もし玉置が天ノ川学園高校の生徒だったら (TAMZET)
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もし玉置が天ノ川学園高校の生徒だったら《前編》
●玉置豪
俺は玉置豪。
しがない男子高校生だ。
他に何か特徴は無いのか?
今時小学生でももう少しマトモな自己紹介するぞって?……本当にこれ以外の紹介が無いから困る。
趣味はカードゲーム、友達は一人。
これで俺という人間がどんな奴か察せた人は、これ以上の追及をやめてくれると非常に助かる。これでも気にしてるんだ。
俺の通う天ノ川学園高校は、立地がパワースポットな事を除けば至って普通の学校だ。
曰く、日本の中で宇宙の力が一番集まりやすい場所らしい。(
6年くらい前にこの学校で何やら怪物騒ぎがが頻発していたらしいが、今やそれもなりを潜め、平和な学校になっている。
そんな事はどうでもいい。
灰色の雪が降る屋上に、俺はいる。
勘のいい人はわかると思うが、絶賛傷心中だ。
彼女と別れたのかって?
ばかだなぁ……別れる彼女がいる奴なら、もっと友達がいるはずだろ。
顔を上げると、灰色の空が目に映った。
空はいい。
どんな時でも空の色だけは変わらない。
身体は芯まで冷え切った。肌を刺す冬の寒さも雪の冷たさも、今や感じない。
登校してから3度目のチャイムが鳴ったばかりだ。もう3時間目が始まろうとしている。
学生の本分は勉強と偉い人が言っていたらしいけど、それは本質じゃないと思う。
学生の本分は
俺はその真面目さんの方だった。いや、愚か者の方だったのかもしれない。
勉強ばっかりして、他の時間は全部趣味のカードゲームに注ぎ込んだ。その結果、成績はクラスでも上位の方になれたし、カードゲームは大会で結果を残せるまでになった。
けど、そこで気が付いた。
あぁ、それ以外俺には何も無いんだって。
俺がこんな所にいるのは、社会が悪いわけじゃない。小学生の時分にそんな暗黙の了解を汲み取れなかった俺が悪いのだ。
そんな事分かっている。
分かっている……のに…………
この胸の中で渦巻く気持ちは何だろう。
怒りと悔しさと、やるせなさが胸の中で渦を巻いている。その吐き出し口を見つけられないまま、俺は
灰色なんて生優しい色じゃない。油絵の複数の絵の具を混ぜてぐちゃぐちゃにしたような、色彩の狂った色の世界になった。
すれ違う同級生の顔は黒い
普通だった世界は、汚濁に塗れ変色した。
親友に裏切られたという事は分かっている。
彼が本意から俺を裏切りたかった訳じゃないという事も。
ただ、俺達の友情はそんな程度の嘲りに負ける者じゃないと信じていた。信じていたからこそ、裏切られた時の衝撃は大きかった。
ポケットを弄れば、まだカードの片割れのギザギザ面が指の腹を傷つける。
何も捨ててしまおうと思った事か。けれど、結局捨てられなかった。
もう思い出したくもない。
考えたくもない。
そんな事を思いながらまた俺は顔を伏せる。
そんな時だった。
「よっ、豪!」
陽気な声が、屋上の沈黙を遮った。
陽介を唆したアイツらにも似て、虫唾が走るような明るい声。
振り返るとそこには、予想だにしない人物が立っていた。
●如月弦太朗
屋上の入り口に立っていたのは、銀味がかった灰色のスーツを来た、若い男の人だった。
長身で肉付きのいい身体。何か運動やら武道をやっていた事は容易に想像がつく。
曇りの無い純度100%の笑顔が眩しい。典型的な『陽』の側に属する人間だろう。
だが、何と言っても特筆すべきはその髪型だった。彼の黒髪はこの平成の時代にも関わらずリーゼントに結われていた。
田舎の不良にスーツを着せてそのまま学校に放り込んだと言われても頷けるだろう。
「如月先生……」
