ありふれていない神祇省総司令はハッピーエンドを迎えたい (クラウディ)
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原作開始前
プロローグ


 唐突だが、「ありふれた職業で世界最強」という物語を知っているだろうか?

 

 「ありふれた職業で世界最強」という作品は、平凡な高校生だった主人公「南雲ハジメ」が、クラスメイト達と共に異世界「トータス」に召喚され、様々な仲間と出会い、立ちはだかる強敵を倒し、遂には異世界を支配していた神をも倒して、異世界を救うという昨今の創作ではありふれた物語だ。

 

 しかし、それは本来の流れであって、別の可能性ともいえる「並行世界」では結果が違う。

 

 もしかしたら、主人公が神を倒せずに終わるかもしれない。

 もしかしたら、出会うべき人物と出会えないかもしれない。

 もしかしたら、そもそも主人公の性別が違うかもしれない。

 

 等々、様々な可能性があり得るだろう。

 そして、この物語の主人公は「南雲ハジメ」ではなく、とある男の「欠片」である。

 

「…………♪」

 

 街中を鼻歌交じりに歩く男。

 彼こそが、この物語の中心人物となる人物だ。

 彼は()()()()では、『最強』と呼ばれるほどの実力を持っていた。

 

「真君! こっちこっち!」

「……ん」

「真さん! 早く行きましょう!」

「マー君! 早く来なよ!」

「こっちじゃご主人」

「分かった。今行くよ」

 

 そんな彼は、仲間の呼ぶ声に応えて駆けだす。

 やがて並び立つように彼らは歩き出した。

 

 彼の仲間たちはみんな笑顔を浮かべている。

 誰もが幸せそうに見える光景。

 だが、そこにいる者達は知らない。

 彼らがこれから向かう先に待ち受ける困難の数々を。

 

 この物語は、規格外の力を持つ男が、本来起こりうるであろう悲劇を変えるために、奔走するという物語である。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

1:名無しのスレ主

さて、どうしたものか?

 

2:名無しの転生者

>>1 何があったよ

 

3:名無しの転生者

とりあえず経緯はよ

 

4:名無しの転生者

>>3 せやな

 

5:名無しのスレ主

それもそうだね

ちょっと整理してくるよ

 

6:名無しの転生者

はーい

 

7:名無しの転生者

いってらっしゃい

 

8:名無しの転生者

それにしても、今回はどんな新人が来たんだろうな?

 

9:名無しの転生者

さぁ?

聞いてみなきゃわからないだろ

 

10:名無しの転生者

まあそうなんだけどさ

 

11:名無しの転生者

なんか不安しかない

 

12:名無しの転生者

それ

 

13:名無しの転生者

俺らの時もこんな感じだったし

 

14:名無しの転生者

ああいうのに限ってチート持ってたりするんだよ

 

15:名無しの転生者

>>14 あるある

 

16:名無しの転生者

>>15 あるある

 

17:名無しの転生者

>>15 よくあること

 

18:名無しのスレ主

戻ってきたよ

 

19:名無しの転生者

おかえり

 

20:名無しの転生者

お疲れさん

 

21:名無しの転生者

それで?

 

22:名無しの転生者

新人ちゃんのスペックはよ

 

23:名無しのスレ主

スペックかぁ……

う~ん……基本的なことは何でもできるかな?

 

24:名無しの転生者

基本的なことってなんだ?

 

25:名無しの転生者

料理とか洗濯とか掃除とかそういうのだろ

 

26:名無しの転生者

あとは魔法関係?

 

27:名無しの転生者

戦闘関連は?

 

28:名無しのスレ主

全部かな?

 

29:名無しの転生者

おぉう……チートだな……

 

30:名無しの転生者

…………

 

31:名無しの転生者

なんでそんな奴がいるのか疑問に思うレベル

 

32:名無しの転生者

確かにそれは気になる

 

33:名無しの転生者

でも、神様からもらったんだろ?

なら普通じゃね?

 

34:名無しの転生者

ま、そうだよな

 

35:名無しのスレ主

ん?

神様?

 

36:名無しの転生者

どうしたスレ主?

 

37:名無しの転生者

何かあったのか?

 

38:名無しのスレ主

いや、なんでもない

ただの思いつきだから気にしないでくれ

 

39:名無しの転生者

そう言われると逆に気になる

 

40:名無しの転生者

>>39の言う通りだな

結構気になるぞ

 

41:名無しのスレ主

えっと、話した方がいい?

 

42:名無しの転生者

おう

 

43:名無しの転生者

話してくれないと、俺達も何を助言したらいいのか分からないからな

 

44:名無しの転生者

とりあえず、どんなことでもいいから言ってみてくれ

 

45:名無しのスレ主

よし、わかった

 

46:名無しの転生者

おっしゃ!

 

47:名無しの転生者

はよはよ!

 

48:名無しのスレ主

実は、神様らしき存在と会ってないんだよね

 

49:名無しの転生者

……うん?

 

50:名無しの転生者

( ゚д゚)

 

51:名無しの転生者

どういうことだってばよ?

 

52:名無しの転生者

いや、待て

 

53:名無しの転生者

つまり、神様っぽい人には会ったけど神様ではない?

 

54:名無しの転生者

あぁー……それなら納得はできる

もし会ってなくても非神様転生者ということで理解はできるな

 

55:名無しの転生者

いや、そういうわけでもなさそうなんだよ

 

56:名無しの転生者

違うのか

 

57:名無しの転生者

じゃあ一体何があった?

 

58:名無しの転生者

それがさぁ……

スレ主って、神様らしき人物には会ってないんだろ?

神様でも、それっぽい人物にも

 

59:名無しのスレ主

うん、そうだけど?

 

60:名無しの転生者

……おろ?

 

61:名無しの転生者

なんか雲行きが怪しくなってきたな……

 

62:名無しの転生者

スレ主さん、本当に誰にも会ってないんですか?

 

63:名無しのスレ主

いや、何かした覚えはないんだけどね?

強いて言うなら、過労で寝落ちしたくらいかな?

 

64:名無しの転生者

 

65:名無しの転生者

 

66:名無しの転生者

 

67:名無しの転生者

 

68:名無しの転生者

 

69:名無しの転生者

 

70:名無しの転生者

 

71:名無しの転生者

まさか……

 

72:名無しの転生者

……俺の予想が正しければ、スレ主って死んでないっぽいな

そして、能力は自前で持ってると……

 

73:名無しの転生者

えっ!?

 

74:名無しのスレ主

>>72 多分あってると思うよ

能力はこの世界に来る前から自前で持ってるし、過労死程度で死ぬわけないだろうし

 

75:名無しの転生者

 

76:名無しの転生者

 

77:名無しの転生者

はぁあああっ!!!???

 

78:名無しの転生者

ちょ、ま、はいっ!!!???

 

79:名無しの転生者

落ち着けぇ!!!???

 

80:名無しの転生者

いやまて!!!

まだそうと決まったわけではないぞ!!!

 

81:名無しの転生者

そ、そうだな! まだわからないもんな!

 

82:名無しのスレ主

なんか、ごめん……

 

83:名無しの転生者

い、いえ! スレ主のせいじゃねぇから!

 

84:名無しの転生者

むしろ謝らないといけないのはこっちだよ!

 

85:名無しの転生者

そういえば、なんでこのスレを立てたんだ?

 

86:名無しのスレ主

う~ん……

僕が別世界にいる理由については話した方がいいかな?

 

87:名無しの転生者

まぁ、話した方がいいな

 

88:名無しの転生者

スレ主の言う通り、知っておいた方が良さそうな情報だな

 

89:名無しのスレ主

わかった

 

90:名無しの転生者

おう!

 

91:名無しの転生者

それで、どうやって転生したんだ?

 

92:名無しのスレ主

う~ん……

じゃあまず、君達は『星』に意思があると思うかい?

 

93:名無しの転生者

…………

 

94:名無しの転生者

えっと、いきなりどうした?

 

95:名無しの転生者

いやいやいや! 流石にそれはないでしょ!

 

96:名無しの転生者

いや、型月を知ってる身からすれば、星に意思があるといううのはあながち否定できない事だぞ

 

97:名無しの転生者

まじかよ

 

98:名無しの転生者

……マジっぽいな

 

99:名無しの転生者

というか、その質問の意図は何なんだ?

 

100:名無しのスレ主

キリ番げっつ!

えっとね、僕がその星の意思の代行者だからだよ

 

101:名無しの転生者

はい?

 

102:名無しの転生者

はいぃ!?

 

103:名無しの転生者

ちょ! どういうことだってばよ!!??

 

104:名無しの転生者

意味わかんねぇ!?

 

105:名無しの転生者

えっと、つまり何?

 

106:名無しの転生者

いやいやいや! そんな簡単に信じられるか!!

 

107:名無しの転生者

その星の代行者って、何をするんだ?

 

108:名無しのスレ主

星の代行者とは、星の外敵となりうる存在(宇宙人とか)を排除する仕事かな

 

109:名無しの転生者

いやいや!

 

110:名無しの転生者

星の外の敵を排除してるならなんでこんなところにいるんだよ!

 

111:名無しのスレ主

それなんだけど……

実は僕って、別世界に飛ばされるんだよね

星の意思が僕に経験を積ませるために、別世界で戦いを経験し、その経験を持ち帰るんだ

そうすることで、星の武器たる僕が強くなり、万が一の侵略を防げる……らしい

星が言うにはそうらしいんだけど

 

112:名無しの転生者

いやいやいや! それで納得できるわけないじゃん!

 

113:名無しの転生者

そうだよ! ちゃんと説明してくれ!

 

114:名無しの転生者

俺達も協力するぞ!

 

115:名無しの転生者

せめて、スレ主がいる世界のこととか教えて!

そしたら、何か力になれるかもしれないし!

あと、星の武器ってなに!?

 

116:名無しのスレ主

分かった

じゃあ説明するね

 

117:名無しの転生者

よし!

 

118:名無しの転生者

待ってました!

 

119:名無しの転生者

お願いします!

 

120:名無しのスレ主

まず、今僕がいる世界は分からない

むしろ、この転生者掲示板? というものを使ってみればわかるかな? そう思って、開いたんだけどね

 

121:名無しの転生者

えっと、それはどういうことですか?

そこがどこなのかわからないんですか?

 

122:名無しのスレ主

うん

情報がなさすぎるというか、異世界とかじゃなくて普通の現代日本過ぎてね

こんなに平和だったら、何が起きるか分からなくて混乱してたんだよ

今まで、僕が飛ばされた世界は、ことごとく魔法や超能力があったからね

そういうのがないのは新鮮だけど、逆に不安になる

 

123:名無しの転生者

確かに……星の意思とかいうやべぇやつがなんもなさそうな現代に飛ばしたのは怖いな

 

124:名無しの転生者

まぁ、普通に考えて異世界じゃないだろうけどさ

 

125:名無しの転生者

だよね

だって、なんか変な感じするもんな

それにしても、平和な世界に転移できたんだったらよかったじゃん

その世界で生きていこうぜ!

こっちの世界よりは安全だと思うし!

 

126:名無しのスレ主

そうだね……

不安は残るけど、しばらくは情報収集に勤しもうと思うよ

それじゃ、母さんにも呼ばれたし、そろそろ向かわないと

 

127:名無しの転生者

向かうって、何をしに行くんだ?

 

128:名無しのスレ主

流石に僕もそろそろ部活に入らないといけないからね

それで、近くにある道場に行ってくるつもりなんだ

 

129:名無しの転生者

へぇ~道場に行くのか

 

130:名無しの転生者

学生物ではテンプレだな

 

131:名無しの転生者

剣道部に入るのかね?

 

132:名無しのスレ主

うーんどうしよう

とりあえずは見学だけするつもりだよ

あんまり強くない方がいいかもだし

 

133:名無しの転生者

ちなみに、その道場は何て名前だ?

 

134:名無しのスレ主

確か……()()()道場だったかな?

 

135:名無しの転生者

……はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、異世界からやって来た一人の男は、悲劇を変えるための旅路へと歩み始める。

 

 果たして、彼はどんな未来を辿るのか?

 それはまだ誰にも分からない……。



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この世界のことを知ろう

1:名無しのスレ主

え~

このスレは、名無しのスレ主こと僕が、未来に起こりうるであろう悲劇を変えるために頑張ろうというスレです

ちなみに、現在、僕がいる世界は「ありふれた職業で世界最強」という世界だそうです

僕の事情については、過去スレをどうぞ

 

2:名無しの転生者

スレ立て乙~

 

3:名無しの転生者

おつかれ

 

4:名無しの転生者

>>スレ立て乙

 

5:名無しの転生者

前回のスレって埋まっちゃったもんな……

 

6:名無しの転生者

それも爆速でな

 

7:名無しの転生者

あぁ~

 

8:名無しの転生者

そりゃ、あんな爆弾発言があったら埋まるわ

 

9:名無しの転生者

俺は前回スレにいたけど、あれはマジでやばかった

 

10:名無しの転生者

まさかのありふれ世界への転生とはな……

 

11:名無しの転生者

他の人があの世界に転生したってスレを見たことあったけど、主人公の代わりに頑張って心が荒んでたよね……

 

12:名無しの転生者

ハッピーエンドは迎えられたけど、相当消耗してたよな

 

13:名無しの転生者

近況報告で生きてるのは分かってるけど、それでもあれはやばかった

 

14:名無しの転生者

話がずれてるぞ~

 

15:名無しの転生者

ここはスレ主の話を聞くところだろ?

 

16:名無しの転生者

それもそうだ

 

17:名無しの転生者

というか、今回も爆弾発言を投下していくんだなw

 

18:名無しのスレ主

まぁね。今回は結構重要だから

 

19:名無しの転生者

そうだな

 

20:名無しの転生者

それじゃあ聞かせてもらおうじゃないか

 

21:名無しの転生者

前回の爆弾発言を超えるのか!?

 

22:名無しの転生者

期待

 

23:名無しの転生者

wktk

 

24:名無しのスレ主

そんなに期待されてもなぁ……

まぁ、皆に言われた八重樫雫ちゃんには接触できたよ

 

25:名無しの転生者

おっ!

 

26:名無しの転生者

やったぜ!

 

27:名無しの転生者

おめでとう!

 

28:名無しの転生者

はえーよwwwww

 

29:名無しの転生者

それでどんな感じだった?

 

30:名無しのスレ主

特に可もなく不可もないファーストコンタクトだったよ

 

31:名無しの転生者

そうなのか?

 

32:名無しの転生者

それは残念

 

33:名無しの転生者

俺としてはもっと積極的にアプローチかけて欲しかった

 

34:名無しの転生者

初対面でぐいぐい行って悪印象を持たれるよりかはいいだろ

 

35:名無しの転生者

まぁな

 

36:名無しのスレ主

う~ん、どうだろうねぇ

 

37:名無しの転生者

なんか引っかかるところでもあるのかスレ主?

 

38:名無しの転生者

気になる言い方をするじゃないですか

 

39:名無しの転生者

話してくれ

 

40:名無しのスレ主

別に話すほどのことではないんだけどさ

彼女からは、普通に同門の人に対する態度を取られただけなんだよね

 

41:名無しの転生者

う~ん……

スレ主が言うには、まだ出会って一か月も経ってないだろうから、その対応は当然なんだけど……

 

42:名無しの転生者

原作を知っている身からしたら、問題を抱え込んでいるのがまずいんだよなぁ……

 

43:名無しの転生者

原作ではヒロインの一人だからな

 

44:名無しの転生者

もう一人いたっけ?

 

45:名無しの転生者

ほら、幼馴染みの女の子がいたじゃん

あの子がメインヒロインと言う訳じゃないんだけど、ヒロインではある

 

46:名無しの転生者

(。´・ω・)ん?

すまん

ありふれたの原作と掲示板を見たことないから分からないんだが……

もしかしてありふれたは……

 

47:名無しの転生者

ハーレム作品だぞ

 

48:名無しの転生者

喜べ童貞

男の夢であるハーレムだぞ

 

49:名無しの転生者

どどどどどど童貞ちゃうし!?

 

50:名無しの転生者

はい嘘乙

 

51:名無しの転生者

反応でバレバレなんだよなぁ……

 

52:名無しの転生者

それはさておき、マジでどうするんだ?

 

53:名無しのスレ主

どう……とは?

 

54:名無しの転生者

このままだと南雲ハジメくんは確実に死亡エンドを迎えるだろうね

 

55:名無しの転生者

そもそも原作通りに進んでいるのかが問題だよ

 

56:名無しの転生者

それな

 

57:名無しのスレ主

そこまで深刻なのか……

 

58:名無しの転生者

ああ

ありふれは相当厳しい世界として有名だ

 

59:名無しの転生者

まず、転生者というものは厄介ごとに巻き込まれるのが大半だ

スレ主がそうとは限らないけどな

んで、ありふれ世界――それも地球に転生したら、碌に鍛錬もできず、異世界へ召喚されることになる

その答えは……?

 

60:名無しのスレ主

……なるほど

ただの一般人でしかない者達は生き残れる可能性が低くなってしまうのか……

 

61:名無しの転生者

そゆこと

 

62:名無しの転生者

まあそういうことだ

 

63:名無しのスレ主

ちなみに、スレ主とは別でありふれ世界に転生した人がいるんだけど……

 

64:名無しの転生者

死ぬことはなかったが、相当苦労したらしい

具体的にはどてっぱらぶち抜かれるは、腕を切り落とされる等はしたらしいぞ

 

65:名無しの転生者

oh…………

 

66:名無しの転生者

そりゃ大変だったろうなぁ

 

67:名無しの転生者

それで、その人は今どうしてるの?

 

68:名無しの転生者

今は嫁さんと一緒に魔王の右腕として頑張ってるそうだ

 

69:名無しの転生者

へ~

今度見に行こうかな?

 

70:名無しの転生者

話ずれてんぞ

修正かけろ修正

 

71:名無しの転生者

おっと、すまねぇなスレ主

 

72:名無しのスレ主

ありがとう

 

73:名無しの転生者

で、結局どうすんの?

 

74:名無しの転生者

うーむ……

できれば、今のうちにメンアルケアをしておいた方がいいんだが……

 

75:名無しの転生者

取り敢えず、彼女とは話をしたのか?

 

76:名無しのスレ主

話はしたよ

なにが好きとか、日常会話程度で、流石に深いところまでは聞き出せなかったけど……

 

77:名無しの転生者

まぁ、十分なんじゃね?

 

78:名無しの転生者

俺もそう思う

 

79:名無しの転生者

よし、スレ主

これからはなるべく彼女と話すようにしろ

 

80:名無しの転生者

それがいいだろうな

 

81:名無しの転生者

……お前らよく考えてくれ

彼女の近くには、あの勇者(笑)がいるんだぞ?

そう簡単に近づけるか?

 

82:名無しの転生者

そういやそうだな……

 

83:名無しの転生者

確かにそうだ

 

84:名無しの転生者

じゃあどうやって接近すればいいんだよ

 

85:名無しの転生者

そこはあれだ

 

86:名無しの転生者

あれか!

 

87:名無しの転生者

あれってなんだ?

 

88:名無しの転生者

お前ら……

 

89:名無しのスレ主

あはは……

賑やかそうで何よりだよ

それと接触に関しては大丈夫そうだから安心してくれ

 

90:名無しの転生者

は?どういうこと?

 

91:名無しの転生者

( ゚д゚)ポカーン

 

92:名無しの転生者

えっと……どういう意味だ?

 

93:名無しのスレ主

勇者(笑)が誰かは推測でしかないけど、そんな感じの人物とはすでに接触できてるよ

そして、おそらく警戒はされていない

 

94:名無しの転生者

おお!

 

95:名無しの転生者

マジか!

 

96:名無しの転生者

勇者(笑)と既に話しただと!?

 

97:名無しのスレ主

うん

後は、雫君がどんな事情を抱えているのかについてを知りたいんだが……

 

98:名無しの転生者

おけ

俺らに任せろ

 

99:名無しの転生者

任せろ

 

100:名無しの転生者

さて、転生者掲示板の本領発揮だ!

テメェら! 気ぃ引き締めていくぞ!

 

101:名無しの転生者

おっしゃあ!

 

102:名無しの転生者

任せな!

 

103:名無しの転生者

いくぜぇ!



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目的に向かって動き始めようか

1:名無しのスレ主

このスレは、僕ことスレ主が異世界物のラノベ「ありふれた職業で世界最強」の世界に転生してしまい、これから起こるであろう悲劇を回避するために、全力を尽くそうというスレです

前スレ→【URL】

 

2:名無しの転生者

>>1乙

 

3:名無しの転生者

>>1おつかれさま~

 

4:名無しの転生者

そして始まった新たなるストーリー

 

5:名無しの転生者

とりあえず、何からやる?

 

6:名無しの転生者

そりゃ、まずは原作キャラで接点の近い「八重樫雫」からだろ

 

7:名無しの転生者

だよな

 

8:名無しの転生者

俺は賛成

 

9:名無しの転生者

俺も

 

10:名無しの転生者

異議なし

 

11:名無しの転生者

同じく

 

12:名無しの転生者

異議なし

 

13:名無しのスレ主

みんなありがとう! それじゃあ早速、八重樫雫さん救出作戦を開始するぞ!!

 

14:名無しの転生者

おおぉぉぉぉぉぉ!!!

 

15:名無しの転生者

頑張れよスレ主!

 

16:名無しの転生者

期待してるぜ!

 

17:名無しの転生者

頑張ってこいよー!

 

18:名無しの転生者

応援してるぜ!!

 

19:名無しのスレ主

おうともよ!

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

【ありふれた職業で世界最強】

今最も売れているライトノベルであり、web小説サイト『小説家になろう』にて連載されている作品でもある。

主人公は、異世界召喚された際に与えられる特殊なスキルである「天職」によって、「錬成師」と呼ばれる生産系の職業を得た平凡な高校生・南雲ハジメ。

だが、彼のクラスには他にも天職を授かった者達がいた。

その一人こそが、クラスメイトの一人である八重樫雫だったのだ。

彼女は剣道の有段者であり、全国クラスの実力者であったのだが、幼少期から同学年の女子にいじめられており、その所為か、自身が女の子らしくないということにコンプレックスを抱いていたのである。

そして今も、一人道場の裏で泣いていたのだ。

 

「うっ……ひっく……うぁ……んくっ……」

「大丈夫かい?」

「うぇっ……?」

 

そんな時、不意に現れたのが、名無しのスレ主こと柊木真。

彼は、親の紹介で八重樫道場に通いだしたので、今日も指導を受けていたのだ。

だが、休憩をしようと思った時に、道場の裏から誰かのすすり泣く声が聞こえてきたので、気になって来たのだ。

 

「えっと、確か君は八重樫さんだよね? 同じクラスの」

「ひ、柊木くん!?どうしてここに!」

 

 まさか自分と同じクラスで尚且つ、同じ道場に通う者として普段から会話をしている男子が自分の目の前に現れるとは思っていなかった雫は、驚きの声を上げる。

しかし、当の真は気にした様子も無く彼女に話しかけた。

 

「いや、別に大したことじゃないんだけどね……。ただ、君が一人で道場裏にいるのが見えたものだから、何かあったんじゃないかと思って様子を見に来ただけなんだ」

「そ、そうなの……」

 

 真の言葉を聞いた雫は少し驚いた表情を浮かべた後、すぐに俯いてしまう。

 それはそうだ。

 自分の醜いところともいえる弱みを、こうして誰かに見られてしまったのだから。

 まだ幼い彼女は、思い切って打ち明けることも難しいのだろう。

 

(どうしたものかな?)

 

 真としては、彼女がここで泣いているのを見た時から彼女の力になりたいと思っていた。

 学校にいたときから、雫は大丈夫だと周りも自分も誤魔化してきている。

 子供ながらにそういった我慢のできる精神というのは褒められたものだろう。

 

 だが、彼女にとって、それは毒だ。

 

 心の底から吐き出せないのは、溜め込む一方になってしまうからだ。

 だからこそ、こうして泣き崩れてしまっているのを見ると放っておくことなどできない。

 それに、自分がこうして来なければ、彼女はずっとこの場所で泣いていたかもしれない。

 それでは、せっかくの可愛い顔が台無しになってしまうではないか。

 そう考えた真は、まず彼女を安心させるためにも笑顔を見せることにした。

 

「八重樫さん。僕は君が何を考えているのか分からないけど、少なくとも今の君の姿を見て幻滅するようなことはしないよ?だって、君はとても可愛らしい女の子じゃないか」

「ッ!!」

「僕が初めて見た時は、キリッとした剣のような女性だと思ったけど、ほんとは違う。君は普通の女の子なんだ。だから、そんな風に自分を卑下しちゃいけないよ」

 

 そう言って、真は雫に向かって手を差し伸べる。

 

「ほら、行こう?いつまでもこんなところにいてたら、身体にも良くないよ?」

「で、でも、私なんかが……」

「いいんだ。例え、『自分なんかが』と思っていても、それは自分とそのことを知っている人だけ。まだお父さんとかには話していないんだろう?」

「……うん」

「なら、早く行ってあげないと!きっと心配しているはずだよ」

「で、でも……」

「大丈夫だよ。もし、君のことを悪く言うような奴がいたら、その時は僕の方でどうにかするからさ」

「ふぇっ?」

「守ってあげる……なんて、おこがましくて言えないけど、助けてほしいときは大きな声で呼んでくれれば、いつでも駆けつけてあげる。僕だけじゃなくて、君の家族にも助けてもらったりね?」

「あ……」

 

 真の言葉を聞いて、雫は自分の目頭が熱くなるのを感じた。

 それと同時に、今まで堪えていたものが溢れ出してくる。

 

「うぅ~!」

「おぉっと! ど、どうかしたのかい? やっぱりどこか痛むのかい?」

「違うの……、嬉しくて……」

 

 涙を流す雫を見て、真は彼女の頭の上に手をポンっと乗せる。

 

「よく頑張ったね。君は凄い子だ」

「うわあああん!」

 

 その瞬間、雫は真の胸に飛び込んで、涙を流し続けた。

 それからしばらくして、ようやく落ち着いた雫は顔を真っ赤にして謝ってきた。

 

「ご、ごめんなさい!私ったらみっともないところを!」

「別に構わないさ。むしろ、もっと甘えてもいいんだよ? 僕は誰かに頼られるのが好きなもんだからさ」

「う~、ありがとう、ございます……。あの、このことは秘密にしてもらえますか?その、恥ずかしくて……」

「もちろんさ。僕としても、誰かに言い触らすようなことはしないよ」

「本当にすいません。それと、改めてありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ」

 

 その後、二人はしばらく談笑して、お互いの連絡先を交換した。

 真としては、掲示板の住人達から言われたのもあるが、道場仲間としてこれから仲良くできればと思っていた。

 そして、雫もまた、学校ではあまり話すことのない男子と友達になれたことで、内心とても喜んでいたのだった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

【朗報】みんなが言っていた少女と友達になった【友達出来た】

 

1:神祇省総司令

とりあえず、皆が言っていた雫ちゃんと友達になれた&連絡先交換したよー

 

2:名無しの助言者

>1 マジで!?

コテハン変えたのか

 

3:名無しの助言者

>1 おめでとう!

コテハン変わっとる

 

4:名無しの助言者

>1 お前のことだから、どうせ嘘じゃないだろうが、証拠はあるのか?

 

5:神祇省総司令>4

あるよ〜

ただ、もう一個問題が発生しましてぇ……

 

6:名無しの助言者

>5 何があった?

 

7:名無しの助言者

まさか、また何かあったのか?

 

8:名無しの助言者

いや、待て。

もしかしたら、道場の方で問題があるんじゃないか?

 

9:名無しの助言者

どういうこと?

 

10:名無しの助言者

俺も詳しくは覚えていないんだが、雫ちゃんの道場にはとある勇者(笑)がいるはずなんだが……

 

11:名無しの助言者

>10 あっ……

 

12:名無しの助言者

ああ……

 

13:名無しの助言者

そういえばいたなぁ……

 

14:名無しの助言者

その人が原因なのか?

 

15:名無しの助言者

おそらく

というか、ほぼ確定なんじゃないかな?

 

16:名無しの助言者

どうしてだ?

 

17:名無しの助言者

その勇者(笑)こと天之河光輝君なんだが……はっきり言って、頭お花畑野郎だ

 

18:名無しの助言者

酷い言われようだなwwww

 

19:名無しの助言者

まあでも、確かにそんな感じするよね

 

20:名無しの助言者

うん、わかる

 

21:名無しの助言者

初めてありふれを見たとき、生理的に受け付けなくて顔をしかめながら読んでたなぁ……

 

22:名無しの助言者

俺は逆に好きだぞ

 

23:名無しの助言者

>22 あれ?

 

24:名無しの助言者

>23 お主、もしや同志か?

 

25:名無しの助言者

>24 いや、俺はただの愉悦部員だから

 

26:名無しの助言者

なんということだ……

 

27:名無しの助言者

えっと、話戻すけど、そんな人が雫ちゃんに近付いたらヤバくない?

 

28:名無しの助言者

間違いなく、雫ちゃんの身に危険が及ぶね

というか、原作では実際に被害にあってたし

 

29:名無しの助言者

あぁあれね……

あのシーン読んだとき、ホント胸糞悪くなったわ

 

30:名無しの助言者

そうだな

子供って残酷なんだな……と、改めて認識したシーンでもある

 

31:神祇省総司令

どういうことだい?

確かに光輝君は未熟どころの話ではなく、赤ん坊が才能という鎧を纏っているだけでしかない人間としてド素人な人物だとは思ってるんだけど……

 

32:名無しの助言者

ってオイwww

 

33:名無しの助言者

貶しすぎだろwww

 

34:名無しの助言者

いやまあ、間違ってはいないんだけどさ

 

35:名無しの助言者

そう考えると、雫ちゃんは強い子だよな

 

36:名無しの助言者

ほんそれ

まぁ、そのせいでオカン根性が染みついてしまったってのもあるんだけどな……

 

37:名無しの助言者

そういえば、スレ主は剣道どれだけ上手くなったの?

 

38:神祇省総司令

雫ちゃんに勝てました(ドヤァ)

 

39:名無しの助言者

>38流石才能マン

 

40:名無しの助言者

>38最強の名は伊達じゃないね

 

41:名無しの助言者

>38これでやっと互角くらいかな?

 

42:名無しの助言者

>41 むしろこの短時間でよくそこまで強くなれたものだと思うよ

 

43:名無しの助言者

>42 それは確かに思う

それでも、数週間でそこまで行くのはおかしいんだよなぁ……

 

44:名無しの助言者

まあ、俺達ですら霞むようなドチート能力搭載してて、先頭経験もセンスも抜群な完璧超人に、一般小学生が勝ててたのがすげぇんだよ

やっぱ、SAMURAIはバケモンだぜ!

 

45:名無しの助言者

日本の剣士を全部SAMURAIっていうのはやめたげてよぉ!

 

46:名無しの助言者

でも実際、雫ちゃんも相当凄いと思うんだが

 

47:名無しの助言者

そりゃまあ、一応道場の娘だしな

 

48:名無しの助言者

しかも、忍者の子孫でもある

 

49:名無しの助言者

ってか、話それてんぞ

 

50:名無しの助言者

(゚ д゚ )ハッ!

 

51:名無しの助言者

(゚ д゚ )ハッ!

 

52:名無しの助言者

(゚ д゚ )

 

53:名無しの助言者

こっちみんな

 

54:名無しの助言者

それで、スレ主

どんな問題が起こったの?

 

55:神祇省総司令

ああ、そうだね

結果を先に言うけど、とある女の子が自殺しようとしてたので止めたんだ

中村恵里って子なんだけど……知ってる人いる?

 

56:名無しの助言者

え!?

 

57:名無しの助言者

マジ!?

エリリン!?

 

58:名無しの助言者

私はそもそもありふれを知らないから聞いたことないな……

 

59:名無しの助言者

原作改変をしろとは言ったが、そこも変えるのか……

 

60:名無しの助言者

……ちょっと待って

今、中村って言わなかった?

 

61:名無しの助言者

>60言ってたな

 

62:名無しの助言者

>61誰?

 

63:名無しの助言者

>62原作の舞台である異世界「トータス」で人殺しに手を染めちゃったかわいそうな女の子です……

 

64:名無しの助言者

あー……

 

65:名無しの助言者

なるほど、理解した

後に悪人になる子が自殺しようとしてたから、止めたってか

ねぇ、大丈夫!?

悪人生かしちゃってない!?

 

66:名無しの助言者

落ち着け

彼女が完全な悪となるのは勇者(笑)に関わったからだ

ついでに言えば、自殺をしようとしたのを勇者(笑)が止めて、彼女が勇者(笑)に惚れてしまったせいでのちの惨劇が生み出されたわけであるから、スレ主が助けたのはグッジョブだ

 

67:名無しの助言者

>66その説明だとまるで勇者(笑)が悪い奴みたいじゃないかwww

 

68:名無しの助言者

>67その通りだから仕方がない

 

69:名無しの助言者

>68

 

70:名無しの助言者

>>68

 

71.名無しの助言者

あ~……呑み込めていないやつが多そうなんで、そもそもありふれの物語を説明した方がいいか?

 

71:名無しの助言者

>72よろしくお願いします

 

72:名無しの助言者

>72 おk

まず、原作は「ありふれた職業で世界最強」というラノベなんだわ

 

73:名無しの助言者

>>72それは知ってる

 

74:神祇省総司令

それはボクも知ってるかな?

 

75:名無しの助言者

んで、続き

主人公である「南雲ハジメ」を含む、とある学校の1クラス全員(その時一緒にいた教師一名も含む)が異世界「トータス」に召喚されるんだ

 

76:名無しの助言者

ほうほう

 

77:名無しの助言者

んで、その召喚された先で言われたのが、「あなた達は我らの信じる神『エヒト』様からの使徒。なので、私達とともに魔人族(召喚した国は人間族っていうところで、魔人族と敵対している)を倒してください!」というものだ

 

78:名無しの助言者

ふむふむ

 

79:名無しの助言者

そして、その召喚した国の名前は「ハイリヒ王国」と言うんだが、この国がクソ

国王とか聖教教会(ハイリヒ王国の教会)に所属している奴らは自分たちが信仰する神の言葉を疑うどころか、いきなりのことにパニックになっている生徒たちを見て、「エヒト様に選ばれておいてなぜ喜べないのか」とか思ってるような連中なんだよなぁ……

 

80:名無しの助言者

あー……

 

81:名無しの助言者

これは……うん

 

82:名無しの助言者

まあ、そんな感じで、召喚されて早々戦争に参加させられる生徒一行

 

83:名無しの助言者

ちなみに、皆は帰りたいとか思ってる中、全員が参加することになったのは、無駄にカリスマのある勇者(笑)が「僕たちは戦います!」的なこと言って全員を巻き込んだからなんだよな

 

84:名無しの助言者

なんで、そこでそういうことを言っちゃうかな……

 

85:名無しの助言者

で、クラスメイトはステータスプレート(よくあるステータスを計るやつ)を渡され、自分がどのくらいの強さなのかを知らされることに……

 

86:名無しの助言者

それで件の主人公「南雲ハジメ」君のステータスは、平凡を地で行くオール10

 

87:名無しの助言者

ちなみに、戦いを経験してない一般人のステータスが平均10だぞ?

 

88:名無しの助言者

……これ、どうやって戦うんですかねぇ?

 

89:名無しの助言者

>>88知らんよ!

 

90:名無しの助言者

とりあえず、そのあとは訓練が始まるわけだが、南雲君は地球にいたころから、オタクだなんだと言われてクラスの小悪党組にいつもいじめられたいたんだ

その理由は、小悪党組のリーダー的存在「檜山大介」が好意を抱いているクラスのマドンナ的存在「白崎香織」ちゃんがいるんだけど、そんな彼女が南雲君にいつもかまってるんだよ

それに嫉妬して、南雲君をいじめていたんだよね

 

91:名無しの助言者

ああ……

 

92:名無しの助言者

典型的なイジメっ子じゃねーか……

 

93:名無しの助言者

そして、ある日のこと

実践訓練として、迷宮(異世界風に言えばダンジョン)に赴いたクラスメイト達

その中には、もちろん南雲ハジメ君がいたんだ

 

94:名無しの助言者

そして肝心の訓練最中

檜山が出しゃばったせいで、トラップが発動

その場にいた全員が難易度の高いフロアに転移させられてしまったんだ95:名無しの助言者

そこに現れた魔物

それを前にし、恐怖で動けなくなってしまった生徒たち

一応、引率の騎士達(その中にメルド団長っていう人がいるんだけど、クソな連中しかいない王国側の人間にしては珍しく善人)が指示を出してなんとか立ち直らせることができたんだけど、現れた魔物の中でも一際強いやつがいたんだ

 

96:名無しの助言者

それを、南雲ハジメ君が自身の魔法を駆使して何とか止めるんだけど、全員が避難して、最後に南雲君が避難しようとしたんだけど……

 

97:名無しの助言者

そこに誰かの流れ弾(というかやったのは檜山)が当たって、奈落の底へ真っ逆さま

 

98:名無しの助言者

そして運良く生き残れた南雲君だけど、落ちてしまったフロアは先程まで戦っていた魔物とは比べ物にならないほど強力な魔物がうじゃうじゃいたんだ

そこで、左腕を失った南雲君は、その激痛と裏切られた復讐心によって心を変えたんだ

 

99:名無しの助言者

そして出来上がったのが、「奈落の化け物」

 

100:名無しの助言者

後のトータスにおいて、「魔王」と呼ばれる男の誕生だよ

 

101:名無しの助言者

えっ、マジで

 

102:名無しの助言者

はい、ガチです

俺もありふれを読んでた友人から聞いて知ったんですけど、その様はやばかったですよ

 

103:名無しの助言者

はぇ~……その檜山って奴、碌なことしねぇな

 

104:名無しの助言者

いじめに殺人未遂……現代日本じゃ即刻わっぱを着けられますね

 

105:名無しの助言者

でも、そんな奴にいじめられてた南雲君が、今では立派な「ラスボス」になってるんだよなぁ……

 

106:名無しの助言者

ちなみに、このスレ主は今何やってんの?

 

107:神祇省総司令

ん?

件の恵里ちゃんを介抱してるよ

相当精神状態がやばかったからね

今は雨の中で冷えていた体を毛布で暖めているかな

 

108:名無しの助言者

そっか、その子も被害者だったもんな……

 

109:名無しの助言者

さっきの話で思い出したんだけど、確かその恵里さんだっけ? はどんなふうに殺人までの道を歩んだの?

 

110:名無しの助言者

聞きたい……?

 

111:名無しの助言者

あ、うん、遠慮します……

 

112:名無しの助言者

世の中聞かない方がいいこともあるんだぜ~

 

113:神祇省総司令

それなら僕の方から聞いておくよ

報告はしないからね?その代わり、僕からの質問にも答えてくれるかい?

 

114:名無しの助言者

おk!

 

115:名無しの助言者

いいぞ!

 

116:名無しの助言者

ま、しゃーない!

 

117:名無しの助言者

んじゃ、何を聞きたい?

 

118:神祇省総司令

そうだね……実はこれも報告しなきゃいけなかったんだけど、南雲君……南雲君? と既に知り合っているんだよね

 

119:名無しの助言者

!?

 

120:名無しの助言者

……詳しく聞かせて

 

121:名無しの助言者

どういうことだってばよ!



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自殺なんて久しぶりに見たよ……

 もし、中村恵里が、もっとも強烈な最初の記憶は何かと問われたら、こう答えるだろう。

 

 

 

――お父さんが死ぬ光景、と。

 

 

 

 恵里が五歳の時だ。

 父親と二人で公園に遊びに行って、はしゃいだ恵里が不注意にも車道に飛び出てしまい、悪魔的なタイミングで突っ込んで来た自動車から恵里を庇った父親が亡くなったという、ある意味、ありふれた交通事故の結果である。

 

 だが、結末としてありふれていなかったことが一つ。

 それは、その後の母親の態度だった。

 恵里の母親は、少しいいところのお嬢様だったのだが、家の反対を押し切って父親と結婚したらしく、幼心にも恥ずかしくなるくらい父親にべったりだった。

 

 それは単に夫を愛している、というだけでなく、一歩引いて客観的に見れば、依存といってもいいレベルだったのかもしれない。

 だからこそ、元々精神的に強くはなかった恵里の母親は、最愛にして心の支柱たる夫の死に耐えられなかった。

 

 耐えられなかったが故に、その原因へと牙を剥いた。

 そう、幼い自分の娘――恵里である。

 普通なら、父親の死を目の当たりにして傷ついているはずの娘を、涙を呑みながら支えることが母親としての正しいあり方と言えるだろう。

 だが、恵里の母親は、流石に人前では控えたものの、家に帰り二人きりになると、その憎悪を何のオブラートに包むこともなく恵里へと向けた。

 

 恵里の母親にとって、娘と夫を天秤にかければ後者に傾き、娘を愛していたのも、夫の娘だからという、それだけのことだったのだ。

 

 当時、五歳の恵里は、毎日のように行われる暴力と、吐き出される罵詈雑言にひたすら耐えた。

 母親の「お前のせいで」という言葉を、五歳にしては聡明とすら言えた恵里は、納得してしまったからだ。

 自分の不注意が父親を殺した――誰よりも、そう信じていたのは、恵里自身に他ならなかった。

 

 母が大好きだった父を奪った自分を、母が怒るのは当然のこと。

 父を死なせてしまった自分が、母から心身共に痛みを与えられるのは当然の罰。

 恵里は、心の底からそう信じた。

 

 同時に、この罰が終われば、鬼のような形相の母も、昔のいつでも優しく微笑んでくれる穏やかな母に戻ってくれる、ということも信じていた。

 

 母親の虐待は巧妙で、決して恵里の体に痣などの痕跡を残すようなことはしなかった。

 恵里もまた、母の為に、そして自分への罰の為に、口外は決してしなかった。

 その為、その状態が何年も続いたが、誰かに気づかれるということはなかった。

 

 それでも子供である以上、そんな環境で常に笑顔になどなれるはずもなく、恵里は暗い雰囲気を纏う子として学校でもほとんど交友関係はなかった。

 一人で大人しく、まるで嵐が過ぎ去るのをジッと蹲って待っているようなそんな様子で、それが同年代の子達には不気味だったのだろう。

 

 

 孤独と自責と心の痛みと、母を想う気持ちと、寂しさ……恵里の心は限界に近づいていた。

 そも、そんな状態を何年も耐えていたことが、ある意味、驚異的とも言えた。

 

 そんな鬱屈した日々に変化が起きた。

 

 九歳――小学三年生の時だ。

 母親が家に知らない男性を連れて来たのだ。

 ガラが悪く、横柄な態度の大人の男。

 母親は、その男に甘ったるい猫なで声を発しながらべったりとしなだれかかっていた。

 

 恵里は信じられなかった。

 父親を心の底から愛していたからこそ、自分にあれだけの怒りと憎しみをぶつけたのではなかったのかと。

 

 その考えは間違っていない。

 だが、恵里の母親の心は、恵里が思うよりもずっと弱かったのだ。

 誰かに支えてもらわなければ、まともに生きていけないほどに。

 

 その日から、恵里の家には、その男が住むようになった。

 

 男の家での在り方は、それこそ三文小説にでも出てきそうな、典型的なクズそのものだった。

 そして、これもまた使い古されたストーリーをなぞるように、その男の恵里を見る視線は、幼い少女に向けていい類のものではなかった。

 

 体を這い回るような気持ち悪さに、恵里は今まで以上に、家の中でも息を殺すようにして過ごした。

 それでも、男の言動は徐々にエスカレートし、やがて、恵里は自分を〝僕〟と呼び、髪を乱暴なショートカットにするようになった。

 それは、〝少女と見られなければ〟という小さな恵里のささやかな自衛手段だった。

 

 学校では、ただでさえ、暗く、どこか不気味さを感じさせる恵里が、ある日突然、一人称を変えて、髪を男の子のような短いものにして来たことで、僅かにいた友達とまではいかないまでも、日常会話くらいはしていた子供達までもが離れていった。

 恵里は、いよいよ孤立していった。

 

 それでも、たとえ母が父を裏切ったように感じても、恵里は未だ信じていた。

 母が、いつか必ず昔の優しい母に戻ってくれることを。

 それが現実から目を逸らした、一種の逃避的な思考であることには気がつかない振りをして。

 

 そんな恵里の、縋り付いた藁のような希望は、本当にただの藁だったと気付かされる事件が起きた。

 遂に、男が恵里に欲望の牙を剥いたのだ。

 恵里の母が夜の仕事に出ていないときのことだった。

 

 幸い、と言っていいのか、恵里の悲鳴を聞きつけたご近所の人が警察に通報したおかげで、恵里の貞操が散らされることはなかった。

 恵里自身、いつかこんな日が来るのではないかと思っていたので、窓を開けて悲鳴が届きやすいように備えていたことも助かった理由だろう。

 

 なので、襲われたこと自体は、恵里にとってショックなことではなかった。

 むしろ、チャンスだとさえ思っていた。

 これで、母もようやく、目を覚ましてくれるはずだと。

 自分の娘を襲うような男とは縁を切って、父を思い出してくれるはずだと。

 いずれにしろ、男は警察に捕まったのだから、縁は切れる。

 これで恵里と母の生活は、少しでも改善するのだと思っていた。

 

 

 

 そう、思っていたのだ。

 

 

 

 母が、今まで以上の憎悪を向けてくるまでは。

 

 

 

 警察で事情聴取を終えて、保護されていた恵里と共に帰宅した後、真っ先に飛んできたのは、母親の張り手だった。

 そして、母親は恵里に言ったのだ。

 「あの人を誑かすなんて」と。

 

 

 

 どうやら、母親にとって、恵里が男に襲われたという事件は、男のクズさを理解するきっかけではなく、恵里が自分の男をまた奪ったという認識だったらしい。

 娘が暴行を受けたことよりも、男と引き離されたこと、男が恵里に欲望を向けたこと、その全てが気に食わなかったのだ。

 

 

 

 父を裏切った母、自分を痛めつける母、自分が襲われたことよりも男といられないことに悲しむ母……この時、恵里はようやく察した。

 否、本当は分かっていて目を逸らしていたことを直視したというべきだろう。

 

 

 

 すなわち、母は自分を愛さない。

 昔の母になど戻らない。

 昔の穏やかな姿ではなく、眼前の醜さに溢れた姿こそが、母の本性だったのだ、と。

 

 

 

 そう理解した。

 

 

 

 だから――恵里は壊れた。

 

 

 

 信じていたものは全て幻想だった。

 耐えてきたことに意味はなかった。

 そして、この先の未来にも希望はない。

 幼い恵里が壊れるには十分過ぎる要因だった。

 

 

 

 眠りというより気絶から目覚めた翌日のまだ日も登りきらない早朝、恵里は家を抜け出した。

 母が心配して探しに来てくれるかも知れない等という子供にありがちな愛情試しの為ではない。

 自分を終わらせるため――つまり、自殺するためだ。

 

 

 

 家を出たのは、何となく母の傍では死にたくなかったから。

 

 そうして、特に当てがあるでもなくふらふらと彷徨い、見つけたのは川だ。

 家から少し離れた場所にある大きな川。

 整備された河川敷は、よく子供の遊び場となっている。

 その上に架かる鉄橋の上からぼんやりと下方の流れる川を見つめていた恵里は、これまた何となくここにしようと思った。

 

 

 手すりに足をかけ、さぁ飛び降りるぞといったところで、

 

「何やってるんだ!?」

 

 見知らぬ誰かに引きずり戻された。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「大丈夫かい……?」

 

 そう言いながら、柊木真はベッドで横になっている少女に声をかける。

 すると、その声に反応したのかゆっくりと目を開ける少女が一人。

 それは、柊木が掲示板で話題に出した少女――中村恵里だった。

 彼女は目を覚ました後、まず自分の置かれている状況を理解するために辺りを見渡したのだが、すぐに理解する。

 ここは、自分が住んでいる家ではなく、見知らぬ部屋であることに……。

 そして、目の前には自分を心配してくれている一人の少年の姿があることに……

 

「……誰ですか?」

 

 しかし、それでも彼女は警戒心を解かず、睨むような視線を向ける。

 だが、それも無理のないことだと言えた。

 なぜなら、彼女にとって目の前にいる少年は自分のしようとしたことを妨害した張本人だから……

 

「ああ、ごめんね。名前を言ってなかったねそういえば。僕は柊木真。そこらの学校に通う普通の小学生だよ?」

 

 そうおどけて見せる柊木だが、恵里の視線は一向に変わらない。

 

「……嘘つき」

「ちょ!? いきなり嘘つきはひどいんじゃないかなぁ!?」

「……そんなに細いのに、あんなゴリラみたいな力で引っ張れるのが普通なわけない」

 

 そう言われてしまうと何も言えないのが悲しいところである。

 実際、恵里が自殺しようと橋の上から飛び降りようとした際、たまたまその近くにいた柊木がすぐさま彼女の体を掴み、橋の上に引きずり戻したのだ。

 その時の力があまりに強かったせいで、ゴリラと呼ばれてしまったのである。

 

 もちろん、この時柊木は能力を使っていた。

 

 『剛力・山鳴』

 

 柊木が記憶した能力の中でも最高峰のパワーを引き出せる異能。

 異能の元々の保有者は女性なのだが、その力はすさまじく、落下による加速付きとはいえ、山のように巨大な竜を地面にめり込ませるというバカげたことを成し遂げた人物だった。

 

 まぁ、これはさておき、今の言葉で少しだけ空気が変わったことに、柊木は内心ほっとしていた。

 

(どうやら、話は通じるみたいだね)

 

 もしこれで話が通じなければ、正直手詰まりであったからだ。

 起きた瞬間に錯乱でもされたら、病院へ送らなければいけなかったのだが、この様子だと大分落ち着きを取り戻している。

 ならば、話をするのは早いだろうと判断し、柊木は早速本題を切り出すことにした。

 

「ねぇ、君はどうして死にたかったんだい?」

 

 そう聞かれると、恵里の目に再び怒りの炎が宿ったのを感じた。

 当然だ。まだ幼い子供が死を望むなど、親にとっては到底受け入れられることではない。

だからこそ、恵里はこう答えた。

 

「お父さんが死んで、お母さんから殴られたから……」

「…………」

 

 思わず、押し黙ってしまう。

 父親の死……それは確かに辛い事実だ。

 お母さんから殴られた……それも辛い現実だ。

 柊木だって、この世界に来る前の幼少期には、何度もクソッタレな親戚に罵詈雑言を浴びせられ、両親はその親戚におびえているという、地獄のような環境にいた。

 だが、それでも、恵まれていたと言える。

 

 少なくとも、暴力を振るう母親はおらず、食事もきちんと三食食べられ、学校でいじめられることもなかった。

 それに比べて、恵里の場合はどうだろうか?

 まず、父親がいない。

 それによって、何かの歯止めの利かなくなったであろう母親に虐待される。

 そして、それに耐えかねて死のうとしたところで、また邪魔が入る。

 これでは、まるで神様が恵里に生きろと言っているようではないか?

 それは違う。

 そうじゃない。

 ただ単に、運が悪いだけだ。

 死にたかったのに生かされて、思い出したくもないことを掘り返される。

 

 そんなものはもう十分だ。

 これ以上苦しむ必要なんてない。

 

 いっそ、目の前の少年を振り払って、逃げ出してもう一度死んでやろうかと思った。

 次の瞬間、恵里の頭に激痛が走った。

 

「!?」

 

 何が起こったのか理解できない。

 ただ一つ分かることは、自分の頭の上に何かが落ちてきたということだけだった。

 それは……

 

「今死んでやろうとか考えたでしょ」

 

 柊木の手刀だった。

 絶妙な力加減で繰り出された手刀は、恵里に痛みだけを与えることに成功する。

 だが、それ以上に問題なのは、自分の考えを読まれたことだった。

 

「……なんで分かったの」

「勘だよ」

「そんな……そんなもので、僕の何が分かるっていうのさ!?」

 

 そう言いながら、柊木の胸ぐらをつかんで引き寄せる。

 

「僕は死にたいんだよ! なのに、それを邪魔して楽しいの!?」

「うん」

 

 だが、そんな恵里の行動に対して柊木はあっさりと肯定する。

 そのあまりのあっけなさに、恵里は逆に呆気に取られてしまった。

 そんな恵里に対し、柊木は先程のあっけらかんとした雰囲気を消し去り、真剣なまなざしで告げる。

 

「君が死ぬのは構わないよ。僕が許さないけどね」

 

 そう言って、今度は両手を使って、恵里の頭を優しく撫で始める。

 

「でも、だからと言って、僕は君の自殺を止めないわけにはいかない。君は生きるべきだと、僕の本能が言っているからね。……痛いかな? このセリフ……?」

 

 その言葉を聞き、恵里は困惑したような表情を浮かべた。

 それはそうだ。

 こんな状況になってまで人の命を優先させる人間がどこにいるというのだ。

 むしろ、自分が殺されてもおかしくないこの状況で、なぜここまで他人のことを考えられるのか、不思議でしょうがなかった。

 

「ねぇ、君はどうしたいんだい? 君のことを僕はまだ知らない。何故なら互いに情報を交換し合ってないからだ。でも、これだけは言える。君は生きていいんだ。例え、この世界が理不尽でも、それでも君は生きなければならない。なぜなら、それが運命であり、君に与えられた使命なんだから」

 

 そう言われて、恵里は改めて考える。

 自分はどうしたいのか。この世界で何をすべきなのか。

 

「……分からない」

「それでいいさ。今は分からなくても、いつかきっとわかる時が来る」

「……」

「それと、もう一つアドバイスだ」

「?」

「人は誰だって間違える生き物だ。時には自分よりも他人を優先することもあるだろう。特に、追い詰められた時にはなおのことだ。だけど、決して忘れてはいけないことがある。それは……」

 

 そこで、柊木の言葉が止まる。

 一体何があったのかと思って顔を見上げると、そこには悲しげな笑みを浮かべている柊木の姿があった。

 

「それは、一度決めたことは決して曲げてはならないという事だ。たとえ、どんなことがあろうとも……」

 

最後の方の声が小さくなり、聞き取れなかったが、何か大事なことであるということは、何となく察することができた。

 

「まぁ、とにかくだ!」

 

突然、声が大きくなったことに驚いて、思わずビクッとする。

 

「今日はもう遅いから、ここに泊まっていきなよ! もし君のお母さんが来たら僕が何とかしてあげるから! それに、お風呂にも入りたいよね? 僕の家、銭湯やってて広いんだ~♪ あと、晩御飯は何が良い? 何でも作るよ? 遠慮しないでリクエストしてね? 大丈夫! お金なんて取らないから安心してね? じゃ、そういうことでよろしく~」

 

 そう一方的にまくし立てると、柊木はどこかへ行ってしまった。

 一人残された恵里は、しばらくの間、ただ立ち尽くすしかなかった。

 柊木に言われた言葉を頭の中で反芻しながら。

 

 ……………… 翌日。

 恵里は朝早くに起きた。

 昨日の出来事のせいで疲れていたのもあったが、それ以上に柊木に借りを作りたくなかったからだ。

 あの後、柊木の母が家に帰ってきたため、恵里は急いで帰ろうとしたのだが、なぜか柊木に止められてしまい、結局一晩彼の家で世話になってしまった。

 もちろん、その間、恵里は一切喋らず、目を合わせることもしなかった。

 そして、そのまま朝食を食べ終えると、そのまま児童相談所に行き、恵里の母親を虐待の疑いで警察に御用させてもらったのだ。

 母親と会うのは正直気が進まなかったが、仕方がない。

 これ以上、柊木に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。

 柊木と過ごした時間は、恵里にとって非常に居心地の悪いものだったが、それでも彼は嫌な顔をせず、むしろ楽しそうにしていた。

 だからこそ、彼にだけはこれ以上迷惑をかけたくはなかった。

 柊木には恩がある。だが、自分には何もできない。

 ならばせめて、彼の負担を減らすぐらいしか、今の自分にできることはないだろう。

 そう思いながら、身支度を整えて玄関へ向かう。

 すると、そこにはすでに準備を終えた柊木がいた。

 

「あれ? 早いね? もう少しゆっくりしていても良いんだよ?」

「いえ、結構です」

 

 恵里は素っ気なくそう言うと、柊木の脇を通り過ぎようとした。

 だが……。

 

「待って」

 

そう言って、腕を掴まれた。

振りほどこうとしたが、思った以上に力が強く、抜け出せない。

 

「離してください」

「いやだね。絶対に離さない」

「僕はもうあなたとは関わりたくないんです。だから……」

「ダメだよ」

「え?」

「君はまだ子供だ。一人で生きていくことなどできるはずもない。なのに、君はそれすらも拒絶しようとしている。そんなことは認められない」

「でも、僕は……」

「でもじゃない」

 

 柊木が真剣な表情でこちらを見る。

 そして、こう告げた。

 

「もう、我慢しなくていいんだよ?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、何かが崩れ落ちたような感覚がした。

 

「……うぅ……ひぐっ……」

「よしよし、よく頑張ったね。偉かったよ」

 

 柊木が優しく抱きしめてくれる。

 恵里の目からは涙が溢れ出し、嗚咽が漏れる。

本当はずっと誰かに甘えたくてたまらなかった。

でも、自分の境遇を考えると、それを表に出すことができなかった。

何故なら、周りにいる大人達は皆、自分より弱くて、自分を助けられるほどの能力を持っていないと知っていたから。

 だから、いつも心の中では孤独だった。

 だけど、今は違う。

 この人は自分を救ってくれるかもしれない。

 自分が助けを求めれば、きっと助けてくれるはずだ。

 そう思うと、今まで溜め込んでいたものが一気にあふれ出してきた。

 

「お願い……します……僕を……助けてくださぃ……」

 

「任された!」

 

 柊木は笑顔でそう言った。

 



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僕の家族を紹介しよう!

 その後、恵里は柊木と共に、彼が経営しているという銭湯に来ていた。

 銭湯と言っても、普通の銭湯ではなく、スーパー銭湯と呼ばれる種類のものだそうだ。

 中に入ると、そこは思っていたよりも広々としており、様々な施設があった。

 大浴場はもちろんのこと、サウナ、マッサージルーム、岩盤浴等々、一通りのものはそろっているようだ。

 住宅街のど真ん中になぜこんな設備があるのかというのは気にしてはいけない。

 

「ここの銭湯はかなり大きいからね~♪ 一日いても飽きないと思うよ!」

 

 柊木は嬉しそうな顔でそう言いながら、恵里の手を引いて案内する。

 その手はとても暖かく、とても安心できた。

 

(この人について行こう)

 

 恵里は心の内でそう決めた。

 

「あ、あと、僕のこと『真』って呼んで良いよ♪」

「……はい、『真さん』」

「うん! それでOKだよ♪」

 

 そして、二人は仲良く手を繋ぎながら、施設の一つ一つを見て回った。

 

 ………… しばらく歩くと、プールエリアへとたどり着いた。

 どうやらここは屋内型温水プールになっているようで、室内には流れるプールやウォータースライダー等の定番のものに加え、ダイビング用の巨大な水槽まで設置されている。

 しかも、驚くべきことに、それらの水は全て温泉なのだ。

 

「すごいですね……」

「いやぁ~、僕の両親って思い立ったが吉日を文字通り実行する人で、やりたいと思ったことをすぐにやりたがるんだよね~。まあ、それがお客さんの満足につながることもあるから、別に文句はないんだけどね。そもそも『ここを温泉とする!』って言ったのは、僕のお爺ちゃん達らしいし、やっぱり血筋なんだろう」

 

 真の言葉を聞き、恵里は思わず苦笑してしまった。

 それからしばらくの間、二人きりの時間を楽しんだ後、今度はスパエリアへと向かった。

 こちらは先程のテーマパークのような場所とは違い、本格的なエステサロンのような作りになっていた。

 しかも、ここには美容室や理容室もあるらしく、髪を切ることもできるらしい。

 

「ここって一応、普通の銭湯なんですよね?」

「もちろんだよ? ああ、ちなみにこのシャンプーとかトリートメントも、うちで作っている商品なんだ」

「え!?」

「大丈夫だよ。変なものは一切入っていないし、使っている素材も全て天然由来のものだけだから」

「そ、そういう問題ではない気が……」

「気にしたら負けだよ?」

「アッハイ……」

 

 だが、実際に使ってみると、市販品と比べても遜色のない品質だった。

 その後も、マッサージチェアを使ってみたり、スポーツジムで一緒に運動をしたりして時間を過ごした。

 …… その後、二人は最後に休憩所でお茶を飲みながら休んでいた。

 

「今日はありがとうございました」

「いいよいいよ♪ それにしても、だいぶ顔のこわばりがとれたね?」

「はい。これも全部真さんのおかげです」

 

 そう言って笑う恵里の顔からは、少し前までの影は完全に消え去っていた。

 それは、まるで憑き物が落ちたかのような爽やかな笑顔だった。

 

「ふっ、僕にかかればこれくらい朝飯前さ♪」

 

 そう楽しそうに笑う真の背後に、誰かが立つ。

 

「誰にでもできることじゃないと思うけどね~」

 

 突然聞こえた声に反応して振り返ると、そこには黒髪を肩口で切りそろえた女性が立っていた。

 ぱっと見の年齢は二十代後半といったところだろうか。

 整った顔立ちをしているものの、目つきは鋭く、どこか近寄り難い雰囲気を放っている。

 

「げぇ、母さん!?」

「全く……仕事もしないで何をしているかと思えば……」

 

 女性はため息交じりにそう言う。

 どうやら彼女は真の母親のようだ。

 

「もうすぐ店を開ける時間でしょうが! ほら! 早く準備してきな!」

「りょ~か~い。んじゃ恵里ちゃん、また後でね~」

 

 そう言いながら、真は目にもとまらぬ速さで走り去っていった。

 仕事の準備をするためだろう。

 その場に残された恵里は、真の母親に軽く会釈をした。

 

「あの……ありがとうございます……」

「ん? なんで感謝するんだい? ……ああ! アンタを泊めたことね! 別に気にすることないよ! ただの気まぐれだからね!」

 

 母親は恵里の目を見ながら、はっきりと言い切る。

 その言葉には一片の迷いもない。

 

「それでもです。あそこから連れ出してくれて本当に助かりました」

「律儀だねぇ……それじゃあ、家の娘になってくれるかい?」

「……へ?」

 

 予想外すぎる一言に、恵里は間の抜けた声を上げてしまう。

 

「冗談だよ。そんなマジな反応されると恥ずかしいじゃないか……」

 

 母親は少し顔を赤らめながら、視線を逸らす。

 流石に冗談だったようだ。

 

「はぁ……」

「まあ、今のアンタは寄るところがないんだろ?」

「はい……」

「それなら、アンタが良ければ私達のところに来ないかい?もちろん無理強いはしないけどね」

「よろしいんですか?」

「もちろんだとも。それとも何か不都合でもあるのかぃ?」

「いえ、むしろありがたい申し出なのですが、僕はお金を持ってませんし、返せるものもありません。ただでさえ助けていただいた上に、これ以上甘えるわけには……」

「おやおや、遠慮しなくてもいいんだよ? 言っただろう? これは単なる気まぐれだって。それに、娘になるかどうかは置いておいても、家にいれば生活用品や食料なんかは困らないからね。」

「それは確かに魅力的な提案ではありますが、そこまでしていただく理由がないですよ……」

「理由はあるさ。あんたを助けたのは私の気まぐれだけど、それをここまで手厚く世話するのは息子……真の存在もあるんだよ」

「真さんの存在?」

「ああ、そうだよ。実はね、真は小さい頃からずっと友達がいなかったのさ」

「え?」

 

 真の友人の少なさについては短期間しか付き合いのない恵里も知っていたが、まさか母親までそのことを知っているとは思ってなかった。

 

「その理由は至極単純。アイツは周りのやつらとは別の物が見えてる。年相応にはしゃいでくれたなら私達もちょっとは思い出になったんだろうけどね……。だけどアイツは幼稚園の中頃から変わったんだよ」

 

 そう語る彼女の表情はとても寂しそうだった。

 しかしそれも一瞬のこと。

 すぐに元の快活そうな顔に戻る。

 まるで今浮かべた感情を隠すかのように。

 そしてそのまま話を続ける。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

219:名無しの神祇省総司令

はーい、みんな大好き神祇省クラブの時間だよー!

 

220:名無しの助言者

>219 誰がお前なんか好きかよ

帰れ、しっしっ!(待ってました!)

 

221:名無しの助言者

今日も始まったぜ、このスレ主の暴走タイムw

 

222:名無しの助言者

いつものことだし、慣れたけどなwww

 

223:名無しの助言者

でも、今回はいつにもましてテンション高いな

 

224:名無しの助言者

どうした? 何か良いことでもあったか?

 

225:名無しの神祇省総司令

>220 ちょっ! ひどくない!? 僕傷ついちゃうよ!?

いや、それよりも聞いてくれよ!

 

226:名無しの助言者

お、どうした?

 

227:神祇省総司令

なんと……

ようやく、恵里ちゃんを我が家に引き込めました!

 

228:名無しの助言者

おおお! マジで!?

 

229:名無しの助言者

おめでとう!

 

230:名無しの助言者

よくやったぞ!

それで? どうなったんだ?

 

231:神祇省総司令

いやぁ、いい感じの手ごたえだったよ

今は母さんが相手をしてくれていて、今の僕は銭湯の番台をやってるよ

 

232:名無しの助言者おいw

いきなり仕事してんじゃねえよw

 

233:名無しの助言者

お前、さっきまでのは一体何だったんだよw

 

234:名無しの助言者

まあ、それがこのスレ主なんだけどなw

で、今どんな状況なんだ?

 

235:神祇省総司令

まぁ、開店したばっかりだから、まだお客さんはいないかな?

だからこうして掲示板を開いてるんだよ

 

236:名無しの助言者

まあ、そりゃそうだろうなw

 

237:名無しの助言者

それより、引き込んだって言ってたが、これから一緒に暮らすのか?

 

238:神祇省総司令

まぁ、そうなるかな?

彼女のお母さんは精神病院へ行ってるからあのまま帰していたら、彼女は独りぼっちだったからね。

それに僕としても彼女が近くにいた方が色々と便利だろうからね。

 

239:名無しの助言者

まあ、確かにそうだな。

それにしても、お前って結構考えて行動できるんだな

 

240:名無しの助言者

組織のトップにいるのに、同僚から心配される最強の男www

 

241:名無しの助言者

俺も最初は不安だったが、案外コイツはいい奴なのかも知れねぇな……

 

242:名無しの助言者

その辺は俺も同感だな。

今までの行動を見てると、ただのアホにしか見えなかったしな。

 

243:名無しの神祇官

お前ら言い過ぎだろ!

ただのアホとかwww

 

244:名無しの助言者

>242-243 だってそうだし……

 

245:名無しの助言者

>242-243

間違いないだろw

 

246:神祇省総司令

>245-246

ひどい…… 僕は悲しいよ……

 

247:名無しの助言者

おい、こんなところで雑談してていいのか?

