機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者 (もう何も辛くない)
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プロローグ

お待たせしました!
びびびびです!
種デス編をこれから投稿していこうと思います!



青い空

青い海

平和な国だったはずだった

 

 

「急げ!シン!」

 

 

「マユ。頑張ってぇ!」

 

 

だが、今

その国が戦火の炎に巻き込まれていた…

 

男性と女性がそれぞれ少年と少女に声をかける

 

懸命に走る少年

シン・アスカ

空を見上げる

 

飛び交うMSや戦闘機

空中を横切っていく緑色のビーム

 

逃げる

逃げなければ

生きるためにも

 

 

「「「「わぁああああああ!!」」」」

 

 

そんな時だった

四人の目の前を、黒いMAが横切っていった

強い風が起こる

 

 

「あぁ!マユの携帯!」

 

 

その時、ピンク色の携帯が斜面に転がっていく

 

 

「そんなのはいいからっ!」

 

 

「いやぁ!」

 

 

母親が携帯よりもここから逃げだそうとマユを引っ張ろうとするのだが、マユは抵抗する

それを見ていたシンが、マユの携帯を拾いに斜面を滑っていった

 

携帯が止まっているところまで近づくと、木をつかんで滑る動きを止めて、携帯を拾う

家族の所に戻ろうとした

 

 

「…っ!あああああああああ!!!」

 

 

近くにビームの一射が落ち、爆発が起こる

シンを爆風が襲う

携帯は放さなかったものの、シンの体は投げ出される

 

かなりの距離を飛ばされたのか、それとも元々近くにあったのか

コンクリートに体を打ち付ける

 

それを見かけたオーブの軍人の男がシンに駆け寄る

 

 

「おい、大丈夫か!」

 

 

男がシンを支えるようにする

 

 

「…!母さん、父さん…。マユは?」

 

 

シンは男の手を振り切って、家族がいるであろう場所を見る

 

 

「…!」

 

 

目を見開く

家族がいた場所は

 

木が倒れ、地面がえぐれ

所々に火が燃えている

 

混乱するシン

 

そこで、見つけた

マユの腕を

 

 

「マユ!」

 

 

シンはマユの腕に駆け寄っていく

そう、マユの腕にだ

 

 

「っ!」

 

 

マユがいると思っていた場所

そこには、腕しかなかった

 

さらに前方を見ると、そこには片腕が取れている妹の体

更に、腕や足が曲がってはいけない方向に曲がっている母の体

木に押しつぶされている父

 

呆然とするシン

 

 

「あ…あぁ…」

 

 

シンはマユの、取れてしまった片手に縋り付く

 

 

「あぁ…あぁあ…!」

 

 

涙がこぼれてくる

 

シンの心に絶望が押し寄せる

 

死んだ

家族が

全員、死んだ

どうして?

戦いが起こったからだ

どうして戦いが起こった?

アスハがそうしたからだ

 

 

「う…、うぅ…」

 

 

空を見上げる

そこには、青緑色の機体と、黒い機体

そして、光の翼を広げた機体が飛び交っていた

 

シンは、その機体を目に焼き付ける

こいつらが…

こいつらが…!

 

 

「う…、う…!」

 

 

もう、耐えられなかった

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」

 

 

空に向かって、悲しみの咆哮をあげた

 

怒りを込め

憎しみを込め

宙を舞うMSに叫んだ

 

 

「…うぅ」

 

 

その時だった

か細い少女のうめき声がシンの耳に届いた

シンがはっ、とする

 

周りを見る

母、父

そして、マユ

 

 

「!マユ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コズミック・イラ72年

あの大戦の終結から、一年が経過していた

 

父、ウズミから代表の座を受け継がれたカガリのもとに、一人の少女が訪れた

そして、一言こう告げたのだ

 

 

「…私、プラントに戻ろうと思ってるの」

 

 

一人の少女は、守りたいもののために苦汁の決断を下す

 

それを知らない少年は、傷を受けた心をいやすためにくつろいでいる

 

二人が交わるのは、いつになるのだろうか

 

 

 

 

 

セラは、砂浜で空を見上げていた

 

あの大戦から、すでに二年

シエルの姿が見えなくなってから一年

 

世界は再び、わずかだが動き出していた

プラント、地球軍共に軍備を整えてきている傾向にある

 

 

「セラ」

 

 

その時、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる

兄であるキラが、後ろに立っていた

 

 

「カガリが呼んでる。今、うちに来てるよ」

 

 

「カガリが?」

 

 

代表の座を継いで、今も忙しいであろう彼女が、なぜここに?

 

セラはキラに連れられて家に戻っていく

 

 

「…セラ」

 

 

居間に入ると、カガリが子供たちに囲まれていた

 

今、セラ、キラ、ラクスはセラとキラの両親、マルキオ導師と共に、アスハの別荘を借りて住んでいる

この子供たちはマルキオ導師が引き取った戦争孤児たちだ

 

カガリは子供たちから何とか離れて、セラに歩み寄る

 

 

「ねぇ~カガリ~、遊ぼうよ~」

 

 

「皆さん?カガリさんは、セラに話がしたいそうです。ですから、お外に遊びに行きましょう?」

 

 

カガリと遊びたがっている子供を諌めて、ラクスが外に連れていく

キラもそれに手伝い、ラクスと共に外に出ていった

 

 

「…で、どうしたの?姉さん」

 

 

キラとラクスたちが外に出ていったのを確認し、セラがカガリに話しかける

 

大戦が終わった後から、セラはカガリを姉と呼び始めた

カガリは戸惑った

それを見てセラは面白がってさらに姉と呼ぶ

 

そして今ではまったく違和感がない状態まで慣れてしまった

 

 

「…私は一週間後、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダル氏との会談に臨む。

プラントに行くつもりだ」

 

 

「…だから?」

 

 

首を傾げて続きを促す

それを報告しに来ただけなのか?

ならば別にここに来る必要なんかない

連絡だって取り合えるのだから

 

 

「お前を護衛として、プラントに連れていく」

 

 

「…は?」

 

 

セラが呆けた目でカガリを見る

カガリはいたって真剣な目だ

 

 

この一言が、セラの運命の歯車を回すことになる

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者




どうでしたでしょうか!

マユは…、生きていましたね
シンのオリジナルの兄弟を出すならマユを出してしまおうと思いまして…

オリジナルを期待していた方
申し訳ありません


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PHASE1 護衛の途中で

第一話です


アーモリーワン 宇宙港

シャトルから降りてくる二人の男女

 

一人は、若干十八歳にして国家元首の座についた、カガリ・ユラ・アスハ

そして、もう一人は…

 

 

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 

 

一人の兵が、二人を案内する

 

カガリがそれについていく

そして、もう一人の男

セラ・ヤマトも、カガリよりも一歩後ろで、ついていった

 

セラはまわりを見渡す

 

ずいぶんにぎわっている

カガリが今日ここに来ることは一部の人間しか知らない

 

とそこで、セラはカガリに視線を向ける

カガリの服装は、紫色の簡素な上下だ

 

 

「本当にそれでいいのか?ドレスも持ってきてはいるんだぞ?」

 

 

セラは小声でカガリにささやく

 

 

「な、何だっていいだろ?このままで…」

 

 

カガリが振り返って、また小声でささやく

 

セラはこういう偉い人の世界のことはわからない

いつものセラなら、そこでまあいいかで済ませるのだが

 

 

「必要なんだろ?演出みたいなこともさ。

馬鹿みたいに気取る事もないけど、軽く見られてもダメなんだ」

 

 

そう言い切ったセラを、カガリは感心したような目で見る

 

 

「お前…、どういう風の吹き回しだ?

こういうお偉いさんの世界なんて、興味なかったんだろ?」

 

 

「いや、そのお偉いさんの護衛をするんだからさ…。

少しの間だけど、マリューさんやバルトフェルドさんに教えてもらったんだ」

 

 

セラは、カガリの護衛としてこの場にいる

ならば、何も知らないでいるというのもまずい

だからこそ、大人二人に頼み込んで勉強したのだ

 

…退屈だったが

 

だがそれでも、カガリに、姉に恥をかかせるわけにはいかない

 

案内役の人について進んでいく

その途中には、たくさんの人々

皆、笑っていた

 

護れたのだ

この笑顔を

護れたのだ

 

 

「…」

 

 

だが、セラは物足りなかった

 

セラとカガリはエレベーターに乗り込む

カガリはエレベーター内のソファに座り、セラはその斜め後ろに立っている

 

 

「明日は軍艦の進水式ということだが…」

 

 

「はい。式典のために少々騒がしく、代表にはご迷惑のことかと存じますが…」

 

 

カガリの問いかけに兵が答える

その答えを聞いたカガリは、苦い口調で言う

 

 

「こちらの用件はすでにご存じだろうに…。そんな日にこんなところでとは、恐れ入る」

 

 

呆れたように言うカガリ

係官がカガリの機嫌を損ねたのではないかと、焦りの表情を見せる

 

 

「内々、かつ緊急にと、会見をお願いしたのはこちらなのです、アスハ代表」

 

 

セラがカガリをなだめるような口調で言う

決して、いつものような馴れ馴れしい言葉は吐けない

今、セラとカガリは対等な立場ではないのだ

 

 

「プラント本国へ赴かれるよりは目立たぬだろうという、

デュランダル議長のご配慮もあってのことだと思われます」

 

 

「…わかっている」

 

 

セラの言葉に、むっとした表情を浮かべながら言い返すカガリ

カガリは気づいていたのだ

この丁寧な口調の奥に潜むセラの悪戯心を

 

そんなこともわからないのか?

と、挑発するという意図もあったということを

 

そんなカガリを見て、セラはまわりに気づかれない程度で小さく微笑む

そして、窓に広がる、美しい風景に目を向ける

 

日差しに当てられ輝いている海

 

セラはそれを眺めながら、エレベーターが到着するのを待っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

荒っぽい叫び声が飛び交い、辺りはたくさんのMSが歩き回っている

そんな中を、一台のバギーが走っていた

 

 

「はぁ…、なんかもうぐちゃぐちゃね…」

 

 

まわりの様子を見た、助手席に座っている赤髪の少女

ルナマリア・ホークが呆れたようにつぶやいた

 

 

「しょうがないですよ。こういうの久しぶり…、というか、初めての人が多いんですし」

 

 

そのルナマリアの後ろに座っている少女が言葉を発する

ルナマリアよりも年下だろうか

顔にはまだまだ幼さが残っている

それでも、大人っぽさも出てきている茶髪の少女

 

 

「まぁ、マユちゃんの言う通りなんだけどさ~…?」

 

 

ルナマリアは口を尖らせながら不満そうに言う

 

 

「でも、これでミネルバもついに着任だ。配備は、予定通り月軌道なのかな?」

 

 

運転している少年

ヴィーノ・デュプレが前を見ながら問うように口を開く

 

 

「まぁ、どちらにしても、あなたとやっと同じ隊になれたわ」

 

 

「はい!私、うれしいです!」

 

 

ルナマリアとマユが声にうれしさをにじませながら言う

 

 

「ま、一番うれしいのはシンだろうがな?」

 

 

「…?どうしてシンが嬉しがるの?」

 

 

マユの隣に座っている少女…、いや、女性といっていいだろう

その人が不思議そうに首を傾げる

 

それを見た、女性以外の三人が呆れたようにため息をついた

さらにそれを見た女性が頭に疑問符を増やす

 

 

「ともかく、これからよろしくね?」

 

 

「シエル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、町に出るのも久しぶりだな…」

 

 

一人の少年が、空を見上げながらつぶやいた

日差しが目に入ってくる

手で太陽を隠す

 

黒い髪

特徴的な赤い目

シン・アスカは、久しぶりに町に出る許可をもらい、友と共に外出していた

 

 

「お前、ここ最近は演習ばっかだったもんな」

 

 

シンの隣にいる少年

ヨウランが笑いかけながらシンに声をかける

その言葉を聞いて、シンはため息をつく

 

 

「別に嫌だっていうわけじゃないんだけどさ…。それでも、少しは休みが欲しかったよ…」

 

 

やれやれといった感じで、首を横に振りながらつぶやくシン

ヨウランは声を出して笑う

 

そして、路地から大通りに出ようとした時だった

 

 

「…って!」

 

 

視界にふわりと青い影が入ってきた

反応できなかった

その影と思い切りぶつかってしまった

 

見ると、女の子のようだ

その少女が倒れそうになる

シンは、慌てて手を伸ばした

 

 

「…だれ?」

 

 

後ろから支えられている状態の少女が振り向いてくる

きょとんとした大きな目

少しの間、見つめ合う二人

 

 

「…っ」

 

 

少女の目が、鋭いものに変わった

シンが、その現象に戸惑いを見せる

そして、少女はシンの腕を振り切って走り出した

 

二人の男の隣で走るのをやめ、男のペースに合わせて歩きはじめる

 

…それにしても、なぜ自分はあの少女に睨まれたのだろうか?

 

 

「胸つかんだろ、お前」

 

 

「いっ!?」

 

 

後ろからヨウランが声をかけてくる

シンが驚く

 

ただ、ヨウランに声をかけられたことに驚いたのではない

その言葉の内容にだ

 

 

(そういえば、手にも柔らかい感触が…、じゃないって!)

 

 

シンが手を開閉させながら手を見つめる

それを見ていたヨウラン

 

 

「…ラッキースケベ」

 

 

からかうようにシンに言い切った

 

 

「あーあ。こりゃ、マユちゃんとシエルに報告かな?」

 

 

ヨウランが両手を後頭部に添えながら歩き出した

 

 

「ちょ…!それはやめろ!ヨウラン!」

 

 

慌ててシンもヨウランを追いかける

必死に、それだけはやめてほしいと懇願しながら

 

 

 

 

 

 

カガリたちの目の前の執務室の扉が開いた

中にいた、長い黒髪を垂らした男がカガリたちの存在に気づく

柔らかい笑みを浮かべながらカガリに歩み寄る

 

 

「やあ、これは姫。遠路お越しいただき、申し訳ありません」

 

 

「いや。議長にもご多忙のところお時間をいただき、ありがたく思う」

 

 

カガリと、柔らかい笑みを浮かべた男

ギルバート・デュランダルが握手を交わす

 

 

「…」

 

 

セラがぽかんと口をあけながら、カガリを見ていた

 

 

(カガリが…、威厳を醸し出してる…だと?)

 

 

セラが知るカガリは、猪突猛進で、けれど子供に弱く打倒されてるカガリしか知らない

こんなの…

 

 

(カガリじゃない!偽物だ!)

 

 

と、心の中で叫びながらも、必死に表情に出さないように努力する

 

セラが心の中で激闘を繰り広げていることを知らない二人は国の状況について話し出していた

 

 

「お国の方はいかがですか?姫が代表となられてからは、実に多くの問題も解決されて…。

私も盟友として、たいへんうれしく、そして羨ましく思っておりますが」

 

 

「まだまだ至らぬことばかりだ」

 

 

デュランダルとカガリはソファに座る

デュランダルに褒めるような言葉を言われたカガリは、それを気にも留めずに苦い口調で答える

 

実際、カガリは未だ未熟だ

代表の座にはついたものの、父、ウズミの手を借りることが少々ある

父の手を借りずとも、オーブを収め、よき方向に持っていく

このことができて初めて、一人前になれる

 

カガリはそう思っていた

 

 

「それで…。この情勢下、代表がお忍びで、それも火急なご用件とは、一体どうしたことでしょうか?

わが大使の伝えるところでは、だいぶ複雑な案件ということですが…」

 

 

その言葉を聞いたカガリは、デュランダルを鋭い目で睨みつける

だが、デュランダルはまったく堪えた様子を見せず、逆に微笑み返してくる始末だ

 

カガリはふっ、と力を抜くようなしぐさを見せる

 

 

「私には、そう複雑な案件とは思えないのだがな…。

それでも、そちらがそう思われるのなら、複雑な案件なのか」

 

 

呆れたような口調で言うカガリ

デュランダルが興味深そうにカガリを見つめる

 

 

「我が国は再三再四、かのオーブ戦のおりに流出した我が国の技術と人的資源の軍事利用を即座にやめていただきたいと申し入れている」

 

 

カガリは再び鋭くした目でデュランダルを見ながら厳しい口調で言い放つ

デュランダルは、笑顔を崩さないままカガリを見つめる

 

そして、唇が動いた

 

 

「姫。少し、外に出ましょうか」

 

 

 

 

急に、デュランダルが工廠区を案内すると言い出した

セラとカガリはデュランダルの案内に従って歩いている

 

 

「そういえば、護衛の方のお名前を聞いておりませんでしたね」

 

 

すると、デュランダルがカガリに向けていた笑みをセラに向けてきた

セラは、急に話を振られたことに驚いて、デュランダルと目を合わせる

 

 

「…っ!」

 

 

セラの歩みが止まる

カガリが、きょとんとした表情を浮かべながらセラの一歩前で立ち止まり、セラを見る

 

セラとデュランダルは目を合わせたまま動かない

カガリはセラとデュランダルを交互に見る

 

 

「…失礼しました。私は、アスハ代表の護衛のアベル・ヒビキと申します」

 

 

頭を下げながら自己紹介をするセラ

カガリが目を見開く

 

 

「…そうですか、アベルさんというのですか」

 

デュランダルはまったく微笑みの表情を動かさない

それが、セラに不気味さを感じさせた

 

 

「お前…」

 

 

カガリが何かを言いかけたが、セラはそれを制する

目で、何も言うなとカガリに伝える

 

カガリはそんなセラの意図を読み取ったのか、頷いて口を閉じた

 

再び歩き出す

 

 

「姫は、さきの大戦でも自らモビルスーツに乗って戦われた勇敢なお方だ」

 

 

行きかうMSに目を向けていたセラとカガリはデュランダルに目を向ける

 

 

「また最後まで圧力に屈せず、自らの理念を貫いた、ウズミ様の後継者でもいらっしゃる」

 

 

カガリは表情を動かさずに話を続けるデュランダルを見つめる

 

 

「ならば、今のこの世界の情勢の中、我々がどうあるべきか、姫にだっておわかりでしょう?」

 

 

デュランダルが子供に確認するような口調でカガリに問いかける

カガリはむっとしたひょうじょうになりながら、その問いに答える

 

 

「我らは我が国の理念を守り抜く」

 

 

「オーブの三原則…ですか?」

 

 

「そうだ」

 

 

他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない

オーブが掲げた中立の意志

 

 

「それは我々も同じです。…だが、それは力なくば叶いません」

 

 

わずかに声を低くしたデュランダル

さらに言葉を続けていく

 

 

「それは、姫とて…。いや、姫の方がお分かりのはずです。だからこそ、オーブも軍備は整えているのでしょう?」

 

 

カガリがわずかにたじろいだ

 

そう、オーブの技術力を使うなと言ったカガリも、国の軍備は整えているのだ

 

 

「…その、姫というのはやめていただきたい」

 

 

ごまかすように言うカガリ

デュランダルはわずかに目を見開き、そしてすぐに笑顔に戻る

 

 

「失礼いたしました…。アスハ代表」

 

 

カガリがデュランダルを睨むが、すぐに目を背ける

 

 

「しかし、ならばなぜ?あなたは何を怖がっているのですか?

大西洋連邦の圧力?オーブが我々に条約違反の軍事協力を供与していると…?」

 

 

カガリの体がびくりと震える

そんなカガリを見たセラが、気遣うようにカガリを見る

 

だが、セラは何も言えない

何もすることはできない

 

 

「しかし、無論そんな事実はない。かのオーブ戦のおり、難民となったオーブの同胞を暖かく受け入れたという事実はありますが…」

 

 

そこでデュランダルは一旦言葉を切り、カガリの目を改めてみる

 

 

「その彼らがここで暮らすために、持てる技術力をいかすことは、仕方のないことでしょう?」

 

 

「だが!」

 

 

デュランダルの言葉を聞いたカガリが、デュランダルの前に立つ

目を潤ませながらデュランダルを睨み、力強く言い放つ

 

 

「強すぎる力は、また争いを呼ぶ!」

 

 

「いいえ、姫」

 

 

だが、デュランダルは首を横に振る

カガリの言うことは、少し間違っている、と伝える

 

 

「争いがなくならぬからこそ、力が必要なのです」

 

 

カガリが息をのむ

何も言い返せない

デュランダルの言う通り、未だ、争いが収まっているとは言えない情勢なのだ

 

ならば、デュランダルの言うことは正しい

 

自分の考えは?

 

 

「…!なんだ!?」

 

 

その時だった

警報が鳴り響く

 

カガリとデュランダル

この場にいる全員が戸惑いを見せる

 

セラがカガリに寄り添って、まわりを警戒する

 

 

「…っ!」

 

 

その時だった

セラから見て、左斜め前にある格納庫

そこから感じる何か

 

断じて良いものではない

 

 

「代表!あんたら、議長を守れ!」

 

 

セラはカガリを抱えながらしゃがみこむ

セラが急に言い放ったことに戸惑いを見せながらも、

デュランダルのまわりにいた随員がセラを見習って、デュランダルを守りながらしゃがみこむ

 

その、次の瞬間だった

 

セラが目を向けていた格納庫の扉が、吹き飛んだ

 

爆風が彼らを襲う

爆風が止んできたことを確認すると、セラはすぐさまカガリを引っ張って物陰に隠れる

そして、カガリを抱きしめながら、横目で何が起こっているのかを確認する

 

 

「…!」

 

 

先程扉が吹き飛んだ格納庫の前に立っている、三機の機体

特徴的なツインアイ

それは、見間違えようのない

 

 

「…ガンダム?」

 

 

「え?」

 

 

セラがつぶやいた言葉が耳に届いたカガリが、セラの腕をとってその場所を見る

 

 

「…!」

 

 

カガリも大きく目を見開く

 

そして、二人の脳裏にあのことが思い出されていた

 

あの、ヘリオポリスの時のことが

思い出されていた

 

 

再び、戦火は、少年を包み込む




シエルさんはザフトに戻ってしまいました…
理由はあるんです!
セラを守りたいからこそ、ザフトに戻ったんです!


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PHASE2 乱れる平穏

前書きに書くことが特にない…

二話目です


「まず格納庫をつぶすぞ!出てくるモビルスーツに気を付けろよ!」

 

 

突然出現したMS

カオスに登場している、スティングが、他の二機に登場している二人に指示を出す

 

 

「ステラ、お前は左」

 

 

カオスが正面に飛んでいくのを見て、アビスを駆る、アウルが残った一人に指示をする

 

 

「わかった」

 

 

そして、残りの一機

ガイアを駆る、ステラが頷く

 

そして、二機が同時に左右に分かれて突進していった

 

 

 

 

セラの目の前で、三機のガンダムが暴れている

緑色の機体は、正確な射撃と、ドラグーンだろうか

二基を操って、ディンを落としていく

 

青い機体は両翼を開いて、複数のMSに火力を浴びせていく

 

黒い機体が、MS形態から、バクゥのような四本足の形態に変化する

そして、地面を駆け抜けながらビームを照射していく

 

 

「姫をシェルターに!」

 

 

どこかから、デュランダルの声がする

すると、デュランダルの随員が、二人の傍に立つ

 

 

「こちらに!」

 

 

そして、走り出す

セラは、カガリの手を引いてその随員について走り出す

 

 

「何としても抑えるんだ!ミネルバにも応援を頼め!」

 

 

デュランダルの声を背後から聞きながら、セラはカガリを守るためにも走る

 

工廠区は火の海となっていた

MSが暴れまわり、そこらじゅうに破壊されたMSが落ちている

 

 

「…!」

 

 

そこで、セラは足の動きを止めて、カガリを抱きしめる

 

近くで、ガイアが戦闘を繰り広げていた

その、ガイアが放ったビームが、セラたちの近くに着弾する

 

爆発が起こり、それに、先導していた随員が巻き込まれた

 

 

「くそっ…!こっちだ!」

 

 

シェルターに案内してくれる随員はもういない

セラは、少しでも安全な場所を見つけようと画策する

 

だが、どこにも安全な場所などあるはずがない

どこもどこも戦闘が行われている

爆発がひっきりなしに起こっている

 

 

「何で…。何でこんな…!?」

 

 

カガリが、セラに手を引かれながら言う

セラは、振り返ってカガリの顔を見る

 

カガリの目には、涙が

 

 

「…?」

 

 

何とか

何とかカガリを救う方法はないのか

 

そう思って、まわりを見渡した

 

そして、一つの機体を見つけた

ジンにも似た

だが、違う

 

どこにも損傷は見当たらない

ハッチも空いている

 

 

「来い!」

 

 

セラは、迷わなかった

カガリを引っ張って、その機体の傍まで行く

 

 

「な…、お前…!」

 

 

カガリを抱き上げて、その機体に乗り込む

すぐさまハッチを閉め、OSを起動させる

 

 

「セラ…、お前…。」

 

 

「こんなところで、姉さんを死なせてたまるか!」

 

 

セラは、機体を起き上がらせる

 

画面に、この機体の名称が出る

ZGMF-X1000ザク

 

 

(おそらく、この動きは相手にも見られているだろうな)

 

 

そのセラの予想は当たっていた

 

いつの間にか、二本脚の形態になっていたガイアが、こちらに目を向けた

そして、ライフルをこちらに向けてくる

 

セラは、すぐさまSEEDを発動させる

 

 

「しっかりつかまってろ!」

 

 

カガリにそう忠告する

 

そして、セラはすぐさま機体を横にずらした

ザクが立っていた場所を、ビームが横切っていく

 

 

「なにっ!?」

 

 

ガイアのパイロット、ステラは、ザクの動きに驚愕していた

今までの敵は、全て一射、一撃で仕留めてきた

それなのに、自分の一撃がかわされた

 

 

「なんだ…、お前は!」

 

 

ステラは、今度はビームサーベルを抜いて斬りかかる

 

 

「思ってたよりも、使いやすいな!」

 

 

セラは、そうつぶやきながらシールドからビームトマホークを取り出して迎え撃つ

シールドで相手のサーベルを防ぐ

 

だが、二機のパワーはガイアの方が上だ

少しずつザクが押され始める

 

だがセラは、その力に逆らわずに機体を少しずつ後退させていた

そのおかげで、ザクは体制を崩さないまま

 

そして、もう片方の手に持っていたトマホークを振るう

 

 

「…!」

 

 

ステラは機体をすぐさま後退させる

トマホークが、ガイアの左肩をかすめた

 

 

「ちぃ!」

 

 

(リベルタスなら、左肩を斬りおとせてたんだけどな!)

 

 

セラは心の中で悪態をつく

この機体も、中々の機動性とパワーだが、それでもセラの愛機だったリベルタスには遠く及んでいない

自分の技術を思う存分発揮できない

 

力をセーブしながらの戦いを、セラは強いられることとなる

 

 

 

 

ザフト軍艦、ミネルバ

そのドック内で、ある機体の発進シークエンスが進められていた

 

 

「インパルス、発進スタンバイ。パイロットはコアスプレンダーヘ」

 

 

シンは、コアスプレンダーのコックピットに乗り込む

 

 

「くそっ!どうしてこんなことに!」

 

 

自分たちの場所で、好き勝手やられている今の現状

シンは悪態をつきながらOSを起動させていく

 

青く染まった画面

シンの操作通りに進行していく起動作業

 

 

「モジュールはソードを選択。シルエットハンガー二号を開放します。

シルエットフライヤー、射出スタンバイ…」

 

 

シンが作業を行っていると同時に、この機体を収容している艦でも作業が行われていた

そして、シンの目の前に広がる発進通路に光が灯る

 

 

「ハッチ開放、射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常。

進路クリアー、コアスプレンダー発進、どうぞ!」

 

 

目の前のハッチが開かれ、発進許可が出る

シンは操縦桿を倒して、機体を発進させる

 

 

「シン・アスカ!コアスプレンダー、行きます!」

 

 

シンが駆る戦闘機がハッチから飛び出していく

それに追従する形で、三機のユニットも発進していった

 

 

 

 

シンが発進作業を進めていたころ、セラはガイアと交戦していた

敵機の方がパワーは上だが、操縦技術は圧倒的にセラの方が上だった

戦いは、セラが有利に進めていた

 

のだが

 

 

「…、ちっ!もう一機来たか!」

 

 

セラが、一機、こちらに向かってくるのを感知する

味方ではない

間違いなく敵だ

 

向かってきたのは、カオスだった

ライフルを撃ちながら接近してくる

 

セラはビームをシールドで防ぐ

それを実行しながら、ガイアの動きを確認する

 

だが、ガイアの姿が見えない

 

 

「…!」

 

 

セラの頭に、警告音のようなものがはしる

セラはシールドを前に向けながら、後方にむかって足を出す

 

 

「なぁっ!?」

 

 

後ろに回り込んでいたガイアが、ザクの蹴りではじかれる

 

 

「何なんだこいつは!ザフトのエースパイロット!?」

 

 

「おい、スティング!なにやってんのさ!」

 

 

スティングが、ザクの動きに驚愕していると、今度はアビスが来た

 

 

「くそっ!三機か!」

 

 

正直、きつい

二機までなら、セラにとってはまだやれた

三機はきつい

 

カガリを乗せた状態では、全力でいけない

 

セラは、力をセーブしながら戦うとともに、カガリのことも気にしながら戦わなければならないのだ

だが、カガリを下ろすことはできない

そんなことは許されない

 

 

「どうする…!?」

 

 

三機の攻撃を何とか捌きながら、どうこの場面を凌ぐか考えようとした

 

セラの視界に、モニターに何かが映る

 

 

「戦闘機…?こっちに向かってくる?」

 

 

一機の戦闘機がこちらに向かってくる

そして、それに追従して飛んでいる三機

 

敵の三機は、その戦闘機に気づいていない

その戦闘機が、こちらにサーベルで斬りかかろうとしていたカオスに向けて、ミサイルを放った

放たれたミサイルが、カオスの背中に命中する

 

 

「ぐぅ…!なんだ!?」

 

 

急に背後から襲われた衝撃に驚愕したスティングが、まわりを見渡す

 

 

「なんだ、あれは…」

 

 

スティングが、見つけた

そして、ステラも、アウルも

その光景を見ていた

 

戦闘機が飛んでいる

それだけではない

 

戦闘機についていっていた物体が、合体していくのだ

そして…

 

 

「!モビルスーツ!?」

 

 

モビルスーツ形態になる

 

そのモビルスーツ

ZGMF-X56Sインパルスが、レーザー対艦刀をもって、ザクの前に立ちはだかった

 

 

「どうして、こんなことを…。また戦争がしたいのか!あんたたちは!」

 

 

インパルスに登場しているシンが、目の前の三機に叫んだ

 

 

 

 

 

「…味方か?」

 

 

目の前に立っているMS

こちらに攻撃してくる気配はない

 

セラは、目の前に立っている機体を味方と判断した

 

 

 

 

「うぉおおおおおおおお!!!」

 

 

シンは、大剣、エクスカリバーを振りかぶりながらガイアに向かっていく

ガイアもサーベルで迎え撃つ

 

斬り合う二機

だが、剣の大きさから押されたガイアが後退する

 

シンは、この戦闘を優勢で進められると思った

 

 

「はっ!いきなり出てきて!なんなんだよお前は!」

 

 

そんなインパルスに、アウルが全砲門を開いて火力を浴びせようとする

それに気づいたシンは、機体を横にずらそうとする

 

 

「…なぁっ!?」

 

 

アウルは、響いてくる警告音に従って機体をずらした

アビスがいたその場所を、ビームが横切る

 

 

「シン!」

 

 

「レイ!」

 

 

アビスの背後から、赤い機体が来る

さらに、その後ろからも、もう一機の機体が

 

 

「シエル!」

 

 

「シン!大丈夫!?」

 

 

シエルが駆る、ヴァルキリーが、戦場に舞い戻ってきたのだ

 

 

 

 

セラは、いったん離れて、戦況を見守っていた

一機だけで、孤軍奮闘するのかと思っていたその機体を援護しに来たのか

二機のガンダムが、インパルスの傍による

 

そして、そのうちの一機が

 

 

「ヴァルキリー…?」

 

 

なぜ

なぜこの機体がここにある?

この機体は

この機体に乗っているのは

 

 

「シエルなのか…?」

 

 

「セラ…」

 

 

混乱するセラ

それを気遣うようにセラをのぞき込むカガリ

 

カガリの目を見て、セラは我に返る

そして、思い出す

今、自分がどういう役目を負っているのか

自分がやるべきことを

 

 

「え…、セラ!?」

 

 

カガリが、驚いたように声を出す

セラが、機体を戦場から遠ざけていくのだ

 

 

「今は、安全なところにカガリを届ける」

 

 

セラは、表情を動かさないで言う

 

今、自分は護衛なのだ

カガリを守ることが、自分の役目なのだ

自分の私情を、出すわけにはいかない

 

セラは、機体を、灰色の戦艦に向けた

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、俺たちも行くか!」

 

 

特務艦、ガーティ・ルーのブリッジ内

その艦長席の隣の席に座っている仮面をかぶった男が時計を見て指示を出す

 

隣に座る艦長が頷き、指示を出す

 

 

「ゴットフリート一番二番起動!ミサイル発射管一番から八番、コリントス装填!イザワ機、バルト機はカタパルトへ!」

 

 

モニターには、ナスカ級の戦艦が二隻映っている

だが、こちらには気づかない

 

それもそのはず、このガーティ・ルーは、ミラージュコロイドで姿を隠していたのだ

 

仮面の男

ネオ・ロアノークは、モニターと作業の様子を見て、さらに命令を出す

 

 

「主砲照準、左舷前方ナスカ級。発射と共にミラージュコロイドを解除、機関最大」

 

 

陽気な感じで、かつ淡々と指示を出すネオ

 

 

「ロアノーク大佐」

 

 

「うん?どうした、スウェン」

 

 

ネオの隣に立っていた男

スウェン・カル・バヤンがネオに声をかけた

 

 

「自分はどういたしますか?機体に乗って、待機しますか?」

 

 

無表情のまま、ネオを見るスウェン

 

ネオは笑顔でその問いに答える

 

 

「俺たちが出る必要はないと思うがな。まぁ、出るべきだと思ったら俺も出る。ここで戦況を見ていてくれ」

 

 

「了解しました」

 

 

ネオの指示に頷きながら答えるスウェン

 

 

「ゴットフリート、てぇっ!」

 

 

その会話の直後、艦長の指示と共に、砲撃がナスカ級に向けて放たれた

放たれた砲撃はナスカ級の駆動部を貫く

 

ガーティ・ルーは、ミラージュコロイドを解除して一気に加速する

 

アーモリーワンの管制も、戦艦の接近にようやく気付き、対応をしてくる

 

 

「そーら、来るぞ!モビルスーツ発進後回頭二十!主砲照準インディゴ、ナスカ級!

あちらの砲に当たるなよ!」

 

 

ここにきて、ネオの声も先程までの陽気さが薄れてきている

 

だが、それでも

その声に含まれる自信は隠し切れない

負けるはずがない

 

そう、自分たちが負けるはずがないのだ

 

 

 

 

 

 

 

三対三となった戦況

シンたちが圧倒的優位で戦いを進めていた

 

やはり、その原因はシエルにあるだろう

大戦を生き抜いた経験

それがここでいきていた

 

 

「くそっ!仕方ない撤退するぞ!」

 

 

スティングが歯噛みしながら撤退を決断する

自分たちが知らない新型機が三機

それも、そのうち一機は、自分たちを圧倒している

 

これでは、全滅もありうる

 

自分たちは、なんとしてもこの機体を届けなければならないのだ

死ぬわけにはいかない

 

 

「ステラ!そいつを振り切れるか!」

 

 

スティングが、インパルスと激しい戦闘を繰り広げているステラに声をかける

 

 

「すぐにこいつを沈める!」

 

 

スティングとアウルが、撤退しようと試みる中、ステラは目の前の機体を落とそうと躍起になる

 

 

「ステラ!」

 

 

スティングが、ステラに怒鳴る

ここで、私情を優先させるわけにはいかない

何としてもここから撤退しなければ

 

 

「こんな…!私が、こんなぁあああ!」

 

 

ステラが叫び声をあげながらインパルスに襲い掛かる

 

 

「なら、お前はここで死ねよ!」

 

 

「っひぃ!?」

 

 

赤い機体

ZGMF-X23Sセイバーと交戦しながらも、少しずつ後退していっているアウルが、ステラにそう声をかけた

 

その言葉に、ステラが固まる

いや、そのセリフの中の、死という言葉にステラが固まった

 

 

「死ぬ…?死ぬの…、いやぁ…」

 

 

「…なんだ?」

 

 

急に動かなくなったガイア

シンは不思議に思うが、それでも動かないのなら、それでもいい

ここで、こいつを落とす

 

シンはエクスカリバーを振りかぶりながらガイアに向かっていく

 

 

「アウル!この…!」

 

 

「だって止まんないじゃん」

 

 

スティングとアウルが何か話しているが、ステラには届かない

 

死ぬ…?

ステラは、死ぬ…?

死ぬのは…

 

 

「いやぁああああああ!!!」

 

 

ステラは、一目散に機体を後ろに向けて離脱を開始した

 

 

「ステラ!」

 

 

いきなりのステラの離脱に、スティングの反応が遅れた

すぐさまガイアを追いかける形で、離脱を開始した

 

 

「結果オーライだろ!?」

 

 

アウルもまた、本格的に離脱を開始した

 

 

 

 

 

 

「あいつら!」

 

 

急に離脱していく三機

 

 

「レイ、シエル!追うぞ!あいつらを逃がすわけにはいかない!」

 

 

シンが先導する形で、三人は三機を追いかける

レイとシエルは、ライフルを連射しながら三機を追う

 

ガイアはそのまま一直線に離脱しようとするが、アビスとカオスはビームを防ぎながらの後退となる

 

 

「くぅ!しまった!」

 

 

動きが鈍ったことにより、インパルスがガイアに向かっていく

スティングは慌ててインパルスを追いかける

 

ステラを落とさせるわけにはいかない

 

一方のシンは、ガイアに中々追いつけないことにイライラしていた

今、装備している武装は、遠距離攻撃用の武器がない

 

ならば、武装を変えればいい

 

 

「ミネルバ!フォースシルエット!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバの艦橋内では、アーモリーワンの被害状況の報告が飛び交っていた

 

 

「司令部、応答有りません!」

 

 

「工廠内ガス発生!エスバスからロナール地区まで、レベル四の避難勧告発令!」

 

 

次と次と報告されていく

 

ミネルバ艦長である、タリア・グラディスは表情を曇らせる

敵に、こちらの新型を奪われ、そしてその新型で破壊されていくプラント

 

 

「艦長…、これ、まずいですよね…。もし、このまま逃げられたりでもしたら…」

 

 

タリアの斜め前の席に座るミネルバ副艦長、アーサー・トラインが、不安な表情を向けてタリアに話しかける

 

 

「ばさばさ飛ぶわね、上層部の首が」

 

 

タリアはアーサーの問いにばっさりと答える

アーサーが情けない表情になる

 

タリアは親指の爪を噛みながら考える

 

 

「それにしても、一体どこの部隊なのかしらね…。こんな大胆な作戦…」

 

 

モニターに、シンたちの追撃を振り切りながら離脱していこうとする三機が映し出されている

 

あそこまで機体を操れるのだ

ナチュラルとは思えない

だが、コーディネータとも考えたくはない

 

地球連合軍?

 

それしか考えられないのだ

 

締結されているユニウス条約

それを破って攻めてきているのか?

 

そう考え始めた時だった

 

 

「議長?」

 

 

艦橋後ろの扉が開いて、随員を伴って入ってくる人物

ギルバート・デュランダルだった

 

その姿を見て、艦橋にいる全員が居住まいを正す

 

 

「状況は!どうなっている!?」

 

 

デュランダルが大声で尋ねる

 

 

「…ごらんのとおりです」

 

 

タリアは、モニターを示す

モニターに映し出されている光景を見て、デュランダルは苦い表情に変わる

 

その時だった

 

 

「ミネルバ!フォースシルエット!」

 

 

シンから通信が入った

 

シンからの要求

アーサーがタリアを見る

 

 

「許可します!射出して!」

 

 

タリアがそう指示する

そして、その後デュランダルの方へと振り返る

 

 

「もう、機密も何もありませんでしょう?」

 

 

タリアの問いかけに、デュランダルは頷く

 

 

「フォースシルエット、射出スタンバイ!」

 

 

タリアの指示を受けた、メイリン・ホークがデッキに呼びかけた

 

 

 

 

 

 

シンたちは、必死に離脱していこうとする三機を追撃していた

しかし、三機は上手くシンたちの攻撃を避けて離れていく

 

 

(…Nジャマーキャンセラーが取り除かれていなかったら、追いつけたんだけど…)

 

 

心の中で、シエルがそうつぶやいた

 

ザフトに戻って、この機体を渡した時

ユニウス条約により、Nジャマーキャンセラーが取り除かれたのだ

 

それにより、機体のパワーは一気に下がった

それでも従来の機体よりも上の性能を持っているのだが

 

 

「…あ、シン!」

 

 

そこで、視界に入ってきたユニット

 

シンに呼びかける

 

 

「あぁ!わかってる!」

 

 

「援護は任せろ!シン!」

 

 

レイがインパルスの前に立ちはだかる

インパルスに向けて撃たれるビームを防いでいく

 

シンは、こちらに飛んでくるユニットに向かう

そして、背中に装備している武装をはずす

 

とんできた飛行物体が後部にあるユニットをパージする

そして、そのユニットを接続した

 

これが、インパルスの特性

背面の装備を換装することができるのだ

 

今、装備したのは、フォースシルエット

接近戦、遠距離戦をバランスよくこなすことができる、機動型の装備だ

シンは、バーニアを吹かせてガイアに接近する

 

 

「落ちろぉおおおおおおお!!」

 

 

ビームサーベルを抜いて斬りかかる

ガイアに接近し、サーベルを振り下ろそうとしたところだった

 

ガイアが、ずっと砲火を浴びせ続けたコロニーの壁の一部分

そこが、破れた

 

 

「!」

 

 

その空いた穴を、三機は潜っていく

 

 

「くそっ!逃がすか!」

 

 

シンは、その三機を追っていく

 

 

「シン!深追いをするな!…くっ!」

 

 

レイもシンを追っていく

シエルも、二人を追って、穴を潜っていった




ヴァルキリーは残っていました
核は取り除かれましたが


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PHASE3 出撃する女神

三話目です
ついに、セラの存在にシエルが気づく…?

そして、戦闘シーンが…
今回は結構ひどいです


「…遅いな」

 

 

敵の戦艦を次々と撃沈させていく中、ネオがぼそりとつぶやいた

 

今、敵の新型機三機を奪っているであろう三人が、未だに帰艦してこない

 

 

「失敗ですかね?」

 

 

艦長がネオに問いかける

 

 

「失敗するような奴らなら、こんな作戦、頼んじゃいないさ」

 

 

だが、ネオは迷いなくこう言い放った

そして、席から立ち上がる

 

 

「出撃して時間を稼ぐ。スウェン、お前も俺と来い」

 

 

「了解」

 

 

ネオとスウェンは艦橋から出ていく

 

パイロットスーツも着ないまま、それぞれの機体に乗り込んでいく

ネオは紫色のMAに

スウェンは、ガンダムに

 

 

「よし、行くぞ。出たらすぐに敵さんが来るからな!」

 

 

ネオがそう言って出撃していく

そして、スウェンも

 

 

「スウェン・カル・バヤン。エクステンド、出る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラは、見つけた灰色の戦艦にザクを着艦させた

格納庫にいる人たちが、混乱している

戸惑いの表情をこちらに向けている

 

このザクが、ここに配属される予定はなかったのだろう

 

セラは、申し訳ない気持ちを感じながらカガリを支えてハッチから降りていく

 

 

「え?」

 

 

「誰?」

 

 

と、まわりから聞こえてくる

 

それだけでなく、兵たちが銃を向けてくる

当然の反応だ

 

セラとカガリが、床に足をつける

それと同時に、赤い髪の少女が二人に銃を向けながら近づいてくる

 

 

「本艦はこれより発進します!各員、所定の作業に就いてください!」

 

 

その時、放送が入ってきた

セラとカガリは上を見上げる

 

 

「動くな!」

 

 

それを見ていた少女が怒鳴り声をあげる

 

 

「お前たち、軍のものではないな?なぜその機体に乗っている!?」

 

 

質問を重ねる少女

相当警戒しているようだ

 

カガリがその質問に答えようとするのを、セラは腕で制する

それは、自分の仕事だ

 

 

「そちらの機体を勝手に使ったものは謝る。だが、その銃を下ろせ」

 

 

セラは上から見下ろすような口調で告げる

少女は表情を歪ませる

 

 

「こちらは、オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ氏だ」

 

 

少女が驚きの表情を浮かべ、思わずといったように銃を下ろす

その他の兵や作業員も、戸惑いの声をあげている

 

 

「俺は随員のアベル・ヒビキ。デュランダル議長との会見の途中、騒ぎに巻き込まれ、避難もままならないままにこの機体を借りた」

 

 

この場にいる、セラとカガリ以外の全員があいまいな表情で互いと見合わせている

 

これなら、何とかなるな

と、セラは思った

 

 

「議長はこの艦に入られたのだろう?お目にかかりたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバの艦橋のモニターには、奪われた三機を追って、シンたちが宇宙空間に出ていくところが映し出されていた

 

 

「あいつら!何を勝手に!」

 

 

それを見ていたアーサーが困惑の声をあげる

 

 

「インパルスのパワー、危険域です!」

 

 

「えぇ!?」

 

 

さらに追い打ちをかけるような報告に、アーサーの顔が青ざめる

だが、艦長であるタリアは冷静だった

 

 

「インパルスを失う訳にはいきません。ミネルバ、発進させます!」

 

 

セリフの前半は、ただの建前だった

少年、少女たちを見殺しにするわけにはいかない

それが本当の理由だった

 

タリアは、デュランダルに視線を向ける

デュランダルは、タリアと視線を合わせて頷く

 

タリアもまた、強くうなずき返した

 

 

「ミネルバ発進シークエンス、スタート。本艦はこれより、戦闘ステータスに移行する!」

 

 

指示した後、タリアは再びデュランダルに視線を向ける

 

 

「議長は、下船を」

 

 

そう進言するタリア

だが、デュランダルは首を横に振った

 

 

「タリア、とても残って報告を待っていられる状況ではないよ。

私には権限もあれば義務もある。…私も行く。許可してくれ」

 

 

艦の上では、艦長の命令は絶対だ

だが、タリアは、デュランダルが乗艦することを許可した

 

そして、デュランダルに見えないように小さくため息を吐いた

 

 

 

 

 

 

シンたち三人は…いや

シンは、あの三機を追って宇宙空間に出て行った

そして、シエルとレイは、そんなシンを追って行っていた

 

 

「シン!深追いするな!」

 

 

「ここは戻ろう!シン!」

 

 

レイとシエルがシンに呼びかける

だが、シンは聞く耳を持たない

 

 

「どこだ…、どこにいる!」

 

 

まわりを見渡して、奪われた三機を探す

その時、三機に向けてビームが放たれた

 

三機はそれぞれ違う方向に機体をずらして回避する

 

 

「ほう、五機目の新型か…。そして、あれは…」

 

 

ビームを放った人物

ネオは三機を分析していた

 

そのうちの二機は、見たことがない

あの二機も、ザフトが開発した新型の機体だろう

 

 

「ヴァルキリーか?」

 

 

そして、残りの一機

あれは、ネオも知っていた

 

前大戦を集結に導いた

その象徴となる四機の機体の内の一機

ヴァルキリー

 

 

「なるほど…。これは、俺のミスかな?」

 

 

ネオは、初め、この二機の新型を奪取しようと考えていた

だが、ヴァルキリーまでいるのなら別だ

 

 

「ガーティ・ルー!撤退だ!すぐに戦闘宙域から離脱しろ!」

 

 

ネオは撤退を選んだ

ただでさえ、この場にいすぎたのだ

もうすぐ、かなりの質量の戦力が自分たちを襲うだろう

 

そして、この新型の三機

間違いなく、分が悪いのは自分たちだ

 

 

「スウェン、俺たちは時間稼ぎに徹するぞ!」

 

 

「了解」

 

 

二人は、三機に向かっていった

 

 

「俺が新型の二機を相手する。お前はヴァルキリーを」

 

 

「了解」

 

 

同じ返事をするスウェン

だが、指示には従う

 

エクステンドを駆って、ヴァルキリーに向かっていった

 

 

「この機体は…?」

 

 

シエルは、自分のほうに向かってくる機体を観察する

真っ黒な機体

これは

 

 

「ルースレス…?」

 

 

そう

ルースレスに似ていた

 

そのルースレスに似た機体

エクステンドは、両腰、そして両肩に装備しているビーム砲をヴァルキリーに連射する

 

放たれた砲撃を、シエルは舞うような動きで回避する

 

シエルは、この機体を使っての実践は、ヤキンでの戦い以来だった

シミュレーションはこなしてきたものの、それでも実戦には遠く及ばない

だから、勘が鈍ってはいないかとどこか心配していた

 

シエルはサーベルを抜き、砲撃を掻い潜りながらエクステンドに接近し、サーベルを振り下ろす

一方のエクステンドも、対艦刀を抜いて迎え撃つ

 

 

「…大丈夫」

 

 

思っていたよりも、勘は鈍っていない

それでも、ヤキンの時よりも動けていないと感じるが、それも微々たるものだ

この程度の相手なら、それでも十分だ

 

シエルは、鍔迫り合いをしている相手に機体を蹴り飛ばす

エクステンドは、その衝撃に逆らわずに後方へ飛ばされる

 

 

「…?」

 

 

その動きに、シエルは違和感を感じた

 

なぜ、抵抗しない?

 

だが、チャンスには変わりない

ライフルを撃って追撃をかける

 

 

「!」

 

 

体制を崩していたはずのエクステンド

放たれたビームを、回避した

 

そして、そのまま体制を立て直してそのままこちらに向かってくる

 

シエルはサーベルを構えて迎え撃つ体制を作る

 

その時だった

 

 

「…!?」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

動き出したミネルバ

 

 

「避難するのか?この艦は…。それほどまでに、プラントのダメージは甚大なのか…?」

 

 

カガリが天井を見上げながらつぶやく

セラは、カガリを見るが、その言葉に答えない

 

今、セラとカガリはまわりを武装した兵に囲まれながら通路を歩いていた

まるで、監視されているみたい…、いや、実際に監視されているのだろう

 

 

「コンディションレッド発令!コンディションレッド発令!パイロットは、ブリーフィングルームに集まってください!」

 

 

その時、警報が流れた

 

コンディションレッド…?

 

弾かれたように、セラは赤髪の少女に詰め寄った

 

 

「戦闘に出るのか!?この艦は!」

 

 

少女も、戸惑った表情でセラを見る

この少女も、状況を読み取りきれていない…?

 

 

「セラ…!」

 

 

その時、カガリは、セラを本名で読んでしまった

セラは振り返る

 

 

「…セラ?」

 

 

少女が、訝しげな眼でこちらを見てくる

 

偽名を使っていたセラ

 

怪しまれてしまうのは、当然のことだった

 

 

 

 

 

 

 

 

シンとレイが、紫色のMAと戦っているとき、視界に灰色の戦艦が飛び込んできた

 

 

「ミネルバ!?」

 

 

そう、あの灰色の戦艦

それは、自分が配属された母艦、ミネルバだった

 

そして、ミネルバから信号弾が発射される

 

 

「撤退!?」

 

 

そこでシンは、自分の機体のエネルギー残量に気づく

もう、あと三十秒も戦闘していれば、FSダウンを起こしていただろう

 

 

「シン、戻るぞ。俺の機体もエネルギーが危ない」

 

 

レイから通信が入る

セイバーもエネルギーが残り少ないらしい

シンは、しぶしぶといった表情で、機体をミネルバに向けた

 

 

 

 

 

 

シエルにも、ミネルバ

そして、撃たれた信号弾が見えていた

すぐに撤退を開始する

 

 

「…?」

 

 

だが、撤退していくシエルを、エクステンドは追わない

逆に、エクステンドも母艦に戻っていく

 

あの戦闘は、ただの足止めだったのだろうか

だから、全力で戦っていなかった…?

 

 

「…」

 

 

シエルは、首を横に振る

そのことを考えるのは、今ではない

 

シエルは、スピードを上げて帰艦していった

 

 

 

 

 

 

「インディゴ五十三、マーク二十二ブラボーに不明艦一!距離、百五十!二機の機影が、着艦しています!」

 

 

「諸元をデータベースに登録。以降、対象をボギーワンとする!」

 

 

報告を受けたタリアが指示を出す

 

その不明艦が、母艦であることは間違いない

 

 

「ボギーワンを討つ!ブリッジ遮蔽、進路インディゴデルタ、加速二十%、アンチビーム爆雷発射用意…。

アーサー!何してるの!」

 

 

タリアの指示と共に、艦橋がゆっくりと下降していく

そこは、CICと直結している場所だ

 

指示を出して、最後にぼぅっとしているアーサーを一喝するタリア

 

 

「うあ…、は、はいっ!」

 

 

アーサーは飛び上がりながら返事を返す

そして、表情を引き締めて、副艦長として指示を出す

 

 

「トリスタン一番二番、イゾルデ起動!対象、ボギーワン!」

 

 

アーサーの指示に従って、次々と兵器が起動していく

 

 

「このままボギーワンを叩きます!進路、イエローアルファ!」

 

 

ミネルバは、トリスタンを放ちながらボギーワンに向けて進んでいく

ボギーワンは、そのミネルバから逃げるように進んでいる

 

ボギーワンも、かなりの高速艦のようだ

だが、それでもミネルバにはかなわないだろう

現に、今も少しずつ二隻の距離は接近していっている

 

その時だった

モニターに映っていたボギーワンが、両舷から飛び出していた物体を切り離した

 

 

「ボギーワン、船体の一部を分離!」

 

 

重量を減らし、速度を上げるのが目的なのだろうか

 

二基の物体はこちらに向かってくる

 

 

「!」

 

 

そこで、タリアは気づいた

敵の狙いが

この物体の正体が何なのかを

 

 

「撃ち方待てっ!面舵十!機関最大!」

 

 

タリアが慌てたように指示を出す

ミネルバの操縦士も、その指示に従って迅速に舵をきる

 

だが、遅かった

 

二基の物体が、爆発を起こした

爆発による光に視界を遮られる

 

クルー、そしてデュランダルが目をつぶる

 

そして、光が収まり、視界が晴れた時には

 

 

「ボギーワン!レッド八十八マーク六チャーリー!距離五百!」

 

 

こちらの射程範囲内から抜け出していた

 

 

「やってくれるわ…!こんな手で逃げようなんて」

 

 

タリアがいら立ちを含ませた声でつぶやいた

逃げられてしまった

 

それが、タリアをイラつかせる

 

 

「大分手ごわい部隊のようだな…」

 

 

タリアの背後から、デュランダルが話しかけてくる

 

 

「ならばなおのこと、このままあれを逃がすわけにはいきません。そんな連中に、あの機体が渡れば…」

 

 

「あぁ。私のことは気にするな。あれの奪還、破壊は現時点での最優先事項だ」

 

 

デュランダルがそう言い放つ

タリアは頭を下げた後、クルーたちにボギーワンの位置を確認させる

 

そして、ボギーワンを追うという号令を出す

 

 

「艦長」

 

 

その時だった

上の階層に戻ってきた艦橋に、通信が入ってきたのは

 

 

「戦闘中ということで、ご報告が遅れました。本艦発進時に、格納庫にてザクに搭乗した民間人二名を発見。

身元を確認したところ、オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ、そしてその随員であることが判明」

 

 

「え?」

 

 

タリアが驚愕の声を出す

デュランダルも、タリアに休むことを勧められて、艦橋から出ようとした足を止め、引き返してくる

 

 

「今は、士官室でお休みいただいておりますが…」

 

 

頭を抱えたくなる

 

そんな気持ちを抑えて、タリアは通信を入れた少女

ルナマリアに返事を返してから、デュランダルと共に、士官室に足を向けた

 

だが、タリアは一つ気になっていた

通信が入ってきて、デュランダルは驚愕の表情を浮かべて戻ってきた

その時、デュランダルが一瞬

 

笑っていたような気がしたのだ

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバに着艦し、戦闘が行われたことに驚きはしたが、もう戦闘は収まったらしい

セラとカガリは、あの後、この士官室に案内された

今は休んでいる

 

 

「…ん?」

 

 

扉がノックされる音がする

カガリが出ようと、立ち上がる

それを制して、セラが扉に向かう

 

 

「…議長。それに…?」

 

 

扉を開けると、二人の男女

 

一人はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダル

そして、もう一人は白いザフト兵の服を身にまとった女性だった

 

 

 

 

 

 

シエルは、戦闘から戻り、今はヴァルキリーの整備を手伝っていた

基本、機体の整備はそれを専門とする人が行うのだが

 

まわりから、話し声が聞こえてくる

皆、戦闘が行われたことに少なからず戸惑いを覚えているらしい

 

このまま戦争になるのではないかと心配する声もあがっている

 

 

「なあ、あのザクのパイロット、誰なんだ?」

 

 

その時、シンの声が耳に入ってきた

シエルがシンに目を向ける

 

シンは、ルナマリアに話しかけたらしい

 

緑色のザク

あれは、ミネルバ配属の機体ではないはずだ

 

 

「あぁ、あれに乗ってたのは、オーブのアスハよ」

 

 

「アスハぁ!?」

 

 

「!?」

 

 

シンの驚愕の声が聞こえてくる

 

その声が聞こえたのか、マユがルナマリアに近づいていく

 

 

「ルナさん、それって本当ですか!?」

 

 

マユがルナマリアに詰め寄っている

 

 

「ええ。ほんと、びっくりしたわよ…。けど、あれを操縦してたのは、護衛の人だそうよ?…あ」

 

 

シエルは、ルナマリアが話している内容が気になり、整備を他の人たちに任せて、三人の傍に向かっていく

 

 

「どうした?何か気になることでもあるのか?」

 

 

シンが、シエルの接近に気がつき、視線を向けながらルナマリアに問いかける

 

 

「うん…。その護衛の人、名前を…アベル・ヒビキ?…て、名乗ったんだけど」

 

 

そこでルナマリアは言葉を切る

 

 

「それ、偽名みたいなのよ」

 

 

「え?」

 

 

シエルがその言葉に反応した

 

偽名?

 

そんなものを使うような人物が、カガリの護衛なのか

シエルはカガリのことが気になった

 

 

「代表がとっさに呼んだのよ。えっと…なんて言ったかなぁ…」

 

 

ルナマリアが、なんて呼ばれていたかを思い出そうとする

十秒ほど経っただろうか

シンが、もういいよと言おうとした時だった

 

 

「あ!そうよ!セラ!セラって呼んだのよ!」

 

 

「!?」

 

 

「セラ?誰だ?マユは知ってるか?」

 

 

「わからないよ…」

 

 

シエルの顔が驚愕で染まる

 

セラ…?

 

 

シンたちがセラとは誰なのか

それを話し合っている中、シエルは戸惑っていた

 

セラが、なぜこんなところにいるのか

いや、それは決まっている

カガリの護衛だろう

 

なら、なぜカガリはセラを護衛に選んだ?

セラはまた、その力を振りかざしてしまったのか

 

 

「シエルさん…、どうしたの?」

 

 

「え?」

 

 

考え込む中、マユに話しかけられた

見ると、ルナマリアもシンも、心配げにこちらを見ていた

 

 

「あ…、別に…。ただ、オーブの代表は、どんな人なんだろうって…」

 

 

その言葉に、ルナマリアは首を傾げる

シンは、不快な表情になり、マユは微妙な表情になる

 

シエルは再びセラのことを考え始める

 

 

 

再会は、近い




今回はここまでです
セラとシエルの会話は、まだ先になるかも…


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PHASE4 デブリ戦

四話目です



「しかし、この艦もとんだことになってしまいましたよ」

 

 

セラとカガリ、そして、デュランダルとレイは艦の通路を歩いていた

セラとカガリはこの二人に艦内を案内されていた

 

 

「進水式の前日に、いきなりの実戦を経験せねばならない事態になるとはね…」

 

 

苦笑い気味に言うデュランダル

歩いていた四人は、エレベーターの扉の前に立つ

レイがボタンを押し、扉が開く

 

レイ以外の三人はエレベータ内に入り、それを確認した後例が入る

 

 

「ここから、モビルスーツデッキに上がります」

 

 

「え…?」

 

 

デュランダルの言葉にカガリが戸惑い気味に小さく声をあげる

セラも目をわずかに見開く

 

そこまで自分たちに見せていいのだろうか

成り行きでこの艦に乗ることになってしまったが、結局自分たちは部外者なのだ

その部外者に、自軍の最新鋭の艦を…

 

 

「艦のほぼ中心に位置するとお考えください。搭載可能機数は当然申し上げられません。

現在その数量が載っているわけでもありません」

 

 

セラは、デュランダルに気づかれないように鋭い視線を向ける

 

どうしてもこの男は信用できない

どこかその言葉の奥に感じる違和感

その違和感を詳しくは説明できない

 

だが、決していいものではないのは確かだ

 

そう考えていた時、エレベーターの扉が開く目に飛び込んでくる格納庫

 

 

「ZGMF-X1000ザクはもうご存知でしょう。先程も搭乗されていたようですし。現在のザフトの主力の機体です」

 

 

セラはザクに目を向けていたが、カガリは別の方向に目を向けていた

その視線を追いかける

 

 

「そして、このミネルバの最大の特徴ともいえる、この発進システムを使うインパルス…。

工廠でご覧になったようですが…」

 

 

「はい。従来の機体とはまったく違うタイプで驚きました」

 

 

デュランダルの問いかけるような言葉に、セラは淡々と答える

 

 

「…姫にはお気に召しませんか?」

 

 

デュランダルが、カガリに問いかける

カガリの顔が俯かれ、表情も暗いものだったのだ

 

 

「…議長は嬉しそうだな」

 

 

横目でデュランダルを見ながら言うカガリ

デュランダルがふっ、と少し笑いながら答える

 

 

「嬉しいというわけではありません。ですが、あの混乱の中からみなで懸命にがんばり、ようやくここまでの力を持つことをできたというのは、やはり…」

 

 

「力…か…」

 

 

カガリがふぅ、と息をつく

その後、カガリは鋭い目でデュランダルを睨む

 

 

「争いがなくならぬから力が必要だ…、そうおっしゃったな?議長は」

 

 

カガリの直球的な問いに、デュランダルは柔らかく答える

 

 

「ええ」

 

 

「では、このたびのことはどうお考えになられる!?あのたった三機の新型モビルスーツを奪おうとした連中のために被った被害のことは!?」

 

 

カガリの口調が激しくなっていく

下の格納庫で作業している人たちの視線が、こちらに向けられていく

 

 

「だから、力など持つべきではないと?」

 

 

「そもそも、なぜそんなものが必要なのだ!今更!」

 

 

カガリは訴える

 

 

「我々は誓ったはずだ!もう繰り返さない!互いに手を取って歩む道を選ぶと!」

 

 

必死に訴える

 

セラは、カガリの言葉を聞きながら考えていた

 

ユニウス・セブンで結ばれた条約

それで、本当に終わったと思っていた

争いは終わった

自分の、この悲しい力を使わなくともいい時代が来たのだと

 

 

「さすが、綺麗ごとはアスハのお家芸だな!」

 

 

思考に耽っていると、格納庫から少年の声が聞こえてくる

怒りに満ちた声

 

セラが声が響いたと思われる場所に目を向けると、特徴的な真紅の瞳がこちらを射抜いている

そして、その少年の傍にいる少女もまた、どこか複雑な表情をカガリに向けていた

 

 

「シン!」

 

 

デュランダルの隣にいたレイが手すりを飛び越えていく

あの少年の所に行くのだろうか

 

セラはカガリを見る

少年の怒りの視線に囚われて、たじろいでいる

 

 

「敵艦補足。距離八千!」

 

 

セラがカガリを支えようとした時、艦内放送が流れた

あの部隊を見つけたのだ

 

硬直していた兵たちが慌ただしく動き出す

 

レイが、シンの腕をつかんで叱責しようとするが、シンは振り払っていってしまう

 

 

「申し訳ありません、議長!この処分は、後ほど必ず!」

 

 

レイはそう言って、戦闘に備えるために離れていく

 

ギルバートが、シンがいた場所に向けていた目をカガリに向けなおす

 

 

「申し訳ありません、姫。彼はオーブからの移住者なので…。よもや、あんなことを言うとは…。」

 

 

「え…?」

 

 

カガリが戸惑う

なぜ、自分があんなことを言われたのだ?

自分は、あの少年のことを知らない

 

 

「…」

 

 

一方のセラは、違う方向に目を向けていた

 

そう

かつての大戦で、自分を支えてくれた機体に、乗り込んでいく人物を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イエロー五十マーク八十二チャーリーに大型の熱源!距離八千!」

 

 

ガーティ・ルーでは、ミネルバの接近を感知していた

ネオがモニターに映し出される二隻の位置関係を見る

 

 

「ふむ、やはりザフトも馬鹿ではないか」

 

 

「どういたしますか?」

 

 

つぶやくネオに、艦長がこの状況をどうするかを聞く

だが、そんなことは決まっている

 

 

「ここで一気に叩くぞ!総員戦闘配備!パイロットはブリーフィングルームへ!」

 

 

こちらも戦闘準備が進められる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバ艦橋内

 

 

 

「まさか向こうもデブリの中に入るなんて馬鹿な真似はしないとは思うけど、危険な宙域での戦闘になることは間違いないわ。

気を引き締めてね」

 

 

タリアが柔らかく、だがどこか厳しい口調で言う

その言葉に、艦橋にいるクルーたちは声をそろえて返事を返す

 

慌ただしく、敵艦の位置を確認したり、機体の発進シークエンスを進めていく

 

その時、艦橋の扉が開かれた

 

 

「いいかな、艦長。私は、オーブの方々にも艦橋に入っていただきたいと思うのだが」

 

 

扉が開く音に、振り返ったタリアにデュランダルが言う

カガリとセラは、どこか戸惑っているような表情でやり取りを見守る

 

 

「あ…、いえ、それは…」

 

 

「君も知っての通り、代表は先の大戦で艦の指揮も執り、数多くの戦闘を経験されてきた。

そうした視点から、この艦の戦闘を見ていただきたいと思ってね」

 

 

口ごもるタリアに、さらに言葉を続けるデュランダル

 

 

「…わかりました」

 

 

渋々、本当に渋々といった感じで了承するタリア

代表も、艦の指揮を執っていたのだ

さすがに騒ぎはしないだろうとの判断だ

 

 

「艦橋遮蔽。対艦、対モビルスーツ戦闘用意」

 

 

タリアの指示と共に、艦橋が下層に沈んでいく

 

セラとカガリはこのシステムに驚き、何とかでかかった声をとどめながらまわりを見渡す

 

二人を気にもせず、戦闘準備、そして機体の発進シークエンスの仕上げをしていくクルーたち

そんなクルーを眺めながら、デュランダルが口を開いた

 

 

「ボギーワンか…」

 

 

デュランダルの声が聞こえ、セラが視線を向ける

セラは、デュランダルの隣の席に座っていた

 

 

「本当の名は、なんというのだろうね?」

 

 

「…」

 

 

急に、何を言い出す?

心の中でつぶやくセラ

 

 

「続いて、インパルス、どうぞ!」

 

 

CICの少女の声が響く

そんな中でも、デュランダルは続けていく

 

 

「名は、存在を示すものだ。…ならばもし、それが偽りだったとしたら?

それはその存在そのものも偽り…、ということになるのかな?」

 

 

デュランダルの言葉に、無意識に耳を傾けるクルーたち

まわりの熱源反応を探りながらも、耳を澄ませる

 

セラは、デュランダルを警戒する

いや、その警戒も無駄だとわかっていた

この男は、わかっている

自分の正体を

 

オーブにいた時に、プラントの新しい議長に就任したということで興味を持ち、この男について少し調べたのだ

 

元遺伝子学の学者

 

 

「アベル…、いや、セラ・ヤマト君」

 

 

その瞬間、セラを纏う空気が豹変する

ただの護衛が出す空気ではない

歴戦の戦士しか出せない気迫

 

それを、デュランダルは笑顔をもって迎え撃った

 

 

 

 

 

 

 

 

「デブリ戦、成績そんなによくないんだけどね…」

 

 

デブリの中をゆっくりと進む中、ルナマリアがぼそりとつぶやいた

 

出撃しているシン、ルナマリア、シエルとその他二機のゲイツRは慎重にまわりを警戒しながら進んでいく

 

 

「向こうもとっくにこっちを補足しているはず。油断しちゃだめだよ、ルナ」

 

 

「わかってるわよ。レイみたいなこと言わないでよ…」

 

 

シエルに諌められるように言われたルナマリアがげんなりと返事を返す

別に油断しているわけではない

それでも、初の実戦が苦手なデブリ戦ということで、言わずにはいられなかったのだ

 

そんな二人の会話を右から左へ聞き流しながらシンはあたりを見渡す

 

すでに、敵艦との距離は千五百を切っている

それなのに、むこうには何の動きもない

一体、何が…?

 

 

「…!」

 

 

その時、シンの視界の端で、何かが動いた

 

 

 

 

 

 

 

セラとデュランダルが目を合わせる

セラは鋭い目で

デュランダルは柔らかい目で

 

対照的な二人

 

 

「議長…、なぜそのことを…?」

 

 

カガリは動揺を隠しきれない

セラのことを知っている人物は、そういないはずだ

なのに、この男は知っている

 

 

「代表」

 

 

セラは、カガリを制するように声をかける

あくまでも口調は護衛

だが、その声に含まれるもの

それは決してカガリよりも身分が下の者という雰囲気ではなかった

 

 

「…いや、別に君をどうこうしようという訳ではないんだ」

 

 

どれだけ睨み合っただろうか

デュランダルには睨んだという意識はないかもしれないが

 

デュランダルはふっ、と顔を更にゆるめてセラに声をかける

 

 

「ただ、君の本当の名前が知りたかっただけなんだ」

 

 

デュランダルが柔らかく言うが、それでもセラは鋭い視線を向け続ける

 

 

「…議長は、元遺伝子学の学者だったんですよね?なら、俺のことを知っているのも不思議じゃない」

 

 

明らかに、不敬罪にもとられてしまうような口ぶり

だが、誰もそのことを指摘できない

この会話に、口出しが出来ない

 

 

「インパルス、ボギーワンまで千四百…」

 

 

オペレーターがおどおどといった感じで報告する

他のクルーたちがきょとんとした表情になる中、セラは顔を青ざめる

 

 

「まずい!早く彼らを呼び戻せ!」

 

 

急に叫ぶセラに、クルーたちは戸惑った表情を向ける

だが、タリアは違った

セラの一言で、察する

 

 

「これは囮だ!」

 

 

 

 

 

 

 

シンの視界の端から出てきた影

それは、ガイア、アビス、カオスにエクステンド

待ち伏せて奇襲を仕掛けてきたのだ

 

 

「な…!」

 

 

こちらにいた全機がその奇襲に反応し、攻撃をかわす

だが、カオスはそこで兵装ポッドを切り離す

 

二基のドラグーンが一機のゲイツRを貫く

 

 

「ショーン!」

 

 

ルナマリアの叫びが響く

 

だが、四機の猛攻はそこで止まらない

アビスがビームを斉射し、一機減ったこちらの四機に仕掛けてくる

そのビームをかわすが、ゲイツRの体制が崩れる

 

そこを狙って、エクステンドが両肩に装備されている砲口を向ける

放たれた砲撃が、ゲイツRを貫いた

 

開始からわずか一分足らず

五機いたこちらの戦力は、三機になっていた

 

 

 

 

 

 

 

「ショーン機、デイル機、シグナルロスト!」

 

 

「ボギーワン、ロストです!」

 

 

出撃した機体の撃墜

そして、追っていたはずの敵艦の反応が消えた

 

その報告を聞いていたセラが、再び口を開く

 

 

「敵艦はおそらく後ろだ!撃ってくるぞ!迎撃を急げ!」

 

 

必死に叫ぶセラ

だが、今のセラはリベルタスのパイロットでも、最早兵士ですらないのだ

そんなセラの言葉など、聞いてくれるはずもない

 

セラの言葉をいまいち信用できなかったタリアは、先に索敵をさせる

だが、その時間がミネルバに牙をむく

 

 

「ブルー十八マーク九チャーリーに熱紋!ボギーワンです!距離五百!」

 

 

「えぇっ!?」

 

 

オペレーターの報告に、アーサーが驚愕の声をあげる

タリアも、愕然とする

 

セラの言う通り、ボギーワンはミネルバの後方にいたのだ

先程の自分の行動を後悔する

とはいえ、タリアの行動も仕方はないのだが

 

 

「さらにモビルスーツ二!」

 

 

「測敵レーザー照射、感あり!」

 

 

追い打ちをかけるように悪い方の報告が入ってくる

だが、いつまでも後悔してはいられない

すぐさま指示を出す

 

 

「アンチビーム爆雷発射!面舵三十!トリスタン照準!」

 

 

「だめです!オレンジ二十二デルタにモビルスーツ!」

 

 

「なら、機関最大!右舷側の小惑星を盾に回り込んで!」

 

 

反撃ができないなら回避しかない

小惑星に船体を隠しながら放たれるビーム、ミサイルをかわしていく

 

だが、そのビームとミサイルが惑星に当たり、砕けた岩塊が船体に衝突する

それによる艦の被害は避けれない

 

 

「メイリン!シンたちを呼び戻して!残りの機体も発進準備!アーサー、迎撃!」

 

 

今できることを最大限に生かしながら、反撃の手を考える

 

 

 

 

 

奇襲により、味方機を二機失ってしまったシンたち

さらに奇襲による戦況不利は避けられない

 

敵機から放たれる砲撃をかわすことしかできないシンとルナマリア

唯一シエルだけが体制を立て直し、エクステンドと交戦している

 

 

「シン!ルナ!」

 

 

エクステンドの対艦刀の斬撃を、ビームサーベルで捌きながらシンたちの状態を案ずるシエル

だが、援護には行けない

 

やはり、前回は全力を出していなかったのだろう

攻撃の鋭さ、反応の速さがまるで違う

 

シエルはサーベルからライフルに持ち替える

シールドを構えながら、エクステンドに向けて引き金を引く

放たれたビームは三射

エクステンドはヴァルキリーへと接近しながら、機体を潜るように動かしてビームをかわす

 

ヴァルキリーの眼前まで来たエクステンドは、両肩、両腰、そしてビームライフルを一斉照射

 

シエルは、眼前にエクステンドが迫った時点で距離を取り始めていた

それにより、その砲撃を何とか回避することができた

 

もし、そこでサーベルで迎え撃とうとしていたら、シエルの命はそこで尽きていただろう

 

 

「くっ…!」

 

 

歯噛みするシエル

目の前の敵は強い

倒すには、時間がかかってしまう

 

そしてそう思っているのは、シエルだけではなかった

エクステンドを駆るスウェンもまた、目の前の機体の強さに舌を巻いていた

 

奇襲を仕掛け、体制を崩したところを仕留めてステラたちを援護する

それが当初の作戦だった

 

だが、この機体は崩れたはずの体制をすぐさま立て直し、そして反撃してきた

これはさすがのスウェンも驚かざるを得なかなった

必殺とも思っていた一撃一撃がかわされていく

今まで、エースとして多大な戦果を挙げてきたスウェン

 

ここまで苦戦するということは初めての経験だった

 

 

「だが、負けん」

 

 

小さくつぶやく

負けるわけにはいかない

必ず、勝つ

 

 

 

 

「このぉおおおおお!!!」

 

 

シンが咆哮を上げながら、長射程高エネルギー砲、ケルベロスを放っていく

その射程の向こうにいるガイア

デブリの中にある、建物の残骸の上を巧みに機体を操って駆け抜ける

建物にビームが命中し、ガイアの駆け抜ける後方がガラスなどの破片が巻き上がる

だが、ガイアには命中しない

 

 

「シンはやらせない!」

 

 

ガイアがインパルスに向けて、MS形態に変化して向かっていこうとすると、赤いザクが横から突進していく

体当たりを喰らったガイア

 

 

「ぐぅううううう!!」

 

 

横殴りにされる衝撃を、ステラは歯を食いしばりながら耐えきる

そして、自分に苦しい思いをさせた赤いザクを鋭い目で睨む

 

 

「よくも…、やったなぁあああああああ!!!」

 

 

四本足の形態に変化し、再びデブリの残骸を上手く利用して駆け抜ける

その動きでルナマリアをかく乱していく

 

だがルナマリアも負けてはいない

長射程ビーム砲、オルトロスでガイアが足場にしているデブリを破壊していく

ガイアはわずかに体制を崩す

 

だが、そこは優秀なパイロットであるステラだ

すぐさま体制を整える

そして、四本足の形態ならではのジャンプ力でザクを飛び越えて後ろをとる

 

 

「落とす!」

 

 

口部分に搭載されているビームブレイド、グリフォンでザクを切り裂こうと駆けていくガイア

 

 

「そんなの…!」

 

 

ルナマリアはその斬撃を

 

 

「死んでたまるか!」

 

 

両手で機体を立ち上がらせる

そして、バック転の要領でガイアを飛び越えて後ろをとる

 

 

「っ!」

 

 

ステラは驚愕の表情を見せる

この一撃をかわされるとは思わなかった

 

そう思った時、あの白い機体を思い出す

どんなに攻めても落とせなかったあの機体

色がまったく違うのにも関わらず、赤いザクがその白い機体と重なる

 

後ろをとったザクは、オルトロスでガイアを撃ちぬこうとしている

 

 

「私は…、こんなぁ!」

 

 

ステラは無理やりに機体が駆けていく軌道を捻じ曲げる

そうして横に機体をずらすことで放たれた砲撃をかわすことに成功

 

 

「くっ…!」

 

 

ルナマリアが歯噛みする

あれで終わりだと思っていた

だが、かわされてしまった

 

二機の攻防はさらに激しさを増していく

 

 

 

 

「アウル!右から回り込め!」

 

 

「あいよ!」

 

 

シンは、カオスとアビス

二機を相手取っていた

 

デブリのデブリの中にあった構造物を使って姿を隠しているシン

だが、それもすぐにばれるだろう

シンはそう予想していた

 

その予想通りに、左からカオス

右からアビスが迫ってくる

だが、甘かった

 

シンはケルベロス高エネルギー長射程砲で正面の壁を破壊して、そこから二機による包囲網から抜け出していく

そして、ケルベロスで二機が中にいる構造物を破壊していく

ビームが命中した構造物が崩壊していく

 

シンは、レール砲を放つのをやめ、ビームジャベリンを取り出す

描写が遅れてしまったが、今回シンが選択した装備はブラストシルエット

長距離用の装備が豊富にそろえられている

だが、それだけではなく、近距離専用の武器であるビームジャベリンも搭載されているのだ

 

 

「…っ!」

 

 

構造物が崩壊し、煙が上がっている中、煙を裂いてアビスが向かってくる

アビスはビームランスでインパルスを貫こうとしている

 

シンはビームランスをジャベリンで捌く

 

だが、アビスの後方からカオスがビームライフルを撃ってくる

シンはアビスから後退し、ビームをかわしていく

 

 

「くそっ!こいつ、なぜ落ちない!」

 

 

カオスを駆る、スティングが悪態をつく

どんなに自分たちが攻めても、目の前の白い機体は落ちない

自分たちは優秀なのだ

選ばれた者なのだ

それなのに…

 

 

「このっ!」

 

 

ビームサーベルを構え、インパルスに向けて向かっていった

 

 

 

 

 

 

 

 

「粘りますな」

 

 

モニターに映るミネルバの姿

必死にこちらの砲火を凌いでいる

 

 

「だが、戦艦は足を止められたら終わりさ」

 

 

嘲るように笑いながら、ネオは指示を出す

 

 

「敵艦がへばりついている小惑星に、ミサイルを撃て!

砕いた岩のシャワーをたっぷりとお見舞いさせてやるんだ!」

 

 

指示を出した後、一つ息をつき、艦橋から出て行こうとするネオ

 

 

「出て仕上げをしてくる。後を頼むな」

 

 

 

 

 

 

 

「後ろを取られたままじゃどうにもならないわ!どうにか回り込めないの!?」

 

 

タリアが大声で操縦士に問いかける

 

 

「無理です!今は回避だけで…!」

 

 

タリアが歯噛みする

このままでは、こちらが落ちるのも時間の問題だ

 

セイバーも発進させることができない

 

 

「これではこちらの火器の半分も…!」

 

 

今、ミネルバは小惑星の傍に張り付いている状態である

この状態で使える武装など、半分もない

 

 

「ミサイル接近!数六!」

 

 

「迎撃!」

 

 

ミサイルが接近している報告に対し、反射的に迎撃を指示する

 

 

「…!」

 

 

後ろで見ていたセラが、表情をはっ、とさせる

ミサイルが直撃コースではない

これの狙いは…

 

 

「艦を小惑星から離すんだ!」

 

 

「えっ!?」

 

 

セラの大声にタリアが振り返る

だが、時既に遅かった

 

小惑星に命中したミサイル

ミサイルが爆発し、小惑星の一部を砕いていく

砕かれた岩がミネルバの船体に命中する

 

 

「右舷が…、艦長っ!」

 

 

アーサーが悲鳴にも似た叫びを発する

 

 

「離脱する上げ舵十五!」

 

 

「第二波、接近!」

 

 

タリアがこの場から脱出することを選択するが、それよりも早く向こうは次のカードを切ってきた

更なるミサイルが飛んでくる

 

 

「減速二十!」

 

 

タリアの指示と共にミネルバのスピードが減速していく

ミネルバの前方にミサイルが命中していく

 

ぎりぎり、ミネルバの停止が間に合う

その前方に岩が重なっていき、進路をふさぐ

 

 

「四番六番スラスター破損!艦長、これでは動きが…!」

 

 

アーサーが艦の被害状況を報告する

 

 

「ボギーワンは!?」

 

 

「ブルー二十二デルタ、距離千百!」

 

 

タリアがボギーワンとの距離を確認する

さらにそのすぐ後、MSとMAが接近してきていることが報告される

 

 

「エイブス!レイを出して!歩いてでも何でもいい!」

 

 

タリアが受話器を手に、怒鳴りつけるように指示を出す

 

 

「シンたちは!?」

 

 

「インパルス、ザクはカオス、ガイア、アビスと交戦中!ヴァルキリーも敵モビルスーツと交戦中です!」

 

 

「っ…」

 

 

セラが体を震わせる

 

 

「この艦に、もうモビルスーツはないのか?」

 

 

デュランダルがタリアに問いかける

 

 

「パイロットがいません!」

 

 

「!」

 

 

セラがはっ、と顔をあげる

 

なら、自分が

 

という言葉を飲み込んだ

自分が出なくてもいい

この状況を脱する方法を、セラは思いついた

 

 

「右舷のスラスターはいくつ生きているんですか?」

 

 

セラがタリアに問いかける

タリアはきっ、と鋭い目でセラを睨む

ここで、何を言い出す?

 

だが、その隣にいるデュランダルが頷く

質問に答えるよう促しているように

 

 

「…六基よ。でも、そんなのでのこのこ出て行ったって、いい的にされるだけだわ!」

 

 

タリアは後ろに向けていた顔を前に戻す

そして、再びこの状況を脱するための方法を思考し始めようとする

 

 

「同時に、右舷の砲を一斉に撃つんです。小惑星に向けて」

 

 

セラが続けた言葉に、タリアが目を見開かせて後ろを振り返る

 

 

「爆圧で一気に船体を押し出すんですよ。まわりの岩も一緒に」

 

 

「あ…」

 

 

思いつかなかった

確かにその方法で、この状況を脱することはできるだろう

 

だが…

 

 

「バカ言うな!そんなことすれば、ミネルバの船体が!

 

 

アーサーがセラを見て怒鳴る

 

そう

岩と一緒に船体を押し出す

 

小惑星を撃った衝撃で砕けた岩は、当然ミネルバを襲う

それによるダメージは当然甚大なものになるだろう

 

だが、セラは譲らない

 

 

「今は状況回避が先だ!このまま、的にされるか!?」

 

 

セラとアーサーが真っ向から睨み合う

 

セラは確かに部外者だ

だが、セラはカガリを守る義務がある

義務がなくとも、カガリを守りたい

 

アーサーが眉間に汗を垂らしながら目を逸らす

セラから放出される気迫に負けてしまった

 

 

「…確かに、それしか方法はなさそうね。あったとしても、もうこれ以上時間はかけられない」

 

 

タリアは、迷った末に決断した

 

 

「艦長!?」

 

 

「この件は後で話しましょう、アーサー」

 

 

アーサーがタリアに食い下がる

タリアは柔らかい笑みを浮かべてそれを止める

 

 

「右舷側の火砲を全て発射準備!右舷スラスター全開と同時に斉射!タイミング、合わせてよ」

 

 

タリアが指示を出す中、セラは不満を露わにしているアーサーをちらっ、と見る

 

 

「…すみませんでした」

 

 

小声でつぶやく

謝罪の言葉を、つぶやく

 

だが、自分にも譲れない思いがある

ここで、死ぬわけには、死なせるわけにはいかないのだ

 

セラが思考している中、ミネルバ艦内に強烈な衝撃がはしる

大きな岩塊と共に、ミネルバが自由を取り戻した




あれ?
この話で戦闘を終わらせるつもりだったのに…
ここまで詰め込むつもりはなかったのに…

夢の果てをあわせても過去最長ですね(笑)


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PHASE5 見透かされるもの

前話と比べたら圧倒的に短いです
そして、作者はここまでするつもりはありませんでした
二人が勝手にやってるんです
作者は無実です


歩いて出撃したレイ

まさか実戦二度目の出撃がこんなことになろうとは思いもしなかった

メインカメラを回し、まわりを見る

 

ダガーLと、MA

そのMAは、前の戦いでシンと共に自分を苦しめたあの紫色のMA

 

レイの背中にはしる冷たい感覚

 

まただ

またこの感覚だ

あのMAには、前と同じ奴が乗っている

 

レイは機体を飛び立たせる

ライフルを放ちながら三機に向かっていく

 

三機はそれぞれ別の方向にかわしていく

レイはそのうち動きが鈍かった一機を狙いにつける

 

腰に差してあるサーベルを抜いて、バーニアを吹かせる

 

セイバーに接近されているダガーLはビームを放ってセイバーを牽制する

だがレイは、そのビームを苦もなくかわすとサーベルを振り下ろした

 

振り下ろされたサーベルはダガーLを一刀両断にする

 

 

「ヨーン!」

 

 

もう一機のダガーLのパイロットが爆散していくダガーLのパイロットの名を叫ぶ

だが、そのパイロットにはそんなことをしている暇はなかったのだ

 

 

「!」

 

 

レイは爆散していく機体には目もくれず、もう一機のダガーLに向かっていく

 

 

「させるか!」

 

 

セイバーの動きを見ていたネオがガンバレルを分離してセイバーに向かわせる

だが、それは間に合わなかった

 

 

「うぁあああああああ!!!」

 

 

もう一機のダガーLのパイロットの悲鳴がネオの耳に届く

 

レイは、ダガーLを先程と同じように一刀両断にした

 

 

「ちっ」

 

 

ネオは舌打ちしながらセイバーを睨む

わずかに間に合わなかったガンバレルがセイバーに向けてビームを照射していく

 

だがセイバーは超絶的な反射神経を見せつけながらビームをかわし、それどころか一基をライフルで破壊した

 

ガンバレルの包囲網を一時抜け出したレイは、MAに向けてライフルを向ける

銃口が火を噴き、ビームが一寸違わずMAに向かっていく

 

ネオはそのビームをかわす

だが、かわしたところにさらにもう一本のビームが襲ってくる

 

 

「く…!こいつ…!」

 

 

MAには近接専用の武装は搭載されていない

こちらには接近してこない

接近しようとしてもすぐに距離を取られてしまう

 

レイはそう考えながら戦っていた

ならばどうするか

簡単だ

隙を作ればいい

 

幸い、セイバーはあのMAよりも機体性能で考えれば圧倒的に有利だ

あのガンバレルにさえ注意していればやられることはない

 

 

「…」

 

 

しかし、粘ってくる

ガンバレルの包囲網を回避しながらビームを撃っていく

MAは体制を崩しそうになりながらもビームをかわしていくのだ

 

長期戦になる

なってしまう

 

そうレイが考えた時だった

 

 

「…!なにっ!?」

 

 

「ミネルバ…!?」

 

 

岩によって進路をふさがれていたミネルバが、自由を取り戻した

 

 

 

 

 

「ええい!あの状況から生き返るとは…!」

 

 

ネオが歯噛みしながら、その巨体を飛び上がらせらミネルバを睨む

 

ここは撤退するしかない

正面でぶつかりあえば、不利なのは自分たちなのだ

無理をする必要はない

 

ネオは機体を母艦に向ける

後方から、逃がすつもりはないと見える

セイバーがライフルを連射しながら追いすがってくる

だが、それはネオには通用しない

 

 

「またいつの日か、会えるのを楽しみにしてるよ。ザフトの諸君?」

 

 

その声は彼らには届かない

だが、ネオはそう言い残して戦闘宙域から撤退していった

 

 

 

 

 

「ボギーワン、離脱します!」

 

 

報告を聞いて、タリアはほっ、と力を抜く

 

 

「インパルス、ザクルナマリア機、ヴァルキリー、パワー危険域です」

 

 

「艦長、さっきの爆発でさらに第二エンジンと左舷熱センサーが…」

 

 

次々と耳に届いてくる被害報告

これではもう、これ以上の戦闘は不可能なのは明らかだった

 

 

「グラディス艦長」

 

 

デュランダルも、それを理解していた

タリアを呼ぶ

 

 

「もういい。あとは別の策を講じる」

 

 

タリアは悔しさに顔を俯かせる

 

 

「私も、これ以上アスハ代表を振り回すわけにはいかん」

 

 

「申し訳ありません…」

 

 

タリアはデュランダルに謝罪の言葉を返す

それに頷いた後、デュランダルはカガリと向き合う

 

 

「本当に申し訳ありませんでした、アスハ代表」

 

 

「こちらのことなどいい。それよりも、この問題の早期解決を心よりお祈りする」

 

 

デュランダルの謝罪に落ち着いて返すカガリ

 

 

「本国ともようやく連絡が取れました。すでにアーモリーワンへの救援、調査隊が出ているとのことでしたので、

うち一隻をこちらへ、皆様のお迎えとして回すようすでに要請してあります」

 

 

「ありがとう」

 

 

デュランダルの手際の良さは見事だ

一体いつそんなことをしていたのだろうか

この艦に来てからほぼずっとこの男といたのだが、そんな様子は見受けられなかった

 

カガリ、セラ、デュランダルとタリアは艦橋から出て士官室まで向かっていた

デュランダルとタリアは、二人の付き添いだが

 

カガリは士官室に入っていく

セラも続こうとしたのだが

 

 

「しかし、先程は彼のおかげで助かったな、グラディス艦長」

 

 

「え?はぁ…」

 

 

「…」

 

 

デュランダルが口を開いた

セラは背中を向けたまま立ち止まり、デュランダルの言葉を聞く

 

 

「さすがだね、数多の激戦を潜り抜けたものの力は」

 

 

「っ!」

 

 

「…?」

 

 

デュランダルの言葉に、セラはびくっ、と体を震わせる

タリアはきょとんと表情を疑問に染めていた

 

セラは何とか心の動揺を抑え、デュランダルとタリアに向き直る

 

 

「いえ…、出過ぎたことをして、申し訳ありませんでした」

 

 

セラはタリアに頭を下げる

この艦を、カガリを守るためとはいえ、さすがにやりすぎてしまったと自覚はしていた

 

その言葉を聞いたタリアは、微笑んだ

 

 

「判断は正しかったわ。むしろ、こちらがお礼を言いたいくらいよ」

 

 

セラは戸惑う

さすがに褒められるとは思っていなかった

 

 

「では」

 

 

タリアに帰す言葉が見つからず、士官室へと入っていった

 

 

 

 

「議長、先程のお言葉は…?」

 

 

二人を送っていったあと、タリアとデュランダルは並んで歩いていた

そして、先程のやり取りの中で気になっていたことをタリアはデュランダルに問う

 

『数多の激戦を潜り抜けたもの』

 

この言葉、あの少年には似つかわしくない言葉だった

 

タリアの言葉の意味を読み取ったデュランダルは、笑顔を向けながら答える

 

 

「天からの解放者」

 

 

「え?」

 

 

デュランダルの言葉は、タリアにとって不意をつかれた言葉だった

 

 

「知ってるかい?」

 

 

「…ヤキン・ドゥーエ戦役で、聖なる翼を広げ、人々を救ったモビルスーツ…でしたよね?」

 

 

ザフト、プラントでは有名だった

 

地球軍の核攻撃を抑え、そしてザフトの暴走を止めた英雄

しかし、それがなんだというのだろうか?

 

 

「彼だよ」

 

 

「…は?」

 

 

「私は、そう考えている」

 

 

デュランダルは、呆けて立ち止まっているタリアに気づかずそのまま歩いている

 

タリアは混乱している

天からの解放者

プラントで知らない者はいないのではないだろうか

 

だが、その存在を証明する証拠が残されていなかった

伝説

一部の者の中では存在していなかったのではないのかとまで言われてきた

 

その正体が、あの少年…?

そんな馬鹿な…

 

 

「艦長、今の話は内密にな」

 

 

タリアの混乱を知ってか知らずか

デュランダルはタリアにそう釘をさした

 

 

 

 

 

 

「あの護衛の人が?」

 

 

「そう!もうすごかったんだから!」

 

 

メイリンが興奮している

話題は、艦を救った案をたたき出したアスハの護衛の話だった

 

メイリンは帰艦してきたシン、ルナマリア、レイ、シエル

そして、艦橋にはいなかったマユに、艦橋で何が起こったかを話していた

 

 

「『敵艦は後ろだ!撃ってくるぞ!迎撃急げ!』とか。

最初は何偉そうに言ってるんだろうとか思ってたけど…、あの指示に従ってたらもっと楽に戦闘終わってたんじゃないかなぁ…」

 

 

「…」

 

 

メイリンの言葉を、シエルは複雑な心持で聞いていた

 

 

「けど、何でそいつは名前を変えてここに来てたんだよ?」

 

 

そんな時、シンが口を開いた

 

 

「セラ…、だっけ?聞いたことある?」

 

 

シンの問いかけに、首を振る面々

だが、一人だけ反応しないものがいた

 

 

「…シエルさん?」

 

 

隣にいたマユが、シエルをのぞき込みながら名前を呼ぶ

だが、シエルは反応しない

深刻そうな表情で俯いている

 

 

「シエルさん!?」

 

 

「ふぇ!?え…、どうしたの?」

 

 

「どうしたの、じゃありませんよ。さっきから呼んでたのに」

 

 

シエルの様子がおかしい

この場にいる全員がわかっていたことだった

 

微妙な空気のまま歩いていく

レクルームの扉を開き、中へ入って…

 

 

「あ」

 

 

「?」

 

 

最初に入ったのはルナマリアだった

ベンチに座っている存在に気づく

右手にコーヒーの缶を持ち、ゆらゆらと揺らせている

 

そのベンチに座っているセラが、こちらを見ているルナマリアを首を傾げながら見る

 

 

「どうしたの?おねえちゃ…、うわっ」

 

 

急に立ち止まった姉を不思議に思い、ルナマリアの視線の先をのぞくメイリン

そこには、先程話題になっていたセラの姿

 

セラはなぜ自分にこんな反応を示しているのかわからず、顔を顰める

 

ルナマリアのまわりにいた全員がセラの存在に気づく

 

 

「…」

 

 

「…!?」

 

 

シエルとセラの視線が交わる

セラはいたって落ち着いた感じで

シエルは大きく目を見開いて

 

マユはその様子を見て首を傾げる

 

だが、他の人たちは気づいていない

 

 

「へぇ…?ちょうどあなたの話をしていたところでした。セラ・ヤマト」

 

 

「…」

 

 

挑戦的な笑みを浮かべて、歩み寄りながら話しかけるルナマリア

セラは黙ってルナマリアを見る

デュランダルの時のように睨みつけてもいいのだが、まだ新人に等しい彼らにそれはできない

 

 

「何というか…。よくわからないんですけど、あなたは名を隠さなければならない理由がある。

そんな話をしていたんです」

 

 

僅かに目を細めるセラ

それを見たルナマリアはさらに踏み込んでいく

 

 

「理由、教えてもらいませんか?」

 

 

セラは黙ったまま

ルナマリアは微笑んでセラを見る

 

 

「…知りたければ、議長にでも聞いたらどうだ」

 

 

ここは、デュランダルの力を借りることにした

ルナマリアの顔が呆けたような表情に変わる

 

 

「議長なら全て知っている。もしかしたら、俺自身も知らないことすらもな」

 

 

にやりと笑いながら言葉を続けるセラ

その笑みは、先程ルナマリアが向けていた挑戦的な笑みと同じだった

 

ルナマリアの勢いが弱まる

急に出された議長の存在

やはりデュランダルは偉大だ

 

 

(デュランダル議長さまさまだな)

 

 

心の中でつぶやくセラ

これで、ルナマリアの質問攻めを回避できる

確信していた

 

 

「ともかく…、艦の危機を救っていただいたそうで…。ありがとうございました」

 

 

強引に捻じ曲げた話題

 

勝った

 

意味も分からない達成感で心を満たすセラ

ルナマリアはレクルームから去っていく

それに続いて、他の人たちも去っていくが

 

 

「シエル?」

 

 

「ちょっとやらなきゃいけないこと忘れてた!先に行って!」

 

 

シエルはシンの呼びかけにそう返す

今度こそ、セラとシエル以外の存在は、レクルームから去った

 

シエルがセラに向く

セラは座ったまま、目をシエルにやる

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

流れる沈黙

一年ぶりの再会

 

たった一年

それでも、セラにとっては長かった

シエルにとっても長かった

 

二人が感じた同じ時間

やっと、二人は交わった

 

 

「…久しぶり、シエル」

 

 

柔らかい笑みを浮かべて声をかけるセラ

 

 

「っ!」

 

 

目が潤む

久しぶりに呼んでもらった、自分の名前

一番望んでいた存在

それが、目の前にいる

 

セラが立ち上がる

空き缶となったそれを投げ、ごみ箱の中に入れる

 

夢じゃない

セラが目の前にいる

 

 

「セラっ!」

 

 

耐えきれなかった

今すぐ触れたい

今すぐ、今すぐ

抑えきれない欲

 

シエルは、セラの胸の中に飛び込んでいった

 

 

 

 

 

 

 

「シエルさん、何か様子がおかしかったね」

 

 

「そうか?」

 

 

あれから皆と分かれ、自室に戻ったシン

その自室には、マユもいた

ベッドに腰を落として両足をぶらぶらと揺らしている

 

 

「実は、あの人と恋人だったりして…」

 

 

「はぁっ!?」

 

 

マユが意地悪い笑みを浮かべながらそう言うと、シンが面白いくらいに反応する

それが、マユにとってツボに入った

腹を抱えて大笑いしている

 

 

「…マァユゥゥウウウウウウウ?」

 

 

シンがゆらゆらと未だに笑いを抑えられていないマユに近づいていく

 

 

「え?お兄ちゃん…?ちょ…」

 

 

「このっ!」

 

 

シンはマユの首に手をやってこちょばした

 

 

「あっははっはははははは!!」

 

 

マユはシンの腕をつかんで離そうとする

だが、シンの腕は離れない

 

 

「からかったな!このぉ!」

 

 

「はははははははは!!おにいちゃ…やめ…、あははっはははは!!!」

 

 

このやり取りは、五分ほど続いた

 

 

「変態」

 

 

「すいません」

 

 

騒ぎを聞きつけ、来たルナマリアに土下座で謝るシン

頭には三つほど重なったたんこぶが見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご…、ごめん…」

 

 

先程までセラの胸に顔をうずめていたシエルが、頬を赤く染めながら謝ってくる

セラは微笑みながら首を横に振る

 

 

「いや、謝らなくていいって」

 

 

俺もシエルを抱き締めたかったし

 

という言葉は飲み込んだ

そんなことを言ってしまえば恥ずかしさで行動不能になってしまう

自分が

 

 

「…護衛で来たんだって?」

 

 

「…あぁ」

 

 

先程のほのぼのとした空気ではなく、真剣そのものの空気になる

セラとシエルの目が交わる

 

 

「…シエルはどうして、ザフトに戻った?」

 

 

「…」

 

 

一年前、シエルがいなくなった

それは、セラに大きな傷を負わせた

一番の心の支え

一番傍にいたい人

 

だが、それはシエルにとっても同じことだった

セラと離れる

苦汁の決断だった

 

 

「…ごめん、言えない」

 

 

理由は、言えない

言えるはずがない

そんなことを言ってしまえば、またセラは…

 

 

「…そっか」

 

 

セラはあの時のことを思い出していた

地球軍がオノゴロを襲ってきた

自分が初めてリベルタスで出撃し、そして医務室で話した時のこと

 

自分の出自

シエルはそれを聞かないでくれた

今回は、シエルが自分と同じ立場

なら、自分がすることは一つだ

 

 

「じゃあ聞かないよ」

 

 

「…え?」

 

 

シエルが呆気にとられたような表情になる

セラは変わらず微笑んだまま

 

 

「シエルは聞いてほしくないんだろ?なら、俺は聞かない」

 

 

「セラ…」

 

 

見つめ合う二人

表情を暗くしていたシエルの表情が少しずつ明るくなっていく

 

 

「でも、ザフトに来てからどんなことがあったかは聞かせてほしいな。さっきの人たちのことも聞かせてほしいし」

 

 

「…うん。さっき一緒にいたのはね、ルナとメイリンと…」

 

 

再会した二人

二人は、昔のように

 

二人は願う

また、こんなふうに毎日話せる日が来るように…

 

 

 

 

 

 

 

 

「太陽風速度変わらず。フレアレベルS三、到達まで予測三十秒」

 

 

暗闇の中

誰一人として知られず、見つからず

 

陰謀は進んでいた

 

 

「急げ。ようやく、我らの悲願が果たされる時が来るのだ」

 

 

次々に入ってくる作業が進んでいるという報告

それに従って、一つ、また一つと

近づいてくる

 

 

「粒子到達。フレアモーター作動」

 

 

そして、最後の一歩が今

踏み出される

 

動き出す巨大な大地

滅びた大地

悲しみ、苦しみ、憎しみ

 

 

「さあ行け。我らの墓標よ…」

 

 

滅びた大地、ユニウスセブンが

様々な思いを乗せ、動き出した

 

 

「嘆きの声を忘れ!真実に目をつぶり!またも欺瞞に満ち溢れるこの世界を…、今度こそ…、正すのだ!」

 

 

もう、止まらない

 

苦しみ、傷つけあい、ようやく平和をつかみ取り

世界中の人々が笑いあって生きて暮らせるようになり

 

だが、それを認められない人々の暴走が始まる

 

地球という母なる星に、その憎しみを向けて




シン、哀れ回です

そして、デュランダルはセラのことをしっかりと知っています
キラがフリーダムに乗っていることも知ってますし、不思議ではないですよね?…ね?


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PHASE6 解放者は翼を磨き

六話目です


セラがシエルと分かれ、士官室に戻ってきた時、デュランダルとタリアがその部屋の前にいた

カガリがその二人と何かを話そうとしている

 

 

「おぉ、ちょうどよかった」

 

 

セラの姿を見とめ、デュランダルが笑顔を浮かべる

 

 

「今、君と代表に知らせておきたいことがあったんだ」

 

 

「知らせておきたいこと…?」

 

 

デュランダルの言葉をカガリが聞き返す

知らせておきたいこと

一体何なのか

セラも少し気になっていた

 

先程二人と分かれてから、まだそこまで時間は経っていないのだ

そんなすぐに、一体何を知らせるというのか

 

 

 

 

 

 

「なんだって!?」

 

 

デュランダルの話を聞いたカガリが、驚愕の声をあげる

カガリが声をあげなければ、セラがその声をあげていただろう

 

 

「ユニウスセブンが動いてるって…、一体なぜ!?」

 

 

カガリがデュランダルを問い詰める

デュランダルはいつもの笑顔ではなく、少し表情を歪めてその答えを返す

 

 

「それはわかりませんが、動いているのです。それもかなりの速度で。もっとも危険な軌道を」

 

 

「それは、本艦でも確認いたしました」

 

 

デュランダルの言葉に、タリアが補足する

カガリが深刻そうな表情で俯いている

 

デュランダルが言った、『もっとも危険な軌道』

間違いない

ユニウスセブンは地球に向かって動いているのだ

カガリが先程言ったが、一体なぜそんなことが起こっているのか

 

 

「原因の究明や回避手段の模索に、今プラントも全力をあげています」

 

 

デュランダルが口を開いた

絶対にやり遂げてみせると

その意思が見え隠れする

 

 

「またもやのアクシデントで…。姫には大変申し訳ないが、私は間もなく終わる修理を待って、このミネルバにもユニウスセブンに向かう特命を出しました」

 

 

デュランダルが言葉を続け、頭を下げる

 

 

「さいわい、距離も近いので。姫にも、ご了承をいただきたいと…」

 

 

「むろんだ!これは、私たちにとっても一大事だぞ!」

 

 

デュランダルの申し訳なさそうな言葉に、すぐさま了承の返答を返すカガリ

両手を握りしめながらカガリは続ける

 

 

「私にも…、私にも、何かできることがあるのなら!」

 

 

カガリがすがるようにデュランダルに言う

そんなカガリをなだめるようにデュランダルはカガリの肩に手を乗せて、言う

 

 

「お気持ちはわかります。ですが、どうか落ち着いてください。

お力をお借りしたいことがあれば、こちらから申し上げます」

 

 

先程までの深刻な表情ではなく、いつもの柔らかい笑みを浮かべてデュランダルは言った

カガリは、両手に入れていた力を解く

 

セラは、デュランダルの言葉を聞きながら考えていた

自分には、何かできることはないのかと

 

ユニウスセブンの対応

恐らく、シエルもそれに駆り出していくだろう

シエルなら、たとえ反対されたとしてもそうする

 

なら、自分はどうする?

シエルが行く

自分は?

 

カガリとデュランダルが最後に言葉を交わし、タリアと共にデュランダルが士官室から出ていく

 

それを見て、セラは再びレクルームに行こうと決めた

シエルに会えることを期待しているわけではない

ただ、考えをまとめたかった

 

セラは士官室の扉を開ける

 

 

「セラ?どこか行くのか?」

 

 

そのセラを見て、カガリが問いかける

 

 

「あぁ、少しレクルームに行こうかなと…」

 

 

「なら、私も行っていいか?…少し、落ち着きたいんだ」

 

 

カガリが不安を感じさせる表情を浮かべながら聞いてくる

拒否をする気持ちなど、セラにはない

それに、カガリに聞きたいこともあるのだ

 

士官室から出て、二人ならんで歩き出す

 

 

「…この艦に、シエルがいたよ。話した」

 

 

「…っ」

 

 

士官室から出てすぐ

セラが口を開いた

 

カガリの体がびくりと震える

 

 

「…カガリは、知ってたんだな?」

 

 

特に責めるような感じは見られない

そんな口調でセラはカガリに聞く

 

僅かな間の後、カガリは頷いた

 

 

「シエルが…、頼んできたんだ。プラントに戻りたいって…」

 

 

カガリが、しゃべり始めた

 

 

「まだ、戦火は完全に消えていない。私は、その火を消したい。だから、プラントに戻りたい」

 

 

その言葉は、シエルがカガリに言った言葉なのだろう

セラは、その言葉を頭に刻み込む

シエルが、プラントに…、ザフトに戻った理由

 

 

「セラに、また戦わせたくない。見せなかったけど、セラは、自分の力を振りかざすことに苦しんでた」

 

 

「!?」

 

 

セラがカガリに視線を向けながら目を見開く

 

その通りだった

自分に刻み込まれている復讐のための力

その力を、どんな風に使ったとしても関係ない

 

セラが考えていたことだった

 

けど、結局変わらない

この力が、復讐のための力だということは変わらない

その事実が、セラを苦しめていたのだ

 

だが、まさかシエルに気づかれているとは思わなかった

 

 

「やっぱりシエルは…、お前が大切なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

セラとカガリが向かっているレクルーム

そこには、ミネルバのクルーたちが集まっていた

 

話題は当然、動いているユニウスセブン

 

 

「だけど、どうすりゃいいんだよ、あんなでかいの」

 

 

ミネルバの技術スタッフ、ヴィーノがあまり緊張感を感じれない声で言う

 

ユニウスセブンが動いている

それは、地球への衝突コース

そこまで話していた

 

 

「砕くしかない」

 

 

そのヴィーノの問いに、レイが答えた

 

 

「砕くって…」

 

 

ヨウランが、戸惑いながら聞き返す

 

 

「あの質量ですでに地球の引力に引かれてるなら、もう機動の変更をすることはできない。

衝突を避けたいなら、砕くしかないよ…」

 

 

ヨウランの問いには、シエルが答えた

深刻そうな表情で答える

 

 

「けど、でかいんだぜぇ!?あんなの、どうやって砕くんだよぉ!?」

 

 

ヴィーノが叫ぶ

 

 

「だが、やらねば地球は壊滅する」

 

 

淡々と答えるレイ

 

 

「そうなれば、何も残らないぞ。そこに生きるものは…」

 

 

最後の言葉だけ、どこか口調が下がったように感じた

レイだって、感情さえ見せていないが、今起きていることを止めなければならないと

本気で思っていた

 

 

「んー…、まぁでも、しょうがないんじゃないか?不可抗力だろ?」

 

 

その時、ヨウランが口を開いた

いつもの冗談を言うような口調で言う

 

 

「変なごたごたもなくなって、プラントにとっちゃ、案外楽かも…」

 

 

言い過ぎだ

冗談だっていうことは皆わかっている

だが、さすがに言い過ぎだ

 

シンがヨウランを諌めようとする

 

 

「よくそんなことが言えるなっ!」

 

 

その前に、鋭い声が割り込んできた

 

 

 

 

 

セラとカガリは、レクルームの前にいた

 

 

『プラントにとっちゃ、案外楽かも…』

 

 

さすがのセラも、唖然とした

本気で言っているわけではない

それはわかる

 

だが、平気でそんなことを言ってしまうとは

 

セラの表情が暗くなる

 

 

「よくそんなことが言えるなっ!」

 

 

「!?」

 

 

急に隣から響く怒鳴り声

セラはびくぅっと体を震わせる

 

カガリが、レクルームの中に入っていく

あの言葉に、怒りを覚えたのか

セラはここで状況を察し、カガリについていく

 

 

「しょうがないだと?案外楽だと!?」

 

 

カガリが先程あの言葉を言った少年を睨む

 

 

「これがどんな事態なのか、地球がどうなるのか。それによってどれだけの人たちが死ぬのか!

本当にわかって言ってるのか!?お前たちは!」

 

 

「…すいません」

 

 

あの少年がうんざりといった感じで謝罪の言葉を口にする

 

本気で言ったわけではない

なのに、ここまで怒鳴られる

セラだって、同じ立場ならたまったものじゃない

 

だが、その態度を察したカガリが、さらに言葉を重ねる

 

 

「やはりそういう考えなのか?お前たちは…」

 

カガリが一度、顔を俯かせる

そしてすぐに顔をあげる

その表情は、先程よりも怒りに染まっていた

 

 

「あれだけの戦争をして!あれだけの犠牲を出して!デュランダル議長の施政のもとで、変わったんじゃなかったのか!?」

 

 

セラは、見た

一人の少年の赤い瞳が、怒りに染まったのを

 

 

「カガリ、もうよせ…」

 

 

「別に、本気で言ったわけじゃないだろ?そんなこともわかんないのかよ、あんたは?」

 

 

セラの制止の声にかぶさって、その赤い瞳の少年

シンが口を開く

 

 

「シン、言葉に気を付けろ」

 

 

シンを咎めるレイ

 

 

「あぁ、そうでした。この人、偉いんでしたっけ?」

 

 

「なんだとっ…!」

 

 

シンの挑発的な態度に、カガリが激昂する

 

 

「止めろ、カガリ!」

 

 

そのカガリを、セラは一喝して止める

カガリが驚いた表情でセラを見る

 

 

「やめるんだ。戦争を経験していない人たちに言ったって、思いすべてが届くわけじゃない」

 

 

まわりに聞こえないようにカガリにつぶやくセラ

カガリの表情が、ようやく静まっていく

 

セラは、シンを睨む

シンは睨んできたセラを睨み返す

 

 

「ずいぶんオーブが嫌いなようだな」

 

 

思い出す

出撃する前に見せた、カガリへの怒りの瞳

 

あの時は、出撃準備をするシエルを見ていたから、そこまで印象に残ってはいなかった

だが、今ここで再び、怒りの瞳が向けられている

記憶が、呼び覚まされた

 

 

「なぜだ?あまりくだらない理由で関係ない代表にまで突っかかるというのなら、ただじゃすまさない」

 

 

セラの言葉に、一瞬呆気にとられた表情になったシン

だが、すぐに表情を憤怒に染める

 

 

「くだらない…?くだらないなんて言わせるか…!」

 

 

シンの言葉を聞きながら、セラは気づいた

シンと同じように、怒りの瞳でこちらを睨んでくるもう一人の存在に

 

マユだ

マユもまた、シンのように行動には出していないものの、カガリに怒りをぶつけていた

 

 

「俺たちの両親は、アスハに殺されたんだ!」

 

 

セラ以外の全員が、凍り付く

 

 

「国を信じて!あんたらが言う理想ってものを信じて!オノゴロで殺された!」

 

 

「オノゴロ…」

 

 

セラがつぶやいた

 

オノゴロ

あの大戦時、地球軍が攻め込んできたところだ

 

 

「あんたたちだってあの時、自分たちのその言葉で誰が死ぬことになるのか、ちゃんと考えたのかよ!」

 

 

カガリの足がすくんでいる

一度も向けられたことのない憎しみの感情

それにすくんでいた

 

 

「なにもわかっていない奴が…、わかったようなことを言わないでほしいね」

 

 

シンがレクルームから立ち去ろうとする

 

だが、そうはさせない

 

セラは久しぶりにキレていた

シンの気持ちはわかる

だが、シンだってカガリがあの時どんな気持ちでいたのか

あの大戦でどれだけ傷ついたかを知らない

 

 

「なら、あの時どうすればよかったんだ?」

 

 

セラがシンに問いかける

シンは立ち止まり、セラに視線を向ける

 

答えないシンに、セラはさらに言葉を重ねる

 

 

「連合と共に、プラントを滅ぼせば良かったか?なら、お前たちザフト共に、ナチュラルを滅ぼせば良かったか?」

 

 

「だ…、誰もそんなこと!」

 

 

「お前が言ってるのは、そういうことだ」

 

 

シンがたじろぐ

セラは次に、マユに視線を向ける

マユが、戸惑ったような表情を見せる

 

 

「オーブの力は強大だ。だから、狙っていたんだ。連合も、ザフトも。

そして、オーブがどちらかの陣営に入れば、その方の陣営の勝利は確定していただろう」

 

 

そこで、セラは言葉を切り、再び口を開く

 

 

「どちらかの存在を、全て滅ぼしてな」

 

 

シンの言葉以上に、鋭さを持った言葉

 

 

「何もわかっていない奴に、わかったようなことを言ってほしくない…か。

それはこっちのセリフだ。…さっきの質問の続きだ。答えを聞かせろ」

 

 

怒りを含んだセラの言葉

 

わかる

わかるのだ

家族を殺され、憎む気持ちは

 

シンが顔を俯かせ、口を引き締める

何も、言い返せない

 

 

「…戻るぞ、カガリ」

 

 

「え?セ…セラ!?」

 

 

セラがレクルームから去っていく

カガリがセラを追いかける

 

その二人を、シエルはじっと見ていた

 

 

 

 

「セラ…」

 

 

隣を歩いているセラを、心配するような目で見るカガリ

セラはそんなカガリを見向きもせずに歩き続ける

 

 

「カガリ」

 

 

「えっ?」

 

 

不意にセラがカガリを呼んだ

カガリはびくっ、と体を震わせる

 

 

「俺、手伝おうと思う」

 

 

「…お前」

 

 

何を

とは聞かない

もうカガリにはわかっていた

セラが何をしようとしているのか

カガリにはわかっていた

 

 

「艦長、言ってたろ?モビルスーツ、一機余ってるって。借りようと思う」

 

 

決意を秘めた目で、カガリを見つめた

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、とんでもない事態じゃの」

 

 

どこか薄暗い部屋の中

ビリヤード台をキューでつつきながら老人がつぶやく

他にいる老人たちも唸る

 

 

「まさに未曾有の危機。地球滅亡のシナリオですな」

 

 

まったく焦りを感じさせない声

この会話を聞いていれば、本当に地球が滅亡してしまうのかと疑ってしまうほどだ

 

 

「一応、ファントム・ペインに調査を命じておきました」

 

 

そこに、一人

他の男たちと違って若い男が口を開く

 

ロード・ジブリール

ムルタ・アズラエルの戦死により、ブルーコスモスの盟主の座を受け継いだ男だ

 

 

「そんなものを調べて…、何の役に立つのかの…?」

 

 

「それを調べるのですよ」

 

 

老人の問いに、苦笑いを浮かべながら答えるジブリール

そこに、ジブリールを黙って見ていた老人の一人が口を開く

 

 

「それで、この招集はなんだ、ジブリール。あれをあのまま落としてしまうとは思っていないが…。

一応、こちらも避難や対策に忙しいのだぞ」

 

 

ジブリールが、その言葉に一瞬嫌悪感を露わにする

だが、それに誰も気づかない

 

ジブリールは大げさな動きを見せながら演説のような説明を開始する

 

 

「この度のことは正直に申し上げて、私も大変ショックを受けましてね…。

ユニウスセブンが?まさか、そんな、一体なぜ?頭に浮かぶ言葉はそんなものばかりでした…」

 

 

「前置きはいいよ、ジブリール」

 

 

「いえ。ここが肝心なのです」

 

 

ジブリールの言葉に、老人たちが目を細める

 

 

「やがてこの事態は、世界中の皆がそう思うこととなるでしょう」

 

 

誰が

なんで

どうして

 

 

「ならば、我々が答えを与えねば…」

 

 

にたり、と笑みを浮かべながら言うジブリール

 

 

「…もうそんな先の算段か?」

 

 

呆れながら言う老人

今は先のことよりも、今のことだろう

 

このままでは、地球がどうなるかわからない

今ここにいる自分たちも、死んでしまう可能性だってある

 

だが、ジブリールはこう言い放つ

 

 

「無論」

 

 

一体何をしようというのか

 

 

「原因が何であれ、あの塊が間もなく地球に、我らの頭上に落ちてくることだけは確かなのです!」

 

 

ジブリールが吐き捨てるように言う

 

 

「どういうことですこれは!あんなもののために!どうして私たちまでもが逃げ回らねばならないのでしょうか!?」

 

 

怒りをにじませて叫ぶ

 

 

「この屈辱はどうあっても晴らさねばあるまい!あの憎きコーディネーターどもに!

あの塊を創り出した奴らに!」

 

 

ジブリールの叫びを聞いていた老人たちは、やや冷たげにジブリールを見る

 

 

「しかし、これでは被る被害によっては、戦争する力すら残らぬ…」

 

 

「だから今日、皆様にお集まりいただいたのです」

 

 

ジブリールに、再び視線が集まる

 

 

「この事態をやり過ごした後、我らは一気に討って出ます、例のプランで。

そのことだけは、皆様にご承知いただきたくてね…」

 

 

老人たちが笑みを浮かべながらまわりと話し始める

だが、その笑みは少し嘲り気味のものだったが

 

 

「強気だね…」

 

 

「ま。いいんじゃないかの?」

 

 

「…皆、プランに依存はないようじゃの」

 

 

最後に一人の老人が意見をまとめる

 

その老人が立ち上がり、ジブリールを見て口を開く

 

 

「では、次は事態の後じゃな。君はそれまでに詳細な具体案を」

 

 

「はい」

 

 

老人の言葉を受け、ジブリールが頭を下げる

立場的には、この老人が上なのである

 

他の老人たちも立ち上がる

そして、この部屋から立ち去っていく

ジブリールはそれを顔に笑みを“つけながら”見送る

 

 

「…っ!」

 

 

そして、ジブリールがこの部屋で一人になる

老人たちの声も聞こえなくなると、ジブリールは一気に表情を歪める

 

 

「くそっ!」

 

 

悪態をつきながら、一つのカップをつかみ、投げる

カップは壁に当たり、粉砕される

 

老人たちは何をのんきにしているのだ

また

そう、まただ

 

あのコーディネーターに好きなようにされている

今度こそ

今度こそだ

 

この機会を逃してたまるか

奴らを、根絶やしにしてやる

 

 

 

 

 

 

「ボルテールとルソーがメテオブレイカーを持ってすでに先行しています」

 

 

デュランダルが艦橋に入ってきたことに気づき、タリアが報告する

デュランダルは頷きながら口を開く

 

 

「あぁ、こちらも急ごう」

 

 

デュランダルが後部シートに座る

 

ミネルバは修理を終え、ユニウスセブンに向かっているところだ

 

 

「地球軍側は、何も動きはないのですか?」

 

 

アーサーが躊躇いがちに口を開く

 

 

「連絡は来ていない…。まぁ、今から月から艦隊を出しても間に合わぬか…」

 

 

デュランダルが呆れ気味に言う

すると、艦橋の扉が開く

 

艦橋にいる全ての人物が扉に目を向ける

 

 

「やぁ、アベル君」

 

 

デュランダルがその人物の名前を言う

 

アベル、いや、セラが艦橋に入ってきたのだ

 

 

「どうしたね?」

 

 

笑顔を浮かべてデュランダルが尋ねる

セラはわずかに目を細めてデュランダルを一瞥した後、タリアに視線を移す

 

 

「無理を承知でお願いします。私にモビルスーツをお貸しください」

 

 

艦橋にいるクルーたちが目を見開く

特に、タリアはそれが顕著だった

 

デュランダルは変わらず笑みを浮かべている

 

 

「…艦長?」

 

 

何も言わないタリアに、戸惑い気味の声をかけるアーサー

その声に、我に返るタリア

 

 

「…わかっているの?あなたは今は民間人なの。あなたがどんなに腕が確かでも、そんなことは許されない」

 

 

タリアの言葉を聞き、セラは一瞬目を見開く

だが、すぐにそれは元に戻す

 

拒絶された

だが、ここで引き下がるわけにはいかない

自分は、決めたのだ

いや、もう決めていたのだ

 

 

「わかっています。ですが、黙って見てはいられません」

 

 

「…」

 

 

タリアがセラを見つめる

その目つきは、セラを侮っている者ではない

見極めようとしている

そんな目だ

 

セラはそれに気づきながらも、なぜそんな目を向けられているかわからないため、今はそこに触れない

 

 

「それに立ち向かえるだけの力があるのに、何もしない。それだけは、決してしたくありません」

 

 

「っ…」

 

 

タリアの表情が一瞬ぽかんとなる

すぐに引き締めたが、セラの言葉に驚いていた

 

それでは、自分には力があると言っているようなものではないか

 

思い出す

デュランダルが言ったあの言葉を

 

 

『天からの解放者』

 

 

『彼だよ。私は、そう考えている』

 

 

本当にそうなのか?

この少年は…

恐らく、シンと同い年くらいであろうこの少年が?

 

 

「いいだろう。私が許可しよう」

 

 

「議長!?」

 

 

デュランダルの言葉に、驚愕の声を出す

だが、それはタリアではなく、アーサーだった

 

 

「議長権限の特例だ。それに…」

 

 

アーサーが口をつむぐ

そう言われてしまえば、もう何も言えない

 

だが、デュランダルの言葉には続きがあった

 

 

「先程の言葉、覚えているかな?グラディス艦長」

 

 

「…っ!」

 

 

タリアの体がびくりと震える

今まさに、そのことを考えていたのだ

 

何も言えない

期待してしまっている

天からの解放者の力に

 

いや、そんなはずはない

そんなものは存在しない

 

二つの心が争っているタリアの精神

 

 

「別に戦闘をしようという訳じゃないんだ」

 

 

デュランダルの言葉が耳に入ってくる

 

タリアは黙ったまま

 

タリアは、何を言ったのか覚えていない

だが、一つだけ覚えていた

 

自分の心の中のわずかな期待

それに、身を任せてしまった

 

セラに、MSの搭乗許可を与えたことを

 

 

 




オリ機体、エクステンド
あまりオリ機体が出せず、紹介が出せない
だが、作者は思いついた
というか、参考にした

あとがきに書けばいいじゃないか!
ということで、エクステンドの紹介です



GAT-X130Eエクステンド
武装
・ビーム対艦刀
・ビームライフル
・レールガン(両腰)
・収束ビーム砲(両肩)
・ミサイルポッド(腹部分)

パイロット スウェン・カル・バヤン

地球軍が作り出した新型のガンダム
ルースレスの後継機
ドラグーンは取り除かれている代わりに、それぞれの武装の火力は圧倒的に増している
元々は、強化人間であるエクステンデッド用に開発されたのだが、スウェンの能力に目を付けた上層部の人間が、この機体を与えた


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PHASE7 懐かしい宙

七話目です
戦闘回です


ザフト軍、ナスカ級ボルテール

その環境の中で、とある二人が会話していた

一人は、白い隊長服を身にまとった銀髪の男

もう一人は、緑色の軍服を身にまとった金髪の男

 

 

「…やっぱでかいよなぁ」

 

 

「何を言ってるんだ。俺たちは同じような場所に住んでるんだぞ」

 

 

金髪の男、ディアッカ・エルスマンがモニターに映るユニウスセブンを見ながらつぶやく

そんなディアッカに、銀髪の男、イザークが呆れたように返す

 

 

「それを砕くって仕事が、どんだけ大事か。それがわかったってことだよ」

 

 

イザークの返答に対して、ディアッカも呆れたように返す

イザークがそんなディアッカを見てため息をつく

 

そんな風にやり取りしていた時、艦橋の扉が開き、赤い服装に身を包んだ女性の兵が入ってくる

それと同時に、オペレーターからの報告が入ってくる

 

 

「全ての機体、整備が終了したようです」

 

 

「わかった。頼むぞ、ディアッカ、シホ」

 

 

入ってきた女性の兵は、シホ・ハーネンフースだった

イザークの命令に、ディアッカはいい加減な、シホはしっかりと敬礼で返す

 

 

「ディアッカ…」

 

 

ため息をつくイザーク

わかっていることだが、隊長としての威厳が保てなくなるため、やめてほしかった

 

そんなイザークの心を露知らず、ディアッカは艦橋から出ていく

 

 

「…そういえば、シホは何しに来たんだ?」

 

 

艦橋に入ってすぐ、機体の整備の終了の報告が入った

そして、イザークは出撃準備の命令を出し、シホはディアッカと共に艦橋から出て行った

 

何をしに来たのだろう

 

 

ちなみに、シホはその質問をディアッカにされていた

頬を赤く染めながら、何でもないと繰り返すシホ

 

 

(言えない…。隊長と仲良さげに話せるエルスマンさんが羨ましかったなんて言えない!)

 

 

 

 

イザークのやり取りから十分後、ボルテールからMSが発進していく

さらに、発射口から巨大な作業機、メテオブレイカーを受け取る

三本足、中央にドリルがつけられている

これを使って、ユニウスセブンを砕いていくのだ

 

ユニウスセブンに着陸する

そして、メテオブレイカーを地面に設置し、ドリルを起動させようとする

 

 

「…!」

 

 

メテオブレイカーの近くの地面に、緑色のビームが着弾した

衝撃で設置されたメテオブレイカーが倒れる

 

 

 

「な…、何だ!?」

 

 

ディアッカがまわりを見渡す

すると、まわりにいたゲイツRが爆散していくのが見えた

これは…

 

 

「敵襲!?何で…!」

 

 

ディアッカが乗る、ザクウォーリア

そのコックピットに、警告音が響く

自分もロックされているのだ

 

 

「くそっ!」

 

 

いた

自分をライフルで狙っているMS

 

だが、そのMSにディアッカは驚いた

 

 

「ジン…!?」

 

 

ここにいるはずのない機体

自分たちは、ユニウスセブンの破砕作業に先に出た

ボルテールにはジンは搭載されていない

なのに、なぜ?

 

ディアッカはオルトロスを構え、ライフルが火を噴く前にそのMSを撃ちぬいた

だが、ディアッカが応戦している間にも、他の味方機が落とされていく

 

 

「ええいっ!下がれ!ひとまず下がるんだ!」

 

 

「エルスマンさん!」

 

 

まわりの味方機に指示を出しながら応戦するディアッカ

そこに、ザクファントムを駆るシホが援護にやってきた

 

 

「ディアッカ!メテオブレイカーを守るんだ!俺もすぐに出る!」

 

 

イザークから通信が入る

だが、ディアッカはその言葉に返事を返すことはできなかった

 

明らかにジンであろう敵の機体

だが、どこか違う

改造されているのだ

 

取り付けられたブースターにより、機動力が元来のジンよりも飛躍的に上がっている

 

ディアッカとシホ

そして、何とか奇襲に耐え、体制を立て直した他のゲイツはメテオブレイカーを守るため、交戦を開始した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モビルスーツ発進まで五分

そうアナウンスが流れるミネルバの格納庫内

パイロットスーツに着替えたシエルは、ルナマリアと共に自分の機体に向かっていた

 

 

「シエルさん、ルナマリアさん!」

 

 

そんな二人に、マユが近づいてきた

マユはパイロットではない

今更だが、技術員だ

 

 

「マユちゃん?どうしたの?」

 

 

マユが発進前に話しかけることは少ない

それなのに、話しかけてきたことにシエルとルナマリアは不思議に思っていた

 

 

「あの…、あれ…」

 

 

「ん?」

 

 

マユが人差し指をさす

二人はその方向に目を向ける

 

 

「…っ!?」

 

 

「あれ…、あの人…」

 

 

その先には、配備されていないはずの緑色のザク

そして、そのコックピットから顔を出して、技術主任のマッド・エイブスから何やら話を聞いている人物

 

セラ・ヤマトがいた

 

 

「…出撃するんでしょうか」

 

 

「まぁ、モビルスーツには乗れるみたいだし…」

 

 

マユが心配そうにつぶやく

ルナマリアは楽観的に考えていた

 

 

「…」

 

 

シエルは何も言わない

最初は驚いた

だが、思えば当たり前だったのかもしれない

ここでセラが何もしない

そんなことはありえないのだから

 

 

「モビルスーツ発進、一分前」

 

 

再び流れるアナウンス

慌ててシエルとルナマリアがそれぞれ機体に乗り込んでいく

 

それに、戦闘になるわけでもないのだ

いや、なるはずがない

 

シエルはそう考えていた

だが

 

 

「発進停止!状況変化!ユニウスセブンにてジュール隊がアンノウンと交戦中!」

 

 

「っ!」

 

 

上手くはいかない

機体に通信が入ってきた

 

 

 

 

「戦闘?」

 

 

入ってきた通信を聞き、セラは一瞬反応できなかった

 

これからするのは、ただの破砕作業のはずだ

それなのに、なぜ戦闘になる?

それに…、ジュール?

 

 

「イザークさんの隊か?」

 

 

イザーク・ジュール

大戦が終わり、ディアッカがプラントに戻る前に彼から聞いた名

短気で短気で短気

それでも、正義感にあふれているいい人…らしい

まぁ、直接対面したことはないのだが

 

 

「状況が変わりましたね?」

 

 

ディアッカは元気にしてるかな~、などと考えていると、モニターに映る少女の顔

自分に挑戦的な笑みを向けてきた赤髪の少女が通信を入れてきたのだ

 

 

「危ないですよ。…おやめになります?」

 

 

再び挑戦的な笑みを向けてくる

 

発進するそれぞれの機体に、戦闘用の装備が取り付けられている

その作業の音を聞きながら、目を瞑って思い出す

 

スピリット、リベルタス

それらの機体で出撃したあの大戦

その時の勘を、取り戻していく

 

 

「…?」

 

 

返事を返さないセラ

さらに、雰囲気が変わっていく

そのことに、首を傾げるルナマリア

 

そして、セラが目を開ける

 

 

「…っ」

 

 

「自分の心配をした方がいいぞ?」

 

 

セラの目

戦士の目だった

歴戦

何度も、何度も

このような事態を経験してきたような…

 

 

「…そうですか」

 

 

何とか、といった感じで言い残し、通信を切ったルナマリア

そのルナマリアが乗る、赤いザクが発進していく

 

さらに、インパルス、セイバー

そして

 

 

「シエル・ルティウス!ヴァルキリー、行きます!」

 

 

ヴァルキリーが発進していく

最後に、セラの番が訪れた

 

懐かしい

とは思ってはいけない

だが、それでも

 

戻ってきた

そう思うのは止められなかった

 

 

「セラ・ヤマト!出る!」

 

 

本来の姿ではない

だが、それでも

 

解放者は、再び戦場に舞い戻った瞬間だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバから五機のMSが発進したころ、ユニウスセブンでは激闘が繰り広げられていた

ザクやゲイツRと、改造ジンの戦い

 

ディアッカは砲撃を撃つ

だが、その砲撃は相手にかすりもしない

 

 

「こんなヒヨっこどもに!」

 

 

ユニウスセブンを落としたグループのリーダー、サトーが放たれる砲撃をかわしながらゲイツを撃墜していく

 

 

「我らの思い、やらせはせんわ!」

 

 

そう、止めさせはしない

これは、墓標なのだ

この墓標を、あの星に当てる

そうすれば…、そうすれば!

 

だが、それにしても、こいつらは本当にぬるくなってしまった

ジンに似た形態のMS

恐らくザフトの部隊だろう

それなのに、この墓標を破壊しようとは…

 

 

 

 

 

 

「くそっ!工作部隊は破砕作業を続けろ!これでは奴らの思うつぼだぞ!」

 

 

事態に流され、作業をするための工作部隊でさえも戦闘をしてしまう事態に、イザークがストップをかける

このまま時間をかけるわけにはいかない

何としても、ユニウスセブンを破壊しなければならないのだ

 

イザークの命令を受け、戦闘をする機体と作業を進める機体の二つのグループに分けることに成功

このまま自分たちがジンを足止めし、彼らが作業を続ければ

 

そう考えた時だった

 

横合いから、砲撃がメテオブレイカーを薙いだ

 

 

「なっ…!?」

 

 

イザークが驚いて、砲撃が放たれた方向を見る

そこには

 

 

「ガイア、カオス、アビス!?」

 

 

「アーモリーワンで強奪された機体か!?」

 

 

さらにもう一機、エクステンドもいる

 

あの部隊が、参戦してきた

 

 

 

 

 

そして、それを目撃したセラたち

 

 

「ちぃっ!あいつら!」

 

 

途端、シンが飛び出していった

ルナマリア、レイも、あの四機を撃とうと飛び出していく

 

 

「…はぁ」

 

 

止める気が起きない

たとえ止めても、部外者である自分の指示を聞くはずがない

セラはそう思ってため息をつきだけに留めた

 

 

「…セラ」

 

 

「シエル…」

 

 

そこに、シエルから通信が入った

セラは体を強張らせる

 

何か言われるだろうか

自分が戦闘に出たことについて

 

 

「私たちはどうする?」

 

 

「え?」

 

 

セラの予想は外れ。シエルはここからの行動方針を聞いてきた

いや、それよりもなぜ部外者である自分に聞く?

 

だが、今はシエルの問いに答えることにする

 

 

「俺はユニウスセブンの破砕作業を行う…と思うんだけどな」

 

 

恐らく、それをさせようとしない輩がいるから作業が滞っているのだろう

ユニウスセブンに近づき、作業を邪魔しているジンがこちらの存在に気づくジンも出てきた

 

 

「まずはこいつらを蹴散らす」

 

 

「わかった。背中は任せて?」

 

 

久しぶりの共闘

 

同時に、二人は逆の方向に飛び出していった

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユニウスセブン、さらに降下角プラス一.五!加速四パーセント!」

 

 

「ジュール隊、カオス、ガイア、アビス、アンノウンの攻撃を受けています!」

 

 

艦橋に響く報告

 

カガリは、今艦橋にいた

戦闘にはならない

そう思っていたからこそ、セラに出撃する許可を与えたというのに…

それなのに、どうしてこうなってしまったのだろうか?

 

 

「議長、現時点でボギーワンを、どうお考えになりますか?」

 

 

そこに、カガリの耳にタリアの声が入ってきた

カガリは我に返り、タリアの話に耳を傾ける

 

 

「海賊と?それとも、地球軍と?」

 

 

タリアの問いに、デュランダルは少し考え込んでから答えた

 

 

「…難しいな。私は、地球軍とはしたくなかったのだが…」

 

 

「どんな火種になるか、わかりませんものね…」

 

 

デュランダルの言葉に言葉を返すタリア

 

 

「だが、状況は変わった」

 

 

デュランダルの言葉に、タリアは頷く

 

 

「ええ。この非常時に際し、彼らが自らを地球軍、もしくはそれに準ずる部隊だと認めるのなら…。

この場での戦闘は何の意味もありません」

 

 

カガリは、この二人が何を考えているのかを理解した

もし、彼らが地球軍で、ここで彼らと戦ってしまえば…

 

 

「あのジンを庇っている…。そう思われかねんか…」

 

 

「そんな!」

 

 

デュランダルの言葉に、アーサーが大声を出す

 

 

「仕方ないわよ。もし、あのジンがダガーだったら。あなただって地球軍の関与を疑うでしょ?」

 

 

「あ…」

 

 

タリアの言葉に、アーサーの勢いが収まる

 

まさに、その通りなのだ

これは、まずい

カガリは、戦闘が行われる前からここにいた

なので、このユニウスセブン落下が、人為的に行われたものだとも知っている

 

この地球軍の誤解を、何とかしなければ

 

 

「ボギーワンとコンタクトは取れないのか?」

 

 

「国際救難チャンネルを使えば」

 

 

「なら、それで呼びかけてくれ」

 

 

デュランダルの言葉にタリアは了承の返事を返し、オペレーターにそのことについての指示を出す

 

これで、何とかなればいい

カガリはそう願っていた

 

 

 

 

 

 

 

シエルと分かれ、セラは戦闘を開始していた

セラが駆っているザクは、ブレイズザクウォーリアである

高機動戦用の装備である

 

この装備はセラに合っていた

 

セラはビーム突撃銃を連射して、目の前にいるジン二機に牽制をかける

ジン二機はこちらに接近する動きを止め、放たれたビームをかわす

 

セラは、シールドに搭載されているビームトマホークを抜き、片方のジンに接近していく

無駄のない動き

その動きから出されたスピードは、ザクが出したとは思えない

トマホークを振るい、ジンのメインカメラを落とす

だが、それだけでは終わらない

この人たちは、これだけでは止まらない

セラは確信していた

 

流れるような動きで、トマホークの軌道を切り替える

そして、再び振るわれたトマホークが、ジンの両足を斬りおとした

 

 

「…っ」

 

 

背後から放たれるビーム

それを察知したセラは機体を横にずらす

そして、ビーム突撃銃で、メインカメラ、両腕、両足を正確に落としていく

 

これで、ひとまずの戦闘の区切りはついただろうか

そう思った時だった

 

 

「っ!」

 

 

トマホークを後方に向かって振るう

振るわれたトマホークは、背後から振り下ろされた対艦刀と激突した

 

このままぶつけ合っても、ただ押されるだけ

そう判断したセラは、すぐに機体を後退させる

だが、セラを襲った機体も負けていない

 

セラの後退する動きにすぐさま反応し、詰め寄ってくる

 

 

「ちっ」

 

 

再び振り下ろされる対艦刀

そこでセラは、SEEDを解放させた

 

セラはシールドを割り込ませる

対艦刀とシールドがぶつかる

そこで、対艦刀の動きが鈍る

それを、利用する

 

動きが鈍った対艦刀を受け流しながら、機体を横に移動させる

 

 

「なにっ!?」

 

 

セラと交戦している機体のパイロットは、驚愕の声を出す

 

相手の横をとったセラは、相手の機体を蹴り飛ばし、改めて相手と相対する

 

ブレイズザクウォーリアと、エクステンド

二機が対峙した

 

 

 

 

一方のシエルは、セラと分かれた後、ジン三機と交戦した

シエルはバーニアを吹かせて、サーベルで三機に斬りかかる

 

ジン三機はそれぞれ違う方向に避けていく

そのうちの一気に狙いを付け、ライフルの引き金を引く

放たれたビームは、ジンのメインカメラ、片腕を落とす

 

 

「…っ」

 

 

そこに、一機のジンが接近してくる

ジンは重斬刀を振り下ろしてくる

 

シエルはそれに素早く反応する

 

サーベルで、重斬刀を斬りおとす

武器を斬りおとされたジンが後退していく

 

だが、それをただ見逃すシエルではない

再びライフルでジンのメインカメラ、片腕を落としていく

 

そして、残った一機

その一機に向け、収束ビーム砲を放った

 

放たれた砲撃は、ジンの右腕、右足をもぎ取る

 

 

「…セラは?」

 

 

ひとまずの戦闘を終えたシエルは、セラが乗るザクの姿を探す

 

 

「!あれは!」

 

 

見つけた

セラが乗るザクは、自分と二度ぶつかりあったあの機体と交戦している

 

すぐさまシエルは、その二機に向けて機体を進めた

 

 

 

 

 

 

「くっ…!こいつ、なぜ落とせない!」

 

 

エクステンドを駆るスウェンが、目の前でひらりひらりと自分が放った砲火をかわしていくザクに悪態をつく

あの機体は、ザフトの最新型だとは知っている

だが、それでも量産型で、自分が乗っているこのエクステンドの性能には遠く及ばないはずなのに

それなのに、自分と互角に戦えている?

 

 

「いや…、違う」

 

 

互角ではない

あれのパイロットは、自分の機体とこの機体の性能の差を読み取り、ただ様子を見ているだけなのだ

だが、その様子を見ているだけでも、自分は相手に攻撃を当てられず、逆に反撃を受けてしまっている

 

奴が、もし本気で攻勢に出たら…

 

 

「っ!」

 

 

ぞっとするスウェンだった

 

 

 

 

「…性能の差が痛い」

 

 

つぶやくセラ

この機体だって、最新鋭で中々の性能を誇っている

だが、それでもあの機体はそれよりも圧倒的に上の性能をいっている

 

相手の攻撃をかわし、ちびちび反撃は入れているものの、堪えている様子はない

 

 

「…どうするか」

 

 

いっそ、ここで攻勢に出て一気に行くか?

いや、それは悪手だ

もしかしたら、まだ向こうには隠した一手があるかもしれない

 

性能で負けている以上、必要以上に警戒したくらいでちょうどいいのだ

 

 

「セラ!」

 

 

セラが遠くから牽制気味に突撃銃を撃とうとした時、シエルがやってきた

 

 

「行って!」

 

 

「…え?」

 

 

「セラは破砕作業を!この機体は私が相手するから!」

 

 

セラは考える

 

シエルに任せるか?

正直、自分がこのまま相手してもいいだろう

だが、この機体はあの三機と違って明らかに戦闘慣れしている

 

先程までの戦闘だって、ほんの少しのきっかけでひっくり返されていただろう

シエルなら、どうだ?

 

 

「…わかった」

 

 

迷った末、セラはシエルの提案を飲むことにした

 

 

「死ぬなよ」

 

 

「私としては、セラの方が心配だよ?」

 

 

その言葉に、ほんの少しだけ笑い声を残し、セラはユニウスセブンの破砕作業に向かった

だが、スウェンはそのセラを追わなかた

 

無駄だからだ

この機体も、相当な手練れ

あの機体を追おうとしても、させてはくれないだろう

 

スウェンは対艦刀を構え、ヴァルキリーに突っ込む

シエルは突っ込んでくるエクステンドに向け、ライフルの引き金を引く

 

スウェンは放たれるビームを舞うように機体を駆ってかわす

ヴァルキリーの懐に飛び込んでいく

 

シエルは懐に入られる前に、サーベルを抜く

そして、入られる直前

 

サーベルと対艦刀がぶつかり合った

 

 

 

 

 

ルナマリアは、前回にも戦ったガイアと交戦していた

この二機の戦いは、ほぼ互角だった

 

前回は、奇襲により、ガイアは優勢を得た

だが、今回は違う

初期の条件は平等

機体の性能が、少しだけガイアの方が上なだけ

 

 

 

シンはアビスと交戦していた

この二機の戦いも、互角に展開されていた

 

アビスがインパルスに砲火を浴びせようとする

シンがそれをかわし、ビームライフルやビームサーベルで反撃しようとする

 

 

二つの戦いは、まったく終わりが見えない

 

だが、そのことが破砕作業を助けていた

二人が二機と交戦しているおかげで、メテオブレイカーに向けられる戦力が少なくなっているのだ

 

そして、ようやく

ようやくだ

 

メテオブレイカーの設置作業を続けていたゲイツ隊が、初めてメテオブレイカーの起動に成功したのだ

それに続いて、次々と起動していくメテオブレイカー

 

やがて、ユニウスセブンに大きな亀裂がはしり、そして

 

二つに割れた

 

 

「グレイト!やったぜ!」

 

 

それを見ていたディアッカが小さくガッツポーズをしながら声をあげる

 

 

「まだだ」

 

 

「…え?」

 

 

「なに?」

 

 

突然スピーカーから流れてきた声に、ディアッカとイザークの動きが止まる

 

 

「もっと細かく砕かないと」

 

 

「お前…セラか!?」

 

 

「なんだと!?」

 

 

流れてきた声の主は、セラだ

ディアッカとイザークは驚愕する

 

イザークは、セラのことをディアッカから聞いていた

あのヤキンでの戦いでも出撃していた

今プラントで、伝説の英雄といわれているあの<天からの解放者>、その張本人だと

 

 

「セラ…何で…?」

 

 

ディアッカが戸惑い気味に聞いてくる

 

 

「今はそんなことどうでもいい。早く作業を進めないと」

 

 

「そうだぞ、ディアッカ!とっとと作業に戻れ!」

 

 

イザークに言われ、ディアッカは慌ててメテオブレイカーを狙うジンを落としに行く

 

 

「…聞いた通りだな」

 

 

「何がだ?」

 

 

「短気、短気、そして短気。ディアッカから聞いたんだよ」

 

 

「…あのバカ」

 

 

初めての会話

そうとは思えないくらいスムーズに言葉を交わせたセラとイザーク

 

その二機を、アビスが襲った

 

ユニウスセブンが割れた時、シンはアビスを見失ってしまったのだ

 

 

「イザークさん!後ろから回り込んで!」

 

 

「うるさい!」

 

 

セラがイザークに指示を出しながら、アビスの射線を巧みにかわしながらトマホークで斬りかかっていく

 

イザークはセラに文句を言いながらも、指示の通りにアビスの後ろに回り込む

 

 

「命令するな!この民間人がぁっ!」

 

 

セラに気を取られているアビスに、ビームアックスを振り下ろす

ビームアックスはアビスのビームランスを叩き斬る

 

さらに、怯んだアビスに、セラがトマホークを一閃

アビスの両足を斬りおとした

 

そこに、二人をカオスが襲う

カオスのドラグーンが二機を襲う

だが、ぬるい

二人はいともたやすくその包囲網を抜ける

 

イザークはあの大戦を生き残った経験

セラはその経験に加え、地獄ともいえるあのラウのドラグーンの嵐の中を掻い潜ったのだ

この程度の動き、かわせないはずがなかった

 

今度はイザークが陽動だった

ザクのアックスとカオスのサーベルがぶつかり合う

 

背後からのザクの一閃に、カオスは反応できなかった

アビスと同じように両足を斬りおとされる

 

怯んだカオスの兵装ポッドを、イザークのアックスが斬りおとす

 

 

「…すげぇ」

 

 

そんな二機の連携を、シンが見ていた

 

 

「あれが、ヤキン・ドゥーエを生き残ったパイロットの力…」

 

 

そして、セラと呼ばれているあの護衛

彼の技術も凄まじいものだった

あのイザーク・ジュールよりも上…?

 

シンが思考していた時だった

 

ボギーワンから、信号弾があげられた




イザーク君はセラ君に対してもぶれませんねww

後は、大気圏ですね


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PHASE8 降り注ぐ憎しみ

八話目です
今回はあの人がびっくり仰天します


ミネルバ艦橋内のモニターに、ボギーワンから信号弾が打ち上げられているのが見える

 

 

「ようやく信じてくれたのか…?」

 

 

デュランダルが安堵のため息をつきながらつぶやく

だが、その言葉をタリアは否定する

 

 

「いえ、もしかしたら他の理由があるかもしれません」

 

 

「他の理由?」

 

 

タリアの言葉の意味が理解できなかったのか、デュランダルはタリアに聞き返す

 

 

「高度です。ユニウスセブンと共にこのまま降下していけば、やがて艦も地球の引力から逃れられなくなります」

 

 

カガリはモニターに目を向ける

 

そこには、ザフト兵やセラたちのおかげでいくつかに割れているユニウスセブンが

だが、それでもその一つ一つの破片は巨大であり、地球に落ちてしまえばかなりの被害が出てしまうであろうことが十分にわかる

 

それがわかっているからこそ、高度が危険になりつつあるこの状況でもメテオブレイカーを打ち込んでいくパイロットたち

 

 

「…我々も選ばなければなりません。助けられる命と、そうでない命を」

 

 

タリアが苦渋の表情を浮かべながらつぶやく

 

 

「この状況下で申し訳ありませんが、議長方はボルテールにお移りいただけますか?」

 

 

「え?」

 

 

カガリがタリアに聞き返す

デュランダルもわずかに目を見開いている

 

 

「ミネルバはこれより大気圏に突入し、限界までの艦首砲による対象の破片の破砕を行いたいと思います」

 

 

タリアの凛とした言葉に、クルーたちが驚愕する

 

 

「艦長…、それは…」

 

 

カガリもクルーたちと同じく驚愕していた

おどおどとタリアに声をかける

 

そんなカガリに、タリアは笑顔を向ける

 

 

「どこまでできるかはわかりませんが…、でも、できるだけの力を持っているのに、やらずに見ているだけなど、できるはずありませんわ」

 

 

「っ!艦長…!」

 

 

『それをできる力があるのに、やらないで後悔するなんて御免だね』

 

 

タリアとセラが重なる

セラが悪戯っぽい笑みを浮かべていった言葉と、タリアの言葉が重なる

 

 

「私はこれでも運が強い女です。お任せください」

 

 

タリアが今度はデュランダルに笑顔を向けて言う

 

 

「…わかった。頼むよ、タリア」

 

 

デュランダルもタリアに笑顔を返し、言う

 

 

「いえ、議長もお急ぎください。ボルテールに議長の移乗を通達!モビルスーツに帰艦信号!」

 

 

議長に声をかけてから、タリアはクルーに指示を出す

 

立ちあがったデュランダルは、カガリに手を差し出す

 

 

「では、代表」

 

 

「…私は、ここに残る」

 

 

差し出された手を、カガリは取らない

他のクルーが呆気にとられている中、カガリは言葉を続ける

 

 

「セラがまだ戻らない…。議長、あなたならわかるだろう?あいつを置いて安全な所へなど行けない…。

それに、ミネルバがそこまでしてくれるというのなら、私も一緒に…!」

 

 

弟であるセラが未だ戻ってこない

ミネルバが信号弾を上げたことで、他のモビルスーツが次々と戻ってくるのだが、セラが搭乗しているザクは戻ってこない

 

 

「しかし、為政者の方にはまだ他にお仕事が…」

 

 

「代表がそうお望みなのでしたら、止めはしませんが…」

 

 

タリアの言葉とデュランダルの言葉が重なる

そして、よく響くの当然デュランダルの言葉で

 

カガリは艦橋に残り、デュランダルは艦橋から去り、ボルテールへと移っていくのだった

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバ、ボルテールから帰艦信号があげられている

シンは計器を見て、限界高度が近づいていることを知る

 

機体をミネルバへと向ける

 

 

「…?」

 

 

視界の端で、何かが動いている

そこに目を向ける

 

一機のザクウォーリアが、メテオブレイカーの設置作業をしているのだ

 

シンはそれが、セラが搭乗している機体だと気づき、そのザクに近づいていく

 

 

「…え?」

 

 

シンとは逆の方向から、シエルが乗るヴァルキリーがザクへと近づいていくのが見えた

ヴァルキリーは少しの間、ザクの近くで止まる

 

…何か話しているのだろうか

そう思ってすぐ、ヴァルキリーもメテオブレイカーの設置作業を手伝い始めた

 

 

「…何をしているんですか?帰還命令が出たんですよ?」

 

 

何でシエルまで…

そう思いながら目の前の二機に通信をつなげる

早く帰艦しようと催促する

 

 

「わかってる。シンは戻って」

 

 

シンの言葉に、シエルが返答する

 

 

「シエル!?一緒に吹っ飛ばされるぞ!いいのか!?」

 

 

シンの叫びに、今度はセラが返す

 

 

「いくらミネルバの艦首砲といっても、外からの攻撃では確実とは言えない。せめてこれだけでも…」

 

 

そう言って、ザクもヴァルキリーも作業を続ける

 

まるで自分が仲間外れにされているみたいだ

シエルの仲間は自分だというのに

 

いら立ちを覚えたシン

気付けば、シンも作業を手伝っていた

 

 

「…シン?」

 

 

「手伝う。とっとと終わらせて、帰艦するぞ!」

 

 

振り払うような口調

シエルは、コックピット内で小さく笑みを浮かべた

 

黙々と作業を続ける三機

もう少しでメテオブレイカーを作動できる

 

その時だった

 

 

「っ!下がれ!」

 

 

いち早く反応したのはセラだった

その声に、シエルはすぐに従う

だがシンは、違った

 

一条のビームがインパルスをかすめた

 

 

「!こいつらまだ!」

 

 

三機のジンが、こちらへ向かってきている

シンは背中のサーベルを抜いて三機に向かっていく

 

 

「シエルは作業を!俺とあいつでジンは抑える!」

 

 

「わかった!」

 

 

シンが駆るインパルスは、ビームライフルを失っていた

だが、セラの駆るザクは損傷どころか武器も何一つ失っていない

突撃銃を駆使して、シンの援護をする

 

だが、三機の内の一機がザクに接近してくる

 

セラはシールドからトマホークを取り出し、ジンの重斬刀を迎え撃つ

 

 

「わが娘のこの墓標!落として焼かねば、世界は変われぬ!」

 

 

セラはこの言葉を聞いた直後、トマホークで重斬刀を斬りおとし、次にメインカメラ、両手を斬りおとす

 

 

「…娘?」

 

 

何を言っている

 

墓標…

 

 

「…まさか、こいつら」

 

 

ユニウスセブンを落とそうとしている集団

その正体、セラは理解した

 

シンが一機のジンを相手している

その隙に、最後の一機がセラに向かってくる

 

 

「ここで無残に散ったし後の嘆きを忘れ!撃った者たちとなぜ偽りの世界で笑うか!貴様らはぁっ!?」」

 

 

セラの目が見開く

 

やはり、こいつらは…

 

 

「軟弱なクラインの後継者どもに騙され…!ザフトは変わってしまった…!」

 

 

元ザフトの人たち

戦争が終わり、ナチュラルとの和解に対して、不満を持つ者たち

 

 

「なぜ気づかぬか!」

 

 

彼らの言葉一つ一つが、セラに突き刺さっていく

そんなセラに対して、ジンのパイロットはさらに叫びをぶつける

 

 

「我らコーディネーターにとって、パトリック・ザラがとった道こそが、唯一正しきものと!」

 

 

「なっ…!?」

 

 

通信を通して聞いた叫びに、シンが絶句する

パトリック・ザラ

この名前を知らないザフト兵はいない

 

前大戦を混沌とさせた張本人の一人

 

その人物がとった道が正しい?

本気で言っているのか…?

 

 

「あっ!」

 

 

衝撃を受けたのはセラも一緒だ

 

あれだけ犠牲を出して止まった戦争

その戦争をもっと続けるべきだと言われたのだ

 

セラは一瞬動きを止めてしまう

そこを見逃さず、ジンは重斬刀でザクに斬りかかる

 

セラはそこで我に返り、回避行動に移す

だが、わずかに間に合わず右腕を斬りおとされてしまう

 

 

「セラっ!」

 

 

その光景を見ていたシエルが、セラの方に機体を進ませる

シンもセラの援護に行こうとするが、もう一機のジンに、右足にしがみつかれる

 

そして、そのジンが自爆した

 

 

「うわぁっ!」

 

 

シンがコックピットに伝わる衝撃に声を漏らす

 

 

「シン!?」

 

 

セラを援護しようとしたシエルが、シンの声を聴き動きを止める

 

そこで、予想外のことが起きる

自爆したジンの破片が、メテオブレイカーに衝突

その衝撃で、メテオブレイカーが作動したのだ

 

ドリルがユニウスセブンにめり込んでいく

それを、見守る

 

何も、起きない

 

 

「くそっ!」

 

 

セラが悪態をつく

もうこの場に居座る必要はない

 

シエル、シンと共に離脱していく

 

 

「…っ!?」

 

 

がくん、とザクの移動スピードが落ちる

ザクの左足に、最後に残ったジンがしがみついている

 

 

「我らのこの思い!今度こそナチュラルどもにぃいいいいいいいいいっ!!!!!!」

 

 

耳に届く叫び

引き込まれていく機体

 

まるで、今まで銃を向けてきた人たちに縛られているような

そんな感覚に襲われる

 

 

「セラ!」

 

 

そこに、ヴァルキリーがサーベルでジンの両腕を斬りおとしザクを拘束から救い出す

そしてザクの手をつかんで離脱しようとする

 

ジンは、衝撃により、地面にたたきつけられている

そして、大気圏への突入の衝撃で崩れ始めたユニウスセブンの大地に飲み込まれ、見えなくなった

 

今度こそ離脱しようとする三機

インパルスは何とか離脱に成功し、ミネルバに着艦することに成功

だが、ザクとヴァルキリーは…

 

手が離れる

地球の引力に引かれ、二機は落下していった

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバ艦橋で、慌ただしく報告が飛び交う

 

 

「降下シークエンス、フェイズツー!」

 

 

「インパルスとヴァルキリー、彼のザクは!?」

 

 

報告を受け、タリアが三機の位置を問う

 

 

「インパルスは着艦完了!二機は位置、特定できません!」

 

 

メイリンが悲痛な表情で報告する

 

後部座席に座っているカガリが、祈るように両手を握る

 

ここからは、モビルスーツを収容することはできない

タリアはどういう決定を下すのか

 

 

「間もなく、フェイズスリー!もう、砲を撃つにも限界です、艦長!」

 

 

アーサーが報告する

タリアは歯噛みして思考する

 

撃つか、撃たないか

 

撃てば、若い命が二つ失われてしまう可能性が高い

だが、撃たなければ地球上の多くの命が失われてしまう

 

どちらを選ぶか

 

 

「…タンホイザー、起動」

 

 

決断を、下す

多くの命を救う方を選ぶ

軍人として当たり前のことなのだ

 

クルーたちが息を呑む

 

 

「ユニウスセブンの落下阻止は、何としてでもやり遂げなければならない任務だわ。

タンホイザー照準!右舷前方、構造体!」

 

 

指示を出すタリア

指示に従って、タンホイザーの発射シークエンスを進めるクルーたち

 

それを見て、カガリはさらに深く祈る

 

セラとシエル

愛し合う者同士、二人とも生きて帰れるようにと

 

 

「てぇっ!」

 

 

タリアの号令と共に、膨大な規模の砲撃が放たれた

 

 

 

放たれた砲撃は、割れた破片をさらに細かく砕いていく

だがそれでも、砕ききれないものも出てくる

 

その破片は、地表に降り注ぎ、容赦なくそこにあるものを破壊していく

円形に伝わる衝撃が、建物を、自然を、命を奪っていく

 

逃げ遅れてしまった人々は当然命を奪われる

 

そして、およそ三万人の人々の命が失われたのだった

 

 

 

 

 

 

 

地球

落ちてきた破片の被害が少しずつ収まってきたころ、空中で落下していく物体があった

 

セラが搭乗している、ザクウォーリアである

何とか大気圏は突破できたものの、バーニアが壊れ、落下スピードを落とせないでいるのだ

 

このままでは、下にある海面に衝突した衝撃で機体が木端微塵になってしまう

そうなれば、たとえセラであっても死は免れない

 

 

「くそっ!何か…、何か方法はないのか!?」

 

 

何とか助かる方法を模索する

もう、このザクを操作してでの救いはない

バーニアが死んだ時点で、その選択はなくなっているのだ

 

 

「どうする…?どうする…っ!?」

 

 

必至に思考を巡らせていると、急に何かに抱き込まれたような感覚に陥る

なんだ?

 

 

「セラ!セラ!大丈夫!?」

 

 

「シエル!?」

 

 

シエルの声が、スピーカーから聞こえてくる

ノイズが混じっているが、この声を聴き間違えるはずもない

 

 

「待って…!今、た…ける!」

 

 

途切れ途切れに聞こえる声だが、それでも何を言おうとしているのかはわかる

 

 

「やめろシエル!いくらヴァルキリーでも、二機分の落下エネルギーは抑えきれない!」

 

 

ヴァルキリーは、インパルスにも劣らない最新鋭機だ

だが、たとえその最新鋭機でも

ヴァルキリーに、核エネルギーが残っていたとしても

二機分の落下エネルギーを何とかするなど、不可能だ

 

だが

それでも

シエルは目の前の愛する人を、見捨てるなどしない

 

 

「いや!絶対に、離さない!」

 

 

少しずつクリアになってきた通信

しっかりと聞こえるシエルの声

 

 

「セラを…、一人で死なせたりなんかしない!」

 

 

「…シエル」

 

 

何を言っても、シエルはこの手を離しはしないだろう

そう悟るセラ

 

でも、シエルには生きていてほしい

無理やりでも、この手を振り払おう

そう思った時だった

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

スピーカーから第三者の声が聞こえてくる

 

シンの声だ

 

 

「今そっちに行きます!」

 

 

モニターに映る、インパルスの姿

バーニアを吹かせてこちらに向かってくる

 

そして、インパルスはヴァルキリーを抱えてバーニアを全開にする

 

それにより、落下スピードが少し落ちてきた気がする

だが、それでもこのままでは海面にたたきつけられてしまう

 

 

「…あ」

 

 

そう思った時だった

視界の向こうの空にあげられる、色様々の弾丸

信号弾だ

 

 

「ミネルバ…!」

 

 

シンが歓喜の声をあげる

ミネルバが、ここにいると伝えてくれているのだ

 

シエルとシンが、ザクを抱えながらミネルバへと移動を開始する

落下していくのは変わらないものの、十分ミネルバへの着艦は間に合うだろう

 

そして、三機はようやく、帰艦を完了した

 

 

 

 

 

 

三機が光学映像で発見され、ミネルバに着艦した

それを確認した途端、カガリは艦橋を飛び出した

全速力で走る

 

そして、キャットウォークが見えてきた

 

あのザクから降りてくる一人の人影

 

 

「セラっ!」

 

 

カガリはセラに駆け寄る

セラの傍で立ち止まると、息を上げながらセラを見上げる

 

セラはカガリに優しく微笑んだ

 

カガリが、セラに声をかけようとした

すると、艦を、大きな衝撃が襲った

 

 

「うわぁ!なにっ!?まだなんかあんの!?」

 

 

ヴィーノが衝撃に驚いて騒ぎ出す

そんなヴィーノに、レイが冷静に声をかけた

 

 

「おそらく、地球を一周してきた最初の衝撃波だ」

 

 

地球にそれほどの衝撃をもたらせた今回の事件

この地にある町は、どれほどの被害を受けたのだろうか

 

直後、放送で着水による衝撃の警報が流れ、ミネルバが着水する

ここにいる人たちはその衝撃によるけがは特にある様子はなかった

 

ミネルバのスピードが緩まっていき、そしてゆるゆると艦は進みだした

 

 

「…地球かぁ。これから俺たちどうするんだろ」

 

 

「知るかよ…」

 

 

海を眺めながらヴィーノがつぶやく

そんなヴィーノに、ヨウランが呆れた様子で返す

 

 

「セラ、大丈夫か?」

 

 

「あぁ。怪我とかはないよ」

 

 

カガリがセラを気遣って声をかける

セラは腕をぐるぐる回しながら、おかしなところはないというアピールをする

 

 

「…」

 

 

シンは、その様子をじぃっと眺めていた

正確には、セラとカガリを見ていたシエルを眺めていた…だが

 

シンは気になっていた

セラとシエルの関係を

 

あの大気圏突破後の二人の会話は、通信を通してシンに伝わっていた

 

一体、どういう関係なのだろうか

少なくとも、初対面というのはありえないだろう

…気になる

 

 

「それにしても、本当によかった」

 

 

「え?」

 

 

不意に出てきたカガリの言葉に、セラが軽く目を見開く

 

シンも、聞こえてくるカガリの声に耳を傾けた

 

 

「とんでもないことにはなったが、ミネルバやイザークたちのおかげで、被害は格段に小さくなった。

そのことは、地球の人たちも…」

 

 

シンの頭がかっとなる

何を言っている?

何を言っているんだこいつは

 

 

「止めろよこのバカ!」

 

 

シンの怒鳴り声が響く

その声に、カガリが目を見開いて驚愕する

 

 

「シン!やめろ!」

 

 

セラがシンを止めようと声をかける

だが、シンは止まらない

 

 

「あんただって艦橋にいたんだろ!?だったら、これがどういうことかわかるはずだ!」

 

 

「え…?」

 

 

カガリが戸惑いの声を出す

 

何て物わかりの悪い…!

 

シンは怒りに耐えながら次の言葉を絞り出す

 

 

「ユニウスセブンの落下は自然現象じゃなかった!犯人がいるんだ!落としたのはコーディネーターさ!」

 

 

セラとシエルが俯く

まわりにいるクルー、カガリが凍り付いた

 

 

「あそこで家族を殺されて…。そのことをまだ恨んでいる連中が、ナチュラルなんて滅びろって落としたんだ!」

 

 

「わ…、わかってる…。けど、お前たちはそれを止めようと、頑張ってくれたじゃないか!」

 

 

「当たり前だ!」

 

 

カガリの言葉のシンの返答にカガリの動きが止まる

 

なら、何で?

何がいけないというのだ

 

 

「…それでも、破片は落ちた」

 

 

「あ…」

 

 

次に聞こえてきたセラの一言に、カガリは気づく

 

そう、破片は落ちたのだ

被害は、出てしまったのだ」

 

 

「俺たちは、止め切れなかったんだ」

 

 

止められなかった

地球の人たちを、守り切れなかった

 

 

「一部の者たちといっても、コーディネーターがやったことには変わりはない…」

 

 

沈んだ表情で口を開くセラ

こんな表情は、久しぶりに見た

 

 

「許してくれるのかな…、それでも」

 

 

セラはそう言い残して去っていく

カガリは、その後姿を見ることしかできない

 

そんなカガリに、シンはさらに言葉をぶつける

 

 

「自爆した奴らのリーダーが言ったんだ」

 

 

カガリがシンに視線を向ける

 

 

「俺たちコーディネーターにとって、パトリック・ザラがとった道こそが、唯一正しい道だって」

 

 

「っ!」

 

 

カガリの顔が青ざめる

 

セラは…

セラはその言葉を聞いたのだろうか

 

 

「あの人が何なのか知らないけど…。その言葉を直接向けられて、あの人は苦しんでる!」

 

 

シンがカガリに怒鳴りかける

カガリは、慌ててセラを追いかけようと足を動かす

 

 

「あんたって、あの人と親しくしてるみたいだけど、何もわかってないんだな!…あの人がかわいそうだよ!」

 

 

シンがそう言って立ち去っていく

最後にシンが残した言葉に、カガリは足を止めてしまった

 

 

「…」

 

 

俯くカガリ

 

どうすればいい?

 

考えた

 

 

「…あ」

 

 

ふと顔を上げると、シエルがこちらを見ていた

シエルはこちらに笑顔を向けると、キャットウォークから去っていく

 

 

「…頼む」

 

 

ぼそりとつぶやくカガリ

 

カガリもまた、キャットウォークから去っていった

シエルとは、逆の方向に進んで

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 

セラはミネルバの通路を歩いていた

 

 

「…迷った」

 

 

無意識に歩いていた

そしてセラは気づく

見たこともない通路を歩いていた

 

ここはどこだ?

完全な迷子になってしまった

 

 

「…」

 

 

人の気配はしない

この艦は新造艦だ

まだ、余り使われていない場所もあるのだろう

 

セラは立ち止まる

 

 

「…っ」

 

 

顔を歪ませる

思い出す

あの時言われたあの言葉

 

 

『パトリック・ザラがとった道こそが、唯一正しきものと!』

 

 

歯を食いしばる

 

やはり、そう思う人は出てくるのだ

自分たちが正しいと思っていたものも、人によってはそうでないと思う者もいるのだ

あのパイロット、シンのように

 

だが、今回はシンとは違った

シンは、どちらかが滅びればいいと望んではいなかった

ただ、純粋ゆえに、憎んでしまっただけなのだ

 

 

「…くそ」

 

 

やりきれない思いがセラを襲う

自分勝手な思いだ

それはわかっている

 

けど、使いたくもない力を振りかざし

多数の出したくもない犠牲をだし

ようやく終わったあの残酷な戦争

それを、続ければよいと直接言われるのはかなりくるものがあった

 

 

「…セラ?」

 

 

背後から声がかけられる

セラの心に、わずかに喜びが灯る

 

どうして、来てほしいと思った時に来てくれるのだろう

 

 

「…シエル」

 

 

振り返る

そこには、望んでいた笑顔があった

 

シエルはキャットウォークから出て、セラを探していた

ここまでは、勘で来た

わかってきたわけではない

 

 

「セラ」

 

 

シエルはセラの名前を呼びながら、優しくセラを抱き締める

 

 

「…シエル」

 

 

セラの声が、わずかに震えている

シエルはその声を聴いて、何かに耐えられなくなる

 

 

「…」

 

 

「…っ」

 

 

シエルは、それを少し離すと、その唇に自分の唇を押し付けた

セラはわずかに目を見開くが、すぐに目を閉じる

 

唇から伝わるぬくもりに心をゆだねる

先程まで感じていた苦しさが、少しずつ抜けていくのを感じた

 

 

 

 

 

 

「…うそ」

 

 

マユは、ぼそっとつぶやいた

 

見た

いや、見てしまったといっていい

 

こんな光景、正直見たくなかった

けど、それでも心に湧き上がる興奮は抑えきれない

 

マユは気づかれないようにその場から去っていく

 

 

「…うそ」

 

 

同じ言葉をまたつぶやく

マユは、見てしまった

 

 

 

 

セラとシエルの関係を

 

 

 




マユちゃんが目撃してしまいました!
いやぁ…、これは誰にも言えないでしょうね(笑)


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PHASE9 帰還

今までと比べたら結構時間が空いてしまいました
これからは、今までのようなペースで投稿できないかもしれません
もしかしたらまた持ち直すかもしれません

では、9話目をどうぞ


プラント首都、アプリリウス

そこに置かれた行政府の執務室に、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルはいた

壁に映されている、ユニウスセブン落下による特に大きな被害があった地域

 

それを見てデュランダルは息をつく

 

 

「ローマ、上海、ゴビ砂漠、ケベック、フィラデルフィアに、大西洋北部にもだ…」

 

 

デュランダルはしなやかな指でコーヒーカップをつかみながら立ち上がり、窓から見える街並みを眺める

 

 

 

「死者の数もまだまだ増えると言うのだから、痛ましいことだ…」

 

 

デュランダルの言葉

それを聞いている一人の女性の存在

女性はわずかに表情を悲しそうに歪める

 

 

「これから、君の力を大いに借りていくことになるだろう」

 

 

デュランダルはその女性に笑みを向けながら言う

女性も、デュランダルを見ながらその言葉に耳を傾ける

 

 

「頼むよ。君には期待している」

 

 

女性は頷く

そして、執務室から去っていった

 

艶やかな桃色の髪をたなびかせて

 

 

 

女性が執務室から退室した後、デュランダルはリモコンを操作してモニターの画面を切り替えた

そのモニターには、医務室のような部屋が映されている

 

 

「…早く、目覚めてほしいものだな」

 

 

モニターの中では、二つのベッドにそれぞれ一人ずつ青年が横たわっている

 

 

「君たちの力を、貸してほしい」

 

 

デュランダルは微笑む

だがその微笑みは、他の人たちには決して見せない

欲望に満ちた笑みだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ…、だいぶやられてしまったな…」

 

 

この場所は、誰にも知られていない

知るはずもない

 

もしかしたら、神ですらも知らないのではとこの部屋の主は思っている

 

テレビには、ユニウスセブン落下による各地の被害が映されていた

色々な町の凄惨な状況が映されていた

 

隕石が直接落ちた場所

隕石落下による衝撃波に当たった場所

津波による水被害があった場所

 

 

「パルテノンが吹き飛んでしまったわ」

 

 

だが、スピーカーから聞こえてくる声たちはまるで危機感を感じさせない

それどころか、この状況を楽しんでいるようにも聞こえてくる

 

 

「あんなもの、吹き飛んでしまっても何もありません」

 

 

ジブリールは、直前に聞こえてきた声に返事を返す

その声は明るく、機嫌のよさを示していた

 

 

「で?どうするのだ、ジブリール」

 

 

上機嫌なジブリールに老人の一人が問いかける

 

 

「デュランダルの動きは素早いぞ。奴め、甘い言葉を吐きながらすでに手を出し始めておる」

 

 

先程までの空気とは一変

不機嫌な老人たちの声が響き始める

 

ジブリールの目の前にある数多くのモニターの一つに、デュランダルの顔を映すものがあった

そこに映るデュランダルは、地球に住む人々へ、被害に対する救助への協力を惜しまないという言葉を高らかとあげていた

ジブリールはわずかに顔を顰める

 

このデュランダルの対応の早さは、ジブリールにとって目障りなものだった

だが、そんなものは関係ない

ジブリールは顰めた顔を笑顔に戻す

 

 

「もうお手元に届くかと思いますが、実はファントムペインの方で大変面白いものを送ってきましてね」

 

 

老人たちは、今届いたのだろうか

それぞれの手に持つ携帯端末の画面を見る

 

 

「これは…!」

 

 

「やれやれ…。結局、こういうことか…」

 

 

ジブリールのディスプレイにも、それぞれの老人たちが受け取った画像と同じものが映されていた

 

画面に映されていたのは、ユニウスセブン落下事件

その渦中

モノアイのMS、ジンが映されていた

 

 

「思いもかけぬ、最高のカードです」

 

 

ジブリールはさらに笑みを濃くして口を開く

 

 

「これを許せぬ人間などこの世のどこにもいはしない。そしてこれは、この上なき我らの強き絆とあるでしょう…。

今度こそ、奴らのすべてに死を…、です」

 

 

誰の口からも反論の言葉は出てこない

ジブリールは最後に、この言葉を残した

 

 

「青き正常なる世界のために…ね」

 

 

ジブリールは手元に置いてあるワイングラスを手に取って、自分の唇にあてた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつぶりだろう

宇宙にいた時は、話はしたものの、その後すぐに分かれてしまった

 

今、セラはシエルと並んで歩いていた

セラはシエルと別行動を取ろうとしたのだが、別にこのくらいなら大丈夫だとシエルが何かと食い下がり

セラもシエルと一緒にいたくないとは全く考えていない

むしろ逆なので、並んで歩いていた

 

 

「…?」

 

 

もうすぐ甲板の入り口に着くあたりの所

セラは小さな物音を聞く

 

 

「銃声…?」

 

 

「え?」

 

 

セラがつぶやいた言葉にシエルが声を漏らす

 

セラは音が聞こえてくる方に歩いていく

音が聞こえてくるのはどうやら甲板のようだ

セラは入り口から外を覗く

 

 

「…これは」

 

 

開きっぱなしのドアから見えてきた光景

若い兵たちが標的を設置して射撃訓練をしていた

 

セラとシエルは目を見合わせて笑みを浮かべる

 

開放的な海のど真ん中で射撃訓練

さぞ気持ち良い訓練だろう

 

セラとシエルは外に歩み出る

その二人に、ルナマリアとレイが気づく

 

レイはすぐに訓練に集中するが、ルナマリアは二人に話しかける

 

 

「シエル、それにセラさんも?…お知り合いなんですか?」

 

 

首を傾げながら聞いてくるルナマリア

 

…本当のことを教えるわけにもいかない

 

 

「いや、偶然そこで会って。少し話すようになった程度だよ」

 

 

ルナマリアがへぇ、声を出している

 

セラは、シンがこちらに目を向けていることに気づく

シンと一瞬目が合わさった後、シンは目を逸らす

 

そんなシンを見て、再び笑みを浮かべていた時、ルナマリアに声をかけられる

 

 

「あの、撃ってみません?」

 

 

「え?」

 

 

ルナマリアはこちらに銃を差し出しながら誘ってくる

セラは戸惑う

 

…何か勘違いされてないだろうか

確かに自分は護衛だが、銃はそこまで得意ではない

訓練は確かに受けているが、自分の能力頼みになってしまう

 

ん?こうして考えてみたら、自分は護衛失格ではないか?

 

ルナマリアへの返答を考えることからここまでずれた考えに行き着く

セラクオリティというものだろう

 

 

「代表の護衛なんですよね?私、こっちの方はあまり得意ではなくて…。

だから、お手本、見せてください」

 

 

今までの挑戦的なものとは違う笑みを向けながらルナマリアは言う

セラはたじろぐ

 

やってみるか…

 

セラはルナマリアから銃を受け取る

手元に装置がある

これで難易度を設定できるようだ

 

 

「…?」

 

 

装置の画面を見て思った

 

オーブの訓練より簡単?

 

いや、セラの訓練が異常なだけなのだが

セラは難易度を最高に設定して、銃を構える

 

次々に出てくる的

出てくる的は、わずかな間しか出現しない

だが、セラは最高といっていい反射速度で反応し、銃の引き金を引く

 

撃たれた銃弾は全て、的のほぼ中心を射ていく

 

 

「うわぁ!同じ銃を使ってるのに、なんで!?」

 

 

セラの銃の腕に感心するルナマリアに、シエルが声をかける

 

 

「ルナマリアは、引き金を引くときに手首をひねるくせがあるんだよ。…」

 

 

シエルがルナマリアにアドバイスを送っている

セラは銃を置いて、ふっ、と息をつく

 

ほっとした

恥をかかずにすんだ

 

 

「セラさん、すごいんですね?」

 

 

シエルのアドバイスが終わったのか、ルナマリアがセラに話しかける

セラは首を横に振る

 

 

「いや…。こんなものばかり得意でも、仕方ないよ…」

 

 

セラはそう言い残して、甲板から出て行こうとする

 

 

「そんなことありませんよ。敵から自分や仲間を守るためには、必要です」

 

 

ルナマリアの言葉に、セラが足を止める

 

敵…か

 

 

「敵って…、誰なんだろうな」

 

 

「え?」

 

 

シエルから聞いた

自分が乗った機体、リベルタスは、プラント内で<天からの解放者>と呼ばれ、英雄視されてるらしい

だが、その英雄と見られている自分は何をしてきた?

 

敵と思った相手を殺してきた

迷った時からは、敵が誰かすらもわからず戦ってきた

そんな自分が英雄…

 

セラは、甲板から立ち去って行った

 

 

カガリのもとへ行こうと歩いてきた時、茶色い髪を肩まで伸ばした少女とすれ違った時

ぎょっと目を見開かれ、逃げるように走り去られた時、セラの心は傷ついたという

 

 

 

 

 

 

オーブオノゴロ島

グレイの巨艦が港に入港していく

 

その光景を、冷たい瞳で眺める二人の男

 

 

「ザフトの新鋭艦、ミネルバか…。姫も、ずいぶん面倒なものを連れてきたものだ」

 

 

二人の男の内の一人がつぶやいた

 

オーブの代表であるカガリの補佐である宰相、ウナト・エマ・セイランである

前大戦終了後、ウズミらが退陣したと同時に首長入りした男だ

 

 

「しょうがありませんよ父上。カガリだって、まさかこんな事態に巻き込まれるなんて思っていなかっただろうですし」

 

 

その隣にいる男、ユウナ・ロマ・セイランがつぶやく

ウナトの息子であるこの男も、それなりの地位を与えられていた

紫色の上下の衣服を身にまとっているのが証拠である

 

 

「国家元首を送り届けてくれた艦を、冷たくあしらうわけにもゆきますまい。…今は」

 

 

「あぁ、今はな…」

 

 

二人が意味ありげにつぶやく

 

そして、後方から歩いてくる人物に気づくと、姿勢を正す

 

ウズミ・ナラ・アスハが、この場に現れたのだ

 

職を辞した今でも、影響力が大きい

カガリの助言役としても知られている

 

決して、陰で牛耳っているわけではない

だが、若さゆえの過ちを抑えるためにもまだ、全てを捨てるわけにもいかない

 

まだ、この男がリーダーといってもいいくらいなのだ

 

ウズミは、ミネルバを見上げる

その表情はわずかに笑みを浮かべていた

 

そして、昇降用のハッチが開いた

 

 

 

 

 

目の前のハッチが開き、太陽の光が目に入る

わずかに目をつむってしまうが、すぐに開かせる

 

下の方に、五人の紫色の服を着た男たちがいる

 

 

「カガリ!」

 

 

タリア、アーサー、カガリとセラが地に足をつけた途端、カガリに抱き付こうとする男の姿

セラはその男の顔面に手のひらを押し付けて動きを止める

 

 

「うぶぅっ!?」

 

 

「…」

 

 

「ゆ…ユウナ?」

 

 

カガリに抱き付こうとした男、ユウナが汚い声を漏らす

カガリはその声に戸惑い、セラは表情をまったく動かさない

 

 

「…なんのつもりだい?」

 

 

ユウナがセラから離れ、セラを睨みつける

だがセラは逆にユウナを睨みつけ、気圧す

 

 

「ひっ!?」

 

 

ユウナから小さい悲鳴を漏らす

 

 

「あなたこそ何のつもりですか?代表に何をするつもりだったのです?」

 

 

「ぼ…、僕はカガリの婚約者だぞ!」

 

 

「それはセイランの方で勝手に決めつけていることでしょう?アスハの方ではお認めになっておりません」

 

 

セラがユウナの反論をいともたやすく払いのける

ユウナはそれはぐちゃぐちゃな表情でセラを睨みつける

 

セラにはまったく通用していないのだが

 

 

「ユウナ、そこまでにしておけ。ザフトの方々がお困りになられているだろう」

 

 

そんなユウナを諌める声

ウナトがこちらに歩み寄ってきた

 

セラがウナトの言葉にはっ、として振り返る

タリアとアーサーがぽかんとした表情でこちらを見ていた

 

 

「お帰りなさいませ、代表。ようやくご無事なお姿を拝見でき、我らも安堵いたしました」

 

 

「大事な時に不在ですまなかった。留守の間の采配、ありがたく思う」

 

 

カガリとウナトが言葉を交わす

ウナトと一人の男がタリアに歩み寄る

 

タリアはすぐに敬礼をする

アーサーはタリアが敬礼をするところを見て、慌ててそれに倣う

 

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです」

 

 

「同じく、アーサー・トラインであります!」

 

 

「オーブ連合首長国宰相、ウナト・エマ・セイランだ」

 

 

三人が自己紹介をし終え、最後の一人がその名を口にする

 

 

「ウズミ・ナラ・アスハだ。この度は、娘の帰国に尽力いただき、感謝する」

 

 

その名を聞き、タリアは目を見開き、アーサーは小さく声を漏らす

 

オーブの獅子

その存在が、目の前にいるのだ

 

 

「いえ。我々こそ、不測の事態とはいえ、アスハ代表にまで多大なご迷惑をおかけし、大変遺憾に思っております」

 

 

慌てて我を取り戻し、タリアが返事の言葉を返す

 

言葉を交わした後、カガリと共に、迎えに来た人たちが去っていく

その直前に、ユウナがセラに勝ち誇った顔を向けてことが少し気になったが

 

セラはまったく気にしていない様子なので、セラとカガリはそういう関係ではないとタリアは決定づけた

 

だが、セイラン…か

あの親子はこちらを友好的な目では見てこなかった

オーブも、派閥が分かれているのだろうか?

 

 

 

 

「なんだと?」

 

 

カガリが横目でウナトを睨む

ウナトはわずかにたじろぎながらも持ち直す

 

 

「大西洋連邦との新たなる同盟条約?何を言っているんだ。今は被災地への救援、救助こそ急務のはずだ」

 

 

「こんな時だからこそですよ」

 

 

カガリの言葉に首長の一人が口を開く

 

 

「それに、この条約は大西洋連邦とのではありません。

呼びかけは確かに大西洋連邦ですが、それは地球上のあらゆる国家へです」

 

 

「約定の中には無論、被災地への救助、救援も盛り込まれております。

これはむしろ、そういった活動を効率よく行えるよう結ぼうというものです」

 

 

首長の一人の言葉に続き、ウナトが言葉を発す

だが、カガリは何も言わない

何かを考え込むように腕を組んでいる

 

それを、見て、ウナトは息をつく

 

 

「ずっとザフトの艦に乗っておられた代表には今一つご理解いただけないのかもしれませんが…。

地球が被った被害はそれはひどいものです」

 

 

ウナトはリモコンを操作し、モニターに映像を映す

ユニウスセブン落下による被害の生々しい映像

 

カガリはわずかに眉を寄せる

 

 

「そして、これだ」

 

 

再びリモコンを操作し、モニターの画像を変える

その画像を見た時、カガリは大きく目を見開いた

 

その画像は、ユニウスセブンを落とそうとしたグループ

ジンの姿だった

 

 

「我ら…、つまり、地球に住む者たちはみな、すでにこれを知っております」

 

 

「…大西洋連邦からか?」

 

 

「…はい」

 

 

カガリの問いに、わずかに目を見開いたウナトは肯定の返事を返す

 

 

「これを見せられて、怒らぬものなどおりませぬ」

 

 

ウナトも、憤りを込めて言葉を発する

それを察したカガリは瞼を閉じる

 

何もわかっていない

だが、確かにウナトの言う通りだ

だからこそ、難しい

 

自分が代表の座についてから、どこか怪しい動きを見せるセイラン

この機に乗じて、何かを仕掛けようとしている

カガリはそう思っていた

 

ウナトが未だ、何かを話している

そしていつの間にか、会議が終わっていた

まぁ、同盟に入ることを考えておくようにとか言っていたのだろう

聞かなくたってわかる

 

カガリはため息をつきながら部屋から出て行く

その傍らに、二人の首長を連れて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タリアは目の前にある灰色の戦艦を見てため息をついた

新造艦のはずなのに、傷だらけでまるで歴戦の艦のようになってしまった

 

タリアは気を引き締める

 

 

「スラスターや火器は、ここで直しておきたいわね」

 

 

タリアがエイブスに言う

エイブスはタリアの方に振り向く

 

 

「せっかく時間があるんだし、モルゲンレーテから資材や機器を調達できれば何とかなるでしょう?」

 

 

「ええ。ですが、問題は装甲ですね…」

 

 

エイブスがミネルバの修理の上での問題を告げる

その問題に、タリアが苦い顔をする

 

装甲の傷は、タリアがミネルバの無理をさせたことにある

あの、ボギーワンとの戦闘時のことだ

 

あれから調整され、だましだましやってはきた

 

 

「…しょうがないわね。装甲は損傷のひどい部分に絞って。あとはカーペンタリアに入ってからにしましょう」

 

 

タリアの言葉にエイブスが再び頷き、アーサーが疑問を口にする

 

 

「艦長、本当によろしいのですか?補給はともかく、修理の方はカーペンタリアに入ってからの方が…」

 

 

アーサーの問いに、タリアが答えようとする

 

 

「でも」

 

 

そこに、女性の声が耳に入ってくる

声が聞こえてきた方を向くと、少し離れたところで女性と男性がこちらを見ていることに気づく

 

 

「機密よりはやはり、艦の安全。常に信頼できる状態でないと、艦長さんはお辛いでしょ?」

 

 

女性はアーサーを見ながら柔らかく告げる

アーサーが鼻を伸ばすのを、タリアが耳を引っ張って止める

 

タリアは、その女性のまるで経験していたような口調が気になった

 

 

「…あなたは?」

 

 

わずかに警戒心を含めて問う

 

 

「失礼いたしました。モルゲンレーテ造船課Bのマリア・ベルネスです。

こちらの作業を担当させていただきます」

 

 

マリアが一歩歩み出て手を差し伸べる

タリアは一瞬その手を見た後、自分も手を伸ばしてその手を握る

 

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです」

 

 

「よろしく」

 

 

二人は微笑み合ってから、並んで歩き出し、プラットホームへと昇る

 

作業を見守りながら、マリアはわずかに苦笑する

 

 

「ミネルバは新造艦ということですが…。何だかすでに、だいぶ歴戦という感じですわね…」

 

 

その言葉にタリアも苦笑いを返す

 

 

「残念ながらね…」

 

 

出航する前はなめらかで輝いていた装甲も、今では傷つき汚れてしまっている

本当によくここまで保ってくれた

タリアは感謝を込めてミネルバに視線を送る

 

 

「まさか、こんなことになるとは思ってもみなかったけど…。

ま、仕方ないわよね。こうなっちゃったんだから」

 

 

そして、笑みを浮かべてマリアへ口を開く

 

 

「いつだってそうだけど、先のことはわからないわ。今は特に、て感じだけど」

 

 

「…そうですわね」

 

 

マリアが柔らかい笑みに僅かに翳りを見せる

タリアはその表情を伺うように言葉を重ねる

 

 

「本当はオーブも、ザフト艦の修理に時間をかけてなんかいられないんじゃない?」

 

 

マリアが目を見開いてタリアを見る

タリアは鋭い目でマリアの目を見返す

 

 

「…でも、同じですわ。やっぱり先のことはわかりませんので…。

私たちも今は、今思って信じたことをするしかないのですから」

 

 

そこで言葉を切り、そして再びマリアは口を開く

 

 

「あとで間違いだとわかったら、そのときはそのときで、泣いて、怒って…。

そしたら、また次を考えます」

 

 

マリアのシンが強いことを感じさせる言葉に聞き入るタリア

マリアが静かな笑みをタリアに向け、タリアもまた、静かな笑みをマリアへ返す

二人の間には、まるで長年付き合ってきた友のような空気が流れた

 

 

 

 

 

セラが、海沿いの道を車で走らせる

横目で、広がる砂浜と、夕焼けが反射し輝く海を見る

 

そこまで長い期間離れたわけでもないというのに、平和な風景を見るのが久しぶりな感じがする

 

 

「…お?」

 

 

そこで、セラの視界は、砂浜で駆け回る子供たちとそれを見守る二人の男女を捉えた

近くの場所に車を止め、優しくクラクションを鳴らす

その音に気づき、砂浜にいる人たちがこちらに目を向ける

セラは車から降りて、笑みを浮かべる

 

 

「あ~!セラだ!」

 

 

「セラ~!」

 

 

「どこ行ってたの~?」

 

 

「カガリは~?」

 

 

セラが砂浜に降りていくと、子供たちが歓声を上げながらセラに駆け寄ってくる

セラの両手は瞬く間にふさがり、まわりを子供たちが囲む

 

 

「あ…、ちょ…」

 

 

あの大戦の英雄であるセラでも、無邪気な子供には勝てない

次から次へとかけられる言葉にどう答えればいいか困ってしまう

 

 

「セラ…、戻ってきてたんだ」

 

 

子供たちの向こう側から、ゆっくりとした足取りで歩み寄ってくる二人の男女

 

 

「お帰りなさい。大変でしたわね」

 

 

「ただいま。兄さん、ラクスさん」

 

 

キラとラクスが、帰ってきたセラを迎える

ラクスがセラを労わる言葉を口にする

 

 

「皆こそ、大変だったね…。家、流されてこっちに移ったって聞いたよ」

 

 

セラが言葉を返す

すると、子どもたちが再びセラに一気に声をかける

 

 

「そー!おうちなくなっちゃったの!」

 

 

「あのね!?高波っていうのが来てね!?壊してっちゃったんだって!」

 

 

「新しいのできるまでお引越しだって」

 

 

子供たちに同時に言葉をかけられてあたふたするセラ

困っているセラを見て、キラが笑いをこらえているのか、体を震わせている

そしてラクスが微笑みながら子供たちに声をかける

 

 

「あらあら、ちょっと待ってくださいな、皆さん。これではお話ができませんわ」

 

 

ラクスは子供たちを連れてセラとキラから離れていく

どうやら、気を遣ってくれているようだ

 

 

「キラは先に戻っていてくださいなー!わたくしたちは後から子供たちと戻りますわー!」

 

 

「うん!わかったよー!」

 

 

ラクスの言葉に返事を返し、キラは車に乗ろうとして…動きを止める

 

キラは助手席に座ろうとした

だが、その助手席にはすでにセラが座っていた

 

 

「…これ、セラの車なんだけど?」

 

 

「長旅で疲れてるんです。運転は譲るよー」

 

 

セラはキラとは視線を合わさずに言う

キラはやや苦笑してため息をつく

 

実際、長旅だったのだから何も言い返せない

 

セラの意向に従って、キラは運転席に座った

 

 

 

キラはハンドルを動かしながら口を開いた

 

 

「カガリは?」

 

 

「行政府。仕事が山積みだと思う」

 

 

キラの問いに、セラが悪い笑みを浮かべながら答える

キラはその答えを聞いてくすくすと笑いを零す

 

キラが運転している車は、アスハ家の別邸に向かっていた

家が流されたことにより、ウズミがそこをマルキオに提供してくれたのである

 

 

「…あの落下の真相は、みんな知ってるんだろ?」

 

 

セラが口を開く

セラの問いに、キラの表情が曇る

 

 

「…うん」

 

 

まだ、民衆に大々的には知らされてはいない

 

だが、キラたちはただの民衆ではないのだ

それなりの情報はつかめる

 

 

「連中の一人が言ったよ」

 

 

セラがキラから視線を外す

 

 

「撃たれた者たちの嘆きを忘れ、なぜ撃った者たちと偽りの世界で笑うんだ、お前らは…。て」

 

 

その言葉を聞いて、キラが大きく目を見開く

 

 

「戦ったの?」

 

 

「ユニウスセブンの破砕作業に出て…、そしたら、襲ってきてさ」

 

 

車が止まる

気付けば、すでにアスハ邸についていた

 

セラとキラが車から降りる

 

 

「…シエルもいたよ。ミネルバに」

 

 

「え゛」

 

 

空気が変わる

先程までの暗い感じではない

かといって、明るいものでもない

 

微妙な空気

 

 

「…知ってたんだ?」

 

 

キラの固まった表情を見て、セラは察した

目の前の兄は、そのことを知っていると

いや、もしかしたら自分以外は全員知っているのではないか?

 

 

「…」

 

 

「…」(だらだら)

 

 

満面の笑みでキラを見つめるセラ

満面の笑みを浮かべて冷や汗を流しながらセラを見つめるキラ

 

 

「…死刑」

 

 

死刑が勧告された

夕焼けの空に、キラの悲鳴が響き渡った




久しぶりのおバカブラザーズのやり取りです!
…おバカブラザーズでゲーム出せませんかね?(笑)


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PHASE10 休息

…あかん
ひどい、ひどすぎる

スランプとは言えませんが、調子が悪いです…
なんとかせねば…


シエルは自室で着替えていた

いつも来ている赤い軍服ではない

年相応の女の子らしい私服である

 

 

「…よし」

 

 

シエルは自室の扉を開けて部屋から出る

そして駆け足気味で廊下を進む

 

オーブの町への外出許可が出たのだ

シエルはルナマリアに誘われ、町に出ることにしたのだ

 

シエルとルナマリアの他に、メイリンとマユもいる

レイとシンも誘ったは誘ったみたいだが、断られたようなのだ

なので、女の子四人での外出になる

 

 

「あ、シエル!」

 

 

出口に近づいていくと、その前に立っていたシエル以外の三人

ルナマリアがシエルが来ていることに気づいて名を呼ぶ

そのルナマリアの声で、マユとメイリンもシエルが近づいてきていることに気づいた

 

 

「遅いわよ~」

 

 

「ごめんごめん…」

 

 

ルナマリアが右手を腰に当ててシエルに言う

シエルは両手を目の前で合わせながら謝る

 

 

「まあまあお姉ちゃん。それよりも早くいこ?時間なくなっちゃう」

 

 

このままではルナマリアが説教を開始しそうな空気になったので、メイリンがルナマリアを止めに入る

 

 

「そうね…。シエルが遅れるなんて予想内だもんね。さ、行きましょうか」

 

 

ルナマリアがメイリンの言葉に従って、外に出ることにする

四人は、平和の国へと足を踏み入れる

 

 

 

「けっこう賑わってるね…」

 

 

メイリンが歩きながらまわりを見渡してつぶやく

マユがそんなメイリンを笑顔で見ながら口を開く

 

 

「私たちがオーブにいた時もそうでした。ここら辺は人がいっぱいで、お兄ちゃんともよく来たんです」

 

 

「へぇ…、シンと?」

 

 

シエルがマユに聞き返すと、マユは頷く

 

今、シエルたちが歩いているのは商店街だ

食材を売っている店、雑貨を売っている店

アクセサリーを売っている店に、ファッション店もある

 

今もまだ大戦の余波が残っているこの時代で、ここまで商品が揃っている場所はそうない

 

 

「あ!あそこ!」

 

 

と、メイリンが急に目を輝かせてある店に入る

服がたくさん飾られている、ファッション店のようだ

 

メイリンについて、三人もその店に入る

 

 

「このブランドの服、欲しかったんだ~…」

 

 

「うわぁ…、色々あるわねぇ…」

 

 

メイリンが一つの服を見て感激し、ルナマリアが商品を見て回る

その二人を見てぽかんとしているシエルとマユ

 

 

「…二人は見ないの?」

 

 

ルナマリアがシエルとマユに視線を向けて聞く

 

 

「私は…、服とかあまり…」

 

 

「私もです…」

 

 

シエルとマユが遠まわしに服は見ないと告げる

その言葉を聞いて、ルナマリアとメイリンがにやりと笑う

 

 

「なら、今日は二人の服をたっぷりと選びましょうか?」

 

 

「そうだね、お姉ちゃん。しっかり選んであげようね?」

 

 

「「え?」」

 

 

シエルとマユが固まる

別に服を選ぶことに抵抗はない

 

ただ、二人の表情に嫌な予感を感じざるを得ないのだ

あまりにも悪い笑みを浮かべていたから

 

 

「「さてと、最初はどれにしようかなぁ…?」」

 

 

「「…お手柔らかに」」

 

 

ルナマリアとメイリンが張り切って服をあさり始める

その光景を、苦笑気味に眺めるシエルとマユ

それから、どうなったか

それは描写しないでおく

 

ただ、シエルとマユの要望はまるで聞き入れてくれなかったとだけは書いておこう

 

 

 

 

 

 

「つ…疲れた」

 

 

マユが椅子の背もたれに寄りかかりながらつぶやく

隣のシエルも同じ状態だ

ただ、正面にいるホーク姉妹はどこか肌がつやつやしているが

 

四人はファッション店から出た後、昼食を購入して休憩所で休んでいた

長方形のテーブルに、それぞれに二つの椅子が置かれていた

 

テーブルの上は荷物でたくさんだ

 

 

「さてと、お腹もへってきたし、ごはん食べましょ?」

 

 

ルナマリアが荷物をテーブルから地面に置き、テーブルの上に昼食である焼きそばを出す

購入したのは焼きそばだ

 

なぜ焼きそばなのか

ただ、その店が他よりもすいていた気がしたからだ

 

気がしたのだ

 

 

「うん…食べようか…」

 

 

四人が割り箸を割り、箸をつけようとした

その時、声が聞こえてきた

 

 

「ふぇぇ…、みんなぁ…どこぉ…?」

 

 

「え?」

 

 

子供の声

その声が聞こえてきた方を見ると、ツインテールの六歳くらいの女の子が泣いていた

先程の言葉を聞く限り、一緒に来ていた人たちと逸れてしまったようだ

 

マユが立ち上がり、その女の子に歩み寄る

そして、しゃがんで視線を合わせて声をかける

 

 

「どうしたの?」

 

 

女の子は、マユの目を見て、口を開く

 

 

「あ…、あのね。セラとキラとケイとと一緒に来たんだけどね…?逸れちゃったの…」

 

 

よくわからないが、やはり一緒に来ていた人たちと逸れてしまったらしい

 

この子の言葉に、どこかで聞いたことがある名前が入っていたような気がしたのだが気のせいだろう

 

 

「そっか。なら、一緒にさがしt…「ラナぁ~!どこだ!ラナぁ~!」?」

 

 

「ラナ!いたら返事して~!」

 

 

マユが一緒に探そうと言おうとした時、二人の男の声が響いてきた

その声を聴いたとき、女の子の顔がぱぁ、と明るくなる

 

 

「セラ!キラ!」

 

 

そして、二つの名を呼ぶ

 

 

「ラナ!?」

 

 

「ここにいたんだね!?」

 

 

「ラナ、なにやってんだよぉ」

 

 

すると、二人の男性と一人の男の子がこちらに駆け寄ってくる

 

…一人はやけに見覚えがあるのだが

 

 

「セラ~!」

 

 

女の子も駆け出し、男性の腰に抱き付く

そして、大きな声で泣き叫ぶ

 

 

「はぁ…。あれだけ逸れないように気をつけろって言ったのに…。お前は…」

 

 

「ごめんなさぃぃ…」

 

 

男性が女の子の頭を優しくなでる

その様子を、もう一人の男性と男の子が笑みを浮かべてみつめる

 

そして、マユたち四人は、その様子を

正確には、一人の男性を呆然と眺めていた

 

男の子と手をつないでいる男性が、マユたちに歩み寄り頭を下げる

 

 

「あのこの世話をしていただいて、ありがとうございます」

 

 

すごく優しそうで、柔らかい声

その声に、一人を除いて聞き惚れていた

 

 

「…いえ、世話というか…。さっき会ったばかりなので」

 

 

「!?」

 

 

その一人、シエルがその男性に対応する

シエルの顔を見て、男性が目を見開くが、その理由がわからない他の三人は首を傾げるしかない

 

そして、もう一人の男性が女の子を抱きかかえながらこちらに向かってくる

 

 

「ありがとうございます。ほら、サナもお礼言って」

 

 

「ありがと…」

 

 

男性がお礼を言い、女の子もたどたどしい口調でお礼を言う

 

四人は男性を眺める

そして、意を決したようにルナマリアが口を開いた

 

 

「…セラさん…ですよね?」

 

 

「?」

 

 

男性がきょとんとした表情になる

そして、少しずつ目が見開いていく

 

 

「…ミネルバの人たち?」

 

 

もう会うこともないだろうと思われた

 

あまりにも早い、セラとの再会だった

 

 

 

 

 

 

シンはミネルバの射撃訓練場にいた

銃を握り、的に向かって引き金を引く

 

中心にこそあまりいってないが、それでも放たれる弾丸は全て的を捉えている

十分優秀な結果といえるだろう

だが、シンは満足していなかった

 

思い出す

あの、セラといった護衛が最高難易度で見せた完全な射撃

自分が目指すべき完成体

 

 

「…っ」

 

 

悔しい

なぜかはわからない

だが、悔しい

 

シエルと仲が良かった

会ったばかりのはずなのに

 

ユニウスセブンの時だって、仲間である自分ではなく、セラを頼っていた

悔しい

力がない、自分が悔しい

 

ぱしゅん、と扉が開く音がする

目を向けると、レイが訓練場に入ってきた

レイはシンに一瞬視線を向けると、すぐに視線を外して銃を手に取る

 

 

「出ないのか?出たろ、外出許可。マユは行ったようだぞ」

 

 

「…」

 

 

俯くシン

 

外出許可は出た

だが、どこか気が乗らない

 

外に出てしまえば、シンは無意識でもあの場所に行ってしまう

 

両親が肉塊になっているところを見たあの場所に

 

怖い

 

 

「…」

 

 

シンは銃を置く

 

…行くかな

 

折角外出許可が出たのだ

ここで訓練をしていても損に思えてきた

 

二年ぶりに、オーブの地に足をつけることを決めた

 

 

 

 

 

 

「へぇ~。キラさんはセラさんのお兄さんなんですね」

 

 

メイリンが言う

 

シエルたちは、外出をした

そして、ひょんなことでセラと再会を果たした

 

セラの兄、キラ・ヤマトという存在も込みで

 

メイリンの言葉に、キラは笑みを浮かべ、頷いて口を開く

 

 

「うん。昔から何をするにもずっと一緒だったよ。…色々とね」

 

 

最後の言葉の時だけ、キラの笑顔が黒くなったのは気のせいだろう

ミネルバ組四人はそう結論付けた

 

 

「…色々やったな、そういえば」

 

 

…セラの黒い笑みも、気のせいなのだ

気のせいといったら気のせいなのだ

 

 

「そ…そういえば!セラさんとキラさんは何をしているんですか!?」

 

 

明らかな話題転換

だが、それを試みたマユに、他の三人は感謝した

 

 

「なにって…、買い物だけど?」

 

 

「いえ、そういう意味ではなく…」

 

 

きょとんとした顔で答えるキラ

だが、マユが望んでいる答えはそういうものではなかった

 

それを読み取ったセラが代わりに答える

 

 

「違うよ兄さん。この子が望んでる答えは職だよ職。兄さんがニートだっていう事実を知りたがってるの」

 

 

「…ニートって」

 

 

「事実だろ?」

 

 

セラの言葉に、キラがしょぼんとした表情で反論しようとするも、セラの一言に一刀両断される

キラは何も言い返せずに口を閉ざす

 

 

「に…、ニートですか…?」

 

 

ルナマリアが戸惑いながら口を開く

セラは頷く

 

 

「そ。兄さんは働いてないよ。という俺も、決まった職はないんだけどさ?」

 

 

後半は苦笑気味で言うセラ

その言葉にシエルが疑問を持つ

 

 

「でも、代表の護衛してたよね?」

 

 

「あれは…まあね。騙されたに近い」

 

 

笑顔にさらに苦みを加えて答えるセラ

 

悲しみや苦しみを感じさせるものではない

ただ、純粋に

びみょぉな顔をしている

 

一体どうしたんだろうと思うミネルバ組

だが、その疑問を口にできる者はいなかった

 

 

「さてと、そろそろ帰ろうか」

 

 

と、キラが立ち上がって言う

セラは腕に着けてある時計を見て

 

 

「ん、もうこんな時間か。どうりで腹減ったわけだ…」

 

 

「うん。母さんたちがお昼ご飯作って待ってると思う」

 

 

セラも立ち上がり、子供二人も立ち上がる

 

 

「さっきも言ったけど、ありがとう。じゃあ、俺たちは行くから」

 

 

「あ…、はい」

 

 

セラが代表して口を開き、立ち去っていく

キラも頭を下げてから去っていき、二人がセラとキラを追いかけていく

 

セラの言葉に返事を返すルナマリア

 

 

「…私たちも食べよ?」

 

 

メイリンが提案する

結局まさかの再会で、昼食を食べるタイミングを失っていたのだ

 

 

「そうだね。じゃ、食べ終わったら次にどこ行く?」

 

 

シエルが焼きそばが入っている容器のふたを開けながら言う

 

また服選びという言葉が出てきたが、シエルとマユが全力で阻止しようとしたのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

セラはあの後家に帰り、昼食を食べた後、自室で雑誌を呼んでいた

世界の状況を写した写真集である

 

この雑誌は月間の雑誌であり、今月号は、ユニウスセブン落下による被害を題材にした写真が載せられている

 

この雑誌に載っている写真の中には、セラの友人であるトールとミリアリアが撮った写真もあるのだ

あの二人は、大戦が終わった後カメラマンとなり、世界中をまわっている

 

 

「…あ」

 

 

ふと、窓の外を見ると、日が傾き、空が赤みがかってきていた

いつの間にそこまで時間が経っていたのだろう

 

セラは本を閉じ、自室から出る

階段を降りる

台所で作業をしているカリダに声をかける

 

 

「母さん、兄さんは?」

 

 

セラの声を聴いて、カリダはセラに目を向ける

 

 

「セラ、降りてきたのね。キラなら、ラクスさんと一緒に慰霊碑に向かったわよ」

 

 

「慰霊碑?」

 

 

セラの頭に、その慰霊碑の憧憬が浮かぶ

 

海に面した場所にぽつんと一つだけたてられている

そのまわりにはきれいな花が沢山咲き乱れていたが、今回のことで波をかぶってしまっているだろう

 

その様子を見に行ったとセラは確信していた

 

 

 

 

シンはミネルバから出て、海岸線を歩いていた

空を見上げれば、空は赤く染まっている

 

まわりを見渡す

ここだ

ここで、両親は…

 

シンは再び空を仰ぐ

その眼には、涙が浮かぶ

 

マユは、元気よく外に出て行った

元気なら元気でいい

それが一番だとシンも思う

 

だが、シンは気分が良くならなかった

 

ここで死んだ

両親は殺された

 

<天からの解放者>

プラントで聞いた、奴の正体

目に焼き付けた、あのモビルスーツ

 

 

「…?」

 

 

シンの心が憎しみで満たされそうになったとき、前方に人の姿を捉えた

 

海に面した場所にある…、あれはなんだろうか

 

少年だ

シンより年は上だろう

その少年の肩に、鳥が止まっている

 

 

『トリィ』

 

 

「…?」

 

 

肩に止まっている鳥が無機質な声でなく

シンが鳥だと思っていたそれは、ロボットだったようだ

 

そして、少年はシンの存在に気づき振り返る

その少年の瞳に、吸い込まれそうな感覚にシンは陥る

 

 

「慰霊碑…ですか?」

 

 

シンは少年の前にある石を見る

 

 

「うん。そうみたいだね」

 

 

少年がシンの問いに答える

 

あやふやな答えに疑問を覚え、首を傾げながら少年を見る

 

 

「よくは知らないんだ。僕も、ここに来るのは初めてだから…」

 

 

少年はそう言った後、悲しげに石碑に目を向けて口を開く

 

 

「せっかく花と緑でいっぱいになったのに…。波をかぶって、また枯れちゃうね…」

 

 

シンは石碑のまわりを見る

確かに、花が咲いてはいる

だが、その花はどこか弱弱しく見え、今にも倒れそうになっている

 

 

「ごまかせない…、てことかも…」

 

 

どこかから歌声が聞こえてくる中、シンは口を開いた

耳に届く歌声は少しずつ大きくなっていく

 

 

「いくら綺麗に花が咲いても…、人はまた吹き飛ばす」

 

 

「…きみ」

 

 

少年はシンを不思議そうに見つめる

 

シンは思い出していた

セラが言ったあの言葉を

 

 

『なら、どうすればよかったんだ?地球軍と共にプラントを滅ぼせばよかったか?お前たちザフトと共にナチュラルを滅ぼせば良かったか?』

 

 

言っていることは理解できる

オーブがあそこで戦う選択をしなければ、その言葉通りどちらかが滅んでしまうのもわかるのだ

 

だが、理解はできても納得はできない

 

気付けば、歌声が止んでいる

少年の傍らで、こちらを見つめている桃色の髪の少女がいた

 

その少女があの綺麗な歌声を出していたのだろうか

 

 

「…すいません、変なこと言って」

 

 

シンは自分は邪魔なのでは?と感じ、踵を返す

ミネルバに戻ろう

 

楽しいことはなかった

けど、あの少年と話せてどこか気持ちが安らいだ気もしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな馬鹿な!」

 

 

カガリは机をたたきながら目の前にいるウナトへ怒鳴る

 

 

「いいえ。これは事実です」

 

 

だが、ウナトもカガリに怯まずに言葉を返す

カガリはウナト、そしてまわりにいる首長たちを睨みつける

 

 

「大西洋連邦から正式な要請が出ました」

 

 

大西洋連邦は、オーブ

いや、地球上の全国家に声明を出した

 

 

「以下の辞令が受け入れられない場合、その国家を敵性国家と見なす」

 

 

それは、再び戦争へと導く招待状だった




短い、駄文、駄文、駄文な回でした

これはまずい…(汗)


活動報告にて、報告があります
大切なことです


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PHASE11 開戦

とりあえず投稿です…

あぁ…、書いても書いても文が良くならない…
いくら書き直しても良くなる気配が感じなかったため投稿します…
本当に申し訳ありません…


その日

世界に激震がはしった

 

なぜこうなってしまったのかと嘆く者

 

当然のことだと笑みを浮かべる者

 

世界は再び二分する

 

 

 

プラントに向けて、再び核が放たれた

 

 

 

 

 

プラントに核が放たれるその日の昼、セラはテレビを見ていた

いつものお気に入りのテレビ番組をキラと見ていた時である

 

急に、臨時ニュースというテロップが流れ、画面が切り替わったのだ

 

 

「…おい」

 

 

「…」

 

 

テレビを見てなごんでいたセラの空気が一変する

キラはその様子を苦笑を浮かべながら見つめる

 

 

「ふざけんなよ!なんだよ急に、いいところだったのに!」

 

 

テーブルをガンガン叩きながら怒鳴り散らすセラ

それを苦笑しながら見守るキラ

 

そして

 

 

「セラ。少し、静かにしてくれませんか?」

 

 

「…ハ、ハイ」

 

 

黒い笑みを浮かべながらセラに命令するラクス

 

正直、平和そのものの風景である

だが、その平和な空気も次の瞬間、壊されてしまう

 

 

「これより私は、全世界の皆さんに非常に重大かつ残念な事態をお伝えしなければなりません」

 

 

画面の中に移る男がしゃべり始める

 

 

「…この人、大西洋連邦の大統領だ」

 

 

セラがつぶやく

キラとラクスは黙ったまま、テレビを見続ける

 

 

「この事態を打開せんと、我らは幾度となく協議を重ねてきました。が、いまだ納得できる回答すら得られず、この未曾有のテロ行為を行った犯人グループをかくまい続ける、現プラント政権は、我らにとって明らかに脅威であります」

 

 

大統領が口にした言葉

その言葉に、セラが大きく反応する

 

 

「バカな!デュランダル議長が、犯人グループをかくまう?それどころか、犯人グループは全滅しているはずだ!」

 

 

そう

犯人たちは全滅したのだ

そのことを隠すことが、プラントに何の得を与えるというのだ

 

これは間違っている

この男は、間違いなく事実を隠している

 

だが、セラは考えてしまった

この次に続けられるその言葉を

 

 

「っ!」

 

 

息を呑む

 

まさか

そんなはずは

 

そんな思いがセラの頭をぐるぐる回る

 

キラとラクスも同じなのだろう

心配そうな面持ちでテレビを見つめる

 

そんな中、大統領はセラたちを絶望させる言葉を言い放った

 

 

「よって、さきの警告通り、地球連合各国は本日午前零時をもって、武力によるこれの排除を行使することを、プラント現政権に対し、通告いたしました」

 

 

それは、開戦を告げる決定的な言葉だった

 

 

 

 

 

 

午後十一時三十分

プラントの軍事ステーションからMSが発進していく

 

放送で宣戦布告をされ、黙っているほどプラントはバカではない

すぐさま警戒態勢を作った

 

そして、付近に地球軍戦艦の反応を捉えたのだ

 

宣言された攻撃開始時刻から、三十分を切っている

当然、MSも発進を開始しなければならない

 

 

「なあ、これ、冗談だろ?」

 

 

士官室から飛び出し、モビルスーツデッキへと向かうイザークに、ディアッカが声をかけた

イザークは、鋭い目でディアッカを見遣る

 

ディアッカの表情は、不安を浮かべていた

彼は、イザークと同じだったのだ

 

先程の宣戦布告がウソであってほしい

そう願っていたもう一人の存在だったのだ

 

イザークは、鋭くした目つきを緩める

ディアッカの問いには答えずに更衣室へと向かい、パイロットスーツに着替える

 

 

(なんでこんなことに…くそっ!)

 

 

あれだけの犠牲を出して、まだ戦いたいというのか

 

 

『まだ犠牲が欲しいのですか!?』

 

 

ヤキンの戦いでのラクスの言葉がよみがえる

今まさに、イザークはその言葉をそのまま地球軍に言ってやりたかった

 

 

「こちらシエラ・アンタレス・ワン!ジュール隊イザーク・ジュール!出るぞ!」

 

 

イザークが乗るスラッシュザク・ファントムが暗闇の宙に射出される

 

二年の時を経て、戦争が再開された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラント首都、アプリリウスの評議会ビル内

慌ただしく戦況の情報が行き来していた

 

その中心にいるのは、もちろん議長、ギルバート・デュランダル

落ち着いた表情で、だが、いつもよりもやや興奮した声で指示を出していた

 

 

「パニックに備え、軍のMPにも待機命令を。防衛軍の司令官を…、最終防衛ラインの配置は?」

 

 

確かにいつもよりは声は上ずっていたものの、特有の柔らかく静かな声質は変わらず、議員たちに安心感を与えていた

 

 

「いや、退避勧告は最後でいい。どのみち私たちには行くところなどないのだ」

 

 

デュランダルの言葉に、議員たちの表情が変わる

何としても、プラントを守らなければならない

 

皆が改めてそう決意した時だった

 

 

「議長っ!」

 

 

一人の秘書官が受話器を持ったまま真っ青な表情で叫ぶ

その口から紡がれた事柄

 

恐れていたことが起きたのだった

 

 

 

 

 

 

「核攻撃隊だと!?」

 

 

「極軌道から!?」

 

 

イザークとディアッカが驚愕の声を出す

モニターに映る文

 

全軍、極軌道からの核攻撃隊を迎撃せよ

 

全軍が目の前の地球軍の機体を見る

 

 

「ならばこれは全て囮か!くそっ!」

 

 

イザークが悪態をつきながら機体を反転させる

それについて、次々とザクたちが向きを変えていく

 

だが、その動きを妨害せんと地球軍のMS、ウィンダムやダガーLが進路をふさいでいく

 

 

「邪魔だ!」

 

 

ディアッカがオルトロスを構え、放つ

ウィンダムが次々と落とされていく

 

そして、残った他の機体が進路を変えた機体に襲い掛かる

 

 

「イザーク、行け!」

 

 

「あぁ!」

 

 

ここはディアッカたちに任せ、イザークは核攻撃隊の迎撃に向かう

 

そして、見えた

大量のウィンダムが核ミサイルを背負っている

 

イザークがガトリングビーム砲を構えた時、それは放たれた

 

 

「っ!くそっ、間に合わん!」

 

 

ガトリングを構えたものの、如何せん距離が遠い

ミサイルを狙ってガトリングを連射するものの、全てがすり抜けていった

 

 

「あぁ…!」

 

 

イザークの口から絶望の声が漏れる

 

そういえば、ヤキンの時もこんな感じだった

迎撃が間に合わず、諦めかけたその時、奴らが来てくれた

 

だが、今回は奴らはいない

自分たちが何とかしなければならなかったのだ

 

 

「か、解放者は…?」

 

 

不意に、通信機から聞こえてきた言葉

無意識だったのだろう

つい、縋りたくなってしまったのだろう

 

だが、来ない

来るはずがない

 

プラントは、ユニウスセブンのように…

 

と、その時だった

 

プラントの前に配置されていたナスカ級の砲塔が、輝いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラは、空を見上げていた

綺麗な星空が輝いている

 

だが、セラは星を見ているわけではない

セラが目を向けている方向は、今頃戦闘が行われているであろうプラントがある方向

 

 

「セラ」

 

 

「…兄さん?」

 

 

と、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた

セラが振り返ると、そこには寝間着姿のキラが

 

 

「…眠れない?」

 

 

「気になってね…。兄さんもだろ?」

 

 

笑みを浮かべながら言葉を交わす

だが、その笑みはとても、いつも浮かべている楽しそうなものではなかった

 

キラは、セラと同じように柵に両腕を乗せ、空を見上げる

 

今、戦闘はどうなっているのだろうか

プラントは…

 

 

「セラ?キラ?」

 

 

後ろから柔らかく、優しい女性の声が聞こえてくる

 

 

「ラクス…」

 

 

キラがその声の主の名を呼ぶ

ラクスも、眠れないのだろうか

自分たちと同じく、プラントが気になるのだろうか

 

 

「ん~…、なにぃ~…?」

 

 

ラクスがキラの隣に移動しようとすると、さらに後ろから声が聞こえてくる

男の子が目をこすりながらラウンジに出てきたのだ

 

 

「あらあら、起こしてしまいましたか?」

 

 

ラクスが優しい笑みを浮かべながら男の子に歩み寄る

すると、男の子は眠そうだった目を開いて、そして笑顔になり

 

 

「わぁっ!」

 

 

興奮した声をあげた

 

男の子は空を見上げている

セラたちも、男の子の方に向けていた目を空へ向けた

 

 

「…なっ」

 

 

「…!」

 

 

「あれは…!」

 

 

セラ、キラ、ラクスがそれぞれ反応を見せる

 

空に、無数の紅色の光が点々と輝いている

宇宙で何かが爆発しているようだ

 

 

「核の…光…」

 

 

呆然としながらつぶやくキラ

誰もが恐れた、破壊の光

 

それが今、暗闇の宙を照らしている

 

 

「…」

 

 

セラはじっと空を見上げる

まだ、光は収まっていない

 

 

『正義と信じ、わからぬと逃げ!知らず!聞かず!』

 

 

ラウの言葉が、セラの脳裏によみがえった

 

これが正義と信じているのだろうか

人は、知ろうとしていないのか

聞こうと、していないのか

 

 

(…本当に、クルーゼの言う通りどうしようもないのかもしれない)

 

 

けど、諦めない

信じ続ける

 

 

(あがき続けてやる)

 

 

ラウの最期の言葉

 

 

『貴様の生き様、見届けさせてもらうぞ』

 

 

(見せてやるさ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この攻防は、地球軍、プラント共に衝撃をもたらした

地球軍は、核を用いてもプラントを落とせなかったこと

プラントは、まさかの地球軍の核の使用

 

地球軍は、さらにプランを強化して戦うことを決意

プラントはあくまで対話での解決を目指しつつも、臨戦態勢に移る

 

そして、オーブは

 

 

「ダメだ!今、こんな同盟締結などできるものか!」

 

 

冗談ではない

大西洋連邦との同盟など、できるはずもない

 

カガリは孤独な戦いを続けていた

他の首長たちは、大西洋連邦との同盟を支持している

 

反対してるのは、カガリだけ

 

 

「しかし、代表…」

 

 

ウナトが苦い顔で声をかける

カガリは、そのウナトをきっと睨む

 

 

「大西洋連邦が何をしたかわかっているのか!?核攻撃だ!世界の安全を脅かしているのは明らかに大西洋連邦だ!同盟など断じて認めない!」

 

 

カガリの主張を聞いていた、ユウナがすっと立ち上がった

 

 

「そのような子供じみた主張はやめていただきたい!」

 

 

「…っ」

 

 

カガリは、目を見開いた

 

何を言っている?

子供じみた主張?

 

 

「代表。同盟を締結しないというのならば、あなたはこれからオーブをどうしていくと仰るのです?」

 

 

ユウナがカガリに問いかける

カガリは、言葉に詰まる

 

 

「地球の国々と手を取り合わずに、遠く離れたプラントを友と呼び、この星でまた一国、孤立しようと?」

 

 

ユウナがさらにカガリを問い詰める

カガリは呆然とする

 

自分は、間違っているのだろうか?

 

 

「自国さえ平和で安全でさえいれば、他の苦しむ国には手を差し伸べないと?」

 

 

そうなのだろうか

自分が主張していた事柄は、そういうことなのだろうか

 

 

「代表。あなたが仰ることは、あなたの気持ちはよくわかります。我らとて、不安はあります」

 

 

ウナトが、柔らかく声をかける

カガリは、縋るようにウナトを見る

 

 

「しかし、このままではあのようなことが起きてしまう。国が、焼かれるようなことが」

 

 

「っ!」

 

 

脳裏に浮かぶ、あのシンと呼ばれた少年の怒りに満ちた赤い瞳を

 

 

「それだけは断じてあってはならない。代表…」

 

 

深く、深く沈んでいくような感覚に陥っていく

もう、わからなくなってしまった

 

何が正しいのか

何をすべきなのか

 

気づいたときには、会議は終わっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう限界だろう…」

 

 

「でしょうね…」

 

 

アスハ別邸の一室の中で、バルトフェルドとマリューは話していた

 

カガリは頑張っているようだが、もう首長たちは抑えられなくなるだろう

オーブは、同盟に加担する

 

 

「仕方ない…か」

 

 

バルトフェルドは、受話器をとった

 

 

 

 

「…っ!艦長!」

 

 

ミネルバ艦橋内

バートが、タリアを呼んだ

 

 

「何?どうしたの?」

 

 

タリアが艦橋に入り、バートの隣まで移動する

すると、何やらスピーカーから声が聞こえてくる

 

 

「ミネルバ、聞こえるか?もう一刻の猶予もない」

 

 

ノイズが混じった男の声が聞こえてくる

 

 

「秘匿回線なのですが、さっきからずっと…」

 

 

聞こえてくる言葉

タリアは戸惑いの表情を浮かべる

 

 

「ザフトは間もなく、ジブラルタルとカーペンタリアへの降下揚陸作戦を開始するだろう」

 

 

タリアは、身を乗り出した

 

どういうことだ

なぜ自分でさえも知らない自軍の情報を、この男は知っている?

 

 

「そうなればオーブもこのままではいまい。黒に挟まれた白い駒はひっくり返って黒になる。そうなる前に、早く脱出しろ」

 

 

タリアの表情が険しくなった

 

白い駒、つまりオーブはひっくり返って黒になる

つまり、同盟に…

 

しかし、この男は何者なのだろうか

なぜ、このような情報を持っている

 

タリアはスイッチを押す

 

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスよ」

 

 

艦橋内にいる全ての人員が目を見開いてタリアを見る

 

 

「あなたは誰?一体どういうことなのかしら?」

 

 

タリアは、強い口調で告げた

 

 

 

 

何も聞こえてこなかったスピーカーから、突然飛び込んでくる声

それも、艦長と来た

 

バルトフェルドはにやつきを抑えられない

 

 

「おお、これはこれは…。声が聴けてうれしいよ」

 

 

バルトフェルドは、飄々と言う

そして、机に置いてあるコーヒーカップを右手でとる

 

口にコーヒーを含み、ゆっくりと飲んでから、再び口を開く

 

 

「先程言った通りだ。のんびりしてると面倒なことになるぞ」

 

 

「匿名の情報など、正規の軍が信じるわけないでしょう?あなたは誰?目的は一体なんなの?」

 

 

バルトフェルドは内心でふむ、とつぶやいた

確かにその通りだ

 

こんな得体のしれない奴の報せる情報を、正規の軍が信じるわけがない

ならば、どうするか…

 

バルトフェルドは、にやりと笑みを浮かべた

これなら、どうだ?

 

 

「アンドリュー・バルトフェルドって知ってるか?これはそいつからの伝言だ」

 

 

後ろにいるマリューが噴き出すのを感じる

 

本人がそんなことを言っていることに耐えられなかったのだろう

 

スピーカーから、「砂漠の虎…」という戸惑いの声が聞こえてくる

少し油断すればバルトフェルドも吹き出しそうになる

 

 

「ともかく、警告はしたぞ?アスハ代表も頑張ってはいるが、恐らく同盟は押し切られる」

 

 

なぜ、自分はこう言ったのだろう?

カガリは、同盟を望んではいないと知ってほしかったのだろうか?

 

わからないが、今は自分の役目を果たす

 

 

「とどまることを選ぶのならそれでもいい。あなたの判断だ、艦長。…幸運を祈る」

 

 

バルトフェルドは、そう言い残して受話器を置いた

後は、彼らの判断に任せる

 

 

「…信じてくれるかしら」

 

 

声が聞こえ、振り返る

そこには、表情をやや憂いに染めたマリュー

 

 

「さあねぇ」

 

 

バルトフェルドは、いつもの飄々とした調子で答える

 

 

「ま、大丈夫だろう。彼女、君と同じでかなり運が強そうな声してたしね」

 

 

マリューは、訝しげにバルトフェルドを睨んだ

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバ艦橋内

タリアは、通信機のまえで考え込んでいた

 

何者かの情報

砂漠の、虎

 

もし、砂漠の虎からの伝言というのが本当ならば、信ぴょう性は一気に増す

あのカガリ、そしてデュランダルの言うことが事実ならば、<天からの解放者>もオーブにいるということになる

 

彼らと共に戦った砂漠の虎が、オーブにいてもおかしくはない

 

 

「艦長…」

 

 

バートが心配げにタリアを見る

 

 

「カーペンタリアと連絡は取れない?」

 

 

迷いつつ、タリアは聞く

 

バートは通信機を操作し、そして首を振った

 

 

「ダメです。地球軍の警戒が強くなっているのか、通信妨害が激しく、レーザーでもコンタクトできません」

 

 

予想はできていた

連絡はできない

 

ならば、決めよう

 

 

「…命令なきままだけど、明朝、ミネルバ発進します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カガリは、呆然としていた

先程、あれほど心を痛めつけられてからそう時間が経たないうちに、追い打ちをかけられていた

 

 

「そんな…」

 

 

プラントは、武力行使を進めていた

 

領土的野心はない

そうは言ってはいるが

 

 

「そんな…」

 

 

カガリの心は、折れた

 

カガリに報せに来ていたユウナは、その様子を見て、告げた

 

 

「我らは、同盟条約を締結します」

 

 

カガリは、何も言い返すことができなかった

 

 

 

 

会議が終わると、カガリはオノゴロのミネルバドックに向かった

 

自分は、抑えきれなかった

何としても、詫びたかったのだ

 

兵士に案内され、進んでいくとばったりとシンと出会った

その横には、シンよりも小さい女の子が

 

 

「何しに来た!」

 

 

シンが怒鳴る

カガリは体を竦ませてしまう

 

シンは、何も言い返さないカガリに対して、さらに怒声をかける

 

 

「あの時オーブを攻撃した地球軍と、今度は同盟か!?どこまで自分勝手なんだ!あんたは!」

 

 

「っ」

 

 

あの時、オーブを攻撃した地球軍と同盟

 

 

「敵に回るってんなら、今度は俺が滅ぼしてやる!こんな国!」

 

 

シンは、そう言い残して去っていく

シンの隣にいた女の子は、ぺこりとお辞儀をしてから去っていく

 

 

「…滅ぼさせはしない」

 

 

「…」

 

 

カガリは、ぼそりとつぶやいた

シンが立ち止まって振り返る

 

 

「…絶対に、国を焼くということだけは、させない」

 

 

カガリは、必死に意地を張る

これだけは、譲れない

 

たとえ、シンが相手でも

オーブを焼かせることだけは、させるものか

 

シンは何も言わずに去っていく

カガリは、その後姿をじっと見つめていた

 

 

 

 

 

 

 

 




前書きでも書きましたが、本当に申し訳ありません…

次回は戦闘回に入りますので…


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PHASE12 死闘

十二話目です!


「FCSコンタクト、パワーバスオンライン。ゲート開放」

 

 

朝の陽ざしを浴び、輝く灰色の戦艦ミネルバ

エンジンに火が入り、ゲートが開いていく

 

ミネルバは、オーブから出港しようとしていた

 

 

「前進微速。ミネルバ、発進する!」

 

 

タリアの号令に従い、操舵主であるマリクが操縦を開始する

ミネルバは、ゆっくりと前進を始める

 

 

『本当に、すまないと思う…』

 

 

艦長席に座っているタリアは、出航する直前に言葉を交わしたカガリのことを思い出していた

あのカガリの申し訳なさそうな表情

 

謎の人物から通信が入ってきたあの時、あの男が言った通り、カガリは必死にオーブを同盟に加担させないようにしたのだろう

だがやはり、十八と若いカガリ

まだ、代表としては力不足だったのだ

 

カガリは、タリアにわざわざ謝罪しに来たのだ

これから敵になる自分に

クルーたちの刺すような視線に耐えながら

 

 

「間もなく、オーブを抜けます」

 

 

アーサーが声を出す

未だ気の抜けない状況

 

それでも、再び海に出る

このことが、否応なしに気分を高揚させる

 

 

「降下作戦はどうなってるの?カーペンタリアとの連絡は?」

 

 

「いえ、まだ…」

 

 

タリアがメイリンに問いかける

だが、メイリンは首を横に振る

 

と、誰かが息を呑む音がした

 

 

「本艦前方二十に、多数の熱紋反応!これは、地球軍艦隊です!」

 

 

タリアは目を見開く

いや、タリアだけではない

艦橋にいる全てのクルーが耳を疑った

 

 

「スペングラー級四、ダニロフ級八!他にも十ほどの中、小艦艇を確認!本艦前方、左右に展開されています!」

 

 

「えぇっ!?」

 

 

アーサーの驚愕の叫びが響く

 

どういうことだ

この地球軍の対応、自分たちがオーブから今出ることを、まるで知っていたような…

まさか

 

 

「後方、オーブ艦隊が展開!」

 

 

バートが信じられないというような表情で告げる

 

ミネルバは、挟み撃ちにされたのだ

逃げることは許されない

逃がさない、ここで、お前を沈めると

 

オーブの領海内には戻れない

自分たちが生き残るためには

 

 

「…コンディションレッド発令!艦橋遮蔽!対戦艦、モビルスーツ戦闘用意!」

 

 

タリアは、すぐさま決断した

ここを、突破する

 

降伏など、投降などしない

 

 

「大気圏内戦闘よ!わかってるわね、アーサー!?」

 

 

「は、はい!」

 

 

宙と地上の戦いは、まるで違う

そのことを、アーサーに釘を差す

 

正直、この戦いは勝ち目がないと言ってもいい

だが、まだ希望はある

 

シエルだ

あのヤキン・ドゥーエの英雄の一人である、ヴァルキリーのパイロット、シエル・ルティウス

彼女が、ミネルバの運命を握っていると言ってもいい

 

 

 

 

 

 

急に響いたアラート、コンディションレッド

シンたちは一体何が起こっているのかわからぬまま、それぞれの機体に乗り込んでいた

 

 

「艦長、タリア・グラディスより、ミネルバ全クルーへ」

 

 

すると、タリアの声がスピーカーから響く

放送を繋げているようだ

 

シンは、OSを起動させながらその声に耳を傾ける

 

 

「現在本艦の前面には、空母四隻を含む地球軍艦隊が。後方にはオーブ軍艦隊が展開されている」

 

 

シンは、目を見開く

 

前方に地球軍、後方にオーブ軍

オーブは、大西洋連邦との同盟に加盟している

 

つまり今の状況は

 

 

「挟み撃ち…!」

 

 

通信が繋がっているヴァルキリーからシエルの声が漏れる

 

 

「地球軍は本艦の出航を知り、網を張っていたと思われる。そして、オーブは後方の扉を閉めている」

 

 

後退は、できない

 

 

「我らには前方の艦隊を突破するしか活路はない。今回の戦闘は、かつてないほどの激戦となるだろうが、何としてもこれを突破しなくてはならない!」

 

 

タリアの力強い声が響く

だが、クルーたちはわかっていた

これは、ただの強がりだと

 

 

「このミネルバのクルーとして誇りを持ち、最後まで諦めない奮闘を期待する!」

 

 

自分たちの命運は、ここまでなのか

 

 

「…諦めてたまるか」

 

 

シンが呆然としていると、スピーカーから声が聞こえてくる

シエルだ

 

 

「ここで、死んでたまるか…」

 

 

シエルは、タリアの言葉を聞きながら何としてもここで死なないと決意を固めていた

 

そう、死んではいけないのだ

思い出す

 

ヤキン・ドゥーエ

あの時と比べれば、まだましだと思えるこの状況

 

あの時は、ザフトからのジェネシス、地球軍からの核を警戒しながらの戦闘だった

さらに、数に関しても圧倒的に不利な状況

その状況で戦ったのだ

 

 

「こんな状況…、危機でもない」

 

 

「シエル…」

 

 

スピーカーからルナマリアの声が聞こえる

 

 

「大丈夫だよ。ヤキンと比べれば、どうってことないから」

 

 

シエルにだって、まったく不安がないというわけではない

だが、シエルにはまだ死ねない理由があるのだ

それは、揺るがない

 

 

「皆。絶対に、生き残るよ!」

 

 

カタパルトのランプが、グリーンに変わった

 

 

 

 

 

 

機体が発進していく

アーサーがミネルバの武装の展開を指示する

 

 

「シンとシエルには、あまり艦から離れないように言って!ルナは甲板から上空のモビルスーツの迎撃!レイは艦のまわりを飛行しながら迎撃!イゾルデとトリスタンは左舷の巡洋艦に集中!左を突破する!」

 

 

タリアが指示を出す

 

インパルスとヴァルキリー、セイバーは大気圏でも飛行を可能とする

だが、ザクはそうではない

大気圏内での飛行は不可能なのだ

故に、大気圏では、ザクは砲台としか使えない

 

そして、ミネルバ

ミネルバは、元々宇宙での戦闘を想定された艦だ

大気圏内での戦闘は不安なものがある

 

だが、諦めるわけにはいかない

この不利な状況でも、諦めない

そうすれば、もしかしたら

 

奇跡を起こせる可能性も、出てくるかもしれないのだ

 

 

「イゾルデ、ランチャーワン一番から四番、パルジファル!てぇー!」

 

 

アーサーが号令をかける

それと共に、ミネルバの火器が火を噴いた

 

 

 

 

 

 

「行けぇええええ!」

 

 

「はぁ!」

 

 

シンとシエルが、それぞれの機体を駆り、モビルスーツの群れへと向かっていく

 

二人はビームライフルを撃っていく

 

ウィンダムは、散開しながらビームをかわす

 

 

「シンは左を!私は右をやる!」

 

 

「わかった!」

 

 

シエルはシンに指示を出す

二機は、それぞれ別の方向へと向かっていく

 

シエルはライフルを連射する

その一射一射が、ウィンダムの四肢、頭部、武装を奪っていく

 

ウィンダムの一機が、ヴァルキリーに突っ込んでくる

ビームサーベルで斬りかかってくる

 

シエルはそれに反応する

シエルも腰のビームサーベルを抜き放つ

サーベル同士がぶつかり合う

 

シエルは、そこで蹴りを放つ

斬りかかってきたウィンダムがたまらず後退

シエルはライフルで、頭部、右腕を撃ちぬいた

 

そのままサーベルからもう一つのライフルに持ち替える

ライフル二丁を連射し、再び大量のウィンダムの武装を奪っていく

 

 

 

一方のシン

 

 

「こんなところで、やられてたまるかぁあああ!!」

 

 

咆哮を上げながら、背中のビームサーベルを抜く

シンは、サーベルでウィンダムを一刀両断にしていく

 

四方八方から、インパルスに向けてビームが放たれる

シンは上手くシールドを駆使しながらそれを防ぎ、そしてかわしていく

 

シンは、サーベルからライフルに持ち替える

引き金を引いていく

 

ライフルから放たれるビームは、外れることもありながらも、ウィンダムを撃ちぬいていく

撃ちぬかれたウィンダムは次々と爆散していく

 

レイは、ミネルバのまわりに集るウィンダムを迎撃していく

ルナマリアが放つオルトロスが良い具合で援護になる

ミネルバは、撃たせない

 

最初は、絶望的かと思われたこの戦闘

だが、もしかしたら、という思いが、クルーたちを包んでいた

 

 

 

 

 

 

「なるほど。確かに中々にやる艦だな」

 

 

戦闘の様子を眺めていた、地球軍の艦隊司令

これだけの質量で攻めているのにも関わらず、ミネルバは粘っている

いや、それどころか、やや押されているようにも見える

 

 

「さすがは、ヤキンの英雄と言うべきか」

 

 

指令はぽつりとつぶやく

モニターに映る、白い機体

見覚えがある機体、ネオ・ロアノークの報告にもあった

 

ヴァルキリー

 

 

「報告通りか」

 

 

手ごわい艦だとは聞いていた

さらに、ヴァルキリーの存在はかなり大きいものだった

 

ヴァルキリーのまわりにいるウィンダムだけ、嫌に早いスピードで数が減っていく

それも、コックピットを残した状態でだ

あのパイロットの技量は、どれほどのものなのだろうか

 

 

「ザムザザーを出すぞ。準備を進めろ」

 

 

指令は、後ろにいる兵に指示を出した

指示された兵は、こくりと頷くと、すぐそばにあった受話器を取り、どこかと連絡を取る

 

 

「身びいきかもしれんがね…。私は思うのだよ。これからの主力は、ああいった新型のモビルアーマーだと。あんな、ザフトの真似をして作ったモビルスーツではなくね」

 

 

格納庫ではそのザムザザーと呼ばれたモビルアーマーの発進シークエンスが進められていた

 

YMAF-X6BDザムザザー

ずんぐりとした体形に、四本の脚

そのどれもに、蟹を思わせるハサミのようなものがついている

 

そして、何といってもその巨体だ

全長で、四十七メートルに及ぶ

 

ハッチが開き、ザムザザーが進んでいく

 

そして、海上にその姿を現した

 

 

 

 

 

その姿は、ミネルバでも捉えられていた

 

 

「不明機接近!」

 

 

「光学映像、出ます!」

 

 

バートの声が響いた後、メイリンがモニターにその映像を出す

 

波を荒立てながら、猛スピードでこちらに接近してくる巨大なモビルアーマー

クルーたちに動揺がはしる

 

 

「あんなのに取りつかれたら終わりよ!アーサー、タンホイザー起動!あれもろとも、左前方の艦隊を薙ぎ払う!」

 

 

「ええっ!?大気圏内でですか!?」

 

 

タリアは、すぐさまタンホイザーの使用を決定する

その決定にアーサーは戸惑った

 

アークエンジェルのローエングリン

それと同じように、タンホイザーも地球の空気汚染に大きく影響してしまう

だが

 

 

「沈みたいの!?」

 

 

そうしなければ、沈む

 

 

「い…、いえっ!た、タンホイザー起動!射線軸コントロール移行!」

 

 

反論しかけたアーサーだったが、沈みたくなどない

アーサーだって、わかっている

ここを乗り切るためには、ミネルバの全兵力を使用しなければ、それを為すことはできないと

 

 

「照準、敵モビルアーマー!」

 

 

タンホイザーに光がほとばしる

パワーが、集中されていく

 

そして

 

 

「てーっ!」

 

 

放たれた

 

閃光は、まっすぐに巨大なモビルアーマーに向かっていく

すると、そのモビルアーマーが制動をかけた

前傾姿勢をとり、そこに光の壁が張られる

 

タンホイザーのビームが、直撃した

 

とてつもない爆発が起こる

光が海上を照らす

 

そして、光が収まって…

 

 

「っ!?」

 

 

クルーたちは、目を見開いた

 

タンホイザーが直撃したはずのモビルアーマーが、無傷のまま飛行を続けていたのだ

 

 

「タンホイザーを、跳ね返した…?」

 

 

アーサーが呆然としながらつぶやいた

クルーたちは、あまりの衝撃でモニターから目を話すことが出来ない

 

 

「取り舵二十!機関最大!トリスタン照準、左舷敵戦艦!」

 

 

タリアは、違った

すぐさま自失から覚め、指示を飛ばす

 

タリアの声が響き、他のクルーたちも自失から覚める

 

 

「でも艦長!あれはどうするんですか!?」

 

 

「あなたも考えなさい!」

 

 

抗議するアーサーを黙らせる

 

 

「マリク、回避任せる!メイリン、シンとシエルは戻れる!?」

 

 

先程までは、何とかなると思っていたために、このダメージは大きかった

絶望を呼んだモビルアーマーは、ミネルバへと接近していく

 

 

 

 

 

 

 

カガリは、軍本部へと向かっていた

ユウナの居場所を聞くと、軍本部にいると答えられたのだ

 

カガリが軍本部へと入ると、何やら騒がしかった

見渡すと、何かを映しているモニター

そこには、海上を埋め尽くしている大量の戦艦とたった一隻で戦うミネルバの姿が

 

 

「何をしている!?」

 

 

カガリは、声をあげる

兵士たちが驚き立ち上がる

 

 

「カガリ…!?」

 

 

ユウナは、ここにいた

目を見開いて立ち上がる

 

 

「ユウナ、これはどういうことだ!?なぜこんなことになっている!」

 

 

カガリはユウナを問い詰める

なぜ、出航したばかりのミネルバが戦闘しているのか

 

なぜ、オーブの領海のすぐそばでその戦闘が起こっているのか

 

 

「まさか…、お前…!」

 

 

まさか、ユウナは情報を流していたのか?

