怪しさMAXの陰陽師は、奈落の底を目指すようです (S・DOMAN)
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オースでの出来事
“黒笛殺人事件”1


(話の流れをぶった切るようですが、つい思い浮かんじゃったので)初投稿です。


 

 

 

 

「黒笛の連続殺人だと?珍しいな」

 

 

 眼鏡を掛けた、長身の男がそう聞き返す。豪奢な椅子に深く腰掛けて足を組むその恰好は、男がもしモデルであれば様になっていただろう。

 この薄汚い男の住処である豪邸は、オースの町でも一、二を争うほど広く、けれどしっかり清掃の行き届いた屋敷は、この男の部屋だけが散らかっていた。

 足の踏み場も無い程に書類や本が散乱した部屋の中には、どうやらもう一人の人間がいるようだ。

 

 

「はい、それも全て黎明卿『新しきボンドルド』の探窟隊、『祈手(アンブラハンズ)』のメンバーとして登録されている者たちが、です」

 

 

「―――ハア?!白笛の探窟隊がどうして殺人なんかするんだ?彼らはずる賢いだけでなく、クオンガタリのような狡猾さも持っている。本当に祈手ならば、もっと俺たちの仕事が減るように動くだろうさ」

 

 

 『助手』、と呼ばれた男は、その心情を体現するかのように背を丸め、言い辛そうにしながら応える。今回の出来事は、この破天荒な師匠にしょっちゅう付き合わされる助手の目から見ても異常な出来事であった。

 

 

「い、いえ。クォーロ様。恐らくは勘違いなさっているのだと思いますが」

 

 

「何をだ?……いや待て、まさか……おい助手。被害者はどっちだ?」

 

 

「それが、信じられないことに」

 

 

「ああもういい。なるほど。『祈手』()殺されたワケか……誰に?」

 

 

 『助手』が答える。今度は背筋を伸ばし、ハッキリと。

 

 

「岸壁街の住人にです。なんでも、今オースの町におられる『祈手』は全て殺されたとか。現在『祈手』は国外にいないので、残っているのは『前線基地(イドフロント)』にいる者たちだけだそうです」

 

 

「……フフッ。あのなア、君。俺を馬鹿にしてるのか?黒笛。さらに白笛の探窟隊に所属してる様なヤツらが、どうやったらそこらへんの薄汚い浮浪者共に殺されるって言うんだ?!そんなわけ無いだろう!」

 

 

「それを解明してほしい。というのが依頼内容ですよ?」

 

 

「ハアーーーァ……俺は便利屋じゃないんだぞ?ま、黎明卿以外じゃオースでマトモに手術できるの俺位だしなぁ……全く人手不足が恨めしいよ。しょうがない。ていうかそもそも受けるしかないだろ。俺たちは組合の専属なんだからさア?」

 

 

「まあこれも形式というヤツなんですよ。多分ですが」

 

 

「ハアアーーーーー!!!……ああそうだ助手。本部にもうひとっ走り頼む。『報酬はいらないから、不動卿を呼べ』」

 

 

「はいはい了解しました。では行ってきますね」

 

 

 助手が部屋から出ていったのを見届けて、男は居眠りを再開した。おお哀れ。この部屋に散らばっている本は、殆どがこの男の目隠し代わりなのである。

 

 

 

 

 

 

「へえ?それで私の所に来た訳かい」

 

 

 『助手』の連絡から数時間後、本部所属の黒笛探掘家が一名監視基地を訪れていた。通常の探掘家が身に纏うようなカーキ色のそれでは無く、白と黒のツートンで構成された制服は、機能性ではなくむしろ見栄えを意識して作られたものであろう。

 一般には知られていないが、これは『組合』の正式な(・・・)制服、儀礼服だ。見栄えは良いが実用性に欠けるために、専ら着られることの無い不遇の服なのだ。悲しいね。

 

 

「はい。探窟家組合本部、本部長からの命令です。不動卿、オーゼン殿。至急オースの街へご同行願います」

 

 

「ンん。分かった。準備をしたらすぐに向かうよ…」

 

「…ところでさぁ。キミ、コレホントは誰の要請なんだい?組合の使いなら多少は知ってるだろ?」

 

 

「私もあまり詳しく知らされておりませんが……恐らくは、『快癒卿』絡みかと」

 

 

「……はあ、そうかい。こりゃまた厄介事に巻き込まれそうな予感がするねぇ…」

 

 

「彼がお嫌いなのですか?」

 

 

「ああもちろんさ。あのガキと関わるとロクな事がない。『臆病者』、『奇人』、『変人』……いい噂なんて、聞いた試しがないよ」

 

「まったく。大体()()()()()なんて作るべきじゃなかったんだ。もっと別のやり方があったろうに」

 

 

「夢と希望に溢れる探窟家も、上に行けばお役所仕事ですからね」

 

 

「ンふふ。違いない」

 

 

 オーゼンの笑い声が耳に届いたのだろう。本日何回目かの掃き掃除を終えたマルルクが、間仕切り越しにこちらを覗き込んでいる。

 

 

「……ん?あ、お師さま!お客様が来られてたんですね!ちょっと待っててください。何かお出ししますよ」

 

 

「ああマルルクちゃん。こんにちは。大丈夫だよ、もうすぐに出発するから」

 

 

「そ、そうですか。え?お師さま、どこかに出かけられるんですか?」

 

 

「ああ、二、三日留守にするよ。お土産は何がいいかい?」

 

 

「何でもOKです!お師さまお師さま!なるべく早く帰ってきてくださいね?飲みつぶれたりして、他の人に迷惑かけないでくださいよ?」

 

 

「うるさいねぇ、帰ったら裸吊りだよ」

 

 

「えっ?!」

 

 

 

 




次のヤツもう書いちゃったので失踪します。


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“黒笛殺人事件”2

もう一話あるので失踪します。


 部屋から出て最低限身なりを整え、しっかりと寝た男は、翌日、己の得物を持って組合を訪れていた。ロビーに入ればそこに既に担当の職員が居り、生気の抜けた表情でこちらを見つめている。

 

 

「お待ちしておりました、『快癒卿』。早速ですがコチラに」

 

 

「了解した。ババアは?」

 

 

「到着は一日後だと思われます。使いの者が今朝出発しましたので」

 

 

「そうか……それまでに手がかりを掴まなければいけないわけだな?糞が。殆ど時間が無いじゃないか!早く案内しろ!」

 

 

「分かりました。行きましょう」

 

 

 

 入り組んだ廊下を地下へ地下へと下っていく。普通の探掘家なら絶対に立ち入ることのできないこの領域は、組合、延いてはこのオースの街の禁忌(タブー)。その全貌を知るのは白笛と、一部の上級職員のみである。

 昼間だというのに夜のように暗いこの場所は、事実、高度的には深界一層にあたる。地上にぽっかりと空いた穴に蓋をするように、この組合本部は建てられたのだ。

 

 正に木を隠すなら森の中。活気溢れるオースの街に、こんな穴が開いているなどとは誰も思わないだろう。

 

 地下二十七階。階段を下りて三つ目のドアを職員が開く。ドアを開けた途端に広がるのは、噎せ返るほどの老廃物の臭いだ。ベッド……とは名ばかりの鉄製のフレームの上には、幾人もの人間が目隠しをされた上で全身を拘束されている。口枷からは涎が漏れ出て、下半身からは糞尿を垂れ流す。それをどうにかしようにも、暴れ散らすのでどうにもならない。

 

 

「ウヒャア。これはまたスゴイ数だな…」

 

 

「全部で三十三体。全員が貴重な黒笛を殺しています。報告に依れば一部は徒党を組んで殺したとか」

 

 

「至極どうでもいいな。とりあえず洗ってから〆といてくれ。俺は器具の用意をする」

 

 

「分かりました。では略式ですが、即座に死刑に処して」

 

 

「おい待て。首を切ったりなんかするなよ?全部そっくりそのまま暴くんだ。傷はなるべくつけず丁寧に殺せ」

 

 

「……手練れの者を呼んできます。私だけでは厳しい」

 

 

「ああ。是非ともそうしてくれ」

 

 

 

 

 床に飛び散る血が、彼らの糞尿と混ざり合っていくのを眺めながら、男は持参してきた紅茶を飲んでいた。

 

 

「遅いぞ、どれだけ待たせるつもりだ?検体どもの処理を見ながら飲むのもそろそろ飽きてきたんだが」

 

 

「今の物で最後です……終わったようです。では私は、少し休憩を」

 

 

「ああ待て。せっかくだから見学していけ。『快癒卿』の解体ショーが見れるんだ、見ていくよなア?」

 

 

「…………ええ。光栄です」

 

 

「ハハハ!そんな嫌そうな顔をするな!さあこっちにこい。そこで見ていろ」

 

 

 

 

 

 

「ウーン、これは、スゴイな」

 

 

 一番最初に処理された物は、齢二十もいかぬであろう若い女だった。首を切られ魂を失った相貌は、つい数時間前の検体の痴態からすれば驚くほど綺麗で、歯をむき出しにして狂っていたあの様子こそが夢だったのではと思わせるほどだ。ちなみに容姿も悪くない。

 そんなコレは今、全身を隈なく切り裂かれ、内臓をそれぞれ銀のプレートの上に分けられている。

 

 

「申し訳ありませんが私は医学にあまり明るくありませんので。何がどう凄いのかさっぱり…」

 

 

「ン、ああ。すまないな。よし、では説明してやろう。おまえ。舶来品のなかにチーズがあるのを知っているか?ほら、力を加えると裂けるアレだ」

 

 

「ああ、最初は物珍しさに裂いていましたが、飽きて買わなくなりましたね」

 

 

「そ、そうなのか……と、とにかくだ。今回のイメージとしてはアレに近い。これを見ろ」

 

 

 検体の背骨を両手で掴んでぐりっとねじる。

 

 

「…背骨に、線が入っている(・・・・・・・)?」

 

 

「ああ。恐らくは何か意味のある線。文字なのだろう。ところどころ太く、そして細い。強弱をつけているんだ。まあ、こんなベニクチナワがのたうち回ったみたいな文字見たことないし、文字なら切れ目がない(・・・・・・)オカシイがな」

 

 

「にわかには、信じられません。だって背中には傷跡がなかったんですよ!?何者かが背中を割いてコレを書いたとしても、手術の傷跡は残るはずだ」

 

 

「そこで、さっきのチーズだ。我々の筋肉は、あのチーズのような構造をしている。つまりだ、アレは横からだとどうやっても裂けないが、縦からならスルッと裂けるだろ?筋肉もそうだ。原生生物にやられたりなどしてついた傷は、筋肉の繊維を無視してメチャクチャに付けられる。だから、跡が残りやすいんだ。筋肉の繊維の境目。筋に沿って切れば、跡は全く残らない。裂けたチーズが、再びくっ付くように。まあ聞けばわかると思うが、まともな人間なら、そんなメンドクサイことはしない。というか不可能だ」

 

 

「それは、つまり…」

 

 

「俺と同じぐらい医療の知識があって、なおかつ俺よりも手術の上手いやつがいるかもしれん、ということだ。しかも、コレだけ体を開いてるのに、今までに俺がつけたであろう傷が一つも見当たらない。こんな芸当は、俺でも無理だ。まあ?6人までなら俺もやれんこともないが。それかもしくは―――」

 

 

「遺物、ですか?」

 

 

「おお冴えているじゃぁないか。その通りだ。組合に届け出の出されていない、新しい遺物で行ったのかもしれん。ッ!おい見ろ!!頭蓋骨の内側にもある(・・・・・・・・・・)ぞ!何たることだ!!どうやって付けたんだねこんなトコ!!」

 

 

「そんな、あり得ない…」

 

 

「ああ。どのように行ったか、非常に興味があるが……これは俺にもわからん。お手上げだ。他のも一応開いてみるが、恐らく何も新しい発見は得られんだろう」

 

 

 

 

 

 

 それからずっと作業に没頭する男を置いて、職員は補助役―――医学に明るい者たち―――を除いて全員上に戻っていった。

 仮眠をとって部屋に戻ってきた彼が最初に目にしたものは、山積みになった紙の束であった。ちょっとした山脈を築いている。

 

 

信じられん、信じられん。信じられん。こんなことが……?

 

 

「おはようございます、『快癒卿』。朝食の準備ができておりますが」

 

 

「ありえん。こんな、どうやって?」

 

 

「『快癒卿』殿?『快癒卿』殿!!」

 

 

ぅうおッ!!?。ああ、なんだ、君かね。あまりびっくりさせるなよ。俺は怖がりなんだ」

 

 

「怖がり…?ああ、いえ。『快癒卿』。朝食の準備ができております」

 

 

「なに?もうそんなに時間が経っていたのか。丸々半日作業してたのか……ン゛ン゛ン゛ッ゛。少し、休憩する」

 

 

「いいえ。先に朝食をお食べください。冷めてしまってはいけませんので」

 

 

「…君ィ、いい性格をしているなア。昨日の意趣返しか?」

 

 

「さて?何のことやら」

 

 

 

 




(後書きと前書きを間違えたので)初投稿です。


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“黒笛殺人事件”3 + ?

(全部書き終わって、これから前の話の前書き考えるんで)初投稿です。


 

 

 

 あれから数時間後。男は粥と仮眠を取って、体調が戻ったようだ。

 

 

「フーーぅ。ようやく眠気が取れた。さて、と。続きと行こうか」

 

 

「やあ、まだやってるのかい?ヤブ医者」

 

 

げえッ!ババア?!ハヤッ!!?オイ誰だ呼んだの!俺だった!!!ぶふぇッ

 

 

「うるさいねぇ……久しぶりに裸吊りするかい?」

 

 

断じて、否だ!!それよりも早く降ろしてくれ!俺は説明をしたいんだがねぇ?!」

 

 

「まったく。ほら」

 

 

「ハアーーーァ。ヒドイ目に遭った……それでだ、大体の説明はここに来た時に聞かされただろ?」

 

 

「ああ。なんでも、アンタ以外に“傷跡を残さない手術”のできるヤツがいて、ソイツのせいでわたしが呼ばれたってねぇ」

 

 

「上出来だ!その貧弱なオツムでよく理解できたなぁ。ぶぷぅッ……ウウンッ。ああ、これを見ろ、頭蓋骨の内側にまで彫ってある。信じられんだろ?」

 

 

「ンん、まあ、にわかには信じがたいが。それで?」

 

 

「繰り返すようだが、これはこいつらの体に直接『彫られてる』んだ。全身207ヵ所(・・・・・・・)これらの骨の(・・・・・・)すべてに(・・・・)ひとつ残らず(・・・・・・)

 

「それに加えて、だ。面白いのはここからなんだ。さぁてどこにやったか……ああ、あった。これを見てくれ」

 

 

「ん?この紙は…」

 

 

「33人全員の骨に書かれていた”文字らしきもの”だ。1から順に、番号が降られてる。光に透かしてみろ」

 

 

「ン、おお、重なってる。へえ、これもかい?おお……それが?」

 

 

「まだ分らんか?全部同じなんだよ!寸分違わずな。オーゼン。オマエは一週間前書いた文字とま(・・・・・・・・・・・)()たく同じ文字が書けるか(・・・・・・・・・・・)?」

 

 

「……ふゥん、そういうことか。分かったよ」

 

 

「ハアーーーァ。どういうことなんだ……やはり」

 

 

「遺物かい?」

 

 

「……あのなア、俺のセリフをとるなよ。まあうん、そうだな。そういうことだ。要するに」

 

 

 

 

「これは何らかの遺物を使って行われた事件の可能性が高いんだよ。少なくとも、今の技術じゃ不可能だ。それは俺、『快癒卿』が保証しよう」

 

 

 

 

 

 

「まったくとんだ無駄足だったよ。もう土産も買ったし、何も無ければ私は帰るけど、クォーロ。他に用事はあるのかい?」

 

 

「いいや、もうないぞ。現状これ以上の事は俺にも無理だからな。何か進展があったら―――」

 

 

 師弟が話していると、勢いよく扉が開かれる。

 

 

「お二人とも!ご歓談中、申し訳ございません。オーゼン殿、『快癒卿』殿」

 

 

「おお、君は昨日の!どうしたんだ。そんなに慌てて」

 

 

「大変です。非常事態です。白笛が……白笛が!」

 

 

「んん?とりあえず、いったん落ち着け」

 

 

 男は息を整え、続ける。

 

 

「ほ、報告します。白笛の一人、『黎明卿』。『新しきボンドルド』、並びに深界五層の『前線基地(イドフロント)』が」

 

 

完全に消失したとのことです

 

 

 

 

「……あー。どうやら、進展があったようだな?」

 

 

「はあ、全く……こんなとこ来るんじゃなかったよ。面倒くさいねェ」

 

 

 

 




そろそろ限界なので失踪します。


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“青髪の子供”1

 

 

 

「連絡は取れなかったのか?音声通信は不可能とはいえ、石塔信号*1ならば通じるだろう?」

 

 

「いえ、駄目でした。他の物は無事だったのですが、前線基地の物だけ(・・)爆発しました」

 

 

「……なにか凄まじい量のエネルギーを一度に注ぎ込まれたのか?」

 

 

「それ以外には(破裂させる方法が)ありませんので、そうでしょう」

 

 

 快癒卿の推察は即座に肯定された。それ以外に理由が考えられないので、当然と言えば当然だが。

 だがそうなると新たな疑問が湧いてくる。あのボンドルドが間違えて(・・・・)、通信機に莫大な電気を流すなんてヘマをするだろうか?いや、するはずがない。

 

 

「ふーむ……今から五層までババアを送り込むのも下策だろうし…アアーーッ!!イタイイタイイタイ!わかったわかった!」

 

 

「ハぁ、このバカは……で?これからどうするつもりなんだい?」

 

 

 

 

「これは完全に直感だが……今回の祈手(アンブラハンズ)の大量殺害事件と前線基地(イドフロント)の消失。どうも無関係じゃないような気がする」

 

 

 

 

「―――いや待て、理由を思いついた。おい君ィ!通信室まで案内しろ!」

 

 

「かしこまりました」

 

 

「おいオーゼン。荷物運び、手伝ってもらうぞ」

 

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

「こちらが通信室になります。まだ瓦礫の撤去中ですのであまり近づかれないほうが―――」

 

 

駄目だ!瓦礫は撤去せずにそのまま残しておけ!」

 

 

「……かしこまりました」

 

 

「―――この感覚」

 

 

「ああ、なんとなく感じるだろう?あの文字から感じていた不気味な感覚と、全く同じものをだ」

 

 

「……じゃあ何だい?犯人は()で手練れの探掘家をダース単位で殺す計画を練っておきながら、前線基地(イドフロント)まで行ってボンドルドを殺したっていうのかい?いくら遺物でもそんなイカレたことできないと思うけどねェ」

 

 

「それ以外に何が考えられるか?これ以上しっくりくる推測もなかなか無いぞ」

 

 

「……にわかには信じがたいが…」

 

 

「いや。遺物ならばあり得るだろう」

 

 

「それを言ってしまえばお終いだろう?死人だって生き返らせる魔法の品なんだからさぁ」

 

 

「それはそうだが……ではそれ以外に何があるというんだ?」

 

 

 師弟が問答を交わしていると、慌ただしく作業をしていた職員が一人近づいてきて、オーゼンに話しかける。

 

 

「すみませんオーゼン様」

 

 

「あァン?何だい」

 

 

青髪のメイド服姿の子供(・・・・・・・・・・・)が先ほどこちらを訪ねてきまして……オーゼン殿に渡したいものがある、と」

 

 

「―――付き添いは?」

 

 

「いえ、一人だけ(・・・・)です。渡したあとはすぐに帰ってしまい…」

 

 

「……ほうほうほうホウ?こりゃァまたキナ臭くなってきたな…」

 

 

 

*1
メイドインアビス版モールス信号



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“青髪の子供”2

クォーロ→クオロ→クロオ→間黒男→ブラック・ジャック???

ホントかなー


「クォーロ、私はちょっと出てくるよ。帰りは遅くなるかもしれないから先に寝ときな」

 

 

「飯は一応持っていっておけよ?」

 

 

「……言われずとも分かってるよ」

 

 

「いーや。その反応は十中八九忘れて―――アァーーッ゛!」

 

 

 

 

 クォーロを締め上げた後、私は少しばかり早足になりながら道を駆けていた。

 あの職員が伝えてきた人相はマルルクのそれと酷似していた。あの奇抜な格好は私の趣味ではない。ないったらないのだ。ああいう服を着せとくとこういう時に役に立つのさ。

 届けられた荷物はオースじゃ大して珍しくもない菓子の一種だった。だが念の為手は付けていない、そもそも届けた人間の存在自体が怪しい(・・・・・・・・)からである。

 聞くところの風貌は完全にマルルクのものだが、それに扮した別人の可能性だってある。そいつが悪意を持っているとするなら尚更だろう。

 

 

「ンん?こっちか…?」

 

 

 白笛としてのカン(あてずっぽう)と周囲の人間からの聞き込みから、場所の把握はある程度済んでいる。後は追いつくのみ―――

 

 

 

 

 

 

「………マルルク」

 

 

「―――どうされましたか?お師さま」

 

 

 そして、そこに居たのは見知った顔だった。

 青と白で構成されたメイド服を着てマルルクはそこにいた。

 何でもないように日傘も差さず(・・・・・・)に、一人で外を出歩いていたのだ。

 

 

「マルルク。いつもの傘はどうしたんだい?」

 

 

「ああ!実はアレ、要らなくなったんです」

 

 

「…」

 

 

「あの時ドーマンさんに抱きしめられて……あれから陽の下に出てもなんともならなくなったんですよ!」

 

 

「………もういい

 

 

「え?お、お師さま?どうされましたか?」

 

 

「その三文芝居をとっとと止めろと言っているんだ。マルルクはねぇ、自分の体にそんな重大な変化が起こって、それを私にも、〈地臥せり〉の連中にも伝えないなんて子じゃあないんだよ」

 

 

「…」

 

 

「アンタ、いったい何処の誰だ?マルルクの中にいるのは何処のどいつだい。とっとと答えないと…その首叩き折るよ?

 

 

 沈黙が耳に痛い。私が問いかけてみれば、マルルク―――いや、眼の前の不審者は表情を失い、瞳の奥に全く光を宿さなくなった。

 

 痺れを切らした私が戦闘準備を、と思い、地面に手を置くと、コイツが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そのような蛮行、この身体に働くことなど出来ぬでしょうに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 マルルクの口から出てきた声は一応、マルルク本人のモノではあった。だが口調は似ても似つかない……忌々しいことに、私はこの口調に聞き覚えがある。

 

 そう。あの時ライザの娘らの付き添いで潜っていた、笛すら持たない、道化の格好をした大男。監視基地での戦闘においてこの私に膝を付かせた正真正銘の化物(バケモノ)。彼女らにドーマンと呼ばれていた男の特徴的な物言いが、マルルクの口から発せられていた。

 

 

―――へぇ?あの時の道化かい。いったいどうやったんだい、ソレ

 

 

「ンン!?何と!拙僧のことを覚えていらしたのですか?それはまた何とも…!ああ、いえいえ。申し訳ありませぬ、少し取り乱しました」

 

「そうそう。拙僧がどの様にしてマルルク殿の身体を奪ったのか、でしたかな?………それはご想像にお任せしますとも!オーゼン殿が眠っておられる間に何かしらの遺物を使用したのでしょうか?それとも監視基地にて調理した食材に、何かしらの細工が仕掛けられていたのでしょうか?それとも…」

 

 

 

「別れ際に拙僧がマルルク殿と抱き合った時、何らかの遺物が使用されたのですかなァ?」

 

 

 

「さてさて!いったいどれなのでしょうねェ!?」

 

 

 

 眼の前のコレが言い終わるが早いか、私は掴んでいた地面を抉り出し、勢いよく投擲していた。

 

 

「フフハハハハハハ!!良い!実に良いですなァその御尊顔!あぁなんとスバラシイ!!」

 

 

「煩い。その声で喚くな」

 

 

 マルルク……いや。ドーマンは宙へと飛び上がった。そして、どこからともなく紙状の遺物を取り出すと、それはたちまち紫電を迸るようになり、私に向けて放ってくる。

 

 

「さてさて、戦闘開始。というヤツですかな?」

 

 

 

『 』

 

 

 



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怪異!闇を目指した●● 1

『こーいう小話みたいな形式の話、マジで無限に書ける説』……あるかもしれない。

何も考えないで書けるからやってて楽しいよ。皆も一緒にやってみよう!


〈怪異!闇を目指した●● 壱〉

 

 ほォう?これが夢にまで見た“ベルチェロ孤児院”!本当にこのような座席の配置なのですな…

 あ、これ梯子は登れぬのですか?ソソソ…リコ殿らは座っておられたというのに…

 …ンン?オースの街を、歩けぬ、だと…?探索できるのは奈落(アビス)のみ?

 …町民から直接受注する依頼などは無いのですか?ソソソソソ…

 

 

 

 

 

 

〈怪異!闇を目指した●● 弐〉

 

 

 さぁいよいよ探索開始ですな!ンンン♡この瞬間をどれほど待ちわびたか…ッ!

……んン?

 

 

「た、助けてくれぇぇ!落ちるゥー!」

 

 

「ソソソ?如何なさいましたかァ?ラウル殿」

 

 

「ど、ど、ドーマン…ッ!何やってんだよ!うあぁっ。お、落ちる…ッ、助け、てっ!?」

 

 

「嫌です♡」

 

 

「―――は?」

 

 

「あ、人避けと防音の呪符を辺り一面にバラ撒いておりますので、万に一つも助けは来ませぬよ?貴方様の冒険はこれにて終幕です………あぁ!ですがその前に背嚢をば…『急急如律令』!」

 

「ほっ、と。どれどれ?………なァんだ。本当に孤児院から支給された物資しか携帯しておられませんでしたので?このような体たらくでは、奈落では生き残れませ―――」

 

 

「うわァーーーッ!!?」

 

 

「―――ンンン♡サヨウナラ〜♡しかし、なんとも良い収穫でありましたなァ!これで所持金も二倍、ロープも二倍!ツルハシも…壊れかけですが、この程度であればまだ修理できますので?いやぁ大漁大漁!」

 

 

 

 

 

 

〈怪異!闇を目指した●● 参〉

 

 

 こっちにもいねぇ…どうしよう。もうこの辺は探し終わっちまったぞ!?もしかしてまたベニクチナワなんかが下層から上がってきて、それで……っ、いや!違う!そんなワケあるか!

 

 

「ドーマンー!そっちにはいたかー!?」

 

 

「……えぇ、見つかりましたとも!」

 

 

「ッ!ほ、本当か!―――それって」

 

 

「ティアレ殿の赤笛ですな」

 

 

「…」

 

 

「この傷の付き具合からして、恐らくは…」

 

 

「…なんで」

 

 

「んン?」

 

 

「なんでお前、そんな平気そうなんだよ…?仲間がまた一人死んじまったかもしれないんだぞ?」

 

 

「……そのように心配なさらずとも大丈夫ですよ、ナット殿。ティアレ殿はきっと生きておられる。拙僧はそのような予感がするのです」

 

 

 …あれが原因で、俺は前ほど熱心に〈奈落〉を目指さなくなった。別に、友達がまた死んだからだとか、そういう理由じゃない。

 

 あの()を見ちまったからだ。

 

 全てを悟ったかのようなあの顔。そう。例えるとするならさながら神がかり(・・・・)

 奈落の深淵を目指すには、何かしら『人間らしさ』みたいなのを捨てなきゃいけない。そんなどうしようもない現実を、ドーマンのあの表情から察してしまったから。

 

 

(俺は。俺は…)

 

 

 もうこの奈落に、正しく挑めない。

 

 

 

 

 

 

〈怪異!闇を目指した●● 肆〉

 

 

 ンン……辛子饅頭。この身体ではちと辛すぎるか…?

 

 

「あっはは!ドーマン君すごい顔してるよ?ちょっと待ってなよ、今水を持ってきたげるからさ」

 

 

「いえいえ、いえいえいえいえラフィー殿。どうかお気遣いなく!この程度(・・・・)の辛味であれば、ええ!そよ風の様なモノでございますとも!」

 

 

「……へー。あ、おかわりい―――」

 

 

「遠慮しておきますぞ♡」

 

 

「あはははは!やっぱりキツいんでしょ〜!…ほら、水だよ」

 

 

 おお、まったく。探窟家に関わる女というのは皆一様に強かですなァ…

 

 

 

 

 

 

〈怪異!闇を目指した●● 伍〉

 

 

 もっきゅもきゅ、もっきゅもきゅ…

 

 

(……この芋モチなる料理。安価な上に持ち運び易いので、最近では塩もあまり持ち運ばなくなりましたナァ)

 

(…でも十個は持ち歩いているのですがね、塩)

 

「っえぇい虫ケラ風情がッ、邪魔だ!疾く失せぬか!あイダッ!?グゥォォォ…」

 

 

 数分後♪

 

 

(ふう。なんとかなりましたが……おっと、モチが尽きてしまいました)

 

「そんなときに役に立つのがこの塩!肉なぞそこら中に湧きまするので、ええ!」

 

「し!か!も!なんとですよ!この塩をかけると()がするのです!!ンン〜〜〜♡美味!美味ですなァ!塩、あゝ塩!まさに万能の調味料…!」

 

(………はぁ。一人で何やってるんですか儂は)

 

(…やはり共に探掘してくださる仲間というのは必須だと、儂は思うのです。この奈落は一人で旅をするには些か広大が過ぎる…)

 

「………戻ったらナット殿やシギー殿を尋ねてみましょうかね」

 

(赤笛であれど……ンンン?赤笛は一層までしか潜れぬのでしたっけ?でしたらなんです?それ以降はまた一人で探索せねばならぬと?これでは監視基地に皆様を連れて行けぬではありませんか…)

 

 

 

 

 

 

〈優しいサプライズ 1〉

 

 

「……なぁ」

 

 

「どしたのナット?」

 

 

「ドーマンのヤツさ、今度昇級試験い受けに行くだろ?」

 

 

「うん」

 

 

「だからさ、合格祈願に旨いモン食わせてやりたいんだよ」

 

 

「……驚いた。まさか君が他人のためにご飯を作ろうとするなんて…」

 

 

「いくらなんでも酷くねーかよ!?」

 

 

「とは言っても合格祈願は僕もやってあげたかったし……柔らかい肉でも獲りにいく?」

 

 

「おっいいな!よし、じゃあ今から行くか!」

 

 

(一層と二層を繋ぐ洞窟の前を、ヘンな機械が占拠してるって噂があったし、多分それをどうにかするのが試験内容なんだろうけど…それって赤笛がやる仕事なのかなぁ?)

 

「…まぁ、ドーマンなら大丈夫か」

 

 

「ど〜したシギー!早く行くぞ〜!」

 

 

「あ、待って〜!」

 

 

 

 

 

 

〈優しいサプライズ 2〉

 

 

「おぉぉ……溢れんばかりの肉汁、様々な香草が生み出す芳しい香り。一口噛めば溢れんばかりの肉汁が舌に絡みつく…」

 

 

「へっへ〜ん!どうだドーマン!我ながらうまく出来ただろ!」

 

 

「途中からは僕が作ったんだけどねー…」

 

 

「―――御二方、探窟家目指すのは辞めなされ」

 

 

『『えぇッ!?』』

 

 

「いや。すごい美味ですぞこれ。フツーに店で出せまする。腹にもよく溜まりますし、何より傷ついた身体に深く染み渡るこの優しい味わいと言ったらもう!

ンン゛ーーーーーッ゛ッ゛!!

 

 

「あ、よかった。後半はちゃんとドーマンしてた」

 

 

ナット殿ッ、シギー殿ッ!もしも店を開かれるのでしたら、不肖このドーマン、微力ながらもお力添えをさせていただきとうございまする!」

 

 

「わ、分かった分かった!いいから落ち着けって!」

 

 

 

〈合格祈願ハンバーグ〉

 

 ナットとシギーが貴方に作ってくれたハンバーグ。一口噛めばどんどんと肉汁が溢れ出してくる。

 

 所々焦げているのは、きっと親愛故だろう。あるいは、それこそが美食たる所以だろうか。

 

 150g。体力を200回復、満腹度を40回復する。

 

 

 

 

 

 

〈昇格試験。そして青笛へ―――〉

 

 

 さぁ。いよいよ昇級試験本番ですぞ!ンン〜ワクワクしますなァ!

 

 

(げッ、ゴゴウゲ…彼奴は同じ地域にいるだけで、どれだけ離れていても目線を合わせてくるから本当にホラーなのです…)

 

 

 いったい何なんですかアレ。儂の式神越しでも探知してきますし。おおクワバラクワバラ。恐ろしいですねぇ…

 

 

(……さぁ着きました。って)

 

 

 干渉機「ウィンウィンウィンウィン…」

 

 

「え゛ーーッ!?(ほんとにこんな声出たよ)」

 

 

 儂の相手これなのですか!?え、奈落の至宝が初ボス戦なので!?アホですか!こんなの勝てるわけ無いでしょう…

 

 

 

 干渉機「ビーム!」

 

 

 勝てるわけ…

 

 

 干渉機「オリャー!」

 

 

 …

 

 

(…)

 

 

 

 

 

 

「…おっ!お帰りドーマン!試験はどうだった―――よ?」

 

 

「………………ナット殿」

 

 

「………おう」

 

 

「この孤児院は、ペットを飼うても宜しいのでしょうか?」

 

 

干渉機「ハナセ-!」

 

 

「……流石に無理じゃねーか?」

 

 

「拙僧ベルチェロ殿に直談判して参りまする」

 

 

「止めとけよ!!オイ……うあ゛ぁ゛なんかコイツ力強ぇ…」

 

 

 許可は降りました。ついでに青笛にもなりましたぞ!

 

 

「ドーマンってもしかしたらスゲーアホなのかもなー…」

 

 

「笛はついでなんだね…」

 

 

 

 

 

 

〈新人青笛探掘家、ドーマン〉

 

 

 ようやく青笛になりましたので?青笛になったら一番始めにやる事と言えばやはりこれでしょう!

 

 

「装備の更新に来ましたぞ!」

 

 

「おぉ~…つっても俺たちはまだ見学だけどよ」

 

 

「ご安心召されよ!この時の為にコツコツ貯めておきました貯金がありますので!今日は合格祝いです!拙僧の装備を整えるついでに皆様用のツルハシも買わせて頂きましょうや!」

 

 

「ドーマン?そ、それって制度的に駄目なんじゃ…」

 

 

「大丈夫ですよ。形式上はただ拙僧がツルハシを四本買うただけですので!何も心配はいりませぬぞ」

 

「青笛の武装をしておられるのですから、皆様が青笛に成る日もきっとそう遠くないでしょうねェ!」

 

 

「へ、へへっ、よせやい。照れるだろうが…」

 

 

(……ふふ。風邪を引いちゃって来れないドロテアのぶんまで買ってあげるんだから、ドーマンったら優しいな〜)

 

 

 

 

 

 

〈ある日の孤児院…〉

 

 

「時に皆様、こちらをご覧になっていただきたいのですが」

 

 

「ん?んー……ん!?これ奈落の地図じゃねーか!」

 

 

「えぇ!?ちょ、ちょっと見せて…本当だ。すごく精密な奈落の地図*1……一層だけだけど」

 

 

「折角ですので皆様には差し上げようかと思いましてなァ。いざ描き上げても使う者がいないのでは意味が無いですからね」

 

 

「す、スゲェ。よくゴゴウゲが出るポイントまで描かれてる…えっ、マジで!?ここも出るんだ…」

 

 

「あ、因みに二層の地図作成も五割ほど済んでおりますぞ」

 

 

「―――す、すごいよドーマン!僕、君のこと見直しちゃった!」

 

 

「ンンン!そうでしょうそうでしょう…」

 

(……あれ?元々の拙僧の評価、いったいどれほど低かったので?)

 

 

 

 

 

 

〈ある日の新人青笛探掘家…〉

 

 

 もっきゅもきゅ、もっきゅもきゅ

 

 

『キュイィィィィィィン!!』

 

 

「っ。ええぃ!獣除けの呪符を使うておるというのにィィ!死ねェい!」

 

 

『ピギャ-!!』

 

 

「……ふぅ」

 

 

 もっきゅもきゅ、もっきゅもきゅ…

 

 

 

 

 

 

〈またある日の新人青笛探掘家〉

 

 

 もっきゅもきゅ、もっきゅもきゅ

 

 

(………いかんいかん。先ほどからヤケに腹が減る……なにやら体から青い煙も立ち上っておりますし、そろそろ芋モチも底を尽きそうですなぁ…)

 

(いったん戻って遺物を換金してきますか)

 

 

 孤児院への帰還後♪

 

 

「もし、もし。シギー殿?少しばかり尋ねたいことがあるのですが」

 

 

「ん?どうしたのドーマン」

 

 

「探掘をしておりますと、時々体から青い煙が立ち上ることがあるのです。あれはいったい何なのでしょう?」

 

 

「………えーっと。たぶんそれ“青毒”じゃない?ブスチラシに攻撃されたら感染するヤツ…」

 

 

「“ブスチラシ”…?はて…」

 

 

「ああ。ブスチラシってのはロープを昇ってたりすると襲ってくる蝶みたいな―――」

 

 

「あの畜生が…」

 

 

「う、うん。だから事前に解毒薬を買っておくか、攻撃される前に全部倒しておくといいよ」

 

 

「……ええ。教えてくださりありがとうございました、シギー殿」

 

 

 

 

 

 

〈報復、地獄の業火〉

 

 

「なあシギー。なんかドーマンがヘンな事してるぜ~?」

 

 

「……な、何をやってるの?」

 

 

「ん~。なんか“カエンホーシャキ”作ってるみたい」

 

 

「何やってるのさ…―――え?か、“火炎放射器”だって!?」

 

 

 二日後♪

 

 

「ド、ドーマン?ソレ本気で使うつもりなの?ここで??」

 

 

「ええ!勿論ですとも!あの糞虫共は一切悉く焼き殺してやらねば気が済まぬので!」

 

 

「…ドーマン。一応言っておくけれど、ここは〈逆さ森〉だ。つまり周りは燃えやすい“樹”なワケだよ。分かる?」

 

 

「ええ」

 

 

「それを踏まえた上でもう一度聞くけれど、ホントにソレ(火炎放射器)使うつもりなの??」

 

 

「ええ!」

 

 

「『ええ!』じゃないよ!止めて止めて!ここで逆さ森を焼き払ったら、僕ら赤笛組が青笛になった時、どうやって監視基地(シーカーキャンプ)に行けばいいのさ!?」

 

 

「それはその時に考えれば宜しい!拙僧、今はただあの糞虫共を―――」

 

 

「だーっっ!!誰か助けてー!!」

 

 

 

「……まったく、ウルサイねぇ…」

 

 

 

 

 

 

〈クソデカ感情オバアサン 1〉

 

 

「ふゥん?虫憎さにウチごと(・・・・)ウチごと(・・・・)森を焼き払おうとしてたのかい?へェー?そりゃまた随分と…」

 

 

「ンンン。申し訳ございませぬオーゼン殿……拙僧、この通り深く。ええ。深く反省しておりまするので、ここはどうかお許しいただきたく…」

 

 

 まさかたまたま外出していた〈不動卿〉とあのタイミングで出くわすとは……拙僧もなんとも運の無い…

 

 

「ふ、不動卿!ドーマンを許してあげてください!別にドーマンも悪気があってやった訳じゃ…」

 

 

「…んン?君は?なんで赤笛がこんなトコにいるんだい?」

 

 

「う゛ッ゛。そ、それは…」

 

 

「はァ。最近はルールを守らないガキが多いから、ホント困ったもんだよ……いいかい?赤笛ってのはねェ、月笛の付き添いがなきゃ二層に立ち入れないんだよ。だというのにキミらは何だい、青笛と赤笛のコンビかい。ええ?そりゃ随分と楽しそうだねぇ?」

 

「でも、そういうルールや規則を守らないバカからここ(奈落)では死んでくんだよ…ま、長生きしたいんだったら覚えとくことだね」

 

 

「不動卿…」

 

 

「…ハァ。ほら、分かったらとっとと行きな。部屋の外にキミと同じぐらいの子供がいる、後のことはソイツに聞きな」

 

 

「えっ、で、でもドーマン…」

 

 

「コイツはまだワタシと話すことがあるからねェ。そうだろォう?ドーマン(くゥン)

 

 

「……ソソソソ♡お手柔らかに…♡」

 

 

 

 

 

 

クソデカ感情オバアサン姿兼備 () () () () () 2〉

 

 

「お前さァ……良くもまぁ恥ずかしげも無くワタシの前に顔を出せたもんだよ。ねェ?

 

 

「―――ンンン♡何とも勘の鋭いことで!ええ。その節は、我が遊戯の悉くにお付き合いいただき真に!真に!―――おォッと

 

 

「……チッ、外したか」

 

 

「い、いきなり殴りかかるなどと!?なんてヒドイことをするのですか!人の心とか持ち合わせておりませんので!?」

 

 

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」

 

「生憎、オマエにくれてやる慈悲なんてものはこれっぽちも持ち合わせてないんだァ……だから、うん。これも何かの縁だしね?」

 

 

 

もう一度(・・・・)、ここで死ね」

 

 

 

 

 

 

〈ナットの料理修行! 1〉

 

 

 はぁ。何ともまぁ居心地の悪い空間でしたが、何とかオースの町へと戻ってくることができましたぞ…

 

 

「ソソソ……しかしこれは、何とも…」

 

 

「な~。すごいよな~。こないだ〈不動卿〉が“正体不明の原生生物”と戦った時の跡だぜ!?ほんっと、人間業じゃねえよ…」

 

 

「―――おや?ナット殿は白笛を目指されていたのでは?もしや拙僧が進めた通りに料理人を目指さんとするので?」

 

 

「う゛、お、おう……まぁボチボチな…」

 

 

「でしたら!ええ!食材は拙僧が卸しまするので!早速料理の修業を」

 

 

「だぁ~ッ!まだなるって決めたワケじゃないから!」

 

 

 

 

 

 

〈ある日の孤児院〉

 

 

「ナット殿~!活きの良いガンギマスが手に入りましたぞ!」

 

 

「おー。良かったな」

 

 

「ではここに置いておきまするので!」

 

 

「…えっ、ちょっ!?」

 

 

 またある日の孤児院…

 

 

「ナット殿~!今度は取ってきたばかりのオットバスの肉が…」

 

 

「…」

 

 

 

 またまたある日の孤児院…

 

 

「ナット殿~!今日は―――」

 

 

「いやなんでだよ!!」

 

 

「!?」

 

 

「なんッッで毎日毎日食材を俺のとこに持ってくるんだよ!?おかげで俺はすっかり料理係になっちまったよ!」

 

「ドーマンのせいで!最近の俺の印象は“食堂の人”だぜ!?キユイなんかこの前『おかあさん…?』って。俺のことをっ、俺のことを…ッ!」

 

 

「ソ、ソソソ…そこまで思い詰めておられたとは拙僧も思いませんでした…」

 

 

「グスッ……いいか?もう俺のところに食材とか持ってくんなよ?」

 

 

「 い や で す ♡ 」

 

 

「なんッッッでだよ!!!」

 

 

 

 

 

 

〈お、おいしい…!?〉

 

 

「……シギー殿」

 

 

「……なに?ドーマン」

 

 

「なんでしょう、このおにぎり。何と言い表せばよいのか…」

 

 

「…」

 

 

「ナット殿の作られる料理、ぶっちゃけラフィー殿*2の作られる料理よりも味が良い気が…」

 

 

「だめだドーマン」

 

 

「!?」

 

 

「……それ以上は、いけない」

 

 

〈ナットの手作りおにぎり〉

 

 ナットが作ってくれたおにぎり。具はどうやら“ショウユ”なる異国の調味料で甘辛く炊いてあるようだ。

 

 濃い塩味は、疲れた身体に心地よく、通常の料理よりも多く疲労を回復する。

 

 その味はどこか、故郷に置いてきた母を思い起こさせる。目を閉じれば。きっとそこが奈落の底であろうとも。

 

 130g、体力を220、満腹度を40、スタミナを40回復させる。

 

 

 

 

 

 

〈監視基地で休憩したいよ!!それにマルルクちゃんに膝枕されたい!あ、あと―――〉

 

 

 さらっと二層を突破し、いよいよ三層という所ですが。ここで少しばかり愚痴を…

 

 なぜ監視基地が休憩ポイントとして使えぬのです?

 

 ………いえ、考えてみれば当たり前でした。そもそも拙僧が歓迎されるわけないですよね。そうでしたそうでした。

 

 ……で、ですが、少し補給をしたり、ツルハシなどを修理する分には使わせていただいても…

 

 

「こっちくんな」

 

 

 え。

 

 

「こっちに、来るな」

 

 

 

 

 え…

 

 

 

 

 ええ、まぁ、ハイ…

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

『急々―――』

 

 

『 』

 

 

 

 

 

 

〈ちょっとした疑問〉

 

 

「そういえばさドーマン」

 

 

「んン?どうされました?」

 

 

「キミさ、オー…〈不動卿〉と知り合いだったんだね!言ってくれたら良かったのに…」

 

 

「んんんー…まぁ、昔色々ありましてなァ」

 

 

(マルルク殿の身体を乗っ取って死合った(ドンパチした)仲です。などとバカ正直に言う事などできませぬからねェ…)

 

 

「っていうか!あの火炎放射器もう使っちゃダメだからね!?なんでワザワザ監視基地で使うのさ!あと火力強すぎ!二つ隣の部屋にいたボクの髪がチリチリになったんだよ!?いったいどれだけ油をバラ撒いたのさ!」

 

 

「ソソソ……鎮まりなされ~、鎮まりなされ~…」

 

 

「真面目に聞けーッ!!」

 

 

 

 

 

 

〈そのウロコ、いったい何処から…?〉

 

 

「ドーマンー、ドーマンー」

 

 

「んん~?どうしたのです?キユイ殿」

 

 

「今日もアビスに潜ったんでしょー。ならさー、キラキラした石、あった?」

 

 

「ええ!勿論ありましたとも!よろしければ一個分けて差し上げましょうか?」

 

 

「ほんとー?うれしーなぁ!見せて見せてー」

 

 

「確かこの辺りに……はい。〈発光石〉です。落としたりして割らぬように、気をつけるのですよ?」

 

 

「わぁ!光ってるー。ドーマン、ありがとねー」

 

 

「いえいえ!」

 

 

「はいこれ。おれいー」

 

 

「………この魚のウロコ、何処で入手されたので?」

 

 

「しらないー」

 

 

「……知らない?」

 

 

「しらないよー」

 

 

「……はあ、そうですか」

 

 

 

*1
この世界には『正確な』奈落の地図は存在しないのだ!盗掘とかを防ぐためにかなーりボカして描いているらしいぞ!

*2
ハボルグの奥さん。お店をやってるよ



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本編
忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・1


(うちのカルデアのリンボは陳宮に射出されてもういないので)初投稿です。


 

 

 

目が()めると、何もない場所にいた。

 

 

 

 ……ンンン!このような使いまわされた導入なぞ、様々な小説を食い散らかして舌を肥やした皆々様であればさんざ見飽きたでしょう!

 

 ええ、ええ。わかっておりますとも!

 

 拙僧転生する前はこのようなSSなぞ多少は嗜んでおりましたゆえ!度々入ってくるこのような導入を煩わしく思っておりました。

 

 ふふ。それに転生する前の拙僧の身の上話なぞ微塵も興味が無いでしょう?

 

 ですので、ええ。彼女らが冒険を始める所から始めましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

急々如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)』!

 

 

 

 

 

 

 

 

 さァて、場所は変わりましてここは岸壁街。皆様の知るところのスラム街というやつです。

 

 こう見えて拙僧我慢強いですので?原作に乗り遅れないようにするために一か月ほど前からここ岸壁街にてスタンバイしておりました!