 

248:神祇省総司令

>247

大丈夫だよ

並列思考(同時に別のことを考えること)は何度もやってきたし、今こうして、掲示板を開きながらお客さんを相手にすることで、いざって時に慣らしておくんだ

あと、今日は平日だし、お客さんも少ないかな?

 

249:名無しの助言者

なるほど、そういうことか。

 

250:名無しの助言者

納得したわ

 

251:神祇省総司令

ということでぇ……

僕の家族を紹介するぞぉ!!

 

252:名無しの助言者

え!? マジで!?

 

253:名無しの助言者

待ってましたぁ!!

 

254:名無しの助言者

ヒャアッ!!

プロフィールさらしだぁ!

 

255:名無しの助言者

なんか矢鱈興奮している連中がいるが、家族の情報は確かに知ってた方がいいもんな。

特にこういうスレ主の場合だとなおのこと

 

256:神祇省総司令

まずは一人目!

さっき、恵里ちゃんを任せた母さん!

「柊木恵」!

今年で36歳になる!

でも、ぱっと見20代後半ぐらいにしか見えない!

二人の子持ちで、父さんとはラブラブだ!

 

257:名無しの助言者

ほうほう……

 

258:名無しの助言者

見た目20代のママさんw

 

259:名無しの助言者

これはなかなかw

 

260:名無しの助言者

それで次は?

 

261:名無しの助言者

そう焦るなってw

 

262:神祇省総司令

続いては!

僕の父親こと、「柊木正樹」!

僕達の家である「柊木銭湯」の経営者であり、この店の(本来の)番台でもある人だね。

僕達の父さんは、いつもニコニコ笑顔を絶やさない優しい人で、母さんと僕を心の底から愛してくれている。

現在は、腰を痛めてしまっており、病院に入院しています!

 

263:名無しの助言者

腰の痛みか……

それは大変そうだな……

 

264:名無しの助言者

早く治ってほしいな……

 

265:名無しの助言者

うん、本当にそれな……

 

266:名無しの助言者

この掲示板、腰痛経験者多すぎだろwww

 

267:名無しの助言者

それだけ多いってことだな。

俺も最近、腰が痛くなってきた……

 

268:名無しの助言者

まあ、歳を取るごとに体のあちこちにガタが出てくるものなんだよ……

仕方がない……

 

269:名無しの助言者

せめて、風呂上りに牛乳を飲むことを習慣にしたいところだが……

 

270:名無しの助言者

あー…… あれはいいものだよね〜

 

271:名無しの助言者

話がずれてんぞw

 

272:名無しの助言者

おっと、すまん

 

273:名無しの助言者

とりあえず、父親の情報はわかった。

じゃあ、次は?

 

274:神祇省総司令

ふっふっふっ……

次こそお待ちかね!

僕の妹についてだぁああああああああ!!

 

275:名無しの助言者

!?

 

276:名無しの助言者

ついに来たぁ!!

 

277:名無しの助言者

妹ktkr!!!

 

278:名無しの助言者

キタァアアア!!

 

278:名無しの助言者

うおおおお!! テンション上がってきたぜぇえええ!!!

 

279:名無しの助言者

(゚ ∀゚ )oO<え!?

 

280:名無しの助言者

こいつら全員、気持ち悪いんだが……

 

281:名無しの助言者

>280 同感だわ……

 

282:名無しの助言者

まあまあ、そう言わずにw

で、どんな娘なんだ?

 

283:名無しの助言者

気になるぅ!!

 

284:神祇省総司令

まずは名前から紹介しよう!!

僕の妹の名前は「柊木美奈子」!年齢は6歳!

容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群で、非の打ち所のない美少女!

そして、何より可愛い!

将来の夢は、僕のお嫁さんとのことだ!

以上!

 

285:名無しの助言者

は?

 

286:名無しの助言者

流石天才の妹だな!

 

287:名無しの助言者

ブラコンシスコン兄妹ここに極まれり

 

288:名無しの助言者

推定九歳以下の妹なのに、もう美少女とか言ってんぞコイツw

 

289:名無しの助言者

けっ! おめでたいですねぇ!!

 

290:名無しの助言者

こちとらかわいい妹なんて存在すらしてなかったからな!!

 

291:名無しの助言者

いや、お前らのことは聞いてないんだけどw

 

292:神祇省総司令

以上!

この三名が僕の今の家族だ!

さて、トリを飾るのは……

 

293:名無しの助言者

wktk!

 

294:名無しの助言者

ksk

 

295:名無しの助言者

mjd!?

 

296:名無しの助言者

こっちが本命かよ!?

 

297:名無しの助言者

早くしてくれ!

俺は寒いんだ!

 

298:名無しの助言者

お前まだ冬じゃないだろうがwww

 

299:名無しの助言者

そんなことどうだっていいんだよぉおお!!

 

300:神祇省総司令

天上天下唯我独尊……

神祇省という曲者の巣窟の頂点に立つ男……

人呼んで、「世界最強の男」!!

 

僕こと「柊木真」だぁあああああああああ!!

 

301:名無しの助言者

キター(゚ ∀゚ )ーーー!!!

 

302:名無しの助言者

キタコレェエエ!!

 

303:名無しの助言者

待ってたぜぇええ!!

 

304:名無しの助言者

真さんキタァアアアアアア!!!

 

305:名無しの助言者

盛り上がってまいりましたぁあああ!!

 

306:名無しの助言者

ヒャッハー!!

 

307:名無しの助言者

ウェエエエエエエエエエイ!!

 

308:名無しの助言者

※銭湯の番台とその愉快な仲間達です

 

309:名無しの助言者

というのはひとまず置こう

 

310:名無しの助言者

どうした急に

 

311:名無しの助言者

あまりの温度差に風邪引きそう

 

312:名無しの助言者

あまりの急転換に全身打撲しそう

 

313:名無しの助言者

というか、何でこんなスレ立てたんだ?

 

314:名無しの助言者

確かにw

 

315:神祇省総司令

暇だから!

それ以外にあると思うかい?

 

316:名無しの助言者

おいw

 

317:名無しの助言者

まあ、無いですねw

 

318:名無しの助言者

あるわけないかw

 

319:名無しの助言者

そりゃそうだw

 

320:名無しの助言者

それなら、この間話そうとしていた「南雲ハジメ」君のことでいいんじゃないかな?

 

321:名無しの助言者

それだ!

 

322:名無しの助言者

ナイスアイデア!

 

323:名無しの助言者

それでいこう!

 

324:神祇省総司令

あ、それがあったか……

実はだね、件の南雲君……南雲君? なんだけど……

 

325:名無しの助言者

どうしました?

 

326:名無しの助言者

まさかさっきまでのテンション維持できませんか?

 

327:神祇省総司令

そのまさかだよ

ちょっとヤバいかもしれない

 

328:名無しの助言者

(;・∀・)<えぇ……なにが起こったんですか?

 

329:名無しの助言者

ゴクリッ……!

 

330:名無しの助言者

ソワソワ……!

 

331:神祇省総司令

…………………………………………女の子だった

 

332:名無しの助言者

は?

 

333:名無しの助言者

は?

 

334:名無しの助言者

は?

 

335:名無しの助言者

は?

 

336:名無しの助言者

はい?

 

337:名無しの助言者

( ゚д゚)<えっ?

 

338:神祇省総司令

だからぁ……件の南雲君が「女の子」だったの

君達の話じゃ「男の子」だったよね?

 

339:名無しの助言者

…………

 

340:名無しの助言者

…………

 

341:名無しの助言者

…………

 

342:名無しの助言者

…………

 

343:名無しの助言者

…………

 

344:名無しの助言者

( ゚д゚)<…………マジデ?

 

345:名無しの助言者

ハァアアアアアアア!?

 

346:名無しの助言者

なんだよそれぇええええええええ!?

 

347:名無しの助言者

どういうことだ!?

 

348:名無しの助言者

俺らの話はガセだったというのか!?

 

349:名無しの助言者

そんなバカなことがあってたまるかぁああ!!

 

350:名無しの助言者

>349落ち着けぇ!!??

 

351:神祇省総司令

心当たりがあるのが辛いんだよなぁ!!

 

352:名無しの助言者

その心当たりってなんだスレ主!?

 

353:名無しの助言者

教えろぉ!!

 

354:神祇省総司令

実はだね!

僕が今この「ありふれた職業で世界最強」の世界にいるのは、とある能力が原因だと話したはずだろう!?

その能力は、「並行世界」に自分の魂を飛ばすんだ!

そう、「並行世界」にだ!

だから、君達の言う原作とはちょっと違うところが発覚するかもしれないとは想定してたけど、まさか、物語の主人公が女の子になっているとかこの僕の頭脳をもってしても予測できなんだわ!!

これじゃ、本来考えていた「魔王と友達になろう大作戦」が失敗してしまう!?

 

355:名無しの助言者

うーんこれは

 

356:名無しの助言者

予想外すぎるw

 

357:名無しの助言者

何やってるんですかスレ主w

 

358:名無しの助言者

お前本当に頭良いのかよwww

 

359:名無しの助言者

お前ら、笑ってられないぞ!

主人公の性別が変わったということは、各々の向ける感情が変わってしまうということ!

つまり、俗に愛の力で覚醒したという展開が全部潰れてしまうということに繋がるのだ!

しかも、ありふれにはそういう展開は結構多い!

つまり、このままでは詰んでしまうかもしれないのだ!

 

360:名無しの助言者

そう言われるとやべぇ!?

 

361:名無しの助言者

それだけは阻止しなければ!

 

362:名無しの助言者

けど、どうしたら……

 

363:名無しの助言者

……一つだけ方法がある

 

364:神祇省総司令

どんなのだい>363!?

 

365:名無しの助言者

(;・∀・)<えっとですね……

南雲さん(?)をハーレムの一員にすればいいんですよ

 

366:神祇省総司令

(;・∀・)<…………えっ?

 

367:名無しの助言者

(;・∀・)

 

367:名無しの助言者

(;・∀・)

 

367:名無しの助言者

(;・∀・)

 

367:名無しの助言者

(;・∀・)

 

367:名無しの助言者

(;・∀・)

 

367:神祇省総司令

……つまり?

 

368:名無しの助言者

……スレ主が主人公の代わりになるってことだ

 

369:名無しの助言者

!!??

 

370:名無しの助言者

ちょっ!?

 

371:名無しの助言者

いやまてまて!

 

372:名無しの助言者

無茶苦茶すぎない!?

 

373:名無しの助言者

でも、それ以外に手はないんじゃ……

 

374:名無しの助言者

いやいや、いくらなんでもそれは……

 

375:名無しの助言者

スレ主にだって選ぶ権利はあるし……

 

376:名無しの助言者

そもそも、それで成功する保証はどこにあるんだよ

 

377:名無しの助言者

 

378:名無しの助言者

確かにそうだな

 

379:名無しの助言者

それじゃ、駄目じゃん

 

380:名無しの助言者

だが、考えうる限りこれが最善なんだ……

 

381:神祇省総司令

……それならやるしかないね

それが最善なら、躊躇いなく僕は行こう

 

382:名無しの助言者

おぉ……

 

383:名無しの助言者

流石は総司令!

 

384:名無しの助言者

漢の中の男だぜ!

 

385:名無しの助言者

その意気だ!

 

386:名無しの助言者

頑張れよスレ主!

 

387:名無しの助言者

俺達もやれるだけ手助けするぜ!

 

388:名無しの助言者

待ってろよ!

 

389:名無しの助言者

原作改変上等!

 

390:名無しの助言者

絶対に成功させろ!

 

391:名無しの助言者

原作崩壊してもいいから!

 

392:名無しの助言者

絶対に成功させるんだ!!

 

393:名無しの助言者

よし、そうと決まれば、早速行動開始だ!!

 

394:名無しの助言者

うっしゃぁああ!!!

 

395:名無しの助言者

行くぞぉおおおおおおおお!!!

 

396:名無しの助言者

うぉおおお!!!

 

397:名無しの助言者

俺は負けねぇぞ!

 

398:名無しの助言者

絶対に成功させてみせる!!






主人公の実家が銭湯なのは、最近見ている、とある作品の影響です。




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並行世界ではこんなことも起こるのか……

「南雲ハジメ」

 

 本来なら「ありふれた職業で世界最強」という作品の主人公を飾る男。

 地球にいた頃は、オタクな親の影響もあってそれに準じた趣味を持っており、一部を除いたクラスメイト全員から毛嫌いされていた。

 そんな彼だが、いつも通り少しだけ騒がしい日常を送っていた際、何の因果かクラスメイト全員(教師一名を含む)と「異世界」へと召喚されてしまう。

 突然のことに、彼を除くクラスメイト全員が混乱してしまうのだが、そこで異を唱える力も度胸もない彼にはただ流されるだけだったのだ。

 しかし、そんな彼の性格が功を奏したのか、はたまた神様の悪戯だったのか、彼はこの世界で生き残るための力を手中に収めることに成功。

 だが、その力は周りと比較して余りにも弱く、彼は早々にお荷物となってしまったのだ。

 そして、地球にいたころから彼をいじめていた檜山大介とその仲間たちによって、暴行を加えられることにもつながってしまうのであった。

 更に不幸なことに、それから数日後の実践訓練の際、彼は奈落の底に落ちたのであった。

 

 本来の物語なら、そこからが本番なのだが、この世界では時間も状況も違うようで……

 

 ここは地球にある小さな島国「日本」。

 そのとある住宅の中で、少年「柊木真」と少女が向かい合って座っていた。

 

「ねぇハジメ。今日は何をするんだい?」

「えっと、今日はゲームかな? 真君、一緒にやろうよ!」

「うん! わかったよ!」

 

 そう言って微笑むのは、まだ10歳ほどの女の子。

 名を「南雲ハジメ」という。

 見た目はまだ幼く見えるものの、その顔立ちはそれなりに整っている。

 さらりと流れる長い髪は、窓から差し込む光を浴びてキラキラと輝いていた。

 一方、彼女の笑顔に応えるように、嬉しそうな笑みを浮かべる柊木もまた、彼女と同じように整った顔をしている。

 ただし、こちらは可愛らしいというよりも、凛々しいという表現の方が似合うだろう。

身長も年齢相応にしては高く、160センチを超えているように見える。

 二人とも容姿には恵まれているようだが、唯一残念なのは、お互いの顔を見つめ合っているにもかかわらず、二人が男女の関係ではないということだろうか……。

 だが、それでも二人の仲はとても良いらしく、時折笑い声を上げながら会話を続けている。

 

「それでね、ハジメ。昨日買ったあのゲームの続きはどうするんだい?」

「あ~あれね……、確か明日は学校休みだから、今日中にクリアできると思うよ」

「そっか、それじゃ僕も付き合おうかな? 耐久も任せろ~!」

「ふふっ、頼りにしているよ、相棒♪」

「あはは、まぁ任せてよ! その代わり、後で僕のお願いを聞いてね?」

「はいはい、わかっていますよーだ」

「よし! 絶対だよ?」

「はいはい」

(相変わらずだなぁ……)

 

 などと心の中で苦笑しながらも、満面の笑みを浮かべる真に対し、ハジメもつられて微笑んでしまう。

 これが彼らの日常であり、当たり前になっていた光景だ。

 一見すると、兄妹のような関係に見えるかもしれない。

 

 だが、彼らに血の繋がりなどなく、あるとしたら友情ぐらいだろう。

 

 そんな彼らが知り合ったのは、今から数年前。

 当時、近所に住んでいた同年代の子供同士で遊んでいた時に出会っていた。

 

『君、一人なの?』

『え……?』

『なら、僕と遊ぼうよ!』

 

 引っ込み思案なハジメが、他の子供たちから仲間外れにされているところを柊木が助けたのがきっかけだったのである。

 それ以降、彼らはお互いに助け合いながら日々を過ごしてきた。

 それは、年月を重ねるごとに親密さを増していき、今ではこうして一緒に遊ぶほどにまでなったのだ。

 

「それじゃ、ゲームの準備をしようか」

「そうだね!」

 

 二人はそう言うと、それぞれのゲーム機を取り出し、電源を入れる。

 そして起動画面が映し出されると、そのまま操作を開始した。

 

「そういえば、真君はどのくらい進んだの?」

「う~ん、今は第7章に入ったところかな? でも、そっちはどこまで進んでるの?」

「私はね……」

 

 そうして、しばらくゲームの攻略談義に花を咲かせる二人。

 気が付けば、時刻はすでに夕方に差し掛かろうとしていた。

 

「もうこんな時間か……、楽しい時間はあっという間だよね」

「本当だね。もっと遊びたいけど、今日はこれでお終いかぁ~」

「また明日やればいいじゃないか。なんなら、明後日だっていいんだよ?」

「それもそうだね。なら、明日は何をやる?」

「う~ん、僕は何でもいいんだけど、ハジメの方は何かやりたいのある?」

「私? 特にないかなぁ……、それよりも、真君と一緒に遊べるなら、それだけで満足だし」

「…………」

「どうしたの真君?」

 

 急に押し黙ってしまった真に対して、不思議そうな表情を浮かべるハジメ。

 その言葉は嘘偽りのない彼女の本音ではあるが、同時に彼のことを気遣っての発言でもあった。

 というのも、最近になって彼は、妙に落ち込んでいることが多かったからだ。

 

 彼女の知る由ではないが、柊木はこれから先のことについて考えている最中なのである。

 

 その理由として、数年後には異世界というこれまでの常識が通用しない場所に強制的に呼び出されてしまうかもしれないし、その先で自身はどう行動すればいいのか、どのようにすればクラスメイト達を地球に生還させられるのか、異世界で出会うであろう少女達はどうするのか……等々、理由は多数ある。

 

 そして、目の前にいるハジメもその悩みの一つであるのだ。

 

 本来の主人公「南雲ハジメ」。

 そんな存在がいなくなったことによるこの先の歴史の変動(パラドックス)によって生じる影響について、彼女は何も知らない。

 当然、その事実を知るはずもないのだが、それでも自身の幼馴染みが悩んでいることだけは理解できた。

 だからこそ、彼女はあえて明るく振る舞っている。

 少しでも彼が楽になるように……。

 それが、今の彼女にとってできる精一杯のことなのだから……。

 しかし……

 

―ズキッ!

 

(……っ!?)

「大丈夫かい?」

「う、ううん……大丈夫だよ?」

 

 一瞬だけ、頭の中に痛みのようなものを感じて顔をしかめるハジメだったが、すぐに笑顔を浮かべると真の手を握り締める。

 それに対して真も微笑み返すと、今度はハジメの手を握る力を強めて立ち上がった。

 ちなみに、この時ハジメは少しだけホッとしていた。

 なぜなら、先程の頭痛は今までに何度も経験してきたものだったからである。

 

(これは一体何なのかな?)

 

 それは、ここ最近の彼女が感じている謎の感覚だった。

 具体的に言えば、ゲームをしている時や誰かと会話している時に決まって発生するものだ。

 しかも、発生頻度は徐々に上がってきており、最近ではこうして触れ合っているだけでも感じるようになってしまった。

 

 だが、今のところは日常生活に支障をきたすようなことはないため、あまり気にしないようにしている。

 ……とはいえ、不安であることに変わりはないのだけれど。

 

 だが、この時のハジメは知らなかった。

 

 自分の身に起きている異変が、次第に大きくなっていることに。

 

 そして、柊木は知らない。

 自身という異物が世界に変化をもたらしているということに。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 ここはとある草原。

 例えるなら、日本とは海を隔てた場所にある大陸の内部に位置するモンゴルの大草原のようであるそんな場所。

 そこに、二人の男女の姿があった。

 

 一人はフード付きの黒いローブを纏い、腰には同色のポーチを下げている。

 そして、同じく黒い色の杖を突いて立っていた。

 その顔立ちはローブによって詳細が分かりづらく、時折吹く風によってフードが揺らめいた際に少しだけ見ることができる程度だ。

 

 もう一人は、黒いローブの人物とは対照的に、フード等の顔を隠すような衣装を着ておらず、例えるならOLが着ていそうなスーツを身に纏っていた。

 そして、体つきからして、おそらく女性だということが分かることと、くすんだ白髪を持っており、その髪の長さは背中にかかるほど長いということが分かる。

 一見すると普通の格好をしているようにも見えるのだが、よく見ると彼女の手には指抜きグローブが嵌められており、腕を回すなどして体の調子を確かめていた。

 

 そして、普通とは言い難いのが、その纏っている気配。

 

 十数メートル離れた視線の先にいる黒いローブの人物を警戒――どころか、殺気を飛ばしているほどであった。

 

 だがしかし、そんな彼女はどこか自然体である。

 むしろ、こういう状況の方が慣れているかのような……そんな感じの佇まいだ。

 実際、彼女はこういう状況の方が慣れている。

何故ならば、彼女は戦うために産み出され、戦いの中に身を置き続けたのだ。

 それも、ただ戦うのではなく、敵味方入り乱れる乱戦の中で生き残る術を学び続け、生き抜くための技術を身に付けてきた。

 それこそ、一対多の戦いであっても生き残れるくらいに……。

 

「そろそろ始めようか?」

「……」

 

 彼女の目の前にいる人物――声質からしておそらく男性――が確認を取る。

 

 なにを?

 

 もちろん、戦いの合図だ。

 

「そうですね」

 

 それに答えたのは白い髪の女性の方だった。

 彼女としては、さっさと終わらせてしまいたかったので、この提案はとてもありがたいものであった。

 

「では、私が先手を取らせていただきます」

 

そういうと、彼女は――

 

――一歩でその距離を縮めた。

 

「――――」

 

 それを視界に捉えた瞬間、男は反射的に体をずらしていた。

 

直後、彼の横顔スレスレを拳が通過する。

 その際、ヒュボッ! という空気が抜けるような音が男の耳元で聞こえた。

 それはまるで、音速の壁を突き破ったかのように。

 その事実に特に動揺はないまま、彼は思考を止めることなく次の行動へと移った。

 すなわち、バックステップによる回避からの反撃へ。

 手に持つ杖を振りかぶり、脇腹を叩こうとする。

 しかし、その一撃は叩くなどという生易しいものではない。

 風を切る音を鳴らしながら彼女の脇腹に迫る杖は、ともすればあまりの速さに、人体を切断できてしまいそうな迫力があった。

 だがしかし、彼女はそんな攻撃すら見切っていたのか、最小限の動きだけで杖を避けてしまう。

 しかもそれだけではない。

 避けた後の隙を狙って放たれた蹴りまでも、紙一重ではあるが余裕を持って避けることに成功したのだ。

 

(へぇ……)

 

 内心、感嘆の声を上げる男。

 なぜならば、彼我の距離は50センチ程度しかなかったのだから。

 本来であれば、そんな距離からの攻撃を避けることなど不可能に近い。

 にもかかわらず、彼女は避けてしまったのだ。

 これはつまり、男が放った攻撃を事前に察知していたということになる。

 でなければ、あんなにも簡単に避けられるはずがない。

 さらに言えば、先ほどの攻防において、彼女が動いた距離は10メートル弱であった。

 にも関わらず、間合いを詰めて見せた。

 これだけでも十分驚異的なことなのだが、問題は次にあった。

 なんとその女性は、回避後の着地と同時に再び地面を蹴って間合いを詰めたのだ。

 その動きはまさに電光石火の如くであり、その速度は目を見張るものがある。

 

「ふむ……やはり君は凄いね」

 

 男は、接近してきた彼女を迎撃するために杖を振るう。

 しかしその表情には焦りはなく、むしろ笑みを浮かべているほどだ。

 それほどまでに余裕ということだろう。

だが、それも仕方がないことかもしれない。

 何せ、彼女は強いのだから。

 故に、この程度のことは当たり前のことに過ぎないのである。

 そして、そんな彼女の攻撃を正面から受けてもなお平然としている男は――

 

――いや、違う。

 

 正確には、受け止められている。

 

 彼女は今、確かに拳を振った。

 

 しかし、その一撃は当たることはなかった。

何故なら―――

 

 ガシッ!!

 

――振りかぶられた腕ごと掴まれてしまっていたからだ。

 

 そして、そのまま彼女は地面に叩きつけられそうになるのだが――

 

ズダンッ!!

 

――叩きつけられる直前、足の裏を使って急ブレーキをかけたことで何とか止まることができた。

 とはいえ、完全に止まったわけではなく、体は空中にある状態。なので、このままではまた投げられてしまうと踏んだ彼女は、即座に体勢を整えようとしたのだが――

 

「!?」

 

 それよりも早く、今度は逆の方向に投げ飛ばされてしまった。

 投げ飛ばされてしまったことで、体は宙に存在する。

 宙にあるということは、身動きが取れないということ。

 ならば――

 

「シィッ!!」

「ぐっ!!」

 

――回避はできないということだ。

 凄まじい速さで接近した彼は、宙に浮いたままの彼女に右ストレートを叩きつける。

 咄嵯に両腕を交差させて防御の姿勢を取るものの、衝撃までは防ぎきることはできず、彼女の体はそのまま吹き飛んでしまった。

 勢いのままに数メートルほど地面の上を転がった後、ようやく止まる。

 しかし、それで終わりではなかった。

 

「まだだ!」

 

 彼はそう言って、すぐに追撃を仕掛けてきたのだ。

 

 それも、かなりの速度で。

 

 杖をまっすぐ構え、貫こうとしているようだ。

 それを見た彼女はすぐさま立ち上がり、迫り来る杖を避けるため、横っ飛びに回避した。

 

 その判断は正しく、彼の狙いは空を切ることとなる。

 だがしかし、それでも彼の攻撃はまだ終わっていなかった。

 杖を引き戻し、そこから再び攻撃を放つ。

 だが、それはさっきと同じただの攻撃ではない。

 それはまるで槍のように鋭い一撃。

 

 つまり、投擲だった。

 

 彼の手から離れた杖は、まるで弾丸のような速度で、真っ直ぐ彼女に向かっていく。

 

「くぅっ!!」

 

 それを視界に収めた彼女は、咄嵯の判断で身を屈めた。

それにより、杖は彼の彼女の頭上を通過するだけに終わる。

 そして、通り過ぎたタイミングを見計らって、彼女は立ち上がって大きくバックステップをした。

 一呼吸を入れるために距離を取ろうとする。

 だが、相手も黙っていない。

 素早く踏み込み、一気に間合いを詰めてくる。

 当然、そんなことをさせまいと、彼女もまた前に出た。

 二人の距離は瞬く間に縮まり、互いの拳が届く範囲にまで至る。

 そして次の瞬間には、互いに攻撃を繰り出していた。

 まずは男のほうから。

 腰の入った正拳突きを繰り出す。

 対して彼女は、左足を軸にして体を半回転させた。

 それによって生まれた遠心力を利用しながら、右足での回し蹴りをお見舞いしようとする。

 両者の攻撃が交差すると思われたその時、突如として男の動きが変わった。

 それまでは彼女の顔面を狙っていたはずの右腕が急に軌道を変え、左腕による裏拳を放ったのだ。

 

(隠し球!(ブラインド)?)

 

 ここに至って、技を隠していたことに驚愕する間もなく、彼の裏拳が顎に入る――

 

 

 

 

 

 

――ことはなかった。

 

 

 

 

 

「ぐぅっ!!」

 

 彼女の回し蹴りが脇腹に入ったことで、苦悶の声を上げながら、彼は吹っ飛ばされる。

 

 だが、それで諦めることなく、すぐさま起き上がり、再度攻撃を仕掛けようとしてくる。

 対する彼女は、すぐさま追撃しようとせずに一旦距離を取った。

 その行動は一見するとチャンスを不意にしたようにも見えるが、決してそのようなことはない。

何故なら、彼女が取ったその行動は、彼に対する牽制の意味があったのだから。

 その証拠に、彼女は先ほどまでとは打って変わって、攻めるのではなく守りに徹している。

 しかも、その守りはかなり堅固なものだった。

隙あらば反撃に転じようとしていることが窺えるほどだ。

 

ところで、先ほどの攻防に不可解な点はなかっただろうか?

 

 特に、男が放った技についてである。

 

 あれは明らかに初見殺しとも言える技であったはずだ。

 なのに、どうして彼女は反応することができたのか。

 

 答えは簡単だ。

 

 彼女は確かに攻撃を受けていたのである。

 なら何故、彼の攻撃は空振り、彼女の攻撃は通ったのか?

 その理由は彼女の能力にある。

 一応言っておくが、彼女等は普通の人間ではない。

 

 「異能力者」と呼ばれる超人なのだ。

 

 異能力者というのは、太古より伝わる魔法等の神秘をその身に宿し、怪異と呼ばれる人に害なす怪物と戦うための存在なのだ。

 詳しい説明は省くが、要は、魔法が使える超人だと思えばいい。

 そんな彼等は、よほどではない限り、各々専用の特殊な能力を持っている。

 彼女はその能力を使ったのだ。

 彼女は攻撃を食らう寸前、能力を発動し、攻撃を()()()()()()()のである。これにより、彼の攻撃は彼女に当たらず、逆に彼女の攻撃は彼に届いた。

 

 これが、二人が戦っている間に、彼が受けた攻撃の正体である。

 

 では、ここで話を戻そう。

 

 今の攻防を見てわかる通り、二人はかなりの実力を有している。

 しかし、拮抗しているわけではない。

 先に述べた通り、彼女の能力は強力であり、その反面、燃費が悪いという欠点がある。

 それに対して、彼女は自身の能力を上手く使うことで弱点をカバーしており、総合的に見ればかなり分が良い勝負をしていると言えるだろう。

 ただ、それはあくまで普通の戦いであればの話であって、この場においてはそうではない。

 何せ、ここは戦場だ。

 いくら実力者同士とはいえ、命を賭けた戦いにおいて、いつまでも互角の状態が続くはずがない。

 事実、徐々にではあるが、戦況が変化しつつあった。

 男の方の攻撃が、彼女を捉え始めたのだ。

 最初の内は、常人離れした身体能力によるラッシュと、物質を透過するという能力で戦況を有利に運べていたが、それも長くは続かない。

 元々消耗していた体力と魔力に加え、相手の攻撃を防ぐ度に発生する衝撃によって、彼女の身体は確実にダメージを負っていった。

 やがて限界が近づいてきたのか、彼女から放たれていた攻撃が疎らになり始めてきた。

 

 そしてついに出来上がった隙を突いて――

 

「シッ!!」

「ガッ!?」

 

――彼の反撃が始まる。

 

 彼女が拳を振り抜いた体勢から引き戻すまでの間に、握り締めた拳を彼女の鳩尾に叩き込む。それにより、彼女の体が前のめりになったところを見逃さず、今度は後頭部に手刀を落とした。

 

 脳天への一撃を受け、意識を失った彼女は、その場に倒れ伏す。

 

 その瞬間、彼女の体が光る粒子となって崩れていった。

 

 その様子を、特に動揺もせず見つめていた彼は、大きく息を吐くと、彼女のように体から粒子を放出する。

 

 やがて、その場に立っているのは、一人の少年だけになった。

 

「……ふぅ……君達、僕達の戦いはどうだったかな?」

 

・ハッキリ言ってドン引きした

・なにあれビックリ人間?

・いや違う、アレは化け物だ

 

「うんうん、まあ、そういう反応になるよね~。でもね……あれが僕達の戦いなんだよ」






次回は掲示板回です。




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戦いを想定しての訓練は必要だよね?




前回の続きです。





546:名無しの助言者

>542 俺も見てて思ったけど、これってマジでどういう原理なんだ?

だってさっきまで攻撃食らいまくってただろ?

なのに、なんで攻撃は全部避けられてんの?

つか、どうやって攻撃してんの?

あと、最後のあのコンボはヤバすぎんだろw 

 

547:名無しの助言者

>544 >543 お前の言いたいことはよくわかるぞ!

俺も同じことを思ってたし。

実際、アレを見ちまった時は「えっ、何が起こったの?」ってなったもん。

 

548:名無しの助言者 

俺は途中の方に出てきた技について聞きたい。

アレは一体何だったんだ?

まさかとは思うが、アレもまた異能の力なのか?

 

549:神祇省総司令

>548 その通りだよ。

彼女の異能は「物質透過」といって、文字通り物体をすり抜けることができる能力だ。

つまり、先ほどまでの攻防は彼女の能力を使って行われていたというわけである。

ちなみに、彼女の能力には欠点があってね、発動中は魔力を消費するんだけど、その消費量が尋常じゃない。

だから、能力を使い続けるのは難しいんだ。

 

550:名無しの助言者

>551 ちょ、ちょっと待ってくれ。

それじゃあ、最後にアンタがやったあの攻撃は何なんだ?

アレは異能によるものなのか?

 

551:名無しの助言者

>554 それは私にもわからない何故なら、私は今まで一度も彼の能力を見たことがないからだ

だが、一つ言えることがあるとすれば……おそらくスレ主は全力を出していないということだろう

 

552:名無しの助言者

>551えぇ……(困惑)

 

553:名無しの助言者

>551 嘘だろ……(驚愕)

 

554:名無しの助言者

>551 デスヨネー……

 

555:名無しの助言者

まぁ、確かに

実質何でもできる能力を持っておいて、物理攻撃しかしてなかったのは変だもんな

 

556:名無しの助言者

言い方を変えれば、能力を使わずともあれだけ戦えるってことの証明にもなるんだが……

 

557:名無しの助言者

……ってか、あの女の人って誰?

 

558:神祇省総司令

ああ、彼女は僕の本体がいる世界の方での義理の妹

『柊木結』さ

……それにしても、やっぱり能力と肉体の弱体化がひどいね

 

559:名無しの助言者

そんなにひどいのか?

 

560:名無しの助言者

俺達には、相変わらずやべー動きしてんな~ぐらいにしか思ってなかったけど……

 

561:神祇省総司令

あぁ、だいぶ弱体化している

能力の複数同時起動に関して言えば、本来なら、数十個の能力を同時に起動しても負担はほぼなかったんだけど、今使っていた能力(空間構築、存在構築、身体強化)だけでも相当動きが悪くなっていたからね

それでも、他の能力に関してはそこまで影響はなかったから、まだマシな部類だけど……

まぁ、その分魔力の消費も激しいみたいだし、今後はなるべく使わないようにしようかな

 

562:名無しの助言者

えっと、結局のところ、どういう事なんだ?

 

563:名無しの助言者

俺の推測が正しければ、本来のスレ主なら数十個という能力を同時に起動しても活動に支障はなかった

しかし、今のスレ主は先程使っていた能力だけでも動きが悪くなっていたらしいという事は、それだけ弱体化してるってことだろ?

 

564:名無しの助言者

>563 お、おう、そうだな……?

 

565:名無しの助言者

十分すげぇ動きをしてたんですがそれは……

 

566:名無しの助言者

まあまあ、そう言ってやるなって 俺達は今までスレ主の戦いぶりをずっと見てきたんだぜ?

そりゃ、スレ主にとってみれば、こんな戦いは朝飯前ってことなんだろうよ

 

567:名無しの助言者

そうなんだろうけどさぁ……

 

568:名無しの助言者

取り敢えず、今後の方針としてはどうするんだ?

 

569:神祇省総司令

うーん、正直に言うと、この調子だとまたすぐに限界が来ると思うんだよねぇ……

 

570:名無しの助言者

だろうな だって、さっきの動きを見る限り、明らかに身体能力が下がっているように見える

 

571:名無しの助言者

攻撃も食らってたしね

 

572:名無しの助言者

つまり、今後の戦いは能力を使わずに戦うしかないということか……

 

573:名無しの助言者

いや、待て 確か、スレ主の能力は「変幻自在」だろ?

だったら、何かしら解決策があるんじゃないのか?

 

574:名無しの助言者

あっ!

 

575:名無しの助言者

言われてみれば……

なぁ、スレ主

アンタの能力で、『負担を軽くする能力』なんてできねぇのか?

 

576:神祇省総司令

うーん……

その質問には『否』と返させてもらおう

だが、魔力を無限化させる能力……というか、『システム』は構築可能だ

しかし、能力の負担を軽くするなんてものは『無い』

能力を切り替えることを粘土で作品を作ることと考えてもらおう

粘土は形を自由に変えられるし、分けられる

その際、粘土には限りがあるため、元々の粘土の量が少なければ能力を同時に起動できる数は減るし、逆に多ければ沢山の能力を起動できる

そして、限りある粘土を増やすことはできず、更に言えば、今は粘土が少ない状態だ

だから、能力の同時起動数が減っていることに繋がってしまうのだよ

 

577:名無しの助言者

ダメか……

 

578:名無しの助言者

でもさ、それって別に『無くなる』わけじゃないんでしょ?

 

579:名無しの助言者

>578 確かに、それはそうだな

もし、能力の使用回数に制限が掛かっているなら、そもそもスレ主があんなに簡単に攻撃を受けることもなかっただろうし

 

580:名無しの助言者

それに、スレ主のスペックなら、いくら弱体化したところで大したことは無いはずだもんな

 

581:名無しの助言者

じゃあ、スレ主が弱体化したのは、なんでなんだろう?

 

582:名無しの助言者

やっぱ、『本体』ではないからじゃないか?

本体は、『星の末端』とかいう、説明のしづらい存在だけど、今のスレ主はそこから分けられた魂の『欠片』とでもいうべき状態

しかも、体は子供で、まだ未熟な存在

そんな状態で無理矢理大量の力を使えば、そりゃ負担もかかるわって話だろ

 

583:名無しの助言者

つまり、今のスレ主は弱体化したとはいえ、その力はスレ主の本来のものと同じという事なのか……

 

584:名無しの助言者

どうしたらいいんだ……

 

585:神祇省総司令

……手はあるよ

 

586:名無しの助言者

えっ!?

 

587:名無しの助言者

マジか!!

 

588:名無しの助言者

どんな方法なんだ!?

 

589:神祇省総司令

簡単な事さ

特訓するんだよ

 

590:名無しの助言者

……え?

 

591:名無しの助言者

……はい?

 

592:名無しの助言者

あの……どういうことでしょうか……?

 

593:神祇省総司令

そのままの意味さ

今のままの状態で戦っても、いずれ限界が来るだろう?

そして、キャパシティにも限界がある

なら、成長すればいいんだ

それも、一刻も早くね

 

594:名無しの助言者

……なぁ、一つ聞いてもいい?

 

595:神祇省総司令

何だい?

 

596:名無しの助言者

スレ主が、強くなったら困る事でもあるのか?

 

597:名無しの助言者

いや、そういうことじゃないんだけど……

具体的には何するのさ?

 

598:名無しの助言者

まさかとは思うけど……

 

599:名無しの助言者

スレ主を、徹底的に鍛え上げるつもり……?

 

 

600:名無しの助言者

 

 

601:名無しの助言者

 

 

602:名無しの助言者

 

 

603:名無しの助言者

うーん、この……

 

604:名無しの助言者

でも、「ありふれ」のインフレ具合からして、強いに越したことはないんだと思うんだが……

 

605:名無しの助言者

まぁ、それはそうかもしれない

でも、やり方次第じゃ、スレ主に負荷をかけすぎることになるんじゃないか?

 

606:名無しの助言者

そうだよ

それに、強くなるための方法なんてあるのかい?

 

607:神祇省総司令

あるよ

むしろ、そっちの方が重要と言ってもいい

 

608:名無しの助言者

えぇ……(困惑)

 

609:名無しの助言者

なに、その怪しさ全開な言葉

 

610:名無しの助言者

なんか、嫌な予感がするんだが……

 

611:名無しの助言者

>610 奇遇だな

俺も嫌な予感がするんだよ……

 

612:名無しの助言者

えっと……一応聞くんですけど……

一体何をするつもりですか……?

 

613:神祇省総司令

君達が気になっているであろう『システム』についてちょっとばかり変えるだけだよ

ただ、それだけでは足りないから、他の事もやるけれど

 

614:名無しの助言者

いやだから……!

具体的に何をするのかって聞いてるんですよぉおおおっ!!

 

615:名無しの助言者

(゚ д゚ )ハッ!

 

616:名無しの助言者

確かに、肝心なことを聞いてなかった!!

 

617:名無しの助言者

おいこら、何するつもりだスレ主!

お前の身に何かあったらどうすんだよ!?

 

618:名無しの助言者

そうだぞ! 場合によっては、スレ主の保護者として許さないからな!!

 

619:名無しの助言者

いや、なんでスレ主の保護者扱いしてるのさw

そこは普通、スレ主の師匠的な立ち位置の人が出てくるところでしょwww

 

620:名無しの助言者

いや、でも実際問題、スレ主のスペック的に、今の段階だと厳しいものがあるのは事実だし……

なら、鍛えておいた方がいいんじゃないの……?

って、言いたいところだけど、その方法が俺にはわからんしな……

 

621:名無しの助言者

まぁ、そうだけど……

でも、スレ主に無茶させるようなことはしないでよ?

 

622:名無しの助言者

まぁ、最悪俺らがサポートできる範囲に留めとけよ?

 

623:名無しの助言者

で、何をするんだスレ主?

 

624:神祇省総司令

ふっふっふっ……

そんなの決まってるだろう?

男のロマンにして、主人公の覚醒イベント!

『特訓』を行う!!

 

625:名無しの助言者

……はい?

 

626:名無しの助言者

……いやあの、意味がわからないのですが……?

 

627:名無しの助言者

特訓……?

 

628:名無しの助言者

「男のロマン」分かる

「主人公の覚醒イベント」分かる

「スレ主が特訓を行う」???

 

629:名無しの助言者

アホみたいに強いのに何言ってんでしょうかこのスレ主は?

 

630:名無しの助言者

いやいやいや、さすがにそれは無理だって

どんなスパルタ教育受けても、あんなに強くならないから

 

631:名無しの助言者

>630 禿同

そもそも、どんな特訓をするんだよ

 

632:神祇省総司令

戦いながら何度も死にかけ続けるのさ

 

633:名無しの助言者

はぁあああっ!?

 

634:名無しの助言者

ちょ、正気かよ!?

 

635:名無しの助言者

それこそ、下手すりゃ死ぬだろ!?

 

636:名無しの助言者

いや待て、これは逆にチャンスなのでは?

人間は限界を越えようとした瞬間に、自らの体を自壊させるほどの出力を得ることができる、ってどこぞの漫画で見た覚えがある!

 

637:名無しの助言者

>636 漫画の知識をドヤ顔で言うなw

だが、可能性はある!

 

638:名無しの助言者

おいっ! ちょっといいか!?

 

639:名無しの助言者

>638 なんだ?

 

640:名無しの助言者

>638 どうした?

 

641:名無しの助言者

>638 何か思いついたのか?

 

642:名無しの助言者

いや、その…… 俺も男だから、気持ちはよくわかるというか……

と、とにかく!

特訓をして死にかけるほど自分を追い込むって言ってるけどさ、スレ主は何と戦うんだ!?

 

643:名無しの助言者

>642 あっ……(察し)

 

644:名無しの助言者

確かに…… スレ主が戦っている相手って、普通の人間じゃ太刀打ちできないような存在ばっかりだしね……

 

645:名無しの助言者

という事はつまり……

 

646:神祇省総司令

今まで僕が戦ってきた相手の中でも、相当な実力者たちを再現しようと思うよ

 

647:名無しの助言者

マジかぁ……

 

648:名無しの助言者

うわー…… それは確かにきついな……

 

649:名無しの助言者

えぇ…… スレ主、大丈夫なのか……?

 

650:名無しの助言者

……あれ?

 

651:名無しの助言者

そういえば、相当な実力者って言ってたけど、さっきの人を基準で考えるとどんな感じなんだ?

 

652:名無しの助言者

確かに……

基準が分からんから、どんな相手と戦うのかよくわからねぇな

 

653:神祇省総司令

あぁ、そうだったね、その問題があったか

結は対人戦に特化した能力のため、広い範囲を破壊するのには向いてない

でも、これから僕が戦おうと思っている相手達は、広範囲、高威力を搭載した人間兵器と言っても過言ではない者達だ……

うん、わかりやすく言うなら、町を一つ崩壊させるとかかな?

 

654:名無しの助言者

おいぃいいっ!?

 

655:名無しの助言者

いやいやいやいや!!

 

656:名無しの助言者

何がわかりやすかったらいいのか分かんねぇんだけど!?

 

657:名無しの助言者

そんな化け物みたいな連中と戦ってきたのかよ!?

 

658:名無しの助言者

しかもこれから戦うとか……

 

659:名無しの助言者

スレ主、お前本当に何者だよ……

 

660:名無しの助言者

まぁでも、それなら特訓の相手に関しては心配はないな

 

661:名無しの助言者

>660 そうだな 問題は、どうやって特訓するのかだけど……

 

662:名無しの助言者

一先ずは組手しかねぇな

 

663:名無しの助言者

そうだな……後は、戦闘中のアドバイスとかだろ?

 

664:名無しの助言者

あとは、敵の特徴を教えることぐらいだな

 

672:名無しの助言者

よし、とりあえずこんなもんか?

 

673:名無しの助言者

だな スレ主、他に質問はないか?

 

674:名無しの助言者

…………

 

675:名無しの助言者

>674 どうした?

 

676:名無しの助言者

いや、ちょっと思ったんだけど……

 

677:名無しの助言者

>676 なんだよ

 

678:名無しの助言者

>676 早くいえ

 

679:名無しの助言者

スレ主って、この世界に来て五年と経ってないだろ?

特訓にかまけて、恵里ちゃんとか雫ちゃん、ハジメちゃんのコミュをおろそかにしてるんじゃないかと思ってさ……

 

680:名無しの助言者

!!!!!

 

681:名無しの助言者

あ……(察し)

 

682:名無しの助言者

(゚ д゚ )ハッ!

 

683:名無しの助言者

(゚ Д ゚ )ソウイヤソウダッタ……

 

684:名無しの助言者

え、ちょ、まじで大丈夫なのかよ……

 

685:名無しの助言者

おーい、スレ主~!

 

686:名無しの助言者

返事しろぉおお!

 

687:名無しの助言者

あぁもう!

大丈夫かこれ!?

 

688:名無しの助言者

ダメかもわからんね……

 

689:名無しの助言者

えぇええええええ!?スレ主、しっかりしてくれぇええ!!



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少し体調を崩してしまったかな……?

「……」

 

 窓を閉め切り、カーテンも閉め切られた空間。

 部屋の中に置かれているのは、ベッドと机と椅子だけという質素なものしかない部屋の中で、一人の少年が目を覚ました。

 彼は、自分の体を包む布団を見下ろしながら、小さく息をつくと、ゆっくりと起き上がる。

 そして、枕元に置かれていた眼鏡をかけると、ふぅ、とため息をつき、ベッドから降りて立ち上がった。

 

「……今日から学校か」

 

 そう呟く彼の名は柊木真。

 見た目が少し浮世離れしている以外はどこにでもいそうな普通の小学生である。

 ただ、一つ違う点があるとすれば、それは彼が異能者であるということだろう。

 

「昨日の戦いのせいで、体が重い……」

 

 真はそう言いながら、腕を振り回し、足を踏み鳴らして体の調子を確かめる。

 特に問題がないことを確認すると、そのまま洗面所へと向かった。

 顔を洗い、歯磨きをして、髪を整えてから部屋を移動し、朝食の準備をしている母親――恵の手伝いをしながら、今日の予定について話し合うことにした。

 

「母さん、俺、今日学校に行かない方がいいかな?」

「あら、どうしてだい?」

「え~っと……、まだ体が本調子じゃないし、なんて言うか……夢見が悪かったんだよね」

「……そうかい?なら、無理しない程度に行くといいよ。ただ、何かあったらすぐに連絡すること。いいわね?」

「わかったよ、母さん」

 

 そう言って微笑みかける恵に笑みを浮かべる真。

 すると、そこに父親――柊木正樹が姿を現した。

 

「おはよう、父さん」

「ああ、おはよう真。ところで、学校はどうする? 休むのか?」

「うん、そのつもりだよ」

「そうか……。なら、しっかりと休んでおくこと。それと、夜更かしはしないこと。あとは、そうだな……友達とは仲良くすることだな。まぁ、お前に限ってそんなことは心配してないが……それでも、だ」

 

父親は、真の頭を撫でると、優しく語り掛けるように言った。

それに笑顔で返すと、真は自分の席に着いた。

そんな時、ドタドタと慌ただしい足音とともに遅れて誰かがやって来る。

 

「お兄ちゃんおはよー! 朝ごはんちょうだ―――あいったぁ!」

 

 勢いよく扉を開け放ち、満面の笑みで朝の挨拶をする少女。

 しかし、彼女は途中で父親に額を指ではじかれてしまい、涙目になってうずくまった。

 

「こらっ、美奈子! 静かに入ってきなさいって何度言えばわかるんだい! それに、食事中に大声を出すんじゃないってあれほど言っているだろうに!」

「ごめんなさ~い……あいたたた……お兄ちゃんおはよー」

「はいはい、おはよう」

 

苦笑いしながら返事を返し、食卓を囲む四人。

それからしばらくした後、母親は仕事へ向かい、美奈子は学校へ行き、父親と真だけが残った。

何故、真の父親が家にいるのかについては、今日は実家の銭湯がお休みだからなのだ。

二人は食器の後片付けをし終えると、リビングのソファに座ってテレビを見ながらゆったりとした時間を過ごす。

 

「それで、最近はどうだ?」

「ん~、別に普通かな」

「そうか……」

「腰の方は大丈夫なの?」

「大丈夫だ。病院でしっかり休んだからな」

 

 短い会話を交わした後、また沈黙が訪れる。

 だが、二人の間には気まずさなどは一切なく、むしろ心地よい雰囲気が流れていた。

 それこそが、二人が長年一緒にいるからこそ出せるものなのかもしれない。

 そして、さらに時間は流れていき、時計の針が11時半を回った頃。

 一人の少女が部屋に入ってきた。

 先日、真が保護し、柊木家の居候になった『中村恵里』である。

 

「…………」

「おはよう恵里ちゃん。よく眠れた?」

「……はい、とてもよく眠れました」

「それは良かった。お腹とかは空いてない?」

「はい。部屋の前に置かれていた朝食をいただきましたので、大丈夫です」

「それじゃあ、早速行こうか」

「はい」

 

 恵里に確認をとった真は、彼女の手を引いて部屋を出ようとする。

 その時、

 

「ちょっと待ってくれないか?」

「……正樹さん? どうかしたんですか?」

 

 突然声をかけてきた父親の姿に首を傾げる恵里。

 すると、彼は真剣な表情を浮かべながら、恵里の前に立つと、口を開いた。

 

「『お父さん』と呼んでくれな――」

「はいズドーン」

「ふごっ!?」

「えぇ……?」

 

 唐突に現れた真によって吹き飛ばされていく父親の姿。

 その姿を見た恵里は唖然としており、真は呆れた様子でため息をつく。

 

「何を言わせようとしてるんだよ父さん……。流石に今のは引くよ?」

「すまん、つい、な。ほら、居候とはいえかわいい女の子から『お父さん』なんて呼ばれてみろ。お父さん、明日からすっごいがんばれそうなんだよ!」

「もういい歳なんだから、何も言われずとも頑張ってくださいよ」

「やだやだやだ! こんな年になっても夢は見たいんだー!」

 

 真の父親――柊木正樹は今年で四十歳になる。

 そんな彼は、少年時代から実家の銭湯の手伝いを続け、今では番台を任されているほどの実力を持っているのだ。

 しかし、彼も男であり、娘のような年頃の女性から「お父さん」と呼ばれることに密かな憧れを持っていたりする。

 すでに娘がいるというのに……

 どうやら、実の娘である柊木美奈子は、よく腰を痛める正樹にとって、父親として当たり前の愛情は持ってるし、なんなら、そこらの家族以上に愛しているといっても過言ではない。

 家族の写真を見てはいつもニヤニヤしているし、家族サービスも積極的にやっている。

 

 だが、そんな正樹にもちょっとした願望があった。

 

 それが、最近家族の一員となった中村恵里から『お父さん』と呼ばれることだ。

 

 何故かというと、元気一杯、天真爛漫を体現した美奈子に対し、少しおどおどしている恵里からは今まで感じたことのないような庇護欲を感じたからである。

 

 美奈子は、現在六歳という有り余る元気を漲らせた元気っ子のため、どこか遠くを見つめている真とは違ってよく手を焼かされた、と正樹は記憶している。

 そんな美奈子に対し、新しい環境に慣れておらず、遠慮がちな恵里はかまってあげたくなるような雰囲気を纏っていた。

 真から聞かされた彼女の境遇も相まって、血のつながっていない恵里に対し、正樹は『親バカ』を発動させたのである。

 

 そのため、今回のような発言や行動をしているのである。

 ちなみに、『お父さんと呼んでくれ』発言は、恵里が来てからの一か月の間に四十回ほどあったのである。

 その度に、真からは突き飛ばされたりチョップを入れられたり、美奈子からはタックルを食らっていた。(その時に腰を悪くして入院したのである)

 もっと言えば、入院した期間も含めての一か月なので、日に三回は『お父さん呼びを要求する発言』あったのである。

 

 しかし、そんな彼の思いとは裏腹に、真は容赦なく切り捨てた。

 

「はぁ……わかったよ。それじゃあ、行こうか恵里ちゃん」

「……分かりました」

「あ! 無視しないでぇ~!!」

 

正樹の叫び声を無視して、二人は玄関へと向かう。

それから靴を履いて外に出ようとしたところで、真は立ち止まった。

 

「そうだ、父さん。一応聞いておくけど、今日行くところはそこら辺の公園とか河川敷だからね? 間違っても山とか行かないでよ?」

「うぉ~ん……腰がぁ~……うぅ……心配もしてくれないぃ~……わ、わかってるって。流石にそこまで馬鹿じゃないぞ」

「本当だよね……」

「本当だって。俺を信じろ。お父さんは嘘はつかないんだ」

「そうだったらいいんだけど……」

 

真は父親のことを信用していないわけではないのだが、如何せん普段の行動が行動であるために、どうしても不安になってしまうのだ。

 

(まぁ、大丈夫だろう……多分……)

 

内心ではかなり不安を覚えつつも、これ以上言っても仕方がないと思い、そのまま扉を開けて散歩に出かけた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

柊木家を出発してから数十分ほど経過すると、二人はとある公園へとたどり着いた。

そこは、小さいながらもきれいに整備されており、遊具なども充実しているため、近所の子供たちにとっては人気の場所となっている場所である。

 

「よし、着いたよ。ここが目的地の公園だよ」

「へぇ~……結構広いですね」

「うん。しかも、周りには木々が多いから、夏でも涼しいんだよ」

「そうなんですか。それはありがたいです」

 

「ふふ、気に入ってくれたみたいだね。それじゃあ、早速遊ぼうか」

「はい!」

 

 元気いっぱいに返事をした恵里に対して、真は微笑ましく思う。

 それと同時に、彼女のためなら何でもできてしまうかもしれないと思った。

 それから、二人は公園内にあるブランコ、滑り台、砂場などを一通り遊びつくし、今はベンチに座って休憩していた。

 そして、その間もずっと恵里は楽し気に笑っており、その様子を見ていた真もまた楽しくなっていた。

 

「どうだい? 楽しんでるかい?」

「はい。とても楽しいです。こんな風に外で遊ぶことなんて最近はほとんどなかったので」

「そっか、良かった。僕なんかと一緒にいてつまらないんじゃないかなって思ってたからさ。少し安心したよ」

「いえ、そんなことはないですよ。それに、私みたいな人間にも優しくしてくれますし」

「え? そんなこと言われたのは初めてだけどな……。どうしてそう思ったのかな?」

「えっと……その……私がネグレクトを受けていたから……ですかね。それでいつも静かだった私をみんなが腫れ物を扱うように接してくるので……」

「……なるほど。確かにそういう家庭だったもんね。ごめん、無神経なことを聞いてしまったね」

 

 真は恵里の発言を受けてすぐに謝罪する。いくら相手が子供とはいえ、デリケートな問題であることに変わりはないからだ。

 しかし、彼女はそんな彼の態度を見て慌てて否定した。

 

「ち、違うんです! 別に謝ってほしいわけじゃないんですよ……!? ただ、私の周りの人たちが優しいだけですから……」

「それでも、恵里ちゃんを傷つけてしまったことは事実だからね。本当に申し訳ないと思っているよ」

「……わかりました。それじゃあ、一つだけお願いしてもいいですか?」

「何だい? できる限りのことであれば、叶えてあげるよ」

「ありがとうございます。あの……これからは、私のことを『恵里』って呼んでください。いつまでもちゃん付けだと。なんだか……疎外感を感じてしまうので……」

「……わかったよ。それじゃあ、僕のことも『真』って呼んでほしいな」

「はい。もちろんです。真」

「ふふっ、よろしくね。恵里」

 

 互いに笑顔を浮かべながら、名前を呼び合う二人の間には穏やかな空気が流れており、まるで本物の家族のような関係になっていた。

 

(この子のためなら、僕はどんなことでもできる気がする)

 

そう思いながら、真は決意を新たにするのであった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「今日は、本当にありがとうございました」

「こちらこそ、楽しかったよ」

 

 あれからもしばらく公園で遊んだ後、日が暮れてきたこともあり、二人は帰宅することにした。

 ちなみに、今日の出来事は写真や動画に収められており、正樹に渡すこととなっている。

 

「ただいま~」

「ただいま戻りました」

「おぉ、おかえり」

「随分と遅かったな。何かあったのかい?」

 

 二人が帰ってくると、リビングでは夕食の準備をしているのか、いい匂いが漂っていた。

 

「うん。実は公園で遊んできたんだ」

「ん? そうなのかい? よかったねぇ恵里ちゃん」

「はい。とても楽しかったです」

「そうか。それは良かった。それで、何時ごろまでいたんだい?」

「うーん、夕方くらいかな?」

「そうか。まぁ、暗くならないうちに帰ってこれて良かったじゃないか」

「そうだね。あ、お父さん。今日撮った写真とかあるんだけど、見る?」

「おお、見たい見たいっ!」

「はい。これが、その時の写真です」

 

 そう言って、恵里はスマホを取り出し、今日の思い出を振り返る。

 そこには、ブランコに乗ったり、滑り台をしたりしている二人の姿が写っており、その表情はとても楽し気なものとなっていた。

 

「ほぅ……これは良いものだね……。これを見れば、父さんも寂しくなくなるだろうし、何より私も嬉しいよ」

「うん。僕もそう思うよ」

「ありがとうございます。それと、私も嬉しかったです」

「ふふっ、どういたしまして」

 

 この後、美奈子も帰ってきて、親子5人の楽しい時間は過ぎていくのであった。



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いざ京都へ!

1:神祇省総司令

というわけでぇ……

戦術支援AIを作成していくぞ~!

 

2:名無しの助言者

>1 スレ立て乙

 

3:名無しの助言者

相変わらず急だな

 

4:名無しの助言者

また変なの作ろうとしてるわ

 

5:名無しの助言者

前みたいに爆発オチだけは勘弁な

 

6:名無しの助言者

マジそれ

 

7:名無しの助言者

>5-6 お前らwww

 

8:名無しの助言者

それで?

なんでこんなスレを立てることにしたんだ?

あと、爆発オチだけは勘弁な

 

9:名無しの助言者

今回はどんな感じのやつなんですか?

爆発オチじゃないですよね?

 

10:神祇省総司令

君達……そんなに僕が信用ならないかい?

 

11:名無しの助言者

うん

 

12:名無しの助言者

はい

 

13:名無しの助言者

当たり前だよなぁ?

 

14:名無しの助言者

むしろ信用できる要素を教えてほしいんだが?

 

15:名無しの助言者

せやせや

 

16:名無しの助言者

そもそも、この人が作る物って全部爆発するから

 

17:名無しの助言者

>16 確かにw

 

18:名無しの助言者

>16 爆発しないやつは……ないよね?

 

19:名無しの助言者

>18 今まで制作してきた内の8割は爆発してる

 

20:名無しの助言者

え、残り2割は爆発しなかったの!?

 

21:名無しの助言者

>20 残りの2割は、迷走したが故にできたやつだから目的のものではない

 

22:名無しの助言者

つまり、実質0割、か

 

23:名無しの助言者

…………爆発オチなんてサイテー!

 

24:名無しの助言者

おいこらwww

 

25:名無しの助言者

話を戻すけどさ、今回もやっぱ新しいやつなの?

 

26:名無しの助言者

戦術支援AI……字面だけ見ると、なんか凄そうだな

 

27:名無しの助言者

でも、戦術支援AIを作るって、確かこの間もやらなかったっけ?

 

28:名無しの助言者

あー……前にもそういうのあったな

 

29:名無しの助言者

アレも結局、ポシャったからなぁ……

 

30:名無しの助言者

そういえばそうだったね

 

31:名無しの助言者

まぁ、あの時作ったの、試作型だしな

 

32:名無しの助言者

試作型と完成品の差がよく分からないんですがそれは

 

33:神祇省総司令

不安に思っている者もいるが安心してほしい

今回のは前回の失敗を踏まえて、かなり改善されている

 

34:名無しの助言者

前回は、何が原因で失敗したん?

 

35:名無しの助言者

たしか、処理落ちがどうとか言ってなかったっけ?

 

36:名無しの助言者

ああ、自前の魔力が足りなかったせいで、システムを組み上げることができずにボカンだったっけ?

 

37:名無しの助言者

そうそう

 

38:名無しの助言者

今度のは大丈夫なんだろうな?

 

39:名無しの助言者

ちょっと前までやってたのは、途中でエラー起こして終わったもんなぁ……

 

40:神祇省総司令

……その節は本当に申し訳ございませんでした

 

41:名無しの助言者

それで? 今度はちゃんとした出来なんだろうな?

 

42:神祇省総司令

>41 当然だとも!

前回失敗したのは、魔力が途中で尽きてしまったことによる構築不全が原因だ

そこで僕は考えたんだよ

魔力が足りないのなら、別の場所から補充してくればいいのさ、と

 

43:名無しの助言者

>42 ほう、それで?

 

44:名無しの助言者

>42 それで、どうやって魔力を補給したんだ?

 

45:神祇省総司令

それはだね、まず最初に京都に行ったんだよ

 

46:名無しの助言者

>45うん

うん?

 

47:名無しの助言者

いきなり話が飛んだな

 

48:名無しの助言者

>45 や、うん まぁ、別にいいんだけどさ……

京都を選んだ理由は?

 

49:名無しの助言者

>45 なんで京都なんだ?

 

50:神祇省総司令

>48>49

京都っていうのはね、様々な妖怪関連の本拠地ともいうべきところなんだ

そこには、魔力の収束した流れがある霊脈ともいうべきものがある

だからこそ京都に行って、その霊脈を利用したかったんだ

 

51:名無しの助言者

>50 なるほど、大体わかった

 

52:名無しの助言者

>51 マジで分かってるのかお前……

 

53:名無しの助言者

>52 俺はそういうオカルト系に詳しい奴らとつるんでてな 、それぐらいの知識はあるぞ

 

54:名無しの助言者

じゃあ、質問

京都のどこでやるんだ?

 

55:名無しの助言者

そこは重要だよな!

 

56:名無しの助言者

俺もそこ気になるわ

 

57:名無しの助言者

場所によっては危険じゃないの?

 

58:名無しの助言者

確かに

 

59:神祇省総司令

えっとね……場所は伏見稲荷大社の近く

 

60:名無しの助言者

あー、あそこの近くか

 

61:名無しの助言者

ふむ、修学旅行生の定番だな

 

62:名無しの助言者

>61 なお、その時の俺達は……

 

63:名無しの助言者

言うなよ、悲しくなるから……

 

64:名無しの助言者

でも、あれって結構人が集まるんじゃないの?

 

65:名無しの助言者

大丈夫かスレ主?

考えはあるんだろうな?

 

66:神祇省総司令

大丈夫大丈夫

そこら辺は隠蔽系の能力を使って行くよ

そもそも、目的の場所は人目の付く所じゃなくて、山の中とかだからね

 

67:名無しの助言者

人目に付かないようなところでやるわけか

 

68:名無しの助言者

まぁ、それが無難かな?

 

69:名無しの助言者

でも、そうなると問題はどんなAIを作るのかだね

 

70:名無しの助言者

戦術支援つっても、どんな感じに支援するかによっても変わるからな

 

71:名無しの助言者

スレ主的にはどういうのが欲しい?

 

72:名無しの助言者

戦闘だけに特化したタイプ?

 

73:名無しの助言者

それとも内政特化型?

 

74:名無しの助言者

いやいや、生産職特化も捨てがたいぞ!

 

75:名無しの助言者

おい待て、汎用性重視の方がいいだろ?

 

76:名無しの助言者

いやいや、戦闘にも役立つ万能タイプの方がよくないか?

 

77:名無しの助言者

ちょっと何言ってるか分からないですね……

 

78:名無しの助言者

結局はスレ主に聞くのが一番早いんだよな

 

79:名無しの助言者

そういえば、スレ主は今どうしているんだ?

 

80:神祇省総司令

今は京都に向かっている最中だよ

あ~駅弁美味しいなぁ~

 

81:名無しの助言者

>80 お前wwwww

 

82:名無しの助言者

>80 なんで弁当食ってんだよw

 

83:名無しの助言者

まぁ、移動中は暇だしなぁ

 

84:名無しの助言者

それで、どんなAIを作るつもりなんだよ?

 

85:名無しの助言者

>84 あ、確かにそうだな

 

86:名無しの助言者

うーん、どんなのがいいんだろうね?

 

87:名無しの助言者

>86 まぁ、何でもできるっていうなら、万能型がいいだろ

 

88:名無しの助言者

でも、なんでもできすぎると逆に扱いにくいと思うんだよね

 

89:名無しの助言者

それはあるかもな

 

90:名無しの助言者

それに、スレ主が作るAIだからな

 

91:名無しの助言者

スレ主が決めてくれよ

 

92:神祇省総司令

ん~……無難に万能型かなぁ……

よし、万能型にしよう!

 

93:名無しの助言者

>92 本当にいいのか?

 

94:神祇省総司令

うん、問題なし!

作るんなら、とびっきり優秀な子にしてあげないとね!

 

95:名無しの助言者

じゃあ、後はどんな見た目にするのかだけど……

 

96:名無しの助言者

ここはやっぱり美少女だろ

 

97:名無しの助言者

異議なし!

 

98:名無しの助言者

異議なし

 

99:名無しの助言者

こっちも異議なしだ

 

100:名無しの助言者

はーい、私は可愛くしてくださーい

 

101:名無しの助言者

俺はイケメンを頼む

 

102:名無しの助言者

お、ここに来て新しい意見が出てきたな

ま、俺はそのどれでもない男の娘がありだと思うけどな

 

103:名無しの助言者

お、お前、そんな趣味があったのか!?︎

 

104:名無しの助言者

別に男が好きなわけじゃないからな?

ただ、可愛いならどんな子でも好きなんだ

 

105:名無しの助言者

それを世間ではホモというんです

 

106:名無しの助言者

それを言うならバイセクシャルだろ

 

107:名無しの助言者

だから、俺は女が好きだって言ってんだろうがぁああ!!

 

108:名無しの助言者

あ、はい、分かりました

 

109:名無しの助言者

えっと、話を戻すとして、スレ主はどんな見た目がいいんだ?

