神喰いは狩人たり得るか (E.star)
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プロローグ

モンハン世界にオリGEがやってきてわちゃわちゃする話
まだモンハン世界には突入しません、足の爪先が触れたくらい


───アラガミ、それは突如地球上に現れた人類の天敵。

オラクル細胞で構築された身体は単細胞でありながら驚異的な学習能力を備え、有機物無機物問わず喰らい、果ては兵器すらも取り込み吸収する常識はずれな神の紛い物。

もっとも、それらが現れる兆候自体はあったが、大多数の人間からしてみれば預かり知らぬ範疇でしかなかった。

 

捲れ上がった舗装路、放棄された建築群、散見する崩れた人工物。ここはかつて栄えていた都市の一つだったが、彼らに蹂躙された今では過去の栄光でしかない。

 

廃都を覆う淀んだ灰色の空に、絶え間ない金属音と微かなノイズが響き渡る。

 

『……さん、バイタル低下……! このまま戦闘を続けるのは危険です、どうか撤退を……!』

 

 

 

 

───時は数刻前

その日は、新人男女の初陣を兼ねて外部居住区付近に出現したオウガテイルを数匹討伐するだけの、簡単な任務になるはずだった。

任務中はこれといった支障も無く、順調に進んだ。

新人の初陣に多いとされるKIA(戦死)の心配も、いざ彼らの活躍を目の当たりにすればただの杞憂に過ぎなかった。

初めは不安げな表情を見せていた新人達だったが、初任務を遂行できて少し自信がついたらしく、晴々とした様子だった。

 

『お疲れ様でした、周囲にアラガミの反応はありません。帰投してください』

 

長身痩躯な少女のアームベルトに装着されたトランシーバーから、オペレーターの通信が流れる。

 

『それにしても新人の子二人、動きバッチリね……ふふ、もしかしたら、彼ら二人が貴女を追い越す日もそう遠くないのかもしれないわよ?』

 

軽いノイズ越しでも伝わってくる温かみのある女性オペレーターの声が、トランシーバーから発せられる。

 

「いやぁー、あの子達には早く強くなってもらって、私に楽させて欲しいもんだ」

 

腰まで届きそうな細長いポニーテールと赤いエクステが特徴的な髪型の少女はボーイッシュな声でそうぼやいた。

 

『もう!』

「あっはは! 冗談、冗談」

 

オペレーターとそんなやり取りを交わしながら、齢18と若くして隊の長を務めるベテランのGE(ゴッドイーター)であるメグミは、後方で談笑しながら帰投の準備を行う期待の新人達に、帰ったらジュースの一本でも奢ってあげようかと考えていた。

 

 

 

───油断していた

 

 

 

───その時、それは現れた

 

 

 

「ぐああッ!」

「きゃああッ!」

 

突如鈍い音が聞こえたかと思うと、メグミの後方で談笑していた他愛のない声が悲鳴に変わった。

 

『えっ───』

 

無線トランシーバーからは息が止まったような声。

双方の声色から只事ではない雰囲気にメグミが何事かと振り返る。

すると、今まで新人達がいた場所には彼らと入れ替わったかのように、蒼く、まるでファンタジー世界の竜を思わせるしなやかな巨体が佇んでいた。

 

───まずい

 

メグミの視線の先にいる存在に彼女の本能が警鐘を鳴らす。

 

新人達はといえば、少し離れた廃墟の壁に叩きつけられていた。

廃墟に加わった亀裂と瓦礫が散らばった様を見れば、その威力が分かる。

彼らの手には神器を持っておらず、おそらく不意の出来事で構えるヒマもなく攻撃を食らったのだろう。

 

「オペレーターッ‼︎ 新人達の状況は⁉︎」

 

メグミは焦りを孕みつつも気の張った声でオペレーターを正気に戻す。

 

『は、はい! 今確認しますッ……よ、よかった、新人達の生命反応は消失していません。ですがッ───』

「見なくても分かる。帰投班と救護班に迅速に駆け付けるよう要請して」

 

メグミはそう言って神器を銃形態に切り替え、気を失った新人に狙いを定める蒼い竜の背にバレットを撃ち込む。

背を撃たれた蒼い竜は横槍に苛ついたのか、ゆらりと首を捻ると、血のように真っ赤な瞳でメグミの姿を捉えた。

 

「カリギュラ……接触禁忌種の実物とか初めて見た。ほんっと、今日の運勢サイコー……」

『なんで……さっきまでレーダーに反応なんて何もなかったのに……』

「ああいうのはそういう事が多いって話はよく聞いてた。オペレーター、連れて帰るのは新人達だけで良いって、迎えの班に伝えといて。それまでコイツの気は私が引いとく」

『な、何言ってるんですか! 貴女一人じゃ……』

「増援でも送るって? ウチの支部にコイツとマトモに戦える奴いる? ダメダメ、死人が増えるだけよ」

 

カリギュラの重い足音がメグミに迫ってくる。

本来は常人どころか、偏食因子という(毒を持って毒を制す)細胞を埋め込まれたGEの身体能力を持ってしても追いつけないほどの足の速さを持つカリギュラだが、この瞬間は、まるで獲物を品定めするかのようにゆったりとその歩みを進めていた。

