海外製の潜水艦なったけど周りが危険過ぎて草も生えぬ (TS大好き侍)
しおりを挟む

遭難と迷走の始まり

「さて、マジでどうするか」

 

 どうも雲一つない快晴の下────ってなんか天気雨降ってきたな……あ、晴れた。

 まま、それは良いとしてそんな空の下で生きている人間達、はじめまして。お察しの通り俺だ、転生者だ! 最期の記憶はブクブクと足がつって海に沈んだのが最後だゾッ! 

 その影響で海に入るのが若干怖い。まま、それはいいとして今の現状だけど────直感だが俺は何かの擬人化、多分潜水艦が何かのキャラになっちまってると思う。

 根拠は二つ。見覚えのある小さな生き物である妖精さんが視界に写り、なんならジェスチャーであるがコミュニケーションが取れる事とはもう一つの生前? の記憶が多少あることだ。

 

 擬人化ってだけなら他にも候補もあったのだが今現在、俺の手に乗ってお昼寝してる子のデザインを見るに多分艦これと言うゲームの世界に転生したと思う。ヤバイね、世界観不明だけど敵味方にハッキリ陣営が分かれてるんだろけど人類ヤバスなのは確かだ。

 んで、そうなると問題は俺の今の身体だ。性転換状態で転生した事はこの際諦めるとして普通の女の子だったら問題なかったのだが、生憎転生したのは艦娘。つまりは俺の少々苦手な海に出て戦う存在になっちまってる。艦種は若干残ってるもう一つの生前? の記憶を見るに潜水艦、それもアメリカ製のガトー級と来た。ヤベーよ。てか、競泳水着に白のホットパンツってエチチ過ぎんよぉ〜! アメリカの潜水艦は化け物……ってか性癖のデパートか!

 

ってのは置いておいて現在地が外国なら問題なかったけど何故か分かる、ここは日本だ。つまりはアメリカ側である俺にとっては敵陣地だよ此処ーッ! 

 

「ウガ──!!! shit! gameだと過去の出来事として割り切ってたみたいだけどここはリアルだ。そう人生はeasyにはいかねぇーよ!」

 

 ってか、アメリカ艦と自覚した影響か意図せず、喋る言語に英語モドキが入りやがる。俺ってば純日本人なのにこんなんじゃエセ外国人じゃんヨー。せめて日本艦が良かった……

 

「ハァ……ってか此処どこだろ、周りを見るにforest────ッゴホン! 森林っぽいけど」

 

 上陸するは一面のフォレスト、つまりは森林が目の前に広がる砂浜。高高く一つの旗が翻るその場所は多分砲撃か何かを受け攻められでもしたんだろう、木々は一部薙ぎ倒されて砂浜には焼き焦げた後がくっきり残っており色濃く戦闘痕が残っていた。だが不幸中の幸いな事にパッと見て遺体などは無く、元一般人である俺にとって助かった。

 でも変だ。どう見ても浜辺にこんなにも戦闘痕が多く残っているって事は大規模な攻撃を何かが受けたと言う証拠だ。なのに1人も仏さんが無いだなんて……どう考えても不自然だ。

 

「ま、それはオレ……あたいには関係ない事か。一体何と戦ってたんだか」

 

 色々と謎な事は多いが一つだけハッキリしてる事もある。それは攻められた陣営は惨敗している事。そして、負けた陣営は既に撤退を決め込んでいる事だ。だってあの翻る旗を見てたら分かるだろ、銃痕なのか真っ黒に黒焦げ穴だらけの日の本の旗を見ていたらな。

 

 俺は色々と探索しながら森林の奥へと進んだ。途中薙ぎ倒された木々が邪魔だったが、そこは流石は艦娘と言ったところだろう。9気筒6,500馬力ディーゼルエンジン 4基の出力は伊達では無く、人間だった頃には重機が必要なほどの大木を軽々と持ち上げられた。いやー、自分でやった事ながら正直引いたね。こんな筋力を使って本気で人を殴ったらと考えたらザクロになる事が軽く想像できるからさ。あ、あと艤装なんかも役立った。俺の持ってるメインの艤装は魚雷管を備えた艦首型のガンブレード。見た目では割と重そうに見える……ってか事実重いそれを何が無くブンブンと軽く振ったらスパスパでは無くバキバキボキボキと擬音が聞こえてきそうなほど音を出して木々が倒れてくるもんだからまたも引いたね。まぁその後、木々をぶった斬っていく感覚が梱包材のプチプチを倒す感覚と似ているのに気付いて途中から楽しくなったたわけだが。