 

110:神祇省総司令

えっとねぇ……正直なところ、僕はどれでもいいんだよ

でも、欲を言うなら、同性よりかは異性がいいかな?

と、言う訳でぇ……美少女に決定だ!

 

111:名無しの助言者

よっしゃぁあああああああ!

 

112:名無しの助言者

流石スレ主!わかってるぅううう!

 

113:名無しの助言者

くっそぉおおおおおおおおおおおお!

 

114:名無しの助言者

なぜ俺には彼女ができないんだぁあああ!

 

115:名無しの助言者

>114 お前みたいな奴がいるからだろ!

 

116:名無しの助言者

>114 鏡見てこいや!

 

117:名無しの助言者

>114ドンマイ

 

118:名無しの助言者

>114 強く生きろ

 

119:名無しの助言者

>114 現実は辛いぞ

 

120:名無しの助言者

>114(-人-)

 

121:名無しの助言者

>120 勝手に殺すなww

 

122:名無しの助言者

でも、容姿とかってどうするんだ?

身長と体重はある程度調整できるとしても、顔立ちは無理だろ?

 

123:名無しの助言者

確かに、それは難しいな

 

124:名無しの助言者

うーん……

スレ主、出来る?

 

125:神祇省総司令

出来るよ〜

じゃ、まずは女の子バージョンを作ってみよう!

 

126:名無しの助言者

え?

 

 

 

 

 

〜総司令製作中〜

 

 

 

 

 

156:神祇省総司令

出来たよ!

ちょっと待っててね? 今、画像を転送するから!

つ【画像】

 

157:名無しの助言者

は?

 

158:名無しの助言者

(゚ д゚ )ポカーン

 

159:名無しの助言者

え、ちょ、マジ?

 

160:名無しの助言者

誰だこれ

 

161:名無しの助言者

めっちゃ美少女やんけ!

 

162:名無しの助言者

ふぁ~……ものの見事に美少女ですねぇ……

 

163:名無しの助言者

絵に描いたかのような銀髪碧眼美少女だな

しかも、超絶美少女

これはもう、スレ主に嫁ぐしかありませんわwww

 

164:名無しの助言者

この子、どこの国の人なんだ?

 

165:神祇省総司令

モデルとしては日本の子だけど、海外の血が混じってる物作りの名家、そのご令嬢を今回のモデルにさせてもらったよ?

ちなみに自己進化するから、いずれ僕から自立するよ

結婚できるかどうかは……成長したこの子が、僕のことを好意的に見てくれて、尚且つ僕が受け入れたらの話になるけどね

 

166:名無しの助言者

なん……だと……!?︎

 

167:名無しの助言者

オイオイオイ

 

168:名無しの助言者

(社会的に)死ぬわアイツ

 

169:名無しの助言者

ほう

自分の娘のような存在と結婚ですか

 

170:名無しの助言者

大したものですね

 

171:名無しの助言者

うん、まあ、そうだろうな

だが、スレ主もなかなかやるな

 

172:名無しの助言者

ええ、まさかこのようなお嬢様をゲットするとは

 

173:神祇省総司令

と言っても、今皆に見せた画像は頭の中で構築した案の一つだから、AIはまだ出来上がってはいないんだけどね

あとは、これを事前に作成していた身体に合わせて調整すれば完成だよ

 

174:名無しの助言者

ふぇ~……

今回は気合が入ってますなぁ

 

175:名無しの助言者

さすがスレ主 やることが違うぜ!

 

176:名無しの助言者

ええ、素晴らしいですよ

これでこそ私たちの仲間です

 

177:名無しの助言者

いやぁ、いいねぇ

こういうのを待ってたんだよ

 

178:名無しの助言者

苦節半年……

ようやっとまともなのが出来上がるのか……

 

179:名無しの助言者

ああ、俺たちの戦いはこれからだ!!

 

180:名無しの助言者

打ち切りみたいな言い方やめいww

 

181:名無しの助言者

おいww

まだ続くからなww

 

182:名無しの助言者

んじゃ、いい知らせを待ってるぞ~

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

483:神祇省総司令

ぼすけて



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ぼすけて……

――日本の町、京都

 

 この町は、古来より陰陽道が盛んであった。

 

 それは、現代に至るまで変わらない事実である。

 

 そして、この世界においての呪術もまた同じことが言えた。

 

 しかし、いくら古くからあるとはいえ、現代にまで残る陰陽師の家系は数少ない。

 その理由は単純明快で、現代科学の台頭により、陰陽術というものが衰退したからである。

 

 陰陽師の力が衰退した本当の理由に関しては少し違うのだが、今知っても意味はないだろう。

 

 それはさておき、この世界には俗に「オカルト」と呼ぶべき不思議な力がある。

 そして、この京都はその総本山ともいうべき場所だ。

 

 その京都にある街並みの上空を高速で飛行する物体がある。

 

 誰であろう。

 

 転生者掲示板の者達からは「スレ主」と呼ばれる男「柊木真」であった。

 

 彼は現在、京都の町外れにある山へと向かっていたのだ。

 

 なぜ彼がそんなところへ向かっているかというと、とあるものを作るためである。

 そのために、ある条件をそろえたうえで、特殊な環境が必要になったのだ。

 

 それが、京都の山奥に存在する「霊脈(この世界では龍脈と呼ばれる)」と呼ばれる場所。

 

 霊脈とは、魔法などを使う際にエネルギーとして消費される魔力が流れる場所のことを言い、霊脈に流れる魔力が豊富な場所であるほど、強力な魔術を行使することができるようになる。

 それ故に、魔術師や陰陽師にとっては聖地ともいえる場所で、霊脈の源泉がある場所には、そういった組織が拠点を構えていることが多い。

 また、霊脈の流れというのは絶えず変化しており、その場所の魔力濃度が変わることで、様々な現象を引き起こすことがある。

 

 その最たる例が、強力な魔物の出現だ。

 

 魔力が濃くなると、その土地に元々住んでいる生物が変化したり、巨大化したりすることがある。

 そのような事態を防ぐために、定期的に霊脈を安定させる必要があるため、それを生業としている者達もいる。

 

 それが「陰陽師」という存在だ。

 

 しかし、この世界では陰陽師の力は非常に衰えており、現代の日本にいるような優秀な陰陽師はほとんどいないといっていい。

 それでも、全く存在しないわけではないが……だが、それも一握りだ。

 

 数年後には、既存の陰陽師をはるかに上回る力を持った少女が覚醒するのだが、今の真や陰陽師たちが知る由はない。

 

 そして、今回、真が向かった場所は、その中でもかなり大きな規模の霊脈を持つ組織の持ち物である山だった。

 本来なら不法侵入とされ捕まってしまうだろうが、そこは最強と呼ばれていた男。

 造作もなく侵入し、てくてくと目的地に向かって歩いて行った。

 

 しばらく歩くと、巨大な鳥居が見えてきた。

 おそらく、ここが目的の場所だろう。

 真は迷うことなく、鳥居の中へ入っていった。

 

 中はまるで神社のような作りになっており、左右には狛犬ではなく狐の石像が鎮座している。

 そして、そのまま真っ直ぐ進むと、急に開けた空間に出た。

 

 きょろきょろと周りを見渡す真であったが、ふと後ろを振り向くと先程まで歩いてきた道がないことに気づく。

 

 そして、しばらく動きを止めたかと思うと、こう呟いた。

 

「あらら……迷い込んじゃったか……」

 

 どうやら、ここに来るまでに通ってきた道はすでに消えてしまっていたようだ。

 

 それに気づいた真は慌てる様子も見せず、何事もなかったかのように再び歩き出した。

 

 それから数分後、ようやく目的のもの――霊脈の源泉を見つけた真は早速作業に取り掛かった。

 

 まず初めにしたのは、背中に背負っていた袋から手足や胴体のようなパーツをいくつか取り出し組み立てる。

 その後、完成した部品の頭を取り付ける。

 すると、あっという間に人型のマネキンのようなものが完成した。

 

「う~ん……こんなもんかな?」

 

 そう言って、真は袋の中からガラスのように透明でありながら、ネオンサインのように光る棒を取り出し、今度はそのマネキンを中心にして、地面に何かの紋様を描き始めた。

 描くといっても、ただの円ではない。

 複雑怪奇な模様を描くように描いている。

 

 そして、描き終わると同時に、手に持っていた道具を放り投げた。

 

 投げられたものは地面に当たると割れ、そこから光の線が伸びていき、紋様に繋がっていく。

 最後に、手を合わせた瞬間、光は一気に収束していき、マネキンへと吸い込まれていった。

 

「よし。ここからが本番だ……」

 

 気合を入れなおした真は、さらに袋から別のパーツを取り出す。

 

 それは、筒のような形をしており、中には水晶玉のような丸い球体がはめ込まれている。

 

 そして、その筒の中に手を突っ込み、球体をずるりと引き抜いた。

 

 それをマネキンの中心――人体で言えば心臓に当たる部分に球体を埋め込み、何らかの言葉を紡ぎ出す。

 すると、真の腕に紋様に繋がった光の線のようなものが浮かび上がり、埋め込んだ球体を経由してマネキンの全身に張り巡らされていった。

 

 しばらくすると、球体が徐々に輝きだし、だんだんとマネキンに馴染んでいく。

 

 最終的に、完全に埋め込まれた球体から手を離した真は、横たわるマネキンを前にして独り言ちた。

 

「これで、準備完了っと……。あ~でもこれってちゃんと起動するのかなぁ? 一応、僕の魂をベースに作った疑似的なものだとはいえ、万能型は初めて作るんだよねぇ……」

 

 そう言いながら、真は横たわっているマネキンに近づくと、そっと抱きかかえた。

 

 すると、マネキンの体が一瞬だけ淡く発光し、真の体からあふれ出た光の粒子がマネキンの全身を覆っていく。

 

 その光景は、まるでマネキンが真の肉体の一部になったかのような錯覚を覚えるほどだ。

 

 光が収まる頃には、マネキンのような無機質な姿はなくなっており、代わりに一人の女性が眠っていた。

 

 年の頃はまだ十代後半ぐらいだろうか。長い銀髪に雪のように白い肌をした美しい女性だった。

 

「うん。成功みたいだね」

 

 真はその女性の姿を見て満足げにうなずく。

 

「さてと、後はこの子が目を覚ますのを待つだけだ」

 

 そう言いつつ、真はあらかじめ用意していた毛布を広げ、女性の体にかけていく。

 

 その顔には、慈愛に満ちた笑みが浮かんでいた。

 

 しばらくして、女性はゆっくりと目を開ける。

 

 その瞳は美しい碧眼だ。

 

「お、お目覚めかな?」

「…………」

 

 目が合った真は、優しげに声をかけるが、当の女性は何も言わず真の顔を見つめていた。

 

 だが、真はそんなことは気にしない。

 

 なぜなら、彼女にとってはこれがこの世に生まれて初めての行動だからだ。

 

 つまり、赤ちゃんが初めて見たものを親と思い込むように、彼女は真のことを自分の親だと認識しているのだ。

 

 その証拠に、彼女の瞳からは大粒の涙が流れていた。

 

「えーと、大丈夫かい?」

 

 真が心配そうな声をかけるが、やはり反応はない。

 

 見た目は成長した女性とはいえ、その実態は生後間もない赤ん坊。

 生まれたばかりの子供に言葉を話せというのも酷なものだろう。

 

 なので、真は優しく微笑むと、そのまま頭を撫で始めた。

 

 そして、真は心の中で呟く。

 

(早く大きくなって……そして、僕の名前を呼びなさい)

 

 そうして彼女を抱きかかえてその場を後にしようとした。

 

 その時である。

 

「!?」

 

 突然、真は背後から強い殺気を感じた。

 

 次の瞬間には、周りの木々の間から、燃え盛る火球が真達に向かって殺到してきたのである。

 

「うわっ!」

 

 その数はあまりに多く、真は慌てて回避しようとするが、女性を抱えているため機動力が落ちている状態だ。

 

 故に、回避が間に合わず、直撃は免れたものの炎の弾幕をもろに受けてしまう。

 

 ゴウッ!! と音を立てて炎に包まれる真達。

 

 しかし、しばらくして炎が晴れると、その中心にいた真達は無傷であった。

 

 なぜならば――

 

「やれやれ危ないじゃないか。危うく死ぬところだよ。結界がなければ即死だった、ってね」

 

 真の言葉通り、真達の周囲には結界のような障壁が複数枚展開されており、それによって燃え盛る炎を防ぎきっていたのだ。

 

 だが、真の周りの地面は黒く炭化しており、当たればただじゃすまないことが手に取るように分かる。

 

 またも、木々の間から火球が群れを成して飛んでくるが、今度は先程とは比較にならないほどの数の火球が飛んできた。

 

 だが、流石は「世界最強」と呼ばれた男である柊木真。

 

 それらの攻撃を先程のように不意打ちではないため、即座に対処し始めた。

 いつの間にか手に呼び出した黒い杖をもって、火球をいなし、さばき、両断することで無力化していった。

 

 そうして数分後、ようやく攻撃が終わったのか、再び辺りは静寂を取り戻した。

 

「ふぅ……。まったく、ひどい目にあったよ」

 

 額に浮かんだ汗を拭いながら、真は愚痴るように言う。

 すると、今まで一言も喋らなかった女性が口を開いた。

 

「……お、とう、さん……?」

 

 少し舌足らずなしゃべり方だが、それでも真のことをはっきり「お父さん」と呼んだ。

 

 それを聞いた真は満面の笑みを浮かべて、答える。

 

「ああ、僕は君の『お父さん』だ。……ごめんね。こんな状況になって……」

「じょう、きょう……?」

「あぁ、状況っていうのはだね、っと、話してる暇はないね」

「…………?」

 

 そうして、背中に背負った女性を肩越しに見ていた真は、視線を正面に戻し、火球の飛んできた木々を見据える。

 

 そこには、一人の美女――鬼が立っていた。

 

 雪のような白髪を結い上げ、見上げるほどの身長――おそらく二メートルを超えるを持ったその鬼は、黄金の瞳でもって真達を見下ろしていた。

 

 胸が零れ落ちそうなほど着崩した白地に黄色い彼岸花の刺繍が美しい和装。

 

 そして、額と両のこめかみ辺りから生えた立派な三本角は、明らかに人ではなかった。

 

 その手には一振りの大太刀が握られており、その美貌と相まってどこか幻想的な光景にすら見える。

 

 その大太刀を持った鬼は、真の姿を確認するとニヤリと笑った。

 

「ほう? 我が一撃を防ぐか。しかも、その様子ではただ防いだのではなく、ましてや反らすどころか、両断して見せるとはな」

「お褒めにあずかり光栄だよ。美人な鬼さん?」

「クッ! ハッハハハ!! ましてや、我を褒めるとは……面白い人間だ。気に入ったぞ!!」

 

 そう言って高笑いをする女鬼。

 

 その声に反応するように、周囲の木々がざわめき始める。

 

 真はそれを横目にしながら、苦々しい表情をしていた。

 

(まずいね……。僕の眼――『真眼』で見た限りだと、彼女の『格』は『特級』クラス。相当な大物だな……)

 

 そう、真が「世界最強」と呼ばれる所以の一つ。

 それは、真の持つ固有の魔術器官「真眼」にある。

 『真眼』とは、真の視界に入った対象の魔力量・体力値・筋力値・敏捷値をおおよその数値にして視認できるという能力であり、これにより、相手の力量を把握できるというものだ。

 真はその能力をフル活用し、目の前の女鬼の情報を瞬時に読み取り、自分の置かれている状況を冷静に見極めようとしていた。

 

(今の状況……僕一人ならなんとかなるけど……この子を守りながらとなると厳しいかな?)

 

 そう思いつつ、チラリと背負っている女性を見る。

 

 すると、その女性はカタカタと小刻みに震えており、明らかにおびえていた。

 

 それも当然だろう。

 

 何せ彼女はまだ子供なのだ。

 

 いくら肉体が子供ではないとしても、精神はまだ未成熟で、恐怖を感じてしまうのも無理はない。

 

 だからこそ、早く彼女を安全な場所へ連れて行かなければならないのだが――

 

(相手はどう見ても強敵だし……それに、この世界から出られるのかどうかすらわからない)

 

 そう、現在真達がいるのは、外界から切り離された『異界』ともいうべき場所。

 

 つまり、出口がないのだ。

 

 仮に外へ出たところで、そこに広がっているのは先程までいた森林地帯ではなく、全く別の景色が広がっているかもしれない。

 

 故に、真は下手に動くことができなかった。

 

 しかし、そんなことを知らない鬼女は、ゆっくりと口を開く。

 

「さて、久方ぶりの強そうな人間だ。そう簡単に折れてくれるなよ?」

「生憎だけど、僕は強そうっていう言葉で収まるやつじゃないよ」

「ほぉう?」

「だから、君を全力で叩き潰す」

 

 瞬間、真は一気に鬼女の懐に入り込み、手に持った杖を振りぬく。

 

 だが、その攻撃はあっさりと避けられてしまい、逆にカウンターを仕掛けられてしまった。

 

 それを真はバックステップを踏むことで何とか回避する。

 

 だが、鬼の攻撃はそれでは終わらず、今度は真に向かって大太刀を振るってきた。

 

「っ!?」

「これで終いなら、そこまでじゃ」

 

 その尋常じゃない速度に驚愕するも、比較的冷静に防御を選択できた真は杖に全力で魔力を流し、更迭を遥かに上回る強度を手に入れた杖で大太刀を防ぐ。

 

 ガキンッ!! という金属同士がぶつかったような甲高い音が周囲に響き渡り、その衝撃により、地面が大きく陥没する。

 

「ぐぅうう!!!」

 

 そのあまりの力強さに思わず膝をつきそうになるが、必死に耐え、背中にいる女性を守るように大きく後退する。

 そして、鬼女が追撃してこないことを確認した真は、近くの木の側に女性を下ろし、毛布を身に纏わせた。

 

「待っていてね。あいつをすぐ倒してくるから」

「…………う、ん」

 

 相変わらず舌足らずな話し方でも、肯定を返した女性に満足げに微笑んだ真は、今度こそ鬼女に相対する。

 

「待っていてくれるなんて、結構優しいんだね」

「ククク、勘違いしてくれるな。我はただ、久々に楽しめそうな獲物を逃がしたくなかっただけだ」

「ふーん……まぁいいや。それより、一つ聞きたいことがあるんだけど?」

「なんだ?」

「ここってどこ? あと、君の名前は?」

「ほう? 我のことを知らぬのか」

 

 真の質問に対し、少し驚いた表情をする鬼女だったが、すぐに面白そうに笑うと自身の名を名乗った。

 

「我が名は茨木童子。かつて京の都で暴れまわった悪しき妖怪の一人よ」

「…………ワァオ。思っていた以上にビッグネームだね」

 

 真はその名前を聞いて、苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

(確か、平安時代の最強最悪の鬼の一角、だったよね?)

 

 もちろんのことながら、それは創作の話であり、実在したかどうかは定かではない。

 

 ただ、目の前の女鬼――いや、茨木童子からは凄まじいほどの妖気が漂っており、その言葉が法螺ではないことをひしひしと伝えてくる。

 

 だからこそ、真は冷や汗を流す。

 

(どうしようかな。今の僕の実力だと勝てるかどうか怪しいし、そもそも逃げることすらできない)

 

 そう考え、どうやってこの状況を切り抜けるか頭を悩ませる。

 

(とりあえず、相手の手札を全て把握してから考えるべきかな?)

 

 そう思い至り、杖を構えつつも、頭の中ではある機能を使うことにしたのであった。

 

・ぼすけて

 

 転生者掲示板だ。



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茨木童子との戦い




この作品では初めて前書きを書くと思う。

どうもクラウディです。

今回の内容的には、一部の人が嫌う作品の技が出てきます。

作者も正直言って、その作品はちょっと苦手なのですが、ある要因に目を瞑れば結構面白いと思います。

そして、豊富な技の種類には心躍りました。

そして最終的には、あんな技の繰り出し方をするなんて思いもよらなかったので、最終回あたりは続きが楽しみになっていました。

そんな作品の技が登場する回です。

苦手な人はすぐさまブラウザバックを推奨します。

低評価は作者のメンタルに悪い意味で響きますので、出来ればあまり低評価を付けないでください。

そっと、お気に入り登録を解除して、評価もつけずにブラウザバックをお願いします。

でも、高評価は作者が喜びますので、どんどん送ってきてください(強欲のツボ)。

それでは、どうぞ。





 転生者掲示板とは、その名の通り、前世の記憶を持つ者達――転生者達が情報交換を行うための場所である。

 

 そもそも転生者とは、元の世界で死んだ者が、神様という存在からの紹介で元の世界とは別の世界に生まれ変わった者達のことをいう。

 

 そんな転生者達は、よく異世界に転生させられるのだが、その異世界には大抵インターネットがないので、誰かと情報交換がしたい、誰かと話をして気を紛らわせたい、などの目的をもって使うことが多々ある。

 

 とはいえ、必ずしも役に立つと言う訳ではなく、また掲示板の情報に頼りすぎて、足元にある落とし穴に気づかぬうちにはまってしまうこともあるため、乱用はお勧めできない。

そんな転生者の憩いの場であるはずの掲示板に、真は一つの書き込みを入れた。

 

・ぼすけて

・どうしたスレ主?

・いきなり意味深な発言をして

・もしかして:チート能力の使い過ぎで頭がおかしくなった

・おい止めろ。そういう冗談を言うのは心底不謹慎だぞ

・お前が一番酷い件についてwwww

 

「アッハハ!! ほれ、躱して見せろ!」

「いっつうっ!」

 

・茨木童子に襲われた

・……

・……

・……?

・えっ?

・はっ?

・嘘やん

・マジで言ってる?

・うん

・ちょっ、どういうことだよ! 詳しく話せ!

 

 明らかに普通の状態ではないと、送られてきた文字の簡潔さから察した掲示板の住人たちが焦り始める。

 それに喜ぶ間もなく、真は攻撃を受け流していった。

 だがそれでも、鬼と人では圧倒的な筋力の差があり、少しづつだが傷が増えてしまう。

 

「ぐっ!!」

「ほぉう、まだ意識があるのか。なかなかに頑丈ではないか」

 

・ライブモードを起動するよ!

 

 茨木童子と鍔迫り合いをしながらも、咄嗟の判断で掲示板の機能――ライブモードを起動し、掲示板の住人達に自身が見ている光景をリンクさせた。

 すると、脳内の掲示板に、『ライブモードを起動しました』という文字が現れる。

 それを確認した真は、すぐさまその場から大きく後退した。

 

「ほう? この距離でも我の姿を捉えられるか」

「まぁね。これでも一応魔法使いの端くれだから」

「クク、そうかそうか」

 

 茨木童子はその答えを聞き、ニヤリと笑みを浮かべると、そのまま一気に真のいる場所まで距離を詰めてきた。

 そして再び両者は剣戟を交わす。

 

「ぐぅう!!」

「ククク、いい声を出すじゃないか」

 

・ファッ!?

・なんやこの美人!?

・めっちゃ肌綺麗なんですけど

・胸でけぇなおい!!!

・でも、なんか見たことがあるような……?

 

茨木童子の容姿を見た掲示板住人達がざわつきだす。

それも当然だろう。茨木童子の姿は、とても美しい女性なのだから。

真からしてみれば、このような美人は何度も見てきた(主にハニートラップで)ため、大して動揺はない。

むしろ、先程から自分を一撃で殺しうるであろう威力を孕んだ一撃に背筋が寒くなるほどだ。

だからこそ、真は内心で舌打ちをする。

 

(やっぱりこうなるよねー。僕もそうだったし)

 

掲示板の住人達も言っていたが、茨木童子の容姿はかなり整っている部類に入る。

艶やかな白髪に切れ長の目、通った鼻筋に形の整った唇。

その美貌は、まるで神が創った人形のようだ。

真はそんなことを考えながらも、茨木童子の攻撃を捌き続ける。

 

(でも、今は彼女と戦うしかない。少しでも多くの情報を得るために)

 

・やべぇ、攻撃が見えないんですけど

・安心しろ。俺もだ

・ってか、茨木童子!? あの酒呑童子と同格とか言われてる!?

・あかん、詰んでる

 

「ほらほら、どうした?」

「くそっ!」

「クハハ、まだまだだな!」

 

・これは勝ち目ないわ

・逃げようぜ

・逃げるなら今のうちだぞスレ主

・そうだ、逃げたほうがいい

・生憎のところ、逃げられそうにないと思うぞ

・どういうことだい>536?

 

真は茨木童子の猛攻に耐えながらも、気になる記述があったので、その記述主に問いを投げかける。

 

・あれ? スレ主知らない……ってか、言ってなかったな。その場所のこと

・何が?

・その異界について

・異界?

・えっとな……実は―――

・ちょっ、マジで?

 

「なるほど……っ! ここは妖怪を封印した結界の中か……!」

「ほう……まさか、我が言わずともこの異界の正体に気づいたか……それでこそだ!」

「ガッ!!」

 

 横薙ぎに振るわれた大太刀を真正面から受け、大きく吹き飛ばされながら、木々をなぎ倒しつつ減速していく真。

 その頭の中では、この異界についての考察が張り巡らされていた。

 

(「ありふれた職業で世界最強」というラノベの世界の日本には、『天星大結界』というものがあって、そこには強力な妖怪を無数に封じ込めている。おそらくだけど、この『茨木童子』もその1体なんだろ。『酒呑童子』がいないのがせめてもの救い、か。でも、どっちにしろ厄介なのは変わりない。それに……こいつ以外にも妖怪はいるから、あの子が危険だ。とっとと倒さないと……)

 

「おや、まだ立てるのか」

「……」

「クク、なかなか楽しませてくれるではないか」

「そりゃどーも」

 

 茨木童子の言葉に適当に返事をしながら、ゆっくりと立ち上がる真。

 だが、その姿は満身創痍そのもの。

 額からは血が流れ、全身には切り傷ができており、立っているだけでも精一杯の状態。

 それでも真は、茨木童子から視線を外すことはない。

 

「ほう、まだやる気か」

「もちろん。それに、全力も出していないからね」

「クク、言うではないか」

 

・おいおい、大丈夫なのかよスレ主

・無理すんなよ!

・いくら強くても勝てねぇ相手もいるんだからさ

・そうだぞー

 

「(いや、勝つ必要はない。少しでも情報を引き出してくれればいいだけだし)……ま、勝てるんだったら儲けもんだよ。一応算段もあるしね」

「ふむ、ならば見せてもらうとするかな。貴様の力の一端を!!」

 

そう言い放ち、再び距離を詰めてくる茨木童子。

真は、茨木童子の大太刀による攻撃を、あえて正面から受け止めた。

 

そして――

 

バキィイイン!! という音と共に、大太刀が砕け散った。

 

「は――」

「『震打・山鳴(やまならし)』!!」

 

茨木童子から間の抜けるような声が発される前に、回転も加えた杖のフルスイングが茨木童子の胴に叩き込まれる。

 

ゴキャアァン!! という轟音が鳴って、茨木童子の体が吹き飛んだ。

 

それはもう、砲弾のように遥か彼方まで飛んでいき、山に激突すると同時に爆発が起きた。

 

・…………

・えぇー(ドン引き)

・なんつぅ威力だよ……

・っていうか、刀が折れただけじゃなくて、山までぶっ飛ばした!?

・嘘だろ!?

・ありえなくない?

・スレ主って人間だよね?

・うわぁあああ! 茨木童子が死んだあああ!!!

・やったあああ!

・勝ったあああ!

・スレ主スゲーーッ!!

 

 先程までの悲壮感が漂う空気から一変、歓喜の渦に飲まれる掲示板。

 だが、真と一部の者達は違った。

 

「いや、あれで倒せてたら現代まで名前が残らないでしょ」

 

・そうそう、鬼ってのはしぶといからなぁ……

・っていうか、別世界とはいえ、バラキーがそう簡単に負けるわけないって

・え?

 

 その直後、山で爆発が起きた。

 その爆風は、山の麓にいた真まで届く。

 

「やっぱり……」

「クハハハハッ! やるではないか!!」

 

 そして、爆風の中から現れたのは、無傷の茨木童子だった。

 刀は折れたままだが、その体には傷など見当たらず、着物にはほつれすら見当たらない。

 

・あれで死なないんかい!

・そこは死んどけよ! 生物として!

・いや、あれ妖怪!

 

 思わずツッコミを入れる掲示板の住人達であったが、茨木童子の攻撃はまだ終わっていなかった。

 

「次はこちらからだ!」

「くっ!」

 

 柄だけになった大太刀を投げ捨て、山から一直線に跳んでくる。

 まるで先程の光景を逆再生するかのような速度で戻ってきた茨木童子は、拳を握り締め殴りかかってきた。

 そこに武術などの技術はこもっておらず、ただ力を込めて殴っているだけだ。

 だが、それが脅威である。

 単純な腕力が、そのまま破壊力と化すのだから。

 真は咄嵯に左腕を前に出し、ガードした。

 

「ぐっ!」

 

 凄まじい衝撃により、真は数十メートルも吹き飛ばされてしまう。

 しかし、それで終わりではなかった。

 真が地面に落ちるよりも早く、進行方向に先回りした茨木童子が真の体を蹴り上げる。

 

「がはっ!」

 

 今度は数十メートルほど上空へ打ち上げられてしまった真は、落下する前に体勢を立て直そうとする。

 しかし、そんな隙を見逃してくれるほど、茨木童子は甘くなかった。

 

「『鬼火』」

 

 空中にいる真に向かって手をかざすと、その掌から巨大な火球を放ってくる。

 茨木童子が放ったのは魔法ではなく、あくまで魔力を放つ技の一つに過ぎないのだが、それでも相当な威力を誇る。

 

「『旋風』!!」

 

 真は慌てて杖を振り下ろし、横方向に向かって強風を放出すした。

 それによりなんとか直撃は免れたが、それでも勢いを殺すことは出来ず、そのまま地面へと落ちていく。

 

「ふん」

 

 狙いが外れたことを認識した茨木童子は、追撃することなく着地地点を見据えていた。

 

「(どうすれば勝てる?)」

 

 真は茨木童子を視界に収めながら考える。

 だが、思いつくのは一つしかなかった。

 ――茨木童子を倒す方法はあるのか?

 

「(……今の状態だと、魔法じゃ致命傷は狙えない。かと言って、体術じゃ圧倒的な種族差がある……)」

 

――なら、

 

「(技術で補おう……掲示板の皆から教えてもらった『技』で)」

 

そう決意すると、真はゆっくりと立ち上がった。

 

「ほう?」

 

それを見た茨木童子は興味深そうな声を出す。

今まで戦ってきた一部を除いた相手とは違い、目の前の人間は自分が勝てないと判断しているにも関わらず、戦う意思を失っていない。

――面白い。

茨木童子は口元に笑みを浮かべると、再び真に向けて駆け出した。

対する真も、迎え撃つように走り出す。

だが、先程とは違い何やら()()()()()をしている。

そして、杖をまるで刀のように構えた。

――まさか、杖を刀のように使おうとするものが現れるとは!

 

「ハハハハハハハハ!! 面白い!! 受けて立つぞ小僧!!」

 

雄叫びを上げ、二人は同時に攻撃を繰り出した。

 

次の瞬間、

 

「!?」

 

ザンッ!! という音とともに、茨木童子の腕が落ちた。

何が起こったか。

腕が斬られたのだ。

それも、杖によって。

 

「な、にぃいいいいいっ!?」

 

 驚愕の声を上げる茨木童子だったが、それは無理もないことだった。

 

 真が使ったのは、剣道で言うところの居合切りと呼ばれる攻撃であり、本来ならば致命傷に持っていけるほどの威力を持つ。

 だが、それはあくまで人間であればの話だ。

 相手は鬼。

 空想上の存在。

 そして、存在の格は鬼の中でもトップクラスの『茨木童子』。

 そんな存在に、刃など存在しない杖でもって腕を切り飛ばしたのだ。

 驚き以外の言葉が出てこなかった。

 だが、茨木童子はその程度で怯むような弱い鬼ではない。

 

「おぉおおおっ!」

 

 残ったもう片方の手で拳を作り、それを真に振り下ろす。

 しかし、それが当たることはなかった。

 何故なら……

 

「遅いですよ」

「!?」

 

 残像を作るほどの速度で動いた真が、茨木童子の背後に立っていたからだ。

 そのまま、無防備になっている背中に、容赦なく杖を叩き込む。

 

「ガハッ!」

 

その一撃は見事に決まり、茨木童子の体は吹き飛んだ。

流石に、先程とは違って両断されることはなかったが、それでも決して浅くはない切り傷を残す。

 

「ゴホッ! ゴホォ!」

 

血反吐を吐き出しながら、茨木童子は立ち上がる。

その姿は、誰が見ても満身創痍だった。

だが、一瞬きの間には傷がふさがり、息も整っていく。

 

「ふぅ…ふぅ…クハハ……珍妙な呼吸を使ってくるものだな。それに先程の残像、我でも見抜けなかったぞ」

「そりゃどうも。これでも本家には遠く及ばないよ」

「ほう……ぜひとも戦ってみたいものだな。その者と」

「生憎のところ、本家はもうこの世にはいない。戦国時代の人だからね」

「『せんごく』とやらが何かは分からぬが、惜しいな……だが、貴様が使えるのだ。最後まで死合おうじゃないか」

 

そう言う茨木童子の姿は、既に戦闘態勢に入っていた。

そんな茨木童子を見据えながら、真は心の中で呟いた。

 

「(皆、教えてもらったことを見せるよ)」

 

・え? ちょ、何が?

・教えてもらったって……俺達が!?

・身に覚えがないんだが……

 

 一部の者は困惑しているが、それ以外の者は固唾をのんで見守っていた。

 

・あぁ、見せてくれスレ主

・頼んだぜ

・俺達が教えて、アンタがやるんだ、絶対に()()()見せろよ!

・全力でぶちかませ!

・やばくなったら無理すんなよ

 

「(ああ! やってみせるよ!)」

 

 そうして、真は駆けだした。

 同時に茨木童子も駆けだし、両者の距離は一瞬で詰まった。

 茨木童子は拳を、真は杖を振るう。

 だが、真が繰り出す斬撃には先程とは違い、

 

 

 

 

 

――炎の幻影のようなものが纏われていた。

 

 

 

 

 

・茨木童子!

 

・あんたは強いかもしれない……けど!

 

・目の前にいる奴は、アンタよりもずっと強かった!

 

・そんな奴があの技を使うんだ!

 

・鬼を滅する刃をな!

 

・俺たち鬼殺隊が誇る最強の呼吸……『()()()()』を食らえ!



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掲示板の力を使わせてもらう……!




はい
怒涛の連続投稿です。

前回の話を見ればわかるとおり、今回繰り出される技は某鬼を滅する刃の技ばかりです。

バラギーが弱いとか言っちゃいけない。
この主人公がおかしいだけです。

それでは、本編どうぞ。





 『日の呼吸』とは、週刊少年ジャンプにて連載されていた人気漫画であり、アニメ化もされている『鬼滅の刃』に登場する、鬼殺隊士達が必須技能として習得する特殊な呼吸法の一種だ。

 

 超越生物である人喰い鬼と渡り合える程に身体能力が強化され、そこから各『型』に沿った剣術を繰り出すことによって、岩塊よりも硬い鬼の頸をも斬り落とす事が可能となる。

 

 あくまでも人間が身に付ける“技術”である為に、骨身を削りながら修練を重ねる以外に習得方法は無い。

 

 鬼が使う、人喰いなどの要因によって突如目覚める“異能”、血鬼術とは対極に位置すると言える。

 

 ただし、それを本当に習得できるか、あるいは習得した後にどこまで昇華できるかは、個々人の才能と努力次第であり、人によって使える呼吸のレベルは異なる。

 

 鬼殺隊士であっても必ずしも呼吸を完全に使いこなせる訳ではなく、知識はあっても技術としてそれを体得・昇華できない者も少なくない。

 

 剣の技量や呼吸のレベルが低い剣士は日輪刀(別名色変わりの刀と呼ばれ、呼吸法を修めた者に適した呼吸の色に変わる)の色も肉眼で分からない程に薄くなる。

 

 主人公・竈門炭治郎の場合は、呼吸や型を修めるのに2年(実質1年半)かかっている。

 

 最初の1年で呼吸や型を知識として覚え、それから半年は師匠が指導を終わりにした事もあって殆ど進歩がなかったが、最後の半年間にイレギュラーなサポーター達に指導して貰ったおかげで無事に体得できた。

 

 また、理由は不明ながら呼吸を体得した剣士は鬼になり難い事が分かっている。

 

 強い剣士程鬼になるのに時間が掛かり、稀に鬼にならない体質の者すらもいるらしい。

 

 元鬼殺隊の剣士だったとある鬼は、多くの血を鬼舞辻無惨(鬼滅の刃の黒幕)から貰った上で、完全に鬼になるまでに丸3日もかかったという。

 

 無惨が鬼殺隊士を鬼にする事に消極的な理由はこれであり、上記の呼吸の剣士を鬼をして以降は無惨自身は呼吸の剣士を鬼にする事には完全に興味を無くしており、基本的には上弦(鬼の中でも特に強い六体の鬼のこと)が推薦してきた自ら鬼になる事を望むような者を、気まぐれで鬼にする程度である(尤もそんな剣士は殆どいないが)。

 

 唯一数分で鬼化した例外もあるが、これについては無惨が死ぬ間際に自身の全ての細胞と血液を送り込み、対象者がそれを許容できた結果なので、当然ながら他にそんな実例は存在しない。

 

 まぁ、これは今の真には関係のない話だ。

 

 何故なら、この世界には鬼舞辻無惨などという存在はいないのだから。

 

 本題に入ろう。

 

 『呼吸法』――『全集中の呼吸』とは、著しく増強させた心肺により、一度に大量の酸素を血中に取り込む事で、血管や筋肉を強化・熱化させて瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる特殊な呼吸術のことであり、鬼滅の刃に登場する鬼殺隊員は、この呼吸法を習得している。

 

 当然ながら相応の負荷を使用者の体に強いる為に、基本的には戦闘時のみ使用する。

 

 この呼吸によって身体能力を強化した状態で、各々の流派に従った型(技)を以て、鬼と戦う。

 

 この呼吸法こそが、鬼殺の剣士の基本且つ奥義でもある。

 

 なお、 呼吸法にも様々な種類が存在し、その数だけ呼吸があると言っても過言ではない。

 

 例えば、『炎の呼吸』ならば煉獄杏寿郎が使用する呼吸法で、『風の呼吸』であれば不死川実弥が使用する呼吸法である。

 

 それぞれ様々な型と特性があるため、呼吸を修めている者たちはそれぞれの利点を伸ばしていく。

 

 だが、それらの呼吸法は、とある一つの呼吸から派生したものであり、その呼吸の劣化版ともいえる。

 

 その原点ともいうべき呼吸の名前が、『日の呼吸』。

 

 現在に至るまでで判明している使い手は耳飾りの剣士ただ一人である。

 

 煉獄槇寿郎(煉獄杏寿郎の父親)から「最強の御業」と称されている通り、使用する時には日輪刀が赫灼に変化し、あらゆる呼吸の中でも一際強い威力を持つ呼吸であると考えられるが、劇中当初はその詳細については判明していない。

 

 日の呼吸は他の全集中の呼吸とは根本的に全く異なる呼吸法であり、呼吸の中でも殊更に特別視されている。

 

 現時点では日の呼吸法は失われているが、これは始まりの呼吸の使い手であった耳飾りの剣士と鬼舞辻無惨の因縁により、無惨が鬼達に日の呼吸を知る、または使い手になる可能性がある者を全て滅する命を下し、適正のある剣士や日の呼吸を知る者、書物等を徹底的に抹消していった為である。

 

 殊に「『炎の呼吸』を『火の呼吸』と言ってはならない」と『炎の呼吸』に代々厳しく伝わる掟にあるのも、似て非なるものだという事は勿論だが「『日』と『火』を違えて命を狙われないようにする為」という側面もあったのではないかと考えられる。

 

 また、現在の鬼殺隊において「黒い色の刀の隊士は出世できない」と言われているのも、本来は日の呼吸への適性を示す色こそが黒刀なのだが、無惨によって現在では鬼殺隊内では日の呼吸に関する伝承が失われてしまった為に、素質のあった彼ら黒刀の剣士達は、初期の炭治郎のように適正外の呼吸や剣術で暗中模索をする他なく、その素質を発揮できないまま惜しくも命を散らしてきた為である。

 

 また、耳飾りの剣士が黒刀を使用していたが故に、黒い刀の隊士は優先して鬼に命を奪われていたという事も推察される。

 

 鬼には耳飾りの剣士と深い関わりがある『月の呼吸』を使う黒死牟が現れているが、上記の無惨の日の呼吸の剣士抹殺の命を直接執行していたのは主に彼である。

 

 鬼殺隊とは無縁の炭焼きの家系だった竈門炭治郎は、この日の呼吸に似た呼吸法であるヒノカミ神楽を修得している。

 

 そんな『日の呼吸』の力はすさまじく、その使い手であった「継国縁壱」が鬼舞辻無惨と戦った際には、たった一人で消滅まで追い込んだほどである。

 

 ただし、この日の呼吸はあくまで原点であり、他の呼吸法よりも遥かに強力ではあるが、それでも他の呼吸法を完全に凌駕するほどではなく、極めたとしても日の呼吸以外は習得不可である事から、この呼吸法を極められる者は作中時間には現れず、後世ではその存在すら忘れられてしまっている。

 

 なお、主人公である炭治郎は日の呼吸を使用できたが、足止めはできても、縁壱のように無惨を圧倒することができなかったことから、そもそも縁壱が強すぎるというのもある。

 

 そんな『日の呼吸』だが、負担が尋常ではないという点もある。

 

 作中初期の炭治郎は、『日の呼吸』――『ヒノカミ神楽』の型を一回使うだけでも立てないほどに疲労していたのだ。

 

 だが、それほどまでの技を行使しなければ倒せない無惨を炭治郎達『鬼殺隊』は総力を結集して、何とか倒すことができたのである。

 

 そんな「鬼滅の刃」の世界。

 

 実は、とある転生者が、その「鬼滅の刃」の()()()()に転生していたのだ。

 

 もちろん、真が立てたスレの住人の中に、その一人はいた。

 

 彼は神様からもらった強靭な肉体及び、神様からのおまけで授けられた『日の呼吸』の適正とともに「鬼滅の刃」の世界に生まれ変わったのである。

 

 厳しすぎる「鬼滅の刃」の世界を、神の視点ともいうべき『読者視点』から見ていた彼は、掲示板の住人の助けもあって、なんとか物語をハッピーエンドにすることができたのだ。

 

 そんな彼は、余生を過ごしつつ、迷える新人転生者の助けになればと、掲示板で助言をしていた。

 

 そして、その彼の前に、新たな転生者が現れたのである。

 

 それが、スレ主こと「柊木真」。

 

 彼こと「武谷日向」の弟子ともいうべき存在だ。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「ゴオオオオ……!」

 

 炎が燃えるような音を響かせ、独特の呼吸――『日の呼吸』を行使する真は、その圧倒的な速度をもって、茨木童子を攻め立てる。

 その速さたるや、常人には目で追うことすら不可能な領域に達しており、茨木童子は回避行動すら取れず、ただひたすらに攻撃を受けるしかなかった。

 

「ガアァッ!? 」

 

――日の呼吸 壱ノ型 円舞

 

 高速の剣戟を受け、茨木童子はその体を斬り刻まれていく。

 斬撃によるダメージ自体はそこまで大きくはないのだが、しかし、それでもその数はあまりに多すぎた。

 攻撃を躱しながら、円を描くように繰り出される斬撃は、確実に茨木童子の体に傷を与えていく。

 

「グウゥッ……!?」

 

 真の放つ攻撃は、明らかに茨木童子の再生能力を上回る破壊力を有していた。

 それはまるで「日の呼吸」そのものが鬼を滅ぼすために存在しているかのようですらある。

 

「グアアッ! 」

「……」

 

 だが、それでも。

 どれだけ攻撃を受けようと、茨木童子の体からは、力が尽きることはない。

 

――舐めるなよ

――我は最強の鬼の一角、茨木童子だ!

 

 そう叫ぶような気迫とともに振り回される拳は致命の威力を内包している。

 『壱ノ型 円舞』を繰り出した後の隙を突いて、向かってくる拳を前にして、真は前に踏み込んだ。

 普通なら自殺行為だと思われる動きだが、真は普通ではない。

 

――日の呼吸 拾壱の型 幻日虹

 

「ヌウッ!?」

 

 拳で確かにとらえたはずなのに、手応えがなかったことに驚く間もなくすぐさま周囲を警戒する。

 一瞬にしてその姿を視界から消した真は、瞬時に茨木童子の背後に回り込み、その背中へと刀を振るった。

 だが、真の攻撃は空を切る。

 茨木童子が回避したからだ。

 そのことに驚くこともなく、続けざまに技を放とうとする真を前にして、茨木童子は考えた。

 

――残像だと?

 

 驚愕する茨木童子だったが、真の狙いはすでにわかっている。

 先程もその珍妙な技で避けたのだ。

 なら避けるのは容易いこと。

 茨木童子は余裕を持って回避しようとした。

 だが、次の瞬間、茨木童子は自分の目を疑うことになる。

 

――日の呼吸 伍ノ型 陽華突

 

 十メートルはあった距離を先程以上の速度で詰めた真は、これまたすさまじい速度で突きを放った。

 それは、茨木童子の胸に吸い込まれるかのように命中し、その体を貫いたのだ。

 

「ガッ……ハ……」

「……浅いか」

 

 それでも完全には貫けず、先が刺さった程度で止まってしまう。

 その光景を見て、茨木童子は理解した。

 

――避けられぬのか……この技だけは

 

 『日の呼吸』はあくまでも『呼吸法』の基本となった技であり、極めればこれほどまでに強力になるのだ。

 そして、明らかに子供の域を出ないにもかかわらず、ここまで洗練させた目の前の少年に心の中で称賛を送り、この技をさらに極めていた本家の人物に死合ってみたいとも思っていた。

 それを実感しつつ、動きの止まった真に拳を振り下ろす。

 しかし、

 

――日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽

――日の呼吸 漆ノ型 斜陽転身

 

「ガッ!?」

 

 先が刺さった状態から繰り出された技によって、胸を抉られ、更には腕すらも切り飛ばされてしまう。

 そのあまりの痛みに、思わず膝をつく茨木童子。

 そしてその茨木童子の前に立つのは、日の呼吸の反動により満身創痍でありながら、闘志が衰えることを知らない真が立っていた。

 

「まだだ……彼らはこんなものではなかった……もっと、もっと技の速さを……!」

「フッ……」

 

 真が見せる鍛錬への貪欲さを見た茨木童子は、薄らと笑い、傷の治った体で駆けだしていった。

 それに対し、またも『伍ノ型 陽華突』で突っ込んでくる真を左に回避することで躱し、その体を蹴り上げようとする。

 

――日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天

 

 だが、力を籠めるため、両腕で握り、腰を回す要領で空に円を描くように振るわれた技――『弐ノ型 碧羅の天』で足を切り飛ばされてしまった。

 

「ガアァッ!!」

 

 痛みを噛み殺しているのか、それとも、気勢を上げるためか、叫ぶような声を上げた茨木童子は、連続で殴り掛かって来る。

 それを、

 

――日の呼吸 参ノ型 烈日紅鏡

――日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光

――日の呼吸 拾の型 火車

 

 連続で技を放つことで迎撃し、確実にダメージを与えていく真。

 だが、

 

「っ! 浅い……ッ!」

 

 次々と技を放つ真だったが、どれもが茨木童子には通用しない。

 いや、「通用しなくなっている」の方が正しいだろう。

 斬撃を加えても、その傷は浅くなっていき、次第には茨木の方にも余裕ができてしまう。

 その隙に、茨木童子はすぐさま再生した脚でもって蹴り飛ばした。

 

「ガァッ!?」

 

 木々をなぎ倒し、吹き飛ばされていく真。

 しばらくして、勢いが止まり、倒れ伏す真であったが、すぐさま立ち上がり駆けだそうとする。

 

「!?」

 

 だが、その動きは途中で中断されてしまう。

 

 何故ならば、ただでさえ負担の大きい日の呼吸の反動が来たからだ。

 

 いくら、前世での戦闘経験と、魔法により常人以上の身体能力を得て、尚且つ鍛え上げたとはいえ、今の真はただの子供。

 

 そんな彼が、限界を超えて戦い続けたのだ。

 むしろ今まで戦えていたことが不思議なくらいだった。

 だが、茨木童子はまだ健在。

 ここで自分が倒れるわけにはいかないと、再び刀を構える真だったが、突如として茨木童子の動きが止まる。

 何事かと思ったその時、茨木童子の後ろに誰かがいることに気づいた。

 その人物を見て、真は目を見開く。

 そこには、自身が創り出し、実の娘ともいえる存在である女性が立っていたからだ。

 

「ほう? 貴様も戦うというのか?」

「……おとう、さん、を、まも、る……!」

「ダメ、だ……! 逃げ、なさい……!」

 

 先程から、常識外れの光景が繰り出されて、それを見ることしかできなかった彼女。

 赤ん坊のように未成熟な心とはいえ、彼女は自分が何をすべきなのか理解していた。

 

――創造主(お父さん)を守ること

 

 その使命の赴くままに、彼女は一歩踏み出す。

 だが、次の瞬間には茨木童子が拳を振り上げていた。

 一瞬きをする前に、彼女の体はつぶされるだろう。

 

「あ――」

 

 死へと近づく瞬間に訪れると言われる走馬灯。

 数少ない記憶しか持たない彼女であっても、走馬灯は見れるようだ。

 その記憶の中では、声をかけてくれるお父さんの姿や、知らない誰かと戦うお父さんの姿が延々とループしていた。

 

 視界の端では、お父さんが必死の形相で駆けよってきている。

 

 そこには、完成した道具が壊されることへの危惧などはない。

 

 あるのは、大切な娘を守るという意志だけだ。

 

 死を迎えるまで、あと一刻もないほどの刹那、

 

――彼女は動いた。

 

 お父さんがやっていたように。

 子供が親の姿を見て学ぶように。

 

――日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹

 

「なっ!?」

「……」

 

 高速で動くことで残像を発生させ、相手の認識から逃れる『幻日虹』を使って、茨木童子の背後を取った彼女。

 それに驚く茨木童子に対し、彼女は無言のままお父さんから受け継いだ能力により生み出された刀を振るって技を出す。

 

――日の呼吸 漆ノ型 斜陽転身

 

 そして放たれた一撃によって、茨木童子の左腕を切り飛ばすことに成功した。

 

「グオォォッ!」

「……」

 

だが、茨木童子は気にせず彼女に襲い掛かる。

それに対し、彼女は冷静に対処する。

 

――日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天

 

「ガアァッ!?」

 

 彼女が放った『弐ノ型 碧羅の天』は、茨木童子の首筋を切り裂いた。

 それにより、茨木童子は首を押さえながら、よろめき始める。

 

(今なら!)

 

 真はその隙を逃すまいと走り出し、技を繰り出す。

 

――日の呼吸 壱ノ型 円舞

 

 それは、まるで流麗な舞いを思わせるような動き。

 だが、その威力は凄まじいものだった。

 茨木童子の腕を切断し、流れるように斬撃を当てていく。

 

「ガァァッ!!」

 

 しかし、それでも茨木童子は倒れない。

 腕を切られようが、脚を斬られようが、すぐに再生させ、反撃に転じる。

 しかし、「知ったことか!」と真は攻撃を繰り出し続ける。

 

――日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天

――日の呼吸 参ノ型 烈日紅鏡

――日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽

――日の呼吸 伍ノ型 陽華突

――日の呼吸 陸ノ型 日暈の龍・頭舞い

――日の呼吸 漆ノ型 斜陽転身

 

「グォッ!?」

 

 幾度も、幾度と無く繰り出される連撃。

 茨木童子は徐々に傷ついていき、再生も間に合わなくなっていく。

 だが、それだけではない。

 

「…………!」

 

――日の呼吸 壱ノ型 円舞

――日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天

――日の呼吸 参ノ型 烈日紅鏡

――日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽

――日の呼吸 伍ノ型 陽華突

――日の呼吸 陸ノ型 日暈の龍・頭舞い

――日の呼吸 漆ノ型 斜陽転身

 

「なにぃっ!?」

 

 真が間に入ったことで攻撃を中断していた女性――真の娘も同じ技を繰り出したのだ。

 真のように洗練されてるとは言い難いが、それでも、茨木童子の体力を削っていく。

 そして、茨木童子の意識が彼女に逸れると、

 

――日の呼吸 捌ノ型 飛輪陽炎

 

「ゴハァッ!?」

 

 茨木童子の背に、真が放つ渾身の一撃が入る。

 それにより、茨木童子は大きく吹き飛ばされた。

 

「がはぁ……!」

 

 地面に何度も打ち付けられながらも、茨木童子は立ち上がる。

 その目はまだ死んでいない。

 鬼というプライドがあるからこそ、彼女は逃げないし折れない。

 だからこそ、真達は真正面から向かっていった。

 

――日の呼吸 捌ノ型 飛輪陽炎

 

 まずは娘が先制し、注意を反らし、そして、出来た隙を突いて真が技を叩き込んでいく。

 

――日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光

――日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光

 

「ガッ!? グゥッ!?」

 

 真が技を繰り出したなら、追随するかのように娘が技を放ち、反撃の隙すら与えない。

 

――日の呼吸 拾ノ型 火車

――日の呼吸 拾ノ型 火車

 

 まるで、『舞』のように繰り出されていくその技は、先程のように威力の下がった時と比べて格段に強力になっていく。

 もう、茨木童子にも限界が近いのだ。

 何故ならば、もうかれこれ3時間以上は真に切られていたのである。

 それに、同じような技量と強さの人間がもう一人増えたのだ。

 その消耗は尋常じゃない。

 

「離れろぉ!!」

 

 最後の抵抗と言わんばかりの火球の群れも、

 

――日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹

――日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹

 

 容易く受け流されてしまった。

 もはや、茨木童子には抗う術が無い。

 しかし、茨木童子は諦めなかった。

 茨木童子は、自分の血の中に眠る力を解き放とうとした。

 

 だが、次の瞬間、茨木童子は己の死を悟った。

 

――日の呼吸 拾弐ノ型 炎舞

――日の呼吸 拾弐ノ型 炎舞

 

 緩急を考えれば、これで十二個目の技。

 なら、この次には攻撃が出せる隙が生まれる。

 そう考えて、脳裏にちらつく死の予感を振り払おうと、拳を二人にたたきつけようとした。

 

 しかし、

 

――日の呼吸 壱ノ型 円舞

――日の呼吸 壱ノ型 円舞

 

「!?」

 

 また、あの技が来た。

 技の最初に来る技が。

 なら、

 

――日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天

――日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天

 

――日の呼吸 参ノ型 烈日紅鏡

――日の呼吸 参ノ型 烈日紅鏡

 

――日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽

――日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽

 

――日の呼吸 伍ノ型 陽華突

――日の呼吸 伍ノ型 陽華突

 

――日の呼吸 陸ノ型 日暈の龍・頭舞い

――日の呼吸 陸ノ型 日暈の龍・頭舞い

 

――日の呼吸 漆ノ型 斜陽転身

――日の呼吸 漆ノ型 斜陽転身

 

――日の呼吸 捌ノ型 飛輪陽炎

――日の呼吸 捌ノ型 飛輪陽炎

 

――日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光

――日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光

 

――日の呼吸 拾ノ型 火車

――日の呼吸 拾ノ型 火車

 

「あ……ああ……」

 

 それは、まさに『舞』だった。

 息をつく暇も無いほどの連続した動きで繰り出されるその剣技は、まさしく神の領域。

 その美しさに、茨木童子は見惚れてしまった。

 そして、気が付けば、攻撃の手を止めていた。

 

 「こいつらなら殺されてもいい」。

 そう思ってしまったのだ。

 

 だが、なにもされずに死ぬのでは「鬼」としての自分が許さない。

 だから、全力の魔力を込めて、特大の火球を放った。

 しかし、

 

――日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹

――日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹

 

 それも受け流されてしまう。

 あとに残るのは、技を放った後の無防備な茨木童子だけ。

 その首に向かって、真達は全力の一撃を放つ……!

 

――日の呼吸 拾弐ノ型 炎舞

――日の呼吸 拾弐ノ型 炎舞

 

 その斬撃は、茨木童子の首を通り抜け、そのまま背中から飛び出した。

 数刻遅れて、首がずり落ちる。

 

「がっ、はぁ……」

「終わりだ。茨木童子」

 

 真が静かに告げる。

 

 もう手も足も出ない状態とはいえ、まだ茨木童子は生きている。

 

 鬼としての強靭な生命力があるからこそ、そのようなことになるのだ。

 

 完全に負けてしまったことを悟った茨木童子は、真を見据えると、ため息を吐いてこう告げた。

 

「ハァ……我の負けじゃ。煮るなり焼くなり好きにせい……」

 

 そう言うと、茨木童子はゆっくりと目を閉じた。

 その姿はまるで、「殺してくれ」と言っているようにも見える。

 だが、真の答えは違った。

 

「いや、僕は君を喰わないよ? 呪われそうだし」

「あん? 貴様、我を愚弄するか? 勝者にそのようなことなどせん。我の名に誓ってもじゃ」

「でもなぁ……好きにしろって言われても、特に予定はないし、君をどうしようとかあんまり考えてなかったよ?」

「お主、そんなんでよく勝者が務まるのう……。まあよいわ。敗者である我には、もはや何もできぬ。一思いに殺せ……」

「うーん……あっ!」

 

 何か思いついたのか、急に大声を出した真を見て、茨木童子は少し驚いた様子を見せる。

 

「なんじゃ? 一体何をする気じゃ?」

「いや、ちょっと待ってくれ。ねぇ、君ってここを出たくない?」

「? 当然であろう。こんなところ、早く出て行きたいものじゃ」

「じゃあさ、僕と一緒に行かないかい?」

 

 そう言って差し出された手を、茨木童子はじっと見つめる。

 すると、すぐに顔を伏せてしまった。

 

「……我は鬼じゃぞ? そんな存在が暴れ出さん保証がどこにある?」

「ないね」

「即答か!?︎ ……ならば何故連れて行こうとする?」

「別に深い理由なんて無いさ。ただ単に、ここにいるよりはマシだと思うだけ」

「……ふむ。確かに、それもそうかもしれんのう……」

「それに、僕はちょっとだけ未来が分かるんだ。」

「未来ぃ……?」

 

 怪訝そうに眉を顰める茨木童子に、真は笑顔で答える。

 

「うん。実は僕、転生者なんだよね。」

「ほう……なにっ? 貴様、輪廻の輪を越えてもなお記憶を持っているのか?」

「う~ん……ちょっと違う。僕は夢を見るんだ。それも一際特殊な夢をね?」

「…………貴様は未来を知って、どうするつもりだ?」

「特にこれといった目的はないけど、強いて言うなら、救いたいと思ってる子たちがいる、かな?」

「……クッハッハッハ!!︎ 面白い奴め! 良かろう! そこまで言うなら着いて行ってやる! その代わり、そこらの雑魚に殺されるでないぞ? 貴様を超えるのは我だ!」

「契約成立だね。でもそんな状態でどうするの? 僕、生首状態の君を持っていくことはしたくないんだけど……」

「なっ!?︎ 我をこのまま持っていくつもりなのか!?︎」

「だってしょうがないじゃん。僕の家、結構遠いんだよ?」

「……分かった。まず、我の体に首を付けてくれ」

「分かったよ」

 

 茨木童子の指示通り、真は先程切り落とした茨木童子の首を付け直す。

 すると、みるみると茨木童子の体が再生していった。

 

「これでいい?」

「ああ、問題ない。後は……ほれ」

 

 そう言うと、茨木童子の体が縮んでいき、手乗りサイズにまで縮小する。

 

「おお〜すごいな〜」

 

 真が感心していると、手のひらに乗った茨木童子が呆れたような声で言った。

 

「貴様、本当に驚いておるのか? 普通に驚くところじゃろ、そこは……」

「いや、だって見慣れてるから、びっくりした感情が湧かないっていうか、体が小さくなる程度じゃ驚かないよ。それも『ウルトラマン』を知っているならなおさらだ」

「『うるとらまん』が何かは知らんが、全く、おかしな人間もいたものだ……」

「まあまあ、とりあえず行こうか。そうだ、名前を決めないとね。いつまでも茨木童子って呼ぶわけにもいかないし……」

「好きに呼べばよいではないか」

「そういう訳には行かないよ。友人……契約したんだから、いつまでも他人行儀はねぇ……」

「では、『夜々之暁』という名前を使ってくれるか? この名は、我にとって特別な名じゃ」

「茨木童子――暁って、酒吞童子に名付けられたんじゃないの?」

「そうじゃ。だが、今はその名を嫌ってはおらぬ。むしろ誇りに思っておる。だが、それは、周りの連中が呼んでいた名前で『夜々之暁』という名は、酒吞が姉妹の証としてくれた名じゃ」

「へぇ~……えっ、姉妹?」

「なんじゃ? まさか知らんのか?」

「うん……初耳だよ」

「……まぁ、仕方ない。貴様が来るまで相当な時間が経っていたからな。我らの姿など覚えておらんものもいるじゃろう」

「なるほど……それじゃ、これからはそう呼ばせて貰うね?」

「ああ、それで良い。して、その体の名は?」

「そういえば言ってなかったね……。じゃあ、貴様改め『柊木真』で」

「承知した。よろしく頼むぞ、真よ」

 

 こうして、真の目的は達成され、少しばかりの不祥事も解決された。

 

 新たに仲間になった茨木童子――『夜々之暁』とともに、真はこの世界の結末を変えるために、動き出す……!

 

「お、とう、さん……」

「あ、ご、ごめん! 忘れてた!」

「ハァ……それでも親か?」

 

 和気藹々と二人が話す横で、取り残されて呆然としていた真の娘がいたのだが、それはあまり関係のないことだ。







掲示板の者達は、それぞれ、様々な世界に転生しています。

今回のように「鬼滅の刃」に転生した者や、同じジャンプ作品に転生した者もいるかもしれない。

そんな者達の知識と技を模倣して、主人公は強くなっていきます。

『日の呼吸、何回も使いすぎじゃない?』という意見もあるでしょう。

ですが、(作者的には)ちゃんと弱体化しているつもりです。

『日の呼吸』中には、魔法は一切使っていませんでしたし、反動もきっちりありました。

そもそも、作者の想定ではこの主人公、型月作品で登場する『固有結界』をぶっ壊せるような技が存在しますので、その状態(本体)と比べれば見る影もないほど弱体化しています。

これから先、凄まじいパワーインフレがありますが、ご了承ください。

それと、冒頭の日の「鬼滅の刃」関連の説明は、pixiv百科事典から引用しました。




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この世界に来て初めてここまで疲れたよ……




UA10,000回ありがとうございます。

これからも、「【情報】ありふれた世界で生きる方法【求む】」をよろしくお願いします。





【朗報】茨木童子をやっつけたぞ!【日の呼吸】

 

1:神祇省総司令

や っ た ぜ

 

2:名無しの転生者

真ちゃんマジで最高

 

3:名無しの転生者

真ちゃーん!!︎

 

4:名無しの転生者

真ちゃん!

 

5:名無しの転生者

おかえり真ちゃん!

 

6:名無しの転生者

待ってました!

 

7:名無しの転生者

早く続きを!

 

8:名無しの転生者

はよ

 

9:名無しの転生者

>8 せっかちな男は嫌われるぞ

 

10:名無しの転生者

>9 俺は嫌いじゃない(ボソッ)

 

11:名無しの助言者

>10 お前ホモかよぉ!?︎

 

12:名無しの転生者

(゚ д゚ )ハッ

 

13:日柱鬼殺隊員

>12 おいこらw

 

14:名無しの転生者

コテハン組が来たぞ

 

15:名無しの転生者

さあ話を聞かせてもらおうか

 

16:名無しの転生者

何があったんだよ

 

17:名無しの転生者

急展開過ぎて草

 

18:名無しの転生者

説明求む

 

19:名無しの転生者

誰かまとめてくれ

 

20:名無しの助言者

お、今来たばかりの人達かな?

 

21:名無しの助言者

今北産業

 

22:日柱鬼殺隊員

・スレ主が戦術支援AIを作るために京都に旅行

・目的の場所に着いて、AIを完成させたと思ったら茨木童子乱入

・茨木童子との死合を、俺こと日柱鬼殺隊員が教えた『日の呼吸』で討伐

・茨木童子 と 戦術支援AIちゃん が 仲間になった !

 

23:名無しの助言者

三行じゃない(-114514点)

 

24:名無しの助言者

もうちょっと詳しく教えろや

 

25:名無しの転生者

もっと分かりやすく頼む

 

26:名無しの転生者

そうだそうだ

 

27:名無しの転生者

せめて経緯くらい書け

 

28:日柱鬼殺隊員

>24 >25 >26

三行でって言ったのはお前らだろぉん!?

>27 書いてるだろぉん!?

 

29:名無しの転生者

確かに

 

30:名無しの転生者

すまんかった

 

31:名無しの転生者

許してくれ

 

32:名無しの転生者

申し訳ない

 

33:名無しの転生者

この通りだ!

 

34:名無しの助言者

まぁまぁ

その代わりに俺達はすげぇもん見れたんだから

 

35:名無しの転生者

>34 そうそう

まさかの日の呼吸を繰り出しているのをこの目で見れるようになるなんて……!

 

36:名無しの転生者

茨木童子相手によく勝てたな

 

37:名無しの転生者

茨木童子って相当強いだろ?

それをほぼ日の呼吸だけで勝ち切るって

 

38:名無しの転生者

それな

 

39:名無しの転生者

しかも相手は妖怪の中でも最強格に近いし

 

40:名無しの転生者

そういや、あの後どうなったんだ?

 

41:神祇省総司令

まず最初に言わせて欲しい

日柱鬼殺隊員君、本当にありがとう

君が日の呼吸を教えてくれなければ、僕はあそこで死んでいただろう

 

42:名無しの転生者

あっ(察し)

 

43:名無しの転生者

…………え?

 

44:名無しの転生者

……あー

 

45:名無しの転生者

>1 お疲れ様です

 

46:名無しの転生者

>1 乙

 

47:名無しの転生者

>1 おつかれー!

 

48:名無しの転生者

ま、普通あんな怪物と殺り合ったら死ぬもんだろうよ

 

49:名無しの転生者

>1 とりあえず何があったか話せよ

 

50:名無しの転生者

>1 ゆっくり休んでくれ

 

51:名無しの転生者

>1 また今度聞かせてもらうわ

 

52:名無しの転生者

>1 今日は休んだ方がいいんじゃない?

 

53:名無しの転生者

>1 お疲れさま

 

54:名無しの転生者

なんか優しいな

 

55:名無しの転生者

そりゃあ、ねぇ?

 

56:名無しの転生者

何はともあれ、スレ主が無事でよかったよ

 

57:名無しの転生者

>1 ゆっくり休むんだぞ!