 

『でも……!』

「とにかく‼︎ サポートよろしく……」

『……わかりました』

 

今、メグミの眼前には未曾有の脅威が立ちはだかっている。

 

神機(バスターブレード)を持つ手が、鉄球を何個も括り付けられたかのように重い───

ただ目の前に立って居るだけなのに、奴に見下ろされているだけなのに───

 

メグミは氷漬けにされたかと思う程の凄まじい威圧感(プレッシャー)を全身で感じ取り、額から頬に一筋の汗を流す。

だがしかし、彼女も負けじとカリギュラに向かって鋭い眼光で睨み返し、犬歯を剥き出しにして好戦的な笑みを浮かべ、神機の切先を蒼い竜に向けた。

 

「来なよ……ぶった斬ってやる……ッ!」

 

「ガギャアアァァァ───」

 

───生意気な、とでも言いたそうに、カリギュラはそれを挑発と捉えたのか、咆哮を上げながら炎のように燃え上がる冷気を掌に纏った。

 

その後、数刻に及ぶ激闘は筆舌に尽くし難いものだった。

 

 

 

 

幾度も刃を振り下ろし、何度も装甲(タワーシールド)を展開した。

半ばヤケクソ気味な攻撃でも上手くいくことがあるのは分かった。

新人達に狙いが行かないように、少しづつ場所を移動しながら戦ったのが功を奏したのか、彼らの保護は安全に完了した。

 

受けた傷は回復錠で補う。しかし、体力や気力はそうもいかない。メグミは徐々に自身の身体に疲労が溜まっていく感覚を覚えた。

いくら偏食因子に適合して常人から逸脱した身体能力を得たといえど、無尽蔵ではない。長時間に渡って続く攻防は次第にメグミの集中力を奪っていった。

 

「ぐッ⁉︎」

 

遂にはカリギュラの攻撃に反応が遅れ、長く強靭な尻尾に横凪に払われ建物の壁に激突してしまう。

その際にメグミは脇腹辺りから響いた嫌な音に、肋骨がやられたと理解する。

次の瞬間、彼女の喉から熱いものが噴き出した。

 

廃墟の壁がけたたましい音を出して崩壊する。

 

「ごふッ……っば効くわ」

 

メグミの衣服を、噴き出した鮮血が染める。

 

『メグミさん、バイタル低下……! このまま戦闘を続けるのは危険です、どうか撤退を……!』

「それは……無理」

『どうしてですか‼︎ もう新人の子達の保護は済んでるんですよ!』

 

「ここで逃げたら……多分、いや、確実に、コイツは追ってくる……。こんなのが……居住区に侵入でもしたら……全部終わる……から」

 

このエリアと居住区は目と鼻の先、仮に上手く巻けたとしてカリギュラがその存在に気が付きでもしようものなら、直ちに壁を破って中にいる無抵抗な人達を襲うであろうことは想像に易い。そして、その被害は絶対に民間人達の犠牲だけでは済まない。

オペレーターは言葉に詰まる。

 

「死んでも止めなきゃ、ここで……ごめん、一旦切るね……」

『ッ⁉︎ だめ! 待ッ───』

 

メグミは瓦礫の山から立ち上がると、声が聞こえなくなったトランシーバーを放り捨てる。

そして、トドメの一撃をくらわさんと空中からジェット機の如く迫ってくるカリギュラを霞んだ視界で捉えると、その体を屈めた。

 

回避(かわ)して、次の一撃で終わらせる。

ここで奴の息の根を止める。たとえ刺し違えてでも。

そうしなければ───

 

 

みんな殺される

 

 

メグミは天高く跳躍、それとほぼ同時にブースター器官で加速したカリギュラが、腕部のブレードを展開し、勢いのままにメグミのいた場所に向かって斬りつける。

その差はコンマ数秒。

 

衝撃波と共に舞い上がった埃が晴れた時、カリギュラの視界にメグミの姿はなく、あるのは荒々しい残痕が残った廃墟だけだった。

 

カリギュラが辺りを見回しても、メグミは見当たらない。

 

───消えた?

 

 

「でりゃああああッ‼︎」

 

 

突如、頭上から叫び声が聞こえたかと思えば、カリギュラは背に雷にでも打たれたかのような激痛を覚えた。

 

 

「ガアァァァァァァッ───」

 

 

カリギュラの背から翼のように発達したブースター器官の間には、満身創痍になりながらも神機を突き立てるメグミがいた。

想像を絶する痛みにカリギュラは悲鳴を上げ、メグミを振り払おうと暴れ狂う。

 

 

「───くぅッ!」

 

 

メグミは振り払われまいと一心不乱に神器の柄を握りしめ、刀身がカリギュラの(コア)を穿つ事を祈りつつ、握りしめた神機をカリギュラの身体に沈めていく。

 

激痛に耐えかねたカリギュラは何としてでもメグミを振り落とそうと、身体を何度も何度も別々の廃墟へ叩きつける。

 