その人には見覚えがあった。(一度見たら忘れられない外見だしね)
如月弦太朗先生。
確か、一つ上の学年を受け持つ新人の先生だ。
曰く、『全てのクラスの生徒や教職員と友達になる』事を目標としているらしい。
(この学園の一学年の生徒は100じゃ効かない事は知っているんだろうか)
この先生の評価は生徒ごとに二分されている。
『非常に変わっている変人』
『最高の先生』
前に仮面ライダー部の大木先輩に話を聞いた時は、先生について熱く語ってくれた。彼女の話は長すぎたのでよく聞いていなかったけど、何でも、すごく友達の多い人らしい。
(宇宙飛行士の城島さんや、小説家の野座間さん、FBIの特殊捜査員なんかも友達なんだとか)
こんなリーゼント頭の先生がいるかと思うかもしれないが、彼には不思議な落ち着きというか、風格のようなものを纏っている。
あぁ、この人は先生なんだなと妙に納得できる風格なのだ。
「隣いいか?」
先生は屋上の手すりに寄りかかっている俺の方に歩いてきた。
歩き方まで大股のヤンキースタイルかと思ったが、驚くほど普通の歩き方だった。(変なのは見た目だけなのかも)
でも、先生に来られても迷惑だ。来るんだったら、アイツらが陽介を
それが出来なかった奴に、心は許せない。
俺は首を横に振ったが、先生は気にも止めずに俺の横にドカッと腰を下ろした。
この人は話を聞かない人なんだと分かった。
「……授業に出ろって話なら嫌ですよ。もう俺の居場所は、
先生は間髪入れず、「俺もだ」と答えた。
「奇遇だな。俺も授業やりたくなくてよ。
「はい……」
先生が堂々と言って良い事では無いと思うが、取り敢えずそこには突っ込まないでおこう。
というか、この人自分の授業はどうしたんだろうか。怪しい所である。
「俺の授業の事なら心配すんな。テスト対策で自習って事にしてあっからよ。後で佐竹校長に死ぬほど怒られるだろうけど、まぁ大丈夫だろ」
俺の心を読んだかのように先生は答えた。
一つ間違っている点があるとすれば、誰もあなたの心配はしていないという事だ。
「寒くないんですか?」
「寒いぜ。けどよ、こんだけ辛い思いしてる生徒を放っといて、俺だけ暖けぇ所になんかいられるかよ」
先生のその言葉に、俺はドキッとした。
辛い思いをしている……つまり、俺に何があったかを知っているという事だ。
この人に話せば、楽になれるかもしれない。
心に生まれたそんな思いを、俺は押し殺す。
そう、先生はいじめっ子達の事を放置し続けたじゃないか。俺が
そう思うと、隣に座っているこの先生がひどく醜い人物に見えてきた。
今どんな態度を取っていようが、この人は傍観者だ。首は突っ込んでも、助けてはくれない。
俺は顔を伏せた。
「…………いじめの事で、事情聴取ですか?」
先生は首を横に振った。
「そんなんじゃねぇ。ただ、お前が本当は何考えてんのか聞きにきただけだ」
「何ですかそれ。事情聴取と何が違うんですか?」
「そんな硬っ苦しいモンじゃねぇ。ただのおしゃべりだよ」
言っている事の意味が分からない。
こんな所まで、先生がただおしゃべりをしに来るわけ無いじゃないか。陽介の件で学園の上の方から色々言われて、仕方なく来たに決まっている。
もしかして俺は、そんな事も分からない馬鹿だと思われているのだろうか。それとも、この先生がそこまで考えが回らないのか。
黙っていると、先生は勝手に話し出した。
「学校来てんの、偉いじゃねぇか」
「親にバレるのが嫌だから仕方なく来てるだけですよ」
「屋上に篭ってんのもすげぇよ。こんなに寒いのに、俺なんかもう帰りたくなってる」
「授業中なんでしょ? 帰りたいなら帰ればいいじゃないですか。それに、こういうのには慣れてますから……」
先生の質問は取り留めを得ない。