 

 そんな感じで進んでいったら途中からか崩れてはいるが人工物が現れはじめ、奥に進むにつれて多くなってきた。

 

「崩れた塹壕に作りかけの堀、ぶっ壊れた野戦砲……やっぱりかなり大規模な戦いがあったんだろうな」

 

 落ちている鉄屑やスクラップ、穴なんかに割と気を付けえっちらこっちら進むと森林の切り目が見えて来た。多分出口か何かだろう。

 そんでそこから見えたのは────

 

「フュー、ビンゴ」

 

 

 灰色のコンクリに煉瓦造りの大きな建物。自然が作り出したとは到底思えない防波堤に浮かぶ荷物を満載に積んだ船を見れば一目瞭然だろう。

 

「とりあえずは雨風は凌そうだな」

 

 ────ボロボロで壊滅状態ではあるものの、俺がたどり着いたのはまさしく港だった。

 

※※※

 

【第一二百四補給港】

 

「第……何だこれ、読めねぇ」

 

 立て掛けられた看板。恐らくこの港を指し示した看板だろう木の板に書かれた外国語言葉に苦労しながらも、ここが補給港だと分かるとまず俺は物資の収集とキャンプの確保に走った。

 

 建物そのものは最近放棄されたらしく、室内にはうっすらと埃が溜まる程度。だが、所々攻撃された痕跡が残っていてあちこちが崩れていたり、爆破されたかの如く大穴が空いたりとまるで廃墟のよう……ってか事実廃墟なんだけど。

 そんな中でも救いはあるようで1番の重要区画である修理用の入居場と名の付いた風呂と様々な装備などが保管されてるだろう工廠。その二箇所は被害が軽微であり、俺の艤装に宿っている妖精さんの協力の下ではあるが俺でも修理可能な被害だった事だ。んで、その事を確認すると俺は一旦唯一屋根の残っている建物である工廠を拠点とし腰を落ち着けた。

工廠の規模は小さい。工廠ってか物置に工場をくっ付けた感じの建物で建造は建造ドックが無い為に不可。

その代わりに床に転がる風化したガラクタをいくらか片付ければスペースは腐るほど確保出来るだろうから生活拠点にするにはもってこいな場所だな。……かなり油臭いが。あともう一つ比較的無事だった風呂だが……流石にあそこはダメだ。 機能こそ無事だけど壁や屋根が吹っ飛び、開放感たっぷりの露天風呂状態になってるから流石にあそこでは寝泊まりしたくないよ。

 

衣食住のうち住むところは確保出来た。お次は食、つまりは物資だ。人間、艦娘限らず食わなきゃ生きていけないからね。あと衣は物資の中にあるだろう。

 港には何隻か補給船と思わしき船が沈んでいた。だから俺は断腸の思いでだが、沈んだ中からサルベージさえ出来れば当分の物資には困らない……と、思っていたんだがなぁ。その考えは甘かった。

 

「えっと生理用品に救急バック、缶詰、真水加えて弾薬と燃料────」

 

 ここまでは普通、コンテナ船の表面に積まれた物資は通常の補給物資だ。けれど奥に行くほど物が変わってくる。

 

「────酒、謎の白いお薬にGOLD。それにプラスして高そうな酒! 酒ッ!! 酒ェッ!!!」

 

 なんと言うかその明らかに横流し品や軍規違反と思われる物資がワンサカ出てきた。あちゃー、ヤベェもん見つけちまったなぁ。まだ一隻だけなら嗜好品が多い補給船かな? 程度で済んでたけどまさかサルベージした5隻中、4隻が嗜好品満載の船とか言い訳出来ねぇな。てか、こんなに堂々と積まれてるって事は港絡みでの犯行だったのかな? 自分には関係ない事だけども単純に興味が湧くなぁ。執務室がある2階、まだ未探索の場所だからついでに探って来るか。

