負けヒロインになりたい。 (トクメイ)
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プロローグ

恋愛ものには必ずしもといえる主人公と恋仲になれる〝勝ちヒロイン〟と恋していたが結ばれることが出来なかった

〝負けヒロイン〟というものが存在しており、登場するヒロイン全員が幸せになることはほとんどない。負けヒロインとなったヒロインは主人公と結ばれたヒロインに『おめでとう!』や『お似合いだよ』とか賛辞の言葉を掛けねばならないという傍から見たら屈辱的行為をさせているのは良くないと思うのは俺だけか?

確かに物語上そういう風にしないとならないのは仕方がないけども結ばれなかったヒロインのファンは『どうして結ばれなかったんだよ!』『あんなにアピールしていたのに』と悲しみの声を上げてしまう。特にそんな声を多く上げた作品__〝ニセコイ〟の勝ちヒロインである桐崎千棘に憑依転生してしまった。

 

別に自ら望んでそうなった訳ではなく。久しぶりにニセコイを読んでいて『どうして小咲と結ばれなかっただよ!』という気持ちを抱きながら最終巻まで読み込み『まぁ、タイトルや話の流れ的にそうなるわな』と理解は出来るけど納得できないとブツブツ言いながらベットに入って目を覚ましたら桐崎千棘になっていた。

しかも___

 

「おはよう!千棘、お兄ちゃんだぞ」

 

原作にはいなかった桐崎千棘の兄を名乗る某顎のVtuberにそっくりな奴がいた。こいつは俺と同じく転生者なのは明白だ。しかもこの桐崎千棘の兄である転生者__桐崎十哉は桐崎千棘と恋仲なろうとしているのでは?と思わせるようなボディタッチや口説き文句を現在6歳の少女にするのだ。まぁ幼子に接する態度だとしても明らかに常に側いる鶫に行う回数と比べてそうだとしか考えられないようなぐらいやってくる。

 

「うん!おはよう!お兄ちゃん」

 

だとしても素っ気ない態度......桐崎千棘らしくない態度を取ると、『転生者かもしれない』と思われる可能性がなくはないのでそれっぽく演じるしかない。まぁ原作の彼女は大雑把で男勝り、短気で暴力癖があるので、よっぽどのことをしなければバレる可能性は低いと思う。

 

「今日はお父さんの仕事で日本に行くからちゃんと準備しておくんだぞ」

「うん」

 

そう原作の最重要な約束を結ぶ天駒高原へと向かうのだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

飛行機で10時間、車で6時間掛けて天駒高原にある桐崎家が所有しているお屋敷にやって来た私は護衛として側にいる鶫と一緒に屋敷内を歩き回った。その際に桐崎十哉も付いて来ようとしていたけどお父さん、アーデルト・桐崎・ウォグナーに呼ばれて付いて来なかった。

 

「おお~!広いね鶫」

「ですね。お嬢」

 

本当に屋敷内は漫画越しで見たよりも馬鹿みたいに広い。どれぐらい広いのかというとfate/staynightの衛宮家の屋敷並に広くて部屋数が馬鹿みたいにある。俺の部屋は最上階のフロア半分程の広さがある部屋で過ごすことになっている。

屋敷に関する話はここまでとして、この後出会うであろう主人公__一条楽やヒロインズをどうするかだ。

原作ではどのように出会ったかは描かれていないのでわからないが、恐らく一条楽のお父さんの会談に付いて行ったとかで会ったのだろうと推測できる。なので、俺はこの屋敷......というより仕事が終わるまで極力部屋から出ずに過ごすのがベストなのだが、そうするとあいつ(桐崎十哉)が部屋に入り浸ってきそうだ。

 

「......どうしようかな」

「何がです?」

「え、いや暇を潰せるようなものがないから、どうしようかなって」

「確かにそうですね。此処にはお嬢の退屈を紛らせるものはありませんからね」

「そうなの~」

 

ふぅ、如何にか誤魔化せた。鶫に聞こえるような声の大きさで呟いた訳でもないのに聞き取れるとは思わなかった。今日明日に一条楽と出会った時は近所の友人と遊ぶ感覚で接していれば橘万里花にちょっかい掛けられるなくなるし、延いては一条楽と小野寺小咲が結ばれることに繋がる。会わないようあれこれ考えたけど、この方が寧ろ俺にとってもいい結末になるな、と自分の中で今後の行動方針が決まった所でドアをノックする音と共に入室の許可を求めるクロードの声が聞こえた。

