気付けば僕には年上の彼女がいた (zennoo)
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いつもこんな感じです

さあ始まりました新シリーズ。
今回のヒロインは彩ちゃんです。
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本編どうぞ!


「はあ……緊張する…。何度も部屋には行ってるのに何でだろ…」

 

 

東京都内のとあるマンションに住むこの少年こそ主人公の高部真冬(たかべまふゆ)である。

何でもネガティブに考える真冬は今まさに「ここで変なことしてるって思われたらどうしよ…」と、思っている最中。インターホンに震えながらも手を伸ばした瞬間勢いよくドアが開いた。

 

 

「待ってたよ真冬くーん!」

 

「いだっ!」

 

「あっ、ごめん!」

 

 

ピンク髪がトレードマークのこの部屋の家主、丸山彩が肝を冷やして真冬を出迎えた。

 

 

「大丈夫!?」

 

「えへへ。大丈夫ですよ。速く中に入りたいです。」

 

「そうだね。じゃあどうぞ!」

 

「お邪魔します。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「真冬君!ここ座って!」

 

「はい…って、彩さんのお膝ですか!?」

 

「だって真冬君軽いから私大丈夫だよ?」

 

「いやぁ…そういう問題じゃなくて…」

 

「え…?座ってくれないの…?」

 

「わ、分かりました!座りますから!」

 

 

彩の涙目攻撃にはめっぽう弱い。それは真冬が彩と出会った当初から変わっていない。

 

 

「そうこなくちゃ!おいで!」

 

「失礼します…。(彩さんの部屋着が…その…)」

 

 

ぽふっ

 

 

(やっぱり柔らかくてあったかい…)

 

 

座った瞬間真冬の体は彩と密着。彩の腕が真冬の首を優しく包み込み真冬はリラックスできるはずもなく緊張が増す。その理由に彩の服装が薄いシャツにドルフィンパンツという軽装であることも加えられる。

 

 

「なぁに緊張してるの?」

 

「し、してないですよ。」

 

「ほんとかなぁ~?私には心臓の音が聞こえるんだけどな~」

 

(バレてる!?)

 

「そ、そういう彩さんこそどうなんですか?」

 

「私?私はね…緊張してないよ。だって真冬君より年上なんだからね!」

 

「嘘。さっきから彩さんの胸が僕の頭に当たってそこから心臓の音が聞こえてますよ。」

 

「えっ、ウソ!も~~!!」

 

(えへへ、彩さんに一泡吹かせた!)

 

真冬君のえっち。

 

「!!」

 

 

その一言で真冬の心臓がどれ程引き締まったか、想像に容易い。

 

 

「ねぇ真冬君。もう私達付き合ってるんだから、そろそろさんづけとか敬語とかやめてほしいな。」

 

「だって…彩さん僕より3つも年上なんですよ?それに…」

 

「それに?」

 

「ううん、何でもないです。とにかく、僕はこれからも敬意を払いますから!」

 

「そっか。残念だなぁ~~。でもいいもん!」

 

(やっぱり彩さん可愛い…)

 

「じゃあさ!その…もっと親愛を深めるために……その…//」

 

「?」

 

「わ、私のお尻に…クリームぬってくれない…//」

 

(えええええ!?彩さんのお尻触るの!?)

 

「や、やります…(もおーーーー!!何言ってるの僕のバカバカバカ!)」

 

 

ドルフィンパンツの裾から見るからに柔らかそうな尻がはみ出ている。そして真冬は意を決して触る。

 

 

「あんっ!//」

 

「ごめんなさい!いきなり触ってびっくりしましたよね…」

 

「いいの//……そのままやってほしいな。」

 

「は、はい…//」

 

「んんんっ、はぁん!///」

 

(頼む!僕の理性持ってくれ!…彩さんのお尻柔らかいなぁ……何言ってるんだ僕は!)

 

 

三分後…

 

 

「彩さん…終わりましたよ…//」

 

「うん、ありがと!気持ち良かったよ!」

 

「そ、そうですか…」

 

「触ってて気持ち良かった…?///」

 

「えっ!?何言ってるんですか…」

 

 

「どうなの?正直な気持ちで…」

 

気持ち良かったです…//

 

「え?聞こえないなぁ…」

 

「もう……彩さんのいじわる…//」

 

「(可愛いなぁもぉぉ)真冬君のためにお尻、頑張って鍛えたの。」

 

「そうなんですね…(やっぱり彩さんって頑張りやさんで可愛いくて…僕にはもったいないくらいだね。)」

 

「なんか真冬君…眠そうだね。」

 

「え…?そんなことないですよ…。」

 

「太もも、かしてあげる!」

 

「じゃ、じゃあ遠慮なく…(やっぱり太ももも柔らかい。)」

 

「ナデナデ。」

 

「ああっ。だめぇ………スヤスヤ」

 

「もう寝ちゃった。真冬君は可愛いいなあ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このままあの事を完全に忘れてほしいな。」




いかがでしたか 次も読みたいと思える小説になったか自信がありません。

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金曜日は嬉しい感じです

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本編どうぞ!





前述した通りこのマンションでは真冬の家の隣が彩の家だ。早朝6時、カーテンが太陽光を遮る部屋で彩は眠気を吹き飛ばして壁に耳をくっつけていた。

 

 

「今日は…大丈夫かな……。」

 

ふあぁ…よく寝たぁ。

 

「ホッ、大丈夫みたいだね…」

 

 

何かに安堵して胸を撫で下ろす彩。ひとまず今日は安心だがこの行為は毎朝繰り返されている。当然真冬はこの彩による行為のことを全く知らない。"知られてはならない"彩が真冬と出会った当初からそう決心したのだから。

 

 

「それにしても真冬君、今日も声が可愛い…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ピンポーンと真冬の家のチャイムが鳴る。朝7時、太陽光が差し込む家の中から真冬はチャイムに対して元気に応答した。

 

 

「はーい!」

 

「おはよ真冬君!」

 

「彩さん!おはようございます!」

 

「忘れ物とか大丈夫?」

 

「はい、大丈夫ですよ。行きましょう!」

 

 

5分後…

 

 

「手、出してほしいな。」

 

「えっ!?僕の学校の方が先だから…皆に手をつなぐの見られちゃいますよ!?」

 

「別に私は手をつなぐなんて一言も言ってないよ?」

 

「あっ……」

 

「も~~真冬君、私と手をつなぎたいの?」

 

「そういう彩さんだって!僕と手をつなぎたいんじゃないですか?」 

 

「ぐっ!それは…」

 

「僕も…彩さんと手をつなぎたいです。」

 

「えっ、いいの!?」

 

「皆に見られちゃうのは恥ずかしいですけど…それでも彩さんと手をつなぎたいっていう思いの方が強いんです。」

 

「こんなに朝早いんだから皆学校に来てないよ。」

 

「確かに…」

 

「じゃあ手、つなごうか!」

 

「はい!」

 

 

学校があるという朝特有の気だるさはこの二人にはないらしい。むしろ互いとふれあう絶好の機会なのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「じゃあここで一旦お別れですね…」

 

「うう、寂しいよぉ…でも学校が終わったらまた会えるよね!」

 

「そうですね。僕も頑張りますよ!」

 

「じゃあね、ばいばい!」

 

「また後で!」

 

(張り切っちゃう真冬君、いつ見ても可愛いなぁ…)

 

 

三分後、真冬の通う高校にて…

 

 

「よお真冬!」

 

「大胡君!びっくりさせないでよ…ずっとそこに隠れてたの?」

 

「おうそうさ!真冬の年上彼女を一目見ておきたくてな…そしたらなんだよ!背が高くておっとりしてて…お似合いじゃねえか!」

 

「そ、それはどうも……」

 

「ま、俺は応援してる。結婚式には呼んでくれよ?」

 

「そんな先のことまで…」

 

「あ、中間テストの範囲が出たってよ。今回も学年トップ狙うのか?」

 

「うん。大胡君には負けないよ!」

 

「模試の恨み、晴らさせて貰うからな~!」

 

「あはは…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

金曜日…明日が休みという優越感が学生を襲う。それは高校生に限らず大学生も同様でありこれはほんの一例である。

夕日が沈む午後5時の校舎で自習を終えた真冬に電話が入った。

 

 

「もしもし彩さん?どうしたんですか?」

 

「真冬君、今どこにいる?」

 

「学校で自習してましたけど…」

 

「やっぱり真冬君は頑張りやさんだね…すごく偉いと思うよ!」

 

「あはは…ありがとうございます…。それで、どうしたんですか?」

 

「真冬君、明日って学校おやすみだよね。」

 

「そうですけど…」

 

「良かったら…あの……」

 

「?」

 

「今夜、私の部屋に泊まってく?//」

 

「!?」

 

 

急に真冬の心臓が締め付けられる。高校生という自由さが広がった時期で初めて人の家に泊まることを経験する。何が起きるか分からないのが真冬をなんとも言えない気持ちにさせる。

 

 

「いいんですか…?//」

 

「えへ、また緊張してるんだね。」

 

「だって…初めてですから…」

 

「私も、人を泊めさせるのは初めてだよ。」

 

「そっ、そうてすか…」

 

「じゃあ私、家で待ってるからね。いつでも来ていいよ。じゃあね!」

 

「あっ、ちょっと彩さん!……電話切っちゃった。もう、強引な人だなぁ…」

 

 

一人しかいない教室で呟く真冬だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そしてその日の夜。真冬は結局彩の家に泊まることにした。晩御飯も済ませ、もう後は寝るだけである。

 

 

「ふあぁ…」

 

「真冬君もう寝る?」

 

「そうですね…もう寝ます。どこで寝ればいいですか?」

 

「私のベッドで一緒に寝よっか。」

 

「!?彩さんと…いいいいいい一緒に!?」

 

「もう今日何回驚いてるの?私達恋人だよ?それくらいいいでしょ?それとも…だめなの…?」

 

「わ、分かりました!一緒に寝ます!」

 

「ほんと!?やったー!!」

 

(表情がコロコロ変わる…そんな彩さんも素敵だな…)

 

 

外は車のエンジン音も話し声も静まり今日一日が終わったことを感じさせる。それはこの寝室も例外ではない。

 

 

「ほーら、おいで。」

 

「し、失礼します…(緊張して寝れない気がする…)」

 

「そんな固くならなくていいんだよ?リラックスリラックス。」

 

 

彩が真冬の顔を胸いっぱいに優しく抱き止めた。その包容力は真冬の緊張を一気にほぐしてついには…

 

 

「スヤスヤ…」

 

「寝ちゃった。やっぱり寝顔が可愛いんだけど…写真撮ったら真冬君、起きちゃうよね。」

 

 

互いにリラックスできるこの関係になれて心底嬉しい彩に一本の電話が入った。真冬を起こさないように、彩は一度ベランダに出る。

 

 

「はいもしもしお世話になります……はい……はい。えーっと多分真冬君は完全に忘れていると思います。ここ最近も笑顔で………はい。こちらこそよろしくお願いします。」

 

 

電話を切ってまた真冬がいるベッドに入る。彩は真冬を抱き止めながら何かをまた決心し直した。




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思い出せない感じです

一話あたりのUAがだいたい600程。それほど皆さんに読んでいただけてるということで作者は舞い上がっています。
まずは一話あたりのUA1000を目指して頑張っていきます
本編どうぞ!