まさか…、まさか…

 

ユウナは、やれやれといったふうで首を横に振る

 

 

「心配はいらないよカガリ。すでに領海線には護衛艦を展開してある」

 

 

そんなことはどうでもいい

それよりも、お前は…!

 

だが、それを聞いたところでユウナは正直に答えてくれるのだろうか?

自分の今の立場は、はっきり言って悪い

逆に返り討ちにされるのではないだろうか

 

 

「ミネルバ、領海線へさらに接近。このままいけば、数分で領海を侵犯します」

 

 

「警告後、威嚇射撃を。それでも止まらないのならば、攻撃も許可する」

 

 

カガリは目を剥く

こいつは、何を言っているのだろうか

 

 

「ユウナ…!」

 

 

憎々しげに睨む

ユウナはそれに気づかない

 

カガリは、モニターに目を向ける

こうなってしまっては、自分は信じることしかできない

 

 

(…頼むぞ、トダカ一佐。上手くやってくれ…)

 

 

 

 

 

 

 

「以前国を焼いたものたちに味方し、懸命に地球を救おうとした艦を撃て、か」

 

 

トダカは、前方で行われている戦闘を見ながらつぶやいた

 

軍本部からの命令は、ミネルバを領海に入れないよう警告後威嚇射撃

それでも領海へと接近するならば、当てることを許可する

つまり、ミネルバを沈めろと言っているのだ

 

正直、やりきれない

だが、ともかく警告と威嚇射撃だけはやっておかなければ

 

 

「警告開始。砲はミネルバ艦首前方へとむけろ。絶対に当てるな」

 

 

「は?しかし、それでは命令に…」

 

 

トダカの指示に、反論しようとする副官

 

 

「命令は、警告後威嚇射撃。それでも受け入れられない場合には、当たることを許可する、だ。何も命令には背いておらん」

 

 

トダカの言う通りだ

命令にはしっかりと従っている

 

そのことにホッとした表情を見せた副官が、号令を発する

 

 

(…欲にまみれたセイランの命令など、聞きたくもないのだがな)

 

 

 

 

 

 

「な、何なんだあれは!?」

 

 

シンは、集ってくるウィンダムを落としながら、ミネルバへと接近していくモビルアーマーを見る

 

あのタンホイザーを防ぎ切った、あのモビルアーマー

あんなのに取りつかれてしまえば、ミネルバは…

 

 

「シン!行って!」

 

 

「シエル!?」

 

 

シエルから通信が入ってくる

インパルスの前に、立ちはだかるようにヴァルキリーが現れる

二丁のライフルを連射し、ウィンダムを戦闘不能に陥れていく

 

 

「ここは私が!シンはミネルバを守って!」

 

 

「だけど…!」

 

 

確かに、二人の内のどちらかが行かなければミネルバは危ない

レイとルナマリアがモビルアーマーを迎撃しようとしているが、大量のウィンダムに阻まれてい上手くいっていない

 

だが、ここから自分が離れてしまえば、シエルはウィンダムを一人で相手しなければならなくなる

 

 

「私は大丈夫だから!ミネルバを沈めたいの!?」

 

 

「っ!」

 

 

いつものシエルでは考えられないほど、きつい口調

だが、シンには届いていた

 

ミネルバを、沈ませない

シエルの思い

 

 

「…落ちるなよ!」

 

 

「誰に言ってるつもり?」

 

 

シンはそう言い残して、ミネルバへと向かっていく

シエルを一人残してくのは、まだ不安がある

だが、大丈夫だ

 

シエルは、あのヤキン・ドゥーエを生き残った

それに、仲間を信じなくてどうするのだ

 

シエルは、大丈夫だ

 

 

「…ここは通さない」

 

 

シエルは、ここを突破しようとするウィンダムを睨む

そして

 

 

「…っ」

 

 

何かがはじけるような感覚

そう、SEEDを解放したのだ

 

あれからシエルは、訓練を続けていくうちにSEEDを解放させる領域まで達していた

 

視野が広がり、不要な情報は全てカットされる

 

シエルは、ライフルを構え、引き金を引いていく

 

 

 

 

「このぉぉおおお!!」

 

 

シンはライフルをザムザザーへ向けて連射する

だが、何らかの見えない壁に阻まれ、ビームは防がれてしまった

 

 

「シン!」

 

 

「レイはウィンダムを!こいつは俺がやる!」

 

 

レイが通信を通して声をかけてくる

シンは、ザムザザーは自分が落とすという意思を伝える

 

レイは「わかった」と一言だけ告げる

 

こちらに向かってくるザムザザーを睨む

ザムザザーは、巨大なクローを展開し、こちらを捕まえようとしてくる

 

だが、シンは冷静にその動きを捕らえる

クローを掻い潜って回避し、そしてサーベルを抜いて斬りかかる

 

だが、ザムザザーはその巨体からは考えられないほどの機動力を見せつけながら回避する

 

すれ違う二機

ザムザザーは、脚部の方向から砲撃を放つ

 

かろうじて反応したシンは何とか回避する

 

 

「何て火力とパワーなんだ、こいつは!」

 

 

シンはうめく

先程の砲撃、かすっただけでも、何らかの機体に異常をきたすだろう

そして、何といっても、こちらのビームを防いだあの壁のようなもの

 

あれが、タンホイザーを防いだのだろう

 

あれを何とかしなければ、こちらは相手に損傷すら与えられない

 

 

「…なっ!?」

 

 

シンは、目を見開いた

急にアラートが鳴り響いたのだ

 

画面を見ると、エネルギーがもう残り少ない

 

この大変な時に、こんなことになるなんて…!

 

心の中で悪態をつく

だが、現実は変わらない

 

残り少ない時間の中で、ザムザザーを倒さなくてはならない

この現実が、シンに焦りを覚えさせる

 

そして、さらにシンに、ミネルバに過酷な現実が襲う

 

 

「ザフト軍艦ミネルバに告ぐ。貴艦はオーブ連合首長国の領域に接近中である。我が国は貴艦の領域への侵犯をいっさい認めない。すみやかに転進されたし」

 

 

オーブの、退去勧告

 

 

「なんだと…!?」

 

 

この状況の中での非情な勧告

 

だが、このまま進んでも待つのは死、あるのみ

ミネルバは少しずつ領海の方へ追い込まれていく

 

援護に行きたいが、このザムザザーがついてきてしまう

とはいえ、このままザムザザーを相手していても、エネルギー切れは目に見えている

 

どうする、どうする!?

 

焦るシン

 

そんな中、オーブ艦隊の砲が火を噴く

 

放たれた砲弾は、ミネルバのすぐ前方へ着弾し、高い水柱が上がる

 

 

「オーブが…、本気で…!?」

 

 

そこで、シンは気づく

自分はまだ、オーブを信じていたことに

あれほど憎かったオーブを、まだ

 

どこかで、カガリが、アスハ家が

オーブを、同盟を、止めてくれるのではないかと期待していた

 

だが、オーブはそれを裏切った

自分は、裏切られた

 

 

「…っ!?なっ!?」

 

 

コックピットに衝撃がはしる

ザムザザーが、こちらに体当たりを仕掛けてきたのだ

 

体制が崩れる

ザムザザーはクローを展開する

シンは何とか逃れようとするも、右足を捉えられてしまう

 

 

「しまった!」

 

 

さらに、この最悪のタイミングでバッテリー切れ

VPS装甲が落ちてしまう

 

VPS装甲が切れてもろくなった機体

右足は容易くちぎれるように切られてしまった

 

そのまま、重力に従ってインパルスは落下していく

 

 

「!シン!」

 

 

「シン!?」

 

 

インパルスの戦闘が視界に入っていたレイとルナマリアがシンを呼ぶ

だが、返事は返ってこない

 

そして、シエルもまた

 

 

「シン!」

 

 

ウィンダムを相手に取ながら、インパルスの様子を見ていた

そのインパルスは、VPS装甲が落ちて落下していく

 

セイバーは、多数のウィンダムに囲まれている

ザクは、飛行能力を持たない

 

シエルは、シンを助けに向かう

このままでは海面に叩きつけられてしまう

バッテリーが切れてしまったインパルスが、今の落下スピードで海面に叩きつけられてしまえば、パイロットだって無事では済まない

 

後ろでは、自分を追ってくるウィンダム

だが、無視する

 

ウィンダムの機動力ではヴァルキリーに追いつかない

だが

 

 

「シン!シン!!」

 

 

このままでは、間に合わない

 

シエルは、ただ必死にシンの名を呼び続けた

 

 

 

 

…シエル?

 

シエルの声が、聞こえる

 

俺は、死ぬのか?

 

このまま、死んでしまうのか

 

オーブに、裏切られて…

 

祖国に、裏切られて、一人

 

…ふざけるな

 

そんなことは認めない

 

ふざけるな

 

絶対に

 

ふざけるな!

 

認めるものか

 

 

「こんなところで、死んでたまるかぁ!」

 

 

シンの中で、何かがはじけた

 

シンもまた、SEEDを解放させる領域に達した

全てがクリアに感じる

 

シンは、海面に叩きつけられる直前で機体の体制を整える

そしてすぐさまミネルバへと通信をつなげる

 

 

「ミネルバ!デュートリオンビームを!それから、レッグフライヤーとソードシルエットの射出準備!」

 

 

「え…、え?」

 

 

スピーカーからメイリンの戸惑う声が聞こえる

そのすぐ後、タリアの声が聞こえてくる

 

 

「言う通りにして!」

 

 

シンは、ザムザザーの追撃をひらりひらりと回避しながら母艦へと向かっていく

そして

 

 

「デュートリオンチェンバースタンバイ!測的システム、インパルスを補足しました!」

 

 

ミネルバでも、準備が進められていた

準備が整い、メイリンが告げる

 

 

「デュートリオンビーム、発射!」

 

 

その声と共に、細い光の線が発せられる

光の線は、まっすぐにインパルスへと向かっていき、頭部に命中

それとともに、画面に映るパワーゲージがみるみる増えていった

 

パワーが、満タンに

これで、また戦える

 

シンは、バーニアを吹かせる

右足が失ったことにより、バランスがやや狂う

だが、それでもシンはそれに屈しない

 

ザムザザーは、脚部の砲口から砲撃を放つ

シンは、機体を真下に移動させながら、ライフルを投げた

 

ライフルは、砲撃に命中し、爆破する

ザムザザーのパイロットたちは、その爆破を見て仕留めたか、と思い始める

だが、それにしては爆破の規模が小さい

だが、インパルスの姿は見えない

 

その時には、もう手遅れだった

 

シンは、すでにザムザザーの真下に潜り込んでいた

ザムザザーのコックピットにアラームが鳴り響く

 

まさか…

 

と、パイロットたちが思い始めたその瞬間、パイロットたちの意識は途切れた

 

ザムザザーの真下からサーベルを突き刺したシンは次の一手に移る

 

 

「ミネルバ、シルエット射出!」

 

 

その声に従い、ミネルバのカタパルトからレッグフライヤーとソードシルエットが射出される

 

シンは破損した脚部をパージし、新しい脚部とドッキング

そして、装備していたフォースシルエットもパージし、ソードシルエットとドッキングした

 

新しいシルエットを装備したシンは、すぐさま地球軍艦隊へと向かっていく

シエルがどれほど奮闘したのか、ウィンダムの数は目に見えて少なくなっていた

 

シンは、一隻の艦に着陸すると、エクスカリバーを抜き放つ

一閃、二閃

 

インパルスがその艦から離れたすぐ後、その艦は巨大な火柱を上げた

だが、シンはそれに興味を示さない

また新たな艦へと向かっていく

 

 

 

 

「…シン?」

 

 

シエルは、呆然としながらシンの戦いを見ていた

 

正直、もうダメかと思っていた

だが、シンは信じられない動きを見せて体制を立て直し、そして今

換装した武装で地球軍艦隊を薙ぎ払っている

 

 

「…シン」

 

 

地球軍艦隊が混乱しているのが目に見えてわかる

明らかに逃げ惑っている

我先にと逃げようとしている

 

だが、そこにインパルスがすかさず現れ、その艦を斬る

 

 

「ダメだよ…」

 

 

ぽつりとつぶやく

 

シンに、こんな戦いはしてほしくない

護りたくて戦うシンに、こんな、ひたすらに命を奪い続ける戦いは

 

もう、地球軍艦隊は敗走している

それなのに、シンはひたすらに艦隊を薙いでいく

 

 

「シン!もういいの!もう、私たちは勝ったの!」

 

 

つい、叫んだ

 

 

 

 

 

「シン!もういいの!もう、私たちは勝ったの!」

 

 

…勝った?

 

シンは、ふと動きを止めた

艦隊を見る

 

艦隊は、撤退を開始していた

 

勝った

 

勝ったのだ

 

シンは、ふっ、と力を抜く

 

生き残れた

生き残れたのだ

 

 

「シン…、戻ろう」

 

 

シエルの声がスピーカーから聞こえてくる

 

優しいその声音

安心する

 

 

(…勝ったんだ)

 

 

シンは、改めて生き残ったことを実感する

 

ヴァルキリーはミネルバへと戻っていく

シンもまた、それに続いてミネルバへと戻っていった

 

 

 

 

 




これからはSEEDの方を中心に更新をしていく予定です

さ、オールスター見るぞー!


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PHASE13 襲撃

無印編から通して初の一万文字突破です


…かっ…た?

 

呆然とするタリア

モニターには、隊列が散り散りになりながらも撤退していく地球軍艦隊

 

勝ったのだ

あの絶望的な状況から、生き延びることが出来たのだ

 

 

「セイバー、ザク、収容完了。インパルス、ヴァルキリー帰投しました」

 

 

メイリンが報告する

 

クルーたちは、生き延びたことに安心したような、だが、そのことに対して不思議に思っているような

そんな複雑な表情をしていた

 

だが、生き延びたことは事実

そのことを少しずつ実感していく

 

 

「これ以上の追撃はないとは思いたいけど、わからないわ。パイロットはとにかく休ませて、アーサー、艦の被害状況確認、急いで」

 

 

「はい」

 

 

ようやく生き延びたということを実感し始めたのか、アーサーは純粋にホッとした表情で頷いた

他のクルーたちもそれぞれの作業に移る

 

今回の戦闘、本当にクルーたちは頑張ってくれた

だが、一番の貢献者は明らかだ

 

 

「いや、それにしてもシンは凄かったですね!」

 

 

アーサーが興奮した声で言う

タリアはまるで子供を見守るような笑みでアーサーを見る

 

確かにそうだ

シンの功績は凄かった

 

 

「何といっても、空母二隻を含む敵艦六隻ですよ!?」

 

 

それは、シンが落とした敵艦の数

 

 

「これはもう勲章ものですよ!」

 

 

「そうね。けど、シンがこちらに来れたのも、シエルがウィンダムを引き受けてくれたからこそだわ」

 

 

確かにシンも凄かった

だが、シンがあのモビルアーマーとの戦いに集中できたのは、シエルがいたからこそだ

 

シエルが、あの大量のウィンダムを抑えてくれたから

 

 

「えぇ!シエルも凄かったですよ!けれど、やっぱりシンです!いや、ヤキンの英雄よりも功績を上げるなんて…」

 

 

シエルが駆るヴァルキリー

ヤキンの英雄として有名なのは周知の事実である

 

そのヴァルキリーよりも、シンは功績を上げた

 

 

「あの<天からの解放者>でも、ここまではいかないですよ」

 

 

うんうんと頷きながら言うアーサー

つい、タリアは吹き出してしまった

 

 

『彼だよ』

 

 

デュランダルの声が脳裏に過る

デュランダルが言うには、あの解放者の正体は、カガリの護衛をしていたあの少年

 

彼なら、先程の状況をどう乗り越えるのだろうか

それとも、いくら解放者といえども、先程の状況を乗り切ることは不可能なのだろうか

 

だとすれば、シンのこの功績はもの凄いことなのでは?

 

タリアは改めて、シンのこの戦果の凄さを実感した

 

 

 

 

 

 

シンがコックピットから降りて、受けたのはたくさんの歓声だった

地に足をつけると、スタッフたちが一気に詰め寄ってくる

 

 

「聞いたぜシン!」

 

 

ヴィーノが飛びついてくる

バシバシとシンの背中を叩く

 

 

「いや、よくやってくれたぜ!」

 

 

「助かったぜホント!」

 

 

もみくちゃにされるシン

 

先程の戦闘について、褒めてくれているのだと今更ながら気づく

徐々に、シンの心の中に喜びが湧いてくる

 

 

「…あ」

 

 

ぽつりと、声が漏れる

 

人だかりの向こう側に、シエルがいたのだ

シエルも、自分を称賛してくれるのだろうか、そう思ったが、違った

 

シエルのこちらを見る目は、悲しみに満ちている

 

何で

何でそんな目でこちらを見るのだろうか

 

シエルは、こちらから目を逸らして格納庫から出て行く

 

 

「ほら!もうお前らは仕事に戻れ!カーペンタリアまではまだあるんだ!」

 

 

エイブスがシンを囲んでいるスタッフたちに怒鳴る

それをきっかけに、シンを囲んでいた人たちが少なくなっていった

 

シンも、格納庫から出て行こうとする

その途中で、ルナマリアとレイに合流する

 

 

「それにしてもどうしちゃったの!?何か急にスーパーエース級じゃない!」

 

 

ルナマリアも、どこか興奮した声でシンを称える

そこで、シンは戦闘のことを思い出す

 

あの、重力に従って落ちていった時のあのはじけるような感覚

あれは、一体なんだったのだろうか

 

 

「よく、わからないんだ。オーブ艦が発砲したの見て、頭にきて…。こんなところでやられてたまるかって思ったら、急に頭の中がクリアになって…」

 

 

ありのままを説明する

だが、ルナマリアにはよくわからなかったのか、首を傾げている

 

それも当然だろう

シンにだってよくわからないのだから

 

 

「なんにせよ、前が艦を守った」

 

 

そこに、レイの声が響く

シンとルナマリアは驚いてレイを見る

 

レイの表情は、いつもでは考えられないほど穏やかだった

さらに、柔らかい笑みまで浮かべている

 

 

「生きているということは、それだけで価値がある。明日があるということだからな」

 

 

レイは、ぽん、とシンの肩を叩くとそのまま格納庫から出て行く

 

シンとルナマリアは、目を見合わせる

二人の目は、どちらも丸くなっていて

 

同時に吹き出した

 

 

「びっくりしたぁ」

 

 

「そうだな…。まさかレイがあんなこと言うなんて」

 

 

失礼だということは百も承知だ

だが、訓練校時代から付き合いがあったレイ

 

最低限の会話しかしなかったレイが、あんなことを言ったのだ

驚かない方がどうかしている

 

 

「…てかレイ。あのセリフ、じじむさかったな…」

 

 

ぽつりとつぶやくシン

シンとルナマリアは、静かに笑い声をあげる

油断してしまえば、笑い転げてしまいそうだ

 

シンの心に、温かいものが流れ込んでくる

そうだ、レイの言う通り、生きているのだ

 

それだけで、今は、いい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉし!」

 

 

どこか満足げな声が響く

近くで足音が聞こえる

 

誰かがテラスに入ってきたのだ

マリューは後ろに振り返る

そこには、バルトフェルドが両手にカップを持ってテラスに入ってきていた

 

 

「昨日よりもちょいとローストを深くしてみた。さあ、どうかな?」

 

 

バルトフェルドが、カップを一つ、マリューに差し出す

マリューはカップを受け取り、口に運ぶ

ゆっくりと味わって

 

 

「…昨日の方が好き」

 

 

そう言った

 

 

「ふむ…。…君の好みがだんだんわかってきたぞ。君はセラのブレンドの方が好みに合っているみたいだね」

 

 

「セラ君の?」

 

 

マリューがバルトフェルドに聞き返す

 

 

「ああ。昨日のブレンドはセラのアドバイスを参考にしたものなんだ。今日のは僕のオリジナル」

 

 

バルトフェルドはカップを口に運びながら言う

 

マリューは、昨日バルトフェルドがくれたコーヒーの味を思い出す

そして、今日のコーヒーの味と比べる

 

…やはり、昨日の方が好きだ

 

二人は、テラスの手すりにもたれながら海を眺める

そこに、黒く、白い線が入った服に身を包んだ少年が、砂浜に座りながら海を眺めていた

 

セラだ

 

マリューとバルトフェルドは、セラの背中をじっと見る

 

二年前、マリューとバルトフェルドと共に共闘した少年

その少年は今、地球プラント共に有名になっている

 

正体は明らかにされてはいない

だが、セラが駆ったリベルタス

 

そのリベルタスの象徴ともいえる赤い光の翼

どれだけ人々に印象を残しただろうか

<天からの解放者>と呼ばれ、有名になっている

一部では、神格視している集団もあるという噂だ

 

それを知ったときのセラの悲しそうな目は、忘れない

 

セラは、大戦で大きく心に傷を負った

それはキラも同様なのだが、それも今では少しずつだが癒えているように見える

 

ミネルバで、シエルと再会した

そのことを言ってくれた時、セラは本当に久しぶりに、純粋な笑顔を見せてくれた

 

だが、セラはユニウスセブンの落下事件に遭った

犯人グループに、あの発言を聞いた

 

何があったのかはわからないが、想像よりはあまり答えていないようには見えたが、それでもまた傷を深くしてしまったことは間違いない

 

キラもラクスも、当然マリューとバルトフェルドも、そしてセラとキラの両親も、セラの傷を癒そうと努力しているのだが

どこか、セラがそれを拒んでいるように見える

まるで、自分にはそんな資格はないと言っているような…

 

だが、それでもセラは安らいでいる

この場所の、和やかな風

耳に届く優しい波の音

それらがセラの心を和ませている

 

そしてそれは、他の戦い続けてきた人たちも同じで

 

 

「でも…」

 

 

「それで…」

 

 

同時に、二人は口を開く

そして、同時に二人は目を見合わせて

 

 

「どうぞ、レディーファーストだ」

 

 

「いえ。こういうのは男性からでしょ?」

 

 

バルトフェルドが紳士ぶりを見せつける、が、マリューには効かない

まさに大人の女性の対応を見せる

 

バルトフェルドは肩をすくめて、口を開く

 

 

「オーブの決定のことなんだが…。まあ、しょうがないとは思う」

 

 

「…ええ。カガリさんも頑張ったんでしょうけど…」

 

 

マリューがため息をつきながら言う

 

 

「代表といっても、まだ十八の女の子だ。この情勢で力を奮うというのはさすがに難しいだろう」

 

 

マリューはこくりと頷いた後、カップに視線を落とす

ゆらゆらと揺れる水面に、自分の顔が映る

 

 

「君らはともかく、俺たちコーディネーター。特にセラは、引っ越しの準備をした方がいいかもしれんな」

 

 

オーブは大西洋連邦の同盟に合意した

そうすれば、コーディネーターの立ち位置は悪くなっていくだろう

 

そして、セラの立場である

 

開戦してから、地球軍にまた、セラの存在を探る動きが出始めている

まだ、セラのことを諦めていないのだ

 

 

「プラントへ?」

 

 

マリューはバルトフェルドを横目で見ながら問う

 

バルトフェルドは、どこかやりきれないような笑みを浮かべる

 

 

「そこしかなさそうだね…」

 

 

「そうなのよね」

 

 

と、二人の背後から第三者の声が聞こえてくる

二人は振り返ると、そこにはアイシャの姿が

 

 

「アイシャ」

 

 

「アイシャさん」

 

 

「というより、そこしかなくなっちゃいそうなのよ。私たちコーディネーターの住める場所は。それでなんだけど…」

 

 

急に会話に入ってきたアイシャが、マリューの方を見て笑う

マリューは首を傾げる

バルトフェルドは、ふっ、と笑う

 

アイシャが言おうとしていることは、今まさに自分が言おうとしていたことなのだ

 

 

「あなたも、一緒に来ない?」

 

 

「え…?」

 

 

マリューの目が見開く

 

 

「まあ、あんな宣戦布告を受けて、プラントの市民感情もまだ荒れているだろうがな…。デュランダル議長はしっかりとしたまともな人間らしい。一方的なナチュラル排斥ってのはしないだろう」

 

 

アイシャがうんうんと頷く

アイシャはそれを言いたかったらしい

 

マリューは、海へ視線を戻す

 

 

「どこかで平和に、笑って暮らせて…。死んで行ければ、それが一番の幸せなのにね…」

 

 

悲しげにつぶやくマリュー

バルトフェルドとアイシャは、目を見合わせて、二人同時に悲しげに目を伏せる

 

 

「まだ、何が欲しいと言うのかしら…。私たちは…」

 

 

その疑問には、誰も答えられなかった

 

マリューは、一瞬だけ、家の中に戻ろうとしたセラと視線が合った気がした

その瞳は、悲しみに満ちていた気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波が打ち寄せられるがけ下に浮かぶ十数の影

 

黒いスウェットスーツを着た男たちの姿だった

彼らは、砂浜に上陸するとすぐにスーツを脱ぎ捨てる

 

彼らは素早く装備を整える

武装が、完了した

 

暗視ゴーグルを装備し、そしてライフルを抱える

 

 

「いいな。ターゲットの死の痕跡は絶対に残すな。だが、確実に…、二人を仕留めろ」

 

 

彼らのリーダーらしき男が、抑えられた声で言う

男たちは、静かに頷く

 

彼らは、素早く足を進める

だが、その足音は音がしていないと言ってもいいほど静かで

その足の先には、アスハ家の別邸が建てられていた

 

 

 

 

不意に感じた嫌な気配に、セラは目を開いた

直後に、ラクスがいつもそばに連れているハロの声が家中に響く

 

セラは飛び起きた

 

 

『ハロ!ハロ!アカンデェ!』

 

 

この声は、侵入者が来たことを報せる合図

セラは扉を開いて部屋を出る

 

走るセラは、マリューとばったり会う

 

 

「セラ君?」

 

 

「マリューさん…。どこの連中ですか?」

 

 

マリューは一瞬小さく目を見開くが、すぐに答える

 

 

「わからないわ…。ともかく今は、ラクスさんと子供たちを!」

 

 

「はい!」

 

 

セラとマリューは同時に走り出す

 

セラは走りながら思考する

 

一体どこの連中がここを襲っているのだろうか

そして、その目的は何なのだろうか

 

はっきり言えば、すぐさま頭に浮かぶのはブルーコスモスである

ブルーコスモスが、ここにいる自分たちの素性をつかみ、襲ってきた

 

だが、それにしては手際が良い

もし彼らが襲ってきているのならば、正面から突っ込んできているだろう

彼らはただ、コーディネーターへの憎しみだけで動いているようなものなのだ

 

ならば、一体…

 

と考えているうちに、ラクスと子供たちが寝ている部屋の前に来ていた

マリューがそのドアを開ける

 

マリューはラクスの傍まで寄り、その体を揺らす

 

 

「ラクスさん、ラクスさん!起きて!」

 

 

「…まりゅー…さん…?」

 

 

目をこすりながら、ゆっくりと上体を起こすラクス

 

 

「セラも…?」

 

 

「おはよう。でも、今はそんなことを言ってられる場合じゃないんだ…」

 

 

子供たちが各々目を覚まし始め、不満を零す

気持ちよく寝ているときに、目を覚まされたのだ

 

 

「ラクス!」

 

 

「キラ?」

 

 

そこに、キラも姿を現した

 

それと同時に、銃声とガラスが割れる音が全員の耳に届いた

 

 

 

 

 

バルトフェルドとアイシャは、倒したテーブルを盾にしながら、銃を撃ってくる武装集団を相手にしていた

恐らく、こちらから来ているのは四人はいるだろう

そのうちの二人は、撃った

 

 

「アイシャ…」

 

 

「ええ」

 

 

二人は小さく言葉を交わすと、同時に背後のドアの中へと飛び込む

廊下に逃れた

 

ラクスや子供たちのことが心配になったのだ

上階へ急ごうとする

 

 

「!アンディ!」

 

 

「ちぃっ!」

 

 

物陰から一人の男が飛び出してきた

男は、ナイフをバルトフェルドの左腕に突き立てる

二人は互いに力を加える

 

そこで、バルトフェルドとアイシャは違和感を覚える

 

この男は、バルトフェルドに力負けしていない

 

バルトフェルドは、相手のみぞおちに蹴りを入れる

男は後ろによろめく、が、すぐさま腰のホルスターから拳銃を取り出す

バルトフェルドを照準に収めて…

 

銃声が鳴り響いた

倒れたのは、男

 

アイシャが持っている銃の銃口が煙を立てている

 

 

「助かったよ、アイシャ」

 

 

「いえ。あたしが助けなくても、自分で何とかなったんでしょうけど」

 

 

アイシャが舌をわずかに見せながら言う

バルトフェルドは、ふっ、と微笑んでから、歩こうとする

アイシャもついていこうとするが、二人は足を止めた

 

男の方から、ノイズが混じった声が聞こえてきたのだ

 

 

「目標は両方とも、子供と共にエリアEへと移動」

 

 

男の耳からイヤホンが外れていた

そこから通信が漏れている

 

 

「武器は持っていない。護衛は女一人だ。早く仕留めろ」

 

 

…目標?

両方?

 

 

「…アンディ」

 

 

「わかっている。行こう」

 

 

二人は駆け出した

バルトフェルドは走りながら思考する

 

間違いなく、ここを襲ってきているのはコーディネーターだ

あの時、男が自分の腕にナイフを刺してきた時

男は自分に力負けしなかった

 

コーディネータである自分の力に、負けていなかったのだ

 

そして、目標である

あの通信を送った男は、両方と言った

それは、目標とされている人物が、二人いるということ

 

その二人とは、一体…

 

 

 

 

 

セラたちはシェルターの前まで来ていた

あれから、何人もの男に襲われたが、セラとキラの協力もあり、マリューが撃退してきた

マルキオがシェルターの扉を開ける作業をしている中、未だこちらを狙っている男たちが放つ銃の音

 

子供たちは全員号泣してしまっている

セラ、ラクス、キラの腰には子供たちがしがみついている

 

セラの視界に、二人の人影が見えた

バルトフェルドとアイシャだ

二人が合流したのだ

 

そこで、マルキオの入力作業が終わり、扉がスライドした

一斉に、全員が入り込む

 

 

「急げ!かなりの数だ!」

 

 

バルトフェルドが急かす

 

と、セラは嫌な気配を感じる

ハロが、ぱたぱたとはばたきながらラクスに飛び込む

 

セラは、視線を上に向ける

そこには、ラクスを照準にしている男

だが、あの男が殺意を向けているのは、ラクスと…、自分?

 

 

「ラクスさん!しゃがんで!」

 

 

「ラクス!」

 

 

セラがラクスにしゃがむように言う

それと同時に、きょとんとしているラクスにキラが飛びついた

二人は倒れ込む

その上を、銃弾が通り過ぎた

 

マリューとバルトフェルド、アイシャが反応する

 

 

「通気口の中だ!」

 

 

セラが叫ぶ

その声に従って、三人が同時に銃を向け、引き金を引く

男は、息絶える

 

キラは、呆然としているラクスの手を引く

セラがその後をついていく

 

彼らを守るように、マリュー、バルトフェルド、アイシャが銃を構えながらシェルターの中に後退していく

そして、三人が中に入ると、セラはすぐさまシェルターの扉を閉めた

扉が、ロックされる

 

 

「…大丈夫か?」

 

 

バルトフェルドが、確認する

 

 

「はい…」

 

 

キラが返事を返す

 

 

「コーディネーターだわ」

 

 

マリューは、激しく息を切らせ、座り込みながら言う

バルトフェルドとアイシャは、頷く

 

 

「それも、戦闘訓練を受けた連中ね」

 

 

アイシャが、マリューの言葉に付け足す

 

 

「ザフト軍…?」

 

 

セラが疑問符を浮かべながら言う

 

と、そこで子供たちを元気づけていたラクスがこちらへ来る

 

 

「皆さん…」

 

 

ラクスの目は、不安に満ちている

 

 

「狙われたのは…、わたくしなのですね…?」

 

 

ラクスもわかっていたのだ

自分が狙われていたということを

 

 

「ラクス…」

 

 

キラが、そっとラクスの肩を抱く

 

 

「いや、ラクスだけとは限らないぞ」

 

 

バルトフェルドが、そんなことを口にした

アイシャとセラ以外の三人が目を見開く

 

 

「それって、どういうこと?」

 

 

マリューが、聞き返す

その問いに、アイシャが答えた

 

 

「私たちがここにこの階に上がってくる前に、一人の男の通信機から声が漏れたのよ。『目標は両方とも、子供たちと共にエリアEに移動』ってね」

 

 

「両方…?」

 

 

キラが、違和感を覚える

なぜ、両方なのか

それでは、まるで…

 

 

「ラクスの他にもう一人。奴らのターゲットになる奴が、ここにいる」

 

 

バルトフェルドが告げる

 

 

「…まさか」

 

 

ラクスが、声を出す

 

この中で、ターゲットにされるような人物など、容易に想像できる

ターゲットにされるほどの肩書を持つ人物

 

二人がいるが、その二人から一人を選ぶならば、間違いなくそちらを選ぶだろう

 

 

「うん、たぶん俺だ。ラクスさんを狙ってたやつ、俺の方にも殺気を向けてたしね」

 

 

セラは、飄々と答えを告げた

 

その時だった

セラは、キラたちに向けていた視線を、ふっとそらす

 

それと同時に、巨大な音が鳴り響くと同時に震動がはしった

これは、爆発

 

 

「狙われた、というよりは、狙われてるな、まだ」

 

 

このシェルターは、銃弾や爆弾程度なら防ぐ

だが

 

 

「モビルスーツ!?」

 

 

さすがにそれを防ぐというのは不可能だ

 

 

「火力のありったけで狙われたら、ここも長くはもたないな…」

 

 

バルトフェルドが表情を苦く歪めながら言う

 

このままではシェルターもろとも自分たちも焼き払われてしまう

それだけは、防がなくてはならない

 

 

「ラクス、鍵は持っているな?」

 

 

バルトフェルドがラクスを見据えながら問いかける

ラクスは、はっと息を呑む

胸に抱いているハロにそっと力を込める

 

 

「扉を開ける。しかたなかろう?それとも、今ここで全員死んじまったほうがましか?」

 

 

バルトフェルドが鋭い視線でラクスを射抜く

ラクスが、身を震えさせる

 

 

「しかし…これは…」

 

 

ラクスは、戸惑うように、ためらうようにハロを抱いている

 

セラとキラは、その意味をわかりかねていた

 

 

「ラクス?」

 

 

「キラ…」

 

 

ラクスは今にも泣きだしそうな目でキラを見上げる

その眼を見た途端、キラは、セラは悟った

 

自分たちの横にある大きな扉

シェルターにつながる扉ではない

この扉の、向こう側には

 

 

「ラクスさん、かして」

 

 

「え…?」

 

 

セラが、口を開いた

 

 

「兄さんに戦わせたくないなら、俺が行く」

 

 

セラが力強く言う

 

 

「っ!ですがっ…」

 

 

だが、ラクスはそれもためらってしまう

 

確かに、キラには戦ってほしくはない

自分にとって一番大切な人で、そんな人が傷をついていく姿など見たくない

 

けどセラは、そのキラよりももっと傷ついていて

それでも、自分の身を顧みずに戦いに投じようとしていて

 

 

「セラ、ダメだ。僕が行く」

 

 

キラが、セラを見ながら言う

セラは目を見開く

 

 

「兄さん」

 

 

「僕は、大丈夫だから」

 

 

キラは、セラからラクスに視線を移す

ラクスに微笑みかけながら、キラは続ける

 

「大丈夫だから。このまま、君たちのことすらも守れずに…、そんなことになる方がずっと辛いから…」

 

 

キラは、そっとラクスを抱き締める

 

 

「ラクス…。鍵を、かして?」

 

 

もう一度、キラはラクスに問いかける

ラクスは、悲しげなその表情を変えずに、黙ってハロを差し出す

 

ハロが口を開けると、そこには金と銀の二つの鍵が

 

キラは、二つの鍵を取り、そのうちの一つをバルトフェルドに渡す

そして、扉の脇にある二つの装置

その一つの鍵穴のようなものに、鍵を差し込む

 

 

「三、二、一…」

 

 

バルトフェルドの合図に合わせ、同時に鍵を回す

それと同時に、扉がゆっくりと開かれていく

 

扉が開かれると、灯りがともる

扉の向こう側には、灰色の機体

 

ZGMF-X10Aフリーダム

PSを展開していないため、その色は灰に染められている

 

キラは、コックピットへとつながる道を進む

 

 

 

扉が、閉まった

セラは、扉の開錠装置の前にいるバルトフェルドを見る

 

 

「バルトフェルドさん、リベルタスは?」

 

 

フリーダムがあるならば、リベルタスだってあるはずだ

そう思い、セラは問いかけた

 

 

「…ここにはない」

 

 

だが、答えはNOだった

リベルタスは、ない

 

ここには

 

 

「…」

 

 

セラは、こちらと目を合わせようとしないバルトフェルドをじっと睨み続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

シェルターを攻撃し続けるモビルスーツ、UMF/SSO-3アッシュ

アッシュはありったけの火力を使ってシェルターを攻撃している

 

 

「一点を集中して狙え!壁面を破壊すればそれで終わる!」

 

 

リーダーであるヨップが指示を出す

 

この任務を失敗することは許されない

何しろ、ターゲットはあのラクス・クラインなのだ

 

だが、ターゲットはもう一人いた

セラ・ヤマト

聞いたことのない名前だった

 

だが、任務を言い渡された時、最優先はセラ・ヤマトを殺害することだと言われた

 

なぜラクス・クラインではないのか

疑問に思ったヨップだが、とりあえず頷いておいた

 

自分たちの役目は、与えられた任務をやり遂げることなのだ

 

砲火が、金属の壁を撃ち抜いた

だが、まだ壁がある

 

 

「目標を探せ!オルアンとクラムニクは…」

 

 

ヨップが更なる指示を出そうとしたその時だった

視界の端に閃光がはしった

 

 

 

 

キラは、ライフルで天井を貫き、空いた穴から脱出した

自由な空中へと抜け出すと、背中の十枚の青い翼を広げる

 

 

「あれはまさか…!フリーダム!?」

 

 

「なっ…!?」

 

 

隊員の言葉を聞き、ヨップは驚愕する

 

あのヤキンの英雄の一機が、目の前にいるのだ

 

キラは、彼らが驚愕することを露知らず、レバーを倒す

キラの操縦に従って、フリーダムはアッシュの集団に向かっていく

 

キラは腰のビームサーベルを抜き放つ

一機のアッシュとすれ違う

それと同時に、アッシュの手足を斬り飛ばした

 

何をされたかすらわからない

だが、一機が戦闘不能にされた

 

慌てて他のアッシュは両手のビームを放つ

 

だがキラは、ひらりひらりと空中で回転しながら砲撃をかわしていく

そして、フリーダムの五門の砲門が火を噴いた

 

三機のアッシュの手足、ミサイルポッドが吹き飛ばされる

だが当然、こんなところでキラの攻撃は止まらない

 

動きを止めている二機のアッシュまで接近

瞬く間にその手足を、ビームサーベルで斬り飛ばした

 

残り、四機

四機のアッシュはミサイルを放ってくる

 

だが、キラは機体を垂直に降下させて回避する

 

再びフリーダムの五門の砲門が火を噴いた

三機のアッシュの手足が吹き飛んだ

 

これで、残りは一機

残ったのは、ヨップのアッシュだった

 

 

「ば…、ばかな…!」

 

 

ヨップは呆然としていた

十機いたアッシュがたった三分足らずの戦闘で、自分以外のアッシュが戦闘不能にされてしまった

 

信じられない

噂には聞いていた

だが、まさかここまでとは思いもしなかった

 

いや、その前にまずフリーダムと遭遇するところから最早予定外もいいところだった

 

 

「くそぉおおおおお!!」

 

 

こうなったら、一糸むくいてやる

ヨップは片手のハサミのような手にビーム刃を発せさせる

そのまま、地に降りたフリーダムに突っ込んでいく

 

キラは、突っ込んでくるアッシュとの間合いを測る

そして、機体を横にずらし、その刃をかわす

その腕に、フリーダムのシールドを引っ掛け、背後に投げる

 

だが、アッシュはそれでも戦意は失わなかった

立ち上がり、片手のビームを放とうとする

 

キラは冷静にビームライフルを構え、引き金を引く

 

放たれたビームは、アッシュの片手を爆散させる

 

キラはその後も、一射一射放ち、残った片手、両足を吹き飛ばす

立つ能力すらも失ったアッシュは崩れ落ちる

 

ヨップはこちらを撃ったフリーダムを憎々しげに睨む

だが、それだけで自分には何もできない

 

残ったのは、屈辱だけ

 

もう、自分にできることは一つだけ

傍らにあるレバーを、ヨップは引いた

 

 

 

目の前で、アッシュが爆発する

 

キラは目を見開いてそれを眺める

 

駆動部には攻撃を加えなかった

ならば、あの爆発は自爆ということになる

彼らは、死を選んだということなのだ

 

なぜ

なぜ死を選んだのか

 

考えてみれば、当たり前のことなのだ

任務に失敗して捕らえられ、素性を明かすことになる

そんなことになるわけにはいかないのだ

 

不殺

キラが貫いてきた意志

だが、そんなことはきれいごとである

 

銃を取るならば、その手を汚すことになるのは当然のことなのだ

 

それでも

キラの心は、苦い思いに包まれていくのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリーダムのまわりから煙が上がっている

アッシュが爆発した

 

セラたちは、その光景を眺めていた

 

子供たちは、フリーダムの勇姿を見れて、興奮した目で

大戦を経験した者と、キラの母、カリダは気遣わしげな眼で

 

キラが今、どんな思いでいるかなど容易に想像できる

 

もうすぐキラが戻ってくるだろう

その時、どんな声をかけようか

 

セラはそのことを考えていた




セラ君は戦闘に出ませんでした
リベルタスの出番は、まだ先になりそうです


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PHASE14 迎えに

あれ?おかしいな…
評価が真っ赤だぞ…?
それに、日間ランキング40位に入ってました
読者様方には感謝感謝です!



先の二話と比べれば短いです


「わぁ…。またおうち壊れちゃったよぉ!」

 

 

「私たちの部屋はどこぉ?」

 

 

子供たちの声が響く

 

あの襲撃から一夜が明けた

アスハ別邸は見る影もなく崩壊していた

 

子供たちが騒ぎ、カリダが諌める

その一方、セラたちは格納庫の前で話していた

 

 

「アッシュ?」

 

 

アッシュ

昨日ここを襲撃したモビルスーツの名称である

 

 

「ああ。データでしか知らんが、最近ロールアウトされた機体だ。正規軍しか所持していないはずなんだが…」

 

 

バルトフェルドが意味深につぶやく

 

 

「それがラクスさんを襲った…」

 

 

セラがぽつりとつぶやく

 

つまりそれは、ザフトが本格的にラクスを狙っているということになる

そして、自分も

 

 

「ギルバート…デュランダル…」

 

 

セラはつぶやく

 

デュランダルは遺伝子工学の学者だった

自分の正体を知っていた

 

だが、わからない

なぜ自分を消そうと考えたのか

 

 

「ともかく、プラントへお引越しはやめておいた方がいいかもな」

 

 

「そうね」

 

 

バルトフェルドが言い、アイシャが相槌をうつ

 

ラクス、そしてセラの安全を考えれば当然のことである

 

 

「でも…、なぜわたくしが…」

 

 

ラクスが不安げにつぶやく

キラがそれに気づき、そっとラクスの肩を抱く

 

なぜ、ラクスを暗殺しようとしたのか

これも皆目見当がつかない

 

今、プラントで何が起こっているのか

不気味な気持ちになっているとき

 

 

「まあまあ!なんてことでしょう!」

 

 

どこか抜けている叫び声が聞こえてきた

この声は

 

 

「マーナさん?」

 

 

カガリの侍女であるマーナだ

マーナは戸惑い気味で周囲を見渡すと、セラたちに気づく

 

 

「セラ様!キラ様!」

 

 

マーナはこちらに気づくと、表情を明るくさせてこちらに駆けよってくる

 

 

「よくご無事で…。これは一体どういうことなんでしょう…」

 

 

「いや…その…。まあ、色々あって…」

 

 

言葉を濁すキラ

昨日の出来事を正直にすべて言ってしまえば、マーナは混乱するだろう

マーナが気絶してしまう光景も想像できてしまう

 

 

「そ、それで、何しに来られたのですか?」

 

 

キラをフォローすべく、セラが立ち上がった

セラはマーナにここに来た目的を問いかける

 

 

「そうですわ!今日は急ぎの用事を仰せつかったのです!」

 

 

「急ぎの用事?」

 

 

マリューが聞き返す

マーナは、「はい」と頷いてから、バッグから一つの封筒を取り出す

 

 

「これを。カガリ様から、セラ様とキラ様にと」

 

 

「?」

 

 

「え?」

 

 

セラとキラが目を丸くする

 

手紙?

カガリから?

 

こんなことは初めてだ

というより、なぜ直接言いに来ないのだろうか

 

その答えは、マーナが言ってくれた

 

 

「お嬢様はもう、ご自分でこちらねお出かけになることすらもかなわない状況でして…。マーナがこっそり預かってきたのです…」

 

 

「え…?」

 

 

マーナの様子は穏やかではない

 

 

「なに?どうかしたの、カガリさん?」

 

 

マリューが尋ねる

カガリは、一体どうしたのだろうか

 

 

「どこかお悪くされたのですか…?」

 

 

ラクスも尋ねる

カガリは、病気にでもなったのだろうか

 

 

「いいえ…、お元気ではあるんですが…。ただ…、もう結婚式のためにセイランの家に入りまして…」

 

 

「はぁっ!?」

 

 

「ええっ!?」

 

 

セラとキラをはじめ、他の人たちも驚愕の声をあげる

 

けっ…こん?

 

まさか、そんな

カガリが結婚

 

信じられない

 

 

「セイランが正式の希望し、アスハが承諾したのです。ですが、それをいいことにセイランはカガリ様をあちらのお宅に…」

 

 

閉じ込めた、と言いたいのだろう

 

セラは小さく舌打ちをした

まさかここまで強引に仕掛けてくるとは思わなかった

 

今、ウズミは政治的権力はない

ウズミを恐れる必要などないのだ

ウズミは、セイランを抑えることはできない

 

セイランはそこをついた

 

キラがマーナからもらった封筒を開く

セラも、横から文面をのぞき込む

 

 

-セラ、キラ。すまない、本当は直接言って話したいと思っていたのだがな。ユウナから正式に求婚された。私は、それを承諾した。

 

 

行に目をはしらせる

カガリが一行目に書いたことはそんなことだ

 

 

-まさか身動きが取れなくなってしまうとは私も思っていなかった。だから、手紙で伝えようと思う。

 

 

-これは、お父様とも話し合って決めたことだ。セラ、キラ。お前たちに頼みたいことがある

 

 

「…え」

 

 

「…へぇ」

 

 

カガリの書いた文面を見て、キラは目を丸くし、セラはにやりと笑みを浮かべた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに、この日が来た

今日は、カガリ・ユラ・アスハと、ユウナ・ロマ・セイランの結婚式の日だ

そして、それは同時にカガリの旅立ちの日でもある

 

カガリは、窓から外を見上げる

 

カガリは今、真っ白なウェディングドレスを身に纏っている

正直、憂鬱な気分だ

 

カガリだって一人の女だ

ウェディングドレスは、愛する人にもらいたかった

 

だが、このドレスをくれたのは、そんな人とはかけ離れた男で

 

今は、我慢だ

 

 

「…ん」

 

 

扉をノックする音が響く

 

 

「カガリ様、お時間でございます」

 

 

時間が来た

これから、式場に向けて移動を開始する

 

カガリは立ち上がり、部屋を出る

 

階段を降りていき、ユウナの姿を目に捉える

白いタキシードを着こなし、優雅に立っている

 

招待客と話していたユウナはカガリがやってきたことに気づく

手を差し伸べながら歩み寄る

 

 

「うん。きれいにできたね。けど、髪はもう少し長い方が僕は好きだ」

 

 

「…そうか」

 

 

知るか

 

ユウナの手をとりながら、心の中でカガリはつぶやく

 

二人は手を繋いだまま白いリムジンに乗り込む

招待客が二人に声をかける、がカガリはまったく反応しない

する気がない

 

 

「何か飲むかい?さっきからまったく口きかないけど、緊張してる?」

 

 

ユウナがカガリに問いかける

 

 

「いや、大丈夫だ。心配するな」

 

 

「いえ、大丈夫ですわ。ご心配なく。…だろ?しっかりしろよ」

 

 

いつもの甘い声ではない

低く鋭い声

 

だが、カガリはまったく堪えない

退屈そうに窓を眺める

 

もし、この隣に座っているのがユウナではなかったら

 

 

(アスラン…)

 

 

もし、自分が唯一愛した人だったら

どんなに嬉しかったことだろう

 

だが、現実はまるで違う

 

 

「ほら、マスコミも大勢来てるんだ。もっとにこやかな顔をして」

 

 

カガリの表情に不満を持ったユウナが咎める

カガリは横目でユウナを見る

 

ユウナは、微笑みながら外にいる人たちに向かって手を振っている

 

それくらいの演技は必要だろう

カガリは仕方なくユウナの言葉に従う

 

微笑んで、手を振る

だが、それだけだ

 

何も心の中で思っていない

ただ、機会のように

 

カガリは式場に着くまで手を振り続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「機関、定格起動中。コンジット及びAPUオンライン」

 

 

オーブ軍の軍服を着たクルーたちが、作業を進めていく

 

彼らが乗っているのは、白い巨艦アークエンジェルだ

ヤキン・ドゥーエで英雄的な活躍をしたかの艦は、大戦のあとオーブのとある場所に隠されていた

 

マリューは艦橋に足を踏み入れる

操舵士の席には、アーノルド・ノイマン

CIC席にはダリダ・ローラハ・チャンドラⅡ世

 

艦橋にはいないが、整備士のコジロー・マードックもいる

 

懐かしいクルーたちが集まってくれたのだ

 

そしてノイマンの横にはバルトフェルド、チャンドラの隣にアイシャの姿

 

 

「あの、バルトフェルド隊長…?」

 

 

「んん?」

 

 

機器を操作していたバルトフェルドが振り返る

マリューはどこか遠慮がちに尋ねる

 

 

「やっぱり、こちらの席にお座りになりません?」

 

 

マリューは言う

 

はっきり言って、マリューよりもバルトフェルドの方が指揮能力は高い

コーディネーターなのはもちろんだが、何といっても経験がまるで違う

 

マリューの専門は戦闘ではなかった

だがバルトフェルドは戦い続け、そして満を持して隊長となった

もう一度言うが、経験の量が違うのだ

 

だからこそ、マリューはバルトフェルドに尋ねたのだが

 

 

「いやいや!やっぱりその席にはあなたが座るべきでしょう、ラミアス艦長!」

 

 

能力のことを言っているわけではない

だが、やはりアークエンジェルの艦長は、マリュー・ラミアスであるべきなのだ

 

それは、全員の思いが一致している

 

マリューは、艦長席に視線を落とす

 

 

「…」

 

 

ふっ、と笑みを零してから、マリューは静かに腰を落とした

懐かしい座席の柔らかさが伝わってくる

 

 

「主動力コンタクト。システムオールグリーン」

 

 

ノイマンの声が響く

 

 

「アークエンジェル全ステーション、オンライン」

 

 

これから、大天使はお姫様を迎えに行くのだ

 

 

 

 

 

 

出航準備が進む中、セラとキラはカリダと言葉を交わしていた

 

 

「ごめんね、母さん。また…」

 

 

「でも、行かなきゃならないんだ」

 

 

キラとセラが別れの言葉をかける

 

再びカリダに心配をかけることに兄弟はとても申し訳なく感じている

前大戦の時も、カリダにどれだけ心配をかけただろう

二人には想像もつかない

 

だが、カリダはそっと首を横に振り、そして柔らかく微笑んだ

 

 

「いいのよ。でも、一つだけ忘れちゃダメ」

 

 

カリダは両手を、それぞれ兄弟の頬に添える

 

 

「あなたたちの家はここよ。そして、私は…、私たちは、いつでもここにいて、あなたたちを愛してるわ」

 

 

セラもキラも言葉を失う

本当に、何て優しい人なんだろう

 

こんな親不孝で、心配かけ続ける子供をどうしてここまで愛してくれるのだろうか

 

キラの目に涙が滲む

 

 

「だから、必ず帰ってきて」

 

 

キラは、カリダの体を抱きしめた

セラはその様子を微笑みながら見守る

 

キラはカリダを離すとカリダはセラの方を向く

セラも、そっとカリダを抱き締めた

 

柔らかい感触に包まれる

母の優しさに包まれる

 

この感覚とは、しばしのお別れ

セラはカリダを離した

 

 

「…絶対に戻ってくる」

 

 

「ええ。ちゃんと帰ってきなさい?」

 

 

セラとキラは、アークエンジェルへと乗り込んでいく

カリダは兄弟の後姿を見守り続けた

 

 

「メインゲート開放。機関二十パーセント、アークエンジェル、微速前進!」

 

 

アークエンジェルが、ゆっくりと前進していく

そんな中、セラは悪戯っぽい笑みを浮かべながらキラの方を向く

 

 

「さてと、今回は俺に行かせてよね。リベルタスがないのは残念だけど、フリーダム貸して」

 

 

「でも、セラ…」

 

 

セラの言葉に、キラの表情が悲しく歪む

 

いいのだろうか

本当に、この傷つき続けた少年に行かせても

 

 

「どうせ大した戦闘はしないだろうから。お姫様を迎えに行くだけだろ?」

 

 

別にキラでもいいのだ

というより、フリーダムで行くのだからキラの方がいいだろう

 

だが、セラは自分が行こうとしていた

特に意味はない

 

 

「…セラはカガリのドレス姿をからかいたいだけだろ」

 

 

「…ソンナコトナイデスヨー」

 

 

なぜ片言なのだろうか

キラはため息をつく

 

 

「いいよ。確かに大した戦闘はないだろうし」

 

 

キラは了承する

セラはぐっ、と拳を握る

 

それに、カガリのドレス姿をからかいたいだけじゃない

 

あのお坊ちゃまの悔しさに歪んだ表情をこの目で見たいというのもセラの心の中にはあったのだ

 

 

 

 

「セラ・ヤマト!フリーダム、発進する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カガリの目の前に、祭壇へとつながる階段が伸びている

隣には、ユウナ

 

二人は同時にその階段に足をのせた

 

一段一段、段差を踏んでいく

二人の両横には、今やオーブの象徴ともなっているアストレイが並んでいる

 

階段を上りきれば、そこには祭殿で待ち構えていた神官の姿

 

ついに、ここまで来た

後は、迎えを待てばいい

自分を迎えに来る弟を、待てばいい

 

カガリとユウナはゆったりとした歩調で神官の前まで行く

そして、その前で立ち止まり、神官と向き合う

 

 

「今日、ここに婚儀を報告し、またハウメアの許しを得んと、この祭殿の前に進み出たる者の名は、ユウナ・ロマ・セイラン、カガリ・ユラ・アスハか?」

 

 

「「はい」」

 

 

二人は同時に返事を返す

 

ここは、順調に進める

この後、この神官はもう一度愛を誓うことを確かめる

それまでに、来てくれるはずだ

 

神官が言葉を続けていく

その間、カガリは待ち続ける

 

まだか

まだか

 

だが、まだ来ない

 

 

「今改めて問う。互いに誓いし心に偽りはないか?」

 

 

問われてしまった

予定ならば、この場面までに来てくれるはずだった

 

だが、来ない

 

 

「はい」

 

 

ユウナはどこか勝ち誇った表情で答えた

だが、カガリは答えることが出来ない

 

心臓がばくばくと高鳴る

 

どうした?

何か予定外のことでも起こったのだろうか

 

そういえば、マーナが戻ってきた時、アスハ別邸が崩壊していたと言っていた

まさか、そのことで何か?

だが、マーナはけが人はいないようだったと言っていた

ならば、他のこと?

 

カガリが思考を巡らせていると、兵士の叫びが聞こえてきた

 

 

「ダメです!軍本部からの迎撃、間に合いません!避難を…」

 

 

「なんだ!どうした!?」

 

 

ユウナが振り返ってその兵に問いかける

その声はいら立ちが多分に含まれている

 

カガリは俯く

そして、その口を歪ませた

 

ようやく、来たか

 

 

「早く!カガリ様を!」

 

 

「迎撃ー!」

 

 

アストレイが、どこかの方向へ銃を向ける

そのタイミングで、ようやくカガリは振り返った

 

アストレイが銃を構えた途端、全てのアストレイの持っていた銃が、爆散した

 

そして、彼方から飛んでくる白いモビルスーツ

青い十枚の翼を広げ、こちらに舞い降りてきた

 

 

「フリーダム…」

 

 

誰かがつぶやくのが聞こえた

観客の悲鳴にかぶさって聞き取りづらかったが、カガリの耳には届いていた

 

 

「か、カガリ…!」

 

 

ユウナはカガリの背後に隠れる

だが、カガリは

 

ユウナを蹴り飛ばした

 

 

「なぁっ!?」

 

 

ユウナは驚愕の声を出す

 

カガリはユウナに目も向けない

フリーダムは、両手を掬うようにして、そっとカガリをつかむ

カガリは抵抗せずにそれを受け入れる

 

と、そこでカガリはこちらを見上げているウズミと目が合った

カガリは、ウズミをまっすぐと見据える

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

言葉は、いらない

 

獅子の親子は、目で語った

 

 

 

 

セイランの影響で、カガリは政治で力を奮いづらくなってきていた

首長たちも、セイランの息がかかった人物ばかりで

 

さらに、セイランの動きはどこか裏があった

裏で、家に利益が来るように細工をしている節があった

 

このままでは、欲にまみれているセイランがオーブを牛耳ることになってしまう

カガリとウズミはそれを恐れていた

 

今のオーブは、まさにその恐れていたことが実現している状況だ

力を失った獅子は、呑み込まれてしまった

 

だからこそ、カガリは国を一度はなれることにした

いや、はなれるしかなかったのだ

 

このまま国にいてしまえば、セイランは良いようにアスハの権力を奮っていくだろう

それだけは、何とか防がなくてはならなかった

 

カガリは、この結婚式を利用することにした

 

 

 

 

セラはカガリを落とさないようにして、フリーダムを飛び立たせた

モニターで、ユウナの顔を見る

 

顔を屈辱で歪ませ、近くにいた兵につかみかかりながらフリーダムを指さしている

 

撃ち落とせ!とでも言っているのだろう

セラは「くくく」と笑いを零した

 

セラはコックピットハッチを開く

そして、ゆっくりとフリーダムの手を上げて、そしてカガリを抱きしめてコックピットへと連れ込んだ

 

カガリは、セラの顔を見て目を見開いた

 

 

「セラ!?お前、何で…」

 

 

「兄さんから借りたんだ。いや、すごいなフリーダムは」

 

 

セラはカガリの問いを、コックピットハッチを閉めながら答えた

 

フリーダムはセラの操縦通りにしっかりと動いてくれる

さすがにリベルタス程とは言えないが、それでも圧倒的パワーを見せてくれる

 

 

「それにしても凄いな、このドレス。からかいたくて来たんだけど、似合ってて驚いた」

 

 

「どういうことだ!」

 

 

カガリは怒鳴った

それでは、まるでセラはウェディングドレスは自分には似合わないと言っているようではないか

 

 

「セラぁ!」

 

 

「うぐっ…。ちょ、やめろ!暴れるな!」

 

 

地団太を踏むカガリ

自分だって女なのだ

そんなことを言われれば当然怒りもする

 

とそこで、コックピットにアラートが鳴り響いた

 

わずかな緊張がはしる

カガリも、黙り込む

 

 

「こちらはオーブ軍本部だ。フリーダム、ただちに着陸せよ」

 

 

通信を通して、前方を飛行している機体のパイロットから声が届く

二機の機体が飛行していた

 

前方の機体は、戦闘機のような形をしているが、あれはモビルスーツだ

 

MVF-M11Cムラサメ

アストレイの次世代機で、前大戦時、トールが駆っていた試作機ムラサメの完成形である

ムラサメには、変形機構が取り付けられているのだ

 

 

「繰り返す。フリーダム、ただちに着陸せよ」

 

 

再び警告される

だが、ここで止まるわけにはいかないし、その気もない

 

 

「ちゃんとつかまってろ」

 

 

セラはカガリに忠告する

カガリは頷き、セラにしっかりとしがみついた

 

セラはレバーを倒した

それに従って、フリーダムは加速する

 

一気に二機のムラサメへ肉薄する

すれ違う直前に、ビームサーベルを抜き放つ

そして、二機の翼端を切り裂いた

 

ムラサメはバランスを崩す

その間に、セラは一気にムラサメから離れていった

 

そして、見えてきた白い巨艦

 

アークエンジェルが、二人を待っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

「四時の方向にフリーダムです!」

 

 

索敵兵が上ずった声で報告する

トダカはその報告を聞きながら思考していた

 

あのオーブ侵攻のおり、トダカはフリーダムの姿を見ていた

そして、さらにトダカの目の前には、あのアークエンジェルの姿もある

 

 

「本部より入電!フリーダムは式場でカガリ様を拉致!対応は慎重を要する!」

 

 

「…慎重、か」

 

 

報告を聞き、トダカはつぶやいた

 

 

「包囲して抑え込み、カガリ様救出を第一に考えよとのことです」

 

 

何を言っているのか

恐らくフリーダムは、アークエンジェルは、カガリを離すことはないだろう

 

カガリを戻してしまえば、オーブは終わりといってもいいくらいなのだ

政治家ではないトダカでもそのくらいはわかる

 

カガリを救出するには、フリーダムとアークエンジェルを落とさなければならない

そんなことは、不可能だろう

 

 

「トダカ一佐!アークエンジェル、潜航します!」

 

 

アークエンジェルは、フリーダムを収容した後すぐさま海中へと沈んでいった

 

あの艦には、潜水機能もついていたのか

トダカは素直に感心していた

 

兵は、何も対応しようとしないトダカを疑問に思う

 

 

「これでは逃げられます!トダカ一佐、攻撃を!」

 

 

焦ってトダカに進言してくる兵

だが、トダカには攻撃する気はさらさらなかった

 

 

「対応は慎重を要するんだろう?」

 

 

言葉に詰まる兵

 

トダカは、礼を取った

艦橋にいる兵たちがはっ、とした表情になる

 

他の兵たちも同じ気持ちなのか

アークエンジェルが完全に潜水するまで、砲撃を放つ艦はなかった

 

トダカは大天使が潜った海面を見つめながら願う

 

カガリの命を

この国と、世界の行く末を

 

海域は、静まり返っていた

 

 

 

 

 

 




ここまでちょくちょく変化は入れてますが原作通りですね

今回の変化はカガリの心情と、フリーダムの操縦がセラだったことでしょうか
あ、これからセラがフリーダムを操縦するということはありませんので悪しからず…


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PHASE15 来訪

あの男が登場します


プラント首都、アプリリウス

その議長執務室に、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルはいた

デュランダルは、ソファに座りながらテーブルの上に置いてあるチェスの駒をじっと見つめていた

 

 

「…任務は失敗したか」

 

 

オーブにいる、セラ・ヤマトとラクス・クラインの暗殺の失敗

モビルスーツを使うことも許可したというのに

 

何とかプラントまで戻ってこれた隊員からの報告

何と、フリーダムが現れたというのだ

 

 

「キラ・ヤマト…か。やはり、彼らは厄介だ」

 

 

キラ・ヤマト

セラ・ヤマトの兄であり、最高のコーディネーターとして創り出された存在

 

その称号は、セラ・ヤマトに今は奪われているが、それでも並のコーディネーターとは比べ物にならない能力を持っている

やはり奴の存在は大きな障害になる

 

だが、逆にこちらに引き込めれば

 

 

「だが、セラ・ヤマトは…」

 

 

あれは危険すぎる

あれを手駒に引き込むにはリスクが大きすぎる

キラ・ヤマトですら、できるならばといった感じなのだ

 

それよりも圧倒的強大な存在

 

 

「…」

 

 

だが、こちらには四つの強大な駒がいる

 

シエル・ルティウス、シン・アスカ

そして

 

 

「議長」

 

 

「…やあ。もう一人の方は目覚めたかね?」

 

 

「いえ。やはり自分よりも傷が多く、深かったのですから。正直、助かるだけでも奇跡というレベルなので」

 

 

真っ赤な髪、水色の瞳の男が執務室に入ってきた

その男とデュランダルは言葉を交わす

 

運んできた二人の内、一人は目覚めた

もう一人は、未だ目覚めない

 

 

「そうか…」

 

 

彼は、まだ目覚めない

今の段階では特に影響はないのだが、これが長引いてくると厄介だ

 

目覚めるのはいつになるのかまったくわからない状況なのだから、しょうがないのだが

 

 

「早く、目覚めてほしいものだ」

 

 

デュランダルは、チェスの駒を一つつまみ、一マス進めた

 

 

「そういえば、何か用があってここに来たのではないのかね?」

 

 

「はい。ハイネ・ヴェステンフルスが、ミネルバに出頭を開始しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、後戻りはできなくなったな」

 

 

アークエンジェルの艦橋

そこに、セラたちは集まっていた

 

その中の一人、バルトフェルドがぽつりとつぶやいた

 

もう、後戻りはできなくなった

一国家の代表を連れ去り、なおかつ軍の機体を撃墜してしまったのだ

戻っても捕らえられるのがおちだ

 

 

「だが、こうでもしなければ、本当にオーブは壊れてしまう。あの中に私がいても、何もできはしなかった…」

 

 

カガリが顔を俯かせながら言う

皆がカガリの方を見る

 

 

「確かに、国を焼くわけにはいかない。けど、この選択だって国を焼くことになるんだ。もし、オーブに出撃要請が出たら…」

 

 

オーブは、戦うことになる

そして、もしその戦いに負けてしまったとしたら

 

たとえ本土に被害はなくとも、オーブの国民は犠牲になっていくのだ

そして、オーブだけではない

他の国の人たちだって、プラントの人たちだって、犠牲になっていくのだ

 

 

「みんな!力を…、貸してくれるか…?」

 

 

カガリが、どこか縋るように周りを見渡す

 

 

「当たり前だ。そのために、俺たちはここに来てるんだ」

 

 

カガリの問いに答えたのは、セラだった

そして、そのセラに次々と続いていく

 

 

「もちろんだよ。僕だって、もうあんなことになるのは嫌なんだ」

 

 

「そうですわ。わたくしも、及ばずながらお力添えいたします」

 

 

キラ、ラクス

 

 

「まあ、さっきも言ったが、後戻りはできないしね」

 

 

「ここまで来て、今更戻るのもね?」

 

 

「私たちも協力するわ。カガリさん」

 

 

バルトフェルド、アイシャ、マリュー

 

そして、ノイマンとチャンドラが笑顔でうなずく

 

 

「…みんな」

 

 

カガリの目に、涙が浮かぶ

キラは、カガリの頭をそっと撫でる

 

 

「行こう、カガリ。もう、あんなことだけには、絶対させちゃならないんだ」

 

 

カガリは崩れるように座り込む

キラとラクスがそのカガリの傍らに寄り添う

 

セラたちはその光景を見守る

 

 

「セラ君は行かなくていいの?」

 

 

「え?」

 

 

マリューが、セラに声をかけてきた

セラはマリューの言葉の意味が読み取れず、目を見開く

 

マリューは、視線をキラたちに移す

そこで、セラはマリューが何を言っているのかをようやく読み取れた

 

 

「いいんです。もっと増えたら暑苦しいでしょう?」

 

 

セラは子供のような笑みを浮かべながら言う

マリューは、一瞬呆けた表情をして、くすりと笑みを零した

 

 

「…そうね」

 

 

カガリは未だに涙を流している

だが、もう声は収まってきている

 

そして今、涙を拭いながら立ち上がった

キラとラクスの手を借りながらだが

 

 

「何も言わないというのも、時には励ましになるんですよ」

 

 

セラはその光景を眺めながら言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバは、カーペンタリア基地に到着

シンたちはオーブの時以来のオフを堪能していた

 

といってもシンはただのんびりと散歩をしているだけなのだが

シンは今、カーペンタリア基地のドラッグストアにいた

お気に入りの栄養ドリンクが切れたのである

シンの持っている籠には二十はあるだろうか、赤色のラベルがつけられたペットボトルが入れられている

 

相当気に入っているようだ

 

 

「でも、ミネルバの修理はもうすぐ終わるんですよね?」

 

 

「まあね~」

 

 

と、横から聞き覚えのある声が聞こえてきた

声が聞こえてきた方に目を向けると、そこには三人の少女がいた

 

ルナマリア、メイリン、そしてマユである

メイリンの持っている籠には、化粧品やらシャンプーやらが大量に詰め込まれている

マユとルナマリアが持っている籠にもそれなりには入ってはいるが、それでもメイリンのは別格の量である

 

 

「何でそんなにいるんだか…」

 

 

ぼそりとつぶやいたルナマリアの声が耳に届く

その視線は、メイリンの持つ籠の中に向けられている

 

…同感だ

 

心の中でルナマリアに賛同するシン

 

シンは大量の栄養ドリンクを持ってレジに行く

店員の引き攣った表情

なぜそんな表情をされるのだろうと疑問に思いながら、要求される金額のお金を差し出す

 

お釣りを受け取り、袋に入れられた商品を受け取る

ドラッグストアを出る直前に、ルナマリアと目が合う

互いに手を振り合ってから、シンは店を出た

 

外に出ると、日差しがシンを襲う

まぶしさに、目を細めながら袋でふさがっていない方の手を目の前にやる

 

しばらく様々な店を冷かしていく

そのうちに、お腹が減ってくる

 

ファストフード店に入り、ハンバーガーを買う

帰ろうと足を進めようとすると、どこかからピアノの綺麗な音が聞こえてくる

 

シンは目を見渡しながら、そのピアノを探す

そして、見つけた

 

 

「…レイ?」

 

 

ピアノを弾いていたのはレイだった

柔らかな笑みを浮かべながら指を動かしている

その動きと共に、音が躍る

 

綺麗だ

 

音楽には疎いシンでもわかる

この音を聞いていると、心が安らぐ

 

しばらくその音を堪能してから、シンはレイに声をかけずに立ち去る

 

再び外に出て、今度は帰るためにミネルバへと足を向ける

オフだといっても、一日中のんびりとはしてられないのだ

 

艦に戻って昼食をとり、その後は機体の整備をしなければ

 

心の中で決めながら歩いていると、シンの視界の上で何かが映った

輸送機、だろうか

降下していく

 

 

「…なんだ?」

 

 

輸送機が降りている位置は、ちょうどミネルバが停泊している辺りの場所だ

シンは駆け出した

 

あの輸送機は何を運んできたのか

それが気になる

 

 

 

ミネルバに、何かが運び込まれていく

モビルスーツだ

オレンジ色を基調としたモノアイの機体

 

それを載せていた輸送機の中から一人の男が降りてくる

これまたオレンジ色の髪

そして、赤色の衣服に身を包み、その胸には徽章がついている

これは、ザフトの中でも特に最も優秀な兵の一人に与えられる称号、フェイスの証だ

 

その赤服の男は、ミネルバ艦内に入っていく

その口に、わずかに笑みを浮かべながら

 

 

 

シンは、急いでミネルバ艦内に戻ってきた

おそらくあの輸送機の中に入っていた物は格納庫に入れられたはずだ

 

シンは格納庫へと急ぐ

 

 

「ねえ!さっきの…」

 

 

格納庫の中に駆け込む

格納庫には、すでに多くの兵が集まっていた

 

ドラッグストアで会った、ルナマリアたちもいる

そして、大勢の人たちの視線の先にいる人物

 

赤い衣服を身に纏い、胸には徽章

 

 

「フェイス…?」

 

 

「本日一三〇〇付でミネルバ配属となる、ハイネ・ヴェステンフルスだ。よろしく頼む」

 

 

ハイネと名乗る男が、礼を取る

すると、一斉にシンのまわりの兵が礼を取る

 

シンは、焦る

今、自分の両手は栄養ドリンクと昼食でふさがれている

ただでさえ片手に物を持った状態で礼を取っても失礼に値するというのに

礼すらも取れないのはまずい、まずすぎる

 

と、シンの視界にマユの姿

 

…すまん、マユ

 

シンは両手の荷物をマユに押し付けた

マユは目を見開いて、ついといった感じで荷物を受け取ってしまう

 

シンは、マユの犠牲と引き換えに礼を取ることに成功したのだ

だが、後方から恨ましげな視線を感じる

後で謝ろうと決心しながらシンはハイネを見る

 

ハイネはこちらを見ながらくすくすと笑っていた

先程のやりとりを見ていたのだろうか

だとしたら、マユの犠牲は無駄になってしまう

 

…すまん、マユ

 

心の中でもう一度マユに謝罪する

お前の犠牲は、無駄になっちゃったよ…

 

 

「誰か、艦長の所に案内してくれないか?あ、君、頼める?」

 

 

ハイネは、誰かを見ながら問いかける

その視線を向けられたのは

 

 

「え?あ、はい」

 

 

シエルだった

シエルは機体の所に行こうとしていた足を、ハイネに向ける

 

 

「作業がある所、すまんね」

 

 

「いえ。艦長の所に案内します」

 

 

シエルとハイネは声を掛け合ってから格納庫を出て行く

 

シンは、その後姿を眺める

あの男は、フェイスだった

フェイスが、ミネルバに配属となった

 

心強い仲間が出来た

シンがそんなことを思いながら、昼食を取ろうと自室に戻ろうとすると

 

 

「お兄ちゃん?」

 

 

後方から可憐な、それでいて、ドスの効いた低い声が響いた

シンはびくりと動きを止める

 

この声は…

 

まずい

完全に怒ってる

 

相手の顔を見ずに、相手の心情を悟った

というより、ずっと一緒にいたのだ

そのくらいわかる

 

シンは、カクカクと、昔のロボットよりもひどい動きで振り返る

 

 

「ま…、マユ…」

 

 

そこには、何やらものすごいオーラを発しながらこちらを笑顔で見ているマユの姿が

笑ってはいるが、笑ってない

そんな表情のマユ

 

このマユは、恐ろしい

このマユは、両親よりも強かった

 

 

「お兄ちゃん…。荷物を下に置いてから礼を取るという考えは出てこなかったの…?」

 

 

「あぁ…、えと…」

 

 

出てこなかった

そう言えば済む簡単な話だ

 

だが、口に出せない

喉のところまで出てきているのに、外に出せない

目の前に鬼から発せられる気で竦んでしまい、自分の体を上手く動かせない

 

 

「今、何か失礼なことを考えたでしょ?」

 

 

「ア…アァ…」

 

 

発せられる気がさらに増大した

シンはこんなマユを知らない

今までもこのモードのマユは見たことがあるが、ここまでのマユは知らない

 

新しいマユを見て、シンは震えながら座り込む

何ということだ

自分はマユのことを知っていると思っていた

 

だが、それは間違いだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マユは、怒らせてはダメだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃぁああああああああああああ!!!!!」

 

 

ミネルバ中に、少年の悲鳴が鳴り響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タリアは、デュランダルがハイネを通して下した命令書に目を通していた

 

今、タリアは艦長室の椅子に座っていた

デスクの前にはハイネ、そしてシエルがいた

 

ハイネをこの場に送り届けたシエルは、立ち去ろうとしたのだが、ハイネがそれを止めたのだ

何でも、命令書にはシエルに関してのことも書かれているという

 

命令書を読みながら、タリアはデスクに置いてある二つの徽章を見る

そして、命令書に書かれている内容

 

 

「ともかく、一つ言わせてもらうわ。シエル」

 

 

「はい?」

 

 

タリアは、ハイネに色々と質問する前に、命令書に書かれていたシエルの処遇について話すことにする

シエルは、首を傾げながらタリアを見ている

 

 

「ここには、シエルをフェイスに昇進させろと書かれているわ」

 

 

「え?」

 

 

タリアはポンポンと命令書を叩きながら言う

シエルの目が大きく見開いた

 

シエルは、赤服ではあるもののフェイスではなかった

デュランダルが考えていることはよくわからない

 

だが、シエルは元々ザフトと敵対していた同盟軍にいた

シエルの力は、フェイスにしても何の遜色ない

だが、シエルのことをよく思わない人物もいるだろう

 

だからこそ、今なのだろう

タリアはそう予想した

 

そして

 

 

「…私までフェイスに?」

 

 

「そう聞いております」

 

 

タリアは、ハイネを見上げながら聞く

ハイネは頷く

 

自分をフェイスにするというのは間違いではないらしい

 

 

「一体なにを考えているのかしらね、議長は?」

 

 

探るような目でハイネを見る

ハイネは肩をすくめる

 

わかっているのか、そうでないのか

 

 

「それで、この命令内容は?あなた知ってる?」

 

 

「いえ。私には聞かされておりません」

 

 

ハイネはこの命令内容のことは知らないようだ

 

 

「ミネルバは出撃可能になり次第、ジブラルタルへと向かい、スエズ攻略を支援せよ」

 

 

「えぇ!?我々がですか!?」

 

 

アーサーが驚愕の声をあげる

 

シエルも、そしてハイネも目を見開いている

命令を知らないというのは本当のようだ

 

なぜ自分たちが行くのだろうか

直接宇宙から援軍を送った方が早い気がするのだが

 

 

「ユーラシア西側の紛争もあって、一番ごたごたしてるところね。確かにスエズ地球軍拠点はジブラルタルにとって問題だけど…、わざわざ私たちがここから行かされるようなものでもないと思うわ」

 

 

「ですよね…。この艦は地上艦ではないんですから…」

 

 

ユーラシア西側の紛争

常に大西洋連邦に言いなりにされている感じを受けるユーラシア

その一部地域かが分離独立を叫んで揉めだしたのだ

 

 

「我々の戦いはあくまでも、積極的自衛権の行使。そう言っている以上、下手に介入はできないでしょうけど…」

 

 

タリアはそこで言葉を切る

そして、アーサー、ハイネ、シエルと三人に視線を移していく

 

 

「私たちが行かなくてはならないのは、そういうところよ。覚えておいてね」

 

 

「「「はい」」」

 

 

三人は同時に返事を返す

そして、ハイネとシエルは退出しようとして…、シエルが振り返った

 

 

「あの、艦長…」

 

 

「ん?」

 

 

シエルはタリアに聞きたいことがあった

最近、オーブで起こったあのことを

 

 

「艦長は、何か知りませんか?オーブの代表が攫われた事件のことを…」

 

 

最初聞いたときは、それは驚いたものだ

何しろ、結婚するというのだ、あのカガリが

そしてこれを聞いたときにはさらに驚いた

 

結婚式中に、カガリが攫われた

 

一体、何が起こったというのか

シエルはわからない

 

 

「さあ…、私にもよくわからないわ」

 

 

タリアならば何か知っているのでは?と思ったシエルだったが、どうやらタリアも知らないらしい

 

 

「そうですか…」

 

 

シエルは、今度こそ退出しようとする

だが、次にタリアから発せられた言葉に、シエルは足を止める

 

 

「けど、オーブ政府は隠したがっているようだけど…。代表を攫ったのは、フリーダムとアークエンジェルという話よ」

 

 

「っ!?」

 

 

ぴたりと足を止める

そして、ばっと勢いよく振り返った

 

…キラが?

 

フリーダムを操縦したのはキラだろう

前大戦の時でもそうだったのだから

 

そして、アークエンジェル?

 

 

「何がどうなっているのか…。そこはわからないわ」

 

 

「…ありがとうございます」

 

 

シエルは頭を下げてから退出する

 

アークエンジェルが、カガリを攫った

彼らは、一体何をしようとしているのだろうか

 

もしかすれば、いや、十中八九セラもアークエンジェルに乗っているだろう

 

彼らの真意が、気になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「J.P.ジョーンズは〇九〇〇出航。第一戦闘配備。整備各班、戦闘ステータススタンバイ」

 

 

艦内中に放送がかかる

 

この艦の名は、J.P.ジョーンズ

地球軍所属、第八十一独立機動軍ファントムペインの母艦である

 

艦内は、慌ただしく移動する兵で一杯だ

そして艦橋では、大声で誰かと連絡を取っている仮面の男、ネオ・ロアノークがいた

 

 

「ふざけてんのはどっちさ。相手はボスゴロフ級とあのミネルバだぞ?」

 

 

電話の向こうの人物は、何もわかっていない

 

 

「あんた、オーブ沖の戦闘データ見てないのか?この戦力でも落とせるかわからないってのに」

 

 

ネオが今交渉しているのは、近くにある部隊に配備されているウィンダムについてだ

ネオは配備されいている三十機のウィンダムを全て貸せと要請、いや、命令している

だが、むこうは何を無茶なと拒否をしている

 

本当に何もわかっていない

あのミネルバの手ごわさを、何もわかっていない

 

向こうは、こちらの部隊は対カーペンタリアの前線基地を造るために配属された

その任務もままならぬまま自分たちにモビルスーツを渡すことなどできないと言っている

 

ネオは呆れ、思わずため息をつきそうになってしまう

 

 

「その基地も何も、全てはザフトを討つためのものだろう?ごちゃごちゃ言わずに、とっとと全機出せ!ここの防衛にはガイアを置いてってやるから。急げよ!」

 

 

そう言って、ネオは電話を切る

 

向こうは断れないはずだ

何しろ立場はこちらの方が上なのだから

 

ネオは電話から視線を、近くにいる兵へと移す

 

 

「エクステンド、カオス、ガイア、アビスは?」

 

 

「全機、発進準備完了です」

 

 

問われた兵が答える

これで、準備は整った

 

 

「よし。ジョーンズはこの場を動くなよ」

 

 

ネオは艦長に命じた後、モニターに視線を移す

 

どれだけ待ち焦がれたことか

 

この機会を、どれだけ…

 

 

「ようやく会えたな…」

 

 

ようやく会えた

宇宙での戦いでは、全てにおいて自分たちに苦汁を飲ませ続けてきた相手

 

本当に、待ちくたびれてしまった

 

 

「見つけたぜ?子猫ちゃん…」

 

 

モニターには、日差しに反射し、銀色に輝く戦艦が映し出されていた

 

その戦艦を見ていたネオの表情には、指揮官としての冷静な感情はなかった

それはまるで、飢えた獣

 

ネオは、艦橋から飛び出していった

 

 

 

 

「いいな…。ステラだけお留守番…」

 

 

しょぼんとしながらステラがつぶやく

 

 

「仕方ない。ガイアには飛行機能はもちろん、潜水機能もついていないからな」

 

 

スウェンがステラの頭をそっと撫でる

 

ステラが落ち込んでいた理由は、みんなと一緒に戦えないからである

みんなと一緒に、戦争ができない

自分だけ、仲間外れ

 

 

「俺も、ステラと出れないのは残念だがね」

 

 

「ネオっ!」

 

 

ある男の声がした途端、ステラの笑顔が一気に明るくなる

そして、ステラはその男の胸へと飛び込んでいく

 

男、ネオは笑みを浮かべながらステラの頭を撫でる

 

 

「だが、仕方ない。何もないだろうとは思うが、頼むな」

 

 

「…うん」

 

 

やっぱり、ステラはお留守番のようだ

だが、ネオに言われてしまっては仕方ない

ステラは黙って引き下がることにした

 

全員がそれぞれ機体に乗り込んでいく

 

 

「カオス、発進スタンバイ」

 

 

そして、発進許可が下された

 

 

「スティング・オークレー!カオス、発進する!」

 

 

「アウル・ニーダ!アビス、出るよ!」

 

 

カオスとアビスがハッチから飛び出す

カオスは空へと飛びあがり、アビスは海中へと潜っていく

 

 

「スウェン・カル・バヤン。エクステンド、出る」

 

 

エクステンドも、ハッチから発進していく

 

彼らを筆頭に、三十機のウィンダムが発進していく

そして最後に、ガイアがハッチから発進した

 

四歩足の形態に変形し、駆けていく

そして、基地が建てられる予定の地域の近くの崖で止まり、進行していく部隊を見守る

 

 

「…」

 

 

ステラは、じっと見守る

今、自分が出来ることはこれしかないのだから

 

 

 

 

 

 

 




次回は戦闘回です


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PHASE16 インド洋

昨日中に投稿するとか言っておいて…
申し訳ありません!

実は今日、数学の試験がありまして…


ということで、今回は戦闘回です!


ハイネがミネルバ配属となった直後、ミネルバに本部から指示が入った

早朝、ミネルバはボスゴロフ級潜水艦と共に出航した

向かう先は、ユーラシア西

 

だったのだが

 

 

「艦長!熱紋照合…、ウィンダムです!数三十!」

 

 

わずか数時間後だった

バートが敵襲を報告する

 

 

「三十!?」

 

 

思わずタリアは聞き返した

三十という数

 

これは、偶然あった戦力をつぎ込んでいるわけではない

待ちかまえ、万全の形で攻めてきているということだ

 

 

「うち二機はカオス、エクステンドです!」

 

 

「っ!あの部隊だというの!?」

 

 

カオス、アーモリーワンから強奪された機体

そして、エクステンド

これらが表すことは、今自分たちを襲ってきている部隊は、宙で追い続けてきたあの部隊だということだ

 

しかし、まさか地上に降りてきているとは

自分たちを追ってだろうか?

 

 

「一体どこから…。付近に母艦は?」

 

 

「ありません」

 

 

近くに母艦の反応はない

あれだけの数なのだから、母艦もかなりの規模のはずなのだが

 

 

「またミラージュコロイドか…?」

 

 

アーサーが親指を顎に当てながらつぶやく

だが、それをタリアは一蹴する

 

 

「海上ではありえないわ」

 

 

ミラージュコロイドは、地上だとその作用時間は短い

さらに、艦の航跡や機関音まではカモフラージュしてくれないのだ

 

 

「…あれこれ言ってる暇はないわね。艦橋遮蔽!対モビルスーツ戦闘用意!ニーラゴンゴとの回線固定!」

 

 

タリアの指示と共に、警報が響く

 

タリアは沈んでいく艦橋を感じながら思考する

どうやらこの艦は、あのオーブ沖の戦闘ですっかり地球軍に認知されてしまったらしい

それも悪い意味でだ

 

その認知されてしまった艦を、なぜデュランダルはすぐさま出航させたのだろうか

フェイスという巨大な戦力、そして、大戦の英雄を乗せて

 

 

「艦長、地球軍ですか?」

 

 

タリアが思考していると、モニターに映像が映し出された

モニターには、つい昨日配属されたハイネの顔が映し出されている

 

 

「ええ。どうやらまた待ち伏せされていたようだわ。毎度毎度、人気者は辛いわね」

 

 

皮肉を含めたタリアの言葉に、ハイネは軽い苦笑い

 

 

「すでに回避は不可能よ。これより本艦は戦闘を開始するけど、あなたは?」

 

 

タリアはハイネに問いかける

 

 

「私には、あなたへの命令権はないわ」

 

 

同じフェイス同士

それは、シエルも同じなのだが、シエルは通信をつなげてこない

彼女はどう考えているのだろうか

 

 

「私は、出撃します」

 

 

と、そこで第三者の声が割り込んだ

画面いっぱいに映し出されたハイネの顔

画面の半分側に、シエルの顔が映し出された

 

 

「割り込んでしまいすみません。ですが、この戦闘は不可避と私は考えます」

 

 

シエルはそう考えているようだ

そして、それはもう一人のフェイスも同じで

 

 

「自分も同じ考えです。この場面で、この戦闘を回避することは不可能でしょう」

 

 

ハイネもそう言う

ならば

 

 

「シエルに、発進後のモビルスーツの指揮をお任せしたいわ。いい?」

 

 

タリアはシエルに任せることにした

ハイネに頼んでも良かったのだろうが、やはりここは今まで馴染んできた人が指揮する方がスムーズにいくだろう

タリアはそう考えた

 

 

「わかりました」

 

 

「了解」

 

 

シエルとハイネはそう言い、通信を切った

 

彼らがいる

そこに、ハイネも加わった

 

とても心強い

 

オーブ沖の戦いに続き、厳しい戦いになるであろうにも関わらず、タリアはそこまで緊張をしなかった

 

 

 

 

 

 

 

「艦長は指揮を私に任されたけど、いざという時にはお願い」

 

 

「りょぉかぁい!」

 

 

シエルは通信でハイネに頼む

ハイネは笑顔を浮かべながら了承の返答を返す

 

シエルはつい笑顔になってしまう

戦闘前にここまで明るい人がいると、なにか暖かい気持ちが湧いてくる

 

昨日は混乱してばかりだった

カガリが攫われたのを知り、そして攫った犯人がかつての戦友、フリーダムとアークエンジェルだと知り

 

安定とは言い難い精神状態の時に、ハイネの存在とてもありがたい

 

 

「シン・アスカ!コアスプレンダー、行きます!」

 

 

シンが発進した

そこから続いて、レイ、ルナマリアと発進していく

 

 

「ハイネ・ヴェステンフルス!グフ、行くぜ!」

 

 

ハイネが発進した

ハイネの機体は、ZGMF-X2000グフ・イグナイテッド

ザクの発展機で、大気圏内でも飛行できるという代物だ

 

そして、シエルに発進する番が来た

 

 

「シエル・ルティウス!ヴァルキリー、行きます!」

 

 

ハッチから灰色の機体が飛び上がる

PS装甲を展開し、その装甲に色が灯る

 

隊形はオーブ沖の時と同じだ

レイとルナマリアが艦のまわりのモビルスーツを迎撃

そして、シエルとシンが前に出る

今回はそこに、ハイネが加わる

 

前に出る機体が三機となる

 

 

「…来た」

 

 

シンがつぶやいた

前方に、こちらに向かってくるウィンダムの大群が見えてきた

 

 

「あぁ?なんだありゃぁ?」

 

 

一方の地球軍側も、こちらに向かってくる三機の姿を捉えていた

そのうちの一機を見て、スティングが素っ頓狂な声を出す

 

三機の内の、オレンジ色の機体

ザクに似ているようだが、細部が違う

あんな機体は見たことがなかった

 

 

「また新型かぁ?やれやれ、ザフトはすごいねぇ…」

 

 

どこか呆れたようにネオがつぶやいた

ザフトの技術力はすごい

そんなこと、周知の事実なのだ

特に驚くようなことはない

 

 

「ふん!あんなもの…」

 

 

スティングが、たった一機突っ込んでいった

その先は、オレンジ色の新型の機体

 

 

「おいおい…。はぁ、仕方ない。俺はあっちの機体をやる。スウェンはヴァルキリーを」

 

 

「了解」

 

 

ネオは、自分がインパルスと戦う旨を伝える

そしてスウェンにヴァルキリーと交戦するように指示を出す

 

はっきり言って、これは当然の指示だ

自分では機体性能が重すぎるし、言いたくはないがスティングでは荷が重すぎる

それはアウルやステラでも同じこと

 

だから、宇宙でもしっかり戦えたスウェンが一番適任なのだ

 

ネオがインパルスへと向かい、スウェンがヴァルキリーへと向かっていく

 

それは、シエルたち三人も気づいて

 

 

「来るよ!迎撃はしっかりしてるけど、なるべくウィンダムを通さないようにして!」

 

 

「「了解!」」

 

 

こちらに向かってくる三機を見据えながら、シエルは二人に指示を出す

 

三機の進行方向を見る限り、カオスはハイネ、ウィンダムはシン、そしてエクステンドは自分狙いだろうか

ここは相手の思惑通りに戦ってもいいだろう

 

どうせこの戦いで先手を取ることなど不可能なのだから

 

エクステンドが対艦刀を振るってくる

シエルは腰のビームサーベルを抜き、その斬撃を迎え撃つ

 

互いの剣がぶつかり、モニターに火花が散るのが映る

 

 

「シエル!」

 

 

シンが、シエルを援護しようとヴァルキリーに近づこうとする

だが、そのインパルスに大量のウィンダムが集ってくる

 

 

「援護には行かせないよ、ザフトのエース君!」

 

 

ネオも、インパルスへと向かっていく

 

シンは、シエルの援護に行けないことにいらだつ

 

 

「くそっ!数ばかりごちゃごちゃと!」

 

 

シンは上下左右にいるウィンダムに対し、ライフルを連射する

その一射一射は、たまに外れることがあるものの、それでもしっかりとウィンダムを撃ち抜いていく

 

 

 

 

「そぉら!見せて見ろよ、その力をよぉ!」

 

 

カオスが、グフへと向かっていく

今のカオスの形態は、モビルアーマー形態である

 

兵装ポッドのビーム砲を放つ

 

ハイネは放たれたビームをかわし、手首のビームガンを連射する

連射されたビームガンを、スティングは回避してから、モビルスーツ形態へとカオスを変形させる

 

そして、ビームライフルでグフを狙い撃つが

 

 

「ちぃっ!こいつ!」

 

 

グフに当たらない

ハイネは海面ぎりぎりの所を飛行して放たれるビームをかわしていく

 

そして、ビームが止んだところでハイネはビームソードを展開し、カオスへと斬りかかる

スティングも、グフが斬りかかってくるのに反応し、ビームサーベルで迎え撃つ

 

一度、剣をぶつけ合いながらすれ違い、そしてもう一度斬り合うと、今度は鍔迫り合い

 

互いに、同じことを思う

 

こいつは、強い

 

互いが離れる

ハイネはビームウィップを取り、カオスへと向かっていく

スティングは再びその手にライフルを取る

 

二人の戦いは、熾烈を極めていく

 

 

 

 

シンは、ウィンダムを撃ち抜いていた

だが、そこに邪魔が入る

 

一機のウィンダムがインパルスにライフルを放つ

シンはそビームをかわし、逆にライフルを撃ち返すが

 

 

「っ!?こいつ、速い!」

 

 

そのウィンダムは、他のウィンダムと動きが違った

ウィンダムは放たれたビームを、他のウィンダムとは比べ物にならない鋭い動きでかわす

 

そして、今度はビームサーベルをとり、インパルスへと向かっていく

 

シンも、背中に差してあるビームサーベルを抜いて斬りかかる

一度、二度と斬りかかりながらすれ違う二機

 

ウィンダムのパイロット、ネオはインパルスと鍔迫り合いという選択はしなかった

こちらの機体も最新鋭の機体ではあるが、それでもガンダムには敵わない

鍔迫り合いなどすれば、パワーで押し切られてしまう

 

インパルスとの戦いは、長期戦へと持ち込む

これがネオが取る作戦だ

 

長期戦へと持ち込めば相手のバッテリー切れも狙える

オーブ沖の戦いでは、そこで信じられないような動きを披露し、母艦からエネルギーを補給していたが、その前に撃てばいい話

 

 

「っ、くそっ!」

 

 

二機のウィンダムが、背後からライフルを撃ってくる

シンにとっては、目の前の強敵に集中したいのだが、そうはさせてくれないまわりの機体

 

シンは一度ネオのウィンダムから注意を反らし、背後から撃ってきた二機のウィンダムにビームを放つ

放たれたビームは、二機のウィンダムを撃ち抜き、ウィンダムは爆散していく

 

ネオは、インパルスが自分から注意を反らしたところを見逃さない

インパルスの後方からライフルのトリガーを引く

 

シンは鳴り響くアラートに反応し、機体を横にずらす

先程までいた場所を、ビームが横切る

 

ビームをかわせたことにほっとする暇を、ネオは与えない

シンの死角からサーベルで斬りかかる

 

 

「くっ!」

 

 

シンは何とかシールドを割り込ませ、ウィンダムのサーベルを防ぐ

そして、背中のサーベルを抜き放って反撃する

 

だが、ネオは後退してインパルスの斬撃を回避

そして攻撃直後を狙って、多数のウィンダムがインパルスへと襲い掛かっていく

 

多対一

シンは苦しい戦いを強いられていた

 

 

 

 

互いにライフルを撃ち合い、回避する

スウェンは、ライフルを撃ちながらヴァルキリーへと向かっていく

シエルはエクステンドから距離を保ちながら後退し、腰のサーベルを抜く

 

エクステンドから放たれるビームをシールドで防ぎながら、エクステンドに向かっていく

そして、サーベルを振り下ろす

 

だが、スウェンの反応も早かった

スウェンはライフルをしまい、対艦刀を抜く

そして、振り下ろされるサーベルを迎え撃つ

 

そこでシエルは、エクステンドの肩の方向がこちらを捉えているのを見た

シエルはすぐさま後退し、機体を横にずらす

 

先程まで自分がいた場所を、巨大な砲撃が横切っていく

 

 

「ちっ」

 

 

スウェンは軽く舌打ちする

これで殺れるとは思っていなかったが、それでも何らかの損傷は与えたかった

 

だが、相手はしっかりと回避しきった

やはり、奴は手ごわい

さすがはヤキンの英雄と言うべきだろう

 

 

「ふぅ…」

 

 

シエルは一度息をつく

今のは肝が冷えた

 

もし、あの肩部分を見逃していたら、自分はこの世にいなかった

それにしても、相手は一体何者なのだろうか

 

あの機体、エクステンドといっただろうか、あの機体はヴァルキリーにも負けない性能を誇っている

それを思うがままに操っている

 

そこで、いつか聞いた話を思い出す

地球軍が、コーディネーターに負けない強化人間を作り出している…

 

 

「っ!」

 

 

シエルは機体を後退させる

そして、サーベルを振り切った

 

サーベルは、エクステンドが振り下ろした対艦刀とぶつかり合う

 

危なかった

何をしているのか、戦闘中にぼうっとするなど

 

今のは本当に運が良かった

 

シエルは改めて気を引き締める

ここで自分が落ちたら、ミネルバの負けは確定してしまう

それだけは防ぐ

 

シエルは力比べを止めて後退する

そして、ライフルをエクステンドへと向けた

 

 

 

 

 

 

 

「ランチャーワン、ランチャーツー、てぇっ!」

 

 

アーサーの指示と共に、ミネルバの火器が火を噴く

 

タリアは頭の中で戦況を整理する

 

インパルスはウィンダムに包囲されて身動きが取れない

グフ、ヴァルキリーは、カオス、エクステンドとそれぞれ交戦していて身動きが取れない

 

上空のウィンダムが、ミネルバに向けてライフルを向ける

そのうちの一機を、セイバーがサーベルで切り裂く

 

もう一機は、ルナマリアがオルトロスを放つ

当たらなかったが、そこでウィンダムは動きを止めてしまった

そこを、レイがライフルで撃ち抜いた

 

セイバーとザクはウィンダムの迎撃で一杯一杯

 

 

「そんなことはわかっている。だが、こちらのセンサーでも潜水艦はおろか、海上艦の反応もないんだぞ」

 

 

モニターに映し出される、ボスゴロフ級の艦長が言った

 

その言葉通り、ミネルバのセンサーも何の反応も示していない

だが

 

 

「では、彼らはどこから来たというのです?付近に基地があるとでも?」

 

 

あれほどの大群、一体どこから来たのだろうか

間違いなく、近くに母艦か基地があるはずだ

 

 

「はっ!こんなカーペンタリアの鼻っ先にか!そんな情報などないぞ?」

 

 

バカにするように艦長が言い放つ

 

何を言っているのだろうか

たとえ情報がなくとも、必ずしもそうでないとは言い切れないだろう

 

それに、鼻っ先だからこそ基地を建設する理由があるというのに

 

と、むこうの艦橋が慌ただしくなった

何かの反応をつかんだのだろうか

 

 

「艦長!海中からモビルスーツ接近!これは…、アビスです!」

 

 

タリアは悔やんだ

なぜ、このことを忘れていたのだろう

 

アビスは元々水中専用に作り出されたモビルスーツだ

この作戦をむこうが取ることは当たり前のことではないか

 

 

「レイとルナに水中戦の準備をさせて!完了次第発進!」

 

 

タリアは一瞬だけ悩んだ後すぐに決断を下す

 

セイバーはもちろん、ザクも水中戦には向いていない

さらにセイバーは水中に入ってしまうと、使える火器が機関砲しかなくなってしまう

 

だから

 

 

「インパルスのソードシルエット、それをセイバーに使わせなさい!」

 

 

タリアはそう指示した

 

ソードシルエットのエクスカリバー

あの剣のビームを切れば、実体剣として使える

これならばまだましに戦えるだろう

 

ボスゴロフ級からグーン三機が発進していく

この三機で抑えてくれるのが一番いいのだが

 

 

 

 

 

 

 

ボスゴロフ級から何かが射出された

アウルはモニターに目を向ける

 

射出されたのはグーン三機のようだ

アウルはため息をついた

 

 

「なんだ、小物かよ」

 

 

どうせならばゾノ位を倒したかった

この程度の敵を倒しても楽しくもなんともない

 

アビスに向けてグーンから魚雷が発射される

アウルは、機体の軌道を一気に曲げる

魚雷を回避すると、アウルはグーンの一機に向けて加速

 

ランスを振るった

グーンは一刀両断にされる

 

残った二機は、動揺したのかたじろいだ

 

まったくアビスの動きに反応できなかったのだ

いつの間にか一機グーンが落とされている状況

何が起こったかすらわかっていなかったのだ

 

相手の動揺を読み取ったアウルは、一気にたたみかける

 

シールドから誘導魚雷を放ち、牽制を入れる

グーンは当然魚雷を回避する

が、アウルはグーンの動きを読んでいた

 

魚雷を放った直後、アウルはグーンに接近していた

二機のうちの一機のグーンに向かっていく

 

 

「そぉら!」

 

 

再びランスを振るう

グーンは何もできずに真っ二つになる

 

アウルはそこで手を休めない

残ったグーンが放つ魚雷を回避すると、こちらも魚雷を放つ

 

アビスが放った魚雷を必死にグーンが回避していくが、それもむなしく魚雷に命中してしまい、爆散

 

 

「へへっ」

 

 

アウルは得意げに笑う

再びミネルバの方向へ機体を向ける

 

そこに、二機の赤い機体が海に潜ってきた

あの二機は、見覚えのある

 

宙で三度自分たちと戦い、そして落とせなかった相手

 

片方の赤い機体、ザクがバズーカを構えて撃つ

そして、もう片方、セイバーがビームを切ったエクスカリバーを構えて向かってくる

 

 

「はっ!そんなのでこの僕とやろうっての!?」

 

 

アウルは相手の二機をあざ笑う

 

ザクが放った砲弾を掻い潜り、接近してくるセイバーに向かっていく

セイバーはエクスカリバーで斬りかかる

アウルはランスで大剣を迎え撃つ

 

 

「なめんなよ、こらぁあああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

シエルはエクステンドが振るう対艦刀を捌いていく

距離を取り、エクステンドの動きに注意しながらライフルを連射

 

そこで、シエルはミネルバに通信を入れた

 

海中で何らかの爆発が起こったのである

ミネルバに水中用のモビルスーツはない

ボスゴロフ級からグーンが発進したという報告もない

 

間違いなく、地球軍側からのアクションがあったのだ

 

 

「ミネルバ、何があった!」

 

 

「アビスです!ニーラゴンゴのグーンと戦闘中!」

 

 

ここで、シエルもタリアと同じように後悔した

なぜアビスのことを失念していたのか

 

カオスとエクステンドがいる時点で、水中用MSであるアビスがとってくる作戦など容易に読めるというのに

 

 

「でも一機よ!レイとルナで対応します!」

 

 

レイとルナマリアで対応する

だが、水中ではあまりに不利ではないか

 

シエルは二人のことで心配になる

 

 

「よそ見とは余裕だな」

 

 

シエルが注意を周囲に向けていたところを、スウェンが襲う

スウェンは肩、両腰の四つの砲門を構え、放つ

 

四本の砲撃がヴァルキリーを襲う

シエルはアラートにすぐに反応し、機体を横にずらす

 

砲撃を回避したシエルだが、それでも機体の体制が不安定になってしまった

そこを、スウェンは見逃さない

 

スウェンは対艦刀を構え、ヴァルキリーに斬りかかる

シエルはシールドを構え、何とか防ぐも、さらに機体の体制は崩れていく

 

スウェンは、肩の砲門を開放する

ヴァルキリーをロックして、トリガーを引いた

 

シエルは、こちらに向かってくる砲撃に反応する

そこでシエルはSEEDを解放した

 

シエルは、己にかかるGを無視して機体を捻らせる

それと同時に、全開でスラスターを吹かせた

 

機体に砲撃が命中するギリギリのところで、回避に成功

シエルは何とか体制を立て直す

 

 

「…これでもダメなのか」

 

 

スウェンは、ぼそりとつぶやく

 

あの機体のことは聞いていた

ヤキンの英雄

 

だからこそなのか、こちらが決めたと思った攻撃も全て対処してくる

 

そして、こちらが何度も何度もひやりとする攻撃もまた、何度もしてくる

 

これが、ヤキンの英雄の力

 

シエルは、ライフルを連射しながらエクステンドへと向かっていく

スウェンは放たれるビームを回避する

 

シエルは腰のサーベルを抜いて斬りかかる

スウェンも対艦刀で迎え撃つ

 

はずだった

 

シエルは、サーベルが対艦刀とぶつかるその直前、太刀筋をわずかにずらした

対艦刀も振るわれるが、SEEDを解放したシエルは、その太刀筋に反応し、対艦刀をかわす

 

そして、シエルが振るったサーベルは

 

 

「っ!?」

 

 

エクステンドの左腕を斬りおとした

 

 

 

 

 

 

 

 

シンは、インパルスの斜め下に移動したウィンダムにライフルを向け、引き金を引く

ビームに貫かれたウィンダムは炎を上げ、そして爆散する

 

さらにシンは顔部分の機関砲を連射する

機関砲はウィンダムを捉える

 

コックピットを貫かれ爆散するウィンダム

 

これで、何機ウィンダムを落としただろうか

十機ほど落としたのは間違いない

襲ってくるウィンダムの勢いも衰えてきている

 

ミネルバの方にもウィンダムは向かっているのだ

 

 

「こいつを…、こいつさえ落とせば!」

 

 

シンは、先程からやけに鋭い動きを見せるウィンダムを睨む

技量からしても、明らかに指揮官レベルだろう

この機体を落とせば、一気に戦闘がこちらに有利になるのは明らかだった

 

シンは執拗にそのウィンダムを追う

 

 

「シン、出すぎだぞ!」

 

 

そこに、通信を通してハイネがシンに声をかけてくる

その声で我に返り、まわりを見渡す

 

いつの間にか、かなりミネルバから離れ、陸が近づいてきていた

 

だが、ここで引きたくない

 

 

「大丈夫です!このまま行きます!」

 

 

シンはハイネにそう返し、ウィンダムと戦闘を再開する

シンがトリガーを引こうとしたその時、視界の端で何かが動いた

 

黒い、機体

 

 

「ガイアか!?」

 

 

横合いから飛び出してくる機体、ガイア

シンは反応が遅れる

ガイアの突進を抵抗できずに受けてしまう

 

インパルスはバランスを崩し、海へと落ちていく

 

陸地から近く、浅瀬に落ちたため、機体が沈んでいくということはなかった

だが、ものすごい衝撃がシンを襲う

 

 

「シンっ!」

 

 

ハイネの声が響く

明らかに自分のことを気遣っている声質

 

シンは気づいていなかった

インパルスに迫っているウィンダムに

 

ハイネはカオスに追われながらも、必死に回避し、そしてビームガンを発射する

 

 

「ちっ!」

 

 

ネオは、もう少しでインパルスを落とせるというところを邪魔されたことに舌打ちをする

 

やはり一筋縄ではいかない

ネオは機体をグフへと向けた

 

シンはここで助けられたのだと自覚する

さらに、自分の後ろにガイアがいる

こちらに向かってきていた

 

四本足で駆けてくるガイア

ガイアは跳ね、こちらに向かってくる

 

シンはすぐさま振り返り、そしてガイアを蹴り飛ばした

 

 

「あぁあああああ!!」

 

 

ステラは悲鳴を上げながらも、機体の体制を整える

そして、インパルスとガイアは対峙する

 

ガイアは変形し、二本足のMS形態となる

 

二機は、ビームサーベルを構え、タイミングを計る

 

 

「シン、下がって!乗せられてる!」

 

 

今度はシエルから通信が届く

 

 

「大丈夫、やれる!」

 

 

シンはシエルにそう返す

 

ここで引けない

負けたくない

 

シンは、ガイアに向かって駆けていく

ガイアもまた、インパルスに向かって駆けていく

 

二機は、サーベルを交あわせる

 

ガイアはバーニアを吹かせ、後退する

シンはそれを追って、サーベルを横薙ぎに振るう

 

だが、サーベルは空を切る

 

二機は少しずつ位置がずれていき、そして陸地にまで移動していた

一振り一振りが、まわりにある木を切り倒していく

 

 

「!?なんだ!」

 

 

そこで、シンは横側から衝撃を受けていることに気づく

シンはモニターを横側に向ける

そこには

 

 

「え…?」

 

 

シンは、唖然とする

そこには、こちらに向かれている砲台が、戦車があった

 

シンは、こちらを襲ってくるガイアをいなしながら、そちらの方向を観察する

すると、さらにその向こう側に建物があるのに気づく

さらにアスファルトで作られた道路、滑走路のようだ

格納庫や兵営らしきものまで

 

 

「基地、か?こんなところに!?」

 

 

驚愕するシン

カーペンタリアの目と鼻の先に、こんな基地があるとは

 

カーペンタリアは知っているのだろうか

 

知るはずがない

知っていたら、こんな所にある基地を放っておくわけがないのだ

 

さらにシンは、その視界にあるフェンスを捉える

そのフェンスの向こう側には、武装もしていない、ぼろぼろの衣服を着た人たちの姿

 

 

「まさか、ここの民間人たちを!?」

 

 

この基地を建設しているのは、民間人の男たちだったのだ

地球軍の兵は、民間人を奴隷のように扱っている

 

シンのこの考えは当たっていた

 

フェンスの抜け目から逃げ出そうとした男を、地球軍の兵が撃ち殺した

 

 

「っ!」

 

 

シンは息を呑む

なぜ、そんなことを平然とできるのだろうか

 

もう、我慢ができなかった

 

 

 

 

 

 

「スティング、まわりこめ!」

 

 

ネオがスティングに指示を出す

スティングは指示の通りに、機体をグフの下に潜り込ませる

 

ネオは上からライフルを撃つ

 

ハイネはウィンダムから放たれるビームを回避する

そして、下からカオスがライフルを撃つ

 

だがそれも、ハイネはシールドで防ぐ

 

 

「くそっ!シエル、そっちはどうだ!?」

 

 

ハイネはだんだんと自分が不利になっているのを感じ、シエルに助けを求める

 

 

 

「まだ交戦中です!」

 

 

シエルは、むこうの機体と未だ交戦しているようだ

シンも、前に出すぎて、位置がわからなくなってしまった

 

ガイアと交戦しているのは間違いないのだが

 

ハイネはこうしている間にも、こちらに向けられるビームを回避していく

これでは、反撃する暇がない

 

だが

 

 

「…限界か、場所が悪かったか」

 

 

ネオは、引き際を見極めた

ウィンダムの数がかなり少なくなってきていた

 

先程までのインパルスの奮闘

そして、ミネルバの奮闘

これらによって、かなりの数のウィンダムが落とされてしまった

 

このままでは、こちらが全滅するのもあり得てきてしまう

 

 

「仕方ない。ジョーンズ、撤退するぞ!合流準備!」

 

 

ネオは決断を下した

ジョーンズから領海を示す通信が返ってくる

 

 

「アウル、スティング、ステラ、撤退だ!離脱しろ!」

 

 

次に、パイロットの三人に指示を出す

ステラとスティングは了承したのだが

 

 

「ええ!?何でさ!」

 

 

アウルが渋った

 

海上の戦いと違い、海中の戦いは面白いように優位に進められていたのだ

アウルが渋るのも仕方がないのだが

 

 

「借りた連中が全滅だ。拠点予定地まで入られてるしな」

 

 

先程、最後のウィンダムが落とされた

そして、インパルスが基地の建設予定地に入り込んでしまっている

 

これでは、撤退せざるを得ない

 

 

「なぁにやってんだ!このボケ!」

 

 

アウルが不満を隠さずに罵る

 

 

「言うなよ。お前だって、大物は落としてないだろ?」

 

 

「…なら、やってやるさ!」

 

 

ネオに言われると、アウルはセイバーとザクを無視してボスゴロフ級に向かっていった

アビスの動きに、ボスゴロフ級は反応できない

 

そして、そのままボスゴロフ級に向けて魚雷を放った

 

放たれた魚雷は、見事ボスゴロフ級に命中

さらに、シールド後方の連装を放つ

 

ボスゴロフ級は、爆散していった

 

 

「あっはははははは!!」

 

 

アウルは笑いながら撤退していく

水中では、ザクも、もちろんセイバーも追いつけない

 

レイとルナマリアは、何もできずに撤退していくアビスを見送ることしかできなかった

 

 

 

 

 

シエルとハイネは、地球軍が撤退していくのを見た

追撃の命令は出ていないため、シエルとハイネは相手を追わない

 

 

「…シン?」

 

 

そこで、シエルはインパルスの反応を捉えた

インパルスは陸地でゆっくりと移動していた

 

一体何をやっているのだろうか

 

ハイネも、インパルスの反応を捉えた

 

だが、シンが戻ってこない

シエルとハイネは、シンに撤退だということを報せるために、インパルスに接近していく

 

 

「…え」

 

 

「あいつ…」

 

 

そこで、二人は見た

 

インパルスは、恐らく地球軍基地だろう

建設途中であるその基地を破壊して回っていたのだ

 

 

「シン、何してるの!?」

 

 

「やめろ!相手にはもう戦闘力はない!すぐに撤退するんだ!」

 

 

 

 

やめろ?

 

シンは一瞬唖然とした

二人は、やめろと言いたいのだろうか

 

どうして、なぜ

 

彼らを助けたい

無力な彼らを、良いように使われる彼らを助けようとして、何が悪いというのだろうか

 

シンは、最後の建物に機関砲を命中させ爆発させる

そして、機体を振り返らせた

 

シンは機体をゆっくりと進め、あのフェンスがあった場所に止めた

 

民間人の人たちは、こちらを見上げて怯えた表情をしている

 

シンはゆっくりと手を降ろし、フェンスをつかんだ

そして、フェンスを引き抜く

 

民間人たちは、呆然としている

そして、自分たちを隔てる壁がなくなったことを理解すると、彼らは抱き合って喜ぶ

涙を流しているものもいる

 

シンはその光景を見て笑みを零す

 

心に温かい思いを抱きながら、ミネルバへと戻っていった

 

 

 

 

 

 

 

ぱぁん

 

格納庫に、何かを張る音が鳴り響いた

スタッフ、そしてパイロットが何事かと音が鳴り響いた方に視線を向ける

 

そこには、頬を赤く腫らし、呆然としているシンと、腕を振り抜いた体制でシンを睨みつけるシエルがいた

 

シンは、はたかれた衝撃でずれた視線を、ゆっくりとシエルに向ける

 

 

「な…んで…?」

 

 

わからない

なぜ、シエルに殴られたのだろうか

 

 

「…戦争は、ヒーローごっこじゃない」

 

 

聞いたことのない、低く冷たい声

シンは、びくりと体を震わせた

 

 

「シンは、力を持ってる。その力がどんなものなのか、自覚して」

 

 

シエルはそう言い残すと、もう何も言わずに立ち去った

 

シンは、わからない

シエルが言っているのは、あの撤退直前の救出行動だということだけは理解できる

だが、なぜ自分は褒められるのではなく、叱責されなくてはならないのか

 

 

「わからねえって顔してるな」

 

 

すると、そんなシンに、ハイネが声をかけた

シンはハイネに視線を向ける

 

 

「ま、ゆっくりと考えてみろや。それだけの力を持ってるんだ。その力のことを考える時間も、無駄じゃぁないと思うぜ?」

 

 

ハイネは慰めるようにシンの肩をぽんと叩くと、そのまま格納庫から立ち去っていく

 

…わからない

 

だが、これだけはわかる

 

自分は、何かを間違えているのだということは

 

 

「お兄ちゃん…」

 

 

マユがこちらを心配げに見ている

シンは、何とか笑顔を作りマユに向ける

 

だが、無理していることがバレバレなのだろう

さらにマユは表情を歪ませてしまう

 

これではだめだ

気持ちを整理しよう

 

シンもまた、格納庫を出る

 

シエルとハイネの言葉は、確かに少年の胸に刻まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作のアスランの時と違い、シンは言葉を刻み、考えることを決意しました

シンにとってのシエルは、尊敬している人
アスランとは違うのです

そして、ハイネもまた、交流は少ないものの普通の上司よりも断然慕っています
ハイネって良い空気纏ってますもんねww


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PHASE17 対話

お久しぶりです
およそ…二か月ぶりですね
どうも手が止まってしまって…
違う方の作品を更新してました

では、17話目、どうぞ!


<このデモによる死傷者の数は、すでに千人に…>

 

 

<この声明に対し、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダル氏は…>

 

 

<ユーラシア西側地域では、依然激しい戦闘が続いており…>

 

 

アークエンジェル艦橋内

そこに、セラたちは集まっていた

 

アークエンジェルは今、スカンジナビア王国の海中にその身を潜めていた

 

艦橋のモニターには、世界各国のニュースが流れている

だが、良いニュースはまったく流れていない

 

流れる情報は、戦争に関すること

何処かの地域でデモが起こった、紛争が起こった

 

 

「毎日毎日…。気の滅入るニュースばかりだねぇ…」

 

 

モニターから目を逸らし、カップから口を離してバルトフェルドは言った

バルトフェルドの言う通りだ

 

流れるニュースは気分が沈むものばかり

 

 

「もっと気分が明るくなるニュースは流れないのかしら」

 

 

アイシャが、バルトフェルドに賛同してぼやく

 

 

「水族館でシロイルカの赤ちゃんが生まれた…とか?」

 

 

そんなアイシャに、悪戯っぽい笑みを浮かべながらマリューが言う

 

 

「そう!そんなニュース流れたらいいのよ!」

 

 

まあ、そのニュースは確かに気分が和むとは思うが…

 

 

「しかし、流れるのは連合の混乱の情報ばかりだな」

 

 

そんな時、カガリが口を開いた

カガリの言う通り、流れるニュースは連合の混乱のことばかり

 

たまに、デュランダルの声明を流したりはするのだが、それだって全ての言葉を流しているわけではない

 

 

「…プラントの対応を、民衆に知られたくない」

 

 

「え?」

 

 

カガリが、聞こえてきた声の方に振り返る

そこには、立ちながたカップに口をつけているセラがいた

 

セラはカップを口から離し、もう一度口を開く

 

 

「プラントは、あくまで対話での解決を目指している。そのことを、民衆に知られたくないんじゃないか?連合は」

 

 

そう言ってから、セラは再びカップを口に着ける

 

 

「確かにな…。それは考えられるな…」

 

 

「そうですね」

 

 

セラの言葉にバルトフェルド、キラが賛同する

そして、キラの傍らで座っているラクスが沈んだ表情を浮かべながら俯く

 

 

「それは…どうして?」

 

 

だが、セラの言葉の理由がわからないマリューが、問いかける

そして、それはカガリとアイシャも同じ

 

首を傾げている

 

 

「連合は、戦争を続けたいんだよ。今度こそ、プラントを確実に滅ぼすためにな」

 

 

三人が目を見開く

 

しかし、確かにそう考えると合点がいく

 

民衆は今、傾き始めている

ユニウスセブン落下事件を介し、民衆はプラントに憎しみを向けた

 

だが、今はどうか

地球軍の強制ともいえる徴兵

高まる民衆の不満

 

そして、プラント、ザフトの対応

 

 

「ここで、デュランダル議長の言葉なんて聞かせたら…。戦争どころじゃなくなるだろうな」

 

 

民衆の怒りは、爆発するだろう

そして、ナチュラルの民衆を、デュランダルは間違いなく受け入れる

 

民衆がどちらを選ぶかなんて、火を見るより明らかだ

 

 

「しかし、プラントも、こんな調子ですわ」

 

 

ラクスが一言そう言うと、モニターの一画面が切り替わった

その画面には

 

 

<勇敢なるザフト兵士のみなさぁーん!平和のため、わたくしもがんばりまぁーす!みなさんも、お気をつけてぇー!>

 

 

偽物のラクスが、コンサート会場で踊っていた

 

ラクスが絶対に着ないであろう、だが、着たら色気たっぷりになるだろう服

そして、間違いなくラクスより大きい体の一部

 

セラたちがこのことを知ったのは、オーブを出てからだ

ラクス暗殺の件を調べるために、プラントのニュースや番組を見ていたら…

偽ラクスのコンサート中継がやっていたのだ

 

 

「みなさん、元気で楽しそうですわ」

 

 

セラは、恐る恐るラクスを見る

そして、悟る

 

怒ってる

ラクスは、怒ってる

 

隣にいるチャンドラが震えている

 

だが、ごめんなさい

俺も怖くて、そちらに行けません

 

心の中で謝罪するセラ

 

 

「これ。放っておいていいのか?」

 

 

カガリが言う

その後、呆れた表情でモニターの中のラクスに目を向ける

 

 

「…仕方なかろう。今はまだ、何もできないんだ」

 

 

「うん…、まだ」

 

 

バルトフェルドが答え、キラがその後付け足す

 

今は、まだ

 

 

「僕たちは、何も知らないんだ」

 

 

キラの言葉の後、少しの間沈黙が流れる

 

 

「…私は、デュランダル議長を良い指導者だと思っていた」

 

 

その沈黙の中、カガリが口を開いた

 

 

「ラクス、そして、セラ暗殺のことを知るまでは」

 

 

デュランダルは、ラクスとセラを狙ってきた

 

 

「…しかし、なぜセラもなんだ?偽ラクスがプラントで出てきている中、ラクスはともかく、セラを暗殺するメリットがわからない」

 

 

バルトフェルドが言う

 

 

「…俺にだってわかりません」

 

 

続いて、セラが口を開いた

 

 

「だけど、あの人は俺のことをよく知っていた」

 

 

ミネルバに乗ったとき

間違いなく、デュランダルは自分のことをつかんでいた

 

自分の出生を、知っていたはずだ

 

 

「…ユーラシア西側のような状況を見ていると、どうしても地球軍を討ちたくなっちゃうわね」

 

 

「でも、反対なんだろ?」

 

 

アイシャ、バルトフェルドが言う

 

ちゃんとした目で見れば、今の情勢

プラントの味方につきたくなるのが普通だろう

 

だが、キラは、セラは反対していた

 

 

「ラクスとセラの暗殺…。あのデュランダルって人が、どうしてそんなことをしたのか」

 

 

「…あの人、間違いなく何か企んでますよ」

 

 

口には出さなかったが、デュランダルがなぜ自分を狙ってきたのか、セラは何となくわかっていた

 

先程言ったように、間違いなくデュランダルは何か企んでいる

それが、良い事なのか悪い事なのかはまだわからないが

 

恐らく、自分が障害になると思っているのだ

最高のコーディネーターである、自分が

 

だから、デュランダルは刺客を差し向けた

 

 

「…」

 

 

セラは、モニターに目を向ける

そこには、笑顔で踊っている少女

 

…シエルは、この事を知っているのだろうか

知っていて、ザフトで戦っているのだろうか

 

戻って来いとは言わないが…

 

また、シエルと戦うことになりそうで、不安になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバは今、マハムールの港に入港しようとしていた

 

マハムールとは、ザフトのスエズ方面指令本部が置かれている地域のことだ

ミネルバは一度、そこに腰を下ろすことになる

 

ミネルバ内部、格納庫では、機体の整備作業が行われていた

 

整備士、パイロット総員で機体を操作している

 

 

「お兄ちゃんの言う通り、センサーの帯域を変えてみたよ。確認してね」

 

 

マユがキーボードのタイピングを終えて、シンに言う

シンはコアスプレンダーのコックピットに乗って、確認する

 

 

「…ん、ちゃんとできてる。マユ、ありがとな」

 

 

「お礼なんていいよ。私が出来るのは、こんなことだけだし…」

 

 

俯くマユ

 

マユだって、シンと共に戦いたかった

だが、前大戦時のオノゴロ侵攻戦役時、マユの片腕は失われ今は義手となっている

 

その手で、機体を操縦するなど不可能だったのだ

 

機体の整備だって、ぎりぎりだったのだ

 

 

「…え?」

 

 

マユは視線を上げた

頭に柔らかい感触がしたのだ

 

シンが微笑みながら、マユの頭を撫でる

 

 

「俺は、すごくうれしいよ。マユが生きてるってだけでも…、すごくうれしい」

 

 

「お兄ちゃん…」

 

 

シンは当初、家族全員を失ったと思った

だが、マユはかろうじて生きていた

 

たとえ片腕を失っていたとしても、生きている

それだけが、シンの救いになった

 

 

「だから、そんなこと言うなよ。マユが手伝ってくれて、俺はもっと嬉しいんだからさ」

 

 

マユの表情が笑顔になる

兄が、喜んでくれた

 

それが、マユにとっても嬉しいのだ

 

 

「入港完了。各員、速やかに点検、チェック作業を開始のこと」

 

 

シンが、マユの笑顔に萌えていた時

艦内放送が流れる

入港が、終わった

 

これで、少しは安心できる

 

 

「以降、別命あるまで待機。シエル・ルティウス、ハイネ・ヴェステンフルスは艦橋へ」

 

 

機体の整備も終わり、自室に戻ろうかと思ったその時、放送の続きが流れた

その放送の一つの名前

 

シンは動きを止めた

シエル

 

シンは、シエルの来た、ヴァルキリーがある方を見る

そこには、シエルがいた

 

ハイネがシエルに歩み寄っていく

シエルとハイネは笑顔で一言言葉をかわすと、そのまま格納庫の出口へと向かっていく

 

放送で、二人は艦橋に呼び出されたから、艦橋に向かうのだろう

 

 

『シンは、力を持ってる。その力が、どんなものなのか自覚して』

 

 

インド洋での戦闘直後、シエルに言われた言葉が脳裏をよぎる

その後には、ハイネにも自分の力のことを考えろと言われた

 

…本当に、自分の何がいけなかったのだろう

 

シエルは、自分が基地を破壊したことを咎めているということはわかる

だが、どうしていけなかったのだろう

 

こき使われ、苦しんでいる民間人を助けて、何が悪かったのだろう

 

どこを、間違ったのだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエルは、タリア、アーサー、そしてハイネと共に艦から降りていた

ミネルバが泊まっている埠頭には、この基地の司令官を先頭に、士官たちが並んでいた

 

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスであります」

 

 

「副長のアーサー・トラインであります」

 

 

ミネルバの責任者と言える二人が先に名を名乗る

 

 

「特務隊、ハイネ・ヴェステンフルスです」

 

 

続いて、ハイネが名乗り

 

 

「同じく特務隊、シエル・ルティウスです」

 

 

シエルが名乗った

その瞬間、並んでいた士官たちがざわつきだす

 

 

「シエル…ルティウス…?」

 

 

やはり、シエルの名は有名だ

前大戦で、地球軍に囚われてしまったと思いきや、<天からの解放者>を筆頭とする英雄たちと共に現れた

 

大戦が終わり、一年後にザフトに復隊

有名にならないはずがない

 

士官たちがざわついている中、司令官だけが表情を変えずに前に出て返礼する

 

 

「マハムール基地司令官の、ヨアヒム・ラドルです。遠路お疲れ様でした」

 

 

司令官、ラドルが言葉を言い切ると、タリアに向けて手を差し出した

タリアは、その手を握り返す

 

 

「まずは、コーヒーでもいかがでしょうか?豆だけは良いものがとれるのでね」

 

 

タリアの手を離し、先に立って歩きながらラドルは言った

 

 

「ええ、ありがとうございます」

 

 

タリアは、笑みを浮かべながら返す

 

カーペンタリアを出た時、追随してくれたボスゴロフ級の艦長

あの艦長よりも物腰が柔らかく、気さくだ

 

タリアはラドルに好印象を抱いていた

 

タリアたちは指令室に案内された

ラドルに勧められ、並べられている椅子に座る

 

テーブルには、湯気をたてているコーヒー

 

ラドルは、コーヒーも進める

言葉に甘え、タリアたちはコーヒーを口に含む

 

シエルは、その前に思い出していた

セラも、コーヒーが好きで、自分でブレンドしていた

 

そして、シエル自身もコーヒーを飲むことを知り、よく淹れてくれたことを

 

 

(…セラが淹れてくれたコーヒーの方がおいしいかったな)

 

 

口には出せない言葉を、心の中でつぶやく

事実、セラのコーヒーの方が自分は好きだ

 

このコーヒーもおいしいのだが

 

と、コーヒーのことを考えているうちに、テーブルに地図が映される

このテーブルは、そのまま戦略パネルの画面になっていたようだ

 

 

「こちらの状況は、だいぶ難しそうですね…」

 

 

地図を見ながら、タリアが口を開く

 

 

「ええ。スエズの戦力には、迂闊に手が出せません」

 

 

タリアの言葉に、淡々と応じるラドル

 

 

「どうしても落としたければ、前大戦の時のように軌道上から大降下作戦を行うのが一番なのですが…。なぜか、議会はそれを承認しないらしい」

 

 

前大戦でも、スエズは最重要攻略目標の地域の一つだった

そして、前大戦では、ラドルが言ったように軌道上からポッドにいれたモビルスーツ隊による降下作戦を行った

 

だが、今回はその作戦は議会を通らない

 

 

「こちらに領土的野心はない、と言っている以上、それはできない」

 

 

タリアが肩をすくめながら言う

 

 

「誤解をしてほしくはないのですが、私はいたずらに戦火を広げたくないという議会の方針を支持しています。ですが、それを良い事に好き勝手やられるのも困る」

 

 

タリアを含む、四人が画面に映る地図からラドルに視線を移す

スエズの他に、まだ何かあるのか

 

 

「地球軍は本来ならば、このスエズを拠点に、一気にこのマハムールと地中海の先、ジブラルタル基地を叩きたいはずです」

 

 

ラドルは地図の所々を指さしていきながら説明していく

 

 

「だが、今はそれが思うようにできない。理由は、ユーラシア西側地域です」

 

 

ラドルは、言葉通りの地域を指さしながら言う

 

今、ユーラシア西側地域では紛争が起こっている

それによって、地球軍は侵攻を思うようにできない

 

 

「インド洋、ジブラルタルがこちらの勢力圏である現在、この大陸からスエズまでの地域の安定は、地球軍にとって絶対です」

 

 

そうしなければ、地球軍は孤立してしまう

 

 

「なので、連中はガルナハンの火力プラントを中心に一大橋頭堡を築き、ユーラシアの抵抗運動にも睨みをきかせて、かろうじてスエズまでのラインを保っています」

 

 

シエルは、地図を見ながら思考する

マハムールとユーラシア西側を分断する位置に、ラドルが言う地球軍基地は存在していた

 

 

「まあ、おかげでこのあたりの抵抗勢力軍はユーラシア中央からの攻撃にさらされ、南下もままならず、とかなり悲惨な状況になりつつありましてね…」

 

 

「しかし」

 

 

そこで、シエルはつい口を挟んでしまう

しまった、と思ってしまうがここまで来たら言ってしまうしかない

 

 

「逆を言えば、そこさえ落としてしまえばスエズへのラインは分断できる」

 

 

「抵抗勢力軍の支援にもなり、間接的にでも地球軍に打撃を与えることが出来る。…そういうことですか?」

 

 

一度言葉を切り、そして続きを口にしようとしたその時、ハイネが口を開いた

そのままハイネは、シエルが考えていたことと全く同じ内容を口にしていく

 

シエルとハイネの言葉が終わると、アーサーが感嘆するようにほう、と息をつく

 

ラドルは、一度頷くと、口を開く

 

 

「だが、むこうもそんなことはわかりきっている。そう簡単にはやらせてくれなくてね」

 

 

ラドルは、地図のある部分を示した

起伏に富んだ地形

 

渓谷ということがわかる

 

 

「こちらから攻めることが出来るのはこの渓谷だけなのだが…。むこうもそれを見越して、ここに陽電子砲を設置し、まわりにリフレクターを装備したモビルアーマーを配置していた。一度突破を試みたが、結果は散々でね…」

 

 

陽電子砲…、ローエングリンか

アークエンジェルにも装備されている、強力な砲撃

 

そして、リフレクター、は、あのタンホイザーを跳ね返したあれだろうか

だとしたら、かなり厄介だ

 

撃てば跳ね返され、逆に撃たなくても撃たれてしまう

この地域の戦況は、相当厄介なことになっているようだ

 

 

「だが…、ミネルバの戦力が加われば…」

 

 

ラドルが、期待を込めた声を出す

 

ここまでのミネルバの戦果を、当然知っているのだろう

ミネルバに期待したくなるのはわかる

 

タリアの様子を、シエルはちらっと見る

笑っている

 

が、実際にはわからないだろう

 

ミネルバの戦力を要しても、この要塞を突破できるか

いや、もしかしたら、失敗の可能性の方が高いかもしれない

 

だが、ここを突破しなければ、ジブラルタルにたどり着くことはできない

 

やるしか、ないだろう

 

 

「作戦日時などは、また後ほどご相談しましょう。こちらも準備がありますし…。我々も、ミネルバと共に今度こそ、道を拓きたいですよ」

 

 

ラドルの表情は、もう作戦は成功すると確信している

そんな表情だった

 

 

 

 

 

 

 

指令室を出て、ミネルバに戻ろうと歩いていた四人

その時、ハイネがぼそぼそとシエルに話しかけてきた

 

 

「シン、ミネルバ出る前、お前のこと見てたな」

 

 

シン

忘れてない

 

インド洋の戦闘後、殴った

 

 

「お前の気持ち、わかってないみたいだし。戻ったらちゃんと話したらどうだ?」

 

 

「うん。そのつもり」

 

 

シンが自分を見ていたことに、シエルは気づいていた

そして、シンが自分の言葉の意味を理解していないことも、シエルは気づいていた

 

戻ったら、シンと改めて話をする

 

シエルはそう決めていたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンは、ミネルバの甲板に立っていた

紅い夕日に染められた空を眺めていた

 

そして、考えていた

シエルの言葉の意味を

 

だが、やはりわからない

民間人を助けようとした自分の、どこが間違っているのか

 

と、考えていると甲板の扉が開く音がした

シンは振り返る

 

 

「…あ」

 

 

「一人でこんな所に。どうしたの?」

 

 

柔らかい笑みを浮かべながら、シエルがシンに問いかける

シンは、一瞬硬直してしまった

 

ついさっきまで考えていた対象が、急に現れたのだ

硬直したって仕方がないだろう

 

 

「私の言ったこと…、考えてた?」

 

 

「…はい」

 

 

シエルは、気づいていたのだ

自分が悩んでいることに

 

どうして今更そのことを話しに来たのだろう、どうしてもっと早く来なかったのだろうと思ったが、口には出さないことにする

シエルだって、フェイスに任命されて忙しいのだ

 

そのことは、自分にだってわかっているのだから

 

 

「それで…、私がシンをぶった理由、わかった?」

 

 

「…いえ」

 

 

いっそ、わかりました、と言おうかとも考えた

だが、ここで嘘をつけば、また何もわからずにシエルにぶたれてしまうだろう

それは、嫌だし、きっとシエルだって嫌なはずだ

 

 

「そっか…」

 

 

シエルは、シンと同じように手すりに寄りかかる

 

わずかな沈黙の後、シエルは、シンをまっすぐに見ながら口を開いた

 

 

「シン、マユちゃんのこと、大切に思ってる?」

 

 

シンは、きょとんとした

シエルのひょんな問いに、呆気にとられた

 

だって、そんなこと

 

 

「当たり前じゃないですか!マユは…、たった一人の家族なんだから…」

 

 

マユは唯一生き残った、自分の家族だ、妹だ

大切に思わないはずがない

 

 

「…そうだよね」

 

 

シエルは、シンから視線をずらして、赤く染まる空を見上げる

 

 

「…でもシン。シンと同じように、家族を大切に思ってる人は、世界にはたくさんいるの」

 

 

「…」

 

 

シエルは、何を言っているのだろう

そんなの、当たり前じゃないか

 

全員、とは言えないが、世界のほとんどの人は、家族がいる

 

 

「それは…、敵である地球軍にだって…」

 

 

「っ」

 

 

その言葉は、シンに衝撃をはしらせた

 

シンは、考えたことがなかったのだ

敵にだって、家族がいるということを

敵にだって、自分と同じように、大切な仲間がいるかもしれないということを

 

 

「…シン。質問させて」

 

 

シエルが、再び自分をまっすぐ見つめてくる

その瞳に、吸い込まれそうな感覚が襲うが、それに耐えながらシエルの言葉に耳を傾ける

 

 

「あの時、あの戦闘の時。シンのあの行動は、正しいと思ってる?」

 

 

「…」

 

 

シエルが現れる前までのシンなら、迷わずはいと答えていただろう

だが、今は迷ってしまう

 

あの時、自分が殺してしまった人たちにも、家族がいた…?

仲間が、いた…?

 

 

「…まぁ、そんなこと考えてたら、戦えなくなっちゃうよね」

 

 

シエルがふっ、と微笑みながら言う

シンは、まだ答えが出せない

 

 

「でも、覚えておいて」

 

 

シエルは、甲板の出口に足を向け、そして口を開く

 

 

「必要以上に命を奪うこと。それがたとえ、自分に対してどれだけ利益が被ることだとしても…。それはただの、虐殺だってことを」

 

 

シエルは足を進める

そして、甲板に、扉が閉まる音が響いた

 

シンは、俯いたまま

 

そういえば、シエルは敵機の戦闘力は奪っても、落としてはいなかった

それは、シエルはわかっていたからなのだろうか

 

敵にだって、家族がいる

 

 

「…でも」

 

 

やっぱり、敵は落とすべきだ

シンはそう考える

 

だが

 

 

「…必要以上に命を奪うことは、虐殺」

 

 

あの時の自分の行動は虐殺だったのか

そうなのか

 

 

「…あぁもう!」

 

 

またわからなくなってしまった

もっとわからなくなってしまった

 

シエルは、教えてくれなかった

ならば、これから自分はどうすればいいのかを

 

 

「…」

 

 

だが、先程まで感じていた焦りに似た感情は消えていた

今なら、こう思える

 

 

「…ゆっくり、考えていくか」

 

 

これからも、戦闘は起こっていくだろう

だが、それでも、今のシンは余裕を持つことが出来るようになっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は、ローエングリンゲート攻略です


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PHASE18 ガルナハン突破作戦

十八話目です
戦闘回ですが、戦闘が結構簡単に終わってます…


「現地協力者って…、レジスタンスか?」

 

 

シンがルナマリアを見ながら口を開く

 

今、シン、ルナマリア、そしてレイの三人はミネルバの廊下を歩いていた

艦内放送で、ブリーフィングルームに集まれと指示されたのだ

 

これから行われる戦闘を、三人は知っている

ガルナハンにある地球軍の要塞を攻撃する

 

そして、そのために現地協力者を呼んだということも知っているのだが

 

 

「そういうことなんじゃない?だいぶひどい状況らしいからね、ガルナハンの町は」

 

 

ルナマリアがわずかに眉を顰めながら言う

 

しかし、レジスタンスと協力して敵を討つなんて

足を引っ張られなければいいのだが

 

シンはそこが心配になっていた

当然、レジスタンスがもつ戦力なんて、正規軍とは比べ物にならないくらい微々たるものだろう

 

そんなことを思いながら、シンはブリーフィングルームに入る

シンを真ん中にして、三人は並んで席に座る

 

少しすると、マハムールのパイロットたちが入ってきて、席に座っていき、そしてもう少しすると、副長のアーサーとハイネ、そしてシエルが入ってきた

それを見て、パイロットたちは一斉に起立して敬礼する

 

と、シエルの傍らに民間人の少女がいることに気づく

 

 

「…子供?」

 

 

思わずつぶやいてしまった

そのつぶやきが聞こえたのだろう、少女がシンを見て表情を歪ませる

 

シンは、まわりが気づかない程度に軽く頭を下げる

おそらくこの子は先程話しに出た現地協力者、つまりレジスタンスなのだ

 

子供だからって、戦士なのには変わりない

 

 

「着席」

 

 

アーサーが声をかけ、パイロットたちが座る

 

 

「さあ、いよいよだぞ。これより、ガルナハン・ローングリンゲート突破作戦の詳細を説明する」

 

 

アーサーが機器を操作してモニターに画像を出す

地球軍要塞近く一帯の地図だ

 

 

「皆も知っていると思うが、この目標は難敵である。以前にもラドル隊が突破を試みたが…、失敗に終わっている」

 

 

聞いている

下手すれば、全滅しかねない事態にまで陥ったという

 

その相手を、自分たちは加わって落とす

 

 

「そこで今回は…」

 

 

アーサーが作戦を説明しようとすると、彼は口を噤む

そして

 

 

「シエル、代わろう。あとは君から」

 

 

「え…、あ、はい」

 

いきなり話を振られたシエルは戸惑いの表情を出すが、すぐに元の表情に戻る

アーサーからチェックボードを受け取って、説明を再開させる

 

 

「今、画面に映し出されているのが、ガルナハン・ローエングリンゲートと呼ばれる渓谷の状況です。今度断崖の向こうに町があり、そのさらに向こうに火力プラントがあります」

 

 

手に持つ棒でポイントを示しながらシエルは説明していく

 

 

「こちら側からこの町へアプローチ可能なラインはここのみ」

 

 

シンは、淡々と説明を続けるシエルを見つめる

 

シエルは今も、映し出されている図面を見ながら状況を説明している

 

シエル・ルティウス

大戦時、クルーゼ隊に所属していた

ZGMF-X02ラスターを受領し、地上に行く

まだ、あのアークエンジェルが地球軍所属艦だったころの戦闘中に、アークエンジェルの捕虜となったと思われる

そしてあの第一次、第二次ヤキン・ドゥーエ防衛戦

シエルは今の愛機、ヴァルキリーを駆ってプラントを救った

 

シンだけではない

ルナマリアも、マユも、当然レイも、シエルのことは知っていた

 

思い出す

あのアスハの護衛をしていた、セラという男

 

シエルと知り合いだったのだろうか?

そうとしか考えられない

 

だとすると、あの男もアークエンジェル、クサナギ、エターナルのどれかに乗っていたのだろうか

 

 

「えぇっ!?こいつが!?」

 

 

「!?」

 

 

急に響いた大声に、シンはびくりと震えあがる

目を丸くして、辺りをちらちらと見渡すと、何やら表情を歪めてこちらを見ている現地協力者の少女

 

 

「…なんだよ」

 

 

敵意を向けられているように感じ、シンはつい冷たい声を出してしまう

 

というかやばい

話を聞いていなかった

 

 

「…この作戦が成功するかどうかは、そのパイロットにかかってるんだろ?こんな奴で大丈夫なのか?」

 

 

 

「こんな…!」

 

 

思わず立ち上がって怒鳴りそうになるのを抑える

いきなりこんな奴呼ばわりとは、礼儀がなっていない小娘だ

 

 

「コニール…」

 

 

「隊長はあんたなんだろ?あんたがやったほうがいいんじゃないのか?」

 

 

コニールと呼ばれた少女は、シンに対して毒をつきながらシエルに訴える

シンは、怒りに震えながらも気づく

 

コニールの今の表情

 

まるで何かにすがるような

ともかく真剣なのは間違いない

 

 

「失敗したら、町の皆だってまじで終わりなんだ!」

 

 

「終わり…」

 

 

この少女は、レジスタンスの少女

ガルナハンの町を解放しようと戦っている

 

そうか

ガルナハンの町は、もう危ない状況なのだ

それを解放するための作戦

 

それを、自分に

 

 

「あー、なるほど…。シエルか…」

 

 

と、アーサーが口を開いた

まるで、その考えはなかった、と言わんばかりで

 

 

「でも、ハイネでもいいよな…。いや、でも…」

 

 

「副長!」

 

 

シエルはアーサーを咎める

その後、柔らかい笑みを浮かべてコニールに目を向ける

 

 

「大丈夫です。彼ならできますよ」

 

 

コニールはシエルをじっと見る

 

そして、しぶしぶと言った感じでデータを差し出す

シエルはそれを受け取り…

受け取り…

 

…コニールはデータから手を離さない

コニールはシエルをじっっっと睨んで

 

 

「…」

 

 

そっぽを向きながらデータから手を離した

シエルはコニールの頭をぽんぽんと叩いてから、シンの方へと体を向ける

 

 

「シン」

 

 

シエルはシンにデータを差し出す

 

シンは受け取ろうと手を出そうとするが

 

 

「…」

 

 

「シン…?」

 

 

シエルが気づかわしげにシンを見る

シンは、データを受け取らない

 

 

「…俺で、いいんですか?」

 

 

「え?」

 

 

自分でもよくわからない

だが、不安だということだけはわかった

 

 

「俺より…、シエルの方がいいんじゃないか?」

 

 

今までは、ただがむしゃらにやってきただけだった

だが、こうして現地の人を見て、シンは初めて人の命を背負っているのだと自覚した

 

怖いのだ

自分の失敗のせいで、誰かが死ぬのが

 

とても、怖い

 

 

「シン。私は、私たちは、シンならできるって思ってこの作戦を立てたの」

 

 

私…たち?

 

シンは、シエルのまわりに目を向ける

ハイネ、アーサーがこちらを見ている

 

ハイネなんて、男らしい笑顔付きだ

 

かっこいい…

あ、ときめいてはいないからそこは勘違いしないで

 

シンは、もう一度シエルを見る

 

笑顔がきれいだった

 

あれ?今、何の話してるんだっけ?

思わずボケをかましそうになってしまうシン

 

 

「大丈夫だよ、シン。いつも通りやればできるから。…あ、失敗したらハイネと副長のせいにしてね?」

 

 

「えぇ!?」

 

 

「シエル…、そりゃないぜ…」

 

 

シンを励ますシエル

シエルは最後に、ハイネとアーサーに罪を擦り付ける

 

アーサーは驚愕し、ハイネは苦笑い

 

 

「…くっ」

 

 

思わず、笑みがこぼれてしまう

何か、不安を感じていたのがどうでもよくなってしまった

 

シンは、シエルからデータを受け取る

もう、大丈夫だ

 

 

「間もなくポイントB、作戦開始地点です。各科員はスタンバイしてください。トライン副長は艦橋へ」

 

 

「おぉっと」

 

 

直後、放送が響く

アーサーは慌ててブリーフィングルームから出て行く

 

いよいよ、作戦が始まる

シンも、機体の所に行こうとすると、視線が向けられているのに気付いた

 

 

「…なんだよ?」

 

 

どうしてこんな声しか出せないのだろうか

また冷たい口調になってしまい、自分で自分に呆れてしまう

 

コニールは、俯きながらも口を開いた

 

 

「…前に、ザフトが砲台を攻めた後、町は大変だったんだ。同時に抵抗運動が始まったから…」

 

 

シンは、コニールをじっと見つめる

コニールは、体を震わせながらさらに続ける

 

 

「地球軍に逆らった奴はめちゃくちゃひどい目に遭わされた!殺された人だってたくさんいる!今度だって、失敗したらどんな目に遭うか…!」

 

 

そこで彼女は顔を上げる

その眼には、涙が浮かんでいた

 

 

「頼んだぞ!今度こそ絶対…あの砲台をやっつけてほしいんだ!今度こそ…、今度こそ…!」

 

 

そこから先は、紡ぐことが出来なかった

唇が震え、コニールは言葉を発することが出来なくなってしまった

 

シエルがそっ、とコニールの背中に手を添えてブリーフィングルームから出す

 

シンは、その光景を見つめる

すると、肩をぽん、と誰かに叩かれた

 

 

「…ヴェステンフルス隊長」

 

 

「しっかりな。なぁに、お前なら大丈夫だって!…あ、失敗したら副長のせいにしてくれよ?」

 

 

最後の言葉はぼそぼそ、と口元で話すハイネ

先程見せていた男らしい笑みはどこかへ行ってしまい、今はずいぶん情けない表情になってしまっている

 

ハイネはそのままブリーフィングルームを出て行く

その後、レイが出口へ向かっていく

 

そして出ようとしたその時、振り返ってシンに微笑みかけてから出て行った

 

 

「ほら、シン!もうすぐ作戦開始なんだから、行こっ?」

 

 

最後にルナマリアがシンに声をかける

 

シンは、ルナマリアの顔をじっと見てから頷く

 

 

「…あぁっ」

 

 

この作戦、絶対に成功させて見せる

そう決意をこめて、ぐっと拳を握った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッチ開放、射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常…」

 

 

メイリンが発進シークエンスを進めていくのを聞きながら、シンはコックピットの中でシエルと話していた

 

 

「いい、シン?さっきも言ったけど、坑道に入ったら後はデータだけが頼り。データの通りに飛んで」

 

 

「わかってるよ」

 

 

シンは、シエルに返事を返す

先程も同じことを言っていたため、少しいら立ちも混じってしまった

 

が、シエルは気にすることなく、がんばって、と声をかけて通信を切った

 

シンは、操縦桿をぎゅっと握りしめる

この作戦の成否は自分にかかっている

 

 

「進路クリア!コアスプレンダー発進、どうぞ!」

 

 

メイリンの発進許可の言葉が響く

その瞬間、シンは操縦桿を前に倒した

 

 

「シン・アスカ!コアスプレンダー、行きます!」

 

 

カタパルトから発進するコアスプレンダー

いつもならここでドッキングしていくのだが、今回はそれをしない

 

インパルスの部品のユニットを引き連れてそのまま飛行していく

 

…大丈夫だ

必ず成功する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンが発進した後、シエルたちも発進シークエンスを終了していた

ミネルバ艦橋から送られてくる光学映像が、それぞれの機体のモニターに映る

 

もうこちらの動きを察知したのだろう

シエルにとっては見覚えのある兵器、ローエングリンが見えてきた

そして発進ゲートからダガーL、そしてまるで昆虫のような形態をしたモビルアーマーが

 

あれが、話に聞いていた新型のモビルアーマーだろうか

オーブ沖の戦闘で出てきたモビルアーマーといい、今回といい

地球軍の技術力も相当上がってきている

 

 

「…ふぅ」

 

 

この戦いで自分がすべきなのは、時間稼ぎだ

時間を稼げば、後はシンが何とかしてくれる

そういう作戦を立てたのだ

 

レイのセイバー、ルナマリアのザク、ハイネのグフが発進していった

次は、シエルの番

 

 

「シエル・ルティウス!ヴァルキリー、行きます!」

 

 

勢いよくカタパルトから発進していくヴァルキリー

目の前には、地球軍基地から発進されたモビルスーツとモビルアーマー

 

 

「行くぞ!」

 

 

ハイネが通信を通して声をかける

ハイネが加速すると同時に、全員が機体を加速させる

 

シエルはまず、腰のサーベルを抜いた

こちらに接近してくる二機のダガーLに向かっていく

 

ダガーLも、サーベルで対抗しようとするが、シエルには通用しない

 

ヴァルキリーのスピードをさらに上げるシエル

ダガーLは、そのスピードに反応できない

 

すれ違い様に、二機のダガーLの武装、メインカメラを斬った

 

そして、シエルはあの昆虫のようなモビルアーマーを見つけた

あれが、恐らく聞いていたリフレクターを付けたモビルアーマーだ

 

ハイネたちはダガーLを今のところは苦も無く落とし続けている

 

 

「ハイネ、そっちはお願い!私はあのモビルアーマーをやる!」

 

 

「なっ…!無理はするなよ!」

 

 

ハイネに通信を入れた後、シエルはまずは様子見とライフルを抜いて引き金を引く

 

だが、そのモビルアーマー、ゲルズゲーはリフレクターを展開させて放たれたビームを無効化していく

 

 

「くっ…!」

 

 

それを見て歯噛みするシエル

そこに、通信が入った

 

 

「シエル、退避して!タンホイザーで薙ぎ払う!」

 

 

それはタリアの声だ

シエルは言われた通りにタンホイザーの射線上から離れる

 

しかし、通用するのだろうか

ゲルズゲーはやはりあのリフレクターを搭載していた

 

オーブ沖で戦ったあれと、恐らく同じリフレクターを

 

と考えているうちに、ミネルバはタンホイザーを起動し、放った

赤く巨大な砲撃がゲルズゲーへ一直線に向かっていく

 

 

ゲルズゲーは再びリフレクターを展開した

その直後、ゲルズゲーにタンホイザーが命中した

 

凄まじい爆発が起こる

巨大な船体のミネルバさえ煽られてしまうような爆風が吹き荒れる

 

シエルは機体の体制を低くして様子を見る

タンホイザーが命中した場所を、じっと見る

 

 

「…やっぱりダメか」

 

 

巻き上がった砂煙が少しづつ晴れてきて、視界が効くようになってきた

あのゲルズゲーは、先程と変わらない様子でその場に立っていた

 

シエルは腰のサーベルを抜く

そして、背後から近付いてきたダガーL三機の斬り裂く

地面にメインカメラと武装がぼとりと落ちる

 

それを見ないでシエルはゲルズゲーへと向かっていく

 

 

「…っ!」

 

 

すると、コックピット内でアラームが鳴り響いた

モニターの端に、それは映っていた

 

今度は地球軍基地のローエングリンが起動されていた

狙いは当然、グレーの巨艦ミネルバだ

 

直後、ローエングリンが火を噴く

タンホイザーと同じような赤く巨大な砲撃が一直線にミネルバへと向かっていく

 

 

「ミネルバ!」

 

 

思わず叫んでしまう

このまま撃ち抜かれてしまえば、間違いなく待つのは全滅だ

 

だが、ミネルバはその巨大な体を動かし、砲撃をかわしきった

 

ふぅっと息をつくシエル

もう一度気を引き締める

 

持っていたサーベルをしまい、今度は収束砲を持つ

しっかりとコックピットに当たらないように照準をつけてから、砲撃を放つ

 

放たれた砲撃は、四機のダガーを一気に戦闘不能にする

シエルはすぐに収束砲からライフルに持ち替える

 

二丁のライフルの引き金を交互に引いていく

放たれる一射一射は、正確にダガーのメインカメラか武装、フライトユニットを撃ち抜いていく

 

そして、次の照準を向けようとした時、通信から声が響いた

 

 

「まずい!あれが下がっていく!」

 

 

ハイネの声だ

あれ、というのはゲルズゲーのことだろう

 

下がる

なるほど、ローエングリンの一発目は外れてしまった

 

パワーチャージに時間がかかる

その間、守りを固めようというのだ

 

 

「シン…!」

 

 

シンはまだ来ない

そろそろ時間稼ぎも限界だ

 

恐らく二射目は避けられない

 

この場で戦っている全員の思いは、共通していた

 

シンを、待っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!なんだよこれ!」

 

 

シンは思わず叫んでしまった

それは、シンが行動に入ってすぐの時だ

 

まったく光が入らず、何も見えない暗闇が広がっていたのだ

 

さらに、道の広さもかなり狭い

コアスプレンダーがやっと通れるほどの広さだ

 

なるほど、これは確かにインパルスしかできない…じゃねえ!

 

心の中で毒づくシン

 

 

「ちぃっ!まじでデータだけが頼りなのか!」

 

 

シエルには言われていた

データ通りに飛べばいい、と

 

シンは、操縦桿を握りながら、モニターに映っているコニールから渡されたデータを見る

 

このデータには、坑道の道筋が示されていた

シンはそのデータ通りに飛んではいるのだが

 

 

「くっ!」

 

 

右翼の端が岩壁をこする

慌ててシンは操縦桿を逆に倒して、すぐにまっすぐに戻す

 

まっすぐ飛んでいるつもりでも、これなのだ

ほんの少しでも手元が狂ってしまえば、終わりと思っていい

 

岩の間から流れる滝を突き抜け、シンはさらに進む

進んだところで、コックピットに電子音が鳴る

 

データを見ると、ゴールは近いようだ

 

出口は、ないのだ

岩がふさいでしまっている

 

シンはコアスプレンダーのミサイルを放つ

そのミサイルは、暗闇の中の壁に命中して

 

光が差し込んだ

シンは光の中に突っ込んでいく

 

 

「…ここはっ!」

 

 

出た先は、まさに基地の真下だった

直後、シンは合体シークエンスを進めていく

 

合体を終えてすぐに、シンは見つけた

ローエングリン

あれを落とせば…

 

だが、簡単にはいかない

急に出てきたインパルスを落とそうと、ダガーLこちらを狙ってくる

 

シンはライフルを構える

 

飛空するダガーLを次々と撃ち落としていく

 

 

「っ!」

 

 

シンは、インパルスを横にずらした

先程機体がいた場所を、巨大な砲撃が横切っていく

 

砲撃が放たれた方向を見ると、そこには見たこともないモビルアーマーが

あれが、新型のモビルアーマーなのだろうか

 

新型、ゲルズゲーはインパルスを落とそうと再び砲撃を放とうとする

 

 

「くっそ!こんなことしてる場合じゃないのに!」

 

 

シンが愚痴のような言葉を口にしながらライフルを向ける

 

だが、シンはこの行為が無駄だということをわかっていた

リフレクターで、ビームは跳ね返されてしまう

 

しかしここまで来たのだ

ゲルズゲーを落として、何とか…

 

 

「シン!」

 

 

スピーカーから声が響く

その直後、空中から舞い降りる一機のモビルスーツ

 

ヴァルキリーは、まずサーベルを振り下ろしてゲルズゲーの右手を斬りおとす

さらにそこからもう片方の手に隠し持っていたライフルでゲルズゲーの左手を撃ち落とした

 

ゲルズゲーはまったく反応できず、リフレクターを展開することが出来なかった

 

 

「行って、シン!」

 

 

「あぁ!」

 

 

シエルの声援を受けて、シンはローエングリンへと向かっていく

 

 

「なっ!?」

 

 

そこでシンは目を見開く

あの砲台が、基地の内部へと収容されようとしていたからだ

 

だが、その動きは遅い

まだ、間に合う!

 

シンは立ちはだかるダガーLをライフルで撃ち落としながら走り続ける

そして、ついにたどり着いた

 

それでも砲台は収容され、蓋が閉められようとしている

 

 

「くそぉおおおお!」

 

 

シンは雄たけびを上げながら、近くに来ていたダガーをつかむ

そのままアサルトナイフを取り出してコックピットに突き立てる

 

内部で血が飛び散っていたようだが、それも気にせずシンは動かなくなったダガーを閉じかけていたシャッターの内部へと投げ入れる

そしておまけと言わんばかりに内部に頭部バルカンを撃ちこんでいく

 

少しの沈黙の後、内部で爆発が起こる

その爆発を皮切りに、誘爆を起こし続け、ついに基地内部へと爆発は広がっていく

 

 

 

 

 

シエルは、基地が爆発を起こす光景を見ていた

急に現れたインパルスに動揺した地球軍モビルスーツたちは、一気に総崩れになった

 

そこを見逃すほど甘くはない

ガルナハン基地の地球軍は、恐らく全滅だろう

 

 

「…っ!」

 

 

そこでシエルは、何かを感じた

とても冷たい感じを受ける、何者かの気配、殺気

 

腰に差したサーベルを抜く

 

そして、殺気を感じた方向へと機体を向けたのだが

 

 

「…いない?」

 

 

そこには、何もいなかった

シエルは今の体制のまま固まる

 

確かに、感じたのだ

自分に向けられる冷たいものを

 

確かに、感じたのだ

 

 

「…」

 

 

 

 

 

 

シエルは地面を見下ろした

 

ガルナハンの人たちが家を飛び出して、今

コックピットから降りたシンを褒め倒している

 

多くの人たちに囲まれているシンは、今まで見たこともないような笑顔を浮かべている

 

と、シエルは違う方向へと目を向ける

そこには、ガルナハンの人たちが、基地の中にはいなかった地球軍の兵を跪つかせ、そして

 

 

「…っ」

 

 

容赦なくその頭を、拳銃で撃ち抜いた

 

シエルは顔を歪めて目を背ける

 

これが、当然のことなのだ

これが、戦争なのだ

 

深呼吸をして、気分を落ち着かせると、モニターが起動した

そこには、タリアの顔が映されていた

 

 

「ご苦労だったわね、シエル。あとはラドル隊に任せていいわ。帰投してちょうだい」

 

 

シエルは、はい、と返事を返す

通信は切れる

 

もう一度、シエルはあの光景を見る

 

そしてすぐにコックピットを開き、地面に降りる

 

自分で決めたのだ

そう

自分で

 

戦わせたくないから

 

もう、セラに剣を握らせたくなかったから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンは、町の人たちにぐしゃぐしゃにされてしまった髪を直しながら、一人の男に肩車されながら褒められているコニールを眺めていた

コニールの顔もとても嬉しそうで、子供らしい笑顔に包まれている

 

やり遂げた

自分はやり遂げたのだ

 

 

「…あ、シエル」

 

 

ヴァルキリーから降りてきたシエルを、シンは見つけた

作戦成功の嬉しさで、笑みを浮かべていたシンは、その感情のまま話しかけようとしたのだが、できなかった

 

シエルの表情が、どこか浮かない

 

 

「シエル…、どこかやられた?」

 

 

まさか、傷でも負ったのだろうか

シンは気になって問いかける

 

 

「え…、ううん!大丈夫」

 

 

シエルはその後すぐに笑みを浮かべる

シンは首を傾げる

 

どうにも先程のシエルの沈んだ表情が気になる

作戦は成功したのに

 

どうしてなのだろうか

 

 

「作戦、成功しましたね」

 

 

「うん、大成功だね」

 

 

シンの言葉に、シエルは自然に言葉を返す

 

どうやら、自分の作戦内の行動がいけなかったということはないようだ

 

 

「本当にすごかったよ、シン。あなたに任せて、よかった」

 

 

シエルは笑顔をシンに向けながら言葉をかける

 

シンは、その笑顔を見て、はじけるように顔を赤くする

 

嬉しい

認められた

 

だが、どこか恥ずかしいというような気持ちになるのはどうしてだろう

 

 

「そ、そういえばあれ、ひどいですよ!まじ死ぬかと思いました!あんなに真っ暗なんて聞いてませんでしたよ!」

 

 

シンは、感じた恥ずかしいという気持ちを隠すように捲し立てて声を出す

すると、シエルは目を丸くして、そして悪戯っぽい笑みを浮かべながら返す

 

 

「そう?私は言ったような気がするんだけどなぁ。データだけが頼りだって」

 

 

「うっ…、でもっ」

 

 

「でも、シンはやりきった」

 

 

シンの言葉を遮って、シエルは言う

 

 

「できたよね?それも、私は言ったけど?」

 

 

シエルは、自分を信じてくれた

 

それに、ハイネも

…ついでに副長も

 

シンの心に嬉しい気持ちがさらに湧き出てくる

 

 

「さ、もう戻ろ?ここでの私たちの任務はおしまい」

 

 

シエルはシンに背を向けてヴァルキリーへと戻っていく

シンも、頷いた後、足取り軽くインパルスへと戻っていく

 

コックピットに座り、インパルスを飛び上がらせるシン

 

 

「…え?」

 

 

人々が喜んでいる光景を見ていた

だが、その視界の端

 

シンも、見てしまった

 

 

「あ…」

 

 

ガルナハンの住民が、跪いている地球軍兵を撃ち殺していた

 

 

「…そうか」

 

 

シエルは、自分よりも先にこの光景を見ていたのだ

だから、ヴァルキリーから降りてきた時、沈んだ表情をしていたのだ

 

けど、自分はやりきった

任務をやり遂げた

 

それなのに

 

 

「…」

 

 

先程までの良い気分は、もうどこかに行ってしまっていた

 

代わりに、悲しいような、悔しいような

 

そんな暗い気持ちがシンの中に残ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛び去るヴァルキリーとインパルス

その中で、この男にはヴァルキリーしか見えていなかった

 

 

「…あれが、ヴァルキリー」

 

 

憎々しげに、恨ましげに睨む一人の男

 

 

「あれが…、あいつらが…!」

 

 

男の口から洩れる言葉は、憎しみに満ち溢れていた

 

男は反転

ヘリが泊まっている場所へと歩いていく

 

 

「待っていろ…、お前らは、俺が殺す…!」

 

 

男は最後のそう言い残すと、ヘリに乗って飛び去っていった

 

ヴァルキリーが去っていった方とは、真逆の方向へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE19 ディオキアにて

ディオキアに入ります
そして、ここに来て、ようやく彼女がシエルと交流します


陸に足をつけると、気持ちの良いさわやかな風が頬を撫でた

タリアは揺れる髪をそっと抑える

 

 

「ディオキアかぁ…。きれいな町ですねぇ…」

 

 

隣にいるアーサーが感嘆した声を漏らす

その言葉に、タリアは賛成だった

 

ミネルバはガルナハンを突破した後、このディオキアへと来ていた

 

 

「久しぶりですよね…、こういう町は…」

 

 

「そうね…。今までは海だの基地だの山だのばかりだったものね。少しゆっくりできればいいのだけれど…」

 

 

最後に本音を漏らすタリア

 

実際、タリアもアーサーも含め、クルーの皆には疲労が溜まってきていた

ディオキアの町並みは間違いなくクルーの心に安らぎをもたらすだろう

 

そう考えながら足を基地司令部へと進めるタリアは、異様な光景を目にする

 

 

「あれ…?何でしょうね?人があんなに…」

 

 

アーサーもその光景が異様なのに気づく

タリアに何なのかを問いかけるが、当然タリアがわかるはずもない

 

施設の一角にたくさんの兵士がひしめき合っている

さらにフェンスの向こう側にも、かなりの量の人が集まってきている

 

そして、その表情は、何かを期待しているようなものだった

 

と、二人は上空から音を聞き取る

これは…音楽だろうか?

 

明るい曲調の音楽が流れてくる

 

二人が上空を見上げると、そこにはピンクにカラーリングされたザクがゆっくりと降下してきていた

 

まわりにはディンともう一機、新型のモビルスーツだろうか

が、ザクを守るように浮遊していたのだが、ザクばかりに目をとられてしまう

 

まぁ、色を見てしまえばそれも仕方ないのだが

 

 

「みなさぁーん!ラクス・クラインでーす!」

 

 

タリアが、ザクの両掌に小さな人影を見つけたそのすぐ後、かわいらしい声がスピーカーを通して響き渡る

 

ラクス・クライン

 

その声に答えるように、ひしめき合っていた兵たち、フェンスの外に集まっていた民間人たちが歓喜の声を轟かせる

 

そしてさらに、その声に答えるように、掌にのっていたラクス・クラインが手を振る

 

ピンクのザクら三機は、ステージにその足をつける

ラクス・クラインはその後、ひらひらと踊りながら歌い始めた

 

タリアはラクス・クラインのステージを見ずに、ザクの隣にあるモビルスーツを見ていた

 

ディンではない

もう一機の方をだ

 

インパルスと同じように、白を基調としている機体

所々には赤いカラーリングが施されている

 

そして、インパルスやセイバー、ヴァルキリーと同じツインアイ

 

タリアがじっと見ていると、その新型機からパイロットが降りてき

ザフトの赤服を身に纏っている

 

茶色の髪を背中、中ほどまで伸ばした女性

あの女性が新型の機体を操縦したとみて間違いない

 

パイロットの女性は新型機から降りた後、そのままどこかへ歩き始めた

 

その方向へと目を先回りさせてみると、ヘリコプターが泊まっていた

扉が開き、そこから降りてきた人が、タリアの存在に気づき、ふっと微笑む

 

 

「…」

 

 

タリアは軽く舌を打ちそうになる

ヘリコプターから降りてきた人、ギルバート・デュランダル

 

彼から与えられた任務は、ひたすら勝ち続けろ

それと同義なのだ

重圧はとても激しいものがある

 

 

「いやぁ、これは運がいい!」

 

 

それなのに、隣にいる副長は気楽にコンサートを楽しんでいる

 

 

「…まったく!」

 

 

「え…」

 

 

タリアが吐くように出した言葉に驚き、アーサーの動きが止まる

 

それを無視して、もう一度タリアはデュランダルの方へと目を向けた

正確には、デュランダルの傍にいる女性パイロットへ

 

新型機のパイロットに抜擢されるほどの人物だ

かなり腕が立ち、そして有名なはずだ

 

それなのに、タリアはその人物を見たことがなかった

 

一体、何者なのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエルは、ぽかんと口を開けていた

 

ミネルバのレクルームで、ピンクのザクに載って現れたそれを見て、硬直してしまった

 

 

(ラクスが、どうして…!?)

 

 

プラントでラクス・クラインが活動を開始したのは、ユニウスセブン落下後から

シエルは基本テレビを見ない

 

そのうえ、たとえテレビをつけたとしてもその前までは連合のいざこざの情報ばかり流れていたのだ

そんなもの、艦にいるだけで耳に入ってくる

 

だが、どうしてだろう、ラクス・クラインの話だけは入ってこなかった

 

…いや、なぜだ

 

レクルームからクルーたちが飛び出していき、シエルもふらふらとした足取りで外に出た

そこには、紛うことなくラクス・クラインのコンサートが行われていた

 

だが、あのラクスが歌う曲調と違うような感じを受けるのは気のせいだろうか

 

 

「シエル、知らなかったの?ラクス様がここにおいでになること」

 

 

「え?あ…、その…」

 

 

動揺しているシエルに、ルナマリアが無邪気に問いかける

 

 

「ま、ちゃんと連絡を取り合う時間もなかっただろうしね~。仕方ないか」

 

 

「…うん」

 

 

しかし、ラクスは間違いなく、セラやキラたちと共にアークエンジェルにいるはずだ

飛び去ったアークエンジェル

キラがラクスを置いていくはずがない

 

しかし、ルナマリアたちが、どうして自分とラクスが知り合いということを知っているのだろう

 

と考えた所で、当然だと思いなおす

 

ラクスは、前大戦でエターナルに乗り、アークエンジェル、クサナギと共に大戦を収束させた

その陣営に、シエルがいたということも周知の事実になっている

 

ならば、ラクスとシエルは互いを知り合っていることも簡単に考え付くだろう

 

いや、今そのことはいい

 

傾きそうになった思考を戻す

 

どうしてキラと共にいるはずのラクスがここにいるのだろうか

 

 

「一日でも早く、戦争が終わるようわたくしも、切に願ってやみませーん!」

 

 

シエルが混乱している中、あのラクス・クラインは歌い終えて演説をしている

観客たちのボルテージはまだまだうなぎ上りだ

 

 

「その日のために、みんなでこれからも頑張っていきましょぉー!」

 

 

「なんか…、変わられましたよね?ラクス様」

 

 

「え…」

 

 

いつの間にシエルの隣にいたのだろう、メイリンがシエルの顔を覗き込みながら口を開いた

シエルはメイリンの言った言葉に、一瞬硬直してしまう

 

 

「えっと…、そうだね…」

 

 

まずい

早くこの会場から抜け出さなければ

 

シエルはぽかんとしているルナマリアとメイリンを放って、そそくさとその場から離れる

 

会場から抜け出すことに成功した時、シエルの背中はびっしょりと嫌な汗をかき、心臓はばくばくと鳴っていたことは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンサート会場、フェンスの向こう

次の曲へと移ろうとしていたその時、車は走り去っていく

 

 

「…楽しそうだよねぇ、ザフト」

 

 

アウルがつまらなさげにつぶやく

 

アウル、つまり彼らファントムペイン

ネオを除く彼らは、自分たちが追っているミネルバが、ここディオキアに入ったという情報を手に入れた

そして、それを確かめるためにあのラクス・クラインのコンサート会場へと来ていたのだが

 

ミネルバがディオキアに入ったことは間違いないようだ

だが、呆れてしまう

 

自分たちはつまらない情報収集にまで手を入れているというのに、奴らは楽しくコンサートときた

 

 

「で?俺ら、まだあの艦追うの?」

 

 

「そうだろうな。少なくとも大佐はそのつもりでいるだろう」

 

 

アウルのそっけない問いに、スウェンがこれまた無感情な声で答える

 

 

「ふーん」

 

 

アウルは再びそっけない声で返し、隣に座っているステラを見る

 

ステラは、無邪気に目の前に広がる海を眺めていた

ステラは海が大好きなのだ

 

あのただの水のたくさん溜まっているものの何を気に入っているのか、アウルにはまったくわからないが

 

 

「…ここ最近は負け続きだからな。俺としてもそろそろあれを落としたい」

 

 

「っ、負けてないぜ!」

 

 

スティングがぼやくように発した言葉に、アウルはむっとして言い返す

だが、そのアウルの返しにスティングはすぐさま冷静に返す

 

 

「負けなんだよ。勝てなきゃな」

 

 

自分たちは、最強の部隊ファントムペイン

勝てないなどあり得ない

 

スウェンは、まったくそのことに興味なさそうだが

 

彼はそういう人間だ

たとえ自分が負けようとも、任務さえ遂行できればそれでいいのだ

 

それが、勝利へとつながっていくのだが

 

 

「…俺たちファントムペインに、負けは許されねえ」

 

 

スティングが静かに、その上で凄味を含ませた声を漏らす

 

そう、負けは許されない

 

だが、どこかアウルはそのことに興味を持てなかった

 

正直、勝とうが負けようがどうでもよかった

 

楽しく戦えさえすれば

敵を、落とし続けることができさえすれば、アウルにとっては良かったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タリアとレイは、テラスに来ていた

そのテラスには、すでに先客がいた

 

まず、タリアが注目を向けていたあの新型機のパイロット

そしてもう一人は

 

 

「まったく、呆れたものですね。こんなところにおいでとは…」

 

 

「はは。驚いたかね」

 

 

タリアの皮肉を含んだ言葉に、答えたようなそぶりを見せず返す長髪の男

ギルバート・デュランダルである

 

彼の顔には、どこか悪戯に成功した子供のような笑みが浮かんでいた

そんな顔を見せられると、もう皮肉を言ってやろうという気持ちなどどこかに行ってしまう

 

 

「ええ、驚きましたとも。…まぁ、今に始まったことじゃありませんけど」

 

 

タリアのその言葉を聞くと、デュランダルは肩をすくめる

そして、視線をタリアの横にいるレイに向ける

 

先程まで浮かべていた子供のような笑顔は、もうない

子供を見守る親のような、温かみのある笑みを、デュランダルは浮かべていた

 

 

「活躍は聞いているよ。元気そうだね、レイ」

 

 

「ギル…」

 

 

レイは、今まで見たこともないような、幼げな笑みを浮かべる

そして、レイはデュランダルの首に飛びついた

 

タリアは、二人にどういう事情があるか知らない

気になるという気持ちはあるのだが、聞いてみようという気持ちもない

 

これが、今のタリアとデュランダルの距離なのだ

これでいいと、決めたのだから

 

少しして、レイがデュランダルから離れると、置かれているテーブルに着く

 

 

「大西洋連邦に、動きでもあったのでしょうか?」

 

 

タリアがデュランダルに問う

 

ただ、彼がここに悪戯をしにきたわけでもあるまい

それは、ここに呼んだのが自分たちだけではないということから読み取れる

 

だが、本当にそれだけなのだろうか

それだけで、彼がここに来るだろうか

 

…来そうだ

そう思いたくはないのだが

来そうで嫌だ

 

 

「…やはり、そう思うか?」

 

 

デュランダルは少し目を丸くしてタリアを見る

 

結局、どうなのだろうか

相変わらず食えない男だ

 

これ見よがしにため息をつくタリア

 

 

「失礼します」

 

 

タリアがため息をついた直後、テラスの入り口の方から声が聞こえてきた

振り返ると、あの新型機のパイロットの女性が入ってきていた

 

…いつここから出ていたのだろうか

まったく気配がつかめなかった

 

 

「お呼びになった、ミネルバのパイロットたちです」

 

 

彼女の後ろには、シンとルナマリアが縮こまっていた

おずおずと二人はテラスへと入っていく

 

そして、その後ろにはシエルとハイネの二人

 

シエルとハイネが保護者のように見えてしまうその光景に、タリアは表情を和らげた

 

デュランダルは立ち上がり、入ってきた四人を出迎える

 

 

「やぁ、久しぶりだね。シエル、ハイネ」

 

 

「はい、議長」

 

 

デュランダルの言葉に、ハイネは敬礼しながら言葉を返し、シエルはただ黙って敬礼をする

 

デュランダルはハイネへ手を伸ばす

ハイネがその手を握り返した後、デュランダルはシエルへとその手を伸ばした

 

シエルもまた、その手を握り返す

 

聞きたいことはたくさんある

だが、今ここで聞くわけにもいかない

違和感を感じさせないように振る舞う

 

シエルの手を離すと、デュランダルは固まっているシンとルナマリアに視線を向ける

 

 

「それから…?」

 

 

「ルナマリア・ホークであります!」

 

 

どこかいつもよりも声に緊張を含ませながらも、はきはきとした口調で名乗るルナマリア

 

隣にいたシンは、慌てて自分の名を名乗る

 

 

「し、シン・アスカです!」

 

 

「そうか。君が…。君のことは、よく覚えているよ」

 

 

「え?」

 

 

思いがけない言葉をかけられ、シンはさらに固まってしまう

議長が、自分のことを知っている?

 

 

「ここのところは大活躍だそうじゃないか。叙勲の申請も来ていた。早晩、結果が手元に届くだろう」

 

 

デュランダル議長という偉大な人に称賛された

そのことに、シンは胸を躍らせる

 

ルナマリアも、まるで自分のことのように喜んでいる

 

デュランダルは、シンへと手を差し伸べた

その手を、シンは両手で握る

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

その後、四人は勧められて席に着く

 

そこからも、デュランダルはシンに声をかけた

 

 

「ローエングリンゲートでも素晴らしい活躍だったそうだね。君は、アーモリーワンでの発進が初陣だったのだろう?大したものだ」

 

 

さらにデュランダルに褒めの言葉をもらうシン

だが、少し訂正したかった

 

 

「いえ…、あれは、しえ…、ルティウス隊長とヴェステンフルス隊長の作戦がすごかったんです。それに、二人が俺ならやれるって信じてくれたから…。そうえなかったら…」

 

 

あの時、不安に駆られていた自分を二人は信じてくれた

…ついでに副長も

 

だからこそ、あのローエングリンゲートを落とすことが出来たのだ

 

 

「そうか…。だが、この町が解放されたのも、君たちのおかげなのだ。いや、本当によくやってくれた」

 

 

デュランダルが再び、今度はシンだけでなく、ミネルバのパイロット全員に称賛の言葉をかける

 

その後は、最近の戦況の話へと話題は移っていった

 

 

「宙の方は今、どうなってますの?月の地球軍は?」

 

 

「あいかわらずだよ」

 

 

タリアの問いに、デュランダルは小さくため息をつきながら答える

 

 

「小規模な戦闘が時折起こる…、それだけだ」

 

 

どうやら、大規模な戦闘

プラントを脅かすという状況にはなっていないようだ

 

本国に家族がいるルナマリアは、ほっと息をつく

 

 

「地上は地上で、どうなっているのかさっぱりわからん。このあたりの都市のように、連合に抵抗して我々に助けを求めてくる地域もあるし…」

 

 

デュランダルは肩を竦めた後、続ける

 

 

「我々は、一体何をしているのだろうな…」

 

 

その言葉を聞いて、シンもその通りだと心の中でつぶやいた

 

あれほどの戦闘をして、苦しい思いをして

地球軍は、一体何を馬鹿なことをしているのだろうか

 

心の奥で、怒りが灯る

 

 

「停戦、終戦への動きはないんですの?」

 

 

「残念ながら…。連合側は何一つ譲歩しようとしない。戦争などしたくないのだが…、これではどうしようもない」

 

 

タリアの問いに、苦笑しながらデュランダルは答えた後、首をゆっくりと横に振る

 

その言葉を聞き、シンの怒りはさらに燃え上がる

 

 

「…いや、軍人である君たちに話すべきことではないね。…戦いを終わらせる。それは、戦うと決めることよりはるかに難しいものさ」

 

 

「でも…!」

 

 

その言葉を聞いて、シンは思わず口を開いてしまった

 

まわりの視線が、全てシンに注がれる

勢いが、収まっていく

 

今、自分は誰に言葉を向けようとしているのかを思い出した

 

 

「…すいません」

 

 

シンは謝った

いくら議長にたくさんの称賛の言葉をもらったとはいえ、さすがに出しゃばりすぎだ

 

シンは引き下がろうとする

 

 

「いや、構わんよ。実際、私も前線で戦う者たちの声を聴きたくて、君たちに来てもらったのだから」

 

 

デュランダルは、シンに、言いかけた言葉を言ってほしいと言葉をかける

シンは、タリアに視線を向ける

 

タリアは、ゆっくりと頷いた

 

それを見て少し心を落ち着けてから、シンは口を開いた

 

 

「確かに、戦わないようにすることも大切だと思います。ですが、敵の脅威があるときは…、戦わないといけないと思います!」

 

 

だんだん口調が荒くなってきていることに気づくシン

荒ぶってきた心を沈める

 

これは、シンの本心だ

 

戦うべき時に戦う

シンは、それができなかった

 

だから、あの時両親は死んだ

マユは生き残ったが、あれは運が良かっただけだ

 

だからこそ、戦うべき時には戦う

それが、シンの気持ち

 

 

「…ですが」

 

 

そこに、声が入り込んできた

その声の主はシエルだった

 

シエルは、その視線に誰も入れず、揺れるカップの中のコーヒーの面に視線を落としながら続けた

 

 

「私は、そう思い続けながら戦って、苦しんできた人を知っています」

 

 

シンたちは、目を見開く

ただ一人、デュランダルだけが、柔らかい笑みを浮かべてシエルを見ていた

 

 

「戦い続けて…、そうすれば、いつか戦争が終わると信じて…。けど、結局戦争は終わりませんでした。ただ、戦い続けるだけでは、戦争は終わりません。それは、前大戦を通して知ったはずです」

 

 

シエルは沈んだ表情のまま続ける

 

 

「…ですが、戦争を終わらせるためにどうすればいいのか。私には、その答えが出せません…」

 

 

シエルは、その答えを探しにザフトに戻ったのだ

デュランダルの元ならば、その答えが見つけられると思ったから

 

だが、シエルは再び戦いにその身を投じている

 

もう、何をどうすればいいのか、シエルにはだんだんわからなくなってきていた

 

 

「…そう。問題はそこなんだ」

 

 

デュランダルは席を立つ

手すりまでゆったりと歩を進めて、寄りかかる

 

 

「なぜ我々はこうも戦い続けるのか…、なぜ戦争はなくならないのか。君はなぜだと思う?シン」

 

 

「え」

 

 

急に名を呼ばれ、戸惑うシン

 

 

「え…、と…。それは、ブルーコスモスや大西洋連邦みたいに、身勝手な連中がいるから…」

 

 

言葉を進めていって、だんだんと不安になってきてしまう

 

 

「違うでしょうか…?」

 

 

「あぁ…、まぁ、それもある」

 

 

それも、ということはまだ何か理由があるのだろうか

シンはデュランダルが続けるであろう言葉に耳を傾ける

 

 

「あれが欲しい、自分たちとは違う。憎い、怖い。そんな理由で戦ってきていることも確かだが、戦争の中には、もっと救いようのない一面もあるのだよ」

 

 

シンとルナマリアは顔を見合わせた

デュランダルは、手すりの向こうに鎮座しているモビルスーツに目を向ける

 

 

「たとえばあの機体…、ZGMF-X49Sエキシスター。あの機体はザフトの技術力を結集させて作り上げた機体だが…。今こうしている間にも、地球軍側でも新型の機体が作り上げられているかもしれない」

 

 

デュランダルの言いたいことが上手く読み取れない

要するに、何が言いたいのか

 

 

「戦争の中では、様々なものが破壊されていく。モビルスーツしかりモビルアーマーしかり。あれだって、次の戦いで破壊されないとは言い切れない。故に、次々に新しいものを作り上げていく。産業としては、これほど儲かることはないだろう…」

 

 

「あ…」

 

 

シンはそこで合点がいく

機体を作り上げる産業としては、確かにそれは大量に儲かることが出来るだろう

 

つまり

 

 

「戦争が終わってほしくない。そう思う者も出てくるのだ」

 

 

思わず息をのむ

 

戦争が終わってしまえば、もう新しい機体を作る必要はなくなる

そして、それは同時に儲けるということが出来なくなってしまう

 

 

「『あれは敵だ』『撃たれた、許せない』『だから皆、戦おう』そうして敵を作り上げてきた者たちがいる。…今回の戦争の影にも、彼らロゴスがいるだろう」

 

 

ロゴス…

それが、今、そして過去の戦争を引き起こした黒幕

 

たくさんの人たちを、犠牲にしてきた奴ら…!

 

 

「できることなら、何とかしたいのだがね…。とても難しいのだよ、それが…」

 

 

シンは拳を握りしめる

 

両親は、そいつらに殺されてしまったのだ

たかが、金儲けという目的のために

 

それだけのために

 

奴らは、必ず自分の手で討つ

シンは心の中で、決心するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、本当によろしいんですか?」

 

 

「せっかくの休暇なんだし、議長のご厚意なんだもの。ゆっくりさせていただきなさい」

 

 

ルナマリアの弾んだ声に、タリアが答える

 

デュランダルが、ミネルバのパイロットたちに、この施設に一晩泊まることを勧めてくれたのだ

ザフト所有とはいえ、最高級のホテルと引けを取らない施設で泊まることを勧められたのだ

 

シンもルナマリアも、表情を明るくさせて顔を見合わせる

 

二人は優秀なパイロットだが、先程のデュランダルとの談話の時もそうだが、たまに年相応の所を見せる時がある

 

シエルはその光景を見て微笑ましい思いを抱く

 

 

「そうさせてもらおう?艦には私が戻るから…」

 

 

「いや、君はそうはいかないようだよ。ほら」

 

 

シエルが艦に戻る意思を伝えようとするが、なぜかデュランダルがそれを許さない

なぜ?とシエルはデュランダルを見ると、彼は視線を前に向けている

 

シエルも、その視線を追うと…

 

揺れていた

 

 

 

 

 

 

 

桃色の髪が

 

画面の向こうの読者たち

変なことを考えただろう?

正直に手を上げなさい

 

シエルが直々にお仕置きをするから

 

 

 

 

 

 

 

「シエル~!」

 

 

桃色の髪の主は、シエルの名を呼びながら勢いよく走ってくる

その姿を見て、シエル硬直した

 

ディオキアに着いた直後、コンサートをしていたラクス・クライン

彼女がこちらに走ってきていた

 

硬直していたシエルの傍にいたデュランダルの前に、まずラクス・クラインは立ち止まる

 

 

「これはラクス・クライン。コンサート、お疲れ様でした」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

デュランダルと言葉をかけあう

 

デュランダルはラクス・クラインに頭を下げ、ラクス・クラインはデュランダルに微笑みかける

 

そして、ラクス・クラインはくるりとシエルに向き合う

 

 

「お久しぶりですわね、シエル。会えてうれしいですわ」

 

 

「え…、えぇ。そうですね…」

 

 

挨拶代わりの言葉をかける

シエルはしどろもどろながら、何とか言葉を返すことに成功するが

 

内心結構ギリギリの状態である

 

 

「ホテルにおいでと聞いて、急いで戻ってまいりましたのよ?今日のコンサートはいかがでしたか?」

 

 

声を弾ませて問いかけてくる目の前のラクス

 

 

「えぇ…、素晴らしい歌声でした」

 

 

「本当に!?まぁ、うれしい!」

 

 

…ラクスは、確かに嬉しがると思うが、そこまでテンション高くない

 

内心でつぶやくシエル

 

しかし、こちらに視線をぶつけてくるシン、ルナマリア、ハイネが気になってしょうがない

自然にふるまえていないのだろうか

 

最初は確かにつっかかってしまったが、次はなめらかに言えたつもりなのだが

 

 

「彼らにも、今日はここに泊まっていくことを勧めました。どうぞ久しぶりに、ゆっくりとご友人同士でお食事でもなさってください」

 

 

ぎょっ、と目を見開くシエル

 

目を輝かせるラクス

 

 

「まぁっ、本当ですの!?それはうれしいですわ!」

 

 

「いや…、私は艦に…」

 

 

ラクスと食事はできない

そう言おうとしたが

 

 

「艦には、俺が戻ります」

 

 

レイの冷静な、それでいていつもよりも温かみのこもった声がそれを遮った

 

 

「褒賞を受け取るべきミネルバのエースは、シンとルティウス隊長です。ヴェステンフルス隊長も、ルティウス隊長と共に見事な作戦を立てられました。ルナマリアも女性ですし、ここは俺が」

 

 

「いや…、それは…」

 

 

いつもは中々しゃべらないのに、どうしてここで見事に的を得た言葉を発するのだ

シエルはつい、レイを恨みそうになってしまう

 

 

「ではシエル、さっそく…」

 

 

あぁ、もう逃げられない

何を話せばいいと言うのだ

 

絶望へと落ちそうになったその時

 

 

「あぁ…、その前に、シエル」

 

 

「はい?」

 

 

デュランダルから、お呼びがかかる

 

 

 

 

 

すっかり日は落ち、暗くなった庭園に二人は立っていた

あのラクスは、話しの邪魔にならないように近くの噴水のベンチでじっとしている

 

 

「実は、アークエンジェルのことなんだがね…。君も、聞いてはいるのだろう?」

 

 

「はい」

 

 

デュランダルの口から、今、自分が一番知りたい対象の言葉が出てきた

 

 

「あの艦がオーブを出て、どこへ行ってしまったのか。君なら知っていると思ってね」

 

 

…議長も知らないのか

シエルは落胆を覚える

 

もしかしたら、議長は何か知っているのでは、と期待していたシエルだったのだが

それは裏切られることとなった

 

 

「私も、ずっと気にかかっていたのですが…、そこは何も。私の方こそ、そのことを議長にお聞きしてみたかったところでした」

 

 

デュランダルは、その言葉を聞いて少し落胆、したような表情を見せてからシエルから視線をそらす

 

…一瞬、自分を探るような視線でこちらを見たのは気のせいだろうか

 

 

「…君には、まだ私に聞きたいことがあるのだろう?」

 

 

デュランダルは、シエルの心を読んだように、口を開く

確かに、その通りだ

 

アークエンジェルのことを知りたいのもやまやまだが、こちらのことも聞きたい

 

 

「…あのラクスは、一体何なのでしょう?」

 

 

直球で聞く

ここで回りくどい言い方をしても仕方ない

 

どうせ、答えは一つなのだ

 

 

「…彼女の名は、ミーア・キャンベル。ラクス・クラインの代わり…というべきか」

 

 

「代わり…?」

 

 

代わり…

その言葉が、シエルに突き刺さる

 

そして、思い出す

あの、ラウ・ル・クルーゼという男のことを

 

セラと激闘を繰り広げ、そして、最後はセラに撃たれることを望んだ男

 

アル・ダ・フラガという男のクローンで、そのことにずっと苦しみ続けてきた男

 

…セラがいたら、議長を殴り倒してしまうのではないか

シエルはそう思ってしまう

 

偽物

そのことで、ずっと苦しんできた男と、ずっとセラは対峙してきたのだから

 

 

「笑ってくれて構わないよ。…だが、彼女の影響は大きいのだ。私のより、ずっとね」

 

 

「…」

 

 

シエルは、ラクス、ミーアという女性を見つめるデュランダルを眺める

 

 

「世界は、彼女を必要としているのだ。わかってくれとは言わない。だが…、できれば、何も言わないでほしい」

 

 

勝手なことを言う

 

 

「…時間を取らせて悪かったね。もし、あの艦から君に連絡が取ってくるようなことがあれば、私に報せてくれないか」

 

 

デュランダルは、アークエンジェル

いや、ラクスの行方をどうしても知りたいらしい

 

 

「はい、わかりました。…議長の方も、もし行方がわかりましたら、私にも連絡を」

 

 

「あぁ、わかった」

 

 

そう言ってから、デュランダルは立ち去っていく

 

その途端、飛び出すようにあのミーアという女性がこちらに駆けてくる

それを見ながら、シエルは思う

 

自分が、ザフトに戻ってきたことは、正しかったのだろうか

議長が、世界を良くしようとしていることは間違いない

 

と、思いたい

 

だが、何だろう

 

どうして、自分の中で、まるで警告を発しているかのように、心臓が高鳴っているのだろう

 

何も答えがわからぬまま、シエルはミーアに手を引かれ、食事へと向かうのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エキシスターについては、いつもの通り(?)戦闘直前の回で紹介したいと思います


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PHASE20 邂逅

基本原作通りです


朝、カーテンの隙間から日差しが入り込んでくる

シエルは、目をこすりながら意識を覚ましていく

 

目をゆっくりと開け、一度閉じて、もう一度開けた

そこで、シエルは起き上がる

 

シエルは、やけにベッドが柔らかいことに気づく

 

 

(…そうだ、昨日はホテルに泊まったんだ)

 

 

昨日は、議長と話した後、ミーアと夕食をとった

その後は部屋に戻り、眠たくなって…

寝間着に着替えた後、ベッドに倒れ込んだのだ

 

今日は休暇だ

とはいえ、そろそろ起きなければ

 

シエルはベッドから降りて着替えることにする

朝食を取りたいところだが…、ネグリジェの状態では出れるはずもない

 

 

「シエル~、おはようございまーす!」

 

 

「?」

 

 

扉の向こうから声が聞こえてくる

この声は…、ラクスの声だが、このホテルにいるのはミーアだ

自分を呼んでいるのはミーアだろう

 

 

「シエル、起きていますか?よろしければ、ミネルバの子たちと一緒に、ダイニングでもいかがでしょう?」

 

 

ミネルバの子…、恐らくシンとルナマリアだろう

レイはそんな性格ではないだろうし、ハイネを子、と呼ぶはずもない

 

 

「シエル、起きていますか?」

 

 

ミーア、いや、ここではラクスだと考えよう

ラクスが再度扉の向こうから呼びかけてくる

 

シエルは、寝間着の上を脱いでいる途中だ

それも、ボタンがついているタイプではない

 

顔に寝間着をかぶっている状態では声が届かない

現に、今シエルは「少し待って」と声を出しているのだが、扉の向こうから返事は返ってこない

 

 

「シエル…?入りますよぉ?」

 

 

…入…る?

え、待って

ちょっと待って

 

今、シエルは寝間着を全て脱ぎ終わった状態だ

つまり、下着…

 

 

「え…、あの、さすがにそれは…」

 

 

扉の向こうには、シエルの予想通りシンがいるのだろう

声が聞こえてくる

 

じゃない!

さすがにそれはやめてほしい

というか、何で…

 

シエルは、見た

錠から、かしゃっと音がしたのを

 

 

「っ!待って!」

 

 

「シエル?そろそろおきない…」

 

 

「「「あ…」」」

 

 

扉が、開かれてしまった

 

扉を開いたのは、ラクス

そして、その後ろにはルナマリア、シエルの予想と外れてマユ、とシン

 

 

「…」

 

 

「シン!」

 

 

「お兄ちゃん!」

 

 

「え…、ぐぅっ!?」

 

 

しえるとシンの顔がみるみる赤くなっていく

それを見て、我に返ったマユとルナマリアがシンの首を無理やりまわした

 

…嫌な音が聞こえたのは気のせいだと思いたい

 

 

「ご、ごめんなさい!あ、あの…」

 

 

「えっと…、謝るのはいいから、閉めてほしいな…」

 

 

「あぁぁぁぁ!!わかりました!!!!」

 

 

ラクスが、慌てた様子でばたん!と勢いよく扉を閉める

 

何とも微妙な空気になってしまったものだ

 

 

「…はぁ」

 

 

シエルは、ため息をつきながら、着替えを再開するのだった

 

…そういえば、前にもこんなことがあったな

まだザフトに戻る前、セラが着替え中にノックなしに入ってきたことがあって…

 

あの時は、ラクスもいて、硬直したセラの目を人差し指と中指で突いてたけど…

あの時のセラの痛みは…、考えたくないかな…

 

特にシンへの感情は抱かず、過去の思い出に気を馳せていたシエルだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?議長はもう発たれたんですか?」

 

 

マユが目を見開いて聞く

 

シエルが着替えを終え、部屋を出た後、四人はダイニングへと足を踏み入れていた

ちなみに、シンは首をさすっている

 

シエルに目を向けていないところを見ると、首の痛みが凄すぎて、そこを考えることさえできていないようだった

 

 

「お忙しい方ですもの。まだまだやることがおありになるんでしょうね」

 

 

マユの問いに、ラクスが柔らかく答える

 

 

「それにしても、シンはいいわよねー。議長にあんなにお褒めの言葉をいただいて」

 

 

その後、ルナマリアがシンに言葉をかける

皮肉にも聞こえてくる言葉だが、込められているのは純粋な喜びの気持ちである

 

 

「うん…。…ねえ、何か首が痛いんだけど、何で?」

 

 

…予想を超えて、記憶が飛んでいるようである

 

 

女性三人組は、シンの問いに対してそっぽを向くという対応をする

シンは、何でそんな対応をされるのかわからず、首を傾げて…、痛がりながらまた首をさする

 

四人が、つく席をさがそうとしたとき

 

 

「なぁ」

 

 

声がかけられた

四人が目を向けると、そこには

 

 

「ヴェステンフルス隊長、おはようございます」

 

 

窓際でコーヒーを飲んでくつろいでいるハイネがいた

ルナマリアが代表して、ハイネに挨拶をする

 

ラクスを除いた三人が敬礼をとる

 

 

「あっはは、俺にそういうのはいいよ」

 

 

三人の敬礼を見て、ハイネは笑いながら声をかける

 

 

「え?でも…」

 

 

ルナマリアが戸惑いの声を出す

 

ハイネは、フェイスだ

自分たちにとって上司なのだ

 

まぁ、シエルは違うのだが、それでもフェイスに対して礼を取るのは礼儀でもある

 

だが、ハイネはそれを嫌がっていた

 

 

「どうせ戦場に出たら、そういうのは関係ないだろ?赤服も、緑も。指揮を執るのもいるだろうけど、俺たちは命令通りにわぁわぁ群れなきゃ戦えない地球軍のあほどもとは違うんだからさ?」

 

 

ハイネはほがらかに笑いながら言葉を続けていく

 

 

「俺たちは仲間なんだから、息合わせていこうぜ。てことで、まず、俺のことはハイネって呼んでくれよな!隊長とかさんとかいらないからな!」

 

 

ハイネが決めつけるように言う

だが、嫌だと思わないのは、ハイネの人徳だろう

それに、言っていることは正しいのだから

 

 

「…はい」

 

 

ルナマリアが返事を返す

そして、シン、マユ、シエルも頷いて返す

 

それを見て、ハイネは満足そうにうんうんと頷く

 

 

「じゃ、お前たちは朝食まだなんだろ?俺もまだなんだ一緒にとっちまおうぜ?」

 

 

「あれ?でも…」

 

 

ハイネの言葉が気になり、シンが声を漏らす

 

ハイネがついていたテーブルには、何も乗っていなかった

もう、朝食をすでに取っていたと思っていたのだが

 

 

「今まで、俺が配属されてから色々あって、ゆっくり話す時間がなかったからなぁ…。せっかくの休暇だし、お前らと話そうと思ってよ!」

 

 

笑みを浮かべながらハイネは言う

 

確かに、ハイネが配属されてから、インド洋での戦闘、ガルナハンの作戦

戦い続きでゆっくりと話す時間はなかった

 

しかし、わざわざハイネから一緒に話そうと誘いをしてくるとは

 

断る理由もなく、そんなわけもなく、シエルたちはハイネと同じテーブルに着く

ラクスもその席に着こうとしたのだが…

 

 

「ラクス様。今日の打ち合わせがございますので、あちらで…」

 

 

「えぇー!?残念…」

 

 

ラクスのお付きの人だろう、が、ラクスに声をかける

ラクスは、口を尖らせながら、はぁ、と頭を下げる

 

 

「仕方ありませんわね…。皆様と一緒にお話しできればよかったのですけれど…。ではシエル、また後ほど」

 

 

そう言って、ラクスは去っていった

 

その後姿を、シエルたちは眺める

 

 

「ラクス様も、やっぱり忙しいんですね…」

 

 

マユがぽつりとつぶやく

 

 

「そうよねー…。こうして一緒にいたのが奇跡なようなものなんだから」

 

 

ルナマリアがため息をつきながら言う

 

 

 

その後、話題は一転二転して、不意にハイネが口を開いた

 

 

「しかし…、お前がインパルスで、ザクウォーリアだろ?」

 

 

シン、ルナマリアと指を差していきながらそれぞれの機体を言っていくハイネ

 

 

「えっと、ヴァルキリー。そしてあの金髪がセイバー。俺がグフ・イグナイテッド…。戦力としては十分だよな?」

 

 

「あの…、何を?」

 

 

シエルが、ハイネの考えていることがわからず声を出す

先程まで、普通に話していたのだ

急にミネルバの戦力のことを話し始められて困惑してしまう

 

 

「いやぁ、朝、ここに来た時に艦長と会ってさ。その時に教えてもらったんだけど…。覚えてるか?昨日、議長と話してた、新型の機体。確か…、エキシスターって言ったか」

 

 

四人が頷く

よく覚えていた

 

インパルスやヴァルキリー、セイバーと同じように、あれもガンダムだった

印象に残っていた

 

 

「あのパイロットの人、議長の所に案内してくれたあの兵士なんだけど…、ミネルバに配属らしいぜ?」

 

 

「「「えぇっ!?」」」

 

 

シン、マユ、ルナマリアが驚愕の声を漏らす

シエルも、目を見開いて驚きを表していた

 

シン、レイ、ルナマリア、シエル

これだけでも戦力は十分と言っていいほど

その上に、ハイネが加わり、そして新型機がもう一機

 

 

「ただでさえフェイスが三人ってのに…。まぁそいつはフェイスではないんだけどさ」

 

 

どうやら、あらたに配属される人員はフェイスではないらしい

しかし、それでも議長は何を考えているのだろうか

 

ミネルバ一隻に、新型機を次々と配属させて

 

 

「まぁ、議長の気持ちもわからないでもないんだけどさ?言ってたぜ?」

 

 

ハイネはそこで言葉を切る

そして、持っていたカップを置いて、席についているシエルたち全員に視線を巡らせてから、口を開いた

 

 

「『ミネルバには、期待している。前大戦の、アークエンジェルのような役割を果たしてくれるのではないかとね』…て。いや、参ったよなぁ。アークエンジェルときたもんだ」

 

 

シンとルナマリアがぽかんと口を開けている

マユが、それを見て苦笑いしている

 

アークエンジェル、ザフトの中では有名な艦だ

 

前大戦での前半では、不沈艦としてザフトの前に立ちはだかり、そしてあのヤキン・ドゥーエ防衛戦では、プラントを救ってくれた

 

その活躍を、知らない兵はいない

 

 

「まぁ、議長が期待してくれてるのは嬉しいけど、俺たちは俺たちのペースで戦ってこうや。新しい仲間を加えてな!」

 

 

ハイネが締めくくるように言う

シンとルナマリアは、ようやく硬直から解かれ、元気よく返事を返した

 

シエルもそれを見て微笑む

 

ここにレイがいたら、と思わなくもないが、今それを思っても仕方がない

 

まず、ハイネが席を立った

何やら、新しく配属された人員をミネルバへ案内することを頼まれたらしい

 

それをきっかけに、残った四人もそれぞれ分かれることにした

 

騒がしい朝が、ようやく終わる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエルたちと分かれた後、シンは基地のバイクを借りて走らせていた

吹き付ける風が髪を揺らす

 

不快には感じない、むしろ気持ちいい

 

しかし、新しい人員か…

ハイネはとてもいい上司だった

今度の人は、上司ということではないようだけど、どんな人だろうか

 

…めんどくさい人じゃなければいいのだが

 

そんなことを思いながら、シンはバイクを加速させた

 

今、しんが走っている道は、すぐ横に海が広がっている

潮風がとても気持ちいいのだ

 

 

「…」

 

 

この潮風を、もっと感じたい

シンはそう思い、近くの崖にバイクを止める

 

バイクから降りて、海を眺める

 

波が穏やかに揺れ、日差しが当たって海面が輝く

上空ではうみねこが飛び、泣き声が静寂の中響き渡る

 

 

「…?」

 

 

そこで、シンはうみねこの鳴き声以外の音を捉える

これは…、人の、女の子の声だ

歌声…だろうか

 

シンは声のする方に目を向ける

 

シンの予想通り、女の子が歌って、そして踊っていた

柔らかそうな金髪が揺れている

 

その美しさに、シンは目を取られそうになるが、何とかそれを抑える

 

一度落ち着こうと、シンは目を海へと向ける

 

 

「あっ…」

 

 

「?」

 

 

小さな悲鳴が聞こえた

シンはそれがあの女の子の声だと気づいて目を向ける

 

だが、そこには誰の姿もなかった

 

 

「…え?」

 

 

呆然と声を漏らす

その直後、下の方で水音がした

 

 

「まさか…」

 

 

シンは、頭の中に浮かんだ考えにぞっとしながら走り出す

女の子が先程いた場所へとつき、そこから海をのぞき込む

 

そこには、海面からのぞく金色の頭が

 

 

「えっ!?落ちたのか!?」

 

 

女の子は、必死にもがいているが、波にあおられてから浮かんでこない

 

 

「泳げないのかよ!」

 

 

シンは上着を投げ捨てる

そして、その身を崖から躍らせた

 

海面に叩きつけられる衝撃に耐え、そして沈んだ体を浮かび上がらせる

息をいっぱいに吸って、そしてシンは海中へと潜った

 

女の子の頭を最後に見た方へと目を向けると…、いた

必死にもがきながらも、だんだん沈んでいく女の子が

 

シンは水をかき分けて女の子の所へ進んでいく

そして、女の子の腰を抱えて水面へと上げる

 

だが、女の子はパニックを起こしているのか、シンが抱えているにも関わらず未だ暴れ続ける

 

女の子のひじが、爪が、シンの顔面に当たる

 

このままではまずい

シンは一旦女の子と共に潜って、自分を下に来るようにする

そして、そのまま女の子を持ち上げ、水面に再び上がった

 

 

「落ち着けっ!」

 

 

願望のこもった声を出しながら、シンは女の子の様子を見る

 

ようやく、自分の状態が落ち着いてきたのがわかったのか、女の子は暴れるのを止める

 

おとなしくなった

女の子を抱いて、浅瀬へとたどり着く

 

シンは、岩場に腰を下ろして乱れた息を落ち着かせる

そして、へたり込んでいる女の子を見て、怒鳴った

 

 

「死ぬ気か、このばかっ!」

 

 

女の子が震えあがった

だが、そんなことをシンは気にすることが出来なかった

 

 

「泳げもしないのに、あんなとこ…ろで…」

 

 

あの様子を見ている限り、海が好きなのだということはよくわかった

だが、泳げないのに、それなのにあんな危険な所でくるくる回っているとは

 

さすがに怒りが込み上げてきたのだが、シンは勢いを弱めていく

女の子の様子がおかしいのだ

 

 

「あ…、あぁ…」

 

 

だんだん表情が強張っていき、顔色もとても青くなっている

 

一瞬、風か?とも思ったが、それにしてもおかしすぎる

 

 

「いや…、しぬの…、いや…」

 

 

女の子は何やらささやいている

シンにはよく聞こえてこなかったため、耳を立てて顔を近づけようとするが

 

 

「いやぁあああああああ!!」

 

 

弾かれるように女の子は立ち上がって、何を思ったのか海へと向かって行ってしまった

 

 

「え…、いや!ちょっと!待てって!」

 

 

シンは、女の子の行動に戸惑いを覚えながら追いかける

女の子は水に足を取られ、何度もよろけながらも、まるで何かから逃げるように海へと向かっていく

 

 

「いや…っ、しぬのはいやっ…!こわい!」

 

 

「だから、そうなら行くなよ!」

 

 

シンは女の子に追いつき、その体を抱える

だが、女の子はシンから逃れようともがく

 

 

「撃たれたら死ぬの!死ぬのぉ!」

 

 

「っ!」

 

 

撃たれたら、死ぬ?

それってまさか…

 

シンは、女の子の言葉に動きを止めてしまう

それによって、女の子は意図せずシンに肘を当て、拘束から抜け出す

 

 

「いやぁっ!死ぬの、怖いっ!」

 

 

シンは再び女の子を追いかける

そして、今度は抱えるのではなく、正面に引き寄せ、抱き締めた

 

 

「大丈夫だから!君は死なない!」

 

 

この子がどうしてそこまで怖がっているのか、シンはわからない

だが、シンはこう思っていた

 

この子は、戦争の被害に遭っている子

 

未だ震える女の子を、シンはさらにきつく抱き締める

 

 

「大丈夫だから。俺が、君を守るから」

 

 

今度は、優しく、語り掛けるように声をかける

 

女の子の体から、力が抜けていくのがわかる

今度こそ、落ち着いたようだ

 

シンは、体を放して女の子の顔を見つめる

その眼からは涙があふれ、そして女の子は声を出して泣き始めた

 

 

「ごめん…、でも、もう大丈夫だから…。ね?」

 

 

女の子は、シンに縋り付く

シンは、もう一度そっと、その体を抱きしめた

 

 

「俺が君を、守るから…」

 

 

「まも…る…?」

 

 

女の子の口から声が漏れた

 

先程も思ったが、綺麗な声だ

 

 

「うん」

 

 

シンは、笑顔でうなずいて返した後、女の子を岩場に座らせた

女の子は、ぼうっとした表情のまま、言葉を繰り返していた

 

 

「まもる…」

 

 

女の子はシンの手を取って、自分の頬に触れさせた

シンは、掌に触れるなめらかな感触を感じながらもう一度頷いた

 

 

「守るよ」

 

 

女の子は目を閉じた

その表情は、安堵の思いで満ち溢れていた

 

シンは、女の子に怪我はないかと思い立ち、目線を巡らせる

すると、案の定、女の子の足から出血しているのを見つけた

 

 

「あ…、岩で切っちゃったのか…。痛くない?」

 

 

シンは、しゃがみこんで出血場所を見る

そう大したことはなさそうだが、女の子自身がそうでないと感じているかもしれない

 

シンは見上げて聞いてみるが、女の子は答えない

まるで、全てシンに任せると言わんばかりに視線を向けてくる

 

シンは、ポケットの中からハンカチを取り出し、出血場所にきつく巻きつけた

菌が入り込まないようにする

 

その後、シンは立ち上がって辺りを見渡す

この場は高い岩壁に囲まれている

そうでないところもあるが、そこからつながる場所は海である

 

 

「どうすればいいんだ…?」

 

 

シンはつぶやく

ここから抜け出すためには、崖を上る

自分でもできるかどうかわからないし、まず女の子の足が怪我しているのだから却下

 

 

「この子は泳げないし…」

 

 

崖を沿って泳いで上陸できるところを探すのも、女の子が泳げないため却下

 

 

「…仕方ないか」

 

 

シンは首にかかっている鎖を出す

その先には、発信機や認識票が入っている

 

これを折ると、ミネルバに自分の居場所を報せることが出来る

 

緊急の時に使うべきものなのだが、シンはわずかに迷いながらも、発信機を折った

 

これで、ミネルバに自分の居場所が伝わり、自分が緊急の事態に陥ったと考え、探しに来てくれるだろう

後は、どこで待つかだが

 

 

「あ」

 

 

もう一度辺りを見渡すと、小さな洞窟を見つけた

そこなら、風よけには十分だろう

 

濡れた自分と女の子の服も乾かさなければならない

シンは、女の子の手を取って、洞窟の中へと歩いていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうすでに日は暮れ、暗闇があたりを包んでいた

シンと女の子は、洞窟の中で焚き火で暖をとっていた

 

二人は背中合わせになって座っている

その横には、簡易的に作った物干し台

シンと女の子の服がかけられている

 

背中合わせになっているのはそのためだ

 

シンは焚き火と向き合い、枝を入れて火の勢いが弱まらないようにしている

 

 

「君は、この町の子?名前はわかる」

 

 

シンは後ろにいる女の子に問いかける

 

 

「なまえ…、ステラ…。まち、知らない…」

 

 

綺麗な声で答えてくる女の子

なまえはステラというのか

でも、町を知らないというのはどういうことだろうか

 

 

「じゃぁ、いつも誰と一緒にいる?お父さんとお母さんは?」

 

 

「一緒は、ネオ、スウェン、スティング、アウル…。お父さん、お母さん、知らない…」

 

 

前半の四人は、兄弟か何かだろうか

だが、両親のことを知らないとは

 

 

「そっか…。君は、怖い目に遭ってたんだね…」

 

 

戦争のせいで、親を亡くしたと考えたシン

ついそんなことを言ってしまった

 

背中に感じる、びくりと震えた感触

 

 

「あっ…、今はもう大丈夫だよ?俺が君を守るから」

 

 

女の子、ステラは首を回してこちらを見てくる

吸い込まれそうな瞳と目を合わせるシン

 

 

「守る…。ステラ、死なない?」

 

 

「大丈夫、死なないよ」

 

 

しかし、戦争でひどい目に遭っているのは確かだろうが、なぜここまで<死>という言葉に敏感なのだろう?

考えるシンだが、ここで、相手に名乗らせているのに自分は名乗っていないことに気づく

 

 

「あ、俺、シン。シン・アスカっていうんだ」

 

 

名乗るシン

ステラはシンの顔をじっと見つめながら、ゆっくりと口を開く

 

 

「シン…、シン…」

 

 

シンの名前を繰り返すステラ

そこで、ステラは立ち上がった

 

立ち上がったステラはかけられたドレスのポケットを何やらまさぐっている

シンは不思議そうにその様子を眺めていたのだが、不意にステラが振り返った

その途端、シンは顔を赤らめてすぐに目線を燃えている焚き木に戻す

 

…なぜだ

何かを思い出しそうな感覚がするのだが、なぜだ

 

と、視界に白い手が入ってくる

 

 

「え…」

 

 

シンは、その手の上に淡い桃色の貝殻が載っていることに気づく

 

 

「俺に?くれるの?」

 

 

シンは、なるべくステラの顔だけが映るようにして目を向ける

ステラは、頷く

 

シンは、掌から貝殻を受け取り、そして微笑む

 

 

「ありがとう」

 

 

ただの貝殻だ

それなのに、心が暖かくなる

 

ステラは元の場所へ戻…らず、今度はシンの隣に座った

肌と肌がくっつくほど距離を近づけて

 

シンはもじもじしながらそっぽを向く

 

…そろそろ誰か来る頃だろうか

ミネルバにエマージェンシーを送ってから時間が経っている

 

まだ乾ききってはいないだろうが、シンは服を着ることにする

ドレスをステラに渡し、背中合わせに二人は服を着る

 

着てから少し経つと、波の音とともに、エンジン音が耳に届く

 

 

「来た!」

 

 

シンは、洞窟の穴から海をのぞき込むと、案の定そこにはザフトのボートがこちらに向かってきていた

 

 

「休暇中にエマージェンシーなんて、本当にやるときは派手にやるよね!」

 

 

「シエル!」

 

 

ボートが浅瀬に泊まり、乗っていたシエルが降りてくる

 

 

「何でこんなところに遭難するの…?」

 

 

「別に遭難したわけじゃないですよ。ただ、ちょっと…」

 

 

呆れたように言うシエルに返すシン

そこで、シエルはシンの他にもう一人いることに気づいた

 

金髪のショートカットの女の子

人見知りなのか、シンの背中に隠れてこちらの様子を窺っている

 

シエル、シン、ステラを乗せて、ボートは動き出した

シエルは収納されている毛布を取り出し、ステラにかけようとしたのだが、ステラは震えてシンに身を寄せる

 

シエルは、ならばとシンに毛布を渡す

シンはシエルの意を読み、受け取った毛布をステラの肩にかける

 

今度は、ステラはおとなしく毛布を受ける

 

 

「それで、どうしたの?」

 

 

シエルは、シンになぜこんな所でエマージェンシーを出すことになったのかを聞く

 

シンはぽつりぽつりと話し始める

 

 

「この子が崖から落ちちゃって…。助けたは良いけど、あそこから動けなくなっちゃったんです」

 

 

このボートの席は三列に分かれている

 

一列目は運転席と助手席

二列目三列目は客席で、シエルは二列目、シンとステラは三列目に座っている

 

シエルは後ろに振り返ってシンに問いかける

 

 

「その子は、ディオキアの町の子?」

 

 

「いえ。それはよくわからなくて…」

 

 

シンが声のトーンを落として答える

 

 

「たぶん、戦争で親を亡くして、だいぶ怖い目に遭ったんだと思うんですけど…」

 

 

「そう…」

 

 

シエルは、ステラをちらりと見る

 

 

「名前しかわからないんなら、基地に連れていって、身元を調べてもらうしかないね…」

 

 

やはり、名前だけではそうなるしかないようだ

何とかこの子を元の場所へ返してあげたいと思うシン

 

 

「ステラーっ!」

 

 

ステラが、顔をほころばせながらボートから身を乗り出す

 

ステラの視線の先は、ステラが落ちたあの崖の上

声が聞こえてきた先も、確かにそこだった

 

崖の上には二人の影が見える

ステラを探しているのだろうか

シンはシエルを見る

 

 

「ここからは難しいかな…。一旦基地へ戻って引き返そう」

 

 

シエルの指示通り、一行は上陸した後、基地へと向かう

そして基地のジープを借りて、先を急ぐ

 

ジープを走らせて十分ほど経っただろうか

あの崖が見えてきた

 

ボートから見上げて見えたあの二つの影の主だろう

今はステラの名を呼ぶのをやめ、止めてある車に寄りかかって話している

 

と、二人は車に乗って、走り出した

ジープの方向とは逆へ

 

 

「スティング!」

 

 

ステラは、その車とすれ違う瞬間に、あの二人の内の一人のものだろう名を呼んだ

 

すれ違った車は、急ブレーキをかけて止まる

 

シエルは、車に乗っていた二人を見る

 

一人は緑色の髪を立たせている鋭い眼の男性

もう一人は、水色の髪、目はもう一人のより柔らかく、比べると幼いという印象が浮かぶ

 

 

「ステラ!?」

 

 

鋭い眼の方の男が、目を見開いてステラを見る

こっちがスティングなのだろうか

 

ステラはジープから飛び降りる

 

スティングと、もう一人も車から降りてステラを迎える

 

 

「どうしたんだ、お前?」

 

 

スティングがステラに問いかける

 

 

「海に落ちたんです」

 

 

その問いにはシンが答えた

 

 

「俺、ちょうどそばにいて。でもよかった。この人のこと、よくわかんなくて、どうしようかと思ってたところなんです」

 

 

シンが、心底安心したという表情を見せながら言う

 

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 

シンとスティングのやりとりを見ていたシエルは、ふっ、と水色の髪の男を見る

男は、そっぽを向いていた

 

…気のせいだろうか?

睨まれた気がしたのだが

 

スティングがシンにお礼を言い、そこでお開きとなる

 

シンとシエルはジープに乗り、基地に帰ろうとする

 

 

「シン!行っちゃうの…?」

 

 

ステラが、スティングの横から駆け出し、座っているシンをのぞき込む

 

 

「え?あぁ…、ごめんね」

 

 

ステラの表情が、悲しげなものに変わる

 

 

「でもほら、お兄さんたちにも会えたし。もう大丈夫だろ?」

 

 

「んー…」

 

 

考え込むステラ

ずいぶんとシンは懐かれたようだ

 

 

「えっと…、また会えるからさ?ね?」

 

 

シエルは、そこで時計を見る

さすがに長居しすぎた

 

そろそろ帰らなければ

 

 

「シン、そろそろ…」

 

 

申し訳なさげにシエルはシンに言う

 

車が動き始める

シンは、身を乗り出して、後方にいるステラに叫ぶ

 

 

「ごめんね、ステラ!いつかまた会えるから!会いに行くから!」

 

 

シエルは、ちらっと後ろを見る

 

距離が離れ、あまりよく見えなかったが、それでも見えたステラの表情はとても悲しそうにしていた

本当に、シンは懐かれている

 

…何をしたのだろう

何だか、からかいたい気持ちが湧いてくるが、それをするほど空気が読めないシエルではない

ルナマリアにも言うべきではないだろう

 

シエルは、後ろに座るシンを見る

 

 

(…また、会えるといいね。シン)

 

 

心の中でつぶやくシエル

 

再会した二人の笑顔を、頭の中で思い浮かべるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は、お待ちかね(?)ダーダネルスです
とはいっても、触りだけになるでしょうが…


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PHASE21 苦悩

す、すみません…
ダーダネルスまで行きませんでした…

何とか行かせようとしていたのですが、そうすると文字数がとんでもないことになりそうだったので…


「一体、どうなっているんです!?」

 

 

閉ざされた空間に、怒鳴り声が響き渡る

 

ブルーコスモス、そしてロゴスの当主であるロード・ジブリールは怒りに震えていた

苦労の末、開戦までたどり着き、今度こそあの宙の化け物を滅ぼせる

そう思っていたというのに

 

 

「それは、君だってわかっているだろう」

 

 

ジブリールの睨む先、そこにはモニターに映し出されている大西洋連邦大統領コープランドが返答していた

 

 

「プランの準備が完全には整っていない状態でのあの被害。それでも言う通り強引に開戦してみれば、攻撃は全てかわされあっという間に手詰まりだ」

 

 

この言葉を聞き、ジブリールはさらに苛立った

 

何なのだ、そのまるで自分が悪いというような態度は

 

確かに、自分のプランが甘かったことは認めよう

そうでなければ、とっくに自分たちは勝っているのだから

だが、だからといって、ろくに反論もせずに従っておきながら、あとになってこうしてケチをつける

 

本当に無能なものだ

 

 

「これでは、あちこちで民衆が反乱を開始し、結んだ同盟もほころび始めるのも無理はないさ」

 

 

「私は、そんな話が聞きたいのではない!」

 

 

コープランドに、ジブリールは怒声を浴びせる

そうではない

そうではないのだ

 

 

「私は、そんな現状に対して、あなた達がどんな手を考えているのかをお聞きしたいのです!」

 

 

コープランドの表情が、苦いものに変わった

予想してはいたが、呆れてしまう

やはり、何も考えていなかったのか

 

 

「コーディネーターを倒せ、滅ぼせと。あれだけ盛り上げて差し上げたというのに、その火を消してしまうのでしょうか?」

 

 

「いや、それは…」

 

 

たたみかけるジブリールに、コープランドは何も答えられない

ジブリールは大きくため息をつく

 

ジブリールは、実の所焦っていたのだ

前大戦最大の戦役、ヤキン・ドゥーエ防衛戦にて、全当主のムルタ・アズラエルを失った

そこから、ブルーコスモスは一時大きく弱体化してしまった

 

再びその権威を取り戻したのは、ジブリールの功績なのだが、それでも一度失った信頼を。全て取り戻せているわけではない

 

ここで、打つ手を誤れば、今度は確実に隆盛は失われてしまう

 

 

「我らが力を示さないからこういう事態に陥るのです!ユーラシア西側の状況をいつまでも許しておくから、あちこちで反乱が出始めたんですよ!」

 

 

「だが、我々とて手いっぱいなのだ!戦力、人員!これらが不足しているのは君とてわかっているはずだ!大体、君のファントムペインだって、戦果を挙げられていないじゃないか!」

 

 

この返しには、ジブリールも勢いを失わざる得なかった

ファントムペイン、ジブリール専属の部隊

 

今、そのファントムペインはあのミネルバという艦を追っているのだが、未だ落とせていない

たかが一隻の艦に、何を手間取っているのか

 

仮面をかぶった男、ネオ・ロアノークのことを思い浮かべながらいら立ちがはしる

 

それに、コープランドが言った戦力の問題

こちらも深刻だ

 

あのユニウスセブン落下の被害から、未だ回復し切れていない状態なのだ

 

火種はあちこちに広がっている

集中しているならまだしも、そうでないのだから、戦力だって分散される

 

頭を悩ませるジブリールに、ある名案が舞い降りた

 

 

「…そうだ!オーブですよ!」

 

 

「え?」

 

 

コープランドが呆気にとられた表情になる

 

 

「オーブは今、我々の陣営です。そして、戦力だってなかなかの物なはず」

 

 

「あぁ…」

 

 

会心の笑みを浮かべるジブリール

そして、コープランドも光を見つけたと言わんばかりに笑みを浮かべる

 

 

「なぜ今まで思いつかなかったのでしょう!あの国にも、同盟国の責務としてザフトを追っ払ってもらいましょう」

 

 

しかし、ジブリールが思いつかなかったのも無理はない

 

前大戦で、ブルーコスモスの権威が失われてしまったのも、実質オーブが原因なのだ

 

 

「あちらもノーとは言えまい。この間もずいぶん面白いものが飛び出していきましたしね…」

 

 

アークエンジェルとフリーダム

 

ジャスティスは、自爆により破壊され、ヴァルキリーはザフト側にあると、ジブリールは情報に聞いていた

フリーダム、そしてリベルタスのことに関しては聞いていなかったのだが、あの時は驚いたものだ

 

そして、アークエンジェルは、連合側から見れば敵艦であり、脱走艦である

そんなものが現れ、そして代表と共に去っていった

連合に対しての背信行為と同意である

 

オーブ側は否定しているが

 

だが、ジブリールには懸念がかすめた

 

フリーダム、アークエンジェル

彼らは一体何を目的にし、どこに行ったのか

あの英雄と言われている四機のうちの残り一機、リベルタスは

 

そして、あの<セラ・ヤマト>の行方は

 

ムルタ・アズラエルが、アークエンジェル内にいると予想していた

その予想が当たっていたのなら、さらに前大戦の被害が悔やまれることになる

今も、奴は生きているのだ

 

あの化け物が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネオは、メンテナンスルームに向かう廊下を歩いていた

 

 

「だめっ!これはだめっ!」

 

 

そこに、少女の金切り声が聞こえ、ネオは歩くテンポを速めて部屋の中に入る

円形に並ぶ三つのベッド

その一つに座っているステラが、研究員たちに食って掛かっていた

 

 

「あっちいって!さわらないで!」

 

 

研究員たちが、困ったような笑みを浮かべながらステラから離れる

 

 

「わかったわかった。もう触らないから…」

 

 

残った二つのベッドの上では、スティングとアウルがぽかんとした表情でステラを見ていた

 

 

「どうした?」

 

 

ネオが、今の状況を問いかける

その声に気づいたステラがネオを見て、安堵の表情になる

 

 

「ネオっ!」

 

 

ステラがネオに助けを求めるように名を呼ぶ

 

そんな中、研究員がネオに近寄りささやきかける

 

 

「寝かせる前に、足のけがを見ようとあのハンカチを取ったとたん怒り始めてしまって…」

 

 

ハンカチ

ネオが、ステラを見ると、その腕にはハンカチが大事そうに抱かれていた

 

あのハンカチに何の思い入れがあるのか

ネオにはわからないが、ステラにとっては大切なものなのだろう

 

ネオは微笑みながらステラに歩み寄る

そして、ステラの頭を優しくなでながら声をかける

 

 

「びっくりさせてごめんな。けど大丈夫。ステラの大事なものを、奪ったりなんかしない」

 

 

「…ホント?」

 

 

ステラが懐疑的に聞いてくる

ネオは大きくうなずく

それを見て、ステラは笑みを見せる

 

 

「…安心しておやすみ」

 

 

ステラは納得し、ベッドに横たわる

スティングとアウルも、それを見てから同じく別々のベッドに横たわる

 

 

「…何が大事なものを奪ったりしないんだか」

 

 

ネオは自重する

ステラがあれだけ騒いだのだ

きっとステラに大切なことが起こったのだ

 

でないと、基本何にも無関心な彼女が、たかがハンカチ一つに執着などしないだろう

 

 

「記憶ってのは、あった方が幸せなのかそうでないのか。時々考えてしまうな…」

 

 

ネオは、まるでゆりかごのような機器の中に眠る三人を見ながらつぶやく

 

つぶやきが聞こえたのだろう、機器を操作している二人の研究員のうちの一人が振り返る

 

 

「彼らには不要だと、私は思いますよ。彼らはただの戦闘マシーンです。余計な記憶があれば、効率が悪くなってしまう。戦うことだけが価値の彼らに、そんなもの必要ありません」

 

 

「…わかっている…んだがな」

 

 

どこか、割り切ることが出来ない

彼らを、一人の人として見てしまう

 

彼らは、どうやって割り切っているのだろうか

彼らの方が、ステラたちとは付き合いが長い

 

 

「情を移されると、辛いですよ…」

 

 

やはり、彼らも自分と同じように悩んだ時期があったようだ

 

ネオは、部屋を出るべく出口に向かっていく

 

 

「大変だろうが、メンテナンスは入念に頼むな」

 

 

「はい」

 

 

研究員がしっかりと返事を返す

 

これならば、安心だろう

次の戦闘で、彼らに不備が出る、というのは考えないで済む

 

 

「…あれだけ死ぬことを怖がっている彼女が生きるには、敵を倒し続けるしかないんだ」

 

 

メンテナンスルームを出て、つぶやくネオ

 

敵、その単語に疑問の思いが出てきたのは、気のせいとネオは割り切ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイ・ザ・バレルであります」

 

 

レイが礼を取りながら挨拶をする

 

ディオキアの朝、レイだけがいなかったため今ここで改めてハイネに挨拶をしているのだ

 

今、パイロットたちは集まっていた

理由は、今のレイの挨拶もあるのだが、もう一つ

 

レクルームにいるパイロットたち

シン、シエル、ハイネ、ルナマリア、レイ

そして、もう一人

 

ミネルバに配属となったもう一人のパイロット

 

 

「クレア・ラーナルードであります」

 

 

シエルたちは、名乗った女性兵、クレアを見る

 

茶色い髪を背中まで伸ばしている

紫の瞳がシエルたちを映す

 

 

「昨日一二〇〇付で、ミネルバ配属となりました。よろしくお願いいたします」

 

 

きれいな動作で頭を下げるクレア

そんなクレアに、ハイネが明るく声をかける

 

 

「あぁ、よろしくな。けど、そんな堅苦しくしなくてもいいんだぜ?」

 

 

それは、シエルも感じていた

緊張しているのか、そうは見えないが、どこか一線を引いているように見えてしまう

 

そんなことは望まない

これからはともに戦う仲間になるのだから、仲良くしていきたいのだ

 

 

「…お言葉はありがたいのですが、これが本来の私の口調ですし。それに、この艦に来たのも目的があってのことです」

 

 

「目的?」

 

 

シエルがクレアに聞き返す

目的

一体何なのか

 

 

「…自分で言っておいてなんですが、話すつもりはありません。すみませんでした」

 

 

クレアが頭を下げてくる

シエルは、両手を横に振る

 

 

「いや、言いづらいんだろうし、気にしなくていいよ…」

 

 

シエルがそう言うと、クレアは頭を上げる

そして、シエルの様子を窺うようにじっと見つめて…、本当に気にしてないことを確認した後、もう一度ぺこりと頭を下げた

 

そのやり取りを見守っていたハイネたち

そして、ハイネが一歩前に出た

 

 

「じゃ、全員で、クレアにミネルバの案内するぞ」

 

 

「え?でも、ハイネがラーナルードさんを案内したんじゃ…」

 

 

シンが、ハイネに言葉を返す

 

ディオキアでの朝食時、ハイネはタリアに、クレアにミネルバをすると言っていたはずだ

それなのに、なぜまた案内するのか

 

 

「あの時はこいつの自室と、格納庫、食堂の最低限のことしか教えてないんだ。他のことは、お前らと一緒にやろうかと思ってたしな」

 

 

ハイネは朗らかに笑いながら言った後、今度はむすっとした表情をしてシンの方を向く

 

 

「それよりシン。今からクレアは仲間だぜ?お前が一線引いてどうすんの!」

 

 

「え…、あ」

 

 

シンが、今気づいたようにハッとする

だが、初対面、しかも自分は男だ

相手がどう思うだろうか

 

シンはちらっ、とクレアを見る

クレアはシンの視線に気づき、そしてシンが何を気にしているのかも気づいた

 

 

「私は構いませんよ。ヴェステンフルス隊長の言う通り、これから私たちは共に戦う仲間なのですから」

 

 

クレアは、微笑みながら言う

シンは、その言葉を聞き、ホッとした笑みを浮かべる

 

だが、あの人はそうはいかなかった

 

 

「クレア、俺のことはハイネで良いって言ってるだろ?」

 

 

「ですが…、上司に対して呼び捨ては…」

 

 

「だぁかぁらぁ、俺はそういうの気にしないの!こいつらだって、俺のことハイネって呼んでるし、シエルのことだって呼び捨てだぜ?」

 

 

「え…」

 

 

クレアが目を見開きながらシンたちを見渡す

 

レイは違うのだが…

ハイネの言うことには賛成なのだろう、特に反論はしていない

 

 

「…呼び捨ては、見逃してほしいです。ですが、名前で呼ばせていただきます」

 

 

「…ま、いいか。そういうのは性格も関わってくるしな」

 

 

ハイネの言う通り、クレアに呼び捨てを強要するのはやめておいた方が良いだろう

クレアは、そういう性分なのだから

 

そこまで強制する気はさらさらない

 

 

「さて、そろそろ行くぞ。まずは…」

 

 

ハイネが先頭に立って、レクルームを出て行く

 

シエルは、そんなハイネを見て思う

 

今、隊長と呼ばれるべく位置にいるのは自分とハイネだ

だが、こうして見ていると、ハイネの方が隊長としてふさわしいと思えてくる

 

自分では、こうして隊員を引っ張ってはいけないだろう

 

シエルは、最後にレクルームを出る

これから、シエルに衝撃の情報が届くのだが、この時はまだ知る由もない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーブ艦隊旗艦、タケミカヅチ

その艦橋の中で、うねる海原を、トダカ一佐は眺めていた

 

 

「だいぶ荒れてきましたね」

 

 

そんなトダカに、話しかけてくる男

アマギ一尉である

 

タケミカヅチは、荒れる海原を突き進んでいた

 

 

「まだ序の口だろうがな。抜けるのに、あと一時間といったところか」

 

 

「でしょうね。あまり規模が大きいものではないようですし」

 

 

トダカとアマギは、前方に広がる海を見ながら相槌を打ち合う

 

トダカは、艦橋内にいる全員の視線が、荒れる海に向けられていることを確認する

そして、アマギにささやきかけた

 

 

「…ウズミ様はどうだ」

 

 

そのささやきを聞いたアマギが、トダカをちらりと見る

トダカは何もなかったかのように前方を見続けている

 

アマギも、視線を前方に向ける

 

 

「…特に異常はないようですが、何やらまわりを探っているという輩がいるという話も」

 

 

「…そうか」

 

 

ウズミ・ナラ・アスハ

言うまでもなく、元オーブの代表

カガリの父親である

 

オーブを出る直前で聞いた話なのだが、今回の出兵は、ウズミの耳には届いていなかったらしい

基本、大きな動きをするときは、ウズミの耳に入れていたのだったが…

 

そして、アマギが言った、ウズミのまわりを探るもの

セイラン家のものだと、アマギは予想している

 

さすがに攻めるという愚行は犯してはいないが、それでも機会を窺っているのは間違いないだろう

 

 

「で、主役の最高司令官殿は?」

 

 

皮肉気味にアマギに問いかけるトダカ

 

 

「部屋で、未だバケツから離れられないようです」

 

 

そしてアマギもまた、皮肉気味に返す

 

今、この場に、最高司令官であるユウナ・ロマ・セイランを本気で慕っている者はいないのだ

カガリ・ユラ・アスハ

どうしても、彼女と彼を比べてしまう

 

いや、比べることさえできないほど、軍人はユウナを支持していない

 

だが、彼は今、上官である

大きな権力を持った上官なのだ

 

従わざるを得ないのだ

 

 

「…」

 

 

トダカは、前方の窓からのぞく、雲に覆われた空を見上げた

今のこの状況は、恐らくカガリにも伝わっているだろう

 

彼女は、どう思うだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日、〇六〇〇付で、ファントムペイン配属となります、ウォーレン・ディキア少尉であります」

 

 

ネオは、目の前で礼を取りながら自己紹介をする青年を眺めた

 

黒髪をつんつんと伸ばし、東洋の人か、黒い瞳を覗かせている

 

 

「うん。これからよろしく頼むよ」

 

 

「…はぁ?」

 

 

ネオの返しに、呆気にとられた表情になるウォーレン

なぜ、そんな表情になるのか、ネオは首を傾げる

 

 

「どうした?」

 

 

「いや…、なんかこう、色々とお話になられるかと…」

 

 

なるほど

確かに、配属された兵に、話をする上官は多い

 

だが、ネオにとってはそんなことどうでもよかった

 

 

「この部隊で大事なのは、結果だからな。君にごちゃごちゃ言うつもりはないよ」

 

 

ネオは、ウォーレンと向き合って口を開く

 

 

「ファントムペイン隊長、ネオ・ロアノークだ。期待しているよ」

 

 

自分も名を名乗り、最後に言葉を付けたす

それは、ネオの本心だった

 

彼は、ジブリールのお墨付きでこの部隊に配属されたのだ

 

一体どんな処理を施したのかはわからないが、軍が作り出した新型機をこの青年は受け取っている

腕は確かなはずだ

それに、ジブリールからウォーレンに関する資料が送られてきていた

それを見ればわかるだろう

 

ウォーレンは、ネオの言葉に頷く

 

 

「じゃあ、今の状況を教えておこう」

 

 

今、この部隊は大きな動きを見せている

スウェンには話しているが、まだ配属されたばかりのウォーレンはこのことを知らないでいる

 

 

「オーブの派遣軍…ですよね」

 

 

と思っていたのだが、知っていたようだ

まあ、大方ジブリールが話していたのだろう

 

 

「知っているなら話は早い。我々は、オーブの派遣軍と共に黒海を取り戻す。明日の夕刻には合流するようだが…、詳しい作戦は、おって連絡しよう。今日の所は疲れているだろう?部屋に戻って休んでくれ」

 

 

ネオはウォーレンの肩に手を置いて、もう休んでいいと許可を出す

ウォーレンは、最後にもう一度礼を取ると、艦橋から出て行った

 

その後姿を見ながら、ネオはつぶやく

 

 

「…役に立つといいんだがね」

 

 

次の戦いで、今度こそ

ミネルバを、確実に落としたい

 

ジブリールもだんだんうるさくなってきているのだ

いい加減、決着をつけたいところなのだ

 

 

 

 

 

 

ウォーレンは、艦橋から出た後、部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ

特に疲れたという訳ではないが…、いや、疲れているかもしれない

ネオの言葉に甘えて休むことにしよう

 

やっとつかんだチャンスなのだ

 

辛い訓練を乗り越え、肉体改造を超え、完成された自分

奴らを討つ、機会がやってきたのだ

 

 

「…落とすんだ。あいつらを」

 

 

頭に浮かぶ、四機の機影

一機は自爆したとかで、もう存在していないようだが、まだ三機も残っている

 

憎い

奴らが、憎いのだ

 

 

「絶対に…」

 

 

瞼が重くなってきた

 

昨日、午前の訓練を終えた後ジブリールに呼び出され、対面してみればファントムペインに配属と指示を出された

すぐさま急いで準備をし、そして夜にこのJ・P・ジョーンズに向けて出発したのだ

 

疲れがたまらないわけがない

 

 

「落としてやる…」

 

 

最後にそうつぶやいた後、ウォーレンの意識は落ちた

 

最後のその言葉には、聞いた誰もがぞっとするであろう程の憎悪が込められていたのは、本人にもわからなかった

 

 

 

 

ウォーレンとネオが初対面していたころ、ステラは目を覚ました

いつもならぽやぽやと、目覚めの時は頭が重いのだが、今回はなぜかそれがない

 

なぜかを考えるが…、どうでもいい

目覚めが気持ちいいのは良い事だ

 

ステラは体を起き上がらせる

その拍子に、何かひらひらしたものが胸から落ちた

それを見て、ステラはきょとんとする

 

 

「…なに、これ…?」

 

 

ハンカチ、か?

