ドラゴンボールFZ 真・超サイヤ人 (カンナム)
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第1話 悟空のクローンになっちまった?

はじめましての方、はじめまして。

真超サイヤ人から続投の方、よろしくお願いします。

この外伝は賛否両論ありましたがいろんな意見が聞けるのは非常にありがたかったのです。

この物語を終わらせるのも一つの義務になると思っております。

悟空を好きな方には心が痛くなるシーンもあると思いますが、楽しめる方は楽しんで下さい(´ー`* ))))

真・超サイヤ人とは?

伝説の超サイヤ人そのもの

無限に気を上昇させる力と己の中の限界を超えたセンスを引き出す。

ただし、精神力と体力を使い切ると問答無用で戦闘不能になる。


 

 朝10時に帰宅。

 

 会社の夜勤が終わり、ようやく一寝入りできる時間。

 

 また夕方の5時になれば出勤の時間だ。

 

 日付もよく分からない。昼間は寝るし、夜勤中はテレビが無いから何の情報もない。

 

 安月給で夜勤手当もなく、ボーナスや昇給もない中小企業に就職して10年。ルーチンワークをこなしてミス無く過ごせば、取り敢えず日銭は稼げる。

 

 先を考えると、何の希望もないが。

 

 24時間営業の牛丼屋で朝食セットを持ち帰りで頼むのが、唯一の楽しみになって来ていた。

 

 座卓の上に飯を置き、レンジで温めてから並べる。

 

 牛丼の大盛り汁だく、味噌汁、お新香セット。

 

 胃袋もすっからかんの状態だから、一口食べたら後は一気に平らげる。

 

 テレビを付けると、子どもの頃に夢中になったアニメ。

 

 ドラゴンボールが流れていた。

 

「今日って、日曜だったんだなぁ」

 

 思わず、そんな声が出てしまう。しばらく眺めていたが、正直に言って今のドラゴンボールの歌や声が、俺には合わない。

 

 もう子どもの頃に洗脳されているから。

 

 アニメの悟空は未来の世界を救う為に戦っているらしく、不死身の敵を相手に仙豆を椀子そばのように食い続けて闘うと述べていた。

 

「悟空って、こんなバカだったか?」

 

 確かに日常では色々と空気読めなかったりするが、闘いの中ではクールかつ合理的なイメージがあった。

 

 これじゃ10年前にネットで流行っていたクズロットじゃないか。今も流行ってるのかは、知らないが。

 

 食事を終えつつ、コレも時代の流れかぁ、とテレビを変えて朝の情報番組なんかを眺めた後、シャワーを浴びて床につく。

 

 今日も夜勤だぁ、なぁんも起こりませんように。

 

 そう思いながら、俺は意識を闇に沈めていった。

 

ーーーーーー

 

 目が覚めたら、だだっ広い荒野に居た。

 

 晴れた空、そよぐ風。

 

 此処は何処?

 

 冷静になろうと自分に言い聞かせ、深呼吸した後もっかい周りを見る。

 

 おかしい、俺は今日も仕事だと布団に入って寝たはずだったのに。

 

 というか、明らかに日本じゃねーよな、此処。

 

 現状を認識しようと四苦八苦している俺の耳に、ジェット機が飛んでくるような派手な音が聞こえ、目の前に山吹色の道着を着た左右非対称に飛んだ黒髪カニ頭の男が空から降り立った。

 

 って!?

 

 あ、あれ?

 

 この人、見覚えがあるってゆーか。

 

 見たことあるなんてモンじゃねーよ!!

 

 ドラゴンボールの主人公・孫悟空じゃん!!

 

 地球育ちのサイヤ人にして、本名カカロットの!!

 

 ニートネタが最近は定着してるけど、国民的ヒーローの代名詞!!

 

 え?

 

 なんでカカロットが目の前にいるんだ?

 

 もしかして、俺、夢を見てるのか!?

 

 これでもリアルは30回る年齢なんだけど。

 

 今更、ドラゴンボールの夢なんて、恥ずかしいなぁ。

 

 頭が空っぽだから夢が詰め込まれたんかねー?

 

 夢と分かれば、こっちのもんだ。

 

 まず、挨拶をしようかな。

 

 あ、なんか、緊張するなぁ。

 

 夢だろうに、ガキの頃からの憧れに会ったからだなぁ。

 

「へへっ、やっぱオラと似た気を持ってっから見つけやすいな! クローンっちゅうんだろ、オメエ!!」

 

 が、俺が口を開く前に、悟空が左手を顔の横の高さに置いて前に突き出し、右拳を腰に付けて構えを取ってきた。

 

 え?

 

 明るい笑顔で何を言ってるんすか?

 

 つーか、待て待て、何で構えてるんだよ!?

 

 え、何でヒーローが一般人の俺を狙ってんの!?

 

「ん? なんかオメエ、他のクローンと違うみてえだな」

 

 キョトンとしながら、問いかけてくる悟空。

 

 いやいやいや、クローンてなんだよ?

 

 ドラゴンボールの話にクローンなんか無かっただろ?

 

 ゲームには度々、クローンネタがあった気もするけど。

 

 俺が一番新しい記憶で覚えてるのは、超武道伝2に出たクローン戦士。

 

 たしか、ボージャックの部下のザンギャが従えていたんだよなぁ。

 

「? オメエ、何を言ってんだ? ドラゴンボールを知ってんのは分かっけど。なんか、ドラゴンボールとは違うこと言ってるような気がすっぞ?」

 

 何を言ってるんだ、悟空。

 

 ドラゴンボールは、鳥山明が描いた漫画で。

 

 アンタは、その主人公じゃないか。

 

 俺の夢だからって、そこまでリアルな反応しなくていいから。

 

「? オメエ、ホントにオラを知ってんか? レッドリボン軍は、オラの漫画なんか描いてんか? それ使って、何しようとしてんだ?」

 

 話が噛み合わない・・・

 

 夢の登場人物なんだから、もう少し俺に合わせてくれても良いだろうに。

 

 と、そこで俺は自分の身体を見下ろした。

 

 だいたい、俺は鍛えてもないただの中年だ。

 

 悟空みたいにカニ頭でもカッコいいハンサムでもないし、筋肉質でもないっての。

 

 クローンなんて、なぁにをバカな。

 

 笑い飛ばしながら、自分の腕やら身体を見る。

 

 ーー見事な逆三角形を描いた、彫刻のような筋肉質の身体になっていた。

 

 さすが、夢だな。

 

 こんな身体にリアルでなれたら、格闘大会も総ナメだろうなぁ。

 

 見れば、俺は寝間着ではなく、黒を基調とした道着に赤の帯とアンダーを着ている。

 

 亀仙流の悟空の道着のデザインだが、色違いだな。

 

 最近テレビで見た、ドラゴンボール超のゴクウブラックとか言う偽物に色合い的には似てるかなぁ。

 

「オメエ、鏡持ってっか?」

 

 言われて懐などを探してみるが、無い。

 

 なんだよ、夢だって言うのになんだか自分の思い通りに行かない夢だなぁ。

 

 あれ?

 

 肌の色がやけに白いなぁ。

 

 こんな病的な肌の色、孫悟空は勿論、俺だってしてなかったはずなんだけどな。

 

「…オメエ、ちょっとオラと戦わねえか?」

 

 考え事してたら、いきなり目の前の戦闘民族から勧誘がありました。

 

 無理無理、いくら夢でも孫悟空に勝てっこねーし。

 

 下手したら、一撃であの世だって!

 

「まぁ、そう言うなよ。戦ってみりゃ、オメエがなんでオラのクローンになってっか、思い出すかもしんねえぞ」

 

 いやいやいや、だから何の話をーー

 

「ーー行くぞ!!」

 

 カニ頭だった悟空の髪型が天に逆立って金色に変化し、目つきは鋭くなって翡翠色の神秘的な瞳に変わった。

 

 伝説の、超、サイヤ人・・・?

 

 ち、ちくしょぉおおっ!!

 

 悪夢だ!!

 

 この俺が!

 

 一般人の代表格な、この久住(くすみ)史朗(しろう)が!!

 

 よりにもよって伝説の超サイヤ人と戦わせられるなんて…!!

 

「はは! やっぱりオメエ、変わってんな!」

 

 明るく笑って来たと思えば、いきなり不敵な笑みを見せる悟空。

 

 あ、こいつ、殴ってくる!

 

 そう直感した時には、俺は無意識に悟空の拳を掴んでいた。

 

 スンゲェ音を立てて、衝撃が肩を突き抜けるーーが、俺自身の身体はなんともない。

 

 映画で爆弾が落ちたみたいな音と、感じたことないレベルの衝撃であったにも、関わらず。

 

「やっぱな、思ったとおりだ! オメエ、オラと同じ動きが出来んだなぁ!」

 

 明るく笑いかけてくる悟空に俺は思わず言った。

 

 シャレになってねぇよ!

 

 なんだよ、超とか言うアニメのせいかよ!?

 

 それともネットに数あるクズロットとか言うふざけたMADのせいか!?

 

 ヒーローが一般人に何してんだよ、ホントに!!

 

 自分が国民的英雄だって自覚しろよ、孫悟空!!!

 

「オメエ、ホントに何言ってんだか。全然分かんねぇぞ」

 

 何でだよ、俺の夢だから!?

 

 夢の中なら簡単に分かってくれるだろ!!

 

 ドラゴンボールの孫悟空のパンチなんか、日本人の俺に止めれる訳ねえよ!!

 

 夢だから止めれたけどね。

 

「…なるほどなぁ。オメエ、夢を見てるっちゅうつもりなんだな? けんどよ、オラのパンチ止めた時に夢なら覚めると思わねえか?」

 

 そう言いながら、悟空は繰り出した拳を引っ込めて会話してくる。

 

 立ち絵が様になるよな、超サイヤ人の悟空は。

 

 なぁんて、アホな事を思いながら告げる。

 

 悟空、何を言ってるんだ?

 

 パンチを止めれた時点で夢じゃないか。

 

 言いたかないけど、俺は別に動体視力が優れてたり、並外れた反射神経があったり、鍛えてる訳じゃないよ。

 

「しょうがねえな。よし、ちょっと掴まれ!」

 

 そう言うと悟空は超サイヤ人から黒髪黒目に戻り、俺に左手を差し伸べながら、額に指を二本当てて目を閉じる。

 

 瞬間移動か。

 

 生で見れるなんて、なんかスゲーな。

 

 夢なら覚めるなよ!!

 

 そう思いながら手を掴むと、悟空の手は温かく柔らかい感触だった。

 

 パンチを止めた時は余裕が無かったから気付かなかったけど、ヤケにリアルな感触だな。

 

 俺が、そんな事を考えていると。

 

 いきなり目の前の光景が変わる。

 

 そこは、何かの部屋と言うか講堂みたいな開けた屋内スペースで。

 

 でかい柱の周りには円形のソファがある。

 

 周りを見れば360度全部に嵌め込み式の窓が入っていた。

 

 どっかのデパートの屋内休憩所か?

 

 なぁんて思っていたが、違和感にすぐに気づく。

 

 窓から見える景色が、流れている。

 

 青い空と白い雲が、流れていく。

 

 俺が移動してるのか?

 

「あら、孫くん。早かったわね、って!? ギャァアア!?」

 

 呆然と窓を見ている俺を見て、傍から一人の女性が叫んでいる。

 

 あー、この声だあ。

 

 懐かしいなぁ。

 

 ガキの頃、何度も聞いたよな、この叫び声。

 

 アニメがZになって、ナメック星が終わったあたりからは聞けなくなったよなぁ。

 

 やっぱり母親になっちゃったからなぁ。

 

 悟空が明るく笑いながら、自分の傍らに向かって言う。

 

「よ、ブルマ! 悪りいんだけど鏡ぃ、持ってっか?」

 

 叫び声の主は、綺麗な青い髪を短髪にした美女。

 

 表情で台無しだけど、黙ってたらメチャクチャ綺麗で上品な熟女だ。

 

 健康的で若々しい肌。

 

 出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ、メリハリのある体型。

 

 赤いスカーフを首に巻き、白い半袖シャツに青いジーンズという活動的な服装。

 

 ドラゴンボールのヒロインーーブルマだ。

 

「な、何を考えてんのよ、孫くん!? そいつ、孫くんのクローンじゃない!?」

 

「そうなんだけどよ、コイツは他のヤツとは違うみてえなんだ」

 

 言いながら悟空は、窓に映る自分を指差して言った。

 

「ほれ、見えんだろ? コレが今のオメエだ」

 

 言われた俺は、乾いた笑みを浮かべていただろう。

 

 夢じゃねーよ、コレ。

 

 だってよ、DBマニアとかオタクってレベルの俺が見た事無いんだもん、こんな飛行機!!

 

 アレか、映画「神と神」の時の飛行機って、中がこんなになってるの?

 

 その光景を頭の隅に記憶してたから夢でも見れてる?

 

 ーーな、訳ねえ!!

 

 え、じゃあ、現実なんかよ?

 

 俺が、孫悟空のクローンになってる、だと!?

 

「…なんか、ショック受けてんな?」

 

「ホントね。確かに、他のクローンとは違うみたい」

 

 愕然とした表情でガラスに映る、薄い金髪に赤い瞳の、超サイヤ人悟空のパチモン。

 

 俺の姿らしい。

 

 赤目の超サイヤ人なんて、クウラが出てくる映画のポスターくらいしか見たことないよ。

 

「クウラ? オメエ、クウラを知ってんのか?」

 

「え? 何なの? どう言うことなのよ?」

 

 悟空とブルマに俺は両手を出して言った。

 

 オーケー、取り敢えず言わせてくれ。

 

 俺、孫悟空のクローンになったんだよな?

 

「? ああ。そうみてえだな」

 

「間違いなく、そうみたいね」

 

 会社はどーする、とか。

 

 やっべ、日本の俺の身体は、どーなった、とか。

 

 何で悟空のクローンになってんだ、とか。

 

 言いたいこたぁ、山ほどある!!

 

 ああ、だが!!

 

 だが、ドラゴンボールの世界に来ているのなら!!

 

 孫悟空のクローンになってるなら!!

 

 誰もが必ずやったであろう、この技を出すしかない!!

 

 飛行機内であることなど、すっかり忘れた俺は窓に映る自分に向かって構える。

 

「おいおい! いきなり、かめはめ波の構えなんかして。いってえ、どうしたんだ?」

 

 悟空。俺、かめはめ波を撃ってみたいんです。

 

「ん? かめはめ波か? 他のクローンも撃てるみてえだから、きっと出せっだろうけど。急にどうしたんだ?」

 

 夢じゃないんだって分かったからさ。

 

 正直、やりたいことなんかイッパイあるけどね。

 

 空飛んだり、瞬間移動したり、かめはめ波を撃ったり、超サイヤ人になったり。

 

「オメエ、変わってんなぁ。超サイヤ人になら、もう成ってんぞ?」

 

 言われて俺は、鏡に映る自分の姿に目を見開く。

 

 確かに色は薄いが、逆立った金髪と鋭い目つきの自分は黒髪黒目のサイヤ人とは似ても似つかない。

 

 瞳が赤いことを除けば、間違いなく超サイヤ人だ。

 

 その事実にーー俺は、四つん這いになってうなだれた。

 

 何故だ?

 

「ど、どうした、オメエ?」

 

 なんで、こんな簡単に超サイヤ人になってるんだ?

 

 フリーザにクリリン殺された悟空とか、セルに16号を破壊された悟飯とかでなく。

 

 最初から超サイヤ人、だと?

 

 ドラマもクソもない。

 

 いきなりポッと出で、超サイヤ人になれるなんて。そんなバカな。

 

 超サイヤ人は、千年とか千人に一人とか言う天才戦士だっただろうが。

 

 悟天やトランクスは簡単に変身してたけどさ。

 

「オメエ、ホントに詳しいんだなぁ!?」

 

 明るく笑う悟空に対し、ブルマが不審そうな顔で静かに俺の前に立っていた。

 

「ちょっとアンタ! アンタは、何で孫くんや悟飯くんのことを知ってんのよ?」

 

 正直に言うべきか、悩むな。

 

 だってさ。

 

 俺にとっちゃ、ドラゴンボールなんて漫画やアニメの世界なんだけど。

 

 悟空達にとっては、こっちが現実なんだもんなぁ。

 

「どした? オラ達の話を漫画で見たって言ってたろ?」

 

「は? 漫画?」

 

 キョトンとするブルマに俺は、正直に話してみた。

 

 漫画家・鳥山明が描いた傑作。

 

 国民的英雄を生み出した冒険譚を。

 

「……不思議ね。その話がホントなら、アンタはアタシ達とは次元の違う世界から来た存在ってことよね。アタシ達が認識できない次元ーー、おそらくアンタからしたらアタシ達は二次元の存在ってことよね?」

 

 フッ、まったく分からん(笑)

 

 頭良すぎる人の話は難しいぜ(笑)

 

「要は、アンタの世界ではアタシ達は漫画の中の登場人物って訳よね?」

 

 あ、はい。

 

「無数の並行世界があるんだから、おかしくはないわ。私たちの世界によく似た出来事を漫画にして書いてある世界があってもね。たぶん、その漫画家の頭に私たちの世界が見えたーーそう言うことなのかもしれない」

 

 特に驚くに値しないと言いたげなブルマにビックリしながらも、簡単に受け入れてくれたみたいだし、これ以上余計なことを言うのも悪いかと黙っておく。

 

 それにしても、ブルマの格好から察するに、映画「復活のF」の後みたいだけど。

 

 いったい、どのタイミングの話なんだろ?

 

 悟空のクローンとか言ってたけど、どんな物語になるんだろうか?

 

 この時の俺は、そんなことをボンヤリと考えていた。

 

 そんな俺の前に悟空が明るく笑いながら言ってきた。

 

「けんど、オラ達のこと知ってるちゅうオメエも今回みたいなんは初めてなんだなぁ」

 

 え? ああ、確かに。

 

 ドラゴンボールって漫画以外にも、色んな映画やアニメエピソードがあるから忘れがちだけど。

 

 アレ、全部パラレルなんだよなぁ。

 

 バーダックやターレスの話とか。

 

「お? 驚れぇた! オメエ、父ちゃんやターレスを知ってんだなぁ!!」

 

 そうそう、悟空の父ちゃんのバーダックに。

 

 悟空ソックリだけど赤の他人のターレス。

 

「だな! オラ達は下級戦士だから同じ顔が多いんだってなぁ」

 

 ちょっと待って?

 

「ん? どした?」

 

 ブロリー、スラッグ、ヒルデガーン。

 

 唐突な俺の言葉にブルマは首を傾げている。

 

「ブロリーが、どうかした?」

 

 あっるぇえええ!?

 

 ちょっと待って!?

 

 ブルマさん、アンタ、ブロリーに会ったことないよね?

 

「ブロリーって、孫くんやベジータと同じサイヤ人にしては上品で大人しくて良識ある、あのブロリーでしょ?」

 

 あれ? 俺は悪魔だぁ、じゃない?

 

「ブロリーはブルマん家で居候してんだ」

 

 にこやかに言う悟空に俺は目を見開く。

 

 今度はブルマが俺に声をかけてきた。

 

「ヒルデガーンとかスラッグというのは知らないけれどね。なんかの名前?」

 

 ああ、えっとーー。

 

「オラ達が倒したヤツらさ。別次元の、な」

 

 鋭い黒の瞳で不敵に笑って言った後、俺に向かって悟空はウインクしてきた。

 

「だろ?」

 

 茫然とする俺に対し、悟空は明るく言ってきた。

 

「ホントにオメエ、色んなオラ達のこと知ってんだなぁ。オメエ以外にもオラ達を知ってる人間が生きてる世界があるんかぁ。じゃあさ、オメエ達の世界にはさ、強ぇヤツ居るんか!?」

 

 全力で否定する。

 

 さっきも言ったけどね。

 

 どんだけ鍛えても生身で空は飛べないし、手から光は出せません。

 

「そっかぁ、残念だなぁ」

 

「それはそうとアンタ。色んな世界の孫くんを知ってるのに、今回の事件は知らないって言うの? 勉強不足なんじゃない?」

 

 ブルマはホントにキツイなぁ。

 

 そ、そんなこと言われても。

 

 俺が見たドラゴンボールは20年前くらいで、30にもなって今更、子どもが見るアニメのドラゴンボールにハマるのはちょっと・・・

 

「うるさいわね! アニメアニメって、そんな風に漫画やアニメを軽く見てるから、今とんでもない状況に巻き込まれてんじゃない!!」

 

 そんなこと言われても。

 

 だいたい、ブルマさんだってトランクスがゲームや漫画に熱中してたら怒るでしょ。

 

 俺たちの世界でも同じなんですよ。

 

 俺たちの世界では漫画やゲームに熱中する人は外に出て人間と交流しないーーオタクって言われちゃうんです。

 

「ふぅん? まあ、アンタの世界の人はそうかもしれないけれど。オタクって悪い事なわけ?」

 

 あまり好まれないですね。

 

 最近は芸能人やアイドルがオタクをカミングアウトしたり、オフ会とかで集まったりするみたいだから。

 

 オタクって言うよりマニアの色が強いかなぁ。

 

「そりゃ、四六時中ゲームばかりしてれば叱りたくもなるけど。趣味の範囲で自制できれば良いじゃない。サイヤ人みたいに四六時中戦ってばかりならバトルオタクでしょうし、昔の私みたいに研究ばかりなら科学オタクでしょ。はまり込むのはダメだけど、気分転換って言うのは大事よ」

 

 そういや、あなた10代から天才で世界一の富豪令嬢でしたもんね。

 

「何よ? たしかに私は天才だし、お金持ちの家に生まれたけどさ。自分の願いを叶えるのに妥協はしないわよ?」

 

 それは才能があって、そう出来るだけのお金があるからですよ。

 

 パンピーは、そんな事できません。

 

 安月給でも、給料が上がらなくても、ボーナスが無くて労働時間が長くても。

 

 生きる為には働くしかないんです。

 

 俺は、あなたみたいに賢くないし、悟空みたいに強くないから。

 

 アニメなんか見てる暇なくて。

 

 あ、やっべ。なんか落ち込んできた。

 

 そんな俺に向かってブルマは目を吊り上がらせている。

 

「気に入らないわね。そうやって言い訳して、自分に甘えてるだけじゃないの? あんた、自分の可能性を自分で潰してない?」

 

 甘えてるってなんだよ!?