夜10時。真冬は小学校のアルバムを見返しながら必死に何かを思い出そうとしていた。別に感傷に浸っている訳ではないのだ。

 

 

「うーん、やっぱり思い出せないなぁ。ここに僕が友達と仲良く遊んでいる写真があるけど全く覚えがない。」

 

 

そう彼は…………失った記憶を取り戻している最中なのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

本人には分からないが何故か中学以前の記憶が全てなくなっている。まるでブツリと切れた線路のように。真冬はこうしてたまに過去の写真を見ては思い出そうと戦っているのだ。

 

 

(やっぱり…写真を見るだけじゃダメなのかな。もっと他の方法を考えないとダメそうだね…。)

 

 

そう思いつつ、真冬は明日に備えてベッドの中で意識を落とした。

 

一方、時を同じくして暗い寝室で真冬のことを気にかけている女性が一人いた。……真冬の彼女、彩だった。

 

 

(お願い真冬君。思い出そうとなんてしないで。きっとそうなったら…多分真冬君には耐えられないだろうから。)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次の日、真冬は放課後になって相変わらず同級生に絡まれていた。

 

 

「よお真冬。なんか今日の授業全体的にだるくなかったか?」

 

「そうかな?僕はいつも通りに感じたけど。」

 

「さっすが真冬。中学時代全国模試上位にいた人はレベルが違うってか。ハッハッハ!」

 

「そんな大袈裟だよ……」

 

「でもな真冬。この学年にも真冬を打ち倒すべく必死に勉強してる奴らがいるからな。命取られないように気を付けろよ?」

 

「う、うん……(やっぱり…都内の進学校って競争が凄まじいのかな。)」

 

「あ、それと校門に誰かいるんだけど…ピンク髪の女性が。」

 

「ピンク髪の…?って、彩さん!?」

 

「なぁ~んだ。真冬の彼女さんかよ。お前のこと待ってるんじゃねえか?」

 

「そう…かもね。」

 

 

いつもなら彩は待っている時、真冬に電話を一本入れるのだが今日はしなかったのだ。神経質な真冬にとってはそれが不安の種になった。

 

 

(おかしいな……何かあったのかな?)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

校門前にて

 

 

「待ってたよ真冬君!」

 

「あ、彩さん……今日は何か急ぎの用が合ったんですか?」

 

「え?特にないよ……?」

 

「電話、入っていませんよ。忘れちゃったんですか?」

 

「あっ!!忘れちゃった……もぉぉ。私、昔からドジっ子って言われちゃうんだよね。大切な場面でよく噛むし、段差で転けるし、もうなんか…………」ブツブツ

 

「わぁーーっ!彩さんネガティブにならないで!僕がフォローするから!」

 

「……本当に?」グスッ

 

「本当です!」

 

「やったぁー!真冬君、だーい好き!」

 

「えっ、ちょっと彩さん!ここ僕の学校の前ですよ!(彩さんの胸気持ち良い…)」

 

「あっ、ごめんね……でも可愛いからしちゃうもん!」

 

「(そういう彩さんの方が可愛いよ…。)それで、今日は何の用ですか?」

 

「そうだった……じっ、実はその…」

 

「?」

 

「特に用が無いんだよね。」

 

「えっ、無いんですか?」

 

「なんか真冬君に会いたくなっちゃって……。ダメかな?」

 

「いえいえ!そんなこと無いですよ!僕も…毎日彩さんと会えて嬉しい……。」

 

「本当!?明日学校おやすみでしょ?だったらデートしよ!」

 

「ちょ、ちょっと彩さん!腕千切れちゃう!」

 

 

真冬の手を握って走る彩。そんな初々しいカップルのやり取りを見てた真冬のマブダチ、大胡はいてもたってもいられなかった。

 

 

「はああ…いいなぁ真冬。この学校でもトップで美人な彼女もいるなんてよぉ……クソオオオオオオ!俺も彼女ほしいいいいい!!!!」

 

 

しかしその雄叫びは誰の心も打たなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

駅前のパンケーキ屋にて

 

「わああ!真冬君、美味しそうだよ!」

 

「そうですね…早く食べたいです!」

 

「でもその前に写真、撮ろうよ!今日は付き合って1ヶ月記念だよ!」

 

「早いですね…」

 

「じゃ、撮るよ~」パシャ

 

「あ、凄くいい写真ですね。snsにアップするんですか?」

 

「ううん。これは二人だけの秘密だよ?」

 

「二人だけの……」

 

「なぁに真冬君。ニヤニヤしちゃって~。」

 

「し、してないですよ!」

 

「本当かな~?」

 

「速く食べましょうよ!」

 

「急に話題をそらしたね…じゃ、いっただきまーす!ハムハム美味しい!」

 

「モグモグおいひぃ~!」

 

「(可愛いなぁ…)真冬君、ほっぺにクリームついてるよ?」

 

「あ、本当だ。」

 

「待って、とってあげるね。」

 

「ひゃん!//」

 

「えへへ…真冬君のほっぺ、プニプニ~!」

 

「彩さん…彩さんのほっぺにもクリーム、ついてますよ?」

 

「あっ」

 

「(そんなところも可愛い…)よいしょ。」

 

「とってくれたんだ…ありがと!」

 

「(彩さんのほっぺプニプニ…)そうだ、聞きたいことがあったんです。」

 

「どうしたの?」

 

「今日は付き合って1ヶ月記念でしたけど…僕達もっと付き合っているんですよね?(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「そ、そうだね…」

 

「改めて聞きます…記憶をなくす前の僕ってどんな感じでした?」

 

「うーん、そうだね。今の真冬君と変わらないね。優しくて、可愛いくて。今も昔も私の自慢の彼氏だよ!」

 

「そうですか…えへへ。ありがとうございます。」

 

「病院で会ってからもう1ヶ月経ったんだね。その日を私達の付き合った日にしたんだよね。」

 

「そうですね。失礼ですけど…僕達、何年付き合っていました?」

 

「二年付き合ってたよ。私が高校二年生の時に偶然町で真冬君に助けられて…一目惚れしちゃったんだ。」

 

「そうだったんですね。…ごめんなさい。そのときの事、まだ思い出せなくて。」

 

「無理に思い出そうとしなくて良いよ。それに、私が記憶を失った分まで真冬君を"楽しい"で埋め尽くしてあげるから!」

 

「ありがとうございます!彩さんといると頼もしいです!」

 

「こっちまで嬉しくなっちゃうな。ありがとう、真冬君!」

 

「あ、また話変えちゃいますけど…」

 

「?」

 

 

「記憶を失う前の僕が彩さんと一緒にいる写真、ありませんか?」

 

 

「そ、それね……私、謝らないといけないことがあってね。」

 

「なんですか?」

 

「私、前に交通事故にあってね、そのときに写真のデータが飛んじゃったみたいなの。」

 

「ええっ!?そうなんですか!?」

 

「だから、ごめん!真冬君の貴重な手掛かりがなくて…」

 

「そんな…でもさっき彩さんが言ってたじゃないですか。」

 

「なんのこと?」

 

「無くなった分まで"楽しい"で埋めちゃえばいいって。」

 

「!」

 

「これからもよろしくお願いします!彩さん!」

 

「う、うん!よろしくね!真冬君!」

 

「さ、パンケーキ食べましょうよ。」

 

「……そうだね。」

 

 

彩は歯切れ悪く返答した。今あるパンケーキは彩にとっては甘すぎるのだろうか。




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藤原勇司様
オロナイン様
サイガ02様
焔玲様
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彩さんは休ませたい感じです

二つの小説を同時に進めていくというのは大変ですが楽しいとつい頑張れますよね

本編どうぞ


最高峰の進学校の運命なのだが、授業のペースが以上に速い。そのため家での予習が欠かせなくなるわけだ。何が言いたいかと言うと真冬は休みだからと言って気が抜けないわけだ。

 

土曜日、午後1時という眠気が襲ってくる時間ですら真冬は自分を追い込む。

 

 

「はああ…休憩したい……。でもやらなきゃ……」

 

ピンポーン

 

「あれ?誰だろ……。」

 

 

扉を開けた先には

 

 

「真冬くーん!真冬くんの彩ちゃんだよ!」

 

 

軽装でショートパンツの彩が満面の笑みで真冬を訪ねた。

 

 

「彩さん!?ど、どうしたんですか……?」

 

「真冬くんに会いたくなっちゃったの……ダメかな…?」

 

「ぼ、僕は大丈夫ですから!涙目にならないでほしいなぁ…」

 

「ホント!?ありがと~!ギュー!」

 

「エヘヘ(*´∀`)♪ギュー。」

 

 

真冬の体が彩の体にすっぽりと収まる。こういうやり取りの有益さはやっている本人達にしか分からない。言葉で言い表せないが絶対必要な行為に他ならない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

リビングの小さいソファーに座って交流スタート。

 

 

「それで彩さん、今日も僕に会いたかったんですか?」

 

「それもあるんだけど…今日はね、」

 

「?」

 

「真冬くんをリラックスさせに来ました!」

 

「僕を…リラックス?どういうことですか?」

 

 

全く話が見えてこずにポカンとした真冬に彩は返答する。

 

 

「だって真冬くん、最近すごく疲れているのが顔に出てるんだよね。きっと勉強で自分を追い込んでるんでしょ~。ほっぺツンツン!」

 

「ちょっ…くすぐったいですよ……それで、そんなに顔に出ていたんですか?」

 

「うん。勉強で追い込んでいますって顔に書いてあったよ。真冬くん、自分に厳し過ぎるところあるからね~。」

 

「そんなに見え見えだったんだ…」

 

「自分に厳しすぎるのもあまり良くないことだよ。だから今日はお姉さんが真冬くんを甘やかしに来たよ!いーっぱい甘えてね!」

 

「彩さんに……甘える?」

 

「緊張しすぎだよ?リラックスしなくちゃ。じゃあまずは私の膝の上にのって!」

 

「はい……失礼します……」

 

「じゃあ肩揉んであげるね。」

 

「お願いします…」

 

「わっ!すごく肩こってるね。」

 

「そんなに驚きますか?」

 

「うん。この固さはなかなか手強いね。長時間勉強してたのが目に見えて分かるよ。」

 

「気付いたら凄い時間が経っていたってこと、結構あるんですよね…。」

 

「どれくらいやってるの?」

 

「15時間くらい…」

 

「そんなにやってるの!?確かに肩がこるのも分かるよ…。じゃあ、もっと力入れなきゃ!」

 

「彩さんこそ、あんまり無理しないでくださいね。」

 

「真冬くんは優しいね。でも大丈夫!このままほぐしていくよ~!」

 

 

3分後…

 

 

「ふにゃぁ……気持ちぃぃ……」

 

「段々骨抜きになってきたね。」

 

「彩さん、マッサージ上手なんですね。」

 

「エヘヘ。真冬くんのためにちょっと練習したの!」

 

(なんだか嬉しいな…彩さんて、僕の理想の彼女だなぁ…)

 

「じゃあそしたら、今度は180度回って私の方を向いて。」

 

「えっと、こうですか?」

 

「そう!じゃあいくよ~?」

 

「な、何するんですか…?」

 

「ほっぺをうりうりする!」

 

「え?」

 

「うりうりうり~!」

 

「ちょ、ちょっと彩しゃ~ん!く、くすぐったいれしゅよ~!」

 

「あはは!真冬くんのほっぺを弄るのたのしーい!」

 

「彩しゃ~ん!」

 

「真冬くんのほっぺ柔らかくて気持ちいいなぁ……」

 

「こうなったりゃ…」

 

「え?」

 

「えい!」

 

「ひゃん!真冬くん!くすぐったいよ~!」

 

「エヘヘ、さっきのお返しです!」

 

「やったな~!」

 

「ムゥゥゥ……負けまふぇんよ~!」

 

「むぎゅぅー」

 

「むぎゅぅー」

 

 

そんな二人の頬のつねり合いはそこそこ長く続いた。

適度に疲労が溜まった10分後

 

 

「はあー!楽しかった!」

 

「はあ…はあ……」

 

「真冬くん大丈夫?やりすぎちゃったかな……」

 

「大丈夫!彩さんとのスキンシップ、楽しいです!」

 

「やっぱり真冬くんはかわいいなぁ…笑顔がホントにかわいいの。」

 

「そ、そうなんですね……」

 

「そんな笑顔を私、一人占めできるんだもん。そんな嬉しいことはないよ!」

 

「僕も……その……」

 

「ん?」

 

「彩さんみたいなかわいくて優しい人、見たことがないです!//彩さんを一人占めできるこの時間が大好きなんです!///」

 

すごく恥ずかしい…///

 

「彩さん、何か言いましたか?」

 

「え!?ううんなんでもないよ!そ、そしたら仕上げだね!」

 

「仕上げ?まだ何かやってくれるんですか?」

 

「うん、真冬くんには快眠が必要だからね。私がそのお手伝いをするよ!」

 

「そんなに僕疲れてるんですね…」

 

「もう顔を見たら一目瞭然だよ。多分、いつもの睡眠が良くないと思うからね。ちょっと毛布借りるね。」

 

「はい……」

 

 

すると彩は上体を少しだけ浮かせてソファーに仰向けで寝転んだ。寝転ぶと彩は真冬に腕を広げた。

 

 

「?どういうことですか?」

 

「分からないの?私の胸の中においで。」

 

「彩さんの…胸に……」

 

「そうだよ。ぎゅってしてあげる。」

 

 

日頃の疲れが蓄積している真冬にはそこが楽園に見えた。もう真冬がとる行動なんて一つしかなかった。

 

 

「じゃ、じゃあ…失礼します…」

 

「そうそう。胸に顔を埋めたら真冬くんの腕を私の腰に回して。」

 

「こ、こうですか…?」

 

「上手上手!」

 

「僕赤ちゃんじゃないですよ……」

 

「後は毛布をかけて、っと……これでOK!」

 

「……」ドキドキ

 

「真冬くん、緊張してるの?心臓がドクンドクンって言ってるよ。」

 

「ご、ごめんなさい!嫌ですよね…」

 

「ううん、嫌じゃないよ。私も緊張してるの分かるでしょ?私の胸から心臓の音が…ね。」

 

「は、はい……」

 

「緊張してたら眠れないよね…じゃあ真冬くんが眠れるように頭、撫でてあげるね。」

 

「お願いします………//」

 

「ナデナデ。」

 

「……」

 

「ナデナデ。」

 

 

彩の柔らかさと優しさが真冬を包み込む。あれだけ緊張していた真冬が終いには…

 

 

「……」スー、スー

 

「寝ちゃった。やっぱりかわいい。」

 

「……」スー、スー

 

「絶対私が真冬くんを守ってあげるからね。」




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ラウ・ル・クルーゼ様
ダイキ・リハヴァイン提督様
ゲストU様
双剣使い様
137738854様
リサ姉まじ天使様
ありがとうございました

読了、ありがとうございました!