だが、なぜ自分はこんなものを持っているのだろう

 

…なぜ、これを見ていると、胸がほかほかと暖かくなってくるのだろう

 

 

「…」

 

 

だが、このハンカチはステラのものではない

ステラはハンカチを置いてベッドから降りる

 

どうでもいい

どうでもいいのだ

 

それより、今日はまだ、戦争はないのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地球軍に増援?」

 

 

シエルは、ハイネと共に艦長室に呼び出されていた

タリアの用は、地球軍に増援が来たという情報だった

 

 

「えぇ。ジブラルタルを狙うのかどうかはわからないけど…。相手はスエズへの陸路は立て直したいでしょうし、司令部も同意見よ」

 

 

シエルは、テーブルに映し出されている地図パネルに視線を落とす

 

ガルナハン基地を落とし、このあたりの都市は、連合の支配から解放された

それにより、市民の人たちの落ち着きが戻ってきたのだが…

 

やはり、彼らもやられたら黙ってはいない

再び力を見せようというのだろう

 

 

「その増援以外の戦力はどうなっているんです?奴らの部隊は、どれだけの規模になるんでしょう?」

 

 

シエルの隣に立っていたハイネがタリアに問う

その問いを聞いたタリアが、表情を歪ませる

 

 

「数はともかく…、あの空母がいるのよ」

 

 

「…インド洋の、ですか?」

 

 

「えぇ」

 

 

インド洋にいたあの空母

アーモリーワンの強奪機体、そして新型の機体を使っているあの部隊が、自分たちの前にまた現れることになる

 

次の戦いも、また厳しいものになりそうだ

 

 

「ともかく、本艦は出撃よ」

 

 

タリアは、はっきりとした口調で告げる

 

確かにあの部隊の戦力も強大だが、こちらも戦力は大きくなっている

 

シン、レイ、ルナマリアには様々な状況で戦ってきたことにより積まれた経験

そして、新しく配属されたクレア・ラーナルード

 

フェイスであるハイネ

そして、指揮の能力が上がってきたシエル

 

 

「最前衛…、マルマラ海の入り口、ダーダネルス海峡へ向かい、守備に就きます。出発は、〇六〇〇」

 

 

「「はい!」」

 

 

シエルとハイネが了解の意を示す

 

 

「では、発進準備に入ります」

 

 

この場にいたアーサーがそう言って、艦長室から退室する

 

シエルとハイネも、タリアに礼を取ってから退室しようとする

 

 

「あ、シエル」

 

 

だが、そのシエルをタリアは呼び止めた

 

 

「はい?」

 

 

シエルは返事を返しながら立ち止まる

ハイネも、気になるのか立ち止まる

 

タリアは、ハイネに出て行けとは言わない

特に聞かれても大丈夫な話なのだろうが…、何なのだろう?

 

 

「地球軍の増援部隊のことなんだけど…、オーブ軍という話なの」

 

 

「オーブ!?」

 

 

シエルは思わず叫んでしまう

 

だが、考えてみればあり得る話だ

今では、あの国は大西洋連邦の同盟国なのだから

 

それでも、シエルには信じがたい話だった

あの国が、敵に回ってしまうなど

 

 

「あなたの気持ちはよくわかる。けど…、黒海への地球軍侵攻阻止は、周囲ザフト軍に下った命令。避けられないわ」

 

 

タリアの言葉がシエルの心に突き刺さる

 

戦わなければならない

あの国と

 

 

「…大丈夫?」

 

 

「…はい」

 

 

こうとしか返事はできなかった

 

自分が軍に戻ったのは、セラにもう剣を取ってほしくなかったから

だが、今セラは、国を飛び出している

 

…自分の選択は、正しかったのか?

 

議長と対談したあの日と同じ疑問が浮かぶ

 

シエルは、ぼんやりとしながら艦長室を出る

 

どこへ行こうか…

 

考えた結果、シエルは甲板に出ることにした

風に当たれば、気持ちも落ち着くだろう

シエルはさっそく甲板へと向かう

 

そのシエルの後姿を、ハイネはじっと見つめていた

 

 

 

 

甲板に出て、シエルは手すりに腕を乗せて海を見つめていた

今日の天気は気持ちよく、風が心地よい

 

 

「オーブにいたのか?大戦のあと」

 

 

と、甲板入口から声がする

シエルが振り向くと、ハイネが海を眺めながらこちらに歩み寄ってきた

 

 

「良い国らしいよな、あそこは」

 

 

「…はい」

 

 

頷くシエル

 

シエルは、セラたちと共にマルキオ邸に住んでいた

 

毎日が楽しく過ぎていく日々

キラ、ラクス、マルキオ、子供たち、そしてセラ

途中から、マリュー、バルトフェルドとアイシャもやってきて、家がいっぱいになるほどの人数になってしまった

 

それでも、窮屈に感じたことはなかった

それほどまでに、充実していたのだ

 

子供たちを連れて、海岸に散歩に出たり

 

ラクス、そしてたまに来るカガリと共に、マリューとアイシャに教えてもらいながら料理もした

 

バルトフェルドとセラは、合作だ!と変なのり方をしながらコーヒーを差し出してきた

おいしかったが、飲む前はなぜか毎回不安が押し寄せてきたのは良い思い出だ

 

…他にもまだまだ思い出はたくさんある

キャンプをしたり、買い物に出たり

 

キラとラクスに気を遣われて、セラと共に海岸を歩いたこともある

 

だが、たまに見せるセラの悲しい表情

あれを見るたび、心が痛んだ

 

 

「っ…!」

 

 

なぜ、自分はセラを置いてきてしまったのだろう

どうして、セラと共にいようとしなかったのだろう

 

今になって、後悔の念が押し寄せる

 

 

「…戦いたくないか?オーブとは」

 

 

「え…」

 

 

ハイネが問いかけてくる

シエルの辛そうな表情を見て、気を遣っているのだろう

 

それもあるが…、本質は違う

 

あの日々が、恋しい

セラに、会いたい

 

 

「…ま、大丈夫だよ。お前がへましても、俺たちが助けてやるから」

 

 

「…ハイネ」

 

 

ハイネが、笑みを浮かべながらシエルに声をかける

 

だが、不意にその表情が真剣なものに変わる

 

 

「けど、割り切れよ。俺たちは軍人なんだ。…でないと、死ぬぞ?」

 

 

ハイネは、そう言ってから甲板を出て行く

 

今は、一人にしておいた方が良い

ハイネはそう考えたのだ

 

そして、その考えは正しい

シエルは、一人で気持ちを整理する時間が欲しかった

 

ハイネに感謝する

 

 

「ありがとう…」

 

 

ぱたん、と扉が閉まる音がする

 

シエルは、空を見上げる

青い空

 

だが、本当は空は青くなんかないのだ

青く見えるだけで、あれは太陽の光が大気圏で…

 

なんてことを考えながら、シエルは何とか心を落ち着けようとする

 

だが、シエルは知らない

 

ダーダネルスで、シエルの迷いに追い打ちをかけることが起きるなど

 

知る由もないのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は、機体設定を載せます
新キャラのクレアさんとウォーレン君の愛機です






ZGMF-X49Sエキシスター
パイロット クレア・ラーナルード
武装
・ビームサーベル×2
・ビームライフル
・ビームシールド
・高エネルギー収束砲(両腰)
・頭部バルカン

ザフトが作り出した第二世代の五機
その後に完成された機体
第三世代とは言えないのだが、それでも第二世代の五機の性能を凌ぐ
火力もさることながら、機体自身のパワーとスピードも十分に高い
両腰の収束砲は、機体自身とは別の機器となっている
その収束砲自体が、膨大なバッテリーを有しているため、威力は絶大なものになっている





GAT-109Zブルーズ
パイロット ウォーレン・ディキア
武装
・ビームサーベル
・ビームライフル×2
・ビーム対艦刀
・複列位相エネルギー砲スキュラ(腹部)
・プラズマ砲(両肩)

カラミティを基とした機体
だが、カラミティにはなかった近接戦用の武装
そしてビームライフルの装備により、戦略の幅が広がった機体
ジブリールが元からウォーレンに渡そうとしていた機体であり、OSもウォーレンのデータを基にして設定されている
だが、やはりカラミティが基になっているため、スピードにはどこか心許ない
そこをカバーするには、パイロットの腕次第といったところだろう


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PHASE22 介入

トダカは、疑わしげな視線をユウナに送っていた

 

 

「なぁるほど…ね」

 

 

ユウナは、指揮棒で掌をちょんちょんと叩きながらもったいぶるような口調で言う

 

オーブ軍旗艦、タケミカヅチの艦橋では、地球軍の司令官を招いての作戦会議が行われていた

司令官、ネオ・ロアノークはその顔に不気味な仮面を着けている

表情が見えない、何を考えているのかわからないこの男に、不安を覚えるトダカ

 

 

「ま、当然こちらの動きは察知されているだろうし?あちらも動き出しているとすれば、黒海、マルマラ海…、ダーダネルスなど」

 

 

ユウナはまるで歴戦の指揮官の振りをしているようだ

誇らしげに、戦略パネルを示しながら言葉を告げていく

 

 

「私なら、このあたりで迎え撃ちますね。艦が海峡を出た所を叩く。これが最良かと」

 

 

「さすが、オーブ軍の最高司令官殿ですな。私もそう思いますよ」

 

 

当たり前だ

ユウナが示した作戦は、はっきり言って、ほんの少し指揮官の経験があ値さえすれば誰だって考え付くものだ

 

そのことも知らず、おだてられたユウナは調子に乗っていく

 

 

「ザフトにはあのミネルバがいる。確かにミネルバは脅威ではありますが…、逆にあれさえ落とせば奴らは総崩れでしょうし。作戦次第でしょう」

 

 

トダカは、ぜひとも問いたくなる

その作戦とは、具体的にどうするのかを

 

 

「では、先陣はオーブの方々にお願いいたしましょう。左右どちらかに誘っていただければ、我々がその側面から迎え撃つということで」

 

 

「そうですね!それが美しい!」

 

 

「っ…」

 

 

トダカは、唖然とする

そして、それと同時に、このロアノークという男の狙いも察する

 

ひたすら低姿勢で接し、ユウナを調子に乗らせて自分の思い通りに操る

前線に出れば、犠牲が多く出てしまうのは免れない

その役目を、まんまと押し付けたのだ

 

 

「海峡を抜ければ会敵すると思いますが、よろしくお願いしますよ」

 

 

「お任せください。オーブ軍の力をとくとご覧にいれましょう」

 

 

トダカは唇をかむ

 

この最高司令官殿は、今の言葉で何人の自軍の兵を殺すことになるのかわかっていない

まったく、自分が良い捨て駒にされていることに気づいていないのだ

 

だが、自分はただの一人の兵

そのことを指摘することなど、ユウナが許すわけがない

たとえ言ったとしても、この男が自分の言葉を信じるわけもない

 

オーブの益のない戦いのために…

どれだけの犠牲が出てしまうのだろう

 

 

 

 

 

 

J・P・ジョーンズ

廊下を歩く一人の男

 

青いパイロットスーツを身に着け、進む先は当然格納庫である

 

ウォーレン・ディキアは、その顔に薄い笑みを浮かべながら足を進めていく

 

やっとこの日が来た

ついに、奴らを討つ機会が巡ってきた

 

奴らを討つと心に決めてから二年

辛い訓練を乗り越え、やっと来た

 

ウォーレンにとって、これから行われる戦闘に勝とうが負けようがどうでもよかった

ただ、あのミネルバにいるというヴァルキリー

それさえ落とすことが出来れば

 

そして、それを落とすことが出来れば、残るは後二機である

 

フリーダム、リベルタス

そして、アークエンジェル

 

それらを落とせば、自分の復讐は達成である

 

 

「…来たか」

 

 

ウォーレンが格納庫に入ると、すでに準備を終えていたスウェン、スティング、アウル、ステラが固まって立っていた

自分を待っていたのだろうと、ウォーレンは察する

 

 

「すいません」

 

 

待たせてしまったことに対し、謝罪するウォーレン

上司に対する当然の礼儀だ

 

 

「いや、いい。俺たちの出撃はもう少し先になるだろう」

 

 

スウェンが説明する

 

先陣を切るのはオーブ軍のようだ

消耗したところを、自分たちが討つ

 

理想的な戦いだ

 

あれが、先に落ちるということはないだろう

だが、あれだけに質量を相手にし、まったく消耗しないということもあるはずがない

 

そこをつけば、落とせる

 

にやつきそうになる頬を、必死に抑えながらスウェンの話が終わるのを待つ

 

 

「以上だ。それぞれ、機体に入って待機しろ」

 

 

告げられた四人は同時に頷き、それぞれの愛機へと向かう

 

ウォーレンは、自分の愛機、GAT-109Zブルーズに乗り込む

 

そこで、我慢の限界が訪れた

唇が三日月形に歪む

 

そして、唇から声が漏れる

 

 

「くく…、く…」

 

 

ウォーレンは、コックピットを閉める

これで、声が漏れることはない

 

そこで、感情を爆発させた

 

 

「ははっ…、はーはっはっははは!はーはははははは!」

 

 

待ち焦がれていた今日という日

これが、幕開けとなる

 

 

「くくく…、はぁ」

 

 

笑うのを収める

戦闘は、もうすぐそこに迫っているのだ

 

嬉しいのは自分でもわかるが、そこまでにする

 

気を引き締めなければ、いや、それでも勝てるかどうかわからない相手なのだ

だが、負けるわけにはいかない

 

死んでいった父のためにも

裏切られ、屈辱に震えて死んでいったであろう父のためにも

 

自分は成し遂げる

そのための…、最初の犠牲になってもらおう

 

 

「…ヴァルキリー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう少しで、会敵する

シンはコアスプレンダーに乗ってその時を待っていた

 

敵は、オーブ軍が加わったあの部隊

 

 

「…敵なんだ、オーブは」

 

 

つぶやくシン

何故か、納得いかないような、不満なような

ともかく、苛立ちが自分の心の中にある

 

一体何だというのだ

オーブが敵になったというのならそれはそれでいいじゃないか

 

あの時、カガリに言った自分の言葉を実行するまで

 

『オーブを、滅ぼす』

 

それでいいはずなのに

何で自分はそのことに抵抗を覚えているのだろう

 

 

「くそっ!」

 

 

ダメだ、苛立ってはダメだ

 

迷いを捨てろ

そして、シエルの言葉を忘れるな

 

必要以上の攻撃は、ただの殺戮

それは、たとえ憎いオーブに対しても同じだ

 

滅ぼすなんてことを考えるな

自分は、自分のすべきことをするだけ

そしてそれは、オーブを滅ぼすなんてことではない

 

 

「…ふぅ」

 

 

そう考えると、心が落ち着いてくる

 

冷静な状態で戦いに臨む

そうでなければ、落とされてしまう

 

怒りに身を任せてはだめだ

 

 

「…よし」

 

 

操縦桿を握りしめる

 

まだ、発進許可は出ていない

だが、いつ出てもおかしくない状況にはなってきているはずだ

 

集中しろ

途切れさせるな

 

シンは、ひたすらにその時を待つ

 

 

 

 

その頃、シエルもまた愛機に乗り込んでその時を待っていた

 

自分の第二の故郷

そう言っても良い国と、これから戦うことになる

 

前大戦の時と同じ、いや、それ以上に後ろめたい気持ちがある

オーブには、たくさんの思い出が詰まっているのだ

 

プラントに思い出はないという訳ではないのだが、オーブの方がどこか気になってしまう

 

 

「…そういえば」

 

 

今、シンはどんな気持ちでいるのだろう

シンは、オーブの生まれだ

 

そして、オーブを恨んでいる

怒りで暴走しなければいいのだが…

 

通信を入れてみようか

スイッチを押そうとして…、シエルは止めた

 

自分だって、正常と言える精神状態ではないのだ

そんな状態で、他人を落ち着かせようとしたって無駄に決まっている

 

それに、シンは成長しているはずだ

自分の言葉を、忘れていないはずだ

 

信じよう

 

 

「…ふぅ」

 

 

シエルは、自分の心を落ち着かせることに専念する

出撃までには、自分のこのためらいを何とかしなければならない

 

『割り切れよ。俺たちは軍人なんだ。…でないと、死ぬぞ?』

 

ハイネの言葉が脳裏に過る

そうだ、死ぬわけにはいかない

 

生き残って、そしていつの日か

戦争が終わった平和な世界でまた、前のように和やかな日々を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようし、始めようか。ダルダノスの暁作戦、開始!」

 

 

「…は?」

 

 

指揮官席に座っていたユウナが、悠々と言う

その作戦名の意味が分からず、トダカは呆然としながら声を漏らす

 

ユウナは、呆れたような顔になる

 

 

「何だ、知らないの?ゼウスとエレクトラの子で、この海峡の名の由来の…」

 

 

そういえば、知っているような知らないような…

そんな感じのトダカに視線を送るユウナ

 

いや、トダカだけではない

まるで、馬鹿にしているように艦橋にいる軍人全てに、ユウナは視線を送る

 

 

「ギリシャ神話だよ。ちょっとかっこいい作戦名だろ?」

 

 

トダカは、深々とため息をついた

もう、隠すことはできなかった

 

あのロアノークとかいう地球軍の司令官と作戦会議をした時も、ユウナの立ち振る舞いにトダカはため息をつきたくなった

だが、そこは位置軍人として我慢してきた

 

さすがのトダカも、憤りを隠せなくなってくる

ユウナにとって、この戦いはいつもやっている戦略ゲームと一緒なのだろうか

 

そこで、自分の負の感情をシャットアウトする

そろそろ作戦開始域だ

 

 

「モビルスーツ隊、発進開始」

 

 

トダカの指示を、アマギが復唱する

 

 

「モビルスーツ隊、発進開始!第一、第二、第四小隊、発進せよ!」

 

 

タケミカヅチの甲板から、ムラサメが、アストレイが発進していく

それを見ながら、トダカは次の指示を出す

 

 

「イーゲルシュテルン起動。オールウェポンズフリー」

 

 

戦闘準備を進めながら、トダカは発進していくモビルスーツ隊を見送る

 

一指揮官として、彼らを見送る

 

無事に、戻って来い

こんな戦争で、我々が死んではいけないのだ

 

一方、ミネルバでは相手の出撃を感知していた

 

 

「熱紋確認!一時の方向、数二十!」

 

 

オペレーターが報告する

 

来た

遂に来た

 

マルマラ海、ダーダネルス海峡

攻めてくるとしたらこの位置だろうと、タリアは予想して予防線を張っていた

 

 

「モビルスーツです!機種特定!オーブ軍ムラサメ、アストレイ!」

 

 

まずはオーブ軍を当ててきた

タリアは苦々しく思う

 

連合は、自軍の犠牲を少なくしたいはずだ

そのための、前衛オーブ軍

 

オーブは苦しい立場だろうが、タリアは同情しない

そんなもの、する余裕もない

 

 

「ヴァルキリー、インパルス、エキシスター発進。離水上昇、取り舵十」

 

 

タリアの指示に従って、ミネルバは動き、そしてモビルスーツが発進していく

 

まだ例の四機は出てきていない

ムラサメやアストレイ程度なら、三機で対処できるだろう

 

長期戦となったとしても、デュートリオンで何とかできるし、こちらに待機しているモビルスーツを発進させればいい

 

それに、シンやシエル

クレアはよくわからないが、彼らがそう簡単にやられはしないだろう

 

タリアはそう信じていた

 

 

 

 

 

 

ミネルバから三機のモビルスーツが飛びえ出していく

 

 

「…っ」

 

 

シエルは、ライフルを取り出して、ムラサメとアストレイの集団に向けて引き金を引く

集団は、それぞればらばらに散りながらそのビームをかわす

 

単体となるそのムラサメとアストレイを狙って、シエルはヴァルキリーを潜り込ませる

 

一機のアストレイの懐に飛び込むと、サーベルを一閃

メインカメラとライフルを持っている腕を斬りおとす

 

直後、オーブ艦隊からミサイルが発射される

標的は、自分だけではなく、インパルスとエキシスターも

 

シエルは収束砲を手に取り、砲撃でミサイルを薙ぎ払う

 

大きな煙が巻き上がるそこには目もくれず、シエルはライフルでこちらに向かってきていたムラサメの両腕を撃ち落とす

 

 

「…」

 

 

横目でインパルスとエキシスターの様子を確認する

 

インパルスは、ミサイルを交わした後、順調にモビルスーツを落としている

シンは落ち着いているようだ

戦いからそのことがよくわかる

 

そしてエキシスター

近づいてくる相手はサーベルで斬り伏せ、遠くの相手はライフルで撃ち抜くか、両腰の収束砲で薙ぎ払っている

 

両者とも、心配はいらないようだ

これなら、自分の戦いに集中できる

 

シエルは、こちらにビームを放ちながら向かっていく集団を見据える

ビームを掻い潜りながら、シエルはその集団へと向かっていった

 

その頃、タケミカヅチの艦橋では、ユウナが腹を立てていた

 

 

「何やってるんだ!相手はたった三機だぞ!とっとと落とさないか!」

 

 

ミネルバどころか、三機のモビルスーツすら落とせない今の状況

彼の美しいという計画にはなかったのだろう

 

あのオーブ沖で六隻を落としたインパルス

大戦の英雄、ヴァルキリー

そして、見たことがない新型の機体

 

インパルスとヴァルキリーだけでも手こずってしまうだろうと予想していたトダカ

さらに一機の機体によって、それどころか押されているという現状でもある

 

ユウナはそれに気づいたのだろう

顔を真っ赤にしてさらに怒鳴る

 

 

「モビルスーツ隊、全機発進!」

 

 

「なっ…!」

 

 

トダカは絶句する

さすがにその指示だけは聞くわけにはいかない

 

 

「しかし…」

 

 

「一機ずつ取り囲んで落とすんだよ!そうすれば、いくらなんでもあれだって落ちる!」

 

 

確かに、あの三機を落とすことはできるかもしれない

そう、かもしれない、だ

 

それでもあの三機を落とせるかどうか、トダカは判断できない

 

 

「しかしユウナ様。我々の目的はミネルバを討つこと。確かにあの三機を落とすことが出来たとしても、それ相応の犠牲が出てしまうことは、ユウナ様とてお判りでしょう」

 

 

「ぐっ…」

 

 

トダカの言葉を聞き、ユウナがたじろいだ

さすがのユウナも、多くの自軍の兵を犠牲にしてしまう

この事に戸惑いを覚える

 

だが、犠牲を出さないように決心してくれる

そんなトダカの機体は裏切られてしまう

 

 

「黙れ黙れ!命令だ!とっとと全機出せ!」

 

 

「…っ」

 

 

駄々っ子のように喚くユウナ

これは、もうダメか

 

命令に従い、全機発進の指示を出そうとする

 

 

「…!敵艦、陽電子砲発射体制!」

 

 

モニターが、ミネルバを大きく映し出す

艦首が開き、砲口から覗く光が少しづつ大きくなっている

 

 

「なにぃっ!?」

 

 

ユウナは大きく目を見開きながら上ずった声を出す

 

 

「回避!面舵二十!」

 

 

すぐさま回避を指示するトダカ

 

だが、タケミカヅチの動き出しがあまりにも遅い

のろのろと艦首が移動していくが、どう考えても間に合わない

 

ここで、終わるのか

トダカの背筋が震える

 

 

 

 

 

 

その時だった

 

 

 

 

 

 

 

上空から、一筋の閃光が降り注ぐ

その閃光は、寸分たがわずミネルバの砲塔を襲った

 

方向から光がほとばしるが、そこから砲撃が放たれることはなかった

 

トダカは、否、艦橋にいる全員が上空を見上げる

 

 

「フリーダム…!それに…」

 

 

十枚の青い翼を広げ、舞い降りてくる一機のモビルスーツ、フリーダム

そして

 

 

「…天からの…解放者」

 

 

その翼に、光を纏わせながら

それは舞い降りた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁっ!」

 

 

シンは、ミネルバのタンホイザーが発射直前に閃光に貫かれたのを見た

タンホイザーは大破

その衝撃によってミネルバは体制を大きく崩される

 

何とか海に着水できたものの、一体どこの誰が

シンは視線を巡らせる

 

 

「…あれは?」

 

 

モニターを切り替えて、そして見た

 

青い翼を広げ、空中で停止する一機のモビルスーツ

そして

 

 

「っ!」

 

 

広げる翼には、光が纏う

フリーダムのすぐそばで、同じように停止しているもう一機のモビルスーツ

 

そのさらに後方には、白い巨艦の姿が見える

 

 

「私は、オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ!」

 

 

直後、スピーカーから声が発せられる

 

その名前を聞き、シンは息を呑んだ

 

カガリ・ユラ・アスハ

 

どうして、何で

オーブを飛び出したことは知っているが、なぜここに現れる

 

だが、シンはこの次の言葉にさらに驚愕させられることとなる

 

 

「我々は、両軍に対し攻撃を開始する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前まで時は遡る

オーブは兵の報を、カガリたちはオーブにいる部下から聞かされた

 

 

「オーブが…」

 

 

やはり、という気持ちが浮き上がる

 

実際、ここまでオーブに派兵の要請が来なかったことが奇跡に近かったのだ

このまま何とか、戦争が終わるまで

 

そう願っていたカガリだったが、そうもいかなくなる

 

 

「しかし、あの坊ちゃんが最高司令官か…。こりゃ、全滅ってのもあり得るぞ」

 

 

セラがつぶやく

 

そう、オーブ軍の最高司令官には、ユウナ・ロマ・セイランが抜擢されてしまったのだ

ユウナは、戦闘のことに関しては単なる素人だ

 

その上、思い通りに行かなくなれば暴走するあの性格

 

セラの言う通り、全滅というのも考えられる

 

 

「どうするの、カガリ?」

 

 

カガリは思考する

そして、口を開いた

 

 

「…行くしかないだろう。犠牲はなるべく少なくしたいし、ここで一気に攻勢に出る」

 

 

今やオーブを支配しているセイラン

彼らからオーブを取り戻すためにも、ここは利用する

 

だが、一つ懸念があった

 

 

「問題は、数だな」

 

 

バルトフェルドがその懸念を口にする

そう、圧倒的に戦力が足りないのだ

 

キラが駆るフリーダム

一騎当千の力を持ってはいるものの、それだけではまだ足りない

 

まだ

フリーダム及の力を持つそれが、欲しい

 

 

「…やむを得ないんじゃない?」

 

 

そんな時、アイシャが言った

 

 

「皆だって思ってないんでしょう?あれなしで、乗り切ることが出来るなんて」

 

 

「…?」

 

 

セラを除く全員が顔を俯かせる

 

何だ

何を言っているのだろう

 

セラだけがわからない

 

 

「…セラ君」

 

 

「はい?」

 

 

マリューがセラを呼ぶ

 

何なのだ

何でそんな暗い表情をするのだ

 

 

「…ちょっと、ついてきてくれないかしら」

 

 

「?」

 

 

マリューが立ち上がる

そして艦橋から出て行く

 

セラもそれについていき、残ったカガリたちは

 

 

「…ともかく、ここで出るぞ。出ないという選択もあるが…、国民を見殺しにするほど、私は腐っていない」

 

 

はっきりとカガリは告げる

 

キラたちは、同時に大きく頷くのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうして」

 

 

シエルが、呆然とつぶやく

 

一旦止まった戦闘は、再び動き出した

 

シエルの視線の先は、縦横無尽に飛び回り、その手に持つ剣でモビルスーツを斬り裂き行動不能にしていくモビルスーツ

 

 

「どうして…」

 

 

光の翼が象徴的な、伝説と言われていたモビルスーツ、リベルタス

 

 

「セラ…」

 

 

なぜ、なぜなのだ

なぜセラが戦闘に出ている

 

いや、それよりも

 

彼らがなぜ、この戦闘に介入してきたのだ

 

リベルタスと共に、フリーダムもまた、その力を存分に奮っている

 

 

「くっ…!」

 

 

シエルは、彼らに近づこうとする

だが

 

 

「っ!?」

 

 

シエルは機体を急停止

そしてすぐに横にずらす

 

目の前を、ビームが横切っていく

 

 

「これは…!」

 

 

モニターを切り替え、それを見る

 

ザフトのものでは当然ない

アークエンジェルからモビルスーツが発進した様子もなかった

 

ならば、こちらに向かってくるモビルスーツは、地球軍が作り出した新型なのだろう

 

その手に対艦刀を握り、こちらに向かってくる

シエルは腰のサーベルを抜いて、迎え撃とうと振るう

 

サーベルと対艦刀がぶつかり合い、火花が散る

 

シエルが彼らと接触することは、難しそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんだこれは」

 

 

さすがのネオも、呆然としてしまう

 

いきなり現れ、両軍に攻撃を開始する、だ

何のつもりなのか

 

 

「…けど、敵、なんだよなぁ」

 

 

そう

こちらに攻撃をしてくるということは、奴らは敵ということになる

ならば、こちらがするべきことは一つしかない

 

 

「こちらも出るぞ!モビルスーツ発進!」

 

 

ネオはすぐに指示を出した

 

そろそろ前線のオーブ軍だけで対応するのも限界だろう

全滅することは、ネオの望むところではない

 

彼らには、もっと働いてもらわなければならないのだ

 

 

「…ま、あんな木偶の坊の指揮官じゃ、どうなっちゃうかわからんけどさ」

 

 

つぶやくネオ

 

ユウナ・ロマ・セイラン

はっきり言って、呆れてしまった

 

おだてればおだてるほど調子に乗っていく

こんな指揮官を持つオーブの兵たちがかわいそうに思えてくるほどだ

 

あの、セイランの隣にいた老兵

トダカ、と言っただろうか

 

彼を指揮官にした方が、しっかり動いてくれるのでは?

そう思ってしまう

 

ネオは、そこで思考を切る

今は、目の前の敵に集中しろ

 

ミネルバ

そして、白亜の巨艦、アークエンジェル

 

あれらを相手に取る

今までで一番、激しい戦いになるのは目に見えていた

 

 

 

 

 

 

 

 

ネオの指示を受けて、エクステンド、カオス、アビス、ガイアが発進していった

 

そして、ブルーズに乗るウォーレンも発進する

 

 

「ウォーレン・ディキア!ブルーズ、出るぞ!」

 

 

ハッチから飛び出すブルーズ

 

向かう先は、当然ヴァルキリー

 

フリーダム、リベルタス、アークエンジェルとターゲットが集まっているが、まずはこいつだ

 

ウォーレンはビームライフルを手に取り、ヴァルキリーに向けて引き金を引く

発せられたビームは、どこかへ飛んでいくヴァルキリーに向かっていく

 

このまま命中すればよかったのだが、そこまで甘くないようだ

ヴァルキリーは急停止し、向かってくビームを避けた

 

ならばと、ウォーレンは対艦刀を手に取り向かっていく

 

ヴァルキリーも、こちらに気づいてサーベルを手に取った

そして、こちらに向かっていく

 

ウォーレンは対艦刀を振るう

ヴァルキリーも、サーベルを振るう

 

サーベルと対艦刀はぶつかり合った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイネ、レイ、ルナマリアはすぐに発進して!レイ、ルナマリアはまわりで敵を迎撃して!」

 

 

「はい!」

 

 

タリアは、この状況に陥りすぐに指示を出した

 

この状況はまずい

戦力を出し惜しみしているわけにはいかない

 

相手はあのアークエンジェル

そしてフリーダムと

 

 

「<天からの解放者>…」

 

 

その姿を、見据えるタリア

 

噂通り、その翼は輝き、飛び回れば光の軌跡が美しく映る

 

フリーダムと解放者、リベルタスは基本オーブ軍のモビルスーツを攻撃している

こちらに攻撃してくる気配はない

 

だが、あちらは地球軍のモビルスーツを発進させている

これが、戦況にどう影響していくか

 

 

「…」

 

 

タリアは、モニターに映るある戦闘を見つめる

 

それは、ヴァルキリーともう一機

恐らく地球軍の新型機だろう機体の戦闘

 

まさかのアークエンジェルの介入ときた

シエルの精神にだって影響しているはず

 

一度、シエルに通信を入れたかったのだが、その前に交戦に入ってしまった

それに、相手の機体はシエルと互角に渡り合っている

 

こんな状況で通信を入れるなど、できやしない

 

 

「…」

 

 

シエルを信じるしかない

 

タリアは、まわりのモビルスーツの掃討をすべく指示を出そうと口を開いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二年ぶりのリベルタス

オーブを出る前に、フリーダムを操縦したおかげか、思ったよりも動かせている

 

こちらにサーベルを構えて向かってくるムラサメ

その後方では、ライフルをこちらに構えているアストレイが見える

 

セラは、一文字に振るわれるサーベルを潜ることでかわし、逆に相手の懐に潜り込む

そして逆にサーベルをお見舞いし、ムラサメのメインカメラを斬り落とした

 

動きが止まったムラサメを蹴り落とし、今度は後方でライフルを構えていたアストレイを狙う

 

ライフルで、アストレイが手に持っているライフルを撃ち抜く

握っていたライフルが爆散し、戸惑っているアストレイを、リベルタスの最高速度を駆使してサーベルで斬り裂いた

 

メインカメラと両腕を失ったアストレイが後退していく

 

 

「…」

 

 

セラは思い出していた

 

介入する直前に、カガリが言っていた言葉を

 

 

『戦闘に介入はするが、なるべくオーブ以外の機体には手を出さないでくれ。やむを得ないのなら仕方がないが…』

 

 

「…あれか?」

 

 

セラは、まわりのオーブ軍機を薙ぎ払いながらそれを見つける

 

あれは、ザフトの機体だろう

戦闘の初めに、ミネルバから発進したのを見た

 

その機体、エキシスターからセラは感じたのだ

何かを

 

 

「…これは」

 

 

そう

この感覚は、ラウと対峙した時と似た感覚

だが、全く同じとは言えない

 

 

「…」

 

 

気にはなるが、カガリの言う通りオーブ以外の機体に手を出すのはやめておいた方が良い

その機体のことを忘れ、まわりを囲むアストレイとムラサメ

そして地球軍のダガーLに目を向ける

 

セラは、サーベルを戻して二丁のライフルを持つ

まわりの機体に向けて、両引き金を引いていく

 

まわりの機体の武装が爆散していく

 

そして、セラは今度はサーベルに持ち替える

武装を失った機体を行動不能にしていく

 

 

「ちっ!」

 

 

ダガーLにはサーベルを入れていなかったのだが、ダガーLはリベルタスに向かってくる

サーベルで斬りかかってくるのを、セラはシールドで防ぐ

 

そして、動きが止まったサーベルを持っているその腕を、セラはサーベルで斬りおとした

 

ここで、セラに襲い掛かってくるモビルスーツの集団が一時途切れる

セラは、フリーダムの様子を見ようとした、その時だった

 

 

「っ!」

 

 

セラは機体を横にずらす

それと同時に奔る、背中の冷たい感覚

 

カメラを向けると、こちらに向かってくる、セラが気にしていたザフトの機体

 

エキシスターがこちらに向かってきていた

 

エキシスターは、両腰の砲を展開して、砲撃をこちらに放ってくる

セラはそれをかわし、ライフルの引き金を引く

 

エキシスターはひらりひらりとビームをかわしていき、サーベルを抜いてリベルタスに斬りかかった

セラもまた、サーベルを抜いて迎え撃つ

 

 

 

 

 

「…あなたも感じるんですね。私のことを」

 

 

エキシスターのコックピット内

リベルタスと鍔迫り合いをしながらクレアはつぶやいた

 

両者は同時に離れる

クレアは再び両腰の収束砲を展開し、撃つ

 

放たれる二列の砲撃を、リベルタスは下に潜り込むことでかわす

そして、リベルタスも収束砲を手に持ち、砲撃を放った

 

クレアはリベルタスに向かっていきながら、放たれた砲撃をかわす

その勢いのまま、サーベルをリベルタスに向かって振り下ろした

 

リベルタスは、振り下ろされたサーベルをシールドで防ぎ、そしてリベルタスもまた、サーベルを振り下ろす

 

クレアは振り下ろされたサーベルをシールドで防ぎ、両者の押し合いが始まる

 

 

 

 

セラとクレアは歯を食いしばりながら必死に力を振り絞る

 

 

 

「見せてもらいますよ」

 

 

クレアがその場から離れる

エキシスターが離れたことにより、リベルタスのサーベルが空を切る

 

クレアはリベルタスの上を取る

 

そして、リベルタスの真上からライフルを向ける

 

 

「あなたの力を…、セラ・ヤマト!」

 

 

 

 

 

「何なんだ…」

 

 

頭上からライフルを向けてくるエキシスター

セラは、そのエキシスターに向けて向かっていった

 

 

「何なんだ!お前は!」

 

 

相手のライフルから放たれるビームを、セラはサーベルで斬り裂いた

 

そして、エキシスターの懐に潜り込んだセラは、サーベルを一文字に振るう

 

 

 

 

ダーダネルス海峡での戦いは、激化する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




中途半端ですが、とりあえずここまでです

次回はさらに戦闘が激化していきます


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PHASE23 圧倒

前大戦であいつと対峙して、あいつと言葉を交わして

恐らく、まだあいつみたいな存在がいると思っていた

 

そしてそいつは、俺が助けようと思っていた

 

だけど、一体何なんだ

 

あいつとは違う

似てはいるが、どうにもあいつと同じ存在とは思えない

 

なら、何なんだ

 

俺の目の前で立ちはだかるこいつは、何なんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラは、まわりを囲んでいるアストレイとムラサメの武装をひたすら斬りおとしていた

 

アストレイとムラサメはそこでフリーダムに近づくことを諦める

接近戦ではなく、遠距離で攻撃しようと考えた

 

だが、その判断は誤りだ

フリーダムの真骨頂は、遠距離で発揮される

 

キラは多数のモビルスーツをロックオン

五門の砲門を同時に開き、バースト

 

多数のアストレイとムラサメの武装とフライトユニットが破壊されていく

 

 

「…すげぇ」

 

 

シンは、フリーダムの戦いぶりを呆然と見ていた

 

囲まれれば見事な剣裁きを見せ、遠距離ではこの見事な精密射撃である

 

パイロットとして、感嘆してしまうのも無理はない

だが、シンのそれは当然隙となる

 

 

「もらったぁ!」

 

 

アビスが海面から姿を現す

両肩のシールドが開き、インパルス目掛けて全砲門を開く

 

シンはかろうじてビームを回避するものの、間違いなくアビスは追撃をかけてくるはず

それは避けきれないと悟ったシンは咄嗟にシールドを構える

 

だが、そこにフリーダムが介入した

 

キラは両腰のレールガンを展開

海面に向けて発射した

 

放たれたレールガンは一寸違わずアビスのユニットを破壊した

結果、水中での移動速度が一気に減少し、アビスの水中からの攻撃という利点が活かせなくなってしまう

 

キラは、インパルスを見るが、その前にこちらを襲ってくるダガーLとウィンダムだ

まだ距離は遠い

ならば

 

再びキラは敵機をロックオン

五門の砲門で敵機を一掃する

 

 

「くっ!」

 

 

シンはそこで我に返る

 

一体何のつもりかは知らないが、こうして戦闘に介入してきている

ならば、自分たちにも攻撃してくる可能性だってある

現に、彼らはミネルバのタンホイザーを破壊した

 

シンはライフルをフリーダムに向けて撃つ

フリーダムは、インパルスにカメラが向いた途端、ビームを交わして、インパルスに急接近する

 

 

「なっ…!」

 

 

今までこんなスピードで接近してくる機体はなかった

経験したことがないスピードに、シンは反応しきれなかった

 

ライフルを持っているその腕を、サーベルで斬りおとされる

 

 

「ちっ!」

 

 

反撃しようと、通り抜けていったフリーダムを追いかけようとするが、まるでもう用はないと言わんばかりにフリーダムは自分に目もくれずにまた別の機体に向けて飛び去っていく

 

 

「…くっ!」

 

 

まるで相手にならなかった

その現実が、シンに憤りを感じさせる

 

だが、まだ片腕だ

フリーダムは無理でも、地球軍機やオーブ軍機となら戦える

 

シンは心を落ち着かせて、こちらに向かってくるウィンダムの集団を見据えた

 

 

「セラは…?」

 

 

インパルスの武装を奪った後、キラは集ってくるアストレイを撃退しながらリベルタスの姿を探す

 

 

「…交戦?セラが?」

 

 

カメラを切り替えると、リベルタスはザフト軍機と交戦していた

キラが驚いているのは、セラが手間取っていることだ

 

セラは自分のさらに上を行っている

セラはあの、ラウ・ル・クルーゼをも倒している

 

ザフトに、セラとクルーゼほどの実力者がいたというのか

 

キラは、自分が向かっている方を見る

そこには

 

 

「…シエル」

 

 

ヴァルキリーと、地球軍の新型機が激しい戦闘を繰り広げていた

 

 

「…っ」

 

 

キラは、後ろから斬りかかってきたムラサメの腕をサーベルで斬り裂く

 

カガリの言う通り、なるべく地球軍とザフトの戦いには手を出さない

出すのは、オーブ軍機

 

心が痛まないでもないが、やるしかない

 

キラは、再び五門の砲門に火を吹かせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、まずはお前だぁ!ヴァルキリー!」

 

 

「くっ!」

 

 

腹部のユニットから、砲撃を放ってくる新型のモビルスーツブルーズ

シエルは、腹部のユニットが砲門だということに驚愕しながらも機体をずらして回避する

 

シエルはちらっとリベルタスの様子を見る

先程から、クレアと交戦を開始しているのだ

 

クレアを止めようとしたが間に合わず、二機は交戦を開始

だが、シエルの予想に反してクレアは善戦しているのだ

 

 

「どこを見ているぅ!」

 

 

「っ!」

 

 

振り下ろされる対艦刀を、サーベルで防ぐ

そして、もう片方の手でライフルを握り、ブルーズに向ける

 

 

「おぉっと!」

 

 

ブルーズはそれに反応し、後退する

引き金を引くが、放たれたビームはかわされてしまう

 

戦って分かったが、あの機体はスピードが遅い代わりに瞬発が強い

それだけを比べればヴァルキリーとだって引けを取らない

 

そして

 

 

「おらぁっ!落ちろ!」

 

 

両肩のプラズマ砲を発射するブルーズ

シエルは放たれた砲撃をかわすが

 

 

「ほら、もう一丁!」

 

 

今度は腹部の砲撃、スキュラを発射される

 

シエルは身にかかるGを無視してヴァルキリーの機動をさらに上げる

放たれた砲撃が目の前を横切っていくのを見ないでシエルはサーベルを抜く

 

シエルが砲撃をかわしているうちに、ブルーズはこちらに接近してきていた

対艦刀を再び振り下ろしてくる

 

サーベルで防ぐシエル

 

二機の戦いは、まだ動く様子はない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まずいわね」

 

 

「あぁ。リベルタスは敵機と交戦、フリーダムは集団に囲まれてしまっている。こちらは手薄になっちまった」

 

 

マリューとバルトフェルドが言葉を交わす

 

その通り、リベルタスはエキシスターと交戦中

フリーダムは、次から次へと襲ってくるオーブ軍、地球軍のモビルスーツを撃退している

 

結果、アークエンジェルの守りは手薄となってしまった

 

 

「それにしても、あのセラ君と互角に戦っているなんて…、何者かしら」

 

 

「わからないわ。…ともかく、こっちも守りを固めなきゃね」

 

 

「だ、な」

 

 

マリューのつぶやきに返答しながら、アイシャが立ち上がり、直後にバルトフェルドが立ち上がる

 

 

「俺たちが出る。ま、セラとキラほど上手くはないがね」

 

 

「いえ。十分心強いです」

 

 

互いに笑顔を浮かべながらマリューとバルトフェルドが言いあう

 

そして、バルトフェルドとアイシャが艦橋から出て行く

 

 

「ムラサメ発進後、本艦はミネルバへ向かいます。オーブ軍を牽制して!」

 

 

地球軍、とは言わない

自分たちの目的は、あくまでオーブ軍なのだ

 

マリューが命じると、クルーたちが力強い返事を返してくる

 

 

 

「アンドリュー・バルトフェルド!ムラサメ、行くぞ!」

 

 

「アイシャ、行くわよ!」

 

 

バルトフェルドとアイシャのムラサメの二機が発進していく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モビルスーツがあとからあとから、まるで湧き出すようにこちらを襲ってくる

 

タリアは必死に指示を出す

レイとルナマリアの頑張りもあり、ミネルバは未だ沈まずにいた

 

 

「そぉらっ!てめぇは俺が相手だ!」

 

 

「カオスっ!こんな時に…」

 

 

「ルナマリア、しばらく頼む!こいつは俺がやる!」

 

 

「わかった!」

 

 

レイは、迎撃をルナマリアに任せて襲ってきたカオスとの交戦に入る

 

だが、これではさらに戦況はきつくなるだろう

迎撃がルナマリアのザク一機となるのだから

 

どうするか

タリアが頭を悩ませているとき、ミネルバ上空を太い光条が横切った

 

光に遮られ、モビルスーツ群が後退する

 

 

「か、艦長っ!あの艦が!」

 

 

アーサーが呆然と声を出す

 

見ると、あのアークエンジェルがこちらに近づいてくる

そしてさらに、リベルタスがエキシスターと交戦しながらミネルバのまわりを囲むムラサメとアストレイを撃墜していく

 

 

「はじめはこちらの艦首砲を撃っておきながら…、どうして…」

 

 

一体何のつもりなのだろうか

 

はじめはこちらの艦首砲を撃ち、両軍に攻撃をと言っておきながら、彼らは基本オーブ軍機しか攻撃していない

これでは、まるで彼らはオーブ軍を攻撃しに来たみたいではないか

 

 

「余裕ですね…。私と戦いながら、他を気にするとは!」

 

 

「うるさい!これでも一杯一杯だ…よ!」

 

 

セラとクレアの戦いはさらに激しさを増していた

 

セラはサーベルをエキシスターに向けて投げつける

 

 

「っ!?」

 

 

クレアは目を見開きながら、何とかシールドを構えて投げられたサーベルを防ぐ

 

 

「なっ!」

 

 

そして、反撃の一手を打とうとしたその時、リベルタスが目の前に現れた

セラはシールドに刺さった、投げつけたサーベルを抜き、そして振るう

 

クレアは何とか後退することに成功

だが、避けきれずに左腕が斬りおとされる

 

 

「ちっ!」

 

 

舌打ちするセラ

メインカメラを狙った一振りだったのだがかわされてしまった

 

だが、相手に損傷を与えた

これで撤退してくれれば…

 

 

「よかったんだけどな!」

 

 

どうやら、相手はまだまだやる気のようだ

ライフルでこちらを撃ってくる

 

セラは機体を大きく横に移動させる

クレアはリベルタスを追ってライフルを撃つが、ビームはまったく当たらない

 

歯噛みしながら、クレアはサーベルに持ち替える

だが、これが決着のきっかけとなる

 

セラは、エキシスターがライフルからサーベルに持ち替えた所を見て、行動を変更

こちらもサーベルを持って迎え撃つ

サーベルとサーベルがぶつかり合い、互いの動きが一旦止まる

 

そこを、セラは突く

セラはもう一本のサーベルを握る

 

 

「!もう一本!?」

 

 

クレアは、そこでリベルタスは二本サーベルを装備していることに気づく

 

セラは二本目のサーベルで、エキシスターのメインカメラを斬り落とした

 

 

「…」

 

 

セラは、行動不能となったエキシスターを少しの間眺める

が、すぐにセラはアストレイとムラサメの集団に目を向ける

 

スラスターを吹かせてそこに向かう

 

 

「…さすが、最高のコーディネーターというところですね」

 

 

飛び去っていくリベルタスの背を見つめながら、クレアはぽつりとつぶやいた

 

一方セラは、サーベルで武装を斬りおとし、ライフルでメインカメラを撃ち落とし、縦横無尽に飛び回る

 

セラは収束砲を手に取り、砲撃を放つ

砲撃はアストレイとムラサメには当たらず、だが牽制になり動きを止める

 

アストレイとムラサメたちは、リベルタスに向けて動き出そうとしたその時、皆メインカメラや武装、どこかしらに損傷を受ける

 

赤、緑、黄と様々な色のビームが降り注ぐ

 

 

「…兄さん」

 

 

「いらないお世話だったよね」

 

 

ムラサメとアストレイに損傷を与えたのはフリーダム

セラは通信を通してキラに声をかける

 

セラとキラは、別の方向へと行こうとする、が

 

 

「「っ!」」

 

 

セラとキラは、それぞれ逆の方向に機体を翻す

二機がいた場所を、二本の太い光条が横切る

 

カメラを向ける二人は、こちらに向かってくるルースレスを目にした

 

 

「これ以上は、好きにさせん」

 

 

エクステンドのパイロット、スウェンはこの二機を止めることを心に決めながら対艦刀を手にする

そして、両肩の収束砲を連射しながらリベルタスとフリーダムに向かっていく

 

 

「セラは行って!これは僕が相手する!」

 

 

キラが、エクステンドに向けてフリーダムを進ませる

 

 

「兄さん!」

 

 

「ちっ」

 

 

スウェンは、向かってくるフリーダムに向けて四門の砲門を開いてビーム撃つ

だがキラは、そのすべてのビームをかわしながらルースレスに接近

 

距離が近くなり、スウェンは素早く半断

対艦刀を振り下ろす

振るわれるサーベルと対艦刀がぶつかり合い、火花が散る

 

 

「…」

 

 

セラは、ここをキラに任せることにする

 

そこで、モニターにちらりと映る二機の機体

 

 

「あれは…」

 

 

ズームさせて見る

ヴァルキリーとブルーズだ

二機が激しくサーベルと対艦刀を斬り結んでいる

 

そして少し離れた所には

 

 

「…あいつ」

 

 

一機のムラサメが、ライフルを戦いが行われている方へと向けていた

オーブ軍は地球軍側

当然、狙われているのはヴァルキリーだろう

 

セラは、迷わず機体を向けた

 

 

 

 

 

 

 

鍔迫り合いから同時に離れるヴァルキリーとブルーズが離れる

ブルーズは腹部のスキュラを放つ

 

シエルは機体を横にずらして砲撃をかわす

反撃にライフルを向けて撃つが、ブルーズは

 

 

「無駄だぁ!」

 

 

かわしもせずに、防ぎもせずにもう一度スキュラを放つ

 

放たれた砲撃が、シエルが撃ったビームを飲み込んでそのままヴァルキリーへと向かっていく

 

 

「くぅっ!」

 

 

シエルは、考えもつかなかった反撃に戸惑いながらも砲撃をかわす

 

追撃に、両肩のプラズマ砲を放つ

二列の砲撃がヴァルキリーを襲う

 

かわせない

シエルはシールドを構えてプラズマ砲を防ぐ

 

 

「あぐっ!」

 

 

伝わる衝撃に耐えながらも前を向く

だが、前方にブルーズはいない

 

シエルは勘に任せて機体を動かす

 

 

「後ろっ!」

 

 

シエルは足を振り上げる

振り上げられた足は、ブルーズに命中する

 

 

「ぐあっ!」

 

 

ブルーズは体制を崩す

サーベルを抜いて、止めを刺そうと…

 

 

「っ!」

 

 

コックピットにアラームが鳴り響く

ロックオンされているのだ

 

シエルは、その反応の方にカメラを向ける

そこには、こちらにライフルを向けているムラサメが

 

 

「し、しまった!」

 

 

慌ててシールドを構えようとするが、ムラサメのライフルが火を噴く

 

緑色の閃光が、ヴァルキリーを…

 

 

「…え」

 

 

貫く前に、何かがヴァルキリーの前に立ちふさがった

立ちふさがった何かは、撃たれたビームを防ぐと、ライフルを撃ったムラサメにライフルを向ける

 

引き金を引き、放たれたビームはムラサメのメインカメラを落とす

その直後、二射目、三射目とビームが放たれ、両腕が撃ち落とされる

 

ムラサメは、撤退しようと後退していく

 

 

「…セラ」

 

 

シエルは、自分の前に浮いている機体、リベルタスを見てつぶやく

セラが、助けてくれた

 

 

「くそぅ…!お前、お前もぉおおおおお!」

 

 

「「!」」

 

 

ブルーズが動き出したことに同時に気づくセラとシエル

だが、その後動いたのはセラだった

 

セラはブルーズの方へと向かう

 

 

「セラっ!」

 

 

セラはサーベルを抜く

愚かにも、ブルーズは対艦刀を抜いている

接近戦をしようとしているのだ、リベルタスと

 

サーベルと対艦刀がぶつかり合う

 

一瞬止まる互いの動き

セラはもう一本のサーベルを抜く

 

 

「ちっ!」

 

 

だが、振りぬかれたサーベルをブルーズは後退することでかわす

 

 

「甘いんだよ!お前が二刀流だってことは知ってんだ!」

 

 

ウォーレンは対艦刀をリベルタスに向けて投げつける

セラは、投げつけられた対艦刀を、サーベルで弾き飛ばす

 

だが、その間にブルーズはリベルタスの懐に潜り込んでいた

サーベルを抜き、リベルタスに斬りかかる

 

 

「終わりだ!解放者ぁ!」

 

 

ウォーレンはサーベルを振り上げる

だが、これにもセラは反応していた

 

振り上げられるサーベルを、セラは機体を翻してかわす

 

 

「なにっ!?」

 

 

必殺と打ちこんだサーベルがかわされ、驚愕の声をあげるウォーレン

その間に、セラは次の一手を打っていた

 

セラは、翻すその直前に仕舞っていたもう一本のサーベルを抜いていた

そのサーベルで、ブルーズのサーベルを持っている方の腕を斬りおとす

 

 

「ぐっ…、くそっ!」

 

 

損傷を受けたブルーズ

だが、ウォーレンは笑っていた

 

今、二機の距離はほぼゼロといっていい

ならば、これはさすがに避けられないはずだ

 

 

「っ」

 

 

セラは、ブルーズの腹部にほとばしる光を見る

ウォーレンは、リベルタスにスキュラを撃ちこもうとしていた

 

 

「セラっ!」

 

 

シエルは、ブルーズに向けてライフルを撃つ

だが

 

 

「だから甘いってんだよ。お前を警戒していないとでも思っていたのか!」

 

 

ウォーレンは機体を横にずらしてビームをかわす

そして

 

 

「終わりだっ!予定は狂ったが…、これで一機目ぇ!」

 

 

スキュラを、発射した

 

だが、次の瞬間、ウォーレンの顔に驚愕の表情が浮かぶ

リベルタスの姿が、消えたのだ

 

先程までリベルタスがいた場所を、スキュラが横切っていく

 

 

「ばかなっ!奴は…、なにぃっ!?」

 

 

ウォーレンが気づけば、もう片方の腕を失っていた

これでは、さすがにまだ武装が残っていても機体のバランスが取りづらくなってしまう

 

 

「く…、くそっ!」

 

 

ウォーレンは撤退する

 

後方では、自分にはもう目もくれずに向き合うリベルタスとヴァルキリー

二機を、憎しみを込めた目で睨みつけながら

 

 

「…セラ」

 

 

「シエル」

 

 

セラとシエルが互いの名を呼ぶ

通信越しに届く声

 

どちらも望んだ互いの声

 

 

「どうして…?セラ…」

 

 

シエルがセラに問いかける

 

なぜ、どうして

どうしてセラが、彼らがこの戦闘に介入してきたのか

 

 

「シエル…」

 

 

目の前でこちらを見つめるヴァルキリー、シエル

シエルの問いかけに答えるかどうか

 

どうするか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラはサーベルを振るう

ぶつかるサーベルと対艦刀

 

何度も互いの剣をぶつけ合う

 

すれ違う二機

スウェンは振り返って、エクステンドの腹部に装備されているポッドを開いてミサイルを発射させる

 

キラは、傍目でミサイルが発射させることに気づくと、機体を上空へ上がらせる

ミサイルは追尾機能を持っているのか、フリーダムを追っている

 

キラはすぐに振り返り、機体を停止させる

すぐにミサイルをロックオンして、フルバーストでミサイルを一掃する

直後キラは後方に向けてサーベルを振るう

 

キラの腕に衝撃がはしる

 

 

「ちっ!」

 

 

スウェンは舌打ちする

フリーダムがミサイルを迎撃するうちに、対艦刀で斬り裂こうとしたのだが防がれてしまった

 

キラは続いてもう一本のサーベルを振るう

だが、スウェンは反応して後退する

 

空振りしてしまうが、キラは片方のサーベルを仕舞ってライフルを抜く

エクステンドに向けてライフルを連射する

 

 

「くそっ!」

 

 

スウェンは両肩の収束砲を放ち、ビームを迎撃

ビームを飲み込んでさらにフリーダムに向かって進む砲撃を、キラは最小限の動きでかわし、そしてスラスターを全開で吹かしてエクステンドに向かって、サーベルで斬りかかる

 

スウェンは対艦刀で迎え撃とうとするが

 

 

「っ!?」

 

 

スウェンの目が見開かれる

フリーダムの腕の動きが変わる

 

対艦刀とぶつかり合うであろうサーベルの刃が、対艦刀の取っ手を斬りおとす

スウェンは、対艦刀の刃が落ちるところを呆然と眺める

 

信じられない

下手をすれば、逆に機体の片腕を失うところだったのだ

それを、やり遂げる

 

相手の技量は、自分を超えている

 

 

「これで!」

 

 

キラは、続いて腰のレールガンを展開

レールガンをゼロ距離で命中させる

 

衝撃を受け、体制を崩したエクステンド片腕をビームサーベルで斬りおとした

 

 

「くっ!」

 

 

スウェンは、何とかフリーダムに反撃しようと目を追うが、フリーダムはここから飛び去っていった

フリーダムをスウェンは見送ることしかできない

 

スウェンは、もう次の機体と交戦しているフリーダムを睨みながら決意する

次の機会があれば、絶対に落として見せると

 

キラは、自分に集ってくるムラサメとアストレイを斬り裂いていく

ふと見ると、二機の機体がこちらを見上げている

 

黒い機体とオレンジ色の機体

あれは、ガイアとグフという機体か

 

こちらに向かってビームブレードを展開してこちらに飛び上がってくる

キラは、サーベルに手をかけて間合いを測る

 

 

 

 

 

 

ハイネは、出撃してからミネルバのまわりのモビルスーツを撃墜してからガイアとの交戦に入っていた

ガイアはビームライフルをこちらに向けて撃ってくる

 

ハイネが駆るグフは、ザクと違って大気圏でも飛行可能だ

海面ぎりぎりを飛行して、ガイアが撃つビームをかわしていく

 

ハイネはガイアが立っている大きな岩場に機体を着陸させる

ガイアは、形態を変える

ビームブレードを展開してグフに向かって駆け出す

だが、ハイネの対応は素早かった

 

ハイネはスレイヤーウィップを手に取る

そして、こちらに駆けてくるガイアに向かってウィップを振るう

ウィップはガイアに命中し、その動きを止める

 

再びハイネはウィップを振るって追撃をかける

ガイアにウィップが命中するが、ガイアは体制を立て直して後退する

 

そして、人型に変形し今度はライフルを構える

だが、ハイネはガイアのライフルにウィップを巻き付ける

 

 

「ザクとは違うんだよ、ザクとは!」

 

 

ウィップに電流が走り、ガイアのライフルが爆散する

 

 

「くっ…、お前ぇええええええ!!」

 

 

ガイアに乗るステラが、良いようにやられている今の状況に怒りが収まらず、叫び声を上げる

サーベルを取り、グフに向かって斬りかかる

 

 

「ちっ!」

 

 

ハイネも、ビームソードを展開して迎え撃つ

ガイアが振るうサーベルを、しゃがみこむことでかわす

そして、反撃にその体制からビームソードを振り上げる

 

だが、ガイアはシールドでビームソードを防ぐ

 

さすがに、そこらにいるウィンダムやダガーLのパイロットよりは断然腕が上だ

ここでこれを落とせば、後々の戦況が楽になるのは間違いない

 

 

「あまり無理はしたくねえが、出来るものならここで落としちまいてえな!」

 

 

ハイネはビームソードを振るう

ガイアのサーベルとぶつかり合う

つばぜり合うが、同時に二機は離れる

 

そこで、二人は宙を舞うフリーダムに気づく

 

 

「さっきからあいつ…、好き勝手やってるじゃねえか!」

 

 

「なんだお前は!」

 

 

ガイアが、四本足の形態に変形し、ビームブレードを展開してフリーダムに向かって跳ね上がる

フリーダムは、こちらに向かってくるガイアに気づき、そしてサーベルに手をかける

 

抜かないのか?

ハイネが様子を窺っていると、一瞬だった

 

フリーダムはガイアに向かって急加速する

先程まで制動をかけていたフリーダムの急な加速にガイアは反応できない

 

フリーダムが振るったサーベルが、ガイアの背中の砲塔を斬り裂く

ガイアは体制を崩して浅瀬に叩きつけられる

 

 

「この、手当たり次第かよ!生意気な!」

 

 

ハイネは手首のビームガンをフリーダムに向けて連射する

それを見て、フリーダムは今度はこちらに向かって加速する

 

 

「ハイネ!」

 

 

グフとフリーダムの戦闘に気づいたシエルが、両者を止めようと動く

セラは、シエルを止めようとしない

 

逆に、セラはシエルとは別の方向に機体を向ける

 

 

「シエル…」

 

 

悪いとは思う

ザフトの立場にいるシエルは、自分たちの行動に混乱していることは確実だ

 

だが、もう止まることはできない

何としても、自分たちは…

 

セラは、機体をはしらせる

 

一方のハイネは、連射するビームガンを、高速機動でかわしながらこちらに接近してくるフリーダムに驚愕していた

そして、フリーダムはサーベルを抜いてビームガンを連射していたグフの腕を斬りおとした

 

キラは、オーブの機体を探しにカメラを切り替える

そのカメラに、ヴァルキリーが映る

 

 

「え…」

 

 

こちらに向かってきている

キラは機体をヴァルキリーに向ける

 

セラは、シエルと向き合わなかったのか

 

キラはシエルと向かい合う

 

そんな二機を、いや、フリーダムを憎々しげに睨む一機の影

ガイアは、再びビームブレードを展開する

 

あの白い機体を

青い翼を広げた憎い機体を、絶対に落とす!

 

ガイアは再び跳ねる

フリーダムに向けて

 

 

「落ちろぉおおおおおお!!!」

 

 

死角からの斬撃

だが、キラは反応する

 

キラは背後から感じた殺気に振り返る

こちらに飛び上がってくるガイア

 

それをキラは蹴り飛ばす

 

ガイアは再び体制を崩して落下する

落下して、海面に激突する直前にカオスがガイアを抱えて撤退していく

 

見ると、地球軍艦隊から信号弾が打ち上げられていた

撤退するのだろう

 

ならばもうここにいる意味はない

キラは機体を翻しアークエンジェルへと向かっていく

 

 

「あ…、待って!」

 

 

シエルはフリーダムを追いかけようとするが、やめる

ここで追いかけてしまえば、彼らとのつながりが露見される

それはシエルの望むところではない

 

 

「…あ」

 

 

シエルはリベルタスもアークエンジェルに向かって飛び去っていくのを見る

と、リベルタスは制動をかけ、こちらに振り向く

 

 

「…セラ」

 

 

「…」

 

 

リベルタスは、少しの間ヴァルキリーと向き合うと、すぐに翻してアークエンジェルへと向かっていく

 

シエルは、リベルタスの背中を見つめる

 

どうして

どうして彼らは…

 

何度も浮かび上がる疑問

だが、それに答えるのは誰もいなかった

 

 

 

 

 

 

「…っ!」

 

 

フリーダムに片腕を奪われたインパルスは、その後、ザクの隣で甲板の上で迎撃を行っていた

そして今、地球軍は撤退し、あの白亜の巨艦と二機のモビルスーツも去っていく

 

その姿を、シンは睨んでいた

 

あの艦には、アスハが乗っている

一体彼女は何をやっているのか

どうしてオーブ軍の機体を次々と撃墜していったのか

 

彼女は、オーブの代表ではないのか

 

 

「…っ、何で!」

 

 

シンはぶんぶんと首を横に振る

今、自分は何を思った?

 

オーブ軍を、なぜ彼女は撃とうとしたのか

何でオーブ軍を助けようとしなかったのか

 

助けようとしなかったのか

 

自分はそう思ったのか?

敵であるオーブを、助けてほしいと?

 

バカな

何を考えているのだ、自分は

 

オーブは敵となったのだ

敵は撃たなければならない

敵は…

 

オーブが…、敵…

 

 

「シン?」

 

 

「あ…、ルナ?」

 

 

スピーカーからルナマリアの声が耳に届く

 

 

「艦に戻ろう?もう戦闘は終わったんだし」

 

 

ザクがインパルスのすぐ近くまで来ていた

上空を見ると、ヴァルキリーとグフがミネルバに向かってきている

 

エキシスターはリベルタスに損傷を与えられ、セイバーはカタパルトについている

 

 

「ほら、シン!」

 

 

「あ、あぁ。わかってるよ」

 

 

ルナマリアにさらに催促され、シンも艦の中に戻っていく

 

…また、オーブと戦うことになるのだろうか

オーブは、地球軍の陣営なのだから

 

すると、また彼らは現れるのか

アークエンジェルは

フリーダムと、あの解放者は

 

シンはインパルスを分解し、格納作業を始める

コアスプレンダーとなった今の機体が格納される

 

 

「…次こそは」

 

 

恐らくまた奴らは、地球軍とオーブ軍は自分たちを襲ってくるはず

そして、彼らもまた現れる

 

今回は、フリーダムにしてやられてしまった

だが、次こそは

 

次こそは、フリーダムに勝って見せる

シンはフリーダムとの再戦に、思いを馳せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シンがフリーダムに向けている感情は憎しみではありません
ただ、何もできずにやられてしまったことに対する悔しさです


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PHASE24 再会と記憶

「資材はすぐに、ディオキアの方から回してくれるということですが…」

 

 

ミネルバクルー、技術スタッフリーダーのエイブスが、グレーの巨艦を見上げならタリアに言う

タリアは、表情に疲労感を浮かべながらその言葉を聞いてため息をついた

 

ダーダネルス海峡での戦闘の後、ミネルバはマルマラ海沿岸の都市であるポートタルキウスに駐留していた

ミネルバの装甲には大量の傷跡が残され、前回の戦闘の壮絶さを物語っている

 

あの戦闘は、両軍が死にもの狂いだった

 

 

「タンホイザーの発射寸前でしたからね…。艦首の被害はかなりのものですよ。これは、さすがにちょっと時間がかかりますね」

 

 

「そうね…」

 

 

船体のダメージだけならすぐに修理できる

だが、今回は艦首砲が大破したのだ

 

タンホイザーという高エネルギーの陽電子砲

それを修復するのは時間がかかってしまう

 

タリアは、ミネルバから港の端に視線を移した

そこには、黒い袋が並べられていた

タリアの部下だった兵士たちの遺体である

 

タリアはもう一度ため息をついて、エイブスの方を向く

 

 

「ともかく、出来るだけ早くお願い。いつもこんなことしか言えなくて悪いけど…」

 

 

苦笑気味にタリアはエイブスに声をかける

エイブスは、胸を拳でとん、と叩きながら力強く言う

 

 

「そんなことないですよ、艦長。任せてください」

 

 

エイブスはミネルバへと戻っていく

タリアはそれを見送りながら、思いにふける

 

前回の戦い、ダーダネルス海峡戦

介入してきたアークエンジェル

 

初め、彼らはこちらの艦首砲を撃ち抜いた

それは、薙ぎ払われようとしたオーブ艦隊を助けようとした行動だというのはわかる

だが、その後はどうだ

 

彼らは、地球軍にもこちらにも攻撃をしてきたが、一番彼らの被害に遭っているのはオーブ軍なのだ

オーブ軍に攻撃するのが目的だったのなら、なぜ最初にタンホイザーの発射を止めたのだ

その方が、彼らの目的は簡単に達せられるというのに

 

 

「…っ」

 

 

苦々しい

何のために彼らはあの戦いに介入してきたのだ

介入し、戦況をかく乱させ、両軍を撤退させた

 

…まさか、あの戦闘を止めようとしたのか?

ばかな

それならあんなやり方をするはずがない

 

タリアは、彼らが英雄として活躍したヤキン・ドゥーエ防衛戦のことを思い浮かべる

彼らがもし、あの戦闘を止めようとしたのなら…、彼らがあの大戦でしてきたことはこんなことなのだろうか

自分も、まだ見ぬあの艦の艦長のように…

そんな憧れを持ったあの艦は…

 

圧倒的の数のハンデを負いながら、地球、ザフト両軍を相手取り、両軍の暴走を止めたという

 

そこまでとはいかなくても

タリアは、いつかこの艦も、あの艦と同じようにどんな苦しい状況でも乗り越えることが出来る

そんな英雄のようになりたいと、願っていた

 

それなのに、そんなことないというのに

何故か裏切られたような気持ちになるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンたちはミネルバ内のレクルームにいた

港に到着し、少しの間だけ休憩時間をもらえたのだ

 

まあ、艦や機体の装甲の修理に時間がかかるため、パイロットの出番がないだけなのだが

 

室内の空気はどこか暗い

理由は、言うまでもなく前回の戦闘である

 

 

「それにしても…。犠牲、結構出ちゃったわよね…」

 

 

ルナマリアがつぶやく

 

今まで、ミネルバのクルーにはけが人は出したものの、犠牲者は出していなかったのだ

だが、前回の戦闘によってついに犠牲者が出てしまったのだ

 

 

「…だが、本当ならもっと出ていたはずだぜ。あいつらが来なかったらな」

 

 

あいつら

それがアークエンジェルとリベルタス、フリーダムだというのは全員が理解できる

 

彼らが戦闘に介入し、そしてオーブ軍機を落としていなかったら…、もっと多くの犠牲が出ていただろう

 

 

「ま…、それが癪なんだけどな…」

 

 

ハイネがぽつりと不満を零す

 

あの戦闘は、自分たちの力で乗り切ったわけではない

欲張ることなどできるわけじゃないのだが、それでも憤りの気持ちが出てしまう

 

そして、その気持ちを持っているのはハイネだけではない

この場にいるほぼ全員がそう思っていた

 

ルナマリアは、甲板で迎撃を行っていたのだが、アークエンジェルがいなかったら艦を守ることが出来なかった

レイもまた同じ、カオスに遮られていたのもあるが、カオスを落とせさえすればもっと戦況は楽になったはず

シンは、戦闘の初めの方にフリーダムに損傷を与えられてしまった

 

ハイネも、フリーダムにしてやられている

四人は前回の戦闘で、悔しい思いを抱いている

 

生き残っただけでも十分と思わないと、そう心に言い聞かせるのだが、何とも収まらない

 

 

「でも…、助けられたんだし…」

 

 

シエルが、皆を諌めるように声をかける

 

 

「あいつらは!確かに俺たちのことを助けてもくれたけど、攻撃もした!それに、あいつらは戦場を混乱させたんだ!」

 

 

シンが、シエルに怒鳴る

シンの勢いに背を反らすシエル

 

 

「…シエルの言う通りでもあるんだけどさ」

 

 

だが、事実でもある

だからやりきれない

 

 

「…くそっ!」

 

 

シンは、レクルームを出て行く

 

 

「ちょっと!どこ行くの、シン!?」

 

 

ルナマリアが背後から声をかける

 

 

「自室だよ。いちいちうるさいなぁ、ルナは」

 

 

出口の前で立ち止まって答えるシン

そのまま、シンはレクルームを出て自室へと向かっていく

 

シンは、歩きながら思い出していた

あの戦闘で、フリーダムと戦った時のことを

 

ライフルをフリーダムに向けて撃ったのだが、奴は簡単にビームをかわしてしまう

そして、急加速して自分に接近し、ライフルを持っていた方の腕をサーベルで斬り飛ばした

 

そのまま、自分には目をくれずに飛び去っていってしまった

 

フリーダムは、自分と戦う前にアビスにも損傷を与えて撤退させていった

 

いや、あれはもう戦いなんて言えない

その段階にさえ、自分はたどり着かせることすらできなかったのだ

 

 

「くっ…!」

 

 

自室の前に着き、扉を開けて部屋に入り、ベッドに身を投げる

確かな弾力が全身を覆い、ベッドの上で身が跳ねる

 

シンは、枕に顔をうずめながら、何度目かわからない意志を固める

 

次は、何としてもフリーダムを倒す

 

 

 

 

 

 

 

レクルームからシンが出て行ったあと、解散となった

シエルは自室に向かっていた

 

格納庫に行っても、することはないし邪魔になるだけ

自室に戻ってじっとするしか、やることがない

 

シエルもまた、シンと同じように先日の戦闘のことを思い出していた

シンと違い、戦いの内容に関してのことを考えているわけではないのだが

 

アークエンジェル、セラたちは一体何の目的であの戦闘に介入してきたのだろうか

今まではそんな気配も見せていなかったというのに

 

まるで、オーブ軍が出ていることを待っていたみたいに…

 

 

「っ!」

 

 

シエルは、首をぶんぶんと横に振る

一瞬出てきた考えを消す

 

あの戦闘では、彼らはオーブ軍機中心に攻撃していた

武装だけを破壊し、パイロットの命までは奪っていなかったが

 

初め、タンホイザーを撃ち抜いたときはオーブ軍を助けに来たのかと思ったのだが、オーブ軍機を攻撃した

その後から彼らが何をしに来たのかわからなくなってしまった

 

オーブ軍機中心に攻撃していたとはいえ、彼らは地球軍機も自分たちにも攻撃していた

 

だが、よく考えてみれば、彼らはオーブ軍以外は、攻撃してきた機体以外は手を出していなかった

 

なら、彼らの目的はオーブ軍となる

 

 

「…」

 

 

先程消した考えが再び出現した

何なのだろうか

 

できれば、彼らと会って話がしたい

だが、そんなことができるはずもない

自分は今、ザフトの兵士なのだ

 

戦闘が終わり、この港に着いたときに見た艦長の表情を思い出す

間違いなく、アークエンジェルのことについて悩んでいた

 

そんな時に、自分が追い打ちをかけるようなことをするわけにはいかない

 

シエルは、自室内に入る

 

 

「…え?」

 

 

「やっほぉ」

 

 

「お邪魔してまぁす」

 

 

「す、すみません…」

 

 

部屋に入って、シエルは目を見開いて立ち止まる

 

部屋の中には、椅子に座っているルナマリア、ベッドに座っているメイリンとマユがいた

 

 

「ど、どうしたの!?ルナはともかく、メイリンとマユちゃんは仕事あるんじゃないの!?」

 

 

シエルが問いかける

 

 

「私もメイリンも、交代時間が重なって。ルナマリアさんとは偶然会って、シエルさんの部屋に行くと言うので私たちも…」

 

 

シエルの問いに、マユが答えた

その答えを聞き、シエルはため息をつく

 

前からそうだ

何か暇があればいつも自分の部屋で集まって話をする

自分に何かやることがあったとしても、押し切られてしまう

 

相手には悪気がないからなお困る

といっても、自分も特に悪い気分はしていないからいいが

 

 

「それで…、どうしたの?て聞いても、特に用はないんだろうけど」

 

 

「何それー…。いっつもこの部屋をたむろ場にしてるみたいに」

 

 

「そうでしょ…?」

 

 

不満げに言うルナマリアを、シエルはじと目で見る

 

 

「…そうだけど。でも今回は違うわ。前回の戦闘について話したくてね」

 

 

「え…!」

 

 

ルナマリアの言葉に、再びシエルは目を見開く

前回の戦闘について、と言っているが、恐らく話題はアークエンジェルのことだろう

 

 

「あのアークエンジェルのことなんだけど…。戦闘に出てた私とシエル。オペレーターの視点で見てたメイリンの話を合わせて考えようと思って」

 

 

「マユちゃんは…?」

 

 

自分、ルナマリア、メイリン

なら、マユはなぜここに来たのだろう?

 

 

「私が会ったときには、メイリンはマユちゃんと一緒にいたのよ」

 

 

「だから、私も一緒に来たんです」

 

 

マユがなぜここに来たのかを察する

 

 

「それで…、あの艦のことの何を話すの?」

 

 

シエルは、ルナマリアが座っている椅子の他にもう一つある椅子に座る

そして、シエルはルナマリアに聞く

 

アークエンジェルのことを話すと言うが、何を話すのか?

 

 

「…あの艦、何をしに来たのかしらね?」

 

 

「…」

 

 

やっぱりそう来たか

ルナマリアも、メイリンも

マユも話を聞いているのか、気になっているのだろう

 

 

「だって、あの艦、初めタンホイザーを撃っておいて、その後は私たちの援護したのよ?」

 

 

ルナマリアがどこかいつもより張った声で言う

ルナマリアも、あの艦に憤りの気持ちがあるのだろう

 

シンもハイネも、表情は変わっていなかったがレイも

ルナマリアと同じ気持ちだろう

 

 

「しかも、前大戦ではオーブの陣営として戦っていたにもかかわらず、オーブの機体ばかり攻撃してたし…」

 

 

それも気づいていた

いや、戦いに出ていたのならわからないはずがない

 

 

「そうなの?私はわからなかったけど…」

 

 

メイリンが言う

どうやら通信感性の立場にいる彼女にはよくわからなかったようだ

 

だが、次のメイリンの言葉でシエルは驚愕することになる

 

 

「それに、ミネルバがオーブの機体を撃とうとした時、あの艦は邪魔してきたし…」

 

 

「なっ…!?」

 

 

「え!?うそ!?」

 

 

シエルとルナマリアが声を出す

 

 

「…よくわからないけど、あの艦は一体、何しに来たんだろう?」

 

 

マユがぽつりと漏らす

そうだ

オーブの機体を落としたり、守ったり

 

彼らは何をしにあそこに来たんだ

 

わからなくなってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何か、前にもこんなことなかったか?」

 

 

「あった…ような…」

 

 

セラとキラが互いの顔を見合わせながらつぶやく

 

 

「ほら、これも持て!」

 

 

そこに、サングラスをかけ、帽子をかぶったカガリが更なる荷物を持ってくる

 

今、三人は町に出ていた

買い出しに来たのである

 

セラとキラの両手はカガリが店で買ってきた商品で一杯である

 

 

「じゃぁ次は…」

 

 

「えぇっ!?まだあるのか!?」

 

 

手にある紙を見ながらカガリがつぶやくのを聞き、セラが喚く

ただでさえそろそろ腕がきつくなってきたというのに…、まだ買うというのか?

 

 

「ねぇ…。そろそろお腹すいてきたし、休憩にしない?」

 

 

キラが提案する

 

 

「っ!そう!そうしよう!ほら、もう昼時だし!」

 

 

「お、そうだな…。どっかで昼食とりに行くか」

 

 

セラが同調し、カガリも腕時計を見て賛成する

 

それを見た兄弟は、同時に思った

(助かった…)と

 

そして

 

 

「「やっぱり…、何かデジャブ…」」

 

 

三人は、屋外の席につき、店員に頼んだ注文の料理を待っていた

円形のテーブルに、四つの椅子

 

三つは三人が座り、もう一つは荷物

そして、その椅子の足の下にも荷物

テーブルの下にも荷物

荷物だらけである

 

 

「なぁ…、何か、前にもこんなことがあったような気が…」

 

 

「…奇遇だな、俺もそう思う」

 

 

「僕も…」

 

 

待っていたカガリがつぶやく

セラもキラもカガリに同意する

 

やっぱり、前にもこんなことがあった気がする

前にも…

 

 

「お待たせしました」

 

 

と、ウェイターが三人の注文した料理を載せて持ってきた

 

それぞれの目の前に皿が置かれる

 

セラはパスタ

キラもパスタ

カガリはパンとハム

それぞれが料理に手を付けていく

 

このお店は、中々の評判の店だとアイシャから聞いている

どこで調べたのかは知らないが…、中々いけるのでそこは置いておく

 

 

「ねぇカガリ?まだ買うもの残ってるみたいだけど、どれくらいあるの?」

 

 

キラが、口の中のものを飲み込んでから、カガリに聞く

カガリは、パンを咥えようとした動きを止める

 

 

「んと、あとは…。三つ、だったかな?」

 

 

セラとキラは、同時に息をつく

どうやらあと少しのようだ

本当にいい加減うんざりしてきたので助かった

 

動きを止めていた三人は再び手を動かす

 

 

「おっ、ずいぶんたくさん物を買ってるな!パーティでもするのか?」

 

 

「「「…」」」

 

 

同時に動きを止める三人

何やら、聞いたことのあるセリフだ

 

…まさか、振り向いたらアロハシャツを着たサングラスの男がいるのではないだろうな

 

三人はじと目で、ゆっくりと振り向くと

 

 

「よっ」

 

 

「ひさしぶりー」

 

 

そこには二人の男女が立っていた

二人とも首からカメラをかけている

 

男は右手を上げ、女は左手を振っている

 

 

「トール!?」

 

 

「ミリアリアか!?」

 

 

「何でここに!?」

 

 

キラ、カガリ、セラが男女の姿を見て驚愕する

その男女は、前大戦の三か月後、二人でオーブを出たトールとミリアリアだったのだ

 

先程も言った通り、二人は大戦の三か月後にオーブの国を出ていた

二人はジャーナリストとして世界中を飛び回っていた

 

 

「いやぁ、二年くらい会ってなかったか…。元気だったか?」

 

 

カガリが二人に話しかける

 

 

「あぁ!でもジャーナリストも大変でさ…」

 

 

「なんだよ、ミリアリアと楽しむ時間もないってか?」

 

 

「ははは!そうそう!」

 

 

ニヤリと笑みを浮かべてからかうセラ

だが、トールは余裕の態度で対応する

 

それを見て、セラは目を見開いた後に不満げな表情になって頬杖をつく

そして、セラはまだ残っているパスタを口に入れていく

 

その姿を見ていたトールとミリアリアがくすくすと笑う

 

 

「昔はよくミリィ関係でセラにはからかわれてきたからなぁ。今はもうそんなことされないぜ?」

 

 

「…けっ」

 

 

トールが先程浮かべていたセラの笑みと同種の笑みを浮かべて、座っているセラを見下ろす

セラは、そっぽを向いてしまう

 

昔は、面白いほど二人とも反応してくれたというのに…

 

 

「それにしても、ここには何をしに来たの?」

 

 

ここで、食事を終えたキラが、口を紙で拭いた後に聞く

トールとミリアリアは何をしにここに来たのか

 

 

「いや、ここにはただ拠点にしてただけでさ」

 

 

「本命は、ダーダネルスにあったのよ」

 

 

「「「っ!」」」

 

 

二人の言葉を聞いて、セラたちは目を見開く

 

ダーダネルス

先日、セラたちが介入したあの戦闘である

まさか、この二人は見ていたのだろうか

 

 

「いや、驚いたぜ。ザフトと、オーブ軍を増援に加えた地球軍の戦闘を写真に撮ってたんだが…。アークエンジェルが出てくるんだから」

 

 

トールがどこか困ったような笑みを浮かべながら、まわりに聞こえないように言う

 

やはり、見ていたのか

あの戦闘を

 

 

「…ここじゃ場所が悪いわね。話してくれるでしょ?」

 

 

ミリアリアが言う

 

セラたちは考え込んで

 

 

「…うん、わかった」

 

 

代表して、キラが頷いた

 

その後、まだ残っている買い出しの商品を買い、アークエンジェルに戻る

トールとミリアリアを連れて

 

 

「うわぁ、懐かしい!」

 

 

「あんま変わってないけど…、何か綺麗になったみたいだな」

 

 

ミリアリアとトールは、艦内を見渡しながら懐かしむ

 

トールの言った通り、艦内は清掃されて大戦の最後の時よりも綺麗になっている

それに、所々改装され、天使湯という温泉まで作る始末…

 

セラもキラも、天使湯の計画をのりのりで建てる大人三人組を苦笑気味で見るしかなかった

ラクス?ラクスはにこにこと微笑んで見守っていました

 

そして、艦橋に入る

艦橋内にいたクルーたちが、入り口の方に振り向く

 

 

「あら、お帰り。ちゃんと全部買ってきたかしら?」

 

 

マリューが帰ってきたセラたちを迎える

マリューはセラたちに歩み寄る

 

 

「え?」

 

 

そして、呆然とした表情になる

セラたちの後ろにいる二人を見て

 

マリューの様子が気になり、他の人たちもマリューの視線を追ってセラたちの後ろを見る

そして、呆然とした表情になる

 

 

「…トール君?…ミリアリアさん?」

 

 

「はいっ」

 

 

「お久しぶりです!ラミアス艦長!」

 

 

再会したアークエンジェルクルーたち

話題は当然、ダーダネルスの戦いのことになる

 

 

「本当に驚きましたよ!オーブを出てったのは知ってましたけど…」

 

 

ミリアリアが言う

その言葉に、マリューが罰が悪そうな表情になる

 

 

「それに、オーブ軍機をどんどん攻撃して行くんですもん」

 

 

「あの時は…、事情があってね…」

 

 

マリューがカガリを見ながら言う

カガリは、その視線に気づいて口を開いた

 

 

「二人は、今のオーブはセイラン家が支配しているってことを知ってるか?」

 

 

「え?うん」

 

 

「国民の評判はあまり良くないみたいだしな」

 

 

カガリの問いにミリアリアとトールが答える

やはり知っていたようだ

相当優秀なジャーナリストになっているらしい

 

セラは二人を見て微笑む

 

 

「そう。セイランの評判は国民には悪い。だから、それを利用するんだ」

 

 

今回の増援

ユウナ・ロマ・セイランが最高司令官として出撃した

 

本島にいるカガリの部下たち曰く、ユウナは兵たちにも評判は悪いらしい

なら、そこにさらに敗北を与えればいい

 

そうなれば、ユウナ、セイランの評判はさらに悪くなる

 

 

「こんなことはしたくないんだが…、セイランが牛耳っている今の状況で私が戻ってもどうにかこうにか手を使って無力化されてしまうのがオチだ…」

 

 

だから、セラたちはオーブ軍機に攻撃をした

命は取らず、力だけを失わせた

 

ただでさえ悪いセイランの評判をさらに落とす

これが目的だったのだ

 

 

「…なるほど。でも、今のオーブの状況なら、そうせざるを得なくなるわね…」

 

 

ミリアリアがつぶやく

 

今のオーブの状況はひどいのだ

カガリが行方不明となり、ウナト・エマ・セイランが事実上の代表となった

 

大西洋連邦との同盟によって、国民たちに不満はたまっていたのだ

その上、今回の派兵

国民の不満はさらにたまってしまった

 

それと同時に、恐怖している

また、国が戦火に巻き込まれてしまうのでは、と

 

いや、国民は予想している

オーブから出て行く国民も最近増えてきているという話だ

 

 

「それと…、セラだよ」

 

 

トールがぽつりとつぶやいた

 

 

「アークエンジェルが出てきたことにも驚いたけど、リベルタスを見てもっと驚いたよ。セラを出すなんて…」

 

 

トールだって、ミリアリアだって知っている

セラが前大戦でどれだけ傷ついてきたか

 

その上、シエルがザフトに戻ったことも聞いていた

そして、開戦

 

 

「ミネルバにヴァルキリーがいる。知ってたんだろ?」

 

 

だからこそ、二人は本当に驚いたのだ

もしかしたら、セラとシエルが戦うことになることだってあったかもしれないのだから

 

 

「…私も、セラ君にやめてもいいのよ?て言ったのよ」

 

 

「「え?」」

 

 

トールの問いに、マリューが答えた

 

あれは、スエズにオーブ軍が派遣されたことを知り、ダーダネルスで起こる戦いに介入しようと決めた時だった

 

 

 

 

 

マリューに連れられたセラは、マリューについていくことしかできない

だが、どこかセラは違和感を感じていた

 

艦内に、こんな所があっただろうか?

 

見たことがない通路なのだ

戦争中、長い間アークエンジェルにいたが、来たことがないところがあったのか

 

いや、そんなはずはない

キラ、アスランと追いかけっこもしたし、クルーたちには内緒にしていたが、キラと共に艦内を探検したこともあるのだ

まだ行ったことがないところがあるなど…

 

 

「ここよ」

 

 

マリューが立ち止まる

セラも立ち止まって、扉を見た

 

大きな扉だ

両開きの扉だ

 

当然、セラはこの扉を見たことがない

 

 

「大戦のあと、天使湯と一緒にここもつけたのよ」

 

 

マリューが言いながら、扉の横にある装置を操作する

 

この扉は、大戦の後に追加されたのだ

セラは、なぜこの扉周辺を見たことがないのか理解した

 

と、扉がごごご、と音を立てながら開き始める

セラの視線が扉の奥に集中する

 

真っ暗で、仲が良く見えない

 

マリューが、中の手前の壁を触ると、中のライトがつく

そして、セラは見た

 

中にある、巨大なモビルスーツを

このモビルスーツは

 

 

「…リベルタス」

 

 

見つからないはずだ

アークエンジェルの中にあったのだから

 

そして、あの自分とラクス暗殺部隊に襲われていた時にバルトフェルドが言っていたあの言葉

 

 

『ここにはない』

 

 

言葉の意味がようやくわかる

全員が知っていたのだろう、リベルタスの場所を

 

 

「…あなたが選びなさい。力を奮うか、否か」

 

 

マリューが、セラの目を見つめながら問いかける

 

イエスか、ノーか

 

だが、そんなもの、聞くまでもない

 

 

「…そんなの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、探索任務ぅ!?…で、ありますか?」

 

 

シンが不満げな叫びをあげ、そして丁寧な言葉に直す

 

 

「そーだ!これも、司令部から受けた正式な命令なんだぞ」

 

 

アーサーがシンを咎めるように言う

 

シンとレイはブリーフィングルームに呼び出されていた

そして、そこにいたアーサーから受け持った任務が、探索任務

 

 

「地域住民からの情報なんだが…」

 

 

アーサーがモニターに周辺の地図を出す

あるポイントにサインが灯る

 

 

「この奥地に、地球軍の息がかかった怪しげな研究施設があるらしい。今は静からしいが、以前はモビルスーツも行き来していた。かなりの規模だということだ」

 

 

「え…」

 

 

シンが、この任務の重要さを理解する

 

初めは、何でそんな任務を自分たちにさせるのだと不満を持っていたのだが、その理由を悟る

 

まず、施設の規模

アーサーの言う通り、モビルスーツが行き来しているのだから、かなりのものに違いない

 

そして、今は静か、という言葉

廃棄されている、なら良いのだがそうでないなら何が考えられる

 

ばれないように少人数でそこにこもり、ザフトの様子を探っている

そういうことだって考えられる

 

だからこそ、自分たち

 

 

「さっきも言ったが、まだ使用されていることだって考えられる。十分に用心して行けよ?」

 

 

アーサーの言葉に、シンとレイは同時に頷く

そして立ち上がり、礼を取ってブリーフィングルームから去っていく

 

 

 

 

 

シンとレイはそれぞれの機体、インパルスとセイバーに乗ってミネルバから出撃する

二機はマルマラ海、ゲリボル半島、そしてエーゲ海に出る

 

夕日できらめく海を眺めながら機体を進めるシン

やがて、森や荒れ地が目立ってくる

 

 

「…あれだ」

 

 

通信でレイが言う

かなり広い敷地の中に並ぶ建設物

 

上空を旋回して様子を窺うが

 

 

「攻撃の気配はなさそうだな…」

 

 

「そろそろ良いんじゃないか?」

 

 

建設物はぼろぼろで、やはり廃棄されてしまっているんじゃないだろうか

そう思ってシンがレイに言うが

 

 

「もう少し見てみよう。敵がこちらを警戒してひそんでいるかもしれないからな」

 

 

「…わかった」

 

 

そんな様子は見られないのだが…

シンはむっ、としながら下方に広がる建設物を眺める

 

…やっぱり、降りてもいいんじゃないだろうか

 

結局それから十分ほどまわり、それでも攻撃してくる気配はないため降りることにする

インパルスとセイバーは着陸し、シンとレイはコックピットから降りる

 

足音を立てないようにそっと歩き、建設物に近づいていく

その手に、拳銃を持ち

 

静けさが立ち込め、人の気配はない

 

廃棄の線が深くなってくる

 

 

「…行くぞ」

 

 

シンは頷く

施設の入り口の両脇に身を隠し、拳銃を構えながら中へと入っていく

 

しかし、どうも嫌な予感がする

やっぱり施設内から人の気配がしない

物音一つしない

 

強いてあげるなら、空気がひんやりと重い

そんな所だろうか

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

二人は一言も話さない

まあ、潜入任務なのだから当然なのだが、シンにはどこか退屈に感じる

 

二人は歩き、入り口のすぐの所にある扉を見つける

レイがそのドアノブに手を握り、シンを見る

了承を得ようとしているのだと気づき、シンは頷く

 

それを見て、レイはゆっくり扉を開ける

 

部屋の中は濃厚な闇が立ち込めている

レイが、壁を手で探る

 

そして、スイッチを探り当ててレイはそのスイッチを押す

ぱちりという音と同時に明かりが灯る

 

…こんな施設に、電気が通っている?

ぼろぼろなこんな建物に?

 

 

「なんだ…、ここは…?」

 

 

シンが部屋の中を見渡す

 

大型のコンピューター、計測器らしきもの

手術台に大量のガラスケース

ケースの内部には、何やら液体が入っており、その中には影が見える

 

何か、入っているのだろうか?

 

シンは、その正体を見ようと足を進めようとする

 

 

「…ぁ」

 

 

「?レイ?」

 

 

と、背後から小さく声が聞こえた

 

この場には、自分の他にはレイしかいない

シンは振り返ってレイの様子を見る

 

 

「!?レイ!?」

 

 

シンは、先程探ろうとした影のことなど忘れてレイに駆け寄る

 

レイが、うずくまっていたのだ

レイに近寄ると、その息が大きく切れているのが分かった

表情は真っ青で、さらにまるで恐怖しているように歪んでいる

 

 

「どうしたんだよ!レイ!レイ!!」

 

 

シンは、レイの肩を優しく揺すりながら叫ぶ

 

なんだ

何かの攻撃を受けたとか?

 

いや、それなら自分はもうとっくにその攻撃を受けているはずだ

 

なら、毒か?

いや、それだって自分もレイと同じようにその毒を吸い、レイと同じ症状を発しているはずだ

 

 

「くっ…!レイ、待ってろ!」

 

 

シンは、部屋から出て行く

インパルスの通信を使って、ミネルバに助けを呼ぶためだ

 

シンが部屋を出た後も、レイは苦しそうに胸を押さえ続ける

 

 

 

 

 

 

 

そのレイの頭の中には、この部屋と同じような映像が過っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




再会は、アークエンジェル側
記憶は…、わかりますね?
わからない人のために答えは書かないでおきます


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PHASE25 ロドニア

一度、一部データが消えて呆然としました…


「…一体、何が起きたのかしら」

 

 

タリアが艦橋でモニターに映る施設を見ながらつぶやく

 

この施設は、シンとレイに調査を命じたものだ

二人は施設に入って調査を開始したようだが、レイが何かしらの症状を発症し、うずくまってしまったらしい

今は二人を医務室にいれている

 

シンには異常がないようだが、念のために検査を行っているのだ

 

 

「…ここを頼むわね。アーサー」

 

 

「は、はい!」

 

 

タリアが、艦橋にいるクルーたちに目くばせした後、アーサーを連れて艦橋を出る

 

あの施設には、一体何があるのか

それを、確かめるために

 

 

 

 

 

 

「だから、俺は大丈夫ですって」

 

 

シンが、しつこく医師が確認してくるため声に不満を含ませて答える

 

 

「そうは言ってもね、念のためだ…。現段階ではあの建物周辺からウィルスやガスの類は検知されていないが…」

 

 

軍医はそこで言葉を切り、続ける

 

 

「何があるかわからんだろ?」

 

 

「…」

 

 

シンは口を尖らせて黙り込む

 

確かにそうだが、何ともないといったら何ともないのだ

だるいという違和感だってない、健康そのものなのだ

 

まあ、医師の言う通り何があるかわからないから、検査はおとなしく受けるが…、何もないと思う

 

 

「だが、艦長も迂闊だよ。そんな場所へ、君たちだけで行かせるなんて」

 

 

その言葉にむっとする

まるで、自分たちが子ども扱いされているようで

 

 

「チェックはちゃんとしましたよ!」

 

 

そして、建物に入ってあんなものを目にするとは思わなかったが

あのガラスケース、あのサイズ

まるで、人が入れられていたみたいな…

 

そして手術台

あれは、人間を解剖していた証…?

 

シンは、頭の中のおぞましい思考を打ち消す

 

ばかな

いくら何でもそこまでする必要があるのか

そんな、非人道的な研究を…

 

考えていると、横側からカーテンが動く音がした

シンは驚いて振り向くと、気を失ってしまったレイが寝かされていたベッドを遮っていたカーテンが引かれ、レイが顔を覗かせていた

体を起こし、こちらを見ている

 

 

「レ、レイ…。大丈夫なのか?」

 

 

シンは、レイを心配して声をかける

 

あの時のレイは明らかに異常だった

胸を抑えてうずくまり、息を切らせて顔は真っ青になっていた

あれからそんなに時間は経っていない

それなのに、もう起きてもいいのだろうか

 

 

「大丈夫だ、シン」

 

 

レイは年相応とは思えない、大人っぽい笑みを浮かべてシンに答える

そして、医師と向き合って頭を下げる

 

 

「もう大丈夫です、ありがとうございました」

 

 

言った後、レイはかけてある赤服に袖を通す

医師は、レイを危ぶむように見ながら声をかける

 

 

「そうか?まだ休んでいていいんだぞ?」

 

 

「いえ、本当に大丈夫です」

 

 

医師がレイを気に掛けるが、レイはそれをきっぱりと断る

 

レイは踵を返して医務室を出て行く

シンは慌ててレイを追いかける

 

 

「レ、レイ。本当に大丈夫なのか?」

 

 

シンは、レイを気にしてもう一度問いかける

レイは、シンの顔を見て、先程浮かべた笑みを再び浮かべる

 

 

「あぁ。すまなかったな」

 

 

もう、大丈夫なのか

シンはおそらくレイは何度言っても譲らないだろうと確信し、とりあえず納得することにした

 

 

 

タリアは、屋外に簡易的に設置されたテントの中にいた

そこで、端末の操作をしている研究員を眺めていた

 

 

「内部のチェック、完了しました。自爆装置はすべて撤去。生物学的異常は見当たりません」

 

 

そのタリアに、一人の兵士が報告する

異常が…ない?

 

タリアは顎に手を付けて考え込む

 

この施設内にミネルバはあるのだが、発進する前にタリアはシンから報告を受けたのだ

レイの様子がおかしい、と

その時は、間違いなく生物学的汚染を疑ったのだが

 

だが、施設からは何の異常も感知されず、シンとレイの体にも異常は発見されなかった

 

 

「…けど、もう一つの予想は当たってたみたいね」

 

 

ぽつりとつぶやくタリア

 

タリアは、他にもここを地球軍の軍事施設だと予想していた

自爆装置が張り巡らされたこの施設

一体何の目的で使用されていたのか

 

軍事、かどうかはわからないが、地球軍の施設だということは間違いなさそうだ

タリアは、更なる調査を告げる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあねえ…。まさか五機中四機もやられちゃうとは思ってなかったからなぁ…」

 

 

飄々とした口調で告げるネオ

その視線の先には、格納庫に置かれた、手傷を受けている四機が並んでいた

少し離れた所には、損傷を受けていないカオスが立っている

 

前回のダーダネルス海峡での戦闘によって、損傷を受けたカオス以外の四機

 

地球軍空母、J.P.ジョーンズは、エーゲ海の地球軍基地に寄港し、前回の戦闘によってついた傷を癒していた

 

 

「でも、それをスエズにも戻らずにここで…、というのはきついものがありますよ…」

 

 

ネオの隣にいた技術スタッフが愚痴るように言う

まあ、ムリもない

 

この場所で修理するには少し…、というのはネオも同意見である

 

あの戦闘で、あの二機に手ひどくやられてしまった

特にひどいのはオーブ軍の方だ

死者こそ少ないものの、損傷を受けた機体は地球軍以上である

 

前線に出たからだ、と言えばそれまでだが、それにしても気の毒に思えてしまうほどの数なのだ

 

あれがアークエンジェル、フリーダム、そしてリベルタス

敵味方区別なく有名な奴らだ

ネオだって、そのことを知っている

 

ステラを除いた四人は、それぞれの機体のメンテナンスマシンの前で技術スタッフと話している

アウルとウォーレンは、食って掛かっているといった方が正しいが

 

 

「わかっちゃいるんだがな…。完膚無きに負けたってんなら言い訳もつくが…」

 

 

ネオは言いながら傍らにいる少女、ステラを見る

 

 

「ステラたちはまだ、元気だもんなぁ」

 

 

「うんっ!」

 

 

輝くような笑顔を見せ、頷くステラ

 

ネオは、その笑顔を見て表情をわずかに曇らせる

ステラたちは、元気なのだ

 

まだ

 

ならば、まだ戦わなくてはならない

ずっと、ずっと

死ぬまで

 

 

「ロアノーク大佐!」

 

 

その時、小走り気味にこちらにやってくる兵士が視界に入った

とても急いでる様子の兵士に振り向くネオ

 

 

「どうした?」

 

 

「ロドニアのラボのことなんですが…」

 

 

ロドニアのラボ

その単語を聞いた瞬間、ネオはステラの表情を伺う

こちらを心配そうに見ているステラ

察している様子はない

 

ネオは兵士を隅に連れていって話を聞く

 

 

「アクシデントで…、処分に失敗したそうで…」

 

 

「おいおい…」

 

 

ネオは顔を顰める

処分、失敗

 

 

「さらに悪いことに、ザフトが…、こちらの部隊が到着する前に…」

 

 

「…何てことだよ」

 

 

あの施設で行われていた研究の重要さを知っているネオはさらに表情を歪める

ザフトが、施設内にいる?

 

それはまずい

 

あの施設では、ステラたちエクステンデットの作成、育成が行われていた場所だ

その施設も、ある理由で廃棄することに決定したのだが、それに失敗した

 

さらにザフトがいるとなれば、施設のデータが取られてしまう可能性だって…、いや、確実に盗られる

それは防がなければならない

 

 

「報告を受けたスエズも慌てているようですが…」

 

 

当たり前だ

何人かの責任者の首が飛ぶことになるだろう

 

ともかく、もっと情報が欲しい

ネオは場所を変えて話を聞くことにした

 

その後姿をじっと見ていたステラのことには気づかずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…」

 

 

隣から、アーサーが息を呑む声が聞こえてくる

懐中電灯の明かりで照らされたその道には、所々に血痕が残されている

 

さらに、鼻に刺すような血の匂いが立ち込めている

アーサーの気持ちがわからないでもない

 

と、シエルは明かりが照らした先に何かが重なっているものを見つけた

シエルは近づいてそれを見る

 

 

「っ!これは…」

 

 

死体、だ

それも、目を見開いたままの

 

シエルは、タリアに指示されてこの施設の調査に同行していた

この場にいるのは、シエル、タリア、アーサー、そしてシンである

全員が唖然とし、言葉を出せないでいる

 

シエルは、二つの死体の瞼にそっと手を添える

死体の瞼が、優しく閉じられた

 

シエルは立ち上がり、先に行こうとしているタリアたちに追いつく

 

しかし、何なのだろう

他にも死体はあるが、そのどの死体の手に、拳銃やメス、ナイフなど武器になるものが握られている

 

シエルが手に持つライトの位置を変えた、その時、頭上から叫び声が上がる

 

全員が震えあがり、見上げると、漆黒の翼を広げて飛び去っていくカラスが

 

正体がカラスだとわかり、ホッと息をつく

 

恐る恐る、シエルたちが再び進みだすと、こつん、と音が鳴る

シエルは、ライトで音の先を照らすと、空き瓶がころころと転がっていた

アーサーが足で蹴ったのだろう

 

 

「…っ、うわぁああああああああ!!!」

 

 

アーサーが叫び声を上げる

シエルも、シンもタリアもアーサーが叫びをあげていなかったら危なかったかもしれない

 

瓶が転がった先には、ひび割れたガラスケースがあった

液体がそのガラスケースを満たし、何か白っぽいものが浮かび上がっている

 

その正体を見極めた時、シエルは胃から何かこみあげてくるのを抑える

 

その正体は、子供

体のいたるところにチューブがつながれ、目を見開いて液体の中を彷徨っていた

 

壁を取り巻く大量のガラスケース

その中には、様々な性別、年齢の子供たちがいた

 

シエルは、その中で年端もいかない赤ちゃんを目に捉えた途端、セラのことが思い出された

 

セラも、この子供たちの様にガラスケースの中で…

 

 

「な、何なんですかこれはぁ!?」

 

 

アーサーが裏返った叫びをあげる

 

 

「内乱…ということでしょうね、たぶん…」

 

 

そのアーサーの叫びにタリアが返す

 

 

「自爆しようとしていた形跡があったわ…」

 

 

タリアは、懐中電灯を奥にあるセキュリティルームの中に向ける

そこには、一人の研究員が倒れ伏していた

 

手の中には何やら装置が

タリアの言う通りならば、自爆装置を作動しようとしていたところで絶命、というところだろう

 

 

「でもっ!何でこんな子供が…っ!」

 

 

アーサーが泣き出しそうな声で再び叫ぶ

 

シエルも、目に涙が込み上げてくるのを必死にこらえていた

 

彼らは。殺し合ったのだ

子供と、大人で

 

シエルは、ライトに照らされた座り込んだ少女の前にかがみこんだ

少し疲れて座った、という風に見えたのだ

 

どこか願望に似たその考えは、当然裏切られる

少女はとっくに絶命している

 

シエルは、その少女の頬にそっと触れる

その途端、少女は前のめりに倒れてしまった

 

後頭部に、小さな穴が見える

 

少女の死因を悟ったとたん、シエルは目を背ける

そして、わずかにこみあげた涙をそっと拭いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステラたち五人は、格納庫から出て待機室に向かっていた

 

ステラは、歩く足を止めて頭の中に残った言葉を口にする

 

 

「ロドニアのラボ…」

 

 

先程ネオたちの会話に出てきた単語

どうにもどこかで聞いたことがあるのだ

 

先を歩いていたスウェンたちが立ち止まる

 

 

「…って、なに?」

 

 

スティングとアウルが顔を見合わせ、そしてステラを見る

 

 

「ロドニアのラボって、そりゃぁ…」

 

 

「俺たちが前いたとこじゃんか」

 

 

何を当たり前のことを、そう言わんばかりに馬鹿にするように言う

二人は笑いながら待機室に入っていく

 

スウェンとウォーレンも、二人に続いて待機室に入る

 

ステラも入ろうとしたが、ネオが言っていたことを思い出す

 

 

「悪いことにザフトが…って、ネオが!」

 

 

「「えぇっ!?」」

 

 

「なっ!?」

 

 

ステラが放った言葉に、スウェンは目を見開き、アウルたちは声に出して驚愕する

血相を変えた三人に、ステラは戸惑う

 

 

「おい、ステラ!ロドニアのラボがどうしたってんだ!」

 

 

アウルはステラの腕を強くつかんで激しく揺さぶる

 

 

「ステラっ!言えよっ!ネオは何て言ってたんだよ!!」

 

 

「あ…わ…」

 

 

ステラは何も言わない、言えない

アウルはどうしたのだろうか

どうしてこんなにも焦っているのだろうか

 

 

「アウル!」

 

 

スティングが二人の間に割って入る

 

 

「だってよ!ザフトがって、どういうことだよ!」

 

 

「わか…んない…」

 

 

アウルに怒鳴られ、混乱しながらも何とか答える

だが、ネオたちの様子からして何か悪いことが起こっているのは確かなはずだ

 

 

「わかんないじゃねえだろ!くそっ、ネオの奴…!」

 

 

アウルが扉に向かって突進しようとする

 

 

「アウル、少し落ち着け」

 

 

そのアウルを、回り込んでスウェンが止める

アウルは構わず突っ込もうとする

 

 

「どけ!どけよ、スウェンっ!」

 

 

スウェンに抑え込まれて身動きが取れないアウル

 

 

「アウル!いいから落ち着け!」

 

 

今度はスティングがアウルに声をかける

その言葉に、アウルはキレた

 

 

「なんでだよ!なんで落ち着いていられんだよ!?」

 

 

アウルは、スウェンを振り切って振り返る

 

こんなアウルは、見たことがない

いつも余裕そうに笑っていたアウルが、こんな切羽詰まった表情を見せるなど初めてだ

 

 

「わかってんのか!?あそこには、母さんが…!?」

 

 

「ちっ…」

 

 

母さん

その言葉が出た途端、スウェンは表情を歪ませて舌打ちする

 

それと同時に、アウルの表情が変わる

ひっ、と喉を鳴らし、目は大きく見開かれ顔は色あせていく

 

 

「かっ…かあ…さん…がっ…、いるん…だ…」

 

 

「アウル、落ち着け。大丈夫だ」

 

 

しゃくりあげながら座り込むアウル

そのアウルの肩を抱きながら、スウェンが落ち着くように囁きかける

 

だが、アウルは止まらない

 

 

「かあさん、がっ…、死んじゃうじゃないかっ!!」

 

 

「っ!?」

 

 

ステラの頭の中が真っ白になる

 

…死?

 

 

「いやだ…、いやだ…!」

 

 

「アウル、大丈夫だ」

 

 

「アウル!しっかりしろ!」

 

 

震えるアウルを、スティングとスウェンが宥める

その二人に、ステラの変化に気づく余裕はなかった

 

ステラはゆらりと部屋を出る

その足取りは、頼りない

 

 

「だめ…」

 

 

ステラは震えながらも、足を止めない

まるで、何かから逃げるように歩み続ける

 

 

「死ぬのは…、だめ…」

 

 

死ぬのは、だめだ

怖いのだ

 

ステラの心が、恐怖で染まろうとしたその時、ある言葉が頭の中でよみがえった

 

 

「…まもる」

 

 

その言葉に、なぜか聞き覚えがある

そして、胸が暖かくなる

 

 

「…守る」

 

 

守る、そうすれば、死なない

そうだ、守ればアウルの母さんは死なない

 

ステラは、格納庫に駆け込む

声をかけてくる作業員も無視して、ガイアのコックピットに座る

ハッチを閉め、システムを起動させる

 

 

「ハッチ開けて!早く!」

 

 

ステラは、スピーカーをオンにして外に向けて叫ぶ

 

 

「開けないと、吹き飛ばす!」

 

 

作業員たちは慌てているようだが、ハッチを動かす気配はない

 

ステラはライフルを向け、引き金を引いた

ビームはハッチを吹き飛ばし、外へとつながった

 

 

 

 

「おいおい…」

 

 

アウルを、スウェンとスティングが宥めている中、ウォーレンはステラがいなくなっていることに気づき、探しに来ていた

偶然格納庫に着き、そして見た

ハッチに開けられている大きな穴を

 

ウォーレンはため息をつき、ブルーズのコックピットに座る

 

 

「あの…」

 

 

研究員が声をかけてくる

ウォーレンは、研究員の方を向いて返す

 

 

「連れ戻す。ロアノーク大佐に伝えてくれ」

 

 

そう言って、ウォーレンはコックピットハッチを閉め、システムを起動させる

 

 

「出るぞ!そこをどけ!」

 

 

研究員をハッチの穴からどかせ、出撃する

 

恐らく、ステラの行場所はロドニアのラボだろう

そして、そこにはザフトがいる

 

それを、ステラが聞いたのだろう

そんな所にステラが行けば…、間違いなく捕らえられる

それは、防がなければならない

 

奴は、エクステンデットなのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…クレアか」

 

 

医務室から出て廊下を歩いていたレイの背後から近付いてくる人の気配

レイは、その気配のぬしを言い当てる

 

 

「よくわかりましたね」

 

 

それは正解で、クレアがレイに声をかけてきた

 

 

「当たり前だ。俺はお前と同じだ。そして、違う」

 

 

「…」

 

 

レイとクレアが見つめ合う

 

男女が見つめ合う

それはあることを想像させるが、そんな空気ではない

 

 

「…そうですね。ですが、あなたの方が業は深い」

 

 

クレアは、レイを通り過ぎて歩いていく

レイはクレアの背中を見つめる

 

 

「けど…、あなたと私の思いは同じです」

 

 

「勘違いするな。俺の思いは、ギルの思いそのものだ。お前の思いなどと一緒にするな」

 

 

クレアの言葉に、レイは鋭く返す

目を細め、声の中にはどこか殺気が込められている

 

クレアは振り返り、ふっ、と微笑んでから立ち去っていく

レイは、その背中に、細めた鋭い視線をかけ続けていた

 

 

 

 

シエルたちは、奥にあった一室でいろいろ調べていた

タリアは、パソコンを操作していた

そして、その中にあったデータを見つける

 

 

「…六十四年七月、十一、廃棄処分。三、入所。八月、七、廃棄処分。五、入所」

 

 

「…何ですか?それは」

 

 

アーサーが、タリアが見ているパソコンの画面をのぞき込みながら訝しげに問いかける

 

どうやら、パソコンに残されていたデータを読み上げているようだ

シエルも、二人に近づいてパソコンの画面をのぞき込む

 

その直後、シンが隣に来て彼も画面をのぞき込む

 

 

「被検体の…、つまり、子供の、その…、入出記録…ってところかしらね」

 

 

目を見開き、シンと顔を見合わせる

 

入出記録

つまり、それは…

 

 

「連合のエクステンデット…、あなただって、聞いたことくらいあるでしょ?」

 

 

タリアが、呆然としていたアーサーに問いかける

 

 

「遺伝子操作を忌み嫌う連合…、ブルーコスモスが、薬やその他様々な手段を用いて造り上げている生きた兵器」

 

 

タリアの声は、穏やかなもののように聞こえるが、シエルはその奥に侮蔑が含まれていることに気づく

 

 

「ここは、その実験、製造施設ってことよ」

 

 

反吐が出る

何が遺伝子操作を忌み嫌う、だ

 

結局、彼らも同じようなことをしているじゃないか

だというのに…

 

 

「…っ!止めてください!」

 

 

その時、シエルは鋭く叫んだ

 

 

「えっ…?」

 

 

タリアは、その叫びに戸惑いながらも画面のスクロールを止める

シエルは、タリアとアーサーを押しのけて画面を見る

 

そこには、見知ったデータが記されていた

GAT-X370レイダー、そしてその枠の中に赤髪の少年の写真が

 

レイダー、前大戦で何度か戦ったことがある機体

そして、その機体のデータが

 

 

「シエル。これは…?」

 

 

タリアが、機体のデータを見ながらシエルに聞く

シエルは、データから目を離さないまま答える

 

 

「…前大戦で戦ったことが何度かあります。でも、まさかこのパイロットが…ここで…」

 

 

シエルは、歯噛みする

 

彼は

いや、彼らはと言った方が良いだろう

ここで製造され、そして戦わされてきたのだ

 

それか、自分から戦っていたか

きっと教え込まれてきたに違いない

 

自分たちには、戦うことしかできない

戦えなければ必要ない、と

 

 

「シエル…?」

 

 

シエルの様子がおかしいことを感じ取ったシンが、声をかける

だが、シエルは反応しない

 

ずっとデータを見つめて、何かを考え込んでいるようだ

 

まるで、シエルが遠くに行ってしまったような

シンは、そんな気がした

 

 

 

 

 

 

「ええ、今はとにかく採れるだけのデータを採って

 

 

テントの奥で、タリアがミネルバに対して指示を出す

 

 

「後から専門のチームも来るでしょうけど、これだけの施設。連合がこのまま放置しておくとは考えにくいわ。バート、周辺の警戒も厳に」

 

 

シンは、そんなタリアをぼうっと眺めていた

その隣には、顔色を悪くしているアーサーが座っていた

 

そして、施設の中から運び出されているものを見てさらに悪くする

それは、死体袋だった

かすかに異臭が漂う

 

途端、アーサーは耐えきれなくなったのか、近くの茂みに駆け込む

 

タリアは、それを眺め、そして視線を逸らした

特に何かを言う様子はない

 

アーサーの気持ちはよくわかる

 

きっと、タリアも、そしてシエルも

できるものならそうしたいところだろう

それはシンだって

 

 

「ホントにもう…、信じられませんよ…!」

 

 

シンは、つい口に出してしまった

 

 

「シン…」

 

 

近くにいたルナマリア、そしてシエルがシンを見る

シンは、ばっ、と顔を上げてシエルを見ながら怒鳴る

 

 

「コーディネーターは自然に逆らった存在とか言っておいて、自分たちはこれですか!」

 

 

シエルに怒鳴ったってどうにもならないことくらいわかる

だが、言わずにはいられない

 

 

「遺伝子いじるのは間違ってて、これはありなんですか!?正しいんですか!?一体何なんです!ブルーコスモスってのは!?」

 

 

シンは、叫んだあとに拳でテーブルを叩く

 

シエルは、シンの問いに答えることが出来ない

 

ブルーコスモスは、コーディネーターを目の敵にしている

そして、ナチュラルである自分たちがコーディネーターに勝つことは難しいということも知っている

 

だから、これなのだろう

コーディネーターの様に遺伝子操作はしない

 

だが、薬は使う

肉体改造はする

それで、コーディネーターに対抗しようというのだろう

 

確かに、遺伝子を操作することは正しいとはいえない

だからといって、それ以外に手を加えることは正しいのだろうか?

 

施設の中には、ガラスケースの中に入れられていた子供がたくさんいた

それは、間違いではないというのか

 

 

「…っ!」

 

 

心の中で怒りが燃える

 

シンの言う通りだ

何だというのだ、ブルーコスモスは

 

 

「艦長!モビルスーツ一、接近!ガイアです!」

 

 

通信を通してバートの声が響く

外にいる全員に緊張が奔る

 

タリアが、通信機をとって返す

 

 

「一機?後続はいないの?」

 

 

シンが搭乗機に駆けだす

シエルはそれを見ながら、ミネルバに駆け込もうとする

 

格納庫に行ってヴァルキリーに乗ろうとしたのだが、それでは遅すぎる

と、インパルスの隣に立っているセイバーが見えた

 

レイは、異常はないという話だがまだ戦える状態ではないだろう

シエルは、迷わず駆けだした

 

シエルはコックピットに座り、機体を立ち上げていく

 

それを見ていたタリアは、シエルがセイバーに乗ったことを頭に刻みながら通信をかける

 

 

「シン、シエル!敵はガイア一機!今のところは後続はないようだわ!こちらがすでにここを発見したことを知らないのかもしれない。とにかく、施設を守るのよ!わかったわね、シン、シエル!」

 

 

「え?シエル?」

 

 

なぜ、シエルの名前がある?

と疑問に思ったシンの目に、モニターに映し出されたシエルの顔が

 

 

「え?え!?」

 

 

シエルはヴァルキリーに乗ったのだろうか?

だが、通信が来ている先はセイバーの…

 

 

「シン!今はこっちに来るガイアの対処!行くよ!」

 

 

「あ、あぁ!」

 

 

シンは、疑問を頭の隅に追いやり、セイバーが飛び立った直後に機体を飛び立たせる

 

森の中から接近する熱源がモニターに映る

本当に、一機だけのようだ

 

あの施設のことが頭をよぎる

シンは、森を駆けているガイアに怒りを抱く

 

 

「こんのぉおおおおおお!!!」

 

 

叫びをあげながら、シンはサーベルを抜いて斬りかかる

ガイアは、四本足で駆けながらインパルスに向けてビームを放つ

 

シンは、ビームを避けてからもう一度サーベルで斬りかかろうとする

 

 

「シン、気を付けて!施設の破壊が目的なら、何か特殊な装備を持っているかもしれない!」

 

 

「っ!」

 

 

シンは、動きを止める

迂闊に飛び込むのは。危険だということか

 

 

「爆散させずに倒す!」

 

 

「えぇっ!?」

 

 

だが、確かにシエルの言う通りだ

 

もしその特殊な装備が、強力な爆薬やナパームだったとしたら

確かに危険だ

 

どうやら、いつものように駆動部に攻撃を与えるのはまずいようだ

 

そんな考え事をしているシンを、ガイアは襲う

ガイアは地を蹴って飛び上がり、インパルスに体当たりを仕掛ける

 

シンは、とっさにシールドを構えるが衝撃は抑えられない

 

 

「ぐっ…!」

 

 

「シン!」

 

 

シエルは、ガイアが着地したところを狙ってビーム砲を放つ

放たれたビーム砲は、ガイアを狙ったものではなかった

 

ガイアのまわりの森を薙ぐ

煙がガイアを囲むが、ガイアはビームブレードを展開して飛び上がる

 

シンは、その様子を見る

シエルを助けに行こうとするが、セイバーはサーベルを構える

 

その様子に既視感を覚えるシン

あれは…、確か…

 

 

「フリー…ダム…?」

 

 

セイバーが、ガイアとの間合いを計っている様子がどうにもフリーダムと重なる

 

シエルは、サーベルを抜き放った

ビームブレードを斬り裂き、ガイアはバランスを崩す

 

そこを狙って、シンはライフルを撃つ

 

ガイアはMS形態に変形してシールドでビームを防ぐが、その時にはインパルスはガイアに接近していた

シンは、サーベルを振り抜く

 

だが、ガイアの反応も速い

後退してコックピット直撃は避けた

 

爆散させずに確実に倒す

コックピットを吹き飛ばすことが一番手っ取り早いのだが…

シンのサーベルは胸部装甲を裂くだけにとどまってしまった

 

 

「くそっ…!」

 

 

シンは悪態をつくが、ガイアの様子がおかしい

動きが止まり、そして仰向けに倒れてしまった

 

どうやらパイロットは気を失ったのだろう

 

胸部倉庫の隙間から中がのぞける

 

もしかしたら、ガイアのパイロットが拝める?

そう思って、シンはカメラを切り替えていく

 

 

「…え?」

 

 

桃色の服、あれは連合の軍服だと知っている

だが、問題はその着ている服の主の顔だ

 

あれは…、まさか…

 

シンはカメラをズームしていく

 

 

「あの子…」

 

 

「女の子…?」

 

 

シエルも、コックピットの中のパイロットに気づいたのだろう

ぽつりとつぶやく

 

だが、そのつぶやきはシンの耳に届かなかった

呆然としていたシンには

 

 

「ステラ…?」

 

 

シンは、機体をガイアに近づける

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「っ!」」

 

 

二機のコックピットにアラームが鳴り響いた

二人は機体を横にずらす

 

こちらに近づいてくる熱源がもう一機現れた

 

 

「あれは…、前回の戦いで出てきた…」

 

 

シエルはその機体を見て思い出す

あれは、ダーダネルスで戦ったあの機体…

 

 

「へぇ…、まさか、あんたがここにいるとはね…。ヴァルキリー」

 

 

ブルーズが、この場に現れた

 

ブルーズはライフルをインパルスとセイバーに向けて、ガイアの前に立ちはだかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE26 救いたい

サブタイトル…、あぁ…、良いのが思いつかない…


「ステラ?ステラ!?…ちっ!」

 

 

ウォーレンは、何度も何度もステラに呼びかける

だが、ガイアに乗っているはずのステラからの返答がない

 

先程、インパルスのサーベルで胸部装甲を薙がれた

ガイアのコックピットは胸部付近

衝撃で意識を刈られたか、ウォーレンは舌打ちする

 

何とかステラを連れ戻したいところだが…

 

 

「インパルスと…、セイバー…」

 

 

インパルスとセイバーの二機が恐らく邪魔してくるだろう

しかも、片方は間違いなく手強い

 

ガイアを連れて帰投するのは骨だろう

 

 

「どうするか…なっ!」

 

 

どうやってこの場を切り抜けるかを考えていると、セイバーがライフルをこちらに向けてくる

ウォーレンは飛びのいてビームを回避する

 

セイバーはサーベルを抜いてこちらに斬りかかってくる

ウォーレンも、スラスターを吹かせて飛び上がり、対艦刀で迎え撃つ

 

二機は鍔迫り合いを開始するが、やはりセイバーの方は、元の愛機ではないのが災いしてかどこか動きに違和感がある

ウォーレンは、力でセイバーを押し切って後退させる

 

 

「何だか知らねえが、ともかく楽に殺せそうだな!」

 

 

ウォーレンはスキュラをセイバーに向けて放つ

セイバーは、体制を崩しそうになりながらもMA形態に変形させてその場から離れる

 

 

「ちっ…」

 

 

やはり奴だ

あれに乗っているのはヴァルキリー…

あれを避けるとはさすがというべきか

 

 

「…っとぉ!」

 

 

そこで、ウォーレンはインパルスがガイアに接近していることに気づく

機体の方向を変え、ライフルをインパルスに向ける

 

ビームはインパルスへと向かっていくが、インパルスはビームを容易くかわす

 

 

「俺が気を取られてる隙に、ガイアをやろうってか?友軍を見捨てるほど、俺は腐ってないんだよ!」

 

 

ウォーレンは知っている

父は、だから失敗したのだと

 

時にはそういう冷酷さも必要なのかもしれない

だが、時を選ばずひたすら切り捨てるのは愚の骨頂だ

 

父はそれで失敗した

だから、自分はそれを選ばない

 

 

「まだそいつは必要なんでね!持って帰らせてもらう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ステラ!ステラぁ!」

 

 

シンは通信機を操作しながらガイアのコックピット内で気を失っているステラに呼びかける

だが、ステラからの返事はない

 

もしや…、と浮かんでくる単語を打ち消す

 

 

「くっそ!邪魔するなぁ!」

 

 

ステラに近づこうとすると、先程乱入してきたもう一つの機体が邪魔をしてくる

シンは、何とかガイアをつかもうと接近して腕を伸ばすが

 

 

「させないって言ってるだろ!」

 

 

ブルーズがサーベルで対艦刀で斬りかかってくる

シンはやむなく後退して斬撃をかわす

 

 

「シン、何してるの!?」

 

 

シエルが通信を通じて声をかけてくる

シンの様子が、明らかにおかしいのだから

 

ガイアは見た所もう行動できない

それなのに、シンは何度も何度もガイアに接近を計っている

 

 

「今はガイアはいいから!あの機体を何とかするよ!」

 

 

ガイアは、いい?

ステラはどうでもいいと言っているのか?

 

 

「くっそぉおおおおおお!!」

 

 

シンは、叫び声を上げながら再びガイアに接近する

 

 

「シン!」

 

 

シエルはシンに呼びかけるが何の反応もない

 

シンは動かないガイアに腕を伸ばす

だが

 

 

「…っ!」

 

 

ガイアが動いた

インパルスの腕を拳で払う

 

 

「なっ!」

 

 

シンは、動かないと思っていたガイアに反撃を喰らったことに驚愕し動きが鈍る

そこを、ステラは見逃さない

 

 

「こんのぉおおおおおおお!!!」

 

 

ステラはサーベルでインパルスに斬りかかる

 

 

「ステ…ラ…?」

 

 

ガイア…、ステラが、自分に刃を向けている

 

 

「ステラ!俺だ、シンだよ!」

 

 

シンは、ステラに呼びかける

声が届けば、きっと

そう願って、シンはステラに呼びかける

 

 

「シン…?」

 

 

そこで、ガイアは動きを止める

サーベルを手に持ったまま、インパルスに襲い掛かろうとしたその体制で動きを止める

 

シンは、声がステラに届いたのだと考えた

ならば、ならば

 

 

「…誰だ…、お前は!」

 

 

「えっ…!?」

 

 

ガイアは再び動き出した

サーベルをインパルスに突き立てようとする

 

シンは、何とかシールドを割り込ませてサーベルを防ぐ

態勢が崩れそうになるも、後退することで何とか立て直す

 

だが、追撃にガイアは再びサーベルで斬りかかる

シンは、ガイアの斬撃をシールドで防いでいく

 

 

「ステラ!ステラ!何でだよ、ステラっ!」

 

 

「私の名を呼ぶなっ!」

 

 

ステラに呼びかけるも、帰ってくるのは拒絶の言葉

呆然としてしまうシン

 

 

「私は、お前のことなど知らないっ!」

 

 

ガイアは動かないインパルスに斬りかかる

シンは、サーベルの切っ先を眺めるだけ

 

何で

何があったんだ

どうして君が…

 

 

「シンっ!」

 

 

その時、シンの耳にシエルの声が届いた

ふっ、と我に返る

 

だが、もう間に合わない

今更動き出そうとしても間違いなく待つ未来は、機体ごと真っ二つにされる

 

だが、ガイアの眼前を二条の光が横切った

ガイアは動きを遮られる

 

ステラは、光が放たれた方向にカメラを向ける

その先では、セイバーがMS型に変形してこちらにライフルを向ける

 

シエルはライフルを撃つが、ガイアのシールドに防がれる

 

 

「よそ見とは余裕じゃねえの!」

 

 

「っ!」

 

 

何とか反応し、シエルは背後から振り下ろされる対艦刀をシールドで防ぐ

追撃される前にシエルは機体を後退させる

 

 

「…限界か」

 

 

ウォーレンは、後退するセイバーから視線をそらしてミネルバの動きを見る

カタパルトが開き始めた

増援が来る、ということだろうか

 

そろそろ撤退時だろう

 

 

「おい、ステラ!撤退するぞ!」

 

 

「…なんでっ!」

 

 

ステラは、ウォーレンの言葉を無視してインパルスに斬りかかる

シンは必死に応戦しながらステラに呼びかけを続けるが、どうしてもステラは反応してくれない

 

 

「ステラっ!ステラぁっ!」

 

 

ステラは、通信を通じて聞こえてくる声を無視してインパルスに斬りかかる

 

 

「なんでこの私が、あんたの命令を!」

 

 

どうしてこの私がお前なんかの命令を聞かなければならない

それに

 

 

「私は、守るんだ!」

 

 

そう、守るのだ

母さんを

アウルの母さんを守るのだ

 

 

「お前は、どけぇえええええ!!!」

 

 

そのためにも、この白い奴を落とす!

 

 

「…」

 

 

ウォーレンは、ステラが必死にインパルスを落とそうとしている所を見る

そろそろ本当にまずい

見捨てて自分だけ、もできるが…、後のロアノークの説教が怖い

 

なら、これしかない…

 

 

「じゃあ、お前はここで死ね」

 

 

「っ!?」

 

 

ガイアの動きがぴたりと止まった

これは、アーモリーワンでアウルが使った方法だ

あまりロアノークにいい顔をされない方法だが、やむを得ない

 

 

「もうすぐザフトの増援が来る。俺たち二人だけじゃ対処できないだろう。それでもここで戦い続けたいんなら…、ここで死ね」

 

 

「あっ…、あっ…!死ぬ…?」

 

 

ステラの頭の中でぐるぐると回る死という言葉に恐怖が募っていく

 

死ぬ…?死ぬの…?

ここから逃げなきゃ…、私は死ぬの…?

 

 

「い…、嫌ぁあああああああああああああ!!!」

 

 

「あっ、ステラっ!」

 

 

ガイアは踵を返して撤退を始める

四本足の形態になり、地を駆ける

 

シンは、必死に追いかけようとするが

 

 

「させるわけねえだろ。せっかく生き残ろうとしてるんだからさ」

 

 

それを、ウォーレンがさせるはずがない

インパルスの眼前に立ちはだかる

 

 

「くそっ…!」

 

 

シンはビームサーベルを抜いて斬りかかる

 

何としても、ステラから言葉を聞かなければ

なんで、君がそんなものに乗っているのだ

 

だが

 

 

「無駄だ!」

 

 

ウォーレンは、斬撃を掻い潜ってかわし、対艦刀を振り切る

 

 

「っ!」

 

 

シンは機体を何とか後退させる

結果、ブルーズが振り切った対艦刀はインパルスの右腕を斬りおとすだけにとどまる

 

シンは、何とか反撃しようとライフルを取り出すが

 

 

「もうお前らと遊んでいる暇はない」

 

 

ウォーレンは、ちらりとセイバーを視界に入れてつぶやく

 

 

「…今度は、お前を。目障りな戦乙女を落とさせてもらう」

 

 

 

 

 

撤退していく二機

それを黙って見ているなど、今のシンにはできない

 

 

「待てっ!」

 

 

シンは逃げていく二機を追おうとする

だが、機体が羽交い絞めにされ動けなくなる

 

 

「ダメっ、シン!ここは深追いしてはダメっ!」

 

 

「なんでだよっ!あれには…、あれにはっ!」

 

 

…なんていえばいい?

あれに、この前自分が助けたステラがいたと言うのか?

ガイアに乗っていたのが、ステラだったと?

 

そんなこと、信じてもらえるのか?

 

 

「シン、戻りなさい。シエルの言う通り、ここは深追いをするところではないわ」

 

 

「くっ…!」

 

 

タリアまでがそんなことを言い始める

だが、あれには…あれにはステラが

 

 

「…」

 

 

シンは、そこで追うのを諦める

もう、自分がどれだけ頑張っても深追いするなという方針は覆らないだろう

 

 

「シン…」

 

 

シエルは、力を抜いたインパルスを眺める

一体どうしたというのだろう

どうしてあそこまで、あの二機…いや、ガイアに執着していたのだろう

 

インパルスは、ミネルバの方に機体を向けた

何とか話を聞いてくれたのだろう

 

 

「…」

 

 

シエルもセイバーをミネルバに向ける

戻ったら、レイに勝手に機体を使ったことを謝らなければ

 

それに、シンとも少し話をすべきだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天使湯

アークエンジェルの機能に追加された温泉である

戦艦の中に温泉というシュールな光景ではあるが、案外快適で重宝している

 

天使湯の存在を知ったとき、呆れていたセラも今では感謝している

現に、今ものんびりお湯に浸かっている

 

 

「極楽極楽ぅ…」

 

 

気の抜けた声が漏れてしまう

体全体に伝わる温もりが気持ちいい

疲れがどんどん抜けていく気がするのは気のせいだろうか

いや、気のせいではないと信じたい

いや、信じている

 

 

「…?」

 

 

お湯に浸かってのんびりしていると、後方から入り口の扉が開かれる音がした

誰か入ってきたのだろうか

 

 

「セラ?」

 

 

「ん、兄さん」

 

 

風呂場に入ってきたのはキラだ

キラは、セラを見つけて目を軽く見開いた後、椅子に座ってシャワーを浴びる

 

キラも、セラと同じく天使湯の存在を呆れつつも入ってみると魅了されてしまった人物の一人だ

というか、クルー全員がそうなのだが

 

セラは、体の底から温まる感覚に心地よい気分を感じながら振り返る

キラの背中をじっと見つめる

どうにも、キラの様子がおかしい

 

おかしい、というほどでもないのだが、違和感を感じる

 

 

「兄さん、何かあった?」

 

 

こういう時は遠慮なく聞く

それが兄の様子がおかしいときの対処法だ

 

キラは、体を泡で包みながら振り返る

 

 

「…やっぱりセラにはわかるか」

 

 

キラは、微笑みながら言う

どこかあきらめの感じを受ける

 

いつもそうだ

セラには隠し事が通用しない

 

セラに備わっている能力、そう言われてしまえばそこまでなのだが、それだけではないとキラは思っている

 

ずっと一緒に過ごしてきた、大切な弟

唯一の肉親

 

自分だって、セラの隠し事を見抜けるのだ

一緒に過ごしてきた時間がそうさせているに違いない、キラはそう思っている

 

 

「…ラクスがね、宙に上がるっていうんだ」

 

 

「…はい?」

 

 

セラは、自分の問いに対するキラの返答に唖然とする

 

ラクスさんが、宙に上がる?

 

 

「なんで…?」

 

 

なぜ宇宙に上がらなければならない?

理由が思い当たらない

 

 

「プラントの様子を見に行くって…」

 

 

「…なるほど」

 

 

ラクスが気になっているのは偽物のラクスのことだろう

 

彼女の存在はプラントのみならず、地球の人たちにも影響を与えている

今のところはいい影響を与えているようだが、この先もずっとそうだとは限らない

 

 

「それで?兄さんはラクスさんのこと心配でたまらないと」

 

 

「べっ、別に僕はっ…!」

 

 

「え?違うのか?」

 

 

「…そうだけど」

 

 

キラは、体と頭を洗い終え体をお湯に浸からせる

セラの隣に座って肩までお湯の中に沈む

 

セラの言葉に、キラは顔を赤くしてムキになるが、結局認める

セラの言う通り、ラクスのことが心配なのだから

 

 

「バルトフェルドさんとアイシャさんがついていくみたいだけど…」

 

 

「なら心配ないだろ。あの人たちならちゃんと守ってくれるって」

 

 

バルトフェルドとアイシャがいるならとんでもなことが起こらない限り大丈夫だろう

そして、宙に上がればダコスタだっている

彼だって優秀な兵士だったのだ

 

キラの心配は杞憂だとセラは思っているのだが

 

 

「でも…」

 

 

「…」

 

 

それでもやっぱり心配なのだ

 

 

「…」

 

 

キラは、セラの横顔を眺める

 

口には出さないが、セラだってシエルのことが心配なはずだ

自分がラクスを心配しているように

 

それも、シエルは戦争の最前線で戦っているのだ

心配じゃないはずがない

 

 

「何考えてるのかわかるぞ」

 

 

「…」

 

 

そっぽを向くキラ

本当に、セラは鋭い

 

 

「おっ、セラにキラ。お前らも入ってたのか?」

 

 

すると、風呂場に新たな客がやってきた

トールが入ってきたのだ

 

トールはそのままお湯に浸かろうとする

 

 

「待ってよトール。ちゃんと体を洗ってから入ってよ」

 

 

「え?そんなの気にするなよ」

 

 

「汚いぞトール汚い」

 

 

「ひどいなセラ!」

 

 

トールを注意するキラ

無表情でトールに毒を吐くセラ

 

 

「大体お湯に浸かる前に体を洗うのは温泉のマナーだろマナー」

 

 

「え?ここ温泉なの?」

 

 

「何言ってるのトール?ここは温泉だよ?お湯だってちゃんと効能あるし」

 

 

「え?」

 

 

「「え」」

 

 

瞬間、何故か微妙な空気が流れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究所にシンとレイが侵入し、レイに異常が起こってミネルバが出航した

 

シン、シエル、タリア、アーサーの四人で施設に再び侵入

奥の部屋で連合のエクステンデットのデータを見つけ吸出しを開始

 

途中、ガイアが施設を襲撃、後続がいないと思われていたが交戦中にブルーズが乱入

二機は撤退していった

 

撃退したのはシエルとシンの二人

特にシエルは、愛機ではないセイバーで戦った

 

 

「…ふぅ」

 

 

タリアは息をつく

あの時はさすがに肝が冷えた

 

あの時、外にインパルスとセイバーが出ていなかったらどうなっていただろう

出撃に時間がかかり、かなりの犠牲者が出ていたに違いない

 

それに、シエルがセイバーに搭乗してくれたことも幸運だった

レイは体調を考慮して出撃は許可できなかった

もしシンだけでガイアと交戦していれば、途中乱入してきたブルーズとガイアの二機に落とされていたかもしれなかった

 

今のミネルバの状況は、薄い氷の上に立っているにも等しい

シン、シエル、ハイネ、レイ、ルナマリア

この五人のうち一人でも失ってしまえば総崩れしてしまう恐れがある

 

若いパイロット五人

その肩に、ミネルバ、いプラントの運命がかかっていると言ってもいいのだ

 

 

「…本っ当に」

 

 

荒い口調で声を漏らす

この状況をもたらしたのは、あの最高評議会議長だ

 

あんな若い少年少女たちに重荷を背負わせているのだ

自分では、肩代わりするどころか負担を減らしてあげることすらしてあげられない

そのことにいら立ちがはしる

 

彼は優秀だ

それは変えられない事実

だが嫌な一面もある

 

目的の達成のためなら、ある程度のものは平気で利用、犠牲にする

まあ、その一面を作ってしまったのは自分のせいでもあるのだが…

 

 

「はぁ…」

 

 

ため息をつくタリア

問題が山積みだ

 

タリアは、アーサーが艦長室に入ってくるまで眉間を手で抑え続けていた

 

 

 

 

 

 

 

「シエル」

 

 

背後から誰かが自分を呼ぶ声がする

まあ、大体の予想はついている

 

シエルは振り返って、あぁ、やっぱり、と思いながら自分を呼んだ人物の名を言う

 

 

「ハイネ」

 

 

ハイネがこちらに駆け寄ってくる

一体どうしたのだろう?

艦長が呼んでいるとか、それとも…?

 

 

「どうしたの?」

 

 

「あぁ…。シンのことなんだが…」

 

 

ハイネの用事は、シンのことだった

 

あの戦いから帰投した後、ハイネと話し合い、ハイネがシンに話をしに行くと決定した

男同士の方が何かと話しやすいだろうと考えて

 

結果は、どうだったのだろう?

 

 

「まぁ、その…。平気そうには見えたんだが、やっぱり…」

 

 

ハイネは後ろ髪を掻きながら言う

やはり、シンは何か悩んでいるようだ

 

あの動き、まるでガイアを連れていこうとしていた

捕虜にしようというそういうものじゃない

助けようという動きだった

 

 

「そっか…」

 

 

シエルは俯く

 

このままシンを一人にさせて乗り越えさせるという選択もある

というか、普通ならその選択をする

 

だが、それを渋ってしまう理由はこのミネルバが最前線で戦っているからだ

ほんの少しの動きの鈍りも命取りになってしまう

 

 

「付き合いが長いシエルが話した方が良いんじゃないか?」

 

 

「…」

 

 

どうしようかと思考する

シンをこのまま放っておくことだって選択肢としては良い

だが、またすぐ先に怒ると考えられる戦いにことを考えるとそれはしづらくなってしまう

 

 

「…行ってくる」

 

 

シエルは考えた結果、シンの部屋を訪ねることにした

進行方向を変えて歩き出す

 

 

「あぁ、頼むぞ」

 

 

ハイネがシエルに声をかける

 

全く効果がなかったという訳ではなかった

だが、吹っ切らせるということはできなかった

 

戦争での悩み

やはりそれは、シエルがよくわかっていることだろう

自分だって悩みがなかったという訳ではないが…、シエルほどではない

 

ハイネは、シンの部屋へと向かうシエルの背中を一瞥してから、逆の方向へと歩き出した

 

 

「シン、いる?」

 

 

シエルは、シンの部屋の前で扉をノックして問いかける

少し待つと、出てきたのは

 

 

「シエル?どうしたのでしょう」

 

 

扉が開き、まず見えたのは金色の髪

シンではない、同室のレイだ

 

 

「レイ…?シンは?」

 

 

自分が呼んだのはシンだ

シンが出てくるとばかり思っていたのだが…、シンは部屋にいないのだろうか

 

 

「私が戻ってきた時には部屋には誰もいませんでした。シンに何か用でも?」

 

 

「そっか…。少し話をしようと思って…」

 

 

シンが部屋にいない

どうしたのだろうか?

 

特に自分たちパイロットに今やるべきことはない

 

射撃訓練場にでもいるのだろうか?

 

 

「…あ、ごめんね。休んでたんでしょ?」

 

 

「いえ、そんなことはありません。シンなら、たぶん射撃訓練場にいると思いますよ」

 

 

シエルが歩き出そうとすると、レイがシンの居場所を教えてくれた

シエルは、ありがとう、とレイにお礼を言ってから歩き出した

 

 

 

 

「…」

 

 

何処か気分が乗らない

気を紛らわそうと訓練をしていたシンだったが、どうにも気が晴れない

 

部屋に戻ってレイと話をした方が良かっただろうか

でも、レイは口下手だし、こちらから話題を振らないと話してくれないし、返事も簡素だし

 

とりあえず訓練は終えよう

シンは拳銃を基の場所へと戻して訓練場を出る

 

 

「…あ」

 

 

訓練場を出ると、丁度ここにやってきたのだろう、シエルと遭遇した

 

 

「訓練してたんだ?」

 

 

笑みを浮かべて声をかけてくるシエル

いつもなら温かい気持ちになるのだが、今回はなぜか違った

 

暖かい気持ちもわいてくるのだが、その逆の気持ちもわいてきて…、自分でもよくわからない

 

 

「少し、話しよう?」

 

 

シエルがシンに問いかける

先程、ハイネとも話をしたのだが…、そこまで今の自分の様子はおかしいだろうか

 

シンは特に断る理由もないため、頷いた

 

二人は甲板に入った

艦の外、片側には大海原が広がっており、もう片側にはディオキアの綺麗な街並みが広がっていた

 

潮風が気持ちいいとシンは感じる

 

 

「…シン、あの時の戦いのとき何があったの?」

 

 

「…」

 

 

単刀直入、だ

どうしようもないほどまっすぐに聞いてきた

あまり聞いてほしくないことなのに、どうしてか聞かれて面白く感じる

 

つい吹き出してしまった

 

 

「…?」

 

 

首を傾げるシエル

なぜシンが噴き出したのかわからないようだ

 

 

「いや…、直球すぎですよ…」

 

 

言い切ってから、シンは吹き出した

シエルは、シンをきょとんと眺めて…、吹き出した

 

 

「ふふっ…。そうだね…、直球すぎたね。あーあ、セラの影響受けたかな…」

 

 

「?最後なんて言ったの?」

 

 

「んーん、何でもない」

 

 

シエルが最後に何を言ったのか聞き取れず、シンは聞き返すがシエルは答えてくれなかった

まぁ、どうでもいいことだろうと考えスルーする

 

 

「それで…、どうしたの?何もないなんて言わせない。あの時のシンは…、おかしかったよ」

 

 

「…」

 

 

本当に直球で聞いてくる

だが、どこかそれに救われている気分だ

 

あの時ハイネには話せなかったが、今なら話せる気がする

 

 

「…あの」

 

 

シンは、話す

 

ディオキアの海で助けた少女、ステラがあのガイアに乗っていたこと

それを知らずに、ガイアを落とそうと必死になっていた自分にショックを受けたこと

そして、何とかあの時ステラを助けたかったこと

 

一度話し始めると止まらなくなっていた

誰かに聞いてほしかった、自分の悩みを知ってほしかった

 

シンは初めて自分の本当の欲を知った

誰かに知ってほしかったのだ

 

 

「…」

 

 

シエルは、シンの心の重みの正体を知った

そして、それは前大戦前半の自分と同じものだ

 

セラを撃ちたくない

アークエンジェルを撃ちたくない

ずっと悩み続けてきた

 

あの時は、セラが連れ出してくれた

だが、今回はそうはいかないだろう

 

艦長は間違いなくそれを許してはくれない

たとえこの艦に連れてきても、ラミアス艦長とは違い、正真正銘捕虜の扱いをする

 

それを、シンが見過ごせるはずがない

 

 

「…これからシンがどうすべきか、私は答えを示せない」

 

 

シエルが言う

 

 

「い、いや!そこまで望んでないです!話を聞いてくれただけで、俺は…」

 

 

シンは慌ててシエルに返す

そこまでは望んでない

答えは、自分で出すべきだ

 

 

「でも、これだけは言わせて」

 

 

「え?」

 

 

シエルは、シンと向き合う

そして、輝くような笑みを浮かべて口を開いた

 

 

「シンは一人じゃない。マユちゃんやルナ、レイにハイネ。私だって、仲間なんだから」

 

 

「…」

 

 

仲間

そうだ、自分には仲間がいた

 

それに、マユ

家族が一緒にいるというのに、何を自分は背負い込んでいたのだ

 

 

「答えは出せない。でも、手助けはできる。そのことを忘れないで」

 

 

シエルはそう言って甲板から出て行く

それを見送りながら、前にもこんなことがあったとシンは思い返す

 

そうだ、インド洋の戦闘で自分の行動をシエルが咎め、理由がわからず自分が悩んでいた時だ

また、シエルに助けられてしまった

 

 

「…今度は、俺が」

 

 

今度は、自分がシエルを助ける

シンは心に決意を秘めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエルとシンが話をしていたころ、セラはアークエンジェルの艦橋の中でモニターを見ていた

モニターに映し出されているのは、ディオキア基地の空港だ

 

上空では、ある一機のシャトルが飛び上がっていた

このシャトルには、ラクスが乗っている

 

ラクスは、バルトフェルドとアイシャを護衛にしてディオキア基地のシャトルに乗っていた

 

実は、このシャトルは元々偽ラクスが乗るものだった

ディオキアからプラントに帰るという情報を知り、バルトフェルドがそれを利用したのだ

 

ザフトのモビルスーツがシャトルを攻撃している

どうやら、シャトル強奪は成功したようだが、ザフトの対応は早かったようだ

だが、彼らには守護天使がいた

そのシャトルを守るように、白いモビルスーツが十枚の蒼い翼を広げて飛び回る

 

白いモビルスーツ、フリーダムはサーベルで襲い掛かるザフトのモビルスーツ、バビを斬り裂く

そして、その直後には五門の砲門を開き、地上からミサイルを撃ち続けるガズウートを撃ち抜いていった

 

 

「派手にやるね、兄さん…」

 

 

セラは、フリーダム、キラの立ち回りを眺めながらつぶやく

いくらラクスを守るためとはいえ、ここまで派手に暴れるとは…

これでは、自分も宇宙に行くとごねてしまいそうだ

 

と、シャトルはザフト軍の射程範囲から外れていた

フリーダムはシャトルについていっている

 

 

「…え、ちょっと兄さん?まさかこのままラクスさんについていくとかないよね?え、待って。さすがにそれは…」

 

 

きつい

さすがにきついよ兄さん

 

待って、待って兄さん待って

を、心の中で連呼しながらモニターを見守るセラ

 

そんなセラを、苦笑して見守るクルーたち

 

そして、フリーダムがシャトルから離れて降りてくるところを見て、セラはほっと息をついた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、ラクスさんについていこうとしただろ?」

 

 

冗談交じりで問いかけるセラ

戻ってきたキラは、目を見開いてセラに返す

 

 

「え…、何で分かったの?」

 

 

「え」

 

 

「え?」

 

 

…まさか、本気でついていこうとしていたとは

あきれてものも言えなくなったセラだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




正直最後のいらないと思ってました
ラクスは飛び立ってましたーで良いかな、と思ってました
ですがさすがにそれは…と思い、セラ視点ということで描きました
短くね?と思うかもしれませんがそこはご容赦を…


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PHASE27 捉えられる女神

最近、課題が本格的に増えてきました
めんどくせ…


「それで、そのシャトルを奪ったものたちの足取りは?」

 

 

デュランダルが尋ねる

スピーカーから、デュラン脱の問いに対する答えが響く

 

 

「現在、グラスゴー隊が専任で捜索を行ってはおりますが…、行方は未だ…」

 

 

やはりそうか、とデュランダルは心の中でつぶやく

正直、期待はしていなかった

奴らはそこまで甘くはない

 

偽のラクス・クラインがディオキアのシャトルを奪って逃走した、と報告を受けた時、デュランダルは遂に来たか、と嘆息した

彼女がこの先何も動かないとは思っていなかった

 

だが、ここまで大胆に来るとは…

急いで捜索隊を出したが、見つけたシャトルの中にはひもで縛られた二人のパイロット

背後から殴られたそうだが、無傷だったことはよかったと思うべきか

 

 

「しかし、よりにもよってラクス・クラインを騙ってシャトルを奪うとは…」

 

 

「救出したパイロットたちも、基地の者たちも、本当にそっくりだったと…、お声まで…」

 

 

それは当然だ、本物なのだから

と、声には出さずに心の中でつぶやく

 

 

「…ともかく、早く見つけ出してくれたまえ。連合の仕業かどうかはまだわからんが、どこの誰だろうが、そんなことをする理由は一つだろう。彼女を使っての、プラントの混乱」

 

 

デュランダルは、言葉を作って言う

 

しかし、本当にこんな手で地球から脱出してくれるとは…

 

 

「そんな風に利用されては、あの優しいラクスがどれだけ悲しむか…」

 

 

「はいっ!早く奴らを捉えるよう全力を尽くします!」

 

 

「うむ。頼む」

 

 

デュランダルはそう言った後、通信を切る

 

しかし、少々厄介なことになったかもしれない

クライン派、先の大戦中からプラントの中枢に潜み、そして活動してきた彼女の意志を継いだ集団である

彼らが今、動き出しているのだ

 

まだ、目立った行動は見せていない

それは、デュランダルの政治をまだ止めるべきではないという判断の表れだろう

 

まだ…

 

恐らく、デュランダルが今のまま自分が望む世界にしようと行動を続けていけば、恐らく彼女は…、いや、彼は動き出す

 

 

「…セラ・ヤマト」

 

 

ラクス・クラインがアークエンジェルから離れてくれたことを喜ぶべきか否か

だが、あの艦にはまだあの少年がいる

 

デュランダルは恐れているのだ、セラの力を

その力を大衆に示せば、自分どころか、あのラクス・クラインですら霞んでしまう可能性もあるあの強大な力を

 

 

「さらに、キラ・ヤマト…。彼も彼女と共に宙に上がってくれればよかったのだがな…」

 

 

今更愚痴っても仕方ないが、どうせならば彼も共に行ってほしかった

そうすれば、あの艦は彼だけと手薄になる

 

いや、手薄とは言えないか

あのセラ・ヤマトがついているのだから

 

 

「大変なことになりましたね」

 

 

デュランダルが思考を働かせていると、離れた所から声が聞こえてくる

執務室の入り口の前、一人の男が立っていた

 

 

「…君か」

 

 

男は、ゆったりとした歩調でデュランダルに歩み寄る

 

 

「あのラクス・クラインがシャトルを強奪…。いよいよ奴らも動き始めたってことですか?」

 

 

「…いや、彼女は脱出したに過ぎない。まだ探りの域だろう」

 

 

まだ、動いているとは言えない

まだ、彼らのことは無視していいだろう

 

今は、他にやるべきことがある

 

 

「…命令さえいただければ、すぐにでも奴を討ちに行きますが?」

 

 

「まだ、いい。まだ君が動くべき時期ではない」

 

 

目の前の男は、強大な力を持っている

だからこそ、それを奮う時期を誤ってはいけない

 

まだ…、まだ

 

 

「…そうですか」

 

 

男は、デュランダルの向かい側のソファに座る

その顔は、どこか不満に満ちている

 

できることなら今すぐにでも戦いに出て行きたいのだろう

だが、それを許すべきではない

 

 

「…アークエンジェル」

 

 

大天使はどう出るか

願うならば、このまま戦闘に介入し続けてくれればいいのだが…、それは叶わないだろう

 

恐らく、本土に撤退すれば彼らはもう戦闘には介入してこない

アーモリーワンでのアスハとの会談で分かった

彼女は、若いが、馬鹿ではない

 

ひたすら動き続ける、という愚作は取りはしないだろう

 

本当に厄介だ

 

本当に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モニターの向こうには、どこか顔色が悪いように見える男が映っている

豪華な椅子に偉そうに座り、見下すようにこちら、ネオを見る

 

 

「私は、過ぎたことをいつまでもネチネチという男ではないのだがね…」

 

 

言葉と反して、口調はねちっこい

と、言葉には出せないネオ

 

なぜなら、モニターに映っているのは地球連合軍の最高権力者であるロード・ジブリールなのだから

そんなことを口に出してしまえば、首が飛んでしまう

 

 

「…だが失敗に、いつまでも寛大という訳ではない」

 

 

「は…」

 

 

それはそうだろう

普通の上司ならば、ネオの失敗続きを見れば怒るのも当然だ

むしろ、ジブリールはネオに対して寛大な方と言える

 

 

「相手のあのミネルバは、確かに強敵だ。いくら君とて、そう容易く討ち取れるとは、私も思ってはいない」

 

 

「…」

 

 

結局は、何が言いたいのか

いつもいつもそれがネオにはわからない

 

 

「だが、いい加減さっさとやり遂げてくれないかね。そのための君たちなのだから。でないと、こちらの計画も狂う」

 

 

ほら、その計画、だ

その計画とやらをこちらに話してくれないか

 

もしや、その計画には戦争が長引くことが書かれていないというのはないだろうな?

ユーラシア西側の反乱のことが書かれていないというのはないだろうな?

 

自分たちの描く現実と食い違っているのは、全て下のせいだとでも思っているのか

勘弁してほしい

 

 

「あのミネルバは今や、正義の味方のザフト軍などと言われている!ヒーローの様に祭り上げられてしまっているのだ!まったく、コーディネーターの艦だというのにっ!」

 

 

語調が荒くなってきたジブリール

口に出すのも汚らわしいという風に吐き捨てる

 

 

「それもこれも、奴らが勝ち続けるからだろう?」

 

 

「…そうですかね」

 

 

本当にそうなのだろうか

ただ、彼らは勝ち続けてきたから、ヒーローのような扱いを受けているのだろうか

それだけで…

 

 

「民衆は愚かなものさ。先のことを考えずに力がある方に着く」

 

 

それは確かにそうだ

民衆は、つい最近までその考えでブルーコスモスについていたのだから

 

 

「だから、あの艦は困るのだよ!危険なのだ!これ以上のさばられては!」

 

 

ジブリールが怒りに顔を歪めて怒鳴る

ネオをきつく睨んで言葉を続ける

 

 

「今度こそ討てよ、ネオ。そのためのお前たちだということを忘れるな」

 

 

「…えぇ、肝に銘じて」

 

 

ネオは、通信が切れるのを確認すると、椅子の背もたれにもたれ、大きく息をついた

本当に、あの当主様は面倒くさいものだ

 

自分の都合を押し付け、そして失敗すれば他人に責任を押し付ける

 

とはいえ、あの艦をいつまでも討てない自分にも責任はある

次こそは、討たねば

 

恐らく、いや間違いなく、次がラストチャンスだということを、ネオは改めて肝に銘じた

 

 

 

 

「…やはり、ただの無能か」

 

 

ウォーレンは、つぶやきながらイヤホンを耳から外した

先程まで行われていたネオとジブリールの会話

 

ネオの部屋に盗聴器を仕掛け、ウォーレンはその会話を聞いていたのだ

そして、ウォーレンは結論付けた

 

ロード・ジブリールは、無能であると

あの男をこのまま上に居座らせれば、いずれ崩壊する、と

 

しかし、今彼を討つことはできない

それこそただの愚策である

 

 

「さぁて…、どうするかな…」

 

 

この先、あの男はただの邪魔になるだろう

その前に排除しなければ…

 

父が巻き起こした混乱を、二度と起こしはしない

父の二の舞は絶対に踏まない

 

その上で、父の遺志を受け継ぐ

それが、ウォーレンの意志だ

 

 

「…そういえば、甲板でバスケしてたな」

 

 

甲板で、スティングとアウルがバスケットボールをしていたのを思い出す

退屈しのぎにはなるだろう

 

ウォーレンは立ち上がり、部屋を出る

 

混ぜてもらおう

 

 

 

 

 

「…と、策としてはいたってシンプルです」

 

 

ジブリールとの会話の後、ネオはすぐにオーブ空母タケミカヅチに向かった

まもなくぶつかるであろうミネルバとの戦闘の作戦会議のためだ

 

 

「しかし、本当にそれで上手くいくのでしょうか?」

 

 

ネオが立てた作戦に不安を覚えたトダカがネオに会議を口にする

 

前から思っていたが、この男、トダカは優秀な軍人だ

その隣にいるアマギという兵も、こちらに疑心の視線を向けている

 

 

「そもそも、その情報の信用度はどれほどのものなのです?網を張るのはよいのですが、ミネルバがもしも…」

 

 

「おいおいおい!ここまで来てそんなことを言いだされると困るなぁ!」

 

 

もしも来なかったら、とトダカは言おうとしたのだろう

そこに口を挟んだのが、オーブ軍最高司令官のユウナだ

 

 

「当てずっぽうで軍を動かすなんて馬鹿なこと誰がするか。ミネルバは間違いなく、このルートを通ってジブラルタルに向かうさ。出航も間もなくだ」

 

 

ネオは、思わずため息をつきそうになってしまう

まるで全て自分が調べてきたような言い草だが、こちらがそのことを調べたのだ

 

まあ、口は挟まない

この男にはしっかりと働いてもらわなければならない

トダカやアマギと優秀な兵はいるが、指揮官がバカであれば利用することが出来る

 

 

「そういうことは大佐と僕で、もうちゃんと確認済みさ。君はここから先のことを考えていればいいんだよ!」

 

 

大佐と僕、か

ユウナはただ、自分の話した情報に頷いていただけだったはずだが…、それも、口には出さない

 

しかし、本当にこのユウナ・ロマ・セイランという男は信用されていないようだ

こうしている間にも、トダカはともかく、アマギなど若い兵に睨まれていることを気づいていないのだろうか?

 

 

「ユウナ様は的確ですな。決断もお早い。オーブはこのような指導者を持たれて実に幸いだ」

 

 

ここぞとばかりにネオは心にもないことを言ってユウナをおだてる

ユウナは顔に浮かべていた笑みを更に濃くする

 

…本当に、おだてればおだてるほど面白いくらいに乗ってくれる

これほど操りやすい男はいない

 

しかし、自分が指導者のことでユウナを褒めた途端、艦橋にいる全ての兵たちの表情が歪んだ

どれだけこの男は支持されていないのだ

 

今、オーブはセイラン家が実権を握っているという話だが…

 

 

「厳しい作戦ではありますが、やり遂げなければならない」

 

 

ともかく今は、目の前のミネルバのことだ

何度も自分に言い聞かせる

 

これが、ラストチャンスだ、と

 

 

「そして、わがオーブ軍ならばできる!」

 

 

ユウナが意気込んで高らかに言う

 

 

「これでミネルバを討てば、我が国の力も世界中に示せるだろうねぇ!」

 

 

ユウナは行ったあと、トダカをじろりと見る

 

 

「できるだろう?」

 

 

にやりと嫌な笑みを浮かべてトダカに問いかける

 

 

「…ご命令とあらば、やるのが我々の仕事です」

 

 

「…」

 

 

ほぅ、と口の中で嘆息する

本当に、トダカのような兵が欲しいと思うネオ

 

こんな男にはもったいない部下だ

 

ネオは艦橋から立ち去ろうとする

出口の前まで歩き、ネオはあることを思い出して立ち止まる

 

 

「今度は、あの奇妙な艦は現れないとは思いますが…」

 

 

言った途端、ユウナがびくりと震える

まさか、指摘されないとでも思っていたのだろうか?

 

戦闘目前ということで、ネオとしても深く聞き込むつもりはない

だが、釘をしっかりと差しておかねばならない

 

 

「万が一そのようなことがあっても…、大丈夫ですね?」

 

 

ユウナの顔色がさぁっ、と悪くなっていく

 

 

「あの代表と名乗る人が現れても…、大丈夫ですね?」

 

 

「あ…、当たり前だ!」

 

 

ユウナは、詰まりながらも言い切る

兵たちは、ユウナを信じられないようなものを見る目で見る

 

そしてネオは。気づかれないようににやりと笑う

 

 

「あ、あんなものまで担ぎ出し、わが軍を混乱させる連中など、敵でしかない!あの女だって、ただの偽物だ!」

 

 

「…それが聞きたかった」

 

 

ネオは、ユウナに微笑みかけてから艦橋をさる

これで、オーブ軍は心配いらないだろう

 

たとえ兵士たちが不満を持っても、ユウナがそれを強引に抑え込むはずだ

 

次こそミネルバを討つために、こちらの準備は万端だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーブ軍がクレタに展開、か…」

 

 

カガリが冷静につぶやく

 

 

「ということは、やはりまたミネルバを…」

 

 

マリューが厳しい表情で発する

 

先程、ある情報が入った

オーブ軍、そして地球軍がクレタに軍を展開させた、と

 

 

「確証はないですが、そう考えるのが妥当だと」

 

 

「ミネルバがジブラルタルに向かうと読んでの布石か…。連合も躍起になっていますね」

 

 

チャンドラ、ノイマンが言う

確かに、ここでまだミネルバを追うというのは策としてはどうかと思われる

 

連合の戦況は全体的に悪い

だからこそ、ミネルバを討つのだという考えなのかもしれないが、他にも目を向けるべきところが連合にはたくさんあるのだ

 

未だおさまらないユーラシア西側の紛争

そしてその紛争は、ユーラシア全域に広がるのではと思わせるほど勢いが増している

 

ミネルバを攻撃する暇などないはずなのだが

 

 

「…お」

 

 

カガリが声を漏らす

 

今、カガリはラクスに代わって通信席についている

慣れない手つきで入ってきた電文を開くが、困惑顔になる

入ってきた電文は暗号で、読み方がわからないのだ

 

それを見たミリアリアが、カガリの背後に立って代わりに暗号文を読む

 

 

「ミネルバはマルマラ海を発進、南下」

 

 

その内容に、クルー全員の表情が変わった

 

 

「決まったな。ミネルバはクレタに展開されている地球軍とぶつかる」

 

 

セラが、結論を告げる

まさに、クルーたちが予測していた展開になった

 

 

「カガリ、どうする?」

 

 

 

キラが、カガリに問いかける

こうなって、ここからどうするのか

カガリに判断を仰ぐ

 

 

「出るぞ。奴の好きにはさせない」

 

 

カガリは告げる

自分たちも行くと

 

カガリはマリューに目をやる

マリューは頷き、艦長席に着いた

 

 

「アークエンジェル、発進準備を開始します」

 

 

ノイマンとチャンドラが機器を操作していく

カガリも、操作しようと手を動かそうとする

 

 

「それは、私の仕事よ?」

 

 

背後から声をかけられる

背後にいるのはミリアリアだ

 

だが、カガリは目を見開いて振り返る

 

 

「え…、でも」

 

 

ミリアリアがする選択は、再び戦うというものである

カガリは席を譲ることに戸惑いを覚えた

 

 

「あなたがそこに座ってくれるのはとても心強いのだけれど…、トール君…」

 

 

マリューは、おどおどとトールに視線を向ける

ミリアリアがした選択に、彼はどう言うのだろうか?

 

だが、トールが口を開く前に、ミリアリアが言った

 

 

「いいのっ!私がしたいことにごちゃごちゃ言うような奴、ふってやるんだから!」

 

 

「…まぁ、そういうことです」

 

 

ミリアリアが強気に言い放ち、そしてトールは苦笑い気味に言う

トールは特にミリアリアにとやかく言うつもりはなかった

 

それに、ミリアリアだけではない

 

 

「セラたちは出るんだよな?」

 

 

「え…、あぁ」

 

 

艦橋から出ようとしていたセラとキラは立ち止まって、セラがトールの問いに答える

 

 

「マリューさん、空いてる機体はありますか?」

 

 

「え?えぇ、ムラサメが」

 

 

今度はマリューに問いかける

そして、トールは言う

 

 

「そのムラサメで俺も出ます」

 

 

「え…!」

 

 

マリューの目が見開かれた

そして、ミリアリアに視線を向ける

 

ミリアリアは特に動揺も見せず、カガリから譲ってもらった通信士席に座って作業を開始している

 

…いい、のだろうか?

 

 

「大丈夫ですって!俺のやりたいことにごちゃごちゃいう奴なんて、こっちからふってやるんですから!」

 

 

トールが、つい先ほどに聞いたことのあるセリフを言う

それを聞いたミリアリアが、振り返る

 

その顔には、意地悪い笑みが浮かんでいた

 

 

「あら。なら、そうする?」

 

 

「あ…、いえ…、捨てないでください…」

 

 

先程の強気な姿勢はどこへやら

トールは捨てられた子犬のような目でミリアリアを見る

 

途端、艦橋に笑い声が響き渡った

相変わらず、トールは尻に敷かれているようだ

 

 

「…でも、いいの?トール君」

 

 

「はい。セラとキラが戦ってるのに、俺がじっとしているわけにはいきませんから」

 

 

本当に、変わっていない

マリューはしみじみと思いながら、もう一度ミリアリアに視線を向ける

 

ミリアリアは、微笑みながらトールを見ていた

マリューは、ふぅ、と息を吐く

 

 

「…わかったわ。けど、艦のまわりからは離れないで。操縦なんて、全然してなかったでしょう?」

 

 

「そこまで無茶はしませんよ。俺だって、まだ生きたいですし…」

 

 

再び艦橋に笑いが巻き起こる

 

トールは、セラとキラに駆け寄って、行こうぜ、と声をかける

三人は艦橋から出て行く

 

その後姿を見ながら、マリューは頼もしさを感じ、微笑みながら前を見据える

 

次の戦いに向け、大天使は翼を広げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦影補足!距離六十、十一時の方向です!」

 

 

タケミカヅチのレーダーに、一つの光点が捉えられた

オーブ、地球軍の艦が一気に緊迫した空気に包まれる

 

 

「総員、合戦用意!繰り返す!総員、合戦用意!」

 

 

警報と共に放送が響き渡る

兵士たちが慌ただしく動き回り、パイロットは一目散に搭乗機へと向かう

 

ウォーレンは、放送を聴いてすぐに格納庫に向かった

いよいよ来た

 

二度目の対戦

今度は、どれか一機でも落とさなければ

やはり、まずはヴァルキリーだろう

あれが一番落としやすい

 

リベルタスは言わずもがな、フリーダムも別格だ

ヴァルキリーも劣るとは言わないが、揺さぶりをかけやすい

そこに、勝機がある

 

格納庫に着き、辺りを見渡す

すでに、スウェンたち四人は機体に搭乗している

自分も早く乗らなければ

 

ウォーレンはコックピットに上がって座り、システムを起動する

 

画面、スイッチなどに光が灯っていく

 

前方のカタパルトが開く

そして、赤く光っていたライトが青色に変色する

発進許可が出たという合図だ

 

すでに、オーブ軍はミネルバに攻撃を開始している

自分たちも早く向かわねば

 

 

「ウォーレン・ディキア!ブルーズ、行くぞ!」

 

 

ウォーレンは操縦桿を倒し、ブルーズを発進させる

すぐ後に、ガイア、カオス、アビスにエクステンドが発進していく

 

これは決戦だ

ここで、ミネルバを落とすと誰もが決意しているだろう

 

だが、ウォーレンにとってはここは通過点でしかない

ミネルバを落とそうが失敗しようが今はどうでもいい

 

ここで、どれか一機を落とす

これが重要だ

 

ウォーレンは、ミネルバのまわりを飛び回るムラサメとアストレイを攻撃しているヴァルキリーに機体を向けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前方に艦影!オーブ艦隊です!」

 

 

「なんだとぉ!?」

 

 

バートの報告に、アーサーが驚愕の声をあげる

タリアは、エーゲ海の美しさに取られていた気を引き締める

 

 

「数は?」

 

 

「空母一、護衛艦三!」

 

 

やはり、あれで引き返すということはしなかったか

 

 

「例の地球軍空母は?」

 

 

「確認できません!」

 

 

いつもと同じように、あの部隊の空母は何かしらの手段を使って索敵を回避しているようだ

 

 

「索敵厳に!オーブ艦だけということはないはずよ、急いで!」

 

 

バートに命じた後、タリアはアーサーとメイリンに向き直る

 

 

「艦橋遮蔽、コンディションレッド発令!」

 

 

タリアの指示の直後、艦橋が沈んでいく

 

しかし、ずいぶんと相手の対応は早いものだ

恐らく、こちらの行動を読んでのことだろう。偶然というのはあり得まい

ということは、あちらは万全の状態でこちらを待ち構えているということになる

 

厄介なことになりそうだ

 

そうこうしている内に、むこうの艦からモビルスーツが発進してくる

 

 

「インパルスとヴァルキリー、エキシスターを出して」

 

 

戦闘は避けられない。タリアは出撃を命じる

 

 

「面舵三十。東に針路をとる!」

 

 

しかし、オーブ艦がやけに少ない。まさかこれで全部という訳ではないだろう

敵はどんな手を打ってくるか…

 

 

「砲撃、来ます!」

 

 

タリアが思考していた時、バートの報告が入った

オーブ艦隊からミサイルが打ち上げられ、ミネルバに向かって降り注がれる

 

 

「モビルスーツ発進停止!回避しつつ迎撃!」

 

 

タリアはすぐに方針を変更

ここは相手の攻撃を凌ぐことにする

 

マリクが舵を切り、ミネルバの対空ガトリング砲CIWSがミサイルを迎撃していく

 

だが、ガトリングの弾がミサイルに命中し、爆散したと思ったその時だった

爆散したミサイルから砲弾が四方に弾けた

弾けた砲弾がミネルバに降りかかる

 

装甲を弾丸が叩く

衝撃にクルーたちが首をすくめる

 

 

「上面装甲、第二層まで貫通されました!」

 

 

かなりの威力だ

まさか、オーブがそんな兵器を開発していたとは

 

もし上の階の艦橋にいれば、この場にいる全員の体に穴が開いていただろう

 

 

「ダメージコントロール!面舵さらに十!」

 

 

タリアはすぐに指示を出すが、相手は思う通りにさせてくれない

 

 

「九時の方向にオーブ艦!数三!」

 

 

「えぇっ!?」

 

 

なるほど、前方のオーブ艦の数が少なかったのはこのためだったのか

彼らは、ミネルバがここに来るのを読み、そして挟撃しようとしていたのだ

 

しかしまずい。このままでは完全に向こうのペースになってしまう

 

 

「二時方向上空にムラサメ、九!」

 

 

「シンとシエル、クレアを出して!トリスタン、イゾルデ照準、左舷敵艦群!」

 

 

「はいっ!」

 

 

バートの報告を聞き、すぐにタリアは指示を出す

指示の通りに、アーサーはコンソールを操作していく

 

 

「まだあの空母がいるはずよ!索敵急げ!」

 

 

今の状況でも十分危ないというのに、向こうにはさらにあの部隊がいるのだ

タリアが表情を歪めたその時、あの五機が姿を現した

 

 

 

 

 

シンは、インパルスを駆ってオーブ艦隊に接近しようとする

 

今回シンが選択したシルエットはブラストだ

フォース以外の二つのシルエットには、大気圏内の飛行能力はないが、海上をホバリングして移動することが出来るのだ

 

シンは両脇のビーム砲、ケルベロスを展開して前方の艦体を狙おうとする

が、そこに海面を割ってブルーの機体、アビスが躍り出た

 

 

「くそッ…、邪魔だ!」

 

 

アビスは両腕のシールドを展開してビームを斉射する

シンは、放たれたビームを海面を滑るように旋回して回避する

 

そして、反撃にケルベロスを放つが、アビスは海面に潜り込んで砲撃を回避する

直後、シンはアビスが潜った場所の海面を狙ってレールガンを放つが手ごたえはない

 

シンは、その間にちらりと視線を動かす

そして見つけた

 

前方のオーブ艦隊、その最前方にそれはいた

 

 

「ステラ…」

 

 

あの可憐な少女

頭に過ったその瞬間、シンは気を引き戻す

 

背後の海面から水柱が立つ

そこからアビスが現れ、再び両腕のシールドを展開してビームを放った

 

シンはスラスターを切って回避する

先程はそこでアビスは海中へと潜っていったが、今回は違った

アビスはビームランスを取り、インパルスへと突き付けようとする

 

シンはビームジャベリンを取り、迎え撃つ

ジャベリンとランスがぶつかり合い、拮抗する

 

今は、目の前の敵だ

ステラのことはその後

 

シンは、迷いを捨ててアビスとの戦闘に集中していく

 

 

 

 

上空から、ミネルバに向けてビームが放たれる

シエルはそのビームを何とか迎撃しながらムラサメとアストレイを攻撃していく

 

シエルは、ライフルを取って相手の武装とメインカメラを撃ち抜いていく

 

 

「…っ!」

 

 

シエルは、ミネルバに向かっていくアストレイを見つけ、機体を向けようとする

が、そこにムラサメがサーベルを持って接近してくる

 

シエルは、ライフルをしまってサーベルに持ち替える

シエルもスラスターを吹かせてムラサメに接近し、サーベルを一閃

ムラサメのサーベルは根元から叩き折られる。そこに、シエルは再びサーベルを振り切る

 

一閃、二閃

ムラサメのメインカメラ、ウィングを斬りおとし、シエルはすぐに機体を移動させる

 

次から次へとミネルバに襲い掛かるオーブ軍モビルスーツ

シエルは必死に迎撃していく

と、不意にシエルは機体を翻した

シエルがいた場所を、巨大な砲撃が横切っていく

 

この砲撃には見覚えがある

シエルは、砲撃が来た方向にカメラを向ける

 

 

「今度こそ…、お前を落としてやる!」

 

 

ブルーズがこちらに向かってくる

ライフルをこちらに向け、連射

シエルはビームを、最小限の動きで避けて反撃の機会を窺う

 

 

「くっ…!」

 

 

だが、如何せんミネルバのまわりを囲むモビルスーツが多い

ブルーズばかりに気を取られていたらミネルバが危ない

 

速攻で落とすべきか…

だが、攻め急いでも間違いなく返り討ちにされてしまう

相手は甘くない

 

 

「このっ…!」

 

 

ブルーズは、ライフルから対艦刀に持ち替えて斬りかかってくる

シエルはサーベルで迎え撃つ

 

両手に重みがかかり、力を加える

 

ミネルバのことも気になるが、これも野放しにしていたら危険すぎる

ここは、こいつと交戦すべきだ

 

シエルはブルーズから離れる

収束ビーム砲を向けて、放った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら!第二戦闘群をもっと前に出して!どんどん追い込むんだよ!」

 

 

ユウナの声が艦橋に響く

 

ミネルバは、満身創痍になりながらも戦闘を続けていた

甲板には赤いザクと、オレンジ色のグフが

そして空中ではセイバーが飛び回って迎撃、ヴァルキリーはブルーズと交戦している

 

未だ落とせないミネルバ

ユウナにいら立ちが募っていく

 

何をやっているんだ!

自分の戦略プランは完璧だというのに…!

 

 

「ミネルバの火器はまだ健在です。うかつには出せません」

 

 

トダカはこちらに目だけを向けて反論する

 

…なんだ、その眼は

どうしてこの僕にそんな目を向ける!

 

 

「ムラサメ隊は何をやってるの!なんでさっさと…」

 

 

どうしてこれだけの戦力差があって未だ決められないのか

ユウナは捲し立てるが

 

 

「実戦は、お得意のゲームとは違います。そう簡単には行きませんよ」

 

 

トダカの冷ややかな声がそれを遮る

 

どれだけ自分が素晴らしい戦術を立てても、実行する兵がこれでは失敗するのも当然だ、とユウナは悟る

ならば、仕方ないとユウナは溜飲を下げる

 

まあいい。この作戦が失敗すれば、責任はこいつらにあるのだから

自分のせいではない、こいつらのせいだ

そうだ、そうだ

 

そうだ、そうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバの上空から密かに接近していく集団があった

ムラサメ隊である

 

 

「奴らのモビルスーツはいい。地球軍、アストレイたちに任せて我らはミネルバを!」

 

 

隊の指揮を執るババ一尉は、部下に告げる

 

ザフトのモビルスーツはどれも一騎当千の力を持っている

その全てが足を止められている今が、ミネルバを討つチャンス

 

甲板に二機のモビルスーツが迎撃しているが、一機は飛行能力に欠ける

もう一機は飛行能力はあるが、ムラサメなら振り切ることは可能だ

ヒット&アウェイを試みる価値はある

 

 

「あれさえ落とせば、全て終わるっ!」

 

 

「はっ!」

 

 

ババの言葉に部下たちは答え、ムラサメ隊はミネルバに向かって降下していく

 

そう。ミネルバさえ落とせば終わるのだ

それさえできれば…

 

ミネルバの自動迎撃システムがムラサメに向けて斉射される

ババは、弾丸を翼を翻してかわしながらミネルバへと接近していく

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

叫び声を上げながらさらに加速する

赤いザクがこちらの接近に気づいて振り返る

オルトロスが火を噴き、ババのムラサメを襲う

 

ババは寸前でラダーを切って砲撃を回避した

そして、なおも加速し、ミサイル発射ボタンを押した

同時にババは離脱する

 

ババに続いた部下たちもまた、ミサイルを発射していく

何発か迎撃されてしまったが、残ったミサイルがミネルバの上部を襲う

 

 

「よぉし!」

 

 

ミネルバを見下ろすと、赤いザクが体制を崩して膝をついていた

必死の攻撃も、艦橋をつぶすには至らなかった

 

 

「くそっ!」

 

 

ババは再び指示を出そうとする

今度こそ、止めを刺すために

 

だが、ババは気づかなかった

ミネルバを見下ろした時、赤いザクしかいなかったということに

 

 

「ずいぶんやってくれたじゃねえか!」

 

 

ババの視界で、一機のムラサメが斬り裂かれた

ハイネのグフが、甲板から飛び立ってムラサメを攻撃したのだ

 

ババは止むを得まいと交戦しようとするが、その前に連合のグリーンの機体がグフに襲い掛かる

二機は、交戦を開始して視界から去っていく

 

ババはほっとする。あれの相手は、自分たちでは務まらない

 

 

「行くぞ!」

 

 

ここで、ババは再び命じる

ミネルバに向かって加速していく

 

赤いザクがオルトロスを構え、巨大な砲撃を放つ

砲撃は、二機のムラサメを飲み込んだ

 

だが、止まらない

ムラサメ隊は振り返らなかった

そのままミネルバに向かって降下していく

 

ババは、ムラサメを人型に変形させ、ビームライフルを構える

対空砲をかわし、艦橋を射程に捉える

 

 

「これでっ!」

 

 

ババは、引き金を引こうとした

だが、その瞬間

 

ライフルが火を噴いた

 

一瞬、呆然としてしまった

何が起こったのか理解できない

 

途端、後ろをついてきていたムラサメ隊の内、二機の翼端が裂かれ、海に落ちていった

 

視界を駆け抜ける二つの光

 

 

「フリーダム…、リベルタス…!?」

 

 

ババは咄嗟に機体を後退させる

 

再び、現れたのか

二機は翼を翻し、飛び去っていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレタ沖にいる全ての人が、目を向けたその先

 

大天使が、降り立っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE28 総力戦

調子が悪い…気が、する


眼下に、上部装甲がぼろぼろになっているミネルバが見える

 

 

「少し遅れたか…」

 

 

セラはミネルバを見下ろしながらつぶやいた

少し介入が遅かったようだ

だが、遅刻したという訳ではなさそうだ。ミネルバは沈んでいない

 

ここから、自分たちは戦闘を開始する

 

 

「…さて。兄さん、トール。少しの間任せたから」

 

 

「え?何を…」

 

 

セラは、腰のサーベルを抜く

背筋に奔る感覚、それに従っての行動

 

振りぬかれたビームサーベルは、こちらを襲うもう一つのサーベルとぶつかり合った

 

 

「やはりあなたも感じるのですね。私があなたの存在を感じるように、私の存在を」

 

 

リベルタスを襲う、エキシスターを駆るクレア

ぶつかり合ったサーベルから火花が飛び散るのが見える

 

クレアはスラスターを逆噴射させて一旦後退。ライフルを構えて撃つ

 

放たれた二本のビームを、セラは機体を翻しながらかわし、収束砲を取って放つ

一方のシエルも、避けられないと判断し、両腰の収束砲を展開

二つある砲口のうちの一つに、火を吹かせる

 

ぶつかり合った二本の砲撃は、暴発しながら光を放つ

二人の視界が光によってふさがるが、関係ない

互いに感じる互いの位置に向かって、二機はサーベルで斬りかかる

 

再び始まる鍔迫り合い

 

二機の戦いに、周囲が入り込める余地はなかった

 

 

 

 

 

「…セラ」

 

 

キラは、前回にも戦ったザフトの新型と交戦するリベルタスを一瞥し、機体を激戦が繰り広げられている方向へと向けた

 

 

「トール、アークエンジェルをお願い!」

 

 

「あぁ!任せろ!」

 

 

トールに声をかけ、キラはスラスターを吹かせた

フリーダムがキラの操縦に従い前進する

その方向は、もちろんオーブ軍機が固まっている場所

 

キラはサーベルを抜き放ち、二機のアストレイとのすれ違い様にフライトユニットを斬り裂く

そこから機体を転換、頭部を下に向けながら、五門の砲門を開く

 

フリーダムが放つ砲火にさらされ、アストレイが次々と海へと落下していく

 

キラは、それに見向きもせずに、今度はオーブ艦隊へと機体を向けた、その時だった

コックピットにアラートが響く

 

 

「こんのぉおおおおおおおおおお!!」

 

 

フリーダムがいる

前の戦いのリベンジをする!

 

シンは、ブラストシルエットの背面ポッドを開いてありったけのミサイルをフリーダムに向けて撃つ

大量のミサイルが、こちらに背中を向けているフリーダム目掛けて飛んでいく

 

が、フリーダムが不意にこちらに機体を向けると、頭部バルカンでミサイルを全て爆散させた

しかし、シンとてこの程度で終わると思っていない

 

フリーダムは、ミサイルの爆発の煙を背に、こちらに向かってくる

 

キラは、インパルス目掛けてサーベルを抜き放とうとする

が、それより早くシンが行動した

 

ジャベリンを抜き、振り上げる

これで、何かしらの損傷は与えたいのだが…、それは叶わなかった

ジャベリンが振り切られる直前、シンの視界からフリーダムが消えた

 

 

「っ!?」

 

 

しかし、次の瞬間、フリーダムはこちらに向かってサーベルをふりおろそうとしていた

これは、避けられない…!?

 

また、やられるのか

今度こそ討つ、と意気込んで臨み、また簡単にやられるのか?

 

…ふざけるな!

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

シンの中で、何かが弾けた

その瞬間、頭の中が、視界がクリアになる

 

シンは機体をのけぞらせる

それと同時に、スラスターの向きを変え、のけぞった状態のまま海面を滑るようにはしる

 

 

「…っ!?」

 

 

キラは、目を見開いた

振り抜いたサーベルが、インパルスの僅か上を空振りした

 

そこで、硬直してしまうのが隙となる

シンは、ジャベリンを、フリーダムのコックピット目掛けて突き立てる

 

 

「くっ!」

 

 

キラは、ジャベリンの動きを見る前から行動していた

フリーダムをのけぞらせ、上空に退避させる

 

シンが振るったジャベリンが、空を突く

シンは視線でフリーダムを追うが、すでにフリーダムは上空に退避していた

 

 

「ちぃっ!」

 

 

もう一度…、もう一度だ!

 

シンがフリーダムに再び攻撃を仕掛けようとするが、すんでの所で行動を切り替える

海面から現れるアビス。両腕のシールドを展開してこちらにビームを斉射させる

 

 

「こんのぉおおおお!!」

 

 

シンは、機体を捻らせてビームを回避する。それと同時に、シンはシルエットをパージしていた

ビームに貫かれてシルエットが爆散する

 

殺ったと思ったのだろう。アビスの動きが一瞬止まった

それを、シンは狙っていた

 

 

「はぁあああああああああああっ!!!!」

 

 

アビスの懐に潜り込んで、ジャベリンを握る

アビスのカメラがこちらを捉えるが、もう遅い

シンは、ジャベリンをアビスのコックピットに勢いよく突き立てた

 

 

「…うぁっ…」

 

 

アビスのコックピットにいたアウルは、短く叫び声を上げた

 

何だ…、何が起こった…?

あの白い奴は殺ったはずなのに…、どうして白い奴が自分に攻撃してきたんだろう…

 

アウルの耳に、こぽこぽと心地よい音が届く

 

あぁ…、ここは水の中か…

何か…、気持ちいいな…。ステラが海が好きだと言っていたのがわかる気がする

こんなに心地いいんだ…。俺も、海、すきになるかm

 

そこで、アウルの意識は途切れた

 

 

 

 

 

キラは、艦隊に向けようとしていた機体の方向を変えた

あのムラサメ隊が、再びミネルバに攻撃を仕掛けようとしているのである

 

キラは、フリーダムを向かわせるが、その進路を妨げるように一条の光が目の前を横切る

 

 

「好きにはさせない!」

 

 

「シエル!」

 

 

目の前にヴァルキリーが立ちはだかる

 

 

「はっ!また来やがったか!」

 

 

対峙する二機に襲い掛かるブルーズ

二機は違う方向に機体をずらしてブルーズと距離を取る

 

ウォーレンは、ヴァルキリーに向かっていく

 

 

「おらっ!お前の相手は俺だよっ!」

 

 

「くっ!」

 

 

思うように行動させてくれない目の前の機体に歯噛みするシエル

何度も何度も追いすがってくるブルーズ

 

シエルはサーベルを抜いて斬りかかる

 

 

「何を焦ってんだよ!」

 

 

シエルは、サーベルに対し、相手は対艦刀で迎え撃ってくると予測していた

が、ウォーレンはそれを読んでいた

 

ウォーレンは、接近してくるヴァルキリーを見た途端、スキュラを放った

放たれた砲撃がヴァルキリーを襲う

 

 

「っ!?」

 

 

シエルは、予測と外れた相手の行動に驚愕しながらも、機体を無理やり翻すことで砲撃を回避した

だが、その代わりに崩れる体制。そこを、当然ウォーレンは突く

 

対艦刀を抜き、ヴァルキリーを真っ二つにしようと斬りかかる

 

 

「終わりだっ!案外あっけなかったなぁ!」

 

 

対艦刀が、振り下ろされる

 

 

 

 

 

 

前に、ブルーズの目前を、一筋のビームが横切った

 

 

 

 

 

 

 

「え…?」

 

 

「なにっ!」

 

 

シエルとウォーレンはカメラを切り替える

カメラに映し出されたのは…

 

 

「ちっ…、フリーダムぅうウウウウウ!」

 

 

ブルーズの行動を妨害し、なお向かっていくフリーダムだった

 

あいつが…、邪魔をした!

 

ウォーレンは邪魔された怒りを燃え上がらせ、対艦刀をフリーダムに向ける

キラは、サーベルを抜いて斬りかかる。ウォーレンは対艦刀で迎え撃つ

 

 

「キラ…」

 

 

キラが、戦っている

そして、セラもまた、戦っている

 

シエルは、機体を進ませる

 

フリーダムに向けて

 

 

「キラッ!」

 

 

「っ!」

 

 

キラは、ヴァルキリーがこちらに向かってくるのを見て目を見開く

動きを一瞬止めてしまい、それを見てブルーズがスキュラを放ってくるがキラは機体を横にずらしてかわす

 

シエルは、ブルーズにビームを撃って牽制し、フリーダムと向き合う

 

 

「キラッ、下がって!」

 

 

「シエル…!」

 

 

どうしてここにいるのか

彼らは…、彼は、もうここにいてはいけないのに

どうして、ここに連れてきてしまったのか

 

 

「早くセラを連れて下がって!もう…、もう、戦わせちゃダメなの!」

 

 

シエルは叫ぶ

 

セラが…、また、戦っている

あれだけ苦しんだセラが、また戦っている

 

 

「…」

 

 

キラは、シエルはどかない。そう判断する

 

 

「キラッ…!」

 

 

「はっ!俺を無視して二人で会話ってか!?させると思ってんのかよ!」

 

 

そこに、ブルーズが乱入する

ブルーズは両肩のプラズマ砲を展開し、放つ

 

二機は放たれたプラズマ砲をかわしてブルーズに機体を向ける

 

 

「フリーダムっ!今度こそ!」

 

 

「!インパルス!」

 

 

先程、アビスにシルエットを撃ち抜かれたインパルスだったが、すぐにフォースシルエットを装備

そして、フリーダムへと向かっていったのだ

 

 

「シエル、こいつは俺がやる!」

 

 

「シン…!」

 

 

それは、自分の役目だ、と声をかけようとしたのだが、もうシンとキラは交戦を開始していた

互いにライフルを打ち合い、回避し合っている

 

仕方ない、ならばブルーズを早く撃退する

 

 

「はぁっ!」

 

 

「っ!」

 

 

ブルーズとヴァルキリーは、対艦刀とサーベルを斬り合わせた

 

 

 

 

 

 

 

レイは、セイバーを駆って襲いくるムラサメ隊を切り伏せていた

 

 

「くっ!」

 

 

ババは、まわりを見渡す。すでに、自分以外の機体はいない

全て、セイバーとあの赤いザクに落とされてしまった

 

あのたった二機の機体、それに加え、前半のグフの活躍により、ムラサメは落とされ続けた

 

もう、自分が出来ることはない

だが、それでも。一矢報いたい

 

ババは、ムラサメを飛行形態に変形

そのまま、一直線にミネルバへと向かっていく

 

 

「っ!」

 

 

レイは、一直線に向かっていくムラサメ目掛けてライフルを撃つ。が、当たらない

スピードが速いに加え、あのムラサメと距離が離れてしまっていた

 

ルナマリアがオルトロスを放つも、ムラサメは旋回して砲撃をかわす

このままでは、まずい

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

ババは、雄たけびを上げながらミネルバへと突っ込んでいく

セイバーがビームを連射、ザクがオルトロスを放ってくるが、こちらには当たらない

 

このまま、行く!

 

 

ババ機は、スピードを緩めずにミネルバへと突っ込んでいき

 

上部装甲に激突し、爆発した

 

 

「ぐぅっ!」

 

 

艦長席に座っていたタリアは、襲い掛かる衝撃に必死に耐える

クルーたちの悲鳴が艦橋に響き渡る

 

 

「そうだよっ!それでいいんだよ!ほらっ、第二陣を出すんだ!」

 

 

一方のタケミカヅチの艦橋では、ユウナの歓喜の声が響いていた

あれだけ苦戦し、ようやくミネルバに本格的な損傷を与えることが出来た

そのことに、ユウナは喜びを隠せない

 

 

「…アストレイを出せ」

 

 

ユウナの指示に従い、トダカが命令を出す

これで、ミネルバにとどめを刺す、という作戦だ

 

しかし、ムラサメの特攻を見てこの男は何も思わないのだろうか?

こんな戦いのために、どれだけの犠牲が出ているのか、わかっていないのか?

 

わかっていないのだろう

そのことに、トダカは絶望すら感じていた

 

そして、ミネルバの装甲がえぐられる光景をこの男も見ていた

 

 

「ようし!あと少しだ!気をもう一度引き締めろ!」

 

 

部下を叱咤し、気を入れ直させる

ここで油断するわけにはいかない

 

ミネルバは、どれだけ危険な状況でも乗り切ってここまで来ているのだ

その上、彼らの他に余計なものまでこの場にいる

 

どんなことが起こるかわからない

 

 

「…俺も出る。ここは頼むぞ」

 

 

「はっ」

 

 

念には念を

ネオもここで出撃する

 

「前には決して出るな、いいな!」

 

 

そう言い残してネオは艦橋を出て行く

ネオが向かう先は格納庫

 

そこにある自分専用のウィンダムに乗り込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶつかり合う二つの閃光

クレアは、旋回するリベルタスを視界に入れながら集中した

 

奥の奥、クレアはSEEDを解放した

 

クレアはリベルタスに向かってスラスターを吹かせる

サーベルを抜き、斬りかかる

 

セラも、サーベルを抜いて迎え撃とうとする

 

が、次の瞬間、セラは驚愕することになる

エキシスターのサーベルが空を切ったのだ

 

セラは目を見開いて、そして、見た

エキシスターの両腰の収束砲が展開されているのを

 

 

「っ!」

 

 

セラは、即座に機体を翻す

転換させ、後退する。が、わずかに早く収束砲が火を噴いた

二本の砲撃がリベルタスを襲う

 

どうすればいい

機体を横にずらしても、二本の砲撃の内のどちらかに貫かれてしまう

かわすことはできない

 

 

「ならっ!」

 

 

セラはシールドを割り込ませた

一筋の砲撃がシールドにぶつかる。手に力を込めて…、片方の砲撃が横切っていくのを確認してからセラは機体を横にずらした

 

 

「甘いですよ」

 

 

だが、クレアはその行動を読んでいた

先回りし、セラの目の前でサーベルを振りかぶっていた

 

 

「っ!?」

 

 

「終わりですっ!」

 

 

サーベルが振り下ろされる直前、セラはSEEDを解放させる

セラは、機体をのけぞらせる

そうして、機体とサーベルがぶつかるまでの時間を稼ぎ、そしてサーベルを持っているエキシスターの手をつかんだ

 

 

「なっ!」

 

 

振り下ろしが止められ、驚愕するクレア

そこで、頭の中でとあることが思い出される

 

リベルタスは、二刀流だ

 

 

「っ!」

 

 

クレアは強引にリベルタスの手を振り払い、機体を翻した

エキシスターがいた所を、リベルタスの薙ぎ払いが横切っていく

 

 

「ちっ!」

 

 

かわされた。だが、セラはそこで攻めるのをやめない

もう一本のサーベルを抜いてエキシスターに斬りかかる

 

右腕を振う。クレアは機体の姿勢を下げることでその一振りをかわす

だが、先程も言ったがリベルタスは二刀流。間をおかずにクレアはサーベルを振う

 

セラが振るったサーベルとクレアが振るったサーベルが何度もぶつかり合う

クレアは、前回の対戦で接近戦では分が悪いことを学習している

 

そのまま接近戦には持ち込まず、クレアは後退してライフルを構える

 

セラは、先程まで閉じていた翼を広げる

そのまま、エキシスターに向かって突っ込んでいく

 

 

「っ!」

 

 

クレアは、リベルタスの超加速に戸惑いながらもライフルを撃つ

だが、放たれるビームは全てリベルタスにかわされる

 

そして、エキシスターの懐に潜り込むセラ

サーベルを振り上げるのだが、エキシスターはすんでの所でシールドを割り込ませる

 

一瞬の硬直の間、セラは片方の手に持つサーベルからライフルに持ち替えた

エキシスターのメインカメラにライフルを向ける

 

 

「…っ、くっ!」

 

 

セラは引き金を引くが、何とエキシスターは反応した

首を横に曲げることでビームをかわす

 

クレアは、右足を振り上げてリベルタスにぶつける

 

 

「ぐぅっ…、くそっ!」

 

 

態勢が崩れるリベルタス

追撃を加えようと、クレアはライフルを向けるが、リベルタスは後退している所だった

 

何とか追撃を受ける前に退避したセラ

しかし、それにしてもあの機体のパイロットは誰なのだ

 

戦っている間にも、何度も背中が撫でられるように奔る冷たい感覚

あのラウ・ル・クルーゼにも匹敵するほどの巨大な悪寒

 

だが、それでもラウとは違う

似ているが、違うのだ

 

それに、頭が、心が、警報を発しているようにがんがんと鳴り響く

そして、セラはふとつぶやいた

 

 

「…俺?」

 

 

セラは思考を切る

エキシスターがライフルを乱射しながらこちらに接近してくる

 

セラはビームをかわしながらエキシスターとの間合いを計る

 

だが、エキシスターは必要以上に接近してこない

先程もそうだった。まるで、接近戦を避けるように後退していく

 

 

「接近戦に持ち込ませない気か!」

 

 

セラの持ち味である接近戦

相手はそれを避けながら上手く攻めてくる

ならば、どうするか。相手に合わせて遠距離で攻めていくか、それとも逆らって接近していくか

 

 

「…そんなの」

 

 

考える時間もいらない

そんなもの、決まっているではないか

 

 

「絶対、斬る!」

 

 

セラは、シールドを構えながらエキシスターに接近していった

 

 

 

 

 

 

「でやぁああああああああああああ!!」

 

 

シンは、フリーダムと戦いながら手ごたえをつかんでいた

やれる、戦える。前回あれだけ歯が立たなかったフリーダムと戦えている

 

まったく反応できなかったフリーダムのスピードが、剣閃が見える

今も、フリーダムのサーベルを機体を翻してかわした

 

反撃にライフルを撃つが、フリーダムはシールドでビームを防ぐとライフルに持ち替えて撃ってくる

シンはビームをかわしながらフリーダムに接近。フリーダムもインパルスへと接近していく

 

フリーダムを目で追って、サーベルで斬りかかる

フリーダムもサーベルを振って迎え撃つ

一度、二度サーベルをぶつけ合い、二機はすれ違う

 

 

「このっ!」

 

 

シンは、シールドを投げた

フリーダムは、警戒するようにシールドから距離を取る

 

シンは、ライフルを取ってシールドに向けてビームを撃つ

放たれたビームがシールドにより屈折してフリーダムを襲う

 

 

「なっ!」

 

 

屈折したビームにキラは反応できない

それでも、機体を翻してかわそうとする

 

それが功を奏し、ビームは肩部装甲を抉る程度にとどまった

 

 

「あの機体…」

 

 

キラはこちらに向かってくるインパルスを見ながら思考する

前回もあの機体と戦った。が、あの時はこちらの圧勝だった

 

あれからそんなに時間は経っていない、というのにここまで腕を上げている

 

キラは、インパルスとの間合いを計る

インパルスはサーベルを取り、こちらに目掛けて振り下ろしてくる

キラはインパルスの懐に潜り込んでサーベルをかわし、逆にサーベルを振り上げてインパルスの片腕とメインカメラを斬りおとした

 

 

「なっ!」

 

 

しまった!功を焦ったか!

 

また、フリーダムにやられてしまった

インパルスにはもう戦闘は無理だと判断したのか、フリーダムは飛び去っていく

だが、舐めるな

 

 

「ミネルバ!チェストフライヤーとフォースシルエットを!」

 

 

シンは管制に通信をつなげる

すぐに、ミネルバから射出されるチェストフライヤーとフォースシルエットとの合体を行う

 

そして、飛び去っていったフリーダムを追う

 

 

「この…!」

 

 

フリーダムは、こちらの接近に気づき、機体を向ける

すぐにサーベルを抜いてこちらに斬りかかってくる

シンはサーベルで迎え撃つ

 

が、そこでフリーダムはもう一本のサーベルを抜いた

剣閃がシンを襲う

 

 

「っ!」

 

 

だが、SEEDを解放したことによる超反応でシンは機体を翻してかわす

サーベルを振るのでは、フリーダムは後退してかわしてしまう

 

シンは足を突き出す

突き出された足は、フリーダムに直撃し、フリーダムはよろけて体制を崩す

 

 

「ここだっ!」

 

 

シンはサーベルをフリーダムに向けて振り下ろす

 

だが、そこでやられるほどフリーダムは甘くない

 

振り下ろされるサーベルを見ながら、キラはSEEDを解放した

振り下ろされるサーベルをかわすことも、防ぐこともできない、キラはそう判断した

 

だから、斬らせることにした

 

キラは、ライフルを取り出し、インパルスに向けて放った

インパルスは、そのライフルに僅かに反応する

 

ライフルに反応したことにより、インパルスの動きが一瞬鈍った

その隙に、キラはシールドを割り込ませる。サーベルが、キラのシールドとぶつかり合う

 

キラは、サーベルを抜いてインパルスに斬りかかる

先程、シールドを投げたインパルスにはシールドがない

防ぐ手段は、ない

 

 

「くっ…!」

 

 

振り下ろされるサーベル

だが、それはコックピットを狙ったものではない

 

それでも、ミネルバの今の戦況を考えると、もうシルエットもフライヤーも頼むことはできない

また、負ける?

 

考えてるうちにも、サーベルは振り下ろされていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橙と緑の光がぶつかり合う

 

ハイネはカオスと交戦していた。ビームソードとサーベルを何度もぶつけ合う

 

 

「くそっ…、ルナマリア、大丈夫か!ルナマリア!」

 

 

ハイネは、先程のムラサメ特攻により、大破したルナマリア機が気になっていた

何度も通信で呼びかけるが、応答がない。意識を失っているのか、それとも…

 

 

「ちっ!」

 

 

一瞬出かかった嫌な思考を振り払い、ビームガンをカオスに向けて連射する

カオスは、飛行形態に変形し、ビームガンを回避しながら兵装ポッドをこちらに向けて撃ってくる

 

 

「くっ!」

 

 

ハイネは放たれるビームを回避しながら戦況を見渡す

 

シエルはブルーズと交戦、シンはフリーダムと交戦

レイはミネルバを囲んでいるアストレイを相手取り、クレアはあのリベルタスと激闘を繰り広げている

 

完全に足を止められ、防戦一方になってしまっている

 

前方に、人型に変形したカオスがこちらに向かってくるのが見える

ハイネはウィップを取り出し、カオスが持っているライフルに巻き付ける

ウィップに電流を通してライフルを破壊。カオスは後退していく

 

 

「このままじゃ…!」

 

 

ハイネは焦る

ミネルバの状況だけではない。よく見ると、シエルが押されているのだ

 

もしシエルが落とされてしまうと、間違いなく戦線が崩壊し、ミネルバに大量の砲火が注がれる

援護したいところなのだが…

 

 

「いい加減、しつこいんだよ!」

 

 

カオスがしつこく追いすがってくる

ハイネはビームソードを振い、カオスを後退させる

だが、カオスも諦めずこちらに接近し、サーベルを振ってくる

 

 

「くっそ…!」

 

 

このままではまずい

焦りを募らせるハイネには、信じることしかできなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらぁっ!」

 

 

「くぅっ!」

 

 

振われる対艦刀を、かろうじてシールドで防ぐシエル

だが、もうシエルは防戦一方になっていた

 

まず、ヴァルキリーとブルーズの間には機体性能の差があるのだ

核を取り除いたヴァルキリー、核が組み込まれているのかはわからないが、圧倒的パワーを持つブルーズ

パイロットの腕はシエルの方が勝っているのだが、ウォーレンはブルーズの性能を完璧に引き出している

 

ブルーズの猛攻をかろうじて防ぎながら、多少反撃を与えるものの全て容易く回避されてしまう

今も、シールドと対艦刀の押し合いになり、その隙にサーベルを抜いて振るうが後退して回避されてしまう

 

後退したブルーズは、腹部の砲門に火を吹かせる

スキュラがシエルに向けて放たれるが、シエルは機体を翻してかわす

 

 

「当然、かわすよなぁ!」

 

 

「っ!?」

 

 

かわした直後、一瞬見えた光、こちらに飛んでくる

シエルはシールドを割り込ませてその光を防ごうとする

 

 

「さ、サーベル…!?」

 

 

ブルーズは、サーベルも装備していたのか。今まで接近戦では対艦刀しか使ってこなかったためわからなかった

サーベルが刺されば、後々厄介なことになるのは、前大戦のセラとの戦いで学習している

シエルはサーベルをシールドで弾き飛ばし、次の攻撃に備える

 

シエルは直後に来るであろう追撃に身を構える

だが、来ない

前、後ろとどこにも姿がない

 

瞬間、コックピットにアラートが鳴り響いた

 

 

「…っ!」

 

 

「終わりだっ!」

 

 

ブルーズは、下に潜り込んでいた

対艦刀を構え、向かってくる

 

一振り目は、何とかシエルはかわしきる

二振り目もシールドで防ぐが、力に圧されて体制が崩れてしまう

ブルーズは、間をおかずに対艦刀を更に振るう

 

 

「くっ!」

 

 

シエルは、なおも機体を翻してかわそうとする

が、間に合わない

 

振われた対艦刀は、ヴァルキリーの胸部装甲を薙いだ

コックピットに強烈な衝撃が奔る

 

シエルは、衝撃に歯をくいしばって耐えるが、頭を機器の角にぶつけてしまい気を失ってしまう

 

ヴァルキリーが海へと落ちていく

それを、ブルーズは追う

 

 

「はっはは!まずは一機目だぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放たれるビームを、旋回してかわしながらセラはエキシスターに接近していく

サーベルを振うが、エキシスターにかわされてしまう

 

後退していくエキシスターに収束砲を向けて放つ

が、エキシスターは翻してかわす。さらに、両腰の収束砲を展開して放ってくる

 

セラは放たれる砲撃を最小限の動きでかわしながらエキシスターに接近する

エキシスターはライフルを向けて撃ってくるが、セラは接近しながらも舞うようにしてかわしていく

たまらず、エキシスターもサーベルを抜いて抗戦してくるが、すぐに後退しようとする

 

 

「させるかっ!」

 

 

だが、なおもセラは機体を前進させる

離れない、離れさせない

 

 

「っ!」

 

 

クレアはサーベルをもう一度振う

これを、かわしてくれればよかったのだが、セラは振るわれるサーベルをサーベルで弾く

そして、二本目のサーベルで弾かれたエキシスターの腕を斬りおとした

 

 

「くっ!」

 

 

前回に続き、またもや片腕を斬りおとされてしまった

クレアはこれ以上の追撃を受けないためにも機体を後退させようとする

 

だが、リベルタスはなおも離れない

再びサーベルを振おうとする

 

 

「…え」

 

 

セラは、動きを止めた

 

 

「…?」

 

 

動きを止めたリベルタスを不審に思いながらも、クレアはサーベルを振るう

セラは、サーベルが振るわれたのに気付き、機体を後退させてかわす

 

そして、セラは機体をエキシスターとは別の方向に向けた

 

先程、エキシスターにとどめの一撃を加えようとした時、見た。見てしまったのだ

 

 

「シエル!」

 

 

ヴァルキリーが斬られ、海へと落下していくのを、見てしまったのだ

さらに落下するヴァルキリーを追って行くブルーズ。止めを刺そうとしているのか

 

セラは、阻止せんと機体を向かわせる

 

リベルタスの全加速力を注ぎ込み、一直線にヴァルキリーのもとへと急ぐ

後方からエキシスターが追ってくるが、セラはそれを意に介さない

 

 

「間に…合えぇええええええええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE29 連れ戻す

一度全文消しました
そして、日曜から風邪引きました…
今日も、大学には行きましたが全快とは言えない…

めっきり寒くなってきた作者の住んでいる地域
皆さんはどうですか?
体調管理はしっかりと!


「はっははは!これでとどめだぁ!」

 

 

ウォーレンは、歓喜の叫びをあげながら無抵抗で落下していくヴァルキリーへと向かっていく

憎いあの四機、ヤキンで自爆したジャスティスを除いた三機の内の一機

それが、今、自分の手で討てる

 

父を落とし、殺した奴ら

そいつらへの復讐の第一歩が、今踏み切られる

 

 

「まずは、一機目ぇ!」

 

 

ウォーレンは、対艦刀を振りかぶる

 

ヴァルキリーが、この大剣で斬り裂かれる

その未来しか、ウォーレンには見えていなかった

 

 

 

 

 

 

セラは、すぐに機体をヴァルキリーへと向けた

そのヴァルキリーは、重力に従って落下し、そしてブルーズがそれを追いかけている

 

対艦刀を振りかぶったブルーズは、みるみるヴァルキリーとの距離を縮めていく

 

 

「シエル!シエルっ!!」

 

 

セラは通信をつなげてシエルに呼びかける

だが、シエルは気を失っているためセラの声に答えることが出来ない

 

セラだって、そのことはわかっている

だが、このままではシエルが、自分の目の前で…

 

セラは懸命に声を張り上げる

 

 

「シエル!目を覚ませ、シエル!!」

 

 

セラは、呼びかけながら、ブルーズへとライフルを向ける

だが、如何せん距離が遠い。照準が上手く合わない

 

ヴァルキリーへと手を伸ばすセラ

だが、届かない

その未来が、セラの頭をよぎる

 

シエルが、死ぬ

死ぬ?何で?

 

シエルがプラントに行ったから?

ミネルバでシエルに会った時、戻ってきてほしいと自分の気持ちを伝えなかったから?

自分が、再びリベルタスに乗ったから?

 

沸々と勢いよく湧き起こる感情に、セラが耐え切れなくなっていき、意識が遠のいていく

 

セラの意識が失われる直前、セラは何かが花開くような感覚に襲われる

 

意識が途切れたと同時に、リベルタスの翼の光の勢いが、増した

 

 

「なにっ?」

 

 

突然響くアラートに、ウォーレンは目を見開く

カメラを切り替えて見る。リベルタスが、常軌を超えたスピードでこちらに向かってきている

 

 

「ばかなっ!」

 

 

ヴァルキリーと戦いながらも、ウォーレンはまわりの機体との距離を計っていた

当然、リベルタスとの距離も

リベルタスがたとえ、こちらを追ってこようとも間に合わないはずなのだ

それなのに、なぜ自分は、リベルタスを迎撃しようとしている?

 

なぜ、リベルタスが間に合う

 

 

「…」

 

 

セラは、光のない瞳にブルーズを映す

腰のサーベルを抜き、ライフルと持ち替える

 

瞬く間にブルーズに接近し、セラはサーベルを一閃する

 

一文字に振るわれたサーベルは、ブルーズの握る対艦刀の柄から先を斬りおとす

だが、そこでセラは動きを止めない

セラは、もう一本のサーベルを抜き放つ

 

サーベルを振り上げ、ブルーズの右腕を斬りおとす

 

そしてすぐに、セラは機体をヴァルキリーのもとに向かわせる

ヴァルキリーが海面に激突するすれすれ、そこで、ヴァルキリーを抱きとめる

 

これで、一段落、とはいかない

再びヴァルキリーを、そしてリベルタスを落とそうとブルーズがこちらに向かってきている

 

セラは、片腕でヴァルキリーを抱き、もう片方の手はライフルに持ち替える

引き金を連続で引き、ビームを四射放つ

 

放たれたビームを、ブルーズはかわしていくが、セラの目的はブルーズに当てることではない

放ったビームでブルーズを囲み、動きを限定させることである

 

セラは、ブルーズがビームをかわしている過程の内に、弱めていた翼の光を強める

ヴァルキリーを抱えたままブルーズへと向かっていく

 

ライフルからサーベルに持ち替える

セラはサーベルを振い、動きが鈍っているブルーズのメインカメラを斬りおとす

そして、そのまま流れるような動きでブルーズのフライトユニットを斬りおとした

 

ブルーズは、飛行機能が失われ海へと落ちていく

 

そのブルーズを、カオスが抱え、母艦へと戻っていく

 

セラは、それを一瞥もせずにアークエンジェルへと機体を向かわせる

未だ、セラの瞳には光が宿らない

 

まるで、命令されたロボットの様に、機体を操縦し続けた

 

 

 

 

「シエル…?」

 

 

フリーダムとの戦闘中にもかかわらず、シンは呆然としていた

ヴァルキリーが、シエルが、リベルタスに救われたかと思うと、そのまま抱えられてアークエンジェルへと向かっていく

 

仲間が、連れてかれる?

 

 

「まっ…!シエル!」

 

 

シンは、すぐさま機体をリベルタスに向かわせる

フリーダムの懐を通り抜け、リベルタスを追いかける

 

だが、そうはさせじとフリーダムがインパルスの背後からサーベルで斬りかかってくる

シンもまた、サーベルを取り出して迎え撃つがその間にもリベルタスはアークエンジェルへと向かっていく

まわりから攻撃してくるモビルスーツたちを全て振り切っていく

 

 

「シエル…!」

 

 

フリーダムと鍔迫り合いをしながら、シンはふとある思考が浮かんできた

シエルと仲間だったアークエンジェルなら、捕虜などという扱いはしないのでは?

むしろ、シエルにはその方がいいのでは

そんな考えが浮かんでくる

 

 

「っ!」

 

 

フリーダムから加わる力が強くなる

シンはすぐに機体を後退させる

 

インパルスは、ザフトが作り上げた最新鋭の機体なのだ

それなのに、そのインパルスのパワーをフリーダムは上を行く

そして、その機体の力を思うように操る見知らぬパイロット

 

正直、舌を巻く

 

 

「だけど!」

 

 

シンは決めたのだ

もう負けないと

 

フリーダムに、絶対に勝つのだと

 

 

「はぁああああああああああああ!!!」

 

 

シンは、再びサーベルを構えてフリーダムに向かっていった

 

シエルを助け出す

そのことも、胸に刻んで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、あれは!」

 

 

ウィンダムに乗り、アークエンジェルに向かっていたネオは、同じくアークエンジェルへと向かっていくリベルタスを見た

ヴァルキリーを抱え、片腕が使えないにもかかわらず、放たれるビームを華麗にかわし、立ちはだかる機体をサーベルで斬り裂いていく

 

ヴァルキリーを攫った?いや、ブルーズから救い出したのか

ネオは判断する

 

だが、ヴァルキリーをアークエンジェルに収容した後、リベルタスはアークエンジェルの援護に移ることは恐らく間違いない

ハンディを負っている今が、奴を落とすチャンス

 

ネオはライフルをリベルタスに向けて撃つ

ビームは寸分たがわずリベルタスへと向かっていくが、放たれたビームを見もせずにリベルタスはかわす

 

 

「なっ!」

 

 

その光景を見て驚愕するネオ

今のビームは、真後ろとは言わないが、背後からという死角から放ったもの

奴には、目が背中にでもあるのでは?と思わず考えてしまうほどの反応の速さだった

 

リベルタスは、ネオに反撃してこない

攻撃は簡単にかわせる。立ちはだかるものだけ蹴散らせばいい

そう考えているのか

 

舐められている

ネオは確信する

 

 

「…ふぅ」

 

 

だが、そこで激昂しないのがネオ

気持ちを落ち着かせるべく深呼吸をする

 

まず、ビームは確実にかわされてしまう

接近しての攻撃が手っ取り早いが、間違いなくアークエンジェルにリベルタスがたどり着く方が早い

 

ネオは素早く判断し、リベルタスに攻撃を仕掛けている地球軍機たちに通信をつなげる

 

 

「今から俺がそっちに行く!奴を囲んで動きを止めろ!」

 

 

スピーカーから部下からの返事の声が響く

直後、ネオの指示通りにウィンダムとダガーLがリベルタスを囲んでいく

 

リベルタスの目の前にウィンダムが立ちはだかる

サーベルを取り、リベルタスは先に進もうとするが、すぐに気づく

次々とウィンダムとダガーLが囲んでいく

 

身動きが、取れなくなる

 

と、いうことはなかった

 

リベルタスの翼の光が強くなる

今までの戦闘で、一番の光だ

 

リベルタスが、消えた

そうとしか、言えなかった

 

リベルタスのまわりは囲めていたものの、上方と下方がまだ甘かった

リベルタスはそのどちらかから脱出したのは間違いない

地球軍のパイロットたちが辺りを見渡す

 

 

「…っ!うっ!」

 

 

すぐに、リベルタスの姿を見つけることが出来た

だが、パイロットたちは思わず掌で目を覆ってしまう

 

リベルタスは、太陽を背後に添えて下降してきていた

視界がふさがれたパイロットたち。気づけば、コックピットに衝撃が奔り、まわりは水で囲まれていた

 

 

「おいおい…、シャレになってないな…」

 

 

確かに、策が甘かったのは認める

だが、あそこまで鮮やかに対策されてしまったことにネオは舌を巻く

 

リベルタスのまわりにはもう機体はいない

 

ネオのウィンダム以外は

 

 

「部下たちには悪いが、これで一対一だ!」

 

 

サーベルを取り、リベルタスに斬りかかっていく

リベルタスも、サーベルで迎え撃つ

 

両者の力は互角だった

機体の性能ではリベルタス圧倒的有利なものの、リベルタスは今、ヴァルキリーを片腕に抱え、上手く体制が整えられていない状態

だが、それでもネオと互角に渡り合う

 

 

「くっ!」

 

 

ネオは一旦後退し、ライフルを構えてリベルタスに向ける

放たれたビームをリベルタスは旋回しながらかわしていく

ビームが止んだ途端、リベルタスもライフルを構えてネオに向けて撃ってくる

 

 

「っ!」

 

 

ネオは機体を翻してビームをかわす

防御と攻撃の切り替えが圧倒的に速い

 

本当に、もしハンデがない状態で交戦していたら、すでに落とされていたかもしれない

今の状態をありがたいと思うネオだったが、リベルタスに近寄るムラサメに気づく

 

オーブ軍機…ではない

ムラサメの色が黒い。あんなカラーリングのムラサメは、オーブ軍にはなかったはずだ

 

アークエンジェルに載せられているムラサメ、か

 

 

「セラ!」

 

 

コックピットにトールの声が響く

セラはカメラをムラサメに向ける

 

 

「シエルを!」

 

 

「っ」

 

 

トールは、ヴァルキリーを受け取りに来たのだ

セラは、ライフルをウィンダムに向けて連射する

 

上手くウィンダムを誘導して後ろに下げさせる

 

その隙に、セラは機体をムラサメに近づけ、ヴァルキリーを渡す

トールは、ヴァルキリーを受け取るとすぐさまアークエンジェルへと向かっていく

 

 

「しまった…!」

 

 

ネオはその光景を見ながら歯噛みする

折角のハンディが、失われてしまった

 

ここから、リベルタスは圧倒的な力を見せてくる…!

 

 

「…っ!?」

 

 

セラは、ウィンダムに機体を接近させようとする

だが、その瞬間、ずん、と体が重くなった

 

 

「なっ…、くっ…!」

 

 

こめかみには汗が流れ、体全体に疲労感が感じられる

こんな感覚は、セラにとって初めてだった

 

 

「…?よくわからんが、チャンスだな!」

 

 

急に動きが鈍り始めたリベルタス

理由はわからないが、チャンスだと感じ取り、ネオはすぐに機体を向かわせる

サーベルを取り、斬りかかる

 

 

「くっ!」

 

 

だが、セラとてただやられるわけもない

ライフルからサーベルに持ち替え、ウィンダムに応戦する

 

ウィンダムにしては動きが早いが、セラにとっては誤差の範囲

まず、サーベルをぶつけ合う

 

そして、互いに動きが止まった瞬間、セラは二本目のサーベルを抜き放つ

 

 

「なにっ!?」

 

 

誰もがかかる、リベルタスの二刀流の罠

ネオも例外ではなかった。何とか反応し、機体を後退させようとするも、損傷は免れなかった

サーベルを持っている方の腕を斬りおとされてしまう

 

ネオの眼前で、リベルタスが二本のサーベルを振りかぶり、止めを刺そうとしているのが見える

ここからどうあがこうと、何をしようと間に合わない

ネオは、振り下ろされるサーベルを睨み続ける

 

その瞬間、リベルタスがサーベルを明後日の方向に振るう

そして、横側から飛んできた何かにリベルタスが吹っ飛ばされる

 

 

「大佐、無事ですか?」

 

 

「スウェンか!」

 

 

ネオの眼前で止まり、カメラを向けてくるのはエクステンド。スウェンだった

スウェンは対艦刀を構え、リベルタスを見据える

 

 

「…どうしますか、大佐」

 

 

「…」

 

 

スウェンが問いかけてくる

この問いは、リベルタスとどう戦うか、という風にもとれるが、ネオはそうではないと感じ取る

この戦闘、時間が経ちすぎている

それだけならまだしも、こちら側の犠牲が無視できないものになってきていた

 

さらに、行動不能になっている敵対モビルスーツは、ヴァルキリーと甲板のザクだけ

他はまだまだ健在である

 

消耗している戦力で、まだ戦って勝てるだろうか?

 

ネオは自問自答する

 

 

「…撤退だ。ジョーンズ、信号弾を上げろ!」

 

 

少しの間考え込みネオは決断する

ここでミネルバを討つことを諦める

 

これ以上戦っても意味はない

ジブリールがうるさく喚くだろうが、上の事情で無駄な犠牲を出すわけにもいかない

 

 

「…」

 

 

スウェンが機体を後退させる。続いてネオも機体を後退させ、リベルタスを一瞥した

 

先程のあの急な動きの鈍りは、何だったのだろう?

よくわからないが、もしこの先で彼らと戦うことがある時のために、この事は頭に刻んでおく

 

ネオもまた、母艦へと撤退していくのだった

 

 

 

地球軍が撤退していく

ならば、こちらもこの場にいる意味はない

セラは、機体をアークエンジェルに向けるが

 

 

「くっ…!」

 

 

あれからさらに倦怠感が大きくなっていた

理由がわからないし、この感覚が何なのかもわからない

 

だが、何となく心当たりはあった

 

 

「セラ、戻るよ」

 

 

「ん…、わかってる」

 

 

フリーダムが傍により、声をかけてくる

セラは返事を返し、アークエンジェルへと戻っていくフリーダムを追う

 

その時、ふと感じた背後からの悪寒

ザフトのあいつがこちらを睨んでいることがセラには分かる

 

あの感覚は何なのか

そして、その感覚の先にいる人物は、一体何者なのか

 

様々な疑問を残したクレタの激闘は、ここで幕を閉じた

 

 

 

 

地球軍が、アークエンジェルが撤退していく

シンは、煙を上げているぼろぼろになったミネルバを見た

 

どれだけ激闘だったかを物語っている

 

シンはすぐに機体をミネルバに向かわせる

フリーダムに勝てなかったことは悔しいし、連れていかれたシエルだって気になる

 

だが、きっとまたフリーダムと戦う機会はやってくるだろうし、シエルだってそう悪くは扱われないはず

それよりも、今はルナマリアが気になるシン

 

甲板で崩れ落ちている赤いザク。言うまでもなくルナマリアの機体

あの中にいたルナマリアは無事なのか

アカデミー時代、レイと共に一緒に過ごしてきた

 

インパルスを分離してミネルバに収容する

 

シンはすぐにコックピットから降りて駆け出す

途中、レイとも合流した

二人は、医務室へと駆ける

 

 

「だぁかぁらぁ、大丈夫だって!」

 

 

医務室に響く声

 

その声の主、ルナマリアはシンとレイを対面して会話していた

 

 

「いや…、でも…」

 

 

シンが、心配そうにルナマリアを見る

そんなに、自分は軟に見られているのだろうか?シンの癖に…

 

 

「何度も言うけど、大したことはなかったの。命に別条はまったくなし!復帰だって、そう時間が経たないうちにできるわ!」

 

 

今のルナマリアの格好は、包帯を額に巻き、そして腕を包帯でつっている

気になってしまうのは仕方がないことなのかもしれない

 

だが、今までルナマリアはシンのことを弟のように思っていた

そんなシンが、自分を気遣うように見ている

 

…何か複雑なのだ

 

 

「シン。確かに怪我は多数あるように見えるが、元気そうじゃないか」

 

 

レイが、シンに告げる

 

そう、そうなのだ

怪我はそこそこあったが、実際元気そのものなのだ

レイはよくわかっている

 

ルナマリアは腕を組んでうんうんと頷く

 

 

「いつものルナマリアとは違って、どこかおとなしい気もするが、怪我もあるし仕方ないだろう」

 

 

「…そっか」

 

 

レイの言葉を聞き、シンが安心したように笑顔を見せる

 

そうそう

シンは安心してい…じゃない!

 

 

「ちょっとレイ!いつもと違っておとなしいって、どういうことよ!」

 

 

「…そのままの意味だが」

 

 

「レぇ~~~~イぃ~~~~!」

 

 

医務室に笑い声が響く

 

三人とも、わかっているのだ

一人、欠けてしまっている

 

なくてはならない仲間が

今まで、欠けることがなかった仲間が

 

それでも、気落ちしている場合ではないのだ

気にし続けている場合ではないのだ

どこかで、それも時間を経てずに割り切らなければならない

 

 

「ずいぶん楽しそうじゃないか。俺も混ぜてくれよ」

 

 

ふと割り込んでくる陽気な声

三人が振り返ると、ハイネが入り口から顔を覗かせていた

その傍らには、心配そうな表情をしているマユが

 

 

「ハイネ、それにマユも」

 

 

ハイネとマユが医務室に入ってくる

ハイネはゆっくりとした足取りで、マユは少し駆け気味で

 

マユはベッドに座っているルナマリアに駆け寄り、口を開く

 

 

「ひどい怪我だって聞きましたけど…、大丈夫ですか?」

 

 

マユが心配そうな表情をルナマリアに向けて聞く

そんなマユの表情が先程のシンの表情と重なる

 

やはり、兄妹なんだ

たまに本当にマユはシンの妹なのかと疑いたくなる時があるんだけど・・・

 

 

「なんだとルナ!」

 

 

「え?」

 

 

ふと気づくと、何故かシンが憤怒の表情をこちらに向けて怒鳴った

なんで?

 

 

「口に出ていたぞ、ルナマリア」

 

 

「あ…」

 

 

心の中でつぶやいたつもりだったのだが…、声に出していたらしい

 

…まぁ、いいじゃないか

 

 

「本当のことだもの」

 

 

「なにぃっ!?」

 

 

開き直るルナマリア、食って掛かるシン

 

 

「だってそうでしょ?シンはガキだけど、マユちゃんは凄く大人っぽいし」

 

 

「誰がガキだよ誰が!」

 

 

「シンがよ」

 

 

「ルナぁ!}

 

 

再び医務室に笑い声が響く

 

今回の戦闘の傷は、まだまだ癒えていない

だが、この仲間となら大丈夫

 

この場にいる皆がそう思うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっくそっくそっくそっ!くそぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

壁を何度も何度も何度も何度も殴り続ける

手の甲がどれだけ痛もうが、どれだけ血が出てこようが、両手を何度も何度も壁に打ちつける

 

そうでもしなければ、心の奥から湧き出てくる憎しみ、怒りの負の感情に耐えられなくなる

 

 

「あぁあああああああああああ!!何なんだ!くそぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 

今度は足を壁に打ちつける

壁が赤く染まり、そして凹んでいる箇所が多数ある

 

今回の戦闘、信号弾があげられウォーレンは命令通りに撤退した

その後すぐに自室に戻り、こうしてひたすら自分の体を痛め続けていた

 

もう少しだったのだ

もう少しで、ヴァルキリーを落とすことが出来たのだ

それなのに、それなのに

 

あのリベルタスが邪魔をしてきた

奴が、あそこで割り込んで来さえしなければ

そう思ってしまう。思うたびに怒りが湧き出てくる

 

 

「っ…、くそがっ…!」

 

 

一旦動きを止めるウォーレン

自室に戻ってきてからすでに一時間は経っている

その間、ずっと壁を殴り、蹴り続けていた

 

怒りは収まらないが、ようやく手から感じる痛みを気にすることが出来るようになっていた

テーブルに置いてあるタオルで両手の血を拭う

 

 

「…」

 

 

ウォーレンの叫びが止み、静寂が訪れる

そのせいか、冷静になった頭にあの姿が過る

 

翼を広げて割り込んできたリベルタスの姿

 

 

「っ…」

 

 

一瞬、心が燃えるような感覚が過ったが、何とかそれを抑え込む

 

冷静さを失うな

そのせいで、父は失敗したのだから

 

今まで、何度も何度も自分に言い聞かせてきた言葉を心に刻み込む

そう、失敗は許されない

 

 

「…父上」

 

 

デスクに置いてある写真立

底に入れてある写真に写されているのは、幼いウォーレンの姿

そしてもう一人は成人した手くらいの男性

 

金色の髪に、水色のスーツを着て柔らかい笑みを浮かべている

 

 

「見ていてください。俺は…」

 

 

父は、死んだ

前大戦中に、戦艦の中で

部下に裏切られて

 

それを引き起こしたのは、アークエンジェル含む英雄と呼ばれている連中

…何が英雄だ

 

一人の親を殺しておいて、何が英雄なのだ

これもまた、何度も何度も思い浮かべてきた言葉

 

ウォーレンは顔を上げる

 

立ち止まらない

立ち止まるわけにはいかない

 

奴らのこともそうだが、自分にはまだやることがあるのだ

ウォーレンはデスクに置いてあるイヤホンを取り、耳に装着する

 

止まらない

止まれない

 

 

 

 

 

 

セラの目の前で安らかな顔で寝息を立てている女性がいる

 

 

「セラ…」

 

 

「…」

 

 

セラは、どこか深刻そうな表情でその女性、シエルを見守っていた

 

アークエンジェルに機体を収容させた後、セラはコックピットから飛び降りてヴァルキリーに向かった

コックピットハッチを開いて、シエルを抱きかかえて医務室に向かう

 

目立った怪我はないということで、クルーたちはほっと胸をなでおろしたが、シエルは目を覚まさない

 

シエルを医務室のベッドに寝かせてからずっと、付きっきりのセラにキラが声をかけるが、セラは返事を返さない

 

医務室には、セラとキラの他に、トールとミリアリア、カガリがいる

その中のミリアリアがセラの肩をぽん、と叩く

 

 

「セラ?愛しい彼女が心配なのはわかるけど…、少しは休まないとダメだよ?」

 

 

「なっ…!」

 

 

不意にかけられた言葉に、セラは顔を赤くさせる

ミリアリアの顔には、意地が悪そうな笑みが張り付けられている

 

急に何を言い出すのだ

今の空気を考えなさい今の空気を

 

 

「そうだぞセラ。気持ちはわかるけどお前、何か顔色悪いし、部屋に戻って寝てたらどうだ?」

 

 

トールもセラに声をかけてくる

ミリアリアのような、悪意のある表情はしていないが…

 

 

「セラ。ずっと会いたく思ってて離れたくない気持ちはわかるけど、ここは僕たちに任せて休んで」

 

 

キラはミリアリアと同類だった

どこかにやりとした笑みを浮かべてセラに声をかける

 

瞬間、セラの中でぷちりと何かが切れた

 

何を言っているのだこのバカ兄は

 

 

「兄さんだけには言われたくない。ラクスさんと離れたくなくてシャトルについていこうとした兄さんには言われたくない」

 

 

「「え?」」

 

 

「なっ…!」

 

 

ミリアリアとトールはぽかんとした表情になり、キラは目を見開き、その顔はみるみる赤くなっていく

 

 

「ぼ、僕はそんな…!」

 

 

「兄さんは気づいてなかったのかもしれないけど、あの会話、アークエンジェルに筒抜けだったから」

 

 

「っ!」

 

 

今度は耳にまで赤みが到達した

あの会話、とはキラとラクスの会話である

 

 

『ラクス、やっぱり僕も一緒に…』

 

 

『ダメです、キラ。セラがいるといっても、アークエンジェルには戦力が足りないのです。…あなたは、残ってください』

 

 

『…わかった。ラクス、絶対帰ってきて!待ってるから!』

 

 

という会話が繰り広げられていたことを、セラはミリアリアとトールにぶち明ける

その間、キラはあたふたとしていたが、ウソではないし、一字一句間違ってすらいないので何も言えない

 

 

「セラっ!」

 

 

「うるさい兄さん。シエルが起きるじゃないか」

 

 

「うっ…」

 

 

言い返そうとするも、上手く受け流されてしまう

 

ふと横を見ると、ミリアリアとトールがくすくすと笑っている

 

何ということだ

弟にしてやられてばかりじゃないか

 

いくら事実といっても、言って良いことと悪いことがあるじゃないか

恥ずかしさが増すとともに加速していく変な思考

 

結果、キラは心に決めた

 

いつか、この借りは返す

 

復讐してやる、と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「復讐してやるとか、止めてよね」

 

 

「…」

 

 

ばっさり見破られてしまったが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し短いですが今回はこの辺で…


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PHASE30 崩れる信念

何か…、ダメだ


「こちら第八十一独立機動群、ネオ・ロアノーク大佐だ。識別コードを送る。着艦を許可されたし」

 

 

ネオが、ウィンダムを操りながら巨大な艦、“ボナパルト”に通信をつなげる。ゆっくりと巨大な艦との距離を狭めていく。少しの間の後、ボナパルトから返事が返ってくる。

 

 

「こちらボナパルト了解。識別コードを確認。アプローチどうぞ」

 

 

空を灰色の雲が覆い、上空から白い雪が舞い落ちる。ネオが操るウィンダムのまわりには、カオス、エクステンド、大型の輸送機が飛んでいる。輸送機には、大気圏内での飛行能力がないガイアが載せられている。

 

許可を得たネオたちはボナパルトのまわりの陸地に着陸する。コックピットから降りたネオは、巨大なボナパルトを見上げる。

ボナパルトの全長は、三百メートルにも及び、艦中央にはドームが見える。艦というよりも要塞と言うべき程だ。

 

ネオたちが降り立ったこの地は、ユーラシア北部ロシア平原。ここで新たな任務を受け持ったのである。

それぞれの機体から降りてきたスウェンたち。最後にステラが輸送艦から降り、ネオたちは艦内に向けて移動する。

 

 

「しかし、ずいぶん辺鄙なところに来たもんだな」

 

 

白い息を吐きながら、言葉を吐き捨てるスティング。あまりの寒さのせいか、言葉にややイラつきが込められている。

 

 

「寒い…」

 

 

スティングの斜め後ろで、縮こまっているステラ。震えている。

 

 

「…」

 

 

無言のスウェン。…何かリアクションしてくれないと、作者もこま(ry

 

四人は、艦の中に入っていく。ネオは艦に入った直後に三人と分かれ、割り当てられた自室に向かう。

少し落ち着こうと、シャワールームに入ろうとしたのだが、謀ったようにコンピュータに音声メッセージが届いた。

一瞬だけコンピュータに振り向いて、わずかに表情を歪めてからネオは仮面を外して上着を脱ぐ。

 

コンピュータからは、今一番聞きたくない声が耳に届いてくる。

 

 

『まぁ、何にでも見込み違いというものはある』

 

 

やんわりとした声で語り掛けてくる。

だがそれが、ネオの癇に障る。

 

 

『ミネルバは君の手に余る。そういうことだったのだろう?』

 

 

音声を切ってしまおうかとも考えたが、ジブリールの言葉は事実であり。責められるのは自分だ。

だが、これは音声だけのメッセージ。向こうには今自分が何をしているのかなど見えていない。

 

それを良い事に、ネオはシャワールームに入り、蛇口を回す。

 

 

『では、どうしたものかと考えたのだが…、幸い、デストロイが完成した。君にはそちらを任せることにした』

 

 

デストロイ、情報は入っている。

従来のモビルスーツと比べ、圧倒的質量、パワー、火力を誇る機体。

 

 

『君たちがミネルバを討っていてくれれば、こんな作戦など必要なかったのだがね…。腐った部分は取り除かないと、どんどん広がっていくからね』

 

 

嫌味たらしい声が外から聞こえてくる。だが、シャワーの流れる音に遮られてネオの耳には途切れ途切れにしか届いてこない。

 

 

『あれを使って、ユーラシア西側を黙らせたまえ。…それくらい、できるだろう?』

 

 

最後に挑発をかまし、これで通信が終わりかと思ったがジブリールはもう一言加えてきた。

 

 

『あぁ。命令通り、ウォーレンは返してもらったよ。あれは、君には勿体なさすぎるからね。では』

 

 

今度こそ、これで通信は切れた。

 

そう。ジブリールの言う通り、ウォーレンはファントムペインから抜けた。

ウォーレンは少し不満そうだったが、命令には逆らえない。

 

だが、一つだけ気になることがある。

ウォーレンが部隊から離れたその日、自室の椅子の位置が、少しずれていたような気がしたのだ。

 

気のせいだと思えばその程度なのだが…、何を自分はそこまで気にしているのだろう?

しかし、どうにも気になってしまう。

 

まるで、自分が信じていたものが全て覆ってしまうような。

そんな気がするのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

プラント首都、アプリリウス。

その議長執務室には、三人の男の姿があった。

 

一人は言うまでもない、ギルバート・デュランダル。押しも押されぬプラント最高評議会議長である。

そして、残りの二人。

 

一人は背が高く、赤い髪の水色の瞳の男。

そしてもう一人は、赤髪の男よりは劣るものの、背は高い方。紺色の髪に翠の瞳の男。

 

これら二人の男が並び、デュランダルと向き合っている。

 

 

「やぁ、よく来てくれたね」

 

 

「いえ、議長こそお忙しい中、私たちにどんな御用が?」

 

 

デュランダルが笑みを浮かべて声をかける。

声をかけられた二人の男は敬礼を取り、赤髪の男が言葉を返す。

 

デュランダルは、アプリリウスの町並みが見える窓に向かって歩みながら口を開く。

 

 

「ん…。君たちには、地球に降りてもらうことにした」

 

 

「っ!」

 

 

「地球…ですか」

 

 

デュランダルの言葉に、赤髪の男の顔が歓喜に染まる。

もう一人の男は、特に表情に変化は見られない。首を傾げて返す。

 

 

「あぁ。君たちには、討ってほしいものがあってね」

 

 

デュランダルは、デスクに置いてあるリモコンを操作してモニターを映す。

モニターに光が灯り、ある画像が映し出される。

 

その画像を見て、赤髪の男はさらに笑みを濃くさせる。

 

 

「ジェラード隊と協力し、二人にはこの艦を討ってほしい」

 

 

モニターに映し出されていた画像には、白亜の艦。

 

アークエンジェルが映し出されていた。

 

 

「…ふぅ」

 

 

その後、デュランダルは出頭の日時などを説明し、二人を退室させた。

日時といっても、今すぐになのだが。

 

しかし、このタイミングでいいものか、と自問自答してしまう。

切ったカードは、タイミングを誤れば自信を破滅に追い込んでしまう諸刃の剣。

 

ここまで慎重に事を進めてきた。

そして今、デュランダルは一気に攻勢に出ようとしている。

 

 

「これが吉と出るか、凶と出るか…」

 

 

デスクに座り、デュランダルは息をつく。

大丈夫だとは思うが、どうにも不安に感じてしまう。

 

今回打ったこの手は、それほど重要な役割を持っているのだ。

 

 

「…いや、彼らならやってくれるはずだ」

 

 

不安を切ろうとする。

そう。彼らならやってくれるだろう。

だから、今、カードを切ったのだ。

 

 

「そして、ジブリール。そろそろ彼も動いてくるだろうな…」

 

 

デュランダルがそうつぶやいた直後、議長室の通信機が鳴り響く。

デュランダルはボタンを押し、通話状態にする。

 

 

「どうした」

 

 

「議長!地球軍が…」

 

 

唇を三日月形に変形させる。

いや、変形してしまった、というのが正しいだろう。

 

このタイミングで来るか。先程まで悩んでいたのが馬鹿らしく思えてしまう。

やはり、ここでカードを切ったのは正しかった。

 

話を聞いたデュランダルは、椅子にもたれかかる。

天井を見上げ、目を腕で覆った。

 

とにかく、浮かんだ笑みを抑える。

 

本当に、まるで、自分の勝利が約束されているのではないだろうか。

そこまで思ってしまうほど、今日という日は良い日だ。

 

そこで、そういえば、と思い出す。

シエル・ルティウスのことだ。

何やらアクシデントが起こり、シエルがアークエンジェルに連れていかれたようだ。

 

まぁ、特に影響はないだろう。

贅沢を言うなら、もう少し働いてもらいたかったところだが、大勢には影響はない。

 

そこで思考を切り、デュランダルは、歩みを進め、議長室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔してもいい?」

 

 

「え?あ…」

 

 

いつの間に医務室に入ってきたのだろう。

いや、彼女の入室に気づけなかった自分が迂闊すぎたのか。

 

セラは声をかけられるまで、マリューの接近に気付けなかった。

 

 

「すみません、こんな所でサボって…」

 

 

「いいわよ。それに、こんな所だなんて言わないの。眠り姫がいるんだから」

 

 

「…マリューさんもですか」

 

 

うんざり、そうとしか表すことが出来ない表情をするセラ。

そんな表情を見て、くすくすと笑うマリュー。

 

そして、二人は未だに目を覚まさない眠り姫を見る。

 

 

「…大丈夫?」

 

 

マリューが気づかわしげな眼でセラをのぞき込む。

セラはマリューと目を合わせて…、逸らした。

 

 

「大丈夫…ではありますよ。最近、兄さんが前のことを根に持って色々仕掛けてくるのを何とかしてくれれば、なお良いんですけどね」

 

 

笑みを浮かべながら軽口をたたくセラ。

再び、マリューが笑みを零す。

 

こうして見ていると、セラは本当に大丈夫なように見える。

だが、そこに騙されてはいけない。

セラは、本当に人を誤魔化すことが上手いのだ。

 

セラの嘘は、兄であるキラ。そしてシエルしか見抜くことが出来なかった。

 

だが、最近になってアークエンジェルのクルーたちもその嘘が見抜けるようになってきた。

どこがこうだから、セラは今嘘をついた、という根拠はよくわからない。

それでも、何となくわかるのだ。

 

まぁ、わからない場合もあるのだが、今回はマリューでもわかった。

 

セラは、嘘をついている。

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

マリューが未だに視線を向け続けている。セラは当然気づいている。

セラはため息をついた。

 

 

「本当に、大丈夫ですよ。…でも…、やっぱりやりきれないっていうか…、そんな気持ちが」

 

 

「…そう」

 

 

戦争が終わって、それからたった二年しかたっていないというのに、再び戦火は広がり始めた。

 

オーブもその影響を受け、結果、カガリは国を出ざるを得なくなり、セラたちが立ち会がざるを得なくなった。

結果、セラはシエルと再び敵同士に。シエルもそうだが、セラもどれだけ辛い気持ちを抱いていたのだろう。

 

マリューだけではなく、アークエンジェルクルー全員の共通した思い。

 

 

「ん…」

 

 

「「!」」

 

 

空気が重くなり始めたその時、二人の声とは違う他の声が耳に入った。

二人は、勢いよく視線をベッドに寝ているシエルに移す。

 

シエルは、もぞもぞと動きながら…、目をゆっくりと開かせた。

まぶしかったのか、目を腕で覆う。

 

 

「私は、少し外すわね」

 

 

「…ありがとうございます」

 

 

マリューは、セラに言葉をかけてから医務室から退室していく。

折角自分のことを気にかけて来てくれたのに、すぐに出て行ってもらうことになるとは。

だが、気を遣ってくれたこと、そして気にかけてくれたことに物凄く感謝する。

 

シエルが、目を覆っていた腕を動かし、辺りを見回す。

そして、セラと目が合った。

 

 

「せ…ら…?」

 

 

「おはよう、シエル」

 

 

眠り姫の、お目覚めだ。

 

 

 

 

目を開けたら、セラがいた。

その時、一瞬、今までのことが夢だったのかと思ってしまった。

 

だが、今、自分がいる場所を理解して、夢なんかじゃなかったとわかる。

ここは、アークエンジェルだ。

 

 

「気分はどうだ?水、いるか?」

 

 

「…一杯、頂戴」

 

 

少し、喉が渇いた。セラに頼むと、セラは立ちあがる。

セラの背中を眺めるシエル。

セラは、棚からコップを取って、水を入れる。

 

 

「ほら」

 

 

戻ってきたセラが、水が入ったコップを差し出す。

シエルは、起き上がってコップを受け取る。

 

 

「ありがとう」

 

 

お礼を言ってから、シエルはコップの水を口に含む。

ひんやりとした感覚が口の中に。自分はどれだけ気を失っていたのだろうか?