 

 体調は良好!眠気も無く式神の調子もよい。それに予備の式神も、新しく作るための紙も大量に用意しておりますので、これだけあれば奈落(アビス)の中でも十分戦えるでしょうな。

 

 

「ああ、もし。この探掘家さま方」

 

 

「ええ!?ど、どうしたん、で、すか…」

 

 

「や、やべえぞリコレグ!急げ!クソッ、貧民街の住民か?」

 

 

 …おやおやぁ?どうやら彼女らは拙僧の体の大きいのに恐れを抱いている様子。

 

 もしや第一印象は最悪ですかな?と、いいますか。拙僧岸壁街の住民に間違えられるほど薄汚い恰好はしていないはずなのですがねぇ…

 

 因みに今の拙僧はゲーム『Fate/GrandOrder』に登場するキャラクター、『蘆屋道満(あしやどうまん)』の第一再臨。

 俗に言う『キャスター・リンボ』の姿をとっておりまする。ああそれとも、この服は子供には刺激が強うございましたかな?式神によって所々を覆っているといえども、半身を露出しておりまするゆえ。

 

 

「あ、あの!」

 

 

「ん?どうしました?」

 

 

「そ、そのぅ……私たち!今から、アビスに潜るんです!けど、だから。その…何か、用事があるん、ですか?」

 

 

「お、おいリコ!早く行けよ!コイツ危ねえぞ!」

 

 

「ええ、まあ、はい。拙僧もこれからこの大穴に潜ろうと思いまして……ですが」

 

 

「いや気にしろよお前!?」

 

 

「で、ですが?」

 

 

「拙僧図体は大きいのですが、心は硝子(ガラス)の如く繊細でありまするゆえ!一人で降りてしまえば、上昇負荷で死ぬ前に、寂しくて死んでしまいまする!」

 

 

「は、ハハハハハー……そうですかー…」

 

 

「ですので、ええ。ぶっちゃけて言いますと拙僧もあなた方の旅に同行したくございまする」

 

 

「…はあ!?じょ、冗談じゃない!おいリコ、やっぱこいつヤバいって、ヘンだって!」

 

 

心外な!何をおっしゃりますか!拙僧は怪しいものなどではございませんぞ!?」

 

 

「嘘つけ!フシンシャは大体そう言うんだよ!」

 

 

「ナット、ちょっと静かにしてて」

 

 

「えっ!?う。おう…」

 

 

「その……私、レグと一緒にアビスに潜るんですけど、もう地上には戻ってこないっていうか。なんていうか…と、とにかく!一緒には行けないんです!ゴメンナサイ!」

 

 

「―――はて?心配はいりませぬぞ?もともと拙僧も此処へ戻る気はありませぬゆえ。先程の上昇負荷云々は拙僧の場を和ませるためのジョークにありますれば!それよりも、ああ。そちらの鉄帽をかぶった少年」

 

 

「な、なんだ」

 

 

「尻ポケットの中に何か入っておりますよ?確認してみてはいかがですかな?」

 

 

 拙僧がそう言うと、レグ殿はポケットの中に入っていた手紙の存在に気付き目を通しました。

 作中において深界一層でリコ殿とレグ殿が気付かれたジルオ殿からの手紙ですねェ。

 それを拙僧が、原作よりも早く知らせた訳です!

 

 原作を破壊するならばこのような所から変えなければ!なりませぬゆえ!!

 

 手紙に目を通したレグ殿と、内容を横から覗いて見ていたリコ殿の顔色が見る見るうちに青ざめていきまする。

 

 

「ま、まずい、まずいよレグ!捜索隊が追いかけてきちゃう!私たち捕まっちゃうよ!」

 

 

「急いで出発しよう!今がまだ日が出てすぐだから…と、とにかく、今すぐにだ!」

 

 

「あ、おいリコ!レグ!もう、どうしちまったんだよ!?あーもう!じゃあなー!!!手紙送ってくれよー!!!」

 

 

「二人とも気を付けてねー!危なくなったら、すぐに戻ってきてもいいんだからねー!!!」

 

 

 ンンンンンン……これもしかして拙僧忘れられてるのでは?

 

 ええい!今日のために拙僧、この薄汚い岸壁街で1か月も過ごしてきたのですぞ!?

 

 何が何でもついて行かねばなりませぬ!絶対に!絶対に!!

 

 

「ンンンンンン!では、いざ!いざ征かん!奈落の果てへ!」

 

 

「えええ?!やっぱりついてくるんですか?!」

 

 

「勿論ついて行きますとも!それに拙僧は初めから、あなた方がなんと言おうとついて行く予定でありましたゆえ!」

 

 

わあああああああ!!レグー!レグー!!この人ヤバイよぉ!!あの光線撃ってー!!」

 

 

「分かった、やってみる!」

 

 

「ンンン!!ヒドイ!!」

 

 

 な!?そんな殺生なァ?!

 

 

 

 

 

 




続きません。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・2

(奈落に向けて撃ち出したはずなのに星になってしまったので)初投稿です。


 

 

 

「はー…あのあと結局、ここまでついてきちゃったんですよねー…」

 

 

「ふふふ。おやおやァ?拙僧はお邪魔でしたかな?」

 

 

 孤児院の子供たちに温かぁく見送られた後。拙僧はリコ殿、レグ殿と共に食事を摂っております。

 

 ああ!そうでしたそうでした。説明が必要でしたねぇ?

 岸壁街より飛び降り着地した後。お二方は未だ拙僧を警戒しているのか、拙僧より少しばかり離れてヒソヒソと作戦会議なぞやっておりました。

 どうやら早く二層まで降りようと急いていたようなのですが、『まだ余裕があるだろう』という事で先に腹を満たす事にしたようです。

 

 “それならば!”と微力ではありますが、拙僧が食材集めを手助けさせていただいたのです。

 …何やら鱗が虹色に光っている魚が採れましたのでリコ殿に調理していただきました。リコ殿の味噌汁は大変美味しゅうございましたよ!

 

 原作ではその時に投げ飛ばされてしまった遺物『星の羅針盤』も、リコ殿に投げ飛ばされ手を離れた直後に、彼女の右隣で味噌汁を啜っていた拙僧が見事キャッチしまして。傷一つなく無事でありますれば!心配ご無用です!

 

 しかしまァ、これこそが枢機の姿でありますか。この不可思議なる羅針盤の正体はいったい何なのでしょうねぇ…

 握っていると少々活力が湧いてくる感覚がありまするぞ。

 

 

「いやぁお邪魔っていうかなんというか……今のところ邪魔ではないしむしろ助かってる。決して!邪魔じゃないん、だが…」

 

 

「うん。さっきも珍しいお魚獲ってくれたし………けど…」

 

 

「なんというか……うん、そうだな。これは」

 

 

『『度し難い、っていうか…』』

 

 

「……それ言葉の使い方正しいのですかねェ?」

 

 

 ンンンンンンン、ヒドイ……拙僧はこんなにも皆様のお役に立っておりまするのに、なぜ怪しまれているのでしょう?不思議ですねェ……

 

 やはりこの身長のせいなのでしょうか?

 

 

「いや、そういうわけではないんだが…」

 

 

「うーん。なんだろう……なんというか、雰囲気が胡散臭いっていうかー…」

 

 

「おやおや、口に出ておりましたか?これは失敬!」

 

 

 ああ。げに忌々しきはこの前世からの癖、いけませんいけません…早く治しておかなければ。

 

 

「それで、このペースで進んでゆくことができれば昼頃には深界二層につくワケでありまするが……その後はどうするのでしょう?そのまま三層に行かれるので?」

 

 

「ええ!?奈落に潜るのに監視基地(シーカーキャンプ)を知らないんですか!?」

 

 

「……ああ!申し訳ありませぬ。何分拙僧オースの街に来てからまだ一月も経っておらぬ身でありまして」

 

 

「それでよく奈落に潜ろうって思いましたねー……二層の途中には監視基地っていう施設があるんです。下層に降りる探掘家たちの休憩地点なんですよ!」

 

 

「へえ、そんなものがあるのか」

 

 

「レグさー孤児院で習ったじゃんか…」

 

 

 しかしまァなんとも、このようにわざわざ知っている事を繰り返し問うたり聞かされたりしなければならないのは、少しばかりメンドクサイですなぁ。

 まあこれも必要経費というモノ。この物語を進めるため、成り立たせるためにも必要不可欠なわけですが!

 

 

「ああ!そういえば。自己紹介がまだでしたねェ!」

 

 

「え?あ、そーでした!私リコって言います!んでーこっちはレグ」

 

 

「レグだ。その……よろしく」

 

 

「なんと。どうやらまだまだ警戒されているご様子で……ああ、そうでした。自己紹介でしたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

拙僧、名を蘆屋道満と申す法師にて陰陽師───」

 

 

探掘家なぞ、これっぽっちもやったことはありませぬが!ええ!

 

 

「───まあ、何はともあれ、以後、よろしくお願いいたします。リコ殿、レグ殿?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ええ、ええ。それこそ地の果て。奈落の底まで、ねェ?

 

 

 

 

 

 

「あぁそれと。拙僧に敬語なぞは不要ですよ、リコ殿、レグ殿。拙僧のことはどうか、使い捨ての道具とでも思うてくだされ」

 

 

ほあぁぁぁぁぁ………そ、その!」

 

 

「ンン?」

 

 

「その、ホウシ?オンミョウジ?っていうのなんなの?!聞いたことない!ねえねえなんなの!!?」

 

 

「おい!り、リコ!?何してるんだ!?」

 

 

「ンンンンンン!?リコ殿?!鎮まりなされ!鎮まりなされ!!」

 

 

 

 




感想が嬉しくて……書いちゃった。


多分そろそろ失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・3

(星になった後、神を撃ち落として戻ってきたので)初投稿です。


 

 

 

 さてさて、今は暴れるリコ殿をレグ殿と協力して宥めた後。お二人ともどうやら疲れ果てて眠ってしまわれたご様子です。

 

 まあ無理もないでしょうな。前日にしっかりと休息をとられていたとしても、まだ日も昇らぬほどの時間からの強行軍は年端もいかぬ子供がするには些か荷が重い。

 

 このように間抜けな寝顔を晒してしまうのも無理のないことでありましょう!

 

 ……因みに拙僧、レグ殿の腕のトラップの外側にはじき出されてしまっておりまする。おお!なんと、拙僧は悲しい…

 

 

 『このペースで進んでゆけば―――』などと先程は息巻いておりましたが、二層突入の目印である『風乗りの風車』なるものは未だ遠く、拙僧らの遥か足元にありまする。『石の箱舟』は、既に越えたのですが。

 

 しかし、原作でもこのペースで進んで行かれていたのでしょう?よくもまぁこれで追っ手を撒けたものです……おっと!そうでしたそうでした!拙僧今まで忘れておりましたが、この後追手の探掘家との遭遇イベントがあるのでした!

 

 

 かくなる上は拙僧だけ幻術を使って隠れましょうかねェ……

 

 

 ……ああ、そういえばレグ殿の火葬砲(インシネレーター)。あれはどうやって習得されたのでしたかな?いやはや、1ヶ月も岸壁街でサバイバル生活なぞしておりますと原作知識もうろ覚えになってしまいまするゆえ……

 

 せっかくの機会です。リコ殿が密かに書かれておられるという日記でも一つ、拙僧も記してみようと思いまする。

 

 

「ん、うぅん……」

 

 

 ―――ンンン?どうやらリコ殿がそろそろお目覚めなさるご様子。この話は、また後程…

 

 

 えいっ

 

 

 

 

 ちょんっ

 

 

 

 

「ふえああああああああああああぅッッッ!!!だれああああっ!!!」

 

 

「ひゃあっ!!どしたのレグ?!」

 

 

「フフフフハハハハハ!!おはようございます!リコ殿、レグ殿!よく眠れましたかな?」

 

 

「あえぁ!!?ドーマンッ?!……ああ、ドーマンか、びっくりしたぁ…」

 

 

「ええ、お二人とも随分と深く眠られていたようで。あれ程動き回っておられたのですから。よほどお疲れだったのでしょうなぁ」

 

 

くぁっ……うーん、たしかに。私、いつの間に眠っちゃってたんだろう……ごめんねレグ。レグのおなか、あったかくて」

 

 

「まあ無理もない。今日はずっと起きてたからなぁ…」

 

 

「さあさあお二人とも!軽く眠気覚ましの運動をしたら出発いたしますぞ!」

 

 

ふぁああい、分かった……って、ドーマン!私が隊長だもん!!んもぅ、忘れないでよー」

 

 

「ンフフフフ!随分と大きな欠伸ですな!この様子であれば眠気覚ましは必要ないかもしれませんねェ?」

 

 

「もーうー!!」

 

 

 ああ、画面越しに見ていた方々との会話というのは、斯くも心揺さぶられるものでありましたか!ンンン!甘露!甘露!!

 

 拙僧の鍛え上げられた腹筋をポカポカと叩いているリコ殿を見て、ついつい頬が緩んでしまうのでありました。

 

 

 

 

 

 

「ん?あれ……ねえレグ、ドーマン。今何かヘンじゃなかった?」

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

「いや。あそこでなにか光ったような気がして……気のせいかもだけど」

 

 

 おやァ、おかしいですねェ?本来ならばこれはレグ殿が気付くべき事であるはず…

 

 先程の巨大なカマキリの如き虫……はて、“ゴゴウゲ”でしたかな?を避けて通るよう拙僧が誘導したのが、徐々にズレとなってあらわれているのでしょうか?

 

 この手の転生モノであればある程度『世界の修正力』、『抑止力』なるものが働きそうなものですが。どうやらこの世界、あの程度の些細なズレも物語に影響するようですねェ。今回はこの程度で済みましたが、さらに大きい変化であればどうなるか…

 

 いやはやしかし、この躰が『蘆屋道満』のもので本当に良かった!陰陽術というモノは正に万能の代物でありますれば!拙僧も多少であれば未来を見通せまするので。微細なるズレはその都度気づかれぬように修復しておかなければなりませぬ。

 

 

「いえいえ、どうやら気のせいではないようですぞ。さすがリコ殿!よく気付かれましたなァ!」

 

 

「えへへへへ、そうかなぁ…?」

 

 

「どうやら追っ手にありますれば。ささ、では拙僧少しばかり隠れまする。拙僧はすぐ傍に付いておりますのでご安心召されよ。おおっと!ではもう時間がありませぬので、これにてェッ!!!

 

 

「っ。て、ええ?!ほ、ホント!?レグ!」

 

 

「ああッ、僕も今確認した!探掘家だ!一人だけどまっすぐこっちに向かってくる!あの三つ並んだ岩の近くだ!走るぞリコッ!!」

 

 

「うん!急ごう!」

 

 

 

 

 さてさて、うまく逃げ切れますかなァ?

 

 

 ……なーんて。土台無理な話ですよねェ?

 

 

 

 

「さすがライザさんの娘だなぁ。おい。リコ」

 

 

「どうだい?俺もなかなかやるもんだろう」

 

 

 

 

「は、ハボさん?!そんな、どうしてハボさんが…」

 

 

 

 

「それにしてもよォ…」

 

 

 

 

「いやあ~盲点だったぜ!!お前さんが『奈落の至宝』だったとはなぁ!レグ!」

 

「……んん?肌の部分も遺物なのか?まったく見た目じゃあ分からんもんだな!それに金玉も!おっ、ここは機械仕掛けじゃねえんだな!荷物の分も差ッ引いたとしても……なんだぁ、結構軽いんだな。っおいおい蹴るなよ!」

 

 

「ハ、ハボさん。そこまでにしてあげて…」

 

 

「ん?……あっはっはっは!!悪い悪い!話がまだだったな!俺ァ、別にお前たちを捕まえに来たんじゃねえんだ」

 

 

「…ふぇ?」

 

 

「ああ、ナットとシギーが訪ねてきてな。『奈落の至宝』を見れる、最後のチャンスですよ!って。そんでまあ、こうして拝みに来たわけだ」

 

 

「できれば、拝むだけにしていただきたかった」

 

 

「ぬぁッはっはははははは!!!はー。ああ、ちなみに連中はねじれ石英のあたりを探してたぜ!ありゃあまだかかるな」

 

「……さてと、で?さっきのヤツは誰だったんだ?」

 

(リコ殿!拙僧の事はどうか内密に!!知られると少々マズいのです!)

 

「ぅええ!?……だ、誰の事?」

 

 

「いやあそれがな?さっき望遠鏡からお前たちを覗いてたら、なんかヘンな服着た大男がいたんだよ!お前たちと一緒に降りているようだったからな、俺ァてっきり、親切な道案内かと思ってなぁ!ぜひともお礼がしたくってよォ!!」

 

 

「……そ、その大男なら、もう自分たちよりも先に行った。そっちの崖から、そのまま下へ」

 

 

「―――へえ!そいつァ残念だったな!辛子饅頭の一つでもやろうかと思ったのに。先にいっちまうたぁソイツも残念なことしちまったなァ!!ハッハッハハハハ!!

 

 

「ア、アハハハハ…」

 

 

「さてと、『奈落の至宝』も見れたことだし、あいつらとの約束も果たしておかんとな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやぁ。なんとか乗り切れましたな。しかしハボルグ殿もやけにカンの働く御仁で……思わず冷や汗が出てしまいましたぞ。

 

 しかしまぁ最後の方。もしも拙僧がリコ殿に語り掛けていなければいったいどうなっていたことやら。

 これこそが探掘家どもの本能というヤツですか?嫌に嗅覚(・・)が鋭いのは気に入らない事です……なんとも恐ろしいものですなァ。

 

 

 それにしても、ねェ。

 

 

 

 

先にいっちまうたぁソイツも残念なことしちまったなァ!!

 

 

 

 

 ンンンン!笑わせる。そのような事は微塵も思っていないクセに。万が一遭遇でもしていたら殺し合いになっていたでしょうに!よくもまあいけしゃあしゃあと殺気も隠さず言えたものですなァ。最後の方なぞ、もはや隠せておらぬというのに!!

 

 その面の皮の厚さ、拙僧も見習わなければなりませぬなァ!!フフハハハハハハ!!!

 

 

 

 




饅頭がノドに詰まったので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・4

(地獄怪曼荼羅の後始末を本人にツケさせてきたので)初投稿です。


 

 

 

 あの忌々しき探掘家と遭遇した後、レグ殿は無事に火葬砲(インシネレーター)を習得なされました。

 

 ……あ。もちろんナキカバネに襲われるなどという初歩的なミスは犯しておりませぬよ?拙僧がそれとなく、レグ殿が腕部の武装に気付かれるよう話題を誘導し。結果実験と称してそこらの岩に向けてぶっ放すという、環境保護の四文字に中指を立てるような行動の末の習得にございます。

 

 この砲の威力ときたらそれはもう!台地が抉れ、当てられた原生生物どもは跡形もなく消し飛びましたぞ!あれを食らえば今の拙僧であっても一溜まりも無いでしょうなぁ!

 

 そのように度々茶々やら横やりなどを入れつつも、拙僧らは無事深界一層を突破し、二層へと足を踏み入れたのでした。

 

 

 

 二層に突入した拙僧らを出迎えたのは、巨大な樹が空から生えているという摩訶不思議な光景でした。

 

 拙僧が乗ってもびくともせぬほどに太い木の幹を、ひょいひょいと飛び回りながら先を目指します。途中ザリガニを巨大にしたような原生生物などを見かけましたが、それらも全て無視し、極力戦闘を避けるように進んでおりますぞ。

 

 ……もちろん。度々目に入る、樹の幹などに埋まったキラキラと光る遺物に、涎を垂らしながら飛びつかんとするリコ殿を二人がかりで宥めつつですよ?

 

 

 

「おお、なんと!アレがリコ殿のおっしゃっていた監視基地ですか!これはこれは!実に大きな望遠鏡ですねェ!拙僧驚きました!」

 

 

「えー?そんなに驚くほどかなぁ?確かにアレはだいぶ大きいけど、性能の良い望遠鏡ってあーいうものじゃない?亅

 

 

「そうだったかな?地上ではあまり見かけなかったけど」

 

 

「なんと?!カルチャーショック!!」

 

 

 

 そのような事を談笑しつつ歩いておりましたが、名残惜しい事に監視基地の入口、ゴンドラ乗り場に着いてしまいました。ンン。ですが、まあ、やはりと言いますか。ゴンドラは降りて来ませぬなぁ…

 

 この監視基地は二層の天井(・・)にぶら下がるような形で建てられておりますので、中に入るためには昇降機を使わねばならぬのです。

 原作にはもちろん拙僧がいませぬのでレグ殿が腕を伸ばして云々……といった感じでしたが、今は拙僧がおりますので。

 

 折角のよい機会ですしここはひとつ、拙僧の陰陽術でも披露してみせましょうかねェ!

 

 

「あれ?おっかしーなぁ……監視基地の中にはいつも見張りさんがいて、基地に近づくとゴンドラを降ろしてくれるって聞いたんだけど……亅

 

 

「じゃあ僕が腕を伸ばしてみようか。この距離であれば……うん、両手ならおそらく届くだろう。リコ、掴まっていてくれ」

 

 

「お待ち下されレグ殿!それには及びませんとも」

 

 

「ん。どうした、ドーマン」

 

 

「ここはどうか拙僧におまかせなされ!レグ殿はこれまでずっとその腕を使われてきたので、とてもお疲れでしょう。折角ですので?拙僧の術でも一つ披露してみとうございまする」

 

 

 

「「ジュツ?」」

 

 

 

「ねぇねぇドーマンさん、ジュツってなあに?」

 

 

 ソソソソ。そうでしたそうでした。この世界は魔法の出てくるお伽噺が無いのでした。そういった童話の類はどうやら全て奈落を題材にしたものになっているようで……困りましたねェ、どう説明したものか…

 

 

「そうですねェ……拙僧は身体が大きく力の強いだけでなく、少しばかり遺物の如き力を扱うことができるのですよ。実は先ほどの食事の時も、火などは拙僧の呪術にて!亅

 

 

「―――す、すごーい!スッゴいじゃんドーマン!え!?じゃあドーマンさんも、火を噴いたりとか、腕がすっっごい伸びたりするの!?」

 

 

「スゴいな……ボク以外にも奈落の至宝(オーバード)がいたとは…亅

 

 

「ええ、いえ。厳密には違いますが。よい例えが見つかりませんでしたゆえそう言うただけでございます。残念ですが拙僧、奈落の至宝で無いことは確かですぞ……ンンン?いや、そうであるとしておいた方が分かりやすいですかな?」

 

 

「ん~、よく分かんないです!」

 

 

「ンンンーそうですかそうですか…亅

 

 

「だから、また教えてください!今日の夜とかに!」

 

 

「―――ふふふ!ええ、仰せのままに。さぁて、お話はここまでにしておいて、早く昇るといたしましょうか。そろそろ監視基地の方々も痺れを切らし、その顔を真っ赤に茹で上がらせている頃合いでしょうからねェ!ではお二人とも、行きますよ!そォーれ!!」

 

 

 

 




劇場版メイドインアビスを見てくるので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・5

(寝ている道満の懐に晴明さんのブロマイドを入れてあげたので)初投稿です。


 

 

 

「ではお二人とも、行きますよ!そォーれ!!」

 

 

 

 

急々如律令!

 

 

 

 

 拙僧がそう言うと式神が5、6つほど拙僧の服の袖から飛び出し、お二方の服に貼り付くと、たちまち宙に浮かせました。

 

 上に上がる(・・・・・)、という行為がこの奈落においてどれだけ危険な事であるかというのは皆様ご存じの通りにございます。それは当然お二方も同じ。一瞬顔を強張らせましたが、まだ少ししか浮かばせておりませんので、今はもう純粋に楽しんでおられまする。

 

 子供の適応力というのは凄まじいですなぁ…

 

 

「わあ!スゴーイ!ねえレグ!私、紐も無いのに浮いてるよ!それになんか紫色の光も……って、れーぐー。何やってんの…」

 

 

「おわわわわわわわわわァ!!亅

 

 

「れぐー…もうっ、そんなに慌てなくってもいいのにー」

 

 

「いや、自分で飛んだりするのは、怖くないんだが、自分以外の人に、ゆっくりと浮かせられるのは、ちょっと……怖いぞ。予想の倍ぐらい」

 

 

「おやおや!どうやらレグ殿は空中浮遊が恐ろしいご様子。でしたら拙僧が抱えて行きましょうか?」

 

 

「ッ、いや、このままで大丈夫だ!やってくれー!ドーマン!!」

 

 

「ええ、分かりましたとも。ではお望みのままに!そォれ!

 

 

「ッええ?!わぁッちょっドーマンンンンンンンンン??!!!!!!

 

 

うヒャアアアア!!???

 

 

 ンンンンン!どうやら少々魔力を込めすぎた様です。お二人は弾丸の如き速さで監視基地に向かって吹っ飛んで()かれました。何という事でしょう!

 

 残念ながらあの様子では、おそらく今頃は潰れた柘榴のように……

 

 

 

 

 

 

 

「なァンて事にはなりませぬとも!もちろん!それでは興醒めですからねェ!!」

 

 

「ハァ、はぁ、はぁ」

 

 

「も、もう……」

 

 

「ソソソー?どうされましたか?」

 

 

「もう二度と、ドーマンには頼まないぞ、ボクは!」

 

 

「ンンンンン?!度し難アい!!」

 

 

 

『『こっちのセリフだー!!!!』』

 

 

 

「ウルサイねぇ……声が大きいよ、君たち。漫才なら他所でやりな」

 

 

 お二方のどうしようもないモノを見るような視線を一心に受けておりますと、入り口から声が聞こえます。どうやら何者かが入口までワザワザ出迎えに来てくれたのでしょう。

 

 ―――ンん?それにしてもこの声は……ああ、遂に!遂に来ましたねェ!!

 

 

 

 

「全く、中に入ろうともせず喋り続けて、やっと来たかと思えば赤笛が1人に機械の少年、オマケに不審者かい?これはこれは……随分と愉快な来客だねぇ…」

 

 

 

 

 

 

探窟家の最高峰。白笛が一つ!無双の怪力を誇る不動卿、『動かざるオーゼン』!

 

 

 

 

 

 

 ―――って、

 

 

 

ンンンンン?!お待ちなされ、オーゼン殿!拙僧は決して怪しいモノなどではありませぬ!!」

 

 

「そ、そうです!ドーマンは性格は度し難いし、見た目も胡散臭いし。さっきも私達をふっ飛ばしたけれど……」

 

 

「リ、リコ殿……そこまでおっしゃりますか…?」

 

 

「で、でも、なんやかんやで私達の隊のメンバーなんです!」

 

 

「……ふうん、そうかい。ま、とっとと上がっていきなよ。玄関でずっと立ち話されると迷惑だ」

 

 

 

 

 ンンン!実に良い事です!拙僧もどうやら、彼女らの隊の一員として数えられるようになったようで!

 

 

 ええ、ええ。いい感じですねェ……上手く取り入っているようで。拙僧安心しました!

 

 

 

 

 




まだ見ぬ感想を求めて失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・6

(道満を壺に詰めてチェイテピラミッド姫路城登らせてたので)初投稿です。


 

 

 

ガリッ、ガリッ、ガリッ

 

 

 

 

「ふぅん?この笛確かにライザのだな……まさか、また見ることになるとはねぇ……」

 

 

 ああ!素晴らしい!スバラシイ!拙僧、監視基地の中にてかのオーゼン殿と面談しておりまするぞ!!オーゼン殿の白笛ガリガリ!よもやこれほど間近で見ることができようとは!

 

 いやはややはり、一度死んでみるものですねェ!

 

 

「あ、あの!オーゼンさんです、よね……?さっきドーマンもそう言ってたし……その笛、見つけてくれたって」

 

 

「……そうだよー、私がオーゼンだよー」

 

 

 

 

ンンンンンンンン!!!!!!(限界オタク魂の叫び)

 

 

 

 

「あ、あの!助けてくれて、ありがとうございました!」

 

 

 ライザ殿の白笛を未だ搔きつづけるオーゼン殿に、流石のリコ殿も痺れを切らしたのか、意を決して話しかけられます。

 

 

「んん?」

 

 

「リーダーから聞いたんです!アビスの中で生まれた私を『呪い除けの籠』の中に入れて、それでお母さんと一緒に地上に運んでくれたって!」

 

 

「……ああ、アレね。アレさー、重くて途中で何度も捨てていこうと思ったよ」

 

「ああ思い出すなぁ、大事な『鐘』まで放置して……置いとけばあの子も来てくれたんだよなぁ……」

 

「ンフフフフフフフ……君、赤笛だろう?ダメだよ、こんな所に来ちゃさあ」

 

 

「あ、あの!そのですね!私、お母さんに呼ばれてきたんです!ほらこの手紙も……それでレグと一緒に奈落の底まで行くんです!」

 

「だから、お母さんの事だけ聞いたらすぐ出ていきますから……」

 

 

「あーそう。そうなんだねぇー」

 

「で?果たしてそれは君たちがここに来ていい理由になるのかねぇ?」

 

 

「ううっ。その、ゴメンナサイ……」

 

 

「……とは言ってもだ。その赤笛がどうやってここまで来れたかには、多少興味があるけどね」

 

「機械の少年の尽力か、はたまたそこの胡散臭い大男のおかげか…」

 

「まあいいや。ねえ、そこの変態」

 

 

「ンンンー?どうされましたかなーオーゼン殿ー。もしや今ー、拙僧の事を呼ばれましたかなー?ああ!なんとも悲しい事ですよ!白笛ともあろう御方が初対面の人間をヘンタイ呼ばわりするなどと!」

 

 

「うるさいねぇ…オマエみたいな変な格好のヤツ、オースの酒場でも、深界五層でも見たことないんだ。オマエなんて変態で十分さね」

 

「大体なんなんだいその服。破産した道化師の真似事かい?ああなるほど、随分よく似合ってるよ!」

 

 

「……ふふふ。随分ボロクソにおっしゃりますねぇ……この服、拙僧のお気に入りなのですが…」

 

「ですがまあ。そこまでおっしゃるならば着替えましょうとも!」

 

 

 

 

 全くしょうがないですねェ!!拙僧、別に着替えたいわけではないのですが!?そこまでお望みになられるのであれば!着替えないワケにはいきませぬゆえ!!

 

 今こそ最終再臨の時!!

 

 

「別にいいよ」

 

 

「ンンン!では、ご笑覧あれ!!」

 

 

結構だよ

 

 

 

フォルム、チェーン

 

 

 我が躰の精強なりし様を、その全てを余すことなく皆様方にご覧になっていただこうとしまして。拙僧の身体が眩い光を放ち始めますと、いきなりオーゼン殿が立ち上がり拙僧の腹にグーパンをブチ込んで来られました。

 

 

 グウッ、おおおおヲヲ?!!痛い?!おお!なんという馬鹿力!!これはッ、腹に響きまする!!!

 

 

 やはり遺物の力とは恐ろしいものですなぁ!『千人楔』……よもやこれほどの力を持っているとは!何とかして手に入れたいものですが…

 

 

まったく、この変態め。度し難い……子供の前で何考えてるんだね。もしものことを考えてここに残っといて正解だったよ」

 

 

「お師さまー?!今すごい音がしましたけど!」

 

 

「ドーマン?!だ、大丈夫!?」

 

 

「ンッ♡ええ、大丈夫です!ご安心召されよ!あなた方がおられる限り、拙僧は何度でも蘇りますれば!!」

 

 

「―――チッ。まったく、度し難いねぇ……マルルク」

 

 

「はい!お師さま!」

 

 

「この子たちを部屋に連れて行って、話聞いといて。子供同士の方が話しやすかろ?」

 

 

「え、あの、オーゼンさん?ドーマンは…」

 

 

「私はコイツと話すことがあるからさ。ライザの話は明日聞かせてあげよう」

 

「ほら。サッサと行きな」

 

 

 ―――はて?何故拙僧だけが残されたのでしょう?まあ拙僧としては、原作の登場人物と話すのは楽しいので?決して苦ではないのですが…

 

 

 

 

 

 

「さて、で?何考えてるんだい、オマエ」

 

 

 

 

 




道満が断末魔を上げながら下に落ちていったので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・6.66

(黒髭氏の『紳士的な愛』になぜか道満が引っ掛かったので)初投稿です。


 

 

 

「さて、で?何考えてるんだい、オマエ」

 

 

 ほう…?あの埴輪系ツンデレオバアサンたるオーゼン殿がお二方、そして何よりマルルク殿の身を案じて拙僧に敵意を向けておられる…!!

 

 

ンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!(尊み)

 

 ―――ッハ!いえいえ、いけませぬ。斯様に興奮しておる場合ではありませぬな。拙僧何気に絶体絶命の状況でありますゆえ。斯様な場所で果てるつもりなど毛頭ありませぬぞ!

 

 

 

「おやぁ?突然何をおっしゃるのです。拙僧誓ってやましいことなど考えておりませぬよ?」

 

 

「そういう薄っぺらい言葉が聞きたいんじゃないんだよ。私はねぇ、オマエがあの子達に何をするつもりなのか聞きたいのさ」

 

 

「ンンンンン!おやおやぁ?不動卿ともあろう方が子供の心配ですかな?ンンン~♡実に良いご趣味をされているようで!もしくはこれこそが長生きの秘訣なのですかな?であるならば是非ともご教授いただきたく!」

 

 

「くどいよオマエ。それとももう一発殴られたいのかい?」

 

 

「―――ほォう?脅しのつもりですかァ?エエ、それであなた様の気が晴れるというのならばどうぞ心ゆくまで!あ、拙僧としては先程よりももっと下側、ヘソの上辺りを狙って下さると嬉しゅうございまする♡」

 

 

 

 拙僧がそのように言うと、オーゼン殿は心底気持ち悪いものを見るような視線を向けられます。

 

 

 

「……ふん。つまらないねェ。大方何かしら腹に仕込んでるんだろう?道化の格好をしてるんだ。騙すなら、もっと上手くやるんだね」

 

 

「んふふふふ、これは失敬!……で、何でしたかな?ああ、そうそう!拙僧が何をするつもりか、でしたねェ。でしたら、ええ。“何もしない”が答えになりまする。勿論嘘ではないですとも!」

 

 

「ふゥん。ここまで言ってまだシラを切るんだ?面白いねぇ…なら理由は何なんだい?」

 

 

「理由、理由を問いますか……ふむ、そうですねェ、敢えて言うならば……放っておけなかったからでしょうか?」

 

 

「……ヘぇー、続けなよ」

 

 

 

 拙僧の言に興味を持っていただけたのでしょう、オーゼン殿が続きを促しておられます。はてさて、どのようにして丸め込んだものか…

 

 

 

「拙僧は彼女らとアビスに潜る前、岸壁街などという薄汚い場所におりましてねェ。あの場所のことはご存じでしょう?そこで何が起こっているのかも。拙僧はずっと見ておったのですよ。―――奈落に堕ちていく(呑まれる)者たちを」

 

「ええ、ええ。悲劇ですよねェ?明日の朝を迎えるために、己の未来を贄とする。本末転倒ではとか拙僧思うのですが………まあある意味、あれも一種の地獄でありましょうなぁ」

 

 

 

 まあ拙僧、彼奴らも全て喰ろうたわけですが。

 

 

 

「さてある日、そんな地獄に子供が四人迷い込んで来ました。二人は荷袋をぎゅうぎゅうに詰めて、もう二人は其れの見送りで、ですよ?何かと話を聞いてみれば。その二人は自らの意思で挑むというではありませぬか!この奈落に!総てを飲み込む大飯食らいの王様にです。ふふふふふ!到底、正気の沙汰とは思えない!」

 

「――――――ですが、拙僧興味が湧いてきまして。そうでしょう?悪政を敷く王とは、深層の獣より恐ろしいものである。そう聞きます。その食欲の赴くままに、喰らい尽くす。老いも若きも!男も女も区別なく!平等に!!!―――そしてもちろん。子供も」

 

 

 

「そこでふと思ったのです。彼らについていけば面白いのでは?と」

 

 

 

「唯の悲劇はもう見飽きました故。ええ。悲劇の後は喜劇です。年若き少年少女が、艱難辛苦を乗り越えて、大冒険を繰り広げる。ンフフ!何という王道物語!後の世において陳腐だと言われても過言ではないでしょうなぁ!」

 

「ですが。ええですが!見てみとうなったのです。ただ美しいだけの物語というのもそれはそれで興味がありまするゆえ」

 

 

 

ただ美しいだけの物語(・・・・・・・・・・)。苦痛は無く苦難も無く、ぬるま湯の如き安寧だけがある。アナタも駄作であると罵られますかな?当人からすれば極楽のごときそれの、一体何処が悪いというので?ええ。その苦痛も苦難も嘲笑も、そして試練すらも!全て全て、拙僧が喰ろうて差し上げましょうや!

 

 

 

「フハハハハハ!!不動、いえ。動かざる(・・・・)オーゼン殿。アナタはそこで指を咥えて見ておれば宜しい!我らは、先へと進みまするので!」

 

 

 

 

 

 

「さァて、とまあ。ご清聴有難く存じまする。何も無いのであれば拙僧はそろそろお暇させていただきとうございますが?お二人の下へと赴かねばなりませぬので」

 

 

「……はあ、もういいよ。勝手にしな」

 

 

「ンンン!では拙僧これにて!………ああそうですそうです、言い忘れておりましたが」

 

 

「ンん?」

 

 

「実は拙僧、先程は何も仕込んでおりませんでした♡ンンン♡ハッタリにございます♡

 

 

「 」

 

 

 

ヒャア!恐ろしい、オソロシイ!!ンンンフフフフフハハハハハハハ!!!!!

 

 

 

 

 ああ、しかし。何とも。

 

 

 よくもまあ滑らかに回ることですよ、拙僧のこの口も。

 

 

 

 

 

 

「あー。ドーマンおかえりー」

 

 

「ンンン、道満が只今戻りましたぞ。ああ、それにマルルク殿もおられたとは!」

 

 

「…なあドーマン。さっきスゴイ音がしたんだが、大丈夫―――な、何があったんだ?」

 

 

「ソソソ、ご安心召されよレグ殿。あれはオーゼン殿が拙僧の肩に止まった虫を、思い切り叩き潰した音でありますれば」

 

 

「へえー…そうだったのかー……」

 

 

ンフフフフフフフフ。ええ、ええ。そうですとも」

 

 

「あ、あのー。ドーマンさんですよね?」

 

 

「ソンン、如何なさいましたか?マルルク殿」

 

 

「お、お風呂、あっちですので……あ、そ、その!僕!」

 

「なにか冷やすもの持ってきます!顔がスゴイことになってますよ!?もうメチャクチャですー!!早く冷やしてください!」

 

 

「ああーいらないよー。そいつなんかにはインビョウのゲロで十分だよー」

 

 

ぴえっ!?お、お師さま?!いつからそこに…?」

 

 

 

 ンンンー……おかしい。何故です?何故このようなコトに?

 

 

 

 




Googleの闇の中に蘆屋道満・オルタ・サンタ・リリィを求めていたら、水着レジライに遭遇してしまったので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・7

(なぜか獣狩りの夜に迷い込んでしまったので)初投稿です。


 

 

 

 さてさて、オーゼン殿がマルルク殿を連れていかれた後。リコ殿とレグ殿は部屋の中に置いてあったガラクタ(四級)遺物をまじまじと観察されております。

 

 この層で採れる遺物というのは大抵が、刺激を与えると眩い光を放つ“太陽玉”であるとか、そういった、飯のタネにはならぬような取るに足らぬものです。ですがそのような物もリコ殿にとっては金銀財宝に等しき宝物、放っておけばきっと何時間でも観察されておられる事でしょう。

 

 

「……ところでお二人共。そろそろ夜も深くなってきた頃でしょうしお休みになられてはいかがでしょう?」

 

 

「えぇ~?でもまだオンミョウジ?ってやつの話聞いてないよー」

 

 

「ああ、実はボクも気になってたんだ。ドーマン、君はどんな事ができるんだ?」

 

 

 ―――まさか覚えておられたとは。ここは適当に煙に巻いておきましょうか。

 

 

「そうですねェ……天体観測や占いなどをする人々のことを、拙僧の故郷では陰陽師と呼んでおりました。拙僧は……運気を上げたり、多少天気を変えたりなどできまするな。あとは人を呪ったり、でしょうか?」

 

 

「の、呪うのか?!人を!?」

 

 

「―――ええ!拙僧そういった類の術も多少は(・・・)嗜んでおりますれば!例えばそうですねェ……真夜中、月の出ておらぬ夜に枯れ草で編んだ人形に呪う人間の髪の毛を入れるのです。そうして作った呪いの人形に!思い切り杭を打ちつける!!そうすると次の日の朝には髪の持ち主が死んでいるのです。それも苦 痛 に 歪 ん だ 表 情 で 」

 

 

「や、やめろドーマン!からかうな!」

 

 

「ふふふ、信用できぬと言うのであればお作りしましょうかァ?未だ二層ですから草などどこにでも生えておりましょう!」

 

 

 アララ、リコ殿の陰に隠れてしまわれました。

 

 ンン~♡知識としては知っておりましたが、本当に幽霊が怖いとは!ああ。なんとも、可愛らしいですねェ!

 

 

「ささ、もうよろしいでしょう?明日は朝早いのですから早く寝なされ。でないと拙僧が呪うてしまいまするよ?」

 

 

「も、もう寝る!お休み!!」

 

 

「うん。ふあぁ~……わたしもねるねー。おやすみー…」

 

 

「ええ、よい夢を」

 

 

 チョロいですなー。甘々過ぎていつか悪い輩に騙されないか心配ですぞ?

 

 ……さて、と?もう寝付かれたのですか、子供は寝付きが良いですねェ。安眠できるよう(まじな)いでも一つかけて差し上げましょう。

 

 あとは……拙僧どうせ朝まで暇ですし。明日はオーゼン殿とイチャイチャする予定ですので、拙僧の能力の再確認などしておきましょうかね。

 

 さて、こうして懐より取り出したるは拙僧特製の手帳にございます!

 

 表紙には拙僧の作成できる中でも特に強い式神が憑いておりますゆえ、唯人には触れることすらできぬという優れもの!まっこと、陰陽術とは便利なものですねェ

 

 しかもこの世界ではあり得ぬようなパスワード機能付き!……ンンン、拙僧。陰陽術ってもはや何でもアリなような気がしてきましたぞ?

 

 

 

 

 

 

『其ガ一番初メに現れタのは、何処?』

 

 

 

 

 

 

 勿論、下総国ですな。英霊剣豪七番勝負が拙僧の初登場シーンでありますゆえ!

 

 拙僧が回答を書き入れると式神がスーッと手帳の中に消えていきます。

 

 これで拙僧が再び手帳を閉じるまでロックが解除されたわけです!ささ、では。見ていきましょうかねェ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『DOMAN道場』

 

 

 

 お恥ずかしながら準備に熱中しすぎてしまいまして。拙僧ここから先朝が明けるまで終始無言でしたので、皆様には特別に!特別に!拙僧がどの様な能力を持つのか解説させていただきとうございまする!

 

 ここに記されている内容は物語にはしばらくは直接関わって来ない予定でありますれば。煩わしければ飛ばしていただいても結構ですぞ!

 

 

 

 

 さて、その前に。拙僧のこの体は『Fate/GrandOrder』に登場する1サーヴァントのものなワケですが、サーヴァントのレアリティをこちら側の『メイドインアビス』のキャラクターに対応させてみましょうか。

 

 ふふふふふふふ!それでは参りましょォう!

 

 

 

・ レベル1のサーヴァント・・・測定不能

 

 分かりませぬ。恐らく赤笛と青笛の間ぐらいでしょうか?さすがに未強化のエイリーク殿でもナット殿やシギー殿らには勝てるでしょうし。ネェ?

 

 

・ 一部の星3のサーヴァント & スキルとLvMAX ①・・・黒笛以上白笛未満。

 

 ぐらいでしょうか?一気に飛びましたなァ!!ンンン。正直、一部の星4サーヴァントもこのあたりかと思われますが……

 

 因みにイメージはマシュ、ステンノ、エウリュアレ、ジルドレェ(剣)、あたりですぞ。

 

 

・ 一部の星3のサーヴァント+星4サーヴァント & スキルとLvMAX ②・・・事前情報アリで白笛と善戦できる。場合によっては勝利可能か?

 

 ぶっちゃけ相性の問題もあると思いまするぞ。

 

 イメージはロビンフッド、ランサー、メドゥーサ、アストルフォ、ヘラクレスですぞ。

 ですが、対オーゼン殿を考えた場合、彼らの殆どが負けるでしょうなぁ。特にヘラクレスは。

 唯一善戦できそうなのは、かの英雄王と半日戦い続けたランサーぐらいか…?

 

 逆にボンドルド殿であれば。祈手(アンブラハンズ)のサポートがなければロビンフッド、アストルフォならばあるいは勝てるやも?

 どちらにせよヘラクレスのような狂化のレベルが高い、理性の無いサーヴァントでは厳しいでしょうな。

 

 

・ ほとんどの星4サーヴァント & スキルとLvMAX・・・いきなり遭遇しても互角に戦える。

 

 このあたりから、英霊側もトンデモない力になってきますからねぇ……

 それでも水着サーヴァントなどでは厳しいでしょうか。

 

 イメージは柳生宗矩、アストライア、太陽3倍ガウェイン、ジークフリート&ゲオルギウスペア(最後2つは少々インチキ臭いですが…)ですぞ。

 

 

 さァてお待たせしました!!いよいよ星5サーヴァントでございまする!

 

 

 

 

 

 

・ ほぼすべての星5サーヴァント & スキルとLvMAX・・・白笛に余裕で勝利できる。

 

 ンンン。悔しいですが……闇の女狐らに勝てる光景が想像できませぬ。

 なんです?ツングースカ大爆発で攻撃するとか、ピラミッド×2の尖った部分で挟み込むとか。頭がオカシイのでは???

 

 他の方々も逸話がぶっ飛んだものが多いですからねェ…

 英雄王も最初から少し警戒してさえいれば勝てるのではないでしょうか?

 

 イメージは山の翁、英雄王、アルテラ、超人オリオン、オジマンディアス、女狐ら、アーラシュ殿ですぞ。

 ん、コロンブス殿は?…ンン、ダメですか。そうですか……

 

 

 はて、『では、拙僧はどうなのか』?ふぅむそうですねェ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ 宝具マLv120金フォウマアペンドスキル全開放足跡MAX超ムキムキイケメン蘆屋道満・・・測定不能

 

 ソソソ?これが昔流行ったチート転生などというやつでしょうか?あ、ああッ!おやめなされ!拙僧に石を投げるのはおやめなされ!聖晶石ならばいつでも大歓迎ですが…

 

 どうやら拙僧、前世でFGOをプレイしていた頃の『蘆屋道満』なるサーヴァントの全てをそっくりそのまま引き継いでしまったようで…

 

 実に陳腐!!陳腐ですねェ!!もしも拙僧が神であるならばもっとマシな設定を考えますぞ?!

 

 

 まあ拙僧、使えるものは全て使う主義ですので。ありがたく頂きまするが…

 

 

 

 

 あと、これに加えて一度ゲーム内で装備したことのある概念礼装を装備できまする。

 一通り試したところ、『カレイドスコープ』、『魔性菩薩』、『恋のお呪い』、凸『黒の聖杯』、凸『死霊魔術』、凸『クリスマスの軌跡』、凸『2030年の欠片』、各種イベント礼装など、ほかにも様々…

 

 いつもストーリー攻略に連れ出していて正解でした!ええ、ですが。もともと持っていない『ベラ・リザ』はもちろんの事、一度も装備させたことのない礼装、凸『月霊髄液』、凸『エアリアルドライブ』などは不可能でした。

 

 ンンン……『月霊髄液』が使えぬのは、少しばかり厳しいですな。

 まあ他の礼装がありますゆえ、別によいのですがね。これ以上を望むのは、厳しいでしょうからねェ…

 

 

 凸『モナ・リザ』なぞどこで使うのでしょうかね?絆上昇礼装は重宝しておりますが。あ、拙僧普段は凸『ティータイム』を装備しております。

 お陰さまでお二人との絆がより早く深まったような気がいたしまするぞ!

 

 

 

 

 

 

 さて!ではそろそろお二人とも起きられるようですし。この辺りで終わりましょうか!

 

 ……あ。そういえば、原作ではマルルク殿も一緒に寝ておられたような気も致しますが。オーゼン殿が連れて行かれましたからなァ。

 結局マルルク殿の性別はどちらだったのでしょう?

 

 今からでも部屋に忍び込んでみてくれようか…

 

 

 

 




ちなみに、道満が装備したことのあると言っている礼装は全部私が装備させたことのあるものだったりします。

道満が血質32.6%マイオプスタマイ落としたのをメチャクチャ自慢してきやがったので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・8

()初投稿です。


 

 

 

んんっー、おはよードーマン」

 

 

 ンンンン~!実に良い朝ですねェ!