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夏休みに突入した感じです

新たにお気に入り登録してくださった一名の方、藤木真沙様
ありがとうございました!藤木真沙様には☆9の評価もつけていただきました。本当にありがとうございます。
藤木真沙様って現在進行形でラブコメ書いていらっしゃる方ですよね。この方のパクりになってるんじゃないかって内心焦っています。
しかし、こうして作家さんにお気に入り登録していただけるのもまた嬉し。
本編どうぞ


暑い体育館の中でひたすらに校長先生の話を聞き続ける真冬。他の生徒達もそうしていていつの間にか我慢大会が始まっていた。

 

 

(耐えるんだ……これを耐えたら僕には……!)

 

 

夏服とは言えこの夏の猛暑を耐え抜くというのは誰にとっても厳しいもの。普段なら根をあげているのだが今回ばかりはそうもいかなかった。

 

 

「以上で一学期終業式を終了します。生徒は速やかに教室に戻ってください。」

 

(はあ……後ちょっとで学校が終わる…!)

 

 

教室にて

 

 

「よっしゃあああ夏休みだ!」

 

「大胡君……すごく嬉しそうだね……あはは…。」

 

「そりゃそうだろ!だって高校生の夏休みといったら青春するしかねえだろ!この夏休みで絶対彼女作ってやる!」

 

「気合いがすごい……」

 

「真冬はこの夏休みどうするんだ?勉強漬けか?それとも……クッ……」

 

「?」

 

「例の年上お姉さん系彼女とイチャイチャするのかぁぁぁ!?」

 

「えっと……それは……ど、どっちもだよ!学年トップは維持したいか勉強はするんだけど…」

 

「だけどなんだ!?やっぱりキャッキャウフフするんだろ!?」

 

「そこまでしないよ……」

 

「まあいい、いつか真冬を見返してやる!」

 

「あはは…あれ、電話だ。ちょっと待ってて。」

 

「お、おう。」

 

「もしもし……彩さん?どうしたんですか?……え、ありますね…はい、え?良いんですか!?はい!行きます!ではまた後で!」

 

「満面の笑みでどうしたんだよ…」

 

「彩さんが一緒に夏祭り行こうって誘ってくれたの!浴衣で来てねって。それでね……あ。」

 

「真冬…てめえ…」

 

「ご、ごめん…」

 

「非リアの前でそれ言うかぁ!?なあ!しかも浴衣デートかよ羨ましい!」

 

「わ、悪気は無かったんだよ…ごめん!」

 

「ま、まあいいぜ。俺は非リア組全員と行くからな。真冬より満喫してやる!」

 

「そ、そっか…。」

 

「じゃあな!」

 

「うん…バイバイ…」

 

 

終始苦笑いの真冬。対照的に終始アツい大胡。はたして夏休みはどうなることやら…

 

 

「年上で包容力がある彼女を持つなんて真冬もやるようになったな…クッソオオオオオオオオ!!彼女ほしいー!!!」

 

 

大勢が集まる生徒玄関で叫ぶ大胡。多くの人の耳には入ったが誰の心も打たなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ルンルン気分でマンションに帰ってきた真冬は自宅にはいるとそこには…

 

 

「あ、真冬くんおかえり!」

 

「彩さん帰ってたんですね!ただいま帰りました!」

 

 

合鍵で家に入っていた彩がいた。言葉を出さずともルンルン気分なのが顔から分かる。

 

 

「真冬くんは今日から夏休みなんだね。」

 

「はい。宿題が少ないとは言え勉強しないとあっという間に抜かされそうですけどね。」

 

「だからって無理は禁物だよ?真冬くん、すぐ肩に力が入っちゃうんだから。」

 

「はい…気を付けます。」

 

「去年は私達受験で大忙しだったもんね。今年はいっぱい思い出作ろうね!」

 

「はい!僕も楽しみにしてます!」

 

「いつもより真冬くんと長く居れるのか~。はあー楽しみ!」

 

「エヘヘ、あ、そうだ。僕この夏休みでやらなきゃいけないことがあるんです。」

 

「やらなきゃいけないこと?何かあったっけ?」

 

「僕の…失った記憶を取り戻します。」

 

「えっ…」

 

 

真冬のその発言はさっきまで笑顔だった彩の表情を一瞬にして凍らせた。しかし一度真剣になれば止まらない真冬に彩の表情はどう写っているのだろう。

 

 

「夏休みが終わるまでかなり時間があります。今度こそ…僕は彩さんとの記憶を取り戻します。忘れたままなんて嫌ですから!」

 

「真冬くん…」

 

「ごめんなさい、いきなり真剣な話しちゃって。話の腰折っちゃいましたよね。」

 

「う、ううん大丈夫だよ!さっきも言ったけど無理しないでね。」

 

「は、はい!」

 

「他に夏休みで予定とかある?」

 

「あ、8/13に一度実家に帰省することになってるんですけど…彩さんも一緒にどうですか?」

 

「わ、私!?」

 

「はい、父に彩さんのことを改めて紹介したいんです。どうですか?」

 

「……」

 

「彩さん?」

 

「ごめん真冬くん!その日予定もないし行こっかな~あはは…」

 

「ホントですか!?ありがとうございます!」

 

「うん…何気真冬くんのお父さんと会うの、これが初めてなんだよね…」

 

「そうなんですか。ごめんなさい、そこのところうろ覚えで。」

 

「気にしなくて良いよ。じゃ、私浴衣に着替えてくるから真冬くんも着替えてね。」

 

「あれ?そういえば彩さんて自前の浴衣持ってましたっけ?」

 

「真冬くんのために買っちゃったの。楽しみでつい!」

 

「そうなんですね。じゃ、後で会いましょう。」

 

「うん!また後でね!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

彩の家にて

 

「大変なことになったな……。出来れば記憶を取り戻してほしくないけど……どうすれば良いのかな……」

 

 

喜びと憂鬱が混じった彩。

この夏で二人の運命は大きく変わる。




今回はイチャラブが少なかったですが次話は夏祭り編です。しっかりイチャラブさせます。
読了、ありがとうございました!


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夏祭りを満喫したい感じです

やっべ、今回5000字近く書いてもうた。

新たにお気に入り登録してくださった
ハマモー様
まるちん様
湊彩月彩
他二名の方
ありがとうございました!

本編どうぞ!


「よし、着替え終わった。彩さんはもう着替え終わったかな。」

 

 

胸を躍らせて深緑の浴衣に着替え終わった真冬。真夏の暑さなんて吹き飛ばすほどに夏祭りを満喫する気だ。一度なにかを決めると他のことを考えられなくなるくらい真っ直ぐ突き進む真冬らしいのだが。

準備してきたものを持って彩の家をノックする。

 

 

「彩さーん、準備できましたか~?」

 

「出来たよー!」

 

「入りますね。」

 

 

ドアを開けた先には…

 

 

「真冬くん…どうかな?」

 

 

桃色の浴衣に身を包んだ彩がいた。花柄の浴衣にいつもは下ろしている髪をポニーテールに縛ってイメチェンに成功したみたいだ。

 

 

「すごく……かわいいです!」

 

「ホントに!?ありがとう真冬くん!」

 

「髪型も変えたんですね。すごく似合ってますよ。」

 

「そんなに誉められると照れちゃうな…//」

 

「…照れてる彩さんもかわいい。」

 

「もう…真冬くんったら。//真冬くんの浴衣もすごく似合ってるよ!かっこいいね!」

 

「エヘヘ。嬉しいです。」

 

「じゃ行こっか!手、出してほしいな!」

 

「はい!」

 

 

手を繋いで夏祭りの会場へと向かう二人。胸を躍らせているのが手の降り幅に出ているのは本人達は多分気づいていない。そして真冬と彩を羨望の眼差しで見ている大胡がいることなど知る由もない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夏祭り会場に着いた二人。夕方に差し掛かった時刻で早速二人が向かったのは…

 

 

「真冬くん、私ね、夏祭りでやりたいことがあったの。」

 

「どれなんですか?」

 

「射的!景品は真冬くんにあげる!」

 

「ホントですか!?ありがとうございます!」

 

「よ~し、真冬くんのためにも頑張るよ!」

 

 

射的ブースに到着

 

 

「見てて真冬くん!絶対景品を打ち落として見せる!」

 

「お、君たちカップルかい?」

 

「え?そうですけど…」

 

「じゃあ弾二発追加!彼女さん頑張ってくれ!」

 

「え、いいの!?ありがとうおじさん!」

 

「彩さん、僕達恋人に見えているんですね//」

 

「ホントだね。なんか嬉しいね//」

 

 

そして射的スタート。狙うには狙うが当たらない。当たってもなかなか景品が落ちない。弾が後一発しかないと言うところでついに…

 

 

「やった!打ち落とした!」

 

「彼女さんおめでとう!三等だ!」

 

「彩さんおめでとうございます!」

 

「嬉しいよ真冬くん!景品はなんだろなぁ~♪」

 

 

景品に胸を躍らせていると屋台のおじさんが景品を渡してくれた。その景品とは…

 

 

「はいよ景品!」

 

「え?なにこれ……」

 

「三等の熊の剥製のミニチュアだ!玄関にでも飾ってくれ!」

 

「あは…アハハ……」

 

 

渡されたのは熊の剥製。苦笑いが止まらなくなるのも無理はないだろう。

 

 

「彩さん…すごい景品を渡されましたね…。」

 

「うん……真冬くん、これもらっても迷惑だよね…」

 

「ううん、ください!」

 

「……え?」

 

「だって彩さんが頑張って手に入れてくれた景品なんですから。どんな景品でも僕は嬉しいですよ!」

 

 

真冬の一言は彩にとっては衝撃的であった。満面の笑みが添えられた一言に彩がする反応は一つしかなかった。

 

 

「…………」

 

「彩さん?どうしましたか?」

 

「よしよし。」

 

「ちょ、彩さん!?//」

 

 

悶絶。その後頭を撫でる。まあ今出来る最大の表現だろう。

 

 

(彼氏さんよ…いい男じゃねえか。)

 

 

屋台のおじさんはひそかに思うのみ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

日もすっかり落ちたところで真冬が恥ずかしげに提案する。

 

 

「あ、僕りんご飴食べたいんですけど彩さんも何か食べますか?僕買ってきますね。」

 

「ありがと。私もりんご飴でいいかな。」

 

「分かりました。あそこのベンチで待っててください。」

 

「うん分かった!」

 

(これ…彩さんに引かれないかな…//)

 

 

何かを思いながら五分後、真冬が彩の所へ帰ってきた。

 

 

「彩さーん、お待たせしました!」

 

「ありがと!」

 