縦横無尽に暴れるカリギュラは、やがてエリアの外れにある廃墟の前に辿り着く。

カリギュラは脇目も降らずに廃墟に向かって猛進し、速度を落とす事なく激突した。

しかし、その廃墟は酷く劣化が進んでいたせいか、カリギュラの突進の勢いを殺しきれずに脆くも崩れ去ってしまった。

その勢いでメグミも神機から手を離してしまい、カリギュラの背から投げ出される形で共に空中へと放り出されてしまった。

 

そして、その眼下にあったのは───

 

 

「───あぁぁぁッ⁉︎」

 

「ガギャアアァァッ───⁉︎」

 

 

底の見えない、深い、深い奈落。

気が付いた時にはもう手遅れだった、真っ暗闇の深淵にメグミとカリギュラは飲み込まれていった。

 

 

 

 

「金色に輝く流れ星?」

「そうだよ! 昨日の夜寝ようとした時にね、なんか明るいなーって思って窓から空を見上げてみたら、こーんなに大っきな流れ星があったんだよ」

「嘘だぁ、だって昨日の夜は星っこ一つも見えない曇りだったぜ?」

「きっと変な夢でも見てたのよ」

「ホントに見たんだって、信じてよぉ〜」




Q.主人公の強さのボーダー
A.ヴァジュラとかカムランとかガルムくらいまでなら一人でいける

Q.GEの経験は?
A.初代と2、2RB、3、外伝は無し

Q.モンハンの経験は?
A.3riと3rd、あとはRise、外伝はストーリーズ初代と2、ポカポカアイルー村(うろ覚え)

A.そんなんじゃ甘いよ
A.うるせぇ、読もう!(ドン)


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1.見知らぬ大地

添〜削推〜敲繰〜り返〜し〜♪ そ〜の〜結果亀〜更〜新〜♪(丼並感)


 暖かい木漏れ日の差す林を一匹の丸々とした鳥が、長く伸びた首を伸縮させながら呑気に歩いていた。

 

 ガーグァ、それがこの鳥の名前である。

 

 頭部に平なクチバシと特徴的な黄色いトサカを持ち、つぶらな瞳をくりくりと動かして好物の雷光虫や木の実を探す様は、憎めない愛らしさがあった。

 

 このガーグァは河原に住む他の仲間と比べてちょっぴり勇敢だ。決して、危機管理能力が欠如しているわけではない。

 

 彼は、食べ物が自分の住処である河原よりも、この林の方に多くある事を何となく本能で理解していたのだ。

 ガーグァは用心深い性格なので住処を離れる事はそう多くないが、彼は他の仲間たちと違ってちょっぴり勇敢なので冒険できるのだ。

 

 いっぱい食べ物を見つけて、仲間に自慢してやろう

 

 ───などとは流石に考えていないが……とにかく、彼は食欲を満たすためにこの林へやって来たのだ。

 

 ふと、歩みを進めるガーグァの視界に何かが映った。

 外敵か、警戒したガーグァは動きを止めてそれ凝視する。決して、外敵に遭遇して頭が真っ白になったわけではない。

 

 しかし、いくら待てどもそれはピクリともせず、ガーグァに害を及ぼすような動きを見せない。

 ガーグァの警戒心は次第に好奇心へと変わり、勇敢にも視界に映った何かに向かって接近していった。

 

 

 

 

 木々の枝葉の隙間から点々と注がれる陽の光は、目を瞑ったまま仰向けに倒れているメグミを照らしていた。

 メグミの指が僅かに動くと、それは乾いた土のようにザラついた感触を捉える。

 

 ここは……どこ……? 

 

 ハッキリとしない意識の中、メグミは最後に見た光景を思い起こす。

 

 私は……私は、確かカリギュラと一緒に奈落に……

 

 メグミは少しづつ思い出す。

 半宙返り状態でカリギュラから空中に放り出されたために、天と地が反転したような自身の視界。

 眼下に広がる、全てを呑み込むような深い暗闇。

 そして、背に神機(バスターブレード)が突き刺さったまま自身と共に落ちてゆくカリギュラ。

 一連の出来事がコマ撮りのように想起される。

 

 そして、メグミは気付く。

 

 脇腹が痛く……ない……? 

 

 意識を失うまで感じていた脇腹の痛みが、まるで嘘だったかのように引いていたのだ。

 いくらオラクル細胞に適合して自然治癒力が増したといえど──オラクル細胞との適合率によって個人差はあるが──骨折程の重傷まで行くと短い時間ではそう簡単に癒えない事は、彼女の過去の経験から理解していた。

 

 そうか、私、もう───

 

 死んでしまった。

 

 メグミに、後悔の波が押し寄せる。

 

 あの時自分がもっと注意を払っていれば───

 無線機を捨てる前にしっかり別れの言葉を伝えていたら───

 

 しかし、全ては後のまつり。

 

 メグミにとって新人達が無事に保護されたのは不幸中の幸いだったものの、彼女は彼らが『自分達を庇ったせいでメグミを死なせてしまった』と思い詰めてしまわないかと一抹の不安を覚えた。

 

 新人達は何も悪くない、カリギュラの接近に気が付けなかった自分の責任だ。

 

 今となってはその言葉を伝えられないけれど……と、メグミは自身の無力感に苛まれる。

 