言っている事自体は分かるけど、何が言いたいのかが全然分からない。
俺の事を褒めたいのは分かるけど、この人に何の得があるんだろう。
(この人は何を考えているんだろう)
ふと顔を上げると、先生と目があった。
大きな目で、こっちの方を真っ直ぐ見ていた。その人の事を本当に知りたくて見ている瞳。両親の他にこんな目を向けられた事は無くて……少しドキッとした。
「豪? お前、本当はどうしてぇんだ?」
先生が問いかける。
「本当はって……見ての通りですよ。もうアイツらと同じ教室にはいたくありません。退学するか、いっそどこかに消えますよ」
「本当にそうしてぇのか?」
「俺が嘘ついてるって言いたいんですか?」
この人と話していると腹が立ってくる。心の底に押し殺していた物が、噴き出してくる感覚。
今まで目を背けていたものに無理やり目を向けさせられるような感覚。
訳も分からず、頭が混乱する。心臓がバクバクと鳴り始める。
「……放っといて下さいよ!」
俺は立ち上がり、足早に歩き出した。
兎にも角にも、早く先生の前から逃げ出したかった。静かな所に行きたかった。
けど、先生はそんな俺の手をガシッと取り、俺を引き止めた。
「放っとけねぇ! 俺はこの学校の生徒全員と友達になる男だからな!」
先生はドンドンと胸を叩き、俺を人差し指でビシッと指した。(人を指で指しちゃいけないって今は学校で教えないんだろうか)
「お前とも、今から
「親友……ッ!!」
俺にも友達ができた、そう思えたのを。
ただ、今はその言葉は俺を傷付ける刃でしかない。俺はその親友に裏切られてここにいるのだから。
「……何時代ですかそれ、ふざけてるんですか? もういいですよ。学校には来ません」
俺は先生を振り切り、足早に屋上の出口へと歩き出した。本当に調子が狂う。ここから離れないと、おかしくなってしまいそうだ。
先生が追いかけてくる様子は無い。
ほんの少しだけ期待していたが、やはり先生は先生、一人の生徒の味方はしてくれないという事なのだろうか。
俺と親友になろうなんて言っておきながら、結局は先生もアイツらの味方なんだ。
俺は唇を噛み、出口のノブに手をかけた。
「破られたカードの半分、まだ持ってんだろ?」
「……!?」
俺はノブから手を離した。
どうして先生がその事を知ってるんだろうか。その理由はすぐに想像がついた。
先生が俺の所にやってくる。
「そうなんだろ、豪」
「陽介から聞いたんですか?」
「あぁ」
先生は首を縦に振った。
これで先生が俺の所に来た理由が分かった。
俺の事が心配だからじゃない、陽介に言われたからだ。どうせ、俺が授業に出なくなって、慌てて先生を呼んできたのだろう。
俺が何かする前に保身に走ったのだ。
そう考えると腹が立ってきた。
これが親友のする事かと思うと悲しくさえなってきそうだ。
そんな俺の気持ちに構わず、先生は続ける。
「アイツの方から俺に話してきてよ。カードの半分がどうしても見つからねぇって」
カードの半分、あの時陽介が破り捨てたカードの半分の事を言っているのだろうか。
確かにそれは俺が持っている。もう片方は確か教室に落としてきたはずだ。
燃えるゴミの収集は昨日。恐らくはもう焼却炉に行っているだろう。
もし自分のした事を揉み消そうとカードの断片を探しているんだとしたら、哀れな事だ。その片割れはどこを探しても無いんだから。
そう考えると、不思議と可笑しくなってくる。俺を裏切った親友が苦しんでいる。これ以上に楽しい事があるだろうか。
黒い気持ちが心の中に広がってゆく。自分の中の悪魔に全てを委ねたくなるような気持ちだ。今なら、辛さも苦しさも忘れて新しい自分になれそうだ。
だが、次に先生先生が言った言葉で、俺は我に帰った。
「本当は仲直りしてぇんだろ?」
ドキン!