 

 初対面で、いきなり。

 

 俺のこと何にも知らないくせに。

 

 俺がどれだけ仕事とか人間関係とか我慢して、どれだけ頑張って生きてるかも知らないくせに!

 

 なんで、そこまで言われなきゃならないんだよ!!

 

 ブルマが口を開こうとするのを、割って入るように悟空が両手を上げて遮ってきた。

 

「ま、いいじゃねえか。取り敢えず、今回の件、オメエもオラに協力してくれ」

 

 言いながら悟空はブルマに向かって語る。

 

「ブルマ、悪いけど説明してやってくれ」

 

「…まったく仕方ないわね。確かに、説教なら後でも出来るし、何より今は一人でも味方が欲しいからね」

 

 そう言ってブルマは俺に目を合わせた。

 

 彼女の説明は、簡潔だった。

 

 世界中に散らばるレッドリボン軍の研究施設。

 

 そこから俺のような大量のクローンが出て来て街を襲っているらしい。

 

 また、奇妙な波動により地球にいる主だった戦士達は無力化されているとのこと。

 

「現在、地球にいるのはサイヤ人と悟飯くんとピッコロを除いたみんな、なのよね」

 

 悟飯やピッコロは分かるとして、サイヤ人ってベジータ?

 

「そだ! 後は父ちゃんとブロリーだな」

 

 なんで、バーダックとブロリーが悟空たちの仲間にいるのか分からないけど。

 

 一番問題なのは、悟空を除いたZ戦士がほとんど地球人ってことだよ。

 

 あ、悟天とトランクスもいるか。

 

「ビルス様に今回はオラだけで事件を解決してこいって言われてよ! ベジータや父ちゃん達は全ちゃんトコで試合してるんだってよ。オラも出てぇんだけんどなぁ」

 

「いつでも出来るでしょ! 今は、事件解決に全力を尽くしなさい!!」

 

 残念そうな悟空に火を吐かんばかりに怒鳴りつけるブルマを見ながら、俺はドラゴンボールの世界に来れたことに喜んでると同時に。

 

 ブルマに言われた事が胸の奥につっかえていた。

 

ーーーー

 

 悟空に瞬間移動で連れて来られた先には、俺と同じ色合いの悟空の偽物ーークローンが立っていた。

 

 見た目は悟空にソックリだけど猫背で、表情も一切変わらない。血色の悪い肌と瞬きすらしない紅い瞳、燻んだ金色の逆立った髪。

 

 緩慢な動きで、ユラユラと歩いていたのに、俺たちを見ると獲物を見つけた獣みたいに寄って来る。

 

 ホラー映画みたい。

 

「あ、あの悟空さん? どうして、俺も連れて来られたんでしょうか?」

 

 さっき窓ガラスに映った自分と同じ姿のヤツが、ゾンビウォークで近付いてくる。

 

 漫画ならシュールな場面なのかもしれないが、目の前でやられたら怖いなんてもんじゃない。何考えてるのか全く分からないし。目が普通じゃないんだよ、コイツ!

 

「? 何で敬語なんだ? さっきまでみてぇに普通に話してくれよ。同じ顔の人間にかしこまられっと、妙な気分になっちまう」

 

 いや、夢だと思ってたし、物語の登場人物だからタメ語だっただけで、実在の人物と話をするなら普通に敬語を使うよ。腐っても、社会人なんだから。

 

 俺の態度の変化に嫌そうな顔をする悟空に思わずへの字口になってから、気を取り直す。

 

「いや、初対面の人に礼を欠くのは如何なものかと」

 

 こちらに近づいてくるクローン悟空に、悟空は全く興味がないようだ。

 

「礼を欠く? ああ、無礼ってヤツか。オラよくビルス様や界王様にソレで叱られちまったなぁ。けんどオラにゃ、ああいう堅っ苦しいのは無理だ。オメエが、どうしても敬語がいいなら構わねえけど。無理してんならオラに合わしてくんねぇかな? オラもさっきまでのオメエの方が話し易いからよ」

 

「そ、そういうことならーー。というか、悟空って本当に漫画と変わらないんだなぁ。あ、ブルマさんもか」

 

 細かいことは気にしないし、堅苦しいのを嫌ってるくせに絶妙な気遣いもできちゃうーー孫悟空は不思議な人だ。

 

 ブルマは気が強いというか、我が強いというかーー。

 

 そんな話をしていた俺たちに、俺と同じ見た目のゾンビ姿勢の野郎ーークローンが光を放つ右手を突き出してきた。

 

「ーーげ!?」

 

 びっくりする俺に悟空は淡々と告げる。

 

「大丈夫。オメエは、オラを真似したアイツと同じ肉体を持ってる。元の世界は知らねえが、此処なら負けねえ」

 

「いや、つっても素人なんだけど!? 俺!! 修行なら悟空がつけてよ!! というか、やっつけてよ!!」

 

 俺の抗議に悟空は頭を掻いて、すまなさそうに笑う。

 

「悪りい。オラ、ちょっと強くなり過ぎちまってよ。妙な波動の影響もあって、超サイヤ人になっと昔みてえな加減できねぇんだ。地球に余計な被害を与えたくねえ」

 

 そ、そんな殺生なぁああああっ!!!

 

 絶叫する俺に向かって、光が放たれた。

 

 思わず両腕を顔の前でクロスさせてガード、気弾がまともに当たって爆発する。

 

 この野郎。一応、俺と同じ見た目かつ色合いなんだから、仲間だろうに!

 

 躊躇なく俺を撃ちやがった。

 

 身体を今まで味わったことがない衝撃が襲う。ガス爆発の現場にいた人間は、こんな熱風や衝撃を味わうのかもしれない。

 

 緊張が走る。

 

 鼻の奥と舌の根から苦い味がする。恐怖。

 

 味わったことがない無機質な殺意と敵意。

 

 社会人になってから殴り合いなんか経験がない、事実。

 

 脚が震えて何も出来ない自分がいる。逃げたくて逃げたくて、たまらない自分が。

 

 動けなくなった俺をクローンは何度も何度も、気弾で攻撃してくる。

 

 痛い、苦しい、腕が痺れてきた。息をすると肺が焼けるような熱い光。焼かれる腕。

 

 殺される。コイツを倒さなければ、殺される。

 

 いつの間にか、俺の頭の中は隣にいた悟空の(頼れる)存在を消していた。

 

 いつだって、そうだ。

 

 助けて欲しいと叫んだところで、自分が立ち向かって克服しなければ、永遠に何も変わらない。

 

 助けて貰えたからって、次も助けてくれる人がいるとは限らない。

 

 仕事も生活も。

 

 そう思い浮かんだら、震えが止まった。

 

 絶えず気弾を放ってくるクローン。

 

 その構えが、俺の知ってる漫画の悟空と同じ構図ーー。そこに気付いたら、俺の頭の中で何かがキレた。

 

「ーーーーっ!!」

 

 無表情なマネキンみたいな顔と肌色。

 

 こんなヤツに負けて、たまるか。

 

 悟空の姿をしただけの人形なんぞに、負けてたまるか。

 

 自分は碌な人生を送ってきてない、それでも。

 

 こんな訳の分からない状況で、訳も分からずに死んでたまるか。

 

 俺の胸の奥ーー腹の底から湧き上がる不思議な力が、俺に拳を握らせた。

 

「うぉあああああっ!!!」

 

 自分の何処から、こんな声が出てるのか。

 

 悲鳴なのか、怒号なのかーー理解できない。

 

 自分の中に流れる血が焼けるように熱い。

 

 視界暗転ーー。

 

 次に真っ白な思考と色のない世界が、視界に入る。俺の咆哮にクローンは動きを止めていた。

 

 なんだ、その間が抜けたツラは?

 

 何をーー惚けてやがる。

 

 ただの人形如きが、イラつかせる。その惚けた面、取り敢えず、一発殴る。そう決めた。

 

 すると身体が軽くなった。視界がクリアになって、グチャグチャだった頭の中が、一気に冴え渡る。

 

 人形は性懲りもなく、気弾を連続で放ってきた。

 

 左右に高速ステップしてジグザグに、隙間を縫うようにすり抜ける。

 

 正面にヤツの顔。

 

 右の拳を振りかぶっているのが見えた。

 

 首を左に傾けると、一瞬後に顔があった場所を人形の拳が打ち貫いていく。

 

 今度は左、逆方向に首を傾けて避ける。

 

 顔を狙っても外されると悟ったのか、右の拳をボディに向かって打ち込んできた。

 

 右の膝を拳に蹴り込むようにして止めると間髪入れずに右のハイキックを人形が放ってくる。

 

ーー見えてんだよ。

 

 イラっとしながら、上体を後ろに反らすと鼻先を人形の靴底が過ぎていく。

 

「…やっぱな。アイツ、只者じゃねぇ」

 

 悟空の声を耳が拾うが、それも意味までは頭が考えない。ただ、目の前のクローン(人形)を殴り倒すことだけ。

 

 クローンはバックステップすると、俺に向かって右手をかざして、掌に気弾を練り始める。

 

 瞬間、隙だらけのヤツの懐に踏み込んだ。

 

「!?」

 

 色んなイメージが頭に浮かんでくる。

 

 イメージ通りに身体が動くーー。

 

「痛ぇだろうがぁっ! この野郎ぉおおあああっ!!」

 

 左フックを身体ごと顔面へ叩きつける。

 

 腕の振り(スウィング)、踏み込み、腰の回転が打突点(インパクト)の瞬間に、全て重なるイメージ。

 

 俺と鏡写しの姿のクローンは、思い切り身体を仰け反らせて背中から地面にひび割れを起こしながら倒れた。

 

 身体から吹き上がる力は波が引くように消えて行き、元の色に世界が戻る。

 

「ーーえ? あ、あれ?」

 

 改めて見ると、クローンは白目を向いて倒れていた。アレだけ傷めつけられたのに、俺の身体は平気なようだ。

 

「同じ肉体でもよ、使うもん次第で強くも弱くもなんだ」

 

 悟空がクールな瞳で俺を見つめ、不敵に笑ってる。

 

「やっぱ、オメエはオラが思ったとおりだ。オメエなら、もしかすっとーー!」

 

 そういう悟空の笑みは、俺には碌でもないもののように映りました。

 




豆知識。

ファイターズでは、地球全体を妙な波動が覆っています。

その波動の能力は、一定以上の戦闘力の人間を無力化するもの。

波動の範囲内では、たとえ無力化されなくても出せる力は一定に制限されています。

例・超サイヤ人とナッパの戦闘力が同じくらいに調整されてます。超3でもフルパワーのナッパくらい?

更に無力化した人間の肉体をコンピュータの精神によって操る為に開発されたのが、リンクシステム。

本来の精神を波動で弱体化させ、別の精神に乗っ取らせるもの。

簡単な概要ですが、参考までに。

本編でも、その内説明させまする(´ー`* ))))

ではでは(´ー`* ))))



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第2話 孫悟空ってどんなひと?

今回の話は、作者の趣味全開であります。

ついてこれる方、付いて来てください(´ー`* ))))

この話については感想を頂ければ、泣いて喜びます(´ー`* ))))




 

 荒野で倒したクローン悟空は、胸の辺りから光を出すと掌に収まる緑色の硝子玉のようなものに変化して、俺の足元に転がった。

 

「な、なんだってんだよ…!」

 

 光を放っている球が無性に気になり、止せばいいのに俺は球を拾い上げてしまった。

 

 すると緑の球は俺の右掌の真ん中に嵌り込んだ。なんていうか、エネルギー吸収式の人造人間ーー19号や20号のように。

 

「? …な、な、なんじゃこりゃあああっ!!?」

 

 手から抜き出そうにも、ガラス玉は力づくで取れそうにない。下手をすれば肉ごと持っていきそうだ。

 

「ん? オメエ、その手はどした? さっきのクローンが変わった球か」

 

「わ、分かんないけど。拾ってみたら掌に嵌り込んだんだ。コレって普通じゃないよな?」

 

 悟空は真剣な表情で俺の掌を見た後、顔を覗いてきた。

 

「ん〜、確かになぁ。けんど、身体に何か悪いことがある訳でもねんだろ?」

 

「へ? それは、まあ」

 

 体調は至って良好だ。体調はね。

 

「じゃ、気にすんな! 何とかなるって、多分!」

 

「ならないよぉおおっ! 額からドラゴンボール(四星球)生やしても「ま、いっか」で済ませちゃうアンタみたいになれるかぁあああ!!!」

 

 未来(GT)の話だけど。

 

 絶叫する俺を明るい笑顔で軽く笑い飛ばす悟空。

 

 他人事だけど。このヒト人生、楽しそうだなぁ。

 

 悟空は気を取り直すように一度瞬きをすると、目つきを少しだけ鋭くして言ってきた。

 

「今の地球は妙な波動で覆われてる。強い戦闘力を持った殆どのヤツは弱くされちまった上に、気を失って身体が動かなくなっちまってんだ」

 

「え? 気を失う?」

 

「ああ。オメエは知ってるだろうけど、オラにゃ地球人の仲間が居る。クリリン、ヤムチャ、天津飯にチャオズ」

 

 その四人は、俺にはなじみ深い。

 

 悟空の子どものころからの仲間だ。

 

「そんで、クリリンと天津飯が意識を失っちまってて。ヤムチャは辛うじて体が動くくれぇ。チャオズは、どういう訳だか平気みてぇだが…!」

 

 カプセルコーポレーションの研究室で横になっているらしい。

 

「なんだよ。じゃ、地球には今、悟空以外に戦えるヤツがいないのか?」

 

「そう言うこと。悟飯やピッコロ、ベジータにブロリー、父ちゃん達は全ちゃん所で試合してっし。ビルス様やウイスさんも、その付き添いしてっからな。オメエが居てくれて助かったぞ!」

 

 あっけらかんとした雰囲気で言うが、楽観的過ぎじゃないのか?

 

 Z戦士が誰も闘えなくて、他のサイヤ人達も全王ってヤツのご機嫌取りしてるのなら、ホントに地球には悟空しかいない。

 

 ブルマの話だと、クローンは全世界に居るらしい。

 

 しかもクローンは悟空タイプだけじゃなくてフリーザ、ギニュー特戦隊、ナッパとかの敵側の奴らも居れば味方側のベジータやピッコロ、クリリンタイプもあるとか。

 

 さっきの悟空タイプで実感したけど、それぞれのタイプが複数体存在しているようだ。

 

 何故なら、俺も悟空タイプのクローンの肉体だしな。

 

「悟空。アンタがいくら強くても、一人で全世界の人を救うのは無理だろ」

 

 同時に複数の場所を狙われたら、悟空でも一般人を守り切れるとは思えない。

 

 神さまからの指示だか何だか知らないが、ゲームじゃないんだぞ。

 

「そうだな。だから、オメエが居てくれて助かってる。これはホントだ」

 

「…ドラゴンボールがあるからか? ブウの時にブルマに言ったみたいに犠牲者が出ても、ドラゴンボールで蘇らせて解決だっていうのか?」

 

 急に頭の中が冷えた怒りに満ちて、胸にとごった何かが生まれた。

 

 嬉しそうに肩を叩いてくる悟空の言葉を無視して俺は続ける。

 

「ブウの時、アンタに聞きたかった。なんで、あんな薄情な真似をしたんだよ? アンタの超サイヤ人3ならデブのブウに勝てたんだろ?」

 

 俺が長年、引っかかっていたことを聞いてみる。

 

「人造人間の時も、ブルマの言うことを聞いてトランクスが来た時点でゲロを倒しておけばよかった。そうすればドクターゲロに17号や18号が改造されることもなかった…!」

 

 漫画だからって言われたら、それまでだよ。

 

 でも俺の中の孫悟空のイメージが大きく変わったのは、魔人ブウの頃からなんだ。

 

 人造人間の時は、17号と18号が改造された存在だなんて知らなかった。だから悟空が「ゲロはまだ、何も悪いことをしていない」って言っても仕方ないと思う。

 

 正直、自分の命を狙っているのは間違いないんだから先に倒しておけばと思ったのは事実だけど、そういう甘いと言うか優しいところが、悟空の魅力だと思ってる。

 

 でもブウの時は違う。

 

 地球人を皆殺しにされるって分かっていて、自分にはなんとかできる力があるのに悟空は見殺しにした。

 

 あのとき、俺は裏切られたような気になった。

 

 悟空が弱い人間を見殺しにするなんて、思わなかったから。思いたくなかったから。

 

「なぁ、悟空。今更、こんなこと聞くのは変なのかもしれないけどさ。なんで地球人を見殺しにしたんだ? 震えて逃げ惑う人たちを面白いって笑いながら殺すヤツを、なんで見逃したんだ?」

 

 結果論から言えば、ドラゴンボールで皆蘇った。

 

 あのまま超サイヤ人3でデブブウを倒したら、悟空もベジータも蘇らず、ブウも味方にならない。

 

 ブウとサタンの友情の話もなかった。

 

「そこまで知ってんなら、オラがピッコロに何て言ったかも知ってんだろ?」

 

 話の都合で悟空が薄情になったって言うのなら分かる。

 

「いつも、そうだ。アンタは悟飯とか、悟天とトランクスに任せようとする度に事態が悪化する。結果的には正しいことが多いけど、それは結果論であって。実際は出たとこ勝負ーー」

 

 社会人になって色んなものを見て来た、知って来た。

 

 親の期待、子どもの夢。

 

 上司と部下の関係。

 

 会社と社員の関係。

 

 結果が良ければ、それで良い。

 

 でもよ、結果が悪かったら誰が責任を取るんだ?

 

「親が子どもに期待するのは良いけどさ、子どもは親の道具じゃない。勝てばいいけど最悪の事態を考えてリスクを排除しないのは違う」

 

「………」

 

「セルゲームの時だってさ、悟飯がアンタを超えたのは分かったけど。悟飯の性格を考えなかったから事態が悪化したよな? 悟飯なら絶対に勝てるって確信してたのは分かるけど、結局16号を犠牲にしなければ…!」

 

 なんだろう?

 

 こんな話を悟空としたかった訳じゃない。

 

 今は、世界中にいるクローンを手分けして倒すんだ。

 

 そうしないと、手遅れになる。

 

 冷静な頭がそう俺に言ってくるのに、口は別の事を言ってる。

 

「悟空!! なんでだ!? なんで、アンタは犠牲を前提に解決しようとするんだ!?」

 

 俺の問いに真っ直ぐに俺の目を、あのクールな黒い目で見つめて悟空は応えた。

 

「…他に手が無かったからだ」

 

「!! 俺が言ったこと聞いてたのか…!?」

 

 怒鳴ろうとする俺の前に弱ったような笑みを浮かべて悟空は告げる。

 

「オラの頭じゃ、それ以上の解決案が思い浮かばなかった…! ピッコロに叱られるまで、オラは悟飯ならセルに勝てるとしか思ってなかった。悟飯が闘いが嫌れぇなんは前から知ってたはずなんに…!」

 

 悔しいのだろうか、悟空の声は僅かに震えていた。

 

「あん時、どう足掻いてもオラじゃセルには勝てなかった。どんだけ修行しても、無理だったと思う」

 

「…! じゃあ、ブウの時は? 界王神にさんざん言われてたよな? とても危険な存在だって。あの時はベジータや悟飯にも責任あるし、アンタを責めても仕方ないのかもしれないけどさ、でもーー!」

 

 俺の言葉に悟空は空を見上げて言った。

 

「あん時、オラは死んだ人間だった。今みてぇにまた蘇れるなんて思ってねえ。確かに、オメエの言うとおりにオラが魔人ブウを倒しておけば犠牲は少なかったと思う。でも、どうしても若い奴らに何とかしてもらいたかった」

 

 静かな笑みで黒い瞳で、俺をジッと見つめてくる。

 

 俺の中の怒りやわだかまりが、それだけで消えるような不思議な感覚。

 

「悟飯。悟天とトランクス。オラよりも才能のあるアイツ等に、オラが居なくても地球を守れるって所を見せてほしかった。オラは本来なら、生きてる人間たちに関われねぇ。死んだ人間であるオラが生きてる人間たちのーーこの世の問題を解決しちゃダメだって思ったんだ」

 

「死んだ人間はドラゴンボールで蘇れるって言ったくせに自分は死んでて、二度と蘇れないから生きてる人の生活には関われないって言うのか?」

 

 それは、おかしいだろ?