 ───でも、守れたのかな、一応

 

 瞼を閉じたままのメグミの脳裏に過ぎるのは、懸命に生きる居住区の人達と、彼女と共に戦線を潜り抜けてきた支部の仲間の姿。

 

 いくらカリギュラといえど、神機が突き刺さったままの状態であの高さから墜落すれば、無事では済まないはず。

 おおかた生きてはいるだろうが、あの深さから這い上がるのは相当時間がかかるはずだ。

 その間に、支部はカリギュラに対し他所の支部に救援を要請したり、設備を補強したりと何らかの対策を講じているだろう。

 

 メグミがそんな事を考えていると、ふと、離れた場所から踏みしめるような足音が聞こえた。

 彼女には、それが自分に向かってゆったりと、しかし確実に近づいて来ているのが分かった。

 

 私を連れて行くつもりか……さて、神が来るか悪魔が来るか───

 

 ……もっとも、メグミにとってはどちらにも悪い印象しかなかった。

 

 だが……

 

 

「グァーコ」

「は?」

 

 

 あまりにも素っ頓狂な鳴き声をあげながら、それはやってきた。

 メグミの口から思わず間の抜けた声が漏れると共に、弾けるように瞼を開く。

 すると彼女の目は、視界の端から自身を覗き込む鳥頭を捉えた。

 

 それは平たいクチバシと変な形の黄色いトサカ、つぶらな瞳に何とも言えない愛嬌を持っていた。

 

 メグミは恐る恐る目線を横にそらすと、それはずんぐりと丸い体に柔らかそうな羽毛を蓄えていて、彼女の世界では希少な存在である動物らしい風貌をしていた。

 しかし、彼女にとってこんな生物は映像や写真はおろか、文献ですら見た事がなかった。

 

 たこ焼きから鳥の脚とガチョウの首でも生やしたかのような姿を見て、彼女は呆気に取られてしまった。

 

「グァッ、グァッ」

 

 ガーグァはそんな様子のメグミをよそに、彼女のチャームポイント─自称─である頭髪の赤いエクステを(ついば)みはじめる。

 

「いたッ、いッたい! そこ引っ張んな!」

 

 唐突に髪を引っ張られた痛みでメグミは反射的に上半身を起こし、エクステとアイボリーな頭髪を啄むガーグァと取っ組み合いになってしまう。

 ガーグァは彼女のエクステ部分を木の実とでも勘違いしているのだろう。夢中になっている彼は、メグミが目を覚ましたことに気がついていない様子。

 

「や、やめろッ! やめろってこのッ……オイ!」

 

 押しても引いても止まらないガーグァの啄みに、メグミはなりふり構わず彼の丸々とした胴体に手のひらを押し付ける。

 彼女はガーグァを軽く突き飛ばすだけのつもりだったようだが、その身体は存外軽く、勢い余って彼の体は宙を舞った。

 

 

「あっ」

「クエッ⁉︎」

 

 

 そしてその時、ガーグァは思い出した。

 大昔。己の先祖はかつて、今のこの翼では届かない空の世界で生きていたという事に。

 ガーグァの瞳に映るは大空を羽ばたく、在りし過去の同族。

 黄昏時の夕陽を背に、眼下に広がる雄大な大地の果てへ向かう姿。

 

 ───嗚呼、ご先祖さま。己は今、空を───

 

 

 ガーグァは感極まって目尻から涙を零し、太古の雄姿に思いを馳せながら、退化した小さな翼を懸命に動かす。

 

 

 

 だがそんな翼では当然飛ぶことなどできるわけがないので、彼はそのまま地面に尻餅をつくような形で落下した。

 そして、その衝撃で今までの追憶は綺麗サッパリ忘れ去った。

 

「ガァ⁉︎ ガァーコ、グァーコ───キェェェ」

 

 尻の痛みに驚いき、メグミの存在に気が付いたガーグァは、翼をばたつかせながら彼女に威嚇するような鳴き声をあげる。

 メグミはそれを見て一瞬身構えたものの、次の瞬間にはガーグァは彼女に背を向けて慌ただしく逃げ去っていった。

 

「何なの……」

 

 一人林に取り残されたメグミ。

 風が微かに奏でる枝葉の音は、ガーグァとの攻防でボサボサ頭となったメグミの後ろ姿に微妙な哀愁を漂わせた。

 

 

 

 

 メグミは周囲を見渡す。

 先程までガーグァにかかりっきりだった為に気がつかなかった一帯の景色は、どこを向いても生き生きと生い茂る草木に埋め尽くされていて、手を(かざ)して空を見上げてみれば、枝葉の隙間から見えるのは淡い青に染まった空。そして、そこかしこから聴こえる野鳥の囀り。

 

 それは、今まで死と灰に塗れた世界で生きてきた彼女にとって、記録映像でしか見聞きできないような、アラガミ出現前では当たり前のように存在していた、ありのままの自然の姿だった。

 

 変な明晰夢(めいせきむ)でも見てるのかと混乱したメグミだったが、そういえば……と、彼女はとある地域の噂についての記憶を掘り起こす。

 

 ──聖域──

 