 

 まあ拙僧寝ておりませぬが。睡眠が娯楽にまで成り下がったのはこの身体になった利点の一つでもありますぞ。

 

 

「ごめんねドーマン、ちょっとトイレ行ってくるー」

 

 

「ンンン、場所はご存じですかな?拙僧が案内して差し上げまする」

 

 

「うんー、おねがあああぁぁぁぁい

 

 

 おやァ?どうやらリコ殿はまだまだ寝足りないご様子で。

 

 

「フフフ、では。どうぞこちらへ」

 

 

 監視基地で厠といえば少しばかり心配ではありますが……厠に行く時間も原作とズレておりますので、例の『オバケ』が出ることもないでしょう。

 

 

 

 

 

 

「あ、ありがとうねドーマン……ドーマンがいなかったら、私多分漏らしてた……」

 

 

 

 

 

 

お  り  ま  し  た

 

 

 

 

 

 

 ンンン?!なぜです!?何故か数も増えておりましたし!

 

 昨日の拙僧とのオハナシがよほど堪えたのでしょうかねェ……あの程度の嫌味で気分を害されるとは、体は不動であれどもその精神はユル♡ユル♡だったようで!

 

 

くあっ、おはようドーマン。さっきリコの叫び声が聞こえたんだが何かあったのか?」

 

 

「……エエ、出たのです」

 

 

「で、出た?…まさか」

 

 

「ンンン。ご察しの通り、動き回る死体がです」

 

 

「………きゅうぅぅ

 

 

「何と!!レグ殿?レグ殿?!返事をしてくだされ!」

 

 

 これは……オーゼン殿の部屋に行くのはもう少し時間がかかりそうですなァ。

 

 

 

 

 

 

 何とかレグ殿が意識を取り戻した後、我々はオーゼン殿と一緒にマルルク殿の手料理を食しておりました。しかしこの肉のなんと柔らかい事か!原生生物の固い肉もここまで食べやすくできるものなのですなぁ。

 

 後で好感度稼ぎもかねて、香辛料など分けてもらえぬか交渉してみましょうか…

 

 

「オーゼンさん。朝からよくそんなに食べられますね……」

 

 

「ンん、探掘家は体が資本だからねぇ。とにもかくにも、食わなきゃあ始まらないのさ」

 

 

「おおー、リーダーとおなじこと言ってる…」

 

 

「ンンンン!どうやら拙僧の聞くところによりますと、食事を多く摂られる方は小食の方と比べて老けやすいようですぞ?ともすれば……おやァ?オーゼン殿は…」

 

 

「オマエさぁ。人の神経を逆撫でするようなことしか言えないのかい?」

 

 

「おやおやおやおやァ?どうかされましたかな?もしや最近シワが気になってきたとか?」

 

 

「だ、大丈夫ですお師さま!お師さまはとてもお綺麗ですよ…?」

 

 

「マルルク……いい子だねぇ。それはそれとして後で裸吊りだよ」

 

 

「なんでですか?!今回はボク何も悪くなかったですよね!?」

 

 

「気分だよー」

 

 

「もうどうしようもない?!」

 

 

「マルルク、君も大変なんだな…」

 

 

 随分と賑やかで平穏な食事風景ですなぁ。拙僧のハートも思わず浄化されてしまいそうになりますよ。

 

 さてさて、皆様はもう食事を終えられたようでオーゼン殿が話を切り出されます。

 

 

「君たち、もう食べ終わったかい?ならついて来なよ」

 

「君がさっき話していた動く死体についても話してあげよう。もちろん、知りたければだがねぇ?」

 

「さあ、ついておいで」

 

 

「ンンン。では行きましょう!隊長殿?」

 

 

「……はい」

 

 

 さあ、いよいよあの“籠”と対面する時が来たのですな。

 

 リコ殿は立ち上がり、決意を込めた眼差しをオーゼン殿に向けておられまする。

 

 

 

 

 

 

「君たちのことは大体マルルクから聞いたよ」

 

「確認したいんだけどさぁ、君はライザの行方を追って来たんだとか?まったく察しの悪い……」

 

「ライザは既に死んでいる。その白笛が上がったろうに」

 

「君が母を追う旅はここで終わりだよ」

 

 

「……オーゼンさんは、どこでその笛や封書を?」

 

 

「墓さね」

 

「深界四層『巨人の盃』。そこにトコシエコウの群生地があってねぇ…そこに墓ができてたんだよ」

 

「あそこ、ライザが好きな場所だったんだ」

 

 

「そ、そんな……。でも、お母さんは私を呼んで、」

 

 

「それさぁ、ライザの字じゃないよ。ライザは悪戯でも、そんな字は書かないよ」

 

 

「んん?アレェ?きみが奈落の底を目指す理由は何だっけ?」

 

 

「わ、わたし…自分で確かめに」

 

 

「ホウ?それは名案だ。墓でも暴いてみるかね?

 

 

「ふふふ、ご安心召されよリコ殿」

 

 

「えっ?どーまん…?」

 

 

「貴方の母君は生きておられますよ。もちろん、根拠はありませんがね?」

 

「別に占いなぞ行った訳でもありませぬが。エエ!拙僧、このような勘は優れておりますゆえ!」

 

 

「ですから、ご安心召されよ」

 

 

「………うん!ありがとう、ドーマン。なんか落ち着いたよ」

 

 

「ンン!それはよかった!」

 

まあ、落ち着いたのは拙僧の呪いのお陰ですが。

 

「チッ、ツマラナイねぇ」

 

 

 

 

 

 

 凡そ常人には開閉することすら困難であろう巨大な扉を片手で押し開けたオーゼン殿は、そのまま中に入ってしまわれます。

 

 

「ここは何だ?」

 

 

「私室さ。知りたいからついて来たんだろう?」

 

「さあ、入りな」

 

 

 

「オーゼン、この四角いのは……」

 

 

「―――すごいよ、これ。こんな複雑な模様見たことない…二級以上の遺物?」

 

 

「これはライザが買い取った遺物さ。ここに運んだのは私だがね。『呪い避けの籠』っていうんだ」

 

 

 そう言われると、オーゼン殿は白笛を吹きこの籠を起動されました。

 

 笛の音が鳴り響いた瞬間この籠は、まるで意思を持ったかのように蠢き始め、中の肉が露出した状態へと変形いたします。

 

 全ての工程が終わった後、籠の中央にはちょうど人間の赤子が一人入りそうな程度の空間が空いておりました。

 

 ほォ!ここにリコ殿が収まっていた訳ですね!?何とも興味深い…

 

 

「層をまたいで移動ができない生物をこの中に入れておくと、上昇負荷を受けない……なんて言われてるが、実際は呪いを受けるし死にもする。ただ…」

 

「動きだすんだよ。分かったのは君のおかげさ」

 

「君、死産だったんだよ。それが邪魔くさいからこの籠に突っ込んだら、なんと動き出したのさ」

 

「今朝動き回る死体を見たと言っただろう?アレは、元々は晩飯に使う予定だった肉だよ」

 

「そしたらコレが動き回って逃げるんだ。途中から面白くなってねぇ…結局5、6匹分ぐらい入れたかなァ」

 

「ねえ、きみ」

 

 

「きみはいつまで持つ(・・)のかなァ?」

 

 

「それとさァ……あの時動いた君も、晩飯の食材も。両方とも奈落の中心に向かおうとしたんだよねぇ。君なら、なにか知ってるんじゃないかな?」

 

 

「君も、あの肉と同じなんだろう?」

 

 

「どうして……そんなこと…」

 

 

「ああ、そろそろ分かってくれたまえよ」

 

 

 

「私はキミが、嫌いなんだよ」

 

 

 リコ殿を掴もうとしたオーゼン殿の腕をレグ殿が掴まれます。

 

 ……ああ、拙僧はただ見ておるだけですよ。

 

 

「………おやぁ?なんだい、『奈落の至宝』の少年」

 

 

「オーゼン、あんたの話はとても興味深いが、これ以上リコを傷つけないでくれ」

 

「いくらなんでも大人気ないぞ!オーゼン!」

 

 

「……ああ、それ。よく言われたよ」

 

 

 

 

「ねえ、きみ。機械なんだってねぇ。ならさあ、神様って信じるかい?」

 

 

「?!な、急に何だ?」

 

 

「ここの人たちはねぇ、あまり神を信じないのさ。代わりに何を信じているのか、きみに分かるかい?」

 

「それはここ、大穴そのものさ」

 

「奈落の底は未知の領域、畏怖されるからこそ神足りうるんだよ。そこに簡単に行って、帰って来られたら?奈落信仰も、遺物の価値も、足元から揺らぎかねないのさ」

 

「だからこそ……ああ、本当に良かった!キミが記憶を思い出す前で!思い出す前に処分しとかないと―――」

 

 

 

 

 

 

「急々如律令!」

 

 

「…ンンンー♡真に残念ですがここまでです!オーゼン殿?」

 

 

 後に残ったのは、能面の如き顔をしたオーゼン殿のみでありました。

 

 

 

 




ので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・9

(キャラクターの喋り方が理解らないので)初投稿です。


 

 

 

「急々如律令」

 

 

 

 

 拙僧がそう唱えると、腕を掴まれていたレグ殿とそれを見ていたリコ殿の姿が掻き消えました。これは拙僧の転移術式でありまする。

 その成功率は何と驚異の百パーセント!かの『太公望』なるサーヴァントの扱う土遁の術などよりも優れておりますれば!

 

 まあ、転移先に事前に式神を置いておかなければいけないのですがね……

 

 ―――ああ別に『いしのなかにいる』などといった不具合が出る訳ではなく、拙僧らの泊まっている部屋に送っただけですぞ。

 ついでにボディーガード(顕光殿)も付けさせていただきました♡これが俗に言うリップサービスと言う奴ですな。

 

 

 

 

「ンンン♡真に残念ですがここまでです!オーゼン殿?」

 

 

「……あの子たちをどこにやったんだい?」

 

 

「ご安心召されよ、拙僧らの泊まっている部屋におります。ええ、ええ。これから拙僧が行うことを見られては心優しき彼女らはきっと気分を害されるでしょうからねェ?」

 

「ところで拙僧は今マルルク殿の後ろに立っているわけですが。何もせぬので?」

 

 

「へえ?いい度胸じゃないか……それで人質に取ったつもりかい?

 

 

「いえいえ!そのような気は毛頭なく!拙僧、人質を取るぐらいならば既に殺しておりまするゆえ!」

 

「ただ拙僧は知っておいてほしいのです。あなたの―――」

 

 

 

 

「 だ ま れ 」

 

 

 

 

 そう彼女が言うや否や、拙僧は瞬く間にオーゼン殿に殴り潰されました。

 

 ンンン……まだ話している最中でありますのに。全くせっかちですなァ。礼儀を知らずとも白笛というのは務まるモノなので?

 

 

 

 

 

 

(ッチ、やっぱりか…)

 

(昨日殴ったときもそうだったけど殴った感覚が軽い。まるで布を殴ってるような感覚だ)

 

(これで確定した。こいつ、人の形をした別のナニカ(・・・)だ)

 

(ハハ、スゴイなぁ。本気で殴ったのに相手が形を保ってるなんて何時ぶりだったかねぇ?)

 

 

 

 

 

 

(などと考えておられるのでしょうなー)

 

 

 

 

 ンンン!察しの良い皆様方ならばそろそろ分かったかもしれませぬが、今殴られたのは拙僧の式神で作った人形!デコイでありまする!

 

 

 力尽きて部屋の隅に転がっている式神を分解し、呪符の状態に戻してから回収します。時代はリサイクルですぞ!

 

 

 

 

「オーゼン殿もそろそろ気づかれましたでしょうかねェ!ンン、そうですとも!先程の拙僧は偽物なれば!さあ、この拙僧も殴ってみますか?ええ、エエ!どうぞ、こころゆ―――」

 

 

 

「」

 

 

 

       「ンン♡ハズレで―――」

 

 

  「ンンン!!これもハ―――」

 

 

「これもハ―――」  「ンン、これ―――」

 

 

 「おやァ?どうやらこれも―――」

 

 

         「ンンン♡ダメで―――」

 

 

    「フフフ!残ネ―――」    「さあさ、どれが―――」

 

 

 「幼い拙僧も―――」

 

 

             「年老いた拙僧も―――」

 

 

  「無数の拙僧が―――」

 

 

                「ええ!まさに限りな―――」

 

 

「いくらで―――」

 

 

              「いくつでも―――」

 

 

 「さあさあ?早く殺さ―――」

 

 

 

ここを埋め尽くしてしまいまするぞ?ほうれ!どうされたのです!ガンバレ♡ガンバレ♡」

 

 

 

 

(クソッ、クソッ!キリが無い!)

 

(こんなメンドクサイやつを相手するのは生まれて初めてだよ。度し難い!)

 

(数を生かした人海戦術で攻撃してくるから全員を相手しなきゃいけない。それで一匹潰したと思ったら、その間に二匹に増えて攻撃してくる!ボンドルドよりも厄介だ!!)

 

(しかも、極めつけはアレだ!時々的が小さくなる!しかも小さいだけですることは他と変わらないから、他のヤツの間から攻撃してくる…!クソッッ!!)

 

 

 

度し難い…

 

 

度し難い度し難い度し難い度し難い度し難い度し難いッッッッッッ!!!!!!

 

 

 

ンンンンンン!!ホラホラホラホラァ!!!どうされたのです!ペースが落ちておりますぞ?」

 

 

「そんなにッ、死にたいんだったら!さっさと!!本体を!差し出してくれると、助かるんだけど、ねぇ!!

 

 

「ンンンンンンンン~~♡イイですねェ~♡」

 

 

 

 

 

 

 オーゼンの部屋の扉が勢いよく開かれる。彼らの目に飛び込んできたのは―――

 

 

 

 

ドーマン!大丈夫か―――え?」

 

 

「はぁ、はぁ…レグ、ドーマンは?」

 

 

「――――――」

 

 

「レグ?どうしたの……え?!」

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、はぁ、はぁ」

 

 

「ンンン?もう終わりですか?ほうれ、白笛とはこの程度で疲れるほどヤワではないでしょう?さあ、立ちなされ!」

 

 

 

 

 膝をつく『不動卿』と、それを見て嗤う道満だった。

 

 

 

 

 

 

「―――ドーマンが、勝ってる?」

 

 

 

 




DOMANのあの声でずっと煽られるのを想像してみてほしい。多分、殴る。

道満が錐もみ回転しながら吹っ飛んでいったので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・10

(あまりにも戦闘シーンがお粗末なんで)初投稿です。


 おやおやァ?まだ百体も出していないのですが……もうギブアップとでも言うのでしょうか?

 

 

 この程度ではFGOでは生き残れませぬぞ?

 

 

 式神の全員が妖精國の“もーす”程度の強さであるとはいえ、そこまでキツイものでしょうかねェ?……まあFGO(あちら)でもサポーターがいないと確かに辛いですから、しょうがないですなァ。

 

 

 

「ンン…大丈夫ですか?オーゼン殿。お疲れでしたら少し休憩いたしますか?」

 

 

「っ、うるさい!」

 

 

おっとォ!危ない危ない!ですがやはり先程に比べて攻撃のキレが落ちておりますぞ?」

 

「幼い子供の、後輩たちの手前。情けない姿は見せられませぬからなァ!もっと素早く!力強く打ってくだされ!サア!!」

 

 

「くそっ!ウロチョロとすばしっこい!―――」

 

 

 

(いや待て、本気を出した私が追い付けない?『千人楔(せんにんくさび)』を全身に打ち込んでる私が?)

 

 

 

「……ああなんだ、簡単な話じゃないか。私が(・・)遅くなってるんだね?」

 

 

「ンンン!ようやく気付かれましたか!ええ、おっしゃる通りですとも。拙僧を一人倒すごとに少しずつ上昇負荷の如きものがかかっておったのです!」

 

「ああ、どうかご安心召されよ。この情交が終わった後にはすべて祓っておきまするゆえ!」

 

 

「(コイツが私への嫌がらせを主軸に据えて戦い続ける限り、不利なのは私の方かい)……ッチ、さすがにもう時間切れかねぇ。さっきからオマエの隊長がまぬけな顔してこっちを見てるのが鬱陶しくて、たまったもんじゃないよ」

 

 

「ンンンン?……おお!リコ殿、レグ殿!そんなに息を切らして、どうかされましたかな?」

 

 

「ど、どうかされたじゃないよ!?いきなりドーマンがなんか言ったと思ったら部屋にいるし、その部屋にもなんか黒いガイコツみたいな人がいて…」

 

「めちゃくちゃ迫ってくるのを何とか二人で逃げ切ってここに戻ってきたら、ドーマンとオーゼンさんが戦ってるし!」

 

 

「なんと!それはそれは大冒険でしたねェ!!」

 

 

 

 ほォう…?恐らく本気ではないとはいえ、顕光殿と追いかけっこ(・・・・・・)をして逃げ切るとは!流石は白笛の娘ということなのでしょうか!ええ、驚きましたとも!

 

 

 

「ほら出ていった出ていった。部屋に戻ってすっこんでなよ、まったく……」

 

 

「ンンン♡では、お言葉に甘えてお暇させていただきまする!」

 

 

「え?え?ど、ドーマン。どういうことなの?」

 

 

「ささ、行きますぞ二人とも」

 

 

「あ、うん……ねえドーマン、後でちゃんと説明してよ?」

 

 

「ンン!ええ、分かりましたとも。隊長殿」

 

 

 

 

 

 

 三人が部屋から出ていった後。力が抜けてへたり込んだ私に部屋の隅で動けなかったマルルクが駆け寄る。

 

 

 

だ、大丈夫ですか、お師さま?!

 

 

「ああ、マルルクか……あの後アイツが離れた時、隙をついて逃げておけばよかっただろうに、なんでそうしなかったんだね?」

 

 

「………じ、実は、あの後ドーマンさんがお師さまと戦い始めた時、急に体の力が抜けちゃったんです。まるで日の光に当たった時みたいに」

 

 

「フン。(これもアイツの仕業か)ああ、そうかい……もういいよ、ご苦労さまだったねぇ。マルルクも部屋に戻って休んでおきな」

 

 

「…いえ、すみません。お師さま」

 

 

「ンん?」

 

 

「ボク、さっきの戦いを見て腰が抜けちゃって………少しだけ。ボクもここにいていいでしょうか?」

 

 

「―――好きにしな

 

 

 

 

 まったく。この子の前でこんな情けない恰好を見られるとは。

 

 ああ、こんなことになるならマルルクは部屋に入れるんじゃなかったよ、まったく。度し難い、度し難いねぇ……

 

 

 

 

 ボロボロに打ち倒された私と、それに身を寄せて抱きしめる弟子の二人を。

 

 

 

 ただあの忌々しい(全ての元凶である)『籠』だけが見下ろしていた。

 

 

 

 




何回やっても戦闘描写がお粗末になる謎を解明するため、我々調査隊はアマゾンの奥地へと向かったので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探窟家をやっていたころ・・・11

(∵)初投稿です。


 

 

 

 部屋に戻った後僕たちはドーマンから、謎のガイコツから逃げ回っていた間の事の顛末を聞いた。

 

 

 

 

「はー。私たちが飛ばされた後にそんなことが……」

 

 

「ドーマン、君というヤツは。いや、うん。その………ありがとう。僕とリコを助けてくれて」

 

 

「ンンン!礼には及びませぬとも!拙僧はただリコ殿が率いる探掘隊の一員として当然のことをしたまでの事でありますゆえ」

 

 

「それでもだ……なあ、ドーマン」

 

 

「ンン?何ですかな?」

 

 

 

「さっき僕とリコを助けてくれた手前、こんなことを言うのは失礼だと分かっているんだが。キミは………いや、何でもない。すまない、忘れてくれ」

 

 

 

「ンンン?そうですか、分かりました」

 

 

 

 

 後に振り替えってみればあの時が、僕たちが直接ドーマンの本心を聞ける最後のチャンスだったのではないだろうか。

 

 ……いや。あのドーマンのことだから適当にはぐらかされて終わったかもしれないが。

 

 だが、この時の僕は怖かったんだ。ドーマンの事を聞こうとしたときに急に鋭くなったドーマンの視線が。あの、何か薄い膜一枚を通してこちらを見つめるような眼差しが。

 

 その薄い膜が、ドーマンの何か恐ろしい部分を覆い隠しているような気がして。それに触れるのが、憚られて。

 

 

 

 

(キミは、僕やリコが考えうる最悪(・・)よりも、よほど度し難い人間なのではないか?)

 

 

 

 

 もはや機会は永遠に失われ、再び来ることは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 何だかレグ殿の様子がヘンでしたが、拙僧らはなんとかオーゼン戦を乗り切ったわけです!リコ殿らは直接オーゼン殿と戦っておりませんから、必然的にこの後にあったオーゼン,sブートキャンプin“逆さ森”も無くなる。

 

 そうすれば拙僧らはより早く三層『大断層』を抜けられるわけです!

 

 素晴らしき計画です……流石拙僧、よくやったと自画自賛して―――

 

 

 

 

「ドーマンドーマン!オーゼンさんが次の探窟隊が来るまで訓練してくれるって!」

 

 

 

 

 ンンンンンンン!!!!?????

 

 せめて最後まで喜ばせて下されよ!?そ、それは兎も角あの埴輪系クソデカ感情オバアサンたるオーゼン殿がナゼこれほどまでに譲歩を!?

 

 

 ッハ!オ、オーゼン殿が、陰から此方を見ておられる……?

 

 

 

 

(ふふふ)

 

 

 

 

ン、ンンンンンンンンンンンン!!!!!!(こらえきれない怒り)

 

 

 

 

 

 

 結局拙僧は観念して、第二層の外郭にほど近い当たりの森へと出向いております。

 

 

 

「隊長殿?拙僧この場所にはあまり来とうなかったのですが……」

 

 

「んもーそんな事言わないでよー。ここの原生生物はみんな光に弱いだろうし、焚火を焚いたら大丈夫だって!」

 

 

「そうだぞ。もっとも、ドーマンなら一人でも大丈夫な気もするが…」

 

 

「いえいえそんなことはありませぬとも!拙僧、前にも申した通り寂しがり屋でありますゆえ!」

 

 

「お前たち、うるさいよ。もう少し声を小さくしな。もうポイントに着いたから説明したいんだがねぇ?」

 

 

「おっとォ?申し訳ありませぬオーゼン殿」

 

 

「さて、と。一人十分強いのもいるが。残りの子供は実力不足、このままアビスに潜ってもなれるのはせいぜいが食いでの悪い餌か小さめの苗床。あとは壁のシミぐらいさね」

 

「だから、キミたちには最低限奈落で生き延びる事ができるだけの能力を身に着けてもらうよ」

 

「さっきも行った通り、君らを鍛えるのは次の大規模探窟隊が来るまでの三週間。モノになろうがならなかろうが、それで終わりだ」

 

「…それじゃ、私は帰るよ」

 

 

 

「「えっ」」

 

 

 

「最初の課題は『生存訓練』だ。そこの大男のよく解らん手品の力を借りずに十日間生き延びてみせな。こっそり手伝ってもらおうなんて考えるんじゃないよ。私も時々、見に来るからねぇ?」

 

「じゃ、精々がんばりな」

 

 

 

 

 そう言うとオーゼン殿は去っていかれました。

 

 ……ンンン。折角ですし、新開発『食べている物の汁が服に飛び散りやすくなる呪い』の実験台にでも、

 

 

 

 

「ドーマンーどうしたの?ほら、拠点作りに必要な木の枝探しに行くよ!」

 

 

「……そうですねェ。分かりましたとも、隊長殿」

 

 

 

 まあ、やめますか。興が削がれましたし。

 

 

 

 




もはやオーゼンさんじゃなくてボウリング球なのでは?


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・12

(丨)初投稿です。


 

 

 

「フハハハハハハ!!できましたぞ!どうですかリコ殿、この要塞は!素晴らしい出来でしょう!」

 

 

 ンンン~♡苦節三日、ようやく完成した拙僧の大要塞!

 

 この暗い森の中に突如現れた巨大な木造建築。少々アンバランスですが、それゆえオーゼン殿も驚かれて腰を抜かすこと間違いなしでありましょう!

 

 ああ、オーゼン殿が来られるのが待ち遠しいですねェ!

 

 

「ど、ドーマンは一体何と戦ってるのさ?」

 

 

「無論、あの忌々しきオーゼン殿にて!」

 

 

「ふんっ」

 

 

 拙僧が得意げにリコ殿へ説明していると、どこからともなく現れたオーゼン殿が我が要塞に向けて、その拳を振るわれました。

 

 

 

 

ズ ガ ァ ン ッ

 

 

 

 

 おおよそ女性の細腕から出てよい音では無いでしょう……土砂崩れのような音を立てて我が要塞が崩壊していきます。

 木で組んだ魔術工房ではこの程度が限界か…

 

 

……オーゼン殿?拙僧売られた喧嘩は買う主義なのですが?

 

 

ふふふ!いやぁすまないねぇ。あまりにもお粗末な掘立小屋だったからついついぶつかっちまったよ。ホント、すまないねぇ?」

 

 

「ほォう?なるほど!また泣かされたいとおっしゃるので?ええ!もちろんお望みのままに!」

 

 

わーわー!ドーマン!ステイステイ!だめだよー!」

 

 

「ンンン。しかしですねェリコ殿…」

 

 

「もうっ、だめなものはだめだよー……ほら、ね?また今度新しいの作ろう?」

 

 

「……おや?もしやこれ拙僧幼子扱いされておりませぬか?」

 

 

 オーゼン殿が爆笑されているのが非常に、非ッッッ常に!!癪に障りますが。

 ええ、ええ。ここはリコ殿の慈悲深き御心に免じて許して差し上げましょう。

 

 どうせ今日が生存訓練の最終日ですので?ええ。どうでもいいですとも。

 

 

「まあいいでしょう。ではリコ殿、あちらの方でトラップに足を取られているレグ殿を助けに行ったら昼餉にいたしましょうか」

 

 

「えっ?!ああっ、レグー!!

 

 

「おやおや。まだ幼いというのに、元気ですねェ!」

 

 

 

 

 

 

ンンンンンン!!ただいま帰還いたしましたァ!!」

 

 

「うへーただいまー…」

 

 

「なんだか久しぶりに戻った気がするな…」

 

 

 道中何度かお二人をおんぶさせていただきましたが、何とか監視基地に到着いたしました。

 

 ンン、さらば拙僧の超辺獄大神殿デスチェイテMark.Ⅲ

 建築のコツというのは掴みましたので、いつの日かMark.Ⅳを深層に建ててみたいものですが。いったい何時になることやら。

 

 

「はあ……オマエ。戻ってきたら戻ってきたでバカみたいに食うねぇ?」

 

 

「いえいえ。オーゼン殿には遠く及びませぬとも!」

 

 

「備蓄はまだまだあるからこれぐらいなら問題ないんだが……ま、それよりもだ。キミたち明日にはここを出発するんだろう?」

 

「せっかくの機会だ。前はそこの変態に邪魔されて説明できなかったから今してやろうじゃないか。『奈落の声』とも称される白笛が伝えてきた、私たちだけが知りうる秘密の数々を、ねぇ」

 

 

 

 




おやおやおやおやおやおやおやおや

何か卑猥な形になっちゃったんで失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が奈落で探掘家をやっていたころ・・・13

(マアアさんの前と後ろのギャップがすごいので)初投稿です。


 さてさて。オーゼン殿による想定外の(原作通りとも言いますが)特訓もありましたが。いよいよ拙僧らはこの眼下に広がる深界三層『大断層』に侵入します。

 

 結局オーゼン殿は見送りには来られず遠目からこちらを覗き見るだけ。この場所におられるのは、監視基地で度々すれ違った程度の面識しかないオーゼン殿の探掘隊『地臥(じぶ)せり』の面々と、マルルク殿のみでありまする。

 拙僧との戦闘がよほど響いたのか、そもそも初めから別れの言葉なぞかける気が無かったのか……今となってはどうでも良い事ではありますが。

 

 

「じゃあね、マルルクちゃん……元気でね」

 

 

「はい、皆さんも。どうかご無事で」

 

「…………で、でも、やっぱり。ボク、こんなこと言うの嫌なんですが」

 

「『やっぱり無理だ』って帰ってきてくれたら、どんなにうれしいか…ボクと同じぐらいの年の子供が奈落に挑むなんて…」

 

「ボ、ボク……いろんな人たちを見送ってきましたけど、今日が一番悲し―――わぶっ?!

 

 

 ああ、何と悲しげな表情で泣かれるのでしょう!拙僧は何もせず立ち去ろうかと思いましたが、つい抱きしめてしまいましたなァ?

 お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありませぬ。ですが拙僧は、このように泣いておる幼子をこのまま捨て置いて行きたくありますぬので!

 

 ―――ええ。本当ですよ?

 

 

「ド、ドーマンさん…?」

 

 

「ええ、ご安心召されよマルルク殿。拙僧らはどこにいようと奈落にてつながっておりまするゆえ。貴方のお師匠殿をあのようにした拙僧が言う事ではないかもしれませぬがねェ?ですが、ええ。拙僧は常にあなた様の傍におりまするぞ!ですから………そのように涙を流されるな。せめて笑顔で見送ってくだされよ」

 

 

「ど、どーま゛ん゛さ゛ん゛ん゛ん゛ん゛」

 

 

「おやおや。もっと泣いてしまわれましたなァ!フフフ、存分に泣いてくだされ。ここで涙を枯れ果てさせてしまわれよ。ええ、ええ。マルルク殿が泣き止むまでこうしておりましょうや」

 

 

「なんだー?お前さん見た目に似合わず優しいじゃん!」

 

 

ンン゛ン゛ッ゛。お、おやめなされ!拙僧の肌の露出している部分を叩くのはおやめなされ!ああっ!イイ音を出そうとするのもおやめなされ!!」

 

 

 

 

 

 

 大断層の淵にて旅立とうとするあの子(リコ)たちの探掘隊と、それを見送る『地臥せり』たちを遥か遠くから眺めていた。

 普段は鬱陶しいぐらいに立ち込めている濃霧も、この日ばかりは綺麗に晴れていて、遠目からでもあの三人組がハッキリと見える。

 

 

「ああ、不安だ……あの子たち。私はここから動くことができないからあの子らの旅について行けないが」

 

「あのドーマンとかいうヤツ………『祈手』(アンブラハンズ)の一員か、それか本人かと思ったがどうやら別人みたいだし。あんなに声が似てるっていうのにねぇ」

 

 

(……もし、もしもアレ(ボンドルド)なら。私ならば互角に戦えるはずだ。なのに私じゃあ歯が立たなかった)

 

(ドーマン……アイツはいったい?)

 

 

「はあ。まあ今更どうしようもない。せめて幸運があるよう祈っとくかね」

 

「―――チッ、これじゃあまるで私が『祈手』みたいじゃないか。全く、度し難い、度し難いねぇ……」

 

 

 

 




おてがるカートリッジ作成キットを作ってくるので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧がロッククライミングを嗜んでいたころ・・・14

 

 

 

「リコ殿ー!レグ殿ー!此方に出口がありましたぞ!」

 

 

「わかったー!今行くー!!」

 

 

 さてさて、ただいま拙僧らは『大断層』の只中にて、迷路のように入り組んだ穴の中を行ったり来たりしております。

 

 リコ殿やレグ殿は体が小さいですからまだよいものの、拙僧は身長200cm程度、体重110kgという恵体でありますから、この穴は少々窮屈に感じまするなぁ。

 

 

「あっみんな見て!マドカジャクだ!」

 

 

「リコ!顔出すと危ない…」

 

「…しかしどうする?もうドーマンの術で岸壁を降りてくか、『呪い』を覚悟で上に戻るしかないぞ?」

 

 

「もしもし御二方?あそこの穴なぞ如何でしょう。都合の良い事に我らのいる穴の真下にありますので!」

 

 

「―――ホントだ!」

 

 

 

 

 

 

 レグ殿の腕を崖際に固定し、お二人は緩やかに下って行かれます。かく言う拙僧はレグ殿にぶら下がるわけにも行きませぬので、これまで通り式神で以って空中を浮遊しながら(次いでに獣避けの呪詛も撒き散らしながら)降りておるのです。

 

 

「しかし……やはりドーマンはすごいな。空を飛べるなんて。オンミョージュツとは便利なものなんだな」

 

 

「ンンン!お褒めに預かり恐悦至極に存じまする!」

 

 

「ん…?ああっ!レグ!ドーマン!やったよー!この巣すっごい深くまで続いてる!」

 

 

「おお、やりましたなリコ殿!……ところでレグ殿はどちらへ?」

 

 

「―――あっ、今行く!」

 

 

 さてさて、この会話はなにやら聞き覚えがありまするなァ。と、いうことは?そろそろ『ベニクチナワ』なる大蛇もどきが襲ってくる頃合いでしょうか?

 

 ここまでほとんど何事もなく進んで来れましたからねェ……ンンン?そういえば、アニメ版と漫画版でこの場面の展開が違ったような気がしましたが。

 たしかアニメ版だとこの愛らしい生物―――ネリタンタンなどと言うそうですが―――の群れから逃げている最中に、何々という原生生物の腹の中に落ちてしまうのだとか。ンン?いや……どちらがアニメ版でしたかな?

 

 まあどちらにせよ、拙僧の目の黒き間はそのような事させませぬとも!

 

 

 

 

 

 

「ドーマン?そんなに持って大丈夫なのか…?ここで少し減るとはいえ少しは捨てていってもいいんだぞ?」

 

 

「いえいえお気にせずとも!些か多く見えるかもしれませぬが、これらの八割は食料でありますゆえ、見た目以上に軽うございまするぞ」

 

 

「でも飲み水も持ってるだろう?」

 

 

「まあ。そこは拙僧鍛えておりますれば」

 

 

 現在、食料等の荷物は拙僧がすべて運んでおります。幼子らに持たせるものでもないでしょうからねェ?荷物の中身は都合五日分の食料、水。寝袋に鍋、その他諸々ですな。

 他ではどうかなど拙僧には知りえませぬが、こと奈落において原生生物とやり合う等という行為は百害あれども一利無し!無用な戦闘は兎に角避けるべきでありますれば!

 

 等と思索に耽っておりますと、何やら木の腐った様な香りが拙僧の鼻孔を擽ります。

 

 

「おー!これ昔の船だよー!スゴイなー、遺物とか残ってたりしないかなー?」

 

 

「ッ!リコ殿、お待ちくだされ!そちらに行かれてはなりませぬ!」

 

 

「えっ?……ウウっ、ナニコレぇ。うんち?」

 

 

 考え事に耽っていたために気づくのが遅れてしまいました。

 まさかもう違う場所―――作品で言う所の"場面が変わる"というもの―――に出ていたとは!

 

 ンンン……不味いですねェコレ。まさかココは漫画版ではなくアニメ版だったとは。拙僧の記憶が正しければ、今リコ殿が踏まれたのは『マドカジャク』なる飛竜のフン。

 

 そして、フンがあるということは……

 

 

「うわっ?!や、ヤバい!マドカジャクだ?!」

 

 

「リ、リコー!」

 

 

 ―――当然、それを出した(・・・)者も近くにいる訳です。

 サア?隊長殿の尻拭いは、隊員たる拙僧の役目でありましょう。

 

 

 拙僧の出番ですなァ。

 

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧がロッククライミングを嗜んでいたころ・・・15

(おてがるカートリッジ作成キットが完成したので)初投稿です。

私のお気に入りはトーレイテアです。名前の響きが好きなんですよねー


 

 

 

「皆様方、早く穴までお逃げくだされ!ここは拙僧が食い止めまする!」

 

 

「何言ってる!?キミも一緒に逃げるぞ!」

 

 

「ッああ、これを!」

 

 

 袖から式神をいくつか取り出し、内二枚をレグ殿に持たせます。

 

 これは皆様が普段FGOで見ているようなものとは形が少し違いまするが、一応れっきとした式神。

 所謂『ヒトガタ』―――そうですねェ。何かしらの祝い事の際に飾られる、人の姿を象った白い紙……などと言えば良いでしょうかね?

 この型の式神はどちらかといえば、かの阿倍晴明が使うモノに近いので、拙僧あまり作るのは得意ではないですが……

 

 まあ?別に?拙僧作れないワケではありませぬので?

 

 

「これはいったい?」

 

 

「拙僧が監視基地にてお二人を部屋に戻したものです!それを持っておればどれだけ離れていてもすぐに追いつけますので!さあ早く!」

 

 

「…分かった!気を付けてくれよ!」

 

 

 ……もう行かれましたね。

 

 幾ら物語の主人公と言えどもやはり子供。緊急事態だからとはいえ詰めが甘うございまする。

 拙僧ならばこの程度の数すぐに鏖殺できますのに。監視基地にて、かの“白笛”たるオーゼン殿を圧倒した事をもう忘れられたのでしょうか?

 まあちょうど良いタイミングで一人になることが出来ましたので、折角です。式神の補充のついでに試したいこともありますので……ねえ?

 

 

『ギチ…………ギイィッ』

 

 

 ンフフフフ!おやおやァ?物言わぬ獸であれども怯えはするのですなァ。ああいけませぬいけませぬ。知らず知らずのうちに殺気を振りまいておったようで、今にも逃げ出しそうな様相ではありませぬか!

 

 いやはや何とも、野生の勘とはスバラシイものでありますな!何の役に立たぬのは考え物ですが。

 

 さァて、コレからはいくつ作れる(・・・)のでしょうねェ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもと変わらない日常、いつもと変わらない景色。あれほどまでに見たいと願っていた奈落の風景も、ずっと住み続けていればだんだん新鮮さが薄れていくもんだ。

 

 このデケェ湯の貯まった植物も初めて見る分には面白いけど。オイラはそのはじめて(・・・・)が散々なモンだったから、結局今まで驚けずにいた。こんなもん慣れちまったら歩きづらいだけなんだよなぁ…

 歩くたびに足回りの毛が濡れそぼって、思わずタオルみたいに絞りたくなるんだよ。まぁできねぇけどさ!

 

 ……もしも。もしももう一度。記憶を消してからこの景色、アイツと一緒に見れたらなぁ…

 

 

「……んなぁ~。ま、いいや。サッサと飯集めてもどろーっと」

 

 

 

 

 

 

「…なんだ、これ」

 

 

 タケグマを何匹か〆て、〆たついでに香り付け用のトコシエコウも摘んだ。そう、いつもこなしている日課だ。

 だが、アジトへの帰り道にあったあまりにおかしいブツがあったもんだから、少しばかり寄り道をしてみた。

 

 

 それは、白い紙だった。

 

 

 あのクソ野郎(ボンドルド)が持ってたような紙や、オイラの持ってる本の紙なんかよりももっと白く、滑らかな紙。光沢をもってるようで、表面はざらざらしてる?よくわかんねーが、そういう遺物があるって言われたら信じちまいそうな代物だ。

 

 驚くべき点は二つあった。一つは、それが宙に浮いてるってことだ。

 

 独特な形に切られているそれは、風で舞い上がってる様子はない。空中で微動だにせず、静止している。百歩譲って風のせいだったとしても紙って垂直に浮くモンなのか?

 

 そして二つ目は、

 

 

「力場が、凪いでる?」

 

 

 この奈落のものの周りには力場がある。奈落にモノ(・・)がある限り、このルールからは逃れられない。それが浮いてるモノならなおさらだ。なのに、

 

 

「まったく、ない。っていうか……スっゲェ落ち着く~…」

 

 

 さっきから妙に気分が穏やかだ。何かいいことがあった後のような、トイレに行った後のような……なんだかんだで奈落(ココ)にきてからずっと気分が張り詰めてたから、こんな気持ちになるのは久しぶりだ。

 

 んなぁー……なんかだんだん、ひきよせられるー……触りたい、さわりたい…?

 

 

「…さわってみっかなー」

 

 

 まー、だいじょうぶだろー。むずかしいことは、さわったあとでかんがえりゃーいーかなー?

 

 

んななななぁ?!なんだコレ!ぞわぞわするぅぅぅ…

 

 

 オイラの手が紙に触れた瞬間、体が急にぞわぞわ(・・・・)ってした。ドアの取っ手とかを触ったときにぴりってするヤツみたいのが全身にぃぃ…?

 

 んなぁ?頭ン中に、声が聞こえる?

 

 

 

 

 

 

ンンン……聞こえておりますかな、ナナチ殿?拙僧は蘆屋道満と申す者。今、貴方様の頭の中に直接語り掛けておりまする

 

 

 




ナナチを吸ってくるので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧がロッククライミングを嗜んでいたころ・・・16

(ドーマンとオケアノスにバカンス行ってきたので) 初投稿です。


「な、なんだぁ?!オマエだれだぁ!!」

 

 

(ああ、声を荒げずに!どうか落ち着いてくだされ!拙僧、あまり長く話すことができませぬので、手短に済ませたいのです)

 

 

「なんでオイラの頭のなかから声が聞こえるんだよ?!」

 

 

(ンンン、そういう遺物なのです!それよりも、少しばかり貴方様の記憶をのぞかせていただきました。ナナチ殿?)

 

 

「んなっ?!何しやがるこの変態!」

 

 

(ンンンン?!あ、ああ、もう時間がありませぬ!(これならばもっと魔力を込めておけばよかった!)よいですか!?拙僧は貴方のお友達を治すことができる可能性がありまする!あと、貴方様の目から何か恐ろしい気配を感じますれば!何者かが貴方様の視界からモノを見ておられるような気がいたしまするぞ!それが何者かまではわかりませぬが、どうかお気を付けくだされ!!)

 

 

「はあッ?!お、オイ!どーいうこと―――」

 

 

(拙僧らは三日以内に四層に到着いたしまする!子供が二人に、体の大きいのが一人ですぞ!見かけたならどうか我らの前に姿を現してくだされ!詳しくはその後に!!)

 

(おおよそ探掘家とは思えぬ3人組を見かけたなら!どうか声―――)

 

 

 

 

やかましい声が聞こえたのは、そこまでだった。

 

 

声が聞こえなくなると同時にオイラの持っていた紙がボロボロになった。なんかもう、いろいろありすぎてワケわかんねー…

 

 

んぅぅぅ……?あれ?これ、灰になってる。燃えてないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ンッ!?ンンン、もう使えなくなってしまいましたか……」

 

 

 

 

ああ。ナナチ殿が何処におられるかわからぬからと、ざっと300ほど四層全域にばら撒いたのが間違いでした。数を絞り質をもっと高めて、それらしき者を追跡する型にしておくべきでしたか…

 

 

まあ伝えるべき内容はすべて話すことができましたし、ナナチ殿へ魔力も付けることができました。ああ、上手く背中に付けられたでしょうか?あとは拙僧の運次第ですなぁ……ンンン。たしか拙僧、『幸運:B』でしたかな?

 

 

おっと早くいかねば。リコ殿とレグ殿に、拙僧が死んだなどと思われておるかもしれませぬしねェ?

 

 

 

 

 

 

急々如律令!!ンンンンン!ただいま戻りました!」

 

 

「あ、ドーマン!!無事だったんだ!」

 

 

「おお、無事だったのか!よかったぁー!!何かあったらどうしようかと……」

 

 

 

 

ンンン、絆を上げておいたおかげか泣いて喜ばれましたねェ。

 

 

この様子だと絆Lv5にはもうなっていそうですが……まあ、一応礼装はそのまま着けておきましょうか。

 

 

微量ですが力も体力も増えますしね。

 

 

 

「ところで拙僧。恥ずかしながら、安心したらお腹が空いてしまいまして。少し早いですができれば昼餉にしとうございまする」

 

 

「うん!そーだね!もうごはん作っといたからパパっと食べちゃおー!」

 

 

「ンンン、やはりリコ殿は強かですねェ…」

 

 

 

 




嫌がる道満をむりやり海に突き落としてきたので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が老いたる獣の秘湯を発見していたころ・・・17

(明日の朝道満が食べるバナナ全部に、内側から切り込みを入れてきたので)初投稿です。


「なんだか辺りがトゲトゲしてきたな……これ、リコが言うには卵らしいが。美味しく食べられるのだろうか?」

 

 

「ンンン?コレ食べられますので?何か度し難い生物が入ってそうですが……いやぁ。拙僧は遠慮しておきまするぞ」

 

 

「あー、それ火を通したら食べられるよー」

 

 

「………みたいだが、ドーマンはどうする。僕が一個取ってみようか?」

 

 

「どどどどどうなっても知りませぬぞ♡」

 

 

 

 

悔しいですが、中々に美味でありました………

 

何というか、卵の中身はイクラの卵黄の様な味のもので満たされており、火を通してそのまま味噌汁にしていただきました。仄かに塩味が聞いている海鮮風味の味噌汁となって、大変美味しゅうございました。

 

ンンン、何故か少しばかり負けたような気がいたしまするが…美味でしたので良しとしましょう。

 

おお、などと言っておりますと。いつの間にか到着していたようですな!

 

 

 

 

深界四層『巨人の盃』に!

 

 

 

 

 

 

ついたー!あはははは!すごい、声がのわぁーーんって響く!」

 

 

「ああ……湿気がすさまじいから声が響くんだ。この湯を受けてる植物のせいなんだろうが…」

 

 

「ンフフフフ、はしゃがれるのも良いですが気をつけなされ!あちらに溜まっているものはどうやら酸のようですので、入ったら立ち所に溶けてしまいまするぞ!」

 

 

わかってるーー!!あはははははははは!!!

 

 

ンフフフ!面白き光景に目を奪われ無邪気にはしゃぐ様は、なんとも微笑ましいモノですねェ。

 

……ですが。どうやらお客様が来られたようですよ?

 

 

「んなぁ〜。オマエさぁ、ちょっとはしゃぎすぎなんじゃねえか?」

 

 

「―――うわわわわぁ?!あ、あれ?今の、誰の声だった?」

 

 

ンフフフフフ!おやおや?この声は……ようやく来ていただけたようですな?

 

 

「ンンンンン!ご安心召されよ。声の主から敵意は感じられませぬゆえ!」

 

「さあ、どなたかは存じ上げませぬが、どうか姿を表してはくれませぬかな!!」

 

 

 

 

「…んなぁー、そんなデケェ声出さなくても聞こえてるよ………よっと」

 

 

 

 

ドチャンっっ!

 

 

 

 

そう音を立ててこの水の中に飛び込んできたのは

 

 

 

 

「オイラはナナチだ。ふわふわの、ぬいぐるみだよ~…」

 

 

 

帽子を深くかぶって薄布で顔を覆い(・・・・・・・)顔を見せないようにした、人の子供位の大きさのぬいぐるみでした。獣人、とでもいいましょうかねェ?

 

 

漫画『メイドインアビス』のマスコット的キャラクター、ナナチ殿。ふわっふわの毛に覆われた体に、ウサギのような長い耳!

 

 

ンンンンー!実に愛らしいですねェ!!拙僧がもしも幼ければ、視界に入った瞬間に抱きつきに行ったことでしょうが………残念なことに今の拙僧は身長2m程の大男。それが獣人とはいえ、子供に抱きついている姿を想像してみなされ!

 

 

あゝ、これでは拙僧が変態のようではありませんか!ンンン、度し難い!拙僧今だけはリコ殿とレグ殿が羨ましゅうございまするぞ!

 

 

 

 




食べやすいよう切ってくれてありがとうって言われたので失踪します。



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が老いたる獣の秘湯を発見していたころ・・・18

「んなぁ~…そうだなぁー。探窟家なんて久しぶりに見たからなぁー、どうだ?オイラのアジトに来ねえか?歓迎するぜ?」

 

 

 

 

ナナチ殿がそうおっしゃると、リコ殿は目を輝かせて抱きつきます。

 

 

 

 

「ええ?!キミ、ここに住んでるの!?行く行く!見てみたーい!」

 

 

んぅっんなぁー!だ!離れろー!まったく、調子狂うぜ…」

 

 

「ソソソソ、申し訳ありませぬ、ナナチ殿。リコ殿も悪気があるわけではありませぬゆえ……」

 

 

「んぬぬぬぬぬ…はあ。ほら、ついてきなよ。早くしないとタマちゃんとかが来ちまうぜ?」

 

 

「『タマチャン』?ドーマン、タマチャンとは何だろうか」

 

 

「ンン?おそらくタマウガチの事ではないでしょうか……ああ、しかしナナチ殿はすごいですなァ。レグ殿?」

 

 

「?どういう事だ」

 

 

「タマウガチとは、原生生物の中でも特に危険な部類のモノでありまする。全身に毒の針を持つ巨大な白き獣、しかもその巨体に似合わぬ俊敏性まで持ち合わせているのだとか。今までに殺された探窟家は数知れず……そのような恐ろしき獣に愛称を付けておられるのですから、ねェ?」

 

 

「つ、つまり。ムキムキなのか…?」

 

 

「―――ンンンンンンン?????」

 

 

 

 

「ほら、着いたぜ。ココがオイラのアジトだよ」

 

 

「すっごい。深界四層なのにこんな立派な家があるなんて!!どーやって建てたの?」

 

 

「ん、んなぁ~……向こうの方に生えてた草とか木を編んだんだよ。どうだ、カッコイイだろ?」

 

 

「ンンンンン!!草を編んで、コレを?!」

 

 

「そうだよー?…んなぁー。オマエ、ど、どうしたんだよ?」

 

 

 

 

そんな………拙僧が、負けた?