 

真冬がベンチに座ると彩があることに気づく。

 

 

「あれ?りんご飴一つしかないよ?」

 

 

その回答は…

 

 

「二人で同じものなら…一つで充分じゃないですか……//」

 

「え、それって……//」

 

「それ以上は言わないでください…///」

 

「真冬くん大胆だね…」

 

「ごっ、ごめんなさい!嫌ですよね…す、すぐに二つ目買ってきますから!「真冬くん!」え?」

 

「一本でいいよ…//」

 

「それってつまり……//」

 

「私、嬉しいんだよ?真冬くんがここまでアタックしてくれるの。」

 

「自分でやっておいてなんか恥ずかしくなってきた……///」

 

「自爆した~?もう、かわいいんだから…ほっぺたツンツン!」

 

「もう!からかわないでくださいよ~!」

 

「エヘヘ。だって真冬くんがかわいいんだもん!」

 

「もう…彩さんを照れさせたかったのに~!!//」

 

「残念でした~!」

 

 

結局自爆した真冬。照れさせる作戦は失敗に終わった。……と、思いきや

 

 

(真冬くん……私どうすればいいの……//)

 

 

爪痕は残したようだった。二人でりんご飴を食べてるときは真冬からどんな風に見えていたのだろうか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あれ?なんだかあそこすごく盛り上がってるね。」

 

「ライブ…でしょうか?」

 

「男の人が多いみたいだけど…行ってみようか!」

 

「はい…」

 

 

この時真冬の脳裏に嫌な予感がよぎった。そしてそれはすぐさま現実となる。

 

 

「うわ!人多いね!」

 

「うう…僕身長低くて見えない……。」

 

 

真冬が見えないことを察知して彩が真冬を抱き抱えた。

 

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「どう?これで見えるかな?」

 

「はい。見えます…ってあの人は!」

 

 

ステージ上にはマイクを握りしめ全力で歌う真冬のマブダチ、大胡がいた。

 

 

「ん?真冬くんの知り合い?」

 

「彩さん!すぐに下ろしてください!」

 

「え?なんで?」

 

「あの人に僕達が一緒にいるところを見られるとヤバイんです!」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

彩が真冬を下ろして二人は大胡の歌…というより魂の叫びを聴いていた。

 

 

「俺~には~♪彼女はいらなーい!!」

 

「「ハイ!ハイ!」」

 

「す、すごい歌詞だね……」

 

「お客さんも盛り上がってますね……。」

 

 

三分後…

 

 

「皆ー!どうもありがとー!!」

 

「「ワアアアアアア」」

 

「会場が揺れてるね……」

 

「歌詞的にお付き合いされてない男性が多いのも納得できますね…。」

 

「曲が終わったってことはマイクパフォーマンスもあるってことだよね?」

 

「そうですね。なに喋るんだろう…」

 

「お前ら!彼女いないよなぁ!?」

 

「「イエエエエエエエエエイ!」」

 

「リア充、羨ましいよなぁ!?」

 

「「イエエエエエエエエエイ!!」」

 

「だけどな、今回の夏祭り、リア充が結構いるんだよ!」

 

「「えええええええええええ!?」」

 

「だがな、彼女いない歴=年齢の俺が、てめえらの気持ち歌ってやるからな!」

 

「「ワアアアアアア!!」」

 

「行くぜ二曲目!」

 

 

そして激しいドラムが鳴り響き二曲目が始まった。お分かりいただけた通り大胡の歌は彼女がいない男子諸君に突き刺さるため絶大な人気を誇っているのだ。しかし、彼女が今まさに横にいる真冬がこの会場にいれるはずもなく…

 

 

「彩さん、一旦引きましょう。なんかすごい気まずいです。」

 

「そ、そうだね……」

 

 

二人は会場からそそくさと逃げていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次に二人が訪れたのは…

 

 

「真冬くん、私スーパーボール掬いやりたいの!いい?」

 

「ボール掬い…僕もやりたいです!」

 

「よし、やろうか!おじさん!二人分お願いします!」

 

「あいよ!って、君たち青春してんなぁ…俺にもそんな時代があったんだよ。」

 

(あれ?この展開…長話を聞かされるのでは?)

 

 

真冬の予想通りこの人の青春時代を十五分ほど聞かされることになった。やはり人の惚気話というのはあまり聞きたくないものであり二人を退屈させるには充分だった。

そして惚気話もようやく終わり、いよいよボール掬いへ。まずは彩の番。

 

 

「頑張ってください!彩さん!」

 

「よ~し、頑張っちゃうよ~!」

 

 

目に力が勝手に入り彩の手が震え始める。それでも負けまいと気合いを入れてポイを水中に入れたが結果は…

 

 

「あっ………」

 

「お嬢さん残念だったなぁ。はい次!」

 

「真冬くん…私…」

 

「そ、そんなに落ち込まないでください!僕が彩さんの分までとりますから!」

 

「えっ、ホントに!?もう真冬くん大好き!」

 

「ちょっと…人前ですから…//」

 

 

屋台のおじさんがよくない目で見てくることもあって真冬の恥ずかしさが最高潮に達したところで真冬の番。真冬はいつになったら彩に抱きつかれるのに慣れるのだろうか。

 

 

「集中して……力を抜いて……一瞬で取る!やった!彩さん、まず一つ目取れましたよ!」

 

「す、すごい真冬くん……」

 

「この調子で二つ目も……よっと。やった!二つ目も取れた!」

 

「あんちゃんやるじゃねえか!あい、ボール2つ!」

 

「取りましたよ!これが僕の分で……はい、これが彩さんの!」

 

「ありがとう!真冬くん、宣言通り2つとったね。やっぱりすごいよ真冬くん!」

 

「そんなに誉めないでくださいよ……照れるので///」

 

「恥ずかしがりやさんだなぁ……ほっぺたツンツン!」

 

 

いちゃつきながら屋台を去っていく二人。その姿を見てかつての青春時代を重ねる屋台のおっちゃんだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さて、いよいよ夏祭りのクライマックスの花火だよ!」

 

「ですけど彩さん……」

 

「ん?どうかしたの?」

 

「なんでこんなに暗い山奥なんですか?」

 

 

花火を見ようとする二人。しかし彩が真冬を連れてきたところは人気のない、暗い山奥だった。

そしてその山道を登ること数分後、ベンチがポツリと置いてある見晴らしのいいところまで来た。

 

 

「到着!」

 

「あれ、この街にこんなに見晴らしのいい場所があったんですね。僕知らなかった。」

 

「多分ここに来るの私だけだと思うよ。ここなら誰にも邪魔されずに思う存分花火が見れるよ!」

 

「そうなんですね。」

 

 

ベンチに二人が腰掛け、真冬が何かを喋り出そうとする。

 

 

「彩さん…」

 

「ん?どうしたの?」

 

「ぼ、僕…その…」

 

「あ!花火が始まったよ!」

 

「え?あっ……」

 

 

何かを喋り出そうとした真冬を花火が遮る。罰の悪そうにする真冬の隣で彩は花火を笑顔で見ていた。二人の顔がほんのり様々な色に染まる。

 

 

「きれいだね……」

 

「……そうですね。」

 

 

暫く無言で花火を眺める二人。そして彩が切り出す。

 

 

「ねえ真冬くん。さっき話そうとしてたことって何?」

 

「あ、それなんですけどね……僕、彩さんに告白したこともされたことも覚えてないじゃないですか。」

 

「え?う、うんそうだね……」

 

「だから…告白代わりと入ってはなんですが……彩さん!!」

 

「は、はい!」

 

こっ、これからも、僕と一緒にいてください!よろしくお願いします!

 

 

花火の号砲にも負けない渾身の大声での彩への告白。正直この発言がなんなのかなんて真冬にはどうでもよかった。面と向かっての真冬の告白に彩の返答は…

 

 

「……」

 

「あ、彩さん?やっぱり……いきなりこんなこと言われると困っちゃいますよね……」

 

「ううん違うの!」

 

「え?」

 

「私、真冬くんともっと一緒にいたいと思ったから!だからその告白、私、凄く嬉しい……//」

 

「彩さん……//」

 

「真冬くん、目、閉じて。」

 

「えっと…こうですか?」

 

「そうそう。行くよ?」

 

「はい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チュ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

「真冬くん、びっくりしちゃったかな?//」

 

「ち、ちち違いますよ彩さん!//その…」

 

「ん~?」

 

「嬉しかったです。//」

 

「エヘヘ。そっか。」

 

 

花火に照らされた彩の笑顔が真冬の心を撃つ。

 

 

「来年も……また来ましょうね。」

 

「来年、か……また来たいね。」

 

「帰りましょうか。」

 

「……うん。」

 

 

真っ直ぐな真冬とは対照的に不安が襲いかかる彩。それでも決心は変わっていないはずなのだ。

 

 

(絶対私が真冬くんを守る。そう決めたはずなのに…なんでこんなに弱気になってるの…。私のバカ。)




読了、ありがとうございました!


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記憶のヒントを集める感じです(上)

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ありがとうございました!

また、MIC Drop様には☆9の評価を頂きました。6話にしてもう二人の方に評価していただき感激です!

本編どうぞ!


来るべき8/13。早朝から少しばかり真冬が意気込んでいた。駅のホームに着いた頃にはもう眠気なんてなかったのである。

 

 

「真冬くん?」

 

「…」

 

「おーい、真冬くん?」

 

「!?は、はい!」

 

「緊張しすぎなんじゃない?もうちょっとリラックスしてもいいと思うよ。」

 

「そうしたいのは山々ですけど…自分の記憶を取り戻すってなるとなんか意気込んじゃって……」

 

「うーん、真冬くんらしいといえば真冬くんらしいけど。そうだ!真冬くんがそんなに肩張ってるなら私が肩揉んであげるね!」

 

「えっ、そんな………ふにゃぁ…」

 

 

少しだけいちゃついていると岐阜行きの新幹線が来たので早速乗り込んだ。新幹線内ではまあ大人しくしてた…とは言いがたい。相変わらず彩のアタックが凄まじい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ということで着きましたね。」

 

「そうだね。と言ってもそんなに自然豊かな感じではないんだね。」

 

「僕の実家は駅近くなのでここから歩いていくつもりですけど…いいですか?」

 

「うん、大丈夫だよ。」

 

「手、繋ぎましょうか。」

 

「……うん。」

 

 

彩の、真冬を握る手はいつも以上に力が入っていた。

 

 

(お願い…無事に終わって。記憶が戻るなんてことがありませんように。)

 

 

その願いは誰に届くのか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「彩さん、手に力が入ってますけど大丈夫ですか?どこか具合が悪いとか……」

 

「え?ううん!な、なんでもないよ!」

 

「そうですか……ここが僕の実家です。入りましょうか。」

 

「……うん。」

 

(なんかいつもと様子が違う……変な彩さん。)

 

 

古風な家のインターホンを淡々と鳴らすとガラッと玄関のドアが開いた。そして中から明らかに厳格そうな男が現れた。

 

 

「真冬か。元気にしておったか。」

 

「うん。」

 

 

真冬の父、高部鉄である。

 

 

「彩さんも元気そうですな。いつも真冬が世話になっております。」

 

「いえいえ!むしろ私が真冬くんの世話になってるくらいです。」

 

「まあまあ、立ち話もここまでにして中に入っておくんなせえ。」

 

 

そうして二人は家内へと足を踏み入れる。どこまでも真っ直ぐな目をしている真冬とは対照的に彩の目には不安が宿っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

木造の屋根と畳といった和風な居間に二人が横並びに座った。そして二人の対面に真冬の父が座禅で座る。その姿から威厳を感じとることは容易い。

 

 

「真冬。東京での生活はどうじゃ。」

 

「順調だよ。学校でもいい友達に恵まれたし、学業でも特に問題はないよ。後は……彩さんの存在が大きいね。」

 

「ほう……彩さんには感謝してもしきれませんな。」

 

「私も、真冬くんにはいっぱいお世話になってるところもあります。私が感謝したいところです。」

 

「そうですか。さぞかし楽しんでいるようですな。」

 

「あ、そうだ。父さん。」

 

「なんだ?」

 

「母さんに線香あげてもいいかな?」

 

「ああ。あげていってくれ。」

 

「それなら私も。」

 

