートの前にいた。

 

 今度はどんな世界が待ち受けているのやら。

 

 だが皆が一緒だ。

 

 今回もなんだかんだでどうにかなるだろう。

 

 んじゃあ、行きますかね。

 

 

 第2部 完 

 



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外伝・アフターストーリーその2
緋田 キンジの物語+α


 Side 緋田 キンジ

 

 どうも緋田 キンジだ。

 今更ながら自分の過去を書き記しておこうと思う。

 

 と言っても左翼寄りの思想を持った両親の元で育ち、それは辛い生活を送っていた。

 

 赤ん坊の頃にベビーカーに乗せられてそのままデモで盾にされたのなんて語り草である。

 

 遊園地ではなく、反戦運動に行った回数が多いぐらいだ。

 

 だから家を飛び出した。

 

 家出も何度もした。

 

 キョウスケが居なかったら死んでたか、あるいは道を踏み外していただろうな自分は。

 

 まあそのキョウスケとも何度かケンカした仲だ。

 

 俺は間違いを認めた。

 

 キョウスケは昔からリーダーシップと言うかそう言う物があった。

 

 児童文学の物語ならメインキャラか主役張れる奴だ。

 

 中学に上がる頃にはケンカに明け暮れていた。

 

 原因は俺の家庭だ。

 

 だから拳で黙らせてきた。

 

 まあやり過ぎてキョウスケに咎められたがな。

 

 そうして時は過ぎ、高校生になって一人暮らしをはじめた。

 まあ苦学生と言う奴だな。

 正直辛かったが、自由と言う奴を初めて感じた。

 

 自衛隊に入ったのは将来のためとか、金のためだ。

 国防だの日本の未来を守るだの、そんな立派な考えはなかった。

 

 キョウスケも同じだ。

 

 んで女クソ上司こと佐伯 麗子と出会ったのもこの頃だ。

 見た目は美女だからな。

 最初は知り合えてラッキーなどと思っていた。

 

 佐伯も最初は猫を被って接してきたが化けの皮が剥がれるのは早かった。

 様々な面でこき使い、文字通り手足のように馬車の馬のように働かされた。

 

 それでも俺は――本音を言えば自衛官を続けたかった。

 親への反抗心でである。

 

 キョウスケは金のためだ。

 だが傭兵とかになる気はなかったらしく、一緒に税金泥棒な自衛官になっていた。

 

 佐伯 麗子は俺達の手綱を引く役割。

 

 そんな自衛官人生を歩んでいた。

 

 

=バハムス帝国 帝都・最終決戦から一週間後=

 

『とまあそんな感じであの事件(第一部・プロローグ、プロローグ2参照)が起きて、ここまで来ちゃったのよ』

 

『改めて聞くと大変だったんだね』

 

 俺とリオはバハムス帝国の帝都でパワーローダーを身に着け、復興作業を行っている。

 

 戦闘用じゃなくて作業用の奴だ。

 

 周りからは物珍しい目で見られていた。

 他の自衛隊の隊員もそんな感じだ。

 日本軍も同じ感じらしい。

 

 まあ歓迎されないよりかはマシかな?

 

『まあ、普通の自衛官の人生じゃないな。一歩間違えればヤンキー漫画の世界の住民になってたし。まあ中学時代はほぼヤンキー漫画の住民状態だったけど』

 

『ヤンキー漫画?』

 

『説明するより見て貰った方が早いかな~』

 

『自衛隊から金貰ってるし、電子書籍で買えるかな?』

 

『電子書籍か……』

 

『なんか変?』

 

『いや、随分俺達の世界に馴染んできたなとか思って』

 

『そうかな? 電子書籍便利だけど、ちょっと見辛いから本当は本がいいんだけど。あと容量とかの問題があるし――』

 

 リオは生きている世界その物が違うし、俺達の任務は基本異世界だ。

 だから金が使える場所で爆買いして任務に再突入する感じである。

 電子書籍もその一つだ。

 ダウンロードして持ち運んでいるらしい。

 

 異世界跨いでネット繋がるのなんてまずないからな。

 

 特にこの世界は電子機器に影響が出やすい世界だからまずネットは使えないと思った方がいい。

 

『ふと思ったんだけど電子書籍でどんなの見てるんだ?』

 

『恋愛物とか日常物』

 

『そ、そか』

 

『そんなに変?』

 

『いや、ちょっと意識してしまうと言うか……』

 

『あっ……』

  

 特に恋愛ものな。

 思春期の学生かよ俺は。

 

『ねえ、私の事――大好き?』

 

 唐突に何を思ったのかリオはそう聞いてくる。

 

『ああ。大好きだリオ』

 

『――ありがとう』

 

 俺達は作業に集中する事にした。

 



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雛鳥 ツバキの記録・異世界編その2

 Side 雛鳥 ツバキ 三尉

 

 どうも陸上自衛隊のWAC(女性自衛官)、雛鳥 ツバキ三尉です。

 

 戦争も終わり、今陸上自衛隊は学生たちと一緒に本格的な復興作業に駆り出されています。

 

 この手の作業は自衛隊に一日の長があります。

 

 武装した災害救助隊などと一部の人間達から揶揄されていましたが、逆を言えばそれぐらいノウハウがあると言う事なのです。

 

 そこへ更に世紀末世界のテクノロジーが加わることで災害救助活動は進化しました。

 

 特にパワーローダーの導入が大きいですね。

 瓦礫の撤去作業で大活躍です。

 

 他にも水の浄化設備や最新鋭の医療設備なども喜ばれておりました。

 更にそこへこの世界特有の魔法の力が加わる事で医療体制も進化しました。

 

 まあ世紀末世界も放射能除去薬とかメチャクチャな薬が沢山ありましたが……今更ながらなんなんでしょうあの世界は。

 

 まあともかくこうした草の根活動が功を奏し、自衛隊の現地住民に対するイメージはさらに大幅アップしました。

 

 ああ、それと前に言ってたオセロも大盛り上がりで近々大会が開かれる程の熱狂ぶりです。

 

 ルール単純ですからね。

 

 子供でも老人でも覚えやすいです。

 

 工夫すれば日本の面倒くさい法整備も潜り抜けられるのも利点ですね。

 

 で、やっぱりオセロも自衛隊の隊員とかが無双しています。

 

 それを知ってか知らずか時折王族の方――アルク・バハムスさんやこの世界の大商人の代表の方とかがオセロ勝負に参加したりしています。

 

(さて、今後の娯楽品の供給どうしますかね)

 

 私は暫くこの世界に滞在する事が決定しました。

 特に娯楽品の供給などに関しては階級以上の権限が与えられています。

 

 世紀末と異世界。

 

 人々の文化や精神構造を理解したうえでの娯楽品導入ですかね。

 

 まあ世紀末人々も迷い込んでるので今更感がありますし、遅いか早いかの問題でしかないと思いますので基本は世紀末世界での経験を踏まえての導入になる感じでしょうか。

 

 なんなら皇族いますし、お伺いしながらでもしましょうかね。

 

 

 平和になりつつあるこの世界でも問題が一つ。

 

 それは敵の存在。

 

 世紀末から迷い込んだ化け物、破壊兵器、悪党、旧リビルドアーミーやヴァイパーズの残党。

 

 この世界のモンスター。

 

 そして帝国の残党勢力。

 

 バリエーションも様々。

 

 それを自衛隊はこの世界の人達や世紀末世界の人々、そして新体制のリビルドアーミー達と一緒に迎え撃ちます。

 

 特にリビルドアーミーと一緒に戦うのは色々と複雑で奇妙な気分ですね。

 世の中変わるもんですけど、変わるペースが早すぎるような気もします。

 

 それ以外は自衛隊にとってはもう戦闘は慣れっこです。

 特に世紀末組は戦闘なんて朝飯前です。

 

 だが戦闘が起きる以上はまだ平和とは言えない状況なんですかね。

 

 帝国の領土は広大ですし、土地を返還してもそれはそれで問題が起きそうですし、末端の帝国兵が反旗を翻したりとかしそうですし。

 

 問題は山積みで自衛隊もこの世界での役割が終えたワケではありませんが――まあ私は私に出来ることをして行きましょう。

 

 今日もPXと現地住民との交流頑張ります。



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人類の天敵と皇子

 Side フィア・バハムス

 

 僕は復興が急速に進みつつある学園でソフィア姉さん――もとい、ソフィアの体を乗っ取っているゼレーナと会話する。

 

 内容は世間話――ではなく、今回の戦いの裏側についてだ。

 

「知っての通りソフィアはグラン・バハムス――お前の父親の手で異世界に飛ばされ、私の元に辿り着いた」

 

「ええ、そう言う話でしたね」

 

 再確認するようにその事を話すソフィア。

 

「その後はまあ、お前の死っての通りだ。ソフィアの記憶を読み取り、この世界の存在を知り、そしてグラン・バハムスの召喚魔法に介入して規模を拡大し、この世界を巨大な並行世界の交差点にして現地住民を家畜にするつもりだった」

 

「一つ分からない事があるんですけど」

 

「なんだ?」

 

「どうして召喚魔法を使うタイミングが分かったんですか?」

 

 召喚魔法に干渉して事態を拡大させたと言うのは分かった。

 だがそのタイミングがどうして分かったのか謎だった。 

 

「あの男――グラン・バハムスが何度も渡航実験を何度も繰り返したおかげでこの世界に――君達で言うところのスパイを送り込む事に成功したからだ」

 

「え、じゃあそのスパイは――」

 

「スパイと言っても小さな虫のような物だ。それにこの世界は魔力と言う精神エネルギーに頼った世界なのも幸いした。これが科学寄りの世界なら発見される恐れがあった」

 

「そんな事をしていたんですね」

 

「我々もやってる事は酷いが、グラン・バハムスも相当ではないか。まあ我々の介入やこの世界に自衛隊が現れなくても、計画通りに事が進んでいてもグラン・バハムスの野望は頓挫していただろうな」

 

「緋田さん達の世界への侵攻計画ですね」

 

「人の野心とは計算では測れない物らしい――この世界の支配に飽き足らず、様々な世界への侵略を考えていたようだ。我々ゼレーナと何が違うんだ」

 

「それを言われると――」

 

 ゼレーナも酷い生態をして居るが自分の父親のしでかした事、した事を考えると強く言い返せなかった。

 

「調べによると不老不死にまで手を出そうとして、人体実験までやらかしていたようだ」

 

「本当にあの人は何処まで欲深いんだ……」

 

 思わず僕は頭を抱えた。

 同時にクーデターを引き起こした事をアレだけ悩んだ事に対して馬鹿らしくなってきた。

 

「我々ゼレーナだがこれから先、人ゼレーナと言うべきか……人になってみようと言うゼレーナは出てくる筈だ。いわゆるシンギュラリティポイントのような物が発生するとは思わなかった」

 

「シンギュラリティポイント?」

 

「技術的特異点――科学技術が発達すれば将来こうなるだろうと言う人間の考えだ。AI――人工知能何かがその代表例だ」

 

「ちょっと難しく良く分かんないですけど、自衛隊の人達が使っているロボットやドローンとかの事ですかね? 人が乗ってないパワーローダーみたいな兵器とかを動かす脳に当たる部分と言うか」

 

「概ねその認識で間違いがない。まあ自衛隊が使っているAI技術は別世界の物だがな」

 

「荒廃した世界とは聞いていますが――」

 

「我々ゼレーナのグループの中にフォボスと呼ばれる存在と戦争をして痛み分けしたグループがいたようだな」

 

「フォボス?」

 

「荒廃世界の支配者だ。緋田 キンジ達が破壊したらしいがな。フォボスについては彼らに聞いた方が早いだろう」

 

「は、はい」

 

「フォボスは我々と似た生態の集団だ。その本体があの荒廃世界にいるとは思わなかったがな――私も何度かやり合った事がある」

 

「緋田さん達、そんな恐ろしい奴と戦って勝利したんですか?」

 

「まあ運もあっただろうがな」

 

 緋田さん達の異常な強さの秘密が分かったような気がする。

 

「だが同時に不安でもある」

 

「え?」

 

「ゼレーナにも色々と考え方がある。それにフォボスが本当に全て機能停止したとは思えないからだ」

 

「つまり――ゼレーナの過激派が動いたりとかフォボスの残党がいると?」

 

「概ねその認識で間違いない。軍事力は備えておけ。他の世界にもフォボスやグラン・バハムス、ゼレーナのような奴がいないともかぎらん」

 

「はい――」

 

 会話の内容はまるで暗雲を予感させるようなものだった。

 それでも守り抜くんだ。

 それが僕に出来る、クーデターを引き起こした責任なのだから。



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第3部:多元世界編
プロローグ



 =これまでのあらすじ=


 =第1部=

 緋田 キンジと宗像 キョウスケは自衛隊の見本とされるような自衛官ではない、不良自衛官である。

 そんな彼達は日頃の行いが悪かったのか世界の命運を掛けた戦いに二度も巻き込まれる事になった。

 突如として境界駐屯地に出現した世紀末世界へのゲート。

 圧倒的テクノロジーの差に苦戦しつつも様々人々と出会い、争い、歩を進めていく。

 やがてヴァイパーズ、リビルドアーミーとの抗争に突入。

 最終的にはそれらの黒幕であったフォボスを破壊し、一連の騒動に幕を閉じる。


 =第2部=

 緋田 キンジ、宗像 キョウスケ、今度は剣と魔法の異世界へ――

 自衛隊の駐屯地の一つ狭間駐屯地が異世界に転移。

 そこからなし崩し的にバハムス帝国との全面戦争が勃発。

 だが世紀末世界での激闘。

 反乱軍と合流や新たな平行世界の人々との出会いもあり、帝国軍との戦いを有利に進めていく。

 最後は今回の事件を悪化させた人類の天敵、ゼレーナとそれを率いる親玉、クイーン・ゼレーナ、そしてバハムス帝国の皇帝、グラン・バハムスを打倒して事態は収束したのであった。

 そして一か月後――新たなゲートが発見される。



Side 緋田 キンジ

 

 あの戦いから一ヶ月後。

 

 新たなゲートが出現。

 

 ゲートが現れた場所は大阪日本橋

 

 よくも悪くもオタク街と言う認識で間違いない。

 

 現在は大部隊と一緒に街ごと封鎖されている。

 

 上の連中から突撃野郎的な何かに思われてるのか俺達に招集が掛かり、新たに出現したゲートの調査任務が行われた。

 

 まだどう言う世界かの全容はまだ理解しきれてないが、早速戦闘が勃発しているらしい。

 

 俺達、第13偵察隊は仲間を連れて新たな異世界へと飛び込んだ。

 

 

 俺達の装備は最初からオーバーホール済みのアインブラッドタイプである。

 キョウスケやリオ、パンサー達も同じ装備だ。

 今回はヴァネッサもついて来ている。

 パメラが操縦するトレーラーもろとも前線に突っ込み、荒廃した都市部で戦闘をおっぱじめる。

 

 相手は何か古臭い感じのヤラレメカと言ったところか。

 それに日の丸のエンブレムと謎のエンブレム。

 装甲車を4足歩行にしたような大型のパワードスーツだ。

 

 人類の天敵、ゼレーナと戦っている2048年の日本軍を思い出すがパワードスーツの技術体系が違いすぎるように感じた。

 

『馬鹿な!? あの日本軍のパワーローダーの性能は一体!?』

 

『数は此方が上だ!! 物量で圧倒しろ!!』

 

 更に数だけは多い。

 倒しても倒してもうじゃうじゃと湧いてくる。

 

 いや、それよりもあいつら日本軍とか言ってたぞ。

 それに日の丸のエンブレム。

 まさかこいつらの正体は――

 

『まさかまた並行世界の日本に来ちゃったの!?』

 

 二度目の並行世界の日本。

 こんな偶然ありえるだろうか?

 などと思いながら倒していく。

 

『ダメだ逃げろ!!』

 

『逃げるな!! 逃げたら銃殺刑にするぞ!!』 

 

『だったらお前が戦え!!』

 

『ギャアアア!! 死にたくねえ!!』

 

『お母さーん!?』

 

 どっちが悪役なんだか分からない相手側の悲鳴。

 次々とパワーローダーが鉄の棺桶と化していく。

 

『てかまだ来るのかよ!?』

 

 キョウスケが呆れたように言う。

 増援である。

 

『ええい日本軍の役立たずどもが!!』

 

『偉大なるアジア連の面汚しが』

 

 アジア連の面汚し?

 少しばかりアッと思った。

 そして同時に理解した。

 

『もしかしてここの日本って――』

 

 キョウスケも同じことを考えたようだ。

 

『ああ。アジア連と呼ばれる勢力に支配されてるんだろうぜ、きっと』

 

 念のため同じ考えか確認するように言う。

 

『なに? リアル境〇戦機?』

 

『どちらかと言うと政治的にヤバイ要素が強いコードギア〇なんじゃないのか?』

  

 などと言い合いながら日本軍よりも大分マシなデザインなアジア連のパワーローダーを見る。

 性能もマシだが、幾多のマジックメイルやパワーローダーと戦ってきた身だ。

 多少の腕で性能差を補える段階は通り越している。

 

 他の味方もそんな感じでスグにワンサイドゲームと化した。

 

『なんだこいつら!?』

 

『違う世界とは言え、本当に日本軍なのか!?』

 

『あ、アジア連に栄光あれ!!』

 

『何故だ!? 我々アジア連は選ばれた民族のはず――』

 

 などと狼狽していた。

 何か最後辺りにヤバイ事を言っている奴がいたな。

 

『なんかこの人達、昔のリビルドアーミーか帝国の連中みたい』

 

 と、リオが言いながら次々と撃墜スコアを稼いでいく。 

 確かにリオが言うようにそんな感じするよね。

 とか言いつつ2体、3体、纏めて撃ち抜いたりと神業まで披露している辺り流石だ。

 

『全然歯応えないな~ちゃんと訓練してる?』

 

 などと言いながらパンサーはリオと競い合うように敵を灰にして言っている。

 そんな感じで戦っていると――

 

『こちらディメンションクロス!! 双方ただちに戦闘を停止しなさい!!』

 

 顔や二の腕、腹部周辺に太ももなどが露出したSF的なオレンジ色のパワードスーツを身に纏った長い白髪、白肌の美少女が空を飛んで現れた。



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第一話「出会い」

 Side 緋田 キンジ

 

 ディメンションクロス。

 そう名乗る組織に所属する、パワードスーツを身に纏った長い白髪白肌の美少女。

 

『またこいつはラノベ的なパワードスーツが来たな……』

 

『ああ、Aliceの少女達が使うパワーローダーを思い出すな』

 

 ふとイチゴとトウカの顔が頭を過ぎる。

 自分達の影響で一から鍛え直すと豪語していたが今頃元気にしてるだろうか、などと考える。

 

『伊達や酔狂であんな装備して戦場に来たワケじゃないだろう。たぶん見た目に反して物凄い性能なんだろうぜ』

 

 と、キョウスケが語る。 

 俺もそれは同意見だ。

 

 見たところ色違いの緑色の僚機。

 こちらはボブカット気味のヘアースタイルの黒髪の女の子だ。

 日本人的な顔立ちであるがいる。

 

 その2機だけだ。

 

 先行して来たのだろうか、それとも偶然近くに来たのだろうか。

 

『黙れ!! 偉大なるアジア連の敵が!!』

 

『アジア連に栄光あれ!!』

 

 などと考え事をしている合間にアジア連がディメンションクロスと言う組織に属する少女二人に発砲を開始した。

 

 何て言うかもうここまで来るといっそ清々しいぐらいの悪の軍団っぷりである、アジア連。

 

 ディメンションクロスの少女二人は回避行動にとる。

 

 長い白髪、白肌のオレンジのアーマーの少女は見事な回避起動で、黒髪の緑色のアーマーの少女の方は粗削りだが弾丸の雨を回避している。

 

『どうするのルーナ?』

 

 黒髪の子は長い白髪のオレンジのアーマーの少女――ルーナと言うらしいに指示を求める。

 

『仕方ない!! 武力をもって排除します!!』

 

『やっぱこうなるのね……』

 

 二人は武力行使。

 ビーム系の攻撃の雨がアジア連の機体に降り注ぐ。

 

『どうする隊長?』

 

 キョウスケが指示を求めてくる。

 

『こちらにも攻撃を仕掛けてきている以上、戦闘は続行だ。だけどあの二人の少女には絶対手を出すな』

 

 と、命令を下した。

 

『だとさ、命令は守れよお前達』

 

 茶化すような感じでキョウスケは味方に呼びかける。

 戦いは数の不利があるだけで一方的だった。

 相手は実弾兵器主体で性能もドランタイプとそう変わらないだろう。

 

 対して此方は空を飛ぶわ、レールガンにビーム兵器にレーザーだの超科学兵器なんでもござれだ。

 一斉射するだけで何かもう罪悪感を感じるぐらいに派手な相手のパワーローダーの爆発が上がっていく。

 

『何をやっている!! それでもアジア連の精鋭か!?』

 

『し、しかし敵は強力で!! このままでは全滅します!!』

 

『黙れ敗北主義者が!! 命令に従え!!』

 

 などと傍受した通信からそんな言葉が飛び交っている。

 

『もう何て言うか、独裁国家の軍隊まんまだな』

 

 と、俺は評した。

 

『援軍か――今度は戦車に戦闘ヘリ、装甲車、輸送車、パワーローダー……見た事もないロボット――真っ当な部隊の進軍だぜこいつは』

 

 キョウスケが言うように敵の大部隊が増援として現れた。

 パワーローダー単一編成の部隊ではなく、真っ当な大部隊の進軍だ。

 

 戦力差を考えるなら此方の全滅だ。

 

 普通ならば――

 

『どの道ここを突破されたら終わりだ。いけるな?』

 

『やれやれ、随分好戦的になったなウチの隊長は』

 

 キョウスケの言う通りだと思う。

 これぐらいの戦力差の戦いは何度も経験してきた。

 今回も同じだ。

 

『流石噂の13偵察隊――』

 

『間近で見るまで何かのデマかと思っていました』

 

『いたんだな、スーパーエースって奴は』

 

 味方の通信を聞くと何だか照れ臭くなる。

 

『諸君らのおかげで増援部隊の出撃体制は整った!! ここからは我々も参戦する!!』

 

 味方からのその朗報に『了解』と返す。

 ゲートから戦車や装甲車、パワーローダーに戦闘ロボットを中心とした部隊が飛び込んでくる。

 流石に戦闘ヘリはいないようだが十分すぎる戦力だ。

 

『このままじゃ戦闘が激化してしまいますが――仕方ありません、引き続き此方も援護します』

 

 ディメンションクロスも増援が来た。

 全員ハイレベルな美女、美少女軍団だ。

 ますますラノベ的である。

 

『んじゃあ第2ラウンドと行きますか』

 

 俺は気合を入れ直して増援の敵部隊に目をやる。

 



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第二話「出会いその2」

 Side アジア連

 

 日本の負け犬どもならともかく栄光あるアジア連の面汚しどもが。

 我が部隊で粉砕してアジア連の威光を敵に知らしめて―

 

『敵、パワーローダー吶喊して来ます!!』

 

『は、早い!?』

 

『まるで戦闘機のような――!!』

 

 敵のパワーローダー数機があっと言う間に距離を詰めて――

 

『戦闘ヘリが!! ああ、落ちてくる!?』

 

『戦車がやられた!!』

 

『光った!! あいつらの銃が光ったらヘリも戦車も――』

 

 なんだこれは?