 そこは、かつての地球の環境を再生させたような景観をしていて、オラクル細胞が不活性化する……つまり、アラガミや神機は当然として、それを用いたあらゆるモノが正常に作動しなくなる、という場所である。

 

 眉唾な話だけど……でも、もしそれが事実だとして、今見ているこの景色も聖域の一部である……というのなら納得がいく。

 

 そう思ったメグミだったがしかし、ここで彼女は疑問を抱く。

 

 確か、その場所は極東と呼ばれる地域にあったはず。

 そもそも、あの大穴が聖域に繋がるなんて物理的に不可能では? と。

 

 他にもツッコミどころを感じていたメグミだったが、考えるだけ無駄なような気がしたため一旦保留する事にし、周辺の探索をしようと歩き出した。

 

 未知の場所、神機は手元に無い……なるべく慎重に行動しよう。

 

 彼女は周囲を警戒しながら、ガーグァが走り去っていった方角とは別の方向へ足を進めていった。

 

 

 

 交差する低木の枝と、鮮やかな色に染まった茂みを掻き分けながら進んでいたメグミが辿り着いたのは、大きく円状に広がる開けた空間だった。

 それは、雑木林の中にポッカリと空いた穴のようであった。

 その穴を飾るように数本の木々と切り株、朽ちた倒木が散りばめられており、地面には暖色の落ち葉が絨毯のように敷き詰められていた。

 

「ちょっと休もうかな」

 

 口からそう言葉が溢れたが、メグミは別に疲れていたわけではなかった。

 しかし、周辺の落ち着いた雰囲気が彼女をそういった気分にさせたのだ。

 

 メグミは程よい大きさの切り株に腰掛けると、無意識的に空を見上げ息を吐く。

 

 澄んだ青、濁りのない雲、ここからならハッキリと見える。

 彼女は不意に頬を叩く。すると、ヒリリとした痛みが伝わった。

 

「やっぱり、夢じゃなさそう……」

 

 そう言って、メグミは膝下に目線を落とす。

 そこにあるのは絹のように滑らかで白い肌をした手と、手首に接着された無機質な腕輪。

 手錠のように括り付けられたそれは神機使いの証でもあり、ある種の呪いといっても差し支えないモノである。

 

「こんな色してたっけ……?」

 

 メグミの目に映った腕輪の色は錆びた金属のように燻った赤茶色。

 本来の腕輪は、鮮やかな赤色を基調としていたものであり、このような色ではなかったはずだと彼女は疑問符を浮かべた。

 

「……ま、気の所為か。塗装が劣化してるだけ……かな」

 

 大抵の人間は()()()()()()()()()()の変化に敏感だったりするが、メグミは自身の事となると途端に無頓着になる人間だった。

 

 

 

「さーて……どうしよっかな」

 

 食糧(レーション)は無い、野営をする為の道具もない。腰のベルトに着けていた水筒の中に水がたっぷりと残っているのは幸いだったが、それが無くなるのも時間の問題だ。

 

 だがメグミにとって一番の問題は、偏食因子の投与が断たれたという事だ。

 GE、もとい神機使いは、定期的に偏食因子という物質を接種しなければ体内のオラクル細胞が暴走してアラガミ化してしまう。それだけは阻止しなくてはならないのだ。

 

 とはいえ現状、偏食因子に関してはどうにもできないので、取り敢えず食料と火を起こせそうなモノでも集めようかと考えたメグミは、立ち上がって辺りを見回しそれらしいモノに目星を付ける。

 

 そこら辺に生えてるキノコだって、きっと食べられる種類があるはず。

 向こうの切り株の近くに生えてるキノコだって、表面が青くても案外いけるかもしれない。

 

 そう思ったメグミは、おもむろに青いキノコ……"アオキノコ"に近寄って行った。

 

 ───その時だった

 

 ガチャリ、と何かが作動する音が聞こえたと思った瞬間、彼女の足下の地面がスプーンで掬われたかのように陥没。

 それはまさしく落とし穴と呼ぶに相応しい。

 

「なッ……罠ァ⁉︎」

 

 背中で滑走しながら底まで落ちてしまったメグミ。見上げると、地表までは彼女二人分程の高さがあり、存外深い。

 明らかに人の所業、一体どこのどいつだとメグミが考えていると、その犯人はすぐに現れた。

 

「ミャッハー! かかったのミャ!」




これまでに上手いこと描写できなかったメグミさんの外見箇条書き
ヘアスタイル:GE3より、1の前髪をぱっつんにした感じ。イメージに一番近いのはパニグレのSナナミさん。
エクステ:同上、タイプ3
衣装:同上、ラリマーラギット。ただし靴はスニーカー。
目の形:キリッとしてる。

時間軸:2RBエンディング後


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2.Who are you?