「ありがとうございます。きっと、天国で母さんも喜んでいることでしょう。」

 

 

そして線香をあげる二人。あげ終わると彩が切り出した。

 

 

「そういえば真冬くん。記憶がないって言ってるけどいつ頃からの記憶がないの?私聞いたことなかったよ。」

 

「うーんと…だいたい小学校に入学したくらいから中学3年の冬まで記憶が無いんです。」

 

「結構忘れてるんだね……」

 

「卒業アルバム見ても何もピンと来ないし……僕どうしたら…。あ、父さん。中学の頃の卒業アルバムってどこにあるの?」

 

「真冬が東京に持っていったのではないのか?」

 

「違うよ。持っていってないもん。」

 

「どういうことだ?この家にもないぞ?」

 

「絶対おかしいよ!あんなに目立つものをなくすなんてこと無いよ!」

 

「まあまあ真冬くん。もう一回自分の部屋とかを探してみたらどう?案外簡単に見つかったりするかもよ。」

 

「彩さんが言うなら……父さん、僕探してくる。」

 

「そ、そうか……」

 

 

そう言って真冬は2階への階段を全力で駆け上がった。真冬が行った後の居間には数秒の静寂が流れたがその後二人は一つ、息をついた。

 

 

「ふぅ……でもどうしたら…」

 

「卒業アルバムが見つかることはありません。そう簡単に記憶が戻ることは……」

 

「で、でも!ここで真冬くんを諦めさせないといつ記憶が戻るか分かりませんよ!もし真冬くんの記憶が戻っちゃったら……」

 

「落ち着いてください!もし記憶が戻ったとしても真冬ならきっと耐えられるはず。」

 

「でもこの作戦に加担したのは真冬くんが心配なんだからじゃないんですか…?」

 

「……」

 

「真冬くんを諦めさせましょう。そうしたら真冬くんは知らなくていいことを知ることは無いんですから…。」

 

 

無理やり彩が父を丸め込んだ。知らなくていいことを知る恐ろしさというナイフで父を丸め込んだのだ。

そして真冬が2階から帰ってきた。

 

 

「うーん……無かったなぁ……。」

 

「真冬。」

 

「なぁに?」

 

「今更だが、なぜそこまでして記憶を取り戻したいのだ。もしかしたら、知らないほうがいいこともあるのかもしれないのだぞ?」

 

「それでもいい。僕が知りたいだけ。」

 

「本当にいいのか?」

 

「……え?」

 

「思い出したくないことを思い出してそれに縛られてしまうことだってあるのだぞ?だったら「うるさい!!」っ!?」

 

「僕がそんなに弱いと思ってるの?そんなに信じられないの!?だったら見せてあげるよ……そんな記憶にも立ち向かうだけの勇気があるってことを!!」

 

「真冬くん……」

 

「とりあえず外に出て思い出せるか試してみる。彩さんはゆっくりしてください……」

 

「あっ、待って真冬くん!」

 

 

悔しさを目ににじませて真冬は勢いよく外へ飛び出していった。唖然とする鉄。面を食らった顔であった。

 

 

「私、真冬くんを追いかけてきます。」

 

「真冬を……頼みます。」

 

「……はい。」

 

 

鉄は彩の背中をずっと見守り続ける。それと同時に真冬に想いを馳せる。

 

 

(真冬……。私が過小評価しすぎていたのか……。信じきれずに…すまんな。)

 

 

一方彩は全速力で街を走り回っていた。

 

 

(私……真冬くんを守るって言ってるのに……これじゃ裏切り者じゃん……。彼女失格だね……。)




読了、ありがとうございました!


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記憶のヒントを集める感じです(下)

新たにお気に入り登録してくださった
風見なぎと様
エネゴリくん様
☆9の評価をつけていただいた
風見なぎと様
ありがとうございました!二話連続で評価を頂けるなんて光栄です。また、投稿する度にお気に入り登録してくださる人が増えてくのもまた嬉しいです。

本編どうぞ!


「ここなら……誰も来ないよね……」

 

 

真冬は高部家から走って10分程の土手に来ていた。車通りが多いコンクリート製の橋の真下、全く日が当たらないところでただひたすらに佇んでは流れる川をボーッと眺めていた。

 

 

「なんで…僕を信じてくれないんだろう……」

 

 

記憶のことに関して…どころか真冬は幼い時から父にはあまり信用されずに育ってきた。昔から父に信用されてこなかったのは慣れっこな真冬の目には何の理由かは知らないが涙がこぼれていた。

一人で沈んでいること20分、コンクリート製の橋の柱から声がかかった。

 

 

「やっぱり。真冬くん、ここにいたんだね。」

 

「…………彩さん?」

 

 

真冬の脳内を引っ掻き回す事案が発生。彩に居場所を伝えずに家を飛び出したはずなのにその場所を彩に当てられた。いつもなら驚く真冬だが今回はそうでもない。驚嘆より悔しさの方が勝っているからだ。

 

 

「どうしてここが……?」

 

「……なんとなく、かな。」

 

 

気になることが多すぎた真冬だがそれ以上は聞かない。聞く気力も無かった。

 

 

「僕……父さんに信用されてないんですよ。」

 

「……」

 

「さっきだけじゃない。今までもそうだ。僕は信用されてこなかった。」

 

「……」

 

「都内一の高校に入って見返そうと思ったのに効果は0。もう……悔しいよ……。」

 

「真冬くん…」

 

「だから彩さん……僕のこと、放っておいてください。」

 

「……出来ないよ。」

 

「なんでですか。こんなにネガティブなことばかり言ってる僕の近くにいたら彩さんまでネガティブになりますよ。」

 

「違う。」

 

「違わないですよ。こんなに弱い僕が許せない。そんな怒りを彩さんの前で見せたくない!」

 

「…」

 

頼むから放っておいてください!こんな僕…誰にも見せたくないんです!

 

 

心からの叫びを彩の心でしっかり受け止める。その彩がやる行動はただ一つ______包容であった。

 

 

「放っておけないよ。」

 

「なんでですか…。こんな僕、嫌じゃないんですか?」

 

「嫌なわけ無いよ。そういうところまで含めて、私は真冬くんのことを好きになったんだから。」

 

「……」

 

「辛かったら私がいるよ。いつでも抱きしめてあげるからね。」

 

 

短いやり取りだった。だけど甘い蜜だった。

その甘い蜜の誘惑に勝てるはずもない。荒んでいた真冬の心に甘い蜜が染み渡る。

もう何の涙かは分からない。だが涙腺が決壊した真冬はしばらく彩の胸の中にいた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「はい……ごめんなさい。」

 

「いいんだよ、謝らなくて。」

 

「でも…」

 

「?」

 

「彩さんと一緒にいると、なんか落ち着くんです。えへっ、なんででしょうね。」

 

「それは…私にも分からないかな。」

 

「……そうですか。」

 

「でも安心したよ。真冬くんに少し笑顔が戻ってきたからね。」

 

「やっぱり……彩さんと一緒に来れて良かったです。」

 

「……そっか。」

 

 

優しい笑顔で返答した彩。一段落したところで真冬が踏み込む。

 

 

「そういえばここって……」

 

「ん?どうかしたの?」

 

「なんか見覚えあるんだよなぁ……」

 

「……え?」

 

「う~ん……見覚えあるのに思い出せない。」

 

「そんな……無理して思い出そうとする必要もないんじゃないかな。自然に思い出せると思うけど……」

 

「でもなんか思い出せそうで思い出せなくて……不思議ですね。」

 

「そうなんだ…。」

 

 

この風景に心当たりがあるという真冬。思い出せそうという言葉に反応しそうだったがその心を引っ込めた。

 

 

(真冬くん……この風景ね、私も見覚えあるんだ。忘れもしないよ。)

 

 

真冬を無理させないように彩がまた話を切り出す。

 

 

「ねぇ真冬くん、先に言っておかなきゃいけないことがあるんだけど……いいかな?」

 

「え?なんですか?」

 

「もし真冬くんが記憶を思い出せたとして……真冬くんのトラウマまで思い出しちゃったら……そのときは無理せず私に言ってね。私、真冬くんを支えるって決めたんだから。」

 

「……あ、ありがとうございます!」

 

(うんうん。真冬くんと言ったらこの笑顔だよ~。はぁー癒される。)

 

「あ、そうだ。行きたいところがあるんですけどいいですか?」

 

「うん、いいよ。どこなの?」

 

「それは……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ここです。」

 

「ここって……真冬くんが通ってた中学校?」

 

「そうです。唯一中学のアルバムだけなかったので見ておきたかったんです。」

 

「そうなんだ。」

 

「何か思い出せるといいけど……すこし回ってみますね。」

 

「うん、そうしよっか。」 

 

 

真冬は彩と共に校舎の周りを一周してきた。もう少しで一周するというところで真冬の足が止まった。

 

 

「あれ、ここは……」

 

「ん?見覚えあるところ?」

 

「はい…さっきの橋の下と同じでうっすらと見覚えがあります。」

 

「そうなんだ……」

 

「ちょっと待っててください…なんか思い出せそうなんで……」

 

 

そうして少ないヒントを便りに記憶の迷路を辿っていった。そして三分ほどした後、真冬に異変が襲いかかる。

 

 

「うっ……!あ……あああ……ああああ!!!」

 

「っ!?どうしたの!真冬くん!!」

 

「何……この情景は……あああ……っぁぁぁぁ!」

 

「真冬くん!」

 

 

テレビの電源がついたかのようにいきなり真冬の脳内に表れた風景とは中学時代の……鈍器を持った大勢の人々に囲まれている風景だった。

あの日が沈んでいた橋の下で何があったかは分からないが真冬にとって恐怖の対象であることに変わりはない。

 

 

「はぁっ…はぁっ……なんだったんだ……」

 

「大丈夫だった!?真冬くん!!」

 

「あ、…彩さん……なんとか大丈夫でした……。」

 

 

一瞬ではあったが真冬には恐怖として刻まれた映像。だがなんとかしのいだようだ。

 

 

「取り敢えず、気を失わなくてよかったよ……。突発的なものだとそういうこともあるらしいからね。」

 

「はい……」

 

「一旦実家に戻ろうか。立てる?」

 

「それが……腰抜けちゃって……」

 

「そっか。じゃあおんぶしてあげるね。」

 

「えっ!?い、いいんですか?//」

 

「何~?緊張してるの~?」

 

「そ、そそんな訳無いじゃないですか。」

 

「緊張してるのがバレバレだよ。ほら、乗っていいよ。」

 

「は、はい……//」

 

「じゃあ、レッツゴー!」

 

(彩さんのおんぶ気持ちいい……)

 

(とうとう記憶の片鱗が出てきちゃったのか……全部思い出すのも時間の問題なのかな。そしたら……もう真冬くんとは一緒にいられないね。)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「じゃあ父さん、僕達帰るよ。」

 

「そうか……すまないな。信じてあげられなくてな。」

 

「……もういい。」

 

「真冬くんのことは私に任せてください。しっかり支えますから!」

 

「彩さん……私の息子を、頼みましたぞ。」

 

「じゃあね、父さん。」

 

 

その帰り道の新幹線でのことだった。

 

 

「ねえ真冬くん。」

 

「なんですか?」

 

「ちょっと嫌なこと思い出しちゃったでしょ?」

 

「え?ええ……」

 

「だからね、明日、海行こうよ!」

 

「海…ですか?」

 

「だめ?」

 

「いいですよ。僕も行きたかったので。海水浴ですか?」

 

「そう!二人だけのハネムーンだよ?」

 

「……」

 

「真冬くん?」

 

「あ、ああごめんなさい。」

 

「ボーッとしちゃってました……」

 

「もしかして私の水着姿を想像してた?エッチなんだから~」

 

「し、してないですよ!//」

 

「エヘヘ、また楽しみが増えたね。」

 

「エヘヘ…そうですね!」

 

 

想いをのせて、彩は真冬の小さい手を優しく握りしめた。




読了、ありがとうございました!


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海で思いっきり遊ぶ感じです

長らく時間を空けてしまい申し訳ありませんでした。
なかなか構想が固まらなくてつい手間取ってしまいました。

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ありがとうございました!

今回は5000字と自分のなかではかなり長くなりましたが最後までお付き合いください。

本編どうぞ!