 

 そんな感じで俺の1日目が終了する。停止した若干油臭い工場にて唯一見つけた寝袋に身を包みながら俺は明日の探索に、想いを馳せるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

潜水艦の日記【1】

 ・二日目

 今日は鎮守府だと思われる建物の2階を探索した。今の探索で今記入している新品状態のノートや筆記用具なども発見できた為に二日目だが日記のようなものを付けようと思う。

 

 2階はやはり高所にある影響か被害が最も酷く、昨日探索した一階ほどの成果は得られなかった。しかし執務室は比較的無事であり、窓が大きくなり屋根が吹っ飛んで綺麗な青空が見える程度だった為に探索の成果は大きかった。ついでな気持ちで探していた不正の証拠を示す、裏帳簿のような物も発見出来たからな。そして一番大きかったのがここら一帯を示した海図だ。詳細はまだ分からないが、自分の居場所ぐらいは把握できると信じている。

 

 今日の妖精さんはバレエを踊っていた。

 

 ・三日目

 

 今日はサバイバルの基本である火起こしをした。

 ライターなどの火起こしは無い為に原始的なそれこそよく乾かせた木片と木片とを擦り合わせ、摩擦熱による方法だがあたいはやった。結論を先に言うとその作業すっごく大変だった。火はなかなか着かず、火種に引火すらしない。試行錯誤の末、結局火が安定したのは半日以上も時間がだった後。自分で起こした火を見て達成感と満足感があったのだが、結局今日やるはずだった昨日見つけた海図を分析する事ができなかったのでちょっとションボリ。

 今日はもう疲労で眠く、腕もヘトヘトで疲れ切っているので明日やろうと思う。

 

 今日の妖精さんはフラミンゴを舞っていた。可愛い。

 

 ・4日目

 

 飲料水を作るにはフィルターが必要。

 

 下から布、砂利、砂、小石、灰を容器に投入し濾過する。

 

 その後飲む際には熱処理が必要。

 

 今日は妖精をぶん投げた。

 

 ・八日目

 

 目先の問題を片付けたので久しぶりにこのノートにあった事を書き込もうと思う。

 

 事の始まりは五日目の日の出来事。その日の俺はカンカンカンっと倉庫内にあった風化したガラクタを解体して少しでも資材の足しにしようと考えていた。どうせ放置されて風化したガラクタだし、誰の迷惑にもないだろうと考えていた頃のあたしを殴りたいよ、全く。

 その辺に転がっていたガラクタ、アレは元は艤装や装備だったらしく解体した途端、装備に宿っていた妖精が飛び出して来てさぁー大変。連鎖的に解体してない装備の子まで飛び出て来ててんやわんや。

 なんとか沈め、追い出した後はまるで空き巣にあったかのように荒れまくっていたのだ。一番酷いのが食糧などを備蓄していた場所。一応の考えで備蓄量を確かめ驚愕。なんと蓄えていた飲料水や食料がほぼほぼ全滅していたのだ。

 

 食料に関しては乾パンなどが残っていたが飲料水は完全に枯渇している。その結果に焦ったあたいは予定を繰り上げて急遽水を求めて水源を求め探索。結果、水源である井戸の跡地を見つけたが水量は十分あったが問題は水質。泥が何かで汚染でもされてるのだろう、匂いもひどく色も濁ってて飲めたものでは無かった。だからあたいは鎮守府跡地に残っていた文献を片っ端から読んで濾過装置の作り方を調べ尽くし、数十の歳月をかけて制作した。

 久しぶりに妖精と飲んだ澄み切った飲料水は、美味すぎて三人して泣いた。

 

 

 

 ・九日目

 

 今日は言葉のお勉強だ。どうやら今の私は日本語を外国語、英語などの外国語を日本語と認識しているらしい。

 事の始まりを話すが濾過装置の作り方を調べ出すのに際し、あたいは残っていた文献を片っ端から調べ尽くしたのは記憶に新しいと思う。だが、その際に読んだ記録がどれもこれも内容が解読不可能な言語で書かれていたのだ。それで唯一読めたのが、ゴミ捨て場に残っていた外国語の振り仮名が付いてある古い英語の教科のみと言う。それで日本語が読めない今の状態を認識したあたいはコレはヤバいと思い、今まさに勉強の真っ最中って訳だ。幸い単語や文字が理解出来なくても、何故か文面は理解出来る。コレを生かしてこの教科書を活用しつつ、日本語を覚えよう。