 

 だって悟空、アンタの言い分は命は蘇らないって前提じゃないか。

 

 死んだ人間は生きてる人間たちに関われないって、それはドラゴンボールがあったらーー。

 

「ホントはよ、オラは生き返るってのはよくねえと思ってんだ。勿論、悪い奴の犠牲になって死んだ人たちを蘇らせるのを反対してるわけじゃねえ。でもよ、自分が生き返るのは、なんてえか反則だろ? 難しいこたぁ分かんねぇし、上手く言えねぇけど。オラは死んじまったら、余程のことがない限り蘇ろうとは思えねえ」

 

 そう言うと悟空は、俺の顔を真剣に見つめてきた。

 

「悪いけど、今はこれで納得してくれ。今回の件が解決すりゃ、幾らでも話すっからさ!」

 

 真剣に俺を見つめてすまなそうに話しかけてくる。

 

 この人は、どうしてこんなに欲が無いんだ?

 

 この人は、どうして会ったばかりの俺の話を真剣に考えてくれるんだ?

 

 この人は、俺なんかに何で謝るんだ?

 

 ああ、でも、そうだよ。孫悟空は優しいんだ。

 

 どんな奴にも平等に情けをかけてしまう、初対面の人も簡単に信じてしまう。お人好しで、細かいこと考えるのが苦手で、戦いが大好きで、でもーー勝つために合理的。

 

「? お、オメエ、どうしたんだ?」

 

「…え?」

 

 鼻の奥が痛くて胸が熱い、なんだろう?

 

 なんだか、久しぶりにこんな気分になった気がする。

 

 成人してから、10年くらい経つけれど。こんな気持ちをずっと抑え付けて来た。

 

 さっきの苛立ちも、今の胸の痛みも。感じ無いようにしてきた。

 

 社会人としてみっともないから。

 

 泣き喚いても良い歳じゃないから。

 

「ズルイなぁ、悟空は…!」

 

「…え?」

 

 目を見開く悟空をボヤけてきた目で見て、俺は言った。

 

「そんな顔されたら、なんも言えねぇよ。ホント、ズリィよなぁ」

 

 頬を伝う熱い液体を気付かないフリして、俺は悟空に笑いかける。

 

 この人を疑っちゃいけない。

 

 この人が間違ったとしても、この人なりに真剣に考えて出した答えなんだ。

 

 ほかに方法があった、とか。もっと上手いやり方があった、とか。モラルが無い、とか。言うのは簡単だけど。

 

 少なくとも、俺は悟空を。この人を信用できる。いや、信用したい。本気で、そう思った。

 

ーーーー

 

 話がひと段落したところで、悟空は俺の掌を見つめる。

 

「それにしても、いってえ何なんだろうなぁ? その掌の球は」

 

「分からないけど、何かあるのかもな。よし、試しになんかやってみよう!」

 

 考えられるのは、人造人間20号の必殺技ーー!

 

 俺は右掌を大きく振りかぶって天に向けて突き出した。

 

「今だぁあああっ!!」

 

 当然だが、何も起こらない。

 

 違うようだな。

 

「あ、それじゃ、かめはめ波は撃てるのかな。まだ、試してなかったや」

 

 思い立ったが吉日、俺は両掌を手首を合わせた状態で前方に突き出した後、腰だめにたわめて気を練る。

 

 イメージだ、悟空のかめはめ波のイメージ。

 

 掌に力を溜めるイメージ、小さなスパークが走り、徐々に光が集まるイメージ。

 

 かめはめ波をずうっと見てきたこの俺が、イメージ出来ぬと思うのか!!

 

「…はは。オメエは、やっぱスゲえな」

 

 悟空の声に目を開けると、掌に青白い光の球が力の渦を巻いて生まれていた。

 

 コレがーーかめはめ波。

 

 そういえば悟空も亀仙人のかめはめ波見て、いきなり出していたよな。

 

 この世界の法則だと、ある程度の力があれば出来ちゃうのだろうか。

 

「ーーよく覚えとくといい。そいつが、超かめはめ波だ。普通のかめはめ波よりも強力な分、隙もデッケエから使える時を見極めてくれよな」

 

「え? あ、あれ? いきなり基本すっ飛ばして奥義出してる!?」

 

 目を見開く俺を悟空は軽く笑って見ている。

 

「今のオメエのパワーなら、そうそう負けたりしねえ。よし、東の都へ行くぞ!!」

 

「え! ま、また実戦!? もう少しトレーニングしてからでもーー!!」

 

「大丈夫。オメエなら、やれるはずだ!」

 

 悟空は、明るく笑いながら肩を掴むと瞬間移動の姿勢になる。

 

「そ、そんな殺生なぁあああっ!!?」

 

 いくら身体は悟空のクローンでも、中身は単なる日本人だってこと、いい加減に分かってくれよぉ!!!

 

 俺の絶叫は、荒野に虚しく響いて消えた。

 

 

 




では、次回もお楽しみに(´ー`* ))))

以下 本作のオリジナル設定

孫悟空が、多次元の自分を知っているわけ。

前作の話で悟空は様々な次元の交わる特異点という場所にある惑星で闘いました。

その際の修行で彼は、様々な歴史の自分の記憶を体感したり、未来(GT)の自分と修行しています。

本作の悟空は、メタ視点を持つと言っても過言ではないかもしれない(笑)


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第3話 悟空の強さおかしくない?

書溜めを、一気にあげる、愚か者

と、言うわけで物語の入り口です(´ー`* ))))


 

ーー東の都。

 

 アニメで良く見たけど、ハイウェイをガラスで覆った立体的な道路に。

 

 丸い形をした家や屋根。

 

 車はタイヤが付いてるのもあれば、空を飛ぶタイプもある。

 

 今は、そこかしこから煙が上がっていて、道も瓦礫に埋もれてるが。

 

「……うわぁ、ホントに敵が攻めて来てるのかよ」

 

「そういうこった。オラ達の目の前に、居るだろ?」

 

 悟空の言葉に前を向くと、俺と似た色合いの服を着たベジータと青年トランクス、ピッコロがいる。

 

 ピッコロはともかく、ベジータ達は肌の色が病的に白いし三人全員、目が真っ赤だから分かるよ。

 

「クローンって、ホントにZ戦士全員なんだな」

 

「Z戦士?」

 

「俺の世界の悟空達の呼び方だよ。地球を守る戦士ってことで呼ばれてる(今は知らんが)」

 

 俺の説明に悟空は嬉しそうな顔に変わった。

 

「へぇ! なんだかカッコイイな!」

 

「ポスターとか持って来れたら良かったんだけどな。ナメック星の頃やセルゲームの頃の皆のキメ顔、凄いよ!」

 

 ちょっとだけ惜しい気がするけど、そんな話をしてる場合じゃないんだよね。

 

 思っきり、赤い目をした三人組が俺たちを見てるし。

 

「なぁ、悟空。ベジータやトランクスも超サイヤ人のバッタモンみたいになってるけど。強さ的には超サイヤ人より弱いんだよね?」

 

「本物よりかは力は劣っけど、動きや技はそのまんまだ。オマケに相手は三人、侮ってるとオメエでも手こずっちまうぞ」

 

 そうか、流石に本物の超サイヤ人や神コロ様には及ばんか。ホッとしたけど、悟空の俺の評価の高さはいったい?

 

 などと思っていると、悟空が一歩前に出た。

 

「え、悟空? 波動の影響で力加減できないんだろ? こんな街中で超サイヤ人になったら」

 

「分かってるさ、そんなに心配すんな。超サイヤ人にならなくても、偽者なんかにゃオラ負けねえ」

 

 まるで俺に手本を見せるように悟空は、ゆっくりと左手を顔の横に右拳を腰に置き、クローンに向かって斜に立つと中腰になって両足を広げ構える。

 

 なんかの番組で見た空手にも似た構えがあったような気がする。

 

 黒眼を鋭くクールに細めた悟空の横顔に見惚れてると、三人組の内、トランクス(クローン)が剣を抜き放った。

 

 スンゲェスピードで頭上から唐竹に斬り下ろして来るのを悟空は顔の横に構えた左手で脇に逸らし、踏み込むと同時に右拳を鳩尾に叩きこむ。

 

 鈍い音と共に動きが止まるトランクス(クローン)の影からピッコロ(クローン)が長い足を振りかぶって左の横蹴りを放って来る。

 

 身体を左に反らすだけで、鋭い蹴りをかわす悟空に槍のようなピッコロ(クローン)の蹴りが顔、腹、下腹部に放たれる。

 

 脇ではトランクス(クローン)が腹を抑えて後ろに後ずさりながら、白目を剥いて横に倒れた。

 

 悟空は、脇目も振らずその場で上半身だけ反らしながらピッコロ(クローン)の連続蹴りを紙一重で避けていく。

 

 捉えきれないのを腹立だしく思ったのか、躱し続ける悟空にベジータ(クローン)が逆サイドから拳と蹴りを打ち込んで来る。

 

 それでも変わらずに悟空は紙一重で攻撃を避けていくとピッコロ(クローン)の中段蹴りを脇に避けて強烈な右上段回し蹴りを放ち、吹き飛ばす。

 

 あっ、と思った時には悟空は吹き飛ばしたピッコロ(クローン)の背後に高速移動しており、両手を頭上で組んで背中に叩きつけた。

 

 鈍い音がして、地面に急降下するピッコロ(クローン)は高層ビルよりも巨大な土煙を上げて叩きつけられた。

 

 土煙が晴れた時にはピッコロ(クローン)はうつ伏せに倒れて白目を剥いている。

 

 俺がソレに目を奪われている間に、ベジータ(クローン)が両手を広げてから中央で手首を左右に合わせて金色の光を突き出した掌から悟空に放った。

 

 ファイナルフラッシュだと悟ると同時、悟空も腰だめに両手をたわめてから上下に手首を合わせた掌を突き出し、青い光を放った。

 

「かめはめーー波ぁあ!!」

 

 ベジータの放った光の方が悟空のかめはめ波よりもふた回りくらい太い。

 

 二人の光は互いの中央でぶつかり合う。

 

 瞬間、悟空の放ったかめはめ波がクローンのファイナルフラッシュにめり込むと、内部から壊すように爆発した。

 

 理屈は分からないが、悟空の放ったかめはめ波の方がクローンの放った光より硬そうな印象を受けた。

 

 Dr.ウィローやターレスが放った光を簡単に押し返した元気玉のように。

 

 あまり表情の変わらないクローンだが、相殺された事実にハッキリと目を見開いて驚愕している。

 

「つぅおりゃあぁあ!!」

 

 叫びながら悟空がベジータ(クローン)の目の前に現れると右ストレートを顔に叩きこんだ。

 

 顔を後方へ仰け反らせてベジータ(クローン)は、きりもみに回転しながら吹き飛ばされた。

 

「す、すげぇ…!!」

 

 悟空のヤツ、変身もしない通常の状態で界王拳も使わずに勝っちまったよ。

 

 驚いてる俺に向かって悟空が叫んだ。

 

「何してる、後ろだ!!」

 

 切羽詰まった声に振り返ると、倒れたはずのトランクス(クローン)が俺に向かって両手を突き出している。

 

 まるで祈祷師が印を組むように両手を動かして、左右の親指と人指し指を合わせたまま、手を開いて両掌を俺に向かって突き出してきた。

 

「アレは、まさか!?」

 

 地球に着たメカフリーザを襲ったエネルギー弾「バーニングアタック」だ。

 

 放たれた気弾は、俺の記憶通りに巨大な爆発を着弾地点で起こした。

 

 垂直にジャンプして気弾を躱した俺は、咄嗟に真上を見る。

 

 剣を大上段に振りかぶり、無表情なトランクス(クローン)が俺に向かって跳躍してきている。

 

 そのまま剣を振り下ろそうとしてくるところまで、記憶どおりだ。

 

「来るのが分かってれば、腐っても悟空(クローン)の身体だ。止められるーーはず!!」

 

 真っ直ぐに降りてきた剣に向かって、左右の手で白刃どりを敢行する。

 

 信じろ。

 

 今の俺は、悟空ーー孫悟空なんだ!!

 

 祈るように振り下ろされる剣を見据えると、ハッキリとヤツの動きが見える。

 

 逸る気持ちを抑えながら、俺は両掌で白刃を挟み止めていた。

 

 半分、夢を見ているかのような感覚で、俺はトランクス(クローン)と顔を付き合わせる。ガラス玉のような赤い瞳と目が合う。

 

 なろう、人を斬ろうとしてるくせに目が俺を見てねぇ。

 

 ほんと、腹立つなぁ。

 

 そんなにーー。

 

「そんなに俺の命は、安く見えるか!? ーーこの、クソ野郎ぉお!!」

 

 苛立ちで叫ぶと同時に身体が動いた。

 

 両手で挟み止めた剣を脇に逸らすと、強烈な右回し蹴りがトランクス(クローン)のコメカミを打ち抜く。

 

 後方へ吹っ飛ぶトランクスの背後に俺は高速移動で回り込み、右拳を背中に叩き込んでいた。

 

 トランクス(クローン)は顔面から地面に叩きつけられ、うつ伏せになって倒れる。

 

「……今の動き、俺がやったんだよな? な、なんか簡単過ぎて信じられん」

 

 自分の両手を思わず見下ろす。

 

 この身体は悟空の戦闘データを基に作られてるのだろうが、中身は完全な素人の俺だ。

 

 こんな動き、出来るはずがない。

 

 感情に従って身体が勝手に悟空の動きを再現している。

 

 そう思うと、不安だ。まるで自分の身体が誰かに操られているような、そんな不安。

 

 自分の想像どおりに悟空の身体が動いて、敵を倒してしまうーー夢やゲームなら楽観視できるけど、今の俺は現実なんだ。

 

 殴られる痛みや殴った衝撃が手に残ってる。

 

 それを自覚すると、相手が自分を殺すつもりで、しかも人形みたいなクローンだって分かってても、震えて来る。

 

 自分の拳は、簡単に物を壊せる。人を殺せる。

 

 震えない方が、どうかしてんだろ?

 

 一般人相手だろうと、ちょっと気に障ったらキレて超サイヤ人の動きで加減なく殴るようなヤツ。

 

 俺は、少しでも気を抜くと自分の望みに関わらず人を殺しちまうかもしれないんだ。

 

 茫然としている俺に、悟空が話しかけてきた。

 

「オメエ、あんまし闘うん好きじゃねえんだな?」

 

「……いや、俺は」

 

「どした? なんか気になんのか?」

 

 思い至った事を、そのまま悟空に話してみた。

 

 明るい笑顔で悟空は笑いかけてくれる。

 

「オメエ、いいヤツだな。殺すんは、オラもあんまし好きじゃねぇ。ベジータやピッコロ、ビルス様には甘いって言われっちまうがな」

 

 あ、いや。それもあるけど。

 

 殺したくもないのに殺しちまうような身体なんか、物騒でーー。

 

「大丈夫だ。オメエ、気のコントロール出来てっぞ! オラもナメック星から帰ってきた時に加減が分かんなくてチチに怪我させちまったかんなぁ」

 

「……ああ、ピッコロに超サイヤ人の弱点が判明した時のことか。って俺、気のコントロール出来てるの?」

 

「ああ、バッチシだ。今だって、ほとんど普通の地球人と変わんねぇ。感情が昂ぶっても、オメエはブルマとは普通に話が出来てた。多分、無意識のうちに悪いヤツと良いヤツを判断してんじゃねぇかな?」

 

「そ、そんな都合良くいくのかな。不安だぁ…!」

 

 悟空を信じるとは決めたが、俺は俺が一番信用できないんだよなぁ。なんか、過大評価されてる気がする。

 

 そんなことを考えてると、背中を叩かれた。

 

「イダッ!?」

 

「情けねえ顔すんな。オメエは、オラの兄弟みてえなもんなんだからよ! オメエは大丈夫、オラが保証する!」

 

「そ、そう言われても。俺は、普通のサラリーマンだったわけでしてーー」

 

 ブツブツと俯きながら呟いてると、悟空が話題を変えるように言ってきた。

 

「そういや、オメエの名前聞いてなかったよな! 改めて教えてくんねぇか? 名前がねぇと呼ぶとき不便だろ?」

 

「え? あ、ああ。元の世界での名前は久住史朗でした。でも、なんていうか。この身体には似合わないな」

 

 俺は、中年太りが気になり始めた体型をしていたんだ。

 

 断じて金髪に赤目が似合うナイスガイではない。

 

「そだ、悟空。名前付けるの得意でしょ? なんか考えてくんないかな?」

 

「ん? 久住史朗って名乗らねえのか? せっかく、ちゃんとした自分の名前があんのによ」

 

「姿が、俺じゃなくて超サイヤ人の悟空だしーー」

 

 訝しむような悟空に、俺が肩を竦めてみせると。悟空は真剣な表情になって顎に手をやる。

 

「そゆもんか〜。そんじゃ目が紅けぇし、クローンだから紅い史朗で紅朗(クロウ)ってどうだ?」

 

 何気なく言われた言葉だが、俺に電流が走った。

 

 紅い史朗ーー?

 

 紅と言われたら稲妻の方だが、彗星の方でも良いじゃない。通常の3倍だ。

 

 元の久住史朗くんと、今の身体じゃ3倍どころか。文字通り天と地ほどの差があるのだがーー。

 

「…ありがとう。それじゃ、俺の名は紅朗だ!!」

 

「ああ、よろしくな!」

 

 孫悟空に名前を付けてもらえたのは、ハッちゃん以外では俺がはじめて、か?

 

 なんだか、滾るぜ。

 

 さて、話もひと段落したところで、倒れていた三人のクローンの身体が緑色に輝き始めた。

 

「え、な、なんなんだ?」

 

「こりゃ、さっきのクローンと同じだな」

 

 悟空が冷静に語る中、そのとおりに緑色のビー球くらいの大きさの球体になるクローン達。

 

 何の意味があるんだ、コレ。

 

 クローンだった球コロは、一定の拍子で点滅し始める。

 

「紅朗。オメエの右手、光ってねえか?」

 

 悟空のヤツ細かいことに、良く気が付くよなぁ。

 

 確かに悟空の言うとおり、俺の掌がーー正確には掌に嵌った球が、光っている。

 

「……コレ、もしかして。今こそ、人造人間20号の必殺技を使う時か!?」

 

 バカを言いながら、右手を光ってるビー球共に向ける。

 

 変化は直ぐだった。

 

 ビー球が光に変わって、俺の掌の球の中へと吸い込まれていったのだ。

 

「ほ、ホントにエネルギー吸収パーツだった!?」

 

 目を見開く俺に対し、悟空はしばらく俺を見た後、首を横に振る。

 

「いや、オメエの気は上がってねえ。Dr.ゲロの技なら、吸収した相手の力を自分に足していくはずだ」

 

「……確かに。強くなった気はしないな」

 

 互いに見合いながら、考える。

 

 この球は、いったいなんなんだ?

 

 そんな事を考えていると、俺たちの前に一人の巨漢が現れた。

 

 緑色のプロテクターにサイヤ人やフリーザ軍のような黒いフィットスーツ。

 

 逆立ったオレンジ色の髪は、脇を剃り落としたモヒカン頭をしている。整った彫りの深い顔立ちに、涼しげな水色に黒の瞳孔がある瞳。

 

 両耳に金属製のイヤリングとくれば間違いない。

 

「オメエは、16号? 16号じゃねえか!!」

 

 20号ごっこしてたら、ホントにレッドリボン軍の人造人間が現れた。

 

 何を言ってるか分からねぇと思うが、俺も何が起きてるのかサッパリ分からねぇ。

 

「…孫悟空と共に居たのか。探したぞ」

 

「……え?」

 

 セルに破壊され、蘇った描写が一切なかった16号が何故ここに居る?

 

 しかも本物の悟空を一瞥しただけで、なんで俺を見てるんだ?