「さて……後は彩さんを待つだけだね……。」

 

 

真冬の帰省の翌日。二人は静岡のとある海水浴場に来ていた。皮膚に照りつける太陽光と雲一つ無い晴天がはしゃげと言わんばかりに夏を象徴している。現在真冬がパラソルやら何やらのセッティングを完了して彩が来るのを待っていた。辛いことがあった分、彩と思いっきり遊ぶことができることに胸を躍らせているのかその心の高まりが鼻歌に表れている。

 

それから待つこと一分後……

 

 

「お待たせ真冬くん!」

 

「わっ!ビックリした~……いきなり抱きつかないでくださいよ……//」

 

「もう…真冬くん、私達付き合ってから結構経ったのにまだハグに慣れてないの?そろそろ慣れてほしいな~。」

 

「そういう彩さんこそ……ッ!//」

 

「ん?どうしたの?」

 

 

真冬が振り返るとそこにはフリルビキニ姿の彩がいた。淡いピンクで無自覚にも真冬の顔が赤くなっていく。そのせいか真冬の動きがピタリと硬直してしまったが数秒してなんとか言葉を振り絞った。

 

 

「す、すごくかわいいです……///」

 

「!ホントに!?すっごく嬉しいよ!この水着ね、真冬くんに喜んでもらうために時間かけて選んだの。エヘヘ、真冬くんに誉めてもらっちゃった!」

 

「……//」

 

「あれ?真冬くんどうしたの?」

 

「いっ、いえ!大丈夫ですよ!」

 

「そんなこと言って……私に視線が釘付けだよ?」

 

「えっ!?ごっ、ごめんなさい!//嫌ですよね……。」

 

「ううん、むしろ嬉しいよ!だって今日の私をかわいいって思ってくれてるんでしょ?恥ずかしがらなくていいんだよ。」

 

「そうですか…//でも自然と顔が赤くなっちゃう…。」

 

「そういうところ、私は大好きだよ!さ、速く行こ!」

 

「あっ、でもその前に…」

 

「ん?何かあったっけ?」

 

「日焼け止めを塗っとかないと帰る頃に皮膚が痛んじゃいますよ。」

 

「そっか。真冬くんが今シャツを着てても日焼けしちゃうかもね。じゃあ私が塗ってあげるね。横になって。」

 

「あ、お願いします。」

 

「あっ、これ結構冷たい……。いくよ~。」

 

「ひゃんっ!」

 

「ごっ、ごめん!くすぐったいかな……。」

 

「だ、大丈夫ですよ!これくらい……。ひゃん!」

 

「あ、真冬くんが脇に弱いの忘れてた…。こしょこしょこしょ~」

 

「アハハハ!くすぐったいですよ~!」

 

「もっといくよ~!」

 

「ちょっとやめてくださ~い!アハハハ!」

 

 

二分後

 

 

「ハア…ハア…今度は僕が塗りますね…。」

 

「ごめん…調子にのっちゃった……。疲れちゃった?」

 

「ううん、大丈夫ですよ!彩さんも冷たかったら言ってくださいね。一応冷たくしないようにはしますけど…」

 

「うん、ありがとう。」

 

「じゃ、背中行きますね。」

 

「っ!ひゃん!///」

 

「!ごっ、ごめんなさい!さっき冷たくしないようにするって言ったのに……」

 

「ううん…大丈夫だよ。続けて塗っちゃってほしいな。」

 

「あ、お尻塗りますけどいいですか?」

 

「うん、いいよ。」

 

「ぴとっ」

 

「ひゃんっ!///あぁぁん///」

 

「えぇっ!?」

 

「ごめん…いきなりで驚いちゃったよね……。」

 

「いっ、いえ!このまま塗りますね!(彩さんってたまに色っぽい声出すんだよね…。セクシーな一面も持ってるんだなぁ…。)」

 

「うん、おねがい。(マッサージみたいで気持ちいい……。)」

 

 

三分後

 

 

「よし!お互いに塗り終わりましたね!」

 

「じゃあ海に入ろっか!」

 

「「せーの!」」

 

 

じゃぶーん

 

 

「プハァ!冷たくて気持ちいい~!」

 

「ですね!あ、僕浮き輪使っていいですか?」

 

「いいよ!じゃあ私押してあげるね!」

 

「よっこいしょ……じゃあおねがいします!」

 

「いくよ~?すいすいすい~!」

 

「キャハハハハハ!楽しい~!」

 

「まだまだ行くよ~!すいすい~!」

 

「アハハハハハハハ!」

 

(いつもしっかりしてる真冬くんだけど……こういう子供っぽい一面もまたかわいいんだよね…。)

 

「アハハハハ!ってうわっ!」

 

「わあ!浮き輪から落ちちゃった!」

 

「ブクブクブク……プハァ!あはは……真っ逆さまに落ちちゃいました……。」

 

「ビックリした~!いきなりだよ~。」

 

「彩さんは大丈夫ですか?僕の足が当たっちゃったり……」

 

「大丈夫だよ。こんなときまで私の心配をして……もうっ!真冬くん大好き~!」

 

「あ、彩さん!?」

 

 

急に抱きつかれたもので焦る真冬。彩の質のいい素肌を顔で感じ取っているためまた顔が最高潮に赤くなっている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「彩さん、こんなのを持ってきました!」

 

「水鉄砲?」

 

「はい!そこそこ値段が高かったのでこれは期待できますよ。はい、彩さんの!」

 

「ありがと。えーと……ここに水を入れるのかな…?」

 

「隙あり~!」

 

「きゃ!」

 

「えへへ。先制攻撃で撃たせてもらいましたよ、彩さん!」

 

「やったな~?くらえ~!」

 

「うわっ!」

 

「お返しの水鉄砲だよ!まだまだ~!」

 

「キャハハハハハ!僕もやられっぱなしじゃないですよ~!」

 

「あはは!楽し~い!」

 

 

水鉄砲で全力で楽しむ二人。一方二人とは別で海に来ていた"ある男"がその光景を見ていた。

 

 

「あれは…真冬とその彼女さん?だよな、間違いねえ!……チクショウ、夏休みを満喫してやがる……くっそぉぉぉぉぉ!俺も彼女ほしいいいいいいいい!」

 

 

真冬の親友、大胡だ。男友達と来ていてたまたま同じ海で巡り会ってしまった。その悲痛な叫びは誰にも届かなかった。

 

 

「ん?」

 

「真冬くん、どうかした?」

 

「どこからか聞いたことのある声が……」

 

「え?なにそれ怖い……」

 

「まあ気のせいですよね!」

 

「そっか。じゃあ続き!くらえ~!」

 

「キャハハハ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ちょっとそこのお姉さーん!」

 

「え?彩さんのこと呼んでるのかな?」

 

「ど、どうなんだろ……」

 

「そこのピンク髪のお姉さーん!」

 

「あ、私のことだった……。はい…なんですか?」

 

 

真冬と彩が振り返るとそこには金髪の男が六人揃っていた。ネックレスや入れ墨も見えており、柄が悪いことがうかがえる。二人ともポカンとしていたがそれは次第に恐怖へと変わる。

 

 

「お姉さんきれいだよね~。よかったら俺達と遊んでかない?」

 

「彩さん…これって……」

 

「うん、ナンパだね。」

 

「ここは僕が……」

 

「え?」

 

「あの~、この人は僕の彼女です。悪いですがナンパなら他を当たってくれませんか。」

 

「あのなおちびちゃん。俺らはそこのお姉さんに用があるんだよ。テメエは引っ込んでな。」

 

「引っ込んでなんていられません!人の恋人をナンパして奪おうだなんて……そんなの僕が許さない!」

 

「真冬くん……//」

 

「テメエな……用がねえつってんだろ!これ以上楯突くなら容赦しねえぞ!?あぁ!?」

 

「……」

 

 

真冬の、彩の手を握る手は震えてる。それでも気持ちが先走る真冬が出す結論は一つだった。

 

 

「やってみろ!」

 

「!?」

 

「真冬くん!?」

 

「……ハハハ!そうかいそうかい!なら一発!」

 

 

男は拳を振りかぶって真冬の顔面へと放った。鈍い音と共に拳が真冬の顔面にぶつかる_____直前でその拳が止まった。いや止めたのだ。彩が。

 

 

「な!?」

 

「今……私の彼氏に手を出そうとしたよね。」

 

「!?いだだだだだ!テメエ!なんつう馬鹿力なんだよ!」

 

「もし手を出して怪我でもさせたら……ただじゃおかないよ。絶対に手出しはさせない。」

 

「………」

 

「彩さん……」

 

「……ハハハ、そうかよ。だけど、それは素手だったらの話だろ?」

 

「…どういうこと?」

 

「こういうことだよ。やれ!」

 

「ああっ!」

 

 

真冬の後頭部から鈍く、甲高い音が鳴り響いた。真冬は銀色のパイプの先端だけを目に入れてそのまま意識を手放そうとしたが、朦朧としながらもなんとか耐えている。

 

 

「真冬くん……?真冬くん!?」

 

「あ……あぁ……」

 

「絶対に手出しはさせないとか抜かしてたな!じゃあ後ろからの攻撃はどうなんだよ!あぁ!?」

 

「真冬くん……ごめんね。」

 

「これで分かっただろ?俺らに歯向かうとどうなるかをな!ハハハ…ぶほぉっ!」

 

「……許さない。」

 

 

怒りに任せ、ただただ拳をふりつづける。その彩の姿が真冬には恐怖としか映らない。そして達の悪い男達は逃げていったが、彩の頭の中は焦りと謝罪の気持ちでいっぱいになっていた。

 

 

「彩…さん……僕……」

 

「真冬くん!?大丈夫!?真冬くん!ま……くん……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

目が覚めると真冬は先程のパラソルの下にいることに気付いた。それと同時に真冬の頭が彩の胸の中にいることにも気付いた。

 

 

「ううん……あれ…?僕…無事だったの……?」

 

「!真冬くん……目が覚めた?」

 

「彩さん……あれ?この包帯は?」

 

「真冬くんをここに運んでから私が手当てしたの。幸い出血してなくて良かった……。その様子だと…脳の方にも影響は無さそうだね。」

 

「ありがとうございます、彩さん。僕のこと助けてもらって……」

 

「ううん、結果的に真冬くんに怪我させちゃったんだもん。お礼はいらないよ。」

 

「それでも……彩さんが手当てしてくれなかったら今頃どうなってたか……彩さんは僕にとっての命の恩人なんです。」

 

「真冬くん……大好き。」

 

「えへへ、彩の胸の中にいると嬉しくなっちゃうんです。彩さんのことが好きだからなのかな……。」

 

「そっか……。帰る前に私の大学の病院に行こっか。真冬くんの頭の検査しとかないとね。私も付き添うよ。」

 

「ありがとうございます。やっぱり彩さんは頼もしいです!」

 

「日もすっかり暮れちゃったし帰ろっか。あ、なんかやり残したことある?」

 

「うーん……いっぱい遊んだし、後悔はないです!」

 

「そっか。立てる?介助してあげるね。」

 

「あ、お願いします。」

 

「せーの、よっこいしょ。」

 

「よっ、と……あれ?」

 

「ん?どうかしたの?」

 

「彩さんのお尻から血が……」

 

「血!?そういえばさっきからなんか痛いと思ったら……」

 

「磯の方に行ったときに多分蟹に挟まれたんですよ。ちょっと待ってくださいね、絆創膏が確か……あった。貼りますね。」

 

「ん、ありがとう。」

 

 

ぷにっ

 

 

「ひゃんっ!//」

 

「あっ!彩さんごめんなさい!触られるの嫌でしたよね…」

 

「ううん、真冬くんならいいんだよ……//」

 

「なんかこっちまで恥ずかしくなってきた……//」

 

「それにしてもよく血が出てるなんて気付いたね。もしかして私のキュートなお尻にずっと釘付けだったのかな~?」

 

「そ、そうじゃないですよ!」

 

「いいんだよ。私のお尻揉みたいんでしょ?」

 

「えっ……//」

 

「すこしだけならね……//」

 

「………はい//」

 

 

結構長い時間触っていた。また一歩大人の階段を上った真冬なのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夕日が差し込んで淡い緋色の空間が出来上がった電車内には人気は全く感じられず、真冬と彩だけが座っていた。華やかさの欠片もないプラトニックな空間で今日のことを振り返っていた。