 

 今日の妖精さんは前にぶん投げられた事が気に入ったのか、また投げろと2人揃ってせがんで来た。危ないのでお手玉の要領で回してやった。

 

 ・とうかめ

 

 きょうはあたらしいふぐをつくった。ようせいさんのおかげでいっぱいふくがつぐれだ。うれちかった。

 

 ・十一日目

 

 昨日は覚えたばかりの日本語を使って書いてみた。多分意味は通ってると思う。一応全ては書けてないと思うのです改めて昨日あった事と今日あった事をまとめて書くとしよう。

 これは昨日気付いた事なんだが、あたいのこの服……って言うか水着なんだがこれまでは最初に着てた一着を着回してたんだよ。水着だから風呂に入るのと同時に洗い、上がるまでに乾かしてればなんとかなってたんだが正直言うと辛くなって来てな。それで妖精さんにそこの所を相談した所、工場にあった恐らく装備作成用の機械を使い、昨日回収した鋼材を使って作ってくれたんだよ、新しいのを。それも二着! 

 正直鋼材がどう変化して今あたいが着ている水着の様な姿へと生まれ変わったかすっごく気になるがあの妖精さんがやった事だ、気にしない方が無難だろ。

 そんでお次は今日やった事なんだが、今日は沖まで行って魚を取って来た。サルベージしたコンテナの中にまだ使えるゴムボートがあったのでそれを使い、一日中釣りを楽しんだ。そして魚釣りの結果は大量の一言。

 妖精達と一緒にお魚パーティを楽しんだ。欲を言えば醤油が欲しかったか、な。

 

 ・十二日目

 

 今日は水に対する恐怖心を克服しようと思う。

 サルベージしてる時に気付いたんだが、どうやら俺は艦娘としての潜航能力を使わずに水へと潜る事ができないらしい。これから先、燃料が枯渇して海を生身で漂流する事も考慮して生活しないといけない為にこの欠点は致命的だ。だから今日はこれからリハビリだ。がんばるぞー! 

 

 ・十三日目

 

 みずこわい

 

 ・十四日目

 

 この島? に上陸して今日で二週間。日本語の解読と会得によって回収した海図を読み取り、分析した結果。堂々この島の詳細が分かって来た。

 この場所はフィリピン海にある孤島の一つであり、パプアニューギニアと日本とを繋ぐ補給路の中継地だったらしい。あの大量に港で沈んでいた補給船達や設備がほぼ揃っているのに艦娘用の宿舎が見当たらなかったのにも説明が付く。恐らくだがこの艦娘用の設備は本来、警備として輸送船に同行、ここへ立ち寄った子達用だったのだろう。警備の途中襲撃により傷付いた身体の再生、壊れた装備を新調して艤装の修理を行っていたとしたら色々と納得できる。

 でも、そうすると一つ疑問だな。あの砂浜や目の前の港にも見られる色濃く残る戦闘痕。アレだけの戦闘を行ったはずならば、一つぐらい死体が出てきてもおかしくないはずだ。なのに一体も見つける事ができなかったなんて……不自然過ぎるよなぁ。

 

 今日は妖精がお手玉をせがんで来たのでやってあげた。多分気に入ったのだろう。

 

 あと昨日の事は記憶から消した。つまりアレだ、燃料が枯渇しないよう念入りに計画しようそうしよう。急いでドラム缶見つけなきゃ。

 

 ・十五日目

 

 今日は沖に釣りに出かけて来ようと思う。夜釣りも行う予定なので今日の分は先に────

 

※※※

 

「先に書いておくっと……ニッキーにはこれで良いな」

 

 気まぐれに始めた日記だったけれど、これはやって正解だったな。これまでやって来た事を振り返れるのはありがたいな。既に日記と化しているノートを防水シートへ入れ込み、魚を入れる為に持って行くアタッシュケースへ突っ込んであたいはよっこいしょてな具合で立ち上がる。