 

58:名無しの転生者

みんな優しかった件について

 

59:名無しの転生者

当たり前だよなぁ?

 

60:名無しの転生者

むしろ、あんだけのことをやってまだ働けっていうのはただのブラック企業だぞ

 

61:名無しの転生者

>60 禿同

 

62:名無しの転生者

>60 禿同

 

63:名無しの転生者

>60 禿同

 

64:名無しの転生者

>60 禿同

 

65:名無しの助言者

仲いいなお前らwwww

 

66:名無しの助言者

まぁ、これでようやく終わりか

 

67:名無しの転生者

ほんとに長い戦いだったぜ

 

68:日柱鬼殺隊員

スレ主が日の呼吸を使い続けた時間って3時間くらいだっけか?

 

69:神祇省総司令

3時間半くらいだね

 

70:名無しの助言者

>69 もう休めよ

 

71:名無しの助言者

そうだぞ

 

72:名無しの転生者

寝ろよスレ主

 

73:神祇省総司令

いやぁ、寝たいのはやまやまなんだけど、やらないといけないことがまだあるからねぇ……

 

74:名無しの転生者

やること?

 

75:名無しの転生者

もしかして、茨木童子のこと?

 

76:名無しの転生者

あっ(察し)

 

77:名無しの転生者

そっか、伝説の鬼を仲間にしちゃったんだもんな……

 

78:神祇省総司令

違う違う

茨木のこともそうだけど、一番はAIちゃんのことだよ

この子、まだ名前を付けてないんだよね……

 

79:名無しの転生者

(゚ д゚ )ハッ!

 

80:名無しの転生者

(゚ д゚ )ハッ!

 

81:名無しの転生者

そういえばそうじゃん!?

 

82:名無しの転生者

すっかり忘れていた

 

83:名無しの転生者

おいスレ主早く名前を!!

 

84:日柱鬼殺隊員

急かすなって、ほらできたぞ。

名前は「白」にしたよ

 

85:名無しの転生者

what?

 

86:名無しの転生者

日柱ニキじゃねぇよ!

 

87:名無しの転生者

お前もかよぉおお!!!

 

88:名無しの転生者

なんでそんな名前にしたんだよぉお!!

 

89:名無しの転生者

ちょっと待てよ

白よりも「白雪」の方がいいだろ!

 

90:名無しの助言者

>89 お前も乗るな!

 

91:名無しの転生者

>89 う~ん……

いい感じだけど、なんか違う

 

92:名無しの助言者

白雪って、個人的なイメージだけどクール系じゃん?

だから、もっとこう……可愛らしい名前がいいと思うの

 

93:名無しの転生者

確かに

 

94:名無しの転生者

>92 それなら、スノーホワイトとかどう?

 

95:名無しの転生者

>94 日本人っぽい名前をだな……

 

96:名無しの転生者

>94 それもまたありだな

 

97:名無しの転生者

よし、それでいこう

 

98:名無しの転生者

待て待て待て!

決めるのはスレ主だぞ?

俺達は案を出すんだよ

 

99:名無しの転生者

そうだぞ

 

100:名無しの転生者

スレ主ー、決めてくれぇええ

 

101:名無しの転生者

はよしろぉおお!!!

 

102:神祇省総司令

分かったから落ち着いてくれ

今考え中だから

……よし決めた、「白百合」にするよ

 

103:名無しの転生者

ほう、どんな意味がある?

 

104:名無しの転生者

意味によっては怒られるぞw

 

105:神祇省総司令

白百合ってのは、理想の女性像の例えにされていて、清楚・純潔って意味があるんだよ

 

106:名無しの転生者

なるほどな、いいじゃないか

 

107:名無しの転生者

納得した

 

108:名無しの転生者

これ以上ないくらいぴったりの名前だと思う

 

109:名無しの転生者

スレ主! 俺たちのことは気にせずゆっくり休んでください!

 

110:名無しの転生者

そうだぜ!

 

111:名無しの転生者

そっちの時間は何時だ?

 

112:神祇省総司令

確かぁ……朝の四時くらいかな?

 

113:名無しの転生者

寝てくださいお願いします!

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

534:名無しの転生者

そろそろスレ主の申告から、六時間が経過するね

 

535:名無しの転生者

スレ主、大丈夫だろうか……

 

536:名無しの転生者

もうみんな起きてる頃だろうし、スレ主も起きてるのかもな

 

537:白百合

ここ、おとうさんがみてた、「けいじばん」ってところ?

 

538:名無しの助言者

>538 ファッ!?

 

539:名無しの転生者

白百合ちゃんだ!?

 

540:名無しの転生者

白百合ちゃんキタァアア!!

 

541:名無しの転生者

白百合ちゃああああん!

 

542:白百合

え、えっと……

お、おはよう、ございます……?

 

543:名無しの転生者

可愛い(確信)

 

544:名無しの転生者

可愛い! 可愛いよ!

 

545:名無しの転生者

天使降臨です!

 

546:名無しの転生者

癒されるぅう!!

 

547:名無しの助言者

落ち着けぇ!!スレ主に何があったか説明を頼む!

 

548:白百合

あの、わたし、いまめがさめて、そうしたら、ここがあたまのなかにあって……

お、おとうさんは、ちょっと、ぐらぐら……? ふらふら……? してます……

 

549:日柱鬼殺隊員

ふむ、やはりか……

 

550:名無しの助言者

>549 どうした日柱ニキ?

 

551:日柱鬼殺隊員

簡単なことだ

まだ日の呼吸の反動があるんだろう

早くても六時間という短い時間しか寝れてないのに、並の全力疾走よりも負担の大きい日の呼吸を使ったんだ

そもそも目を覚まして活動しているだけでも、おかしいのに

 

552:名無しの転生者

そういえばそうだった!

 

553:名無しの転生者

日柱ニキは慣れていたけど、普通なら死んでるレベルの負担なんだもんな

 

554:白百合

でも、だいじょうぶだって、いってました……

いまも、うでをぐるんぐるんまわしてますし……

おおきいにもつもはこんでますよ……?

 

555:名無しの助言者

やっぱおかしいよスレ主……

 

556:名無しの転生者

なんなんだよあいつ……

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

678:名無しの転生者

今更だけど、なんでスレ主は京都に行けたんだろ?

 

679:名無しの転生者

スレ主がわがまま言ったんじゃね?

 

680:名無しの助言者

それはあり得るかも

 

681:名無しの転生者

まぁいいじゃねぇか

とりあえず今は白百合ちゃんがいることを喜ぼうぜ

 

682:名無しの転生者

それもそうだな

 

683:神祇省総司令

ただいま

 

684:名無しの助言者

!?

 

685:名無しの転生者

スレ主か!?

 

686:名無しの転生者

おかえり!

 

687:名無しの転生者

怪我はない!?

 

688:名無しの転生者

体調は!?

 

689:名無しの転生者

はっ、まさか……後遺症が!?

 

690:神祇省総司令

ないから安心して

大丈夫だよ

茨木に魔力を譲渡してもらったから

後は全力で肉体の治癒にあてたから、少ししたら完全に回復すると思う

 

691:名無しの転生者

よかった!

 

692:名無しの転生者

ほんと良かった!

 

693:名無しの転生者

マジで寿命が縮んだわ!

 

694:名無しの転生者

本当に心配したぞ……

 

695:名無しの転生者

無茶しすぎぃ!

 

696:名無しの転生者

もうこんなことすんなよ!

 

697:名無しの転生者

次は死ぬからね?

 

698:神祇省総司令

流石に家族を残して死なないよ

無茶はするけど……(ボソッ)

 

699:日柱鬼殺隊員

何か言ったかスレ主?

 

700:神祇省総司令

何も言ってません師匠!

 

701:名無しの転生者

スレ主が敬語を使ってるだと!?

 

702:白百合

おとうさん……

あ、そういえば……

 

703:名無しの助言者

>702 どうした白百合ちゃん?

 

704:白百合

「ひばしらきさつたいいん」ってひと、だれですか……?

 

705:名無しの転生者

君のお父さんの先生だよ

それとお父さんと君が使っていた「日の呼吸」っていう技をお父さんに教えてくれたんだ

はぁ……可愛いなぁ白百合ちゃん……

 

706:名無しの転生者

デレッデレやないかい!

 

707:名無しの転生者

やだおめぇ……

気持ちわりぃぞ……

 

708:名無しの助言者

うるさいぞ!

可愛い女の子にデレデレして何が悪い!?

 

709:名無しの転生者

開き直ったw

 

710:名無しの転生者

スレ主も白百合ちゃんには甘々だしなぁ……

 

711:名無しの転生者

そういえば白百合ちゃん、結構喋れてるけど、何かしたの?

 

712:神祇省総司令

ああ、それに関しては特に何もしていない

強いて言えば、茨木との戦いが原因だね

 

713:名無しの助言者

>712 ?

どゆこと?

 

714:名無しの転生者

あー、そういうことか

 

715:名無しの転生者

確かに、あの時の戦いを見ていれば、多少なりとも戦闘に関する技術も身につくのか

 

716:名無しの転生者

え、じゃあ、喋れてるのは?

 

717:神祇省総司令

戦闘の際、僕から能力を受け継いで、それを使ってたのはみんな見てたでしょ?

それでその能力の一部が使えるようになって、更に戦闘の技術が身に付いたんじゃないかって話になってるよ

んで、喋れるようになったのは、僕が最低限の知識と言語能力を与えたから

それでも、ここまで流暢に喋れてるのは、流石の僕でも想定外かな?

 

718:名無しの助言者

実際そうなんでしょうねぇ……

 

719:名無しの転生者

つまりあれか? スレ主が「柊木真」として生きていく中で培ってきた経験や知識を一部トレースしたっていうことか?

 

720:神祇省総司令

簡単に言うならそうだね ちなみに白百合は、僕の記憶と能力を引き継いでいるから、僕の能力である「変幻自在」を扱えるし、「日の呼吸」に関しては、その能力を使って技をコピーしつつ、本能的に身体強化も使ったんだろうね

まぁ、まだ幼いし、身体能力自体は僕程じゃないんだけどね

 

721:名無しの転生者

ほへ〜

 

722:名無しの転生者

マジでスペック高すぎないかこの子……

 

723:名無しの転生者

天才の子は天才、ってか?

 

724:名無しの転生者

でも、それだけに将来が心配になるわ

 

725:名無しの転生者

>724 分かる

白百合ちゃんの場合、力に溺れることは無さそうだけど、それでも周りで何かしら問題が起きそう

 

726:神祇省総司令

もしそうなったら、下手人を成敗するよ☆

 

727:名無しの転生者

うわぁ……

 

728:名無しの転生者

ガチギレやん……

 

729:名無しの転生者

将来的に敵になる国、とんでもない人に喧嘩売っちゃったんじゃ……

 

730:名無しの転生者

主に中国とか(ありふれ番外編にて)

 

731:名無しの転生者

なお、その前に異世界がある模様

 

732:名無しの転生者

 

733:名無しの転生者

おいw

 

734:名無しの転生者

それは笑うしかないwww

 

735:名無しの転生者

あ、もうこんな時間じゃん!

 

736:神祇省総司令

さてと、僕らも旅行の続きをしますかね……

行くよ、白百合

 

737:白百合

うん!

 

738:名無しの助言者

行ってら~

 

739:名無しの転生者

気をつけてなー!

 

740:名無しの転生者

良い旅をー!

 

741:名無しの転生者

(・ω・)ノシ



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面倒事の後は面倒事がくるって決まってるのかな?

 京都の街並みにごった返す人の波をかき分けて、3人の男女が進む。

 一人は少年で、その少年と手をつなぐ二人の少女のうちの一人は、真っ黒な髪を揺らしながら、楽しげに笑っている。

 そしてもう一人は、長い銀髪をなびかせながら、少しだけ困ったような表情だ。

 3人とも、顔立ちは非常に整っており、まるで一枚の絵のように映える光景だった。

 しかし、彼女達の手を引く少年は違うようで……

 

「やっばいなぁ……迷子確定だね、これは」

 

 苦笑いを浮かべていた。

 だが、それも仕方ないだろう。

 何故ならば、彼の視界に広がる風景は、今まで生活してきた場所とは全く違う場所で、土地勘のない彼らは迷子になってしまったのだ。

 

「おとうさん、だいじょうぶ?」

「……ああ、なんとかね」

 

 そんな彼を心配して声をかけるのは、銀色の髪の少女だ。

 彼女は、彼を見上げつつ、優しく微笑む。

 しかし、彼は視線を逸らすと、すぐさま真剣な顔つきに変わった。

 彼の視線を追うように、彼女もまたそちらの方を見る。

 そこには、人混みの中を泳ぐようにして歩く一人の男がいた。

 その男は、身長が180cmを超える長身で、体は筋肉によって引き締められており、黒いスーツを身に纏って、サングラスをかけている。

 見る人が見れば、ヤクザだとかマフィアだとか思うかもしれない風貌をしていた。

 しかも、たった一人だけではなく、視線を巡らせれば所々に黒スーツを着た怪しい男達が見える。

 

「あの男達……」

「え? なにかあったんですか?」

「いや、なんでもないよ」

 

 思わず呟いた言葉を聞き取ったのか、黒髪の少女が問いかけてくるが、彼は首を振って誤魔化す。

 

「それより、父さん達はどこに行ったんだろう? 電話にも出ないし……」

「ほんとですね……どうしよう……」

「まぁ、大丈夫だよ。多分、すぐに見つかるだろうからさ」

 

 不安そうな彼女の頭を撫でると、彼は再び歩き出す。

 だが、それに合わせて、黒スーツの男も動き出した。

 それに気づいた彼は、心の中でこう思う

 

「(どうしてこうなったんだっけ……)」

 

 時間にして、約30分ほど前に遡る……。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 季節は夏休みシーズンの観光の町、京都。

 その京都に存在するとある観光地の前に少年――柊木真と、その家族がいた。

 その家族の内訳は父と母、そして兄妹の4人の家族構成であり、現在は2泊3日の家族旅行を行っているのだ。

 ちなみに、今日は家族旅行2日目の朝である。

 

「ふぅ、やっと着いたね」

 

 車から降りて伸びをする父――『柊木正樹』の姿を見た娘――『柊木美奈子』は、その横で同じように背を伸ばす。

 

「うわぁ、大きいねぇ!」

 

 視線の先にある大きな建造物に目を輝かせる娘の姿を見て、両親は笑みを浮かべる。

 彼らにとって、この旅行は何よりも楽しいものであり、そしてかけがえのない思い出を作るものだった。

 

「じゃあ、まずは案内所に行くよ。その後、自由行動だから、それまではお母さん達に付いてきてくれるかな?」

「うん! わかったよ! おかあさん」

 

 そう言って駆け出していく娘を見て、父は優しく微笑む。

 

「元気いっぱいだね」

「本当に……昨日の夜まで、あんなにぐずっていたのにさ……」

「それだけ楽しみなんだろ。俺もそうだからさ」

 

 笑いながら言う父の言葉に、母――『柊木恵』はクスリと笑う。

 それから、二人はゆっくりとした足取りで、娘を追いかけていくのだった。

 そんな両親の後ろで、同じく歩みを進めていく3人の少年少女。

 

「さて、本格的な旅行かぁ……」

 

 そう言うのは、正樹と恵の息子――『柊木真』だ。

 彼もまた、今回の家族旅行をとても楽しみにしており、いつも以上にワクワクしていたのだ。

 それは隣にいる少女も同じようで……

 

「わたし、こういうところはじめてです」

「僕だって初めてだよ」

 

 銀髪の少女――『柊木白百合』の手を引きながら歩くのは、彼女と手をつないでいる黒髪の少女――『中村恵里』だ。

 彼女は、白百合の手を引きながら真をジト目で見る。

 

「……で、この子のこと、説明してくれますよね? 真さん?」

「んー……『真』って、呼んでくれないのかい?」

「それは今度にします! それよりもこの子です! 『拾ってきた』って何ですか!?」

 

 その言葉に、真は頬を掻きつつ、苦笑いを浮かべた。

 実は、彼は早朝に両親へ内緒で白百合を連れてきたのだ。

 理由は簡単で、彼女は記憶喪失……ということになっているからである。

 その正体は、真が家族には秘密で生み出した魔術人形だということだから、余計に真実を話せない。

 もし、彼女が本当は人間ではなく、人造生命体だと知られれば、気味悪がられる可能性があるからだ。

 なので、彼女の存在は真の中で極秘扱いなのだが、こうして一緒にいれば怪しまれる。

 しかし、正樹達は楽天的な性格も合わさって特に疑うこともなかった。

 今朝起きたと思えば、自分たちの息子の布団に見知らぬ美少女がいることを見つけた正樹達の心労は度外視とする。

 ちなみに、白百合という名前は真がつけた。

 

「おとうさん……どうか、したの?」

「お、父、さん……?」

「どうしたの白百合? 早く行きたいのかい?」

 

 不思議そうな顔で見上げてくる白百合の顔を見て、どうかしたのかと問いかける真。

 その横で、呆然とする恵里。

 見知らぬ女が、自分を救ってくれた人を『お父さん』呼ばわりしていることにキャパオーバーしたようだ。

 

「ううん……はやくいきたいけど、それより、このひとってだれなの?」

「そう言えば、紹介してなかったね。彼女は中村恵里。僕達柊木家の居候にして、大切な家族だ!」

「かぞく……よろしくおねがいします、えり……さん?」

「…………よろしく」

 

 ぎこちない様子で挨拶をする二人を見て、真は嬉しく思う。

 どうやら仲良くなれそうだ。

 それはあくまで、真視点からしてみればの話だが……知らない方がいいこともあるだろう。

 

「(まぁ、僕より先に両親が彼女に気を許しているみたいだけどね)」

 

 そう思いながら、彼は二人の様子を見守ることにする。

 

「じゃあ、まずは案内所に行ってみようか」

 

 そう言って歩き出した父親達の後を追いながら、真は改めて周囲を見渡した。

 京都市内に存在する、とある神社。

 真達が現在いる場所は、いわゆる聖地巡礼と呼ばれる場所であり、そこには、多くの観光客が訪れていた。

 あまりの人の多さに、慣れていなければ人ごみで酔ってしまいそうである。

 

「す、すごい……」

「ほんとだ……」

 

 圧倒されながらも、二人は真に手を引かれながら父親達の後に続く。

 

「まずは、お参りでもしようか」

 

 そう言って参拝の列に並ぶ正樹達。

 それに続くように、三人も列に並び始めるのだが、ここで思わぬ問題が発生した。

 

「…………!」

「? どうしたんですか真さん?」

 

 何やら視線を感じ、それが少しばかり警戒の混ざったものだったので、瞬時に反応した真が気づかれない程度に周囲に視線をやる。

 その先にいたのは、明らかに一般人ではない黒スーツの男だった。

 サングラスをかけており、表情はよくわからないが、それでもこちらを見ていることがわかる。

 そして、周りの一般人と決定的に違うのが、その気配。

 明らかに訓練されている者が持つ気配だった。

 

「……ちょっと、トイレ行ってくるよ」

「え? ちょ! 真さん!」

 

 それだけ言い残し、その場を離れる真。

 彼がいなくなったことを確認すると、男は懐に手を入れ、スマホを取り出す。

 それを操作した後、耳に当てた。

 それを感知系の能力に切り替えて把握した真は考える。

 

「(連絡を取った……つまり仲間がいること……それに肉体がちゃんと鍛えられている……間違いない。明らかに組織的な連中だ)」

 

 どんな組織かは分からないが、それらしき人間がなぜここにいるのかは謎だ。

 しかし、少なくとも『敵』である可能性は非常に高いと判断した。

 

「さっさと終わらせないとね……」

 

 そう呟きつつ、彼は人ごみの中に紛れ込んだ。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 その頃、黒スーツの男は仲間に連絡を取っていた。

 内容はもちろん、彼の目的達成のための手段についてだ。

 

「ターゲットを確認した。予定通り行動を開始する」

『了解しました。お気をつけて』

「ああ、そちらもな」

 

 通話を切り、スマホをしまう男。

 同時に、彼はポケットから一枚の写真を取り出した。

 写真に記載されている日付と時間は、今朝を表している。

 そこに映っているのは、真と長身の女性。

 さらに言えば、白百合の姿もあった。

 

「必ず、手に入れるぞ」

 

 誰にも聞こえないような声でつぶやく男の目は、まるで獲物を狙う狩人のような目つきをしていた。

 人ごみに紛れ込みそうになっている真を見失わないようにしつつ、気取られないように追跡する。

 

「……あのような歳で、伝承に残る『茨木童子』を倒すとは……一体どういうことだ?」

『私に聞かれても困ります。ですが、どうやら実力が本物であることは確かなようですね』

「……あの『鬼斬りの剣』を扱えるということ、か……?」

『あり得ません。あれは厳重に保管されています』

「ならばどうして……」

『それを知るために、彼から話を聞くんですよ』

 

 会話の内容はよく聞き取れないが、とにかく真を意識していることだけはわかる。

 どうやら、何か事情を知っているようだ。

 

「なら、接触を図るしかあるまい」

『そうですね。それともう一つ、彼に伝えてください。どうやって茨木童子を倒したのか、と』

「わかった。お前はどうする?」

『私は、別の場所で待機しています。では、また後ほど』

「ああ」

 

 短いやり取りの後、黒スーツは通話を切り、スマホをポケットに入れて追跡を再開した。

 目的の人物である真は、先程から周囲をキョロキョロとしながら歩いており、時々後ろを振り向いたりしている。

 おそらく、尾行を警戒しているのだろう。

 黒スーツの男は冷や汗をかく。

 

(まさか、『茨木童子』を倒しただけではなく、この人ごみの中で俺の存在に感づいているとは……陰陽師の力が弱まっている中で、それだけの力を持った子供が生まれる、か……末恐ろしいな……)

 

 そう思いながら、彼は真の観察を続ける。

 しばらくして、正樹達はお参りを終えたようで、参拝の列から外れていく。

 どうやら、参拝の順番待ちをしている間に、真がいなくなっていたことに気づいたらしい。

 

「あれ? 真がいない!?」

「……アイツ……どこ行ったんだ?」

(すいませんね、ご両親方。俺のせいです……)

 

 心配してあたりを見渡す二人を尻目に、心の中で謝罪しながら真を追跡する。

 すると、真はある場所に向かって移動していた。

 

(人ごみから離れて行ってるな……どうやら、どこかに向かおうとしているみたいだが……ん?)

 

 そんな時だった。

 

「おとうさん……どこいくの……?」

「白百合……どうして付いて来たんだい?」

「? だって、わたしはおとうさんの『むすめ』だよ?」

「……まぁ、そうだね」

「えへへ♪」

 

 真の側に、日本にしては珍しい銀髪の美少女がいつの間にかいて、真に嬉しそうに抱き着いていたのである。

 真の隣にいる少女を見て、思わず立ち止まる黒スーツの男。

 そして、二人の姿を見て理解した。

 

(そういや、あの子も写真に写っていたな……少年が倒して調伏させた『茨木童子』とはまた別の存在で、確か……少年と同じく膨大な霊力を纏っていた……つまり、あの少女は少年と仲間……)

 

 黒スーツの男は、目の前の光景を見ながら考える。

 つまり、それはあの謎の少女もまた、『茨木童子』を倒したということを示しているのではないだろうか、と。

 

「(さて、これからどうするか……)……とりあえず連絡だな」

 

 黒スーツは、自分の仲間である者に連絡を取ることにした。

 その人物は、自分が所属している組織の上層部に位置する人間だ。

 すぐに電話に出た男に、黒スーツは告げた。

 

「こちらナンバーゼロ。もう一人のターゲットがターゲット1に接触」

『本当ですか?』

「ああ。間違いない」

『……こちらでも確認できました。……相変わらず、馬鹿げた霊力をしてますね』

「全くだ。それで、どうする?」

『予定通り、行動を開始してください。ただし、くれぐれも慎重にお願いしますよ』

「わかってる」

『……ところで、彼は今どこにいるんですか?』

「人ごみから外れたところに移動してる。恐らく、こちらをおびき出すためだろう。どうする? 接触するか?」

『いえ、そのまま監視を続けてください。彼の目的が何なのか、探りたいので』

「了解」

『では』

 

 会話を終え、通話を切る男。

 それと同時に、彼は再び真達の方へと視線を向けた。

 

(しかし、あの子が『茨木童子』を倒すとはねぇ……確かに、あの馬鹿げた霊力をぶつければ相当なダメージは負わせられるらしいが、結局のところはそれどまりだ。なんかカラクリがあるのか?……それとも、他に協力者がいるのか? いずれにしても、警戒すべき相手であることに変わりはない)

 

 そんなことを考えているうちに、真達は再び、人ごみの中に紛れ込んでいき、その後ろ姿はすぐに見えなくなった。

 

「……行くか」

 

そう呟き、黒スーツの男は再び歩き出した。



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京都観光は楽しいねぇ……(真顔)

 柊木真と柊木白百合は、人ごみの間を縫って移動していた。

 もちろん、尾行されていることなど知らない白百合は、真に手を引かれるばかりだ。

 そんな白百合の手を引く真は、人ごみから抜け出して神社の裏手にある森に入り込んでいく。

 

「おとうさん……どこまでいくの……?」

「もう少しだよ。もうすぐだから、頑張ってくれ」

「うん!」

 

 元気よく返事をする白百合に対して、真は内心で苦笑を浮かべていた。

 

(何が、「頑張れ」だ……僕が一番頑張らないとダメだろうに……)

 

 そう思いながらも、真は森の中を進んでいく。

 しばらく進むと、木々に囲まれた場所に辿り着き、そこに真達はいた。

 そこは、周囲に人影がなく、先程まで聞こえてきていた喧騒も、この場所までは届いてこない場所だった。

 そんな場所で、真は足を止める。

 

「ここならいいかな……」

「おとうさん、どうしたの?」

 

 首を傾げる白百合に対し、真は真剣な表情を向ける。

 

「白百合、これから起こることは絶対に誰にも言っちゃいけない。約束できるかい?」

「う、うん!やくそくする!!」

 

 真の問いかけに、白百合は元気よく答えた。

 そんな様子を、微笑まし気に見つめながら、真の意識は切り替わっていく。

 

「(さて……どうするか?)」

 

 真は考える。

 おそらく、自分たちを追けてきている黒スーツの男は、この場にやってくるはずだ。

 問題は、どうやって相手を無力化するかである。

 相手の視線からは、警戒心が見て取れる。

 下手なことをすれば、すぐさま攻撃を仕掛けてくることだろう。

 そうなった場合、今の自分と白百合の力を考えると、周囲に被害が出る可能性が高い。

 だが、このまま放置してしまえば、間違いなく厄介なことに巻き込まれることになるだろう。

 

「(……どうしたものかねぇ……)」

 

 そんな風に考えていた時、誰かが近づいてくる気配が感じられた。

 その人物と白百合の間に立つように移動した真は、ゆっくりと振り返る。

 真の視線の先に立っていた人物は、

 

「はぁ……はぁ……やっと、見つけましたよぉ……」

「あ、恵里ちゃん」

「えりさん……どうしたんですか……?」

 

 息を切らせながら現れた少女に、白百合が驚きの声を上げる。

 そんな二人の様子を、真は油断なく周囲を警戒していた。

 

(まさか……こんな早く見つかるなんてね……)

 

 内心で冷や汗を流しつつ、真は冷静な口調を意識して話しかける。

 

「やぁ、恵里ちゃん。そんなに息を切らせてどうしたんだい?」

「だ、誰のせいだと……思ってるんですか……! まったくもう……」

 

 ぜぇはぁと言いながら、何とか呼吸を整える少女。

 そして、ある程度落ち着いたところで、改めて真達を見据えてきた。

 

「いきなりトイレに行くと言って、明らかに違う方向に向かって歩き出したときはびっくりしましたよ……まぁ、その子が銀髪だったおかげですぐに追いつくことができたのでよかったですけど」

「わたし……?」

「そっか。それは悪かったよ」

 

 そう言いながらも、真は全く悪いと思っていないような声色で謝る。

 そのことに多少イラっときたが、ここで怒っても仕方がないと思ったのか、軽く溜息をつくだけで済ませた。

 

「それで? どこ行こうとしてたんですか? 柊木さん?」

 

 そう言って、ジト目を送ってくる少女。

 それに対して、真は少し困ったように頬を掻く。

 

「実はちょっと、人ごみから外れようとしちゃってね」

「どうしてまたそんなことを?」

「いや~、白百合にこの辺のことを教えてあげようかなって思ったんだよ。ほら、白百合は来たばっかりだし、せっかくなら、いろいろと教えてあげた方がいいんじゃないかなって」

「ふぅん? それにしては、随分と人気のないところに行ってるみたいですけど?」

「いやぁ、僕って結構抜けてるところもあるからさ。こうして、いつも周りに注意してくれている人がいるんだよ」

「……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、恵里の目つきが変わる。

 それを見てしまった真は内心で冷や汗を流すが、それでも表情には出さなかった。

 

「えーっと、とりあえず僕は白百合にこの辺りのことをいろいろと教えたいなと思っているんだけど、恵里ちゃんさえよければ一緒に来てくれるかな?」

「いいですよ」

 

 あっさりと承諾してくれたことにホッとする真だったが、それも一瞬のことだった。

 恵里の目が笑っていないことに気づいたからである。

 

「でも、私も柊木さんとお話がありますので、その後になりますけどいいでしょうか?」

「も、もちろん。問題ないよ」

 

 引きつった笑顔を浮かべる真に対して、恵里は満面の笑みを向ける。

 

「それじゃあ、O☆HA☆NA☆SIしましょうか」

「えっと、そのぉ……」

「な に か ?」

「いえ、何でもありません。はい」

 

 有無を言わせない雰囲気を醸し出す恵里に、真は大人しく従うことにした。

 

「おとうさんだいじょうぶかな?」

 

 心配そうな表情をする白百合に、真は安心させるように笑いかける。

 

「大丈夫だよ。お父さんだって、失敗することはあるんだ……」

「ほんと……? うーん……ねぇ、えりさん。おとうさんをいたくしないで……?」

「…………あなたのことは気に食わないけど、怪我はさせませんよ」

「ありがとう……」

 

 白百合のお礼の言葉を聞きながら、恵里は真と向き直る。

 真は、そんな恵里を見て、思わず一歩後ずさりそうになった。

 

「さて……と。お説教の覚悟はできてますか?」

 

 あまりにもわかりやすいい有罪判決に、なんとかこらえて口を開く。

 

「……で、出来れば短くしてくれると嬉しいな~、って」

 

 冗談めかして言う真だったが、ニッコリと笑った恵里を見て、『あ、ダメだこれ』と察したという。

 

「安心してください。手短に済ませるので」

 

 恵里の一言で何も言えなくなった。

 そして、真は諦めたように溜息を吐いて、両手を上げた。

 

「わかった。抵抗はしないよ」

「よろしいです。ではまず……」

 

 こうして、10分ほど真は説教を食らった。

 ちなみにその間、白百合は終始首を傾げていたという。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「まったくもう……なんでそんな勝手をするんですか!」

 

 真の目の前でプンスカ怒っている少女の名は、中村恵里。

 彼女は、つい数か月ほど前、自殺をしようとしてたところを真に助けられ、そのまま周りの勢いに流されて柊木家の居候になった少女だ。

 年齢は9歳であり、小学4年生である。

 見た目は非常に可愛らしく、将来はかなり美人になるだろうという容姿をしている。

 性格は真面目で、しっかりとしているのだが、たまに子供っぽいところを見せることがある。

 例えば、先ほどのトイレ騒動の時とか……。

 

「あの時は本当に焦ったんですよ? 急いで追いかけたら、なぜか人気のないところに行こうとしてましたし! 普通じゃないですからね!?」

「ごめんなさい……」

「それで? どうしてあんなことをしたのか、理由を話してもらえますよね?」

「はい……」

 

 それから、真は自分の行動について説明を始めた。

 最初は呆れた様子を見せていた恵里だったが、話を聞くうちにどんどんと真剣な表情になっていった。

 

「追けられてる……冗談じゃないんですか?」

「ああ。THEとある組織の構成員、もしくは逃○中のハンターとでもいうべき格好をした黒スーツの男が、僕たちのことをずっと尾行していたんだ」

「はぁ……そうですか」

 

 どうにも実感がわかないようで、恵里の反応は薄いものだった。

 まあ無理もないだろうと真も思う。

 何せ、実際に体験していない限りは、信じられないような出来事なのだから。

 

「それって、警察に連絡しておいた方がよかったんじゃ?」

「でもねぇ、相手はこちらを誘拐しようという気はないみたいなんだ。その証拠に、警戒心はあっても敵意はなかったし、今もこの辺りにいるはずだよ」

「それなら、いっそ捕まえちゃえばいいじゃないですか」

 

 簡単に言ってくれるが、真にとっては一筋縄ではいかない相手だった。

 

「それは難しいかな。もし、ここで騒ぎを起こしてしまえば、相手の思惑通りになってしまう可能性がある。それに……」

 

 そこでいったん区切って、真は恵里を見つめる。

 

「恵里ちゃん……いや、『恵里』にはこの旅行を楽しんでもらいたいんだ。だから、なるべく穏便に済ませたいんだよ」

「……」

 

 真の言葉を聞いて、恵里は何も言わなかった。

 ただ、じっと見つめ返してくるだけだった。

 

「……わかりました」

 

 しばらくすると、恵里は納得してくれたようで、真はホッとする。

 

「ただ、私もついていきますからね」

「それは……」

「駄目なんて言わせないですよ? あなた一人でどうにかできるとは思えないですし」

「うっ……」

 

 何も言い返せなかった。

 実際、今の自分だけでは、相手に勝つことはできないと分かっているからだ。

 特に、今朝の茨木童子との戦闘で使った『日の呼吸』が今なお響いている。

 流石は最強の呼吸法。

 その反動も最強クラスと言う訳だ。

 

「それと」

「まだ何かあるのかい?」

「はい。さっきの話だと、狙われているのは真さんだけみたいですね」

「うん。そうだね」

「じゃあ、白百合さんは関係ないじゃないですか。正樹さんたちのところに連れて行った方がいいと思いますよ?」

「……」

 

 真は考える。

 確かに、言われてみればそうなのだ。

 何時、自分の正体がばれたのかは定かではないが、おそらくあの結界――『天星大結界』から出てきたところだろう。

 あれにも手古摺った記憶がある。

 ただでさえ強力な妖怪達を封印するだけではなく、妖怪という神秘の中でもトップクラスの格を持つ『鬼』の茨木童子を約千年もの間閉じ込めていた結界だ。

 並大抵のことでは壊すどころか入ることすらできない代物だ。

 そんなところから、おそらく危険な存在として認識されているであろう茨木童子――『夜々之暁』を連れ出したのだ。

 真も危険な存在と認定されてもおかしくはないだろう。

 

 それに、あの時は戦闘の疲れもあって、隠蔽を疎かにしていた。

 誰かに目撃されていても不思議ではない。

 

 入ったところを見られていれば、出てくるところを見られているため、警戒心は跳ね上がる。

 仮に、出てくるところだけを見られていたとしても、結局のところは暁を連れてきているため、結果としてはあまり変わらない。

 その際、白百合も一緒にいたため、事情を知っている者として補足はされているだろう。

 

 それに、相手は組織的な者。

 自身達の魔力を感じ取れる者もいるかもしれない。

 なら、まだ生まれたばかりで魔力の操作が稚拙な白百合の、ほぼ垂れ流しになっている魔力を感じ取れる者もいるだろう。

 だから、白百合を一人で行動させるわけにはいかない。

 相手に敵意はなくとも、誘拐まがいなことをされてはたまったものではないからである。

 

 例えそれが、両親の近くだとしても。

 

 もし、白百合が誘拐されそうになっても、事前に「見知らぬ誰かに連れ去られそうになったら、日の呼吸だけを使用して撃退しなさい」という『命令』を下している。

 この『命令』のおかげで、もし他人に『誘拐』という行動、もしくはそれに連なる行動をとられた場合、暁に対して、相当なダメージを負わせた『日の呼吸』を行使して抵抗できるようになっていた。

 そのため、自己防衛手段を持った白百合は基本的に心配はない。

 

 しかし、恵里は別だ。

 

 彼女が柊木家の居候になって、今日で約1か月程度になるが、『裏』のことに関わったことは一度もない。

 つまり、彼女の存在は知られていないということだ。

 ならば、あえて連れて行く必要はない。

 むしろ、危険に巻き込む可能性を考えれば、連れて行かない方が安全かもしれない。

 だが、今までのやり取りを見られているのなら、彼女にもその矛先が向かうかもしれない。

 

 故に、真はこう言った。

 

「……わかった。でも、白百合に別行動はさせられないし、かと言って、俺一人で行動をするのは恵里が許さないだろう?だから、君にも同行してもらいたい」

「いいですよ」

 

 即答だった。

 

「……大丈夫かい? 相手はもしかしたらテロリストかもしれないんだよ? 下手したら命の危険もある」

「わかってます。でも、真さんの傍を離れるよりはましです」

「……」

 

 真は思う。

 彼女は本当に強い子だと。

 普通、こんな状況になれば恐怖を覚えても仕方がないはずなのに、恵里は一切怯むことなく言い切った。

 きっと、真と離れる方が怖いのだろう。

 依存と言ってもいいほどの信頼を前にして、真は苦々しく顔をしかめようとして、それを悟られないように心の底にしまい込んだ。

 

「ありがとう」

「いえ」

 

 そうして、真は恵里と一緒に行動することになった。

 二人はまず、正樹たちがいる場所へ向かうことにした。

 そのためには、電話をかけて現在地を把握するのが一番効率的なのだが……

 

「あれ? 繋がらない……?」

 

 スマホを操作しながら、首を傾げる真を見て、恵里も確認する。

 

「本当ですね。電波が悪いのでしょうか?」

「う~ん……」

 

 何度か試すが結果は同じだった。

 正樹たちは今現在、電話に出られる状態ではないようだ。

 実は、真達の父親である正樹は結構うっかりしている人で、昨日の夜、スマホの充電をするのを忘れたようである。

 

「どうします?」

「……」

 

 真は何も言わずに考え始めた。

 正直、ここから正樹たちがいるところまで、徒歩で5分ぐらいかかる。

 しかし、今は人通りが多いためさらに時間がかかるだろう。

 その間に、何かされる可能性もあるため、あまり悠長にしていられなかった。

 なので、ここは――

 

「気長に行くしかないねぇ……幸いなことに、父さん達がいた場所からはそこまで離れていない」

「わかりました」

「わかったよおとうさん」

 

 こうして、真達は正樹達がいるところに向かって歩き出したのである。



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陰陽師の御当主様とのお話かぁ……




今回の話には、結構ネタを仕込んだと思っている。

見つけてもらえたらうれしい。





 それから10分ほど歩いただろうか。

 結局のところ、土地勘のない真達は早々に迷ってしまい、迷走しながらもなんとか正樹達の下へ向かおうとしていた。

 

「参ったね。まさか道に迷いかけるとは思ってなかったよ。恵里ちゃん、そっちの道で合ってるかわかる?」

「はい。こっちであっているはずです。人が多くて少し手間取りましたけど」

「そうか。じゃあ、このまま進もう」

 

 そう言って進んでいくのだが、

 

「おとうさん……まだあのひとたちついてきてるよ……? どうして……」

「そうだなぁ……」

 

 白百合の言葉に、真は頭を悩ませる。

 白百合が言うには、ずっと自分達の後をつけてきている者がいるらしいとのことだが、それに関しては真も確認している。

 その人物は、先程から自分たちを追けてきている黒スーツの男達。

 複数形なのは、道を進んでいるうちに黒スーツの男が増えてきたからだ。

 

「なあ白百合」

「うん」

「あいつらはさっきから何がしたいんだと思う?」

 

 そう言う真の視線の先には二人の男性の姿があった。

 一人目の男は、黒いサングラスをかけており、一見するとただのサラリーマンのようにも見える。

 そして、二人目の男に至っては、黒のキャップを深く被っているため、顔が全く見えない。

 しかし、二人とも身長は180cm以上あり、かなりガタイも良いところが普通とは言い難かった。

 明らかに鍛えられていると見て取れる体つきなのだ。

 そんな男たちが、まるでSPのように自分達の数メートル後方に付き従っていた。

 

「わからない……」

 

 白百合は申し訳なさそうに答える。

 いくら『裏』の世界を知っているとはいえ、まだ幼い彼女に、彼らが何を考えているのかなど理解できるわけがなかったのだ。

 

「でも、なんだかイヤなかんじがする……」

 

 白百合は、本能的に彼らに対して恐怖心を抱いていた。

 しかし、それとは別にどこか違和感を覚える。

 この感覚はなんなのか?

 それがわからなくて、白百合は不安に感じていたのだった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 一方その頃、黒スーツの男達は。

 

「チェイサー1。ターゲットを追跡中。……なぁ、もうこれバレてるよな? いっそのこと、正面から話しかけてみる方がいい気がするんだが……?」

「チェイサー2。馬鹿を言うんじゃない。相手は子供だぞ。俺達みたいな見た目完全に悪の組織の構成員。もしくは○走中のハンターにしか見えない見知らぬ人間が接触してみろ。パニックを起こすかもしれないだろう? それに、万が一にも警戒されて逃げられたらどうするつもりだ? せっかくのチャンスが台無しになるだろうが」

「いや、だってさ? 俺ら完全に怪しいじゃん? 夏場に黒スーツとか。しかもあの子等、俺達の尾行に気づいてるみたいだし」

「それでも、やる時は徹底的に慎重にいくべきだ。だからお前はいつまで経っても三下のままなんだよ。いい加減自覚しろ」

「えぇー……マジで言ってんの?」

「ああ、大真面目だ」

「堅苦しいなぁ……もうちょっと気楽にいこうぜ? こういう時こそ、ユーモアって大事だと思わないかい?」

「知るかボケ。とにかく、余計なことをするな」

「へいへい」

 

 彼らは、とある陰陽師の家が経営する企業の従業員である。

 表向きでは普通の企業として営業しているため、彼らの正体を知る者は極少数しかいない。

 そのため、今回のような任務の際は、必ず目立たないように服装を統一することになっているのだ。

 

「それにしてもさ」

「ん?」

「あの女の子、めっちゃ可愛いよな」

「どうした急に。ついにロリコンの道へと踏み出したのか?」

「いや、だってよぉ……何あの美少女、人間か? 俺は二次元から飛び出して来たって言っても信じるぞ。二次元はいいぞ。お前達も二次元オタクにならないか?」

「チェイサー3。もしもしポリスメン?」

「チェイサー4。ならない」

「そうか……残念だ」

「それよりも仕事に集中しろ。まだ彼等がこの辺りにいるうちに任務を完了させたい。でないと、また上司にどやされる」

「了解。あーあ、俺も彼女欲しいなぁ……」

 

 黒スーツの男達がそんな会話をしているとはつゆ知らず、真達は歩を進める。

 

「さて、彼らをおびき出すにはどうするか……」

「おとうさん。あそこのこみちがいいとおもうよ?」

「ん? どうしてだ?」

「きのう『あかつき』さんとみつけたんだけど、ここをすすむよりあそこをいったほうがいいとおもうの。ほら、みて?」

 

 白百合が指差したのは細い脇道。

 それは、真達を追ってきている黒スーツの男達が二人並んで入れないほど狭かった。

 そして、向こう側にはちょっとした広場が見える。

 

「なるほど……」

 

 真はそれを聞き、少し考える。

 

(白百合は僕が創り出したもう一人の『僕』。手を増やそうと思って創り出したが……まさか、自分で考えられるほどになるとは……)

 

 その事実に真は驚くと同時に感心していた。

 

「よし、じゃあ、白百合の言う通りにしよう。もし、奴らがそこから出てきたら作戦通り頼むぞ。恵里、君は僕の後ろに……」

「うん!」

「分かりました……」

 

 三人は、狭い道を進んでいく。

 もちろん、それを見ていた黒スーツの男たちは焦りだす。

 

「おい! あの子達、あんなところに入っていくぞ!」

「早く追うんだ!」

 

 すると、予想通りの展開になった。

 黒スーツの男は二人とも、小走りで先程の脇道に入り、真の後ろを追いかけてくる。

 その先で、真達は待ち構えていた。

 

「……やっぱり、僕達が目当てですか」

 

 そう警戒交じりに目の前の黒スーツの男達を睨みつける真。

 明らかに怪しい男達(もっと言えば、転生者掲示板で「ありふれた職業で世界最強」という世界にはたくさんの組織があることを教えてもらっていた)に、真の警戒心が跳ね上がる。

 しかし、

 

「へっ、かかったな。お前たちの目的は分かっている。大人しくその子供を置いてイテッ!」

「馬鹿野郎。怖がらせてどうする。そもそも俺達の目的は彼らに話を聞くことだけだ。別に危害を加えるつもりはない。実は……」

「おぉん!? なに人様の頭を叩いてんだ! 俺の頭が禿げたらどうしてくれるんじゃテメェ!? アツアツのローストチキンにしちまうぞ!」

「欧米か! しかもそれはどこぞの大統領だ! なにネタに走ってんだお前!?」

 

 いきなり目の前でコントをし始めた黒スーツの男たちに真達は呆然としてしまう。

 

「えっと……つまり、あなた方は僕達に何か聞きたいことがあるということでしょうか?」

「そうだ。俺達はある組織に所属している」

「ある組織?」

「ああ、君達は『陰陽師』という言葉を知っているか?」

「……ええ、知ってますよ。そんなに詳しくはありませんけど……(ビンゴ。半ば予想していた通りだ)」

「おお、やはり知っているのか。なら話は早い」

「陰陽師?」

「なにそれ?」

「あれ? 知らないのか? 陰陽師ってのは、簡単に説明すると占いとか呪いを専門にしている人達のことだよ。安倍晴明が有名だね」

 

 目の前でいろいろと説明されているが、真にとっては結構知っていることでもあるため、特に反応することなく聞いていた。

 そして、その説明が終わると……

 

「そういうわけだ。俺達の組織は陰陽師の家が運営している企業なのだよ」

「そんな人たちが僕達に何の用ですか?」

「ああ、実は今朝方のことになるんだけどね、君と銀髪の君が陰陽師の家が管理する土地を歩いている映像が映ってね。そのことについて、俺達の雇い主が聞きたいそうなんだ」

(やっぱり、監視カメラで撮られていたか)

 

 そう内心で思いつつ、真は相手の出方を窺う。

 

「ちなみに、断れば……」

「力ずく……ってことにはならないけど、少々めんどくさいことになるかもしれないね」

「……」

 

 男の目が一瞬だけ鋭くなったことに真は気付く。

 どうやら、相手もそれなりに危険なことをしようとしているらしい。

 だが、ここで下手に出てしまうことは逆に危険だと真は判断した。

 

「すみません。僕達はまだ学生なのですが、現在は旅行中なんです。旅行の後に出向くのはダメですか?」

「うーん……少し待っててくれ。雇い主に掛け合ってみるから」

 

 そう言って男は懐に手を入れ携帯電話を取り出した。

 どうやら電話をするようだ。

 

「あ、もしもし……はい。例の件ですが……そうですね……いえ、こちらとしても、まだ彼らがどのような存在なのか分かっていない状態でして…………はい、分かりました。では、また後ほど」

「えっと、とりあえず保留されたみたいだから、もう少し待つことになりそうだ」

「はぁ~、なんだかなぁ……」

 

 真はその言葉を聞いて思わず溜息をつく。

 その様子に、恵里と白百合は首を傾げていた。

 その後、再び数分ぐらい待っていると、男が戻ってきた。

 

「待たせたな。それで、さっきの話の続きになるのだが、できれば早めに来てくれないか? 君たちもいろいろ準備があるだろう? それに、あまり時間が経つと面倒なことになってしまうんだ」

「それで? 僕と白百合が行った方がいいのかい?」

「あ、ああ、出来れば来てくれるとありがたい。ただ、一つ忠告しておくぞ。これから行く場所はかなりヤバいとこだ。覚悟をしておけ」

「どういう意味だい?」

「そのままの意味だ。じゃあ、ついてきてくれ」

「分かったよ。それなら、恵里ちゃんを送り届けてくれるかい?」

「いいのか? 一緒に行かないで?」

「ああ、どうせ目的地は同じだし、すぐに追いつくからね。それよりも、この子の方が心配だ」

「それもそうだな。よし、嬢ちゃんはこっちの阿保に着いて行ってくれ」

「おぉん!? 誰が阿保だ! 誰が! 俺は阿保じゃねぇよ!」

「うるさい! 黙れ! ほら、早くしろ!」

「いいか!? 今度その面拝んだときはぶっ飛ばしてやるからなぁ!」

 

 そう言われて黒スーツの男に首根っこを掴まれた男はそのまま引きずられながら連行されていった。

 

「あの人大丈夫なの?」

「さあ? でも、悪い人には見えなかったよ」

(まぁ、確かにそうだよね。僕達に危害を加えるつもりはないみたいだったし)

「おもしろいひと……?」

 

 そう思いつつ、恵里は正樹達の下へ向かい、真と白百合は黒スーツの男たちの後に続いた。

 移動を始めてから十分ほど経っただろうか。

 森の中を歩き続けてようやくたどり着いた場所は、小さな神社のような建物であった。

 

「ここか……」

「ああ、間違いない」

「ここに、『おんみょうじ』がいるんですか?」

「ああそうだ」

「……本当に?」

「本当だ。信じろ」

「うーん……わかりました。しんじることにします」

「そうしてくれ。それと、ここから先は俺達とはぐれないように注意するんだ。俺達が先導するが、もし何かあったら大声を出すんだ。いいか? わかったな?」

(なんか、変な雰囲気になってるけど……なるほど……結界が張られているね。入った者を迷わせるタイプのやつかな?)

 

 そんなことを考えつつも、真は白百合と一緒に神社の中へ入っていく。

 そして、中には二人の巫女服姿の女性がいた。

 

「ようこそ。藤原家本家へ」

 

 二人とも見た目は二十代後半くらいの大人っぽい雰囲気を持つ女性である。

 しかし、真の瞳にはほぼ魔力を持っていないことを察知しているので、使用人であるだろうと予想できた。

 

「私達の名前は憶えてもらわなくて結構です。ただの使用人ですので」

「そうですか。僕は柊木真といいます。こちらは柊木白百合」

「よろしく……おねがいします」

「はい。こちらこそよろしくお願いいたします。私はこの家の管理を任されております『御倉(みくら)』と申します。以後お見知りおきください」

「同じく、この家で働いている者です。『春野(はるの)』と申します。どうかよろしくお願い致します」

「えっと、僕達は何をすればいいのでしょうか?」

「それは、当主様の指示に従い行動していただければ問題ありません。それと、あなた方が来る前にもお客様がおりまして、その方はすでに到着しております」

「そうなんですか? ちなみに、どんな人でしたか?」

「はい。藤原家とはまた違う陰陽師の家系、その御当主様です」

「なっ!?」

「……やっぱりか」

「おとうさん?」

「白百合、どうやら僕らは本来なら招かれざる客のようだ」

「どうして?」

「僕達が今朝やったことを覚えているかい?」

「うん……」

「恐らくだけど、僕達の存在に気づいているはずだ。でなければ、こんなことはしない」

「……」

「白百合、僕から離れてはいけないよ」

「わかった」

 

 二人はいつでも戦えるように構え、その時を待つ。

 やがて、案内された座敷で待っていると、襖が開かれた。

 

「お待たせしてすまない」

 

 そこには、一人の男性が座っていた。真は思わず目を見開いた。

 

 上座にて、惚れ惚れするような正座を見せる初老の男だ。

 

 一目で上等と分かる和装を普段着のように着こなしている。

 

 浮ついた様子は皆無で、静謐と厳粛が服を着ているかのよう。

 

 中肉中背で特別体格が良いわけではないが、正座姿はまるで巨岩が鎮座しているかのような印象を相手に与える。

 

 

「ふむ、君が柊木真くんかな? 私の名前は藤原大晴と申します」

「はい。分かっているでしょうが名乗らせてもらいます。柊木真と言います」

「そしてそちらが娘……娘? の柊木白百合さんですね?」

「は、はい!」

「そう緊張せずともよい。取って食おうというわけではありませんからな」

「は、はい! ひいらぎしらゆりです!」

「ほっほ、元気なお嬢さんだ。それにしても、まさかこのような場所で会うことになるとは思いませんでしたな」

「そうですね。僕も驚きました」

「私もだ。だが、これはこれで面白いかもしれませんな」

「ところで、僕を呼んだ理由はなんでしょう?」

「ああそうだった。実はつい今朝方のことに関してなのですが……」

「……やはり気づいていたんですね」

「当然ですよ。何しろ、この家は陰陽道の名門ですからな」

「そうですか……それで、一体どういうご用件なのでしょうか?」

「簡単な話です。柊木真くん、君は……君達は何者だ? そして、これから何をしようとしているのか、それを聞かせてもらいたいのです」

(さて、どこまで話すべきかな)

 

 真は少し考えこむ。

 どこまで話していいものか、それとも全て話すべきか。

 しかし、目の前にいる男が信用できるかどうかは別問題である。

 仮に信用できたとしても、果たして自分の秘密を全て打ち明けるべきなのか。

 そして、自分が転生者であることも伝えるべきかどうか。

 迷った末に、真は結論を出した。

 

「すみませんが、今は答えることができません」

「ほう?」

「しかし、いずれはお話ししたいと思っています」

「なぜです?」

「あなた方が信頼に値する人物だと分かった時です」

「なるほど……では、私が君の信頼を得た時は、君のことを話してもらおうかね?」

「ええ、構いません」

「うむ。よろしい。ならば私は、君達の力になろうじゃないか」

「いいんですか?」

「無論だ。私はこう見えてもそれなりに顔は広いのだよ。人脈はそれなりにあると言ってもいい。陰陽師というものにしては珍しいかね? まあそれは置いておくとして、私は君の味方になる。だから、君も私の味方になってくれ」

「分かりました」

「ありがとう。それでは、君が今朝、あの結界の中で何をやっていたのか教えてもらえるかい?」

「分かりました」

 

 それから真は、自分や白百合がやったことを正直に答えた。

 もちろん、真がこことは違う世界でとある組織の総司令をしていたことに関しては伏せたが、それ以外は嘘偽りなくすべてを話していく。

 自身の能力のこと。

 白百合のこと。

 そして、茨木童子をどうやって倒したのかについても。

 一番驚かれたのは自身と白百合のことだろう。

 なにせ、陰陽師としての名家、その当主である大晴ですら届かないほどの超常的な力とそんな存在が生み出した人工的な命。

 ただでさえ、人間のクローンを誕生させるだけでも難しいのに、真はクローンではなく、完全に新しい命を生み出したからだ。

 

「ふーむ、信じられないような内容ばかりだねぇ」

「そうでしょうね。でも、これが事実なんですよ」

「確かにそうなのかもしれない。だが、その力と知識を手に入れた方法も気になるんだが……」

「すみません。そのことに関して、今はしゃべれません」

「むぅ……」

 

 大晴は困り果てる。

 真の言い分には納得するが、それでもどうしてそのようなことができるようになったのか、それがどうしても気になってしまう。

 そこで大晴はある提案をする。

 

「そうだ。君たちに模擬戦を行ってもらうというのはどうだろうか?」

「もぎ、せん……ですか?」

「ああ。君達が『鬼』――『茨木童子』を倒して調伏させたのは確認している。でも、一部の人間は君達のような子供が調伏出来たと信じない輩がいるんだよ」

「あ~……それは分かりますね。それが土御門の御当主ですか?」

「そうだね。そして彼は――」

「大晴殿はここかぁ!?」

「今来たみたいだね」

 

 現れたのは闇に溶け込むような墨染めの袴を乱暴に翻しながら、襖を乱暴に開いてずかずかと入って来る。

 いつもなら綺麗に整えられているオールバックの白髪も掻き毟った後のように乱れ、目は落ち着かなげにギョロギョロと周囲を見回している。

 そして、真達を見つけると睨みつけてきた。

 

「ここにいたか!」

「おや、これはこれは……久しぶりだね、条之助殿。相変わらずのようだ」

「ふん! 貴様こそ変わらぬではないか。それで? そこの小童どもが茨木童子を調伏したという奴等だな?」

「はい、そうです。こちらは柊木真くんとその娘である柊木白百合さんです。二人とも、こちらの方は陰陽師の土御門家当主である方だ」

「条之助さんですね。お初にお目にかかります。柊木真と申します」

「こ、こんばんは! わたし、ひいらぎしらゆりです!」

「……」

 

 真は丁寧に頭を下げて挨拶するのに対し、白百合は元気よくお辞儀をして自己紹介を行う。

 しかし、条之助と呼ばれた男は、ただ黙って真のことを見つめていた。

 

「あの……何か?」

「ふん! 大晴殿。何故、このような小童が茨木童子を倒したというのだ? それにこの娘の力は、まだ分かるにしても……まさかとは思うが、お前はこんな子供にまで手伝わせたのか?」

「それは違いますよ。彼らは自ら進んで協力してくれたのです。私も最初は驚きましたが、事実ですよ」

「……本当か?」

「はい」

 

 真が答える前に大晴が代わりに答えた。

 それを聞いた条之助は鼻で笑う。

 

「フンッ! このような子供にまで頼らねばならぬほどに、貴様らは追い詰められているというのか? 情けない」

「いえ、そういうわけでは……」

「いいや、違う。確かに貴様らの実力は認めよう。だが、それでもたった二人の人間に頼るなど、陰陽師として恥を知れ。そんなことでは、いつまで経っても我らに追いつくことは出来んぞ」

「……ご忠告痛み入ります」

「ふんっ!!」

 

 条之助は真を一通り見ると、そのまま部屋から出て行ってしまった。

 残された大晴は溜息を吐く。

 

「やれやれ……。すまないね、二人とも。彼も悪い人ではないのだが、少しばかりプライドが高くてね」

「大丈夫です。それより、模擬戦はどうなるんですか?」

「ああ、それなんだがね――」

 

 その後、真達は土御門家の庭へと案内された。

 そこでは大勢の陰陽師達が訓練を行っている。

 そんな中に真と白百合が入ると、多くの視線が集まる。

 だが、それも一瞬のこと。

 真が入ってきた瞬間、ざわめきは静まり返る。

 まるで、真の放つプレッシャーに押しつぶされるかのように。

 

「ほぉ、中々の威圧感だね」

「大晴さん……」

「大晴殿、その者たちはいったい? 確か、今日は客が来るという話ではなかったはずですが……」

 

 一人の若い青年が現れる。

 黒い髪をオールバックにした鋭い瞳を持つ男だ。

 その身から発せられる気配は、まさに一流の陰陽師であることを物語っている。

 しかし、そんな彼ですら真の前だと霞んでしまう。

 

「おお、来てくれたか。さすがは私の教え子だ」

「大晴殿、説明をお願いします」

「ああ、そうだったね。実は彼らにはこれからあることを行ってもらおうと思っていてね」

「あること?」

「それは――」

 

 大晴の説明を聞き、男は眉をしかめる。

 

「つまり、俺と彼らで試合をしろということですか?」

「ああ、そうだ。君と彼らが試合を行い、どちらが強いかを見極めたいと思っているんだ」

「しかし、言っては何ですが、俺に彼らの相手が務まるのでしょうか? 俺は大晴殿ほどではないにしろ、陰陽師として相応な力はつけているはずなのですが……正直に言わせてもらうと、彼らに勝てる光景が思い浮かびません」

「なるほど……やはり、君は優秀だね」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、こうしようじゃないか。私が審判を務めよう。もし、君の言うように、彼らが君に勝つことが出来たなら、私は彼らを弟子……いや、臨時の師範代として迎え入れることにしよう」

「!?」

 

 男の目が大きく見開かれる。

 それは周りの陰陽師達も同じであった。

 

「い、今なんと?」

「聞こえなかったかな? もう一度、はっきりと言おう。私がこの試合の審判を務める。そして、もしも君が勝った場合、彼らはここの師範代となり、藤原家の一員として迎えようではないか。もちろん、正式な手続きを済ませてからの話だが……」

「なっ……! いくら実力があろうとも、なぜそこまでのことを……!」

「ふむ……確かにこれは異例なことかもしれない。だが、それだけの価値があると思うのだ。特に、あの柊木真くんにはね」

「……分かりました。それでいきましょう」

「話が早くて助かるよ」

 

 こうして、真達の模擬戦は始まった。







見つけられたかな?




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模擬戦かぁ……




本日二回目の投稿





 真と白百合の二人は、それぞれ離れた場所で準備を始める。

 といっても、することは大してない。

 ただ単に武器を取り出し、構えるだけだ。

 その様子を見ていた周囲の者は、ざわつき始める。

 

「おい、あれはまさか……!」

「間違いない! 呪具だ!」

「しかも、二本だと! どういうことだ!」

「まぁ、落ち着け。見たところ、ただの杖と刀だろう」

「だが、油断するなよ。相手はまだ子供だぞ」

 

 様々な声が上がる中、真達は大晴の元へ行く。

 

「大晴さん。これは使用してもいいでしょうか? 白百合のは刃引きをしていないものですので、もしよろしければ木刀を貸してもらえないでしょうか?」

「ああ、構わないとも。ただし、壊れても文句は言わないように。それと、この場にいる全員にも見せておくべきだね。これこそが、陰陽師最強といわれた男、藤原大晴が認めた二人の力だよ、ってね?」

「最強って呼ばれてたんですね……」

「さい、きょう……?」

 

 大晴の言葉に、全員がごくりと唾を飲み込む。

 

「では、両者前へ」

 

 二人が向かい合う。

 真の相手になるのは、先程から大晴と話をしていた男で、得物は三節棍のようだ。

 

「九条院だ。手加減は無用だぞ」

「こちらこそ、全力でお願いします」

 

 相手の男――「九条院」は三節棍を軽く構えた。

 真は杖を構え、魔力を通していく。

 その際、電子回路のような光の線が杖を覆っていく光景を見て、周りの陰陽師達が驚く。

 そんな中、大晴は真の魔術行使の光景を見て、心の中で感嘆した。

 

(ほう、なかなか面白い使い方をするものだね。それに、あの電子回路のような霊力の流れ、陰陽師にはなかったものだ)

 

 それは、大晴が当主となった今でも知らなかった術式体系だった。

 

「それでは、始め!」

「「ッ!!」」

 

 合図と共に、二人は駆け出した。

 九条院の武器である三節棍の間合いに入る直前で真は足を止め、杖を前に突き出す。

 それはまるで剣術で言うところの突き。

 杖の形状的に言えば、レイピアのようにも見える。

 

「なんだ? その程度か?」

 

 九条院は真が間合いに入った瞬間、横薙ぎに振るう。

 三節棍は、三つの棒が連結された形の武器だ。

  故に、それぞれの棒がほぼ独立しており、自由に操ることができる。

 だから、まず一撃目を振るうことで杖を逸らし、三節棍の真ん中の棒を軸に回転させ、反対側の棒を真の脳天に向かって振り下ろすことができる。

 これが、九条院の必勝パターンだ。

 しかし、真はその動きを読んでいたかのように、弾かれた杖の勢いそのままに、くるりと身体を回転させる。

 そして、遠心力を味方にして、勢いの乗った杖を振った。

 九条院は、咄嵯に反応して、今度は上から下へと三節棍を振り下ろし、真の攻撃を受け止める。

 

「くっ……! やりおる!」

 

 だが、その威力が大きかったようで、僅かに後ろに押し戻される。

 

「まだまだ!」

 

 そこからさらに追撃を仕掛けようとした真だったが、突如として地面から現れた氷の柱によって阻まれてしまう。

 

「なっ……!?」

 

 思わず攻撃の手を止める真。

 すると、その氷の柱の陰から飛び出した九条院が大振りに三節棍を叩きつけてくる。

 

「ぐっ!」

 

 なんとか受け止めるが、衝撃までは殺せない。

 後ろに吹き飛ばされてしまった。

 

「甘いわ! まだ終わりではない!」

 

 そう言って、九条院は三節棍を大きく回し始める。

 回転による加速をつけた一撃を叩き込もうとしているのだろう。

 

「ちぃ!」

 

 このままではマズいと思った真は、即座に体勢を整え、結界魔法を展開させる。

 一応この後のことも考えて、あまり魔力は込めずに展開したが、そんな結界でも並の攻撃なら防げる強度だ。

 それに向かって、九条院は三節棍を思いっきり叩きつけた。

 ガァンッ! という音が響くが、それでも真には届かない。

 

「硬い……っ!」

 

 予想以上の硬さに驚く九条院。

 そこに、すかさず真が杖をフルスイングする。

 

「ぐあっ!」

 

 まともに食らい、再び後方へ吹っ飛ぶ九条院。

 

「そこまで!」

 

 審判役の大晴が、そこで試合終了を告げる。

 

「勝者、柊木真!」

「ふぅ……」

 

 真は息を吐きながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

「まさか、あんな戦い方をするなんてね。驚いたよ」

 

 大晴はパチパチと拍手をしながら、真に近づく。

 その称賛を受けながら、真は九条院を助け起こす。

 

「あー……すみません。つい、力を込めて打ってしまったんですが、大丈夫ですか?」

「む、ああ、問題ない。少々油断していたようだ」

 

 九条院はそう言いながらも、少しよろめいている。

 どうやら、結構ダメージがあったようだ。

 

「まぁ、その程度の怪我であれば、すぐに治せるでしょう。誰か。治癒の術を使える者は?」

 

 大晴が呼びかけると、周りの群衆の中から一人の女性が近づいてくる。

 

「私、使えます」

 

 真は女性に場所を譲り、頭を下げる。

 

「ありがとうございます。九条院さんの治療をお願いします」

「はい。わかりました」

 

 女性は笑顔で返事をして、九条院の側に立つと呪文を唱え始める。

 しばらくして、九条院の傷が完全に癒えていく。

 

「ふう。これでいいですね。九条院様、ご無事でしょうか?」

「うむ。感謝するぞ」

 

 九条院は礼を言うと、真の元へ戻ってくる。

 

「真殿。改めて、素晴らしい武技であった。その杖も実に良い物だな」

「恐縮です。こちらこそ、勉強になりました。また、機会があればよろしくお願いします」

「うむ。次は負けぬからな?」

「ははは、望むところです」

 

 二人は握手を交わす。

 

「さて、次は白百合君。君の番だ」

「は、はい!」

 

 緊張した面持ちで前に出てきたのは、先程まで真と一緒にいた白百合だ。

 

「白百合、頑張れ!」

「うん。がんばる!」

 

 応援してくれる真に、力強く答える白百合。

 

「では、あなたの相手は私がします」

「えっと……よろしく、おねがいします……」

 

 白百合の相手になるのは、肩口で切りそろえた髪を風に揺らしている女性だった。

 背丈は九条院と同じくらいだが、どこか男勝りな雰囲気を持っている。

 そんな彼女は、九条院とは違って、その腕に金属製の籠手をはめていた。

 

「あの子は、確か……九条院と同期の子だったかな? 名前は……なんと言ったか」

 

 大晴が思い出そうとするが、なかなか出てこないらしい。

 組織を纏める者となると、やはり構成員の名前はすぐには出てこないのだろう。

 すると、九条院が横から声をかける。

 

「橘です。同期といっても、年齢は私の方が上なのですが」

「おお、そういえばそうだったね。失敬、失敬」

「いえ。お気になさらず」

 

 九条院は小さく会釈すると、大晴から離れる。

 

「では、二人とも準備はいいかい?」

「はい」

「は、はい!」

 

 二人が返事をするのを確認した後、大晴は合図を出す。

 

「始め!」

 

 その瞬間、真は結界魔法を展開する。

 観客を守るようにして展開された結界に、観客席から感嘆の声が上がる。

 そんな中、真は白百合の方を見る。

 そして、こう言った。

 

「白百合。『手加減して日の呼吸を使いなさい』」

「……うん!」

 

 白百合は元気よく返事をすると、炎が燃えるような音を立てる独特な呼吸とともに、橘に接近した。

 

――日の呼吸 壱ノ型 円舞

 

 白百合が放った一撃は、とても目では追えない速度である。

 しかし、それを見切ったのか、橘は最小限の動きで回避する。

 

(速い!)