 あっと言う間にズタボロにされて。

 そして気が付けば戦車も戦闘ヘリも一台も――

 

 これが戦いだと言うのか?

 こんなのが戦いであってたまるか!?

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 アジア連と名乗る武装勢力との戦いは早速自分達の勇勢状態に陥った。

 

 と言うか俺達、第13偵察隊が先陣を切って敵に飛び込んで陣形を搔き乱し、戦車や戦闘ヘリなどを中心に破壊して回ったのだ。

 

『戦車隊射撃開始!!』

 

『偵察隊に遅れをとるな!!』

 

『偵察隊を援護しろ!! 彼達がいれば勝てるぞ!!』

 

 その結果、後は掃討戦となった。

 此方の士気は最高潮である。

 

 敵は右往左往しての混乱状態だ。

 

 降伏を呼び掛けたが、敵は『アジア連万歳!!』、『アジア連に栄光あれ!!』と叫んで降伏を受け入れようとしないのでやむなく殲滅となった。

 

 いやだね悪の独裁国家の軍隊って。

 

 ウチの地球の独裁国家の軍隊もこんな感じなんだろうか。

 

 それはともかく問題は深夜アニメだかラノベだかから飛び出してきた露出したパワードスーツを着込んだ少女達だ。

よく見るとケモ耳娘とかもいて謎が深まる。 

  

 彼女達をどうするか?

 

「では私が代表してお話しします」

 

 ルーナと呼ばれた青い瞳に白肌、長い白髪のオレンジ色のアーマーを着た少女が代表して自分達に話をしてくれるそうだ。

 

「ちょっと、大丈夫なの? この自衛隊、幾ら何でも装備がヤバすぎない」

 

 と、黒髪のボブカット気味の髪型の緑色のパワードスーツを着込んだアジア系の顔立ちの少女――最初にルーナと呼ばれる少女と一緒にいた少女は心配そうに問いかける。

 

「そうですね。高飛さんから聞いた自衛隊の情報とはかなり装備が違いますが――少なくともアジア連よりかは話が分かるみたいです」

 

「それはそうだけど」

 

 黒髪の少女は高飛と言うらしい。

 話を聞く感じ、狭山 ヒロトのようにこの世界に飛ばされたウチの世界の日本人――にしては不審な点がある。

 

 勝手に判断せずルーナさんか高飛さんから直接尋ねた方がいいだろう。

 

 

 大阪日本橋のゲートを通じて自分達の地球――臨時の仮設自衛隊本部に案内した。

 

「ここって大阪の日本橋!? ここにゲートが!?」

 

 高飛さんはそう驚き、ルーナは「ここが日本なんですね」と物珍し気に辺りを見回していた。

 

(ここが日本……ってことはあの世界は日本じゃないのか?)

 

 てっきりあの世界が、またどこかの並行世界の日本だと思っていた。

 だが違うようだ。

 

 まあそれも含めて本人達から話を聞けばいいだろうと思った。

 

 そして俺は自分の階級から考えれば雲の上の人が居並ぶ階級のおじさん達がいる天幕に案内した。

 

 言い忘れていたが二人とも武装解除――アーマーを特撮変身ヒーローよろしく収納状態なので現在水着のような姿なので少々目に毒だったらしく、おじさん達がちょっと気恥しそうだった少し笑えた。

 

 俺は2048年の日本のAliceの少女達とかの前例があるから平気だった。

 

「では私達は――」

 

 そうして語られたのは大波乱を呼ぶとんでもない真実だった。



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第三話「多元世界ユナイティア」

 Side 緋田 キンジ

 

 多元世界ユナイティア。

 

 それが新たな新世界の名前らしい。

 

 様々な世界が融合し、今もなお取り込むようにして広がる異世界。

 

 ただ単純に世紀末な世界でもなく。

 

 ファンタジーの世界でもSFな世界でもない。

 

 正直理解が追い付かないような世界だ。

 

 そこには様々な勢力が存在していてアジア連もその一つであり、ユナイティアの治安維持組織であるディメイションクロスにとっては悩みの種であるそうだ。

 

 とんでもなく膨大な軍事力と危険な覇権主義思想を持つ連中。

 存在自体が爆弾レベルの存在だ。

 この世界の日本も正直アジア連側の連中は一定数いると思われるが、報告しないワケにはいかない。

 

 一体どうなることやら。

 

 次はディメンションクロスだ。

 

 彼女たちが身に纏うパワードスーツの名前はエクスキャリバーよ呼ばれる兵器らしい。

 代表して説明してくれたルーナ・キャスケットのエクスキャリバーはエンジェスⅣと言う機種だそうだ。

 

 そして付き添いで来た――平行世界の日本人、高飛 翔子。

 この世界の日本橋でもなく、まだ未発見の日本の大阪日本橋の住民だとか。

 身に纏う緑色のエクスキャリバーはリトルフェザーと言う実践にも耐えうる練習機だそうだ。

 

 彼女は此方のパワーローダーに興味津々だそうだ。

 

「さて、次はそちらの番ですよ?」

 

 と、ルーナが話を促す。 

 黙っていても相手のテクノロジーのレベルは未知数だ。

 隠し事をしてもバレて問題になる可能性もあるので正直に答えることとなった。

 

 

 Sideルーナ・キャスケット

 

 荒廃した世紀末の世界からはじまり、ゲートを通じて多元世界化が進んでいる日本ですか。

 

 さらにはフォボスやゼレーナなどの様々な脅威に立ち向かったことがあるのだとか。

  

 アジア連のパワーローダーと比べてこの世界のパワーローダーが驚異的な戦闘能力になっているのも納得がいきます。

 

 それはさておき――

 

「凄いね~世界が変わればパワーローダーもこんなに変わるんだ~」

 

 などと高飛さんは目をキラキラと輝かせながらこちらの世界のパワーローダーを見て回っています。

 

 高飛さんは変わり者で――能力はあるのですが、いわゆるメカ娘に密かに憧れている少女で元の世界では技術的に難しく、飛行機のパイロットでも目指そうかと思っていたらしいです。

 

 この世界でなら間違いなく自衛隊に入隊していたでしょうね。

 

 それぐらいに彼女はメカ娘に憧れていたようです。

 

 そして私の世界に迷い込んで、幸か不幸か適性があって念願かなってしまったのです。

 

 ミーティア司令達にも困ったものです。

 

  それはともかく――

 

「貴方はこう言うタイプのパワードスーツも好きなのですか?」

 

「うん、好きだよ」

 

 即答ですか。

 

 全身を包み込むような武骨なデザインの奴もいけるようです。

 整備班とかと一緒にアジア連のパワードスーツを密かに回収してコレクションにしているとかと言う噂もありますが一度確かめてみる必要もありますね。

 

 それはともかく――

 

「この世界の自衛隊の方を本部まで案内しないといけなくなりました。準備をお願いします」

 

「はーい。本当はノンビリと平行世界の日本橋観光しようかと思ったけど、どの店も閉まってるみたいだしね……見て回りたかったな」

  

「貴方と言う人は相変わらずですね――」

 

 私はもう何度目かになるか分からない呆れと疲れを感じます。

 どうして私はこの子の監督役にさせられたんでしょうか……



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第四話「多元世界ユナイティアその2」

 Side 緋田 キンジ

 

 なんか色々と理由付けて、自衛隊とユナイティアの交流は俺達に任された。

 やはりあの時――リビルドアーミーとの交渉の失敗を根に持ってやがるな。(第一部、第二十三話「思想の対価」参照)

 

 つまり自衛隊に全部丸投げして後は美味しいところを自分達で総取り作戦である。

 

 なんだかんだで上手くいってるからなこれで。

 

 まあ途中まではと言う枕詞がつくが。

 

 温室育ちの平和ボケしたお坊ちゃま連中とバリバリ武道派の連中とでは話が合うわけがないのだ。

 

 だから外務省、政治家がミスをして自衛隊がそのフォローをしていると言う構図が当たり前になっている。

 

 大丈夫かウチの国?

 

 戦争に勝って政治外交で勝手に自滅してる感がある。

 

 まあそれはともかくだ。

 

 ユナイティアを案内される事になった。

 

 ユナイティアは様々な種族、勢力が存在しており、地域によって特色がガラリと変わる。

 

 平和な地域もあれば彼女達のような強力な装備を持っていても危険地帯と言わしめる場所もあるそうだ。

 

 一先ずはディメイションクロスの本部に案内される事になった。

 

 

 ゲートの向こう側は早速拠点構築がはじまっていた。

 

 構築中の守りを固めるべく、地上ではレールガンタンクやレーザーガトリング対空迎撃車両が配備。

 

 さらにパワーローダーを身に纏った兵士やロボット兵士部隊が哨戒任務についている。

 

 空中では各種ヘリに交じって空戦型のパワーローダーにアルバトロス空中管制輸送機が空中から警戒して回っている。

 イージスシステムも同時進行で構築中だ。

 

 今回は町の廃墟の中なので周辺のビルを爆破、解体して面積を確保する必要も出てくるなど、大掛かりな物になりそうだと言っていた。

 

 移動にはピンク色のマザーバードクラス(プレラーティ博士が直接指定座標に転移させてきた)を使用し、佐伯 麗子 三佐やヴァネッサ、公安の謎の女Xも同伴である。

 

 人員は大体一個分隊ちょい。

 武器弾薬や生活必需品、食料なども出来うる限り詰め込んでいく。

  

 これで準備万端である。

 

 

「と言うか他のメンバーは?」

 

 マザーバード内部での移動中、ふとルーナにその事を尋ねた。

 戦闘終了後にいなくなったルーナの同僚たちの事が気になったのだ。

 

「ユナイティアは現在慌ただしい状態なんですよ。アジア連だけでなく、元から存在した脅威や新たな脅威までもがこの世界にやってきて――」

 

(ゼレーナとかフォボスみたいなのがいるんじゃねえだろうな……)

 

 特にゼレーナはその生態からいても不思議ではない存在だ。

 2048年の日本からAliceの少女達を連れてくるべきだったかと今更ながら後悔する。

 

「……色々考えても仕方ねえか。大方上の方でゲートを閉じるか開いた状態にするかで悩むんだろうけど、これまでのパターンだと、この世界で厄介ごとに巻き込まれてそれどころじゃなくなるんだよな」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「世紀末の世界の時は最終的にフォボスを倒すためにゲートを開いておく必要があったからな。もう一つの異世界に関してはバハムス帝国が俺達の国の首都に直接攻撃するつもりだったから――それを考えるとやはり調査が必要だな」

 

 アジア連の軍事力はともかく科学力はまだ未知数な部分が多い。

 

 それにゲートに関しても謎な点が多く、もしもアジア連の勢力の近くに自分達の日本に繋がるゲートが出現したらそれこそ大問題だ。

 

 どの道アジア連との戦いは避けようはない。

 

「何の話をしてるの?」

 

 すると高飛 翔子がやって来た。

 

「この世界でどうするかについて色々と話をしていたの」

 

 ルーナは言うが――

 

「自衛隊なんでしょ? ゲートを閉めるか閉めないかの話になるんじゃない? もしくはゲートはそのままに私達の事情に積極的に介入しないかとか」

 

 と、自衛隊がここでするべき模範解答を述べる高飛 翔子。

 実戦に揉まれただけあってか、普通の女学生ではないようだ。

 

「警報ー!?」

 

 赤いランプと騒がしく警報が鳴り響く。

 敵襲の合図だ。

 

「一体何が!?」

 

「君達はあのスーツを身に纏え!! 俺はパワーローダーを装着する!!」

 

「分かりました!!」

 

 一体何が起きたんだ?

 パワーローダーを身に纏い、マザーバードのブリッジへ通信を繋いで事情の説明を受ける。



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第五話「多元世界ユナイティアその3」

 Side 緋田 キンジ

 

 空中からの降下も慣れたもんだ。

 リオも傍についてくる。

 

『これがユナイティア……』

 

 自然と科学が見事に調和した未来都市が眼前に広がっていた。

 そこに何やら空中、地上で激しく両軍がぶつかり合っている。

 空中戦艦らしき姿もある。

 

 そしてその一方の一部隊が此方に向かってきていた。

 

『空中飛行に光学兵器搭載のパワードスーツだと!?』

 

 その事に驚きながらも反撃する。

 相手も驚いてる様子だった。

 

『こいつらアジア連じゃねえのか!?』

 

 キョウスケが愚痴りながら反撃する。

 

『アジア連にしては技術体系が違いすぎる!! 別の組織だ!!』

 

 俺はそう断言する。メカデザインは80年代か70年代のリアルロボットアニメの敵メカを連想させるデザインだ。

 

『なんだこいつら!? アジア連か!?』

 

『にしては性能が違いすぎる!! 警戒しろ!!』

 

 敵側も此方の異常性に気が付いたのか一旦距離をとる。

 アジア連とも敵対しているのか?

 ともかくアジア連の事を知っているようだ。

 

『なんだこいつらは――』

 

 その疑問に答えたのはルーナだった。

 

『こいつらはザイラム軍です!! ゼッターと呼ばれるパワードスーツ兵器を使います!! 詳しい話は後で!!』

 

『分かった!!』

 

 また新しいパワードスーツ兵器に謎の勢力か。

 本当になんとかロボット大戦染みてきた。

 

『つかこのまま戦って大丈夫なのか?』

 

『政治外交的には撤退が正しいが、敵の機動力を考えた場合逃げきれん!! 最悪味方から孤立して袋叩きだ!! ここは共闘した方がいい!!』

 

『マトモな判断に感謝!!』

 

 佐伯 麗子 三佐のお墨付きも貰ったのでディメイションクロスと共同戦線を張って戦う事になった。

 

『まさかザイラム軍が本部に襲撃を仕掛けてくるなんて――』

 

 ルーナにとっても想定外の事態のようだ。

 

『好戦的な連中なのか?』

 

 と、尋ねると。

 

『アジア連と同じぐらい』

 

『それを聞いて安心した――』  

 

 どの道一方的に宣戦布告されるルートだったようだ。

 なら味方がいるウチに戦った方がいい。

 

『こいつらバリアを搭載してるのか!!』

 

 などと考えているウチにキョウスケが報告する。

 

『私達が使用しているバリアと比べて強度はとても低いですが気を付けてください!』

 

 と、すかさずルーナがアドバイスを飛ばしてくる。

 飛行可能でビーム兵器持ちでバリア搭載とかヤバ過ぎんだけど。

 どう言う軍事技術の発展の仕方をさせればこんなのが誕生するんだ。

 

 まあそれを言ったらパワーローダーとかマジックメイルにエクスキャリバーとかも大概だが。

 

『こいつら手持ち武器がない感じ?』

 

 ふとパンサーがそんな疑問を抱く。

 

『と言うか実弾兵器は使って来ないの?』

 

 と、リオもそんな疑問を抱く。

 

『ザイラム軍のゼッターはビーム兵器を主体としていて実弾兵器は少数です! 主に武器は固定式が多いのも特徴です!』

 

 などとルーナが戦いながら律儀に解説してくれる。

 律儀なこった。

 

『救いなのはバリアは容易に貫通できることか――』

 

 そう言って俺は一機撃墜する。

 

『だけど距離があり過ぎるとバリアが貫通できない――』

 

 と、リオはそう言って次々と背中のビームキャノン、二丁のビームライフル、腰のレールキャノンで敵を撃墜する。

 うん。

 やっぱリオだわ。

 

『だけどまあ何とかなるっしょ?』

 

 パンサーも次々とレールキャノンとビームマシンガン、両腰のレールキャノンで撃ち落としていた。

 

『凄いね二人とも! もしかしてルーナさんより凄い!?』

 

 と、高飛 翔子は二人の戦い振りを称賛しつつ空中を飛び回って戦う。

 

『感心している場合があるなら敵を落としなさい!』

 

 とルーナは手にシールドとビームマシンガンを持って敵を撃ち落としていく。



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第六話「多元世界ユナイティアその4」

 Side 緋田 キンジ

 

 戦況は僅かながら此方が押し返してきている。

 

 だがまあ、恒例のパターンだと、こう言う状況になった途端に事態がまた悪化するんだよな。

 

『なんでこの世界にドラゴン!?』

 

 最初に気づいたのはキョウスケだった。

 

『つくづくドラゴンと縁があるな!?』

 

 俺はそう言って迎撃態勢に入る。

 

 空から数メートル程度だがドラゴンの群れがやってくる。

 ブレスで次々と両陣営に襲い掛かっていた。

 群れのボスだろうか一際巨大なドラゴンまでいる。

 

 ザイラム軍は大慌てで撤退していき、今度はドラゴンと戦う事になった。

 ドラゴンとの戦いはバハムス帝国絡みの一件(第2部)で慣れてはいるがこの世界に来てまで戦う事になるとは思わなかった。

 

『念のため聞くけどこれ倒してもいいの?』

 

 ルーナに尋ねる。

 

『はい、お願いします!』

 

『たく、とんだ害獣駆除任務だぜ!』

 

 イノシシやクマとかの代わりにドラゴンを倒す羽目になるとは。

 つくづく自衛隊とはブラックな環境だと俺は思う。

 特に最近は酷い。

 まあそんな自衛隊に居続ける俺も相当な物だが。

 

(今はそんな事よりも数を減らさないと――)

 

 自分が使うアインブラッド・ガンブラストは重武装で高機動型のパワーローダーだ。

 

 武装も右腕にアサルトライフル、左腕にアームガン。後ろ腰にナイフ、両足側面にも二連装銃。

 背中のフライトユニットにはキャノン砲二門と内臓式ミサイルハッチが二つある。

 

 それ達を遠慮なく全て解き放つ。

 

 外見も武装も一か月前のバハムス帝国での、ゼレーナとの決戦時から変わっていないがアップデートが繰り返されて性能はフォボスとの最終決戦の時と比べて格段によくなってる。

 

 皆のパワーローダーも。

 自衛隊全体で使ってるパワーローダーもそんな感じだ。

 

『私も負けてられない』

 

 ゲイル・リヴァイヴで俺と背中合わせになり、次々と両肩のビームキャノン砲、二丁のビームライフル、両腰のレールキャノンで敵を撃ち落としていく。

 

 本当に頼もしい婚約者だことだ。

 

 

 Side ルーナ・キャスケット

 

 ドラゴンを次々と撃ち落としていく自衛隊を見て私は凄いと思った。

 