 

 

「でも彩さん、包帯を巻けるなんてすごいですね。すごくカッコいいですよ!」

 

「真冬くんから誉められると照れちゃうなぁ~。私文系の学部に行ったのになぜか包帯の巻き方を習ったんだよね。でも習っておいて良かった~。」

 

「なんか……最近このままでいいのかなって……」

 

「ん?どういうこと?」

 

「彩さんに守られっぱなしで…甘えっぱなしで……本当にこんなんでいいのかなって……」

 

「うーん……全然そんなこと気にする必要無いと思うけどな~。」

 

「え?どうしてですか?」

 

「いつも勉強頑張ってるけど、あれっていい大学行っていい企業に就職して私を贅沢させたいからなんでしょ?」

 

「えぇっ!?いつ聞いてたんですか!?」

 

「昨日だよ。実家で真冬くんがお父さんとそんな話してたのをたまたま聞いちゃってね……。キュンってしちゃった。」

 

「……//」

 

「守られっぱなしでって言ってるけどそんなこと無いと思うよ。さっきだって体をはって私のこと守ろうとしてくれたじゃん。」

 

「でもあれは……結果的に彩さんに守られてたのであって…」

 

「それだけじゃないよ。」

 

「え?」

 

「無くなった写真の分だけ楽しんじゃえばいいって。あれ言ってくれて私、すごく嬉しかったんだよ?」

 

「………」

 

「あといつもしっかりしてる真冬くんが私に甘えるの結構好きなんだけどな~。ギャップ萌えなのかな?」

 

「それは……」

 

「とにかく!真冬くんだって頼れる彼氏なんだよ。お互い支えあってこそカップルだよ!」

 

「……そうですね!ありがとうございます!」

 

「うんうん。その笑顔こそ真冬くんって感じだよ!というかこの際不安なことを全部吐き出しちゃおうよ!なんかあるかな?」

 

「あ、不安ではないんですけど一つ気になることが………」

 

「ん?」

 

「さっき男が数人僕を襲おうとしたところを彩さんが助けてくれたわけですが……以前にもこんなことがあった気がしてならないんです。」

 

「………え?」

 

「うーん…記憶がなくなる前の話なのかな……。」

 

「そんな……無理して思い出さなくても……」

 

 

思考回路をフルスピードで巡らせてなんとか答えを出そうとする真冬。そしてその行動が予想だにしない結果を招いた。

 

 

「ぐぅっ!」

 

「?」

 

「あああぁ………ぁぁぁアアアア!!」

 

「えっ?真冬くん!?どうしたの!?」

 

「うあああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 

突如真冬の脳内のテレビジョンに昔の記憶が次々に写し出されていった。小学校の校舎……そのときの友達……自分の母親……夕暮れの高架下……大勢の取り巻き……手を差しのべるピンク髪の女性……

あまりにも目まぐるしく写し出される情報が収まると同時に思いがけないことが起きた。

 

 

「ハア……ハア……」

 

「真冬くん……?落ち着いた……?」

 

「彩さん……。僕……」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「記憶を………取り戻しました。」

 




前編と後編に分けても良かったかな?でもそれだと読者様が飽きちゃうか……

いかがでしたでしょうか。そろそろこの小説もクライマックスです。
読了、ありがとうございました!


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真実を知る感じです

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ありがとうございました!

本編どうぞ!


大学病院の待合室にて… 

 

「真冬くん、どうだった?」

 

「幸いなことに異常は無いみたいです。お医者さんもビックリしてましたよ。」

 

「そっか。そっちは安心したよ。」

 

「そっちは?どういうことですか?」

 

「ほら……記憶、全部取り戻したんでしょ?」

 

「は、はい……。」

 

「それで嫌なこととかトラウマも一緒に思い出しちゃったとかあったら……真冬くん、大丈夫かなって…。」

 

 

先程の海水浴で思わぬハプニングが起きた。そう、真冬の記憶が全て戻ったのだ。ハプニングだったため真冬も全てを受け入れることができたわけではない。今も戸惑っているのだ。

それに記憶が戻ったことは良いことだけではない。知らなくていいこと、例えばトラウマなど。それらを一緒に思い出した影響を彩は心配しているのだ。

 

 

「トラウマですか……確かに一緒に思い出しちゃってすこし怖いですよ。大勢の人に囲まれた時とかすごく怖いんです。」

 

「囲まれた……やっぱり……」

 

「ん?何か言いましたか?」

 

「え?ううん何でもないよ!」

 

「そ、そうですか…。それで、怖いんですけど彩さんが一緒にいるとなぜか安心するんです。」

 

「私と……?」

 

「そうです。だから、僕は大丈夫です!だって彩さんが一緒にいてくれるんだから!えへへ……」

 

「真冬くん……」

 

 

嬉しさと同時に困惑もあった。笑顔で話す真冬だが、それとは裏腹に真冬の手が震えている。彩はそれを見逃さなかった。

 

 

「真冬くん、帰ったら真冬くんのお部屋にお邪魔していいかな?」

 

「え?いいですけど……」

 

「よかった。記憶が戻ったら話したかったことがあったの。真冬くんも気になることがあるでしょ?」

 

「え……やっぱり分かってるんですか?」

 

「うん。多分その話の真実を話したら……真冬くん、私のことを嫌いになっちゃうかもしれないけど…それでもいい?」

 

「そんな……そんなこと言わないでくださいよ……。」

 

「ごめんね…」

 

「とりあえず帰りましょうよ。僕も心の準備はできているので。」

 

「そっか。じゃあ帰ろっか。真冬くん、立てる?」

 

「はい、お陰さまで立てるようになりました。」

 

「よかったぁ……。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

真冬の家にて…

 

「それで…真冬くん、私に聞きたいことあるでしょ?なんでもいいよ。」

 

「それなら……一つ……」

 

「うん。」

 

「なんで彩さんは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の恋人でいるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……やっぱりそこだよね……」

 

「僕は大勢の不良に襲われて意識を失い、気がつけば病院のベッドにいました。彩さんと初めて会ったのは病院です。僕は彩さんに告白した覚えもされた覚えもない。なのに……なんで僕の恋人を名乗っているんですか?」

 

「……今まで騙してたことがあるの…ごめんね。」

 

「いえ……僕は本当の事が知りたいだけなんです。それがたとえ騙されていたとしても……。彩さん、話してください。」

 

「そっか。じゃあ本当のこと話すね。」

 

「……お願いします。」

 

「真冬くんと初めて会ったのは病院じゃなくて……ある高架下なの。今から一年前の8月の事だった。夕方くらいだね。」

 

「……え?」

 

「真冬くんがある小さい男の子を大勢の不良からかばって……その結果、真冬くんは気絶するまで殴られ続けた。」

 

「は、はい……そこまでは覚えてます。」

 

「当時まだ高校生だった私はたまたまその現場の近くを通りかかってね……通りかかったときには既に真冬くんは倒れていたよ。」

 

「……」

 

「それでも殴り続けようとした不良達に私は何かがプツンと切れて……その不良達を全員……ね。」

 

「えっ………彩さん……?」

 

「片付け終わった後急いで真冬くんの意識を確認したんだけど反応がなかったから私は救急車を呼んだよ。」

 

「そうだったんだ……それで僕が意識を取り戻して彩さんと病室で会った…」

 

「そういうことだね。」

 

「それで……本題にはいるんだけど…なんで私が告白してもないのに真冬くんの彼女を名乗っているのかって話だよね。」

 

「ええ……」

 

「真冬くんと病室で会う前に、私は真冬くんのお父さんと会ってたの。」

 

「僕の父と…?」

 

「病院の待合室でね。真冬くんを助けたことでお礼を言われたよ。」

 

「……」

 

「ただ……話はそれだけじゃなかった。真冬くんは高校進学に合わせて真冬くんの実家がある愛知県からどうしても東京に出なきゃ行けなかったんだよね?でも当時真冬くんのお父さんは仕事の事情で一緒に東京に行けなかった。それでも真冬くんの体の事とか記憶の事とかを知っておきたい。」

 

「えっ、まさか彩さんは……」

 

「そこでたまたま私が大学進学で東京に行く事になっていたことを話したら真冬くんのお父さんは私に真冬くんの経過観察をお願いしたの。私はそれを請け負った。真冬くんの彼女を名乗っていたのは真冬くんを側で見守ることができるように……ね。」

 

「………そんな…。」

 

「私に幻滅しちゃった……かな。でもこれが、今までの真実だよ。嘘は一切無いよ。」

 

「……最後に一つ、いいですか?」

 

「……何かな?」

 

「僕のことが好きだったって言う気持ちは……嘘だったんですか?今まで彩さんと一緒にいたとき彩さんは……僕に嘘ついてたってことですか!?」

 

「……言っても信じてもらえるか分からないけど、真冬くんのことは今でも大好きだよ。その気持ちは絶対変わらない。」

 

「………」

 

「そもそも真冬くんの経過観察のお願いを引き受けた理由はね……真冬くんに一目惚れしたからなの。」

 

「…えっ?」

 

「見ず知らずの子を体をはって守った……どんなに傷ついても守りきった。そんな真冬くんの勇気に私は思わず一目惚れしちゃった。」

 

「…」

 

「それだけじゃないよ。真冬くんとふれあってくうちに真冬くんの優しさとかかわいいところとか、いろんな良いところを見つけることができた。もう私は十分満足したよ。」

 

「彩さん……?」

 

「私はもうこのマンションを出ていくよ。真冬くんも、こんな秘密を抱えた女と一緒にいるのはイヤでしょ?だから……さようなら。」

 

 

目を笑わせ唇を噛み締めて彩はソファーを立った。もう玄関に差し掛かるというところで彩の足は止まった。真冬が背後から彩に抱きついて止めたのだった。

 

 

「勝手に……いなくならないでくださいよ……。」

 

「………真冬くん?」

 

「グッ……僕はね…ヒッ……安心したんですよ。今までの彩さんと作ってきた思い出は嘘じゃなかった……。どんな経緯があってもこんな僕を好きでいてくれた……!」

 

「……!」

 

「よかったぁ……嘘じゃなかっだぁ……」

 

「………」

 

「勝手にいなくならないでよぉ……!」

 

 

背後から涙ながらに訴える真冬に心打たれ彩も鼻先を赤くした。そして彩は方向を変えて真冬を胸いっぱいに抱きしめ、しばらくの間涙を流し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うぅ……ううん……あれ?僕…寝ちゃった…?」

 

「おはよう、真冬くん。今朝の5時くらいかな。」

 

「え?ってことは僕ずっと彩さんの胸で寝てた…?//」

 

「もう今さら緊張することもないでしょ?だって私達、恋人同士なんだから!」

 

「そうですけど……それでもまだ恥ずかしいものは恥ずかしいですよ……。」

 

「そっか。今日は何しよっか。またどこかデートしちゃう!?何か楽しいことしようよ!」

 

「……ですね!」




後二話でこの小説は完結します。

読了、ありがとうございました!


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気づけば僕には生きる希望を持ってた感じです

投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

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ずんだマシマシ様
ミアウィットロック様
ありがとうございました!

そして急ですが今回で最終回です。いきなりすぎましたね。ごめんなさい。

そしてこれは私からのお願いなんですがこの回を読み終わったらこの小説の総評を感想欄にてしていただけるとありがたいんです。誰でも感想をかけるようにしてあるので良かったらよろしくお願いします。

それでは、本編どうぞ!