 

コックピット内で気を失ってからの時間がわからない。

 

 

「私は…、どれくらい寝てたの?」

 

 

「ん、二日かな」

 

 

二日。喉がからからになるのも仕方ないだろう。

現に、シエルの喉から出る声は、いつもの澄んだものとは比にならない。

 

だが、飲み込んだ水が喉を潤していく。

少し楽に感じられる。

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

互いに言葉が出ない。

互いが互いに会いたいと思っていたのは言うまでもない。

だが、こうして会うと言葉が出てこないのも仕方ないのではなかろうか。

 

 

「…よかった」

 

 

「え?」

 

 

その時、セラが口を開いた。

シエルは、セラの顔を見る。

 

 

「シエルが無事で、本当によかった」

 

 

柔らかな笑みを浮かべて言うセラ。

 

 

「…セラも、無事でよかった」

 

 

シエルも、同じように返す。

だけど…、だけど。

 

 

「でも…、どうして?」

 

 

「…」

 

 

わからない。

シエルは、傍にいなかったからわからないのだ。

 

どうして、セラはまた、剣を取ることを選んでしまったのか。

 

ずっと、聞きたかったこと。

 

 

「…まぁ、まずはオーブに戻るため、だな」

 

 

「…」

 

 

オーブに戻る。ザフトにいたシエルにも、今のオーブの状況は知っている。

カガリが国からいなくなり、オーブは混乱している。

セイランが指揮を執るようになったものの、混乱はさらに深まり、国民の不満は募っていく。

 

だが、それはカガリが国を出て行ってしまったから起きたことではないのか?

シエルはそこが気になっているのだ。

 

 

「シエルは知らないだろうけど、セイランが嫌な動きを見せているんだ。それに、カガリが国を出て行ったあと、アスハを探るような動きだって見せている」

 

 

「え…?」

 

 

セラの口から出てきたその言葉の内容に、シエルの目が見開かれる。

セイランが嫌な動き?アスハを探る?

 

それでは、まるで…。

 

 

「せっかくオーブを牛耳れるようになったのに、アスハの反撃を喰らいたくない。そう思っているみたい、だな」

 

 

「っ」

 

 

シエルが思っていたことと同じことを、セラが口にする。

そういえば、今の首長たちも、セイランとそこそこ深い交流がある家の者たちばかりだ。

 

 

「それに、俺たちは…。ザフトの特殊部隊に暗殺されそうになった」

 

 

「え!?」

 

 

思わず、大声を出してしまうシエル。

 

ザフトの特殊部隊が、セラたちを…暗殺?

 

 

「違うでしょ、セラ」

 

 

そこに、第三者の声が入ってきた。

二人が目を向けると、キラが医務室に入ってきていた。

 

さらにキラの後ろには、トールとミリアリアが。

 

 

「兄さん」

 

 

「違うって…、どういうこと?」

 

 

セラがまるで咎めるようにキラに呼びかける。

 

そしてシエルはキラの言葉に引っ掛かりを覚える。

違う。つまり、セラの言葉が違うということ?

 

ザフトがセラたちを襲った。そのことは嘘だったのだろうか、という願望じみた考えが出て来てしまう。

 

だが、キラの次の言葉は、シエルの思いを裏切る。

 

 

「暗殺されそうになったのは、ラクスに…セラでしょ?」

 

 

「っ!?」

 

 

今まで信じてきたものが、自分の中でがらがらと音を立てて崩れていく。

 

セラが…、暗殺?

ラクスが、暗殺?

ザフトが?

 

デュランダル議長が?

 

混乱していく思考、ぐるぐると頭の中が回る。

めまいのような感覚が、シエルを襲って…。

 

 

「シエルっ!」

 

 

「あ…」

 

 

ベッドから落ちそうになったところを、セラが抱きかかえて止める。

シエルは何とか我に返る。

 

だが…

 

 

「…、シエル?」

 

 

セラは、強く手を握られていることに気づく。

シエルが、セラの手を強く握りしめている。

 

その手は、震えていた。

 

 

「…」

 

 

セラは、シエルの手に、もう片方の手をそっと添える。

そして、キラたちに視線を向けた。

 

セラの念を受けたキラは、そっと頷いた後、医務室から出て行く。

 

 

「ごめんね、シエル」

 

 

そっと、シエルに聞こえたかどうかは定かではないが…、つぶやいてから。

 

キラたちが出て行ったあと、セラは視線を再びシエルに向ける。

顔を俯かせ、手を胸元に引き寄せて未だに震えるシエル。

 

 

「私…」

 

 

その声も、震えていた。

震える声を、セラは黙って聞く。

 

 

「私…、どうすればいいの…?」

 

 

「…」

 

 

セラは、添えていた手を放す。

シエルがピクリと震えた後、その手を追いかけるように手を動かす。

 

だがセラは、その動きを遮るように、シエルを引き寄せた。

 

シエルが、セラの両腕の中にぽすりと収まる。

 

 

「…」

 

 

何度も、シエルはセラに抱きしめられた。その度に、温かさを感じてきた。

 

だが、今感じる暖かさはそのどれよりもさらに暖かく感じる。

セラの手が、シエルの背中をそっとさする。

 

シエルは、体全体に伝わる温もりを感じながら、そっと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボナパルト中央に位置する巨大なドーム。その中には、不吉に黒く光る装甲を持つ、巨大なモビルスーツが座していた。

あまりに巨大すぎ、その全貌を目に捉えることすら難しい。

 

このモビルスーツが、GFAS-X1デストロイ。全高三十メートルを超える、要塞ともいえるほどの巨大さを持つ。

 

 

「ステラ。今度から、君はこれに乗るんだ」

 

 

「…これに?」

 

 

ステラは、ぼうっとした目でデストロイを見上げる。

その眼は、感情を感じさせないものだったが…、どこか輝いて見えるのは気のせいだろうか?

 

スティングの表情が少し不満げだったが、決まってしまったものは仕方ない。

それに、まだデストロイは量産されていない。

現存、まだこの一機しかデストロイはない状況だ。

 

 

「…まっ、お前がドジしても、俺がフォローしてやるよ」

 

 

不満を押し殺し、スティングがステラに言う。

ステラが、嬉しそうな表情で頷く。

 

ネオはその光景を見て心が痛む。

本当ならば、この光景の中にはもう一人、少年がいたはずなのだ。

 

もう、一人

 

 

「ステラも、スティング助ける」

 

 

「は?何生意気言ってんだよ」

 

 

二人の記憶には、もうあの少年はいない。

あの少年のことは、あの二人にとってはもう不要な記憶なのだ。

 

 

「…そろそろ時間だ、ステラ。デストロイに乗り込め」

 

 

スウェンが、ステラに言う。

そう言えば、とネオは時間のことに気づく。

 

上司である自分が時間のことを忘れてしまうのはどうかと思うが、そこを補ってくれるのがスウェンだ。

感情表現が乏しい所が難ありなのだが、優秀なのは言うまでもない。

 

ステラはスウェンの言葉に頷き、デストロイに向かっていく。

 

 

「…何でステラなんだよ」

 

 

「…」

 

 

ステラの背中を眺めていると、スティングが不満げな声で言葉を発した。

別に、スティングはただわがままを言っているわけではないのだ。

 

 

「ステラをあんなのに乗らせるなんて、どうしたってんだネオ!」

 

 

スティングは、ステラを気にかけているのだ。

ステラは、仲間だから。ステラとは、絆でつながっているのだ。

 

…その絆は、自分たちの手でどうしようと自由なのだとも知らず。

結果、一人の絆は切れてしまったことも知らず。

 

 

「適性だ」

 

 

ステラの方が、デストロイに対して適性があった。だから、ステラが選ばれた。

それだけだった。

 

あのアーモリーワンでも。あの三機のパイロットに、それぞれ三人が選ばれたのも。

ただ、適性があっただけなのだ。

そうでなければ、彼らはここにいない。

 

 

「…」

 

 

どこかやりきれない思いを抱きながら、ネオは赤紫の機体に乗り込む。

今回の任務は、ユーラシア西側の反乱をデストロイを用いて潰すこと。

 

抑える、ではない。

潰すのだ。

 

 

『生体CPU、リンケージ良好』

 

 

生体CPU、それが今のステラを示す単語だ。

ネオ以外疑問を持ったような様子はない。

 

スティングはその言葉自体を知らないだろうし、スウェンは表情には出さない。

…いや、本当にどうでもいいと思っているのかもしれない。

 

他人がどう思おうが、自分には関係ない。

そういう奴だから。

 

 

『非常要員待機。X1デストロイ、プラットフォーム、ゲート開放』

 

 

頭上のドームが開かれていく。

デストロイが、重々しい一歩を踏み出した。

 

 

「…よし、俺たちも出撃するぞ!」

 

 

デストロイの数知れぬブースターが吹かされ、移動して行く所を見届けながらネオは部隊に号令をかける。

ネオは、スティング、スウェンと共にデストロイの両脇に着いた。

 

 

「…来たか」

 

 

出撃してから、時間はそう経っていない。

前方から雪煙を立てながら向かってくる影が見とめられる。

 

こちらの思考を知って出撃してきた、ザフトのレセップス及のモビルスーツ群である。

 

地上はバクゥ、ガズウート。上空にはグゥルに乗ったジンや、バビが。

 

ザフト側のレセップス級が砲口に火を吹かせ、モビルスーツたちが一斉にビームを照射する。

ネオたちは、デストロイの影に機体を移動させた。

 

照射されたビームがデストロイに向かっていく。

デストロイにビームが命中したかというその瞬間、円盤部前面のリフレクターが光った。

デストロイに前方に、光の壁が張られる。

 

その壁が、照射されたビームを全て弾きかえしていく。

 

この機体、デストロイにはザムザザーと同じように陽電子リフレクターが装備されている。

あの、ミネルバのタンホイザーすらも跳ね返すほどの規模のリフレクターが。

 

ビームを防いだステラは、すぐに反撃の手に転じる。

円盤上部の二本の砲塔が展開され、モビルスーツ群に向けられる。

 

ザフト側が、警戒して退避しようとしたその時、砲口が火を噴いた。

 

高エネルギー砲 アウフプラール・ドライツェーン

二本の砲撃が、モビルスーツ群を薙いでいく。

 

前面に展開しているモビルスーツだけではない。

後方にある戦艦までも、砲撃の餌食となった。

 

あまりの威力。ネオまでもが呆然と仕掛けるほど。

やられる方は堪ったものではない。後退して逃げ出していくモビルスーツも現れる。

 

だが、ステラは容赦しない。戦意を失ったそれも、薙いでいく。

 

 

「っ!スティング!」

 

 

「わかってる!」

 

 

ネオが、上空からデストロイを狙うバビを発見し、スティングがライフルでそのバビを撃ち抜く。

 

地上はデストロイ、上空はウィンダム、カオス、エクステンドで殲滅していく。

戦闘は、一方的という言葉すら生ぬるいほどの終わり方を見せた。

 

雪野原の中、ちらちらと燃えている機体の残骸。

それに目を向けず、進んでいく巨大な機体。

 

恐怖を、与える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうです!?圧倒的ではないですか、デストロイは!」

 

 

デストロイが、全てを破壊していく映像を見ながら愉悦に満ちた笑い声を上げるジブリール。

同じモニターの火砲に映し出されているロゴスの一員が、言葉を返す。

 

 

「たしかにのう…、全て焦土と化して、何も残らんわ」

 

 

上機嫌なジブリールと対照的に、男たちはどこかうんざりとした表情だ。

 

 

「それで、これでどこまで焼き払うつもりなんだ?」

 

 

ジブリールは、グラスにシャンパンを注いで、笑みを浮かべながら答える。

 

 

「そこにザフトがいる限り、どこまでも、ですよ」

 

 

男たちは、ジブリールに気づかれないようにため息をついた。

 

 

「変になれ合う連中には、しっかりと思い知らせなければなりませんからね…。我らナチュラルとコーディネーターは、違うのだということを」

 

 

反乱だけでなく、ザフトと手を組もうなどという考えまで持つ者まで現れてくる始末。

そんな奴らには、現実を教えてあげなければならない。

 

 

「それを裏切るような真似をすれば、地獄に落ちてしまうのだということをね…」

 

 

まるで威圧をするように、モニターに映る男たちを見回す。

 

ジブリールは自分に酔っていた。

この圧倒的力を持っている、ロード・ジブリールに。

 

そして、それと同時にウォーレンにも感謝していた。

彼が、デストロイの制作を計画していたのだから。

 

初めは、そんなことに貴重な予算を裂くのか、と疑心暗鬼でいたのだがそれがここまではまっている。

 

力のないものは、力のあるものに従う。それが、自然の摂理なのだ。

古臭い都市など、裏切り者と共に焼き払ってしまえ。

 

 

「くく…っ、はぁーはっはっは!」

 

 

ジブリールは再び高笑いを始める。

この力で、全てを自分のものにして見せる。

 

そのためにも、邪魔な、そして恐ろしい存在でもあるコーディネーターは滅ぼすのだ。

そして、それに組する存在も…。

 

ジブリールは、自分に酔っていた。

自分の力に。強大な力に。

 

そんなジブリールをあざ笑いながら、作業を続ける存在にも気がつかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE31 破壊VS女神

ファイターズを応援しながらの投稿です


「どういうことです!?何の勧告もないまま、このような…!」

 

 

憤りに満ちた声が会議室に響き渡る。

そして、それは一人だけではない。会議室中からざわざわと、そして時には大声が響く。

 

最高評議会では、臨時会議が開かれていた。

議題は、ユーラシア西側にて進行中の地球軍である。

 

四機。たった四機なのだ。

だが、そのうちの一機が大問題だった。

 

 

「無差別に町を焼き払うとは!正気か、奴らは!?」

 

 

再び、荒げた声が響き渡る。

 

地球軍の侵攻は、すでに三都市にまで及び、さらに西に向かって行っている。

それだけではなく、その三都市は全て壊滅状態なのだ。

 

さらに、三都市はユーラシア脱退を示し、プラントに協力を表明していた。

目的は、それだろう。これからも、それに組した都市が焼き払われていくのは目に見えている。

 

それらの都市には、ザフト軍が駐留していた。

議員たちの受けた衝撃は、当然軍の損失についてもあったのだが、地球軍はいっさい降伏を見とめず、ザフトだけでなく一般人すらも容赦なく虐殺していったのだ。

男だけでない。子供も、老人も、女性も。

すでに犠牲は何十万と出ていることだろう。

 

見せしめとしても、これはやりすぎだ。

同じ目に遭わされるのなら、と恭順な姿勢を見せてくる都市もあるだろうに。

 

ナチュラルがナチュラルを殺す。

 

 

「都市駐留軍は、ほとんどが壊滅状態です」

 

 

議員らの混乱の中、一人の議員が立ち上がって言った。

 

 

「議長、ここは一時撤退を!」

 

 

その議員が、デュランダルに言葉を発する。

 

撤退

その単語に、議員たちが動揺する。

デュランダルは、円卓に肘をついて考え込む。

 

 

「…だが、下がってどうする?下がれば、解決するのかね?」

 

 

この答えは、議員たちにとって意外な答えだった。

今まで、デュランダルは戦争介入には慎重な姿勢を見せてきた。

 

だが、デュランダルは今、好戦的なスタイルを見せている。

それが、意外な念を思い起こさせるのだ。

 

 

「ミネルバは?今、どこにいる?」

 

 

デュランダルが、問いをかける。

 

 

「艦隊司令部の命を受け、ベルリンに向かっておりますが…」

 

 

議員たちは、ミネルバに向けるデュランダルの絶対的信頼を知っている。

 

 

「しかし…、たとえミネルバでも…、今回の件を任せるには…」

 

 

確かに、ミネルバは多大な戦果を上げ続けてきた。

デュランダルだけでなく、議員たちもミネルバには信頼を寄せている。

 

それでも、今回の件にミネルバを向かわせるのは戸惑いを思わせる。

 

さらに、ミネルバの艦体は、地球連合合同艦隊との戦闘で受けた傷がまだ癒え切っていない。

そんな状態で現在いるというのも、戸惑いを思わせる理由の一つだ。

 

「かも、しれん。だが、やらねばならんのだ!」

 

 

だが、デュランダルは退かない。

立ち上がり、身を乗り出し、声を張り上げて議員たちに訴える。

 

 

「誰かが止めねば、奴らはますます図に乗る。そして、被害はさらに増えていくだろう。それだけは、何としても止めねばならんのだ!」

 

 

ここまで必死なデュランダルを、議員たちは初めて見た。

確かに何としても地球軍を止めなければならない。

 

だが、しょせん地上で起きていることなのだ。

ナチュラルがナチュラルの都市を焼き払っているだけ、対岸の火事なのだ。

 

なぜ、自分たちがそこまで必死にならなければならない?

そんな疑問を持つ者は数少なかった。

 

だが、地球軍のやり方に憤りを覚えない者は、この場にはいなかった。

 

ミネルバ一隻で、どうなるかはわからないが、望みをミネルバに託すことに決定した。

その瞬間、デュランダルの浮かべた笑みに、疑問を覚える者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長!ターミナルからエマージェンシーです!」

 

 

マリューが、医務室から戻り、艦長席に座った。

そして、少し経った後、キラたちが艦橋に入ってきたと同時にチャンドラの声が発せられた。

 

 

「ユーラシア中央から連合脱退を宣言した都市に、地球軍が侵攻!すでに三都市が壊滅!」

 

 

「なっ…!?」

 

 

マリューが愕然とする。それだけではない。

艦橋にいる全てのクルーたちが信じられないような面持ちになる。

 

そんな動きは、ターミナルは捉えていなかった。

つまり、ここに来ていきなり動き始めたのだ。

 

 

「ちょっと待ってください…。映像、来ます!」

 

 

チャンドラが機器を操作して、モニターに映像を映し出す。

途端、全員の顔が真っ赤な照り返しに染められた。

 

 

「こ、これは…」

 

 

マリューはそれっきり絶句し、カガリは呆然とモニターを見上げ、身動きが取れないでいる。

 

が、すぐに我を取り戻し何やら考え始めた。

顎に手を当て、深刻そうな表情になる。

 

 

「カガリ…」

 

 

キラがカガリに声をかける。

彼女が迷っていることはキラにはお見通しだ。

 

この場に介入するか、それとも否か。

 

実際、この場はオーブにはまったく関係しない。

だが、それでもこの映像は凄惨すぎる。どうにか助けてあげたいという思いが湧き出てくる。

先の大戦の記憶が、蘇ってくる。

 

カガリは、どういう選択をするのか。クルーたちの視線がカガリに集中する。

 

少し経ち、カガリは顔を上げた。

そして、告げる。

 

 

「…艦長、オーブに行こう」

 

 

「…え?」

 

 

マリューは、驚いた。

カガリの選択を責めるつもりはないのだが、てっきり彼女は介入しようと言うのではないか、と思っていたのだ。

だが、彼女がした選択は、介入せず、オーブへ行く。

 

 

「そろそろ、ユウナが国に戻っているころだろう。…国の様子が知りたい」

 

 

そう。オーブ軍は、国に戻れと大西洋連邦に告げられたのだ。

今頃、オーブ軍は国に向かっているはず。

 

 

「…わかったわ」

 

 

マリューは了承を告げ、席に着く。

 

 

「アークエンジェル、発進準備。人員、それぞれ持ち場に入って」

 

 

命じられたとおりにクルーたちは席について機器を操作し始める。

それを見た後、マリューはキラの方を見る。

 

 

「キラ君。セラ君に、発進のことを教えて来てくれないかしら?」

 

 

「はい」

 

 

キラは艦橋を出て医務室に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目標まで、あと四十」

 

 

その頃、ベルリン郊外までミネルバは来ていた。

司令部の命令を受け、補給もそこそこにエーゲ海を発進してここまでやってきたのだ。

 

雪が舞い散る視界の中、黒煙が立ち昇っている。

すでに地球軍の侵攻は始まっているようだ。

 

モビルスーツは、ヴァルキリーを除いてすべて出られる。

だが、船体の傷が些か目立っている。

 

自分たちに命令を出すのはいいが、たった一隻で何を考えているのか。

タリアはいら立ち混じりの疑問を浮かべる。

 

 

「光学映像、出ます」

 

 

メイリンの硬い声が聞こえた直後、モニターに映像が映し出される。

それを見て、クルーたちは絶句した。

 

町は焦土と化し、辺りから炎が燃え上がっている。動く人影は見当たらない。

地獄、としか形容しがたい光景。

 

 

「前線司令部、応答有りません」

 

 

どうやら、自分たちの到着は遅かったようだ。

 

しかし、この光景を見て決意が固まる。

こんな非道、これ以上させてはならない。何としても、止めなければならない。

たった一隻でも、やらなければならない。

どんなに非力でも、戦わなければならない。

 

 

「コンディションレッド発令!対モビルスーツ戦闘用意!」

 

 

タリアは告げる。艦橋が下階へと潜り込んでいく。

 

 

「コンディションレッド発令、パイロットは搭乗機にて待機してください」

 

 

メイリンはアナウンスを告げる。

 

タリアは、もう一度モニターに映し出される映像を見た。

巨大な機体が、様々な方向にビームを撃ち、都市を破壊し尽している。

 

戦うにしても、あんな化け物にどうやって勝てというのだろうか。

不安が過る。

 

 

 

 

「あんなことをする奴…、許してたまるか!」

 

 

シンは、コアスプレンダーに乗り込んで叫んだ。

艦橋に映し出された映像は、シンたちパイロットがいた待機室にも映し出されていた。

 

その光景を見たシンたちは、何としてもこの非道を止めなければと心に決め、それぞれの機体に乗り込んでいく。

だが、ルナマリアだけは前回の戦闘の怪我のせいで出撃することが出来ない。

彼女も、あの映像を見て怒りを抱いていた。絶対に、許せないと。

 

今回の戦闘は、彼女の思いも背負って戦うことになる。

 

 

「絶対に、負けてたまるか…!」

 

 

シンは、コックピットの中で発進許可が出るのを待つ。

そしてその時、カタパルトのランプが赤から緑に変化した。

 

メイリンの声が聞こえてくるが、それよりも前に、シンは操縦桿を前に押し出していた。

 

 

「シン・アスカ!コアスプレンダー、行きます!」

 

 

絶対に許せない。

絶対に止める。

 

インパルスを先頭に、セイバー、グフ、エキシスターが出撃する。

彼らの視線の先には、巨大なモビルアーマーが見えている。

 

それが、町を破壊し、燃やし尽くしている。

 

 

「くそっ!これ以上やらせてたまるかぁっ!」

 

 

「あぁ!行くぞ!」

 

 

シンが叫び、ハイネがそれに続いて告げる。

 

四機はスピードを上げてデストロイに接近していく。

デストロイのまわりの機体が、こちらの接近に気がついたのかこちらを向く。

 

 

「あれは…、カオス?」

 

 

「じゃあ、これをやったのはあの部隊か…」

 

 

まわりにいた機体の一機は、カオスだったのを見てクレアとレイがつぶやいた。

 

何度も自分たちの前に立ちはだかり続けた部隊。

そして、今は一般市民すらも殺戮し続けている。

本当に、嫌な因縁があるものだ。

 

再び遭い見える。

 

 

「うぉおおおおおおおお!!」

 

 

シンは雄叫びを上げながら、巨大なモビルアーマー、デストロイに向かっていく。

デストロイは、その巨体からかインパルスの接近への反応が遅れる。

 

行ける。シンは確信を持って、デストロイの懐に潜り込もうとするが。

 

 

「させるか!」

 

 

「!カオス!」

 

 

シンが、サーベルを抜いて斬りかかろうとしたところに、カオスが眼前にはだかる。

カオスはシンに向かってサーベルで斬りかかってくる。

 

シンもまた、サーベルでカオスを迎え撃って鍔迫り合い。

 

 

「あいつら…!」

 

 

インパルスを見て、まさかと思ったネオがカメラを切り替えて辺りを探る。

セイバー、グフ、エキシスター。そして、後方に見えるのはミネルバ。

 

お役御免となったにも関わらず、こうしてまた対峙することになるとは。

運命の赤い糸でもつながっているのでは?と気楽なことを考えてしまう。

 

ネオは、ウィンダムを駆ってエキシスターに向かっていく。

サーベルを抜いて斬りかかる。

 

クレアは、斬りかかってくるウィンダムに対し、ライフルを抜いて迎え撃つ。

連射されるビームをかわしながらネオはエキシスターへと接近していく。

 

クレアは、ある程度接近されるとライフルからサーベルに持ち替える。

二本のサーベルがぶつかり合うが、当然ウィンダムの方が力負けしてしまう。

 

 

「くっ!」

 

 

「…っ!?」

 

 

ネオはすぐに機体を後退させ、ライフルに持ち替えてエキシスターに向ける。

放たれるビームは、エキシスターに容易くかわされてしまう。

 

ネオはビームを連射してエキシスターの動きを制限させる。

 

 

「させませんよ」

 

 

クレアは、ウィンダムのパイロットの思考を読む。

自分の動きを制限させようとしているのだろうが、無駄だ。

 

クレアはスラスターを吹かせて機体を横にずらす。

ネオはエキシスターを追ってライフルを向けて撃とうとするが…、止めた。

 

クレアは、ウィンダムの動きが止まった途端、攻勢に出る。

腰の収束砲を展開し、ウィンダムに向けて放つ。

 

機体を翻し、かろうじて砲撃を回避したネオだが、エキシスターは追撃に来ていた。

サーベルを抜き、ウィンダムの眼前に。

 

 

「ネオっ!」

 

 

だが、それを見て、ステラが動いた。

デストロイの二つの砲塔がエキシスターに向けられる。

 

 

「あれは…」

 

 

クレアは、動き出したデストロイを警戒してその場から離れる。

 

 

「ネオ!」

 

 

「ステラ、気を付けろ!あいつは手ごわいぞ!」

 

 

手強い。つまり、強い。

 

 

「私は…!」

 

 

ステラは、一つのボタンを押した。

その瞬間、巨大な機体が変化を見せ始める。

 

脚部が百八十度回転し、円盤部が後方にスライドする。

そこに見せたのは、輝くツインアイ。

 

 

「これは…」

 

 

「モビルスーツ!?」

 

 

光輪を背に纏い、角のようなアンテナを伸ばした頭部、一対の脚部を持つ鋼鉄の巨人。

まわりの三機の機体がミニチュアにさえ見えてしまう。

 

絶句し、動けなくなってしまったシンたちに向けて、デストロイは足を踏み出した。

それを見て、我に返るクレア。

 

 

「来ます!」

 

 

「っ!」

 

 

クレアの一喝に、我に返る面々。

デストロイは。胸部に並んだ三つの方向に火を吹かせる。

 

クレアのおかげで我に返れていたシンたちはかろうじて砲撃をかわすが、そこにカオスなどの地球軍機の追撃に襲われる。

 

 

「おらぁっ!お前、いい加減落ちろ!」

 

 

カオスはインパルスに、ウィンダムはグフに、エクステンドはセイバーに。

 

 

「くっ!」

 

 

クレアは、仲間の援護に向かおうとするのだが。

 

 

「させるか!」

 

 

ステラは、デストロイの両腕部を切り離す。

まるでドラグーンの様にそれは動き回り、エキシスターを追い込んでいく。

 

 

「これは…!?」

 

 

警戒して離れようとしたクレアだったが、その両腕部の五つの指から放たれるビームに驚愕する。

機体を翻してかわしたものの、ほんの一瞬反応が遅れていれば間に合わなかった。

 

 

「この…!」

 

 

何にしても、このデカ物を何とかしなければ仲間の援護もいけない。

クレアは、圧倒的存在感を持つ巨人に機体を向けた。

 

 

 

 

 

シンは、大勢を崩したところに追撃をかけてきたカオスの猛攻を何とか凌いでいた。

何とかライフルで反撃をしようとするが、大勢を立て直そうとする前にカオスが何かしらの攻撃を入れてくるのだ。

 

 

「お前に、ステラはやらせるかよ!」

 

 

スティングは、サーベルでインパルスに斬りかかるが、インパルスはシールドを割り込ませてサーベルを防ぐ。

一旦離れた距離を埋めながら、今度はインパルスに向けてライフルを連射する。

 

だが、インパルスはシールドを上手く操ってビームを防いでいく。

 

これだけ猛攻を加えても、目の前の白い奴は落ちない。

その現実に、スティングの心の中に焦りが募っていく。

 

 

「これ以上…、これ以上お前に奪わせて…!」

 

 

そこで、スティングは疑問を浮かべた。自分の、今、発した言葉。

これ以上、何だ?

奪われた?何をだ?

 

わからない。だが、何故か浮かぶのだ。

これ以上奪われたくない、そんな思いが。

 

 

「もらったぁ!」

 

 

よくわからないが、動きが止まったカオスのおかげで体勢を立て直せたシンは、サーベルを抜いてカオスに斬りかかる。

スティングは、コックピットに響いたアラートのおかげでかろうじて斬撃を回避する。

 

何をやっているのだ、自分は。

自分は、勝たなければならないのだ。

自分の思いなどどうでもいい。

 

 

「このぉおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

スティングは、兵装ポッドのビームをインパルスに向けて放つ。

インパルスは機体をひらりと回転させながらかわし、ライフルを向けてくる。

 

スティングもまた、ライフルを構える。

互いにライフルを撃ち、互いにビームをかわす。

 

シンは、ライフルからサーベルに持ち替える。

カオスがこちらに向けてライフルを連射してくるが、全てかわし、カオスに接近していく。

 

 

「くっ…、このっ!」

 

 

カオスも、サーベルを持って迎え撃ってくる。

二つのサーベルがぶつかり合い、火花が飛び散る。

 

 

「何でなんだよ…、何で…!」

 

 

シンは、腕に力を込めながらうめく。

 

わからない。なぜなのだ。

 

 

「何でこんなこと、平然とできるんだよ!」

 

 

まわりは焼け野原。生存者など到底望めない。

どうして、こんなことができるのだ。

 

シンの中で、何かが弾けた。

感覚が冴えわたり、頭の中がクリアになる。

 

シンは、鍔迫り合いで動きを止めているカオスに蹴りを入れる。

カオスが体制を崩しながら後退するが、シンは逃がさない。接近して追撃を加えようとする。

 

 

「くそっ」

 

 

カオスは、兵装ポッドをこちらに向けてビームを撃ってくる。

シンは、そのビームを急降下することでかわす。

 

そして、それは一瞬の出来事だった。

 

スティングは、インパルスの追撃を防ぐことに気が向けられていた。

兵装ポッドのビームを撃ってから、一瞬でインパルスが視界から消えたのだ。

追撃はかけてこない。なら、落としたか?

いや、それはない。手ごたえがなかったのだ。

 

そこまで考えた時、コックピットにアラートが鳴り響いた。

スティングは、勘に任せて機体を動かす。

 

視界が、光に覆われた。

それしか、スティングにはわからなかった。

 

気付けば、スティングは強烈な衝撃に襲われ、意識が闇に堕ちていた。

 

シンは、落ちていくカオスを眺めてから、機体をデストロイに向けた。

 

カオスの真下に潜り込んだシンは、その後サーベルでカオスを斬り裂いたのだ。

コックピット直撃は免れてしまったが、もうカオスは戦闘不能だろう。

 

デストロイは、エキシスター、クレアと交戦している。

クレアは、二つの手のような武装に追い回されている。

その武装は、ビームを放ってクレアを襲う。

 

さらにデストロイ本体からは無数で巨大な砲撃が放たれる。

クレアはかろうじてかわしているが、デストロイが有利な風に見えてしまう。

 

 

「クレア!」

 

 

シンは、デストロイに向かっていった。

エキシスターの体制が崩れかけたのだ。

 

シンはサーベルを抜いてデストロイの懐に潜り込む。

デストロイは、インパルスの接近への反応が遅れてしまった。

 

シンは、そこを利用してサーベルを一閃する。

 

 

「クレアは二人の援護を!こいつは俺がやる!」

 

 

「アスカさん…?」

 

 

クレアは、急に現れたシンの技量に驚きを見せていた。

いくら不意を突かれたからとはいえ、自分が劣勢だったデストロイに、こうも簡単に損傷を与えたのだ。

 

考える。ここは、シンに任せていいだろう。

彼ならやってくれる、そんな気がするのだ。

 

 

「…わかりました。気を付けてください」

 

 

クレアが、セイバーとエクステンドが交戦している方向に機体を向けた。

シンは、デストロイと対峙する。

 

 

「…こいつが…、こいつが!」

 

 

このデカ物が、この惨状を引き起こした。

こいつが…、こいつが!

 

シンは、デストロイに向かっていく。

デストロイもまた、インパルスに向けて足を踏み出した。

 

シンは、知らない。

この戦いの末に、悲劇が訪れてしまうことなど、シンは知る由もない。

 

 

 

 

 

「くっ…、ステラ!」

 

 

ネオはステラに声をかける。

インパルスがデストロイのコックピット部分をサーベルで薙いだのだ。

 

幸い、パイロットであるステラには怪我はないようだが、何度も何度も悲鳴が聞こえてくる。

 

ネオは、ビームソードで斬りかかってくるグフを抑えながら戦況を見渡す。

 

デストロイはインパルスと交戦、エクステンドはセイバーとエキシスターに囲まれている。

カオスはシグナルロストだ。スティング自身もどうなっているかわからない。

 

何度か互いに剣をぶつけ合い、同時に後退する二機。

ネオはライフルに持ち替え、グフに向けて撃とうとするが、グフはその前にウィップを腕に巻き付けてきた。

ウィップに電流が流れ、ネオは何とかウィップの拘束から逃れたがライフルが電流によって爆散する。

 

 

「ちっ、くそ!」

 

 

ネオはお返しに、と腰から取ったMk315スティレットを投げつけた。

グフは、かわす間もないため、シールドを構えるが、貫入弾はシールドに食い込み、微塵に吹き飛ばした。

 

 

「ちぃっ!?」

 

 

衝撃に押され、後退させられてしまうグフ。

そこに追撃をかけようと、サーベルを抜いて斬りかかるネオ。

 

 

「こっの…!」

 

 

ハイネは、こちらに向かってくるウィンダムに向けてビームガンを連射する。

苦し紛れの攻撃だったが、さすがにフリーダムのような神業は不可能だったのか、ウィンダムが動きを止める。

 

その間にハイネは機体の体制を立て直す。

そして、もう一度斬りかかってきたウィンダムを迎え撃った。

 

二機は剣をぶつけ合いながら何度もすれ違う。

ライフルを失ったネオは、遠距離戦になると圧倒的に不利になってしまう。

何とか近距離戦に持ち込みたい所なのだが。

 

 

「そらっ!」

 

 

ハイネは、そこを利用する。

ビームガンを連射してウィンダムを狙う。

 

ウィンダムは為す術なく後退していく。

何とかこのアドバンテージを活かしていきたいが、相手もかなり上手い。

 

一気に攻め込んで倒すという手をどうにも取りづらい。

 

 

「ま、何にしてもここでお前を落としてやる!」

 

 

ハイネは、ビームソードを構えて突っ込んでいった。

 

 

 

「くっ!」

 

 

レイは、エクステンドとの鍔迫り合いから弾き飛ばされてしまう。

どうにも、機体性能のせいか力で押されてしまうのだ。

 

レイは、弾かれるとすぐに機体をMA形態に変形させてその場から離脱する。

レイが先程までいた場所を、砲撃が横切る。

 

 

「ちっ…」

 

 

スウェンは、コックピットの中で舌打ちした。

今の砲撃で相手を貫こうとしたのだが、上手くいかなかった。

 

ならば、とスウェンは対艦刀でセイバーに斬りかかっていく。

セイバーが、MA形態からMS形態に変形し、ライフルをこちらに向けて撃ってくる。

 

スウェンは連射されるビームを潜り抜けながらかわし、セイバーに接近していく。

対艦刀を、セイバーに向かって振り下ろす。

 

 

「っ!」

 

 

レイは、ギリギリのところでシールドを割り込ませて対艦刀を防ぐ。

だが、力で徐々に機体が押され始めた。

 

サーベルで反撃したいところなのだが、どうにも機体の体制が悪くそれができない。

 

何とか力で抑え込もうとしたのだが、ついに機体が押し切られてしまう。

体制が完全に崩れ、エクステンドがとどめを刺そうと対艦刀を振り下ろしてくる。

 

レイは、それを睨むことしかできない。

 

 

「これで…っ!?」

 

 

スウェンは、対艦刀でセイバーを斬り裂こうとしたのだが、コックピットにアラートが鳴り響いた。

すぐに機体を横にずらす。

 

ビームが機体すれすれのところを横切っていく。

 

カメラを切り替えて見ると、こちらに向かってくる機体、エキシスターが。

エキシスターはさらに、腰の収束砲を展開し放ってくる。

 

二本の砲撃をスウェンはかわし、こちらも両肩の収束砲を展開してエキシスターに向けて放つ。

エキシスターも、再び二本の砲撃を放つ。

 

互いが放った砲撃がぶつかり合い、視界がフラッシュする。

 

スウェンは、眼前を覆う煙を突っ切り、エキシスターを襲おうとするのだが、背後から襲い掛かるセイバーがそれをさせなかった。

セイバーは二本のサーベルを振り下ろし、エクステンドを切り刻もうとする。

 

スウェンは、両腰のレールガンを展開し、後方に向けた。

 

 

「!」

 

 

レイは、展開されたレールガンに気づき、機体を翻そうとするが、間に合わない。

レールガンは放たれ、セイバーは衝撃により吹き飛ばされる。

 

 

「くっ!」

 

 

クレアがサーベルでエクステンドに斬りかかっていく。

スウェンも、対艦刀を振って迎え撃つ。

 

サーベルと対艦刀がぶつかり合う。

 

クレアは、両腰の収束砲を展開させる。

スウェンは、すぐに機体を後退させ、警戒するがそれはクレアの囮だった。

 

クレアは後退したエクステンドに向かって再び接近。

砲撃を放ってくるという予測が外れたスウェンは、咄嗟のことで反応が出来なかった。

 

クレアはサーベルを振り上げ、エクステンドの左腕を斬りおとす。

 

 

「くっ!」

 

 

さらなる追撃に備えるスウェンだったが、エキシスターが後退していく。

疑問に思い、動きを止めてしまったが、何度目か、コックピットにアラートが鳴り響く。

 

セイバーが、再び背後から斬りかかってきたのだ。

今度は、レールガンを展開する時間はない。

 

無理やり機体の軌道を変えようとするスウェン。

そのおかげか。コックピットの損傷は免れたが、機体の片腕、片足がフライトユニットごと斬りおとされてしまった。

 

機体が重力に従って落ちていく。

 

 

「後は、あのデカ物とウィンダムだけか」

 

 

「そうですね。ウィンダムはハイネ一人でも問題なさそうですし、私たちはシンの援護に行きましょう」

 

 

シンとクレアは、機体をデストロイに向ける。

 

戦いは、当初の想像とは外れ、圧倒的ミネルバ側有利で進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE32 崩れる巨人

今回は短いです


「「はぁあああああああああああ!!!」」

 

 

降りかかる無数のビームを掻い潜りながら、シンはデストロイの懐に潜り込んでいく。

そして、厄介な胸部にある砲口を破壊しようとサーベルを振り抜こうとする。

 

だが、今度はステラの反応も早かった。

リフレクターを張り、サーベルを防ぎきる。

 

 

「ちっ!」

 

 

シンは舌打ちしながら機体を後退させる。

この機体の懐に居続けるなど、愚かでしかないのだ。

 

物量で押しつぶされる前に、距離を離さなければならない。

 

デストロイが、胸部の三つの砲門、円盤上部の砲塔をインパルスに向け、火を吹かせる。

シンは、機体を翻し、砲撃の間に機体の位置を置いてかわす。

それと同時に、再びシンはデストロイへと機体を接近させる。

 

だが、デストロイは両腕部を射出し、インパルスを囲む。

シンはデストロイへの接近を中止し、シュトゥルムファウストから放たれるビームをかわしていく。

 

 

「くそっ!」

 

 

二方向からひっきりなしに放たれるビームをかわしながら、シンはライフルを撃って反撃しようとするが、デストロイはリフレクターでビームを弾いていく。

わかってはいたが、相手の隙を確実に突かなければ勝てない。

 

だがそれよりもまず、このまわりを飛び回るシュトゥルムファウストを何とかしなければ。

シンはライフルを向けて引き金を引く。

 

 

「なっ…!?」

 

 

シンは、驚愕で目を見開く。

ビームが命中したかに思えたその瞬間、腕のまわりにリフレクターが張られ、ビームを防いでしまった。

 

 

「くっそ!めんどくさいことを!」

 

 

まさか、分離する武装にまでリフレクターが装備されているとは思わなかった。

 

どうするか…、考えている中、デストロイが攻勢に出る。

胸部、円盤上部の計五つの砲門を同時に開放。

 

シュトゥルムファウストのビームをかわし続けるインパルスに向けて砲撃が放たれる。

 

 

「っ!」

 

 

シンは、無理やり機体の軌道を変えて放たれた砲撃をかわすが、無理な操縦のせいで機体の体制が崩れてしまう。

 

 

「もらったぁあああああああああああ!!!」

 

 

デストロイが、インパルスにできた隙を突こうと、再び五つの砲門を開放させる。

 

デストロイのビームは、従来のモビルスーツの出力とは比べ物にならないほど強力だ。

シールドで防ごうとしても、シールドが破壊されてしまうのは目に見えている。

 

かわすしかない。シンは体制が崩れていながらも、さらに機体を翻そうとする。

全身に強烈なGが襲い掛かるが、それを無視して機体を翻す。

 

何とかかわしきるが、体制を整えようともがくシンにシュトゥルムファウストが襲い掛かる。

だが、分離武装だからか、出力は圧倒的に低い。

 

シンはシールドを構え、向かってくるビームを防ぎ、背後から放たれたビームはサーベルで弾く。

 

デストロイは三度五つの砲門を開放させる。

だが、その時にはシンは機体の体制を整えていた。

 

シンは機体を急上昇させてビームを回避する。

 

二機の激闘は、さらに激しさを増していく。

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、ステラ…!」

 

 

ネオが、放たれる弾丸を回避しながらインパルスと交戦しているデストロイの方を見る。

デストロイは、インパルスを追い込んでいるようにも見えるが、インパルスも上手いタイミングでデストロイの懐に潜り込んできている。

長期戦になれば、恐らくデストロイは不利になる。

デストロイのスピードはないと言っても等しい。

インパルスがデストロイの動きに慣れ、対応してくるようになってしまえば、間違いなくパイロットの腕からしてそう時間をかけずにデストロイを撃破してしまうだろう。

 

共に出撃した、カオスとエクステンドは落とされてしまった。

残ったのは、自分とステラだけ。

 

早くステラの援護に行きたいのだが、グフはしぶとく立ちはだかってくる。

 

 

「行かせねえって!」

 

 

ネオが、デストロイの方に機体を向けるがグフが回り込んでくる。

 

 

「ちっ!」

 

 

舌打ちしながら、ライフルをグフに向けて引き金を引く。

グフは、放たれたビームをビームソードで弾き、ウィンダムに向かっていく。

 

 

「このっ…、いい加減にしろ!」

 

 

言ったってどうしようもないことはわかっている。

だが、そう叫びたくなってしまうのだ。

 

早く、ステラの援護に行きたい。

早くしなければ、手遅れになってしまったら、そんな恐怖がネオを襲う。

 

 

「何だ…?」

 

 

ネオの心の乱れが出たのか、ウィンダムのわずかな動きの鈍りをハイネは見抜く。

ウィンダムはサーベルを構えてこちらに向かってくる。

 

ハイネは、ビームガンを連射してウィンダムを牽制。

当たらない、ことはわかっている、ウィンダムの動きが遅くなったところですぐにビームソードに持ち替える。

ハイネもまた、ウィンダムに向かっていってビームソードを振う。

 

互いの剣がぶつかり合い、鍔迫り合い…、その時だった。

ウィンダムのサーベルを持っている方の腕が爆散した。

 

 

「っ!?」

 

 

「なにっ!?」

 

 

驚愕したネオは、カメラを切り替えて辺りを見渡す。

横から、ライフルをこちらに向けて向かってくるエキシスターの姿。

 

ネオは歯をぎりっ、と鳴らせる。

 

グフ相手でも手こずってしまっているというのに、増援エキシスターときた。

さらに、逆方向からはセイバーが来ている。

このままでは、まずい。

 

まずはグフを何とかしなければ。ネオはサーベルを構えてグフに突っ込んでいく。

だが、この時のネオは焦っていた。

 

だからこそ、ネオは片腕を失っているというハンディを失念してしまった。

 

仲間が落とされてしまった。残ったのは自分とステラだけ。

ステラもピンチだ。自分が何とかしなければ。

 

そんな焦りが、ネオにハンディを失念させた。

 

 

「甘いぜっ!」

 

 

ハイネは、機体の体制を下げて一文字に振るわれるサーベルをかわす。

そこから、ビームソードを振り上げてウィンダムを狙う。

 

だが、ネオとて歴戦のパイロット。

そうやすやすとやられるわけもなく、グフの斬撃をかわす。

 

そして、空振りしてしまったグフの隙を狙い、もう一度突っ込もうとする。

その上で、まわりの二機の動きを気にしながら。

 

セイバーが、こちらにライフルを向けてくる。

ネオは、すぐさま機体を横にずらす。

 

セイバーの攻撃はかわしたが、すぐにエクステンドが追撃に接近してくる。

サーベルで斬りかかるエクステンドに対し、ネオもまたサーベルを振う。

 

サーベル二本が一度ぶつかり合い、すぐさまネオは機体を後退させる。

 

三機相手に、上手い立ち回りを見せるネオ。

だが、それもここまでだった。

 

さすがのネオといえども、三対一、それも量産機であるウィンダムでハイネたちと戦うなど無謀なのだ。

 

 

「もらった!」

 

 

ハイネがいつの間にかウィンダムの背後に回り込んでいた。

ハイネは、ビームソードを振り下ろしてウィンダムを斬り裂く。

 

 

「っ!」

 

 

ネオの反応は早かった。

そのおかげか、コックピットには損傷はなかったものの、フライトユニットが裂かれ、ウィンダムは墜落していく。

 

ネオは、体にかかる重力を感じながらインパルスと交戦しているデストロイを見た。

 

 

(…ステラ、すまない)

 

 

心の中で謝罪する。ステラを助けてあげることは、できない。

いくらデストロイに乗っているステラでも、彼ら四機を相手取ることはできないだろう。

 

ステラは、間違いなく落とされてしまう。

ただ、行きたいと願う少女を。

誰よりも、死を怖がってしまう少女を。

 

 

「…くそ」

 

 

助けられない、救うことが出来ない。

 

心の中に悔いが滲み出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっの!」

 

 

放たれるビームをかわし、かわしきれなかった一条のビームをサーベルで弾いてデストロイの懐に潜り込んでいく。

 

 

「いい加減、落ちろぉおおおおおおおおお!!」

 

 

ステラはいら立ちを口から吐き出しながら胸部の砲口に火を吹かせ、スーパースキュラを発射させる。

 

先程からインパルスが懐にむぐり込み、そしてデストロイがインパルスの接近を防ぎ、そしてまたインパルスが接近してくる、

そんなパターンが固定化された戦いが繰り返されている。

 

そしてまた、インパルスはデストロイから距離を取り、砲撃を回避した。

ステラは追撃にミサイルを発射させる。

 

だが、インパルスはミサイルを全て回避し、迎撃する。

ならばとシュトゥルムファウストをインパルスに向かわせるが、放たれるビームをひらりひらりとインパルスはかわしていく。

 

 

「こ…っ、え?」

 

 

いら立ちが増していき、再び叫びそうになってしまったその時だった。

 

赤紫のウィンダムが、ゆっくりと落下していった。

 

あの機体には、ネオが乗っていたはずだ。

ネオが…、殺された?

 

 

「…あ…、あぁっ…!」

 

 

殺された。ネオが殺されてしまった。

 

スティングはどうした?

 

いない、スティングも殺されてしまった。

 

スウェンは?

 

いない。

スウェンも殺されてしまった。

 

皆、殺されてしまった。

皆、死んでしまった。

 

ステラは一人になってしまった。

ステラも、死ぬ?

 

瞬間、ステラに今まで感じたこともない恐怖が襲う。

 

 

「いやぁああああああああああああああ!!!」

 

 

接近してくるインパルスのことなど、今のステラには見えていなかった。

デストロイの全砲門を開き、無差別に発射させる。

 

デストロイから放たれた砲撃が、ミサイルが、壊滅状態である都市を更に破壊してく。

 

 

「なっ!?」

 

 

シンは、いきなり暴れはじめたデストロイに驚きながらも、大量のビームをかろうじてかわしていく。

デストロイから距離を取りながら、シンはデストロイの様子を見る。

 

 

「何だ…、いきなりどうしたってんだよ!」

 

 

先程までは、自分を落とそうと、自分だけに集中して砲火を浴びせてきたはずだ。

それなのに、いきなりこの無差別攻撃だ。

 

何なのだ。

何だというのだ。

 

 

「どうして…、どうしてそんなに殺したいんだよ!壊したいんだよっ!!」

 

 

シンの心にさらに怒りが燃え上がる。

 

放たれる砲撃の間を縫って行きながらデストロイに接近していく。

サーベルを手に取り、先程斬り裂いた胸部装甲に再び斬撃を入れようと振るおうとする。

 

 

「…え?」

 

 

その瞬間、見た。見えてしまった。

 

裂かれた装甲の奥。

そこは、コックピットになっていた。

 

そして、そこには当然一人のパイロットが乗っている。

その姿を、シンは見た。

 

涙を流し、恐怖に震え、こちらを見てくる少女の姿。

 

 

「すて…ら…?」

 

 

少女の名は、ステラ。

シンにとっても小さくない出来事。

 

絶対、会いに行くと約束した少女。

綺麗な金色の髪を揺らして踊っていた少女。

その光景は、幻想ではないかとすら思ってしまうほど綺麗だった。

 

だが、今はどうだろうか。

通常よりもどこか重そうなパイロットスーツに身を包み、肩や腕には何か破片のようなものが刺さっている。

 

…誰だ。誰がステラを傷つけた?

 

そんなこと、考えずともシンには分かっていた。

 

自分だ、自分がステラを傷つけた。

守ってあげたいと。また会うと約束した人を、自分は傷つけてしまったのだ。

 

目の前の巨人が、こちらに向かってくる。

シンは、そんな姿を呆然と見ていた。

 

もう、何がなんだかわからなくなってしまった。

何のために戦えばいいのか。

何を撃てばいいのか、わからない。

 

 

「シン!」

 

 

そんな時、通信を通して鋭い声が響いた。

シンの視界の端を、赤い影が横切っていく。

 

セイバーが、サーベルを手にデストロイへと斬りかかっていった。

だが、デストロイはリフレクターを張って斬撃を防ぐ。

 

 

「甘いです」

 

 

そこで、終わりではなかった。

背後から、エキシスターが両腰の収束砲を展開し、デストロイを狙っていた。

 

 

「っ!」

 

 

シンに、緊張が奔る。

 

エキシスターが砲撃を放てば、戦いは終わる。

大量殺戮兵器の破壊が達成できる。

 

だが、その中にいる少女はどうなる?

ステラは、どうなる?

 

あんなに死ぬことを怖がっていた少女が…、殺されてしまうのか?

 

 

「や…」

 

 

そんなのは、ダメだ。認めてたまるか。

守ると決めたのだ。また、会うと約束したのだ。

 

絶対に、守る。

約束を、守る。

 

 

「やめろぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 

シンは、叫んだ。

瞬間、エキシスターの動きが止まる。

 

クレアは何が起こったのかわからなかった。

シンが、叫んだ。

あの兵器を破壊しようとした、自分を?

 

 

「アスカ、さん?」

 

 

「やめてくれ!あれには…、あれにはっ!」

 

 

クレアだけではない。

戦場に出ているレイも、ハイネも動揺していた。

 

 

「ステラ!俺だ!シンだよ!」

 

 

シンは、味方機の動きが止まったのを見ると、ステラに対話を持ちかける。

だが、ステラには通用しない。

 

ステラが見えるのは、自分を殺そうとする悪魔が、ゆっくりと近づいてきている所だけ。

 

 

「いやっ!いやぁああああああああああああ!!!」

 

 

こわい…、コワイ!

 

もう、ステラには恐怖しか感じられない。

恐怖が強すぎて、相手と戦おうとする意志すら浮かんでこない。

 

ただ、泣き叫ぶ。

誰かが、助けに来てくれることを信じて。

 

誰かが…、守ってくれることを信じて。

 

 

「大丈夫だステラ!君は死なないから!」

 

 

シンは、何度も何度も声を張り上げる。

声が届くことを信じて。

 

通信を全周波に変える。こうすれば、敵機であるあの機体にも通信が確実に届くはずだ。

 

 

「いや!いや!いや!!!」

 

 

ステラの叫びが聞こえる。泣き叫ぶステラの声が、聞こえる。

 

 

「君は、俺が守る!!!」

 

 

「っ」

 

 

まも…る…

 

守る

 

その言葉が、ステラの心に明かりをともした。

 

まもる、そうだ。守るとは、死なないこと。

 

 

「シン…?」

 

 

頭の奥、まるでずっと過去にあったかのように感じる記憶。

抱き締めてくれた腕、温かく感じた。

 

何度も、守ると言ってくれた。

また、会いに行くと言ってくれた、シン。

 

シンが、いる。

 

 

「シン…」

 

 

ステラの顔に、心からの安らぎの笑顔が浮かぶ。

 

もう、大丈夫だ。ステラは、死なない。

シンが、守ってくれるから。

もう、何も怖いものは、ない。

シンが、守って…

 

 

「…っ!?」

 

 

ステラは、機体の裂け目から覗いた赤い影に息を呑んだ。

すぐに周りを見渡す。

 

橙の機体、白と紫の機体。

全部、ネオが言っていた怖いもの。

 

そして、橙のはネオを殺し、赤いのは、自分を殺そうとした…。

 

ころ…す?

自分は、殺されてしまう?

 

 

「あ…。あ、あぁ…!」

 

 

弱弱しく首を振るステラ。

 

嫌だ、死にたくない。

溶けた心が再び凍り付いてく。

 

 

「ステラ…?」

 

 

様子がおかしいことを、シンは感じ取っていた。

先程、自分の名を呼ぶ声が、まったく聞こえなくなってしまった。

 

どうした、ステラ?

 

シンが、心の中でつぶやいたその瞬間、消えていたはずのデストロイのツインアイに、再び光が灯った。

ぎくしゃくと、巨体がこちらに向かって動き始める。

 

 

「ステラっ!?どうしたんだ、ステラっ!!」

 

 

声が、届いたはずだった。ステラを、止めた、守った、そのはずだった。

それなのに。

 

胸部に並ぶ三つの砲口に火が灯る。

 

 

「くっ!」

 

 

シンは堪らず機体を急上昇させる。

シンが先程までいたところを、三つの砲撃が横切っていく。

 

 

「ステラ…!」

 

 

止まっている暇はなかった。

胸部の砲口は、再び臨界を始めた。

 

これでは、また、ステラは…、町を壊し、殺していく。

 

レイたちは、デストロイの発する大量のビームにより、近づけずにいる。

自分、だけ。ステラを止められるのは、自分だけ。

 

 

「く…、くそぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

シンは、咆哮を上げながら機体を駆った。

 

スラスターを吹かせ、一気にデストロイに肉薄する。

そして、もう発射寸前の胸部方向に対し、シンはサーベルを抜いて、突き刺した。

 

さらに、シンは間をおかずにライフルを向け、引き金を引いた。

 

殺させたく、なかった。

ステラにこれ以上、壊してほしくなかった。

 

何よりも死を恐怖する少女に、死の恐怖を与えてほしくなかった。

 

シンは、すぐに機体を後退させる。

シンがサーベルを突き刺した砲口の場所から、光が迸る。

 

爆発。巨人が、ゆっくりと膝を折り、崩れ落ちていく。

仰向けに倒れ、胸部の砲口から一筋の砲撃を空に向けて発した。

 

それが、シンにはまるで巨人の叫びのように見えた。

 

そんな考えも、一瞬。

シンは、機体を倒れた巨人のもとへと向かわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷たい。

 

冷たい。

 

でも、温かい。

冷たいのに、温かい。

 

 

「ステラ…」

 

 

…誰かが自分を呼ぶ声がする。

 

 

「ステラ…!」

 

 

懐かしい声…。

 

ネオ?違う。

アウル?違う。

スティング?違う・

 

 

「ステラ…!」

 

 

泣いてる…。

どうしても、この声の主に会いたい。

 

ステラは、遠い感覚を元に戻そうとする。

そして、瞼をゆっくりと開けた。

 

目の前には、真紅の瞳からぽろぽろと滴を零す少年の顔。

 

 

「し…ん…」

 

 

とても、会いたかった。

シンが、そこにいた。

 

ステラは、そっと微笑む。

 

 

「会いに…来た…?」

 

 

「っ!」

 

 

シンが、会いに来てくれた。

あの時の約束を、シンは守ってくれた。

 

ステラは、とても重く感じる腕を必死に上げる。

そして、掌をシンの頬にそっと添える。

 

 

「そう…、そうだよステラ…。会いに来た…、だから…っ!」

 

 

頷きながら、シンは言う。

だが、どうしてだろう。涙がさらに勢いを増して落ちていく。

 

どうして、シンは泣いてるの?

ステラにはわからない。

 

シンが、ステラの手を強く握りしめる。

それなのに、ステラの手には温もりも、感触すらわからない。

 

 

「シン…ステラ……、守るって…」

 

 

苦しい。だんだん、息もできなくなってきた。

 

それなのに、怖くない。

だって、シンが守ってくれるから。

 

守って、くれるから。

 

 

「ステラ!」

 

 

シンの顔がまるで苦痛を感じているかのように歪む。

 

そんな顔、しないでほしい。

そんな悲しい顔、しないでほしい。

ステラも、なんだか悲しくなってくるから。

 

だから、泣かないで…。

 

言葉に乗せて、伝えようとするのだが、口が上手く動かない。

 

 

「シン…」

 

 

それでも、絶対に伝えたい気持ちがある。

こんな気持ち、初めて感じたのだ。

 

ネオと話しているときにも感じたことのない暖かさ、温もり。

シンと話すとき、どこか高鳴る胸。

今まで感じてきた何よりも心地よかった。

 

幸せ、そんな思いを乗せて、ステラは言う。

 

 

「すき…」

 

 

言い切ったその瞬間、再び感じる遠のく感覚。

シンが、遠くなっていく。何もかもが、遠くなっていく。

 

だが、温かいぬくもりはそのまま。

 

怖くない。

シンが、いてくれるから。

 

暖かい。

 

幸せ…。

 

 

 

 

 

「…すて…ら?」

 

 

ステラの手が、滑り落ちた。

ステラの瞼が、落ちている。

 

 

「ステラ!」

 

 

わかっている。

ステラの目は、もう開かないということはわかっている。

 

だが、少女の名を叫ぶ。

守れなかった。それどころか、手にかけてしまった。

 

彼女にこれ以上、手を血に染めてほしくなかった。

死を怖がっている彼女に、死を撒き散らしてほしくなかった。

 

それでも、シンが彼女との約束を…、守れなかったことには変わらない。

 

 

「…」

 

 

シンは、ステラの体を抱える。

 

先程まで、ずっと暴れ続けていたとは信じられないほど、弱弱しい体を。

 

シンは、この少女を救えなかったということを心に刻みながら、立ち上がる。

そして、ステラを抱えながらインパルスに乗り込む。

 

 

『シン!シン、どこへ行くの!?』

 

 

グラディス艦長の声が聞こえてくる。

だが、シンはその声を無視してインパルスを飛び上がらせる。

 

少女を、もう、怖い目に遭わせないために。

 

そんな場所へ、連れていくために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ、やっと地球に降りれたか」

 

 

シャトルから、二人の男性が降りてくる。

そんな二人を迎える、たくさんのザフト兵たち。

 

その中の一人、白い服に身を包んだ老年の男性が一歩踏み出して礼を取る。

 

 

「お待ちしておりました」

 

 

二人の男性も、同じく礼を取って返す。

 

 

「ウィラード隊隊長、デュノル・ウィラードです」

 

 

ウィラードが二人の青年に自己紹介をする。

 

そして、二人の青年は礼を解いて、その名を告げる。

 

 

「特務隊、ロイ・セルヴェリオスであります」

 

 

二人の内の一人、赤い髪の男が言い、そして…。

 

 

「特務隊、アレックス・ディノであります」

 

 

紺色の髪、翠色の瞳の男もまた、その名を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ステラは、原作通り…
違うのは、手にかけてしまった人物…

あれ…、シン、大丈夫だよね…?(困惑)


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PHASE33 迫る悪夢

投稿です。
え?早い?

課題の途中ですが、投降します。
そして、パワプロ熱は少しの間冷めると思います。

何か急にフリーズして、栄冠ナインの約半年のデータが吹っ飛びました。
途轍もなく失望しました。


シンは、インパルスを岸辺に降り立たせる。

ここは、ベルリンからほど近い、小さな湖だ。

 

灰色の雲に包まれた空から、ひらひらと雪が舞い降りてくる。

そんな中、シンはインパルスの腕を伸ばした状態にしてコックピットから降りた。

 

インパルスの腕の上を歩き、開いた状態にした掌の上に立つ。

シンの腕の中には、安らかな表情で、まるで眠っているように瞼を閉じている。

 

ここなら、大丈夫だ。

ここなら、きっと、ステラを怖い目に遭わせたりしない。

 

 

「…」

 

 

シンは、そっとステラを抱える腕に力を込める。

だが、伝わってくるのは冷たい感覚だけ。

 

あの時、ステラを抱き締めた時に感じた温もりは、すでに消えてしまった。

温もりを奪ったのは、自分。

 

 

「…ごめん、ステラ」

 

 

謝罪の言葉をつぶやくシン。

 

 

「でも…、もう大丈夫」

 

 

シンは、ステラのパイロットスーツの中に、桃色の貝殻を入れる。

これは、ステラがシンにくれたもの。

無邪気な笑みを浮かべ、宝物をくれる子供のような笑みを浮かべて、シンに渡してくれたもの。

 

 

「もう…、君を怖い目に遭わせるものはないから…」

 

 

シンは、そっとステラの体を水に浸す。

 

 

「だから…、安心して…」

 

 

腕を、ステラから離す。

 

 

「静かに…、ここで…」

 

 

ステラが、ゆっくりと水の中に沈んでいく。

同時に、シンの瞳から滴が零れ落ちた。

 

ぽたぽたと落ちた滴が、水面を揺らす。

 

 

「…ごめん、ステラ…ごめん…!」

 

 

シンは、途切れ途切れになりながらも謝罪の言葉を吐く。

 

守れなかった。

救えなかった。

 

 

「約束、したのにっ!俺は…っ!」

 

 

悔しい。

堪らなく、悔しい。

 

ステラを殺すという選択しかできなかった自分が憎い。

ステラを殺すしかできなかった、弱い自分が憎い。

 

 

「…」

 

 

シンは、じっと水面を見つめる。

もう、沈んでいくステラの姿は見えなくなってしまった。

 

それでも、シンは水面を見つめる。

ステラが沈んでいった場所を、見つめる。

 

 

「…強くなる」

 

 

シンは、ぼそりとつぶやいた。

 

 

「強くなってやる」

 

 

強くなる。

そうすれば、もうこれ以上失うことはない。

 

仲間も、友達も、大切な家族も。

自分の弱さで失うのは、もう御免だ。

 

 

「…俺は」

 

 

シンは、涙で濡れた顔を上げた。

目のまわりは真っ赤に腫れ、それでもその瞳は決意に満ちていた。

 

 

「これ以上、失ってたまるか」

 

 

これ以上、大切なものを奪われたくない。

 

そのためなら、どんなものが相手でも戦う。

 

シンは、そう決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラは、自室でのんびりとベッドに寝そべっていた。

 

カガリがオーブに戻ると言った時は驚いたが、その意志に反する気はセラにはない。

自分たちが国を飛び出した目的も、もう果たした。

ここでオーブに戻るのが一番のタイミングだろう。

 

そんな考えをしながらセラはごろごろと寝返りを打つ。

娯楽機器は、全て置いて行ってしまった。

というか、ほとんどユニウスセブン落下事件によって壊れてしまったのだが。

 

ということで、セラは今、暇なのだ。

 

 

「…よし」

 

 

セラは上半身を起き上がらせ、ベッドから降りる。

部屋を出て、セラは艦橋に向かうことにした。

 

キラもカガリも、恐らく艦橋にいるだろう。

ミリアリアもいるだろうし、ということはトールもいる。

 

シエルだが…、検査をして異常なしと判断された。

今は、艦橋でクルーたちの手伝いをしている。

 

 

「セラ君?」

 

 

セラは、艦橋の扉を開け、中に入っていく。

初めにマリューがセラの存在に気づき、セラに目を向ける。

 

マリューの声を聴き、艦橋にいたクルーたちがセラに視線を向けた。

セラの予想通り、キラ、カガリ、トールも艦橋の中にいた。

 

と、セラはシエルの視線に気づく。

シエルは、セラが視線を向けた直後に、目を逸らす。

 

医務室で話をしてから、シエルとはほとんど話をしていなかった。

いや、正確には医務室で喧嘩をしてから、だ。

 

セラは、何もしないでただじっとすることはできない。

シエルは、セラにどうしても戦ってほしくない。

二つの考えがぶつかり合ってしまったのだ。

 

キラたちが間に入り、その場は収まったのだが二人はその日から声を掛け合うことをしなかった。

 

 

(…何とか話をしたいんだけど)

 

 

ぽつりと心の中でつぶやくセラ。

 

どうにか、シエルと言葉をやり取りしたかった。

そして、それはシエルにとっても同じだろう。

 

だが、どうにもきっかけをつかむことが出来ない。

どうにも気まずくなってしまうのだ。

 

 

「…っ!?プラントより、緊急メッセージです!」

 

 

「え!?」

 

 

瞬間、チャンドラが声を発した。プラントの、緊急メッセージ。

 

デュランダル議長が、何かをしようとしている。

すぐさまセラは予感した。

 

 

「映像、出します!」

 

 

チャンドラが機器を操作し、モニターにその放送を流す。

画面にデスクについているデュランダルが映し出される。

 

デュランダルは、少し間を置いた後、その口を開いた。

 

 

『みなさん、私はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです』

 

 

名乗るデュランダル。

それにかぶせてチャンドラが告げた。

 

 

「あらゆるメディアを通し、全世界に向けられているようです」

 

 

クルーたち全員が不審な表情になる。

そして、シエルもどこか複雑そうな表情で目をモニターに向けていた。

 

 

『我らプラントと、地球の方々との戦争状態が解決しておらぬなか、このようなメッセージをお送りすることをお許しください。ですが…、どうか聞いていただきたいのです』

 

 

一体、何を言おうとしているのだろうか。

 

クルーたちは、デュランダルの次の言葉を待つ。

 

 

『私は、今こそ知っていただきたい。こうして未だ、戦火が収まらぬ理由…。このような戦争状態に陥ってしまった、その本当の理由を』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『各国の政策に基づく情報の有無により、ご存じない方もいらっしゃるでしょう』

 

 

同じころ、ミネルバにもこの放送は流れていた。

シンは、艦内のレクルームでその放送を見ていた。

 

隣にはマユ、後ろにはレイとルナマリアが同じようにデュランダルのメッセージを聞いていた。

 

 

『これは過日、ユーラシア中央部から西側にかけて、地球連合軍のモビルスーツが都市を侵攻しているときの様子です』

 

 

シンと同じように放送を見ている兵たちが、レクルームには溢れかえっていた。

 

兵たちの視線が画面に注がれる中、切り替わった画面はミネルバが出撃した、あのベルリンを映し出した。

 

 

『この巨大破壊兵器は、何の勧告もなしに突如攻撃をはじめ、逃げる間もない住民ごと三都市を焼き払っていきました』

 

 

暗黒の巨人が、砲撃を都市に浴びせている映像。

 

ザフトのモビルスーツを、まるで蟻を潰すかのように踏み進んでいく映像。

 

それら全てが、シンの胸を痛ませていく。

あの時の思いが、思い出されてしまう。

 

こんなものを流して、議長は何をしようというのだろうか?

 

 

『我々はすぐに、これの阻止と防衛戦を行いましたが…、残念ながら多くの犠牲を出すこととなってしまいました』

 

 

映像は、インパルスとデストロイの戦闘となっていた。

 

兵たちが、デュランダルの言葉を聞くと同時に、緊張した面持ちでその戦闘を見つめていた。

まるで、ヒーローショーを見ている子供の様に。

 

そんな様子が、シンは堪らなく嫌だった。

レクルームを出ようと画面から背を向ける。

 

 

「お兄ちゃん?」

 

 

マユが、様子がおかしくないシンに気づき声をかける。

シンは、マユの声に答える気になれない。

 

そのまま退室しようとしたのだが、次に流れてきたデュランダルの声に動きを止めた。

 

 

『侵攻したのは地球軍。されたのは地球の都市です。なぜこんなことになってしまったのか。連合の目的は、ザフトの支配からの解放ということですが…、こんなものが解放なのでしょうか?こうして住民を都市ごと焼き払うことが!?』

 

 

だんだんとデュランダルの語気が強くなっていった。

シンは、足を止めてそれに聞き入っていた。

 

シンのデュランダルに対するイメージは、いつ何時も冷静に。そんなイメージだ。

 

シンは、初めてデュランダルが感情をむき出しにしている所を見た。

シンだけではない。

この場どころか、全世界のほとんどの人たちが、こんなデュランダルは見たことはないのではないだろうか。

 

気付けば、シンは未だ言葉を続けるデュランダルに見入ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「何なんだこれはぁっ!?」

 

 

デュランダルのメッセージを聞いていたジブリールは、勢いよく立ち上がりながら叫んだ。

画面には、次々に地球軍が侵攻していった都市の映像が流れていく。

 

無残な遺体を運んでいく兵士たち。

母を呼びながら瓦礫の上を歩き続ける子供。

 

 

『あの連合の化け物が、何もかも焼き払ってったのよ!』

 

 

『敵は連合だ!ザフトが助けてくれたんだ!ウソだと思うなら見に来てくれ!』

 

 

連合の進行の被害者の人たちだろう、カメラに向かって必死に訴える。

映像を横目に、ジブリールは受話器を取って秘書に伝える。

 

 

「止めろ!放送をすぐにやめさせろ!早くするんだ!」

 

 

インターフォンにわめきたてるジブリール。

その時、彼に冷ややかな声がかけられた。

 

 

『一体、これはどういうことかね?ジブリール?』

 

 

ロゴスのメンバーの一人が、マルチモニターの画面からジブリールを見下ろしていた。

その男を、ジブリールはいら立ちに満ちた目で見遣った。

 

何だその眼は?

私はロード・ジブリールだぞ?

そんな眼で、私を見るな!

 

そんな思いを持っている彼を傍に、マルチモニターには次々にロゴスのメンバーが映し出されていく。

そして、それら全ての男が、ジブリールを冷たく見下ろしている。

 

 

『これは、君の責任問題だな』

 

 

メンバーの一人が、取り澄ました表情で言い放った。

その言葉を、ジブリールは歯を食いしばりながら聞く。

 

どうして、どうしてこうなってしまったのだ。

 

先日、デストロイの勇姿を見て上がっていた気分が今では完全に堕落してしまった。

 

デストロイを管理していたロアノークは、戦闘の末に落とされ、今では意識を失っている状態。

そんな中で責任逃れなどできるはずもない。

 

八方ふさがりだ。

何も、言い返すことが出来ない。

 

 

『しかし、デュランダルは何をしようというのかね…』

 

 

画面の中から語り掛けるコーディネーターの長を、ジブリールは憎々しげに睨みつける。

デュランダルは、怒りの仕草で机を殴りつけながら立ち上がる。

 

 

『なぜですか!?なぜこんなことをするのです!なぜ、我々は手を取り合ってはいけないのですか!?』

 

 

「ふざけるな!我々がなぜ、手を取り合えるというのだ!」

 

 

愚かな民衆たちは、間違いなくこのデュランダルの甘言に騙されてしまうだろう。

だが、自分は騙されない。

貴様の戯言になど、騙されてたまるか。

 

その時、ジブリールの目が見開かれた。

デュランダルを宥めるようにそっと腕に触れる少女。

 

ラクス・クライン。

 

 

『この度の戦争は、確かに私共コーディネーターの一部のものが引き起こした、大きな惨劇から始まりました…』

 

 

悲痛を感じさせる表情を浮かべながら、ラクス・クラインは語り始める。

 

 

『それを止められなかったこと…、それによって引き起こされた数多の悲劇を、私どもは忘れはしません。被災された人々の悲しみや苦しみは、今もなお深く果てないことでしょう。それがまた、新たなる戦いの引き金を引いてしまったのも、仕方のないことなのかもしれません。…ですが、このままではいけません!打ち合うばかりの世界には安らぎなどないのです!果て無く続く憎しみの連鎖の苦しみを、私たちはもう十分に知っているではありませんか!?』

 

 

画面には、今回の戦争で連合がプラントを攻撃した時の映像が流れる。

 

連合が繰り出した核ミサイルが、プラントて前で迎撃されていく。

斬り裂かれ、貫かれ散っていくモビルスーツ、戦艦。

それら全ては、ロゴスが作り出している。

 

 

『どうか、目を覆う涙を拭ったら、前を見てください!その悲しみを叫んだら、相手の言葉に耳を傾けてください!そうして私たちは、優しさと光の溢れる世界へ帰ろうではありませんか!それが、私たち全ての人たちの、真の願いのはずです!』

 

 

ラクス・クラインが訴えるのを、ジブリールは白けた目で見ていた。

だが、デュランダルが再び動き出した瞬間、ジブリールは身をすくめた。

 

何だ。次は、何の真似をしようというのだ?

 

 

『なのに、どうあってもそれを邪魔しようとする者たちがいるのです。それも、古の昔から』

 

 

ジブリールの中に、一つの懸念が奔る。

 

まさか、まさか。

 

 

『自分たちの利益のために、戦え!戦え!と、戦わない者は臆病だ。従わない者は裏切りだ!そう叫び、常に我々に武器を持たせ、敵を作り上げ、撃て、と指示してきた者たち。ユーラシア西側の惨劇も、彼らの仕業であることは間違いありません!』

 

 

ジブリールの背筋が凍りつく。

まずい、これは、まずい。

 

 

『ジブリール!』

 

 

老人がジブリールの名を叫ぶが、言われるまでもない。

すぐにジブリールはインターフォンに向かって喚く。

 

 

「早くやめさせろ!何をやっているのだ!早く!」

 

 

ジブリールの額を、汗が濡らす。

 

奴にこれ以上語らせてはならない。

奴が言っている<彼ら>とは、自分たちのことだ。

自分たち、ロゴスのことだ。

 

ジブリールの行動も早かったのだが…、デュランダルの方が、早かった。

 

 

『コーディネーターを忌み嫌うあのブルーコスモスも、単なる彼らの手ごまであるだけということを、皆さんはご存知でしょうか?』

 

 

愕然とモニターを見守るジブリール。

そんな中、デュランダルはさらに語り掛ける。

 

そして、画面には九つの顔写真が映し出された。

 

 

『その背後にいる彼ら…。常に敵を作り上げ、常に世界に戦争をもたらそうとする軍需産業複合体、死の商人ロゴス!彼らこそが、平和を望む我々の、真の敵です!』

 

 

ずらりと画面に並んだ写真は、全てロゴスのメンバー、それも幹部たちのもの。

そして、当然その写真の中には自分のものもある。

 

これだ。デュランダルがやりたかったものは、これなのだ。

ご丁寧に、写真の下には本人の実名まで載せられている。

 

デュランダルがしたかったことは、自分たちへの宣戦布告。

堂々と、戦いを仕掛けてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

オーブに戻る最中のアークエンジェルの艦橋内。

セラたちもまた、デュランダルの演説を聞いていた。

 

 

「これは…、まずいな」

 

 

未だデュランダルが言葉を発している中、カガリがぽつりとつぶやいた。

 

 

「提示された者中には…、いや、彼らと関わりのない国などないだろう。…議長は、一体どうしようというんだ」

 

 

まるでわからない、というように言うカガリだが、奥底ではわかっているだろう。

 

デュランダルは、ロゴスを滅ぼすつもりだ。

今、すぐに。

 

実際、デュランダルの言う通り、ロゴスは陰で戦争を操り、自分たちに利益が来るようにしている忌むべき組織であることは間違いない。

だが、彼らは世界中の国々に大きな支援を施していることも事実なのだ。

 

彼らの影響が大きくある今、ロゴスを滅ぼしてしまえば、間違いなく地球の国々は大きく混乱してしまう。

 

 

「…何で」

 

 

セラのつぶやきに、艦橋にいるクルーたちが視線を向ける。

 

 

「何で、今なんだ?ロゴスのことを詳しく知っているデュランダル議長。ロゴスが今、滅びてしまえばどうなってしまうか、わからないはずがない」

 

 

ロゴスの存在を明らかにしているデュランダル。

地球の国々に支援を送っていることも、当然知らないはずがない。

 

 

「何を…、しようとしているんだ?」

 

 

どうにも、デュランダルに裏がある様に見えて仕方がない。

そんなはずはない、という思いもある。

 

だが、その反対の思いを拭い去れないセラもまた、存在するのだ。

 

流れる沈黙。そんな中、デュランダルの演説だけが艦橋内に流れる。

 

 

「…っ!?」

 

 

そんな中、チャンドラの表情が変わった。

 

 

「熱源反応多数!」

 

 

クルーたちの表情もまた、変わった。

セラとキラは、すぐに艦橋を出て行こうとする。

 

 

「熱源…、これは…、ザフト機です!バクゥ、バビ、その他多数!」

 

 

「ザフト!?」

 

 

マリューの驚愕の声が響く。

 

ザフトが、この艦を襲う?

なぜ?

 

シエルも、信じられないような目でチャンドラを見る。

 

 

「目をつけられたか…?どちらにしても、彼らにとって、この艦は邪魔ということでしょう」

 

 

艦橋内に動揺が奔る中、セラとキラは冷静だった。

ザフトがアークエンジェルを攻撃してくること、まったく思考の中にないというわけではなかった。

 

セラとキラは、艦橋を出ようと扉を開ける。

 

 

「っ、せ、セラ!」

 

 

艦橋を出ようとするセラを、シエルが呼び止める。

セラは振り返って、心配そうにこちらを見つめるシエルを見返す。

 

 

「…大丈夫」

 

 

その一言だけを残し、セラは艦橋を去った。

 

シエルは、閉じてしまった扉を見つめた。

セラが通って行った、その扉を。

 

 

「…」

 

 

セラなら、大丈夫。そう信じる気持ちは変わらない。

だが、戦ってほしくないという気持ちも変わらない。

 

そして、何故か胸騒ぎがする。

 

 

「シエル、あいつらなら大丈夫だよ」

 

 

隣に座するカガリが、笑みを浮かべながらシエルに声をかける。

シエルは、扉からカガリに視線を移す。

 

 

「私の弟だぞ?そう簡単にくたばるはずないだろ?」

 

 

不敵な笑みを浮かべて言うカガリ。

カガリだって、心配なはずなのに。

 

それなのに、こうして自分を励まして。

 

 

「…そうだね」

 

 

シエルは、席に座る。

 

そして、セラの心配が第一だが、その他にもシエルには懸念がある。

ザフトがなぜ、アークエンジェルを襲うのか。

 

セラが、アークエンジェルが邪魔だから、と言っていたが本当にそうなのだろうか。

そして、先程の演説に出ていた、ラクス・クライン。ミーア・キャンベル。

 

デュランダルは、何がしたいのだろうか?

 

シエルの疑念は、高まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラとキラは、すぐさまパイロットスーツに着替え、それぞれの機体に乗り込んだ。

カタパルトが開き、セラとキラは操縦桿を前に倒す。

 

 

「セラ・ヤマト!リベルタス、発進する!」

 

 

「キラ・ヤマト!フリーダム、行きます!」

 

 

同時に発進するリベルタスとフリーダム。

まわりは、真っ白い雪景色。

そんな雪景色の中、異色の塊が遠くから接近してくる。

空中にも同じように塊が接近してくる。

 

 

「多いな…」

 

 

つぶやくセラ。アークエンジェルを最大に警戒してのこの数なのだろうが、それにしてもここまでの規模を出す余裕が、ザフトにはあったのかと聞いてみたい気分になってくる。

 

 

「でも、艦は守るよ。カガリは、絶対にオーブに送り届ける」

 

 

「わかってる」

 

 

セラとキラが、互いに声を掛け合う。

 

 

「行くよ!」

 

 

セラとキラは、同時に機体のスラスターを吹かせた。

 

セラは二本のサーベルを手に、空中の集団に突っ込んでいく。

キラは、ライフルを構え、地上の集団にビームを浴びせかける。

 

セラは、リベルタスの翼を燃え上がらせ、最大の加速力を駆使して接近し、バビのフライトユニットと武装を斬りおとしていく。

周りを囲んでくるモビルスーツ隊だが、セラはすぐさまサーベルからライフルに持ち替え、まるで無差別に撃っているように、それでも正確にまわりのバビのメインカメラを撃ち抜いていく。

 

まわりのバビが、堪らず後退していく。

だが、それと同時に、第二陣のバビ隊がリベルタスに迫る。

 

 

「っ、この!」

 

 

今まで見たこともない連携に驚きを見せながらも、セラはサーベルで迫るバビを斬り裂いていく。

後方からの射撃は、シールドで防ぎ、逆にこちらの射撃をお見舞いしていく。

 

バビたちは再び退いていくが、体制を整えた第一陣のバビ隊が再び襲い掛かる。

 

セラは、まず接近してくるバビ隊に、ライフルで先手を取ろうとする。

射られたビームは、セラの狙い通りにバビ隊の動きを崩していく。

 

崩された隊形に、セラはつけ込んでいく。

 

 

 

キラは、地上のバクゥ隊を迎え撃つ。

五門の砲門を開き、フルバースト。

 

一機の犠牲も出さずに動きを封じていく。

 

バクゥたちは、空を駆けるフリーダムを狙ってビーム、ミサイルを同時に発射する。

キラは放たれるそれらを舞うように回避し、レールガンで反撃する。

 

地を移動するバクゥたちの眼前に着弾し、バクゥたちの視界をふさぐ。

 

その間に、キラはアークエンジェルに目を向けた。

キラの心配通り、アークエンジェルもザフトのモビルスーツに攻撃されていた。

 

 

「くそっ!」

 

 

すぐさま、キラはアークエンジェルの援護に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「目標、なおも西へ十」

 

 

「イールー隊バビ、全機被弾。さらにバット隊バクゥもほとんどが被弾、撤退します」

 

 

コンプトン級ザフト艦、ユーレンベックの艦橋に、次々と信じられない報告が入り込んでくる。

ウィラードは、苦虫を潰したような表情で唸る。

 

 

「やはり、音に聞くアークエンジェルにリベルタス、フリーダムだな…」

 

 

見るうちに戦略パネルに移されている友軍機の反応が消えていく。

さらに、敵艦の援護機体はリベルタスとフリーダムの二機。

 

そして、被弾した機体全てが直撃を避けている。

それにも拘らず、押し寄せる大量のモビルスーツ隊を押し返し、足を止めない。

 

 

「モビルスーツ隊に熱くなるなと言ってやれ」

 

 

ウィラードは、言いながら苦笑した。

まるで、追い込んでいるこちらが追い込まれているようだ。

 

 

「追い込み等という悠長なことをやっているから、こちらが追い込まれるのです!全軍でかかれば…」

 

 

「ふん!貴様は知らんのだろう?アラスカも、ヤキン・ドゥーエも」

 

 

食って掛かる副官を鼻で笑いながら、ウィラードは言う。

副官は、呆気にとられたような顔になる。

 

奴らは、どんなに絶望的な状況でも跳ね返し続けた。

そして、幸か不幸か、ウィラードは目にしたのだ。

 

ザフトの元絶対的エース、ラウ・ル・クルーゼとあのリベルタスの戦いを。

全てを圧倒し、間に何者も入れることを拒み続けたあの壮絶な戦闘の一部始終を。

 

 

「功を焦って逃がしたら、それこそ取り返しがつかん」

 

 

数に頼り、相手を侮るのは危険だ。

アークエンジェルは、数というハンディを何度も跳ね返し続けてきたのだ。

 

今さらされている、このような危機すらも、跳ね返し続けてきたのだ。

 

 

「なに、議長の命令通り、ケツは奴らがとってくれる」

 

 

デュランダルが送ってくれた援軍。

そして、彼らに与えられた機体。

 

ミネルバと共に、英雄へと担ぎ上げられる存在。

 

彼らに本命を任せ、自分たちは援護に徹する。

それが、今回のエンジェルダウン作戦の内容なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

囲んでくるモビルスーツが、狙いを変更し始めた。

セラは、モビルスーツの狙いがアークエンジェルへと移っている所を見る。

 

すぐにセラは機体をアークエンジェルに向かわせようとする。

 

 

「っ!?」

 

 

が、セラはその場から機体を離す。

眼前を、一条の光が横切っていった。

 

フリーダムも、何故か動きを止められている。

セラとキラは、カメラを切り替えて辺りを見る。

 

と、雪山の影からこちらに向かってくる二つの機影が姿を現した。

 

一機はどこかずんぐりとした体形を持ち、従来のモビルスーツよりもどこか大きく感じる。

そしてもう一機は、ずんぐりとした機体とは打って変わりシンプルな姿。

だが、目が引かれるのはその真紅の体。

 

二機は、それぞれ分かれ、セラとキラに襲い掛かる。

巨大なモビルスーツはセラに、真紅のモビルスーツはキラに。

 

セラとキラは応戦の体制を取る。

 

 

『…ようやく、お前と会えたな』

 

 

「?」

 

 

不意に、スピーカーから聞こえてくる声。

どこか聞き覚えのある、だが聞いたこともないほどのおぞましい低い声。

 

全ての憎しみを、自分に向けている。そんな声。

 

 

『ずっと待ちわびた…。お前を、この手で殺すことを!』

 

 

「っ!」

 

 

相手はサーベルで斬りかかってくる。

セラも、サーベルで迎え撃つが、その手にかかる衝撃があまりにも重い。

 

 

(これは…、性能が…!?)

 

信じられないような思いになる。

だが、間違いない。

 

機体の性能だけなら、相手の方が上だ。

 

 

『セラ・ヤマトぉ!お前を、殺してやるぅうウウウウウ!!!』

 

 

その叫びを聞いた瞬間、セラの頭に電撃が奔るような感覚。

 

これは…、まさか…。

 

 

「ロイ…、セルヴェリオス…?」

 

 

シエルが討ったはず。だが、目の前にそれは存在している。

 

セラと、深い因縁を持つ男が、立ちはだかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




機体紹介

ZGMF-X444Sウルティオ
武装
・ビームサーベル
・ビームライフル
・隠し腕×2(ビームブレード搭載)
・ドラグーン×10
・レールガン(両腰)
・ビームシールド
・頭部バルカン

パイロット ロイ・セルヴェリオス

ザフトが開発した第三世代の新型モビルスーツ。世界初に搭載された隠し腕。
特に予備動作をかけることなく出せる分、腕のスピードにはやや難がある。
ドラグーンは、どのようなパイロットでも操作できるように整備されている。
第三世代ということで、どのモビルスーツよりも圧倒的な性能を誇る機体。


ZGMF-X33Sブレイヴァー
武装
・ビームサーベル×2>ビームハルバート
・ビームブレード(両手両足)
・ビームライフル
・腹列位相超エネルギー砲オメガ
・レールガン(両腰)
・ビームシールド
・頭部バルカン

パイロット ???

ウルティオと同じく、ザフトのZGMFシリーズ第三世代の機体。
接近戦に特化しながら、遠距離でも脅威を放つ機体に仕上がった。
オメガとは、カリドゥスの次世代武装のこと。
スキュラよりもさらに威力は増しているが、消費バッテリーは多くなっていない。


簡単に説明しました。
ブレイヴァーのパイロットが誰なのかはわかっていると思いますが、念のため控えさせてもらいます。
次回投稿後、パイロットの???を明かしたいと思います。
まぁ、わかっているとは思うんですけどね。


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PHASE34 解放者は堕ちる

「取り舵十!台地の影に回り込んで!」

 

 

マリューが指示を叫び、ノイマンが舵を取る。

降りかかるミサイルを、イーゲルシュテルンが撃ち落としていくが、ミサイルの爆風によって船体が揺れる。

 

アークエンジェルの頭上ではバビが飛び交い、地上ではバクゥが目を光らせている。

まさに、八方ふさがりというべき状態だ。

 

 

「バリアント、てぇーっ!」

 

 

マリューの号令と同時に、船体後方に向けられるレール砲が放たれる。

敵機に直接命中させず、あくまで妨害させるという高等技術。

 

 

「まずいです…。奴らの良いように追い込まれています!」

 

 

「わかってるわ!でも…!」

 

 

マリューはモニターに目を向ける。

様々な角度に向けられているカメラの映像。

どの画面にも、ザフトのモビルスーツが映し出されている。

 

 

「どうやら、完全に包囲されているようです…!」

 

 

ノイマンが告げる。

だが、そのようなことは目に見えて明らかだった。

 

 

「右舷後方より、再びバクゥ八!」

 

 

「さらに上空からバビ九!」

 

 

チャンドラとミリアリアが報せる。

 

アークエンジェルに襲い掛かる大量のザフト機。

先程までは、それらはほぼセラとキラの二人で抑えられていた。

アークエンジェルは、そのまま海まで出て、潜航すれば戦闘は終わり。

 

マリューはそう考えていた。

だが、それは先程の出来事で覆された。

 

謎の、二機の新型機にセラもキラもかかりきりになってしまった。

いや、ちらりと戦闘を見ることが出来たのだが、性能だけを言えばフリーダムも、リベルタスさえもあの新型機二機は凌いでいる。

 

しかし、何もモビルスーツを殲滅する必要などないのだ。

 

 

「何とか海に出られれば…」

 

 

海に出さえすれば、潜航し、そのまま離脱できる。

 

 

「それまで頑張って!」

 

 

マリューの激励に、クルーたちは力強く応じる。

 

それでも、この数を相手にどこまで保たせることが出来るか。

下手をすれば、海峡に出る前に撃沈…、いや、させるわけにはいかない。

ここで、落ちるわけにはいかない。

 

艦長である自分が、そんな気持ちでどうする。

 

マリューは、気を引き締め直し、まわりを囲むモビルスーツ群を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

押し込まれるようにセラは機体を後退させる。

目の前の機体、ウルティオはさらに距離を詰めてくる。

 

だが、力で押し切るのはあまりに危険すぎる。

セラはライフルを取り、ウルティオに向けてビームを放つ、

 

ウルティオは、セラが向けるライフルを見るとすぐに後退し、放たれたビームをかわす。

すると、背面のユニットが曲がり、こちらに向けられる。

 

 

「っ!?」

 

 

曲がった十のユニットから、ビームが照射される。

セラはすぐに機体を後退させてビームを回避する。

 

セラは、背面のユニットをドラグーンだと予想していた。

実際その通りなのだが、ドラグーンは宇宙空間でないと分離できない。

 

分離できない=使用できない

そう思い込んでいたセラの動きが明らかに鈍る。

 

 

「そらぁっ!」

 

 

ウルティオが、ライフルを向けてセラに追撃をかけてくる。

セラはビームをシールドで防ぎ、シールドの影からウルティオにビームを撃ち返す。

 

ウルティオは、今度はサーベルを構え、セラが放ったビームを弾いて接近してくる。

 

 

「くっ!」

 

 

スピードで言えば、リベルタスの方が上なのだが、圧倒的パワーを誇るウルティオ。

無暗に接近戦を仕掛けることが出来ないセラは、何とか距離を保とうと機体を後退させる。

 

 

「無駄だ!」

 

 

だが、そんなセラを嘲るように、背面のユニットから放たれるビームがセラの動きを妨害する。

結果、リベルタスとウルティオの鍔迫り合いが展開される。

 

一瞬の硬直、セラはそこで二本目のサーベルに手を伸ばした。

二本目のサーベルを、振り下ろす。

 

 

「おぉっと!」

 

 

だが、ウルティオ、ロイには通用しなかった。

ロイは、リベルタスが二刀流だということを頭に入っている。

 

初見ではないロイには、二刀流での奇襲の効果は半減してしまう。

 

だが、ロイが展開したサーベルの防御法に、セラは目を見開いた。

 

 

「なっ…、何だ!?」

 

 

ウルティオの左腕から展開されるビームシールド。

まるで、連合のリフレクターのようなビームシールドが、セラの斬撃を食い止めた。

 

 

「くっ!」

 

 

セラの視界で、ウルティオの右足がぶれた。

すぐに機体を後退させる。ウルティオの膝蹴りは空を切るが、ロイはすぐに体制を整え、腰のレールガンを展開してリベルタスに向けて放つ。

 

セラは機体を翻して電磁砲をかわし、背中の収束砲を取り、ウルティオに向けて放つ。

だが、放たれた砲撃も、ウルティオの左腕から展開されるビームシールドに阻まれる。

 

何とか牽制になればと放った砲撃なのだが、完全に防ぎ切られてしまった。

どうにも、あのシールドはビーム兵器を無効化してしまうらしい。

 

 

「どうしたセラ・ヤマトぉ!前大戦で俺を見下ろしながら戦ってきたとは思えないなぁ!」

 

 

ロイの嘲りの言葉が耳に届く。

だが、気にしてはいけない。どころか、気にすることすらできない。

 

ウルティオが、ライフルを撃ってくる。

ライフルから放たれるビームも、心なしか威力が大きいように見える。

 

セラは機体を横にずらしてビームをかわし、何とか突破口を開こうとサーベルを手に、ウルティオに接近していく。

 

ウルティオもまた、サーベルで斬りかかってくる。

 

互いにサーベルを叩きつける。

 

先程と同じように二本のサーベルがぶつかり合う。

そして、セラはもう一度二本目のサーベルを抜き放つ。

 

 

「はっ!自棄にでもなったか!?無駄だ!」

 

 

ロイが、同じようにビームシールドを展開し、セラの斬撃に備える。

 

だが、剣閃を見たロイの目が見開かれる。

セラの斬撃が、空を切る。戸惑うロイ。

 

 

「っ!?」

 

 

次の瞬間、ウルティオのコックピット内に衝撃が奔り、機体が強制的に後退させられる。

 

ロイは、セラの斬撃に気が向いてしまい、リベルタスの回し蹴りに気づくことができなかった。

セラは、体制を崩したウルティオに追撃を仕掛けるためにサーベルで斬りかかる。

 

 

「…くっ」

 

 

そんなリベルタスを見て、ロイは笑いを零した。

 

そうだ。そうでなくちゃ面白くない。

 

シエルを奪った。俺の全てを奪った。

そんなお前を殺すために、俺は今まで全てを賭けてきた。

 

そう簡単にくたばってもらったら、面白くない。

 

 

「そうだ!もっと来い!あがけ!セラ・ヤマトぉ!」

 

 

「っ!」

 

 

ロイの叫びが響いたその瞬間、ウルティオの背後から巨大な二本の腕が出現した。

二本の腕が、セラに襲い掛かる。

 

セラは、機体を無理やり転換させて一本の腕の強襲を回避する。

二本目の腕も、後退させて回避。

 

だが、その二本目の腕には、ビーム兵器でも搭載されていたのだろう。

リベルタスが握るサーベルの柄から上を、斬り落としていった。

 

 

「なっ!」

 

 

腕に斬撃力があったことに驚愕するセラ。

そして、眼前でウルティオはレールガンを展開していた。

 

 

「っ!」

 

 

セラは機体を横にずらそうとするが、遅い。

放たれた電磁砲撃が、リベルタスに命中する。

 

実体弾のため、コックピットは無事なものの、強烈な衝撃。

そして、体制を崩し、重力に従ってリベルタスが落下していく。

 

地面に激突する直前に、セラは何とか体制を整え、雪煙を立てながら雪山を滑降していく。

 

セラは必死に操縦桿を抑え、機体の体制を崩さないようにする。

滑降が収まると同時に、前を見るセラ。

 

ウルティオが、眼前に迫っていた。

 

セラはすぐさま機体を後退させて離脱する。

ウルティオが振り下ろしたサーベルが、雪の面を叩きつけるが、すぐにウルティオがリベルタスに迫る。

 

 

「逃がすはずないだろう!」

 

 

「くっ!」

 

 

ウルティオが、再びサーベルを振り下ろす。

セラも、サーベルを振り上げて迎え撃つが、当然力比べはウルティオが上。

 

リベルタスを弾き飛ばし、さらにウルティオが迫っていく。

 

 

「この時のために、俺はぁああああああああああああ!!!」

 

 

ロイが咆哮を上げながら、リベルタスに斬りかかる。

 

二機の戦いはさらに激しさを増し、交錯していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「セラっ!?くそっ!」

 

 

キラは、眼前に迫る真紅の機体、ブレイヴァーに気を向ける。

従来のモビルスーツよりも一回り大きい機体に襲い掛かられたセラも気になるが、こちらも気を引き締めなくてはならない。

 

目の前の機体は、明らかに最新鋭の機体なのだ。

ブレイヴァーが、サーベルで斬りかかってくる。

 

キラは、ブレイヴァーの斬撃を機体を横にずらして回避し、反撃にサーベルを振り下ろす。

 

ブレイヴァーは、左腕のビームシールドを展開してキラの斬撃を防ぐ。

 

 

「っ!?」

 

 

キラは見たこともない装備に目を見開く。

同じようにセラも驚愕していることを、今のキラは知る由もない。

 

キラはすぐに機体を後退させ、今度はライフルを取り、引き金を引く。

だが、放たれるビームをブレイヴァーはサーベルと同じように展開されたビームシールドで防ぐ。

 

キラは、どうすればいいのかと思考を働かせる。

それをよそに、ブレイヴァーは反撃の一手を打つ。

 

その手に持つサーベルを、もう一本のサーベルと連結。

ビームハルバートでフリーダムへと斬りかかっていく。

 

キラは、二本のサーベルを抜く。

一度、二機は互いの剣をぶつけ合いすれ違う。

 

すぐに二機は同時に旋回。

キラは二本のサーベルで、ブレイヴァーはビームハルバートで鍔迫り合いを開始。

 

だが、フリーダムが押し込まれていく。

 

 

「っ!」

 

 

キラは機体を後退させる。

 

予想はできていたことだが、本当に目の前の機体の性能が高い。

フリーダムも、核エネルギーで凄まじいパワーを誇っているのだ。

 

それでも、押し込まれてしまう。

 

と、ブレイヴァーの腹部。

そこから巨大な砲撃が放たれた。

 

 

「なっ!?」

 

 

腹部位相超エネルギー砲オメガ

 

キラは、すぐさま機体を横にずらして砲撃をかわす。

 

息をつく間もなく、ブレイヴァーがハルバートで斬りかかってくる。

だが、それはキラに予想できていた。

さらに機体を翻し、ブレイヴァーの斬撃をかわす。

 

機体を後退させ、一度状況をリセットさせようとするキラ。

だが、ブレイヴァーの攻撃は終わっていなかった。

 

キラの視界でぶれた、ブレイヴァーの左足。

そこで、キラはSEEDを解放させた。

 

SEED解放による超反応により、キラはさらに機体を転換させブレイヴァーの蹴りを回避しようとする。

結果、回避に成功した。

 

と、思われた。

 

 

「くっ!?」

 

 

思わず声を漏らすキラ。

ブレイヴァーの左足。いや、恐らくもう片方の足にも搭載されているだろうビームブレード。

 

そのブレードが、フリーダムの左足を斬りおとした。

 

さらにブレイヴァーがハルバートで斬りかかる。

何とかキラはシールドを割り込ませて防ぐ。

 

だが、機体の体制が崩れてしまう。

 

ブレイヴァーがフリーダムに追撃を駆けようと迫る。

 

キラは、崩れた体制を利用する。

そのまま機体を回転させ、サーベルを抜いてブレイヴァーに斬りかかる。

 

 

「っ!?」

 

 

ブレイヴァーのパイロット、アレックスはフリーダムの動きに目を見開く。

だが、それでも届かない。

 

ブレイヴァーの両足のビームブレードが展開される。

 

フリーダムのサーベルと、ブレイヴァーの左足のブレードがぶつかり合う。

そしてその直後、もう片足のブレードがフリーダムに襲い掛かる。

 

キラは機体を後退させ、ブレイヴァーの右足が空を切る。

 

 

「…しつこい」

 

 

ぼそりとつぶやくアレックス。

実力差は明らかだ。フリーダムが勝つなど、到底ありえない。

 

運命、そう言っていいほどだ。

 

それなのに

 

 

「なぜ、お前は抗う?」

 

 

無意識につぶやかれたその言葉。

そして、その声は通信を通してフリーダムを駆るキラに届くことになる。

 

 

「…え?」

 

 

聞き覚えのある、聞き間違うはずもない声。

キラは呆然とする。

 

どうして、どうして君が…?

どうして…、そんなものに乗ってるの?

 

 

「あす…らん…?」

 

 

その声は、ヤキンにて、ジェネシスを命を懸けて破壊した。

 

アスラン・ザラが、目の前にいるとでもいうのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

「海岸線まで、残り十!」

 

 

モビルスーツの攻撃により、揺れる艦。

そんな中、ノイマンがうめくように言った。

 

再び艦橋が揺れる。

堪らず、トールが言った。

 

 

「これでは保ちません!ムラサメで出ます!」

 

 

「ダメよ!」

 

 

トールの言葉を、マリューは一蹴する。

こんな混戦の中、トールが出ても状況は変わりはしないだろう。

 

それに、まだブランクが残るトールでは、あの物量を相手にするのは恐らく難しい。

 

 

「けど、キラとセラが!」

 

 

フリーダムとリベルタスは、新型二機のそれぞれの猛攻にさらされていた。

上手く凌いでいるようにも見えるが、本人たちにとっては一杯一杯だろうことは目に見えてわかる。

 

 

「セラ…」

 

 

トールとマリューが言いあっている中、シエルがぽつりとつぶやいた。

リベルタスは、ウルティオに押されっぱなし、防戦一方となっている。

 

 

「セラ…!」

 

 

何もできない自分が恨めしい。

こういう時に、どうして自分は何もできないのだろう。

 

そうこうしている間にも、アークエンジェルは海に出ようとしている。

 

 

「非常隔壁閉鎖!潜航用意!」

 

 

海が視界に入ると、即座にマリューが指示を出す。

 

チャンドラの手が慌ただしく動き、潜航に備える。

 

ここでリベルタスとフリーダムを回収したいのだが、二機はそれぞれの戦闘にかかりきりで、離脱することができない。

 

 

「くっ、艦長!」

 

 

「ダメ!」

 

 

トールが再びマリューに問い合わせるが、マリューは断固として認めない。認めるわけにはいかない。

ここまでこらえてきたのだ。ここで犠牲を出すわけにはいかない。

 

セラとキラの努力を、水の泡に返すわけにはいかない。

 

 

「だけどっ…!」

 

 

居ても立っても居られない様子のトールに、マリューはぴしゃりと言い放つ。

 

 

「セラ君とキラ君を信じて!」

 

 

ここまで来たら、二人を信じるしかない。

どんな困難も乗り越えてきた二人を、信じるしかない。

 

マリューは、ちらりとシエルを見た。

彼女の表情は、苦しそうに歪んでいた。

 

今すぐあの場に飛び込みたい。でも、できない。

 

その葛藤は、間違いなくトールよりも大きいだろう。

 

だが、シエルも含めて自分たちも、セラとキラの手助けをすることはできない。

 

マリューは、自分がすべきことを見据え、前を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

斬撃を飛びのいて回避したセラ。だが、さらに迫るウルティオ。

加速を乗せた再度の斬撃を、かろうじてセラは回避する。

 

すぐに距離を取ろうと後退するセラ。だが、ウルティオの背面のユニットがリベルタスを狙い、火を噴く。

 

 

「くそっ!」

 

 

セラは、ビームの下に潜り込むようにしてかわし、ライフルを撃ち返す。

だが、わかりきっていたことだが、馬鹿正直にビームを撃ってもウルティオが展開したビームシールドに防がれてしまう。

 

 

『よく粘ったな!』

 

 

ロイは、正直目の前の宿敵の奮闘に驚いていた。

機体の性能の差は明らか。序盤はどこか遊びという気で戦っていたが、そこからは本気で落とすつもりでかかっていた。

 

それでも、自分の猛攻を何度も何度も凌いでいく。

 

やはり、パイロットとしての腕は認めざるを得ない。

だが、こうして追い込んでいるのは自分だ。

 

勝つのは、殺すのは、自分だ。

 

 

『だが、終わりなんだよ!』

 

 

ロイが、サーベルでリベルタスに斬りかかっていく。

セラは、機体の体制が完全ではないもののサーベルで迎え撃たざるを得ない。

 

ロイはそのままリベルタスを押し込み、レールガンでさらに追撃。

砲撃が命中したリベルタスが、さらに体制を崩す。

 

ロイはサーベルで再びリベルタスに斬りかかる。

が、リベルタスはシールドを割り込ませる。

 

リベルタスのシールドは斬り裂かれるが、コックピットには届かない。

ならば、とロイは隠し腕を展開。ビームブレードでとどめを刺そうとする。

 

セラは、背後から出現した隠し腕に対し、サーベルで応戦する。

一本目は、振り下ろしに対し、サーベルを振り上げて腕を斬りおとす。

 

だが、二本目には対応できない。

それでも機体を翻し、何とかかわそうとする。

 

そのおかげか、コックピットの損傷は避けられたが、左腕を斬りおとされてしまった。

 

 

『セラ!』

 

 

通信を通し、キラの声が聞こえてくる。

セラは横目でフリーダムの戦闘の様子を見る。

 

 

「っ、兄さん!」

 

 

フリーダムが、ブレイヴァーの蹴り上げにより左腕を斬りおとされる。

ウルティオの隠し腕と同じように、あの機体の足にはビームブレードが搭載されているのだろう。

 

さらにフリーダムは、ブレイヴァーの体当たりを喰らいのけぞる。

 

 

「くっ!」

 

 

何とか援護に行きたいのだが…、ウルティオがさせてくれない。

 

ウルティオが、背面のユニットでビームを浴びせかけてくる。

セラは機体を無理やり後退させる。

もう、体制を整える暇さえ与えてくれない。

 

気付けば、リベルタスは水面ギリギリのところで飛行していた。

 

ウルティオとの距離が…、微妙に離れている。

セラはまっすぐにアークエンジェルに向かおうとする。

 

 

『させるかよ!』

 

 

ウルティオのレールガンが発砲され、セラの眼前の水面に着弾する。

目の前に水柱が立ち、視界が塞がる。

 

セラは構わず突っ込んでいく。が、水のせいでリベルタスのスピードが鈍ってしまった。

ウルティオはそこを狙い、背面のユニットでリベルタスを狙う。

 

セラは、機体を横にずらしてビームを回避する。

 

 

『今度こそ…、終わりだ』

 

 

「っ!」

 

 

だが、ロイはその動きを読んでいた。

先回りし、サーベルで斬りかかってくる。

 

セラは機体を転換させようとする。が、間に合わないのは目に見えている。

 

やられる?

 

そんな考えが、セラの頭をよぎる。

 

死ぬのか?自分は、死ぬのか?

 

純粋に、死に対しての恐怖が過る。

そして、シエルを残して死ぬ。

その現実に、どうしようもなく怒りを覚える。

 

ふざけるな。自分はまだ死ねない。

 

その時、セラは前にもこんなことがあったなと思い返す。

シエルと生きて帰ると約束した日、自分は約束を破った。

 

最終的には守ったと言えるのかもしれないが、自分にはそうは思えない。

シエルに、辛い思いをさせたことには変わりないから。

 

だから、今回は絶対に帰る。生きて、シエルのもとに戻る。

 

 

 

 

その瞬間、セラの中で、再びそれが花開く。

 

 

 

 

ロイは、目の前の憎しみの対象にサーベルを振り下ろす。

もう、これは回避できるタイミングではない。

 

間違いなく、奴を斬り裂くことが出来る。

 

奴が、振り返ってこちらを向く。

おかげで、コックピットの場所がよくわかる。

 

ロイが振り下ろしたサーベルが、リベルタスの装甲を薙いだ。

 

リベルタスは、力なく海へと落ちていく。

 

そして、僅かな間の後、海面から巨大な水柱が立つ。

 

勝った、勝ったのだ。

奴に、セラ・ヤマトに、勝ったのだ。

 

ロイのその顔に、歪んだ笑みが浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「セラ!?」

 

 

リベルタスが斬り裂かれ、海へと落ちていくのをキラは見た。

そして、爆音と同時に水柱が立つ。

 

 

「っ!?」

 

 

衝撃を受ける間もなく、ブレイヴァーがキラに襲い掛かる。

 

 

「アスラン!アスランだよね!?」

 

 

キラが目の前の機体に呼びかける。

あの機体に乗っているのは、唯一無二の親友なのだ。

 

それなのに

 

 

『アスラン?何のことだ』

 

 

感情を感じさせない冷たい声。

キラに、突き刺さる。

 

 

『俺の名前はアレックスだ。アスランなどではない』

 

 

ブレイヴァーがハルバートを振り上げる。

キラが振り下ろしたサーベルを弾き、さらにブレイヴァーは右足を振り上げる。

 

 

「っ!」

 

 

キラは機体を翻してかわそうとするが、遅かった。

 

フリーダムの片翼が、ビームブレードによって斬り裂かれてしまった。

さらにブレイヴァーはハルバートを分離し、サーベルの状態で振り下ろしてきた。

 

 

「くっ!」

 

 

もう、キラにはシールドは残っていない。

それでも何とかしようと、残っている片腕を上げる。

 

だが、その片腕を、そして残っている片翼を同時に斬りおとされてしまう。

結果、フリーダムは飛行能力を失くし、重力に従って落下していく。

 

 

『…』

 

 

アレックスは無言でライフルをフリーダムに向ける。

そして、非情なまま

 

 

 

 

 

 

 

引き金を、引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やったか」

 

 

ブレイヴァーとフリーダムの戦闘の様子を見ていたロイは、そこで力を抜く。

 

まだ、アークエンジェルを討てていないが、デュランダルから受けた自分たちの命令は、リベルタスとフリーダムの討伐だ。

ウィラード隊にはアークエンジェルの討伐という話になっているだろうが、自分たちにはそう来ている。

 

自分たちの仕事は、これで終わりなのだ。

 

 

「…だが、後であのおっさんにぐちゃぐちゃ言われるのもめんどくさいな。アレックス、オメガを撃っておけ」

 

 

『そうだな』

 

 

アレックス、アスランがオメガのエネルギーを貯める。

 

初め、アスランではなくアレックスと名乗ったのには驚いたが、そんなことはどうでもいい。

自分は、セラ・ヤマトを殺すために地獄から舞い戻ってきたのだ。

 

そして、残るやるべきことはシエルを取り戻すことだけ。

アークエンジェルにシエルはいるだろうが、あの艦ならオメガを対処するだろう。

 

シエルのことは、後でいい。

今は、セラ・ヤマトを殺せた喜びに浸りたかった。

 

ブレイヴァーの腹部から放たれる巨大な砲撃。

砲撃は、アークエンジェルが潜航していった海面へと直進していく。

 

海面に着弾した砲撃が、海水を蒸発させる。

 

直後、二人の目の前に巨大な水柱が立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セラ君とキラ君は!」

 

 

「どちらも応答有りません!」

 

 

アークエンジェルの艦橋内で、クルーたちは慌ただしく動いていた。

 

リベルタスとフリーダムの反応がロストされたのだ。

だが、モニターに二機のコックピット部分が奇跡的に映し出されていたのだ。

 

あの二人は、無事なのか?

 

セラは…、セラは?

 

 

「艦長、私がルージュで出る!」

 

 

カガリは、マリューの返答を待たずに艦橋から飛び出していく。

 

シエルは、モニターに映るリベルタスのコックピットを呆然と眺める。

 

セラは?無事なの?

生きてるよね…?だって…、だって…。

 

セラは言った。生きて戻るって。

シエルは決めたのだ。セラが戻ってきたら、ちゃんと話をすると。

 

だが、セラは撃墜された。

生存は、不明。

 

セラがどうなっているかわからない、その状態がどうしても嫌だ。

早く、セラが生きていると知りたい。

 

 

「俺も出ます!戦闘は無理でも、救助作業はできるでしょ!」

 

 

トールも、ムラサメを出そうと艦橋を飛び出ていく。

だが、シエルは何もできない。

 

愛する人のために、何もできないのだ。

 

 

「…セラ」

 

 

ただ、無事なことを祈る。

 

シエルには、それしかできない。

 

 

 

 

 

リベルタスとフリーダムが着艦した。

その報告を聞いた直後、シエルは艦橋を飛び出し、格納庫へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE35 過る疑念

遅くなり、申し訳ありません!


暗い

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い

 

 

 

 

 

 

 

堕ちていく感覚。どこまでも、沈んでいく感覚。

抵抗する気力も起きない。

 

そんな時、どこか聞き覚えのある声が耳に届く。

 

 

『…せ』

 

 

よく聞き取れない。耳を澄ましてみる。

 

 

『そ…が、お…のや…め』

 

 

だんだん、聞こえてくる声がはっきりしてくる。

 

 

『殺せ』

 

 

今度は、はっきり響いた。

暗く、低く、冷たく、鋭い声が。

地の底から這い出てきたような、そんな声が。

 

 

『それが、お前の役目だ』

 

 

何が、俺の役目だ。

殺す?そんなの絶対に御免だ。

 

 

『そのために、お前を産み出したのだ』

 

 

そんなこと、知ったこっちゃない。

俺は俺だ。何のためでもない、俺のために生きる。

俺がしたいように生きる。

 

 

『逃げることは、許されない』

 

 

次に響いた声に、震える。

 

 

『お前にはもう、鎖に縛られている。復讐という、鎖に』

 

 

…嫌だ。

 

 

『お前が生きている。そのために、どれだけの犠牲があったか。それがお前にわかるか?』

 

 

うるさい。

 

 

『お前はもう、ただの傀儡だ』

 

 

黙れ。

 

 

『解き放て。お前のその力を』

 

 

黙れ!

 

気にするな、俺は俺だ。

そう自分に言い聞かせる。それなのに…

 

 

『…ら』

 

 

また、声が聞こえる。

もう、聞きたくない。耳をふさぎたいのに、なぜか身動きが取れない。

 

 

『…じょ……ら…』

 

 

先程の低い声とはどこか違う。

優しく、包み込まれるような

 

 

『セラ…』

 

 

あぁ…、この声は…。

 

いつも待ち焦がれていた。ずっと会いたくて、それでも会えなくて。

再会しても、言葉を交わすことが出来なかった。

 

 

『セラ…』

 

 

自分の名前を呼んでくれる。

 

そうだ。自分はセラだ。

それ以外の何者でもないのだ。自分は自分なのだ。

 

光が、降り注ぐ。

沈んでいくような感覚も消え、逆に浮き上がっていくような心地よい感覚に変わる。

 

意識が途切れていく、いや、目覚めていくと言った方が正しい。

 

 

『…いずれ、時は来る』

 

 

最後に、そんな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…シエル。くっ…!」

 

 

眠りから、夢から覚めたセラが身を起こそうとする。

 

体全体が痛い。かなり手ひどくやられてしまったのだろう。

 

 

「セラ!」

 

 

その時、傍から声が響いた。

セラは、声が聞こえてきた方に目を向ける。

 

シエルが、背中に枕をあてがう。

セラは枕にもたれかかって息をつく。

 

 

「大丈夫だった?何かうなされてたけど…」

 

 

シエルが心配そうに声をかけてくる。

 

うなされてた…?

 

 

「…わからない、夢でも見てたのかな」

 

 

だが、何も覚えていない。

思い出そうとしても、何も浮かんでこない。

 

それでも気になるのは、何かがすっぽりと抜けてしまっているような感覚。

 

 

「セラ、大丈夫か?傷はそうひどくないって先生言ってたぞ」

 

 

その時、シエルの背後からひょっこりと顔を出してカガリが言った。

 

セラは、まわりを見渡すと、ここは医務室なのだと悟る。

そして、隣のベッドにはキラが同じように枕にもたれかかっており、そして傍にはトールとミリアリアが座っていた。

 

 

「…そうか。俺は、リベルタスを…」

 

 

リベルタスを、落とされてしまった。

 

あの、全てに絶望して死んでいった男との誓いの証ともいえる存在を失ってしまった。

 

 

「セラ…、今は体を直すことに集中しよう?」

 

 

シエルが優しく声をかけてくれる。

そのことに感謝しながら、セラはそっと頷いた。

 

 

「うん。私、ごはん持ってくるから」

 

 

「あ、それなら俺が持ってくるから」

 

 

シエルは立ち上がり、セラの食事を持ってこようと医務室を出ようとするが、それをトールが止めて自分がやろうとする。

 

 

「え、でも…」

 

 

「色々、話したいことがあるだろ?お前ら、ずっとしゃべってなかったし」

 

 

トールの言葉の後、セラとシエルは互いを見合わせる。

トールの言う通り、シエルがアークエンジェルに戻ってきてから、ほとんど話をしていなかった。

 

だから、トールは二人に話す時間を与えたかったのだ。

 

トールが医務室から出て行く。

セラとシエルは、互いの目を見続けて…

 

 

「…まぁ、座れよ」

 

 

「うん…」

 

 

セラが、椅子を指さしながら言い、シエルはその椅子にもう一度座る。

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

「……」

 

 

「………」

 

 

何を、話せばいいのだろう。

 

いや、話したいことはあるのだが、それをどう切り出せばいいのかわからない。

セラもシエルも、黙り込んでしまう。

 

 

「…はぁ」

 

 

「まぁまぁ…」

 

 

「…あの二人って、へたれだよな」

 

 

聞こえないように、キラたちが好き勝手言っている。

…聞こえているのだが。

 

 

「…ごめんな。心配かけて」

 

 

「…うん」

 

 

セラが切り出した。

あの戦闘でどれだけシエルに心配をかけただろう。

まず謝罪することにした。

 

シエルは、俯いて頷く。

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

また、沈黙が訪れた。

 

先程まで呆れていたキラたちが、どこか複雑な表情になっていく。

この気まずい空気がキラたちにも伝わっていったのだろう。

 

 

「…セラたちは」

 

 

「?」

 

 

今度は、シエルが口を開いた。

セラがシエルに目を向ける。

 

 

「ザフトの特殊部隊に襲われたって…、言ってたよね…」

 

 

「あぁ。これは紛れもない事実だ」

 

 

シエルにとっては信じられないことだろうとセラはわかっている。

だが、これは真実なのだ。

 

曲げることのできない、事実。

 

 

「…私、あのラクス・クラインのことで議長と話したの」

 

 

「なっ…」

 

 

セラだけではない。医務室にいるキラたちも絶句した。

 

シエルはそれをよそに、続ける。

 

 

「でも…、議長は必要なことなんだって…。ラクスは、自分よりも影響力が強いから、必要なんだって…」

 

 

デュランダルが、シエルにそう言ったのだろう。

そして、シエルは納得した。

 

いや、せざるを得なかったというべきだろう。

シエルはザフトの一員。議長の言葉は絶対なのだから。

 

 

「でも、それでも何か納得いかなくて…、でも議長は必死に戦争を止めようとしていて、世界の平穏を取り戻そうとしていて…!」

 

 

シエルの表情が、少しずつ崩れていく。

 

 

「そして、あの放送…。わからない…、わからないよ…!」

 

 

もう、何を信じていいのかシエルには分からなくなっていた。

信じていた議長には、裏切られたも同然。

 

それでも、シエルにはザフトに戻っていた期間に大切な仲間もできたはずだ。

 

揺れているのだ。

 

 

「…」

 

 

シエルの肩が震えている。

セラは手を伸ばそうとするが…、止める。

 

自分は、その大切な仲間に銃を向けている。

奪おうとしていたのだ、シエルの仲間を。また。

 

 

「…シエルがどんな選択をするのか、それはわからない」

 

 

涙にぬれた目が、セラに向けられる。

 

 

「でも、俺は…俺たちは、議長を信じることはできない。それは、変わらない」

 

 

セラだけではない。

アークエンジェルにいる全てのクルーが、デュランダルに疑念を抱いている。

 

だが、シエルはどうなのだろうか。

 

これからセラと共に行動するのならば。

彼がアークエンジェルを脅威と感じているのなら、再び敵対する可能性だってある。

 

シエルに、その覚悟があるのか。

 

 

「皆はわからないけど、もしシエルがザフトにもう一度戻るって言うなら、俺は止めない」

 

 

「っ」

 

 

「セラ!?」

 

 

セラの言葉に、シエルは目を見開き、そしてキラたちはそれ以上に驚愕する。

 

 

「クルーゼと一人で戦わせてくれたように…、俺も、シエルが本当に決めたなら、止めない」

 

 

シエルのことを思っているから。

シエルを信じているから。

 

 

「…」

 

 

俯くシエル。

 

そして、少しの間の後、口を開く。

 

 

「…少し、考えさせて」

 

 

シエルが求めたのは、わずかの保留だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、わかった。そうした申し入れは、今後もどんどん取り入れてくれ」

 

 

デュランダルは傍らにいる側近に言いながらシャトル発着デッキに向かっていた。

そして、側近に混じってラクス・クラインが走路を進む。

 

先日のデュランダルのメッセージの後から、プラントにある申し入れが次々と集まってきた。

 

<ロゴスを討ちたい>

 

世界各国の義勇軍がザフトに集まりつつある。

しかも、それらの軍事組織は、先日まで地球軍に属していたものばかりだ。

 

ロゴスに、自分たちは踊らされていた。

その事実を知った者たちが、ロゴスと相対する選択をしたのだ。

 

 

「しかし、こんな時になにも議長が地球へ降りられなくても…。指示はこちらからでも問題なくお出しになれるというのに…」

 

 

「いや、そういう問題ではない」

 

 

側近の女性がかけてきた言葉を、デュランダルは否定しながら振り返る。

 

 

「旗だけ振り、後ろに隠れているような人に、誰もついて来やしないだろう?ジブリール氏の行方も、まだわかっていないのだ」

 

 

先日の放送と共に公開されたロゴスのプロフィール。

途端、各地の市民が武器を持ち、メンバーの邸宅になだれ込んだ。

 

逃げ遅れたものと、運よく逃げることに成功した者。

ジブリールは、その後者だった。

 

 

「では、後は頼むよ」

 

 

デュランダルはそう言い残し、搭乗口へ向かう。

 

そして、席に着くと彼はコンピュータを開く。

新着のメッセージに気づき、そのメッセージを開く。

 

それは、エンジェルダウン作戦に当たったウィラード隊の報告だった。

 

 

<アークエンジェル撃沈は未だ確認できぬものの、リベルタス、フリーダム撃破は間違いなし>

 

 

内容に目を走らせ、デュランダルはそっとつぶやく。

 

 

「これで、チェックメイトか…?」

 

 

秘書官に聞こえないようにつぶやかれた言葉。

デュランダルは思考する。

 

リベルタス、フリーダム。

セラ・ヤマト、キラ・ヤマトを抹殺できたなら、アークエンジェルの存在はそう問題にはならない。

彼らの戦力は、大部分がそれに頼っている状態なのだから。

 

 

「…いや」

 

 

まだ安心はできない。

アークエンジェルに連れていかれてしまったシエル・ルティウス。

 

そして…

 

 

「白のクイーンは強敵だ…」

 

 

ラクス・クライン。まだ、彼女の行方が知れない。

 

さらに、デュランダルはまだあの兄弟の死を信用していない。

彼らの力は侮れない。生存の可能性を、デュランダルは頭の隅にインプットしておく。

 

シャトルが港から離れていく。

行先は、地球のジブラルタル。

 

 

「…クラーゼク隊に連絡を。例のシャトル強奪犯のの件は、どうなっているかと」

 

 

秘書官に告げ、デュランダルは再び思考に耽る。

 

デュランダルは一度、ある戦闘データを見たことがある。

 

セラ・ヤマトと、ラウ・ル・クルーゼの戦闘データだ。

 

まさか、あれほどとは思わなかった。

自分の友人であるクルーゼもそうだが、セラ・ヤマト。

 

あの二人の戦いに、一瞬魅了されかかったほどだ。

それほど、あの二人の力は強大だった。

 

ラウ・ル・クルーゼ。

セラ・ヤマトを殺し、人類に滅びを与える。それが、彼の野望だった。

 

その力は、言うまでもなくデュランダルは認めていた。

もしかしたら、彼なら成し遂げてしまうのではないか、と。

自分が彼を、止めなければならなくなるかもしれない、と思ってしまうほど。

 

だが、それでも彼は届かなかった。

最高のコーディネーターには、届かなかった。

 

 

(用心しておくに越したことはない…)

 

 

心の中でつぶやく。

まだ、こちらの勝利が決まっているわけではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これより本艦は、ジブラルタルへの入港シークエンスを開始します。各科員は所定の部署についてください。繰り返します。これより本艦は…』

 

 

艦内にアナウンスが流れる。

シンは、慌ただしく動くクルーたちの動きをレクルームで眺めていた。

 

 

「ジブラルタルに入って…、俺たち、どうするのかな」

 

 

ぽつりとつぶやくシン。

 

ステラを殺し、もう二度と自分の大切なものを奪わせない。

そう決意したシンだが、そのためにどうすればいいのか、それがわからなくなっていた。

 

どうすればいい?

守るためには、どうすればいいのか。

 

そんな言葉が、頭の中をぐるぐると回る。

 

 

「さあな。でも、議長の言葉に沿った形での作戦が行われるのは間違いないだろうな」

 

 

シンの問いに、ハイネが答える。

その後、ルナマリアが自販機から取り出したドリンクを持って歩み寄ってくる。

 

 

「ロゴスを討つなんて…、議長ご自身でも難しいっておっしゃってたのに…」

 

 

ルナマリアの言葉には、戸惑いとためらいが含まれていた。

ロゴスを討つ。なら、そのための戦略はどうなるのだろう?

 

 

「でも、どうしてもやらねばと思ったのだろう。あの悲惨な状況を見られて」

 

 

レイが言う。

その言葉が、シンの胸に刺さる。

 

悲惨な状況とは、ベルリンのこと。

そして、それはステラがやったことだ。

 

町を焼き払い、何十万、何百万という人々を死に至らしめた。

 

シンの沈んだ様子を見て、レイが声をかける。

 

 

「シンは気が乗らないか?対ロゴスは」

 

 

「え…、いや、そういうわけじゃないよ」

 

 

レイの言葉を、シンは否定する。

 

ロゴスを討つ、というのに反対はしない。

 

 

「議長の言葉通り、ロゴスは絶対に討つべきだと思う」

 

 

その言葉には、偽りはない。

だが…

 

 

「でも…、きっと、ロゴスのことを必要としている国だっているんだ。純粋に、商人としてのロゴスを」

 

 

シンは、そこが気にかかっていた。

 

議長は、ロゴスを討った後、それらの国をどう救済していくのか?

それが確認できないと、どうにもロゴス討伐に乗り気にはなれない。

 

 

「…確かに、な。ロゴスは間違いなく戦争を引き起こす要因なのは事実だが…、その影響力も大きい」

 

 

ハイネが、シンの気持ちを理解し、後をつなげる。

 

 

「シン…、そこまで考えてたなんて…。熱でもあるの?」

 

 

「なんだとぉっ!?」

 

 

ルナマリア自身は無意識だった。そして、本心だった。

だからこそ、シンは怒る。

 

ソファから立ち上がり、ルナマリアに迫る。

 

 

「あっ…、ごめんっ。つい…」

 

 

「ついだとぉっ!?」

 

 

正直に言ったルナマリアに激昂するシン。

 

 

「まぁまぁ、落ち着けシン」

 

 

「これが落ち着いてられますかぁっ!ルナ!お前は訓練生時代からそうやって…!」

 

 

何処か楽しげにシンを諭すハイネ。

だが、シンは止まらない。

 

訓練校で、同じグループになったときからルナマリアはこうやってどこかしらで自分を馬鹿にしてくる。

…馬鹿にしてくるのだ。

 

 

「だってシン、そうやって考えるようなキャラじゃないでしょ?猪突猛進というか…」

 

 

「誰が猪突猛進だ!」

 

 

先程までの重々しい空気はどこへやら、あのレイも暖かい笑みでシンとルナのやり取りを見ている。

ハイネは、爆笑しているが。

 

 

「…アスカさん、ヴェステンフルスさん」

 

 

その時、この明るい空気にはどこか似つかわしくない凛とした声がレクルームに響く。

 

騒いでいたシンとルナマリアは動きを止め、笑い声をあげていたハイネも止まる。

レイは、微笑みを収め、鋭い視線をレクルームの入り口に向ける。

 

 

「クレア?」

 

 

「議長がお呼びです。外に迎えがいますので、その人に従ってください」

 

 

シンとハイネは顔を見合わせる。

議長が、自分たちを呼んでいる?

 

一体何の用なのか。

 

とりあえず、シンとハイネはレクルームから退出した。

 

 

 

 

 

艦から降りると、クレアの言う通り迎えの兵が自分たちを待っていた。

兵に従って二人は車に乗り、流れていく景色を眺める。

 

 

「しかし、議長は一体何のために自分たちを呼んだんでしょうね?」

 

 

艦から出発し、ずっと黙ったままだったシン。

耐えきれず、自分とは逆の方向を向いていたハイネに声をかけた。

 

ハイネは景色を眺めるのをやめ、シンの方を向く。

 

 

「さあなぁ…。ま、多忙のはずの議長が俺たちなんかを呼び出すんだ。何か重要なことなんだろうよ」

 

 

重要な、こと。

それが何なのか。

 

シンだけでなく、ハイネもどこかそのことに気を馳せながら、目的地への到着を待つ。

 

車は司令部がある基地中心から外れた格納庫が並ぶブロックに入っていく。

そのブロックのさらに奥。巨大な格納庫の前に停まった。

 

シンもハイネも、ますます議長がなんのために呼び出したのかわからなくなってしまった。

格納庫で、一体何の話をしようというのだろう?

 

 

「こちらへ」

 

 

助手席に座っていた兵士が、巨大な格納庫の扉を開け、中に入るよう二人を促す。

導かれるまま、二人は足を踏み出し兵の後をついて格納庫の奥へと進んでいく。

 

 

「失礼します!シン・アスカ、ハイネ・ヴェステンフルスを連れてまいりました!」

 

 

奥の大きな扉の前に着くと、前を歩いていた兵が声を張る。

少し間が空き、扉がゆっくりと開き始めた。

 

扉の空間の中央を伸びるキャットウォーク。その上に、長身の男が立っていた。

デュランダル議長、その傍らにはなんとラクス・クラインの姿もあった。

 

案内するのはここまでなのか、兵はその場から去っていった。

シンとハイネは、それを見送り、議長の下に歩み寄る。

 

 

「お久しぶりです、議長」

 

 

議長の前に立つと、ハイネは礼を取りながら口を開いた。

シンも見習い、同じように礼を取る。

 

 

「やぁ、君たちの活躍は聞いているよ。いろいろあったが、よく頑張ってくれた」

 

 

デュランダルが、両手を開きながらシンとハイネを歓迎する。

そして、まずハイネに向けて手を差し出す。

 

ハイネはその手を取り、握る。

次にデュランダルはシンに手を差し出す。

ハイネと同じように、シンもデュランダルの手を握る。

 

 

「お二方、お久しぶりでございます。ここまで、よく来てくださいました」

 

 

二人がデュランダルと握手をし終えると、デュランダルの傍らにいたラクス・クラインが優雅におじぎする。

 

 

「いえ。ラクス様も、先日の演説、感動いたしました」

 

 

ハイネが、ラクス・クラインに返す。

 

 

「お、俺も、感動しました」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

シンも言うと、ラクス・クラインは顔を上げ、微笑んで返す。

 

 

「…さて、知っているとは思うが、事態を見かね、ついに私はとんでもないことをしてしまったよ」

 

 

ラクス・クラインとのやり取りを見守っていたデュランダルが、口を開いた。

 

とんでもないこと、先日の演説のことだろう。

ロゴスに宣戦布告をした、あの。

 

 

「まぁ、そのことを加えて色々と話したいこともあるが、まずはこれを見てくれ。先程から、もうそちらばかりに目が行ってしまっているだろう?」

 

 

デュランダルの言う通り、シンもハイネも暗い空間に浮かぶ輪郭に目が行ってしまっていた。

 

おもむろに、ライトがつく。

その明るさに、目を細めながらシンとハイネは明かりに照らされ露わになった、キャットウォークの両側に現れたグレーの機体を見つける。

 

 

「ZGMF-X42Sデスティニー、ZGMF-X74Sカンヘル」

 

 

それぞれの機体を見上げながら、どこか誇らしげに機体番号と名称を告げる。

 

二機とも、角のようなアンテナにツインアイ。セカンドシリーズを引き継いでいる形態になっていることがわかる。

 

 

「どちらも従来のものをはるかに上回る性能を持つ、最新鋭の機体だ。詳細は後ほど見てもらうが、これからは、これらが戦いの主役となるだろう」

 

 

シンとハイネは、デュランダルの次の言葉を待つ。

だが、二人とも次に発せられるだろう言葉はわかっていた。

 

 

「君たちの、新しい機体だ」

 

 

微笑みを浮かべながら、デュランダルは告げた。

 

 

「…これが」

 

 

まだ、どちらの機体が自分のものになるかはわからないが、どちらかが自分の愛機となる。

しかし、シンはどこか戸惑いを覚えていた。

 

ハイネのグフは量産が成功し、旧型と呼んでいいものになってしまっているが、インパルスはまだまだ最新鋭と言っていい機体なのだ。

それでも、最新鋭の機体を作り出した。

 

…ロゴスと戦うということは、それほどに難しいものなのか?

 

 

「どちらも工廠区が不休で作り上げた自信作だよ。気に入ってくれるといいのだがね」

 

 

一度言葉を切ったデュランダルは、シンに向き直った。

 

 

「デスティニーには、特に君を想定した調整が加えられている」

 

 

「え?」

 

 

驚き、目を瞬かせるシン。

デスティニー、あの翼のようなスラスターがついている機体。

 

あれが、自分用に調整されているというのか?

 

 

「最新のインパルスの戦闘データを参考にしてね。君の操作の癖、特にスピードはどうやら通常をはるかに超えてき始めている様だね」

 

 

「いえ、そんな…」

 

 

議長に褒められている。

だが、なぜだろう。どうしても、シンは手放しで喜ぶことが出来ない。

 

あのデストロイとの戦闘が放送されてからだ。

デュランダルのことを、信用し切ることが出来ない。

 

 

「インパルスでは機体の限界を感じ苛つくことが多かっただろうが、これならそんなことはない。私が保証するよ」

 

 

「…ありがとうございます」

 

 

頷きながらシンは言った。

 

デュランダルの微笑み。その奥に、何かあるのではないか、そう思えてしまう。

 

…どうかしている。この人は世界を平和にしようと必死になっているのだ。

それなのに、自分は何を考えているのだろう?

議長を疑うのか?あれだけ努力してきた議長を?

 

 

「ハイネの機体はカンヘルということになる。カンヘルは…」

 

 

デュランダルが、ハイネにカンヘルの性能の説明をし始める。

シンは、ふと議長の傍らに立つラクス・クラインを見た。

 

ラクス・クライン。前大戦でも、最前線に立ち、ザフト、地球両軍の暴走を止めた立役者でもある。

そして、彼女は有名な歌手でもあった。

 

そういうところに疎いシンでも、彼女の歌声は聞いたことがある。

というか、ルナマリアやメイリン、マユが勧めてくるのだ、かなり強引に。

 

全く聞かないというのも失礼だと思い、シンはもらったレコードを聞いたことがある。

彼女の歌声は、とても澄んでいて、美しくて。

 

 

「…?」

 

 

そういえば、今思い返してみると、今のラクス・クラインと昔のラクス・クライン。

歌声の感じが違うと思えるのはなぜだろう?

 

気づかぬ間に、シンはラクス・クラインをまじまじと見つめてしまっていた。

ラクス・クラインがシンの視線に気づき、目を向けてくる。

 

そして、シンの視線に気づいたのは議長も同じだった。

 

 

「どうしたね?シン?」

 

 

「え…、いや…」

 

 

ラクス・クラインを見つめていました。昔と今、何か違う感じがして。

 

言えるはずがない。

 

と、答えずにいるシンの様子を見たデュランダルが口を開く。

 

 

「彼女の様子がおかしいかね?」

 

 

「…」

 

 

こくりと頷くシン。

そのシンに対し、デュランダルは答える。

 

 

「…まぁ、それも無理はない。彼女には悪いが…、私は、アークエンジェルを落としてしまったのだからな」

 

 

「…は?」

 

 

デュランダルの言葉に、目を見開くシン。それは、ハイネも同じだった。

 

あのアークエンジェルを落とした?

自分たちがどれだけあがいても、上から見下ろすように戦っていた奴らを?

 

自分を打ち倒し、そして自分が必ず倒すと決意したフリーダムを?

 

あの艦にいるはずの、シエルを…?

 

 

「彼女も、すっかり落ち込んでしまってね…」

 

 

シンは、ラクス・クラインを見る。

 

先程までは浮かべていなかった、悲しみの表情が見えた。

…先程は感情を出さないようにしていたのか?それとも…。

 

 

「…ですが、彼らも戦争を止めようとしていたはずです。確かに、我らも彼らによって被害は受けましたが…」

 

 

ハイネが、デュランダルに言う。

 

確かに、その通りだ。あの艦の台頭に、自分たちは不満を隠せなかったが、その意志は間違いなく自分たちと同じだったはず。

それでも、デュランダルがあの艦を落とそうと踏み切ったその理由。

 

 

「…確かに、彼らも無暗に戦果を振りまこうとする意志はなかっただろう。だが、なぜ彼らは私の所に来なかった?」

 

 

デュランダルの声が、どこか冷たく響く。

 

デュランダルのもとに、アークエンジェルが来なかった理由。

 

 

「機会がなかったわけでもあるまい。あの放送を聴き、私に連絡を取ることも、彼らにはできたはずだ」

 

 

だろう。あの艦なら、そんなこと容易にできたはず。

それなのに、なぜアークエンジェルは自分たちと共に戦おうとしなかったのだろう?

 

 

「ラクスだってこうして、共に戦おうとしているというのに?」

 

 

…そうだ。ラクス・クラインも、共に戦争を止めようと戦っている。

それでも、あの艦はこちら側に来ない。

 

だが…、だが。

 

 

「ですが…、あの艦には、シエルがいました」

 

 

アークエンジェルには、シエルがいた。

自分たちの仲間が、いた。

 

 

「…そのことは、本当にすまないと思っている」

 

 

先程の冷たい声と打って変わり、デスティニーとカンヘルを紹介していた時のような暖かい声でデュランダルは謝罪する。

 

 

「だが、わかってほしい。あの艦は、危険だった」

 

 

「危険?」

 

 

シンが、デュランダルの声を復唱する。

 

 

「ラクスと離れ、何を思ったのかは知らないが、オーブの国家元首を攫い、戦闘になると現れ好き勝手に敵を撃つ。そんな、訳の分からない力を、ザフト軍最高責任者として、野放しにすることはできなかったのだ」

 

 

…答えは、でた。

デュランダルは、アークエンジェルを危険視していた。だから、討った。

 

これ以上の答えは、もう出ないと悟るシン。

 

 

「…もう一つ、よろしいでしょうか?」

 

 

「…あぁ」

 

 

シンは、あの放送からずっと気になっていた疑問をぶつけてみることにした。

デュランダルならば、しっかり答えてくれるだろう。

 

 

「議長は、ロゴスを討つとおっしゃいました。ですが、ロゴスの影響力は世界中に及ぶものと思っております」

 

 

「あぁ、そうだな」

 

 

シンの言葉に返事を返すデュランダル。

シンは、さらに続ける。

 

 

「わかっているのならお聞きします。ロゴスを討ち、間違いなく衰退していく国は現れます。それらの国を、議長はどうしていくつもりなのですか?」

 

 

…言い切った。心臓はばくばく震えまくりだ。

 

我ながら、驚きだ。下手をすれば、ここからつまみ出されてしまうほどの態度を取ってしまったのだ。

 

 

「…ふむ。もう少し秘密にしておきたかったのだが、君たちには明かしておこう」

 

 

「?」

 

 

シンもハイネも、疑問符を浮かべる。

 

秘密?自分たちには明かす?

何のことだろう。

 

 

「シンの言う通り、ロゴスの力は大きく、ただ彼らを滅ぼせば世界にとって逆効果になってしまうだろう」

 

 

自分の考えは、正しかった。

なら、議長はそれをどうやって乗り越えるというのだろう。

 

 

「だが、私はあるプランを考えている。世界を、かならず平和に導くことが出来るプランを」

 

 

「プラン、ですか?」

 

 

ハイネがデュランダルに問い返す。

 

デュランダルが言った、プランとは。

 

 

「人は自分を知り、精一杯できることをして役立ち、満ち足りて生きることが一番の幸福だと、思わないだろうか?」

 

 

デュランダルが問いてくる。

 

 

「…そう、ですね。私はそう思います」

 

 

ハイネが少し考えるそぶりを見せた後、そう答える。

シンも、考える。

 

 

「…はい。私も同じく、そう思います」

 

 

シンも、それについては同感だった。

自分が出来ることをして、人に役立ち、それで満ち足りることが出来るのなら、それは一番の幸福だろう。

 

…それで、満ち足りることが出来るのなら。

 

 

「私は、そんな世界を創り出していきたい。それができる、そんなプランを、私は実行していきたいのだ」

 

 

まだ、時間が必要だがね、とデュランダルは言いながら微笑む。

 

 

「…協力、してくれるだろうか?」

 

 

再び、問いてくるデュランダル。

ハイネは即座に頷く。

 

デュランダルは、ここにシンとハイネが入ってきた時の様に、ハイネに手を差し出した。

ハイネは、その手を握る。

 

そして、デュランダルはシンを見る。

 

 

「…俺は」

 

 

どうすればいいのだろう。

 

はっきり言うと、自分はマユを、家族を守る力が欲しいがためにここに来た。

そして今は、その家族を、そして増えた仲間を守るために戦ってきた。

 

そんな、世界を平和にするために、などと想像することが出来ない。

 

 

「…俺は」

 

 

もう一度、シンは口を開いた。

 

そしてシンは、答えを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新しく出た、カンヘルの性能の紹介です

ZGMF-X74Sカンヘル
武装
・ビームサーベル×2)=ビームハルバート
・ビームライフル
・小型ビームユニット×6
・広範囲円状ビーム砲γ
・近接防御機関砲
・ビームシールド

パイロット ハイネ・ヴェステンフルス

ザフトが開発したZGMFシリーズ第三世代機。
ハイネ専用として、VPS装甲を解放するとオレンジ色のカラーが覗かせる。
元々、小型ビームユニットはドラグーンとする予定だったのだが、ハイネの適性が少ないことが発覚。ドラグーン搭載は断念された。
しかし、後背部には円盤状となっているのだが、円盤を開放することが可能。
開放すると、その中には筒状の砲塔が搭載されており、エネルギーがたまると円状にビームを発射することが出来る。
殲滅戦に適した機体となっている。
だが、γは一度放つと次のエネルギーが溜まりきるまで発射不可能となる。


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PHASE36 やっぱり、一番

お久しぶりです!
寝る前に投稿できてよかった…。


「ミネルバ所属、レイ・ザ・バレル。出頭いたしました」

 

 

若い男の声が耳に届き、デュランダルは視線を扉に向けた。

 

 

「レイ、元気だったかい?体の方は大丈夫か?」

 

 

「はい、問題ありません」

 

 

言葉の通り、扉の傍にはレイが立っており、デュランダルはレイを近くに招く。

そして、応接室に向かって歩みながら、レイに近況を問う。

 

 

「ロドニアのラボでは辛い目に遭わせてしまったな。いや、私も迂闊だった…」

 

 

「いえ、ギルのせいではありません。大丈夫です」

 

 

ロドニアのラボ。デュランダルは、その調査をレイとシンに命じた。

結果、レイは状態に異常を喫してしまった。

 

 

「私もあんな風になるとは思っていませんでしたので…、驚きましたが…」

 

 

デュランダルは予測する。おそらく、あのラボの中でレイは過去の記憶を呼び起こされてしまったのだろう。

忌まわしき過去、冷たい試験管が並ぶような場所で。

 

 

「何か飲み物はいるか?色々と細かい話を聞かせてほしいのだが」

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

デュランダルは立ち上がり、応接室の中にあるポットを傾ける。

手に持つカップに、コーヒーが注がれ、デュランダルはカップをレイに差し出す。

 

デュランダルもまた、自分で淹れたコーヒーを口に含みながら、レイの話に耳を傾ける。

 

 

「ミネルバの様子は問題ありません。シエル・ルティウスが囚われた直後は、やや空気が沈んだものとなってしまいましたが…。その後は」

 

 

「ふむ…」

 

 

特に、問題はない、だろうか。

レイの話を聞く限り、そう判断できる。

 

だが、デュランダルには気になることがある。

 

 

「…シンはどうだ?」

 

 

「シン…ですか?」

 

 

レイは、少し戸惑いを見せる。

だが、すぐにそれを収めレイは答える。

 

 

「特に変わりはありません。…何か気になることでも?」

 

 

「…いや」

 

 

レイの言葉を、デュランダルは否定する。

 

気になること…は、ある。

先程行った謁見で見せた、あのシンの瞳。

あれは間違いなく、自分を疑っているものだ。

 

いや、まだ疑いの段階までは行っていないだろう。

それでも、このまままっすぐ計画を進めてもいいのだろうか?

 

 

「ギル…?」

 

 

レイが、気づかわしげに目をこちらに向けながら、問いかけてくる。

 

 

「やはり…、シンに何か…?」

 

 

「いや、まだ、大丈夫だろう」

 

 

そう、まだ。まだ、大丈夫だ。

 

 

「こちらには、彼に対してのジョーカーがある」

 

 

こちらには、切り札があるのだ。

シン・アスカが、こちらに服従しざるを得ない、その切り札が。

 

 

「…ともかく、しばらく彼のことをよく見ておいてくれ」

 

 

デュランダルは、レイに釘を差す。

 

 

「彼が万が一、敵になってしまえば…、かなりのことだからな」

 

 

そんなことはないと言える。

言えるのだが…、なぜだ。なぜ、胸にある不安を拭い切れない。

 

なぜ、胸騒ぎを止めることが出来ないのだ。

 

 

「…そうだ、レイ。来たばかりのところ悪いが、クレア・ラーナルードを呼んできてくれないか。それと、彼女と共に、君にも話がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンは、暗い部屋の中、明かりもつけずに立ちつくしていた。

壁に寄りかかりながら、窓の外をじっと眺めていた。

 

外では激しい雨が降り、時には雷鳴が鳴り響く。

 

考える。議長が言っていた言葉を。

 

 

『人は自分を知り、精一杯できることをして役立ち、満ち足りて生きることが一番の幸福だと、思わないだろうか?』

 

 

『私はそんな世界を創り出していきたい。それができる、そんなプランを、実行していきたいのだ』

 

 

まるで夢を見ているようなまなざしで、議長はそう言った。

 

 

『協力、してくれるだろうか?』

 

 

その後に言った言葉。

その議長の表情が、頭から離れない。

 

拒否は断じて許さない。まるでそう言っているような、冷たい目をしていた。

表面上は笑っていた。だが、目は笑っていなかったのだ。

 

 

「…議長」

 

 

最近の議長の行動は、どうにもひっかかる。

 

世界を良くしていこうとする気持ちからなのだろうか、それでも、何故か嫌な気がしてならない。

 

元々、シンは唯一残った家族、マユを守る力を得るためにザフトに来た。

今や、守りたい仲間というものが増えてきたが…。

 

それだけを考えて戦ってきたシン。だが、今度は世界のためときた。

 

事実、シンだって戦争を止めたいと思っているし、そのために戦いたいとも思っている。

 

それでも、議長の言っていたことはスケールが大きい。

世界を変える。あの人はそう言っているのだ。

 

 

「…はぁ」

 

 

ため息をついてから、窓から離れ、ベッドに倒れ込んだ。

 

少し、瞼が重い。

議長から受領したデスティニーの整備は、明日にしよう。

 

ここ、ジブラルタルには数日滞在できるらしいし、その時間はある。

 

少し、眠ろう…。

 

そう考えた時だった。

 

コンコン、と音が響く。

誰だろうか、シンは襲い掛かる眠気に耐えながら、気だるげに起き上がる。

 

 

「シンー、いるー?」

 

 

この声は、ルナマリアだ。

本当に、いつも自分が何かをしようとするというタイミングでやってくる。

 

…まぁ、今回はただ寝ようとしていただけなのだが。

 

 

「ったく…」

 

 

小さく悪態をつきながら、シンは扉に向けてゆっくり歩く。

正直、居留守を使って無視することも選択肢にあるのだが…、後が怖い。

 

 

「なんだよ…」

 

 

扉を開けながら、不機嫌さをまるで隠していない声で対応する。

ルナマリアは、きょとんとした表情になって…。

 

 

「…どうしたの?うわっ、部屋も真っ暗じゃない!」

 

 

「…少し眠ろうとしたんだよ。そんな時に来やがって」

 

 

シンの不機嫌さむんむんの表情に驚いたルナマリア。さらに、部屋の中の明かりが着いていないことを指摘する。

だが、シンは今日はゆっくり休もうとしていたのだ。休息を、邪魔された。

 

 

「あ、そう?まぁいいわ」

 

 

「おいっ!」

 

 

流されてしまった。いつもそうだ。

ルナマリアは、他人の都合をよそにずかずかと…。

 

いや、自分もただ眠ろうとしていただけなのだが。

 

 

「艦長からの連絡よ。シンが部屋にいてよかった」

 

 

「艦長から?」

 

 

どうせ大した用じゃないと高を括っていたシンだが、艦長からということを聞き、表情を引き締める。

 

 

「えぇ。私も、さっき聞いたんだけど…。レイとクレアが明日、プラントに戻るって話なのよ」

 

 

「レイとクレアが!?」

 

 

目を見開き、思わず大声を出してしまったシン。

慌てて手で口を噤む。が、すぐにシンはルナマリアに聞き返す。

 

 

「レイとクレアがって…、ホントなのかよ?」

 

 

「ホントよぉっ。議長から艦長が聞いて、そして艦長から私が直接聞いたのよ?」

 

 

「…なら安心できるな」

 

 

「どういうことよっ!」

 

 

ルナマリアを馬鹿にするような言葉をシンが吐き、憤慨するルナマリア。

そんな彼女を無視して、シンは思考に耽る。

 

 

(レイとクレアが…?議長は何を考えているんだ…)

 

 

ここまで、勝ち続けてきたミネルバだが、戦力が少ないというのは否めない。

そんな少ない戦力の中から、とても貴重な人材を議長は取り除いてしまったのだ。

それも、ロゴス討伐を宣言した直後にだ。

 

恐らくだが、ロゴス討伐作戦はミネルバ中心で展開されるだろう。

そんなミネルバから、戦力を…。

 

 

「シン…?」

 

 

真剣な顔をして考え込むシンを、心配そうにのぞき込むルナマリア。

 

 

「あ…」

 

 

「どうしたの?何か…、気になることでもあったの?」

 

 

かなり図々しい彼女だが、こういうところだけはかなり気遣いができるのだ。

だからこそ、誰も彼女を嫌いにならない。なることができない。

シンも、当然その一人なのだ。

 

 

「いや、何でもない。連絡ありがとう」

 

 

笑みを浮かべながら、ルナマリアに礼を言うシン。

少しの間、ルナマリアは心配そうな目をシンに向けるが

 

 

「…そう」

 

 

すぐにそれを解く。

 

 

「なら、私は確かに伝えたからね」

 

 

「あぁ。…そうだ、少し早いけど、夕飯行かないか?」

 

 

立ち去ろうとするルナマリアを、シンは呼び止める。

時間的には少し早い気もするが…、どうせなら夕食を取ってしまおうと考えた。

一人で食べるのも退屈だし、ルナマリアを誘う。

 

 

「そうね…、そうしましょうか」

 

 

シンの誘いを承諾したルナマリア。

シンは一度部屋の中に戻ってカードキーを取り、扉にロックを掛けてから二人は並んで歩き始める。

 

 

「あ、そうだ!聞いたわよシン!最新機を受領したんだって?」

 

 

「…まあね」

 

 

ルナマリアが言った最新機とは、間違いなくデスティニーのことだろう。

議長から受け取った機体。インパルスをも上回る高性能の機体。

 

思い出す、議長の言葉。

 

 

「…どうしたの?」

 

 

「え…、いや、何でもないよ。…そうなんだよなぁっ。俺、最新鋭機を受け取ったんだよ。ルナマリアとも差がついたなぁ…」

 

 

再び思考に耽ってしまったシンを、再び心配げにのぞき込むルナマリア。

誤魔化すために笑みを浮かべ、最後にはからかいの言葉を言う。

 

 

「なによぉっ!シンなんかすぐに追い抜いてやる!」

 

 

「へっ、やれるもんならやってみろ!」

 

 

ニヤリと笑い、シンはルナマリアに背を向けて歩き出す。

だが、ルナマリアはシンについて歩くことが出来なかった。

 

 

(…シン?)

 

 

先程見た、シンの真剣そうな表情。

めったに浮かべない、あんな表情。

 

なぜだろう、胸騒ぎがする。

 

シンが、どこか遠くに行ってしまうような…、そんな…。

 

 

「どうしたんだよルナ!置いてくぞ!」

 

 

「…そっちから誘ってきたのに、置いてくはないでしょ!」

 

 

いや、気のせいだ。そんなはずはない。

シンは、仲間なのだ。大切な…、友人なのだ。

 

確かに、パイロットとしての技量は遠く及ばなくなってしまったが、訓練校時から築いてきた絆は変わらない。

だから、あり得ない。

 

シンが、自分を裏切ることなど。

 

 

 

 

 

あり得るはずがないのだ。

 

 

 

 

 

 

シンとルナマリアは、食堂にやってきた。

ジブラルタルは、地球上のザフト軍の総宝山と言ってもいい。

 

施設の規模もさることながら、質だって最高級だ。

当然、食事も。

 

食堂の中は、どこの高級レストランだよ、と突っ込みたくなるくらいの雰囲気だ。

まぁ、高級ホテルの食堂なのだから当然と言えば当然なのだが。

 

庶民的なものしか体験したことがないシンにとっては未体験なことだらけ。

 

 

「何してんの、シン?とっとと座るわよ」

 

 

「あ…、あぁ…」

 

 

何ということだ。ルナマリアは物凄くあっさりした様子で席に着こうとしているではないか。

こういうお店に慣れているのだろうか…?

 

 

(何だろう…、凄く負けた感覚がする…)

 

 

シンの視線の先で、ルナマリアがどこか優雅に見える動作で椅子を引き、そして座る。

 

…なぜだろう、喧嘩を売られた気がする。

 

 

(いいだろう…。買ってやる!)

 

 

まったくの的外れなことを心の中で考えながら、シンもルナマリアが着いたテーブルに向かう。

そして、なるべく優雅に見えるように椅子を引いて…、すっ、と席に着く。

 

 

「…」

 

 

どこかぽかんとした表情でシンを見るルナマリア。

 

…ふっ、どうだ。俺の優雅なこの動作は?

 

シンはルナマリアの様子を窺う。

ぽかんとした表情のまま、ゆっくりとルナマリアは口を開く。

 

 

「シン…」

 

 

「ん?どうした?」

 

 

心の中でほくそ笑みながら、そして違和感を感じさせないようにルナマリアの呼びかけに答えるシン。

そして、ルナマリアは言った。

 

 

「別に、魅せようとしなくてもいいのよ…?シンがこういうところに慣れてないっていうのは何となくわかるから…」

 

 

「…」

 

 

心の中でうめき声を上げるシン。

勝手に喧嘩を売られたと勘違いし、そして勝手に勝った。

 

結果、勝負は完全敗北となってしまったシンだった。

 

 

「…」

 

 

「え…えと…」

 

 

テーブルに項垂れるシン。何が何だかわからず、狼狽えるルナマリア。

 

 

「ほ、ほらっ!早くちゅうもんしちゃおっ!」

 

 

さっ、とメニュー表を手に取り、シンにも見えるように開く。

 

 

「…」

 

シンは、わずかにメニュー表を視界に入れる。

目を巡らせ、お、と思ったメニューがあった。

 

 

「これ…、カルボナーラにするよ」

 

 

「これ?シンって、パスタ好きだよね?それも貝類込みの」

 

 

シンが選んだ料理、パスタ。

シンは良くパスタを頼むのだ。その店にパスタがあれば。

さらに、メニューにカルボナーラがあれば、間違いなくシンはそれを選ぶ。

 

 

「なんだよ…。好きなんだからしょうがないだろ?」

 

 

やや不機嫌そうに返すシン。

 

 

「そうだけどさ…。いつもいつも同じもの頼んで、飽きないの?」

 

 

「飽きない」

 

 

即・答。本当にシンはカルボナーラが大好きなようだ。

 

 

「…?」

 

 

と、ルナマリアはメニュー表に載っていた、シンが頼んだカルボナーラの材料を見る。

その材料の中の一つが目に入る。

 

 

「…ふふん」

 

 

「?なんだよ?」

 

 

急にニヤけだしたルナマリアを不審に思うシン。

シンの視線を受けても、ルナマリアはニヤけ顔を止めない。

 

 

「…ニヤニヤして、気持ち悪いぞ?」

 

 

「ふふふふ…」

 

 

シンの悪口を受けても、ルナマリアは怒らない。

ここで、シンも何やら嫌な予感がしてくる。

 

そして、シンの感情の変化に気づいたルナマリア。

 

 

「あ、店員さん!注文お願いします!」

 

 

「お、おい…!」

 

 

どうしてだろう。議長の言葉を聞いていた時とは違った質の、嫌な予感がする。

ルナマリアを止めようとするシンだが、時すでに遅く、ルナマリアは自分の頼む料理とシンが言った料理を店員に知らせてしまった。

 

 

「…」

 

 

まぁいいか、と息をつく。

どうせ大したことないだろう、そう、信じたい。

 

 

「…ふふん」

 

 

「だから、何なんだよ…」

 

 

注文を終え、去っていく店員。そして、再びニヤケ顔を向けてくるルナマリア。

もう一度、声をかけるシンだがルナマリアが返してくるのはニマニマ顔。

 

少しの間、ルナマリアを睨むが、すぐにシンは大きくため息をついた。

あと少しすれば、ルナマリアの笑顔の理由もわかるだろう。

 

そんな風に考えていた時だった。

 

 

「お兄ちゃん?ルナマリアさんも」

 

 

「珍しいね、お姉ちゃんたちが二人で食事なんて」

 

 

シンとルナマリアが、声が聞こえてきた方に目を向ける。

 

 

「マユ?」

 

 

「メイリンも?」

 

 

その視線の先には、マユとメイリンがこちらを見ていた。

 

 

「お姉ちゃんの部屋に誘いに行ったんだけど…」

 

 

「ここにいたんじゃ、部屋にいるわけないですね」

 

 

マユとメイリンが苦笑を浮かべながら言う。

 

 

「…おい、どこ行くんだ?」

 

 

マユとメイリンが、立ち去っていく。不思議に思ったシンが、二人を呼び止める。

二人は振り返って、こう言った。

 

 

「だって、二人の邪魔しちゃダメでしょ?お兄ちゃん?」

 

 

「じゃ、ごゆっくり~」

 

 

にこり、と。まるでからかっているように笑って、二人は今度こそ去っていく。

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

シンとルナマリアは目を見合わせて、がたっ、と立ち上がった。

 

 

「待て、マユ、メイリン!」

 

 

「一緒にご飯食べましょ!?ね!?」

 

 

慌てて二人はマユとメイリンを追いかける。

といっても、食堂の中の雰囲気が雰囲気で、早歩きで追いかけるしかないのだが。

 

 

「え…、でもお姉ちゃん、デートの途中だったんでしょ?」

 

 

「何がデートよ!ただ自分も食べたいからついでにって感じよ!そうでしょ、シン!?」

 

 

「あぁ!」

 

 

「ふ~ん…?お兄ちゃんからルナマリアさんを誘ったんだ?」

 

 

「っ!?」

 

 

デートという言葉に狼狽えたシンとルナマリア。

そして、図星を突かれてさらに狼狽えるシン。

 

マユとメイリンはさらに笑みを深くさせる。

 

 

「…くっ」

 

 

こっそりと、気づかれないように、テーブルについて様子を見守っていたハイネが笑いを零した。

その後、ハイネはすくっと立ち上がる。

 

ついに騒ぎ始めてしまった面白い部下たちを、止めるために。

 

楽しげに、ハイネは歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリカ!」

 

 

ドック内の管制ブースに見知った顔を見つけ、カガリはその人に向かって声をかけた。

カガリに声をかけられた女性、エリカ・シモンズが、声に気づいてこちらに顔を向ける。

 

 

「おかえりなさい、放蕩娘さん」

 

 

にっこり笑ってからかうエリカ。

からかわれたカガリは、ぶんすかとおこ…らなかった。

 

隣に立っていたキラも、目を丸くする。

昔の彼女なら、エリカに食って掛かっていただろう。

 

彼女も成長したのだ。

 

 

「キラ君も、久しぶりね」

 

 

「はい。お元気そうで何よりです」

 

 

カガリから、視線をキラに移して声をかけるエリカ。

キラもエリカに言葉を返す。

 

キラ、カガリたち。傷ついたアークエンジェルはオーブ国内まで帰ってきていた。

キラたちがいるのは、マルキオ導師の伝道所があったアカツキ島の地下に密かに建設されていたドックだ

連絡を受けたエリカは、急いでここに駆けつけてくれたのだ。

 

 

「それにしても、手酷くやられたもんね…。いえ、いつもながら…というべきかしら?」

 

 

ドックに入った巨艦を眺めながら、ため息をついたエリカ。

 

 

「はい…。それに、僕もセラも…、フリーダムとリベルタスを…」

 

 

カガリとエリカは、キラのもどかしげな表情を見つめる。

この場にはいないセラも恐らくそうだろうが、機体を失ったという現実は、思う以上に彼らにダメージを与えたのだろう。

 

 

「聞いたときは耳を疑ったけど…、本当に、悪運が強い子たちね」

 

 

キラに笑いかけながら、エリカは言う。

そして、すぐにもう一度口を開いた。

 

 

「セラ君はどうしたの?ここにはいないけど…」

 

 

先程も言ったが、セラはこの場にいない。

気になったエリカは、キラに問いかけた。

 

 

「セラは…、自室にいると思います」

 

 

「自室?」

 

 

セラは自室にいるだろう。

彼には、やらなければならないことがあるのだから。

 

 

「…それよりも、艦の整備を」

 

 

「わかってるわ。さっきもラミアス艦長に言われたし…。また、この艦が戦いに出る事態が迫ってるのでしょう?」

 

 

鋭くなった視線をキラに向け、言う。

キラも、エリカに目を逸らさずにゆっくりと頷く。

 

キラは、エリカからアークエンジェルに視線を移す。

傷だらけとなった白亜の巨艦。

また、あの艦は戦場に飛び立たなければならないだろう。

 

そして、自分も。セラも。

また、あの場に。

 

 

「…」

 

 

視線を落とすキラ。

 

だが、もう自分には剣を持っていない。剣を、折られてしまったのだ。

そして、それはセラも同じ。

 

 

「キラ…」

 

 

カガリが、心配げにキラをのぞき込む。

 

キラは、何でもないよと声をかけてアークエンジェルに視線を戻す。

この艦の修理が終われば…、その後、どうなる?

 

わからないことだらけだ。

あの時と同じで、自分たちはどうしていけばいいのか、わからない。

 

 

「…」

 

 

キラは、足を動かす。

カガリについてここに来たが、ここにいても何も始まらない。

剣を折られてしまった自分でも、何かできることがあるはずだ。

 

 

「キラ?」

 

 

「大丈夫だよ。艦の修理、手伝えることがあるかもしれないから」

 

 

声をかけてきたカガリに返事を返し、キラは足を進める。

 

そう。セラならこうするはずだ。

何かできることがあるなら、絶対に全力でそれをやり遂げる。

 

 

『それをやれるだけの力があるのに、それをやらないで死ぬ。それだけは、絶対に御免だ』

 

 

セラが言っていた言葉。

自分だって、同じ風に思う。

だから、キラは足を進める。

 

その眼には、迷いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

キラがエリカと話していたころ、セラは自室にいた。

一人ではない。その傍らには、思い人のシエルが。

 

 

「アークエンジェル、修理に時間かかりそうだね」

 

 

「そうだな。まぁ、あれだけやられたらな…」

 

 

ふとつぶやいたシエルの言葉に、セラがどこか沈んだ様子を見せた。

シエルは、慌ててセラに声をかける。

 

 

「あ…、セラのせいじゃないよ!セラが…、キラもいなかったら、今頃沈んでた…。私だって…、死んでた」

 

 

シエルがフォローするが、セラの表情はすぐれない。

それでも、シエルを何とか安心させようと笑いかける。

その笑顔が、シエルの胸にちくりと痛みを奔らせる。

 

 

「セラ…」

 

 

シエルは、セラの手の上にそっ、と自分の手を添えた。

セラの体がピクリと動き、シエルに目を向けた。

 

シエルは、セラに微笑みかける。

そして、セラも。わずかにぽかんとした表情を見せたが、すぐにそれは微笑みへと変わる。

 

その微笑みを見たシエルは、自分の頭をセラの肩に乗せた。

 

自分たちは、初め敵同士だった。

戦場で再会し、セラは自分を救ってくれて…、心を通い合わせて…、そして、また敵同士になった。

 

また、戦場で同じように再会し、敵同士にも拘らず、セラはまた自分を助けてくれた。

 

あの時と違うのは、今の自分たちは考え方が食い違っていることだ。

それも、致命的な部分で。

 

けど、こうして触れ合えている。

 

自分は、理解した。してしまった。

 

アークエンジェルに来て、ザフトに戻ってきた今までのことを思い返して。先日ザフトに襲われたことで。わかってしまった。

 

議長にとって、自分はただの駒だったのだ、と。

そして、それは他の兵士たちにとっても同じなのだ。

 

ミネルバのクルーたちもそうなのだ。

シンたちパイロットも、マユたち整備員。艦橋で働く人たちも。皆。

自分が理想とする役割を果たしていれば、彼にとってはそれでいい。

 

だから、自分は用済みとなったのだ。

 

考えたくはない…、が、セラから聞いた通りなら、セラと戦ったあの機体にはロイが乗っていた。

そしてロイは容赦なくセラを落とし、そしてアークエンジェルにも攻撃を加えた。

 

自分がいると知っていれば…、恐らく行動は違っていただろう。

…考えたくはないが。

 

 

「シエル…?」

 

 

考え込んでいたシエル。深刻な表情が気になったセラが声をかける。

はっ、と我に返ったシエルは、セラに笑みを向ける。

 

 

「ううん、何でもないよ」

 

 

シエルは体をセラから離して立ち上がった。

そして、一歩二歩と歩いた後、振り返る。

 

 

「セラ。言いたいことがあるの」

 

 

「…?」

 

 

首を傾げるセラ。

 

 

「セラから聞いた話…。ザフトの特殊部隊のことや…、これまでの議長の行動…。それに、先日の襲撃…。それでも、私は…、議長を信じたいって言う気持ちがある」

 

 

戦争を懸命に止めようと努力していた議長。

その姿勢だけは、偽りでないと言い切れる。

 

それは、セラたちにとっても同じだ。

だが、そのやり方が気にかかってしまう。

 

偽のラクスを置いたり、セラ、ラクス暗殺未遂の件。

世界に平穏をもたらしたいのなら、二人の力を借りるべきなのに、議長は排除しようとした。

 

 

「だけど…、ここに戻ってきて改めて自覚したの」

 

 

まだ、迷いは振り切れていないというのが本音だ。

だけど、それでも。

 

 

「やっぱり、セラが一番なの…。私にとって…、セラは…」

 

 

「シエル…」

 

 

セラが、一番大事なのだ。

セラを、一番愛しているのだ。

 

 

「…セラ?」

 

 

セラが立ち上がる。

何も言わずに、シエルに歩み寄ってくるセラ。

 

シエルが呼ぶが、セラは反応しない。

そして…

 

 

「せ…っ」

 

 

セラは、その腕の中にシエルを収めた。

そして、その顔をシエルの肩にうずめる。

 

シエルも、自分の腕をセラの背に回す。

 

 

「シエル。俺も、そうだから」

 

 

「え?」

 

 

シエルの肩をつかみ、そっと離れたセラが言う。

セラの言葉の意味を一瞬計りかねたシエルが聞き返すが…、すぐに意味を読み取り、その顔を赤く染める。

 

だが、セラは自分の言葉を理解できなかったのだと思っている。

再び口を開く。

 

 

「だから…、俺も…、シエルが一番だから…」

 

 

「っ…」

 

 

初々しい。これでも恋人同士になってからそこそこ長い時は経っている。

愛してる、などの言葉もそこそこ交わしてきている。

 

そして、その度に互いは恥ずかしがる。

…何なのだ、こいつらは。

 

 

「セラ…」

 

 

うるんだ目をセラに向けるシエル。

セラは思わずたじろいでしまう。

 

それと同時に、もう耐えきることができなかった。

 

 

「せ…んむっ!?」

 

 

また、黙り込んでしまったセラに声をかけようとしたシエルだったが、それはできなかった。

なぜなら、ふさがれてしまったのだから。

 

何を?

 

そんなもの、考えずともわかるだろう。

 

 

 

 

 

二人の影は、一つになっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




強引かな、とも思ったのですが、やっぱり本気でその人を愛しているなら何よりも優先してしまうと思うんですよね。
特に、セラとシエルはww

改)シンが頼んだメニューを変更しました


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PHASE37 渦巻く思惑

少し短いです


ミネルバがジブラルタルに着いてから三日経ったその日、運命の日がやってきた。

ミネルバ含む、ジブラルタルに所属していたザフト軍は進軍を開始していた。

 

目標は、ヘブンズベース。

地球軍、いや、ロゴスの総本山の巨大基地。

そこに向けて、デュランダルは進軍を命じた。

 

ロゴスを、討つために。

 

進軍していくザフト軍だが、その軍勢の中にはザフトのものではない軍艦も混ざっていた。

 

前にも言ったが、デュランダルがロゴスの存在、そしてそれらを討伐するという宣言をしてから、地球の国々、そして元々地球連合にくみしていた義勇軍がデュランダルにコンタクトを求めてきた。

ザフト軍勢の中に混ざっている地球軍艦、それは義勇軍のものだった。

 

そう、後に行われる戦闘。

それは、ザフト対地球軍ではない。

 

ザフト・地球連合軍対ロゴス

なのだ。

 

 

 

 

「要求への回答制限まで残り、五時間…」

 

 

ミネルバ艦橋で、艦長席に座っていたタリアが時計を確認しながらつぶやいた。

ジブラルタルを出発したザフト・義勇連合軍は、すでにヘブンズベースを望むアイスランド沖に布陣を完了していた。

 

タリアが言っていた要求、とは、デュランダルがロゴスに対して提案したものだ。

 

一つ、さきに公表したロゴスメンバーの引き渡し

二つ、全軍の武装解除、基地施設の放棄

等、デュランダルはロゴスに対して提案した。

 

これらの要求を飲めば、武力を行使しないと。

 

 

「…やはり、無理かな?」

 

 

沈黙に包まれていた艦橋に、低い声が響く。

クルーたちが、その声の主に視線を注いだ。

 

声の主、ギルバート・デュランダルに。

 

デュランダルは、ミネルバに乗り込んでいたのだ。

自分は、その場所で。今から何が起きようとも。その現実を、目にすべきなのだ、と。そう言って。

 

タリアも、初めは渋ったが一兵士である彼女が彼に対して逆らえるはずもなく、了承するしかなかった。

 

そして、先程のデュランダルの言葉だが、さきに記したロゴスに対する要求である。

未だ、ロゴスの回答は得られていない。

 

氷の海、上空では民間のヘリコプターも飛び交っている。

 

 

「戦わずに済めば、いいんだがな…」

 

 

デュランダルの言葉通り、戦わずに済めばいい。

対話で、解決できればそれが一番いい。

 

だが、誰もが感じていた。悟っていた。

そんなこと、あり得ないと。

 

残った五時間の後。

間違いなく、今まで経験したことのない激闘が繰り広げられるのだと。

そう感じ取っていた。

 

逃げることはできない。

戦うしか、ない。

 

もう、避けられないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じころ、ヘブンズベース全区画にはひっきりなしに管制アナウンスが鳴り響いていた。

着々と、戦闘準備が進められているのだ。

 

小都市と言っていいだろう。基地内部を車両が行き交い、各所の隔壁が閉ざされていく。

格納庫に収容されている大量のモビルスーツ。

そのそれぞれにパイロットが乗り込んでいく。

 

 

『第七機動群、配置完了』

 

 

『ニーベルングへのパワー供給は、三十分後に開始する』

 

 

指令室を見下ろせるブース。そこに、ロゴスの当主、ロード・ジブリールはいた。

ジブリールだけではない。ジブリールの他のロゴスメンバーの男たちも、ブース内のソファに腰を下ろしていた。

 

そして、その場の空気はこれから血栓が行われるとは思えないほど優雅なものだった。

テーブルに置かれている紅茶が室内に優しいにおいを充満させる。

ロゴスのメンバーたちは誰もが優雅な衣服に身を包んでいる。

 

 

「通告して回答を待つ、か」

 

 

ジブリールは、背をソファにもたれかけながらつぶやいた。

 

 

「デュランダルはさぞや気分が良い事でしょうよ」

 

 

そして、皮肉に口を歪めた。その顔は、悲壮さなど微塵も浮かべていなかった。

自分は今まさに、包囲されているというのに。

 

 

「しかしジブリール。これで本当に守り切れるのか?」

 

 

不安げに、ロゴスのメンバーが問いかける。

そう、これが普通の反応なのだ。

 

圧倒的質量が、自分を囲んでいるのだ。

このまま戦えば…、本当に勝てるのか?

 

不安に思うのが、普通なのだ。

 

 

「守る…?何をおっしゃいますか!我々は、攻めるのですよ!今日!これから!」

 

 

それなのに、この男の自身振りはどうだ。

一体、何を考えているのか。

 

 

「我々を討てば、世界は平和になる?はっ!確かに民衆は愚かです。あんな言葉に惑わされ、ほいほいついていってしまうのですから。だが、だからこそ!我々が奴を討たなければならない!」

 

 

ジブリールの、使命感が感じられる言葉に、メンバーの男たちも感銘を受ける。

深く頷き、口を開く。

 

 

「たしかに、のう…。我らを討ったとて、ただ奴らが取って代わるだけじゃ…」

 

 

それを見たジブリールは、にやりと笑って口を開く。

 

 

「正義の味方や神のような人間など、いるはずもないということを我らは知っています…」

 

 

この世に、そんな人間はいない。

どうせ、心のどこかでは自分たちと同じように欲望を持っている。

それは、デュランダルにだって同じはずだ。

 

あんな甘い言葉を吐いているが、どうせ何かを企んでいるのだ。

自分たちを追い出し、落とした空いた席に座ろうとしている。そんな所だろうとジブリールは考えていた。

 

 

「我らとて、これまで数多くあった危機を乗り越えてきたのです!この危機も…、絶対に乗り切れるはず!いえ…、乗り切るのです!」

 

 

ジブリールは高々と告げながらソファから立ち上がった。

 

 

「準備ができ次第、始めますよ」

 

 

ジブリールは、巨大な窓から指令室を見下ろしながらほくそ笑んだ。

 

 

「見ていろ、デュランダル議長殿…。貴様が浮かべているであろう勝利の笑みを…、絶望の敗者の表情に変えてやる…」

 

 

 

 

 

「…」

 

 

そんなロゴスメンバーのやり取りを、室内で眺めている者がいた。

 

 

「…やれやれ」

 

 

ぼそりと、誰にも聞こえないように小さくつぶやきながら、そっと部屋から退室する。

そして、ズボンのポケットの中から通信機を取り出し、どこかに通信をつなげる。

 

 

「…ネオ・ロアノーク大佐か?」

 

 

つないだ通信の先は、ネオ・ロアノーク。

この戦闘に、一部隊長として出撃するネオ・ロアノーク大佐。

 

 

「話がある…。俺の話に、耳を傾けてくれ」

 

 

ここから、始まるのだ。自分の劇場が。

長かった。ようやく、始められるのだ。

 

ウォーレン・ディキアが、行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パイロットアラートで、搭乗指示を待つシン。

まだ、この場にいるのは彼一人だ。ハイネもまだパイロットスーツに着替え終わっていない。

そして、ルナマリアも…

 

 

「…あ」

 

 

「…」

 

 

電子扉が開く音がし、シンは目を向けると、ルナマリアがパイロットアラートに入ってきた。

ルナマリアは、ヘルメットを脇に抱えてシンの隣まで歩き、立ち止まる。

 

 

「…すごいね、インパルス」

 

 

「え?」

 

 

ぽつりとルナマリアのつぶやくように言った。

シンは、一度前に向けていた視線を再びルナマリアに戻した。

 

シンが、デスティニーを操縦することとなり、残ったインパルス。

そのパイロットは、ルナマリアが任されることとなったのだ。

 

 

「シンみたいに、扱えるかな…。私…」

 

 

「ルナ…?」

 

 

いつもの覇気がないルナマリア。不安げに俯くルナマリア。

何とか元気づけようと、口を開こうとするシン。

だがその前に、ルナマリアが目を上げる。

 

 

「でも、絶対に負けないから!」

 

 

今度は力強く言う。

 

 

「私…、今まで何もできなかった…。シンやレイ…。ハイネにクレアも頑張ってたのに…」

 

 

「いや!そんなことないよ!」

 

 

また、弱弱しく戻ってしまった声で言うルナマリア。

 

何も、出来なかった。

シンは、力強くそれを否定する。

 

彼女も頑張ってたのだから。

艦を守ろうと、仲間を守ろうと頑張っていた。

 

 

「ううん…、私は何もできなかったの…。あの時の戦闘だって…、私だけが落とされて…」

 

 

あの時の戦闘。ダーダネルスでの戦闘だろう。

あの戦闘で、ルナマリアのザクは破壊されてしまった。

 

 

「ベルリンの戦闘も…、見守ることしかできなくて…」

 

 

機体がないルナマリアは、ベルリンでは出撃できなかった。

いや、たとえ機体があっても彼女は出撃することはできなかったかもしれない。

 

あの時の戦闘は、ほとんどミネルバに出番はなかった。地球軍のモビルスーツは、ミネルバにほぼ目も向けなかった。

甲板で迎撃を行うルナマリアは、はっきり言えばあの戦闘では必要なかったのだ。

 

それが、ルナマリアには分かっていた。

そして、どうしても強くなりたかった。力が欲しかった。

 

 

「インパルス…。これがあれば…、シンの隣で戦えるのよね…?」

 

 

「ルナ…」

 

 

シンは、ようやくルナマリアの本音を聞いた気がした。

 

 

「これを上手く扱えれば…、シンを…、ハイネも、皆を守れるのよね?」

 

 

今まで、弱気な素振りを見せてこなかったルナマリア。

そんな彼女が今、弱い彼女を見せている。

 

 

「絶対に…、負けない…」

 

 

不安なのだ。

これまでザクなどの量産機しか乗ってこなかった彼女が、いきなりワンオフ機のパイロットに抜擢されたのだから。

それも、インパルス。ZGMFシリーズ二世代目の中で、トップのスペックを誇る機体。

 

シンだって、今のルあまりあの立場にいれば不安で仕方なかっただろう。

 

さらに加えて、初陣がまさに決戦と言える戦いなのだから。

 

 

「…ルナ」

 

 

シンは、ルナマリアの両肩に手を添え、こちらに向かせた。

 

 

「シン…?」

 

 

「…」

 

 

不思議そうに見上げるルナマリアを、引き寄せた。

 

 

「あ…」

 

 

すっぽりとシンの両腕に収まったルナマリア。

少し頬を染め、シンを見上げる。

 

 

「大丈夫」

 

 

「え…?」

 

 

つぶやいたシン。聞き返すルナマリア。

 

 

「ルナなら、ちゃんと扱える。俺が保証する」

 

 

「シン…」

 

 

シンははっきり言い切るが、ルナマリアの表情は不安げなもののまま。

 

 

「おいルナ。前パイロットだった俺の言葉が信じられないのか?ルナなら絶対大丈夫だって!」

 

 

ルナマリアをそっと離し、今度は正面から目を合わせて言い切るシン。

 

 

「…うん。ありがとう」

 

 

何よりも、シンの言葉だったからなのかもしれない。

感じていた不安が、まるで氷が解けていくかのように消えていく。

 

インパルスを操縦していたシンの言葉だったから…、そうだそうに違いない。

 

だから、今、やけに早くなっている胸の鼓動など気のせいに過ぎないのだ。

以上、ルナマリアのないシンのつぶやき。

 

 

「お?何やってんだお前ら?」

 

 

「うわぁっ!?」

 

 

「ひゃぁっ!?」

 

 

扉が開く音がした。

二人は振り向き、その姿を見とめ、互いに離れようとするも時既に遅く目撃されてしまった。

 

シンがルナマリアの両肩をつかみ、二人が見つめ合っているところを。ハイネに、目撃されてしまった。

 

 

「…なるほど。俺はお邪魔虫だったのかな?」

 

 

ハイネが、にやりと笑みを浮かべながら言う。

シンとルナマリアが、顔を真っ赤にさせながら手を横に振る。

 

 

「い、いや!そんなんじゃないんです!」

 

 

「そうですよ!シンはただ、私を元気づけようと…」

 

 

「なるほど?それを経てのあれか…」

 

 

「ちょ、ルナ!」

 

 

ルナマリアが、墓穴を掘った。ハイネがつかさずそこを突く。

 

もうすぐ始まるであろう激闘を前に、三人は和やかな気持ちを持っていた。

わいわいとしたやり取りをしながら、こう思う。

 

自分たちは大丈夫。自分たちは、絶対に負けない。

 

激闘は、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらヘブンズベース上空です!デュランダル議長の示した要求への回答期限がもうすぐそこまで迫ってきています!』

 

 

アイスランド沖上空から移す映像と共に、レポーターの声が流れる。

 

レポーターの言う通り、デュランダルが示した期限までもう残り少ない。

だが、連合、ロゴスは何の動きも見せていなかった。

 

 

『このまま刻限を迎えることになれば、デュランダル議長を最高司令とした、ザフト及び対ロゴス同盟軍によるヘブンズベースへの攻撃が開始されることとなります!』

 

 

カメラが、今度は陸地に向き、大小の建造物が並ぶ巨大基地をズームする。

これらの映像、そして言葉がもう一時間以上繰り返されている。

 

だが、その時。カエラは基地の異変を捉えた。

 

こちらを向いて防衛ラインを引いていた連合艦隊から、無数の何かが飛び上がったのだ。

 

 

「敵軍、ミサイル発射!」

 

 

同時に、ミネルバのバートが叫び声を上げる。

その言葉に、艦橋が凍り付いた。

 

アーサーが素っ頓狂な声をあげ、デュランダルまでも信じられないように声をあげた。

 

そんなミネルバ艦橋のクルーたちをよそに、連合艦隊から放たれたミサイルは猛威を振るう。

全く何の準備をしていなかった対ロゴス同盟軍の艦隊にミサイルは容赦なく降り注ぐ。

高々と炎の柱がそこかしこから上がっていく。

 

戸惑い、疑問。そんな感情を浮かべ始めたクルーたちをさらによそに、ヘブンズベース基地から光点がはじき出されていく。

 

 

「モビルアーマー、モビルスーツ発進!攻撃を開始されました!」

 

 

モニターには、迫りくるモビルアーマー群、モビルスーツ群が映し出される。

回答を待つ、対ロゴス同盟軍に、問答無用で攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

タリアは、歯噛みする。

よくよく思考を働かせれば、すぐに予測できることではないか。

話が通用するような相手ではないと。

 

その気になれば、平気で民間人をも焼き払うような輩なのだから。

 

 

「何ということだ…、ジブリールめ!」

 

 

デュランダルが、語調荒くジブリールを罵る。

 

 

「議長、これでは…!」

 

 

「わかっている」

 

 

議長の傍にいた将校がデュランダルに声をかけ、デュランダルもその声に答える。

 

 

「やむを得ん。我らも直ちに戦闘を開始する!」

 

 

途端、艦橋が慌ただしく動き始める。

 

 

「降下揚陸隊、すぐに発進準備をさせろ!」

 

 

対ロゴス同盟軍上部がようやく動き出す。

だが、少し遅い。

 

いきなりの先制攻撃を受け、動揺がほぼ全域に伝わった同盟軍に意志を伝えるのはかなりの時間を要するだろう。

それでも、やるしかないのだ。

 

 

「コンディションレッド発令!総大戦用意!」

 

 

タリアも、自ら命令を下す。

 

モニターには、次々に襲い掛かるモビルスーツモビルアーマーが映し出されている。

そして、こちら側からも少しずつだがモビルスーツが発進していく。

 

だがそんな中、タリアは映像の奥で絶望を見た。

 

 

「…っ!議長、あれは!」

 

 

「むっ」

 

 

すぐに、デュランダルにそれの存在を伝える。

 

それは、ベルリンでその姿を見せた超巨大破壊兵器。デストロイ。

 

 

「同型機、五機確認!」

 

 

そのデストロイが、五機もいる。

一機だけで都市を焼け野原にすることが出来る兵器が、五機。

 

 

「ええっ!?あれが五機!?」

 

 

アーサーが驚愕の叫びをあげるのと同時に、五機のデストロイがその巨大な砲塔に火を吹かせた。

放たれた計十の光条が、艦隊を薙ぎ払う。再び、炎の柱が上がり、モニターに映し出されたその光が艦橋を照らす。

 

僅か一瞬で、数十の艦艇が消えうせる。

 

 

「何ということだ…!」

 

 

デュランダルが唇をわなつかせる。

その直後、パイロットアラートから通信が入る。

 

 

『艦長、これは…?』

 

 

モニターに映し出されたハイネが、わけがわからないという表情で問いかけてくる。

その後ろには、同じような表情を浮かべたシンとルナマリアが。

 

 

「向こうからいきなり撃たれたわ!すでに戦闘状態よ!」

 

 

『えぇっ!?』

 

 

タリアは手短に状況を伝え、モニターの向こうでパイロットたちが驚愕の声を上げる。

 

 

「あなたたちも、発進準備を急いで!」

 

 

タリアが命じている中にも、デストロイはミサイルをばら撒き、砲塔からビームを放ち、進攻してくる。

 

 

「じきに降下揚陸隊が来る!それまで耐えるんだ!」

 

 

デュランダルが励ますように声を上げる。

だが、それをジブリールが見透かしているなど、知っているようなものがいるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空に赤く燃える点がいくつも映し出される。

 

 

「直上にザフト軍降下ポッド出現!ルート二六から三一に展開!」

 

 

オペレータが告げる。

降下ポッドは上空から押し包むように基地に近づいてくる。

 

が、それに対して動揺する者はこの場にいなかった。

 

 

「ニーベルング、発射用意」

 

 

ガラス張りの貴賓室から見下ろすジブリールに、笑みが浮かぶ。

 

 

「糾弾もいい。理想もいい。だが、全ては勝たなければ意味はない…」

 

 

デストロイが破壊に限りを尽くしているのを見ながら、つぶやく。

 

 

「すべては、勝者が手に入れる。そう決まっているのだよ…?デュランダル」

 

 

卑怯者と罵られたっていい。だが、自分は勝つのだ。勝者になるのだ。

誰が避難しようと、勝ちさえすれば全てもみ消すこともできるのだ。

 

この世は、勝者がすべてなのだから。

 

 

「偽装シャッター開放」

 

 

ジブリールがほくそ笑む間にも、ニーベルングの発射シークエンスは進む。

 

基地のはずれにある山が動き始めた。振動により、雪が滑り落ちていく。

山が真っ二つに割れ、その中から巨大なミラーの集合体が姿を見せる。

 

そう、あの山はこの兵器を隠すための偽装シャッターだったのだ。

対空掃射砲ニーベルング。それを、隠すための。

 

 

「照射角二〇から三二。ニーベルング、発射準備完了」

 

 

それと同時に、降下してきたポッドが割れ、中から大量のモビルスーツが降りてくる。

ザク、ディン、グフ、ゲイツ。上空がモビルスーツ隊に覆われる。

 

 

「発射!」

 

 

だが、無駄なのだ。これから、貴様らが見るのは絶望だ。

そして、その次に見るもの。

 

それは、勝者となった私なのだ。

 

ジブリールは、確信する。

 

勝った、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空を仰ぎ見た姿勢のまま、タリアたちは凍り付いた。

光の中で、降下ポッドから出てきたモビルスーツ隊が炎に包まれたのだ。

 

そう、全て。

 

 

「降下部隊…、消滅っ…!」

 

 

状況を告げるバートの声は震えている。

 

そして、そんなことなど、見ればわかることだった。

タリアたちの目の前で、頼りにしていた降下揚陸部隊が全滅した。

 

 

「何というものを…、ロゴスめ…!」

 

 

デュランダルさえも、怒りと憤りに表情を歪める。

 

タリアは、撤退すべきだと思った。

完全に、こちらの軍勢は動揺している。こんな状態で戦っても、待つものは敗北の二文字しかないだろう。

 

何よりも、すでに後方の艦体はじりじりと後退を始めているのだ。

事実上、これは負け戦。

 

タリアは、そう思っていた。

 

一旦退いて、体制を立て直すべきだ。

そう思っていた。

 

 

『艦長、行きます!発進許可を!』

 

 

その時、格納庫のモビルスーツ。デスティニーから、シンから通信が入った。

あの攻撃を目にしたのだろう。シンの目には、確かな怒りが灯っていた。

 

 

「こんなこと、許しておけません!」

 

 

叫ぶシン。そんなシンにタリアは、待ったをかけようとする。

だが、その前にデュランダルが深く頷いた。

 

 

「…頼む」

 

 

目を見開き、タリアは振り返る。

 

何を言っているのだ。この状況を判断できない男ではないはず。

それなのに…、なぜ?

 

憤りを覚えたタリアだが、デュランダルの表情を見てそれを抑える。

 

デュランダルの表情は、決意に満ちていた。ここで退くつもりはない。そう決意していた。

 

確かに、ここで退いては軍の士気に関わる。

ロゴスには敵わない。そう決定づけるような空気が軍を包むかもしれない。

 

 

「…デスティニー、カンヘル、インパルス。発進!」

 

 

デュランダルの意志を汲み、命じるタリア。

だが、気に入らない。

 

気に入らない…が、もしかしたら奇跡を起こすことが出来るかもしれない。

これまで、何度も何度も窮地を乗り切ってきた彼らなら、もしかしたら…。

 

 

 

 

 

 

「シン・アスカ!デスティニー、行きます!」

 

 

叫び、ミネルバから飛び出していく。

VPS装甲を入れ、デスティニーが赤、青、白の三色に染められる。

 

続いて、ハイネが駆るカンヘル。ルナマリアが駆るコアスプレンダーが合体を完了し、インパルスが後につく。

 

 

『よし、行くぞ!』

 

 

ハイネが命じると同時に、三人はそれぞれの方向に機体を向かわせる。

シンは、こちらに銃口を向けるモビルスーツ群にまっすぐ突っ込んでいく。

 

 

「お前ら…!」

 

 

シンはライフルを取り、モビルスーツ群に向ける。

 

 

「どうしてこんなこと…、できるんだよっ!」

 

 

引き金を引きながら叫びをあげる。ライフルから放たれるビームは、寸分違わず連合のモビルスーツを貫いていく。

モビルスーツたちが、デスティニーに向けてビームを連射していく。

 

 

「無駄だ!」

 

 

シンは、デスティニーのスラスターを展開。光の翼を広げる。

ビーム対艦刀アロンダイトを手に取り、モビルスーツ隊に向かって斬り込んでいく。

 

ビームの雨を潜り抜け、まず一機ウィンダムを斬りおとす。

そして、機体を転換させ、もう一機、引き金を引かれる前にウィンダムを真っ二つに斬る。

 

さらに、背面のビーム砲を取って放つ。

太いビームが正面から敵機を貫いていく。

 

 

「お前らなんかに…、負けてたまるかぁ!」

 

 

咆哮を上げながら、再びシンはモビルスーツの集団に斬り込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバ艦橋。つい先ほど出撃していった三機のモビルスーツが破竹の勢いで敵機を撃墜していくのを呆然と眺めるクルーたち。

だが、一人だけ違った。

 

ギルバート・デュランダル。微笑みを浮かべながら、三機。いや、デスティニーの活躍を見つめる。

 

さぁ、見せてくれ。君の力を。

もっとだ。この程度ではないはずだ、君の力は。

 

そして、ジブリール。君にももっと働いてもらわなければならない。

多分、君はあざ笑っていただろう?私を。

だが、それは間違いだ。君は、ただ私の手のひらで踊っているだけに過ぎない。

 

そして、もっと踊ってもらおう、ジブリール?

最後まで…。

 

 

 

 

 

それぞれの思惑が渦巻く激闘。

ここからが本当の始まりとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から本格的な戦闘です


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PHASE38 陥落する天国

立った!フラグが立った!


激しい戦闘が繰り広げられる、アイスランド沖付近。

 

戦闘が始まった当初は、圧倒的ロゴス側有利で進められていた。

 

要求への回答を待つ同盟軍に対しての奇襲。反撃を開始する同盟軍だが、ロゴス側の殺戮兵器ニーベルングによって、降下揚陸隊が全滅。付近にいる人たち、戦闘の様子を映した放送を見ていた人たちのほぼすべてが、ロゴス側の勝利だろうと諦めを見せていた。

 

だが、戦場の状況が少しずつ変わり始めていた。

初めは、その変化に誰も気がつかない。だが、時間が経つにつれてその変化が目立っていく。

 

同盟軍が、盛り返し始めているのだ。

 

 

「はぁああああああああっ!!」

 

 

アロンダイトを振り下ろし、ダガーLを真っ二つに斬りおとす。

デスティニーを駆るシンは、一騎当千の戦いを繰り広げていた。

 

ロゴス側のモビルスーツたちが、デスティニーを注目し、その周りを囲み始める。

だが…

 

 

「っ!」

 

 

デスティニーのスラスターから光が迸る。

まるで翼、そんなスラスターを全開にしてシンはデスティニーを急降下。

 

あまりのスピードに、ロゴス側のパイロットたちがデスティニーの姿を見失ってしまう。

その間に、シンはモビルスーツ群の足下からライフルを連射する。

 

連射された光条は、全てが正確にモビルスーツたちを貫いていく。

 

 

『な、なんだよあれ…!』

 

 

『くそっ!宙の化け物がぁっ!』

 

 

次々と仲間が落とされていく。次は、自分なのではないだろうか?

 

そんな恐怖に襲われ、口々にデスティニーに対し罵りの言葉を吐くロゴス側のパイロットたち。

だが、そんなことをしても何も変わらない。

 

シンは、肩のビームブーメランを抜き、モビルスーツ群に向かって投じる。

投じられたブーメランは一機、二機と刃にかけ、デスティニーの手に戻っていく。

 

と、戻ってきたブーメランを取ったその瞬間、シンはこちらにウィンダム二機が向かってきているのに気づく。

シンは、向かってくるウィンダムに対し、手に取ったブーメランで斬りかかる。

 

リーチこそ対艦刀どころか、サーベルにも遠く及ばないがそれでも殺傷能力は十分ある。

その上に、シンとウィンダムのパイロットたちとの技術の差は明らかなのだ。

 

一方のハイネも、カンヘルを駆って一騎当千の活躍を見せていた。

ビームサーベル二本を連結させてハルバート状にし、襲い掛かるウィンダムとダガーLを斬りおとしていく。

 

接近戦は分が悪いと、察していくロゴス側のパイロットたち。

今度は遠距離で攻撃しようとライフルを構えていくが…、それも背面のビームユニットによって阻まれる。

 

 

『く、くそっ!囲め!数で囲みこむんだ!』

 

 

ロゴス側のモビルスーツ部隊の隊長の一人が指示を出す。

その指示に従って、ウィンダムが、ダガーLがカンヘルのまわりを囲み始める。

 

 

「数で押そうって腹か?別にどうとでもなるが…、こいつのお披露目と行こうか!」

 

 

ハイネはつぶやきながら、一つのボタンを押した。

それと同時に、カンヘルの背面の円盤が開放を始める。

 

その円盤の中心に、小さな突起物。

 

 

「そらっ!いけぇっ!」

 

 

ハイネは、引き金を引く。

 

すると、小さな突起物から波状に流れていく、常人では黙視することもできないであろう速さで流れていく円状の砲撃。

カンヘルのまわりを囲んでいたロゴス側の全てのモビルスーツが、同時に爆散を始める。

 

何とかカンヘルの砲撃から逃れた機体は、ハイネがライフルで撃ち落としていく。

 

遠距離もダメ、近距離もダメ。ロゴス側のパイロットたちに絶望を与えるほどの戦いを見せるハイネ。

 

そして、残るルナマリア。

インパルスを初めて駆っての戦闘。その動きにはどこかおぼつかない所も見られるが、懸命に戦いを続ける。

 

敵機を縫って飛び、ライフルで次々に撃ち落としていく。

 

 

「やれる…、私だって…!」

 

 

今までは、自分だけ置いて行かれている感じがあった。

だが、今は違う。ちゃんと、皆と並んで、隣で戦えている。

 

 

「あっ!」

 

 

気付けば、下方からライフルで狙われている。

機体を翻してかわそうとするが…、間に合わないだろう。

 

そんな時、インパルスとインパルスを狙うモビルスーツの間に白い影が躍り出た。

その白い影、デスティニーは下方から放たれるビームを展開されたビームシールドで防いでルナマリアを守った。

 

 

「シン…?」

 

 

『迂闊だぞ、ルナマリア!ザクと違ってインパルスは飛んでるんだ!下からも狙われるぞ!』

 

 

シンが守ってくれた。そのことを自覚する前に、シンの喝がルナマリアを襲う。

そして、自覚したと同時に自分がどれだけ迂闊だったか悟る。

 

確かに、地上用のモビルスーツであるザクとは違うのだ。

正面、後ろ、上空の他に足下もしっかり警戒しておかなければならないのだ。

 

 

「ごめん!ありがと!」

 

 

注意され、謝罪した後、助けてくれたことに対してお礼を言うルナマリア。

 

 

『いいけど…、次は気をつけろよ?』

 

 

先程と違って、優しげに声をかけてくるシン。

言った後、シンは、デスティニーはこの場から離れていく。

 

しっかりしなければ。

先程も思ったじゃないか。ようやく隣で戦えるようになったと。

こんなことでは、前と同じおんぶにだっこだ。

 

もう嫌だと、強くなると誓った。

 

 

「…よし!」

 

 

機体をモビルスーツ群に向かわせる。

今回装備したシルエットはフォース。サーベルを手に、斬りかかっていった。

 

 

 

 

 

「…大丈夫みたいだな」

 

 

ルナマリアに注意して少し経ち、シンは横目でインパルスの様子を見た。

先程と違い、しっかりと足下にも警戒の目を向けている。あれなら大丈夫だろう。

 

と、考えている内にウィンダムに接近を許してしまった。

だが、この程度で動揺するシンではない。

 

握っている対艦刀を振り下ろし、襲ってくるウィンダムを斬りおとす。

そして、その隙に後方から接近してこようとしていたモビルスーツ群に対してビーム砲を構えて放つ。

 

ビームは四機のウィンダムを巻き込みながら直進していく。

何とかビームから逃れたウィンダムたちは散り散りに避けていくが…、シンの想定通りだ。

隊形を乱す。シンの思惑が成功したのだから。

 

何とか逃れようとするウィンダムに対し、ライフルを構えて引き金を引いていく。

ビームはウィンダムを貫いていく。それでも残ったウィンダムには、ビームブーメランで斬りおとしていく。

 

 

「…盛り返してきたか?」

 

 

囲んできたウィンダムを一掃したシンは、目を見渡して戦況を見つめる。

先程までは押されっぱなしだった同盟軍側。今では互角…、いや、むしろこちら側が押しているのでは?と思えるほど盛り返してきた。

 

だが、油断はできない。

 

 

『シン!あれを見ろ!』

 

 

「わかってます!」

 

 

ハイネから通信が入る。何を、ハイネは伝えたかったのか。

それがシンにはわかっていた。

 

カメラを向けた前方、さらに向こう。シンにも見えていた。

 

ベルリンで見た、巨大破壊兵器、デストロイ。それも、五機。

その五機が変形を開始した。あの形態も、シンは目にしたことがある。

デストロイのモビルスーツ形態。

 

 

『あれを落とすぞ、シン!ルナマリア!』

 

 

「「はい!」」

 

 

ハイネを先頭に、シンとルナマリアもデストロイに向かっていく。

デストロイは、接近するこちらの存在に気づいたのだろう。カメラを向け、そして胸部の砲口と二本の砲塔に火を吹かせる。

 

五門×五機、計二十五の砲火がシンたちを襲うが、それぞれ機体を翻して砲火をかわしていく。

 

さらに、シンは砲火をかわしたと同時にスラスターを吹かせて一機のデストロイの懐に飛び込んでいく。

アロンダイトをデストロイの胸部砲口部に突き立て、急上昇。

 

デストロイが斬り裂かれ、爆散する。

 

 

 

 

 

「なんだよ、ありゃ!?」

 

 

デストロイ一号機に搭乗していたスティングは、戦場で舞う三機を目に留めた。

 

…気に入らない。この場で一番はこの俺だ。

この化け物を手なずけている俺が最強なのだ。

 

 

「落としてやる…、落としてやるよぉっ!」

 

 

怒りを叫びに乗せ、デストロイを三機の内の一機。光の翼を広げる機体、デスティニーに機体を向ける。

何故かはわからない。わからないのだが、あの機体が気に入らないのだ。

見るだけで怒りが湧いてくるのだ。

 

目障りだ。俺の目の前から消えろ!

 

胸部の三つの方向に火を吹かせ、さらに肩部の砲塔も火を吹かせる。

あの機体が向かってくるビームに気づいたのか、機体を急上昇させてビームをかわす。

 

 

「そらっ!これもかわせるかよ!」

 

 

かわした。最強の俺の攻撃を。

 

怒りをさらに募らせながら、スティングはシュトゥルムファウストを分離させてあの機体に向かわせる。

二本の腕部があの機体にビームを浴びせかける。

 

だが、あの機体は放たれるビームを全てかわし、逆にこちらに向かってくる。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

スティングは舌を打ちながら胸部の砲口からビームを発する。

だが、あの機体は急上昇してビームをかわす。

 

余りのスピードに、消えたと錯覚してしまうほど。

スティングは、あの機体を見失ってしまった。

 

 

「どこに…、ぐぅっ!?」

 

 

次の瞬間、コックピット内に衝撃が奔った。さらに、カメラから映し出されていた映像が途切れてしまう。

 

 

「なん…、この…やろうがぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

なぜだ。最強のこの俺がなぜここまでしてやられてしまうのだ。

ふざけるな。この俺が…この俺が!

 

もう、冷静な思考を持つスティングはここにはいない。

ステラ、アウルと共にいたあの厳しくも優しかったスティングはもういない。

 

いるのは、ただ強さに、勝利に固執する狂ってしまった男。

 

仲間の記憶を失くし、狂ってしまった男。

 

スティングの目の前で、あの機体が今度は対艦刀で斬り込んでくるのが見えた。

 

 

 

 

「シン!」

 

 

「シンは大丈夫だ、俺たちも行くぞ!援護しろルナマリア!」

 

 

デストロイと激しい攻防を繰り広げているデスティニー、シンを気に掛けるルナマリア。

だが、今はそんな状況ではないのだ。ハイネがルナマリアに忠告し、援護するように指示を出してからデストロイの一気に斬り込んでいく。

 

ハルバートを手に、デストロイの懐に潜り込んでいくハイネ。

デストロイの全砲門の砲撃がハイネを襲うが、狙いが甘く、素直にこちらに向かってくる。

 

機体を横にずらして容易くかわす。そして、両腰のプラズマ砲を展開してデストロイに向けて放つ。

 

デストロイは、リフレクターを張ってプラズマ砲を防ぎ切るが、接近するための隙を作り出すことが出来た。

デストロイの懐に潜り込むことに成功したハイネは、ハルバートを振り上げる。

 

胸部装甲を斬り裂かれたデストロイだが、致命的なダメージを与えるには達しなかった。

光る眼は未だカンヘルを捉え、反撃を加えようと胸部の砲口に光が迸る。

 

ハイネは機体を急上昇させてかわそうとするが…、その前にカンヘルとデストロイの間に躍り出る影が現れる。

 

 

「はぁあああああああああああああっ!!」

 

 

インパルス、ルナマリアがデストロイの懐に潜り込み、サーベルを振り下ろした。

今にも放たれようとしていた砲口が斬り裂かれる。さらに直後、ルナマリアはライフルを撃ちこむ。

 

ルナマリアとハイネはその場から後退する。そして、二人が見つめる中、デストロイが爆散していく。

 

 

「へぇ、やるじゃないか!ルナマリア!」

 

 

「私だって赤なんですよ?ハイネ!」

 

 

まぁ大丈夫だろうとは思うのだが、それでも危ない状況ではあった。そこを、ルナマリアが救ってくれたのだ。

ハイネは率直にルナマリアに称賛の言葉を贈る。

 

その言葉に対して強気に返すルナマリア。

 

 

「…シンは大丈夫だろう。行くぞ!」

 

 

「はい!」

 

 

デストロイと交戦しているシンだが、頭部を破壊して優勢に事を運んでいる。

シンは大丈夫だろうと判断したハイネは、ルナマリアを引き連れて次のデストロイの所へ向かっていく。

 

 

 

 

 

デスティニーの新兵器、掌に搭載されているビーム砲パルマ・フィオキーナでデストロイの頭部を粉砕した。

これで相手は上手く視界の情報が読み取れなくなったはずだ。後は…、楽に終わらせられる。

 

アロンダイトを握り、スラスターを吹かせ、ミラージュコロイドを応用して映し出された光学残像の列を引き連れてデストロイに向かって斬り込んでいく。

デスティニーが接近していることには気がついたのだろう。デストロイは全砲門を開いてデスティニーの接近を阻止しようとする。

 

だが、メインカメラを潰された影響もあるのだろう。その狙いは定まっていない。

デスティニーを捉えているものもあるが、基本直進しても放たれるビームに当たらずに済んでいる。

 

 

「っ!」

 

 

だが、胸の砲口から放たれたビームは、デスティニーを捉えていた。

それでも、シンの対応も早い。腕のビームシールドを展開させ、ビームを防ぎながら機体をさらに加速させる。

 

 

「でぇぁあああああああああああああああ!!」

 

 

シンはアロンダイトを構えて突っ込んでいく。

その切っ先は、デストロイのコックピットに吸い込まれていった。

 

コックピットを貫いたアロンダイトを即座に抜き、シンは一旦後退する。

デストロイが爆散していくのを見届けた後、シンはカメラを巡らせる。

 

残るデストロイは二機。そのうちの一機はハイネとルナマリアが交戦している。

ならば、とシンは機体をもう一機のデストロイに向かわせる。

 

牽制に肩のビーム砲を構えて撃つが、リフレクターを張られて防がれてしまう。

だが、シンはビーム砲を放った直後にアロンダイトに持ち替え、スラスターを吹かせてデストロイに向かっていった。

 

 

「はぁっ!」

 

 

デストロイが、シュトゥルムファウストを分離させてこちらを襲ってくるが、シンはビームを潜り抜けてかわしさらに接近していく。

シュトゥルムファウストの妨害のせいでコックピットとまでは行かなかったが、アロンダイトを振り上げてデストロイの右腕を斬りおとす。

 

すぐに機体を後退させ、再度肩のビーム砲を取って放つ。

今度は、リフレクターを張ることが出来ず、デストロイは頭部を吹き飛ばされてしまう。

 

視界の自由が利かなくなってしまえば、もうシンの相手にはならない。

スラスターを全開にし、先のデストロイの様にコックピットにアロンダイトを突き立てる。

 

そして、同じように後退してカメラを巡らせる。

デストロイが爆散するのを見もせずに。

 

 

「…まだ終わってなかったか」

 

 

シンは、カンヘルとインパルスが未だデストロイと交戦しているのに気づく。

援護は必要ないだろうが、援護に向かうことにする。

 

シンたちがデストロイと交戦している間に、もう戦況はひっくり返っていた。

 

地上でディンやグフがウィンダムとダガーLと交戦し、その間に水中モビルスーツであるゾノが基地内部に侵入する。

何とか本格的な内部侵入や防いでいるようだが、それも時間の問題だろう。

 

シンは機体を最後に残ったデストロイに向かわせる。

もう、これで戦闘は終わるだろう。終わってくれ。

 

そう信じて。

 

 

 

 

 

 

…俺は

 

まるで、浮き上がっていくような感覚が全身を包む。

 

俺は…どうしたんだ…?

 

先程まで、戦場にいたはずだ。

 

俺は…誰だ…?

 

もう、何もわからない。

何も、思い出すことが出来ない。

もう…どうでもいい。

 

 

『…ティ……』

 

 

『ス…………』

 

 

…誰だ?

 

なぜだろう。

 

『スティング…』

 

 

『何やってんのさ、さっさと起きろよスティング』

 

 

自分を呼ぶ声。なぜ、懐かしいと感じるのだろう。

なぜ、自分はこんなにも安心しているのだろう。

 

…知りたい。

 

スティングは、ゆっくりと重く感じる瞼を上げる。

その瞳に映ったのは、金髪の少女と青髪の少年。

こんな二人のことなど、知らない。知るはずがない。

 

それなのに…

 

 

「…ステラ?アウル?」

 

 

自分は、この二人のことを知っているのか…?

そうだ…。知っているに決まってる。ずっと共にいたじゃないか。

 

辛い時も…、悲しい時も…、嬉しい時も。ずっと…。

 

 

「ったく…、んな所に来やがって」

 

 

ふっ、と微笑みながらスティングは言う。

そんなスティングに、ステラとアウルは手を伸ばす。

 

 

「…あぁ、わかってるよ」

 

 

スティングは、延ばされた手をそっとつかむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

これからは、ずっと一緒だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四号機撃墜!」

 

 

一号機が落とされ、さらにモニター内でデストロイ四号機が倒れていく。

高々と炎を噴き上げるその姿に、将校たちとロゴスメンバーの顔が青ざめる。

 

 

「バカな!こんなこと…、連中は何をやっておるか!」

 

 

五機のうちの四機が落とされ、さらに残った一機も三機のザフトのモビルスーツに囲まれ切り刻まれていく。

 

どうして、こうなってしまったのだ。

戦闘開始当初は、圧倒的有利で戦闘を進めていたはずなのだ。

 

今や落とされてしまったデストロイもその能力を十全に発揮して敵戦力を殲滅し続けていたのだ。

それが…、あのザフトの新型三機が戦闘に躍り出てから変わってしまった。

 

デストロイは、その巨大さゆえに超火力を誇っていた。

だが、その巨大さゆえに機動力も落ちてしまうということを失念していたのだ。

懐に入られてしまえば、デストロイに抵抗する手段はない。

 

防御手段にリフレクターがあるとはいえ、あの三機はそれを張らせるための時間すら与えないほどの機動力を持っていたのだからそれすらも無に帰される。

 

最後のデストロイが炎に包まれる。指令室に、絶望の声が響き渡った。

 

 

「ジブリール、これでは…」

 

 

ロゴスメンバーが振り返る。

 

ジブリールなら、この事態に対してもきっと対策を考えているはずだ。

何せ、あれだけ強気な態度でいたのだから。

 

まさか、何も考えているはずはないだろう。

 

 

「…ジブリール?」

 

 

異変を、感じ取る。

 

ジブリールの姿が、ない。どこにも。

 

その時、すでにジブリールはわずかな腹心と共に誰にも気づかれないように貴賓室を抜けて地下に向かっていた。

ヘブンズベースを見限って。

 

 

「くそっ!どういうことなのだ!」

 

 

苛立たしげに吐き捨てるジブリール。

地下水路に用意してあった潜水艦に乗り込んだ。

 

もう、彼には他のロゴスメンバーのことなど…、それどころか、今も必死に戦っているであろう兵士のことすらも頭の中になかった。

あるのは、何としてもここから抜け出し、自分だけでも生き延びてやろう。そんなことだけ。

 

彼が席につき、ベルトを装着するとハッチは閉じられ、潜水艦は進行を開始した。

 

 

「デュランダルめ…!」

 

 

敵の顔、勝利に酔いしれているであろう顔を思い浮かべ歯ぎしりする。

 

…まだだ。まだ負けてはいない。

まだ、負けてない。

 

何度もその言葉を心の中で繰り返し続けた。

 

 

 

 

 

「リワド隊より入電です」

 

 

前線の部隊から通信が入り、バートがそれを読み上げる。

 

 

「司令部に白旗を確認。敵軍、更なる先頭の意志はない模様…」

 

 

バートの言葉を聞いたデュランダルが、傍らにいる将校に命じる。

 

 

「確認してくれ」

 

 

「はっ!完全に停戦するまで、警戒は怠るなよ!」

 

 

将校が命令を下すが、タリアはそっと肩の力を抜いた。

 

戦闘開始直後の状況を考えると、この勝利はまさに奇跡と呼ぶしかないほどの逆転劇だったのだ。

あの少年たち…、シン、ハイネ、ルナマリアの活躍によって、呼び起こされた奇跡。

 

巨大モビルスーツ、デストロイ五機は全て撃破され、残った連合モビルスーツも散り散りに後退している。

 

基地内部ではそこかしこで煙が起こり、艦隊は動きを止めている。

 

ここまで戦況を覆すことが出来たのは、デストロイに果敢に向かっていき、そして撃破していくのを見て兵士たちが奮起したため。

そして、デストロイが撃破されたのを見て絶望し、相手が戦意を失ったため。

 

結局、あの時のデュランダルの判断は正しかったのだ。

シンたちの託した、デュランダルの意志は正しかったのだ。

 

とにもかくにも、これでロゴスの総本山であるヘブンズベースを陥とすことができた。

これで、この戦争も終わるのか?終わらせることが出来たのだろうか?

 

どうにも、気の抜けるような幕切れだったが…、これで終わったと信じたい。

タリアは、収束に向かう戦場に目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「…やはり、もうジブリールは限界か。もう少し粘ってほしかったが」

 

 

ぽつりとつぶやいたウォーレン。

ここは、とある潜水艦の中だ。ウォーレンは、ジブリールが抜け出す前からヘブンズベースを…、いや、ロゴスを見限って抜け出していたのだ。

 

薄々は感じていた。だが、こんなにも早くに訪れるとは思っていなかった。

 

 

「…」

 

 

ウォーレンは、傍にあった受話器を取る。番号を入力し、口を開く。

 

 

「…俺だ。情報はもういっているだろう?ヘブンズベースは陥落した」

 

 

ウォーレンが通信を入れた先は、月にある地球軍基地。

 

 

『…』

 

 

「あぁ。恐らくジブリールはそっちに逃げ込むだろう。…まぁ、その前にくたばってくれた方が楽なんだがな」

 

 

皮肉に笑みを浮かべながら吐き捨てるようにそんなことを言うウォーレン。

ジブリールに従う兵士には、とても見えない。

 

 

「ともかく、そっちにジブリールが逃げ込んだときは悟られないように頼むぞ」

 

 

『…』

 

 

最後にそう言ってから、ウォーレンは受話器をそっと置いた。

 

 

「…あの二人が、着艦されたようです」

 

 

「…そうか。丁寧に歓迎してやれ」

 

 

傍らにいた将校が、ウォーレンの耳元で囁くように報告する。

そして、ウォーレンが言葉を返すと、将校は、はっ、と返してから立ち上がって立ち去っていく。

 

その将校の後姿を見届けて…、ウォーレンは笑みを浮かべた。

 

 

「予定よりも早いが…、まぁ問題はない。あれも完成している様だしな」

 

 

はっきり言えば、ヘブンズベースが陥落することはウォーレンには想定がついていた。

そして、ジブリールが逃げるために残されるのは月基地であるということもわかっている。

 

今や、ジブリールの味方は限られている。少なくとも、ジブリールはそう思っているだろう。

 

…彼は、まさか思いもしないだろう。自分には、もう味方などいないということなど。

 

 

「…まず、オーブへ向かうだろうな。アスハがいるならばそれは愚かな行動だが…、いるのはセイランだからな」

 

 

ウォーレンは、とりあえずのジブリールの逃走先を予想する。

未だ、ジブリールに僅かにでも友好的な態度を見せているのはオーブだけだ。

 

いや、オーブは恐れているのだ。ジブリールを。

 

 

「…本当に、愚かだな」

 

 

もう、彼にはなんの力もないというのに。何を恐れるのだろう。

どうせなら、あの国がジブリールを殺してくれればどんなに楽か。

 

ともかく、そんなことはありえないだろうからその思考を切る。

 

間違いなく、デュランダルはジブリールの居場所をすぐに突き止めるだろう。そして、オーブを攻撃する。

ジブリールは何としても逃げ出すだろう。逃げ足だけは優秀な奴だ。そして、その足の先は月。

 

その時、ジブリールは籠の中の鳥と化す。それが、自分の計画の始まりとなる。

 

 

「…さぁ、踊ってもらうぞ。ジブリール。大変だなぁ…、二人の手のひらで踊り続けるというのも」

 

 

掌で顔を覆うウォーレン。

 

そして、その表情は、掌でも隠し切れないほど歪んだ唇が覗いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




立った!フラグが立った!
もうびんびんだよ!


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PHASE39 嵌められた永遠

基本原作通りに進みます
最後は少し違うかな?


「戦闘が終わったようです」

 

 

地球から通信を受け、オペレーターが告げた。

聞いたバルトフェルドはその眼を鋭くし、ラクスは息を呑んで振り返った。

 

エターナル艦橋内に、底冷えする沈黙が訪れる。

 

 

「…それで」

 

 

ラクスが、オペレーターに問いかける。

 

 

「連合が…降伏しました」

 

 

顔を強張らせて告げるオペレーター。

バルトフェルドが、ふぅっと息を吐きながらぽつりとつぶやく。

 

 

「ヘブンズベース、陥落か…」

 

 

この日の戦闘でどれだけの犠牲が出ただろうか。

大きな戦闘の末、勝ったのはザフト。デュランダル議長。

 

バルトフェルド、クルーたちの面持ちは暗い。

 

そんな中、不意にラクスが固い声でつぶやいた。

 

 

「急がないと…」

 

 

その表情からは、他の者たちの憂鬱とは違う、切迫した危機感が感じられる。

 

 

「なんだ、ラクス?」

 

 

バルトフェルドが、その表情を見とがめて問う。

ラクスは、憂いに満ちたその表情を上げ、告げる。

 

 

「ヘブンズベースが陥ちたのなら…、次はオーブです」

 

 

 

 

 

ミラーの角度が傾いだまま止まってしまったコロニーの内部は、薄暗い。

ほとんど、ここに人が住んでいたころのまま建物が残っているが、誰かがいるような気配はまったく感じられない。

気圧の下がったコロニー内では、風さえ起らずひっそりと静まり返っている。

 

ここはL4コロニーメンデル。大戦前では、ここで遺伝子研究がさかんに行われていた。

ダコスタ、そしてアイシャはこのメンデルの中にいた。

 

メンデルは、五年前にバイオハザードを起こし一時廃棄されていた。

大戦中は中立宙域であったため戦闘も行われていた場所。

 

だが、コロニーは無人であったため攻撃はほとんど受けず無傷の状態。

 

前大戦末期、アークエンジェルを中心としたオーブ同盟軍は、身を隠すためにメンデルを利用していたこともあった。

だが、そのころと比べると明らかに荒れ果てている。

どこかに破損個所があるのか、気温も下がっている。

 

ダコスタは、一度このコロニーに忍び込んだことがあったのだが、その時と違い作業服なしでは入ることすらできなくなっている。

 

 

「これは…、ひどいわね…。破棄されて何も残ってない…」

 

 

内部を調べ回った後、アイシャが言った。

 

 

「だけど…、一体誰が?」

 

 

アイシャが言った言葉、破棄された。ダコスタは、その破棄した人物は気になった。

 

 

「この施設の職員…と言いたいけれど、ダコスタ君は前にもここに来ていたのよね?」

 

 

「はい。その時は、ここまで荒れてはいませんでした」

 

 

そして

 

 

「賊が入り込んだにしても、手が込みすぎてるし…」

 

 

X線で完全に消毒されたコロニー内のコンピュータにデータが残っているなど期待はしていなかった。

資料が大方消失されているのも予想できていた。

 

しかし、プリントアウトされた紙資料なども見当たらないのだ。

さらに、サンプルであろう瓶も割られている。

 

 

「…あちらにも特に目立った物はありませんでした。ですが、これが…」

 

 

奥の方を捜していたダコスタが戻ってきた。その腕の中に、数冊のノートが。

アイシャとダコスタはノートのページをぱらぱらとめくっていく。

 

研究員がつけた個人的な日記のようだ。

 

 

「…っ」

 

 

“今日もまた、一人胎児が死んでしまった。ヒビキ博士はどうしてしまったのだ?夢は、もう完成したというのに”

 

中の一つのフレーズを目に留めたアイシャ。唇を、噛み締める。

それは、恐らくセラを産み出すための実験についてを記した日記なのだろう。

 

 

「…」

 

 

アイシャは、その日記をそっと閉じて置いた。今、探しているのはこの情報ではないのだ。

 

欲しいのは…

 

 

「っ!アイシャさん!」

 

 

その時、ダコスタの呼ぶ声が聞こえた。アイシャはダコスタの方へ寄る。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「これを見てください」

 

 

ダコスタが開いていたノートをのぞき込むアイシャ。開かれたページ内に書かれた、ある名前。

 

ギルバート・デュランダル

 

これが、アイシャとダコスタが求めていた情報。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバレクルーム、そこにシンは、ルナマリアとハイネはいた。

そして、ある言葉を聞いてシンは思わず大声を上げてしまった。

 

 

「ジブリールがいない!?」

 

 

「いないって…、そんな!」

 

 

シンだけではない。ルナマリアも声を荒げ、詰問調になってしまう。

 

 

「基地が降伏する前に、一人こっそりと逃げ出したらしい…。他のロゴスのメンバーは全て見捨ててな…」

 

 

ヘブンズベース攻略戦は、ザフト側の勝利に終わった。今は陸で基地の選挙が進んでいる。

指令の任についていた将校と共に、ロゴスのメンバーが投降していく。

そして、拘束されたという報せが届いた直後だった。ジブリールがいないという情報がきたのは。

 

これで終わると思っていた。戦争は、終わったと思っていた。守り切ったと、思っていたのに。

 

 

「そんな…、それじゃあ、どうなるんですか?」

 

 

ルナマリアが、不安そうに見上げながらハイネに問いかける。

 

 

「さぁ…な。けど、ジブリールを捕まえないと話にはならないだろうな」

 

 

ハイネは、頭を振りながら息をついて言う。

 

 

「パナマか、ビクトリアか…。厄介な所に逃げ込んでなきゃいいんだけどな…」

 

 

その言葉に、シンはハッとした。

 

ハイネが言った国のどちらも、宇宙港がある国だ。そこから宙へ上がられたら、プラントが危ないという事実に気づく。

 

 

「やっぱり、そう簡単には終わらないか…」

 

 

「そんなことない」

 

 

ハイネが言うと、シンがきっぱりと言葉を否定した。

 

 

「また、絶対に機会があるはず。その時は…俺が討つ」

 

 

ルナマリアは、シンの目を見て、背に冷たい感覚が奔った。

シンの目に、光がなかった。感情を感じさせない、そんな目をしていた。

 

いつからだろう、シンがそんな目をするようになったのは。

ベルリンでの戦い、あのときくらいだったと思う。

 

冷たく、鋭い雰囲気を漂わせるようになった。

それを見るごとに、不安になる。

 

 

 

 

レクルームから出て、シンとルナマリアは並んで歩いていた。

シンは、横目でルナマリアを見る。…どうして、こんなに暗い顔をしているのだろう?

 

 

「ルナ、どうしたんだよ?」

 

 

「…え、なに?」

 

 

ルナマリアは、少し間が空いてからシンに声をかけられたのだろ気づく。

その時、見えたシンの目は先程見せた冷たく鋭いものは、まるで初めからそこには何もなかったかのように消えていた。

 

 

「だから、どうしたんだよ?さっきからお前、暗い顔してるぞ?」

 

 

「っ…」

 

 

気づかれていた。シンに。

そういうところも、昔と変わったなと思わせる部分だ。

昔なら、まるで気がつかずに無視していただろう。

 

 

「ううん、別に…」

 

 

言えるわけがない。シンの雰囲気がとても不安だ、など。

…なぜ?

 

思えば、そんなこと普通に言えばいいはずなのに。どうして、自分はためらっているのだ?

 

…恥ずかしい?まさか、自分は恥ずかしいと思っているのか?なぜ?

シンを心配していると、シンに知られたくない?なぜ?

…なぜ?

 

 

「…顔赤いぞ、ルナマリア?熱でもあんのか?」

 

 

「っ!?」

 

 

不意に、シンが手をルナマリアのおでこに当てる。

驚いたルナマリアは、びくりと体を震わせる。

 

 

「…熱はないな。さっきからどうしたんだよ?」

 

 

訝しげにルナマリアを見るシン。怪しんでいる、のだろうか。

ルナマリアが、何か自分に悪戯をしようとしている。そう疑っているのだろう。

 

だが、ルナマリアはまったくそんな気はない。

しかし、シンは疑っている。何て言って誤解を解こうか。

 

 

「…もういいよ」

 

 

はぁ、と息をついてからシンはいつの間についていたのだろう自室に入ろうとする。

 

嫌だ、咄嗟に、ルナマリアはそう思った。

このまま、シンに嫌な気持ちをさせたまま別れたくなかった。

 

 

「ま、待って!私は…!」

 

 

「?」

 

 

必死に呼び止めるルナマリアに、シンは目を丸くして振り返る。

 

 

「私はただ…、シンが心配で…」

 

 

「俺が?」

 

 

シンが首を傾げながら聞き返し、ルナマリアは頷く。

シンは、一瞬呆気にとられたような表情をした後、いつものむすっとしているようにも見える表情に戻す。

 

ルナマリアは、シンの問いかけに言い淀みながらも口を開く。

 

 

「シン見てたら…、何か、不安になってきて…」

 

 

両手を、ぎゅっと握りながら言うルナマリア。

シンは、それを見て再び目を丸くして…、ふっと微笑む。

 

 

「なんだよそれ?」

 

 

くすくすと笑いながら聞き返すシン。ルナマリアの顔が、紅潮してしまう。

 

 

「な、何よ…」

 

 

シンに笑われた。いつもはそれは、自分の立場だったのに。

何とか言い返そうとするルナマリアだが、何も言葉が浮かんでこない。

 

ルナマリアが途轍もない恥ずかしさを感じていることに、シンは気づかない。

ぽんと手をルナマリアの頭に乗せる。

 

 

「シン…?」

 

 

「俺は大丈夫だよ」

 

 

見上げてくるルナマリアに微笑みかけながらシンは言う。

 

何を見て、何で不安に感じたのかはわからない。

だが、自分がルナマリアを不安がらせてしまったことには違いない。

 

だから、シンは何とかルナマリアを元気づけようとする。

 

 

「俺は大丈夫。ルナも、ハイネも…、仲間を、マユを守る」

 

 

それは、誓い。絶対に、やり遂げてみせると決心した、その誓い。

 

 

「だから、ルナも俺のこと守ってくれよ」

 

 

それでも、自分は一人ではないのだ。一人で戦っているわけではない。

隣で戦ってくれる人がいるのだ。

 

自分を、守ってくれる人がいるのだ。

 

 

「…うん」

 

 

シンの問いかけに対し、ルナマリアは大きく、力強く頷いて返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シャトル帰艦。ハーノバールートで接近中』

 

 

艦橋から通信が入り、バルトフェルドはわかった、と返した後自室から出た。

艦橋へ向かう途中で、ラクスの部屋の前で立ち止まり、インターホンで呼びかける。

 

 

「ラクス、シャトルが帰艦した」

 

 

『わかりました。今、参ります』

 

 

ほどなくすると扉が開き、ラクスが部屋から出てくる。二人はすぐに艦橋へ向かう。

 

 

「…さっきのことだが、なぜ次はオーブなんだ?」

 

 

途中、バルトフェルドはラクスに問いかけた。

それは、ヘブンズベース戦の決着を知ってすぐに告げた、ラクスの言葉。

 

ヘブンズベースの次は、オーブだという言葉。

 

 

「デュランダルが討つと言っているのはロゴスだろう?」

 

 

今頃は、降伏したヘブンズベースとザフト側が交渉を行っているころだろう。

デュランダルの言葉を信じるなら、その交渉が終わり、そして脱出したジブリールさえ捕らえられれば、それで戦争は終結を告げるはずなのだ。

 

オーブは、何も関係がないはずなのだ。

 

全て、ロゴスが悪いと、デュランダルは言っていたのだから。

 

確かに、司令本部であるヘブンズベースを陥としたとはいえ、全ての連合加盟国がデュランダルについていくというのはあり得ない。

だが、なぜ次はオーブなのだろうか?

 

バルトフェルドはそこが疑問に思っていたのだ。

 

 

「オーブは強い国ですから。力も、理念も…」

 

 

ラクスは、その目を伏せながら言葉を続ける。

 

 

「そして、それがデュランダル議長のやろうとしていることの前には、ただの障害でしかないのではと思うので…」

 

 

二人の前でエレベーターが開く。席へ向かいながらバルトフェルドは鋭い目をラクスに向けながら問いかける。

 

 

「…奴がしようとしていることとは、何だ?」

 

 

ラクスが、バルトフェルドの横に来てモニターを操作する。

モニターには、デュランダルのプロフィールが映し出された。

 

データを見る限りは、遺伝子学の学者として優秀な成果を上げてきた人物のようだ。思想的にも、特に偏見は見られない。

 

 

「それはわかりませんが…、少しずつ見えてきました」

 

 

まだ、はっきりとはわからない。

 

 

「デュランダル議長は、地球、プラントを一つにまとめ上げた新しい世界秩序を作ろうとしているのではないでしょうか?」

 

 

「なに?」

 

 

バルトフェルドは、ラクスの答えに目を瞠る。

 

 

「わたくし、そしてセラを暗殺しようとした…。間違いなく、わたくしたち二人が、その秩序を作り上げる計画の上で邪魔だったから、ということなのでしょう」

 

 

オーブのアスハ別邸で、ザフトの特殊部隊に襲われた。

彼らのターゲットは、ラクスとセラだった。

 

デュランダル議長は、ラクスとセラが邪魔だと考えた。だから、部隊を向かわせ暗殺しようとした。

 

しかし、どうにも実感がわかないバルトフェルドは考えてみる。

その、地球とプラントを新しい秩序でまとめられた世界になるというそれを。

 

一つの思想で世界を塗りつぶし、違う色のものを排除、矯正して争いを失くす。

あなた、私、彼、皆が全て同じになる。誰も妬まず、憎まず、望まない。

そんな世界になれば、さぞ平和なものになるだろう。

 

想像して、バルトフェルドは寒気を感じてぶるりと震えた。

そんな世界、断じて御免だ。

 

 

「もしかしたら、今までの戦いもそのための土台作りのためだったのかもしれません…」

 

 

「っ!?」

 

 

バルトフェルドは、目を見開いて驚愕し、素早く思い返す。

 

ベルリンでの虐殺が起こり、デュランダルはロゴスの存在を大衆の面前で明らかにした。

人々は、決定的にロゴスを憎むようになった。

 

デュランダルがベルリンでの惨劇を起こしたとは思わない。だが…、あれも計画の上だった?

いや…、もしかしたら、戦争の全てが、デュランダルの手のひらの上だったとしたら?

 

ザフト特殊部隊に襲われたのは、ユニウスセブン落下事件のすぐ後のことだった。

そして、それを企てたのはデュランダル議長だというのは間違いないはず。

 

その時から、デュランダルは裏で手を回してきていたのだ。ゴールへとたどり着くために。

 

…ゴールとは、どこだ?どこまで奴は突き進むつもりなのだ?

それは、いつになったらたどり着くというのだ…?

 

寒気がどんどん強くなっていくのを感じた時、艦橋の入り口が開く音がした。

目を向けると、アイシャとダコスタが艦橋に入ってくる。

 

デュランダルの目指すものを知るために、二人をメンデルに向かわせていたのだ。

クライン派のターミナルをもってしても、デュランダルの周辺、過去を知ることはできなかったのだ。

藁にもすがる思いだった。もしかしたら、メンデルに何かあるかもしれない。そう思って。

 

彼は、一時期メンデルに籍を置いていたことがあったことを知った。だからこそ、アイシャとダコスタをメンデルに向かわせた。

 

ダコスタが、持っていたアタッシュケースを置き、開けた。

 

 

「いやもう参りましたよ。コロニーは空気も抜けちゃって荒れ放題」

 

 

「さらに、遺伝子研究所のデータは綺麗さっぱり処分されていたわ」

 

 

ダコスタとアイシャがメンデルの状況を報告する。

 

その言葉に、ラクスとバルトフェルドは目を見交わし、アイシャと目を見交わす。

間違いない、デュランダルが処分したのだ。

 

ダコスタは、申し訳なさそうにケースから数冊のノートを取り出した。

 

 

「こんなものしかありませんでした…」

 

 

バルトフェルドは、ノートを見て落胆しかけた。やはり、用意周到に対策を立てていた。

どこまでもデュランダルは先回りし、自分たちはその後を追うだけ。それでは、何も変わらない。

 

 

「ですが…、当時の同僚のものだと思うのですが…」

 

 

「記されていたのよ。彼の理想についてが」

 

 

「「っ!」」

 

 

ラクスとデュランダルは息を呑む。

ダコスタはノートをめくり、あるページを開いたところで二人にノートを見せた。

 

ラクスとバルトフェルドは、そのページに書かれていたことを覗く。

手書きのグラフや図の間に、殴り書いたような文章が書かれていた。

 

“デュランダルが言うデスティニープランは、一見今の時代には有益に思える”

 

 

「これは…」

 

デュランダルの名を見て、ラクスは声を漏らす。

そして、バルトフェルドはその分の中のある単語に注意を惹かれた。

 

 

「デスティニー…プラン?」

 

 

さらに、文章は続く。

 

“だが、忘れてはならない。人は世界のために生きるのではない。人が生きる場所、それは世界なのだということを…”

 

 

さらに、先を読み進めようとする…、が、その時、いきなり艦橋に警報が響き渡った。

ラクスたちは、さっと振り返る。

 

 

「何だ!?」

 

 

周辺宙域に張り巡らされていたセンサーが何かに反応したようだ。

オペレーターが慌てて計器を操作し、モニターに映像が映し出される。そこに映っていたものは…

 

 

「偵察型ジン!?」

 

 

監視カメラから送られた映像は、ジンが上げた銃口を映した直後、ノイズに飲み込まれた。

 

 

「…つけられていたよね。警戒はしていたのだけど」

 

 

沈んだ様子でアイシャが謝罪する。

ジンは、シャトルを追跡してエターナルを見つけたのだろう。報告されれば、一巻の終わりだ。

 

 

「くそ!ガイアを出せ!すぐに追う!」

 

 

バルトフェルドが告げるが、ラクスがそれを遮る。

 

 

「待ってください、もう間に合いません。追尾してきたというのなら、母艦もそう遠くない場所にいるはずです…」

 

 

それに、今更撃っても機体が消息を絶ったこと自体、何かあったのだという報せになってしまう。

 

 

「メンデルを見張られていたのかもしれません…。私が迂闊でした…」

 

 

ラクスが沈痛な面持ちで言う。

 

しかし、デュランダルには舌を巻く。メンデルに自分たちが足を運ぶと予測して、そこに見張りを置いたのだろう。

本当に、ずいぶんな狸ぶりだ。

 

 

「違うわ。私たちが迂闊だったのよ、ねぇ、ダコスタ君?」

 

 

「は、はい!ラクス様、気を落とさないでください!」

 

 

アイシャとダコスタがラクスにフォローを入れる。

そして、バルトフェルドは今の危機的状況に三人を引き戻す。

 

 

「だが、どうする?工廠の機体だって、まだ最終調整は終わっていない。攻め込まれたら守り切れんぞ」

 

 

ラクスはしばし考え込んで、きっぱりと告げる。

 

 

「艦を出しましょう、バルトフェルド隊長。今すぐに」

 

 

「そんな!それこそ発見されます!」

 

 

ラクスの出した結論に反論するダコスタ。気持ちはわかる、が…

 

 

「もう同じことです。ならば、攻め込まれる前に出て、少しでも優位な状況を作り出しましょう」

 

 

ラクスの言うこともわかる。だが、懸念材料がエターナルには盛りだくさんなのだ。

 

 

「しかし、今のこいつにはナスカ級一隻とだって戦える戦力はないぞ。どうあがいたって勝ち目は…」

 

 

「勝ちたいのではありません。守りたいのです」

 

 

バルトフェルドの言葉を遮ってラクスが告げる。

 

 

「あれと…、力を貸してくださった工廠の方々…、そしてこの資料を」

 

 

その胸には、古ぼけたノートが抱き締められている。

 

 

「私たちが出れば、ザフトは間違いなく私たちを追うでしょう。ファクトリーはその間に対応の時間を稼げます。我々は最悪の場合、降下軌道へ逃げて、あの二機とこの資料をポッドに乗せて、アークエンジェルに射出します」

 

 

「…よし、わかった!」

 

 

バルトフェルドは、決断する。アイシャとも目を合わせて…、頷き合った。

 

 

「エターナル発進準備!ターミナルに通達!」

 

 

バルトフェルドがすばやく指示を飛ばすのを見ながら、ラクスはあることを思い返していた。

あのノートに書かれていたこと…、警報が鳴ってしまい、よく読み返すことが出来なかったのだが、目に入ったある文が頭の中に残っていた。

 

“デュランダルの計画を止めるには、最高のコーディネーターの力は必須だろう。全ての策略を跳ね返す、強大な力が…”

 

このノートは、絶対に守り抜く。そして、届けてみせる。

 

愛する人の家族に。セラ・ヤマトに、届けなくてはならないのだ。

 

 

 

 

 

 

キラは、格納庫でストライクルージュのOSを調整していた。その時、放送が響き渡る。

 

 

『キラ君、セラ君、シエルさん!すぐに艦橋へ!』

 

 

マリューの大声に、キラは目を丸くしながらコックピットから顔を出し、天井のスピーカーに目を向ける。

切迫した調子で、マリューの言葉が続けられる。

 

 

『エターナルが発進すると、ターミナルから連絡よ!』

 

 

「え…?」

 

 

キラだけではない。周囲にいたマードックも顔色を変える。

 

弾かれるように、キラは駆け出した。

 

ラクスたちは、ザフトの探索を避けて身を隠していたはずだ。それなのに、エターナルが発進したということは…。

少し考えるだけでその答えが導き出される。

 

 

「ラクスっ…!」

 

 

彼女の身に危険が迫っている。自分の愛する人が、自分の手が届かない場所で。

そのことが、キラにどうしようもな焦燥をもたらす。

 

走りながら、キラはセラの気持ちがわかった気がした。

手が届かない場所で、愛する人が戦っている。でも、助けることが出来ない。

そんな、悔しいような悲しいような思い。

 

キラは艦橋に駆け込む。すでに、セラとシエルは艦橋内にいた。

 

入ってきたキラに、マリューがエターナルから入った通信を伝える。

 

 

「どのくらいの規模の部隊に追われているのかはわからないけど、突破が無理なら、ポッドだけでも落とすそうよ…」

 

 

「ポッド?それに…、突破が無理ならって…」

 

 

シエルが、不安そうに目を伏せながらつぶやく。

 

 

「そんな…ラクス…!」

 

 

キラは、青くなった顔色をさらに悪くする。

突破が無理ならということは、それほどにエターナルは危機的状況に追い詰められているのだ。

 

そして、ラクスは自分が助からなくても何かを自分たちに伝えようとしている。

どうして…、どうして…、自分は何もできずにこんな所にいるのだろう?