 

「さてさて、今日のフィッシングではどんな獲物が釣れるかな?」

 

 正直上手く喋れてるかは不明だが日本語を口ずさみつつ、釣り竿を持とうとした瞬間────何か聞こえた。

 

 

"ピコーン"

 

「ッ!」

 

 特徴的な湾曲しているかのような音、恐らくはアクティブソナーの類だ。

 

「妖精さん、カモーン!」

 

 手招きで遊んでいた妖精さんを艤装に乗せると工房を飛び出した俺は海へと飛び込み即座に潜航、発信源へと舵を着る。理由? そんなのは決まっている、正体を確かめる為だ。

 水上に建設されてある工廠にいて、パッシブソナーを切っていたあたいに聞こえるって事はかなりの出力の物でぶっ放したか、かなりの近海でぶっ放したかのどちらかしかない。この世界の海は言わずもがな危険だ。まだ遭遇した事は無いがソナーをブッパしたのが敵である深海棲艦である可能性もある。だからこそ、俺はあたい自身の安全を確保する為にその正体を確かめなきゃいけないのさ。

 

「ガトークラス、スキャンプッ抜錨するッ! Weigh anchor!!!」

 

 青く広い海の中。静粛に包まれた空間にてあたいは遥か彼方から聞こえる微細な音を拾い続けながら潜航航行を続け、発信源へと向かうのだった。




応援があったら続く


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘密裏の遭遇【水上】(前半)

出来た。応援コメントいっぱいで驚いたぞ同志諸君よ!
我、応援コメントがある限り書き続ける所存。これからも応援よろしく!あとコメント返信はちょいと待っててくだされ、書きたい事を書いているので。


「レーダー正面、11時方向に艦アリ! 数三!」

「左舷見張り台員より報告。敵艦を双眼鏡より視認。艦種、重巡2、戦艦と思わしき艦影1。真っ直ぐに本艦の方へと迫りつつあります」

「この濃い霧の中よく見つけられたな……流石だ。ソナー、アクティブよーい。ここは潜水艦の目撃報告が多かった海域だ、可能性を消しておきたい」

「了解艦長、ピンガーよーい! 撃て」

「対潜システム起動ヨーソロー……って敵艦影見られず、潜水艦の影形見えません」

「艦長、護衛より出撃まだかと催促が来ているのですが……」

「オイオイ、それは困るな。彼女達に関する云々は俺が決めれる事じゃねぇってのによぉ全く……最近の若い子ってのはどうしてこーも、血の気の多い子が多いかね」

 

 海上に浮かぶ一隻の船。揚陸艦にも似た形状をしたその船では今まさに、戦闘状態へと移りつつあった。そしてその船のブリッチにて、内線を手に取り艦長席に腰掛ける初老の男が振り向いて、後ろに立つ真っ白い軍服に身を包んだまだ20台にも満たないであろう青年へと話しかける。

 

「それで、提督殿。あの子達を出していいので?」

 

 声色には若干だがふざけてるかのような明るさがあった。しかし、その彼へと向ける目は真剣そのもの。その明るさを馬鹿にできる様な雰囲気では到底ない。そんな視線を知ってか知らずか青年は受け入れ、答えを出す。

 

「頼む。うちの水雷戦隊を出してくれ」

 

 彼の答えを聞くと艦長は正面へと座り直し、内線へとブリッチクルーへと指示を飛ばす。

 

「操舵、ダウントリム最大、機関前速3分の1。戦術、格納庫注水始め。ハッチ開け、出撃準備開始」

 

「操舵了解、ダウントリム最大、機関前速3分の1ヨーソロー」

【戦術了解、格納庫注水作業始め。ハッチ解放、強制注水!】

 

 船が大きく前へと傾くが、同時に重厚なハッチが開かれ海水が勢い良く入り始めるとそれは直様元へと戻る。その直後だろう、開かれたハッチから2本の棒状の物が飛び出しその異様さを引き立てていた。

 

「渇水安定、セット完了」

 

「全艦発艦ッ!」

 

 直後、火花を散らせながら影が飛び出して来た。それは女の子。その小柄な体型に不釣り合いな装備を身に付けた少女であった。その少女は飛び出るや否や水の上へと着地、まるで水上をスケート場かの如く船の進む速度より速く滑っていた。