 

 

いや。拙僧ならばもっとスゴイのを建てられる筈…じ、『陣地作成:B』殿が敗北するなぞ有り得ぬのですから!

 

 

ンンン、これで勝ったなどと思わぬ事ですな。ナナチ殿!

 

 

 

 

 

 

「そーいえば、お前らどうして四層に来たんだ?」

 

 

「んーとねぇ、わたしの―――」

 

 

 

 

さて、リコ殿とナナチ殿が話に花を咲かせておられる間、拙僧らはハブられておるわけで。

 

 

暇を持て余した拙僧は奥の方、ナナチ殿の寝室へ行きまする。

 

 

 

 

「ん。ドーマン、どうしたんだ?」

 

 

「ンン、少しばかり探索をと思いまして。ナナチ殿、構いませぬかな?」

 

 

「んなぁー………ああ、いいぜ」

 

 

「ンンンンン!では遠慮なく!」

 

 

 

 

寝室を仕切っているカーテンをくぐると、

 

ええ、まあ、おりますよねェ。成れ果てとなられたミーティ殿が。

 

 

 

 

「ドーマン?何かあった…こ、これはっ」

 

 

「ンンンンー?目で見る限りでは人には見えませぬが、これは確かに人でありまするな……ナナチ殿?どうか、説明していただけますでしょうか」

 

 

「…………んなぁー、いいぜ。どうせ話そうと思ってたしなぁ」

 

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が老いたる獣の秘湯を発見していたころ・・・19

ナナチ殿の口から語られたのは、拙僧にしてみれば一度聞き、そしてナナチ殿の記憶の中で視たもの。ですがそれは無垢なる幼子二人には些か衝撃的だったようでありまする。

 

 

 

 

「そんな、そんなことが…」

 

 

「ね、ねえドーマン!ミーティのこと、オンミョージュツでどうにかできないの!?」

 

 

「ンンン……出来ないと言えば、ウソになりまする」

 

 

「できるのか?!で、でもどうやって?成れ果てた人間をもとに戻すなんて、あのボンドルドでもできっこないぜ?」

 

 

「…説明するには、少しばかり時間がかかりまするが。よろしいですかな?」

 

 

「おう、頼むッ!!」

 

 

 

 

ナナチ殿がミーティ殿を抱える腕に力を込めるのを見ながら、拙僧は己の術について話し始めます。

 

 

 

 

「拙僧の扱おうとしておりますものは、一般に外法などと呼ばれるものにございまする。人体の錬成、その一端―――まあ変質ですので、厳密には違いますが」

 

「もしもミーティ殿の魂までもが変質していれば、またややこしいことになっていたのですがねェ?ミーティ殿の魂は肉体という檻に囚われたまま、成れ果てた後にむしろ純化されておりますれば、その必要も無いでしょう」

 

「極端な話、魂は癒やさずとも良いとして。問題は体ですが……やはり変質させるしか、ないでしょうなァ」

 

 

「んんぅ?どういう、ことだ?」

 

 

「つまりはですねェ、さらに成れ果てさせるのです。もちろん、簡単に言えばですが」

 

 

 

 

絶句する皆様を置いて、拙僧は続けます。

 

 

 

 

「ああ、別に酷いことをする訳ではありませぬ。ミーティ殿の肉体を変質させて、さらに良く(・・)成れ果てておられるナナチ殿の肉体により近い形に組み替えるのですよ」

 

「肉体さえ持って来れられたなら、記憶も肉体に引っ張ってこられまするので。まあそれ故に、肉体を変質させるのが難しいワケですが」

 

「問題は不死の肉体をどのようにして変質させるか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、でありますぞ。ンンンンン、実に悩ましい。どうしたものか…」

 

 

「………ほんとうに、本当に、治せるんだな?ミーティを」

 

 

「ンンン!ええ、ええ。治せますとも!心配せずとも拙僧がどうにかいたしましょう!」

 

 

 

 

拙僧がそう言うと、ナナチ殿は感極まってついには泣き出してしまいました。

 

 

ンンンンン!いやあ、しかし!今日ほどこの拙僧のよく回る口に感謝したい日はありませぬ!ナナチ殿からミーティ殿を癒やす、実質的な許可をいただいたのですから!

 

 

ああ、ああ!これでまた目的に一歩近づいたワケです!もうすぐ叶うのです、拙僧の悲願が!!もう、すぐそこでありますれば!!

 

 

 

 

拙僧の、受肉が!!

 

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が老いたる獣の秘湯を発見していたころ・・・20

霊体のままであれども、この身に不便はありはせぬ。

 

 

だが、叶うならば肉体が欲しい。生きた肉体が、己の血が。身体の有無は陰陽術を使う上で非常に重要な要素の一つ。その己の体となるのに最適なものが目の前に転がっておるのだ。

 

 

元が女であるのが少々気に食わぬが、性別なぞ儂の前では飴細工よ、如何様にもしてくれようぞ。

 

 

今こそ我が肉体を取り戻すとき。受肉を、果たすのだ!

 

 

 

 

 

 

「ンンン。まあ取り敢えず何をするにしても準備が必要でありますれば。リコ殿、レグ殿、ナナチ殿」

 

 

んなぁー!何でも言ってくれ!何だ!?なにが必要なんだ!?」

 

 

「まあまあ、落ち着いてくだされ。実のところ術の行使に必要なものは既に揃っておりまする」

 

 

「……ドーマン、それは一体?」

 

 

「清酒に岩塩に肉、それとナナチ殿の血と髪の毛でありまする。ああ、できれば新鮮なものが好ましいかと」

 

 

「―――一体、どれぐらい必要なんだ?」

 

 

「血液は平皿を満たすほど、髪の毛は一房ですが……これらは新鮮さが重要でありますので、儀式を執り行う直前に頂くのがよろしいかと」

 

 

「そ、そのぅ………オイラの肉とか血はまだどうにかなるがよぉ、酒とか岩塩ってどこで集めりゃいいんだ…?」

 

 

「…ンンン!ご安心召されよ、先程も言いましたが、全て揃っておりまする。このような事もあろうかと酒と塩は大量に持ち歩いておりますゆえ!これを分けて差し上げましょう。ええ、ですが」

 

 

 

「条件がありまする」

 

 

 

 

拙僧がそう言うと、リコ殿とレグ殿が驚いた顔をして言いました。

 

 

 

 

「ど、ドーマン?!何言って―――」

 

 

「少し、静かにしていて下され。リコ殿」

 

 

「えっ……」

 

 

「ナナチ殿、拙僧の条件とは至極単純なものでありまする。どうか、ヒトに戻られたミーティ殿と共にリコ殿の探窟隊に加わり、我らの旅に同行してはいただけませぬか?」

 

 

「………少し、考えさせてくれねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し、考えさせてくれねぇか?」

 

 

 

 

目の前の大男から語られた条件は、オイラにとってとても魅力的だった。オイラにデメリットがほとんどないようなこの条件は、もしかするとオイラのことを気遣ってつけられたものなんじゃねえかって、思わず考えちまうほどだった。

 

 

オイラだって元々は奈落にあこがれてここまで来てこんな(成れ果て)になったんだ。

 

 

本当の冒険(・・・・・)。実験動物としてじゃなく、一緒に苦難を乗り越えて仲間と一緒に笑いあえるような、そんな冒険をコイツらと一緒に……

 

 

たぶんここに来る前の自分だったら、二つ返事で了承しただろう。

 

 

 

 

………けど、けどよぅ?もしミーティがちゃんと人に戻れて、一緒に冒険できるようになったとしてな?

 

 

 

 

オイラは、冒険の途中でミーティが傷つくのを見たくねぇんだよ…

 

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が老いたる獣の秘湯を発見していたころ・・・21

結局、ナナチ殿はその場でお決めになりませんでした。

 

 

ナナチ殿が夕餉を創るのをなんとか阻止しつつ、リコ殿と共に普通の夕餉を作りそのあまりの美味しさにナナチ殿を泣かせた後。リコ殿とレグ殿は我らよりも一足先に眠られました。

 

 

 

 

「………んなぁ…それで。話って何だ?さっき飯を食ってる時に頭ん中で言ってたけどよ」

 

 

「ンンンンン、いえ。どうやら先のことについて悩まれているご様子でしたので。差し出がましいようですが相談にでものってみようかと思いましてなァ」

 

「ヒトに戻そうとしておる拙僧がするものでも無いかもしれませぬが、まあ。しないよりかは気も紛れるでしょう?ささ、お話しくだされ」

 

 

 

 

拙僧がそう言うと、ナナチ殿はぽつりぽつりと話し始めます。

 

 

 

 

「……んなぁー、そうだよなぁ…なあ、ドーマンよぉ。しつこいようで悪いんだけどさ、ミーティは本当に人に戻れるんだよな?」

 

 

「そうですなぁ…人とまではいきませぬが、ヒト(・・)までは戻せましょうや。拙僧の力では、そこが限界です」

 

 

「さっきも言ってたけどよ、それってどう違うんだ?」

 

 

「簡単なことです。ナナチ殿と同じような成れ果てた姿でしか復活させることができないということですよ。分かり辛かったですかな?要するに、ナナチ殿のようにフワフワになられるということです」

 

「まあ今回の場合は恐らく、そちらの方が何かと都合がよいでしょうからねェ?」

 

 

「んなぁ?…どういうことだ?」

 

 

「ええ。拙僧らが『奈落の果て』までたどり着いた後上層(・・)へと戻るときに、少しでも生き残れる確率が上がった方が良いでしょう?」

 

 

「…オマエ、何言ってるんだ?奈落の底まで行くならもう戻ってこれねぇ。七層の負荷、知らねぇわけじゃねえんだろ?『完全な死』だ、もう戻れねぇんだよ!地上には!お、オイラは、おいらは……ミーティを死なせたくねぇんだよ……」

 

 

「ンンン……なるほど、なるほど。それは………ええ、貴方様の艱苦ももっともです。であればそうですねェ…今ここで明かすつもりもなかったのですが一足先にお教えしましょう」

 

「拙僧は奈落の上昇負荷を無効化する術を持っておりまする」

 

 

「……そいつはオイラも知ってるぜ、『カートリッジ』だろ?」

 

 

「ンンンンン!ああ、いえいえ!あのようなおぞましき欠陥品と拙僧の術を同じものであると、どうかおっしゃらないでいただきたい!ええ、ええ。断言いたしましょう。拙僧が生きておる限りあなた方は上昇負荷を受けることは無い、と」

 

「理論も術も出来上がっておりまする。あと重要なものが一つだけ足りませぬが、それも近々手に入る予定ですしねェ」

 

 

「んなぁ……にわかには信じられねぇな。ボンドルドはクズ野郎だが腕だけは一級品だ。そのボンドルドですら子供を使いつぶさなきゃ克服できなかった上昇負荷を、ホントにどうにかできるもんかねぇ?」

 

 

 

「ンフフフフフ!まあ、術の内容はいずれ使う時にでも!ああ、ナナチ殿。これでも心配ですかな?」

疾くこの者を惑はせ給へ。急々如律令

 

 

 

 

 

「……そうだなぁ、そうだよなぁ………それだったらきっと、だいじょうぶかなあ?」

 

 

 

 

 

 

「ンンン。どうやら、解決されたようですねェ」

 

 

「………んんぅ、正直なところ今もよくわかってねぇ。どうすりゃいいのかとか、そんなことはよ。でもよ?ミーティが今の姿のまま苦しみ続けてるのはきっと間違いなんだ、それだけはわかる。その状況がどんな形であれ変わるってんなら、元に戻せるってんなら……オイラ、やるよ。やってみせる。難しいこととかそーいうのは、とりあえずミーティを治してからだ!」

 

 

「フフフフフ!それはよかった。ああ、そういえば。本人の体を素材にしているとはいえ、人の形に戻った後とは肉体的にも精神的にも非常に不安定なもの。どうかミーティ殿の支えとなってくだされ、ナナチ殿?」

 

 

「んなぁ、わかってるよ……そういやさドーマン」

 

 

「ンンン、まだ何かおありですかな?」

 

 

「オイラの記憶を見たオメェなら分かるかもしれねぇけどよ。今のミーティはさ、不死身なんだよ。何をやっても死なねえんだ。でもよぅ…ミーティが人に戻った後もミーティは不死のままなのか?」

 

 

「………ンンン、きっとその不死性は失われることでしょう。ですがその名残は、傷の治りが早くなる程度になりますが残ったままかと。失った腕が生えてくるなどということは無いでしょうな」

 

「ああ、そうです。完全に不死性を取り除けなかった代わりといっては何ですが、ミーティ殿を治すとき彼女の左目も元通りににいたしましょう」

 

 

「んなっ?!あ、アレが治るのか?!『枢機へ還す光(スパラグモス)』で焼かれちまったのに!」

 

 

「ええ、ええ、治せますとも。ですからどうかご安心召されよ。貴方様の不安は全て拙僧が解決いたしましょう、悩みも試練も全てですぞ。ああ、ナナチ殿。よくぞここまで御一人で耐えられましたなァ?」

 

 

「ささ、後のことは拙僧にお任せなされ、お任せなされ………」

 

 

 

 

もはや夜も遅く、帳もすっかり下りてしまいました。幼子はそろそろ眠る時間でしょう。

 

 

よく眠れる(まじな)いでも、一つかけてしまいましょう。

 

 

 

 

「んなぁ~…なんか、安心したら眠くなっちまった……すまねぇな、ドーマン。オイラ、先に寝るよ」

 

 

 

「ええ、そうされるのがよろしいかと。明日にはミーティ殿を人に戻さねばなりませぬからねェ?」

 

 

「んぅなあぁぁーおやすみぃー……」

 

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が老いたる獣の秘湯を発見していたころ・・・22

さて、夜も明けたことです。いよいよ拙僧の受肉を(そのついでにミーティ殿を人に戻したりしますが)執り行うと致しましょう!

 

 

 

 

「ところでさドーマン、どうやってミーティを人に戻すつもりなの?」

 

 

「ンンン、まあ見ていてくだされリコ殿?ああそうでした、ナナチ殿はどうか目をつぶっていてくだされ。そうれ!!

 

 

 

 

拙僧はそう言うと、目の前におられたミーティ殿を皆様の目の前で

 

 

体内に取り込みました。

 

 

 

 

ええっ?!ド、ドーマンの体が波打ってる!なんか水みたいっていうか、パンの生地みたいな……?」

 

 

「ンンンン、リコ殿。そのように驚かれなくとも結構ですぞ?これも拙僧の陰陽術の一つなれば!他人の体を他人の体のままどうこうするのは手間ですから一度拙僧に取り込んで、拙僧の内側にて作業をするのです」

 

「慣れると、すこぶる便利なのですよ?」

 

 

「ドーマン、君の体は一体どうなっているというんだ……」

 

 

「……ンンン、拙僧のカラダについて知りたいのですかな♡レグ殿♡拙僧の秘密を隅々まで、赤裸々に知りたいというので♡」

 

 

なあっ?!け、けけっ、結構だ!!」

 

 

「ンンンンン!!まあまあ、そうおっしゃらずとも!これが終わったら共に、人体の構造について語り合いましょうぞ♡」

 

 

「……んなぁー。そろそろ目ぇ開けてもいいか?」

 

 

「ああいえいえ、もうしばらく閉じていてくだされ!それでは隊長殿。拙僧、少しばかり眠らせていただきまする。ええ、軽く3日ほどです。3日ほど経ちましたら勝手に目覚めまするゆえ、どうか拙僧と、拙僧の周りにある如何なるモノにも触れてくださるな!では、これにてェ!!」

 

 

 

 

するとたちまち拙僧の周囲を無数の式神が覆い、拙僧を中心として丸い球体のようなものを作り上げました。

 

 

これは謂わば卵のようなもの。拙僧を包む殻でありまする。ここから出るのはミーティ殿がヒトの形となった後かつ、拙僧が受肉した後。そう!

 

 

 

 

拙僧が不死の肉体(・・・・・)を手に入れた後なれば!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ドーマンはすごいな、こんなことができるなんて。僕には到底できそうもないぞ」

 

 

「ん、んにぃーー。リコー、レグー。どっちでもいいから引っ張って、オイラを家の中まで連れてってくれー。オイラ今ちょっと目が開けらんねえんだよ(・・・・・・・・・・・)ー」

 

 

「ああ、別にいいが。どうしたんだ?目にゴミでも入ったか?」

 

 

「……んなぁ、そんなカンジだ」

 

 

「ほらほらこっちだよー、私水汲んでくるから!ちょっと待っててねー」

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が老いたる獣の秘湯を発見していたころ・・・23

ドーマンがあの球の中に入ってから一日が経った。

 

 

 

 

「ドーマン遅いねー。一体あの中で何やってるのかなー?」

 

 

「うーむ。ボクは医学にはあまり詳しくないから、よくわからないな」

 

 

「…まあ、ドーマンだしきっと大丈夫でしょ!」

 

 

「……ああ、そうだな」

 

 

 

 

うーん、こいつらは今までドーマンといっしょにここ(深界四層)まで降りてきたみたいだけど。

 

 

こいつらの中でドーマンっていうのはどんな存在なんだ?

 

 

 

 

「んなぁ~…そういやよぅ。オマエらから見たドーマンってどんな奴なんだ?」

 

 

「え?うーん……どんな人、って一言でパシッて決められないっていうか。うーん………?」

 

 

「…やはり、『度し難いヤツ』ではないか?」

 

 

「んな?どーいうことだ、レグ?」

 

 

「……恐らくだが、ドーマンの心の中を完璧に理解できる人間なんて、この世界には存在しない、と思う」

 

「ドーマンは確かに優しい人間だよ。僕たちの冒険を助けてくれるし、今までもドーマンがいなければ危機に陥っていたような時は何度もあった………思い返せばその度に、ドーマンが助けてくれたな。僕の『火葬砲』の時も……」

 

 

「あっ!『火葬砲(インシネレーター)』!!あの時はスゴかったねー!」

 

 

「んなぁー、その機械の腕のことか?ただ伸びるだけじゃねーんだな」

 

 

「うんっ!!そりゃぁモチロン!レグはすごいんだよー、私がナキカバネに襲われた時も、ドーマンより早く(・・・・・・・・)助けてくれたし!そのときにねー、すっごい太い光線を出したんだよ!地形が変わっちゃうぐらいの!」

 

 

「……へぇーそーなのか。やるじゃねぇか、レグ」

 

 

「む。むぅ、照れるな…」

 

 

 

 

ああ、そうだったのか。

 

 

こいつらの話し方や表情を見れば分かる。例えドーマンがいなくてもこいつらは奈落に挑み、なんやかんやありながらもオイラの前に現れるんだろう。

 

 

もしも、ドーマンがいなかったら…

 

 

 

オイラはレグにミーティを殺してもらってたんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(ああ、しかし。これは何とも扱いづらい…)

 

 

 

 

『殻』の中に閉じこもって既に一日が経っているというのに、拙僧は未だ英霊のままでありました。

 

 

 

(不死の肉体とは、これほどまでに複雑なものですか!唯人と比べて明らかに人間離れ(・・・・)している。ンンン、どうしましょうかねェ?)

 

 

 

 

拙僧のこの肉体のもといた世界ではどうかは分かりませんが。この世界における不死とは、祝福にございまする。

 

 

祝福とはそれを受けた本人にしか扱うことのできぬモノだと、そのように聞いておりました。

ですので拙僧は、その本人に成り代わる(・・・・・)事でその祝福を奪い取ろうとしたのですが……どうやらそう上手くはいかないようなのです。

 

 

『魂の紋』…ンンンンン。非常に興味深い……

 

 

どうにかしてこれを欺かなければならぬ。何か、冴えたやり方は無いものか。

 

 

喉元までは出かかっておるのです、必要なのは只一つの閃きのみ…

 

 

 

 

………嗚呼、ああ!なるほど!斯様なものでありましたか、魂というものは!

 

 

ふふふふふ、あの暗殺者が魂を飴細工であると揶揄した理由が分かりました!ああ、なんともはや。これは……ンンン、

 

 

 

実に、実に度し難い。

 

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が老いたる獣の秘湯を発見していたころ・・・24

「あっ!来てナナチ!ドーマン玉の様子が変わってるよ!」

 

 

「んなっ!?本当か!……ッん、んなぁ~。すまねぇリコ~、目ぇ閉じるから連れてってくれー…」

 

 

 

ドーマンがあの玉に閉じこもってから、今日でキッカリ三日が経った。

 

 

 

 

「わわっ、すっごい震えてる………え、なんで震えてるの?」

 

 

「いや、オイラに言われもよくわかんねーけどさ……多分、生まれようとしてるんじゃねぇのか?」

 

 

「……ふむ、たしかに。言い得て妙だな」

 

 

 

 

この空中に浮いている玉がどうして震えるのか気になりながらもそんなふうに私達が話していると、遂にこの玉に亀裂が生じ始めた。

 

 

 

紙でできた玉なのに、なんで割れるんだろう?

 

 

 

 

うわぁ!!なにこれ!」

 

 

「は、離れるぞ皆!ナナチ、すまない!掴むぞ!」

 

 

「ん、んなななななあああ?!」

 

 

 

玉のヒビ割れはどんどん大きくなり、そこからドロドロしたナニカが溢れ始めた。

 

 

しっかりとした粘性を持ちながらも光を通さないその液体っぽいものは、色が透明であればきっと卵の白身によく似ているのだと思う。

 

 

未だ粘液を吐き出し続ける玉の中から、黒い人が落ちてきた。

 

 

その腕の中には例の黒い粘液で覆われた子供サイズの物体があった。

 

 

 

 

「ンンン!ただいま戻りました!リコ殿、レグ殿。そして、ナナチ殿?」

 

 

「…うん。おかえり、ドーマン」

 

 

「ンンンンン?どうされましたかな?」

 

 

「そ、その。ドーマン?ちょっと水浴びしてこない?すっごいドロドロだよ……それに、なんかクサイ…」

 

 

「………ンンン、これは失礼。少しばかり体を清めてきまする」

 

「ああ、ですがその前に。こちらを」

 

 

 

 

そう言うと、ドーマンは抱えていた子供を私に手渡した。

 

 

 

 

「うえぇ、ヌメヌメするぅ…この子がミーティなの?なんかチクチクしてるけど」

 

 

「ええ、ミーティ殿はナナチ殿と同じ姿に成られたのですよ。チクチクするのは濡れているからでしょうな」

 

 

「そっか…よかった……ナナチの友だちが、人に戻れて」

 

 

「ンンンンン、本当ですなァ!」

 

 

 

 

視界の端でレグがナナチをもふもふしてるのを眺めながら、私も川の方へと向かった。

 

 

もちろん、ミーティをキレイにするためにね!

 

 

 

 

予め用意しておいたお湯にミーティを浸ける。べっとりと黒い液体で濡れた体はナナチによく似てふわふわで、その毛の一本一本に粘液が絡みついていたから、レグに三回も替えの湯を汲んできてもらうハメになった。

 

 

「凄い粘液……監視基地のマルルクちゃんの部屋にあったやつよりもベトベトしてる…」

 

 

「……ンンン?!リ、リコ殿?いつの間にそんな事を…」

 

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が老いたる獣の秘湯を発見していたころ・・・25

さてさて。紆余曲折ありながらも拙僧、無事受肉することができたワケですが。

 

 

目下の予定はミーティ殿のリハビリですなぁ…

 

 

ナナチ殿の為にも、完璧に動く事ができるようにしなければなりませぬしねェ?

 

 

ミーティ殿はまだお生まれになったばかり、これは骨が折れまするぞ…。

 

 

 

 

 

 

ミーティが戻ってきた時なんて声をかけてやればいいのか、オイラには分からなかった。二度と手に入らないと思っていたモノがこんなにもアッサリと戻ってきた衝撃で、オイラの頭ん中がまっしろになちまったからだ。

 

 

 

 

「う……あぁ………みーてぃ…」

 

お"が"え"り"……お"がえ"り"、み"ーでぃ"…!!やっと……やっと開放されたんだなぁ…!」

 

 

 

 

目の前の『大切なもの』に、オイラは抱きついて泣きわめく。

 

 

 

 

うぅ……、あ"……い"ま"。ナ"ァ"ヂ?

 

 

「…ッ、そうだよぉ!おいら、ナナチだよ!」

 

 

 

 

ぁぁ……だ…たぁ。い、ま"…!

 

 

 

 

「う"っ。ううぅぅぅっっ、ミ"ーテ"ィ"ぃぃぃぃぃ!!

 

 

「……ンンン、ミーティ殿の様子はどうですかな?ナナチ殿」

 

 

「あ"あ"、どーま"ん"ぅ"ぅ"ぅ"!!あ"り"がどぉ"な"ぁ"、あ"り"がどぉ"な"ぁ"!!」

 

 

「ンンンンン!そのようにお泣きなさるな。嬉しいのはよくわかります。ですがそのように泣かれておりますとミーティ殿も悲しまれまするぞ?」

 

 

「ううぅ…ズズッ!うん、ぞうだなぁ」

 

 

「フフフフ。そのように喜ばれると、拙僧としても鼻が高いですなァ!」

 

「見たところ精神もちゃんと『戻ってこれて』いるようですし、あとは体の動かし方を練習するだけでよろしいかと」

 

「…まあ、今日ぐらいはミーティ殿とゆっくりお過ごしになられてもバチは当たらぬでしょう。では拙僧これにて失礼いたしまするぞー」

 

 

 

 

そう言うと、ドーマンは部屋から出てった。

 

 

残されたオイラは、ミーティをずっと抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

ンンンンン、これでナナチ殿もミーティ殿も救われたワケです。

 

 

ンンン。勝利の美酒、という訳にはいきませぬが、風呂に入ることぐらいは許されるでしょう。

 

 

どうせ時間を潰すものもありませぬし。深界四層の秘湯、拙僧が見極めて差し上げる…!

 

 

 

 

 

 

「ふんふふーん、おっふろ、おっふろ!」

 

 

「いつにも増してうかれてるな、リコ…」

 

 

「そりゃあもちろん!お風呂は乙女の洗濯場なのよ!もう何回でも入れるよー!それにココ、めちゃくちゃ広いしー?オースのどんなお風呂よりも広いよきっと!」

 

 

「それは確かにそうだが……ッリコ、待て!お湯になにか浮いてる!」

 

 

「ええ?!あちゃー。原生生物が入りに来ちゃったのかなぁ…」

 

 

「……あ”っ。い、いや、あれは…」

 

 

「えっ?うーん、なんか浮いてる……白黒の…ロウオウシダかな?」

 

 

「いやぁ……あれは、多分…」

 

 

 

 

 

 

ザッパアアアアアアンッ

 

 

 

 

 

 

「ンンンンン!!実に良き湯ですねェ!特にこの湯の深い所!体の淀みが落ちてゆく気さえいたしまするぞ!!」

 

「……ンンン!!???な、ナゼ、ココに?

 

 

「う、うわぁー…」

 

 

「あわわわわわわ、お、大きい…!僕の腕ぐらいある……!」

 

 

「ン、ンンンンン………そのようにジロジロと見られますと、拙僧興奮してしまいまする♡」

 

 

『『ご、ごゆっくりー!!』』

 

 

 

 




ワンポイントDOMAN!


ロウオウシダとは・・・人間の子供の背丈くらいの大きさがあるワラビでありまする。煮つけにするとたいへん風味がよく美味であるうえ、火を通す前はとても固いので、荷物を縛るひもの代わりにもできまするぞ!

因みにゼンマイの先の部分はコリコリしてます。タコの吸盤みたい?醤油をつけていただきましょう!


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が老いたる獣の秘湯を発見していたころ・・・26

ンンン 。不慮の事故とはいえ、拙僧の【御禁制】を見られてしまうとは…

 

 

拙僧は恥ずかしゅうて、穴があったら入ってしまいとうございまするぞ…

 

 

 

 

「さあさあ、皆様!ミーティ殿のリハビリを始めまするぞ!!」

 

 

分かった…

 

 

「りょ、了解した!(さ、逆らったら殺される…ッ、ドーマン棒に!)」

 

 

「ンンンンン?どうかされましたかな、レグ殿?」

 

 

「何でもない!本当だぞ?!」

 

 

 

 

ンンンー、何故ここまで他人行儀なのでしょうねー…

 

 

………ンンフフフフフ、ええ、ええ。昨日のアレは拙僧の不手際ですものねェ?

 

 

はあ、冷静に考えてみると何やってるのでしょうか。馬鹿馬鹿しい。

 

 

 

 

「ンンン……昨日のことはなるべく早く忘れていただけると拙僧としては嬉しいのですが。もしも忘れられぬというのなら、拙僧が(まじな)いでもって記憶を消して差し上げましょうか?」

 

 

「い、いや。大丈夫だ…僕は気にしてないぞ…」

 

 

「うーん………なんというか、つ、強そうだったね?」

 

 

「ンンンンンン!!純粋無垢であるが故の!!ンンンンン!!!

 

 

 

 

ぬううううう!!おのれおのれオノレェ!!いっその事この首を掻き切って死んでしまえたならばどんなに楽か!

 

 

………ンンン、取り乱しました。せっかく不死になったのです、そんなに簡単に死んでなるものですか!

 

 

 

 

 

 

「んなぁー、ミーティ………なんか動けるようになるの早くねぇか?」

 

 

あ、うぅん。…がぁと

 

 

「ンンン。僭越ながら、ミーティ殿の体を治すとき身体能力も上げさせていただきました。ご安心召されよ、これも追加サービスというヤツですぞ♡」

 

 

「…オマエさぁ、ホントーに何でもできるんだなぁ…」

 

 

「ンンンンン!お褒め頂き恐悦至極!!ああ、もし貴方様が望むのであればナナチ殿にも同じものをかけて差し上げましょうか?」

 

 

「へー、そのマジナイ(・・・・)ってオイラにもかけれるのか………じゃあリコやレグにももうかけてんのか?」

 

 

「?ええ、もちろんですとも。まあどうやら、お二人ともお気づきになられてないようですが。別に害のあるものでもありませぬぞ?リコ殿の方には身体能力の向上、奈落の呪いの無効化。レグ殿の方には俊敏さの上昇の効果のある(まじな)いをかけさせていただきました!」

 

「そうですねェ、もしナナチ殿にかけるとしたら………身体能力向上は勿論として、視力あっぷ(・・・)。あとは聴力向上でしょうか?」

 

 

「ふーん…まぁ、また必要になったらオイラにもかけてくれよ」

 

 

「ええ。承知いたしました」

 

 

 

 




ワンポイントDOMAN!


能力向上の(まじな)い・・・その名の通り、対象者の指定された能力(脚力であれば足が、視力であれば目が)強化されますぞ!あまり強化しすぎるとOFA継承理論で体が弾け飛ぶ上、強化している時は常に魔力を消費し続けるという、普通に使う分にはデメリットの多すぎる代物ですが。拙僧はこの度このデメリットだけを実質ゼロにする画期的な方法を生み出しまして!まあ、要するに。

現在の拙僧はこのデメリットを支払っておりません。ンンン!素晴らしい!


呪いと(まじな)い・・・良い効果をもたらすモノが(まじな)いで、悪い効果をもたらすものは呪いですぞ。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が老いたる獣の秘湯を発見していたころ・・・27

ミーティが復活して三日が経った。もうミーティはナナチやリコの支えがなくても歩けるし、何なら元気に外を走り回っている。

 

 

唯一元通りになっていないのはのど、声だけだろうか。発声練習はしているのだが、やはりそう簡単にはいかないらしい。

 

 

ここばかりはドーマンの術でもどうにもならないらしいから、(実際にはできるらしいが、あまり使いすぎるのも体によくないということで)自力で治すしかない。

 

 

 

 

「いくぜーミーティ。今度はマ行だぞー。ここが言えたら自分の名前も言えるからなー!」

 

 

「ぅうん!ぁ、ま。むぃ、むー。みぃ……」

 

 

「レグ、すごいねー。もふもふだねー…」

 

 

「ああ、素晴らしい光景だな…」

 

 

「ンンンンン……ア”ッ”!!」

 

 

「あ、ドーマン?!もー!一体どうやったら針で革が破れるのよー!?」

 

 

「ソソソ、申し訳ありません……もう一度、もう一度だけチャンスを頂けぬでしょうか?今度こそ完璧なる背嚢を作って見せまするので!」

 

 

「そういってこれでもう三つダメにしてるじゃん!わたしが作った方が絶対早いよー?」

 

 

「ンンンンンン!!どうかもう一度!もう一度だけお慈悲を!!!」

 

 

「うあー!!ドーマンー!もうっ!ダメだって!ほんと!」

 

 

「はあ…ちょっと貸してくれ、ドーマン」

 

 

「ンン?どうかされましたか、レグ殿」

 

 

「いいからいいから…はあッ!」

 

 

 

 

ドーマンからバッグになる予定だった革を受け取ると、それを十秒ぐらいでパパっと縫い上げた。

 

 

これをあといくつか作ってしまえば、新型のバッグが出来上がるわけだ。

 

 

 

 

「なっ?!そ、そのようなことが…」

 

 

「ふふふふ、どーだドーマン。僕も本気を出せばだな…」

 

 

「おおー。レグ早いねー!上手上手ー」

 

 

ン、ンンンンンンンンン!!!(堪えきれない怒り)」

 

 

 

 

うおっ?!ドーマンがスゴイ顔でこっちを見てる……なんか目から黒い涙を出してるんだが…

 

 

 

 

「す、すまない…というか、それ。一体どうやって出してるんだ…?」

 

 

「ンンンンン!拙僧にも時間が、時間さえあれば…ッ!」

 

 

「その分だと上達に一年はかかりそうだねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナナチ!どう?アタシ、うまく喋れてるかなぁ?」

 

 

「うん…うん!ちゃんと喋れてるぜ!ミーティ、ほんとよく頑張ったなぁ!」

 

 

 

 

この隠れ家に拙僧らが訪れてから2週間がたつ頃、ミーティ殿もほとんど言い淀むことなくしゃべることができるようになりました。

 

 

新型のバッグもリコ殿とレグ殿の尽力で完成しましたし、保存食なども十分な量を用意いたしました。もはやこの場に留まる理由もないでしょう。

 

 

そろそろ、出発する頃合いですなァ!

 

 

 

 




ワンポイントDOMAN!


リコさん隊のメンバー

【リーダー】リコ・・・この探掘隊のリーダーです。現在判明しているほぼすべての遺物を記憶しておられまする。
【バフ】全身体能力超向上、思考速度上昇、幸運(致命傷を受ける可能性が減ります)、無敵一回、疑似的なる不死


【奈落の至宝】レグ・・・リコ殿の護衛的なポジションです。『火葬砲』という必殺技がありますが、この探検が始まってからは一度ぐらいしか撃っておりません。恐らく6、7回程度は撃てるでしょうなァ。
【バフ】知覚範囲拡大、戦闘時移動速度上昇、思考速度上昇、幸運、無敵一回


【もふもふ一号】ナナチ・・・とてももふもふです。ンンン!可愛いですねェ!視界の覗き見は既に対策済みです。もうベールで顔を覆っていない、普段通りのナナチ殿です。
【バフ】全身体能力超向上、思考速度上昇、幸運、無敵一回、疑似的なる不死


【ふわふわ二号】ミーティ・・・すごくふわふわです。ンンンンンン!ナナチ殿と抱き着いておられる間に、どうにかして挟まりたいものです…因みに肉電球は取り除きました。
【バフ】全身体能力向上、全身体能力超向上、思考速度上昇、幸運、無敵一回、疑似的なる不死




【頼れる陰陽師】蘆屋道満(ドーマン)・・・度し難い性格をしている、などと心無いことを言われますが。そのようなことはございませぬ…本当ですよ?
【バフ】【能力】魔術礼装の能力の使用(現在はランチタイムです)、上昇負荷の無効、完全なる不死(成れ果て由来)、魔術王を斃すことができるほどの魔力、陰陽術、etc、etc…




身代わり(指定した人間が死ぬとき、傷を受けるとき。その傷を全て己へと置換する。これによって隊員のあらゆる負傷、及び上昇負荷は道満へと置換される)





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忘れもしませぬ。あれは拙僧が黎明卿と一緒にカートリッジを作っていたころ・・・28

「よーし、それじゃあみんな!行くよ!」

 

 

 

 

ンンン、最早原作通りとは言えないような所まで来てしまいましたが…

 

 

何はともあれ拙僧はアニメ版第一期までの内容を乗り切ることができたのです!

 

 

 

これより先は劇場版。かの黎明卿との戦闘がありますれば、十分な対策を施しておかねばなりませぬぞ…

 

 

 

 

 

 

「そういえばね、ナナチ」

 

 

「んなぁ?どうしたんだ」

 

 

「お礼を、言っておかなきゃって。私があんなに成ってた時にナナチが私を助けようとしてくれてさ。いやぁアレ大変だったでしょ?」

 

 

「んなぁ!?お、覚えてたのか…」

 

 

「あーっ、『なんでオイラの言葉に反応を返してくれなかったんだ』。って顔してる!ふふふ!アタシも出来るんだったら返してたんだけどねー」

 

 

「んん?」

 

 

「んーっとね、なんて言えばいいかな…ほら。アタシって『アタシ自身』と『ナナチ』の、二人分の負荷を受けてたじゃん?あの負荷のせいで体が檻みたいなのになってたんだよ。よーするに、アタシの意志じゃ動かせない状態だったんだ。だから檻の中で見てるだけしか出来なかったんだよねぇ…」

 

 

「へぇー…そうだったのか…」

 

 

「…あれ?もしかしてこれってメチャクチャスゴい情報なのでは?一度成れ果てた人がまた人に戻るなんて事、今まで無かったわけだし…」

 

 

「リ、リコ。今は控えてやってくれ…」

 

 

 

 

道中その様な話に花を咲かせながら進んでいたわけですが。少しばかり脇道に逸れて進んでいたところ、リコ殿の母君が好きだったという花『トコシエソウ』の群生地に辿り着きました。

 

 

 

 

「わぁ…!すっごい、一面『不屈の花』だらけだー!」

 

 

「ンンン!たしかに、これは絶景ですなァ!」

 

 

「あっ、おーい。丘の上には上るなよ!負荷がかかるぞー」

 

 

 

 

ンン、ですが。拙僧の記憶が正しければ…

 

 

 

 

「あれ?……何か聞こえる!他の探窟家か?」

 

 

「んんぅ…?んなっ?!あ、アレは!」

 

 

「ンンン、お待ち下されレグ殿。今は貴方が出るべき時ではないでしょう。遠目に見るのみに留めておくべきかと」

 

 

「ちょっと待っていてくれ、今確認するから………んんん、丘のふもとに誰かいる…体が大きいな。アレは一体何をしてるんだ?」

 

 

「恐らくは、駆除かと」

 

 

『『『『駆除?』』』』

 

 

「ンンンン!綺麗にハモりましたなァ!ンンフフフフ、どれどれ………ああ、ソコをご覧になって下され」

 

 

 

 

そう言うと、皆様方は拙僧の指差した方向にあるトコシエコウを見つめます。

 

 

 

 

「あれ?ドーマン。これ、葉っぱの部分が虫になってる…」

 

 

「以前リコ殿の封書を拝見した時、その内の一つにコレが記されておりました。曰く―――」

 

 

 

 

『『クオンガタリ(!!)(なるものだとか)』』

 

 

 

「そーだよ、思い出した!お母さんの封書…えっと………あった、これだ!」

 

 

 

「『【クオンガタリ】六層の花畑に気をつけろ。葉を見てコレが紛れていたならば、既に奴らの巣になっている。この虫は不屈の花に擬態し、近くに来た生物を襲い幼体を植え付ける。幼体は頭の中に入り込み、宿主を都合の良い生餌に仕立て上げる……』うえぇ、エゲツない事するなぁ…」

 

 

「恐らくあの者は、花園ごとこの害虫を駆除する心積もりなのでしょう…まあ、しょうがないですがねェ?」

 

 

「…ここ、燃やしちゃうの?」

 

 

「ええ、恐らくですが……納得いかぬという顔をしておられますな、リコ殿?ンンンンン、そうですねェ…拙僧の推測でよければ、理由なぞ話してみましょうか。ささ、何はともあれもう立ち去ってしまいましょう」

 

 

「………うん」

 

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が黎明卿と一緒にカートリッジを作っていたころ・・・29

『不屈の花園』を離れた後、拙僧らは深界五層『なきがらの海』に向けて歩いておりました。

 

 

 

 

「ンンン、ところでリコ殿。トコシエコウとは主にどこに生えておりますかな?」

 

 

「えっ?うーん…どこどこに生えてる!ってわけじゃないかなぁ。基本どこにでも生えてるし…」

 

 

「そこですよ、リコ殿。トコシエコウとはこの奈落のいたるところに生えている植物。それに化ける深層の虫どもが地上に出てきたなら、瞬く間に地上は山積みの生餌(死体)であふれかえることとなりましょうや」

 

「トコシエコウはオースの町に住まうものにとって無くてはならない必需品、それに化けられてしまっては一たまりもないでしょう。まさしく『久遠を騙る虫』…ンンン!クオンガタリにふさわしき狡猾さですねェ!」

 

 

 

 

地上に住む自分の家族や、親しい友人が虫どもの苗床となった様を想像してしまったのか、リコ殿とレグ殿は顔を青ざめさせてしまわれました。

 

 

 

 

「考えてみればそうだな…そもそも遥か下。六層の原生生物が層を二つもまたいだところで発見されている時点で大分危険な状態なのだろうな…」

 

 

「うえぇ…ヤバいぃ。ナットやハボさんたちが『お祈りガイコツ』みたいになってるのを想像しちゃった…」

 

 

「だ、大丈夫か、リコ!」

 

 

「ンンンンン、少々気味の悪い話でしたかな。これは失礼!ささ、もうこの話は終わりにしてしまいましょう。次の野営地となる場所まで早く行かねばなりませぬゆえ」

 

 

 

 

 

 

もう五日は経ったでしょうか。あたりの景色も緑溢れる森林から、雪の積もる白銀の世界へといつの間にか様変わりしておりまする。

 

 

大断層を思い出させるような長い洞窟を抜けた先は、白く覆われた崖の上でした。この場所から、五層の景色を一望できるのです。

 

 

 

 

「…わぁ!」

 

 

 

 

さあ、ようやく着きましたぞ!深界五層『なきがらの海』へ!

 

 

目の前には四層のダイラカズラを彷彿とさせるような形をした氷の受け皿、『支え水』が連なっておりまする。

 

 

 

 

「…なあ、ドーマン!ドーマンってずっとその格好してるけど、寒くないの?」

 

 

「ンンン……実を言うと少しばかり肌寒いですが。まあ耐えられぬほどではありませぬ!」

 

 

 

 

そう言うと、拙僧は背中の部分に張っていた式神を一つ取り出し、ミーティ殿に手渡します。

 

 

 

 

「えっ!?ナニコレ、あったかい!」

 

 

「寒冷地仕様の式神にございまする。触れた部分を温かくしてくれるのですよ。ここに来る前に拙僧、8つほどこれを装備しておりますれば、心配ご無用ですぞ!ささ、ミーティ殿もおひとつどうぞ…」

 

 

「わあぁ、ありがと!」

 

 

「あー!ミーティずるーい!ドーマンー私にも一個ちょうだい!」

 

 

「す、すまないが僕も一個もらえるとありがたい…」

 

 

 

 

ンンンンンン!大人気ですなァ、拙僧特製の式神カイロ。まだまだ在庫はありまするゆえ、ご安心召されよ!

 

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が黎明卿と一緒にカートリッジを作っていたころ・・・30

「オイラが来たのは深界五層最下部、ヤツらが『前線基地(イドフロント)』と呼んでる場所だ。人が()のまま戻れる最終地点、ボンドルドの箱庭…その中に白笛が『絶界行(ラストダイブ)』に使う、六層唯一の侵入口がある……まあ、あのボンドルドがオイラ達をみすみす通してくれるとは思えねぇ…遭遇は避けられないぜ?」

 

 

 

 

拙僧らが今後の方針について話しておる時、ナナチ殿はそうおっしゃりました。

 

 

 

 

「ンンン、恐らく拙僧であれば撃破も容易でしょう。何も気にすることなどありませぬぞ?」

 

 

「んぅぅ、オマエなー…オメーはボンと会ったことがねぇからそんなデケェ口が―――んなぁっ?!」

 

 

 

 

ナナチ殿が拙僧に小言を言おうとしたとき、突如外で轟音が鳴り響きました。

 

 

 

 

「んなぁ…支え水が崩壊したんだ。びっくりしたぁ…おいオマエら、道ができたぜー。休憩はここまでにして、先に進むぞ」

 

 

 

 

 

 

「うおっとっと…これ、崩れたりしないのかなぁ…」

 

 

「ま、崩れたとはいえ元は支え水の一部だったんだ。オイラ達が飛び跳ねたぐらいじゃあびくともしねぇ………あ。一人、例外がいたようだけどな」

 

 

 

 

「ンンンンンンンンン!!???」

「ナゼだアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ

 

 

 

 

「「「ド、ドーマンー!!!」」」

 

 

「んなぁ~…まったく、何やってんだか」

 

 

 

 

 

 

「ど、ドーマン?これホントに食えるのか?」

 

 

「うん…見た目はアレだけど、味は美味しいらしい、よ?」

 

 

 

支え水から落ちた後、拙僧式神を使って戻ってきたわけですが。その際タダでは転んでやらぬとそこの辺りを泳いでいた巨大な魚を何匹かつかまえてきたのです。

 

 

ンンン、この強烈な見た目。忘れたくとも忘れられませぬ…『ハマシラマ』という魚です。牛のような“鳴き声”(?!)を上げる、尾に複乳のような触手を何本も携えたこの魚は、見た目こそ醜悪ですが食べると大変美味なのだとか…

 

 

 

 

「ふっ…ふっ…!体積の倍はヌメりが出てるぞ、コレ…!」

 

 

「あっ、レグ。ヌメり取りはそれぐらいでいいよー。あんまりやりすぎると固くなっちゃうらしいから…生が一番おいしいんだって!」

 

 

 

そう言うと、リコ殿は緑色の粘液が絡みついた生の切り身を口に運びます。ンンンンン!?こ、これを食べるというのですか!?初見で?!見れば見るほど毒にしか見えぬのですが?!!

 

 

 

 

「………んんんッッ!!甘い!レグ、これおいしいよ!アゴのところにギュッとくる味!」

 

 

「え、ええー…本当なのか?」

 

 

 

 

 

 

何故です…?奈落の珍味は須らく醜悪な見た目をしていなければならぬという法でもあるというのですか?