心の奥に、包丁で刺されたような痛みが走った。心臓が跳ね上がり、鼓動が抑えられない。
何でこんなに心がズキズキするんだろう。
分からない。分からない。
「そんなわけ無いじゃないですか! アイツは俺を裏切ったんです。そんな奴な事なんか、考えたくもない」
痛みから逃れたくて、俺は大声を張り上げた。
先生はそれに臆する様子も無い。俺の事を真正面から見据えている。
「じゃあ、何でそのカードまだ持ってんだ。裏切られたって思うなら、そんなの持ってない方がいいだろ」
「それは…………」
先生の言う事はもっともだ。
裏切られたと思うなら、カードを持っている意味なんて無い。
……なら何で俺はこのカードをまだ持っているんだろう。
大会でしか手に入らないレアカードとはいえ、破かれてしまってはもう価値は無い。
じゃあ何で、どうして……
俺は頭を抱え、屋上の手すりに突っ伏した。
自分の心が分からなかったのは久し振りだった。
背中から、先生の声がする。
「豪。お前、自分でも分かんなくなってんじゃねぇのか? 自分が何考えてんのか、何やりてぇのか」
「……………………」
「素直になれとは言わねぇ。けどよ、時間が経つにつれて、本当の事言うタイミングってのはどんどん無くなってくんだ」
本当の事、本当の気持ち。
俺の本当の気持ちは何なんだろう。
分からない。
「お前に話があるって奴がいんだ」
先生の言葉に、俺は顔を上げた。
俺に話がある人……この学校では、一人しか思い浮かばない。
だが、俺は敢えて聞いた。
「誰ですか?」
「お前の親友だ。今ならまだ、間に合うと思うぜ」
先生は屋上の扉を開けた。
「陽介……」
そこには、俺の親友だった男……奥田陽介が立っていた。
ボロボロになった制服を身につけた彼を見た瞬間、俺は心の中に、どす黒い気持ちが湧いてくるのを感じていた。
現在は、短編をいくつか書きつつ、どれだけ一つの話を短くできるかに挑戦しています。
これまで書いてた奴の更新止まってるのは許してください……
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もし玉置が天ノ川学園高校の生徒だったら《後編》
●奥田陽介
扉を開けた先にいたのは、陽介だった。
青の制服は煤と埃に汚れ、異臭を放っている。汚れの新しさから見て、ついさっき付着した物だろう。
ゴミ箱にでも突っ込まれたのだろうか、だとしたら誰に……もしかして、アイツらに!?
理由は単純だ、俺が学校に来なくなって、次の標的が陽介に向いたからだ。
だとしたら、なんて非道な連中だろう。彼らにとって、きっと標的など別に誰だって良いのだ。たまたま目についたのが俺というだけの話だったのだ。
「玉置」
陽介は目を伏せ、申し訳なさそうに俺の名前を呼んだ。
何やら険しい表情をしている。
そこで、俺は思い出した。
陽介が俺を裏切ったあの日の事を。
あの時も、アイツは同じ顔をしていた。
「陽介」
彼の名を口にした途端、心の中に怒りが湧き上がってきた。
思い出したのだ、彼が俺にした仕打ちを。
そうだ、
そんな奴の事を心配してやる理由があるだろうか。助けを求めてここに来たのなら、お門違いだ。
突き放してやる。
お前がやった事を今度はお前にやってやる。
どす黒い気持ちを心に抱えたまま、俺は彼を睨みつけた。
「……なんだよ? また俺の事笑いに来たのか?」
陽介は小さく首を振った。
元気のない仕草だった。
「お前に謝りに来たんだよ」
その言葉に、少なからず俺は驚いた。
謝る……そんな言葉が
聞けて嬉しいという思いは少しあった。だが、それよりも彼がどうしてそんな事をしようと思ったのか、それが気になった。
そして、その理由を思いつくのに時間は掛からなかった。
「如月先生の言いつけでか?」
陽介は首を振らなかった。
図星という事だ。