 

「1番睦月発艦完了。続いて2番夕立発艦ヨロシ」

【ポイ!】

「2番発艦ッ!」

 

 次々と吐き出されるかの如く飛び出して来る少女達。その子達に例外はなく、水上を滑り陣形を組む。そして最後の子の番がやって来た。

 

「5番電の発艦確認! ラスト旗艦阿武隈、準備はヨロシ?」

【えっとあのー、質問なんですが何で毎回こんな無駄な手順踏む────】

「こちら艦長、ロマンだからだ。戦術、阿武隈強制発艦開始」

【了解、阿武隈を強制発艦させます】

【ちょ、えぇぇ!?】

 

 まるで首を斬るかの如くジェスチャーに答える様に、悲鳴と共に船から吐き出された最後の旗艦。

 後にその場にいた提督は語った。その時のブリッチクルーはみんな清々しいほどいい笑顔で中指を揃って立てていたと。

 ……まぁ、アレだ。野暮な事は聞いちゃいけねぇって事だなっと。

 吐き出された彼女は特徴的な金色の綺麗な髪を靡かせながら、思わす涙を流す。何故私だけこんな扱いなのかっと、心の中で叫びながら。こうして、阿武隈は先に発艦した少女達を率いて戦場へ向かう。その目的は一つ、自分達の帰る場所を守る為に……

 

※※※

 

「全艦ランダム回避開始ぃぃぃぃ! あわわわ」

 

 戦闘は発艦後直ぐに始まった。元々戦艦と思われる敵艦の射程内だった様で、発艦後直ぐに水雷戦隊は砲撃を受けた。次々と撃ち出される砲弾が海面へ着弾すると、耳を裂くかの如く大音量の爆裂音と共に大きな水柱が上がる。威力はやはり絶大、しかしそのおかげで拡散も得られる。この遠距離から狙撃してくるという事は戦艦という証明、しかしそれ故に彼女達は気を引き締めるしかない。搭載されている主砲の威力には絶対的な質量の暴力が宿っている、直撃どころか至近弾でも被害は免れないだろう。それにこの霧の中で割と正確に砲弾を撃ち込んでくる事から恐らく観測機が飛んでいる。対空警戒をしながら水雷戦隊の面々は奴が極めて危険な存在だと感じ取り回避運動を続けた。

 

 数十分、その状態が続いた頃だろうか。避けながらも敵艦への接近が出来ていたおかげか、彼女達の中で水上レーダーを装備していた電が敵艦を視認範囲に捉えた。

 

「敵艦見ユ、なのです!」

 

 そして、それによって敵艦隊の編成も判明。即座に全艦へと情報共有される。そして、その情報に一度度肝抜かれる事となる。

 

「電ちゃん、これってほんと?」

 

「ハイなのです。信じられない事ですが……」

 

 敵旗艦はやはり戦艦であった。しかしただの戦艦ではない。戦艦タ級と呼ばれる強力な艦であった。もちろん阿武隈達も戦艦を相手した事も、そして勝利した事もある。だが、今回の相手は話が違う。戦艦タ級と言うのは彼女達が相手してきた戦艦達とは比べ物にならないほどに強力な相手。

 公式記録では過去数度会敵し、大本営が運用する第一主力艦隊を数段殲滅せしめた事もあるほどだ。そして強力な艦には強力な随伴艦もいる訳であり、随伴する2隻の重巡洋艦は揃いも揃って黄金の炎を瞳に宿す。つまりは最上位個体であるフラグシップ級を指し示していた。

 敵艦は揃って主力級の戦力。対して阿武隈率いる水雷戦隊の戦力は比べるまでもなく劣勢であり、本来の戦闘ならば鎮守府へと撤退する事が望ましい。だが、今回の場合そうはいかない。今回の結果によっては日本の未来が決まるかもしれない、重大な任務だからだ。今回の任務の目的、再組織化される佐世保港へとある重要人物を送り届ける事にある。それ故に今回の任務では別派閥に妨害されない特別な航路を使い目的地を目指し、旧時代の資産である特務艦まで引っ張り出して鼠輸送かの如く行動している。