「おまたせ。行こっか!」

 

「はい!」

 

 

真冬が記憶を取り戻してから二週間目。この日はどこか宛もなくデートをするらしい。準備を終えて晴天の世界へと足を運び始めた。

 

 

「うーん……デートすると言ってもどこ行きましょうか……。」

 

「そうだね……行きたいところありすぎて決められないんだよね……。今日は気ままに歩こっか。」

 

「そうですね。時間が経ったら行きたいところが見つかるかもしれないので。」

 

「じゃあしゅっぱーつ!」

 

「えぇ!?走るんですか!?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

二人がやってきたのは駅前のパンケーキ屋。ここは以前二人が来ていたところでもある。いかにもメルヘンという色や装飾物で彩られているが真冬の心境は裏腹であった。

 

 

「うぅ~ん……っと。なんか最近伸びが癖になってきたな~。」

 

「ここのところいろんな所にお出かけしてたから知らないうちに疲れが貯まったんじゃないですか?楽しいと疲れとかに鈍感になっちゃうので。」

 

「それもそうだね。うぅ~ん。」

 

「っ!」

 

「ん?どうしたの?」

 

「あっ……いえいえ!何でもないですよ!」

 

「…?変な真冬くん……。大丈夫?具合悪い?」

 

「そ、そんなこと無いですよ!ほら!頼んでたパンケーキ来ましたよ!」

 

「……?そうだね…。」

 

 

真冬に異変を感じながらもそのままナイフに手を伸ばす彩。同様に真冬も食べようとナイフに手を伸ばしたがそのままナイフに手が触れることはなかった。

 

 

「あ、あの~彩さん。」

 

「どうしたの?やっぱり具合悪い?」

 

「いえそうじゃなくて……僕のパンケーキ切ってもらえますか?」

 

「?うんいいけど……」

 

「ありがとうございます……。」

 

「じゃ、じゃあ食べようか…。いただきます!」

 

「い、いただきます!」

 

 

銀色の光沢を放つナイフを自分で触ること無くパンケーキを口に運ぶ真冬はこの時どんな味が広がっていたのだろうか。この時ばかりは彩も写真を撮ることに気が回らなかったのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

パンケーキ屋を出て二人は途方もなく商店街を歩いている。が、いつもと違い、真冬が彩の手だけでなく服も握りしめている。そしてそのどちらとも震えている。

 

 

「真冬くん、一度静かなお店行こっか。この商店街に良いカフェがあるの。行ってもいいかな?」

 

「ええ……。なんか今日は静かなところで落ち着きたい気分です。アハハ……。」

 

 

晴天が作り出す青いカーテンからの光を浴びた商店街を行くこと3分。目的地の羽沢珈琲店に到着した。その店が作り出す空間は外界とは一線を画しており、そとの賑やかさは遮断されているようだった。

 

 

「つぐみちゃーん!私の彼氏と一緒に来たよー!」

 

「彩さん恥ずかしいですよ…」

 

「ん?あっ、彩先輩!お久しぶりです!その人が前先輩が言ってた…彼氏さん?」

 

「うん、真冬くんだよ!あ、真冬くん。この子がつぐみちゃん。私の後輩で優しい子だよ。」

 

「ど、どうも……真冬です。」

 

「真冬くんね、はじめまして!」

 

「……っ!」

 

「あれ?彩先輩、私嫌われちゃいました?」

 

「え?ううんそんなこと無いと思うよ!だっ、だよね真冬くん…?」

 

「……」

 

「真冬くん……?」

 

「っ!ごめんなさい!全然嫌いになんてなっていませんよ!よろしくお願いします!つぐみさん!」

 

「う、うんよろしくね…。席はこちらにどうぞ!あ、そうだ。最近カップルドリンク始めたんですけどよかったらどうですか?」

 

「え?カップルドリンク!?真冬くん飲もうよ!一回やってみたかったの!」

 

「は、恥ずかしいですよ……//」

 

「一緒に写真撮ってくれるだけでいいの!お願い…!」

 

「……分かりました。一瞬だけですよ?」

 

「やったー!真冬くん真冬くん!」

 

「ちょっと彩さん…目の前につぐみさんがいるんですよ…?//」

 

「あっ。ご、ごめんつぐみちゃん!なりふり構わずに…。」

 

「あはは……ではごゆっくり……//」

 

 

火照った心をすこし冷ましてから案内された席に着く二人。

 

 

「………」

 

「真冬くん。話なら聞くよ?」

 

「……」

 

「真冬くん?今は話にくい?」

 

「………怖いんです。」

 

「怖い…?」

 

「記憶を取り戻してから今日まで……思い出さない方が良かったトラウマが……いろいろと湧いて出てくるんです。」

 

「っ……」

 

「でもこれを彩さんに話したら…今度は彩さんまで潰れちゃうかもしれない。襲撃にあったあの日、ナイフや鉄パイプを向けられてそれがトラウマで……思い出さない方が良かった…。」

 

「真冬くん……。」

 

「彩さんはそんなトラウマを思い出させないために色々根回ししてくれてたんですよね?それなのに僕、彩さんの気遣いを台無しにしちゃって……。自分が嫌になりました……。」

 

「……そうだったんだね。」

 

「話がまとまってないですね……。もう…どうしたら……。」

 

「あのね真冬くん。」

 

「?」

 

「私が騙したとはいえ真冬くんは私のことを恋人だって認めてくれたんだよ?そういう話しはどんどんしてほしいな。」

 

「ごめんなさい……。」

 

「え?」

 

「もう僕は……誰かに頼る自分が……守られる自分が嫌なんです!そんなみっともない自分が大嫌いなんです!!」

 

「あっ!真冬くん!」

 

 

二人だけの店内に真冬の傷みが響きわたる。真冬は目に涙を浮かべながら彩に千円を預けて店を飛び出していった。焦りと放心が彩の脳内を駆け巡った。

しばらくすると彩は決意を固めた。

 

 

(なんと言われようと……真冬くんを一人にはさせない!)

 

「つぐみちゃーん!お金おいておくね!お釣り入らないよ!また来るね!」

 

「え?えーっと……あ、ありがとうございましたー!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うーん……どこだろう真冬くん……。もっと遠くなのかな……。」

 

 

まだ青いカーテンが空を包む頃、彩は商店街を歩き回り真冬を探していた。聞き込みやsnsの呟きのチェックなどひたすらにこなしていたがどれも当たりは無く、時間だけが無情に過ぎていった。

真冬を探し始めて一時間が経過した頃だった。二十代前半の男のグループが彩を尋ねた。

 

 

「すいませーん。」

 

「え?私ですか?」

 

「はい。実はこの子を探しているんですが……何か心当たりはありませんか?」

 

「え?」

 

 

男が見せた写真は見間違うはずもない、彩の彼氏、真冬の写真だった。

 

 

「実は私も探してるんです。その子、私の恋人で……。」

 

 

彩のその返答で男達は何かを確信したかのようにニヤリと口角を上げ、高らかに笑い始めた。

彩が困惑していると彩の後頭部に激痛が走った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はあ……僕、彩さんになんてことを……。ますます自分が嫌になる…。」

 

 

一方真冬は商店街から遠くはなれたとある公園のベンチで一人うつむいていた。記憶を取り戻してからというもの、自責の念にかられて自暴自棄になる真冬。結局今回も彩の手を煩わせてしまったと後悔しているのだ。

 

そんな真冬に一本の電話が入った。真冬にとっては知らない電話番号だった。

 

 

「あれ?何この電話番号……。もしもし……?」

 

「高部…真冬だな?」

 

「!?………だったらなんなんですか?」

 

「その前にまず俺が誰か分かるか……?」

 

 

知らない電話番号に知らない男の声。真冬の脳内は疑問符で埋め尽くされていたがそれがこの後すぐに焦りへと変わる。

 

 

「覚えてるか?俺は去年の夏にてめえを襲撃したチームのリーダーってところだ。」

 

「……!なんで…なんで僕の電話番号が分かった!?」

 

「そりゃ不思議に思うよな!それもそのはずだ。あの時俺らを邪魔してくれたピンク髪の女を人質にとっているんだからなぁ!」

 

「……え?彩さんを…!?」

 

「俺らは日の丸運輸って潰れた会社の廃倉庫にいる。助けに来たかったらこいよ。おーっと警察呼ぶのは無しだぜ!?警官が一人でも見えたらその瞬間この女殺すからな!」

 

「そんなことして何になるんだ!今すぐ彩さんを解放しろ!」

 

「まあ焦んなよ。てめえが一人で来ればいい話なんだからな。じゃ、待ってるぜ。ハハハ……!!」

 

「……また僕のせいで彩さんが……。なんで僕は…!」

 

 

一人焦りが止まらない。結局自分が足手まといになってしまった。そう感じる真冬に走馬灯の如く今までの彩との思い出が甦ってくる。

 

 

(辛かったら私がいるよ。いつでも抱きしめてあげるからね。)

 

 

「違う……こんなことしてる場合じゃない!今度は僕が彩さんを助けるんだ!」

 

 

おぼつかない手でスマホのマップを開き、真冬は彩が待つ倉庫へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

廃倉庫にて…

 

 

「もう離してよ!こんなことして何になるの!」

 

「うるせーよ……一年前、俺らをボッコボコにしてくれたよなぁ!?」

 

「その復讐ってこと?一年前も今も一人相手に大勢でかかってきて……呆れちゃうよ。」

 

「なんだと……このヤロウ!」

 

「っ!」

 

 

彩の顔面すれすれで男が振った鉄パイプが止まった。どうやら彩に恐怖を植え付けたいのだろう。しかし……

 

 

「私はそんな脅しには屈しないよ。どんなに殴られてもね。でも……」

 

「……あ?」

 

「真冬くんに手を出したら……容赦はしないよ。」

 

 

恐怖どころか怒りが彩を支配する。男達が若干後ずさりするがリーダーらしき男が言葉を怒り混じりに紡いでいく。

 

 

「身動きもとれねえ状態で何いってんだよ……!てめえ死にてえのか!?」

 

「……(これで良かったんだよね。真冬くん、バイバイ。)」

 

 

だがもう死を覚悟している彩はもはや諦めていた。

だが諦めの気持ちだけでなく、真冬を巻き込まないで済んだという安堵の気持ちで口角が若干ながら上がった。

 

 

「よーし、じゃあもうやっちまうぞ。お前ら!俺が先陣切ったら後に続けよ!」

 

「へい!」

 

 

リーダーが鉄パイプを振り上げた______その時だった。

 

 

「ちょっと待ったーーーーーーー!!!」

 

「あ?ってなんだよアレ!?」

 

「どけどけどけーーーーーーー!!」

 

「おいやべえ轢かれるぞ!ウワアアアッ!」

 

「えっ!?真冬くん!?」

 

「デスソース入り水鉄砲をくらえ~~!!」

 

「ギャアアア!!」

 

「目がああああ!!」

 

 

真冬が廃倉庫の脇においてあった巨大フォークリフトに乗って彩のもとへ登場。集団で突撃した直後、真冬が男達の目と口を正確に射撃していき、気づけば彩を取り囲んでいた全員がその場に倒れた。

 

 

「はあ……はあ……緊張した…。」

 

「真冬くん……助けにきてくれたの?」

 

「はい…。一年前、彩さんは僕を助けてくれた……。だから今度は僕の番だったんです!」

 

「真冬くん……。かっこよかったよ。」

 

「良かった……。彩さんが無事…で……」

 

「えっ?真冬くん!?真冬くん!」

 

「すぅ…すぅ……」

 

「寝ちゃった。大好きだよ。」

 

「すぅ…」

 

「帰ろっか。」

 

 

彩は真冬を背負って歩き出した。もう外は日が落ち始めてオレンジ色の光が二人に降り注いだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「んあ……あれ?ここは?」

 

「真冬くんの家だよ。」

 

「え…?てことは僕……」

 

「私の背中でぐっすり寝てたよ。気持ち良さそうにね。」

 

「えっ!?ごっ、ごごごごめんなさい!///」

 

「謝ること無いんだよ?それに……」

 

「それに?」

 

「助けてくれてありがとう。真冬くん…ヒーローだよ。」

 

「えへへ……初めてそんなこと言われた……。」

 

「かっこよかったよ。」

 

「ありがとうございます。何だか…恥ずかしい…//」

 

「そっか。真冬くんらしいなぁ…」

 

「それと……カフェであんなこと言ってしまって……本当にごめんなさい。僕…自暴自棄になってて……」

 

「ううん、いいんだよ。」

 

「それに……まだまだトラウマが乗り越えられそうになくて……」

 

「真冬くん。」

 

「はい。」

 

「一緒に乗り越えようよ!」

 

「……は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば僕には年上の彼女がいた END




急ぎ足のような最終回になってしまったような気がします

今作は短い小説ですが多くの方に読んでいただき、すごく嬉しかったです。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

この小説の反省点と言えばキャラの心情表現がくどかった点だと思います。皆さんはどう思いますか?もし良ければコメントしていただけるとありがたいです。

それとイラストを書いてみました。まあこんな感じのオリ主でした。

それでは、読了、ありがとうございました!


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