 

 原作じゃアレだけ悟空を殺すことにこだわっていたのに今の16号は、悟空よりも俺に意識が向いてる。

 

「な、なんで、俺を探して?」

 

「? 忘れているのか? お前とは一度会っているぞ。レッドリボン軍の研究所で」

 

 その言葉に、俺の頭の中で何かの映像がフラッシュのように一瞬現れては消えていく。

 

 すごい頭痛と吐き気がする。

 

 な、なんだ? 立っていられねぇ。

 

「紅朗! 大丈夫か?」

 

 悟空が16号を見ながら、俺の肩を支えてくれる。だけど、こっちはそれどころじゃーー!!

 

「記憶が混濁しているのか。お前が研究所から脱走したのには、やはり何か理由があったようだ。ならば、もう一度頼む。クローンの肉体にリンクする者よ。お前の力を貸して欲しい」

 

 16号は、俺のーークローンの身体の中にある久住史朗に向かって言ってると、次の言葉で理解した。

 

「ーー異世界の人間よ」

 

 おいおい、それを知ってるってこたぁ。

 

 黒幕は、お前なのかよーー!?

 

 なんとかして、悟空に伝えないとーー。

 

「16号。オメエ、なんで紅朗が別の世界の人間だって知ってんだ? 前に、どっかで紅朗と会ってんのか?」

 

「…その質問に答える義理はない。孫悟空、その男を渡してもらう」

 

 悟空は、動けない俺をゆっくりとベンチに座らせてから16号に向かって斜に立つ。

 

「…嫌だって言ったら?」

 

「力尽く、と言うことになる」

 

 互いに睨み合う2人。

 

 彼らのことを気にしたいが、正直言って頭が痛くて吐き気が酷くて、それどころじゃない。

 

 俺の頭の中では、エアーズロックのような岩場の中にある鋼鉄製の扉を吹き飛ばして、駆け出す景色がある。

 

 空には巨大な満月が浮かんでいて、俺は待ち合わせの時間に指定された場所に走っていてーー。

 

 気配を感じて背後を振り返ると、光が目の前で爆発した。あまりの痛みに身体の力が抜けて背中が岩壁にもたれかかる。

 

 光の向こうでは俺と同じ姿をした悟空(クローン)が人形とは思えない表情で。

 

 いやらしい悪意のある笑みを浮かべて、俺に掌をかざしていた。

 

 その掌からは煙が出ている、まるで銃弾を放った直後の銃口のようだ。

 

 俺は、コイツに攻撃されたんだ。

 

ーー じゃあな、間抜けなお人好し。俺の為に死んでくれ

 

 ソイツーー悟空(クローン)の姿をした何者かによって俺は、俺はーー!!

 

ーー 分かるだろ? 俺の目的の為に、俺と同じ転生者のアンタが、邪魔なんだ

 

 ソイツの放ったかめはめ波の光が、俺の視界を奪い尽くし、俺の意識は飛んでいた。

 

ーー 漫画の世界に転生して好き勝手できるなんて、最高じゃね? 悟空と同じ力持ってて超サイヤ人になってるなんて。こんなん、自分の思い通りにするに決まってるじゃん。

 

 頭の軽そうな声で、そんなふざけた言葉を話すヤツの声が聞こえた。

 

 




次回は、未定!(´ー`* ))))

面白く読めてれば良いなぁ、なんて思うカンナムでした(´ー`* ))))

GT次元の自分と修行してるので、戦闘力はノーマル時でデブブウとも渡り合うことに。

超でも渡り合えていますが、神の気を使わない状態での強さならGTに軍配が上がると思うので。

基本能力がGTに神の気を使うーー本作。

と、大雑把ですが、そんな感じですねぇ



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第4話 悟空、聞いてくれ

突如、現れた16号を前に紅朗は記憶を取り戻す。

その記憶とは、この世界に来た当初の記憶であった。


というわけで、回想編です。

楽しんで行ってください( *´艸


ーー薄暗い鋼鉄の壁と白い光が点いた天井。

 

 目が覚めたら、俺は手術台のようなところで寝かされていた。

 

 何故、俺はこんなところにいる?

 

 自分のベッドで寝てる時に、何があった?

 

 寝てる間に具合が悪くなって会社の人か家族が救急車を呼んでくれて、病院に担ぎ込まれてるのか?

 

 身体、動かねえ。

 

 なんだ、コレ?麻酔のせいか?でも、手術台なのに看護師も執刀医も居ない。

 

「…目が覚めたようだな」

 

 優しく涼やかで甘い男の声。こんな美声なら、良いなぁと羨ましくなるほどの。

 

 声の主は、動けない俺の目に映るように顔を出してくれた。

 

 彫りの深い端正な顔立ちは、ハリウッドの二枚目俳優のようだ。

 

 明らかに日本人ではないのに、彼は日本語を流暢に話して俺に語りかけてくる。

 

 だけど、俺は違和感なくソレを受け入れていた。

 

 だって彼の顔に見覚えがあるから。

 

 人造人間16号ーー。

 

 ドラゴンボールのセル編に登場する心優しく穏やかで物静かなアンドロイド。

 

 まず第一に考えたのは、夢だ。俺は、夢を見てる。

 

 だけど部屋の無機質な空気は、自分の部屋ではないと頭が理解していた。

 

 16号は俺の目を覗き込んで、しばらくしてから頷き口を開いた。

 

「身体が動かなくて不安だろうが、今はその身体に慣れていないだけだ。そろそろ、動けるようになる」

 

 16号の言葉に確認するように身体に力を入れると、徐々に指が動いて、上体を起こせるようになった。

 

「…く、ぁ、、」

 

 声がうまく出ない。寝起きだからか。夢にしちゃリアルだ、なんて言ってる場合じゃない。

 

 状況を確認して把握しないと、自分が何をされるか分かったもんじゃない。

 

「無理をするな。その身体は、無理やり成長させているから声を出したことさえない。焦る気持ちは分かるが、聞いてくれ」

 

 普通なら、人を攫っといて何言ってんだ、と思うところだが。

 

 俺は現状を現実として受け入れる事に、困難していた。

 

 夢だろうって思いが、頭の何処にあって。いや夢であってくれ、と何処で思っていた。

 

 なんで、ドラゴンボールの世界に、漫画の世界に俺が来てるんだ。

 

 それもレッドリボン軍なんて、悪党の巣窟に。

 

 俺も17号や18号みたいに改造されちまうのか?

 

 いや、されちまったのか?

 

 逃げ出そうにも身体は、ゆっくりとした緩慢な動作しかできない。なんだ、どうなってる?

 

 俺の肌はいつから、こんな白くなった?いつから、こんな筋肉質で無駄のない体型に?なんだ、この赤いリストバンドは?

 

 俺の着ていたジャージは?なんで道着を着てるんだ?

 

 混乱に次ぐ混乱。だが同時に頭がハッキリして、意識が現実に戻る。

 

「……」

 

 だだっ広い部屋の中には、ガラス張りの実験器具のようなものが置かれた部屋と、寝かされていた診療台、そして16号だけだ。

 

「…俺を、どうする気だ? 16号」

 

 はっきりと、声が出せた。意外にも、改造される前の自分の声と同じものが出ている。

 

「やはり、お前も俺のことが分かるのだな。ならばーー」

 

「俺をどうする気だって聞いてんだよ、レッドリボン軍の人造人間!!」

 

 デカイ声が出ると同時に、身体が寝台から跳び上がり16号と距離を取って着地する。

 

 拳法などしたことない俺が、何故か構えを取っている。

 

 同時に16号の立ち姿を見て、何処にどう打ち込めば拳や蹴りが当たるかが脳内に見える。

 

「…落ちついてくれ、と言っても聞いては貰えないようだな。無理もないがーー」

 

 16号が沈痛な顔で告げてくるのが、余計に俺の怒りを引き上げる。

 

「落ち着け、だと? いきなり訳分かんねぇ場所に連れて来られて、訳分かんねぇ身体にされて、落ち着けだと!? ふざけんのも、いい加減にしろよ!!!」

 

 人攫いが、何を悲しげに俺を見てるんだ。

 

「そこをどけよ。俺には、俺の生活があるんだ。訳分かんねぇ漫画の世界に来てる場合じゃないんだよ!!」

 

「…此処が自分の住む場所とは違う世界だということを認識し、帰るというのか。興奮しているようだが、なかなか冷静な判断だ」

 

「どくのか、どかねぇのか。どっちだ!?」

 

 ヒステリックに叫ぶが、正直勝てると思えない。

 

 自分の身体が改造されたとはいえ、コイツはセルを除いては最強の人造人間だ。

 

 みっともなく虚勢を張るしか、今の俺には出来ない。

 

「…その前に、まず自分の姿を見てみるといい」

 

 16号はガラス張りの部屋を指差した。ガラスに写っているのは、黒い道着に赤いインナーと帯にリストバンド。赤いブーツを履いた赤い眼をした超サイヤ人の孫悟空。

 

「……コレは悟空? 俺は悟空になったのか?」

 

 目を見張る俺に16号は淡々とした口調で首を横に振りながら応える。

 

「いや、その肉体は孫悟空のデータを基に生み出されたクローンだ。お前と同じ孫悟空タイプのクローンは世界に100人存在している。他にも、それらとは別にフリーザやセル、クリリンやベジータなどのタイプもいる」

 

「…メタルクウラみたいなもんか?」

 

 思わず頭の中に浮かんだ崖の上に何体も居た輝く絶望の壁を思い出す。

 

「…すまないが、その質問は理解できない。お前のように何人かにも、そんなことを聞かれたがーー」

 

「何人かーーって、俺以外にも人間を攫って悟空たちのクローンにしてんのか。優しそうに見えて、とんだ悪党じゃないか、16号」

 

 皮肉と苛立ちタップリに言ってやると、16号は表情を変えずにジッと俺を見る。

 

 微かに息を呑んだのは、見逃さない。惚けるかと思ったが真っ直ぐに俺の眼を見て16号は頭を下げた。

 

「…そのことについて、すまないと思っている。今回の件はイレギュラーだった」

 

「………」

 

「俺は、お前を攫った訳ではない。頼む、話を聞いてくれないか」

 

 無防備な姿を見て、俺は思わず呟いていた。

 

「いいのかよ、今の俺は悟空と同じ力を持ってるんだろ? そんな無防備な姿を晒したら、一撃で破壊されちまうぜ」

 

「……こんな事でしか、お前に詫びることが出来ない」

 

 頭を上げず、16号は淡々とした言葉で告げてくる。自責って言うのが痛いほど伝わる声で。

 

「16号。人と話をするなら、頭を下げたままじゃなく相手の目を見て話せーーいや、話してくれ」

 

「……いいのか?」

 

「いいのか、だと? よかねぇよ。自分の生活を無茶苦茶にされて、しょうがねぇなーーなんて言えるほど俺は人間出来てねぇ!!」

 

 今すぐにでも殴りつけたいが、話が先だ。少なくとも真剣に謝ってる人を、何も聞かずに殴れるほどにも俺は荒んでない。

 

「わかった。だが、俺と話すのは後にしてくれ。勝手だが、こちらにも事情がある。これから、お前と同じようにクローンの身体に入ってしまった人間達を一箇所に集めて説明する。その後で、ゆっくり話をしたいーー」

 

 少なくとも、16号は信じられる、と思う。 不安がない訳じゃないが、郷に入れば郷に従え、とも言うからな。

 

「わかった」

 

「すまないが、こっちに来てくれ」

 

 俺が応えると16号は静かに頷いて案内を始めた。

 

 連れて行かれた先には、16号が言ったように赤い目をした超ベジータやピッコロの肉体を持った転生者たちがいる。

 

 だが、何故か奴等のほとんどは、笑顔で談笑してるじゃないか。

 

 俺たちの姿を見た赤目の超ベジータが、笑顔で俺を見てくる。

 

「ああ、羨ましいな! 最初から悟空タイプじゃないか! 俺も初期モデルはヘタレ王子よりクズロットの方が良いなぁ!」

 

「ホントだよ、こっちはクズロットのパチモン。フリーザにみっともなくやられちゃう程にひ弱な悟り飯だぜ?」

 

「俺なんか、ウザンクスなんだけど?」

 

 そこにクリリンや天津飯、ヤムチャにナッパ、ギニュー特戦隊の一団が加わってくる。

 

 全員、俺の記憶にある本物とは肌や服の色が絶妙に違う。

 

 次々と明るく語り合う連中に俺は、薄ら寒いものを感じた。何、考えてんだ? お前ら、この状況の恐ろしさを、おぞましさを、理解してるか?

 

 思わず目を見開いて呻く俺を、ジッと16号が見ている。

 

「みんな、いきなり全員で話しかけてんじゃねえぞ。あんま、オラの前で調子こいてっと、ぶっ殺すぞ!」

 

 声のした方を振り返れば、俺と同じ孫悟空タイプのクローンが鏡写しのように立っている。

 

 そいつは周りに向かって笑いかけると言った。

 

「前も言ったけどさ。この体はゲームで使ったキャラチェンジの能力を備えてる。使いこなせればーー」

 

 と、いきなり白い光がクローン悟空の身体から放たれ、一瞬後にはフリーザタイプのクローンに変化していた。

 

「な!?」

 

「な? 最初のアバターなんか意味ないってこと。キャラチェンできるようになるまで能力を使いこなせれば、どんなキャラにも変身できるよ」

 

 フリーザタイプから元の悟空タイプのクローンに戻るとそいつは俺に向かって明るく笑いながら歩み寄ってきた。

 

 そいつの言葉と行動に、場に居るものが大声で笑っている。

 

「すげー! やっぱゲームの特性掴むの上手いなぁ」

 

「さっすが、折戸さんだ!!」

 

 昔、ダチに連れられて行ったコミケやコスプレ大会のようなノリだ。

 

「やぁ、同じ孫悟空タイプが初期モデルだね。仲良くしよう」

 

「……」

 

「なんだよ、ノリの悪い野郎だな? ぶっ殺すぞ! ってなぁ!」

 

「……その、似てねぇ野沢雅子のモノマネ辞めてくんねえかな。つうか、何考えてんだ? 状況を理解してーー」

 

 と言おうとすると、ヤツは人差し指を口に当てて静かにと、ジェスチャーしてきた。

 

「…静かにしてくれよ。馬鹿騒ぎして油断誘わないと逃げらんねぇだろ?」

 

「! あ、ああ。そう言うーー」

 

「頼むぜーー! 俺は折戸 修二(オリト シュウジ)。T大学2年生だ」

 

 大学生かーー若いなぁ。

 

「…久住史朗、会社員だ。歳は35だ」

 

「え? マジ? すんません、他の子が10代半ばくらいの歳下ばっかりだったんで」

 

 恐縮したような表情で頭を下げる折戸というクローン悟空に思わず笑みがこぼれた。

 ガワはともかく中身は日本人そのものだ。

 

 どこかホッとする。

 

「いいよ。この格好じゃ、歳なんて皆分からない。この場じゃ君がリーダーなんだろ? 郷に従うよ」

 

 そう告げると大学生ーー折戸くんは明るい雰囲気で笑いかけてきた。

 

「あの。久住さんもドラゴンボールのゲームしていて、こっちに喚ばれたんすか?」

 

 若者よ、初対面同然の歳上にその馴れ馴れしい話し方をすると、社会に出ると苦労するぞ。

 

 俺個人としては、距離が縮まって有難いがね。

 

「いや? 仕事がキツくてね。ゲームする暇があったら寝るよ」

 

「へ? なんだ! 社会人がこっちに来てるから、てっきり親のすねかじりの廃課金ゲーマーかと思ったよ!!」

 

 …ナチュラルに殺意が湧くとは。フッ、若いな俺も。

 

 俺の内心に気づいたのか、折戸は両手を横に振って話してきた。

 

「違う違う! この世界に来たヤツって、みんなドラゴンボールのオンラインゲームをしてたヤツらだからさ。アンタもそうなのかって思ってーー!」

 

「……ゲーム?」

 

「そ! 最近出たドラゴンボールファイターズって格ゲーだよ。俺、てっきりアンタもやってるのかなって思っちゃってさーー!」

 

 コイツなりに悪いと思ったのか、理由を説明してきた。なるほど、ゲーム利用者なのか。俺以外の奴らは。

 

「最近のゲームは分かんねぇが、何? VRMMOってのか? そんな感じの格闘ゲームになってんの?」

 

 ネットで得た知識しかないけど、とりあえず知っている体を装いたい。

 

 我ながら、つまんねえ意地だなぁ。

 

「いや、今回のは単なる2D格闘だね。スト2をドラゴボで再現してるって言えば分かる?」

 

「…ど、どらごぼ? へぇ、スト2みたいな1フレの脊髄反射を要する神ゲーか?」

 

 などと話していると、赤と青のカラーを組み込んだボディコンに黒のタイツを履き、白衣を上に着た女が現れた。

 

 茶色のウェーブのかかった長い髪をした白い肌の美女が、16号の後ろから現れた。

 

 女は、これでもか、と言うくらいに身体の線を強調する服で俺たちの前に立つ。

 

「…久住さん。コイツが、今回のラスボスーー人造人間21号だ」

 

「へ? あんな美人さんが? 人造人間? 人造人間ってセル以降居た?」

 

 思わずビックリする俺に折戸は頷く。

 

「ああ、間違いない。周りを見てみな? 全員、納得って顔してるだろ? やはり、この世界はドラゴンボールファイターズの世界だ」

 

 それが分かれば、こっちのモンだ。

 

 そうヤツは語るが。何がこっちのモンなんだろうか? ゲームなら、どうとでもなるだろうが現実ってのは、どうにもならんもんだ。

 

 だが、折戸の話も一応聞いておこう。

 

 最新のドラゴンボールのゲームキャラか。

 

 メガネを光らせて、彼女は冷たく整った顔を邪悪に歪ませて笑った。

 

「転生者の皆さん。皆さんには、これから。この世界を滅茶苦茶にしてもらいます」

 

 いきなり何言ってんだ、この女?

 

 呆然とする俺の周りでは、転生者とか言われてその気になってる奴らが騒いでる。

 

「よっしゃ! この身体の能力見てやる!!」

 

「クンッて挨拶しなきゃなぁ!!」

 

「気円斬や繰気弾、気功砲もな!」

 

 異世界ーー漫画の世界、か。

 

「あなた達の姿をした本物を殺して成り代わるのも、気ままに街を破壊しても、全て許されます。この世界では、あなた達は自由です。自分の好きなように生きてください」

 

 何をしても現実(元の世界)には反映されない、何か法に触れても全てをねじ伏せる力がある。

 

 ガキを攫って最高の遊び場に、最高のオモチャを与えて自分は高みの見物って訳か?

 

「ただし、殺したオリジナルの存在は私の前に持って来ること。それだけを理解してくれていれば何をしてくれてもかまいません。話は以上です。」

 

 折戸が俺の横で手を挙げて口を開いた。

 

「それさ、アンタの言う事を聞いておけば、この世界で好き放題やらかした挙句、飽きたら元の世界に帰れるって解釈でOK?」

 

「私の目的が達成されたなら、もちろん元の世界へ返してあげますよ」

 

 にこやかに笑う女に軽薄な笑顔を返す折戸。

 

「へぇ? じゃあさ、アンタが俺の女になるってのは?」

 

「…あら? どういう意味かしら?」

 

「俺の目的の一つは、世界中の美女を集めてハーレムを作ることなんだよ。元の世界じゃ絶対に出来ないけど。此処なら簡単に出来ちゃいそうだ。その栄えある一人目が、アンタってのは?」

 

 …折戸のヤツ、すげえ演技派だな。堂に入ってるぜ。ラスボスを油断させるために敢えて軽薄な事を口にしてるって訳か。

 

 多分、折戸の告白に囃し立ている他の奴らも同じなんだろう。

 

 中学生や高校生が、大したもんだ。

 

 その後、折戸とラスボス女の腹の探り合いが終わり、今夜一晩寝たら研究所から解散となる運びとなった。

 

 いっぺんに色んなことがあったので、疲れ切っていた俺だが目の前に来た男の顔を見て気を入れ直す。

 

「すまないが、ついて来てくれないか」

 

「…話をする約束だったもんな」

 

 俺は16号についていった。

 

 そこは、研究所の外だった。

 

 夜空の下乾いた空気が、岩場に流れている。

 

「すまなかった。いきなりこんなことを言われて混乱していると思う。だが、お前を元の生活に戻すには今は21号の言うことを聞くしかない。わかってくれ」

 

「無茶言うなよ。街を破壊したり、オリジナルの存在殺して成り変われって言ったりするようなヤツの言うことなんざ聞けねぇよ」

 

 即座に切り返す俺をジッと見た後、16号は告げた。

 

「お前は、前の16号を知っているのか?」

 

「……前? あ、じゃあやっぱり、お前はーー!」

 

「そうだ。俺は、前の16号のデータを基に21号によって作られた」

 

「…その割には、前の16号と全然変わらねえように見えるが。ひょっとして、17号と18号ーー悟飯とセルの記憶もあるんじゃないのか?」

 

「…ある。前の16号を完璧に再現したいと、ヤツは言っていたからな」

 

 あの女、いったい何のために16号を?あんだけ好き放題に破壊やら殺人やらを推奨しといて、なんでまたソイツを嫌う16号を完璧に再現したんだ?