プロットが 建てたそばから 崩れ行く


「ミャッハー! かかったのミャ!」

 

 その声の主は幼い子供程の大きさで、顔の輪郭は大福を思わせる丸さを帯び、三角形の耳らしき部分と側面にはピンと糸を張ったような髭を生やした、所謂猫のような姿をしていた。

 

 黒い毛並みを基調とし、手先と足先の毛並みはアクセントのような白い毛並み。

 腹部にある肉球スタンプの模様は特徴的だ。

 

 それはぷにぷにとした柔らかい足裏で軽快に落ち葉を踏み締めつつ、罠に近づいていく。

 

 ───メラルー。悪戯好きな獣人族である。

 

「今夜はご馳走だミャ……って、あれ?」

 

 罠にかかった獲物を確認するべく、上機嫌に鼻歌なんかを歌いながら落とし穴の底を覗いた彼が見たモノは、何やら見慣れぬ衣服を着ていて、土埃に塗れた一人の少女だった。

 

「あわわ……まさか人間が掛かっちまうとはミャ……」

 

 てっきり小型の獲物でもかかったと思っていたメラルーは、予想外の出来事にあたふたしてしまう。

 

「仕掛けたのがボクだとバレたらヤバいのミャ。気付かれる前に退散、退散……」

 

 もし捕まったら絶対酷い目に遭わされると考えたメラルーは、落とし穴から少し後ずさると踵を返す。

 落とし穴の方向へ振り返る事はせず、忍び足でその場から離れて行こうとしたその時───

 

 メラルーは石のように固まった。

 

 なんせ、メラルーの目の前には、落とし穴に落ちていたはずだった……全身土埃塗れになった人間(メグミ)が彼の退路を塞ぐかのように立ち、凍えるような視線で見下ろしていたのだから。

 

 その様子はまさしく蛇に睨まれたカエル。

 

「ミャ……」

 

 メグミはメラルー隙を逃さず素早く両手で彼を捕獲する。

 

「やあ、ハロー? こんな所に罠を仕掛けてくれたのはキミかな?」

 

 メラルーの胴体をガッチリとホールドしながら持ち上げるメグミの顔は笑みを浮かべているものの、額には微かに青筋を浮かべていた。

 

 声が据わっている。明らかにキレている。何なら自分を掴む両手に力が入っている気がする。

 

 メグミの怒気を感じ取ったメラルーは本能で彼女に敵わない事を察し、手足をバタバタさせながら必死に弁明する。

 

「ギミャーーッ⁉︎ スマンかったミャ! これは運の悪い偶然だミャ! だから離してミャーッ!」

 

 それを聞いたメグミの両手から力が抜け、するりと彼女の両手から落ちたメラルー。

 立ち尽くしたまま一言も発さないメグミに、メラルーは恐る恐る瞳を上へ動かし彼女の顔色を伺う。

 

 一方メグミの表情は、まるで鳩に豆鉄砲でも撃たれたかのように呆然としていた。

 

「……し」

「シ?」

「喋ったァァァ⁉︎」

 

 メグミの驚愕は、静寂を破るように林中に声高く響いた。

 

 

 

 

 倒木に座っているメグミは、顎に手を当て、目を細めつつメラルーの全身を観察する。

 

「何かニャゴニャゴ言ってるとは思ったけど、まさか人語喋れるなんてね……驚いた。しかも猫なのに二足歩行してるし。見た感じアラガミじゃなさそうだけど……」

 

 彼女自身、猫という動物は見たことがある。居住区に住んでいる野良猫が度々支部に迷い込む事があり、その度に清掃員と格闘している様子をしょっちゅう遠くから眺めていたのだ。

 

 しかし、今彼女の目の前にいる存在は、それとはまるで似ても似つかない。

 

「ボクはボッチだミャ」

 

 細い木の切り株に立っているメラルー、ボッチはそう自信ありげに名乗るとドンと胸を張った。

 

「そう、迷子なのね」

「違うミャ! 誰が一人ぼっちの迷子だミャ! ボ・ッ・チ! ボッチっていう名前なんだミャ」

 

 勘違いしたメグミにボッチは憤りを示す。

 

「ご、ごめん……」

 

 そんな彼を(なだ)めるように謝るメグミ。

 

「はぁ、まさか()()()()()()()()に人間がかかるなんて思いもしなかったのミャ……」

 

 ボッチはそう呟くと小さく息を吐き、切り株にストンと腰を置いた。

 

「さぁ、ボクが名乗ったんだから君の名前も教えて欲しいのミャ。レイギってやつミャ」

「勝手に名乗ったくせに、まあいいけど……私は五十嵐(いがらし)メグミ。好きに呼んでくれていいわ」

「じゃあメグミって呼ぶミャ」

「うん」

 

 一時の間、一人と一匹は無言になる。

 静寂。

 微かに響く小鳥の囀りと風がなければ、時間が止まったかと錯覚してしまいそうな程に。

 

 なんだか気まずくなったボッチは、それとなくメグミに話題を振る。

 

「ところで、さっき言ってた"アラガミ"って何だミャ?」

「え……知らないの?」

「ミャ。アラガミなんて知らないのミャ。初めて聞いたミャ、()()()()()の名前かミャ?」

「……」

 

 ボッチが答えた『アラガミなんて知らない』という言葉にメグミは口を閉し、一人考え込む。

 

 アラガミを知らない……? 

 だとすれば、ボッチはアラガミの脅威のない場所で生まれた? 

 ……考えられない。今時屋敷の奥で大事に守られている世間知らずの御坊ちゃまですら、奴らの危険性を知っているというのに。

 というか、そもそもボッチは本当に猫? 