 

 しかし、予想外の動きに、内心驚く橘。

 見た目小学生の少女が、幼少期より訓練を受けている自身を上回る速度で動いているのだ。

 しかも、攻撃を回避してもなお、少女の攻撃は止まらない。

 

――日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天

 

 その勢いのまま振り下ろされる二撃目を、今度は籠手を使って受け流す。

 

「ぐっ!?」

 

 なんとか直撃は免れたが、衝撃までは殺しきれず、思わず苦悶の表情を浮かべてしまう。

 その隙を見逃さず、追撃を仕掛けてくる白百合に対して、橘は咄嵯の判断で飛び退く。

 

「へぇ……」

 

 真はその様子を見て、素直に驚いていた。

 というのも、真の目には白百合が振るっている剣が見えているからだ。

 いかにそれが木刀といえども、そこに込められている力は尋常ではない。

 もしかしたら、今の白百合なら、鉄板ですら両断してしまいそうだ。

 だからこそ、そんな勢いの攻撃を間一髪とはいえ受け流している橘に、驚きを禁じ得ない。

 

「すごいね。白百合ちゃん」

「えへへー」

 

 橘の言葉に、嬉しそうにする白百合。

 

「でも、まだまだいくよ?」

「はい!」

 

 そう二人で示し合わせて、駆けだした。

 

――日の呼吸 伍ノ型 陽華突

――掌底

 

 突きを放つ白百合に対し、橘は拳を突き出す。

 それは見事にぶつかり合い、衝撃波を発生させた。

 

「わぁっ!?」

「きゃあ!」

 

 それによって発生した風圧によって、二人の体は吹き飛ばされる。

 しかし、白百合はすぐさま空中で身を翻し、着地してから瞬時に距離を詰めた。

 それに対して、橘はあえてその場に留まり、迎え撃つ構えをとる。

 

――日の呼吸 陸ノ型 日暈の龍・頭舞い

 

 駆け抜けながら次々と斬撃を繰り出していく白百合。

 対する橘は、それらを予測して弾いていく。

 まるで演武のように美しい攻防を繰り広げる二人を見て、観客たちは歓声を上げる。

 そんな中で、真だけは静かに戦いを見つめていた。

 

(ふむ……。やはり、白百合の力が強すぎるな)

 

 いくら手加減するように言ってあるとはいえ、真という超常存在が創り出した生命体と、ただの人間が他よりも強い魔力を持っているだけの陰陽師とでは、明らかにスペックの差がある。

 だからといって、橘が弱いわけではないのだが。

 おそらく、橘が本気で戦えば、真や大晴に匹敵するほどとはいかないまでも、木っ端妖怪ならば正面から討伐できるだろう。

 それを支えているのは、橘が持ちうる技術と才能。

 そして、鍛え抜かれた肉体によるものだ。

 ただ一つ言えることは、その努力が並大抵のものでないということだけだろう。

 しかし、それでも白百合との差は埋められない。

 

「……さて、そろそろかな」

 

 真が呟くと同時に、白百合の猛攻が止まった。

 

――日の呼吸 壱ノ型 円舞

――日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天

――日の呼吸 参ノ型 烈日紅鏡

――日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽

――日の呼吸 伍ノ型 陽華突

――日の呼吸 陸ノ型 日暈の龍・頭舞い

――日の呼吸 漆ノ型 斜陽転身

――日の呼吸 捌ノ型 飛輪陽炎

――日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光

――日の呼吸 拾ノ型 火車

――日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹

――日の呼吸 拾弐ノ型 炎舞

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 怒涛の猛攻を受けきって、息を切らしながらその場に座り込む橘。

 対して、白百合はまだ余裕があるのか、肩で息をしているものの、しっかりと立っている。

 

「そこまで! 勝者、柊木白百合!」

 

 審判を務めていた大晴が宣言すると、観客席からは盛大な拍手が巻き起こった。

 それを尻目に、真は白百合の側に歩み寄る。

 

「お疲れ様。白百合」

「うん! ありがとうございます!」

 

 真に褒められたことで、嬉しそうに微笑む白百合。

 

「やっぱり白百合ちゃんはすごいね」

「? ……わたしが、すごい? どうしてですか?」

 

 橘の言葉に首を傾げる白百合。

 それに対し、橘は苦笑しつつ答えた。

 

「だって、私よりずっと年下なのに、あんなに強いんだもん」

「……そんなこと、ありません。たちばなさんもすっごくつよかったですよ? わたし、おとうさんとくらべて、ぜんぜんうごけてないから」

「お父さん?」

「はい! ね? おとうさん?」

「ん? ああ、そうだね」

 

 白百合の言葉に、橘は一瞬なんのことか分からなかったが、すぐに理解したようで笑顔を浮かべる。

 

「なるほどねぇ……いろいろと、複雑そうだ」

「……」

「大丈夫だよ。誰にも言わないから」

「……お願いします」

 

 橘が困っていると勘違いしたらしく、心配そうな表情をする白百合。

 そんな白百合に対し、橘は安心させるように頭を撫でた。

 

「それにしても、真君の娘とは思えないくらいいい子だよね。この子は」

「それはまぁ、否定はしないよ」

 

 大晴に白百合を褒められて、どこか照れくさそうにする真。

 それを見て、橘は思わず吹き出した。

 

「あははっ! ほんっと、真君は白百合ちゃんには甘いなぁ~。白百合ちゃんが可愛いのはよく分かるけど、もうちょっと父親としてしっかりしないとダメじゃないの?」

「ぐぅの音も出ませんね。以後、気をつけます」

「よろしい。さて、私の番は終わったから、また今度ね?」

 

 橘が手を振って立ち去ると、入れ替わるようにして大晴が真のもとにやって来た。

 

「真君。白百合君。君達を私達陰陽師の一員と認めよう。これからよろしく頼む」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「はい! よろしくおねがいします!」

 

 真と白百合が揃って頭を下げると、大晴は満足げに微笑んで去って行った。

 こうして、真と白百合は正式に陰陽師の一員となったわけだ。







感想を貰えると作者のやる気が上がります。

質問でもなんでもどうぞ。




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夏は暑いねぇ……




今更ですが、お気に入り登録してくれた方の紹介を……。

山の影 レン1970 ナルナル mokkunn スルメ aki eco ノコノコ あびゃく ガノン chobi 逆巻く雨 Leccee スウェン 銀の鐘 薙真 たぬえもんⅡ 打出小槌 雪風冬人 弐式 かぼちゃ男 永遠の彼方 gr1 黒い神憑き ルピス 銀鍵桜華 オンボロ@猫 仮屋和奏 koshi 正くん 黒白の暗殺者 綾瀬絵里 六幻覇将軍 皓月鉄骨 蹴翠 雛兎 バーグレイス 通りすがりの読者N rin1967 八雲 白爛 reonrein daisann レオンカイザー シトリン ヒュウガ@猫好き katana  白音 セイヴァー 結綺虎 WARLOCK てぃーえすふぉーえばー アストルフォ・オルタ ユーた マーラ グダさん 一ノ瀬 刹那 ナノ1919 森の翁 寒空 Strings アルケット Re大好き 鳴神風月 アルマリア ヴェルザ・ダ・ノヴァ 週膳緋葉 剣谷レイ BREAKE 世界の神様 アストロイア 凛音アルカード 私は生きている ユーさん カレイドライナー ノロケル 明月記 IF maker 米岡 monaka96 鳴無 カミト6622 タスク02 神楽坂 虚無 LN あかさたなはまや ダンマツ かげ屋 ティン×2 008S タスクフェルス ニンジャ0号 鬼世界 ケロットマン 世良康正 アリス(アルターエゴ) 厚切りレンコン 響夜 オオカミアマゾン 会会 青龍@ 名無しの お面ライダー 基礎体温 リア・ユグドラシル †厨二病† ゆめがモリモリ 

総数103名の方々です。
ありがとうございます。


今回の話は日常回です。

それでは、どうぞ。





 あの旅行から数日が経ったある日。

 いまだに夏休み真っ盛りの中、真と白百合(旅行から帰ってきた後に戸籍を作った)は、自宅の縁側でのんびりとしていた。

 今日は家族の姿はなく、二人きりである。

 とはいえ、別にイチャイチャしているわけではなく、単純に暑いだけだ。

 真にとって、暑さは魔法を使えば容易く無効化できる程度のものだが、流石にこんな時に魔法を使うのはどうかと思って自重していた。

 

「……あついです……」

「言わないでくれ。余計に暑くなる」

「でもぉ……」

 

 隣では白百合がTシャツ短パンというラフな格好でだらけている。

 ちなみに、真は半袖のYシャツに短パン姿であり、こちらもラフな格好だ。

 だが、それでも暑いものは暑いので、二人は無言で庭を眺めていた。

 

「……あついです……」

「だから、言わないの……」

「……むー」

「……わかった。僕が悪かったから拗ねないで」

 

 どうやら白百合は、暑さのせいでかなり不機嫌になっているらしい。

 そこで、真は自分の膝の上に乗せると、白百合の頭を優しく撫で始めた。

 最初は抵抗感があった白百合だったが、しばらくすると気持ち良くなったのか、寝息を立て始める。

 そんな自身の娘ともいうべき少女の寝顔を見て、真は頬をほころばせた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

1:神祇省総司令

娘の寝顔がかわいい件について

 

2:名無しの助言者

何の用だスレ主?

 

3:名無しの助言者

惚気か?

そんなことのためにスレ立てるなよ

 

4:名無しの助言者

あっちぃ~……転生してもこの暑さは変わらねぇか~……

 

5:名無しの助言者

万年雪山のここは過ごしやすいけど、そういや、今の日本は夏休みか

 

6:名無しの助言者

>5 今は7月も後半だけどな

 

7:名無しの助言者

>6 マジか

 

8:名無しの助言者

>7 マジだ

世界が違っても夏は暑いよなぁ……

 

9:名無しの助言者

>8 俺、現代日本の関東住みなんだけどこっちもクソ暑いぞ

 

10:名無しの助言者

俺は九州民だからそこまででもないかな

 

11:名無しの助言者

まぁ、とりあえず、暑いって話だけは分かった

 

12:名無しの助言者

異世界の高山地帯に住んでるから、日本の夏の感覚も忘れちまったなぁ……

 

13:名無しの助言者

>12 お前はどんなところ住んでんだよ

 

14:名無しの助言者

>13 竜族の国

 

15:名無しの助言者

>14 結構危なそうなところに住んでんだなお前

 

16:名無しの助言者

>15 まぁ、確かに ドラゴンとかワイバーンとかいるし、数十年前はちょくちょく襲撃されてたけど、その度にぶっ飛ばしてたらぱったりとなくなったから結構住みやすいぞ

 

17:名無しの助言者

>16 何このドラゴンスレイヤーさん、怖すぎるんですけど……

 

18:ドラゴンスレイヤー

>17 お、その名前良いな

コテハンにさせてもらうぜ

 

19:名無しの助言者

どうぞどうぞ

 

20:名無しの助言者

おめぇらのコテハンは適当すぎないか?

 

21:名無しの助言者

だってめんどいもん

 

22:名無しの助言者

>21 それ

 

23:名無しの助言者

>21 同意

 

24:日柱鬼殺隊員

>21 俺なんか、役職の名前にしてるからな

にしてもあっちぃな……

 

25:名無しの助言者

お、日柱ニキだ

そっちの季節も夏?

 

26:日柱鬼殺隊員

おう、夏真っ盛りだ

ま、現代組とくらべたら大分過ごしやすいだろうけどな

 

27:名無しの助言者

そうなのか?

 

28:名無しの助言者

そう言えば……

なぁ、スレ主

この間の旅行とかはどうなったの?

 

29:名無しの助言者

あー、あれね

 

30:名無しの助言者

何かあったのですか?

 

31:ドラゴンスレイヤー

新人さんか?

なら過去スレを見に行った方が早いだろ

つ【URL】

 

32:名無しの助言者

有能!

 

33:名無しの助言者

サンクス

 

34:名無しの助言者

>31 俺も行ってくるわ

 

35:名無しの助言者

で、どうしたの?

 

36:名無しの助言者

いや、結局のところ、旅行はどうなったのかなぁ……って思ってさ

 

37:名無しの助言者

……あー、あのことね

 

38:名無しの助言者

ははーん、察しました

 

39:名無しの助言者

どうせアレでしょ? スレ主が白百合たんにデレまくったんでしょ?

 

40:神祇省総司令

いや、そうでもなかった

 

41:名無しの助言者

ん?

 

42:名無しの助言者

え、マジで?

 

43:名無しの助言者

意外だな

 

44:名無しの助言者

一体どういうことなんだ!?

 

45:神祇省総司令

いや、白百合を創り出した後は、京都観光へさぁ行くぞ! と、うきうき気分で観光地へ向かったんだ

そしたら、京都にいた陰陽師の方達にちょっとつかまっちゃって……

それで、本格的な旅行が行える「二日目」がまるっと潰れちゃった、ってわけ

 

46:名無しの助言者

…………はい?

 

47:名無しの助言者

え、何があったの?

 

48:名無しの助言者

……あぁ……なるほど

ありふれの原作にも登場した陰陽師に見つかって、いろいろ聞かれたのか

 

49:名無しの助言者

>48 どゆこと?

 

50:名無しの助言者

>49 「ありふれ」こと「ありふれた職業で世界最強」という世界の日本には、陰陽師がいて、本来の主人公達が地球に帰ってきた後に発生した問題でがっつり関わったんだよ

しかもこの陰陽師、ぽっと出の組織じゃなくて、昔から続いてる組織なんだ

 

51:名無しの助言者

あー、つまり、陰陽師に目をつけられたから、旅行どころじゃなくなったと

 

52:名無しの助言者

そういうことだろう

 

53:神祇省総司令

>51 そう言うこと

ま、異端だからと言って拘束されるようなこともなかったし、彼らが対応できなかった問題に手を貸すということで契約しただけだから、別にいいんだけどね

 

54:名無しの助言者

いいんかいw

 

55:名無しの助言者

でも、その陰陽師の人達って結構すごい人たちなんじゃないの?

 

56:名無しの助言者

>55 いんや?

実は、本来の主人公こと「南雲ハジメ」君が、とある大樹を復活させたことで陰陽師は力を取り戻したが、今の陰陽師はまだクソ雑魚だ

 

57:名無しの助言者

ほぉ~

 

58:名無しの助言者

そうなんですか?

 

59:名無しの助言者

そうなんだ

っていうか、俺もそろそろコテハン変えていいか?

 

60:名無しの助言者

どうぞどうぞ

 

61:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

ありがとう

よしこれだ

 

62:名無しの助言者

ちょwww

 

63:名無しの助言者

アウトwww

 

64:名無しの助言者

もうちょっとマシなものはなかったのですか?

 

65:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

だって、解説者って言ったらこの人だもん……

 

66:名無しの助言者

そうだな(諦め)

 

67:名無しの助言者

そうですね(悟り)

 

68:名無しの助言者

で、話を戻すけど、その陰陽師との契約でどうなったの?

 

69:神祇省総司令

特に支障はないよ

時折発生する雑魚を討伐するのも基本的に夜中だし、昼間にある学校とかに問題はなさそうだ

特に、今は夏休みだから時間はたっぷりある

 

70:名無しの助言者

なるほど

 

71:名無しの助言者

ってことは、問題なく京都観光できるんじゃないの?

 

72:名無しの助言者

かもな

 

73:神祇省総司令

うん、それは大丈夫だった

ただねぇ……

 

74:名無しの助言者

何かあったのか?

 

75:神祇省総司令

いや、京都観光自体はできたんだ

だけど、なんでかわかんないほど一部の妖怪(大半が鬼)に敵視されてるんだ……

なんでぇ……?

 

76:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

あ……(察し)

 

77:名無しの助言者

 

78:名無しの助言者

 

79:ドラゴンスレイヤー

 

80:日柱鬼殺隊員

 

81:名無しの助言者

(・д・。)……?

 

82:名無しの助言者

あ、俺分かったかもしれん

 

83:名無しの助言者

>82 まじで!?

 

84:名無しの助言者

>82 教えてクレメンス!

 

85:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

>84 ヒント:スレ主と白百合ちゃんが倒した奴

 

86:名無しの助言者

あっ

 

87:名無しの助言者

あっ

 

88:名無しの助言者

あー……

 

89:名無しの助言者

……なるほど、確かに美人さんでしたね

あの茨木童子は

 

90:名無しの助言者

>89 そういうことだ

 

91:名無しの助言者

つまり、茨木童子に好意を向けていた奴らが嫉妬してるってこと?

 

92:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

>91 多分そうだろうな

 

93:名無しの助言者

>91 じゃねえの?

 

94:名無しの助言者

>91 だろうな

 

95:名無しの助言者

>91 だろうなぁ……

 

96:神祇省総司令

えー……

 

97:名無しの助言者

まあまあw

 

98:名無しの助言者

ドンマイw

 

99:日柱鬼殺隊員

南無南無……

 

100:神祇省総司令

勝手に殺さないでくれるかなぁ!?

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「うぅん……あれ? おとうさん、どうしたの?」

「あぁ、大丈夫だよ白百合。ちょっとめまいがしただけだから……」

「えっ!? だいじょうぶなの!?」

「大丈夫、これから起こる面倒事を考えていると頭が痛くなっただけなんだ……はぁ……めんどい……」

「……? そうなの? でも、げんきだして!」

「ありがとね」

 

 そう言って、僕は白百合の頭を撫でる。

 すると、「えへへ~」と言いながら目を細める白百合を見て、心の重りが少し軽くなった。

 

・それで、これからどうするんだスレ主?

 

 そう脳内に浮かぶ転生者掲示板の言葉に、ため息をつく。

 本当に、どうしてこうなったのだろうか?

 僕たちは今、実家の銭湯にいる。

 そこに関しては問題ないのだが、陰陽師関連のこととなると途端に億劫な気分になってしまうほど、現状は面倒くさいことになっていた。

 掲示板の者達の情報によると、茨木童子――『夜々之暁』にはそれはもう大層なファンクラブ、もとい、厄介オタク達がいるそうな。

 それもそのファン達の大半が、妖怪の中でも格の高い『鬼』で構成されているのだから、面倒なことこの上ない。

 だがしかし、それでも行くしかないのだ。

 自身が変えるべき未来のために。

 

「頑張るしかないねぇ……」

 

・それしかねぇよ

・ま、頑張れスレ主

 

 そんな頭の中で響く声を聞きつつ、僕は気合を入れるように頬を叩くのだった。

 

 さて、これからどうしようか……?

 

 まず戦力はいくらあってもいいものだと考えてもいいはずだろう。

 それも、掲示板の者達の情報からして、相手は悪に堕ちてしまったとはいえ『神』だ。

 しかも、『概念魔法』とやらをぶつけないと勝機はほとんどないと言ってもいいらしい。

 僕の『本体』だったら話は別だろうけど、ないものねだりをしても意味がない。

 ならば、やることは一つだった。

 

「よし、特訓するか。それもとびっきりキツイやつを」

 

・はい?

・いきなり何を言い出すんです?

・また変な電波受信したのか?

・お前、疲れてるんだよ

・そうだよ(便乗)

・休め

 

「いいから黙って聞いてくれ。確かに僕は疲れているかもしれない。だけど、ここで立ち止まっていてはいつまでたっても強くなんてなれないだろう?」

 

・スレ主……

・スレ主……!

・漢の中の漢!

・そこにシビれる!あこがれるゥ!

 

「というわけで、特訓するぞー!」

「ん……? どうしたのおとうさん?」

「ごめんね白百合。ちょっとお父さん出かけてくるから、お留守番お願いできるかな?」

「うん! わかった! いってらっしゃい!」

「はい、行ってきます」

 

 そう言って僕は白百合の頭を撫でてから、家を出る。

 向かうのは、もちろん京都だ。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「……と、言う訳で、暁。今から特訓だ!」

「なぁにが『特訓だ!』じゃ! 唐突すぎるであろうが!」

 

 場所は変わって、京都のとある山奥。

 そこには、真と茨木童子こと暁の姿があった。

 

「まあそう言わずに。ほら、特訓なら人が多い方が楽しいだろう?」

「我は楽しくないわ! どうせ、この間の変な呼吸をしながら斬るだけじゃろ!? なら、我がいる必要などないはずじゃ!」

「えぇー……」

「ええじゃないわい!」

 

 そう言いながら、暁は地面に寝転がる。

 その姿はまるで駄々っ子のような姿だったが、それが妙に似合っているところがなんとも言えない。

 長身の女性が駄々をこねていることと、それをしている存在の本性を知っている者なら幻滅するような光景だが……まぁ、彼らの間ではこれが平常運転なのだ。

 

「まったく、我がそんな面倒なことをするとでも思うたか? そもそも、真の力というものは一朝一夕で成長するものではなかろう。それこそ、地道に努力し続けて初めて手に入れるものじゃ。ならば、こんなところで無駄に時間を費やすよりも、もっと有意義な時間の使い方があるとは思わぬか?」

「むぅ……それは正論なんだけど、でもやっぱり早く強くなりたいんだよね。それに、僕の『本体』にあって今の僕にないものがあるんだよ」

「ほぅ……? そのないものとは?」

 

 暁の問いに、一呼吸を入れてから答える。

 

「『覚悟』だよ。これは多分だけど、僕がこれからしようとしていることに必要不可欠なものだと思うんだ」

「ふむ……」

「だから、僕は『力』を手に入れる。そして、その力で大切な人達を守り抜く。そのためにも、暁。君に協力してもらいたいんだ」

 

 そう言った真の瞳には、確かな決意の色が浮かんでいた。

 

「……そこまで言われてしまえば仕方あるまい。まぁ、暇つぶし程度に付き合ってやるとするかの」

 

そう言って、暁は起き上がる。

 

「ありがとう。それで、今からやろうとしていることなんだけど……このメモを見てくれ」

「ん? どれどれ……」

 

真は懐にしまっておいた紙を取り出して広げると、暁はそこに書かれている内容を見て目を大きく見開いた。

 

「こ、これは……まさか……!!」

「ああ、『日の呼吸』だけじゃない。様々な技術を取り入れていく。そのためにはまず、基礎体力の向上と身体強化を重点的に鍛えるつもりだ。それと、魔術による肉体の負荷にも慣れておかないと。この間、君と戦った時なんて、魔力を身体強化に回すことしかできなかったからね」

 

 そう言って真は腕をまくり、準備運動を始める。

 

「お、おい待て真! 今からやるのか!?」

「もちろん。時間が惜しい。1分1秒たりとも無駄にはできないよ。さあ、始めるぞ!」

「ぬぉおおおおおおおお!?」

 

 そうして、2人の特訓が始まったのだった……。







コテハン組の解説



・神祇省総司令
 本作の主人公であり、スレ主。
 現代異能バトルものっぽい世界に住んでいたが、自身の能力が記憶していたとある能力が発動して、「ありふれた職業で世界最強」の世界に迷い込んだ人。
 その際、「世界を超える=転生した」と、転生者のシステムに誤認され、転生者掲示板を使用できるようになった。
 「変幻自在」という名前の能力を持ち、その詳細は「能力を変えられる能力」というもの。
 その強さは、元居た世界でも「生まれる世界間違えてない?」と言われるほど強い。
 現在は、元居る世界の肉体――『本体』から分離した『欠片』とでもいうべき存在のため、大幅に弱体化を食らっている。
 それでも、一部の能力(『真眼』等の特殊な器官)は残っている。
 髪は黒髪で、現在は美少年。
 将来的(奈落に落ちる)には呪術廻戦の五条悟よろしく目隠しをする。

・白百合
 スレ主こと神祇省総司令の娘というべき存在。
 スレ主の能力によって生み出された生体パーツによって体を構成され、身体能力はトータス基準でのほぼ最強格である「神の使徒」と渡り合えるほどである(状況によるが)。
 今使えるのは、親であるスレ主の「変幻自在」と、スレ主が使っていたのを見て覚えた『日の呼吸』だけ。
 これから、スレ主がいろんな技を教えたり、掲示板の住人たちが様々な技術を(悪ノリで)覚えさせていくので、最終的にはすごく強くなる予定。
 銀髪碧眼の美少女。

・日柱鬼殺隊員
 皆さんご存じ「鬼滅の刃」の世界に転生した人。
 日の呼吸への適正と強靭な肉体を転生特典としてもらい、何とかハッピーエンドを迎えられたすごい人。
 一応、設定としては、鬼殺隊に入った後、柱やそれに関わる人達全員とコミュ二ケーションを取り、無限列車ではぎりぎり間に合い、無限城では、柱が全員生き残った状態で無惨と戦うことができた。
 日の呼吸の完成度は、縁壱レベルではないにしろ、たった一人で夜明けまでの時間をほぼ稼ぐことができたほどに完成されていた。
 美青年とした風貌をしている。
 「痣」はないし、誰にも「痣」を発現させなかった。

・ドラゴンスレイヤー
 多分、なろうとかに出てきそうな異世界で、ドラゴンがそこらを闊歩するような魔境に住んでいる人。
 なんかすごい武器や魔法を持っているわけではなく、ただの肉体でドラゴンをボコれるほど。
 ファイトスタイルは、何でもありなケンカ戦法。
 そこらの物をぶん投げるし、掴んで振り回すことも普通にする。
 でも、野生の勘や、本能で行動の取捨選択をするので、結構厄介。
 簡単に言えば、「ありふれ」のシアみたいな人。
 ドラゴンの肉を食っているため、角が生えている。

・俺は解説役の○ピードワゴンッ!
 転生したら現代世界だったので、普通にエンジョイしている人。
 その世界では、転生する前にあった漫画やアニメ、小説なんかもあるので、そこから知識を仕入れては、迷える転生者に助言する。
 転生特典は、「一度見たものを記憶できる」能力。
 魔法とかは使えないし、身体能力は一般人。
 顔に関しては、そこらにいるモブとほぼ同じだろう……たぶん……。

これからもコテハン組は増えていきます。
もしかしたら、あなたのよく知る作品からも……?



次回は、夏休み後半の恵里ちゃんや雫ちゃん、ハジメちゃんのコミュ回です。




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遊びに行こう!




流石に、「本編までが長すぎるかな?」と思い始めた今日この頃。

ですが、こうしないとそれぞれの感情の方向性と大きさが分からなくなってしまうから、気長に待ってください。


追記
風邪ひきました。





 真が暁との特訓を行い始めて半月ほど経ったある日。

 真の部屋にて、少年少女らは集まっていた。

 

「ではこれより、緊急会議を始めます」

「えぇ……」

「どうしたんですか? 藪から棒に……?」

「……真。私たちを集めて一体何をするつもりなのかしら?」

「おとうさん、どうしたの?」

 

 突然の招集に困惑する4人。

 真の珍しく真面目そうな声色に少し引いている少女――「南雲ハジメ」に、真の突然のテンションには慣れているからかスルーする少女――「中村恵里」。

 そして、若いのに頭痛を我慢するかの如く頭を押さえる少女――「八重樫雫」に、真をおとうさんと呼ぶ少女――「柊木白百合」がそこにいた。

 そして、彼女達の視線を一身に受ける、○ンドウポーズをする真の姿があった。

 

「…………」

「ねぇおとうさん。なにかしゃべって?」

「……ごほん! えーっと、まずはみんなに謝らないといけないことがあるんだ」

「え?」

「……なにかしら?」

 一応、理由を聞いてやろうと耳を傾ける4人。

 そんな少女達の姿に安心感を覚えながら、真は口を開く。

 

「白百合はそうでもないけど、他の皆は、ここ最近あんまり遊んだりできなくてごめん!」

 

 そう言って、深々と頭を下げる真。

 その姿に、雫達は目を丸くした。

 

「ど、どうしていきなりそんなことを……?」

「私も気になるわね。あなたがそんなこと言い出すなんて、余程のことがあったんじゃないの?」

「おとうさんのことだもん、きっとなにかあったんでしょ?」

「うん、まぁ、そうだね……」

 

 そう言って理由を話し始める真。

 

「まず、ハジメについてなんだけど……皆、ハジメのことは知ってるよね?」

 

 4人が同時に首を縦に振る。

 その様子に苦笑いを浮かべながらも、真はさらに続けた。

 

「仲良くなってくれてるようで何よりだ。それで、そんなハジメのことなんだが……」

 

 妙にためるので、何事かと心配になってくる4人。

 そして、真が言ったのは……

 

「……友達が少ないんだ」

「「「「……は?」」」」

「だから、ハジメはクラスに馴染めていないと思うんだ」

「ちょっ!?」

「「「……」」」

 

 あまりの内容に絶句してしまう3人。

 ハジメだけは羞恥に顔を真っ赤に染めていた。

 しかし、すぐにハッとして反論に入る。

 

「べ、別にいいよ!! 僕は気にしないし!!」

「僕が気にするんだよハジメェ! かれこれ3年以上の付き合いじゃないか!? それなのに、君にはここにいる者達しか友達がいない! これは由々しき事態だ!!」

「うぐぅ……!!」

 

 涙目になり、胸元を抑えてうずくまるハジメ。

 その様子を見て、雫は溜息をつく。

 

「……確かに、それは問題ね……。というか、あなたのせいでもあるんじゃないかしら? 真?」

「なん……だと……!?」

 

 愕然とした表情の真は、そのまま膝から崩れ落ちる。

 そんな父の姿を見て、白百合はあわあわと慌ててしまう。

 

「だって、ハジメちゃんったら、いつも1人で本を読んでいて、話しかけてもろくに返事もできてないし……。それなのに、あなたみたいな不思議人間が毎日のように来るものだから、クラスメイト達が近づきにくくなってるのよ?」

「そ、そうなのか!?」

「それに、私は数回しか話したことがないけれど、あの時なんて……」

((あ、なんか嫌な予感がする))

 

 そう思って止めようとするハジメと恵里だったが、遅かった。

 

「ハジメちゃん。少し聞きたいことがあるのだけれど」

「え? な、なにかな?」

「あなた、女の子よね? 強制するわけではないけれど、あなた、ファッションに興味はあったりする?」

「え? いや、ないけど」

「そうよね。なら、あなたが今読んでる本ってどんな内容なのかしら?」

「えっと、王道ファンタジーものだけど……」

「……ちなみに、それは恋愛ものかしら?」

「いや、バトルものだよ?」

「……」

 

 雫の顔色がどんどん悪くなっていく。

 そして、真を見つめて一言。

 

「真。お願いがあるわ」

「な、なに?」

「今度の休みに、ハジメちゃんと遊びに行ってくれるかしら?」

「え、えぇ~……?」

「おとうさん、行ってあげて?」

「白百合まで!?」

「……駄目かしら?」

「え、えっとぉ……」

 

 真は考えた。

 考えること数秒。

 結論を出した真は――

 

「分かった。行くよ……」

「! ありがとう! 真!」

 

 雫は真の手を握り、ブンブンと上下に振って喜びを表す。

 白百合も嬉しそうな顔を浮かべている。

 ……しかし、当の本人はというと。

 

(……まぁ、いっか。ここ最近ゲームばっかりだったし、外に出てないハジメのためにも、たまには外で遊ぶのもいいだろうしなぁ……)

 

 そんなことを考えていた。

 すると、今度は恵里が近づいてきて、耳打ちをしてくる。

 

「ねぇ、真さん。ハジメちゃんのことは終わったみたいだけど、私達にも用があるんじゃないんですか? わざわざ全員を集めて話すくらいですし、何か重要なことでもあるんでしょう?」

「うっ……鋭いなぁ。実はその通りなんだよね。皆に相談したいことがあってさ」

 

 そう言って、真は姿勢を整えてから、真剣な表情で言った。

 

「皆……友達は何人いますか?」

「「「……はい?」」」

 

 予想外の質問だったために、3人は呆けた声を出す。

 

「ほら、ハジメのことでも言っただろ? ハジメは友達が少ないんだ。だから、これからのことを考えて僕以外にも話ができる人を作ってもらいたいんだけど……どう思う?」

「……そうですね……」

 

 3人が考え込む中、最初に答えたのは雫だった。

 彼女は顎に手を当てながら言う。

 

「いいと思いますよ。確かに、ハジメちゃんはあまり人付き合いが得意ではないようですし、私としても心配だったから」

「うん。僕も賛成だね」

 

 続いて恵里も賛同の意を示す。

 2人の反応を見て、真はホッとしたような顔をする。

 

「んで、話は戻るんだけど、君たちは友達と言える存在はいるのかい? あ、ここにいるメンバー以外でね」

「「…………」」

「? わたしはおとうさんがいるからだいじょうぶだよ?」

 

 真の言葉に、雫と恵里は目を逸らして俯き、白百合は首を傾げながらも笑顔で言う。

 そんな3人の様子を見て、真はため息をついた。

 

「やっぱりか……。あのね、君たち、僕は別にそのことで怒っているわけじゃないんだよ? ただね、今の状況をなんとかしたくて言っているだけなの」

「……どういうことですか?」

「んー……。なんというか、今のままじゃ君達、僕以外と友達がいなくて、将来的に結構まずいかもしれないよ? ハジメの場合はそもそも周りと関わろうとしていなかったというのもあるけど、雫は同年代の女子に嫌われていたし、恵里に関しては、そもそも友達がいないんじゃないかと思ってたんだけど……」

「そ、そんなことないわよ!」

「そうだよ! ぼ、僕にだって友達ぐらいいるもん!」

「え? じゃあ、今この場でその友達の名前を挙げられる? 嘘は無しで」

「ぐっ……」

「うぅ~……」

 

 真の問いに、2人は言葉を詰まらせる。

 そして、2人は諦めたように口を開いた。

 

「……ごめんなさい。私の知っている限りでは、友人と呼べる人はいないわ……」

「……僕もです……」

「ふむ……」

 

 予想通りの回答を聞いて、真は腕を組む。

 そして、少し考えてから、再び口を開く。

 

「それならさ、この際だから、白百合も含めて5人で遊びに行こうじゃないか」

「え?」

「ほ、本当!? 真さん!」

 

 恵里が嬉しそうな声を上げる。

 真は恵里の目線の高さまでしゃがみこんで、頭を撫でる。

 

「うん。本当はもっと早く誘うべきだったんだけどね。ほら、ここ最近はみんな忙しかったし、何より白百合のこともあったし、なかなか言い出せなかったんだ。でも、もう大丈夫だと思うし、思い切って誘ってみようかなって思ってね。それに、この話題を出したいからあんなまわりくどいことを言ったんだよ。焦って新しい友達を作ろうとしても失敗するだけ。なら、今ある友達の輪を強固にするべきだと思うんだ」

「やったぁ! みんなとあそべるんだよね! おとうさん!」

 

 白百合はぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ。

 真は立ち上がって、皆に聞こえるような声で宣言した。

 

「よし! それでは、今度の日曜日に、皆で遊園地に行くぞ! これは決定事項です!」

「「「「おぉ~!!」」」」

 

 こうして、5人は日曜日の予定を立て始めた。

 

 それから数日後、真達は電車に乗って目的地に向かっていた。

 

 ちなみに、今回の旅行には、真の両親である柊木夫妻はもちろんのこと、ハジメの両親である南雲夫妻も同行している。

 

 その理由としては、単純に真達のことが心配だったからだ。

 というのも、ここ最近になって真が長時間外出することが多くなっているからだ。

 一番最初は京都での旅行の際、朝起きたと思ったら見知らぬ美少女と一緒に寝ていて、その後は突然はぐれる。

 かと思えば、今度は急に用事ができたため遅れて合流するなど、どうにも最近の真の行動がおかしいと感じているのだ。

 

 そのため、真の父親であり、白百合の父になった正樹からの提案で、今回は家族全員で行くことになった。

 

 ちなみに、南雲夫妻が同行しているのは、可愛い娘が友人と遊園地に行きたいと言ったため、「遊園地デートキター!」といった興奮のあまり仕事を放り投げて付いてきた。

 

 もちろん、仕事は部下に任せてきたらしい。

 

 そんなこんなで、真達が向かっている場所は某ネズミの王国だ。

 白百合は大の○ィズニー好きで、しかも、何故だか絶叫系が好きなのだ。

 きっと、生まれて初めて見た光景が、びっくり人間コンテストとでもいうべき超常的な存在達の戦いだったからだろう。

 

 そんなわけで、白百合はウズウズとしながら窓の外を見る。

 

 彼女の隣に座っている雫と恵里も、ソワソワとしているようだ。

 そんな3人の様子を見て、真は苦笑する。

 

(うん。やっぱり、3人ともまだまだ子供だな。ハジメも、特に緊張している様子はなさそうだし)

 

 内心そう呟いて、真は視線を正面に向けた。

 そして、そんな5人を微笑まし気に見つめながら、談笑する親たちの姿があった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「わぁー! わぁー! わぁー! すごいよー! しずくさん! えりさん! ハジメさん!」

「えぇ! 本当に凄いわ!」

「うん! 凄いね!」

「ここが、ネズミの国かぁ……」

 

 4人が目をキラキラさせながら、それぞれ感想を漏らす。

 その言葉を聞いた真は、どこか懐かしそうな表情を浮かべた。

 実は、この遊園地に来るのは初めてではないのだが、それでもやはり楽しいものは楽しいものだ。

 それは、4人も例外ではなかったようで、楽し気に園内を見回していた。

 

「ねぇ! まずは何に乗る!?」

「私は何でもいいけど、白百合ちゃんは何か乗りたいのある?」

「えっと、えっと…… あっ! これがいいです!」

 

 そう言って、白百合が指さしたのは、「アドベンチャーランド」と呼ばれるエリアであった。

 そこは、冒険や探検をテーマにしたエリアとなっており、巨大な洞窟型のアトラクションがあることで有名だった。

 

「じゃあ、最初にそこに行ってみよう!」

「「「おぉ!」」」

 

 真の言葉に、4人は元気よく返事をする。

 全員が参加の意思を示したので、真は正樹に確認をとった。

 

「ねぇ、父さん。僕達はここに行くんだけど、大丈夫かな?」

「あぁ、お前がいるから迷子になることはないだろう。存分に楽しんで来い!」

「了解!」

 

 こうして、5人は園内を巡回するバスに乗り込んで、目的の場所に向かう。

 道中、白百合は終始ご機嫌な様子だった。

 そして、しばらくすると、一行は目的地に到着した。

 

「うわぁ! おおきい~! ひろ~い!」

 

 白百合は興奮気味に、目の前にある建物を見上げる。

 真達も同様に見上げた。

 そこには、この遊園地に来る前に乗っていた電車とはまた違う乗り物――「蒸気機関車」が線路の上に鎮座していた。

 

「白百合ちゃんは、こういうのが好きなんだね」

「はい! わたし、こうゆうのがすきなんです!」

 

 白百合は満面の笑みで答える。

 その姿は、とても可愛らしかった。

 ちなみに、白百合はかわいらしい見た目に反して、ジェットコースターなどの絶叫系が好きな女の子だが、こういうゆったりとしたものも好きである。

 というより、真――「おとうさん」と一緒にいるなら何でも好きだと言えるような子だ。

 

「ふぅん? 白百合ちゃんって意外と大人しいものが好きなのかと思ったら、そうでもないのね」

「はい! いちばんすきなのはおとうさんです!」

「そ、そう……」

 

 雫は、少し呆れたように溜息をつく。

 それを見て、真と恵里は苦笑した。

 

「まぁ、とりあえず乗ってみるか」

「そうですね。いつまでもここにいても仕方ないし」

「えぇ、早く行きましょう」

「そうだね。白百合ちゃんも、それでいいよね?」

「はい! のります!」

 

 5人は早速機関車の中に入り、座席に座って安全ベルトを締める。

 それからすぐに、機関車は動き出した。

 ゆっくりと前進して、やがてトンネルの中に入る。

 そのまま進んでいくと、急に視界が開けた。

 

「わぁ! すごいひろびろとしています!」

「本当だ! これは凄いな!」

「うん! 僕もビックリしたよ!」

「こんなに広いなんて思わなかったわ……」

「あぁ~、眠くなるいい感じの揺れだなぁ~……」

 

 白百合と真は感動し、雫と恵里は感嘆の声を上げ、ハジメは乗り心地の良さにうとうとし始める。

 しばらくして、様々なオブジェなどを見ながら、機関車は進んでいった。

 そして、いよいよ最後の駅に到着する。

 機関車が停車すると同時に、扉が開いた。

 

「はい、お疲れ様でしたー。こちらが出口になりまーす」

 

 駅員のお姉さんが笑顔で手を振っている。

 他の乗客の波に巻き込まれないようにしつつ、真達は外に出た。

 

「さて、次は何に乗る?」

「わたしは、あのおおきなやつにのってみたい!」

「私もそれがいいわ」

「僕はどこでもいいよ」

「ボクもなんでもいいです!」

「じゃあ、それにしようか」

 

 またも白百合の要望で、次のアトラクションが決まった。

 そんなこんなで、真達は様々なアトラクションを巡っていく。

 ゴーカートに乗ったり、コーヒーカップに乗ってみたり、メリーゴーラウンドで遊んでみたり……。

 その度に、白百合は大喜びではしゃぎ回った。

 そんな白百合の様子につられて、真達も普段よりもテンション高めにはしゃいでいた。

 こうして、5人の遊園地巡りは続いていく……

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 5人が遊園地を楽しんでいる横で、同伴していた保護者達の方でも進展があった。

 それは、2時間ほど前のことである。

 真達が入場してからしばらくした後、正樹達も別のアトラクションに並んでいた。

 その時のこと……

 

「……あなた、真君のお父さんですよね?」

「ん? ……あぁ、そういうあなたは雫ちゃんのお父さんじゃないですか。息子が世話になっています」

 

 正樹に声をかけてきたのは、雫の父親――「八重樫虎一」だった。

 彼は正樹のことを知っていたようだ。

 ちなみに、なぜ声をかけたのかと言うと、雫から遊園地に行ったという話を聞いたからであり、虎一は、自分の娘に友達ができたことに嬉しく思いつつも、「あまり友達のいない雫に友達ができて、そんな友達と遊びに行くのだから邪魔してはいけないな……」と考えたため、雫には内緒でついてきていたのである。

 そして、雫が離れた隙を狙って、偶然を装いつつ接触してきたのだ。

 

「いえ、こちらこそ。うちの娘は本当に楽しそうで、こちらも嬉しい限りです」

「はっはっは、ウチの子も似たようなものです。ところで、一つ質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょう? 答えられることなら何でもお教えしますが」

「ありがとうございます。それではお聞きしたいのですが、どうして今日ここに来られたのですか? 確か、道場は休みではないはずでしたが……それに、後ろにいる見覚えのある人たちは?」

「気にしないでください。私達の道場の門下生です」

「……そうですか」

 

 一瞬だけ怪しんだが、すぐに納得する。

 確かに雫の父・虎一は剣術の師範代だ。

 なので、門下生を連れてきてもおかしくはない。

 ただ、そんな大所帯で、何故夢の国に来たのだろうか……?

 

(ま、いいか!)

 

 考えることを放棄した正樹は、再び話を始める。

 

「それで、何か聞きたいことがあったんですよね?」

「えぇ。実は最近、娘の様子がおかしいんです」

 

 深刻そうな顔で言う虎一に、正樹は首を傾げる。

 その様子に気づいた虎一は慌てて言った。

 

「あぁ、すみません。別に深刻な話ではないのですが……少し気になることがありまして……」

「どんなことが?」

「最近の雫は、よく真君の話をするんです。真君が、いじめられていた雫を助けてくれたから、それに恩義を感じているのかなぁ……と、思っていたんです」

「ふむ……」

「でも、それだけではなかったみたいなんですよ。雫の話を聞いていて、どうやら他にも理由があるような気がして……」

「なるほど」

 

 虎一の言葉を聞き、正樹は顎に手を当てて考え始める。

 その様子を見て、虎一は更に続けた。

 

「それともう一つあるのですが、これはあくまで私の勘なんですが、最近真君のことを意識しているように思えるんです」

「ほう……つまり、あれですか? 真を好意的に見ていると?」

「はい。ただ、恋愛感情を持っているとかではなく、異性として意識し始めた感じですね」

「ほぅ……」

「まぁ、これも私の勘違いかもしれませんけど」

 

 最後に付け加える虎一。

 しかし、この予想は当たっていたりするのだが、この時はまだ誰も知る由はなかった……。

 そして、アトラクションを楽しみ、いったん休憩を入れていた時も保護者達の話は盛り上がる。

 

「あの子……白百合ちゃんって言うんだけど、白百合ちゃんは素直でいい子だよねぇ。今時の子はああいう子が育つんだろうなぁって思うよ」

「そうですね……俺達の時代じゃあ、あんないい子は早々いなかった。ま、ウチのハジメの方が可愛いんですけどね」

「うわー親バカ~」

「うるさい。あなただって同じでしょうに」

「うん、そうだね!」

 

 途中から参加したハジメの父親――「南雲愁」も交えて会話が弾んでいく。

 そんな中、今度は真と白百合の母親――「柊木恵」が口を開いた。

 

「まぁ、自分の子がかわいいってことは同感だね。真もそうだし、白百合もそうだ」

「ねぇ、お母さん。私は?」

「ふふっ、アンタもだよ、美奈子」

「ふふん♪ でしょ?」

 

 得意げな表情を浮かべる娘に苦笑しつつ、恵は言葉を続ける。

 

「でもさ、一番はやっぱり雫ちゃんじゃないかい?」

「ん?……それはどういう意味ですか?」

 

 突然、雫の名前を出した恵に、虎一が聞き返す。

 

「いや、そのままの意味だけど? 雫ちゃんが一番、あの中でしっかりしている。しっかりしてるのは真もなんだけど、あいつはちょっとばかり危なっかしい。それに対して、雫ちゃんはよく周りを見ている。オカン気質とでも言うべきかね?そんなところが可愛くてしょうがないんだよ」

「確かに……あの子のそういうところには助けられていますし、助かっています」

「だろ?……というわけだから、あの子が真のことを好きになる可能性はあると思うよ? なんせ、雫ちゃんは自分を本当の意味で守ってくれる男子に惚れそうだし、真なら十分その条件を満たしてる」

「……確かに」

 

 雫は優しい。

 そして、周りのことをよく見ている。

 「自分が何とかしなければ」と思いながら、いつも頑張っている。

 そんな健気で一生懸命な雫は、成長していくにつれて誰かに守ってもらいたくなったのだ。

 自分の『乙女な部分』という弱いところをさらすことができるような、そんな男性に……。

 

「ま、ウチの真が雫ちゃんと結婚するって言ったら、僕は喜んで背中を押すよ! なんといっても、俺は真のお父さんですからね!!」

「はいはい。わかった、わかった」

 

 「まったくもう……」と言いたそうな顔をする恵。

 それを見て、虎一は笑い出す。

 

「ははは、本当に仲がよろしいですね」

「そりゃあ、夫婦なんだから当然だろうに。……おっと、こっちの話ばかりしてたね。南雲さんたちは何か話すことはありますか?」

 

 そう言って、恵は先程からだんまりだった南雲夫妻に話を振る。

 

「あ~……そうですね。えっと、俺達が気になっているのは……ほら、雫ちゃんが真君のことを好きなように、ウチのハジメも真君のことを好いてるんだと思うんですよ。実際、真君は独りぼっちだったハジメと積極的に関わってくれましたし、今では親友と呼べる関係になってますからね」

「……なるほど」

「それに、最近は真君と遊ぶ機会も増えて、ハジメはとても楽しそうにしているんです。まぁ、それだけじゃなくて、私達と一緒にいる時も、時々真君の名前を出すことがあって……」

「ほう……それで?」

「はい。少しばかり依存……しているのかもしれないんですよ」

「ほぅ」

 

 愁の言葉を聞いて、正樹は顎に手を当てて考え始める。

 

(俺としては、真には信頼のできる相手と結ばれてほしいんだが……好意を抱いている子が二人……いや、4人か。恵里ちゃんもそうだし、白百合もだ。となると、これは困ったぞ……。真が誰か一人を選ぶにしても、誰を選んでも角が立ちかねない)

 

 そして、今度は虎一の方へと顔を向ける。

 

「どう思います? 俺的には、真が選んだなら誰でも……と言う訳ではありませんが、納得のできる相手なら認めようと思っています。しかし、この年でこんな悩みを持つとは思っていませんでした」

「そうですね。俺としても同じような感じですよ。ただ、一つ言えることがあるとすれば……南雲さんのところのように、『血は水よりも濃い』という言葉がある通り、自分の子供には幸せになってもらいたいですね」

「はい。それはわかります。なので、俺が真に言うことはただ1つです」

「?」

 

 正樹はニヤリとした笑みを浮かべると、言葉を続けた。

 

「真が本気で悩んで決めたことなら文句はないさ。ただし、あの子たちが中途半端な気持ちで付き合うと言った時は……皆さん、わかりますよね?」

「……はい。肝に銘じておきます」

「はっはっは! ま、そんな心配はしていないけどね! 真君なら、雫を選んでくれるよ」

 

 豪快に笑う虎一。それに続いて、恵も口を開く。

 

「ふむ、確かにね。……ところで話は変わるんだけど、菫さんって、少女漫画を描いてらっしゃるんだっけ?」

「ん? えぇ、描いていますよ。それがどうかしましたか?」

「実はこの間、ウチの息子が暇つぶしって言って、ちょっとした漫画を描いていたんだ。それがまぁ、そこらの週刊誌で連載されているような出来でね。将来的には雇ってもらえないかなぁ……なんて思ったんですよ」

「へー。ちなみに、どんな内容の漫画を描いたんですか?」

「それはねぇ……」

 

 恵は正樹に耳打ちすると、その内容を聞いた正樹は思わず噴き出してしまう。

 

「ぶふぉ!!……くっくっく! ははは!!」

「ちょ!? あの子がそんなものを!?」

「真君……やはり、君にもこちら側の才能が……!」

「やっぱり、真君は天才ね!!」

「?」

 

 一部は同類を見つけたと興奮し、他は何とも言えない表情をする一同であった……。







次回あたりに光輝君のお話になると思う。

ウマ娘の方も書かないといけないので、少し遅れるかも。




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そろそろ光輝君をどうにかしよう




感想が来なくて寂しいと思う今日この頃。





【異世界まで】ありふれた世界で生きる方法 part30【あとどのくらい?】

 

1:神祇省総司令

ここは、「ありふれた職業で世界最強」の世界に転生(?)したスレ主こと神祇省総司令が、何とか頑張ってハッピーエンドを迎えようとするスレです

誹謗中傷禁止

マナー厳守

次スレは>950ヨロシク

 

2:名無しの助言者

>1 お疲れ

 

3:名無しの助言者

>1 乙

 

4:名無しの助言者

>1 スレ立てサンキュー

 

5:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

というわけで、恒例の情報整理だ

 

・スレ主、「ありふれた職業で世界最強」の世界に転生(というより、能力が勝手に発動して世界を越えた)

・スレ主、とある一般家庭(銭湯を経営している)に生まれる

・スレ主、親が連れて行った道場「八重樫道場」にて、原作キャラの「八重樫雫」と出会い、友人になる

・スレ主、梅雨の時期にこれまた原作キャラの「中村恵里」と出会い、自殺を阻止する

・スレ主、掲示板を開く前の時期に、原作主人公「南雲ハジメ(何故か女の子)」と出会い友人になる

・スレ主、夏休み中に家族と旅行をし、その先で戦術支援AIこと「柊木白百合」を作成&茨木童子を倒し、仲間にする

・スレ主、夏休み後半に家族や友人と一緒に某夢の国に行った

 

6:名無しの助言者

>5 トンクス

 

7:名無しの助言者

>5 サンクス

 

8:日柱鬼殺隊員

>5 乙

 

9:名無しの助言者

>6 >7 お前らwww

 

10:名無しの助言者

とりあえず、解説ニキは情報サンキュー

 

11:名無しの助言者

>10 ほんそれ

 

12:名無しの助言者

>10 マジ感謝

 

13:名無しの助言者

それで、スレ主はこれからどうするんだ?

 

14:名無しの助言者

>13 そりゃあもちろん、いつものように特訓だろ

 

15:ドラゴンスレイヤー

特訓か?

なら、スレイヤー式ブートキャンプを開催してやるから、覚悟しろよ

 

16:名無しの助言者

あっ

 

17:名無しの助言者

出たw

 

18:名無しの助言者

最近見ないと思ったら、ここに居たのか

 

19:名無しの助言者

久々登場www

 

20:名無しの助言者

そう言うのは間に合ってるんで……

 

21:名無しの助言者

ドラゴン殴り殺す奴に特訓つけられたら、身が持たねぇよ……

 

22:名無しの助言者

>21 禿同

 

23:名無しの助言者

>20 同意

 

24:名無しの助言者

>23 おい、誰かこの流れを止めてくれ……!

 

25:名無しの助言者

まぁ、実際にやるのはスレ主だから、俺達はあんまり関係ないんだけどな……

 

26:名無しの助言者

そうだよ

 

27:名無しの助言者

>25 >26 そこは止めようぜ……

 

28:名無しの助言者

まぁ、スレ主はスレ主に出来ることを頑張れってことで

 

29:日柱鬼殺隊員

んで、結局のところスレ主はなんのためにスレを立てたんだ?

 

30:名無しの助言者

確かに

 

31:名無しの助言者

目的も分からずにアドバイスとか無理だしな

 

32:名無しの助言者

スレタイもなんかいつもと違うしな

 

33:名無しの助言者

教えてくれる?

 

34:名無しの助言者

>33 ヒント:タイトル

 

35:名無しの助言者

>34 節子、それは答えや

 

36:名無しの助言者

つまり、スレ主の目的は……?

 

37:神祇省総司令

うん……原作って、僕達がいくつの頃に始まるのかなぁ……って、思ったんだよ

状況によっては、計画を前倒しにしなければいけないしね

 

38:名無しの助言者

あぁ、なるほど

 

39:名無しの助言者

そういう事だったのか

 

40:名無しの助言者

納得したわ

 

41:名無しの助言者

スレ主の目的が分かったところで、そろそろ本題に入りたいのだが……

結局のところ、原作が始まるのはいつ頃なんだ解説ニキ?

 

42:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

ん~……一応調べてみたんだが、明確な日付は分からん

まぁ、物語を作るうえでそんなのをいちいち決めていたらめんどくさいからな

でも、異世界に召喚されたときの年齢は分かったぞ

 

43:名無しの助言者

おぉ!

 

44:名無しの助言者

それで、スレ主は今何歳だったっけ?

 

45:名無しの助言者

確か、ハジメちゃん達と一緒で9歳だよな

 

46:名無しの助言者

ついでに言えば、夏休み後半

要するに、現在の時系列はは9歳で8月半ば

 

47:名無しの助言者

で、異世界に召喚されたときは何歳だったんだ?

 

48:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

……17歳だな

 

49:名無しの助言者

は?

 

50:名無しの助言者

……マジ?

 

51:名無しの助言者

嘘やん

 

52:名無しの助言者

( ゚д゚)

 

53:名無しの助言者

えぇー……(困惑

 

54:名無しの助言者

ちょっと待ってくれよ

何? あと、実質7年しかないの?

 

55:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

ちなみに、とある考察によると、

 

・(漫画版も原作版も)月曜日に異世界召喚は起きた

・漫画版ではブレザーだったことから、暑い夏の可能性は限りなく低い

・異世界帰還後、修学旅行があった(異世界召喚されている間にその期間を過ぎてしまったらしいから、帰還後に急ごしらえで修学旅行を実施した)

 

これらを統合して、スレ主たちが異世界に召喚されるのは、高校二年生の4月か5月辺りだろうと思われる

 

56:名無しの助言者

>55 ふむふむ

 

57:名無しの助言者

>55 成程

 

58:名無しの助言者

>55 ほほう

 

59:名無しの助言者

>55 いや、結構早いな!?

 

60:名無しの助言者

>55 まぁ、妥当っちゃ妥当な推測

 

61:名無しの助言者

>55 確かに、それぐらいの時期なら、まだ学生だしな

 

62:名無しの助言者

>55 結構きちぃな

 

63:神祇省総司令

う~ん……思っていた以上に厳しいなぁ……

 

64:名無しの助言者

>63 まぁ、仕方ないさ

 

65:名無しの助言者

>63 スレ主も諦めるなよ?

 

66:名無しの助言者

せめて、10年ぐらいあればよかったんだけどなぁ……

 

67:名無しの助言者

ないものねだりしても仕方ない

今からでもやるべきことをしようぜ

 

68:神祇省総司令

分かったよ

さて、いつ頃に異世界に召喚されるか分かったことだし、それ以外について話し合おうか

 

69:名無しの助言者

あぁ、そういえばスレ主たちは原作開始の7年後に召喚されることが分かってたけど、他の人たちはどうなってるんだろう?

 

70:名無しの助言者

あ、そういえばそうだな

一番の問題なのは、勇者(笑)だが……

 

71:名無しの助言者

>70 そうだな……

勇者(笑)をどうにかしないと異世界での出来事だけじゃなくて、地球にいても面倒なことになるな……

 

72:名無しの助言者

あ~……それはヤバいな……

 

73:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

アイツの心をバッキバキにへし折れたなら、打開策は見つかるだろうけど……

そこら辺どうなんだスレ主?

 

74:神祇省総司令

>73 ん~……皆が言うには、光輝君って、自分が正しいと心の底から信じてるんでしょ?

それも相当なレベルで

 

75:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

そうだな

掲示板のライブモードで、俺がそこら辺を調べてみたのを見てみるか?

 

76:神祇省総司令

頼むよ

 

77:名無しの助言者

俺達も頼んだ

 

78:名無しの助言者

またあれを見るのか……

 

79:名無しの助言者

キッツいけど、情報を整理するためには必要だしな

 

80:名無しの助言者

解説ニキ、頼んだぜ

 

81:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

頼まれた

そんじゃ、行くぞ?

 

『ライブモードを起動しました』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 天之河光輝。

 

 一般家庭の一人息子として生まれた彼には、今でも心から尊敬し憧れている人物がいる。

 その人物とは、光輝の祖父だ。

 その祖父の名を天之河完治といい、業界では有名な敏腕弁護士だった。

 長期の休暇となれば家族揃って祖父の家に遊びに行くのが恒例行事だったのだが、完治の妻――祖母が早くに他界したこともあり、一人暮らしだった祖父は孫である光輝を大層可愛がった。

 

 

 年の割には背も曲がらず筋肉質で覇気に溢れており、だからといって恐いということもなく優しい人だった。

 そんな祖父を光輝もよく慕っており、所謂おじいちゃん子というやつだった。

 

 中でも光輝が一番好きだったのは完治の話す経験談だった。

 長年の弁護士としての仕事より得た経験を、絵本を読むが如く光輝に語って聞かせた。

 小さい光輝にも分かりやすいように、また、現実的なことを言えば守秘義務から相当アレンジは入っていたが、それでも弁が立つ祖父の話は人間ドラマに満ちていて光輝は幾度も心躍らせた。

 

 弱きを助け、強きを挫き、困っている人には迷わず手を差し伸べ、正しいことを為し、常に公平であれ……完治のお話は結局のところ、そういう教えを含んだものだ。

 理想と正義を体現したヒーロー物語。幼い子供に対するありふれたお話だ。

 

 それ故に、光輝にとっては祖父完治こそがヒーローだった。

 同年代の子供が、某仮面を付けたバイク乗りやインスタントラーメンが出来るより早く宇宙怪獣を打倒してしまう宇宙人に憧れるように、完治に憧れたのだ。

 身近にいたからこそ、その憧れは他の子供達より強かったと言えるだろう。

 〝いつか自分も祖父のように〟と。

 

 だが、当然のことながら、世の中というものは完治のお話のように正義と公平が悪と理不尽を切り裂き、理想の正しさを実現し続けられるようには出来ていない。

 弁護士という職業とて、正義と公平は掲げていても、その一番の使命は真実の追求や悪人の弾劾ではなく依頼人の利益を守ることだ。

 

 〝敏腕〟弁護士と呼ばれるのは、弁護士として技量に優れているというだけでなく、それだけ完治が清濁併せ持った現実的思考の出来る人間だったということでもあるのだ。

 世の中の薄汚れた部分も理想や正義を掲げるだけでは足りないことも知り尽くしているということなのだ。

 

 だが、それを光輝に教える前に完治は他界してしまった。

 小学校に入る前のことだ。急性の心筋梗塞だった。

 

 完治の死は光輝に大きな影響を残した。

 

 幼子には、まだまだ綺麗なものだけでいいという考えは、ごく普通のことであり完治を責められるものではない。

 いずれ、光輝が大きくなった時には、もっとままならない現実を含めた苦い経験談も話したりしたはずだ。

 

 憧れのヒーローの死は光輝にとって衝撃だった。

 大好きな祖父を想い、思い出に浸れば浸るほど完治というヒーロー像は美化されていき、幼い光輝の心の深い部分に〝理想的な正しさ〟が根付いてしまった。

 

 その正しさとは、子供の耳に心地いい祖父が教えた通りの正しさであり、同時に少数派や清濁の内、〝濁〟の部分を一切認めない正しさだ。

 

 もっと言えば、大多数の人が正しいと思うことが絶対的に正しいと思うようになったのだ。

 

 もっとも、それは別に特別なことではない。

 テレビや本の中のヒーローを見て、理想の正しさを掲げる子供などごまんといる。

 

 そして、そんな子供達は日々の生活を重ねていく上で、現実の壁に直面し多くの失敗を繰り返し、時に挫折し、諦めることを覚えて、割り切りと妥協の仕方を学び、上手く現実という名の荒波に乗る方法を自然と学んでいくのだ。

 

 憧れは憧れのままに、理想は理想のままに、宝箱にしまうようにして心の片隅に置いて現実を見るようになる。

 それが自然な流れだ。

 光輝もそうなるはずだった。

 そうなれば、何の問題もなかった。

 

 しかし、自然な流れに乗るには光輝は余りに非凡すぎたのだ。

 その高すぎるスペックが現実の壁を理想通りに乗り越えさせてしまった。

 失敗も挫折もなく、あらゆる局面を自らの力で押し通せてしまった。

 子供の理想が、まかり通せてしまったのだ。

 

 結果、光輝はいつしか、自分の正しさを疑うということをしなくなった。

 その危うさを、光輝の両親や雫を筆頭に親しい人間の幾人かが何度も注意していたのだが、光輝は笑いながら聞くだけで、真剣に受け止めることも、改めることもなかった。

 元々カリスマがあり、その行動原理は善意一色であるから、その一部の人間を除いて誰もが光輝を支持したことも原因の一つだろう。

 

 もちろん、何もかも上手くいったわけではない。

 光輝の意識しないところで数々の問題は起きていた。

 雫へのやっかみもその一つだ。

 

 だが、己の正しさを疑わない光輝はご都合解釈で自分の正しさを維持するようになった。

 それもまた、光輝を闇雲に慕う者達によって後押しされることでまかり通ってしまうので、やはり光輝は自分がご都合解釈していることに気が付くことはなかった。

 忠告はあっても、気が付こうとしなかったというのもあるが。

 

 そんな光輝の善意に溢れてはいるが歪でもある〝理想の正しさ〟は異世界で崩れ始める。

 平和な日本と異なり、殺意と憎悪、超常と非常識が蔓延る異世界では己のスペックやご都合解釈が通じなかったのだ。

 その最たる例が、オルクスの下層で相対した女の魔人族であり変心したハジメだった。

 

 光輝は初めて、現実の壁というものを目の当たりにしたのだ。

 手痛い失敗をし、光輝は己の中の〝子供〟を露呈させた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

186:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

『ライブモードを終了しました』

 

……という感じに、子供じみた願いを掲げ続けてしまったのが、勇者(笑)こと天之河光輝君だ

どうだスレ主

役に立ったか?

 

177:神祇省総司令

うん、役に立ったよ

ありがとう解説君

 

178:名無しの助言者

しっかし、いくらなんでも才能があるだけでここまで歪むかね?

 

179:ドラゴンスレイヤー

歪むやつもいるんじゃねぇか?

特に、異世界に召喚される勇者とかはな

だが、現代でここまで歪むのは珍しいと思うが……

 

180:名無しの助言者

スレイヤーニキもそういうのを見たことあるのか?

 

181:ドラゴンスレイヤー

ああ、昔は結構あったぜ

俺が隠居する前は、勇者とかはしょっちゅう召喚されてな

その度に、心が折れた勇者たちを見る破目になって胸糞悪かったぜ

 

182:名無しの助言者

ウチのエミヤも顔をしかめてたよ

 

183:名無しの助言者

エミヤってことは、>182はFGOに転生したのか?

 

184:カルデアのマスター

>183 そうだね

ついでにコテハンもつけさせてもらうよ

 

185:名無しの助言者

うわぁ……

スレ主とは別方向で頑張れ

 

186:ゴリラ

きつそうだなそっちも

ちなみに、俺は「とある魔術の禁書目録」の世界に転生後、無事化け物認定をされました

 

187:名無しの助言者

あー、絶対近寄っちゃいけないタイプの人だね

コテハンがゴリラだし、もしかして、マジカルをフィジカルで打ち消したのかな?

 

188:ゴリラ

That’s right!

肉体関連に関しては俺にも一言な~

 

189:YAMA育ちのTさん

続々とやばそうな世界に転生した者たちが集まって来るなぁ……

ちな、俺は「HUNTER×HUNTER」の世界で、「王」を説法したぜ

 

190:名無しの助言者

やばいのばっかり集まるなこのスレ

 

191:神祇省総司令

うぅん……

ほぼ働きっぱなしだった僕でもわかるような世界ばかりだね……

 

192:名無しの助言者

それより、勇者(笑)はどうするんだ?