 

「…お前に話をしたいのは。彼女の秘密についてだ」

 

「秘密、ね。女の秘密をベラベラ喋る奴って個人的に信用できねえんだが?」

 

「お前は、あの時の21号の話を聞いて苦虫を噛んだような顔をして下を向いていた。他の転生者は好き放題に出来ると喜んでいたが、お前は違った。おそらくお前は21号が用意した波動の影響が少ない。だから、お前にだけは話しても良いと思った」

 

 波動?

 

 気になる単語だが、それよりも。

 

「…そうかい。それで? その話を聞かせて俺に何をさせたいんだ?」

 

「彼女には二つの人格がある。これから会う彼女は本当の彼女だ。頼む、アイツの話を聞いてやってくれ」

 

 本当の、彼女ーーね。

 

 二重人格って、ドラゴンボールだとランチさんくらいだとおもっていたがーー。

 

 こんな真面目な類の話で、聞くとはな。

 

 考え込んでいると、岩場の影から先ほどの女ーー人造人間21号が現れた。

 

「ごめんなさい」

 

 眉根を寄せ、所在無さげに両手を胸の前で組んで、彼女は続ける。

 

「これから私と16号と一緒にこの世界に起こっている混乱を止めてほしいのです」

 

「混乱って。さっき、アンタは好き放題に破壊しろってーー!」

 

 違和感がある。先程までの冷徹で高飛車な演説の後で、今の彼女。

 

 マジでイメージが、繋がらない。今の彼女は、清楚でお淑やかで、上品な温かみがある。

 

「さっきの私のせいで、この世界には貴方がリンクしているその身体と同じーークローンが溢れています。そしてあなたと同じようにクローンたちの肉体に他人の精神をリンクさせるリンクシステムと言うのを使って彼女は、貴方の世界からリンクに適合する精神を引き寄せているのです」

 

 さっきの私ーーか。ランチさんと違って、別人格の記憶があるのか?

 

 16号は信じられるが、この女ーー。何処までが本当なんだ?

 

「どうか私と一緒にこの事態を解決する協力をしてほしいのです。お願いします!」

 

 頭を下げて必死に頼み込む彼女ーー。嘘、ではないだろうが、判断材料が無さ過ぎる。

 

 俺は、21号の頼みを保留させてくれ、と応えた。

 

「いっぺんに色々あり過ぎて、少し整理したい」

 

 不安げで、しかし諦めたような表情の彼女を見て、思わず言ってしまった。

 

「16号や今のアンタは、信じられる人だと、思う。でも、さっきの今だ。流石に混乱する。リンクシステムとか言うのも、詳しく知りたい。考えをまとめる時間をくれ」

 

 俺の答えに、はじめて16号が笑みを浮かべ、21号は目を見開いて涙を浮かべてありがとうございます、と頭を下げてきた。

 

ーーーー

 

 自分に充てがわれた部屋に戻ると、自分の姿見のような人間が立っている。

 

 俺と同じ悟空タイプのクローンとリンクしている折戸修二だ。

 

「大丈夫か? さっき16号や21号に連れて行かれてたみたいだけど、何かされなかったか?」

 

「心配してくれんのは有難いが、覗き見は感心しないな」

 

 取り敢えず釘を刺しておこう。コイツの動きも演技とは思えない嫌な感じを受けてる。

 

 俺が言いようのない疑惑を胸に持ち込んでいると、折戸は媚びるような笑顔で言ってきた。

 

「…もしかして自分に協力してほしいとか言われたんじゃないか?」

 

「いや、単なる世間話だ」

 

 なんとなく、さっきの21号の哀しげな顔と。コイツがハーレム要員に彼女を加えるって言ってたのを思い出して即答した。

 

 だがーー、コイツは俺の考えを読んだかのように一気に告げてきた。

 

「協力はやめといたほうがいいぜ。俺はこの世界を知ってるんだ。あの女は、碌な結末にならない。ドラゴンボールなら自分も知ってるって?アンタは、あの人造人間21号を知らないんだろ?俺は知ってる。この後どうなるのかもな。俺たちは適当に強くなった後、あいつに菓子に変えられて喰われるんだ」

 

「菓子に変える? 魔人ブウみたいなヤツだな」

 

「多分、魔人ブウの細胞かなんか取り込んだんじゃね?あいつの中には自分でもどうにもできない捕食衝動を基に生み出された人格があるからな。まともそうな人格より、悪の方が強いってのはドラゴンボールのテンプレだろ」

 

 テンプレーーねぇ。

 

 確かに、ドラゴンボールという漫画ならあり得る話だ。

 

だがテンプレート(お約束)が当てはまるのはフィクションだけ。

 

 現実になったこの世界でも通じるもんなのか?

 

「ドクターゲロは、どうやって魔人ブウの細胞を手に入れたんだよ?そもそも、ブウの細胞は復活して元の魔人ブウに戻るだろうが」

 

「そんなん知るかよ。他の連中にも聞いてみたんだが、どうやらこの後のストーリーを知ってんのは俺とフリーザのアバターのヤツだけみたいだな」

 

「アバターって、お前な」

 

 いい加減、ゲームの延長線で考えるのやめろって俺が言う前に折戸は続けてきた。

 

「ん? ああ、この身体をアバターって言ったの悪かったか? ま、とにかく俺と一緒に来いよ。転生者を利用できるなんて思ってる馬鹿どもを根こそぎぶっ倒してやろうぜ。孫悟空同士なら強力なかめはめ波の合体技も撃ち放題だしな」

 

 嬉々として周辺の地図を出して広げて語る折戸を何処か遠い目で見ながら、ヤツの声を耳にする。

 

「今夜全員で反乱を起こす。その期に脱出だ。いいな、俺とアンタが組めば、簡単に成功する。他の奴らの安全のためにも、絶対に成功させよう。待ち合わせ場所は、この岩場の影だ」

 

「……脱走なんかしなくても、明日には解放してくれるんだ。わざわざ、反乱する理由はなんだ?」

 

「奴等が約束を守るとは思えないからさ。言ったろ?俺は21号を知ってる。アイツは最終的に悪の心に負けて消えてしまうんだ。この世界は、悪が作り出した波動のせいで悟空たちも本来の力を出せない。それどころか、超サイヤ人になるのがやっとってレベルだ。クローンの肉体を手に入れ波動の影響がない俺たち転生者でなけりゃ、この世界の人を助けられない。俺たちがZ戦士に成り代わるチャンスだ!」

 

 思わず胸ぐらを掴んでいた。

 

「おいーー! 21号が消えるってなんだ?」

 

「悪に負けたーーって言ってるだろ? 欲望の塊に理性が負けるなんてよくある話じゃん」

 

「……お前」

 

「この手、離せよ。21号が消えるって言っても俺にもアンタにも関係ないだろ?」

 

 確かに、ここでこのアホとやり合っても仕方ねぇ。だいいち、21号の問題もコイツが原因って訳じゃねぇ。

 

「脱走したけりゃ、やりゃいい。俺は残るーー!」

 

「へぇ? だ、け、ど。手遅れだぜ?」

 

 聞き返す暇もなく、研究所内部で強大な爆発が次々と起こった。

 

「! こ、れ、はーー!」

 

 瞬く間に火の海と化す施設に俺が茫然としていると、隣で折戸が笑っている。

 

「俺の仲間が、研究所の中枢を破壊した。奴等に転生者を舐めんなって声明文まで送りつけてな。残りたければ残りなよ、久住さん。アンタが、反乱の全責任を被って捕まってくれるなら大喜びだーー!しばらくは、俺たちも姿を消せるからな」

 

「折戸ーー! テメェ……!!」

 

「効率を考えるべきだよ、久住さん。いっときの21号への同情で、チャンスを棒に振ることはないぜ」

 

 効率だの、チャンスだの、ゴチャゴチャと若造が分かったように語りやがってーー!!

 

「なんの真似だよ、久住さん」

 

 俺は、折戸に対して構えを取っていた。

 

無意識に取ったその構えはーー孫悟空が使う拳法の構えだ。

 

「分からないな。なんで、わざわざ非効率な真似する訳?言ってんだろ、21号は助からないって。悪の方に負けて消えるんだよ。アンタがさっき話した21号は助からないって言ってーー」

 

 凄まじい音が聞こえた。

 

右拳が、折戸のーー悟空クローンの左手に掴まれている。

 

  ああ、殴ろうとしたが止められたか。

 

「何もしてねえくせに、分かったような口を利くな! テメエみたいな頭でっかちの言葉を聞いてるとイライラしてくるぜ!!」

 

 目の前に何かが迫るのを反射的に俺の左手が掴み止めた。ヤツの右拳だ。

 

「はあ? あのさ、アンタは転生者仲間の俺よりゲームのキャラクターを取るっての? 人間としてどうなんだよ、ソレ? 頭、おかしいんじゃね?」

 

「テメェには言葉で言っても分からねえ。…折戸、構えろ。取り敢えず、テメエの顔を殴ってから、どうするかを考える」

 

「ふうん? 俺を殴って気が晴れんなら好きにしなーー」

 

 強烈な右ストレートがまともに折戸の顔に入り、後方の壁へと背中から叩きつけられた。

 

「……ッグ、ホントに殴りやがった。このクソ野郎」

 

 目が吊り上り、俺を睨み付けてくる真紅の瞳にようやく俺は満足してきた。

 

「ムカついたか? そら良かった。俺はさっきから、テメエの話を聞く度にイライライライラしてんだよ。久しぶりに殴り合いの喧嘩をしてやる、行くぞ!!」

 

 悪いが、ここらで溜まったフラストレーションを晴らすのとコイツが本当に信用できるかを確かめさせてもらう。

 

「脱走する計画を邪魔する気か?」

 

「他の奴らは好きにすりゃいい。だが、お前は取り敢えず俺と残れや。転生者だかキャラクターだか知らないが、自分の思い通りになるなんて妄想は、早目に潰した方がいいからな!!」

 

 ハーレム計画だか、なんだか知らんが、このアホの計画を全部潰してやる。

 

 なんでもかんでも自分の思い通りになる世界なんぞ、たとえ漫画でも存在してたまるか!!

 

 怒りに身を任せて、拳を繰り出す。

 

 我ながら鋭い拳だが、ヤツの動きも半端じゃない。広い部屋とはいえ、俺たちの身体能力じゃ狭過ぎる。

 

 秒間数十は下らない拳と蹴りの打ち合いと、部屋を一瞬で飛び回るフットワークを駆使して俺と折戸ーー二人のバッタモン悟空はぶつかり合う。

 

「は、ははは! 凄いや、コレが孫悟空!? こんな世界が自分の支配下にあるなんて、サイコー!! コレはどんなゲームより楽しいよ!!」

 

「殴られる痛みや苦しみを感じても、同じセリフ吐けるか? 折戸ぉおおおっ!!」

 

 金色のオーラを纏い、ぶつかり合う。

 

 分かったが、コイツ本当に俺と同じくらいの強さだ。スピードもパワーも技も、打ち込みの数も似てる。

 

 だが、肉体を使う脳みそが違えばスタイルが変わる。

 

 拳法は素人でもケンカ慣れはしてる俺が選択したのは、相打ち戦法だ。

 

 ヤツが攻撃をしてくると同時に俺も手を出す。まともに顔に食らうがヤツも必ず食らう。

 

 ケンカの常套句にあるが、気合いだ。

 

 身体は丈夫なサイヤ人なら、心と心のぶつかり合い。いわゆる根性論。

 

 おじさんを舐めるなよ、若者!!

 

 思ったとおり、ヤツは自分の方が先に拳を当ててるにもかかわらず、後ろに退いて打ち合いを嫌がった。

 

「ちくしょう、捕まってたまるか! 太陽拳!!」

 

 瞬間、光と共に折戸は肉体を天津飯のクローン体に変化させると強烈な目くらましの技。

 

 太陽拳を放ってきた。

 

「ーーテメ!?」

 

 咄嗟に目を瞑るが、強烈な光によって一時的に視力が潰される。

 

 瞬間、鉄扉を蹴り飛ばし逃げ出す折戸の気配。

 

 追いかける俺。ヤツは必ず仲間と合流する。地図の場所を思い出せ!

 

 視界は完全には戻らないまでも、なんとか見える。

 

 俺は、必死に折戸が逃げた方向へと足を運んだ。なんで、ここまで必死になって折戸を捕まえようとしてるのかは分からない。

 

 ただ、不快だった。このまま、アイツを逃がして終わりってのは、俺の中の何かが許さなかった。

 

 待ち合わせ場所と時間まで、もう少しだ。

 

 その前に、折戸を捕まえてーー!!

 

「ぐぅあ!?」

 

 強烈な衝撃が背中を襲い、肌が燃える熱さに俺は呻き声を上げて正面の岩壁に背中をもたれさせた。

 

 真っ白い満月を背に、折戸がーー血のような赤い目をした孫悟空の姿をした野郎が、煙を上げている右掌をかざしてニヤニヤと鬱陶しい目で俺を見下ろしている。

 

 ヤツの周りにはベジータとナッパのクローンが、ニヤリと笑って腕を組んでいた。

 

「テメェ、待ち合わせ場所はまだーー!」

 

「ああ、最初から待ち合わせ場所に移動するアンタを此処で襲って犠牲にする作戦だったんだよ。ちょっと予定が狂ったけど、アンタが反乱の首謀者さ。悟空クローン」

 

「な、んだと?」

 

「言葉巧みに周りの転生者達を誘導し、研究所を破壊させて逃げようとしたのを俺たちが阻止したって訳だ。証人は俺の仲間二人。説得しようとしたが、抵抗され止むを得ずに息の根を止めるって寸法ーー!」

 

 コイツ、反乱を起こしたのは俺に罪をなすりつけて16号や21号の信頼を得るためか。

 

「じゃあな、間抜けなお人好し。悪いけど俺の為に死んでくれ」

 

「最初から、だと言ったな。つまり俺がテメェを殴る前から決めてたってことか? なんでだ?」

 

「分かるだろ?」

 

 分かんねえから聞いてんだよ、クソが。

 

「俺の目的の為には、初期モデルが悟空タイプのーーアンタが、邪魔なんだ」

 

 ゆっくりと、ヤツは両手を上下に手首で合わせ、体をひねって右腰に両手を置いて青い光の塊を練り上げる。

 

 そうーーかめはめ波の構えを取った。

 

「漫画の世界に転生して好き勝手できるなんて、サイコーじゃね? 悟空と同じ力持ってて超サイヤ人になってるなんて。こんなん、この世界を思い通りにするに決まってるじゃん」

 

「…テメェ、漫画漫画って。俺に殴られて痛かったろうが?苦しかったろうが??それでもまだ、この世界は漫画だって言い張るのか!?この世界に生きる人達を、漫画やゲームのキャラクターだって!?」

 

「うっせえよ、オッサン。向こうの世界の倫理観ふりかざしてガタガタ言いやがって。ウゼェからさっさと死ねや?」

 

 俺に向かって両掌を突き出し、かめはめ波が放たれた。

 

 光に全てを持って行かれるのを感じながら、俺は死を感じていた。

 

 そして目を開けると、この世界に来た当初の記憶を全て忘れて荒野のど真ん中に俺は立っていた。

 

 




次回もお楽しみに(≧▽≦)



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第5話 悟空、その変身は何?

さ! 今回は真・超サイヤ人の登場回です。

21号の作り出した波動が、何故悟空には効いていないのか。

解説をさせて頂きました。

ではでは、楽しんでください( *´艸`)



 

 視界が戻った。

 

 あの時、折戸から攻撃された時に聞こえた、あの声は?

 

 俺が記憶を取り戻した副作用で頭痛に苦しむ中、目の前では悟空と16号が睨み合っている。結構、長い時間思い出してたと思うが、実際にはあっという間だったってことか。

 

「…16号。どうしても、やるんか?」

 

 真剣な声で、悟空は16号に問いかけた。

 

 闘いが大好きなサイヤ人としての一面が強調されがちだが、この人は本来こういう人だ。

 

 ちゃんと時と場合と相手を見て判断してる。

 

 魔人ブウ編の時、ベジータとの戦いよりも最初はバビディ達を倒すことを優先していた。

 

 老界王神へのエネルギー弾がキチガイと呼ばれるが、その前に界王神は初登場時に「界王神なら誰もが片手でフリーザを倒せる」と述べていた。

 

 軽いエネルギー弾くらい、フリーザを捻れる実力者ならどうとでも出来るはずだったから撃ったのだ。おまけにいきなり後から現れて、やたら偉そうだったしな。あのジジイ。

 

 って言う事までいちいち説明しないと悟空はガイジだ、なんだって五月蝿えのなんの。

 

 と、ネットの批判関係の方面に意識をやると頭痛がマシになる不思議。

 

 俺も単純ってことか。

 

「オメエ、闘うのが好きじゃねぇだろ? それに、そんな辛そうな顔で構えられても、やりづれえ。話してくんねぇか? オメエのこった、何か理由があんだろ?」

 

 そんな俺のバカな内心とは無関係に、悟空は真剣な表情で16号を見ている。

 

「…孫悟空。今回はお前を殺せとは命ぜられていない。だが、お前に従えとも言われていない」

 

「そう言うなよ。コレでもオラ、セルん時から相当強くなってんだ。紅朗と一緒にオメエの力になれると思うぞ?」

 

 明るい表情で告げた後、黒目を鋭く細めて悟空は続ける。

 

「オメエにゃ、ホントに世話んなったからな。セルん時、悟飯を助けてくれてーーあんがとな。その礼をずっと言いたかった。あの世でもオメエは居なかったかんな」

 

「…せっかくだが、その礼は俺には要らない。俺は無から新しく作り出された」

 

「ホントに、そうか? オメエ”今回は”って言ったよな」

 

 そうだよな、気付いちゃうよな。

 

 俺だって気付いたもの。16号嘘、下手だよなぁ。

 

「……」

 

 黙り込んだ16号に対し、ニヤリと不敵に笑って悟空は続ける。

 

「悪いヤツの言う事を聞く必要はねぇ。まして、そんな顔するまで無理して闘う理由もねぇ。だろ?」

 

「…お前には無くとも、俺にはある。紅朗ーーとお前が呼ぶ、その男を連れて帰る。アイツの為にーー!」

 

「だから、その理由を説明してくれって!」

 

 一歩踏み出して問いかける悟空に16号は静かに白いオーラを纏い構える。

 

「…孫悟空。今、俺がしなければならないのは、何よりもその男を確保することだ」

 

「アイツの為にって言ったな? オメエ、誰かを人質に取られてんのか?」

 

「…」

 

 何も語らない16号だが、明らかに表情が翳る。

 

 人質ーー。思い当たるのは一人だが、人質と言ってよいのか。

 

 記憶が戻った今、俺も悟空に説明してやりたいが。

 

 上手く説明できる気がしない。

 

 側から見たら21号のアレは単なる自作自演だ。

 

 そんな事を考えていると、16号が動いた。巨体に似合わぬ速度で風を巻いて悟空の眼前に踏み込んでる。

 

 その頃には悟空の顔に鋭さが宿っていた。

 

「だぁあああっ!!」

 

 悟空の顔程もある巨大な右拳を打ち込んでくる16号に対し、顔の前に上げた左手で掴みとめる。

 

「……なぜ、超サイヤ人にならない?」

 

「今じゃ、変身しなくてもある程度の力を引き出せるようになってんだ。こんな風に、な」

 

 悟空の纏う白い気に金色の光が交わると、拳を掴んでいた左手を突き離し、16号を後方へ吹き飛ばす。

 

 16号は即座に地面に足を叩きつけると、前に踏み込んで来ている悟空を睨み付けた。

 

 拳を振りかぶる両者。

 

 中央でぶつかり合う拳と拳ーー炸裂弾のように弾ける。

 

 同時、地面を蹴った両者は目にも映らぬ高速移動で、空も地も構いなしに駆け抜け、そこかしこで衝撃波を生み出し合う。

 

「…やるじゃねえか。今のオメエなら、あの頃のーー完全体のセルとも戦えそうだな」

 

「孫悟空ーー。いつの間に、コレほどの戦闘力を」

 

 あんだけ、とんでもない動きで走り回って殴り合っておいて、信じられないことに悟空にはまだまだ余裕が感じられる。

 

 16号が驚くのも無理はないぜ。

 

「強いーー。だが、この強さ。波動の影響下に無い。波動に包まれた地球で、上限を大きく上回る戦闘力。何故だ、孫悟空?」

 

「波動を無効化してっからさ。オラの中にある超サイヤ人の波動でな」

 

「! 超サイヤ人の波動ーー?」

 

 ニヤリと不敵に笑い、悟空は続ける。

 

「コイツは、オラの中に眠っていたサイヤ人の破壊衝動と超サイヤ人の興奮状態を合わせたような力だ。オラにコイツを教えたヤツと名付けたベジータから名前を借りたら、真・超サイヤ人ってんだがな」

 

 ん? 真・超サイヤ人?