 

だが、今の自分には何も力はないのだ。剣であるフリーダムはもうない。

何も、ないのだ。

 

唇をかむキラ。だがその時、誰かに自分の肩がぽん、と叩かれる。

 

 

「…セラ?」

 

 

振り返る、と、セラが自分に笑みを向けていた。

 

 

「何やってんの?早く行きなよ」

 

 

「え…」

 

 

開かれたセラの口から出たのは、そんな言葉。

 

 

「アークエンジェルなら大丈夫だって!俺がいるんだから!だから…、兄さんは行きなよ。行って、ラクス姉さんを助けるんだ」

 

 

「セラ…」

 

 

セラの言葉が、キラの迷いを全て吹き払う。

 

 

「言ってやりなって!『ラクスが死んだら…、僕はどうすればいいんだよ…』とかさ?」

 

 

「セラっ!」

 

 

こんな時にも、いつもの調子を忘れないセラ。

そして…

 

 

「ほらっ!行けよキラ!」

 

 

「トール…」

 

 

トールも、力強くキラに声をかける。

キラの決意は…、強く、それは強く固まった。

 

 

「カガリ、ルージュ貸して!それからブースターを!」

 

 

「キラ!?」

 

 

キラは、エレベーターに乗り込みながらカガリに叫ぶ。

カガリは…、いや、セラとトール以外の面々は驚いた表情をキラに向ける。

 

そんな中、キラは笑顔を浮かべてセラとトールを見る。

 

 

「ありがとう、セラ!トール!」

 

 

決意を胸に、キラは走る。パイロットスーツに急いで着替え終わると、格納庫に向かってすぐにストライクルージュに乗り込んだ。

 

 

「電圧やスペックはどうすんだ!?」

 

 

コックピットの下で、マードックが呼びかけられる。

そして、キラはすぐに叫び返す。

 

 

「全てストライクと同じに!」

 

 

凄まじい勢いでキーボードを叩くキラ。

ナチュラル向けに設定されていたOSを自分用に書き換えていく。

 

キラがOSを設定している間にも、マードックたちの作業は続く。

調整された機体は地下の発着デッキに運ばれ、巨大なブースターが接続される。

 

 

「マードックさん!」

 

 

キラが、マードックに呼びかけ、意を得たマードックが周囲の作業員に指示を出す。

 

 

「全員、退避ぃいいいいいいいいい!!!」

 

 

ストライクが発進ポートに運ばれ、背面のシャッターが閉まる。

キラの目の前では、岩壁に偽装されたハッチが開いていく。

 

 

『エターナルの軌道要素、いいわね?大分降下してきているわよ』

 

 

「はい、大丈夫です!」

 

 

マリューの問いかけにキラは返事を返して送られたデータに目を走らせる。

そして、慌ただしく発進シークエンスが読み上げられた。

 

 

『進路クリア―、システムオールグリーン。ストライクブースター、発進、どうぞ!』

 

 

「行きます!」

 

 

ブースターが点火され、体に強いGがかかるとともに、滑走路を駆け抜け機体が浮き上がる。

キラは、PS装甲をオンにする。機体は、赤、白、青と彩られる。

 

 

「ラクス…!」

 

 

操縦桿を握りしめながら、キラは愛する人に思いを馳せる。

 

 

「間に合ってくれ…!」

 

 

そして、祈るようにささやくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…エターナルが発進したらしい。新しい機体を受領したすぐで悪いのだが、君にはエターナルを追ってもらう」

 

 

「はい」

 

 

そして、ザフト側でも動きが見られていた。デュランダルと共にプラントに戻っていたレイは、デュランダルの指示を受けて巨大な格納庫の中にいた。

紫のパイロットスーツに身を包み、そして、自分の愛機となった機体に乗り込む。

 

レイはキーボードを叩いて機体のわずかに残った最終調整を終える。

 

 

「下がってください、すぐに出ます」

 

 

『了解』

 

 

外にいる作業員に呼びかけ、作業員が退避していくのを見届けてから、レイは操縦桿を倒す。

 

 

「レイ・ザ・バレル!レジェンド、発進する!」

 

 

開かれたハッチから、灰色にカラーリングされたレジェンドが飛び出していく。

 

桃色の歌姫を討つため、灰色の伝説が牙を剥くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いや、活動報告にも書きましたが、雪がひどいです…
明日は学校休みになってもいいくらいになるという予報…、よっしゃww


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PHASE40 守るための戦い

因縁の二人が激突します


キラが決意を固め、ルージュのOSを設定しているころ、エターナルは全速で降下軌道に向かっていた。

ナスカ級が後を追ってくるが、エターナルのスピードには追いつけない。

しかし、ナスカ級のハッチから次々とモビルスーツが吐き出される。

 

モビルスーツは加速してエターナルに迫り、背面のポッドを開いてミサイルを発射してくる。

 

 

「ミサイル来ます!」

 

 

ダコスタは、背中に冷たいものを感じながら告げる。

 

 

「迎撃!面舵十、下げ舵二十!」

 

 

だが、バルトフェルドは冷静に迎撃を命じる。

エターナルの迎撃システムがミサイルを撃ち落とすが、船体付近で爆発したため艦内に衝撃が奔る。

 

その間に、ガナーザクウォーリアがオルトロスをエターナルに向けて放つ。

エターナルは何とか回避に成功するものの、熱線が船体をかする。

 

 

「モビルスーツをとりつかせるなよ!対空かかれ!」

 

 

発進したザクとグフが、次々にミサイル、ビームをエターナルに向けて放ってくる。

迎撃システムと対空ミサイルが何とか相手の攻撃を阻んでいるが、その攻撃は確実にエターナルのスピードを鈍らせている。

 

ザクとグフの包囲によって、エターナルの加速が鈍っている間に後方からナスカ級も迫ってきている。

ナスカ級がエターナルに艦砲射撃を浴びせてくるが、操舵士が舵を取りかろうじて回避する。

 

しかし、絶え間なく火線がエターナルに迫ってくる。

これでは、ポッドを守り抜くことが出来ない。

 

バルトフェルドは、決断する。

 

 

「くそっ、俺が出る!」

 

 

「隊長!?」

 

 

艦長席から勢いよく立ち上がったバルトフェルドが、告げながら艦橋の出口に向かう。

 

あの数のモビルスーツを相手に敵うとは思っていない。

だが、少しでも時間を稼ぐことが出来れば…。

 

 

「私も行くわよ、アンディ」

 

 

「アイシャ…、だが」

 

 

アイシャも席から立ち上がり、バルトフェルドにその身を寄せる。

バルトフェルドは、ダメだと告げようとするのだが、アイシャの目を見てその言葉を飲み込んでしまう。

 

 

「私は、どこまでもあなたと一緒にいたいの」

 

 

「…わかった」

 

 

この人には生きてもらいたい。そう思っていたのに。

どうして共にいてくれると言ってくれたことに安堵感を抱いているのだろう。

 

 

「よし、俺たち二人でうるさいのを追っ払う!とにかく距離を稼ぐんだダコスタ!エンジンを撃たせるなよ!」

 

 

「はい!」

 

 

命じながらバルトフェルドとアイシャは艦橋を出て行く。

エレベーターに乗りながら、バルトフェルドは口を開く。

 

 

「…馬鹿だな、君は」

 

 

「何とでも」

 

 

穏やかな笑みを浮かべて言ってくるバルトフェルドに、アイシャも穏やかな笑みを浮かべながら返す。

 

そして、二人はそれぞれの機体に乗り込んで開かれたハッチから勢いよく飛び出していく。

バルトフェルドはガイア、アイシャはムラサメ。バルトフェルドのガイアはVPS装甲を入れ、朱に装甲が染められる。

 

 

「いいかアイシャ!艦から離れるな!」

 

 

「ええ!」

 

 

アイシャに指示を出して、バルトフェルドはエターナルをオルトロスで狙うザクに向かっていく。

ビームサーベルを抜き、ザクの両腕を斬りおとす。即座にライフルを抜いてバルトフェルドはザクを撃ち抜く。

 

 

「くそっ!」

 

 

艦橋から見てわかっていたことだが、相手のモビルスーツの数が本当に多い。

これだけの数を相手に、本当に耐えられるのか不安になってしまうほど。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

バルトフェルドは機体を四本足形態に変形させ、傍にいたグフを踏み台に駆け、展開したビームブレードでその先にいたザクを斬り裂く。

 

いや、やらなければならないのだ。何としても。あれを、届けて託す。

 

 

「ポッドの射出ポイントまで、あとどのくらいですか?」

 

 

揺れる環境の中で、ラクスが艦長席に座するダコスタに問いかける。

 

 

「あと二十…、いや、二十五です!」

 

 

「どうかそこまで、頑張ってください!」

 

 

ラクスが、祈るような声で頼み、ダコスタをはじめとしたクルーたちが強く頷く。

 

そして、エターナルのまわりでは激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 

「このぉっ!」

 

 

ライフルで、一機のグフを撃ち落としす。直後、ガイアのまわりをザクとグフが斬語で挟み込んでくる。

だが、バルトフェルドは機体を変形させてザクの方に突っ込んでいく。

 

ザクから放たれたビームをかわし、ザクを踏み台にして飛び上がる。

再び機体を変形させてライフルでザクを撃ち抜く。

 

今、バルトフェルドが駆るガイアはミネルバに収容されてそのままプラントに送り届けられるはずだった。

だが、その過程でクライン派が回収し、ファクトリーに送って調整された。

 

かつて、バクゥやラゴウという獣型モビルスーツを操っていたバルトフェルドには肌が合うものだった。

 

と、バルトフェルドの視界の中、エターナルを挟んで向こう側でオルトロスを構えたザクが見えた。

ここからでは、間に合わない。バルトフェルドは。

 

オルトロスが熱線を吐き出そうとしたその時、バルトフェルドのものとは違う光条がオルトロスを撃ち抜いた。

アイシャが駆るムラサメのものだ。

 

オルトロスを撃ち抜かれたザクが、まわりのザクとグフを引き連れてムラサメに襲い掛かろうとする。

バルトフェルドは慌ててアイシャの援護に向かおうとするのだが…。

 

 

「っ!」

 

 

ガイアの動きが遮られる。こちらへの距離をグフが詰めて来ていた。

バルトフェルドはライフルを向けて迎撃しようとするが、グフはビームウィップをライフルに絡め、電流を流しライフルを破壊する。

 

 

「くぅっ!」

 

 

息つく間もなく、ビームガンがガイアを襲う。シールドを構えて何とか防ぐが、両側から挟むようにザクが迫ってくる。

エターナルを見遣ると、一機のザクによってビームの連射を受けていた。

 

ムラサメは、ザクとグフに囲まれ回避することで精いっぱいのようだ。

 

一刻も駆けつけたいのだが、一対多をサーベルで突っ込んでいくなどセラじゃない限り無理だ。

さらに、機体を変形させる隙すらもない。

 

ラクスを、エターナルを守らなければならない。

あの少女を、デュランダルの秘密と共に葬らせるわけにはいかないのだ。

何としても、守らなければならないのだ。

 

焦りを覚えるバルトフェルドとアイシャをよそに、一機のザクがオルトロスを構える。

その先には、エターナルの艦橋

 

 

「あッ…!」

 

 

「くそぉっ!」

 

 

アイシャが、バルトフェルドが短く叫びをあげる。

これでは、間に合わない。守ることが、出来ない。

 

なりふり構わず、バルトフェルドとアイシャは機体をエターナルとザクの間に向かわせようとする。

その身を犠牲にしても、守り抜こうとする。

 

だがその時、漆黒の空間を切り裂いて一筋に光条が横切った。

オルトロスを発射させようとしたザクが驚いて振り返る。

 

エターナルから発進したモビルスーツはあの二機で全部だったはず。そしてあの二機は仲間が囲んで反撃の隙すら与えていない状態だったのだ。

それなのに、なぜ自分を狙ったビームが放たれた…?

 

そして、驚いたのはザフトだけではない。バルトフェルドもアイシャも驚きを隠せなかった。

二人はカメラを切り替えてビームがやってきたその先を見る。

 

 

「あれは…」

 

 

「ストライク!?」

 

 

思わず目を見開く。なぜ、ストライクがこんな所にいるのだ。

 

驚いている間に、ストライクはブースターを分離させエターナルを狙っていたザクに向かってビームを撃つ。

オルトロスを半ばから撃ち落とされ、さらに機体の制御も失ったザクは回転しながら落ちていく。

 

この機体捌きは…、カガリじゃない。

バルトフェルドは思考する。

 

ならば、セラ?いや、違う。奴なはずはない。

こいつは…。

 

ストライクを駆るパイロットが誰なのかを確信したと同時に、モニターにそのパイロットの顔が映し出された。

 

 

『ラクス!バルトフェルドさん、アイシャさん!』

 

 

「キラ君!?」

 

 

「お前…、何で…!」

 

 

どうしてここに来た。アークエンジェルはどうした。

聞きたいことは山ほどあるが、それを遮ってキラが言う。

 

 

『すみません!でも心配で…!』

 

 

バルトフェルドもアイシャも、思わず苦笑した。

 

キラがここに来るのも仕方ないだろう。あの少女が、こんな危険な目に遭っているのだから。

堪らず来てしまったのだろう。

 

だが、再会を喜んでいる暇はない。モビルスーツ隊がこちらに向かってきている。

あのナスカ級が援軍を頼んだのだろう。新たな機影がレーダーに示され、さらにモビルスーツの数も増えている。

 

モビルスーツ隊から放たれるビームの雨を、ストライクは舞うようにかわして逆にビームをお見舞いさせる。

だが、前大戦中期では最新鋭機だったストライクも今では中型。

火力でも機動力でも、グフにもザクにもかなわない。キラの技量をもってしても、その差はカバーしきれないのだ。

 

ザクのオルトロスから放たれた砲撃が、掲げたシールドごとストライクの左腕を破壊する。

さらに、ライフルを持っていた右腕も持っていかれる。

 

バルトフェルドは、投げ出されたストライクのライフルをキャッチしてストライクを狙っているグフを撃ち抜く。

さらに、アイシャがストライクの前に立ちはだかり、ザクとグフを迎撃する。

 

 

「なら、あなたは早くエターナルに入りなさい!」

 

 

『えっ…?』

 

 

アイシャがキラに叫ぶが、キラは何が何だかわからないという表情になる。

そこに続いてバルトフェルドが命じる。

 

 

「お前の機体を取って来い!」

 

 

キラの表情がはっ、としたものに変わる。

はい、と頷いた後エターナルに向かっていく。

 

途端、ストライクの脚部が被弾するが、エターナルのハッチが開き緊急着艦ワイヤーが機体を確保した。

 

ほっ、と息をつくバルトフェルドとアイシャ。だが、すぐに気を引き締める。

 

 

「もうすぐヒーローの登場だ!それまで、何としても持ちこたえるぞ!」

 

 

「わかってるわ!」

 

 

 

 

 

 

エターナルのハッチに入り、ぼろぼろとなったストライクがゆっくりと運ばれていくのが感覚で分かる。

その時、自分の様子を見守っている桃色の髪の少女が、ガラスを挟んだ向こう側に見えた。

 

その瞬間、安心感が胸を満たす。良かった、無事だった。

 

キラはすぐさまコックピットから飛び出す。扉の横のスイッチを押して扉を開く。

向こう側で髪を揺らしてこちらに向かってくる少女。キラはコックピットを取り、その少女を胸で受け止める。

 

 

「キラっ…!」

 

 

「よかった!ラクス…」

 

 

きゃしゃな体をキラはきつく抱き締める。

そのぬくもりを感じ、温かい気持ちになっていくキラ。

 

 

「ラクス…、無事でよかった…。また、会えた…、それが本当に嬉しい」

 

 

「私もですわ、キラ…」

 

 

声を震わせながら絞り出すキラ、潤んだ目でキラを見上げるラクス。

だが、再会で感慨に浸りたいところだが今はそんな場合ではない。

こうしている今でも、艦は揺れている。

 

キラはラクスから身を離して問いかける。

 

 

「あれは?」

 

 

ラクスの目が一瞬翳った。だが、すぐに身を翻して先頭に立ち、キラを案内する。

 

 

「こちらです」

 

 

先導するラクスの前で扉が開き、二人は格納庫に入っていく。そんな二人の前に巨大な影が現れる。

翼を背負った巨大な天使。

 

キラは、それが何なのかを悟る。フリーダムだ。

細部は違うものの、馴染んだ基本フォルムは見間違うはずがない。

 

 

「…ありがとう」

 

 

キラは傍らにいる思い人にそっと告げる。

 

 

「これでまた、僕は戦える…」

 

 

「キラ…」

 

 

ラクスの目が潤み、今にも消えてしまいそうな儚げな表情になる。

愛するものを、戦場に送り出さなければならない。だが、この人が戦わなければ全員…。

 

そんな矛盾した思いがラクスの胸に満ちていた。

 

 

「待ってて、すぐに戻るから」

 

 

キラはラクスの手を取って微笑みかける。

 

 

「そして帰るんだ。皆の所へ」

 

 

「はい…」

 

 

目を潤ませたまま、ラクスはそっと頷く。直後、キラはラクスにもう一度微笑みかけてからコックピットに飛び込んだ。

電源を入れ、素早く各部にチェックを入れる。

 

蘇ったフリーダム、ストライクフリーダムは息を吹き返してエンジンが入った音がコックピットの中に響く。

基本操作は旧フリーダムと同じだろう。だが、新たに追加された武装もあるようだし、そのことをすぐに頭に叩き込む。

 

この機体には、現在ザフトで最新鋭のセカンドシリーズの技術も流用されている。

元々強力であった機体に更なるパワーアップを施されている分、操縦はかなり困難になっている。

 

 

「…ストライクフリーダム、システム起動」

 

 

だが、やる。出来る。ラクスが授けてくれた新たな剣を操ってみせる。

 

機体がカタパルトに運ばれ、ゆっくりと運ばれていく。

 

 

『進路クリア―。X20Aストライクフリーダム、発進どうぞ』

 

 

ラクスのアナウンスと共に、ハッチの通路のランプが緑色に変わる。

 

その時、ラクスのある言葉をキラは思い出していた。

 

『思いだけでも、力だけでもダメなのです』

 

何かを守れる力、何かを変えられる力が今、自分にはある。

 

 

「キラ・ヤマト!フリーダム、行きます!」

 

 

レバーを倒すとともに、フリーダムのスラスターに火が灯り、ハッチから勢いよく飛び出していく。

PSシステムをオンにすると、フリーダムと同じように装甲が白と青にカラーリングされる。

だが、違うのは関節部が金に色づいている所。

 

戦場に躍り出た新たな機体に、ザフト機が一斉に攻撃を集中してくる。

浴びせられるビームをシールドを展開して受け流し、ザクが放ったミサイルをかわしながらライフルで叩き落とす。

 

キラは、スラスターを吹かせて機体を加速させる。その先には、ザクとグフの姿。

ザクはオルトロスを撃ち、グフはビームガンを連射してフリーダムを落とそうとする。

 

だが、キラは機体を旋回させてそれらをかわしながらさらにフリーダムは加速していく。

そして、腰かあビームサーベルを抜き放ち、すれ違い様に二機のメインカメラを斬りおとす。

 

直後、すぐにサーベルを戻して両手にライフルを持つ。

両手のライフルでまわりの機体の武装、メインカメラを撃ち落としていく。

 

次々とザフト機を戦闘不能にしていくフリーダム、それの一瞬の静止をついてグフがウィップを繰り出しフリーダムの片足にそれを巻き付ける。

それによって、フリーダムの動きが制限される。キラはライフルで反撃しようとするが、その腕も逆方向から襲うウィップに絡めとられてしまう。

 

鞭から流れる電流が、機体を砕こうとしたその時、フリーダムの翼から四方に飛び散る物体が現れる。

それは、フリーダムの翼端、ドラグーンだった。ドラグーンはキラの意に操られ一斉にビームを放つ。

放たれたビームはフリーダムに鞭を巻き付けていたグフを撃ち抜き行動不能にする。

 

更に、キラはフリーダムに搭載されている武装の六門に加え、ドラグーン八基を合わせた十四門の砲門を同時に開く。

十四の砲火が、グフ、ザクの頭部や武装を破壊していく。

 

僅か二分にして、キラはモビルスーツ隊のほとんどを沈黙させていた。

 

 

「バルトフェルドさん、アイシャさん!残りは任せます!僕は母艦を!」

 

 

『わかった!気をつけろよ!』

 

 

キラは、エターナルを追ってきたナスカ級を叩きに機体を向かわせる。

ナスカ級三隻は、フリーダムを狙って全砲門を開く。

 

キラはビームの間を縫うように飛び回って全て回避し、レールガンを放つ。

ビームの雨が止んだその間に、ドラグーンを撒き散らして艦を狙おうとする。

 

 

「…っ!?」

 

 

だがその瞬間、キラの背筋に冷たい感覚が奔る。ずいぶんと感じていなかったこの感覚に覚えがある。

そう、前大戦で、近くにあのクルーゼという男がいた時。そして、戦場の中でムウの存在を感じた時。

それと、同じ感覚が今ここで奔ったのだ

 

 

「これは…!?」

 

 

キラは、すぐに機体を反転。そして、サーベルを抜いて一閃した。

 

振りぬかれたサーベルが、ガツン、と何かにぶつかる。それは、同じくビームサーベルだ。

キラの眼前には、こちらを襲う新しいモビルスーツの姿。

 

キラはすぐに機体を後退させ、そのモビルスーツの姿を改めて見る。

 

 

「まさか…、そんな…!?」

 

 

そして、モビルスーツの姿に見覚えがある。

灰色にカラーリングされ、ずんぐりとした体格の機体。

細部は違うが、それは間違いなくあの機体の発展機なのだろう。

 

ZGMF-X13Aプロヴィデンス

 

その発展機なのだろうその機体が、フリーダムに襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

「くそっ…!」

 

 

レイは、フリーダムにサーベルで斬りかかりながら悪態をつく。

エターナルを落とすために援護に来たレイだったのだが、まさかそこにフリーダムが現れモビルスーツ隊を返り討ちにするなど、議長も予想がつかなかったのだろう。

 

そして、自分の中が告げている。

 

フリーダム、そう、キラ・ヤマトが目の前にいるのだ、と。

 

フリーダムは落としたという報告だったのだが、パイロットは無事だったのか。

となると、セラ・ヤマトも生きているという可能性も出てくる。

 

レイは、サーベルでフリーダムに斬りかかる。フリーダムも、サーベルで対抗し、二本のサーベルがぶつかり合う。

二機は何度もすれ違いながらサーベルを何度もぶつけ合う。

 

その間に、レイはデュランダルから教えてもらった通信コードを入れ、停止しているナスカ級に通信をつなげる。

モニターに、恐らく艦長であろう男の顔が映し出される。

 

 

『な、何だ君は!?』

 

 

目を見開きながら艦長の男が問いかけてくる。

 

 

「俺はザフト軍特務隊所属、レイ・ザ・バレルだ!」

 

 

『と、特務隊…!?』

 

 

特務隊所属、つまり目の前にいる少年はフェイスということになる。

フェイスということは、司令官の立ち位置にいる自分も命令に従わなければならない。

 

だが、目の前にいるロゴスの一味を見逃すわけにはいかないという気持ちが、フェイスであるレイに向かって口を開かせた。

 

 

『し、しかし!あいつらを…!』

 

 

「何も見逃すわけではありません。俺が残ります。」

 

 

どうやら、目の前の男は誤解をしているらしい。こんな所で、みすみす危険な奴らを見逃すわけにはいかない。

ここで、自分が奴らを討つ。ラクス・クラインも、キラ・ヤマトも。

 

 

「早く行ってください!あなたたちがいても、あの機体には勝てません!」

 

 

そう、大量のモビルスーツを二分足らずでほとんど行動不能にさせたフリーダム。

数が少なくなっている状態で奴を落とせるはずもない。今では、エターナルから出撃したガイアとムラサメの二機相手でもモビルスーツ隊は押されている状態なのだ。

 

レイに一喝された男は、少しの間思考して…、頷いた。

 

 

『了解した。モビルスーツ隊、撤退だ!』

 

 

レイの言葉を受けた男は、通信を切りながら撤退を指示する。

それを見届けたレイは、全ての意識をフリーダムとの戦いに向ける。

 

フリーダムと何度もサーベルをぶつけ合った後、レイはフリーダムと距離を取って背面からドラグーンを射出する。

レイのコントロールを受け、ドラグーンはフリーダムに襲い掛かる。

 

ドラグーンは次々にビームを放ち、フリーダムを追い込んでいく。

フリーダムはビームを全てかわしていくが、体制が少しずつ崩れていく。

 

だが、次の瞬間レイは驚愕する。フリーダムの翼の先端から何かが飛び出したのだ。

小さなユニット。それは間違いなく…

 

 

「ドラグーンだと…!?」

 

 

フリーダムにドラグーンシステムは搭載されていなかったはず。だが、今こうしてフリーダムは、キラ・ヤマトはドラグーンを使用している。

それに、よく見てみるとフリーダムの細部がどことなく変わっている。そこで、レイは悟った。

目の前のフリーダムは、破壊されたフリーダムを修理されたものではない。あらかじめ開発された新しいフリーダムなのだ、と。

 

ならば、細部が変わっているのもドラグーンが搭載されているのも頷ける。

 

レジェンドのドラグーン、そしてフリーダムのドラグーンが二機のまわりを飛び交う。

二基それぞれに対して死の雨が降り注ぐ中、二機はライフルを撃ち合う。

 

 

 

 

「くっ…!どうして…!?」

 

 

目の前にある機体。そして、それに乗っているパイロット。

間違いない、ラウ・ル・クルーゼだ。

 

だが、ラウ・ル・クルーゼはセラが倒した。殺してしまったとセラが嘆いていたのを、よく覚えている。

それなのに、どうして目の前にあの男がいるのだ…?

 

 

『キラ・ヤマト…!』

 

 

その時、声が聞こえてきた。通信を通してではない。頭の中から直接、響き渡る。

 

 

「誰だ…、誰なんだあなたは!?」

 

 

キラは、まわりを囲むドラグーンを無理やり振り切り、そしてドラグーンを除いた六の砲門を同時に開く。

六条の砲火がレジェンドを襲うが、レジェンドは急上昇してかわす。

 

 

『お前には分かるだろう。俺が誰なのか』

 

 

「っ!?」

 

 

声は、語る。キラに、自分が何者なのかを。

 

 

『俺は…、ラウ・ル・クルーゼだ…!』

 

 

キラは、振り払うようにサーベルを抜き放つ。レジェンドもまた、サーベルでフリーダムに斬りかかり、二機は一度すれ違い、今度は鍔迫り合いを始める。

僅かな間の後、二機は同時に距離を取り、そして同時にドラグーンを向かわせる。

 

 

『キラ!』

 

 

襲い掛かってくるドラグーンを警戒していた時、スピーカーからバルトフェルドの声が聞こえる。

 

 

「バルトフェル…っ!」

 

 

キラはその声に答えようとするが、降りかかってくるビームの雨がそれを遮る。

襲い掛かるビームをかわし、展開したビームシールドで防ぐ。

 

一方のレジェンドにも、フリーダムのドラグーンが襲い掛かる。

レジェンドは、旋回しながら包囲するドラグーンを掻い潜っていく。

 

 

『キラ!大丈夫か!?』

 

 

再び声をかけてくるバルトフェルド。キラは機体を動かしながらその声に答える。

 

 

「バルトフェルドさん!アイシャさん!艦に戻って離脱してください!」

 

 

『キラ君!?』

 

 

キラの言葉に驚いたアイシャがキラに叫び返す。

間違いなくザフトの最新鋭機であろう機体に取りつかれているフリーダムを心配しているのだ。

 

だが、速くエターナルに離脱してもらいたい。少しでも間違えば、自分は落とされる。そうなれば、エターナルもこの機体に落とされるのは目に見えている。

ならば、自分が時間を稼いでいる間にエターナルに離脱してもらうしかない。

 

 

「行ってください!エターナルが離脱に成功したら、すぐに向かいます!」

 

 

キラは叫んで返す。バルトフェルドとアイシャは少しの間渋るが、機体をエターナルに向ける。

 

 

『わかった。必ず追いついて来いよ』

 

 

バルトフェルドはそう言い残し、二機は並んでエターナルに戻っていく。

二機は収容され、少し時間が経った後エターナルは離脱を開始した。

 

キラはそれを見届けると、目の前の機体に集中する。

 

エターナルが離脱すればこちらの勝ちだ。

あの機体、プロヴィデンスの発展機ならばそう足は速くないはずだ。

エターナル、そしてフリーダムの機動力には追いつけないはず。

 

キラはまわりから放たれるビームをかわし、防ぎながらもライフルをレジェンドに向けてトリガーを引く。

一方のレジェンドもキラが放ったドラグーンの包囲をかわしながらこちらに向けてビームを放ってくる。

 

二機は一度、ドラグーンを元の場所に戻る。

そして、レジェンドは背面に戻したドラグーンをこちらに向けてくる。

 

 

「これは!?」

 

 

どうやら、収容した状態でもドラグーンは撃てるようだ。

向けられたビームを、展開したビームシールドで防ぐ。

 

そして、キラは機体を横にずらした後、腹部の金色にカラーリングされた場所。

砲門となっているその場所から砲撃を放つ。

腹部に搭載されたビーム砲カリドゥスがレジェンドを襲う。

 

一方のレジェンドもビームシールドを展開して砲撃を防ぐ。

そして、レジェンドはドラグーンを分離してこちらを狙ってくる。

 

ならば、こちらも、とドラグーンを分離させようとすると…

 

 

『キラ、離脱に成功した!戻って来い!』

 

 

「わかりました!」

 

 

バルトフェルドに指示に従って、キラは機体を後退させる。

ドラグーンに包囲される前に、スラスターを全開にしてトップスピードで駆け抜ける。

 

レジェンドのドラグーンも追ってくるが、フリーダムに追いつかない。

 

 

「…」

 

 

レイは、飛び去っていくフリーダムを見送ることしかできない。

エターナルを討つことが出来ず、フリーダムも逃がしてしまった。

 

 

「…くっ」

 

 

歯噛みしながら、レイはレジェンドをナスカ級が飛び去って行った方向に向ける。

 

逃がしてしまったものは仕方ない。必ず、次の機会がある。

その時こそ、確実にフリーダムを仕留めてみせる。

 

絶対に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE41 解かれる黄金の封印

今回はほぼ原作通りに進みます


「ヘブンズベース戦での功績を称え、シン・アスカにネビュラ勲章を授与するものとする」

 

 

ジブラルタル基地司令部、並ぶ将官やデュランダルの前でシンの胸に光る勲章がつけられた。

その背後には、ハイネとルナマリアがシンを見ている。二人にも、その胸に金色の勲章がつけられていた。

 

 

「これで二つめか。本当に、素晴らしい活躍だな」

 

 

笑みをシンに向けながら、司令官がシンに手を差し出してくる。シンも、笑みを浮かべてその手を取る。

 

 

「それから、シン・アスカにはこれを」

 

 

司令官の脇からデュランダルが歩み出る。そして、小さな箱をシンに差し出した。

箱を受け取り、覗くとその中には何とフェイスの徽章が光っていた。思わず、シンは自分の目を疑ってしまう。

 

 

「議長、これは…!」

 

 

シンが見上げると、デュランダルは悪戯っぽく笑っている。

 

 

「不服かね?」

 

 

「い、いやっ!そんなことはありません!」

 

 

慌てて、シンは首を横に振りながら言い繕う。

自分に勤まるのだろうか、という気後れがあった。

フェイスということは、今まで上官として慕っていたハイネと同じ立ち位置になるということ。

 

いきなりの出世に、戸惑うのは決まっている。

 

 

「これは、我々が君の力に期待しているという証だ」

 

 

デュランダルは微笑みながらシンに語り掛ける。

 

 

「どうかそれを誇りとし、今この瞬間を裏切ることなく今後も力を尽くしてほしい」

 

 

「…」

 

 

裏切ることなく、という言葉に引っ掛かりを覚えるシン。

まるで、自分が議長を裏切るということを気にかけているような、そんな言葉。

 

どうして、そんなことを気に掛けねばならないのだ。

 

と、そこまで考え込んだところでデュランダルがこちらをじっと見つめていることに気がつく。

待っているのだ、シンの答えを。

 

そして、シンの答えも決まっている。

 

 

「はい、精一杯頑張ります」

 

 

自分は、ここに大切なものがあるのだ。

そして、それを守るためにも自分はここにいなければならない。

 

裏切るなど、してはならないのだ。絶対に。

 

将官からの拍手が室内を包む。そして、デュランダルからフェイスの徽章を受け取る。

 

 

「お先に失礼します」

 

 

そして、授与式が終わるとシンとルナマリア、ハイネは指令室を出て行こうとする。

そんなシンを、タリアは呼び止めた。

 

 

「おめでとう、シン」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

シンは、タリアの言葉に落ち着いた笑みを浮かべて返し、先で待っていたルナマリアたちのもとに行く。

 

 

「ほんとすごいよ、シン!これで二つ目だよ!?」

 

 

ルナマリアはシンにはずんだ声をかける。シンも、手放しでほめられていることに満更でもない表情になる。

 

若干十六歳にして、二つ目の勲章、そしてフェイス就任。かのアスラン・ザラにも勝るとも音たないほどの出世スピードだ。

だが、タリアはそれをただ喜ぶことが出来ない。複雑な思いでシンたちの背中を見つめる。

 

別に、シンたちを妬んでいるのではないのだ。むしろ、シンたちが出世していくことは喜ぶべきことだとタリアは本気で思っている。

色々とややこしい事にはなるだろうが、シンたちはそれだけの活躍をしているのだから。

それは、彼らを指揮してきたタリアが一番よく知っている。

 

だが…

 

 

「君が何も言わないというのは、少し怖いものがあるな。タリア」

 

 

背後から声をかけてくる男、そう、ギルバート・デュランダル。

タリアは振り返りもせずに返す。

 

 

「失礼しますわ」

 

 

相手にする気もない。デュランダルを置いて歩き出す。

だが、デュランダルは会話を切るつもりはないらしく、タリアの後を追って声をかけてくる。

 

 

「シンをフェイスにしたことで、絶対に何か一言あると思っていたのだが…」

 

 

「何を今更…」

 

タリアは冷ややかにデュランダルを睨みつける。

 

 

「言いたいことは山ほどありますが、迂闊に言えることでもないので黙っているだけです。聞く気がないのなら、放っておいてほしいですわ」

 

 

抑えつけようとした不満の言葉が次々と口から出て来てしまう。

このままデュランダルといたら、まだまだ罵りの言葉が出てきそうなためタリアはすぐにこの男から離れたかった。

 

別に、タリアはデュランダルを嫌っているとかそういうことではないのだ。

だが、デュランダルの態度が気に食わない。ここ最近の彼の行動がどうしてもタリアの気に障るのだ。

 

 

「聞く気がないなんて、そんな…」

 

 

ほら、これだ。今のデュランダルの態度、いかにもわざとらしいこの微笑み。偽善者めいたその態度。

ここ最近かなり目立ってきたものだ。

 

シンを、甘い言葉や待遇で信じ込ませようとしている。どうしても、タリアにはそう見えてならないのだ。

信じたくはない。だが、そうにしか見えないのだ。

まるで、戦うための道具として扱っているような。そんな感じがどうしても受けてしまうのだ。

 

 

「議長!」

 

 

デュランダルが、何かを口にしようとした時、通路の向こうから駆けてくる一人の将校がデュランダルを呼ぶ。

その声を聴いたデュランダルは言葉を飲み込み、その将校の言葉に耳を傾ける。

 

「何だ?」

 

 

向き直るデュランダルに、切れた息を整えながら姿勢を正して報告する将校。

 

 

「ロード・ジブリールの所在がわかりました!カーペンタリア情報部からの報告です!」

 

 

「カーペンタリアから?」

 

 

タリアも、先程の諍いのことも忘れ、次に出るであろう将校の言葉に集中する。

 

ヘブンズベースから逃れたジブリール。彼は、ビクトリアかパナマに行ったのだというのが大方の予想だ。

だが、カーペンタリアでは方向がまったく違うのだ。

 

 

「で、彼はどこに?」

 

 

デュランダルが問うと、将校が届けられた資料に目を落として言う。

 

 

「オーブです」

 

 

タリアは目を見開きながら資料に添えられた一枚の写真を見る。

その写真には、見覚えのある人物が写っていた。

 

一人は、ジブリールの姿。そして、残りに写っている二人の男の姿にタリアは驚愕する。

 

それは、ウナトとユウナのセイラン家の親子。オーブの重鎮とされる人物二人だった。

 

 

 

 

 

 

「なんだと!?」

 

 

報せを受けて、カガリはその場に呆然と立ち尽くした。

 

 

「ジブリールが…、セイランに…?本当か、それは!?」

 

 

ヘブンズベースから行方をくらませていたジブリールが、オーブでセイランと接触していたいう情報が入ったのだ。

その情報を告げたキサカが、モニターの向こうで険しい表情で口を開く。

 

 

『あぁ、間違いない。そしてそれはもう、ザフトにも知れたようだ』

 

 

アークエンジェル艦橋にいたクルー全員が息を呑んだ。

 

 

『すでにオノゴロ沖合で、カーペンタリアより発進した艦隊が展開中だ』

 

 

くらりと、軽くめまいがしたような感覚にカガリは陥る。

 

どうして、セイランはジブリールを匿うということをしたのだ。

ザフトは、ジブリールを追ってここに来た。それは、セイランだってわかっていたはずだ。

こうなるということは。

 

あの時、条約を締結したのも、彼らはこうしないと国を守れないと本気で思っていたからこその行動のはずだ。

カガリはそう信じている。

 

それなのに、どうして…

 

 

「ウナト…、なぜこんなっ…!」

 

 

この時期に、ジブリールを匿うなど。

 

確かに彼をザフトに引き渡すというのはカガリも気が引ける。

そうしてしまうと、このままどうなっていくのかわからなくなってしまうから。

 

だが、それ以上に彼はそうして裁かれるべきだという気持ちがある。

そんな人物と国を天秤にかけるなど、カガリはする気もさらさらない。

 

ウナトたちはどうしているのだ?

まず国を守ることを第一に考えろと言ったのは彼なのに。

 

 

「姉さん」

 

 

セラが、動揺を抑えきれない面持ちでいるカガリを窺う。

不安に揺れるカガリに、キサカは釘を差す。

 

 

『まだ戦闘になるとは限らない。セイランはザフト側にまだ何の回答も出していないんだ』

 

 

「しかしっ…!」

 

 

『落ち着けカガリ。ひとまずセイランの回答を待とう。彼らにも何か考えがあるかもしれないんだ。いいな?』

 

 

カガリの前で通信が切れる。

 

そうかも、しれない。ウナトたちに何か考えがあってのこの行動なのかもしれない。

自分と考えの違いがあったにせよ、彼らは本気で国を護ろうとしていたではないか。

その気持ちは、自分と同じなはずだ。

 

他のクルーたちも、カガリと同じく危機感を抱いていた。

マリューがマードックを呼び出す。

 

 

「全ての作業が終わるまで、あとどのくらいかかりそう?」

 

 

焦りの滲む問いかけに、マードックは難しい顔で答える。

 

 

『んー…、エンジン、電気系、補給合わせて最低でも二日は…』

 

 

二日、二日間アークエンジェルは動けない。

しかも、こんな時にキラはいない。セラとシエルはいるが、シエルが戦いに出れるかどうかはわからない。

さらに、セラには今、機体がない。カガリのルージュも、キラに貸し出したままだ。

 

 

「なるべく急いでもらえないかしら。間に合わなかったら話にもならないわ」

 

 

マリューが言った、間に合わなかったらという言葉がカガリの背筋を冷たく触る。

 

ラクスは言っていたという。次はオーブだ、と。そしてその通りになった。

もし、彼女が正しいのならたとえジブリールが来なかったとしてもザフトはオーブを襲っていたということになる。

 

ならばなおさら、今は相手に攻めるきっかけを与えてはいけないというのに。

考えに沈みながらカガリは艦橋から下がる。

通路を歩くうち、カガリの耳に整備員たちのざわめきが飛び込んでくる。

 

 

「オーブ政府、まだ何の回答もしてないらしいぞ?」

 

 

整備員たちは食堂に集まって、テレビに目を向けながら食事をとっていた。

どうやら交代で作業を進めているらしい。

 

彼らも、今自分は身を寄せている国の危機にいてもたってもいられないようだ。

 

 

「報道も抑えられてるらしいし…。セイランはどうする気なんだ?」

 

 

彼らの言う通り、自国に迫った危機について報せるチャンネルがない。

誰も、オノゴロ沖に展開されているザフト軍艦隊の存在を知らないのだ。

 

苦い面持ちで、カガリはそっとその場から去る。

 

どうしてこうなってしまったのか。

やはり、あの時自分は国に残るべきだったのか。

国に残って、彼らと戦う選択をしなければならなかったのか。

 

 

「…っ!」

 

 

カガリは固く拳を握る。

自分は、無力だ。セラやキラがいないと何もできない。

 

それを悔しく思う気持ちが、どうしても押しとどめることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ともかく我々は、彼の身柄の引き渡しを要求する」

 

 

整列する将校たちを前に、デュランダルが告げる。

 

 

「ヘブンズベース戦での彼の責任、すでに得られている証言から彼の罪状は明らかなのだ。それを匿おうなど到底許せるものではない」

 

 

「既にカーペンタリアから、こちらからの要求を携えた艦隊が出動しているが、万が一のために我らも非常態勢をとる」

 

 

ジブラルタル司令官が一同を見回し、そしてタリアの所で目を止めた。

 

 

「先がけて、ミネルバにはただちに発進してもらいたい」

 

 

言葉を受けたタリアは驚きと共に深刻な衝撃を受ける。

 

 

「本艦が…、ここからでありますか?」

 

 

アイスランドから戻って間もなく、再び出撃。

地理的にはカーペンタリアの方が近いというのに。

 

だが、それよりも…、オーブと戦いたくない。

 

心の底から湧き上がってきたその気持ちにタリアは自分でも少し戸惑う。

 

 

「オーブの力は侮れない。君も知っているだろう?」

 

 

司令官が強調するように言う。確かに、タリアはオーブの力をここの誰よりも知っていた。

 

地球・オーブ連合軍艦隊と戦い、そしてアークエンジェルとも戦い。

 

 

「それが奴を匿っているのだ。こちらも本気だと言うところを示さねば、交渉にもならん」

 

 

連戦連勝のミネルバを前に出して威嚇しようという軍の気持ちもわかる。

交渉してそれで終わればそれでいい。

 

 

「連戦で疲れているのはわかるが…。頼むよ、グラディス艦長」

 

 

先程向けてきた同じ類の笑みを、デュランダルは浮かべながらタリアに言う。

あの言い合いから未だ完全に切り替えることが出来なかったタリアは、冷たくデュランダルを睨み返してしまう。

だが、次のデュランダルの言葉でタリアの勢いは収まってしまう。

 

 

「オーブは軍事技術の高さだけでなくマスドライバーも持っている。それも、私は気にかかっているのだ…」

 

 

「え…?」

 

 

タリアは顔を強張らせる。

 

 

「ジブリールがオーブの軍事力をもって月の連合軍と合流することとなれば、プラントにも危機が及んでしまう」

 

 

目を伏せながら言うデュランダルは、深刻そうに歪んだ顔をタリアに向けて再び口を開く。

 

 

「彼がブルーコスモスの盟主だということを、忘れたわけではあるまい?」

 

 

将校の間に、ざわめきが奔る。

 

 

「オーブが…、彼に力を貸すと…!?」

 

 

問いかけながら、タリアはその可能性を考えることが出来なかった。

オーブが、ジブリールに力を貸してプラントを討つなど。

 

他国の争いに介入しないという理念を持ったあの国が?

 

だが、デュランダルはたたみかけるように告げる。

 

 

「現に彼はオーブにいる。我々がジブリールを探しているということを、あの国だけ知らないということはないだろう」

 

 

将校たちは顔を見合わせ、そして口を開く。

 

 

「オーブはロゴスの陣営だ」

 

 

「ちっ、ブルーコスモスめ…!」

 

 

「だから議長の呼びかけにも答えなかったのか」

 

 

彼らの間でオーブの不信が高まっていく。それが、タリアの疑心が募っていった。

 

かつて、断固として中立を貫いたオーブ。確かに今は連合に与していた国だ。

だが、まさかロゴスと協力をするほどあの国は変わってしまったのだろうか。

それがタリアには、どこか信じられなかったのだ。

 

カガリと会った時のあの眼を思い出す。真っ直ぐなあの眼を。

しかし、彼女はあの国にいない。だから、オーブは変わってしまったのだろうか。

 

 

「オーブはユニウスセブンの件までは、友好国として親しくした国だ」

 

 

デュランダルは苦悩の表情を浮かべて言う。

 

 

「それを思うと残念でならないが…、だが我々もこの度の件に関しては、一歩も退くことは出来ないのだ!」

 

 

今のタリアには、デュランダルの態度全てがわざとらしく感じてしまう。

どうして、ここまで彼に疑念を抱くようになってしまったのだろう?

 

だが、今の脅威を放っておくこともできないし、彼の考えに賛同すべきだというのもわかる。

デュランダルの言っていたことが杞憂出なかったら、いきなりプラント本国は危機に陥ってしまうのだ。

 

 

「ロゴスの暗躍、これ以上許すわけにはいかない。今度こそ必ず、彼を押さえるのだ!」

 

 

彼女の瞼に、プラントに残した自分の息子の笑顔がちらつく。

 

高らかに命じるデュランダルの言葉に、タリアは従うしかなかった。

 

 

「…そうだ、タリア」

 

 

「…なんでしょう」

 

 

デュランダルの命令を受け、ミネルバに入り発進準備をしようとしていたタリアだが、そのデュランダルに呼び止められた。

 

とっとと行きたいところなのだが…。

 

 

「オノゴロ沖に展開されている艦隊には伝えてあるため、君にも伝わるだろうが、一応ここで言っておこう」

 

 

「?」

 

 

一体、何を伝えようというのだろうか。疑問符を浮かべながら、タリアは耳を傾ける。

 

 

「交渉で終わればそれでいいのだが…、念のため、特務隊の二人をオノゴロ沖の艦体の増援として向かわせた」

 

 

「二人…ですか?」

 

 

増援が、たった二人?この男は、何を考えているのだろう。

 

 

「大丈夫だ。力は保証する」

 

 

微笑みながら告げるデュランダル。

それが、タリアにはどこか恐ろしく見えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「オーブ政府の回答文、発信されました!」

 

 

ミリアリアの緊張を含んだ声が、艦橋の中を響いた。

待ちわびていたカガリたちは、弾かれたように振り返る。ミリアリアは計器を操作する。

 

 

「スピーカーに出します」

 

 

ほどなく、艦内に甘ったるい独特の声が流れ始める。

 

 

『オーブ政府を代表して、通告に対しての回答をする』

 

 

ユウナの声だ。息をつめてオーブ政府の回答を待っていたカガリたち。

だが、続けられた言葉にカガリたちは耳を疑った。

 

 

『貴艦らが要求するロード・ジブリールなる人物は、オーブ国内に存在しない』

 

 

思いもかけない回答に、息を呑む。

 

 

『また、このような武力による恫喝は、一主権国家としてのわが国の尊厳を著しく損害するものであり、大変遺憾に思う』

 

 

ユウナの声は、さらに続けられた。

 

 

『よって、ただちに軍を退かれることを要求する』

 

 

それきり、通告は終わった。

 

直後、艦橋内はしん、と沈黙が流れる。

そして、それを破ったのはカガリだった。

 

 

「バカな…、それがオーブの正式回答か、ユウナ!?」

 

 

カガリは震える手を握りしめる。冷たい汗が背中を流れ落ちた。

誠意のかけらもない回答だ。十分な数を揃え、砲口を向けてくる軍相手に対して信じられない。

強気に出て切り抜けられる場面ではない。

 

こんな回答で、ユウナは、政府は乗り切ることが出来ると思っているのか。

間違いない。次にザフト側が取ってくる行動、それは攻撃だ。

 

恐らく、ユウナはこの事態を全く理解していないのだ。

自分はこう回答した。ジブリールはいない、と。だから、ザフトは退いてくれるだろう。

本気で、ユウナはそう思っているのだ。

 

ユウナは知らない。自分の思い通りにならない世界もあるということを。

 

オーブが、撃たれる。それなのに、自分はどうしてこんな所にいるのだろう。

何もできずに、ただ攻撃されるのを見るだけしかできないのだろうか。

 

 

 

 

 

オーブの回答を受け取ったデュランダルが、嘲るように鼻で笑う。

 

 

「もはや、どうにもならんようだな。この期に及んで、こんな茶番劇に付き合えるわけがない。我らの思いにこのような虚偽をもって応ずるというのなら、私は正義と切なる平和への願いをもって、断固これに立ち向かう!」

 

 

彼らは、オーブの回答をその場しのぎの言い逃れとしか捉えることが出来なかった。

並み居る将校たちの前で、デュランダルは命じる。

 

 

「ロード・ジブリールを、オーブから引きずり出せ!」

 

 

デュランダルにおいて降された決定は、即座にオーブ沖に展開された艦隊に伝えられる。

 

旗艦となった、ボスゴロフ級潜水艦セントへレンズの発令所において命令書が開封される。

それに従って、各艦の内部に警報が発せられる。

 

戦略パネルに映し出されたオーブ本島とオノゴロ島の攻撃目標点が赤く点滅する。

司令官は各艦に対して重ねて命じる。

 

命令に応え、各艦のパイロットがモビルスーツに乗り込んでいく。

海中へ、海上へ、空中へ、モビルスーツが発進していく。オーブ攻略戦が開始されたのだ。

 

そして、それはアークエンジェルにも伝わっていた。

 

 

「ザフト艦よりモビルスーツが発進されました!」

 

オノゴロ沖をモニターしていたチャンドラが声を上げる。

カガリはハッとした表情で振り返る。

 

 

「オーブ軍はどう展開している!?避難などの状況は!」

 

 

少しでも詳しい状況を知ろうとするカガリ。そんなカガリを、チャンドラは気まずそうな表情で見遣る。

 

 

「…まだ動いていない」

 

 

「…え?」

 

 

唖然としたのはカガリだけではない。マリューも、セラもシエルもトールも。

その場にいた全員が、カガリと同じ反応をした。そこへ、ミリアリアも口をはさむ。

 

 

「避難勧告もまだ出ていない。それどころか、オノゴロ沖がどうなっていることすら、市民に報されていないようよ」

 

 

オーブ市民の一人であるミリアリアは、怒りに満ちた瞳を見せる。マリューも苦い表所になる。

 

 

「あぁ回答すれば、攻撃されないとでも踏んだのかしらね。セイランは」

 

 

対応が、甘すぎる。カガリはもう、その場に立っているだけなどできなくなる。

領海にザフトが展開中ならば、その時点で最悪の事態を見越して手を打つべきなのだ。

攻撃に対する構えさえなく、口先だけ強気に出ても意味がないのだ。

 

 

「オーブ本島に爆撃です!」

 

 

チャンドラが、悲観的な報せを告げる。恐れていた最悪の事態だ。

ザフトは一気にオーブの政治、経済の中心である本当に攻撃をしかけている。

 

 

「狙われたのはセイラン家のようですが…」

 

 

どうやら、ザフトの目的は飽くまでもジブリールのようだ。ジブリールのいそうな場所のみをザフト軍は攻撃している。

だが、それでも本島を攻撃しているのは事実だ。ザフトも配慮はするだろうが、一般市民への被害は免れない。

今頃、パニックになっているのは確実。

 

 

「本艦はまだ出られないの!?」

 

 

『無理です!エンジンがまだなんですから!』

 

 

マリューが艦内通話で呼びかけるが、どうやらまだアークエンジェルが出るのはまだ不可能らしい。

 

 

『あと三時間…いや、二時間待ってください!』

 

 

「待てないわ!もう攻撃は始まっているの、急いで!」

 

 

アークエンジェルの整備スタッフと、モルゲンレーテのスタッフが共同で作業を行っている。

言われるまでもなく、最大級の努力で艦の復旧に努めている。

彼らの奮闘に申し訳なく思いつつも、歯がゆく思ってしまう。

 

こうしている間にもオーブは攻撃にさらされ続けているのだ。

 

カガリは、もう我慢できなかった。

 

 

「くそっ!」

 

 

カガリは、踵を返して艦橋の出口の扉に向かい、その前で立ち止まる。

 

 

「ラミアス艦長、トール。ムラサメを私に貸してくれ」

 

 

「え?」

 

 

「カガリ?」

 

 

通話機を片手に持っていたマリュー、そしてトールが目を丸くして振り返る。

カガリは、二人の顔をまっすぐに見返す。

 

 

「私が出る」

 

 

自分には何の力もない。だが、それでも何もせずにただここで待っているだけなどできやしない。

 

 

「そんな、無茶よ!」

 

 

慌ててマリューが制するが、カガリには止まる気はない。

 

 

「オーブが再び焼かれようとしているのだ。何もしないでたっているだけなど、できやしない」

 

 

カガリは、続けてこう告げる。

 

 

「私はこの国の…、代表なんだ」

 

 

エレベーターに飛び込もうとしたカガリ。だが、カガリは二人の男女にぶつかりかけた。

 

 

「カガリ?」

 

 

驚いて声を上げたのは、レドニル・キサカとエリカ・シモンズだ。

背後からマリューが声をかける。

 

 

「キサカ一佐!カガリさんを止めて!」

 

 

止められる前に、エレベーターに乗り込む。

 

 

「機体はお借りする!」

 

 

急いで扉を閉めようとするカガリ。だが、その前にキサカがエレベーターに乗り込んできた。

そして、扉が閉まる直前にエリカと目を合わせて頷き合う。

 

 

「待て、カガリ」

 

 

キサカがカガリの肩に手を置こうとするが、カガリはその手を振り払う。

 

 

「もう待てない!」

 

 

キサカが言おうとしていることはわかる。

こんなところで飛び出しても、無駄死にするだけだ。

今は待って、時を窺えと。

 

だが、こうしている間にもオーブ国土は攻撃されているのだ。

 

エレベーターが開くと、キサカはカガリの腕をつかんでそのままどこかに連れていこうとする。

 

 

「いいから一緒に来るんだ」

 

 

「ふざけるなっ!私が…、代表がこんな所で見るだけなど、できるはずがないだろう!」

 

 

キサカは、歩みを止めないまま、だが目を見開いてカガリを見た。

その後、笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

「わかっている。だが、その前にウズミ様がお前と話をしたがっている」

 

 

「お父様が…?」

 

 

驚いて抵抗をやめる。キサカは頷いて言葉を続ける。

 

 

「託したいものがあるそうだ」

 

 

キサカはカガリを先導してアカツキ島に入り、その地下に向かっていく。

カガリは呆然としながら諾々と従った。

 

連れていかれたのは、地下施設の最下層に位置する、これまで踏み入れることのなかった区画だった。

薄暗い空間の奥にたどり着くと、巨大な扉の前には、傍らに随員を連れて経っていた一人の老人。

 

 

「おとう…さま…」

 

 

「…久しぶりだな、カガリ」

 

 

呆然とつぶやくカガリ、そして微笑みながらつぶやくウズミ。

親子が再会し、二人は喜びの気持ちを抑えきれない。

 

だが、ウズミは表情を引き締める。

 

 

「キサカから聞いたな。私は、今、そなたが欲するものを託そうと思う」

 

 

「え…?」

 

 

今、私が欲しいもの…?

今、私が欲しいもの…。

 

それは、力だ。

オーブがさらされている今の状況を、覆す…とまではいかないものの、セラとキラが来るまでの時間を稼ぐだけでもいい。その力が、欲しい。

 

ウズミが、壁にあったパネルを操作すると、巨大な扉がゆっくりと開き始める。

 

扉の奥には、闇が包んでいる。彼女らはその中に足を踏み入れる。

ウズミは壁にある電源を入れる。

 

 

「私が封印していたもの…、受け取るかどうか、決めるがいい」

 

 

まばゆい光がその場を満ちた。思わず目を閉じてしまったカガリは、おそるおそる瞼を開ける。

彼女の目の前には、光に照らされる金色に輝く一機のモビルスーツがそびえ立っていた。

 

 

「黄金の…モビルスーツ…?」

 

 

目を瞠るカガリ。その装甲は磨き上げられたかのように輝いている。

こんなモビルスーツは、見たことがなかった。

 

 

「カガリよ」

 

 

「お父様…」

 

 

呆然としているカガリに、ウズミが声をかける。

 

 

「これが、私がそなたに送る力だ」

 

 

「っ」

 

 

黄金のモビルスーツ。これは父がくれる力。

 

 

「本当は、これを見せる時が来ぬことを願っていたのだが…、そうもいかない」

 

 

「お父様…!」

 

 

ウズミは、まっすぐにカガリの目を見つめる。

 

 

「受け取るか…、アカツキを」

 

 

「あか…つき…」

 

 

カガリは、黄金のモビルスーツ、アカツキを見上げる。

これを、ウズミは自分に託そうとしている。

新たな剣を、自分へ。

 

ならば、答えは決まっている。

 

カガリはすぐにパイロットスーツに着替え、封印されていたコックピットに乗り込んだ。

目の前で、モニターが次々と点灯していき、駆動音が高まっていく。

 

 

『ORB-01アカツキ、システム起動。発進どうぞ』

 

 

アナウンスが響き、頭上のシャッターが一つずつ開いていく。

最後の開き切ると、輝くまでの明るい空が覗き、外光がさっと射し入る。

 

カガリは、こちらを見上げるウズミの姿を見た。

シャッターが閉じていき、ウズミの姿が見えなくなっていく。

 

カガリは、そっとつぶやいた。

 

ありがとうございます、と。

 

そして、レバーをゆっくりと引いていく。

同時に、アカツキのスラスターが灯る。

 

 

「カガリ・ユラ・アスハ!アカツキ、発進する!」

 

 

黄金に輝くアカツキが飛び立つ。その後を続くように、アカツキ島のシャッターの中から複数のムラサメが飛び立っていく。

 

 

「カガリ、俺も行くぞ」

 

 

「キサカ!?」

 

 

どうやら、このムラサメ隊はキサカが集めたもののようだ。

それが、カガリにとっては心強い。

 

 

「…」

 

 

ふぅ、と息を吐く。

心を落ち着けて…、カガリは告げる。

 

 

「私に続け!」

 

 

それに応えて、パイロットたちは雄叫びを上げながらカガリに続く。

彼女らは、放たれた矢のように戦場へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




気付けば、後一週間と少しで今年は終わりますね
皆さんは、どんな年をお過ごしでしたでしょうか?

自分は…、何というか…
はぁっ!?て感じの年でしたねww


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PHASE42 舞い戻る解放者

短いですが、やつの出番ですよ~


「敵モビルスーツ群、展開!侵攻してきます!」

 

 

国防本部内は混乱が広がっていた。オペレーターが、モニターに映し出される、こちらに迫ってくる光点の群れを前に焦りの声を上げる。

 

 

「ソガ一佐!敵軍の侵攻が始まっているというのに、なぜ何の命令も出ていないのですか!?市民の避難もまだ…!」

 

 

すでに、パイロットも機体に搭乗を終え、護衛艦も出撃命令を待ちわびている。

にもかかわらず、まだその命令が出ていないのだ。ソガは、もう上からの命令を待たずして自分が出撃を命じたいと短い時間の間に何度思ったことか。

だが、自分は軍人。上からの命令が絶対なのだ。勝手な行動は許されない。

そんな思いが、自分の行動を妨害している。

 

 

「くっ…行政府を呼び続けろ!」

 

 

言いながら、ソガはつい思ってしまった。

 

こんな時、カガリ様がいてくれれば…、何か違うものになっていたのではないだろうか、と。

彼女は前大戦でも最前線で指揮しており、兵たちからの信望も厚いのだ。

 

彼女が国にいてくれれば、万全の態勢で交渉に臨んでいただろうと、考えてしまう。

 

 

「セイランは何をしているというのだ…!」

 

 

ソガはユウナとウナトの顔を思い浮かべながら、小さく罵る。

あの親子が、今この国内での最高権力者だ。その親子が未だ何も命令を出してこない。

 

と、そこまで考えた所でエレベーターが開き、その中からセイランの息子ユウナが現れた。

 

 

「あぁぁあっ!もうっ!どうしてこうなったんだよぉっ!?」

 

 

ユウナは髪を掻き毟りながら司令室に入ってくる。

そして、不思議そうな顔をしてソガにこう問いかけてきた。

 

 

「そんな人間はいないと僕は言ったのに、どうして奴らは撃ってくるんだ!?」

 

 

まず、ソガは唖然とした。そしてその直後、ふつふつと怒りの炎が燃え上がっていく。

今にも殴りかかりたくなる衝動を必死に抑えるソガ。

 

 

「ウソだと知っているからですよ!」

 

 

ぐっと詰まるユウナを睨みながら、ソガはさらに続ける。

 

 

「政府はなぜ、あのような回答をしたのですか!?」

 

 

続けたソガに対し、ユウナは答える。

 

 

「え…、だって、アークエンジェルの時は…」

 

 

「あの時とは政府も状況も違います!」

 

 

その時ユウナの表情がムッとしたものに変わった。

ソガは気づいていない。その言葉は、存外に今の政府を罵倒しているものだと。

 

だが、実際それは事実なのだ。もし、前の政府が今の政府と同じ回答をしていれば…。

万が一よりもさらに少なくなるであろう確率ではあるが、ザフトが退いていたという可能性もあった。

あり得ないと断言できる。だが、今の政府よりはずっとあった可能性なのだ。

 

 

「とにかくユウナ様!指示を!」

 

 

ソガはユウナを急かす。すると、ユウナは癇癪を起こしたかのように喚く。

 

 

「ええいうるさい!ほら、こっちも防衛体制を取るんだよ!」

 

 

両手を振り回しながら指示を出すユウナ。

 

 

「なにぼーっとしてるの!護衛艦群出動!モビルスーツ隊発進!奴らの侵攻を許すな!」

 

 

なぜ、こちらの怠慢だったかのように言われなければならないのだろう。

腹が煮えくり返るような感覚を、ソガはぐっと抑える。

 

今は、この男の言う通りにしなければならないのだ。

これでようやく、オーブもザフトを迎え撃つことが出来るから。

 

だが、ここまでの遅れをここから取り戻すことが出来るだろうか?

この男についていって、それが可能となるのだろうか?

 

ソガは…いや、兵の全員が心のどこかで待っていた。

オーブの新たな獅子の帰還を。

 

 

 

 

 

 

飛び交う火線が空を覆っている。沖合に並ぶ艦隊からミサイルが打ち上げられ、国防本部のあるオノゴロ島に降り注ぐ。

カガリたちは、近づくにつれ見えてくる戦況を見つめる。

 

はっきり言えば、ひどいありさまだ。

 

対応に遅れたオーブ軍はザフト軍に一方的に押されている。

護衛艦群は戦列を乱してじりじりと後退しつつあり、陸上では上空のザフト機から浴びせられる砲撃がアストレイを次々と倒していく。

 

 

『くそ!戦線がめちゃくちゃだ!』

 

 

カガリの後ろをついてきていたムラサメ隊のパイロットの一人、イケヤが吐き捨てる。

そして、キサカがカガリの横について言う。

 

 

『防衛戦を立て直さないと総崩れだぞ!』

 

 

一方的な戦況を見て、わずかに動揺が奔ったカガリだがそれを押し殺して集中する。

 

 

「まずは国防本部を掌握する。絶対に戦線を立て直すんだ」

 

 

カガリは告げた後、素早く命令を出す。

 

 

「一個小隊、私について来い!残りは防衛線へ!」

 

 

『ハッ!』

 

 

すかさず、パイロットであるゴウ、イケヤ、ニシザワの三機がアカツキにつき、そして残りはキサカが引き連れて防衛線に向かっていく。

 

 

「本島防衛線が総崩れです!立て直さなければ全滅します!」

 

 

一方の国防本部。至るところから悲観的な報告が集まってきている司令室で、ソガ一佐は焦燥を露わにしてユウナを見遣った、

すると、ユウナはまるで他人事のように命じる。

 

 

「だったらやってよ!ほら、いいから早く!」

 

 

一体、これのどこが司令官なのだろうか?

ソガは内心の憤りを必死に抑えながら問いを重ねる。

 

 

「ですから、そのご命令は!?」

 

 

自分が進言すればそれを退けて、かといって自分から具体的な命令を出すわけでもない。

日頃、得意そうに語っている戦争論はどこへ行ったのだろうか。

こういう時こそ、その良く動く舌を活用してくれないだろうか。

 

そうすれば、たとえ気休めでも兵士たちの指揮も少しは高まるだろうに。

 

だがユウナは、まるでその手には乗らないぞと言わんばかりの表情で口を開く。

 

 

「そんなこと言って!負けたら貴様のせいだからな!」

 

 

ソガの我慢の糸が、プチンと切れた。

聞けば、この男はクレタで指揮を執ったときもこんな調子だったという。

 

彼のもとで死んでいった兵たち。そして、この男によって役立たずの念を押されてしまったトダカ元一佐はどんな思いでいたのだろう。

 

ソガは、ユウナの襟元をつかみ、そして恐怖にぬれたユウナの目をまっすぐ睨みながら口を開く。

 

 

「私のせいでも何でも構いません。ですが、あなたの、最高司令官の命令がなければ私たち兵は動けません。早くご命令を」

 

 

怒鳴り散らしたいという気持ちを抑える。それだけでもやっとだった。

 

周囲の将兵たちは、憎悪すら含んだ視線をユウナに送っている。

中には露骨に舌打ちをしている兵もいる。士気は、最悪だ。

 

ここまで、なのだろうか。このまま、国は焼かれていくのだろう。

ソガがそう覚悟した時、オペレーターが声を上げた。

 

 

「ソガ一佐!沖合上空に、新手の友軍部隊が!」

 

 

「なに?」

 

 

新手の部隊、だと?

 

ソガはオペレーターの方に目を向ける。

そして、オペレーターは驚愕の表情で振り返って言う。

 

 

「この識別コードは…、タケミカヅチのものです!」

 

 

「なんだと!?」

 

 

その名に、ソガは耳を疑う。

タケミカヅチは、今回の戦いには出ていないはずだ。

それなのに、どうしてタケミカヅチの識別コードを持っていた機体が現れたのだ。

 

 

「加えて、アンノウンモビルスーツ一!ムラサメと共にこちらに向かってきています!」

 

 

別のオペレーターが告げた直後、正面のモニターに接近してくる機影が映し出された。

 

 

「何だ…あれは…?」

 

 

「黄金の…モビルスーツ…?」

 

 

兵たちの間に驚愕が奔る。

こちらに向かってきているモビルスーツは、まばゆいほどに輝く金色の装甲を持ったモビルスーツだった。

そのモビルスーツを筆頭に、ムラサメ隊は射線を掻い潜って次々にザフト機を落としていく。

 

味方、なのだろうか?

得体のしれないその機体に、ソガは疑念を拭い去れない。

 

だが、次の瞬間、流れたその声にソガの疑念は一気に消え去る。

 

 

『国防本部、聞こえるか?私は、カガリ・ユラ・アスハ』

 

 

その声が流れた途端、司令室を電流が流れたような衝撃が奔る。

 

 

「か、カガリ様!?」

 

 

ここで、やってきたのか。助けに来てくれたのか?

 

だが、兵たちは不安を隠せなかった。

何しろカガリは、ダーダネルス、そしてクレタでオーブ軍に攻撃した。

その時の兵たちのショックはどれだけ大きかっただろうか。

 

だが、ソガにはわかっていた。カガリたちの考えが。

 

ソガは、まじまじと金色の機体を見つめる。通信は接近しつつあるこの機体から発せられていた。

 

 

『突然のことで、真偽を問われるかもしれない。そして、兵たち全員は知っているだろう。私は、オーブ軍を攻撃した』

 

 

司令室の兵たちが、びくりと震える。

その理由がわからなかった人たちが、目を見開く。

 

 

『だが、信じてほしい。信じられないというのなら、ここで刃を交えることも辞さない。だが、もし信じてもらえるのなら…』

 

 

不明機から発せられる音声はそこで一旦途切れ…、そして続けられた。

 

 

『指揮官と話がしたい…。どうか…』

 

 

懇願するような…、いや、懇願しているのだろう。自分たちの代表であるカガリが。

 

どうするのか、兵たちは迷う。すぐにでも、改めて彼女に忠誠を誓い直したい。

だが、彼女は自分たちを攻撃したことがあって…。

 

そんな時、司令室に甘えるような大声が響き渡った。

 

 

「カガリぃ~っ!カガリぃ!来てくれたんだねマイハニぃ~!指揮官は僕、僕だよぉ~!」

 

 

驚いて見遣る先には、ユウナの姿。

ソガの隣にいたユウナが、いつの間にかオペレーターから通信機をひったくって、喜色満面で叫んでいた。

 

あまりの変わり身様に、一同は絶句する。

 

 

『ユウナ…。私を、オーブ連合首長国代表首長、カガリ・ユラ・アスハだと認めるか?』

 

 

カガリが、ユウナに念を押す。そして、ユウナははっきりと言い放った。

 

 

「もちろんもちろん!君は本物!僕にはわかる!」

 

 

ユウナはソガに向き直って保証した。

 

すでに呆れるを通り越して、脱力感すら感じてきたソガだったが、続いたカガリの言葉に背筋を正す。

カガリは、鋭い声で…

 

 

『ならば…、もし、兵たちが私を信じてくれるのならば、その権限において命ずる』

 

 

命じた。

 

 

『将兵たちよ。ただちにユウナ・ロマ・セイランを、国家反逆罪で逮捕、拘束せよ!』

 

 

彼女の言葉にうんうんと頷いていたユウナが、一拍二拍おいて、目を剥いた。

 

 

「……え?」

 

 

この命令に、従わない者がどこにいるのだろう?

ソガは、兵たちは、カガリの命令に喜んで従った。

 

 

「ご命令により、拘束させていただきます!」

 

 

そう言った時には、拳がユウナの顔にめり込んでいた。

周囲の兵たちが、我先にと吹っ飛んだその体に飛び掛かっていく。

 

 

「うわぁあああああああ!?な、なんで…。お、お前ら僕が一体誰だと…、うわぁあああああああああ!?」

 

 

情けない悲鳴を上げながら拘束されるユウナ。ソガは大いに溜飲を下げた。

 

 

『…信じて、くれるのだな?私を』

 

 

「カガリ様…」

 

 

どこか感慨にふけっているような声でそっとつぶやくカガリ。

そして、カガリはすぐに告げる。

 

 

『ユウナからジブリールの居場所を聞き出せ!ウナトは行政府だな?回線を開け!』

 

 

空中戦を繰り広げながら、カガリはてきぱきと命令を下し始める。

 

 

『オーブ全軍、これより私の指揮下とする。いいな!』

 

 

「ハッ!」

 

 

司令室すべての兵たちが、その言葉に立って礼を取った。

きっと、国にいる誰もが待ち望んでいた元首の帰還。ソガは胸を熱くした。

 

 

『残存のアストレイ隊はタカミツガタに集結しろ。ムラサメの二個小隊を。その上空の援護に』

 

 

彼女は戦いながら次々に指示を出す。

やはり、その手腕はユウナとは比べ物にならないほど高いものだった。

 

前大戦での経験が、今、ここに活きている。

その声は、末端の兵士たちにも届き、ムラサメ、アストレイの動きが変わり、護衛艦群も騰勢が取れ始める。

 

 

『国土を守るんだ!私に…、力を貸してくれ』

 

 

カガリの祈るような声に、兵たちが応じる。

 

オーブ軍は息を吹き返し、反撃を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジブリールは?」

 

 

パイロットアラートで、シンが尋ねる。ハイネは、ややいらいらした様子でその問いに答える。

 

 

「まだ見つからないようだな…。中々頑固に抵抗されている様だし…くそっ」

 

 

ミネルバは、フルスピードでオーブに向かっていた。

 

オーブがジブリールを匿っている。その報せを聞いたとき、シンは鈍器で殴られたような、そんな衝撃を受けた。

あの国が、ロゴスと組んでいた。そのことに、シンもマユもショックを隠し切れなかった。

マユなんか、その目から涙をこぼしてしまうほどに。

 

…どうして、あの国はいつも自分たちを裏切るのだろう。

いつも…、いつも。

 

 

「シン…」

 

 

自分でも気づかない間に、拳を握り、俯いていた。

ルナマリアの気づかわしげな声を聴き、そのことに初めて気がつく。

 

ミネルバが、海岸線に差し掛かってきた。カーペンタリアから出港した艦隊は、すでにオノゴロ沖で戦闘を始めている。

…オノゴロで。

戦線まで、残りわずか。

 

前は、あの国が焼かれた。

そして今から、自分があの国を焼く。

今度は、自分が…。

 

 

「初手から三機出ることもないだろう。まずは俺だけでいいだろ」

 

 

先程のイラつきを含んだ声と違い、真剣みを帯びたその上で、陽気さを含んだ声でハイネが言った。

だが、それをシンが遮る。

 

 

「いや」

 

 

シンは立ち上がり、ハイネの腕をつかむ。

 

 

「俺が行く」

 

 

躊躇いは、捨てろ。自分は、守るのだ。

そのためには、ジブリールを何としても討たなければならないのだ。

オーブはそのジブリールと手を組んだ国。

 

故郷であろうが、関係はない。

 

 

「え…、でも、シン…」

 

 

ルナマリアが驚いて制止の声を上げる。ハイネも、シンに声をかける。

 

 

「あぁ、止めておいた方がいいんじゃないか?」

 

 

だが、シンはきっぱりと言い放つ。

 

 

「いや、俺が行く」

 

 

エレベーターに乗り込んでいくシン。その時、ルナマリアは見た。

シンの瞳を。あの、冷たく、鋭く光る瞳を。

 

どうして、そんな目をするの…?

いつから、そんな目をするようになっちゃったの…?

 

不安に思うルナマリアをよそに、シンはデスティニーのコックピットへと乗り込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやくエンジンの補修作業が終わり、起動作業で慌ただしくなったアークエンジェル艦橋にシエルは足を踏み入れた。

彼女の姿を見とめたミリアリアが声をかける。

 

 

「シエル…、どうしたの?」

 

 

「…私にも、何かできることがあるんじゃないかって思って」

 

 

ミリアリアの問いに答えるシエル。

その答えに、クルーたちは心配そうに表情を歪める。

 

これから戦う相手は、ザフトなのだ。シエルが所属していたザフト。

もしかしたら、シエルと親しい者と戦いになるかもしれない。

そんな時、シエルは平気でいられるのだろうか?

 

 

「大丈夫です。私はもう…、決めたから…」

 

 

シエルは、決意を秘めた口調で告げる。

 

オーブの危機に、自分だけのんびりとしているわけにはいかない。

愛する人の故郷を…、壊させたくない。

 

シエルはCIC席に座る。

これから、アークエンジェルは出撃する。そして、ザフトと戦うことになる。

自分だって、全く迷いがないと言えばウソになる。

 

だが、それ以上に自分には大切なものがあるのだ。

それを守るために、自分は戦うと決意したのだ。

 

 

「…セラ」

 

 

シエルはそっと愛する人の名をつぶやく。

 

セラは、先程来たエリカにどこかに連れていかれてしまった。

シエルは、その理由が何となくわかっていた。

 

エリカは…、セラにきっと…。

 

だから、自分だけ逃げるわけにはいかないのだ。もう、決めたのだから。

どこまでも、セラと共にいると。今度こそ、絶対に。

 

そして、全ての整備が終わったとき、マリューが号令する。

 

 

「メインゲート開放。拘束アーム解除、機関二十パーセント、前進微速」

 

 

注水の終わったドック前方ゲートが開いていく。

エンジンの駆動音が高まっていき、アークエンジェルがゆっくりと進み始めた。

マリューは暗く狭い水路の前方を見据えた。

 

マリューは、声を張る。

 

 

「進路二〇、アークエンジェル、全速前進!」

 

 

 

 

 

 

アカツキを駆って、国防本部に向かっていくザフト機を落としていくカガリ。

少しずつ、オーブ軍が盛り返し始めている。これなら、戦況を持ち直すこともできるはずだ。

 

そう思った時だった。奇妙な音声が届いたのは。

 

 

『何だ!?あれは…』

 

 

上げられた驚愕の声が、ノイズにとって代わる。

突如、上空から降り注いだビームがたちまち数奇のムラサメを貫いていく。

 

異変に気付いたカガリは後方を見遣る。

そこには、赤、青、白灰色のモビルスーツが次々にムラサメを落としていっていた。

 

 

「あいつ…!」

 

 

ザフトの新型だろう。パイロットも、かなりの手練れのようだ。

 

と、そこでカガリはニュースで見た、ヘブンズベースで先陣を切って戦い、連合の巨大モビルスーツを落としていた新型機だと気づく。

 

見るうちに、あの新型はムラサメの射線を掻い潜って、そのムラサメを撃ち落とす。

 

あんなのに来られたら、必死に立て直した戦列が再び乱れてしまう。

それどころか、あの一機だけで戦闘の勝敗が決まってしまう恐れだって出てくる。

 

 

「えぇい!」

 

 

カガリは、間合いに飛び込んでライフルを新型機に向けて撃つ。

だが、その新型はすぐに対応を見せる。シールドを構えてビームを防ぐと、ライフルをこちらに向けて撃ち返してくる。

カガリは撃たれたビームをかわす。

 

そして、背面の空中戦用モジュール、オオワシのビーム砲を構え、放つ。

しかし、その火線は予測済みだったのか、新型は難なくかわし、背面のビーム砲を構えて向けてくる。

 

 

「くっ…!」

 

 

放たれた砲撃を、かわせるタイミングではない。

アカツキを砲撃が貫こうとしたその時、鏡のような装甲にぶつかったその瞬間、まっすぐ敵機に向かって跳ね返った。

 

この機能は、アカツキ最大の特徴であるヤカタノカガミだ。

特殊コーティングされた装甲は、一切のビームを受け付けず逆に相手に向かって収束したまま反射する。

 

それに驚いたのか、新型機はまるで確かめるようにライフルをこちらに撃ってくる。

だが、ヤタカノカガミが全てのビームが跳ね返していく。

 

まるで、父に守られているようなそんな感覚がする。

カガリは、懸命に新型機に向かって斬りかかっていくのだった。

 

 

 

「ビームを、弾く…?」

 

 

シンは、コックピットの中で、眼前の黄金のモビルスーツを目に驚愕していた。

放った砲撃、ビームが全て反射する装甲を持つモビルスーツ。

 

技術大国であるオーブが作った機体なだけある。

 

 

「ならば…!」

 

 

シンは背面の対艦刀を抜き放った。

 

ビームがダメなら、刃で切り裂くまで。

シンはこちらに斬りかかってくる機体、アカツキを迎え撃とうとスラスターを吹かせようとする。

 

が、その機体を護るように横手から数条のビームが襲い掛かる。

ムラサメの編隊が、こちらに向かってきていた。

 

 

「ちぃっ…!」

 

 

シンは舌を打ちながらアロンダイトでムラサメ編隊に斬りかかっていく。

こちらに突っ込んできた一機を、アロンダイトを振り下ろして真っ二つにする。

 

それにもひるむことなく、ムラサメ隊が向かってくるがシンには通用しない。

シンは次々にアロンダイトで、火線を潜り抜けて切り裂いていく。

 

 

「くっ!」

 

 

カガリの目の前で爆散していくムラサメ。

これ以上、やらせてはならない。

 

カガリは二本のビームサーベルを連結させてハルバート状にし、デスティニーへと斬りかかっていく。

 

 

「あんたが大将機か…?」

 

 

このアカツキがリーダー機であるのは間違いなさそうだ。

 

シンは、アカツキが振り下ろした光刃をアロンダイトで受け止める。

そして、刃を振り払うと、体制を崩したアカツキに斬りかかる。

 

カガリは、かろうじてシールドを上げて防ぐ。

が、アロンダイトはシールドを真っ二つに斬り飛ばした。

 

 

「ここで、あんたを討って終わらせる!」

 

 

ここで、自分がこいつを討てば一気に戦闘は有利に傾くはずだ。

シンは、スラスターを吹かし、翼を広げ、勢いよく敵機に躍りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オノゴロ島、光学映像出ます!」

 

 

最大加速で戦場へと向かっていたアークエンジェル艦橋内で、ミリアリアが声を上げる。

モニターに映し出されたオノゴロ島は、立ち上る煙に覆われ、ザフトの上陸をすでに許しているようだ。

 

上空では、モビルスーツと火線が入り混じっている。

 

 

「敵陣熱紋照合、ボズゴロフ級二、ベーレンベルク級四、イサルコ級八、それと…ミネルバです!」

 

 

状況を告げるチャンドラは、驚愕にその声を染めた。

ここに、なぜミネルバがいるのだろうか。

 

 

「ミネルバ…!?ジブラルタルじゃなかったのか!?」

 

 

「ジブリールを追ってきたのか…」

 

 

クルーの間に動揺が奔る。

その時、ミリアリアが声を上げた。

 

 

「アカツキ、二時方向にて敵モビルスーツと交戦中!」

 

 

ミリアリアがすばやくモニターを切り替える。

 

モニターに映し出される映像は、アカツキとデスティニーが刃を交わしている。

 

 

「あの動きは…、シン…?」

 

 

デスティニーに乗っているパイロットはわからない。

だが、あの動きは恐らくシンのものだ。

 

だとしたら…、無理だ。カガリではシンに敵わない。それだけの、技量の差がある。

 

その懸念を裏付けるかのように、画面内でデスティニーがビームブーメランに手をかけて放る。

放られたブーメランは、アカツキの左腕を切り飛ばす。

 

さらに間髪入れずにもう一つのブーメランを投げつける。

 

 

「あっ…!」

 

 

片腕を失い、バランスを崩したアカツキに向かってブーメランが飛ぶ。

さらに、その背後から、先に放られたブーメランが弧を描いて向かっていく。

 

カガリが、やられる。

仲間が、やられる。

 

それなのに、どうして自分はこんな所にいるのだろう。

 

凍り付いたように見守るシエル、そしてクルーたち。

その目の前で、アカツキが切り刻まれようとしたその時、横合いから割り込んできた何かが、二つのブーメランを正確に叩き落とした。

 

 

「なっ…!?」

 

 

クルーたちは唖然とし、そして何かが飛んできた方向から向かってくる何かに目を向けた。

それは、デスティニーと同じように光の翼を広げ、すさまじいスピードで迫ってくる。

 

 

「リベルタス…。セラ…!?」

 

 

セラが来た。新たな剣を持って、戦場に舞い戻ってきたのだ。

ならば、大丈夫なはずだ。いくらシンでも、セラなら…。

 

 

 

 

 

翼を広げた二機が、シエルたちの目の前で対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ORB-02Rサンクタ・リベルタス
パイロット セラ・ヤマト

武装
・ビームサーベル×2
・ビームライフル×2
・遠距離高エネルギービーム砲
・レールガン(両腰)
・ビームシールド
・近接防御機関砲
・ドラグーン×8

オーブが開発したリベルタスの後継機。前大戦後、未だ戦火が消え切っていないことに疑念を覚えたウズミが、エリカ、キサカといったアスハ派と言葉を交わし、開発に踏み切った。
リベルタスの長所であるスピードを引き継ぎながら、不安があった長距離武装も搭載されている。
そして、新たに装備されたドラグーンによって、一番の不安だった多対一の分野が強化された。


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PHASE43 相並ぶ兄弟

これが年内最後の更新です。
自分は年内完結を目指していたんですけど…、無理でした…。


カガリの目の前で、翼を広げた二機が対峙していた。

 

一機は、先程まで自分と戦っていたザフトのエース機。

そして、もう一機は恐らく…。

 

 

「セラ…、セラか!?」

 

 

その機体に乗っているであろう自分の弟、その名をカガリは呼ぶ。

その直後、セラの声が通信を通してカガリの耳に届く。

 

 

『姉さんは国防本部へ!ここは俺が引き受ける!』

 

 

デスティニーと対峙しながら、セラがカガリに指示を出す。

 

 

「…わかった!」

 

 

初め、カガリはセラを一人、ここに残していいのだろうかという躊躇いを感じてしまう。

脳裏にあの時の、リベルタスが落とされたあの映像が映し出される。

 

だが、躊躇いを打ち消すカガリ。

ここで自分ができることは終わったのだ。

だから、次にやるべきことを自分はするだけ。

 

カガリはアカツキを反転させ、国防本部へと向かっていく。

傍目でリベルタスを見て…、前を見据えたその瞳には、もう迷いはなかった。

 

 

 

 

 

「アークエンジェル…、それに、リベルタス!?」

 

 

ミネルバ艦橋で、クルーたちは驚愕の声を上げていた。

ジブラルタル基地にて、アークエンジェル、リベルタスにフリーダムは撃沈したという事実は周知の事実になっていた。

だからこそ、撃沈したはずの艦と機体が現れたことに驚愕する。

 

 

「沈んでいなかったのね…。でも…」

 

 

タリアは、アークエンジェルを見据えてつぶやき、そしてリベルタスに目を向けた。

 

アークエンジェルの撃沈は未だ確認できずという報告は、タリアには入っていた。

だが、それと同時にリベルタスとフリーダムの撃墜は確認済みという報告も入っていた。

 

それなのに、あの機体は…、<天からの解放者>は再び舞い降りた。

それは、一体何のために?焼かれようとする国を守護するため?

 

それとも、オーブが匿っているジブリールを護るためなのか?

 

…どちらにしても、リベルタスはデスティニーと対峙している。

こちらのやろうとしていることを、良としていないからなのだ。

 

ならば、こちらがするべきことは一つ。

 

 

「本艦が前に出ます。よろしいですね?」

 

 

タリアは通話機を取って、旗艦との通信を繋ぐ。

その言葉は、打診ではなく確認だった。

 

 

『あ、あぁ…』

 

 

突然のアークエンジェルの介入。そして、<天からの解放者>の出現にまだ狼狽えているらしい指令の返答をおざなりに受けると、彼女は声を張る。

 

 

「離水上昇急げ。面舵十。これよりアークエンジェルを討つ」

 

 

その声にクルーたちは我に返る。マリクは舵を引き起こし、ミネルバは海面を蹴立てて浮上する。

アークエンジェルもこちらの方に気づいたのだろう。白い船体をこちらに向かわせてくる。

 

 

「ランチャーワン、テン、ディスパール装填。トリスタン、イゾルデ照準、アークエンジェル!」

 

 

アーサーの指示が艦橋内に響く。

その声を聴きながら、タリアはそういえば、と頭の傍で思考する。

 

今、ここで現れたのはリベルタスだけ。

リベルタスは、撃墜されていたにも関わらずこうして現れた。

 

ならば…、フリーダムは?フリーダムも現れてくるのも頭に入れておくべきなのでは?

それに…、ヴァルキリーはどうなる?シエルは…?

 

そして、前大戦にて、自爆による核爆発であの悪魔の兵器、ジェネシスを破壊したあの機体はどうなったのだろうか?

ヴァルキリーを補修する時間はそうなかったはずだ。

だから、ヴァルキリーのことは一旦頭から除外する。

だがあれは…、ジャスティスはどうなる?

 

そこで、タリアは思考を切る。ミネルバの武装の装填が完了したのだ。

ともかく、フリーダムとジャスティスの介入は頭に入れておく。

 

モニター内で、白い艦影がみるみる大きくなっていく。

高まる緊張感の中、二艦の間、有効射程距離が切られる。

 

 

「てぇええええええええええっ!!」

 

 

アーサーの号令と共に、ミサイルが撃ち出され、主砲副砲が火を噴く。

同時に、迫ってくるアークエンジェルからもミサイルとビームが撃ち出される。

こちらに襲い掛かってくるそれを見て、タリアはすぐに命じる。

 

 

「回避、迎撃!」

 

 

襲い掛かるミサイルが、CIWSによって迎撃され、船体を爆煙が包み込む。

爆煙を突き抜けて時折襲うビームが船体をかすめていく。

 

二艦は、高速ですれ違いながら幾条のビームを互いに撃ち合う。

 

どうやら、今回は前みたいに直撃を避けるという回りくどい手は使ってこないようだ。

 

こちらとて、幾もの窮地を乗り切ってきたのだ。

その全てを、あの艦にぶつけてやる。

 

 

 

 

 

 

「リベルタス…!?」

 

 

一方のシンは、自分の目の前に現れた機体に驚愕していた。

デュランダルが言った。リベルタスは撃墜した、と。

 

 

「そんな…、何で…!?」

 

 

だが、こうして自分の目の前にそれはいる。

デスティニーと同じく、スラスターを広げ、光が迸っている。

 

 

「くそっ!」

 

 

シンは、アロンダイトを掲げる。それを見た目の前の機体は、腰に差していた二本のビームサーベルを抜く。

 

自分が、リベルタスと…、<天からの解放者>と戦うのか?

勝てるのか?

 

マイナス方向に傾く心を持ち直させたのは、奇しくも怒りだった。

ここ最近は思い出すことのなかったあの映像。

 

家族が血まみれで倒れていたその上空を、舞うように飛び回っていたあいつ。

そいつと、ここで戦う。両親の…仇」

 

 

「こ…のぉおおおおおおおおお!!」

 

 

スラスターを全開にし、シンはリベルタスに突っ込んでいく。

凄まじい加速で、残像を散らしながら敵機に窮迫する。

 

ここで、自分が討ち取る!

 

だが、そんなシンの勢いも、次の瞬間には削ぎ落とされる。

リベルタスが広げたと思うと…、その姿がぶれて見えるほどの加速でこちらに突っ込んできた。

 

 

「っ!?」

 

 

すぐさまシンはアロンダイトを振う。リベルタスも、サーベルを振って対抗してくる。

だが直後、リベルタスはもう一方の手に持っていたサーベルでデスティニーのメインカメラを狙ってくる。

 

シンは、ビームシールドを展開して振るわれるサーベルをぎりぎり防ぎ切る。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

舌打ちしながら、シンは後退する。

接近戦は、相手の領域と言っていい程なのだということを思い知らされる。

 

ならばと、シンはライフルを構えて引き金を引く。

連射されたビームがリベルタスへと向かっていくが、リベルタスはビームシールドを展開してビームを全て防ぐ。

そして、お返しとばかりに背面のビーム砲を跳ね上げこちらに放ってくる。

 

シンも同じように、背面のビーム砲を取って撃ち返す。

二条の砲撃が二機の間でぶつかり合い、巨大な爆煙が舞い上がる。

 

ここは、煙が収まるまで様子を見るか…、そう考えた一瞬だった。

煙を切り裂き、リベルタスが向かってくる。

 

 

「なっ!?」

 

 

リベルタスは、上げられていたサーベルをデスティニーに向けて振り下ろす。

だがシンも、ぎりぎりのタイミングでビームシールドを展開し、割り込ませる。

 

衝撃は抑えきれずに機体が後退していくが、距離は取れた。

こちらに追撃してくるリベルタスに対し、シンはアロンダイトを抜いて斬りかかる。

 

ここは、接近戦に転じるしかない。

アロンダイトとビームサーベルがぶつかり合う。

 

二機はすれ違い、旋回。もう一度、互いが向かっていき、アロンダイトとサーベルで切り結ぶ。

だが、やはり手数が多いリベルタスに斬り合いは分がある。

 

二本のサーベルを駆使してシンを追い込んでいく。

 

 

「っく…!くそッ…!」

 

 

だんだんと崩れていく体制。焦りがシンを襲う。

 

まさか、これほどまで自分とあのパイロットの間に差があるのか。

防戦一方となり、反撃に転じることが出来ない。

 

無理やり距離を取ろうとするのだが、その機動力によってすぐに追いつかれてしまう。

 

 

「くそっ!何で…、何で!」

 

 

サーベルが、アロンダイトを払った。

今度こそ完全に、デスティニーの体制が崩れる。

 

リベルタスが、止めを刺そうとこちらに突っ込んでくる。

 

…何でだ。何で、ここまで自分は弱いのだ。

強くなったと思っていた。これで、もう失うことはないと思っていた。

だが、それは自分の勘違いだったのか…。こんなにも、自分は弱かったのか。

 

リベルタスのサーベルが、デスティニーのメインカメラに迫る。

やはり、コックピットは狙わないようだ。だが、メインカメラを斬りおとされれば、もう自分は戦闘を続行することは難しくなるだろう。

 

…嫌だ。

そんなのは嫌だ。もう、守れないのは嫌だ。

 

 

「こんな…こんなことでっ!俺はっ!」

 

 

その瞬間、シンの中で何かが弾けた。

視界がクリアになり、先程まで反応することがやっとだったリベルタスの動きがしっかりと見えるようになる。

 

シンは、腕のビームシールドを展開。すぐさまサーベルとの間に割り込ませて斬撃を防ぐ。

リベルタスの動きが、一瞬止まる。ずっと、動きを止めることなくシンを追い込んできたリベルタスが、その動きを止めたのだ。

 

これ以上のチャンスはない。すぐにシンは反撃に転じる。

シンは無理やりリベルタスを振り払う。無理やり後退させられたリベルタスは、体制を崩すことなくなおもデスティニーに向き直る。

 

そんなリベルタスに、シンはライフルを向けた。引き金を三回引く。

先程はビームを防いだリベルタスだが、今度はこちらに突っ込んでくる。

バレルロールをしながらビームをかわし、そしてこちらに接近してくるリベルタス。

 

サーベルを手に、もう一度斬りかかってくるリベルタス。

それに対し、シンは何も持たずに突っ込んでいった。

 

斬りかかるリベルタス。そして、右の掌を掲げるデスティニー。

シンは、掌のビーム砲、パルマ・フィオキーナを起動させる。

掌の穴から光が迸り、そして、リベルタスのコックピットに向けて火を…

 

 

「…っ!」

 

 

噴く直前に、横合いから衝撃が奔った。

サーベルではない。リベルタスは、自分に回し蹴りを喰らわせたのだ。

 

やられる直前に、パルマ・フィオキーナの存在に気づいたのだろう。

だからこそ、メインカメラを斬りおとすことより、自分の位置をずらすことを優先させた。

 

 

「く…くそぉっ!」

 

 

やっとつかんだリベルタスを落とすチャンス。

シンはそのチャンスを握り損ねてしまうのだった。

 

 

 

 

「危なかったな…」

 

 

咄嗟のことだった。目の前の機体から強烈な殺気を感じたのだ。

そして、掲げてくる掌の光を見た瞬間、セラはリベルタスの右足を回した。

 

一瞬でも遅れていたら、セラはデスティニーのメインカメラを斬りおとしたと同時に撃墜されていた。

今度は、コックピットも撃ち抜かれていた。

 

 

「それだけは御免だな…。それにしても…」

 

 

セラはこちらと向き合うデスティニーを見据える。

先程から、いきなりデスティニーの動きが鋭くなったのだ。

 

 

「…これは」

 

 

間違いない。あれのパイロットは、SEEDを宿している。

それも、カガリやラクスと違ってかなり大きなもののようだ。

 

 

「なるほど…。そういうことか」

 

 

セラは悟る。だから、このパイロットが選ばれたのだと。

 

デュランダルは遺伝子学の博士。SEEDを宿していることを判明させることなど簡単…とはいかないができるはずだ。

可能性を見出したデュランダルが、あのパイロットを選んだのだろう。

 

 

「…シン・アスカか」

 

 

そして、それが誰なのかもセラは悟る。

一目見た時、可能性は感じていた。だからこそ、セラは確信を持つ。

 

当時最新鋭機だったインパルスを与えエースとして育て上げ、そして今、自分の戦士として召喚させる。

 

あの時、憎しみを込めて視線を向けてきたシン。

あんなことを言ってしまったが、気持ちがわからないでもない。

自分たちが全て正しいなど、これっぽっちも思っていない。

 

だが、あの時はカガリがいた。だから、ああ言って彼を突き放すことしかできなかった。

 

 

「…」

 

 

どうしようか迷う。ここで、彼に声をかけてどうなるのだろうか。

だが…、彼はこのまま、故郷であるオーブを焼き払う。それでいいのだろうか?

 

 

「…よし」

 

 

決めた。

セラは、機器を操作してデスティニーへと通信をつなげる。

 

 

「…シン・アスカ。それに乗ってるのは、シン・アスカだな」

 

 

 

 

 

 

「シン…!」

 

 

ルナマリアは、モニターに移される激闘を見て思わず声を上げた。

シンは本当によく戦っている。だがそれでも、リベルタスには届かない。

 

ハイネはその映像を見て…、迷いを切って艦橋と通信を繋げた。

 

 

「艦長、俺も出撃します」

 

 

『えぇ?』

 

 

思わず、といった感じで聞き返してくるタリア。

 

 

「シンが劣勢です。良く戦ってはいますが、あのままでは…」

 

 

ハイネが言うと、タリアはわずかに考えるそぶりを見せて…、すぐに告げた。

 

 

『わかりました。判断はあなたに任せるわよ、ハイネ』

 

 

「了解」

 

 

タリアが告げ、ハイネが返す。通信はそこで途切れ、そしてハイネも踵を返してパイロットアラートを出ようとする。

 

 

「ハイネ!」

 

 

そこに、ルナマリアが声を上げる。

ハイネはその目を見て、何を言いたのかを悟る。

 

自分も出撃したい。シンを、助けたい。

そんな思いが込められている。

 

だが、ルナマリアを出すわけにはいかない。

ルナマリアでは…、リベルタスを相手取ることはできないだろう。

ここで戦力を削いでしまうことはできない。

 

ルナマリアが必要になる時は必ず出てくるだろう。

そして、それは今ではないのだ。

 

 

「ダメだ」

 

 

だから、きっぱりとハイネは告げる。

それはできないと。お前は、ここに残れと。

 

ルナマリアに辛いことを言っているのはわかる。

だが、その感情を捨てる。

 

 

「今のお前では、あいつと戦うことは出来ない」

 

 

「っ」

 

 

ルナマリアの瞳が揺れる。

彼女にだってわかっているのだろう。あれを相手にすることは、自分にはできないのだということを。

それでも、じっとしていることができない。何とか、シンの手助けがしたい。

 

 

「いいかルナマリア。お前が必要になる時は絶対に来る。それまで我慢していろ」

 

 

ハイネはそう言って、パイロットアラートを出る。

エレベーターに乗り込み、そして扉が開くと同時に飛び出す。

 

コックピットに飛び乗ると、すぐさま機体の立ち上げを行う。

画面に光が灯り、まわりの機器にも電源が入れられていく。

 

ハイネは、デスティニーとの通信をつなげる。

自分が出撃することをシンに伝えるために。

 

 

「シン、今から俺がそっちに…」

 

 

『けど、俺は見たんだ!あれを!』

 

 

ハイネが自分がそっちに向かうことをシンに伝えようとすると、シンの怒鳴り声がスピーカーから響き渡った。

これは…、自分に言ったわけではないだろう。自分との会話がまったく成立していないのだから。

だがシンが、訳もなく怒鳴り散らすなどあり得ない。そして、自分はそんなことをしたなどまったく身に覚えがない。

 

なら、なぜだ?

 

疑問に思ったその時、もう一人の男の声がハイネの耳に届く。

 

 

『だが、怒りに振り回されたって悲しいだけだ!それは、君にだってわかるだろう!?』

 

 

声を聴く限り、シンと同じ年齢くらいの少年の声だ。

一体、何の話をしているのだろうか。

 

気になったハイネは、機体の発進シークエンスを進めながら二人の会話に耳を澄ます。

 

 

『わかってる…、わかってるよ!そんなことはっ!』

 

 

シンの声から感じ取れる怒りと悲しみ。

こんなシンの声を聴いたことがないハイネは戸惑いを感じながら、前方で開かれるカタパルトを見据える。

 

 

『でも…、憎いんだ!あんたが!俺の家族を奪った…、<天からの解放者>がっ!オーブがっ!』

 

 

「っ!?」

 

 

その言葉に、息を呑みながらハイネは勢いよく飛び出していくのだった。

 

 

 

 

 

ハイネが発進する少し前、シンは恐らく目の前の機体からつなげられたのであろう通信に驚愕していた。

自分の名前を…、知っている。それに、先程届いた声に、どこか聞き覚えを感じていた。

 

 

『覚えてないか…。まぁ、無理はないな。あの時の第一印象は最悪だったし、俺だって今まで忘れていた』

 

 

「あっ…」

 

 

その時、シンはこの声の主の姿が頭の中に浮かんだ。

そう、ミネルバがまだアーモリーワンから発進したばかりの時。

 

カガリ・ユラ・アスハの随員として、ミネルバに搭乗してしまった、アベル・ヒビキと名乗っていた。

だが、それは偽名で、本名は確か…。

 

 

「改めて名乗ろうか。俺の名前は、セラ・ヤマトだ」

 

 

セラ・ヤマト。

自分と年は変わらないように見えた。むしろ、どこか自分よりも幼いようにも見えた。

そんな少年が、目の前の機体…、リベルタスのパイロットだったというのか?

 

全大戦、英雄的な活躍を見せた、あの<天からの解放者>だったというのか?

 

 

「…っ」

 

 

シンは、歯をかみしめる。目の前に、家族の仇となるものがある。

リベルタスは何度も戦闘中に見てきたが、その時は戦闘中だったと同時に、フリーダムとの戦闘に集中していたこともあって、気には入らなかった。

 

だが今、こうして目の前にいる。自分と奴の間には、誰もいない。

 

 

「っ!」

 

 

無言だった。不意打ちと言ってもいい。

シンはアロンダイトを構えてリベルタスに斬りかかる。

 

常人ならば、反応すらできない斬撃を、リベルタスは、セラは容易に受け止める。

ビームサーベル二本を交差させてアロンダイトを防ぐ。

 

 

『憎いか?オーブが』

 

 

「ちぃっ!!」

 

 

セラの声が聞こえた瞬間、シンの頭がカッ、と燃え上がる。

機体を後退させてリベルタスとの距離を取る。

そして、二本のビームブーメランに持ち替え、同時に放る。

 

二つの刃がリベルタスに向かっていくが、リベルタスは刃の下に潜り込んでかわし、こちらに突っ込んでくる。

かわされるのはシンにも予測済み。シンは肩の砲塔を跳ね上げ、放つ。

 

リベルタスはビームシールドを展開し、砲撃を防ぎ切る。

だが、その背後からは先程放った二つの刃が舞い戻ってきている。

このままいけば、刃がリベルタスを切り裂く。

 

このままいけば、だが。

 

リベルタスは、二本のライフルを取る。

そして、振り返りもせずにライフルを後ろに向け、二つの刃を撃ち落とした。

 

 

「なっ!?」

 

 

目を見開いて驚愕するシン。後ろも見ずに、後方からの斬撃を撃ち落としたのだ。

 

 

「なんだよ…」

 

 

シンの目の前で、リベルタスはライフルを収納し、腰のサーベルを抜く。

 

 

「何なんだよ、あんたは!」

 

 

シンはライフルをリベルタスに向ける。放たれるビームがリベルタスに向かっていくが、そのビームをリベルタスはサーベルで切り裂く。

 

その隙に、シンはアロンダイトを取り、リベルタスに斬りかかっていく。

だが、リベルタスはサーベルをアロンダイトと重ね合わせる。

そしてそのまま、サーベルの切っ先をアロンダイトの腹に滑らせ受け流す。

 

さらに、もう一本のサーベルがデスティニーのメインカメラに向けて振るわれる。

 

 

「くっそぉっ!」

 

 

シンは、体制が崩れるのも気にせず機体を沈み込ませる。

リベルタスが振るった刃は空を切る。シンは、リベルタスに蹴りを加えながら機体を後退させて距離を取る。

 

…大丈夫だ。戦えている。

先程までは防戦一方だったが、これなら戦える。勝てる。

 

そう思ったその時、スピーカーからあの声が再び響く。

 

 

『君は言ったね、アスハのせいで家族が死んだと。だからここで…、オーブを討つというのか?』

 

 

何なのだ。何だというのだ、この男は。

さっきから、一体何を言っているのだ。

 

そんなに、自分の気持ちが知りたいというのだろうか…。

なら、言ってやる。そんなに知りたいのなら、俺の本当の気持ちを教えてやる!

 

 

「確かにそうだ…。だけど、俺が本当に憎いのは…、家族の仇は!」

 

 

シンは、アロンダイトを構え、リベルタスに向かっていく。

 

 

「あんただよ!解放者!」

 

 

 

デスティニーの斬撃を防ぎながら、セラは戸惑う。

 

本当に憎いのは…、解放者?自分?

 

何なのかわからない。まったく、身に覚えがない。

シンは、戦時はオーブで暮らしていたという。さらに、両親が死んだのはオノゴロでの戦闘中だと言っていた。

 

…自分は、オノゴロで何をした?あの時、自分は何をした?

誰かを…殺していたのか?

 

その疑問に答えるように、通信の向こうのシンが叫ぶ。

 

 

『あんたには自覚はないだろうな!あれはただの流れ弾だったんだから!』

 

 

流れ弾…。自分が撃ったそれが、シンの両親を奪った?

 

 

『けど、俺は見たんだ!あれを!』

 

 

俺が…、復讐鬼を作り出してしまったのか?

 

見開き、光が消えそうになった目に、セラは力を込める。

歯をかみしめ、流されそうになる気持ちを持ち直す。

 

 

「だが、怒りに振り回されたって悲しいだけだ!それは、君だってわかるだろう!?」

 

 

こうして対峙しているからわかる。あの機体から伝わってくるのは、怒りや憎しみ。

それと、セラは一心に向き合う。

 

 

『わかってる…、わかってるよ!そんなことはっ!』

 

 

デスティニーが、力一杯アロンダイトを振り抜いてくる。

力に押され、リベルタスが体制を崩しかける。だが、すぐにセラは体制を整えてデスティニーと向き合う。

 

 

『でも…、憎いんだ!あんたが!俺の家族を奪った…、<天からの解放者>がっ!オーブがっ!!』

 

 

再びアロンダイトで斬りかかってくるデスティニー。迎え撃とうと身を構えるセラだったが、不意に感じた殺気にセラは機体を翻す。

 

セラが先程いた場所を、緑色の光条が横切っていく。

カメラを切り替えて見ると、新たな機体がこちらに向かってきている。

 

 

『シン、大丈夫か!?』

 

 

『ハイネ!』

 

 

スピーカーから聞こえてくる会話から、それが増援だということを悟るセラ。

しかし、どうするか。ハイネという人物を、セラは知らない。

 

ということは、シンと会ったあの時以降にミネルバに増員された兵なのだとわかる。

話は…、これ以上は無理だろうか。

 

 

「くそっ」

 

 

しかし、こうなるとセラは一対二で相手をしなくてはならない。

動きが鋭くなったデスティニーを相手にするのもつらく感じていたというのに、相手が二機となってしまった。

 

 

「っ」

 

 

セラの判断は一瞬だった。

 

セラは、自分の中の種を弾けさせる。

視界がクリアになり、思考の中の不必要なものが全てカットされる。

 

増援に来た機体、カンヘルがこちらにビームライフルを向けてくる。

セラはスラスターを広げてカンヘルに突っ込んでいく。

 

カンヘルは突っ込んでくるセラにライフルを撃つが、セラはバレルロールをしながら全てかわし、サーベルを抜き放ちカンヘルに斬りかかる。

 

カンヘルは、後退しながらリベルタスとの間合いを取り、サーベル二本を連結させハルバート状にする。

そして、カンヘルもまたリベルタスに斬りかかっていく。

 

一、二度刃を交わせた後、カンヘルが距離を取る。

セラは、後方から気配を感じ取り、すぐに振り返る。

 

デスティニーがスラスターを全開にさせてこちらに斬りかかってきていた。

セラは片方のサーベルを振ってアロンダイトと斬り合わせる。

 

その直後、セラはすぐにもう片方のサーベルを振う。

デスティニーと切り結んでいるうちに切り裂こうとしていたのだろう、カンヘルのハルバートとサーベルがぶつかり合う。

 

セラは二機と必死に切り結ぶ。

 

 

「くっ…!」

 

 

だが、二機同時にではそこまで長くはもたない。セラは、無理やり機体を後退させて二機と距離を取る。

 

 

「っ!?」

 

 

その時、セラは見た。カンヘルの背面のいくつもの小型ユニットが曲げられ、こちらに向けられているのを。

一瞬にして悟る。あれは、ウルティオの武装と同じものだ。そこから、ビームが放たれる。

 

一斉に放たれた六条のビームを、セラはビームシールドを全出力で展開させてかろうじて防ぐ。

だが、衝撃に圧されて機体の体制が崩れてしまった。

 

 

『今だシン!撃て!』

 

 

「っ!」

 

 

デスティニーが、肩の砲塔を跳ね上げているのをセラは目撃する。

機体をデスティニーに向け、何とかそこから放たれるだろう砲撃を防ごうと模索する。

 

デスティニーの砲口から放たれる巨大な砲撃を、セラはスラスターを逆噴射させて下降してかわす。

 

 

『なっ!?』

 

 

シンの驚愕の声が聞こえてくる。これで終わると思っていたのだろう。

だが、セラとてここで気を緩めるわけにはいかない。上空から、カンヘルがハルバートで斬りかかってきているからだ。

 

セラはサーベルを持ち、迎え撃つ態勢を取る。

しかし、衝撃によって崩れてしまった機体の体勢はまだ整え切れていない。

 

サーベルとハルバートがぶつかり合うが、セラは力によって押されて下降していく。

 

そのまま海面に激突するかといったところで、セラは何とかスラスターの向きを変えて前進することに成功。

 

 

「…っ!?」

 

 

だが、その先にはデスティニーが待ち構えていた。

デスティニーはアロンダイトをリベルタスに向けて振り下ろしてくる。

 

セラも、サーベルを振り上げて迎え撃つ。

一本で。

 

いつものセラなら、二本で迎え撃っていたところだろう。

だが、今は状況がまったくもって最悪なのだ。

 

デスティニーに上を取られているという体勢。

そして、背後から再び斬りかかってくるカンヘル。

 

 

「くっ!」

 

 

もう一本のサーベルで迎え撃とうとするセラ。

だが、先程と違って今のリベルタスは力を出し切れない体勢でいる。

 

この状況で二機と押し合いをすれば、即座に負けてしまうだろう。

 

それでも、諦めるわけにはいかない。何とか正気を見つけようとあがこうとするセラ。

 

だが、次の瞬間、カンヘルは上空から飛び込んできた何かによって弾き飛ばされた。

 

 

「…は?」

 

 

呆けた声を出すセラ。デスティニーから伝わってきていた力も、急な出来事に驚いたのか止んでいる。

 

と、セラは背後に何かの気配を感じる。暖かく、安心できる。そして、馴染んでいるその気配。

 

 

「…遅いよ」

 

 

セラはぽつりとつぶやく。本当に遅い。どうしてもっと早く来ないのだろうか。

 

 

『ごめんね、遅くなって』

 

 

このバカ兄は。

 

 

 

 

解放者と自由の天使が、背中合わせに相並んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あ…、やばい。
このままいくと、オーブ戦があと二、三話くらい続きそう…。


活動報告に、来年からの活動について書かれています。
興味がある方は、読んでいってください。


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PHASE44 飛躍する戦乙女

も う し わ け ございません!
かなり遅れてしまいました!

いや、事情はありますよ?
大学の課題とか大学の課題とか課題とか課題とか風邪とか課題とか

そしてついに、皆様が待ち望んでいたあれが…


シンは、ハイネは。いや、ザフト側全ての軍勢がその姿を見て驚きを見せた。

 

八対の蒼い翼、白い四肢。関節部が金色に輝くなど細部は変わっているものの、見間違うはずもない、あの機体だ。

 

 

「フリーダム…?」

 

 

シンは呆然とつぶやいた。

 

心のどこかでは予想していた。

リベルタスが生きているなら、フリーダムも生きていると。

 

だが、なぜリベルタスがここにいるのにフリーダムがいないのかとも考えていた。

答えは、フリーダムは生きていないからだと結論付けてリベルタスと戦っていたのだ。

 

しかし、フリーダムは生きていて、それもこのタイミングで現れた。

ハッキリ言って、ピンチだ。リベルタスだけでも二人がかりでようやく有利な状況に持って行けたというのにフリーダムが加わるとなれば…。

 

 

「くっ…!」

 

 

心にできていた余裕が消え去り、逆に焦りが生まれる。

折角のチャンスを逃しただけでなく、逆に落とされる危機に陥ってしまった。

 

状況を整理する。

二機がかりでようやく追い詰めることが出来たリベルタスだけでなくフリーダムまで現れた。

さらに、こちらは機体のエネルギーも消耗してきている。

このまま戦えば、間違いなく不利なのはこちらだ。

 

そして、フリーダムの後方で、アークエンジェルに向かっている白い機体…。

 

 

「え?」

 

 

そこで、シンは初めてこの場に現れたのがフリーダムだけでないということに気づく。

アークエンジェルの左舷ハッチが開く。どうやら、あの白い機体を収容しようとしているようだ。

 

だが、それがシンには信じられない。

なぜなら、アークエンジェルが収容しているその機体は、かつて自分たちの仲間が搭乗していたものだったからだ。

 

 

「ヴァルキリー…?」

 

 

呆然としているシンの目の前で、ヴァルキリーがアークエンジェルに収容された。

 

 

 

 

「…兄さん」

 

 

セラは、やや鋭いものを含んだ声でキラを呼ぶ。

セラの目の前でアークエンジェルに収容されたものを見たからだ。

 

 

「…シエルは、何もできない今がとても悔しいと思ってるよ」

 

 

「それでもだ」

 

 

キラが言い切るか否かのところでセラがきっぱり言い放つ。

 

どこか自慢のような言い方になってしまうが、恐らくシエルは力を手にすれば戦うと決意するだろう。

紛れもない、自分のために。

 

だが、それをセラはしてほしくなかった。

自分のために、シエルに苦しんでほしくなかった。

 

シエルの親しかった仲間が、今、自分たち兄弟の目の前にいる。

自分のために戦うということは、その親しい仲間と戦うということになる。

 

 

「わかってる?あの時の俺たちと同じ思いを、兄さんはシエルにさせようとしているんだ」

 

 

「…」

 

 

キラが黙り込む。何を考えているのだろう。

 

前回の対戦前半から中盤にかけて、自分たちは親友と殺し合いを続けた。

そして今も、かの親友は記憶が消えた状態で自分たちと敵同士になっている。

 

この苦しみは、誰にも味あわせたくない。

当然、シエルにもだ。

 

 

「でも、シエルは苦しんでると思うよ」

 

 

「…」

 

 

キラの言葉に、今度は逆にセラが黙り込んだ。

 

 

「何かをしたいと思った時、その力がなかったら…、苦しいと僕は思う」

 

 

それは、わかる。

 

自分も…、そして兄も、剣を折られ、何もできなかった時は苦しかった。

 

…その苦しみを、自分はシエルに与えるというのか?

 

 

「…どうすればいいのかな」

 

 

わからなくなる。シエルに苦しんでほしくない。苦しむことを選んでほしくない。

だが、何かをしても苦しみ、そして何もしなくても苦しむことになる。

 

 

「セラは過保護すぎ。シエルがしたいと思うことをさせてあげなよ」

 

 

通信の向こうで、キラは苦笑しているだろう。

セラはキラが言った言葉をゆっくりと飲み込む。

 

過保護…、自分は、シエルのことを気にしすぎているというのだろうか。

だけど…、シエルのことが心配なのだ。苦しんでほしくないのだ。

 

 

「シエルはあの時、セラのわがまま聞いてくれたよね?」

 

 

「あっ…」

 

 

セラのわがまま、とは、第二次ヤキン・ドゥーエ防衛戦でのあの戦いだ。

セラは、ラウ・ル・クルーゼと一人で戦うと宣言した。

そしてシエルは、そのわがままを認めた。

 

いつものシエルだったら、間違いなく自分も一緒に戦うと言っていたはずだ。

だけど、シエルは自分に一人で戦わせてくれた。

 

 

「…そうだった」

 

 

シエルは、自分と一緒に戦うと言ってくれた。

そしてそれと同時に、自分にやりたいと言ったことをさせてくれたのだ。

 

だったら、自分だってそれと同じことをしなくてはならない。

 

 

「そろそろ来るよ。セラ」

 

 

セラが心の中で決意を固めた時、キラの鋭い声が聞こえた。

目の前の二機が、体勢を整えてこちらに身構えている。

 

そして、デスティニーはフリーダムに。カンヘルがリベルタスへと襲い掛かる。

 

セラとキラも、それぞれ襲い掛かる機体に対して応戦するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アークエンジェル艦橋内のモニターには、リベルタスとフリーダムが、それぞれカンヘル、デスティニーと応戦している様子が映し出されていた。

 

そして、戦闘が始まる直前にフリーダムから通信が入っていた。

 

 

『マリューさん、ラクスをお願いします!』

 

 

艦橋にいる全てのクルーが、フリーダムの後方にいた白い機体を見た。

全員がその機体に見覚えがあった。

 

白い機体は、マリューが指示して開いたアークエンジェルの左舷ハッチの中に入っていく。

それを見ていたシエルが、何も言わずに立ち上がる。

 

 

「シエルさん…」

 

 

立ち上がったシエルに、マリューが気づかわしげに声をかける。

シエルは、声をかけてきたマリューに微笑みかけてから、エレベーターの扉に歩いていく。

 

扉が開き、シエルはエレベーターに乗り込んですぐに目的の階層を設定して向かう。

 

 

「…ラクス」

 

 

キラが言っていた通りなら、アークエンジェルに収容された機体にはラクスが乗っているはずだ。

そして、ラクスが乗っていたあの機体は…。

 

シエルは開いた扉からすぐさま飛び出し、格納庫に向かって駆け抜ける。

 

 

「ラクス!」

 

 

シエルは格納庫に駆け込み、ピンクのヘルメットを抱えた少女を呼ぶ。

ラクスはシエルの声に反応し、振り向く。ラクスは柔らかい笑みを浮かべながらシエルに声をかける。

 

 

「シエル」

 

 

シエルが走るのを止め、乱れた息を整えながらラクスに歩み寄る。

 

 

「大丈夫だった、ラクス?」

 

 

「はい。キラの言う通りにしてただ乗っていただけですから」

 

 

尋ねたシエルに穏やかに返すラクス。

 

モビルスーツに乗って地球に降りれば、ザフトの監視網を欺けるだろうというキラのアイデアだったらしい。

それでも、彼女をモビルスーツに乗せるとは…、シエルは本当に驚いていた。

 

しかし同時に、ラクスを地球に降ろすにはこれしかないだろうという案だ。

何しろ、未だにデュランダルはラクスの命を狙っているのだから。

 

 

「シエルこそ、大丈夫ですか?」

 

 

「…?」

 

 

ラクスの質問に、シエルは首を傾げる。

 

 

「大丈夫って…、怪我はしてないよ?」

 

 

シエルの体はいたって健康だ。

 

目に見えるだけでも、普通に歩いているし、包帯なども全く巻いていない。

ラクスは、一体何を心配しているのだろうか?

 

 

「お体のことではありません」

 

 

「え?」

 

 

ラクスは柔らかな笑みを浮かべたままじっとシエルを見つめる。

ラクスの意図を読み取ったシエルは、思わずラクスから目を逸らして俯いてしまう。

そんなシエルを見たラクスの目が翳った。

 

やはり、ダメなのだろうか。

ラクスがそう思ったその時、シエルは勢いよく顔を上げた。

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

ラクスの目が、見開かれる。

 

 

「私は、あれに乗る」

 

 

シエルの目が、巨大な白い機体に移される。

 

 

「あれは、私の剣」

 

 

ずっと共に戦ってきた。

 

 

「迷いは、ないよ。私は戦う」

 

 

「本当に、よろしいのですか?私は、あなたに強要するつもりはないですわ」

 

 

ラクスが、シエルの目を見つめて言う。まるで、何かを定めているかのように。

だが、シエルははっきりと言い放つ。

 

 

「もう、決めたの」

 

 

もう、シエルは決めていた。

 

 

「私はもう、離ればなれにはなりたくない」

 

 

どこまでも、彼と共にいると。

 

 

シエルは、パイロットスーツに着替えて機体に乗り込む。

 

ヴァルキリーの発展機となるこの機体は、ヴァルキリーの機動力を超え、さらに遠距離武器をも装備し、オールレンジの戦闘ができるようになっている。

 

シエルは機体の立ち上げを進めていく過程で、アークエンジェルとの通信をつなげる。

今の戦況がどうなっているのかを知りたかった。

 

だが、そんなシエルの耳に飛び込む言葉があった。

 

 

『四時の方向から新たな機影!数は二!』

 

 

「っ!?」

 

 

瞬時に、ザフトの援軍だと悟るシエル。だが、数が二というのはどういうことなのかと考え込む。

 

 

「あっ…」

 

 

すぐに、シエルは考えがつく。間違いない。あの二機だ。

セラとキラを落としたあの、ザフトの新型の二機だと。

 

シエルは手の動きをさらに早める。

セラとキラは今、ザフトのエース機二機と交戦中。その上にあの二機まで現れるとなると…、急がなければ。

 

 

「マリューさん!」

 

 

機体の立ち上げを終えたシエルが、艦橋のマリューに呼びかける。

マリューがシエルの顔を見て、目を見開いた。

 

 

『シエルさん!?どうして…!』

 

 

気を遣ってくれているのはわかる。だが、今はどうしても時間が惜しい。

早く、セラとキラのもとに行きたい。二人の、助けになりたい。

 

 

「ハッチを開いてください!今すぐ出ます!」

 

 

『でも…!…わかったわ』

 

 

初め、渋っていたようにも見えたマリューだが、判断は早かった。

通信を切ったマリューがマードックに指示を出したのだろう。

 

マードックの声が慌ただしく響いた直後、機体がゆっくりと運ばれていくのがわかった。

カメラの向こうで、ハッチがゆっくり開いていく。

 

ようやく固まった決意。

迷いは消え、シエルは飛び出していった。

 

 

「シエル・ルティウス!ヴァルキリー、行きます!」

 

 

戦乙女は、再び戦場を舞う。

 

 

 

 

 

 

シンは、目の前で青い翼を広げて向かってくるフリーダムに向かってアロンダイトを振り下ろす。

対するフリーダムも、ビームサーベルを振り上げて応戦してくる。

 

ぶつかり合う二本の剣は光を迸らせる。

二機は同時に距離を取り、同時にライフルに手をかけた。

 

だが、先に引き金を引いたのはフリーダムだった。

シンは回避行動を起こし、ビームをかわした直後にライフルの引き金を引いた。

 

フリーダムもビームをかわし、シンもビームをかわす。

互いの銃撃をかわしながら、互いにライフルを撃ち合う。

 

 

「くそっ!このままじゃ…!」

 

 

シンは、全く動かない戦況に悪態をつく。

実際、万全な状態ではないこちらが不利なのだ。

デスティニーのエネルギーは、もう三分の一程を切っている。

 

このままいけば、間違いなく落ちるのはこちらだ。

 

 

「補給に行ければ…、だけど…!」

 

 

補給に行ければ話は早い。すぐさまシンはミネルバに戻る。

だが、リベルタスと応戦しているハイネの存在がそうさせない。

 

自分がこの場から抜けてしまえば、ハイネはリベルタスとフリーダムの一斉攻撃に遭う。

言いたくないが、間違いなくハイネは落とされてしまうだろう。

 

とはいえ、このまま戦っていても…。

詰み、この言葉がシンの頭を過る。

 

 

『退がれ』

 

 

その時、スピーカーから、全く感情を感じさせない無機質な男の声が響いた。

無感情、無機質。それなのに、全く有無を言わせない力強さのある声に従い、シンは無意識で機体を後方に退がらせる。

 

直後、視界を真紅の影が横切った。真紅の影は、蒼い翼を広げるフリーダムに襲い掛かる。

 

フリーダムは突然の乱入者に驚愕したのだろう。動きを急停止させる。

だが、わずかな間に紅い影との間合いを計りサーベルを振り抜いた。

 

紅い影が振るったハルバートとサーベルがぶつかり合うと、二機はすぐさま後退する。

 

 

「何なんだよ…」

 

 

つぶやくシンは、近くに後退してきた紅い機体を見つめる。

味方…なのだろうか。先程の退がれという言葉からそう判断するのが道理だろう。

 

見ると、ハイネの元にも、従来のものより大きなサイズのモビルスーツがいる。

ハイネも自分と同じように何か指示を出されたのだろうか?

 

 

『シン・アスカにハイネ・ヴェステンフルスだな?』

 

 

先程自分に指示を出してきた声とは違う、男の声が耳に届く。

その声から感じるのは、怒りや憤り。この男が乗っているのは、恐らくあの巨大なモビルスーツ。

 

あのモビルスーツが対峙しているのはリベルタス。

何か、リベルタスに恨みでもあるのだろうか…?

 

 

『お前らは一旦退いて補給を受けてこい』

 

 

「なっ…!何であんたにそんなこと命令されなきゃならないんだ!」

 

 

ふざけるな。どうして急な乱入者にそんなことを命令されるのだ。

 

不満に思うシン。だが、次の言葉で燃え上がった怒りが一気に冷める。

 

 

『…グラディス艦長に聞いていなかったのか?俺は特務隊、ロイ・セルヴェリオスだ』

 

 

『同じく、アレックス・ディノ』

 

 

「えっ…!?」

 

 

驚愕するシン。通信から声は聞こえてこないが、ハイネも恐らく驚いているだろう。

 

そして、シンは思い出す。ミネルバがオノゴロにつく少し前にタリアが言っていたことを。

 

 

『戦闘に入って少し時間が経ってからという話だけど、議長が言うには援軍が来るという話よ』

 

 

タリアが言っていた援軍とは…。

 

 

「あっ…、でも、たった二人なんて…」

 

 

『それに、特務隊がくるなんて聞いてないぞ。それに、アレックス・ディノなんて奴は聞いたことがない。それにセルヴェリオス、お前もフェイスになったなんて聞いていない』

 

 

ハイネのどこか低く鋭い声が耳に届く。

その通りで、議長から彼ら二人のことなど聞いたことすらなかった。

 

同じフェイスであるシンやハイネに一言いってくれても良かったはずなのに。

 

 

『…ともかく退がれ。ハッキリ言って、今のお前らは邪魔だ』

 

 

「なっ…!?」

 

 

冷めた怒りが、再び燃え上がる。

 

セルヴェリオスというのは、聞いたことがある。

ザフトのエース級パイロットであり、前大戦中期では、ZGMF-X01リーパーを駆り、当時連合最強と謳われたスピリットを倒した。

 

だが、第二次ヤキン・ドゥーエ戦役でヴァルキリーに落とされる。

それでも、重傷を負いつつも奇跡の生還を果たした。

 

シンが聞いた話ではここまでだ。そこからのロイ・セルヴェリオスについては知らない。

 

どんなに良いパイロットだからといって、なぜそこまで言われなければならないのか。

この男は、今までの自分やハイネ。ミネルバの活躍を知らないとでもいうのだろうか。

 

 

『この二機を落とすのは俺たちだ。お前らは…、早くどけ』

 

 

「っ!あんた…!」

 

 

ずいぶんな物言いだ。勝手に好き勝手言わせて堪るかと、シンは何か言い返そうとする。

だが、それは突然響いたアラートによって遮られた。

 

 

『っ!なんだ!?』

 

 

『…来たか』

 

 

驚愕するハイネの声。そして、まるで何が来たのかを知っているかのような物言いのロイ。

そして、シンたちはこちらに向かってくる白い機体を目に入れた。

 

 

「…っ!?」

 

 

シンはその機体を確認してさらに驚愕する。

 

 

「どうして…、何でなんだよ…」

 

 

先程、アークエンジェルに収容されたところを見て、どこか予想はついていた。

だが、こうして対峙すると、やはり悲しみは襲ってくる。

 

 

「シエル…!」

 

 

多分、乗っているのはシエルだろう。

アークエンジェルに収容され、そしてもう一度出撃したに違いない機体。

 

そして、シエルはアークエンジェルにいたはず。

 

 

『…シン、戻れ』

 

 

「ハイネ!?」

 

 

ハイネに命令されるシン。

何故だ。何故ここで戻れと命令する。

 

 

『ここで一番落とされる可能性が高いのはお前だ。エネルギー、もうほとんど残ってないだろう?』

 

 

「…けど!」

 

 

確かに、デスティニーのエネルギーはほとんど残っていない。

だが、ここで戻りたくない。こんな所で、戻りたくない。

 

 

『行け、シン!補給が終わったら、また戻って来い』

 

 

「ハイn…!…わかった」

 

 

反論しようとするシンだが、踏みとどまってハイネの言葉通りに戻ることに決める。

冷静になって考えてみれば、当然のことなのだから。

 

 

「…」

 

 

機体を後ろに向けながら、シンはリベルタスの傍らで停止したヴァルキリーを傍目で見る。

 

 

「くそっ…」

 

 

小さく悪態をついてから機体を進ませた。

 

 

「…ハイネ・ヴェステンフルス。お前も行け」

 

 

「そういうわけにもいかないだろ。俺が戻ったら数で不利になるぞ」

 

 

「…」

 

 

シンが戻っていってからのハイネとロイの会話。

ロイも、数で不利になるのはいけないと思っているのだろう。ハイネについては何も言わない。

 

カンヘルは、まだ出撃してそう時間が経っていないため、エネルギーにはまだ余裕がある。

 

ハイネは操縦桿を握りしめている掌に力を込める。

ここから先、少しでも気を抜けばあっという間にやられてしまうだろう。

今まで経験したこともないほど過酷な戦いになるだろう。

 

だが、負けない。負けたくない。

たとえ、立ちはだかるのがかつての仲間でも、それは変わらない。

 

ハイネは自分の前で立ちはだかる三機を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

後方からグフが、こちらに向かってきながらをビームガンを連射してくる。

カガリは機体を旋回してかわし、逆にライフルのビームをグフに浴びせる。

 

オノゴロ島に取りつこうとするグフを撃ち落としながら、カガリは国防本部へと向かっていた。

 

視界に国防本部の建物が見えてきたところで、戦闘に入ったすぐに分かれたムラサメ隊とキサカが合流した。

 

 

『カガリ!』

 

 

キサカがカガリに声をかけてくる。

 

キサカの意図は、カガリにもわかっている。

 

 

「国防本部に降りる!援護してくれ!」

 

 

命令しながら、カガリは国防本部へ一直線に機体を降下させる。

だがその時、大地から突然飛び出すモビルスーツの姿が見えた。

 

地中巡航型モビルスーツジオグーンである。

地中から攻めてくるなど、カガリすら頭になかった。

 

空のモビルスーツを迎撃していたアストレイが、一瞬にしてビームを浴びせられ爆散する。

さらに、ジオグーンは国防本部を狙う。

 

 

「させるかっ!」

 

 

そうはさせない。

 

カガリはビームサーベルを抜き放ち、ジオグーンを切り裂いた。

 

何とか国防本部を守ることが出来たという喜びに浸る暇はない。

カガリは息をつく間もなくベルトを外し、コックピットを飛び出す。

 

外に出た所で、カガリを追いかけてきたキサカと合流。

二人は急いで国防本部に駆け込んだ。

 

急げ、急げと胸の中でカガリを急かす声が聞こえる。

何とかその衝動を抑えながらカガリは司令室に向けて走る。

 

 

「ユウナっ!」

 

 

そして、自動扉が開き、カガリは司令室に飛び込んだ。

 

焦りに表情を曇らせていた将校たちが、カガリの姿を見た途端表情を明るくさせる。

 

 

「カガリ様!」

 

 

一斉に、将校たちがカガリの名を呼ぶ。

 

そんな中、将校たちに囲まれ、拘束されて尋問されていたユウナが腰を浮かせた。

 

 

「カガリぃーっ!どうして…、こんなのひどいよーっ!」

 

 

顔は腫れあがり、片目がその腫れによって細目になっている。

端正な顔つきが、見る影もない。

 

 

「あんまりだよカガリぃっ!僕は一生懸命、君の留守を守っていたのに!」

 

 

留守を、守るだと?

 

瞬間、カガリの心は沸騰した。

 

何が留守を守るだ。お前らが、私を追い出したのだろう。

容赦なく、カガリは拳をユウナの顔に叩きつけた。

 

 

「へぶぅっ!…か、かがり?」

 

 

情けない悲鳴を上げ吹っ飛ばされたユウナをカガリは冷たい目で見つめた。

戸惑うの表情を見せるユウナ。…本当に、この男は反省していないようだ。

 

 

「…お前は、何をしたのかわかっているのか?」

 

 

「え…」

 

 

目を丸くするユウナ。何も、わかっていない。

怒りを通り越して、呆れの念すら抱く。

 

 

「お前だけを悪いとは言わない…。ウナトやお前…、首長たちと意見を交わし、おのれの任を全うできなかった私も…」

 

 

「かがり…」

 

 

カガリの怒りを浴びて、ユウナは這いずって後ずさる。

 

 

「だが、これはなんだ!?」

 

 

ついに声を荒げるカガリ。モニターに指を突き付けた。

ユウナの口が、パクパクと開閉する。

 

 

「なぜあんな回答をした!なぜジブリールを庇った!こうなることがわからなかったとでもいうのか!」

 

 

「あ…あ…」

 

 

モニターに映る、必死に国を護ろうと奮闘するモビルスーツ。燃え上がる大地。

こんな事態を引き起こした目の前の男に。そして、何より何もできなかった自分に怒りが湧いてくる。

 

 

「意見が違っても…、国を護ろうとする意志は、同じだと私は思っていた…!」

 

 

この男たちは、本気で国を護ろうとなど思っていなかったのだ。

ただ、自分の立場が悪くなることを恐れていただけだったのだ。

 

それを見抜けなかった自分に、どうしても腹が立つ。

 

 

「いや、だから…それは…」

 

 

目を彷徨わせながらおろおろするユウナ。

 

…自分を丸め込もうとする言葉を探そうとしているのは、目に見えてわかる。

ユウナの襟元をつかみ、強引に立ち上がらせる。

 

 

「言え、ジブリールはどこだ。…この期に及んでも、まだ奴を庇い立てするか!」

 

 

「だ、だから言ったじゃないか!僕は何もしてないって!」

 

 

目を白黒させながら喚くユウナ。

 

 

「ユウナっ!」

 

 

ユウナを睨みつけるカガリ。どうしてもこの男は、どこまでもこの男は、救いようがないのか。

 

 

「ほ、本当に知らないんだ!僕は!確かにこの国にはいたよ!でも今どこにいるのかは、僕は知らないんだっ!」

 

 

「…」

 

 

もう一度睨みつける。

 

…どうやら本当に知らないみたいだ。そもそも、ここまで頑強に奴を庇うなどこの男はしないだろう。

もし知っていたら、とっくにジブリールの居場所を吐いていたはずだ。

 

荒っぽくカガリはユウナの体を突き放しながら言い放つ。

 

 

「もういい…。連れていけ」

 

 

カガリの言葉に、ユウナは呆然とした表情を見せる。

 

 

「え、そんな…。カガリ!僕も…」

 

 

ユウナの両腕を、二人の将校が絡めとる。拘束されたユウナはそのまま連れていかれてしまう。

 

 

「ま、待ってよカガリ!どうして!何でだよ!き、貴様ら、僕が誰なのかわかってるのか!?僕はユウナ・ロマ・セイランだぞ!セイランの跡継ぎだぞ!?ま、待て!嫌だ!嫌だぁ~~~~~~~…」

 

 

喚きながら抵抗するも、道楽息子ではどうすることもできずに連行されていく。

司令室に、ユウナの悲鳴が情けなく響く。

 

しかし、厄介なことになった。ジブリールの居場所がわからないとなると、ザフトにその身柄を引き渡すまで時間がかかってしまう。

それにもし、奴を取り逃がすという事態になってしまったら…。

 

懸念を振り払い、カガリは近くにいた将校に問いかける。

 

 

「カグヤの封鎖は完了しているな!?」

 

 

「ハッ!」

 

 

マスドライバーカグヤ。ジブリールがこの国に逃げ込んできたのは、間違いなくそれが目的だろう。

マスドライバーを使い、宙に逃げ、そして月の連合勢力と合流する。奴の目的は間違いなくそうだ。

 

だが、そのカグヤは封鎖してある。ジブリールが宙に逃げるということはまずあり得ないと考えていいだろう。

 

 

「ともかく、一刻も早くジブリールを捕まえるんだ!」

 

 

キサカが力強く命じ、カガリも言葉をかける。

 

 

「諦めるな!押し返せば停戦への道も開ける!そのことだけを、今は考えろ!」

 

 

「ハッ!」

 

 

司令室に再び緊張が張り詰める。

 

ジブリールを捕まえ、ザフトに押し返せばザフトがオーブを攻撃する理由がなくなる。

そして、ロゴスの頭領であるジブリールをザフトが捕らえたとなれば、戦争もそれで終わる。

 

終わらせるのだ。ここで。

 

カガリはそれだけを考え、将校たちに指示を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




>なお、今回で戦うとは誰も言っていない





ORB-03Vリープ・ヴァルキリー
パイロット シエル・ルティウス

武装
・ビームサーベル×2
・ビームライフル×2
・遠距離高エネルギービーム砲
・高エネルギープラズマ収束砲(両腰)
・ビーム対艦刀
・カリドゥス複相ビーム砲
・ビームシールド
・近接防御機関砲

元々この機体の理論は出来ていたのだが、シエルがヴァルキリーを持っていってしまったためデータ不足となり、完成とまでは行かなかった。
だが、ヴァルキリーがアークエンジェルに収容されたため不足していたデータを採取。
完成に至ることが出来た機体。
リベルタスと同じく、遠距離装備が不足していたヴァルキリーだが圧倒的な火力を誇る機体となった。
エターナルに機体があった理由は、セイランなどに隠蔽して作成することがリベルタスで限界だったため。


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PHASE45 決着は突然に

アークエンジェルから飛び出していったシエルは、一直線にリベルタスとフリーダムの元へと向かった。

リベルタスとフリーダムは、ザフトのエース機と戦闘していたが、あの新型二機が乱入してから状況は硬直していた。

 

シエルは、リベルタスの傍らで機体を停止させる。リベルタスのカメラがこちらを向く。

 

 

『シエル…』

 

 

セラが声をかけてくる。何を言いたいのかは、わかっている。

 

どうしてここに来た。何で戦おうとするんだ。

セラはそう言いたいのだろう。

 

だが、セラはその先の言葉を口にしなかった。言っても無駄だと無駄だと悟ったのだろう。

 

 

「大丈夫」

 

 

シエルは、セラを安心させるために口を開く。

 

そう、大丈夫だ。もう、迷いはない。

この人の隣にいると、決めたのだから。

 

 

『…そうか』

 

 

リベルタスのカメラが、ザフトの機体の方向に向き直った。

ザフト側の一機が、後退していった。アカツキと戦闘を繰り広げた機体である。

 

戦闘序盤から奮闘していたため、エネルギーが減少していたのだろう。

間違いなく補給に戻るはずだ。

 

つまり、あの機体が補給を終え戻ってくるまでは三対三。数の上では互角だ。

 

そうシエルが頭の中で思考していたその時、通信を通して信じられない声がシエルの耳に届いた。

 

 

『久しぶりだな…、シエル』

 

 

「っ!?」

 

 

底冷えする低い声。体全体が、まるで舐められたかのように震える。

 

セラからこの男のことは聞いていた。だからそこまで驚きはしないが…、それでも、なぜこの男は生きているのだろう。

 

 

『来ると思ってたぞ…。セラ・ヤマトを守るために、お前も…』

 

 

「ロイ…!」

 

 

ロイ・セルヴェリオス。やはり、この男の声だ。

自分が、ヤキン・ドゥーエで殺したはずの、ロイの声だ。

 

 

『だが、アークエンジェルに乗っているとは思わなかったぞ。ザフトに戻っていたとは知っていたが…』

 

 

「なっ…!?」

 

 

自分がザフトに戻っていたことを知っていた…?

だが、自分はロイが生きていたことなど知らなかった。

 

当然、こうしてザフト側として現れたのだから、ロイの生存のことをデュランダルは知っていたはずだ。

それなのに、デュランダルはそのことを教えてはくれなかった…。

 

とことん、駒として自分を利用しようとしていたのだ。彼は。

 

 

「くっ…」

 

 

歯噛みするシエル。そんなシエルを知ってか知らずか、ロイはさらに言葉を続ける。

 

 

『まぁ俺には関係ない…。セラを殺し、お前の目を覚ましてやる…』

 

 

「…」

 

 

的外れなことを言うロイ。だが、そんなことよりもロイは今、何と言った?

 

セラを…殺す?

 

 

「そんなこと…させない」

 

 

何としてもセラを守ると決めたのだ。シエルは態勢を整える。

 

途端、三機の内の一機、ウルティオが突っ込んできた。

だが、狙いはシエルではない。狙いは、セラ。

 

 

「っ!?セラ!」

 

 

そして直後、セラもまたウルティオに向けて突っ込んでいった。

ウルティオとリベルタスはサーベルを抜き放ち、二本のサーベルがぶつかり合った。

 

ぶつかり合ったサーベルから火花が飛び散る。

 

これが、合図となった。

 

 

「っ!?」

 

 

真紅の機体、ブレイヴァーがフリーダムに向けて突っ込んでいった。

二本のサーベルを連結させハルバート状にし、フリーダムに斬りかかっていく。

 

キラもサーベルを抜いて迎え撃つ。

 

 

「セラ!」

 

 

そしてシエルは、襲われたセラの援護に行こうとする。が、その前に立ちはだかるものが。

 

 

「行かせるかよ!」

 

 

シエルは機体を急停止させる。目の前に立ちはだかったのは、ハイネが駆るカンヘル。

 

カンヘルはブレイヴァーと同じようにサーベルを連結させてヴァルキリーに斬りかかる。

シエルは背中に差された対艦刀を取る。刃部分にビームを通し、斬りかかってきたカンヘルを迎え撃つ。

 

二機はすれ違いながら剣をぶつけ合い、距離を取る。

 

シエルはそこで両腰のプラズマ砲を展開。カンヘルに向けて放つ。

だがカンヘルは横にずれ砲撃はかわされてしまう。さらにカンヘルは背面のユニットをヴァルキリーに向け、ビームを照射する。

 

シエルは腕のビームシールドを展開し、照射されたビームを防ぎ切る。

そしてライフルを取ってカンヘルに向けて撃つ。

 

 

「無駄だぜシエル!」

 

 

ハイネは機体を横にずらしてビームをかわす。

だが、シエルはハイネがビームをかわしたその間にカンヘルに接近していた。

 

ヴァルキリーの機動力を活かした戦法。

 

 

「けどな…、それも予想済みだ!」

 

 

対艦刀を振り下ろすヴァルキリーに、ハイネは腕のビームシールドを展開させて割り込ませる。

強い衝撃が奔るが、何とか耐えきったハイネはヴァルキリーを弾き飛ばし、逆にハルバートで斬りかかっていく。

 

 

「っ!」

 

 

弾き飛ばされたシエルは、体勢を整えながら斬りかかってくるカンヘルを見据える。

ここからどんな動作をしても、ハルバートで斬られるでは間に合わないだろう。

 

ならば、どの動作を起こさなくてもできる反撃をすればいい。

 

ヴァルキリーの腹部にカラーリングされた銀色。

そこから、砲撃が飛び出した。

 

 

「何っ!?」

 

 

目を見開くハイネ。

ヴァルキリーはフリーダムと同じように関節部分にカラーリングを施されていた。

だから、わからなかった。

 

カリドゥスの砲撃がカンヘルに向かって走る。

ハイネは機体を急停止。そこから無理やり機体を翻して砲撃をかわす。

 

砲撃が脇部分の装甲をかすり、その部分が溶けるが…、気にしない。

ヴァルキリーがこちらに追撃を仕掛けてくる前にライフルで牽制を入れておく。

 

案の定、ヴァルキリーはこちらに追撃をしようとしていた。

だが、放たれた一条のビームによって動きが止められる。

 

その間にハイネは機体の体勢を整えて目の前の機体と対峙する。

 

一進一退の攻防。気の抜けない攻防。

こうして敵になるまでわからなかった。本当に、シエルがいて心強かったと改めて感じる。

 

だが、今は敵。何があったのかは知らないが、シエルは自分たちを裏切ったのだ。

理由はどうてもいい。裏切り。その事実だけあれば、いい。

 

目の前の敵を、落とす。

 

そして、シエルも。

決意は揺るがない。かつての仲間であろうと、立ちはだかるならば戦う。

守ると決めたのだ。何があっても、絶対に。

 

二機は同時に飛び出し、交錯した。

 

 

 

 

 

 

「くっ…!アスラン…!」

 

 

キラは歯を食いしばりながら、ブレイヴァーの猛攻をしのいでいた。

反撃に転じたいのだが…、目の前にいるのが親友なのだと思うと、それができないでいた。

 

本当の意志でこうして襲ってくるのならば、キラの行動も変わっていただろう。

だが、彼は何か細工をされているはずなのだ。自分を忘れているなど…、信じられないのだ。

 

ブレイヴァーがハルバートを振り下ろす。

キラはビームシールドを展開し、ハルバートを防ごうとする。

 

瞬間、ブレイヴァーはハルバートの連結を解いた。

二方向からサーベルがフリーダムを襲う。

 

 

「っ!?」

 

 

目を見開くキラ。

そして、キラは意識の深くへと潜っていく。

 

種が、割れた。

 

キラはシールドを展開した腕と逆の手でサーベルを抜き放つ。

そして、サーベルが襲い掛かる二方向に、それぞれの腕を大きく振った。

 

 

「っ!?」

 

 

アレックスは息を呑んだ。

そういえば、前もそうだった。

 

必殺と打ちこんだ攻撃が次々と防がれる。驚嘆に値する相手の技量。

 

だが、前も同じような感覚がした。

 

 

「何故だ…」

 

 

何故、自分は相手の戦いを見て既視感を覚えるのだろうか。

前に、この機体と戦ったことがあったとでもいうのか?いや、そんなはずはない。

 

自分はアレックス・ディノ。C.E.55年生まれ。軍に入隊したのがC.E.70年。

そこから少しずつ経験を積み、第二次ヤキン・ドゥーエ戦では一小隊長を務め生き延びた。

これが、自分の中の記憶。

 

目の前の相手、フリーダムと戦ったことなどないはずだ。

 

 

「…」

 

 

アレックスは、距離を取ろうとするフリーダムを逃がさない。

距離を一気に詰めてサーベルを一閃。フリーダムもサーベルを振り抜いて迎え撃ってくる。

 

フリーダムと剣をぶつけ合って押し合いを始める。

その間に、アレックスは機体の右足を振り上げる。

 

だが、恐らくフリーダムは…。

 

 

「やはり」

 

 

フリーダムは後退して右足の斬撃をかわす。

この攻撃法は前回の戦闘でも見せた。二度目となると効果だって半減する。

いや、初見でかわされているのだから半減どころではないだろう。

 

アレックスはブレイヴァーの腹部の砲口にエネルギーを貯める。

そして、フリーダムが距離を取り切る前にオメガを放った。

 

 

「っ?」

 

 

すると、フリーダムの腹部の黄金が輝いた。

直後、そこから巨大な砲撃が発射された。

 

フリーダムに搭載された、カリドゥス複相ビーム砲だ。

ザフトが発展させたその兵器を何故奴が使っているのかはわからないが…、それは無駄だ。

 

アレックスが使ったオメガは、そのカリドゥスをさらに発展させたものだ。

エネルギー量では変わらないものの、砲撃をさらに凝縮させている。

カリドゥスよりもさらに貫通力が増した。

 

オメガとカリドゥスがぶつかり合えば…

 

 

「っ!?」

 

 

キラが目を見開く。

 

キラの目の前で、フリーダムが放ったカリドゥスがブレイヴァーが放ったオメガに貫かれているのだ。

オメガはカリドゥスを物ともせずにフリーダムに向かってくる。

 

キラはすぐに機体を翻させる。オメガが、装甲を掠めながら通り過ぎていく。

わずかにコックピットに衝撃が奔るが、キラは怯まずにサーベルを振う。

 

追撃のために斬りかかってくるブレイヴァー。ハルバートとサーベルがぶつかり合う。

 

フリーダムとブレイヴァーは、互いに何度も交錯しながら切り結ぶ。

 

フリーダムは、もう片方の手でライフルを持ってブレイヴァーに向ける。

一方のブレイヴァーも、それは同じだった。

 

今度は、互いに位置を変えながらライフルを撃ち合う。

 

ブレイヴァーはそれをしながらフリーダムとの距離を詰めていく。

だが、キラは今の間合いを保とうと後退しながらライフルを連射する。

 

 

「アスラン…!」

 

 

キラは、通信電波を操作する。何とか、アスランと話がしたい。

 

だが、アスランの猛攻で電波の操作が上手くいかない。

目の前の機体と、通信が繋がらない。

 

歯噛みしながら、キラはライフルを仕舞ってサーベルに持ち替えた。

ブレイヴァーとの間合いが迫ってきたのだ。

 

斬りかかってくるブレイヴァーを迎え撃つキラ。

 

記憶から消えてしまった友に斬りかかるアレックス。

 

両者は激しく切り結んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、セラは…。

 

 

「セラ・ヤマトぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 

「ちっ」

 

 

凄まじい気迫を放ちながら猛攻を浴びせてくるウルティオ。

セラは舌を打ちながらその猛攻を対処する。

 

ライフルを撃って来ればビームシールドを展開して防ぎ、サーベルで斬りかかってくればリベルタスの十八番で反撃する。

前回と違い、二機の性能の差はほとんどない。

その上でパイロットの腕ではセラの方が上と言える。

 

そのため

 

 

「くそっ!落ちろ!死ねよ!貴様ぁああああああああああっ!!」

 

 

連射されるビームを縦横無尽に飛び回ってかわすリベルタス。

斬撃も凌がれさらに反撃まで入れてくるリベルタス。

 

全く攻撃が命中しないことにいらつくロイ。ひたすらにライフルを連射する。

だが、ろくに狙いもつけられていない狙撃ではリベルタスには当たらない。

 

セラは乱射されるビームをかわしながら、スラスターを広げてウルティオに向かっていく。

バレルロールを繰り返し、命中すれすれを何度も繰り返し、サーベルを抜き放ってウルティオに斬りかかる。

 

 

「なめるな!」

 

 

接近されたことに動揺せず、ロイはサーベルを抜いて迎撃する。

そこで、リベルタスはもう一本のサーベルに手を伸ばす。

 

その様子を見ながらロイはにやりと笑みを浮かべる。

背部の装甲を開き、二本の隠し腕を出す。

 

リベルタスが振るったサーベルと、隠し腕のビームブレードがぶつかり合う。

さらに、残ったもう片方の腕のビームブレードでリベルタスに斬りかかる。

 

 

「くっ!?」

 

 

セラは蹴りをウルティオに入れる。さらにその反動を利用して後退する。

自分が先程までいた場所を隠し腕が横切っていく。

 

 

「なっ!?」

 

 

目を見開くロイ。ここで終わると思っていたはずが、今度は自分が大きな隙を作ってしまった。

リベルタスは肩のビーム砲を跳ね上げる。収束砲を放ってくるリベルタス。

 

ロイは歯噛みしながら片腕のビームシールドを展開して砲撃を防ぐ。

その間に外に出した隠し腕を収納する。奇襲に失敗した今は、隠し腕は邪魔なだけだ。

 

その隙に、セラはサーベルを抜いてウルティオに向かってくる。

 

向かってくるリベルタスを見据え、ロイは大きく舌を打った。

何故、邪魔をされなければならない。どうして、こんな奴に自分がみじめな思いをされなければならないのだ。

 

 

「シエルは…」

 

 

ぼそりとつぶやくロイ。

そして、サーベルを手に向かってくるリベルタスを迎え撃つ。

 

 

「シエルは、俺のものだったのに!」

 

 

叫びながら思い出す。自分だけに向けていた笑顔。自分を心配していた時のあの顔。

それが今は、目の前の奴に奪われてしまった。それが、凄まじく腹立たしい。

 

 

「お前が!おまえがぁああああああ!!!」

 

 

振われるサーベルに、自分のサーベルをぶつける。

そして、二刀流で斬りかかられる前にロイは機体をさらに前進させる。

 

セラはもう一本のサーベルで斬りかかろうとしたが、ウルティオがさらに前進したことでそれを諦め自身も機体を前進させた。

すれ違った二機は同時に反転。もう一度互いの剣をぶつけ合い再びすれ違う。

 

 

「お前が!俺のシエルを奪った!」

 

 

「何を!」

 

 

今まで無視していたロイの言葉に反応するセラ。

 

さっきから、こいつはシエルをまるで物の様に言っていることが許せなかった。

 

 

「シエルはお前のものなんかじゃない!」

 

 

吼えながら、セラは再びウルティオに接近しようとする。

 

 

「何を言っている!シエルは、俺のものになるはずだったんだよっ!」

 

 

セラの言葉に対して怒鳴るロイ。ロイもまた、セラの言葉を許せなかった。

 

自分のものになるはずだったシエルを…

 

 

「それを…!お前が奪いやがってっぇええええええええええ!!!」

 

 

ロイは背面のユニットをリベルタスに向け、ビームを照射する。

 

対するセラは、片方のサーベルを仕舞ってその腕のビームシールドを展開して照射されたビーム防ぐ。

そして、ビームを弾いて再びウルティオへと向かっていく。

 

ウルティオもリベルタスに向かっていく。

 

 

「返せ!俺のシエルを…、返せぇえええええええええええ!!!」

 

 

「…何が」

 

 

ロイの怒鳴り声を聞いた途端、セラの心が一気に燃え上がった。

ぽつりとつぶやくセラ。

 

 

「何が返せだよ…」

 

 

セラは、一気にサーベルを振り切った。

 

再びすれ違う二機。だが、先程と違うのは二機がそこで停止したところだ。

 

停止する機体の中でのパイロットの様子は対称的だった。

セラはただじっと停止している。だが、ロイは…

 

 

「バカな…。そんな…、バカな…」

 

 

呆然とするロイ。

 

そんな中、ウルティオが持っていたサーベルが、柄の部分からゆっくりと落ちていった。

先程のすれ違い様にサーベルで斬りおとされたのだ。

 

 

「この…!セラ・ヤマト…!」

 

 

振り返るロイ。憎しみを込めて、ゆっくりと振り返ってくるリベルタスを睨みつける。

 

ふざけやがって…、ふざけやがって!

 

 

「殺す…!お前を殺して!」

 

 

ロイは隠し腕を展開。そしてライフルをリベルタスに向けて引き金を引く。

 

 

「シエルを取り戻す!俺のシエルを…、返してもらうぞ!」

 

 

セラはビームをかわしながら腰のレールガンを展開して放つ。

放たれた砲撃はウルティオにかわされてしまったが、その間にセラはウルティオに接近する。

 

サーベルを失ったウルティオは接近戦はできなくなった。

隠し腕に搭載されているビームブレードのおかげでわずかな対抗は出来るだろうが、本格的な接近戦までは展開できまい。

 

その上、リベルタスは接近戦を重視に作成された機体だ。勝敗は見えている。

 

 

「ふざけるな!」

 

 

セラは怒鳴りながらウルティオに斬りかかる。

一本目のサーベルは隠し腕のビームブレードで防がれてしまうが、もう一太刀で片方の隠し腕を斬りおとす。

 

 

「俺は…、別にシエルが幸せなら、俺以外の人の隣にいても別にいい。だが!」

 

 

セラはそこで再びレールガンを展開して放つ。

堪らずウルティオはよろけながら後退する。

 

 

「シエルを物扱いするようなお前に…、絶対にシエルを渡さない!」

 

 

燃え上がっていた怒りが、さらに激しさを増す。

セラは後退しようとしたウルティオとの距離をさらに詰めて斬りかかる。

 

 

「お前は…」

 

 

セラはサーベルを振り上げてウルティオの左腕を斬りおとす。

そして、何とか自分と距離を取ろうともがくウルティオを見据えながら一言言い放った。

 

 

「殺す」

 

 

セラの奥の奥。最奥部。そこで、ゆっくりとつぼみが開こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなっているんだ…。ウナト様とユウナ様は…」

 

 

軍本部から少し外れた所。そこに、ジブリールはいた。

ジブリールはセイラン家のシャトルの中で、イライラしながら兵士たちのやり取りを見ていた。

 

ジブリールの目の前で、オーブの兵士たちが焦れた顔を見合わせて話していた。

 

ジブリールは、もしオーブが落ちることになった場合はセイラン親子と共にシャトルで逃げる手はずとなっていた。

だが、共に逃げる手はずだったセイラン親子がいつまでたっても来ないのだ。

それに、彼らからは何の連絡も来ない。

落ち着きなくシートのアームレストを指で叩くジブリールは知らない。二人はもう、帰らぬ人となっていることなど。

 

もう、我慢の限界だった。ジブリールは立ち上がって兵士たちに向く。

 

 

「もう待てん!」

 

 

コックピット付近で話していた兵士たちに歩み寄ってジブリールは怒鳴る。

兵士たちは戸惑いの表情をジブリールに向ける。

 

 

「シャトルを出せ!」

 

 

「し、しかし…」

 

 

困惑の声を漏らす兵士。その姿を見て、さらに苛立ちを濃くさせるジブリール。

 

事態が切迫しているのがわからないのだろうか、こいつらは?

ザフトが自分の身柄を拘束するためにこの国に攻め込んできているうえに、オーブもまた自分を捜索している。

 

ここまでは何とか捜索をかわせてはいるが、ここまで来るといつ捜索の手がここにやってくるかわからない。

 

 

「重要なのは私だ!セイランではない!」

 

 

恐らく、兵士たちはセイラン親子のことを気にしているのだろう。

だが、そんなことはどうでもいいのだ。セイラン親子のことよりも、自分が重要なのははっきりとこいつらにだってわかっているはずだ。

 

だから、ジブリールは尊大に言い放つ。

 

 

「お前たちにもわかっているはずだ。私は、月に上がらなければならないのだ!」

 

 

ここで自分が拘束されてしまえば、反撃の用意をしていた月基地の連合勢力はその力を発揮することが出来なくなり、ザフトに鎮圧されてしまうだろう。

そうなれば、世界はギルバート・デュランダルのものになってしまう。

 

蒼き正常なる世界が…、失われてしまう。

のんきにあの親子を待っている場合ではない。早く、ここから脱出しなければならない。

 

 

「しかし…我々はオーブに仕える者です」

 

 

ジブリールに対し、兵士が躊躇いながらも言ってくる。

だが、その言葉をジブリールは冷たく否定する。

 

 

「何を言っている?なら、これは何だ?」

 

 

ジブリールは、シャトルの外を指さす。兵士たちはその指の先に視線を向けて…、表情を歪めて目を背ける。

そこには、血溜まりが広がっていた。そんな中で、オーブの軍服を着た兵士三人が倒れていた。

 

この兵士たちが撃ち殺したのだ。危うい自分たちの立場を守るために。

同僚の兵士を殺したのだ。何が、オーブに仕える者だ。

 

嘲りの視線を兵士たちに向ける。その向こうでは、同様の表情を浮かべた兵士たち。

 

 

「仕える相手を選び直す機会を与えてやっているんだぞ?」

 

 

そして、笑みを浮かべながらジブリールは問いかける。

途端、兵士たちは下卑た笑みをゆっくりと浮かべた。

 

もう、堕ちた。ジブリールはきびきびと命を下す。

 

 

「発進する!位置につけ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「トリスタン、てぇーっ!」

 

 

アークエンジェルと激闘を繰り広げていたミネルバは、アークエンジェルの背後に回り込むことに成功した。

ミネルバの主砲が火を噴き、ビームが敵艦の艦橋を掠める。

 

こちらの優勢だ。これで、あの艦を討つことが出来る…?

 

そう思った途端、タリアを強いためらいが襲った。

 

討っていいのか…?あの艦を?

 

直後、白亜の艦がゆっくりと沈んでいった。こちらが与えた損傷で一瞬減速したように見えたが、途端にアークエンジェルは海面に突っ込んでいった。

 

 

「海に逃げられます!艦長!」

 

 

「慌てないで!魚雷用意!」

 

 

慌てるアーサーにすぐさま命じるタリア。

 

アークエンジェルに潜航機能があることを失念していた。

こちらには魚雷があるとはいえ、潜航されてしまえば不利になるのは変わりない。

 

 

「魚雷ウォルフラム!てぇーっ!」

 

 

アーサーが命じた直後に、四つの魚雷発射管から魚雷が放たれる。

だが…、命中した様子は、ない。

 

ならば、迷う必要はない。

 

 

「マリク!離脱、上昇!急いで!」

 

 

「は、はい!」

 

 

いくら水中の艦への攻撃オプションがあるとはいえ、水中を自由に駆け回れる艦とは相性が悪い。

タリアはすぐに判断を下した。

 

マリクがすぐに舵を切ってその空域から離れようとする。が、遅かった。

 

アークエンジェルが放ったレール砲の一発がミネルバの右舷後部に命中する。

衝撃で揺れる艦橋。クルーたちの悲鳴が響く中、タリアは舌打ちした。

 

まずい、とタリアは思う。

アーサーは、アークエンジェルが逃げたと言っていたが、タリアはそうは思っていなかった。

 

恐らく、アークエンジェルはターゲットを変えたのだ。

現に、ザフトの旗艦は海中にいる。

 

そして、タリアの予想はすぐに裏付けられた。高々と水柱が打ち上げられた。

友軍数隻が、ゆっくりと傾き始める。海中から魚雷を受けたのだ。

 

 

「バート!アークエンジェルを探して!マリク!バートの指示に従って舵をお願い!」

 

 

「「了解!」」

 

 

バートとマリクに命じた後、タリアは急いで通信回線を開いた。その先は、旗艦セントへレンズ。

 

 

「司令、状況はわが軍が不利です!一時撤退を!」

 

 

このまま戦い続けても、ずるずるとこちらが不利になっていくだろう。

こちらに、戦い続けることにメリットはないのだ。

 

 

『何を言うか!ここでジブリールを逃せば、どうなるかは貴様だってわかっているだろう!』

 

 

司令から心外の声が帰ってくる。そして、司令の言う通りだ。

ここでジブリールを逃せば、その後プラントにどんな被害をもたらすかわからない。

 

だが、このまま被害が増え続けていくのもどうなのだ。

目的は、達成できるとは思えない。

 

タリアは反論しようと口を開こうとする。

その時、回線の向こうで悲鳴が上がる。

艦橋にいるクルー全員が驚き、振り返る。

 

そして、モニターに映っていた映像にノイズが奔り、消えた。

 

 

「…旗艦セントへレンズ、シグナル消失」

 

 

呆然と告げるバート。タリアは息を呑んで、直後に水柱を上げた海面を見つめた。

 

 

「くっ…!」

 

 

旗艦が撃沈した。

判断も、早く下さなければならないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ハヤマツミ撃沈、トヤマツミ航行不能!」

 

 

「第六機動航空隊はイザナギ海岸へ!繰り返す…」

 

 

国防本部内では戦況と指示を告げるオペレーターの声が飛び交っていた。

 

 

「第九区、ジブリールの姿はありません」

 

 

「十区、異常なし」

 

 

そして、それらの声に交じってジブリール捜索の状況報告の声も響いていた。

その報告を受けながら、カガリは苛立たしげに指の爪を噛む。

 

 

「くそっ!一体奴はどこに潜んでいる…!?」

 

 

すでに、捜索の手はオーブ全土に及んでいる。それなのに、未だジブリールは見つかっていない。

この混乱の中で一人の人を見つけ出すのは相当難しいだろう。だが、それでもおかしい。

手掛かりすらつかめないというのは、いくら何でもおかしすぎる。

 

カガリは思考する。ジブリールの情報を、整理する。

ヘブンズベースからオーブに来たジブリール。そして、セイランに接触したのは間違いない。

そこから、ユウナはジブリールの居場所を知らないと言っている。

 

 

「…っ」

 

 

セイランに、接触した?

ジブリールは月に逃げようとしている。だが、マスドライバーは封鎖されている。

 

それは、ジブリールも知っているはずだ。

だから、マスドライバーがなくても宙に上がれる方法をジブリールは探すはず。

 

瞬間、カガリの背中に寒気が奔った。

 

 

「まずい…!三区の状況をもう一度確認しろ!」

 

 

カガリが命じるが、兵士は戸惑いの表情を浮かべる。

それもそうだ。先程、三区からは異常なしという報告を受けたのだから。

 

だがその時、一人のオペレーターの声が響いた。

 

 

「本島、三区に発進する機影!」

 

 

「遅かったか…!」

 

 

カガリは目を鋭くし、悔しげにそのオペレーターに目を向ける。

 

 

「くそっ!三区を呼び出すんだ!」

 

 

指示するカガリ。

 

三区には、シャトルの発着場がある。そこにあるシャトルは、マスドライバーがなくとも宙に上がることが出来る。

 

モニターに映し出される、発進したシャトル。

そして、尾翼が拡大される。映される、カガリもよく知る紋章。

 

 

「セイラン家が所有するシャトルです!」

 

 

「やはり…!」

 

 

ジブリールはセイランと接触を図ったときに共に逃亡する計画を立てていたのだ。

何故早く気付けなかったのか。悔しさを抑え、カガリは叫んだ。

 

 

「ムラサメを向かわせろ!撃ち落としてもいい!絶対に宇宙に上げるな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ミネルバでもそのシャトルは捉えられていた。タリアはすぐにコアスプレンダーで待機していたルナマリアを呼び出した。

 

 

「ルナマリア発進!今上がったシャトルを止めて!」

 

 

ルナマリアの顔がモニターに映る。その顔は、次に続けられたタリアの言葉で強張った。

 

 

「ジブリールの逃亡機の可能性が高いわ!撃墜も許可します!」

 

 

『はいっ!』

 

 

ルナマリアがタリアの指示に応じ、モニターの映像が切れた。

 

本当ならシンも共に出撃するように指示を出すべきなのだが、シンはすぐに出れそうにもない。

まだ補給作業は完了できていない。ここは、ルナマリアに任せるしかない。

 

勢いよくコアスプレンダーが飛び出していった。

 

出撃したルナマリアは、素早く合体シークエンスをこなして飛び上がっていくシャトルに向かっていった。

オーブからも、ムラサメがシャトルを追いかけていた。

 

オーブも、ジブリールを捉えようとしているのだろうか?

だが、オーブはジブリールを匿っていたはずでは…、そこでルナマリアは思考を切る。

 

ライフルを構え、シャトルに向ける。だが、上手く狙いを定めることが出来ない。

距離が遠すぎる。やはり、出撃するのが遅すぎたのだ。

 

この距離では射撃が上手いレイでも当てるのは至難の技だろう。

それでもここで奴を撃てるのは自分だけなのだ。ルナマリアは引き金を引く。

 

 

「くっ…!」

 

 

一射、二射とビームを放つがどれもシャトルに命中しない。

シャトルはどんどんスピードを上げていく。諦めずにルナマリアは引き金を引くが…、当たらない。

 

 

「…あぁ」

 

 

ついに、シャトルのスピードがインパルスのスピードを上回ってしまった。

インパルスを振り切ってシャトルが離脱していく。

 

その様子は、ミネルバでも、そして国防本部でも映し出されていた。

 

オーブの捜索、ザフトの奮闘虚しく、ジブリールを逃がすという結果になってしまった。

 

 

「旗艦撃沈にともない、これより本艦が指揮を執る」

 

 

タリアはすぐに判断を下し、命じた。

 

 

「信号弾撃て。一時撤退する」

 

 

「えぇっ!?」

 

 

タリアの命令に、アーサーが目を見開いて振り返る。

 

 

「戦況はこちらが不利よ。これ以上の戦闘は難しいし、ジブリールも見つからない今、戦闘を続ける必要もない」

 

 

「しかし…、それでは議長の…」

 

 

おずおずと反論するアーサーに、タリアはきつく言い返す。

 

 

「議長の命じたのはジブリールの確保。オーブと戦えとは言っていないわ」

 

 

まだ、アーサーは何か言いたげだったが、納得した顔になりコンソールに向き直る。

 

だが、デュランダルが望んだことは、もしかしたら違ったかもしれないとタリアは考える。

もしかしたら、デュランダルはオーブを撃つことを望んていたのかもしれないとタリアは考える。

ジブリールのことは、そのための大義名分だったのかもしれない、と。

 

だが、構うものか。自分にはそんなもの関係あるものか。

これ以上戦って消耗するのはタリアの思うところではない。

彼が何を言おうと、一軍人として間違った判断はしていないと自負する。

 

 

「モビルスーツ帰投。全軍、オーブ領域外へ一時撤退する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オーブ戦は、次回で一段落です


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PHASE46 少年の異変

「はぁああああああああああ!!」

 

 

セラは、リベルタスのスラスターを全開にし、ウルティオに向かって突っ込んでいった。

ウルティオは隠し腕を展開して迎え撃つ態勢を整える。

 

だが、展開した隠し腕は一本。片方は斬りおとされてしまった。

ロイは隠し腕を展開したまま、ライフルをリベルタスに向けて連射する。

 

セラはこちらに直進してくるビームをかわし、かわしきれないものはサーベルで切り裂きながらなおもウルティオに向かって突っ込んでいく。

 

 

「ちっ!」

 

 

ロイは苦虫を潰したような表情になる。

先程も言ったが、ウルティオも隠し腕の一本は斬りおとされている。

その上で、装備しているサーベルも叩き斬られ、接近戦の手段は最早ないといえる。

 

ロイは機体を後退させて距離を取ろうとする。そして、背面のユニットをリベルタスに向け、ビームを照射させる。

リベルタスを後退させようとする攻撃だった、のだが、リベルタスは構わず突っ込んでいく。

 

 

「何だとっ!?」

 

 

目を見開くロイ。襲い掛かるビームの雨を、リベルタスはビームの間を縫うように舞ってかわし、そしてサーベルを抜く。

 

セラは、まったく光の差さない瞳でウルティオを見据える。

全く感情にない瞳で、ウルティオを見据える。

心にあるのは、目の前の敵を排除するという意志のみ。

 

サーベルを振り切る。ウルティオの、コックピット目掛けて。

そして、その行動に驚いたのは敵であるロイだった。

 

 

「っ!?」

 

 

かろうじてロイはリベルタスの斬撃をかわすが、内心では驚愕していた。

セラは、今まで不殺を貫いてきたパイロットだ。全大戦中盤では彼と戦ったパイロットの死者はいないに等しかった。

 

だが今、セラは自分を殺す気で剣を振ってきた。

どんなに苦しい場面でも、不殺を貫いてきたあのセラがだ。

前回の戦闘。機体性能の差が激しい状況でも、不殺を貫いてきたあのセラがだ。

 

ロイは、にやりと唇の形を歪める。

やっと、自分を殺す戦いをしてくれる。そうじゃなくては、意味がない。

 

 

「くく…」

 

 

枷をかけられた貴様を殺しても、何の意味もない。

全ての力を開放した貴様を殺すことに意味がある。

 

ロイは、歓喜の笑みを浮かべながらリベルタスを見据えた。

 

 

「セラ・ヤマトぉおおおおおお!!死ねぇえええええええええええええっ!!!」

 

 

雄叫びを上げながら、突っ込んでくるリベルタスに対して身構える。

再び交錯しようかと、その時だった。ミネルバから信号弾が打ち上げられる。

 

 

「何っ!?」

 

 

振り返るロイ。まわりのモビルスーツたちは、次々に母艦へと帰投していく。

 

ふざけるな。こんな所でのこのこと帰ってたまるか。

こうしている間にも、リベルタスはこちらに向かってきている。

 

ロイはライフルを構えてリベルタスを迎え撃とうとする。

その時、リベルタスはビームシールドを展開し明後日の方向に向けた。

 

奇妙なその行動に、ロイは目元を歪めた。だが、すぐにその理由を悟る。

リベルタスの展開したビームシールドに、一条のビームが降り注いだ。

 

ビームが降ってきた方向から、ブレイヴァーがリベルタスに向かって突っ込んでいく。

ブレイヴァーはハルバートを振り下ろし、リベルタスはサーベルを振り上げる。

 

剣をぶつけ合った二機はすぐに後退する。

ブレイヴァーはウルティオの傍らまで後退してくる。

 

そして、通信が繋がりアレックスがロイに語り掛ける。

 

 

『何をしている、ロイ。早く撤退するぞ』

 

 

撤退。やはり、アレックスは邪魔しに来たか。

 

正直、アレックスが自分の邪魔しに来ることはわかっていた。

命令に忠実な男なのだから、こいつは。だが、自分には関係ない。

 

 

「黙れ。俺はこいつと決着をつける」

 

 

『サーベルを失い、隠し腕も一本失った状態でか?』

 

 

「っ!」

 

 

呆れたかのように言うアレックス。まるで馬鹿にされたかのような言い方に、カッとなるロイ。

 

 

「何だと!」

 

 

『事実だ。このまま戦い続けても、お前に勝ち目はない。死ぬぞ』

 

 

言葉に詰まるロイ。確かに、アレックスの言う通りだからだ。

武装が失った状態で、まだまだ元気なリベルタスと戦っても…、勝ち目は薄い。

 

だが、これからだというところで水を差され、納得することが出来ないロイ。

 

 

『どうせまた、こいつとは戦える。今は、引くぞ』

 

 

「…ちっ」

 

 

ロイは無理やり納得することにする。機体を振り返らせ、そのままミネルバの方向に向かおうとした。

 

 

「『!?』」

 

 

瞬間、ロイとアレックスは目を見開いた。

撤退しようとしていた二人に、なおもリベルタスが襲い掛かってきたのだ。

 

アレックスが前に出て、ロイは後方からライフルで援護する。

 

リベルタスとブレイヴァーが一度剣をぶつけ合うと、リベルタスはウルティオが撃ったビームをかわすために後退する。

だがすぐに反転して二機に向き直り、肩の収束砲を跳ね上げ、二機に向かって容赦なく放った。

 

ロイとアレックスは、砲撃をそれぞれ違う方向にかわす。

 

 

「向こうはまだ、やる気らしいぜ!」

 

 

『…』

 

 

笑みを浮かべるロイと、黙り込むアレックス。

そして

 

 

『何をしてるんだ!このっ!』

 

 

加勢するハイネ。カンヘルの背面のユニットをリベルタスに向け、ビームを照射する。

完全に死角からの攻撃だったのだが、まるで背中にでも目がついていて、背後が見えるかのようにリベルタスは照射されたビームをギリギリのところで、最小限の動きで回避する。

 

ハイネもまた、二人の元に機体を寄せて戸惑いの声を上げる。

 

 

『なんだよ…、あれ…』

 

 

そんなハイネに、ロイは言い返す。

 

 

「前から奴はあんなだ。まるで背中に目があるみたいに、死角からの攻撃も容易くかわす」

 

 

初めて戦った時からそうだった、セラ・ヤマトは。

 

しかし、その時からは想像もできないほど、今の奴は執念深く自分たちを…いや、自分を追ってきている。

何だ?一体、奴に何が起こっている…?

 

 

『セラ!』

 

 

その時、あの声がした。自分が愛した、愛しい声が。

だが、その声は自分に向けられたものではなく、奴に向けられたもの。

 

なおも襲い掛かろうとするリベルタスを抑え込むヴァルキリー。

続いて、リベルタスの目の前で停止するフリーダム。

 

 

「…あれ、撃ってもいいか?」

 

 

隙だらけに見えるフリーダム。今撃てば、落とせるとも思える。

 

 

『やめておけ。戻るぞ』

 

 

「…ちっ」

 

 

まぁ、それでも警戒はしているであろうことはロイにだってわかっている。

アレックスに続いて退いていく。

 

そして、後ろで行われているやり取りを傍目でちらりと見た。

 

まだこちらを追おうとするリベルタスに、それを抑えるヴァルキリーとフリーダム。

それを見て、再びロイは唇の形を歪めた。

 

 

「次が…、楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

待て。逃げる気か?お前はここで殺してやる。

お前も俺を殺そうとしているのだろう?それならば、来い。

 

来い

 

来い

 

 

「…ら…」

 

 

何だ?これ以上、前に進めない。

 

 

「せ……」

 

 

さっきも、俺の邪魔をしてきた奴がいた。見れば、あいつのまわりにもその邪魔してきた奴がいる。

…俺を抑えているこいつも、目の前にいるこいつも、俺の邪魔をしようとしているのか?

 

光のない眼で、ヴァルキリーとフリーダムを見据えるセラ。

そして、腰に差してあるサーベルに手を添えて…。

 

 

『セラ!』

 

 

「っ!?」

 

 

動きを止めた。

 

今の声は…、誰だ?何でこんなに心が安らかになるんだ?

何で…。

 

 

『どうしたのセラ!?しっかりして!』

 

 

この声は…、いつも聞いていた声だ。

離ればなれになって…、また一緒になれて…。今度はもう、離さないと決意した…。

 

 

「しえ…る…?」

 

 

『っ!セラ!』

 

 

光のなかった瞳に、光が蘇る。だが、その光は揺れていた。

揺れて…、セラは、大きく目を剥いた。

 

俺は…、何をしようとしていた?

ロイを殺そうとして…、それを遮ってきたザフトの機体を落とそうとして…。

 

そして、撤退するロイたちになおも襲い掛かろうとする俺を止めようとした兄さん…、シエルも殺そうとした。

 

 

「っ!?」

 

 

わなわなと震える両手。半開きとなった唇も、両手と同じように震える。

それどころか、セラの全身が震えていた。

 

 

「あ…あぁ…」

 

 

『セラ?』

 

 

震える口から声を零すセラ。

急に様子が変わったセラを不思議に思い、シエルがセラに声をかける。

 

セラは、傍らでリベルタスを支えるように寄り添うヴァルキリーを見る。

 

俺は、これを落とそうとしていた。

シエルを…、愛する人を殺そうとした。

 

 

「シエル…、俺は…」

 

 

『え?』

 

 

モニターの中で、不思議そうに首を傾げるシエル。

そんなシエルを、セラは直視できない。

 

 

「俺は…お前を…」

 

 

幼いセラの心は、そこで限界だった。

 

 

「あぁ…、あ…あぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 

狂ったように叫び声を上げるセラ。

操縦桿から手を放し、頭を抱える。

 

主のコントロールを失ったリベルタスが、重力に従って落下していく。

それを見ていたシエルが、慌てて落下していくリベルタスを追いかける。

 

 

「セラ!?」

 

 

ヴァルキリーを向かわせ、リベルタスを抱えるシエル。

だが、そのままゆったりと落下していく。リベルタスの重量を抱えたまま、遠く離れた陸地にたどり着くことは不可能だろう。

 

どうしようかと考えたその時、二機の真下から飛び出してきた白亜の巨艦。

 

 

「アークエンジェル!」

 

 

浮上してきたアークエンジェルの甲板に降り立つヴァルキリーとリベルタス。

何とか海面に叩きつけられることを回避した安心感に息をつく間もなく、シエルは先程から何の反応も示さないセラに呼びかける。

 

 

「セラ!どうしたの、セラ!?」

 

 

大声で呼びかけるが、セラは何の反応も示さない。セラは、シエルの呼びかけに何も答えない。

 

 

「セラ!しっかりして!」

 

 

『シエル!』

 

 

シエルが必死に呼びかけている中、フリーダムがヴァルキリーの近くに降り立ち、リベルタスに駆け寄った。

 

 

「キラ!セラが…、セラが何も答えないの!」

 

 

『落ち着いてシエル!セラを降ろして医務室に運ぶんだ!』

 

 

「う、うん!」

 

 

キラの言葉で、何とかシエルは平静を取り戻す。

二人はそれぞれコックピットから降り、リベルタスからセラを降ろした。

 

 

「セラ!」

 

 

「セラ、どうしたの!」

 

 

コックピットの中で、セラは意識を失っていた。

苦しげに顔を歪め、息を荒げている。

 

セラが被っているヘルメットを外し、二人がセラに呼びかけている中、異変を感じていたアークエンジェルクルーたちがやってきた。

 

 

「ストレッチャーを!医療班を早く!」

 

 

危機感に染められた表情のままキラは背後にいるクルーたちに告げる。

 

クルーたちはセラをゆっくりとストレッチャーに乗せ、医務室に運んでいく。

シエルは心配そうな表情を浮かべて運ばれていくセラについていく。

 

セラに一体何が起こったのか。

この時のクルーたちは、まったくわかっていなかった。

 

それは、セラ自身にも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『では、そのシャトルにジブリールが?』

 

 

「はい。私はそう考えております」

 

 

鋭い目を向けてくるデュランダルに対し、タリアは怯まずにそう答えた。

 

今、タリアとアーサーはミネルバの艦長室にいる。今回の戦闘の報告をデュランダルにするために。

初めは穏やかな笑顔を浮かべていたデュランダルだったが、タリアが報告を進めていくにつれてデュランダルの目が鋭くなっていった。

 

 

『いずれにしても、君たちはジブリールを取り逃がし、オーブに敗退した。…そういうことか?』

 

 

隣に立っていたアーサーがびくりと震えた。タリアも、何とか表情には出さなかったものの一瞬怯んでしまった。

だが、この男の言う通りだ。そして、自分はその選択を間違っているとは思っていない。

 

 

「はい。そういうことになります」

 

 

アーサーが戸惑いの視線を向けていることも気にせず、真っ向からデュランダルを睨み返して答えるタリア。

 

 

「アークエンジェル、リベルタスにフリーダム。そして、ヴァルキリー…といって差し支えないでしょう。それらの介入によってわが軍は一気に劣勢に押し込まれました。これ以上戦闘を続けても、犠牲が増えるだけだと私は判断したまでです」

 

 

アークエンジェルに関しては、生存はほぼ確実だという報告を受けていたためそこまで驚きはしなかった。

だが、リベルタスとフリーダムに関しては撃墜確認までされていたはずなのだ。

 

それでも、あの二機は現れた。

さらにヴァルキリーまでも戦場に出現した。我々の敵として。

 

あのヴァルキリーには、誰が乗っていたのだろう?

もし、あれにシエルが乗っていたとしたら…、撃たなければならないのか、あれを。

 

 

「…ジブリールが未だに国内にいるという確証も得られませんでしたので」

 

 

タリアは思考を一旦切って告げた。

 

 

『…そうか』

 

 

タリアとアーサーの目の前で、デュランダルは息を吐き、そしてわざとらしい笑みを浮かべる。

 

 

『いや、ありがとう。グラディス艦長。判断は適切だったと思う』

 

 

「いえ」

 

 

デュランダルは、タリアの判断を苦々しく思っている。

そのことが、今のタリアには手に取るように分かった。

 

やはり彼は、ジブリールの捕縛を望んではいなかったのだ。

…いや、ジブリールを討つというのは彼の目的でもあるはずだ。

 

だが、今回の戦闘に関しては違うというだけなのだ。

今回の戦闘で、我々に求めたのはジブリールの捕縛ではなく、オーブを討つということ。

それを求めていただけなのだ。

 

それでも、彼には何も言えない。彼は自分たちにジブリールの捕縛を命令したのだから。

オーブを討てなくても、何の非を彼を吐くことは出来ない。

 

 

『シャトルのことに関してはこちらで調べておく。オーブとは…、何か別の交渉手段を考えておくべきだな』

 

 

「私はそう考えます」

 

 

にこやかに言うデュランダル。だが、タリアはその言葉をどうも信じられない。

 

本当に、彼はオーブを諦めるのだろうか?

 

通信が切れ、何も見えなくなったモニターをしばらくの間タリアは見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

アークエンジェル医務室の中。ベッドの上で寝ているセラを、シエルやキラ。マリューらクルーたちが見つめていた。

先程までと違い、セラの寝息は安らかなものになり、表情も同じ。

 

だが、彼らには気になっていたものがあった。それはもちろん、セラのあの行動である。

自らの兄だけでなく、愛する人をも手にかけようとしたあの時のセラ。

 

誰から見ても、様子がおかしかったのは言うまでもない。

 

その時、医務室の扉が開く音が聞こえ、クルーたちが振り返る。

医務室に入ってきたのは、セラの両親と…

 

 

「ウズミ様…」

 

 

「うむ」

 

 

ウズミ・ナラ・アスハ。

セラがどういう存在かを、セラ自身はこの男から知った。

ならば、もしかすれば、この男なら何か知っているのではないかとキラたちは考えたのだ。

 

少し考えれば、そんなことはないだろうと悟ることが出来る。

だが、それでも藁をもつかむ思いでこの男を呼んだのだ。

 

 

「セラ…」

 

 

カリダとハルマがセラの元に歩み寄る。

カリダはそっとセラの髪に触れ、そのまま頬に手を持っていく。

 

 

「…キラ、無事でよかった」

 

 

ハルマは振り返ってキラを見て、そして安心し切った表情で言う。

父に言葉を掛けられ、一瞬表情が緩んだキラだったが、すぐにそれは厳しいものへと変わる。

 

 

「でも…、セラは…」

 

 

「…あぁ」

 

 

二人はカリダに優しくなでられるセラを見つめる。

未だ、セラが目を覚ます気配がない。

 

正直、セラに何が起こったのかがわからないため、いつ目を覚ますかなどまったくわからないのだ。

 

 

「あの、ウズミ様…」

 

 

「あぁ、用件は聞いているよ」

 

 

戦闘が終わり、セラを医務室に運んだあと、医者はこう言った。

 

 

『特に身体に異常はありません。…ないはずなのですが、こうして意識を失っている。我々には、彼に何が起こったのか、まったくわかりません』

 

 

とても申し訳なさそうに、医者は言った。それについて、誰も責める気はない。

しかし、セラに何が起こったのかわからないと、これからまた同じことが起きた時にまた何もできないという状況だけは避けたい。

 

だからこそ、ウズミにこのことを報せたのだ。

 

通信を通して状況を聞いたウズミは、すぐにそちらへ行くと告げて通信を切った。

少し経った今、ウズミはこの場にやってきたのだ。

 

ウズミは目を閉じて眠るセラを見つめて…、口を開いた。

 

 

「…私にもわからぬ。私とて、キラ君のことを知ったのはキラ君とカガリをどうするのか二人と話し合った時だったのだ。セラ君についても…、彼らと話した時に初めて知った」

 

 

「それでは…」

 

 

落胆した様子を見せるマリュー。マリューだけでなく、この場にいる全員が同じ表情を見せる。

だが、ウズミの言葉はここで終わりではなかった。

 

 

「しかし…、セラ君はキラ君をも超えるコーディネーターとして作り出された」

 

 

マリューたちが顔を上げてウズミを見つめる。

ウズミは全員の視線を受けながらなおも続ける。

 

 

「そして、セラ君の父親であるユーレン・ヒビキは、愛する妻を殺したブルーコスモスへの復讐の手段としてセラ君を生み出した」

 

 

ユーレン・ヒビキは、人類の希望となることを願って生み出したキラと違い、セラを兵器として生んだ。

 

 

「あの時のセラ君はまさに、戦う兵器の様に見えた…」

 

 

「あっ…」

 

 

シエルが声を漏らして、眠るセラを見下ろす。

 

まだ幼さが完全に抜けていないあどけない寝顔。

こんな少年が、想像もつかないほど残酷な戦い方を見せた。

 

 

「ロイ…」

 

 

そうだ。セラはあの時、ロイを相手にしていた。

 

そして、シエルのつぶやきを耳にしたキラがシエルに聞き返す。

 

 

「ロイって…、ロイ・セルヴェリオスのこと?」

 

 

「…うん。セラが戦っていたあの機体には、ロイが乗ってるってセラが」

 

 

「えぇっ!?」

 

 

キラだけでない。この場にいる全員が目を見開いた。

 

ロイ・セルヴェリオスは、ヤキン・ドゥーエでシエルが殺したはずだ。

死んでいたはずの人間が、現れたということになるのだから。

 

その時、他の人と違う空気を醸し出した人物がいた。

キラだ。他の人たちがなおも驚きの様子を見せていた中、キラだけは沈んで俯いていたのだ。

 

それに気づく父であるハルマがキラに声をかける。

 

 

「どうした?キラ」

 

 

「…」

 

 

俯いたままのキラ。だが、両手の拳を握りしめるとキラは顔を上げて口を開いた。

 

 

「実は、ロイの機体の他にいた紅い機体…。あれには…」

 

 

キラは、躊躇いながらもそのパイロットの名を口にした。

 

 

「アスランなんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

カガリの足下でパリィーン、と涼やかな音が響き渡った。

 

 

「カガリ様、大丈夫ですか!?」

 

 

「あ、あぁ…。大丈夫だ」

 

 

一人の兵が慌てた様子でカガリに駆け寄り、足下に散らばったガラスの破片を集め始めた。

カガリは、手を滑らせて水の入ったコップを落としてしまったのだ。

 

 

(…何だ?)

 

 

急にびくりと震えた手をじっと見つめるカガリ。

このようなことは初めてでもないし、コップを落としてしまうなど誰だってしてしまうだろう。

だが、この事がどうにもカガリは気になってしまった。

 

びくりと震えた手。いや、手だけではない。体全体が、震えた。

まるで、自分が知らない所で何かが起こっているような…、そんな予感がした。

 

 

「カガリ様…、そろそろ…」

 

 

「…あぁ。そうだな」

 

 

女性の秘書官が話しかけてきたところでカガリは思考を切った。

これから自分は自分の意志を全世界に伝える。まずは、示すのだ。

 

だが、それを邪魔しようとするものだっている。だから、カガリは呼んだ。

そして彼女も決断した。表舞台に再び現れることを。

 

 

「行こうか」

 

 

秘書官は歩き出したカガリの背中を目にした。

 

その背中はまさに、獅子と呼べる、父と同じような頼もしさを感じる背中だった。

 

 

 

 

 

 

『オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハです』

 

 

その放送は、アークエンジェル医務室でクルーたちは目にしていた。

そして、カガリの父であるウズミも。

 

だが、その表情はほとんどの誰もが浮かないものだった。

キラの話を聞いた直後のことだったのだから、そう言う表情になるのも仕方ないだろう。

 

彼女はまだ、何も知らないのだから。

彼が死んだと思い込んでしまっているのだから。

 

 

「…キラ、私も」

 

 

「そうだね」

 

 

放送が始まってすぐのこと、ラクスがキラに声をかけ、そしてキラはラクスの言葉に頷いた。

二人は体を寄せ合いながら医務室を出て行く。その様子を、クルーたちは黙って見つめていた。

 

きょうだいであるカガリの声明を見ないでどこに行くのだろう?と大抵の人は思うだろうが、クルーたちは知っていた。

これから、彼女たちが何をしようとしているのかを。

 

 

『今日、私は全世界のメディアを通じて先日、ロード・ジブリールの身柄引き渡し要求と共に、我が国にシンクしたプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダル氏にメッセージをお送りしたいと思います』

 

 

モニターで、凛とした様子で話すカガリをウズミはじっと見つめていた。

その表情からは特に何も読み取れないが、目を見ればどこか喜んでいるようなそんな様子が見て取れた。

 

モニターの中のカガリは、口調は明晰だが、気負いのない落ち着いた声で話していた。

あのカガリが…。どこまでも突進だけでお転婆だったあのカガリが…。

 

 

『過日、様々な情報と共に我々に送られてきた、ロゴスに関するデュランダル議長のメッセージは、確かに衝撃的ものでした。ロゴスを討ち、そして戦争のない世界にする…。今のこの混迷の世界で政治に携わる者として、また、一個人としても、その言葉には魅力を感じざるを得ません』

 

 

カガリの言う通り、デュランダル議長の言葉には魅力を感じた。それは間違いもない事実。

 

 

『ですがそれは…』

 

 

クルーたちの目の前で、モニターにノイズが奔った。

カガリの前に割り込むようにもう一つの画面が現れた。

 

そこに映し出された少女に、クルーたちは息を呑んだ。

桃色の髪をはためかせ現れた少女は、ゆっくりと口を開いた。

 

 

『私は、ラクス・クラインです』

 

 

「ミーア…」

 

 

シエルがその姿を見てつぶやいた。

ミーア・キャンベル。デュランダルの操るラクスが今ここに現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

『過日、行われたオーブでの戦闘をもう、皆さんはご存知のことでしょう』

 

 

涼やかな声で演説を行っているミーアを、デュランダルはモニター越しで満足げに見つめていた。

 

 

『プラントと最も親しかったかの国が、何故ジブリール氏を匿うなどという選択をしたのか、今もって私たちは理解できません』

 

 

そう。これでいいのだ。

どれだけオーブがあがいても、こちらにこのカードがある時点でその行為は無駄なのだから。

 

ミーアはこれまでと同じように切々と語り掛ける。

 

 

『ブルーコスモスの盟主…、プラントに核を放つことも、巨大破壊兵器で町を焼き払うことも、子供たちをただ戦いの道具にすることも厭わない人間を、何故オーブは戦ってまで守るのでしょうか?』

 

 

少しずつ声の音量が大きくなっていくミーアの声。

本人自身も、ジブリールに対して憤りを覚えているのだろう。

 

だが、その方がデュランダルにとっては得というの事実。

 

その方が、この放送を見ている民衆も感情移入しやすいだろう。

 

 

『オーブに守られた彼を、私たちはまた、捕らえることは出来ませんでした…』

 

 

オーブが戦ってしまったせいで、守ってしまったせいでジブリールを捕らえることが出来なかったということを民衆に知らしめる。

それが、こちらの狙い。

 

 

『私たちの世界には、数多くの誘惑があります。より良きものを望むことは悪いことではありません』

 

 

語り続けるミーアは、目を鋭くしてこちらを睨みつける。

 

 

『ですが、ロゴスは別です!あれはあってはならないもの。この人の世に不要なもので、邪悪なものです』

 

 

これで、民衆は完全にこちら側になるだろう。

オーブは孤立し、そして何をしても無駄になる。

 

思わず、唇の形を歪めるデュランダル。これで、完全勝利となる。

 

彼ら…、ヤマト兄弟がどれだけあがいても、こちらには届かない。

そのことを、証明できる。

 

デュランダルが、そう思ったその時だった。

 

 

『私たちは、それを…』

 

 

「…ん?」

 

 

ミーアの言葉が途切れたことを不思議に思ったデュランダルが、傍目でモニターを見た。

先程、こちらがオーブの放送に割り込んだ時の様にノイズが奔っていた。

 

…何が起こっている?

 

目を細くして次に起こることを目に留めようとするデュランダル。

彼は、次の瞬間、映された少女の姿に目を見開いた。

 

 

『その方の姿に、惑わされないでください』

 

 

ミーアを映していたものとは別の映像。だが、その声は彼女と同じ涼やかなもの。

そして、その姿も…。

 

 

「…やはり」

 

 

一瞬呆然としたデュランダルだったが、すぐに目を鋭くしてモニターに映る彼女を睨みつけた。

 

 

「やはり…、彼女もオーブに…」

 

 

フリーダム…、キラ・ヤマトがヴァルキリーと共に現れたという報告を受けた時、どこかで懸念していた。

戦闘に出ていたのは間違いなくシエル・ルティウス。

だが、宙からやってきた時、そこに乗っていたのは…。

 

 

「そういうことか…」

 

 

どこかあきらめの念を含んだ声でつぶやいたデュランダル。モニターから目を背けた。

 

モニターに映し出された少女は、桃色の髪を揺らし、笑顔を浮かべながらその名を告げた。

 

 

「私は、ラクス・クラインです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




セラの異変に関してですが、まだ何もわかってない状態です


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PHASE47 迷いの中で

何を書こうとしているのだろう…
作者も迷いの中で奔走しています…


アークエンジェル医務室の中でも、画面の中で語るラクス・クラインの姿クルーたちは目にしていた。

もう一つの画面の中で、ミーアが顔を青くして目を見開いている。

 

 

『私と同じ顔、同じ声、同じ名を持つ方がデュランダル議長の下にいらっしゃることは知っています』

 

 

『あ…!』

 

 

ただでさえ青ざめていたミーアの顔が、さらにその色を失っていく。

一方の、同じ顔を持つ少女は毅然として言葉を続ける。

 

 

『ですが…、私、シーゲル・クラインの娘であり、先の大戦ではアークエンジェルと共に戦った私は、今も科の艦とオーブのアスハ代表と共にいます』

 

 

我に返ったミーアが手元の原稿に目を落とす。

 

 

「ミーア…!」

 

 

その様子を見ていたシエルが痛々しいものを見るかのように目を細める。

ミーアの手にある原稿が、モニターに映し出されてしまっているのだ。

 

まずその原稿にこの状況を乗り切るためのセリフなど書かれているはずもない上に、ミーアは墓穴を掘ってしまっている。

 

 

『彼女と私は違う者であり、その思いも違うということを今、はっきりと申し上げたいと思います』

 

 

『わ、私は!』

 

 

焦って声を張り上げるミーア。だが、構わずラクスは続ける。

 

 

『私は…、デュランダル議長の言葉と意志を、支持しておりません』

 

 

『え…、えぇっ!?何で…』

 

 

ミーアがさらに混乱し、二人の態度の違いが際立ってしまう。

そこで、ミーアが映し出されていた画面が切れた。

 

 

「あっ…」

 

 

ミリアリアが驚きに声を上げた。

 

 

「議長が、切ったのでしょうね」

 

 

マリューがぼそりとつぶやく。クルーたち全員が、マリューと同じ考えだった。

 

ラクスが出てきたことで混乱したミーアが、もうここでは使い物にならないと判断したのだ。

このまま放送を続けていたら、逆効果になっていただろう。

 

だからこそ、デュランダルは放送を切った。

 

 

「ここから向こうがどう出るか…」

 

 

これで、世界は大混乱に陥るだろう。

ラクス・クラインだと信じていた人と同じ顔と声を持つ人がもう一人現れた。

 

そして、もう一人のラクス・クラインはデュランダルの意志には同意しないとはっきりと告げた。

 

ラクス・クラインの影響力は、異常と言っていいほど大きい。

ならば、そこから世界がどう動いていくか。そして、デュランダル議長もまた、どう動くのか…。

 

 

 

 

 

『戦う者は悪くない。そうでない者も悪くない』

 

 

突然、画面に現れたもう一人がラクスが語る様子を、シンは呆然と眺めていた。

 

 

『悪いのは、戦わせようとするもの、死の商人ロゴス。その言葉は、本当に真実なのでしょうか?』

 

 

悪いのは全てロゴス。デュランダルはそう言っていた。

そして、シンもまたそう思っていた。戦争が起きたのはロゴスのせいだと、そう思っていた。

 

ロゴスがなければ、こんな戦争など起きなかったし、自分たちの両親も死んでなどいなかった。

そう思っていた。

 

だが、その考えを目の前の少女はあっさりと否定する。

 

 

『ナチュラルでもない。コーディネーターでもない。悪いのはあなたではないという甘い言葉にどうか、陥らないでください』

 

 

「お兄ちゃん、この人…」

 

 

シンの傍らで動揺し、瞳を揺らせているマユがぽつりとつぶやいた。

 

 

「この人…、本物…」

 

 

「…」

 

 

マユはラクス・クラインの大ファンで、ラクス・クラインの歌が収録されているCDもたくさん持っている。

そんなマユだからこそわかったのだろう。

 

目の前のラクス・クラインこそが、本物のラクス・クラインだと。

 

ラクス・クラインを良く知らないシンとて、再び表舞台に現れたあのラクスにはわずかに違和感を抱いていたのだ。

今のラクスと昔のラクスは、どこか違うと。

それは、シンのまわりの人もそうだった。ラクス・クラインは変わったと言っていたのだ

 

ヨウランは色っぽくなったと喜んでいたのだが…。

 

テレビから流れる透明な声は、これまで自分たちが信じてきたラクス・クラインの声とは比べ物にならないほど自分たちの心に響いてくる。

シンの心に染み入り、その根幹を否応なく揺さぶる。

 

その時、今まで忘れていたデュランダル議長への疑念が再びシンの中でよみがえった。

 

 

『むろん、私はジブリール氏を支持するものではありません。彼は人として許されざることをしてきた。ですが、デュランダル議長を信じる者でもありません』

 

 

そんな…、そんな、全てを見透かしているような目をしてほしくない。

今まで信じてきた自分の正義が、全て壊れていくようなそんな感覚がシンを襲う。

 

 

『我々はもっと知らねばなりません。デュランダル議長の、本当の目的を』

 

 

デュランダルは、戦争のない世界を目指していた。シンもそれに賛同して戦ってきた。

だが、ラクス・クラインの言葉を聞き今まで消えていた疑念が再び蘇ってきた。

 

あの冷たい瞳。まるで、自分たちを駒のように扱うその言葉。そして、何かを企んでいるような…

 

 

「っ!?」

 

 

『我々はもっと知らねばなりません。デュランダル議長の、本当の目的を』

 

 

息を呑むシンの目の前で、ラクス・クラインが言い放つ。

 

デュランダルの目的。それを、この少女は…、オーブは知っているというのか。

デュランダルは、一体何を目指しているのか。何を目的としているのか。

 

 

「シン…」

 

 

シンの傍らにいたもう一人、ルナマリアが不安気に揺らめく瞳をシンに向けてくる。

…正直、そんな瞳を向けてほしくない。自分だってどうすればいいのかわからないのだから。

 

シンは、未だ流れる映像に背を向ける。これ以上聞いていても、混乱するだけだと思った。

レクルームから出ようとするシンに、マユとルナマリアがついてくる。

 

それに少し遅れて部屋から出ようとするシンに気づいたハイネが同じようにシンについてきた。

 

シンだけではない。ミネルバ全クルーだけでもない。

 

全世界の人々に、この放送は衝撃をもたらした。

それと同時に、ラクスの言葉は影を投げかけた。

 

皆が近いうちに来ると考えてやまなかった、デュランダルが作り出す輝かしいはずの未来に。

 

 

 

 

 

 

どうして…、どうしてこうなってしまったのだろう。

 

放送が終わり、することがなくなって、戻るように指示されて。

宿舎に戻る間、ミーアの心と頭の中ではその言葉がずっと繰り返されていた。

 

ミーアが演説をしている途中に、急に割り込んできた者。

それは紛れもない、自分のようなまがい物とは違う、本物のラクス・クラインだった。

そして、ラクス・クラインははっきりと言い放った。

 

━━━私は…、デュランダル議長の言葉と意志を、支持しておりません

 

何故…、何故彼女はそんなことをするのだろう。

ジブリールを庇うという選択をした、悪のオーブに与したのだろう。

 

ミーアは、両手を握りしめた。

 

何故、平和のために頑張ってきた自分が偽物で、何故悪に与した彼女が本物なのだろう…?

 

憤りを感じるが、それでも現実は変わらない。自分は飽くまで偽物なのだから。

その現実が、世界中の人々に知れ渡ることになってしまったのだから。

 

背中に感じる、冷たい汗で濡れた感触。

 

 

「さ、ラクス様」

 

 

付き人のさらに促され、ミーアは宿舎の中に入る。部屋の中で、デュランダルがどこか苛立たしく聞こえる声で何か秘書官に話していた。

 

 

「そうだ。シャトルをもう一機用意するのだ。今すぐに」

 

 

先程感じた憤りなどどこかへ飛んで行ってしまった。

今ミーアの心にあるのは、失敗してしまったという不安と、この後デュランダルに何を言われるのだろうという不安。

 

デュランダルの命を受けた秘書官が、宿舎を出て行く。

ミーアとすれ違った時、ちらりと自分を見たのは気のせいではないだろう。

 

その目が、苛立たしげに見えたのは、気のせいであってほしいのだが…。

 

 

「あ、あの…」

 

 

「ん?」

 

 

何か、デュランダルに謝らなければ。自分が失敗しなければ、きっとこの人は何事もなく、平和な世界を目指して戦いを続けていたはずなのに。

 

自分の、自分のせいで

 

 

「ご、ごめんなさいっ!私…、あのっ…」

 

 

謝らなければ。その一心で口を開いたミーアだったのだが、結局何を言えばいいのかわからなくなってしまい、言葉は切れてしまう。

 

デュランダルが振り返る。と同時に、ミーアはびくりと震えた。

デュランダルの瞳が、冷たい光を宿しているように見えたのだ。

 

だが、気のせいだったのか。気づけばそんな光は消え、いつもの優しげな瞳に戻っていた。

デュランダルは笑みを浮かべて口を開く。

 

 

「いや、とんだアクシデントだったね。私も驚いたよ」

 

 

微笑みから苦笑へ。表情を変えたデュランダルは言葉を続ける。

 

 

「すまなかったね、気まずい思いをさせて」

 

 

その言葉にはミーアを思いやる気持ちにあふれていた。

そのことに、ミーアは安堵の表情を見せる。

 

良かった。やはり、あの時の冷たい光は気のせいだったのだ。

というより、少し考えればわかるじゃないか。議長が、そんなまるで、使えない道具を見るような、そんな冷たい目をするなど、あり得ないではないか。

 

 

「でも…、私…」

 

 

そんな安堵の感情もすぐになりを潜める。

 

自分のせいで、今、世界中の人たちは混乱しているだろう。

あの時、しっかり自分が反論していればこんな事態にはならなかったはずだ。

彼女が何と言おうと、本物は自分だと言い切っていれば、こんなことにはならなかったのだ。

 

だが、デュランダルは優しげな笑みを変えずミーアに声をかける。

 

 

「何、心配はいらないさ。だが…、君はしばらくの間、身を隠していた方が良いな」

 

 

「え…、でもっ」

 

 

驚き、顔を上げてミーアはデュランダルを見上げる。

 

 

「君の働きには感謝している。だが、ここで君をまた人々の前に出してもそれは逆効果になってしまうだろう」

 

 

責めるどころか感謝の言葉をミーアにかけるデュランダル。

優しい言葉はさらに続く。

 

 

「君のおかげで世界は救われたんだ。それは誰も忘れはしないさ」

 

 

ミーアの顔に、笑みが浮かぶ。

 

そうだ…。自分が救ったのだ、世界を。

あのラクスではない。このラクスが救ったのだ。

 

本当のラクス・クラインはあっちでも、本当の歌姫はこちらだ。

平和の歌姫は、この自分なのだ。

 

 

「ほんの少しの間だよ」

 

 

デュランダルの言葉が心に染みてくる。

まるで麻薬で快楽を得ているような…、そんな感覚がする。

 

やはり、デュランダルが正しいのだ。彼がしようとしていることが正しいのだ。

失敗した自分のような奴に、ここまで優しくしてくれる人が何故あそこまで疑われなければならないのだろう。

 

そうだ。デュランダルは正しいのだ。

そして、彼に賛同し協力している自分だって正しいのだ。

 

本物は、自分だ。

 

 

「…」

 

 

ミーアの目が狂気に染まっていくのを見て、デュランダルは笑みを浮かべる。

そして、ミーアの付き人のサラと目を合わせて口を開く。

 

 

「では、頼む」

 

 

「はい。すぐに用意致します」

 

 

サラについて歩くミーアの後姿を見つめ、デュランダルは再び笑みを浮かべる。

先程浮かべたものよりも、深い笑みを。

 

 

 

 

 

 

混乱した頭を落ち着けようと自室に向かって歩くシン。

そのシンに、マユとルナマリアが、その後ろにハイネがついて歩く。

 

 

「あの…、シン」

 

 

ルナマリアが躊躇い気味にシンに声をかける。シンは立ち止まって振り返る。

 

 

「どうした、ルナ」

 

 

「あ…、その…」

 

 

「さっきの放送のことなら、止めてくれないか…。俺も、混乱してるんだ」

 

 

ルナマリアの口が閉じる。やはり、先程の放送のことを話そうとしていたのだ。

シンはわずかに息をつき、そのまま歩き出そうとする。

 

そんなシンを、呼び止める声がする。

 

 

「待ってくれ、シン」

 

 

「…ハイネ?」

 

 

シンを呼び止めたのはハイネだった。シンはもう一度振り返ってハイネを見る。

ハイネの表情は至って真剣だった。

 

どうせ、先程の放送のことだろう、とシンは考えていた。

何と言われようと、自分だって混乱しているのだから。答えられるわけがない。

 

そう思っていたのだが、ハイネが口にした言葉はそれと違っていた。

 

 

「少し話したいことがある。来い。ルナマリア、お前もだ。なに、さっきの放送のことじゃあないさ」

 

 

「「え…」」

 

 

シンだけでなくルナマリアも呼ばれる。それに、先程の放送のことではないというのはどういうことだろう。

 

今度はハイネが先頭に立って歩き出す。

すると、不意にハイネは振り返ってマユを見た。

 

 

「…兄のことが気になるんだろう?これから話すことを誰にも言わないという約束をするなら、一緒に来てもいいが」

 

 

「え…でも」

 

 

ハイネが来てもいいと言ってくれるが、マユはパイロットではない。

そんな自分が、この三人の話し合いに入ってもいいのだろうか。

 

躊躇いがマユの動きを止める。

 

だが、ハイネはマユに微笑みかけて言う。

 

 

「別に、大したことじゃないんだ。いや…、聞いた奴は驚くだろうから、誰にも言うなよ?」

 

 

「は、はい」

 

 

共にいてもいいのなら、行こう。マユはハイネについて、シンとルナマリアと共に歩き出した。

 

兄のことだけではない。ルナマリアとも、友人として、先輩としていい関係を築いていたのだ。

二人のことを気になるのは当然だ。

 

二人は、ハイネがこれから話そうとしていることに心当たりはなさそうだ。

不思議そうな表情でハイネを見て歩いている。

 

ハイネはパイロットアラートの中に入っていく。

シンとルナマリアも続いてパイロットアラートの中に入っていく。

 

 

「…?マユ、どうした?」

 

 

だが、マユだけは入ってこない。シンがそれに気づき、振り返ってマユに問いかける。

 

マユは手を口元に当て、不安そうな顔をして、アラートの前で立ち止まっていた。

 

 

「私…、本当にいいんですか?」

 

 

マユはハイネを見て、改めて問う。本当に、自分がこの話し合いに参加していいのかを。

 

パイロットしか基本入ることを許されない部屋の中に、技術員である自分が入っていいのかを。

 

 

「いいって。お前は、あいつと親しかったみたいだしな…」

 

 

「?」

 

 

ハイネに許可をもらってアラートの中に、恐る恐るといった感じで入っていくマユ。

しかし、最後にハイネは何かぼそりとつぶやいた気がした。

 

首を傾げつつも、マユはシンの隣に腰を下ろす。

 

 

「…さてと。呼び出してすまないな。お前らもあれ見て混乱してただろうに」

 

 

「いえ、そんな…」

 

 

申し訳なさそうに言うハイネに、両手を横に振りながら否定の意を示すルナマリア。

それに続いてシンも頷く。

 

ここで話すことがその放送のことならば、シンは断ってでも部屋に戻っていただろうが、ハイネが言うにはそのことではない。

そして、ハイネの纏っていた空気がいつものおちゃらけたものとはかなり違っていたものだった。

 

ハイネは、何を話そうというのか。それも、マユまでここに連れてきて。

 

 

「ハイネ。一体どうしたんだ?」

 

 

「…シン、大丈夫だって。だから、そんな睨まないでくれ」

 

 

睨む?何のことだ。

自分はただハイネを見ながら話しているだけじゃないか。

 

自覚していないシン。

 

 

「お兄ちゃん…。そんな睨んでたら、ハイネさんも話しづらいよ?」

 

 

どこか呆れているようにマユがシンを宥める。

その直後、鋭く、冷たく光っていたシンの目が少しずつ元の明るい目に戻っていく。

 

シンは無意識のうちにハイネを鋭く睨んでいたのだ。

 

どんな話なのだろうか。マユに悪影響を及ぼすようなことだったら承知しないぞ。

シンはシスコンパワーを発揮させてハイネを怯ませていたのだ。

 

シンの目が戻ったことにハイネは息をつき、改めて口を開いた。

 

 

「さてと…。まぁ、特にルナマリアは聞きたくないだろうが…。前回のオーブ沖での戦闘のことだ」

 

 

「っ」

 

 

ルナマリアは目を見開き、息を呑む。シンも、どこか苦い表情になる。

 

ジブリールを取り逃がし、それどころかオーブに敗退してしまったあの戦闘。

 

 

「ハイネ…。まさか、ジブリールを逃がしたのはルナマリアのせいだって言うんじゃないだろうな!」

 

 

もしそうだとしたら、すぐにもでルナマリアとマユを連れてこの場から立ち去る。

そして、もう二度とこの男とは協力して戦うつもりはない。

 

そんな意志を込めてハイネを睨む。

だが、ハイネは表情を変えずにシンを見つめ返す。

 

ハイネは、首を横に振った。

 

 

「違うさ。あれはルナマリアのせいなんかじゃない。むしろ、あれを相手に仕留めきれなかった俺とシン。お前のせいだ。違うか?」

 

 

「…」

 

 

シンは黙り込んで頷く。

 

ハイネの言う通りなのだ。ジブリールを逃がしたのはルナマリアのせいなんかじゃない。

リベルタス、フリーダムを相手に勝つことが出来なかった自分たちのせいなのだ。

 

しかし、あの二機と戦っている途中に割り込んできたあの二機。

あれらのパイロットは、どこかの艦に収容されてからまたどこに行ったのかはわからない。

 

そして、その二機が乱入してきて直後に現れたあの白い機体。

思い返せば思い返すほどあれはヴァルキリーだと否定できなくなる。

 

 

「まぁいい。俺が話したいのはリベルタスとフリーダム。そして、ヴァルキリーのことだ」

 

 

「っ!?」

 

 

びくりと震えるシン。今まで考えていたことをハイネは話そうとしていたのだ。

 

 

「ヴァルキリー…?」

 

 

マユが、目を見開きながらハイネに問い返す。

その声は震えていた。

 

マユはパイロットではないものの、ミネルバのクルーなのだ。

それも、技術員。当然、ヴァルキリーの整備を担当したことだってある。

 

そして、そのヴァルキリーのパイロットは…

 

 

「ヴァルキリーに乗っていたのは…、シエル・ルティウスで間違いないだろう」

 

 

「「「っ!」」」

 

 

シンたち三人は驚愕する。

 

シンもルナマリアも、ヴァルキリーが現れたということは知っていただろう。

だが、そのパイロットが誰なのかというのははっきりとわかっていなかったはずだ。

 

シンが補給に後退した直後、ロイ・セルヴェリオスと話すシエルの声を、ハイネははっきりと聞いたのだ。

 

間違いなく、それはシエルの声だった。

 

 

「そんな…シエルさんって…。どういうことですか!?ハイネさん!」

 

 

マユが声を荒げてハイネを問い詰める。ハイネは表情を変えずにマユの目を見る。

 

 

「そのままの意味さ。ヴァルキリーは落とされ、アークエンジェルに収容された。そのまま、シエルは裏切っちまったっつうことだろ」

 

 

表情を変えずに、というのは違った。

確かに変わっていないようにも見えるが、ハイネの表情は苦々しい。

 

付き合いは短かったが、ハイネもシエルと仲が悪いという訳ではなかった。

むしろ、同じ隊長という立場に立つ者同士、良い関係を築いているようにも見えたのだ。

 

そんな仲間が裏切ったという事実。何も感じないというのはあり得ないだろう。

 

 

「…ともかく、そういうことだ。リベルタスにフリーダム。そしてヴァルキリー。向こうには手強い相手が勢揃いだ。本当に、間が悪くてすまないが…。そのことを頭に留めておいてくれ」

 

 

そう言い残して、ハイネは立ち上がり、アラートから出て行く。

 

だが、シンもルナマリアもマユも。その場から動くことが出来なかった。

親しかった仲間が、友達が、自分たちを裏切った。

 

そして、これからその仲間と銃を撃ち合うということもあるだろう。

 

そのことが頭に過ると、どうにもやりきれない気持ちになってしまう。

どうして、こんなことになってしまったのだろう。

 

 

「…行こう。ここにいたって、どうにもならないだろ」

 

 

静かな声でシンは言った。

ルナマリアとマユが、まるで縋るようにシンを見る。

 

だが、シンは二人を見なかった。見ているのは、前だけ。

 

 

「守らなきゃいけないんだ…」

 

 

立ち上がったシンは、アラートを立ち去っていく。

そんなシンを、ルナマリアとマユは見つめることしかできない。

 

二人の視線を受けながら、シンはアラートを出て、自室へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラは、暗闇の中にいた。

どこまで見渡してもそこは闇。何も見えず、何も感じることが出来ない空間。

 

 

「…ここは」

 

 

つぶやきセラには、ここにどこか既視感を覚えていた。

 

 

「…ここは、そうだ」

 

 

一度、ロイに落とされた時。自分は意識不明で医務室に運び込まれたという。

その時も、こんな感じの空間で一人、そして変な声を聴いたのだった。

 

セラは、何故こんな所にいるのかを思い返す。

 

 

「…っ」

 

 

そして、思い出す。

 

オーブを守るために、新たな剣を手に戦った。

あの男、ロイ・セルヴェリオスが現れ、戦い。シエルを物のように言うその言い草に怒り、殺そうとした。

 

そこからも、よく覚えている。

心にあったのは、目の前の敵を殺すというその一つの意志だけ。

ザフトが信号弾を上げ、撤退を開始してもそれは変わらず、自分はロイを殺そうと追った。

 

それを止めようとしたシエルとキラ。

そんな二人を、自分はロイを殺す邪魔をする者だと判断し、殺そうと…した。

 

 

「あっ…あぁ…っ」

 

 

混じる。乱れる。焦り、苦しみ。

 

何て事を、自分はしようとしていたのだろう。

肉親どころか、愛する人をも手にかけようとしたのだ。

 

絶対に守ると決めた女性を、血に染めようとしたのだ。

 

 

『それが、お前の役目だ』

 

 

「っ!?」

 

 

ここで、耳に届く声。

そう、この声だ。あの時聞いた声と同じ声が、セラの耳に届いた。

 

 

『全て、殺す。それが、お前の役目なのだ』

 

 

「ふざけるな!俺は…、俺はそんなこと!」

 

 

言葉を否定するセラ。

 

全てを殺すことが自分の役目など、そんなことがあるはずがない。

一人の人間である自分の力は、自分の意志で振う。

 

それが、これまで貫いてきたセラの信念。

 

 

『だが、お前は殺そうとしただろう?愛する人を、その手で』

 

 

「っ!」

 

 

目を見開くセラ。何か反論の言葉を探す。

だが、何も言えない。事実なのだ。

 

自分は、シエルを殺そうとしたのだから。

 

 

『何も憂うことはない。それが、お前に与えられた使命なのだから』

 

 

声は、セラに語り掛ける。

 

苦しまなくてもいいのだと。殺さなくてもいいのだと。

 

 

『お前の力は、そのためにある』

 

 

自分の力は、殺すためにある?

なら、今までは何だった?

 

大切な人を守るために使ってきたこの力。

それは、間違った使い方だったのか?

 

誰もいないはずなのに、誰かの手が優しく頬に触れる。

 

 

『手を伸ばせ。お前を苦しみから解放してやろう』

 

 

「…」

 

 

セラの右手がピクリと小さく動く。

 

セラの中で渦巻く迷い。

手を伸ばしたい。この苦しみから解放されたい。

 

ダメだ。ふざけるな。この手で、愛する人を殺すなどするわけにはいかない。

 

二つの思いがセラの中で渦巻く。

 

だが、少しずつセラの右手が上がっていく。

 

 

(ダメだ…。ダメだ…)

 

 

心ではそれを止めようという言葉が繰り返される。

だがそれに反して右手は上がっていく。

 

苦しみの解放へと、向かっていく。

 

闇の中で、誰かが笑った気がした。

けど、どうでもいい。そんなのは、どうでもいい。

 

ここで、解放されよう。殺したって、いいじゃないか。

誰かのために自分がここまで苦しむ必要など、ないじゃないか。

 

それに、殺すことが自分の力の使い方だと言っているではないか。

 

セラの右手が、上がり切ろうとする。闇の手に、セラの右手が届こうとする。

 

 

『貴様の生き様、見届けさせてもらうぞ』

 

 

「…」

 

 

セラの目が大きく見開いた。

耳に届いた声。今まで自分に語り掛けてきた声とは違う。

 

 

「…そうだな」

 

 

セラは目を伏せ、小さく笑った。

 

セラの右手は、もう上がることはなく、ゆっくりと下がっていく。

 

 

『なんだと…?』

 

 

「悪いが、あんたの言いなりにはならない。危うく見失うところだったが…」

 

 

あの時、自分は何を思って戦っていたのかをはっきりと思い出した。

 

人の強さを見せようと。守る価値があることを。見せようとしていた。

あの男に、大切な人たちを殺させないと。

 

 

「俺は戦う。殺すためじゃない、守るために」

 

 

セラは、目の前にいる闇に背を向けて歩き出す。

闇が向けてくる視線を受けつつも、セラはその足を止めない。

 

 

『…まぁ、いい。だが、逃れられると思うなよ』

 

 

その言葉が聞こえた瞬間、闇の気配が消えた。

セラは立ち止まり、振り返った。だが、そこには何もない。あるのは、暗い闇だけ。

 

 

「…」

 

 

逃れられない。そうかもしれない。自分の力からは逃げることなどできない。

 

ならば、自分の力とも戦えばいいだけだ。そして、打ち勝てばいい。

そうすれば、自分の力を全て操ることが出来るだろう。

 

セラは再び前を向いて歩き出す。

目の前には、先程まではなかった光が差し込んできていた。

 

セラは光に向かって歩き続ける。

 

 

「…」

 

 

セラの体が光に包まれた途端、セラの意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うぅ」

 

 

口から洩れる声。目を開ければ、明るい光が差し込んでくる。

まぶしく感じ、思わず目を閉じて…、もう一度ゆっくりと瞼を開けた。

 

ここは、アークエンジェルの医務室のようだ。

ロイに落とされた時の様にまた、医務室に運び込まれたようだ。

 

苦笑を浮かべるセラ。

先程のこと、すべて覚えている。

 

キラとシエルを殺そうとして、苦しんで。

闇に打ち勝ち、決意を強くした。

 

そして、闇に負けそうになったときに聞こえてきた声を思い出す。

 

 

「クルーゼ…」

 

 

自分が殺した男。最後に、自分の背を押す言葉を残してくれた男。

 

まさか、あそこで助けてくれるとは思っていなかった。

苦い笑みからにやけた笑みに変わる。

 

宿敵だった男が救ってくれた。それがどうも面白く感じてしまう。

 

セラは両腕を立て、ゆっくりと上半身を起き上がらせる。

特にけがはないせいか、体が重いなどという感覚は全くない。

 

これなら、医務室を出てクルーたちに挨拶に行ってもいいかもしれない。

そんなことを考えながらセラは足をベッドから出し、ベッドの足下にあったスリッパに手をかける。

 

 

「…?」

 

 

そこで、医務室の扉が開く音がした。

セラは扉の方に目を向けて…、微笑む。

 

逆に、医務室に入ってきた人物は立ち止まり、呆然としていた。

 

セラは、立ち止まったその人に声をかける。

 

 

「おはよう、シエル」

 

 

セラの汗でも拭こうとしていたのだろう。手に持っていたタオルを投げ捨て、シエルは駆けだした。

そして、セラの胸に飛び込む。

 

セラは両腕をシエルの背中に回し、そっと抱きしめた。

 

何度も感じた。そしてずっと感じていたい温もり。

それを伝えてくれる人が、そっとつぶやいた。

 

 

「おはよう、セラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず、テストの鬼門は乗り越えたので投稿再開です


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PHASE48 響き渡る歌

だんだん終わりに近づいて行ってますね…


デュランダルは、身の回りをまとめたミーアと付き人のサラが乗ったシャトルを見送り、そして自らもまたシャトルの搭乗口に向かっていた。

 

しかし、ここまで予定通りに事を進めていたものの、ここに来てのアクシデントが起こるとは思ってもいなかった。

 

リベルタスとフリーダム━━セラ・ヤマトとキラ・ヤマトの生還。それによってのオーブ陥落の阻止。

さらにラクス・クラインの出現である。

 

これでは。もう表舞台でミーアは使えない。

とはいえ、彼女にはまだ働いてもらわなければならない。

まだ、彼女には使い道がある。ここで捨てるには惜しい。

 

 

「こちらは予定通りメサイアに上がる。月の連合軍の動きは?」

 

 

「未だ何も」

 

 

デュランダルの問いかけに答える秘書官。

 

オーブから逃れたジブリールは間違いなく、月の連合軍と合流したはずだ。

だが、まだ何も動きを見せていないらしい。

 

デュランダルはまわりに悟られるように小さく舌を打つ。

 

ジブリールを逃がしてあげたというのに…。まさか、怖気づいたのではあるまい。

ここで恐れるような男ではないはず。そうでないなら、意味がない。

 

デュランダルはシートに着き、深く背をもたれる。

大きく息をついたのに気づいたのだろう。秘書官がデュランダルにいたわりの視線を向ける。

 

 

「しかし…、色々なことが起こるものだな…」

 

 

「ええ…」

 

 

秘書官が頷く。

この秘書官も、多くの人たちの様にデュランダルを信じている。

 

その様子を見て、デュランダルは心の中でほくそ笑む。

 

確かに、あのタイミングで彼女が出てくるとは思わなかった。

MSを利用して地球に戻るなど、想定外ではあった。

 

 

「だが、もう遅い。すでに、ここまで来ているのだから…」

 

 

あがけばいい。ラクス・クライン。

だが、ここまで事を進めてきた自分を止めることなど不可能だ。

 

たとえ、セラ・ヤマトにキラ・ヤマトという強大な戦死を振りかざそうとも、それは変わらない。

 

自分に負けは、あり得ない。あるのは、勝利だけなのだ。

 

動き出すシャトルの中で、やがて来る勝利に思いを馳せながら、デュランダルはゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グノー、予定ポイントまで残り二十分です」

 

 

状況を告げるオペレーター。ジブリールの目の前のパネルに映し出される宙域図に、移動する光点が明滅する。

 

 

「レクイエムジェネレーター稼働率八十五パーセント。二十三番から五十五番まで臨界」

 

 

月面に築き上げられた基地、ダイダロス。オペレーションルームを見下ろすことが出来る司令ブースにジブリールの姿はあった。

次々に進められる発射シークエンスに、ジブリールは満足げに頷く。

パネルを見れば、その進行度がよくわかるのだ。

 

 

「パワーフロー良好。超鏡面リフレクター、臨界偏差三一二九」

 

 

「予備冷却系GRを起動。バイパス接続」

 

 

ジブリールが見据えるパネルには、地球、月、プラントが示されている。

そして、ゆっくりとプラントに向かっていく光点の物体が今回の作戦のかなめだ。

 

この光点が最後の中継点。これがなければ、何もかもが台無しになってしまう。

これと同じような光点は他にもいくつかある。だが、これには代わりがある。

 

最後の中継点だけは代わりを作り出すのはもう不可能だろう。

これ以上動きを見せれば、ザフトが本格的にこちらに討伐隊を出撃させてくる。

 

基地のはずれには、巨大な円形の建造物が存在していた。

構造物は鈍く光り、未だ閉じられている扉の奥では、カウントダウンと共にエネルギーが蓄積されている。

 

心躍らせながら経過を見守るジブリールに、低い声がかけられた。

 

 

「しかし、本当に撃ってもよろしいのですかな?」

 

 

ジブリールに声をかけたのは、ダイダロス基地の司令官だ。

ジブリールは司令官を睨みつけながらその問いかけに答える。

 

 

「当たり前だ。これで全てを終わらせる。そのためにここに上がってきたのだから」

 

 

本来プラント攻略が行われているのは、月面裏側のアルザッヘル基地だ。

ここダイダロス基地ではレアメタルの採掘などを中心に行ってきた。

 

だが、ジブリールはこの基地を選んだ。その理由が、この基地で密かに建造されていた巨大兵器ゆえだ。

 

 

「それは頼もしいお言葉ですね」

 

 

ジブリールはわずかに目を見開く。正直、この司令官がしり込みしているのではと思っていたからだ。

が、出てきた言葉はジブリールの意志を肯定するもの。

 

薄らと笑みを浮かべ、司令官はパネルに目をやる。

 

 

「最近はなぜか、必要だと巨額な経費をつぎ込んで置きながら肝心な時に撃てないという、心優しい政治家様もいらっしゃるようでしてね…。あなたがそのようなお優しいお方でなくて嬉しく思っています」

 

 

ジブリールは、嘲笑を浮かべながらその言葉を受け入れる。

 

 

「ふんっ!私は大統領のような臆病者でも、デュランダルのような夢想家でもない」

 

 

軌道間全方位戦略砲レクイエム。それが、巨大兵器の名称だ。

レクイエムの発射シークエンスは、すでに終わりが見えてきている。

 

もうすぐ、蒼き正常なる世界を取り戻すことが出来るのだ。

穢れたコーディネーターの手から世界を開放することが出来るのは、自分だけなのだ。

 

 

「撃つべき時には撃つさ…。守るために」

 

 

ジブリールはこちらに笑みを向けてくる司令官から、作業進行度を表すパネルに目を移す。

そして、ほくそ笑む。

 

だが、ジブリールは知らない。

 

先程まで笑みを向けていた司令官の表情が、冷たく、鋭く、そしてジブリールを憐れむようなものになっていたことなど。

 

 

 

 

 

「…もう始まっているみたいだな」

 

 

ジープから降りた、宇宙服を着た男がぼそりとつぶやいた。

ダイダロス基地内から、多くのモビルスーツが発進している。

 

基地付近で、ザフト艦が向かってくるのを感知したのだ。

 

そんな中、男とその傍らにいる二人の兵士は秘書官の案内に従って基地の内部に入っていく。

 

 

「…お待ちしておりました」

 

 

基地の内部に入ってすぐ、宇宙服を着た男に向かって頭を下げる兵士たちの姿があった。

それを傍目で見ながら、男たちは宇宙服を脱いでいく。

 

 

「あぁ。今までごくろうだったな」

 

 

宇宙服を脱ぎ捨て、白いスーツ姿となった男は笑みを浮かべながら兵士たちに返す。

男、ウォーレンはすぐに兵士たちに先に進むように言い、案内について進み始める。

 

 

「ザフトが来たようだな」

 

 

基地の奥に進んでいる中、ウォーレンが近くにいた兵士に声をかけた。

兵士は頷いた後、口を開く。

 

 

「すでにレクイエムのチャージは九十パーセントほど終わっております。なので、心配はいらないかと」

 

 

「…だと、いいがな」

 

 

ウォーレンも、当然レクイエムの存在を知っている。

レクイエムは強大な力を誇っている。たった一射で、プラントの一部を消滅させることができるほど。

 

だが、その強い力も扱い者が弱くては話にならないのだ。

そして、レクイエムを扱うのは哀れな王なのだ。

 

レクイエムでこの戦闘を終わらせるのは不可能ではないか。来るのが、遅すぎたのではないか。

ウォーレンの心の中で、わずかに焦りが生まれる。

 

 

「司令室はあちらになりますが、格納庫はこちらです」

 

 

進んでいくと、前方に分かれ道が現れた。

兵士の言葉を聞き、ウォーレンは後ろにいた二人の兵士に指示をする。

 

 

「ネオ、スウェン。お前らはこの兵士に案内に従え。俺はあっちですることがある」

 

 

「…了解」

 

 

「…」

 

 

ウォーレンと共にダイダロス基地にやってきた二人の兵士は、ネオ・ロアノークとスウェン・カル・バヤンだった。

ヘブンズベースの戦闘のすぐ後、二人はウォーレンの元に行った。

 

ウォーレンの指揮下の中、二人はずっと待機しており、そして今、ここダイダロス基地にいる。

 

二人はウォーレンの指示に頷いた後、兵士の後についていく。

そしてウォーレンも、基地の奥、司令ブースを目指して進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

母艦から飛び出した瞬間、まるでリングのような、中央が空間となっている構造物に向かって機体を進ませる。

新たに受領したグフ・イグナイテッドを駆りながら構造物を見据えたイザーク・ジュールは忌々しげに舌を打った。

 

 

「くそっ!報告通り、かなりの数がいるな!」

 

 

構造物のまわりには、その構造物を守る様に大量の艦隊がまわりを囲んでいた。

艦隊からは、次々にモビルスーツが発進していく。まっすぐにこちらに向かってくるモビルスーツに対して身構えながら、イザークは構造物に目を向けた。

 

これは、一体何なのだろうか?直径六キロメートルほどにも及ぶ巨大な円筒。

良いことをするために作られたものでは間違いなくないだろう。

 

 

「しかし、レーダーがあてにならなくなっているとはいえ、これほどの巨大な物体を見落とすとは…!」

 

 

イザーク率いるジュール隊は、上層部からの命令でやってきていた。

プラントに向かっている構造物を破壊せよというのが今回の任務である。

 

だが、上層部も何をやっているのだ。

これを見落とすというのは、どうしても怠慢としか思えない。

 

 

『けどよ…、何でこんな所にこんなもんがあるんだろうな…』

 

 

イザークの耳に、ディアッカ・エルスマンの不審げな声が届く。

敵艦隊にザフトが気づかなかったのも、監視範囲内にこの構造物が存在していなかったからだ。

ここからでは、攻撃を仕掛けるにはあまりにも遠すぎる。

 

一体なぜ、こんな所にこんなものを築き上げたというのだろうか?

 

 

「それはわからん!だが、友好使節ではないことは確かだ!━━行くぞ!」

 

 

『あぁ!』

 

 

敵艦隊から放たれる放火をかわしながら、イザークはディアッカに叫び返す。

ディアッカもイザークに力強く返答し、二人はそれぞれ違う方向に機体を向かわせる。

 

ブルーにカラーリングされたグフが虚空を切り裂きながら敵もビスルーツに向かっていき、ザクファントムが突撃銃を撃つ。

 

イザークは隊の戦闘に立ち、ウィンダムに躍りかかる。ビームソードを展開し、縦に振り下ろせば、ウィンダムは縦に切り裂かれた。

さらに後方からもウィンダムが襲い掛かるが、イザークは素早く機体を上方に上げる。

 

そして、ウィンダムの上を取るとすぐさまビームガンを連射する。

 

背後で怒る爆発には目もくれず、イザークは艦隊を運んでいるコロニーに向かっていく。

 

それを妨害しようとするモビルアーマーが眼前に躍り出る。

イザークは再びビームガンを連射させるが、モビルアーマーのシールド部が展開され、そこから出力されたリフレクターが連射されたビームを全て弾き飛ばす。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

イザークは周りを見渡し状況を確認してみる。

 

友軍モビルスーツが巨大コロニーを破壊せんと攻撃を仕掛けるが、全ての攻撃がモビルアーマーによって防がれている。

やはり、このコロニーが何らかの要になっているのだろう。

何としてもこのコロニーを守ろうとしている。

 

イザークは何としてもコロニーに取りつこうと機体を向かわせるが、モビルアーマーがそれをさせまいと立ちふさがってくる。

だが、モビルアーマーはイザークを落とそうとはしてこない。

代わりに、リフレクターを出力した状態のままイザークの前で停止して進行を妨害してくる。

 

 

(なるほど…。攻めはウィンダムやダガーのモビルスーツ。防御はリフレクターを搭載したモビルアーマーということか…!)

 

 

上手い役割分けにイザークは苛立つ。

 

何故かはわからないが…、今すぐに、このコロニーを落とさなければならない。そんな予感がするのだ。

 

イザークは再び機体をコロニーに向かわせようとする。

だがその時、コロニーの外壁を取り囲むように取りつけられた無数のブースターが噴射を始めた。

 

 

「何だ…?制動をかけるのか!?」

 

 

コロニーの移動が、止まる。

 

 

「何故…。こんな所で…」

 

 

先程も言ったが、ここからではプラントに攻撃を仕掛けるには遠すぎる。

もしや、ザフトに見つかってしまったため、ここでやめるということはないだろう。

 

イザークは戦闘を続けながら、コロニーを窺う。

すると、今度は対角線上にあるブースターが噴射され、コロニーがゆっくりと傾いていく。

 

 

(転針…、いや違う。細かな調整…!?)

 

 

まるで転針しているように見えるが、イザークはすぐにそれが細かな調整をしているのだと悟る。

 

 

『なんだ!?何をしようとしている!?』

 

 

ディアッカも自分と同じものを見ていたのだろう。

自分と全く同じ疑問を口にする。

 

そう。ここで調整を行っている理由は何だ。ここから、一体何をしようとしているのだ?