結局コイツは、一人で何も決めなかったんだ。いじめっ子に言われて俺を裏切り、先生に言われて俺に謝りに来た。
そこには友情なんて欠片も無いんだ。
そう思うと、途端に落胆と怒りの味が心の中に広がった。親友の証を破られた時よりも酷いかもしれない。
その思いを込め、俺は陽介を睨みつけた。
「アイツらの言いなりかと思ったら、次は先生の言いなりかよ! 裏切ったかと思ったら今度は謝りに来やがって!! お前は何がしたいんだよ!!」
「…………悪い。でも、今度こそ本気なんだ」
陽介はツカツカと俺の前に歩いてくると、破れた紙のような何かを俺の前に差し出した。
それは、煤と埃でボロボロになった、親友の証の片割れだった。
「お前コレ……」
「見つけてきたんだ。焼却場行きかけてたから、探すの、時間かかっちまったけど」
陽介はどもりながらそう言った。
俺は先生の方を仰ぎ見た。本当かどうか確かめたかったのだ。先生はコクリと頷いた。
俺は二の句が継げなかった。陽介はこんなカードの切れ端を取ってくるために焼却炉まで行ったのか。
「これで許してくれなんて言うつもりはない。けど、ここで言っとかなきゃ、二度とお前に謝れなくなる気がしたから。本当……ごめん!」
陽介は深々と頭を下げた。
彼のそんな姿を見たのは初めてだった。
「もう二度と、アイツらのいいなりになんてなったりしねぇから! アイツらだけじゃない、誰の言いなりにもならないからよ!」
陽介はそこで顔を上げた。
埃混じりの涙が彼の頬に一筋の線を書いていた。
そこで分かった。
陽介が本気だって事に。
「本当にごめん! もう一度だけ、俺と……友達になってくれないか?」
俺は何をしていたんだろう。
何で陽介をずっと憎んでいたんだろう。
陽介は本心から俺を裏切ったわけじゃない。そんな事、分かってたはずなのに。
本当に憎むべきは陽介じゃない。俺達を
それなのに俺は、ずっと陽介を憎み続けて、たった一人の親友を失う所だった。
俺は陽介から親友の証だったものを受け取った。
寒さでカチカチになった片割れと、肺と埃と熱に塗れた片割れ。
同じ境遇にありながら、別々の痛みを味わった二つ。まるで俺たちのようだ。
歪になってしまった二つ。でも、親友の証は確かにここに存在している。
俺は灰色の片割れをポケットにしまうと、寒さで固まった方を陽介に渡した。
「こんなボロボロのカード、使い物になるかよ」
「玉置…………」
陽介は残念そうに顔を伏せた。
許してもらえなかったと思ったのだろうか。だとしたら、それは大きな間違いだ。
俺は陽介の肩にポンと手を置いた。
「今度また大会出て、取って来よう。そん時は陽介も一緒にな。それまでは、この半分が友情の証だ」
「……おう!」
陽介はニカッと頬を綻ばせた。
俺も釣られて笑ってしまった。
二日ぶりに笑った気がした。
陽介の背後で、先生も笑っていた。
「これにて一件落着、コンプリートだな。まぁ俺は何もしてねぇけど……」
「何言ってるんですか。先生が学校中走り回ってくれたから、玉置の場所が分かったんじゃないですか」
「あ? まぁ、そんな事もあったな」
先生はどこか遠い空を見上げ、そう呟いた。
この人は俺を助けるために動いてくれていたんだ。クラスも違う、初対面の俺の事を。
「じゃ、今日はこの後の授業全部サボって、3人で飯でも食い行くか! そしたら2人とも俺の
「……まだ3時間目ですよね? 流石にヤバいんじゃ」
「細けぇ事ぁいいんだよ。ほら、今日は俺の奢りだ。上手いラーメン屋知ってんだよ」
先生に肩を組まれ、俺達は屋上を後にした。
俺はもう迷わない。
たとえ悪魔の囁きがあろうとも、絶対に耳を貸したりしない。
俺には、信頼できる親友がいて。
この学校には如月先生がいるから。
●風田三郎
昼休み、その少年は教室の戸をガラリと開けた。玉置の所属するクラスの教室だ。
ピシャリ!
