死の支配者と不死身の爬虫類 (Shiharu)
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邂逅
今、この瞬間。一匹と一人の死を超越せし不死者たちが邂逅した。
一匹は巨大な怪獣だ。爬虫類のような見た目をしており、その大きさや風貌から竜に見紛うほどの威厳を、威圧感を発している。
獣が元来持ち合わせている自分の体を守る硬い肉の鎧。それに覆い被さる甲皮の重装甲。鉤爪や牙など鋭く大きな凶器などを彼は兼ね備えていた。彼の持つ武器は、明らかに生物学的なロジックを完全に無視している。理に適っていない──しかしながら確かにそこに存在するものだ。
破壊を、殺戮を、破滅を。それらを体現するには充分すぎる道具であると。もしかすると、彼こそそれらの象徴──否、そのものなのかもしれない。
そんな彼の瞳には、マグマのように煮えたぎるような怒りや、粘り着くようなドロドロとした憎悪、悪意といった負の感情が籠っていた。空気が重く、澱んでしまっているのではなかろうかという程に強い強い感情が感じられる。それらはこの世に存在するもの全てに向けられていた。それ故に、この世界は闇に包まれているのではないかと錯覚してしまう。
しかしそれが真ではないと、暗がりを照らす夜の星々の輝きが、欠けたる月が光を反射し確かに伝えてくれる。こうも世界が暗く静かなのは今が夜だからだそうだ。
そして、もう一人。骸の見た目を持つ支配者が対峙していた。
爬虫類にすれば大きさは全然小さく、今更髑髏なんてちっぽけな存在に見えてくる。それに、強さや気配といったものは全く感じられない。この世のものとは思えない程高価な装飾品の数々も、足元から立ち込める光を反転したような漆黒の禍々しいオーラも、それを着飾る存在が小さい故に見掛け倒しにしか見えない。
────だが、彼もまた爬虫類に負けず劣らずの化け物だった。
内に秘めたる魔力と呼ばれる強大な力。爛々と輝く赤黒い眼光。死体とは思えない潔白で丈夫な骨。曝け出されているダークな雰囲気は、彼を魔王と称するには充分なのではなかろうか。それに相応しい威厳や威圧感も、目の前にいる破壊の化身と同等以上に発しているように思える。
無論、彼の装備している物は単に豪華なだけではない。左手の薬指意外にはめられた九つの指輪。ブーツやローブ、ネックレス、サークレット。胸元の開けられたローブから見える、腹部に収まるどす黒い真紅の球体。それら全ては様々な効果を持っており、この骸骨に多大なる恩恵を齎していた。
両者とも、ただの不死者というわけではない。
人智を超越した、この世ならざる異形の怪物。
粛々とした時間が流れる。そうして二者が睨み合っていると、まず初めに口を開いたのはドラゴンの方だった。
「……己の一切を隠す臆病者が。一体何の用だ? この状況は貴様が作り出したのか」
低く、のっそりとした声。それは長い長い眠りから目覚めた伝説上の存在が、その際に上げる唸り声のようだった。
それに対して、骸骨の魔法使いは少しの間熟考した後に質問の答えを返す。
「……いや、違うな。ここは私も知らない地だ。成る程、お互いの境遇は似ている様だ。どうだろう、ここは一つきょ────」
「────屑が」
「何?」
骸骨は怪獣と友好的に事を進めようとしていたらしい。彼の声は低いものではあったが、敵意は籠っていなかった。
しかし、彼の言葉を遮る形で返ってきたのは罵倒であった。怪獣の言葉は続く。
「見るに耐えぬ腐った屍が。貴様は私が初めに言った言葉を理解していなかったのか? 万が一にでも私が貴様を手伝うとして、己の素性を幾らでも偽れる者を信用出来るものか」
骸骨の魔法使い──名をアインズ・ウール・ゴウンという──は、その言を受けて不思議に思った。
自分は確かに情報対策の一つとして、探知系に対する完全耐性を外付けの能力で所持している。加えて誰かがこちらの情報を調べようとした際には逆探知も発動するようになっているのだが、これらの能力が発動した気配はなかった。
まさか、アインズでも気が付けないほどの探知能力を相手は持っているのだろうか。だとしたら警戒する必要があるな、などと思考を巡らせつつ次に取るべき行動を考える。
目の前からメキメキと、肉や骨が軋む音が聞こえてくる。見れば、蜥蜴の体が変化しているようだった。
骸骨は不思議そうにその様子を眺めていると再び、蜥蜴の方から言葉が放たれた。
「貴様の空っぽの頭でも分かるように教えてやろう」
やはり罵倒が入っている。
何か気に触るようなことをしただろうか。それともこれが彼の元来持ち合わせている性格なのか。全く身に覚えがないため、後者である可能性の方が高そうである。
語りかけてくる蜥蜴の方をよく見ると、彼の瞳に宿る怒りや憎悪が増した気がした。アインズが元いた世界に存在する彼らとは違って、なんだか表情が読み取りやすい気がする。それ程までに彼の感情が強いという証だろう。そして、当然ながらその瞳は髑髏を捉えており──。
「ここに存在出来るのは、たった一つだけだ」
────瞬間。空気が、大地が震撼した。
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