 

 

ええ。そのまま食べても美味でしたが、拙僧の携帯していた醤油とワサビ。それに少々変わり種ですが青じそ(に似た葉っぱ)を横に添えると、皆様目の色を変えて3匹ともペロリと食してしまいました。

 

 

 

 

「ふー…美味かった……度し難い見た目だったが、味は見かけで判断できないものだな…」

 

 

「あっ!もう一匹余ってるから、こっちはお鍋にしようか!」

 

 

「んなぁ?!そ、そんなのもあるのか…」

 

 

「……ねえねぇ、ナナチナナチ…」

 

 

「ん。どーしたんだミーティ?」

 

 

「この魚、すッッッッッごく美味しいね!」

 

 

「………あぁ、そうだな!」

 

 

 

 

「みろリコ、ドーマン。あの素晴らしい光景を…」

 

 

「ふふふ、モフモフだねー…」

 

 

「ソソソソソソ……」

 

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が黎明卿と一緒にカートリッジを作っていたころ・・・31

(毎日投稿から不定期になっちゃったので)初投稿です。


ちょっと内容が太い()です。


ハマシラマの寄せ鍋を食した後、拙僧らは『前線基地』を一望できる丘の上に立っておりました。

 

 

しかし絶景ですなァ!この世界の技術ではどうやっても再現できないでしょうに。よくもここまで整備できたものです。

 

 

かの黎明卿の周辺だけ技術レベルがオカシイと思うのですよ。

 

 

 

 

「あの建物ゆっくり回ってる……どうなってるの?」

 

 

「どうやって回ってるかはオイラにもわかんねぇ。ま、入口ならわかるけどよー。ほら、あそこに回ってない部分があるだろ?出入口は基本あそこしか無いんだよ」

 

 

「ナナチ…アタシたち大丈夫かなぁ?またアイツに捕まって実験動物にされたりしないかな?」

 

 

「んなぁ…オマエら、一塊になって絶対に離れるんじゃねえぞ。離れたら最後、バラバラに『祈手』に連れ去られてみんな仲良くモルモットだ」

 

 

 

 

まあ警戒してもしすぎることは無いでしょう。お二人にとっては何かと感慨深い場所でしょうからねェ。

 

 

なにせお二人が成れ果てられた場所なのですから。

 

 

…何か良からぬ事が起こってもすぐに対処できるよう、式神の調整をしておかねばなりますまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

基地の入り口に近づくと、緑色の探窟用装備を着けた女子が出迎えてくれました。

 

 

 

 

「アンタらがパパの客?ずいぶんとちっこいじゃない!…まあ、一人は超でっかいけど」

 

 

「ッ…なあナナチ、知り合いか?」

 

 

「いや、違う。オイラの後に来たみたいだ」

 

 

「しっかしアンタらよくここまで来れたわねー。どーやって来たんだ?」

 

 

「……支え水の、結晶を…」

 

 

「ウッソォ!?支え水の結晶を渡ってきたの?あんなのいつ崩れるかわ分かんないじゃない!」

 

 

(んなぁー!おいレグ、あまり相手に情報を渡すんじゃねー!『情報は力』だぞ!)

 

 

(そ、そうだった!すまない!)

 

 

「嘘ついたってわかるんだからね!アタシ見たことあるし…ねえホントはどうやって来たのさ!」

 

「ねーえー!こーたーえーてーよ!!」

 

「なーあー、なんか喋ってよ…ウソって言ったの怒ってるのか?そうだ!アタシの帽子さわってみる?」

 

 

(なんなんだこのユルさ…ど、どうしたらいいんだ!四人とも見てないで助けてくれ!)

 

 

「は、話してぇ…つらいぃ……あっ!」

 

「名前だ!アタシ、プルシュカ!アンタらは?」

 

 

「レ、レグだ」

 

 

「私はリコ!」

 

 

「わぁっ…!こっちの二人は?うーん、ふかふかしててかわいいわねー…ねえ、その耳ホンモノ?喋れるの?!」

 

 

「ん、んなぁー…」

 

 

 

 

ンンン、拙僧だけスルーされておりますが…なぜです?やはり幼子には拙僧は恐ろしく感じるのでしょうか…

 

 

いえ、おかしいですね…彼女は『さおはぶ』卿にも物怖じせずコミュニケーションをとっていけるほどメンタルが強いお方ですから、単純に興味がなかっただけなのでしょうな…

 

 

ソソソ、拙僧は悲しい…

 

 

 

 

 

 

「あっ、パパ!」

 

 

 

 

 

 

レグ殿らがプルシュカ殿と戯れていると、奥から複数の足跡が聞こえてくるのが分かりました。

 

 

目をやれば、そこには表面に青く光る不思議な文様が描かれたヘルメットを被った者たちがおりました。

 

 

中でも、その集団のリーダー格であろう人物のヘルメットは紫色の光を放っております。

 

 

 

 

ああ、ああ!ついに(まみ)えることとなりましたか!

 

 

かの白笛が一人、黎明卿『新しきボンドルド』!そしてその隷下の探窟隊『祈り手(アンブラハンズ)』!

 

 

 

 

まるで死体に群がる小蝿のようですなァ?いったいどれほどの数がいるのでしょうかねェ…彼奴らはここで完全に滅ぼしておかねばならぬゆえ、あまり多すぎては困るのですが。

 

 

 

 

「やあ皆さん。よく来てくれました。ナナチ、元気そうで何よりです。その帽子、よく似合っていますよ」

 

「それに……おやおや、あなたはミーティですか?先日あなたの『肉電球』が消えていたので、てっきりナナチがついに成し遂げた(・・・・・)のかと思ったのですが…」

 

 

「おめでとう、ナナチ。ミーティ。これでまた仲良く二人で過ごすことができますね」

 

 

「こ、コイツ…」

 

「レグ、抑えろ!」

 

 

「ああ、見たところ貴方がリーダーでしょうか?……おやおや!貴方は笛を持っておられないのですか?」

 

 

「いえいえお気になさらず。実は、原生生物に襲われた際に奪われてしまいまして…ですがご安心召されよ、すぐに新しい笛を見繕いまするゆえ」

 

 

「おやおやおやおや、ですが皆さんは『絶界行』をされるのでしょう?ここに来る方は皆、そのために来るのですから。それともその前に一度地上へ戻られるのですか?」

 

 

「ふふふ!まさか、ご冗談を!せっかくここまで来たのです。再び地上に上がることなぞ我らの誰も、考えておりませぬとも!」

 

 

「おや、それは勇敢ですねぇ……ところでお名前をお伺いしてもよろしいですか?」

 

 

「…人の名を聞く前に、先ず自分が名乗られては如何ですかな?」

 

 

「ああ、そういえばまだ名乗っていませんでしたね」

 

 

 

 

「私はボンドルド、奈落の探窟家です。黎明卿と人は呼びます」

 

 

「ンンン、そうですねェ…では拙僧も名乗らせていただきましょう」

 

「拙僧はキャスター・リンボと申す法師陰陽師にて。今は探掘家の真似事なぞやっておりまする」

 

「どうか、以後お見知りおきを。黎明卿殿?」

 

 

 

 

 

 

「皆さん、今日はお疲れでしょう。立ち話もなんですから休まれてはいかがですか?部屋を用意しておきました。私が案内しますよ」

 

「プルシュカ、ついてきてくれますか?どうかあなたに部屋の説明をお願いしたいのです」

 

 

「うん!まっかせてー!じゃあ行くよ!」

 

 

 

 

そう言って走っていくプルシュカ殿の後を、拙僧らはボンドルド殿と一緒に追いかけていきました。

 

 

後ろではただ立ち尽くすのみの『祈手』が拙僧らを見つめるばかりでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

当初の計画よりも大幅なズレ(・・)ができてしまいました。

 

 

ナナチたちと共にこの基地へ来た彼らこそが。プルシュカを『完成』させてくれるのだと考えておりましたが………

 

 

一人見慣れない人物がおられました。

 

 

途中からナナチが視界をふさぐような目隠しをしていたせいで、視界の覗き見が困難だったうえ、今ではもう覗き見という行為自体が不可能になっています。その時に彼らの隊のメンバーとなったのでしょうが…

 

 

恐らくミーティを復活させたのも彼の仕業なのでしょう。ああ。実に、実に興味深い。

 

 

私の知らない法師、陰陽師という職業、私の知らない技術…そして何より、私の知らない知識……

 

 

 

 

ああ。ぜひ、欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらが部屋になります。」

 

 

「掃除したのはアタシなんだよー!」

 

 

 

 

ほォう?中々良い部屋ですねェ…地上では安宿となるのでしょうが、深界五層では五ッ星ホテルのように思えてくるのはとても面白い事ですなァ。

 

まあ、唯一気に食わぬことがあるとするならば。

 

 

 

拙僧とそれ以外の隊員とで部屋が分けられている(・・・・・・・)事ぐらいでしょうか?

 

 

 

…いえ、普通に考えれば当たり前なのですがね?……まあ良いでしょう。どうせ拙僧にとっては大きな障害とはなりえませぬゆえ。

 

 

 

 

「じゃあドーマン!また明日ね!」

 

 

「ええ、よい夢を。リコ殿」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ~ん……トイレぇ~…」

 

 

 

ここに来るまでに予想以上に疲れていたのか、ベッドに横になった瞬間意識が落ちてしまった。

 

 

夜中に起きることもなくぐっすり眠れるかと思ってたけど、さすがに尿意には抗えずスベスベなシーツの呪縛から逃れようと身をよじらせる。この年になってまでお漏らしなんてしてたら、ドーマンやリーダーになんて言われるか…

 

 

 

 

「『枢機へ還す光(スパラグモス)』」     「『枢機へ還す光(スパラグモス)』」

            「『枢機へ還す光(スパラグモス)』」

 

 

 

「ふふふふふふふ、邪魔ですぞ?死ねェい!」

 

「おわわわわわわわわ!!!おろしてくれドーマンうぅぅぅぅ!!!」

              「んなななななあッ!!」

「わばばばばばば?!」

 

 

 

 

………何の音?部屋の外で“ピシュゥゥン”って音が何回も聞こえる。それと一緒にドーマン達の声が…

 

 

 

 

「ッええ!?ドーマン?!ちょっとー!!」

 

 

 

 

私は探掘用の装備をつけることも忘れて、急いでドアを開けると―――

 

 

 

 

増援

             「新たな増援

         「増援」

 「増援

 

 

『『『枢機へ還す光』』』

 

 

 

 

「………えっ?」

 

 

 

三人の『祈手』たちの仮面から放たれた青色(・・)の光線が、私の方へ向かってきて―――

 

 

 

 

「急々如律令!!」

 

 

 

 

私たちは部屋に置いてあった荷物と一緒に〈前線基地〉の外にいた。

 

 

 

ドーマンだけが、ここにいない。

 

 

 

 




ここからどうするか考えてないんで疾走します。


はしるーはしるー♪オレーたーちー♪


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が黎明卿と一緒にカートリッジを作っていたころ・・・32

(そろそろ戦闘回が近づいてきて、戦闘シーンをどうやって書けばいいかわからなくて頭を抱えてるので)初投稿です。


キンキンキンキン金太郎にはなりとうないのじゃ…


「オイ!みんないるか!?」

 

 

「あ、ああ。見たところオイラたちは全員無事だが、ドーマンは…」

 

 

「そんな……なんで?なんでドーマンは私たちだけ逃がしたんだろう…」

 

 

 

 

この奈落に挑む、共に命を掛けあった仲間だと思っていたのに。

 

 

…ドーマンは仲間だと思ってくれてないのかな?

 

 

ドーマン(仲間)に助けられたという嬉しさと、何も言わずに逃がしたドーマン(仲間)へのモヤモヤとで頭の中がグチャグチャになって、私は地べたにへたり込んで俯いてしまう。

 

 

 

 

「…たぶん、オイラたちを巻き込まないようにするためだ」

 

 

「…え?」

 

 

「あっちを見てみろ…って、あー。そうだったな。力場はオイラとミーティにしか見えないよなぁ…」

 

 

「あのね?『前線基地』の方の力場がね、お椀みたいになってるの。よーく目を凝らさないと中が見えないぐらい厚い力場で覆われてる…それも基地全体が、ぐるーって!」

 

 

「恐らくだが中にいるヤツらを逃がさねぇためだ。十中八九ドーマンの仕業だろう。あれだけ力場が厚けりゃオイラ達じゃ近寄ることすらできねぇ、んなぁ………あ、基地の近くの水面を見てみろ!力場に沿って水が凹んでるぜ!」

 

 

「―――本当だ、スゴい。私たちでもこんなにハッキリ、上昇負荷以外で力場の存在が感じられるなんて…あれ、レグ?どうしたの?」

 

 

 

「決まってるだろう。ドーマンを助けに行くんだ!」

 

 

 

「ッおい、オイラの話聞いてたか?!バカ言ってんじゃねぇ!助けに行く行かないの問題じゃねぇ!そもそもあそこに近づけねぇんだ!助けられねぇんだよ!!」

 

 

「そう言って君も、ミーティを助けるのを半ば諦めていたじゃないか!ミーティを助けてくれたのはいったい誰だ!!」

 

 

「うっ、うぅ………でもよぅ…」

 

 

「…あれ?レグ、マントになんか付いてる―――ああっ!これ、ドーマンの『シキガミ』だ!」

 

 

「「「本当か?!」」」

 

 

「うーん、ちょっとレグ、じっとしててね…うぬぬぬぬぅ、えいっ!」

 

 

 

 

レグのマントに隙間なくぴったりとくっついていたから剥がすのに手間取ったけど、勢いよく引っ張ったらちゃんと取れた。

 

 

『シキガミ』を取った途端。急に宙に浮いて、紫色の光を放ち始めた。上を向いた目の模様が描かれた白いソレは、どこか不気味さを感じさせる物だったけれど。ドーマンのモノだから多分大丈夫だよね!

 

 

浮いてからしばらくした後。紫色の光が一際強く光って、ドーマンの声が頭の中に響いてきた。

 

 

 

 

『申し訳ありませぬ皆様。これは書置きのようなものでありますれば、拙僧のこの声に何を語り掛けてもいかなる反応も返しませぬ。どうかご了承くださいませ』

 

 

「ッ!ドーマン!!」

 

「レグ!静かにして!」

 

 

『この声が流れているということは、何かしらの非常事態が発生したということでありましょう。ですがご安心召されよ!声が止んだ後、各々バッグの中を確認してくだされ。その中に拙僧の作りし獣避けと、姿隠しの呪具が入っておりまするぞ。ああ。説明書も同封しておきましたので、どうかご確認ください。それでは拙僧これにてぇッ!』

 

 

 

 

その言葉を最後に、目の前で浮いていた『シキガミ』は火を上げて燃えてしまった。

 

 

 

 

「………はっ、バッグの中!みんな!確認して!」

 

 

「分かってる!えーっと…」

 

 

 

 

レグとナナチが一緒にバッグの中身をひっくり返して探している。

 

 

…ミーティは?

 

 

あ、前線基地の方を向いて微動だにしてない…

 

 

 

 

「ねぇミーティ。どうかしたの?」

 

 

「う、うん。リコ。あれ見て…?」

 

 

「え?」

 

 

 

 

ミーティに言われるままに私は双眼鏡を使って前線基地を見る。

 

 

 

 

「…い、前線基地が、どんどん壊れてってる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンンン、これだけ居ると些か鬱陶しいですねェ!そゥれ!」

 

 

 

 

隊のメンバーを前線基地の外へと転移させた後。拙僧は基地を巡り、目に着いたものを片端から破壊しながらとある場所を目指しております。

 

 

その場所にこそ拙僧の最重要目標を達成するために必要なモノ(・・)があるのです!

 

 

 

 

「ええええい!そこを退けェい!!急々如律令!!」

 

 

 

「『明星へ(ギャング)』―――うぶゥ゛ッ」

 

 

 

いったい何方にあるというのですか!手術室は!

 

 

 

 

「礼装換装、『ヘブンズ・フィール』!!」

 

 

 

 

ああ。長らく装備していた概念礼装『カルデア・ティータイム』を遂に変更する時が来ましたなァ!

 

 

今しがた拙僧が換装したこの礼装『ヘブンズ・フィール』の効果は、己の宝具(必殺技)の威力を50%上昇させるというもの。

 

 

その効果から拙僧が死ぬ前、FGO界隈では劣化版『黒の聖杯』などと呼ばれていましたが…ことこの場においてはこちらの方が良い!『黒の聖杯』は後ほど使うのです!

 

 

 

 

「ッ、この通路、たしか原作にもあったはず…!こちらか!

 

 

 

 

さあどんどん近づいてきましたぞ!あの奈落文字が彫られた扉が!

 

 

石造りの巨大扉を勢いよく破壊し、中へと入ります。

 

 

 

 

「フゥ、ようやっと着きましたか!」

 

 

「…ええ。お早い到着、何よりです」

 

 

 

 

ンンンンン、拙僧が一番乗りかと思ったのですが……既に先客がおりましたか!

 

 

 

 

「ンンンンン、これはこれは!どうやら待たせてしまっていたようで。申し訳ありません、黎明卿殿?」

 

 

「いえいえ、結構ですよ。こちらもいろいろと準備する必要がありましたからね」

 

「―――おやおや!ここに来るまでに何人か『祈手』たちを倒してこられたようで。如何でしたか?」

 

 

「ええ!全員、骨の無い腰抜共でありましたとも!食べ応えの無い者ばかりでしたぞ。いやはやなんとも、『祈手』というのはあんな穀潰しでも務まるというのですか?ンンンン、実にウラヤマシイことですなァ!!」

 

 

――――――おやおやおやおやおやおやおやおや、私の隊員達はお気に召しませんでしたか?それでは、私ならばいかがでしょうか。きっと退屈はさせません―――」

 

 

 

 

「『明星へ登る(ギャングウェイ)』」

 

 

 

「急々如律令!」

 

 

 

 




因みに最後のボンドルド、自分の自慢の『祈手』達をけちょんけちょんに貶されたのでちょっとキレてるみたいっすよ?かわいいですねー


そういえば、『枢機へ還す光(スパラグモス)』と『明星へ登る(ギャングウェイ)』をよく言い間違えてしまうのって私だけなんでしょうか?


頭の中で「ボンドルドっぽい方が『枢機へ還す光(スパラグモス)』(名前に枢機って入ってるから)」と覚えてるのが理由なんですけど。


なーんでこっちが『明星へ登る(ギャングウェイ)』なんでしょう?仮面からビーム出す方がカッコイイと思うんですけどねーーーーーー



部屋の中で引きこもってる次話を引っ張り出してくるので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が黎明卿と一緒にカートリッジを作っていたころ・・・33

(感想をたくさんもらえてうれしいので)初投稿です。


「『明星へ登る(ギャングウェイ)』」

 

 

 

「急々如律令!」

 

 

 

ボンドルド殿が仮面の上で光っている線を指で沿って撫でると、紫の光が一か所に収束し、そして放たれました。

 

 

あらゆる方向へと反射しながら自分に向かってくる紫の光線を、防御用の式神によって掻き消します。

 

 

 

 

「おやおや、弾きもせずに霧散しました(枢機へ還す光)か」

 

 

「?!ヌゥぅ!小癪な!」

 

 

 

 

アニメであればセリフが終わるまでキャラクターは動かないものですが、これはれっきとした現実。当然普通に攻撃してきますとも!

 

 

拙僧は追いかけてくる卿の攻撃を、式神をバラ撒きながら避けてゆきます。

 

 

 

 

「ぅッ、しかしながら!なんと素早いことですか!ッ来たれェい!

 

 

「お褒め頂(月に触れる)ありがとう(呪い針)ございます。ですが、あなたのその高速(明星へ登る)移動も大変興味深(明星へ登る)い」

 

 

なァッ?!ぐぅぅッ、急々如律令!!

 

 

 

なんとォ?!明星へ登る(ギャングウェイ)とは連射が利くものでしたか!…いえ、よく見ると光が細い…?、!威力を落として連射速度を上げてぇェエエ!?

 

 

 

 

ほらほら(枢機へ還す光)、どうされま(月に触れる)したか?残念ですが、逃げているだけ(明星へ登る)では私は倒せませ(明星へ登る)んよ。さあ、どうかあなた(明星へ登る)の輝きを私に見せ(月に触れる)くださ(呪い針)い」

 

 

「ぐっ、ぐぅぉ、おおッ?!。それほど。までに、見たいと、いうならばァ!どうぞご照覧あれ!礼装換装!!

 

 

 

 

『天の晩餐!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて皆様、突然ですが。

 

 

『ヘブンズ・フィール』や『黒の聖杯』といった礼装を使用したことはありますかな?

 

 

ああ。あるのであればよいのですが…さて、これらの二つの礼装はどちらも『装備したサーヴァントの宝具威力を向上させる』ものです。

 

 

疑問に思いませぬか?一体どのような仕組みで宝具の威力が上昇するのか。どのような絡繰りなのか…拙僧は気になったのです。ええ、ですので。岸壁街にて暇を持て余していた時に幾つか実験をしてみました。

 

 

その結果、どうやらこれらの礼装は『魔力の質を高めることによって宝具威力を底上げしている』らしいのです。

 

 

さて、今拙僧は既に『ヘブンズ・フィール』によって魔力の純度が高められた状態にあります。それを急に換装すると、一体全体どうなるというのでしょうか?

 

 

鉄の如き純度の我が魔力、それが突然スポンジのように隙間だらけになったならば、

 

そ の 隙 間 に 元 々 あ っ た 魔 力 は 、一 体 ど こ へ 行 っ た の で し ょ う ?

 

 

答えは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?!これは(月に触れる)…!?枢機の、(月に触れる)…ッ!!」

 

 

『いけません皆さん。すぐに退避を―――』

 

 

 

拙僧が礼装換装を行った直後、拙僧の体は発光を始めました。

 

 

皆々様!大変お待たせいたしマシタァ!!そう、 爆 発 で す (掎角一陣)

 

 

 

 

「魔術王をも凌ぐ我が魔力…ッ!どうかどうか、ご賞味あれェッッッ!!!」

 

 

 

 

『偽・掎角一陣』!!!

 

 

 

 

 

 

 

―――底なしの大穴の、その遥か底にて。新たに星が一つ生まれました。

 

 

星というにはあまりに小さい、直ぐに燃え尽きる運命の超新星なれど、それでも。たしかにここにあったのですよ。

 

 

ひと際鋭く輝く、一等星が―――

 

 

 

 




2/25までに劇場版を、終わらせられたらいいなぁ…



新作ゲームの予約をしてくるんで失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が黎明卿と一緒にカートリッジを作っていたころ・・・34

(せっかく感想が50件に行ったのになんか減ってて悲しいので)初投稿です…


あと前回のアンケートに答えてくれた皆さんへ。


ごめんよ…私の表現力ではこれが限界なんだ…すまない…


昔治してみようとしたんですけど、結局なーんにもならなかったのです…どうすればカッコイイ戦闘シーンになるのでしょう…?


あっ、まだ戦闘は始まらないらしいっすよ?(ネタバレ)


監視基地が壊れていく様を呆然とみんなで眺めていたら、いきなり基地の一角で紫色の閃光が煌めいた。

 

 

 

 

「うわぁーーー!前線基地が吹っ飛んだぁーッ!!」

 

「ド、ドーマンー!!?」

 

 

「―――いや。きっとドーマンなら大丈夫!」

 

 

「何故だ、リコ!?」

 

 

「だってあの光、紫色だったから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

拙僧の『偽・掎角一陣』の後、前線基地には巨大な大孔が空きました。

 

 

…ンンン!ここまではギリギリ原作通りです!セーフです!セーフですぞ!!

 

 

 

サア、六層の『箱庭』へと落ちていったボンドルド殿を迎えに行くとしましょうか?

 

 

そうして拙僧が飛び降りようとした正にその時、瓦礫と化した後ろの壁から四本腕の祈手が飛び出してきました。

 

 

 

「ゴ同伴願いマす、どうゾこちラへ」

 

 

ンンフフフフ!お先にどうぞ?

 

 

 

 

“彼”の突進の勢いをそのままに、拙僧は少しばかり横に寄って足を払い、奈落へ落とします。

 

 

 

 

コちらへ。 こちラヘ。 こチラへ。 こチらへ…

 

 

「…ンソソ、これはまた随分と仕事熱心ですなァ…」

 

 

 

 

だんだんと点になっていく彼の巨体を眺めながら、拙僧は下に降りるための式神を用意します。

 

 

…ああ、そうそう。危うく忘れるところでした!

 

 

 

 

「礼装換装、『黒の聖杯』!

 

 

 

 

 

 

「っと、到着いたしましたか……おお、中身が出ている…?どうやったらここからはみ出るのでしょう?」

 

 

 

 

四本腕の死体をまじまじと見つめていると、ペタペタという音が近づいてきます。

 

 

 

 

「…嗚呼、遂に来ましたか。成れ果て共よ

 

 

「……シャッコ…、イータン…、スミコ…、プゥウェル………。皆、一人一人に名前があるんですよ。『キャスター』…リンボ殿?」

 

 

 

 

成れ果てた者どもをその腕に乗せて、黎明卿がやってきます。

 

 

 

 

「ンフフフフフフ!そう為るように調節したとはいえ、あの攻撃を喰らって無傷とは!ええ!先程の言は撤回いたしましょう!どうやらアナタは期待外れでないようだ!」

 

 

「…ああ、なるほど。そのような……リンボ殿。あなたは今、その目で私を捉えているようで。その実まったく見ておられないのですね?」

 

「貴方のその目…我々探掘家の持つ『奈落への探求心』が無いように思えます。リンボ殿。貴方はいったい、何を成そうとこのような場所まで来たのでしょうね?―――ああ、ああ。未知が、増えていきます」

 

 

 

「俄然貴方に興味が湧いてきました…それに、」

 

 

 

 

 

「貴方のその力、その光は。い さ さ か 危 険 す ぎ ま す

 

 

 

 

(黎明卿)”が飛び上がり、その尻尾で以って拙僧に襲い掛かります。

 

 

さあ、第二ラウンド。というヤツですぞ?

 

 

 

 

 

 

「さあッ、ここでなら貴方の技も私の傑作もッ存分に試せます。もっと見せてください。もっと委ねてください―――私の『未知』を、埋めてください

 

 

「ンンンンンンッッ!!残念ですがッ!こちらにも目的というものがあるのですよ!さあ、我が下に集え!醜悪なりし成れ果てどもよ!詠唱棄却!急々如律令!!

 

 

 

 

掛け声と共に予め散りばめておいた式神―――部屋に撒いていたモノが、基地の崩壊と共に落ちてきたのです―――が、紫電を放ち一斉に共鳴を始めます。

 

 

周囲に存在している色とりどりの成れ果てどもは宙へと浮き上がります。

 

 

 

 

「我が、体は、流動、なれば…ッ!来たれェい!

 

 

「ッ!なんですかコレは…!?」

 

 

 

 

浮遊する成れ果ては勢いよく我が下へと飛来して―――

 

 

我が躰の中へと取り込まれます。

 

 

 

 

「ぐぅッ、すごい風ですね…吸収、取り込む…?。!ここにいる成れ果てたちを取り込んでいるというのですか!ッ、シャッコ!!

 

 

 

ンンンンン!!然りィッッッ!!!ぐううううぅぅぅっっっ……!さあっ!もうすぐ終わりますぞ…ッ!!」

 

 

 

 

最後の一匹は、名残惜しくも彼の腕にしがみついていた個体でした。

 

 

ああ…ようやく成る(・・)ことができました。我が第二目標は、今ここに完遂されたのです!

 

 

 

 

「あぁ…!全くもって、すばらしい!」

 

「之が、之こそが"全能感"なのですか!」

 

 

 

 

―――概念礼装『カレイドスコープ』に頼らないNPを100%チャージする手段の獲得、完了。

 

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が黎明卿と一緒にカートリッジを作っていたころ・・・35

(このシーンが書きたくてこの物語を書いてたので)初投稿です。


最後まで私といてくれたシャッコも、もはや彼の内側に取り込まれてしまいました。

 

 

思わず伸ばしてしまった手が空しく宙を切った時、私の心は今までにも何度か襲われたことのある“虚脱感”というものに襲われました。

 

 

「……………ほう、吸収しきったというのですか。素晴らしい。一般的な成人男性の体よりも大きいとはいえ、その体のどこにあれだけの量の物質を取り込んだというのでしょうか…」

 

 

「ふふふ、そのような無駄口を叩く暇が果たしてお有りですかな?」

 

 

「?…ッ!!(月に触れる)

 

 

「さあ、もうこのような場所に用なぞありませぬ。サッサと上に戻りましょう?ココは些か、窮屈が過ぎまするゆえ」

 

 

そう言うと彼の周りに、先程私の攻撃を避け続けていた際にばら撒いていたものが集まってきて、じきに彼の体が浮かび上がります。

 

 

なんと…ッ!!熱気球や推進力もなしに宙を浮くことができるというのですか!?あれはなんという遺物なのでしょうか?

 

 

 

 

「ッおやおや、もしや上昇負荷をお忘れですか?」

 

 

「ンンンンン!!さァて、どうでしょうねェ?!鬼神招来!」

 

 

彼が手を三度叩くと影が形をとり始め、たちまち体格の良い重装騎士らしきものへと姿を変えました。その手にはグレイブが握られています。

 

 

一対多の戦闘はこちらの不利となりますので、少しじっとしていただきましょうか。

 

 

 

 

「『枢機へ還す(スパラグモ)』―――くッ。貴方もとてもお早いのですねッ!!『月へ触れる(ファーカレス)』…閉じろ

 

「…捕らえました」

 

 

 

 

枢機へ還す光(スパラグモス)で一度回避行動をとらせた後に月へ触れる(ファーカレス)を使用することによって、驚くほどあっけなく彼―――チェルノボーグ殿を捕縛することができました。

 

 

…なにか様子がおかしいですね……私の枢機へ還す光(スパラグモス)を避けた際の俊敏さを、月へ触れる(ファーカレス)では発揮していないように思えます。何故でしょうか…

 

 

私が少しばかり考えていると、チェルノボーグ殿はその体を一度影へと戻し、そして今度は月へ触れる(ファーカレス)の外側で再び形を成し始めます。

 

 

 

 

「…おやおやおやおや、それは少々困りましたね……どうやら貴方の言う通り、上に上がるしか無さそうです」

 

 

 

戦場は箱庭から崖へと移ります。残念ながら機動力ではこちらが劣ります。それに加えて戦況は先程と変わらず二対一。チェルノボーグ殿は私の周りを飛行しながら近接戦闘を仕掛け、隙あらば私の背中にある『カートリッジ』を破壊しようとします。リンボ殿は遠距離からの私の妨害に徹しておられます。

 

 

 

―――ああ、始まりましたね。

 

 

 

 

「ンンンンン、それが祝福ですか?ああ、なんと貧弱そうな見た目であろうか!拙僧の物とは大違いでありますなァ!」

 

 

「ええ。貴方の力には、私も驚いています。あれだけの量の成れ果てを取り込んだなら、私ただ一人にかかる祝福なんて霞んで見えるほどの『祝福』を得られるのでしょう」

 

「ですが、私はこちらの方が気に入っていまして。何せ私の愛する子供たちが、私に授けてくれた『祝福』なのですから―――おや、」

 

 

 

 

五つ装備していたカートリッジの、一番上の物が排出されます。

 

 

 

 

「レシーマが終わってしまいましたか。心優しい傑作の一つでした……将来の夢は、お姫様だったんですよ?可愛いですねぇ」

 

 

ンンッ!!笑止ィッッ!!!今はそのような肉袋のことなぞどうでも良い!唯儂だけを見よ!ここだッ!貴様の斃すべき敵は今、ここにおるのだぞ!!

 

 

「おやおや、貴方のことも見ていますよ。そのように拗ねないでください」

 

 

ンンンンンンン!!!急々如律令!!!

 

 

 

 

互いの持つ全ての技を使いながら、私たちは上へと昇っていきます。

 

 

 

「ッ、いよいよ砦水が崩壊したか!」

 

 

 

煌めく氷と、水飛沫と、紫色の閃光、彼の遺物、私の祝福。

 

 

 

―――そして、私のこれまでの全て(知識)

 

 

 

あらゆるものが、削られて。研ぎ澄まされて。洗練されて。純化されます。

 

 

 

素晴らしい、素晴らしい、素晴らしい。

 

 

 

溢れんばかりの未知が、私の前に広がっています。この深淵(未知)に、最初にあこがれを抱いた時のように。私の躰を焼き尽くさんばかりに、燦爛と輝いています。

 

 

 

ああ、願わくば。

 

 

 

 

この一瞬が、ずっと続きますように―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ああ。これが、『祝福』なのですね」

 

 

 

 

背部に格納されていたカートリッジが、全て排出されます。

 

 

 

 

「ターキリ、トーレイテア…、ノペロ…、ボルデン……。お疲れ様でした…素晴らしい、冒険でしたね」

 

 

「ンンンフフフフフ!そのまま感傷に浸っていなされ。その幸福の絶頂の中で拙僧が殺して差し上げる!」

 

 

 

 

リンボ殿はそのまま上昇を続けます。砦水をものともせず、今や私のはるか上空におられます。

 

 

 

 

「さあ、機は熟しました。名残惜しいですがこれにて終幕といたしましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「機は熟しました。名残惜しいですがこれにて終幕といたしましょう!」

 

 

 

 

拙僧の装備している礼装『黒の聖杯』は、拙僧の知るあらゆる礼装の中で唯一装備者にスリップダメージを与えます。

 

 

これほどまでに体力が減ったならば、よろしい!最早この礼装は必要ない(・・・・)

 

 

サッサと換装してしまいましょう!

 

 

 

 

「礼装換装!『レコードホルダー』!!」

 

 

 

 

ンンン、驚かれましたかな?『なぜ“恋のお呪い”を使わぬのか』と。あちらでも良かったのですが、あれはオーバーチャージ二段階引き上げとNP50%チャージなど、成れ果て共を潰せばどうとでもなる能力しか持っておりませぬのでこちらにしたのです。

 

 

さ、早く宝具の準備を整えなければ…!

 

 

 

 

「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が両手を組み合わせ何かをつぶやき始めると、彼の後ろに巨大な黒い球体が現れました。

 

 

 

 

「―――太陽、ですか?」

 

 

 

 

何故でしょう。なぜ私は、あの黒い球体を見て太陽を感じたのでしょうか。

 

 

正気の者なら、アレを太陽であるとは言わないでしょう。ですが、これは紛れもなく太陽―――

 

 

あれが、太陽。あれが、夜明け?

 

 

 

 

 

「夜明け、夜明けですか。あれこそ、私たちの目指す…」

 

 

ああ―――

 

 

 

 

 

 

『「欲しい」』

 

 

 

 

 

 

 

 「なんだ」         「なんだ」      「黒い」

 

      「丸い」   「あれが見たい」      「触りたい」   「触りたい」

 「不思議だ」         「どうなっている?」

 

   「構造が知りたい」            「不思議だ」

「あれが知りたい」

               「あれが欲しい

  「欲しい」 「欲しい」         「欲しい」

 

 

『『『『『『―――欲しい』』』』』』

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『明星へ上る(ギャングウェイ)』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深淵の闇を切り裂いて、七条の光矢が駆ける。

 

 

未だ知り得ぬ『未知』を目指して、新たなる『あこがれ』を目指して。

 

 

太陽に近づき過ぎた者は、その身を焼かれる運命にあると聞きますが、

 

 

どうやら私は、その者の様にはならなかったようですね。

 

 

放たれた七本のうち、六本は彼の遺物によって妨げられました。

 

 

ですが、最後の一つは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ンンンンンンン???!!!七つもですか!?これは想定外でした!」

 

 

 

 

せいぜいが二、三本程度だと考えておりましたが…ッ!くぅッ、何をしておるのです!早く準備を済ませよ!

 

 

まだその時ではないのだ(・・・・・・・・・・・)!今はまだ手が離せぬ。これが成ったならいくらでも貫かれてご覧に入れよう!ですから、ですから…ッ!

 

 

 

 

「不倶ッ、金剛ッ、蛇蝎ッ、戴天ッ、頂経ッ、王顕ッッ!」

 

 

 

 

疾く、完成せよッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たれ、暗黒の帳」

 

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が黎明卿と一緒にカートリッジを作っていたころ・・・36

(律の時代をもたらし、星の世紀を始め、狂い火に焼かれ、死に生きる者たちの王になってきたので)初投稿です。


「来たれ、暗黒の帳」

 

 

「太陽は此処に生まれ変わる」

 

 

「疑似神格並列接続。暗黒太陽、臨界!」

 

 

 

「さあ見るがいい!之こそが貴様を灼き尽くす、暗黒の太陽なるぞ!」

 

 

 

 

『狂瀾怒濤、悪霊左府』

 

 

 

 

やった!最早この術式は我が手中に無い!なれば拙僧に対する妨害も意味を成さないのです!

 

 

ンンふふふふ、拙僧の勝利です。残念でしたァ―――

 

 

 

 

 

 

残っていた他の祈手達の明星へ登るは全て妨害され、彼に届きませんでした。ですが唯一、私のものだけが彼に届き

 

 

 

彼の体を2つに裂きました。

 

 

 

彼が苦しみ、悶えながら落ちていきます。

 

 

ですが日は昇ったまま。むしろ先程よりも大きくなっています。

 

 

もはや打つ手はありませんでした。黒い太陽は煌めき、その外周をぐるりと囲む目は、全て限界まで見開かれ私を見つめています。

 

 

そこから暗黒の波動が放出されて私に迫ってくるのを見たとき、太陽の前に黒い人影があるのを見た気がしました。

 

 

 

波は私を覆い、そして私を追い越しました。通り過ぎた後少し遅れて激痛が走ります。生理的反応から思わず私は蹲ります。

 

 

彼の体が堕ちてゆきます。私の体の激痛は、ますますひどくなっていきます。まるで…そう、まるで。

 

 

 

私が私で無くなっていくような…?

 

 

 

この痛みの意味を理解した瞬間、私の体が変形を始めます。祝福を授かった時とはまた違う。これは、なにか、もっとおぞましいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

 

 

 

 

 

 

 

 

「ン"ン"ッ。ふフフ、我ながら何と恐ろしい呪術であろうか…」

 

 

 

 

拙僧の誇る最強宝具(他にサーヴァントがおりませんので、逆説的に拙僧が最強なのです)。『狂瀾怒濤、悪霊左府』は、ざっくりと言ってしまえば『対象となった生物を成れ果てさせて、そのモノ達で蠱毒(呪術の一種)を行わせる』もの。

 

 

この対象はズバリ、都全体。都市の総ては我が悪霊左府の内側なれば!あらゆる民草、権力者を都諸共殺し尽くすのです。

 

 

ああ、もっと多く話していたいのですが…そろそろ拙僧地面に激突してしまいそうで。受け身を取らねばなりませぬゆえ、このあたりと致しましょう。

 

 

 

 

 

 

「あ"あ"ぁ、がッ、グうぅぅ…リ、リンボドの。素晴ラしい……このよウナ技を持っていタ”ト”ハ”」

 

 

「ふ、フフフ…ええ、貴方もです。まさかあれほどの光線を、同時に撃てたとは。して、やられました……」

 

 

 

 

何とかボンドルド殿の近くに落ちられました。ですが、拙僧も激痛を堪えるのに必死で…

 

 

あとは、このまま緩やかに死んでゆくのみです。

 

 

 

 

「アア”ア”、スバラしい、素晴らシイ、素バララッアアアアア!!???」

 

 

 

 

 

 

 

もう、考えることも億劫になってきました。他の祈手たちも私と同じ状況なのでしょう。『精神隷属器(ゾアホリック)』で入れ替わることもできません。

 

 

層を跨いで同期することはできない。地上の祈手との定期連絡も絶えて久しい。

 

 

詰み、ですか。

 

 

ああ、私がここで終わってしまうなら…せめて彼と相討ちにならなければ良かったのに。

 

 

彼の太陽がこの深淵をどこまで照らしてゆくのか、あの暗黒の太陽は、一体どこまで沈んでいくのか。

 

 

知りタカった。

 

 

 

 

「ンン…まだ、意識を。保っておられるならば…どうか、お聞きくだされ」

 

 

 

 

…何でしょョウカ?

 

 

 

 

「この戦いが終わった後、拙僧達と、共に…」

 

 

冒険を、しませぬか?

 

 

(…ああ。私の何もかもが、ここで終わるならば)

 

(それもまた、よいのかもしれませんね)

 

 

 

 

ワタしももう、意識が…。オソラク彼も、そロソロ限カ、い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黑き力、限りなく…ッ!!!」

 

 

 

『第二スキル:黒き命、発動』

 

 

 

 

 

 

 

(―――ああ、なんと素晴らしい)

 

 

 

 

ここが、私の意識の限界でした。

 

 

 

 

 

 




(猟犬の剣技が使いにくすぎるんで)失踪します。


猟犬のステップに慣れると使いづらく感じる…感じませんか?


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が黎明卿と一緒にカートリッジを作っていたころ・・・37

(周回に時間を取られて台本みたいになってしまったので)初投稿です。

コイツはヒデェ出来だ…けれど、けれどね?山賊の湾刀が落ちないんじゃ…

どこいったの…このままじゃ成れ果てちゃーう。


「おーい!リコー、レグー、ミーティー!ちょっとこっち来てくれー!」

 

「…っえ、ああ。どうしたんだ?」

 

「んなぁー!いいから早く来いよ!」

 

「何があったんだろうね?」

 

「さあ…」

 

 

「ほら、見ろよこれ。なんかスゲェ事になってるぜ?」

 

 

「―――はっ。ぷ、プルシュカが地面に刺さってる…早く抜くぞ!」

 

 

 

 

「ぷはぁ!あー、酷い目に遭ったわ!お部屋で寝てたら急に雪の中に刺さってるし、服もいつの間にか着替えてるし…どーいうことなのよ?」

 

 

「いや、僕たちに聞かれても…」

 

 

「まぁそうよねー…アンタたちにこんなことできる訳ないだろうし」

 

 

 

 

((((たぶんドーマンのせいだな))))

 

 

 

 

「ふぅ。雪から抜けれたし、アタシもそろそろ帰る…って!?イ、前線基地が!!」

 

 

「あっ、そうだった。多分それもうちのドーマンが…」

 

 

「ドーマン…あのでっかいの!?もー!なんってことしてくれてんのよー!アタシのお家メチャクチャじゃないの!」

 

 

「本当にすまない…!どうにかして埋め合わせするから!」

 

 

「…はぁ、いいわよ。どうせ何言ってもしょうがないんだし。それよりパパ、大丈夫かなぁ…」

 

 

 

 

 

 

『フォロロロロロロロロ…』

 

 

 

 

ンンンン!拙僧、完全復活ッ!!

 

 

いやあ、何分拙僧強すぎるがゆえ。今までろくに死んだことなどありませぬからなァ!

 

 

ちょうどいい機会と思い第二スキルの使用感を確かめるついでに死んでみましたが…

 

 

厳密にはこれ死んでないですな。死ぬ直前に健常なる肉体に置換されておるだけでありまする。

 

 

…ということは、拙僧のこのスキルはヘラクレスの『十二の試練』のようなものでしょうか。

 

 

例えば拙僧が超極太巨大レーザー砲にてこの身を焼かれ続けた場合、第二スキルのガッツを一度に全て消費してしまう、とか?

 

 

…ンンン、この件はまた後で考えましょう。今はそれよりも大事なことがあるのです。

 

 

 

 

『ギャン?!』

 

 

「ンンンンン、なんとすばしっこい…片足をもいでもその機動力とは。本当に知恵を失っておるのでしょうか?」

 

 

 

 

ここより先に進むために(・・・・・・・・・・・)、拙僧はなんとしてでもあの白笛を手に入れなければならぬのです!

 

 

では、サッサと死んでくださいますかな?

 

 

 

 

「来たれ、チェルノボーグ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、そんなことが…なんかごめんね、ウチの祈手がヘンなことしちゃって…」

 

「…あれ?ってことは、これってパパの仕業…?」

 

 

「―――みんな、誰か来るぞ!」

 

 

『『『『!!』』』』

 

 

「あれは…黒、ッボンドルドだ!」

 

 

「はあ?!マジでドーマンでも無理だったのかよ!」

 

 

「みんな、散開しろ!来るぞ!」

 

 

 

 

「おやおやおやおや、皆さんここにおられたのですか。さあ、プルシュカ。戻りましょう?皆さんもどうでしょうか。少し散らかってしまいましたが、まだ無事な部屋はあるはずですよ」

 

 

「…」

 

「…」

 

「…なあ、ボンドルド」

 

 

「おや、ナナチ。どうされましたか?」

 

 

「なんかお前、デカくね?」

 

 

「…ああ、そうでした。皆さんにはまだお伝えしていませんでしたね。祈手はすべて私なのです。ですが今は少々不都合がありまして、グェイラの体を使用しているのですよ」

 

 

「…」

 

「…」

 

「…パ、いや、アンタさ。グェイラはもうちょと身長高いんだぞ?アンタ誰よ!なんでパパのヘルメット被ってるの?!」

 

 

「もー…もういいでしょ?ドーマン」

 

 

「―――ンンンフフフフフフ!!これは手厳しい!よくぞ見破りましたなァリコ殿!」

 

 

「あははー…まあそりゃぁ、ほら。隊長ですし?」

 

(胡散臭い雰囲気だったからなんて口が裂けても言えないや…)

 

「って、そうしたら…今ドーマンがここにいるってことは…」

 

 

「ええ、まあ。はい。倒してきましたとも。彼は、黎明卿殿はもはやこの世におりませぬ。ただ残っているのはこの白笛のみなれば!」

 

 

 

 

 




ヤッタ-!一本落ちた!もう一本探して来るので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が黎明卿と一緒にカートリッジを作っていたころ・・・38

(ストックが無いので)初投稿です。


唖然とした様子でプルシュカ殿が仰ります。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って…じゃあ、パパは?アンタがここにいるってことは、パパは何処に…」

 

 

「ンン?何を仰るので?勿論おられますとも。ほうらココに―――」

 

 

「違う……違う違う違う違うッ!!そんな白笛なんかじゃないの!そーいうのはもうイイからさ、はやくパパを出してよ!ねぇ、生きてるんでしょ?だって、だって…」

 

「パパが…負けるはずないもん…」

 

 

 

…ふふっ、娘としては父の勝利を願いたいものである。そう理解はしておりますとも、ええ?ですが…

 

少うしばかり、気に食わないですなァ♡

 

 

 

「…ンンンー?アアなるほど!生きているパパとやらが欲しかったのですか!フフ、フフフフハハハハハ!!残念ながら彼の肉体、その器となる者ども。そのどちらも最早この世におりませぬ!ンンンンー♡ご愁傷サマァ!…んん?」

 

 

 

拙僧がプルシュカ殿を弄っておりましたら、レグ殿が拙僧の肩を掴まれます。

 

ンンン、少し熱中しすぎましたか…

 

 

 

「ドーマン。もう、そこまでにしてやってくれ。僕たちにとってボンドルドは敵かもしれないが、プルシュカにとってはたった一人の親なんだ…それに!」

 

「…よくもそんな風に、『他人の死』で笑うことができるな………はっきり言って度し難いぞ。ドーマン」

 

 

「―――おやおやぁ?これは手厳しい。ですがレグ殿、こうする以外に拙僧らが六層に降りる方法は無いのですよ?」

 

 

「えっ…?そ、それってどういうこと?」

 

 

「そのままの意味でありまする、隊長殿。確実に六層に降りる方法を、我らはココ以外に知り得ぬのです。そうでしょう?…ええ、ええ。言わんとする事は分かりますとも。かの『神秘卿』はここを通らずに絶界行を行ったのだから、やり方さえ分かれば自分たちにもできる筈だ!…そうでしょう?」

 

 

「そ、そうだよ!何も殺さなくたって…」

 

 

「ほォう?それで、そのやり方というのはどの様にして見つけるので?」

 

 

「…あ」

 

 

「ええ、絶界行を行う方法は他にも有るのでしょう。ではそれをどう見つけるのですか?それはどのようなモノなのですか?…ンフフ、ほうら。何もワカラナイ、そうでしょう?」

 

 

「何処に在るのです?どんなモノなのです?…抜け道?遺物?それともはたまた何ぞの深界生物の能力なのですか?そして…それを見つけるのに、どれ程の時間がかかるのか…」

 

「拙僧らは急がねばならない、そうでしょう?ああ、拙僧は地上の事なぞどうでもよいですが、リコ殿やレグ殿には帰りを待つ方々がおられるようで…それなのに、ここで道草を食べてしまって本当に良いのですかァ?」

 

 

「う、うぅ…でも、それでも!」

 

 

「それに、何を勘違いしておられるのかは分かりませんが…ボンドルド殿はまだ生きておられますよ?」

 

 

 

『『『『『…は?』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…アンタ何言ってんの?さっき自分でこの世にいないって言ってたじゃない!」

 

 

「ンン…それは、その…言葉の綾と言いますか…ですが事実、ボンドルド殿はこの笛の中に生きておられまするので…」

 

「…そうですなァ……時に皆様、白笛の素材とは何でありましょう?」

 

 

「そりゃあ人間じゃないの?今までのドーマンの話の流れからしてさ」

 

 

「ンンン!ご明察!ですのでリコ殿のその白笛の中にも、その素材となった者の魂が宿っておられるのですよ」

 

「では、ボンドルド殿の白笛の素材とは何でありましょうか?ああプルシュカ殿。貴女は、何だと思われますか?」

 

 

「そんなの…そんなの知らないわよ……」

 

 

「…ねえドーマン、今のプルシュカはそっとしてあげたほうが…」

 

 

「いえ、これはプルシュカ殿に答えてもらわねばならぬ問題なのです。ボンドルド殿の家族であったならば、きっと分かるでしょうからねェ?」

 

 

「…もしかして、」

 

 

「今駄目だと申し上げたばかりではありませぬか?!暫しお待ちくだされ!」

 

 

「…大体分かるわよ、アンタらのやり取りを見てたら。パパ自身、なんでしょ?」

 

 

「………ンンンンン!!大当たりィ!然り!えェ、そうですとも!このボンドルド殿の白笛は、彼の『一番初め』の肉体より創り出されたものでありますれば!ああ。皆様もご存じの通り、ボンドルド殿は特級遺物『精神隷属機』によってその肉体を増やしておられましたので」

 

「…もうお分かりでしょう。彼が己の一番初めの肉体を贄として笛を作り出したまさにその時、この中には彼の魂が宿ったのです!故にこの笛は生きておるのです。硬く、冷たく、鼓動も無く。ですが確かに生きておるのですよ!」

 

 

「―――そして、拙僧はこの白笛を使用することができまする」

 

 

 

『『『『………』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エェーーーーッッ!!???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンンンンー、何故でしょうねー?ですが先ほど何気なしに擦ってみましたら、なんと音が…」

 

 

「ウソ!?だって白笛って本人じゃなきゃ鳴らせないって…」

 

 

「ですが、ホラ」

 

 

 

拙僧が白笛の“手の甲”の部分を擦り上げると、何とも言えぬ気持ちの悪い音が鳴り響きます。

 

 

 

『『ウ”ェ”ェ”…』』

 

 

「ヒドイ…不協和音…」

 

 

「ど、どーまん?これやっぱおかしいって、絶対使い方違うって…笛ってもっとこう、綺麗な音が鳴るもんじゃないの?」

 

 

「……それを言ってしまえばそもそも、笛を鳴らす際に『擦る』というのも訳が分からぬではありませぬか…」

 

「―――ですが、どうやら機能面に問題はない様子ですよ?」

 

 

 

拙僧がレグ殿を指差すと、レグ殿のヘルメットが白色になっておりまする。

 

というのも、これは所謂覚醒というヤツでありまして…

 

この白笛の真の機能というは、その遺物の“本来の役割”を引き出すということにありまする。

 

拙僧の白笛によって、『奈落の至宝』であるレグ殿はその能力を最大限に引き出すことができるようになるのです!