敵の思惑を推し量ることが出来ない。だが、このまま思考しているわけにもいかない。

 

 

「わからんが、とにかく止めるんだ!エンジンに回り込め!」

 

 

『あぁ!』

 

 

直感のままに命じる。

イザークとディアッカは噴射を続けるブースターに向かって機体を向かわせる。

 

ディアッカは背部のミサイルポッドを開き、ミサイルを発射させる。

二人を追ってきた隊員も、全ての砲火をブースターに集中させる。

イザーク自らも、ビームガンを連射させブースターの破壊を試みる。

 

片側のブースターが潰すことが出来れば、回転軸を乱すことが出来るはずだ。

そう考えての砲撃だったのだが、目に見える変化は見られない。

 

敵の思惑がわからない分、焦りがどんどん募っていく。

 

その時、コロニーのまわりに展開されていた敵艦隊が四方に散りながら後退していく。

イザークはそれを見てさらに戸惑いを濃くした。

 

 

「何なんだ…!?」

 

 

動きを止めてしまうイザーク。

本来ならそれはしてはいけない愚かなことなのだが、今回はそれを指摘する…いや、指摘できる者はいない。

 

イザークが隊長だからというそういう階級的理由ではない。

皆が連合軍の動きに戸惑っているのだ。

 

これから何かが起こるのはわかる。

だが、それが何なのか。わからない今、それに対する動きができない。

 

ザフト軍は、完全に混乱するのだった。

 

 

 

 

 

最終中継地点、グノーがようやく所定位置につくことができた。

そのことを確認した司令官が、ジブリールを窺って問いかける。

 

 

「照準はどこに?」

 

 

その問いに、ジブリールは鼻で笑いながら答える。

当然、照準は…

 

 

「アプリリウスだ。これは警告ではない!」

 

 

プラント首都、アプリリウス。最高評議会の建物もそこに位置している。

そして、デュランダルは今、アプリリウスに到着しているころのはずだ。

 

ジブリールは駆け引きなどしようとしていない。この一射で、決着をつけようとしているのだ。

この長く続いた戦いの、決着を。

 

司令官は、薄く笑うジブリールを傍目で見て、目をつぶる。

そして、目を開くとすぐにジブリールの言葉を命令に変え、命じる。

 

 

「照準、プラント首都、アプリリウス!」

 

 

「目標、アプリリウス」

 

 

司令官の言葉をオペレーターが復唱し、最終シークエンスを進行させる。

 

 

「最終セーフティー解除。全ジェネレーター臨界へ」

 

 

基地のはずれに位置する砲口を覆っていた門がゆっくりと開いていく。

開いた砲門の奥で、迸る光が大きさを増していく。

 

 

「ファーストムーブメント、準備よろし。レクイエムシステム、発射準備完了」

 

 

「シアー開放、カウントダウン開始。発射までTマイナス三十五」

 

 

オペレーターの言葉を聞き、司令官は命じた。

 

 

「トリガーを回せ」

 

 

直後、ジブリールの前のコンソールが開き、何かがせりあがってきた。

ジブリールはそれを持ち上げる。

 

それはまるで、巨大な銃の引き金。

レクイエムのトリガーをジブリールは手に取り、興奮に表情が歪む。

 

それを抑えようともせず、ジブリールは高々に叫ぶ。

 

 

「さあ、奏でてやろう!デュランダル!」

 

 

パネルに示されたプラントを見据える。

 

 

「お前たちを弔う…鎮魂歌を!」

 

 

その指が、発射ボタンを押し込む。

 

途端、基地のはずれの砲口の光がさらに大きさを増す。

そして、その光は渦巻きながら砲門から月面上空へと駆け上がる。

 

光の渦は第一中継点に吸い込まれていくと、中継点を通過すると同時になめらかなカーブを描く。

光の渦の行く先は、第二中継地点。中継点を通過、湾曲してまた次の中継点へ。

 

それを繰り返しながらプラントへと向かっていく光の渦を、ジブリールはうっとりと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「全軍、回避ぃーっ!」

 

 

イザークは声の限りで叫ぶ。

月面から発射された光の渦は、あり得ない湾曲を繰り返しながらこちらに向かってくる。

 

どういう原理かはわからないが、ともかく巨大な砲撃がこちらに向かってきているのだ。

 

 

『イザークっ!』

 

 

ディアッカの叫びが耳に届いたその瞬間、イザークたちが攻撃を仕掛けていたコロニーを光の渦が通過していく。

再び光の渦は湾曲し、大きく奇跡を変えて進んでいく。

 

それを見た瞬間、イザークは背筋に寒気を感じた

 

カーブを描き、再び光の渦はまっすぐに進んでいく。

そして、その先は…

 

 

「ああっ…!?」

 

 

その先は、彼らの故郷━━プラントがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球を立ったデュランダルはシャトルを降り、司令室へと向かっていた。

周りの将校たちに指示を飛ばしている中、デュランダルは傍らにいる秘書官に問いかけた。

 

 

「ジェセックは来ているか?動くコロニーに関する情報は?」

 

 

「いえ、未だ」

 

 

デュランダルの問いかけに、首を横に振りながら答える秘書官。

 

 

「目的が不明ですので、ジュール隊には停止を第一にと命じてはおりますが」

 

 

「そうか」

 

 

メサイアの将校の報告を受け、デュランダルは淡々と頷きながら司令室に足を踏み入れる。

まさにその瞬間、司令室のオペレーターが上擦った声を上げた。

 

 

「月の裏側に高エネルギー体発生!こ、これは…!?」

 

 

周囲が一瞬、一気に静まり返る。

デュランダルを迎えるために歩み寄ろうとしていた議員が足を止める。

 

そんな中、オペレーターたちはコンソールに飛び込み、慌ただしく計器を操作する。

 

モニターが切り替わる。その画面には、凄惨な光景が映し出された。

それを見た一同はうめき声を、または悲鳴を上げる。

 

映し出されたのはプラントの全景。巨大な砂時計にも似た百数十機の宇宙プラント。

宇宙空間を奔る一筋の光条が、砂時計の一部を貫いた。

さらに光条はそれだけでは止まらず、まわりのコロニーを含めて軽々と切り裂いていったのだ。

 

切り裂かれたプラントは宇宙空間に放り出される。

 

それだけではない。バランスを崩したプラントが、まわりのプラントに衝突し、切り離された断片が隣のプラントに穴を開ける。

 

 

「あ…あぁっ…!」

 

 

デュランダルに歩み寄ろうとしていた議員が、絶句している。

 

コーディネーターが持つ技術を結集して作り出されたプラント。

それを易々と切り裂いていった光条。

たった一筋に光条によって悪夢は引き起こされてしまった。

 

今、数百万の命がこのわずかな間に失われてしまったのだ。

 

 

「バカなっ…!こんな…っ!」

 

 

議員がわなわなと震える。

議員だけではない。指令室にいる全ての人たちが体を震わせている。

 

凍り付く空気の中、怒鳴り声が空気を震わせた。

 

 

「どういうことだ!?」

 

 

デュランダルが拳を握りしめながら、怒鳴ったのだ。

 

 

「どこからの攻撃だ!一体、何が起こっているというのだ!?」

 

 

デュランダルの声により、司令室にいる人たちは我に返ることが出来た。

オペレーターはコンソールを操作し、状況確認を始める。

 

デュランダルは険しい表情を解かない。

だが、それでも心の中の興奮を抑えることに必死になっていることは誰も知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカな…!くそっ!」

 

 

ジブリールは悪態をつく。

レクイエムは確かにプラントに命中した。それを見たジブリールは、勝利を確信し、ほくそ笑んだ、

 

だが、レクイエムが命中したのは目標のアプリリウスではなく、プラントの底ヤヌアリウス。

 

 

「どういうことか!?」

 

 

司令官が厳しく問いただす。

少しの間が空き、オペレーターの答えが返ってくる。

 

 

「戦闘の影響かと思われます。グノーの射角が計算より外れていたようで…」

 

 

最終中継地点グノー

ザフトに見つかり、攻撃を受けたことによる射角のずれ。

それが、レクイエムの照準のずれを引き起こしてしまったのだ。

 

 

「何てことだ…、くそぅ!」

 

 

ジブリールは掌に拳を叩きつける。

 

この先制の一射で全てを終わらせるつもりだったのだが、何という誤算だ。

 

レクイエムのエネルギーチャージは時間がかかる。

そのチャージ完了まで、ザフトの猛攻を耐えなければならない。

 

二射目を撃たせるわけにはいかないと、ザフトも必死になるだろう。

そんな中、レクイエムの二射目のチャージを行わなければならない。

 

 

「ちぃっ…!」

 

 

歯噛みするジブリール。

これから起こる戦闘は、競争になる。

 

二射目を撃つか、ザフトが攻めるか。

 

 

 

 

そして、ジブリールが思わぬ誤算に歯噛みしている中、プラントの惨状を見ていたジュール隊は呆然としていた。

 

 

「な…、なんだ…」

 

 

イザークもまた、自身の混乱を制御できずにいた。

目の前で、プラントが貫かれたのを目にしたのだ。

 

夢なら覚めてくれ。そんな思いもわずかに過る。

 

何だ。何なのだ。

 

そんな混乱の中、手元に被害状況が記された電文が届いた。

 

 

『ヤヌアリウスが…!ディセンベルもか!?』

 

 

同じ電文を受け取ったディアッカが震える声でつぶやいている。

 

 

 

「くそっ!」

 

 

イザークは拳をコンソールに叩きつける。

 

繰り返される惨劇。そして、それを防ぐことが出来なかった自分のふがいなさ。

確かに、月の裏側からコロニーを利用した方法でプラントを狙ってくるなど誰も予想できまい。

 

だが、それを防ぐことが出来る場所に自分は、自分たちはいたのだ。

それなのに防ぐことが出来なかった。

 

イザークは目を上げ、先程まで攻撃を与えていたコロニーを睨みつける。

 

 

「ディアッカ!こいつを落とすぞ!」

 

 

イザークはレバー引き、ペダルを踏んで機体を動かす。

 

 

「二射目があればプラントは終わりだ!それだけは何が何でも阻止するぞ!」

 

 

『あぁっ!』

 

 

ディアッカだけではない。ジュール隊全てがイザークについてコロニーへと向かっていく。

何としても、プラントを守るのだ。これ以上の犠牲は絶対に出さない。

 

それが、軍人である自分たちの役目なのだ。

 

 

「このぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

イザークは雄叫びを上げながらビームガンを連射させる。

 

 

「いいか!一点に砲火を集中させるんだ!」

 

 

怒りに燃えながらも、その中で冷静さも失わない。

イザークの指示が飛ぶと、ガナーザクウォーリアの隊がオルトロスを構える

放たれた砲撃が、コロニー外壁を襲う。

 

だが、再び展開された連合の艦隊。モビルアーマーがリフレクターを展開して放たれた砲撃を防ぐ。

 

 

「くそっ!」

 

 

イザークはその様子を見ながら歯噛みする。

何としても二射目を防ぐ。プラントを守る。

 

そのためにも、数ある中継点を落としていかなければならない。

こんな所で、止まってはいられない。

 

 

「はぁああああああああああああああっ!」

 

 

イザークはビームソードを構え、目の前の連合軍モビルスーツ隊に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

プラントを襲った惨劇は、カーペンタリア基地で出航を待つミネルバにも知られていた。

シンは、レクルームのモニターに映し出されているプラントの状態を見て息を呑んでいた。

 

宇宙に並んだ砂時計が無残にも引き裂かれ、まわりの宇宙空間はきらきらと光っている。

これは、プラント内部から出た水か、それとも破片か。急速にフリーズドライされた亡骸か。

 

 

「っ!マユっ!」

 

 

シンの隣にいたマユが、うめき声を上げた直後、ふらりとよろめき崩れ落ちる。

シンは慌ててマユの腕をつかみ、そしてマユの体を抱える。

 

 

「だ、大丈夫かっ?マユ」

 

 

「…うん。でも…」

 

 

青ざめた顔をシンに向けて答えるマユは、すぐにプラントを映したモニターに目をやる。

 

部屋の中は、多くの悲鳴が響き渡っている。

中には、家族を呼びながら叫んでいる者も。

 

貫かれたヤヌアリウスとディセンベルに家族が住んでいる人も少なくはないはずだ。

 

 

「何で…?何で…、こんな…!」

 

 

シンの近くにいたルナマリアが、震えた声でつぶやく。

その問いに答えるように、背後から声が届いた。

 

 

「ジブリールの…仕業だな」

 

 

シンたち三人は振り返り、声の主、ハイネを見た。

ハイネは壁際のコンピュータを操作しており、三人はその画面をのぞき込んだ。

 

 

「月の裏側からの攻撃だ。こちらがアルザッヘルを警戒している間に…」

 

 

ハイネは、目を鋭くさせ、拳をテーブルに撃ちつけながらぽつりとつぶやいた。

 

 

「こんなものが…、くそっ」

 

 

冷静に見えたハイネだが、やはり祖国を撃たれたという怒りは確かに存在していた。

いや、むしろ怒りを抱かない方がどうかしている。

 

 

「でも、裏側って…、そんなの、できるのか!?」

 

 

シンがハイネに問い詰める。

 

シンの言う通り、月の裏側からプラントを狙うのなんて不可能だ。普通なら。

 

Nジャマー環境下では、遠距離からミサイル攻撃はできない。

かといって、光学兵器も直線状にあるものしか狙えない。

 

だが、連合はその不可能を可能にしたのだ。

 

 

「廃棄コロニーに、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを搭載し、ビームを数回にわたって屈曲させたんだ」

 

 

それについては、シンもデータで見たことがある。

直進するビームを曲げ、攻撃や防御に利用することが出来るという技術。

 

 

「こんなシステムがあるなら、どこからであろうとプラントを狙える…」

 

 

「そんな…、そんなことをっ…!」

 

 

シンの支えを解き、マユは拳を握りしめながら震える。

 

連合は、開戦当初の核攻撃を防がれ、そのまま核攻撃を諦めていた。

だが、密かにこんな恐ろしい兵器を開発していたのだ。

 

 

「ジブリールを討つことが出来なかった、俺たちの責任だ…」

 

 

「っ!ハイネ、でもそれはっ!」

 

 

それは、オーブのせいだ。オーブが邪魔さえしてこなければ、ジブリールを討つことが出来たのだ。

だが、ハイネは首を横に振り、拳を握りしめながら口を開く。

 

 

「何であれ、俺たちはジブリールを討てなかった。あそこで…、必ず討つべきだったんだ…」

 

 

ハイネが悔しさに震えている中、シンは同じように震えているルナマリアを見た。

 

ルナマリアは、ジブリールが乗っていたシャトルを撃ち落とすように命じられ出撃した。

が、それは失敗に終わってしまった。

 

しかし、それは仕方ないと思える。ルナマリアが出撃した時には、すでにシャトルはかなり遠くまで行ってしまっていた。

どれだけ射撃に自信がある者でも、あの距離で撃ち抜けることは不可能だったといえる。

 

だが、ルナマリアは責任を感じて震えている。

そんなルナマリアの右手を、シンはそっと握る。

 

 

「っ!?」

 

 

ルナマリアは目を見開きながら、ばっとシンの方に振り向く。

今にも涙が零れそうな瞳を見つめながら、シンはそっと微笑んだ。

 

それだけで、十分だった。

 

確かに、自分たちの責任でこのような惨劇を引き起こしてしまったのかもしれない。

だが、次はない。これからすぐに月に行き、何としてもジブリールを討つ。

 

ルナマリアの手を握りしめながら、シンは固く決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行こう。すぐに」

 

 

アークエンジェル艦橋で、セラは言い放った。

言葉を発したセラに、クルーたちの視線が集中する。

 

艦橋のモニターには、貫かれたプラントが映し出されていた。

それを見たセラは、少し経った後に言い放った。

 

 

「セラ…。でも…」

 

 

キラが、気づかわしげにセラを見ながら言う。

 

セラは、つい先日まで医務室で意識不明の状態だったのだ。

大したけがもなく、後遺症もないとはいえ心配は全くないとはいえないのだ。

 

だが、セラは首を横に振ってキラの心配を一蹴する。

 

 

「ここで行かなかったら、いつ行くの?」

 

 

クルーたちの目が瞠る。

 

 

「何としても止めなきゃいけない。そして、それをやれる力が俺たちにはあるんだ」

 

 

セラは、クルーたちを見回しながら言葉を続ける。

 

 

「行かないと言うなら、俺一人でも行く」

 

 

セラの瞳には、決意が満ちていた。もう、何を言ってもセラは動かない。

 

 

「…私も、セラと同意見です」

 

 

セラの隣から発せられたその言葉に、クルーたちが驚愕する。

その言葉を発したのはシエル。シエルは、セラが戦おうとするこの状況を止めるだろうと思っていたからだ。

 

 

「キラ、セラのことが心配なのはわかる。でも、セラの言う通りだよ。ここで行かなかったら、いつ行くの?」

 

 

「…」

 

 

キラがシエルを眺めている中、キラの肩をぼん、と叩く者の姿があった。

 

 

「トール…」

 

 

「セラとシエルだけじゃないぜ。俺だっている。それに…、お前だって行くだろ?」

 

 

キラはトールを見つめて…、視線を落とした。

そして、口元を歪ませて、ふふっと声を漏らした。

 

 

「いつもなら、この役はシエルがやってたのにね…」

 

キラは目を上げ、セラ、シエル、トールを見渡す。

三人は、笑みを浮かべてキラを見ていた。

 

 

「そうだね、行こう。議長のことも気になるけど…、それよりも、今ある脅威を何とかするべきだよね!」

 

 

キラたち四人は、同時に頷いた。

そして、四人はマリューに目を向ける。

 

視線を向けられたマリューは、何も言葉を言わずにただ頷いた。

 

 

「アークエンジェル、発進準備を開始します!人員は所定の位置についてください!」

 

 

艦橋にいるクルーたちはすぐにそれぞれの席についてそれぞれの役目を果たす。

艦橋にいる者たちだけではない。格納庫にいた技術員たちも、放送を通して伝えられたマリューの声を聴き動き始めていた。

 

そして、セラたち四人だが、固まってぼそぼそと声を伝え合う。

 

 

「ここにいたら邪魔になる」

 

 

「そうだね、とりあえずここから出ようか」

 

 

セラとキラが言い合い、シエルとトールが頷く。

 

四人は艦橋から去っていく。扉が閉まっていく間、艦橋内にいるクルーたちを見つめていた。

 

まるで、自分たちのわがまま言付き合わせたみたいだった。

だが、ここで動かなければ全てが終わってしまう可能性だって出てくる。

 

それだけは避けなければならない。ならば、少しでも力になれることをすればいい。

 

セラたちもまた、再び起こる惨劇を止めるべく動き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE49 哀れな王

長いです



「全艦、発進準備完了です」

 

 

アーサーが固い声でタリアに報告する。

アーサーも、放送を通してプラントの状況を見ていたのだ。

 

これから、ミネルバは月に向かう。月のダイダロス基地にある巨大殺戮兵器を破壊するために。

今も、ダイダロスではジュール隊を中心にして戦闘が行われている。

 

タリアは、クルーたちの緊張した面持ちを見回した後口を開いた。

 

 

「皆、連戦で疲れているとは思うけど…」

 

 

ここまで、ずっと戦い、戦いの連続だった。

クルーたちの疲労は察するものがある。自分だって、もし良いと言われればすぐさま休みをもらいたいと思っている。

 

だが、クルーたちはその疲労を外に出すことはなかった。

あるのは、不安と焦慮。

 

 

「正念場よ。ここで頑張らなければ、帰る家がなくなるわ」

 

 

プラント本国が撃たれたというのはクルーたちに大きな衝撃を与えた。

ミネルバクルーたちの中には、撃たれた区域に家族が住んでいたものもいるはずだ。

 

それでも、ここで頑張らなければならない。

そうでなければ、再びプラントは撃たれてしまう。そうなれば…、終わり。

 

クルーたちの引き締まった顔を見て、タリアは念を押すように続ける。

 

 

「いいわね?」

 

 

「はい!」

 

 

クルーたちが力強く返す。タリアはシートに深く背を預けて前方を見据えた。

 

 

「機関最大!ミネルバ、発進します!」

 

 

再び、宇宙へ行く。

 

思わぬ事態で地球に降り、何度も激戦を潜り抜けた。

何度も何度も死ぬ思いになるほどの経験を繰り返した。

正直、今となってはここ地球に降りたことに感謝すらしている。

 

だが、もうここにいる必要はない。いてはいけない。

自分たちはこの母なる大地で大きく成長した。

その成長した全ての成果を、あの月の戦闘でぶつける。

 

そして、勝つのだ。勝って、祖国を守り抜いて見せる。

 

タリアは、視界に広がった星空の中から、無意識の中で帰るべき場所を探していた。

 

 

 

 

 

 

「ザフト艦隊、動き出しました!イエロー一三六アルファ!」

 

 

「えぇいっ!くそっ!」

 

 

オペレーターがザフト艦隊の進軍を報告し、広がる緊迫した空気の中、ジブリールは悪態をつく。

 

 

「レクイエム再チャージ急げ!セカンドムーブメントの配置はどうなっているか!?」

 

 

司令官は、表情を変えずにオペレーターに問いかける。

すでに、ザフト軍の攻撃によって第五中継点グノーは落とされてしまっている。

 

第二射を撃つには、また違う経路を使ってレクイエムを撃つしかないのだ。

さらに、レクイエムはシアチャージに時間がかかる。その時間を稼ぐためにも…

 

 

「守り切れよ…。今度こそアプリリウスを葬るのだからな!」

 

 

ジブリールは次の一射でアプリリウスを仕留めるつもりだった。

レクイエムのチャージの時間を稼ぎ、その上で中継点を守り抜く。

 

今ある戦力は、数の上ではザフト軍よりも優位に立っている。

だが…、全ての中継点を守りつつレクイエムを撃つというのは、誰の目から見ても不可能だ。

 

ジブリールは、それをやろうとしている。

 

 

「ですが…、全ての中継点を守りつつレクイエムを撃つなど…」

 

 

「できぬというのか!いや、やれ!ここで終わらせるのだよ…、全てを!」

 

 

ジブリールが、両手を広げ、司令官に向かって怒鳴る。

 

こいつは何を言っているのだ?できない、だと?

ふざけるな!今ここで終わらせなければならないのだ!

この機会を逃せば…、また、準備に時間がかかってしまう。

 

 

「私の…、私の命令を聞け!」

 

 

まるで呆れているようにこちらを睨む司令官にジブリールは命じる。

しかし、司令官はジブリールから視線を外してため息をつくだけ。

 

 

「き…、貴様ぁっ!」

 

 

ジブリールは司令官につかみかかろうと駆けだす。

だが、そのジブリールの動きは傍から飛び出してきた腕に止められた。

 

ジブリールの前に腕が出現し、ジブリールは動きを止める。

目を見開き、ジブリールは腕が出てきた方に目を向ける。

 

 

「…なっ!?」

 

 

ジブリールは驚きの声を上げる。

そして、腕の主。男は口を三日月形に歪めながらジブリールをじっと見つめていた。

 

 

「久しぶりだな、ジブリール。ヘブンズベースでお前が逃げ出して以来か」

 

 

「貴様っ…!」

 

 

ジブリールは歯を食い縛り、目の前に立つ男を睨みつける。

その男は、以前までは自身の側近として働いていた。

 

兵としての力も優秀で、ジブリールもその男のことを気に入っていた。

だが、いつしかその態度が変わっていき、自分を見下すようなそんな目をするようになっていた。

 

だから、ヘブンズベースから逃げ出すとき、その男を置いていった。

 

 

「ウォーレン…!」

 

 

ウォーレン・ディキアが、ダイダロス基地の兵士二人を引き連れ、現れた。

ジブリールは、自らを見下すウォーレンを憎しみを込めて睨みつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大気圏を離脱したミネルバは、フルスピードで月軌道へと向かっていた。

 

 

「司令部との連絡はまだか!?」

 

 

アーサーがメイリンに問いかける。

メイリンはコンソールを操作して…、口を開いた。

 

 

「入りました!」

 

 

メイリンは計器を操作し、届いた電文を開こうとして動きを止めた。

 

 

「ですがこれは…、特命コードです!」

 

 

「何…っ?」

 

 

アーサーだけではない。タリアもメイリンに言葉を聞いて眉を顰めた。

特命というのは、どういうことだ?このまま予定通り、月艦隊と合流するのではないのだろうか?

 

司令部からの電文を、メイリンが読み上げる。

 

 

「すでにゴンドワナを中心とする月機動艦隊は、砲の第一中継地点にて交戦中。ミネルバは合流予定を変更し、ただちに敵砲本体排除に向かわれたし」

 

 

「ええっ!?」

 

 

その内容に、アーサーは驚愕の声を出す。

 

 

「本体ということは…、ダイダロス基地に!?」

 

 

タリアは厳しい表情で押し黙る。すぐにパイロット三人を艦橋に呼び出し、命令の内容を三人に伝える。

三人はその内容に目を見開く。

 

 

「砲の本体を…、俺たちだけでですか?」

 

 

「だけかどうかはわからないけど…、命令にはそう記されてあるわ」

 

 

シンの問いに答えるタリアは、援軍は期待していなかった。するべきではないと考えていなかった。

しかし、ミネルバ一隻で敵基地を攻撃するというのは相当に難しい作戦だ。

 

 

「確かに、ここからではダイダロスの方が近い…。そう言う判断ですかね…」

 

 

命令の内容を聞き思考したハイネが、苦笑気味の表情を浮かべながら言った。

 

 

「そうね。あれのパワーチャージのサイクルがわからない以上、問題は時間、ということになるわ」

 

 

月の裏側に位置するダイダロス基地も、今のミネルバの位置からは容易に近づける。

だが第一中継地点には月を回り込まなければならない。

距離から見ればダイダロスを攻め込むのがセオリーではある。

 

何よりも重要なのは時間なのだ。間に合わなければ、意味がない。

たった一隻で基地を襲えと言うのはどれだけきついか、想像もできない。

 

 

「それに、敵が月艦隊に注意を向けている状態であるのなら、奇襲にもなりますしね」

 

 

ハイネがそのことに気づき、口に出す。

 

今、連合側は第一中継地点を襲っている月艦隊に注意を向けているだろう。

まさか基地に、それも単独で襲ってくるなど考えもしないだろう。

 

それに、奇襲をするなら単独の方が接近しやすい。

 

 

「奇襲…」

 

 

どこか懐疑的な面持ちでつぶやくシン。

確かにタリアやハイネの言う通り作戦の通りに動いた方が良いというのはわかる。

それでも不安だという気持ちは存在している。

 

シンは、ちらりとルナマリアを見た。

シンと同じように不安なのだろう。目じりを下げ、俯き押し黙っている。

 

タリアはそんな少年少女を見る。

二人の気持ちはよくわかる。だが…

 

 

「厳しい作戦になるのは確かよ。…でも、やるしかないわ」

 

 

タリアはシンとルナマリアを見据えながら厳しい口調で言う。

 

 

「…はい」

 

 

まずはシンがタリアに頷きながら返す。

ルナマリアもまた、シンから間を置いて、何も言わずに頷いた。

 

同胞たちを守らなければならない。

できないかもしれない、とは言っていられないのだ。

 

 

「目標まで、後四十分というところよ」

 

 

もうすぐ、目的の場所に着く。

そして、血みどろの戦闘が始まるだろう。

 

タリアは覚悟を固めながら少年たちを見つめた。

 

 

タリアから司令部から届いた命令について聞いた三人は、パイロットスーツに着替えアラートに集合していた。

アラートのモニターでは第一中継点での交戦が映し出されていた。

 

月艦隊も、連合の物量に攻めあぐねているようで、第一中継点への攻撃を手こずっている。

 

プラントの無辜の市民たちが再び命を奪われるなどという事実をこれ以上起こすわけにはいかない。

だから、絶対に負けるわけにはいかない。それなのだが…

 

 

「間に合うのかな…」

 

 

ルナマリアが不安気な面持ちでぽつりとつぶやく。

傍らにいるルナマリアを、シンは見つめる。

 

レクイエムの二射目のことを言っているのは間違いない。

そして、その二射目を止めるには自分たちの働きによって決まると言っても過言ではない。

 

プラントの運命が自分たちの手にかかっているのだ。

今になって、その責任の重さがひしひしと実感してくる。

 

 

「第二射までに第一中継地点を落とすことが出来ればかろうじてプラントを撃たれることは回避できるが…、奴らのチャージが早ければ、艦隊ごと薙ぎ払われてしまう」

 

 

ハイネの言葉に、シンとルナマリアはわずかにたじろいでしまう。

 

 

「お前たちを怖がらせたくはないが…、トリガーを握っているのはそういう奴だということは忘れるなよ」

 

 

「あぁ、わかってる」

 

 

ハイネの問いかけに淡々と答えるシン。

 

ハイネの言う通り、ジブリールはチャージが完了すればすぐにでも発射するだろう。

それを平気でするような奴だということは、シンにもルナマリアもわかっている。

だからこそ、急がなければならないのだ。

だからこそ…、不安になって仕方ないのだ。

 

 

「ルナ…」

 

 

ルナマリアは唇を震わせ、拳を握り、俯いている。

そして、ルナマリアがゆっくりと口を開いた。

 

 

「私が…、あの時、ジブリールを撃てていれば…」

 

 

シンとハイネはルナマリアに目を向ける。

 

オーブでの戦闘で、ルナマリアはジブリールが乗ったシャトルを撃ち損じてしまった・

それを、ルナマリアはまだ自分を責めていたのだ。

 

シンは手をルナマリアの肩に置いて声をかける。

 

 

「ルナのせいじゃない。俺たちだってあの時、何もできなかった。そんな風に言うなよ」

 

 

「…うん」

 

 

何とか気を晴らせようとしたシンだが、ルナマリアの表情は晴れない。

そんなルナマリアに、ハイネが声をかける。

 

 

「ルナマリア、気持ちはわかるが切り替えろ。同じことを繰り返したくないのなら」

 

 

「ハイネ!」

 

 

シンは思わずハイネを咎める。慰めたいのなら、他にも言いようがあったはずだ。

そんなきつい言い方をしなくてもいいだろう。

 

シンはそう思っていたのだが、ハイネの言葉はルナマリアに効果覿面だったようだ。

沈んだ様子で俯いていたルナマリアは顔を上げ、目に力を込めてハイネを睨んで言った。

 

 

「わかってるわ」

 

 

意地になった感じで言い返すルナマリアを見て、ハイネはにやりと笑った。

シンはその様子を見て安心し、微笑みながらルナマリアに言う。

 

 

「そうさ!プラントも月艦隊も、絶対にもう撃たせないからな!」

 

 

「うん!」

 

 

ルナマリアもシンを見て強く頷く。

そんな二人を見てハイネは微笑む。これで、もう大丈夫だろう。

 

 

「んじゃ、作戦を話すぞ。耳かっぽじってよぉく聞けよ?」

 

 

ニヤリと笑いながら、ハイネは二人を交互に見て説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォーレン…!貴様、今までどこに行っていたぁ!?」

 

 

目を血走らせてウォーレンを見据えながらジブリールは叫びかける。

 

ウォーレンはヘブンズベースの戦いから行方をくらませていた。

確かにジブリールはウォーレンを見捨てて逃げていった。

だが、ザフトに捕獲された兵士のデータの中に、ウォーレンの名がなかったのだ。

 

ウォーレンがジブリールの目を見つめて…、視線を逸らしたと思うとまるで嘲るようにふっ、と笑った。

ウォーレンの仕草の一つ一つがジブリールの癇に障る。

まるで、自分を馬鹿にしているような感じがするのだ。ロゴスの当主である自分をだ。

 

 

「本当に…、哀れだな、ジブリール」

 

 

「なにっ…!」

 

 

不意にかけられた言葉に、ジブリールの頭は沸騰する。

 

 

「何て口の利き方だぁ!この私にぃっ!」

 

 

唾を吐きながら怒鳴り散らすジブリール。

だが、そこで何とか冷静さを取り戻そうと呼吸をつき…、ウォーレンに告げる。

 

 

「まぁ、いい。ちょうどいい時に来た。貴様も出撃してザフトを止めろ」

 

 

告げられたウォーレンは、動かない。じっとジブリールを見たまま動かない。

 

ウォーレンに再びジブリールは告げる。

 

 

「何をしている!早く行け!」

 

 

腕を払うように動かしながら指示を出すジブリール。だが、なおもウォーレンは動かない。

さらに、ウォーレンはジブリールを見つめたまま、唇の端を歪めた。

 

 

「っ!」

 

 

今度こそ、我慢の限界だった。

馬鹿にしている。馬鹿にしているのだ。この私を。

青き正常なる世界を取り戻すことのできる唯一の人物である、この私を…!

 

 

「ウォーレェエエエエエエエンっ!」

 

 

まったく身動きする様子の見られないウォーレンにつかみかかろうとジブリールは歩み寄る。

だがその時、オペレーターの報告が司令ブースに響き、ジブリールに衝撃を奔らせた。

 

 

「十時方向に艦影あり!」

 

 

「なにっ!?」

 

 

目を見開いて驚愕するジブリール。

そんなジブリールを差し置き、ウォーレンはジブリールの眼前を横切り、先程までジブリールが立っていた場所に立ち止まる。

 

 

「距離は?艦種は何だ?」

 

 

「距離は五十!これは…、ミネルバです!」

 

 

きびきびとオペレーターに問い返すウォーレンを見て、ジブリールの中の怒りがさらに増していく。

 

ウォーレン、貴様は今、どこに立っているのかわかっているのか?

そこは私の場所だ。全てを支配する、私の立つ場所だ。

貴様の立っていい場所ではない!

 

 

「何を勝手にやっている!」

 

 

再びウォーレンにつかみかかろうと動き出すジブリール。

だが、その動きはウォーレンが懐から取り出したものによって止められた。

 

 

「なっ!?き、貴様…!」

 

 

「…」

 

 

無感情でジブリールを見据えるウォーレン。

ジブリールはウォーレンの手に握られているものを見て、目を見開き、体を震わせる。

 

 

「な、何のつもりだ…、ウォーレン…」

 

 

「…何のつもりも何も、あんたが目にしている通りだよ」

 

 

ウォーレンが握っている物は、拳銃。その拳銃を、あろうことかジブリールに向けているのだ。

 

ジブリールは、震える足で後ずさりしながら、引き攣った笑みを浮かべてウォーレンに話しかける。

 

 

「し、正気か…?ウォーレン…。私を…、う、撃つ…」

 

 

「そうだ」

 

 

ジブリールが問いを言い切る前に、ウォーレンは答えを出してしまう。

自分は、この銃でお前を、ジブリールを撃つと。

 

ひっ、と口から声を漏らすジブリール。

何故だ。一体何が起きているというのだ?

 

 

「警報!スクランブルだ!ただちにミネルバを迎撃しろ!」

 

 

動けないジブリールをよそに、ウォーレンはオペレーターたちに指示を出す。

 

 

「それと二人に伝えろ!すぐに出撃しろと!」

 

 

二人、とは誰だ?いやそれよりも、何故基地の者たちはウォーレンの指示に従っている?

何が何だかわからず、混乱するジブリール。

 

そんなジブリールに、嘲笑を浮かべながら目を向けてくるウォーレン。

 

 

「これが現実だよ、ジブリール。お前に従う兵士は、もうどこにもいない!」

 

 

「んなっ!?」

 

 

自分に従う者は、もういない?何だ…、何なのだ!

何がどうなっている!?

 

さらに混乱を深めるジブリールに、ウォーレンはさらに続ける。

 

 

「元々あんたのやり口に不満を持っている奴なんかそこらじゅうにいたんだよ。まぁ、それに気づいてあんたが変わればこんなことにはならなかったんだろうがな…」

 

 

自分の…、何が不満だったのだ。

それがわからないジブリール。

 

何故なら、今まで何も変わらなかったのだ。

今までずっと自分についてきてくれたのだ。

それなのに今は…、目の前で自分に銃を向けてくる奴についていっている。

 

 

「何故だ…、何故…!」

 

 

わからない。まったくわからない。どうしてこうなった。

何で…、何故…。さっきまで…、自分は…、勝利を…。

 

 

「…ムルタ・アズラエル」

 

 

「っ」

 

 

不意につぶやかれた名前に、ジブリールは顔を上げる。

 

ムルタ・アズラエル。前ブルーモスモス当主の名前だ。

彼の後継者として自分、ロード・ジブリールが選ばれたのだ。

 

アズラエルが死に、組織はかなり崩れの途を辿っていた。

それを、ジブリールは立て直し、さらに以前よりもさらに力を蓄えた組織としたのだ。

 

 

「だが、それがお前のおかげだとでも思っていたのか?」

 

 

「!」

 

 

ウォーレンは一体何を言っているのだろうか。

その言葉一つ一つがジブリールの心に突き刺さる。

その言葉一つ一つが、自分を驚愕させる。

 

 

「…っ、私を動揺させようとしても無駄だ!」

 

 

ジブリールもまた、懐から銃を取り出しウォーレンに向ける。

 

ウォーレンが何を言っても、そんなことはただの戯言に決まっている。

自分はロード・ジブリールだ。ロゴスの当主のロード・ジブリールだ。

 

 

「…哀れだな、ジブリール」

 

 

「!?」

 

 

ウォーレンが、見下すようにジブリールを見る。

瞬間、ジブリールは気づいた、気づいてしまった。

周りが…、囲まれている。

 

 

「な、何の…つもりだ…」

 

 

再びウォーレンに問いかけるジブリール。

今、ここで起きている現実をジブリールは信じきれないでいた。

 

当主である、自分が部下である兵士たちに囲まれているのだ。

それも、兵士たちは銃を自分に向けている。

 

 

「さっきも言ったはずだ。お前に従う兵士は、もうどこにもいない、と」

 

 

ウォーレンが無機質な声でジブリールに告げる。

その後、ウォーレンは戦況が示されているパネルを見てからオペレーターに告げる。

 

 

「全ての中継点を守る必要はない。一、二、三の中継点に戦力を集中させろ」

 

 

「はいっ!」

 

 

ウォーレンの指示にオペレーターが返事を返し、何やら通信をつなげて言葉を伝えている。

その様子を見たジブリールは唖然とする。

 

先程もそうだったが、自分の指示でもないにもかかわらず部下が動いている。

自分の指示ではなく、ウォーレンの指示で。

 

 

「今ここでプラントを撃つのは諦める。だが、レクイエムと一、二、三の中継点だけは守り切れ」

 

 

再びウォーレンの指示が飛ぶ。そして、その指示にきびきびと答えるオペレーター。

それを見たジブリールはここに来て初めて気づく。

 

自分が指示した時とウォーレンが指示した時の違いに。

明らかに、答えるときのスピードが違いすぎる。

 

 

「お前はもう、用無しだ」

 

 

「くっ…!」

 

 

ウォーレンが、改めて銃をジブリールに向けなおす。

額に冷たい汗が流れる。まわりは囲まれ孤軍の状態。

頼ってきた部下ももうウォーレンの手の中。

 

こうして銃を持ってはいるものの、射撃などろくにできやしない。

絶対、絶命。

 

 

「…お前を殺す前に、言っておいてやろう」

 

 

「!」

 

 

ウォーレンの言葉に、ジブリールは耳を傾ける。

傾けながら、ジブリールは隙あればウォーレンを撃ってやろうと構える。

 

 

「ムルタ・アズラエル。彼の死後、本来ならば彼の後を継ぐ者は決まっていた」

 

 

何を言うかと思えば、アズラエルについてを語りだすウォーレン。

何のつもりだ。ここでそんなことを言って、何になる。

 

 

「そしてロゴスの当主。それも、本来彼が亡くなりさえしなければ彼が就任していた。お前だけでなくな」

 

 

「っ!?…だが、奴は死んだ!」

 

 

「そして、彼が死んでからも、本来お前の他に跡を継ぐべき者がいた」

 

 

衝撃を受けるジブリール。

アズラエルが死に、自分が手腕を振い、満場一致でロゴスの当主を受け、そしてブルーコスモス党首の座を継いだと思っていた。

 

だが、それは間違いだったとでもいうのか?

 

 

「アズラエルには、息子がいた」

 

 

「なにっ!?」

 

 

この短時間で何度驚愕しただろう。

アズラエルに子供がいたなど、聞いたこともなかった。

 

それより、何故ウォーレンがそんなことを知っているのか。

 

 

「血がつながった子供ではない。だが、彼はその子に愛情を注ぎ、育てた。本来、彼の後を継ぐ者はその子だった」

 

 

「何をっ!」

 

 

ジブリールはもう我慢できなかった。引き金に指をかけ、引こうとした。

だが、それと同時にまわりの兵士たちもまた、引き金に指をかける。

 

動けない。ジブリールは、動けないでいた。

このままウォーレンを撃ってもその後に自分が撃ち殺されるだけだ。

それでは本末転倒。自分は、生き残らなければならないのだ。

 

青き正常なる世界を取り戻すことが出来るのは、自分しかいないのだという盲信。

ジブリールはその盲信に取りつかれていた。

 

 

「だが、子供は断った。まだ、子供には力がなかった。力がなければ何もできない」

 

 

「…」

 

 

ウォーレンの言う通りだ。力がなければ、何もできない。

力がある者こそ正義。だからこそ!

 

 

「この私が、当主となったのだ!」

 

 

「違う。お前はただ、借りていただけだ。その子供から、今、座しているその椅子を」

 

 

何も、言い返すことが出来ない。いや、やろうと思えば言い返せるはずだ。

だが、何故かできない。ウォーレンから発せられる気迫に圧され、口を開くことが出来ない。

 

今のジブリールは、まるで生まれたての小鹿の様に震えていた。

そんなジブリールを見下すように見るウォーレンは続ける。

 

 

「今ここで、その椅子を返してもらう」

 

 

「っ、うわぁあああああああああああああああああ!!!」

 

 

ニヤリと笑みを浮かべて告げるウォーレン。

 

ふざけるな!ここまで来ておいて、邪魔をされてたまるか!

 

ジブリールの理性がプチりとキレる。引き金に指をかけ直し、引く。

だが、その直前に、パァン!と耳障りな発砲音が響き渡った。

 

ジブリールはそれでもなお、引き金を引こうと力を込める。

しかし…、力が、入らない。さらに、胸辺りが妙に熱い。

 

 

「…は?」

 

 

目を下ろして熱く感じる部分を見て、ジブリールは目を丸くした。

自分の胸に、穴が空いている。その穴からは赤い血がごぽり、ごぽりと噴き出てくる。

 

 

「なっ…こっ…。ごぼっ!」

 

 

さらに、自身の口からも大量の血が吐き出される。

力が抜け、膝から崩れ落ちるジブリール。

 

ジブリールは、胸から流れる血を抑えるために手を添える。

だが、出血は全く止まらず指と指の隙間からさらに流れ落ちていく。

 

 

「ぐっ…、あっ…!」

 

 

ジブリールは目を上げる。眼前には、こちらに歩み寄ってきているウォーレンの姿が。

憎々しげにウォーレンを睨みつけるジブリール。

 

それを見たウォーレンは、感心したかのようにほぉぅ、と声を漏らす。

 

 

「へぇ。まだそんな目が出来るとは…。正直、少しだけ見直したよ」

 

 

「ぐっ…、あぁああああああああああああああああああっ!!!」

 

 

もう、ウォーレンの言葉など聞こえてはいなかった。

ジブリールの心の中にあるのは、何としても生き残ることだった。

死にたくないという意志だった。

 

プラントがどうとか、蒼き正常なる世界が等どうでもよかった。

ただ、自分が生き残る。死にたくない。それだけだった。

 

 

「しかもまだ向かって来ようとする、か…。けど」

 

 

だが、無駄だった。

立ち上がろうとしたジブリールの眉間に銃口が押し当てられ…、弾丸に貫かれた。

 

 

「おしまいだ、ジブリール」

 

 

間違いなく、即死だ。それでも、ウォーレンはさらに続ける。

 

 

「これからは…、このウォーレン・アズラエルが、蒼き正常なる世界を取り戻す」

 

 

傍目で倒れているジブリールを見て、ウォーレンは司令室全体が見える場所まで移動する。

 

 

「戦況は…有利か」

 

 

「はい。戦力を集中させているおかげか、中継点に集まっているザフト軍は押し返しつつあります。ですが…」

 

 

「ミネルバはそうはいかない、か…」

 

 

ウォーレンの一、二、三の中継点を守るという作戦が嵌ったのか、中継点を中心とする戦闘は優勢に傾きつつあった。

だが、基地本体を襲ってきたミネルバは止められていない。

 

 

「…仕方ない。出したくはなかったが、デストロイを出せ。だが、モビルスーツとの戦闘はさせるな。艦を止めることだけを考えさせろ」

 

 

「はっ」

 

 

デストロイは対モビルスーツ戦闘には向いていないとウォーレンは考えていた。

確かに並のパイロットならば楽に撃ち落とせてるだろうが、エース級となれば話は違う。

容易に懐に入り込まれ、切り裂かれてしまうだろう。

 

だが、対艦戦闘となればデストロイの本領は発揮される。

圧倒的な火力で薙ぎ払い、そして巨体な艦体ではデストロイの懐には入り込むことは出来ない。

 

 

「さて…、どう出る?デュランダル…」

 

 

ウォーレンは、今頃、思いもよらない戦況に驚きを見せているだろうデュランダルの顔を想像する。

ジブリールが相手ならば簡単にデュランダルの思惑通りに行っただろうが、自分が相手ならばそうはいかない。

 

モニターに映し出された、ナスカ級が爆散していく映像を見ながら、ウォーレンは笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイダロス基地でジブリールが射殺される少し前、ミネルバのパイロットアラートでは、すでに作戦会議は終わり

各々が戦闘に備えて精神を整えていた。

 

 

『コンディションレッド発令、パイロットは搭乗機にて待機してください』

 

 

その時、アラート内に警報が鳴り響く。もうすぐ戦闘宙域に入るのだろう。

メイリンのアナウンスが切れた後、ハイネがルナマリアを見て口を開いた。

 

 

「じゃ、いいなルナマリア?タイミングを誤るなよ。…ま、お前なら大丈夫だと思うがな」

 

 

「はい」

 

 

ルナマリアは頷きながら、ハイネに返事を返す。

だが、シンはどこか浮かない表情で口を開く。

 

 

「あ、いや…、でも…」

 

 

何とか口を挟もうとするシン。だが、ハイネがシンに視線を送って止める。

シンは思わず言葉につまってしまう。その間にハイネは再びルナマリアに言葉をかける。

 

 

「俺たちも可能な限り援護はするが…、あまり当てにはするな。すれば余計な隙が出来るからな」

 

 

ハイネの言葉に、ゆっくりと、そして深く頷くルナマリア。

それを見たハイネは微笑んでからエレベーターに向かおうとする。

 

不満そうな顔だったシンは、気を取り直したのか、表情を戻してハイネに続こうとする。

 

 

「あ、シン…」

 

 

「え?」

 

 

だが、シンはルナマリアに呼び止められる。シンは振り返ってルナマリアを見る。

 

エレベーターに乗り込んだハイネが、ついてこない二人を見て言った。

 

 

「時間はあまりないからな」

 

 

そう言い残して、ハイネを載せたエレベーターの扉が閉じ、上に上がっていく。

 

ハイネを見送ったシンとルナマリア。

まず、口を開いたのはシンだった。

 

 

「どうしたんだよ?」

 

 

きょとんとした顔で、シンはルナマリアに尋ねる。

あまり時間がない所で呼び止めたのだ。何か大事な用があるのだろう。

 

一方のルナマリアは、何を言おうか言葉を探していた。

シンを呼び止めたのはいいが、何を言おうかは考えていなかった。

 

何故か、シンと話がしたいと思ったのだ。この戦いの前に。

 

 

「…気を付けて」

 

 

結局、出てきたのはこんな言葉だった。

もっといい言葉があっただろうに、と言ってから自分に呆れてしまう。

 

 

「ルナ…」

 

 

シンが呼んだ、と思い、ルナマリアは返事を変えそうと思って口を開こうとした。

だが、次の瞬間、出かかった「なに?」という言葉が喉奥へと飲み込まれた。

 

繋がる二つの手。当然、シンとルナマリアのものだ。

シンは、ルナマリアの手を自分の手で包んだのだ。

 

ルナマリアは、呆然とシンの手で包まれている自分の手を眺める。

 

 

「ルナこそ、気をつけろよ…」

 

 

「…うん」

 

 

シンの優しい言葉が、ルナマリアの体全体に染みわたる。

そして手から伝わる温もり。

 

全てが、ルナマリアを縛っていた恐怖と緊張をほどいていく。

 

と、そこでシンから伝わる力が強くなった。

 

 

「けど、やっぱダメだ!ルナだけで砲のコントロールを落とすなんて…!」

 

 

「シン…」

 

 

シンが言ったのは、ハイネが立てた今回の作戦についてのことだ。

 

ハイネが立てた作戦は、二重の陽動だ。

今、ダイダロス基地は中継地点の月艦隊に注意を向けている。その隙に、ミネルバは敵基地に接近しているという状況。

 

その上で、ミネルバとシン、ハイネが基地に攻撃を仕掛ける。

さらにその間に、ルナマリアがインパルスで基地内部へ侵入。コントロールシステムを叩くという作戦なのだ。

 

 

「危険すぎる…。やっぱり、それは俺かハイネが…!」

 

 

「シン!」

 

 

これ以上言葉を続けるシンをルナマリアは呼び止める。

 

 

「同じことよ。ううん、むしろ陽動で基地を討つ役目のシンやハイネの方が危険よ」

 

 

恐らく敵は中継地点に戦力を集中させているだろうが、正面から基地を叩くのは相当辛い状況になるはずだ。

間違いなく、シンの方が負担は大きくなるはずだ。

 

火力がデスティニーとカンヘルに比べて少ないインパルスにこの役割を振ったのは、正しい。

 

 

「信じてよ、シン」

 

 

「ルナ…」

 

 

シンの表情は未だ晴れない。何とかシンを安心させようと明るく振る舞って言う。

 

 

「なによ、その顔は!あんた、忘れてない?私だって赤なの!シンになんかに心配されるほど、よわk…!」

 

 

ルナマリアの目が見開かれた。

言葉が、浮いた。シンが、強くルナマリアを抱きすくめたのだ。

 

 

「俺は…」

 

 

何かをつぶやくシン。そのつぶやきを聞き取れなかったルナマリアは聞き返す。

 

 

「シン…?」

 

 

「俺は…、絶対守るから」

 

 

背中に回されるシンの腕にさらに力が籠められる。

 

 

「ルナを…、ミネルバを守るから。だから、ルナは俺たちを守ってくれ」

 

 

「え…?」

 

 

シンに、守ってくれと頼まれた。自分なんかよりもずっと強い、シンが。

もしかしたら、追いつけないかもしれないとまで思っていたシンが、守ってくれと。

 

やっと…、今度こそ、シンの隣に追いつけたのだろうか。

これからは、シンの隣で…、戦えるのだろうか。

 

 

「シン…!」

 

 

「ルナ?」

 

 

ルナマリアの目じりから滴が零れる。

それに気づいたシンが、不思議そうな顔でルナマリアをのぞき込む。

 

 

「シン…、私、あなたの隣で戦えるのかな…?」

 

 

「え?」

 

 

シンは、目を丸くする。

何を、言っているのだろうか?隣で、戦えるって?

 

 

「何言ってんだよ、ルナ。ルナはずっと俺の隣で戦ってるじゃないか」

 

 

シンの肩に顔をうずめながら、ルナマリアはピクリと震える。

シンは…、ずっとそう思っていたのだろうか。

 

こんな弱い自分が、シンの隣で戦っているのだと?

 

 

「ルナがいてくれたから、俺は生きてるんだぞ?それは皆だって一緒だ」

 

 

「あ…」

 

 

言いながら、シンはルナマリアの体を放す。

 

何故か…、名残惜しいと感じるルナマリアはどこか残念そうに声を漏らす。

だが、幸いにシンはそれに気づかない。

 

 

「ほら、そろそろ行こう。ハイネにどやされる」

 

 

悪戯っぽい笑みを浮かべながら、ルナマリアの手を引きシン。

そんなシンを見て、ルナマリアはつい吹き出してしまう。

 

もう、何となく感じていた体の重さは何処かへ行ってしまった。

シンのおかげだ。シンが、自分を慰めてくれて…、抱き締めてくれて…。

 

 

「っ」

 

 

「?ルナ?早く行くぞ」

 

 

「あ…、うんっ」

 

 

顔が、熱い。体全体が熱く感じる。

 

これは…、何だろう?

 

初めて陥る感覚に戸惑うルナマリアだったが、シンに手を引かれながらエレベーターに乗り込む。

何とかエレベーターの中で、シンと話をしながら冷静さを取り戻そうと模索する。

 

そして、扉が開くとそこは格納庫。

 

シンとルナマリアはそれぞれの機体に乗り込んでいく。

 

これから起きる戦いは、今まで臨んできたどの戦いよりも過酷なものになるだろう。

だが、大丈夫だ。ルナマリアには、何の不安もなかった。

 

だって、シンが守ってくれるのだ。自分を。

だから、自分はシンを、仲間を守るために頑張らなければならない。

 

ルナマリアは、インパルスのコックピットに乗り込みシステムを起動する。

少し時間が経つと、通信を通してメイリンの声が耳に届いた。

 

 

『機体をカタパルトに運びます。準備は、よろしいですね?』

 

 

モニターに映るメイリンに、ルナマリア、シン、ハイネは同時に大きく頷いた。

機体がカタパルトに運ばれ、発進許可が下りる。

 

 

『シン・アスカ!デスティニー、行きます!』

 

 

『ハイネ・ヴェステンフルス!カンヘル、行くぞ!』

 

 

まず、デスティニーとカンヘルが発進していく。

そして、その後、ルナマリアの発進の番が来た。

 

 

「ルナマリア・ホーク!コアスプレンダー、出るわよ!」

 

 

戦闘機を発進させ、合体シークエンスをこなすとルナマリアはデスティニーとカンヘルの傍に機体を寄らせる。

すると、ハイネがシンとルナマリアに通信をつなげて言葉を伝える。

 

 

『じゃ、作戦通りにな。ルナマリア、頼むぞ』

 

 

「はい!」

 

 

先程感じていた不安はまったくない。

力強く答えるルナマリアを、見開いた目で見るハイネ。

 

だが、すぐに笑みを浮かべてハイネもまた頷き返す。

 

 

『よし、行くぞ!落ちるなよ!』

 

 

「『はいっ!』」

 

 

三人は、機体をダイダロス基地に向けてさらに加速させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




上手く書けているか心配な回です…
楽しんでいただけたらとても嬉しいですね


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PHASE50 嗤う新たな王

色々と状況がごちゃごちゃしています。
そして、最後がとんでもないですww


シンが駆るデスティニーとハイネが駆るカンヘルは先陣を切る。

シンとハイネは最高速度で基地に向けて突っ込んでいく。

 

ダイダロス基地の戦力はほとんどが中継点に集中していた。

こちらの思惑通り、こちらが基地正面から攻めてくるなど考えてもいなかったのだろう。

 

こちらから見ても、基地から発進していくモビルスーツや艦隊の動きが慌ただしくなっているのがわかる。

だが、それもわずかな間だった。すぐにこちらに向けて戦力が向かってくる。

 

シンとハイネは一度機体を停止させ、こちらに向かってくる大軍を見据える。

 

 

『ははっ…、凄い数だな、シン』

 

 

ハイネがどこか苦笑気味に笑みを浮かべながら言ってくる。

 

ハイネの言う通り、ものすごい数だ。

視界のほぼすべてがモビルスーツやモビルアーマーで埋まっていると言っていい。

 

 

「でも…、やるしかない!」

 

 

『わかってるって!』

 

 

シンの声にハイネが応える。

そして、二人は同時に目の前の大群へと突っ込んでいく。

 

シンは背中のアロンダイトを抜き、ハイネも腰のサーベルを抜く。

 

二人はまわりに集ってくるモビルスーツやモビルアーマーを斬りおとしていく。

 

しかし、主力は中継点にあるはずなのだが、こちらが手薄だとは感じられない。

それどころか、むしろこちらが主力ではないかとすらも感じられる。

 

シンは、集ってくる敵機が少なくなったのを見ると背中の砲塔を跳ね上げる。

そして、横に滑らせながら砲撃を放ち、敵機を薙ぎ払っていく。

 

 

「このぉおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

シンは今度はライフルを握り、立て続けにウィンダムを撃ち抜いていく。

だが、すぐにライフルから対艦刀へと持ち替える。

 

シンは背面のスラスターを開き、機体の残像を残しながら敵小隊へと向かっていく。

敵小隊のウィンダムたちは向かっていくデスティニーに、ライフルのビームを浴びせかける。

 

だが、そのビームは全てデスティニーを捉えられない。

全て空を貫き、デスティニーの背後へと向かっていく。

 

シンは大きくアロンダイトを一文字に振り抜く。

アロンダイトの刃にかかった敵機は全て切り裂かれ、爆散していく。

 

シンの強襲によって隊列が崩れかけた小隊だったが、すぐに立て直し、再びビームをデスティニーに浴びせかけようとする。

が、それはできず、小隊の全てのウィンダムがほぼ同時にビームに貫かれて爆散していった。

 

それは、シンの背後からのビームの同時照射。

それが誰の仕業かは、見ずともシンにはわかっていた。

 

 

『シン!』

 

 

「もう一度突っ込む!バックアップを頼む!」

 

 

シンとハイネの二人で相手の戦力を崩し、そして彼らの目をこちらに向ける。

そのために、今は二人で撃墜数を稼ぐことが先決だ。

 

そのためには、火力がありなお、接近戦でも強大な力を発揮できるデスティニーを前衛に、そして殲滅力、射撃力に長けているカンヘルを後衛にして戦うのが一番効果が大きい。

 

シンがアロンダイトで敵陣を切り裂き、ハイネが背後から援護射撃。

 

 

「っ!ハイネ!そっちに行ったぞ!」

 

 

それでも、シンだけで捌き切れる数ではない。デスティニーの横を通り過ぎ、カンヘルへと向かっていく機体も数々いる。

 

 

「はっ!接近すれば何とかなるとでも思っているのか!」

 

 

ハイネは両腰のサーベルを抜く。連結はさせずに、両手にサーベルをもって向かってくるモビルスーツ群、モビルアーマー群に突っ込んでいく。

 

サーベルを振うごとに複数の敵機が斬りおとされていく。

 

 

「くそっ!」

 

 

「ダメだ!距離を取って攻撃するぞ!」

 

 

モビルスーツ、モビルアーマーがカンヘルから距離を取って囲み始める。

それを見たハイネは、にやりと笑みを浮かべた。それこそが、ハイネの思惑だったのだから。

 

すぐにハイネは背面の円盤を開く。開いたその奥から小さな突起物が現れる。

 

 

「それは、無駄だ!」

 

 

ハイネは引き金を引く。

背面の突起物から円状の砲撃が流れていく。

 

放たれた砲撃は、カンヘルのまわりを囲んでいたモビルスーツを貫き、切り裂いていく。

だが、モビルアーマーはリフレクターを展開し、砲撃を防いでいた。

 

ハイネはすぐに背面の円盤を閉じ、今度は二本のサーベルで連結させてハルバート状にする。

砲撃を防ぎ切ったものの、モビルアーマーは体勢を崩している。

そこを、ハイネは見逃さない。すぐさまモビルアーマーに接近しハルバートで切り裂いていく。

 

次々とモビルアーマーを切り裂いていくハイネ。背後に回り込まれ狙われた時は、ハルバートの後方の刃で貫いて落とす。

 

 

「っ、ハイネ!」

 

 

「あぁ!わかってる!」

 

 

そこで、シンとハイネは気づいた。眼前で、地面から上がってくる巨大な黒い機影に。

 

 

「デストロイ…!」

 

 

憎々しげに、その機体を睨むシン。

 

デストロイの数は、前回よりも少ない三機。

三機のデストロイは、同時に全砲門を開いて砲火を浴びせてくる。

 

だが、その狙いはデスティニーとカンヘルではない。その奥にいる、ミネルバだ。

 

 

「まさか!奴らの狙いはミネルバか!?」

 

 

シンはそれを悟り驚愕する。

まさか、基地を強襲する自分ら二人ではなく、サポートに徹しているミネルバを狙ってくるとは。

 

 

「そうはさせない!行くぞシン!」

 

 

「あぁ!」

 

 

シンとハイネは、これ以上の攻撃はさせまいとデストロイへと向かっていく。

だがその時、二人の眼前に二機の機影が飛び出してきた。

 

 

「っ!?」

 

 

「何だ!」

 

 

シンとハイネは機体を急停止させ、現れた機体に目を向ける。

 

一機は装甲を白に染め上げた機体。もう一機は装甲を黒に染め上げられた機体。

白と、黒。対称的な色の二機の機体が二人の前に立ちふさがる。

 

 

「ここは、通させないぞ」

 

 

白い機体、ストライク・ブランのパイロット、ネオ・ロアノークは目の前の二機を見据えながらつぶやいた。

 

ダイダロス基地で、ウォーレンと分かれたネオは、スウェンと共に格納庫で新型機である二機にそれぞれ搭乗した。

ネオは白の機体、ストライク・ブランに。スウェンは黒の機体、ストライク・ノワールに。

 

ウォーレンの指示が出るまで待機していた二人は、出撃許可を受けてすぐに発進したのだ。

 

 

「くそっ!ルナのフォローもしなければならいないってのに…!」

 

 

「だが、こいつらも放っておけない!」

 

 

シンとハイネが目の前の白と黒の機体を睨みながら悪態をつく。

 

こうしている間、ルナマリアは数は少ないだろうが攻撃にさらされているだろう。

何とか援護に行きたいシンであったが、この状況ではそれはできない。

 

 

「ここでこの二機を落とす!そしてルナマリアの援護に行くぞ!」

 

 

「わかった!」

 

 

シンとハイネは声を掛け合い、目を合わせて同時に頷く。

 

この戦いは、負けられない。弱音など吐いてなどいられないのだ。

 

シンとハイネは同時に突っ込んでいく。

眼前の二機は、突っ込んでくるデスティニーとカンヘルに対して身構える。

 

四機は、交錯した。

 

 

 

 

(シンとハイネ…、大丈夫かな…?)

 

 

心の中でつぶやきながら、ルナマリアは機体を基地の方向へと向かわせる。

シンとハイネ、ミネルバが囮となりルナマリアは今のところは気づかれずにいた。

 

だがしかし、それもそう長くは続かなかった。

 

 

「ん…、あれは!」

 

 

「ザフトの…、インパルスか!?」

 

 

「気づかれた…!」

 

 

インパルスに初めに気づいたのは、基地から出撃し、デスティニーとカンヘルに向かおうとしたウィンダムの隊だった。

ウィンダムの隊はインパルスに向けてシールドを構える。

 

浴びせられるビームを全てシールドで防ぎ、そして影からルナマリアはライフルを構えて撃ってくるウィンダムに狙いを定める。

射撃は苦手だが…、出来ると信じる。

 

シンたちだって頑張っているのだ。シンを守ると、約束したのだ。

やる。絶対にやる!

 

ルナマリアは、引き金を引いた。

ライフルの銃口から飛び出した光条は、寸分たがわずにウィンダムを貫いた。

 

 

「っ!」

 

 

当たった、という喜びを抑え、次の一射、次の一射と引き金を連続で引いていく。

ルナマリアが撃ったビームは全て正確に敵モビルスーツを貫いていく。

 

 

「よし!」

 

 

敵の攻勢が弱まったのを感じると、すぐさまルナマリアは機体を進ませる。

だが、すぐにルナマリアの前方からモビルスーツ群が視界に入ってくる。

 

ルナマリアは再びライフルを持ち、そしてシールドを構える。

スピードは落ちてしまうが、それでもしっかりと機体は前に進んでいく。

 

前方のモビルスーツ群から大量のビームが撃ち注がれる。

ルナマリアは、慌てて機体を停止させ、シールドで機体を守ることに専念する。

しかし、それでは埒が明かない。

 

何とかシールドの影から前方の様子を窺い射撃の狙いを定めようとする。

が、前方からのビームの勢いが全く弱まらない。

 

こちらに向かってきながらライフルを連射しているのだろう。

このままでは前方のモビルスーツ群を突破できない。

 

 

「くっ…、っ!」

 

 

コックピット内に警報が鳴り響いた。

後方からもモビルスーツ群、モビルアーマー群が迫ってきていた。

挟み撃ちにあってしまった。

 

ルナマリアは機体を上昇させて何とかビームの嵐から逃れようとする。

だが、インパルスを追いかけて、ビームの勢いは全くおさまらない。

 

ライフルを撃つためには、わずかでもシールドをどかせなければならない。

この状況でシールドをどかせてしまえば、ビームが機体を貫き、どこかの部位を損傷させてしまう。

 

逃げることは、出来ないのか。

 

 

「このっ…!」

 

 

ルナマリアは、シールドをそのままに、その上で後方を向いて狙いを定めてライフルを撃った。

視界が上手く定まらないため、正確にとまではいかないがそれでも何とかルナマリアが撃ったビームは敵モビルスーツを貫いていく。

 

しかし、それではだめだった。

後方のモビルスーツ群は止まらないし、前方のモビルスーツ群などもってのほかだ。

 

 

「くっ!」

 

 

何とかこの状況を逃れる方法を模索する。

だが、考えれば考えるほど絶望がルナマリアにのしかかる。

 

このままでは、しぬ。

 

 

「っ!」

 

 

首を横に振って、出かかった考えを振り切る。

こうしている間にも、モビルスーツ群は迫ってきている。

早く、何とかしなければ。

 

 

『ルナっ!くそっ、すぐ行く!』

 

 

「シン!」

 

 

そこに、スピーカーからシンの声が響く。

思わず、シンの名を呼んでしまうが、状況を見ればシンがこちらに来るのはどうやら無理そうだ。

相手の新型だろう機体と交戦中で、こちらの援護などできそうにない。

 

自分で、何とかしなければならない。自分で、自分の身を守らなければ。

 

ルナマリアはもう一度、機体を横にずらしてこの場からの離脱を計る。

だが、敵モビルスーツ群はインパルスを追ってビームを浴びせる。先程と同じ。

 

ルナマリアは歯噛みする。

ようやく、シンを守るために戦えると思ったのに。

プラントを守るために、自分が一番重要だったというのに。

 

それなのに、ここで自分は死んでしまうのだろうか…。

 

 

『ルナァアアアアアアアアアアアっ!!!』

 

 

『ルナマリアっ!!!』

 

 

シンとハイネがルナマリアに呼びかける。

すでに、インパルスの前後から迫るモビルスーツ群はかなり接近してきていた。

 

サーベルを構えて向かってきているモビルスーツもいる。

これでは、もう逃げられない。

 

 

(ここで…、終わり…?)

 

 

自分がここでやられてしまえば、プラントが撃たれてしまう。祖国が、撃たれてしまう。

それだけは、守りたかった。大切な人は、守りたかった。

 

 

(…ごめんね)

 

 

心の中でシンに謝るルナマリア。シンを守ると約束したのに、結局、何もできずに終わってしまう。

それが、どうしようもなく悔しい。

結局無力で終わってしまうことが、悔しい。

 

まわりで、ウィンダムたちがサーベルを振りかぶっている。

サーベルが振り下ろされてしまえば、自分は何の痛みも感じずに死ぬだろう。

 

振り下ろされるサーベルの切っ先を眺める。

すぐに、切り裂かれるコックピットの中で、自分は…。

 

ルナマリアが、もう諦めようとした、その時だった。

 

自分のまわりにいたウィンダムたちの、サーベルを持っていた腕が、どこかからやってきた光条に貫かれて爆散した。

 

 

「…え?」

 

 

その光景を見ていたルナマリアは、呆然と固まってしまう。

動きを止めたインパルスを落とそうと、ウィンダムはライフルを構える。

 

だが、そのライフルも何者かによって撃ち落とされる。

 

 

「一体、何が…!」

 

 

ルナマリアは、ビームが来た方向にカメラを向ける。

シンかハイネが助けに来てくれたのだろうか。そう思っていたのだが、視界に入ってきたのは考えていたどの機体にも当てはまらなかった。

 

八枚の蒼い翼を広げ、こちらに向かってきている白い機体。

さらにその横には、デスティニーと同じように光の翼を広げた機体。

そしてもう一機。自分には見慣れた白い機体。仲間だったはずの、人の機体。

 

フリーダム、リベルタス、ヴァルキリーがこの戦闘に介入してきたのだ。

 

 

 

セラは、フリーダムの射撃によって注意を向けてきたモビルスーツモビルアーマーを見据えた。

インパルスを襲おうとしていたモビルスーツ群は、急なセラたちの介入によって驚愕しているのか動きが止まっていた。

 

セラはスラスターを吹かせて加速し、モビルスーツ群に向けて突っ込んでいった。

それと同時に、スラスターの所々から飛び出す小型のユニット。

リベルタスに搭載されたドラグーンである。

 

そして、キラまたフリーダムの翼端からドラグーンを射出する。

二人のドラグーン、計十六機がモビルスーツ群のまわりを包囲し、そして同時にビームを照射した。

 

照射されたビーム全ては、コックピットを外し敵の武装とメインカメラのみを撃ち抜いていく。

インパルスを囲んでいたモビルスーツの隊列は総崩れとなり、散り散りにインパルスから離れていく。

 

 

「兄さん、もう一度!」

 

 

『わかってる!こっちはフルバーストで行くよ!』

 

 

それを見たセラはキラに声を送る。キラもセラに返事を返し、互いにタイミングを合わせる。

セラは再びドラグーンの体勢を整え、キラはそれをこなしつつ、フリーダムに搭載されているドラグーン以外の砲門を開き、マルチロックオンを行う。

 

 

「「行っけぇええええええええええええええええ!!!」」

 

 

リベルタスの八つのドラグーンと、フリーダムの十四門の砲火が同時に吹かれる。

計二十二の砲火がモビルスーツ群に降り注がれる。

 

間を置かず、シエルが腰のサーベルを抜いてモビルスーツ群に斬りかかっていく。

その場から離れようとしているウィンダムやダガーを逃がさず斬っていく。

 

遠距離からの射撃は、腕のビームシールドを展開して防ぎ、セラかキラがその機体を落としていく。

完璧なチームワークを見せつけながら三人は相手の戦力を削いでいく。

 

 

「これは…」

 

 

「あいつら…、何で…」

 

 

そして、その光景は少し離れた所からシンとハイネも目撃していた。

どうして、ジブリールを匿ったはずのオーブのモビルスーツが、どうしてジブリールがいる陣営を攻撃しているのか。

オーブを攻撃したザフトを、助けたのか。

 

わからず、呆然としてしまった二人。

だが、それを見逃さないのがあの二人である。

 

 

「もらった…!」

 

 

「呆然としてちゃダメだぜ!」

 

 

スウェンとネオが、シンとハイネに襲い掛かる。

スウェンは、フラガラッハ3ビームブレードを取って斬りかかり、ネオはビームライフルを二人に向ける。

 

それに反応したシンとハイネ。まず、ハイネが腕のビームシールドを展開し、スウェンの前に割り込みビームブレードを抑える。

その直後、シンはカンヘルの背後から飛び出す。

 

死角から現れたデスティニーに一瞬驚くネオだったが、すぐにライフルの引き金を引きデスティニーにビームを浴びせる。

だがシンはアロンダイトでビームを弾くとそのままブランに向けて突っ込んでいく。

 

ネオも、突っ込んでくるデスティニーに対してビームサーベルを構えて迎え撃つ態勢をとる。

 

シンがアロンダイトを振り下ろし、ネオがビームサーベルを振り上げる。

ぶつかり合う二本の剣は、火花を散らしながら弾かれるように離れる。

 

無理やり距離を取らされたネオ。だが、これは好都合だった。

ストライクブランは、兄弟機であるストライクノワールとは逆に接近戦は苦手だ。

このまま遠距離戦で相手を追い詰めていこうと考えたその時、ネオの背筋に冷たい感覚が奔った。

 

これは…!?

 

驚く間もなく、ネオはすぐに機体を翻した。

ネオがいた所を、無数のビームが横切る。

 

その光景を見ていたシンが目を丸くしていると、隣に、シンが見たことがないグレーの機体が近づいてきた。

 

相手を攻撃したため、味方ではあるだろうが…。

 

警戒していたシンの耳に、馴染みのある少年の声が届いた。

 

 

『シン!大丈夫か!?』

 

 

「レイ!?」

 

 

ここに現れたのは、友人のレイ・ザ・バレルだったのだ。

グレーの機体、レジェンドを駆り、苦戦するミネルバを援護しに来たのだ。

 

 

『苦戦している様だな』

 

 

「あぁ…。あいつら、かなりの連携を見せて俺たちを迎え撃ってくる…。それに…」

 

 

シンは戦場を縦横無尽に飛び回る三機を見た。

この戦場に介入してきたリベルタス、フリーダム、ヴァルキリー。

 

この三機がいるということは、近くにアークエンジェルもいるはず。

 

一体、どういう気でいるのだろうか?

ジブリールを助けに来たという風には見えない。

とはいえ、一概にこちらの味方だと決めつけることもできない。

 

 

『…ともかく、今は目の前の脅威を何とかするぞ。お前はルナマリアを助けに行け。こいつは俺がやる』

 

 

「あ…、ルナ…!」

 

 

そこで、シンは先程までルナマリアが窮地にさらされていたことを思い出した。

ルナマリアは、無事だろうか?

 

悪いが、ここはレイに任せて自分は先に行くことにしようと考えるシン。

 

 

「頼むぞ、レイ!」

 

 

『あぁ』

 

 

レイに声をかけ、シンはルナマリアの元へと急ぐ。

 

だが、それを思うようにさせてはくれない連合側の質量。

十機はいるであろうモビルスーツたちが一瞬にしてシンの前に立ちふさがる。

 

シンは、目の前のモビルスーツを薙ぎ払おうと肩のビーム砲に手をかける。

 

しかし次の瞬間、目の前のモビルスーツたちにビームの雨が降り注ぎ、コックピット以外の様々な所が撃ち抜かれた。

一瞬の早業に、シンは目を剥きながら落ちていくモビルスーツを見つめる。

 

 

『早く行け!』

 

 

「っ!?」

 

 

そこに、シンの耳に今度は聞きたくもない声が届いた。

少し離れた所には、両親の仇であるリベルタスが。

間違いない。この声はセラ・ヤマトのものだ。

 

 

「お前…!」

 

 

『ここで俺と戦っている場合か!いいから早く仲間を助けに行け!』

 

 

セラが、言いながら再び押し寄せてくるモビルスーツの波をドラグーンで撃ち抜いていく。

 

シンは歯噛みしながら、ここでこいつらを相手にするくらいなら、とメリットを考える。

癪だが、ここはこいつの言う通りにしてルナを助けに行く方が良い。

 

シンは何も言わずにその場から飛び去る。

ルナマリアを救いに急ぐ。

 

 

「…」

 

 

飛び去っていくデスティニーを見もせずに、セラは目の前のモビルスーツを迎撃していく。

 

遠距離、殲滅攻撃が手薄だったリベルタスにドラグーンが搭載されたことによりその二つの課題が一気に解決された。

まさに、無敵。そう言っても無理はない。

 

が、それは今自分の後ろにいる奴がいなければ、の話だ。

 

 

「…来たか」

 

 

『お久しぶりです』

 

 

無機質な少女の声が頭の中に響く。

オーブ戦の時は姿を見せなかった。プラントにでも戻っていたのだろうか?

 

セラは振り返る。そこには、以前二度戦ったエキシスターによく似た機体が。

だが、細部は違う。特に目を引くのは背部の装甲についている十のユニット。

 

すぐにセラはそれがドラグーンであると予想する。

 

 

『決着を、つけに来ました』

 

 

エキシスターの発展機、アナトに搭乗したクレアが言う。

セラは目を瞑り、今感じるこの冷たい感覚をよく吟味する。

 

あのクルーゼと戦っているときに感じたものに似ているが、それとは間違いなくどこかが違う。

 

セラは、自分の感じたそのままを口にした。

 

 

「お前は、俺だ」

 

 

『…』

 

 

セラが言うと、クレアは沈黙する。その沈黙をセラは肯定と捉えて続ける。

 

 

「決着をつけるというのは何だ?俺とお前のどちらが本物か。それを決めるという意味か?」

 

 

『…違う』

 

 

セラの言葉に反論するその声は、先程響いてきた無機質なものとは違っていた。

怒り、その感情が込められた声。

 

 

『私を…、あんな何者にもなれていないあの男と一緒にするな!』

 

 

「っ!」

 

 

目を見開きながら、セラはクレアの言葉に耳を傾ける。

 

 

『私はセラ・ヤマトなんかじゃない!私は私だ!クレア・ラーナルードだ!』

 

 

そこでセラは初めて少女の名を知る。クレア、それがこの少女の名なのか。

クレアはさらに怒りが込められた声で続ける。

 

 

『私はクレア・ラーナルード!それを証明するためにも…、私は、あなたを倒す!』

 

 

もう、何も言う気はないのだろう。クレアはサーベルを抜いて斬りかかる。

セラもまた、手に持っているサーベルでアナトに斬りかかっていく。

 

二機はすれ違いながら剣をぶつけ合い、互いの左腕をぶつけ合って押し合う。

 

 

「っ!…っ!」

 

 

『…っ!っ!』

 

 

互いに力を込めるが均衡は破れない。ならば、とクレアはその場から距離を取る。

 

アナトはエキシスターよりさらに近距離戦でも力を奮えるように調整されているが、それでもリベルタスには敵わない。

ならば、勝る火力で攻めればいい。

 

背部のユニットを切り離し、リベルタスを囲むように誘導する。

 

 

「!やはりこれは!」

 

 

セラの予想通り、背部についていたユニットはドラグーンだった。

セラは後退しながらドラグーンが自分を囲むまでの時間を稼ぐ。

 

それでもドラグーンに囲まれるのは防ぐことが出来ないだろう。

だが何もしないという訳ではない。セラもまた、スラスターの所々からドラグーンを切り離す。

 

クレアと同じようにセラもドラグーンでアナトを包囲させる。

 

 

『!』

 

 

二人ともに、ドラグーンを一斉に照射させることはしなかった。

時間差で照射させ、互いを追い詰めようと画策する。

 

だが、二人は降り注がれるビームをかわし、そしてほぼ同時にドラグーンの包囲から抜け出す。

 

二人はドラグーンを操り再び相手を包囲させようとする。

 

そして、考えたそれに対しての対処法は皮肉にも同じだった。

 

二人は同時に、相手に向けてスラスターを吹かせて突っ込んでいった。

サーベルを取り、互いに斬りかかっていく。

 

 

『…あなたと同じ考えだったとは』

 

 

「俺たちは同じ存在、そういうことなんじゃないか?」

 

 

『何を!』

 

 

クレアはセラに言い返しながら機体をバレルロールさせた。

 

 

「なっ!?」

 

 

このままサーベルをぶつけようとしていたセラは、思わぬアナトの動きに目を見開く。

そのままクレアはリベルタスとすれ違い、再びリベルタスと向き合う。

 

セラはもう一度アナトに斬りかかろうとスラスターを開く。

 

 

『遅い』

 

 

「っ!?」

 

 

だがその時には、ドラグーンが自分を囲んでいた。

 

クレアはそのままドラグーンを一斉に照射させ、リベルタスを風穴だらけにしようとした。

しかし、その動きは止まる。

 

 

『…』

 

 

「あと少し遅かったら、やられていた」

 

 

クレアもまた、リベルタスのドラグーンに包囲されていた。

二機は動きを止め、睨み合う。

 

 

「…」

 

 

『…』

 

 

互いに思考する。

 

どうすれば、目の前の機体を行動不能にできるか。

どうすれば、目の前の機体を落とすことができるか。

 

二人の戦いは、さらに熾烈さを増していこうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やはり、ミネルバの方が辛いか」

 

 

「そのようです。さらに、アークエンジェルまで出現し、さらに戦況が苦しくなっております」

 

 

ウォーレンがぽつりとつぶやくと、傍らにいたダイダロス基地司令官が言葉を返した。

 

アークエンジェルの出現はここ司令ブースにも驚愕を与えた。

今は何とかデストロイがミネルバと共に抑えてはいるが、フリーダムとヴァルキリーがデストロイ二号機をすでに行動不能にしている。

残り二機がやられるのも時間の問題だ。

 

 

「…だが、この戦闘を終わらせることは出来る」

 

 

「は?」

 

 

ウォーレンが発した言葉に、司令官が目を見開く。

 

まさか、降伏するわけはないだろう。そんなことをする男ではない。

そのような男についていくような自分ではない。

 

ならば、どうする気だ?

 

その答えを、次の瞬間ウォーレンは示す。

 

 

「レクイエムを、出力四十パーセントで発射する」

 

 

「え…、しかし…」

 

 

ウォーレンはレクイエムを撃つと言った。

だが、まだレクイエムのパワーチャージは終了していない。

レクイエムの本来の力は出せない。

 

しかし、ウォーレンはオペレーターの言葉を一蹴する。

 

 

「それでも、目の前の艦隊を薙ぎ払うことは出来る。すぐに味方の艦隊に勧告しろ」

 

 

「はっ!」

 

 

ウォーレンの言う通り、出力が四十パーセントの状態でもそれなりの威力は発揮する。

プラントまでは届かないだろうが、それでも艦隊を薙ぎ払うことは可能だ。

 

それに、今、レクイエムのパワーチャージは八十パーセントまで終わっている。

そこから、四十パーセントの力で撃つ。

 

すると、レクイエムには四十パーセントのエネルギーが残るのだ。

それを見据えてのウォーレンの作戦だろう。

 

ウォーレンが言っていた、今ここでプラントを撃つのは諦める。

こういうことだったのか、とようやく悟る司令官。

 

司令官は、ウォーレンが見据える先に視線を送る。

こうしている間にも、ザフトや介入してきたオーブ勢によってやられている味方達。

だが、もう少しだ。もう少しで、この苦しい戦闘を終わらせることができる。

 

 

「照準、ザフト軍艦隊!最終セーフティー解除!」

 

 

「ファーストムーブメントよろし。レクイエムシステム、発射準備完了」

 

 

オペレーターの言葉を聞き、ウォーレンはトリガーを握る。

先程まで、ジブリールが握っていたトリガーは、ウォーレンの手に移ったのだ。

 

 

「さて、終わらせようか。まさか、これでもまだ戦いを続けるほど馬鹿な奴ではあるまい」

 

 

ウォーレンが言ったのはデュランダルのことだ。

ウォーレンの策が嵌れば、一気にザフトの戦力を削ぐことができる。

 

それでもなお、ザフトが戦うことを選べば…、こちらの思うつぼ。

 

 

「さぁ、選べデュランダル。今すぐ破滅するのか、それとも先延ばしするのかを…」

 

 

つぶやきながら、ウォーレンは発射ボタンを押し込んだ。

 

途端、基地のはずれから迸る光。

すでに、味方艦隊は退避を完了している。

 

それに気づいたザフト艦隊も退避を開始しているが…、遅い。

 

最初にプラントを撃った時よりも圧倒的に規模は小さいが…、威力が絶大なのは変わりない。

 

巨大な砲撃は、ザフト艦隊を飲み込みながらさらに進んでいく。

第一中継点、第二中継点を介し、第三中継点に向かう。

 

 

「…くっ」

 

 

笑いを零すウォーレン。

どち道、こうなることは決まっていたのだ。

 

デュランダルがどれだけ上手く事を運んでいようと、自分がいる限りそれが実らないことは決まっていたのだ。

 

蒼き正常なる世界を取り戻す。そして、自分の復讐も達成させる。

 

 

「はぁっははは!はぁぁっははははははは!!」

 

 

ウォーレンが高笑う中、、巨大な光は第三中継点をとおりすぎ、そのまま彼方へと消えていくのだった。

 

この場にいるザフト軍艦隊の三割という大量の犠牲を残していって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE51 兎と獅子

追いかけるものと、逃げ出すもの


要塞メサイア司令室、議長席に座していたデュランダルは、その目に入ってきた光景に思わず勢いよく立ち上がった。

モニターに映し出されるは、再び迸った巨大な光に飲み込まれていくザフト艦隊。

だが、何故だ。あの兵器のチャージはまだかかるはずなのだ。

 

それなのに…、いや、あの光の規模は小さいように見えた。

だから、なのだろうか。だからこんなにも早くあの兵器を使用できたのか?

 

 

いや、それよりもだ。

 

 

「被害の状況は!?」

 

 

デュランダルはオペレーターに問いかける。

デュランダルに聞かれるまでもなく、オペレーターは計器を操作して艦隊の被害を確かめている。

 

 

「こんな…、何故…」

 

 

デュランダルの傍らにいた秘書官がモニターに映る映像を見ながら呆然と声を漏らす。

秘書官だけではない。それぞれの作業は行っているものの、オペレーターたちや兵士たちも信じられないような表情になっている。

 

デュランダルを含めて全員が、まだレクイエム発射まで時間があると思っていたのだ。

それなのに、こうしてレクイエムは撃たれ、プラントには被害はなかったものの艦隊の一部が一気に被害に遭った。

 

被害の状況を確かめていたオペレーターが口を開いた。

 

 

「!これは、月艦隊からの電文です!」

 

 

「何だと!?」

 

 

オペレーターの言葉に秘書官が驚愕の声を上げる。

 

 

「読んでくれ」

 

 

デュランダルが送られてきたという電文を読むようにオペレーターに促す。

オペレーターは「はい!」と返事を返した後、その電文をゆっくりと読み上げ始める。

 

 

「先の攻撃により、我、艦隊の三割を喪失…!」

 

 

「な…ん…っ!?」

 

 

オペレーターの言葉に絶句する秘書官。

司令室の全員がオペレーターの言葉を聞き、動きを止めた。

 

かなりの被害だろうと予想はしていたが、それでもここまでの被害が出ているとは思っていなかった。

 

デュランダルは素早く思考を開始する。

このまま戦うか、それとも一旦退くか。

 

予定なら、この戦いに勝ち、そしてレクイエムを手に入れるという予定だったのだ。

だが、その予定は根本から崩れてしまった。戦いに勝つことすら難しくなってしまった。

 

 

「…仕方あるまい。全軍、撤退させろ。態勢を整え、改めて攻めに行く」

 

 

「しかし議長!あれをそのまま放っておくわけには!」

 

 

デュランダルが選んだのは、撤退。秘書官はその決定に異を唱えた。

デュランダルは、レクイエムを放っておくというのか。

あの、我らが祖国、プラントを撃った忌まわしき殺戮兵器を。

 

 

「放っておくわけではない!だが、このまま戦っていても、犠牲が増えていくだけだ」

 

 

「っ…、わかり、ました」

 

 

デュランダルが、どこか苛立たしげに大声で秘書官に言う。

デュランダルとて悔しいのだろう。今すぐ、あの兵器を討てないということを。

 

だが、デュランダルはこれ以上の犠牲を出さないためにも撤退を決意したのだ。

それにレクイエムのパワーチャージにはまた時間がかかるはず。

 

 

(…こちらにも、切り札はある)

 

 

デュランダルが心の中でつぶやく。

このメサイアにはあれがある。レクイエムにも負けないあれが。

 

念のためと思い作っておいたあれ。作らなくても大丈夫だろうと思っていたのだが、一応作成した。

その時の判断に、今ここで感謝するとは思ってもみなかった。

そして、このような状況であれに頼るとも思っていなかった。

 

 

(だが、ここでは使わない。…使えない)

 

 

あれもまた、レクイエムの様にパワーチャージには時間がかかる。

ここで撃てば、次にレクイエム発射までには間に合わないだろう。

その時は間違いなく、容赦なくプラント本国を狙ってくるはずだ。

 

 

(しかし…、ジブリール…なのか?)

 

 

デュランダルは、どうしても相手の指揮官がジブリールだとは考えられなかった。

 

 

「くそっ…、どうしてこんなことにっ!」

 

 

「ジブリールめっ…!」

 

 

司令室にいる部下たちは全員、これを引き起こしたのはジブリールの指示だと信じ込んでいる。

だが、デュランダルにはそれを信じることができない。

ジブリールが、ここまで上手く事を運ぶことができるとは思えない。

 

それに、この事の運び方…、利益のためなら、自分が作ったものすらも犠牲にすることを厭わないこのやり方、誰かに似ている。

 

 

(…ムルタ・アズラエル)

 

 

そこまで考え、デュランダルはゆっくりと首を振った。

 

馬鹿な、そんなことあるはずがない。奴は、死んだのだ。

呆気なく、最後は、味方の裏切りによって。

 

それよりも、レクイエムだ。あれを何とかしなければ、自分の計画はいつまでたっても成就しない。

負けは、許されないのだ。

 

 

(そう、許されない。私は、ごめんだ)

 

 

デュランダルの頭の中に、仮面をかぶり、自分に対していつも皮肉気に微笑んでくる男の姿が浮かぶ。

 

 

(君の様にあがくのも…、負けるのも…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ!?あれが撃たれたのか!?」

 

 

『っ!』

 

 

激闘を再び始めようとしていたセラとクレアは、いきなり迸った巨大な光の柱を見て動きを止めていた。

そして、二人はすぐにそれが何なのかにたどり着く。

 

レクイエムだ。レクイエムが、再び撃たれたのだ、と。

 

だが、すでにザフト軍艦隊が第四、第五中継点を潰しているはず。

プラントを狙うことは不可能なはず。それなのに、撃ったということは…。

 

 

「!ザフト軍の犠牲はどうなっている!?」

 

 

『今、調べています!』

 

 

セラがクレアに問いかける。クレアも、セラと同じ考えに達し、セラが問いかけたと同時に作業を開始していた。

そして、入ってきた情報にクレアは目を見開いた。

 

 

『ザフト軍艦隊…、約三割が消失…!』

 

 

「何っ!?」

 

 

まさか、それが狙いだというのか。

プラントが狙えなくなったことはすでに連合側も承知だった。

だから、レクイエムだけでも守り抜こうと、艦隊を薙ぎ払うことを選択したのか。

 

 

『よくもやってくれたな!宙の化け物がぁっ!』

 

 

『今度はこっちの番だぁ!』

 

 

「『!』」

 

 

セラとクレアは互いに逆の方向に機体をずらす。

二人がいた場所を、三本のビームが横切っていく。

 

二人がその方向に目を向けると、十何機のウィンダムがこちらに向かってきていた。

セラはサーベルを取り、すぐに選択する。

 

 

「斬り込む!援護頼む!」

 

 

『…わかりました』

 

 

セラの言葉を、僅かな間があったものの了承するクレア。

 

セラはリベルタスのスラスターを開き、モビルスーツ群に向けて突っ込んでいく。

その背後で、クレアがアナトの背面のユニットを切り離す。

 

突っ込んでくるリベルタスに対し、ウィンダムも同じようにサーベルを構える。

だが、背後ではリベルタスに向けてライフルを構えている。

 

構わずセラはウィンダムに突っ込んでいき、まず一機、サーベルでフライトユニットを斬りおとす。

 

 

『なっ!?こいつは…!』

 

 

『リベルタスだ!くそっ!ここで奴を何としても食い止めるんだ!』

 

 

地球軍は、一騎当千を繰り広げるリベルタスを止めようと注意を全てそちらに向ける。

注意すべきなのはリベルタスだけでないと、わかっていなかった。

 

突如降り注ぐ、ビームの雨。ほとんどのウィンダムが撃ち落とされるか、どこかに損傷を受ける。

 

 

『何だ!?』

 

 

『これは!?』

 

 

生き残ったウィンダムのパイロットが驚愕しながら辺りを見渡す。

彼らのまわりでは、彼らでは目視できるのがやっとのスピードで飛び回る光が。

 

アナトが切り離したドラグーンだ。

十のドラグーンが再び一斉にビームを照射する。

 

照射されたビームに撃ち抜かれていくウィンダムたち。

 

セラとクレアに向かってきていたウィンダムはいなくなり、代わりに新たに向かってくるのは連合のモビルアーマーの群。

モビルアーマー群に対して身構えるセラとクレア。

 

 

「ザフトはこのまま戦うのか?」

 

 

『まだ、撤退を示す信号は出ていない』

 

 

セラがクレアに問いかけるが、答えは否。

ザフトはまだ戦うという選択をしている。

 

セラは舌打ちする。デュランダルは何をしているのだ。

この状況を判断できないような奴ではあるはずがない。

 

と、セラが考えたその時だった。暗闇の宙に撃ちあがる色とりどりの信号弾。

 

 

『…撤退のようですね』

 

 

「…」

 

 

それに気づいたクレアがつぶやいた。

先程撃たれた信号弾は、先程撃たれたレクイエムを回避したゴンドワナから撃たれたものだ。

 

つまり、デュランダルはこの戦闘を回避することを決めた。

 

 

「くそっ」

 

 

だが、そんなことは連合側にとっては関係ないだろう。

モビルアーマー群はなおこちらに向かってきている。

 

セラはスラスターの各所からドラグーンを分離させる。

基本的にモビルアーマーがリフレクターを展開できるのは正面だけだ。

ならば、側面からビームを撃てば撃ち抜ける。

 

ドラグーンをモビルアーマー群のまわりに配置し、同時に照射させる。

モビルアーマーのコックピット以外を貫き、モビルアーマーを撃ち落としていく。

 

連合側からはまだモビルスーツ、モビルアーマーが湧いてくるように出てくる。

 

 

「何で…、何でここまでの数が…!?」

 

 

連合は数が多い、といってもさすがにこれは異常だ。

ダイダロスは月の裏側。そこから考えてもそう多くは戦力を置くとは思えない。

 

確かにレクイエムのために多めの戦力は置いてあるだろう。

それでもだ。それでも、余りの多い戦力を置けばザフト側が気づく。

それを回避するためにも、ここまでの多い戦力を配置できるはずがないのだ。

 

 

(まさか…!?)

 

 

『増援、でしょうね』

 

 

セラの考えを、クレアが引き継ぐ。

 

 

『これほど多い戦力を、ダイダロス基地に用意できるはずがない。なら、増援しかないでしょう』

 

 

クレアが言ったことは、セラも同じだ。

だが、気になることもある。

 

 

「それは俺も考えていた。だがそれは…、どこからの増援だ…?」

 

 

まさか、アルザッヘル基地なはずはない。そんな情報は入っていない。

アルザッヘル基地はザフトの監視下にあるといっていい。動きがあれば、ザフトが気づかないはずはない。

 

 

「まさか…、月に新たな基地を…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アナクシメネス基地から、増援が到着しました!」

 

 

オペレーターの報告が響く。その報告を聞き、ウォーレンがにやりと笑う。

アナクシメネスとは、月のクレーターの一つ。

そのクレーターに、ジブリールは基地を建設していた。

 

だが、その建設をジブリールは中断させていた。それを、ウォーレンは再開させたのだ。

ジブリールには、気取られないよう。

 

簡単だった。ジブリールは地球にいた時は他の、ウォーレンの配下にいた者に月のそれぞれの基地の管理を任せていた。

月に上がってきても彼はアナクシメネス基地のことなど気にもしなかった。

 

レクイエムで三割を持っていかれ、さらに増援。

ザフト軍の動きから、撤退を開始しているのはわかる。だが、それを何もせずに見逃すわけもない。

 

かつて、ザフト最高評議会議長であったパトリック・ザラがやったことを、今ここでやり返す。

撤退していく敵兵を、容赦なく攻撃するあの残酷ともいえる行為。

 

 

「だがこれは…、戦争には当然の行為だ」

 

 

ウォーレンは、パトリックがしたその行為自体には特に何も思っていない。

むしろ、戦争にとってそれは当然の行為だと思っている。

 

戦争をすれば人は死ぬ。そして、死にたくなければ人を殺さなければならない。

自軍のためには、多くの兵を殺さなければならない。

 

とはいえ、多くの兵が殺されたのも事実。

あの行動のせいで死んだ兵の中には、ウォーレンが親しくしていた者もいた。

 

 

「だから…、やりかえさなくちゃあ、気が済まないんだよ!」

 

 

ウォーレンはさらに笑みを濃くさせ、命じる。

 

 

「奴らをそう簡単に撤退などさせるな!逃がすなとは言わぬが、一人でも多く討て!」

 

 

一人でも、多く殺せ。

そして、少しでも勝利に近づけさせろ。

 

それが、ウォーレンが命じたこと。

 

指揮官が命じたことを実行する兵士たち。

モニターに映し出される、次々に爆散していくザフトのモビルスーツ。

 

それを見るごとに、自分の勝利が近づいていくような感覚を感じるウォーレンだった。

 

 

「…あぁ、そうだ。土産をザフトに残しておけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかまた…、あれを撃つなんて…!」

 

 

アークエンジェル艦橋でその光景を見ていたマリューが、信じられないような口調でつぶやいた。

 

それに、あれを撃つのが早すぎる。あれのチャージは、ここまで早く終わらせることができるのか?

ならば、ここであれを、レクイエムを破壊するべきだろう。

そう考えて、いたのだが…。

 

 

「敵軍、さらに数が増えています!どうやら、どこかから増援が来ているようです!」

 

 

「増援ですって!?」

 

 

チャンドラが告げた報告に、マリューは驚愕する。

まさか、この激闘の中でジブリールは増援を手配していたというのか。

 

ここまで、ジブリールは手早く事を運んでいたというのか。

正直、マリューはそうだと信じきれなかった。

 

ジブリールはお世辞にも、指導者としては有能ではなかった。

この手早い展開を、ジブリールが実行したとはどうしても思えない。

 

そう思っていたマリューの耳に、信じられない報告が届くことになるとは、今このときは思っていなかった。

 

 

『マリューさん!ここは退きましょう!』

 

 

「キラ君!」

 

 

そこに、キラの声が艦橋に響いた。

 

 

「でも、あれを放っておくわけには!」

 

 

『ですが、こちらは圧倒的に数が不利です!』

 

 

キラの言う通り、ここは退くべきだと指揮官としての自分は言っている。

だが、一人間として、あの兵器を放っておくわけにはいかないとももう一人の自分は言っているのだ。

 

だが、キラは強く、今は退くべきだと告げる。

ここで戦い続けても意味はない。事実、ザフトは撤退を開始している。

 

ならば、自分たちもここで退くべきなのだ。ここで、自分たちが死ぬわけにはいかないのだから。

 

 

「…私たちも、退くわよ。後退!一時、戦域を離脱します!」

 

 

マリューも心を決め、この場は退くことにする。

アークエンジェルは転進を始め、セラたち三人もアークエンジェルへと機体を向かわせるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

『セラ!』

 

 

「わかってるよ、兄さん」

 

 

キラの声がスピーカーから響き、セラはキラに返事を返した。

どうやら、自分たちも撤退するようだ。

 

セラはアナトと向き合う。二人は動かず、じっと見つめ合う。

 

 

『…次は、絶対に決着をつけます』

 

 

「…わかった」

 

 

クレアの、決意を込めた声がセラに届く。だから、セラも真剣にクレアに返事を返した。

 

次の戦いも、また銃を向け合うことになるだろう。

その時こそ、決着をつける。絶対に。

 

アナトが去っていく。クレアは何の艦を母艦にしているのか気にはなったが、それを気にしてもいられない。

自分を追って連合軍モビルスーツが追ってきている。デストロイも、砲口をこちらに向けてきている。

 

セラは機体を反転させ、アークエンジェルに向かわせる。

 

ウィンダム、ダガーがライフルをリベルタスに向けビームを放つ。

それに加え、デストロイもビームをリベルタスに浴びせてくる。

 

セラはビームの位置を感じ取り、バレルロールを繰り返しながらビームをかわし、そしてスラスターを逆噴射させたと同時に機体を反転させる。

再びスラスターの各所のドラグーンを切り離し、敵モビルスーツに向かわせる。

 

八のドラグーンが、次々にビームを照射しウィンダム、ダガーの武装、メインカメラを撃ち抜いて行動不能にさせていく。

残ったデストロイが腕を分離させた。リベルタスにシュトゥルムファウストを向かわせる。

 

セラはドラグーンを自分の元に戻させる。

だが、ドラグーンを収納はさせずにそのままサーベルを抜く。

 

向かってくるシュトゥルムファウストが、一斉にビームを照射してくる。

 

身構えるセラ。

 

 

『セラ!』

 

 

直後、明後日の方向から様々な色のビームが同時に横切ってきた。

全てのビームは、シュトゥルムファウストに命中し貫く。

 

しかし、搭載されたリフレクターを展開しビームを防いだものもあった。

慌てたのだろう、すぐさま残ったシュトゥルムファウストがデストロイの元へと戻っていく。

 

 

「兄さん?」

 

 

『早く戻るよ!』

 

 

キラに促され、セラは再びアークエンジェルに機体を向ける。

 

だが、二人を行かせまいとデストロイは再度ビームを浴びせてくる。

二人は機体を振り返らせ、腕のビームシールドを展開して防ぐ。

 

中々、逃げることができない。

 

 

「だから戦うしかないと思ったんだ!あいつら、俺たちをそう易々と逃がす気はないみたいだ!」

 

 

『くそっ!』

 

 

セラとキラがデストロイに対して身構える。

あれを行動不能にさせ、アークエンジェルに向かう。

 

相手のデストロイは二機。一機はザフトが落としだのだろう。

 

 

『セラは行って!』

 

 

「は!?」

 

 

セラもキラと共に戦おうとしたその時、キラがセラに言い放った。

セラは目を見開きながら反論する。

 

 

「何言ってるんだ!兄さん一人残して逃げろって言うのか!?」

 

 

『一人じゃない!』

 

 

自分も残って戦う意志をキラに伝えた時、第三者の声が響いてくる。

 

 

「シエル!?」

 

 

ヴァルキリー、シエルがフリーダムの隣に現れた。

これで二対二。数の上では互角となったが、それでも自分だけ逃げるということはしたくない。

 

 

「ダメだ!俺も残って…」

 

 

『ダメ!セラはまだ、体調が完全には回復してない!』

 

 

セラの言葉を遮り、シエルは叫んだ。

 

オーブ沖での戦闘で体調を崩したセラは、まだ万全になったとは言えない。

それを圧してセラは戦場に出てきたのだ。

 

セラにとってはまだまだやれるのだが、自分が知らない所で何かが蝕まれている、というような可能性もある。

それを、シエルは、キラたちは危惧しているのだ。

 

 

『ここは私たちに任せて!セラは早く戻って!』

 

 

シエルがデストロイに向かっていきながらセラに言う。

セラは、俯いて考えて…、シエルの言うとおりにすることに決めた。

 

 

「わかった…。気をつけろよ!」

 

 

セラは機体を後ろに向けてスラスターを吹かせる。

シエルとキラを置いて逃げるというのはしたくないのだが…、あそこまで言われて無視はできない。

 

それに、二人ならば大丈夫だろう。たとえあのデストロイが相手でも。

 

セラはアークエンジェルに向かって機体を進ませていく。

 

 

『へっ!行かせるかよ!』

 

 

『たとえ解放者様でも、この数を相手じゃ辛いんじゃねえのか!?』

 

 

「…」

 

 

通信が繋がっているわけでもない。それなのに、頭の中に声が響いてくる。

ここ最近、いや、この戦いの途中からそれが顕著に表れてきた。

 

死角からの攻撃を感じ取ることができたり、こうして敵の声が聞こえてきたり。

 

 

「…っ!また…!」

 

 

おまけには、これだ。誰かの断末魔が聞こえてくるのだ。

ずっと我慢はしているのだが、だんだん精神的にきつくなってきていた。

 

前までは、こんなことはなかった。

死角からの攻撃や殺気を感じ取ることはできてはいたが、断末魔が聞こえてくるなどまったくなかったのだ。

 

それなのに、この戦闘に入ってから何故か、突然聞こえてくるようになった。

 

 

“ぐわぁあああああああっ!”

 

 

“死にたくないっ!死にたくないぃいいいいっ!”

 

 

“このっ!宙の化け物がぁああああっ!”

 

 

“何で!何で俺なんだよぉおおおおっ!”

 

 

さらに、戦闘が続くごとにその断末魔が少しずつ鮮明に聞こえてくるようになってきていた。

それがセラにとって苦しく感じる。

 

 

「ちぃっ…、くそっ!」

 

 

のしかかってくるような重みを振り切り、セラは目の前に立ちはだかるモビルスーツ群にサーベルを手に向かっていく。

それと同時に、ドラグーンを切り離してそれぞれの方向に向かわせる。

 

モビルスーツ群が、一斉にライフルのビームを放ってくる。

セラは突進の動きを止めて、ドラグーンを目の前の空間に向けて一斉照射させる。

 

ドラグーンのビームが網の様に張り巡らされる。

ビームの網が、モビルスーツ群が放ったビームを全て迎撃していく。

 

思わぬ方法で攻撃を防御したリベルタスを見て、モビルスーツ群の動きが固まってしまう。

セラは、それを見逃さない。

 

 

「はぁっ!」

 

 

セラはモビルスーツ群に斬りかかっていく。

その上で、自分の動きに反応したモビルスーツはドラグーンに追わせる。

 

サーベルでモビルスーツの武装を切り裂き、ドラグーンでメインカメラを撃ち抜いていく。

これを繰り返し、セラはモビルスーツ群を落として包囲を抜け出す。

 

 

「はぁっ…、はぁっ…」

 

 

セラ自身の手で殺したものはゼロに近いだろう。

だが、こうしている間にも戦闘で死んでいく者はいる。

 

セラの頭に、断末魔が届く。

 

 

「くっ…、っ!?」

 

 

アークエンジェルまでもう少し、というところで、セラの目の前に装甲を白く染めた機体が立ちはだかる。

 

 

『ザフトの機体には逃げられたが…、お前は逃がさん!』

 

 

ネオは、リベルタスを見据えて言い放つ。

あのザフトのエース機には逃げられてしまった。が、こいつは仕留める。

 

それが、自分に課せられた命令なのだ。

敵を、一機でも仕留める。これが、命令なのだ。

 

兵士である自分は、命令を何としても遂行しなければならない。

なら、敵であるリベルタスを、落とさなければならない。

 

 

「このっ…!もう少しだったのに…!」

 

 

もう少しでアークエンジェルに機体を収容することができた。

 

だが、この機体も自分をそう簡単に行かせてはくれないだろう。

それに、この機体から感じる感覚…。

 

 

(まさか…、これは!?)

 

 

馴染みのある感覚なのだ。クルーゼでもない、クレアでもない。

かといってキラでもなく、ザフトの中にいたクルーゼと同じ感覚を持つ者でもない。

 

ならば、心当たりのある者は一人しかいない。

 

 

「…確かめる!」

 

 

精神をむしばむ断末魔を振り払い、セラはサーベルを手に斬りかかる。

 

そう時間はかけられない。

 

 

(急いでこいつを動けなくして、アークエンジェルに連れていく!)

 

 

 

 

 

 

 

セラが白い機体、ストライク・ブランと交戦に入る前、シンたちもまた打ち上げられた信号弾を目撃していた。

そして、その前のあのレクイエムに薙ぎ払われるザフト軍艦隊も。

 

 

「くそっ!どうしてこんなことにぃっ!?」

 

 

レクイエムのパワーチャージは時間がかかるはずだった。それなのに、レクイエムは撃たれ、戦場にいるザフト軍艦隊に三割が犠牲になった。

撤退の指示も、今回ばかりは何の否もなく納得できる。

 

だが、何故だ。何が起こったのだ。

 

 

『恐らく、パワーチャージは完了していなかったんだ』

 

 

「レイ!?」

 

 

いつの間にか近くに来ていたレジェンドからレイの声が届く。

シンはレイの言葉に驚愕して聞き返す。

 

 

『だから、レクイエムのパワーをセーブして放ったのだ。その証拠に、さっきのあれは規模が小さかった』

 

 

「レイ…、何で…」

 

 

レイの説明は冷静で、わかりやすかった。

レクイエムが撃てた理由は、シンにもよく理解できた。

 

だが、何故?

 

 

(どうしてそこまで冷静にいられるんだよ…、レイ…!)

 

 

レイのその冷静さが異常に感じる。

レクイエムが討てない今、プラントは窮地に立たされているのだ。

 

それが、レイにはわかっているのだろうか。

 

 

『ともかく今は、ここから撤退するぞ。このままここにいても何にもならないからな』

 

 

「…あぁ」

 

 

とはいえ、レイの言う通りこの場にいても何にもならない。

レクイエムを討つためにも、プラントを守るためにも今はここから退かなければならないのだ。

 

シンとレイは機体をミネルバに向ける。

そして、機体を向かわせようとするのだが、二人の前に白と黒の機体が現れる。

 

 

『悪いが…、ここから先へは行かせない』

 

 

『ここで、お前を仕留める』

 

 

ストライク・ブランと、ストライク・ノワール。

デスティニーとレジェンドの前に立ちはだかる。

 

 

『シン、行けるか?斬り込むぞ』

 

 

「わかってる!」

 

 

シンとレイが、同時に各々の剣を手に突っ込んでいく。

シンはノワールに、レイがブランへと斬り込んでいく。

 

ノワールはビームブレードフラガラッハ3を、デスティニーのアロンダイトにぶつける。

二機は互いに力を込めて押し合い、そして同時に離れる。

 

一方のレジェンドとブランもそうだ。

レイはビームジャベリンを取り、ブランはサーベルで迎え撃つ。

 

このまま戦闘が開始されようとしたその時、ノワールとブラン目掛けて二本の光条が向かっていった。

 

 

『『!』』

 

 

ノワールとブランが、それぞれの方向に機体をずらせてビームを回避する。

シンとレイが、ビームを放った正体を確かめようとカメラを向ける。

 

二人に向かって、白い機体が飛んできていた。

 

 

「インパルス?ルナ!」

 

 

『ルナマリア?』

 

 

シンとレイがルナマリアを呼ぶ。

 

 

『シン!それにレイも!?どうして!?』

 

 

ルナマリアはレイがこの場に来ていたことは知らなかったのだろう。

レイの声が聞こえてきたことに驚いている。

 

さらに、ルナマリアが来た直後にもう二機、味方が現れる。

 

 

『シン、ルナマリア、レイ!無事か!?』

 

 

『久しぶりですね、この面子が顔をそろえるのは』

 

 

「ハイネ!それに…、クレアか!?」

 

 

『…シン。あなた、私の名を忘れていましたね』

 

 

ハイネとクレアがシンとルナマリア、レイの元に近づいてくる。

 

シンがハイネとクレアを呼ぶが、クレアが自分の名を呼ぶときにできた間をツッコム。

 

 

「あ…、いや…。忘れて…ないぞ…?」

 

 

『…後で、覚えておいてください』

 

 

クレアの、まるで地を這うような低い声にシンは身震いする。

 

 

(こ、こえぇ…)

 

 

汗を流しながら思うシン。だが、すぐに気を取り直して目の前の二機を見据える。

 

 

『こいつら…、俺たちを行かせない気か?』

 

 

『そのようですね』

 

 

ハイネとクレアが声を掛け合う。

 

目の前の二機が、自分たちの撤退を妨げる中心的な存在だと悟った。

 

 

「っ、来る!」

 

 

シンが、二機のわずかな動きを見て取り、皆に伝える。

 

ノワールが、もう一本のフラガラッハを取り、二刀流で斬りかかってくる。

ブランはノワールの後方で背面の装甲から何かを切り離した。

 

 

『ドラグーンか?』

 

 

レイが、その正体をすぐに看破する。

 

シンは、そのレイの声を聴きながらアロンダイトでノワールの二本のフラガラッハを防ぐ。

 

 

「こいつは俺が引き受ける!」

 

 

『わかった!いいか!?第一の目的は撤退だ!無理に相手を落とそうとはするなよ!』

 

 

シンの声を了承したハイネが、シンやルナマリア、レイとクレアに呼びかける。

飽くまで目的は撤退。戦闘ではない、と。

 

シンはその声に頷きながら、力を込めてノワールを弾き飛ばす。

そして、すぐさま機体をミネルバへと向けた。

 

 

『!逃がすか!』

 

 

ノワールが追いかけてくるが、そのノワールの目の前に無数のビームが横切った。

ノワールは急停止し、ビームに命中することは回避する。

 

 

『シン、このまま行くぞ』

 

 

「レイ!」

 

 

あのドラグーンは、レジェンドに搭載されていたドラグーンだったのだ。

何とか自分たち二人は戦域から離脱できそうだ。

 

残った三人はどうなっただろうか?

ブランにはドラグーンが搭載されていたため、自分たちより離脱は難しそうだが…。

という、シンの懸念は無駄だった。

 

ブランのドラグーンに対し、クレアの機体、アナトもまたドラグーンを切り離して応戦している。

その間に、インパルスとカンヘル。ルナマリアとハイネは離脱できたようだ。

 

その時、ハイネが三人に指示を出す。

 

 

『よし、あの白い奴にビームを一斉に撃つぞ!クレアを離脱させる!』

 

 

その指示に、三人は同時に頷く。

 

シンは肩のビーム砲を跳ね上げ、ルナマリアとレイはビームライフルを構え、ハイネはビームユニットをブランに向ける。

 

今、アナトとブランはサーベルを斬り結んでいる。

ここで撃てば、アナトも巻き込まれてしまう。

 

 

「クレア!その場から離れるんだ!」

 

 

『っ!』

 

 

シンがクレアに言葉をかける。途端、クレアはすぐに機体を後退させた。

 

シンの意を汲み取ったのだろう。おかげで、援護ができる。

 

 

「行けっぇえええええええええええ!!」

 

 

四人が、同時にそれぞれの遠距離攻撃をブランに浴びせる。

ブランはすぐさま機体を横にずらして回避を試みる。

 

間に合うかどうかは微妙だが…、結果を見ることなく、シンたちは機体をミネルバに向けた。

 

 

『さぁ、戻るぞ!』

 

 

五人は、ミネルバへと向かっていく。

これで、この苦しかった戦闘は一段落つく。。

 

だが、これは終わりではない。これで終わらせてはいけない。

また、この激しい戦闘が、これ以上の激しい戦闘が行われるだろう。

 

その時こそ、プラントの脅威を払う。

そう決意を込めながら、シンは大きくなっていくミネルバの姿を見据えた。

 

 

『ん?あれは何だ!?』

 

 

その時、シンの他の四人の声ではない。

誰かとつながっていたのだろう通信を通して誰かの声がシンの耳に届いた。

 

あれ、とは何なのだろうか。シンはデスティニーのカメラを回して辺りを見渡す。

 

 

「…?」

 

 

デスティニーのカメラが、何かを捉えた。

モビルスーツでもない、モビルアーマーでもない。当然、艦でもない。

 

ならば、何なのか。シンはズームしてそれの正体を確かめる。

 

先程考えた三つの可能性のどれよりも、圧倒的に小さいようだ。

かなりズームしたのだが、それでもまだ確かめきれない。

 

シンはさらにズームさせてみる。

 

 

「これ…、は?」

 

 

やっと少しずつ見えてきた。人型の物体のようだ。

 

 

「…人?」

 

 

宇宙空間に、人が浮いている。シンは目を見開き、そして目を細めてそれを注視する。

 

 

「…あれ…、はっ!」

 

 

シンは、それの正体をつかんだ。

だが、それはとても信じられなかった。

 

どうしてだ。今、そいつはダイダロス基地で撤退していくザフト軍を見て笑っているはずだったのに。

どうして…、どうして、こんな所にいるんだ!?」

 

 

「じ…、ジブリール!?」

 

 

宇宙空間に投げ出されていたのは、ジブリールだった。

その姿は今、ザフト軍艦隊全体に捉えられていた。

 

ザフト、プラント。全てに衝撃が奔った瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で月の戦闘は一段落つきそうです


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PHASE52 蘇る鷹

別に生き返ったわけではないんですけどね…


「あれは…、そんな…」

 

 

アーサーが、わなわなと握りしめた拳を震わせながら、同じように震えた声でつぶやいた。

だが、そうしたいのはアーサーだけでなく、ミネルバ艦橋にいる全員がそうだった。

 

艦橋のモニターに映し出されている光景を目にして、艦橋のクルーたちが目を見開いていた。

 

そんな馬鹿な。

何で。

信じられない。

 

そのような言葉ばかりがクルーたちの頭の中に浮かんでくる。

 

何故なら、モニターに映し出されているものは今、ダイダロス基地で指揮を執っているはずの男だったのだから。

 

 

「ジブリール…!?」

 

 

タリアがその男の名を告げる。

どうしてジブリールが宇宙空間に投げ出されているのか。何故、連合の誰もこの男を助けようとしないのか。

 

恐らくもう、ジブリールは死んでしまっているだろう。

彼のまわりでは紅い液体が飛び散っている。

 

 

「撃たれた…?でも、何で…!」

 

 

「…わからないけど、今はここから撤退するわよ!デスティニーとカンヘル、インパルスは!?」

 

 

アーサーを諌めてタリアはクルーたちに命じる。

そしてメイリンに三人の状況を問いかける。

 

 

「今、着艦します!それと、味方機二機が艦長に着艦許可を求めていますが…」

 

 

「え?ミネルバに?」

 

 

問いかけの答えを返しながらメイリンが報告をする。

タリアは目を丸くしながらメイリンに聞き返す。

メイリンは頷きながら「はい」とタリアに返す。

 

タリアはどうしようかを考える。

まず艦の格納庫のスペースは大丈夫だ。その味方機二機を入れることは出来るだろう。

だが、その二人は何故このミネルバに着艦許可を求めているのだろうか。

 

他にも母艦を適している艦はあるはずだ。むしろそっちの方が二人にとっては良いはずなのだが。

 

 

「…まぁいいわ。許可します」

 

 

とりあえず、味方ならばこちらに害を与えるようなことはしないだろう。

引っかかることはあるがここで迷っている時間はない。

追撃を受ける前に何とかここから離脱する。

 

タリアの許可を受けたメイリンがその旨を伝える。

 

そして、着艦を終えたミネルバは再び離脱を再開する。

次はあの脅威を破壊する。そのためにも、崩された態勢を整えなくてはならない。

 

今は、退く。

悔しいが、退くしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラはサーベルを抜いてストライク・ブランへと斬りかかっていく。

ブランもサーベルを抜いて迎え撃ってくる。

 

セラとブランは互いに位置を入れ替えながら切り結ぶ。

 

だが、不意にブランは距離を取ったかと思うと背面から何かを切り離した。

もう何度も見た光景。セラはすぐにそれがドラグーンだと悟る。

 

セラもまたスラスターの各所からドラグーンを切り離して自分のまわりに漂わせる。

 

 

「誰なんだ…、あんたは…」

 

 

セラは目の前の白い機体、ブランを見据えながらつぶやく。

 

セラの頭の中には、ブランのパイロットの顔は浮かんできている。

だが、それはあり得ないのだ。彼は、死んだはずなのだから。

 

大切なものを守るために、命を張って、守り切って死んだのだ。

 

 

「くそっ!」

 

 

さらにセラの全身にのしかかる重み。

彼の中に響く断末魔がさらにセラに募っていく。

 

セラは重い体を無理やり動かす。

 

ブランは切り離したドラグーンを次々に、わずかに間を置いて照射させる。

セラは機体を細かく操りビームをかわしながら、まわりに漂わせていたドラグーンでビームを撃ち落していく。

その上で、サーベルを抜いてブランへと接近していく。

 

ブランはドラグーンの斉射を続けながら後退していき、そしてライフルでリベルタスに向けて撃つ。

 

セラは腕のビームシールドを展開し、ブランのライフルのビームを防ぎながらドラグーンのビームをかわす。

そしてセラもまたライフルを構えてブランに向けて引き金を引く。

 

 

『っ!』

 

 

ブランはライフルの連射を中断させ、セラが撃ったビームを横にずれることでかわす。

 

セラはここまでの攻防を振り返って思考する。

あの機体は、遠距離戦が得意な武装が揃っている。

接近戦もできなくはないが、特化しているのは間違いなく遠距離戦だ。

 

ならば、リベルタスのスピードを駆使して奴に接近し、近接戦に臨まざるを得ない状況にさせる。

そうすれば、勝つことができる。

 

 

「くっ!」

 

 

セラは自分を狙ったライフルの一射をバレルロールでかわし、直後にスラスターを全開にしてブランに接近していく。

ブランもドラグーンでリベルタスの突進を阻止しようとするが、セラはドラグーンを先回りさせ、自分への狙撃を阻止する。

 

ブランは後退しながら再びライフルを向けてくるが、その前にセラはブランへの接近に成功していた。

ライフルの半ばを斬りおとし、セラはサーベルをブランのメインカメラに突き立てようとする。

 

 

『このっ!』

 

 

ブランもサーベルを抜いてセラの振うサーベルを弾く。

その瞬間、セラはもう一本のサーベルを抜き放った。

 

セラはそのまま抜き放ったサーベルを一文字に振るう。

近接戦が不得手なブランではこれ以上リベルタスの斬撃を防ぐことは出来ない。

と、セラは予想していた。

 

だが、ブランはサーベルの持っていない方の腕をセラのサーベルとメインカメラの間に割り込ませた。

その腕には、搭載されていたビームシールドが展開されていた。

サーベルと腕がぶつかり合った瞬間、火花が迸る。

 

 

「っ!?」

 

 

『っ!』

 

 

それだけではない。火花が迸ると同時に、セラの頭の中に稲妻が奔る。

感じていた感覚が、さらに強くなる。

 

そして、セラは確信した。

 

この男は、自分が考えていたあの人だと。

 

 

「何で…、何でここにいるんだ…!」

 

 

セラは二本のサーベルに力を込めたまま、右足の膝をブランの装甲にぶつける。

 

堪らずブランは後退し、そしてセラはブランに追撃をかける。

体勢を崩したブランに、サーベルを振う。メインカメラを斬りおとされたブランはそれでもなお逃れようと後退していく。

 

 

「逃がさない!」

 

 

だが、セラはそれをさせず、ブランの胸部装甲に蹴りを加えた。

 

 

『ぐっ…、あっ…!』

 

 

セラはブランの様子を窺う。身動きを取る様子はない。

それでもセラは念のために少しの間、ブランの様子を窺うが、どうやらパイロットが中で気を失っているのか、動きを見せない。

 

 

『セラ!大丈夫!?』

 

 

「シエル?」

 

 

セラがブランに近寄ろうとした時、通信を通してシエルが呼びかけてきた。

振り返ると、ヴァルキリーとフリーダムがこちらに向かってきている。

 

どうやらデストロイを倒し、追っ手を振り切ってここまで来たようだ。

セラは安心し、息をついてから口を開く。

 

 

「良かった。二人とも、無事だったんだな…」

 

 

『それよりもセラ。それは…』

 

 

セラが二人に声をかけると、キラがセラに問いかけてきた。

キラも、この白い機体から何かを感じるのだろう。

 

 

「…アークエンジェルに連れていって確かめるつもりなんだ」

 

 

『…そっか』

 

 

『何?二人とも、何の話をしてるの?』

 

 

セラとキラの話の意図が読み取れず、シエルが二人に問いかける。

 

 

「いや…、まぁ、アークエンジェルに着けばわかる。だからまずはアークエンジェルに行こう」

 

 

『え…、あ、待ってよ!セラ!キラ!』

 

 

セラとキラはすぐにブランを抱えてアークエンジェルに向かっていく。

それを見て、慌ててシエルはセラとキラを追いかける。

 

三人はすぐにアークエンジェルに到着し、ブランを収容させた後、自分たちの機体も収容させる。

アークエンジェルは転進し、月から離れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シン!」

 

 

機体から降りたシンに、ルナマリアが駆け寄ってくる。。

その表情は、激しい戦闘を生き残って安堵したようなものではなく、かといってあの破壊兵器を討つことができずに悔しがるようなものでもなく。

 

切羽詰まったようなものと共に、その顔からは疑問の念が浮かび出ていた。

 

さらに、ルナマリアが駆け寄った直後に、ハイネが、レイとクレアがシンに駆け寄る。

 

 

「おいシン!お前、あれを見たか!?」

 

 

「…あぁ」

 

 

ハイネが言うあれ、とは、宇宙空間を漂っていたジブリールのことだ。

基地の司令室にいるはずの男が、死んで、それもまるで捨てられたかのように宇宙空間に漂っていたのだ。

動揺しないはずがない。

 

 

「…誰かと思ったら、あなたたちだったのね」

 

 

「え…、艦長?」

 

 

その時、格納庫の扉が開き、そしてシンたちに歩み寄りながら声をかけてくる。

タリアがため息をつきながらシンたちの傍で立ち止まった。

 

タリアはレイとクレアを交互に見ながら口を開いた。

 

 

「それにしても、どうしてあなたたちがここに来たのかしら?それも、ミネルバに着艦までして」

 

 

「艦長?」

 

 

まるで挑発しているみたいに言うタリアに疑問を持つシン。

 

何をそこまで警戒しているのだろうか…。警戒?

 

そこで、シンはタリアが二人を警戒していることに気づく。

タリアは一体どうしたというのだろうか。

 

 

「議長からの命令で。月での戦闘を援護せよと」

 

 

「そして、戦闘が終わればミネルバに厄介になり、すぐにメサイアへ戻れと」

 

 

「メサイア!?」

 

 

レイとクレアの言葉を聞き、タリアは目を見開いて驚愕した。

 

 

「メサイア?確かその名前は…」

 

 

「そうだ、シン。つい最近に完成した超巨大宇宙要塞だ。その規模は、かつてのヤキン・ドゥーエを凌ぐ」

 

 

メサイアというものが気になり、シンがレイに問い返す。

そしてレイの答えに、シンたちは目を見開く。

 

ヤキン・ドゥーエは、前大戦で陥落したとはいえかの有名なボアズを凌ぐ、過去最高のザフト軍要塞なのだ。

それを凌ぐという規模を持つそのメサイアという要塞は一体どれほどのものなのだろうか。

 

 

「約半日、ここに休憩をさせてもらえればありがたいです。半日経てばすぐにこの艦から発ちます」

 

 

「…」

 

 

レイの言葉を聞いてタリアは少し考え込むそぶりを見せて…、ゆっくりと頷いた。

 

 

「わかったわ。あまり動き回らないことを条件に…、以前この艦にいた時の部屋を使いなさい」

 

 

そう言って、タリアは格納庫から去っていった。

ともかく、レイとクレアは少しの間だけこの艦内にいることの許可を得ることができたのだ。

 

 

「レイ。お前、プラントに戻ってからどうしてたんだよ?」

 

 

「あ、それ私も気になる」

 

 

「…」

 

 

タリアの姿が見えなくなってから、シンはレイに声をかけた。

レイがプラントに戻ってから何をしていたか。それを質問すると、ルナマリアもそれに便乗してくる。

 

三人はアカデミー時代からずっと行動してきた。

だからこそ、仲間であるレイの過去の行動。自分たちが知らない所で何をしてきたかが気になるのだ。

 

レイは微笑むと、シンとルナマリアを見て口を開く。

 

 

「あぁ。でも、俺もお前たち二人が何をしていたのか気になるからな。俺にも聞かせてくれ」

 

 

レイの言葉に、シンとルナマリアは目を丸くして顔を見合わせて…、同時に笑いあった。

 

 

「あぁ!結構大変だったんだぜ?俺たち」

 

 

「そうよ?レイが一緒だったら、てどれだけ思ったか」

 

 

シンとルナマリアは悪戯っぽい笑みを浮かべながらレイに言う。

親しい友に会えて、どれだけ嬉しいかが目に見えてわかる。

 

ハイネはその光景を、微笑みながら見守っていた。が…

 

 

「…っ?」

 

 

「…」

 

 

隣から何か暗い気が発しているような…、そんな感覚がハイネを襲い、ハイネは隣にいるはずのクレアを見る。

 

確かに、クレアはそこにいた。いたのだが…

 

 

「…」

 

 

何か黒いオーラがゆらゆらとクレアのまわりを揺らめいていた。

ハイネは引き攣った表情になる。

 

まさか…とは思うが、先程のことを気にしているのではないだろうか?

 

 

「シン」

 

 

「ん?どうしたくれ…」

 

 

クレアに呼ばれ、振り返ったシンだがクレアの姿を見て固まった。

笑顔のまま固まり、直後、少しずつ汗が噴き出てくるシン。

 

 

「レイと話すのはいいでしょう。ですが…、忘れてはいないでしょうね?」

 

 

「え…、えっと…」

 

 

クレアがゆったりとした歩調でシンに近づいていく。

シンは、勢いよく汗を流しながらそのクレアの歩調に合わせて後ろに下がっていく。

 

クレアの表情は、笑顔だ。とても、可憐な笑顔だ。

正直、一目見れば大抵の人が見入るほどに可憐な笑顔だ。

 

その、黒いオーラさえなければ。

 

 

「いえ…、忘れていたんでしょう?だって…、私のことを、忘れていたんですから」

 

 

「うっ!?あっ…、いや、違うって!」

 

 

「ほぅ。何が違うのでしょう?」

 

 

クレアの笑みが濃くなっていく。それと同時に、噴き出てくるオーラも激しくなっていく。

それを見たシンがびくりと震える。

 

これは、まずい。殺される。

 

自身のあまりの恐怖で少し過ぎたことまで考えてしまうシン。

だが、今のシンには、目の前の少女が鬼にしか見えていなかった。

 

このままここにいては、殺される。食われてしまう。

 

シンはすぐに行動に出た。

 

 

「ご、ごめんなさぃいいいいいいいいいいい!!!」

 

 

「あ」

 

 

クレアの呆けた声などシンの耳には届いていなかった。

全速力で格納庫から去っていき、廊下を駆け抜けていく。

 

そんなシンの後姿を見てクレアを含めた四人は呆然と眺めていた・

 

 

「…あそこまで怖がられるとは思いませんでした」

 

 

「いや、あれは怖いぞクレア…」

 

 

不意に口を開いたクレアにハイネが指摘した。

対象にされてはいなかったハイネとルナマリアでも恐怖に顔が引きつっていたのだ。

 

レイは表情を変えずに見ていた。だが、内心ではどうだったかは…わからない。

 

 

「それにしても、シンはどこに行ったんだろ?」

 

 

「部屋にでも逃げたんじゃないか?この艦で逃げれる場所なんて自室くらいだろ」

 

 

ルナマリアが今、気づいたかのようにつぶやいた言葉にハイネが返す。

確かに、ミネルバで他人から逃げられる場所は鍵がかけられる自室くらいだ。

 

 

「なら、今からシンの部屋に行くか。あ、クレアはまだ怒ってる演技してくれよ?」

 

 

「了解しました」

 

 

「え。了解しなくていいと思うんだけど…」

 

 

ハイネとクレアの会話に、ルナマリアが苦笑しながらつぶやく。

それを聞いていたレイがふっと微笑む。

 

四人は並んで格納庫から出て行く。行先は、シンの部屋。

四人でこれからシンを騙しに行くのだ。

 

 

「いやぁ、シンがどんな風に怖がるか。楽しみだ!」

 

 

「はい」

 

 

「クレアって…、こんなキャラだったっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラたちは格納庫に機体を置いた後、コックピットから降りる。

直後、アークエンジェルが反転する時の揺れに耐えながら三人は集まり、白い機体、ブランの前に立つ。

 

 

「おい、お前ら!これは一体、どういうことだ!?」

 

 

三人にマードックが駆け寄り問いかけてくる。

 

三人は、マリューが決定を出す前に無理やりこの機体を収容させたのだ。

恐らくマリューもすぐにこちらに来るだろう。

 

セラたち…、いや、セラとキラはマードックの方を見て、どこか迷いながら口を開く。

 

 

「えっと…、その…」

 

 

「何というか…、忘れ物を拾ったというか…」

 

 

「忘れ物ぉ!?」

 

 

セラとキラのはっきりしない口調を気にしながらも、マードックはキラの口から出てきた忘れ物という言葉に突っ込みを入れる。

 

 

「忘れ物って何だ?」

 

 

「あの…、とりあえず、あの機体のコックピットハッチを開けてくれませんか?そうすればはっきりするので」

 

 

問いかけてきたマードックに答えを返すセラ。

セラが答えを言い切る直前に、格納庫の扉が開き、そこからマリューとトールが入ってくる。

 

 

「セラ君、キラ君、シエルさん?これは一体、どういうことなの?」

 

 

どこか鋭さがある口調でセラとキラ、シエルを問い詰めるマリュー。

だが、シエルにとっては心外でしかない。自分にだって何が何だかわからないのだから。

 

 

「そんな、マリューさん!私だって正直この二人がしたこと、わからないんですから!」

 

 

シエルの反論を聞き、マリューはシエルの顔をじっと見て…、すっとセラとキラに視線を移す。

 

 

「シエルさんはこう言っているけど…、二人は何がしたいのかしら?」

 

 

マリューはため息をつきながら告げる。

すでにセラとキラの指示で、白い機体のコックピットハッチを開けるために作業は始まっている。

 

 

「ハッチが開けば、わかりますよ。でも…」

 

 

「?」

 

 

マリューの問いかけにセラが口を開く。

だが、セラは沈んだように俯く。マリューはセラの顔色が悪いように見え、首を傾げる。

 

 

「セラ、どうしたの?顔色が悪いよ?」

 

 

そのことに、シエルも気づいていたのか。シエルがセラに様子を問うが、セラは首を振って何でもない、と答える。

だが、額から汗を流し、息がわずかに切れている。

 

戦闘の疲労だと言われればそれまでだろうが、それにしたって様子がおかしい。

 

 

「開いたぞ!」

 

 

「!」

 

 

ハッチを開ける作業を行っていた技術員の声が格納庫に響き渡る。

セラとキラは、弾かれるように顔を上げ、白い機体を見上げる。

 

二人は、あの機体に誰が乗っているかを知っているのか。マリューは考える。

でなければ、今までの話のつじつまが合わない。もし知らないなら。マリューの問いにわからないとでも何でも言えばよかったし、むしろあの機体をアークエンジェルに収容する必要はないはずだ。

 

そして、そのパイロットは自分にはあまり知られたくない人物なのだろうか。

一体、誰なのか。

 

 

「こ、これは…!?」

 

 

どうしたのだろう。技術員が動揺している?

コックピット内には誰が乗っている?

 

マリューはマードックがコックピットの中に入ってく所を見守る。

 

 

「お前ら、ちょいと手伝ってくれ!」

 

 

マードックがまわりの技術員に指示を飛ばす。

マードックともう一人の技術員がコックピットから誰かを引きずるように出す。

 

金髪だ。ウェーブがかかっているように見える。

それに、体形から見て男だろう。パイロットスーツを着て、仮面をかぶっている。

 

その時、その男が被っていた仮面がずり落ちる。

仮面は無重力状態の空間を漂い、そのままマリューの視界から消えていく。

 

マードックと技術員は、コックピットからゆっくりと男を抱えて降りてくる。

 

セラとキラが慌てて男が降りてきた場所に行く。シエルとマリューもセラとキラについていき、マードックがいる場所に向かう。

 

マードックと技術員は男を抱えてそのまま格納庫から出て行こうとする。

 

セラとキラは、その男の姿、顔を見て…、俯いた。

まるで、悪い予想が当たったみたいに。沈んだ顔になる。

 

 

「どうしたの?セラ」

 

 

シエルがセラの様子を窺って、その後、男の顔をのぞき込む。

 

 

「っ!?」

 

 

シエルの目が大きく見開かれた。何だ、誰なのか。

そこまで驚くものなのか?マリューも、シエルに続いてその男の顔をのぞき込んだ。

 

 

「えっ」

 

 

思わず、声を漏らしてしまった。

 

何故、何故この人がここにいる?あの機体に乗っていた?

いや、どうしてこの男が存在しているのだ?

 

ずっと、ずっと。まるで鎖のように悲しみが心を縛っていた。

 

あの時、ムウ・ラ・フラガが、身を挺して自分を庇ってくれて。

彼の分まで、自分は何としても生きようと、時間をかけて決心にまで至ったのだ。

 

死んだ、はずなのに。

 

 

「ムウ…!?」

 

 

その男は、今、目の前に存在している。

目を閉じているが、それは気を失っているだけ。間違いなく、ここで生きている。

 

それが、マリューにはとても信じられなくて。だが、それと同時に嬉しくて。

 

目から、何かが零れる。それが涙だと気がつくまで、時間がかかった。

 

両手を口元に当て、震えるマリューを、セラたちは、クルーたちは見ていることしかできなかった。

誰も、声をかけることができなかった。

 

何を言えばいいのか、わからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネオが、消えたか…」

 

 

ウォーレンが、司令官室のソファにもたれかかりながらつぶやいた。

この場には、ウォーレンの他にもう一人、兵士が一人。

 

その兵士が、ネオ・ロアノークが戻ってこないと報告したのだ。

 

ウォーレンは手を口元に添えて考え込むそぶりを見せる。

 

ネオがいなくなったというのは大きいものがある。

彼のこれまでの功績は小さくはない。だが、そのこれまでの功績以上に彼の腕は確かだとウォーレンは知っている。

 

結果しか見ないジブリールは、彼を粗末に扱っていたが、その結果は相手が悪かったというのと運が悪かったというのが大部分を占めている。

 

あのミネルバを相手にし、それと同時にアークエンジェルを相手にするというばめんも多々あったのだ。

 

確かに兵士にとって結果が一番大事だというのはウォーレンにとっても同じだ。

あれだけの失敗を繰り返されれば、ジブリールが彼を左遷するというのもわかる。

 

だが、相手と状況を考えれば、あの男の力を借りるというのが一番の判断だ。

 

 

「が、ネオはもういない、か…」

 

 

ネオはもういない。彼の力を借りることはもうできない、ということ。

もう一人、スウェン・カル・バヤンがいるが…、エース級パイロットが彼一人というのは心許ない。

 

 

「…俺自身が出るというのも頭に入れておかなければならないか」

 

 

指揮官である自分が出ざるを得なくなる状況になる可能性もある。

それは何とか避けたいところなのだが…、数だけで何とかなるほどザフトもオーブも甘くないだろう。

 

それと、もう一つやっておかなければならないこともある。

 

 

「おい。アラスカからあの三人をここに呼べ」

 

 

「あの…、三人…、!彼らですか!?」

 

 

ウォーレンの指示を聞いて、兵士が驚愕する。

 

あの三人、確かに彼らならネオが抜けた穴を埋めるどころか、それ以上の戦果をもたらせてくれるかもしれない。

 

 

「ですが…、彼らは若すぎるのでは…?」

 

 

「あのヤキン・ドゥーエを十四歳で生き延びている奴もいるんだ。若いも何もないだろう」

 

 

あの三人の年齢は十五歳。この連合で、戦場に出ている最少の年齢が十八なため、兵士が戸惑うのもわかるが。

先程言った通り、ヤキン・ドゥーエを十四歳で生き延びているものもいる上に、ザフトの入隊する兵士の年齢は大体が十六歳ほどだ。

聞いた話では十四歳で戦場に出たザフト兵もいたという。

 

 

「奴らの力が必要だ。それは、お前にもわかるだろ?」

 

 

「…はっ。今すぐに連絡してまいります」

 

 

兵士は司令官室を退室していく。

今すぐに連絡をすれば、ここダイダロスに到着するのは明後日になるだろう。

 

彼らの機体も共にここに持ってこなければならないのだから。輸送機の手配もして、それなりの時間がかかる。

 

 

「確かに、奴の言う通り、早いという気もするが…。そうも言ってられない」

 

 

正直、ウォーレンも兵士の言う通り、早いという気はしていたのだ。

 

別に、年齢のことではない。だが、まだ実戦経験があまりないというのが気になる。

そんな若い彼らがいきなり超激戦区に足を踏み入れるのだ。

 

全く心配がないというわけではない。

 

 

(だが…、そうも言ってられないんだ)

 

 

ザフトは、あまり時間を挟まずにここに攻めてくるだろう。

その迎撃の態勢を整えなければならない。

 

それに、今回は少数精鋭でやってきたオーブだが、次もそうだとは限らない。

しっかりと戦力を整えて攻めてくるのなら、かなり厄介な敵になるのは間違いない。

 

ザフトとオーブ。この二つの勢力を迎え撃つにはあの三人の力が必ず必要になる。

 

 

「…頼むぞ」

 

 

この一言には、あの三人に向けたものだけではない。

彼らがここに来るまでの間、ザフトやオーブが攻めてこないように。

そんな念も込められているこの一言。

 

確かに、戦況を一気に盛り返したことは否定できない。

だが、有利になったとは言えない。まだ、互角といったところだ。

 

こちらにレクイエムがある様に、ザフトにも何か切り札があるはずだ。

だから、油断は全くできない。

 

ジブリールの様に、失敗は出来ないのだ。

 

 

「…ふぅ」

 

 

兵士たちの前では、弱い所は見せられない。だから、一人の時で思い切り弱いところを吐き出してしまう。

 

ウォーレンは、引き締まっていた心をさらに引き締めていく。

引き締めすぎるくらいがちょうどいいのだ。これからは全てが決戦と言っていいほどの規模の戦闘になるはずだ。

いや、なるに決まっている。

 

 

 

 

 

 

もうじき、決着は訪れる。

だが、その期間は短くて、それでいてとても長い。

 

過去に見られない激闘が繰り広げられることを、誰もが予想していた。

 

 

 

 

 

 

そして、ウォーレンは兵士に命令したその時から三十二時間後。

ザフトが、動きを見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE53 戦闘の裏には

今までわすr…忘れていました。オリジナル機の紹介。
今回の後書きに載せました。

サブタイ…、凄く悩んだ…のに…。


セラは、傍らにいるシエルを伴いながら医務室へと入っていった。

ここに、セラとシエルが目的とする人物が眠っているのだ。

 

医務室に入ると、すでにキラ、トール、そしてマリューが中にいた。

キラとトールはある一つのベッドの傍らで立っており、マリューはそのベッドの傍らの丸椅子に座していた。

 

 

「まだ、眠っているんですか?」

 

 

セラはマリューに向けて問いかけるが、マリューはベッドで眠っている人物をじっと見つめたまま何も答えない。

セラはキラに視線を向ける。キラもセラの視線に気づき、そしてゆっくりと頷いた。

 

セラとシエルも、キラとトールと同じようにベッドの傍らに立ち、眠る人物を見つめる。

 

このベッドには、先程白い連合の機体から救出されたパイロットの男が眠っている。

その顔の頬から目元、鼻にかけて二つに分かれた傷痕が残っている。

そしてそれは、かつていつも見てきた顔と、傷痕以外は瓜二つだった。

 

 

「手当の時に一度目を開けて、自分は連合軍第八十一独立機動群所属、ネオ・ロアノーク大佐だと名乗ったらしい」

 

 

男の顔を見つめていたセラとシエルに、耳元でそっと伝えてくれるトール。

セラとシエルは、頷いてトールに続きを促す。

 

この話には、まだ続きがあるとセラにもシエルにもわかっていた。

 

 

「けど、検査で出たフィジカルデータは、この艦のデータベースにあったものと百パーセント一致した」

 

 

トールは、セラとシエルの耳元からわずかに口を離す。

そして、どこか落ち込んだような表情で、そっと告げる。

 

 

「この男は、ムウ・ラ・フラガだ。肉体的には、な」

 

 

データなど照合するまでもない。この男は、ムウ・ラ・フラガだと、自分の中の何かが告げている。

この勘にも似た何かは、外れたことがない。今回は、外れているとも思っていない。

 

セラたちの目の前で、マリューがそっと男の髪に触れて…、我に返ったように手をさっとひっこめた。

 

マリューの気持ちは、セラたちには痛いほどわかる。

失ったと思っていたその存在が、今、目の前にいるのだ。

だが、その存在には新たな名前が携わっていた。

 

 

「どういうことなんだろう…。この人は、少佐なんだよね…?」

 

 

シエルがセラに問いかける。だが、その問いにすぐに答えることが、セラにはできなかった。

セラの代わりに、キラが口を開く。

 

 

「それは、間違いないはずなんだけど…」

 

 

そう、間違いないはずなのだ。この男は、ムウ・ラ・フラガのはずなのだ。

 

キラがその続きを口にしようとした時、不意に少しかすれた声が耳に届いてくる、

 

 

「やれやれ…、いつから俺は少佐になったんだ?」

 

 

その声に、ばっ、とベッドの上で横たわっている男に振り向くセラたち。

マリューに至っては勢いよく立ち上がっていた。はずみで腰かけていた丸椅子が激しく音を立てて倒れるが、セラたちにはその音など聞こえていなかった。

 

男は上半身を起き上がらせ、拘束されている両手首の縄を外そうとしたのだろう。両手首を動かすが、すぐに諦める。

拘束されていることが不快に感じたのだろう、顔を顰めている男は、さらに続ける。

 

 

「ちゃんと大佐だって言っただろう!?そこまで俺を降格させたいのか?」

 

 

男はシエルに向かって反論している。反論されているシエルは複雑そうな顔をしながら男を見つめる。

 

と、そこで男はこちらを見つめる女性に気がついた。

いや、この場にいる全員が見つめてきていることはわかっているのだが、この女性だけはどこか違う、と男は感じていた。

 

女性は涙をこぼしながらなおもこちらを見つめてくる。

 

 

「どうした…?」

 

 

男は、戸惑いの表情を浮かべて女性に問いかける。

 

 

「一目惚れでもしたか、美人さん?」

 

 

からかうような口調で発せられたその言葉は、マリューの胸に突き刺さった。

この男は、ムウだ。この髪も、青い眼も、飄々とした口調も、優しげなこの声も。

全てが、自分を包み込んでくれる、ムウだ。

 

だが、彼は自分のことがわからないのだ。

ムウであって、ムウではない。

 

どうしていいのかわからなくなる。胸が、張り裂けそうになる。

 

もう、耐えられなかった。

 

 

「あっ、マリューさん!?」

 

 

驚いて自分を呼ぶシエルの声を振り切って、マリューは医務室から飛び出した。

 

もう、彼が自分のことを呼んでくれることはないのだ。

愛する彼が、戻ってくることはないのだ。

 

 

 

 

 

「シエル…」

 

 

「うん、わかってる」

 

 

セラがシエルに目を向けて声をかける。

シエルは頷いて医務室から出てマリューを追いかける。

 

女性のことは、同じ女性の方が良いだろう。

そして、男である自分たちはこっちだ。

 

 

「ムウさん!」

 

 

キラが強い口調で男に呼びかける。だが、男は眉を顰めてキラに問い返した。

 

 

「ムウって…、俺のことかよ?」

 

 

キラは言葉を呑み込んだ。そして、キラたちはどこかで考えていた、当たってほしくない予想が当たっていたことを悟った。

 

 

「これは…、記憶がないのか?」

 

 

「いや…、というより、違っているみたいだな…」

 

 

トールとセラが言いあう。

 

目の前の男の、金色の髪、飄々とした口調。傷痕以外は全てがあのムウと一致している。

しかし、彼が身に着けたのはかつて捨てた連合の軍服。聞き覚えのない所属と姓名。

 

ネオ・ロアノークと名乗った彼が、もしただ記憶を失っているだけなのならば、自分たちを見て何かあるのだと悟るはずだ。

だが、一切それはない。全く見知らぬ他人の様に自分たちと接した。

 

 

「確かに、そうじゃなきゃ、連合に戻るとは思えないけど…」

 

 

そのこと自体が不自然なのだ。ムウはかつて、自分たちと共に連合を抜けて戦ってきたのだ。

一度は捨てた連合に、何事もなかったように戻るようなこと、できるはずがない。

 

 

「でも、あれはムウさんなんだ…」

 

 

セラがぽつりとつぶやいた。キラとトールはセラに目を向ける。

セラはマリューが立ち去って行った廊下の先を見遣りながら続ける。

 

 

「だから、俺は…」

 

 

キラにとってもそれは同じだった。あれは、ムウだと確信し、アークエンジェルに連れてきたのだ。

だが、彼はネオ・ロアノークだと名乗っている。それが、彼の人格なのだ。

 

 

「まぁ…、でもなぁ…」

 

 

トールが後頭を掻きながらため息をついて口を開く。

 

 

「記憶がないんじゃ…、艦長にとっては酷かもしれないな…」

 

 

正直、セラとキラの中には、マリューのためにという思いもあった。

ムウが生きていたことが嬉しいという思いは二人にもあった。だが、誰が一番喜ぶかと問われれば間違いなくマリューだ。

 

セラとキラは、大戦後、マリューの様子をずっと見ていた。たまに見せる悲しげな面影を見るごとに、セラも、キラも、共に生活してきた皆も。

何とかできないものかと悩んできた。

 

セラとキラが良かれと思ってした行動が、かえって彼女を傷つけてしまったのは事実だ。

 

セラは、思い息を吐いた。

どうしたらいいか、またわからなくなってしまった。

 

マリューに謝罪しようか、だがそんなことをすれば彼女は気を遣うに決まっている。

 

セラが頭を悩ませているその時、艦内にアラームが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザフト軍艦隊、進撃を開始しました!」

 

 

ダイダロス基地で、ザフト軍の動きは捉えられていた。

 

 

「第一戦闘配備を発令させろ。パイロットを全て所定の位置に着かせるんだ」

 

 

「はい!」

 

 

オペレーターの報告を聞き、ウォーレンはすぐさま指示を出した。

 

まるで予定通りだ、と言わんとする表情をしているウォーレンだが、内心では焦りが募っていた。

 

早い。ザフト軍進軍が、予想よりも早い。

 

だが、予想よりも早いとはいえそれは誤差の範囲内だ。修正は効くはずの誤差だ。

それなのに、何故ウォーレンは焦っているのか。

 

恐らくザフトは戦力をさらに増やしてこちらに攻めてくるはずだ。

こちらも戦力を増やしてはいるが、ザフトのミネルバ、そしてその艦に在籍しているエースたち。

それには遠く及ばないのは目に見えている。

 

 

(あの三人はまだ時間がかかる…。それまで時間稼ぎに徹するのが吉か…?)

 

 

この戦闘、間違いなくオーブも参戦してくるはずだ。

前大戦後、オーブはあれを築いている。先の月の戦闘後、アークエンジェルは間違いなくそこで補給を受けたはずだ。

 

そしてあそこからこちらまでの距離は遠くはない。奴らがザフトの動きに気づくのがこちらより遅れたとしても十分間に合う距離だ。

 

それも踏まえると、圧倒的に不利なのはこちらだ。

デュランダルにとってオーブは邪魔だ。とはいえ、レクイエムを破壊するためにも無暗にオーブを攻撃するとはとても考えにくい。

 

連携はしないだろう。だが、ザフトとオーブが一気に襲ってくるのは間違いない。

 

連合VSザフト&オーブ

 

相当に過酷な戦いになるのは明らかだ。

 

 

 

 

 

 

「そう多くの数で行くのはお勧めできませんね。ザフトもこちらに無暗に攻撃を仕掛けてくるとは思えませんが、念のために少数精鋭で行くべきでしょう」

 

 

「そうね。第一、第二小隊を引き連れていきましょう」

 

 

セラとマリューが話し合う。

ザフト軍艦隊が月に進軍をしたという動きを察したアークエンジェル。

 

アークエンジェルは、先の月の戦闘で失った弾薬などを補給している。

 

今、セラたちがいる場所は、前大戦後、代表となったカガリが開発したオーブ軍所有の軍事宇宙ステーション、オオマガツヒ。

 

ここに今、所属している兵士は少ない。だが、アークエンジェルを筆頭に地上から次々に戦力が結集してきている。

そうせざるを得ない状況なのだ。

 

 

「すぐに発進準備をします。あなたたちも準備を急いで」

 

 

「了解」

 

 

マリューの指示を受け、セラは翻して駆け出す。

急いでシエルとキラにこのことを報告し、自分たちは所定の位置につかなければならない。

 

今、キラとシエルは格納庫で機体のチェックを行っている。

セラも格納庫へと急ぐ。

 

そんな中、セラは頭の中でマリューのことを考えていた。

つい先ほど、マリューはかなりの心の傷を受けたはずなのだ。

 

どうしても気になってしまう。こんな状況の中、艦長として戦うことができるのだろうか、と。

 

 

(だけど…、艦長のことばかり気にしてはいられないんだよな)

 

 

心の中でつぶやく。

 

セラもまた、自身に懸念を持っていた。

先の戦闘で感じたあのことだ。

 

何者かの断末魔。あれは一体何なのか。

それも、長く感じれば感じるほど、身体的にも影響を及ぼしてくるとはこちらも参ってしまう。

 

 

(あれから、どこか体の調子が良いって思ってたんだけどな…)

 

 

あれ、とはオーブ沖の戦闘のことだ。戦闘の最後、セラは気を失ってしまった。

目が覚め、退院してからどこか調子が良いと感じていたのだが、その矢先のこれだ。

 

他人の心配ばかりもしていられない。自分の中にも心配の種があるのだから。

 

 

「セラ!」

 

 

格納庫に到着し、中に入っていくと、こちらの存在に気づいたシエルがヴァルキリーのコックピットから顔を出して声をかけてきた。

セラはシエルの方を向いて手を上げ、そしてこちらに来るように手招きする。

 

シエルはセラのジェスチャーに気づき、まわりの技術員に声をかけてからこちらに向かってくる。

その間にセラはキラの姿を探し、見つけてシエルと同じように手招きする。

 

 

「どうしたの、セラ?」

 

 

「待って、兄さんが来てから話する」

 

 

キラもセラの元にやってくる。

と、セラはキラの傍らにいる男に気づいた。

 

肩幅が広く、がっちりとした体形の男だ。

その身にはパイロットスーツが着けられており、パイロットであることがすぐにわかる格好だ。

 

 

「あなたは?」

 

 

セラが問いかけると、男はきびきにと敬礼を取り、セラに向かって名乗る。

 

 

「オーブ軍所属、ゲンヤ・ハヅキ二尉であります!我々第一小隊は、アークエンジェルの配属となりました!」

 

 

「あ…そうですか…」

 

 

まさにゴリマッチョといえる男が、こちらを見降ろしながら敬語で自己紹介してくるのだ。

正直、コワイ。

 

 

「あなたの話は聞いております!セラ・ヤマト准将!私の方が年は上なのですが…、あなたに憧れておりました!」

 

 

「…やめてください。そんなの、ただの飾りなんですから」

 

 

ゲンヤ・ハヅキと名乗った男の言う通り、セラは准将という位が与えられている。

だが、セラにとってはその位はいらないものだった。

 

その上、准将に値する指揮能力。それが自分にはないと自覚している。

 

 

「ですが、あなたは准将として、今この場にいます」

 

 

ゲンヤがはっきりとした口調でセラに告げる。

セラは落としていた視線を上げ、ゲンヤの目を見つめた。

 

本気で、言っている。本気で、自分なんかに憧れているのだ、この人は。

 

 

「それにふさわしい力をあなたはもっています。ですから、私たちはあなたについていきます」

 

 

「…基本、俺があなたの小隊に指示を出すことはないと思いますけどね」

 

 

准将とはいえ、セラは一パイロットとして戦場に出る。

その上、先程も言ったが指揮能力は並の指揮官と同じか、それより少し上、といったところだろうか。

 

そのため、基本セラが他の兵士たちに命令を出すということはない。

 

 

「そうですが。もし、あなたが命令を出したその時は、必ずその命令を遂行させていただきます」

 

 

ゲンヤはそう言い残し、再び礼を取る。

 

 

「…ありがとう」

 

 

ぽつりとセラはつぶやいた。そのつぶやきは、セラのまわりにいるシエル、キラ、そしてゲンヤにしか聞こえていない。

いや、この三人も聞こえていないかもしれない。

 

だが、つぶやいたセラを見て三人がふっ、と微笑んだことは今のセラに気づくことは出来なかった。

 

 

「…と、今はこっちだな。アークエンジェルはこれから発進する。パイロットはすぐに所定の位置につけ、というラミアス艦長の指示だ」

 

 

「了解いたしました、准将殿?」

 

 

マリューからの伝言を伝えると、からかうようにシエルがセラに返答した。

セラは眉を顰めてシエルを見て、非難するように口を開いた。

 

 

「シエル…」

 

 

「あ、ごめんなさい…」

 

 

申し訳なさそうに謝るシエルを見てから、セラは翻って愛機、リベルタスの方に向かっていく。

そんなセラの後姿を、三人は見つめていた。

 

 

「…気に障ったかな」

 

 

「何か、ピリピリしてるよね、セラ」

 

 

シエルとキラがセラの方を見ながら言う。

今のセラは、どこかピリピリしている。いつものセラなら、先程のシエルのからかいに対してからかいで返すという余裕を見せていたはずだ。

 

今のセラには、余裕がないように見える。

 

 

「…あの戦闘から帰ってきた後、顔色が悪かったことと関係があるのかな」

 

 

心配げに表情を歪め、つぶやくシエル。

そんなシエルに、年長者であるゲンヤが声をかける。

 

 

「ヤマト准将が心配なことはわかります。聞けば、ルティウス二佐はヤマト准将の恋人だとか」

 

 

「え!?えっと…その…」

 

 

ゲンヤの直球な言葉に、シエルの顔が真っ赤に染まる。

その様子を見ていたキラが、ぷっ、と笑いを漏らす。

 

本当に、どこまでも初々しさが抜けないカップルだ。

 

 

「ですが…、今は目の前の戦闘に集中しましょう。この戦闘は、人類の未来を賭けるものになるかもしれないのですから」

 

 

「…はい」

 

 

ゲンヤの言う通りだ。今はもうすぐ行われる戦闘に集中しなければ。

セラのことも心配ではあるが、そのことに気を取られてしまえば自分だって危なくなるのだから。

 

 

「…じゃぁ、行こうか。僕たちも早く機体に乗り込もう」

 

 

シエルとゲンヤの話が終わったと判断したキラが、二人に声をかける。

アークエンジェルのエンジン音が大きくなってきた。もうすぐ発進するだろう。

 

なら、いつでも自分たちが発進できるようにこちらも準備を終えておかなければ。

 

三人はそれぞれの機体に乗り込む。

それだけではない。第一小隊のメンバーたちもそれぞれムラサメに乗り込んでいく。

 

アークエンジェル、オーブの戦闘準備は完了。

そして、アークエンジェルもゆっくりとその巨体を動かし始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「射程範囲内まで、残り二千です」

 

 

メイリンが口を開き、報告する。

その声を聴いた瞬間、タリアは素早く判断して指示を出した。

 

 

「コンディションレッド発令、対艦、モビルスーツ戦闘用意!」

 

 

タリアの指示を受け、メイリンは警報を発令させる。

 

艦橋のモニターには、小さく月の姿が映し出されていた。

もうすぐ戦闘が開始される。

 

タリアは気を引き締める。今度こそ、あの大量殺戮兵器を破壊するのだ。

プラントを、救うのだ。

 

 

 

 

「よし、行くぞ!」

 

 

「「ハイ!」」

 

 

ハイネの力強い声に、シンとルナマリアは応え、そして三人はパイロットアラートからエレベーターに乗り込む、

 

また、あの激闘が繰り広げられるのだ。もしかしたらあの激闘よりもさらに激化するかもしれない。

それを覚悟しなければならない。

 

連合はあの兵器を死にもの狂いで守り切ろうとするだろう。

だが、こちらとてあの兵器の存在を許すわけにはいかないのだ。

 

負けられない。今度こそ、負けるわけにはいかない。

 

 

「気張れよ、お前ら…。今度こそ、最後の戦いにするんだ!」

 

 

そう、これを最後の戦いにするのだ。

あの兵器を破壊し、連合を降伏させる。

 

あれが最終兵器なのは目に見えている。そしてあの兵器さえ破壊すれば、こちらの戦力で基地を落とすことができる。

 

レクイエム破壊が、こちらの勝利条件なのだ。

そしてレクイエムが撃たれることは、こちらの敗北に等しい。

 

 

「守る…。絶対に、守ってみせる!」

 

 

「ええ…。今度は絶対に、あれを破壊する!」

 

 

シンとルナマリアは意気込みながらそれぞれ機体に乗り込んでいく。

 

だが、そんな中シンは懸念に思っていたこともあった。

レイとクレアのことである。

 

二人は、ミネルバに半日滞在すると、すぐにメサイアへと戻っていってしまった。

これは、明らかにおかしい。

 

このままミネルバにいて、今、起こる月の戦いに参戦すべきではなかったのでは?

何故、メサイアへと戻ってしまったのか。

 

 

「レイ…、クレア…」

 

 

二人の力は強大だ。シン自身、もしかすれば自分よりも強いのではとまで思っている。

そんな二人は今いない。二人抜きで戦い抜かなければならないのだ。

 

議長は何を考えているのだろう。あの二人を、こんな時に戻らせて。

 

 

「あの兵器を、破壊するつもりはない…?」

 

 

いや、まさかそんなはずはない。

口に出した言葉を即座に否定する。

 

プラントの脅威となる兵器を破壊しないなどもってのほかだ。あり得ない。

なら、何のために二人を戻したのだろう?

 

代わりでも来るのだろうか?

 

 

「…まさかな」

 

 

そこで、シンの頭の中にある二人が浮かんだ。

オーブ沖での戦闘で介入し、そして戦闘が終わるとどこかに姿を消したあの二人。

 

だが、力は相当なものだった。エース級のパイロットを圧倒するほどの力はあった。

 

彼らが来れば、あの二人の抜けた穴を埋めることは可能なはずだ。

 

 

「…いや、あの二人に頼っちゃダメだ」

 

 

自分に言い聞かせるようにつぶやく。こんな弱気でいたらだめだ。

他人頼りの気持ちでいたら勝てる戦いだって勝てなくなってしまう。

 

 

『もうすぐ、射程範囲内に入ります。パイロットはすぐに発進できるよう準備してください』

 

 

スピーカーからメイリンの声が響く。

言われるまでもない。こちらはいつでも発進できる。

 

シンは目を閉じて、息を深く吸って、ゆっくりと吐く。気を、落ち着かせる。

連合のやり方には怒りを抱いている。だが、その感情を戦闘に持ち込んではダメだ。

熱くなっては、ダメだ。

 

シンはゆっくりと瞼を開く。瞬間、赤く光っていたランプが緑色に変わった。

発進許可が出たことの合図だ。

 

シンの目が勢い良く見開き、操縦桿を握りしめる。

 

 

「シン・アスカ!デスティニー、行きます!」

 

 

まず最初に、デスティニーが勢いよく飛び出していった。

その後にはカンヘル、コアスプレンダーとカタパルトから飛び出していく。

 

インパルスの合体作業が終わり、三機は並んで飛行する。

 

 

「今度こそ、終わらせてやる…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザフト軍艦隊からモビルスーツが発進しました!」

 

 

「よし、こちらもすぐにモビルスーツを発進させろ。艦隊も発進させ、基地の迎撃システムもすぐに起動だ」

 

 

「はい!」

 

 

ダイダロス基地では、ザフト軍艦隊からモビルスーツが発進したことを察知していた。

すぐにウォーレンはこちらもモビルスーツを発進させるように指示を出し、そしてこちらの艦隊、基地の迎撃システムを起動させるよう命じる。

 

今回の戦闘の第一の目的は時間稼ぎだ。

その理由は、二つある。

 

まず一つは、アラスカからやってくる三人の増援だ。

その三人が来れば、不利と考えられたこの戦闘を互角に持っていくことが可能だとウォーレンは考えている。

 

そして二つ目。それはザフト側の切り札を引き出させることだ。

向こうでも、こちらのレクイエムの様に最大の切り札があるはずなのだ。

あのデュランダルが何も用意していないはずがない。

 

その切り札が、こちらのレクイエムの対抗策だということは簡単に予想できる。

この戦いの最中で、レクイエムを発射させることは避けたい。

 

直後、向こうが切り札を切ってくる可能性が高いからだ。

 

 

(何としても、レクイエムを発射せざるを得ない状況になる前に、向こうの切り札を引き出す。そのためには…)

 

 

そのためには、アラスカからくる増援の力が必要なのだ。

 

かのアウル・ニーダ、スティング・オークレー、そしてステラ・ルーシェ。

彼らのデータを基に更なる強化を施したエクステンデット。

 

その力が間違いなく必要になる。

 

 

「っ!?これは…、四時の方向!アークエンジェルです!」

 

 

「来たか…!」

 

 

ザフト軍艦隊に続いて、アークエンジェルの到着。これは、まずい。

ザフト軍に関してはまだ誤差の範囲内で済ませられるものの、アークエンジェルに関してはあまりにも早い。

恐らく少数精鋭で来たのか。

 

 

(レクイエムを確実に撃つためにも、戦力をつぎ込んでくると思っていたが…!予想が外れた、くそ!)

 

 

焦るウォーレンだが、それでも表情は変えない。

指揮官の動揺は簡単に部下に伝わってしまうのだ。

 

それを防ぐ簡単な方法は、表情を変えないことだ。ウォーレンはそれを心得ている。

 

 

「基地全周囲を警戒しているのだろう?ならば関係はない」

 

 

「は、はい!」

 

 

関係、大ありだ。

ザフト軍艦隊が来ている方向は十一時の方だ。

 

アークエンジェルが来ている方向は逆。つまり、戦力は分散してしまう。

 

これは、予想以上にこちらにとって辛い戦いになりそうだとウォーレンは考える。

 

他の月基地から更なる増援を要請することも頭に入れておく。

 

この戦いは、勝たなくてもいい。負けさえしなければいいのだ。

いや、向こうの切り札さえ切らせればこちらの勝ちなのだ。

 

過酷な戦いではある。だが、勝利条件だけ考えればそう難しいものではないのだ。

ただ、粘ればいい。デュランダルの我慢を、切らせればいい。それだけ。

 

 

(それだけだというのに…、厳しいな…)

 

 

部下たちには見えないように苦笑するウォーレン。

ウォーレンが計画していた流れの中で、一番つらい時が来ているのは明らかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう始まっているみたいだな」

 

 

『うん。そろそろ発進しないとね』

 

 

セラのつぶやきにキラが返した。

 

もうすでに戦いは始まっている。こちらも急がなければ。

 

 

「…これは」

 

 

そこで、セラはふと気づいた。

前回の戦闘ではあったものが、この戦闘ではない。

 

 

(クレアが…、いない?)

 

 

そう、クレアの存在を感じることができないのだ。これは、どういうことなのだろう。

 

デュランダルがクレアを退かせたのか?何のために。

彼女の力を、デュランダルが知らないはずがない。

 

この戦闘でレクイエムを破壊しなければ、ザフト側は一気に窮地に陥ることになる。

それをわかっているはずなのに、何故彼はわざわざ貴重な戦力を退かせたのだろうか。

 

 

「…っ」

 

 

そこまで考えた時、セラは思わず顔を顰めた。

 

断末魔が、頭の中で響き渡る。

 

 

(何だ…、何なんだ、これは…!)

 

 

いつから自分はここまでサイコじみた存在になったのだろう。

他者の断末魔が聞こえるなど、普通ではない。

 

 

(まさかこれが…、俺の力とかいうんじゃないだろうな…)

 

 

皮肉気味に笑いながら心の中でつぶやく。

これが自分の力だとしたら、一体、何のための力なのだろうか。

 

ユーレン・ヒビキは、自分を復讐の兵器として作ったのではないのか?

なら、この断末魔が聞こえてくる能力は何だ?

 

 

「…関係、ない」

 

 

そうだ。関係ない。自分はただ、自分の護りたいもののために力を奮うのだ。

それは、それだけは変わらない。変えてはいけないのだ。

 

 

『もうすぐ射程範囲内に入ります。発進許可、出しますよ』

 

 

ミリアリアの声が響く。もうすぐ発進タイミングのようだ。

次に彼女の声が流れた時が、発進の合図だ。

 

セラは、セラたちは待つ。

 

そして、再びミリアリアの声が流れた。

 

 

『発進許可が出ました!ムラサメ隊、第一小隊は発進してください!』

 

 

まず発進するのは第一小隊。

次々にムラサメたちが勢いよく飛び出していく。

 

 

『ヴァルキリー、フリーダム!発進、どうぞ!』

 

 

次はヴァルキリーとフリーダム。カタパルトまで運ばれた二機が飛び出していく。

 

最後は、自分だ。カタパルトまで運ばれていき、目の前に暗闇の宙が覗く。

闇の中でも小さな光が無数に存在しており、どこか神秘さも感じさせる。

 

だが、今のセラにはそんなものを感じる余裕はない。

 

 

『リベルタス!発進、どうぞ!』

 

 

ミリアリアの声を聴き、セラはすぐに操縦桿を倒した。

 

 

「セラ・ヤマト!リベルタス、発進する!」

 

 

リベルタスがカタパルトから飛び出していく。

 

セラは機体を一回転させると、スラスターを開き、光の翼を広げる。

 

目の前には、こちらの存在を察知した連合軍艦隊、モビルスーツ、モビルアーマーが押し寄せてくる。

前回の戦闘以上の質量が襲ってくる。

 

 

「負けるか…!」

 

 

セラはライフルを取り、目の前の連合戦力に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、三勢力が月面で遭い見えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ZGMF-X61Sアナト
武装
・ビームサーベル×2
・ビームライフル×2
・ビーム対艦刀
・ドラグーン×10
・高エネルギー収束砲(両腰)
・近接防御機関砲
・ビームシールド

パイロット クレア・ラーナルード

ザフトが開発したZGMFシリーズの第三世代機。
アナトはエキシスターの次世代機であり、近接戦での出力を更に高めた。
それと同時にクレアの高い適性を見とめドラグーンを搭載。遠距離戦でもさらに猛威を振るうようになった機体。
さらにフリーダム、ジャスティスの同時ロックオンシステムをアナトに搭載。
計四十五門の砲火を同時に浴びせることが可能となった。



GAT-X105Bストライク・ブラン
武装
・ビームサーベル
・ビームライフル×2
・レールガン(両肩)
・高エネルギープラズマ砲(両腰)
・ドラグーン×8
・カリドゥス複相ビーム砲
・近接防御機関砲
・ビームシールド

パイロット ネオ・ロアノーク

ストライク・ノワールの兄弟機として開発された機体。
近接戦を重としたノワールとは逆に遠距離戦を重とした機体となっている。
ノワールは装甲を黒に染めているが、ブランは装甲を白に染めている。
ノワールはフランス語で黒。ブランはフランス語で白という意味。
ネオの適性によりドラグーンが搭載されている。


ということでオリジナル機の紹介でした。
ですが、ブランに関してはかなり出番が少なくなりそうです…。




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PHASE54 反撃の手は

遠くから見れば、それは誰もを魅了する光景になっていた。

そこかしこで光が点滅し、時には流れ星のように光条が流れる。

 

月面では激闘が繰り広げられていた。

ザフト軍艦隊が基地本体に押し寄せる。

 

ザフトは中継点については問題視していなかった。

残っている中継点は三つ。その三つではプラントに向けてレクイエムを撃つことは不可能なのだ。

中継点に戦力を割くということは無駄に等しい行為。

 

だから、ザフト軍艦隊はその戦力を全て基地本体に向けている。

 

 

「くそっ!前に進めない!」

 

 

ライフルをまわりを囲んでくるウィンダムに向けて放ちながらシンは苛立たしい思いに耐える。

 

先程からずっとこうしてまわりを囲まれ、基地に向けて進行できなくなっている。

そしてそれはシンだけではなかった。

 

ミネルバから発進したカンヘル、インパルス。その二機もまわりを囲まれ身動きが取りづらくなってしまっている。

それだけ自分たちは警戒されているということなのだろうか。

 

 

「くっそぉ!」

 

 

シンはライフルをしまい、肩のビーム砲を跳ね上げ、構える。

すぐさま砲撃を放ち、まわりを囲むウィンダムを薙ぎ払っていく。

 

囲んでいたウィンダムの円の中に、穴が空いたようにスペースができた。

シンはスラスターを開いてそのスペースに向かって全速力で飛ぶ。

 

 

「よし、抜けた!」

 

 

シンは、包囲から抜け出すことに成功する。

振り返ってシンは再びビーム砲を構え、砲撃を放った。

 

放たれた砲撃がウィンダムを薙ぎ払っていく光景に目もくれず、シンはまずルナマリアの援護に向かう。

 

ルナマリアは様々な方向にライフルを構えて引き金を引いている。

射撃は正確にウィンダム、ダガーLを撃ち抜いていくが、その数が減っているようには見えない。

 

一機撃ち抜かれれば一機、また一機撃ち抜かれればまた一機ち次々に援護に来ているようだ。

連合の数だからこそできる作戦だ。

 

 

「ルナ!」

 

 

シンはビーム砲をしまい、ライフルに持ち替える。

規模が大きいビーム砲撃ではインパルスを巻き込んでしまう可能性も出て来てしまう。

 

シンはライフルで次々にインパルスを囲むウィンダム、ダガーLを撃ち抜いていく。

 

ライフルを連射しながらシンは敵モビルスーツの集団にある程度接近していくと、シンはライフルを仕舞って背中のアロンダイトを抜いた。

 

アロンダイトを縦横無尽に振り抜き、敵を斬りおとしていく。

懐に入られた場合は、パルマ・フィオキーナで撃ち抜く。

 

シンはそのままルナマリアの救出に向かおうとしたのだが、不意に一部のモビルスーツがどこかへ飛び去っていく。

結果、包囲するモビルスーツの数が少なくなり、ルナマリアの救出が楽になる。

 

 

『シン!』

 

 

「ルナ!大丈夫か!?」

 

 

それどころか、ルナマリアは自力で包囲から脱出に成功した。

シンはインパルスにどこか損傷がないか調べるが、見た所どこにも目立った傷はない。

 

 

『シン!ルナマリア!』

 

 

「ハイネ!」

 

 

シンとルナマリアと同じように包囲されていたハイネも、包囲から抜け出せていた。

二人に寄り、声をかけてくる。

 

 

『でも、どうしたんだろう…。急に敵がどこかに行くなんて…』

 

 

ルナマリアが、襲ってくるウィンダムをサーベルで斬りおとしていきながらつぶやく。

そのつぶやきは、シンにもハイネにも届いていた。

 

確かにその通りだ。連合は自分たちが出撃し、視界に入るとすぐにこちらを囲みにかかってきたのだ。

それだけ警戒していたことはわかる。

 

それなのに、警戒している自分たちを置き、どこかへ飛び去って行った。

 

 

『だが、それでもかなりの数だ。気を抜いてると、すぐに死ぬぞ!』

 

 

ハイネがルナマリアに喝を入れる。

カンヘルの背面のユニットがモビルスーツ、モビルアーマーの集団に向けられ、ビームが照射される。

 

モビルスーツはそのビームで撃ち抜かれ爆散するが、モビルアーマーは前面にリフレクターを展開し、ビームを防ぐ。

 

 

『シン!斬り込め!俺とルナマリアが援護する!』

 

 

「わかった!」

 

 

ハイネの指示を受け、シンは了承の返事を返し、アロンダイトを手に突っ込んでいく。

自分の背後から放たれるインパルスとカンヘルの射撃が、目の前に立ちはだかるウィンダムやダガーLを撃ち抜いていく。

 

 

『シン!お前はモビルアーマーを重点的に攻撃してくれ!』

 

 

「あぁ!」

 

 

モビルアーマーには、リフレクターが装備されている。

リフレクターが展開されれば、正面からのビーム攻撃は全て防がれてしまう。

 

だから、前面で自由に動き回れるシンがモビルアーマーを担当するのだ。

側面からの攻撃はリフレクターでは防げない。

 

シンはさっそく、アロンダイトをモビルアーマーの背後から突き刺し、一機を落とす。

アロンダイトを抜いている間に、こちらに襲い掛かろうとするモビルスーツ、モビルアーマーに向けてライフルでビームを撃つ。

 

モビルスーツには命中するが、モビルアーマーたちはリフレクターで防いでしまう。

モビルアーマーにはビームは通用しなかったが、牽制にはなった。

 

シンは再びスラスターを開き、モビルアーマーの側面に張り付き、アロンダイトを一文字に振りってモビルアーマーを切り裂いた。

 

 

『よし、シン!お前は先に行って前衛部隊の援護に向かえ!』

 

 

「え!?だけど…!」

 

 

シンたち三人よりも、さらに基地に近づいて行っている部隊がある。

その部隊は今、大量の敵モビルスーツ、モビルアーマーに囲まれているだろう。

 

ハイネの言う通りその部隊の援護に行かなければならないが、ハイネとルナマリアを置いて自分だけ行くというのはどこか抵抗を感じる。

 

 

『大丈夫だ!だいぶ数が少なくなってきている!お前は早く行け!』

 

 

全てを落としたという訳ではない。だが、どこかに飛び去っていくモビルスーツやモビルアーマーのおかげでこちらを襲ってくる敵が少なくなってきているのだ。

そのおかげで大分戦況が楽になってきている。

 

 

「わかった」

 

 

シンは、機体を基地の方に向けて進ませる。

あの数ならハイネとルナマリアなら大丈夫だろう。

 

それよりも、ハイネの言う通り前衛で戦っている部隊のことだ。

彼らが全滅という事態になればこちらが圧倒的に不利になってしまう。

 

 

「待ってろよ…!」

 

 

シンの視界に、連合モビルスーツに囲まれている前衛部隊が見えてくる。

 

 

「あれか!」

 

 

シンはライフルを構え、モビルスーツに照準を合わせ、引き金を引く。

放たれたビームは、シンの狙い通りに命中する。結果、連合は前衛部隊の援護に向かっているデスティニーの存在に気づいた。

 

サーベルを構え、ライフルを持ち、デスティニーに向かって襲い掛かる。

シンもその手にアロンダイトを握り、向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラスターを広げ、セラは目の前のモビルスーツ群に向かって突っ込んでいく。

それと同時に、スラスターの各所からドラグーンを切り離す。

 

切り離されたドラグーンが、モビルスーツ群に向かってビームを照射する。

照射されたビームは、モビルスーツ群の頭部や武装を奪っていく。

 

だが、逃れたモビルスーツ、ウィンダムが二機。その二機に向かってセラは加速する。

ビームサーベルをすれ違い様に抜き放ち、二機の頭部を斬りおとした。

 

 

『セラ!』

 

 

「わかってる!」

 

 

その時、キラが呼びかけてくるが、その意図をすでにセラは悟っていた。

頭の中で、警告の様に何かが鳴り響いた。

 

背後から、二機のモビルアーマーがこちらに向かってビームを浴びせてくる。

セラは機体を翻して放たれたビームをかわす。

 

本来ならそこで、ビームを撃ってきたモビルアーマーに反撃をするのが通常なのだが、セラはそうしなかった。

セラはモビルアーマーとは別の方向にカメラを向けて次の目標を探す。

 

その間に、モビルアーマーの側面がビームで貫かれ、武装が破壊される。

 

 

『凄い数だね…』

 

 

『うん。前回以上だ…』

 

 

シエルとキラがセラに近寄り、言う。

二人の言う通り、数に関しては前回の戦闘よりも多くなっている。

他の月基地から援軍を頼んだのだろう。

 

 

「けど、何だ…?」

 

 

セラは何か違和感を感じていた。数は多くなっているが…、本気でこちらを落としにかかっていないように感じる。

まるで…

 

 

「時間稼ぎ…?」

 

 

そう、相手はまるで時間稼ぎをしているようなのだ。

前回は無理してでもこちらを落としにかかってきていたのに、今回はそれがない。

 

少しでも不利と感じればすぐに後退していく。

大量の数はいるが、その数の有益な使い方をしてこない。

 

 

「…レクイエムを撃つための?」

 

 

また、レクイエムで艦隊を薙ぎ払うつもりなのだろうか。

だとしたら、急がなければならない。また、あの兵器を撃たせてはならない。

 

セラは襲い掛かろうとしているモビルスーツ群に向けて再びドラグーンを飛ばす。

ドラグーンを時間差で斉射し、モビルスーツ群をセラの思い通りに追い込んでいく。

フリーダムの射程範囲に、追い込んでいく。

 

 

「兄さん!」

 

 

射程範囲内に入ったのを見て、セラがキラに呼びかける。

キラはその前にすでにフルバーストモードに入っていた。

 

両手のライフル、両肩のプラズマ砲、両腰のレールガン。そして、八のドラグーンをモビルスーツ群に向ける。

 

合計十四の砲火を同時に噴かせる。

フリーダムが放った砲火は、キラの狙った通りにモビルスーツの頭部、武装を奪っていく。

 

モビルスーツ群を退かせた後、セラたちはさらに基地に向かって進んでいく。

が、すぐに他のモビルスーツ、モビルアーマーがセラたちに襲い掛かる。

 

 

『ねぇ!何か、数が増えて来てる気がするけど!?』

 

 

最初に気づいたのはシエルだ。シエルの言う通り、こちらに向かってくる敵機が増えてきている。

 

敵機を迎撃するために、一時その場に動きを止めざるを得ない。

三人は迎撃態勢を取り、それぞれの方向に向けて構える。

 

 

『三人は先にお進みください!』

 

 

その時、三人の耳に太い男の声が届く。

直後、三人を囲んでいたモビルスーツがどこかからやってきた光条に貫かれる。

 

 

「ゲンヤさん!?」

 

 

リベルタスのカメラに映し出される、ムラサメの第一小隊。

第二小隊と共にアークエンジェルのまわりの護衛をしていたはずなのだが。

 

 

『ここは我らが食い止めます!お三方はあの兵器を!』

 

 

ムラサメ隊がモビルスーツ群と交戦を開始する。

そのおかげで、セラたちを囲んでいた敵機の数が一気に少なくなる。

 

 

「…わかった。行こう」

 

 

セラはゲンヤの提案を呑むことにする。

ここにいても恐らく埒が明かないだけだ。それならば少しでも前に進むべきだ。

 

 

「死なないでくださいよ!」

 

 

『もちろんです!』

 

 

ゲンヤに声をかけ、セラたちは基地に向かって再び進み始める。

 

それでもなおセラたちの前にモビルスーツが割り込んでくる。

割り込んできたモビルスーツは三機。セラたちを何とか止めようとかろうじて割り込むことに成功したのだろう。

 

 

『任せて!』

 

 

それに対応したのはシエルだった。背中の対艦刀を抜き、三機のウィンダムに斬りかかっていく。

ウィンダムのビームサーベルと切り結び、そして力一杯に対艦刀を振り抜く。

 

弾き飛ばされたウィンダムを、シエルはライフルで頭部と武装を撃ち抜いた。

残った二機もヴァルキリーに襲い掛かってくるが、シエルはスラスターを吹かせて加速。

 

すれ違い様に対艦刀で二機の頭部を斬りおとす。

 

 

『行くよ!』

 

 

邪魔をする者がいなくなり、三人は機体を加速させ、基地へと向かっていく。

 

基地に近づいていくごとにこちらを狙う敵の数が多くなっていくが、三機のスピードについていける者はいなかった。

 

 

「レクイエムは、基地のはずれ…」

 

 

『こっちからだと、基地を挟む…』

 

 

すでに、基地のはずれともいえる地点をカメラで映し出すことは出来ている。

だが、怪しい物体はどこにも見当たらない。

 

こちら側にレクイエムは位置していない可能性がある。

 

 

『基地のまわりを回る?』

 

 

「…そうするしか、ないのか」

 

 

恐らくザフトが戦っている激戦区を横切ることになるだろう。

 

 

「けど、やらきゃいけない」

 

 

セラはすぐに決断する。

 

 

「レクイエムを破壊する。これは、誰かがやらなきゃいけないことなんだ」

 

 

セラの言葉に、キラとシエルは同時に頷く。

三人はレクイエムに向かって機体を加速させる。

 

悲劇を終わらせるためにも、あの兵器の存在を許すわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第七小隊、全滅!」

 

 

「第二小隊、撤退します!」

 

 

ここに来て、連合側の犠牲が目立つようになってきた。それは、アークエンジェルが戦闘に介入してきてからである。

奴らのせいで、そちらにも戦力を分けなければならない。結果、ザフトを迎え撃つ戦力が手薄になる。

 

こちらの方が圧倒的不利だ。数はこちらが上とはいえ、やはり能力の差というのは大きいのだ。

 

 

「スウェンはどうしてる?」

 

 

「ザフト軍艦隊と交戦中…。今、ナスカ級を落とし、移動します!」

 

 

スウェンはかなり頑張ってるようだが、やはり戦況は辛い。

こうなると早く彼らが到着するのが望まれる。

 

大気圏を突破したという報告が入ったため、そう時間もかからずやってくるとは思うのだが…。

 

 

「!三機のモビルスーツが移動しています!速い!」

 

 

「ちっ!」

 

 

ウォーレンは舌打ちする

オペレーターの報告の三機。リベルタス、ヴァルキリー、フリーダムだろう。

あの三機が向かっているのは間違いなくレクイエム。

 

アークエンジェルがやってきた方向から考えれば、奴らがレクイエムに攻撃を仕掛けるためにはザフト軍とこちらの軍勢が戦闘している宙域を横切らなければならない。

そうすぐにレクイエムに攻撃を仕掛けることなどできないと思うが…。

 

 

「その三機をレクイエムに向かわせるな!動きを止めろ!」

 

 

「はい!」

 

 

ウォーレンが指示を出す。オペレーターが、三機の近くにいる部隊にウォーレンの指示を伝える。

 

とはいえ、並の兵などでは足止めすることすらできないだろう。

だが、これならどうだろう。

 

 

「奴らには多少無理してでも攻撃を加えろ。命を落とすことはない」

 

 

「は、はい!」

 

 

更なる指示を加える。

奴らはパイロットの命を奪わない。

ならば、多少の損傷も厭わずにそのまま襲わせる。

 

これなら、足止めにはなるだろう。

 

 

(だが、足止めは足止め…。それも、効果は少ないだろう)

 

 

動きを少しは止めることができるだろうが、あまり効果は期待できない。

こちらの兵など、すぐにあしらって移動を開始する。

 

だからといって、無暗に戦力を向かわせることは出来ない。

ザフトのエースたちも油断はできないのだ。

 

 

(奴らさえ来てくれれば…!)

 

 

三人さえ来れば、ザフト、オーブのどちらかのエースを止められる。

そうすれば、こちらが一気に有利に持ち込むことができる。

 

 

「早くしろ…、早く…!」

 

 

手遅れに、なる前に。

 

ウォーレンが願った瞬間だった。

 

 

「三機のモビルスーツ、接近!これは友軍機です!」

 

 

「っ!来たか!」

 

 

ついに、やってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前衛部隊を援護していたシンは、ちらりと光る三つの点を見た。

デスティニーのカメラを向け、ズームさせて見る。

 

 

「これは…、モビルスーツ!?」

 

 

その三つの点は、モビルスーツだった。

 

一つは、装甲を黒地に、その上に赤に染められた機体。その姿は死神を思わせる。

一つは、装甲を青に染めた機体。機体ほぼ全身に砲塔、砲口が搭載されている。

一つは、装甲を黄に染めた機体。モビルアーマー、だろうか。だが、何か隠されているのはすぐにわかる。

 

その三機が、奮闘しているシンに向かって襲い掛かる。

 

 

「っ!?」

 

 

まず、青の機体が仕掛けてきた。背負っているようにも見える四つの砲塔から砲撃が放たれる。

 

シンは機体を翻して四つの砲撃をかろうじて回避する。

体勢をわずかに崩したデスティニーに向かって、今度は黄の機体が襲い掛かる。

 

その機体は変形し、人型になる。やはり、変形機構を持っていたか。

シンは歯噛みしながらアロンダイトを構える。

 

黄の機体はどこから取り出したのか、鉄球を構えると即座にデスティニーに向かって投げつける。

 

 

「くそっ!」

 

 

これはアロンダイトで防ぐことは出来ない。腕のビームシールドを展開し、鉄球を防ぐ。

腕に相当の衝撃が奔り、思わず動きを止めてしまう。

 

その隙に、すかさず最後の一機が襲い掛かってきた。

その手にはまさに死神の鎌ともいうべきだろう。両側に刃が装着されている鎌でデスティニーの頭部を刈り取ろうとしてくる。

 

シンは機体を屈ませる。頭上を刃が通り過ぎていくのを見て、今度は反撃にアロンダイトで斬りかかろうとする。

だが、これでシンへの攻撃は終わってはいなかった。

 

その機体は鎌を反転させる。今度はデスティニーのコックピットを刈り取るべく鎌を振う。

 

瞬間、シンはそれが相手の狙いだと悟る。

 

自分の命を刈り取るために、罠にかけたのだ。

攻撃が空振りし、相手の油断を誘ったのだ。

 

 

「こっのぉ!」

 

 

だが、シンとてこんな所で死ねない。

死ぬわけには、いかないのだ。

 

シンのSEEDが、解放される。

視界がクリアになり、不必要な情報は全てカットされる。

 

シンは手に持っているアロンダイトを、鎌と装甲の間に割り込ませる。

アロンダイトと鎌はぶつかり合う。

 

 

「っ!?」

 

 

目の前の黄の機体がすぐさま後退する。

どうやら、この攻撃を防がれるとは思っていなかったらしい。

 

三機が集まり、こちらを見据えてくる。

強敵だと、認識されたのだろうか。

 

だが、一対三では圧倒的にこちらが不利だ。さらに相手に腕はザフトのエース級を凌ぐ。

そんな相手を、三人も相手にするなど辛いどころではない。

 

どうするかを考える。

 

 

『シン!』

 

 

『悪い!遅くなった!』

 

 

その時、自分の耳に望んでいた声が届いた。

ハイネが駆るカンヘル、ルナマリアが駆るインパルスが自分の両隣に着く。

仲間が、自分の元に来てくれた。これで、戦うことができる。

 

三対三。数の上では互角となった。

 

 

「…ねぇ、あの三機を壊せばいいの?」

 

 

「三機だけじゃないわ!他のも壊さなくちゃいけないのよ!」

 

 

「そうだ!宙の化け物を、俺らの手で壊さなくちゃぁなぁ!」

 

 

三人は、目の前のザフト機を見据えながら目をぎらぎらと光らせる。

目の前の獲物を喰らわんとする肉食動物の様に。

 

黄に染められた機体、ゲルプ・レイダー。

赤に染められた機体、ロート・フォビドゥン。

青に染められた機体、ブラウ・カラミティ。

 

それぞれの機体を駆る三人は、目の前の獲物に向かって襲い掛かる。

 

 

「おらっ、エリー!ファル!遅れんじゃねえぞ!」

 

 

「あんたが言うんじゃないわよ、バール!」

 

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

セラたち三人は、連合の包囲を何度か受けながらもそのいずれも退かせレクイエムに向かって確実に歩を進めていた。

そして今、ザフトと連合が入り乱れる激戦宙域に足を踏み入れていた。

 

三人に気づいたのだろう。連合とザフトのモビルスーツが目を向けたと思うと、銃を三人に向けてくる。

 

それを見て、セラたちは目を見開いた。

どうして、ザフトまで銃を向けてくるのだ。

 

連合とザフトのモビルスーツはライフルを連射してこちらに向かってくる。

 

セラたちは連合のモビルスーツにビームはくらわせるも、ザフトに対しては危害を加えるつもりはないのだ。

 

 

「待て!こっちだってレクイエムを破壊するために…」

 

 

セラの言葉には耳を貸してくれない。やはり、ザフトのオーブに対する認識はロゴスの残党なのだろう。

 

 

『ダメだセラ!僕たち三人も敵として認識されている!』

 

 

「くそっ!」

 

 

セラとキラはそれぞれドラグーンを切り離す。

ドラグーンでこちらに襲い掛かってくるザフトのモビルスーツの頭部を撃ち落とす。

 

 

「何で…!」

 

 

目的は同じなのに、こうして撃ち合わなければならない。

その現実が苦しく感じる。

 

とはいえ、ここで足を止めるわけにもいかない。

セラたちは再びレクイエムに向けて機体を動かそうとする。

 

 

『セラ・ヤマトぉおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 

「!この声っ…!」

 

 

その時、憎しみの満ちた声でセラの名を呼ぶ者が現れる。

前回はいなかった。だが、今回は出てきたということなのだろう。

 

クレアともう一人の代わりということか。あの二人が襲い掛かってくる。

 

 

『来ると思っていたぞぉ!今度こそ貴様を殺してやるぅ!』

 

 

「お前に構っている暇はないんだ!」

 

 

リベルタスに向かって、ウルティオが対艦刀で斬りかかってくる。

セラは腰のサーベルを抜き、振り下ろされる対艦刀を迎え撃つ。

 

 

「兄さん!」

 

 

セラは切り結びながらキラの様子を窺う。

もう一機の狙いが、キラだということを悟っている。

 

キラの方にも、ブレイヴァーが襲い掛かっていた。

フリーダムのサーベルとブレイヴァーのハルバートがぶつかり合っている。

 

 

『セラ!キラ!』

 

 

残ったシエルは、ザフトのモビルスーツの包囲を振り切って二人の方に向かってくる。

 

 

『ちぃっ!』

 

 

「ぐっ!?」

 

 

その時、ウルティオがリベルタスを振り切ってヴァルキリーに向かって突っ込んでいった。

セラは振り返ってすぐにウルティオを追いかけようとする。

 

 

「シエル!くそっ、邪魔だっ!」

 

 

だが、すぐにウィンダムとモビルアーマーがセラを包囲する。

セラはサーベルでウィンダムとモビルアーマーを切り裂いて何とかシエルの方に向かおうとするが、すぐに向かえそうにない。

 

 

「シエル!俺と来い!」

 

 

「ロイ!?」

 

 

シエルはロイの言葉に目を見開く。

いきなり何を言うのだ。ロイと一緒に行く?そんなこと、できるはずがない。

 

 

「それは前にも言ったはず!私は…」

 

 

「お前はセラ・ヤマトに騙されているだけなんだ!お前は俺と共にいるべきなんだよ!」

 

 

その無茶苦茶な言葉は前と変わらない。

ただひたすら来いと、共にいるべきだと語り掛けてくる。

 

しかし、シエルの心は揺るがない。

 

 

「何度も言わせないで!セラはそんなことしてない!私は騙されてなんかいない!」

 

 

「シエル!俺を信じろ!」

 

 

ロイに何を言っても無駄なようだ。

 

シエルに疑問が浮かぶ。どうして、ロイはここまでおかしくなってしまったのだろうか。

何がロイをおかしくしてしまったのだろうか。

 

 

「どうしたの、ロイ…?あなたは…、こんなことする人じゃなかったはず…」

 

 

「…俺はお前を愛している」

 

 

突然の、ロイの告白。だが、シエルの表情は動かない。

 

 

「俺はお前を愛しているんだ!あんな男よりもずっと!ずっと!!」

 

 

シエルが何を言おうとロイが揺るがなかったように、ロイに何を言われようともシエルは揺るがない。

 

シエルは、セラを愛している。ずっと、セラの傍でセラを守っていこうと決意している。

それが揺るぐことは、ない。

 

 

「だから俺と来い!お前は…、お前は俺が!」

 

 

「…」

 

 

手を差し伸べてくるウルティオ。ロイ。

だが、シエルはその手を取らない。取るわけにはいかない。

 

 

「私は、セラと一緒にいる。そう決めた」

 

 

「シエル!」

 

 

「私はセラを愛してる!」

 

 

ロイが何か言おうとしたのを遮り、シエルはセラへの思いを吐く。

 

 

「私がロイと一緒に行くことはない。…そこをどいて」

 

 

シエルは対艦刀を抜いて構え、ウルティオを見据える。

退かせる敵を、見据える。

 

 

「私はセラとキラを助けて、レクイエムを破壊しなきゃならない。ロイ、そこをどいて!」

 

 

「…」

 

 

ロイの返答は、ない。…いや、あった。

ロイは手に持っている対艦刀を構えた。つまり、これが返答だ。

 

 

「俺は…、お前を取り戻す」

 

 

「私は、あなたのものなんかじゃない」

 

 

短い言葉の応酬。

 

その直後、二機は交錯した。

 

 

 

 

「シエル!」

 

 

交錯した二機を見て、セラは叫んだ。

シエルがロイと戦っている。その役目は、自分のものなのに。

 

あいつと決着をつけるべきなのは、自分なのに。

 

包囲は抜けた。すぐにシエルの援護に向かわなければならない。

セラはスラスターを吹かせてヴァルキリーとウルティオが戦っている場所へと向かおうとする。

 

 

「…っ!?」

 

 

セラは機体を翻した。セラが先程までいた場所を、光条が横切る。

 

 

「…次から次へと」

 

 

こちらに向かってくる黒い機体。アークエンジェルに収容した、あの白い機体にどこか似ている。

 

恐らく兄弟機なのだろう。そうでなくても、連合機体なのは間違いない。

 

黒い機体、ストライクノワールはビームブレード、フラガラッハを構え斬りかかってくる。

セラも、手に持っているサーベルで迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつを片づけて、シエルを助けに行く。

 

あなたを倒して、セラを助けに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「邪魔をするな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




DESTINY ASTRAY Rからの登場です。
ですが、作者はASTRAYに関してはほとんど無知です。なめるようにしか知りません。
違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、どうかご了承お願いします。


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PHASE55 絶望の閃光、再び

月面での戦闘の状況は、宇宙要塞メサイアの司令室のモニターに映し出されていた。

 

ザフト艦が、連合艦が、ザフトのモビルスーツが、連合のモビルスーツが、モビルアーマーが。

爆発を起こし辺りを照らす。

 

デュランダルはその光景を無表情で見守りながら、オペレーターに問いかける。

 

 

「戦況はどうなっている?」

 

 

「先程までは押していたのですが…。新型の連合軍機、三機が増援に来て…。デスティニー、カンヘル、インパルスが動きを止められています」

 

 

向こうはさらに最新鋭機の制作をしていたというのか…。

 

しかし、この急速に動き回る状況はさすがのデュランダルも戸惑いを隠せなかった。

特に、宇宙空間に投げ出されたジブリールの遺体に関しては、驚愕に目を見開いてしまった。

 

一体、何が起こっているというのだろうか。

連合の中で、何が起こっているのだろうか。

 

 

「…ウルティオ、ブレイヴァーはどうなっている」

 

 

「ヴァルキリー、フリーダムとそれぞれ戦闘中です」

 

 

「そうか」

 

 

まぁそれはいい。あの二人への最優先任務は、セラ・ヤマト。そしてその周辺の人物の抹殺なのだから。

 

しかし、シン・アスカ。それにハイネ・ヴェステンフルスが手こずるほどの相手がまだ連合にいたのか。

それほどの能力を持つエクステンデットは、もう存在しないはずだったのだが…。

 

 

「…ネオジェネシスのチャージを」

 

 

「…は?」

 

 

デュランダルの一言に、目を丸くしながら聞き返してくるオペレーター。

 

 

「ネオジェネシスのチャージを急げ。最大までは上げなくともよい」

 

 

「は、はっ!」

 

 

デュランダルが考えていることは、先の戦闘で連合がしたことをやり返すことだ。

連合軍艦隊を薙ぎ払い、こちらに流れを傾けさせる。

 

 

(…とはいえ、向こうとて何もしてこないというはずはない)

 

 

相手の指揮官は相当に優秀だ。恐らくこちらが仕掛けてくることを読んでいるはず。

だから、それと同時にもう一つ手を打つことにする。

 

 

「ディーヴァと、ドム三機を出撃させろ」

 

 

デュランダルは告げる。

 

本物のラクス・クラインが乱入してきたあの時の放送。

その反響は、デュランダルが恐れていたよりもずっとこちら側にとって良いものだった。

 

 

『私は議長を信じています!』

 

 

『俺たちを助けてくれたのはザフトなんだ!だから、俺たちはザフトを信じる!』

 

 

『あんなのは信じない!ラクス様はずっと、俺たちを救おうと尽力してくれていたんだ!』

 

 

このような言葉が、アプリリウスに送られてきていたのだ。

それを見たデュランダルは、まだミーアは使えると確信した。

 

確かにまだ混乱している者たちはいるだろう。

だが、その彼らをこちらのラクスが本物なのだと信じさせることはまだできる。

 

それに、ラクス・クラインが自ら戦場に出たとなると、友軍の兵たちの士気は上がる。

 

 

「さぁ…、どうなるかな…?」

 

 

デュランダルは肘を立て、拳に頬を乗せる体勢で微笑む。

 

まだこちらに分がある。そのアドバンテージを、活かさない手はないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シン!回り込まれてるぞ!』

 

 

「わかってる!」

 

 

シンは振り返って腕のビームシールドを展開させる。背後からカラミティが背面から伸びる砲塔をデスティニーに向けて四つ同時に砲撃を放った。

四つの砲撃がビームシールドに激突し、爆発が起こる。

 

機体に損傷はないが、大きな衝撃によって体勢が大きく崩れる。

 

 

「ははっ!もらったわよ、化け物がぁっ!」

 

 

その隙を逃さず、カラミティはスキュラ二列をデスティニーに向かって撃つ。

 

シンは機体を翻しかわそうとするが、その前にシンの前に何かが割り込んだ。

ビームシールドを展開させたカンヘルである。

 

カンヘルはスキュラを防ぎ切り、反撃にライフルをカラミティに向かって撃った。

 

ビームはカラミティにかわされてしまう。

 

 

「おらっ!ぼうっとしている暇はねえぞおらぁ!」

 

 

さらに、二人の死角から鉄球を投げつけようとするレイダー。

二人は振り返り、それぞれの方向に機体をずらした。

 

 

「ちぃっ!ファル!」

 

 

鉄球をかわされ、舌打ちするレイダーのパイロット、バール・フェルダー。

だが、すぐにその二機を狙ってフォビドゥンがプラズマ砲、フレスベルグを放とうとする。

 

 

「させない!」

 

 

「っ!?」

 

 

その直前、フォビドゥンが横殴りに衝撃を受ける。

フォビドゥンのパイロット、ファル・グレンが目を向ける。

 

インパルスの突進を受けたのだ。

突進を受けたフォビドゥンは、すぐに体勢を整えてインパルスを目標に据える。

 

 

「よくも邪魔を…」

 

 

もう少しであの二機を撃ち落とせたのに、邪魔をされた。

そんな怒りを込めながら、今度こそフレスベルグを放つ。

 

ルナマリアは向かってくるプラズマ砲をかわすために機体を横にずらすが、そのビームはインパルスを追いかけるように曲がる。

 

 

「ビームがまがった!?」

 

 

「ルナ!」

 

 

プラズマ砲が着弾する直前、横合いから割り込んできた砲撃がプラズマ砲を迎撃した。

 

 

「シン!」

 

 

砲撃を放ったのはデスティニー、シンだ。

 

 

「このぉっ!」

 

 

シンはお返しとばかりにビーム砲をフォビドゥンに向けて放つ。

が、フォビドゥンは両肩の装甲を正面に展開したと思うと、その装甲に砲撃が着弾する直前、砲撃が機体を避けるように曲がっていった。

 

 

「これは…!?」

 

 

『放ったビームを曲げることができて、撃たれたビームを曲げることもできる…!?』

 

 

その光景を見たシンとルナマリアは目を見開いて驚愕する。

こんな機体を、連合は作り出していたというのか?

 

 

『この三機、あの研究所のデータの中にあった機体にそっくりだな!』

 

 

ハイネが告げた言葉をきっかけに、シンとルナマリアは思い出した。

ロドニアの研究所にあったあのデータ。その中にあった連合の機体三機のデータを。

 

 

「こいつらは、その発展機ということか…!」

 

 

今、戦っている三機は研究所のデータの中にあった三機の発展機。

 

あの三機は、前大戦の終盤から猛威を振るったという。

フリーダム、ジャスティス、ヴァルキリーもその三機に苦戦を強いられたという情報も聞いている。

 

だとすれば、相当の強敵なのは間違いない。

 

 

「だぁかぁらぁ…、ぼうっとしてちゃぁダメだってばぁっ!」

 

 

その時、シンとルナマリアの背後からカラミティが二人を狙っていた。

両腕の衝角砲、ケーファー・ツヴァイを同時に、それぞれを狙って放つ。

 

シンは素早くそれに反応し、機体を翻して回避に成功する。

が、ルナマリアはそうならなかった。それでも反応し、アンチビームシールドを割り込ませ防ごうとするのだが、衝撃によって体勢を崩してしまう。

 

 

「ルナっ!」

 

 

シンはルナマリアの援護に、ライフルをカラミティに向けて撃つ。

インパルスに追撃を行おうとしていたカラミティは、追撃を中断して回避する。

 

その瞬間、カラミティのカバーに入るレイダー。レイダーはプラズマ砲をデスティニーに向けて放つ。

対するシンも、ビーム砲を跳ね上げ、対抗するべく砲撃を放つ。

 

二つの砲撃はぶつかり合い、爆発を起こす。

 

爆煙が起こり、その隙に距離を取ろうとする。

シンはインパルスを抱えてそのまま後退する。

 

 

『シン!?』

 

 

ルナマリアの驚愕する声が聞こえてくるが、今は反応している暇はない。

正直、戦況はこちらが不利だ。

 

あの三機の機体はデスティニー、カンヘルと同等の性能を持っている。

ワンランク性能が下がるインパルスはかなり分が悪い。

 

それにパイロットの腕も大したものなのだ。性能に振り回されることなく機体を思うように操ってくる。

 

 

「っ!?」

 

 

背後から、ツインニーズヘグを振ってくるフォビドゥン。

ニーズヘグはビーム兵器ではない。つまり、ビームシールドでは通用しない。

 

その時、傍らのインパルスが抜け出した。シールドを掲げ、振るわれるニーズヘグを抑えるルナマリア。

 

シンは動きを止められたフォビドゥンに向かってビーム砲を放つ。

が、フォビドゥンをレイダーが救出し、そのままデスティニーとインパルスから一旦離れていく。

 

 

「個々の腕だけでなく、連携も上手い…!」

 

 

そう、ここの腕だけならば苦戦することはなかった。

だが、彼らは連携を取ってこちらを追い込んでくるのだ。

 

 

『シン…。このままじゃ…!』

 

 

カラミティと交戦していたカンヘルが近寄ってくる。

同じように、向こうでもカラミティが敵の二機に近寄っている。

 

 

『正直、ここで一番きついのはルナマリアだ…。だからといって、俺たち二人であの三機を相手にするのは辛い…!』

 

 

ハイネが声をかけてくる。ハイネは、さらに続いて言ってきた。

 

 

『理想なのは、それぞれ一対一に持ち込むことなんだが…!』

 

 

シンとハイネ。そして向こうが二人だったならばそれは出来ただろう。

だが、向こうは三人。そしてこちらには性能で劣るインパルスがいるためそれはできない。

 

さらに、言いたくはないがルナマリアの腕ではあの三人の誰かを相手にすることは正直難しい。

ならばどうするか。シンの中で、その答えは出ていた。

 

 

「…俺があの中の二機を相手にする。ハイネとルナは一機を倒してからこっちに来るんだ」

 

 

『えっ!?何を言っているの、シン!?』

 

 

これが、一番の方法だろう。シンかハイネが向こうのどれか二機を一人で相手をし、残った一機をルナマリア、そしてシンかハイネのどちらかがやる。

そして残りの二機を三人で倒す。これが今できる最良の手だ。

 

しかし、ハイネの機体は殲滅戦に適している。確かに多対一ではあるが、小回りを利かせなければならない高速戦闘になるだろうこの戦いには適していない。

ならば、オールラウンダーでかつ高速戦闘もできるデスティニーが二機を受け持つべきだ。

 

 

「ハイネ、ルナ。これが最良の方法だ。俺たちは、ここで負けちゃダメなんだ!」

 

 

シンが自身の思いを込めて訴える。

これが、勝つために、守るためにできる最善の方法なのだと。

 

ハイネが、少しの間考えて、口を開く。

 

 

『わかった。なら、俺とルナマリアであの黄色い奴をやる』

 

 

『ハイネ!?』

 

 

ルナマリアがハイネの答えに驚愕する。

本当に、シン一人でやらせる気なのだろうか。

 

 

『ルナマリア。これが一番の方法だ。俺たちは黄色い奴をやってすぐにシンの援護に向かう』

 

 

ハイネは本気だ。それしかないのだから。

 

ここで足止めを喰らっている場合ではないのだ。持久戦になれば、不利なのはザフト側だ。

目の前の障害を乗り越え、レクイエムを破壊するのだ。

 

 

「行くぞっ!」

 

 

シンはビーム砲を放つ。放たれた砲撃はカラミティ、フォビドゥンとレイダーを分断する。

 

 

『ルナマリア!』

 

 

『…わかった!』

 

 

そこを見逃さず、ハイネとルナマリアはレイダーへと襲い掛かっていく。

それを見届け、シンはすぐにライフルをカラミティ、フォビドゥンへに向け、撃つ。

 

カラミティとフォビドゥンは最小限の動きでビームをかわすと、まるで品定めするようにデスティニーを見る。

 

 

「へぇ…。こいつ、一人で私たち二人を相手にする気なのかしら?」

 

 

「…潰す」

 

 

舐められている。こいつは、自分たちを舐めている。

自分たち二人を相手に勝つ気でいるのなら、すぐに後悔させてやろう。

 

カラミティはスキュラをデスティニーに向けて放つ。それと同時にフォビドゥンはデスティニーにニーズヘグを手に躍りかかる。

 

シンはスキュラをかわし、アロンダイトを抜いてフォビドゥンを迎え撃つ。

 

勝たなくてもいい。するのは、時間稼ぎ。

勝ちにいくのはハイネとルナマリアが来てからだ。

 

シンの、一人での戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンたちが苦戦していたころ。セラは目の前の黒い機体、ストライク・ノワールを圧倒していた。

とはいえ、ノワールもかなり腕のあるパイロットが乗っている。

 

押すことは出来ても押し切ることができない。

決定打が打てない。

 

 

「はぁっ!」

 

 

セラはノワールの懐に潜り込みサーベルを振り上げる。

だが、サーベルはノワールのシールドで防がれてしまう。

 

そこからノワールは二刀流での追撃を警戒したのだろう。すぐに後退し、フラガラッハを構える。

 

それに対し、セラはライフルをノワールに向けた。

 

 

「っ!?」

 

 

そこでスウェンは目を見開く。

 

いつものセラならスウェンの読み通り二刀流で追撃をかけていただろう。

 

しかし、セラもすでに百戦錬磨のパイロットとなっている。

自分の二刀流の戦いも、相手に順応されてきていることにとっくに気づいていた。

 

だからこそ、ここで遠距離戦に持ちかけた。

 

セラは引き金を引き、ライフルを連射する。

 

ノワールはシールドを構え、距離を取ろうと後退する。

後退しつつ、フラガラッハからビームライフルショーティに持ち替え、リベルタスに向ける。

 

 

「させるか!」

 

 

それを見たセラはすぐにスラスターからドラグーンを分離させる。

 

ドラグーンをノワールに向かわせ、時間差でビームを照射させる。

 

ノワールはライフルを辺りに向けながらドラグーンを破壊しようとしているのだろう。

だが、セラはそうはさせじとひっきりなしにドラグーンをノワールのまわりで移動させる。

移動させながら、ビームを照射させ、ノワールを追い込んでいく。

 

セラはドラグーンで誘導する。ノワールを誘導する。

 

セラが今、ビームを照射させているのは、八基あるうちの六基。

残りの二機は、誘導させたい地点に待機させている。

 

その二機の射程範囲内にノワールが入れば、ビームでノワールのメインカメラ、武装を撃ち抜くのだ。

 

 

「これは…!」

 

 

スウェンも気づいた。自分が、誘導されていることに。

 

ドラグーンのビームを回避しながらカメラで辺りを見渡す。

そこに、動かない二基のドラグーンを見つける。そこに自分を追い込んで、二基のドラグーンで落とす気だったのだろう。

 

 

「好きには、させない!」

 

 

スウェンはシールドを構えて、リベルタスに向けて突っ込んでいく。

 

 

「っ、気づかれたか!?」

 

 

セラは、相手が自分の狙いに気づいたことを悟る。

 

こうなっては仕方ない。動かしていなかった二基も使い、突っ込んでくるノワールを阻止せんとビームを浴びせかける。

だが、ノワールはバレルロールを繰り返しながらビームをかわし、かわしきれないビームはシールドで防ぎながらリベルタスに接近していく。

 

セラはすぐにサーベルに手をかける。

ドラグーンでノワールの妨害をしながら、ノワールとの間合いを計る。

 

ノワールが、フラガラッハを一文字に振るう。セラもサーベルで迎え撃ち、フラガラッハを防ぐとすぐにノワールに向けてドラグーンのビームを照射する。

 

だが、ノワールはすぐに後退。ビームは空を横切る。

 

 

「くそ…、時間はかけられない…!」

 

 

中々目の前の相手を倒しきれないことに焦りが募るセラ。

あまり時間はかけられないのだ。レクイエムのことだけではない。

 

ロイと交戦しているシエル。そしてアレックス…、アスランと交戦しているキラを援護しに行かなければならない。

 

そして、さらに…。

 

 

「…っ!」

 

 

セラは顔を顰める。ここに来て、頭の中に入ってくる断末魔によるダメージがきつくなってきた。

まだ戦闘行為に支障が出るほどではない。だが、不快に感じ、それがどこか気になってしまうほどにはなってきている。

 

 

「邪魔だ!」

 

 

手早くこいつを退ける。

セラはドラグーンを一度戻してバッテリーを補給させ、すぐに切り離して向かわせる。

それと同時に収束砲を持ち、ノワールに向けて放つ。

 

ノワールは砲撃をかわし、そこで動きを止めずに降りかかるビームの雨をかわしていく。

 

セラはスラスターを開き、翼を広げる。

リベルタスは翼をはためかせ、ノワールへと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

「アスラン!アスラン!!」

 

 

『…何を言っているんだ』

 

 

キラはブレイヴァーの猛攻をしのぎながら必死にあの機体に乗っているアスランに呼びかける。

だが、返ってくる反応はずっと同じ。

 

 

『何度も言わせるな。俺は…』

 

 

ブレイヴァーは手に持っているハルバートを分離させる。

二本のサーベルへと変わった剣をフリーダムの両スラスターに向けて振り下ろす。

 

 

『アレックス・ディノだ!』

 

 

キラは振り下ろされる二本のサーベルを、こちらも同じように二本のサーベルで迎え撃つ。

 

 

「くっ!」

 

 

キラはそこで両腰のレールガンを展開。発砲するが、それを察知したブレイヴァーはすぐに機体を後退。

翻し、放ったレール砲はかわされてしまう。

 

 

「アスラン…!どうして…!」

 

 

これは、ムウと同じだ。ムウと同じく、記憶が違っている。

かつての記憶が入れ替わっている。

 

自分のことを知らず、セラのことも知らず。

恐らく、今は祖国にいるカガリのこともわからないだろう。

 

 

「何があったの、アスラン!」

 

 

キラはドラグーン以外の六砲門を同時に噴かせる。

今ここで呼びかけても意味はない。ムウと同じように、機体を動かなくさせてアークエンジェルに収容させる。

 

だが、呼びかけずにはいられなかった。もしかしたら、自分のことを思い出してくれるかもしれない。

そんな希望的観測がキラの頭の中から離れなかった。

 

 

『俺はアレックスだ!アスランという名前ではない!』

 

 

返ってくるのは否定。非難。

そして、自分を殺そうとする刃。

 

ブレイヴァーはオメガを放つと同時にフリーダムに向けて突っ込んでいく。

キラは機体を翻してオメガをかわし、そして突っ込んできたブレイヴァーに対して身構える。

 

ブレイヴァーは何の武器も持たず、素手の状態で突っ込んできていた。

キラはその光景に呆気にとられるが、すぐにはっ、と我に返る。

思い出す。

 

キラは腕のビームシールドを展開。ブレイヴァーの裏拳を防ぐ。

ブレイヴァーの両手両足にはビームブレードが搭載されているのだ。

 

キラはすぐに機体を後退させ、ライフルを構えてブレイヴァーに向けて引き金を引く。

 

 

「違う!君の名前はアレックスなんかじゃない!アスランだ!」

 

 

キラは目の前の友に向けて呼びかける。

君の本当の名はアスランなのだと、呼びかける。

 

 

『…お前は』

 

 

ブレイヴァーは、フリーダムが撃ったビームをかわすと、すぐにオメガを放つ。

一発ではない。連射だ。

 

 

「っ!」

 

 

キラは縦横無尽に機体を飛び回らせ、防ぎ切れない砲撃はビームシールドで防ぎ切る。

 

 

「なっ!?」

 

 

気付けば、ブレイヴァーは目の前に接近してきていた。

ブレイヴァーの膝が、ぶれて見えた。キラは両腕を交差させる。

 

交差させた両腕に、ブレイヴァーの膝蹴りが命中する。

衝撃に機体が後ろに退げられる。

 

そこを逃さず、ブレイヴァーはサーベルを連結させ、ハルバートでフリーダムへと斬りかかっていく。

 

 

『何度、同じことを言わせる気だ!』

 

 

「!」

 

 

キラは腕のビームシールドを展開し、ハルバートの斬撃を妨げる。

だが、ブレイヴァーはすぐにハルバートを下げると今度はシールドで妨げられない場所からハルバートを振り上げる。

 

 

「ぁっ!」

 

 

キラは機体をのけぞらせる。

視界からブレイヴァーが消えてしまうが、生き延びるにはこの方法しかない。

 

のけぞったフリーダム。空を切るハルバート。

キラはすぐにブレイヴァーを視界に入れようと正面を見る。

 

が、すでにそこにブレイヴァーの姿はなかった。

 

 

「どこに…?…!」

 

 

キラは、背後から感じる殺気にとっさに振り返った。

そこにはハルバートを、フリーダムのコックピットに突き立てようとしてくるブレイヴァー。

 

これは、避けられない。

 

キラは目を見開きながらブレイヴァーの姿を見つめることしかできない。

 

ハルバートの切っ先が、コックピットへと吸い込まれていくのだった。

 

 

 

 

 

 

照射されるビームを、シエルは機体を後退させてかわす。

反撃に、カリドゥスをウルティオに向けて放つが、ウルティオは機体を翻して砲撃をかわしてしまう。

 

その直後、ウルティオのユニットが切り離され、ヴァルキリーへと向かっていく。

 

 

「ドラグーン…!」

 

 

シエルは機体を後退させ、何とかドラグーンに包囲されることを回避しようとする。

 

 

『そうはさせないぞ!』

 

 

だが、その行動を読んでいたロイ。

ウルティオが展開したのは両腰のレールガン。

 

放たれたレール砲はヴァルキリーに着弾する

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 

レール砲は実弾のため、VPS装甲には通用しない。だが、衝撃は防ぎ切れない。

揺れるコックピット。衝撃に耐えながら、シエルは遂に周りを囲んでしまったドラグーンを見据える。

 

 

『…行くぞ』

 

 

ロイのその言葉と共に、ドラグーンが一斉に照射される。

 

シエルは、照射されるビームをかわしながらライフル二丁を取り出す。

そしてビームをかわしつつも動き回るドラグーンに照準を合わせ、引き金を引く。

 

一発目は外してしまったが、二発目でドラグーンの一機を撃ち落すことに成功する。

 

その時、ドラグーンのビームが止む。そう思った瞬間、ウルティオがサーベルで斬りかかってきた。

シエルはライフルから対艦刀に持ち替え、ウルティオの斬撃に迎え撃つ。

 

 

『シエル!俺と一緒に…』

 

 

「何度言われても同じ!」

 

 

互いに位置を入れ替えながら力を込めて押し合う。

その最中にロイが声をかけてくるが、シエルはそれを相手にしない。

 

 

『…なら』

 

 

ウルティオの背後から、何かが飛び出してきた。

シエルはそれを見て目を見開く。飛び出してきたのは、二本の腕。

 

 

(これが、セラが言っていた隠し腕…!)

 

 

セラに聞いていたため、初見ながらも驚きは大きくはなかった。

シエルは一旦後退しようとスラスターを逆噴射させる。

 

 

『その機体の両手両足をもぎ取って、連れ帰る!』

 

 

ウルティオの隠し腕が襲い掛かる。

隠し腕に搭載されているビームブレード。シエルはそれを警戒して機体を後退させる。

 

ウルティオの隠し腕は空を切る。だが、後退したヴァルキリーを追いかけるようにドラグーンが向かっていく。

 

シエルは対艦刀をしまい、サーベルを一本取り出す。

 

そしてビームシールドを展開し、ウルティオに向かって突っ込んでいった。

 

ヴァルキリーを狙ってビームが照射されるが、シエルはシールドで防ぎ、サーベルで弾きながらウルティオへと向かっていく。

 

 

『くっ!』

 

 

ロイもこれには予想外だった。ヴァルキリーの動きを止め、遠距離で仕留めるつもりだったのだが当てが外れる。

 

ウルティオは再びサーベルを手に取る。そして、隠し腕を展開した状態で突っ込んでくるヴァルキリーに向けて、同じように突っ込んでいく。

 

シエルはサーベルをウルティオに向けて振り下ろす。ウルティオは、ヴァルキリーに向けてサーベルを振り上げる。

ぶつかり合う二本の剣。だが、すぐにシエルは機体を後退させる。

 

 

『遅い!』

 

 

しかし、今回は遅かった。ウルティオの隠し腕が、ヴァルキリーに届く。

 

 

「っ!」

 

 

シエルは咄嗟に機体を翻す。

その結果、隠し腕のビームブレードは装甲を掠るに留まった。

 

しかし、この攻防でシエルは悟ってしまった。

自分では、ロイには勝てないと。

 

ロイを倒すには、近接戦で相手を押し切るパワー。そしてドラグーンをかわしきるスピード。

ここまではヴァルキリー、シエルにはある。

だが、最後の一つが欠けていた。

 

隠し腕の奇襲をかわすための反応能力。それが、シエルにない弱点となってしまっている。

 

 

(でも、やらなきゃダメ…。今ここで、ロイを私が倒すんだ…!)

 

 

ヤキン・ドゥーエで撃ち損ねてしまった。そのために、今ここにロイが存在してしまっている。

ロイが生きているのは、自分の責任なのだ。

 

ここで決着をつけるのが、自分の役目なのだ。

 

 

『シエル!』

 

 

再び隠し腕がヴァルキリーを襲う。だが、この攻めは正直すぎた。

シエルはすぐに機体を翻し、隠し腕の斬撃をかわす。

 

その光景を見たロイは、にやりと笑みを浮かべた。

 

 

『かわされることは、想定済みだ!』

 

 

「あっ!?」

 

 

シエルは、隠し腕の斬撃をかわすために機体を翻し、そして一旦、距離を取ろうと後退した。してしまった。

そこは、ドラグーンで包囲されていたことに気づかずに。

 

 

『終わりだシエル!俺と共に…、来いっ!!』

 

 

ドラグーンが照射されれば、シエルは間違いなく回避できない。

 

ロイの言う通りならば、ヴァルキリーの両手両足を撃ち抜かれ、身動きが取れなくなってしまうだろう。

そして、ロイに連れていかれてしまう。

 

窮地にさらされるシエルとキラ。

ノワールと交戦しながら、それを見ることしかできないセラ。

 

 

『シエル!兄さん!』

 

 

セラがシエルとキラに呼びかける。だが、それしかできない。

助けに向かうことが、できない。

 

ドラグーンが、照射されようとしている。

振われるハルバートが、フリーダムを貫こうとしている。

 

それを、見ていることしかできないセラ。

 

 

『くそっ!くそぅっ!!』

 

 

悪態をついても、状況は変わらない。

 

シエルとキラは、訪れる閃光を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして訪れた閃光は、三人が考えていたものではなかった。

 

やってきた閃光は、フリーダムを貫こうとしていたブレイヴァーを後退させた。

 

やってきた閃光は、まわりのドラグーンを撃ち落とし、ドラグーンを後退させた。

 

 

『何だ…!?』

 

 

『誰だ!邪魔をしたのは!?』

 

 

アレックスとロイが、メインカメラを向ける。

見えてきたのは、接近してくる真紅の機体。

 

かつてのヤキン・ドゥーエ戦で英雄とされる活躍をした機体。

絶望の光を、自爆という身を亡ぼす方法で止めた、本当の英雄。

 

 

「ジャス…ティス…?」

 

 

呆然とつぶやくシエル。

呆然としていたのは、キラも同じだった。

 

そんな二人に、いや、今、ノワールと交戦しているセラの耳にもある声が届けられる。

 

 

『…もう、お前らだけじゃないぜ』

 

 

今、その人はアークエンジェルに乗っているはずだ。どうして、その機体に乗っているのか。

 

聞きたいことは山ほどあるが、それよりも大きい頼もしさ。

 

 

『これからは俺もいる!セラ!お前は目の前の敵に集中しろ!』

 

 

トール・ケーニッヒ。

 

無限の正義、真紅の騎士。

インフィニット・ジャスティスに搭乗し、今この場に現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニュートロンジャマーキャンセラー起動。ニュークリアカートリッジ、撃発位置へ!」

 

 

「目標、射程範囲内に入ります!」

 

 

デュランダルは、モニターに映し出される戦況を見つめながらオペレーターの報告を耳に入れていた。

 

 

「ネオジェネシス発進後、すぐにディーヴァ、ドムを発進させる」

 

 

「はっ!」

 

 

向こうの反撃の一手が、レクイエム。そしてあの三機だとしたら、こちらの反撃の一手はネオジェネシス。そして歌姫だ。

こちらとて負けるわけにはいかない。

 

もう二度と、負けるのは御免なのだ。

 

 

「…そう。負けるわけにはいかない」

 

 

つぶやくデュランダル。その言葉には、固い決意が込められている。

もう、負けたくないという決意が。

 

デュランダルが考えている間にも、こちらが打つべく反撃の一手は進んでいく。

いや、すでにその一手を打つのは、デュランダルの手に託されているのだ。

 

将校が後方のデュランダルに振り返り、指示を仰いでいる。指示を、待ち受けている。

 

デュランダルは背もたれに僅かに身を起こした。

 

将校に頷きかけ、命じる。

 

 

「撃て」

 

 

どれだけあがこうと、どれだけ手を打とうとそれが無駄だということを教えてやる。

自分こそが真の強者なのだ。自分が、世界を導くものだ。

 

巨大な閃光が、モニターを照らす。

その直後、発進していく機体の姿。

 

さぁ、これに対して向こうはどう出るか。

どう出ようとも、勝利は自分のものというのは変わらない。

 

 

(何が起ころうとも、私の掌の上なのだ)

 

 

デュランダルはほくそ笑みながら、連合軍艦隊を薙ぎ払うべく突き進んでいく閃光を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっとジャスティス出せた…やっと…やっと…
強引な気もしますが…、早めに出しておくべきだと思ったので


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PHASE56 歌姫の参戦

あぁ!もうやらねぇ!パワプロの栄冠ナインはもうやらねぇ!
どんだけフリーズすれば気が済むんだよこのやろぉ!




それと、今回の話、もしかしたら好き嫌いが分かれるかもしれません。






ダイダロス基地へと急ぐアークエンジェル艦橋で、それは捉えられた。

 

 

「艦長、オレンジ一八六より、進行する巨大構造物!」

 

 

ミリアリアが驚きの声で報告する。

 

艦橋のモニターに、四つのリングを周囲に取り巻いた、巻貝によく似た小惑星が映し出された。

それを見たマリューは息を呑む。

 

 

「要塞…!?」

 

 

それはかつてのボアズやヤキン・ドゥーエには質量で劣るものの、前面に展開する艦隊と対比するとまるで巨大な岩壁の様に感じられた。

その巨大な要塞が、ダイダロス基地に向かって動いているのだ。

 

 

「高エネルギー体収束!」

 

 

見入るマリューの耳に、ミリアリアの鋭い声が飛び込んだ。

マリューは目を見開く。

 

いつの間にそこにあったのだろうか。メサイアの傍らに存在している巨大物体。

どうやらミラージュコロイドでその姿を隠していたのだろう。

そしてそれは、前大戦の時も同じだった。

 

マリューがそれが何なのかを悟ったのと同時に、その物体の先端から強烈な光が放たれた。

その光は、まっすぐに連合軍艦隊に向かっていき戦列の中央を貫いた。

 

 

「あぁっ…!?」

 

 

声を漏らすマリュー。マリューたちの目の前で、モニターが映し出すのは光に貫かれ、爆発を起こし、巨大な炎が月面を照らしている光景。

 

それを見ながら、マリューはその事態を引き起こした巨大物体に視線を移した。

それは、かつての戦友が命を懸けて破壊したそれと、何ら変わりなくそこに存在していた。

 

今、放たれた光は自分たちが目にしてきたものと比べてまだ規模が小さい。

つまり、まだこれの先がある、ということ。

 

 

「どうして…、これが…」

 

 

デュランダルは、再び悲劇を起こすつもりでいるのだろうか。

 

連合、そしてザフト。この両軍が巨大殺戮兵器を手にしていたというのだろうか。

 

 

『マリューさん!』

 

 

その時、アークエンジェルに通信が届けられる。

モニターに映し出されるのは、エターナルに乗っている少女の顔。

 

 

「ラクスさん!」

 

 

『急ぎましょう。まずはレクイエムの破壊を!』

 

 

ラクスの言う通りだ。確かに、ジェネシスのことは気になるが、今はこっちのレクイエムのことを考えなければならない。

 

マリューは一度目を閉じて、心を切り替える。

 

 

「…エターナルはアークエンジェルの後ろに!遅れないでついてきてください!」

 

 

『こっちは高速艦だぞ!むしろ、そっちが遅れないかどうか心配だねぇ』

 

 

マリューの声に答えたのは、ラクスの声ではなく、低い男の声だった。

 

バルトフェルドが、笑みを浮かべながら続ける。

 

 

『こちらの心配は無用だ。そっちは自分の心配だけをしてくれ』

 

 

「…はい」

 

 

マリューとバルトフェルドがこくりと頷き合う。

通信を切り、二隻はすぐに移動を開始した。

 

目指す先は当然、ダイダロス基地、レクイエム。

少年たちだけに負担をかけさせるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焼き尽くされる艦隊を見ながら、ウォーレンは笑みを耐えるのに必死だった。

ついに、奴は我慢を切らしたのだ。ついに…、切ってはならないカードを奴は切ってしまったのだ。

 

司令室では、被害の報告の声がひっきりなしに飛び交う。

ウォーレンはその情報を頭に叩き込みながら、ここからどう展開していくかを思考する。

 

デュランダルは切り札を切ってきた。だが、もう無暗にあの兵器を撃っては来ないだろう。

こちらにも、レクイエムがある。迎撃という手段を、こちらが取れる状況にあるのだから。

 

 

「これで、本当の意味でこちらが有利に立ったわけだ…」

 

 

向こうにあるのが、あの兵器、ジェネシスだろうそれだけだと考えられる。

だが、こちらにはレクイエムだけではない。あの要塞、そしてプラントを落とす万全の体制が整っているのだ。

 

 

「とはいえ、今ここではそのカードは切れない。まずはあのザフト艦隊を退かさなければな」

 

 

勝てる、勝つことができる。

自分が油断し、ミスさえしなければ間違いなく勝てる。

 

そう思ったウォーレンの耳に、混沌とする戦場には似つかわしくない、美しい少女の声が届いた。

 

 

『ザフト軍の皆さん』

 

 

「っ!?」

 

 

ウォーレンの目が見開かれる。

 

何故だ。何故ここでそのカードを切る?

 

あり得ない。あり得るはずがない。

信じられないという思いがウォーレンの全てを覆い尽くす。

 

 

『私は、ラクス・クラインです』

 

 

国際救難チャンネルを使用しているのだろう。

ザフト軍に向けられたメッセージなのだが、ここ、ダイダロス基地にもその声は届いていた。

 

 

『皆さんがこうして戦っておられるというのに…、私だけ見ているだけという現実が耐えられず、こうして戦場に出てきてしまいました』

 

 

何を、しているのだろうか。この歌姫様は。

 

 

「どこから発信されている?」

 

 

「今、捜索しています」

 

 

ウォーレンが指示を出す前にすでに行動していた。

オペレーターが計器を操作して発信元を検索している。

 

 

『皆さんが戦い、犠牲になっていく所を…、見ているだけなど、私には耐えられませんでした』

 

 

「見つけました!四時の方向、距離七百!」

 

 

モニターに映し出されたのは、明るい赤の機体。見る人によっては桃色というだろう色に装甲は染められている。

まわりには、紺色の機体、三機がまるで姫を守る騎士の様に寄り添っている。

 

 

『私にも、どうかお手伝いをさせてください』

 

 

「撃ち落とせ!」

 

 

ウォーレンが命令する。

赤色の機体を狙って、近くにいたモビルスーツ、モビルアーマーがビームを発射する。

 

だが、まわりにいた三機のモビルスーツがビームシールドを展開し、赤色の機体を狙ったビームを全て防ぎ切ってしまう。

 

 

『そして、破壊しましょう。プラントの脅威を…、いえ。世界の脅威を!』

 

 

「…」

 

 

その言葉を言い切った途端、赤色の機体はスラスターを開き、一気に加速した。

目の前に展開するモビルスーツ隊に、サーベルで斬り込み、突破する。

 

ただの、歌や演説にしか能がないお姫様だと思っていたのだが、パイロットとしての腕も相当のようだ。

これは、決断しなければならないかもしれない。

 

 

「…あれを準備しておけ」

 

 

「…わかりました」

 

 

傍らにいるダイダロス基地の司令官に囁きかけるウォーレン。

 

これは、自身が出撃しなければならなくなるかもしれない。

その可能性を頭の中に叩き込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラクス…クライン…?」

 

 

呆然とつぶやくシン。こんな戦場に、あのラクス・クラインがやってきたというのだろうか。

 

あの歌姫が、あんな少女が。モビルスーツに乗って?