 性能的にアジア連のパワーローダーとは比べ物にならないのは分かっていたが腕も段違いに良い。

 

 私達よりも上だろう。

 

 だが今は彼達と一緒にドラゴンを倒さなければ。

 

 このドラゴンも、元はこの世界の生物ではない。

 別世界からの飛ばされてきて、この世界で繁殖した生物だ。

 存在そのものに罪はないが、放置すれば犠牲は出る。

 

 なので心を鬼にして駆除しなければ生態系が崩壊してしまうのだ。

 もっとも次々に外部から危険な生物がやってくるこの世界で生態系の秩序も何もあった物ではないと言う意見もあるが――それでも生きるためには必要なことだ。

 

 それを分かっているのかどうか知らないのか高飛さんは呑気なものだと思う。 

 同時にそれが羨ましく思う時もある。

 

『大丈夫ルーナちゃん?』

 

「ちゃん付けはよしてください! それと心配するなら自分の身を心配してください!」

 

 駆け寄ってきた高飛さんにキツめに言う私。

 こんなので危ないところを何度か助けてもらった恩がある。

 そう考えるとやはり私はまだ未熟なのだろうか。

 

「今はそんなことよりも――」

 

 私は雑念を振り払うようにビームマシンガンのトリガーを引く。

 機動性、火力、防御力ともにドラゴンより私のエクスキャリバー、エンジェスⅣが上だ。

 

 負ける要素は見当たらない。

 

『ちょっと危ないよ!』

 

「っ!?」

 

 真上から此方を狙っていたドラゴンの攻撃を高飛さんの射撃で助けられる。

 

「……ありがとう」

 

『えーもしかして照れてる?』

 

「今は戦闘中です! 調子に乗らないでください!」

 

『そう言うところも可愛いよ』

 

「ふん……」

 

 今回の私は調子が悪い。

 またしても高飛さんに助けられてしまった。

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 時は夕暮れ。

 

 ディメイションクロス飛行場。

 そこにマザーバードを置いて周囲を見渡す。

 近代都市な外観に相応しく、機械のハイテク作業化が進んでいる。

 

 人外の様々な種族が見受けられてビックリもした。

 この辺り、バハムス帝国よりもファンタジー世界している。

 

 ともかく――

 

 ドラゴンを何とか撃退して俺達はこの飛行場に案内された。

 そろそろ向こうからお出迎えが来てもいいと思うのだが――

 

「すいません、遅くなりました」

 

 そして現れたのはエルフのように尖った耳でウェーブかかった水色の長い髪、白肌のグラマラスな美女だった。

 見た目まだ二十代ぐらいだろう。

 

「どうも、私はミーティア。ディメンションクロスの代表者です」

 

 と、彼女はそう名乗った。



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第七話「ディメンションクロス」

 Side 緋田 キンジ

 

 ディメイションクロスのトップ、ミーティアがまさか綺麗な美女。

 それもエルフ耳の女性とは思わなかった。

 

「驚かれましたか?」

 

「まあ色々と。異世界に行ってもエルフの方はお目に掛かれなかったですからね」

 

「報告はある程度聞いております。中々複雑な経緯を歩んできた世界の方なのですね」

 とミーティアは施設内部に案内してくれた。

 俺達も案内される。

 

 

 大学の講義同みたいな場所でとりあえずこの世界、ユナイティアの事についての説明をより詳しく受ける事になった。

 

 様々な世界が混じり合い、統合した多元世界。

 

 様々な勢力が闊歩しているさながら戦国時代のような様相を呈しているのだとか。

 我が日本はその状況に見事に巻き込まれたようだ。

 

 少なくともアジア連やザイラム軍との二勢力と戦う事になるだろう。

 

「アジア連もザイラム軍も元はこの世界の住民ではありません。いわゆる来訪者なのです」

 

 とミーティア司令はそう言って詳しい解説に入った。

 

「アジア連は地球の極東アジアの国家の集合体、ザイラム軍は詳細はまだ掴めてませんが、好戦的な軍事組織である事は間違いないようです」

 

「アジア連はともかく、ザイラム軍とは遅かれ早かれぶつかるって事か」

 

 キョウスケは皆の気持ちを代弁するかのように言った。

 今迄のパターンだと大体そんな感じだった。

 今回もそんな感じなんだろうなとも思う。 

 

「私達の立場を明確にしておこう。アジア連とはどうしようもないが、今のところザイラム軍ともやり合うつもりはない――まあそれも時間の問題だとは思うがな」

 

 と、佐伯 麗子三佐が外交官のような事を言っている。

 まあ彼女の立場上無理もないだろう。

 

「だから出来る限りの同盟は結んでおきたい」

 

 と、麗子は言うと謎の女Xも「私も同じ意見です」と賛成した。

 

「少ない情報でも構いません。アジア連とザイラム軍の情報を出来る限り開示してほしいです。上の連中の尻を蹴り飛ばさないといけないので――代わりに此方が今迄経験した出来事や勢力などについての事を開示します」

 

 謎の女Xは続けざまにそう提案した。

 

 ミーティア司令は「分かりました。此方も出来る限り協力します」と快諾してくれた。

 

 と、こんな感じで話はトントン拍子で進んでいき、ディメンションクロスの本部で泊っていく事になった。

 

 

「いいのか? リオと一緒にいなくて?」

 

「そっちこそパメラと一緒じゃなくていいのか?」

 

 俺はキョウスケと一緒に軽く周辺のノンビリ観光としゃれ込んでいた。

 一定金額を収められた電子マネーを配布されている。

 すっかり夜になり、外は復旧作業で騒がしい。

 

「パメラは整備を終えてエクスキャリバーやザイラム軍のゼッターに興味津々だ」

 

 パメラらしいと言えばらしいか。

 

「うちのリオはエクスキャリバーの装着車に囲まれてるよ」

 

「パンサーは?」

 

「パンサーはリオと交じってここの女性陣に囲まれている」

 

「そうか――」

 

 そう言ってキョウスケは空を見上げる。

 

「俺達、随分と遠いところまで来ちまったな」

 

「どう言う意味だ?」

 

「あの田舎の駐屯地でノンビリしていた頃がたまに恋しくなる時があってよ」

 

「とか言っといてなんだかんだで付き合い良すぎるよな――コンビ解消するタイミングなら幾らでもあったのに。それこそこれまでの功績考えれば元の駐屯地でパメラと一緒に新兵相手に威張り倒す事だって出来たんじゃないのか?」

 

 と、冗談交じりに言うが

 

「いいなそれも。まあそんな贅沢が許される状況でもないからな」

 

 真剣に返された。

 

「まあ確かに、気が付いたら物騒な異世界のゲートがある日突然、家の隣に出現しましたみたいな状況だからな。それを考えると自衛隊に居続けた方がいいのか?」

 

「そう言うこった」

 

「当分コンビ解消は無しか……」

 

 それがいい事なのか悪い事なのかは分からないが、まだまだキョウスケとの腐れ縁は続きそうだ。



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第八話「その頃のリオ達」

 Side リオ

 

 パメラは整備班の人達からディメンションクロスのエクスキャリバー、ザイラム軍のゼッターと呼ばれるパワードスーツの説明を受けている。

 

 私とパンサーはディメンションクロスのラウンジで平行世界の日本の時――Aliceの女の子達の時みたいに周囲を女性のエクスキャリバー乗り達に取り囲まれていた。

 明らかに人外の子とかもいてちょっと面食らった。

 

 男性のエクスキャリバー乗りは遠巻きに見ている感じだ。

 犬の獣人? のエクスキャリバー乗りとかもいるんだ。

 

「お二人とも凄く強いんですね!」

 

「私達と一緒に戦う事になるんですか?」

 

「それなら心強いかも」

 

「あのパワーローダー乗せてもらってもいいですか?」

 

「アジア連のパワーローダーとは随分違うんですね」

 

 とまあこんな感じである。

 

「私ら、これでも相当修羅場をくぐってるからね。たぶんも何も今迄の経験からして場の流れから一緒に戦う事になると思うよ。それとパワーローダーに関しては上からの許可が降りないとね――」

 

 パンサーは次々と来る質問を的確に捌いていく。

 私も見習って――

 

「私も、パンサーと同じくずっと一緒に戦ってきたから。パワーローダーの性能もあるけど腕にも自信はあるよ。皆となら一緒に戦ってもいいと思う」

 

 と、こんな感じで答える。

 あの荒廃した世界では武力一本では食ってはいけない。

 こう言うコミュニケーション能力も必要となるのだ。

 

「リオさんやパンサーさんってどんな世界で生きてきたんですか?」

 

 この質問にはパンサーが答えた。

 

「それは――」

 

 そして語られるのは過酷な世紀末の世界での出来事。

 

「私の故郷とかと同じ感じなんだ――」

 

 と、理解を示した少女もいた。

 どうやらこの世界にもあの過酷な大地が存在するようだ。

 

「私達も大変だったけど――」

 

「うーん、そう言う世界の出身者か……あ、私達はこの世界に迷い込んだグループね。中には国とか土地ごと飛ばされてきた人達とかもいるの」

 

「国とか土地ごと?」

 

 私はスケールの大きさに少々圧倒されながらも尋ねた。

 

「そう。文化の違いとか色々と大変で――中には飛ばされた瞬間、ワケも分からず国が滅んだところもあるみたいだから……」

 

「そうなんだ……」

 

 この世界にはこの世界での苦労があるようだ。

 

「あ~いたいた、リオさんとパンサーさんだ」

 

 と、高飛 翔子さんとルーナ・キャスケットさんが現れた。

 

「二人とも私は翔子でいいよ~」

 

「では私は気軽にルーナで」

 

「とか言いつつ私は高飛さんなんだよね、ルーナは?」

 

「あまり甘やかすワケにはいきませんからね」

 

 と、二人はやり取りする。

 仲が良いみたいだ。

 

「そうだ、私達もリオさんに聞きたい事が沢山あるんだ」

 

 そう言って翔子は目を輝かせながらにじり寄ってくる。

 

「どうせパワードスーツの事なんでしょう」

 

 と、釘を刺すようにルーナが言う。

 

「そう言うのはパメラにした方が」

 

「あーそうか――それにしても二人とも別々な感じで魅力的だな。エクスキャリバー絶対似合いそう」

 

 唐突にそんな風に褒めてくる。

 私は照れながら「そ、そう?」と返し、パンサーは「おーいうじゃん♪」と満更でもない気分だ。

 

 ルーナは「この子ってば相変わらずなんですから」はぁとため息をついていた。

 

 とまあ私達はこんな調子で皆と交流していました。

 



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第九話「その夜」

 Side 緋田 キンジ

 

 俺は与えられた個室でゆっくりしているとリオが現れた。

 

「何か最近は積極的だな」

 

「うん、余裕がある時にこう言う時間作っていかないと。あの世界の女は私含めて皆なんだかんだ言ってタフだから」

 

「そうか」

 

「だけど恐いの」

 

「恐い?」

 

「私は荒野の女だから、ハーレム作ってもいいからせめて――ずっと一緒に傍にいさせて」

 

「おいおい、滅多なこと言うもんじゃないぜ」

 

「今だけは弱い自分をさらけ出させて」

 

「はぁ……こんないい女に恵まれて、ハーレムとか作ったらそれだけで罰当たりもんだぜ」

 

「でもでも、狭山君とかは容認してたし――」

 

「ああ――」

 

 狭山 ヒロト。

 荒廃したあの世界で見事成り上がってハーレム作ったWEB小説だかラノベ主人公みたいな経歴の持ち主である。

 

「まあ、それも俺が作らなきゃいい話だしな」 

 

「それはそれで嬉しいけど、本当にいいの?」

 

「何度でも言うぞ。こんないい女に恵まれて、ハーレムとか作ったらそれだけで罰当たりもんだ」

 

「でもキンジならハーレム作れそう」

 

「はぁ……なんつー会話だ。普通女の子からハーレム容認する言葉が飛び出るか? そりゃ本音を言えば憧れるよ。男だしな」

 

「うん、嬉しい。万が一出来たら許してあげる」

 

「あのなぁ……」

 

 笑顔で言うか普通。

 俺信用されてないのか?

 

「ほんと、信じられない。私にこんなステキな旦那様が出来るなんて」

 

「ステキ?」

 

「パメラもいい旦那様に恵まれて幸せだと思う」

 

「そうか」

 

 キョウスケもまさか女に恵まれるとはな。

 あの駐屯地にいた頃は考えもしなかった。

 

「後はパンサーに良い相手がみつかればいいんだけどな」

 

「それは本人の努力次第」

 

「本人の努力次第ね。まあパンサーならいい相手見つけ次第スグにものに出来そうな気がするな」

 

「うん。パンサーなら大丈夫」

 

「ああ」

 

 ちょっと酷いかもしんねーが実際そんな気がするしな。

 

 

 Side 宗像 キョウスケ

 

 俺はパメラと個室で二人きりになっていた。

 リオもキンジのところに行ってるらしい。

 

「何時も整備任せてすまないな」

 

「ううん、いいの。好きでもあるし、何だかんだで皆手伝ってくれるから」

 

「そうか――」

 

「リオとも話したんだけど、その、えーと」

 

「?」

 

 俺は首を傾げる。

 

「ハーレムとかって、作りたかったりするのかな」

 

「なんつー答えにくい質問を――」

 

 思わず頭を抱えた。

 

「狭山 ヒロトとか実際作ってたし、男ってやっぱそう言うのに憧れるもんかと」

 

「まあ確かに男だからな、憧れはするけどな」

 

「ごめん、変な質問して。でもキョウスケならやたらめったら女を作らないって信じてるから」

 

「作る事前提で話してない?」

 

「うん。日本の常識はもちろん知ってるけど、あの世界だと男にとってハーレムは一種のステータスみたいなもんだし、女が生きていく上の選択肢の一つとしてはそんなに珍しいことじゃないからね」

 

「あーそうなんか」

 

「それに色んなところ旅して色んな女性と出会ったりしたから――ちょっと心配になってね」

 

「成程な」

 

 それも理由の一つか。

 

「大丈夫、なるようになるさ」

 

「そ、そう」

 

 パメラは可愛らしい笑みを浮かべた。

 



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第十話「これからについて」

 Side ルーナ・キャスケット

 

「私達がですか?」

 

 翌日。

 私と高飛さんはミーティア司令に呼び出されて自衛隊と行動を共にするように言われた。

 

「ええ。連絡要員と言う奴ね――自衛隊側も一度やっていたらしいわ」

 

「はあ」

 

 と、説明を軽く受けるが責任は重大のように思える。

 

「てことはリオさんやパンサーさん達と一緒にいられるんだね、やった♪」

 

 何故か高飛さんは嬉しそうだった。

 

「貴方は楽天的ですね」

 

「え? 嬉しくないの?」

 

「その言い方はずるいです」

 

 それだとまるであの人達の事が嫌いと言っているみたいじゃありませんか。

 

「念のため言っておくけどテキトーに選んだワケじゃないのよ? 日本の事に理解がある人間と此方の世界に詳しい人間、さらに腕の立つ人間となると、どうしても限られてくるのよ」

 

 と言う事らしい。

 

「分かりました」

 

「で? 何時合流すればいいんですか?」

 

 高飛さんはスグにでも会いたい様子だった。

 

「彼達の出発準備に合わせてね。このユナイティアは今、安全とは言えない状況だから、彼達と一緒に準備をして」

 

 司令が言うようにユナイティアは物騒な状況だ。

 また戦闘に巻き込まれる可能性は高い。

 その点を考えると一緒に準備をして段取りを考えた方が得策だろう。

 

「出発準備って、自衛隊は何処に向かうんですか?」

 

 と、高飛さんは疑問を口にした。

 

「一旦帰って対応について協議するのよ。彼達には彼達の事情があるし」

 

 私は司令の代わりに答えた。

 

「通信で済ませた方が早くないですか?」

 

「敵対勢力に傍受される恐れがあるから出来ないのよ。だから不便だけと直接会って伝えないといけないの。出来たとしても彼達の立場上、ここに留まるのはよろしくないわ」

 

「どうして留まったらいけないの?」

 

「貴方本当に日本人? 戦闘に巻き込まれると政治、外交的に不味くなるからよ。例え遅かれ早かれ宣戦布告されるのだとしても、戦いを避ける姿勢は内側にアピールしておかないと不味いから――」

 

 私は即答した。

 高飛さんはこう言う軍事分野に疎い。

 呑気にも「あ、そうか」とか言ってる。

 

「ルーナさん大正解ね。高飛さんも分かった?」

 

「うん。私より詳しくなってない?」

 

「あの~失礼ながら人選間違えてませんか司令?」

 

「そう言われると自信無くすかも。お土産とか買う時は頑張るから」

 

「観光気分ですか……」

 

 私は頭を抱えた。

 この任務本当に大丈夫かなと。

 司令は司令で「お土産楽しみにしてるからね」、「あ、帰るまでが任務だからしっかりね」などと言っている。

 

「私がおかしいのかしら……」

 

 呟くと高飛さんが「なんか言った?」と尋ねてくる。

 私は「いいえ、何でも」と返して早々に退出した。

 

 

 自衛隊のピンク色の飛行機械「マザーバード」に合流する。

 その周辺では物質の積み込みなどが行われていた。

 私達のエクスキャリバーも専用の格納スペースが簡易的ながら増設される運びになった。 

 

「どれぐらいの旅になるかな?」

 

「知らないわ」

 

「お土産は全員分会った方がいいよね? 金足りるかな?」

 

「はあ……」

 

「大丈夫?」

 

「それはこっちの台詞です!! さっきから何なんですか!? もうちょっと任務に真面目に取り組んでください!!」

 

「う、うん――」

 

「全く、なんで私は高飛さんと組まされるてるんでしょうか――司令に直談判しないと」

 

「元気出して。何か欲しいの買ってあげるから」

 

「いりません!!」

 

「え? 本当に? そう言えばルーナさんの趣味とかって何なのか分からないや……まあ私も普通の女の子とは言い難い趣味だけどね」

 

「もう好きにしてください」

 

 私は諦めてさっさと自衛隊の人達と合流する事にした。

 高飛さんは未だにお土産についてどうこう考えている。

 

 この任務、本当に大丈夫だろうか……



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第十一話「女子会」

 Side ルーナ・キャスケット

 

 マザーバードが出発して上空。

 機内の1スペースにて。 

 

「てなわけで女子会はじめます」

 

「昨日もやったでしょ」

 

 何故かリオさんやパンサーさん、パメラさんなどを集めて女子会をはじめると言うのだ。

 昨日あれだけ話し込んでまだ話したりないと言うのか。

 

「正直に言うと恋とかあれこれについて聞きたいな~と思って」

 

「貴方の場合、趣味に合う男を探すのが先決でしょう?」

 

「趣味が合う男の人は多くいそうなんだけど、こうビビッと来る人がいないんだよね」

 

 との事らしい。

 一体どんな相手を見つける事やら。

 そもそも恋愛成立するのか疑問ではある。

 

「恋愛か~私は中々そう言う相手が見つからないんだよね?」

 

 と、パンサーさんが話に乗って来た。

 

「自衛官の方と付き合っちゃえば?」

 

「それも考えたけど無理して恋愛するために付き合うって何か違うくない?」

 

「ほうほう、確かにそうだね」

 

(無理して恋愛するために付き合うか……)

 

 確かに意見としては的を得ているように思える……じゃなくて――

 

「どうして女子会なんですか?」

 

「ほら、どれぐらいの付き合いになるかどうか分からないけど、やっぱり仲良くなっといた方が色々と都合がいいでしょう?」

 

「確かにそれは言えてる」

 

「り、リオさん?」

 

 リオさんが高飛さんの意見に同意した。

 

「私もそれは言えてるわ」

 

「パメラさんまで」

 

 パメラさんまでもだ。

 何なのだろうかこの流れは。

 私だけがオカシイのだろうか。

 

「ルーナさんにはそう言う相手いないの?」

 

「それは――」

 

 真顔でリオさんに聞かれて困惑する。

 

「私はその――」

 

 どうしよう。

 憧れないと言えば嘘になるがそう言う相手はいない。

 と言うか私には組んだチームとさえ孤立していた気がする。

 

「ああ、ごめん。ルーナさん出来る系お姉さんキャラ演じてるところあって、周囲から孤立して高嶺の花みたいな状態なの」

 

「貴方一体どう言う目で私を見てるんですか!?」

 

 ちょっと高飛さんにその辺詳しく問い質さないといけないようですね。

 

「それって疲れないの? 大丈夫?」

 

「それは――その――」

 

 リオさんにまたしても真顔で言われて言葉に詰まる。

 正直言うと辛い。

 本音を言えば高飛さんみたいに何時の間にか人に囲まれているのが羨ましい。

 

「でも、正直になれなくて――」

 

「私じゃ不満なの?」

 

「それってどう言う意味ですか?」

 

「いや、百合的なアレかなと――だけど私もちょっと心の準備が……」

 

「何顔を赤らめて変な事言ってるんですか?」

 

 大体なんですか百合的なアレって?