 

193:名無しの助言者

なんか絶妙に話が逸れそうだったからナイスだ>192

 

194:神祇省総司令

そうだね……

一先ずは、光輝君と話してみるよ

後はアドリブで行くさ

 

195:名無しの助言者

頑張れ

 

196:名無しの助言者

マジで頑張ってくれよスレ主







今回のコテハン組の紹介


・カルデアのマスター

 皆さんご存じFGOこと「Fate/Grand Order」に転生した人。
 一応この人以外にもマスターはいる。
 というか、この人は原作主人公と幼馴染。
 サーヴァントからの好感度は高い模様。
 魔術は強化魔術程度しか使えないが、持ち前のフィジカルと技量でサーヴァントとやり合えるほど。
 一番最初に召喚したサーヴァントはキャスター。
 顔は某一撃男みたいな顔。

・ゴリラ

 「とある魔術の禁書目録」の大分昔に転生した男。
 フィジカルに全ステータスを振っている。
 多分神様とかが存在していた時代に生きていて、ヤコブよろしく神秘的な存在を殴り殺すやべー奴。
 概念レベルの攻撃を食らいながら前進してくるやべー奴。
 多分隕石を素手で砕けるやべー奴。
 顔はそれなり。

・YAMA育ちのTさん

 「HUNTER×HUNTER」の世界に転生したもはや仙人と呼ばれている人。
 ネテロと同期。
 念能力は特に複雑ではない単純なフィジカル系の能力になっている。
 王こと「メルエム」との対決を話し合いで終わらせた男。
 顔というか見た目はお爺ちゃん。



今回のコテハン組、フィジカルに振りすぎじゃね?



 感想くれると作者のやる気が上がります。




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まさかここまで酷いとは……




怒涛の連続投稿。

スマホで書いたため、ちょっと短いです。





「ねぇ、光輝君。ちょっと話をしようじゃないか」

「……どうしたんだ真?そんな怖い顔して?」

 

 ある日の放課後。

 真は光輝に声をかけると、人気のない場所へと連れ出した。

 その表情は真剣そのもので、光輝は何か大事な話があるのだろうと察すると黙ってついて行った。

 そして、二人きりになれる場所――河川敷にて、向き合った。

 夕暮れ時で、沈みゆく太陽が空を茜色に染めている。

 その光景を見て、真は決意を固めた。

 

「光輝君。君は、自分のことをどう思ってるんだい? 自分は正しいと思ってるのかい?」

「……どういう意味だ?」

 

 いきなり訳のわからない質問をされた光輝は困惑するが、真の眼差しが冗談ではないと物語っていたので、真面目に答えることにした。

 

「当たり前だ。俺は、俺が正しいと思ったことをするだけだ」

「…………」

 

 光輝の言葉を聞いて、真はため息をつく。

 やはり、光輝は自分の考えがおかしいとは思っていないようだ。

 だが、このままではいずれ取り返しのつかないことになるだろうと思い、真実を話すことにした。

 

「いいかい、光輝君。よく聞いてくれ」

「なんだ?」

「君のやり方は間違っているんだよ」

「なっ!?」

 

 突然の真からの否定に、流石の光輝も動揺を隠しきれない。

 だが、ここで引き下がるわけにはいかないと、反論をする。

 

「いきなりどうしたんだ真!? 俺が間違ってる!? どこが間違えてるんだ!?」

「全部だよ!」

「ッ!?」

 

 普段の落ち着いた雰囲気からは想像できないほどの大声を出した真の姿に、光輝は思わず後ずさってしまう。

 

「光輝君は、どうして自分が正しいと思っているんだい?」

「そ、それは……」

 

 改めて聞かれた光輝は言葉に詰まる。

 今までの人生で、一度たりとも間違ったことなどなかったからだ。

 だから、何故と言われても困ったのだ。

 考えれば考えるほど、自分のなにが間違えているのか分からない。

 

「わ、悪いけど、俺にはなにが悪いのか分からない……」

「……やっぱり、気づいてないんだね」

「なにをだ?」

「君の考え方だよ」

「俺の考えだって? 俺はいつも通りやってるだけなのに……」

「じゃあ聞くけど、君はなんのために人を助けるんだい?」

「……人助けをするのに理由なんて必要か?」

「僕は必要なことだと思うね。例えば、人を助けて感謝されるのが嬉しいとか、誰かのためになるのが生きがいだとかさ」

「……俺は別に、そういう理由で人を助けたことはないぞ?」

「え?」

「それに、たとえ人から感謝されても、それで生きていけるわけじゃないしな。なら、見返りを求めずに人助けをしてる方が、俺はカッコイイと思う」

「……なるほどね」

 

 光輝らしいといえば光輝らしいが、掲示板の住人達から光輝の本質を知った真は、彼の考えを理解して愕然とした。

 

(まさかここまで酷いとは……)

 

 真が危惧していた最悪の事態になっていたことに、彼は頭を抱えたくなる。

 しかし、まだ希望はあるはずだと信じて、なんとか説得を試みた。

 

「光輝君。今からでも遅くはない。君は考え方を変えるべきだ」

「変えるって、どうしてなんだ?」

 

 当然のように疑問をぶつけてくる光輝に対して、真はなるべく冷静に答えることにする。

 ここで変に感情的になってしまえば、話し合いにならないと判断したからだ。

 なので、真はまず最初にこう言った。

 

「君の考え方は、根本的に間違っているんだよ光輝君」

 

 そして、光輝の間違いを指摘していく。

 そもそも、自分の行いを正しくないと自覚していないにも関わらず、それでも他人を助けようとするのは偽善であり、ただの自己満足に過ぎないということ。

 無責任な善意は、時に人を傷つけること。

 真から一方的に聞かされていく言葉の数々に、納得できずにいた光輝だったが、次第に表情をしかめていった。

 

「どういうことだ真……俺の行動が、全部無意味だったっていうのか……?」

「そうは言わないよ。でも、君の行動には矛盾があるんだ。だから――」

 

「――ふざけるな!!」

「ッ!?」

 

 いきなりの怒号に、今度は真が驚く番であった。

 その表情には驚愕の色が浮かんでおり、どうやら今の怒号が本気で怒った時のものだと気づいたようだ。

 

「お前は、俺の行動を無駄だというのか!? 俺がやってきたことが全部意味がないものだったと、そう言うつもりなのか!!?」

「ち、違う! そういう意味では……」

「うるさい!! もういい、真……俺は帰る!」

 

 それだけ言い残すと、光輝はそのまま走り去ってしまった。

 

「ま、待ってくれ光輝君!!」

 

 慌てて追いかけようとした真であったが、途中で足を止める。

 今は一人で考えたいこともあるだろうと思い、今日は諦めることにしたのだ。

 だが、後日改めて話をしようと思いながら――

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 その夜、帰宅した真は、自室で考え事をしていた。

 もちろん、先ほどの光輝とのやり取りについてである。

 

「どうしたものかなぁ……」

 

 正直、どうすればいいのか分からなかった。

 今までずっと一緒にいた同輩が、あんな人間だとは思っていなかったのでショックが大きかったというのもある。

 

「僕も甘いな……」

 

 だがそれ以上に、歪んでいる友人をほっとけなかったのだ。

 

「明日、ちゃんと話し合うしかないよね……」

 

 真の中ではすでに結論が出ていたのだが、どうしても気が重い。

 

「きっと、光輝君からしてみれば、いきなりこちらの価値観を全否定してきたようなものだもんな……」

 

 だが、それでも真実を話さなければダメだと思ったのだ。

 なぜなら、このままでは光輝は取り返しがつかないことをしてしまうかもしれないからである。

 

「でも、こればかりは自分で気づくべき問題だしな……」

 

 おそらく、光輝は自分がおかしいと思っている。

 しかし、それを自覚できていなかった。

 ならば、自覚させてあげる必要があるのではないか?

 

「いや……それこそ僕の役目じゃないな……」

 

 ただでさえ、自分は人付き合いが得意ではないのだ。

 こんな時に限って頼れる『本当の親友』が近くにいないので、余計に困ってしまう。

 

「せめて、彼のことで相談できる人がいれば……」

 

 そこでふと思い出す。

 確か、光輝には親友がいたということを。

 

「……ちょっと彼に聞いてみるか」

 

 そういって、真はとある人物に連絡した。

 

「もしもし龍太郎?」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「んで、話ってなんだ、真?」

 

 翌日の放課後、真の呼びかけに応じて現れたのは、彼と同じクラスの男子生徒――坂上龍太郎であった。

 小学生にしてはガタイがよく、短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、そしてその見た目に反さず、些か脳筋気質な男子生徒だ。

 実はこの二人、小学校入学前からの友人であり、いわゆる幼馴染の関係でもあったりする。

 

「突然呼び出してごめんね? 少し聞きたいことがあって」

「別に構わねぇけどよ。つーか、お前が呼び出すなんて珍しいな。何かあったのか?」

「うん……光輝君の事なんだけど……」

 

 その名前が出た瞬間、なぜか真剣な表情になる龍太郎。

 そんな彼の様子に、真は思わずたじろぐ。

 

「ど、どうかした?」

「ああいや、なんでもない。それより、光輝のことか。道理で、今日はあいつの機嫌が悪かったわけだぜ。ったく、何があったんだか」

「やっぱり、光輝君はいつもと様子が違った?」

「ああ。なんかイラついてるっつーか、怒ってる感じだったな」

「そっか……」

 

 やはり、昨日のことが原因だろう。

 そう思った真は、龍太郎に理由を話した。

 

「……というわけなんだ」

「なるほど……なにやってんだお前ら?」

「ぐうの音も出ません……」

 

 まさか、自分まで原因になっているとは思わなかった。

 しかも、当の本人である光輝が何も言わないのでなおさらタチが悪い。

 

「それで、これからどうしたらいいと思う?」

 

 真は、藁にもすがる思いで尋ねた。

 すると、龍太郎から返ってきた答えは……

 

「あん? 河川敷で殴り合いでもすれば良いんじゃねぇか?」

「そういう意味じゃなくて!?」

 

 予想以上に物騒な回答だった。

 

「もっと平和的な解決方法はないの!?」

「つっても、俺はそんなのしか思い浮かばねぇぞ?」

(しまった……! 龍太郎は脳筋だったんだ……!)

 

 失念していたが、彼は河川敷で喧嘩をすれば仲良くなれるという価値観を持つ男なのだ。

 つまり、普通のやり方など思いつくはずもない。

 

「まぁ、一旦試してみろよ。案外うまくいくかもしれんぞ?」

「う~ん……」

 

 しかし、それでもまだ納得できない真は考え込む。

 だが、結局いい案は思いつかず、そのまま二人は下校することになった。

 

「まぁ、なんにしても一度話し合うしかないよね……」

 

 そう思いながら帰路に着いていると……

 

「あっ、光輝君」

「……真か」

 

 不機嫌そうな表情の光輝が河川敷に座り込んでいた。

 よく見れば、右手には包帯を巻いており、顔も腫れている。

 おそらく、殴られた痕であろう。

 

「その怪我は一体どうしたのさ?」

「…………」

 

 真が尋ねるも、光輝は何も言わずに目をそらすだけ。

 だが、光輝のことをそれなり以上に知っている真は光輝が誰にやられたのかを察することが出来た。

 

「また、不良と喧嘩したんだね。いつもとは違って、ボロボロだけど」

「うるさい……」

 

 相変わらず視線を合わせようとしない光輝だが、真は構わず続けた。

 

「どうしてそんなことをしたのさ? 君は強いはずだよね?」

「……」

「……お前には関係ないだろ」

「あるよ。だって、僕は君の友達だから」

「!」

 

 そこで初めて光輝は真の方を見る。

 そこには、決意を込めた目で見つめてくる真の姿があった。

 

「ねぇ、光輝君」

「なんだ、真?」

 

 そこでようやく口を開いた二人だったが、今度は真の方がすぐには言葉を続けなかった。

 ただ、黙ってじっと見つめ続けている。

 そして、十分ほど経った頃、ついに真は重い口を開き始めた。

 

「あのね、僕たちはまだ子供だよ。大人じゃない。なんでもかんでも解決できる訳じゃないんだ」

「……わかってる」

「うん、そうだね。なら、わかるよね? 今の君は、自分がおかしいってことに」

「……」

「多分、君が本当に求めているのは『誰かに怒られること』じゃない。ただ、『自分の本質を見つめてくれる』人なんだ。そうでなければ、きっと光輝君の心は満たされない。違うかな?」

「……」

「確かに、光輝君の言う通りに間違ってることは正さなきゃいけないし、困ってる誰かは救わなきゃいけない。でも、今の僕らは子供だ。力では負けてしまうし、理屈で言い負かすことも難しい。でも、だからこそ、今のうちに光輝君は自分自身と向き合わないとダメだと思うんだ」

「……」

「君はもう気づいてるんじゃないかな? 自分が本当は何をしたいのか。そして、どうすべきなのか」

「……」

 

 真の言葉を聞き続けるうちに、自分の本質を見つめ直す。

 すると、今まで霧がかかったように見えていなかったものが、徐々にハッキリしてきたような気がした。

 それと同時に、自分はずっと悩んでいたんだなと改めて思う。

 

「……ごめんな、真」

 

 自然と謝罪の言葉が出た。

 それを耳にした真は微笑む。

 

「じゃ、ちょっと殴り合おうか」

「……は?」

 

 しかし、次に出てきたのは予想だにしていない発言だった。

 思わず間の抜けた声が出てしまったが、それも無理からぬことだろう。

 

「いや、だから殴り合いしようぜって言ったんだけど?」

「なんでそうなるんだよ!?」

 

 だが、光輝の抗議の声など聞こえていないかのように真は話を続ける。

 

「ほら、やっぱりちゃんと話し合った後は、全力で殴り合った方がいいって、どこぞのドラマであったはずだよ!」

「おい待て! 何言ってるか全然理解できないぞ!?」

「大丈夫! 遠慮はしなくて良いから、全力でかかってきてよ!」

「ちょっ!?」

 

 そのまま真は拳を構える。

 

「あー、わかったよ! こうなったらとことんやってやる!」

 

 半ばヤケクソになった光輝も同じく構えを取った。

 

「いくぞ!」

「こい!」

 

 そして、二人の喧嘩が始まったのである。

 

 後日、色々と吹っ切れた光輝が、真が殴り合いに至った経緯を知ると、龍太郎に拳骨を食らわせて、こちらも河川敷で殴り合った。

 ちなみに、この光景を見た他の生徒によって、二人は学園一の不良として恐れられるようになるのだが、それはまた別のお話。







やはりパワー……パワーは全てを解決する……!

次回から、白崎香織ちゃん等まだ登場していないキャラとの交流を書きたいと思います。

いったい何時になったら原作が始まるんだろうかこの作品は……




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他の子にも関わっていこう




感想と評価をもらえる=この作品の継続に繋がりますので、暇があれば感想を送ってくださるとうれしいです。

今回もちょっと短め。





1:神祇省総司令

光輝君と殴り合ったぞ!

 

2:名無しの助言者

えぇ……

 

3:名無しの助言者

は?

 

4:名無しの助言者

意味がわからん

 

5:名無しの助言者

マジで何があったんだ

 

6:名無しの助言者

詳しく

 

7:神祇省総司令

実はですね……

 

・光輝君と話し合おうとした

・光輝君を問い詰める

・光輝君が自分の嫌な面から逃げてしまう

・僕と光輝君の親友である龍太郎に相談する

・殴り合いを提案された

・光輝君と殴り合う

・仲良くなれた!←イマココ

 

8:名無しの助言者

>7 ありがとうございます

 

9:名無しの助言者

>7 これはわかりやすい

 

10:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

>7 なるほど、わからん

 

11:名無しの助言者

つまりどういうことだ?

 

12:ドラゴンスレイヤー

>8 >9 まぁ、要約するに、殴り合ってお互いを理解しあったってことか?

 

13:名無しの助言者

>12 ( ゚д゚)

 

14:名無しの助言者

えぇ……

 

15:名無しの助言者

脳筋過ぎる……

 

16:ゴリラ

そうか?

俺としちゃ、そのぐらいがちょうどいい感じなんだが

 

17:名無しの助言者

>16 お前だけだろ

 

18:YAMA育ちのTさん

いや、意外にわかってくれてる奴いるみたいだぞ?

俺とか

 

19:名無しの助言者

>18 ……マジか

 

20:カルデアのマスター

あのー、俺達もいるんですけどー

 

21:ドラゴンスレイヤー

>20 そういえばいたな、お前ら(笑)

 

22:名無しの助言者

なにわろてんねん

 

23:名無しの助言者

全員が全員お前らみたいだと思うなよ!

 

24:ゴリラ

すまんかった

 

25:ドラゴンスレイヤー

悪ぃ、つい本音が

 

26:名無しの助言者

>24 >25 ええんやで……

 

27:名無しの助言者

やさしいせかい

 

28:名無しの助言者

や さ い せ い か つ

 

29:日柱鬼殺隊員

ここまでテンプレ

 

30:名無しの助言者

ここからテンプラ

 

31:名無しの助言者

ここもテンプr……いや、天ぷらは違うだろw

 

32:名無しの助言者

でも、なんやかんやで上手くいったなら良かったじゃん!

 

33:名無しの助言者

>32 周りからの印象は悪くなるだろうが、梃子でも動かなかった勇者(笑)を少しでも動かせたなら問題なしだな

 

34:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

>32 それな。

 

35:名無しの助言者

これで少しはまともになってくれたらいいな

 

36:名無しの助言者

>35 これからも目を離さないようにな

 

37:神祇省総司令

ああ!

光輝君をこれから真人間に治すよう教育していくよ!

 

38:名無しの助言者

病気扱いかよw

 

39:名無しの助言者

あれは病気と言ってもいいぐらいだし……

 

40:名無しの助言者

仕方ないね♂

 

41:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

じゃあ、そろそろ本編行くぞ。

 

42:名無しの助言者

おk

 

43:名無しの助言者

あいよ

 

44:名無しの助言者

それで、残っている地雷というべき人物は誰なんだっけ?

 

45:名無しの助言者

解説ニキ、分かる?

 

46:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

そうだな……

まぁ、現状で危険度が高い人物は、辛うじてスレ主が関わることで、更生(もしくは救済)できている

主な人物は、天之河光輝と中村恵里だな

それ以外だとするなら、檜山大介含む子悪党組に、清水幸利と呼ばれる「ありふれた職業で世界最強」の原作で、かませ犬として死んだオタクの少年ぐらいだな

 

47:名無しの助言者

へぇ、結構少ないんだな

 

48:名無しの助言者

てっきりもっといるのかと思った

 

49:名無しの助言者

まぁ、本来の主人公である「南雲ハジメ」君が規格外だからな

 

50:名無しの助言者

あと、その周りも規格外だったから、ある程度の脅威ははねのけることができたんだろう

 

51:名無しの助言者

なるほどねぇ

 

52:名無しの助言者

つまり、主人公補正のおかげということか

 

53:名無しの助言者

>52 そういうこと。

 

54:名無しの助言者

それらも含めて、「ありふれた職業で世界最強」の物語は進んでいくんだろう

 

55:神祇省総司令

檜山君ねぇ……

まだ会ったことはないんだけど、清水君になら会ったことがあるよ

 

56:名無しの助言者

え? マジ?

 

57:名無しの助言者

もう会ってんの!?

 

58:カルデアのマスター

それで、話とかはした?

 

59:神祇省総司令

う~ん……

一応、ハジメと一緒にオタクトークを繰り広げたんだけど……

なんて言うか……こっちの圧に押されていたというか……僕達みたいなオープンオタクではないみたいで、どうにも距離感がよく分からなくてね……

 

60:名無しの助言者

はえ〜、ブラック企業から解放された途端、重度のオタクになったんですねぇ、スレ主は~

 

61:名無しの助言者

人生を謳歌しているようで何よりだ

 

62:名無しの助言者

ってか、超人を寝落ちさせる量の仕事量って何?

 

63:日柱鬼殺隊員

上弦の鬼との連戦とか?

 

64:ドラゴンスレイヤー

ワイバーンの群れの駆除とか?

 

65:カルデアのマスター

ヘラクレスとサシで殺り合った時とか?

 

66:ゴリラ

武神を名乗る奴らの軍勢とか?

 

67:YAMA育ちのTさん

若ぇ奴らとの死合とか?

 

68:名無しの助言者

ダメだ参考にならん

 

69:名無しの助言者

なんでそんな経験積んでるんだよ

 

70:名無しの助言者

考えるな、感じろってわけですねわかりません

 

71:名無しの助言者

いや、普通に考えて無理でしょw

 

72:神祇省総司令

まぁ、そこはいいじゃないか

とりあえず、檜山君は今のところ放置しておいて大丈夫だろう

となると、清水君が先か……

 

73:名無しの助言者

まぁ、そうだよなぁ……

 

74:名無しの助言者

でもさ、清水君って、何かしら行動を起こすと思うけど、それはどんな内容だったっけ?

 

75:名無しの助言者

……解説ニキ?

 

76:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

んじゃ、またライブモードを使うぜ

 

『ライブモードを起動しました』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 清水幸利という少年は生粋のオタクである。

 

 但し、その事実を知る者は、クラスメイトの中にはほとんどいない。

 それは、清水自身が徹底的に隠したからだ。

 

 理由は、言わずもがなだろう。

 

 オタクという世間的に風当たりの強い趣味をオープンにできるような者はそうはいない。

 

 クラスでの清水は、彼のよく知る言葉で表すなら、まさにモブだ。

 

 特別親しい友人もおらず、いつも自分の席で大人しく本を読む。

 

 話しかけられれば、モソモソと最低限の受け答えはするが自分から話すことはない。

 

 元々、性格的に控えめで大人しく、それが原因なのか中学時代はイジメに遭っていた。

 

 当然の流れか登校拒否となり自室に引きこもる毎日で、時間を潰すために本やゲームなど創作物の類に手を出すのは必然の流れだった。

 

 親はずっと心配していたが、日々、オタクグッズで埋め尽くされていく部屋に、兄や弟は煩わしかったようで、それを態度や言葉で表すようになると、清水自身、家の居心地が悪くなり居場所というものを失いつつあった。

 

 鬱屈した環境は、表には出さないが内心では他者を扱き下ろすという陰湿さを清水にもたらした。

 

 そして、ますます、創作物や妄想に傾倒していった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

103:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

……という感じだ

原作そのまんまと言う訳ではないが、まぁ、間違ってはいないだろう

 

104:名無しの助言者

あー……

 

105:名無しの助言者

なるほど、典型的なオタクの引きこもりか……

 

106:名無しの助言者

それで、どうするんだ?

 

107:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

そもそも、彼が闇落ちする原因になったのは、周囲の環境が主だね

オタク文化が好きだけど、家族は認めてくれない

オタクだから、元々、性格的に控えめで大人しく、それが原因なのか中学時代はイジメに遭っていた

それが、彼にとっては苦痛以外の何者でもなかったようだし、まぁ、よくあることだよ

 

108:名無しの助言者

ふむ……

 

109:名無しの助言者

で、どうするんだ?

 

110:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

まずは、清水君をオタク仲間として引き入れよう

 

111:名無しの助言者

どうやって?

 

112:カルデアのマスター

そこは、地道に行くしかないだろ

オタクというのは往々にしてコミュ障なのだ

まして、清水君は重度のオタクだぞ?

俺達のようなオタクのコミュニケーション能力は皆無に等しいはずだ

故に、同じ境遇のオタクを引き入れるのだ

つまり、同志を増やすのだ!

 

113:名無しの助言者

おぉ……!

 

114:名無しの助言者

なんかそれっぽい!

 

115:神祇省総司令

よし、じゃあ、そういう方向で行こう!

 

116:名無しの助言者

異議なし

 

117:ドラゴンスレイヤー

異議なーし

 

118:名無しの助言者

はい、これで決まり!

頑張れスレ主!

 

119:名無しの助言者

まぁ、こういう時だからこそ、楽しめることは楽しまないとな

 

121:YAMA育ちのTさん

そうだな

まぁ、俺は解説役じゃないから、傍観者だがな

一応、このスレに常駐しているので、何かあったら相談に乗るぞ

 

122:神祇省総司令

皆、ありがとう!

頑張って来るよ!







感想と評価、いつでも待ってます。




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清水君を仲間に引き込むには?




今回も短め。





「……」

 

 少年――清水幸利はベッドの上で膝を抱えていた。

 

 学校から帰ってきて、もうどれくらい経ったのかわからない。

 部屋にある時計を見る気力もない。

 食事は母親が作ってくれたが、それを食べる気にもなれなかった。

 

(……なんで俺ばっかり)

 

 最近、彼はずっとそんなことを考えている。

 

 清水幸利はオタクである。

 それも、重度の。

 

 幼い頃からアニメや漫画、ライトノベルが好きで、十歳になった今でも、それは変わらない。

 しかし、幸利が好きなものは世間的には受け入れられにくいものだった。

 

 その理由は明白だ。

 

 オタクという者達は、現実を見ていない人間だという認識が社会に広がっているからである。

 

 彼等の大半はオタク趣味を恥ずかしいものだと認識している。

 

 特に彼の兄弟などは露骨にオタクを嫌っている。

 

 それは仕方ないことだと理解しているが、やはり辛いものがあるのは否めない。

 

 学校でも、気弱な性格が相まって、いじめの対象にされてしまった。

 

 両親はそのことを知らないのだが、息子が傷ついた体で帰って来る度心配して声をかけてくる。

 

 しかし、清水は何も言ってこない。

 

 きっと、自分のことを馬鹿にしているのだろうと思い込み、余計に落ち込む毎日だった。

 

 そして今日も学校から帰ると、いつものように母親が作った料理を食べた後、自室へと籠る。

 

 部屋の明かりをつけることもなく、暗い中で過ごしていると、自分がみじめに思えてきて涙が出てきた。

 

 どうして自分だけがこんな目に遭わなければいけないんだろう? そんな思いを抱きながら、泣いていたその時――

 

コンコン……

 

 誰かが来たようだ。

 

 恐らく母親あたりだろうと思って、何も言わずに無視していた。

 

 すると、今度は、

 

ドンドンッ!

 

 という大きな音に変わり、扉が叩かれる。

 

 思わずビクッとなり、更に恐怖を感じた清水は、布団にくるまって閉じこもった。

 

 それでもノックの音は鳴り止まず、何度も叩いてきた。

 

 それがとても怖くて、恐ろしくて、清水は必死になって耳を押さえた。

 

 しばらくすると、ノックの音が止む。

 

 諦めてくれたかと思った矢先、

 

ドコドン! ドコドン! ドコドン! カカカッ! ドコドン! ドコドン! ドコドン! カカカッ! ドコドン! ドコドン! ドコドン! カカカッ! ドコドン! ドコドン! ドコドン! カカカッ! ドカッドコドン! ドカッドコドン! ドンカドドンカドカッ! ドドカッ!

 

「うるせぇえええええええええええ!! なんで部屋の扉で○祭り叩いてんだぁああああああああああああああ!!??」

 

 まるで○鼓の達人をしているかのようなリズムで扉が叩き続けられた。

 

 あまりの騒音に、さすがに耐え切れなくなった清水が怒鳴りつけると、叩く音が止まった。

 

 ホッとしたのも束の間、 ガチャン! という音ともに誰かが入って来る。

 

 その人物は――

 

「やぁ! 清水君! 遊びに来たよ~!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 部屋の中ででかい声を出すなよ!!」

 

 いきなり大声で話しかけられ、思わず悲鳴を上げる清水。

 

 入ってきたのは、クラスメイトの少年――「柊木真」だった。

 

 オタクである清水とは正反対に社交的で人気者の彼は、クラスの中でも中心的な存在であり、クラスの誰からも好かれている。

 

 そんな真だが、実は清水と共通点があるのだ。それは――重度のオタクであること。

 

 それも、ただのオタクではない。

 

 周りの視線など気にせず、クラスでも有名なオタク女子――「南雲ハジメ」とオタク談義をしている。

 

 それだけならまだいいのだが、真の恐ろしいところは、清水と違って、それを全く隠そうとしていないことだ。

 

 教室で堂々とアニメの話をしたり、いじめっ子すらオタク道に引きずり込もうとしてくるほどである。

 

 真は、清水のことを親友だと思っているらしく、よくこうやって部屋に訪ねてくることがある。

 

 しかし、清水にとっては迷惑な話だ。

 

 何故なら、オタク趣味を他人に知られたくないからだ。

 

 だからといって追い返すわけにもいかないし、何より真はしつこい性格だ。

 

 またすぐにやってくるに違いない。

 

 そう思った清水は、仕方なく真の相手をすることにした。

 

「んで、今日は何の用だよ……」

「元気ないねぇ~、オタクなら雑草根性でいかないと!」

 

 相変わらずテンションが高い奴だと思いながら、清水はため息をつく。

 

 そして、早速本題に入った。

 

 どうせいつも通りオタク話をするだけだろうと高を括っていたが、予想外なことに、今日の真は違っていた。

 

 真剣な表情を浮かべると、とんでもない発言をしたのだった。

 

「ねぇ、清水君はビビりだよね」

「いきなり悪口かテメェ!? 喧嘩売ってんのか!?」

 

 いきなりの暴言にキレる清水だったが、真は全く動じていない。

 

 むしろ笑顔のままでいる。

 

 それが不気味で、更に苛立ちを募らせる。

 

 しかし、そんなことはお構いなしに、真は続けていく。

 

「だってそうだろ? 君はいじめられているのに、それを両親や周りの人……君の兄弟は選択肢から除外するとして……に伝えることができない。自分の弱みを見せることを極端に恐れている。違うかい?」

 

 何も言い返せない清水は、悔しげに歯噛みをする。

 

 そんな様子を見ながら、真はさらに続ける。

 

 まるで、清水の心の中を見透かすように。

 

「沈黙は肯定と受け取るよ。つまり、清水君にとって自分が弱い人間だと知られることが怖いんだ。でもね、清水君。それじゃダメなんだ」

「!?」

 

 その言葉を聞いて、清水は目を大きく見開く。

 

 今まで誰にも言われたことのない指摘に驚いたということもあるが、それ以上に、真の言葉には不思議な説得力があった。

 

 だからこそだろう。

 

 清水は無意識のうちに、真の言葉をもっと聞きたいと思ってしまった。

 

 清水の様子を見て、真は満足そうな笑みを浮かべて言う。

 

「僕は思うんだよ。人間はみんな同じじゃないって。たとえ、家族であっても他人である以上、全てを理解し合うなんて不可能に近い。ならば、自分の気持ちを伝えることこそが大切なんじゃないかなって」

 

 まるで教師のように語り掛ける真の姿に、清水は自然と引き込まれていた。

 

 清水は、いつの間にか真の話を聞く態勢に入っていた。

 

 清水の心境の変化を知ってか知らずか、真は再び話し出す。

 

「いきなり訪ねてこんな話をするのもなんだと思うけど、必要だから話すよ」

 

 そこまで言って、真は一旦間を空けた。

 

 次に発せられるであろう言葉が気になって仕方がない清水は、黙ったまま続きを待つ。

 

 すると、真はゆっくりと、しかしはっきりと口に出した。

 

 まるで、自分自身に言い聞かせるように。

 

「ねぇ清水君」

 

「自分とクラスメイト達が、将来異世界に召喚されて、その先で自分が殺されるって言ったら信じる?」

「…………」

 

 何を言っているんだこいつは、というのが正直な感想だった。

 

 あまりにも現実離れした内容に理解が追い付かず、清水は何も言えない。

 

 しかし、真は気にすることなく話を続ける。

 

 今まで以上に真剣な表情で。

 

「もちろん冗談なんかじゃない。これはとある預言者達が観測した結果だ」

「……嘘じゃねぇんだな?」

「ああ、嘘じゃない」

 

 そう断言する真の目からは、一切の嘘を感じられなかった。

 

 だが、それでも清水は信じられなかった。

 

 当然と言えば当然の反応だが、真はその反応をある程度予測していたらしい。

 

 特に気にした様子もなく、話を進めていく。

 

 そして、清水が最も信じたくなかったことを口にした。

 

「将来的に起こるであろう未来を簡単に説明しよう。まず最初に、クラス全員がこの世界ではない世界に召喚される。その世界――異世界では戦争が起こっていた。その戦争に僕らはほぼ強制的に参加させられ、戦いの術を学ぶんだ」

 

 清水は戦慄を覚えた。

 

 まさか本当に起こりうることだとは思っていなかったのだ。

 

 だが、同時に納得できたこともある。

 

 真が突然こんな話を持ち掛けてきた理由だ。

 

 真という人間は、あまり人と関わらない清水でも知っているぐらいに不思議な雰囲気を纏っている人物だ。

 

 同じ学校だがクラスの違う有名人――「天之河光輝」のように、人当たりがいい人物ではあるのだが、どこか違和感がある。

 

 それは、真が誰とも予定がない日には、よく近くにある山に向かっているという目撃情報や、放課後の時間帯によく姿を消すという話を聞いたことがあるからだ。

 

 そんなある種の謎に包まれた人物が、今のような突拍子もない話をしてきたということは、おそらく何かしらの意図があってのことなのだろう。

 

 清水はそう思い至り、真の目的が何なのかを聞こうとした。

 

「……それで? 俺はその異世界で殺されるっていうのか?」

「……うん」

「……はぁ~。最っ悪だ……」

 

 あっさりと肯定されてしまい、清水は思わずため息をつく。

 

 異世界召喚などという非現実的な出来事が起こるはずがないことはわかっていた。

 

 故に、清水は心の片隅で、ただの作り話でしかないと切り捨てようとしていた。

 

 しかし、なんだかんだ言って嘘はつかないであろう真が言うのであれば話は別だった。

 

「……お前が言うから嘘じゃないんだろうが、仮に本当だとしても、どうして俺にそんなことを言う? それに何の意味がある?」

 

 これが清水にとって最も気になる点であった。

 

 なぜ自分にそんなことを言いに来たのか。

 

 そして、なんのためにそんなことを言い出したのか。

 

 その答えはすぐに返ってきた。

 

「僕はね……漫画とかアニメとかゲームとかでも、皆が笑えるようなハッピーエンドが見たいんだ」

 

 まるで夢見る子供のような、純粋無垢な笑顔を浮かべながら、真は清水に告げる。

 

 清水は、その言葉の意味を理解することができなかった。

 

 清水にとって、真のその言葉は理解できないものであった。

 

 自分が死ぬかもしれないという時に、なぜそのようなことが言えるのか。

 

 清水には到底理解できなかった。

 

 しかし、不思議と悪い気分ではなかった。

 

 むしろ、胸の奥底で燻っていた暗い感情が晴れていくように感じられた。

 

 それと同時に、心の中に小さな希望が生まれるのを感じた。

 

「……なら聞かせろよ。その中に、俺はいるのか?」

 

 清水は自分でも驚くほどに穏やかな声音で問いかけていた。

 

 すると、真は満面の笑みを浮かべて答える。

 

 まるで、清水の言葉を予期していたかのように。

 

「もちろん! 清水君は僕の大切な友人だと思っているよ!」

 

 それを聞いた清水は、自分の頬に熱いものが流れるのを感じていた。

 

 自分の死が確定しているという事実に対する悲しみか。

 

 あるいは、真が自分を友人と呼んでくれたことにか。

 

 はたまた、真が自分のために行動してくれたことに対してなのか。

 

 清水自身にもわからない。

 

 しかし、清水は確かに喜びを覚えていた。

 

 それは間違いなく、清水が生まれて初めて抱いた感情。

 

 誰かに認められたいと思っていた清水の心が生み出した、初めての想い。

 

 それが何であるのかを清水は知らない。

 

 知る由もない。

 

 ただ、清水はこの瞬間だけは、自分が生きていてもいいのだと思えた。

 

 自分は誰にも必要とされていない存在ではない。

 

 少なくとも一人だけではあるが、自分を必要としてくれる人が目の前にいるのだから。

 

「……はははっ、そうかい。そりゃあよかったぜ」

 

 真の友人になれたことが嬉しかった。

 

 これから起こるであろう悲劇を回避することができたらということだけではなく、こんな自分を認めてくれる相手がいるということだけでうれしかったのだ。

 

 そして、これからも自分は生きていきたいから、その運命から抗おうと決意するのであった。

 

 その願いは叶うだろう。

 

 なぜならば、すでに運命の歯車は狂い始めているのだから。

 

 柊木真という、規格外の存在の介入によって。







どれぐらい書いたら原作に突入していいのかわからないです……。

戦闘回、あんまり書いていないせいで原作開始までの間に書いたらいいのかわからなくなってきた……。

体調が悪い……。



色々あるけど、皆様の感想や評価を見て頑張れています。




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転生者掲示板とは何だ……?




この小説を漫画にしてみたいと思う今日この頃。

咳が辛いです。





1:神祇省総司令

清水君 を 仲間 に 引き込めた ぞ!

 

2:名無しの助言者

はっや!?

 

3:名無しの助言者

えぇ……

 

4:名無しの助言者

スレ主、お前どうやって説得したんだよ

 

5:ドラゴンスレイヤー

俺も気になるぞ

 

6:名無しの助言者

俺も俺も

 

7:日柱鬼殺隊員

俺もだ

 

8:解説役の○ピードワゴンッ!

俺も気になりますね

 

9:名無しの助言者

で、どうなんだスレ主?

 

10:神祇省総司令

異世界に召喚されることを話した

 

11:名無しの助言者

は?

 

12:名無しの助言者

ちょwww

 

13:名無しの助言者

草しか生えない

 

14:名無しの助言者

マジで言ってんのそれ?

 

15:名無しの助言者

さすがに冗談だよね?

 

16:名無しの助言者

おい

おい!

 

17:カルデアのマスター

ちょっと待ってください

マジで異世界のこと言っちゃったんですか!?

 

18:YAMA育ちのTさん

まどろっこしくなくていいが……その選択は相当な賭けだな

 

19:名無しの助言者

異世界でのことを話す上で、清水君関連と言ったら、彼が死ぬことぐらいだよな?

それ話したの?

高校生で(ほぼ確定で)死ぬことを宣告された清水君かわいそす

 

20:解説役の○ピードワゴンッ!

清水君のこれからの活躍にご期待ください!

 

21:カルデアのマスター

>19 そこに関しては同意ですけど……清水君はそれで納得してくれました?

 

22:神祇省総司令

所々ぼかして伝えたよ

異世界に召喚されることとか、清水君が異世界で殺されることはストレートに言ったかな?

 

23:日柱鬼殺隊員

はぁっ!?

 

24:名無しの助言者

あかんやつやんけ!!

 

25:名無しの助言者

それもうほとんど言ってるようなもんじゃん!

 

26:ゴリラ

アンタバカァ?

 

27:ドラゴンスレイヤー

ダメじゃねえかよ

 

28:解説役の○ピードワゴンッ!

…………いやまあ、大丈夫ですよ

清水君が死ぬのはほぼ確定だったので、ここで彼の運命を変えることができたのは幸いですね

 

29:名無しの助言者

あっ、そういう考え方もあるのか

 

30:名無しの助言者

言われてみればそうだよな

 

31:名無しの助言者

なるほど、スレ主の行動で、清水君は生き残る可能性が浮上したわけか

 

32:名無しの助言者

ならよかったわ

 

33:名無しの助言者

……そういや、清水君を仲間に引き込めたって言ったけど、なんで「友人」じゃなくて「仲間」にしたんだ?

 

34:ゴリラ

む、確かにそうだな

今までの子達みたいに友好関係を保ちつつ、メンタルケアをしていけば、死なないとまではいかないまでも闇落ちはしないはずだろ?

なんでわざわざこちらの事情をバラしかけてまで、仲間に引き込んだんだ?

 

35:解説役の○ピードワゴンッ!

それは私も思いました

 

36:カルデアのマスター

それでスレ主

今までは「友達」だったのに、今回はどうして「仲間」にしたんだ?

 

37:神祇省総司令

えっと……まあ、いろいろと理由があって、こっちの方が好都合というか、ベストに近い形だから、この選択をしたんだけど、みんなは嫌だと思うかもしれないから先に謝るね

 

38:名無しの助言者

お、おう……

 

39:名無しの助言者

なんか、前置きがすごく長いな……

 

40:名無しの助言者

何があったんだよ……

 

41:解説役の○ピードワゴンッ!

それで、その理由とは?

 

42:神祇省総司令

うん、まず、僕と白百合だけじゃカバーできないところがあるから、協力者が欲しかった

 

43:名無しの助言者

協力者?

 

44:名無しの助言者

それが清水君ってわけか

 

45:名無しの助言者

確かに、2人だけだとできることに限りがありそうだな

 

46:名無しの助言者

というか、それにしたって、ほぼ一般人も同然の清水君を仲間にしたのはどういう風の吹き回しだ?

 

47:名無しの助言者

そこはちょっと気になるかも

 

48:名無しの助言者

別に問題はないと思うけどな

 

49:解説役の○ピードワゴンッ!

>46 スレ主が言うには、スレ主と白百合ちゃんだけじゃ守れる範囲に制限がある

これは普通に納得できることだと思います

 

50:カルデアのマスター

はい

 

51:名無しの助言者

まあ、そうだな

 

52:名無しの助言者

というか、それだけじゃないだろ?

 

53:名無しの助言者

他にも何かあるだろ?

 

54:名無しの助言者

スレ主の性格的に、ただ助けたいってだけで引き込むとは思えない

 

55:神祇省総司令

鋭いね君達

そう、清水君を引き込んだのは助けたいからだけではない

 

56:名無しの助言者

ほう?

 

57:ドラゴンスレイヤー

つまり?

 

58:神祇省総司令

僕は彼を戦闘員として起用しようとしているんだ

 

59:名無しの助言者

その心は?

 

60:神祇省総司令

実は個人的に解説君と話をしたとき、異世界での動きを知ったんだ

それがまぁ、ちょうど三つに分かれるんだよ

 

・奈落に落ちたハジメ君サイド

・王都を行き来して特訓する光輝君サイド

・未だ見ぬ愛子先生サイド

 

の三つにね

それで、僕は本来のハジメ君サイドに行くであろうから、白百合を光輝君サイドに配置するんだ

そうなると、愛子先生サイドが空くことになる

そこに清水君を入れることで、僕の負担を減らしつつ、いざというときに動けるようにしたい

 

61:名無しの助言者

なるほど

 

62:名無しの助言者

そう言われると、確かに、戦力は必要だよな

 

63:名無しの助言者

それで、清水君を「友達」としてではなく、戦う「仲間」として引き込んだのか

 

64:名無しの助言者

でも、そんなことできるのか?

 

65:解説役の○ピードワゴンッ!

確かに、スレ主も白百合ちゃんも戦えますけど、件の清水君はドが付く素人なんですよね?

大丈夫なんですか?

 

66:カルデアのマスター

うーん……

 

67:名無しの助言者

確かに、いくら何でも厳しいんじゃない?

 

68:ゴリラ

戦略とかわからねぇ俺でも大分無謀だと思うぞ?

 

69:日柱鬼殺隊員

というか、それならもう1人くらい欲しいよな?

 

70:名無しの助言者

>69 確かに、それは言えてるわな

 

71:名無しの助言者

俺も同感

 

72:ドラゴンスレイヤー

>69 俺はワンマンプレイが多すぎて話についてけねぇや…………

 

73:解説役の○ピードワゴンッ!

>69 確かに、今のままでは不安ですね……

 

74:神祇省総司令

…………うん、やっぱり、そうだよね

 

75:名無しの助言者

どうしたんだ?

 

76:名無しの助言者

……まさか、また新しいものでも作るのか?

 

77:名無しの助言者

ありうる……

 

78:名無しの助言者

おい、マジか?

 

79:神祇省総司令

ああ、ちょっと考えがあるから、少し待っていてくれ

 

80:名無しの助言者

はいはい、わかりましたよっと

 

81:名無しの助言者

さて、スレ主が戻ってくるまで暇だし雑談するか

 

82:名無しの助言者

そうだな

 

83:名無しの助言者

んじゃ俺から……

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

323:神祇省総司令

ただいま

 

324:名無しの助言者

おお、スレ主が戻ってきたぞ!

 

325:名無しの助言者

おかえり!

んで、どんな感じなんだ!?

 

326:神祇省総司令

急かさないで……

オホン……

僕が新しく作ろうと思っているのは、僕が元居た世界では開発途中だった「とある兵器」だ

まあ、正確には「その技術」だけどね

 

327:名無しの助言者

ほほう? 一体何を作る気だ?

 

328:ゴリラ

まあ、スレ主のことだ

きっとすごいものを作ってくれるだろうよ

 

329:解説役の○ピードワゴンッ!

そうですね!

 

330:ドラゴンスレイヤー

期待していいんだよな?

 

331:神祇省総司令

もちろんだとも!

とりあえず、完成形までは書いてきたから、まずはこれを見てほしい

【画像】

 

332:名無しの助言者

…………なんじゃこりゃ?

 

333:名無しの助言者

青い……人型……?

 

334:YAMA育ちのTさん

あ、これ見たことあるぞ

○バターって映画に出てきた原住民だよな?

 

335:名無しの助言者

>334 いや、ちげぇだろwwww

 

336:名無しの助言者

>334 あれはあくまで地球外生命体だからな?

この世界の生物じゃねぇからな?

 

337:名無しの助言者

話逸れそうになってるぞ~

 

338:名無しの助言者

わりぃ

んで、これは何だスレ主?

 

339:神祇省総司令

ふっふっふっ……

これは、僕の世界で開発が進められていた「ホムンクルス」というものだ!

 

340:カルデアのマスター

「ホムンクルス」?

それって、あれか?

魔術的なもので人工的に作り出された人造人間のことか?

 

341:名無しの助言者

でも、どうしてそれを?

まさか、清水君のために作るとか?

 

341:解説役の○ピードワゴンッ!

え、マジですか?

 

342:名無しの助言者

……まさかなぁ?

 

343:神祇省総司令

そのまさかだよ諸君

実は最近、清水君の実力を試すための機会があったんだけどね?

それで清水君の実力を測ったところ……オタクというだけあって、身体能力がクソ雑魚ナメクジだったんだよね……

それに比例するかのように、身体能力強化魔法を教えたんだけど、これまた適性が低すぎて話にならないレベルの強化率だったんだ

そこで、僕は思ったわけですよ このままでは、彼は死から逃れられぬ、と

彼の才能のなさには、正直言ってお手上げ状態なんですわこれが

だから、彼を死なせないためにも、彼に新しい力を与えようと思いましてね

それが、「ホムンクルス」という兵器なんだよね

 

344:名無しの助言者

なるほど……

 

345:ゴリラ

ひっでぇ言われようだなwww

 

346:名無しの助言者

だまらっしゃい!

そこのフィジカルお化け!

 

347:解説役の○ピードワゴンッ!

しかし、本当にそんなものが作れるんですか?

 

348:ドラゴンスレイヤー

確かに……

白百合ちゃんという前例のようなものがあるが、そもそも、それはどうやって作るんだ?

 

349:神祇省総司令

そこは、もう一度京都に行って、素材集めをしてくるよ

そもそもホムンクルスは、茨木達妖怪と似たようなものだからね

 

350:名無しの助言者

ん? どういう意味だ?

 

351:解説役の○ピードワゴンッ!

つまり、陰陽師達が使役している式神みたいなものだと?

 

352:神祇省総司令

そういう事

まあ、正確に言えば、霊体のような存在=妖怪に人間の細胞を纏わせたものがホムンクルスだったはずなんだよ

いうなれば、魂のようなものを術者(今回の場合は清水君)の体に宿らせて、そこから細胞をいくつか拝借して肉体を構築させる

その状態から、体外に分離させるとホムンクルスは出来上がるんだ

 

353:名無しの助言者

ほへー

 

354:名無しの助言者

よくわからんけど、要するにそのホムンクルスを使って、清水を強くしようってことだろ?

 

355:神祇省総司令

>354 そう言うことだね

 

356:名無しの助言者

でも、なんでわざわざホムンクルスを作る必要があるんだ?

 

357:俺は解説役の○ピードワゴンッ!

それは俺も気になった

 

358:名無しの助言者

そういえばそうだな

確か、清水君は身体強化の魔法が弱いんだろ?

なら、他の魔法を覚えさせればいいんじゃないのか?

 

359:名無しの助言者

いや、ちょっと待て ひょっとすると……

 

360:日柱鬼殺隊員

どうした?

 

361:名無しの助言者

……いや、なんでもねぇ

ただ、そのホムンクルスって奴は、強いのかなって思ってさ

 

362:神祇省総司令

>361 少なくとも、そこらの魔物よりは遥かに上だと思うよ

何せ、ある時、ホムンクルス作った際、何が原因なのか突然暴走したんだよね

何とか鎮圧することができたんだけど、その時の戦闘能力は、下手すれば白百合と同等レベルだったし

しかも自我が存在するから自動で動くんだ

 

363:名無しの助言者

マジで!?

 

364:名無しの助言者

え、それヤバくないか?

 

365:神祇省総司令

うん、かなり危険

 

366:名無しの助言者

え、え? マジで大丈夫なの?

 

367:ドラゴンスレイヤー

いやまあ、確かに凄まじいな……

だが、そうなると、清水君がそれを扱えるかどうか……

 

368:名無しの助言者

確かに…… 清水君が使えるとは思えんな……

 

369:解説役の○ピードワゴンッ!

不安しかない……

 

370:ドラゴンスレイヤー

それに関しては、もう仕方がないんじゃないか?

 

371:名無しの助言者

それもそっか

結局、清水君の力になるものは、自分自身の力のみだし……

 

372:名無しの助言者

それじゃあ、それを制御させる方法を考えるか?

 

373:カルデアのマスター

適合率とかに関しては問題ないんだよなスレ主?

 

374:神祇省総司令

そこら辺は設定をいじくれば大丈夫

だけど、皆が心配するように、暴走したときはどうしたらいいのかがちょっとねぇ……

 

375:名無しの助言者

うーん……

 

376:解説役の○ピードワゴンッ!

取り敢えず、そのホムンクルスとやらを一体作ってくれませんかね?

 

377:神祇省総司令

>376

分かった じゃあ、これから材料を集めてくるよ

 

378:名無しの助言者

頑張れスレ主

 

379:ドラゴンスレイヤー

応援しているぞ

 

380:名無しの助言者

まぁ、頑張ってくれ

 

381:名無しの助言者

一応、俺たちはここで見守っているからな

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

521:名無しの助言者

しかし、本当に上手くいくのか?

 

522:解説役の○ピードワゴンッ!

そこは完全にスレ主次第だろ

 

523:カルデアのマスター

大いなる力には大いなる責任が伴うって、どこぞのヒーローが言ってたけどな

 

524:ドラゴンスレイヤー

そうだな まあ、それでも、清水君に戦ってもらうしか道はないんだろうな

 

525:名無しの助言者

だな

ところで、現状、スレ主の秘密を知っているのは何人いるんだ?

 

526:ゴリラ

えぇっと……

まず娘の白百合ちゃんに、陰陽師の当主様、後は清水君くらいか

 

527:名無しの助言者

一般人枠でスレ主の事情を知っているの清水君だけかよ……

 

528:YAMA育ちのTさん

責任重大だな……

 

529:名無しの助言者

でも、清水君ならきっとできると信じてるぜ!

 

530:名無しの助言者

そうだな

彼ならやってくれるはずだ!

そう信じよう!

 

530:名無しの助言者

信用ならねぇなぁ……

 

531:名無しの助言者

仕方ねぇだろ?

俺達はあくまで「助言者」

手を出すことはできない

 

532:日柱鬼殺隊員

こういう時に、「管理者」側の誰かがいればよかったんだけどなぁ……

あの人達なら何とかできたかもしれないし……

 

533:解説役の○ピードワゴンッ!

それは言っちゃダメだよ!

俺達が言うのも何だけどさ!

 

534:ドラゴンスレイヤー

ああ、分かってるよ 今更言った所で意味がないことだからな

だが、仮にあいつらがここにいたらと思うとな……

 

535:カルデアのマスター

分かる もしも、あの人達がいたなら……

なんてことを考える時があるよな

 

536:神祇省総司令

ねぇ、「管理者」って何?

皆の様子からして相当な人達だと思うんだけど……

 

537:名無しの助言者

うおっ!?

戻ってきたのかスレ主!

 

538:名無しの助言者

お帰り~!

 

539:解説役の○ピードワゴンッ!

えぇっと……解説、いる?

 

540:神祇省総司令

もちろんいるとも

それで? どういう人たちなの?

 

541:名無しの助言者

あれ? 意外と食いつくなスレ主?

 

542:名無しの助言者

いや、別に隠すようなことでもないんじゃね?

 

543:名無しの助言者

まぁ、今のスレ主にとって必要な人達であることは間違いないしな

 

544:解説役の○ピードワゴンッ!

分かった

説明するよ まずは「管理者」についてだよね?

 

545:名無しの助言者

頼んだぜ解説ニキ!

 

546:解説役の○ピードワゴンッ!

了解!

「管理者」っていうのは文字通りこの「転生者掲示板」の管理を行っている人達だ

そして、転生者掲示板の創設者でもある

 

547:神祇省総司令

創設者……

それじゃあ、その人達は僕のことを知っているのかな?

 

548:解説役の○ピードワゴンッ!

ん~……どうだろうか……?

スレ主は転生したわけじゃなくて、自身の能力が勝手に発動して別世界に来たんだろ?

そして、転生者掲示板が使えるようになった

ここまではまぁいいだろう

全然よくない気がしないでもないが……

 

549:名無しの助言者

おいぃ!?

 

550:名無しの助言者

なんか不穏な言葉を残すな!

 

551:ドラゴンスレイヤー

大丈夫だ この程度はいつものこと

 

552:解説役の○ピードワゴンッ!

でも、問題はそこからなんだ

 

553:解説役の○ピードワゴンッ!

そもそもの話として、別口から入ってきた利用者(=スレ主)を管理側は把握しているかどうか

そこが問題なんだよ

 

554:解説役の○ピードワゴンッ!

おそらく把握はしているんだろう

 

555:解説役の○ピードワゴンッ!

なら何故、利用を停止しないのか?

それが分からない

 

556:解説役の○ピードワゴンッ!

あともう一つ

不当な利用者が現れたら、管理者の誰かが対処するのが当たり前になってるらしいんだが、このスレにはいまだ現れていない

それも不自然だ

 

557:解説役の○ピードワゴンッ!

まだあるぞ

管理者は俺達みたいに別世界の人間だ

 

558:解説役の○ピードワゴンッ!

とはいえ、規格外な者達で構成された管理者側は世界を越えることなんて容易い

スレ主みたいなある種の規格外な存在が、間違って入ってきているというのに接触しないのは何故なのか?

 

559:神祇省総司令

! 確かに……

 

560:名無しの助言者

……なぁ、もしかしてだけどさ

実は名乗っていないだけとか、ROMってるだけでこのスレに管理者がいるんじゃない?

だって、転生者掲示板の創設者なんでしょ?

こんな異常事態というか、面白そうな事態に参加しないのはおかしいって

 

561:YAMA育ちのTさん

……あり得ない話じゃないな

 

562:ゴリラ

あ~…… 言われてみるとあり得そうな話ではあるなぁ

 

563:カルデアのマスター

でも、そうだった場合、管理者達はどうして黙っているんだ?

 

564:名無しの助言者

……そうだな

その可能性は否定できない

 

565:日柱鬼殺隊員

だが、現状では判断材料が少ないからなぁ

 

566:解説役の○ピードワゴンッ!

今は考えても仕方がないんじゃないかな?

まぁ、とりあえずはスレ主に協力してあげることが先決だと思うけどね ということで僕達が協力するよ

 

567:名無しの助言者

おぉっ! マジで!?

 

568:解説役の○ピードワゴンッ!

うん! 何かあった時は力になるし

 

569:名無しの助言者

ありがとう解説ニキ!

570:名無しの助言者

頼りにしてます!

 

571:神祇省総司令

ありがとう解説君

 

572:ドラゴンスレイヤー

よろしく頼む

 

573:名無しの助言者

お願いします!

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「……ふふっ、まさか面白がって見ていることがばれてしまうとはね」

 

 広く暗い空間――まるで劇場のように豪華でありながら、所狭しと並べられた本棚がそれを否定する。

 その空間を例えるならば……「図書館」というべきだろうか。

 

 そんな場所で、とある男が笑っていた。

 男は美青年というべき風貌をしていたた。

 貴族服と形容すべき服を着こなしており、背筋を伸ばして立つ姿からは、彼の育ちの良さが窺える。

 彼は机の上に広げている本を閉じながら言う。

 

 男の名は……知る必要はないだろう。

 ただ言えること、それは彼が転生者掲示板の管理者、その一人であるということだ。

 

 管理者の一人といっても、彼一人ではない。

 

 他にも複数の管理者が存在している。

 そして、ここにいる管理者は一際優秀な男であるということ。

 

 その証拠に、この図書館を埋め尽くす無数の本棚の数々は、彼の能力によって生み出されたものであり、彼の経験そのものだ。

 知識の貯蔵庫と言ってもいい。

 膨大な数の知識を有する男。

 

 だが、決して天才であっただけではなく、努力の果てに至った男。

 故にこそ、己の能力を誇りつつも、それを過信しない謙虚な姿勢を持っているのだ。

 

 だからこそ、彼には分かる。

 掲示板でスレ主と呼ばれていた男――神祇省総司令こと「柊木真」は自分達管理者と同じような存在であることに……。

 

 彼等は転生者と呼ばれる者達を知っている。

 かつて生きていた世界で死んでしまい、神様の力や輪廻の輪を越えてもなお記憶を持ったまま異世界へと生まれ変わった存在。

 

 転生者の数は膨大であり、その全てが同じ世界に生まれたわけではない。

 むしろ、別々の世界に生まれてしまっており、本来であれば出会うことがない者達だ。

 

 だが、彼らは出会い、互いに助け合うことで生き残ってきた。

 それがどんな奇跡なのか、彼等には分からない。

 

 ただ一つ言えることは……運命という名の歯車は動き始めているということである。

 そのことを感じ取った一人の管理者はある決断を下した。

 

「もしも我々と同じ存在が困っているのなら…………」

 

 その先は言葉にする必要がない。

 何故なら、他の管理者達も同じ考えなのだから。

 しかし、ただ見守るだけでは面白くないと思ったのか……一つの提案をした。

 

 そうして出来上がったのが、転生者掲示板である。

 管理者達の遊び心が生み出したもの。

 

 とはいえ、そこにはちゃんとした理由がある。

 誰だって、もう一度の人生を素晴らしいものにしたいと思うのが普通である。

 

 だからこそ、助言という形とはいえ力を貸せる場を提供したのである。

 

「頑張ってねスレ主君? 近頃、スレに現れるから、その時はね?」

 

 クスリと笑いながら言う。

 

 その声は誰にも届かない。

 

 ただ、彼の思いだけが空間に響くだけである。







感想をくださると、作者のやる気が上がって小説の投稿頻度が上がるかもしれません。

どんな些細なことでもいいので、多くの感想お待ちしています!




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清水幸利改造計画




ファンアートとかが欲しいと思うけど、いくら何でもおこがましいと思っている今日この頃。

少し駆け足気味に進んでいきます。





「さぁ清水君! これが君用に作った武器――『ホムンクルス』だ!」

「何が俺用に作った武器だ!? 完全に人型ロボットだろ!? それのどこが武器だ!」

 

 とある山の中で向き合う二人の少年。

 一人はみなさんご存じ柊木真。

 もうひとりは清水幸利。

 見た目だけならば、身長の高い真の方が年上に見える。

 実際はどちらも同年齢であり、二人とも十歳である。

 ただし、中身は違う。

 真は前世の記憶を持つ転生者であり、清水は普通の人間として生まれてきた一般人である。

 清水にとってみれば、つい二週間ほど前に、自分達が高校生の時に異世界へ召喚されるという馬鹿げた話を聞かされたばかりなのであり、その間にも修行と称した肉体労働をさせられていたのである。

 しかも、その報酬は自身が死ぬという運命からの脱却(頑張らなければ、必ずしもそうなるとは限らない)。

 つまり、清水にとっては得しかない話だった。

 そう、()()()のだ。

 実際は終わりの見えない筋トレと、激痛を伴う体内魔力の発展(激痛に関しては、バラエティ番組で見るような激痛足つぼマッサージみたいらしい)を課せられるというきつすぎるものであった。

 そのおかげで清水は何度も死にかけた。

 それでも、清水は文句を言うことなく訓練を続けていった。

 それはひとえに自分の命を守るため。

 ここで逃げれば、待っているのは確実な死。

 それを回避するには強くなるしかなかった。

 だからこそ、目の前でいい笑顔をしている憎いあん畜生の特訓メニューにも、黙ってついて来たのだ。

 その努力の甲斐あってか、清水は身体強化魔法と各種属性魔法の適正を手に入れた。

 この二つがあれば、いざという時に逃げることもできるし、戦闘においても役に立つだろう。

 特に、各種属性魔法の適正が大きい。

 これにより、適切な魔法選択ができれば戦闘を有利に運べるだろう。

 ちなみに、真は全ての適性が高いオールラウンダータイプであり、清水の何十倍と強力な魔法を連発できるようだ。

 これを知った時、清水は真に殴りかかった(簡単に受け止められたけど)。

 

 だが、真の特訓はその程度で済まなかった。

 

 最近追加されたメニューでは……

 

「えっと……よろしく、おねがいします。しみず、さん……?」

「う、うん。よろしく」

「それじゃ、死なない程度にやっていいよ白百合」

「わかった!」

「!? 死なない程度ってなんだまこ――」

「せいやっ!」

「ふがっ!?」

 

 真の娘だという「柊木白百合」と、試合をさせられたり……

 

「ほぉ……この小童と手合わせをすればいいんじゃな真?」

「そうだね。遠慮はいらないよ!」

「遠慮はしろよ!! こちとらド素人だぞ!?」

 

 そして、鬼の中でも最高位に属する茨木童子と戦わされたりもした。

 なお、2人に勝てたことは一度もない。

 そんなこんなで、今日も地獄のトレーニングが始まるのかと思った矢先、唐突に渡されたホムンクルス。

 それも人型のロボットみたいなものである。

 普通なら困惑するであろう。

 実際、清水はいきなりのことにキレた。

 だが、それを渡してきた当人である真は、とても嬉しそうな顔をしている。

 清水は嫌な予感がした。

 しかし、その予想は的中した。

 

「……もうお前の突拍子もない行動には慣れてきたけどさぁ……んで? それはどんな武器なんだよ」

「よくぞ聞いてくれました! これは僕が作ったホムンクルスだよ! 名前はレイヴン! 名前の由来は、某体は闘争を求めるゲームからだ! すごいだろう!? かっこいいだろう!? 天才だろう!?」

 

 清水は思った。

 

(なんで名前パクったんだよ。しかも、そのゲームのレイヴンって「黒い」鳥だろ? なんで青なんだよ……)

 

 そう思う視線の先には、騎士甲冑を着込んだ青い人型のような、カッコイイロボがいた。

 だが、清水の目からするとどう見ても、特撮ヒーロー番組に出てくる敵幹部のキャラにしか見えなかった。

 だが、清水はツッコミを入れずにスルーした。

 なぜなら、今更突っ込んでも無駄だからである。

 それに、今まで特訓しかしてこなかった自分に、真がようやく武器を渡してきたから。

 つまり、このメカっぽい何かを使って、自分は戦うということだろう。

 

「喜んでるとこわりぃけど、これどうやって動かすんだ?」

「この胸から肩にかけての流線型なフォルムは特にこだわったんだよねぇ、ってあれ? なんか言った?」

「あーはいはい、テンプレは良いから。それで、使い方は?」

 

 清水の質問に対して、真は満面の笑みで答えた。

 

「まぁ、とりあえず触れて見なよ」

「は? 触れるだけで動くわけ――」

 

 清水が言われた通りに触れてみると、

 

 ガシュンッ!と音を立てて、ホムンクルスが収められていた箱から倒れこむようにして出てきたのである。

 

「うおっ!? 動いた!!」

 

 清水が驚くのを見て、真はとても満足げだった。

 実は清水の疑問は既に解決済みであった。

 このホムンクルスを動かすためには、魔力を流し、その持ち主と魔力のラインをリンクさせる必要がある。

 そして、清水は知らなかったのだが、真はこのホムンクルスを作るにあたって、相当な時間をかけたのだ。

 具体的には、休憩込みとはいえ、丸一日がかかったのである。

 故に、真のテンションは爆上がりである。

 そんなことは知らない清水は、自分の前にいる機械的な鎧を着たホムンクルスを見た感想を述べた。

 ちなみに、レイヴンの見た目は、白銀の装甲が肉体と融合するような形で取り付けられており、顔はフルフェイスのヘルメットで覆われている。

 そのため、表情はわからない。

 

 清水は少しだけ格好いいと思ってしまった。

 

 しかし、次の瞬間、清水は自分の目を疑った。

 

「…………」

「えっ、ちょ、ぐあっ!」

 

 無言のまま、レイヴンは突然清水を突き飛ばしたのである。

 不意打ちであったために、清水は反応できなかった。

 そして、そのまま後ろにあった木まで吹っ飛ばされたのである。

 幸いなことに、背中を強く打っただけだった。

 しかし、それでも清水は痛かった。

 その痛みに耐えながら、先程まで自身が立っていた場所を見ると――

 

「…………」

 

 腕の装甲から伸びるようにして出現したブレードを清水の方へ向けているレイヴンが立っていた。

 

「なっ!?」

 

 清水は慌てて立ち上がろうとした。

 だが、レイヴンは清水の動きに反応し、再び攻撃してきた。

 しかも今度は蹴りである。

 それも、かなり速いスピードで向かってきたため、清水はガードすることすらできずまともに食らってしまった。

 

「ぐぁっ!?」

 

 蹴られた勢いで倒れこみながらも、清水は見た。

 それは、ヘルメット越しとはいえ、まるで獲物を狙う猛禽類のような目つきをしたレイヴンの姿だった。

 その目は清水を見下していた。

 弱者として。

 その姿は、まさしく戦士と呼ぶにふさわしいものだった。

 しかし、それとは対照的に清水の心の中には恐怖心があった。

 

(なんなんだよこいつ! いきなり襲いかかってきて、俺を馬鹿にしてるのかよ!!)

 

 そう思った直後、レイヴンが清水に向かって飛びかかって来た。

 それを、習得した身体強化魔法で強靭になった拳を振るうことで受け流していく。

 すると、レイヴンはその衝撃を利用して距離を取った。

 清水は立ち上がりつつ、レイヴンの様子を伺っていた。

 レイヴンは構えを取っており、いつでも戦える状態だった。

 それに対し、清水も臨戦態勢を取る。

 そんなレイヴンから視線を外さず、清水は真に問いかけた。

 

「おい真! これはお前が仕組んだことか!」

「あっれぇ~? 何で襲い掛かってるんだぁ? そんな機能つけた覚えないのに……っとと、すまない清水! 僕でも予想外だ!」

「はぁ!? お前が作ったやつだろ!? なのに、どういうことだ!!」

 

 どう考えてもおかしい事態である。

 真は確かにホムンクルスを作った。

 だが、主を襲うように作ったわけではないのである。

 そもそも、真には清水を攻撃する理由がないのだから。

 そして、清水はふと思った。

 

(もしかして……あれか? 『お前を試してやる』的な……)

 

 オタクとしての想像力をフル稼働させ、事態を把握する。

 清水は一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、レイヴンに再び話しかけた。

 

「おい! 俺を試そうってのかい! いきなり斬りかかって来るなんて、行儀が悪いじゃねぇか! この野郎!」

「……」

 

 その言葉に対し、レイヴンは答えなかった。

 だが、その沈黙こそが、肯定を示していた。

 清水は確信した。

 こいつは自分を試しているのだと。

 こいつが本当に自分を扱える人間かどうかを。

 

「上等だ! やってやんぞオラァアアアアアッ!!!」

 

 清水は再び駆け出した。

 レイヴンは迎え撃つ。

 振るわれる拳を、レイヴンは的確に見極め回避し、カウンターを仕掛けてくる。

 清水は必死になって避け続けた。

 そもそも身体能力が優れているわけでもない清水は、なけなしの魔力を振り絞って身体強化の魔法を発動させていた。

 

「セイッ! ハァッ!」

「……!」

 

 そんな清水を見据えるレイヴンは、清水の攻撃を回避しながら隙を見て攻撃を仕掛けている。

 清水の攻撃を捌きながら、反撃する余裕を見せつけていた。

 そのことに、清水は内心舌打ちした。

 

(こいつ……強い! 明らかに俺よりも格上だ!)