 

 それって、『その後のドラゴンボール』とか言うのであった超サイヤ人4と超サイヤ人3と超サイヤ人1を足して大猿で割ったような姿のアレか?

 

 二次創作のーー。

 

「それはーー超サイヤ人ではないのか?」

 

「いや、超サイヤ人そのもの、さ。通常の超サイヤ人や他の超サイヤ人を極めて極めて極め抜いた先にあるサイヤ人の可能性の究極。オラの中にある最強のオラの姿さ。オラ自身が超えなきゃならねえーーな」

 

 超サイヤ人1の状態をとことんまで極めたってことか?

 

 それってセルゲームでやった超サイヤ人第4段階と何が違うんだってばよ?

 

「コイツは、普通の状態でも力をある程度引き出せんだ。便利なもんだろ? そんでなくても、今のオラは素の戦闘力で充分に完全体のセルくれえなら倒せっけどな」

 

 ハッタリに見えない。

 

 どうゆうことだ。悟空の強さがGT時空並みに見えるんだが?黒髪だよね、今。アルティメットじゃないよね?

 

 素の戦闘力って、それでPセル倒せたら無敵じゃね?

 

 あ、神の気ってヤツのせいか?

 

「……複数の気を同時に生み出して波動エネルギーを己の体内で発生させ、21号が作り出したマイナス波動を無効化するとは。最早、俺では相手にならないようだな」

 

「だな。納得してくれて助かるぜ。下手に超サイヤ人になると、今のオラは真・超サイヤ人に変身しちまいかねねぇかんなぁ」

 

 なんだろう?

 

 悟空って、普段からあんまり自分の力をひけらかしたりしないんだけど。この真・超サイヤ人にだけは、あまり変身したくなさそうだ。

 

 もしかして悟空が悪のサイヤ人になったりするんだろうか?

 

「…真・超サイヤ人のデータを取らせてもらいたい」

 

 それだけを言い、構える16号に悟空も目を鋭くする。

 

「真・超サイヤ人の波動が、オメエの助けてぇヤツに関わんのか?」

 

「………ああ」

 

 ハッキリと16号は応えた。

 

 俺も思わず16号を見つめていた。21号を助けるのに、波動を無効化する必要があるのか?

 

「分かった」

 

 そんな短いやり取りの後、両手を腰に置いて拳を握った悟空の足下から黄金の炎のような激しいオーラが噴き出し、天に向かって昇り始めた。

 

 黒髪が逆立ち、目が輪郭線のあるものとなり目付きが鋭くなる。

 

 また、黒い瞳は虹彩の部分が翡翠に変わり、瞳孔は黒のまま浮かび上がっている。

 

 悟空は超サイヤ人そのものって言っていたが、確かに。

 

 見た目は俺(悟空クローン)とほとんど変わらない。超サイヤ人ブルーみたいに青くなる訳でも、超サイヤ人3みたいに髪が伸びる訳でも、超サイヤ4のように赤い体毛と尻尾が生える訳でもない。

 

 ただ、金色よりも濃い燃えるような黄金の髪と、超サイヤ人3のように瞳孔が開いた翡翠眼をしている。超サイヤ人からすれば、それだけの変化だ。

 

 ああ、見た目はーーそれだけ。

 

 だが、中身はーー!! 感じられる重圧の方は、どういうこったよ?

 

「…このエネルギーは。想定を遥かに超えている!」

 

 あのポーカーフェイスの16号でさえ、表情を崩して驚愕の色を隠せない。圧倒的な迫力が、問答無用の力が今の悟空には、ある。

 

「…コレが俺のーー超サイヤ人孫悟空のフルパワーだ。悪りいが、まだまだ気は上がんぜ」

 

「う、嘘だろ。今の状態でも桁が違うのに、まだ上がんのかよ?」

 

 低い声は、ナメック星で変身した頃の超サイヤ人を思い起こさせるがーー話し方は、どちらかと言うと超サイヤ人4。

 

「どうだ、16号。俺の力。なんか、参考になりそうか?」

 

 険しく冷徹な表情が、鋭さを保ちながら穏やかに笑っている。やべぇ、マジでイケメンだ。

 

 男の俺が見惚れちまうくらいだ、女なら瞬殺だ。

 

 何がどう瞬殺かは、分からんが。

 

「…そのエネルギーならば、もしかしたら止められるかもしれん。彼女の暴走を」

 

「…やっと、話をしてくれる気になったみてぇだな」

 

 16号の静かな言葉に黄金の炎が霧散し、通常の黒髪黒目の何処か幼く無邪気な雰囲気の青年に悟空は戻る。

 

 コレが、ギャップ萌えってヤツか?……凄まじい。

 

 あまりの悟空の格好良さに痺れてまともな思考を取り戻すのに、大分苦労した。

 

「なあ、悟空? 超サイヤ人に変身できないって言ってたのって。さっきの真・超サイヤ人になっちゃうからか?」

 

「ああ。あの力は、ホントにとんでもなくてよ。オラだけどオラじゃねえ力なんだ。オラの中に眠ってる力を変身してる間は無限に引き出してくれっけど、代わりに細かい手加減とかが出来ねぇ。体力と精神力も消耗しちまうしな」

 

 非常に丁寧な説明をしてくださる孫悟空さん。

 

 さて、16号が話を始める前に、さっさと俺の本題を話そうじゃあないか。

 

「俺と初めて会った時。超サイヤ人に変身して攻撃してきたよな? 手加減できないって分かってた上で?」

 

「……えっと、オメエならさ。なんとか出来ちまうって思ったんだ。一応、あん時は超サイヤ人のまんまだったし。手加減もちゃんと出来たし。何よりオラ、これでも勘だきゃあ良い方だからさ。オメエも、ちゃんとオラの拳を止めてたろ?」

 

「俺の事、やたらと買いかぶってると思ったら。そんな事情かい」

 

 この戦闘民族め。

 

 焦りまくってる悟空を尻目に俺は16号へと顔を向けた。

 

「なぁ、16号? そっちの研究所は、どうなってる? あの時、反乱を起こした折戸ーー俺と同じ悟空タイプのクローンの躰を持った転生者は、どうなった?」

 

「…どうもしていない。あの反乱は1体の悟空クローンの暴走が原因であると処理された。オリトと言ったか?お前と同じ孫悟空のクローンの男は、今回の反乱の首謀者を止めた功績で21号に取り入っていた。21号も転生者たちがクローンとして、この世界で暴れること自体は止めていない」

 

「…お前が助けたい方の21号もか?」

 

 俺たちの会話を聞いて、悟空が手を挙げて来た。

 

「質問だけんど、その21号ってのは名前からして人造人間なんだろ? でもよ、オメエ達の言ってる21号って2人居るみてえに聞こえんだけんど? アレか? 別の世界からやって来た同一人物って奴か?」

 

「ーーパラレルワールドのことか? いや違う。彼女は二つの人格を持っている。実はーー」

 

 16号が説明を始めようとした、その時だ。

 

 悟空の腰に巻いてる青い帯からアラームのような音と共に声が聞こえて来た。

 

『孫君! クローンのアンタ! 聞こえてる!? 返事して!!』

 

 ブルマの声だと俺が気付くと、悟空は帯から小さな通信機を取り出して掌の上に載せた。

 

「どうした、ブルマ?」

 

『どうしたもこうしたもないのよ! 今すぐ西の都にーーウチに来て!! クリリン君たちのクローンが、本物のクリリン君たちを狙って来てるの!!』

 

「! なんだって?」

 

 目を見開く悟空の声を聴いて、俺も思い出す。

 

 オリジナルに成り代わるのも自由ってけしかけてたが、それに載せられたバカが動いてるのか!?

 

『急いでよ、孫君! フリーザとセルのクローンも居るんだから!!』

 

「…分かった。紅朗! 16号! オラの肩に掴まれ。瞬間移動すっぞ!!」

 

 悟空の指示に従って、俺と16号は彼の肩に手を置く。

 

 漫画の世界だから、登場人物に成り代わるだの。

 

 ちょっと、あのクソガキどもを絞めないといけないようだ…!

 

 悟空に連れられて瞬間移動で消える寸前に、俺は固くそう決心した。 

 

 

 




超サイヤ人の興奮状態と大猿の破壊衝動を合わせたら、それもう何て殺意の波動って感じで説明をさせて頂いてます(≧▽≦)

次回も、お楽しみに( *´艸`)


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第6話 悟空、転生者って助けなきゃいけないか?

さ、行ってみよう!Σ(゚д゚lll)
________________________________________




 瞬間移動の先にあったのは。

 

 公園のような石造りのアーチのある中庭。

 

 目の前には、半球体のクリーム色の建物ーーカプセルコーポレーションがある。

 

「…!」

 

 現実で見たカプセルコーポレーションは、やはり何かのテーマパークのようにデカイ。

 

 平時であればじっくりと見学したい気持ちが湧いただろうが、今は家のあちこちから黒い煙が吹き上っている。そんな暇はない。

 

「ぎぃやぁああああ!」

 

 目の前には、蒼い髪の女性が紅い瞳のスキンヘッドの巨漢サイヤ人に襲われている。

 

 逃げようとしているブルマと、襲っているのはナッパのクローン。

 

 人形のような、無表情でクローンナッパが拳を振り上げるのを悟空が一気に距離を詰めて後方から頭に飛び回し蹴りをくらわし、ふっ飛ばす。

 

「! 孫君!! って、16号? 何でアンタまでーー!」

 

 ブルマが悟空を見て表情を明るくする中、悟空は気絶したクローンナッパに目もくれず、カプセルコーポレーションに顔を向ける。 

 

「……何処のどいつだ。こんなフザケた真似しやがって…!」

 

 今までのクローンのような無計画な破壊ではない。明らかに作為的なやり方に悟空の眼が鋭くなっている。

 

「ブルマ、16号の説明は後だ! クリリン達は!?」

 

 怒りを露わに静かに呟く悟空だが、そんな場合じゃないとブルマに問いかける。

 

 そうだ、一刻も早くクリリン達に合流しないと。

 

「クリリン達は、医療用施設の19号館よ! 急いで!」

 

 今回のクローンの動きは、今まで聞いてた無差別なものじゃない。

 

 多分、プレイヤー気取りの連中が動いてるはずだ。

 

「クローンが、組織的に動いている…? まさか、クローンとリンクした者たちが動いているのか」

 

 16号も驚いているようだ。そりゃそうだろ。

 

 相手はレッドリボン軍のような軍隊でもフリーザ軍のようなならず者でもない。別の世界とは言え、一般人なんだからよ。

 

 本来のドラゴンボールでは、守られるべき者たちだ。

 

 それが、地球の戦士達と同じ肉体と力を持っただけで何の抵抗もなく破壊活動に手を染める。

 

 洗脳されてるって言うのなら話は分かるが、奴らのは単なるゲーム感覚。

 

 未来世界で人造人間たちが、一般人を虐殺したような心境に近いんだろう。

 

 ーーいや、アレより質が悪いな。アレは勝手に改造された上に目的を見失った果ての暴走だ。

 

 だが、コイツ等のはーー!

 

「紅朗。オメエ、コイツ等が誰の指示で動いてんのか分かんのか?」

 

「ーー指示っつーか、提案だな。それにノリノリのガキどもが犯人だ」

 

「どういうこった?」

 

 俺たちが会話する中、16号が声を上げた。

 

「! 孫悟空、クリリン達の生体反応を確認した。こっちだ!」

 

「よし!」

 

 走りだそうとする二人に、思わず声を上げた。

 

「待ってくれ! ブルマさんを独りにするのかよ!! 誰か残らないのか!?」

 

「なら、紅朗。オメエが残れ! オラと16号はクリリン達を助けてくる!!」

 

 そう言って悟空と16号は建物の中へ駆けていった。

 

 今のクローンナッパの動きは明らかにブルマを狙っていた。おそらく、転生者たちの中にゲームのストーリーを知っている折戸と同じような奴がいる。

 

 今回の事件解決にブルマが何らかの関わりを持っているのだろう。

 

 俺がやったことのある以前のゲームではサイヤ人絶滅計画のデストロンガスーー。

 

 地球の全ての生命を徐々に毒していって悟空達をも、最終的に死に至らしめる遅効性の毒ガス。これを中和したのもブルマだ。

 

 なら、今回のブルマの役割も悟空達の助けになる。それもクローンの肉体を持ってるアイツ等にとって不利な、何かを。そこまで考えたがブルマは首を横に振っている。

 

「カプセルコーポレーションは文字通り私の庭よ。かくれんぼで、私に敵う奴はいないわ。それに、孫君たちとの付き合いも長いんだから。こんな状況は慣れっこよ! だから、アンタも行きなさい! 孫君たちを助けて!」

 

「で、でもよ!」

 

「うるさいわね! ゴチャゴチャ言ってる暇があったら、走って! クリリン達を頼んだわよ!!」

 

 二ッと力強い笑みを浮かべて笑うブルマに、何も言えない。その瞳には明確な覚悟が現れているような気がする。

 

「私も、クリリン達の身体を動かせるように波動の中和装置を作動させてみる! まだ試作段階だけど、やらないよりはマシのはずよ! クリリン達が目を覚ませば、状況も大分マシになるはずでしょ!」

 

 波動の中和装置ーー、奴らがブルマを狙ったのはコレか!!

 

「…! やっぱり駄目だ。ブルマさんも奴らの狙いなら、戦闘力を持ったヤツが護衛に居ないとーー!」

 

「…ありがとう。でも、危険なのは皆、同じよ。アンタも、気を付けなさいね」

 

 一点の曇りもない笑顔に、思わず見惚れちまう。

 

 クソ、やっぱイイ女だな。気が強いし、物事をハッキリ言うしワガママなタイプだけど、それでもーー。

 

 その時、俺の右手に埋まっていた緑の球が光り出した。

 

「!」

 

 なんだ、と疑問に思う暇もなく目の前に俺と全く同じ見た目の赤い目をした孫悟空のクローンが立っている。

 

「ーーえ。えぇえええ!?」

 

 目を見開く俺とブルマの前でジッと何かを待つように黙って立っているクローン。

 

 ブルマがジッとクローン悟空を見つめると俺と見比べるように交互に視線をやった後、告げた。

 

「ちょっと、アンタ。其処から左に二歩動いてみて」

 

 意味が分からないが、取り敢えず指示に従ってみる。すると俺と全く同じ見た目のクローン悟空はジッと俺を目で追ってきた。

 

 右に動くと同じように右に目を動かせ、首まで向けてくる。

 

 だが戦おうとする意志もない。

 

 なんとなくだが、コイツは俺が荒野で殴り倒して掌に取り込んだアイツだと分かった。

 

「やっぱり。アンタは今、クローンの主になってるんだと思う。鳥の刷り込みみたいなものね。アンタからの指示でコイツは動くはずよ」

 

「……ほんとに?」

 

「モノは試しよ、早く! 此処でコイツに私を守らせれば、アンタも孫君たちと一緒に行けるでしょ!!」

 

 イチかバチか、試してみるか。

 

「よし! 右手を上げろ!」

 

 俺の指示に従う様に、クローンは無表情で右手を上に上げた。

 

「右手は下げていい。お前は俺の言うことを聞くのか? ハイなら頷け、イイエなら首を横に振れ」

 

 この指示に従った時点である意味、言うことを聞いてる訳だが。

 

 クローンはコクリと首を縦に振って頷いた。

 

「! なら、この人をーーブルマさんを守ってくれ! できるか?」

 

 コクリと首を縦に振って頷いた。

 

 よし! 理屈は分からないが、ブルマの言ってることが正しいような気がする。俺とコイツの間に、妙な共有意識というか、感覚がある。

 

 このクローン悟空はブルマを守ってくれる、そんな確信がある。

 

「よし、頼んだ! ブルマさん、俺も悟空達を追いかけます!!」

 

「待って! クリリン達の施設に行くなら、孫君たちと同じ道よりそっちから右に回った方が速いわ。頼んだわよ!!」

 

 悟空達が入っていった入口とは違う方を指さして告げてくるブルマに俺も頷いた。

 

「分かったよ、ありがとう!!」

 

「こっちこそ。頼りになるボディガードをありがとう!!」

 

 互いにそう言い合うと、俺はクローンに目をやり頷いた後、ブルマ達に背を向けて走り出した。

 

 やはり、この身体は半端じゃないーー。あっさりと自動車以上の速度で建物の角を曲がれるし、走り抜けれる。

 

ーーーー

 

 ブルマから近道を教わった俺は、ちょうど一本道で悟空達と合流できた。そこからは16号の案内で、だだっ広いカプセルコーポレーションの通路を走り抜けていく。

 

 同じような通路に部屋、敷地もテーマパーク並のものだから16号の案内が無ければ完全に迷子になるだろう。

 

 ある意味、セキュリティは完璧と言えるかもしれない。

 

 入ったら、半日は出て来れないような敷地だ。

 

「孫悟空、この先の通路の奥にクローン達の反応を感知した。クリリン達の施設に真っ直ぐに向かっているようだ」

 

「やっぱり、狙いは動けねぇクリリン達か。こうしちゃいらんねぇ!!」

 

 気を発していないからクリリン達の下に瞬間移動できない。

 

 地道に走るしかないわけだがーー。

 

 つきあたりを左に曲がったところで大きな19と書かれた建物の扉が目の前にある。

 

「ここだ!」

 

「…ふぅ! なーんとか、間に合ったな」

 

 中に入ると、医療用ベッドに天津飯、ヤムチャ、クリリンが寝かされている。

 

「? 悟空? あわわ、お前、クローン! それに人造人間!!」

 

 白い肌をした幼い少年が悟空を見て安堵し、俺と16号を見てパニックになってる。すると、悟空が鋭く呼びかけた。

 

「詳しく説明してる暇がねぇ。チャオズ、みんなを連れて逃げっぞ!」

 

 そう、ひと息ついてる場合じゃない。

 

 早いとこ、運び出さないとーー。

 

「そうだ、急いでーー悟空?」

 

 俺がクリリン達に駆け寄ろうとするのを悟空が手で止めてる。彼の見る先に顔を向けると同時、建物の壁が轟音と共に爆破された。

 

「…な?」

 

「うわわっ! 天さん、みんな!」

 

 驚く俺やチャオズとは対照的に、悟空は白衣の医療チームの人達を、16号は寝かされていたクリリン達を咄嗟に高速移動で救い出すと、冷静に空いた大穴を見つめている。

 

 その向こうから歩いてきたのは赤い目のクリリン、ヤムチャ、天津飯を従えた灰色の肌をした人型のトカゲ。

 

「フフ、カプセルコーポレーションか。悪くない家だ」

 

 その隣には背の高い独特な頭とセミのような羽根、身体に斑点模様のある端正な顔立ちの怪物がいる。

 

「フリィィィザァ〜よぉ〜。ぁあそこぉにぃ、見えるぅうのぉうはぁあ孫ぉおん悟空ぅううでは、なぃかぁあ?」

 

 これでもか、と独特な抑揚をつけて声を上げる異形はセル完全体のクローン。

 

 これにフリーザのクローンが笑う。

 

「そのようだね、セルさん。軽く捻ってあげましょうか。波動の影響下にある孫悟空など、超サイヤ人程度の力しか出せない。サイヤ人は、皆殺しだ!」

 

 芝居掛かった動きで両手を広げて、恍惚とした表情で構えてるクローンフリーザ。クローンセルも、口の端をこれでもか、と釣り上がらせて笑っている。

 

 他の死んだような目をしたクローン達とは明らかに様子が違う二人に悟空が声を上げた。

 

「……オメエら、他のクローンと違って感情があるみてえだな?」

 

 俺が悟空にアイツらの正体を言おうとするも、他でもない悟空が分かってるとばかりに頷いてきた。

 

「おやおや。貴方にそんな知能やまともな感性があろうとは、驚きですね。ブロリーに突っ込んで返り討ちに遭ってるバカにしては中々の観察力です、ホーホッホッ!」

 

「確かにぃ〜、ぅお驚きぃだぁ〜。孫悟空ぅう。あ、いぃつからぁ。そぉんなぁ、まともなぁー知能を?」

 

 過剰なまでの奴らの演技に、イライラしてきた俺に代わり悟空が淡々と告げた。

 

「ふざけたモノマネやめて、さっさと用件を言え。何のつもりで、此処を襲った? 関係ねぇ人間を巻き込みやがって」

 

 あ、悟空のやつ、静かだけど俺よりキレてる。

 

 あきらかに奴等二人に対して怒ってんな。

 

「悟空、悟空じゃないか!」

 

「消えろ、悟空。ぶっ飛ばされんうちにな」

 

「排球拳、いつでもいいわよー!悟空〜!」

 