 表情から察するにいかがわしい意味なんでしょうけど。

 

「二人とも仲良いのね」

 

 と、パメラさんに誤解される。

 

「誰がですか――全くもう――付き合ってられません」

 

 私は足早に離れて行った。

 

 

 後ろから高飛さんが「ごめんって」、「調子乗り過ぎました」、「許してください」とか言ってきますが無視します。

 

 本当に任務が始まったばかりだと言うのに前途多難です。

 

 このままでは精神的な過労で倒れてしまいそうです。

 

 などと思っているとアラート。

 

 早速敵襲です。

 

 相手はアジア連か、ザイラム軍か、はたまた未知の勢力か。

 

 ともかく出撃しないと――



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第十二話「ドラゴンクロウ」

 Side ルーナ・キャスケット

 

 場所は見渡す限りの平原。

 

 相手はアジア連でもザイラム軍でもなかった。

 

 見た事もない未知の勢力――にしては野蛮人と言うか暴力的すぎると言うかそんな感じでした。

 

 しかも見た事もない陸上戦艦まであります。

 

『アイツらは間違いないな――あの世界の連中だ』

 

「知ってるんですか?」

 

 と緋田 キンジさんに尋ねる。

 

『ああ。世紀末世界の連中だ。だがリビルドアーミーでもヴァイパーズでもない。一体何物なんだ……』

 

 緋田さん達の知る世界の出身だが知らない勢力?

 

『だが放っておいていい連中じゃないぜ。放置しておけば周辺にどんな被害が出るか――』

 

 今度は宗像さんがそう言った。

 危険な連中と判断したらしい。 

 

『たく、あの世界は悪党が大勢いるな』

 

 それに続いて緋田さんが愚痴りながら攻撃を開始した。

 

『まあ俺達が旅した範囲でもまだ知らない所はあったって話だろう。問題はこいつらがどうやってここに来たかだ。世紀末世界とのゲートが開いてましたなんてなったらそれこそ問題だぞ』

 

 確かに宗像さんの言う通りだ。

 その辺の出自を明らかにしないとこの空路は使えない。

 

『それにしちゃ妙だ。もともとヴァイパーズはリビルドアーミーの支援で強大化したってのに――もしかしてまだリビルドアーミーみたいな組織でもいんのか?』

 

『まあ、それもこれもこいつらを倒してからだな』

 

 と言いつつ緋田さんと宗像さんの二人は息の合った連携で次々と敵を倒していく。

 空中を、地面を滑るように移動し、相手に的を絞らせず、陸上戦艦や敵のパワーローダーの反撃が当たらない。

 

 控えめに言って見事な機動だ。

 

 私も負けてられない。

 

 機動力ではエクスキャリバーが上なのだ。

 スピードで相手を翻弄して着実に敵を減らしていく。

 

『攻撃が当たらねえ!?』

 

『なんなんだこいつら!?』

 

『もしかして自衛隊って言う連中じゃ――』

 

『ヴァイパーズやリビルドアーミーを滅ぼした悪魔だって言うのかよ!?』

 

 敵の動揺は明らかだった。

 

 と言うか悪魔呼ばわりって……

 

『俺達悪魔呼ばわりされてるぜ』

 

 宗像さんの言葉に緋田さんは箔がついたみたいでいいじゃねえか』と返す。

 どうやらまんざらでもないようだ。

 

『て言うかこいつらもしかして13の死神部隊じゃ!?』

 

『なんでそいつらがこんなところに!?』

 

『知るか!! 撃て撃て!!』

 

 などと混乱が拍車にかけている。

 まるで此方が悪党みたいだが放置しておくワケにもいかないので殲滅する。 

 

 

 パワーローダーは全て爆散し、陸上戦艦も爆発炎上中。

 ドラゴンクロウで生き延びたのは極僅かだった。 

 

 改めて第13偵察隊の力を思い知った戦いだったが気になる事がある。

 

「こいつら話を聞く感じゲートから迷い込んだ感じだ」

 

「じゃあ世紀末世界とこの世界とが繋がってるって事になるのか……報告追加だなこりゃ」

 

 とんでもない事態になった。

 だが迂闊に通信が使えない状況である。

 どうすれば――

  

『隊を二つに分けてこの事を報せに戻るグループと任務を続行するグループとで別れたらいいんじゃないのか?』

 

 宗像さんが提案する。

 危険だがそれがいいかも知れない。

 

『一旦戻るグループはバードを使いましょう。ある程度パワーローダーも詰め込めますし』

 

 と、ヴァネッサさんが提案してきた。

 

『分かった――んじゃあ』

 

 そして緋田さんや佐伯さんが部隊分けを発表する。



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第十三話「異変」

 Side 緋田 キンジ

 

 宗像 キョウスケとパメラ、パンサーと謎の女Xの第13偵察隊の半分はディメンションクロスの基地に逆戻りした。

 

 そして俺とリオ。

 佐伯 麗子、ヴァネッサ、高飛 翔子とルーナ・キャスケット。

 そして残りの13偵察隊のメンバーは任務続行で帰還する形となった。

 

 

『案の上、襲撃されてやがる!!』

 

『うん!』

 

 日本橋ゲート周辺はまたアジア連に襲撃を受けていた。

 何やら見慣れぬ兵器の姿もある。

 アジア連の新兵器か何かだろうか?

 逆関節で腕が大砲になっている両腕。

 コンセプト的にはリビルドアーミーのランシスの隊が使っていたギガスローダーと呼ばれるカテゴリーの兵器を連想させる。

 

 それが何機もいた――

 

(一筋縄じゃいかなさそうだな――)

 

 と思った瞬間。

 次々とアジア連の機体が爆発していく。

 その攻撃は自衛隊にも降り注いでいく。

 

 一体何がと攻撃があった方向を見てみると――

 

『怪物の群れ!?』

 

 次々と怪物の群れが――まるで悪魔のような異形な姿をしていた。

 ファンタジーゲームに出てくるゴーレムの姿もあった。

 他にもグリフォン、マンティコア、ドラゴンやスライムの姿もある。

 

 それがアジア連を薙ぎ払っていく。

 

『大部分が該当データーなし!! 殆どがこの世界の生物ではありません!!』

 

『なんだと!?』

 

 ルーナの報告に耳を疑った。

 つまりこいつらは別の世界から迷い込んだ生物だと言うのだ。

 

『とにかくやるしかないか!!』

 

 そう切り替えて援護した。

 アジア連は撤退する間もなく怪物の群れに飲み込まれつつある。

 生存はほぼ絶望的だろう。

 

 襲ってきた相手とは言え、哀れに思うが、どうにかしなければアジア連の二の舞だ。

 

『クソ、戦力分散は下策だったか!?』

 

 と今更後悔するが遅い。

 敵は倒せるが勢いを増していく。

 それに強いのもある。

 

 誰だ現代兵器を持ち込めばファンタジーの敵相手に無双できるとか言った奴は。

 

 危機的な状きょ――

 

『こちらAlice部隊!! 援護します!!』

 

 愛坂 イチゴ、

 

『例え敵が違えど人類の脅威には違いない!! 御剣 トウカ、推してまいる!!』

 

 御剣 トウカ。

 愛坂 イチゴと同じくAliceの少女達だ。

 

 別世界のパワーローダー。

 Aliceの力で増幅されたその力がさらに増幅された一撃が次々とモンスター軍団を屠っていく。

 

『どうして二人がここに!?』

 

 思わぬ再開に俺は驚いた。

 いや、ありがたい援軍なのだが。

 

『僕もここにいます!!』

 

 白い竜騎士のようなマジックメイル。

 皇族専用のアルビオン。

 見覚えがありすぎる。

 

 他にも周りにはマジックメイルの姿があった。

 

『フィアまで何やってんだ!?』

 

 少なくともここはバハムス帝国の皇子様が来ていい場所じゃない。

 

『事情の説明は後です!! 今はこの場を切り抜ける事を考えてください!!』

 

「――分かったよ、ヤンチャな皇子様!!」

 

 そう言って俺はトリガーを引く。

 一体全体何がどうなってるんだ。

 



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第十四話「新たな脅威」

 Side とある自衛官

 

『アジア連の連中が飲み込まれていく――』

 

 最初は絶望だった。

 化け物の群れに飲み込まれていくアジア連。

 あの世紀末世界でも見た光景だ。

 

 自分達もあの頃とは装備も違うとはいえ、恐怖してしまう。

 本当に大丈夫なのかと。

 その懸念は当たっていた。

 

(このままじゃ数に押されて――)

 

 アジア連の連中と同じ末路を辿ってしまう。

 そう思った矢先だった。

 

 マジックメイルやAliceの少女の参戦により、劇的に戦況が有利に傾いていく。

 

 この状況に喜びよりも驚愕が勝る。

 

 だがボサッとしているワケにもいかない。

 自分達は自衛官であり、そしてすぐ後ろには守るべき世界があるのだ。

 

『彼達を援護しろ!!』

 

『りょ、了解!!』

 

『今のウチに態勢を立て直せ!!』

 

 と、士気が戻っていく。  

 

 

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 嘗て一緒に戦った人々との共同戦線。

 

 状況は分からないが、不謹慎だが、心が燃え上がるのを感じた。

 

 同時に不安もあった。

 

 また自分達の想像を超えるとんでもない事態が進行しているのではないかと。

 

『まさかこんな形で再開になるとはな――』

 

 俺は焼き払うように魔物の群れを攻撃する。

 

 撃ち漏らした敵をレールガンタンクやレーザーガトリング車両。

 戦闘ヘリや地上や空に展開したパワーローダー部隊が打ち取っていく。

 

 そうして出来た突破口をフィア達マジックメイル部隊やAliceの少女が次々と敵性生物を打ち取っていく。

 

 フィア達もAliceの少女達も基本は近接戦闘型だ。

 特にフィアとAliceの御剣 トウカの二人が競い合うように敵を斬り倒している。

 

『私も負けてられない』

 

 そこへ更に負けじとリオが加わる。

 

 これならこの場は大丈夫だろうが――などと思っていたら。

 

『ほう、中々やるではないか――』

 

『今度はなんだ!?』

 

 おぞましい男の声が直接脳内に響いた。

 現れたのは巨大な黒いドラゴン? 悪魔? を連想させるロボットだった。

 全高50mぐらいの巨大サイズで剣と盾もそれ相応のサイズだ。

 

『奴はディアボロス!! この軍勢の長です!!』

 

『なに!?』

 

 確かに総大将と言われても恥じない雰囲気と迫力があるが、まさかこのタイミングで現れるとは思わなかった。

 

『我はここには存在しない。いわば影の状態よ――だが貴様達を屠るには十分だがな』

 

 そう言うと地上に向けて。

 自衛隊の部隊が展開しているところ目掛けて剣を向けて――

 

『部隊を散開させろ!!』

 

『もう遅いわ!!』

 

『ちぃ!!』

 

 ディアボロスの剣に最大火力をぶつける。

 それに呼応するようにフィアやAliceの少女もリオも剣に攻撃を集中。

 剣先が逸れて、放たれた雷鳴が自衛隊の部隊が展開した離れた場所に着弾。

 

 瞬間、大きな雷鳴の爆発が起きた。

 

 危なかった。

 アレが直撃したら自衛隊の連中は全滅していた。

 

『ならばこれならどうだ!?』

 

 瞬間、体が重くなり、地面に叩きつけられそうになる。

 

『重力で潰れるがいい!!』

 

『重力まで操んのかこの化け物!?』

 

 このままだとこいつに全滅させられてしまう。

 どうにか方法は――

 

『なに!?』

 

 重力の拘束が解けた。

 顔面への一撃。

 助けてくれたのはルーナと高飛のペアだった。

 

『すいません、出遅れました!!』

 

 ルーナが謝罪し、

 

『出遅れたのが功を奏した結果だけどね』

 

 高飛さんが補足する。

 

『いや、何はともあれ助かった!!』

 

 でなければ高重力に圧壊して全滅もありえた。

 

『ほう、ならばこれならどうだ』

 

 今度はディアボロスの頭上に大きな火の玉が形成される。

 

『ヤバイ、逃げろ!!』

 

 その火炎球は地面に着弾し、大爆発を引き起こした。

 



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第十五話「敗北と敵の正体」

 Side 緋田 キンジ

 

『たく……死ぬかと思った……』

 

 最後の攻撃の着弾場所に大きなクーレターが出来てる。

 敵はどうやら帰ったようだ。

 

 完敗だ。

 殆ど手も足も出なかった。

 今度はアレと戦えと言うのか。

 

(……とりあえず皆の安否が先か――)

 

 どれだけ生き残ってるか。

 リオは大丈夫だろうかと必死に皆を探す。

 

『大丈夫ですか』

 

『フィアか……』

 

『はい、安心してください。皆は無事です。リオさんも愛坂さんも御剣さんも――』

 

『そうか――』

 

 どうやら最悪の事態は間逃れたようだ。

 

『正直このまま意識を手放したい気分だが――アレは何なんだ?』

 

『ディアボロス。ゼレーナやフォボスですら恐れた存在です』

 

『ゼレーナやフォボスですら恐れた存在?』

 

『詳しい話はソフィア姉さん――あのゼレーナが話してくれます』

 

『そうか』

 

 クイーンゼレーナ。

 フィアのお姉さんであるソフィアさんの体を乗っ取って活動している人類の天敵、ゼレーナの変異体である。

 

 

 自衛隊も大ダメージを受けてあれこれと忙しい状況だ。

 

 だがそれでも目の前の女性――人ゼレーナから聞かなければならない事がある。

  

 主だったメンバーは大阪日本橋に作られた天幕に集結している。

 

「バハムス帝国やAliceの面々などにはある程度先に話したが――あのディアボロスはフォボスや我々ゼレーナですら恐れる存在――知的生命体が歪んだ進化を遂げた存在とでも言えば良いだろうか」

 

「歪んだ進化を遂げた存在?」 

 

「そうだ。何らかの要因によって急激に進化した存在。フォボスもゼレーナはその出現を恐れていたのだ」

 

「知的生命体が進化したら巨大ロボットになってあんな出鱈目な強さになるって信じられない――けど信じるしかないんだろうな――」

 

 俺は諦めたように相手の言葉を鵜呑みにした。

 

 ――神を滅ぼすつもりか? その手で? 私を滅ぼしてみろ! 待っているのは絶望の未来しか――

 

 ふとフォボスが言ったセリフを思い出す。

 てっきり絶望の未来とはゼレーナの事だと思っていた。

 

 そのゼレーナも。

 

 ――我々ゼレーナはあらゆる並行世界に存在し、そしてある一定水準の文明を観察し、データーを収集し、そして――殲滅するか、家畜にするかの選別を行い、また別の文明を探し出す――

 

―喜べ。貴様たちは私達の家畜になるのだ。その驚異的な軍事技術と新たな文明を探る当てるための並行世界のゲート――私は何としても手に入れたい―

 

 などと言っていた。

 今にして思えばフォボスもゼレーナも知っていて恐れていたのではないか。

 進化した存在に。

 

 そいつがディアボロス。

 

「こう言う時、年長者として奮起しなくちゃいけないんだろうが――このまま再戦しても結果は分かり切ってる――何とかしないと」

 

「その何とかする方法はあったりして」

 

「誰だ?」

 

 現れたのは中性的なボブカット気味のまだ高校生ぐらいの少年だ。

 

「谷村 亮太郎、通りすがりの高校生さ」

 

そう名乗ると続けてこう言った。

「プレラーティ博士から大体事情は聴いているよ。本来ならウルトラマ〇が相手するような化け物と戦って生き延びたって。だからここらでパワーローダーを改造する事に決めたんだ」

 

「パワーローダーを改造?」

 

 突然現れて何を言ってるんだ?

 

「勿論マジックメイルの強化やAliceの子達のパワーローダーの強化もするよ。金は欧州の財団持ちで」

 

「何か話がよく分かんないけど大丈夫なのか?」

 

 てか財団ってなんだよ……

 

「大丈夫も何もやるしかないんだよ。神に限りなく近い存在に目を付けられたんだ。僕もプレラーティ博士も本腰入れないといけない。まあ取り合えずは日本橋で休みなよ」

 

「はあ……」

 

 との事らしい。

 本当に大丈夫なんだろうか……



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第十六話「メイド喫茶ストレンジ」

 Side 緋田 キンジ

 

 大阪日本橋ゲート前。

 

 自衛隊の駐屯地にコンビニとかあったりするがメイド喫茶があるのは前代未聞だと思う。

 

 まあテントの下に機材とかテーブルとかを並べた簡易的な物だが。

 

 そこに何故か異世界組の少女やAliceの少女やリオが文化祭感覚で働いていた。

 もちろんルーナや高飛 翔子さんもだ。

 

 そんな彼女達を取り仕切っているのは長い黒髪ツインテールの不愛想そうな、直感的にだがカタギには見えない黒井 リンカと言う少女だ。

 

 店を取り仕切っているのはプレラーティ博士と似たような雰囲気を持つ、ヘレン・P・レイヤーだ。

 

 長く明るいパープルの髪の毛に黒い二つのリボンを両サイドにつけており、可愛らしいが小甘く的な顔立ちでまだ背丈的には中学生か小学生高学年程に見える。

 服装は彼女の趣味なのか黒いコートにタンクトップにスカート、長ブーツ。

 そしてつばがない軍帽にも見える黒い帽子を身に着けていた。

 

「あら? 私の事が気になるのかしら?」

 

「そりゃな? どんな魔法を使えば自衛隊の最重要機密のこの場所にメイド喫茶を展開できるんだ?」

 

「この大阪日本橋は私の庭みたいなものだから。ある程度の強引の事は出来るのよ」

 

「……そう言う事にしておこう」

 

 世紀末に異世界、多元世界と色々と言ったが世の中にはまだまだ分からない事が多いらしい。

 それを無理に探ろうとするとロクな目に遭わない気がした。

 

「それで強化の方は?」

 

「縮退炉かブラッド粒子炉を使うとか言ってたわね」

 

「あ~縮退炉はともかくブラッド粒子炉って?」

 

「ブラッド粒子炉――まあ平たく言えばガンダ〇OOのGNドラ〇ヴに近い性質を持つ動力ね。世に出ればエネルギー産業がひっくり返るわよ」

 

「そですか……」

 

 聞かなかった方が良かったかもしんないなどと思った。

 他にもマシン・シンクロン・システムとか、ブラッドフレームとかも搭載予定とか言ってたがサッパリ分からなかった。

 

「それよりもリオちゃんのミニスカメイド服姿写真に撮らなくていいの?」

 

「いきなりそれ言う?」

 

 確かに撮りたいけどさ。

 なんか近寄り難いんだよね。

 

 

 Side ルーナ・キャスケット

 

 非番の自衛官相手に私達は何をしてるんでしょうか……

 

 しかも皆さん何だかんだで乗り気ですし。

 

 高飛さんも「まあ、あんな恥ずかしい水着みたいなパイロットスーツ着てるし今更メイド服はそんなに恥ずかしくないよね」とのことでした。

 

 皆さんもそんな感じです。

 

「深く考えない、気分転換だよ気分転換」

 

 と、高飛さんが言う。

 

「まあ確かに必要とは思いますが」

 

 先のディアボロスとの戦いの敗北の雰囲気をどうにかしたいと言う気持ちはあったがまさかこんな手を使うことになるとは思ってもいませんでした。

 

「それはそうと彼方は何をしてるんでしょうか?」

 

 フィア皇子は仲間の女性の方に囲まれているようでした。

 

「まんまラノベの主人公って感じだよね。全員と結婚するパターンかな?」

 

「全員と結婚ってそんな馬鹿な――」

 

「いや、世界観的にありえると思うよ私は」

 

「そうなんですか?」

 

 なんか釈然としませんがとにかく仕事に集中しましょう……

 何だか納得いきませんが。



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第十七話「密会」

 Side 緋田 キンジ

 

 フィア・バハムス皇子が一旦女性陣から解放された。

 久しぶりに会う――と言っても一月も経過してないが再開を喜んだ。

 

 女性陣から少し離れた場所で二人きりでお話しする。

 

「そういや国のほうはどうなんだ?」

 

「まだまだ復興の最中で、周辺諸国との関係も余談を許さない感じです。帝国内部でもデスモンドなどを筆頭に姿を消した連中もいますしね――」

 

 どうやら火種が燻っているようだ。

 

「こっちはまあ見ての通りだ。ディアボロスの出現で表面上は元気だが内心ではどうだかって感じだ」

 

「その話ですがグラン皇帝はどうやらディアボロスの存在に感づいていたらしいです」

 

「なんだと?」

 

 グラン皇帝。

 昭和のアニメに出てきそうな大悪党でとにかく滅茶苦茶な奴だった。

 まさか今更そいつの名前が出てくるとは思わなかった。

 

「より正確にはディアボロスやその他の進化した存在についても触れられていました。今となっては皇帝の野望にどう関わっていたのか分かりませんが……」

 

「どうせロクでもない事を考えていたんだろう。しかしあんなのが他にもいるのかよ……」

 

「そうなりますね」

 

 終末論が現実になったら今の自分のような感覚なのだろうかと俺は思う。

 あんなのが二体も三体もいる?