 

 

 

「す、すごい…確かに力が湧いてくるような…でも、」

 

 

「…ンン?」

 

 

「…さっきの音のせいで気分が悪いから…トントンだと思う…」

 

 

「」

 

 

「あっちゃぁ…レグは不協和音が弱点だったかー…」

 

 

「どうやらそのようだ、すまない…」

 

 

「」

 

 

 

 

……

 

な、あ…

 

なんという…そんな…ええー…

 

 

 




不定期更新になるので失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が黎明卿と一緒にカートリッジを作っていたころ・・・39

(FGOよ、私は帰ってきた!ので)初投稿です。


拙僧は只今、レグ殿の強化アイテムが手に入ったと思ったらそれが役立たずであったという、何とも言えぬやるせなさに打ちひしがれておりまする。

ああー…しばらく動けませぬぞこれは…

 

 

 

「なんと…なんという…」

 

 

「そ、そんなに気を落とさなくてもいいんじゃない…?」

 

 

「ああ…多分。いや、絶対慣れてみせるから!これも船酔いとかと同じヤツだと思うから、だからドーマン、ドーマン?…オーイ!」

 

 

「んなぁ…オマエらさー、なんでこんな面白いコトになってんの?」

 

 

「あ、ナナチ!」

 

 

「実は…」

 

 

 

 

 

 

「ほーん、レグの強化ねー…でそれが大コケしたと!そりゃケッサクだな!まぁそれはそれとして飯にしようぜ?ミーティが腹減ったらしいからよ」

 

 

「ナナチ…君はよくそんなに食べれるな…」

 

 

「なははー言うなよ…それにさ、腹いっぱい飯食っときゃ気が滅入る事も忘れちまうもんだぜ?」

 

 

 

ナナチ殿はそう笑い、うなだれている拙僧の頭にポンと手を置かれます。

くッ、やわらかいですね。そのまま撫でて下され…ンン、フカフカですなぁ…

 

 

 

「ほら、そんなにいじけてないでこっち来いよドーマン。リコが火ぃ起こしてくれたぜ?この前雪に埋めてたハマシラマがまだ残ってるから、アレで寄せ鍋にしようぜー?」

 

 

「…………ええ、そうしましょうか…」

 

 

「タメたな~~~!」

 

 

 

拙僧が立ち上がると、ナナチ殿はそのまま拙僧の手を引いて行きます。

このような幼子に気を使われるほどに拙僧はみっともない姿を晒していたのでしょうか?そう考えると今更になって気恥ずかしくなってしまいます。ふふ、拙僧らしくもない…

ですが不思議と嫌な気持ちはしないのです。不死身になり圧倒的な力も手に入れたというのに。

 

 

(ンンン……ひとまず今後の最重要課題は、向こうで泣きながら鍋を食しておられるプルシュカ殿の懐柔、ですかねェ…)

 

 

なんともメンドクサイ…ンンン!失礼、やりがいのある仕事でありましょうか!いざとなれば洗脳してしまえばよろしいので気楽にやりましょうか。

少なくともミーティ殿を人型に戻した時よりかは難易度が低いのですから。

 

 

「うぅー、グズッ……ぱぱぁ…ぱぱぁ…」

 

 

…ンンン、拙僧泣いておる子供のあやし方なぞ知りませぬぞ?一体どうしたものか…

ですが悲しみながらも、リコ殿の作るハマシラマの鍋を食すだけの元気はあるのですなぁ。ンフフ!元気なのは良いことです!

―――ん?この感覚は…

 

 

 

「うわぁ!?ど、ドーマン!!そいつは…っ!!」

 

 

「…えーっと…あーっ!!監視基地(シーカーキャンプ)で私たちを追いかけてきた黒いお化け!」

 

 

「おやめなされ!こう見えて顕光殿は繊細なる心の持ち主、そのような心無き言葉を掛けられると―――」

 

 

 

『『『掛けられると…?』』』

 

 

 

「二日は寝込まれまする」

 

 

「あ、寝込むんだ…」

 

 

「呪わないんだね!」

 

 

「………顕光殿も元は人間ですから、そこまで常識の無いことはせぬでしょう」

 

 

「タメたなー…」

 

 

 




またまたまたまた失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・40

アニメ二期も始まり、なんかゲームも発売されるみたいなので久しぶりの更新です。


トリアーエズBRT2さん、誤字報告ありがとうございます!


 

 

 

 腹が膨れれば眠くなる。これはどのような世界であれど共通する永久不変の真理でございます。

 

 意識が無ければ記憶など拙僧の思うがまま。皆様方が寝静まっておられる間にプルシュカ殿の記憶をパパっと弄りまして……これでよろしいですな。

 

 

 

「んんぅ……あれ?ドーマン、どうしたの?」

 

 

「―――ああいえ、何でもありませんとも。さあリコ殿、もうひと眠りいたしましょう?拙僧が子守歌でも歌って差し上げましょう…」

 

 

 毛布に包まったリコ殿の頭を撫でてやりますと、それが擽ったかったのでしょう。少しばかり顔をゆがめますが、じきにその不快よりも人肌のもたらす快が上回ったようで、今は拙僧のされるがまま。

 

 このように撫でる技術だけが向上しているのは拙僧の沽券に関わるような気も致しますが…

 

 

 

 そのような何もせぬ時間が続き、二人して揺らめくランタンの灯を眺めていると、不意にリコ殿が口を開かれます。

 

 

 

「……ねぇ。ドーマン」

 

 

「如何なさいましたかな?」

 

 

「いろいろ、ありがとね」

 

 

「…ンん、寝ぼけておられるので?」

 

 

「いや。こういう機会でもなければなかなか言えないからさ…」

 

「オースの街でも、眠れない夜はこうやってランタンを引っ張り出してきてさ。奈落(アビス)の底の事を考えてたんだ」

 

「“奈落の底はどんな景色なんだろう”……なんて考えながら」

 

 

「…」

 

 

「それでね?レグやドーマン、ナナチやプルシュカと一緒に探検してきてさ。その時のことを思い出しちゃったの」

 

「“わたし、まだあの頃のままだ”って」

 

 

「……」

 

 

「あのオースの街で奈落を夢見る子供だった頃から何も変わってない、いっつも私が隊長だ、って威張ってるだけの―――」

 

 

「それは違いますとも。リコ殿」

 

 

「…」

 

 

「リコ殿。ここ奈落ではいかなる存在にも『価値』が存在するのです。食材をよく見つけられるだとか、原生生物と戦うことができるだとか…」

 

「ですがそのような『価値』あるモノたちも、磨かれなければ光らぬのです」

 

「それらを磨きあげて十全に力を発揮させる。光無きものすら輝かせる、価値あるものに意味すら持たせる……それは貴方様にしかできぬことなのですよ。我らが隊長殿?」

 

 

「……そっか。わたし、隊長やれてるんだ…」

 

 

「ええ。それはもう完璧に………さあ、もうひと眠りなさいませ。じきに出立ですから」

 

 

「うん…」

 

 

 

 冒険と冒険の間。何の意味も無い空白の、その一幕。

 

 ただゆらゆらと揺れ動く火のみが我々を照らすだけ。

 

 

 

(……暗黒の太陽、ですか。斯様なモノでも、案外照らせるものですなぁ)

 

 

 

 寝息を立て始めたリコ殿を起こさぬよう、音を立てぬようにと浮きながら洞穴の外へと出ます。

 

 轟々と吹雪く雪嵐の中を一人で進みます。

 

 眼前にある半ば崩壊しかかっている前線基地を目指して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな!準備はいい!?忘れ物は無い、よね!?」

 

 

「待ちなされリコ殿。厠…トイレは大丈夫ですか?あの球の中にあろうはずもございませんから、ここで出しきっておいた方が宜しいのでは?」

 

 

「うっ…よく分かったね…」

 

 

「ドーマン…お前そりゃねぇぜ…」

 

 

 

 皆様からの刺すような視線を受けながらも、拙僧はなんとかあの祭壇の中での一幕を阻止したのでありました。

 

 拙僧は殿を務め一番最後に水の如き膜の内へと入りますと、皆一様に明るい雰囲気でありまする。

 

 

 両の手を損なうことなく動かせるリコ殿、レグ殿。

 

 

 黎明卿の支配から完全に脱したナナチ殿とミーティ殿、そしてプルシュカ殿。

 

 

 “原作”などという物は既に形骸化しておりました。ここにあるのはただ美しき、夢と希望のみ(・・)に満ち溢れた物語。

 

 

 

 首にぶら下げていた白笛を擦り、そして術を一つ発動させます。

 

 ガコンッ、という音が鳴り祭壇が起動しました。水面が徐々に渦巻いて割れてゆき、空いた隙間に潜り込むようにして沈み始めます。

 

 そして球が完全に水の中に沈んだ時、天を裂くような轟音が響き渡り、水面がざわざわと揺れ動きました。

 

 

 

「な!?おいドーマン!オメェまた何かやったのか!?」

 

 

「ンンン!?そんな失敬な!何でもかんでも拙僧のせいにするのはやめていただきたく!」

 

 

「そ、そうかよ…すまねぇな」

 

 

 まあ今の爆発は拙僧が起こしたものなんですが。

 

 

「やっぱそうなんじゃねーかよ!?」

 

 

「おっと、口に出ておりましたか?どうかお気になさらず♡」

 

 

「次に絶界行(ラストダイブ)に来る探掘家たちのことも考えてよね…」

 

 

「ンフフ!ですがこの遺物は無事ですので?何も問題はありませぬとも!」

 

 

 

 なにやらまた拙僧の株が一つ下がった気も致しますが……さして気に留めることではないでしょう。

 

 懐に忍ばせておいた“行動食4号”を齧りながらこの『なきがらの海』を眺めるのでした。

 

 多種多様な生物の死骸が重なり山を為すこのなきがらの海。骨の山脈に少しずつ前線基地の“なきがら”が積もっていきます。

 

 ……あれ、痛い。何故だか皆様の視線が痛いですぞ。

 

 

 




番外編もやりたいし本編も進めたい……

 やりたい事はあるけどそこに至るまでの過程も書かなきゃいけないってのがS・DOMANの辛いところなのです。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・41

 

 

 

 度々現れる原生生物どもが悠然と泳いでいる姿を眺めつつ、会話に花を咲かせておりますと、時間が過ぎるのはあっという間なものでございます。沈降を初めてから半刻も経てばもう底が見えて参りました。

 

 ああ。白骨化した亡骸の層を抜けると……いよいよ見えてまいりましたね!

 

 

 

 

深界六層、『還らずの都』が!!

 

 

 

 

 

 

 球から出ると、岩石と建造物とが混ざりあった珍妙不可思議なる光景が目に入りました。

 これこそが古代の黄金都市……嘗て『ガンジャ』なる探検隊が目指した理想郷でありますか!…ンンン。しかしまぁ黄金などどこにも見当たりはしませんが。

 

 黄金よりも価値のある代物がこの地にあるとはいえ、やはり黄金の美しき煌めきには心が惹かれてしまうものでしょう。嘗ての王侯貴族が唯の一つも例外無くそうであったように!

 

 周囲に式神を撒きつつ安全確認をしておりますと、リコ殿が我先にと駆け出し、この珍妙なる景色を眺められます。どうやらお気に召されたようで……先程からぽかん、と口を開けたままでございまする。

 

 

 

「ほあぁ~…すごい!すごいよみんな!ここが深界六層なんだあ゛あぁぁぁ!?

 

 

「おっと……リコ、あまり一人で行動するのは良くないぞ。足元には気をつけてくれよ…?」

 

 

「うぅー。分かってるよー…ぐすん」

 

 

 

 ンフフ!愉快愉快!面白いものですねぇ…

 彼女らの絡みをいつまでも見ていたいものですが、式神が何やら生命反応を探知したようですので、そろそろ出立しましょうか。

 

 

 

「さあさあ皆様方!いつ何時原生生物どもが襲ってくるか分かりませぬゆえ、そろそろ出発いたしましょう!」

 

 

「うん!それじゃあリコさん隊、しゅっぱぁ〜つ!」

 

 

 おー……などと、恥ずかしくて拙僧は言えませぬが…

 

 

 

 

 

 

 深界六層といえども未だ陽光は差しており、辺りは寧ろ蒸し暑いほどでございます。ですが子供の睡眠欲求というのは恐ろしいものですなァ、快適とは程遠いような気温の中で汗一つかかずに眠れるのですから!

 

 ……まぁ、今彼らが眠れておるのは拙僧のおかげ。式神で辺りの気温を下げているだけなのですが。

 そのような術も行使しつつ寝ずの番を勤めておりますと、何やら警戒網に反応が一つ。ナナチ殿やミーティ殿に程近い気配の生物がこちらに向かっているようでした。

 

 これはこれは!この反応はおそらく成れ果ての姫のモノでしょう。でしたら彼の御方が容易に近づけるよう式神を少し除けておきましょうか。

 ―――アァそうそう!拙僧も一応寝たフリをしておくといたしましょう!

 一人でも起きていれば、姫君が近づき難いと思われるかも知れませんからねぇ?

 

 ンンン。では皆様、おやすみなさいませ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の分の食料を集め終わったからひなたぼっこでもしよう。そう思ってガブールンの上に作ったお気に入りの場所に陣取り目を閉じていると、いろんなカタチの住処がある場所を横切った時に不思議な感覚を覚えた。

 

 

 

「…?おいガブールン。これなんそすか?」

 

 

『―――我の感覚器にも反応がある。獣が嫌がる音だ。それに微小ではあるが力場も発している……調べにいくか?』

 

 

「サンシィカ……とてもキモチわるいけど、『石の者』が嘆いているのがきこえるそす…そこまで連れてくそす」

 

 

『承知した』

 

 

 

 

 

 

 キモチのわるいニオイにキモチのわるい空気。力場の動き方があまりにゆがんで…ずっと頭が痛い。

 

 

 

『ファプタよ。ここであろうか』

 

 

「ん…ここからは自分でいけるそす……そこにいれ」

 

 

『承知した』

 

 

 

 ニオイがいちばん強い所に来た。正直立っているだけでもつらいけれど、ここまで来たのに何もせず放っておくのはもっとイヤだ。

 岩に空いた四角い穴から中を覗くと、なにやら太いヒモみたいなものが辺りに張り巡らされていた。

 

 これを見間違えることは無い。これは、これは……レグの…

 

 

「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛……ソ゛ソ゛ン゛ン゛ン゛ン゛…」

 

 

 …

 

 

「ソ゛ソ゛ッ゛…ソ゛ソ゛ソ゛ソ゛ソ゛ソ゛ソ゛ソ゛」

 

 

 …せっかくレグに会えたというのになんそすかコレ、鼻からヘンなもの出してるそす。

 というかうるさい。ファプタが近づいたあたりからこのへんなのが出す音がデカくなったそす。

 レグの“守り”に触れぬよう慎重に近づき肩をゆすってみる。ゆっさゆっさと音を立てて髪の毛が揺れるけれど、コイツは一向に話しだそうとせんそす。ほっぺたをぐいーんとしても固い腹に爪を立てても何も言わなそす。

 

 

 

「…おいオマエ。オイ」

 

 

「………ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛…」

 

 

「千切そすぞ?」

 

 

「―――そ、それはどうか止めていただきたく…」

 

 

「なんだ。やはり起きていたそすか」

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・42

 

 

 

原作通りに髪の毛を奪われて、それで以て獣避けを作っていただき接点を得ようとしたのですが。あぁ、姫君のなんと聡いことか!ここに拙僧の完璧なる“寝たフリ”は見破られてしまったのです……でしたらこの鼻提灯はもはや必要でないでしょうから?ぱん、と弾けさせておきますね。

…ところで拙僧疑問なのですが、いったい何を千切られる予定だったのでしょうか?

 

ンン、いけませんいけません。このような幼子相手に脅かされるなどと……脳裏に浮かんだ嫌な予想に慄いておりますと姫君に話しかけられました。

 

 

 

「それで、お前はレグの何そすか?どうしてレグがファプタと同じ姿の者を連れてる…しかも二人。ファプタだけじゃダメなんそすか…?」

 

 

「ソ、ソソ。彼女らは拙僧らの隊の一員でありますれば。貴方様の考えておられる様なことは一切!えぇ、一切起こっておりませんとも」

 

 

「そすか…」

 

 

ソソソソソ。拙僧はなぜ痴情のもつれに首を突っ込んでおるのです?

正直勘弁していただきたいのですが。自分のことであればともかく、他人の色恋なぞ至極どうでも良いことでありましょうに…

 

 

「…さて。それでファプタ殿はいったい何をしにこちらへ?」

 

 

「あ、そうそす。その『石の者』が何やら嘆いておったそす。お前そいつに何したそすか?」

 

 

「ボンドルド殿が?ふゥむ……。心当たりはありませぬなぁ」

 

 

「そうか……ファプタはそれだけそす。今までごくろうであったそすな」

 

 

「―――何をするおつもりで?」

 

 

「ん?決まってるそす。レグを連れて帰るが?」

 

 

―――なッ、急に何を言い出すのですこの雌狐は!?斯様な展開は原作には無かったハズ…全く予測しておりませんでしたぞ。

ファプタ殿は罠を展開したままのレグ殿を無理やり引き剥がし、慌てて暴れ出すレグ殿をものともせず、侵入してきた窓より逃走されました。

 

ですが拙僧も運が良い!いくら予想外の出来事が起ころうともその汎用性の高さからいくらでもリカバリーが利くのは、陰陽術の長所の一つなのですよ。

さ、大人しくお縄についてもらいましょうかねぇ。

 

 

 

 

 

 

勢いよく元の位置に戻ろうとするレグの腕のシュルシュルという音を聞きながらガブールンの所へと急いでいた。

 

 

 

「うぅっ、うおゎぁッ!?ちょっ、君はいったい何なんだ?!」

 

 

「っ…やっぱり覚えてないそすか…いったい何をされた?」

 

 

「な゛っ゛。なにもされて゛ぇ゛ッ゛?!ーーーっ!イタタタタ…」

 

 

 

レグがところどころ岩にぶつかっている様だけれども、勢いを止めることはできなそす。後ろからすごい速度で追手が来てるから。

 

微小な、けれどもキモチワルイ力場を放ちながらファプタを追いかけてくるあの薄いモノ(ヒトガタ)。あれとはこれだけ離れているのに、一向に頭痛が収まらないそす。

…でも、どーにかすることはできるそす。キモチワルイ方に行かなければ撒ききれる!

 

あそこの岩を曲がればガブールンのいる場所に着く。希望の光が見えたファプタは、レグを掴む手にいっそう力を込めて走りだし―――

 

 

「ンん♡おかえりなさいませ♡」

 

 

角を曲がった先に、さっきのでっかいヤツを見た。

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・43

 

 

 

シャ゛ーーーッ゛ッ゛!!なんそすかこれ!なんそすかこれ!?」

 

 

「ソソソ……なんせすぐに逃げようとされるのですから、こうでもしなければ拘束することなど適いませぬ」

 

 

「いくらなんでもこんなネバネバにすることは無いと思うぞ…」

 

 

 

 現在姫君とその従者は、拙僧の操りし式神によって拘束されておりまする!

 前世におけるゴキブリホイホイやらトリモチなんぞを参考にして作らせていただきましたこれらの式神は、姫君をその従者を拘束するための特別仕様!少量の水気があれば、それに反応して大量の黒い粘液を発生させるのです!

 ……しかし。この状態の姫君を観察しておりますと、何やら不思議な感覚がこう、ムクムクと……白い体毛に黒い粘液。これはこれは………もしやこの感情こそが“いとえもし”というヤツなのでしょうか?

 

 

 

「あぁ!口に入れちゃダメだ!ほらペッて!」

 

 

フーッ、フーッ…

 

 

あぁーーッ!?ドーマン!キミからも何か言ってくれよ!」

 

 

「拙僧、決してレグ殿のみを責め立てる訳ではございませぬが……この件に関してはレグ殿にも責がありますかと」

 

 

「う゛っ゛……ボクの知らないボクがいったい何をしたというのだ…」

 

 

 項垂れるレグ殿を、リコ殿を始めとした隊の女性陣が慰めておられます。拙僧レグ殿の斯様な所が此度の騒動の原因だと思うのですよ。これはいつか再びやらかすのでしょうなァ…

 

 

 

 

 

 

 これだけ呪いを施してもなお暴れる姫君とその従者を何とか宥め、その口から無理やりその出生について語らせた後(口を割らせる方法なぞいくらでもあるのですよ♡)。拙僧らは従者殿の後に案内していただき、村……“イルぶる”へと歩を進めておりました。不貞腐れて従者殿の上にて丸くなっておられる姫君とそれを護る従者殿!ンンン、何と甘露なる光景でありましょうか!

 ここにナナチ殿とミーティ殿を加えるといったいどうなるのでしょう……ああ、いえいえ。別に実行はしませぬとも!

 

 拙僧に加え従者殿もおられるのです。危険なことなど起きるはずも無く、拙僧らは無事に(イルぶる)へとたどり着くことができました。

 ………く、臭い。何です?この臭い。この異臭は村が発するものなのでしょうか……横目に皆様方を見ても、特に顔をしかめるようなそぶりなど見せられませぬから、拙僧が気にし過ぎなだけでしょうかねェ…

 

 …ァア!よくよく思い返してみれば、拙僧は前世においても犬猫の類の発するあの……そう。動物園のカオリというものが大変苦手でありまして。それ故に少しばかり受け入れ難いと感じてしまったのでしょうな。

 

 ええ、えぇ。なぜそのような臭いが“村”と呼ばれる場所から発せられているのか疑問に思われた方もおられることでしょう!実はこの村、生きているのです。そのおかげで村の住民を喰らおうと侵入を試みる原生生物どもを撃退できておるのですがね?

 さぁ。説明なぞこの程度で十分でしょう?拙僧は疾く村の中へと入りたいのですよ。

 

 

 

 

 

 

「………やっと行ったそすか…」

 

 

 あのデッカいヤツがレグたちと一緒に村へと入っていくのを、ファプタは見つめることしかできないそす。ファプタも母に入れたらついて行くのに…っ!

 でも、あの“守り”さえ破ってしまえば中に入れる。レグが中から壁を壊してくれれば…

 

 

グギュウウウゥゥ……あの不可解なる者は我が記憶領域にもあらざれり。どうやら干渉機でもない存在。価値はあれど、欲しいとは思わぬ

 

 

「ハッハァ!何を仰るのです?すでに持っておられるというのに!」

 

 

 ファプタが悪態をついたのを聞いて、ガブールンが話しかけてきた。

 ……いやいやいやいや。なんかおかしいそす。ここにいてはならぬ者の声がしたそす。

 ガブールンの後ろを見てみると、にっこりといい笑顔を浮かべたデカ男がいた。思わずビックリして距離を取り威嚇する。

 

 

「オ、オマエどうやって?!レグたちとともに母の中へ入っていったというのに!」

 

 

「まぁまぁ落ち着きなされ。そのようなつまらぬ事などどうでもよいではありませぬか!」

 

「そう。大事なのは拙僧がなぜ(・・)此処にいるのか…そうでしょう?」

 

 

 

 ―――少々お付き合いしていただければと。

 

 そう言ってデカ男はニンマリと笑った。

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・44

ここまで書いておいてアレですが、正直リコ&レグ&ドーマンの三人組で進めた方が楽だったかもしれないですな
結局特定の喋らせやすいキャラクターしか喋らないのです…

S・DOMANはPC勢ですのでまだ闇を目指した連星をプレイできてないです。


 

 

 

 六層突入の際に使用したあの球状の遺物に似た〈守り〉を越え、拙僧らは(イルぶる)へと進入しました。周りが畜生―――ンン、失礼。成れ果てどもで溢れていますので、外で嗅いだよりも更に濃い獣臭さが辺りに充満しております。

 ですが、そこから生じる不快感を覆い尽くすほどの好奇が拙僧を満たしましたので、蒙昧愚劣なる此奴等を一切鏖殺するのは最後にしようと、もう一度気を引き締めることができました。

 

 ハッハァ!しかしまぁ、この村は何と摩訶不思議な地なのでしょうねェ!いやはや、生物の内部ですと上昇負荷が掛からぬとは…こればかりは拙僧も盲点でしたよ。

 

 さて、村に入った拙僧らは熱烈なる歓待を受けることとなりました。なんとこの村の村長殿に出迎えられたのです!

 

 

「やぁやぁ、よく来たねぇキミたち!“(イルぶる)”へようこそ。歓迎するよ~」

 

 

「ンンン!これはこれは。本来であればこちらから菓子折りの一つでも持参して訪ねるべき所を、まさかそちらから迎えてくださるとは!どうか、この身の非礼をお許しくだされ」

 

 

「ど、ドーマン?この人たちは悪い人じゃ無さそうだけど…」

 

 

「おぉっと自己紹介がまだだったね。僕はワズキャン。この村で〈三賢〉とかやらせてもらってるよ。んでこっちのニョロニョロしてるのがベラフ、こっちも〈三賢〉さ」

 

 

「やぁ」

 

 

「三賢……そ、村長さんでしたか!?わたしリコって言います!そうと知らず色々言ってすみませんでしたーっ!」

 

 

「あははは!全然イイ!…さ、君らここ初めてでしょ?僕たちが案内してあげるからついてきなよ」

 

 

「えぇ!?そんな、大丈夫ですよ。わざわざ村長さんに案内してもらうなんて恐れ多いこと…」

 

 

「いいのいいの。三賢だなんてカッコつけてるけどやっぱヒマだからさ?ほら。僕らを助けると思ってさ!」

 

 

「……な、ならお願いしてもいいですか?」

 

 

「もちろん!」

 

 

 

 ………さて、先程から黙って見ておりましたが…斯様な展開は原作に無かったと思うのです。拙僧の記憶が変質しておらぬのであれば〈三賢〉の面々が出てくるのはもっと後のハズ。村に入った途端に出迎えられるなどという場面はとんと見たことがありませぬ。

 

 いよいよ原作知識が使い物にならなくなってきましたなァ。とは言っても拙僧の有する記録は(イルぶる)崩壊まで、どうせもうすぐ使い物にならなくなる知識でございます。リコ殿が村を出た後どのような冒険を行われるのかは拙僧の知るところではありませぬゆえ。

 

 巨大なミノムシとヘビに案内されながら村を巡って行きます。薄暗い路地裏などを何本か通った先には、原作にてオオガスミなる巨大なナメクジの如き生物が暴れていた広場がありました。これには皆様方も驚かれたのか、わぁっ、と感嘆の声を零しておられます。

 記憶のなかにあるものと比べ幾分装飾が増えておるような気もいたしますが……この差異は何なのでしょうねェ?

 

 巨大生物の腹の中だというのに噴水がありますし、中々に凝った造形の彫刻も置かれています。

 道の色はそのままですが、かのローマ街道を思わせるような石畳の紋様が刻まれており、しっかりと“道”として認識できるほどになっておりました。

 道沿いには等間隔に街灯が建てられていますのできっと夜でも明るいのでしょう…

 

 ―――ンンンンン!?なんですかコレは!明らかにオースの町と同等程度の設備が整っておりますぞ?!こ奴らは数百年前の探“検”隊の成れの果て。そんな者たちがいったい何処でこれほどまでに進んだ技術を獲得したというのです!?

 

 

「ン~、どうだい?この村は面白いかな?」

 

 

「っはい!いろんなカタチの建物とかさっきの市場にあった、大昔の探掘家の装備とか!……あ、でも住民の方々があまり見当たらないのがアレですけど…」

 

 

「あー…まぁ村に来る人間なんて久しぶりだからね~。皆腹の中では気になってても手は出せないのさ」

 

「さ~て。だいぶいろいろ案内したけど…そうだ!折角だしウチに泊まってかないかい?」

 

 

「―――えぇ!?い、いやそんな…っ!」

 

 

「そうは言ってもさぁリコちゃん、君ここのお金持ってないでしょ(・・・・・・・・・・・・・・)?それならウチに泊まっていった方がいいんじゃな〜い?」

 

 

「いえいえ、それには及びませぬともワズキャン殿!実は拙僧、先ほどこの村の通貨とやらを幾らか手に入れまして。ですので、まあ、はい。拙僧らはそこらの宿屋を適当に見繕いまするゆえ!それでよろしいですかな隊長殿?」

 

 

「ぅええ!?いやでも、せっかく泊めてくれるって言ってるんだし…」

 

 

「 よ ろ し い で す な ? 」

 

 

「………ウン」

 

 

「というわけでありますので!拙僧らはこのあたりで暇を頂きたく…」

 

 

「……なぁんだ、そりゃ残念…分かったよ。それじゃまた明日ねー」

 

 

 




発売までにもう一話上げたいな!(願望)


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・45

闇を目指した連星さん、操作難しすぎないですか…?
なんで左クリックが攻撃じゃないんです?




あの愉快な子どもたちと……いや。あの男の率いる隊と別れた後、僕はベラフと今後の予定について話していた。今は見張り役の住民を三名ほどつけている。それに加え明日からは、ウチの住民の中でも愛嬌のある者を当てる。なんとか彼らを懐柔できれば僕らの“救い”になると思うんだけどねぇ…

 

 

『確かにあの男……我々の滅びとなりそうだ』

 

 

「でしょー?でもさぁ、あのイカした見た目!アレいいよねー!ここに来る前は何かしら演劇でもやってたのかな?」

 

 

『…やはりお前は変わらないな。“神がかりの預言者”は未だ健在ということか』

 

 

「……まあねぇ…」

 

 

そう言って茶を一口啜る。少しぬるくなったそれが僕の喉を潤した。飲水の心配をしなくてもいいってのは幸せな事だよねー…

ベラフも僕に続いて口に含むけど、能面のような顔が面白いように歪んで少し震えている。心無しか表面の鱗の光沢が鈍くなっているような気もするね!

 

 

「あれぇ。苦かったかな」

 

 

『―――ッ!ァ゛ァ゛ッ……口が二つある私のためにわざわざ二杯用意してくれたのはありがたいがこれは流石に…』

 

 

「そっかー」

 

 

慣れるとクセになるんだけどねぇ、この苦さ。

 

 

 

 

 

 

ワズキャン殿らと別れてしばらく。程なくして皆様の腹の虫がぐうぐうと激しく自己主張を始められましたので、宿を探すより先に腹ごしらえをすることとなりました。

原作でリコ殿が食された“睾丸焼き”なる料理……いったいどのような味なのでしょう!今から楽しみですなぁ。

 

 

「女将さ〜ん!なんかこう、甘くて美味しいのください!」

 

 

「ハディまえ…」

 

 

「………あれぇ?おっかしいなー…」

 

 

「リコ殿、どうやらここの住民は独自の言語を持っているようで……ですがご安心召されよ!先程市場にて〈タンゴチョウ〉なる物を購入いたしまして!ここは拙僧にお任せあれ!」

 

 

「いつ買ったんだ!?まったく、行動が恐ろしく早いな…」

 

 

まぁこの単語帳、拙僧がここに来てから作成した物なのですけれど。他人の記憶を覗けば言語の修得など赤子の手をひねるようなものなれば!

……とは言っても、会話の際にはさすがに単語帳を見なければなりませぬがね。

 

 

『御主人!辛くて食欲をそそるような料理はありますかな?』

 

 

『あるにゃああるがね、アンタらお金あるんか?』

 

 

『……物々交換ではダメでしょうか?今ならば少し奮発しまして、ここの清掃代行も付きまするが…』

 

 

『―――あははは!おっもしれーなー!うん、いいぜ。今回はまけといてやるよ。でも早いとこ〈価値〉を取っときな?やっぱ金がなきゃ不便だしよ』

 

 

『ソソソソソ……ご忠告痛み入ります。ではそれを人数分…』

 

 

『アイヨ!』

 

 

 

 

 

 

睾丸焼き……名前のインパクトも然ることながら、味も大変美味しゅうございました。あの刺激的な味わいは地上では久しく味わっておりませなんだ…

地上で辛味といえば辛子饅頭などがありますが、あれも拙僧の舌を満足させるには力不足。只々管に辛いだけというのは芸がない。

 

……そういえば、ここに来てから暫くたった頃に食した麻婆豆腐。あれは実に美味でしたなァ…

ああいえ、実際には麻婆豆腐とは似て非なるものでありまして、言うなればそう。“豆腐を抜いた代わりに野菜を多く入れた麻婆”の様なモノ。

 

あの店主殿、今頃元気にしておられるのでしょうかねぇ?巻き込まれて死んで無ければ良いのですが。まぁきっと大丈夫でしょう。滅多なことでは死なぬであろう顔をしておられましたから!ハハハハハ!

 

 

「ドーマン?頼んだのと違うやつが出てきたんだけど…」

 

 

「ンン〜?はて、何のことやら!」

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・46

なんと!このような遅い時間まで起きておられるとは……早く寝なされ♡


「お加減はいかがです?ボンドルド殿」

 

 

「ええ、問題ありません。快適ですよ……しかし驚きました。貴方の行使するその“魔法”とでも言うべき力は、この空間すら変質させてしまうのですね」

 

 

「ンンン!人の精神なぞ飴細工の様なモノ!然れば卿の精神空間を温泉郷に作り変える事など、児戯に等しきことなれば!あ、こちら差し入れの行動食4号ですぞ」

 

 

おやおやこれはこれは!ありがとうございます。ん?…………おやおや。これは素晴らしい光景ですね。ドーマン殿、貴方もそろそろ目覚めた方が良いのではありませんか?」

 

 

「ンん?―――…確かにそのようですなァ。それでは拙僧はこの辺りでお暇させていただきまする、何か用があればまた潜って(・・・)来ますので、それまでどうぞごゆるりと…」

 

 

 

 

 

 

食事を終え清掃も済ませて、対価となりしものを全て払い終えたあと、拙僧らは宿に泊まり夜を明かしておりました。

ンン?どうやって貨幣を手に入れたのか、ですと?

 

それはもちろん!ここの住民らとの物々交換でございます。彼奴ら―――いえ、住民たちも好き者なようで、拙僧の有するモノ(式神)に興味津々な様子。

そこで新たに数枚サラサラと書き上げ、欲しがっていた者共に渡してやれば、そこで“価値”による取引が発生したのでしょう。拙僧の手の内には既に幾枚かのコインがあった……という訳です。

 

その一部を使い宿を取り(もちろん食事は注文せずに!)一晩ぐっすりと眠ったのですが……今回は拙僧も仮眠を取らせていただきました。

何やら地上の方でかけていた呪術の一つが無惨にも破壊されてしまったようでして、その影響にございます。ソソソ。悲しいですなァ…

 

 

「んん……ななちぃ〜…」

 

 

「んなぁ〜…」

 

 

……ナナチ殿とミーティ殿は流石に暑いのか、布団は被っておられませぬ。代わりに互いに抱き合って眠られておりますので……ンん、眼福ですな!

 

さァて。体力の回復も済んだことですし(イルぶる)の外に置いておいた式神の調子でも…

 

 

「む、起きたかドーマン」

 

 

「…おお。おはようございます、レグ殿。今日はお早いのですね?」

 

 

「ああ……しかしキミも眠ったりするんだな。いつも見張りをしているイメージがあったんだが安心したよ」

 

 

「んふふ!もちろん拙僧も眠っておりますとも!」

 

 

「本当か…?監視基地(シーカーキャンプ)の頃から一睡もしてないような気がするんだが」

 

 

「―――いえいえ。いえいえいえいえ。それは勘違いというものです。拙僧は皆様の見ておらぬ所でしっかりと睡眠を取っております、そうでしょう?」

疾くこの者を惑はせ給へ。急々如律令

 

「そうか?だが―――…いや、そうだな。すまない」

 

 

「ふふ!分かればよろしいのです。さ、皆様を起こして朝餉といたしましょう?」

 

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

宿にて出される食事は死んでも食わぬと心に決めておりましたので。少しばかり醜態を晒しつつも、なんとか食堂へ行くことができました。

 

普段であれば住民どもでごった返しているであろう食堂も、何やらガランと静まりかえっておりました。その原因はやはり〈三賢〉の内の二人が集結しているからでありましょう。

 

食堂中に広がる言葉にできない緊張感に、皆様方の体も強張っておりまする。

 

 

「……この村の長というのは幼子を精神的に追い詰めるのが趣味なので?」

 

 

「―――ぅええッ!?そりゃああんまりじゃないかい?」

 

 

 








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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・47

ファプタが遠そす。今後の展開が浮かばない…


闇を目指した連星、追加DLCはよ


「ンンンンン!!旨い!ああ旨い!何たる美味か!」

 

 

「でしょ〜?コレ僕のお気に入りなんだよねぇ。こってりしてて美味しいでしょ?」

 

 

「ほう。ちなみに名は何というのです?」

 

 

「ん〜。これは確か……村人の誰かの脳ミソとかじゃなかったっけ?結構レア物なんだよ~?ほら!限定商品ってヤツ?」

 

 

「」

 

 

「ドーマン、顔すごいよ?」

 

 

「頼まなくて良かった…」

 

 

注文したモノがようやっと届きましたので、拙僧らは三賢の皆様やリコさん隊の皆様と共に朝餉を共にしておる所でございます。……拙僧はどこの誰とも知らぬ者の脳髄を喰ろうていますが。ああ!他の皆様はちゃんとした物(・・・・・・・)を食しておられまするぞ?

 

少うしばかり横からつまみ食いをさせていただいておりますが♡

 

 

「も、もうちょっと取ってもいいよ?」

 

 

「いえいえ、いえいえいえいえ。どうかお気遣いなく…」

 

 

「ん~…美味しいと思うんだけどねぇ」

 

 

『……それを好き好んで食べる者はこの村でも少数派である、とだけ言っておこうか』

 

 

「え~」

 

 

 

 

 

 

朝食を食べ終わった後、お腹が苦しくて(すっごく美味しくて急いで食べたからかな?)休憩していると、ワズキャンさんが話しかけてきた。

 

 

「ふぅ。食べた食べた!美味しかったねぇ~!」

 

 

「は、はい!……そういえば、ワズキャンさんはいっつもここでご飯を食べるんですか?」

 

 

「ん?そうだね!他にも食事を価値にしている住民はいるけど、ここの食事は別格なのさ」

 

 

「へー!あ、だったらだったら!ああいう付け合わせみたいなのも毎回出てるんですか?」

 

 

「…ん。いや?あれは僕の持ち込んだヤツだね。どうだい?美味しかったでしょ!」

 

 

「いやぁ……なんかドーマンに全部食べられちゃって……で、でもでも!ワズキャンさんってすごい人なんですね!」

 

 

 

「あの匂い、クオンガタリの幼虫(堪えきれない麻痺毒持ち)を焼いたみたいな感じでしたし!」

 

 

 

「まさかあれを毒抜きできるなんて……あっ!もしかしてワズキャンさんも料理好きなんですか?」

 

 

「―――そうだね!うん。僕もよく料理をするよ!あ、よかったらウチに来るかい?いろいろ御馳走しようか?」

 

 

「あー…っと、いやぁ。気持ちは嬉しいんですけれど、もう宿を取っちゃったから…」

 

 

「へェー!宿が取れたのかい?そりゃ驚いたなぁ。てっきり野宿したのかと思っていたけど……おっと。そういえば僕、これから仕事があるんだった。いやあ忘れてた忘れてた!それじゃあ僕はここでお暇させてもらうよー」

 

 

「あ、はい!お仕事頑張ってください!」

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・48


千人楔周回?!みんな啓蒙高すぎない…?

第二の不動卿が生まれちゃ〜う



 

 

 

「ファプタ殿!もう少しペースを落としてくだされ!ここは些か素晴らしき遺物が多すぎる!どうかもう少しゆとりを持って…」

 

 

「オマエほんッとワガママそすなー…」

 

 

『……汝は如何なる方法であれだけの遺物を収納しているのだ?小山三つ分はあるというのに……それに先程の虚空に開いた暗き穴は何なのだ?あの穴はどこに繋がっている?』

 

 

「ふふ♡ソソソソソソ…」

 

 

 おやおや。これは実に興味深い…

 

 

 …おや、これはこれはご無沙汰しております。皆様とお会いするのはこれで二度目になるのでしょうか。

 

 

 改めまして、私はボンドルド。人々に黎明卿と呼ばれていたのも過去の話、今は白笛そのものとして、そして“ただの”ボンドルドとして。彼を模した〈シキガミ〉という遺物の首にぶら下げられています。

 

 

 そんな私ですが、今は彼の操る〈シキガミ〉にファプタ殿、ガブールン殿と加えた三名(・・)で、深界六層のマッピング(地図埋め)をしています。どうやら、あくまでも主目的は『まだ見ぬ遺物の捜索』らしいのですが。

 

 

 どうやらこのシキガミ、私の〈精神隷属器(ゾアホリック)〉と非常に似通った代物のようで、このシキガミでも“私”が使用できるようなのです。〈精神隷属器(ゾアホリック)〉以外でも白笛が使用できるようになるとは……本当、彼への興味は尽きません。

 

 

 彼―――ドーマン殿は、私を使用して、ここ深界六層に眠る様々な遺物を“覚醒”させ、目ぼしい遺物を選別したいらしいのです。なるほど、確かに素晴らしい案だと思います。

 ですが本来、白笛には再使用までの待機時間が存在していますので、そう何度も鳴らす事はできません…

 

 

 そこでドーマン殿は、“私”の待機時間を無くすため、大量の生命力を“私”に注ぎ込んでおられるのです。“私”もこう見えてしっかりと自我を確立していますので、生命力さえあれば疲労も無くなりますので。

 いささか力技すぎる気もしますが、それでも問題は解決されたのですから、実に素晴らしい発想力ですよね。

 

 

 ………おやおや、これは…?

 どうやら、ドーマン殿の本体のいる場所で何やら騒ぎが起こっているようですね。

 実は、彼と私の〈命の紋〉は何の因果か非常に酷似していますので、何が起こっているのかという程度であればお互い共有することが出来るのです。

 

 

 ……ふむ。どうやら殲滅卿の御息女たちと協力して、“(イルぶる)”に侵入した生物を討伐なされたようです。

 力場らしきモノを利用して巣ごと空を飛び回る原生生物ですか…前回訪問した際には見ることが叶いませんでしたが、実に興味深い生態ですね。グェイラ?貴方にお願いしたい事が…

 

 

 ……おっと、これは失礼。

 

 

「ンンンンンンンンン!!!!?何と!!もしやコレは―――ッ!!」

 

 

「うっさいそす」

 

 

「く゛ォ゛ッ」

 

 

……おやおや。どうやらこちらのドーマン殿も何かを見つけられたようです。

 

どれどれ…―――。ほう?これは―――

 

 

 





ドーマン、キミはいったい何を見つけたんだ…?


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・49

ランキングに載ってた!?ホントに載るんだ…


 

 

 

 朝餉も終わりましたので本日の予定などを皆様方に尋ねますと、それぞれが全く別の行動を取ろうとしていたため、どうしたものかと頭を悩ませておりました。

 

 リコ殿とレグ殿は村全体の探索、ナナチ殿とミーティ殿、プルシュカ殿は商店街巡りをご希望のようですからね。

 ンンン、悩ましい。拙僧はいったい何方の班と行動すれば…

 

 などと迷うておりましたら、皆様は拙僧を置いてサッサと行ってしまわれました。皆さま?酷いですぞ…

 

 このように被害者ヅラを被り嘆いておいて言うのも恥ずかしいことですが、実は拙僧、先程から何度も皆様に『早くしないと置いていくよ〜!?』と告げられていたのですよ。ですので、皆様方が急に拙僧に対する慈悲をお捨てになったとか、そういう事ではありませぬのでご心配なく!

 

 

 ……さて。女将殿も食材の下ごしらえのために店の奥へと行ってしまわれたため、とうとう拙僧は一人ぼっちになってしまいました。

 …ようやっと一人になれたわけです。ええ、では。

 

 分裂しますか。

 

 

 

 

 

 

「あっ、ドーマン!こっちに来たんだね〜」

 

 

「んなぁ…オイラはてっきりリコたちの方に行くもんだとばかり思ってたぜ」

 

 

「いえいえ!もちろん拙僧も大分悩みましたとも!」

 

 

「へ〜!ドーマンもおみやげとかに興味があるのか?」

 

 

「えぇ。まあそんな所です」

 

 

 ふふふ……久しく会話をしておりませんでしたが、そうでしたそうでした。プルシュカ殿は非常に活動的な御方で…

 このような関係の事を水魚の交わりなどというのでしたかな?よくミーティ殿と走り回っている姿などを見かけますが。

 

 

「あららぁ〜…行っちまったよ」

 

 

「ンフフフフ!元気があって良いではありませぬか!“成れ果て”ておられた頃と比べても、ねェ?」

 

 

「……そうだな」

 

 

 二本の足で立ち、元気に走り回っておられるミーティ殿を見て、ナナチ殿も感慨深そうにしておられます。

 

 …?

 

 

「ナナチ殿?ナナチ殿!?」

 

 

「―――んなっ」

 

 

「ああ、良かった。何やら様子がおかしかったものですから、何事かと心配してしまいましたぞ?」

 

 

「…うおぉ。そうだったか、すまねぇなドーマン〜」

 

 

 そう言ってナナチ殿は走り去ってしまわれました。……なんですかあれ。急に目の輝きが消え失せて、さながら一昔前(前世)のヤンデレきゃらの様でしたぞ!?

 

 

「またこれは……ミーティ殿も難儀なことですよ」

 

 

 このまま放っておくのも面白そうですが、十中八九良い方向には転ばぬでしょうし、ここは拙僧が一肌脱いで、今晩にでも感情操作の術を掛けておきましょうかね。

 

 ……あの有様を見るに、焼け石に水な気もいたしますが。

 

 

「……―――おぉッと!これなるは殲滅卿直筆の手記でありますか!?危ない危ない、買いそびれるところでした…」

 

 

 ンンン!リコ殿への土産が一つ増えましたな!