 赤い目に白い肌をした3人のクローンが、ニタニタ笑いながらモノマネを披露している。

 

「…オメエら。ふざけんのもいい加減にしとけ。他人の家を壊しといて、オラの仲間やフリーザ達の真似して遊んでんじゃねえ」

 

「ジョークだよ、ジョーク。意外に頭が硬いんだな、クズロットーーあ、ごめん。カカロット」

 

 クローンフリーザの言葉に周りの奴等がバカ笑いしている。

 

 これを16号が静かに見つめた後、俺を見た。

 

「…オメエ達、何を笑ってんだ?」

 

「いやいや、凄いね。さすがクズロットーーあ、ごめん。カカロット。自分の状況を顧みずに挑んで返り討ちに遭ってるバカーーMADどおりだ」

 

 転生者フリーザの言葉に違いない、と笑ってる取り巻きの中、転生者セルが高らかに笑う。

 

「お前の馬鹿さ加減に笑うだろ。何?勝てると思ってんの?波動の影響で力も出せないクズロットが、フルパワーで戦える俺たちに?しかも、この人数に?マジワロスwww」

 

「おwいw、やwめwろwよw そゆの、フラグだろ。漫画ならーーww」

 

 腹を抱えて笑いながら、クローン天津飯が言ってる。コイツらマジで締めねぇと、まともな話も出来そうにねえや。

 

 俺は医者や看護師を庇うチャオズの方に行き、16号がクリリン達3人を抱えてるのを見ながら告げる。

 

「とりあえず、アンタ達は16号と逃げろ。此処にいる奴等、全員殴り倒したら、俺と悟空も合流するから」

 

「……分かった。天さん達をバカにしたアイツら。倒してこい」

 

 俺の顔をジッと見た後、チャオズはコクリと頷いて俺と同じ転生者達を指差した。

 

「おう!」

 

 俺が拳を握って応えるとチャオズは満足そうに16号と出入り口から出て行った。意外にも転生者クローン達は、彼らに手を出さなかった。

 

「悟空。コイツら、俺がやるよ。アンタは下がってくれ」

 

 とりあえず、首を横に倒して筋を伸ばしながら俺は拳を握る。

 

 こんなゴミカスーー、悟空が手を下すまでもない。そういう意味を込めて拳を握る俺だったがーー。

 

「…気ぃ使ってもらって悪りぃんだけどよ。ここは、オラがやる」

 

 淡々とした声。振り返れば瞳が鋭く細まり、甘さのあった顔は厳しい戦士のソレへと変じていた。

 

「オメエ達。今からでも、迷惑かけた人達に謝んなら許してやっぞ?」

 

 穏やかな声で文字どおり諭す口調の悟空をアイツらは嘲笑っている。

 

 ヤバい、悟空より俺がキレそうだ。更にフリーザやセルタイプの転生者が煽る。

 

「は?自分だって変身とか闘う度に街をぶっ壊してる癖に偉そうに説教すか?アンタがワクワクしてる度に、さっきの俺たち以上に多くの人が迷惑してるんですけど〜?謝ってんの見たことないよー?」

 

「怖いねー、戦闘民族サイヤ人は。あ、じゃあ俺たちにも言えんじゃね?どうせ殺されてもドラゴンボールで生き返れるって。な、悟空〜?てか、謝って許されんの?見殺しにしてごめんなさい〜って」

 

 笑いあう二人に、クリリン達の転生者も馬鹿騒ぎして笑ってる。まるで緊張感がない。

 

 これに悟空は苦笑する。

 

「…確かにな。地球に迷惑かけてるオラが言っても説得力ねぇか。けんどよ、今オメエ達がした事は間違いなく悪りいことだぞ?」

 

 悟空の言葉に転生者フリーザは笑う。

 

「悪いこと?当たり前だろ、俺は宇宙の帝王たるフリーザ様だぞ」

 

「すぉーして、ぅ私は〜セルゥだぁ〜」

 

 他の連中はニヤニヤと笑いながら構える。悟空は静かに瞳を閉じた後、怒りの表情に変わった。

 

「どうしようもねぇ、バカなヤツだ。痛い目に遭わなきゃ分かんねぇみてえだな!!」

 

「お、ようやくヤル気? 戦闘民族にしてはトロいね〜」

 

「オラ、無駄な戦いはしたくねぇ。オメエ等じゃ、オラの相手にゃなれねぇ」

 

 瞬間、クリリン、ヤムチャ、天津飯タイプの三人が悟空に襲いかかる。三方向からのラッシュ。

 

「うほー、速い速い! 身体が軽いし、パンチや蹴りが分裂して見えるよ!!」

 

「狼牙風風拳ーー!受けてみろ、あチョー!!」

 

「だだだぁっ! クリリン、ヤムチャ!弾幕薄いぞ、何やってんの!!」

 

 ふざけた連中だが、肉体や技はZ戦士そのもの。パンチや蹴りのキレが半端じゃない。

 

 にも関わらず、悟空はまったく危なげなく紙一重で三方向からのラッシュを躱していく。

 

「悟空ーー、アンタ」

 

 紙一重でラッシュを躱し続けていく悟空に、その意図に俺は何となく気付いた。かなりの手数を放つも当たらない事実に、転生者達の表情が険しくなる。

 

「ちくしょう、やっぱクリリンじゃ弱過ぎて当たらねぇ」

 

「ヤムチャは、所詮ヤムチャかーー」

 

「は?ーー21号のヤツ、悟空の力は波動で弱らせてんじゃねえのかよ?全然ゲームと違うじゃねぇか」

 

 不貞腐れた態度を取り始める連中ーー、ゲームで自分の思い通りに行かなくてイラついてるガキそのもの。

 

 ラチがあかないと思ったか、フリーザとセルの転生者が指先を悟空に向ける。

 

「やれやれ、役立たずですねぇ」

 

「仕方ない〜、所詮はカス共よ〜!」

 

 放たれるのは、貫通力が高く弾速が速い光線ーー。デスビームと呼ばれるフリーザとセルの使う技だ。

 

 悟空が背を向けた瞬間を狙って背後から放つ二人。

 

 すると、悟空は転生者クリリンの拳を右手で押し離し、天津飯の右上段回し蹴りに左の肘打ちを脚の付け根に放って反対に吹き飛ばし、ヤムチャの貫手を左脇に避けて投げる。

 

 ここまで刹那の拍子でやり抜け、デスビームにくるりと向き直ると左右に身体を揺らして見事にすり抜けた。

 

「なんだと?気を開放せずに俺たちの攻撃を躱した?」

 

 目を見開くフリーザとセルの転生者に、起き上がってくるクリリンの転生者達。

 

「まだ、続けっか?」

 

 相手になっていないのは、対峙してる奴等が一番分かるだろう。悟空は、ほとんど攻撃を繰り出さず、転生者の攻撃に合わせるという高度な武術で圧倒している。

 

「〜!! なんだよ、つまんねぇ! やってらんねぇ!!俺は一抜けた! こんなつまんねぇゲームねぇし、クソゲーじゃんかよ!!」

 

 突如、クリリンの転生者が騒ぎ出した。悟空の動きについていけなかったのが、気に入らないか。

 

「まったくだ。波動の中和装置があるから喧嘩売ったのに効き目ないとか、21号マジ無能だな!!」

 

 ヤムチャの転生者が騒ぎ、天津飯はフリーザ達に向かって叫んだ。

 

「もっとちゃんとフォローしろよ、役立たず。レイドクエストのボス相手ならーー!」

 

 瞬間、転生者天津飯の胸を赤い光ーーデスビームが撃ち抜いた。

 

「なーー!?」

 

 赤い瞳を見開いて、天津飯が仰向けに倒れた。あまりにもアッサリと、胸板を撃ち抜いた。あの、フリーザ野郎。

 

「……役立たず?自分の身の程を知れよ、雑魚のくせに」

 

 目を見開く俺をフリーザ野郎はバカにしたように見下ろしてくる。

 

「な、何考えてんだ、テメェ? よりによって、仲間を」

 

「は?仲間?顔も見たことねー、同じ日本人だってだけの赤の他人を仲間?笑かすなよ」

 

 なぁ、と転生者セルに目を向けて転生者フリーザは笑いかける。転生者セルも笑っていた。

 

「当たり前だろ。クエストクリアに役立たずのアバターで参加されても邪魔なだけだ」

 

 折戸も大概だが、こいつ等も大概クソだ。碌なヤツが居ねえのか、転生者の日本人!?

 

 俺が舌打ちしてる横で、悟空が必死の表情で転生者天津飯を抱き上げる。

 

「おい、オメエ! しっかりしろ!!」

 

 胸を貫かれて血を吐き、転生者天津飯は痛みに震えている。

 

「血、血が…、痛い、痛い。し、死にたくない、、、た、助けてーー!」

 

 涙を流している転生者天津飯の姿にフリーザ野郎は笑った。

 

「無様ぁ! ゲームじゃ中々味わえない、不細工で無様な顔だ!? あのヘタレ王子みてぇな顔面崩壊作画!!マジワロス!!」

 

 笑いまくるフリーザの姿をした野郎。ありえねぇ。自分で怪我させてんだぞ?撃ったんだぞ、それを。ありえねえだろ。頭イカれてんじゃねぇか?

 

 し、信じられねぇ…!

 

「大丈夫、急所は外れてる。良かったな、オメエ。本物のフリーザなら、一撃であの世だ」

 

 そう言いながら、悟空は気で転生者の胸に空いた穴を塞いでいく。

 

「…お優しいじゃないか、クズロットのくせに。あ、そうか。そいつを盾にして逃げんのか?たしかに肉の盾くらいしか使い道ないよな、地球人のクローン(アバター)は」

 

 震えているクリリンとヤムチャのクローン(転生者)たちに向かってヤツは言った。

 

「今、孫悟空を攻撃すれば勝てるぞ? 気を分けたことでヤツの戦闘力は下がっただろうからな…! 安心しろ、お前らが役に立たなくても、運が良ければ悟空が助けてくれるさ。自分の気を分け与えて戦闘力を大きく下げながらーー!」

 

 フリーザの姿をした下衆の言葉に頭がーー身体の中の芯が冷えていく。

 

 何もかも、冷えていく。頭は白く、視界は白黒にーー。

 

「紅朗。悪りいが、オメエは我慢してくれーー」

 

 悟空の声に目を向けると、彼の黒い目は怒りに燃えていた。

 

「オメエ達、こっちに来い!」

 

 同時に悟空はクリリンとヤムチャの転生者たちに声を上げる。彼らは狼狽えたようにこちらとフリーザ達を見比べていた。

 

「そっちに居ても利用されるだけだぞ! そんな奴らの為に戦うこたぁねぇ!!」

 

「良いのか? 俺たちに刃向かうと、殺すぞ」

 

 悟空の言葉に上乗せるように転生者フリーザが声を上げる。

 

 ビクっと怯えた顔で見上げる転生者クリリン達。実際に目の前で仲の良い感じで居た天津飯のヤツが殺されかけている。

 

 悟空のことを碌に知らない連中からしたら、命を大事にするのは予測できる。だからーー

 

「分かったよ、フリーザ。お前に付くよ」

 

「…お、おい。でも仮にうまく行かなかったら、俺たちが殺されるんだぞ」

 

「フリーザに歯向かってもクリリンやヤムチャの身体じゃ勝てないだろ。悟空なら、負けても殺されやしないよ」

 

 そう言いながら、こちらに構えてくる転生者クリリンにイラつく。気持ちは、分かる。頭では、理解できる。

 

 だが、イラつく。それは俺がクローン悟空の身体だからだと。

 

 クリリンやヤムチャの身体と違って刃向える力があるからだと、コイツ等はきっと言うのだろう。

 

 転生者クリリンと転生者ヤムチャのコンビは同時に技を繰り出した。

 

「気円斬!!」

 

「繰気弾!!」

 

 クリリンの代名詞とも言うべき薄い気の刃と、ヤムチャの代名詞である硬い気の球。

 

 全てを切り裂く刃と何に当たっても壊れない練度の球。

 

「先に俺から動く。クリリンは気円斬で動きの止まった悟空を狙ってくれ!」

 

「分かってるよ。ヤムチャこそ、繰気弾を当ててくれよ」

 

 言いながら、転生者ヤムチャが気弾を放ってくる。

 

 デスビーム程ではないが速く鋭く、キレのある追尾弾。

 

 悟空は危なげなく紙一重で、それを躱していく。

 

「無駄だ。その技は奇襲に使うもんだ。いきなり撃っても、当たりゃしねえ」

 

 それだけを告げると悟空は、左掌を繰気弾に向けて突き出す。目に見えない気弾が放たれ、繰気弾は爆発した。

 

「今だ、クリリン!」

 

「当たれぇえ!!」

 

 気円斬が放たれるも、目を見開いて気合いを込めて睨み付けただけで刃は爆発し、消え去った。

 

「な、なんだと?」

 

「バカなーー!」

 

 目を見開いて動きを止めた二人の前に悟空は、高速移動で踏み込んでいる。

 

「「!?」」

 

 目にも映らない速度で右拳を二つ。クリリンに腹、ヤムチャに顎をそれぞれ決め、簡単にダウンを奪う。

 

 一撃でうずくまって悟空の足下に倒れる二人。

 

「役立たずめ!!」

 

「まぁ。雑魚アバターなんだから、そんなもんだろ」

 

 指先から小さな紫の気弾を作り出す転生者フリーザ、転生者セルは両手の手首を上下に合わせて腰だめに青い光の球を生み出す。

 

「消え失せろ、孫悟空!!」

 

「さあ、死ぬがいい!!」

 

 デスボールと、かめはめ波。

 

 同時に悟空に向けて放たれている。下手に避ければブルマの家だけではない。都に被害が出る規模の威力だ。

 

「…ま、待って…!?」

 

「た、助けてくれぇえ!!」

 

 悟空は、足下に転がって怯えた顔で絶叫する二人の前に立つと気合いを入れた。今回の闘いではじめて白い気を纏ったのだ。

 

「かめはめーー波ぁああっ!!」

 

 そのまま間髪入れずに両手を組んで前方に突き出し、かめはめ波を放った。

 

 ほとんど気を溜めずに放たれたかめはめ波は、フリーザ達の放った光に大きさで負けている。

 

 3人の中央でぶつかり合う光。フリーザとセルの放つ光を悟空のかめはめ波が押し止めている。

 

「なんだと、黒髪状態で俺たちの技を止めた!?」

 

「どう言うことだ?フリーザとセルの身体なら、黒髪の悟空なんか軽く倒せるはずだろ?超サイヤ人でさえない雑魚なんかに手こずるって、この身体が欠陥品なのかよ」

 

「つまんねぇ。ゲームならゲームらしく、さっさと倒れろよ。孫悟空!!」

 

 更に強大に光が増幅されるも、悟空は涼しげに俺を振り返ってきた。あの目が語っている。ーー足下に転がってる二人を助けてやれ、と。

 

 悟空は、俺とコイツらが同じ世界の人間だって悟ってるようだ。そらそうか、ゲームだの漫画だのと前の世界の知識をひけらかしてるんだ。

 

 俺の傍らには悟空に助けられて傷は残ってないが、未だに痛みの記憶と死の恐怖に震えてる転生者天津飯がいる。

 

「…おい。テメェ」

 

「は、はいっ!」

 

 震え上がる転生者天津飯に、その姿で震えてんなと苛立つがーーそれよりも。

 

「アレは、テメェの仲間だよな?」

 

 悟空の足下に転がってる二人を顎で指して告げると、震えながらも転生者天津飯は頷く。

 

「一人、任せる。もう一人は俺が助けてやるから、ちゃんと連れて来い」

 

「え! な、なんで?? 悟空アバターなら、簡単に二人くらい連れて来れるよなーー!なんで、俺がそんな事しなけりゃいけないんだよ!!」

 

 思わず胸倉を掴んで拳を鼻先に叩きこんだ。

 

「…ぐぁ! ひ、ひでえ。なんで、俺がこんな目に。みんな、みんなやってるのに。俺だけーー!」

 

 鼻先から血が流れるのを見て、泣き始める転生者天津飯に俺の声は知らずと冷たく低くなっていた。

 

「なんでーー俺がテメェ等みたいなカスを助けなきゃならない?」

 

 俺の内側から声が聞こえる。殺しちまえってーー。

 

 こんなやつ等生かしておいて意味はないってーー。

 

 正直、ソレが出来たら苦労しない。吹っ切れて、折戸やフリーザやセルの体を使ってる奴らみたいになれたら。

 

 思考を停止できたら、きっとーー楽だろう。

 

 それでも、俺の目の先には憧れた人がいる。助けてやれと、その人は言ってる。身体で態度で、目で。

 

「テメェの仲間ぐらい、テメェで守れ。誰かに甘えてんじゃねぇよ」

 

「な、なんでだよ。俺は、ただゲームしてたら巻き込まれただけなんだよ。なんで、殺されそうにならなきゃいけないんだ? みんなだって、同じことーー!」

 

「テメェ。もっかい痛い目に遭いたいか?」

 

 自分でも信じられないくらいに冷たい声がした。俺の顔を見る転生者天津飯の顔を見るに、どうやら酷い顔をしているようだ。鬼のようなーー。

 

「痛いって分かったろ?コレはゲームじゃない。現実だ。お前がーーお前等が面白半分で壊した街や建物、傷付けた人は全て本物だ。自覚しろ」

 

 震えながら、転生者天津飯は言い訳をやめない。

 

「だってーー21号の言うとおりにしなけりゃ、元の世界に帰れないんだろ?俺だって被害者じゃないか!!なんで、俺だけ責められるんだよ!!」

 

「…そうか。自分が被害者だから、何しても構わないか」

 

「そうだよ。俺だってやりたくて、やってんじゃない。そうしないと元の世界に帰れないから、やってんだよ。俺は何も悪くない!なんで俺が悪いって言うんだ!!」

 

 居直りながら叫ぶ転生者天津飯に、ふと思う。時間の無駄だーーと。話しても、殴っても無駄なんだ、と。

 

「こんな奴に情けをかける必要なんか、ないだろに」

 

 腹立つし、ムカつくし、助けられて当然みたいな顔してるの見てるとーー。なんだか、心が黒く染まりそうだ。

 

 ああ、それでもーー。それでも。アンタは、孫悟空は言うだろう。あの目で、声で。

 

「…助けてやれ、か。俺だって、そんな強いわけじゃねーんだぜ。悟空よ〜」

 

 頭に浮かんで来たのは、誰にも気取られる事なく助けられる移動技ーー。瞬間移動ーー!

 

 額に人差し指と中指の二本を揃えて当てる。気を感じ、イメージしろ。孫悟空ならば、出来て当たり前だーー。

 

 瞬間、俺の身体は何処に引っ張られるように消え、感覚を取り戻した時には悟空の足下に転がってる転生者クリリン達の目の前に移動していた。

 

「紅朗、サンキューな」

 

「…礼なんか要らねぇよ。さっさと勝って、ブルマ達と合流しようぜ」

 

「ああ!」

 

 転生者クリリン達を捕まえて、転生者天津飯の所へ移動する。それを合図に悟空の目が見開かれた。

 

「…波ぁあああっ!!!」

 

 瞬間、悟空の放っていたかめはめ波が一気に倍以上にでかくなってーー転生者のフリーザとセルの光を、一瞬で吹き飛ばした。

 

「ーーえ!?」

 

「嘘ーー?」

 

 茫然とした表情で棒立ちになる二人の頭上を、強大なかめはめ波が通り過ぎていった。

 

「…アンタは、優しすぎるよ。悟空ーー!」

 

 そんな声を、俺は上げていた。

 




今回の悟空の決まり手は、復活のFで使用したバーストかめはめ波(ゼノバース2 命名)です(´ー`* ))))

次回も、お楽しみに(´ー`* ))))



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第7話 悟空、俺のワガママを聞いてくれ

今回の話で、紅朗は一つの決意をします。

お楽しみください




 転生者クリリンと転生者ヤムチャが、俺たちから離れた位置で転生者天津飯が茫然とした表情で「悟」のマークを逞しい背中につけた山吹色の道着を見ている。

 

 自分達は確実に死ぬような状況から救われたのだ。

 

 クズだと、ガイジだとバカにしていたーー孫悟空という男に。

 

「どういう、ことだ?波動による影響を何故受けていない?悟空の野郎、俺たちと同じ完成された中和装置を持っているのか?」

 

「いや、それならば俺らのように装置の範囲内にいる者は全て力を引き出せるはず。本物のクリリン達が意識を取り戻していないから、装置自体は完成されてないぞ。この装置は範囲内にある特殊キーを肉体に施されたクローン体の力を波動の上限を超えて最大迄引き出せるものーー。生身のはずの悟空には効かないはずだ…!」

 

 転生者フリーザとセルが、悟空を見つめながら頭をひねってる。波動を無効化させるために己の身体に眠る波動を活性化させているーーとは、説明されなきゃ分かるまい。

 

 原作知識がある俺でも、知らないんだから。

 

 狼狽えているフリーザ達に軽く溜息をつくと、俺は口を開いた。

 

「…折戸の野郎と同じ、あの施設に集められていた転生者だな?」

 

 俺の言葉に転生者フリーザが忌々しそうに悟空を見た後、俺を観察するように紅い瞳で見つめてくる。

 

「…折戸以外に悟空タイプのクローン体を持つヤツが居たとは知らなかったな。そうか、アンタが折戸にハメられたお人好しか。孫悟空の強さも意味わかんねーが、アンタも波動中和装置を持っていないのに、波動の影響を受けてないのか?」

 

 思わず俺は問いかけた。

 

「中和装置なんて無くても、クローンの身体なら自由に動けるんじゃなかったのか」

 

 事実、俺は折戸とも普通に超人的な動きで闘えたし、クローン悟空やトランクスとも戦った。

 

 中和装置なんて俺は貰ってない。

 

「…確かにクローンの身体には波動の影響下でも自由には動ける。だが全力というわけには行かないんだよ。という事は、お前は波動の影響下にあるクローン程度の力しか無いわけか」

 

「…! なんだって?」

 

「折戸のヤツは中和装置をもらったから超サイヤ人3に変身できるようになっていたが、アンタはできるのか?」

 

 超サイヤ人3だって?この身体は、本来なら超サイヤ人3まで力を引き出せるって言うのか?