 出るジャンル間違えているような奴が?

 

「まあそれでもやらなきゃこの世界どころか数多の平行世界が滅んじゃうから僕も表舞台に姿を現したんだけどね」

 

 そう言って谷村 亮太郎が現れた。

 

「プレラーティ博士と同じく何か秘密抱えてるのか?」

 

「まあそんな感じだね」

 

 プレラーティ博士も中々に謎が多い存在だ。

 ただの天才科学者の少女で片づけられるような人物ではない。

 何となくだが谷村 亮太郎も普通では説明できないような存在ではないかと思った。

 

 そもそもただの高校生が自衛隊の最重要機密となっているこの場所に来てパワーローダーの強化改造を行う時点でおかしい。

 

「緋田さんはどうしてそう思うの?」

 

 と、谷村君が訪ねてきた。

 

「ほとんど勘みたいなもんだ――思えば――フォボスの最終決戦の時、フォボスの本体へと繋がるゲートを開いた時から疑問に思った。いわゆるハッキングって奴かなと思ったが……それでもゲートを開けるのが早すぎるように感じた」

 

 俺は「まあこれも想像でしかないがな」と付け足した。

 

「平行世界の自分の記憶と何らかの形でリンクしたんだと思うよ」

 

「てことはあのフォボスの製造には平行世界のプレラーティ博士が関わっていた?」

 

「そう考えるのが自然だけど証拠がない以上は憶測でしかないよ」

 

「……そうだな」

 

 複雑だが谷村君の言う通りだ。

 例えどんなに疑惑が濃厚がだろうが証拠を提示しなければやってないのと同じだ。

 そもそも今はプレラーティ博士の正体ではなく、谷村 亮太郎の正体だ。

 

「で? 何者なんだ君は?」

 

「――三十代のうだつの上がらない大人の。成れの果てさ。憑依転生を繰り返していく内に今の自分が誕生したんだ。プレラーティ博士もそんな感じじゃないかな」 

 

「憑依転生?」

 

 ここでフィアが疑問を口にした。

 

「条件は良く分からないが他の世界の自分に憑依する体質って感じかな? 僕の場合は最低でも4度ぐらいは憑依転生をしていると思うよ」

 

「していると思うって……」

 

 何だか人間の死生観がトチ狂うような話だ。

 本来なら笑い飛ばすような話だが――まるで日常物の児童文学とかで唐突に現れる魔女だの魔法使いに遭遇した気分だ。

 

「プレラーティ博士もそんな感じだと思うよ。何て言うかある日突然、自分の体が変化して知らない記憶や知識が流れ込む感じ。便宜上憑依転生って言ったけど実際はコピーペーストしている形になるんじゃないかな?」

 

「ちょっと話の内容がよくわからないです」

 

 フィアが言うが多くの人間はそう言う反応を示すだろう。

 正直俺は理解しちゃいけないような話に思えた。

 

「ここまで来ると命の概念とかの話に踏み込む感じになるね。例えば生物のプラナリアに魂があったとして、体を二等分したら魂も一緒に二等分されるのみたいな……」

 

 谷村君は「まあそれは置いといて今は進化した存在に対する対処が優先だね」と語る。

 

「ディアボロスの対策か?」

 

「ああそうだね。アレに対抗するにはAliceの少女やマジックメイルが相性がいい。パワーローダーで対抗するにはブラッド粒子炉とマシン・シンクロン・システムが必要になってくる。つまり精神エネルギーを具現化するマシンだね」

 

「大丈夫かそれ? 精神が崩壊したりしない?」

 

 そう言うロボットアニメが昔あったのだ。

 いや、わりと最近でもあるか。

 

「大丈夫。自分もそう言う機体に乗って前線に出てるから」

 

「戦えるの?」

 

 俺は当然の疑問を投げかける。

 

「勿論さ。身体能力はなろう系勇者レベルだからね。下手なパワーローダーで戦うよりも生身で戦った方が強いぐらいさ」

 

「なんだその例え――」

 

 なろう系ってお前……

 

「谷村さん実際とても強いですよ?」

 

 とフィアが助け舟を出すように言った。

 そこでふと思った。

 

「Aliceの子達やフィア達があの場に駆け付けられたのってもしかして――谷村君のおかげ?」

 

「そうだよ。まあ無茶しすぎて最終的にフィア君やAliceの少女達にバトンタッチする事になったんだけどね」

 

 つまり谷村君は自衛隊や俺達にとって大恩人になると言うワケだ。

 俺は「失礼しました」と頭を下げる。

 

「ははは、本職の自衛官にお礼を言われるのは照れくさいね。ともかく今は協力してディアボロスをどうにかしないと――でないとユナイティアどころか他の並行世界の存亡にすら関わるから」

 

 と、谷村君は言うのであった。



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第十八話「機体の準備」

 Side 緋田 キンジ

 

 大阪日本橋臨時駐屯地。

 

 臨時格納庫にて。

 

「つまりまたフェンサーで頑張るしかないと」

 

 俺は谷村君と相談していた。

 内容は単純にパワーローダーの強化に時間が掛かるため、代わりのパワーローダーを使用する必要があるとの事だ。

 それの準備のために当然代替えのパワーローダーが必要となるワケだ。

 

 思い当たるのはバハムス帝国の時に使用していたフェンサーだ。

 あるいはドランか。

 

 だが相手をする敵のレベル――ディアボロス相手は無理だと割り切るとして、アジア連はまだいいがザイラム軍クラスになると、心もとないと言うのが実情だ。

 

 まあ生身で戦うよりかはマシだが。

 

「いっそヴァネッサさんに頼んでパワーローダーを調達してみては? あの世界なら少なくともドランやフェンサーよりも上のクラスのパワーローダーは手に入ると思いますし」

 

 ヴァネッサの使用するドラグーン・ルージュはとんでもない性能だ。

 一応カスタム機とは聞いているがそれでもアインブラッドタイプに匹敵、あるいは上回る性能だ。

 

「前に考えてみたんだが色々と面倒な手続きが必要らしくてな……」

 

「成程」

 

 世紀末世界で購入したり拾って修理して使用するのとはワケが違うのだ。

 ヴァネッサは別の並行世界の地球人で特殊部隊の人間である。

 何故か今でも協力してくれているのはありがたいが、言い方は悪いが別の世界の別組織の人間である。

 

 勝手に「お願いします」と頭を下げて頼んで手に入れるワケにはいかないのだ。

 面倒な話ではあるが。

 

「まあその手続きはヘレンさんや″僕″やプレラーティさん、ヴァネッサさんにお任せする形でいいと思いますよ。状況が状況ですしね」

 

「僕?」

  

「こう見えても色々と顔が利くんですよ自分」

 

「はあ……」

 

 との事らしい。

 深く考えないでおこう。 

 

「まあどの道、機体が届くまではフェンサーかドランで頑張ってもらうしかないのが辛いとこですね」

 

「やっぱそうなるか」

 

 まあちょっとの間の我慢かと割り切る。

 

「そう言えばリオの機体は?」

 

「ああリオさんの機体は強化限界ですからね。手間暇を考えると、いっそ新しい機体を用立てた方が早いんじゃないかと言う結論がでまして――」

 

「まあ確かにな」

 

 リオは控えめに言って天才だ。

 今のゲイル・リヴァイヴでも十分過ぎる程に活躍しているがそれでも段々と本人の能力に機体が追い付いていけてなくなってるのだ。

 

「いっその事、シュトラールでも使いますか?」

 

「ああ、あの機体?」

 

 シュトラール。

 

 谷村 亮太郎が使ってるタイプのパワーローダーである。

 カタログスペックを見たが化け物だ。

 普通の人間に乗りこなすのは不可能な決闘機である。

 

 谷村 亮太郎が駆る黒と金のシュトラールはもっと化け物らしい。(Aliceの少女達やフィア達、談)

 

 まあ性能は保証済みなのだが――

 

「本人が良いって言ったらな」

 

「まあ、それが普通の判断ですね。アレ普通の人間は乗りこなせませんし」

 

(それを乗りこなす君は何なんだ……)

 

 などと俺は思った。



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第十九話「逆襲の異世界勢力」

 Side 緋田 キンジ

 

 夜中にまさかの強襲。

 それもアジア連、ザイラム軍、ドラゴンクロウの3勢力がだ。

 

 特にアジア連何かは大被害を被っているのにまた大部隊を差し向けてくる辺り、「人が畑から取れる」レベルの物量の国なのかもしれない。

 

『俺達が弱ったところを見て仕返しに来やがったが!!』

 

 俺はフェンサーを身に纏い、敵の大部隊を相手に戦う。

 此方も増援は来ているとは言え、殆どは実戦で使い物になるのかどうか分からないヒヨッ子ばかりと言う現状だ。

 

 Aliceの少女達、御剣 トウカ、愛坂 イチゴの二人の他にも金本 チカネ、クーラ・ヴィアリツィナ、リッタ・クルーガーの三人も頑張ってくれている。

 

 生命線はフィア皇子達のグループか。

 セシリー・ゴルディアーナ、エリオット・デオン、アイシス・フリージア、キャロル・カウアンテ、アルティニー・エジリッタ。

 

 この6人がいなければ戦線崩壊してたかもしんない。

 谷村君「あのラノベのパロキャラたちかな? 作者に怒られない?」とかいってたな。どのラノベのこと言ってんだろ。

 

 当然ながらリオやヴァネッサ、谷村君にディメンションクロスのルーナさんや高飛さんも頑張っている。

 

 

 そんな俺達を嘲笑うかのように敵のアジア連、ザイラム軍、ドラゴンクロウたちは物量だけでなく、腕利きのエース級をも投入して来ている。

 あと戦艦とかもだ。

 

 どうやら各陣営ともに全力で自衛隊を潰すつもりらしい。

 

 

 Side アジア連 ドラグノフ大佐

 

「ふむ。奇妙な戦力もいるが中々やるじゃないか」

 

 この状況下での異世界の日本の連中の奮闘ぶりは評価に値する。

 是非とも部下に欲しいぐらいだ。

 

 それに比べて我が軍も質が落ちたものだ。

 戦いと言えば武装が貧弱なテロリスト、マシな部類で国境での小競り合いぐらいだったから無理もない。

 

 こんな大規模な戦いの経験など稀だろう。

 

 特に我が軍の日本軍何かは負け犬根性が染みついている感があるな。

 

「それに比べて自衛隊とやらは――任務とはいえ、やはり惜しいな」

 

 つくづくそう思ってしまう。

 

 

 Side ザイラム軍 レオス

 

 空中戦艦から指揮をとる。

 敵は少数ながらこの状況でよく戦うものだ。

 

「あの程度の軍勢を攻め滅ぼせんとは――我が軍が軟弱になったのか、それとも自衛隊が強いのか」

 

 恐らく後者だろう。

 控えめに言って素晴らしい戦い振りだ。

 ディメンションクロスも手強いが自衛隊も十分に手強い。

 

 アジア連の日本軍やらとは大違いだ。

 世界が違うと戦闘力にこうまで差が出るのか。

 

「精々楽しませてくれよ」 

 

 此方も戦力は残っている。

 

 本番はこれからだ。

 

 

 Side ドラゴンクロウ リーダー、クロウ

 

 悪魔の集団、自衛隊を滅ぼすチャンスなのに上手く行かない。

 

 腕利き揃いの集団をぶつけてるのにしぶとい。

 

 この戦闘の様子を支援者の連中も何処かで見ている筈だ。

 

 無様な戦いをすれば打ち切られるどころか消されるかもしれない。

 

 だが現実は非情だ。

 

 戦力を投入しては潰されるの繰り返し。

 

 今はどの勢力も距離を保って態勢を立て直し、攻撃も相手の動きを封じる牽制に留めている。

 

 ここは他の勢力と同じく、牽制で留めて長期戦に持ち込むのが得策か。

 

 だがそれだと俺達も相応に消耗するが――それしかないか――



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第二十話「逆襲の異世界勢力その2」

 Side 緋田 キンジ

 

(不味いな……こうも長期戦に持ち込まれたら――)

 

 各陣営の敵は此方の手を読んだかのように距離をとって守りを堅めて長期戦に持ち込むつもりだ。

 これでは決定打が打てない。

 

 幾ら腕がいいエース級が揃っていても数の暴力で押し切られる。

 問題なのは武器、弾薬なのもあるが、精神面、体力面だ。

 

 どうにか打開策が欲しいところである。

 

 大阪日本橋駐屯部はゲートを放棄、後に爆破するかどうか悩んでいるようだ。

 そうなればプレラーティ博士の力があるとは言え、暫くは元の世界に帰れなくなる事は覚悟しておいた方がいいだろう。

 

『うーん、仕掛けるタイミングがね』

 

 と、谷村君のシュトラールが遠距離から直実に敵を仕留めながら言う。

 遠距離攻撃組はこうしてチマチマと敵の戦力を削れるので凄いもんだ。

 

『何か作戦が?』

 

『せめてキッカケさえあれば一勢力ぐらいは黙らせる事は出来るんだけどね』

 

『吶喊するつもり?』

 

『そうしないとジリ貧だよ? 各陣営のエース級の人達で指定した陣営同時に仕掛けるんだ』

 

『危険すぎる』

 

 今の状況だと自殺行為だ。

 

『だから出来ないんだよねこれ。此方の戦力が足りないし火力も心許ない――このまま防衛線続ければ――まだまだ持つがそれも相手の出方次第だ』

 

『上の判断に任せるしかないか』

 

 悔しいがそうする他なかった。

 

 

 Side 佐伯 麗子 三佐

 

「撤退しろと?」

 

 天幕の仮設駐屯地本部の中、モニター越しの人物に私は怒鳴りつけるように言った。

 

『そうだ、周辺諸国が騒いでいる。これ以上の戦力を動かさず、どうにかして対処は出来ないかな?』

 

「そのためにゲートを爆破しろと?」

 

『もう十分火中の栗は拾ったじゃないか。なのに周辺諸国は日本だけズルいズルい言うんだ。我々の苦労を考えてくれよ』

 

「しかし――」

 

 言ってる事を理解してしまう自分の頭脳が恨めしい。

 日本だけが火中の栗を拾い続けて、世界中の一部の国々にその栗は上手い事分配される。

 そう言う話だった。

 

 だが未だにその栗は上手い事分配されず、日本の総取り状態だ。

 つまり日本は上手くやり過ぎたのだ。

 

 こう言うと上手く立ち回らなかった日本も悪い気がするが、その成果の裏には自衛官達の数々の命懸けの戦いが会ったと言う事実も忘れてだ。

 

 日本を、世界を救ったのは自衛隊なのも過去の事らしい。

 

『なあに、不幸な事故と言う奴だよ。だけど敵対勢力を増やすワケにはいかない、Aliceとか言う異能者の少女やバハムス帝国のお客さん達をどうにかして連れ戻して欲しい。あの自衛隊たちは殿でもやらせればいいだろう』

 

「……」

 

『どうした? 返事はせんのか?』

 

「どの道時間は掛かるかと」

 

『手早く頼むよ。最近の国民は選挙に熱心だ。ここでミスすれば選挙に影響が出るし君のクビもタダでは済まないよ』

 

(老外とはこの事か……)

 

 などと思いながら通信を切る。

 

「どうするんですか?」

 

 と、自衛官の一人が駆け寄ってきた。

 

「爆破スイッチを渡せ。判断を私がする」

 

「え?」

 

「もう一度言うぞ。爆破スイッチを渡せ。Aliceの少女達とフィア皇子一行の退避が完了し、殿の任務が出来次第ここを爆破する。異論は?」

 

「い、いえ――」

 

(私にはこれが精一杯だ。後は運に任せるしか――)

 

 爆破スイッチのトランクを渡されて外に出る。

 ゲートの向こう側の激戦に想いを馳せながら私はそのゲートを見詰める事しかできなかった。



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第二十一話「騎兵隊」

 Side ザイラム軍 レオス

 

「ふむ――そろそろ仕掛けるか」

 

 このまま自衛隊とばかり相手にしていては埒が明かないし、将兵の士気に影響が出る。

 

 この場にいる勢力全てを一網打尽にすることにした。

 

(増援部隊が遅れてるのが気がかりだが――まあいい、自分達で葬り去ってくれる)

 

 まずはドラゴンクロウとアジア連には脱落してもらおう。

 

「本艦より後方!! 未知の敵艦による強襲です!!」

 

「なんだと!?」

 

「種別はエクスキャリバーです!!」

 

「ドラゴンクロウの後方にも敵艦確認しました!!」

 

「アジア連の後方にも敵艦確認!!」

 

 立て続けの凶報。

 

「一体何が起きている!?」

 

☆ 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 信じらんねえ。

 増援が来た。

 

『待たせたな――って程でもないか?』

 

『いや、助かった』

 

 キョウスケ、パンサーの二人がディメンションクロスの部隊を引き連れてザイラム軍の背後から奇襲を仕掛けたようだ。

 

 敵は一気に総崩れになっている。

 

『しかしザイラム軍はともかく――アジア連やドラゴンクロウの方は誰が?』

 

 それが気になった。

 

『アジア連の方は僕の妹達が――』

 

『フィア!? てっ妹って事は』 

 

 フィアの妹、皇女様自ら戦艦に乗って部隊率いて前線に来ているって事なのか。

 

『お久しぶりです緋田一尉』

 

『その声は石崎大尉!!』

 

『私もいます』

 

『朝倉中尉も!!』

 

 2048年の日本。

 Aliceの少女達の出身世界の日本軍だ。

 

『Aliceの少女達の引率ですよ』

 

 と石崎大尉が言う。

 次々とAliceの少女達の手でヒロイックにアジア連のパワーローダーが撃破されていく。

 

『お久しぶりです!!』

 

『その声は狭山君!?』

 

 狭山 ヒロト。

 異世界に迷い込み、成り上がってハーレム作った日本人の少年。

 その子が部隊を率いて空中戦艦に乗ってやってきた。

 

 狭山 ヒロト本人もフォボスとの最終決戦の時に身に着けてきた重厚で厳ついアインブラッドタイプのパワーローダーを身に纏って次々と敵を灰にしていっている。

 

『敵が後退していく――』

 

『まあ形成が逆転したからな――』

 

 だろうなと思いつつ態勢を立て直す。

 再度の敵の襲撃はないだろうが、まあ念のためと言う奴である。

 

『それよりもどうしてお前、フェンサーを身に纏ってるんだ?』

 

『ああ~それを含めて信じられない話があるんだわ――』

 

 宗像 キョウスケにディアボロスの話をしなければならない。

 普通なら正気を疑われるような話だが映像もあるので信じてくれるだろう。

 

 

 Side 佐伯 麗子

 

(爆破装置、不要になったか……)

 

 門の向こう側の戦いは増援で形勢逆転となったようだ。

 爆破する必要もなくなり、めでたしめでたしとなった。

 

 だがそうで終わらないのがお役所仕事だの公務員の悲哀と言う奴である。

 

 ドラゴンクロウやザイラム軍、アジア連だけでも問題は山積みなのにディアボロスに関しては今頃どうなっているのか――

 

 

 Side 宗像 キョウスケ

 

 どうやら俺達が留守中の間にとんでもない大事件が起きたようだ。

 

 正直信じられないが状況が状況だ。

 

 信じるほかないだろう。

 

 救いがあるのは対抗手段があることか。

 

「それにしても今回は大勢やられたな――」

 

 と自衛隊の遺体袋の山を見て俺はそう呟く。

 

「殆どが近所の駐屯地から搔き集められた連中だ。実戦経験も殆どない連中ばかりだったらしい」

 

「あの世紀末世界に来たばかりの頃を思い出すぜ――」

 

 あの頃はこんな光景なんて珍しくもなかった。

 

「今回も運も悪かったし、敵の規模も相応だったが――まあ割り切るしかねえか」

 

「無理すんなよ?」

 

「互いにな――それでこっからどうする? 大部隊が集まっているけど」

 

「まあ擦り合わせが必要だろうな。ディアボロスの動きも気になるが倒せる敵を倒していくしかない。あの世紀末世界の時と同じだ」

 

 つまりフォボスの前にリビルドアーミー、リビルドアーミーの前にヴァイパーズを倒していったあの感じでいくのか。

 

「行き当たりバッタリな気もするがそれが最善だろうな――て事はまずドラゴンクロウから叩く感じか?」

 

「そうなるな」

 

「また忙しくなるな――」

 

 俺はこれから行われる激戦を予感した。



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第二十二話「小休止」

 Side 緋田 キンジ

 

「しっかし、この駐屯地も一気に賑やかになったな。特に女性の比率が」

 

 キョウスケの感想に「ああ――まるで学園になったみたいだな」と返す。

 