 

「お嬢、クロードです。入ってもよろしいでしょうか」

 

特段入られても困ることはないので入室許可を出す。

 

「入っていいよ」

「失礼します」

「クロードが来たということはお父さんが私を呼んでいるのかしら?」

「その通りです。ボスは一階の客室にいますのでご案内します。......誠士郎も付いて来い」

「はい、クロード様」

 

クロードの案内に従って一階の客室へと案内された俺はお父さんと対面に座っている人物に頭を抱えた。

 

「おう!お前がアーデルトの娘さんの桐崎千棘嬢だな。ほら、楽自己紹介しな」

「......一条、楽」

「楽、もっと元気に挨拶しやがれ」

「つっても!初対面でしかもこんなに......可愛い女の子と顔を見て話せるかって」

 

天駒高原一日目に主人公である一条楽とそのお父さんに出会うとか流石に気が重い。二日三日くらいに会うかな?と思ってたけど、こうも早く出会うのは主人公と正ヒロインの運命力でも働いたとして思えない。

 

「ゴホン。仲が良いのはいいけれど僕たちを放って置かないでくれるかな」

「おっと、すまねぇ。お嬢さんを呼んだのはアーデルトと十哉君が可愛い子がいるって聞いたもんだから、ぜひそのご尊顔をとな」

 

そう言って俺を愛玩動物のように色んな角度から見られるのはむず痒さがある。

 

「おっし!千棘の嬢ちゃん。楽の嫁さんになる気はないか!」

一征(いっせい)!まだお互いの幼いし初対面でそれはないでしょ」

「そうですよ!大事な俺のよ...妹なんです!もっと考えて発言して下さい」

 

十哉の野郎、今嫁って言いかけたな。

 

「わりぃわりぃ。そんな慌てなくてもいいじゃねぇか」

 

ガッハッハと快活な喜色に満ちた声を上げてこの場を解散した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

あれから数日が経過した。その過程で奏倉羽、橘万里花、小野寺小咲の順番でヒロイン達と桐崎屋敷を遊び場として、屋敷内を駆け回ったり、庭の中でバトミントンや草サッカーをする等して遊んでいた。そんな日々を過ごしていると如何やら例の本に出てくる四つの鍵と錠型のペンダントが橘万里花発案、作成奏倉羽を次期当主の叉焼会によって完成したらしい。

童心に帰り無邪気に一条楽らと遊んでいて、頭の中からこのことが抜けていた。ここで俺が取るべき行動は錠を開けることが出来るおひめさまのかぎを手に入れて、何処かのタイミングで小野寺小咲に渡すこと、だ。

 

「ウチがおひめさまのかぎを貰うけんね。許嫁やけん、よかね!」

「それは私のよ!あんたには渡さないんだから!よく私に優しくしてくれるし」

「ウチだって」

「私だって」

 

こんな風に橘万里花と言い争いしていれば折衷案として『一条楽本人に選んでもらおうね』と奏倉羽が提案され、呼ばれた主人公、一条楽は少し照れた表情を浮かべ桐崎千棘が選ばれる展開になる......と思う。

幾ら立ち振る舞いを桐崎千棘に寄せたからといって天駒高原での桐崎千棘の立ち振る舞いを誤差なくやれたかと聞かれたら首を横に振るしかない。だから、此処で一条楽に選ばれれば、この後のことなんて赤子の手をひねるようにスムーズに進められる。

 

「「どっちとけっこんするか、決めて下さい」」

「なんだよ、そりゃ」

 

奏倉羽の提案によって突然呼ばれた一条楽は邂逅一番に俺と橘万里花か『どっちと結婚したいか決めろ』と言われ困惑と呆れた声を発する。判断に迷いながらチラチラと私の後ろに立つ小野寺小咲の方へと視線を向けている。『私を選んで選んで』と人懐っこい犬のようにアピールしている俺の心の内は特に原作とかけ離れた展開になっていないことにガッツポーズをしていた。

 

「...どっちかといえば、ちとげ?」

「やったー!」

「ギャーー!」

 

よしよしこれで鍵を受け取って直ぐに小野寺小咲に渡せばミッションコンプリートだな。ここまでいったら変に捲り上げられるような展開は起こりえないと思う。それに原作の舞台である凡矢理に引っ越ししても必要最低限関わればいい。ただ不安要素として桐崎十哉とかいう転生者がいるけど何とかなるでしょ。



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