鋭い音に、クラス中の生徒が前の入り口へと目を向けた。
そこで見た、その少年の姿を。
少年は天高の制服を着ていた。
中肉中背、これといって特徴の無い普通の少年だ。だが、皆その少年から目が離せない。
彼の持つ妙な迫力に圧されているのだ。
そう、柔道部の学生を見るのに似ている。正中線がブレない歩き、常に気を張っている感覚、それらは本能でわかるものだ。
少年はツカツカと教室の中央へと進み、とある生徒達の前で止まった。
いくつかの机を寄せ集めた島の上でたむろしている男子の四人組である。いかにもこのクラスのボスですと言った風情だ。
四人組の中でも特に体格の大きな男子が、少年を睨みつけた。
「俺達になんか用?」
少年は僅かも動じる事なく、彼を上目遣いで睨みつけた。彼より身長が低いが故である。
「君達、玉置豪君と同じクラスの奴等だよね。いじめっ子のバッドボーイズ」
挑発するような少年の言葉に、四人組の一人が島から降りた。
「人をいじめっ子呼ばわりとか、何? 超失礼でしょ?」
「事実でしょ。被害届も出てる」
「は? 俺らには弁護士つける権利もないワケ?」
四人組の一人は馬鹿にしたように少年を見下ろしている。他の3人も、揶揄いの視線を少年に向けている。
人を馬鹿にしきった態度だ。
そんな男子生徒達を、少年はビシッと指差した。
「勝負しようよ、俺と。一発でも当てられたら、見逃してあげるよ」
「あ? 何言ってんのお前? 話聞いてる?」
男子生徒の一人が、馬鹿にしたような目で少年を睨みつける。彼に続くように、他の3人も口々に悪口を言い始めた。
「つか、誰よお前」
「勝負するからには名乗らねぇと!」
「俺、コイツ知ってるぜ。コイツ仮面ライダー部だよ。あの狭んまい部室に篭って意味分かんねぇ事してる連中」
四人組の一人の言葉に、少年の眉がピクリと動いた。それまで飄々としていた少年の、初めての分かりやすい感情表出だった。
「意味わかんない、ねぇ」
少年は残念そうにため息をついた。
瞬間、彼の腕がビュンと唸り、男子生徒の身体がビクッと跳ね上がった。
バチィンッ!
少し遅れて鋭い音が教室中に鳴り響いた。
男子生徒は島の上に倒れ、身体をビクビクと痙攣させている。その額には真っ赤な指の跡がくっきりと残っていた。
少年の中指も、真っ赤に腫れている。
「ただのデコピンだよ。ほら、君達も」
少年は跳躍で島へと登ると、他の3人に次々とデコピンをかましていった。
「ひ、ひいっ!?」
バチィン!
「な、なんだよお前!?」
バチィン!
「ゆ、許して!?」
バチィン!
彼等は少年のデコピンを額に食らった側から、白目を剥いて島の上に倒れ伏した。
あっという間に少年は、自分より体格の大きい男子生徒達を倒してしまったのである。
「意味わかんない俺以下の君達は、何なんだろうね。ってもう聞こえてないか」
動かなくなった彼等を見下ろし、少年は吐き捨てるようにそう呟いた。
表情は笑っているが、その瞳は笑っていない。
「学園の平和を守るのが仮面ライダー部の活動内容なんだ。いじめがある学校なんて平和じゃない。次はデコピンじゃ済まさないよ」
唖然とする生徒達を残し、少年は教室を後にした。
少年の名は風田三郎。
又の名を自由の戦士・イナズマン。
忙しくて全然書けなかったんですけど、この小説多分期限明日なので、速攻で書きました。
このくらいの分量の方がいいのかもしれませんね。
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