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・50

五十話!!わーい!

まさかここまで続けられるとは…


 

 

 

 走っていってしまわれたお二方に追いつくために少しばかりお姫様抱っこなるものをさせていただきましたが…なんとか無事合流することができ、ほっと胸を撫で下ろしました。

 

 ですが今の数瞬の間に、どうやら住人の畜生共と交流されたようで、交友関係を結んだ者もいるようなのですよ。

 ンン……これは盲点でした。お二人の人柄がこれ程までに明るかったとは!拙僧の目を以ってしても見抜けませなんだ…

 

 プルシュカ殿がこの者に抱きつかれます。

 

 

「ねーねードーマン?この子ね、なんか怪我してるみたい。さっき転んじゃったみたいで……どうにかできないかな?」

 

 

「……まあいいでしょう。拙僧が治してさしあげまする、ホレ」

 

 

 〈急々(急げ)〉と唱えるまでもない、ごくごく普通の治癒の術式です。本来であれば斯様な擦り傷、この程度の術式でも十分治せるのですが。

 

 

「ど、ドーマン!もうちょいお願いできない!?」

 

 

「―――…ああ!なるほど!ええ、ええ、勿論ですとも!」

 

 

 

 治りませんでした(・・・・・・・・)。これがあまりに不可解で、昨日〈オオガスミ〉を処した時には通常通り機能したというのに…と、なにか思い当たる節がないか考えてみたのですが…

 恐らくこの者は“村”との繋がりが強いのでしょうな。それ故、本来ならばこの者のみに掛かる筈の治癒術式が、この“村”そのものにも吸収されてしまった……なるほど。そう考えてみれば確かに、この者の外見は前世(漫画)でも見たことがありまするぞ!

 何でしたっけ?女形で一つ目の…

 

 ……ま、まぁ何はともあれ!治ったのですからもうよろしい!サッサと行きましょう。

 

 

「あっ!ドーマン!この子ついてくるぞ!なぁ、コイツと一緒にまわってもいいだろ?ね〜え〜!」

 

 

『ふあぁぁぁ!?なに!?そんな急に抱きついてくるの…』

 

 

「……ええ!勿論ですとも!」

 

 

「ホントか!?やったぁ!」

 

 

『えぇ…いいの?』

 

 

 別に監視役なぞ、いてもいなくても変わらぬでしょうし。

 

 

 

 

 

 

「もー。ドーマン遅いよー?」

 

 

「急に固まったから心配していたんだが…」

 

 

「いえいえ、お気遣いなく!」

 

 

 

 ンンン、さてさて。あちらの方は式神に任せ、こちらは“村”の探索中。街道をあちらこちらと行ったり来たり。ふらっとそこらの路地裏に入ったかと思えば、また出てきて、ポツンとある出店の中に入っていったりと。

 

 ンん。お二人とも楽しんでおられる様ですので、拙僧としては別に良いのですが…

 

 しかしなんですこの店?そこら中に商品が所狭しと……いえ、散乱しており、これでマトモに商売ができるのかといった有様ですが、リコ殿はホコリまみれのその中をまるで気にせずズンズンと進んで行かれます。

 これには流石のレグ殿も呆気にとられたのか、少しばかり引き気味なご様子で!

 

 

「り、リコー?そっちはあまり良くないんじゃないかー…」

 

 

「え〜?そんなことないナイ!よく見たらちゃんと倒れないように糸で固定されてるからさ!」

 

 

 そうリコ殿がおっしゃると、奥の店主らしき者がうんうんと頷く様に首を振るのです。

 

 ―――痛っ。え?痛いですと!?何ですこれ!

 

 

 拙僧の足の裏に刺さった棘らしきモノを抜き取りて見てみれば、それは何やら白い菱形の画鋲?のような形をしています。その両端からは一本ずつ。それと菱形の中心からも、鋭い杭のような物が飛び出ており、どうやらこれが足裏に刺さったようでした。

 

 

「……これは…」

 

 

『ッ。ウ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!』

 

 

「ぴゃぁ!?ど、どうしたの!?」

 

 

 

 何やら店主が騒いでいるようですが、そのようなことはどうでも良い!こちらの方が余程重要な事ですぞ…

 

 こ、コレは…コレこそは!

 

 

 

 

「―――リコ殿」

 

 

「うあぁぁぁ…どうしたの?」

 

 

「鍼治療に、興味はお有りですかな?」

 

 

 

 

 

 

 一級遺物、〈千人楔〉…ッ!

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・51

 

 

 

「そ、それって…っ!」

 

 

「ええ!オーゼン殿の装備されておられた一級遺物、〈千人楔〉そのモノに御座いますれば!これは何としても購入せねばなりませぬぞ!」

 

 

「…なんでそんな物が“村”にあるんだ?」

 

 

「拙僧もよく分かりませぬが……『店主殿!コレと全く同じ形をした物を、あるだけ全て買い取らせていただきたく!』」

 

 

 拙僧がそう言い放ちますと、店主は驚いたのか、慌ててこの品物の山の中から〈千人楔〉を探す作業に取り掛かります。

 その行動があまりに激しいので、埃が散って敵いませぬ。手に持っていた楔を店主に預けて、拙僧らは店の外にて時間を潰すことにいたしました。

 

 

『では、また後ほど参りまするので!』

 

 

 その声に甲高い雄叫びで以って返しなさった店主殿に、一瞬顔を顰めましたが、いかんいかんと気を取り直して商店街へと抜けてゆくのでした。

 

 

 

 

 

 

「―――ン?ああ。リコ殿?リコ殿!」

 

 

「はいはいどしたのドーマン?」

 

 

「いえ、大したことでは無いのですが。コレを」

 

 

「何これ?……っ、これってお母さんの手記じゃない!何処でみつけたの!?」

 

 

「ええ。実は先ほど、ここではない別の商店に立ち寄った際に見かけまして。絵柄が美麗でしたので買わせていただきましたが……その様子ですと、何やらリコ殿にとっても大事な物であったようで!いやァ!買っておいてよかったです!」

 

「……ンん、良ければ差し上げましょうか?」

 

 

「ほんと!?ありがとう!わぁ……うん、やっぱりお母さんの字だ!」

 

 

「何と書かれているんだ?」

 

 

「うーん……ちょっと待ってて…」

 

 

 先ほどナナチ殿らに随伴させていた式神から、殲滅卿直筆の手記が送られてきましたので、リコ殿に渡してみたのですが…

 

 ……しかしまぁ、歩きながら手記をご覧になるとは、随分と器用なことをなさるものです。現代(前世)っ子の“あるきすまほ”なる行為に通ずる所がありますねェ…

 

 リコ殿もレグ殿も、完全に自分の世界に潜ってしまわれたので、拙僧はただ図体の大きいだけの木偶の坊と化してしまいました…

 

 拙僧も今晩の夜まで予定はありませぬし、外の式神も上手くやっているようで、上層―――四層より上―――では到底見つけられぬような素晴らしい、正に〈至宝〉と呼ぶに相応しい品々を幾つか発見しておりまする。

 

 ……ただ、予備のために持たせておいた残基*1を五体も消費しているのは受け入れがたい事ですなァ。

 

 いえ?仕方のない部分はあるのですよ?使い方の分からぬ遺物を解析するためには、どうしても生きた人間が必要でありますゆえ。ですが、死なぬようにする対策というのはいくらでも取れるワケでありまして。

 

 残基を一つ消費して、通常のモノよりより人間らしい(・・・・・)式神を用意し、それに使用させるとか…

 

 …聞いてますか?貴方に言うておるのですよ、二号。

 

 

『勿論、重々承知しておりますとも!ですがねェ、こちらの拙僧も拙僧でありますれば、分割すればするほど自我やら思考なんぞを統率するのは困難になるのです』

 

『…そも、この躰は既に別たれたものでしょう?既に切り分けた肉から、さらに得を獲ようとすれば、必ずどこかで破綻しますぞ?』

 

 

 ンンンンン……悩ましい。悩ましいですなァ…

 

 確かに、貴方の言うことも一理あるのです。特に、『使用者の望むモノを写す眼球』なる遺物は、実際に自我を共有しておらねば、詳しい性能を知ることなどまず不可能。

 そのような一級……いや、特級すら相応しき遺物に残基を使うのは別によいのですよ?

 

 ですが………なんです、それ?

 

 

『ソソソ?』

 

 

 その……ンン。言うのも憚られるような、悍ましき外観の…

 

 

『…―――アァ!ゴ』

 

 

 それ以上は言わずとも結構!それは()に送るのです!

 

 

 

 

*1
前線基地にて手に入れた成れ果て





今回登場した遺物!作中に登場させる時は所々変えるかも…


長月スイは 奈落に巡り還る…

名前 蠢く枯れ葉(シヤーベリウム)

等級 1級遺物

備考 見た目は蠢くゴキ…枯れ葉の様に小さい虫の様な金属。一番近い生物の意思を汲んで力場の流れ関係無く蠢くのが特徴。溶かして服の素材にすると身体を補助して反射神経が良くなる。非情に有用だが人気が無い。


ほうじ茶三昧は 奈落に巡り還る…

名前 貪欲なる瞳

等級 不明(特級でもいい)

備考 人間の瞳を模したような形のレンズで、“見たいもの”を見る事ができるようになる。今、本当に“見たいものだけ”を映す。

 それはモノに限らず、忘れていた記憶を写したり、壁の向こう側であったり、奈落の底だって覗けるかもしれない。
 上手く使えば力場だって見えるかもしれない。ただし、そのレンズを通して見続けると、そのレンズに囚われ、現実の世界を見る事すら叶わなくなるという。

 「見たい」「知りたい」という欲求に応じてそのレンズは、覗いた者の眼球を覆い隠し、最終的には溢れ落ちる。溢れ落ちた眼球から、再びレンズが剥がれ落ち、それをまた誰かが見つける。



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・52

成れ果て村に入ってからかな~り書きやすくなった!

やっぱりキャラが個性的だから…

追記 タイガージョーさん、誤字報告ありがとうございます!


 

 

 

「ねぇドーマン。さっきさ、『針治療に興味はないか~』って言ってたけど……千人楔でマッサージするつもりなの?」

 

 

「ン?ええ、そうですとも」

 

 

「―――そ、それはちょっと、何というか…」

 

 

「はて?名に“楔”とありますが、やっていることは針と変わらぬのです。人体の構造に精通している拙僧からしてみれば、オーゼン殿のように“腕だけを重点的に刺す”などというのは正に愚の骨頂!」

 

「体というのは、その部分のみで動いておるわけではないのですぞ?ただ物を投げるという動作一つとっても、関節やら筋肉の様々な部位が使われているのですから!足を踏み入れ、身体をひねる、肩を回し、腕をふるう……こうして考えれば、針やら体の“ツボ”の通りに刺すというのは、あながち的を外れた方法では無いのではありませぬかな?」

 

 

「…あ、あれ?そう言われると確かに…」

 

 

「リコ!?リコ!?丸め込まれてるぞ!」

 

 

「ドーマン。やっぱオマエ口が達者だなぁ……でも確かに無ぇとは言い切れないのが質悪いんだよ…」

 

 

 横であたふたとしておられるレグ殿を見ると、心がすっと澄んでいくような気がして、精神衛生上大変よいのです。

 

 まぁそれはそれとして、です。今拙僧らは、

 

 

『ワズキャンさんがあんまりしつこく誘ってくるから、それならいっそのことこっちから訪ねてみよう!』

 

 

 という隊長殿からのありがた~いお言葉の元、ワズキャン殿のお宅を探して歩いている真っ最中でございます。

 

 ……ああ!大分前にナナチ殿らとは合流しましたぞ?“拙僧が二人いる問題”は、合流する既の所で拙僧がお花摘みに云々…とうやむやにし、離席することで解決いたしました!

 

 ちゃ~んと見張りの式神も置いておりましたので、皆様方には万に一つも危害は加えられませぬとも!

 

 しかしまぁ、このような極彩色の街並みというのは、何とも目に悪い……階段の細部にいたるまでこの岩らしきもの(・・・・・)で構成されておりますので、ええ…

 

 ハッハァ!これも防衛本能というヤツですかなァ?

 

 

「う~ん…?ここが終わったら次はどこ行こうかなぁ…」

 

 

「もう目ぼしい所は粗方回り終わったハズだが?」

 

 

「んぁ~…さっき小耳に挟んだんだけどよ、この村の奥の奥~の方にさ、すっげぇ深い竪穴があるらしいぜ?」

 

 

「えっ!ホント!?じゃあ次はそこにしよ~う!」

 

 

 

 ……ンん?流し聞きしておりましたが、今さらっとトンデモナイ事を仰っておられた気が…

 

 問題は、拙僧がそこまで行けるか分からぬということですなー…

 

 

 

 

 

 

 

 ガッデムファ(めっさ遠)―――ソソソ、失礼しました。気の遠くなるほどに長い階段を上り切った先には、色とりどりの花が満ち溢れた花園が…

 

 その中心にぽつねんとして建っている小屋の、何と優美な事か!管理の大変そうな住居でありますなァ!

 

 家の外壁に咲く花へ、その背丈には到底合わぬ小さきじょうろで以て水を与えておられるのは、村長(むらおさ)たるワズキャン殿であらせられまする。

 

 

「―――おやぁ!よく来たねぇ〜!驚いたなぁ。僕もまさか、ここまで来るなんて思っても無かったからさ?」

 

 

「あっはははー…面白そうだったんで、つい…」

 

 

「あんなに胡散臭かったのにかい?」

 

 

「…じ、自覚あったんですね」

 

 

「っぷ!あはははは!まあね!っと。立ち話もなんだからね、入ってきなよ。お茶ぐらいなら出すよ~?」

 

 

 そう言って、ワズキャン殿は中に入ってしまわれます。

 

 …しかしまぁ。これはこれは…

 

 

「ん?どしたのドーマン?」

 

 

「……いえ、何でもありませぬとも」

 

 

「…ドーマン。一応、分かってると思うけど」

 

 

「ええ!警戒は怠りませぬとも!」

 

 

「ならよし!」

 

 

 この辺りに咲く花、どれもこれも毒花ではありませぬか。全くイイ趣味をしておられますなァ!

 皆様方も(レグ殿とミーティ殿以外は)気付いておられるようですので、やはり皆様博識でいらっしゃる!拙僧、感心!

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・53

 

 

 ワズキャン殿の自宅の中はその外見に違わず、なんとも“めるへんちっく”な内装をしておりまして。そう。

 

 さながらかの“動く城”のように、視界の端にはこじんまりとした暖炉と、ソファとが。

 

 そして壁には大小様々なフライパンやら鍋、包丁なども吊り下げられており、生活感を感じさせながらも決して不快にはならない…

 

 ……ンン、実に良き家です。ええ。良き家なのですよ…

 

 

 

 

      コポポポポ…

 

 

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

『『『…』』』

 

 

「う~ん…」

 

 

「……どうだ?」

 

 

 

「マズイ!!」

 

 

 

「だろうな」

 

 

「…あ。キミらもいるかい?」

 

 

「遠慮しときマス…」

 

 

こ れ さ え 無 け れ ば !

 

 

 ワズキャン殿特製のお茶モドキ(配合物不明)……なんだか排水溝にこびり付いたヨゴレの如き色でしたな…

 

 ですが、それよりも不思議なことには、このお茶モドキ、その見た目に反して実に香り高く、ミントのような清涼感を感じさせる匂いをしているのです。

 

 どちらにせよ、これを一息で飲んでしまわれるとは。全く末恐ろしい御方だ…

 

 

「いやぁ~失敗失敗!普段はもっと上手く淹れられるんだけど、人が多いから緊張しちゃってね?」

 

 

「いつもとあまり変わらない気もするのだが…」

 

 

「そ、そうなのか?本当にこれを、毎日飲んでいるというのか…?」

 

 

「……分かってくれるか、レグ。この辛さが」

 

 

「う~ン……おっ。慣れてきた慣れてきた。ふぅ」

 

 

「……度し難てェなー」

 

 

「だねー…」

 

 

 

 

 

 

 その後に開かれたワズキャン殿によるお茶談義が一段落着いた所で、リコ殿が口を開かれます。

 

 

「それで、ワズキャンさん…」

 

 

「ん?……ああー!そうだったねぇ!すっかり忘れてたよ」

 

「君たちに色々ちょっかいを掛けていたのは他でもない。実は君たちに……というよりは。そこのドーマン君に頼みたいことがあったからなんだ」

 

 

「―――ほォう?拙僧に。いったい何です?」

 

 

「うぅーん。話すと長くなるんだけどねぇ。ねーどうしようかベラフ。今、全部言うべきかなぁ?」

 

 

「…どちらでも、いい」

 

 

「……うーんそうだねー。ま、手っ取り早く言っちゃうとね?僕ら今チョー困っててさ!助けてほしいんだよ」

 

 

「…た、助ける?ワズキャンさん、それってどういう…」

 

 

「どのような助けを求めておられるので?」

 

 

「ぅうえ!?ドーマン!?ちょっと―――」

 

 

ここから出たいんだ(・・・・・・・・・)それも安全に(・・・・・・)、ね?」

 

 

 そこにいたのはワズキャン殿ではありませぬ。神がかりの預言者(・・・・・・・・)が、真剣な眼差しで拙僧を見つめておりました。その身に纏う雰囲気から、流石のリコ殿も『あううぅ…』と閉口してしまわれます。

 

 

「いやさぁ?ホントはこう、人質とかバンバンとっちゃってさ、『早くしないとコイツがどうなっても~』みたいな感じで行こうと思ったんだけど。君が僕らの用意した策を悉く台無しにするもんだから、もうこうして頼み込むしか無くなっちゃったんだよね!」

 

 

「はあ。そうですか」

 

 

「そーなの。まぁ、ほら。そうは言ってもやるだけはやっとかないとね?」

 

 

「ソ、ソソソ……何とも厚かましいお方ですなァ。あれだけ人に毒虫など、ゲテモノ食材を色々食わせておいて、その上さらにそのような事をのたまうなどと!いったいどの面下げて頼み込んでおるというので?」

 

 

「…ん?そりゃあモチロン、僕のこの面さ!」

 

 

 

 ―――アァッ!?ソレは拙僧のセリフだというのに!これでは二番煎じになってしまうではありませぬか!ンンン度し難し!!

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・54

「で、どうかな?協力してくれればちゃんと報酬も支払うよ?」

 

 

「―――報酬?いったいどのような品です?」

 

 

「ベラフー?」

 

 

「分かっている」

 

 

 ワズキャン殿に請われてベラフ殿が背中から降ろした籠の中には、今となっては懐かしき、成れ果てた(・・・・・)姿のミーティ殿が収まっておりました。

 

 

「―――あっ、昔のアタシだ!でも何でこんな所に…?」

 

 

「この“村”に頼んで創ってもらったのだ。完全な不死、とても濃い祝福だ……だからどうしても欲しかった」

 

 

「でもね?僕の方で話をつけたんだ。君たちが協力してくれたら譲ってあげたいと思ってさ、ベラフも了承してくれたし。あ、そっちにはもうある(・・・・)からいらない?それとも…」

 

 

いえいえ!いえいえいえいえ!良いですとも!そこまでして拙僧の助力を乞うというのならば、微力ながらも拙僧がお手伝いしてさしあげます!」

 

 

 ……流石は“神がかり”、何とも恐ろしき事です。間者を使い覗き見をしていたとはいえ、たった数度顔を合わせただけで拙僧の深部を見抜くとは。事前に警戒していたとはいえ何とも恐ろしい。

 

 徐々に薄れゆく拙僧のメイドインアビス(原作)、その中でもとりわけ詳細に記憶していたキャラクターは三種類。

 

 

 一つは判明している限りでの“白笛の面々”。

 

 

 一つは主人公たる“リコさん隊”。

 

 

 そして、最後の一つは“神がかりの予言者”殿でした。

 

 

 ワズキャン殿自体はただの料理上手な方というだけですが、問題なのはその“予言”のほう。

 例を挙げるならば、あらゆる策だとか偽装等を事前情報無しで見破るような、超常の能力とでも言うべき“直感”、そしてそれに似た“予言”など…

 そのような力、他者が行使するにはあまりに強力すぎる!

 自分が行使する分には何の問題もありませぬが、他人がソレを扱えると言うなら話は別ですぞ。

 

 本当はこの“村”の住民を一切鏖殺するつもりだったのですよ?なんとなく気に食わなかったので。ですが、ええ、止めました。

 

 ンンンンン!!ここで“おりちゃー発動”というヤツです!

 

 

「……と、まあ。拙僧としては別に良いのですが、隊長殿は…」

 

 

 横を向いてみれば、むすっとふくれた顔をして、不機嫌そうにしておられるリコ殿がおられました。

 

 

「……べっつにー」

 

 

ソソソソソ!何故そのように可愛らしく膨れておられますので?」

 

 

「…だって、この人たちドーマンに色々毒とか食べさせてたじゃん!確かにわたしも何度か試してみたいとは思ってたけどさ…?」

 

 

「―――んん?」

 

 

「ドーマンってレグと同じで、いくら攻撃しても傷ひとつ付かなさそうだし、あのオーゼンさんやボンドルドにも勝っちゃうくらい強いから、打撃とかだけじゃなくって毒とか酸とかにも耐性あるのかなー、なんて気になってたのに…」

 

「それなのに!よりにもよってわたし以外の人に毒を盛られるなんて!ヒドいよドーマン!!」

 

 

「」

 

 

「や、止めてやってくれ、リコ……今回ばかりは流石にドーマンが可哀想だぞ…」

 

 

「え?あっ!ご、ごめんドーマン!ドーマン!?」

 

 

「わぁお。まだ子供なのにすごい発想力だね……うん、イイね!」

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・55

 

 

 

 ガタガタと震えるドーマンを宥めるため、背中をぽんぽんしていた。

 ワズキャンさんの方はもう落ち着いたのか、さっき注いだお茶モドキを飲みながら振動するドーマンを眺めているようだ。

 

 ……ドーマンをこうしちゃったのは私のせいだけど、きっかけはワズキャンさんに盛られた毒なんだから、もうちょい気にしてほしいな…

 

 

「ところでワズキャンさん、なんでこの家には毒のある花が多いんですか?」

 

 

「ん?んー、そうだねぇ。僕の趣味っていうのもあるんだけど、一番の理由はやっぱり、そう。“抗体”を作るためさ」

 

 

「“抗体”?」

 

 

 私が繰り返すと、ワズキャンさんはしたり顔で説明してくれた。

 

 

「そうさ!深層の獣には毒を持つモノも多いからね、予め体を害する物(・・・・・・)への耐性を付けておくっていうのは無駄なことじゃ無いよ?どう?君も一杯」

 

 

「あ、それは遠慮しときます」

 

 

「そっかー」

 

 

 ……本当にこの人は、所々に違和感を感じさせるように喋るのが上手だと思うの。わざわざ毒の事を“体を害する物”、なんて回りくどい表現で言うかなぁ?それか、わざと気を引くような喋り方をしている…?

 

 ドーマンもそうだけど、ワズキャンさんも妙に勘が鋭い。もしかしたら似た者同士、何かシンパシーとか感じてるのかな?

 あ!それともアレかな?四層で見かけたあのタマウガチみたいに力場を読んでるのかも……へへ。なんちゃって〜…

 

 

「ワズキャンさん」

 

 

「んー?何だい?」

 

 

「ワズキャンさんって、何をそんなに怖がってるんですか?」

 

 

「…」

 

 

 怖がっている、っていうのはちょっと言い過ぎな気もするけれど、これ以上にぴったり当てはまる言葉は無いと思う。私たちと会うときに、いつも飄々とした喋り方をするのは、恐怖の裏返しなんじゃないかな?

 

 

「私達がこの村にお邪魔した時もわざわざ迎えに来てくれたし、その後も、私達の食事にいろいろ毒を混ぜたり……かといって外から来た人を疎ましく思ってるのか、っていったらそういうワケでもない…」

 

「さっき私たちが入ったお店の店主さんは、元々外からやってきた探窟家の人らしいし、外から来る人を積極的に殺そうっていうことでも無いんですよね?なのに何で私達の時だけ毒を盛るんですか?」

 

 

「……驚いた。何にも考えてなさそうな顔してるのに、スゴいねぇ」

 

 

「それ褒めてるんですか…?」

 

 

「ん?うんうん。褒めてるとも!うーん……そっかー。もうそこまで分かっちゃうか…」

 

「なら早めにしておいた方がいいかな?ベラフ?ちょーっと仕事を任せたいんだけど!」

 

 

 ワズキャンさんはなにやらぼそぼそと呟くと、ナナチやミーティたちと戯れていたベラフさんに声をかけた。

 

 

「また見回りか?」

 

 

「いいやーいいタイミングだしね。解放だよ」

 

 

「……そうか。そうか。永かったな」

 

 

「ワ、ワズキャンさん?ベラフさんも、いったい何の話をしてるんですか?」

 

 

「……そうだねぇ。何て説明すればいいか…」

 

「この村の外れにちょっとした洞窟があるんだけど、そこに一人、昔からの知人が住んでるのさ。そんなに仲が良いわけじゃあないけど、やっぱり同郷のよしみっていうのかな?村を出るとき一緒に連れて行きたくってねぇ」

 

 

「でしたら拙僧も同行いたしましょうか?あ、リコ殿。撫でるのはもう結構ですぞ」

 

 

「うーん…?ドーマン君も来ていいけど、奥まで(・・・)来れるかは分からないよ?」

 

 

「いえいえ、大丈夫ですとも!拙僧であればその程度どうとでもなりますので!」

 

 

 ……まーたドーマンが悪い顔してる。今度はいったい何をするつもりなんだろ?

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・56

 あの家にてするべき全ての会話を終わらせ、拙僧らは“目の奥(ドクープ)”なる洞穴―――ヴエロエルコ殿が囚われている場所―――へと向かっておりました。事前に漫画などで見てはおりましたが、しかし、これ程の高低差があるとは……力場があればどうなっていたことやら!まったく村様々ですなァ。

 

 さてさてどうやって降りたものかと、レグ殿と並んで穴を覗き見ておりますと、何やらワズキャン殿が言いづらそうにしておられます。

 

 

「いやぁ。申し訳ないんだけどさドーマン君、ロープを持ってくるのを忘れちゃった(・・・・・・・・・・・・・・・・・)から君がなんとかしてくれないかな?ゴメンゴメン、埋め合わせは後でするからさ!」

 

 

 その口調があまりに白々しいので、拙僧も思わず呆れ果ててしまいました。

 

 

「……はぁ。まあ宜しいでしょう、という事ですのでレグ殿?腕は伸ばさずとも結構ですよ?拙僧が浮かせて差し上げまするので」

 

 

え?嫌だが?また吹っ飛ばされたら困るし…」

 

 

「なんと心外な!!レグ殿!?ここは空気を読んで拙僧にお任せなされよ!」

 

 

「え〜…」

 

 

「ほ、ホラ、リコ殿!リコ殿からも何かおっしゃってくださいな!」

 

 

「わたしも遠慮しとこうかな?ロープは自前であるし」

 

 

「ンンンンンン!!」

 

 

「…へぇ、君たちは仲がいいんだねぇ!」

 

 

「ワズキャン殿?いったい何を見ておられたので?」

 

 

 何やら微笑ましいモノを見るような目をしておりますが、それは結構。結局、飛行用の呪符は拙僧とナナチ殿、ミーティ殿、プルシュカ殿、そしてワズキャン殿の分、合わせて五枚となりまして、リコ殿はレグ殿と一緒に抱き合って降りて行かれました。

 

 ワズキャン殿は初めての浮遊体験に大いに興奮なされたようで……拙僧の式神、使って楽しいオモチャなどでは断じて無いのですが…

 

 さて。下に着きますと、数多の黒い物体……いえ、生まれることのなかった子供らが拙僧らの足元にて蠢いておりました。なんとも不快な心地にさせてくる者共ですが、ここは耐え忍ぶ時です。ぐっと腹に力を込め、一歩を踏み出しました。

 

 拙僧以外の方々には一切近寄らぬのですが、やはり皆拙僧を警戒しておるのでしょうか。これはまるで……そう。黒き洪水のようで!闇の中でもハッキリと分かります。拙僧の前に立ち塞がる無数の眼よ!ああ、ああ……これはなんとも…

 

 

 

 

「親から礼儀というものを学ばなかったのですかな?皆様方、あまり良い心地はしませぬぞ」

 

 

 

 

―――疾く之を殺め給え、〈急―――〉

 

 

 

 

「おーっと!ドーマン君?僕としてはそれ以上はちょっと止してほしいんだけどなぁ。ダメかい?」

 

 

「…………まあ良いでしょう。皆様には何の害も与えぬようですから、ねェ?」

 

 

「―――はぁ。まったく。何となくは分かってたけど、君ってホントとんでもないねぇ

 

 

 

 

 

 

 これまでドーマンがする事には何かしらの理由があった。ミーティを人に戻したのもナナチを仲間にするためだし、ボンドルドを倒した……いや、違う。

 殺した。殺したのも、後からプルシュカやナナチから聞いた事を元に考えてみれば、(六層に降りるためというのもあるけれど)プルシュカを助けるためだった。

 

 ……きっと、私たちと一緒に奈落へ潜るのにも何か理由があるんだろう。でなければ、あんな奇跡的なタイミングで私達に声をかけなかったハズだから。じゃあ、いったい何故こんな事をするのだろう?

 

 ドーマンが“オンミョージュツ”を使う時は、いつも『キューキューニョリツリョー』っていう謎の言葉を発していた。時々無言で『それっ!』みたいな風に使う事もあったけれど、大体はその言葉だけを使っていた。

 

 

 なのに、今回は余計な言葉が付いていた。

 

 

 なんで?なんでドーマンはそんな言葉を付けたんだろう?それも『殺めたまえ~』なんてド直球な言葉まで使って…

 ドーマンはボンドルドすら倒しちゃう力を持っている。だったらこんな黒い生き物、あの不思議な力で、何も言わずただ指を振るうだけで倒してしまうだろう。なのになんでわざわざ口に出す必要があったのかなぁ…

 

 なんだろう。もうちょっとで何か思いつきそうなんだけど…

 

 

「リコォ〜、どうしちまったんだ?急に立ち止まってよ〜。早くしねぇと置いてくぜ〜?」

 

 

 ……まぁいいや。また後で考えよっと。

 

 皆には内緒で書いている日記の、ドーマンに関することが書かれたページ。そこに早く追記したいと思いつつ、皆のいる場所へ急いだ。

 

 

 



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〈ドーマンの生態〉

 “(イルぶる)”に来てから何度目かの夜。皆が寝静まったころ、リコはこっそりとベッドから抜け出し、宿屋の一階、さながらカフェのような造りになっている空間へやってきた。

 別に何かを頼むわけではない。不思議そうにこちらを見つめてくる宿屋の主人に愛想笑いを返しつつテーブルに座り、手帳を開いた。

 

 ……程なくして、主人がランタンを持ってきた。どうやらサービスらしい。優しい人だぁ…

 

 

 

 

 

 

外見

 

 うさんくさい。身長は私とレグを合わせても届かないぐらいある。オーゼンさんよりも大きかった。2m10cmって言っていたけど絶対それより大きい。わたしは1m32cm→3mぐらい!?大きい……まだ成長期だからこれからどんどん大きくなる、かも?こわい。

 体重は自分でも分からないらしい。

 毛は全く生えてない。うでとか足とか。ヒゲもわき毛も生えてなかった。

 口ぐせは『ンンンン』、でもたまにソが混じる、ふざけてる時やはっちゃけてる時に多い。自分のことを『セッソウ』って言う。

 背伸びをしたらすごく高い所に生えた木の実も取れる、すごい便利!

 あとムキムキマッチョですっっっごく力持ち。荷物はドーマンがたくさん持っていてくれるから、食料が多く運べて助かってる。

 毒も効かない。

 

 

性格

 

 ドシガタ、って言うほどではない。時々ふざけたりはっちゃけたりするけれど、なんだかんだ言っても一緒にいると面白いし、戦闘とかでも頼りになる。

 

 

 

 怖い。近付いて見てもシミとかシワがまったく無い。でもそれはそれとして怖い顔。本人は『美しき肉食獣』って言ってた。肉食獣…?どっちかといえば彫刻じゃない?

視力がすごくいい。百メートル先で私が立てた指の本数も分かる。立てた指の種類まで分かるのはこわい。

 

 

 

 長い。ロウオウシダみたいに先のほうがくるくるしている。

 右半分は白髪で、左半分は黒髪、ところどころ緑色が混じってる。髪の先には鈴がくくり付けられていて、歩くとシャラシャラシャラ~と音が鳴る(鳴らすか鳴らさないかは気分で変えられるみたい)。先っぽをにぎってぶんぶん振り回すと楽しい。

 時々髪の量が減る。でも気付いた次の日には戻ってる。ふしぎ!

 

 

 

 太い。だいたい丸太ぐらい?孤児院で見た人体模型そっくりに筋肉が浮き出ていて、見てて面白い。肉というよりかは金属みたい。力こぶを作ってもらったらもっと硬くなった。本気を出したらたぶんもっと硬くなる。

 片手で固い木の実を割れる石も割れる。岩も割れた!

 小さくてあまり使いたがらなかったけど、試しにブレイズリーブを振ってもらった。なんかミシッて音がした。たぶん力が強すぎてブレイズリーブの方が負けてるんだ!私が使うと大きいし、レグは火葬砲があるし、どうしよう?

 うでだけでうで立てふせができる。指二本でもできる。逆立ちも片手でできる。指一本でもできる!気持ち悪いから逆立ちしたまま走らないでほしい。二度と。

 

 

胴体

 

 私がピッタリ収まるぐらいの大きさ。レグだとちょっとはみ出る。右側だけお腹が出てるから、見ていると寒くなってくる。ちゃんとした服は着ないのかな?

 ぜい肉が無い!金属で叩くといい音が鳴る。

 いい音……フライパンが一番良かった。フォークとナイフはあんまり。もちろんささらなかった。お鍋は大きすぎてダメだし、レグのうでもダメだった→中身があるからかも?

 あと●●●●は付いてた。だいたいレグのうでぐらい?たぶん遺物だと思う。レグが怖がってたけどなんでだろう?→自分のうでみたいに、カパッと取り外せて、自由に操れるんじゃないかと思ってたらしい。自分のうでといろいろ似てたからかな?ヤバい。ホントにそうだったらどうしよう???→試しにドーマンに聞いてみたら爆笑された。たぶんレグの考えすぎだ!

 

 

 

 長い。『もでる体形をめざしておりますので!』と言ってたけど、もでるってなんだろう?

 周りに誰もいない時とかに時々ドスンドスン(3回。ドスンドスン、ちょっと間を開けてまたドスン)っていう音が聞こえる。アレは自分のしわざだって本人が言ってた。一度やってもらったけれど、スゴいのは音だけで、地面にはあまりあとが付かない。そういう儀式なんだって。

 今度は儀式とか関係なく思いっきりふんでもらった……地面がヒビ割れた。見てた私達もちょっとだけ浮いた。すごいしょうげきだった…

 

 

 

 半分だけしか着ていない。ドーマンから見て右半分は、オースにいたサーカス団の制服に似てる。左側は、本人が言うには『キモノ』っていう異国の服を着くずしたもの、らしい。

 そでの中やふところからシキガミを取り出せる。『キモノ』の中の肌には、直接はり付く感じで〈シキガミ〉がはってある。

 

 

 

 手記に書いた、所々ふざけてるような文章を見て、その時の状況を思い出して笑ってしまう。

 だが、今回書き加えるのはこっちじゃない。リコは手記の表紙カバーを外し、内側に作ったポケットの中から紙を取り出す。

 

 手記本体に書いたやつはいわば囮。あっちのは見られても関係ないような事しか書いてないのだ。

 表紙カバーの裏に収めておけば、手記をよっぽど注意深く観察しない限りバレる事はない。それに……いや。これ以上は止めとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オンミョージュツ

 

 ドーマンが使うふしぎな力。使う時にむらさき色の光を発する。詳しい事は分からない、力場をあやつる?要けん証力場もあやつれる。→力場は見かけだけで、本当はもっと別のナニカをあやつってる?

 

 

 できること

 

 難しさを六段階でひょうか。本人から聞いたことだから、もしかしたら本当は違うかも?

 

 火を起こす。がんばれば戦闘に使える。明かりをともす。風を起こす。

 

☆☆

 火を遠くに飛ばせる。☆よりも戦闘に使えそう。水を出せる。方角が分かる。光るボールを7色分生み出して、空中で回転させる。

 

☆☆☆

 火炎放射器。空を飛ぶ。運(?)を上げる。弱いシキガミを使える。防音できる。

 

☆☆☆☆

 火炎放射器の火力が強くなる。☆☆☆の上位ごかん。水を生み出せる。相手に空を飛ばせる(むりやり)。そこそこいいシキガミを使える。雷を降らせる。

 

☆☆☆☆☆

 相手を急に燃やせる。戦う時に役立つものはだいたいここ。瞬間移動。地面をふむやつ。相手にすごい速度で空を飛ばせる(むりやり)。強いシキガミを使える。

 

☆☆☆☆☆☆

 水を燃やせる。この世のものとは思えないようなことができる。神秘?奇跡?ここからはもうひょうかできない。すごく強いシキガミを使える??アキミツドノさんはここ?

 

 ひょうかできないオンミョージュツ?オンミョージュツじゃないものもあるかもしれない。

 

 何もない場所から物を取り出す。

 

 黒い円形のうずから物を取り出せる。何かの遺物を取り出していた。

 大断層。1、卵みたい、太陽玉じゃない。2、ランタン。

 二回目、トイレに行こうとした時。1、大量の細い木の棒と木の板、棒には変なもよう(ベニクチナワがのたうち回ったようなの)があった。2、白い小さなつぼ、お酒が入っている形。

 

アキミツドノ。さん。

 

 黒い骨格標本みたいな人で顔には黒いシキガミがはってある。『キモノ』みたいなそでがひらひらした黒い服を着ている。男みたいな骨格をしているからたぶん男の人。ふわふわ浮いていて、しゅん間移動もできる。オレンジが好き。果物が好き。

 

上昇負荷の軽減。無効。

 

 二層の吐き気が起こらなかった!そのてい度なんかじゃなかった。五層の上昇負荷をものともしない。どうやってるんだろう?似た効果の物に“カートリッジ”。

 

“成れ果て”を人に戻す。

 

 ドーマン玉の中にミーティと入ってちりょうする。三日で治った。どうやって治したかは分からない。

 

力場でドームを作る。

 

 今までで一番大きかったのは前線基地のもの。ナナチやプルシュカが『中を見れないぐらい』あつい力場の壁を作り出す。本気で作ったらどうなるかは分からない。

 外から見ると、中の景色がゆがんで見える。油をぬったガラスごしに中をのぞいているような感じ。

 水をゆがませるだけの力があるのに支え水は通してた→上には作れない?壁はおわん型だったから、多分作る必要が無かったから作ってないだけ。

 

大爆発

 

 むらさき色の閃光が光った後、前線基地の一部がレグの火葬砲みたいに消し飛んだ。力場を押し退けて爆発したらしいから、性質はレグのと同じ?

 

黒い太陽と目とアキミツさん

 

 これが終わった後にドーマンが帰ってきたから、たぶん大技。

 

手順

支え水が壊れる。

水しぶきに逆らうようにドーマンが上に上がっていく。

↓黒い点がドーマンの上にできる。

ドーマンの上に口の付いた大きな黒い太陽ができる。レグは玉だと思ったらしい。私やナナチたちは太陽だと思った。

太陽の周りをシキガミの目が回り始める。速度はゆっくり。ドーマンと一緒にアキミツさんもいた→赤い炎がふき出ていた。

目が止まると同時に赤黒い波みたいなのが出て、前線基地の設備をめちゃくちゃにしていった。ここで手順終わり。

 

占い

 

 お酒と木の板、木の棒を使って占いをする。ふんいきがいつものドーマンじゃない。後ろを向いていたから顔が分からなかった。

 私たちにやってくれた占いでは上に書いたものは使わない→棒を使う方が難しい?もっとすごいことを占える?聞くのが怖くて聞けていない。

 

 

シキガミ

 

 ドーマンが使う遺物みたいなもの。作れるらしい。作ってる所を見たことが無いから分からない。

 材料は紙とインク。オンミョージュツを使いながら作る。

 

 できること

 

  ふよふよ浮く。しゅん間移動(予め目的地にひとつ置いておかなければならない)。雷を降らせる。獣除け。五層で使った温かくなるやつ。

  勢いよく飛ばして敵にさす→三つに分れつして飛んでいく。ささった所で黒い爆発が起こる。ものすごい威力!

  しゅん間移動→もし上方向に転移したら上昇負荷がかかるのかな?かからないって言ってた。どうやって???→似た効果の物に“カートリッジ”。

 

 

まとめ

 

 たぶんドーマンは人間じゃない。自分では人間だって言ってるけれど、人間よりもレグやボンドルドに近い。新種の人型原生生物?

 

 

 

 最後まで読み返して、あと所々書き加えたりした後、私は全部を元通りに収めて、部屋に戻った。

 もちろんランタンのお礼は言っておいたよ!

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・57

今回は二話もストックがあるのだ!!いえーい。


 

 

 

 日の光の全く届かぬほど奥まで進んでまいりました。

 暗闇にはとうの昔に慣れまして、闇の中であっても昼間のように……とは流石にいきませぬが、周囲には村の子らもおりますし、その目の輝きを辿って行けば困る事など何一つありませんでした。

 ただ一つ悩み事を挙げるとするならば、饐えたような吐瀉物の臭いでしょうか。名は分かりませぬが、紫色で、単眼、女型の成れ果てでございます。

 ……はァ。吐くくらいなら上で待っておれば良かったのに。何故ついて来られたのでしょうねェ?まぁ事前にそう伝えたというのに無理やり付いて来たのですから己の責任でしょう……それでも嘔吐する際の苦しげな表情と声には価値がありますが。

 

 そのような事を続けること数分。ふと暗闇が和らいだかと思うと、少しばかり小高い丘の上に彼女がいるのが見えました。

 他の方々もお気づきになられたのでしょう、皆様めいめい息を呑んだり、固まったりと、多種多様な反応をしております。

 唯一何も感情も見せぬのはワズキャン殿ただ一人でございます。まァそれもそのハズ。ワズキャン殿は定期的にこの場を訪れていたようですし、特段驚くことなど無いのでしょう。

 

 闇の中、ゆっくりと顔を上げられます。

 切られる事なく伸び続けた髪の毛が房となり、はらりはらりと顔前を掠め、そしてその相貌が明らかになりました。そう!

 

 この方こそ三賢の最後の一人、名を―――

 

 

「ふへぇ…!あのぅそんなにもったいぶられると私としてもすごくやりにくいっていうか、そのぅ…」

 

 

「………」

 

 

あぅぅ…つ、続きをどうぞ?」

 

 

「あ、いえ。なんかもう良いです。それではヴエロエルコ殿。とっととこの狭苦しい洞穴を出ましょうぞ」

 

 

「―――ぁ…っ!あぁ!せっかくかっこいい説明があったのに!」

 

 

「ソソソソソー…」

 

 

「なになに〜?なんで二人とも落ち込んでるの?僕としてはそろそろここから出たいんだけど……ほら、子どもたちの目もあるし?」

 

 

「う〜……うっさい。ワズキャンはちょっと黙ってて」

 

 

「―――うえぇ?なんでさ?」

 

 

 

 

 

 

「結局みんな落ち込んでるじゃんか…」

 

 

「いや、オイラもメンタル面とか専門外だし、知識があったとしてもこんなのどうしろってんだよ…」

 

 

 仮に深界百層なんてモンがあったとしても、そこで起こる上昇負荷はこれ程酷くはならないだろう。オイラたちはずーんと沈んだドーマンとワズキャンと、あと……ぶ、ぶえろ?ぶえろエルコとやらの三人をずるずる引きずりながら運んでいる最中だ。

 

 途中まではあの黒いウネウネしたヤツらが手伝ってくれたので楽勝だったけれど、崖を登り切ってからはそういう訳にもいかねぇ。こっからは自分の力でどうにかしねぇとな…

 

 

んぎぎぎぎぎ……あんたらマジで重いわねー!」

 

 

「どうやったら、こんな、デカく、なれるんだ!!」

 

 

 レグの腕を外した時に出てくるあの頑丈なワイヤーで二人を笹巻きにし、残ったヤツら全員で引っ張っていた、実はこれが案外いい。結構がっちりしてるからな。

 問題は引っ張るヤツの力不足なのだ。

 

 

『ふっ。よっ……あわわわわ落ちる落ちる落ちる!

 

 

「ちょっパッコヤン!?危ない」

 

 

 あ。ぶえロエルコはこの娘が背負ってくれているんだが…

 

 

「プルシュカー。オメーいつの間にソイツの名前を?」

 

 

「ん?どうにかして会話が出来ないか試してた時に、向こうから教えてくれたんだ!」

 

 

『ソソソ……なるほどなるほど。貴女がパッコヤン殿でしたか』

 

 

『え、ウソ。私何で認知されてるの!?』

 

 

『ええまあ。結構な有名人ですので?』

 

 

「ドーマンん?喋れるんだったら、そろそろ、歩いて、ほしいんだけど!?」

 

 

「ソソソソソ♡もう少しだけこのままで…」

 

 

 階段から突き落とした。

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・58

もう一話あるよ!!


 

 

 

 ワズキャンの家に着くと、ちょうどベラフが家から出ようとしている所だった。なんでも、あまりに帰ってくるのが遅いから、迎えに行こうか悩んでいたらしい。

 

 中に入るとお茶が入れられていて(なんと花の蜜入りらしい!)、ベラフの女子力の高さにみんなが驚いているようだった。ふへへ、そうでしょうそうでしょう。ベラフの家事力は隊の中でも頭一つ抜けて高かったからね!

 

 

「んのぉぉぉ……甘い!甘い!?甘くないコレ?」

 

 

「これが普通なのだ」

 

 

 っていう二人のやり取りを見て、思わず信じられない物を見るような目をしてしまった。村から送られてくる信号でどういうやり取りをしているのかは知っていたけれど、いざ目の当たりにするとやっぱり信じられない。だって、

 

 

「あ、あのワズキャンがんのぉぉぉって!ふへぇこれヤバい面白すぎる!

 

 

「そりゃ僕だって150年も生きていれば丸くもなるさ」

 

 

「でもその割には、昔みたいに見える(・・・)んでしょ?」

 

 

「―――まぁねえ…」

 

 

「ン゛ン゛ッ゛。皆様?そろそろ本題を…」

 

 

 私がワズキャンをなじっていると、ドーマン君が急かしてくる。どうやら内輪で盛り上がりすぎたみたいだ。

 

 

「うん、大まかなことは君たちの“信号”を見ていたから分かるの。でもね?いったいどうやって私たちをここから出すつもりなの?」

 

 

「フフフフフ!どのようになどと!それは勿論拙僧の呪いを使うてですね―――」

 

 

取り込むの(・・・・・)?」

 

 

「―――は?」

 

 

 たった五文字。でもその言葉はドーマン君に衝撃を与えるのに十分な力を持っていた。

 

 

「ふへへ。やっぱり……私ね、ずっとドーマン君のことが恐ろしかったの。だからずっと“信号”を見てた……頭の中の深い所、魂の信号を」

 

「私は少なくとも、貴方がこの村に来てから今までに考えたことを全て知ってるよ。だからね?」

 

 

「取引、しない?」

 

 

 何の色も浮かべないその顔に、最高の一撃を。

 

 …ふへへへへ。〈三賢〉だけでどこまでやれるかなぁ…

 

 

 

 

 

 

 何たる屈辱!何たる醜態!!

 

 儂が!平安の世を代表する英霊であり、三柱の神をも隷するこの儂が!このような小娘の口車に乗せられておるのですから!

 

 穴の開いた記憶が恨めしい。なぜこれ程までに大事なことを忘れていたというのです?