 と言うのもAliceの少女達やエクスキャリバーの装着者、マジックメイルの装着者が全員女学生か女学生ぐらいの年齢の割合が多かったのだ。

 

 皆規律とかそう言うのがシッカリしていて助かる。

 これが現代日本の学生連中だったらどうなっていた事やら。

 

 メイド喫茶ストレンジ(仮設)も一体どう言う手口を使ったのか男女ともに何だかんだで盛り上がっている感がある。

 

「リオも楽しんでるみたいだし、いいか」

 

「パメラは頭を抱えてたけど――まあ何だかんだ言ってこの状況楽しんでるみたいで一安心だ」

 

 キョウスケはパメラの心配をしていたが杞憂に終わったようで良かった。

 

「それにパメラ、パワードスーツの祭典状態になってちょっと興奮してるぜ。何処の世界にも似たようなのがいるらしくてな――すっかり仲良くなっちまってる」

 

「そう言えば狭山君やフィア皇子の周りにもいたなぁ……」

 

 どこにでもいるんだな、そう言うのはと思うに至る。

 

 

 Side ルーナ・キャスケット

 

 混沌とした状況だと私は思った。

 恐らく後にも先にもこんな事態、起きないだろうと思えるほどに。

 

 高飛さんはと言うと、またしても女子会に夢中になっている。

 と言うか趣味が合う女性がいたらしくてその子達とあれこれしているのだ。

 

 私もディメンションクロスやエクスキャリバー乗りだと言う事で色々と質問されていた。

 

 照れくさい気持ちで一杯だ。

 

 でも正直言うと悪くはないのだ。

 

 ううう……どうしてこんな事に……

 

 

 Side フィア・バハムス皇子

 

 僕は何故かメイド喫茶で色んな女性に持て成されていた。

 

 セシリーやエリオット達はメイド服姿で僕の傍の席争いを繰り広げている。

 

 アルティニーは何やら気の合う少女達と何やら話し込み、あれこれと質問したり質問に答えたりしていた。

 何だか近寄り難い雰囲気である。

 

「しかしどうして皆僕に集まるの?」

 

「皇子様で強くてカッコいい……かどうかは分からないけど魅力的な男性だからよ」

 

「あ、アイシスさん?」

 

 アイシスさんがメイド服姿でそう答えてくれた。

 

「それよりも私との婚約、いいかげん考えてくれたかしら?」

 

「今それを言う?」

 

 周りを見ると――セシリーさん達が顔を真っ赤にしてアレコレと言ってきた。

 周囲も何だか騒がしい。

 

「それともハーレムルートがお好みなのかしら? まあ帝国の法的にはありなのよね?」

 

「は、ハーレムってそんな……」

 

「でも日本人の狭山君はハーレム作っちゃってるし……」

 

「アレは政略結婚的な奴だと聞いてるんですけど」

 

 何か今日のアイシスさん積極的に爆弾を落としてくるね。

 

「だけど優柔不断そうだし、このままだと結論を先延ばしして、そうなっちゃうのがオチだと思うわ」

 

「なんかそんな気がして来た……」

 

 何だろう。

 まるでそう言う未来を見てきたかのような説得力は。

 

「まあここで私を選べばそれで――」

 

「ちょっと抜け駆けはよくないよ!!」

 

「そうです!! 許しません!!」

 

「わわわわ、私もどうかと思います!!」

 

 アイシスさんの言葉に、セシリー、エリオット、キャロルの順で反論してきた。

 

 そして――

 

「私のことを、忘れてはいませんよね? 主様は?」

 

 今迄何処に潜んでいたのやら、カスミがすっと現れ、僕の頬にキスをして消えた。

 そして周囲に黄色い悲鳴が沸き上がる。

 

 もうなんなのこの状況は――

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

「苦労してんだなアイツ……」

 

「だな……」

 

 俺の言葉にキョウスケも同意した。



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第二十三話「小休止その2」

 Side 狭山 ヒロト

 

 僕はシズク達と一緒に駐屯地内を見て回っていた。

 アイシャは気の合う女友達が出来たらしく、お話に夢中になっていた。 

 

 シズクのほかにバレッタやジェーン、マリアなどもついてきた。

 

 日本橋臨時駐屯地は一気に人が増えたせいでちょっとしたお祭り状態である。

 

 もっとも先の戦いの自衛官の殉職者の事を考えると素直に喜べないが。

 アレは采配ミスと言うより運が悪かったとしか言いようがない。

 

「なに浮かない顔をしてんだ?」

 

 と、バレッタが言ってきた。

 

「ああうん、実は――」

 

 本音を打ち明ける事にした。

 

「せめて祈りましょう――」

 

 と、マリアが黙祷する。

 ジェーンやバレッタも、僕にそれに倣う。

 

「さて――まあ辛気臭いのはここまでにして、アタイらは今後どうすんだ?」

  

「それなんだけど――」

 

 そう言って自分の考えを述べた。

 

 自分の考えはこうだ。

 

「出来れば手助けしたい。特に緋田さん達に協力したい」

 

 と。

 

 敵は確かに強大だ。

 だがこう言う時こそ助け合わなければならないと思う。

 理想論と一笑されるかもしれないが僕はだからこそ現実にしたいと考えている。

 

「ですが現状を考えた場合、あまり長く町を放置するのは得策ではないかと」

 

「そうだよね――」

 

 と、シズクにダメだしされた。

 

「そこで代替え案として私達が通って来たゲートを防衛するなどすれば自衛隊側も負担は減ると思います。さらにはディメイションクロスや自衛隊にもパイプが出来て儲け話にもなるかと」

 

「なるほど、そう言う手もあるのね」

 

 シズクの出した案にジェーンは乗り気だった。

 自分もいい案だと思った。。 

 

「最終的に決めるのは狭山様です」

 

「いや、僕もそれでいいと思う。それにまだ他にもいい案があるかも知れないから皆と相談したいと思ってる。フィア皇子や緋田さん達、Aliceの皆やディメンションクロスの人達にも呼びかけて」

 

「分かりました」

 

 

 Side 緋田 キンジ

 

 大阪日本橋の臨時駐屯地の仮設本部(天幕内)。

 

 狭山 ヒロトの呼びかけで自衛隊を半ば置いてけぼりにしながら会議が始まった。

 具体的に言えばゲートの防衛チームと自由に動ける攻撃チームとで分ける感じだ。

 

 そして攻撃チームに各チームからメンバーを選出すると言う形をとる。

 

 また母艦はレギンレイヴを使う事が決定した。

 

「いや~協力し合うって素晴らしい事だね」

 

「谷村君も来るの?」

 

「まあね」 

 

 谷村君も参加するようだ。

 

「どの道、ディアボロスをどうにかしない限りは事態の収拾は図れないからね。遅かれ早かれどこかの世界が焼け野原になる。それはこの世界かも知れないし、他の世界かもしれない。だけど何処の世界だろうと関係は無い」

 

 そして谷村君は天幕の中で熱心に会議をしている皆をみる。

 

「僕にも手伝わせて欲しい。この世界と、皆の大切な物を守るために――」

 

「ああ――」

 

 俺にはそんな決定権はない。

 だが言わんとしている事はなんとなく分かる。

 皮肉なもんだ。

 不良自衛官がまた世界を救うために立ち上がるなんてさ。

 

「正直言うと僕はこの国に――この世界に絶望していたところがある――だけど希望がこうして残っているのなら、それに懸けてみたい」

 

「谷村君――そうだな、まだ希望はあるさ」

 

 それは不確かなものだ。

 だけど何時だって意外と近くにある。

 普段はただ見え辛いだけで。

 そう思わずにはいられなかった。



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第二十四話「小休止その3」

 Side 緋田 キンジ

 

「で? 何の様ですかミスX、それと佐伯 麗子三佐」

 

 大阪日本橋駐屯地の人気の少ない場所に俺は呼び出された。

 相手は公安の謎の女Xと佐伯 麗子だ。

 

 佐伯 麗子はともかく謎の女Xは嫌いではないが、彼女は大抵こう言う時に凶報を持ってくるのでどうしても警戒してしまう。

 それに組み合わせが組み合わせだ。

 

 なんで佐伯 麗子と一緒に俺を呼び出した?

 

「三佐はつけなくてもいい」

 

「じゃあ佐伯、なんのようだ? どうせロクでもない報せなんだろうけど」

 

「防衛省や政治家連中は今どうなってるかぐらいは知っておきたいだろう」

 

「ほらやっぱり」

 

 佐伯の言葉に俺はそう思った。

 

 引き継ぐように謎の女Xが解説に入る。

 

「現在の状況は防衛省だけでなく政界、財界にとっても劇薬です。世界も混乱しているような状態です」

 

「無理もないだろうな。フォボスの脅威が終わったと思えばそれよりヤバい奴が出てきたんだから」

 

 フォボスはこの全世界に軍隊を送り込み、第3次世界大戦を短期間ながら引き起こした。

 それは俺達を誘き寄せる陽動でまんまと嵌められたが――それでも未だに傷跡が残っている。

 特に心には。

 

 そして人間って奴は考える。

 

 もしもフォボスと同じぐらいヤバい連中とそれ以上の脅威がいるとしたら?

 

 と。

 

 それが現実の物となり、今は世界中が大混乱に陥っているのだろう。

 

「戦っている背後から核兵器で吹き飛ばすなんて事態はイヤだぜ――もっとも核兵器でどうにかなる相手か疑問な連中もいるがな」

 

 図星なのか二人は押し黙った。

 

「んで? 話はそれだけ?」

 

「いや、上の方はこのゲートの破壊を」

 

「冗談じゃねえ」

 

 俺は佐伯の一言を斬り捨てた。  

 

「考えは分かる。ユナイティア絡みの一連の騒動に関わるのは上の連中はごめんだって言うんだろ?」

 

 佐伯は「ああ、防衛省にもそう言う意見は出ている」と返す。

 

「だがディアボロスが平行世界を移動できる術を持たないと勝手に信じるのは楽観的すぎるんじゃないのか?」

 

「それは――」

 

 佐伯は押し黙った。

 

「確かに死ぬような目にも何度もあった。もうごめんだって思いもした。だけどな、その過程で俺は大切な物は見つけた。それを手放せって言うんなら自衛隊辞めてでもあいつらと戦う道を選択する。リオもキョウスケもそれを尊重してくれるだろう」

 

「自衛官としては失格だが、成長したんだな。こんなにも強く」

 

「佐伯、過去を振り返るにはお互いまだ早いぜ――」

 

「そうだな――だが実際問題、政府や防衛省、世界はどうするつもりだ?」

 

「魔王を倒せば世界は救われるみたいな理論はイヤだが、それに懸ける」

 

「理想論だな」

 

 心なしか苦し気に佐伯が言う。

 だが俺は――

 

「理想論だがそれを成せる力が集まっている。俺達だけじゃない――狭山君、谷村君、フィア君、Aliceの少女達、ディメンションクロス――まだ足りないなら手繰り寄せてみせる」

 

 そしてパチパチと拍手しながら谷村君が現れた。

 

「見事な演説だったよ」

 

「谷村君――」

 

「僕も信じたい。次の世代の可能性を――プレラーティ博士やヘレンさんが君に手を貸す理由が分かった気がするよ」

 

「――ありがとう。手を貸してくれて」

 

「どういたしまして」

 

 本当に、俺は人に恵まれたなぁ。

 

「なんとなく、緋田さん達が凄い事を成し遂げられた理由が分かった気がします」

 

 黙っていた謎の女Xさんが口を開いた。

 

「私の目的は緋田さんを通して、この事態を上の人間が思い描いたシナリオに収集するのが目的でしたが――」

 

「今はどうなんd?」

 

「やめます。私も信じたいです。私の出来る範囲で、上の方を抑えて見せます」

 

「大丈夫なのか?」

 

「大丈夫です。信じてください」

 

「分かった」

 

 Xさんを信じることにた。

 

「なんなら僕も手伝おう。それにヘレンさんに頼めば日本政府ぐらいなら軽く抑えられるはずだ。財団にも働きかければ世界もある程度は抑えられる」

 

「なんかすごい事言ってるな――まあここまで来たら信じるよ」

 

 谷村君の周りは一体全体どうなってんだか。

 

「ああ、そうそう。財団の代表者から伝言を預かってるよ」

 

「財団の代表者?」

 

「君に他の世界の未来を守って欲しい。ここで我々が動かなければ、それは人類にとって恥ずべき歴史として後世に語り継がれるだろう。これがとても身勝手な頼みである事は承知している。だからこの星、他の星の未来を一緒に守らせてくれ――だってさ」

 

「財団の代表者ってどんな人なんだ?」

 

「僕と同じような存在だよ。前世で人類の未来を憂いてとんでもない規模の世界大戦を引き起こした人」

 

「大丈夫なのかそれ――」

 

 一連の騒動が終わったらラスボスとして君臨とかしないよね?

 

「大丈夫だよ。もしも財団の代表者が、道を違えたその時は僕が迷わず殺すように約束してるから」

 

「なんつー関係だ」

 

「ちなみにその人からとんでもない量の支援物資が届くから。政府や防衛省の支援を打ち切られても暫く戦えるだけの物資がね」

 

「本当に何者なんだ財団の代表者……」

 

 頼もしいがちょっと怖くもあった。

 

「しかし谷村君が財団とも繋がりがあったとは――」

 

 ここでXさんが口を開いた。

 

「知っているんですか?」

 

「ええ。特に今のトップは本気を出せば世界を掌握できる程の人物でアメリカの大統領ですら逆らえないとか――他にもパワーローダーを積極的な導入を進めていて、核兵器や無人機を嫌い、地球環境の再生事業にも力を入れてるとか」

 

「本当にとんでもないな――」

 

 軽く聞いただけでもとんでもない人物だと言うのが分かる。

 その人に一緒に地球を守らせてくれと言われたのか俺は。

 

「まあ、もしかしたら会う事もあるかもね」

 

「おいおい勘弁してくれよ。会うのが恐くなってきたんですけど」

 

 最近の十代はどうなってんだ。

 本当に末恐ろしい。 



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第二十五話「小休止その4」

 Side 愛坂 イチゴ

 

 私は愛坂 イチゴ。

 

 Aliceの少女としてまだまだ半人前の女の子です。

 

 特に緋田さん、リオさんと関わって、異世界での出来事があってからより強く思うようになりました。

 

 そんな異世界での出来事も一段落し、新たな脅威が現れました。

 

 名をディアボロス。

 

 谷村さんやヘレンさん曰く、歪んだ進化を遂げた存在なのだとか。

 

 よく分からないけどゼレーナ以上の脅威であり、今以上に強くならないと立ち向かう事すら困難な相手です。

 

 そのために私達は谷村さんやヘレンさんの呼びかけに応じて団結し、そしてこの平行世界の大阪日本橋の土地に集まりました。

 

 部隊分けですが概ね防衛チームと攻撃チームに別れる感じでメンバーの選抜については議論がなされているようです。

 

 人同士との戦いも予想される過酷な事態だけど、それでも私はAliceとして戦います。

 

 

 =緋田 キンジとの会話=

 

「こうして会話するのも久しぶりだな」

 

「はい、久しぶりです。助けに来たのは良かったんですけどあまりお役に立てれませんでした」

 

「いや、その気持ちだけでも十分だよ」

 

「でも、もっと強ければ――」

 

「それについては俺もだ。何だかんだで勝ち戦がずっと続いてたからな。心の何処かで天狗になってたかもしれねえのがな――」

 

「緋田さん――」

 

 どうやら責任を感じているようでした。

 これについては私も申し訳なく思います。

 

「まあ、リベンジするためにも強くならないとな――と言っても谷村君任せになるんだけど」

 

「谷村君って凄いですよね」

 

「まあな――メチャクチャだ。神様から転生特典幾つかもらってるだろってぐらいに凄い」

 

「どう言う事ですか?」

 

「ああそれはな――」

 

 そこで語られたのはWEB小説の主人公のお約束でした。

 成程、そう言うのがあるんですね。

 

「しかしディアボロス――あのままなら私達を倒せたと思うんですけど、どうして退いたんでしょうか? 助けに来る前には現れた時は姿を現しただけで軍勢を出すだけ出して去っていったんですけど」

 

「それは俺も気になった。もしかしてまだ本調子じゃないのかもしれないな」

 

「成程――」

 

「本調子になる前に本体を見つけて叩くか、もしくは本調子になったところを迎え撃つか……どちらにしろハードな戦いになりそうだな」

 

「私も頑張ります」

 

「ああ。クイーンゼレーナの時みたいなのを期待しているよ」

 

「はい!!」

 

 あの時はフィアのお姉さんを助け出すために必死でした。

 今度は皆を守るために私達Aliceの力を結集してディアボロスを倒すんだ。

 

  

 =狭山 ヒロトとの会話=

 

「狭山さんって緋田さん達と同じぐらいパワーローダーの扱いが上手いんですね。それだけじゃなくて町を運営していたり、その――女の人と――」

 

「あーその、無理しなくてもいいよ。世紀末の事情って奴だよ」

 

「はい――フィアさんもそうですけど、違う世界の人間なんだなって思います」

 

 狭山さんが住まう世界、あのリオさんが住んでいた世界には法も秩序もありません。

 なので前時代的な政略結婚をしてでも生き延びるのは当たり前な世界だとは知ってはいるんですがその――どうしても何だか変な気持ちになっちゃいますね。 

 

「まあそれについては言い訳もしようもないと言うか」

 

「いいえ。それに――皆さん幸せそうですから」

 

「……ありがとう」

 

 

 =フィア・バハムスとの会話=

 

「フィア皇子って色んな人に慕われてるんですね」

 

「ははは、何か自然とこうなったんだよ」

 

「フィアさんもやはりハーレムを?」

 

「何かそう言う流れになってしまってるんだよね……」

 

「でもフィアさんなら皆さんを幸せに出来る。そんな気がするんです」

 

「そ、そうかな……」

 

 顔を真っ赤にするフィアさん。 

 言ってる私も何だか変な気分です。

 

 

 =ルーナ・キャスケットとの会話=

 

「ディアボロスとの戦いではルーナさん達に助けられましたね」

 

「アレは運が良かっただけ」

 

「それでもありがとう。助けてくれて」

 

「うん――いい子なのね、愛坂さんは」

 

「あ、ありがとうございます。ルーナさんも綺麗でステキだと思います!」

 

「ふふふ、ありがとう」

 

 

 =谷村 亮太郎との会話=

 

「対ディアボロス戦においての強化は進んでるよ~」

 

「私達勝てるのか不安です――でも勝たないと世界が滅んじゃうんですよね」

 

「まあね。だけど気負いすぎるのもダメだよ」

 

「は、はい」

 

「それにせっかくいい仲間達に恵まれてるんだからもっと頼りにした方がいいと思うよ」

 

「仲間――」

 

「諦めなければきっと望みは叶うってほど、現実は甘くはないけど、手を伸ばさなければ何も始まらないんだ。大丈夫、ここにいる僕や皆を信じて欲しい。諦めずに手を伸ばし続けて欲しい」

 

 何だか不思議です。

 とても説得力のようなものを感じます。

 

「僕に言える事はそれぐらいだ。次の戦いの時は近いよ」

 

「そう言えば谷村さんも戦うんですか?」

 

「まあ相手が相手だからね――それにやっておきたい事がある」

 

「やっておきたいこと?」

 

「まあ次の戦いがアジア連やザイラム軍だったら分かる事だよ」

 

 一体何をする気なんでしょう。

 とても気になります。

 

 

 =御剣 トウカとの会話=

 

「この状況、何だかんだ言って楽しんでるだろ」

 

「はい。色々と勉強させてもらっています」

 

「ほう例えば?」

 

「確かに私達はディアボロスに一度敗北しました。今でも不安です」

 

「……」

 

「でも上手くは言えないけど、次はきっと上手く行く。そんな気がするんです」

 

「まあ、ある意味イチゴらしいわね」

 

「はい――」

 

「どんな状況でも前向きで真っすぐで、挫けても折れずにまた立ち上がって――だから皆貴方を認めたのね――」

 

「そ、そうですか?」

 

 これはこれで何だか気恥ずかしいです。

 

「ええ、貴方の最大の力はAliceじゃない――その気持ちを忘れないで、貴方のままでいて――」

 

「は、はい」

 

 貴方のままでいて?

 いつも通りってことなのかな?