 

 メグミは何気なく林の向こうを見つめる。

 彼女の瞳の先には、青と白が混ざったような山脈が悠々と連なっていた。

 

 パッと見でもその面積が広大なのが分かる。

 雑草一本すら生えないような荒廃しきった世界に、こんな浮世離れした場所があれば間違いなく目立つはずだ。

 

 何から何まで謎だらけ。

 

 ふと一つ、それら全てを解決できる答えがメグミの脳裏に思い浮かんだ。

 しかし、彼女は首を強く横に振る。

 

 そんなのありえない、と───

 

「どうしたのミャ、いきなり首なんか振り始めて……頭に虫でも付いてたのミャ?」

「違う、自問自答してるだけ」

「そ、そうなのかミャ」

 

 そう答えると、メグミは再び沈黙してしまった。

 その様子を見たボッチは、変なヤツだと首を傾げる。

 

 メグミには一つ、ボッチの言葉に気になる単語があった。

 

 

 ()()()()()

 

 

 とはいえ彼女自身、その単語自体は知っていた。

 しかし、それらは多くの創作物に現れる架空の存在だ。

 

 メグミが暇潰しにと読んでいた小説や漫画にも、そういったモノはよく描かれていた。

 しかし、彼女の目にはボッチが創作物に関わるような事に携わっているようには見えなかった。

 そういったものとは無縁の、自然の世界で生きているような印象を受けたのだ。

 

『モンスター用の罠』と言ったボッチの口ぶりは、まるでそれらが実際に存在するかのような言い方だった。

 

「えっと、メグミはどうしてこんな所にいたんだミャ? 何か理由があるミャ?」

 

 あれこれ考えるメグミをよそに、ボッチは次々と質問をぶつける。

 

「ちょっと、さっきからあなたばかり質問してるじゃない。私からも一つ訊いていい?」

「へ? あ、うん。確かに、さっきからボクだけ喋ってばかりだったミャ。いいミャよ」

 

 

 

 

 ───モンスターって、何? 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 その言葉を聞いて岩のように固まるボッチ。

 そして、固唾を飲んで彼の回答を待つメグミ。

 

 次の瞬間、ボッチの驚愕の声は空を貫いた。

 

 

 

 

「びっくらこいたミャ。まさかモンスター知らないって……どれだけ辺鄙(へんぴ)な場所から来たのミャ……あ、ひょっとして、メグミは結構いいトコのお嬢様なのミャ?」

 

「そんなわけないでしょ、ただの一般人よ。ねぇ……ボッチの言うモンスターって、首から上が無くなっても動き続けたり、兵器を吸収して自分の一部にしちゃったり、有機物も無機物も無差別にバリバリ食べちゃう奴らとは違うの?」

 

「なんミャそれ……そんなモンスターいるわけないミャ。モンスターっていうのは大きな翼で空を飛ぶ飛竜種だったり、海を悠々と泳ぐ海竜種とか魚竜種だったり……うーん説明が難しいミャ……」

 

 ボッチは両手で頭を覆いながら、メグミに伝わりそうな言葉を模索する。

 

「まー要するに、モンスターっていうのはこの世界の生態系を担う大事な存在なんだミャ」

「そう……」

 

 すると、今度はメグミが両手で顔を覆った。

 

 何の偶然か、はたまた性質の悪い神の悪戯か。

 

 そう思ったメグミは、自身が異世界に迷い込んでしまったのだとなんとなく理解し、深くため息を吐いた。

 

「なるほどオーケー、多少理解できたわ。……なら、胴体が丸いアホ面した鳥もモンスター? ここに来るまでに遭遇したんだけど」

「アホ面って……そいつは多分ガーグァだミャ。この辺りは雷光虫が多いからガーグァも住み着いてるのミャ」

「うーん、やっぱ知らない単語のオンパレード……」

 

 その後、ボッチとメグミが話していると不意にメグミのお腹が「きゅう」と鳴った。

 それはボッチにも聞こえたようで、メグミは頬を少し赤らめるとボッチから目を逸らして軽く咳払いをした。

 

「メグミ、もしかして食糧とか持ってきてないのミャ?」

「えっと、まあ、うん」

 

 メグミはそう言って申し訳なさそうに後頭部を掻いた。

 

「は〜やれやれだミャ、全く。……見たところ武器も持ってないみたいだし、手ぶらで狩場を彷徨くなんてとんだ自殺行為だミャ」

 

 このままメグミを放っておくと野垂れ死んでしまいそうだと考えたボッチは、どこにしまっていたのか懐から小さな──と言っても彼と比べればそこそこ大きい──物体をメグミに投げ渡す。

 

「これは?」

「それはボクがカイハツした"折り畳み式ネコショベル"……の複製品ミャ。メグミには小さいかもしれないけど、ガマンしてミャ」

 

 メグミはボッチから投げ渡されたものを受け取る。

 彼女はそれを観察してみると、それは全体的に木製で構成されていたのが分かった。

 

「精巧……ボッチって手先が器用なのね」

「ほ、褒めたって何も出ないミャ」

 