 

 清水は自分が弱いことを自覚している。

 だからこそ、こうして修行に明け暮れたのである。

 だが、それでも目の前にいるレイヴンには敵わない。

 そのことを察した清水は、弱者なりの戦い方を選択することにした。

 

「『鬼火』ッ!」

 

 レイヴンの攻撃を弾き、距離を開けた清水は魔法を行使した。

 魔法名を宣言した清水の掌から、小さな火の玉が放たれる。

 それは、茨木童子が持ちうる技で、本来なら人を軽く飲み込むような規模の火球を放つ技だったが、今の清水ではバスケットボール程度が限界だった。

 だが、それでも効果はあった。

 鬼火はレイヴンに命中し、爆発する。

 

「まだまだッ!」

 

 だがそれだけで油断などせず、追撃の構えをとった。

 対するレイヴンは無傷であり、全くダメージを受けていない様子である。

 だが、清水にとってそれは想定内の事だった。

 

「『鬼火』『鬼火』ッ!」

 

 2発の鬼火を放ち、即座に次の攻撃に移る。

 先ほどと同じように、拳をレイヴンの首元に叩きつけるように振りぬく。

 

「『鬼火』ッ!」

 

 拳が叩きつけられた瞬間、3発目の鬼火を放った。

 至近距離で爆発した『鬼火』は、レイヴンの体を吹き飛ばした。

 清水はすぐさま追撃に入る。

 

「おらぁああッ!!」

 

 吹き飛ばされながらも体勢を立て直そうとしていたレイヴンの腹を蹴り飛ばし、地面に倒れさせた。

 そこへ追い打ちをかけるように、清水は倒れたレイヴンの上に馬乗りになり、マウントポジションを取った。

 

「これでッ! どうだッ!?」

 

 清水は全力の右ストレートを叩き込んだ。

 その一撃は、レイヴンの顔面に直撃した。

 しかし、装甲が砕けるようなことはなく、清水の拳に痺れを残すだけである。

 だが、

 

「一発でダメなら、何度だって喰らえやッ!!」

 

 何度も殴った。

 殴り続ける。

 ひたすら、殴り続けた。

 それでも、

 

「…………!」

「ぐぁっ!?」

 

 マウントを取られた状態から、ヘッドバットを清水に叩き込むことで脱出したレイヴンは、清水の腕を掴み取り、投げ飛ばす。

 そのまま立ち上がると、今度はレイヴンの方から仕掛けてきた。

 拳を振るうのではなく、手刀での突きを繰り出してくる。

 

「ぐぅっ!」

 

 清水はそれを腕で受け止めるが、その衝撃を殺しきれずに後ろに吹き飛んだ。だが、それで終わりではない。

 レイヴンは更に踏み込み、蹴りを放ってきた。

 それを咄嵯にガードしたが、勢いまでは殺し切れずに地面の上を転がっていく。

 

「くそぉおおおっ!」

 

 それでも諦めずに清水は立ち上がった。

 でも、

 

「ガッ!?」

「…………」

 

 完全に体制が立て直しきる前に、距離を詰めたレイヴンの装甲剣によって胸を貫かれてしまう。

 

「ごふっ……」

 

 清水は口から血反吐を吐き出した。

 そして、樹木に標本の如く張りつけられてしまう。

 

「清水君!?」

 

 想定外の事態に、真が思わず声を上げた。

 だが、そんなことは関係なくレイヴンは次の行動に移っていた。

 刺し貫かれて力なくうなだれる清水の首を撥ねようと、もう片方の装甲剣を構える。

 

「チッ! これは反省すべき点だね!」

 

 真は、レイヴンの操縦権を清水から自身へと強制的に切り替え、レイヴンを引き離そうとした。

 しかし、

 

「!? 制御を離れている!?」

 

 既にレイヴンは、真の制御権を離れており、自身の体を勝手に動かして清水を殺害しようと構えるのを止めない。

 それを察した真は、すぐさま制御権を掌握しようとするのをやめて、清水の下へ駆けだす。

 レイヴンはそれに反応して動き出した。

 そもそも、死にかけの清水を殺すのに勢いなど必要ない。

 ただその剣を首元に押し付けるだけで殺せるのだ。

 だから、そのまま剣を振り下ろしたのであった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

(俺……死ぬのか……?)

 

 口から血反吐を吐き、迫って来る刃を前にして、清水はそう思った。

 

(まだ……やりたいことあったのに……なぁ……)

 

 清水は心の中で後悔した。

 この世界に生まれてから、清水はずっと自分を殺して生きて来た。

 いじめられても、兄弟から疎まれても、自分は脇役だと割り切って耐え忍んできた。

 だが、本当はもっと生きていたかった。

 友達を作って、恋をして、馬鹿やって笑い合いたかった。

 でも、もうそれは叶わない。

 

(あーあ……せめて最後に女の子とイチャイチャしたかったなぁ……)

 

 そんな清水の脳裏には、走馬灯が流れる。

 清水はオタク趣味があり、ラノベや漫画、ゲームが好きだった。

 その中でも特に好きなジャンルが異世界転移もの。

 それもチート能力を持って勇者として召喚されるタイプの物語を好んで読んでいた。

 もちろん、自分が主人公になれるとは思ってなかった。

 でも、妄想の中では自分は最強の存在で、様々な人を助けるヒーローになっていた。

 

(真の言う……将来、異世界に召喚されるっていうのも……今となっては馬鹿らしいな……)

 

 清水は自嘲気味に笑う。

 だが、その夢は現実になった。

 真達という超常的な存在の力を目にして。

 でも、こんな形で実現するとは思わなかった。

 清水は目を閉じながら、自分の人生を振り返る。

 短く、散々な人生だったが、それでも楽しかったとは思えた。

 自分みたいな人間に、話しかけてくれる変な奴等がいた。

 他の人間とは違う魔法が使えるようになった。

 そして何より、本当の自分をさらけ出してもいい人達に出会えた。

 清水はゆっくりと目を開ける。

 視界に入ったのは自分の体に迫る刃。

 それを見つめる清水の目からは自然と涙が流れた。

 

(死にたくないなぁ……なんで俺がこんな目に……)

 

 死にたくないと思いながらも、心の中では疑問が湧き出していた。

 なぜ、自分にばかりこのような不幸が訪れるのか? 清水は今までの人生を思い返す。

 

(そもそも……真が俺にこんなわけわからんものを渡そうとしたからこうなったんだ……)

 

 清水は思い返せば、あの時、真が妙なことを言い出さなければよかったと思っていた。

 清水は、ある意味被害者である。

 その時、清水は真を見た。

 清水の視線の先には、清水を助けようとしている真の姿があった。

 

(ははっ……これはお前でも予想外だったんだよな……まじ、ふざけんな……)

 

 清水は、思わず笑ってしまった。

 その表情はどこか嬉しそうなものであった。

 

(結局のところ……俺の人生ってろくなものじゃなかったけど……)

 

 清水は改めて思う。

 やっぱり、もう一度人生をやり直せたら楽しいだろうなと。

 でも、その前に……

 

(こいつを一回ぶっ飛ばさねぇとなぁ……!)

 

 そう考えた清水は、死にかけの体に鞭打って、自身の全魔力を拳に集める。

 清水の体は限界を超えていた。

 それでも清水は自身の全てを込めて、迫りくる剣を尻目に、渾身の一撃を放った。

 

ドガァン!!

 

 清水の放った攻撃は、轟音を伴ってレイヴンの顔面に直撃した。

 清水は力を使い果たしたようにその場に倒れ込んだ。

 それと同時に、攻撃を受け、勢いよく距離を離されたレイヴンの装甲剣が清水の体から抜け、傷口から血が噴き出す。

 その光景を目の当たりにして、呆然とする真。

 しかし、一番最初に我に帰ったのも真であった。

 

「大丈夫か清水!?」

 

 いつもならつけるであろう敬称を投げ捨て、清水に駆け寄る真。

 そんな真の姿を見て、清水は苦笑いを浮かべる。

 清水は何とか口を開く。

 喋ろうとすれば激痛に襲われるが、それでも清水は声を出した。

 

「おい、真……今度、から、安、全を、確認、しろ……!」

「しゃべるな! 傷が開くだろ!」

「誰の、せいだと、思ってやが、る……」

 

 清水は途切れ途切れになりながらも、言葉を紡ぐ。

 だが、清水の言葉はそこで止まってしまう。

 何故なら、

 

「…………」

「お、前……!」

 

 清水の目の前に、レイヴンが立っていたからだ。

 先ほどの攻撃で、顔の半分が吹き飛び、大きな穴が開いている。

 それにもかかわらず、レイヴンは何事もなかったかのようにそこにいた。

 明らかに致命傷を負っているにもかかわらず、平然として立っている。

 レイヴンはゆっくりとした動作で、清水の下に歩み寄ると、まるで騎士のように跪いた。

 

「…………もしかして、清水を認めたのか?」

「…………」

 

 真の確認するかのような言葉に、コクリと頷くレイヴン。

 その様子に真は少し考え込むような仕草を見せる。

 すると、突然、レイヴンの体が光り輝き始めた。

 それは徐々に強くなっていき、ついには目を開けていられないほど眩しくなっていく。

 やがて、パァンッ!と泡が弾けるような音を立て、光の塊となっていたレイヴンの体が、青い光の粒子となり、清水の体に吸い込まれていった。

 そして、光が収まるとそこには何も残っていなかった。

 どうやら、本当にレイヴンを倒したようだ。

 

(何だったんだ一体?)

 

 清水は自分の胸元を見てみる。

 特に何か変わったことはない。

 しかし、ここでふと清水は気づいた。

 

「傷が塞がってる!?」

 

 先程まで大きく開いていて、今もなお出血していたはずの傷口が完全に塞がっていた。

 それどころか、疲労感すら消え去っている。

 信じられないといった表情を浮かべながら自分の体をペタペタ触り始める清水。

 その様子を見て、真は大きく安堵のため息を吐くと、清水に言った。

 

「……まさか、すでに自我を得ていたとはね。おめでとう清水君。レイヴンは君を認めて、君の力になったよ」

「……それって、吸収って言うか、融合って言うか、まぁ一体化したんだよな?」

 

 そう言って、清水が自分の体を見回していると、今度は、清水の体が淡く輝き出した。

 その現象に清水が困惑し、真は慌てて清水を止める。

 やがて、体から粒子があふれ出し、その粒子が清水の前で集まって形を成し、やがて、先程まで戦っていたレイヴンの姿をとった。

 清水の前に立つレイヴンは、清水と融合する前の跪いた状態でこちらを見据えていた。

 ヘルメットのバイザー越しとはいえ、薄く輝く双眸を向けており、どこか誇らしげな雰囲気さえ醸し出している。

 その姿を見た清水は、唖然としながら呟く。

 

「え、マジ? 一体化して身体能力が上がるとかじゃなくて、分離すんの?」

「うん……そうだ、けど……ここまで早く分離できるとは……やっぱり最初から自我が存在するからなのか……?」

 

 ぶつぶつと考察を始める真。

 そんな真の姿を見て、清水は思った。

 自分はとんでもない存在と契約したのかもしれないと。

 

「あ~……なんかとんでもないファーストコンタクトになっちまったが、まぁ、よろしく頼むぜ。レイヴン?」

「…………」

 

 清水の伸ばした手に、レイヴンは無言で手を伸ばし、握手を交わす。

 こうして、清水幸利は正式に真達の「仲間」となった。

 新しい武器――「レイヴン」を携えて。

 

 後に、「青い主従」、「青い騎士団」、「ブルーレイヴンズ」、と呼ばれることになる二人の戦いは、ここから始まることとなった。







清水君が新しい武器を手に入れました。

と言っても、私が別の「ありふれ」二次小説で使ってた設定そのまんま持ってきただけなんですけどね。




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僕の誕生日だね




目次に「Picrew」というサイトで作らせてもらった、主人公のイメージ画像があります。

ここにも貼っておきます

【挿絵表示】


原作開始時点には挿絵のような見た目に成長するので、イメージを膨らませてください。

今回は短めです。





 ありふれた少女――「南雲ハジメ」はオタクである。

 

 ライトノベルを好み、アニメも見る。

 ゲームはRPGや育成系のシミュレーションゲームなど多数のジャンルを好んでいる。

 容姿は中の中。

 成績もよくなく運動神経も悪い。

 趣味だけが唯一他人より秀でているものと言えるだろう。

 そんな彼女は、一番最初にできた友人である柊木真の家にて、他の友人達や家族と一緒にとあるイベントを開催していた。

 それは……

 

「せぇ~の!」

「「「「「「真(君/さん)! 白百合(ちゃん) お誕生日、おめでとう!」」」」」」

「ありがとうございます。皆様」

「みなさん、ありがとうございます!」

 

 真と白百合の誕生日であった。

 

 みんなに祝福され、クラッカーから飛び出た紙吹雪にさらされる中、2人は笑顔で感謝を告げる。

 

 その後、2人はテーブルに置かれたケーキの蝋燭の火を吹き消した。

 2人の友人達は思い思いにプレゼントを渡していく。

 

 そんな中、一番最初に真に近づいていったのは、八重樫雫だ。

 

「はいこれ! 真のために買ってきた伊達メガネ! 真って目が悪いわけじゃないけど、いつもかけてるわよね?」

 

 そんな雫が手渡したのは、眼鏡ケースに入った伊達メガネだ。

 

 彼女もまた、真の親友である。

 実は、真の視力は悪くないのだが、その瞳が特殊なものなので、眼鏡などを通さないと過剰に情報を得てしまい、通常以上の疲労を蓄積してしまうのだ。

 

 そのため、普段から伊達眼鏡を着用している。

 

 この世界には魔力というものが存在しているが、それを雫達などの一般人は知覚できないため、お洒落としてつけていると思われているようだ。

 

「ありがとう雫。ありがたく受け取るよ。これは、僕からのプレゼントだ。気に入ってくれるといいんだけど……」

 

 そう言って真は、ラッピングされた箱を渡す。

 

 中には腕時計が入っていた。

 

 シンプルながらセンスのいいデザインであり、文字盤の色は黒。

 

 男性物ではなく女性用のものだ。

 

 ちなみにこれは、真が時計店で買ったものではなく、自作の代物である。

 

 真という人物は、以外にも凝り性であり、暇があれば何かしらの工作を行う。

 

 魔法を使った特訓として、時計のような細かいもののパーツを、手を触れずに作成及び組み立てる訓練も行っている。

 

 この世界の科学水準では実現不可能な技術を有する真の贈り物としては、これ以上ないものだった。

 だが、当の本人はというと……。

 

(喜んでもらえるかな? もし迷惑だったらどうしよう……? いやでも、雫なら大丈夫……か?)

 

 内心かなり不安げな表情を浮かべていた。

 

 その理由として、真があまり贈り物というものをしてこなかったということもある。

 元々、この世界とは別の世界で生きていた真は、誰かの誕生日を祝うということがほとんどできなかった。

 

 もちろん、真自身自分の誕生日を覚えていないわけではない。

 楽しみにしているが、仕事が多すぎて誕生日どころではなかったと言う訳である。

 なので、この世界に転生して、仕事から解放された真は、久しぶりの誕生日会を迎えることができたのだ。

 

 そのため、今回の誕生日会は真のテンションはかなり高い。

 だから、こうしてこっそりと自作のプレゼントを用意しておいたのだ。

 

 だが、それが余計に真を悩ませている原因となっていたりする。

 もし喜んでもらえなかったらどうしよう……と。

 

 しかし、そんな真の内心に反して、プレゼントを受け取った雫は、満面の笑みでこう言った。

 

「ありがとう! 大切にするわね!」

「よ、よかった~……喜んでくれて嬉しい、僕も嬉しいよ」

 

 ホッとした様子の真。

 雫は早速もらったばかりの時計を身につけた。

 彼女の白い肌によく似合う黒の腕時計は、まさに彼女に贈るに相応しいものだと真は思った。

 

 傍目からそれを見ていたハジメは、羨ましそうな顔をしていた。

 

 彼もまた、雫への誕生日の贈り物を準備していたが、渡すタイミングを完全に失っていたからだ。

 

 それはなぜか?

 

 理由は簡単である。

 

 ハジメの場合、今まで真以外に友人などおらず、プレゼントなど今までの人生で一度も考えたことがなかった。

 そもそも、こうして誰かの家で開かれたパーティに参加したことなど今までなく、完全に出遅れてしまったのが原因である。

 

 ちなみに、ハジメのプレゼントは、真の持っていない新作ゲームであった。

 実は、真がこの世界に来てから今日で十一年が経過しており、この日のために用意したものなのだ(転生者掲示板に『初めて』書き込んだのは九歳の頃。その間は見る専だった)。

 

 そして、真は雫に腕時計を贈った。

 

 流石に、プレゼント目的で渡すつもりはないのだが、それでも、他の人に特別そうなものを渡しているのを見ると、どうしても嫉妬心が出てしまうのは仕方ないことだろう。

 

 その点、真の場合は、自分が一番親しいと思っている相手である。

 

 それ故に、一番最初に渡せなかったのが悔やまれてならない。

 

(はぁ……こんなことを考えてる自分が嫌になるなぁ……もっと大人にならないと駄目だなボクは……)

 

 そう思って、自分を戒めようとしたその時、ハジメの視界に、真が近づいてくるのが見えた。

 

「? どうしたの真君? 何か用?」

「いやぁ、ハジメにも渡すものがあってね?」

 

 不思議そうな顔で首を傾げるハジメ。

 すると、真は隠していた手をハジメの目の前に持ってきて、あるものをを取り出した。

 それを目にした瞬間、ハジメの顔が喜色に染まる。

 

「そ、それは……!?」

 

 真が後ろ手に取り出したのは、紛れもなく、ラッピングされた小包だった。

 

 だが、なぜ真が自分へのプレゼントを持っているのか理解できず、戸惑ってしまうハジメ。

 

 そんな彼女に構わず、真は続ける。

 

「ハジメ。僕の初めての友人になってくれてありがとう。これからもよろしくね?」

「…………う、うん! ありがとう! ボクもよろしくね!」

 

 感極まったように返事をするハジメ。

 

 その手に握られたプレゼントを見て、真は微笑む。

 その後ろでは、雫が嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 一方その頃、別の場所でも同じような光景が繰り広げられていた。

 白百合は、目の前に置かれたケーキを前にして、目を輝かせている。

 そこには、保護者達が作った特大サイズのホールケーキがあった。

 

「す、すごい……! これ、たべていいんですか!?」

「あぁ、もちろんさ。皆で作ったんだから食べてくれないと困るからねぇ」

 

 白百合の問いに対して、笑顔で答える恵。

 彼女は、娘の誕生日を祝えてご機嫌の様子である。

 ちなみに恵の隣には、号泣する正樹の姿があり、白百合はその姿を見て若干引いていたりする。

 そして、白百合の隣にいた恵里は、白百合の頭を撫でながら言った。

 

「お誕生日おめでとう白百合ちゃん。私も嬉しいよ」

「ありがとうございます! えりさん!」

 

 満面の笑みで感謝の言葉を述べる白百合。

 恵は白百合の前にフォークを置く。

 白百合はそれを受け取ると、ゆっくりと一口分切り取って口に運んだ。

 途端、カッと目を見開いたかと思えば、涙を流し始めたのである。

 

「お、おいしいですぅ……!」

「な、泣くほどか?」

「なくほどですよ! しみずさん!」

「お、おう……そんな食い気味に言うほどか?」

 

 料理を運んでいた清水は苦笑いしながらそう呟いた。

 正樹の方は相変わらず泣いている。

 それからしばらくしてようやく落ち着いたのか、再びケーキを食べ始める白百合。

 だが、食べるペースは最初に比べてかなり遅くなっていた。

 

「うぅ……たべきれませぇん……!」

「皆で食べるように作ったんだから、そりゃ一人で食いきれるわけないさ」

「みんなで……そうですね! これは、みんなでたべるものでしたね! わたし、あたらしいことをしれました! ありがとうございます! めぐみさん! しみずさん!」

 

 元気よく頭を下げる白百合に、恵は微笑みを向ける。

 そんな白百合を見ながら、恵は思案した。

 

(さて……一年と半年は見てきたもんだが、この子は一体何者なんだろうねぇ?)

 

 それは当然の疑問である。

 

 本来、柊木家は白百合を除いた、正樹、恵、真、美奈子の四人家族だった。

 

 しかし、真が9歳の頃、夏休みに行った家族旅行として京都に行くことになったのだが、その際、真と同じ布団の中で一緒に眠っていた見知らぬ少女が白百合なのだ。

 

 そこから、真の説得によって、柊木家で預かることになり、捜索願も出されていないことから、身元不明の少女は柊木家預かりとなったのだ。

 

 そのあたりの経緯については、真が語ったことがあるため割愛する。

 

 問題はその後である。

 

 白百合は戸籍上存在していかった人間だ。

 真は彼女についてこう語っていた。

 

『彼女が言うには、僕の娘なんだってさ。テレビで見たんだけど、鳥の雛が孵ったとき、一番最初に見たものを母親だと認識する現象――『刷り込み』が、この子にも起きたんじゃないかな?』

 

 つまり、彼女は真の娘である。

 そう言い出したのは白百合自身であり、それを真は否定しなかった。

 

 まだ子供とはいえ、周囲の子供より達観している真が言い出したことに当然疑問を持つ恵と正樹だったが、美奈子と仲良くなっている姿を見て、納得したのも事実である。

 

 そして今に至る。

 

 白百合が来てから一年半以上経つが、未だに彼女の素性は謎のままである。

 

 だがそれでもいいと恵は思っている。

 

 どんな訳ありな子であろうと、白百合が家族であることに変わりはないからだ。

 

 ただ一つだけ気になることがあった。

 それは白百合の言動である。

 白百合はいつも明るく振る舞い、誰に対しても敬語で話す礼儀正しい女の子だ。

 

 だが時折、不思議な言動をする。

 

(さっきだってそうだ。あんだけデカいケーキを一人で食べなきゃいけないもんだと思っていたり、それを『初めて知った』と言っていた。見た目は真達と同じくらいだけど、中身は赤ん坊。大食いでもなけりゃあんなにデカイケーキを食べ切れるわけがないし、11歳にもなれば、そこら辺の常識は分かっているはずなんだがねぇ…………)

 

 そんなことを考えていると、真達も集まってきた。

 

「母さん。今日は本当にありがとう。みんなのおかげで最高の思い出ができたよ」

 

 白百合を真ん中にして手を繋いだ真達は満面の笑みを浮かべていた。

 恵は四人の笑顔を見て思わず涙が出そうになった。

 

 だが我慢した。

 

 ここで泣いたら台無しになる。

 

 恵の横でようやく泣き止んだ正樹が、また滝のように涙を流し始めたのは放っておく。

 

「…………ははっ、いいってことさね。親というからにはこん位はするのが普通だよ。それよりもほれ、写真撮るからこっち来な!」

 

 恵はカメラを取り出して構えた。

 真達が近づいてくる。

 全員が集合したところで、恵はシャッターを下ろした。

 

 撮れた写真には、真ん中に真と白百合が。

 その脇には、雫とハジメ、恵里に清水が映っている。

 性格も身長も異なる五人だが、唯一共通していることがあった。

 それは――

 

「皆いい笑顔じゃないか。こっちまで嬉しくなってくるよ。いい記念になったかい?」

「もちろん。これからも忘れないよ」

 

 恵の問いに対して、真は答えた。

 自分の宝物だと思えるくらい最高だったと。

 恵は満足そうに笑いながら、もう一度写真を撮った。

 

 こうして楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 それから、五年後。

 真達は行方不明となるのであった。

 

 家族に、思い出だけを残して。







次回から中学生編か高校生編が始まります。

アンケートを設置しますので、投票お願いします。




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原作開始
異世界召喚のオーバーチュア





アンケートの結果(まだ一日も経過してないけど)と、感想でとある人が提案してくれたアイディアを取り入れて、高校生編を本編に、中学生編を番外編として入れようかと思います。

感想をくださったカービィの大ファン(自称)さん、誠にありがとうございます!





 暗闇の中、急速に小さくなっていく光。

 無意識に手を伸ばすも掴めるはずもなく、途轍もない落下感に心臓をキュッとさせながら、南雲ハジメは恐怖に歪んだ表情で消えゆく光を凝視した。

 

 ハジメは現在、奈落を思わせる深い崖を絶賛落下中なのである。

 目に見える光は地上の明かりだ。

 

 ダンジョンの探索中、巨大な大地の裂け目に落ちたハジメは、遂に光が届かない深部まで落下し続け、真っ暗闇となった中で、ゴゥゴゥという風の音を聞きながら走馬灯を見た。

 

 日本人である自分が、ファンタジーという夢と希望が詰まった言葉で表すには些かハード過ぎるこの世界にやって来て、現在進行形で味わっている不幸までの経緯を。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 月曜日。

 それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。

 

 きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。

 

 そして、それは南雲ハジメも例外ではなかった。

 ただし、ハジメの場合、単に面倒というだけでなく、とある人物がいるため、些かうれしい気持ちでもあった。

 

 ハジメは、いつものように始業チャイムがなるギリギリに登校し、徹夜でふらつく体でなんとか踏ん張り教室の扉を開けた。

 教室の扉を開くといつものように視線が集まる。

 もはや日常の一部となってしまった行為なので気にせず、目的の人物である少年の元へと向かう。

 

「ふわぁっ……おはよ~真君」

「おはようハジメ。今日も遅刻ギリギリだな。また愁さん達の手伝いか?」

「うん。お母さん達の仕事の手伝いしてたらつい……」

 

 南雲ハジメは今年で17歳。

 身長百六十五センチほどでやせ型。髪型はショートカット。

 顔は十人いれば五人は可愛いと言うだろう。

 まさに普通というべき少女。

 そんな彼女は、声をかけた少年――「柊木真」の隣の席に座る。

 

「真君は何を見ているの?」

「ふっふっふっ……聞いて驚け! サイン入り栞が付属した限定版「○面ライダー○オウ 小説版」を読んでいたのだ!」

「えっ!? それ抽選でしか当たらないやつじゃん!? 真君すごい! どうやって手に入れたの!?」

「ふっ……ただ、運命をつかみ取っただけさ……」

 

 ハジメは目を輝かせて真に詰め寄る。

 ちなみに、○面ライダー○オウとは日曜日の朝9時から放送している特撮番組。

 放送当初は視聴率が悪いと言われながらも、次第に人気が出て、今では子供達のヒーローとなっている。

 あのハチャメチャ具合と、映画での結末(そして主題歌)は多くの特撮ファンに大人気だったようだ

 ハジメは○面ライダー○オウを毎週録画していた。

 現在は、新しい○面ライダー――「○面ライダー○ロワン」を視聴中である。

 

 そんなこんなで趣味に話を咲かせる二人に近づいてくる者がいた。

 

「ハジメちゃん、おはよう!」

 

 ニコニコと微笑みながら一人の女子生徒が二人のもとに歩み寄った。

 このクラス、いや学校でもこの二人にフレンドリーに接してくれる数少ない例外であり、二人の友人と呼べる存在でもある。

 

 名前は白崎香織という学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女だ。

 腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。

 スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。

 

 いつも微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。

 それを嫌な顔一つせず真摯に受け止めるのだから高校生とは思えない懐の深さだ。

 

 彼女を深く知らない人間でも、彼女が困っていたら迷わず手を差し伸べるだろう。

 それほどまでに好印象を与える少女なのだ。

 

「やぁ、白崎君。おはよう」

「あ、白崎さん。おはようございます」

 

 彼女の存在に気が付いた真とハジメは、彼女に挨拶をする。

 

「ねぇ聞いてよハジメちゃん!」

「な、なんですか?」

「真君ったらね、さっきから私が声をかけてるのに、全然反応をしてくれないんだよ!」

 

 プンスカ! といった擬音が聞こえてきそうな様子で怒る白崎。

 どうやら先ほどからずっと話しかけていたらしいのだが、生憎と二人は特撮談義に夢中になっており気が付かなかったようである。

 

「あ~……ごめんね?」

「うん! 許してあげる♪」

 

 そう言って満面の笑みを浮かべた。

 何ともまぁ扱いやすい人である。

 これが学校一の人気者の実力か……

 ちなみにハジメはコミュ障だ。

 故に友達は少ない。

 その代わり、年齢が一桁だったころからの親友である真との仲は、並以上だと思っている。

 真の方はコミュ力お化けなので、交友関係はかなり広い。

 しかし本人は親友であるハジメと一緒にいる時間の方が長いので特に気にしていないようだ。

 

「ハジメちゃん。おはよう。仕事の方は大丈夫かしら?」

「やぁ南雲さん。朝から忙しそうだったね」

「よっすハジメ。今日も元気そうだな」

 

 3人が仲良く談笑していると、三人の男女が近寄って来た。

 一人は八重樫雫。

 もう一人は天之河光輝。

 最後に坂上龍太郎である。

 彼ら3人も真のクラスメイトであり友人である。

 ただし、雫は女子生徒、光輝と竜太郎は男子生徒であるが……。

 

「やぁ、3人ともおはよう!」

「さっきから食い入るように見てたのって、○面ライダーの小説だったのね」

「へぇ~、○面ライダーに小説版なんてあったのか」

「俺は好きだぜ○面ライダー。特に○丈龍我ってキャラが一番好きだ。なんて言うかシンパシー……? ってのを感じるんだよ」

 

 真が彼らに挨拶をすると、それに答えてそれぞれ朝のあいさつをする。

 彼らはいつも一緒に登校しているらしく、毎度こうして集まってくるのだ。

 

「……ッチ! 朝から人気者同士で集まってるなんて、楽しそうですねぇ?」

「あ、清水!」

 

 そこに現れたのは清水幸利。

 クラスでは目立たない地味な少年である。

 その割にはアニメや漫画などのサブカルチャーに詳しいオタクでもある。

 彼はハジメ同様、毎日遅刻ギリギリの時間になってようやく教室に入って来るのだ。

 

「あの……俺もいるんですけど……」

「うおっと!? いたのか遠藤!?」

「いたよ……一番最初に教室に入ってきて、一番最初に席についてたよ……」

 

 そしてもう1人、遠藤浩介もいた。

 彼もまた、ハジメ同様にオタク趣味の持ち主である。

 ちなみにこの2人の趣味はかなり違う。

 清水幸利は萌え系美少女のイラストを描くのが得意な絵描きである。

 対して遠藤浩介はミリタリー系のメカデザインを得意としている。

 しかしそれでも、ほぼすべてのジャンルに通じているハジメを超すことができない。

 もっと言えば、ハジメは真を超すことはできないという、格差が生まれているのである。

 

「おい真! 例の物は出来上がったんだよな?」

「ん? 檜山君か。もちろんできてるとも」

 

 続いて現れたのは、檜山大介である。

 真が高校に入学した際、設立した「オタク同好会」という部活に所属する部員の一人である(真によって強制的に入部させられた)。

 彼は週○少年○ャンプが好きらしい。

 なお、「オタク同好会」に所属する部員は、柊木真(部長)南雲ハジメ(副部長)、白崎香織、清水幸利、遠藤浩介、檜山大介の6人である。

 それはさておき、檜山の要求に、真は鞄の中からあるものを取り出すことで答えた。

 

「これが、頼まれていた品だ」

 

 そう言って取り出したのは、○刊少年○ャンプにて連載されている人気漫画「○術廻戦」だ。

 

「○術廻戦……だとぉっ!?」

 

 それを見た瞬間、檜山の目がくわっと見開かれた。

 そのあまりの驚きように、周囲の一般生徒は引いている。

 

「……落ち着け、素数を数えて落ち着くんだ……2、3、5、7、11、13、17……ふぅ、落ち着いた」

「落ち着いてくれたようで何よりだ」

((((((((((どこが?))))))))))

 

 真達の会話に心の中でツッコミを入れる一般生徒達。

 彼らにとっては、これが平常運転なのだが、他の者からすればかなり異常である。

 ちなみに、このやり取りは今月に入ってもう3度目である。

 

「ふ、ふふふっ……この間、店に行ったら完売していて、別の店を見ても既に完売していたから半ば諦めていたんだがな……で、どうやって手に入れた?」

「ふふっ、そりゃもちろん――」

 

 そこで一呼吸を入れる真。

 そして――。

 ニヤリ 不敵な笑みを浮かべる真の表情を見て、何かあることを察した檜山はゴクリと唾を飲み込んだ。

 そんな彼に真はこう告げたのである。

 

「ネットの力に決まっているだろう?」

「ハァッ……!」

 

 真の発言に、思わず息をのむ檜山。

 荒い息のまま、真を睨みつけるようにして口を開く。

 

「お、お前ぇ……! その足で買いに行くという手段を取らなかったのか!?」

「すまない檜山。僕はまた君の心を裏切ってしまったようだ。だが、理解してくれとは言わん。誰だって、漫画の続きが気になるなら買うしかないじゃないか……!」

「そ、そんな思いでっ! 同士が苦労して手に入れたという思いを踏みにじるのかぁ!?」

「すまない……本当にすまない……!」

 

 真剣な顔で語る真と檜山に、周囲の者達はドン引きである。

 しかし、真にとってそれは些細なこと。

 気にしないし気にしちゃいけない。

 ビバ平常運転サイコー。

 

「おとうさん、なにやってるの?」

「真さん……楽しいのは分かりますが、ここ教室ですよ? そういうのは他の場所でお願いしますね?」

 

 そこにやって来たのは白百合と恵里である。

 2人とも呆れたような目でこちらを見ているが、真は全く気にしていない。

 むしろ嬉々として語っている。

 ○面ライダートークに花を咲かせるハジメ達に、「真君が相手してくれなぃいいいい!」と泣きつく香織を慰める雫と光輝。

 テンションが高い真と檜山に、忘れ去られていることに傷つく遠藤。

 傍から見たらカオスな空間である。

 

 だが、彼らにとってはこれが日常なのだ。

 そう、何にも代えがたい大切な日常。

 

 それは、心無い侵略者によって崩壊する。

 

 それまで、あと約5時間ほどであった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 教室のざわめきに、ハジメは意識が覚醒していくのを感じた。居眠り常習犯なので起きるべきタイミングは体が覚えている。その感覚から言えば、どうやら昼休憩に入ったようだ。

 

 ハジメは、突っ伏していた体を起こし、十秒でチャージできる定番のお昼をゴソゴソと取り出す。

 

 なんとなしに教室を見渡すと購買組は既に飛び出していったのか人数が減っている。それでもハジメの所属するクラスは弁当組が多いので三分の二くらいの生徒が残っており、それに加えて四時間目の社会科教師である畑山愛子先生(二十五歳)が教壇で数人の生徒と談笑していた。

 

――じゅるるる、きゅぽん! 

 

 早速、午後のエネルギーを十秒でチャージしたハジメはもう一眠りするかと机に突っ伏そうとした。

 しかし、近づいてきた真が声をかけてきたことで中断される。

 

「ハジメ……またそれだけなのかい?」

「あ、真君。あははっ……お母さん達も忙しそうだったし、作ってる時間もなかったから……」

 

 そう言ってハジメは苦笑いしながら手元にある十秒チャージゼリーの空を見せる。

 そんなハジメの様子を見て、真はため息を吐いたかと思うと、自身の弁当箱をハジメの机に乗せる。

 

「ハジメ、これも食べなさい」

「え!? い、いいの?」

 

 突然のことに目を白黒させるハジメ。

 対する真はいつもの表情だ。

 ハジメの両親は共働きであり、よく昼食の時間を忘れて仕事に没頭してしまうことがあった。

 だから、昔からこうしておかずを分けてもらうことが多かったのだ。

 ちなみに、このやり取りはほぼ毎日行われている。

 

「さ、差し出されたものは受け取らないと失礼だよね……?」

「うん、大丈夫だから。確認もとらなくていいよ」

 

 恐縮したように呟くハジメの言葉を聞いているのかいないのか、真の返事はそっけないものだった。

 そして、そのまま箸を持って食事を開始する。

 その様子に遠慮していても仕方ないと割り切ったようで、ハジメは弁当に手を付ける。

 今日のメニューは定番のおかずである卵焼きやウインナー、プチトマトなどがあった。

 それらを口に運ぶ度に美味しいと言ってくれるので、真としては作った甲斐があるというものである。

 すると、そこへ女子生徒が一人が近づいてくる。

 

「ねぇ、真君。一緒にご飯食べよ?」

「あぁ、白崎君。別に問題はないよ」

 

 このクラスの人気者であるらしい白崎香織の誘いに真は快く応じた。

 白崎と真が向かい合うようにして席に着く。

 それを見ていた男子達は血涙を流していたとかいなかったとか。

 

「それにしても、檜山君とすっごい盛り上がってたね?」

「まぁね。彼とは同じオタクとして話が盛り上がるのが恒例でね」

「本当のオタクってあんな感じなんだぁ……」

 

 実はオタクであることは隠すべきなのだが、別にいじめられたところで気にはしない真は、誤魔化さず本当のことを言った。

 しかし、白崎は疑うことなく納得しているようである。

 その後、二人は他愛のない会話をしながら食事をする。

 なんだか疎外感を感じるハジメは、少し風を浴びようと立ち上がろうとしたところで――

 

――  凍りついた。

 

 ハジメの目の前、光輝の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。

 その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。

 全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様――俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

 

 その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 

 自分の足元まで異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。

 未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。

 

 数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。

 蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。

 

 この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しとして、大いに世間を騒がせるのだが、それはまた別の話。



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異世界召喚




皆様、遅れて申し訳ありません!

新しい小説と、ウマ娘で忙しくなっておりました!

あまりうまく書けたとは思っていませんが、それでも良ければどうぞ!





 両手で顔を庇い、目をギュッと閉じていたハジメは、ざわざわと騒ぐ無数の気配を感じてゆっくりと目を開いた。

 そして、周囲を呆然と見渡す。

 

 まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。

 縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

 

 背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。

 美しい壁画だ。

 素晴らしい壁画だ。

 だがしかし、ハジメはなぜか薄ら寒さを感じて無意識に目を逸らした。

 

 よくよく周囲を見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。

 

 素材は大理石だろうか? 美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。

 大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。

 

 ハジメ達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。

 周囲より位置が高い。

 周りにはハジメと同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。

 どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。

 

 ハジメはチラリと背後を振り返った。

 そこには、やはり呆然としてへたり込む香織の姿があった。

 怪我はないようで、ハジメはホッと胸を撫で下ろす。

 そんな彼女の側にいる親友の真は、この状況であっても冷静さを乱さず、周囲に視線を巡らせ警戒していた。

 

 そして、おそらくこの状況を説明できるであろう台座の周囲を取り囲む者達への観察に移った。

 

 そう、この広間にいるのはハジメ達だけではない。

 少なくとも三十人近い人々が、ハジメ達の乗っている台座の前にいたのだ。

 まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で。

 

 彼等は一様に白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏い、傍らに錫杖のような物を置いている。

 その錫杖は先端が扇状に広がっており、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられていた。

 

 その内の一人、法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。

 

 もっとも、老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。

 顔に刻まれた皺や老熟した目がなければ五十代と言っても通るかもしれない。

 

 そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音でハジメ達に話しかけた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 現在、ハジメ達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

 

 この部屋も例に漏れず煌びやかな作りだ。

 素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。

 

 おそらく、晩餐会などをする場所なのではないだろうか。

 上座に近い方に畑山愛子先生と光輝達四人組が座り、後は適当に座っている。

 ハジメと真は最後方だ。

 

 ここに案内されるまで、誰も大して騒がなかったのは未だ現実に認識が追いついていないからだろう。

 イシュタルが事情を説明すると告げたことや、カリスマレベルMAXの光輝と真が落ち着かせたことも理由だろうが。

 

 教師より教師らしく生徒達を纏めていると愛子先生が涙目だった。

 

 全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。

 本物のメイドなんて見たことない! と、クラス男子が騒ぎ出す。

 実際、地球でも本や映画の中だけの産物であり、これほど見事な人は中々いないだろう。

 楚々とした立ち居振る舞いなのに、メイド服が一切の違和感なく似合っているのだ。

 しかも、美少女や美女揃いときている。

 これでテンションが上がるなという方が無理である。

 案の定、一人の男子生徒が興奮したように質問した。

 その勢いにビクッとなりながらも、笑顔を崩さずに質問に答えていくメイドさん。

 少し気の毒である。

 そんな生徒とメイドを尻目に、ハジメは真に小声で話しかけた。

 

「ねぇ真君。あれどうだと思う?」

「ん? ん~……十中八九ハニートラップだろうね。そして、ハジメも気づいてるだろうけどこれは現実だろう」

「だよね……」

 

 真の言葉に、ハジメは苦笑いを浮かべる。

 そうこうしているうちに、お茶が入ったカップが生徒一人ひとりに配られ始めた。

 香りから紅茶と思われるそれが注がれると、再びイシュタルの話が始まった。

 要約すれば次の通り。

 

 まず、この世界はトータスと呼ばれている。

 そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。

 人間族、魔人族、亜人族である。

 

 人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。

 

 この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

 

 魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。

 戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。

 

 それが、魔人族による魔物の使役だ。

 

 魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。

 この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。

 それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。

 

 今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。

 使役できても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆されたのである。

 

 これの意味するところは、人間族側の〝数〟というアドバンテージが崩れたということ。

 つまり、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。

 

「あなた方を召喚したのは『エヒト様』です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という『救い』を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、『エヒト様』の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

 イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。

 おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。

 

 イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。

 

 ハジメが、『神の意思』を疑いなく、それどころか嬉々として従うのであろうこの世界の歪さに言い知れぬ危機感を覚えていると、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。

 

 愛子先生だ。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 ぷりぷりと怒る愛子先生。

 彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。

 百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。

 

 『愛ちゃん』と愛称で呼ばれ親しまれているのだが、本人はそう呼ばれると直ぐに怒る。

 なんでも威厳ある教師を目指しているのだとか。

 

 今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。

 「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めていた生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 場に静寂が満ちる。

 重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。

 誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

 愛子先生が叫ぶ。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

 愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。

 周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

 パニックになる生徒達。

 

 ハジメも平気ではなかった。

 しかし、オタクであるが故にこういう展開の創作物は何度も読んでいる。

 それ故、予想していた幾つかのパターンの内、最悪のパターンではなかったので他の生徒達よりは平静を保てていた。

 

 ちなみに、最悪なのは召喚者を奴隷扱いするパターンだったりする。

 

 誰もが狼狽える中、イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。

 

 だが、ハジメは、なんとなくその目の奥に侮蔑が込められているような気がした。

 今までの言動から考えると「エヒト様に選ばれておいてなぜ喜べないのか」とでも思っているのかもしれない。

 

 未だパニックが収まらない中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。

 その音にビクッとなり注目する生徒達。

 光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「皆! 一先ずは落ち着いてくれ! ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。神という僕達の尺度では計り知れない存在が呼び出したんだ。イシュタルさんたちでは、僕達を地球に帰すことはできないだろう……」

 

「じゃ、じゃあどうするんだよ!?」

「そこは…………真! 何か案はあるか!?」

「僕かい? そうだな……」

 

 突然話を振られた真は少し考え込む。

 そして、ゆっくりと話し出した。

 

「まず、現状の僕達が目指すべきなのは、地球への帰還だ。そこを間違ってはいけない。けど、それはあくまで第一目標であって第二目標じゃない。この世界には僕の知らないことが多すぎる。僕はもっと色々と見て回りたい。そこで提案があるんだけど……」

「提案……?」

 

 真の言葉に疑問符を浮かべる光輝。

 すると、真は真剣な表情でイシュタルへ尋ねた。

 

「まず、そのエヒトとかいう神は僕達を別世界から呼び出せるだけの力を持ってる。ならそいつが帰すこともできるはずだ。ですよね? イシュタルさん?」

「…………ええ。エヒト様ならできるでしょう」

「ま、だろうね」

 

 真の不遜な物言いに、しかし、イシュタルは怒ることなく答える。

 その答えに真はため息を吐きながら、更に続けた。

 

「エヒトとやらが何を思って、戦闘経験の無いただの高校生である僕達を呼び出したのか? それは今考えても仕方ない。だからこそ、現状はこの世界で生き残ることが一番だ。帰還が第一目標であることには変わりないけど、その前に死んでは、元も子もないからね」

 

 真の言うことはもっともだった。

 この場でこの世界に喚び出されたことを罵っても何も解決しない。

 ならば、生き延びるために何が必要かを冷静に判断することが大事だと、真は言っているのだ。

 

「なるほど……皆、聞いたか! 今はこの世界で生き残ることを考えよう! 今帰還することを考えても、どうにもならない。俺達は強くなって、この世界を生き抜く方法を見つければいい! そうすればきっと……元の世界に戻れるはずさ!」

 

 真の言葉を補足するように光輝が熱く語る。

 生徒たちは光輝の言葉に希望を見出したのか、お互いに顔を見合わせ、決意したかのように賛同の声を上げた。

 光輝は、そんなクラスメイト達の様子に満足気に笑みを浮かべると、今度はイシュタルに視線を向けた。

 イシュタルは、そんな光輝の様子を冷めた目で見つめ返す。

 まるで、この状況が既に確定事項であり、何をいまさらと言わんばかりだ。

 そんな視線を傍目から見ていたハジメは不安感がこみ上げるばかりである。

 だから、ハジメは真に尋ねたのだ。

 

「真君……あれ、本当に大丈夫かな……?」

「現状はこれが最善だと思ってるよ。相手は戦争に参加させようとしている。そんなのを目標にしてたらきっと全滅するはずだ。だからこそ、生存を目下の目標にしたんだ。それが、どんな結果になろうともね。それに……」

 

 真の瞳は真っ直ぐ前を向いていた。

 そこに迷いは一切ない。

 ハジメは、真の姿を見て少しだけ安心した。

 

 こうして、異世界に召喚された直後の話し合いは終わった。







ベヒモス戦は飛ばそうと思っています。




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現状整理




連続投稿です!

出来るだけ内容が原作そのまんまにならないように頑張っていますが、おかしい点があったら、誤字報告や、メッセージで送ってください!

それでは本編どうぞ!





 異世界に召喚されるという非現実的な現象に見舞われながらも、帰還のための意思を決定した以上、ハジメ達はこの世界に神の使徒として召喚されたのだ。

 最低限、戦いの術を学ばなければならない。

 いくら規格外の力を潜在的に持っていると言っても、元は平和主義にどっぷり浸かりきった日本の高校生だ。

 いきなり魔物や魔人と戦うなど不可能である。

 

 しかし、その辺の事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。

 

 王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める神――創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国ということだ。

 国の背後に教会があるのだからその繋がりの強さが分かるだろう。

 

 ハジメ達は聖教教会の正面門にやって来た。

 下山しハイリヒ王国に行くためだ。

 

 聖教教会は【神山】の頂上にあるらしく、凱旋門もかくやという荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。

 

 高山特有の息苦しさなど感じていなかったので、高山にあるとは気がつかなかった。

 おそらく魔法で生活環境を整えているのだろう。

 

 ハジメ達は、太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見蕩れた。

 

 どこか自慢気なイシュタルに促されて先へ進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。

 大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。

 

 台座には巨大な魔法陣が刻まれていた。

 柵の向こう側は雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。

 それでも興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルが何やら唱えだした。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――〝天道〟」

 

 その途端、足元の魔法陣が燦然と輝き出した。

 そして、まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出し、地上へ向けて斜めに下っていく。

 

 どうやら、先ほどの〝詠唱〟で台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。

 この台座は正しくロープウェイなのだろう。

 ある意味、初めて見る〝魔法〟に生徒達がキャッキャッと騒ぎ出す。

 雲海に突入する頃には大騒ぎだ。

 

 やがて、雲海を抜け地上が見えてきた。

 眼下には大きな町、否、国が見える。

 山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。

 ハイリヒ王国の王都だ。

 台座は、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。

 

 ハジメは、皮肉げに素晴らしい演出だと笑った。

 雲海を抜け天より降りたる〝神の使徒〟という構図そのままである。

 ハジメ達のことだけでなく、聖教信者が教会関係者を神聖視するのも無理はない。

 

 ハジメはなんとなしに戦前の日本を思い出した。

 政治と宗教が密接に結びついていた時代のことだ。

 それが後に様々な悲劇をもたらした。

 だが、この世界はもっと歪かもしれない。

 なにせ、この世界には異世界に干渉できるほどの力をもった超常の存在が実在しており、文字通り〝神の意思〟を中心に世界は回っているからだ。

 

 自分達の帰還の可能性と同じく、世界の行く末は神の胸三寸なのである。

 徐々に鮮明になってきた王都を見下ろしながら、ハジメは言い知れぬ不安が胸に渦巻くのを必死に押し殺した。

 そして、とにかくできることをやっていくしかないと拳を握り締め気合を入れ直すのだった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

(さて、どうしたものか……)

 

 ハジメが気合を入れている傍らで、真はこの先に起こりうるであろう出来事を頭に浮かべていた。

 真は、()()ならこの世界に()()()()()()()だ。

 つまり、真がこの世界にとってイレギュラーな存在であることは間違いない。

 そう考えれば、いずれこの世界がどのような方向に進んでしまうのかという可能性は否定できない。

 その時、自分はどのような選択をするのか……。

 

(ま、それはなるようになれだね)

 

 しかし、今考えたところで答えなど出ないのだ。

 ならば今は、目の前のことに集中しようと思った。

 そうこうしているうちに、遂に町の様子がはっきりわかるようになった。

 

(ふ~ん……街並みは中世。大気中の魔力量は地球以上。強いて言うなら天星大結界の内部には劣る、と……)

 

 真は、視界の端に見える町の風景を観察しつつ考察する。

 周りにばれない程度に強化した視力は、遠方の様子を認識できるまで鋭敏になる。

 王都だけあって城壁は高く頑丈そうだ。

 門番もいるようで隊列を組んでいるのが見える。

 だが、その表情は退屈そうな雰囲気が漂っており、やる気が全く見られない。

 

(ここ最近は戦争がないと言っていたな。騎士たちの気が緩んでしまっている……。隊員の士気は戦いに大きく響くというのに……)

 

 神祇省という大組織の総司令を務めていた真は、騎士団に対して呆れ果てた。

 とはいえ、これは仕方のないことではあるのだが……。

 なにしろ、勇者一行が召喚されるまでの数十年もの間、大きな争いは起きていないのだから。

 

(それに、あの爺さんは、はっきり言って()()()()()。何か裏があるのだろうけど……現状ではただの狂信者としか言いようがない……)

 

 そう思う真だったが、それが何なのかまではわからなかった。

 ただ一つ言えることがあるとすれば、彼らに背中を任せることはできないということ。

 それならそれで構わない。

 真にとってはどうでもいいことなのだから。

 

(さてと、見てるかい皆?)

 

・おけ、バッチリ見えてる

・幻想的だねぇ……事実を知ってたら吐き気しかしないがな

・神への信仰が深すぎるんだよなぁ……

・やっぱ神ってクソだな

・それも引きこもりの神とか絶許。せめてこっちに来てくれたらぶっ飛ばせるのに

・ゴリラニキが言うとシャレにならないんですが……

 

 脳内で流れるコメント欄。

 そして、同じ光景が見えている白百合は首を傾げていた。

 

(うん。やっぱり君たちは最高だよ)

 

 心の中でそう呟いた真は、改めて周囲を観察した。

 すると、あることに気が付く。

 

(…………見られているな……)

 

・え、マジ?

・監視されてるとかウケるwwww

・まあ、普通は怪しんで当然だしね

・俺らは慣れすぎて感覚麻痺してるがな

・でも警戒するに越したことはないと思うよ

・むしろスレ主がいるのに、なんで今まで何もされなかったんだろう?

 

 掲示板に投稿されたコメントの流れを見つつ、更に現状を整理していく。

 

(皆、ちょっといいかい?)

 

・おう、なんだ?

・どうしたのかなー?

・なになに?

・なんかあったんすか?

 

 脳内に流れる言葉。

 それは、まるで脳内に直接響いているような不思議なものだった。

 だが、真はそれを気にすることなく話を続けた。

 

(この先ではどうなるんだったっけ? 時間があるから、一応の確認としてもう一度聞いておきたい)

 

・確かに時間があるな

・もう観察し終わったのか?

・まだ序盤も序盤だから仕方ない

 

 流れてくるコメント。

 それを見つめながら真は質問を続ける。

 

(じゃあ、教えてくれないか。この後はどんな展開になるんだい?)

 

・確か、ハジメ君たちが実践訓練でベヒモスとかいうロケット生肉と戦っているときに、ハジメ君を憎んでいた奴から意図的な流れ弾をぶつけられて落ちたんじゃなかったっけ?

・それであってるぞ。今原作を確認してきた

・解説ニキが言うなら間違いないな

 

(ふむ……それだったら起きなさそうだね)

 

 そう掲示板の者達に返す真。

 以前から何度も掲示板の者達にこの世界の本来の未来を聞かされていた真は、記憶していた情報とすり合わせて間違いがないことを考える。

 そして、それが起こらないであろうことも。

 

(檜山君は、僕達のようなオタクに引きずり込んで親しくなった。そして、恨まれるようなことはしてないだろう)

 

 その思考の通りであった。

 本来の歴史では、主人公であるハジメを好きな香織……を好きな檜山だったのだが、この世界では告白を実行し、そしてものの見事に玉砕している。

 

――付き合ってください!

――ごめんなさい。好きな人がいるんです。

 

 これがその時の会話だ。

 その後、フラれたことに落ち込んでいる檜山を立ち直らせるために、真達は○刊少年○ャンプで連載されていた漫画のアニメ版を全員で鑑賞したのである。

 ずっと乾いた笑いを上げ続ける檜山を真ん中に、机の両側に座る真達は、まるでお通夜みたいな空気だったという。

 

・檜山君がギャグキャラに……

・オタクってすげぇんだな……

 

 掲示板の者達が引いていることを気にせず話を続ける真。

 

(ま、それは起こらないから置いておくとして……その落ちた先にいる、奈落の吸血姫をどうするかが、現状で一番の問題だね)

 

・吸血姫……ユエかぁ……

・俺の知っている限りだと、魔法に関して言えば異常としか思えない実力を持ってるぞ

・そして、ラスボスが欲してやまない『器』と……

・器……

 

 脳内の掲示板に流れる『器』という単語。

 これは、自分以外の魂を受け入れられる者のことを指す。

 簡単に言えば、霊媒体質。

 または、憑りつかれやすい体質ということだ。

 そして、真も気にしていた吸血姫――「ユエ」という少女がその『器』である。

 真の知る限りでは、彼女はこの世界――「トータス」に存在する大迷宮の一つ、「オルクス大迷宮」に幽閉されているのだ。

 そこで、真は一つの疑問を抱いた。

 なぜ彼女が幽閉されたのか?

 そして、なぜ大迷宮の最下層にある封印の間に閉じ込められているのか?

 それは、彼女の持つ特殊な能力が原因なのだ。

 

 それこそが『器』の素質。

 

 この世界の人間族に崇められている神「エヒト」は、まさしく邪悪としか言いようがないほどの存在だ。

 人間族と魔人族をいたずらに争わせ、その様を神域(特等席)で眺めている。

 これを悪と言わずに、何を悪と言えようか。

 

 そんなエヒトだが、実は地上に降りられないという状態である。

 詳細は省くが、肉体が無くなってしまったため、魂だけで存在しているのだ。

 そのため、魂を納める肉体がないと、地上に降りた瞬間、消滅してしまうのである。

 

 そこで、『器』であるユエの存在が重要になってくる。

 肉体を手に入れてしまえば、エヒトが本来の力を使うことができるようになり、今以上の悲劇が様々な世界にもたらされてしまうだろう。

 

 だからこそ彼女の父親は、彼女をエヒトに見つからないようにするため、地下深くに存在する大迷宮に幽閉したのである。

 

(彼女を解放するということは、神に目を付けられるということだからね。リスクが高すぎる)

 

 ちなみに、真はユエの救出について、全く考えていないわけでもないが、どのように行動すればいいのか悩んでいるのである。

 なぜかというと、まず第一に、真のチート性能ではユエに会いに行くことが不可能だということ。

 次に、「仮に真が助けたとしても、真はエヒトを倒せるのか?」ということが立ちはだかる。

 

・そもそもエヒトをぶっ殺すためには、「神殺し」っていう『概念』を込めた武器じゃないと無理だ

・そして、それを生み出すためには、『極限の意思』が必要になる……

 

(そうそこだ。『極限の意思』。昔の僕ならできたであろうが、今の僕は()()()()()()()()。どうしても、何かに()()()ということとは縁遠くなってしまったよ)

 

 真がユエを救助することに踏み切れない一番の理由はそれだ。

 全てを捨ててでも叶えたい、『渇望』とでも言うべき感情。

 それが真には欠けていた。

 しかし、このまま何もしなければ、いずれ自分達は殺される。

 そして、神の悪意によって世界は滅ぼされるだろう。

 

(それだけは絶対ダメだ。僕が死ぬことに対して抵抗は無いが、皆が死ぬのは絶対にダメだ。僕は大人として、先人として、なにより『人を守るべき存在』として生まれたからには、彼らを守らなければならない)

 

 だが、真はその程度で屈することなどない。

 自分の意思を貫くためにも、彼はある決断をした。

 それは……

 

(『飢える』しかないね……。それも獣のように飢えるのではなく、『気高く飢える』んだ。皆に堂々と顔を合わせられるように……)

 

 そう決意したのであった。

 これが後の世にも語り継がれる、『賢者の覚悟』である。







流石に早すぎるんだけど、ミレディはどうしようかな……と思ってる。




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ステータスプレート




しばらくは、こっちを進めていこうと思っています!





 あの後、王宮に進んで王族に謁見したハジメ達は、各々に割り振られた個室で休息をとった。

 

 翌日から早速訓練と座学が始まった。

 

 まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。

 不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

 騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思ったハジメだったが、対外的にも対内的にも〝勇者様一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。

 

 メルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろう。

 もっとも、副長さんは大丈夫ではないかもしれないが……

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 非常に気楽な喋り方をするメルド。

 彼は豪放磊落ごうほうらいらくな性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいだ。

 

 ハジメ達もその方が気楽で良かった。遥はるか年上の人達から慇懃いんぎんな態度を取られると居心地が悪くてしょうがないのだ。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

「アーティファクト?」

 

 アーティファクトという聞き慣れない単語に光輝が質問をする。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属けんぞく達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 なるほど、と頷き生徒達は、顔を顰しかめながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。ハジメも同じように血を擦りつけ表を見る。

 

 すると……

 

 

===============================

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解・■■

===============================

 

 

 表示された。

 

 まるでゲームのキャラにでもなったようだと感じながら、ハジメは自分のステータスを眺める。

 他の生徒達もマジマジと自分のステータスに注目している。

 

 メルド団長からステータスの説明がなされた。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

 どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

 メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。

 地道に腕を磨かなければならないようだ。

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

 ハジメは自分のステータスを見る。

 確かに天職欄に〝錬成師〟とある。

 どうやら〝錬成〟というものに才能があるようだ。

 

 ハジメ達は上位世界の人間だから、トータスの人達よりハイスペックなのはイシュタルから聞いていたこと。

 なら当然だろうと思いつつ、口の端がニヤついてしまうハジメ。

 自分に何かしらの才能があると言われれば、やはり嬉しいものだ。

 

 しかし、メルド団長の次の言葉を聞いて喜びも吹き飛び嫌な汗が噴き出る。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

 この世界のレベル1の平均は10らしい。

 ハジメのステータスは見事に10が綺麗に並んでいる。

 ハジメは嫌な汗を掻きながら内心首を捻った。

 

(あれぇ~? どう見ても平均なんですけど……もういっそ見事なくらい平均なんですけど? チートじゃないの? 俺TUEEEEEじゃないの? なんか不穏なものがあるけど……。……ほ、他の皆は? 真君とかは? やっぱり最初はこれくらいなんじゃ……)

 

 ハジメは、僅かな希望にすがりキョロキョロと周りを見る。

 皆、顔を輝かせハジメの様に冷や汗を流している者はいない。

 

 メルド団長の呼び掛けに、早速、光輝がステータスの報告をしに前へ出た。

 そのステータスは……

 

 

============================

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

==============================

 

 

 まさにチートの権化だった。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」

 

 団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。

 ちなみに団長のレベルは62。

 ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。

 しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。

 成長率次第では、あっさり追い抜きそうだ。

 

 ちなみに、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。

 唯一の例外が〝派生技能〟だ。

 

 これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる〝壁を越える〟に至った者が取得する後天的技能である。

 簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。

 

 光輝だけが特別かと思ったら他の連中も、光輝に及ばないながら十分チートだった。

 それにどいつもこいつも戦闘系天職ばかりなのだが……

 

 ハジメは自分のステータス欄にある〝錬成師〟を見つめる。

 響きから言ってどう頭を捻っても戦闘職のイメージが湧かない。

 技能も二つだけ。

 しかも一つは異世界人にデフォの技能〝言語理解〟つまり、実質一つしかない。

 

 だんだん乾いた笑みが零れ始めるハジメ。

 報告の順番が回ってきたのでメルド団長にプレートを見せた。

 

 今まで、規格外のステータスばかり確認してきたメルド団長の表情はホクホクしている。

 多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。

 

 その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。

 そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

 歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。

 

 ハジメの心はボドボドになる。

 いっそこの場で、「ウソダドンドコドーン!」と言いたくなるような気持ちになってしまった。

 それほどまでに現実はひどかったのである。

 

「…………すまない」

「……大丈夫です。僕は普通が取り柄ですから……」

 

 メルド団長の謝罪を聞きながら、元の場所に戻っていくハジメ。

 そこには既に香織や雫達が集まっており、何とも言えない空気に包まれていた。

 しかし、そんなことはお構いなしに、呼ばれた真が前に出ていく。

 そして、ステータスプレートを見せた。

 

「ん? おお! 魔法戦士! それも全属性に適性があるとは!」

「そんなにすごいんですか?」

「魔法は強力だからな。それを扱えつつ、近接戦闘もできる魔法戦士は希少だ」

 

 感心するように言う団長の言葉通り、魔法戦士は珍しいようだ。

 魔法は強力な分だけリスクもある。

 詠唱中は無防備だし、魔力を直接操る以上は使用者本人の魔力量に左右されやすい。

 そのため、魔法系の天職はどうしても砲台役となってしまい、仲間がいなければ相当厳しい天職だ。

 だが……

 

「ステータスも高い! それに、詠唱短縮もある! これなら、前線でも十分戦えるぞ!」

「そうですか。ありがとうございます」

 

 自分の天職を褒められれば悪い気はしない。

 真は素直に感謝した。

 メルド団長としても、強い仲間がいるのは嬉しいようだ。

 機嫌よく真の肩をバンバン叩く。

 痛みと衝撃に顔をしかめつつも、真は自分の位置へと戻っていった。

 

「次は……柊木白百合!」

「は、はい!」

 

 白百合は少し緊張した様子で前に出る。

 その手にはステータスプレートがあった。

 

「お前も魔法戦士か! 兄弟そろっていい天職に恵まれたな!」

「はい! ありがとうございます!」

 

 白百合は嬉しそうな表情を浮かべて、ステータスプレートを見せる。

 ハジメと違って、白百合はステータスの伸びが良いタイプだったらしい。

 レベル1の時点で、すでに他のクラスメイトより倍近く高い数値を叩き出している。

 流石に、光輝を超えるているわけではなかったが、それでも高い数値だ。

 

「兄と同じ魔法戦士だからな。訓練は同じものになるが……」

「だいじょうぶです! わたし、がんばれますから!」

 

 白百合の笑顔は眩しかった。

 その後、愛子先生の天職が、勇者以上に凄まじいものだったので、ちょっとした騒ぎになったがこのことには関係のない話だ。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 その後、ちょっとした訓練を行って解散することになったのだが、真と白百合はまだ訓練場に残っていた。

 具体的な内容に関しては、2人とも人を模した人形に木剣を振るっている。

 そこに関しては普通なのだが、二人とも真剣な顔つきで黙々と木剣を振り続けていた。

 

「フッ……!」

「やぁっ!」

 

 真は必要最低限の動きで、白百合は真に比べれば少しだけ大振りだ。

 それでも、初心者にしては洗練されているだろう。

 しかし、二人の動きは決して速くはなかった。

 それどころか遅いと言ってもいいかもしれない。

 なぜならば……

 

(……分かっているよね白百合?)

(うん。ほんとのちからはばれちゃいけない。おぼえてるよ)

 

 彼らは、初心者を()()()()()のである。

 本当の実力を隠すために。

 そして、ある程度打ち合ったところで二人は木剣を置いた。

 訓練場の隅に置いてあったタオルで汗を拭う。

 ちなみにこのタオルは、洗濯した清潔なものなので問題はない。

 

(……ステータスプレートを()()しておいてよかった。流石にあれだけのステータスは問題になる)

(うん……こうきさんよりも『うえ』だったもんね)

 

 そう、彼らのステータスの数値は異常すぎた。

 そんな彼らのステータスは……

 

 

==================================

柊木真 16歳 男 レベル:???

天職:接続者

筋力:???

体力:???

耐性:???

敏捷:???

魔力:???

魔耐:???

技能:変幻自在・転生者掲示板・言語理解

==================================

 

 

==================================

柊木白百合 8歳 女 レベル:???

天職:接続者

筋力:???

体力:???

耐性:???

敏捷:???

魔力:???

魔耐:???

技能:変幻自在・転生者掲示板・言語理解

==================================

 

 

 明らかにおかしいものだった。

 そもそもレベルの概念がない。

 それはいいとしても、真も白百合も自分の能力値を見た時、驚愕していた。

 

(まさかここまでとは……僕達はチートすぎるな。まあ、そもそも地球であれだけやってたんだ。当然のことか)

(たしかにすごいけど……でも、えひとにはかてないんでしょ? どうすればいいの?)