 それでも、それで皆の助けになれるのならいいかな。

 

 

 まだまだ皆と喋りたいこと、語りたいことは沢山あるけど楽しい時間はあっという間に過ぎていく。 

 

 逆を言えば、不謹慎だけど――今がそれだけ楽しいってこと。

 

 こんな一時を守りたい。

 

 そのためだったら――Aliceになれて本当によかったって思ってる。

 

 恐い事、辛い事も沢山あるけれど、この一時があるなら私はAliceとして戦える。

 

 まだまだ未熟、半人前だけど。

 

 Aliceとして戦い抜いてみせます。



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第二十六話「世界を守る意味」

  Side 谷村 亮太郎

 

 僕は日本って言う国が嫌いだ。

 

 選挙に行かず権利を主張する日本国民や国民をATMと勘違いしている政治家や官僚って奴にもだ。

 

 直接手を下して滅ぼそうかとも考えた事もある。

 

 だけど滅ぼさなくてもやがて衰退して、滅びゆく。

 

 だから手を下す必要はないと思った。

 

 しかしどっかの独裁国家のような状況になるやら介錯してやった方がいいとも考えてる。

 

 だけど出来ない。

 

 大切な家族すら巻き込むのもあるし、ヘレン・P・レイヤーがいるのもある。

 

 いや、それは言い訳だ。

 

 心の奥底でまだ人を信じているからだ。

 

 平行世界の自分から受け取った人の素晴らしい一面が目に焼き付いて離れないのもあった。 

 

 そして――緋田 キンジ。

 

 絶望の中であっても前に進み続ける男。

 彼の存在とその周囲の人間が僕を変えつつある。

 

 僕は理解した。

 

 僕はどうして主人公になれないのか。

 主人公になってはいけないのか。

 ああ、なんてことはない。

 

 本当の主人公って奴は眩しすぎるんだ。

 周囲を明るく照らせる存在なんだと。

 

 人間は確かに醜い側面はある。

 同時に素晴らしい側面がある。

 

 藤崎君、平行世界の僕は君に憧れたのはそう言う理由だったんだ。

 

 Side 緋田 キンジ

 

 防衛チームと攻撃チームの振り分けが終わり、またしても敵が攻めてきた。

 

 今度はゼッター軍とアジア連にドラゴンクロウの大部隊だ。

 

 此方も戦力が整っているし、どうにかなると思った。

 

 その時だった。

 

「なにを――」

 

 谷村君がパワーローダー、シュトラールを身に纏った状態で一人武器を持たずに先行した。

 そしてオープンチャンネルで。

 あらゆる周波帯で彼は呼びかけた。

 

『どうも僕は谷村 亮太郎であります。

 

 この世界だけでなく、幾多の平行世界は今存亡の危機に立たされています。

 

 戦争を止めろとは言いません。せめて、ディアボロスを倒すまではお預けにしませんか?』

 

「谷村君……」

 

 彼は呼びかける。

 

『人と言う種族は戦争を、殺し合いを止められない愚かな種族なのでしょう。

 

 ですがそれを乗り越えてこそ、人は人である事の証明になると私は考えています。

 

 どうか、考えてください。なぜ自分は戦うのか。なぜ自分はここにいるのか。それを考えた上で決断してください』

 

 射撃の嵐を避けてすらいない。

 ただ受け止めながら谷村君は訴え続ける。

 

『こうなる事は正直分かっていました。訴えても無駄に終わるんじゃないかと思っていました。

 

 でも訴えずにはいられませんでした。

 

 このままでは永遠と蛮族のように殺し合いを続ける戦いになるからです。

 

 それを止めるには相手を殲滅するしかないのでしょうか?

 

 僕はそれに疑問を持つようになりました。

 

 戦いのための戦いなどもう沢山なのです。

 

 だから僕は訴えます。

 

 訴え続けます。

 

 それが徒労に終わろうとも。

 

 それが無駄に終わろうとも。

 

 戦いの意味を問い続けます』

  

 本音を言うと谷村君が言うように無駄な行為に思える。

 一方的に戦いを仕掛ける侵略者相手に何をしているのだと。

 

 だが同時に耳が、目が離せなかった。

 

 皆同じだ。

 

 敵に届いているのか分からない。

 

 だが確かに俺達には届いている。

 

 そして今もなお、攻撃に晒されながらも平和を訴え続けている。

 

 ウチの父親と母親が見たらなんと言うだろうか。

 尊敬するだろうか?

 それとも馬鹿にするだろうか?

 

『何が人に絶望しているだ――ちゃんと信じてるじゃないか――』

 

 俺は一人の少年の無謀な大勝負に乗ることにした。

 

『各員は敵の迎撃を最低限に!! 命を奪うな!! 敵の戦意を奪え!! 無茶なオーダーだと言うのは分かってる!!』

 

 それに応じて次々と味方が発進していく。

  

 皆が谷村 亮太郎を。

 

 一人の少年を守るために。

 

 その意思を尊重するために最低限の攻撃で戦いに身を投じていく。

 

『何をしている? 平和だの何だの言いおって――』

 

『こんな時にディアボロスか――』

 

 ディアボロスが現れた。

 その軍勢のモンスター軍団も

 敵味方の概念など構わずあらゆる陣営に襲い来る。

 

『ディアボロス。貴方は何故戦うのですか? 何故邪神として振る舞うのですか?』

 

 谷村 亮太郎の問いかけはディアボロスに対しても行われた。

 

『絶対的な力を好きなように行使して何が悪い? 滅ぼしてもよい世界など幾らでもある。永遠の破壊。それが我の望みよ』

 

『ソレが本心だと言うのなら僕は貴方と戦います』

 

『そんなボロボロの状態で武器も持たずにどう戦うつもりだ』

 

『言葉をぶつけ続けます』

 

『なに?』

 

『貴方だけではありません。ザイラム軍、アジア連、ドラゴンクロウ、自衛隊、Aliceの少女、バハムス帝国、ディメンションクロスにも言葉をぶつけます』

 

『何を言っている?』

 

『言葉の通りです。

 

 僕は偉そうに大人ぶって振舞っているけど中身は子供です。

 

 そんなに頭も良くありません。

 

 力あるのにその力を使って世の中を正そうとも思わない自分勝手な人間です。

 

 この状況下で平和を訴える身勝手な人間なのです』

 

『そこまで分かっていながらなぜ平和を訴え続ける』

 

『平和を訴えて、平和に手を伸ばさなければ、平和のために行動をしなければ本当の平和など勝ち取れないからです。

 

 それが例え偽善者の行為だと言われようとも僕は言葉を止めません。

 

 もし今ここで言葉を止めればそれは本当に偽善者として終わるからです』

 

『ならここで朽ち果てるがいい』

 

 俺は『不味い!!』と思った。

 ディアボロスの攻撃が来る。

 

『なっ!?』

 

 ディアボロスが驚愕する番だった。

 

 一部のアジア連、ザイラム軍の兵士がディアボロスに攻撃を始めたのだ。

 それどころかドラゴンクロウの人間もだ。一部動きがぎこちないグループもいる。

 

 谷村君の訴えが無駄ではなかったのだ。

 

『馬鹿な!?』

 

 ディアボロスにはそれ程ダメージを与えてはいないだろう。

 だがそれでも精神へのダメージは大きいはずだ。

 

『ええい、うっとおしい――まずはお前から葬り去ってくれる!!』 

 

『まずい、逃げろ!!』

 

 谷村 亮太郎に向かってディアボロスの極太の閃光が放たれた。



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第二十七話「奇跡の光」

 Side 緋田 キンジ

 

『何が――』

 

 俺は目の前の光景が信じられなかった。

 突如として谷村君の機体、シュトラールからピンク色の光が溢れ出る。

 その光の噴出は止まらない。

 

 この混迷と化した戦場一帯の空を飲み込み、周囲に桜の花弁のように光の粒子が吹き荒れる。

 

 不思議と恐くはない。

 今迄感じた事がない温かさを感じる。

 

 なんだこの現象は――

 

 敵も味方も困惑している。

 

 そしてその困惑はモンスター達やディアボロスにも――

 

『その光は――まさかソレは――可能性の光の一つ――進化を成し遂げようとでも言うのか!?』

 

 ――違うよ。これは進化ではない。ただ心に訴えかけてるだけだ。

 

『心にだと!?』

 

 あのディアボロスが狼狽している。

 それよりも――

 

『谷村君の声が頭の中に響いた?』

 

 どうなってしまっているんだ今の谷村君は――

 

『難しい言葉を省くと、心の光を照らし出しているだけだ。それその物に害は無いし、谷村君も大丈夫だ』

 

『プレラーティ博士?』

 

 唐突かつ久しぶりの登場だ。

 同時にこの超常現象についてもザックリながら解説してくれた。

 

『アレは人が誰しも持つ可能性の光だよ。ただそれが具現化しているだけにすぎない。それが歪んだ進化を遂げた邪神に対して効果的なのさ』

 

『言ってる事がサッパリ分からないけど谷村君は大丈夫なんだな?』

 

『ああ、私が保証しよう』

 

 心の、可能性の光か。

 確かにそう言われると納得してしまう。

 

 ディアボロスは必死になって谷村君を排除しようと躍起になってるが谷村君は微動だにせずに祈り続けている。

 

 この場でやるべき事は分かっている――

 

『出来るかどうか分からないが――ディアボロスを倒す!! それだけだ!!』

 

 俺も光の一部になったような温かさを感じながらディアボロスに攻撃を開始する。

 それに皆続いていく。

 

 その間にこの摩訶不思議な状況でどう思ったのかアジア連やゼッター軍、ドラゴンクロウは後退していった。 

 

『ええい、今回は引き下がってやる!!』

 

 そしてディアボロスも形成の不利を悟ったのかモンスター軍団を残してその場を去っていった。

 

 残ったのは残敵の掃討となった。

 

 

 今回の戦いは谷村君が間違いなくMVPだった。

 

 いや、戦いではなかっただろう。

 

 平和への訴え。

 

 そしてあの光の奇跡。

 

 戦闘を一時的とは言え、終わらせてみせた。

 二度も言うがウチの両親が見たらどう思うだろうか。

 

「てかあの光景、地球でもあらゆる周波帯で流してたのか……」

 

 誰が流したか知らないが地球でもあらゆる周波帯で流していらしい。

 様々な言語訳がなされ、世界中に広まっている。

 再生回数は億単位行くかもしれない。

 

 あの奇跡の光の部分も注目を集めているが、演説の部分も注目を集めている。

 

 同時にふと気づいた。

 

 いや、踏み止まれたかもしれない。

 

 人間同士で争い合う愚を思い出せた。

 

 何時しか仕方ないと割り切って戦いに挑み続けていたかもしれない。

 ある意味では人類に絶望していたかもしれない。

 

 それに気づかせたくれた谷村君に礼を言うべきだろう。

 

(この戦い――劇的に変化するな――)

 

 そして確証はないがそう思わざるおえなかった。

 

 後は俺達の仕事だ。

 

 戦いを終わらせるために戦おう。



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第二十八話「戦いの終結に向けて」

 Side 緋田 キンジ

 

 前回の戦いから基本方針として攻撃チームと防衛チームに別れる事になった。

 

 防衛チームは文字通り振り分けられた拠点の防衛に専念するチームだ。

 

 対して攻撃チームは各勢力を潰していく、激戦が予想されるチームであり、味方陣営の各エース級から選抜される混成部隊である。

 

 また、攻撃チームは空中戦艦レギンレイヴを旗艦として行動する事になる。

 

 

 

 

 第7偵察隊のメンバーは全員攻撃チームとなった。

 

 ヴァネッサ、プレラーティ、佐伯 麗子、谷村 亮太郎もだ

 

 他にもバハムス帝国のフィア皇子と選抜メンバー、Aliceの少女の選抜メンバー、狭山 ヒロトと選抜メンバー、ディメンションクロスのルーナと高飛さんも参加する事になった。

 

 まず最初にドラゴンクロウを潰すためにあの荒廃した世界へと繋がるゲートを目指す事になった。

 

 

 

 

『情報通りならここに拠点を張ってるようだが――』

 

 荒れ果てた荒野の丘陵地帯。

 ヴァイパーズの本拠地を思い出させるような地形だ。

 そこにドラゴンクロウのアジトがあるようだ。

 

 現在そこを空中戦艦付きのザイラム軍が襲撃を仕掛けている。

 

『助けてくれ!! もう俺達に戦う力はない!!』

 

 と、ドラゴンクロウ側から通信が入った。

 

『どうします?』

 

 ルーナに尋ねられた。 

 

『どの道、此方にも仕掛けられている以上は戦うしかない!!』

 

 取り合えずザイラム軍を最優先で叩くことにした。

 念のためドラゴンクロウ側には警戒を怠らないように指示する。

 

『さてと、新型機のお披露目と行くか――』

 

 谷村 亮太郎君の予備機、黒と金のダークヒロイックな機体、エクスブレイズ。

 背中と両肩のバインダーブースターが特徴的で機動戦重視の暴れ馬だ。

 だがアインブラッド・ガンブラストをも超える機動性とビームランチャーの火力が凄まじい。

 

 もう「パワーローダーはこいつでいいんじゃないかな?」と思ったほどだ。

 

『ほらよっと!!』

 

 ビームランチャーで纏めて数機消し飛ばし、ザイラム軍の空中戦艦にダメージを与える。

 

『さて、僕も頑張らないと』

 

 そして谷村 亮太郎君はヴァネッサの世界から持ち込まれたパワーローダーであり、ヴァネッサが使うドラグーン・ルージュの原型であるドラグーンを使用して着実に敵を屠っていく。

 

『では僕も――』

 

 フィアのマジックメイル、アルビオンが文字通り閃光のような速さで次々と相手のパワードスーツ兵器、ゼッターを斬り飛ばしていく。

 

 それに続くように皆も纏めてゼッター軍を倒していく。

 

 とにかく皆の撃破スピードが物凄い。

 

 数分も経たないウチに敵艦は撤退して行く。

 

『敵が退いたか――』

 

 問題はドラゴンクロウだが――

 

『我々は降伏する』

 

 と、ドラゴンクロウは降伏。

 逆に恐いぐらいに素直に武装解除に応じた。

 

 

 =レギンレイヴ艦内=

 

 話によれば谷村 亮太郎の演説とあの奇跡の光を見て部下達が離れて行ったらしい。

 事実上解散したようだ。

 ザイラム軍から攻撃を受けたのはよく分からないそうだ。

 

「なんにしても、平和的に片付いて何よりだね」

 

 と、谷村君があっけらかんと言う。

 俺は「まっそう言う事にしておくか」と返しておく。

 

「彼達の事はディメンションクロスに任せておいてください」

 

 と、ルーナが言う。

 特に戦略や戦術上、重要な情報でもないので通信を使い本部に連絡を入れたそうだ。

 

「まあこれでザイラム軍とアジア連、そしてディアボロスになったワケか……」

 

「そのアジア連だが――ディメンションクロスから情報が入った」

 ここでプレラーティ博士が話に入る。

 

「今度はなんだ?」

 

「どうやらアジア連内部で反乱が起きているらしい。どっかの誰かさんの演説とあの光を見たせいかもな――まあ早い話がこの世界にいるアジア連を叩けば当面は手は打てない状況になる」

 

「て事は次はアジア連か――」

 

「そうなるな――だがザイラム軍やディアボロスがどう出るか……」

 

「今回のようには行かないか――」

 

 さて、どうなるか……

 

 俺達は先を急ぐことにした。



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第二十九話「アジア連の終わり」

 Side 緋田 キンジ

 

 現在、俺達は何故かザイラム軍からアジア連を守るために戦っていた。

 

『まさかアジア連を助けるために戦う事になるとはな――』

 

『君達は一体――』

 

『気にすんな、正直正義の味方は柄じゃない』

 

 と言いつつ、俺達はザイラム軍のパワードスーツ兵器、ゼッターを破壊していく。

 

 と言うのもザイラム軍の連中、大部隊でアジア連に襲かまして降伏したところを嬲り殺そうとしたところ――つまり虐殺の現場に居合わせたからそれを助けようと言う話の流れになって今に到る感じだ。

 

 説明終わり。

 

『今のウチにゲートに逃げ込め!!』

 

『無理だ!! ゲートの向こう側も反乱軍との交戦で――』

 

『なら一旦この戦域から離脱しろ!! 援護する!!』

 

『どうしてそこまで――俺達敵同士だろ?』

 

『さあな。心変わりしないウチにいけ!!』

 

 たく。

 本当に正義の味方とかになった気分だ。

 皆もアジア連を助けるように動いて回る。

 ザイラム軍の方は目標を俺達に変えて叩き潰そうとしていた。

 

『こいつらもしつこいもんだ。何なんだこいつらは!?』

 

 と、ザイラム軍のゼッターを破壊しながら愚痴交じりに言う。

 

『ザイラム軍の本拠地に乗り込んで真意を問うのがよろしいかもしれません』

 

 ルーナがそう言う。

 

『まあその方が手っ取り早いが戦力が今以上に必要になるな――』

 

『ディメンションクロスから突入部隊の戦力を出して貰うしかありませんね』

 

 と、ルーナが提案した。 

 

『まあともかくそう言う話もこれを切り抜けた後だ』

 

 そう言ってエクスブレイズの両腕についたアームガンで敵を撃ち抜く。

 

『部隊の再編成が整った。これより貴官らを援護する』

 

『おい、大丈夫か?』

 

 と、助け出したアジア連の人々が部隊を再編して戦場に戻って来た。

 

『大丈夫だ! それよりも今の状況だと猫の手も借りたい状況だろう?』

 

『まあ確かにそうだが――』

 

『緋田隊長。ここはありがたく受け取っておけ』

 

 と、佐伯に言われて俺は『分かったよ』と返し、アジア連の人々に『生き残れよ』と言っておいた。

 

 

 戦場の後は酷い者だった。

 アジア連のパワーローダーや兵器、陸上戦艦がスクラップになり、その近くではザイラム軍の空中戦艦やゼッターの残骸が転がっている。

 

 俺達は怪我人――主にアジア連の人間の手当てなどで大忙しだ。

 

 この世界にいたアジア連はディメンションクロスの管轄下に置かれる事になった。

 まあその方が彼達も幸せだろう。

 今アジア連は内乱が激しくなっているそうだし。

 

 残す問題はザイラム軍とディアボロスとなった――と言いたいが、まだ休戦条約も何も結んじゃいないのだ。

 

 だが交渉の糸口は出来た。

 

 交渉は上の方に丸投げしてザイラム軍とディアボロスに専念しようと思った。



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第三十話「決戦前までのカウントダウン」

 Side 緋田 キンジ

 

 =レギンレイヴ艦内・ブリーフィングルーム=

 

 ブリーフィングルームに集まり、現在の状況を聞く。

 想像以上にトントン拍子で物事が上手く進み、防衛チームの戦いも散発的な物で特に被害らしい被害はなかった。

 

「取り合えず状況を纏めるとこうだ」

 

 と、佐伯 麗子が状況を説明する。

 

「ドラゴンクロウは事実上消滅。残党が暴れる可能性があるが、その対処はディメンションクロスに任せるしかないだろう」

 

 佐伯 麗子は「次に――」と解説をアジア連に移す。

 

「アジア連は現在内乱中で此方側に戦力を割くのが難しい状態だ。それを利用して一先ず休戦条約に持ち込みたいのが普通だが――なにぶん外交チャンネルがないため、暫くは日本政府のお偉方とディメンションクロスの上の方、最悪他の協力勢力とで平和の道を探る形になりそうだ」

 

 それに皇子であるフィアも頷いた。

 彼もこの世界へのゲートがある以上他人事ではないからだ。

 

「最後にザイラム軍だが――現在激しい戦闘状態に陥っているらしい。相手はディアボロスの軍勢だ。戦況はザイラム軍が不利で長くは持たないだろうとの事だ」

 

 そこまで聞いて俺は――

 

「どの道ザイラム軍にはお伺いしなくちゃならないからな――行くしかないだろう」

 

 と、決断した。

 

「賭けになるな――どの道、整備と補給を万全にしたい。その上でディメンションクロスの部隊と合流し、ザイラム軍の方面へと向かう」

 

 との事だった。

 

 

「これが俺達の部隊の新型機か」

 

 アインブラッド・ガンブラスト。

 見た目その物は依然と変わらない。

 

「俺のも新型か」

 

 キョウスケも新型だ。

 バレル・レイヴン。

 バレル・リヴァイヴにフライトユニットや大型の火器とシールドをつけたような感じだ。

 

「私のも新型機になってる」

 

 リオのゲイル・リヴァイヴもアインブラッドタイプになっていた。

 アインブラッド・ヴィント

 武装やカラーリングそのものはゲイル・リヴァイヴの頃から変わりはないが、性能は桁違いによくなっているそうだ。

 

「おお、私も新型機!?」

 

 そしてパンサーのジェネⅢも新型機になっていた。

 漆黒のパワーローダー、レオパルト。

 ジェネⅢの機体コンセプトをそのまま強化、発展させたような外観をしている。

 大きな背中のウイングバインダーや各部についたブースターが特徴的だ。

 

 

 機体の慣らし運転がてら模擬戦をしようとしたところで敵襲である。

 相手は――ディアボロスの軍勢、モンスター軍団である。

 

 と言うか――

 

『なんでパワーローダーやマジックメイルにゼレーナまで混じってんだ?』

 