 

 ああ、いかぬ、いかぬ。平常を保たねば…

 

 

「私はね。ついさっきまであの子の、この村の一部だった」

 

 

「……今度は何です?」

 

 

「村の役割はいろいろあるけど、最も重要な役割は、その人の“願い”をつまびらかに明かすことなんだ。その人が一番欲しいものが分からないと、村はそれを作ることができないから」

 

 

「―――ま、まさか」

 

 

「それで、ね?私たちがあなたにやってほしい事が二つあるんだ」

 

 

「…ほう?言うてみなされ」

 

 

「一つは、私たちが外に出ても死なないようにしてほしい。その為に必要な行為を惜しまないでほしい」

 

 

「それで終いで?」

 

 

「いいえ、今ので一つ。二つ目は」

 

 

「“(イルぶる)”を……イルミューイを、殺してほしいんだ」

 

 

 

 彼の顔に、喜色が浮かんだ。

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が成れ果ての姫君と戯れていたころ・・・59

 

 

 

 ヴエロエルコ殿から提案された村殺し。拙僧はそこに勝機を見出しました。この女はたった今、自らの手で墓穴を掘ったのです。

 この茶に混ぜられた花の蜜ではありませぬが、まるで甘露の如き、逃れ得ぬ蠱惑的な言葉のみを紡いでみせましょう。

 

 

「……皆様の願いはよく分かりましたとも。ええ」

 

「ですがヴエロエルコ殿、貴女はそれで良いのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴女は本当に、心の底から、
この村を殺すことを望んでいるのですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん。きっとそれが、あの子にとって一番いい事だから」

 

 

「―――んッフフ!ンンフフフフハハハハハ!!それには『実現可能な範囲で』という小書きが付くでしょう!?そうではないのです。ないのですよ」

 

「拙僧は忌憚無き望みをこそ叶えたい!ですから、貴女の心の奥底にある真なる願いをどうか拙僧にお教えいただきたく!」

疾くこの者を隷し給え。急々如律令

 

 

 

 

 

「わたしの、ねがい…」

 

 

おぉっーとここからは僕が務めよう。どうやらヴエコは冷静さを欠いてるようだ……ほら。落ち着くまでお茶でも飲んでて?」

 

 

 うーん困ったなぁ、僕の呼びかけにも全く反応しない。完全に自分の世界に入っちゃってるよ。

 ここまでは凡そ筋書き通りに進んでたんだけど、ドーマン君のあの言葉。アレがダメだった。あんな事言われちゃったら流石のヴエコでもブレちゃうじゃないのさ!せっかく事前に協力してくれるよう頼み込んだのに…

 

 でも、僕らが交渉を有利に進める為には君が必要なんだよ。ヴエコ。君には何が何でもこっちについてもらわないと、僕らとしても困るんだよねー

 

 一応、横で黙って聞いてくれてる子ども(隊員)達にも一手打っておくかな?

 

 

「……まぁ彼女の願いはだいたい察しが着くけれど、問題は達成した後さ。そうでしょ?」

 

 

「ええ。そこはまぁ拙僧にお任せあれとしか…」

 

 

「そこだよ」

 

 

「……んン?はて…」

 

 

「ずっと疑問だったんだ。キミたちはあまりに上手く行き過ぎてる」

 

「みんなの着てる装備、どれもこれも統一感がないでしょ?これって隊に加わったタイミングがバラバラだからじゃないかな?だとすれば君たちは大穴に、徐々に数を増やしながら降りてきた事になる!うん!スゴい事だと思うよ?本当さ!」

 

「普通隊員っていうのは減っていくものだ。普通はね?その理由はいくつかあるけれど、一番の問題はやっぱり食料だろう。それぞれの腹を満たすだけの食料はどうしたって必要になる。でも旅の途中で口の数が減っていくから、強行軍でもなんとか耐えられる…」

 

「なのに君たちの隊はどうだい?口の数は逆に増えて、それなのに有り余る程の食料があるじゃないか!なんらかの工夫があったとしても出来すぎだ。やりようは無いわけじゃないが、子どもがするにはキツすぎる」

 

 

「ならそれを解決できるのは君しかいない訳だよ。ドーマン」

 

 

「確かにそうですが……先程からつらつらと、何を言わんとしておるのです?」

 

 

「……ドーマン、君はいったい何をしようとしているんだい?この大穴に、何を求めてやって来たんだい?」

 

 

「それはモチロン!少年少女らの織り成す冒険活劇を、一番の特等席から鑑賞したかったからですとも!」

 

 

「あははーウケるー冗談でしょー?君はそういう人種じゃ―――」

 

 

「いや。ワズキャン」

 

 

「―――ん?どうしたんだいヴエコー。急に横から」

 

 

「ドーマン君はホントにそれを望んでたよ」

 

 

「……えっ。ちょっ。ちょっとヴエコ?」

 

 

「ドーマン君の願い……私が見た中で一番強い願いじゃなかったけど、確かにドーマン君の願いには『鑑賞』があったの」

 

 

「…へーそう。そりゃスゴい」

 

 

 これは……うん。ヤバイね!!普通こんな土壇場で裏切るかいヴエコー!?

 

 




もう無い。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧がワズキャン殿と腹の探り合いをしていたころ・・・60

ワズキャン

 ガンジャ隊が外に出ても死なないようにしたいな~。“村”を出たいなぁ~~~。やっぱここ故郷じゃないよ~。奈落の底を目指したいよ~…

 ワズキャンに電流走る。“神がかり”がヘンなデカ男の来訪を予知。これだー!たぶんこの人がどうにかしてくれるんだ!

 でも自分の“神がかり”が怪しいって言ってる…

 そうだ!弱みを握ってからお願いしよう!ね~たのむよヴエコ~!こーいう感じの大男が村を訪れたら、ずっと思考を読んでてほしいんだ!思考をたれ流しにしてたら弱みの一つや二つぐらい掴めるでしょ?

 わーい上手くいった!よし!!後はお願いするだけだ!たのむよヴエコー!

 えっwちょwwヴエコが裏切ったんだけどwwwやばwww


 ワズキャン殿はよほど強いショックを受けたのでしょう。少しばかり硬直しておられましたが、何とか再起動為されたようで、またその口を動かし始めます。

 

 

「ふーん……そう。そうかー…いやぁ。正直お手上げだよ。僕らが差し出せるものなんてそんなに無いし、何より君の最も深い所にある『願い』も、どうやら叶えることはできなさそうだ……少なくともこの村ではね」

 

「“村”が叶えることのできる願いは読み取ることのできる物のみだ。村と同化していたヴエロエルコが読めなかった(・・・・・・)時点で僕たちにはどうしようもない。だから、代わりにと言っては何だけれども」

 

 

「君の望む『鑑賞』、僕たちが手助けしてあげよう」

 

 

「その願望への助力。それを対価として、僕は君に先程の二つの願いを叶えてもらいたい」

 

 

 

 

 

 

 この数瞬でそこまで思考を巡らせるとは……やはり〈三賢〉、恐ろしき者共ですなァ。

 

 

「ですがワズキャン殿?その程度(・・・・)の対価で拙僧らが動くと思われておるのでしたら、それは見当違いというモノですぞ?」

 

 

「おやぁ。まだ望むことがあるのかい?まいったねぇ……まぁ言うだけ言ってみてよ。できる限りの事はしてみよう」

 

 

「ンン♡真ですか!では遠慮なく…」

 

 

「あ、あんまりトンデモない要求をするのは止めてくれると嬉しいんだけどー…?」

 

 

「ああ!いえいえ、いえいえいえ。どうかそう怯えなさるな!きっと皆様にとってもそう悪くない“オネガイ”にございますれば!」

 

 

 

「どうか!どうか全てが終わった後、拙僧らの探掘隊に加わっていただきたい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドーマン!?ダメだよ!」

 

 

 私だってまだ子供だけど、それでもこの隊を率いる隊長なのよ?だからこの場に隊のリーダーとして座って話を聞いてたの。それに、よっぽどの事が無い限りはドーマンに任せようと思ってた。

 

 でもそれはダメでしょ!?

 

 

「ンフフフフフフフ!リコ殿。いったい何がご不満なのですかァ?」

 

 

「だ、だってこの人たち、ドーマンに毒を盛ったんだよ!?たまたまドーマンが大丈夫だったから良かったけれど、もしレグ……いやナナチとかプルシュカたちが毒を盛られたりしたら、きっとタダじゃ済まない!」

 

 

「ええ、そうですよねェ」

 

 

「それに、それに……だって…」

 

「みんなも大事な仲間だけど、ドーマンももーっと大事な仲間なのよ?それなのに仲間を傷つける人を隊に入れるなんて!ダメだめだめ!!ぜっーたいダメなんだから!

 

 

 私が必死になってドーマンに言うと、ドーマンは少し驚いた顔をしていた。さっきまで浮かべていた胡散臭い笑みも崩れて、少しぽかんとしているようだった。

 でもその(ドーマンにしては)珍しい顔も少し経つと消えてしまい、後にはさっきよりも少し真面目な表情があった。

 

 

「―――と、まァ。我らが隊長殿はこのように仰っておりますので?少しばかり要求を吊り上げさせていただきましょうか……ワズキャン殿。何か異議がおありで?」

 

 

「…………いや。ないよ」

 

 

「大変宜しい!でしたらそうですナァ……手始めに、そう。この交渉の後より、貴方方の率いるガンジャ隊を仮称〈リコ隊〉の隷下*1に置かせていただきましょうか」

 

 

「―――そんなことをしていったい何をするつもりなんだい?」

 

 

「ええ。先ず手始めに隊の皆様の身体強化をさせていただこうかと」

 

 

「は?」

 

 

「その後には目ぼしい遺物の蒐集、食料などの物資の徴収など―――」

 

 

「ちょっと待って!?ドーマン、キミは、きみは…」

 

 

「あとはそうですな。〈三賢〉制度を撤廃し、現三賢の御三方を拙僧の(・・・)麾下に置かせていただく……まぁ、この辺りが落とし所でしょうかねぇ…」

 

 

 私も今まで見たことがないぐらいよくしゃべるドーマンに圧倒されたのか、ワズキャンさんが固まってしまった。横でジッと聞いていたベラフさんもどうやら戸惑いを隠せない様子だ。

 たぶんドーマンの言っていた内容がよっぽどショックだったんだろうなぁ。

 あ。でも。聞き取れたものの中には、遺物の収集とか身体強化とかいろんな事があったけれど、そんなに驚くようなことだったかな…

 

 

「そ、そんなことを受け入れちゃったら、僕たちが僕たちじゃなくなっちゃうじゃないか!!」

 

 

「ハァ?いったいそれの何処が問題なのです?拙僧とてわざわざ手間をかけて、外界の畜生共に上等な餌をくれてやれるほど広い度量は持ち合わせておらぬのですよ。でしたらそう。いっそのこと隷下とした方が手っ取り早い!」

 

 

 

ンフフフフフフフ……自らの尊厳だとか、自由意志だとか。そのようなこの大穴においては糞の役にも立たぬような代物を焚べてやるだけで!この奈落を穿つ力を得られるならば!貴方方に如何様な問題がありましょうや?」

 

 

 

*1
どうやら“支配下に置く”を難しく言ってるみたいだぞ!何で難しく言ってるんだろうね?




道満

 ンフフフフ!!このように言えばきっとリコ殿は反対されるでしょう。そうすれば『隊長の意にそぐわない』という大義名分を得ることができる……こうなってしまえばワズキャン殿といえどもどうしようもない!
 子供の癇癪ほど恐ろしきモノはありませぬからなァ!!フハハハハハ!!

 この言い草、あまりにも……ンン。も、もしや“絆レベル”を上げ過ぎたとか?
 リコ殿の言葉を借りるならば、隊の皆様方よりも『もーっと大事な仲間』…



 ―――レグ殿よりも?



 …………ンンンンンンン。これは、また、何とも……それ程までに絆を深めてしまった拙僧にも落ち度はありますが…
 そこまで言われたならば、拙僧も真面目に取り組むしかないではありませぬか。



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忘れもしませぬ。あれは拙僧がワズキャン殿と腹の探り合いをしていたころ・・・61

書きたい話の妄想が三つもある…
成れ果て村の話がすごい長くなっちゃう〜
まだ見ぬ深界七層もあるし……うお〜深界七層ってどんな場所なんだー!


 さらに激しく詰め寄った拙僧にいよいよ根を上げたのか、ワズキャン殿は遂に折れまして、此方の要求を快く受け入れて下さいました。

 

 何やら項垂れるワズキャン殿を置いてそそくさと宿に戻った拙僧は、次の日、彼を引き連れて道具屋を訪ねました。

 前回来た時も荒れ放題だった店内は更にごちゃごちゃとし、ホコリやら何やらが充満しておりまして、皆様方も思わず目が痒くなってしまうほどではありましたが、それだけ熱心に探してくれたおかげですかな?他と比べても汚れの少ない布の上には、あの〈千人楔〉が四つも置かれておりました。

 

 

『ンンンン!まさかこれほど数があったとは…』

 

 

『へへ、へへへへへ……あのー旦那?旦那がもし欲しいってんなら他にもいい遺物を用意出来ますがねぇ。ど、どうです?』

 

 

『ンン〜♡良いですなァ!店主殿!それら全てを買い上げましょう!』

 

 

『ヘヘァッ!?そ、そりゃ有り難い!どうかちょーっと待っててくだせぇよ!』

 

 

「……ドーマン。キミ他人の財布を持つと気が大きくなっちゃうタイプかい?」

 

 

「おお!よくご存じで」

 

 

「あぁもう……はぁ。まぁいいさ。幸い手持ちには余裕があるしねー」

 

 

 事実上金の出る蛇口と化したワズキャン殿をふんだんに使わせていただき、様々な遺物を買い込んで。暫く村を回った後に宿へと戻り“施術”の準備を始めます。

 

 

 

 

 

 

 皆様方が久方ぶりの入浴―――といっても村には湯船などは存在しませんので、温かい湯で濡らした布を使い、身体を拭うだけですが―――を済ませた頃。部屋の戸を叩く音が一つありました。

 

 

「どうぞお入りくだされ!」

 

 

「お、おじゃましまーす…」

 

 

 何時ものハツラツとした様子は何処へやら。何とも控えめで可愛らしい挨拶と共に入室してきましたのは、何を隠そうリコ殿でございます。

 リコ殿やナナチ殿には事前に、それとなく明かしてはおりましたが、そうは言ってもやはり緊張しておられるご様子。紅葉を散らしたかの様なご尊顔で!ンッフフフフフ!何とも愛らしいことですなァ!

 

 ンん〜。ですが……ここは一つ按摩でもしてから始めましょうかねェ。やらぬよりかはマシでしょうし、多少は苦痛も紛れるでしょうから。

 

 

「それではリコ殿?そこに布を敷いておりますので、仰向けにおなり下さいな」

 

 

「―――ぅええ!?いくらなんでも早くない!?」

 

 

「ンン?はて?早いなどと…」

 

 

「こっここ、こういうのはもっと段階を踏んでからとかちゃんとした場所でいい景色を見ながらとか美味しい料理を食べながらとかさ!!?」

 

 

「…………り、リコ殿?拙僧、リコ殿が何か重大なる勘違いをしておられるような気がしてならぬのですが…」

 

 

「―――え?」

 

 

 按摩なんぞすっ飛ばしてとっとと千人楔をぶっ刺させていただきましたとも。ええ。しかしまァこれが良い声を上げなさる!艶のある良き悲鳴でしたぞ、隊長殿?

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧がワズキャン殿と腹の探り合いをしていたころ・・・62

“久々に昔書いた話を読み返したら今の自分と解釈が違う”……あると思います。
昔の道満ンンンって言いすぎじゃない?


うきゃあ!?あたたたた……頭から突っ込んじゃったよ…」

 

 

「ソソソソソ!ですが先程よりかは幾分マシになっておりますぞ?」

 

 

「うぅ……それならいいんだけど…」

 

 

 

 “施術”の疲れから、まるで電源を切るように眠ってしまわれたので、治癒の呪いを掛けまして。翌朝、拙僧はすっかり調子を取り戻したリコ殿と共に身体を動かす訓練をしております。

 

 何を今更と皆様は思われるかもしれませぬが……〈千人楔〉ですぞ?たった一刺しで無双の怪力を得られる遺物を四つも刺し、まだ使用してから半日も経っていない子供が、そのあまりの力に振り回されるのも至極当然の事でしょう?

 

 

「ふべぇ!」

 

 

「んっふ…」

 

 

「っ、あー!今笑った!今私の事笑ったーっ!」

 

 

「い、いえいえ!そのようなことはありませんとも!そも、拙僧がリコ殿を嗤った(・・・)事が今まで一度でもありましたかな?」

 

 

「……うー」

 

 

「分かっていただけたならば良いのです。ソソソソソ…」

 

 

 

 

 

 

 さて、その日の夜にはナナチ殿とミーティ殿に。

 

 

「にぎゃーッ!!」

 

 

「あいたたたた…」

 

 

「ンフフ!辛抱なされ!」

 

 

 その次の日はプルシュカ殿に。

 

 

「うっぐ……コレ、結構ツラいわね…」

 

 

「えーっとね、初めは痛いけど慣れるとそんなに感じなくなるよ!すっごいお腹が空くようになるけど…」

 

 

「―――それってホントか?」

 

 

 それぞれ施術を致しまして、後はこの遺物の齎す飢餓感に慣れていただければ良い、という所まで来ました。

 しかし幼子の身体とは斯くも柔軟性の高いモノでありましたか!力の制御は既にこなしておられる……まだ一週間も経っておらんのですぞ?“上”の拙僧でさえ一月は掛かったというのに!これでは拙僧の面目が丸潰れではありませぬか!

 

 

 

 毎度の如く、倒れるようにして眠ってしまわれたプルシュカ殿の介抱をリコ殿に任せて、宿のバルコニーにて少し夜風に当たっておりました。

 いかに奈落の底と言えども、日も差せば夜にもなりまする。

 そして夜であれば周りの目の心配も……いえ。注意はしておりますが、日中ほど気張らなくとも良くなりますれば。

 

 “外”に派遣している式神に念話を飛ばします。二号?二号?聞こえておりますか?

 

 

『ンン!感度良好ですぞ!何用ですかな?』

 

 

「ええ、そろそろファプタ殿が必要になるやも知れませぬ。ゆめ傷付けぬよう。貴方とガブールン殿で守るのですよ」

 

 

『まったく、何を言うかと思えばそのような……言われずとも理解しておりまする』

 

 

「よろしい。それで?」

 

 

『……何です?』

 

 

『勿論あらたな遺物の事ですとも!いやぁ少々予想外な事が起こりましてな?想定していた以上の量の(・・・・・・・・・・・)遺物を手に入れることが出来そうなのです』

 

 

『ほォ!!それは素晴らしい事ですなァ!で、その遺物はいったいどの様な代物なのでしょう?』

 

 

『ええ。先ず―――』

 

 

 後より拙僧に気付いて、聞き耳を立てておる間諜に、一寸たりとも情報を漏らさぬよう遮音の結界を張りつつ、夜は更けていくのでした。

 

 

 




また暫く失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧がワズキャン殿と腹の探り合いをしていたころ・・・63

成れ果て村編が長すぎる…

昔書いた話の修正もしたいしオースの街の出来事も書きたい。書きたい話はあるのに時間がない…

たす け て


 力の制御は簡単にこなしてみせた皆様方でしたが、どうやら空腹には耐えかねた様でございまして、毎食のオカズを増やすだけでは飽き足らず、さらに大量の付け合せ(パンのようなモノ)まで食す有様でございます。

 これではいくら食料の備蓄があっても足りませぬ…!何としてでもこの飢餓感に慣れて貰わねば我々お先真っ暗ですぞ!?

 

 

「―――という事ですので。折角ですので皆様にも直接聞いてみようか、などと…」

 

 

 と、まあ、そのような事を一生懸命おにぎりを頬張るナナチ殿に訊ねてみたワケですが…

 

 

「ムリじゃね?」

 

 

「ソソソ…」

 

 

 即答ですか。そうですか。

 

 

「んなぁ、そんな顔すんなよ……そうだなぁ。といってもなぁ〜。〈千人楔〉の構造上、食事量の増加は避けられねぇモンだろ?」

 

 

「……ハァ」

 

 

「オメェさ〜……いいか?〈千人楔〉ってのは『使うとめちゃくちゃ腹が減る』代わりに『スゲー力が手に入る』遺物なワケだ」

 

「でもリコ達の話を聞く限りじゃあ、オーゼンってヤツはコイツを百個も刺してる。オイラたちでも四本刺してこの有様なのにだぜ?多分そこまで刺せてんのは“慣れ”もあるんだろうが…」

 

「…とにかくだ。この状態を維持しようってんなら、消耗覚悟で大量に飯を用意するしか無ェと思うぜ〜。オイラとしてもこの空腹にはちょっと耐えづらいしなー」

 

 

「ですがナナチ殿。経路的な観点から見ても、今の刺し方が最も安定しておるのです…」

 

 

「んぁ〜……毎度思うんだけどよドーマン。オメーが時々言ってる“ケイロ”とか“キコー”って何なんだよ?医学用語っぽいが……オイラボンドルドの所で色々手伝いとかしてたけど、そんな単語聞いた事無いぜ?」

 

 

「ンフフ!それは秘密というコトで…」

 

 

「なんだそりゃ」

 

 

 

 

 

 

 式神二号が見つけた遺跡、何やら貴重な遺物が大量に保管されていたようでして。その一つが〈千人楔〉でした。

 拙僧も式神越しに確認してみたのですが、遺跡……いえ。遺跡というよりかは農園の様な造りでしたなァ。何だったのでしょう、あれ。

 残念ながら人間はいませんでしたが、ここの管理を任されていたであろう干渉機が、何とも毒々しい見た目をした豆の如き植物を栽培しておりましたので、適当に斃しておきました。

 

 しかしこの豆の何とも不思議なこと!そこらの獣に食わせてみたところ、何と口から火を吹くようになりまして…

 模様の違う別の物を食わせてやれば、今度はみるみるうちに緑色の液体に変貌し、地面のシミとなってしまいました。

 

さて。そんな物騒な豆が拙僧のポケットの中にぎっしり詰め込まれている訳ですが…

 

 

 

 

 

 

「―――んんっ!?ドーマンドーマン!この緑色のタレすごい美味しい!」

 

 

「どれどれ…?む!本当だ!大自然の偉大さを感じさせるような風味……すごいなドーマン、キミが作ったのか?」

 

 

「ええ。ええ……まぁ…」

 

 

「ん、どうしたんだ?」

 

 

 先程の地面のシミとなりし憐れな原生生物、試しに舐めてみましたところ、あのオースの街で食した麻婆豆腐モドキに優るとも劣らぬ素晴らしい味が…

 と、言うわけで。これなるは先程収穫せし豆を、六層を我が物顔で闊歩する獣共に、無差別に、手当たり次第!片端から捕らえた後!無理やり食わせた成れの果て!

 

 斯様なものを皆様にお出しするのは、さすがの拙僧と言えど些か気が引けますが……まァ美味ければ良いのですよ。美味ければ。

 

 

 

「んなぁ〜〜〜…♡」

 

 

 

 




S・DOMAN小話

 オーゼンさんの武装〈千人楔〉、元は農業従事者のための遺物だったっていうオリ設定が生まれました。回収するかは知りませぬ。
 超パワーで鍬を振るい農地を耕してたんですね〜

 …

 ……トラクター発明した方が良くね?



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が“村”の守護神だったころ・・・64



(色々な事に決着をつけて来たので)初投稿です。


 

 

 

 緑色の液体を用いた料理で皆様方を餌付け……失礼。食事を振る舞っておりましたら、ふとリコ殿が口を開かれます。

 

 

「そういえばさドーマン、この緑色のやつを食べ始めてから、なんだか身体が軽いんだけど……あと、〈千人楔〉のすっごいお腹空くやつも楽になってるし…」

 

 

「―――ほォ。あぁ、なるほどなるほど。そういう効果でありましたかコレ」

 

 

「えっ、ドーマン?もしかしてこれって……遺物?」

 

 

「ンン〜……恐らくは?」

 

 

「っ!ねえねえどんな遺物なの!?見せて見せて〜!」

 

 

「ンン゛ン゛ッ゛!?ちょっ、暫しお待ち下され!此方にも準備というものが―――」

 

 

「分かった!!」

 

 

「き、切り替えが早いご様子で…」

 

 

 

 

 

 

 リコ殿が“どうしても”、と仰いますので、この村より出で、今となっては懐かしきあの村を見下ろすことの出来る断崖まで参りました。

 どうやらこの辺りは何ぞの深界生物の棲家であるらしく、獣除けの術を使用しておらねば引っ切り無しに我々を攻撃しに来るのです。

 この遺物を使用するには丁度いい場所かと♡

 

 

「うわぁお……ドーマンの獣除け、やっぱりいつ見てもデタラメな効果してるね〜…」

 

 

「ンフフフフ!お褒めいただき恐悦至極!」

 

 

「キョーエツシゴク?」

 

 

「……“嬉しい”、という事ですよ。では嬉しい序でにこの遺物、使うてみましょうか」

 

 

 獣除けを解除しますと、境界の外から睨め付けるような眼でこちらを見ていた原生生物が、一斉に飛び掛かってまいります。ですが…

 

 何と緩慢な動作であろうか。

 

 

「『急々如律令』!」

 

 

 瞬間、彼奴らは何か、目に見えぬ巨大な手に押しつけられたかのように地面にメリ込みました。

 まあ拙僧の術のせいなのですが。飛ぶ為の翼を持ちながら、宛ら地にうちあげられた魚のようにビクンビクンと跳ねておる様は、何とも浅ましく滑稽でございまする。

 

 拙僧の背にて感嘆の声を上げておられるリコ殿に、僅かに微笑ましさを覚えつつ、だらりと開いた口の中に豆を一粒放り込みました。

 すると直ちに変化が始まります。身体のいたる所から薄緑色の水滴が滲み出て来たと思えば、徐々に数を増やしていき、終いには身体全体を覆い尽くしてしまいました。

 身体の形すら保てなくなり、少しずつ少しずぅつ 輪郭が無くなってゆくのです。

 

 ……そして、ものの数秒程で、この翼竜は粘液の集合体と成り果ててしまいました。

 

 

「わぁ…!」

 

 

「ンフフフフ!如何でしたかな?」

 

 

「なんて言うか……スゴかったね!」

 

 

「ええ、ええ。スゴかったですなァ。では、この粘液を採取して終いといたしましょう。そろそろ皆様が心配しておられる頃でしょうから―――失礼」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 失礼。そう言った後、ドーマンはすっと黙り込んでしまった。

 前に立ってみてもうんともすんとも言わない……何があったんだろう?

 

 一分ぐらい経ったあたりかな?急にドーマンが動き始めて、

 

 

「申し訳ありませぬ、リコ殿。少々待たせてしまいましたな。では帰るとしましょう…」

 

 

 そう言うドーマンは、何だか何時もより焦っているような感じがしたけれど、ドーマンにそれを聞いても、するりと躱されるだけで、何も教えてくれなかった。

 

 そのままドーマンのジュツで一緒に“村”に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リコ殿()転移させるに至った最たる原因は、式神『二号』より届いた一本の念話にございます。

 

 

 

『本体!本体!!これよりそちらにファプタ殿を転移させまするぞ!』

 

 

『―――は?』

 

 

 




今回登場した遺物!


長月スイ は 奈落に巡り帰る…

名前 〈深淵に成る豆(オスクンケル)

等級 4級遺物〜特級遺物

備考

 正確には遺物ではない特殊な豆を指す。黒かったり、赤かったり、紫だったりする土地ごとに生態や形、色などが変わる種類としては同一の豆。
 その場所で取れた豆は採取されたその場所でしか取れず違う場所に植えて育てても別の豆になってしまう。味も場所によって代わり大抵は某百味ビーンズの様に酷い味(吐瀉物を処理した雑巾味とか)。
 貴重な豆の中には火が吹ける様になったり、10日間飲食なしで行動出来たり若返ることができるモノが発見される。そんな夢ある豆だが呪いとしか思えない効果がある豆もあるため大抵は無視される。


 この話では、『食べたモノを凄く美味で、栄養満点な緑色の粘液に変貌させる』豆のみが出てます。
 なんでそんなものを古代人は栽培してたんでしょうね〜…



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が“村”の守護神だったころ・・・65

やっと時間ができたよ…




 

 

 

『―――は?』

 

 

『何を呆けておるのです!急がねばもう時間が―――ッ、追いつかれたか!』

 

 

 

 その並々ならぬ慌てぶりは、自分の事ながらまるで信じられませんでした。思わず聞き返して、

 

 

 

『一体何故そのような状況になったので?』

 

地雷を踏んだ(・・・・・・)のです。まさか深界六層に斯様なものがあるなどと思わずッ!ぬォオッ!』

 

 

 

 言われるままに感覚を同期させれば……なるほど。確かにこれは声の一つも上げたくなりますなァ。

 感覚を共有してすぐに目に入ったのは、両足を吹き飛ばされた(・・・・・・・・・・)式神と、それに抱えられておられるファプタ殿でした。後ろにはガブールン殿も着いておられまする。

 小規模な転移術式を絶えず繰り返しているようですが、相手はそれ以上のスピードでこちらに迫っているので、まさに焼け石に水。

 

 

 

『まああアアァァァテェぇぇぇぇぇ!!』

 

 

『ええい小癪な!〈急々―――』

 

 

『ドぉリャアアあああ!!』

『うるさっ』

 

 

『―――なんとォ!』

 

 

 

 迎撃を試みればすぐさま反応し、そこらに生えている樹木などを引っこ抜いて、さながらミサイルの様な速度で撃ち出すものですから、お荷物(姫君)を抱えたままでは戦闘にすらなりませぬ。

 生身の人間だというのに……どれ程の筋力があればこんな芸当が?

 

 

 

『ンンンンン……分かりました。ではファプタ殿を早く此方に』

 

 

『少々お待ちを…………今ッ!

 

 

 

 〈急々如律令〉!

 

 

 眼前に迫る巨石と、大質量の物体に磨り潰される感覚を最後に、式神“二号”との一切の感覚共有が絶たれました。

 

 

 

 

 

 

「う゛う゛う゛ぅ゛……なんそすかなんそすか。何でこんな事になってるそすか…」

 

 

『ファプタ、ファプタよ。大事無いか』

 

 

「大事しかねーそすぅーー!!」

 

 

 

 僥倖僥倖!転移は無事成功しました!お二人ともご無事で何よりですねェ!ですが…

 

 

 

 何です(・・・)アレ(・・)

 

 

 

 あのように巨大な熊の如き風貌をした(キャラクター)なぞ拙僧知りませぬぞ?

 寸胴の様な体型ではありましたが、胸部に細やかなれど膨らみを有しておりましたので、恐らく性別は女。

 もう一人女が肩にも乗っておりましたがアレは何なのでしょう?

 

 何もかもが全く分かりませぬ。これが、これこそが全く未知の世界……いえ、通常はこれが普通なのですが。

 

 

(……一度大規模な未来視を行う必要がありますな)

 

 

「おいデカ男!オメーも何か言えそす!」

 

 

「―――ソソソ。どうかお静かに…」

 

 

(取り敢えず一旦"村”に戻りますかねェ…こうも騒がしくては考えを纏めることなど不可能に―――)

 

 

「二度は言わぬが?」

 

 

「……ええ、承知しておりますとも」

 

 

 




またまたたまたま失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が“村”の守護神だったころ・・・66

失踪している間にUAが100,000超えてた!こんなに沢山読んでもらえるとは…


 

 

 

 怒りに顔を歪ませるファプタ殿をなんとか宥めた拙僧は、あれやこれやと考える前に一度拠点に戻ろうと“村”まで転移しておりました。

 ファプタ殿とガブールン殿は今日の疲れを癒やすべく寝床に直帰され、それを見送った後。拙僧は頭を抱えておりまする。

 

 今後の行動を決めるためにも未来視をする必要がある訳ですが、その未来視も無論タダとは行きませぬ。準備が必要ですので。さてさてその為には……ンンンンン。

 

 

 上等な贄が必要なのですが…

 

 

「ドーマン?戻っていたのか!どこを探してもいないから何かあったのかと―――どうしたんだ?そんな難しい顔をして」

 

 

「これはレグ殿……いえいえお気になさらず」

 

 

「いやぁ。その顔で『気にしないで』と言うのは無理があるぞ…」

 

 

 なんと。それ程までに酷い顔でしたかねぇ?いつも通りの表情なはずなのですが……何でもないと少しばかり圧を加えて微笑みかけておりますと、レグ殿が、やはり心配そうにこちらを見ておられます。

 

 

「ドーマン、本当に大丈夫なのか?何か悩みがあるなら、ボクで良ければ話してくれないだろうか?」

 

 

「……ンン。では他言無用でお願い致しますぞ?」

 

 

「分かった。絶対に誰にも話さないと誓おう」

 

 

 そして、拙僧はレグ殿に事の顛末を話すのでした。

 

 

「―――外でそんなことが……それで、ドーマンはこれからどうするんだ?」

 

 

「それが問題なのですよ。レグ殿」

 

 

「問題?」

 

 

「はい。今の所……何と申せば良いのやら。そう。つまりは“服を買いに行くための服が無い”のです。拙僧が今後の行動を決めるにしてもそれはそれで問題が多々ありましてなァ…」

 

 

「服を買いに行くための服…?すまない、どういう意味だろうか?」

 

 

「ソッ。ンン…」

 

 

 正直あまりの言い草に我ながら呆れてしまっておりますぞ。

 しかし、まあ、事実ですしなァ。

 

 今の拙僧では、遥か未来を視る事が出来ぬのです。上等な贄さえあれば未来を視る事は可能で、その贄の目星も付いておりまする。ただそれをしてしまえば一人が死んでしまい、延いては、拙僧の目標である『ただ綺麗なだけの物語を見る』も達成不可能となりますれば…

 嗚呼笑止!何たる無様か!斯様な精神状態では大規模な未来視なんぞ夢のまた夢!!

 拙僧であれば(・・・・・・)、かのアルターエゴ・蘆屋道満であればこのように悩まずとも、こう、スパッと、その場の空気で決められたのでしょうか…

 ……ああ。いけませぬいけませぬ。この様では何もできぬでしょう。一旦頭を冷やして……久々に睡眠でも取りましょうかねェ…

 どうあれ拙僧の式神を殺した者共はこの“村”までは来れませぬからな。時間はまだありまする。ええ。きっとそうでしょう。

 

 

 

 

 宿に帰るドーマンを見送りながら、ボクは慣れない考え事をしていた。

 

 

(さっきは“誰にも話さない”と言ったが……こんなのボク一人で抱えられるような問題じゃないぞ!?)

 

 

 ドーマンが話してくれた外の状況は、リコ達の反応がまるで予想できないほど度し難いものだった。

 

 どうやらボクや、この“村”の住民とは全く別の探掘家がいたらしく、ドーマンはその人物たちと交戦したそうだ。

 撃退はできたらしいが手傷を負った(・・・・・・)ためしばらく休みたいらしい。

 

 そう。手傷を負った、らしい。

 

 オーゼン(不動卿)と互角に戦い、ボンドルド(黎明卿)打ち倒し(・・・・)、ファプタさえ傷一つ付けずに捕縛してみせたドーマンが、手傷を負ったのだ。

 

 

(今までの旅も決して油断していた訳じゃない。どの冒険も命がけで―――あれ?)

 

(―――ボクらって、ドーマンに頼りすぎていないか?)

 

 

 そこまで考えて思わず冷や汗が流れる。お世辞にもボクらは戦力として数えることが出来ない(・・・・・・・・・・・・・・・)。少々特殊な能力―――力場を読めたり、知識が豊富だったり、光線が撃てる―――があるだけの、ただの子供だ。

 

 彼は―――ドーマンは、そんなお荷物な子供を五人も、忙しなく介護しながら降りてきたのか…?今更ではあるがその事実に戦慄する。

 そうだ。そもそもがおかしい。なぜドーマンはこんなにもボクたちを助けてくれるんだ?ボクたちはドーマンに、何も返せてなどいないというのに。

 

 ……ボクはなぜ、今更になって、こんな当たり前の事に気づいたんだ?なぜ今まで、こんな当たり前の事に気が付かなかったんだ?こんな単純な事、気付く事の出来るタイミングはいくらでもあったはずだ。例えば……例えば?

 

 いつだ(・・・)

 

 

(まずい…。何かが、まずい…)

 

 

 これ以上は考えてはいけない。僕が踏み込んでいい領域じゃない。誰か、誰か別の人、そう、リコに…

 ああダメだ。ドーマンと約束してしまった。外で起こったことを、他の誰にも話さないと約束してしまった!

 

 

「どうすればいい……ボクは…」

 

 

 皆で一緒に考えたいという想いと、約束を破ってはならないという理性が頭の中でせめぎあってぐちゃぐちゃだ。

 ボクは暫くここに立ち尽くして、それで考え付いた。

 

 ボクは―――

 

 

 



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忘れもしませぬ。あれは拙僧が“村”の守護神だったころ・・・67

ヤバイ…!この小説、深界六層&成れ果て村編だけで三十話近く使ってるぞ…!


 

 

 

 リコはあの商店街で品物を物色していたから、少し歩き回ればすぐに見つかった。

 考えは上手く纏まらず、頭の中で紐のように絡まりあったままだ。でも、ちゃんとした言葉に整える余裕はない。ボクの考え―――考え過ぎであって欲しいが―――が正しければ、ドーマンが眠っているこの瞬間以外にチャンスはない。夜でもいいんだがドーマンはいつも……―――ドーマンはいつ眠っている?また謎が一つ増えた。

 

 

(あ…)

 

 

 思考の、記憶の隅々にヒビが入っていく。美しい冒険の日々に影が差していく。思わず胃の中の物を吐き出したい衝動に駆られるが、ダメだ。それも含めて伝えなければ…

 伝えるべき事が多すぎる。でも全部を正確に伝えることはできない。今までの人生の中でこれ程頭を働かせた事があっただろうか。ワズキャンのあの言葉、ファプタの教えてくれた“村”の成り立ち。なるほど。無駄な事なんて一つもない。全部が線で繋がっていく感覚がする。

 

 

「……度し難い。度し難いな」

 

 

 リコはやはり楽しそうに笑っている。無造作に並べられている旧式探窟家装備の山の中から遺物を掘り出して、その機構の複雑さに目を輝かせている。

 

 

「リコ」

 

 

「……うん?あ、レグ!見て見て!この遺物すっごいんだよ!ほらここ―――」

 

 

「リコ!今はそれどころじゃないんだ!」

 

 

「……え?」

 

 

 ボクができるのは、リコたちにドーマンという存在を考え直してもらう事。それだけだ。それ以上(・・)の事をしてしまえば、きっとすぐ消される(・・・・)

 

 

「リコ。考えてみてくれ―――」

 

「ドーマンが最後に眠ったのはいつだ?」

 

 

「えーっとね……うーん?いつだったっけ」

 

 

「そうだ。いくらドーマンが強いといっても流石におか―――」

 

 

 

 

「でも、別にねぇ?」

 

 

 

 

「―――は?」

 

 

 知りうる限りでただの一度も眠ってない人間。そんな人間がいるものか。そんなボクの不審を、リコは一蹴した。

 

 

「だってドーマンだし……そんな驚くことかなぁ」

 

 

「そ、そ、そんなこと、だっておかしいだろう!?ドーマンは『奈落のの至宝(オーバード)』でもなんでもないただの人間で、それなのに眠らないなんて!」

 

 

「う〜ん。私はてっきりオンミョージュツでどうにかしてるんだと思ってたんだけどさ」

 

 

 ちがう。ちがうちがうちがう!何故だ!何故リコはこうもドーマンを疑わないんだ!?考えたくも無い予感が頭をよぎる。まさかリコは既に、ドーマンに―――

 

 

「―――すまない。ボクの勘違いかもしれない」

 

 

「え?うん。そりゃいいけどさ…」

 

 

 結局、ボクはリコを説得できなかった。あの状態のリコをどうにかできるとは思えなかったんだ。何も、思い浮かばない。

 自分の無力さに絶望する。ボクは皆の洗脳を解くこともできないし、思い出させる(・・・・・・)こともできない。ドーマンと……ドーマンと戦うのなんてもっての外だ(・・・・・・)

 意気地無しと罵ってもらっても構わない。

 

 頼む。誰か教えてくれ。ボクはどうすれば良いんだ?

 

 

 

 

 宿に帰る事もできず“村”を歩いていると、気付けば見晴らしの良い場所にいた。思考は酷く絡まったままで、そのまま行動していたからこうなったのだろうか。

 

 縁に寄り掛かって景色を眺める。眺めたからといって現状が良くなるわけでは無いが、何かに逃げないとこの恐怖に耐えられない。

 

 今の自分は、本当に自分なのか?ボクは本当にボクなのか?このボクは、ドーマンにとって都合のいいように作り変えられたボクなのではないか?そしてそれは、ボクだけではなく皆も―――そう考えると、心細くて、不安で、悲しくて仕方無いんだ。

 

 

「もしかしたら、おかしいのはボクの方かもしれないな…」

 

 

 機械の体に、人間の心。そんなモノ遺物であっても存在してはならないのかもしれない。この悩みも、もしかして、ボクが本当に人間だったら持ち得なかった悩みなのかもしれない。

 分からない事ばかりだ。嫌になるなぁ。

 

 こんな風に悩んでいる自分を、何だかバカらしく思って、つい笑いが漏れてしまう。

 

 

「おやぁ?キミはリコちゃんの所の……レグ君!どうしたんだい?」

 

 

「ん……ああ、ワズキャンか」

 

 

 “村”が夕焼けに照らされた頃、不意に声をかけられた。隣を見てみれば誰あろう、村長のワズキャンだった。

 ワズキャンがボクの横に立つと、何だろう、何か甘い匂いがする。つられて彼の手元―――蔓のようにウネウネとしている、手?腕?―――を見てみれば、湯気の立ち上るコップが二つあった。

 

 

「ああこれかい?お茶だよ。飲む?」

 

 

「い、いや、悪いが遠慮させてもらう…」

 

 

「えぇ……あ、これは僕が淹れた物じゃないよ?ベラフに淹れてもらったんだ。花の蜜入りの特製ブレンドさ。まー飲みなよ。気持ちが落ち着くよ?」

 

 

 言われるままに手に取ってみればやはり温かい。彼の言う通り、本当に淹れたばかりのようだ。何か謎の成分が空気中に溶け出している訳では無さそうで安心した。

 

 

「ありがたい……だがワズキャン、どうしてボクにお茶を?」

 

 

「散歩してたらたまたま見かけてね。家も近いしせっかくだからと思って持ってきたんだけど……迷惑だったかな?」

 

 

「い、いやいや!そんな事は無い!」

 

 

「そう?なら良かったー!……それで?レグ君。君はいったい何をそんなに悩んでたんだい?」

 

 

「……いや。悪いがそれは話せないんだ…」

 

 

「む。なら当ててみようか。うーん……ドーマン君の事だったり?」

 

 

「…」

 

 

「図星かな?まぁドーマン君胡散臭いもんねー!彼への悩みの一つや二つ、あったって何もおかしくないさ」

 

「でもねレグ君。悩みや疑問をいつまでも抱えておくことはできないんだ。キミ(ヒト)キミ(ヒト)である限り、いつか必ず清算しなければならない時が来る…」

 

「…その時に悲しくならないように、どうにかできそうな悩みは早いうちから消しといた方がいいんじゃないかな?」

 

 

「……だが、ワズキャンはこの村の長だろう。これはボクたちの問題だ。だからボクたち自身で―――」

 

 

「解決しなきゃいけない、か。なるほどねぇ。それならやっぱり問題ないね!」

 

 

「……え?」

 

 

「あれ?ドーマン君から聞いてないのかい?僕たち“村”の住民は既に、リコちゃんの探掘隊の指揮下にあるんだ。つまり村長である僕よりも君たちの方が立場が上…」

 

「…だから君が悩む必要は無いんだ。君が悩みを解消するために僕らを利用する事は、別に悪い事じゃないんだよ」

 

「さあ、レグ君。君の『願い』は何だい?君はいったい、僕たちに何をしてほしいのかな?」

 

 

 ボクはやっと、この一連の出来事に終止符を打つだけの資格を得た。

 今、ボクは新たな協力者を得ようとしている。ワズキャンが手を差し伸べる。

 

 仮面の向こう側でにこやかな笑顔を浮かべているような気さえした。

 考える時間は終わった。後は行動を起こすだけだ。

 

 

「―――ボクは…」

 

 

「…ボクはドーマンに聞きたいんだ。何でボクたちを欺いていたのかを」

 

 

 ボクは彼の手を取った。

 ああ。何かが捻じ曲がる音がする。本当に、本当にこれは正しい事なのだろうか?

 

 

 




まったまたまた失踪します。


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忘れもしませぬ。あれは拙僧が“村”の守護神だったころ・・・68

やっと書けたー _( _´ω`)_


 全身が鉛のように重く、暗い感覚に包まれており、それが心地よくてうっとりとしておりました。有体に言えば拙僧、現在すやすやと眠っているのです。

 ですがその安寧も長くは続きませんでした。なにやら外が騒がしいようで、先ほどから絶え間なく爆発音が…

 

 ンンン爆発音ンン!?

 

 

「なぁッ……は!?」

 

 

 慌てて飛び起き窓の外から村の様子を確認しますと、住人たちが各々の武器を持って広間の方へと向かっていくのが見えまする。

 何が起こっているのかサッパリ分かりませんので、式神を用いて爆発音の聞こえた方へ式神を飛ばし、確認してみますと、“村”の外壁に巨大な大穴が開いておりました。

 そして、その穴の傍らには、右腕から蒸気を燻らせておられるレグ殿とワズキャン殿がおられます。

 

 

「は、はハ、ハハハハハ!何ですかコレは!!何なのです!ああ…」

 

 

 何故です。何故にレグ殿がこのような事を?拙僧の記憶操作は完璧だったハズ。だというのに何故、ワズキャンなんぞの甘言に惑わされておるのですか…

 ともあれ、この状況をどうにかしなければなりませぬ。このままでは空いた大穴から深界生物どもが侵入してきて、全員まとめてお陀仏ですぞ!?

 ああッ何故だ。何故、何故、ナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼェェェェェェッッッ!!!

 

 

 

「ワズキャンンンンン!!!貴様ァァ!!!リコ殿らに毒を盛ろうとするに飽き足らず、レグ殿にまで手を掛けるかァァッ!!」

 

 

 

ンンン然らばッ!予定を前倒ししまして儀式を執り行いましょう。我が神術魔術の粋を見よ。この身は現世最強の陰陽師の物なるぞ!」

 

 

 窓から飛び降り、レグ殿がおられる方へと駆けてゆきます。陰陽術を使用すれば一瞬ですが、今は瞬間移動を行うための魔力さえ惜しい。多少時間はかかりますがこちらの方が都合が良いのです。移動している最中の詠唱も、概念礼装の換装も忘れませぬぞ。今回ばかりは拙僧も覚悟を決めねばなりませぬので。

 

 

 なぜ拙僧がこれほどまでに慌てているのかと言えば、魔術工房が未だ完成していないからなのです。本来であれば一月ほどかけて作成する拙僧の陣地、魔術工房。何分生物の中に作るのは初めてのことでしたから慎重に慎重に……とゆっくり作業をしていたのが命取りになってしまいました。

 そも、アルターエゴである拙僧に限らず、魔術師という存在は工房の中にあってこそ真価を発揮するのです。自身の工房の中であれば大抵の事が可能でありますれば、儀式の成功のためにはやはり必須。ですので、ええ。

 今からパパっと完成させまする。

 

 言うまでもなく、走りながら陣を描くのは至難の業です。特に、このやり方では“村”を痛めつける事になりますので、拙僧も精算の対象に選ばれてしまうのですよ。そのために痛みの出ない方法で術を刻み込んでいたのですがねェ…

 うねうねと拙僧ににじり寄ってくる黒い粘液を、退散の呪術で追い払っておりますが、煩わしいものです。

 

 

「ええい鬱陶しい!拙僧に構う程ヒマがあるのなら外敵を駆除しに行った方が宜しいのでは!?」

 

 

 ぶつくさと文句を垂れながらも描いておりますと、そこでようやく気付くことになります。未だ未完とはいえども自身の工房に魔力を、感覚を通わせていたからこそ感じる、この重圧、この恨み、そして何より、濃密なりし殺意。

 

 

「―――それは……不味い、ですなぁ」

 

 

 姫が帰還なさいました。

 

 

 




_( _´ω`)_ < いつも感想ありがとうございます。によによしながら読んでます。


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