 

 

「何よそみしてるのよぉっ!」

 

 

「っ!」

 

 

シンはすぐにアロンダイトを後方に向けて振るう。

振った刃は、放たれたビームを弾き、そしてすぐにシンは機体を横にずらす。

 

シンが先程までいた場所を、巨大な砲撃が横切っていく。

 

 

「だけど…、驚いた。あんなの…ザフトにあったなんて…」

 

 

「確かにね…。でも、私たちがやることは何にも変わらないでしょう!」

 

 

ファルとエリーが声を掛け合いながら、デスティニーに仕掛ける。

 

フォビドゥンはツインニーズヘグを手にデスティニーに斬りかかっていき、カラミティは後方からデスティニーに砲撃を浴びせる。

 

シンは向かってくる砲撃を、機体を飛び回らせながらかわしていき、斬りかかってくるフォビドゥンはアロンダイトで迎え撃つ。

 

だが、フォビドゥンの胸部分から光が迸った。

反応したシンはすぐに機体を後退させる。

 

プラズマ砲フレスベルグが放たれ、デスティニーを追いかける。

 

 

「これは…、曲がるやつ!」

 

 

シンは一旦機体を横にずらしてプラズマ砲をかわす。

だが、そんなデスティニーを追いかけてプラズマ砲は曲がる。

 

シンは腕のビームシールドを展開させる。

プラズマ砲はシールド部に命中し、機体には届かない。

 

シンはすぐに後方を警戒する。そこには、デスティニーを狙っているフォビドゥンが。

フォビドゥンは、レール砲を展開しデスティニーに向けて放つ。

 

 

「くそっ!」

 

 

シンはレールガンをかわし、フォビドゥンから距離を取ろうと後退する。

だが、その先にはカラミティが待ち受けていた。

 

 

「っ!?」

 

 

「待ってたよ、そらぁっ!」

 

 

カラミティはデスティニーに機体をぶつけてくる。

そして、体勢を崩したデスティニーに向けてシュラークを同時にではなく、一発ずつ放っていく。

 

シンは、体勢が崩れたことにより起こる慣性に従って機体を流す。

 

それによって、機体のすぐそばを横切っていく砲撃に目もくれず、すぐにシンはスラスターを開いた。

 

無理やり機体を横にずらし、二発目をかわすとすぐに機体を上昇させて三発目をかわす。

そして再び腕のビームシールドを展開させて四発目を防ぐ。

 

 

「…こいつ」

 

 

砲撃全てを凌いだデスティニーを見て、気に入らなそうに表情を歪めるエリー。

 

 

「化け物はとっとと…、死ねばいいんだよぉっ!」

 

 

今度はスキュラの引き金を引くエリー。

スキュラはデスティニーへと向かっていくがデスティニーは翻してスキュラをかわし、逆にライフルで反撃を入れてくる。

 

エリーは機体を横にずらしてビームをかわす。

 

シンはその直後、機体を急降下させる。

デスティニーの頭上で横切る、ツインニーズヘグ。

 

シンはすぐにフォビドゥンとカラミティから距離を取る。

 

 

「…勝たなくてもいいんだ」

 

 

自分がするのは時間稼ぎ。あの二機に勝つ必要はない。

時間が経てば、あの二人が来てくれる。

 

先程と同じように、フォビドゥンがツインニーズヘグを手に向かってくる。

そして後方からカラミティが砲撃を放つ。

 

シンはアロンダイトを手に身構える。

 

戦いは、苛烈を極めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイダーが投げつけるミョルニルをそれぞれの方向に避け、ルナマリアはサーベルで斬りかかり、カンヘルは後方で背面のユニットをレイダーに向け、同時にビームを照射させる。

 

レイダーは照射されるビームを回避する。回避したレイダーを追いかけ、ルナマリアはサーベルで斬りかかっていく。

 

 

「俺には二匹で挑んできたか…」

 

 

バールが、インパルスの斬撃をかわしながら戦況を見回す。

 

一匹がファルとエリーを抑えている間に、自分を落とし、そして三匹で二人を倒すという作戦なのだろう。

だが

 

 

「雑魚がいくら集まろうが、俺には勝てねぇんだよ!」

 

 

レイダーはミョルニルを斬りかかってくるインパルスに投げつける。

 

ルナマリアは機体を翻してミョルニルをかわす、が。

 

 

「甘ぇんだよ!それでかわしたつもりかぁっ!」

 

 

レイダーはミョルニルを引き戻す。ミョルニルはレイダーの元へと戻っていく。

インパルスがいる、進路上を通って。

 

 

「ルナマリア!後ろだ!」

 

 

「えっ!」

 

 

サーベルを振り下ろそうとしていたルナマリアは、後ろからの衝撃に目を見開く。

インパルスはそのままレイダーの方へと引き寄せられていく。

 

バールはにやりと笑みを浮かべながら、エネルギー砲ツォーンを構える。

これで、まず一匹は終わりだ。

そう思ったその時、バールはすぐに機体を翻した。

 

 

「…こいつ」

 

 

後方に回り込んだカンヘルが、サーベルを振り下ろしていた。

その姿を見て、バールは感心するようにぽつりとつぶやいた。

 

こいつは、他の雑魚とは違うらしい。自分でも少し手こずりそうだ。

 

 

「けど…、足手まといを連れたまま俺と戦うのはいけねえなぁ!」

 

 

だが、こいつには足手まといがいる。確かに並のパイロット以上ではあるが、自分にとっては雑魚も同然。

取るに足らない存在でしかない。

 

レイダーは構えていたツォーンを、インパルスに向けて放つ。

ルナマリアは放たれたビームを機体を横にずらしてかわす。

 

その間にレイダーはカンヘルへと襲い掛かっていた。

ミョルニルを投げつけるが、ハイネは余裕をもって最小限の動きでかわす。

 

レイダーは再びミョルニルを引き寄せる。先程インパルスに対して行った策だ。

だが、一度見ることができた策だ。ハイネには通用しない。

 

ハイネは背面のユニットを、後方に向けた。

後方に向けてビームを照射し、戻ってくるミョルニルを弾き飛ばした。

 

 

「なっ!?」

 

 

ミョルニルを弾き飛ばされたことにより、レイダーの体勢が崩れる。

 

 

「ルナマリア!今だ!」

 

 

ハイネはすぐに機体をその場から離した。

体勢を崩しながらも、レイダーがツォーンでカンヘルを狙っていたのだ。

 

ハイネの合図を受けたルナマリアが、背後からサーベルで斬りかかる。

 

 

「っ!?」

 

 

雑魚だ雑魚だと思って、警戒をわずかにだが怠ってしまっていた。

それが、バールの敗因だ。とはいえ、こんな所で死ぬわけにはいかない。

 

 

「くそ野郎がぁっ!」

 

 

レイダーは機体を翻し、なおも戦おうとする意志を消さない。

だが、ルナマリアが振り下ろしたサーベルから逃れることは出来なかった。

 

振り下ろされたサーベルは、レイダーの左腕、左足を斬りおとす。

コックピットを斬られることを免れたレイダーはすぐに機体を後退させて、そのまま基地へと撤退していく。

 

 

「…あいつ」

 

 

撤退していく間、バールはインパルスを憎々しげに睨みつけていた。

たとえ油断していたとはいえ、あんな雑魚に自分が斬られるなど耐えられなかった。

 

胸の奥から怒りが湧きおこる。今すぐにでも、この怒りをぶつけてやりたいという衝動に駆られる。

しかし、それはできない。こんな機体の状況で戦おうとすればあっという間に自分は死んでしまうだろう。

それだけは、避ける。判断ができる冷静さは、持っている。

 

 

「次は…、殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パルジファル、ってぇ!」

 

 

アーサーの号令の声が艦橋内に響く。

 

 

「三時の方向から、モビルスーツ群!」

 

 

「回頭三十!戦力が薄い所から侵攻する!」

 

 

ダイダロス基地へと向かっていたミネルバだが、大量のモビルスーツに取り囲まれ身動きが取れないでいた。

何とか迎撃はでき、艦そのものの傷は大したことがないものの、流れていく時間に焦りだけが募っていた。

 

だが、そう思っていた矢先の巨大な閃光。閃光は、連合軍艦隊を薙ぎ払い。自分たちに道を作り出した。

それに重ね、ラクス・クラインの登場である。軍の士気はこれまでにないほど高まっていた。

 

ここで、レクイエムを破壊しなければならない。その思いが一気に強くなる。

 

 

「メイリン!シンたちの様子は!?」

 

 

タリアが、先陣を切って戦っている少年たちの様子を問いかける。

こうして、自分たちがもたもたしている間に、彼らにどれだけの苦しい思いをさせているだろう。

 

 

「…現在、三機の連合軍機と交戦中!これは…、データベースに該当する機あり!」

 

 

メイリンは、続けて報告を続ける。

 

 

「これは…、レイダー、フォビドゥン、カラミティ…?です!」

 

 

「っ」

 

 

その三機の名前を聞き、タリアは息を呑んだ。

この三機に関してはタリアもよく知っていた。前大戦終盤、連合軍機として猛威をふるっていた当時の最新鋭機である。

 

奴らは、その三機の発展機を作り上げていたというのだろうか。いや、考えられないことではない。

むしろ、今まで出てこなかったことが不思議なくらいなのだ。

 

 

「…彼らも頑張っているわ。私たちも、彼らに負けないように!」

 

 

「はいっ!」

 

 

タリアがクルーたちに声をかける。

 

だが、先程突如出現した巨大な閃光。あれは確か…。

 

タリアはそこで思考を止めた。今、それを考えるべきではない。

今は何としてもレクイエムの破壊を達成しなければならない。

 

 

「二時の方向から接近する艦!アガメムノン級です!」

 

 

さらにこちらに襲い掛かってくる連合軍。

タリアはすぐに切り替え、命令へと移るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラ、シエル、トールたちの戦闘は一度、硬直を見せていた。

突然の乱入者、ジャスティス。

 

それによって、止めを妨害されたウルティオとブレイヴァーは後退し、様子を見ていた。

 

 

「トール…、どうしてあなたが、ジャスティスを?」

 

 

シエルがトールに問いかける。何故、トールがジャスティスに搭乗しているのか。

 

 

「…ラクスさんが、これを俺にくれたんだ。それよりも、こいつらを…」

 

 

ラクスが機体をくれたという言葉に、目を見開くシエルだったが、その後に続いた言葉にシエルは気を引き締める。

トールが来てくれたことによって、数的にはこちらが有利になった。

戦闘は一気に楽になるだろう。

 

セラは、まだこちらに来てくれそうにない。相手の機体が凄まじい粘りを見せ、セラが手こずっている。

 

 

『…トールはシエルの援護をしてあげて。この機体…、アスランの相手は、僕がする』

 

 

 

「キラ…」

 

 

キラが、反論を許さぬ口調で告げる。

だが、先程、キラは落とされそうになったのだ。一人で戦わせるのは心許ない。

 

 

『シエル、君が何を考えているのかはわかるよ。でも、それはお互い様でしょ?』

 

 

キラが、シエルの考えていることを読み、先回りするように言う。

シエルは何も言えずに黙り込んでしまう。

 

 

『僕は大丈夫だから。トール、シエルの未来の義兄としてお願い』

 

 

「へ?」

 

 

「なっ!」

 

 

急に飛び出してきた言葉、義兄。その言葉に、トールは呆然とし、シエルは顔を真っ赤にさせる。

 

 

『セラが来るまでは、シエルを守って。セラが来たら、こっちに来てほしい。セラが来るまでは…、絶対に来ちゃダメだ』

 

 

シエルを守るためか。それとも、自分がただ決着をつけたいだけなのか。

どちらにしろ、キラに何を言っても、キラは曲げないと悟るシエルとトール。

 

 

「…わかった。気をつけろよ、キラ」

 

 

キラに言葉をかけるトール。そして、シエルもまたキラに声をかけるべく口を開く。

 

 

「気を付けてね、き…、ううん、お義兄さん?」

 

 

『…っ』

 

 

悪戯っぽく、最後の言葉を言うシエル。

シエルは、聞き逃さなかった。お義兄さんと言った直後、キラが笑いを吹き出したのを。

 

 

『大丈夫。…もう、決めたから』

 

 

キラが、決意を込めた声でシエルとトールに返す。

直後、フリーダムが翼をはばたかせ、ブレイヴァーへと向かっていった。

 

フリーダムはサーベルを抜き放ち、ブレイヴァーへと斬りかかっていく。

先程の動きとは鋭さが段違いに上がっていた。

 

ブレイヴァーも負けじと手に持つハルバートで応戦する。

 

 

「…俺たちも」

 

 

「うん。手伝って」

 

 

トールとシエルは、まだ動かないウルティオを見据えた。

 

今、ロイは何を考えているのだろう。

ふとそう考えたシエルはすぐに首を横に振ってその考えを振り払う。

 

そんなこと、今はどうでもいい。今、ここでロイを倒す。

セラを守るためにも。自分自身の、未来のためにも。

 

 

「…また、邪魔か」

 

 

ロイがぽつりとつぶやいた。

あの時もそうだった。セラ・ヤマトを殺せそうなときに、邪魔をされた。

 

結果、自分はシエルに落とされ、約二年間ずっと何もできずにいた。

今すぐにでも、シエルを取り戻したかったというのに。

 

シエルを誑かし、操り、愛されている自分を殺させようとしたセラを、殺す。

 

 

「…殺すんだ。俺は、セラ・ヤマトを殺すんだ!」

 

 

ロイが怒鳴り散らす。何度も、何度も。セラを殺す、殺してやると。

 

 

「…させないって、言ってるでしょ?」

 

 

シエルが、静かに、それでいて決意が秘められている声でロイに告げる。

 

 

「私が守る。私たちが、守る。あなたに、セラを殺させたりなんかしない」

 

 

「同じくだ。俺の親友を、お前みたいなやつに殺させるか」

 

 

シエルに続いてトールもまた、自らの思いを告げる。

セラを守ると。殺させないと。

 

 

「そうか…。なら、その紅い奴は殺し、シエルは殺気も言ったが、両手両足を斬りおとして動けなくさせてやる。…何人来ようが、同じことだ!」

 

 

ウルティオが、サーベルを抜いてジャスティスに斬りかかっていく。

それに対してトールはサーベルを連結させたハルバートで迎え撃つ。

 

 

「トール、気を付けて!そいつには腕が四本ある!」

 

 

二機が切り結んだところで、シエルがトールに言葉を伝える。

トールの耳にシエルの言葉が届いたその瞬間、ウルティオの背後から隠し腕が出現する。

 

 

「うぉっ!?」

 

 

トールは驚愕の声を上げながらも、ギリギリのところで機体を後退させ隠し腕の斬撃を回避する。

 

 

「ちっ」

 

 

仕留め損ねたロイが、舌打ちしながらすぐにドラグーンを切り離した。

ドラグーンは一直線にジャスティスのまわりを囲もうと向かっていく。

 

トールは腕のビームシールドを展開。

トールも、ドラグーンの存在は熟知している。

こういう時もあろうかと、対ドラグーンの訓練もシミュレーションで積んできていた。

 

だが、今ロイと戦っているのはトールだけではない。

 

 

「トール!」

 

 

ジャスティスがドラグーンに包囲される直前、シエルが動いた。

シエルはヴァルキリーのメインカメラ部分。近接機関砲を連射し、ドラグーンを狙う。

 

瞬間、ドラグーンの動きが止まる。そこを狙って、二丁のライフルを抜き、引き金を引く。

 

 

「くそっ!」

 

 

ロイは悪態をつきながらドラグーンを戻す。だが、シエルの射撃によって二基のドラグーンが撃ち落とされてしまう。

さらにシエルはライフルをしまい、そして対艦刀を抜いてウルティオへと斬りかかっていく。

 

それを見たウルティオはドラグーンでヴァルキリーを狙い撃とうとする。

 

 

「させるか!」

 

 

だがトールはライフルでドラグーンの動きを妨害する。

 

 

「このっ…!」

 

 

先程から思うような戦闘を展開することができないロイ。

苛立ちについ声を漏らしてしまうが、敵は待ってはくれない。

 

ヴァルキリーはすでに接近し、対艦刀を振り下ろしてきている。

ロイはそこで展開している隠し腕を交差させた。交差させた部分は、当然ブレード部。

 

シエルが振り下ろした対艦刀と、交差されたブレードがぶつかり合い、拮抗した。

 

 

「なっ!?」

 

 

まさか、このような使い方をしてくるとは予想ついていなかったシエル。

目を見開き、一瞬、固まってしまう。

 

そこを逃さず、ロイはサーベルでヴァルキリーのメインカメラを突こうと振りかぶる。

 

 

「もらったぁっ!」

 

 

ウルティオがサーベルを突き立てようとする。

 

だがその瞬間、ウルティオのコックピット内にアラートが鳴り響いた。

ロイは機体を後退させる。先程までウルティオが存在していた場所を、何かが横切る。

 

その何かは、ヴァルキリーを避けるように迂回し、そして持ち主の元へと帰っていった。

 

 

「ジャスティス…!」

 

 

その何かとは、ジャスティスが放ったビームブーメランだ。

 

あのジャスティスに搭乗しているパイロットは、並の腕ではなさそうだ。

ブーメランを、自分にだけ当たる様に、ヴァルキリーには当たらないように操るなど相当の技術がいる。

 

 

「強い」

 

 

シエルは言わずもがな、あのジャスティスも十分に強い。そのことを心に刻むロイ。

 

 

「だが、俺はやらなければならない」

 

 

ロイは一度、ドラグーンを元の場所に戻し、再びドラグーンを切り離す。

 

シエルの居場所は自分の傍だ。これはもう、決まっていることなのだ。

誰にも邪魔はさせない。させるものか。

 

何としてもシエルを取り返す。

ドラグーンをジャスティスの元に向かわせ、ロイはサーベルでヴァルキリーへと斬りかかっていく。

 

三機の戦いが、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トールが来た。これで、しばらくは大丈夫。もしかすれば、ウルティオを落とすということも考えられる。

自分は目の前の敵に集中できる。

 

セラは一度戻していたドラグーンをノワールに向けて切り離した。

ドラグーンはセラの意志を受けてノワールの周囲を囲むべく向かいながらビームをノワールに向けて照射する。

 

ノワールはドラグーンのビームを回避しながら、ライフルで反撃してくる。

ライフルのビームはリベルタス本体ではなく、ドラグーンに向けて放たれている。

 

 

「やっぱりそう来るか」

 

 

セラはドラグーンを操作して放たれたビームを回避させる。

それでなおノワールに向けてビームを照射させる。

 

 

「くっ」

 

 

機体を翻し、照射されるビームを回避するノワール。

だんだん追い込まれていく。それがわかっていたスウェンは歯噛みする。

このまま戦っていては間違いなく自分は落とされてしまう。

 

ノワールは左掌のアンカーランチャーを射出する。射出されたアンカーはまっすぐにリベルタスへと突き進んでいく。

 

 

「これは…!?」

 

 

セラは射出されたアンカーを回避する。だが、それこそがスウェンの思惑だった。

 

アンカーを回避するために、リベルタスは必ず左右どちらかに回避行動をとる。

左右のどちらかなのだが、それでも進行方向を二つに絞れている時点でそれは大きくアドバンテージとなる。

 

スウェンは二連装リニアガンを展開する。リニアガンをリベルタスに向けて放つ。

 

 

「っ!」

 

 

セラは、放たれたビームを回避できないことを悟る。だが、凌げないという訳ではない。

ドラグーン二基を自分の元へと戻す。そしてそれぞれ一射ずつビームを照射させてビームを迎撃する。

 

 

「なにっ!?」

 

 

スウェンは、決死の反撃が難なく凌がれたことに目を見開いた。

いや、セラ自身は決して余裕ではなかったのだがスウェンからはそう見えてしまう。

 

圧倒的技量の差。それを、改めて見せつけられるような感覚。そして悟る。

 

勝てない。

 

リベルタスはスラスターを開き、翼を広げて突っ込んでくる。

リベルタスの加速力により、一気に最高速度に突入する。

 

サーベルを抜き、ノワールに斬りかかる。

 

ノワールがフラガラッハを取り迎撃の体勢を取るが、セラは機体を沈み込ませる。

 

 

「っ!?」

 

 

スウェンの目には、リベルタスが消えたように見えた。

そして次の瞬間、コックピットに奔る衝撃。気づけばノワールの右腕が消えている。

 

スウェンは慌てて後方にカメラを向ける。

そこには反転し、再びこちらに突っ込んでくるリベルタスの姿。

 

まさか、あの一瞬で腕を斬りおとしたというのだろうか。

 

敵ながら、畏敬の念すら覚えてしまう。

 

もう、戦意すら消えていた。

 

周囲が、ドラグーンに包囲されていた。

次の瞬間、ドラグーンが一斉照射され、メインカメラ、残った片腕、そして両足を撃ち抜かれてしまう。

 

リベルタスは自分には興味を失くしたのか、それとも何か急がなければならない事情でもあるのか。

すぐさまどこかへと飛び去っていく。

 

 

「…まけ、か」

 

 

完全なる敗北。完敗だ。ここまで負けを思い知らされたことは一度もなかった。

 

だが、悔しいという思いは全く沸いてこない。

むしろ何故か清々しいとすら感じてくる。

 

どこか我に返ったような、目が覚めた気分だ。

 

今まで、何故、自分は戦っていたのだろうと疑問に思っていた。

何かを守るために戦うと聞いたこともあるのだが、守りたいものなど自分には一つもない。

ただ、何となく、流されるまま戦ってきていた。

 

 

「…良い、きっかけか」

 

 

スウェンの目に、青い地球が見える。自分が生まれ、育ってきた地球が。

 

スウェンは機体を一度動かそうとし、バーニアが生きていることを確認する。

そしてスウェンはバーニアを吹かせてゆっくりと機体を動かす。

 

その行先は、地球。

 

 

「…見直してみるか」

 

 

本当に、良いきっかけになった。

 

ただ、戦うだけの存在として育てられた自分。兵士になるべくして育てられた自分。

戦うことしかしてこなかった今までの自分。

 

それを一度リセットして、どこか気の向くまま旅をしてみるのも悪くない。

 

ずっと表情を動かしてこなかった。感情を表に出さない。

それが、優秀な兵にとっては当たり前のことだと教え込まれてきた。

 

いつから、笑っていなかっただろう。

 

 

「…」

 

 

スウェンの顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、待ってまーす
あ、豆腐メンタルに優しい言葉をよろしくお願いしまーす


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PHASE57 狂気の浄化

最終決戦じゃないのにこの長さ…。
決戦はどれほどの長さになるんだろう…。


戦場に参戦した歌姫。ディーヴァを駆るミーア。

ミーアは襲い掛かってくるウィンダムを、オメガを放って貫き落とす。

 

さらに背後からライフルで狙ってくるダガーには三機のドムトルーパーが襲い掛かる。

一機がバズーカを跳ね上げダガーを弾き飛ばすと、すぐに二機がサーベルでダガーを斬り伏せる。

 

 

「ふん!ラクス様に、指一本触れさせるものか!」

 

 

「けど、ずいぶんと数が多いよな」

 

 

「それだけ、敵さんも必死なんだろ?」

 

 

ヒルダ・マーケン、マーズ・シメオン、ヘルベルト・フォン・ラインハルトの順でそれぞれがつぶやく。

 

彼らのまわりには、ミーアが駆るディーヴァを討とうと狙う連合軍機が大量に存在している。

ディーヴァを落とせば、ザフト軍は混乱を起こすだろうと考えてのこの行動なのはすぐにわかる。

 

だが、そう簡単に敵の思い通りにさせるはずがない。

 

 

「わかってるね!?あたしたちの役目!」

 

 

「あぁ」

 

 

「ラクス様を守り切る!それが俺たちの役目だ!」

 

 

自分たち三人の役目は、ラクスを守ること。

 

今、プラントのラクスとオーブのラクス。二人のラクスが存在しているが、そんなものは関係ない。

自分たちが信じるラクスを、守るだけだ。それが、自分たちがやらなければいけない使命なのだ。

 

 

「行くよ!マーズ、ヘルベルト!」

 

 

「了解!」

 

 

「やるのかよ、あれを?」

 

 

ドム三機が一所に固まる。

いや、正確にはヒルダの機体に、他二機が遅れずについているという形をとる。

 

次の瞬間、ヒルダが叫び、二人がその叫びに和した。

 

 

「「「ジェットストリームアタック!」」」

 

 

三機のドムが、縦一線のフォーメーションで敵モビルスーツ群に斬り込んでいく。

三機の周囲を不思議な光が取り巻くのを見て連合軍機は警戒し、構えはじめる。

 

先頭のヒルダがまず正面のウィンダムとザムザザーを斬りおとす。

直後、マーズがヒルダ機の頭上からバズーカを放って、三機をライフルで狙っていたウィンダムを四散させる。

そして、ヒルダとマーズが左右に分かれるとその間からヘルベルト機が放ったビームがさらに一機を貫く。

 

三機の周囲を纏う光、ビームフィールドが敵機に触れると、敵機は吹き飛ばされ破壊されていく。

 

 

「次、三時の方向いくよ!」

 

 

「待ってください」

 

 

一帯の敵機を全滅させ、次の敵集団を落とそうと移動しようとしたヒルダたちにミーアが待ったをかけた。

 

 

「ラクス様?どうされたのでしょう」

 

 

ヘルベルトがラクスに問いかける。

ヘルベルトに対してミーアは口を開き、答える。

 

 

「十時の方向。見えるでしょう?私たちはあのザフト機の援護に行きます」

 

 

ミーアの言った十時の方向。

そこでは、リベルタスとノワール。ヴァルキリー、ジャスティスとウルティオ。フリーダムとブレイヴァーが交戦していた。

 

リベルタスとノワール、フリーダムとブレイヴァーに関しては特にいうことはない。

リベルタスとノワールはどちらも敵。二機で戦っていてくれた方が助かる。

フリーダムとブレイヴァーは互角の戦いを演じている。そうすぐに状況が動くことはないだろう。

 

問題は最後の一つだ。ウルティオが二機を相手にし、どこから見ても劣勢に立たされている。

ミーアはウルティオの援護を決意したのだ。

 

 

「行きましょう。私たちであの機体を援護します」

 

 

ミーアの言葉に、三人は特に異存もなく、ミーアに従う。

 

 

「了解しました」

 

 

ヒルダが代表して返事を返す。その返事を聞いたミーアは微笑み、そして激しい戦闘が行われている十時の方向を見据えた。

 

四機が加速し、ウルティオを援護しようと移動を開始したその時。

リベルタスがノワールの行動を不能にさせ、すぐさまウルティオが交戦している地点へと移動を開始した。

 

 

「!させない!」

 

 

ただでさえ劣勢に立たされているのに、その上にさらに一機加わるとなれば、ウルティオの運命は決まっている。

ミーアはリベルタスにライフルを向け、引き金を引いた。

 

こちらの存在には気づいていないはずだ。それなのに、リベルタスはまるで知っていたかのように、最小限の動きでミーアが放ったビームを避けた。

 

それを見たミーア、さらにヒルダたち三人は目を見開く。

 

 

「これが…、解放者」

 

 

誰もが知っている存在、<天からの解放者>。

こうして遭い見えることになるとは想像していなかった。

 

 

「…私と共に、来てくれますか?」

 

 

どこか不安げにミーアは三人に問いかける

 

 

「何を当たり前のことを」

 

 

「どこまでもついていきますよ」

 

 

「まっ、それが使命だからな」

 

 

三人は力強く答えてくれる。

その頼もしさに、ミーアの表情がふっ、と緩んだ。

 

 

「…では、行きます」

 

 

ディーヴァのスラスターを広げる。赤い八枚の翼が広がり、そしてリベルタスへと向かっていく。

 

リベルタスはディーヴァの方を向き、迎え撃つ態勢をとった。

 

ミーアはサーベルを抜き、リベルタスへと斬りかかっていく。

リベルタスもサーベルを振い、ディーヴァに迎え撃つ。

 

二機は激しく交錯した。

 

 

 

 

 

「これは…、フリーダム?」

 

 

突如、セラに襲い掛かってきた機体。その姿を見た瞬間、思い浮かんできたのはフリーダムの名だった。

それも当然、色、細部がどこか違う以外、ほとんどがフリーダムと一致しているのだから。

 

そのフリーダムによく似た機体が、その後ろに三機の紺色の機体を率いながら斬りかかってくる。

セラもサーベルを取り、振り下ろされるサーベルを防ぐ。

 

直後、セラは機体を後退させて相手の機体の様子を見る。

 

 

「…どこからどう見ても、フリーダムだ」

 

 

どう見てもフリーダムにしか見えない。色が違うのが、違和感を感じさせる。

 

だが武装が違う。敵の機体の背後に見える物体。あれは何だろう。

 

 

「っ!」

 

 

セラは機体を横にずらした。そこに、一筋にビームが横切る。

あの機体は動いていない。つまり、他の三機のどれかがやったということ。

 

あの機体、ディーヴァはリベルタスにさらにサーベルで追撃をかける。

セラは腕のビームシールドを展開させ、ディーヴァが振り下ろすサーベルを防ぐ。

 

 

「っ」

 

 

直後、セラはもう一本のサーベルを抜き放つ。

サーベルを振うがディーヴァは後退して斬撃はかわされてしまう。

 

だがセラは攻めるのを止めない。スラスターのドラグーンを切り離し、ディーヴァに向かわせる。

 

ディーヴァを狙ってビームを照射しながらドラグーンを少しずつディーヴァを包囲させる。

 

 

「ラクス様!」

 

 

リベルタスとディーヴァが接近戦を繰り広げていたため、援護に動こうにもできなかったドム三機が、ディーヴァがドラグーンに追い込まれているのを見て動き出す。

 

 

「ヘルベルト!あんたはドラグーンを!マーズはあたしと本体を狙うよ!」

 

 

「おう!」

 

 

「了解」

 

 

ヒルダの指示にマーズとヘルベルトが返事を返す。

そして指示の通りにヘルベルト機はドラグーンを妨害するためにバズーカを発射する。

 

ヒルダ機とマーズ機はリベルタスを狙ってバズーカを放つ。

 

だが、ヘルベルト機の砲弾はドラグーンに回避され、ヒルダ機とマーズ機の砲弾はリベルタスが取ったライフルに撃ち落とされてしまう。

 

さらにリベルタスはドラグーンをヘルベルト機に向かわせつつヒルダ機とマーズ機にサーベルで斬りかかっていく。

 

 

「くっ」

 

 

「速いっ!」

 

 

ドラグーンに瞬時に包囲されてしまったヘルベルトは苦悶の表情を見せ、余りのスピードで接近してくるリベルタスにヒルダとマーズが目を見開く。

 

ドラグーンが照射したビームによって、ヘルベルト機の左腕が貫かれ、リベルタスが振るったサーベルがマーズ機の右腕を斬りおとす。

 

 

「マーズ!ヘルベルト!このっ、よくもぉっ!」

 

 

仲間二人がやられたことに激昂したヒルダは、旋回するリベルタスに向けてバズーカを連発する。

が、全く当たらない。

 

さらに、接近してくるリベルタスに気を取られていたヒルダは、自分がドラグーンに包囲されていることに気がつかなかった。

 

 

「しまった!?」

 

 

「悪いけど、ここで時間を取られるわけにはいかない!」

 

 

セラが、ドラグーンを一斉に照射させようとする。

 

だが、当然それを良しとしない者もこの場にはいる。

背後からの気配にセラは即座に振り返ると同時にサーベルを振う。

 

振ったサーベルから衝撃が伝わってくる。ぶつかり合っているのは、二本の剣。

 

 

「三人は、やらせない!」

 

 

「こいつ…!」

 

 

あの三機が傷つけられたことに怒っているのか、わからないが目の前の機体から大きな殺気が伝わってくる。

 

ディーヴァが後退し、距離を取る。セラはその隙に一度、ドラグーンを元の場所に戻しエネルギーを補給させ、再び切り離す。

 

それを見たディーヴァが、背面の物体を開きそこからミサイルを発射させる。

 

 

「っ、あれはミサイルポッドか!」

 

 

キラが乗っているフリーダムにはなかった背後の物体。

何なのだろうと気になっていたが、そこからミサイルを発射してきた。

 

セラはドラグーンを自分の前面に配置させ、ビームを照射しミサイルを迎撃する。

撃ち漏らしてしまったミサイルは、サーベルで斬り落とし、こちらに接近してくるディーヴァから距離を取る。

 

セラはもう片方の手に握っていたライフルをディーヴァに向けて引き金を引く。

 

だがディーヴァは連射されるビームを全て軽やかにかわし、そのままリベルタスへと接近していく。

 

 

「くっ」

 

 

セラはライフルをしまい、サーベルを構える。

そこでセラは違和感を覚える。ディーヴァが、何のモーションも見せてこないのだ。

 

 

「っ!?」

 

 

セラはすぐに機体を翻す。全身に大きなGがかかるが、お構いなしに無理やり機体を動かそうとする。

 

ディーヴァの胸部砲口から砲撃が放たれる。

その砲撃は、リベルタスの装甲を掠り、彼方へと消え去っていく。

 

ディーヴァが狙っていたのは近接戦ではなくこれだったのだ。

至近距離でオメガを放ち、リベルタスを消滅させる。

 

何て恐ろしいことをしてくるのだ。思わず苦笑してしまうセラ。

 

 

(これは…、全力でかからなきゃやばいかも)

 

 

こうしている間にも、セラの体には負担が募っていた。

戦っているときにもお構いなしに、自分の重みとなる謎の断末魔。

 

セラの疲労も無視できないものとなってきていた。

 

 

「だからって、逃げるわけにはいかないんだ」

 

 

スラスターを開き、翼を広げセラはディーヴァへと躍りかかる。

 

ディーヴァはサーベルからライフルに持ち替える。

両手にライフルを持ち、突っ込んでくるリベルタスに向けて連射する。

 

セラはビームを全てかわしながらディーヴァへと接近していき、そしてサーベルを一文字に振るう。

 

が、そこで動きを止めた。そしてセラは機体を後退させる。

 

 

(こいつ、このっ!)

 

 

いつの間に、ディーヴァの両腰のレール砲が展開されていた。

放たれた砲弾の回避に何とか成功するが、もしキラが操るフリーダムとのシミュレーションをしていなかったら、命中していただろう。

 

セラはディーヴァとの距離を取りながら収束砲を跳ね上げ、ディーヴァに向けて放つ。

ディーヴァはビームシールドを展開し、砲撃を防ぎ切ってしまう。

 

そこで二機は動きを止めて互いの様子を見合う。

 

 

(強いな…。ザフトは、化け物パイロットの巣窟なんだろうか…)

 

 

(これが解放者の力…。一瞬でも気を抜けば押し切られる…!)

 

 

互いに互いの力を認め合う。

 

 

(…仕方ないか)

 

 

正直、使うのが怖かった。自分がどうなるか、わからなくなってしまったから。

 

だが、セラは決意し、集中する。

 

自分の奥へと潜り、そして。

 

 

(…よし)

 

 

セラはSEEDを解放させた。

 

ミーアはリベルタスから伝わってくる空気の変化に気づいていた。

 

 

「…三人は下がって。ここからは私がやる」

 

 

「ラクス様!しかし…」

 

 

ミーアの言葉に、ヒルダが食らいつくが、言い切る前にリベルタスとディーヴァが動き出した。

 

セラはサーベルを振う。対するディーヴァは対艦刀を抜き放っていた。

ぶつかり合えば、力比べとなり不利になるのはリベルタス。

 

セラは、機体を傾ける。機体の僅か上を対艦刀が通り過ぎていくのを感じながら、セラはサーベルを振り上げる。

 

 

「っ!」

 

 

ディーヴァの左腕が切り上げられる。

 

リベルタスとディーヴァはそのまますれ違い、すぐさま再び向かい合う。

 

いや、ディーヴァはその場に停まってしまった。

気づかぬ間に斬り飛ばされていた腕にミーアは動揺してしまう。

 

 

「ラクス様!」

 

 

「っ、あっ!」

 

 

呼びかけてくるヒルダの声に我に返る。

リベルタスがすでに接近し、サーベルがメインカメラを斬り飛ばそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンは、額に汗が流れるのを感じながらデスティニーの機器の画面をちらりと見遣った。

画面に映し出されているのはデスティニーの残存バッテリー量。すでにバッテリーの残りは五分の一を切っている。

 

 

「ほらほら!どうしたのぉ!?」

 

 

カラミティの二連装シュラーク、二連装ケーファー・ツヴァイが火を噴く。

シンは機体を傾けながら必死にこちらを狙う砲撃をかわしていく。

 

だが、デスティニーを狙ってフォビドゥンがプラズマ砲フレスベルグを放つ。

 

シンはまず機体を横にずらし砲撃をかわす。

そこから自分を追いかけてくる砲撃を、肩のビーム砲を跳ね上げ、放つことで迎撃した。

 

 

「ちっ、粘るわね」

 

 

「目障りだ…。いいかげん、堕ちろ」

 

 

いつまでも醜くあがく化け物の機体に、苛立ちを隠せないエリーとファル。

 

 

「私たちが自ら手を下そうとしてるんだ!光栄に思ってとっとと死にな!」

 

 

叫びながら、カラミティはスキュラをデスティニーに向けて放つ。

 

シンは最小限の動きでスキュラをかわすと、アロンダイトを手に、スキュラをかわしている間に突っ込んできていたフォビドゥンに向けて突っ込んでいく。

 

フォビドゥンはニーズヘグをデスティニーのコックピット部に向けて振るう。

 

それに対し、シンはアロンダイトを振わず、ニーズヘグの進行上に置く。

ニーズヘグとアロンダイトがぶつかり合ったその瞬間、ニーズヘグの刃部分が切断される。

 

 

「なっ!?」

 

 

ファルは驚愕しながらすぐに機体を後退させる。

シンはアロンダイトを振うが、空振りに終わってしまう。

 

ニーズヘグはビーム兵器ではない。ビーム兵器であるアロンダイトとぶつかり合えば当然起こる現象だ。

 

シンは機体を後退させて一旦、二機との距離を取る。

 

かなり長くこの二機と戦闘を行っている。シンはもう一度バッテリー残量を見遣る。

もうすぐ危険域の所まできていた。

 

 

「くそっ…」

 

 

このままではVPS装甲が落ち、好き放題されてしまう。

ルナマリアとハイネはまだあの一機を落とせていないのだろうか?

 

 

「っ」

 

 

カラミティが再びスキュラを放ってきた。

思考していたシンはわずかに反応が遅れ、かわすタイミングを逃してしまう。

 

シンはすぐさまビームシールドを展開させ、かろうじてスキュラを防ぐ。

 

そして背後の回り込んでいたフォビドゥンがフレスベルグを放ちデスティニーを貫こうとする。

 

 

「このっ!」

 

 

シンはすぐさま振り返り、展開していたビームシールドでフレスベルグを防ぐ。

 

そこで、見た。フォビドゥンが、ニーズヘグを所持していない。

 

 

「え…、っ!!?」

 

 

シンは悪寒を感じ、すぐさま振り返った。

すぐそばに、ニーズヘグを所持していたカラミティ。

 

 

「ぼうっとするなって…、言ったのにねぇ!!」

 

 

カラミティが、ニーズヘグを振う。

 

その先は、当然デスティニーのコックピット。

執拗にコックピットを狙ってくる二機の攻撃に、デスティニーのバッテリーだけでなくシン自身の疲労も積み重なっていた。

 

避けようとするが、動かない。

甘んじて斬撃を受けようとしたその時。

 

カラミティが横にずれた。

 

 

「っ!」

 

 

我に返ったシンはすぐに機体を二機から遠ざける。

 

何が起こったかはわからないが、助かったのは間違いない。

 

ともかくあの二機をどうするか考えようとしたその時、シンの耳にずっと待ち望んでいた仲間の声が届く。

 

 

『シン!お待たせ!』

 

 

『遅くなってすまない!よく粘ってくれた!』

 

 

インパルスとカンヘルが、傍らに寄ってくる。

 

仲間が、来てくれた。

 

シンはほっ、と息をつく。

ずっと苦労してきただけに、喜びも一入だ。

だが、遅くなったのも事実。このまま素直にお礼を言うのも癪に感じ、シンは思わずこんな言葉を口にする。

 

 

「俺、すごく疲れたから。後方でライフル撃つだけな」

 

 

『おいっ!いや、お前にすごい苦労かけたからそれくらいいいけどよ』

 

 

『ご、ごめんねシン…』

 

 

ハイネとルナマリアが申し訳なさげに言う。

 

 

「いいよ、ルナ。でも、前衛は任せていいか?バッテリーも危ないんだ」

 

 

シンもただのおふざけで二人の前衛を任せたわけではない。

先程も言ったが、デスティニーのバッテリーはもう残り少ないのだ。

 

あと五分も前衛で戦っていれば装甲は落ちてしまうだろう。

 

 

『あぁ、わかった。任せろ』

 

 

シンの言葉にハイネが応える。ルナマリアは特に何も言わないが、機体の構えから見てシンの言葉は受け取っただろう。

 

シンはアロンダイトをしまい、ライフルを取りだす。

 

これで決着だ。そんな思いを込めて二機を見たのだが…。

 

二機は振り返り、そのままどこかへと飛び去って行った。

 

 

「…え?」

 

 

『どうしたんだ…?』

 

 

『わからないわよ…』

 

 

三人が戸惑いの声を上げる。急に撤退していった二機。

自分たちよりも遅く出てきたのだ。バッテリーに関してはまだ心配はいらないはず。

 

 

『と、ともかく助かったのはこっちだ。シンは機体の補給に行って来い』

 

 

「わかった」

 

 

ハイネの言葉に応え、シンは機体をミネルバへと向かわせる。

 

一体、どうしたのだろうか?

 

 

 

 

「…ムカつくけど、あたしたち二人で三機も相手にしたら勝てない」

 

 

「わかってる」

 

 

エリーとファルが話し合う。

 

それぞれの機体を駆り、まとわりつく目障りなザフト機を落としながらあの三機から離れていく。

あの三機は、今は諦めるが他のを諦めようとは思っていない。

 

 

「バール、とっとと落ちやがって!情けない!」

 

 

「でも、あいつらは強い」

 

 

「そんなことわかってるよ!」

 

 

あいつらは強い。ザフトは雑魚ばかりだと思っていた彼らに衝撃を与えた。

 

 

「次こそ確実に殺してやる…。特にあの変な翼の機体!」

 

 

「あいつは、俺たちの獲物」

 

 

二人が言っているのはデスティニーだ。二人でかかっても落としきることができなかった機体。

あれだけは、あれだけは自分たちの手で落とす。

 

 

「どうせこの戦いで決着はつけられないんだろ?次の機会で…、絶対に…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トールは、ドラグーンから照射されるビームをハルバートで弾き、ウルティオへと突っ込んでいく。

ウルティオもサーベルを構え、ジャスティスを迎え撃つ。

 

シエルがライフルを構え、ウルティオを狙ってビームを撃つが、狙われたウルティオは隠し腕を展開する。

隠し腕のビームブレードでシエルが放ったビームを弾き、もう片方の腕でジャスティスに斬りかかる。

 

だがトールは冷静だった。腕のビームシールドを展開し、ビームブレードを防ぐとその方の隠し腕をトールはつかむ。

 

 

「っ!」

 

 

ロイは目を見開き、機体を後退させる。

だがジャスティスはがっちりと腕をつかんでおり、ロイはジャスティスとの距離を取れない。

 

ウルティオはドラグーンをジャスティスに向かわせる

何としても拘束から離れたい。

 

そのための行動だったのだが、それに対してヴァルキリーが動き出す。

 

肩の収束砲を跳ね上げ、カリドゥスと同時にドラグーンの進行上に向けて放つ。

大部分のドラグーンが砲撃の妨害によって動きを止めるが、妨害から簿がれたドラグーンがジャスティスへと向かっていく。

 

ビームが照射される。トールは腕を離してわずかに後退する。

 

腕が離され、ウルティオが隠し腕を戻そうとするが、それよりも前にジャスティスは動く。

右足を振り上げ、ビームブレードで腕を斬りおとしたのだ。

 

 

「しまっ」

 

 

新型のジャスティスに、このような装備がされているとは思っていなかった。

 

ロイはすぐに機体を後退させる。

その背後に、ヴァルキリーが回り込んでいたことに気がつかずに。

 

 

「もらった!」

 

 

「っ!」

 

 

ヴァルキリーが振り下ろしたサーベルが、ウルティオの右腕を斬りおとす。

 

ウルティオは振り返らずに隠し腕を展開する。

片腕を失った腕。一本の腕が、ヴァルキリーを貫こうと突き進む。

 

だが、腕はヴァルキリーを貫くことは出来なかった。

展開されたビームシールドに阻まれ、斬撃が受け止められてしまった。

 

 

「くそっ!」

 

 

ロイは悪態をつきながら、元の場所に戻していたドラグーンを切り離す。

 

ドラグーンをヴァルキリーへと向かわせようとするが、十基のうち四基がビームに貫かれ爆散した。

 

 

「じゃ…、ジャスティスぅうううううううううう!!!」

 

 

ロイは構わずドラグーンをヴァルキリーへと向かわせ、ウルティオはジャスティスへと振り向かせる。

 

ジャスティスはこちらにライフルを向け、肩のビーム砲と同時にビームを放ってくる。

 

ウルティオはサーベルを手に、ビームをかわしながらジャスティスへと斬りかかっていく。

 

ジャスティスはライフルをしまい、ハルバートでウルティオの斬撃を迎え撃つ。

 

 

「貴様っ、貴様っ、貴様ぁあああああああああああ!!!」

 

 

狂ったように叫びを上げながらロイは我武者羅にサーベルを振う。

 

ドラグーンが約半分に減り、機体も損傷が目立ってきた。

万全の状態でもやや不利だった戦い。ロイは焦る。

 

 

「俺は、俺はぁあああああああああああ!シエルを、シエルをぉおおおおおおおおお!!」

 

 

どこまでもシエルに執着するロイ。

 

 

「こいつ…」

 

 

トールはその様子に、思わず引きそうにまでなってしまう。

 

どうしてそこまでシエルに執着するのだろうか。

この男がシエルのことを好いているのはわかるが、それにしても異常すぎる。

 

気にはなるが、ウルティオがこちらに斬りかかってくる。

 

トールはハルバートをぶつけ、迎え撃つ。

その瞬間、トールはハルバートを分離させ、二本のサーベルに戻す。

 

一本のサーベルでウルティオの斬撃を抑え、もう一本のサーベルでウルティオを斬る。

 

 

「くそっ、くそっ、くそぉおおおおおおおおおおおっ!」

 

 

ウルティオは機体を後退させる。

ジャスティスのサーベルは、もう片方の腕を斬りおとした。

 

もう、ウルティオの攻撃手段は残った隠し腕、ドラグーンしかなくなった。

 

ロイが勝てる手段は、もうない。

それでもロイは、目の前の邪魔者に怒りを燃やす。

 

自分とシエルの世界を壊そうとする邪魔者に憎しみを燃やす。

 

 

「俺は、シエルを取り戻すんだぁああああああああああああ!!!」

 

 

ウルティオは両手がない状態でもジャスティスへと向かっていく。

隠し腕をジャスティスへと向かわせる。

 

トールは隠し腕を、機体を潜り込ませることでかわしサーベルを振り上げて隠し腕を両断する。

 

 

「ぁっ…」

 

 

小さく、本人自身も気づいてないかもしれない。

それほど小さく、ロイは声を漏らした。

 

さらに後ろから衝撃を受ける。振り向けば、サーベルを振り抜いた体勢でこちらを見ているヴァルキリーの姿。

 

目の前の光景を映していたモニターがノイズに満ちていた。

すぐに臨時カメラが起動され、再びモニターが復旧するが、ヴァルキリーが斬り落としたのがメインカメラだと悟るには十分だった。

 

 

「シエル…」

 

 

『ロイ』

 

 

自分を呼ぶ愛する者の声は、どこまでも冷たいものだった。

 

何故、何故こうなってしまったのだろう。

自分は、ただシエルに傍にいてほしかっただけだったのに。

 

 

 

 

 

C.E.70年

ロイが十七歳の時だった。シエルと出会ったのは。

 

ロイの父親がシエルを引き取り、ロイと家族同然となった。

 

血のバレンタインによって両親を亡くしたシエルは、出会った当初はまったく感情を見せな表情で、光の差さない瞳で自分を見つめていたのを思い出す。

 

必死に、ロイはシエルを慰め続けた。

初めはただ、妹も同然であるシエルを元気づけたいと必死だった。

 

ロイだけではない。ロイの父も、母も、セルヴェリオス家の召使いもシエルに何度も話しかけ、楽しませようと努力し続けた。

 

その甲斐あってか、ロイが十八になる時にはシエルは良く笑顔を見せるようになっていた。

だが、ロイにはその笑顔が偽物のように感じていた。

 

その時には、ロイはシエルのことを愛していた。

 

シエルがロイの婚約者に決定した時には、何とか外に出さずに済んだものの内心では飛び跳ねたくなるほど嬉しく感じていた。

これでシエルのことを守れる。自分の腕の中で、シエルを守ることができると。

 

 

『私、ザフト軍に入る』

 

 

そう、シエルが言った時、ロイは止めた。

 

シエルはアカデミーでは抜群の成績を残しており、軍の中でもトップクラスのパイロットになるだろうと言われていた。

だが、ロイは、セルヴェリオス家はシエルが安定するまでは軍に入ることを止めていた。

 

 

『私、プラントを守りたいから』

 

 

ロイはシエルを止めることは出来なかった。

でも、自分がシエルを守ればいいと、そう思っていた。

 

なのに、シエルは自分の傍から離れていった。

 

 

 

 

 

 

(…あの時、シエルは俺の名は口にしなかったな)

 

 

シエルが言ったのは、プラントを守りたい。

自分を守りたいとは言っていなかった。

 

いや、守りたいとは思っていたはずだ。自分とシエルは大切な仲間だったのだから。

仮にも、婚約者だったのだから。

 

 

(でも…、俺は、シエルの一番大切なものにはなれなかったのか)

 

 

ロイの目の前で、ヴァルキリーのライフルが火を噴いた。

放たれたビームは、まっすぐにこちらに向かってくる。

 

あの時とは違い、今度はコックピットへと。

 

 

(俺は…、お前を守りたかった。俺の腕で、守りたかったんだ)

 

 

守りたかった。ただ、それだけだった。

 

 

(でも、それは間違いだったのか…?)

 

 

今考えれば、何だかどこかで道を踏み外してしまったような気がする。

 

 

(セラ・ヤマト…か)

 

 

シエルは何度も言った。セラを愛している、と。

 

 

(お前が…、シエルの一番…)

 

 

ヴァルキリーが、シエルが撃ったビームがコックピットを貫いた。

 

機体が爆散していくわずかな間。

 

 

(シエル…)

 

 

ロイは

 

 

(おれは…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ」

 

 

ぴくり、とシエルの体が震えた。

何か、聞こえたような気がする。

 

 

『俺は、ずっとお前を愛している』

 

 

ずっと聞いてきた、狂気的なそれではない。

何処か安心する、温かみのある声。

 

初めて会った時、自分を慰めてくれた時。

優しかった時の、ロイの声。

 

 

「ロイ…」

 

 

大切ではあった。だが、一番ではなかった。

それが、ロイには不服だった。

 

ロイが求めていたのは一番だった。

シエルに求めていたのは、一番の愛情だった。

 

だけどシエルにはできなかった。一番はもう、シエルの中で出来ていたから。

 

 

「ありがとう…」

 

 

だが、もしロイがいなければ今のシエルはいなかった。

それはシエルにもわかっている。

 

だから、ここで感謝を込めてお礼を口にする。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

そして同時に、謝罪の言葉も口にする。

 

自分はロイを一番にできない。ロイを愛することは出来ない。

 

もう、愛している人はいるから。

 

 

『シエル』

 

 

ジャスティスがこちらに近づいてくる。

トールが、シエルに声をかける。

 

 

「…わかってる、行こう」

 

 

ここで止まってはいられない。

まだ、やることはある。

 

セラはまだ戦っているのだろうか。

レクイエム。そして、ザフトが撃った、ジェネシス。

 

やらなければならないことはまだまだある。

 

自分の中に残ったどことない虚無感を振り切り、シエルは機体を駆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ZGMF-X91Sディーヴァ
パイロット ミーア・キャンベル
武装
・ビームサーベル
・ビーム対艦刀
・ビームライフル×2
・レール砲(両腰)
・ミサイルポッド
・ビームシールド
・近接防御機関砲

ザフトが開発したZGMFシリーズの第三世代機の一つ。
白地の上に赤のカラーリングに染められている装甲が目を引く機体。
この機体のスラスターは、赤く染められている八枚の翼。フリーダムと同じ形態になっている。
フリーダムほど多くの武装は備えられてないが、その分、武装一つ一つの火力は高くなっている。



報告があります。活動報告の方に載せてありますので、見ていってください。


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PHASE58 秘めた思い

お久しぶりです!
返ってきたのは昨日なのですが、投稿は今日になってしまいました…。


八枚の翼を広げ、サーベルを握り、フリーダムはブレイヴァーへと斬りかかっていく。

ブレイヴァーはハルバートを振い、フリーダムの斬撃に対して迎え撃つ。

 

 

「こいつっ…」

 

 

アレックスは歯を噛み締めながら目の前の機体を睨みつける。

先程からフリーダムから発せられる空気が変わったのだ。

どこか甘さが感じられるものから、歴戦の戦士特有…、いや、それ以上の殺気へと;

 

油断はできない。ただでさえわずかにでも気の抜けない相手が本気で自分を落としにかかってくるのだ。

アレックスはもう一方のサーベルを抜き放ったフリーダムの斬撃をかわして距離を取る。

すぐに胸部の砲口に火を噴かせ、オメガを放つ。

 

フリーダムはその場から動かずに腕のビームシールドを展開して砲撃を防ぐと、その場で爆発が起こる。

爆風によって二機は引き離されてしまうが、両者はすぐに体勢を整える。

 

キラは右手のサーベルからライフルに持ち替え、ブレイヴァーに向ける。

同時にドラグーンを切り離し、機体のまわりに浮遊させライフルと同じようにブレイヴァーへと向ける。

 

ライフルとドラグーン、計九門の砲門を同時に開く。

 

さらにそこでキラの行動は終わらない。

引き金を引いた直後、キラは持っていたライフルからサーベルに持ち戻す。

再びブレイヴァーへと斬りかかっていった。

 

 

「はあぁっ!」

 

 

「くっ!」

 

 

アレックスは回避行動をとりながら向かってくるフリーダムを見る。

奴の狙いはすぐに悟ることができた。

 

放った砲撃は囮。本命は砲撃の影から向かってくるフリーダムの斬撃だ。

 

アレックスは機体を横にずらし砲撃をかわすとフリーダムに向かってハルバートで斬りかかる。

 

しかし、一体どんな心境の変化があったのだろう。

フリーダムの太刀筋に迷いがない。

先程まで、自分に攻撃するのをためらっていたように見えたのに。

 

 

「アスラン」

 

 

キラは、剣をぶつけ合う相手を見つめる。

その相手は、かつてと同じように。もう二度とないように願った友との激闘。

一体、あの時からの二年の間で何が起こったのだろうか。

 

 

「でも、僕はもう迷わない」

 

 

キラから、もう迷いは消えていた。

殺すしかないのか、殺したくない。この二つの気持ちの間で揺れていたキラ。

 

こんなこと、一瞬で選択できるではないか。

 

 

「僕は、君を助けるよ」

 

 

脳裏に浮かぶ、あの時の光景。

 

互いが互いを憎み、剣を振い、銃を撃ち合った。

時間が経ち、思い返してみればよくあの時、生きていたものだと苦笑しながら呆れたものだ。

 

 

「アスラン。君も同じだろ?」

 

 

もし、アスランなら自分と同じ気持ちになるはずだ。

 

 

「もう、御免だ」

 

 

キラはブレイヴァーを弾き飛ばす。

そのまま距離を取ろうとするブレイヴァーに向けて、サーベルから持ち替えたライフルを、切り離したドラグーンを再び向ける。

 

 

「あんな風になるのは…」

 

 

引き金を、引く。

 

 

「絶対に嫌だ!」

 

 

もう、後悔はしたくない。

 

キラの決意が込められた砲撃がブレイヴァーに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━痛い

 

 

「っ!?」

 

 

それは、はっきりと。今まで以上に大きく頭の中で響き渡った。

セラは目を見開き、動きを止めた。

 

 

━━━━━━嫌だ

 

━━━━━━死にたくない

 

━━━━━━どうして

 

━━━━━━何で俺が

 

 

全身に纏わりつく不快感。否応なしに聞こえてくる悲痛の叫び。

それが、一瞬だがセラの思考を止めてしまった。

 

そして、その一瞬を見逃さない相手とセラは対峙していた。

 

 

「殺った!」

 

 

ディーヴァが動きを止めたリベルタスに襲い掛かる。

リベルタスのコックピットを切り裂こうと、サーベルを一文字に振るう。

 

 

「くっ…!」

 

 

セラは止まった思考を無理やりに動かす。動くことを拒否する体を無理やりに動かす。

機体を捻らせディーヴァの斬撃から逃れようと模索する。

 

このタイミングでドラグーンを使用してもダメだ。相手を倒すことは出来るだろうが、その間に自分まで落とされてしまう。

それはダメだ。相手を倒すだけではダメなのだ。自分も、生き残らなければならない。

 

セラは機体の腕をディーヴァに向けて突き出す。

腕を捻り、サーベルを振るう腕を掴み止めた。

 

 

「なっ!?」

 

 

斬撃を止められたことに驚愕し、目を見開くミーア。

 

何故かはわからないが、動きを止めたリベルタスにサーベルで斬りかかった。

勝ったと確信した。あのタイミングで何をしようと斬れると確信した。

 

だが、結果は凌がれてしまった。さらに、リベルタスは片手だけで斬撃を止めており、もう一方の手にはサーベルが握られている。

 

 

「っ!しまっ…!」

 

 

ミーアがそれに気づいたときには遅かった。

リベルタスのサーベルが煌めく。ミーアはリベルタスの拘束から抜け出し、斬撃を防ごうとするがもう遅い。

 

リベルタスの振るうサーベルが、ディーヴァのメインカメラを斬りおとした。

 

 

「ラクス様!?くそっ、マーズ!ヘルベルト!ラクス様をお助けするよ!」

 

 

「「おう!」」

 

 

リベルタスにやられるディーヴァを見て、三人はいきり立ってリベルタスに襲い掛かる。

 

 

「くっ…!」

 

 

その光景をセラは苦悶の表情で見つめる。

いきなり増した不快感にセラは対応できずにいた。

 

気合で何とかディーヴァに手傷は負わせたものの、こちらは戦闘を続けることすら難しい状態になってしまっている。

 

三機のドムのうち二機はリベルタスに向けてバズーカを放ち、一機はサーベルで斬りかかる。

セラはサーベルを構え、斬りかかってきたドムを受け止めるとドラグーンを切り離し、後方の二機に向けて進ませる。だが

 

 

「どうした?動きが鈍くなってるぜ!」

 

 

マーズが照射されるビームをかわしながら口を開いた。

 

ドム三機のパイロットは確かに優秀だ。並のパイロット以上だ。

それでも飽くまでエース級というだけで、セラにとっては一般のパイロットと言える程度の者なのだ。

そんなパイロットにも見抜かれてしまうほど、今のセラの状態は深刻だった。

 

眉間に冷や汗を流し、苦悶を浮かべていた表情はさらに歪んでいる。

 

 

「こ…のっ!」

 

 

照射したビームはかわされ、セラの斬撃も鈍りを隠せず凌がれてしまう。

リベルタスの斬撃を凌いだヒルダ機は反撃の剣を入れかかる。

 

しかし、いくら動きが鈍っているとはいえセラもそう簡単には落ちやしない。

 

セラは腕のビームシールドを展開し、眼前のドムが振るうサーベルにぶつけて斬撃を防ぐと、もう一方の手に握られているサーベルを振るう。

 

 

「ちぃっ!?」

 

 

サーベルは、ヒルダ機のメインカメラを斬りおとした。

これでヒルダ機の行動はほぼ不可能と考えていい。さらに、残りのドムの二機もそれぞれ左腕、右腕が損傷している。

この空域の戦闘は終わったと判断するセラ。

 

機体を動かし、セラはその場から離れる。

 

リベルタスの後姿を、損傷を受けた四機は睨みつけていた。

 

何もできなかった。希望を与えると決意して戦場に出たというのに、何もできなかった。

負けてしまった。負けることは、許されなかったというのに。

 

 

「リベルタス…!」

 

 

ミーアは目を鋭くし、飛び去るリベルタスを憎々しげに睨む。

 

自分は希望の歌姫なのだ。ラクス・クラインなのだ。

 

 

「よくも…!」

 

 

今回はやられてしまった。だが、次こそは…。

 

 

「倒す…!」

 

 

あれを倒せば、ザフト軍の士気は相当高まるだろう。自分が、あれを倒すのだ。

何としても。

 

その時、ミーアは気がつかなかった。

 

自分は、戦争を止めるために、プラントを止めるために戦っているのだ。

そう思っていたミーア。

 

心の底からそう思っているのか。ミーアはそれに、気がついていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュランダルは、未だ崩すことのできない地球軍の戦線を見つめていた。

 

ネオジェネシスを撃ち、ブレイヴァーとウルティオも送り込んだというのに、地球軍に決定打を打てないでいる。

このままでは、消耗戦となり、数で劣るこちらが不利になってしまう。

 

 

「ウルティオ、シグナルロストです!」

 

 

「なに?」

 

 

表情に出さないことは成功したが、内心では大きく驚愕していた。

ウルティオが相手をしていたのはヴァルキリー、そしてジャスティスだった。

 

ヴァルキリーはともかく、ジャスティスはそう力のない者が搭乗しているはずなのだ。

向こうには、力のあるパイロットは、もういないはずなのだ。

 

ならば、注意すべきはヴァルキリーだけ。

そして、ヴァルキリーだけならばロイ・セルヴェリオスは打ち勝つことができたはず。

 

 

(ラクス・クライン…!)

 

 

どこまでも目障りな存在だ。自分では、推し量ることのできない存在。

それが、どうしてもどこまでも目障りに感じる。

 

彼女のすることなすことが、自分の裏をかいてくる。

 

それだけではない。今となっては、地球軍の行動も自分の予想を反することをしてくるようになってきている。

ロード・ジブリールが自分の素知らぬところで死に、そして宇宙空間に投げ出されていた。

 

 

(…限界、か?)

 

 

このまま戦い続ければ滅ぼされるのはこちらだ。

ならば、ここは退き、次に攻めるときに全てをかけて戦いに臨む。

その方が、良いのではないか?

 

 

「第五小隊、撤退します!」

 

 

「さらに第七モビルスーツ隊も押し込まれています!」

 

 

被害の報告が次々に上がっていく。

 

ディーヴァを送り込み、地球軍の新型三機を退け、これで戦況も変わるのではないかと思ったが、変わった様子は見られない。

 

 

「っ!でぃ、ディーヴァが撤退しています!」

 

 

ディーヴァは確か、リベルタスと戦闘していたはずだ。

 

 

(やはり、彼女では彼に勝つことは出来なかったか)

 

 

ここからどうするか。

デスティニーは地球軍の新型機との戦闘で消耗し、母艦に補給をしに行っている。

カンヘル、インパルスが奮闘しているが地球軍の数を跳ね返すまでには至っていない。

 

 

「議長…、これでは…」

 

 

デュランダルの傍らに立っていた秘書官が耳元で囁く。

秘書官にも、このままでは不利なのはこちらだということはわかっていた。

 

 

 

(…迷っている時間はない…か)

 

 

これ以上の犠牲は出すわけにはいかない。

この状況で、撤退するザフト軍を地球軍が追撃してくるとは思えない。

 

たとえしてきたとしても、自分たちを守ってくれる者がこの場にはいる。

 

 

「一時撤退。信号弾を撃て」

 

 

デュランダルは告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルティオを落とし、セラの元へ、キラの元へと向かおうとしたシエルとトールは、視界の端で打ち上げられた光を見た。

 

 

「信号弾…?」

 

 

「撤退か…」

 

 

信号弾が打ち上げられると、戦闘を行っていたザフト軍機が次々に退いていく。

長く続いたこの戦闘は、終わりを見せたのだ。

 

 

「セラは…?」

 

 

「キラもいないぞ…」

 

 

シエルとトールはセラとキラを探す。

リベルタスも、フリーダムも、その姿が見えない。

 

 

「私はこっちを探す」

 

 

「わかった。俺は向こうを探してみるよ」

 

 

そう遠くにはいないはずだ。

シエルとトールはそれぞれの方向に機体を向けた。

 

 

 

 

「…撤退?」

 

 

キラは、荒れる息を抑えながら退いていくザフト軍を眺める。

 

激闘を繰り広げていたフリーダムとブレイヴァーだが、両者に目立った損傷は見られない。

装甲についた汚れは目立つが、失った部位はどこにもない。

 

 

「…」

 

 

アレックスはフリーダムを見つめる。

 

また、仕留めることができなかった。それが、アレックスの心を荒立たせていた。

 

ここまで三度戦い、三度とも勝つことができなかった。

こんなことは許されない。許されるはずがない。

 

 

「次こそは…、貴様を討つ」

 

 

アレックスは苛立つ心を鎮め、機体を退かせる。

 

それを見届けたキラは、辺りを見回して友軍機を探す。

まわりでは退いていくザフト軍機、そしてその逆の方向に退いていく地球軍機の姿。

 

そんなキラのまわりにムラサメが現れる。

 

 

『キラ様!』

 

 

オーブ軍機がフリーダムを守る様にまわりで止まる。

そこに、もう一機、真紅の機体が姿を現す。

 

 

『キラ!』

 

 

「トール?」

 

 

ジャスティスを駆るトールが、キラに呼びかける。

どこか焦りを含んでいるその声に、キラは疑問符を浮かべながら口を開いた。

 

 

「どうしたの?」

 

 

『どうしたじゃないだろ!こんな所まで行きやがって…、心配したぞ』

 

 

「あぁ…。ごめん」

 

 

トールの言う通り、トール、シエルと一旦分かれた場所からここまでかなり離れている。

ブレイヴァーと戦いながらこんなところまで来ていたことに初めてキラは気づいた。

 

 

『今、シエルがセラを探してる。ったく、兄弟そろってちょろちょろとどっか行きやがる…』

 

 

「はは…」

 

 

トールの冷たさを含んだ言葉に苦笑いするしかないキラ。

 

キラとトールの会話を聞いていたオーブ軍人たちの先程まで張りつめていた緊張感が緩んでいく。

だがその時、緩んだ空気の中に似つかわしくない緊迫した声が響いた。

 

 

『キラ!お願い、こっちに来て!セラが!』

 

 

「『!?』」

 

 

 

 

シエルはトールと分かれ、セラとキラを探していた。

とはいえ、シエルが向かっているのはセラが去っていった方。トールが向かったのはキラが去っていった方。

シエルはセラを、トールはキラを探していると言った方が正しいだろう。

 

 

「あっ」

 

 

その時、ヴァルキリーのレーダーの中にリベルタスの反応を捉えた。

分かれた場所からずいぶんと離れた所にいる。

 

 

「まったく…」

 

 

シエルはため息をつきながらリベルタスへと機体を向かわせる。

いつもいつもセラは自分に、自分たちに心配をかける。

 

いつか、土下座させて謝らせてやろうか、と考えたその時。シエルは違和感を感じた。

 

リベルタスが動きを見せていない。その場から、全く動いていないのだ。

 

おかしい。普通ならば戦闘が終わった今、母艦に撤退するために移動をするはずだ。

だが、リベルタスはその場から動かない。

 

 

「セラ…?」

 

 

一瞬過った不安。シエルは機体のスピードを上げた。

 

 

「セラ?セラ!?」

 

 

リベルタスと通信を繋げ、セラに呼びかける。しかし、セラからの返事が返ってこない。

 

通信コードは間違っていない。リベルタスとの通信は繋がっている。

 

 

「セラ、どうしたの!セラ!?」

 

 

シエルの視界に、リベルタスの姿が見えてくる。

装甲の色は着いたまま、ぐったりとした体勢で、動く様子が見られない。

 

いよいよ、シエルの不安が増幅する。

 

 

「セラ!お願い、返事して!セラっ!!」

 

 

どれだけ声を張り上げてもセラからの返事は返ってこない。

 

シエルはリベルタスの傍らに機体を止め、もう一度セラに呼びかける。

 

 

「セラ!大丈夫!?」

 

 

返事は、返ってこない。

すぐに、シエルは通信をフリーダムに繋げる。どこにいるかはわからないが、キラは生きているはず。

こっちにすぐ来てくれるはずだ。

 

 

「キラ!お願い、こっちに来て!セラが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、何とか退かせることができたか…」

 

 

ウォーレンが、何処か安心したようにほっ、と息をつく。

 

予定通りだ。ウォーレン自身の予定通りに事は運べている。

とはいえ、今回の戦いは肝を冷やした。想像以上にザフト軍の戦力が上がっている。

 

ミネルバは言わずもがな、オーブオノゴロでの戦闘でも出てきていた新型機二機。

それに、恐らくラクス・クラインが搭乗したフリーダムによく似た赤い機体。

 

そして今回の戦いには出ては来なかったが、あのプロヴィデンスと言っただろうか、その機体の発展機ともう一機の新型機。

さすがはザフトの技術力といったところだろう。

これでもかなり悪い方で考え予定を立てていたのだが、それをも上回る力をザフトは誇っていたのだ。

 

 

(だが、それでもまだ絶望的というほどでもない)

 

 

まだ、こちらに分がある。それくらいの準備はしてきたのだから。

 

 

「アズラエル様。ザフト軍は全軍、あの要塞に撤退していったようです」

 

 

司令官の報告を聞き、ウォーレンは彼に視線を向けてこくりと頷いた。

 

どうやら、そう時間をこちらに与えてはくれないようだ。

向こうの準備が整えばすぐにでも再びこちらに攻めてくるだろう。

 

 

「増援をすぐに要請しろ。なるべく多くの、だ。そして…、あれも、用意できているだろうな?」

 

 

「了解しました。すぐに要請します。あれの準備なら、できています。今からアガメムノン級に積みますか?」

 

 

「やれ。時間は多くはないぞ」

 

 

ウォーレンの命令、問いに答えると司令官は司令ブースから去っていく。

 

ウォーレンは去っていった司令官を見送ると、先程まで戦闘が行われていた宙域が映し出されているモニターを見つめる。

レクイエムの中継点は第一、第二中継点が破壊され、プラント及びザフトの要塞に向けて撃つことは出来なくなってしまった。

 

 

(まぁ、保険はちゃんと準備してあるがな)

 

 

何も開発していた中継点があれで全てだったわけではない。

それに、その中継点が必ず必要だという訳でもない。

 

あのジェネシスをこちらに向けて撃つには、射線上にその撃つ対象がなければならない。

向こうにはこちらの様にビームを曲げれる開発は出来ていないのだから。

ならば、あの要塞がこちらに目視できる。レクイエムの射線上まで要塞を移動させなければならない。

 

有利なのは、こちらだ。こちらなのだが…。

 

 

(油断はできない。できるはずがない…)

 

 

ザフトが、デュランダルが何を仕掛けてくるかわからない。

もしかしたら、ジェネシスの他にも何か兵器を開発しているかもしれない。

 

 

(…いろんな手段を想定し、それに対応できるように対策してきた。奴の思い通りに、そう簡単にいくものか)

 

 

心の中でつぶやくウォーレン。

肘掛けに右肘を乗せ、手の甲に頬を乗せる。

 

 

「…」

 

 

ウォーレンは左手の所にある受話器を見つめる。

 

少しの間思考すると、ウォーレンは何かを決めたような表情になり、受話器を取った。

 

 

「…俺だ。ウルトルを用意しておけ」

 

 

このまま、ただ座するだけの王ではいられない。

あの木偶の棒、ジブリールの様になるつもりない。

 

本当に時が来れば、自分とて力にならなければいけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがに…、今回の戦闘は疲れたね…」

 

 

ふぅっ、と息を吐きながら、ぐったりしたように肩を落としてルナマリアが言った。

 

ルナマリアの言う通り、今回の戦闘は今まで経験してきたどの戦闘よりも辛いと感じた。

というより、最近に行われている戦闘の度、今の様に一番つらいと感じているような気がする。

 

 

「弱音を吐くなルナ。次の戦闘は、もっとタフな戦闘になるかもしれないんだぞ」

 

 

「うん…、だけど、やっぱり…。辛いよ…」

 

 

いつもルナマリアなら、シンの言葉に力強く皮肉で返していただろう。

だが、今の彼女はそんな気力はなかった。

 

 

「…今はゆっくりと休んどけ。まぁ、次の出撃までそう時間はないだろうがな」

 

 

ハイネは優しくそう言い残し、シンとルナマリアを置いて去っていった。

 

シンはハイネの後姿を眺めた後、未だ俯いているルナマリアに視線を向けた。

 

 

「ルナ…」

 

 

「…シンは…、疲れてないの?」

 

 

口調が弱弱しい。相当消耗しているようだ。

 

 

「疲れてるよ。でも…、こんな所で負けちゃいけないんだ」

 

 

ルナマリアだけではない。シンも、それにきっとハイネも疲れている。限界にだって近い。

 

だが、そんなことに負けたくない。

守りたいものが、今のシンにはたくさんできたのだ。

負けてしまえば、守りたいものすべてが失われてしまうかもしれない。いや、失われてしまうだろう。

 

もう嫌なのだ。失うのは。

 

 

「負けたくない。もう…、嫌だから…」

 

 

「シン…?」

 

 

どこか空気が変化したシンを不思議そうな目で見るルナマリア。

その視線に気づいたシンは、はっ、と一瞬呼吸を止める。

 

そして頭を振るい、視線をそらす。

 

 

「ともかく、ここでへこたれたりなんかできないだろ?ハイネも言ってた通り、そう時間も残されていないんだ。ゆっくりと休めよ」

 

 

「あっ…」

 

 

シンも自室に戻ろうとルナマリアを置いて立ち去ろうとする。

歩き出したシンの袖を、ルナマリアはつかんでシンの足を止める。

 

 

「ルナ…?」

 

 

シンは振り返り、ルナマリアを見る。

不安気な目でシンを見上げるルナマリア。

 

 

「その…」

 

 

ルナマリアはシンから視線をそらし、だが袖はしっかりとつかんだまま離さない。

 

 

「どうしたんだよ?俺も、部屋に戻って休みたいんだけど」

 

 

「待って!」

 

 

再び歩き出そうとしたシンを、今度は呼び止めるルナマリア。

シンは訝しげにルナマリアを見る。

 

 

「何だよ…。何か用なのか?」

 

 

どうしたのだろうか?不思議そうにルナマリアを見るシン。

さすがに怪訝に思ってしまう。とはいえ、邪険に扱うつもりもないが。

 

ルナマリアは、少しの間考えるような素振りを見せるが、何か決意したような表情になると顔を上げ、真剣な視線をシンに向ける。

 

 

「あの…、次の出撃まで、一緒にいてくれない…?」

 

 

「…は?」

 

 

ルナマリアの言葉に目を丸くし、呆けた声を出すシン。

 

待て。今、ルナは何と言った?

一緒にいてくれない?と彼女は聞いてきた。あぁ、そうだ。次の出撃までだ。

 

グラディス艦長は、パイロットである自分たちは部屋に戻って休めと言った。最後に、これは艦長としての命令だとも。

つまり、部屋に戻らなければならないのだ。

 

部屋から出た所を誰かに見られでもしたら、艦長に告げ口されてしまう。

それは嫌だ。だから、部屋に戻らなければならないのだ。

 

ルナマリアと一緒にいる。どちらかの、部屋の中で。

二人。

 

 

「はぁっ!?」

 

 

 

 

「えっと…、どうぞ」

 

 

「…どうも」

 

 

結局、シンは断れなかった。

 

断ろうとも考えたのだが、ルナマリアの潤んだ瞳を見ると、断ろうという考えがどこかにすっ飛んでいってしまった。

 

しかし、いくら歴戦の戦士となりつつあるシンとて年頃の男の子。

年頃の女の子を部屋に入れるなど、緊張しないはずがない。

 

顔が、熱い。

 

 

(くっ…。何でここまで緊張しなきゃならないんだ…!)

 

 

何なのだろうか。目の前にいるのはルナマリアだぞ?

訓練校時代から一緒だった、ただの友達だぞ?

 

こんな…、今更緊張するような間柄ではないではないか。

 

 

「シン…?」

 

 

「っ…、ほ、ほらっ!早く入れよ!」

 

 

「あ…、ごめん…」

 

 

…どうしてそんな弱弱しくなるのだろう。

もっといつものようにぐいぐいと明るく攻めて来てほしい。調子が狂う。

 

 

(まぁ…、こんなルナも可愛いけど…)

 

 

「…はっ?」

 

 

「え?どうしたの?」

 

 

「あっ…。いや、何でもない!」

 

 

今、自分は何を思った?ルナが、可愛い?

 

いや、確かにルナは可愛い。同年代の知り合いの中でずば抜けて可愛いことは認める。

しかし、何か…、そういう見かけだけを表した。そんな可愛いとはどこか違和感を拭えない。

 

 

(いや、可愛いよ。ルナは可愛いよ。けど…え?何?)

 

 

シン自身にもよくわからない。

 

先程も言ったが、シンとて年頃の男の子だ。

すれ違った女の子を見て、可愛いと思うことだってある。

 

だが、今まで感じてきたその可愛いと、先程心の中でつぶやいた可愛いと、何か意味合いが違うと感じているのは何故だろう。

 

 

「シン。その…、座っていい?」

 

 

ルナマリアが不安気にシンを見遣りながら、部屋の中にある二つのベッドの内の一つを指さした。

 

シンの部屋は、レイとクレアがプラントに戻るまでレイと同室だった。

そのため、部屋の中にベッドが二つあるのだ。

 

 

「あ、いいよ。別に許可取らないで勝手に座っても良かったのに」

 

 

「そんなことできないよ。ここは、シンの部屋なんだし…」

 

 

シンの許しを得たルナマリアは、布団がきれいにたたまれている方のベッドに腰を下ろした。

もう一つのベッド?それはシンがいつも寝ている方のベッドだ。どういう状態なのかは察してほしい。

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

沈黙が訪れる。

両者、口を開かない。というより、開けない。

 

話題が、浮かばない。

何かを話さなければ。そんな思いが、二人の焦りを加速させる。

 

何か話さないと。変に思われたりしないだろうか。

 

 

「えっと…。ルナ、さっきはどうしたんだ?」

 

 

「え?」

 

 

ルナマリアは、目を丸くしてシンに聞き返した。

 

 

「いや…、何でこんな…。一緒に、いてなんて…」

 

 

「あ…」

 

 

聞き返されるとは思っていなかったシン。

詳しく言って問うが、どうも恥ずかしくて顔を赤くしてしまう。

 

問われたルナマリアも、頬を染め、シンから視線を逸らしてしまう。

 

 

「別に、言いたくなかったらいいんだけど…」

 

 

ルナマリアが言いたくなければ別に答えなければいい。

ただこの気まずい雰囲気を何とかしたいと思っての苦肉の言葉だったのだから。

 

いや、だからといって、悩みに悩んで選んだ言葉としてはどうかと思うのだが。

 

 

「…安心するから」

 

 

「?」

 

 

ぽつりと、ルナマリアの言葉にシンは疑問符を浮かべる。

 

 

「安心するって…?」

 

 

「だから…、シンと一緒にいると安心するの…」

 

 

自分と一緒にいると安心する?

 

 

「それなら、メイリンと一緒にいる方がいいんじゃないか?今、メイリンはオフの時間だろ?」

 

 

「…バカ」

 

 

…何故悪口を言われなければならない。

 

 

「何だと」

 

 

「っ、バカ!シンのバカ!」

 

 

急に立ち上がって声を荒げるルナマリア。

勢いが増したルナマリアに、目を見開くシン。

 

どうしてルナマリアはここまでいきり立っているのだ。

何か、悪い事でも言ったのだろうか?

 

思い当たらないシンは、何も言えずにルナマリアの次の言葉を待つ。

 

 

「ずっと…。ずっとだよ?ずっと…、想ってたのに…気づいてくれなかった…」

 

 

「る…な…?」

 

 

何を、言っている?ずっと、想ってた?

 

混乱するシン。

そんなシンをよそに、ルナマリアは続ける。

 

 

「シン、私じゃダメなのかな…?やっぱり…、シエルじゃなきゃダメなのかな…?」

 

 

「っ」

 

 

シエル。ルナマリアは、気づいていたのか。

 

あまり考えないようにはしていたのだが、自分は、シエルのことが好きだったのかもしれない。

いや、今考えると、好きだったのだろう。

 

だが

 

 

「…シエルのことは、好きでも何でもないよ」

 

 

「え…」

 

 

今は、そう言う感情はシンの中に一切なかった。

 

 

「仲間だとは、今でも思ってる。また、会いたいって、話したいって思ってる。だけど…、そう言う感情はないよ」

 

 

「…ホント?」

 

 

ルナマリアの問いかけに、頷いて答えるシン。

それを見たルナマリアが花開くように笑顔を見せる。

 

 

「でも、少し待っててほしい」

 

 

「え?」

 

 

「今は、ルナマリアの想いに答えられない」

 

 

ルナマリアの戸惑いを浮かべた瞳を見つめながらシンは自分の想いを告げる。

 

 

「今は…、戦いに集中したいんだ。戦争を終わらせることに…」

 

 

「シン…」

 

 

戦争が終わるまで戦わなければならない。戦争を、終わらせなければならない。

どれだけ力になるかはわからないが、平和な世界を取り戻すために、戦いたいのだ。

 

 

「ごめん、ルナ…。でも俺…」

 

 

ルナマリアには申し訳ないと思っている。だが、ここでルナマリアの想いに答えてしまえば戦うための決意が揺るいでしまいそうで怖いのだ。

 

歪んでしまったシンの頬に、ルナマリアはそっと手を添える。

 

 

「いいの。いいのよ、シン」

 

 

「ルナ…」

 

 

微笑みをシンに向けるルナマリア。

 

 

「わかってる。今は…、戦わなきゃ。守らなきゃいけないってことは」

 

 

「ルナ…!」

 

 

この少女は、ここまで優しかったのか。

何年も共にいたというのに、初めて気づいた。

 

 

「でも、今だけ…」

 

 

「え…っ」

 

 

何かつぶやいたかと思うと、ルナマリアはシンの首に腕を回し、顔をよせ、その唇をシンのそれに重ねた。

 

シンは一瞬目を見開くが、まるで何かに身をゆだねるかのようにゆっくりと目を閉じる。

 

そして、両腕をゆっくりと上げて…、やがて両腕はルナマリアの背に回される。

 

一つになった二人の男女は、しばらくそのまま互いの温もりを感じ合ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シンとルナマリアがくっつき(?)ました。

感想待ってます!
あまり厳しい言葉はかけないであげてください…。


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PHASE59 色づく記憶を

とりあえず、懸念に思っていたことを入れることができました


アークエンジェルに収容されているネオ・ロアノークは医務室のベッドの上にいた。

正直、健康状態は良好なのだが忘れられているのだろうか、ここにずっと放っておかれている。

 

 

「ったく…、俺は地球軍の兵士なんだぜ?」

 

 

警戒心というものがないのだろうか、この艦のクルーには。

 

ため息をついたネオは、医務室の中を見渡す。

 

見覚えは、ない。ないはずなのだ。

 

アークエンジェルは少し前まで戦闘中だったのだろう。

艦はひっきりなしに揺れ、自分はいつもいつもこの艦は…。と、呆れてしまった。

 

この艦と自分はまったく関係はないというのに。

揺れが起こることが、まるで当たり前かのように思っている自分がいるのだ。

 

 

(俺は…、ネオ・ロアノークだ)

 

 

自分は、ネオ・ロアノークだ。アークエンジェルのクルーたちが行っている、ムウ・ラ・フラガという名の男などではない。

それなのに、自分はムウ・ラ・フラガなのだと思っている自分もいる。

 

 

「…くそ」

 

 

自分に対して悪態をつくネオ。

 

わからない。自分は、一体誰なのか。

ネオ・ロアノークなのか、ムウ・ラ・フラガなのか。

 

だが、一つだけはっきりしていることがある。

確か、あの女性…、マリュー・ラミアスと言っただろうか。

自分は彼女を知っている。いや、記憶の中にあるというわけではない。

 

知っているのだ。自分の目が、耳が、手が、足が。

それなのに、あの時そのことを言えなかった。あの女性が涙を流したその時、そのことを言ってやれなかった。

 

そうしたら、まるで自分がムウ・ラ・フラガだということを認めてしまっているようだったから。

ネオ・ロアノークである自分は、消えてしまいそうだったから。

 

 

「マリュー・ラミアス…か」

 

 

あの女性と話してみたい。話したい。

そうすれば、自分がこれからどうするべきなのか、答えが出てくるような気がする。

 

次、いつになるかわからないが人が来たとき。彼女にここに来るように読んでもらおうと決意した時、医務室の外から慌ただしい足音と声が耳に聞こえてきた。

 

 

「何だ?」

 

 

ネオは医務室の扉に目を向ける。扉は閉まっていて外の様子は見えない。

だが次の瞬間、その扉は勢いよく開かれた。

 

入り口からなだれ込んでくる医務員、彼らが運ぶストレッチャーの上に載っている少年。

そしてその少年の手を握り、寄りそうように駆ける少女。

 

 

「なんだなんだ?何が起こってるんだ?」

 

 

何が起こっているのかわからないネオ。ただただ混乱するしかない。

 

 

「セラ…。大丈夫?セラ…」

 

 

ストレッチャーに載せられている少年はセラというのか。

セラに呼びかける少女の目は涙で潤み、相当彼のことを心配しているのだろうということが目に見えてわかる。

 

 

「何だよ…、どうしたんだ?」

 

 

「セラ君が…、戦闘が終わった直後、意識を失ったのよ」

 

 

ネオの問いに答える女性の声。ネオははっ、と振り向く。

まっすぐネオを見つめながら医務室に入ってくる女性。マリュー・ラミアスだ。

 

 

「あんた…」

 

 

「彼に何があったのかはわからないけど…、何か異常があったということは間違いないわ」

 

 

ネオはストレッチャーから医務室のベッドに移される少年の顔を見る。

息は荒げ、顔色が真っ青に。額からは大量の汗が流れ落ちている。

 

相当の苦しみを味わっているということだけはわかる。

 

 

「あいつは確か…、リベルタスのパイロットだろ?」

 

 

「えぇ」

 

 

「そんな奴が…、何があったんだ…」

 

 

セラ自身がネオに教えてきた。自分がリベルタスのパイロットだと。

正直初めは信じられなかった。自分たちを苦しめてきたあの機体のパイロットが、こんな少年だったなんて。

しかも聞けば、今ようやく十七歳になったというではないか。

 

つまり、ヤキン・ドゥーエ戦では十四歳か十五歳。

信じろと言う方が難しいだろう。

 

 

「機体に損傷はなかった。だから、パイロット自身になにかあったのだと思うのだけれど…」

 

 

マリューが視線を落として心配そうにつぶやく。

 

そんなマリューを見て、ネオは思った。

もし、自分がムウ・ラ・フラガだったなら、彼女に今、なんて声をかけたのだろうと。

 

そんな思いが、ネオの口からこんな言葉を吐きださせた。

 

 

「なぁ」

 

 

「…?」

 

 

ネオの呼びかけに、視線をネオの方に向けるマリュー。

マリューを見つめて、ネオは問いかける。

 

 

「こんな時にこんなこと聞くのはどうかと思うんだが…。ムウ・ラ・フラガっつうのは…、あんたにとって何なんだ?」

 

 

「…」

 

 

こんな時に何を言っているのだろうと、ネオ自身もわかっている。

だが、聞かずにいられなかった。

 

問われたマリューは、ネオを非難することはなく、ただ何かを考え込むように俯く。

そして、絞り出すようにこう答えた。

 

 

「戦友よ…。でも、もういないわ」

 

 

「いない…」

 

 

違う。俺は、ここにいる。

 

咄嗟に出かかった言葉を飲み込むネオ。

自分はネオ・ロアノーク。ムウ・ラ・フラガではないのだ。

 

何を言っても、この女性には届くはずがない。

 

 

「そうか…」

 

 

一言、こう答えるしかできなかった。

 

ネオはマリューから視線を逸らし、治療を受けているセラという少年に視線を移した。

 

 

 

 

 

「セラ…」

 

 

機体からセラを降ろし、ヘルメットを脱がすと、大量の汗をかき、苦悶で歪んだセラの表情が姿を見せた。

オノゴロでの戦闘も、似たような症状で医務室に運ばれたのだがその時よりも顔色が悪く、汗の量も多かった。

 

すぐにシエルは医療班を呼び、セラを医務室に運ばせた。

あのネオと名乗る男がこちらを見つめているのに気付いたが、気にする余裕などなくただひたすらセラの手を握り、流れる汗を拭くことしかできずにいた。

 

 

「どうしたのセラ…。あなたに、何が起こってるの…?」

 

 

わからない。愛する人に何が起こっているのかわからないということがここまで苦しい事だったなんて。

もう二度と感じたくはなかった。オーブの戦闘後、そう思っていたのに。

 

また、セラは倒れてしまった。原因は不明。

 

 

「教えてよ…、セラ…」

 

 

もしかしたら、セラ自身にもよくわかっていないのかもしれない。

そう考えることもシエルにはできたのだが、それを考え付くことすらできないほど今のシエルはテンパっていた。

 

 

「くっ…、安定剤を持ってこい!」

 

 

「はいっ」

 

 

医療班が必死にセラの治療をしてくれる。

 

身体に怪我や異常は見つからなかった。つまり、精神的に異常が起こっていることは間違いないのだが。

そこまで絞れているのに、詳しいことはわかっていない。

 

今できることは、これ以上セラの容態が悪くならないよう努めることだけだった。

 

そして、シエルはできることがない。その事実が、もどかしさを生む。

 

 

「セラ…」

 

 

何もできない。いつもセラは自分にしてくれているのに、自分はセラに何もしてあげられない。

 

握ったセラの手を自分のおでこに当てる。

何とか少しでも、自分の気持ちがセラに伝わるように願う。

 

他にシエルにはできることがないのだから。

これしか、シエルにはできることはないのだから。

 

 

 

 

 

 

キラとトールは、アークエンジェルと合流したエターナルに入っていた。

フリーダムとジャスティスをエターナルの格納庫に収容し、二人は艦橋へと向かう。

 

艦橋では、ラクスがキラとトールを待っている。

 

 

「キラ。お前、ここに来てていいのかよ?」

 

 

「?どういうこと?」

 

 

艦橋へとつながる通路を進んでいると、トールが不意にキラに問いかけた。

キラはきょとんとしながらトールに聞き返す。

すると、聞き返されたトールもまたきょとんとしてキラに聞き返した。

 

 

「いやだって…、セラが倒れたんだぜ?見に行かなくていいのかよ」

 

 

コックピットで意識を失ったセラが発見され、すぐに医務室に運ばれた。

だがキラは心配そうな素振りは見せたものの、セラの様子を見に行くことはしなかった。

 

 

「セラにはシエルがついてるし…。それに、僕まで行ったらセラに怒られそうだから」

 

 

「怒られる?」

 

 

キラの言葉にトールが首を傾げる。

何で、セラを心配して様子を見に行ったらセラに怒られるのだろう。

 

 

「『兄さんは自分の出来ることをして。俺の心配なんかするな』て。言われそうでしょ?」

 

 

「…確かにな」

 

 

キラの言う通り、そうやってセラがキラを叱る所は容易に想像できた。思わずトールは苦笑いしてしまう。

 

 

「多分、ザフトが出撃するまで時間は少ない。僕たちだって、セラのこと気にしてばかりじゃいられないんだ」

 

 

「だな」

 

 

キラの言葉に同意し、トールは目の前にまでやってきた艦橋の入り口の扉を開く。

 

扉が開き、二人の目に映るのは艦長席に集まっている三人。バルトフェルド、アイシャ、そしてラクス。

三人は扉が開く音に気づき、視線を向けると表情を綻ばせた。

 

 

「おぅ、二人とも!ようやく来たな」

 

 

バルトフェルドが艦橋に来た二人を迎える。

傍にいたラクスとアイシャも笑顔を浮かべて二人を迎える。

 

キラとトールは三人の傍による。

 

 

「先程はお疲れ様でした、キラ」

 

 

「ありがとう、ラクス」

 

 

キラに労いの言葉をかけたラクスは、次にトールへと体の向きを変える。

 

 

「トールさんも、お疲れ様でした」

 

 

「ありがとう。こうしてまた、皆のために戦えるのも、ラクスさんのおかげだ」

 

 

トールにも同じようにねぎらいの言葉をかけたラクスにトールは礼を言う。

 

 

「ラクス。やっぱり、ジャスティスをトールにあげたのは…」

 

 

「はい。私ですわ」

 

 

キラがラクスに問いかけると、ラクスは何の躊躇もなく肯定する。

どこか複雑そうな表情になるキラだったが、特に何も言わずに納得する。

 

トールにジャスティスを渡したのはラクスだった。

戦闘中、アークエンジェルに乗っていたトールとラクス。

そしてアークエンジェルに合流したエターナルに、トールとラクスはムラサメに乗り込んで収容させた。

 

その後は、ほとんどはキラがストライクフリーダムを受け取ったときと同じ流れである。

ラクスがトールを格納庫まで案内し、ジャスティスのことをトールに話し。そしてトールはジャスティスに搭乗した。

 

 

「俺だけ何もせずにじっとしてるなんて、嫌だったからな。ラクスさんにはホント感謝してる」

 

 

「いえ。私こそ、トールさんにジャスティスを受け取ってもらえて感謝していますわ」

 

 

トールとラクスが互いに礼を言い合う。

 

あの戦い、トールがいなければどうなっていただろうか。

今回の戦い、幸運なことに命を落とした者はゼロという結果に終わった。

少なくともこのような幸運な結果に終わりはしなかっただろう。

 

 

「さてと…。前の戦いを振り返るのはもう止めて、この先の戦いに目を向けましょう?」

 

 

アイシャが、トールとラクスの会話を切り、話題を変える。

緩んでいたトールやラクス、キラとバルトフェルドの表情がアイシャのその言葉で引き締まった。

 

 

「そうだな…。ダコスタ、画像を出せ」

 

 

「はい!」

 

 

バルトフェルドの指示に従ってダコスタが機器を操作して画面を切り替える。

画面には、月からザフト軍の巨大要塞メサイアまでの範囲が図として映し出された。

 

 

「今、ザフト軍要塞メサイアはこの場所に位置しています」

 

 

ダコスタがメサイアの位置を示す。その場所は、地球軍ダイダロス基地から少し離れた所。

 

 

「再出撃がしやすい場所でありながら、レクイエムの射程からは外れている。上手い場所に位置しているな」

 

 

「すぐに戦いは再開するでしょう。こちらの準備も、急がなければなりません」

 

 

バルトフェルドとラクスが口を開く。

 

メサイアの場所からダイダロスまでの距離は近いといえる。距離だけで言えばレクイエムの射程距離内には入ってしまっているだろう。

だが、角度内には入っていない。

 

中継点が使えなくなった地球軍。ビームを曲げて命中させるという芸当ができなくなった今、メサイアがある場所までレクイエムの砲撃を届かせることができないのだ。

 

 

「ザフトは気兼ねなく出撃の準備を進めることができるわね…」

 

 

「そして、次の戦いで一気に決着をつけに来る」

 

 

今度はアイシャとキラが口を開いた。

 

 

「キラの言う通りだ。ザフトは全力を以て次の戦いで決めに来るぞ」

 

 

「そうですわね。デュランダル議長にとっては、もう残された時間は少ないでしょうから…」

 

 

デュランダルに残された時間。デュランダルの計画の限界まで、そう時間はないだろう。

このまま戦いが長引き、デュランダルに対して不満が高まったりする事態になれば…

 

 

「デスティニープランの導入が、難しくなってしまいます」

 

 

ラクスの言う通りだ。

デスティニープランの導入には、人々の全幅の信頼がデュランダルに向けられていなければ相当難しくなってしまうだろう。

いい加減、決着をつけたいとデュランダルは思っているはずだ。

 

 

「かといって…、時間を稼ぐだけじゃダメなのよね…」

 

 

「うん。地球軍の凶行も止めないと」

 

 

まるであのヤキン・ドゥーエの再現だ。

あの時は地球軍の核攻撃を止めながらザフトのジェネシスを破壊しなければならなかった。

 

そして今は、地球軍のレクイエムを破壊してさらにザフトのネオジェネシスを破壊しなければならない。

地球、ザフト両軍を相手しなければならない状況はあの時と同じだ。

 

 

「さて、次の戦いのことだけど…」

 

 

「あぁ。言うまでもないが、長期戦になれば不利なのは間違いなく俺たちとザフトだ」

 

 

「地球軍とは早期決着をつけないといけないわね」

 

 

圧倒的にこちらは物量が少ない。そしてそれは、こちら程ではないもののザフトも同じこと。

 

 

「一番の理想は、俺たちが地球軍とザフト軍を分断させて戦うこと」

 

 

「でも、それは難しいですよ」

 

 

「とはいえ、レクイエムとジェネシスはそれぞれ破壊しなければなるまい」

 

 

事実、バルトフェルドの言う通りだ。

レクイエムとジェネシスは何としても破壊しなければならない。

 

どちらかがプラント、または地球が撃たれることにもなりかねない。

 

 

「…なぜ人は、こうして何度も戦わなければならないのでしょう」

 

 

「ラクス?」

 

 

不意に、思いつめたような表情でラクスがつぶやいた。

そのつぶやきを聞き取ったキラがラクスの顔をのぞき込む。

 

ラクスはちらりとキラを見ると、すぐに目を逸らして天井を仰いだ。

 

 

「人は何故…、戦わずに平和に過ごすことができないのでしょう…」

 

 

「ラクス…」

 

 

キラはラクスの肩を抱いて寄せた。

 

人はこれまで何度も何度も争い続けてきた。戦い続けてきた。

 

平和であり続けたいと、何より願っているのは人のはずなのに。

戦い続けるのも、人。

 

 

「私たちは…、永遠に、戦い続ける運命なのでしょうか…」

 

 

「っ…」

 

 

運命。その一言に、キラの中で反抗心が生まれた。

運命なんか、あるはずがない。

 

 

「運命なんかに、僕は負けたくない」

 

 

「キラ…」

 

 

キラの言葉に、全員の視線がキラに向けられる。

 

 

「戦い続ける運命なんか、あるはずない。たとえあったとしても…、僕はその運命を壊すよ」

 

 

 

 

 

 

 

ネオは、今は落ち着いているセラの様子を遠目で眺めていた。

その隣にはネオと同じようにセラの様子を眺めている、丸椅子に座ったマリューがいた。

 

いや、マリューに関してはネオと違っていた。

セラの様子を見守っているシエルを眺めている、というべきだろう。

マリューの瞳は不安に満ちていた。

 

 

「シエルさん…」

 

 

セラの様子をずっと見ていたシエル。その顔にどこか疲労感が浮かんでいるのは気のせいではないだろう。

マリューは立ち上がって、シエルの元に歩み寄る。そしてそっとシエルの肩に手を乗せる。

 

シエルが振り返ると、マリューはシエルに微笑みかけながら口を開いた。

 

 

「シエルさん…、そろそろ休みなさい」

 

 

「でも…、セラが…」

 

 

「セラ君の様子は私が見るから。シエルさんは、少しでも体を休めないと」

 

 

マリューに説得されるシエルだが、それでも心配そうにセラに視線を寄せる。

セラの顔は穏やかになってはいるが、顔色はまだ少し悪く見える。

 

シエルの心配な気持ちもわかるが、シエルにはまだやることがあるのだ。

 

 

「セラ君に怒られるわよ?自分の出来ることをやれ…て」

 

 

「あ…」

 

 

マリューのその言葉に、シエルは目を見開き、呆然とマリューを見つめ返す。

 

少しの間シエルはマリューを見つめると、セラに再び視線を移す。

そして、ふっ、と微笑むと勢いよく立ち上がった。

 

 

「そうですね。こんなとこにいたら、セラに怒られちゃう」

 

 

シエルはそのまま医務室の出口の所まで行くと、マリューへ振り返った。

 

 

「マリューさん。ありがとうございました」

 

 

そう言って、ぺこりと腰を折っておじぎをしてから医務室を出て行った。

 

出て行ったシエルを見て微笑んだマリュー。

 

 

「かわいらしい嬢ちゃんじゃないか」

 

 

マリューは振り返る。何やら悪戯っぽい笑みを浮かべて医務室の扉を見つめていたネオを見る。

 

 

「いやぁ、あのセラっつう坊主は羨ましいねぇ。あんな可愛いガールフレンドがいるんだもの」

 

 

「あら?あなたにはいないの?ガールフレンド」

 

 

「え…、あ…。ははは…」

 

 

セラを羨ましがる言葉を言うネオにどこか冷たい視線を向けるマリュー。

当然だ。ネオとシエルの年齢の差を考えたら…、火を見るよりも明らかだ。

 

マリューがネオに問いかけると、ネオはぎくっ、と体を震わせて、弱弱しい笑い声を出すことしかできないでいた。

マリューはやれやれ、と頭を振った。

 

本当に、素振りだけでなくこういう言動まで彼と…、ムウと重なってしまうのだから。

 

この人はムウではない。それはわかってるのに、ムウと重ねてしまう。

 

 

「…」

 

 

何とかしなければ。もうすぐ決戦が始まるのだから。

心の整理をつけなければならない。

 

そのためにもまずここから出よう。

まず、頭の中から彼のことを消したい。彼とのことを解決するのは戦いが終わってからでもいいのだから。

 

マリューもシエルの後を追うように医務室の扉へと歩いていく。

 

 

「あっ…、待ってくれ!」

 

 

そのマリューを、ネオが呼び止めた。足を止めるマリュー。

 

 

「何かしら?」

 

 

振り返って、笑顔をつけてネオに聞き返す。

 

 

「っ…」

 

 

ネオは気づいた。マリューの笑顔は心からのものではないのだと。

今、自分に話しかけられたくないのだと。

 

だが、引くわけにはいかない。

彼らが言っているムウ・ラ・フラガが誰なのか。そしてネオ・ロアノークとは何なのか。

それを、ネオは知りたい。

 

 

「ネオ・ロアノーク。C.E.四十二、十一月二十九日生まれ。大西洋連邦ノースルバ出身、ブラッドタイプO…」

 

 

「何を…」

 

 

いきなり何を言い出すのだろうか。

急に自分の経歴を語りだしたネオに戸惑いを見せるマリュー。

だが、戸惑いを見せたマリューをおいてネオはさらに続ける。

 

 

「C.E.六十入隊、現在、第八十一機動群、通称ファントムペイン大佐」

 

 

ネオの頭の中で、これまで生きてきた人生が駆け抜けていく、

 

生まれ育った街の光景、物心つく前に家を出て行った母に飲んだくれて死んでいった父。

つるんでは悪さをした仲間たちに、共に上官のしごきに耐え訓練の日々を送ってきた、そして散っていった戦友。

重傷を負ったものの何とか生き延びた第二次ヤキン・ドゥーエ戦役…。

 

これらの記憶は、ネオの頭の中でへばりついて到底否定できない。しっかりとネオの脳裏に刻み込まれていた。

 

 

「…の、はずだったのだがな」

 

 

どうしてだろう。ここに来るまでは、胸を張ってこれが自分の生きてきた人生だと語れたはずなのに。

 

 

「何だか…、自信が、なくなってきた…」

 

 

「え…?」

 

 

本当に自信なさげに俯くネオを、食い入るように見るマリュー。

 

この艦に来てから、はっきりとしていた記憶が色あせていく感覚に陥っていた。

その代わりに、鮮やかによみがえってくる既視感のような感覚。

 

ネオは、体ごとマリューの方へと向けて、まっすぐにその瞳を見つめた。

 

 

「あんたを知ってる…ような、気がする」

 

 

「っ…」

 

 

マリューの目が見開かれ、唇が震える。

 

 

「いや…知ってるんだよ。俺の目が、耳が。手が、足が」

 

 

自分は彼女のことを知っている。

先程まではあいまいだったものが、はっきりしていた。

胸のどこか苦しい感覚と共に、彼女の顔も、声も、抱き締めた感触も。知っている。

 

 

「…はは、何を言ってるんだろうな俺」

 

 

後頭をかきながら、どこか照れたようにつぶやくネオ。

 

だがマリューはそれどころではなかった。かすかによろめき、両手で口を覆い、ネオを見つめる。

よろめいてしまったからだろう。ネオが手を差し伸べようとするのだが、咄嗟に手をひっこめる。

 

ネオは確かに彼女を知っている。知っているのだが…、そしたら、今までの自分。ネオ・ロアノークはどこに行くのだろう?

先程も感じた不安がネオを襲う。

 

自分を信じて散っていった少年少女たちが頭に浮かぶ。

戦いのために生み出され、それでも作ることのできた思い出を、自分のせいで消し去られていった。

 

 

「あんたが苦しいのはわかってるつもりだ…。でも、俺も苦しい」

 

 

もし、自分がムウ・ラ・フラガだったのなら。

ネオ・ロアノークとしての自分は全て嘘だということになる。

 

それは、今まで踏みしめていた大地が張り裂かれ、虚空に投げ出されたような、そんな感覚に似ている。

 

ネオは、こちらをずっと見つめていたマリューの視線に気づく。

それを見た途端、衝撃と共にいたわりがその瞳に含まれていることに気がついた。

 

何ということだろう。彼女もショックであるはずだ。それなのに、自分のことを気遣ってくれている。

たまらず、ネオはベッドから立ち上がり、彼女に駆け寄ってその体を抱きすくめた。

 

 

「ここに、いていいか…?あんたのそばに…」

 

 

ネオは優しく問いかける。

彼女の腕が、自分の背に回された。そして腕の中にいる彼女が、無言で頷く。

 

ネオは、彼女の柔らかく温かい感触を感じながら、何かが色あせ、強烈な何かが姿を現した。

そんな感覚に襲われた。

 

その感覚が、ネオの決意を更に強くした。

 

取り戻したい。失った、これまでの全てを。彼女との日々を。

 

 

「…ありがとう」

 

 

「いや…、どういたしまして…」

 

 

マリューは、そっとネオの腕から離れる。

温もりを失い、どこか寂しさを感じるネオをよそに、マリューは再び医務室の扉と向き合い、そして医務室から出て行った。

 

ネオはその後姿を眺めて、頬を掻いた。

 

失敗、したかなぁ…。

 

ネオは沈んだ様子でベッドに戻って寝ころぶ。

とはいえ、こんな所で諦めたくない。失った全てを取り戻したいと決意したばかりなのだから。

 

この時のネオは、知らなかった。

こうしてネオが葛藤している中、医務室の扉に寄りかかりながら、マリューは両手を握りながら微笑んでいたことを。

先程のネオが抱きしめてくれた時の感触を、思い出していたことを。

 

 

「…お?」

 

 

ネオの視界の隅で何かが動いたような気がした。

ネオは視線を動かして、その何かの正体を捉える。

 

 

「坊主?もう、大丈夫なのか?」

 

 

その何かは、セラだった。先程までずっとベッドで気を失っていたはずのセラが起き上がっていた。

ネオはセラのことを気遣って問いかける。

 

だが、セラは何も答えない。ネオは怪訝に思い、もう一度セラに呼びかける。

 

 

「おい、坊主?どうした?気分が悪いなら、まだ寝て…っ」

 

 

ネオは、その言葉を言い切れなかった。

 

ネオの言葉の途中でセラはネオの方へと振り返った。

そのセラの瞳を見て、ネオは言葉を失った。

 

光が、全く差さない。無気力にも見える、何も映さない瞳を見て。

その瞳は、確かに自分を見ている。怯んだネオは、言葉を失ってしまった。

 

 

「はい、もう大丈夫です」

 

 

「…え、あぁ」

 

 

だが、次に気づいたときには、そんな瞳は見えなくなっていた。

初めて、またはこの少年と再会した時に見た、綺麗なアメジストの瞳が戻っていた。

 

 

「…俺、また気を失ったんですね」

 

 

「…あぁ」

 

 

セラのつぶやきにネオは応える。

 

先程のあの瞳は何だったのだろうか。気のせい?それに越したことはないのだが。

 

 

「俺は一度、艦橋に行ってマリューさんに声をかけてきます」

 

 

「あ…。あの人に会いに行くんなら俺も行く。連れてってくれないか?」

 

 

「え?…あ、わかりました」

 

 

セラは、マリューに会いに行くと言う。それならば、自分も行きたい。

彼女の傍に、行きたい。

 

ネオの言葉に戸惑ったセラだが、何とか持ち直してネオのお願いに了承の意で答えた。

 

セラが医務室の扉を開け、医務室を出て行く。それに続いてネオも医務室を出て行く。

 

ネオは先を歩くセラの背中を見た。

こんな小さな背中に、大勢の命がかかっているのか。どこかやるせない気持ちになる。

 

この少年は、リベルタスのパイロット。こんな幼いころから戦いに身を置いていたら、あんな目をするようになってしまうのだろうか?

 

ネオの胸の奥に、かすかな不安が蠢いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、決戦に出撃できればいいですなぁ


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PHASE60 終わりの始まり

化〇語のop聞いてたら心が和んできて…
和みすぎちゃって、筆が進まない…あぁ…

まじで和むぅ…


ザフト軍要塞メサイア

現在、ザフト軍が建設した要塞の中で最大の要塞。

全ての設備は最先端をいくものであり、侵入者対策も万全な状態。

 

このメサイアに、ザフト軍の戦力は集結されていた。

近く来る決戦に向けての準備が、ここで着々と進められていた。

 

戦略要塞であるメサイアだが、ここには兵士のための部屋が用意してある。

リラクゼーションルームもあり、宿泊のための個室も設備されている。

 

その個室のうちの一室。今、そこにアレックス・ディノはいた。

 

光の差さない、暗闇の包まれた部屋の中で唯一発せられている光は、アレックスが操作しているコンピュータのものだ。

その画面に映し出されているのは、縦横無尽に飛び回るフリーダムの姿だった。

この映像はブレイヴァーが写し取った映像データをパソコンでインストールして見ているものなのだ。

前回のフリーダムの戦闘データを資料から引っ張り出し、自室で観察しているのだ。

 

 

(…ここからだ)

 

 

アレックスが一番見たかったのは、フリーダムの動きが鋭くなったその瞬間からの動向だった。

 

何かしら心の動きがあったのだろう。戦いに迷いがなくなった。

 

次の戦いでは最初からこの動きで自分に襲い掛かってくるに違いない。

もう、迷いによる動きの鈍りは期待できない。

 

画面で、フリーダムのドラグーンが飛び回り、こちらに襲い掛かってくる場面が映し出される。

アレックスはそこで映像を停止させ、巻き戻し、再びドラグーンが襲い掛かってくる場面から再生を始める。

 

 

(ドラグーンの動きに癖でもあれば、それだけでかなり楽になるんだが…)

 

 

新しいフリーダムに搭載された武装の中で、最も脅威なのはドラグーンだ。

オールレンジの攻撃を可能にし、さらにフリーダム特有の同時ロックオンシステムによってドラグーンを含めた全武装での正確射撃が行えるのだから。

 

いくら遠距離戦もこなすことのできるブレイヴァーでもフリーダムとの相性は良いとはいえない。

だから、こうしてドラグーンの動きを細かく観察しているのだが…。

 

 

(…ダメか。特に動きの癖というものはないな)

 

 

しばらく画面をじぃっ、と見つめるアレックスだったが、結局、目に留まるものは見つけることができなかった。

 

 

(だが…、どうやらパイロットはドラグーンの操作を得意とはしていないようだな…)

 

 

前回フリーダムと戦った時、基本はライフルで遠距離からの射撃。

接近された場合はサーベルで迎撃、そして反撃につなげる。

 

ドラグーンはあまり使ってこなかったのだ。

 

ドラグーンが搭載されている時点で適性がないということはありえない。

だが、その適性がどれほどあるのかは別の話。

 

マルチロックオンシステムによってドラグーンでの単なる射撃ならば可能だったが、ドラグーンを飛び回らせてのオールレンジ攻撃はあまり得意ではないのだろうとアレックスは考えた。

 

 

(とはいえ、フリーダムが強敵なのは変わりない)

 

 

元々、フリーダムにはドラグーンは搭載されていなかった。

つまりドラグーンなしの戦闘の方が手馴れているといっていいかもしれない。

 

 

(負けるわけにはいかない)

 

 

たとえどんな強敵が相手だったとしても、負けるわけにはいかないのだ。

議長のためにも。何より、自分のためにも。

 

 

「ディノさん。議長がお呼びです」

 

 

考え込んでいると、扉がノックされた音がした直後にアレックスを呼ぶ声が耳に届いた。

 

 

「わかった。すぐに行く」

 

 

アレックスはその声の主に返事を返した後、画面に映し出されていた映像を消し、残ったウィンドウを消してからシャットダウンする。

 

椅子から立ち上がり、扉を開けて部屋を出る。

部屋から出ると、待っていたのは、クレア・ラーナルードだった。

 

アレックスは思わぬ人物の登場に目を丸くさせた。

 

 

「お前か…」

 

 

「…私で悪かったですね」

 

 

「いや、別にそういう意味で言ったわけじゃないんだが…」

 

 

唇を尖らせ、拗ねたように返事を返すクレア。

これまた思わぬ反応に目を丸くするアレックス。

 

 

「…まぁいいです。レイはもう議長の下へ行っているはずです。私たちも行きましょう」

 

 

そう言って歩き出すクレアの後に続いて、アレックスも歩き出す。

 

二人は無言のまま歩き続けていたのだが、ふとクレアがアレックスの方を見て口を開いた。

 

 

「アレックスさん」

 

 

クレアに呼ばれ、振り向くアレックス。

クレアはまっすぐにアレックスを見つめて、再び口を開いた。

 

 

「あなたは…」

 

 

「…」

 

 

クレアは少しの間、間を置いて立ち止まって問いかけた。

 

 

「あなたは、誰なんですか?」

 

 

クレアの隣で立ち止まり、アレックスはクレアの目を見返す。

 

アレックスとクレアは睨み合う。

見つめ合うというより、睨み合っていた。

 

二人の間に流れていた空気が一瞬で変わった。

二人は互いに向けて気迫を向け合う。

 

 

「…俺は、アレックス・ディノだ」

 

 

口を開いたのはアレックス。

 

自分の名を言って、そのまま再び歩き始めた。

 

 

「本当に?」

 

 

だが、後ろから聞こえてきたクレアの声にまた立ち止まり振り返った。

 

 

「何が言いたい?」

 

 

アレックスは目を細めクレアを睨みつける。

クレアはアレックスの睨みに怯まず、表情を変えずにアレックスに問いかける。

 

 

「そのままの意味です。あなたは、本当にアレックス・ディノなのですか?」

 

 

さっきから何を言っている、こいつは。

自分の名はアレックス・ディノだ。ザフト軍特務隊所属、アレックス・ディノだ。

 

 

「愚問だ。俺はアレックス・ディノ。それ以上でも以下でもない」

 

 

迷いはない。アレックスははっきりと言い放った。

自分の名はアレックス・ディノだと。

 

アレックスはちらりと横目でクレアを見ると、もう相手にしないと言わんばかりに早足で歩き始める。

クレアはそんなアレックスの後姿を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。

 

 

「…そうですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

『コンディションイエロー発令、コンディションイエロー発令。各員は所定の位置に着いてください』

 

 

「っ!」

 

 

流れた放送、メイリンの声でシンは勢いよく起き上がった。

目を見開き、自室の中を見渡したところでようやく自分は眠ってしまっていたことを自覚した。

 

シンは傍らでまだ眠っているルナマリアを眺める。

 

ルナマリアに唇を押し付けられ、しばらくその状態のままでいたシンとルナマリア。

ルナマリアが一旦離れると、シンは逃さないとばかりに今度はシンから唇を押し付けた。

 

その状態のまま二人はベッドに倒れ込む。

 

唇を離すと二人は微笑み合い、そのまま眠りについたのだ。

 

 

(うわ…、ダメだって!余韻に浸ってる場合じゃないんだ!)

 

 

あの時のルナマリアの温もりを思い出し、ぼぉっとしかけたシンは勢いよく頭を振って我を取り戻す。

 

ベッドから降りて、シンは脱いでいた赤い制服に袖を通しながらルナマリアに声をかける。

 

 

「ルナ、ルナ?起きろよ」

 

 

「ん…」

 

 

小さくかわいらしい声を上げて身じろぎするルナマリアだが、起き上がる気配がない。

シンは苦笑しながらはぁ、と息を吐き、ルナマリアに歩み寄る。

 

 

「ルナ?おいルナ。起きろ」

 

 

「んー…。シン…?」

 

 

ルナマリアは目をこすってから目を開ける。寝ぼけた目をシンに向けて欠伸をする。

ゆっくりと起き上がり伸びをする。

 

 

「どうしたの…?」

 

 

「コンディションイエロー。各員は所定の位置に着けってさ」

 

 

ルナマリアの問いかけに平然と答えるシン。

 

ルナマリアは頭をこくこくと揺らしていたのだが、シンの言葉の意味がだんだんと読み取れてきたのか、少しずつ目が見開かれていく。

 

 

「ちょっとシン!それを早く言いなさいよ!」

 

 

「ルナが起きたら言おうとしたんだよ」

 

 

「…あぁもう!パイロットスーツに着替えてくる!」

 

 

ベッドから飛び降り、自分の制服を取ってそのままシンの部屋から出て行くルナマリア。

 

頭の中を切り替えることはできたようだ。

シンは安心したように息をつくと、シンもまたパイロットスーツに着替えるためにロッカールームへと向かう。

 

ロッカールームには先客がいた。

今、パイロットスーツに着替え終わったのだろう。ヘルメットを取ろうとしていたところだった。

 

 

「よぉシン。遅かったな?」

 

 

「え?…いや、まぁ」

 

 

ハイネに遅いと言われ、シンは一瞬固まる。

だが理由を言う訳にもいかず、とりあえずいそいそと自分のロッカーの場所へと行き、ロッカーを開ける。

 

 

「…シン。お前、何かあったか?」

 

 

「え…、何も。何もない!」

 

 

ハイネに問われ、シンは動揺してしまったが何とか問いに答える。

とはいえ、シンの不自然さに気づいたハイネはまだ怪訝そうにシンを眺めていたが、ふーん、と興味なさげにヘルメットを持って歩き出した。

 

 

「急げよシン、ミネルバもそろそろ出撃するはずだ」

 

 

「わかった。すぐ行く」

 

 

ハイネはシンに釘を差してから、ロッカールームを出て行く。

シンも急いでパイロットスーツに着替えはじめる。

 

 

(…これで、最後の戦いになるんだろうか)

 

 

着替えながら心の中でつぶやくシン。

 

アーモリーワンでの出撃から、戦い戦い戦いの連続だった。

気の休まる時間など滅多になかった。

 

こんな戦いばかりの日々を、これで終わらせることができるのだろうか。

 

 

「…と、急がないと」

 

 

無意識に、パイロットスーツに着替え終えたことに気づいたシンはヘルメットを取り、ロッカールームから出て急いで格納庫へと向かう。

 

 

(そういえば、ルナはどうしただろう?)

 

 

自分とそう時間が変わらないでロッカールームに向かったルナマリア。

ルナマリアはすでに格納庫に着いているだろうか、それとも今、向かっているのだろうか。

それとも、まだ着替えている途中だろうか…。

 

格納庫にたどり着いたシンは、すぐに自身の愛機であるデスティニーに乗り込むために飛ぶ。

 

無重力の空間で浮いたシンの体は寸分たがわずデスティニーのコックピットに向かっていく。

 

 

「あ!お兄ちゃん遅いよ!ハイネさんとルナさんはもう機体に乗り込んでるよ!?」

 

 

「悪い!」

 

 

向かってくるシンに気づいたマユがシンに向かって怒鳴る。

シンはマユに謝罪の言葉を入れてすぐにコックピットに乗り込もうとする。

 

 

「ま、待って!」

 

 

そのシンの腕をマユがつかんで止めた。

シンは目を丸くして振り返ってマユに問いかける。

 

 

「っと…。どうした、マユ?」

 

 

「…」

 

 

マユは俯いていてその表情をうかがい知ることができない。

首を傾げるシン。

 

 

「なぁ、マユ。さっきお前も言ったけど急がなきゃいけないし、離してくれないか?」

 

 

「っ」

 

 

離してほしいとマユを促すと、マユは拒否するようにつかんでいた手の力を強めた。

シンは困ったようにこめかみを掻く。

 

 

「マユ?」

 

 

「…お兄ちゃん」

 

 

シンがマユの名を呼ぶと、マユはゆっくりとその顔を上げた。

その瞳は不安で揺れていて、涙まで零れそうになっていた。

 

 

「お兄ちゃん…、嫌だよ…。死んじゃ嫌だよ…」

 

 

「マユ…」

 

 

ついに、マユの目から涙が零れ落ちた。

マユはまるでいやいやをするように頭を横に振る。

 

 

「お母さんとお父さんも…、お兄ちゃんまでいなくなっちゃったら、私、一人になっちゃう…」

 

 

シンの腕をマユは両手でつかみ、そしてその腕で抱く。

 

シンならば引き抜くこともできたが、そんなことはしない。

今までマユはシンを待つことしかできなかった。

 

もしかしたら、兄が戻らないかもしれない。そんな不安をずっと味わい続けてきた。それも、戦う兄の傍で。

我慢が、途切れてしまったのかもしれない。

 

シンは、抱かれていない方の腕を動かし、その手をマユの頭の上にそっと乗せる。

 

 

「俺は、マユの方が心配だよ」

 

 

「え?」

 

 

今度はマユが目を丸くしてシンを見上げた。

 

 

「だって、地球軍では当然ミネルバは有名だろ?ミネルバを狙う奴は多いはずだ」

 

 

ミネルバが落ちる危険は高まってしまう。

 

 

「俺がミネルバを守れればいいんだろうけど…、レクイエムのこともあるしさ」

 

 

「お兄ちゃん…」

 

 

シン自身がミネルバを守ることができればいいのだが、シンを含めてハイネ、ルナマリアの三人はレクイエム破壊に駆り出されるだろう。

ミネルバの傍で戦うことはほぼ不可能だ。

 

 

「俺は大丈夫だから…。マユは、自分の心配してろよ?」

 

 

「…うん」

 

 

シンの言葉にマユはこくりと頷き、そっとシンの腕を離した。

 

 

「…じゃ、行ってくる」

 

 

シンは最後にマユの頬を優しく撫でてコックピットに乗り込んだ。

 

 

「…お兄ちゃん」

 

 

シンがコックピットに乗り込んでから少しの間、コックピットハッチを見つめてからその場を去っていくマユ。

そのマユを、シンはデスティニーのカメラを使って見つめていた。

 

 

「マユ…」

 

 

シンはマユを映し出していたカメラを切り替える。

そして、すぐに戦うことができるように機体を立ち上げていく。

 

 

(大丈夫…。マユ、俺は大丈夫だから)

 

 

シンは心の中でつぶやいてから前を見据える。

 

これで最後の戦いにしたい。いや、最後の戦いにする。

レクイエムを破壊すれば、地球軍に勝ったというのに同意だ。

 

何としても、勝つ。立ちはだかる者は、全て切り捨てる。

 

 

『ミネルバは只今より発進します。衝撃に注意してください』

 

 

ミネルバは飛び立つ。

 

メサイアは移動ができる要塞。ミネルバが出撃してそう時間はかからずに射程距離内に入るだろう。

 

シンは気を引き締めてただ前を見据える。

すぐに機体が発進できるように機体はカタパルトへと運ばれていく。

 

 

「今度は…、これで終わらせるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザフト軍艦隊!出撃しました!」

 

 

アークエンジェル艦橋。ミリアリアが動き始めた光点を見て報告した。

 

この光点はザフト軍の艦を示すもの。これが動き始めたということは当然、攻撃を再開するということだろう。

 

 

「マリューさん!」

 

 

ミリアリアの報告を聞いて、艦橋にいたシエルがマリューに呼びかける。

マリューはシエルの方を見て頷き、艦長席に着く。

 

 

「アークエンジェルの発進準備急いで!このステーション内が把握しているか確認もお願い!」

 

 

念のため、いつでも発進できるように準備はしていたのだが予測よりもザフト軍艦隊が動き始めるのが早かった。

オーブ艦隊が出撃できるようになるにはあと少しかかりそうだ。

 

 

「じゃあ、私はすぐに機体に乗り込みます!」

 

 

シエルはそう言って艦橋から出ようとする。

だが、シエルが艦橋の扉を開こうとしたその時、勝手にその扉が開かれた。

 

 

「え…、えっ?」

 

 

シエルは、開かれたその向こうに立っていた二人の人物を見て目を見開いた。

 

艦橋に入ってこようとしたのは、思いもよらぬ人物だった。

 

 

「シエル。そんなに慌てて…。ザフトが動き始めたのか?」

 

 

「嬢ちゃん、焦っちゃダメだぜ?いつでもゆとりを持ってなきゃな」

 

 

「セラ…!?それに…」

 

 

セラとネオが、並んで艦橋に入ってきたのだ。

 

それを見たクルーたちもまた、目を見開いて二人を見つめる。

マリューは、艦長席から立ち上がってその二人を、いや、ネオを見つめていた。

 

ネオも、見つめてくるマリューを見つめ返していた。

 

 

「セラ…。もう大丈夫なの?」

 

 

「あぁ。前に目を覚ました時には合った体が重いような感覚もないし」

 

 

シエルが心配そうに問いかけ、セラはそれに笑みをシエルに向けながら答える。

 

 

「それよりも…」

 

 

セラは、横目でネオを見る。

 

ネオは真剣な目つきでマリューを見つめていた。

 

 

「…どうしたのかしら?セラ君も、こんな所に来て」

 

 

「いや、俺はザフトの動きを確認しに来たんですけど…」

 

 

二人に問いかけたマリューに、まずセラがその問いに答えた。

そして答えた直後、再び横目でネオに視線を向ける。

 

未だマリューを見つめ続けるネオ。

少しの間そのまま黙っていたのだが、不意にネオは口を開く。

 

 

「…この坊主から聞いた。この艦には、前に収容された俺の傷ついた機体の他に、もう一機あるって」

 

 

「…アカツキのことね?」

 

 

アカツキ

オーブを襲ったザフト軍とたたかった時、カガリが搭乗した黄金のモビルスーツ。

 

ネオがそのことを言っているのを察してマリューはそう聞き返す。

 

 

「あぁ…。その機体を、俺に貸してほしい」

 

 

ネオのその言葉に、セラ以外の艦橋にいたクルーたちが驚愕した。

 

つまり、ネオはこう言っているのだ。

自分に、ザフト、地球軍と戦わせてほしいと。

 

 

「あなたは…、何を言っているかわかってる?」

 

 

「あぁ」

 

 

見開いた目を細め、睨むようにネオを見つめるマリューの問いかけに、ネオはすぐに頷く。

 

 

「あなたは自分が席を置いていた友軍と戦うと言っている。それにあなたは飽くまで捕虜なのよ?」

 

 

「わかってるよ。友軍と戦おうとしていることも、俺が捕虜だっていうことも、ちゃんと覚えてる」

 

 

わかっているのだ。自分がどんなことを言っているのか。

クルーたちが、自分を信じたくとも信じ切ることができないでいるのも。

 

だが、ここで退くわけにはいかない。

ネオは、「でも、」と言葉を続ける。

 

 

「俺…、ザフトが嫌いなんだ。近頃は、地球軍も嫌いになっちゃってさ」

 

 

おどけたように言うネオを、表情を変えずにただ見つめ続けるマリュー。

 

 

「…頼むよ。戦いたいんだ、俺も」

 

 

「…」

 

 

ネオの願いに、返事を返すことができずにいるマリュー。

何の答えも出せずに俯いてしまった。

 

迷っているのだ。

敵であったネオが、また地球軍に寝返るのではないか。そんなことを迷っているわけではない。

 

過去を思い出しているのだ。

マリューはかつて二度、愛する人を失っている。

 

地球軍人時代、戦争にて戦死したかつての恋人。ヤキン・ドゥーエでMIAとなったムウ。

 

目の前に、ムウと瓜二つの男が存在はしているがあの時の悲しみ、喪失感は忘れはしない。

自分は呪われているのではないだろうか。そう思ってしまうほど。

 

そして今、もしかしたら返ってきたのかもしれないと思ったムウ、ネオが戦場に向かおうとしている。

止めたい。止めたいのだ。だが、真正面からぶつけられるネオの想いに、止めるための言葉が喉奥へと押し戻されてしまう。

 

 

「…言ったよな?」

 

 

「?」

 

 

不意にネオの口から出された声は、先程までとは違い慈愛に満ちたものだった。

マリューはそれに疑問を感じて顔を上げる。

 

マリューの顔を見つめて、ネオは続ける。

 

 

「あんたの傍に、いたいって」

 

 

「っ…」

 

 

マリューの表情がわずかに歪む。

 

信じてもいいのだろうか。信じてしまおうか。

 

あの時の気持ちはもう、味わいたくない。

あんな気持ちになるくらいなら、忘れてしまおうとさえ思った、ヤキン・ドゥーエからの二年間。

 

今度は、戻ってきてくれるだろうか…。

 

 

「…わかった」

 

 

迷いの末に出した答え。

マリューの答えに、ネオの顔が明るくなる。

 

これで戦える。本当の意味で彼女の傍にいられる。そう思った瞬間。

 

 

「でも約束して」

 

 

礼を言おうとしたその時、マリューが口を開いた。

ネオは首を傾げてマリューに続きを促す。

 

 

「絶対に、ここに帰ってくるって」

 

 

「え…」

 

 

ネオは、マリューの言葉を聞いて一瞬固まったかと思うとすぐにマリューに微笑みを向けて言いかえした。

 

 

「当たり前だろ?俺はあんたの傍に居続けたいからさ」

 

 

ネオはマリューに背を向けて艦橋から去っていく。

そのネオに続いてセラが、シエルが艦橋から去っていく。

 

 

「マリューさん…」

 

 

ミリアリアは、セラたちが…、ネオが出て行った艦橋の扉をずっと見つめているマリューを見遣る。

 

彼女は今、何を思っているのだろう。それは自分などに推し量ることは出来ない。

 

ミリアリアも、自身の恋人が自分の目の届かない所で戦っているという不安感を何度も味わってきた。

だがマリューは、恋人を失うという悲しみを味わってきた。

 

今の選択とて、相当に悩んだ末の答えだったはずだ。

 

 

「マリューさん」

 

 

先程とは違い、マリューに聞こえるように声に出す。

 

マリューは、視線を扉から外してゆっくりと前に向けた。

 

気持ちがわからないでもないが、指揮をする艦長がこんな状態では戦いになどなりはしない。

そして、そのことはマリュー自身にもわかっていた。

 

 

「ステーション内のモビルスーツの搬送は?」

 

 

「は、はい!残りはもう僅かとなっています。後五分もすれば出撃できるはずです」

 

 

マリューの問いかけにチャンドラが答える。

 

もう少しすれば最終決戦が待っているのだ。迷っている場合ではない。

自分は答えを出したのだ。それで、いいではないか。

 

帰ってくる。彼は帰ってくる。

そう、前以上に願いながら自分も戦えば、それで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザフト軍艦隊、進撃を再開しました!」

 

 

オペレーターが発したその言葉がウォーレンの耳に届いたその時、ウォーレンは心の中で一言、『来たか』とつぶやいた。

司令官が距離はどうだ、戦列はどうなっているなどと質問しているのを聞き流しながらウォーレンは目を閉じて集中力を高めていた。

 

どうせ簡単なことは司令官がすべてやってくれる。ならばその間、自分は心の準備をしておかなければならない。

 

たとえ自分が指揮官だったとしても、恐らくこの戦い。自分が出撃しなければならなくなるだろうから。

 

 

「アズラエル様。ザフト軍艦隊の数は…」

 

 

「そんなものはどうでもいい」

 

 

オペレーターから聞いたことを報告しようとしたのだろう司令官の言葉を遮るウォーレン。

椅子に座るウォーレンと立っている司令官という位置関係上、見下ろす形になっている司令官を見上げてウォーレンは言い放つ。

 

 

「この戦い。戦列や数などではどうにもならない展開になるのがオチだ。こちらも向こうも、全てを賭けて戦わなければならないのだからな」

 

 

今までの戦いとはわけが違う。そのことを改めて思い知らされた司令官が、ごくりと喉を鳴らした。

 

 

「それより、ウルトルはどうなっている?」

 

 

「はっ。整備は完了しているとのことです。後は…、アズラエル様が機体を扱えるかどうかにかかっております…」

 

 

「そうか…」

 

 

自分が知りたいことを聞き終えたウォーレンは正面に映し出されている基地のまわりの映像に目を向ける。

 

司令官が指示を出していたのか、すでに艦隊、モビルスーツモビルアーマーが発進し始めていた。

 

 

「すまないな。俺が指示を出さなければいけないものを」

 

 

指示を出すことを司令官に謝罪するウォーレン。

だが司令官は首を横に振ってウォーレンにこう答えた。

 

 

「いえ。アズラエル様は自身の戦いのことだけに集中なさってください」

 

 

司令官の言葉に頼もしさを覚えるウォーレン。

ふっ、と笑みを零す。

 

 

「ぎりぎりまではここで指揮をする。俺がこの場から離れた時は…、頼むぞ」

 

 

ウォーレンが出撃するということは、それは最高指揮官がいなくなるという意味だ。

 

ウォーレンが出撃してから、軍が状態を崩さずに保てるかどうかはダイダロス基地司令官にかかってくる。

 

 

「はい。その時はお任せください」

 

 

司令官の頼もしい言葉に再びウォーレンは笑みを零した。

 

 

「タイミングは俺が指示を送る。あれは、支持の通りに頼むぞ」

 

 

「はっ」

 

 

ウォーレンの言葉に応えてから司令官はその場から離れる。

とはいっても、コンソールから身を乗り出してオペレーターに指示を出しているのだが。

 

ウォーレンは背もたれに身を任せ、天井を見上げる。

 

ここまで、来た。

あの時、父を失い、余りの悲しみに途方に暮れたあの時から、ここまで来るのにどれだけ苦労してきただろう。

 

この時のために、ジブリールという無様な、哀れな傀儡の王様に忠誠を誓うという屈辱も味わい、力を手にするためにどんな苦しみにも耐えてきて。

ここまで、来たのだ。

 

 

(父さん…。見てるかい?俺、頑張ったよ…)

 

 

見てくれているだろうか。

父は、自分を見守ってくれているだろうか?

 

 

(父さんは失敗した…。でも、俺は失敗しないよ。…あ、別に父さんを馬鹿にしているわけじゃないからね?むしろ父さんがここまで組織を大きくしてくれたおかげなんだから)

 

 

父は、失敗した。だが、基盤を作り、成功一歩手前までいったのは紛れもない父だ。

自分はそれを継いで、続きの物語を紡いできた。

 

 

(あと少し…。あと少しだ…。父さん…)

 

 

ウォーレンは願う。

 

 

(力を、貸して)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇を切り裂きながら進む巨艦、ミネルバ。

その前方では、ザフト軍を迎え撃つべく出撃した地球軍艦隊の姿が。

 

 

「艦長!」

 

 

「わかってるわ!メイリン、デスティニー、インパルス、カンヘルを発進させて!」

 

 

バートがタリアに向けて報告をしようと声を出すが、その前にタリアはどうなっているかを悟ってメイリンに指示を出す。

 

メイリンも、タリアに返事も返さずすぐにパイロットたちに発進する旨を伝える。

 

 

『よし!まずは俺が出る!シン、ルナマリア、遅れるなよ!』

 

 

コックピットで座するシンの耳に通信を通じてハイネの声が届いた。

 

 

『ハイネ・ヴェステンフルス!カンヘル、出るぞ!』

 

 

まず最初に出たのはカンヘル。それに続くように、コアスプレンダーがバーニアを吹かせる。

 

 

『先に行かせてもらうわよ、シン!ルナマリア・ホーク!コアスプレンダー、行きます!』

 

 

ルナマリアが合体シークエンスをこなし、フォースシルエットを装備したインパルスがカンヘルの横に着く。

 

 

「シン・アスカ!デスティニー、行きます!」

 

 

最後に発進するのはもちろん、シンだ。

 

スラスターを吹かせ、先を行くカンヘルとインパルスに追いつく。

さらにこの三機に続くようにザフト艦から次々に出撃してきたモビルスーツ隊が着いてくる。

 

 

『いいか!これで絶対最後にする!死ぬなよ!?』

 

 

『えぇ!』

 

 

「あぁ!」

 

 

ハイネの呼びかけに答えるルナマリアとシン。

目の前に広がるは地球軍艦隊。

 

これらを薙ぎ払い、レクイエムを破壊する。

 

 

「行くぞ…!」

 

 

シンはアロンダイトを取る。

 

巨大な刃。何物でも切り裂く大剣を手に、犇めくモビルスーツ隊へと斬り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ザフト軍と地球軍の戦いが再会したその時、アークエンジェル、エターナル、クサナギを筆頭にオーブ軍艦隊は進撃を開始していた。

 

セラたちも、すでに機体に乗り込んでおり、機体の立ち上げの最後の仕上げに取りかかっていた。

 

 

『では、私たちはメサイアへと向かいます』

 

 

『えぇ。レクイエムは、私たちにお任せください』

 

 

リベルタスのスピーカーからラクスとマリューの会話が響く。

 

レクイエム破壊に向かう部隊とジェネシス破壊に向かう部隊に、軍を分けたのだ。

 

 

『タイミングには気をつけるぞ。どちらかが早すぎたり遅すぎたりしても終わりだからな』

 

 

『はい、わかっています』

 

 

バルトフェルドの言葉。

『どちらかが早すぎたり遅すぎたりしても終わり』

 

 

『レクイエム、ジェネシスを同時に破壊しなきゃ…。兵器が残った方は必ずもう一方を撃つよ』

 

 

キラが言い放つ。

 

たとえば、先にレクイエムが破壊されたとしよう。ならば、残ったレクイエムを地球軍は迷いなく撃つだろう。

その逆もしかり。つまり、二つの兵器を同時に破壊しなければいけないということになる。

 

 

『辛いな…、それは…』

 

 

トールのつぶやきが聞こえる。

本心からぽつりと出てきた言葉。

 

 

「けど、やらなきゃならない」

 

 

そのつぶやきに、セラははっきりと返す。

 

トールのそのつぶやきには全力で同意したい。

だが、それを達成しなければ…、待つのは終わりだけだ。

 

 

「終焉に屈するつもりもないし、運命にだって負けたくない。俺は」

 

 

セラの決意を込めた言葉。それは、オーブ軍のどれだけの兵たちに届いただろうか。

 

 

『そうだね…。負けたくないね』

 

 

セラの言葉に同意するシエルの声。

リベルタスのモニターに映し出されるシエルの顔。

 

セラとシエルは、微笑み合う。

 

 

『無理はしないでよ。今度は近くで見張ってるから』

 

 

「その言葉、そのままシエルに返すよ」

 

 

アークエンジェルを旗艦とした部隊と、クサナギを旗艦とした部隊に分かれる。

エターナルはクサナギの部隊についていき、エターナルにはフリーダムとジャスティスが収容されている。

 

アークエンジェルには、リベルタスにヴァルキリー、アカツキが収容されている。

 

つまり、セラとシエルは共に戦うということ。

 

セラとシエルの軽口のたたき合いを聞いていたキラ。

リベルタス、ヴァルキリーのモニターに顔を映して口を開く。

 

 

『無理はしないでよ、セラ』

 

 

「兄さんが言えたことじゃないでしょ。兄さんこそ無理しないでよ」

 

 

セラの返答に、微笑んだキラはシエルにこう言った。

 

 

『シエル、セラのお守をよろしくね?』

 

 

『うん』

 

 

「うんじゃないぞシエル!兄さんも、お守って何だお守っt…切れたし…」

 

 

キラの口から出たお守という言葉に反応するセラ。

反論しようとしたのだが、言い切る前にキラが通信を切ってしまう。

 

 

『そうそう。俺の息子はすぐに無理するからなぁ。シエル、頼むぞ?』

 

 

『了解』

 

 

「だからなんだよ!ていうか息子って、そのネタ久しぶr…また切れたし…」

 

 

今度はトールが通信をつないできた。

トールの言葉にシエルは敬礼付きで答える。

 

ちなみにセラは反論しようとしたのだがその前にトールに通信を切られてしまった。

 

何かどこか虚しく感じるセラだった。

 

その会話を最後に、アークエンジェルとクサナギは離れていく。

そして、セラたちの発進のタイミングも訪れる。

 

 

『セラ、シエル、ロアノークさん?そろそろ準備してください』

 

 

ミリアリアの声が響くと、眼前のカタパルトが開き始める。

 

既に戦闘は始まっている。いつも通り、とは言いたくないが遅れての参戦だ。

ヤキン・ドゥーエ以上の過酷な戦いになるだろう。

だからといって負けるわけにはいかない。

 

灯っていたランプの色が、赤から青に変わる。

瞬間、セラは操縦桿を倒した。

 

 

「セラ・ヤマト!リベルタス、出る!」

 

 

リベルタスに続いて、ヴァルキリー、アカツキの順番で出撃する。

 

 

「シエル・ルティウス!ヴァルキリー、行きます!」

 

 

「ネオ・ロアノーク!アカツキ、出るぞ!」

 

 

三機は、リベルタスを先頭にまっすぐにレクイエムへと向かっていく。

 

だが、それはさせじと当然地球軍のモビルスーツが立ちはだかる。

 

 

「邪魔をするな!」

 

 

セラとシエルは腰のサーベルを抜き放つ。

ネオはアカツキに搭載されているドラグーンを切り離す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に、ユニウスセブン落下から始まったことにより名づけられたユニウス戦役の中で最大にて最後の戦いは、こうして始まりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE61 混ざる戦場

もうすぐ大学が始まる
執筆時間、大丈夫かなぁ…


「くそっ!数だけは多い!」

 

 

襲ってくる敵の数は、前回のそれよりも多いとすら感じるほど。

 

シンはビームブーメランを二本取り出し同時に投げつける。

放られたブーメランは大きく軌跡を描きながら、その刃でウィンダムやダガーLなどの地球軍モビルスーツを切り裂いていく。

 

シンはその手に戻ってきたブーメランを収め、接近してきたモビルスーツをサーベルの要領でブーメランを振るい敵を斬りおとしていく。

 

 

『シン、後ろ!』

 

 

「っ!」

 

 

その時、ルナマリアの警告がシンの耳に届く。

シンはすぐに振り返り、ブーメランでこちらに斬りかかってきたウィンダムを斬りおとす。

 

さらにそのウィンダムの後方からライフルで狙っているダガーLをライフルで狙撃し撃ち落とした。

 

 

『集中しろよシン!この数じゃ、ほんの少しでも気を抜けばお陀仏だぞ!』

 

 

「あぁ!」

 

 

また数を増やしてきた地球軍に業を煮やしてしまったシンだったが、ルナマリアの警告で初めて気づいた背後からの奇襲。

そしてハイネの忠告のおかげでシンは冷静さを取り戻す。

 

シンは肩のビーム砲を跳ね上げ、砲口から火を噴かす。

 

シンたちに襲い掛かろうとしていたモビルスーツ群を、砲撃が薙ぎ払っていく。

 

 

「このっ!」

 

 

さらにシンはそのままレクイエムへの進路上に集っていたモビルスーツ、モビルアーマー群に向けて砲撃を放つ。

モビルスーツは砲撃に薙ぎ払われるが、モビルアーマーはリフレクターを張り、砲撃を防ぐ。

 

その残ったモビルアーマー群に向かってカンヘルとインパルスが斬りかかっていく。

 

カンヘルは二本のサーベルを連結させハルバート状にさせ、太刀筋が縦横無尽に光り、集うモビルアーマーを切り裂き続ける。

まさに、無双ともいうべき光景がそこにはある。

 

インパルスも負けじと、襲い掛かるビームをシールドで防ぎながらサーベルで死角からモビルアーマーを斬りおとしていく。

 

シンも、スラスターを開いて翼を広げる。

ライフルからアロンダイトに持ち替え、ミラージュコロイドによる幻影を残しながら神速のごとくモビルアーマーへと躍りかかる。

 

 

「はぁああああああああああっ!」

 

 

アロンダイトの刃にかかり、切り裂かれるモビルアーマー。

 

 

『このっ!この宙の化け物がぁっ!』

 

 

『よくも仲間をっ!』

 

 

デスティニーに襲い掛かるモビルスーツ、モビルアーマーの数が増していく。

だが、シンの勢いは止まらない。

 

大剣を振るい、懐に潜らせることを許さない。

遠距離から狙ってくる相手には、スラスター全開で接近し切り伏せる。

 

 

『もらった!』

 

 

それでもあまりの数に、懐に入り込まれてしまう。

 

 

「無駄だっ!」

 

 

デスティニーの掌の砲口から光が迸る。

懐に潜り込まれてしまえば、パルマ・フィオキーナで貫く。

 

デスティニー、カンヘル、インパルスの三機は敵機を物凄い勢いで落としていきながら少しずつだがレクイエムに接近していく。

 

だがその時、三機の勢いを止まる。三機の進路上を、巨大な砲撃三本が横切っていく。

三機は何とか機体を停止させ、その砲撃に飲み込まれることを回避したが、いきなりの出来事に驚愕する。

 

 

『見つけたぜ、お前らぁっ!』

 

 

「なっ…、こいつら!」

 

 

こちらに迫ってくるのは、赤、青、黄でそれぞれ染められた三機の機体。

それは、前回の戦闘でシンたちを苦しめた地球軍の最新鋭機。

 

 

『レイダーにフォビドゥン、カラミティ!』

 

 

『くそっ!邪魔をしに来たか!』

 

 

黄の機体はゲルプレイダー、赤の機体はロートフォビドゥン、青の機体はブラウカラミティ。

前大戦にて猛威を振るったレイダー、フォビドゥン、カラミティが改良され、強化された三機はZGMFシリーズ第三世代にも劣らない性能を持っている。

 

カラミティがこちらに接近しながらシュラークとスキュラを連発する。

シンたちは放たれる複数の砲撃を避けるべく機体をずらす。

 

 

「このっ!」

 

 

避けられてもなお砲撃を連発するカラミティを止めるべくシンは、カラミティに向けてライフルを撃つ。

カラミティは砲撃を撃つのを止め、撃たれたビームを回避する。

 

 

『あんただったねぇ!私たちに恥をかかせたのは!』

 

 

カラミティを駆るエリーは、心の中の怒りを吐きながらなおもデスティニーへと向かっていく。

 

シンは放たれる砲撃をかわしながら、要所要所でライフルで反撃を入れる。

ライフルから放たれるビームによって動きを止める瞬間を狙って、アロンダイトで斬りかかろうとスラスターを吹かせようとする。

 

だがその時、背後から斬りかかる存在の殺気を感じ、シンは機体を振り返らせアロンダイトを振るう。

 

シンが振るったアロンダイトと、背後から斬りかかってきたフォビドゥンのニーズヘグがぶつかり合う。

 

 

『お前…、俺、倒す』

 

 

静かな怒りが込められたその声を出した主は、フォビドゥンを駆るファル。

ファルはニーズヘグに力を込めながら、胸部にある砲口、フレスベルグを放とうとする。

 

シンはそれに気づき、すぐに機体をその場から離す。

 

 

『『かかった』』

 

 

しかし、二人はその瞬間を狙っていた。

 

フレスベルグは一度だけパイロットの意志通りに曲げることができる。

当然、ファルの意を受けて放たれたプラズマ砲はデスティニーを追いかけるように曲がる。

 

そしてこれまた当然、シンは曲がったプラズマ砲をよけるのだが、そこを狙っているのはカラミティ。

スキュラをデスティニー無掛けて放つ。

 

 

「あっ!?」

 

 

シンは目を見開く。

 

これは、まずい。

 

フォビドゥンのフレスベルグを避けきった所で、一旦相手の攻撃は止むだろうと思い込んでしまった故、シンの動きが一瞬硬直してしまう。

それが、二人の狙いだと気がつかずに。

 

 

『ははっ!貫かれて死んじまいな!』

 

 

エリーは、次の瞬間に訪れる、デスティニーがスキュラに貫かれ落ちていく光景を待ちわびる。

 

だが、その現実が訪れることはなかった。

 

 

『シン!』

 

 

スキュラが直進していく進路上に躍り出る影。

 

カンヘル、ハイネが腕のビームシールドを展開してデスティニーを庇うようにその前に立ちはだかる。

機体がスキュラの力に圧されかかるが、負けじとハイネは力を込めスキュラを弾き飛ばす。

 

 

『は!?おいバール!あんた何やってんのさ!』

 

 

当初の予定は、バールがカンヘルとインパルスを足止めし、その間に自分たち二人がデスティニーを落とす算段だった。

だが、バールが足止めしているはずの機体が割り込み、その算段が崩れてしまった。

 

あと少しだったというのに。

そんな思いが怒りに変わり、エリーはその怒りをバールにぶつける。

 

 

『うるせぇ!てめぇらがとっとと落とせねぇからこんなことになってんだろうが!』

 

 

『あんた…!』

 

 

決めた。この戦いが終わったら、こいつを殺す。

今この瞬間、エリーはそう決めた。

 

仲間だとは思ってない。ただ利用するための関係。

この三人は連携こそとれはするものの、本質はその程度のものだった。

 

だからこそ、こうして互いに平気で罵言を浴びせ合う。

 

 

『ちっ…、仕切り直しだ!ファル、こいつばかりに気を取られている場合じゃなくなったよ!』

 

 

『俺…、落としたかった』

 

 

エリーは機体を立て直し、今度はインパルスへと向かっていった。

 

他の二人も気づいているだろう。そうでなきゃ、ただの役立たずだ。

 

相手の三機の内、足手まといはこいつだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発進したセラたちは、シンたちと同じようにまっすぐレクイエムへと向かっていた。

この戦いでの最優先事項はレクイエム破壊なのだから、セラたちの行動は当然のものだ。

 

 

『これは…』

 

 

シエルが思わずといったように声を漏らす。

 

その原因は、戦場に出ている地球軍の数だ。

前回よりも、多い。

 

それはザフトも同じことなのだが、地球軍の数は別格だ。

正直、ザフトが地球軍の数に飲まれて行きそうにも見えてしまう。

 

だが、ザフトは負けじと盛り返している。

やはりナチュラルとコーディネーターの能力の差というものがこうして形として出てしまっているのだ。

 

 

「…ネオさん」

 

 

『わかってるよ。でも…、自分でも驚くほどに、何にも感じてないんだ』

 

 

セラは、ネオに声をかける。

目の前で、地球軍機が落とされていく光景を目の当たりにしているネオは、どんな気持ちでいるのだろう。

そう思って声をかけたのだが、返ってきた答えは思いもよらぬもの。

 

しかし、一番驚いているのはネオ本人だった。

どうしてここまで何も感じずにいられるのだろう。

 

いや、目の前で人が死んでいるのを見て何にも感じていないわけではないが…。

 

友軍機が落とされているという感じがしない。

 

戸惑うネオだが、これなら心置きなく戦うことができそうだ。

 

 

『大丈夫だ。いける』

 

 

「そうですか。なら、飛ばしますよ!」

 

 

セラの駆るリベルタスを先頭に、三機はひしめくモビルスーツ群へと突っ込んでいった。

 

まず襲ってきたのは地球軍機だ。

セラたちは地球軍基地を襲っているのだから当然のこと。

 

それをいち早く察知したセラは、スラスターのドラグーンを切り離す。

 

ヴァルキリーとアカツキに当たらないようにドラグーンを配置し、ビームを照射させる。

降りしきる雨のごとく。ビームはコックピット、エンジンに命中することなくメインカメラ、武装だけを削ぎ落していく。

 

さらにセラはドラグーンを飛び回らせながらも本体を操り、サーベルでウィンダムを斬りおとしていく。

 

 

『おうおう、すごいねぇ…。さすが解放者様だ!』

 

 

「その呼び方、止めてください…」

 

 

セラの戦いぶりを見ていたネオが、本人は茶化しているだけのつもりなのだろう、言葉をかける。

だがセラはその呼ばれ方は好きではなく、本気で嫌がる。

 

ネオが、すまん、と謝った直後、アカツキを奔らせる。

ビームライフルを連射しながら、宇宙戦闘用装備であるシラヌイから七つのドラグーンを切り離す。

 

ウィンダムとダガーLが、アカツキを、リベルタスとヴァルキリーを狙ってビームを浴びせかける。

 

だが、そのビームはアカツキには効かない。ネオは構わず機体をそのまま突っ込ませる。

同時にドラグーンをリベルタスとヴァルキリーのまわりに配置させる。

 

 

「え…」

 

 

『何…?』

 

 

自分たちを囲むドラグーンを見てセラとシエルは戸惑う。

その次の瞬間、ドラグーンからビームとは違う光が発せられる。

その光は、立体的に広がり自分たちを囲む。それはまるで、自分たちを抱くゆりかご。

 

アカツキのドラグーンは特別性だ。攻撃だけではなく、こうしてドラグーンの発するエネルギーで立体的なフィールドを作り出すことが可能。

張られたリフレクターは、戦艦の主砲をも防ぐほどの耐久性を持つ。

 

当然、モビルスーツのライフル程度では破られる代物ではない。

 

 

「これは…」

 

 

『すごい…、全部防いだ…』

 

 

『危ない時の防御は任せな。これでも空間認識には自信があってね!』

 

 

頼もしいネオの言葉に、セラとシエルは自然と笑顔になる。

 

周りを張っていたリフレクターが解かれる。

瞬間、リベルタスとヴァルキリーは同時に、そして逆の方向へと飛び出していった。

 

二機はサーベルでモビルアーマーを斬りおとし、遠距離武器でモビルスーツを撃ち抜いていく。

もちろん、爆散させることはなく、だ。

 

 

『くそっ!何なんだよこいつらは!』

 

 

『化け物…、化け物ぉ!』

 

 

この三機の手にかかって死んでいった者は今のところはいない。

だがだからこそ、地球軍に恐怖を与えていた。

 

もしかしたら、自分があそこに行ったら自分は死んでしまうかもしれない。

自分は例外になってしまうかもしれない。

 

あの三機には勝てるわけがない。

そんな気持ちが出てきた時点で、この三機に勝てる道理はなくなってしまうのだ。

 

 

『セラ、相手の勢いが弱くなってるよ!』

 

 

「あぁ!はやくレクイエムに急ぐぞ!」

 

 

襲ってこないのならば用はない。少しでも早くレクイエムの元へと行かなければ。

 

セラたちは先を急ぐ。

状況的には、メサイアの方へ向かっているキラたちの方がジェネシスを破壊するのが早くなるはずなのだから。

 

こちらが急がなければ、間に合わなくなってしまう。

 

 

「っ!下がれ!」

 

 

『『っ!』』

 

 

その時、セラはこちらに向かってくる巨大な何かを感じ取る。

 

セラの声に従って機体を後ろに下がらせるシエルとネオ。

セラたちがいた所を横切るのは巨大な砲撃。

 

セラはその方向へとカメラを向けると、そこに映し出されていたのは巨大な黒い影。

 

 

「デストロイ…!」

 

 

『くそっ!あいつらまだこんなもの作ってたのかよ!』

 

 

少なくない因縁があるネオが、デストロイの姿を見ていきり立つ。

 

初めの月での戦闘でデストロイはもう底を尽きたと思っていたセラたち。

だが地球軍はまだこの恐るべき兵器を残していたのだ。

 

 

『あれを倒さなきゃ、先に進めない!』

 

 

「あぁ、蹴散らす!」

 

 

セラたちは迷うことなくデストロイの方へと向かう。

これを倒さなければレクイエムの所へはいけない。なら、迷っている時間すらもったいない。

 

セラはスラスターを開き、光の翼を広げる。

サーベルを抜き、凄まじいスピードでデストロイへと斬りかかる。

 

デストロイも、全砲門でリベルタスを止めようとビームを浴びせてくるが、当たらない。

 

 

「無駄だ!」

 

 

全てをかわし、デストロイの懐へと潜り込んだセラ。

サーベルを振るい、右腕を斬りおとすと間を置かずに今度は左腕を斬りおとす。

 

そこでセラは機体を下げるとその背後から今度はヴァルキリー、シエルが躍り出る。

 

この時、デストロイのパイロットは驚愕したことだろう。

リベルタスの攻撃が止み、何とか反撃しようとしたその時、別の機体が襲い掛かってくるのだから。

 

シエルは胸部の砲口に火を噴かせ、カリドゥスを放つ。

カリドゥスは正確にデストロイのメインカメラを貫き爆散させる。

 

デストロイは巨大な火力を持ってはいるが、その巨体さ故に周りの状況を正確に把握しなければならない。

当然、わずかにでも視界が崩れてしまえば致命的な隙を生んでしまう。

 

メインカメラを落とされたデストロイはもう戦えない。

 

セラたちはデストロイに目をくれず、再びレクイエムへと向かっていった。

 

 

『…俺、出番なかった』

 

 

自分にはデストロイに因縁あったのに…。戦わせてくれなかった…。

 

ネオはどこか寂しさを覚えながらセラとシエルについていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第六部隊離脱!」

 

 

「第八部隊、ザフトモビルスーツ隊を突破!」

 

 

「隊を先に進ませるな!守ることだけを考えろと伝えるんだ!」

 

 

オペレーターの被害を伝える報告、戦果を伝える報告。そして司令官の指示を出す声が飛び交う。

そんな司令室の中に、未だウォーレンはいた。

 

ウォーレン自身、今ここで出撃すべきか否かを悩んでいた。

戦いが始まってから、こちら側が押されているのはすぐにわかった。

 

こちらが相手にするのはザフト軍だけではないのだ。

オーブ陣営とも戦わなければならない。

 

数ではこちらが上とはいえ、その数だけではどうしようもない差がこちらと向こう側にはある。

 

今はまだ耐えるだけでいい。耐えるしかない。

攻めに切り替えるのは、まだ早いのだ。

 

 

「…」

 

 

だがこのままではそのタイミングが来る前に決着がついてしまう可能性まで出て来てしまっている。

先程、とりあえず一機だけ残っていたデストロイを出したのだが何と運の悪いこと。

リベルタスに見つかり、すぐさま落とされてしまった。

 

これは計算違いだった。いや、自分は焦っていたのかもしれない。

焦りで、意味のない行動をしてしまったのかもしれない。

 

デストロイは元々、大気圏内戦闘を想定した機体である。

無重力でも戦えないこともないが、あの巨体を無重力の中でバランスを保たせるのはそこそこ難しい。

 

こんなことを失念していた自分に腹が立つ。

 

 

「くそっ」

 

 

このままではまずい。

何とか、何とかしなければ。

 

もう、迷っている時間はない。自分が出て、切り開いていくしかない。

 

レイダー、フォビドゥン、カラミティもミネルバ搭載のあの三機との交戦で身動きが取れない。

ならば、自分しかいない。

 

そう思い、ウォーレンは立ち上がって司令官に出撃する旨を伝えようとしたその時だった。

 

 

「!ザフト軍が、オーブ軍に攻撃を始めました!」

 

 

「何だと!?」

 

 

オペレーターのその報告に初めに驚いたのは司令官でも他の兵士たちでもない。

ウォーレンだった。

 

どういうことだ。デュランダルのことだ、オーブと共闘に近い状態を保ちながらレクイエムを破壊し、その後でオーブを潰しにかかると予想していたのだが…。

 

 

「メサイアの映像、出ます!」

 

 

「っ!?これは…!?」

 

 

画面に映し出されたメサイア付近の光景を見て、ウォーレンは大きく目を見開く。

そして、ウォーレンの唇が少しずつ三日月形に歪んでいき…、ついには大きく開かれた。

 

 

「くはっ…、はっははははっはは!」

 

 

思わず大笑いしてしまうウォーレン。

 

そうか。そういうことか!

いや、こうなるのも当然だ。オーブ陣営は両者を撃たせないで戦闘を終わらせたい。

ならば、こう出るのが当然なのだ。

 

モニターに映し出されているのは、メサイアを、いやジェネシスを目指して進むオーブ軍とそれを迎え撃つザフト軍。

つまり、オーブ陣営はここダイダロスを攻めると同時にメサイアを攻めているのだ。

 

なるほど、だからエターナルやクサナギ。フリーダムにジャスティスが見当たらなかったのか。

 

つまり、本当の意味で地球軍、ザフト、オーブの三つ巴の戦いが始まったということ。

だから今ここでもザフト軍がオーブへ攻撃を始まったのか。

 

ならばこちらにも希望が出てくる。

今、メサイアは攻めてきているオーブに注意が向けられている。

あれを使うなら、今だ。

 

 

「ウォーレン様…、これは…」

 

 

司令官に伝えようとしたその時、司令官がウォーレンに歩み寄り指示を仰いできた。

 

 

「ちょうどいい所に来た。あれの準備は出来ているな?」

 

 

「え?あ、はい」

 

 

ウォーレンは司令室の出口に体を向けて続ける。

 

 

「俺が出撃してから十分後に発進させろ。いいな?」

 

 

「はっ!」

 

 

ウォーレンの指示に応える司令官を一瞥してから、ウォーレンは司令室を出る。

 

そして急いでロッカールームへと向かう。

 

 

(くく…、デュランダル。お前はどうする?俺の策に…、どう対抗してくる?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レクイエムがあるダイダロス基地に向かったアークエンジェル。

そして、エターナルとクサナギはジェネシスがあるメサイアへと向かっていた。

 

レクイエム破壊のために、ザフト軍は多くの戦力を月に送っているはずだ。

その間に、自分たちが叩く。

 

 

『っ、お出ましだ!』

 

 

メサイアからモビルスーツが出撃してくるのを見たバルトフェルドが声を漏らす。

 

キラも、それを視界に捉え気を引き締める。

 

 

「行くよ、トール!」

 

 

「あぁ!」

 

 

キラの呼びかけに応えたトールと共にザフトのモビルスーツ群へと向かっていく。

 

キラはいきなり飛ばして見せる。

ドラグーンを切り離し、眼前のモビルスーツたちをマルチロック。

 

十五門の砲門を同時に開き、フルバースト。

いきなりの先制パンチ。ザフト軍の隊列が一気に乱れる。

 

 

「ははっ!さすがキラだ!」

 

 

トールは、キラの先制攻撃を見て笑いながらモビルスーツ群へと突っ込んでいった。

 

ライフルを構え、モビルスーツ群に向かって連射する。

放たれたビームは、モビルスーツのメインカメラ、武装を貫き落としていく。

 

接近してくるモビルスーツは、両足に搭載されているビームブレードを展開し蹴り斬っていく。

さらに、両翼のビームブレードを出力。ザク二機とのすれ違い様に、ビームブレードで斬り伏せる。

 

そして振り返るとライフルでザク二機のメインカメラを撃ち落とす。

 

フリーダム、ジャスティスに続いてきたムラサメも上手くグフやザクを囲い込み、落としていく。

ここまではこちら側が戦闘を有利に進めている。

このまま順調にジェネシスまでたどり着ければいいのだが。

 

 

「…ん?」

 

 

ビームサーベルでザクのメインカメラを斬りおとした時、トールは気づいた。

 

メサイアから出撃してくるモビルスーツの勢いが、止まらない。

 

 

『数が…、多くない…?』

 

 

エターナルに乗っているアイシャも異変に気付いたようだ。

 

月にかなりの数の戦力が送られていることは間違いない。

実際、前回にザフトの勢いと比べればかなり劣っている。

 

それでも、こちら側よりも数は多い。

そして、それだけではなかった。

 

 

「っ!トール、あれは!?」

 

 

「くそっ!何で月に行ってねぇんだよ!」

 

 

最初に気づいたのはキラ。キラの声を聴き、すぐにトールもそれに気づいた。

 

メサイアから発進してきた四の機影。

 

ブレイヴァー、レジェンド、ディーヴァ。

ザフトの最新鋭機、三機がオーブ軍に襲い掛かってくるのだ。

 

 

『くそっ!どうしてメサイアに残ってるんだ!?この貴重な戦力が!』

 

 

『デュランダル議長は、こちらが攻めてくるのを読んでいたということでしょう…。やられました』

 

 

レクイエムを破壊するために、全てを賭けていくと思っていた。

だがデュランダルはそうはしなかった。

 

ある程度の戦力を残し、こちらの攻撃に備えていたのだ。

完全に、してやられてしまった。

 

 

『ダコスタ、アークエンジェルに連絡しろ!どうにか戦力をこちらに送り込めないか聞け!』

 

 

『は、はい!』

 

 

こうなったなら仕方ない。とはいえこちらも退くわけにはいかない。

何とか月に行っているオーブ軍の戦力をこちらにもらえないかを聞いてみたい。

 

 

「…期待はしない方が良いな」

 

 

「うん、向こうだっていっぱいいっぱいだろうし」

 

 

トールとキラは、向こうからの戦力は期待していなかった。

こちらはこちらで何とかするしかない。

 

 

「最新鋭機が四機か…」

 

 

「あの赤いフリーダムには従者が三機いるぜ?しかも結構やるみたいだし」

 

 

「…はは。きついね」

 

 

こんなことになるとは思わなかった。

まさかザフトが戦力を温存してくるとは思わなかった。

 

しかし、諦めるわけにはいかない。

 

 

「行くよトール」

 

 

「あぁ」

 

 

向かってくる三機の機体。

キラとトールは、迷わず向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(やはり、こちらに来たか。ラクス・クライン)

 

 

デュランダルは、モニターに映し出されるエターナルを見つめる。

間違いなく彼女はあの艦に乗っているだろう。フリーダムも、こちらに来ているのだから。

 

そしてジャスティス。赤の騎士はこちらの手にあるのだが、彼らにはまだナイトの駒があったとは。

それは計算違いだった。

 

だが大局に影響はない。この戦力差で奴らはどうあがいてくる?

 

 

「月の方はどうなっている?」

 

 

「地球軍の抵抗もかなりのようで…。中々侵攻できずにいるようです」

 

 

月の状況を頭に入れるデュランダル。

まだ大きな動きはないようだ。

 

 

「月に向かっているザフト艦隊に、メサイアで起きている状況を伝えろ。オーブは敵だということをな」

 

 

「はっ!」

 

 

ほとんどの…、いや、デュランダル以外の者たちはレクイエム…あの忌々しい兵器を破壊しようと思っているだろう。

だが、デュランダルはそうは思っていない。

 

飲み込もうとしているのだ。あの巨大兵器を。

飲み込み、自分の力にする。デュランダルはそう考えているのだ。

 

だからこそ、オーブに攻撃を仕掛ける。

ザフトの戦力にオーブが、たとえ半分といえども加われば、レクイエムを陥とすことは可能だ。

 

しかし、それではだめなのだ。

それでは、満足することは出来ない。

 

その力を我が物にする。

そうすることで、本当の勝利が見えてくるのだ。

 

 

(そのためにも、ラクス・クライン、キラ・ヤマト…。君たちにはここで、消えてもらおう)

 

 

この時のデュランダルは、考えもしなかっただろう。

その考えによって、利益を得るものがいるということなど。

 

その考えを利用され、まさか自分が窮地に陥ってしまうことなど、この時のデュランダルには考えもつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ…。俺の思い通りに踊ってくれよ?ウルトル」

 

 

パイロットスーツに着替え終えたウォーレンは、あるウルトルと呼ばれるモビルスーツに乗り込んでいた。

 

GAT-X482ウルトル

地球軍が最後に新開発したモビルスーツ。

カラミティの遠距離砲を持ち、レイダーの馬力を持ち、フォビドゥンのゲシュマイディッヒ・パンツァーを持つ。

 

これだけ聞けばかなりの性能を持つ機体に思えるが、その分エネルギーが削られる量が多くなるという問題もある。

まぁそれは、ニュートロンジャマーキャンセラーを搭載することによって克服したのだが。

 

 

(ユニウス条約に反してしまっているが…、大したことはないだろう。どうせ、デュランダルも守っちゃいないだろうしな)

 

 

あのジェネシスにだってNジャマーキャンセラーは使われているに決まっている。

条約など、戦争では役に立たなくなることくらいウォーレンにはわかっていた。

 

 

「さて、行くか」

 

 

カタパルトが開き、ランプも青色に変わる。

 

のろのろしていると、時間に間に合わなくなってしまう。

あれが発進するまで、残り五分といったところか。それまでに少しでも道を切り開いておかなければ。

 

 

「ウォーレン・アズラエル!ウルトル、発進する!」

 

 

ウォーレンに従い、機体が漆黒の闇の中に飛び出していく。

 

TP装甲が展開され、ウルトルの本来の姿が映される。

 

機体全体は灰色に染められており、両肩にはカラミティと同じシュラークが飛び出す。

さらに両腕にゲシュマイディッヒ・パンツァーが搭載されている。

 

かなり特徴的な外観のため、まわりからはかなり目立ってしまう。

故に、狙われてしまうのは当然のこと。

 

 

『何だ、あの機体は?』

 

 

『地球軍の新型か!?』

 

 

ザフト軍兵士が、その存在に気づき始め、銃をウルトルに向け始める。

 

それを見たウォーレンはにやりと唇を歪めながら、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを展開する。

 

ウルトルに放たれたビームは、ゲシュマイディッヒ・パンツァーの効果により明後日の方向に婉曲していく。

 

 

『何だ!?ビームが曲がるだと!』

 

 

「はっ」

 

 

ウォーレンは驚愕し、動きを止めてしまったザフト機を鼻で笑いながらシュラークを向け、放つ。

砲撃に貫かれ、爆散していくグフにザク。

 

 

『このっ、何なんだよこいつ!』

 

 

『はっ、このナチュラルが!遠距離が良いんなら、近づいて斬ればいいんだろ!?』

 

 

『ば、バカ!迂闊に前に出るな!』

 

 

一機のグフがビームソードを取り出し斬りかかってくる。

 

ウォーレンは、腰のビームサーベルを抜き放つ。

 

一瞬。

グフのビームソードは、振り抜かれたウルトルのビームサーベルによって切り裂かれてしまう。

 

 

『あ…、は…?』

 

 

呆然とするグフのパイロット。

 

彼は、その後シュラークによって貫かれていることにすら気づかないでいた。

 

 

『ま、マジかよ…』

 

 

『こ、この劣等種がぁっ!』

 

 

恐怖に、怒りに包まれるザフト兵士たち。

それは、ウォーレンにとって都合が良かった。

 

 

「そうそう。どんどんこっちに来いよ…」

 

 

襲ってくるグフを斬りおとし、遠距離から狙ってくるザクをスキュラ、シュラークで貫いていく。

 

隙が、ない。

 

このウルトルの登場。そしてその後に起こるあることにより、戦況は大きく動くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




GAT-X482ウルトル
パイロット ウォーレン・アズラエル
武装
・ビームサーベル×2
・ビームシールド×2
・ビームライフル
・ゲシュマイディッヒ・パンツァー
・二連装高エネルギー長射程ビーム砲シュラーク
・腹列位相エネルギー砲スキュラ
・近接防御機関砲

地球軍が開発した最後のGATシリーズのモビルスーツ。
OSはウォーレン専用に初めから設定されており、初めからウォーレンが乗るための機体として開発されていた。
完成したのは、二回目の月での戦闘直前。
その時はまだ調整によってウォーレンが出撃することができなかったが、満を持して出撃が可能となった。


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PHASE62 少女の叫び

少し文字数が少ないです


皆は覚えているだろうか?このユニウス戦役序盤に行われた地球軍による、プラントに対しての核攻撃のことを。

ザフト側は、スタンピーダーという兵器によって地球軍の核攻撃を防ぎ切ることに成功した。

 

その後、地球軍は核攻撃を仕掛けることはなかった。

だからだろう。ザフト全体は、地球軍の核攻撃という事項は頭の中から消し去っていた。

 

 

「これは…」

 

 

メサイアのオペレーターが、ある地点の熱量の異様さを目にする。

 

やけに、敵機を示す光点が密集しているのだ。

さらにその光点の集団を攻撃する味方機の数が恐ろしい勢いで減っていく。

 

 

「第十小隊!その場所から十時の地点に敵モビルアーマー集団と見られる反応が見られる。すぐにそちらに出向き、状況を説明してくれ!」

 

 

ただ、勘に従っての行動だった。

 

 

「どうした?」

 

 

後方から、デュランダル議長が様子を問いかける声が聞こえてくる。

オペレーターは振り返って何か答えようとするのだが、何を言えばいいのかわからずどもってしまう。

 

 

「い、いえ…。その…」

 

 

勘が働いたから、一小隊を動かしたと言えば、議長は何と返してくるだろう。

怒鳴ってくるだろうか。そうか、と冷静に返してくるだろうか。

 

高確率で前者だろう。ただのオペレーターが独断で、それも不確定要素のために小隊を動かすなど言語道断だ。

だが、確かに嫌な予感がしたのだ。何か、この後にとてつもない悲劇が起こるような…、そんな予感が。

 

 

「答えてくれたまえ。君が何を感じ、どんな理由で小隊を動かしたのかを」

 

 

デュランダルが真剣な目つきで見つめてくる。

そう言われては、答えないわけにはいかない。オペレーターは、口を開いて答えようとした。

 

 

『司令部!メサイアから距離二千の場所にモビルアーマー隊を発見!』

 

 

その時、先程オペレーターが動かした小隊員の一人からの報告の声が響いた。

オペレーターも、デュランダルもその声に耳を傾ける。

 

 

『すぐに対策を!モビルアーマーの数は約五十!その全てが核ミサイルを所有している模様!』

 

 

「なっ!?」

 

 

「核だと!?」

 

 

上がった報告に驚愕の感情を隠すことができない。

奴らは、プラントではなくこのメサイアに核を撃ちこもうとしているのだろうか。

 

しかしおかしい。たとえ核が危険だとはいえ、ザフト兵ならばメサイアにたどり着く前に核を所有しているモビルアーマーを撃墜させることができるはずだ。

何故、報告する兵はここまで焦りをにじませているのだろうか。

 

 

「何をしているのだ!すぐに奴らを討ち落せ!」

 

 

その考えに至った、デュランダルの傍らにいる秘書官が声を荒げて命じる。

だが返ってきた答えは予想外のものだった。

 

 

『すでに試みています!ですが、地球軍の新型機一機により…』

 

 

言い切る前に言葉は途切れ、代わりに流れてくるのはノイズの雑音。

 

ずっと報告に耳を傾けていたオペレーターが、手元の計器の画面を見て驚愕する。

 

 

「第十小隊…、全滅…」

 

 

「何だとぉ!?」

 

 

オペレーターがモビルアーマー隊の様子を見てくるように命じたのは約五分ほど前。

その五分の間に、一小隊が全滅したというのか。

 

 

「スタンピーダーを用意しろ!すぐにだ!」

 

 

珍しく、デュランダルが声を荒げる。

その事に驚いた秘書官が目を見開いて一瞬固まってしまうが、すぐに我を取り戻し、命令を復唱する。

 

 

「す、スタンピーダーを!早く!」

 

 

「は、はっ!メサイアにいる技術員すべてに告ぐ!今すぐにスタンピーダーを起動せよ!今すぐにだ!」

 

 

デュランダルは心の奥底で安心していた。

念のために修復していたスタンピーダーがこんな形で役に立つとは思っていなかった。

 

予定の中での最終決戦では、オーブとの一騎打ちを思い浮かべていたのだから。

想像以上の地球軍の踏ん張りが、ここまで計画から逸脱させてしまうとは。

 

この核攻撃でこちらを仕留めようという算段だろうが、残念だ。

やはり天はこちらに味方しているということだ。

 

デュランダルの眼前にある大画面に映し出される、核ミサイルを搭載しているモビルアーマー隊。

モビルアーマーを仕留めようと多数のグフやザクを撃ち落としていく一機のモビルスーツ。

 

 

(まだ地球軍は新型を開発していたというのか…)

 

 

心の中でつぶやくデュランダル。

 

さらに、その新型機の奮闘に気づいた地球軍のモビルスーツやモビルアーマーが集結し、モビルアーマー隊の壁となる。

これではこちらにたどり着く前に迎撃というのは不可能だろう。

 

だがこちらにはスタンピーダーがある。防御は万全だ。

 

 

(さぁ、これで詰みだよ)

 

 

勝ち誇るデュランダル。大画面の中で、ついにモビルアーマーが核ミサイルを次々に発射し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メサイア付近での攻防は、オーブ側が不利な状況で進んでいた。

 

それを悟りながら、キラとトールはザフトの新型機三機に足を止められ他の兵たちの援護に行けない状況にあった。

 

 

「キラ!」

 

 

「くっ!?」

 

 

トールの呼びかけで、キラは背後からレジェンドが斬りかかってきていることを悟る。

キラは素早く振り返り、その手に持つサーベルで迎え撃つ。

 

一度斬り結び、レジェンドが後退していくと思うと、横合いから赤い光がキラの視界に現れる。

あれが命中したらまずい、とキラは咄嗟に機体を翻す。

 

キラの眼前を横切っていくのは巨大な砲撃。

見ると、ブレイヴァーがこちらに向かってきている。

どうやら先程の砲撃はブレイヴァーが放ったオメガのようだ。

 

少し考えればわかることなのだが、それを理解する余裕すら今のキラにはなかった。

すぐにサーベルを振るい、ハルバートで斬りかかってくるブレイヴァーを迎え撃つ。

 

 

「キラっ!くそ、こいつらキラばかり狙いやがって!」

 

 

トールの言う通り、ディーヴァ以外の二機は執拗にフリーダムばかりを狙っている。

それがわかっているのに。援護に行きたいのに。

 

 

「この…!邪魔するなっ!」

 

 

トールは右足のビームブレードを展開し、振るう。

だがディーヴァは後退して斬撃をかわし、ライフルをこちらに向けて撃ってくる。

 

トールは機体を横にずらしてビームをかわす。

 

キラの援護に行きたいのだが、ディーヴァが立ちはだかりそれを実行できずにいる。

 

 

「二人の邪魔はさせませんよ」

 

 

一方、ディーヴァを駆るミーアも、トールの思惑はわかっていた。

フリーダムの援護には行かせない。

 

 

「あなたたち二人が、この戦闘の肝になることはわかっています」

 

 

この二機さえ落とせば、間違いなくこちら側に来ているオーブ陣営は総崩れになるだろうし、月に行っているオーブ陣営にも動揺は与えられる。

そして

 

 

「あなたたち二人が、あの艦を…、守っていることもわかっているわ!」

 

 

ミーアは、ジャスティスのさらに後方。モビルスーツに囲まれながらも奮闘しているエターナルを睨みつける。

あの艦には、彼女が…、あの歌姫、ラクス・クラインが乗っているはずだ。

 

彼女が消えれば…、本物は自分一人になる。

二人もいらない。救いの歌姫は二人もいらないのだ。

 

 

「私が、本当の歌姫になるのよ!」

 

 

「何を!」

 

 

トールは、その言葉で目の前の機体に乗っているのはザフトのラクス・クラインだと悟る。

確か、シエルの話ではミーア・キャンベルという名前が本名だっただろうか。

 

 

「そんなことしたって無駄だろうが!」

 

 

トールは怒鳴りながら、サーベルを連結させたハルバートで斬りかかっていく。

 

 

「人は、他の何人にだってなれない!」

 

 

トールの斬撃を、ディーヴァは対艦刀で迎え撃つ。

 

 

「たとえお前がラクスさんを殺したって、結局お前がミーア・キャンベルだっていうことは変わらないんだよ!」

 

 

「黙れ!」

 

 

トールの言葉を遮る。ミーアは一旦ジャスティスから距離を取ると、胸部の砲口からオメガを放つ。

ジャスティスはいとも容易くオメガをかわすが、その回避した直後の硬直時間を狙ってミーアは対艦刀から持ち替えたサーベルで斬りかかっていく。

 

 

「私はミーアじゃない!」

 

 

思いを剣に込めて、目の前の敵にぶつける。

 

ジャスティスは腕のビームシールドを展開してディーヴァの斬撃を防ぐと、すぐにハルバートを一文字に振るって反撃する。

だがミーアは機体を後方にずらしてジャスティスの斬撃を回避する。

 

 

「私はラクスなの!」

 

 

自分はミーア・キャンベルではない。ラクス・クラインなのだ。

 

 

「皆がそう認めてくれてるんだから!」

 

 

ミーアは対艦刀を手に再びジャスティスに斬りかかる。

ジャスティスも、手に持つハルバートで迎え撃ってくる。

 

 

「お前は、誰かが認めてくれなきゃ存在しちゃいけないのかよ!」

 

 

「っ!」

 

 

ミーアの叫びに、トールも叫び返す。

トールが振るうハルバートとディーヴァが振るう対艦刀がぶつかり合い、拮抗する。

 

 

「お前は、自分を自分として見てくれていなくても!それでいいのかよ!」

 

 

ミーアがしてもらいたいことは、自分がラクスとなること。

自分がラクスとして、他者に認めてもらいたいのだ。

 

だが、それは自分が自分でなくなるということと等しい。

 

 

「お前は、自分を捨てるっていうのかよ!」

 

 

自分を捨てることなどできやしない。

たとえ自分がそう思い込んでいたとしても、結局自分という存在はどこまでもついてくるのだ。

 

どこかで必ず、どんなに自分が醜くともそれを受け入れなければならない時が来るのだ。

その時を、どれだけ先延ばしにしようとも。

 

 

「捨てるわよ!それで私がラクスになれるなら!世界を正しい方向に導くことができるなら!」

 

 

ミーアはそう言い切った。自分を捨ててやると。

 

もし、セラがこの言葉を聞いていたらどれだけ怒り狂ったことだろう。

彼は、自分になることすらできずひたすら苦しんできた男のことを知っているのだから。

その男を殺してしまったことを、今でも悔いているのだから。

 

トールとて、心に怒りを抱いている。

だから、セラに代わって目の前の少女に叫ぶ。

 

 

「ふざけるな!お前が平気で捨てようとしている自分にすらなれずに苦しんでいる人だっていたのに…!」

 

 

セラだったらこう言うだろう。

 

 

「自分を持っているお前が、平気で大切な自分を捨ててるんじゃねぇ!」

 

 

トールはシャイニングエッジビームブーメランを抜き、ディーヴァに向けて投げつける。

放られたビームブーメランを、ディーヴァはかわす。さらに、ブーメランは旋回しながら戻ってくる。

 

戻ってきたブーメランもかわしたディーヴァに向けてトールは機体を突っ込ませる。

そして戻ってきたブーメランをキャッチし、ビームソードとしてビームを出力させながらディーヴァに斬りかかっていく。

 

 

「くっ!」

 

 

まさか、このブーメランにこんな使い方があったとは。

ミーアはビームシールドを展開してかろうじてビームソードによる斬撃を抑えるが、衝撃により体勢が大きく崩れてしまう。

 

機体を制御しながら、追撃を仕掛けてくるジャスティスを見つめる。

ジャスティスはそのままビームソードを手に突っ込んでくる。

 

ミーアは、ノーモーションで放てる唯一の攻撃、胸部の砲口からオメガを二発放つ。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

トールは、放たれた二発の砲撃をかわすが、その間にディーヴァが離脱しているのを見て舌打ちをする。

 

このオメガは、掠めるだけでもはっきり言って一大事だ。

だからしっかりとかわさなければならないのだが、時間を向こうに与えてしまったことが悔やまれる。

 

 

「どうして…」

 

 

「は?」

 

 

不意に、ミーアが小さくつぶやいた。

トールは思わず聞き返してしまう。

 

それが、ミーアの心を燃え上がらせた。

 

 

「どうしてあなたは!あたしの邪魔をするのよ!別にいいじゃない!皆のために頑張ろうとするのが、どうして悪いのよ!」

 

 

「お前…」

 

 

その時、トールは初めて悟った。

 

目の前の彼女は、ただラクスになりたいだけでこんなことをしているのではないのだと。

そして、言葉の裏に何かがあるのだと。

 

 

「ミーアじゃダメなの!ミーアじゃ何にも役に立たない!だからあたしはラクスになる!ラクスが良いの!」

 

 

自分へのコンプレックスが相当大きいのだろう。

その叫びにどれだけの気持ちが込められているのか、本人にしかわからない。

 

 

「あの人は何もしてこなかったじゃない!頑張ったのはあたしなの!このあたし!」

 

 

「っ…」

 

 

何も、言い返すことができない。

彼女の言う通り、ラクスは何もしてこなかった。できなかった。

 

デュランダルに命を狙われ、思うように行動ができずにいたのだ。

たとえどれだけ、世界中の人たちに言葉を聞かせたくても、それができずにいた。

 

 

「それが、どうしてこんなことになるのよぉ!!」

 

 

最早半狂乱と言っていいかもしれない。

ジャスティスに突っ込んでいく。

 

 

「くっ…!」

 

 

トールは突っ込んでくるディーヴァにライフルでビームを撃つ。

だがディーヴァはトールが撃ったビームを全てかわして対艦刀で斬りかかってくる。

 

ハルバートでディーヴァの斬撃を迎え撃つが、ディーヴァは怯まずにひたすらに対艦刀を振るってジャスティスを追い詰める。

 

 

「こんな無茶苦茶な動きで…!」

 

 

ディーヴァの斬撃は容易く避けることは出来る。

避けることは出来るのだが、反撃を入れる前に次の行動に入るため、避けることしかできなくなってしまう。

 

トールはまだジャスティスに搭乗しての戦闘経験が少なすぎるのだ。

これが、リベルタスに乗ったセラ、フリーダムに乗ったキラ、ヴァルキリーに乗ったシエルならばまだ対応ができるものの、経験が少ないトールでは対応するための動きをジャスティスから引き出すことができないのだ。

 

 

「トール!」

 

 

苦戦しているトールに気づいたキラが、トールの元へと機体を行かせようとする。

 

 

「行かせるか!」

 

 

フリーダムがジャスティスの元へ援護に行こうとしているのを見たレイが、ドラグーンでフリーダムの進行を妨害させる。

さらに直後、アレックスがハルバートでフリーダムに斬りかかる。

 

 

「くっ!」

 

 

キラはすぐに機体を後退させてブレイヴァーの斬撃をかわすが、ジャスティスから離されてしまう。

このままでは、フリーダムとジャスティスがこの二人の思うように分断されてしまう。

 

戦力が分散されてしまえば不利なのはこちらなのだ。

この三機を倒すためにはフリーダム、ジャスティスの連携が必須だというのにそれが思うようにできない。

 

 

「このままじゃ…!」

 

 

キラは、スラスターの翼端からドラグーンを切り離しブレイヴァーに向かわせる。

ドラグーンのビームをブレイヴァーがかわしている間にキラはライフルをレジェンドに向ける。

 

レジェンドのドラグーンから放たれるビームをかわしながら、レジェンドを狙ってビームを撃つが簡単にかわされてしまう。

 

二機の猛攻にさらされ、キラは避けるので手一杯となり、反撃しようにも簡単なものにならざるを得なくなる。

 

 

「やられる…!」

 

 

このまま戦い続けていれば、負けるのはこちらだ。

 

何とかきっかけをつかみたい。

そのためにも、今は耐えるしかないとキラが思ったその時だった。

 

 

「なっ!?…くっ」

 

 

レジェンドが、急に離脱を始めた。

 

 

「え…?」

 

 

目を見開き、レジェンドの動きを目で追うキラだがすぐにブレイヴァーが割って入ってくる。

 

 

「お前の相手は俺だ。よそ見している暇はない」

 

 

「くっ!」

 

 

何にしろ、厄介な相手が減ったことは間違いない。

残った一機に集中しようとしたキラの耳に、苦戦しているトールの耳に衝撃の言葉が届けられるのだった。

 

 

『キラ、トール!まずいぞ!地球軍の奴ら、メサイアに核を撃ちこもうとしている!』

 

 

「えっ!?」

 

 

あの悲劇が、繰り返されるというのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…このまま守り切ることができそうだな」

 

 

核攻撃隊、ピースメーカー隊は射程距離内まであともう少しのところまで来ていた。

襲い掛かってくるザクやグフを全砲門を開いて撃ち落としていきながら、ウォーレンはそろそろいいか、と考えていた。

 

 

「よし、発射しろ!発射後は、すぐに離脱するんだ!」

 

 

ウォーレンが命じた直後、大量のモビルアーマーからミサイルが発射される。

発射されたミサイルは、まっすぐにメサイア目掛けて突き進んでいく。

 

放たれたミサイルを見て、ザクやグフが、迎撃せんと銃をミサイルに向けて引き金を引こうとする。

 

 

「させるわけがないだろ」

 

 

だが、ウォーレンがそれをさせるはずがない。

シュラークを向け、二本の砲塔から砲撃を放つ。

 

ザクやグフがビームを放つその前に、自分の砲撃を命中させて彼らがミサイルを迎撃するのを防ぐ。

 

そう、こいつらに迎撃させてはダメなのだ。

このミサイルの迎撃は、奴にさせなければ意味がない。

 

 

「お前らはご退場願おうか」

 

 

ウォーレンは唇を歪ませながら、シュラークと共にスキュラの砲撃をザクやグフに撃ちこんでいく。

 

このまま、雑魚を落としながら奴がどう出るかを見ていようか。

そう考えていたその時、ウォーレンの耳に底冷えするような低く、それでいて可憐な声が響いた。

 

 

「退場するのは、あなたの方です」

 

 

「っ!?」

 

 

声が聞こえた直後、ウォーレンは周りを見渡す。

いつの間に包囲されていたのだろう。ドラグーンが火を噴こうと光を迸らせていた。

 

すぐに機体を横にずらし、かろうじてビームを回避することに成功する。

 

ウォーレンは回避した直後、ライフルをある方向に向ける。

その方向には、こちらを見据える存在があった。

 

 

「はっ、可愛いお嬢ちゃんが俺の邪魔をするっていうのか?」

 

 

「邪魔をするのではありません。もう一度言います。あなたをここから退場させてあげます」

 

 

ウォーレンは思わず笑みを浮かべてしまう。

なるほど。確かに邪魔をするどころではないな。

 

 

「俺という存在を消してやろうということか…」

 

 

「その通りです。よくわかりましたね、褒めてあげます」

 

 

少女の言い草に、くくっと笑いを零してしまう。

 

 

「面白い…。だが、俺を気にしている場合なのかな?」

 

 

「何が言いたいのです?」

 

 

「今発射したもの…。わからないわけではないだろ?」

 

 

彼女がオーブ陣営のものではないのはわかっているし、地球軍でこんな機体が作られてないなど知らない。

ならば彼女は当然ザフト軍ということになる。

 

そして、ザフトならば今発射されたものを放っておけるはずはない。

 

 

「なるほど、確かにあれは危険ですが…。私たちを舐めないでください」

 

 

彼女、クレアが言った直後、先程発進したナスカ級の砲塔から光が迸った。

 

迸った光が、発射されたミサイルを貫いていく。

発射されたミサイル全てが爆散し、赤い光が花火の様に広がっていく。

 

 

「無駄ですよ。あなたたちが何を仕掛けて来ても」

 

 

「…なるほど。スタンピーダーか」

 

 

挑発するようにウォーレンに声をかけたクレアだが、まるでクレアの声が聞こえていないように何かをつぶやいているのを怪訝な表情で聞き取る。

 

 

(…この男、まさか)

 

 

「まだあの兵器が使えるとは思わなかった。それとも修復していたか…、もう一機作っていたのか?だが…、もう、使えそうにはないな」

 

 

「あなた…、やはり!」

 

 

ウォーレンはわかっていたのだ。

核攻撃を、ザフトは必ず防ぎ切るだろうとわかっていたのだ。

わかっていた上で、核攻撃を仕掛けたというのか。

 

 

(違う…。何…、この男は何を考えているの?)

 

 

どうして無駄になるとわかっているのに核攻撃を仕掛けたのだ。

一体、この男は何をしようとしているのか。

 

 

「…あなたは必ず、ここで退場してもらいます。あなたは…、危険すぎる」

 

 

クレアは悟る。

目の前の敵は、放っておくのは危険すぎる、と。

今ここで倒しておかなければ、何をしでかすかわからない。

 

 

「はっ…。やってみろよ…」

 

 

互いが睨み合う。

しばらくそうしてじっとしていたが、不意に動き出す。

 

二機は同時に、飛び出した。

アナトは対艦刀を、ウルトルはサーベルを手に切り結ぶ。

 

 

「なるほど。少しはやるようだな…」

 

 

僅かな間だが、こうして戦ってみてわかる。

目の前の相手は、強い。

 

少し侮っていた分もあるウォーレンは、気を引き締め直す。

サーベルで再び斬りかかっていきながら、胸部の砲口からスキュラを放つ。

 

アナトは機体を横にずらして砲撃をかわす。そして突っ込んでくるウルトルにドラグーンを切り離して向かわせる。

 

クレアはドラグーンを照射させるが、ウルトルに当たらない。

ビームをかわしながらなおもこちらに向かってくるウルトルに対し、クレアは対艦刀を構えて迎え撃つ。

 

再び互いの剣がぶつかり合う。

 

二機の交錯はさらに激しく、加速していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だって!?メサイアに戦力が集まってる!?」

 

 

『少なくとも、手薄とは言えないほどの戦力が集結しているわ!』

 

 

マリューからの報告に驚愕するセラ。

予定とは違い、メサイアには多くの戦力が集められていたのだ。

 

その結果、今エターナルとクサナギは窮地に陥っているという。

キラとトールも、新型機に囲まれ苦戦を強いられているらしい。

 

 

『バルトフェルド隊長から、少しだけでいいから戦力を送ってくれないかと頼まれたのだけれど…』

 

 

はっきりいって難しい。

メサイアの方よりはいくらか楽な状況ではあるが、それでもいっぱいいっぱいなのはこちらも同じなのだ。

 

そんな状態で戦力を送れと言われてもどだい無理な話だ。

 

 

「くそっ!次から次へと!」

 

 

こうして話をしている間にも、地球軍機、ザフト機が襲い掛かってくる。

 

どれだけ機体を斬っても撃っても減る気配がまったくしない。

 

 

『え!?何ですって!』

 

 

「今度はどうしたのですか!?」

 

 

マリューの驚いた大声が聞こえる。

セラが問いかけると、マリューは衝撃の一言を口にした。

 

 

『地球軍が、核をメサイアに向けて放ったようよ!ザフトが全て撃ち落としたようだけれど…』

 

 

「なっ…」

 

 

核…だと…。

 

また、奴らは核を使ったというのか。

こんな大量兵器だけで飽き足らず、まだこんなものを残していたのか。

 

まずい。何故かわからないが、嫌な予感がする。

どうしても、メサイアの状況が知りたい。しかし、ここから抜け出すわけにもいかない。

だからといって、向こうの危機的状況を何とかしなければこちらにだって危険が及ぶ。

 

どうすればいい…?

 

 

『セラ、行って!』

 

 

「シエル?」

 

 

シエルの声が聞こえた直後、セラのまわりの敵が同時にどこかの部位を損傷する。

 

 

『ここは俺たち二人に任せな!なぁに、お前のお姫様は俺が守り抜いてやるさ!』

 

 

「む…、ネオさん」

 

 

シエルの言う通り、メサイアの方に行くか。だがシエルのことが気にかかり、どうしようか悩んでいたところにネオが声をかけてくる。

 

シエルとネオならば、そう簡単にやられたりはしないだろう。

このままシエルを置いていくのも気が引けるが、危機の中にいる家族や友を見捨てることだってできない。

 

 

「…頼む」

 

 

『うん、任せて!』

 

 

『あぁ!早く行け!』

 

 

セラは機体をメサイアの方へと向け、スラスターを吹かせる。

 

ちらりとヴァルキリーを見遣って、すぐに前を見据える。

自分の進行を止めようと集まる地球軍機にザフト機。

 

セラはスラスターからドラグーンを分離させて飛ばす。

ドラグーンを四方八方の場所まで飛ばし、そして同時にビームを照射させる。

 

武装とメインカメラを撃ち落とし、機体の動きを止めるとその脇を通り抜けていく。

 

 

(兄さん、ラクス姉さん、トール)

 

 

集団を通り抜けていったと思うと、再び別のモビルスーツ群が立ちはだかる。

 

 

「行かせない気か…?」

 

 

自分がどこに行こうとしているかはわかっていないだろうが、それでも自分を落とそうと立ちはだかってきているのはわかる。

セラはドラグーンを動かしながら、腰のサーベルを抜いて目の前の集団に向けて斬りかかっていく。

 

 

「そこを、どけ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE63 拮抗

カラミティ、フォビドゥンと戦闘を繰り広げていたシン。

執拗にこの二機はシンを狙っていたのだが、不意に狙いを変更しインパルスへと向かっていった。

 

 

「ルナ!」

 

 

シンはすぐに機体の向きを変え、インパルスに襲い掛かる二機を追いかけていく。

 

 

『シン!後ろだ!』

 

 

「っ!」

 

 

直後、ハイネの警告する声が耳に届く。

シンはすぐに機体を翻すと、巨大な鉄球が機体を掠めていった。

 

レイダーのミョルニルである。

一目散にカラミティとフォビドゥンを追いかけようとしたデスティニーを狙い、ミョルニルで殴りかかってきたのだ。

 

 

「行かせるかよ!」

 

 

「このっ!邪魔をするな!」

 

 

レイダーが、単距離プラズマ砲アフラマズダをデスティニーに向けて連発しながらこちらに向かってくる。

 

放たれる砲撃を全てかわしていきながら、シンは肩のエネルギー砲を跳ね上げレイダーに向けて放つ。

 

レイダーは、機体の形態をモビルアーマー型に変え、その場から離脱し砲撃をかわす。

と思うと、そのままカンヘルの方へと突っ込んでいく。

 

モビルアーマー型になったレイダーの手の部分は、まるで鉤爪の様に尖っている。

急に狙いを変えてきたレイダーに反応が遅くなったハイネは、かわすことができずシールドを割り込ませることしかできない。

 

レイダーはシールドに突っ込んでいき、両手の鉤爪を突き刺し、そのまま力任せにシールドを切り開く。

 

 

『なにっ!?』

 

 

「おらぁっ!」

 

 

レイダーはノータイムでレールガンを放つ。

 

VPS装甲に実体弾は通用しないが、衝撃は抑えきれない。

大きく体制を崩すカンヘル。形態を変え、追撃を仕掛けるレイダー。

 

 

「ハイネ!このっ!」

 

 

シンは再びエネルギー砲をレイダーに向けて放つ。

 

 

「ちっ!」

 

 

目の前を砲撃が横切り、動きを止めざるを得ないレイダー。

何度も何度もデスティニーにチャンスをふいにされ、いら立ちが募る。

 

 

「何度も何度も邪魔を…!」

 

 

『お前の相手は俺だぜ!シン!ルナマリアを頼む!』

 

 

 

デスティニーを狙って攻撃を仕掛けようとしたレイダーの眼前にカンヘルが割り込む。

そしてハイネはシンに指示を送る。

 

 

「ハイネ!」

 

 

『俺のことは気にするな!それよりも早くルナマリアを!』

 

 

迷いは一瞬、シンはライフルを手に、機体をインパルスがいる方へと向ける。

すでにカラミティとフォビドゥンはインパルスへと襲い掛かっており、インパルスも奮闘しているが劣勢なのは火を見るよりも明らかだ。

 

 

「わかった!ハイネも気をつけろよ!」

 

 

シンはライフルを連射しながら機体を飛ばす。

 

放たれたビームはカラミティとフォビドゥンへと向かっていくが、命中する前にフォビドゥンがかわし、そのままカラミティの前まで移動するとゲシュマイディッヒ・パンツァーを展開しビームを婉曲させる。

 

 

「へぇ…、また来たみたいね、白いの!」

 

 

「今度は、落とす」

 

 

「ルナ!そこから離れろ!」

 

 

カラミティとフォビドゥンの注意がインパルスからこちらに向けられた。

それに気づいたシンは、ルナマリアに距離を取るように言う。

 

ルナマリアもシンの言葉に従い、その場から離れる。

 

 

「そらっ!今度こそあんたに綺麗な花火を咲かせてあげるわ!」

 

 

インパルスに目もくれず、カラミティが二組のシュラークと二つのスキュラをデスティニーに向けて放つ。

さらにフォビドゥンもフレスベルグを放ち、デスティニーに一斉砲火を浴びせる。

 

シンはビームシールドを展開しながら機体を動かし、必死に砲撃から回避する。

 

 

『このぉっ!』

 

 

そこに、カラミティに向かって斬りかかるインパルス。

砲撃を撃つのを止め、回避行動に移したカラミティはデスティニーからインパルスに狙いを移す。

 

 

「この雑魚が…、邪魔しないでくれる!?」

 

 

ケーファー・ツヴァイをインパルスに向けて放つが、ルナマリアも決して弱くはない。

放たれる砲撃を巧みにかわし、カラミティに向かって接近していく。

 

 

「こいつ…!」

 

 

ルナマリアはサーベルを一文字に振るうが、カラミティは下がって距離を取ることでルナマリアの斬撃をかわす。

 

 

「雑魚の癖に、生意気にあたしの邪魔をするなぁっ!」

 

 

胸部の二門の砲門を同時に開く。

二本のスキュラがインパルスを襲うが、ルナマリアは機体を横にずらして砲撃をかわす。

 

 

「ファル!」

 

 

「わかってる」

 

 

エリーの言葉の意に従い、ファルが機体をスキュラの射線上に置く。

そこでゲシュマイディッヒ・パンツァーを開き、スキュラを婉曲させる。

 

婉曲したスキュラの行先には、回避した直後のインパルス。

 

 

「そんなっ!?」

 

 

かわしたと思っていた砲撃が思わぬ方法で曲がり、再びこちらに向かってくる。

 

このまま命中するか、と思われたその時、デスティニーが割り込む。

 

 

「っ、シン!?」

 

 

スキュラが、シンの展開したビームシールドと激突し爆発を起こす。

煙が広がり、カラミティとフォビドゥンからデスティニーとインパルスの姿が見えなくなる。

 

カラミティ―とフォビドゥンはしばらくその場から動かず様子を見る。

あの白いのが、こんな簡単にやられるはずがない。まだ、生きているに決まっている。

 

その時、煙を切り裂いて光条がこちらに向かってきた。

 

 

「やっぱりね!」

 

 

「…」

 

 

フォビドゥンがカラミティの前に立ちはだかり、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを展開してビームを曲げる。

 

さらに煙の向こうからデスティニーとインパルスが飛びだす。

デスティニーはアロンダイトを、インパルスはビームサーベルを手にフォビドゥン、カラミティへそれぞれ斬りかかっていく。

 

 

「ルナ、落ちるなよ!」

 

 

「シンこそ!」

 

 

「もう逃がさない!」

 

 

「潰す」

 

 

シンはフォビドゥンに向かってアロンダイトを振り下ろす。

フォビドゥンは後退してアロンダイトをかわすと、ニーズヘグを手にデスティニーに向かって斬りかかる。

 

ニーズヘグはビーム兵器ではないため、アロンダイトの刃にかかればあっという間に斬られてしまう。

そのため、フォビドゥンはデスティニーとの接近戦を行えば不利に陥る。

 

そしてそれは、カラミティにも同じだった。

カラミティには接近戦のための武装が搭載されていないと言っていい。

インパルスが懐に入ってきてしまえば、それはもう負けを意味する。

 

二機が勝つためには、分断されてしまってはいけない。

連携を強化して攻めていくしかないのだ。

 

 

「ルナ、この二機を一緒にさせるなよ!」

 

 

「わかってる!」

 

 

シンとルナマリアにはそれがわかっていた。

たとえ性能で劣るインパルスでも、接近戦の手段を持たないカラミティとなら戦える。

 

相手が持つのが火力だけなら、一対一ならば対抗できる手段は十分にある。

 

ルナマリアはカラミティが撃ってくる砲撃をかわしながら接近していく。

だが、カラミティも接近させまいとインパルスとの距離を保ち続ける。

 

 

「ちっ!何してんのさファル!さっさとこっちに来い!」

 

 

「こいつ、邪魔する。そっちに行けない」

 

 

フォビドゥンがこちらに来てくれれば連携で攻めることができるのだが、デスティニーが取りつき、フォビドゥンは身動きが取れない。

 

 

「この、役立たずが!」

 

 

こうなったら、自分がインパルスを落とすしかない。

何、性能だけならばこちらが圧倒的に上なのだ。

 

 

「しょうがない!先にあんたを相手してあげる!」

 

 

「それはどうも!」

 

 

カラミティが砲門を集中的にインパルスに向ける。

インパルスも、サーベルを手にカラミティを見据える。

 

シンとハイネがそれぞれ激闘を繰り広げている中、もう一つ戦いが始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エターナルとクサナギの援護に行くため、メサイアへと向かっていたセラ。

立ちはだかるモビルスーツ群を撃退しながら突き進んでいくセラは、ふと背筋に冷たい感覚が奔るのを感じた。

 

 

「っ、これは…」

 

 

近くにクレアがいるのか、と最初に出てきた考えはすぐに否定した。

この感覚はクレアのものとは違う。

 

 

(クレアじゃない…。まさか!)

 

 

セラはすぐに身構える。

直後、正面から三本の光条がこちらに向かってきた。

機体を翻して光条をかわしたセラは、ライフルを向けて撃ち返す。

 

闇の向こうにいる何かは、セラが撃ったビームをかわしたのだろう。

何の反応も起こらない。

 

 

「こいつは…」

 

 

少し経つと、セラの視界が何かを捉える。

セラ自身、どこか懐かしいとも思えるそのシルエット。

 

灰色に装甲を染め、ずんぐりとした体形。

その背に背負う円盤のようなものには、かつてセラを追い詰めたドラグーンシステムが搭載されている。

 

 

「プロヴィデンス…!」

 

 

ラウ・ル・クルーゼが搭乗していた、ZGMF-X13Aプロヴィデンス。

かつての宿敵の愛機を改修したのだろう、プロヴィデンスとは細部が違う印象を受ける。

 

プロヴィデンスの発展機、レジェンドは円盤に搭載されているドラグーンをリベルタスに向けてビームを一斉照射する。

セラは機体を後退させて照射されたビームをかわすと、ライフルをレジェンドに向けて撃ち返す。

 

レジェンドは腕を掲げるとビームシールドを展開する。

セラが撃ったビームは容易くビームシールドによって防がれてしまう。

 

 

「セラ・ヤマト…!」

 

 

その時、正面から発せられる殺気に乗って、声が頭の中に響いてくる。

聞き覚えのある、間違いようの声。

 

 

「クルーゼ…!」

 

 

自分が殺した、殺してしまった男。

殺してしまったことをずっと後悔してきた、他に何か方法があったのではないか。

今でもよくそう考え込んでしまうこともある。

 

何故、ここにクルーゼがいるのだろうか。

確かに、この手で殺したことを俺は見届けた。

 

 

「違う…、お前は!」

 

 

その時セラは悟る。

目の前の奴は、クレアと同じなのだと。

 

ラウ・ル・クルーゼである、そうでない。

そう言う存在なのだ。

 

だが、目の前の存在はこう言い放つ。

 

 

「俺は、ラウ・ル・クルーゼ…」

 

 

「っ!」

 

 

自分の名前はラウ・ル・クルーゼだと。

そう告げると、目の前の存在は円盤からドラグーンを切り離し、リベルタスへと向かわせながら自らもsアーベルを抜いて斬りかかってくる。

 

セラはビームシールドを展開してレジェンドの斬撃を防ぐ。

それでもなお、レジェンドはリベルタスを叩き斬ろうとせんと力を込めてくる。

 

 

「違う…!お前はクルーゼじゃない!」

 

 

「何を言っている!お前には分かるだろう!」

 

 

セラは否定する。目の前の存在は、決してラウ・ル・クルーゼではないと。

だが、目の前の存在はセラの否定を一蹴する。

 

お前には分かるだろう、と問いかけてくる。

 

確かに、その通りだ。

自分の中が、こいつはラウ・ル・クルーゼだと告げてくる。

 

それでも、セラは否定する。

 

 

「クルーゼは俺が殺したんだ!俺が、俺自身が!お前はクルーゼじゃない!」

 

 

ラウ・ル・クルーゼはもういない。自分が殺した。

ならば、目の前の存在は一体誰なのだ。

 

 

「そう、ラウは死んだ!だが、俺もラウだ!」

 

 

「っ…」

 

 

息を呑む。

もう、彼のような悲しい存在と戦うということはしたくなかった。

それなのに、戦わざるをえない所まで追い込まれていることにようやく気付く。

 

 

「俺は、お前の存在を許さない…!」

 

 

「お前…!」

 

 

クルーゼと親しかったのだろうか。

それとも、ただ自分と同じ存在を殺された仇というだけなのだろうか。

 

理由はわからないが、自分に濃厚な殺気を向けていることはわからないはずがない。

 

 

「ここで、お前は消えなくてはならない!」

 

 

その言葉と一緒に、レジェンドがさらに力を込めてきた。

セラは、もう付き合っていられないとレジェンドの力を受け流しながらレジェンドとの位置を入れ替える。

 

そしてレジェンドとの距離を取りながら、サーベルを抜く。

 

 

「何を!」

 

 

言っている意味がわからない。

自分が何故、ここで消えなくてはならないのか。

 

セラはサーベルを手にレジェンドに斬りかかっていく。

レジェンドも、振り返って同じようにサーベルを手にリベルタスに向かっていく。

 

 

「人間の夢、希望と共に憎しみという感情も込められた存在!それがお前だ!」

 

 

互いの剣がぶつかり合った瞬間、セラはもう一本のサーベルを抜き放つ。

だが、レジェンドはリベルタスとの距離を取りリベルタスの斬撃をかわす。

 

 

「だから消えなくてはならないのだ!お前は!」

 

 

レジェンドは切り離していたドラグーンをリベルタスに向かわせる。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

セラもまた、スラスターからドラグーンを切り離しレジェンドへと向かわせる。

 

瞬間、リベルタスとレジェンドのまわりには、他の存在を許さぬ結界の様にビームの嵐が吹き荒れはじめる。

 

 

「俺と共に!」

 

 

「っ!?」

 

 

その言葉に目を見開くセラ。

そして、答えにたどり着く。

 

ラウ・ル・クルーゼと同じ存在だということは、つまりアル・ダ・フラガのクローンだということ。

それは、クルーゼと同じようにテロメアが…。

 

 

「お前!」

 

 

止めなければ。こんな悲しいだけの戦いは止めなければならない。

何とか言葉を届けようとするのだが、目の前の存在はセラの言葉に耳を傾けようとしない。

 

それどころか、ドラグーンから斉射されるビームの勢いが増してきている。

 

 

「くっ!」

 

 

「消えてもらうぞ!セラ・ヤマト!」

 

 

降りしきるビームの雨の中、二機は交錯を繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼い翼を広げるフリーダムと真紅に染められた装甲を輝かせたブレイヴァーが何度もぶつかり合う。

フリーダムは剣を、ブレイヴァーをハルバートを手に互いに斬りかかる。

 

 

「はぁっ!」

 

 

キラは、ブレイヴァーから距離を取るとスラスターからドラグーンを切り離してブレイヴァーのまわりへと向かわせる。

 

アレックスは、ブレイヴァーのカメラを通してドラグーンの位置を確認すると、すぐに機体を移動させる。

キラがビームを照射させたときには、もうその場にブレイヴァーはいなかった。

 

ビームが貫いたのは空。

そしてビームをかわしたブレイヴァーは胸部の砲門からオメガを放つ。

 

キラもまた、胸部の砲門からカリドゥスを放つ。

 

カリドゥスとオメガは、元々オメガの方が威力が高く出るようにできている。

この二つがぶつかり合えば、どちらが勝るかはすぐにわかる。

 

 

「っ!」

 

 

キラが放ったカリドゥスは、オメガとぶつかり合い拮抗したかと思われたその瞬間、オメガに圧され霧散する。

向かってくるオメガから、キラは慌てて機体を逃す。

 

逃れたフリーダムを追って、アレックスはライフルを向ける。

 

向けられたライフルを見て、キラは同じようにライフルを向ける。

 

互いの位置を入れ替えながら、フリーダムとブレイヴァーはライフルを撃ち合う。

 

 

「アスラン…」

 

 

キラは、ドラグーンを自分のまわりに戻す。

そして、ライフル二丁にクスィフィアスレール砲を展開。

計十五門の砲火を同時に噴かす。

 

防ぐことは不可能。この砲火はかわすしかない。

当然、アレックスは機体を大きく横にずらして砲火をかわす。

 

だがその大きな動きは当然大きな隙を生む。

キラはそれを見逃さない。

ドラグーンでブレイヴァーのまわりを包囲する。

 

 

「くっ!」

 

 

「…っ」

 

 

キラはビームを照射する。

照射されたビームは、ブレイヴァーを貫かんと闇を切り裂く。

 

アレックスは、ビームシールドを展開しながら機体を細かく動かしながらビームの網から逃れる。

キラはその場から動かず、ただライフル二丁をブレイヴァーに向け、引き金を引く。

 

 

「…逃げられないのなら」

 

 

アレックスは、フリーダムの位置を見つける。

 

 

「そこか!」

 

 

アレックスはサーベルを連結させたハルバートを持ち、フリーダムに向かって突っ込んでいく。

 

 

「っ!?」

 

 

キラは、突っ込んでくるブレイヴァーに向けてドラグーンのビームを集中させる。

だが、ブレイヴァーの巧みな動きとそのスピードにより、ビームが命中しない。

 

さらにブレイヴァーはそのビームが掠めることも気にせず突っ込んでくるのだ。

決して、スピードを緩めることなく。

 

キラはライフルからサーベルへ持ち替える。

ドラグーンの包囲から抜け出し、ブレイヴァーが斬りかかってくる。

 

キラも、ブレイヴァーへとサーベルで斬りかかっていく。

 

再びぶつかり合う二機は、互いに止まることなく動き続け、止むことなくビームを浴びせ、戦うことが止まらない。

 

 

「どうして…、どうしてこうなるんだ…」

 

 

自分たちは戦いを止めるために戦っている。

恐らく思いは同じだ。ただ、ほんの少し道が違うだけ。

 

たった、それだけなのに…。

 

 

「こんな簡単に僕たちは…、皆は…、争っちゃうんだね…」

 

 

キラは、向かってくるブレイヴァーにライフルを向ける。

引き金を引き、ビームを放つがブレイヴァーはハルバートでビームを切り裂きながらなおもフリーダムへと向かっていく。

 

ブレイヴァーは勢いを増しながら、ハルバートで斬りかかってくる。

キラはブレイヴァーとの距離を取る。

そして、ドラグーンで自分の眼前にビームの網を張り巡らせる。

 

 

「っ、このっ…!」

 

 

このまま突っ込んでいけば蜂の巣にされていただろう。

アレックスは機体を後退させてフリーダムから距離を取る。

 

本当に、自分を殺そうとしているのだろうか。

 

 

「…っ!?何だ…?」

 

 

フリーダムが自分を本気で殺そうとしていることを改めて悟った瞬間、アレックスの中で何かが過った。

 

 

「悲しみ…?」

 

 

感じたことなどないはずなのに、この過ったものがすぐに悲しみとわかったのは何故か。

わからない。

 

 

「アスラン…?」

 

 

ブレイヴァーの動きが止まった。キラは呆然とブレイヴァーを眺める。

どうして動きを止めたのか。わからず、ただキラはブレイヴァーを見つめる。

 

 

「…俺は」

 

 

アレックスはただ困惑していた。

先程まで、何の躊躇もなくあのフリーダムを落とすために戦っていたのだ。

それなのに、どうして今になってこんな感情が生まれてくるのだ。

 

 

「戦いたくない…!」

 

 

アレックスは激しく首を横に振る。

そんなはずはない。議長の理想のために、自分は剣となって戦うと決めていたのに。

 

 

「揺らぐな…!」

 

 

揺らぐな、揺らぐんじゃない。

必死に自分の心に呼びかける。

 

自分の中で、揺らぎが消えていく。まるで、波立っていた水面が戻っていくように。

それと同時に、自分の奥底で何かが弾けるような感覚が奔った。

 

 

「…行くぞ」

 

 

アレックスは機体をフリーダムに向ける。もう、迷いは消えた。揺るぎはない。

 

 

「…来る」

 

 

何があったのかは知らないが、キラはまた戦いが再開することを悟る。

その予想通り、ブレイヴァーが動きを見せる。

 

胸部の砲口からオメガを放つ。それと同時に、ブレイヴァーはハルバートの連結を解き、両手にサーベルを握って向かってくる。

キラも、ビームシールドを展開しながらサーベルを構え、ブレイヴァーへと向かっていく。

 

ブレイヴァーはサーベルを振り下ろし、フリーダムはビームシールドを掲げてブレイヴァーの斬撃を防ぐ。

さらにブレイヴァーはもう一方のサーベルを振り下ろすと、フリーダムもサーベルを振り上げて迎え撃つ。

 

両者が力を込めて互いを押しあうと、二機は同時に弾かれるように離れる。

それでも、二機は怯まずに互いへと向かっていく。

 

 

「アスラン…」

 

 

もう、手遅れなのだろうか。

このまま、どちらかが死ぬまで戦い続けなくてはならないのだろうか。

 

キラは、自分の中の奥でSEEDを解放させる。

 

フリーダムの動きが一気に鋭くなる。

キラは、スラスターに戻していたドラグーンを再び切り離す。

 

切り離されたドラグーンはブレイヴァーを包囲しようと高速で移動する。

キラはドラグーンのビームを連発させる。

 

アレックスは機体を制動させると、スラスターを横に噴かせ移動する。

ドラグーンから放たれたビームはブレイヴァーのすぐ隣だけを通り過ぎていく。

 

 

「僕は…」

 

 

キラはもう一度考える。

本当に、自分の選択が間違っていないのか。

 

アスランを連れ戻すことが、本当に正しい事なのか。

もし、そのために別の命が失われるようなら本末転倒なのだ。

 

ここで、彼を殺すことの方が、誰かのためになるのではないか。

 

 

(…カガリ)

 

 

キラの中に、今もオーブで待っている姉弟の姿が思い浮かぶ。

アスランが生きていることも知らず、ただ自分たちの帰りを待っているだけの姉。

 

 

「カガリ…」

 

 

違う。諦めてはだめだ。

必ずアスランは連れ戻す。皆のために。カガリのために。

 

 

「もう諦めないよ。僕も、迷わない」

 

 

キラはドラグーンを自分のまわりに配置する。

二丁のライフル、クスィフィアスレール砲を展開し、計十五門の砲撃をブレイヴァーに向けて放つ。

 

フリーダムによるフルバーストを、ブレイヴァーは翻してかわすと両腰のレールガンを展開し、フリーダムに向けて放つ。

レールガンは実体弾、ビームシールドでは防ぐことは出来ない。

 

キラはシールドを取り出してレールガンを防ぐ。

後方に機体が流れるが、その勢いのままブレイヴァーと距離を取って体勢を立て直す。

 

 

「フリーダム…!」

 

 

どれだけ攻撃を加えても、この機体は落ちない。

何度も何度も、この機体は自分の思惑から外れた行動をする。

 

 

「決着をつけてやる!」

 

 

アレックスは機体をフリーダムに向かわせる。

そしてキラも、機体をブレイヴァーに向かわせる。

 

この戦いの決着は近いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

月での戦闘は少しずつだが、確かに激しさを増しつつあった。

オーブ、ザフトの陣営に圧されつつあった地球軍だったが、ザフトがオーブへ攻撃を仕掛けはじめたことにより地球軍にも攻めに転じる余裕ができた。

 

完全に三者の力は拮抗し、激しくぶつかり合っていた。

 

 

「嬢ちゃん!こっちに来い!」

 

 

「はい!」

 

 

モビルスーツの集団と戦闘していたシエルは、ネオに呼びかけられ一度機体をアカツキの元に寄らせる。

ネオは、アカツキのドラグーンを切り離し、そしてアカツキとヴァルキリーのまわりにフィールドを張る。

張られたフィールドは、八方から降りかかるビームを、砲撃を防いで消える。

 

 

「くそっ!わかっちゃいるが、坊主がいなくなった穴は相当でかいな!」

 

 

ネオは一人ごちる。

 

ネオとシエルは、セラにエターナルの方に援護に行けと告げ、セラもその言葉通りにエターナルへと向かったのだが、その結果、ネオとシエルは集中砲火を受け、レクイエムへと進むことすら難しい状態にあった。

 

セラがいれば、とこれまで何度思ったことだろう。

 

 

「だけど!私たちで何とかしなきゃ!」

 

 

セラがいないこの状況が苦しいことは百も承知だ。

こうなることが分かった上で、セラを送り出したのだから。

 

だから、ここで自分たちがへこたれるわけにはいかないのだ。

セラにこれ以上負担をかけさせるわけにはいかないのだ。

 

 

「私たちが、落ちるわけにはいかない!」

 

 

シエルはビーム砲を手に取り、胸部の砲口、カリドゥスと共に二本の砲撃を放つ。

巨大な砲撃をかわすために、モビルスーツ群は散り散りに移動することでかわす。

 

 

(隊列が崩れた!)

 

 

「ネオさん!」

 

 

「あぁ!」

 

 

アカツキが、切り離していたドラグーンをモビルスーツ群に向かわせる。

ネオはビームを照射させ、多数のモビルスーツの武装を貫き落としていく。

 

シエルも、ライフルを構えてモビルスーツのメインカメラを撃ち落としていく。

 

 

「「っ!」」

 

 

シエルとネオは、咄嗟に機体を横にずらした。

先程いた場所を、太い光条が横切っていく。

 

シエルとネオが目を向けると、そこにはこちらに、いやアークエンジェルに向かっていく巨大な戦艦の姿。

 

 

「ガーティ・ルー…!」

 

 

ネオにとっては馴染み深いフォルム。

戦争が始まる前、アーモリーワンを襲った時、ネオはあの艦に乗っていた。

 

確かにあの艦ならアークエンジェルと十二分に戦うことができる。

それは、ネオが誰よりも知っている。

 

 

「くそっ!」

 

 

アークエンジェルに援護に行きたいが、ガーティ・ルーから次々とモビルスーツ、モビルアーマーが発進してくる。

ウィンダムが、ザムザザーがアカツキとヴァルキリーに襲い掛かる。

 

ネオは機体をヴァルキリーに寄せ、再び二機のまわりにフィールドを作り出す。

ガーティ・ルーが、ウィンダムとザムザザーが撃ち出したビームはフィールドに衝突し霧散する。

 

 

「嬢ちゃん、行くぞ!」

 

 

「ハイ!」

 

 

ネオとシエルが、同時にモビルスーツ、モビルアーマー群に向けて飛び出していく。

眼前の敵集団も、アカツキとヴァルキリーに照準を合わせ始める。

 

そして一方のアークエンジェルでも、迫ってきているガーティ・ルーに全砲門の照準を合わせ始めていた。

 

 

「艦長!敵艦、来ます!」

 

 

「わかってるわ!下げ舵十五、ゴットフリート照準、ガーティ・ルー!」

 

 

マリューは命じながら、ここまでずっと自分たちのまわりのモビルスーツを撃退し続けてきたアカツキとヴァルキリーのことを思っていた。

ここまでアークエンジェルが簡単に進めてきたのは全て、二人のおかげなのだ。

 

ここでこの艦を落とすわけにはいかない。

彼らを、死なせるわけにはいかない。

 

 

「いい!?辛いだろうけど、正念場よ!」

 

 

マリューはクルーたちに喝を入れる。

マリューの声に応え、クルーたちも大きく頷く。

 

それを見届けると、マリューはただ前を見据えて口を開いた。

 

 

「ゴットフリート、てぇっ!」

 

 

アークエンジェルもガーティ・ルーも、地球軍が作り出したもの。

当然、武装も似通っている。ゴットフリートは、二艦が同時に撃ち出した。

 

放った砲撃は、それぞれの装甲を掠めていく。

 

 

「くぅっ!」

 

 

艦の振動に歯を食い縛って耐えるマリュー。

だが、目は閉じない。ずっと前を見据え、敵から目は離さない。

 

 

「っ、あれは…!」

 

 

アークエンジェルとガーティ・ルーが激しく戦闘を繰り広げている中、ネオはガーティ・ルーのある部分を見て目を見開いた。

それは、ネオが乗っていた時には搭載されていなかったもの。

だが、アークエンジェルには搭載されているもの。

 

巨大な力を持つ、巨大な武装。

 

 

「まずい!嬢ちゃん、しばらく頼む!」

 

 

「え!?ネオさん!」

 

 

 

 

アークエンジェルとガーティ・ルーは、すれ違いながら砲撃を撃ち合い、かわし続ける。

 

 

「バリアント、てぇっ!」

 

 

マリューが命じるとともに、巨大なレール砲が放たれる。

だが、ガーティ・ルーは砲撃をかわすと、ある一部分が開き始めた。

 

 

「あれは…!?」

 

 

マリューは目を見開いてその部分を見つめる。

 

扉が開き、その中から巨大な砲塔が姿を現す。

それは、マリューも見慣れたもの。アークエンジェルにも、あるもの。

 

 

「ローエングリン…!?」

 

 

「敵艦、陽電子砲発射体勢!」

 

 

マリューがそれが何なのかを悟るのと、チャンドラが声を上げたのは同時だった。

 

 

「かいh…!」

 

 

マリューは迷わず回避を選択するが、ガーティ・ルーからの射線上にはヴァルキリーが戦闘していた。

当然、アークエンジェルが回避をすればヴァルキリーが飲み込まれてしまう。

 

 

「くっ!」

 

 

ただそこにいるだけならば、シエルは砲撃をかわすことができるだろう。

だが、大量にモビルスーツに囲まれているこの状況ではそれは不可能だ。

 

こんな時に、彼はどこに行っているのだろうか。

アカツキの姿は、ヴァルキリーの傍にはなかった。

 

 

「しまっ…!」

 

 

ゴットフリートで何とか反撃するしかない。

そう思った時には遅かった。ガーティ・ルーの砲塔は光が迸り、発射準備が完了している。

 

もう、何をしようにも遅い。

ガーティ・ルーが、ローエングリンを発射した。

 

 

「っ…」

 

 

重なる、あの時と。

ヤキン・ドゥーエでの、ドミニオンとの戦闘の最後と。

 

あの時も、ドミニオンがローエングリンを発射し、回避が間に合わないタイミングだった。

その瞬間、彼が現れた。身を挺して、守ってくれた。

 

だがその彼はもういない。ここに現れることはないし、現れてほしくもない。

あんな思いをするのはもう嫌だから。

 

マリューはただその時を待つ。

心の中で、こんな所に置き去りにしてしまうことになる戦士たちに、自分のせいで巻き添えをくうことになったクルーたちの謝罪する。

 

遂に、視界一杯に砲撃の光が包む。

 

このまま砲撃が艦橋を貫こうとしたその時。

 

 

「…っ!?」

 

 

マリューの目の前に、アークエンジェルの前に、黄金の影が立ちはだかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE64 逆らう者と従う者

この話は、前回の話と同じ時間軸です。
続きというより、前回の話のフリーダムとブレイヴァーの戦闘時点でのこちら側の話、という感じです。


「ちっ…、こいつ!」

 

 

三基のドラグーンを従え、ライフルと共に四射のビームを撃ちこんでくるアナトに、ウォーレンは舌を打つ。

攻撃は全てかわされ、逆にこちらが追い込まれていくのがわかる。

 

 

「このっ!」

 

 

ウォーレンはスキュラをアナトに向けて放つ。

だがアナトはドラグーンと共にスキュラをかわすと、逆にドラグーンのビームを撃ちこんでくる。

ウォーレンはビームシールドを展開し、三本の光条を防ぐとシュラークをアナトに向ける。

 

途端、アナトはウォーレンの視界から消える。

ウォーレンは目を見開いてまわりを見渡す。

 

アナトは背後にいた。ライフルを構え、こちらに向けている。

ウォーレンは振り返り、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを展開する。

 

アナトが放ったビームは、ゲシュマイディッヒ・パンツァーの効果で婉曲し、ウルトルから避けていく。

 

 

「っ…」

 

 

クレアは表情を歪ませる。

先程から、何度も止めのための一撃があの効果によって凌がれてしまっている。

こちらが優勢で戦えているのだが、決定打が打てないでいる。

 

 

「ん…、やはりそうか…」

 

 

八方から放たれるビームをかわしながら、ウォーレンはメサイアの基地内部へと戻っていくスタンピーダーを装備していたナスカ級を見つける。

そして、それと同時に悟る。やはり、もうスタンピーダーは使えないということだろう。

 

 

「ならば、次の一手を何の気兼ねなく打つことができるな…」

 

 

唇を歪ませながらつぶやくウォーレン。

個人の戦いとしては劣勢に立たされているのだが、全体の戦いとしてはもうすぐ有利に立つことができる。

それを考えると、笑いを抑えることができなかった。

 

 

「っとぉ…!本当に、気が抜けないな…、お前は!」

 

 

ウォーレンがつぶやいている中、アナトが対艦刀で斬りかかってくる。

それを、ウォーレンはビームシールドを展開して斬撃を防ぐ。

直後、ウォーレンは胸部の砲口に火を噴かせる。

 

だが、ウォーレンがスキュラを放つ直前にアナトはウォーレンの視界から消えていた。

ウォーレンはスキュラを放った直後に背後に振り返る。

そこには、対艦刀を振り下ろそうとしているアナトの姿。

 

ウォーレンは振り返ったときの回転のスピードを利用しながらサーベルを振るった。

対艦刀の方がリーチが長く、破壊力がサーベルよりも上なのだが、ウルトルの遠心力による勢いが手に握るサーベルに威力を与える。

 

 

「っ!」

 

 

ウルトルのサーベルとアナトの対艦刀のぶつかり合いに勝ったのはウルトルだった。

アナトは弾かれるように後退していく。

 

 

「そらっ!」

 

 

さらにウォーレンはアナトに追撃を仕掛ける。

サーベルを握り、アナトに向かっていきながらシュラークを放つ。

 

クレアは、ウルトルが放つシュラークの砲撃を機体を翻してかわすと、直後にスラスターを全開にしてウルトルに向けて突っ込んでいく。

 

ウルトルに向かっていくアナトに、アナトに向かっていくウルトル。

二機は互いの持つ剣を振り下ろす。

 

だが今度は、両者ともにほぼ同等の勢いをもっての突撃。

対艦刀とサーベルがぶつかり合えば、どちらが勝つか…、それは。

 

 

「っ、ちぃ!」

 

 

ぶつかり合った刃。そして、力を込めてウルトルを押し込むアナト。

押されていることに気がついたウォーレンは急いで距離を取る。

 

しかしそれは、クレアの誘導だった。

クレアは元の場所に戻していたドラグーンを切り離す。

 

ビームを斉射しながらドラグーンはウルトルへと向かっていく。

ウルトルはライフルを向かってくるドラグーンに向ける。

 

 

「させない」

 

 

ウルトルはライフルでドラグーンを撃ち落とそうとしているのだろう。

だが、クレアはそれをさせない。

 

クレアはドラグーンをウルトルの射線上から離脱させる。

当然、ウルトルは離脱したドラグーンを追ってライフルの照準を合わせようとする。

その、ライフルの引き金を引くまでの時間の遅延をクレアは欲していた。

 

クレアは二丁のライフルを取り出し、両腰の収束砲を展開する。

そして、四門の砲門を同時に開き、ウルトルに向けて放つ。

 

ウルトルは最小限の動きで、砲撃と砲撃の間を縫うようにしてかわす。

途端、ウルトルのまわりをドラグーンが包囲する。

 

 

「くっ!?」

 

 

ウォーレンはまわりを包囲するドラグーンを見渡す。

すぐに機体をその場から移動させてドラグーンの包囲から逃れようとする。

 

 

「逃がさない!」

 

 

だがドラグーンはウルトルを追いながらビームをウルトルに向けて照射する。

ウォーレンは機体を捻らせながらドラグーンのビームを回避していく。

 

反撃する間もなく、ひたすら相手の砲火を回避することしかできないウォーレン。

そんなウォーレンに、ようやくこの戦闘の勝利を目指すべく光明が差し込む。

 

 

「っ、来た!」

 

 

それを目視した途端、ウォーレンはウルトルのスラスターを全開にし、ある場所へと向かっていく。

その方向からは、ウルトルに向けて何やらユニットを取りつけたメビウスが飛んできている。

 

 

「あれは…?」

 

 

ウルトルに向かっていくメビウスが気になったクレア。

正確には、メビウスに取りつけられているユニットを懸念に思った。

 

クレアはライフルをウルトルに向かっていくメビウスに向ける。

迷うことなくクレアはメビウスに向けて引き金を引くのだが、それよりも先にメビウスはユニットを取り外し、その場から離れていった。

 

クレアの目の前で、取り外されたユニットはウルトルに向けて飛んでいく。

ウルトルも、飛んでくるユニットに向かっていくのだが、その過程の中でウルトルの背面部の装甲だと思われていた部分が外れた。

 

 

「なっ…、まさか!?」

 

 

その瞬間、クレアはウルトルが何をしようとしているのかを悟る。

あのウルトルはインパルスと同じ、背面部に換装可能な装備が取りつけられているのだ。

 

そして今、ウルトルはその装備を変えようとしている。

 

ウルトルの背面に、ずんぐりとした円形にユニットが取りつけられる。

そのユニットからはぽつりぽつりと出っ張った大小の更なるユニットが取りつけられている。

クレアはすぐにそれがドラグーンだということを悟る。

 

 

「くっ…!」

 

 

ドラグーンにはドラグーンを。

事実、ウルトルの武装はドラグーンを使用する機体相手には相性が悪い組み合わせになっていた。

ウルトルのパイロットのこの判断は正しいと言える。

 

だからこそ、クレアは相手がしようとしていたことを先に気づくことができなかったことに悔恨の念を抱いていた。

 

 

「さぁ…、第二ラウンドの開始だ!」

 

 

一方のウォーレンは、押され気味だった戦闘を盛り返すことができるという意気込みに満ち溢れながらアナトに機体を向き直す。

クレアも、一度ドラグーンを戻して充電させてスタンバイさせる。

 

その間に、ウォーレンは背面のユニットからドラグーンを切り離してアナトに向けてビームを斉射する。

アナトも、状況が変わったとはいえ戦意を失ったということもなく、変わらない鋭い動きでビームをかわすと、戻していたドラグーンを再び切り離し、ウルトルに向けてビームを斉射する。

 

 

(こいつ…、何だ…?)

 

 

ウォーレンは、改めて相手の脅威を感じ直す。

目の前でむざむざ装備の換装を許し、戦況を盛り返されたというのに、何ら動揺も見せずに戦い続けている相手に、ウォーレンは脅威を感じた。

 

それだけではない。

コックピットを狙っているということで頭の隅にまで追いやられていたのだが、目の前の機体の戦いが、頭の中にある何かと重なる。

 

 

(こいつ…、何故こいつが、リベルタスなんかと重なるんだ…!)

 

 

リベルタスはオーブの陣営。目の前の相手はザフト所属。

何故、まったく関係のないはずのこの二つが重なるのか。

 

奔る苛立ちに、ウォーレンは歯を食い縛り鳴らす。

 

 

「お前は…、何なんだ!」

 

 

ウォーレンはドラグーンをアナトへと向かわせると同時に、サーベルを手に突っ込んでいく。

 

 

「何故、お前がリベルタスと重なるんだ!」

 

 

ドラグーンのビームを最小限の動きでかわすと、持っている対艦刀を振るってこちらの斬撃に対して迎え撃ってくる。

 

そうだ。これだ。

この動き、リベルタスと重なる。

その事が、ウォーレンの心に苛立ちを募らせる。

 

憎き仇敵に重なることが、どうしてもウォーレンの心に触れてしまう。

 

 

『…私が、彼と重なるですか』

 

 

「っ!」

 

 

その時、ウォーレンの耳に鈴のような涼やかな声が届く。

 

途端、アナトの動きが切り替わる。

アナトはこちらから距離を取ったと思うと、ドラグーンを自分の周囲に集め始める。

 

ウォーレンは何かを始めるつもりだとすぐに悟り、それをさせまいとスキュラを放とうとするのだが、それよりも先にアナトが動きを見せた。

 

先程と同じように、アナトは両手にライフル、両腰の収束砲を展開して同時にこちらに向けて放ってくる。

だが今回はそれだけではなく、周囲に集めていた十基のドラグーンも同時に火を噴いた。

 

堪らずウォーレンはその場から機体をずらして計四十五門の砲火から身を逸らす。

しかし、それを読んでいたかのようにアナトがウォーレンの背後に現れる。

 

 

(何だこいつ!?急に動きが…!)

 

 

『目障りです』

 

 

アナトは対艦刀を一文字に振るってくる。

ウォーレンはそれを機体をアナトの懐に潜り込ませることでかわし、さらにサーベルを振るって反撃を仕掛ける。

 

だがアナトは、ウォーレンがそうすることをわかっていたかのように、機体を捻らせるだけで斬撃をかわす。

 

 

『私があの男と重なる…ですか…』

 

 

「ちぃっ!?」

 

 

ウォーレンの胸の中で、一瞬だけ、だが大きくまずいという感覚が奔る。

その勘に従って、ウォーレンは機体を下方に向けてスラスターを噴かせる。

 

ウォーレンの死角から放たれたドラグーンのビームが、先程までウォーレンがいた場所を横切っていく。

ウォーレンが機体を動かした時、アナトは何も動きを見せていなかった。

そのため、ウォーレンは様子見のためにじっとしていたのだが、もしそのまま機体を動かしていなかったら…。

 

ウォーレンはぞっとする。

それと同時に、リベルタスと戦った時と同じ感覚が過る。

 

何をしても通じない。勝てる気がしない。

アナトとは十分に戦えていたのに。何故かここに来て絶望的な感情が心の中を過ったのか。

 

 

(…死ぬかもしれないな)

 

 

ふと、ウォーレンはそうつぶやく。

恐らくこのまま戦っても、この相手には勝てない。

 

そう、この相手には、だ。

 

 

「勝負に負けてもいい。だが…」

 

 

戦いには、勝たせてもらう。

 

ウォーレンの頭の中には、すでにメサイアが崩壊していく光景が見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラクスさん!バルトフェルドさん!…くそっ!」

 

 

トールは、ディーヴァと戦闘を繰り広げながらエターナルに通信をつなげようとしていた。

目の前の機体に乗っているのはザフトにいたもう一人のラクスで、本物であるラクスの命を狙っているということを報せようとしたのだが、エターナルに通信が繋がらない。

 

エターナルがダメなら、キラだけにも知らせようと思ったトールなのだが、先程横目で見たフリーダムとブレイヴァーの戦闘を見てしまったためそれができないでいた。

 

あの戦いは、どちらかがほんの少しでも集中力を切らしてしまえば、そのどちらかが間違いなく命を落とす。

そんな域にすら達しているレベルの戦いだった。

キラのためにも、そしてキラの手助けをするために戦うことを選んだ自分のためにも。

キラの妨げになるようなことはしたくない。

 

だがトールにはある懸念があった。

セラがこのディーヴァと戦った時、紫色の機体が三機。ディーヴァに従うかのようについていたと聞いていたのだ。

ここに、その三機の姿は見えない。

 

もしかしたら、あのもう一人のラクスの命を受けてエターナルに向かっているのではないか。

トールはそのことが気がかりでならなかった。

 

このままディーヴァと戦いながらエターナルの様子を見に行こうともしたのだが、そうなればディーヴァが何をするかわからない。

 

 

「いい加減、そこをどきなさい!」

 

 

「何度も言わせるな!ここは絶対に通さねぇ!」

 

 

ディーヴァが対艦刀で斬りかかってくるのに対して、トールはサーベルを連結させたハルバートで迎え撃つ。

 

 

「あの艦は私が仕留めるの!私が絶対に…、仕留めるんだから!」

 

 

ディーヴァは距離を取り、オメガをジャスティスに向けて放ってくる。

トールは放たれたオメガを機体を翻してかわすと、ライフルをディーヴァに向けて撃ち返す。

 

トールが撃ったビームに対し、ディーヴァは突っ込んでくる。

ビームシールドを展開し、ビームを防ぎながら対艦刀からサーベルに持ち替える。

 

対艦刀はリーチが長い代わりに小回りが利かない。

サーベルは逆だ。リーチは対艦刀よりも短いものの小回りが利く。

 

 

(スピード勝負に持ち込む気か…!)

 

 

トールはハルバートの連結を解き、二本のサーベルに戻してディーヴァの斬撃を迎え撃つために備える。

 

突っ込んできたディーヴァは、サーベルを振りかぶり、まっすぐジャスティス目掛けて振り下ろす。

トールは片手のサーベルを振るい、ディーヴァの斬撃を受け止めようとする。

 

だが、トールの振るったサーベルは空を切った。

 

 

「え…!?」

 

 

その光景を見たトールは目を見開き、ミーアはしてやったりと唇を歪ませた。

 

ディーヴァの持つサーベルの柄から、ビームは出力されていなかった。

 

サーベルの斬撃を防ぐために、大抵の、いや全てのパイロットは剣や楯をビームが出力されている部分にぶつけようとするだろう。

その心理を、ミーアは利用したのだ。

 

トールの振るったサーベルが空を切った直後、ディーヴァが握るサーベルのビームが出力された。

ジャスティスの肩部装甲にサーベルがぶつかるその直前に。

 

 

(とった!)

 

 

ミーアはそう確信した。

当然だ。完全に相手の裏をかいたのだから。

 

このままミーアが振るうサーベルがジャスティスの装甲を切り裂き、コックピットまで刃を届かせる。

ミーアはそう確信していた。

 

だが、ミーアはこの時失念していた。

ジャスティスは、両手にサーベルを握っているということを。

 

 

「っ!」

 

 

トールは、サーベルが空を切ったその時から行動を開始していた。

空を切ったサーベルを持っていた手とは逆の手を即座に動かす。

 

当然、目的はディーヴァの振るうサーベルを受け止めるためだ。

 

体勢が不安定になってしまうが、構うものか。

今、この場で死ぬよりはずっとましだ。

 

結果を言えば、トールの目的は達した。

肩部をわずかに切り裂かれはしたものの、最悪の事態は避けることができた。

 

だが、問題はここからだ。

 

今のジャスティスは、サーベルを振り切った体勢から無理に腕を交差させてサーベルを突き出している体勢だ。

力は当然入れやすいとは言えない。このままディーヴァに力一杯押されてしまえば押し負けるのは目に見えている。

 

トールは機体をその場から逃そうとする。

まずディーヴァと距離を取って体勢を立て直そうとする。

 

 

「させない!」

 

 

しかしトールの思うように相手がさせてくれるわけもなく。

ディーヴァの手がジャスティスの腕を掴む。

 

 

「なっ…!」

 

 

それだけではない。

ディーヴァはサーベルに力を込めると同時に胸部の砲口、オメガをも放とうとしていた。

 

サーベルで仕留められるのならそれでよし。

だがもし、サーベルで仕留められないのならオメガを至近距離で放って確実にしとめる。

二重の攻撃をディーヴァは仕掛けてきたのだ。

 

 

「くそっ…」

 

 

トールはまず、オメガの射線上から機体を外すことにする。

機体をほんの少しでもずらすことができればそれで射線上から外れることができるのだ。

 

そしてそれは、トールの思った通りにすぐに成功した。

直後、ディーヴァの胸部から巨大な砲撃が放たれる。

 

放たれた砲撃は空を切り、トールは一まずの命拾いの成功はした。

 

 

「もう一つ!」

 

 

トールは、機体をずらしたその勢いを利用する。

機体をその勢いに任せたまま回転させる。そして、ジャスティスの右足をディーヴァに向けて振り上げた。

 

 

「!?」

 

 

ディーヴァは、ビームシールドを展開した腕を割り込ませ、ジャスティスの蹴り上げを防ぐ。

不意を突いたからだろうか、防がれはしたがディーヴァの拘束は外れた。

 

トールは即座に機体を後退させてディーヴァから距離を取った。

 

先程の蹴り上げ。ジャスティスの右足にビームを出力させていたのだ。

もしディーヴァの防御が間に合っていなかったら、ビームブレードにディーヴァのメインカメラは斬りおとされていただろう。

 

 

(あわよくばこれで勝負がつく…、ていう風に期待してたんだけど、そう上手くはいかないか…)

 

 

機体は外れたが、当初の目的は達成した。

これで再びイーブンに持ち越した。ここから、どう展開していくかが戦いの鍵になる。

 

 

(時間はかけられない…。早くエターナルの所に行かないと!)

 

 

トールはサーベルを連結させハルバート形態にし、ハルバートを右手に握ってディーヴァを見据える。

ディーヴァは対艦刀を握ったまま、その場から動かない。

 

それが、あまりにも不気味だった。

このまま動き出せば、こちらがやられてしまうのではないか。

そう思わせるほどの気迫を、ディーヴァは放っていた。

 

 

「…もう、いいわ」

 

 

「え…?」

 

 

ふと聞こえてくる少女の声。

トールはその少女の声に耳を傾ける。

 

 

「ヒルダさん、マーズさん、ヘルベルトさん。エターナルに攻撃を開始してください」

 

 

「なっ!?」

 

 

相手は、自分の手でエターナルを落とすと言い放っていた。

そのため、この相手を足止めしておけば、少なくともエターナルに脅威となるモビルスーツが襲い掛かってくるという事態は避けることができると思っていたのだが。

 

 

「もういいわ…。埒が明かない。あなたがどかないのなら、それ相応の手を使わせてもらうわ。…この手で落とせないのは心残りだけれど」

 

 

「お前…!」

 

 

自分の意地を捨てたということだろう。

 

このままではまずい。自分もキラも、相手のエース機に足を止められてしまっている。

ムラサメがエターナルを守るために奮闘してくれるだろうが、あの三機は並のパイロットの腕を遥かに凌いでいる。

前回は運よくセラがすぐに相手をしたために犠牲は少なく済んだが、もしそうでなかったらかなりの脅威になっていたのは間違いない。

 

そんな機体がエターナルを襲うのだ。

相当なダメージを受けてしまうどころか、知らぬところで落とされる可能性だってある。

 

 

「くそぉっ!」

 

 

形振り構わずエターナルの元に急ごうかとも考えないわけでもないのだが、その場合あのディーヴァもついてくる。

状況がさらに悪化するだけなのだ。

 

しかし、この場で戦い続けてもエターナルが危険に及んでいるという事実は変わらない。

 

 

「どうすれば…!」

 

 

トールがどんな選択をしても、何も変わらない。

せめてキラが、と思い横目でフリーダムの様子を見ても、まだ手が離せない様子なのは変わっていない。

 

このままでは、ジェネシスがどうこうという問題ではない。

この場から退いてでも、生き延びることを考えた方がいいのではないか。

 

 

「エターナルを落とすことは出来ないけど…。あんたはこの手で落として見せるわ」

 

 

「くっ…!」

 

 

ディーヴァが、襲い掛かる。

 

その時だった。

 

 

『ラクス様!』

 

 

「ヒルダさん?どうしたのでしょう」

 

 

トールは、もう一人のラクスの口から出た名前を聞いて目を見開く。

 

ヒルダ。エターナルを襲えと指示した三人の中の一人。

まさか、もうエターナルを撃沈したという訳ではないだろうな。

 

 

(そんなはずはない…。いくら何でも早すぎる)

 

 

さすがにそれは早すぎると、トールは自分に言い聞かせて冷静さを保とうとする。

 

ならば、何故、それも指示をされてすぐの所で何を報告することがあるというのだろう。

 

そして、そのすぐ後。

トールは、自分の親友の無茶苦茶さを改めて実感することとなる。

 

 

『エターナルへの攻撃を始めようとしたのですが、リベルタスが乱入!ラクス様、こちらに来られますか!?』

 

 

「そんな!?あれにはレジェンドがついているはずでしょ!?」

 

 

『そうです!リベルタスは、エターナルを守りながら我ら四機を相手にしているのです!』

 

 

さすがのセラでも、まわりのモビルスーツ全ての攻撃からエターナルを守るということは出来ないだろう。

恐らく、そのレジェンドという機体と、ヒルダという人物の機体を含めた三機の機体、合わせて四基の機体の攻撃からエターナルを守りながら戦っているということ。

 

 

「…ははっ。セラ…、お前、頼もしすぎだって!」

 

 

エターナルにはセラがついている。

ならば、自分は心置きなく目の前の相手に集中することができる。

 

 

「くっ!」

 

 

味方の危機を知り、ディーヴァはエターナルの方へと向かおうとする。

 

 

「させないって!」

 

 

だがトールはそれを許さない。

懸念材料がなくなった今、トールは相手をエターナルに行かせないようにするだけ。

 

 

「俺もすぐにそっちに行くぜ、セラ!」

 

 

目の前の相手を退け、セラの援護に行く。

今、トールがするべきことはそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レジェンドと戦闘を繰り広げていたセラ。

リベルタスとレジェンドの二機の周囲には、互いが繰り出した全てのドラグーンが飛び回り、ドラグーンから斉射されるビームの雨が降り注ぐ。

 

二機は、降り注ぐビームを全てかわしながらライフルを撃ち合い、そして剣をぶつけ合う。

 

 

(…そろそろ、メサイアの方の戦闘の様子が見られる距離まで来ていると思うけど)

 

 

セラは、レジェンドと戦闘をしながら地点の移動を試みていた。

レジェンドばかりに気を取られるわけにもいかない。

エターナルやクサナギ、メサイアでの戦闘の状況を見なければならない。

 

ドラグーンを使い、レジェンドを誘導しながらセラはメサイアの戦闘宙域へと近づいていた。

 

 

「…見えた」

 

 

リベルタスのカメラを切り替えてメサイアの方を見ると、幾度と起こる爆発と、奥に見える巨大な要塞が視界に飛び込んできた。

見ているだけだと、やはりザフト側がオーブ陣営を押し込んでいるように見える。

 

このままでは、オーブが敗退するのも時間の問題かもしれない。

 

 

「これは…、俺だけじゃ足りないかもしれない」

 

 

オーブ側が何とか踏ん張ってはいるものの、相当な不利な状況。

自分一人だけで事足りるとは思えない。

 

何とか、相手のエース機、このレジェンドのような最新鋭機を落とすことができれば少しでも状況を盛り返すことができるかもしれないが。

 

 

「セラ・ヤマト!」

 

 

「この…!」

 

 

戦闘宙域を気にしていると、レジェンドが巨大なサーベルで斬りかかってくる。

セラも、レジェンドのドラグーンから放たれるビームを掻い潜って回避しながらサーベルを手に迎え撃つ。

 

セラとレジェンドはドラグーンを一度元の場所に戻して、互いの持つ剣をぶつけ合って切り結ぶ。

二機は一度離れると、すぐに機体を翻して再び接近し合う。

 

リベルタスのサーベルとレジェンドのサーベルがぶつかり合い、拮抗したその瞬間、セラはもう一方のサーベルを抜き放った。

もう一方のサーベルでレジェンドのメインカメラを斬りおとそうとするセラだったが、レジェンドの背面のユニット、ドラグーンの一基がこちらを向いていることにすんでの所で気がつき、機体をその場から離す。

 

 

「ちっ!」

 

 

リベルタスが離れたのを見て、レジェンドは戻していたドラグーンを切り離す。

切り離したドラグーンは、距離を取ったリベルタスのまわりを包囲し、そしてビームを斉射する。

 

 

「…っ!」

 

 

セラは、機体を捻らせ、翻して斉射されるビームをかわしながら、回避しきれないビームはビームシールドを展開して防いでいく。

 

 

「今だ…!」

 

 

そして、わずかにドラグーンからのビームの雨が弱まった瞬間、セラもまた戻していたドラグーンを切り離す。

さらにセラはサーベルからライフルに持ち替え、まわりを包囲するドラグーンに向ける。

 

 

「させるか!」

 

 

リベルタスがドラグーンを撃ち落とそうとしていることを悟ったレイも、ライフルを取ってリベルタスに向ける。

 

リベルタスが引き金を引く前に、レイが引き金を引き、リベルタスの思惑を妨害する。

 

ドラグーンを守ることは成功した。だが、リベルタスのドラグーンが動き出す。

リベルタスのドラグーンは、レジェンドの放ったドラグーンを追い払い、まわりの包囲を解き放つ。

 

 

「くっ!」

 

 

単純なドラグーンの数だけならばレジェンドの方が勝っている。

それだけではなく、ドラグーンに搭載されている砲門の数もレジェンドが勝っているのだ。

 

それなのに、ここまでドラグーンは失ってはいないもののレジェンドの方が押されている。

 

 

「やはり、お前はここで消えなければならない存在だ!セラ・ヤマト!」

 

 

この男の存在は、許されてはいけない。

 

この大きな力の存在を、許してはいけない。

 

 

「何で、お前にそんなことを言われなきゃならないんだ!」

 

 

セラは、自分に対して放ってくる言葉に憤りを覚える。

何故、そんなことを言われなければならないのだ。

 

クルーゼと戦った時と、同じ…、いや、それ以上の怒りを抱いていた。

 

あの時、クルーゼはクルーゼとして自分の存在を許さないと思いをぶつけてきた。殺意をぶつけてきた。

だが、こいつは違う。

 

 

「お前は自分がラウ・ル・クルーゼだと言ったな!だが、あいつは俺が殺したはずだ!」

 

 

セラはライフルからサーベルに持ち替え、レジェンドに向かって斬りかかっていく。

 

 

「あいつが生き返ったとでもいうのか!」

 

 

レジェンドも、ライフルからサーベルに持ち替え、リベルタスの斬撃を迎え撃つ。

 

 

「あぁ!確かにラウは死んだ!だが、俺もまた、ラウだ!」

 

 

「クローンか!だが、お前とラウは違う人間だろう!?」

 

 

クローンだということはわかる。

しかしわからない。何故、自分はクルーゼだと言い切っているのか。

 

 

「何度も言わせるな!俺はラウ・ル・クルーゼだ!」

 

 

レジェンドが弾かれるように後退してリベルタスから距離を取る。

そして、自分のまわりにドラグーンを戻すとリベルタスに向けて同時にビームを斉射する。

 

 

「俺は、ラウなんだ!これが、俺の運命なんだ!」

 

 

レイの脳裏によみがえる、デュランダルの言葉。

 

決まった日に自分に会いに来ていたラウが、ある時からぷつりと来なくなった。

その時、レイはデュランダルに聞いた。

 

 

『ラウは?ラウはどこ?』

 

 

ラウに会いたい。まだ子供だったレイは、ただその思いだけでデュランダルに問いかけた。

 

だが、レイの問いかけに対するデュランダルの答えは無情だった。

 

 

『ラウは…、もういない』

 

 

『え…?』

 

 

何が何だかわからなかった。

ラウは、もういない。自分に会いに来てくれないのか。

 

ラウに会いたい。ラウに会いたい。

 

 

『だが…。君も、ラウだ』

 

 

混乱するレイに、振り返って微笑みかけながら告げるデュランダル。

デュランダルはレイに歩み寄り、その手に持つ小さなケースを手渡す。

 

レイは、何の疑問も持たずにデュランダルが差し出すケースを受け取った。

そのケースの中に入っているのは、多数のカプセル。

 

 

『これが、君の運命なんだよ』

 

 

この時から、レイは自分に課せられた運命通りに生きてきた。

デュランダルの命令通りに任務を遂行し、後に来る自分の死の時まで、デュランダルの騎士として生きることを決めた。

 

 

「お前が、ここで俺に落とされるのも運命だ」

 

 

この世の全ての者に、運命というのは課せられている。

 

 

「運命に逆らう者がいるから、こうして世界は混乱に陥る!」

 

 

レイはサーベルを手に、リベルタスへと向かっていく。

 

 

「ラウも、自分に課せられた運命に逆らったからあんな無様な最期を遂げたんだ!」

 

 

何故、ラウがこんな奴に殺されたのだ。

それは、運命に逆らったからだとギルは言った。

 

運命に逆らわずに生きていれば、ラウは死は免れることはなかったものの、もっと真っ当な最後を迎えられただろうとギルは言った。

 

 

「何故貴様らは、ギルが世界に平穏をもたらすための計画の実行を止めようとする!」

 

 

レイは、リベルタス目掛けてサーベルを振り下ろす。

 

 

「デスティニープランこそ、人類最後の砦だということがわからないのか!」

 

 

「…」

 

 

レジェンドが振り下ろしてくるサーベルの切っ先を、セラは眺める。

 

こいつは、なんて言った?

 

セラは、両腕のビームシールドを展開し、腕を交差させてレジェンドのサーベルを防ぎ切る。

 

クルーゼが、無様な最期を遂げた?