 

 そう不安げに問いかける白百合に、真はこう返す。

 ちなみに彼らの間で交わされている会話は、すべて転生者掲示板によって行われている。

 誰かに聞かれないよう念を入れて掲示板を使っているのだ。

 

(まず、僕達だけではエヒトが保有する軍勢を相手取ることはできない。だから仲間を集める。それは僕がするから、白百合は自分が何をしたらいいのか分かっているね?)

(みんなをまもる、だよね?)

(そうだ。清水はこの場には来てないけど、後で僕から話しておくよ)

 

 そう言って真は白百合の頭を撫でると、彼女は嬉しそうな顔をした。

 しかしすぐにその表情は曇ってしまう。

 その理由は簡単。

 真がこれから行うであろう行動を理解してしまったからだ。

 それでも白百合は真の袖を引っ張って言う。

 

(ぜったいに、かえってきてね?)

(分かってるよ。僕は死なない)

 

 こうして、彼等だけの話し合いは終わった。







ステータスに関しては書くのがめんどくさかったです!




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月下の語らい




ウマ娘の小説もやらないとなぁ……





 【オルクス大迷宮】

 

 それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

 

 にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。

 それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。

 

 魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。

 強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。

 魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。

 

 要するに魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。

 その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。

 魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。

 

 ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。

 固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。

 一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。

 魔物が油断ならない最大の理由だ。

 

 真達は、メルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者達のための宿場町【ホルアド】に到着した。

 新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 

「ふぅ……ようやく気が休まるよ……」

「おつかれさまおとうさん」

 

 ちなみに真と同室なのは、周囲から兄弟だと認識されている白百合だ。

 白百合は、床に座り込んで、ベッドに背を預ける真の肩をもんでいる。

 白百合は女の子なので、同性である雫達の部屋で寝ることになるはずだったのだが……

 真がハジメの部屋に行こうとすると、白百合が嫌そうな顔をしたのでこうなったのだ。

 

「一応、出来るだけのことはやれたつもりだ」

「うん……」

 

 真の呟きに白百合は相槌を打つ。

 異世界に召喚されてから一か月程度経った。

 その間、真達は王国の人間に気取られないように行動を起こしていた。

 まず、元から保有していて、ステータスプレートにも載っていた『変幻自在』。

 それによって変化した隠蔽能力を全力で行使して、周囲の探索を行ったのだ。

 その結果わかったこと。

 

「この町は最初に見た通り、中世ヨーロッパ風の街並み。そこに、よくあるファンタジー要素を突っ込んだのがこの世界。魔物への対策は進んでいるのに、研究は進んでいない。……少し歪だね」

「そうなの?」

 

 白百合は首を傾げる。

 そうなのだ。

 真は違和感を覚えている。

 まず、人々の服装から時代観が中世ヨーロッパということを察せられる。

 しかし、それにしては魔物がどういうものか分かっていなさすぎるということが真の中で引っかかっていた。

 

「歴史書を見る限り、文明ができて数千年は経っているはずだ。そのくらい時間が経っていれば、それ相応に研究技術、それも敵性生命体である魔物がいるなら、それに対抗しようとするはずだろう。……外道と言われるような手を使ってでも、ね」

 

 実際、日本は戦国時代でも鉄砲は使われていたし、第二次世界大戦では科学技術による原子爆弾まで使われた。

 だが、現代にでは、そういったものは表立っては使われていない。

 世界的に危険性が認められているからだ。

 そして、科学が進歩した今、魔法という存在が空想上のものとなった現在でも変わりない。

 つまりはそういうことだ。

 

「僕達の世界で、最古の文明はメソポタミア文明。それは紀元前約三千年前だから、現在まで約五千年もの時間が経っている」

 

 地球の歴史を振り返ればわかる。

 人類は石器を使い始め、銅器を作り始めた。

 青銅器はその後しばらくすると鉄器になり、さらに進んだ結果、蒸気機関というエネルギー源と通信手段を手に入れた。

 そして、飛行機を作り出して空を自由に飛び回り始めた。

 それが立った五千年という時間で作り出されたのだ。

 魔物という存在がいるとはいえ、それでも技術は発展するだろう。

 もしかしたら魔物の影響で、地球以上に発展していたかもしれない。

 

「それなのに、この世界――トータスでは、未だに中世の状態だ。まるで、何かに抑制されているかのような……」

 

 これに関しては、真の中で結論が出ている。

 人類が発展することをよく思わなくて、そして、世界レベルで抑制をかけられる存在。

 

「エヒトだな」

 

 そう、この世界の神――エヒトだ。

 

 真は、転生者掲示板によってエヒトの情報を得ている。

 そこから導き出された答えとして……邪神としか形容できない存在だったことが分かったのだ。

 そもそも、真達がこの世界に召喚された時点でおかしい。

 自分達という不確定な戦力を呼び出すよりも、神が実在するなら、そいつ自身が力を使えばいいのだ。

 それに、世界を越えて大人数を呼び出せるほどの力があるなら、まさしく神と呼べる力だろう。

 だが、エヒトはそれをしなかった。

 

 何故?

 理由はいくつか考えられる。

 

 一つ目。

 これは考えにくいが、真達のようなイレギュラーな存在は想定していなかった。

 前世とも言うべき『本体』から分離した、欠片とも言うべきこの真は、長期休暇とも言うべきこの世界での人生を楽しんでいる。

 そこで仕入れたオタク知識からすれば、神が異世界に召喚するということはありふれていることだという。

 その際、周りの者と比べて強い力を持った者が紛れ込んでいるのもよくあることらしいのだ。

 

 二つ目は、召喚せざるを得なかった場合。

 神の力は強すぎて、直接介入は出来ない。

 そのため、間接的に干渉するために、勇者の素質を持つ者達だけを召喚しているのだとしたら……あり得ないわけではない。

 これも、エヒトが真っ当であればの話だ。

 

 そして三つ目が、

 

「……楽しんでいるんだろうな。人が争っているのを、特等席から見下ろして」

 

 人々が争っているのを楽しんでいるクソ野郎ということだ。

 その可能性は高い。

 実際、真達が召喚された時、こっちを見ていたのだ。

 そこには、嬉しさがあった。

 

――新しい玩具が来たという無邪気な悪意が混ざっていたが……。

 

 その視線を感じた瞬間、真はエヒトへかける慈悲を捨てた。

 だが、まだ勝てるという確証がない。

 だからこそ、真達はまずは情報収集に勤しむことにしたのである。

 結果は……芳しくなかったようだ。

 

「まぁ、こんな状況じゃあね。でも、僕は諦めないよ。皆を帰すためには、ここでくじけてる暇はないからね」

 

 と言って、大きく息を吐く真。

 そんな時に、扉をノックする音が響いた。

 

「どちらさまですか~?」

「ごめんね白百合ちゃん。白崎です。真君はいるかな?」

「僕? 何か用かい白崎君?」

 

 そう言って、白百合と一緒に部屋を出る真。

 廊下には、ネグリジェを着た香織が立っていた。

 

「どうかしたかい? 眠れないなら羊を数える方がいいよ」

「えっと……眠れないのもそうなんだけど、少し話がしたくて……」

「おはなしですか?」

 

 と首を傾げる白百合。

 どうやら、白百合はもう眠いようで、目を擦っていた。

 その姿に微笑みながら、香織は言う。

 

「えっと……ここで話すのもあれだから……部屋に入ってもいいかな?」

「どうぞどうぞ。億劫な気分になってたからね。話は大歓迎だよ」

 

 真の部屋に入ると、香織は白百合を抱き上げ、ベッドの上に座った。

 白百合は一瞬驚くものの、香織が震えていることに気づくと動きを止めて、なされるがままになる。

 

「はい、紅茶のようなものしかないけど、我慢してくれ」

「ありがとう……」

 

 紅茶モドキの入ったカップを受け取り、一口飲む。

 熱すぎず温すぎない温度は心地よく喉を通り過ぎていく。

 それを見て、真は自分の分を一飲みしてから言った。

 白百合の頭を撫でながら、香織は話し出す。

 

「ねぇ、真君。夢で見たことが本当に起きるって信じてる?」

「……場合によるね。良い夢でも、悪い夢でも、起きれば現実だ。それに、起きたことの責任を取るのが真っ当な人間の役割だと僕は思う。例えそれが子供であってもね」

 

 と、真は苦笑いしながら答えた。

 その言葉に、香織は少し驚いた表情をする。

 そして、決意を決めたかのような真剣な顔になると、真にこう言った。

 

「明日の迷宮だけど……真君には町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから! お願い!」

「……どうしてだい?」

 

 話している内に興奮したのか身を乗り出して懇願する香織。

 しかし、真は落ち着いた様子で尋ねる。

 すると、香織は真の目を見つめ返し、自分の気持ちを吐露した。

 

「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……真君が居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

 

 そこで言葉を詰まらせる香織。

 夢の内容が相当恐ろしかったのだろう。

 身体の震えが大きくなっている。

 それでも、必死に涙を堪え、真に伝える。

 

「……消えてしまうの……」

「…………」

 

 真は黙って聞いている。

 時折、相槌を打ちながらも真剣に聞いていた。

 暫くして、真はゆっくりと立ち上がり、香織の隣に座って肩に手を置く。

 いきなりのことで、香織はビクッと体を震わせるが、直ぐに落ち着きを取り戻して真の顔を見た。

 そこにはいつもみたいに笑顔の真がいる。

 

「大丈夫さ。僕は死なない。僕が消えたら悲しむ人がたくさん居るからね。何より、そんな簡単に死ぬつもりもないよ」

 

 そう言って笑う真。

 だが、その目は笑ってなどいない。

 瞳の奥にある意志は燃えている。

 決して折れぬ鋼の意志。それはまるで炎のように揺らめいていた。

 香織は真の目を見て思った。

 

(ああ、やっぱりこの人は強い人だ)

 

 と……。

 そして、香織の目に溜まっていた雫が落ちていく。

 一度落ち始めた雫は止まらない。

 思わず目元を手で覆うが、指の間から雫が零れ落ちる。

 そんな香織の頭を真は自分の胸に抱き寄せた。

 突然のことに驚く香織だが、直ぐに真に身を委ねる。

 真の鼓動が聞こえる。

 とても力強く生きている音。安心できる音だった。

 そのまま暫く時が流れる。

 香織の嗚咽だけが部屋の中に響いた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「ぐすっ……ごめんね。いきなり泣き出しちゃって……」

 

 香織が泣き始めて数分後。

 真の腕の中で恥ずかしそうに身を捩らせながら離れた香織は、目元を赤く腫らしながらも謝罪した。

 気にしないでと真は言う。

 そして、二人は話を続けた。

 話題はもちろん先程香織が見たという夢についてである。

 香織は覚えていることを全て真に伝えた。

 聞き終えた真は腕を組んで考え込むように目を瞑り、沈黙している。

 やがて、ゆっくり瞼を開くと口を開いた。

 

「そうか……予知夢らしきものを見てしまったから、不安になってしまったんだね?」

 

 コクリと無言で首肯する香織。

 やはり心配だと真は思う。

 自分が消えてしまうかもしれない。

 それが怖くて泣いてしまったのだろう。

 自分のことを想ってくれるのは嬉しいが、それで苦しんで欲しくはない。

 そう思った真は、自分の考えを伝える。

 

「ま、人生には何事も絶対はないって言われてるからね。その夢が本当のことになるかもしれないし、ならないかもしれない。だから俺はこう考えてるよ」

 

 そこで一拍置き、言葉を続ける。

 これは、真なりの考えであり答えである。

 それを、香織に伝える。

 

「『何事も諦めなければどうにかなる』と」

「……ふふっ、それじゃあまるで楽観的過ぎるんじゃないかな? でも、そうだよね……うん! ありがとう、真君!」

 

 香織は微笑む。

 真の笑顔を見て元気が出たようだ。

 まだ完全に心の底からの笑みではないが、それでも気持ちは和らいだのであろう。

 そんな真の姿を見て、香織はこんなことを話し始めた。

 

「実は、真君のことを知ったのは高校からじゃない。って、知ってる?」

「うん。知ってるよ。僕達がまだ中学二年生の時だよね?」

 

 そう。

 真は香織達が入学して来るより前に香織のことを知っているのだ。

 

「僕が買い物に来ていた時、おばあさんが不良たちに絡まれているところに割って入ったんだっけ?」

「そうだね。あの時は本当にびっくりしたなぁ」

 

 今から約三年前、真は一人で商店街を歩いていた時のことだ。

 家族に言われて、買い物に行っていたそんなある日に、一人の老婆とその孫がガラの悪いチンピラに絡まれていたのである。

 

「周りの人は見てるだけだったのに、真君は助けに入ってくれたんだよ。そして、暴力を振るわずにその場を収めた……」

 

 それは真にとって当たり前のことだった。

 だが、真にとっては当たり前でも他の人から見たら凄いことなのだ。

 その時の真は気づいていなかったが、この時から既に真は周りに影響を与える存在だったのである。

 

「力を使って解決することだったら簡単だよね? 光輝くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……でも、そんな手段を使わないで誰かを助けられる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった」

 

 当時のことを思い出しているのか、悲痛な表情をする香織。

 だが、すぐに顔を上げて言葉を続ける。

 自分の気持ちを整理するように。

 自分の考えを確かめるように。

 そして……真に対する感謝を伝えるために。

 そんな香織の様子を見ながら、真は口を開く。

 

「まぁ、普通の日常を送っているならあんな事態には遭遇しないし、すぐさま対応できるわけじゃない。怖い思いをするのは仕方がないんじゃないかな?」

 

 実際に真は自分ができることをしただけだ。

 それに、自分だって最初からああいった状況に対応できるわけではない。

 最初は失敗ばかりであった。

 小さいことも、大きいことも。

 でも、それでも諦めずに前を向いて頑張ったから今の自分がある。

 だからこそ、

 

「手を差し伸べることはできなかったけど、それでも気にかけれたんだ。最初はそういうものでいいんだよ」

「そうだね……うん! きっと、そうだよね!」

 

 笑顔を見せる香織。

 真はそんな彼女に微笑みながら言葉を返すのである。

 

 この後も、何度か話をして落ち着いた香織は、自室へと帰っていった。

 

「わたし、わすれられてる……」

 

 ……いつの間にか蚊帳の外に追いやられていた白百合の言葉が虚しく響いた。







感想とか高評価が来ると、作者のやる気が上がって、投稿頻度と作品の質が上がります!

ですので、どしどし送ってきてください!




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奈落の底へ




タイトルを変えました!

以前、とある作品のタイトルをふざけて書いてみたんですが、それの閲覧数がこの作品以上に伸びたので、ちょっとタイトルを変えてみようと思いました。

もしかしたら、また変えるかもしれないので、その時はご了承ください。

それでは、本編どうぞ!





(な~んて、こともあったな……)

 

 そう過去を想起する真は絶賛落下中である。

 落下している場所はオルクス大迷宮に存在する奈落の底。

 かつて大きな石橋があった場所であり、真の目の前にあるのは底の見えない巨大な穴である。

 そして落下していく様を他人事のように感じながらも、どこか冷静に思考していた。

 それはなぜか?

 なぜなら、これは()()()()()()()()だからである。

 

(僕が落ちた原因となったのは、()()()()()から誰のせいでもない。しかし……)

 

 そこで思考をいったん切り、隣を見やる。

 そこには同じ様に落ちている()()()の姿がある。

 彼女は真のように冷静ではなく、今も必死にもがいていた。

 

(ハジメが落下したのは……さっき一瞬だけ見えた奴……あれが()()使()()。その仕業か)

 

 そう、真とハジメが落下する原因となったのはとある人物からの干渉だった。

 

 落下する前に話を戻そう。

 

 その時の真達は、オルクス大迷宮にて実践訓練を行っていた。

 上位世界である地球から来たことで、この世界ではチート級の力を手に入れた生徒達。

 もちろん、迷宮攻略はスムーズに進んでいた。

 

 だが、ここで一つトラブルが起こる。

 

 予定されていた、二十階層で事件が起こったのだ。

 

(まさか、光輝の力が想像以上に強くなっていたせいで、壁が崩落してしまうとは……)

 

 その出来事は予定外の出来事であった。

 本来なら、迷宮の壁を破壊するなどあり得ないことなのだが、そこは勇者。

 その力は常軌を逸しており、あっけなく崩壊してしまった。

 その結果、()()()()()が露出してしまうのである。

 そのとあるものとは、

 

(偶然にも転移術式を組み込まれていたトラップがあるとはね……)

 

 迷宮の定番、「トラップ」だった。

 

 今までの経験から罠感知技能を持っている真にはわかっていた。

 

 だが、他のみんなは違う。

 

 いきなり壁が崩壊し、何かが飛び出してきたのである。

 当然、驚き戸惑うだろう。

 

 そんな彼らを置き去りに、()()()()()()()トラップ。

 それにより彼らは、二十階層から別の階層に飛ばされたのだ。

 

(メルド団長が言うには、六十五階層の化け物――ベヒモスだったっけ? 光輝達がこの世界基準で言うところのチート能力を持っていたとしても、素人にぶつける相手じゃないよ)

 

 そしてたどり着いた先では、真達を除いた者たちからすれば悪魔としか形容できない敵が現れたのだ。

 

 その悪魔の名が「ベヒモス」。

 

 かつて、最強と呼ばれた冒険者でも勝てなかった伝説の魔物だ。

 

 それが今まさに目の前にいる。

 それを見てパニックに陥るクラスメイト達。

 そんなクラスメイト達に追い打ちをかけるように、退路には「トラウム・ソルジャー」と呼ばれるおどろおどろしい骸骨の騎士たちが現れたのだ。

 

(僕が全力を使えれば、どちらとも瞬殺できる程度の強さだった。しかし、それをしてしまえば、皆を巻き込みかねないことと、自分に『異端』の烙印が押されるかもしれないんだっけ?)

 

 真が考えている通りに、真が全力を出していればあの場にいた魔物全てを瞬殺することだってできたのだ。

 しかし、それをしてしまえば仲間達を巻き込みかねないのと、これからの行動に支障が出るかもしれないと思ったからである。

 転生者掲示板で、この世界の知識を得ている真は、王国がどれだけ神の掌にあるのかを把握していた。

 自身のような存在を認識しようものなら、即座に処刑、よくて監禁だろう。

 どちらとも簡単に抵抗できるものだったが、それでも面倒ごとは避けたかった。

 

 それに、自分だけの力でどうにかなるならばそれでいいと思っていた。

 それは真の実力を考えれば当たり前の考えであり、むしろ過信していると言ってもよかった。

 だからこそ、真はここで自分の力を使わずに戦うことを決断した。

 

 そもそも、自分はここではぐれる予定だったのだ。

 この世界を支配する邪神を殺すためには、自分達だけではきっと勝てない。

 そう判断したからこそ、いずれ出会うであろう者達に出会うため、ここで奈落に落ちようとしたのである。

 しかし、ここで誤算が二つあった。

 

(これがほんとに分からない。なんで『真の神の使徒』が僕らを追ってきていたんだ……?)

 

 一つ目は、自分達以外にも、あの場に魔物以外の敵がいたこと。

 掲示板で得た知識の通りなら、あれは『神の使徒』だろうと考える真。

 

 二つ目は、

 

(まさか、ハジメが巻き込まれてしまうとは……)

 

 友人であるハジメが巻き込まれてしまったことだ。

 

 ハジメは、『原作』と呼ばれる本来の世界の流れの通りにベヒモスを足止めしていた。

 本来なら、ここで恨みを持つ者の流れ弾が飛んでくるのだが、ハジメを恨んでいる者などあの場にはいない。

 そのため、気が抜けていたのだろう。

 

 真は、退路を塞いでいたトラウムソルジャーを倒し、クラスメイト達に撤退の指示を出していた。

 そして、残っているのがハジメだけとなった時に、それは起きたのである。

 

 迫ってくるベヒモスを足止めしようと殺到する魔法の弾幕。

 真はこの時、ハジメを守る形でベヒモスの攻撃を防ぎ、ベヒモスの攻撃で崩壊した橋から落下するという算段を立てていた。

 だが、

 

(一発の銀色の魔法弾……そして、背後を振り返った時にチラッと見えた人影……おそらく僕を狙っていたんだろうけど、僕には効かないであろうことを判断して、弱者であるハジメを狙ったのか……)

 

 退路である上層への階段に陣取っていた真達の、更に背後から飛んできた一発の魔法弾。

 それが、ハジメの足場を崩し、転倒させたのである。

 そこに、ベヒモスの攻撃が襲い掛かったのだ。

 その攻撃は直撃を避けたものの、衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされた。

 そのまま橋は崩落し、ハジメは奈落の底へ……

 

(だからこそ、追いかけてきたんだが……)

 

 そこまで考えて、真は魔力を放出することで空中を移動し、ハジメの側まで近づいていく。

 ハジメは、あまりの恐怖に意識が飛んでいるようだ。

 だが、呼吸も脈拍もあることから死んでいないことがわかる。

 むしろ気絶している方が都合が良いかもしれない。

 

(さてと……)

 

 このまま放置しておくわけにもいかない。

 なので、真はハジメを抱きかかえると、使っていなかった力を解放した。

 

「――『魔術式・浮遊』」

 

 その瞬間、先程までの急速な落下速度が一気に落ちる。

 それでもかなりの速度で落ちている。

 しかし、真は冷静だった。

 

「――『慣性・凍結及び収束』」

 

 今度こそ完全に止まった。

 そのままゆったりとした速さで地面へと着地する。

 そのまま、ハジメをゆっくりと地面に寝かせてから周囲を見回した。

 

(緑光石によって明かりは保たれている……探索には問題ないな……それにしても……)

 

 改めて周囲を見回す。

 この階層は今までとは様子が違っている。

 何より空気が違う。

 そして、周囲に見える整備されていない壁を見て確信する。

 

 ここは先程までいたような迷宮ではない。

 

 もっと異質なものなのだと。

 

 そんなことを考えながら、ハジメを背負って、探索を開始する真。

 

(ここには、ベヒモスとは比べ物にならない魔物がうじゃうじゃいるというが……ま、暁みたいな強さではないだろう)

 

 真は、既に自分のことをチートだと自覚していた。

 

 それは当然だ。

 

 そもそもの話として、自分が特別だということを知っていた。

 なぜならば、自分は「最強」だから。

 

 それも、並の存在では手も足も出ないほどの絶対的な力を持った存在。

 だからこそ慢心することなく、慎重に歩を進める。

 

 すると早速、何かを発見した。

 

(あれは……)

 

 視線の先には、まるでウサギの様な魔物がいた。

 ただし、大きさが中型犬くらいあり、後ろ足がやたらと大きく発達している。

 そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っていた。

 物凄く不気味である。

 

(推定魔力量はメルド団長を超えている……肉体の密度もベヒモスよりも小型な分、より圧縮されている……確かに、真の大迷宮にふさわしい強さだ)

 

 それを陰から見ていた真であったが、

 

「う、ううん……ここは……?」

「キュウ!」

(あ……)

 

 ハジメが目を覚まし、その声に気づいたウサギの様な魔物が、こちらを向いてしまったのだ。

 

 その瞬間、破裂するような音を響かせて、こちらへと突進してくる。

 空中で身を翻したウサギ型の魔物は、空中で身を翻し、蹴りを放ってくる。

 狙いは、真の頭部だ。

 その後ろには、ハジメの頭がある。

 

「あ――」

 

 急速に迫る死の瞬間に走馬灯を見るハジメ。

 このままでは、2人とも頭を蹴り砕かれてしまうだろう。

 

 しかし、

 

「――『慣性・解放』」

「キュブァ!?」

 

 その速度に追いついた真の掌がウサギの頭部に触れた瞬間、凄まじい速度で弾き出されるかのように突き出された。

 あまりの勢いに、顔面を陥没させて壁に叩きつけられるウサギ。

 そのままピクピクと痙攣していたが、やがて動かなくなった。

 それを見た真は、

 

(……さすがは大迷宮。この程度の敵でも油断できないか)

 

 そう思いつつ、周囲を警戒するのであった。

 しかし、いきなりのことに情報が整理できていないハジメは違う。

 

「え? え? い、今何が起きた――」

「ハジメ。静かにしてくれ」

「むぐっ!?」

 

 ハジメの口を無理やりにでも押えて言葉を発せなくさせる真。

 そんなことを言われても即座には理解できないハジメは、とりあえず口を押さえつけている手を引き剥がそうとする。

 だが、ステータスの差もあり、ビクともしない。

 そこでようやく、ハジメは真の顔を見て、真剣な表情に気が付き、動きを止める。

 

「放していいかい?」

「……!」

 

 真の確認に、無言で首を振ることで肯定を返す。

 すると真は手を離した。

 

「今僕達がいるのは、あのベヒモスがいた階層からさらに下だ。そして、ここにはベヒモスなんかとは比べ物にならない魔物が蔓延っている。この意味が分かるかい?」

「……!?」

 

 真の言葉を聞いた途端、口元を抑えるハジメ。

 先ほどの光景を思い出したのだ。

 圧倒的な力の前に為す術もなく蹂躙される恐怖。

 思い出しただけで体が震える。

 それを必死に抑えながら、真の目を見つめ返した。

 そこには、いつもの優しい目はなく、刃のような鋭い眼差しだった。

 

「一先ずは、この場から離れよう。ハジメ、錬成は使えるはずだからそれで穴を掘って個室を作ってくれ。焦らなくていい。できるところまでだ」

「うん……」

 

 真の指示に弱々しくも素直に従うハジメ。

 今の自分の実力ではどうしようもないことが分かってしまったからだ。

 錬成は鉱物などを加工することができる技能であり、武器や防具はもちろんのこと、生活用品なども作れる便利な能力である。

 しかし、戦いに使えるかと言えば首を傾げざるを得ない。

 だが、ハジメはこの階層に落ちる前――まだ実践訓練だった時に、落とし穴を作ったりなどの手段で魔物を仕留めていた。

 それを見ていた真は、錬成師は戦闘には不向きだと決め付けていなかった。

 むしろ発想次第では役に立つと思っていた。

 だが、今の状況ではお荷物と言わざるを得ない。

 

(さて…………まずは安全の確保かな?)

 

 そう言って、ハジメが錬成を開始し始めたのを尻目に、周囲を警戒する真。

 だが、特に何かが襲ってくる気配はない。

 それでも油断せず周囲を警戒し続ける真。

 そんな時だ。

 

「グルル……」

「熊……」

 

 その魔物は巨体だった。

 二メートルはあるだろう巨躯に白い毛皮。

 例に漏れず赤黒い線が幾本も体を走っている。

 その姿は、たとえるなら熊だった。

 ただし、足元まで伸びた太く長い腕に、三十センチはありそうな鋭い爪が三本生えているが。

 

 

「グルァアアアアアアアアア!!」

「――『捻じれろ』」

 

 雄たけびを上げて襲い掛かってきた熊に、冷徹に命令を下す真。

 すると次の瞬間、熊の全身が捩れた。

 まるで見えない力によって圧縮されるかのように、肉体のあちこちから血飛沫が上がる。

 そして、遂にはただの肉塊となって崩れ落ちた。

 

「さて……」

「ひっ……」

 

 真はその肉塊を手に取り、ハジメに振り返る。

 しかし返ってきたのは、怯えの混じった短い悲鳴のみ。

 どうやら完全に委縮してしまったようだ。

 無理もない。

 いきなり奈落の底へと落とされ、気がつけば化け物のいる場所にいて、更には親友が目の前で理解不能な力を使い、無惨な死体を作り上げたからだ。

 非現実的な光景の連続で頭が追いつかず、心が拒絶してしまうのは仕方のない事かもしれない。

 だが、だからといって放置していいわけでもない。

 何せここは迷宮の中なのだ。

 いつどこから危険な生物が現れるか分からない。

 

「ハジメ、落ち着け。僕が敵を倒すから、君は部屋を作ってくれ」

「う、うん……」

 

 恐怖で顔を引きつらせながらも気丈に振る舞おうとするハジメ。

 しかし声は震えており、足がガクガクと笑ってまともに歩けていない。

 当然だろう。

 いくらオタクとはいえども、彼女は一般人。

 平和な日本で生まれ育った普通の高校生だ。

 それがこんな状況で平静を保てるはずがない。

 

(……まずいな。思った以上に精神状態が悪い。このままだと、またパニックになるかも)

 

 そう考えた真は、

 

「ちょっと失礼」

「へ……?」

 

 ハジメを抱きしめて、背中をさすったのである。

 突然の事に硬直するハジメ。

 そんな彼女をよそに、真は優しく話しかけた。

 

「ハジメ、安心しろ。()が君を守るから」

「あ……」

 

 その言葉を聞いた途端、ハジメの中で何かが弾けた。

 それは今まで必死に押し殺していた感情。

 不安。

 焦燥。

 混乱。

 恐怖。

 そういった負の感情が一気に押し寄せてきたのだ。

 もう限界だった。

 

「うっ……ひぐっ……」

「よしよし。今は泣いてなさい」

 

 真の胸に顔を押し付けながら泣き出すハジメ。

 真は彼女が落ち着くまでずっと頭を撫で続けた。







あとがきに何を書こうか考えています。




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奈落の底で、2人きり




原作崩壊タグ付けたほうがいいかなこれ……





「こ、これでいいのかな……?」

「ああ、これでいい。しばらくはここに籠ることになるだろう」

 

 あの後、泣き止んだハジメが作り上げた個室にて、2人は今後の方針について話し合っていた。

 部屋の広さはそれなりで、おそらくカプセルホテルよりちょっと広いぐらいだろう。

 そんな場所にて、2人は向かい合っていた。

 

「まず、救助は絶望的だ。これは分かるだろう?」

「うん……」

 

 ハジメの顔色は悪いままだった。

 無理もない。

 あんな光景を見せられれば誰だってそうなる。

 だが、それでも現実逃避せずに受け入れようとしているあたりは称賛に値する。

 彼女のメンタルの強さは本物なのだから。

 

「こんなところでは、たとえメルド団長であっても生き残ることはできない。僕か白百合でもなければ、ここを攻略するのはほぼ不可能だ」

 

 この世界で人類最強と呼ばれているメルド団長だが、そんな彼でもこの階層よりも上にいたベヒモスを倒すことはできない。

 この迷宮は階層を降りるにつれてそこにいる魔物の強さが高くなっていく性質を持つというのが本当であれば、ここにいる魔物はベヒモスなんかとは比べ物にならない強さだということになる。

 いや、実際にそうなのであろう。

 少なくとも、この世界にいる人間族では歯が立たない程度には強いはずだ。

 もちろん、真のような力があれば話は別かもしれないが……。

 

「じゃあ、僕はこれからどうすればいいの? このままここで死ぬだけなの?」

 

 そう言ってすがるような目を向けるハジメだったが、真はすぐに首を横に振った。

 そして、こう告げたのである。

 

「ハジメ、今からひどく辛いことを君に強いることになるかもしれない。でも、それを乗り越えられれば君一人でも生き抜ける力を得られるはずだ」

「そんな手段があるの……?」

「……ああ」

 

 真の答えを聞いて、ハジメの目つきが変わった。

 その目には希望の光が灯っていた。

 しかし、同時に恐怖の色もあった。

 それもそうだ。

 ここから脱出できる方法など普通は思いつかないし、そもそもそれが本当に可能かどうかすら分からないのだ。

 そして真は、ひどく辛いことを強いると言っていた。

 それはつまり、真の言う通りにしなければ生き残れないということなのだろう。

 それにしても一体どんな方法があるのか。

 

「それは、どんな方法なの?」

「すごくシンプルで、そしてバカみたいなことだ」

 

 そう言って、真は持ってきた肉塊を指さす。

 何の変哲もないただの肉のように見えるが、実はこれにはある秘密があった。

 

「魔物の肉を食べるの……!?」

「そうだ。これから先、碌な食物に巡り合えるとは思っていない。消去法的に、魔物を食うことになるんだ」

「で、でも、魔物の肉には……」

「即死するほどの毒がある。ハジメも読んでいた本に載っていた情報だ」

 

 真の言う通りだった。

 魔物の肉は人間にとって猛毒だ。

 魔石という特殊な体内器官を持ち、魔力を直接体に巡らせ驚異的な身体能力を発揮する魔物。

 体内を巡り変質した魔力は肉や骨にも浸透して頑丈にする。

 

 この変質した魔力が詠唱も魔法陣も必要としない固有魔法を生み出しているとも考えられているが詳しくは分かっていない。

 

 とにかく、この変質した魔力が人間にとって致命的なのだ。

 人間の体内を侵食し、内側から細胞を破壊していくのである。

 

 過去、魔物の肉を喰った者は例外なく体をボロボロに砕けさせて死亡したとのことだ。

 もちろん、現在においても禁忌中の禁忌とされている。

 

 このことをハジメは、図書館にあった本で確認していた。

 だから、真の言葉を聞いた瞬間、血の気の引いた顔になったのだが……。

 だが真は、そんなことは百も承知だと言わんばかりに続きを話した。

 どうやら何か考えがあるらしい。

 ハジメはゴクリとツバを飲み込む。

 嫌なことを聞かされる予感しかしない。

 それでも、生き残るためには聞かなければならないことなのだろうと覚悟を決めた。

 真の口が開かれる。

 

「まず、魔物の肉を普通に食えば、そのまま即死する。これは本にも載っていたことだ。だが、僕は思うんだよ。変質した魔力を取り込んで体が崩壊してしまうのは、あまりにも魔力が強力すぎて、体がその変化についていけず自壊してしまうのではないかってね。それなら……」

 

 そこで一旦言葉を区切り、ハジメを見つめて答えを言った。

 

「回復魔法をかけ続けて、変質した魔力と体が馴染むようにしたら……」

「! 魔物みたいに強くなるってこと!?」

「おそらくね」

 

 ハジメの推測は当たらずとも遠からずといったところだろう。

 真の狙いは、ハジメの想像通り魔物のように強化されることのようだ。

 そして、それはハジメにとっても魅力的な提案ではあった。

 今の弱いままの自分では、いずれ強力な敵が現れれば殺されてしまうかもしれない。

 だからこそ、強くなりたいと願う。

 ただでさえ無能と呼ばれていた自分が、もはや足手纏いとしか言いようがない今のままなら確実に死ぬ。

 そうならないために、真の話に乗るのは悪い選択肢ではないはずだ。

 ハジメは、しばらく考えた後…… 自分の手を見た。

 鍛えられていない細っこい腕だ。

 今までロクに運動なんてしてこなかったから、筋力なんてほとんどついていない。

 こんな手で殴りかかっても、まともにダメージを与えられるとは思えない。

 むしろ返り討ちに遭うことが容易に予想できた。

 ならば…… と、視線を上げる。

 そこには、真剣な表情でこちらを見ている真の姿があった。

 ハジメは真の瞳を見て理解した。

 彼は本気で言っているのだと。

 ハジメが本当に強くなれるように、親身になって考えて言ってくれていることを。

 ここで自分が断っても、きっと真は責めたりはしないのだろう。

 それでも、ハジメは決めた。

 強くなることを。

 たとえそれがどんな道であっても。

 例え地獄への道でも。

 

「真君……僕、やるよ。真君の足を引っ張りたくない。だから……」

 

 決意に満ちた目で真を見つめ返す。

 そんなハジメの目には確かな力が宿っており、真は嬉しくなって笑みを浮かべるのだった。

 

「分かってるさ。それじゃ、さっそく始めようか」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「……ほんとに食べるんだよね?」

「当たり前じゃないか。生き残るにはこれが手っ取り早く、なおかつこれしかない」

 

 ハジメは手に持った肉塊(真が火属性の魔法でこんがり焼いた)を凝視しながら、真に確認を取る。

 すると真は笑顔で肯定した。

 その言葉を聞いたハジメは、意を決して口を大きく開けて齧り付く。

 

(うっ!? ま、不味い!?)

 

 思わず口を離して悲鳴を上げそうになったが何とか堪えた。

 しかし、顔は思いっきり歪んでしまった。

 何しろ見た目はステーキなのだ。

 しかし、店で売ってあるような処理された肉ではなく、先程まで生きていた獣の肉を、血抜きもせずにそのまま焼いただけである。

 もちろん、調味料など無しだ。

 つまり……素材の味がそのまま出てしまっているのである。

 しかも臭いが酷い。

 碌に血抜きができていないせいで、生臭いことこの上ない。

 まるで腐った魚を食べているようだ。

 おまけに固いし。

 だが……

 

(……頑張れ! 南雲ハジメ!! これは強くなるためなんだ!!!)

 

 真のためにも絶対に食べきらなければならない。

 その一心で必死に咀嚼を繰り返していく。

 やがて何とか食べ終えることができた。

 しかし、胃の中に適切に処理されていない肉を納めたことで猛烈な不快感に襲われてしまう。

 そんな状態としばらく格闘していると……変化が訪れた。

 

「へ? ――ッ!? アグッ!!!」

「ッ! 来たか!」

 

 突如全身を激しい痛みが襲った。

 まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。

 その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。

 

「ぐぅあああっ。な、何がっ――ぐぅううっ!」

 

 耐え難い痛み。

 自分を侵食していく何か。

 ハジメは地面をのたうち回る。

 

「まさかここまで酷いとは!」

 

 のたうち回っていたハジメを抱き起し、暴れないように抱きしめた真は先ほど言った通りに、ハジメに回復魔法をかけ続ける。

 

 そして、十五分ほど経過した頃……ようやく痛みが治まった。

 

「ハァ……ハァ……ッ!」

「すまないハジメ。僕のせいで……」

「ハァ……ハァ……ううん……僕がやるって決めたから、真君のせいじゃないよ……」

 

 自分のせいだと謝る真に対し、ハジメは首を振って否定した。

 確かに肉体的な苦痛はあったが、真の言う通りそれを乗り越えるためだったのだろう。

 そう思うことで心の平静を保つことができたのだ。

 それにしても……

 

(体が熱い……。まるで炎に包まれてるみたい……)

 

 ハジメの体は、体内に侵入した魔物の力に耐え切れず発熱していた。

 体に出来た傷は塞がっているものの、未だに熱を持っているように感じる。

 そして、先程から見えている自身の腕には、まるで魔物のような赤黒い線が幾本か浮き出ていた。

 それは血管のように脈打ちながら皮膚の内側を這いずり回っている。

 気持ち悪いことこの上ない。

 そして、一番違うのが肉体の調子だ。

 

「すっごいね……今なら何でもできそうだよ。魔力も今まで感じたことが無いくらい充実してる」

 

 今の自分は、かつてないほど力が溢れてくるのを感じていた。

 これならば大抵の敵は倒せるに違いない。

 もちろん真の力を借りれば簡単に倒すことが出来るだろう。

 ふと気になって、ハジメは真に問いかけた

 

「ねぇ、真君。僕、今どうなってるの?」

「どう、とは?」

「見た目とか、力とか色々とだよ。正直、自分がどうなったのか分からないんだよね……」

 

 ハジメは自分の手を見ながら呟く。

 腕にあった血管のようなものも存在しており、どことなくがっしりとした印象を受ける。

 爪の形や長さなども変化しており、なんとも不思議な感覚なのだ。

 そんな不安げな様子のハジメに対して、真は首を傾げながら答えた。

 

「う~ん……なんて言うか……なんと言えばいいか……」

「え、何その不安になるような感じは……」

 

 歯切れの悪い真の言葉に思わず顔を引きつらせるハジメ。

 真は言いづらそうな表情をしながら言葉を続けた。

 

「ハジメ、君の心に深い傷を与えるかもしれない。……それでも聞くかい?」

「……うん。聞かせて。僕はもう目を背けたくないから」

 

 真の真剣な眼差しを受けて、ハジメはしっかりと目を合わせて答える。

 すると真は少し困った顔をした後、静かに語り始めた。

 

「君の現在の見た目は……」

「見た目は……」

「……中二病としか言いようがない見た目だ」

「…………へ?」

 

 真の予想外過ぎる回答にポカーンとするハジメ。

 しかし、真は気にせず話を続ける。

 ハジメの外見の変化について。

 まず、髪だが銀に近い白髪になっていた。

 瞳の色は赤色で、肌の色も日本人にしてはやや褐色気味になっている。

 身長も魔物を食べる前と比べて高くなっており、体格はかなり良くなっている。

 筋肉はそれなりに付いているのだが、あまり太くはなく引き締まっている感じだ。

 後者は強くなった影響だと考えられるだろう。

 だが前者はどうだ?

 白色の髪と赤い瞳。

 ここから導き出される答えは……

 

「ガフッ!?」

「ハジメ!? しっかりしろ! 傷は深いぞ! メディック! メディイイイイイイック!!」

 

 真の衝撃的な一言により、ハジメは吐血して倒れた。

 そしてそのまま気絶してしまう。

 奈落の底で起きた一幕であった。







友人に「これ漫画にできる?」って聞いたところ、「1~3か月かかるけどできるよ」と言ってくれました!

まさかダメもとで言ってみたらOKをもらえるとは……!

と言っても同人誌の範疇でしかないんですけどね……

とりあえず、ここにご報告させていただきます。




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生まれ変わった後に




友人との同人誌計画がスタートした……!





「フフッ、中二病…………ちゅうにびょう…………」

「ハジメ! しっかりするんだ! こんなところでゲームオーバーはシャレにならないぞ!」

 

 真は慌ててハジメを揺さぶるが、完全に心ここにあらずの状態であり反応はない。

 さもありなん。

 今までの人生の中で、自分がそんな容姿になってしまったと言われたのだ。

 ショックでないわけがない。

 しかし、ハジメという少女はオタクだ。

 一度はそのような姿を想像したこともある。

 だが、それはあくまで想像であって本当にそうなりたいなどとは思っていなかった。

 

 なぜハジメがここまでショックを受けているのか?

 それは、今の容姿のようにまるで空想上でしか登場しないもののことをあたかも実在するものとしてふるまっていた時期がハジメにもあったからだ。

 そのような時期のことを何と呼ぶか。

 

 そう、『黒歴史』だ。

 

 その痛みは人それぞれではあるが、思春期には誰もが通らなければならない道なのだ。

 そして今まさに、ハジメはその道を全力疾走していた。

 剣と魔法がある世界で、勇者召喚とか魔王討伐といったファンタジーな要素に憧れた時期もあった。

 

 だが、現実は残酷である。

 

 異世界での生活は厳しいものになるだろうと予想はしていたが、まさか、これほどまでに過酷なものだとは思わなかったのだ。

 確かに、強い力を手に入れることはできた。

 その代償が、このような中二病感あふれる容姿になるとは誰が思うだろうか。

 異世界に来てしまったのは仕方がないことだと割り切ることもできるかもしれない。

 だが、この姿になってしまっては、ハジメの心にダイレクトアタックだ。

 いくらハジメでも耐えられない。

 しかも、まだ終わっていなかった。

 むしろこれから始まるのだった。

 実は真は知っていた。

 ハジメが異世界でどのような生活を送ることになるのか。

 それでも、こうなるとは予想していなかったわけではないが、行動を起こすには少しばかり早すぎた。

 

(……まぁ、結果オーライだよね。流石にこれから百層分もハジメを守りながら進むなんてできないだろうし、最低限ハジメに力をつけて、俺が代わりに攻略しよう。うん、それがいい。僕は最強だから、なんとかなるだろう)

 

 既に開き直っている真は、ハジメがあまりの中二病成分の摂取により気を失ったことで冷静になった。

 そして、この後のことを考え始める。

 

(これから先、僕は神を倒せるだけの力を手に入れられるんだろうか? ……いや、それよりも、皆を守ることの方が重要かな? しかし……)

 

 そう考え込む真は、これから先に起こりうるであろう出来事をどう対処していくかについて計画を立てていく。

 

 だが、真はまだ知らなかった。

 ハジメの本当の力を。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「ここ……どこ……?」

 

 ハジメは夢を見た。

 そこは一面真っ白の世界。

 そこには一人の男が立っていた。

 

「あ、あの……誰、ですか……?」

 

 真のように、同じ人とは思えないほど美しい顔をした男。

 男はハジメを見て微笑んだ。

 それだけなのに、なぜか恐怖を感じた。

 男の目は笑っていなかった。

 まるで人形をみるような目。

 そんな視線を向けられたのは初めてのことだった。

 

『――――――――――』

「え?」

 

 男が口を開いて、何かを話したような気がした。

 だが、何を言っているのか聞き取れなかった。

 それどころか、音すら聞こえていないように感じる。

 いや、そもそも音が聞こえる空間なのかどうかわからない。

 自分の声が届いているかもわからなかった。

 そして何より、

 

(なんで僕……こんなところにいるの?)

 

 なぜ自分がここにいて、目の前にいる人物が自分を見ているのか理解できなかった。

 何も分からないまま時間が過ぎていった。

 どれだけ経っただろうか。

 時間の感覚もなくなってきた頃、唐突にその言葉は訪れた。

 

『――彼は君の大切な人かい?』

 

 突然発せられた言葉の意味を理解することができなかった。

 いや、理解することを頭が拒否していた。

 彼が誰かなんてわかりきっていた。

 でも、それを簡単に口に出すことなどできるはずもなかった。

 だから、

 

「……大切だと、思います……?」

 

 思わず首を傾げながら答えてしまった。

 本当はもっと別のことを言いたかった。

 でも、今はそれ以外言うことはできなかった。

 だが、それで十分だったようだ。

 

『……なら、彼を救えるといいね』

 

 そう言って男は背を向けた。

 そしてそのまま歩き出した。

 慌てて追いかけようとしたが、足が全く動かなかった。

 それでも必死に体を動かし手を伸ばす。

 すると、少しずつ体が動くようになってきた。

 ようやく手が届きそうになった時、その人物は風にさらわれる砂のように崩れていった。

 

「消えた…………なんだったんだろう……?」

 

 そう首を傾げるハジメだったが、その時の彼女の頭の中にはある人物の顔があった。

 それは、この世界でただ一人自分を助けてくれた恩人。

 いつも優しくて頼もしい兄のような存在。

 ハジメにとってかけがえのない家族の一人。

 

「真君…………!?」

 

 その名を呟いた瞬間、再び景色が変わった。

 世界が色づき、音が聞こえ始めた。

 だが、そこに広がっている光景はとても見慣れたものとは言えないものだった。

 あちこちがから硝煙が昇る砂漠。

 砂塵が常に吹き荒れ、目も開けてられないような状況だ。

 しかし、そんな環境の中でも、何故かハジメは普通に立っていられた。

 

「ここは、一体……!」

 

 困惑した様子で周囲を見回すハジメ。

 その時とある光景が目に飛び込んできた。

 そこには一人の男が倒れていた。

 砂塵の影響で細部は分からないが、かなり若いように見える。

 おそらくまだ二十代前半といったところだろう。

 男の周囲には人らしきものの残骸が散らばっている。

 どうやらここで戦闘が行われていたらしい。

 だが、肝心の男の姿が見えなかった。

 いや、正確には見えないのではなく、見えにくいのだ。

 

「っ! 砂嵐がひどい……!」

 

 突然、今まで感じてこなかった風の勢いが現れ始めた。

 そのあまりの風圧に、少しでも油断してしまえば風に飛ばされてしまいそうだ。

 

 砂嵐に苦闘しているハジメの視界には、絶え間なく吹き続ける砂嵐が映っている。

 それが男の姿を覆い隠しているのが原因のようだった。

 どうにかして助けようと近づこうとするが、ハジメの体はすぐに限界を迎えてしまう。

 

(砂嵐の勢いが強すぎる……! このままじゃ近づけない……!)

 

 何とかしなければという思いはあるが、それ以上に吹き荒れる砂嵐が行く手を阻む。

 それでも諦めずに進もうとするハジメだったが、

 

『――まだ抗うか』

「え……?」

 

 どこからか声が聞こえた。

 だが、周囲に人がいる気配はない。

 幻聴だろうか? と思った時、吹き荒れていた砂嵐が晴れた。

 まるで台風の真っただ中にいるような感じだったのだが、一瞬にして無風になる。

 突如として消えた風圧にたたらを踏んだハジメは、周りをキョロキョロと見回した。

 そして見つけたのは、先ほどの男が倒れている姿ではなく、その男が向いていたであろう方向の上空だった。

 そこにいたのは――

 

「天、使……?」

 

 純白に輝く翼を広げた美しい女性がいた。

 彼女は空中に浮かびながらこちらを見下ろすように佇んでいる。

 ただ、その姿はどこか透けており、向こう側が薄らと見える。

 さらに、彼女の身体も淡く発光しており、この世の者ではないことを物語っていた。

 そんな彼女は、見上げるハジメの方ではなく、倒れている男に向かって話しかけるように口を開いた。

 その瞬間、またあの声が響いてきた。

 

『人の身でありながら、ここまでの力を有しているとは……さすがだな。だが、お前は私達に害をなす存在となった。故に、私はお前を処分しなければならない。……許せ』

 

 すると、女天使の右手が淡い緑色の輝きを放った。

 それは徐々に大きくなり、ついには大きな光の剣へと変化する。

 その光景を見たハジメは思わず息を飲み込んだ。

 何故なら、その光輝く大剣はあまりにも美しく、神々しいものだったからだ。

 そして、異世界に来てから魔力というものに触れ始めたからこそ分かる。

 

 あれは、文字通り桁が違うと。

 

『人間――可能性を体現した生物。いずれはこの星を飛び出し、宇宙さえも支配しかねない生命力の塊。だが、今は眠っていてもらうぞ。特に、お前は危険過ぎる。『可能性の体現』を一人の身で起こせるまでに成長してしまった。……安心しろ。苦痛は与えない。一瞬で終わる』

 

 女の天使がそう言った直後、凄まじい速度で振り下ろされた。

 あまりの速さにハジメの目では捉えられなかった。

 気が付いた時にはもう既に遅く、女の天使の握る光の剣によって、男は一刀両断されていた。

 

「あ――」

 

 瞬間、走馬灯に似たような感覚を覚えるハジメ。

 自分が死ぬということに対しての恐怖はないが、それでも男が殺されることが自分にとっても大切なものを無くしてしまうかもしれないという感覚に陥った。

 

 しかし、次の瞬間には男の姿が消えてしまった。

 まるで最初からいなかったかのように綺麗サッパリと。

 

(え?……なんで?)

 

 困惑していると、突然視界が青く染まった。

 

 あまりの光量に、ハジメは反射的に目を閉じる。

 暫くして光が収まると、そこには宇宙(ソラ)色の姿をした()()()がいた。

 

 肩甲骨から生える蒼い帯のようなもの。

 そして、炎のように揺らめく髪のようなもの。

 それは明らかに地球上には存在しないものであり、異質な姿だった。

 その姿を見たハジメは、直感する。

 

(あれ、さっきの人だ……)

 

 倒れていた人物が、視線の先にいる存在になったと。

 ハジメは混乱していた。

 先程まで確かに天使によって両断され、死んだはずの人が突如として姿を変えたのだ。

 いや、そもそも自分はあの時何を見ていたのかと。

 今までの常識から考えればあり得ないことだ。

 死んだ人間が生き返るなど。

 そんな彼女を置き去りに、事態は進んでいく。

 

『バカな……不死ならまだしも、我の一撃を受けて尚動けるとは……。いや待て。貴様……まさか、その身に宿す魔力量は何だ!?』

 

 女天使の問い掛けを無視し、目の前の存在は無言で右手を掲げる。

 すると、そこに一つの魔法陣が現れた。

 そこに込められている魔力の量は、とてもではないが今のハジメでは太刀打ち出来ないものだった。

 その膨大な力を前に、彼女は本能的な恐怖を抱く。

 もし、アレが自分に放たれたらどうなるか。

 想像しただけで足が震える。

 そして、彼女がそう思った直後、

 

『――『魔砲』』

 

 その魔法が放たれた。

 

 凄まじい轟音と共に極大の光線が発射される。

 その威力は絶大であり、周囲の空間ごと全てを薙ぎ払うような勢いがあった。

 

 次の瞬間、ハジメの視界は蒼白く塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「うわぁ!?」

 

 気がつくと、そこは気を失う前と変わらない洞窟の中。

 変わっているとするなら、真がいないことだろう。

 

 そして、自分の身体にも特に異変はない。

 痛みもなければ怪我もない。

 

 しかし、ハジメは全身に嫌な汗をかいている。

 

 まるで悪夢のような出来事だった。

 

 あんなものが現実にあっていいはずがない。

 けれど、実際にあったのだ。

  そんな実感が湧き上がる。

 だが……

 

(あれは一体なんなんだ? 幻覚とか夢なのは分かるけど、それにしてはリアル過ぎたし……)

 

 少なくとも、あれほどの力を持ってる存在はこの世界にはいないだろう。

 ならばあの光景は何なのか。

 答えが出ないまま、ハジメはその場に立ち尽くしていた。

 

 その体に、わずかばかりの変化を残して……。







ラストはどうしようか決めてるんだけど、道中とかはどうしようかが中途半端になってる……。

それと、一話と二話を書き直そうと思っています。
アドバイスがあれば、直接メッセージを送ってきてください!
この作品の質を高め素晴らしい作品にするために皆さんの協力をお待ちしております!




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取り残された者たちは




UA30,000回、ありがとうございます!

これからも本作をよろしくお願いします!





「さて、今後の方針というか、やるべきことを決めよう」

 

 ハジメが目覚めてから数時間後、二人は相談を始めた。

 まずは現状の確認。

 真の言葉に、ハジメは小さく首肯する。

 

「そうだね。目標もなければ行動できないから、賛成するよ。僕としてはやっぱり脱出が最優先にしたいんだけど……」

「それは無理そうだね。さっき、ここの上層に向かおうとしたんだけど、不可視の天井があるみたいで進めなかった。しかも、その先に行こうとすると体が勝手に引き返していくんだ。まるで見えない壁に押し戻されているように」

 

 そう告げる真の言葉に肩を落とすハジメ。

 やはりこの迷宮からは出られないらしい。

 では、当面の目的として何を目指すのか。

 

「まず、ハジメ。君は魔力の直接操作はできるかい?」

「直接操作……こんな感じ?」

 

 真の問いかけに、ハジメは意識を集中させてみる。

 そうすると、腕に血管のようなものが浮かび上がり、紅い魔力の光を放った。

 それをみた真は目を丸くした後、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 どうやら正解のようだ。

 ハジメの天職は錬成師。

 鉱物の組成を変えたり変形させる技能だ。

 故に、物を作ることに特化しているが、戦闘には向いていない天職とされている。

 

「でもさぁ……使い方によってはすっごい物ができるよね? 錬成師って」

 

 ハジメは改めて自分のステータスプレートを取り出し、そこに表示されている技能を確認する。

 

 

==================================

南雲ハジメ 17歳 女 レベル:8

天職:錬成師

筋力:100

体力:300

耐性:100

敏捷:200

魔力:300

魔耐:300

技能:錬成・魔力操作・胃酸強化・風爪・言語理解・■■

==================================

 

 

「うん……」

「メルド団長に匹敵するレベルまで成長したね」

 

 真の言う通り、現在のハジメのレベルは8でありながら、ステータスは平均して約200。

 彼らが知る中での最強は、人類最強と呼ばれているメルド団長で、レベル62にしてステータス平均は300前後。

 それに次ぐ強さを誇るのが勇者である天之河光輝で、レベル10にしてステータスはオール200。

 そんな彼等はハジメと違って戦闘系の天職ということもあって、ステータスは高いはずなのだが……

 

「魔物の影響が大きいね。おそらくだけど、僕達はステータスの数値はそこまで重要じゃないと思うよ」

 

 真の指摘は的確だった。

 確かに、今のハジメのレベルでも魔物の肉を食べて強靭な肉体を手に入れたことで、ステータスの値以上に強くなっているといえる。

 しかし、

 

「しばらくは、感覚のすり合わせ。それと、ハジメが使う武器の作成。最後に、戦闘技術の向上になるね。ビシビシ行くつもりだから、覚悟しなよ?」

「う、うん……。よろしくお願いします……」

 

 こうして、ハジメの強化訓練が始まるのであった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 場面変わって、奈落の底からハイリヒ王国王宮内。

 召喚者達に与えられた部屋の一室で、八重樫雫は、暗く沈んだ表情で未だに眠る親友を見つめていた。

 場面変わって、奈落の底からハイリヒ王国王宮内。

 召喚者達に与えられた部屋の一室で、八重樫雫は、暗く沈んだ表情で未だに眠る親友を見つめていた。

 あの日、迷宮で死闘と喪失を味わった日から既に五日が過ぎている。

 

 あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。

 とても、迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。

 

 それに、厳しくはあるが、こんな所で折れてしまっては困るのだ。

 致命的な障害が発生する前に、勇者一行のケアが必要だという判断もあった。

 

 雫は、王国に帰って来てからのことを思い出し、香織に早く目覚めて欲しいと思いながらも、同時に眠ったままで良かったとも思っていた。

 

 帰還を果たし2人の死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰も彼もが愕然としたものの、それが勇者ではないと知ると安堵の吐息を漏らしたのだ。

 

 国王やイシュタルですら同じだった。

 強力な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬこと等あってはならないこと。

 迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかと不安が広がっては困るのだ。

 神の使徒たる勇者一行は無敵でなければならないのだから。

 

 だが、国王やイシュタルはまだ分別のある方だっただろう。

 中には悪し様に2人を罵る者までいたのだ。

 

 もちろん、公の場で発言したのではなく、物陰でこそこそと貴族同士の世間話という感じではあるが。

 やれ死んだのが無能でよかっただの、神の使徒でありながら役立たずなど死んで当然だの、それはもう好き放題に貶していた。

 まさに、死人に鞭打つ行為に、雫は憤激に駆られて何度も手が出そうになった。

 

 実際、正義感の強い光輝が真っ先に怒らなければ飛びかかっていてもおかしくなかった。

 光輝が激しく抗議したことで国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断したのか、2人を罵った人物達は処分を受けたようだが……

 

 逆に、光輝は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、光輝の株が上がっただけで、2人は勇者の手を煩わせただけの無能であるという評価は覆らなかった。

 

 あの時、自分達を救ったのは紛れもなく、勇者も歯が立たなかった化け物をたった一人で食い止め続けたハジメだというのに。

 そして、

 

『皆を頼んだぞ』

『あ――』

 

 そんな彼女を助けるために奈落の底へ飛び込んだ真のおかげで、今は冷静に慣れているというのに。

 

 あの出来事の後では、普段通りに話せる自信がなかったからだ。

 そうやって、ベッド脇の椅子に座っていると、

 

「…………雫」

 

 ……ふいに声をかけられた。

 振り向くとそこには光輝がいた。

 この数日間ずっと思い詰めたような難しい顔をしていたのだが、今日は一層険しい。

 まるで何かを決意したかのような顔だ。

 その様子に何事かと首を傾げながら声をかける。

 すると光輝はいきなり頭を下げた。

 それはもう深々と。

 

「すまない……俺がもう少し周りを見れていたら……」

「いきなり何よ……」

「あの場で混乱していた皆を纏め上げられるのは俺だった。……なのに、「本当にできるのか?」……そうためらってしまったせいで行動が遅れてしまった。その判断の遅れが、真と南雲さんを死なせてしまった。俺が、殺したも同然なんだ!」

 

 昔とは見る影もないほど変わった光輝の様子に、雫は目を丸くすると同時に納得したように小さく笑みを浮かべた。

 昔のような、現実を見ない子供じみた精神ではなく、未熟ながらも大人になったということだろう。

 そんな成長を嬉しく思う反面、今は少しだけ煩わしく感じる。

 

「あのね光輝。確かにあんな絶望的な状況とはいえ、真が死んだと決めつけるのは早計だと思うわ。第一、あの真がそう簡単に死ぬと思うかしら?」

 

 雫の言葉を聞いて、光輝はハッとしたような顔になる。

 そしてすぐに表情を引き締めると力強く言った。

 

「そうだよな……あいつは絶対生きている。死んでなんかいないさ! だから、絶対に見つけ出してみせるんだ! 生きていてくれているのならもう一度会えるはずだ! そしたら謝ろう! 今度はちゃんと守れるようになるから! 今度こそ間違えないように強くなるから!」

「…………そうね。なら私も強くならないと」

「ああ!」

 

 その言葉を聞いた雫は微笑むと優しく告げる。

 すると光輝は元気よく返事をした。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「おとうさん……」

 

 場所が変わって、別の一室。

 少女――白百合は、ベッドの上で落ち込んでいた。

 自分がもっとしっかりしていればと後悔しているのだ。

 もともと計画していた作戦ならば、真だけが奈落の底に落ちる予定だった。

 しかし、警戒していなかった第三者の攻撃により、掲示板の者達が言っていたように南雲ハジメが奈落へと落ちてしまったのである。

 それを追って、真も奈落へと落ちて行ってしまった。

 

 出来ることならば、白百合は真と一緒に落ちたかった。

 真の隣にいたいと思った。

 

 でも、それは真に禁じられている。

 真の優しさから出た言葉だとしても、白百合には辛いものだった。

 もし一緒に落ちていたら――。

 

 そんなたらればを考えていても仕方はない。

 真の願いのためにも、白百合は残るしかなかった。

 

 だから白百合は我慢して真を見送った。

 それでも心は張り裂けそうなくらい痛くて、悲しかった。

 だから白百合は泣いた。

 泣いて泣いて泣き続けた。

 そうすることで少しでも心の痛みを和らげようとしたのかもしれない。

 あるいは、何もできなかった自分の無力さを嘆いていたのかもしれない。

 ただ一つ言えることは、白百合は今も涙を流し続けているということだ。

 そんな時、部屋の扉があいた。

 

「お~お~、ものの見事に号泣してら」

「……なんのようですか、しみずさん」

「なに、大好きなパパと離れ離れになって寂しいだろうと思って慰めに来たんだよ。ほれ、飴やるから舐めとけ。涙が止まるまでずっと舐めてていいぞ?」

 

 部屋に入ってきたのは清水幸利だった。

 幸利は白百合に近づくと、ポケットの中からアメ玉を取り出した。

 睨みつけるような目をしながら、飴玉を受け取った白百合は、無言で飴玉をなめ始める。

 

「…………それで、なんのようですか?」

「お前さんがあまりにもうじうじしてるからさ、俺なりの励ましの言葉をかけに来てやったのよ。まぁ俺如きじゃあ、たいした言葉をかけられないけどな」

 

 白百合は答えなかった。

 今口を開けば嗚咽が漏れてしまうからだ。

 幸利は気にせず話し続ける。

 

「お前は、真によって生み出された人造生命体。この意味が分かるか? つまり、真がいなければ生まれてこなかった存在なんだぜ。お前さんのパパは偉大なんだ。そんな偉大な男の娘に生まれたことを誇ればいいんじゃねーかな?」

 

 そう言いながら、清水はニヤリと笑った。

 

 確かに、真がいなければ白百合は存在すらしていない。

 そして、その真はこことは違う場所にいるのだ。

 それは紛れもない事実であり、否定しようのない真実だ。

 だが、白百合はその言葉を素直には受け入れられなかった。

 なぜなら――

 

――お父さん()がいない世界で生きていくのは辛い。

 

 真がいない世界に生きる価値なんてない。

 白百合にとって、真のいない世界とはそういうものだった。

 しかし、そんなこと口に出すわけにもいかない。

 清水幸利はどこまでも善意で言っているのだから。

 それに、仮にここで幸利に当り散らしたところで何の意味も無い。

 むしろ、より一層惨めになるだけだ。

 

「…………お前さんはな、まだガキだ。それこそ、俺達以上にな。年齢の話じゃない。それは分かってるだろ?もっと単純に考えれば良い。この世界は素晴らしい! パパのおかげ! そうだろ?」

 

 清水幸利の言う通りだ。

 白百合の世界は真のおかげで成り立っていると言っても良い。

 もし真がいなかったら、白百合はここに存在しなかっただろう。

 でも、だからこそ、白百合は苦しかった。

 

――お父さんは私の全てなのに!

――どうして私を置いて行ってしまったの!?

――皆を助けるため!?

――私を置いてけぼりにしてもやりたいことなの!?

 

 そんな想いが胸の中で渦巻く。

 白百合は泣き出したい衝動を必死に抑え込んだ。

 泣いてしまった方が楽かもしれないが、それでは何も解決しないと分かっているからだ。

 清水幸利はそんな白百合を見て目を細めた。

 そして――

 

――パンッ!!

 

 突然の衝撃に白百合は目を見開いた。

 

「……え?」

「お前だけがあいつのことを大切に思ってるとでも思ったのか? 残念だったな」

 

 清水幸利は白百合の両頬を挟み込むように叩いた。

 その痛みと驚きで白百合の涙は完全に引っ込んでしまう。

 清水幸利はニカッと笑いかけた。

 

「お前とは理由が違うがな、あいつには俺も救われてんだよ。まぁ、俺の場合はお前みたいに複雑なもんじゃないけどよ。異世界に召喚されるとかいうバカみたいな話を勝手にされて、あれよあれよという間に仲間にされていた。しかも、周りはチート持ちばかりになるからって阿保みたいな特訓をさせられる。そんなやつを、こっちの意思を無視して好き放題やられたんだぜ? 正直言ってクソッタレと思ったね。でもな、俺が一番嫌だったことは自分が死ぬことだった。考えてもみろ。誰が好き好んで死にたがる? そんことのやれるのは、根っからのバカか、どこぞの正義の味方ぐらいだろ」

 

 清水幸利の言葉はもっともであり、白百合も理解できる内容であった。

 しかし、それが何だというのだろうか。

 今の白百合にとって大切なのは父親である真だけだ。

 たとえ相手が同じ境遇であっても譲れないものがある。

 だから言い返そうとしたのだが……

 

「はい少し黙ってような~」

「むぐっ……」

 

 清水幸利は有無を言わさず白百合の口元を押さえた。

 そしてそのままの状態で言葉を続ける。

 

「俺だけじゃねぇぞ。クラスの有名なやつらは全員がそうだろうさ。俺たちは勇者なんて呼ばれてるが、それは結局のところ肩書きに過ぎない。実際に戦えるのはほんの一握りの連中だけで、残りの大半の奴らはただの一般人も同然なんだ。そんな奴らが死ぬことを……」

 

 そこでいったん区切り、

 

「真は望んじゃいない。あいつが悲しむんだ。お前さんはそんなこと嫌だろう?」

「!」

 

 清水幸利の問いかけに白百合はコクコクと何度も首を縦に振った。

 すると清水幸利は白百合の口から手を離す。

 解放された白百合は清水幸利の目を見た。

 彼の瞳からは強い意思を感じることができた。

 

「あのバカはそういう意味で言ったわけじゃないと思うが、それでも最善のために動いてるんだ。そんなあいつでもできない事、届かないものがある。それを俺達が補うんだ。そのためにも俺は強くなる必要がある」

 

 清水幸利は真剣な表情で語ると拳を強く握った。

 その手は震えており、彼もまた恐怖を感じているのだと分かった。

 白百合はその姿を見て思ったのだ。

 自分も強くなりたいと。

 真の背中を守るのではなく一緒に戦いたいと思ったのだった。

 

「しみずさん……あしたからとっくんです。かくごしてください」

「はっ! やってやろうじゃねぇの!」

 

 こうして、真の認知しないところで清水幸利と白百合はライバルになった。

 

 これが後にどう影響を及ぼすのが、

 

 今はまだ、誰も知らない。







恵里の描写を入れなかったのはわざとです。




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