 愚痴りながら迎撃する。

 流石最新鋭気にチューンアップされただけあって嘘のように動作が軽い。

 パワーローダーを身に纏っている感覚がない。

 

 リオもパンサーも全ての潜在能力が解放されたかのように次々と敵を落としていく。

 

 だがそれよりも敵の混成具合振りが気になった。

 

『恐らくだがディアボロスが生み出したコピーだろう』

 

 と、谷村君が言う。

 谷村君はアインブラッド・シュバルツセイバーのバインダーブレード二刀流で次々と敵を斬りはらっていく。

 

 これが本来の谷村君の戦い方なのだろう。

 

『そんな事まで出来るのか――』

 

 などと言いながら敵をミサイルやキャノン砲、アサルトライフルで撃ち落としていく。

 

 

 戦闘その物は早期に終わったが急速にディアボロスの軍勢による被害が大きくなっているらしい。

 

 俺達は急いでザイラム軍の出現ゲートへと駆け付けた。 



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第三十一話「その名はディアボロス」

 Side 緋田 キンジ

 

 ザイラム軍のゲートはディアボロスの軍勢に占拠されていた。

 

『どうにか強行突破するしかないか――』 

 

 俺はそう覚悟を決めたその時――

 

『その役割は我々ディメンションクロスが――』

 

『え?』

 

 唐突な申し出に俺は困惑する。

 

『急いでください。何か嫌な予感がします!』

 

『ああ、分かった――』

 

 

『まるで地獄絵図だな――』

 

 ザイラム軍のゲートを通り、目にしたのは近代都市――が燃え盛る地獄絵図のような光景だった。

 

 モンスターやパワーローダー、マジックメイルなどがごちゃ混ぜになってザイラム軍の都市を闊歩している。

 

『遅かったな――ザイラムの首都を今しがた陥落させたばかりだ。ザイラムだけではない。この世界が焼け野原になるのも時間の問題だ』

 

『登場早々ムカつく事言いやがって――』

 

 進化したか何だか知らないがこいつはグラン皇帝とかと一種の人種だコイツは。

 放っておいたらこんな光景を幾つも作る事になる。

 

『今度は本気で相手をしてやろう。来るがいい――』

 

『上等だ!』

 

 かくしてディアボロスと俺達の最終決戦が始まった。

 

 

『ルーナ!!』

 

『分かってる!!』

 

 エクスキャリバーの二人が機動戦で翻弄し、

 

『トウカ先輩!!』

 

『私に合わせろ!!』

 

 御剣 トウカと愛坂 イチゴのAliceの少女が一撃を決める。

 

『続いて!!』

 

 フィア皇子のアルビオンがAliceに続いて攻撃を決め、

 

『次は僕だよ!!』

 

 谷村君のシュバルツリッターが更に追撃を重ねる。

 

『一斉射撃だ!! 出し惜しみはするな!!』

 

 俺の言葉にキョウスケが『分かってるよ』と言い、第13偵察隊の全火力をディアボロスに注ぎ込む。

 

 だがディアボロスの50mの巨体はピンピンとしていた。

 

『こいつマジで化け物か――』

 

 キョウスケの言葉に同意したいが『攻撃を一点に集中させろ!! 反撃させる暇を与えるな!!』と必死に鼓舞する。

 

『無駄な事を――』

 

 漆黒のオーラのような物がディアボロスを包み込む。

 同時にダメージが癒えていく。

 

『我を滅ぼす事は出来ぬ――』

 

『クソッ――谷村君? あの時みたいな事は出来ないか?』

 

『残念だけど、そう何度も出来ないよ。僕にはね――』

 

『僕には?』

 

 その言葉が引っかかった。

 

『さて、そろそろ此方からも手を出させてもらおう』

 

 そう言って手に持った剣を天に翳すと天空の彼方から次々と流星群が落下してくる。

 

 俺は急いで退避命令を出した。

 

『アベン〇ャーズでサ〇スがやってたなこう言う攻撃!! クソ!! このままじゃジリ貧だぞ!?』

 

 キョウスケが退避しながら俺に呼びかける。

 だが俺にもどうする事が出来ない。

 

『このままじゃ――』

 

『諦めてはだめです!!』

 

 と、愛坂 イチゴが言った。

 

『そうだ。ここで僕達が諦めたらそれこそ何もかもが終わりだ』

 

 フィアも続く。

 

『私もそれに賛成。こう言う展開を乗り越えてこそヒーローでしょ』

 

 高飛さんも続いた。

 

『私も同じ気持ち――キンジ、ここで負けたら今迄の戦いが全て無駄になる。だから諦めたくない』

 

 リオが俺に優しく語りかけた。

 

『そう、その諦めない気持ち。その気持ちこそが希望とと言う花を芽吹かせるのさ』

 

 と谷村君が言った。

 

『俺も懸けたい。バカみたいな話だが俺達なら何とかなるかもしんねえ』

 

『キョウスケ――』

 

 そしてキョウスケが言う。

 

『どうする? 諦めるのか?』

 

 挑発気味に佐伯 麗子が言った。

 

『俺は――まだ諦めたくない!!』

 

 俺は立ち上がる事を選択した。

 

『ならさらなる絶望をくれてやろう!!』

 

 今度は何をするつもりだと思ったら――

 

『三体に増えた!?』

 

 ディアボロスが三体に増えた。



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第三十二話「絶望の先の――」

 Side 緋田 キンジ

 

 ディアボロスが3体に増えた。

 

 何かの冗談だろと思いたい。

 

『残念ながらあの3体全てが本物のディアボロスだ。パワーダウンはしてないよ』

 

 と、絶望的な解説を谷村君がしてくれる。

 

『おい、一体だけでも手古摺ったのに3体って――』

 

 キョウスケの言いたいことは分かる。

 

 だが――

 

『だけど諦めるワケにもいかないだろ?』

 

『でも――』

 

『こんな絶望的な状況は初めてだが、何とかしてみせるさ!!』

 

 圧倒的な力を誇るディアボロスを3体。

 全てを倒さなければならない。

 

『ザイラム軍!?』

 

 と、ここでザイラム軍の艦隊が出現した。

 

『状況は理解した――受け入れ難いとは思うが――これより貴官らを援護する――』

 

『『『愚かな――』』』

 

『こちらディメンションクロス!! 突破するのに時間が掛かった!! 戦況は理解している!! すぐさま援護に入る!!』

 

 ザイラム軍とディメンションクロスの部隊がディアボロスに激しい集中砲火を浴びせる。

 

 が、大して攻撃が効いている様子を見せず、反撃の手を伸ばそうと――

 

『どりゃあああああああ!!』

 

 谷村君が

 

『はあああああああああ!!』

 

 フィアが

 

『てりゃあああああああ!!』

 

 イチゴが

 

 それぞれ違うディアボロスに攻撃する。

 

『『『愚かな!! そんなに死に急ぎたいか!!』』』

 

 ディアボロスが目標を変えようとするが――

 

『させるか!! 何をボサッとしている!! 全員支援攻撃の手を緩めるな!!』

 

 俺達、第13偵察隊は支援攻撃する。

 諦めない。

 諦めたくない。

 ただその一心で攻撃を続ける。

 

『『『無駄だと分からんのか!? この程度のダメージで――ダメージだと?』』』

 

 ディアボロスが傷ついている。

 その事にディアボロス自身が困惑していた。

 

『奴も無敵ではないと言う事さ――』

 

 と、谷村君が言う。

 

『ディアボロス。君は生命の完全体になったつもりだろう。確かに君は強大な力を持つに至った――だがそれだけなんだ』

 

『『『なんだと?』』』

 

『何度でも言おう。君は強大な力を持つに至った生命体に過ぎないと』

 

『『『我を愚弄するつもりか!!』』』

 

 怒り任せに谷村君に向けて3体のディアボロスの攻撃が飛ぶがそれを楽にかわす。

 

『『『この程度のダメージ、修復すれば!!』』』

 

 そして漆黒のオーラを身に纏い、傷が再生されていく。

  

『そこだ!!』

 

 その瞬間を狙って谷村君が猛攻を――素早く瞬間移動の様に移動しながら三体のディアボロスを大型バインダーブレードで斬り裂いていく。

  

『『『何度やっても同じこと――』』』

 

 だが傷の修復が遅い。

 これは――

 

『この機体にはあのシュトラールと同じ、マシン・シンクロン・システムを搭載している――そして緋田さん達の機体にも』

 

『俺の機体にも!?』

 

『だから信じて飽きらず目に戦って欲しい――』

 

『――分かった』

 

 もう吹っ切れた。

 あの時、フィアのお姉さんを助けた時と同じだ。

 例え拳だけになっても戦い抜いてやる。

 

『その通りよ――お待たせしてごめんなさいね――』

 

『この声は――』

 

 メイド喫茶の店主、ヘレン・P・レイヤーが空中に浮かんでいた。

 傍には見た事がないロボットだがパワードスーツだかが浮かんでいる。

 

『地球だけじゃない。様々な世界の、人の心の光を貴方達に届けに来たわよ』

 

『え』

 

 一瞬意味が分からなかった。

 

『緋田 キンジ、貴方のこれまでの歩みは無駄では無かったの。今からそれを証明してあげる』

 

 そして光が明るく照らし出す。

 都市を焼いていた炎が消える。

 同時にディアボロスとその勢力以外の皆が金色の輝きに身を包む。

 

 流れ込んでくる。

 

 これまで出会った様々な人の想い、気持ちが流れ込んでくる。

 

 世紀末世界の人々――それだけじゃない、バハムス帝国、48年の日本、Aliceの少女達、この世界で出会ったルーナや高飛さんの気持ちも。

 

 アジア連やザイラム軍も――

 

『『『それはレヴァイザー!? どうしてお前がそれを!?』』』

   

『こう言う時のために用意しておいたのよ。さあ、後は任せたわよ』

 

 そしてヘレン・P・レイヤーはレヴァイザーと呼ばれたマシンと共に去っていく。

 

『『『馬鹿な闇の力が――負の無限の力が!!』』』

 

『何だか分からないが今が好機!!』

 

 俺はこの好機を逃してはならないと思った。

 その考えは同じだったのか、フィア皇子達、Aliceの少女達、谷村君が強烈な一撃をディアボロス達に見舞う。

 

『ザイラム軍全艦攻撃開始!! 遅れをとるな!!』

 

『ディメンションクロスの部隊も続け!!』

 

 次々と集中砲火がディアボロスに降り注ぐ。

 さっきまでとは違い、ダメージを与えていると言う確かな手応えがあった。

 

 また一体、また一体とディアボロスはその数を減らしていく。

 

 そして――

 

『こうなれば一時――』

 

『させるかよ』

 

 俺と

 

『逃がさない』

 

 リオが逃げようとするディアボロスの顔面に立ち。

 そして全身の火器を一斉に解き放った。

 

『馬鹿な――我が――滅びるだと!? こんな場所で!? 滅びるだと!?』

 

『あばよ』

 

『うわああああああああああああああああああああああああああああああ――――!?』

 

 最後の一体のディアボロス。

 完全消滅。

 



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最終話「新たな旅立ち」

 Side 緋田 キンジ

 

 あれから幾つかの月日が経過した。

 

 アジア連はクーデターが起きて崩壊。

 新たなアジア連として、今度は平和的な手段で運営していくのだそうだ。

 

 それはザイラム軍も同じでディメンションクロスに取って代わろう目論んでいた主戦派はディアボロスによりほぼ死亡したらしい。

 

 今は此方も平和な方針に舵取りして友好関係を結んでいるらしい。

 

 かくしてディアボロスの脅威は去ったが、めでたしめでたしとはいかないのが現実の世知辛いところだ。

 

 2048年の、Aliceの少女達がいる世界のようにまだ平和とは程遠い世界もある。

 

 その世界に救援を送り込むかどうかで上は悩んでいるようだ。

 

 色んな駆け引きしなきゃいけないお偉いさんって大変だなとか思った。

 

 バハムス帝国なんかは旧帝国派――今は亡きグラン皇帝派の残党退治とか近隣諸国との政治、外交とか相変わらず大変のようだ。

 

 そして俺達は暫く地球でゆっくりした後、世紀末の世界に戻った。

 

 やはりと言うか何と言うかこの世界が居心地がよくなっている。

 

 もはや第2の故郷と言って良いかもしれない。

 

 まあ、相変わらず物騒ではあるが。

 

 そんな場所をトレーラーで突き進んでいた。

 

『たく、こう言う輩は本当に尽きねえな』

 

『まあこの世界の宿命みたいなもんだ』

 

 キョウスケの愚痴に俺はそう返す。

 そして現在、俺達は野盗の群れと交戦中であったりする。

 

 だが実力差があり過ぎて一方的な狩りになってしまっている。

 

 だからと言って相手に同情するつもりはない。

 此方を襲ってきた相手の自業自得である。

 

『んじゃあ取るもん取ったら行きますか――』

 

 そして使えそうなものを回収して出発。

 今度はどんな出会いが待っているのか分からない。

 

 悲しくて辛い出会いなのか。

 

 それとも幸せな出会いなのか。

 

 だけど進まなければ、出会ってみなければ分からない。

 

 俺達は進み続ける。

 

 第3部END

 

 

 

【あとがき】

 

 

 どうもMrRです。

 

 急遽駆け足ながら完結させるに至りました。

 

 正直この作品、第一部で完結させておくか、世紀末的な世界に続けて行くかとか反省点は山ほどあったりします(汗

 

 カクヨムの方でも言いましたが第2部は地下世界編にしておけばよかったかなとかも思いました。

 

 だけどフォボスの伏線回収するためだけに異世界行ったり、多元世界に言ってディアボロスみたいな化け物と戦う事になったりして――今度から考えて伏線張ろうと思いました。

 

 正直この作品は傑作には程遠く、悪い点が目立つ作品で今でも第一部の方でも誤字脱字報告が上がるぐらいです。

 

 それでもこの作品を愛してくれている人はいるんだなと思うと嬉しいです。

 

 続きを書くか、スピンオフでも書くかは未定ですけど緋田 キンジの物語は終わりになると思います。

 

 

 それではMrRでした。 

 



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外伝・アフターストーリーその3
騎士団


【第一異世界・騎士団総本山】

 

 Side 緋田 キンジ

 

 荒廃した世紀末世界、第一異世界。

 

 騎士団と言う勢力を尋ねるために騎士団の総本山に向かっていた。

 色々と事情が立て込んでいて向かうのが遅くなった。

 

 リビルドアーミーとやり合っていた頃――第7偵察隊の宮野 ヒデト一尉が優先的に接触を図ってくれいていた。

 何人か第7偵察隊の協力者として同行している筈だ。

 

 それから自衛隊の手の届かない場所で色々と頑張ってくれていたらしい。

 

「お話は伺っております。何と礼を言って良いのやら――この土地は良い方向に向かっております」

 

 と、総本山の方々から礼を言われた。

 

 騎士団の方々から聞いた話だがリビルドアーミーも手探りながらこの世界の復興のために尽力しているそうだ。

 

 ヴァイパーズやドラゴンクロウなどの武装勢力は相変わらずだが勢力が激減している。

 

 良い事尽くしだ。

 良い事だらけで逆に不安になってしまいそうな気もする。

 

 

【昼・騎士団総本山・訓練場】

 

 俺達は騎士団の総本山で稽古に付き合う事になった。

 やはりと言うか何と言うか武道派である。

 使用しているパワーローダーも特注で重騎士、騎士然としたパワーローダーで近接戦を好むスタイルらしい。

 

 宮野一尉達を含めた自衛官達も経験したらしく、俺達も参加する流れになった。

 

 確かに騎士団の面々は強い。

 だがこれまで様々な強敵と戦ったのだ。

 例え使用しているパワーローダーがフェンサーであっても十分に対処できる。

 

『いや~お強いですね』

 

『流石ですね』

 

 と、口々に言われる。

 

 

【夜・騎士団総本山・広場】

 

 騎士団の仕事、活動は言わばこの世界における自衛隊の海外派遣に近い。

 自衛隊の御陰で物資が出回るようになり、騎士団の活動も変化の時を迎えているのだそうだ。

 

 その一つが勉強だ。

 

 二度も言うが自衛隊の御陰で物資が出回るようになり、人々に生活の余裕が産まれた。

 そのために勉強を教える時間が出来たと言うワケだ。

 

 それこそ地球の最新の農業やら初歩的な数学、パワーローダーや武器の整備技術など何でもだ。

 

 だが問題があった。

 

 パワーローダーや武器の整備技術はともかく、初歩的な数学や農業技術のノウハウが足りなかった。

 

 自衛隊は協力する事になり、交換留学生みたいな感じで現在騎士団の人々は数学や農業技術を猛勉強中なのだとか。

 

 そうそう。

 この世界で成り上がった少年、狭山 ヒデト君達も農業や経済学などを勉強している最中らしい。 

 

 武器を突きつけ合う時代は終わり、この世界も変わってきているなと思う反面、まだまだ武力が物を言う地域は多いのも実情だ。

 

「どんどん変わって来てるね、この世界も」

 

 広場のベンチに座り、リオはそう言う。

 俺は隣でリオの話に耳を傾ける。

 

「まあまだ一部地域だけみたいだけどな」

 

「ちょっと狭山君の町の学校が恋しくなったな」

 

「そう言えば――あそこで教員やるのも悪くないとか言ってたな俺達」

 

 随分と懐かしい話のように思える。

 そう言う未来も悪くないかもしれないな。



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映画デビュー

 Side 緋田 キンジ

 

【昼間・地球東京都・映画館】

 

 都内の大きな映画館。

 客席は満員だった。

 

 スクリーンに映し出されているのはフォボスと自衛隊の戦いだった。

 

 これは日本の上の方々が考えた、広報のための解説付き記録フィルムである。

 

 全世界を巻き込んだフォボスとの戦いの真相に迫ると言うキャッチフレーズと一緒に放映された。

 

 まあ堅苦しい説明を抜きにするとダイジェスト映画だった。

 

 テッキリ、クソ映画になるんじゃないかと不安に思ったが、俺としては楽しめた。

 

 と言うのも俺やリオ達。

 第13偵察隊メンバーは深層に潜っていたのでその時、他のメンバーは何をやっていたかなど知りもしなかったのだ。

 

 それを知る上でも中々興味深い映画だった。

 

(しかしこうしてみるとまんまスターウォーズだな……)

 

 レールガンやビーム兵器やらが飛び交い、空中戦艦やUFOが激突し、パワードスーツや無人兵器が飛び交う戦場。

 

 これを見て自衛隊になろうと言う人はいるだろうか。

 

 見せ物としては面白いが、逆に自衛隊になりたがらない人の方が多く出そうな気はする。

 

 それはそれとして――

 

『神を滅ぼすつもりか? その手で? 私を滅ぼしてみろ! 待っているのは絶望の未来しか――』

 

 あの時の事を思い出す。

 フォボスが最後に言った、呪詛めいた言葉だ。

 

 絶望の未来とは何だったのか思う時がある。

 

 それはゼレーナやディアボロスの事だったのだろうか。

 それともまだ自分達が知らない驚異の事を言っているのだろうか。

 

 だとしても抗わないと言う選択肢はない。

 

 何故なら俺はフォボスを否定した。

 

 フォボスの管理を否定した。

 

 だからゼレーナやディアボロスのような敵が現れても――

 

 本当は戦うのは怖いけれども。

 

 それでも戦い抜く未来を選択する。

 

【映画館・ロビー】

 

「映画で何か考え事してたのか?」

 

 と、キョウスケに言われた。

 

「バレたか。ちょっとフォボスの事を思い出してな」

 

 特に隠す事でもないので正直に言った。

 

「確かに俺達、ゼレーナやディアボロスとかと戦ってきたけど――謎は多く残ったが何だかんだでどうにかなったじゃねえか」

 

「ディアボロスの時はこれまでかと思ったけどな。谷村君やヘレンさんがいなければどうなっていた事やら――」

 

 まさかの3体分裂である。

 ヘレン・P・レイヤーの、今でも謎な隠し玉がなければ危なかった。

 

「そう言えば谷村君は?」

 

 キョウスケは思い出したかのように、あのディアボロスの事件の時の功労者でもある谷村君の名前を出す。

 

「プレラーティ博士やヴァネッサと同じく協力者についてくれたよ」

 

「そいつは心強い」

 

 谷村君はパワーローダー開発などに協力してくれている。

 また、此方の状況次第では加勢してくれるとも言ってくれた。

 これ程頼もしい事はない。

 

 パワーローダー乗りとしての実力は世界最高峰。

 

 また内政も出来る。

 

 とんでもない数の援軍を得た気分だった。

 

「野郎同士の会話はここまでにしてお互いの女のもとに行きますか?」

 

 そうキョウスケに提案されて俺も「そうするか」と同意した。 

 

 未来は不安だらけだが、それでも俺達は乗り越えられる。

 皆と一緒ならまたディアボロスのような奴が現れても乗り越えられる。

 キョウスケと話をしているウチに何故だかそんな確信ができていた。



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