 だからこそ、彼女達の中で撤退の2文字は存在しなかった。睦月は迫り来る恐怖に身震いし、夕立は死期を悟り、江風は遺言書を握りしめ、朝潮は自身の事よりも泣き出す電に向かって声をかけ続ける。

 そんな状態であっても彼女達に撤退は無い。任務の完封こそがお国の為、人類の未来の為、そう信じて涙を流し心の折れそうな気持ちを奮い立たせた阿武隈は指示を飛ばした。

 

「砲雷撃戦よーい!」

 

 その声に最初見せていたオドオドしく臆病な性格は感じられない。ただ一つ感じられるのは、自身の任務を全うする1人の軍人としての意思のみであった。

 

「ポイ!」

「にゃしー!」

「お、おしゃッ! 江風様がやってやらぁ!」

「了解です! ほら、電さんも頑張って」

「な、なのです!」

 

 その声に鼓舞され、それぞれ自身の持つ獲物を迫り来る絶望へと向ける。

 引き鉄へと指を掛け、敵艦の動きを予測して照準し旗艦からの指示を待った。

 

「よーい!」

 

 陣形は単縦陣。相手も単純であり、同行戦の形となったこの戦い、勝敗を分ける要因は────

 

「撃てぇ!」

 

 ただ単純に個々の技量と単純なる火力、そして運なんだろう。

 

 ほぼ同時に双方の砲塔から噴き出す火花。それぞれの思いを乗せて、砲弾は敵を撃ち倒さんと放たれるのであった。

 

 




【熟練度】
・阿武隈(Lv35)
・睦月(Lv29)
・夕立(Lv28)
・江風(Lv29)
・朝潮(Lv28)
・電(Lv26)

この世界の艦娘達の平均レベルは20程度です。
最高レベルである大本営の総旗艦でもレベル45なので戦艦タ級と言えどかなりの脅威となります。この世界において電探などの艦娘に装備できるレーダーは貴重な物なので、それが装備され平均以上の熟練度を誇るこの艦隊は人類側からするとかなりのエリートな艦隊となります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘密裏の遭遇【水上】(後半)

誤字などを見付けたら遠慮無く修正しちゃって大丈夫です! ってか自分じゃ見つける事が出来ないからお願いします。


「ダメ! このままじゃ────」

 

 ────希望が失われてしまう。

 

 戦闘が開始して既に1時間。阿武隈率いる水雷戦隊は既に壊滅状態だった。

 

 まずは開幕あった砲撃戦。その第一派にて朝潮が重巡の砲撃が直撃、中破。そして阿武隈、睦月が戦艦の至近弾を受け小破という結果となった。敵に対しては数発、砲撃が直撃した。しかし流石は戦艦と重巡洋艦。装甲は分厚く、中、小口径程度の砲弾では有効打になり得なかった。

 その後、数度に亘り砲撃を繰り返しながらも有効打を与えられず1時間が経過。

 移動しながらの砲撃戦だった為に陣形は臨機応変に変化し続け単縦陣から警戒陣へと変化し、敵艦隊と交差する位置になる。それを好機と考えた阿武隈達は十八番である雷撃を敢行。十数本の酸素魚雷が敵艦隊へと襲いかかる。雷速は速く、敵艦隊は回避行動を取るも間に合わず直撃した。結果重巡洋艦一隻を撃沈、戦艦を中破、もう一隻の重巡洋艦を大破させると言う大戦果を上げ勝てると思い始めてしまう……が、これはこれから始まる悪魔の序章でしかなかった。

 

「ま、まさか」

 

 それほ誰が言ったかはわからない。けれど彼女の気持ちは痛いほどに分かってしまう、この絶望感を。

 中破した敵戦艦と大破して自沈を待つ重巡洋艦。戦艦は何を考えてか、旗艦としての行動を放棄、突然僚艦である重巡洋艦に襲いかかった。突然の攻撃に重巡洋艦は対処できず、轟沈……するかに思えたが沈まず、その亡骸は戦艦の手にある。戦艦はそのまま事切れた亡骸を抱え上げ、その首筋に歯を突き立ると喰らいだした。血飛沫を上げながら笑い出すその様はまさに狂気そのもの。宿す炎を吸収するかの様に、火継ぎかの如く炎が移り戦艦は強化されていく。そして誕生したのあの戦艦タ級、フラグシップである。