 メグミは感心しつつ、その可動部を開く。

 取手部分にある獣人族の耳を模した三角形は拘りを感じるものだった。

 

「大自然のオキテその一! 食べ物は自分で見つけるべし! ……ミャ」

 

 そう言ってボッチはショベルを空に向かって掲げた。

 

 

 

 

 ───日が傾き、月が山から顔を出し始めた頃

 

 メグミとボッチは、不揃いな形の石で囲われた焚き火を囲っていた。

 

「メラルー? 獣人族ねぇ。突然変異した猫ってわけじゃなかったのね」

「そうだミャ。猫っていうのが何だか知らないけど……」

 

 メグミに面と向かって座るボッチは、そう言って火でこんがりと炙ったキノコを頬張る。

 その様子を見ながら、メグミもキノコを刺した枝を焚き火から一本抜くとひと口齧った。

 

 口の中に広がる独特ながらも芳醇な香りと滑らかな食感は、これまで塩気のキツい缶詰やブロックの栄養食ばかりだったメグミにとって初めての体験だった。

 

「うま……」

 

 メグミは自分にしか聞こえない程の大きさで、思わずそう呟いた。

 

「それにしても、別の世界から迷い込んだって……」

 

 既にキノコを平らげていたボッチが、満足げに腹を摩りながらメグミを訝しんでいた。

 

「食べるの早……まあ、私もボッチと同じ立場だったらそう思うけど」

 

「確かに見た目はヘンだけど、それだけじゃイマイチ信憑性ないミャ……あっ」

 

 まるで気づきを得たように、ボッチは頭に一筋の物語(ストーリー)を思い浮かべた。

 

 メグミは実は高貴な身の出身で外の世界に憧れを抱いていたものの、周りの人がそれを許してくれなかった。

 その結果、閉塞的な屋敷での暮らしに嫌気がさして、機を計らって抜け出してきたに違いない。

 しかし勢いのまま飛び出してしまったので、碌な装備も揃えずに狩場に迷い込んでしまった。

 つまり、別世界からやってきたというのは嘘であり、身元がバレるのを嫌がった彼女なりの"演技"なのだ。アラガミとかいうのも、きっと書斎の御伽噺から情報を得た偽りのモンスターなのだろう。

 

 そう考察したボッチは、内心で自身の推理力を自画自賛する。

 あいにく何一つ合っていないが。

 

「急にニヤけてどうしたの」

 

「ミャ、なんでもないミャ……いやぁメグミも色々苦労してるんだミャア」

 

 あまり詮索するのも可哀想だと感じたボッチは、メグミの嘘─実話─を受け流すようにして相槌を打った。

 

「オホン。取り敢えず、今の状態で狩場にいるのは危ないミャ。早いうちに街に避難した方がいいミャ。どうせ地図も持っていないだろうし、案内してやるミャ」

 

「ありがとう。街……って事は、ボッチみたいなのがいっぱいいる場所?」

 

「まあ間違ってはないけど……"人間"もちゃんといるミャ。とはいえ今日はもう暗いし、移動するのは明日だミャ」

 

 ふと、メグミが空を見上げると、うっすらと輝く星空に火の粉が溶けていくのが見えた。

 パキパキと乾燥した枝を割る焚き火がメグミとボッチを暖かく照らす。

 

 視線を下ろしたメグミはじっと腕輪を見つめると、この世界と元いた世界の繋がりが一方通行でないことを祈った。

 

 

 

 それから少し経って、物思いに耽っていたメグミとは別に、肘を突きながら目を瞑り横になっていたボッチは何かが近付いてくる気配を感じとった。

 

 ボッチは瞼を開いて周囲を一瞥する。

 

 ───何もいない

 

 気の所為か、とボッチが再び目を瞑ろうとした時、メグミの背後からそれは現れた。

 

 丸太の如く発達した左右不揃いな牙を生やし、頭部を囲う白い体毛はまるで立髪。

 四足歩行でありながら人の身長を上回る巨体は、並々ならぬ威圧感を発していた。

 

 ボッチはメグミに迫る危険を知らせようとしたものの、体を動かせず、更には開いた口が金具で固定されたかのような感覚に陥った。

 

「ん……どうかした? 急に私の顔なんか見つめて。あっ、もしかして食べカスでも付いてたかな」

 

 しかし、当のメグミはそんな事などいざ知らず、呑気に微笑みを浮かべながら人差し指でありもしないお弁当を探っていた。

 

「ミ"ャーーーッ! 後ろ! 後ろ!」

 

 ボッチは金縛りを振り払うと、彼女の背後を指差して叫ぶ。

 

「そんな大声出さなくたって……後ろって何、よ……」

 

 ボッチの急な叫び声にメグミが困惑した表情で背後を振り向くと、目の前には彼女の身長を裕に越えるであろう牙獣が鎮座していた。

 

「ブルルルルル……フシュウッ───!」

「えーっとぉ……どちら様で?」

 

 冷や汗を垂らしながら引き攣った笑みを見せるメグミをよそに、その獣は荒々しく息を巻きながら力強く土を蹴っていた。




Q.なんで原作がモンハンなの?
A.舞台がモンハン世界なんで


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