 

 

「ふざけるな」

 

 

セラは、両腕から伝わる振動を受け止めた直後、力一杯レジェンドに蹴りを加えて弾き飛ばす。

 

 

「っ!」

 

 

レイは、崩れかける機体の体勢を整えながら、再びサーベルで斬りかかろうとリベルタスを見据えた。

 

だが、レイの動きはそこで止まった。

 

 

「…エターナル?襲われているのか」

 

 

セラは、横目で三機のドムに襲われているエターナルを見つけ、機体をその場に向かわせる。

 

 

「ま、待て!」

 

 

レイも、リベルタスを追ってレジェンドを動かす。

 

 

(何だ…、あの凄まじい気迫は…!)

 

 

先程、リベルタスから発せられた気迫。

それは、レイを気圧すほどに凄まじいものだった。

 

 

「っ!」

 

 

リベルタスが向かっているのは、エターナルの方向だった。

エターナルの付近ではドムの三機が固まってエターナルに攻撃を与えていた。

 

リベルタスはエターナルを助けに行ったのだとレイは悟る。

 

 

(俺は、歯牙にもかからないということなのか!?)

 

 

自分との戦いの最中に、他に気を向けるどころではない。

気を向け、さらに他の奴の助けに行く。

 

 

「俺を倒す程度、余裕だと言いたいのか!セラ・ヤマトぉっ!」

 

 

お前を倒すことはいつでもできる。だから、他の場所の援護に行く。

そう言われているようで、レイの心に怒りが燃え上がる。

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

レイの目の前で、リベルタスが三機のドムをドラグーンを使ってエターナルのまわりから追い払っている。

 

その隙を狙って、レイはドラグーンをリベルタスの方へと向かわせる。

 

 

「!?」

 

 

その時、リベルタスのカメラがこちらを向いたかと思うと、リベルタスのスラスターが開き、翼が広げられる。

 

そしてリベルタスはこちらに突っ込んでくる。

 

突っ込んでくるリベルタスを狙って、レイはドラグーンのビームを斉射するが、リベルタスは舞うようにしてビームをかわし、そしてレジェンドの懐に潜り込むとサーベルを抜き放つ。

 

 

「お前は言ったな。クルーゼは運命に逆らったから、無様な最期を迎えたと」

 

 

セラは、抜き放ったサーベルをビームシールドで防ぐレジェンドを睨みながら言い放つ。

 

 

「俺はそうは思わない。あいつは、運命に逆らって生きていたからこそ強かった」

 

 

「何を…!」

 

 

セラの言葉に反論しようと、レイが口を開く。

だが、それよりも先にセラが口を開いた。

 

 

「別に俺の言葉を理解しろって言ってるわけじゃない」

 

 

セラはレジェンドに向き直りながら言う。

 

 

「だから、見せてやるよ…。運命に逆らって生きる奴の強さを」

 

 

セラ自身も、復讐という課せられた運命に逆らって生きている人間。

そして、相手は自分の運命に従って生きている人間。

 

 

「お前みたいに、戦おうともせずにただ、運命に従ってる奴の弱さを!」

 

 

「ふざけるな!お前みたいな愚かな存在に、この俺が負けるはずがない!」

 

 

リベルタスとレジェンドは同時に飛び出す。

 

戦いの第二ラウンドが、始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE65 戻る記憶と動く陰謀

結構強引ですが、あの人が戻ります


咄嗟の判断だった。いや、判断ではないかもしれない。

考える前に、すでに行動し始めていたのだから。

 

 

「アークエンジェルはやらせん!」

 

 

アークエンジェルに向けてガーティ・ルーのローエングリンが発射された時、考える間もなくネオは動き出していた。

機体のバーニアを吹かせ、最大速度でアークエンジェルの眼前へと向かう。

 

 

(大丈夫だ!あの時とは違う!アカツキのヤカタノカガミなら…!)

 

 

ネオは機体をアークエンジェルの前で止めると、向かってくる砲撃に向けて両腕を突き出した。

 

直後、ローエングリンがぶつかった衝撃がネオの体全体に伝わってくる。

ネオは歯を食い縛って伝わる衝撃に耐えながら、必死に両腕に力を込める。

 

アカツキの装甲、ヤタノカガミは全てのビーム兵器を跳ね返す能力を持つ。

能力上だけならば、今受けているローエングリンだって跳ね返すことができるはずだ。

 

 

『俺って…、不可能を可能に…!』

 

 

アカツキが白い光に包まれた瞬間、ネオの脳裏に見覚えのない光景が過る。

 

今と同じように、白い光に包まれ、それと同時に灼熱の炎に体を焼かれたあの時。

かつての愛機、ストライクに搭乗し、今と同じようにアークエンジェルの眼前に飛び込んだあの時。

 

機体が四散し、意識が闇に飲み込まれて次に浮かび上がってきたのはとある医療施設の中の寝台の上だった。

薬のせいか視界も思考も定まらず、だがその定まらない視界に銀髪の男が映される。

 

 

『…るほど。エンデュミオンの鷹…。……役に立って……よう』

 

 

『…の処理は、……過去を……』

 

 

途切れ途切れにしか思い出せない交わされる言葉。

だが、その中のある一言が、ネオの失われた記憶を呼び覚ます。

 

次いで景色は切り替わり、映されたのは栗色の髪をたなびかせた美しい女性。

褐色の目に不安をたたえながら、こちらにやってくる美しい女性。

 

彼は、コックピットハッチを開けて女性に手を差し伸べる。

 

 

『すぐに戻ってくるさ。勝利と共にね』

 

 

交わした言葉、唇。祈るように自分を見つめる綺麗な瞳。

 

それに続いて、次々に映し出される懐かしい面々の顔。

 

セラにシエル、キラにラクス。トールにミリアリアに、アークエンジェルのクルーたち。

 

 

『地球軍第七機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉だ』

 

 

名乗る自分を、驚きを含んだ瞳で見つめてくる女性は、生真面目に敬礼を取る。

 

 

『地球軍第二宙域第五特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です』

 

 

そうだ。ここから全てが始まったんだ。

 

時間にしてはたった一瞬。だが、彼にとってはとても長く感じられた。

 

彼は、コックピットを包んでいた光が四散していくのを目にする。

ヤタノカガミ、アカツキの特殊装甲は、陽電子砲ローエングリンをも跳ね返したのだ。

 

 

「俺は…」

 

 

今ここで、全てを取り戻したのだ。長い空白の時間を飛び越えて。

 

 

 

また、失われると思った。

マリューは瞬きもできずに白い光に見入った。

 

もう、自分の元に戻ってきてくれないと思った。

 

だが光の残像が消えたすぐ後、視界に映ったのは傷一つなく輝く黄金の装甲の機体。

 

ローエングリンを跳ね返したアカツキは、この事態を対処できずにいたガーティ・ルーにライフルを向ける。

間髪入れずに放たれたビームは、お返しとばかりにガーティ・ルーの砲塔を吹き飛ばした。

 

 

「ぁ…ぇ…」

 

 

か細くマリューの唇から声が漏れる。

 

マリューは呆然と座り込みながら目の前の光景を眺めていた。

失ったと思われた存在が、まだこうして生き永らえている。

 

艦橋のモニターが、クルー全員の目の前で瞬いた直後、男の顔を映し出した。

 

 

『大丈夫だ…』

 

 

男は笑みを浮かべながらマリューを見つめる。そして、続けて再び口を開いた。

 

 

『俺はもう、お前の元から離れたりしない!』

 

 

帰ってきてと、どれだけ祈っただろう。マリューは、その祈りが叶えられたことを知る。

 

アカツキは、背面のバックパックからドラグーンを切り離し四方に飛び立たせる。

七基のドラグーンは巧みにアークエンジェルのまわりを包み込む。

 

直後、ガーティ・ルーが反撃のビームを放ってくるが、ドラグーンが作り出したビームフィールドによって船体に届く前にビームが四散する。

 

 

『終わらせて帰ろう。マリュー』

 

 

深く頷きながら、男は力強く言う。

 

 

「ムウ…!」

 

 

帰ってきたのだ。生きているのだ。自分が愛した人が。

もう、自分から離れていくことはないのだ。

 

やっと、腕の中に帰ってきたのだ、

 

ムウ・ラ・フラガが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリーダムのサーベルとブレイヴァーのハルバートが何度もぶつかり合い、火花を散らす。

両者は同時に剣からライフルに持ち替えて互いに撃ち合う。

 

 

「このまま戦っていても埒が明かない…」

 

 

フリーダムとブレイヴァーの戦いはひたすらに、互いの攻めと守りが入れ替わりながら繰り返されていた。

 

フリーダムのドラグーンがブレイヴァーを追い込んでいくと思いきや、ブレイヴァーが攻めに転じ、刃でフリーダムを追い込んでいく。

 

戦況を動かすためにも、どちらかがどちらかの予想を超える動きを見せなければならない。

だが、拮抗した戦い程、変化を及ぼす動きは危険だ。

 

 

『だが…、あいつを落とすには危険もやむを得ない』

 

 

アレックスは、ハルバートの連結を解いてフリーダムに突っ込んでいく。

 

キラは、突っ込んでくるブレイヴァーに向けてドラグーンでビームを一斉照射させる。

構わずブレイヴァーはビームをかわしながらフリーダムに突っ込んでいく。

 

そして、ブレイヴァーはハルバートで斬りかかり、フリーダムはサーベルでブレイヴァーの斬撃を防ぐ。

ここまでは、これまでの流れと同じだった。

 

だが、そこからブレイヴァーは左足のビームブレードを展開し、フリーダムのコックピット目掛けて振り上げる。

 

 

(防いでくる!)

 

 

アレックスはフリーダムがこの蹴り上げを防いでくると予想する。

 

結果、予想通りフリーダムはブレイヴァーの蹴り上げをビームシールドを展開して防いでくる。

そしてブレイヴァーの背後からドラグーンが狙ってくる。

 

これも、アレックスには想定済みだった。

ドラグーンが狙っているなら、それを撃たせる前にフリーダムを弾き飛ばせばいい。

 

フリーダムとブレイヴァーを比べれば、ブレイヴァーの方がパワーは勝っている。

 

アレックスは左足を下ろし、直後左手をフリーダムの右手を組み合わせる。

 

 

「ぁあっ!」

 

 

「くっ!?」

 

 

ブレイヴァーが力一杯押してフリーダムを弾き飛ばす。

キラは、弾き飛ばされた勢いを使って距離を取ろうと試みる。

 

しかし、それもまたアレックスの頭の中には想定されていた。

フリーダムが距離を取る前にアレックスはフリーダムの懐に潜り込み、ハルバートを振り上げる。

 

ドラグーンがビームを斉射してくるが、その前に僅かに機体をその場からずらす。

だが被害は免れず、ブレイヴァーの左腕をビームが貫き爆散する。

 

 

「構うか!」

 

 

それでも構わずアレックスはフリーダムに斬りかかる。

フリーダムもその場から離脱しようと後退しながら、ビームシールドを展開して腕を割り込ませようとする。

 

 

(ダメだ!間に合わない!)

 

 

キラはわかっていた。回避も防御も間に合わない。

自分が斬り裂かれるのは避けられないと、キラは悟っていた。

 

 

「ラクス…」

 

 

僕は…、ラクスを置いて死ぬのかな…。

しかも、アスランに殺されるのか…。

 

何とか攻撃を防ごうと機体を動かすも、心の中では諦念で満ちていたキラ。

まさか、昔からの親友にやられるとは皮肉なものだ。

 

 

「終わりだ…!」

 

 

ブレイヴァーの手の中にあるハルバートを振り抜けば、フリーダムを斬り裂ける。

これで、自分の念願が達成できるのだ。

 

それ、なのに…

 

 

「…え…?」

 

 

キラは呆然とブレイヴァーの様子を眺める。

 

いつまでたっても、ブレイヴァーの斬撃が来ない。

 

 

「何故…、動かない…!」

 

 

ブレイヴァーが動かない。

アレックスの体が動かないのだ。まるで、動くことを拒絶しているように。

 

 

(拒絶…。俺が、フリーダムを討つことを拒絶しているとでもいうのか…!?)

 

 

先程もそうだった。

その時は、SEEDを解放して無理やり迷いを振り払ったが、何故か今回はそれができない。

 

 

『キラ…』

 

 

(何だ…)

 

 

まるで、自分が自分でないみたいだ。

 

 

『キラを討ってはダメだ…』

 

 

(キラ…だと…?)

 

 

自分ではない誰かが、自分に語り掛けてくる。

キラを討ってはダメだ、と。

 

キラ、そんな奴俺は知らない。

 

 

(知らない…はずなのに…。何故!?)

 

 

その名前を、俺は懐かしいと感じている!?

 

 

「っ、あああああああああああぁっ!!!」

 

 

アレックスは、止めていたハルバートを振り切る。

だが、フリーダムに時間を与えすぎた。フリーダムは余裕をもって自分の斬撃を回避する。

 

 

「目障りなんだ!目障りなんだよ、お前はぁっ!!」

 

 

アレックスは後退するフリーダムに追いすがる。

追いすがりながら、フリーダムの懐に再び潜り込みハルバートを振り上げる。

 

 

(アスランの動きが鈍い!)

 

 

一方のキラ。

傍から見ていたら、フリーダムの絶体絶命だろう。ブレイヴァーが懐に入り込んでいるのだから。

 

しかしキラにとってはチャンスだった。

ブレイヴァーの動きが先程と違って鈍いことを、キラは見抜いていた。

 

ここを逃す手はない。

キラはSEEDを解放する。

 

スラスターを逆噴射させたまま、ブレイヴァーとの間合いを計る。

そして、両腰のサーベルを同時に抜き放つ。

 

 

「くぅっ!?」

 

 

コックピットに突然奔る衝撃。

思わず目を瞑ってしまったアレックスが見た次の光景は、両手に握るサーベルを振り切った体勢で動きを止めていたフリーダムだった。

 

ブレイヴァーのコックピット内には、機体の被害を報せるアラートが鳴り続けている。

 

 

「これで…、終わりなのか…?」

 

 

呆気なかった。呆気なさ過ぎた。

 

そのためか、戦っている最中にずっと感じていた闘志も、フリーダムに対する憎しみも、まるで最初からなかったかのように消え失せていた。

 

だからなのだろう。

 

 

「アスラン…」

 

 

「…っ!」

 

 

何度も何度も聞いてきて、鬱陶しく感じてきた、うざったく感じてきた、憎々しく感じてきたこの声に心地よさを感じたのは。

 

 

「キラ…?」

 

 

アレックスの頭の中でフラッシュバックが起こる。

 

記憶が、逆流を起こす。

 

今までのフリーダムとの戦い、デュランダルからフェイスに任命された時、見知らぬ場所で自分は寝かされていた。

そして、次の瞬間から、アレックスの中に、過去が取り戻されていく。

 

母の顔と父の顔。

力がなかったせいで守れなかったと思い込んだ、母を失った時。

自分が間に合わなかったせいで暴走を生み出してしまった父。

責任を感じ、自身の命を賭けて止めた大量殺戮兵器。

 

友の顔。

何かにつけて因縁を付けてきたイザーク。だが、馴れればどこか微笑ましい気分にもなっていた。

むしろ、そうでなければイザークじゃないとさえ感じていた。

初めはイザークと同じで因縁を付けてきたが、いつの間にか彼が自分たちのまとめ役になっていたディアッカ。

守れなかった。自分の目の前で死んでいったニコル。

 

小さい頃は、ずっと共に遊んでいた。

時には…というより、いつも悪戯をして、一緒に怒られ続けた。

悪戯をする相手を決めるのは、ほとんどがセラだった。

そして、それに乗っていたのは、自分ともう一人。

 

 

「…ずいぶん、手荒な目覚ましだな。キラ」

 

 

「自分で起きない時は、叩かないと君は起きないからね」

 

 

「…そうだったな」

 

 

いつもは、キラが寝坊をしてセラとアスランが起こしていた。

だが、いつもと違うことは時に起こることもある。

 

アスランが寝坊をして、キラとセラが起こすということも時にはあった。

そして、アスランが寝坊をするときは決まって中々目を覚まさないのだ。

キラとセラの起こしかたはいつも手荒で、ひどい時はプラスチックのバットで自分の頭を叩いた時だった。

 

頭がガンガンし、キラとセラに文句を言う。

そして、文句を言うアスランに決まってキラとセラが言う言葉。

 

 

「『起きないアスランが悪い」』

 

 

「…あぁ、そうだな」

 

 

今のキラと、過去のキラとセラの言葉が重なる。

アスランはまるで憑き物が取れたかのように綺麗な微笑みを浮かべる。

 

 

「起きない俺が悪いな…」

 

 

子供の頃を思い出す。

アスランが寝坊をした時は決まって喧嘩になるのだ。

それは何故か。

 

アスランがムキになるのだ。キラとセラに起こされ、手荒な起こし方をするキラとセラに文句を言って、あっさり言い返され。

それがアスランの癇に障り、ついアスランがムキになってしまうからだ。

 

その事を思い出すアスラン。

 

 

「変わらないな、キラ」

 

 

「そうかな?寝坊をするときは中々起きない、アスランも変わらないよ。それに、セラだって僕と同じことをすると思う」

 

 

「…俺たち三人は、変わってないのかもしれないな」

 

 

結局、大人になったと思い込んでいてもあの時と、子供の時と変わってないのかもしれない。

 

 

「アスラン、一度エターナルに戻ろう。君の機体を収容しなくちゃ」

 

 

「…いいのか?」

 

 

キラが自分をエターナルに載せると言ってくれるが、アスランは戸惑いを見せてしまう。

 

いくら自分が記憶を失っていたとはいえ、自分は彼らを襲っているのだ。

殺意を向け、殺そうとしていたのだ。

そんな自分を、快く受け入れてくれるのだろうか。

 

 

「大丈夫だよ。みんな、アスランのことを心配してるんだ」

 

 

「…」

 

 

アスランは、俯いてじっとする。

本当に、キラの言葉に甘えていいのだろうか。

 

 

「カガリだって…。アスランが生きてることは言えなかったけど…、ずっと、待ってるんだ」

 

 

「っ…。カガリ」

 

 

自分の人生の中で、一番守りたいと思った女性。

男勝りで、口調も荒いがやはり男とは違う弱さも、強さも持っている人。

 

初めて、本気で好きだと、愛していると思った女性。

 

 

「アスランは、どうしたい?帰りたくないの?」

 

 

「…その聞き方はずるくないか?」

 

 

キラの言い方では、まるで自分がみんなの元へ帰りたくないと思っているようではないか。

 

 

「帰りたいに…、決まってる」

 

 

帰りたいに決まっているだろう。

また、みんなと一緒にいたいに決まっているだろう。

 

フリーダムが、キラが手を差し伸べてくる。

アスランはその手を、わずかな逡巡の後にとるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦い続けながら、その戦闘宙域は少しずつ移動していた。

本人たちの本意でなくても、激しいぶつかり合いを繰り広げながらその位置は少しずつずれていった。

 

それは、シンたちにとって幸運だった。

そのずれが、レクイエムの位置に少しずつ近づけているのだから。

 

 

「このっ!」

 

 

シンは、フォビドゥンが放ったフレスベルグをかわす。

プラズマ砲は曲がり、再びデスティニー目掛けて向かってくるが、シンは機体を翻して再び回避する。

 

回避を終えたデスティニーに向かって、フォビドゥンがニーズヘグで斬りかかっていく。

 

 

「同じ手を!」

 

 

これは、カラミティとフォビドゥンを同時に相手にしていた時と同じ戦法だ。

カラミティの砲撃で崩し、フォビドゥンの鎌でとどめを刺す。

 

だがシンはこの戦法を初見で回避しているのだ。

同じ戦法は、当然通用するはずもなく。

 

 

「なっ…」

 

 

シンはアロンダイトを抜き放ち、振り下ろされたニーズヘグを斬り裂いた。

 

 

「お前の動きは、もう視えてる!」

 

 

シンは、振り上げたアロンダイトを今度は振り下ろす。

振り下ろされたアロンダイトをフォビドゥンはかわすが、シンは逃がさないようにライフルを取り、引き金を引く。

 

 

「無駄だ!」

 

 

ビームはフォビドゥンに向かっていくが、この機体にはこれがある。

 

 

「くっ…、厄介な機能だ!」

 

 

ゲシュマイディッヒ・パンツァー。

ビームを婉曲させ、軌道を変えて命中から避ける地球軍が開発した機能。

 

フォビドゥンの動きは視えても、この機能によってシンは止めを刺せずにいた。

さらに、フォビドゥンはニーズヘグを失くし、デスティニーに接近戦を中々挑まなくなるだろう。

 

遠距離攻撃は、通用しない。シンがフォビドゥンに勝つにはアロンダイトで斬りかかるしかないのだが。

 

 

(でも、あいつにだって決定打はないんだ!)

 

 

かなり特殊な武装になっているせいか、シンたちが相手している三機は、一対一という状況にあまり向いていない。

 

シンは、アロンダイトを握ってフォビドゥンに向けて突っ込んでいった。

フォビドゥンは、デスティニーに向けてフレスベルグを連発する。

 

だが構わず、シンはフォビドゥンに突っ込んでいく。

 

シンはフォビドゥンと戦い続けていて気づいたことがあった。

フォビドゥンが放つフレスベルグ。これは、曲げることは出来てもUターンさせることはできないということだ。

 

つまり、このまま突っ込み続けていれば、フレスベルグは一度かわすだけでいい。

ただのビームと変わらないということ。

 

 

「くそっ!くそっ!」

 

 

フォビドゥンは、我武者羅にフレスベルグに加えて、レールガンエクツァーンを連射する。

 

 

「この程度っ」

 

 

しかしシンには通用しない。シンはビームシールドを展開し、フレスベルグは防ぎ、エクツァーンだけをかわしてフォビドゥンに接近していく。

片手で握っていたアロンダイトの柄に、もう片方の手も握らせる。

 

スラスターの出力を上げ、スピードも最大まで上げる。

 

フォビドゥンは、ミラージュコロイドによって分身したかのようにぶれるデスティニーの姿を捉えきれない。

シンは、スラスターの出力を上げてからは簡単にフォビドゥンの懐に潜り込むことができた。

 

 

「はぁっ!」

 

 

シンは即座にアロンダイトを振り上げる

これで、フォビドゥンを斬り裂いて決着…とは、いかなかった。

 

フォビドゥンは咄嗟に後退してシンの斬撃を回避したのだ。

 

 

「はっ…ははっ」

 

 

フォビドゥンは、フレスベルグを放とうとする。

デスティニーはアロンダイトを振り切った状態で隙だらけだ。

 

今なら、簡単に奴を貫ける。

 

 

「まだだ!」

 

 

だが、シンの攻撃はまだ終わっていなかった。

シンはアロンダイトを握っていた片手を放す。

 

そしてその片手をフォビドゥンに向けて翳した。

シンは、引き金を引く。

 

パルマフィオキーナが搭載されている方の手だった。シンがアロンダイトを離した手は。

 

デスティニーの掌から放たれた砲撃は、フォビドゥンにゲシュマイディッヒ・パンツァーを展開させる暇も与えずに機体を貫いた。

 

 

「あ…ぁ…」

 

 

何故、奴は手を翳しただけなのに。

掌から、砲撃が…?

 

ファルは、状況を飲み込むことができなかった。

ただ掌を翳しただけなのに、その掌から砲撃が出てきた。

 

それだけで、この自分が負けた。

ふざけるな、そんなので俺が…。

 

 

「ふざけr…」

 

 

言い切る前に、意識は闇に包まれた。

 

シンの目の前で爆散するフォビドゥン。

厄介な敵だったが、一対一に持ち込んでからはそれなりに楽に倒すことができた。

 

後は、ルナマリアとハイネがそれぞれ相手をしているカラミティとレイダー。

どちらに援護をしに行くかを選ぶならルナマリアだが、カラミティは一対一で戦うならば楽に戦うことができるはず。

厄介なのはレイダーだ。レイダーは馬力もある上に、武装のバランスも整っている。

 

サーベルやライフルなどの基本的武装はないが、変形機構も搭載されているためかなり戦いづらい相手。

 

 

『シン、お前はルナマリアの援護に行け!』

 

 

「ハイネ!」

 

 

どちらの援護に行くかを考えていると、ハイネから通信が入った。

ハイネは、シンにルナマリアの援護に行くように告げる。

 

 

『カラミティを倒したら、お前たち二人でレクイエムに行くんだ!』

 

 

「そんな!それじゃハイネは!?」

 

 

シンがルナマリアの援護に向かえば、間違いなくハイネよりも先に戦闘は終わるだろう。

だがハイネの指示の通りにカラミティを倒してすぐにレクイエムに向かえば、ハイネが取り残されてしまうことになる。

 

いくらハイネでも、一人で取り残されてしまえばどうなるかはわからない。

 

 

『シン、俺たちの役目はプラントを守ることだ。プラントにいる人たちを守ることだ。だから行け!』

 

 

「ハイ…ネ…」

 

 

『シン!行くんだ!』

 

 

ハイネに後押しされて、シンは機体をインパルスが戦闘している方向へと向ける。

ハイネを置いて、シンは機体を動かす。

 

すぐに、交戦するインパルスとカラミティの姿は確認できた。

シンはライフルをカラミティに向けて引き金を引く。

 

ライフルから放たれた光条は暗闇を斬り裂き、真っ直ぐにカラミティに向かっていく。

 

 

「…っ!?」

 

 

カラミティは、寸での所で向かってくる光条に気づいて回避する。

 

カラミティのその動きを見て、ルナマリアは向かってくるデスティニーに気づく。

 

 

「シン!」

 

 

「援護は任せろルナマリア!」

 

 

「うん!」

 

 

インパルスは、持っていたライフルからサーベルに持ち替えてカラミティに向かっていく。

 

 

「このっ…!雑魚がっ!」

 

 

カラミティは肩にかけられる四本の砲塔、シュラークを全てインパルスに向けて同時に放つ。

 

ルナマリアは四つの砲撃を機体を翻しながらかわし、さらにカラミティに突っ込んでいく。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

カラミティの胸部の砲口、二つのスキュラが火を噴こうとする。

それを見たシンは、カラミティに向けてライフルの引き金を引く。

 

スキュラを放つ直前に、カラミティはシンが放ったビームをかわすために回避行動を起こす。

それでもカラミティは、スキュラの射線上にインパルスを置く。

 

 

「まずい!ルナ、避けろ!」

 

 

射線をずらしてインパルスを救おうとしたのだが、カラミティは射線をずらさぬままに機体を移動させてビームを回避した。

インパルスは、射線上にいるまま。

 

シンはルナマリアに避けるように叫ぶ。

だが、ルナマリアはまだ突っ込む。サーベルを握って、カラミティに斬りかかろうとする。

 

 

「はっ!こいつを落としたら、あんたの番だよ!」

 

 

カラミティを駆るエリーには、もうデスティニーしか見えていなかった。

今、撃つスキュラでインパルスは落ちる。エリーの中でそれは決定事項だった。

 

だがそれが、エリーの中で油断となっていた。

 

スキュラを放った瞬間、ルナマリアは機体を上昇させた。

急上昇したインパルスの僅か下を、放たれた二本のスキュラが通り過ぎていく。

 

 

「なぁっ!?」

 

 

エリーは、必殺だと思っていた自分の攻撃をかわされたことに驚愕する。

もし、エリーが油断せずにしっかり照準を合わせてスキュラを放っていればインパルスを落とせていただろう。

 

エリーの中の油断が、この事態を招いた。

そして、この事態が全てを決定づけることになった。

 

 

「これで終わりよ!」

 

 

ルナマリアはカラミティの上方からサーベルを振り下ろす。

振り下ろされたサーベルは、肩部の装甲からまっすぐに、真っ二つにカラミティを斬り裂いた。

 

斬り裂かれたカラミティは半分に二つに分かれ、爆発を起こす。

 

ルナマリアは起こる爆発に目もくれず、援護をしてくれたデスティニーの方に機体を向ける。

 

 

「ありがと、シン」

 

 

「…危なっかしいことしやがって。無事でよかったよ、ルナ」

 

 

シンとルナマリアは言葉を掛け合い、機体をレクイエムの方に向ける。

 

 

「ハイネからの伝言。俺たちの戦闘が終わったら、二人でレクイエムに向かえって」

 

 

「え…、でもハイネは?」

 

 

「…行け、て」

 

 

ハイネからの言葉を聞いたルナマリアは、シンに問いかける。

そして、返ってきたシンの答えを聞いて悟る。シンも、自分と同じことをハイネに聞いたのだと。

 

ハイネの答えは、シンと同じ。

 

行け

 

 

「…わかった。行こう」

 

 

何を言ってもハイネは自分の考えを変えないだろう。

ならば、自分たちはハイネの言う通りレクイエムに向かうだけ。

 

シンとルナマリアは、レクイエムに向けてスラスターを噴かせる。

何と幸運か。まわりのモビルスーツは、他のモビルスーツと戦闘しており、自分たちを囲んでくるような機体が出てこない。

 

レクイエムがどんどん近づいてくる。

あんな威力があるのだ。相当の大きさがあるのはわかっていたのだが…。

 

 

「でかいな…」

 

 

「うん…」

 

 

改めて目にすると、その迫力に呑まれかけてしまう。

本当に、自分たちはあんな巨大兵器を破壊することができるのだろうか。

 

一瞬、自分に疑いを持ったその時、シンとルナマリアは視界の端である物を捉えた。

襲い掛かるモビルスーツとモビルアーマーを斬り裂きながらレクイエムに向かっていくモビルスーツを。

 

相当な腕があることは一目でわかる。

そのモビルスーツは、止めを刺していないのだから。

斬り裂くのは全てメインカメラか武装だけ。エンジンやコックピットに傷は与えず爆散はさせていない。

 

 

「ヴァルキリー…、シエル!」

 

 

その機体を視界の中心に捉え、シンはその機体の名を叫ぶ。

そして、その機体に搭乗しているだろうパイロットの名前を。

 

ヴァルキリーも、動きを止めて見つめる自分たちの存在に気づく。

シエルも、気づいただろう。

 

 

「…シン、ルナ」

 

 

シエルの、自分たちを呼ぶ声は聞こえる。

 

 

「シエル…!」

 

 

ルナマリアが、悲痛な声でシエルを呼ぶ。

 

戦いたくない。そんなルナマリアの想いが手に取るようにわかる。

だって、それは自分も同じだから。

 

 

「…何で、こうなるんだよ」

 

 

シンは、機体をヴァルキリーに向ける。

 

 

「何で、戦わなきゃいけないんだよ!」

 

 

「シン!」

 

 

シエルの声を振り切って、シンは機体をヴァルキリーに突っ込ませる。

アロンダイトを振りかぶり、ヴァルキリーに向けて振り下ろす。

 

ヴァルキリーも、二本のサーベルを交差させて振り下ろされるアロンダイトを防ぐ。

 

 

「シン、こんなことしてる場合じゃないよ!レクイエムを何とかしなきゃ!」

 

 

「わかってる!だけど、それはあんたを落としてからだ!」

 

 

すでに上からの報告、命令は出ている。

オーブ軍が、メサイアを襲撃してきた。月で戦闘しているオーブ軍もレクイエムを破壊すればザフトを襲うだろう、と。

その前に、地球軍もオーブ軍も倒せ、と。

 

 

「守りたいものがあるんだ!それを壊そうとするやつを、俺は許さない!」

 

 

シンはアロンダイトに力を込める。

 

 

「くぅっ…!」

 

 

シエルも、二本のサーベルに力を込めてアロンダイトを押し返す。

 

 

「シン…、シエル…」

 

 

ルナマリアは、どうすればいいかわからず、その場でただ経緯を見守ることしかできない。

 

ルナマリアの目の前で、デスティニーとヴァルキリーが弾かれるように同時に離れる。

だが、両者はすぐに機体を互いに向けて互いに斬りかかっていく。

 

両者の交錯は加速しながら、なおも激しく火花をちらつかせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カラミティ、フォビドゥンのシグナルがロスト!』

 

 

「レイダーは?」

 

 

『シグナルは無事です。ですが、戦闘は不利です!』

 

 

ウォーレンは報告を耳に入れながら考える。

もう、ここしか勝つ機会はないだろう、と。

 

 

「ピースメーカー隊を発進させろ。それと同時に…、わかっているな」

 

 

『はっ!』

 

 

管制との通信を切る。

会話をしながら目の前の相手と戦うことはかなり難しい。

 

 

「何を話していたのでしょう?」

 

 

「敵の情報を知りたいか?だが悪いな。俺は、バカじゃないんでね!」

 

 

アナトが対艦刀で斬りかかってくるのを、ウォーレンはサーベルの出力を上げて抑える。

 

ウルトルのバックパックを変更してからも、戦闘はウォーレンが不利な状態で進んでいた。

だが、クレアはその先頭に違和感を感じていた。

 

 

(この男…)

 

 

ウルトルが後退して自分から距離を取る。

そう、この動きもクレアの違和感の原因の内の一つだ。

 

 

(時間稼ぎをしている…?)

 

 

自分に勝つ気がないように見えるのだ。

まるで、時間稼ぎをしているかのように。

 

クレアは目を鋭くさせてウルトルを睨む。

 

 

「何をするつもりかはわかりませんが、あなたはここで討ちます」

 

 

ただの私情ではない。

そうしなければ、何かとんでもないことが起きるような、そんな予感がするのだ。

 

早く、この男を倒さなければ。

 

クレアは、ドラグーンをウルトルに向かわせる。

ウルトル目掛けてビームを放つが、ウルトルは巧みに動いてドラグーンのビームをかわす。

 

そして、そこから反撃…ではなく、アナトから距離を取っていく。

 

 

「待て!」

 

 

クレアはすぐにウルトルを追いかける。

ウルトルは、アナトから距離を取りながら振り返り、バックパックからドラグーンを切り離してアナトに向かわせる。

 

クレアもドラグーンを操って自分を守る様に配置させる。

 

 

「…このまま、俺に付き合ってもらおうか?」

 

 

ウォーレンは、アナトを見ながらぼそりとつぶやく。

この機体を放っておけば、必ず自分の計画の障害になる。

 

それをさせないためにも、ここで縛りつけておかなければ。

メサイアを、デュランダルを殺すまでは

 

 

「ここで俺と踊ってもらう!」

 

 

ウォーレンは、唇を歪ませながら告げる。

 

次の瞬間、再び死の雨が降りしきり始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE66 新人類

かなり強引に進めてしまいました
けど、素直に書いたらまじで終わらないってこれは…


メサイア付近にて繰り広げられている、ザフト軍とオーブ軍の戦いは、当初こそザフト側が押しに押していたのだが、ある時を境に形勢は膠着を見せ始めていた。

 

デュランダルは、戦闘の様子をモニターで見つめながらオペレーターに問いかける。

 

 

「まだ落ちないのか?エターナルは」

 

 

「はっ、撃墜報告はまだ…」

 

 

オーブ側が盛り返しを見せ始めたのは、ある機体がメサイア付近に現れてからだ。

 

 

(セラ・ヤマト…。やはり、君を落とさぬ限り、勝利はない…か)

 

 

心の中でつぶやきながら、デュランダルはかつての友が言っていた言葉を思い出していた。

 

 

『セラ・ヤマトは、ただのコーディネーターではない。全てを超越した、人を超えた人…、とでも言うべきか』

 

 

この言葉に対し、デュランダルはこう問い返した。

 

 

『だがそれは、キラ・ヤマトに対しても同じことを言えるのではないか?』

 

 

セラ・ヤマトの兄、キラ・ヤマトもまた、セラ・ヤマトと同じ最高のコーディネーターとして生み出された。

全てを超越した人。この言葉は、キラ・ヤマトにもふさわしいと言える。

 

だが、友はゆっくりと首を横に振ってこう言った。

 

 

『次元が違うのだよ、彼は。彼は、このコズミック・イラに存在する二つの人種、ナチュラルにもコーディネーターのどちらにも属さない』

 

 

友の顔面につけられている仮面の奥で、その表情はどうなっているのか。

その時のデュランダルはわからなかったが、今は何となくわかる。

 

瞳は、怒りでぎらついていただろう。

鼻から下は、涼しげに笑っていたが、鼻より上は怒りに満ちていた。

今のデュランダルなら、わかる。

 

 

『まさに彼は、新人類…。ニュータイプと言うべく存在なのだから…』

 

 

「ニュータイプ…か」

 

 

デュランダルの唇からぽつりと出されたつぶやきが耳に届いたのだろう。

傍らにいた秘書官が不思議そうな顔をしてデュランダルの方に振り向いた。

 

 

「いや、何でもない。それよりも、戦況の情報を一句残さず聞き逃すな」

 

 

「はっ!」

 

 

自分が戦うことは出来ない。兵士たちに託すことしか、自分にはできない。

だからといって、何もしないでいるわけにもいかない。

 

 

「アナトの位置は?レクイエムにはまだ到着していないのか。ミネルバはどうなっている」

 

 

「アンノウン機と交戦中です!ミネルバは…、アークエンジェルと接敵!」

 

 

アナトと交戦しているアンノウン機は、先程地球軍が撃ってきた核を護衛していた最新鋭機だろう。

彼女、クレアならば間違いなく負けることはないはずだ。

 

だが、ミネルバはどうなるだろう。

レクイエムを破壊する前にアークエンジェルと接敵することになるとは。

 

 

(…まぁいい。デスティニーとインパルスが、地球軍の新型二機を落としてくれている。流れは、こちらにある)

 

 

勝ちに近いのはこちらだ。

そして、デュランダルはもう一つ気になっていたことをオペレーターに問いかけた。

 

 

「レクイエムの動きはどうなっている?」

 

 

「動きはありません。まわりの艦隊にも動きはありません」

 

 

やはり、レクイエムを撃つつもりはないようだ。

こちらが、大きな動きを取らない限りは。

 

 

「警戒は怠るな。いつどこで仕掛けて来るかはわからないのだからな」

 

 

宙に上がってから、地球軍に裏を取られてばかりだった。

どこで彼らがどんな動きをするかはわからない。

 

ジブリールが死んでから、本当に地球軍は危険な動きをすることが多くなったのだ。

正直、地球軍との戦いがここまで長引くことになるとはデュランダルは思っていなかった。

 

 

(警戒すべきはオーブだと思っていたのだが…、とんだ伏兵が現れたものだ)

 

 

改めて、今の地球軍を統べている人物の恐ろしさを実感する。

 

これまで、ヘブンズベースが陥落するなど地球軍の立場は相当不利な所にあったのだ。

それがこんな事になるだなんて、誰が考えただろう。

誰も、考えなかったのではなかろうか。

 

 

「…だが、どれだけあがこうと何も変わらない」

 

 

だがデュランダルは断言する。

どれだけ自分の予想から外れようと、結末は変わらないのだから。

 

 

(それが運命なのだからね…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

憎しみで歪んだ瞳に映るのは、忌々しい光の翼を広げる美しい機体だけ。

レイは、リベルタスのまわりを囲ませたドラグーンを次々に時間差を使ってビームを撃ちこんでいく。

 

これでリベルタスを追い込んでいき、体勢を崩したところをサーベルで斬りおとす。

レイはそう考えていた。

 

だが、当たらない。

まるで全てを予知していたかのようにリベルタスは余裕をもって、最小限の動きで全てを回避する。

 

無駄がない動きは、少しずつ逆にレジェンドを追い込んでいた。

 

 

「くっ…!」

 

 

一瞬に感じた。

リベルタスが眼前に迫り、サーベルを一文字に振るう体勢を取っている。

 

レイは機体を後退させてかわそうとするが、どう見ても間に合うタイミングではない。

 

リベルタスが振るうサーベルがレジェンドを斬り裂こうとしたその瞬間、リベルタスはその場から消え、先程までいたその場所を、巨大な弾丸を通り過ぎていった。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

レジェンドに気を取られている間にリベルタスに攻撃を当てようとしたのだろう。

 

レイは、そんなドムの三機を憐れみすら含んだ目で見る。

 

その程度の攻撃で奴を落とすことができるのなら、奴はとっくに落ちている。

こんな所まで生き残ることなどできなかったはずだ。

 

そんな程度のことすらもわかっていない奴らが、リベルタスと戦おうとしているのか。

 

 

「っ!」

 

 

先程の攻撃でセラの目はドム三機に移る。

セラはドラグーンをドム三機に向けて飛ばし、ビームを連射させる。

 

 

「くっ…!マーズ、ヘルベルト!」

 

 

何とかドラグーンの弾幕から逃れたヒルダは、まだ弾幕の中にいるマーズとヘルベルトに叫びかける。

 

 

「あぁっ!」

 

 

ヒルダが叫んだ直後、マーズ機がドラグーンの弾幕に貫かれる。

貫かれた箇所は左腕と右足。コックピットに損傷は与えられていないが、戦闘には支障が出てしまうだろう。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

だがヘルベルト機はヒルダに遅れて弾幕から抜け出すことに成功した。

 

二人は、そこから仕切り直してリベルタスを落とし、次にエターナルを攻撃だと考えていた。

 

 

「でも、それはさせない」

 

 

二人の考えを、セラは読んでいた。

セラでなくてもできるだろう。歴戦に戦士ならば、二人の魂胆を簡単に読み取ることができるはずだ。

 

何故なら、ドム三機はカメラをちらちらとエターナルに向けていたのだから。

あまりエターナルから離れたくないという思いが、形として見ることができた。

 

セラはヘルベルト機の懐に潜り込み、サーベルを振り切る。

 

 

「なっ…、ぐぁっ!?」

 

 

ヘルベルトは、リベルタスの姿すら捉えることができなかった。

振り切られたサーベルはヘルベルト機のメインカメラを斬りおとし、さらにセラはヘルベルト機を蹴り飛ばして無理やりその場から離させる。

 

 

「ヘルベルト!このぉっ、よくも!」

 

 

仲間二人がやられたことに憤慨し、ヒルダは意気込んでサーベルを握ってリベルタスに突っ込んでいく。

 

 

「前も同じような展開だったな。学習していないのか?」

 

 

だが、これまでのリベルタスとドム三機の戦い。

前回と同じような展開だった。

 

先にセラがヒルダ機以外の二機を損傷させ、憤慨したヒルダが突っ込んで、簡単にセラはそれを受け流して他の二機と同じように斬りおとす。

 

並のパイロット以上の腕はあるようだが、やはりセラには並のパイロットと同じようにしか映らなかった。

 

セラは突っ込んできたヒルダ機の斬撃を受け流し、もう一方のサーベルを抜き放ってヒルダ機のメインカメラを斬りおとす。

 

 

「まだ、終わりじゃないぞ」

 

 

さらにセラはドラグーンをドム三機のまわりに配置させる。

 

セラはドラグーンのビームを一斉照射させる。

ビームは、ドム三機の四肢とメインカメラを全て撃ち落として戦闘を完全に不可能にさせる。

 

それを見ていたレイは、リベルタスの様子に違和感を感じていた。

 

 

(どういうことだ…。奴は、ここまで容赦なく敵を叩き潰すような戦い方をしていたか?)

 

 

違和感の正体は、リベルタスの戦い方。

これまでのリベルタスならば、ドム三機を一部損傷させた状態でドム三機との交戦を自分からやめていたはずだ。

もう彼らに自分を討つための戦闘能力は失われているのだから。

 

だが今のリベルタスは違う。

命までは奪ってはいないものの、今のドムの状態はそれと同意と言っていい。

 

戦闘能力を完全に奪っている。もしこの状態で襲われれば、どんなに操縦が下手な相手でも間違いなく落とされてしまうだろう。

先程も言ったが、戦闘能力が完全に失われているのだから。

 

 

「っ!」

 

 

レイが思考に耽っている途中で、リベルタスが動き出した。

リベルタスは、ドラグーンと共に自らもサーベルを手にレジェンドへと向かっていく。

 

レイは、リベルタスを迎え撃つべくドラグーンを使ってリベルタスを狙う。

ビームは間違いなくかわされてしまうだろうが、少しでもリベルタスのスピードを緩めたい。

 

だが、リベルタスはレイの想像を超えていた。

 

ドラグーンをスラスターへと戻したリベルタスは、眼前に広がるドラグーンの群れに怯まずそのまま突っ込んでいく。

スピードが緩むどころかどんどん加速しているようにも見える。

 

 

「まずいっ…!」

 

 

このままでは一太刀で斬り伏せられてしまう。

そう感じたレイは、機体を後退させてリベルタスから距離を取る。

 

しかしレジェンドのスピードではリベルタスから逃れることは不可能。

とはいえ、こうしなければレイが生き延びる術はない。

 

後退することによって、リベルタスがレジェンドに到達するまでのわずかな時間を稼ぐことができた。

その間に対応するための動きができる腕を、レイは持っている。

 

左腕のビームシールドを展開して、レイはリベルタスの斬撃の間にシールドを割り込ませる。

 

リベルタスの斬撃を凌いだレイは、すぐに機体を後退させてリベルタスと距離を取る。

 

 

「逃がすか」

 

 

だがリベルタスは、距離を取ろうとするレジェンドにさらに追いすがる。

レイの表情は、歪む。

 

レイはドラグーンのビームを、レジェンドとリベルタスの間に向かって斉射する。

 

さすがのリベルタスも、動きを止めざるを得ない。

スピードを緩めずにそのまま突っ込んていたら、リベルタスは蜂の巣にされていたのだから。

 

しかし、そのことを期待していたレイは舌を打つ。

そう上手くはいかないだろうと予想していたが、ここまで簡単に反応されてしまうとは思わなかった。

 

 

(…反応?)

 

 

レイは、先程のリベルタスの動きを思い返してみた。

自分がドラグーンを斉射した時の、リベルタスの動きを。

 

その時、リベルタスはすでに動き出していた。

自分が、ビームを撃つ前に。

 

 

(っ!?)

 

 

ぞくっ、と背筋に寒気が奔る。

 

反応とかそういう問題ではない。リベルタスは、自分が攻撃をする前に回避行動を見せていた。

これはまさに、予知としか言いようがない。

 

セラ・ヤマトは、自分の動きを予知しているとでも言うのか。

 

 

「くそっ!」

 

 

ぎりっ、と歯を噛み締めるレイは、マイナスの思考を振り切ってリベルタスに向かっていく。

腰からサーベルを抜いてリベルタスに突っ込んでいきながら、レイはまわりに配置していたドラグーンをリベルタスに向けて撃つ。

 

やはり、リベルタスは自分がドラグーンを撃つよりも前に動き出していた。

容易くビームをかわすと、リベルタスはライフルをレジェンドに向けてビームを放ってくる。

 

リベルタスの反撃は、ライフルのビーム一射。

この程度で、自分に勝てると思っているのだろうか。

 

舐められていると感じたレイは、リベルタスが撃ってきたビームをサーベルで斬り裂くと、二基のドラグーンをリベルタスに向けて突っ込ませる。

 

 

「舐めるな!セラ・ヤマト!」

 

 

さすがのセラも、レジェンドが何をしようとしているのか飲み込むことができなかった。

遠距離からビームを斉射することしかできないはずのドラグーンを、突っ込ませたレイの意図がわからなかった。

 

だが次の瞬間、セラの目が見開かれると同時に相手の意図を読み取ることとなる。

 

突っ込んできたドラグーンの先端からビーム刃が出力された。

レジェンドのドラグーンにだけ搭載された特殊な武装である。

 

なるほど、この刃でこの機体を貫こうという算段だったか。

 

レジェンドに加えてドム三機と交戦を開始した時からだろうか、セラの中に変化が起きていた。

相手の思惑が、手に取るようにわかるようになった。

 

だが、このように自分の頭の中にまったくないような機能の力などは読み取ることはできなかった。

ドラグーンにビーム刃が搭載されていることを、読み取ることはできなかった。

 

しかし、このドラグーンを突っ込ませてからのその後の意図は今のセラには読み取れていた、

ドラグーンの後方、レジェンドがビームジャベリンを構えて突っ込んできている。

 

このドラグーンは完全に囮。

本命は、その後方からジャベリンで斬りかかってくるレジェンドだ。

 

 

「その程度で、俺を落とすことができるとでも!?」

 

 

かわすまでもない。

セラはその場から動かずに、突っ込んでくるドラグーンをサーベルで一閃。

二基のドラグーンを一瞬にして斬り裂いた。

 

さらに、後方から斬りかかってくるレジェンド。

セラはレジェンドが振り下ろすジャベリン…ではなく、振り下ろすレジェンドの腕をサーベルを持っていない方の手で掴み止めた。

 

 

「なっ?!」

 

 

まさか斬撃を受け止めるのではなく手の動きを止めてくるとは考えていなかったレイ。

目を見開き、呆然と動きを止めてしまった。

 

もう、レイがセラに勝てる道理はなくなってしまった。

この動きの停止が、全てを決める分かれ道となってしまった。

 

セラは、サーベルを振り抜いてレジェンドのメインカメラを斬りおとす。

これでもう、セラの勝ちは揺るがないのだがレジェンドはまだ抵抗の動きを見せる。

 

まだ戦える。セラに投げかけているように、セラの拘束から抜け出そうともがいている。

 

セラはもう一度サーベルを振り抜き、さらにジャベリンを握っていた方の腕を斬りおとした。

これで完全に勝負あり。

 

 

「さ、これで話を聞いてもらえるかな?」

 

 

ここまで何度話をしようとしても耳を傾けなかったレジェンドのパイロット、レイ・ザ・バレル。

機体がこんな状態になったのだ。VPS装甲まで落ち、スラスターは生き残っているものの戦闘など不可能な状態。

 

ようやく、レイはおとなしくセラの言葉に耳を傾けるようになった。

いや、傾けてはいない。

 

ただ、負けたという現実に呆然としているだけ。

セラの声は聞こえても、言葉は聞こえていない。

 

 

「負け…た…?運命は…、そんな…なんで…」

 

 

ぽつりぽつりとつぶやいているレイ。

セラはそのつぶやきを黙って聞いていた。

 

 

「なんで…俺は負けた…?運命は…決まって…」

 

 

「運命なんて、絶対的なものじゃないんだ」

 

 

呆然とつぶやいていたレイ。光を失くしていたレイの瞳にわずかに揺れる光が灯り、耳をセラの言葉に傾け始めた。

 

 

「確かに、運命に従えば平和なのかもしれない。でも、運命を切り開かなければ幸せは来ないんだ」

 

 

「…幸せ?」

 

 

幸せなんて言う言葉、レイは初めて聞いた。

意味が知らないという訳ではない。だが、ラウもギルも、そんなことを言ったことはなかった。

 

滅びを願っていたラウはともかく、平和を望んでいたギルからも幸せという言葉を聞いたことはなかった。

 

 

「お前は、幸せを求めたことがあるか?…ないだろうな。これが運命だと言って、自分にすらなろうとしなかったんだから」

 

 

レイは、自分をラウ・ル・クルーゼだと名乗っていた。

演技などではない。本気で、ラウ・ル・クルーゼになっていた。

レイ・ザ・バレルにはなっていなかった。

 

 

「けど、お前がどれだけ叫ぼうと思い込もうと、結局お前はお前でしかないんだ」

 

 

「っ…」

 

 

「命は色んなものに存在する。けど、命はたった一つしかないんだ。そしてそれは、自分自身のものだ」

 

 

セラは、レイに言葉を賭けていると同時に自分にも言葉をかけていた。

自分にも言い聞かせるように、言葉を続けていく。

 

 

「お前の名前、教えてくれよ」

 

 

「…レイ・ザ・バレル」

 

 

セラの問いかけに少しの間があったが、答えるレイ。

小さくも、確かに聞こえたその声を、セラは忘れないようにしっかりと頭に刻み込む。

 

この少年は、自分のせいで生まれてきたのだ。

理不尽な業を背負わせられ、苦しんで生きてきたのだ。

 

 

「レイ・ザ・バレル…か。なら、お前はレイ・ザ・バレルなんだ。決して、ラウ・ル・クルーゼなんかじゃない」

 

 

だからセラはレイに語り掛ける。

 

お前はラウ・ル・クルーゼじゃない。レイ・ザ・バレルだ、と。

 

 

「俺を殺したいんなら、ラウ・ル・クルーゼとしてじゃなく、レイ・ザ・バレルとして来い」

 

 

セラはそう言い残して機体をメサイアへ、ジェネシスへと向かわせる。

 

残されたレイは、かけられたセラの言葉をゆっくりと思い出していた。

平和は、運命に従っても残すことは出来る。けど、幸せは運命で生み出すことは出来ない。

運命を切り開いて初めて、幸せは生まれる。

 

自分は、レイ・ザ・バレル…。

 

ずっとラウ・ル・クルーゼとして、アル・ダ・フラガのクローンとして生きてきた自分にどれだけ暖かさを残しただろう。

セラの言葉は、凍り付いたレイの心を本人の知らぬところで溶かしていた。

 

 

「レイ・ザ・バレル…」

 

 

自分の名前など、ただの飾りくらいにしか思っていなかった。

自分は、レイ・ザ・バレルなのだと本気で考えたことなど一度もなかった。

 

 

「俺は、レイ・ザ・バレル…」

 

 

セラ・ヤマトは言った。ラウは運命に逆らっていたからこそ強かったと。

ラウは、自分の運命を切り開こうとしていたのだろうか。

 

 

「俺は…、俺でしかない…」

 

 

レイのつぶやきは、自身の心に染みこんでいく。

冷たく凍っていた心が、少しずつ溶けていくような感覚が自覚できるようになる。

 

 

「俺は…」

 

 

レイの瞳から雫が零れ落ちる。

零れ落ちた雫は無重力空間を漂いながら、割れたヘルメットの間からレイの視界を抜け出していく。

 

 

「俺は…」

 

 

レイはぽつりとつぶやいた後、機体をメサイアの方へと向けた。

ぼろぼろとなった機体だが、かろうじてスラスターは生きている。

 

スラスターを噴かせ、レイはメサイアへと、ギルバート・デュランダルの元へと向かうのだった。

 

 

 

 

「お前はお前でしかない…か」

 

 

セラは、先程レイに投げかけた言葉を復唱した。

何故だろう、この言葉がレイにだけ向けた物ではなく、自分に対しても向けていた物のような気がする。

 

 

「俺もやっぱり迷ってたのかな」

 

 

突然起きた、自分の大きな異変。

それが、揺るがないと思っていた決意を揺るがしていたことをセラはここで初めて自覚した。

 

自分に課せられた復讐なんて物はどうでもいい。

自分は自分のために戦う。

 

その決意が今、改めてセラの中で固まる。

 

この時、セラの中でSEEDが弾けた。

 

もう迷わない。自分の力を恐れたりはしない。

自分の力が恐るべきものなのなら、その力を完全に制御してしまえばいい。

簡単な話だ。

 

決意を固めていたセラの眼前には、ザフトの艦隊が迫ってきていた。

ジェネシスへと向かうリベルタスを止めるべく発進してきたのだ。

 

セラは迷うことなく機体を艦隊へと向かわせる。

止まらない。止まるわけにはいかない。

 

 

「行くぞ!」

 

 

レジェンド、ドム三機と戦っていた時に感じたもやもやとした感覚はなくなっていた。

あの時、完全に叩きのめさなければ反撃される、という脅迫概念に襲われていたセラ。

 

だが迷いがなくなった今、セラの動きを鈍らせるものはもうない。

 

セラは手に持っていたサーベルを更によく握りしめながら、もう一方のサーベルも抜き放つ。

 

襲い掛かってくるグフのメインカメラを両手のサーベルで斬りおとしていく。

この時のリベルタスの戦いぶりを見た者は、誰もが後にこう言った。

 

あの時、解放者は踊っていたと。剣の舞を、踊っていたと。

 

だがここでセラは止まらない。

接近しては危険だと考えたザフト軍は、遠距離からの狙撃でリベルタスを落とそうとライフルを、ビーム砲を構えていく。

セラはそんなザフト機に対してドラグーンを飛ばす。

 

セラが飛ばしたドラグーンはビームを放ち、ザフト軍機が構えた遠距離武器を撃ち抜いていく。

遠距離武器を撃ち抜かれたザフト機は驚愕したのだろう。動きがわずかに止まってしまう。

 

そこを見逃すセラではない。

セラはスラスターを全開にし、光の翼を広げる。

 

両手のサーベルを握り、再び舞う。

 

 

「な、何なのだあれは!?」

 

 

リベルタスを落とすべく向かっていた艦隊の内の一つ。

ナスカ級の艦長は、壮絶な数の機体に囲まれながらも傷一つつけられる気配が感じられないリベルタスの戦いぶりを目の当たりにし、驚愕して目を見開く。

 

噂は聞いていたし、実際にデータでも目にした。

だが、実際にそれを見るということはまったく別物だった。

 

まわりの援護もなく、たった一機で挑んできているのに、まるでこちらの数よりも多い数を相手にしているような感覚に襲われる。

いや、それ以上の勢いで味方機のシグナルが失われているのだ。

 

ナスカ級の艦長は、逃げ出したい衝動にすら駆られてしまう。

しかしそれは許されない。

 

 

「は、早く奴をおとせぇっ!たった一機なのだぞ!?あのロゴスの残党を撃ち落とすのだぁっ!」

 

 

ただ我武者羅に、リベルタスを落とすように命じる艦長。

その命令に従って、ザフト軍機がこぞってリベルタスに襲い掛かる。

 

だが、襲い掛かった数の分だけ味方機のシグナルが消えていく。

恐ろしいどころの話ではない。

 

 

「何で…、何で我らが…」

 

 

艦長が震える声でつぶやいた瞬間、艦橋が大きく振動した。

 

 

「エンジンに被弾!戦闘不能!」

 

 

「ば、バカな…」

 

 

たった一機のモビルスーツに、艦隊が五分ほどでほぼ壊滅状態にまで陥られてしまった。

たった一機のモビルスーツに。

 

このままでは、メサイアがあのモビルスーツにやられてしまう。

コーディネーターの希望の要塞が…、あんなものに…。

 

 

「…何か、変な勘違いされたような気がするけどまぁいいか」

 

 

セラは眼前に広がった艦隊を突破し、ジェネシスへと急ぐ。

どこかで大きな勘違いをされたようなきもするが、そこは気にせずジェネシス破壊に急ぐ。

 

 

「向こうではどうなってるか…。っ!?」

 

 

レクイエムの方はどうなっているかが気になり、つぶやいたセラの目にある物が映る。

 

 

「核攻撃隊!?地球軍はまたあれを撃つつもりなのか!」

 

 

先程、不発に終わった核攻撃をまた地球軍は試みようとしていたのだ。

一度目は上手く行きかけた。スタンピーダーのおかげでザフトが迎撃に成功したが、ザフトにとっては冷や汗もののギリギリの防衛だったと言える。

 

だが今回は違う。

万一のためにザフト軍はメサイア付近に迎撃のための艦隊を配置していたのだ。

 

セラがその一部を壊滅状態にまで陥れてしまったが、それでも死角なしといえる配置ではある。

それなのに、地球軍は再び核攻撃隊をメサイアに向かわせた。

 

 

「くそっ!」

 

 

ザフト軍機が核攻撃隊の迎撃に向かっているが、少しでも数が多い方が良いだろう。

セラも、核攻撃隊の迎撃のために機体を向かわせる。

 

両手のサーベルをしまい、二丁のライフルを取りだす。

 

その瞬間、核攻撃隊はメサイアに向かってミサイルを放つ。

セラは、両手のライフルとドラグーンを使って放たれたミサイルを迎撃していく。

 

他にも、ザフト機は核攻撃隊を落としていく。

この攻撃は失敗したと、誰もが確信していた。

 

 

 

 

 

この時、誰も知る由はなかった。

ほとんどの人たちが、地球軍の苦し紛れの攻撃だと思っていた。

 

一部の者は地球軍のこの攻撃に違和感を感じていたが、その一部の者も隠れた地球軍の陰謀を見抜くことはできなかった。

 

 

「っ!議長!六時の方向に敵影!」

 

 

「なにっ!?」

 

 

六時ということは、戦闘を行われている方。

誰もが見ている方向から見てまったく逆方向。

 

そこまで考えたデュランダルは、全てを悟った。

 

今、メサイアの位置から考えて、月と逆の方向には地球がある。

その地球の方向からの敵影。

 

今までの地球軍の核攻撃は、このための布石だったのだと。

 

 

「機種確認!ウィンダム十五にダガーL二十!」

 

 

「さらにアガメムノン級が一!」

 

 

核攻撃までもが囮。本命は、この一小隊でザフト兵が目を向けない方向からの襲撃。

 

 

「すぐに迎撃隊を後方に回せ!」

 

 

デュランダルはすぐに命じたが、頭の隅ではわかっていた。

迎撃隊は間に合わない、と。

こうなっては、使わなければならない、と。

 

 

「…万が一のために、ジェネシスの発射体勢を整えておけ」

 

 

今ここから、終結に向かって急速に動き出すこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




完結まであと…何話かなぁ…


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PHASE67 騎士の再出撃

「あの…艦長…?」

 

 

モニターに敵艦の影が映し出されても、何の命令も出さず、黙ったままのタリアに不審を抱いたアーサーが振り返る。

 

 

「…わかってるわ」

 

 

短く返したタリアの目には、白亜の巨艦が映っている。

さらに、傍ではかつての僚機、ヴァルキリーがシンの駆るデスティニーと交戦している。

 

二つの光景を見つめるタリアの中で、白亜の巨艦の艦長席で座しているはずの女性の言葉が蘇る。

 

 

『私たちも今は、今思って信じたことをするしかないですから』

 

 

あの時は、彼女の素性がわからず、その思いも知らずに相対した時だった。

 

 

(私も、同感よ。だから、今は私の信じることを…、守りたい者のために戦うわ)

 

 

このままオーブに押し込まれれば、再び戦火が広がる可能性だってある。

広がらないと、誰が保証できるだろう。

 

デュランダルならば…、たとえ気に入らないという感情があっても、彼ならば世界に平穏をもたらすことができると、タリアは信じている。

どれだけそのやり口が汚くても、気に入らなくても…。

 

プラントが戦火に呑まれることだけは、絶対に防いでくれるはず。

 

 

「全砲門、照準をアークエンジェルに!」

 

 

「は、はいっ!」

 

 

アーサーが上擦った声で答える。

彼の緊張が、こちらに伝わってくるのがわかる。

 

アーサーだけではない。艦橋にいる全てのクルーが緊張に満ちている。

 

オノゴロ沖で逃してしまってから、相対することはなかったアークエンジェル。

二度目の対決、二度も失敗するわけにはいかない。

 

 

「ザフトの誇りにかけて、今日こそあの艦を討つ!」

 

 

タリアの決意が籠った声が、艦橋中に響き渡った。

 

 

 

 

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

 

ミネルバとアークエンジェルが戦闘を開始しようとしていたころ、シンはヴァルキリーと激しく交錯を繰り返していた。

シンはその手に持つアロンダイトを握り、何度もヴァルキリーに斬りかかっていく。

 

ヴァルキリーはサーベルを上手く操って、破壊力のあるアロンダイトでの斬撃を全て防ぎ切っていく。

さらにヴァルキリーはデスティニーから距離を取ると、ライフルでデスティニーのアロンダイトを弾き飛ばそうとビームを放つ。

 

 

「こんなもので!」

 

 

シンは、ヴァルキリーが撃ったビームをアロンダイトで斬り裂く。

 

そこでシンは、アロンダイトを右手から左手に持ち替え、それと同時に肩のビーム砲を跳ね上げる。

 

放たれた砲撃は、ヴァルキリーへと向かっていくが、ヴァルキリーが展開したビームシールドに阻まれ四散してしまう。

 

 

「くそっ…」

 

 

やはり、一筋縄ではいかない。

というより、恐らくシエルは自分よりも強い。

 

本気で来られたら、今頃自分は防戦一方になっていたかもしれない。

 

そう、シンはわかっていた。

シエルは、本気で戦っていないことを。

 

 

「何で…、あんたは…!」

 

 

だから、今になってシンは迷い始める。

裏切った仲間だった人間を、この手で討つんだという決意が揺るぎ始める。

 

 

「自分から裏切っておいて…!何で!」

 

 

「シン…」

 

 

ルナマリアの細い声が耳に届く。

ルナマリアも、シエルを討っていいのかと迷っているのかもしれない。

 

 

「私は…、シンたちと戦うつもりはない」

 

 

「っ!」

 

 

不意に聞こえてきたシエルの言葉に、シンの目が見開かれる。

 

一方のシエルも、先程のシンの言葉で驚愕していた。

自分がミネルバにいた頃のシンならば、自分が本気で戦っていないということに気がつかずにそのまま戦い続けていただろう。

だが、今のシンはその事に気づいた。

 

自分から裏切ってしまったというのに、シンの成長を嬉しく思うのは、しょうがないことなのだろうか。

 

 

「シン、私は出来るならシンたちと協力してレクイエムを破壊しようって思ってる。…ううん、レクイエムを破壊しないとダメなんだ」

 

 

「シエル…」

 

 

「こんな所で戦ってる場合じゃない。今は目の前の脅威を何とかしないといけないことは、シンとルナにはわかってるでしょ!?」

 

 

シンは、シエルの言葉を聞いて先程まで湧いていた闘志が失われていくのを感じる。

シエルは敵なのに。自分たちを裏切った敵だというのに。

 

それなのに、シエルと協力して戦いたいと思っている自分がここにいてしまっている、

 

 

「…でも、オーブは…、シエルたちはメサイアを襲ってる!」

 

 

だが、シエルたちは現にザフトの要塞であるメサイアを襲っているのだ。

メサイアが失われれば、どれだけの脅威がプラントに降りかかるかがわからないシエルではないはず。

 

 

「俺たちは守りたいものがあるんだ!そのためにも、シエルと戦う!」

 

 

「シン…!」

 

 

守りたいものに脅威を与えるのなら、たとえかつての仲間でも、迷いを消して戦わなければならない。

 

闘志を取り戻そうとしているシンに、再びシエルの声がかかる。

 

 

「ならシンは、あの兵器を放っておいていいっていうの!?」

 

 

「あっ…!」

 

 

あの兵器。それが、ジェネシスだと悟るまでの時間はほんの一瞬だった。

そして悟った瞬間、シンの動きは完全に凍り付く。

 

 

「それにシンは…、ルナは、議長が何をしようとしているのかを知ってる?議長は…、ううん、デュランダルは、自分の計画のために私の大切なものを壊そうとした」

 

 

「え…?」

 

 

シエルの言葉に呆然となるシン。いや、シンだけではなく、ルナマリアも同じだった。

 

シエルは、議長に信頼されていると思っていた。

そしてシエルも、議長を信じていると思っていた。

 

だが今、議長をデュランダルと呼び捨てし、さらにその議長がシエルの大切なものを壊そうとしたとシエルは言った。

 

 

「お願いシン、今は私の話を聞いて。彼がしようとしていることを聞いて、考えて。その上で、私と戦うって決めたなら…、私も何も言わない」

 

 

「…」

 

 

率直な気持ち、シエルの話を聞きたい。

シンも、度々デュランダル議長に不審感を抱いたことがあったのだ。

 

怪しい、本当に彼についていっていいのだろうか。

そこまで思ったことだってある。

 

 

「ルナ」

 

 

「シン…」

 

 

だが、ここにはルナマリアだっている。

彼女は、もしかしたらシエルの話を聞きたくないと思っているかもしれない。

 

そう感じて、シンは彼女に呼びかけてみた。

返ってきた声は、弱弱しく自分の名前を呼ぶだけ。

 

彼女も、自分と同じ気持ちなのだと、その時シンは悟った。

 

 

(マユ…)

 

 

シンは、今、ミネルバに乗って戦いの終わりを、自分の帰りを待っている妹のことを思い浮かべる。

シンが軍に入り、こうして戦っている一番の理由は、家族を、マユを守りたいと決意したから。

 

 

「…聞きたい。シエル、話してくれ」

 

 

もし、議長がシエルの言う通りのことをしたのだったら。

 

自分の大切な人たちだって、危なくなるかもしれない。

 

シンの目に、迷いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャスティスを駆るトールは、未だディーヴァとの激突を繰り返していた。

だがその戦いも、少しずつだがトールに流れが傾いてきていた。

 

ディーヴァは、機動力はジャスティスを凌いでいる。

機動力は凌いでいるのだが、馬力と武装の豊富さはジャスティスの方が優れている。

 

持久戦になれば、どちらが有利なのかは火を見るよりも明らかだ。

 

 

「あぁっ…!」

 

 

ミーアの唇から悲鳴が漏れる。

ジャスティスのビームブーメランがディーヴァの左腕を斬りおとしていったのだ。

 

さらにブーメランは綺麗な弧を描きながら戻ってくる。

こればかりは喰らってられないミーアは、機体を横にずらしてブーメランの斬撃をかわす。

 

 

「っ!?」

 

 

「甘いっ!」

 

 

だが、ミーアが回避した方向にはジャスティスが待ち構えていた。

 

ディーヴァの左腕が斬りおとされた時、体勢が崩れたディーヴァを見てどちらの方向に回避するかをトールは読んだのだ。

ブーメランを一本犠牲にしてしまったが、片腕を失い体勢も十分ではないディーヴァはこれで詰みだ。

 

トールは腰に差さったサーベルを抜き放った。

抜き放たれたサーベルは、ディーヴァのメインカメラを斬りおとす。

 

さらにトールは間を置かずにもう一方のサーベルも抜き放ち、残った右腕も斬りおとした。

 

 

「…何で」

 

 

ミーアは呆然とつぶやいた。

何故。

 

 

「何で、こんな所で…」

 

 

こんな所で、何故負けてしまったのだろう。

 

 

「あたしは、ただ…」

 

 

ただ…、自分は何をしようとした?

 

 

「ぁ…」

 

 

今になって、自分がしでかそうとしたことの大きさを自覚する。

 

ラクスを殺し、自分がラクスになる。

その醜さが、今になってようやくミーア自身は理解できた。

 

 

「あ、あたっ…、あたし…」

 

 

正気に戻ったミーアの瞳から零れる涙。

 

トールも、今ミーアが泣いていることを通信を通して察する。

 

これから、どうすればいいだろうと考えて、すぐにトールは答えを出す。

 

 

「…お前、俺と来い」

 

 

「え…?」

 

 

「お前とラクスさんと、話をさせる」

 

 

このまま放っておいてもよかった。

敵として自分の前に立ちはだかり、自分を殺そうとしただけでなく、友を殺そうとした彼女を、放っておいてもよかった。

 

だが、一気に弱弱しくなった彼女を、トールは放っておくことができなかった。

だから、トールは手を差しのべる。

 

 

「エターナルに来い。そして、自分がこれからどうすべきかを、ラクスさんに教えてもらえ」

 

 

「あたしが…、ラクス様から…」

 

 

断ろうと、ミーアは考えた。

考えたが、断って、そこからどうする?自分は、どうしていけばいい?

 

何も変わらず、ラクスとして生きる?そんなこと、できるはずがない。

 

どうする?どうしていく?

何も、わからなくなってしまった。

 

 

「…行く。行かせて、ください」

 

 

ミーアは、差し伸べられたトールの手を取る。

 

手を取ったディーヴァを見て、トールは機体をエターナルに向けようとする。

その時、ジャスティスのスピーカーから飛び込んできた声をトールは聞く。

 

 

『トール!無事だった!?』

 

 

自分を案ずるその声は、聞き間違うはずもない友の声。

 

 

「キラ!キラか!?」

 

 

カメラを切り替えると、こちらに向かってくるフリーダムの姿が映し出された。

だが、そのフリーダムの手には何かが握られている。

 

トールはカメラをズームして見る。

 

 

「っ…。キラ、お前、そいつは…」

 

 

フリーダムが握っているのは、ブレイヴァーの手だった。

キラは、ブレイヴァーを連れてこちらにやってきていたのだ。

 

 

『…連れてきた。連れて帰ってきたよ』

 

 

「…そっか。ずいぶんと遅い帰りになったな、アスラン」

 

 

『…そうだな。トールも、元気なようで安心した』

 

 

トールは特に、アスランに対して深く聞こうとは思わなかった。

それをするべき人は他にいる。ただトールは、友の帰りを喜ぶだけ。

 

 

『それよりもトール。君も、その機体を?』

 

 

「あぁ。エターナルに連れていこうと思ってる」

 

 

トールは、ディーヴァをエターナルに連れていきたいという意志を告げる。

キラは反対するかも、と一瞬思ったが、すぐにそれは杞憂だと改める。

 

 

『そっか。なら急ごうか』

 

 

キラから返ってきたのは、エターナルへの収容を急ぐ催促の言葉。

 

 

「あぁ、急ごう」

 

 

トールもキラへの返事を返して、ジャスティスとフリーダムは同時に飛び立つ。

 

エターナルとの距離はそう離れてはいなかった。

紅色の艦影が見えてくると、キラがすぐにエターナルへと通信をつなげた。

 

 

『バルトフェルドさん!モビルスーツ二機をそちらに収容したいのですが!』

 

 

『なにっ?…あぁわかった!早くしろ!』

 

 

旗艦であるエターナルは、かなりの数のモビルスーツに囲まれていた。

ムラサメが奮闘し、エターナルの損傷はかなり少なく済んではいるが、そう時間はかけていられないかもしれない。

 

トールとキラは、エターナルの元へと急ぎ、開かれたハッチの中にブレイヴァーとディーヴァを入れる。

 

 

「バルトフェルドさん!俺も一度戻ります!」

 

 

さらに、トールもエターナルへ通信をつなげ、そう一言告げると機体をハッチに入れる。

 

 

「キラ!少しの間頼むぞ!」

 

 

『わかった!』

 

 

『お、おい!トール!?』

 

 

キラの了承の返事、バルトフェルドの戸惑った声を耳に入れながらトールはエターナルの中へと戻っていく。

 

エターナルの中に入ったジャスティスは、格納庫へと運ばれていく。

格納庫には、すでに損傷したブレイヴァーとディーヴァが収容されていた。

 

ジャスティスも元の場所へと戻り、トールはすぐにコックピットハッチを開いて機体から降りる。

 

ジャスティスの足下では、アスランとミーアがこちらを見上げていた。

トールは、二人の元で床に足をつける。

 

 

「トール…。お前、何で降りてきたんだ?」

 

 

険しい表情でアスランがトールに問いかける。

トールはヘルメットを脱いで、首を横に振ってから答えようと口を開いた。

 

が、トールの口からその答えが出ることはこの時はなかった。

格納庫の扉が開かれたのだ。

 

 

「ぁ…」

 

 

ミーアが目を見開き、唇から声を漏らす。

 

格納庫に入ってきたのは、桃色の髪を柔らかく揺らしながらこちらに向かってくる少女。

 

 

「ラクス…」

 

 

「お久しぶりですね、アスラン」

 

 

三人の元へ寄ってきたラクスに、初めに声をかけたのはアスランだった。

名を呼ばれたラクスは、柔らかい笑みを浮かべてアスランと挨拶を交わす。

 

 

「そして、あなたが…」

 

 

アスランから視線をミーアへと移すラクス。

ラクスと目が合うと、ミーアはぴくりと体を震わせて目を逸らす。

 

だが、ミーアは勇気を振り絞り、ラクスの目を見つめる。

 

 

「あ、あの…。あ、あたし…」

 

 

「お会いしたかったですわ。お名前は何というのでしょうか?」

 

 

「え…え?」

 

 

ラクスの柔らかい声に、ミーアは戸惑いを隠せない。

正直、自分は彼女に怒られると思っていた。

 

怒られるだけではない。ここから追い出されることも覚悟していた。

それなのに、ラクスは柔らかく自分に声をかけ、名前を聞いてきて。

 

 

「あ、ミーアです。ミーア・キャンベル…」

 

 

そこでミーアは、未だに自分が名乗っていないことに気づいて、改めて名乗る。

ミーアの名を聞いたラクスの笑みは変わらずそこにある。

 

 

「ミーアさん、ですか。良いお名前ですわ」

 

 

「…あの、怒らないんですか?」

 

 

名を聞いただけでなく、その名を微笑みながら褒めるラクスにミーアは恐る恐る問いかける。

 

 

「いえ、怒るどころじゃないです。あの人がこうしてあたしをここに連れて来てくれましたが、あなたは断ることだってできたはずです。すぐにここから追い出すことだってできたはずです!」

 

 

だんだんと声を荒げていくミーア。

むしろ、ここに来なかった方が良かったと感じるミーア。

 

彼が、トールが、ラクスが自分にこれからどうすべきかを教えてくれると言ったがそんなことをしてくれるはずがないじゃないか。

彼女は自分を恨んでいるに決まっているのだから。

 

 

「私は、あなたのことを恨んでなどいませんわ」

 

 

「…え?」

 

 

まるで、ミーアの心を読んでいたかのように、ラクスは最高のタイミングで告げた。

ミーアは目を見開いてラクスの顔を見つめる。

 

今、彼女は恨んでいないと言った。

何故?自分はあんなことをしたというのに。

 

 

「むしろ、私の姿と声が欲しいのならば、差し上げます」

 

 

「っ!」

 

 

ミーアは悟る。

この人は、自分の外面など全く興味がないのだと。

 

だからこそ、姿と声をあげるなどと簡単に言うことができるのだ。

 

 

「ですが、これだけは覚えていてください」

 

 

だがラクスの言葉はそこで終わらない。

ミーアは、続かれるラクスの言葉に耳を傾ける。

 

 

「たとえ姿が同じになっても、あなたはミーア・キャンベルという一人の人間なのです。私とあなたは、全く違う人間なのです」

 

 

「あっ…!」

 

 

たとえ姿は同じでも、全く違う人間。

 

この言葉が、ミーアの心に響き渡る。

 

 

「私たちは自分以外の何者にもなれないのです。ですから、あなたの夢はあなたの物です。あなたのために、それを歌ってください。夢を他人に使われてはなりません」

 

 

ラクスの言葉一つ一つがミーアの中に染みわたっていく。

ついに、ミーアは耐えきることができなかった。

 

 

「あ…、あぁっ…!ああああああああぁ!!!」

 

 

ぼろぼろと涙が零れ落ち、掌で顔を覆う。

足に力が入らなくなり、ミーアは崩れて座り込む。

 

ラクスは、座り込んだミーアをそっと抱きしめる。

 

トールとアスランは、そんな二人を見つめるだけ。

 

 

「…トール。そろそろお前は行った方がいいんじゃないか?」

 

 

二人を見つめていると、アスランがトールに声をかけてきた。

トールはそこで、アスランに何を言おうとしたのかを思い出す。

 

 

「あぁ…。でも、それは俺じゃなく、お前が行くんだ」

 

 

「え…?」

 

 

アスランが呆然と目を見開く。

 

 

「ジャスティスはお前の機体だろ?俺は、ただ借りただけだぜ」

 

 

「いや…、だが」

 

 

こうしてエターナルに乗せてくれたことだけでもありがたいことなのに、敵対していた自分を僚機に乗せて戦わせてくれると言うのだろうか。

 

 

「アスラン」

 

 

「…ラクス」

 

 

ラクスが、アスランに声をかける。

アスランが目を向けると、ラクスはまっすぐにアスランを見つめている。

 

 

「キラを、助けてあげてください」

 

 

「…」

 

 

本当に良いのだろうか。自分が、戦っても。

また、この機体に乗って。

 

 

「ほら、行けよ。キラが待ってるぜ」

 

 

「トール…」

 

 

トールはこう言っているのだ。

キラが待っているのは自分ではなく、お前だと。

 

 

「…ジャスティス」

 

 

アスランはジャスティスを見上げる。

この機体に乗って、戦う。戦える?

 

 

「…いいのか?」

 

 

「あぁ!ほら、早く行けって!」

 

 

もう一度アスランはトールに確かめる。

返ってきたのは、催促の言葉と自分の背中を押す掌。

 

アスランはふっ、と微笑んでジャスティスのコックピットへと向かう。

 

 

「ありがとう!トール!」

 

 

アスランは、下で自分を見上げるトールに礼を言った後、コックピットに乗り込む。

立ち上げる時間はいらない。機体はすぐにカタパルトへと運ばれ、目の前に暗闇の宙が覗く。

 

 

「アスラン・ザラ!ジャスティス、出る!」

 

 

操縦桿を倒すと、ジャスティスが前に進む。

宙へと飛び出すと、視界に広がる爆発の光。

 

 

『アスラン!』

 

 

「キラ!」

 

 

少し離れた所では、フリーダムがエターナルに砲火を浴びせようとするザフト機を次々に落としている。

アスランも、久しぶりのジャスティスの武装を取り出す。

 

両腰のサーベルを連結させ、ハルバート状にする。

ハルバートを握り、モビルスーツの集団へと突っ込んでいく。

 

ハルバートを振るい、自分を囲んでくるザクやグフを斬りおとしていく。

 

 

『アスラン、ミーティアを使おう!』

 

 

そこに、画面に映し出されたキラがアスランに声をかける。

確かに、この多くの機体を相手にする状況ならばミーティアを使った方が正解かもしれない。

 

反論することもなく、アスランは力強く頷く。

 

 

『バルトフェルドさん!ミーティアを!』

 

 

『了解!』

 

 

キラがバルトフェルドにミーティアの切り離しを要請し、バルトフェルドはすぐに要請を呑む。

 

アスランとキラはすぐさま機体とミーティアのドッキング作業を行う。

ミーティアを接続した二機は、すぐに機体をモビルスーツの集団に向ける。

 

ジャスティスとフリーダムは、マルチロックオンシステムで多数のモビルスーツを補足する。

そして、ミーティアの全砲門を開き、フルバースト。

 

エターナルを包囲していたほとんどのモビルスーツは、武装かメインカメラ、もしくは両方を必ず損傷する。

 

エターナルの窮地を救った二人は、メサイアへ向かおうとしたその時、フリーダム、キラに通信が入った。

 

 

『兄さん!今どこにいる!?』

 

 

『セラ?どうしたの?今、メサイアに向かってるんだけど』

 

 

こうして話している間にも、アスランとキラはメサイアへと向かっている。

 

そして、次にセラの口から放たれた言葉にアスランとキラは驚愕する。

 

 

『メサイアの裏側に地球軍艦隊が攻めてきている!それの迎撃にザフトの艦隊も向かってるんだけど…』

 

 

セラはそこで少しの間を置く。

 

 

『ジェネシスが起動してるんだ!もしかしたら、ジェネシスを撃つ気なのかもしれない!』

 

 

「『!?』」

 

 

まさか、地球軍艦隊をジェネシスで撃ち抜くつもりなのか。

だが、メサイアの裏側ということは、地球軍は艦隊を地上から発進させたということだ。

 

艦体をジェネシスで討つということは、ジェネシスのレーザーは地上に着弾する可能性は大いにある。

 

 

「キラ!」

 

 

『うん!すぐそっちに行くよ、セラ!』

 

 

アスランとキラは意志を確かめ合う。

だが当然、その意志は同じ。

 

ジェネシスを撃たせるわけにはいかない。

 

アスランとキラはさらに機体のスピードを上げてセラの元へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

キラに通信を入れた後、セラもメサイアの裏。

進軍する地球軍艦隊の迎撃に向かおうとしていた。

 

だが、ザフト軍モビルスーツがセラの前に立ちはだかり、思うように機体を進めることができない。

 

 

「くそっ!こんなことしてる場合じゃないだろ!」

 

 

自分を敵として見ていることはわかる。

だが、それにしたって数が多すぎる。

 

ざっと見ただけで二十機は自分のまわりにいる。

こんな数を自分一人に向けている余裕は、ザフトにはないはずだ。

 

今こうしている間にも、メサイアの背中に地球軍艦隊が迫ってきているというのに。

 

 

「このっ…!」

 

 

セラは、スラスターに戻していたドラグーンを切り離す。

切り離されたドラグーンは瞬時に自分のまわりに向けてビームを斉射する。

 

八基のドラグーンによって武装、またはメインカメラを損傷した機体が後退し、新たな機体がリベルタスに襲い掛かる。

 

セラは手に握っているサーベルを振るう。

ビームソードで斬りかかってくるグフのメインカメラを斬りおとし、もう一方の手に握っていたライフルで両腕を撃ち落としていく。

 

 

「何で…、ここまで執拗に俺を狙ってくる…?」

 

 

そこでセラは疑問を持った。

 

いくら何でもおかしすぎる。

今、ザフトは窮地に陥っているのだ。

そんな状況で、自分ばかりに狙いを定めていたら、地球軍にメサイアが落とされてしまう。

 

そこでセラは、起動し、制動し始めていたジェネシスを思い出した。

ザフト軍艦隊が進軍する地球軍艦隊の迎撃のために動き出していたから、あまり気にしていなかった。

 

だが、もうこれは決定的だ。

 

 

(くそっ、デュランダル!)

 

 

デュランダルは、ジェネシスで艦隊を薙ぎ払うつもりだ。

迎撃に向かっている、味方の艦隊諸共。

 

 

「ちぃっ、邪魔だっ!」

 

 

セラは、眼前から斬りかかってくるグフを殴って弾き飛ばして機体をジェネシスへと向かわせる。

 

もう、迷っている暇はない。

すぐにジェネシスを破壊しなければ、地球が撃たれてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

念のために起動しておいたジェネシスが、こんな形で役に立つとは。

 

デュランダルは大画面に映し出される、メサイアに進軍してくる地球軍艦隊を見つめる。

まさか、地上の基地からこちらに進軍させてくるとは思わなかった。

 

この戦い、何回予想外のことが起こっただろう。

 

こちらも、艦隊を迎撃に向かわせてはいるが恐らく間に合わない。

だから彼らには囮になってもらおう。

 

こちらが大っぴらにジェネシスで薙ぎ払うという姿勢を見せれば地球軍も動きを変えてしまう。

確実に迎撃するために、ジェネシスを使わなければならない。

 

迎撃に向かわせた艦隊は囮。ジェネシスの発射準備をカモフラージュするための囮。

 

 

(さすがの彼らも、私が地球に向けてこれを撃つとは思わないだろう)

 

 

そして、ジェネシスを撃てば間違いなく向こうはレクイエムを撃ってくるはず。

だが、向こうが撃つよりも早くこちらがあれを破壊すればこちらの勝ちだ。

 

唯一、こちらに接近しているリベルタスは味方機に囲まれ身動きが取れない状態にいる。

たとえ、セラ・ヤマトが…、気づいているだろうこちらの狙いを。

しかし気づいていたとしても、ジェネシスを破壊させなければこちらの勝ちだ。

 

 

(だが…、これは賭けに等しいな)

 

 

向こうが早いかこちらが早いか。

デュランダルは珍しく一か八かの勝負に出たのだ。

 

ここまで周到に計画を進めてきたデュランダル。

確実な勝負にしか出てこなかったデュランダルが、賭けに出たのだ。

 

そこまでデュランダルは追い込まれていた。

 

 

(負けない。負けんぞ、私は)

 

 

負けない。負けたくない。

ここまで来れば、その思いが大きい方が勝つ。

 

 

(私は…、負けるわけにはいかんのだ!)

 

 

デュランダルはジェネシスの発射シークエンスを進めるオペレーターたちを眺める。

 

もうすぐだ。もうすぐ、決着が着く。

 

デュランダルは、もうじき訪れる決着を、自分の勝利を信じながら…、いや、確信しながら待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




早く完結させたい…


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PHASE68 創世の破壊と、終焉の破壊

やっと…。やっと、終わりが…見えた…


遂に、地球軍が本気で牙を剥いた。

今まで行ってきた核攻撃は全て囮で、本命は地上から送り込んだ小艦隊。

まったくの手薄なメサイアの背後から要塞を崩そうという地球軍の、ウォーレンの策だった。

 

そして、メサイアが攻め込まれていることは、今ウォーレンと交戦しているクレアの耳にも届いていた。

 

クレアは、メサイアの方向に何度も機体を向けるのだが、その度にウルトルがクレアの進行上に割り込んで邪魔をする。

 

 

「くっ…!」

 

 

さすがのデュランダルでも、この地球軍の侵攻を食い止めることは難しいだろう。

自分がその場に行ければいいのだが、やはりこの男はそれを邪魔してくる。

 

 

「どいてください…!」

 

 

クレアは対艦刀でウルトルに斬りかかる。

だが、クレアもメサイアに迫る脅威を知り焦っていたのか。

いつもの鋭い斬撃とは程遠かった。

 

 

「鈍いぜ、動きが!」

 

 

それを、ウォーレンが見逃すはずはない。

ウォーレンもまた、サーベルを手にアナトへと斬りかかっていく。

 

交錯する二機。斬り結んだ二機。

次の瞬間、アナトが持つ対艦刀が根元からずり落ちる。

 

 

「っ!?」

 

 

「これで終わりだと思うなよ!」

 

 

さらにウォーレンは、手元の武器を失ったアナトへと斬りかかる。

 

 

「舐めないでください!」

 

 

だが、ここで終わるクレアではない。

ビームシールドを展開し、ウルトルの斬撃を防ぐと、もう一方の手でサーベルを握って抜き放つ。

 

 

「ちっ!」

 

 

ウォーレンは宙を返りながら後退し、サーベルからライフルへと持ち替える。

ライフルの照準を合わせると同時に、バックパックに収納し充電しておいたドラグーンを切り離す。

ライフルとドラグーンのビームを、同時に放つ。

 

クレアは、展開していたビームシールドでビームを防ぎながらウルトルの射線上から機体を離脱させる。

そしてクレアもまた、負けじとドラグーンを切り離してウルトルに向けてビームを放つ。

 

 

「この程度でっ!」

 

 

ウォーレンは、アナトが放ったビームを機体を横にずらして容易く回避する。

それだけではなく、胸部の砲口、スキュラをアナトに向けて砲撃を放つ。

 

放たれた砲撃は、アナトが翻しかわされてしまったが、ウォーレンはスキュラを放ったと同時にライフルとサーベルを持ち替えアナトへと接近していた。

 

 

「っ!」

 

 

クレアは、ウルトルの接近に反応する。

手に持つサーベルを煌めかせ、ウルトルの斬撃を防ぎ切る。

 

だが、ウルトルの攻撃はこれで終わらなかった。

もう一方のサーベルをウルトルは抜き放つと、一文字にアナトに向けて振りかかる。

 

 

「くっ…!」

 

 

堪らずクレアは機体を後退させる。

ウルトルはサーベルを空振るが、この一連の攻防の間にウルトルはドラグーンをアナトのまわりに配置し終えていた。

 

 

「これでっ!」

 

 

ウォーレンは全てのドラグーンをアナトに向けて一斉照射させる。

放たれたビームは、アナトに向かっていく。

 

だが、この攻めに対しても、クレアは凄まじい反応速度を見せつける。

 

まずクレアは機体を傾けた。

これにより、ウルトルが放ったビームの内三本のビームが空を貫いていった。

さらにクレアはビームシールドを展開して二本のビームを四散させる。

 

最後にクレアは手に持っていたサーベルと、腰に差されたもう一方のサーベルを振るい、残りの三本のビームを切り飛ばす。

 

ウルトルが放ったビームは、同時に放たれたとはいえアナトからの距離は全て一定ではないことはクレアにはわかっていた。

もし、全てが完璧に同時にクレアに向けられていたら…、かわすことはできなかっただろう。

 

 

「なっ!?」

 

 

ウォーレンは、自分が放ったビーム全てがかわされたことに驚愕する。

これで、完全に詰みだと確信していたのだ。その攻撃を、全てかわしきられたのだ。

 

 

「くそっ!」

 

 

ウォーレンはドラグーンの射線上から逃れたアナトを追う。

アナトにライフルを向けて乱射しながらアナトへと接近していく。

 

クレアは放たれるビームをかわしながら、両腰の収束砲を展開する。

だが、向けるのはウルトルにではない。向けるのは、先程アナトに向けてビームを放ったドラグーン。

 

 

「いけっ」

 

 

放たれた二本の砲撃は、ウルトルが戻そうとしたのだろう。

主の機体に向けて移動し始めたドラグーン、四基を薙ぎ払う。

 

 

「なっ…、くそぉっ!」

 

 

一度緩んだ気を戻すことは難しい。

それはどんな人でも当てはまり、当然ウォーレンにも当てはまる。

 

仕留めたと思い、緩んだ気持ちをウォーレンはまだ引き締めきれていなかった。

 

残った四基のドラグーンは何とか戻すことに成功するウォーレン。

アナトに向けたライフルをさらに連射する。

 

 

「どうしました?動きが鈍くなっていますが」

 

 

先程言われた言葉を、そのまま相手に返すクレア。

 

連射されるライフルをすれすれのところで回避しながらウルトルへと急速に接近していく。

ウルトルが、アナトの突進を止められないことを察して距離を取ろうとするが、遅い。

クレアはサーベルを振り下ろし、機体を真っ二つに斬り裂こうとする。

 

だがウルトルの回避行動を始めていた。

結果、クレアが振り下ろしたサーベルはウルトルの左腕を切り離すに留まる。

 

 

「な…。こんな…、貴様ぁっ!」

 

 

自分の機体が損傷したことに激昂するウォーレン。

しかし、自分の中でどこか悟っていた。

 

アナトとの戦闘途中に感じた恐れが、今ここで実現し始めていることを。

 

このままでは確実にこちらが仕留められてしまう。

どうあがこうと、この結果は変わらないだろう。

 

 

(だったら、俺の最後の役目を果たしてやる)

 

 

ウォーレンは、通信をダイダロス基地司令部につなげる。

 

 

「おい、レクイエムの発射準備はできているな!?」

 

 

『アズラエル様!?はっ、いつでもレクイエムを撃てるようにしておけというアズラエル様の言葉通りに…』

 

 

ウォーレンが出撃する直前、基地司令官に伝えておいた言葉をしっかり実行していたようだ。

 

ウォーレンは笑みを浮かべながら、最後の命令を告げる。

 

 

「計画通りならば、もうすぐデュランダルはジェネシスを撃つはずだ。…詰みだ。ジェネシスが放たれた直後、こちらもレクイエムをメサイアに向けて発射する!」

 

 

『は、はっ!!』

 

 

命令を伝えていたなか、ウォーレンはアナトから視線は離さなかったものの、わずかに注意が逸れてしまっていた。

そのわずかの差が、ウォーレンの運命を決める。

 

 

「っ!?」

 

 

気付けば、ウォーレンはドラグーンに包囲されていた。

目を見開いたウォーレンはその場から離脱しようと機体を動かそうとする。

 

だが、次の瞬間包囲していたドラグーンが火を噴く。

 

放たれたビームは、ウルトルを容赦なく貫く。

片腕が無事ならば、もしかしたら何とか防ぐことができたかもしれない。

だが片腕を失っているウルトルではそれも叶わず。

 

自分のまわりで爆発が起こるのを、ウォーレンは他人事のように感じていた。

 

 

(ここで、俺も終わり…か)

 

 

勝てるとは思っていなかった。

それでも…。

 

 

(最後まで、見届けたかったなぁ…)

 

 

自分の手で、コーディネーターが滅びるところを目にしたかった。

父に、自分が立派にやり遂げた所を見せてあげたかった。

 

だが志半ばで散ることとなる。

 

 

(後は…、頼んだぞ…)

 

 

残った奴らならば、後は何とかしてくれるだろう。

最大の障害のデュランダルは死ぬことになる。奴が消えれば、ザフト軍は総崩れとなる。

 

オーブも、この戦いで多くの犠牲が生まれる。

俺たちの前に、立ちはだかるものはいなくなる。

 

自分は、役目を果たしたのだ。

 

 

(父上…。俺も、そちらに…)

 

 

最後に思い浮かんだのは、自分に微笑みかける父の顔。

 

ウォーレンの意識は、そこで闇へと消えていくのだった。

 

 

「…早く、行かないと」

 

 

ウルトルが爆散していく光景を見つめていたクレアは、すぐに機体をメサイアの方向へと向ける。

だがその時、小さく見えるメサイアの隣。ジェネシスが制動をかけながら照準を合わせているのが見えた。

 

 

「…まさか」

 

 

クレアは悟る。

議長は撃つつもりだ、と。

 

 

(関係ない)

 

 

クレアは心の中でつぶやく。

たとえジェネシスが撃たれようと自分には関係ない。

自分がデュランダルの下で戦ってきたのは、セラと戦うため。勝つためなのだから。

 

 

「邪魔をしないでください」

 

 

だから、早く行かなければ。

セラがメサイアにいることはわかっている。

 

何をしようとしているのかは知らないが、それだけは間違いない。

だから、自分は行く。

 

クレアは、まわりを囲んでくるウィンダムにドラグーンを向ける。

 

自身の決意と欲望と共に、クレアはセラの元へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メサイアでの戦闘が佳境に差し掛かっていた時、月、レクイエム付近での戦闘もさらに激化していた。

ザフト、地球、オーブの三つ巴の戦闘は、ついに最終局面を迎えつつあった。

 

序盤の激しさを残しつつも、だが犠牲になっていく機体や艦の爆発の数は明らかに減ってきている。

 

そんな中、シエルはデスティニーと。シンと対峙していた。

さらに、シエルとシンとは少し離れた所にインパルス、ルナマリアも。

 

シエルは、シンとルナマリアに全てを話した。

自分が何故、ザフトに戻ってきたかを。セラとラクスが、オーブでザフトの特殊部隊に襲われたことを。

そして、デュランダルが企てていた計画についても。

 

シエルの話をすべて聞いたシンとルナマリアは、ただただ呆然とするしかなかった。

途中から、何が何だかわからなくなってしまった。

 

だが、一つだけ理解したことがある。

デュランダルの計画、デスティニープランが実行されてしまえば、自分が本当に守りたいものを守れなくなってしまうということは。

 

 

「シン、ルナ。私が話したいことは全て話したよ」

 

 

シエルがシンとルナマリアに声をかける。

シンは、頭の中でぐるぐると回る思考を何とか収めてシエルの言葉に耳を傾ける。

 

 

「…答えは聞かないよ。あまり時間もないみたいだしね」

 

 

「え?」

 

 

シエルが言った、時間がないという言葉。

シンはそこに気が向く。

 

時間がないとはどういうことなのか。

嫌な予感がシンの中を過る。

 

 

「今、私に連絡が入った。メサイアが…、デュランダル議長が、ジェネシスを撃とうとしている。それも、射線上には地球がある」

 

 

「っ!」

 

 

息を呑む。

もしかしたらとは思っていた。あの兵器、ジェネシスが撃たれる。

もしかしたら、あるかもしれないとは思っていた。

 

だがまさかその予感が現実になるとは考えていなかった。

それも、ジェネシスの射線上に地球が…、シンとマユの故郷の星が存在する。

 

 

「そして、地球軍はジェネシスが撃たれたと同時にレクイエムを撃つ。地球が撃たれたということを口実にしてね」

 

 

「あ…」

 

 

まさに、八方ふさがりという言葉が近いだろう。

オーブ軍は、こんな状況でも諦めずに戦っているのだ。

 

 

「ジェネシスは私の仲間が…、セラたちが何とかしてくれる。だから私はレクイエムに行く」

 

 

シエルはレクイエムに行く。レクイエムを破壊しに。

 

…自分は?自分は、どうする?

 

 

「…シン、ルナ。どんな答えが返って来たって、私は恨んだりしないから。自分だけの答えを出して」

 

 

それが、今この場でのシエルの最後の言葉だった。

ヴァルキリーが、レクイエムへと向き、スラスターが噴いたと思うとあっという間に遠くへと行ってしまう。

 

シンは、動けない。

どうすればいいか、わからない。

 

オーブがメサイアを攻めたのは、ジェネシスを破壊しに行くためだったのだろう。

ほんの少しでも考えればわかる簡単な答えだった。

 

それを、自分は命令の言葉だけを聞いて、勝手に思い込んでいた。

オーブは、悪だと。

 

 

「シン」

 

 

ルナマリアの声が聞こえる。

彼女は、こんな自分をどう思うだろう。

議長の駒と成り果て、守りたいものを守るために戦ってきたと思い込んでいた自分を。

 

 

「行こう、シン」

 

 

「え…?」

 

 

インパルスが傍らに寄ってくる。ルナマリアが、傍らで寄り添ってくれる。

 

 

「私たちも行こう?シン。…あんなものがここにあったら、いけないのよ」

 

 

「ルナ…」

 

 

ルナマリアだって、自分と同じで迷っているのだ。

それでも、自分と違って前に進もうとしている。

 

 

「レクイエムも、ジェネシスも…。存在してはダメなの。撃たれるようなことは、ダメなのよ」

 

 

レクイエムも、ジェネシスもここにあったらいけないもの。

撃たれるようなことがあっては、絶対にいけないもの。

 

 

「守るために…、行こう。シン」

 

 

「っ…」

 

 

守るため。

 

守るために、戦う。

 

そのために。

 

 

「…そうだな。守るために、俺たちはここに来たんだよな。あれを、壊すために」

 

 

元々この月に来た目的は、地球軍を討つためでもオーブ軍を討つためでもない。

あの兵器を、破壊するため。

 

ここで、シンはその事を思い出す。

 

何だ、答えは簡単じゃないか。

 

 

「行くよ、俺。ルナ、一緒に来てくれるか?」

 

 

「えぇ、もちろん!」

 

 

 

 

 

 

 

シンとルナマリアが決意を固めたその少し前、シエルがシンとルナマリアに全てを話していた頃。

アークエンジェルとミネルバは互いに砲火を浴びせかけ、そして防ぎ合っていた。

 

両者の戦いは全くの互角。

前回の戦いではアークエンジェルが有利だったものの、あの時は地の利をアークエンジェルが活かしての優位。

宙では、そうもいかなかった。

 

この宙の戦いで性能的に優位なのはミネルバだ。

元々宇宙での戦いを想定して作り出された艦。

潜航機能などが着いている、地球での戦闘も視野に入れて作られたアークエンジェルよりも有利なのはミネルバなのだ。

 

それでも、戦いが互角な理由。

やはり、戦闘経験の差がここで表れていると言っていいだろう。

 

このユニウス戦役一連の戦闘しか経験していないミネルバ。

そして、前回のヤキン・ドゥーエ戦役、そしてユニウス戦役での戦闘を経験しているアークエンジェル。

 

経験の差がどちらの傾くかは明らかだ。

 

 

「ゴットフリート、てぇーっ!」

 

 

マリューの号令と共に、アークエンジェルの主砲といっていい砲撃が放たれる。

放たれた巨大な光条は、同時に放たれたミネルバの光条とすれ違いながらミネルバの艦体へ激突する。

 

さらに同時に、アークエンジェルの艦隊にもミネルバの砲撃が激突。

アークエンジェルの固い防御に阻まれ、損傷こそ大したことはないものの奔る衝撃は抑えられない。

 

クルーたちは襲う衝撃に耐えながらミネルバの動きから目を離さない。

 

ほんの一瞬でも目を離せば、それが致命的になるとクルーたちはわかっていたからだ。

 

 

「回頭三十!右から回り込むわよ!」

 

 

「はい!」

 

 

マリューの指示を受け、ノイマンが操縦桿を傾ける。

アークエンジェルは大きく弧を描きながら、ゴットフリートを受けて揺れるミネルバに接近していく。

 

 

「バレルロール!バリアント照準!」

 

 

マリューはここから詰みにかかる。

ミネルバのミサイル砲がこちらに向けられている。

それをバレルロールでかわし、上方からバリアントを撃ちこむ。

 

これでミネルバの戦闘能力を削ぎ落そうという作戦だ。

 

ノイマンが操縦桿を傾け、バレルロールを行おうとする。

だがその時、ミリアリアが口を開いて驚愕の言葉を口にした。

 

 

「艦長!メサイアに向けて、地上から発進したと思われる地球部隊が侵攻中!」

 

 

「えぇっ、何ですって!?」

 

 

ミリアリアの報告に目を見開くマリュー。

だが、ミリアリアの言葉はまだ終わらなかった。

 

 

「ザフトも、迎撃のために部隊を動かしていますが…、それと同時に、ジェネシスを動かしていると…!」

 

 

「っ!?」

 

 

この報告が入ったのは、アークエンジェルだけではなかった。

アークエンジェルと交戦していたミネルバにも、同じ報告が入っていたのだ。

 

そして、この報告を聞いた瞬間、考えたことは両艦長とも同じだった。

 

 

「ローエングリン照準、」

 

 

「タンホイザー起動!照準、」

 

 

マリューとタリアの目には、もう先程戦っていた巨艦の姿はなかった。

目を向けたのは、地球軍の超巨大殺戮兵器。

 

 

「「レクイエム!」」

 

 

もう、時間をかけている場合ではなくなった。

今すぐにでも、なりふり構わずこの兵器を破壊しなければならない。

 

両艦の最大の破壊力を誇る砲撃が、レクイエム目掛けて放たれる。

だが、放たれた砲撃はレクイエム周辺に張られたリフレクターによって弾きかえされる。

 

 

「くっ…!」

 

 

その光景を、マリューは唇をかむ。

やはり何かしらの対策を施していたのだ。

 

恐らくこのリフレクターは、モビルアーマーに搭載されているものよりも強固にされているものだろう。

リフレクターを壊してレクイエムにたどり着くのはかなり苦しいものになる。

 

そんな巨大な壁に向かって、アークエンジェルも、ミネルバも。

オーブ軍もザフト軍も、必死に砲火を浴びせ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

シンとルナマリアを置いてから、シエルはヴァルキリーが出せる最大速度でレクイエムへと向かっていた。

立ちはだかってくる地球軍機は、全てサーベルで斬り落とし、決してスピードを落とさないで。

 

そう、立ちはだかるのは地球軍機だけ。ザフト機は、シエルの前に現れることはなかった。

 

その理由を、シエルはすぐに悟る。

 

 

「っ!レクイエムが!」

 

 

遠目から見てもわかる。レクイエムが動きを見せているのだ。

いつでも撃てるようにと、基地内部にいる兵たちがレクイエムの発射シークエンスを行っているのだろう。

 

シエルは、苦悶に表情を歪ませる。

シエルの目の前では、ザフト艦が主砲をレクイエムに向けて放っている光景が見える。

ザフト艦だけではない。オーブ艦も共に、レクイエムに砲火を浴びせている。

 

だが、その砲火はレクイエムに届かない。

レクイエムのまわりに張られた電子リフレクターが、振りかかる砲火を全て遮っているのだ。

 

このままでは、セラたちがジェネシスを破壊してもこちらが間に合わない。

 

シエルは、機体をレクイエムにさらに接近させていく。

 

 

「くっ…!」

 

 

だがそのシエルの前に地球軍機が立ちはだかる。

シエルは、サーベルを抜いて地球軍機の集団に斬りかかっていく。

 

襲い掛かる地球軍機の武装を斬り裂き、もう一方の手で握るライフルでメインカメラを撃ち抜いていく。

 

シエルは凄まじい速度で地球軍機を戦闘不能に陥らせていく。

しかし、襲い掛かっていく地球軍機の数がなかなか減らない。

 

やはりレクイエム付近に近づけば近づくほど、その敵機の勢いが大きくなっている。

倒せば倒すほど敵機が襲い掛かり、レクイエムに近づくことすら難しい。

 

このままでは

 

 

「このままじゃ…、間に合わない…!」

 

 

ジェネシスが、撃たれてしまう。

 

レクイエムが、撃たれてしまう。

 

地球が、撃たれてしまう。

 

プラントが、撃たれてしまう。

 

ジェネシスが撃たれてしまえば、セラと共に暮らしてきた母なる星が穢され、レクイエムが撃たれてしまえばプラント最終防衛網が破られると言っていい。

 

 

「この、ままじゃ…!」

 

 

ほんの少しでも遅れれば取り返しのつかないことになる。

それを、防がなければならないのに。

 

シエルは、サーベルで地球軍機を斬り裂きながらもう一方の手で握られているライフルからサーベルに持ち替える。

 

もう、突き進むしかない。

シエルはサーベルを振るいながら機体をレクイエムへと進ませる。

 

多少の損傷は気にしない。

斬撃、ビームが装甲を掠ろうとも怯まずにシエルは突き進む。

 

振るわれるサーベルが、敵機の武装、メインカメラを奪っていく。

サーベルが煌めくごとに、地球軍機が一機ずつ戦闘不能となり撤退を余儀なくされる。

 

シエルの突進を、止められるものはいなかった。

シエルの勢いは止まらず、ついにレクイエムがヴァルキリーの射程範囲内まで辿りつくことができた。

 

 

「っ!」

 

 

シエルは、背後から追いかけてくる地球軍機が放つビームをかわしながら、レクイエムに向けて肩から跳ね上げた収束砲を向ける。

 

砲撃をレクイエムに向けて放つが、アークエンジェルのローエングリン、ミネルバのタンホイザーをも防いだリフレクターがシエルが放った砲撃を弾き飛ばす。

シエルもリフレクターによって阻まれるだろうと予想はしていたが、改めて現実を見せつけられたような気分になり、表情を歪ませる。

 

 

「くっ!」

 

 

シエルは、機体をその場から離す。

シエルが先程までいた場所を、多数の光条が横切っていく。

 

今こうしている間にも、シエルは多数の地球軍機に狙われているのだ。

レクイエムだけに注意を向けているわけにもいかないのだ。

 

 

「こんなもののために…、どうして戦うの!?」

 

 

地球軍機はこのレクイエムを守るためにこうしてシエルの、レクイエムを破壊しようとする者の前に立ちはだかっている。

 

何故、こんなもののために戦うのか。

何故、こんなものを守ろうとしているのだろうか。

こんな、人を恐怖に陥れることしかできないもののために。

 

 

「これを使って…何をしようとしているの…?」

 

 

シエルは右手に握るサーベルからライフルに持ち替えて引き金を引く。

銃口から放たれた光条が、地球軍機のメインカメラを貫く。

 

さらにもう一方の手に握られたサーベルを振るって、襲い掛かるモビルアーマーを斬りおとしていく。

 

少しでも隙があれば、シエルは砲火をレクイエムに浴びせようとする。

だが、その全ての砲火はリフレクターに阻まれ四散していく。

 

シエルだけではなく、全ての者の砲火が、防がれ四散する。

 

 

「っ!?」

 

 

どうすればレクイエムを破壊できるか。

考えようとしたその時、コックピット内にアラートが鳴り響いた。

 

何者かにロックされているのだ。

シエルは機体をその場から離脱させようとしながらカメラを切り替えて辺りを見渡す。

見つけたのは、こちらに銃口を向けるウィンダムの姿。

 

ビームに貫かれれば、死ぬ。

ここで死んではいけない。シエルは機体を動かしてその場から離れようとする。

 

だが、気づくのが遅すぎた。

シエルの目の前で、ライフルの銃口が火を噴く。

 

そのまま、ヴァルキリーのコックピットが、シエル諸共貫かれる、はずだった。

 

 

「え…」

 

 

こちらにライフルを向けていたウィンダムが、どこかからやってきた砲撃に飲み込まれ爆散した。

 

シエルは、思わず呆然としてしまった。

自分のまわりに友軍機はいなかったはずだ。

たとえいたとしても、この数だ。地球軍機に囲まれ、自分を助ける余裕などないはず。

 

一体、誰が…。

 

 

『シエル!』

 

 

その時、通信を通して何者かの声がシエルの耳に届いた。

その声を聴き、シエルは大きく目を見開く。

 

どうして、彼がここにいるのだろう。

確かに、彼に話をした。その時、味方になってほしいという思いも込めて話したことも事実だ。

 

だが、心のどこかで自分の言葉は届かないだろうなという予感もしていた。

 

その予感は、外れた。

 

 

「シン…?ルナ、も…」

 

 

ウィンダムを飲み込んだ光条がやってきた方向からは、デスティニーとインパルスがこちらに向かってきている。

 

そこで、自分のまわりの機体の数が少なくなっていることにシエルは気づく。

シンとルナマリアが自分を助けてくれたのだ。

 

 

「どうして…」

 

 

『シエルが言ったんでしょ?レクイエムを破壊するために協力してほしいって!』

 

 

『俺たちだって、あんな兵器の存在を許しちゃいけないってことくらいわかる。だからシエル!早くレクイエムを!ここは俺とルナが食い止める!』

 

 

思いは、届いていたのだ。

 

シエルは、こくりと頷いて機体をレクイエムに向ける。

 

 

「なら、行くからね。…ねぇ、シン?」

 

 

『ん、なんだよ』

 

 

シエルは、ヴァルキリーをレクイエムに向け、スラスターを噴かせてからシンに話しかける。

きょとんとしているのだろう。声から察したシエルは、シンに続けてこんなことを言った。

 

 

「ルナ…って呼ぶようになったんだね、シン。一体何があったのかなぁ?」

 

 

『うぁ…、えぇ!?』

 

 

「この戦いが終わったら聞かせてもらうからね?ルナも一緒に!」

 

 

『ちょっと、シエル!?』

 

 

シエルの問いかけに動揺した二人の声を、微笑みながら無視してシエルはレクイエムへと機体を走らせる。

 

その頃、同じようにセラも機体をジェネシスに向けて進ませていた。

だが、今のセラはまわりに味方がいない。

 

孤軍奮闘の状態で、進行を防ぐために包囲してくるザフト機の集団と交戦していた。

 

セラは両手に握ったライフルを連射して遠くから砲で狙ってくるザクのメインカメラを撃ち落としていく。

直後、今度はグフがビームソードでリベルタスに斬りかかってくるが、セラは瞬時に両手のライフルから二本のサーベルに持ち替える。

 

斬りかかってくるグフがビームソードを握る方の腕をサーベルで斬り飛ばしながら、セラは少しずつジェネシスに近づいていく。

 

セラは、サーベルを振るいながら考えていた。

ジェネシスの構造は見た所、あの時…、ヤキン・ドゥーエの時とそう変わっていない。

ならば、あの時と同じようにどこかに内部に入る入り口があるはずだ。

 

 

『セラ!』

 

 

セラは、側面から襲い掛かってくるグフのメインカメラをサーベルで斬り飛ばそうとする。

その時、通信を通して声が耳に届いた瞬間、そのグフのメインカメラが、サーベルを持っていた方の腕がビームに貫かれ、吹き飛んだ。

 

それだけではない。自分のまわりにいたザフト軍機のほとんどが、ビームに、ミサイルによって武装を、メインカメラを失っている。

 

こんなことができる者をセラは三人しか知らない。

 

まずシエル。だがシエルは、今、月でレクイエムを破壊するために戦っているはず。

 

次に、キラだ。そして、セラは先程耳に届いた声はキラの物だと確信していた。

だが、セラにはまだ違和感を感じていた。

 

自分のまわりを包囲していたザフト機のほとんどを、ほぼ一瞬で吹き飛ばした。

確かに、シエルやキラならばできるだろうが、一人では不可能だ。

 

シエルとキラ、だとすればそこまでだが先程も言った通りシエルは今、月にいるはず。

ここにいるはずがない。

 

ならば、キラの他にもう一人…、誰だ?

 

トールか?

いや、たとえトールでもあそこまでの神業はできないだろう。

 

 

『セラ!ここは僕たちに任せて!』

 

 

「兄さん」

 

 

考えていると、フリーダムがすぐ傍まで寄ってきて、キラがセラに声をかけてきた。

 

 

「わかった。俺は、ジェネシスを」

 

 

『セラ』

 

 

セラがジェネシスに行こうとすると、キラの声とは違う、別の男の声が通信を通して聞こえてきた。

 

すぐに、その声が何者なのかをセラは悟る。

 

 

「アスラン」

 

 

『…俺のようには、なるなよ』

 

 

アスランが、自分に声をかけてくる。

どんな思いが込められているか、セラにはわかっていた。

 

あの時、アスランは自分の命を犠牲にしようとしてジェネシスを破壊した。

自分が、何を考えているのか、アスランも、キラもわかっているのだ。

 

 

「大丈夫だって。リベルタスの機動力を信じろ」

 

 

『…そこは俺を信じろって言うところじゃないのか?』

 

 

「え?」

 

 

『え』

 

 

いやいやいや、俺なんかよりリベルタスの機動力の方が信じられるだろう。

アスランが何を言ってるんだ?と言わんばかりに問い返してくるが、何を言ってるんだ、はこちらのセリフだ。

 

俺を信じろって言ったって信じてくれないことくらいわかってる。

 

 

「…頼んだ」

 

 

『任せろ』

 

 

アスランが答えを返す前に、セラはもう動き出していた。

自分の進行を遮ろうとするグフがやってくるが、先程の勢いとは天地の差だ。

 

セラは手に持つサーベルを振るってグフを退けると動きを止めずにジェネシスに向かっていく。

セラの進路上、セラの視界には内部に入ることのできる入り口を見つけることは出来ない。

 

セラはグフやザクの追撃を振り切りながら、ジェネシスのまわりを飛んで入り口を探す。

 

 

「どこだ…、どこにある…!?」

 

 

まさか、設計を変えてあの時にはあった入り口をふさいだ、ということもあり得るのではないだろうか。

 

ジェネシスの表面には強固なPS装甲が張り巡らされていた。

改良されたこれも、前回よりもさらに強化された装甲が張られているに違いない。

 

ただ攻撃しても破壊することは出来ないはずだ。

どこかに、あるはずだ。

 

セラは少しの異変も見逃さないように目を凝らしてしっかりと観察する。

 

 

「っ、これは…」

 

 

その時、セラの目に見えた。

他の場所よりも、わずかに色が濃い装甲の部分が。

モビルスーツ一機くらいは入れるほどの大きさだろう。

 

その部分だけが、他の部分よりも装甲の色がわずかに違うのだ。

 

 

「…」

 

 

考えている暇はない。何かがあるのなら、試してみるしかない。

 

セラは肩の収束砲を跳ね上げて、その部分に向ける。

そして迷わず、砲撃を放った。

 

放たれた砲撃は、装甲に阻まれ…、ることはなかった。

 

その違和感のある部分を砲撃が飲み込み、結果、違和感のある部分がまるまる消え失せ、中へと通じる通路がセラの前に現れる。

 

 

「先に、行ける!」

 

 

セラは機体をジェネシス内部につながると思われる通路に機体を進ませる。

 

奥にたどり着くまで、時間はそうかからなかった。

奥にあったのは巨大な機器。ジェネシスの中枢と思われる巨大な機器だった。

 

セラは、戻していた収束砲を再び跳ね上げる。

 

そして、セラがジェネシスにたどり着いていた頃、月でもセラと同じようにレクイエムの元にたどり着いていたものがいた。

ヴァルキリーを駆るシエル。

 

だがシエルは、リフレクターに阻まれてこれ以上先に進めずにいた。

 

 

「…、っ」

 

 

シエルは、背後からこちらに向かってくる地球軍機の集団に気づく。

 

ウィンダムの集団が、ライフルを構え、こちらに斬りかかってこようとサーベルを構えて。

 

まわりに、友軍機はない。

シンとルナマリアはどうしたのだろうか。

さすがに二人では、全ての機体を抑え込むことは出来なかったのか。

 

 

「くっ…」

 

 

抗戦するしかないのか。

シエルは収めてあるライフルに手をかける。

 

ライフルを抜き、襲い掛かる集団に向けて放とうとしたその時。

 

 

『行け!シエル!』

 

 

「っ、ネオさん!?」

 

 

アカツキが、ヴァルキリーとウィンダムの集団の間に割り込む。

 

 

『シエル、行け!レクイエムを…、破壊するんだ!』

 

 

ネオは…、ムウはそう言いながら、ドラグーンをヴァルキリーのまわりに配置させるとフィールドを張る。

ビーム兵器を弾きかえすフィールド。

 

 

「…わかりました!」

 

 

アカツキがウィンダムを抑えている今しか、レクイエムを破壊する機会はない。

 

すでに、レクイエムは発射シークエンスをほとんど終えたのか。

発射する直前、臨界を終えようとしている。

 

シエルは、構わずレクイエムに向けて機体を突っ込ませる。

 

レクイエムに入る直前、アカツキのドラグーンが張ったフィールドと、レクイエムに張られたリフレクターがぶつかり合う。

スピードが緩まるが、少しずつヴァルキリーはレクイエム内部に侵入していく。

 

ついに、ヴァルキリーはレクイエムに侵入することに成功した。

シエルの目の前で、レクイエムの砲口が開き始める。

 

レクイエムが撃たれようとしている。

 

 

「まずい…!」

 

 

シエルは、肩の収束砲を跳ね上げる。

 

 

 

 

 

二人が砲撃を放ったのは同時だった。

 

 

「「行っけぇえええええええええええええええええ!!!」」

 

 

放たれた砲撃は、ジェネシスの中枢機器を貫いた。

放たれた砲撃は、レクイエムの内部へと向かっていき、砲口を潰した。

 

貫かれたジェネシスの中枢機器が爆発を起こす。

セラはその爆発から逃れるために、すぐに機体を翻してジェネシス内部から逃れようとする。

 

潰された砲口、レクイエムは、放とうとした砲撃のエネルギーが暴発を起こす。

シエルは起こった爆発から逃れるために機体を上昇させる。

 

セラとシエルは、爆発の炎に掴まることなくその場から逃れることに成功する。

機体をさらにそれぞれの兵器から離し、起こる破壊現象を見つめる。

 

ジェネシスは、まるで芋蔓式の様に次々に爆発が起こり、少しずつその形を崩していく。

 

レクイエムは、内部で起こった爆発によって巻き起こされた炎が柱となり巻き上がっていく。

 

 

 

 

破壊しかもたらすことのできない巨大兵器。

存在した時は短いものの、戦いに携わった者としてはとても長く感じた。

 

何度も何度も破壊を試みたその巨大兵器を、ついに破壊できたのだ。

 

戦闘は、ついに最終局面を迎えることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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PHASE69 導く者の最期

長いし…、上手く書けているか心配だし…


創世の兵器ジェネシスと、終焉の兵器レクイエム。

 

巨大な塊は、ついに崩れ落ちた。

 

 

「バカな…」

 

 

デュランダルは、爆発を起こし形を崩していくジェネシスをただ呆然と眺める。

 

こんなはずではなかった。こんなはずでは…。

 

 

「リベルタス、接近!」

 

 

目を見開き、呆然とするデュランダルの耳に追い打ちをかけるようにリベルタスの接近に報告が届く。

 

モニターの中で、リベルタスは両手にサーベルを握り要塞へと迫ってくる。

瞬く間にリベルタスは外周のリングに到達すると、二本のサーベルを振り下ろす。

 

サーベルがぶつかると、リングによって張られていた光の壁が揺らぐ。

まるで、初めからそれを狙っていたかのように、リベルタスはすぐにサーベルをリングに突き刺した。

 

奴は、わかっていたのだ。

この要塞が、レクイエムのようにリフレクターによって守られていることを。

 

サーベルを突き刺したまま、リベルタスは機体を走らせる。

要塞の対空砲がリベルタスを追って放たれるが、到底リベルタスのスピードに追い付くことは出来ない。

 

容赦なくリベルタスはリング全周にわたって深い傷を刻む。

機能を失ったリングは崩れ落ちていく。ここぞとばかりにリベルタスは収束砲をメサイアに向けて放つ。

 

さらに、リベルタスの後方から続いてきたエターナルからも砲撃が開始された。

 

ミサイルが、ビーム砲が要塞に襲い掛かる。

 

セラはふと、メサイアの港口を見つけた。

 

僅かに考えたのち、セラはその港口に向けて機体を進ませる。

機体を奥に進ませ、中枢部を見つけるとセラはスラスターからドラグーンを切り離す。

 

ビームが隔壁を貫く。途端、凄まじい轟音と震動が要塞を震わせる。

動力部にも損傷を与えていたのだろう。シャフトを照らしていた証明が瞬いて消え、ほどなくすると非常電源に切り替わる。

 

ここで引き返せば、それでここでの戦闘は終了だ。

だがセラはそうしなかった。さらに奥に向けて機体を進ませる。

 

 

『セラ!?』

 

 

『どうしたセラ!戻って来い!』

 

 

スピーカーから引き返すように言うキラとアスランの声が響く。

だが、セラは二人に対して言葉を返さなかった。

 

この奥には、あの男がいるはず。

ずっと、思っていたこと。

 

話がしたい。しなければならない。どうしても。

 

どこか義務感にも似た思いに駆られながら、セラは奥へ奥へと進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ…あぁ…、艦長…」

 

 

それは、レクイエムが破壊されてから少し経った後だった。

アーサーがメサイアの方へと目を向けて、ため息のような声を漏らした。

 

 

「メサイアが…」

 

 

メサイアだけではない。その傍らにある巨大兵器もまた、大きく炎を噴き出していた。

 

炎に包まれるメサイアとジェネシスを見ながら、タリアは思った。

 

何のために自分たちは戦ってきたのだろう、と。

 

タリアは見たのだ。

ジェネシスから炎が噴き出し始めるその直前、わずかだが方向から光が漏れた所を。

 

間違いなく、彼は撃とうとしたのだ。ジェネシスを。

味方諸共。地球諸共。

 

守るために戦ってきたのではないのか。

 

 

(私は…)

 

 

タリアは頭の奥で、今もプラントで自分の帰りを待つ、子供と夫の姿を思い浮かべた。

 

もし、ジェネシスが撃たれていればどうなっていただろう。

 

メサイアを襲おうとした敵艦隊は、当然全滅していただろう。

味方艦隊と共に。

 

そして、射線上にあった地球にも着弾していたはずだ。

さすがに全エネルギーを込めて撃つことはなかったろうが、それでもかなりの犠牲が出ていたに違いない。

 

…そんなことをして守った世界を、家族は喜んでくれるだろうか。

プラントにいる市民たちは、喜んでくれるだろうか。

 

タリアは静かに、まわりにいるクルーを見回す。

 

 

「アーサー。アークエンジェルに、通信をつなげてくれる?」

 

 

「は…、え?」

 

 

アーサーが、きょとんとした様子でタリアに問い返す。

 

 

「本艦の戦闘は終わりよ…。私たちの戦いは…、これで終わったの。これより本艦は、アークエンジェルに投降します」

 

 

メサイアが落とされた今、自分たちの負けは確実。

無駄な戦いをして、クルーたちを犠牲にさせたくはない。

ずっと、共に戦ってきた仲間たちを…、死なせたくはない。

 

クルーたちは、悲痛な表情を浮かべる。

本当に、良く戦ってくれた。ずっと、ずっと。

 

アーモリーワンから始まり、自分たちは何て遠いところまで来てしまったのだろう。

 

 

『こちら、アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです』

 

 

考えていると、いつの間に通信が繋がったのだろう。

モニターには、かつてオーブで邂逅したあの女性技師映し出されていた。

 

 

「あ…!」

 

 

アーサーが驚愕に目を見開く。

だがタリアは、どこかでわかっていたのだろう。

特に驚きもせずに、こちらを見つめてくるマリューの目に対して見つめ返す。

 

 

「こちらミネルバ艦長、タリア・グラディスです」

 

 

タリアは、自分の名を告げる。

そして直後、こちらの意志を、向こうに告げるために口を開く。

 

 

「これより本艦は、貴艦に対して投降する所存を伝えます」

 

 

『…』

 

 

タリアが告げると、モニターに映し出されるマリューは、わずかに目を見開いた。

 

まだ、こちらに戦闘の意志はあるのだと思っていたのだろう。

先程まで、こちらの様子を窺うようにまわりを移動していたのだから。

 

だがこちらにはもう、戦う意志はない。

それを、タリアは伝える。

 

 

「総員を退艦させ、貴艦に保護していただきたいと思っています。よろしいでしょうか?」

 

 

『…はい。承りました』

 

 

向こうの艦長の許可は取った。

タリアはすぐにクルーたちに命じる。

 

 

「総員退艦。シャトルに乗り込んだら、アークエンジェルに向かいなさい」

 

 

「艦長…?」

 

 

総員退艦の命令に対しては特に思うところはないのだろう。

事実、クルーたちはタリアの命令の直後、席を立ちあがっている。

 

だが、アーサーがどこか不思議そうな目でタリアを見つめていた。

 

 

「…アーサー、ホントに申し訳ないのだけれど…、後を頼めるかしら?」

 

 

「え…?」

 

 

もしかしたら、アーサーは気づいていたのかもしれない。

自分がここから離れ、行こうとしていたことを気づいていたのかもしれない

この時タリアはそう思った。

 

アーサーはわずかに目を瞠り、少しの間黙ったままだった。

 

 

「私、行かなくちゃ」

 

 

「…」

 

 

「皆を、お願い」

 

 

タリアは、アーサーに、クルーたちを背にして艦橋を去っていく。

 

アーサーだけでなく、クルーたちの視線を背に受けながら、タリアは心の中でつぶやいた。

 

ごめんなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メサイアの奥へ進んでいたセラは、これ以上機体に乗ったまま進めない所まで来ると、銃を握り、ヘルメットを外してからコックピットから降りた。

 

要塞の中は、時折、小さい震動と大きい震動が交互に起こっており、もしここが無重力空間の中ではなかったら、体勢を整えることすらなかなか難しかっただろう。

 

セラは、辺りを歩き回っている見張りの兵の視覚を掻い潜り、奥へ奥へと進んでいく。

 

自分の中の感覚が、こっちに行けと自分に言っているのだ。

その感覚に従ってセラは進んでいく。

 

 

「…」

 

 

一つの扉の前にたどり着いたセラ。

 

ここだ。

 

セラは迷わず、スライドした扉の奥へと歩いていく。

 

恐らく、その部屋は広い円形の部屋だったのだろう。

 

そして、この部屋の中央かまたは最奥かはたまたそれ以外なのか。

瓦礫の山によってわからなくなってしまっているが、それでもその男はこの部屋の中で座していた。

 

 

「ようこそ、と歓迎した方がいいかな?」

 

 

なめらかな声がセラを迎える。

直後、奥にある椅子が回転し、長い黒髪の男、ギルバート・デュランダルがセラに向き直った。

 

この場にもセラの攻撃の余波が届いていた。

辺りに散らばる瓦礫に、爆風によって倒されたコンソール。

倒れたコンソールの下敷きになった、兵士たち。

 

自分がしたことなのだが、思わずセラは顔を顰めた。

だがすぐにセラは顔を奥にいるデュランダルに向ける。

 

彼は爆風に巻き込まれながらも生き延びた。

脱出することもできただろう。他の人たちは脱出しただろう。

 

しかし、デュランダルはしなかった。

自分を、待ち受けていたかのように。

 

 

「こうして会うのは久しぶりだね。セラ君」

 

 

「そうですね。アーモリーワンから、こうして対面するのは久しぶりですね。あなたの姿はテレビで良く見てきましたが」

 

 

この戦時中、良くデュランダルは放送を通して演説をしてきた。

その演説を、セラは見てきた。

 

対面すること自体は久しぶりだが、その姿を見ること自体はセラにとって久しぶりでもなかったのだ。

 

 

「君が、ここまで来るとは思っていなかったよ」

 

 

デュランダルは、肩をすくめながら口にする。

この破壊された背景の中で、この男の仕草はとても場違いに見えた。

 

だが、セラはこの男の思うように動く気はさらさらない。

 

 

「あなたの世間話に付き合うつもりはありません」

 

 

このまま黙っていれば、デュランダルは長々と無駄な話を続けていただろう。

セラはデュランダルの作る流れを、一言で断ち切る。

 

 

「…あなたはまだ、戦いを続ける気ですか」

 

 

セラは、これを聞くためにここに来た。

そして…

 

 

「無論だ」

 

 

続けるというのなら、それを止めるという決意も秘めて。

 

 

「…何故?」

 

 

「何故、だと?それは君にもわかっているだろう?

 

 

セラの頭の中に一つの言葉が思い浮かぶ。

 

 

「デスティニープラン、ですか」

 

 

「やはり知っていたか。その通りだ。私は、導かねばならない。この世界を」

 

 

デュランダルのその言葉に、セラは目を細める。

それを知覚したデュランダルは、続けて口を開く。

 

 

「私を撃つかね?…だが、止めた方が良い。そんなことをすれば、また世界は混沌の中に逆戻りだ」

 

 

デュランダルを撃つ。

その選択肢も、セラの中にはあった。

 

だが今は、違う。

 

 

「…あなたを撃つ気なんてない」

 

 

「なに…?」

 

 

デュランダルは、セラが自分を撃つつもりでここに来たのだと思っていたのだろう。

目を瞠ってセラを見つめる。

 

 

「俺は…、あなたを止めに来ただけだ」

 

 

セラは、真っ直ぐにデュランダルを見つめ返して言う。

それと同時に、セラは持ってきた銃を前に投げ出す。

 

投げ出された銃は、無重力の中、漂い、二人の間からどこかへ飛んでいってしまう。

 

 

「止めに来た、か」

 

 

まるで、面白いと言わんばかりにデュランダルの目が細められる。

 

 

「私を止める。それがどういうことか、君はわかっているだろう」

 

 

その言葉に、セラは頷く。

先程も、デュランダルは言った。自分を撃てば世界がどうなるかを。

 

彼を止めるということは、彼が作り出した流れを全てストップさせるということ。

彼を撃つということと同義と言ってもいい。

 

 

「君はこの世界をどう思う?戦わないと言う道を選べるというにも拘らず、戦い続ける人間たちの世界を」

 

 

セラは、デュランダルの問いかけに沈黙で返すことしかできない。

デュランダルは、ただ見つめてくるセラに向けて続ける。

 

 

「この世界は変わらなければならない。変えなければならない。そして、それができるのはデスティニープランだけなのだよ」

 

 

「運命で、人の生き方を決める」

 

 

「自分の与えられた役割を知り、満ち足りて生きる。それ以上に幸福な生き方がどこにあるのかね?」

 

 

もし、それができればどれだけ幸せなことだろう。

 

 

「…もし、その与えられた役割が自分の理想とかけ離れたものだとしたら?」

 

 

今度はセラがデュランダルに問いかける。

問われたデュランダルは、浮かべていた笑みを崩さずにセラに問い返す。

 

 

「君の様に、かい?」

 

 

「俺に与えられた役割は復讐。もし、あなたが言うことで満ち足りることができるというのなら…、俺はどうすればいい?」

 

 

与えられた役割を全うして満ち足りて生きる。

だが、セラはそれの例外にあたる。

 

復讐という役割を全うして満ち足りることなどできやしない。

そんなこと、できるはずがないのだ。

 

 

「だからこそ、君はここで死ななければならないのだ」

 

 

「っ!?」

 

 

デュランダルの懐から取り出されたものを見て、セラは目を瞠る。

デュランダルは懐から取り出した銃を、セラに向ける。

 

 

「…害すべき役割を与えられたものは、全て排除する気か」

 

 

「それが、平和への近道だよ」

 

 

本気で言っている。

デュランダルは、本気で言っているのだ。

 

平和とはかけ離れたことを、平和への近道だと本気で考えているのだ。

 

 

「違う!」

 

 

セラは、デュランダルの考えを真っ向から否定する。

 

 

「そんなことで平和になるとでも思っているのか?もしあなたのする排除の対象の中に、今まで平穏に暮らしている人がいたらどうする気か?そんな人たちも、あなたは排除するというのか?」

 

 

「無論だ。危険の種は刈るべきだよ」

 

 

その言葉は、セラの中で怒りを燃え上がらせた。

 

 

「あなたは…、それは、罪のない人たちを殺すと言っているということと同義だ!」

 

 

「なに?」

 

 

「ずっと、ただ静かに暮らしてきた人でも、あなたは危険だと判断すれば殺すというのか…!」

 

 

自分の様に、手を血に染めてきた者だけならばまだいい。

だが、血も知らぬ、純粋な人もデュランダルは殺すと言っているのだ。

 

 

「そんなことで、本当に平和なんて…、幸福なんて訪れるはずがないだろう!」

 

 

そんなもの、ただの殺戮だ。

殺戮で訪れた平和などで、人々に幸福など訪れるはずがない。

 

第一に、平和が訪れることもあるはずがないのだ。

 

 

「ならば君はどうしろというのかね?」

 

 

デュランダルは、椅子から立ち上がり、銃口をセラに向けたまま問いかける。

 

 

「この計画がダメというのなら…、君はどうしていくと言うのかね」

 

 

「戦うさ」

 

 

デュランダルの問いかけに、セラは即答で返す。

 

 

「俺は、この力を守るために使うと決めたんだ。自分のまわりの大切な人たちを守るため。戦うことのできない、弱い人たちを守るために」

 

 

「君は、それができるのかね?いや、力だけで考えれば可能だろう。だが、君はそれを実行することができるのかね?」

 

 

セラの答えを聞いたデュランダルは、さらに問いを返す。

 

 

「君のその、新人類ともいうべく力で…。守ることが、できるのか」

 

 

「…」

 

 

「現に一度、君は全てを壊しかけただろう?」

 

 

デュランダルが言っているのは、オーブ沖での戦闘終了直後のことだろう。

 

セラは、ただ力の奔流に身を任せ、まわりの物を全て破壊しようとした。

 

あの時は、シエルのおかげで止まったが、いつでもシエルが傍にいるとは限らない。

それに、あの時はただ運が良かっただけなのかもしれない。

 

 

「しない」

 

 

「なに?」

 

 

「もう、あんなことはしない。言葉だけなら簡単だろう。だから、これは誓いだ。俺はあなたに誓う。俺の力は、もう壊すことのために使われることはない」

 

 

そこまで言い切った所で、セラははっ、と目を見開いてから言い直すために口を開く。

 

 

「いや…、言い直そう。俺のこの力は、壊すためにあるのかもしれない」

 

 

「ほぅ?ならば…」

 

 

デュランダルが、逸れていた銃口をセラに向け直し、そして安全装置を外す。

引き金を引こうと、指に力を込めようとするデュランダル。だがその前に、セラが口を開いた。

 

 

「俺のこの力は…、目の前の脅威を壊すためにある。大切な人たちや、戦うことのできない人たちに降りかかる理不尽を壊すために使う」

 

 

「っ…」

 

 

デュランダルの動きが止まる。

 

セラはそれを見ながら、最後にこう言い放った。

 

 

「これが、俺の答えだ」

 

 

セラはセラの答えを言い切った。

だがまだ言いたいことはある。

 

 

「俺は、平和のために何かをやれと言われたら…、戦うしか思いつかない。政治とかは、俺にはよくわからない」

 

 

セラには、デュランダルの様に政治に携わることはできない。

世界の平和のために、直接的に働くことは、セラにはできないのだ。

その能力は、セラには備わっていない。

 

だが、セラにはわかる。

 

 

「運命に縛りつけられて…、それが正しいことだと納得させられて、幸福になんて生きられないんだよ…」

 

 

「…」

 

 

悲しげに視線を落とすセラを、デュランダルは見つめることしかできない。

 

自分は…、間違っていたとでもいうのだろうか?

自分の運命を知り、役割を知り、全うして満ち足りて生きる。

それが、この世界に平穏を、幸福を与えるために必要なことだと思っていた。

 

騎士の役割を持つ者たちは、危険の適性を持つ者から世界を守るために戦い、治める役割を持つ者たちは自分と共に世界を管理する。

運命に委ね、世界を、人生を管理させる。

それが、この世界を平和へと導くための近道だと信じていた。

 

だが、目の前の少年は、自らの強い信念でそれを否定する。

 

 

「あなただって…、初めはそうは思わなかったはずだ。運命で人を縛ろうだなんて思わなかったはずだ」

 

 

「っ…」

 

 

セラと対面してから、初めてだった。

僅かではあるが、デュランダルの顔が歪んだのは。

 

 

「本当に自分がしたいことに、全力を注いでいたはずだ。たとえそれが、あなたの言う運命でなくても」

 

 

セラの言葉一つ一つが、デュランダルの中に突き刺さる。

 

この時、彼の頭の中に浮かんでいたのは一人の女性。

互いを愛し、ずっと寄り添って生きると決めた女性。

 

だが、女性は自分から離れていった。それが、運命だったからだ。

 

デュランダルは嘆いた。こんなのが運命だというのなら、認めてなるものかと。

必ず再び自分は彼女の隣に戻ると、きっと彼女もそう望んでいると。

そう思っていた。

 

彼女は、笑っていた。

自分とは違う男性に寄り添い、そしてその男性と育まれた赤子を抱いて、笑っていたのだ。

 

自分と彼女は、運命によって引き裂かれた。

離れる直前の彼女の悲壮な顔は忘れない。

 

運命によって引き裂かれ、運命によって引き寄せられた二人は笑っていた。

 

それを見たデュランダルは悟ったのだ。

運命が全てを決めるのだと。運命に従えば、こうして笑って生きることができるのだと。

 

だって、彼女がそうだったのだから。

こうして、他の男性と寄り添って、赤子を抱いて笑っていたのだから。

 

なのに、何が違うというのだろうか。

何を間違っているというのだろうか。

 

正しいはずだ。自分は、正しい。

 

 

「…君の言葉をこれ以上きくつもりはない」

 

 

「議長…」

 

 

セラには、何がデュランダルをここまで駆り立てているのかがわからない。

それがわからなければ、彼を止められないということを悟る。

 

だが、間に合うのだろうか。

もう、デュランダルの目から迷いは消えている。

 

セラを撃つことに、もう戸惑いはないだろう。

 

 

「君には、消えてもらう」

 

 

「ギル!」

 

 

デュランダルの対話に集中して、感覚にセラは気づかなかった。

いつの間にここに来ていたのだろう。物陰から、ラウ・ル・クルーゼの気配を持つ金髪の少年が現れた。

 

この少年が、レイ・ザ・バレルなのだろう。

そのレイを見て、デュランダルは目を見開いて動きを止めた。

 

 

「レイ…?どういうつもりだい?」

 

 

「ギル…」

 

 

レイは、デュランダルに銃を向けていたのだ。

あれだけデュランダルに忠誠を誓っていたレイがだ。

 

デュランダルは、見開いた目を戻す。

その目に宿っていたのは、失望。

 

 

「そうか…。君は、私を裏切ろうというのか」

 

 

「…俺は、自分というものを知った。ラウ・ル・クルーゼとしてではなく、レイ・ザ・バレルとして生きていいということを知った。セラ・ヤマトのおかげで」

 

 

レイに向けられていたデュランダルの視線が、セラに一瞬向けられる。

 

レイの登場にも拘らず、セラの目はデュランダルの姿を捉えていた。

 

 

「俺は、ギルを裏切るつもりなんてありません。ですが、今はその銃を下ろして…」

 

 

「君が裏切るとは思わなかったよ、レイ。セラ君と戦い、変わったということか…。さすが、新人類といったところか」

 

 

レイの言葉などまるで聞いていないと言わんばかりに、デュランダルはレイの言葉が言い切られる前にセラに向けて口を開く。

 

 

「議長…。彼は、裏切ってないと言っています。信じないのですか?」

 

 

「自分の運命を無視し、こうして私に銃を向けているのだ。裏切りの他に何といえばいいのかね?」

 

 

第三者から見れば、それは裏切りの他には何も見ることのできないレイの行動。

デュランダルが裏切りと言えば、もうセラやレイに言えることはなくなってしまう。

 

 

「レイ、私は君に言ったはずだがね。君の運命は決まっているのだと。私の元で戦い、世界を導くために尽くす。それが君の役目だと」

 

 

「…」

 

 

デュランダルの言葉に、レイは頷く。

 

 

「ならば、何故?」

 

 

「…彼が言っていました。たとえデスティニープランで世界が平和になったとしても、人が幸福に生きることはできないと。運命で縛りつけるだけでは、本当の幸福はつかめないと」

 

 

それは、先程セラがデュランダルに言った言葉と同じ。

 

デュランダルは、表情を変えずにレイの言葉に耳を傾けていた。

心中ではどう思っているのだろう。デュランダルとて、レイのことを信頼していなかったと言えばウソになるはずなのだ。

 

そんなレイが、自分に対して反論を告げている。

全く表情を変えずに聞いていることが、逆に恐ろしい。

 

 

「…ここまでとは思っていなかったよ、セラ君」

 

 

表情を変えずにいたデュランダルが、目を閉じてふっ、と微笑みを見せた。

微笑んだデュランダルは、さらに続ける。

 

 

「…もっと早く、全力で、君を排除すべきだった」

 

 

デュランダルは、向けていた銃の引き金に再び力を込める。

 

 

「っ!」

 

 

「ギル!」

 

 

レイの言葉も届かない。

もう、この男を止めることは出来ないのだろうか。

 

この男の心に、言葉を届かせることは出来ないのだろうか。

 

 

「ギルバート」

 

 

美しい、女性の声だった。

 

破壊された子の背景とは似つかわしくない、慈愛に満ちた声。

そして同時に、相手を責めることのできる冷たさも含まれた声。

 

その声が響いた途端、デュランダルの動きがぴたりと止まった。

動きが止まった直後、再び動き出したレイの時とは違い、動きを止めてからまるで信じられないというようにデュランダルは目を見開いて停止した。

 

 

「ギルバート…、あなた…!」

 

 

「何故、君がここにいる…?」

 

 

セラは振り返る。

そこには、美しい女性が立っていた。

そう、ミネルバ艦長、タリア・グラディス。

 

どこか着なれていないような、パイロットスーツを着て、その瞳はただ一人。

ギルバート・デュランダルだけに向けられていた。

 

 

「…タリア、君まで、私を邪魔する気なのかい?」

 

 

「…あなたのしようとしていることによるわね。もし、あなたがこの二人を撃つと言うのなら、私はあなたを止めるわ」

 

 

この一連の会話だけでセラは、この二人の間には何か只ならぬ、絆の気配を悟った。

だが、その絆の裏にも何かが隠されている。

 

この二人に、何かあったのだろうか?

 

 

「無駄だ。君には止められない」

 

 

「やっぱり、二人を撃とうとしていたのね…。何故彼らを撃つの?」

 

 

「君には話しただろう?彼のことを…、解放者のことを。それにレイは、裏切り者だ」

 

 

タリアは、横目でセラを見る。

正直、初めてデュランダルから聞いたときは半信半疑だった。

こんな少年が、本当にあの<天からの解放者>なのだろうか、と。

 

だが、タリアがシャトルに乗ってメサイアに入る直前、巨大なモビルスーツを見つけたのだ。

 

リベルタス。何度も自分たちの行方を阻み、そして救ってくれた存在。

 

もう、疑いの余地がなかった。

デュランダルの言葉と組み合わせれば、この少年が解放者だということは疑いようがない。

 

 

「解放者については…、まだ納得できるわ。けど、レイが裏切り者というのはどういうこと?」

 

 

「レイは、彼の元、彼の考えに従って生きると決めているようだ」

 

 

「何ですって?」

 

 

タリアの問いに対してのデュランダルの答え。

その意味が、タリアには良く読み取れなかった。

 

どういう、ことだ?

タリアにとってのレイは、どこまでもデュランダルについていく存在。

そういう印象を受けていた。

 

そんなレイが、どういう経緯でそんなことになっているのか。

 

だが信じられない。レイが、デュランダルを裏切るなど。

それに、わからないことがある。

 

 

「レイがあなたを裏切るなんて、私には信じられないわ」

 

 

「だが事実だ。レイは、彼の考えに従って生きようとしているのだから」

 

 

「それよ。彼の考えって何?従って生きるって…、まるで、レイは前まであなたの考えに従って生きてきたみたいじゃない」

 

 

まずそこからだ。そこがタリアにわからない。

 

まるでレイを奴隷のように言うデュランダルが気に入らない。

 

 

「その通りだ。レイは、前までは私の騎士として生きてきたのだよ。自分の運命にしたがってね」

 

 

「うん、めい…?」

 

 

「そうだ。君は、私に従いたまえ。そうすれば、運命の下に…、君の家族と共に、今までと変わらず生きていけるだろう」

 

 

笑みを浮かべながら語るデュランダル。

そのデュランダルの笑みが、恐ろしく感じるようになったのはいつからだろう。

 

共にいた時は、あれだけ愛おしく感じていた彼の微笑みが、今では恐ろしく感じてしまう。

 

 

「運命の下って…」

 

 

「何を言っているんだ。君が教えてくれたんだよ?」

 

 

「え…」

 

 

私が、教えた…?

そんな覚え、まったくない。

 

 

「私と君は、子をなすことができなかった。そういう運命だった。だから君は離れていった」

 

 

「…」

 

 

そこまでは本当だ。自分は、子が欲しかった。

だが彼とは、遺伝子上、子を成すことができなかった。

 

だから、私は彼から離れた。

 

 

「…その運命は認められなかったよ。だから、私は抗おうとした。また、君と共に歩もうとしたんだ」

 

 

タリアの目が見開かれる。

 

知らない…。彼がそんなことを思っていたことを、私は知らない。

 

 

「だが君は笑っていたよ。夫となった、私とは別の男と。子供と一緒に。幸せそうにね。だからわかったのだよ。運命こそが全てなのだと。運命に従って生きていれば、君と同じように幸せに、笑って生きていけるのだとね」

 

 

柔らかかった声に、少しずつ力が込められてきているように感じるのは気のせいだろうか。

 

 

「二人は言うのだよ、それは違うのだと。君からも言ってくれ。運命に従っていき、幸福になった君から」

 

 

「…」

 

 

何を、言えばいいのだろう。わからない。

 

事実、子が成せれて嬉しかった。それだけは、断じて嘘ではない。

 

 

「…幸せ、ではなかったかもしれない」

 

 

「なに…?」

 

 

だが、幸せとはどこか違った。

 

あの時、彼から離れるとき、タリアは握手をした。

それで、彼は納得してくれたと思っていた。信じていた。

 

しかし、自分の選んだ道を歩めば歩むほど、あの時の光景が変わるのだ。

納得をした表情をしていたデュランダルの顔が、悲しげに歪んでいるように見えてくるのだ。

 

苦しかった。自分の身勝手で、自分はとんでもないことをしでかしてしまったのではないかと。

 

 

「私は…、苦しかったわ」

 

 

本当の意味で、自分は彼との関係を消しきれていなかった。

それがわかってからは尚のこと。

 

彼が議長となり、手腕を振るっている所を見るのが辛かった。

あの時、ミネルバに乗り込んできた彼と、体を重ねてしまったことが辛かった。

 

 

「あの時、あなたと一緒になればよかったって思っている私が…、どこまでも苦しかったわ」

 

 

「…」

 

 

柔らかな表情を浮かべていたデュランダルはどこに行ったのか。

目を細め、唇を歪め、食い縛った歯をむき出しにする。

 

そこには、もうプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルの姿はなかった。

 

 

「何なのだ…。私は…、君に…!」

 

 

「…私たちは、どこまでもどうしようもない人間だったのかもしれないわね」

 

 

セラやレイには、二人が何を話しているのかを上手く呑みこむことはできなかった。

だが、わかることはある。

 

二人の過去に、何かがあったこと。

そして、その過去がデュランダルをここまで駆り立てた大きな理由。

 

彼女が、タリアがデュランダルを止めることのできるただ一人の人物なのだということ。

 

 

「っ…」

 

 

「セラ・ヤマト!」

 

 

「え…?」

 

 

セラの視界の中で、何かが影となった。

それに気を向けてしまったセラは、気がつくことができなかった。

 

レイの呼びかけで、ようやく気付いた。

頭上から、大きな瓦礫がセラへと落ちてくる。

 

 

「あっ…!」

 

 

かわそうと身を翻そうとするが、瓦礫の落下スピードが速い。

セラが、下敷きとなるのは確定的だった。

 

 

「…え?」

 

 

正面から、衝撃を受けるまでは。

 

 

見開いたセラの眼前で、落下した瓦礫が床に当たり崩壊する。

 

 

「ギルバート!」

 

 

「ギル!」

 

 

タリアとレイが、その瓦礫に走り寄って瓦礫を寄せ始める。

 

セラは、状況を呑みこむことができなかった。

 

何故…、何故なのだ。

だって、あの時、自分を助けた人物は…。

 

 

「…タリア…、レイ…」

 

 

「ギル…!」

 

 

瓦礫の下敷きとなり、顔全体と右半身は無事なものの、それ以外は潰されているだろう。

デュランダルが、唇から血を垂らしながら先程とは打って変わって柔らかい笑みを浮かべてのぞき込むタリアとレイを見上げた。

 

 

「何故…、何故…?」

 

 

セラは、ただただ理由を尋ねる。

何故自分を助けた?何故、彼がこんな目に遭っている?

 

 

「…今なら、わかるかもしれん。…ラウが…、君に、心を許した…理由が…」

 

 

弱弱しく響くデュランダルの声。

 

 

「レイを…変えることができた…理由が…、わかる…ような気が、するよ…。ごほっ!」

 

 

「ギルバート!」

 

 

タリアがデュランダルに呼びかける。

咳と共に血を吐いたデュランダルは、薄く開いた目に確かにセラの姿を捉えて続ける。

 

 

「君は…どこまでも、そうして…抗って、生きてきたんだね…。どんなに、揺らぐことが…あって…も…」

 

 

「…」

 

 

「だから…、ラウも、レイも…。君に…ふっ…、そういう所は…どこまでも、同じな…のかな…」

 

 

「ギルバート…、もういいから…。しゃべらなくていいわ…」

 

 

もう、デュランダルの先の現実は決まっていた。

待つのは、ただ一つ。それでも、それにたどり着くまでの時間を延ばそうと、タリアは語り掛ける。

 

だが、デュランダルの言葉は止まらなかった。

 

 

「たり…あ…。君の…、かんが…えて…いること…今なら、わかる…」

 

 

「ギルバート…」

 

 

「だから…、これは、私の…最後の…頼みだ…」

 

 

デュランダルの声が、さらに弱まっていき、途切れ途切れになっていく。

それでも、デュランダルは語るのをやめなかった。

 

 

「君は…、生きるんだ…。家族と、ともに…。ずっと…死ぬまで…」

 

 

「…!」

 

 

「こんな、所で…、君は…、死んではだめだ…!」

 

 

タリアに言葉を言い切ってから、デュランダルは次にレイに目を向けた。

 

 

「君もだ…、レイ…。きみ…も…、生きるん…だ…っ!」

 

 

「ギル…!」

 

 

再び吐血するデュランダル。

咳込んだことによって閉じられた目を開き、デュランダルはセラに目を向ける。

 

 

「…ふたりを…、ここか、ら…、だし…て…やって…くれ…」

 

 

「ギルバート!」

 

 

開けられた目が、閉じられる。

タリアが、デュランダルに呼びかける。

 

やはり、ここで彼と共に…。

 

そんな思いが蘇った彼女の足を進めたのは、彼の言葉だった。

 

 

「いくんだ…!」

 

 

少しの間、タリアは、レイはデュランダルの顔を見つめる。

 

そして、何を思ったのだろうか、何を考えたのだろうか。

二人は立ち上がり、セラの元へと歩み寄る。

 

 

「そうだ…。それで、いい…」

 

 

セラと共に歩き出した二人を見て、デュランダルは目を閉じた。

 

ここで死ぬのは、自分だけでいい。

歩き出した二人を、止めることなど、してはいけない。

 

そういえば、こんな事を考えるのは初めてだな…。

前までの私ならば、そんな事、くだらないと考えて切り捨てていたというのに…。

 

やはり、私も変えられたということか…。不思議なものだ…。

 

さて、私はどこに行こうか…。

タリアと良く行った喫茶店にでも顔を出してみようか…。

いや、あの時買い物に付き合わされたデパートにでも…。

 

これから私は自由になるのだ。

もう、私を縛るものは何もない…。

 

どこへでも…、自由に…。

 

 

 

 

 

 

「外ではまだ、オーブと地球軍が戦闘中だと思われます。安全な所まで、お送りします」

 

 

「ありがとう」

 

 

セラ、タリア、レイの三人は崩壊するメサイアの中で出口を目指して駆ける。

 

その中で、セラは俯いたまま走るレイを見た。

 

 

「レイは、機体は大丈夫なのか?」

 

 

「…動かすことは出来る」

 

 

「そうか。なら、安全な所までは俺から離れるな」

 

 

レイに、何を言って上げればいいのだろう。

恐らく、レイもクルーゼと同じく、テロメアが短いなどの障害を持っているはずだ。

 

…レイは、彼と共においていくべきだったのではないか。

 

過ったそんな思いを、セラは振り払う。

 

何にだって、命は一つなのだ。

失っていい命など、何一つとしてないに決まっている。

 

 

「…生きろよ、レイ。絶対に」

 

 

「…」

 

 

レイがこちらを向くのを感じるが、セラはただ前を見据える。

 

 

「生きていれば良い事が…何て、そんな気楽なことは言えない。だが、死んでしまえばもう何も残らないんだ。死んで楽になるなんてことは、できるはずがないんだ」

 

 

「…」

 

 

「お前はお前の意志で、生き続けるんだ。レイ・ザ・バレルとして」

 

 

三人の視界の中に、モビルスーツの影が見えてきた。

一機はリベルタス、そしてもう一機はぼろぼろになったレジェンド。

 

…自分がやっておいて何なのだが、こんな機体状態でよくここまで来れたものだ。

 

さらにその下には、タリアが乗ってきたシャトルもある。

 

三人はそれぞれの機体に乗り、メサイアから脱出していく。

 

宙に解放された三人は、崩壊していくメサイアを見つめていた。

 

セラは並んでいるレジェンドとシャトルを見た。

あの二人は、デュランダルと並々ならぬ絆を持っていた。

 

デュランダルの望みとはいえ、あそこに彼をおいていくことがどれだけ辛かったことだろう。

 

 

「…っ!」

 

 

そこまで考えた時、セラの背筋に冷たい感覚が奔る。

もう、馴染み深いと言っていいかもしれない。

初めは不快に感じたこの感覚も、馴れてこれば大したことがないものだ。

 

 

「レイ!」

 

 

『わかっている!』

 

 

自分に感じるのだ。レイだって感じ取っているだろう。

 

レイに呼びかけると、もうすでにレイはシャトルを残った腕に抱えてその場から離脱していた。

 

それを見届けると、セラは感覚の元がやってくる方向に目を向け見据える。

 

光が見えた、と思ったそのすぐ後、はっきりと機影が見えてくる。

その機影は、腰からサーベルを抜き放つとリベルタスに斬りかかってくる。

 

セラもまた、腰のサーベルを抜いて斬りかかってきた機体に対して迎え撃つ。

 

 

『…今度こそ、決着をつけましょうか』

 

 

「そうだな…。ずいぶんとお預けを喰らってきたけど…」

 

 

二機は同時に離れる。

少しの間、その場で互いを見つめ合う。

 

 

「これが、最後の決戦だ」

 

 

二機が、リベルタスとアナトが飛び込むのは完全なる同時だった。

 

もう、戦闘の終わりも直前。

そんな中、この二人はぶつかり合うこととなった。

 

たとえ戦闘が終わりに近づいていたとしても、この二人の戦いはまだ始まってすらいなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で決着…でしょう!


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PHASE70 翼が包んだものは

ザフト最大の要塞、メサイアは崩れ落ち、その姿は瓦礫の塊となった。

それを見た者は喜び、または絶望し悲しんだ。

 

要塞メサイアが崩れ落ちた今、ザフト軍の勝利はなくなる。

戦闘意志を失ったザフト軍に、地球軍は容赦なく攻め込んでいく。

 

 

「はははぁっ!ざまあみろ、宙の化け物がぁっ!」

 

 

「今までよくもコケにしてくれたなぁっ!今度は俺たちが貴様らをコケにする番だぁっ!」

 

 

ウィンダムが放ったビームが、後退していくザクを貫く。

ザムザザーが放った砲撃が、グフを飲みこむ。

 

 

「ぐぁああああああああっ!!」

 

 

「あぁ…!くそっ…、よくもぉおおおおおおおおっ!!」

 

 

メサイアが崩れ、勢いを失いつつあったザフトの戦闘意志が、残酷な地球軍の追撃によって蘇りはじめる。

艦に戻ろうとしていたモビルスーツが、追ってくる地球軍機に向きを変えていく。

 

 

「っ…」

 

 

シエルは、再び始まろうとする戦闘を見て唇を噛む。

 

終わらないのか、どちらかが滅びるまで。

この戦いは、終わらないのだろうか。

 

 

「くそっ!どうしてまだ続けるんだよ、こんな無意味な戦いを!」

 

 

ムウが、アカツキのバックパックからドラグーンを射出する。

照準を定め、ムウは武装またはメインカメラをビームで貫く。

 

 

「やっぱり、基地を落とさなきゃ終わらせられないのか…!?」

 

 

レクイエムは破壊した。

地球やプラントへの最大の危機は取り除かれた。

 

だが、まだ彼らは諦めていないのだ。

 

ムウたちは知らないが、彼らは指揮官をすでに失っている。

それでも、指揮官の意志が、彼らに受け継がれていることをムウたちは知らない。

 

 

「アズラエル様が、俺たちに道を残してくれたのだ!」

 

 

「奴らは最大の防衛線を失った!この戦いさえ凌げば、俺たちの勝利なんだ!」

 

 

皮肉なことに、セラがメサイアを落としたことが彼らに希望を与えていたのだ。

まだやれると。まだ勝てると。

 

自分たちが、負けるはずはないのだと。

 

 

「シエル、後ろ!」

 

 

「っ!」

 

 

どうするべきか、考えていたシエルの背後から襲い掛かってくるウィンダム。

シンの一声で気付いたシエルの防御が何とか間に合う。

 

ウィンダムの攻撃を防ぐと、シエルはサーベルを抜き放ってウィンダムのメインカメラを斬りおとす。

 

 

「…っ!」

 

 

ウィンダムを落としたシエルが、不意に機体を動かした。

進むその先は、ダイダロス基地。

 

 

「シエル!?」

 

 

「たとえ、基地を落とさなくとも…!」

 

 

シエルが進んでいくその正確な先は、発進していくモビルスーツ群だった。

 

長い間戦った。かなり多くの犠牲も出ている。

それでもまだ、衰えこそ見えるも、勢い止まらない。

 

これ以上、犠牲は増やしたくない。

ならば自分が、自分たちがやらなければならない。

 

シエルはライフルをモビルスーツ群に向けて撃つ。

かわそうと動く機体、シエルの射撃によって戦闘不能になる機体の二つに分かれる。

 

射撃から逃れた機体は、アカツキのドラグーンから放たれるビームによって武装、メインカメラが撃ち落とされる。

 

 

「ムウさん!」

 

 

「止まるなシエル!来るぞ!」

 

 

二人に向かって、四方八方から襲い掛かる地球軍機。

 

シエルは、ライフルから持ち替えて斬りかかっていく。

ムウは、ライフルとドラグーンを操りウィンダムを撃ち落としていく。

 

 

「シエル…」

 

 

ヴァルキリーとアカツキの戦いを、シンはじっと見つめる。

 

何故、ここまで戦うことができるのだろうか。

何故、シエルは殺そうとしないのだろうか。

 

しようと思えばできるはずだ。むしろその方がシエルに、彼らにとって楽なはずだ。

不殺がどれだけ過酷なものか、シンにだってわかる。

 

それなのに、何故…。

 

 

「シン…」

 

 

「…わかってる。俺たちも行くぞ、ルナ!」

 

 

シンとルナマリアは、機体をヴァルキリーとアカツキが戦っている方へと向ける。

 

これで、本当に最後の戦いになってほしい。

今度こそ、もう続いてほしくないと願いながら、二人は機体を進ませていく。

 

 

「シン、ルナ?」

 

 

「援護するぞ、シエル!」

 

 

シエルは、こちらに向かってくるデスティニーとインパルスを見て目を見開く。

 

 

「もう、レクイエムは破壊した…。二人はミネルバに…」

 

 

「戻れるわけないだろ!ここまで来て!」

 

 

ミネルバに戻れとシエルは言おうとしたのだろう。

だが、シンは戻る気はさらさらなかった。

 

こんな所まで来てしまったのだ。

最後まで、ここで戦い抜きたい。

 

 

「私もよ。シエルを置いてなんていけるわけないでしょ?」

 

 

「でも…、私は、二人を裏切って…」

 

 

ルナマリアも、シンと同じ気持ちだった。ここで戦おうとしていた。

 

だが、シエルはこうして戦うと言ってくれる二人を一度裏切っている。

いや、一度どころではない。しようと思えばキラだけでなくセラにも銃を向けることができたはずだ。

それをしてこなかった自分は、何度二人を裏切ってきたのだろう。

 

 

「関係ないわよ!私はシエルを仲間だと思ってる!それじゃダメ!?」

 

 

「ルナ…」

 

 

「それとも、シエルは俺たちと戦いたくないのか?それじゃあ、さすがに俺たちも戻るけど…」

 

 

「そんなことないよ!…すごく、心強い」

 

 

シエルの本心を引きずり出したシンとルナマリアは、目を合わせて微笑み合う。

 

 

「なら、一緒に行くわよ!」

 

 

「…うん!」

 

 

ルナマリアの言葉にシエルが頷いて、いざ戦いに…、としたその時だった。

 

 

「…お前ら、俺を忘れてねえか?」

 

 

三人の耳に届く、どこか悪戯っ気を含んだ男の声。

 

 

「俺を置いていくな!お前らだけで和解しやがって…」

 

 

「ハイネ!?無事だったのか!」

 

 

シンとルナマリアを先に行かせて残ったカンヘルが、ハイネがここにやってきたのだ。

シンは安堵に笑みを浮かべながらハイネに声をかける。

 

 

「当たり前だ!俺を誰だと思ってるんだよ!」

 

 

こうして強気で言っているハイネだが、操る機体は無傷とはいかなかった。

 

まず、右腕を失っている。剣で斬り裂かれたのではなく、何か巨大なものでもぎ取られたような傷だ。

 

カンヘルの右腕は、レイダーのミョルニルによって吹き飛ばされたのだ。

 

右腕だけではない。

装甲が所々傷つき、さらに溶けて内部が見えてしまっている部分も見られる。

 

 

「…大丈夫、なの?」

 

 

「ルナマリア、お前まで何言ってんだ!俺を誰だと思ってんだよ!」

 

 

心配そうに問いかけるルナマリアに力強く答えたハイネは、さらに続ける。

 

 

「それに、いざとなったらお前ら三人が助けてくれるだろ?」

 

 

「あ…」

 

 

ハイネのその言葉に、声を漏らしたのはシエルだった。

 

ハイネはこう言ったのだ。『お前ら三人』と。

シンとルナマリアだけではない。シエルも、その中に入っているのだ。

 

ハイネも、シエルを仲間だと思ってくれていると感じるシエル。

 

 

「…ありがとう」

 

 

「何お礼言ってるんだよ。俺はお礼を言われるようなことをした覚えないぞ」

 

 

微笑みながら答えるハイネ。

何処か和やかな雰囲気に包まれようとしたその時、ヴァルキリーのスピーカーから切羽詰まった声が響き渡る。

 

 

『おい、シエル!?仲直りは良いけど、早くこっちに来てくれないかっ!』

 

 

「あっ!すみません!すぐに行きます!」

 

 

頭の中から抜け落ちていた。こうして話している間にも、ムウが戦っているのだ。

ムウだけではない。アークエンジェルもエターナルもクサナギも。

キラもトールも。そしてセラも。

 

 

「話は終わりだな。じゃあ、行くとしますか!」

 

 

最初に飛び出したのはハイネ。

それに続いてシン、ルナマリアと飛び出していく。

 

 

「…本当に、ありがとう」

 

 

そして、小声でもう一度お礼をつぶやいたシエルが最後に続いた。

 

戦いに向かう四人の想いは、すべて同じ。

 

これで、最後になってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…一つ、聞いていいか?」

 

 

オールレンジから降りしきる死の雨から逃れながら、セラはつぶやいた。

そのつぶやきの先にいるのは彼女、クレア・ラーナルード。

 

クレアが駆るアナトが、セラの問いかけが聞こえなかったのだろうか。

問いに対して何も反応を見せずに、こちらもまた放っていたビームの雨を掻い潜りながらサーベルで斬りかかってくる。

 

 

「お前が俺のクローンだということはわかった」

 

 

だがセラは問いを続ける。

 

聞こえていないはずがないのだ。

こうして、互いが互いの存在を感じ合っている。

そんな二人が、たとえどんな小さな声だとしても聞き逃すはずがないのだ。

 

リベルタスの刃とアナトの刃がぶつかり合う。

 

 

「だが何故、お前は俺を殺すことに固執している」

 

 

「…」

 

 

二機は同時に離れる。

そして、同時にライフルを取りだすと互いの位置を変えながら撃ち合う。

 

 

「自分という存在すらも自覚せずに俺を殺そうとしてきた奴は、いた」

 

 

レイのことだ。

自分を他人だと偽って、セラのことを憎んで殺そうとしてきた。

 

結果、セラの言葉を通して自分を自覚し、最後にはデュランダルの願いを聞き届けて生きることを決意した。

しかし、クレアは違う。

 

 

「お前は、お前自身を自覚している。セラ・ヤマトのクローンとしてではなく、クレア・ラーナルードとして、俺とは全く違う生を送っているはずだ」

 

 

クレアは自身を自覚していた。

自分にこう言い放ってきたのだから。

 

自分は、クレア・ラーナルードだと。

 

そんな彼女が、何故自分を殺すことに固執しているのだろうか。

 

 

「…確かに、私はセラ・ヤマトではない。クレア・ラーナルードという一人の人間として生きている」

 

 

アナトが、ライフルを撃つのを止めたかと思うと、両腰の収束砲を展開し始めた。

それを感じ取ったセラは、すぐに機体をその場から離す。

 

 

「生きているんだって…、そう思っていました」

 

 

収束砲から放たれた砲撃は、リベルタスの僅か横を通り過ぎていく。

 

それに見向きもせずにセラは、かわした自分を追って斬りかかってくるアナトを迎え撃つ。

 

 

「思って、いた?」

 

 

「はい。思っていた、です」

 

 

ぶつかり合った二機は、そのまますれ違うと反転。

再び互いに向かっていく。それと同時に二機のドラグーンが動き出す。

 

互いの動きを阻害せんとドラグーンが火を噴いていく。

 

二機は、まるでどこにビームが来るかがわかっているかのようにいとも容易くビームをかわしきるとこれまた同時に互いに斬りかかっていく。

 

 

「気づいたんです。あなたが生きている限り、私は私として生きていけないということに」

 

 

クレアの言葉が続くごとに、アナトの刃から伝わってくる力が強くなってくる。

 

 

「っ、ちぃっ!」

 

 

「あなたが生きている限り、私はあなたのクローンという称号を背負い続けなければならないのだと!」

 

 

セラは、押し切られる前に機体を離脱させる。

だがアナトの追撃も早い。すぐさまリベルタスに追いつくと、今度は対艦刀を振り下ろしてくる。

 

 

「くそっ…!」

 

 

セラは、アナトの斬撃を回避しながら思考する。

 

おかしい。先程の押し合い、リベルタスならばアナトを押し切ることができたはずだ。

リベルタスの本領は、接近戦で発揮される。小回りの利く凄まじいスピード。

何にも押し負けないのではないかとも思える力。

 

機体の状態が、おかしい。

 

目立った損傷はないが、それでもこの戦闘が始まってからずっとリベルタスはセラの意の元で戦い続けてきた。

リベルタスは、その高性能ゆえにかなり繊細だ。

 

前大戦では、一度の戦闘から返ってくると調子がおかしくなって次の戦闘で出撃できなかったということもあったほど。

むしろ、開戦してからここまで、順調に戦い続けてきたことが奇跡だったのかもしれない。

 

 

「どうしましたか?動きが…、鈍いようですが!」

 

 

「っ!?」

 

 

確かにリベルタスの調子はおかしくなっている。

それでも常人では見切ることができないほどのわずかな狂い。

 

予想はしていたが、ここまでの短時間で見切るほどクレアの技量は恐ろしいということなのか。

 

アナトが、対艦刀を一文字に振るってくる。

セラは、その斬撃をかわして背後に回ろうとする。

 

だが…

 

 

(っ、動き出しが遅い…!)

 

 

機体の反応がわずかに遅れる。セラはやむなく、機体を後退させて回避だけに変更する。

 

しかし、これではアナトの執拗な追撃にあってしまう。

 

 

「くっ…!」

 

 

「…なるほど。あなたの動きが鈍いのではなく、機体の方に問題ですか…。まぁ、どちらにしても私には願ってもない事ですが!」

 

 

予想通り、アナトは対艦刀を振るってリベルタスを追い込んでいく。

セラも、サーベルとビームシールドを駆使して何とか凌いではいるが、斬撃の重みで少しずつ体勢が崩れていく。

 

このままではまずい。

再びセラは背後に回り込むことを試みるが…。

 

 

(…、ダメか!)

 

 

機体の動き出しが、鈍い。

それだけではない。

 

中途半端な動きにより、防御また中途半端な状態になってしまった。

振り切られた対艦刀が、展開されたビームシールドを押し切る。

 

 

「しまっ…!」

 

 

体勢が、崩れてしまう。

 

アナトのドラグーンが、そこを狙ってリベルタスに照準を整えてくる。

 

 

「終わりです!」

 

 

「させるか!」

 

 

クレアはこれで止めだと考えていた。

 

だが次の瞬間、ビームを斉射させようとしたドラグーンが爆散する。

 

 

「っ!?」

 

 

「驚いている暇はないぞ!」

 

 

セラが操っていたドラグーンの一基が、クレアがビームを斉射させようとしたドラグーンをビームで貫いたのだ。

 

あの状態でここまで手を打ってきていたことに驚愕していたクレアに、リベルタスが襲い掛かる。

 

 

「くっ!」

 

 

今度は、クレアが押される番だった。

セラは、両手にサーベルを握ってアナトに斬りかかる。

 

上下左右からの斬撃を、クレアは防いでいく。

 

ここでもやはり、リベルタスの不調は響いていた。

セラの意のままにアナトを追い込んでいくことができない。

 

 

「…そこ!」

 

 

「っ、ちぃっ!」

 

 

それだけではなく、相手に反撃の間を与えてしまった。

クレアは、リベルタスの斬撃に隙を見つけると、その間に手に持っていた対艦刀を振り上げてリベルタスの左腕を斬りおとした。

 

後退していくリベルタスを、追い込む。

そのために、まずは対艦刀からサーベルに持ち替えよう

 

それが、クレアが予想していたこの後の展開だった。

 

 

「こっ、の!」

 

 

左腕を斬りおとされたリベルタス。

だが、セラはそれで怯むことはなかった。

 

ここまで戦っていてわかったことがある。

機体を襲う不調。だが、部位によってはまだ意のままに動かせるところもあることにセラは気づいた。

 

その部位の一つが、右足。

 

左腕を斬りおとされたことを自覚した直後、セラは右膝を振り上げていた。

 

 

「なっ!?」

 

 

左下から伝わってきた衝撃に目を見開くクレア。

 

一体、何が…!?

 

自覚する前に、さらに大きな衝撃が機体を襲う。

リベルタスが、突進しぶつかってきたのだ。

 

下からの衝撃で崩れかけていた体勢が、再びやってきた衝撃で完全に崩れる。

 

セラは、すぐにサーベルを振るう。

狙いはメインカメラ。

 

だが、リベルタスの両腕は不調が襲われている部位であった。

セラの思うスピードで、斬撃を繰り出すことができない。

 

アナトが、斬撃から抜け出してしまう。

それでも、アナトの体勢は整い切れていない。

 

それを見たセラは、ドラグーンのビームを斉射する。

斉射されたビームは、アナトの右足を貫いた。

 

 

「くっ…!機体の不調に襲われて、ここまで戦えますか!」

 

 

「あぁ戦えるさ!待ってくれる人がいるからな!」

 

 

二人は互いに今度はライフルを向け合う。

だがそれは、互いの機体を狙ったものではない。

 

それを感じ取った二人は、機体ではなくドラグーンを動かす。

 

引き金を引けば、そのビームは互いのドラグーンを貫く。

逃れたドラグーンは、互いの機体目掛けてビームを斉射する。

 

そこで、再び機体が動き出した。

 

ドラグーンのビームから逃れると、アナトがリベルタスに斬りかかっていく。

リベルタスは、アナトと間合いを計りながら時間を稼ぐ。

 

両腕が不調で上手く動かせない以上、接近戦では不利に陥ってしまう。

それでも、遠距離で戦えるほどリベルタスは武装が整っていない。

 

遠距離戦で活用できるドラグーンは、すでに三機失っている。

残りは、五基。

 

一方のアナトのドラグーンの残りは六基。

数の上ではアナトの方が有利だ。

 

 

(…いや、数だけじゃない)

 

 

セラは気づいていた。

アナトのドラグーンに搭載されている砲門の数も、リベルタスの物に勝っていると。

 

となると、やはりカギを握ってくるのは接近戦。

 

 

「くっ!」

 

 

アナトが接近してくる。

やむを得ない。セラは迎え撃つ態勢を取ってサーベルで斬りかかる。

 

ぶつかり合った刃は拮抗し、その場で動きを止める。

 

 

「やはりあなたは目障りです。こうして戦っている間にも、何度も実感させられますよ」

 

 

「お前はお前!俺は俺!それじゃあダメなのか!?」

 

 

再び届くクレアの言葉。

返されたセラの言葉に対し、クレアは言い放つ。

 

 

「先程も言いました。あなたがこの世にいる限り、私はずっとあなたのクローンのままなのです」

 

 

「お前がそう思っている限り、俺が死のうとその現実は変わらないぞ!」

 

 

「っ」

 

 

ぴくりと、クレアの体が震える。

 

 

「お前の心にその現実が浮かんでいるのなら、俺が死のうと何も変わらない!」

 

 

「黙れっ!」

 

 

二機は同時に離れる。

離れた直後、クレアはドラグーンを自分のまわりに配置させる。

 

 

「目障りなんですよ…」

 

 

クレアは、サーベルからライフルに持ち替える。

両手にライフル、さらに両腰の収束砲も展開。

 

 

「目障りなんですよ、あなたは!」

 

 

残った全三十門の砲門を同時に開く。

リベルタス目掛けて、一気に放った。

 

その光景を見たセラは目を見開いた。

 

 

(これは、フリーダムとジャスティスのハイマット!?)

 

 

ここに来て初めて見た新機能だ。

セラは放たれた大量の砲撃を回避しながらアナトを見つめる。

 

どこまで厄介な機体を仕上げてきたのだろう、ザフトは。

さらにその厄介な機体に搭乗するパイロットもまた厄介極まりない。

 

 

「変わります!」

 

 

クレアが、叫びながら襲い掛かってくる。

 

 

「絶対に変わります!」

 

 

まわりに配置させていたドラグーンを斉射させながらリベルタスに接近していく。

 

セラは、こちらにビームを放ってくるドラグーンに照準を合わせ、ライフルとドラグーンのビームを放つ。

放たれたビームは、アナトのドラグーンを貫く。

 

 

「っ!…このっ!」

 

 

ドラグーンがさらに減ったクレアは、残ったドラグーンとライフルでリベルタスのまわりのドラグーンにビームを撃ち返す。

 

セラはドラグーンを動かしてビームを回避させようとするが、残った五基のうち二基が貫かれてしまう。

 

 

「くっ…!」

 

 

爆散するドラグーンに目を向けかけるが、さらに接近してくるアナトに目を向け直す。

 

サーベルで斬りかかってくるアナト。

アナトが振るうサーベルを、セラはアナトの下に潜り込むことで回避した。

 

 

「えっ!?」

 

 

驚愕するクレア。

機体は、リベルタスを通り過ぎていく。

 

セラは、通り過ぎていったアナトに向かってライフルと残ったドラグーンを使って一斉にビームを浴びせかける。

 

 

「この…、あ…た、は…!」

 

 

言葉にならない声を上げながら、クレアはリベルタスからの一斉砲火を回避していく。

 

だが、その回避の間にリベルタスがこちらに接近してきていた。

 

 

「っ!?」

 

 

リベルタスがサーベルを振るう。

クレアは機体を翻すが、斬撃から逃れきることができず、右腕が斬りおとされてしまう。

 

さらに追撃を仕掛けようとするリベルタス。

 

 

「舐めるな!この程度で、やられると思わないでください!」

 

 

クレアは、残った二基のドラグーンをリベルタスに向ける。

斉射されたビームを回避するためにリベルタスがその場から逃れる。

 

 

「逃さない!」

 

 

クレアは逃れようとするリベルタスに追いすがる。

追ってくるこちらから距離を取ろうとしたのだろう。リベルタスのスラスターが光るのが見える。

 

だがその直後、リベルタスのスラスターから光が消えた。

 

 

「なっ!?」

 

 

「これで!」

 

 

千載一遇のチャンス。

クレアはリベルタスを、仇敵を一刀両断にせんとサーベルを捨てて対艦刀を取り出して振り下ろす。

 

もし、クレアが冷静だったならば手に持っているサーベルでリベルタスを崩してから止めにかかっていただろう。

だが今のクレアは違った。

 

このチャンスを逃したくない。

その一心の想いで、クレアは容易くリベルタスを斬り裂くことができる対艦刀を取り出してしまったのだ。

 

その僅かな間が、セラに反撃の時間を与えてしまう。

 

 

「っ!」

 

 

セラは、アナトが対艦刀を取り出しているその僅かな間に、偶然アナトの近くを浮遊していたドラグーンに気がついた。

そこからは、無我夢中だった。

 

セラはその浮遊していたドラグーンで、アナトの背後からビームを斉射する。

斉射されたビームは、対艦刀を取り出そうとしていたアナトの左腕を貫く。

 

 

「!?」

 

 

両腕を失ったアナト。これでは、対艦刀を取り出すことができない。

セラは、サーベルを振るう。

 

だがアナトは後退してセラの斬撃を回避する。

さらにアナトは、二基のドラグーンをリベルタスに向けて放つ。

 

あまりにも単調な射撃。

セラは容易く放たれたビームをかわす。

 

そしてセラはアナトへと接近していく。

アナトは、リベルタスとの距離を保つように後退しながらドラグーンでリベルタスを狙う。

 

セラは、ビームをかわしながら開かれているアナトのスラスター目掛けてサーベルを投じた。

 

 

「なっ!?」

 

 

投じられたサーベルに貫かれたスラスター。

動きが止まるアナト。その間に接近したリベルタス。

 

セラは、スラスターを貫いたサーベルを引き抜いて横一閃に振るった。

 

振り抜かれたサーベルは、アナトのメインカメラを斬りおとしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面ダイダロス基地。

そこから発進していくモビルスーツも、ついにその勢いが目に見えて落ちてきていた。

 

シエルたちが戦闘不能にさせたモビルスーツは、何機となっただろう。

だが、シエルたちはそれらに乗るパイロットの命を刈ることはしなかった。

 

誰もが思っていたのだ。こんな戦いで、もう犠牲者は出してはいけないと。

 

 

「…まだ、やる気なのかねぇ」

 

 

ふと、ムウがつぶやいた。

 

こうして戦っている間、地球軍のモビルスーツの動きが鈍っているように感じた。

 

…地球軍も、もう戦い続けることを嫌だと感じているのだろうか。

 

 

(…そうだと、嬉しいんだけどね)

 

 

心の中でつぶやくシエル。

本当に、そう思ってくれているのだったらこちらもとても嬉しい。

 

早く、こんな戦いを終わらせたい。

その思いだけが、今のシエルたちを支えていた。

 

後、何機を相手にしなければならない?

後、どれだけの時間を戦い続けなければいけない?

 

もう、シエルたちの限界は近かった。

 

 

「後、もう少し…」

 

 

地球軍だって、もう戦力は残り少ないはずだ。

たとえ、機体を全滅させることになろうとも戦い抜く。

 

そう決意を改め、再び機体を動かそうとしたその時だった。

 

 

『もういいよシエル。後は僕たちに任せて』

 

 

シエルの耳に、声が届く。

 

心強い、仲間の声。

 

 

「キラ…?」

 

 

『ごめんね、遅くなって。向こうでも地球軍が襲ってきたから』

 

 

『後は、俺たちに任せて休んでいろ。シエル』

 

 

「アスラン…!?」

 

 

フリーダムとジャスティス。

キラとトール、ではなかった。

 

ジャスティスに乗っているのは、アスランだったのだ。

その事に驚愕したシエルは目を見開く。

 

 

「おいおい坊主…、お前さん、生きてたのかい?」

 

 

『はい、少佐。ご心配をおかけ…』

 

 

『あ、アスラン。ムウさんには謝らなくていいよ。ムウさんも同じような感じだったから』

 

 

こうして話している間、シエルはフリーダムとジャスティスの背後から近づいてくる艦影に気づく。

 

エターナルとクサナギ。その後ろから追従してくるオーブ軍艦隊。

 

 

「…これで、終わりなのかな?」

 

 

今の地球軍の戦力で、これだけの艦隊と戦うのは不可能なはずだ。

 

これで、本当の終わりが…。

 

 

『…オーブ軍艦隊、聞こえるか。そちらの指揮官はどちらか』

 

 

その声は、この場にいるオーブだけではない。ザフト軍艦隊、地球軍にも届けられていた。

 

 

『こちらは、ラクス・クラインです。…あなたは、地球軍の最高司令官ですか?』

 

 

『現、だがな…。こちらは、降伏しようと思う』

 

 

地球軍の司令官から発せられた言葉は、どれだけの人にどれだけの衝撃を与えただろう。

 

 

『…受け入れます。こちらも、これ以上の戦闘は望みません』

 

 

『そう言ってくれると、助かります』

 

 

その言葉を最後に、通信は途切れた。

 

直後、地球軍アルザッヘル基地から様々な色の信号弾が打ち上げられる。

同時に、出撃していた地球軍機が、損傷した僚機を助けながら基地へと戻っていく。

 

 

「…信号弾が打ち上げられてから、戻ってくのが早いね」

 

 

「やっぱり、あいつらだってこれ以上戦うのは嫌だって思ってたんだろ…」

 

 

人は誰だって、本心から戦いたいなどとは思わないはずなのだ。

それを改めて感じたシン。

 

 

「…戻ろうか」

 

 

「うん」

 

 

シンとルナマリアは、機体をミネルバへと。

ミネルバから脱出した飛行艇へと向ける。

 

 

「…おい、また俺を忘れているな。シン、ルナマリア!俺を忘れるな!」

 

 

…ハイネも、続いて。

 

 

「…さて、俺も戻りますか」

 

 

戦いが終わった以上、ここにいても何も始まらない。

ムウは機体をアークエンジェルへと、愛する人の元へと向ける。

 

アカツキのモニターに、微笑む女性の顔が映し出された。

ムウもまた、微笑み返す。

 

本当の再会が、そこにはあった。

 

 

「…俺たちも戻るぞ。キラ、シエル」

 

 

「うん」

 

 

「あ、待って!」

 

 

エターナルへと戻ろうとするアスランとキラを、シエルは呼び止める。

 

 

「あの、セラは…?」

 

 

ここに、セラは来ていなかった。

どうしたのだろうか、気になったシエルは二人に問いかける。

 

 

「…セラ?」

 

 

「おい、気づかなかったぞ」

 

 

「…ちょっと!どうするの!?」

 

 

さすがにセラが落とされるということはないだろうが、さすがに姿を現していないことは心配だ。

 

三機は散らばり、それぞれセラに呼びかけながら探しに出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…負けた」

 

 

負けた。

 

 

「…負けた」

 

 

負けてしまった。

 

 

「…負けられなかったのに」

 

 

負けたのだ。

 

 

「…どうして」

 

 

ずっと努力してきた。

能力だって、変わらないはずだ。

性能だって、元々ならば向こうの方が上なものの、リベルタスは不調によって本来の動きはできなかったはずだ。

 

 

「…どうしてっ」

 

 

目から涙がこぼれる。

全身全霊をかけて挑んだ戦い。

 

だが、敗れてしまった。

 

 

「私は…」

 

 

これでは、証明することができない。

 

 

「クレア・ラーナルードなのに…」

 

 

自分が自分であることを、証明できない。

 

 

「…お前はお前だろ。俺に勝とうが負けようが、それは変わらない」

 

 

「っ…」

 

 

いつの間に近づいてきていたのだろう、リベルタス。

セラがクレアに声をかける。

 

 

「お前はお前でしかない。俺は俺でしかない。お前はクレア・ラーナルード。俺はセラ・ヤマト。違うのか?」

 

 

「…でも」

 

 

セラの様に割り切ることができない。

どうしても、自分はクローンなのだという意識がこびりついてしまう。

 

 

「んー…、ならあれだ。俺を兄だとでも思えばいいじゃないか」

 

 

「え…?」

 

 

「多分、お前は俺よりも遅く生まれてきただろ?一応血縁関係だってあるはず。なら、俺は兄。お前は妹。お前は俺のクローンなんかじゃない。これでどう?」

 

 

無茶苦茶だ。

そんなこと…、そんなこと…。

 

いつもの自分なら、そんなのあるはずがないときっぱり否定しているはずなのに…。

 

 

「…いいかもしれませんね」

 

 

「え?」

 

 

クレアが応えると、セラの戸惑ったような声が漏れる。

 

 

「何故、あなたが驚くんですか?あなたが提案してきたのですよ?」

 

 

「いや…、応じて来るとは思わなくて…。次の説得の言葉を考えてた…」

 

 

「何ですか、それは…。ふふ…」

 

 

笑いが漏れる。

それに気づいたとき、クレアは驚いた。

 

いつ以来だろう、笑ったのは。もしかしたら、初めてかもしれない。

心の底から漏れた笑いは。

 

 

『せ…!セラ!…聞こえる、セラ!?』

 

 

「シエル…?シエル!聞こえるぞ!」

 

 

すると、リベルタスのスピーカーから響き渡る声。

セラは、すぐにそれがシエルのものだと悟り、答えを返す。

 

 

『セラ!?どこにいるの、セラ!?』

 

 

「いや、どこって…」

 

 

どこにいると問われたセラは、まわりを見渡す。

 

見えるのは、暗い闇と点々と光る星の輝きだけ。

 

 

「う、宇宙…」

 

 

『ふざけないでよ!もう…、レーダーに反応が映ったから、そっちに行くね?もう動いちゃダメだよ?』

 

 

「り、了解…」

 

 

子ども扱いされている気がするのは気のせいだろうか。

 

 

「いえ、気のせいではありません」

 

 

「心を読むなよ…」

 

 

「すみませんでした」

 

 

クレアに言い切られたセラは、弱弱しく言い返す。

返ってくるのは、さばさばとした謝罪の言葉。

 

 

「…本当に申し訳ないと思ってるのか?」

 

 

「思ってません」

 

 

「ですよねぇ~…」

 

 

もし、傍からこのやり取りを見ている者がいれば誰もが思うだろう。

 

この二人はずいぶんと仲の良い姉弟だ、と。

兄妹ではない、姉弟だ。

 

 

「…と、シエルが来たな」

 

 

「え…?」

 

 

ヴァルキリーが向かってくるのが見えてきた。

するとリベルタスはアナトを抱えて向かってくるヴァルキリーの方へと進んでいく。

 

 

「あの…」

 

 

「ん、どうした?」

 

 

「私は…」

 

 

「あぁ、連れてくぞ?俺の妹として皆に紹介してやる」

 

 

多くの人たちの前で、妹として紹介される自分を思い浮かべる。

 

…恥ずかしすぎる。

 

 

「やめてください…」

 

 

「え、でも紹介はしなきゃいけないぞ?」

 

 

「せめて少しずつにしてください…」

 

 

「?…よくわからないけど、わかった」

 

 

こうして話している間に、リベルタスとヴァルキリーの距離はほぼゼロとなっていた。

セラは、画面に映るシエルの顔を見て微笑む。

 

 

「…ただいま、シエル」

 

 

「おかえり、セラ…」

 

 

「…」

 

 

微笑み合う二人を見て、クレアは確信した。

 

二人は、つまりはそういう関係なのだろうと。

つまり、自分は彼女の妹…。

 

ならば、一番最初に自分のことを知ってもらうのは彼女でなくてはならない。

 

 

「シエルさん」

 

 

「え、あれ?クレアさん!?」

 

 

シエルの目が見開かれる。

かつて共に戦ってきた人が、こうしてリベルタスに抱えられている。

 

考え付くはずがないだろう。

 

 

「え…、え?どうして!?」

 

 

「あぁ…、シエル。これは後でゆっくりと説明するから」

 

 

「妹です」

 

 

「「え?」」

 

 

驚くシエル。諭すセラ。

そして、急に言い放ったクレア。

 

シエルだけでなく、セラも目を丸くした。

 

 

「クレア・ラーナルードです。兄が、お世話になっています」

 

 

ぺこりと、頭を下げるクレア。

 

 

「…セラ、どういうこと?」

 

 

「えと…、戻ってから説明するからさ、今は…」

 

 

「今すぐ説明しなさぁああああああああああああああい!!!!」

 

 

「はいぃっ!」

 

 

シエルの目が、本気だ。

セラはすぐに説明を始める。

 

その必死さを見て、クレアはくすくすと笑い始める。

 

このやり取りが、毎日見られるのだろうか。

そう思うと、先程まで不安に思っていたこの先がとても楽しみに感じてくる。

 

 

 

 

 

悲しい業を背負った少女は、こうして救われていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニウスセブンが落とされてから始まったことから名づけられた、ユニウス戦役。

その犠牲者は、かのヤキン・ドゥーエ戦役をも超える多さとなってしまった。

 

それでも、また人は歩き始める。止まることなど、できやしないのだから。

 

それは、戦い終えた少年たちにとっても同じこと。

 

それぞれの道を、歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回で最終回です。


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LAST PHASE 穏やかな時を最期まで

ついに、ラストです!


C.E.74年、月面、メサイア周辺での戦闘の後、プラント、オーブ連合首長国、そして大西洋、ユーラシア連合軍の三勢力は停戦合意に達し、終戦に向けての協議に入った。

 

会見場で、固く手を握り合うカガリとプラント国代表。

今の彼女には、父を彷彿とさせる落ち着きと意志を感じ取ることができた。

 

 

「…ふぅ」

 

 

そして今、カガリは会見を終えて帰宅せんと通路を歩いていた。

 

戦争が終わってからまだ幾日と過ぎていないというのに、ここまでの時間が長く感じてしまう。

正直、戦闘に出るよりも今までの会見の方が疲れてしまった。

 

まず、会見に臨む前から疲れたというのが正直な彼女の状態だ。

 

戦闘を終えたセラたちから色々なことを聞いた。

トールがラクスを演じていた、ミーア・キャンベルという少女を連れてきたということ。

…ミリアリアが大変なことになっていた。画面に端にいたトールが、真っ白になっていた。

そう言えば、どういう事になっていたか少しでもわかるだろうか。

 

そして、セラだ。

セラの妹とは何だ?クレアと名乗ったあの少女は、自分とキラの妹ということなのか?

 

…かなり混乱した。

だがその混乱も、シエルに説教されているセラを見て幾ばくか和らいだが。

 

最後に、ムウ・ラ・フラガの帰還。

彼に似た、ネオ・ロアノークという男を捕虜として収監したという報告は受けていたが…、結局彼は、ムウだったということなのか?

…話だけではよくわからない。

 

さらに、セラとキラが通信が途切れる直前に、ずいぶんとご機嫌そうにこう言った。

 

 

『カガリ、後まだ一つ報告があるんだ』

 

 

『でも、それは俺たちの口からは言わないから。本人から聞けよ?』

 

 

…あのしてやったりの顔は何なのだろうか。

何か、恐ろしい悪戯でも考えている子供のような顔だった。

 

…考えたら本当に怖くなってきた。

もうこれ以上、私を疲れさせないでくれ…。

 

 

「カガリ」

 

 

ぐったりとしながら歩くカガリに、前方から声がかけられた。

俯いていた顔を上げると、カガリの前にはがっしりとした体つきの男がいた。

 

 

「キサカ?」

 

 

ずっと、傍で世話をしてくれた男、キサカが笑みを浮かべながらカガリを見つめていた。

 

…その顔が、あの時のセラとキラの笑みと重なるのは気のせいだと思いたい。

 

 

「カガリに客だ」

 

 

「客?…まだ、何かやらなきゃいけないのか?」

 

 

客という一言に、うんざりするカガリ。

 

あれだけ喋り、まだ何かしなければならないのか。

今日はもうこれ以上他人と話したくない。

 

まだまだやらなければならないことがたくさんあるのだ。

もう疲れるような話はしたくない。

 

 

「会いたくないのなら、別にいいんだぞ?彼は、がっかりするだろうがな」

 

 

「…わかった。その彼というのは、今どこにいる?」

 

 

キサカが、何か企みを含んだ言い方でカガリに言う。

キサカが言う彼、とは自分の知り合いなのだろうか?そうでなければ、キサカがこういう言い方をするとは思えないが…。

 

少しならいいかと思ったカガリは、キサカにその彼の元へと案内させる。

こっちだ、と言いながらキサカは通路を歩き始め、カガリはキサカについていく。

 

キサカが歩いていく方向は、カガリが今いる建物の裏口の方向だ。

 

 

「…おいキサカ、彼というのは誰なんだ?」

 

 

「会えばわかるさ。ほら、その出口の前にいるから、行って来い」

 

 

彼とは誰なのかとキサカに問うが、キサカははぐらかすようにカガリに返す。

それだけではなく、ここからは一人で行けとまで言ってくる始末。

 

…何なのだろう、セラもキラも、キサカまで。

まるで自分を嵌めようとしているみたいに。

 

 

「…くだらないようなら殴るからな」

 

 

「どうぞご自由に」

 

 

脅すようにキサカを睨んだとき、カガリはわずかに目を見開いた。

今のキサカは、先程までとは打って変わって笑みが暖かなものへと変わっていたのだ。

 

きょとんとしたカガリは、目を前に向けて出口へと向かっていく。

 

扉を開くと、柔らかい風が頬を撫でた。

その風の向こうに、空を見上げる青年がいた。

 

紺色の髪を風が揺らしている。

カガリは、その青年から視線を離せずにいた。

 

 

「…何で」

 

 

「ん…」

 

 

ぽつりと漏れたカガリのつぶやきが聞こえたのだろう。

青年がカガリの方に目を向ける。

 

翠の瞳から、目が離れない。

青年が浮かべる微笑みから、目を離すことができない。

 

 

「カガリ…」

 

 

「どうして…」

 

 

青年が、自分の名を呼ぶ。

 

カガリはその場から動くことができない。

まるで、両足が地面に吸い寄られているように、足がそこから動かない。

 

 

「これは、夢…?」

 

 

そうか、これは夢なのか。

だからここから動くことができないんだ。

 

近くに行きたい。言って、彼の温もりを確かめたい。

夢だから、それができずにいるんだ。

 

 

「夢じゃないよ」

 

 

だが、青年はカガリのつぶやきを否定して歩み寄ってくる。

カガリは、呆然と青年を見つめるだけ。

 

 

「夢じゃない」

 

 

青年は、カガリの目の前で立ち止まると、腕を上げ、その手をそっとカガリの頬に添える。

 

 

「ごめん。…帰りが、遅れた」

 

 

「…っ!」

 

 

その手が頬に触れたその瞬間、カガリを縛る何かが解かれた。

 

カガリは、青年の胸へと倒れ込む。

倒れ込んだカガリを、青年はそっと抱きしめた。

 

 

「…大遅刻だ…、バカ野郎…!」

 

 

「…そうだな。俺、愚図だから…」

 

 

カガリは、胸から顔を離し、青年の顔を見上げる。

青年は、暖かな微笑みをそのままにカガリの顔をじっと見つめていた。

 

 

「…お帰り、アスラン」

 

 

「あぁ、カガリ。…ただいま」

 

 

そこから先は、言葉はいらなかった。

 

二人の顔は、吸い寄せられるように近づいていく。

 

一つになった二人を祝福するかのように、温かな風がその場で舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カガリさんも、これからが大変ね…」

 

 

潮風に栗色の髪が揺れる。

つぶやいた彼女、マリュー・ラミアスは砂浜を歩いていた。

そしてその横には、彼女の愛する人が寄り添っている。

 

マリューは、その彼がずっと自分を見つめていることに気がつかずに続ける。

 

 

「前回だって、ユニウス条約を締結するまでにずいぶんと揉めたもの」

 

 

「でも、今回は違うと俺は思う。…最後、地球軍だって戦う悲しさを感じていたはずだから」

 

 

前回と全てが同じという訳ではない。

あの時とは違う思いを、地球軍は抱いたはずなのだ。

 

 

「…ムウ」

 

 

マリューは、真剣なまなざしで揺れる波を見つめるムウを見る。

 

 

「…それより、そろそろ俺たちの先の話をしようぜ?世界のことじゃなくさ」

 

 

「先…」

 

 

ムウの視線を受けながら考え込むマリュー。

その時間はすぐに終わりを告げた。

 

 

「プラントには、そのうち行きたいわね…」

 

 

「グラディス艦長か?」

 

 

「えぇ。今度は敵としてじゃなく…、一人の人としてあの人と話してみたいわ」

 

 

ムウも、マリューからタリア・グラディスの話は聞いている。

味方だったら、どれだけ心強かっただろうか。彼女と色々な話をしたい。

 

マリューの彼女に対する印象は、悪いものはなかった。

もし味方だったら、マリューとその彼女は親しい友人になっていただろうとムウは思っていた。

 

 

「あら、プラントに行くのなら私たちも連れていってくれないかしら?」

 

 

「そうだねぇ…。僕らも、プラントに帰りたいからな」

 

 

話し込むムウとマリューの正面から、これまた並んでこちらに歩いてくるバルトフェルドとアイシャが声をかけてきた。

 

 

「あら、じゃあこの二組で一緒に行きますか?」

 

 

「いいわね。ダブルデートということで!」

 

 

マリューとアイシャが笑みを浮かべながら話し込む。

 

 

「…こうなったら、二人は長いぞ」

 

 

「そう、だな…。男は寂しく待つとしますか」

 

 

ムウとバルトフェルドが、この二人を会わせてしまったことを少し後悔しながら二人の会話が終わるのを待つことにする。

 

こんな幸せが、また来るとは思わなかった。

マリューは、アイシャの話を聞きながらバルトフェルドと話すムウを横目で見つめる。

 

帰ってきてくれた。また、会えた。

 

もう帰ってこないと思っていた。もう会えないと思っていた。

 

今この時ほど神様に感謝したことはない。

この幸せなひと時を味あわせてくれたのが神様ならば、今日ほど感謝したことは一度もないだろう。

 

 

「マリュー?聞いてる?」

 

 

「え?」

 

 

ぼうっとしているマリューをのぞき込むアイシャ。

そこで、途中からまったくアイシャの話を聞いていなかったことに気がつくマリュー。

 

 

「…あたしたちはお邪魔のようね?アンディ~、もう行きましょ~!」

 

 

「え?あ…、アイシャさん?」

 

 

気を悪くしてしまったのだろうか。

だとしたら、謝らなければと思い、バルトフェルドの元へ歩いていくアイシャを呼び止めようとするマリュー。

 

 

「三年ぶりの再会ですもの。ゆっくり話したいでしょう?」

 

 

だがアイシャは、悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらに話しかけてくる。

 

気を悪くしたのではないとわかり、ホッとするマリュー。

 

 

「そうだな。じゃ、お邪魔は消えるから二人きりの時間を味わいたまえ」

 

 

「え…」

 

 

言い残して去っていくバルトフェルドとアイシャの後姿を眺めるムウとマリュー。

二人の姿が小さくなっていき、二人は同時に互いの顔に視線を移す。

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

二人は、微笑み合う。

そしてムウが、そっと囁きかけた。

 

 

「もう、どこにもいかない」

 

 

「ええ…、もう、二度と…」

 

 

マリューの両手が、ムウの背中に回される。

 

きつく抱き締めあう二人の足下に透明の波が押し寄せる。

 

しばらくの間、言葉は絶え、波の音だけが周辺を包むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンは今、呆れていた。

どうしようもなく、呆れていた。

 

その原因は、今、シンの目の前で言い争う二人だった。

 

 

「お前は…!あれだけ早く!この施設の構造を覚えろと!言っただろうが!」

 

 

「そ、そうですけど…。こんな広い所、すぐになんて覚えられませんよ…。僕も色々な所で色々話をしなくちゃいけませんし…」

 

 

「それでもほんの少しでも間の時間があったはずだ!その間に少しずつ地図を書こうとは思わんかったのかぁ!」

 

 

「…あ」

 

 

「あ、じゃないっ!」

 

 

「おいイザーク、そこまで頭ごなしに怒鳴らなくても…」

 

 

「ディアッカ!もうすでにこいつがここに来てから一週間だ!さすがにこればかりは看過できん!」

 

 

その時、ディアッカと呼ばれた金髪の青年が、イザークと呼ばれた銀髪の青年に諌めるように声をかけた。

だが、イザークの勢いは止まらない。

 

そう、イザークに怒鳴られていた茶髪の青年は、ここザフトに来てから一週間が経っている。

それだというのに、主に使っている施設の構造を覚えられていないのだ。

 

 

「けどよ、キラだってほぼ毎日、移動移動の連続でここの構造を覚える暇なんてなかったと思うぜ?」

 

 

ディアッカの言葉に、茶髪の青年、キラがうんうんと頷いた。

 

…その必死さが、シンにため息をつかせる。

 

このキラは、フリーダムに搭乗していた超一流のパイロットだ。

シンも、当初はこのフリーダムに勝てるように修練を重ねていた時もあった。

 

そんな、目標ともいえる人が、こんな抜けている人だったとは…。

 

 

「何か…、イメージと違うね」

 

 

「違うどころじゃない…。180度、正反対だよこれじゃ…」

 

 

シンの隣でこのやり取りを聞いていたルナマリアが、耳元でつぶやいてくる。

そのつぶやきにシンは再びため息をつきながら返した。

 

 

「…まぁ確かに、ディアッカの言う通り、ここの構造全てを覚えることは不可能だったのかもしれない。だがだ!この施設にはそういう者のために、地図が描かれた掲示板が張られているはずだ!それは見なかったのか!?」

 

 

「…そんなもの、あった?」

 

 

「あったっけ?」

 

 

「ディアッカ!お前もかぁっ!」

 

 

目を合わせて問いかけ合うキラとディアッカ。

噴火するかのごとく、声を上げるイザーク。

 

 

「…これが、英雄」

 

 

「…なんだかなぁ」

 

 

そう言えば、先日挨拶することになった、ラクス・クラインもこんな感じだった。

 

ラクスは、キラがザフトに入るさらに一週間前にプラントの要請を承諾し、プラント最高評議会議長に任命された。

シンとルナマリアは、ラクスとの初対面の時どれだけ緊張したか。

 

だがいざ会ってみると…。

 

 

『これから、よろしくお願いしますわ』

 

 

柔らかくほわんほわんとした口調で話すラクスに、いつの間にか緊張はどこかに消え去っていた。

 

テレビの前で見る演説しているときのラクスの雰囲気とは全く違っていたのだ。

 

今の、キラと同じ。

フリーダムに乗ってみせる鋭い動きとは全く違うように。

 

 

「…それにしてもひどすぎるような気はするが」

 

 

まだイザークに怒鳴られているキラ。

シンは、三度目のため息をついた。

 

これからどうなるのだろう…。キラの配下、つまりヤマト隊に配属となってしまったシンとルナマリア。

さらにその下、ヤマト隊員が所持する機体の整備はマユがいる技術員の部隊が担当することになっている。

 

…ずいぶん忙しくなりそうだ。

 

これから先のことを不安に感じながら、シンはイザークに怒鳴られ終え、疲れ切って戻ってくるキラを眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 

潮風が頬を撫でる。体全体を包み込んでいるような、そんな感覚までしてくる。

 

アスハ別邸の屋上で、ただじっと海を眺めている少女がいた。

少女は、眼下の砂浜から聞こえてくる楽しそうな声に耳を傾ける。

 

 

「これが海…。これが風…。プラントの物とは全く違いますね、はしゃぐのもわかります」

 

 

少女の視界の中で、海の水を掛け合っている男女の姿があった。

ムウとマリューである。

 

普通に海を知っている者ならば、その光景をただ呆れた目で見ることになっていただろう。

だが、この少女は違った。

 

海を知っていると言っても、それはプラントにある人口の海。

こうして、地球にある自然の海を初めて知った彼女にはとても新鮮に見えたのだ。

 

 

「クレア?こんな所にいたのね」

 

 

「カリダさん?」

 

 

いい歳してはしゃぐマリューとムウを眺めていると、背後から少女を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。

 

どうしても、本当に子持ちなのかと疑ってしまうほど綺麗な容姿を保ち続ける女性、カリダ。

カリダは、屋上でずっと海を眺めていた少女、クレアを呼びに来たのだ。

 

 

「クレア、私のことはお母さんと呼びなさいと言っているでしょう?」

 

 

「…わかってはいるのですが、どうしても」

 

 

先程、クレアはカリダさんと呼んだ。

それが、カリダにはお気に召さなかった。

 

クレアはセラの妹と聞いている、ならば、クレアはキラの妹ということ。

セラもキラもカリダの息子なのだから、クレアだってカリダの娘なのだ。

 

娘から、カリダさんなどと呼ばれたくないだろう。

 

とはいえ、クレアもカリダとは出会ったばかりなのだ。

そんな彼女をいきなりお母さんと呼ぶことは難しい。

 

 

「まぁ、クレアのペースで馴れていけばいいのだけれど…。早く、馴れてもらいたいわね?」

 

 

「ぜ、善処します…」

 

 

横目で、なおかつ細目でこちらを睨むように見ながら言うカリダ。

ただ、頷くことしかできないクレア。

 

だが、こんなやり取りはしているがこの二人の間に悪い空気は流れていない。

むしろクレアは特に、心地よい気持ちすら浮かんできている。

 

 

「母さん、遅いぞー。ムウさんたちももう席についてるんだ、早くしてくれよ」

 

 

そんな時、屋上にもう一人入ってきた。

カリダがクレアを呼びに行っている間、その人物は砂浜ではしゃいでいたムウとマリューを呼びに行っていた人物。

 

 

「そうね。クレア、みんなお腹すかしているから、早く行きましょう?」

 

 

「はい」

 

 

クレアとカリダは、先に屋上を出た人物に続いてその場から去る。

そして、階段を降りて一階にある食卓がある部屋に到着した。

 

 

「おいセラ、遅いぞ!」

 

 

「…こっちが大声で呼んでるのに無視してはしゃいでいたのはどこの誰でしたっけ?」

 

 

「…」

 

 

屋上に、カリダとクレアを呼びに来た人物とは、セラだったのだ。

そんなセラに、すでに席についていたムウが遅いと文句を言う。

対するセラも、ムウに対して負けじと言い返すのだがムウは素知らぬ顔でそっぽを向いた。

 

無視するな!と憤慨するセラを放って、カリダとクレアはそれぞれの席に着く。

 

 

「セラ兄さん、早く座ってください。食事が覚めたら、兄さんのせいですよ」

 

 

「あ、え?俺が悪いの?」

 

 

「そうだぞーセラー。とっとと座れ―」

 

 

「あんたは黙ってろ!」

 

 

憤慨しているセラに冷たい言葉を投げかけるクレア。

自分が悪いのかと戸惑うセラ。そしてセラにおどけた声でからかいを投げかけるムウ。

 

セラは再び憤慨するが、学習はしている。憤慨しながらも、シエルの隣の空いている席にセラは腰を落とす。

 

 

「ったく…。いい歳して水の掛け合いなんてやりやがって…」

 

 

「ま、まあまあ…」

 

 

席に着きながらもぼそぼそと文句をつぶやき続けるセラを、シエルが宥める。

 

そんな二人を、まわりの人たちは暖かな目で見つめていた。

特にカリダはこみあげてくる笑みを抑えきれなかった。

 

シエルがザフトに戻ってから、ずっとどこか沈んでいた様子を見せていたセラが、また心から笑顔を浮かべている。

親として、これ以上嬉しいことはないだろう。

 

 

「さて、お二人さん?お話はそこまで!そろそろ食事にしよう!」

 

 

「あ…、そ、そうですね!」

 

 

「ん、俺も腹減った」

 

 

話し込む二人を、バルトフェルドが両手をパンと鳴らして止める。

そして、そろそろ食事にはいろうと催促する。

 

シエルは、ここまでのやり取りを見られていたことに気づいて羞恥に頬を染める。

セラは、特に羞恥などを感じている様子などなく、手元にある食事に視線を落とした。

 

 

「ん。では、お手を拝借…」

 

 

いつもの、食事前の挨拶。

セラやシエル、バルトフェルドたちが共に暮らし始めた時からのいつもの習慣。

 

 

「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」

 

 

食事が始まれば様々な話が飛び交った。

 

今日この場で特に盛り上がったのは、カガリとアスランの再会のこと。

セラがにやにやと満面の笑みを浮かべながら、あぁだこうだと予想を言い並べていく。

セラの言葉に笑い声を上げながら、この場にいるセラ以外の全員は思った。

 

セラとキラは、カガリに何発殴られるだろうか、と。

 

後は特にいつもと同じだった。

そのいつもと同じ会話は、クレアにとってこれまた新鮮だった。

 

食事などいつも一人でしていたし、ミネルバにいた頃、シンやルナマリアに誘われたこともあったがすべて断っていた。

こんなに食事をするのが楽しい事だったなんて、生まれて初めて知った。

 

 

「ん…、そうだ。クレア、レイの奴はどうしてるんだ?たまに連絡とり合ってるんだろ?」

 

 

バルトフェルドと何やら盛り上がっていたセラが、ふとクレアに問いかけてきた。

 

セラが聞いてきたレイのこと。

 

 

「昨日、連絡が来ましたよ。しばらく、世界を見て回るそうです。今の自分の目に世界がどう映るのか…、人々の暮らしがどう映るのか、知りたいと」

 

 

「…そっか」

 

 

レイは戦後、プラントに戻らずに地球に降りていた。

それはクレアも同じ。

 

レイもクレアもクローンだ。

残された時は、両者とも限りがある。特にレイは、残り少ないということも本人の口から聴いている。

 

限られた時間を、本人たちのためだけに使わせたかった。

セラたちはレイとクレアを地球に降ろしたのだ。

 

その後、レイはセラたちと一度離れた。

そのままレイはセラたちの目の前に現れなかったのだが、クレアがレイと連絡を取り合っていたのだ。

 

世界を回る、レイは旅に出た。

それが本人の決めたことならば、何も言うことはない。

 

 

「そっか…」

 

 

もう一度、ぽつりとつぶやいたセラは、再びバルトフェルドと話し始める。

話題は、コーヒーの話。…ここ毎日のようにこの二人がコーヒーのブレンドについて話している声を聴いている。

今も、食事の飲み物に出ているコーヒーのブレンドについて高々と胸を張りながら説明している二人。

 

…悔しいことに、今まで飲んだことがないほどこの二人がブレンドしたコーヒーはおいしいのだが。

 

 

「…」

 

 

クレアは、それぞれ色々な人と話す皆を見回す。

例外なく全員が浮かべる笑顔を見て、クレアもまた暖かな気持ちに包まれる。

 

今はまだ新鮮味を感じてやまないこの光景。

だが、いつかは馴れてくるのだろうか。

 

カリダとマリュー、アイシャが女性同士の話をしている時に流れてくる美しい笑い声も。

そんな三人の話に、ムウがおちゃらけた様子で割り込み袋叩きにされている光景も。

 

セラとバルトフェルドが、コーヒーのブレンドの話に熱中しすぎてまわりから冷たい視線を浴びている光景も。

 

セラとシエルが、微笑みながら話しているのを皆が暖かな視線で見守っている光景も。

 

そんな皆の輪の中に、自分は入っていけるだろうか。

 

 

「…入りたいものです」

 

 

「?クレアちゃん、何か言った?」

 

 

「いえ、何でもないです」

 

 

クレアのつぶやきが聞こえたのだろう。

シエルが不思議そうにクレアをのぞき込んでくる。

 

耳が良いものだ。隣に座っているセラには聞こえていなかったというのに。

…いや、バルトフェルドとの話に集中して耳に入ってこなかったのかもしれない。

 

クレアは、フォークをサラダの上に載っているトマトに刺し、口に入れる。

トマトの酸味が口いっぱいに広がるのを感じながら、もう一度食卓を囲む全員を見渡した。

 

いつか、この輪の中に自分も入る。

そんな光景を想像すると、自然と笑みがこぼれてくる。

 

 

「それで、そのブレンドの上にモカをさらに…ん?クレア、どうした?」

 

 

コーヒーの話に熱中していたセラが、笑みを浮かべているクレアに気がついた。

のぞき込むセラの表情は、先程こちらをのぞき込んできたシエルとどこか重なる。

 

…あそこまでラブラブになると、こういう些細な所まで重なるようになるのだろうか。

 

 

「何でもありません!それより、早く食事を済ませちゃいましょう。セラ兄さん、食事が終わったら散歩に付き合ってください。シエルさんも」

 

 

何やら散歩に誘われたセラとシエルは、きょとんとしながら目を合わす。

そして、同時に笑みを浮かべるとクレアを見てこう返した。

 

 

「そうだな。散歩、行ってくるか」

 

 

「良い天気だし、中央公園の方まで行ってみる?」

 

 

「おいシエル…?あそこまで行くのに車が必要だぞ?」

 

 

「セラが運転すればいいでしょ?」

 

 

「散歩じゃねえ…」

 

 

どこから聞いても夫婦のそれにしか聞こえてこない会話を繰り広げるこの二人は、近い間にこの家を出るつもりだ。

クレアはもちろん、この場にいる全員と、今プラントにいるキラとラクス、そしてカガリとアスランも知っている。

 

長い間いれなかったぶん、二人一緒に過ごしていきたいそうだ。

こうして手に入れた安らかな時間を、二人一緒に過ごしていきたいそうだ。

 

いつかは、どこか町はずれの所に小さな家を建てて暮らしたいとも言っていた。

その話を聞いたとき、全員が笑みを抑えきれずにいたことは言うまでもない。

 

二人だけではない。いつか、他の人たちもそれぞれの道を進むためにここを離れていくだろう。

その時、自分はどうしようか。

 

ずっと、カリダさ…、お母さんのお世話になるわけにもいかない。

とはいっても、今はこうして穏やかに過ごしていくことしか先のことを想像できない。

 

 

(…まあ、何とかなるでしょう。それより今は、この一時を少しでも、取り逃さないように…)

 

 

その時クレアは、再びバルトフェルドと話し込むセラの手元のお皿に鶏肉のからあげが残っているのを見つけた。

クレアは、それを逃さない。

 

 

「いただきます」

 

 

「あ、あぁっ!クレア、俺のからあげをぉっ!?」

 

 

「代わりにサラダの中にあるコーンを上げます」

 

 

「お前が食いたくないだけだろっ!そんなもん自分で食えっ!…あぁ、俺のからあげが」

 

 

しょんぼりと沈み込むセラ。

笑いが零れるクレアたち。

 

これからも、こうして笑いが絶えない生活が続くだろう。

たとえ皆が離れ離れになっても、笑いが絶えないのは変わらないと、何故かクレアには確信があった。

 

 

 

 

 

 

 

ずっと、ずっとこのまま、穏やかな時を最期まで。

 

今のクレアが望むのは、たったそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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あとがき

はい、ということで…

 

機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者

完結です。

 

いや、一年かかりましたよ一年。

夢の果てが一か月、聖なる解放者が一年。

…何て差だ!一年と一か月って…、ホントに何て差でしょう。ww

 

こんな駄文に一年もお付き合いさせてしまい、申し訳ありませんでした…。

ですが、書いている内に…。

『あれ、俺、成長してない?』

と、思った作者は勘違いでしょうか?

 

…勘違いですね、申し訳ありません。

 

 

さて、無駄話もそこまでにしてあとがきということですが、何を書きましょうか。

まったく考えていませんでした…。

 

まぁまず、この小説と前作の様々な所を比較してみましょうか?ww

 

 

 

まず話数、文字数ですね…。

 

夢の果て 52話 307394文字

聖なる解放者 72話時点 685664文字

 

…二倍ですよ。二倍ですよ!?

どんだけ書いてんだ俺は…。

 

もう途中から、一話の文字数が一気に爆上がりしましたね…。戸惑った方もいらっしゃったのではないでしょうか?

 

実はあの時に、夢の果てを執筆していた頃の悩みが再発しまして…。

 

他のSEED二次小説に比べて、文字数少なくね?

という悩みが…。

 

いや、書きましたよ。一気に詰め込みました。

今まで五千文字とかそこらしか書いてこなかった私が、一万文字を超える一話を書き上げましたよ。

 

いや、疲れますね…。もうそんなことしたくないと今、しみじみと感じております…。

 

 

次、UA数とPV数を。

 

夢の果て UA82049 PV387420

聖なる解放者 UA141259 PV414102

 

こんなにたくさんの方々に読んでいただきました。ありがとうございます!

そして解放者の閲覧者の増えが凄い…。感謝しかありませんね。ww

 

 

では最後にお気に入り数を。

 

夢の果て 391件

聖なる解放者 457件

 

…感動しています。物凄く感動しています。

 

覚えていらっしゃる方はいるでしょうか?

夢の果て完結時点で、お気に入り数は250件ほどだったんです。

そこから141件増えてる…。感動しかありませんよ…。

本当にありがとうございます!

 

 

 

 

 

 

さて、こうして最後までこの小説を書いてきた私ですが、何をどうしてもどうやっても時間がかかってしまうことがありました。

 

はい。機体の名称です。

サンクタ・リベルタス、リープ・ヴァルキリーのサンクタとリープを決めるのにどれだけ時間をかけたか…。

 

まず考えたのは、解放者と戦乙女の前に置く言葉。

いや、考えまくりましたよ。

 

まぁリベルタスに関してはすぐにその部分は決まりました。

何しろタイトルが、<聖なる>解放者なのですから。ww

 

ですが、その後が大変でした。

聖なるという意味を持つラテン語の単語を探してからが大変でした。

 

ただ聖なる戸言う意味を持つ単語を探すだけなら簡単でしたが、その単語に続いてリベルタス。

ゴロが合ってかつ、かっこよくね?と思える言葉を探すのですから、時間がかかるかかる…。

 

しかも決まったのがサンクタ・リベルタス…。

読者様方には申し訳ないのですが、これ、ちょっと違和感ありませんか?

いや、ないよかっこいいよと思っていただけるのならそれは私にも嬉しいのですが…。

 

リープ・ヴァルキリーはしっくりきますね。

何しろシエルの機体ですし…、私もしっかり考えましたよ!

いや、セラだから不真面目に考えたという訳ではないのですが…。

ヴァルキリーは英語ですし、リープも英語。思い出せるまでにかなり時間はかかりましたが、自分の頭の中から絞り出せて良かったです。

いや、ネットで調べるのは本当にきついですから…。

 

そして、ザフトのオリ機体ですね。

半分が、古代の神々の名からお借りさせてもらいました。

 

まずハイネの機体、カンヘルが守護天使。

クレアの機体、アナトが愛と戦いの女神。

アレックスの機体、ブレイヴァーは勇者という英単語。

そしてロイの機体、ウルティオは…、あれ?ウルティオは…。

 

…あれ?た、たぶん復讐とかそんな意味だったはずなのですが…。わ、忘れてません!

度忘れしただけですはい…。(忘れてんじゃねーかというツッコミは受け付けたくないです…)

 

あと、ネオの乗り機。出番がまさかのたったの三話しかなかった機体。

ストライク・ブラン。

 

皆さん知っての通り、ストライク・ノワールのノワールはフランス語で黒という意味です。

逆に、ストライク・ブランのブランはフランス語で白という意味なのです。

 

黒と白…。活躍させたかったなぁ…?

 

ここだけの話、この解放者の大体三十話当たり暗いからでしょうか…。

ムウさんファンの方には申し訳ないのですが、夢の果てで殺しておけば良かったかもと思ってしまいました。

 

そして、砂漠の戦闘で原作通りアイシャが亡くなり、残ったバルトフェルドとマリューがくっついてエンド…。

これのほうがストーリー的に楽だったんですよ。いや、書いている方にとってはものすごく!

 

とはいえ、もう時すでに遅し…。それにやっぱりムウさんもアイシャさんもかわいそうだし頑張りました。

褒めてもいいですよ?ww

 

 

 

さて、あとがきに書くネタもだいぶ尽きてまいりました。

 

いや、早いよ。まだ二千文字くらいしか書いてねえよ。

こんなしか書くことねえのかよ。

 

…ねえんだよ!

 

後は、読者様方に色々な謝罪をしていきたいと思います。

 

この聖なる解放者の投稿期が遅れることもありましたね。

大体は実家に帰ったり大学のレポートガガガというのが理由の大半でしたが、それでもたまにモチベーションが落ちたり他のゲーム(浮気ww)したりということもありました。

 

モチベーションを取り戻すのは基本は簡単でしたね。

ゲーセンに行って、フルブ〇ストやってガンダム分を補充すれば回復しましたから。

 

ですが、浮気をした時は大変でした…。

まず、パソコンの前に行かない。布団のこもってゴロゴロしながらひたすらピコピコしてましたから。

 

本当に、こんな気まぐれな作者で申し訳ありません。

 

あぁ、これで何回申し訳ありませんって言っただろう…。

でも何回謝っても足りないくらいです…。待っていてくれた方もいらっしゃったでしょうし…。

 

…いましたよね?信じていいですよね?

 

さて、そろそろこのあとがきも締めさせてもらいます。

ですがまだ本当の終わりではありません。

 

おまけが皆様を待っています。

待ち望んだ方もいらしたかもしれません。二人の未来です。

 

そのお話の前に、最後にもう一度だけお礼申し上げさせてもらいます。

 

一年もの間、この作品にお付き合いいただきありがとうございました。

執筆活動は他の小説で続けさせていただきますので、これからもよろしくお願いします。

 

 

 

 

では、おまけをどうぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PHASEおまけ 二人

 

 

 

 

ユニウス戦役終結から、すでに二年が経っていた。

戦争終結直後は、世界各地で起こっていた小さな紛争も収まりを見せ始めていた。

 

ここはオーブ。

代表、カガリ・ユラ・アスハを中心に平穏へと進みだしたこの国を、今は冷たい風が包んでいた。

 

戦中、リベルタスに乗って戦場を駆けたセラは、国の管理する研究所の中で最も小さい建物の中にいた。

作業着を着たセラは、複雑な回路を映した画面の繋がっているコンソールをひたすら叩き続けていた。

 

セラが今いる研究所に赴任したのは、終戦から半年後のことだった。

セラとシエルが、バルトフェルドたちと住んでいたアスハ邸から小さなアパートの一室に引っ越したと同時にマルキオ導師が紹介してくれたのだ。

 

セラとシエル、二人で暮らす。当然、他人の手も借りつつだが、それでもできる範囲内では自分たちの手でやっていきたかった。

そのためには当然、職が必要になってくる。

 

マルキオ導師に、セラは本当に感謝していた。

小さい頃からセラは研究職というものに就いてみたかったからだ。

 

紹介を受けたその研究所は国が管理しているものの、研究のコンセプトは誰でも乗れるモビルスーツを作り、自由に宇宙へ飛ばすというもの。

セラの理想にぴったりだった。

 

何とか試験に合格したセラは、所長の指導の下、必死に仕事を覚えた。

時に任される雑用も文句ひとつ言わずにやり遂げた。

 

そのおかげか、良い印象をもらったのだろう。

今ではこうして研究に開発に没頭できる立場までもらっている。

 

まあ、所長はセラの態度だけでその立場を与えているわけではないのだが。

 

 

「おいヤマト!どこまで作業進んだ!」

 

 

「昼休み後に所長から指示されたものはもうすぐ終わります!」

 

 

「そうか!なら、それが終わったら帰っていいぞ!」

 

 

「はい!…え?」

 

 

所長の新たな指示を受けて再びコンソールと向き合おうとしたセラは、目を見開いて振り返った。

 

 

「あ、あの…所長?今、なんと?」

 

 

「あぁ?俺が午後に言ったものが終われば帰っていいっつったんだよ」

 

 

「いやいやいや!でもみなさんはまだ続けるのでしょう!?俺だけ帰れませんよ!」

 

 

セラはこの研究所にいる中で一番若い。

それなのに、皆よりも先に帰るなんて戸惑うのも当然のことだ。

 

 

「バカ野郎!俺たちのことなんか気にすんじゃねえ!お前はとっとと帰って嫁さんと過ごして来い!」

 

 

「なぁっ!?」

 

 

「「「「「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇええっ!?」」」」」」」」」」」」」

 

 

所長の口から出た嫁さんという言葉に、セラは顔を染める。

 

それと同時に、所長とセラ以外の作業員全員が驚愕の叫びをあげた。

所長が、うるせぇ!黙れ!と叫んでも今の作業員たちには通用しなかった。

 

作業員たちは、顔を赤くして立ちすくすセラに詰め寄る。

 

 

「おいヤマト!それは本当か!?」

 

 

「てめぇ、嫁がいたってのかよ!俺たちを裏切ったってのかよぉ!」

 

 

作業員の質問というか罵声の嵐に呆然とするセラ。

そんな中、所長が口を開く。

 

 

「何言ってんだお前ら?たまにヤマトに弁当を届けに来てくれた娘がいただろ」

 

 

「…そういえばそんな人がいたような」

 

 

「いたっけ?」

 

 

「いたよ」

 

 

「俺見てねぇぞ」

 

 

所長の言葉に様々な言葉が飛び交う。

 

セラはまだ呆然と固まっていたが、ふと我を取り戻す。

 

 

「だ、だから所長!その人とはまだ結婚してないって言ったじゃないですか!」

 

 

「あ?そうだっけか?」

 

 

「そうですよ!これで六回目ですよ…」

 

 

そう、あの人とはまだ結婚していない。

 

結婚していないという事実に、作業員がほっと息をつく。

 

 

「何だ、所長の勘違いか…」

 

 

「そりゃそうだよな…。まだ二十にもいってない奴に先越されたらたまったもんじゃないぜ…」

 

 

「驚かせやがって…、ん?」

 

 

安心したのもつかの間。作業員たちは再び、よぉく先程の会話を思い返す。

 

 

「「「「「「「「「「「「「まだ、だとぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!?」」」」」」」」」」」」」」

 

 

「うぇっ…」

 

 

再び叫び声を上げる作業員に、思わず後ずさるセラ。

 

そしてさらに追い打ちをかけるように所長が口を開いた。

 

 

「…そういえばヤマト。つい一昨日か?あの嬢ちゃんがここに来た時…」

 

 

続いて所長の口から出た言葉に、作業員たちは発狂した。

 

ヤマトヤマトヤマトヤマトヤマトと怨念の様につぶやかれる。

セラは、必死にそのつぶやきを気にしないようにしながら作業を続けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ、本当に所長には感謝したりないな」

 

 

作業員たちの睨み、怨念に耐え、セラはついに今日やるべき仕事をすべて終えて帰路に着こうとしていた。

研究所に裏の駐車場に止めてある車のキーを開け、荷物を助手席に置いてエンジンをかける。

 

本当に所長にはどれだけ感謝してもしたりない。

こんな当時十七歳だった自分を、こんないい研究所に入れてくれて。

その上、お前は若いんだからと色々とサポートもしてくれる。

そして今日のこれだ。

 

今度、シエルともどもお礼を言いに上がろうか。

そう考えながら、セラはアクセルを踏み、ハンドルを回して駐車場の出口を目指す。

 

信号が赤になり、止まると厚いコートを着た人々が横断信号を渡っていく。

今は冬。それも今年最後の日。

いつもより人通りは多いし、それぞれが浮かぶ笑顔もとても気持ちの良いものになっている。

 

信号が青になり、セラはアクセルを踏んで車を走らせる。

 

進んでいくごとにだんだんと建物の数が少なくなり、比例して往来する人の数も減っていく。

今、セラとシエルが住んでいる家は初めに借りたアパートではない。

 

ずっと望んでいた、町の外れに建てた家へと住居を移したのだ。

 

こうして生活の環境が変化したセラだが、変わったのはセラだけではなかった。

 

ムウとマリューは去年のクリスマスに結婚。

マリューはマリュー・フラガとなり、ともに幸せな生活を送ってる。

つい先日にはおめでたの報告も来た。幸せ真っ盛りだろう。

 

クレアは何と、レイと共に今は世界を回っている。

一度、レイがオーブに戻ってきた時、再び今度はクレアと共に出かけていったのだ。

…兄としてはどこか複雑なのだが、いつかやってくる別れのために覚悟は決めておいた方が良いのかもしれない。

 

バルトフェルドとアイシャは、アスハ別邸に未だに住んでいる。

マルキオ導師は、子供たちと共に砂浜近くに建てられた小さな家で再び生活を送り始めた。

ヤマト夫妻は、元々住んでいたヤマト宅に居を移した。

 

そんな変化の中、あまり変わっていない者もいる。

キラとラクス、アスランとカガリ、そしてシンとルナマリアだ。

 

この三組はそれぞれの場所でそれぞれのやるべきことを続けている。

…いい加減進展が欲しいのだが、と心の奥で思うセラだったが、そういうことは本人たちのペースで進めていくべきだろう。

だから、そういうことを催促するようなことはしない。

 

そんなことを考えながら車を進めていると、前方にセラとシエルが暮らしている家が見え始めてきた。

特に凝ったようなことはしていない。ごくごく普通の一軒家だ。

 

セラは車を家の前に止め、荷物を持ち扉を開けて外に出る。

冷たい風がセラの頬を差す。

 

 

「うわ、寒…。あ」

 

 

思わず寒いとつぶやいた後、視界の中に入ってきた白い粉にセラは気づく。

空を見上げると、はらはらと落ちてくるのは。

 

 

「雪だ…」

 

 

クリスマスの日には降らなかった雪が、一年の最後の日に降った。

 

ずいぶんと遅い登場だ、寝坊でもしたのか?

 

呆れたように笑みを浮かべると、セラは家の玄関の扉へと続く階段を上る。

それと同時にバッグから鍵を取り出し、扉の鍵穴に差して回す。

 

かちゃりと錠が開く音がし、セラが扉を開ける。

 

 

「ただいまー」

 

 

玄関に入り、扉の鍵を閉めてからセラは玄関の奥へと進んでいく。

 

キッチンの方から、ジャー、と水の流れる音がする。

まだ夕飯の準備の途中なのだろうか。

 

 

「ただいま」

 

 

「セラ、お帰り。ごめんね?まだもう少しかかるから…」

 

 

「ううん、いいって。俺もこんなに早く帰れるとは思わなかったから」

 

 

キッチンに顔を覗かせて、セラは改めて帰りの挨拶をする。

シエルは、蛇口から流れる水で手を洗いながらセラに視線を向けて返事を返す。

それに対してセラも言葉を返してから、セラはまず洗面所で手を洗ってから自室へと向かう。

 

自室に入ると、セラは壁の方にバッグを置いてから、今着ている仕事着から部屋着へと着替えていく。

 

着替え終わると、セラはキッチンの方に向かっていく。

 

 

「シエル、何か手伝えることあるか?」

 

 

何か、手伝おうと思ったのだ。

こうしてシエル一人に任せるのも気が引ける。

そう思っての提案だったのだが…。

 

 

「あ、ならそこにある料理を…」

 

 

シエルも、セラの提案に感謝の笑みを浮かべながら何かを頼もうとした。

だが、その瞬間、電話の着信音が響き渡った。

 

 

「あぁ、いい。俺が出るから」

 

 

シエルが、濡れた手を拭いて電話に出ようとするのを見てセラはそれを制して自分が電話に向かう。

 

受話器を取り、耳に当てる。

 

 

「もしもし、ヤマトですが?」

 

 

『ん、何だセラか?』

 

 

「…俺じゃ悪い事でもあるのか?姉さん」

 

 

電話してきたのは、カガリだった。

そのカガリの言い様に不機嫌そうな声を出すセラ。

 

 

『いや、こんなに早く帰っているとは思わなくてな』

 

 

「まあいいけどさ…。それで、どうしたの?」

 

 

そんなに長く不貞腐れているつもりもない。

それよりも、カガリが電話してくるのはそれなりに珍しい事だったためにセラは思わずさっさと用件を聞く。

 

 

『あぁ。明日、正月にお前の所に顔出そうと思うんだ。アスランと一緒にな』

 

 

「…は?」

 

 

『予定があるなら開けといてくれ。仕事だって休みだし、それくらい大丈夫だろ?』

 

 

「ちょ、待って!姉さん!?」

 

 

『っと、まだ少し仕事が残ってるからな。じゃあな、切るぞ?』

 

 

「え、まっ…」

 

 

切れた。

 

そんな中、出来上がった料理を盛り付けた皿を持ってテーブルに乗せていたシエルが、セラの様子を気にする。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「…いや、それが」

 

 

シエルに事情を説明しようとするセラ。

だがその時、再び鳴り出す着信音。

 

もしかしたら、カガリがまた電話かけ直してきたのかもしれない。

セラはすぐに受話器を取る。

 

 

「もしもし!」

 

 

『うわっ!せ、セラ?何か慌ててるみたいだけど、どうかしたの?』

 

 

「…何だ、兄さんか」

 

 

次に電話してきたのはキラだった。

カガリかと思っていたセラは、どこか落胆したような声を出す。

 

 

『…僕じゃ何か悪いわけ?』

 

 

「いや、別に…。それよりもどうしたの?兄さんが電話してくるなんて珍しいね」

 

 

これまた、キラが電話してくるのも珍しい。

 

…まさかとも思うが、用件を聞いておく。

 

 

『明日、ラクスとシン君とルナちゃんとディアッカとイザークでセラの家に行くから』

 

 

「…え?待って?誰と誰と誰だって?それより、俺の家に来るだって?」

 

 

『うん、そういうことだからよろしくー』

 

 

「あ、兄さん!」

 

 

切れた。

 

 

「…キラたち、来るの?」

 

 

セラの言葉を聞いたシエルが、どこか引き攣った笑みを浮かべて問いかけてくる。

セラは、どうしてこうなったという空気を隠すことなく噴き出しながらこくりと頷く。

 

 

「兄さんに、ラクス姉さんに、シン君に…、後なんか二、三人くらい来るみたいだ…」

 

 

「そ、そうなんだ…」

 

 

何故だろう、二人から、来てほしくないという雰囲気が伝わってくる。

 

微妙な空気が流れる中、再び着信音が流れだす。

 

 

「…もう、三度目はないよな?」

 

 

「でも、二度あることは三度あるとも…」

 

 

目を合わせるセラとシエル。

 

意を決して、セラは受話器を取った。

 

 

「…もしもし」

 

 

『お、セラか!珍しいな、こんな早く帰ってきてるなんて!』

 

 

「バルトフェルドさん…」

 

 

今度はバルトフェルド。

 

この流れ、もうセラは諦めていた。

 

 

『明日の正月、みんなでそっちに行くからな。クレアとレイ君も顔を出しに来るそうだし…。何しろお前ら、ここ二、三か月くらいまったく顔見せないんだからな』

 

 

「…そうですね」

 

 

『?まぁそういうことだ。頼むぞー』

 

 

切れた。

 

 

「…バルトフェルドさん、何だって?」

 

 

「…聞かなくてもわかるだろ?」

 

 

何ということだろう。

一番来てほしくない時に限ってみんなが来ることになるとは。

 

セラがシエルの方に視線を向ける。

シエルはテーブルの傍に立っていた。そして、そのテーブルの上には色とりどりの料理が並べられていた。

 

 

「えっと…、もう、言っちゃうしかないかな…?」

 

 

「…それしかないだろうな。ちゃんと俺たちの気持ちが固まってから言おうと思ってたけど、仕方ないだろ…」

 

 

セラはシエルの元に歩み寄り、そしてその手をそっとシエルのお腹に添えた。

 

シエルのお腹は目に見えて膨らんでいる。

そう、シエルのお腹の中には二人の命の結晶が存在しているのだ。

 

実は、もうバルトフェルドたちと顔を合わせなくなった三か月ほど前からセラとシエルはそのことを知っていた。

言おうとも思っていた。現に、ヤマト夫妻やマルキオ導師にはこのことを報せていたのだから。

 

だが、他の人たちにはどうも報せることができなかった。

 

…忙しすぎたのだ。

セラとシエルがではなく、他の人たちがだ。

 

そんな中、自分たちの幸せを伝えるのはまるで自慢をしているように感じてどこか憚られたのだ。

 

そして、その忙しさも落ち着いてきた十二月。

そろそろ伝えようかと考え始めた時に、マリューのおめでただ。

 

あまりの幸せさ満点のマリューやムウの声に、思わず報告を流してしまった。

 

 

「皆になんて言われるだろ…」

 

 

「…さっさと教えろって怒鳴られそうだな」

 

 

苦笑気味でつぶやき合うセラとシエル。

 

あぁ怖い。

何が怖いって、キラとアスランだ。

 

あれでも二人は男だ。今年でもう二十歳になった。

恋人もいる。結婚も考えているだろう。

 

そんな中、一番年下の自分が幸せを一番最初に勝ち取った。

あぁ怖い。袋叩きが怖い。

 

でも…、やっぱり幸せだ。

シエルが隣にいて、最初は怒るだろうが、最後にはきっと自分たちの幸せを喜んでくれる人たちもいる。

その中に、また一人加わるのだ。自分の家族が。

 

 

「…子供が生まれてからすぐ、式の準備をしようか」

 

 

「え?…どうしたの?」

 

 

不意にそんなことを言いだしたセラに、シエルは首を傾げながら問いかける。

 

 

「私はこのままでいいよ?セラと一緒になりたいけど…、届を出して、夫婦になれればそれで…」

 

 

「ううん。ちゃんとした形で皆に知ってもらいたい。俺たち、夫婦になったんだって」

 

 

シエルは、式を上げなくても届を出せばそれでいいと言ってくれる。

このままでいいとまで言ってくれた。

 

でも、それじゃやっぱりシエルが可哀想だし、セラ自身不満だ。

 

 

「…わがまま、言っていい?」

 

 

「もちろん」

 

 

シエルのわがままとは珍しい。

セラは、上目づかいでこちらを見上げてくるシエルの次の言葉に耳を傾ける。

 

 

「やっぱり、生まれてすぐはダメ。まだ育児のこともあるし…」

 

 

「…そっか」

 

 

あぁ、どうしてもっと早くこういう準備をしてこなかったのだろう。

そうすれば、式を挙げてすぐにおめでた、という素晴らしい幸せの連鎖が生まれてきたというのに。

 

小さく後悔するセラに、シエルは続ける。

 

 

「だから、せめて子供が落ち着いてからにしよ?そして、生まれてくる子供にも教えてあげるの。私たち、夫婦になるんだよって…」

 

 

「シエル…」

 

 

とても幸せそうに言うシエル。

 

生まれてくる子供に、自分たちが夫婦になることを教える。

とても、幸せなことかもしれない。

 

考えれば考えるほど、幸せな気持ちになってくる。

夫婦になる所を子供に見てもらう。

 

 

「…いいな、それ。そうしようか」

 

 

「うん…」

 

 

セラはシエルの後ろからそっと両手を回して、お腹に添えられているシエルの手にそれぞれの手を重ねる。

 

二人は今、とても幸せに満ちている。

もし今の二人を見た人がいれば、誰もが言う。

 

この二人の幸せは、いつまでも続くだろう、と。

 

そう、続くはずだ。

遠回りを続けてきた二人がようやくつかんだ幸せ。

続かないはずがない。

 

皆も、願ってほしい。

 

ずっと、この幸せが続くようにと…。

 

 

「さ、食べよっか!」

 

 

「だな!俺も腹減ったよ!」

 

 

向かい合って座るセラとシエル。

 

どこまでも、二人の幸せが続きますように━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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