 中破状態であるのにも関わらず、絶対に勝てないと確信させられるほどの強者としてのオーラ。存在感から奴から見て弱者である阿武隈達を屈服させうるその雰囲気は彼女達にとって体験した事もない、未知の感覚である。だが、それ故に心は折れず、目的を見失うコトが無かった彼女達は果敢に挑み、そして────敗北する。

 

「ぁぁ」

 

 目が霞み、よく見えておらず大破状態で半分沈みかけている阿武隈の視界には水上にて倒れ伏せる仲間達の姿。どこもかしこも怪我人だらけで、動ける者などどこにも居ない。獅子奮迅、文字通り全身全霊をかけて挑んだ結果がコレである。もはや悔しさも湧いてこないほどに彼女は消耗し、そして絶望感していた。

 

「ぅ、ぐぅ」

 

 首を掴み上げられ、ニヤリとこちらを笑う姿はまさに悪魔そのもの。圧倒的暴力で蹂躙したタ級は思考を変えたのかそのまま首を掴む力を上げ、ジリジリと死への恐怖で歪む阿武隈を見て楽しむかの如く歪んだ笑みを浮かべる。強者、圧倒的強者。

 

 だが強者故、なのだろう。慢心を産んだのは。

 

 その時、阿武隈耳には聞こえ、霞む目が捉えていた。本来なら聴こえるはずのない探信音を。本来ならあるはずのない方向からの魚雷の雷跡を。直後、凄まじい爆裂音、衝撃と共に水飛沫が舞った。思わず離してしまったんだろう、阿武隈の身体は宙を舞い水面へ叩きつけられる。その衝撃で正気を取り戻した彼女は大破して、満足に動かせる状態ではない身体を奮い立たせ。目の前の光景に息を呑んだ。

 

 

 群れだ。

 

 

 

 

 流れてくる何本もの魚雷は雷跡を生み、群れを成してタ級へ襲い掛かっている。

 

 数々と迫り来る魚雷を前にタ級は慢心を捨て、回避運動に移るが時既に遅しとはまさにこの事。タ級を囲む様に扇状に撃ち放たれていた魚雷は、タ級の逃げる先々に先回りし直撃。大きな爆発音と共に水飛沫を上げ続けていた。逃げる事の出来ない詰みの状態。やがては複数本が命中したんだろう、先程とは比べ物にもならないほど轟音を鳴り響かせながら奴は沈んで行く。あれだけ強者として自分達を蹂躙していた敵が、あまりにも呆気なく散っていく様は見ていてスッと心の靄が晴れるかの如くスッキリとした気持ちにさせた。

 

「み、みんな……」

 

 だからだろう、その爆発音が戦闘の事実上の終わりを告げ心に余裕が出来た為にフっと気が遠くなって来る。足に力が入らなくなり倒れる瞬間、倒れ伏せる仲間の安否を心配する。無事なのか、轟沈は免れたのか……っと。そしてその思考の片隅であの魚雷の爆発音に妙な既視感を得ながら彼女は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後、彼女は現れる。

 

 

 

 

 

 

 

「────プハー、やっと見つけた」

 

 

 

 

 

 

 水中から突然現れた水着姿の彼女。

 

「む? ライトクルーザー……フラグシップか? 大破して自沈直前だし……これは直接曳航するしかないか?」

 

 手にある紐の先には睦月や夕立、朝潮などの阿武隈が率いていた子達が何やら浮き輪に乗せられ、ハチマキを巻いた妖精さん達により何かを施されている。彼女が呟いたからなのか、艤装と思われる武器から心配そうな表情で顔を出す妖精さん。その妖精さんに困り顔ながら何やら会話をするとしながら倒れ伏せる阿武隈をお姫様抱っこの如く抱え、帰路へ着く。向かうは彼女達の帰るべき家であるあの、特務艦だ。

 




ほんのちょっぴり短いぜ。さぁーって、水上の出来事は終わりだ。お次は同時刻に起こっていた水中でのお話。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。