 

 衝撃を受けている俺に転生者フリーザは軽薄な笑みを浮かべて来た。

 

「その様子だと知らないみたいだな。たかが超サイヤ人3程度の力で驚いてるようじゃ、神の力を引き出すなんて無理なんじゃね?」

 

「折戸のヤツは超サイヤ人ブルーになれなくて失望していたからなぁ」

 

 超サイヤ人ゴッド超サイヤ人ーーだっけか?

 

 よく分かんねぇが、悟空が赤だったり青だったりするアレの事だろう。フリーザが金色になるーーたぶん。

 

「悪いが、俺は漫画は原作。アニメはGTまでの中年なもんで。超サイヤ人3と言えば尻尾のないサイヤ人の最強の形態って印象なんだがな」

 

「ふぅん? 大分古いね。ジャコの設定も知らなさそうだ」

 

「………ジャコ?」

 

 なんだそりゃ?この俺が、原作に出て来たキャラを分からないって言うのか?最近のガキは俺よりもドラゴンボールに詳しいと!?

 

 悟空のカッコ良さを知らない連中に、俺がドラゴンボールの知識で負けているって言うのか!!?

 

 すげぇイラついてきた。前にブルマに言われたが、漫画だからってバカにしてないでちゃんと読んどけばよかったと今、痛感している。

 

「俺は古井三治(ふるい さんじ)。15歳、高1」

 

「俺は瀬留間信五(せるま しんご)。17歳、高2」

 

 転生者フリーザが古井、転生者セルが瀬留間だってーー!どんなトンチだ?シャレか?

 

「俺は…久住史朗(くすみ しろう)。35歳、会社員。この肉体には俺の名前は合わないから紅朗(クロウ)って悟空に呼んでもらってる」

 

 俺の名乗りに古井が笑っている。

 

「へぇ? ホントに転生オリ主みたいな状況だな」 

 

「ああ、二度目の人生はーーとか。中身はおっさんだけどーーってヤツか。きっしょww」 

 

 瀬留間も頷いているが、正直なんのこったかサッパリ分からん。

 

 ヤムチャへ高校生が転生する話なら読んだことがあるがーー。

 

 ドラゴンボールにそんな話があんのかよ。くっそ、俺も全ての二次創作を読んできたわけじゃないから、知識量で負けてるのはムカつく、いやそもそも。二次創作なんて公式に取り込まれることなんかないって甘く見ていた俺がまずいのか?

 

 事実は小説より奇なりーーってヤツかもしれん。

 

「…そんで、オメエ達。まだこんなバカな真似を続けんか?」

 

 悟空の問いかけに古井と瀬留間は互いの顔を見合わせた後、肩を竦めた。

 

「いや、止めとくよ。少なくとも、このイベント戦闘で悟空を倒すのは無理みたいだし」

 

「つまんねぇな。ま、そのうちイベント補正がなくなって倒せるようになんだろうけど」

 

 アトラクションとして、この世界を見ている連中だ。転生者の仲間を殺そうとしたのも、殺意なんぞなく純粋に目的達成の邪魔だったからってことか。本物のフリーザよりヤバそうだな。

 

「ゲームだのイベントだの、どいつもこいつも! マジで痛い目見ないと分かんねえよな、テメェらみたいなクソガキどもは!!」

 

 俺の感情に合わせるように、全身を金色のオーラが包む。

 

 悟空が止めてなきゃ、今すぐにでも殴っていただろう。

 

「社会人のくせにさぁ? そんなにポンポンと人を殴るんすか? アンタもゲームだから、他人を殴ってんじゃねぇの?」

 

「そうそ。僕ら未成年だしぃ。現実で殴ったら、アンタの方がヤバいんじゃないかなぁww」

 

 ニヤニヤとする二人組に俺も笑みを浮かべてやった。

 

「テメェら。初対面の歳上に現実で、そんな舐めた口利いてんのか? 随分と情けない大人を相手にしてきたんだなぁ。現実であってたら、マジで殴ってるぞ」

 

 それでトラブルになって仕事を辞めたこと、何度あったことか。2回転職して今のブラック企業に勤めてるのも、自分の短気な性格だって自覚はしてんだよ。

 

 ただね、言い訳をさせてもらうならーーだよ。

 

 警察に任せればいいとか。子どもなんか相手にしちゃいけないって、簡単に言う奴居るけどさ。じゃお前ら、言葉が通じない犬や猫のしつけは、どうやって教えてる訳ってなるのよ。

 

 他人の迷惑や気持ちを分かんねぇヤツに、いくら言葉で伝えても分かりやしない。最近じゃ、殴っても気持ちが分かんねぇガキも増えて来たけどな。

 

 自分が悪いことをしたって気持ちが一切ない。自分は真面目にやってるのに、何故そんなことを言われなきゃいけないって連中が増えて来た。教わってないことを言われても分からないーーとかな。

 

 こっちは、お前が分からないことが言われなきゃ分からないってんだよ。一から十までお前に教えてたら、こっちは自分の仕事ができないっつぅんだ! 仕事にはある程度流れってもんがあって、基本の対応がある。色んな職場を転々としてきたら、その経験が生きることも多数ある。

 

 まったく分からない事を教わった後は、自分でそれを完璧にできるようにする。そんなもんは、当たり前のことだ、一々何度も何度も、同じことを聞いたりするような真似を恥とも思わないようじゃ仕事は出来ん。

 

 そもそも最初から新人に難しい真似をやらせやしないってんだ。

 

 っと、仕事の愚痴になっちまったか。

 

「……え? アンタ、犯罪者かなんかなの?」

 

「やべえよ、コイツ。今、マジだったぜ」

 

 いきなり怯えだすガキどもに思わず口が引きつった。

 

「ほう? 日本で殴ることの方が、此処で人を殺すことより重たいわけか。つくづく、クソだな」

 

 拳を握って鳴らし始める。もう、ダメだ。抑えきれない。

 

「おいおい、紅朗! コイツ等、もう戦う気はねぇって言ってんだぞ?」

 

「悟空。悪いが、コイツ等をこのまま逃がすのは、無しだ。せめて一発殴らせろ!!」

 

「まま、落ち着けって」

 

 落ち着けーー?落ち着いてるよ、俺は。虫は潰さなきゃ。

 

「その代わり、アンタは手を出すな。アンタは勝てるだろうが、俺は負ける。それでも、手を出すな」

 

 ハッキリと告げてやる。悟空は目を真剣なものに変えた。知ってたんだろう、俺じゃコイツ等に勝てないって。

 

「ーー何があってもだ。俺のワガママで、アンタを巻き込む気はない。アンタは、ブルマ達と合流してくれ」

 

 此処で、コイツ等を逃がすなんてーー認めてたまるか!

 

 ブルマの想い、医者の人たちや此処に努めてる人たちの恐怖、クリリン達やチャオズの気持ち。それを分かりもしねえクソガキ共が!!

 

 もうよ、限界なんだよ。頭の中はキレてんだよ! とっくの昔にぃいい!!

 

「紅朗。オラが、そんなこと言われてブルマ達と一緒に行くと思うんか?」

 

 血の上った頭だけれど、冷静な声が耳に届いている。

 

「オメエの想いは分かった。止めねェけんど、最後まで見届けっぜ」

 

 そう言って、悟空は俺の前から退いたーー退いてくれた。

 

 ああ、そうだよ。この人は、こういう人だよ。知っていたよ。だからさーーそんな人をバカにされて、黙ってられる訳ねえだろうが!!!

 

「今度は、俺が相手だ。構えろ!」

 

 口元には笑みが張り付いているだろう。目は怒りに見開いているだろう。冷めた俺が、俺自身を認識している。

 

 勝てない?だから、どうした?やられる?だから、どうした?ここでーーコイツ等を殴らない理由になるか?悟空に任せて、スッキリするか?だから、これはワガママだ。そう、自分のワガママだ!!

 

 俺が纏う超サイヤ人のオーラに古井と瀬留間のビビっていた顔が明らかに侮ったものに変わる。

 

 コイツ等、気も読めるのか。

 

「なんだよ。偉そうに言うから、そっちの悟空と同じくらい強いのかと思ってたがーー」

 

「波動に制御されたクローンと同じくらいか。余裕で勝てるな」

 

 瀬留間が金色に青色のスパークが走ったオーラを纏う。古井も紫色のオーラを纏った。

 

 どっちも明らかに俺よりも力強い。

 

 さっきの悟空よりも遥かに弱いが、今の俺よりはずっと強い。

 

 そうだな、腕相撲で自分よりも明らかに強い相手と組むと重圧が分かるだろう。アレみたいな感じだ。まったく勝てる気がしない。

 

 まぁ、分かってたけどな。

 

「謝んなら今の内だぞ、オッサン。悟空クローンの身体でもマジで痛いと思うよ?」

 

「今の俺ら、アンタより遥かに強いからww」

 

 心は奴らを殴りたい。身体は奴らを殴るために準備している。

 

 なら、後は簡単だ。悟空の存在さえも意識の外にやる。

 

 左手が俺の顔の横に、右拳が俺の腰に置かれて中腰に構えている。

 

「テメェら、絶対泣かしてやらぁあああ!!」

 

 俺の身体は、フリーザとセルのクローンの身体を持った連中にカタパルトから射出されたロケットのように突進していった。

 

 

 




次回もお楽しみに( *´艸`)


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第8話 悟空、今回は俺の視点じゃないらしい

今回は転生者天津飯の彼に語っていただきましょう。

いわゆる別視点。

楽しんでください( *´艸`)


 俺の名は、天津武(あまつ たけし)。13歳。今年で中学2年生になる。

 

 ドラゴンボールは小学生くらいの頃に懐かしのアニメフェアとかのランキングであったから知っていた。でも、実際に触れたのはニコニコ動画でランキングにあったから。

 

 ブロリーというサイヤ人に馬鹿なことを言ってはボコボコにされる孫悟空やベジータが面白くて見ていた。

 

 そこからドラゴンボールを調べていったら、ネットに孫悟空はクズだって記事がいっぱいあった。その印象から入ったドラゴンボールは、確かにって感じがした。

 

 悟空のクズみたいな発言、いっぱいあるんだ。

 

 所々で、こんな事を言うなんておかしいって批判されていた記事の画像があって、それを見たらやっぱり悟空はクズなんだとしか思わない。

 

 人造人間やセル、魔人ブウの頃の画像は秀逸だよ。これこそ、悟空というキャラクターだと思う。

 

 偉そうに諭したり、カッコつけて現れてるけど、中身は単なるガイジだ。そんなガイジがMADではボコボコにされてる。すっごい面白い。

 

 だって、サイヤ人編のベジータなんか明らかにクズなのに勿体ないからって見逃してやったり、自分の子どもの首を折ったリクームを見逃そうとしたり、フリーザの時なんか偉そうに説教垂れて挑発しまくって自分から背を向けたくせに背後から攻撃されて馬鹿な奴だ呼ばわりーー。

 

 神さまとか王様にもため口だし、老界王神にはいきなり攻撃を仕掛けてる。やっぱ、コイツはクズだと思った。

 

 でも、絵は綺麗だ。特に初期のブルマやピラフ一味のマイ。ランチや大人になったチチなんかは美人だと思う。

 

 人造人間18号なんか、どうしてクリリンみたいなチビで禿げで弱っちい雑魚に嫁にやるのかと思った。

 

 超サイヤ人はカッコイイし、こんな馬鹿みたいな悟空が主役じゃなくて俺だったらもっと格好いいのになぁって思ってた。

 

 だから最近のゲームを買ったし、ブロMADを一緒に話したりする栗林六男(くりばやし りくお)と飲伏七乙(いぶし なおと)という同級生の友達二人と三人でドラゴンボールファイターズを始めたんだ。

 

 そしたら、目の前に見たことのない世界が広がっていてーー俺の身体は地球人の三つ目禿げの天津飯って雑魚になっていた。

 

 こんなんネタキャラじゃんと思ってたら、他の二人もクリリン(禿げ)とヤムチャ(かませ犬)って見事なネタトリオの完成。

 

 でも岩を簡単に持ち上げられたり、離れた木を気弾でふっ飛ばしたときは痛快だった。

 

 これマジで最強じゃんって浮かれた。

 

 そんな俺たちの下に、人造人間16号が現れた。俺たちは訳も分からず、今回のゲームで初登場した人造人間21号の研究施設に案内され、悟空タイプのクローンに転生した折戸さんと出会った。

 

 折戸さんは大学生らしいけれど、すごい話しやすくて優しい人だった。

 

「折戸さん、空を飛ぶにはどうしたらいいですか?」

 

「足下から気を放出して浮くイメージをしたら、足は地面から浮くだろ? 後は全身にその力を鎧のように纏わせると飛べるよ」

 

「折戸さん、ナッパのクンッのイメージを教えてください」

 

「指先に気を集中して、目線を爆発の中心に向けておく。そんで砂場で指を掘り起こす感覚と、爆発の規模をイメージすればできるよ」

 

 この人は、何でも知っている。

 

 この世界についても、気功波の撃ち方や鍛え方についても。人造人間21号の企みまで全て。

 

 不安だったけど、この人はこんな状況をクリアする方法が分かるって言う。そのために21号の言うことを聞けばいいって。

 

 21号の言うことは簡単だった。自分の好き放題に物や街を破壊して回ればよいってだけ。

 

 街を破壊することが、こんなに楽しいなんて思わなかった。誰も俺たちに抵抗できない。警察も軍隊も、何にも相手にならない。

 

 俺たちは古井と瀬留間という年上の人たちと一緒に行動していた。

 

「ただ街を破壊するのも飽きて来たから、俺フリーザを演るよ!」

 

「ロールプレイングゲームだな。ぬぅあらばぁ、うぁわたぁしぃはぁ、セルゥウウウだぁああ」

 

 物真似を披露してくれる二人に俺も楽しくなって天津飯の一発芸で勝負した。

 

「排球拳、行くわよぉ!!」

 

 気功砲なんかで簡単に街が消し飛んでいく。この破壊の感覚、楽しい。やめらんない!!

 

 俺たちは転生者のグループの中でも数多くの街を破壊した。その功績だって古井さんが、手首に21号からもらった腕輪を嵌めていた。

 

 地球を覆う波動の中和装置らしい。これがあると、自分達の能力は波動の上限を超えて出せるようになるって。

 

「力を解放できるのは、腕輪にデータを打ち込んだ奴だけな。取り敢えず、10名まではOKみたいだし。メンバーを入れ替えるときもデータを消したりできるみたいだ」

 

「へぇ? これで俺たちもーーいや、ぅわたぁしぃ達ぃもぉ、真のセルぅううとフリィイザァアになれるぅとぉ言うぅうわぁけだぁああ!!」

 

 喜ぶ俺達の下に、21号から更にお願いが言われた。

 

「その力で、邪魔者を排除してきてほしいの。確か、カプセルコーポレーションのブルマというんだけれど、お願いできる? たしか、そこにはオリジナルのクリリンとヤムチャ、天津飯が居ると思うけれど。死体さえ持ってきてくれたら、その三人に成り代わっても良いわよ」

 

 俺たちは一もニもなく頷いた。

 

「天津飯に成り代わってなんでも好き放題できるんだ、こんなに嬉しいことはない」

 

「それ、俺の中の人のセリフだろ!」

 

「海賊ーーいや、ハーレム王に! 俺はなる!!」

 

 俺たちは、いつもどおり完璧に任務を果たせるはずだった。とんでもない強さの孫悟空と久住史郎って中年が悟空クローンの身体に入った転生者のコンビに出会うまでは。

 

 中和装置でパワーが上がったはずの俺たちが、五人がかりで何もできなかった。

 

 しかも悟空は完全に舐めプだ。超サイヤ人にすらなってない。それで、オリジナルの能力を出せるようになった俺たちがボコボコにやられるなんてありえないだろ?

 

「〜!! なんだよ、つまんねぇ! やってらんねぇ!!俺は一抜けた! こんなつまんねぇゲームねぇし、クソゲーじゃんかよ!!」

 

 栗林が叫んでるが、全く同感だ。 

 

「まったくだ。波動の中和装置があるから喧嘩売ったのに効き目ないとか、21号マジ無能だな!!」

 

 飲伏の言うこともホントにその通りだ。

 

 だけどさ黒髪の悟空なんて地球人アバターの俺たちはともかく、セルとフリーザの力を持ってる二人が通じないなんて。二人が手を抜いてるとしか思えない。

 

 だから、俺は言ったんだ。

 

「もっとちゃんとフォローしろよ、役立たず。レイドクエストのボス相手ならーー!」

 

 21号は嘘を言ってなかった。答えは、俺の躰ではっきりした。古井のデスビームがアッサリと俺の胸を貫いたからだ。

 

 今までの戦闘では俺たちは同じくらいの力しか出せなかった。だから不意打ちを食らっても反応できたし、当たっても痛みを感じはするけど致命傷にはならなかった。

 

 なのに、今の一撃は心臓を外れていたから即死を免れただけで、めちゃくちゃ痛い。

 

 全身から力が抜けていって、身体が動かなくなっていく。寒くて、撃たれたところだけ熱くて痛くて、なんだよこれ?意識が遠のいていく。思考も何もかも、ただーー思ったのは死にたくないって気持ちだけ。

 

 死ぬって感覚が、こんなにも身近に感じるなんてあり得ねぇって思った。

 

 でも、俺を抱きかかえてくれたのは、友達の栗林でも飲伏でもなかった。俺が馬鹿にしていたガイジーー孫悟空が俺の顔を必死の形相で見て叫んでる。

 

 悟空が俺の胸に手をかざして、温かい光が全身を包み込むと、痛みが消えて動けるようになった。

 

 見れば胸に空いた穴が塞がってる。

 

 助け、られた?なんで?

 

 俺が呆然としてると、目の前で古井と瀬留間が足下に転がってる栗林達ごと悟空を攻撃していた。悟空は栗林と飲伏の前に立って、かめはめ波を放って古井と瀬留間の光を止めてる。

 

 俺の中の孫悟空は、もっと自分勝手で。足手まといになるような奴を身体をはって助けるようなことをする奴じゃない。

 

 最近までやってたドラゴンボール超の悟空がそれだ。

 

 ゴワスが逃げないで、此処に残らせてくれって言ったときベジータと一緒に邪魔者扱いしていた。戦うのに邪魔だって言いたかったんだろう。

 

 なのにーーどうして自分の戦いの邪魔になるようなヤツを助けようとしてるんだ?

 

 混乱してる俺の前に折戸さんと同じ見た目の悟空クローンが、声をかけてきた。

 

「おい、テメェ。アレはテメェの仲間だよな?一人、任せる。もう一人は俺が助けてやるから、ちゃんと連れて来い」

 

 俺の頭の中に、さっき虫けらみたいに殺されそうになった自分が思い浮かんだ。あり得ない。あんな力の前に出て行ったら殺されちまう。それに、コイツは悟空と同じ力を持ったクローンの身体だ。俺より強いだろ!

 

「な、なんで?? 悟空アバターなら、簡単に二人くらい連れて来れるよなーー!なんで、俺がそんな事しなけりゃいけないんだよ!!」

 

 瞬間に鼻を拳で殴られた。ひでぇ。さっきまで死にかけた人間に、もっかい死んで来いって言ったくせに。口答えしたら、脅してきやがった。

 

 助かったなんて甘かったーー。此処にいる奴ら、みんな俺の敵じゃないか!

 

「…ぐぁ! ひ、ひでえ。なんで、俺がこんな目に。みんな、みんなやってるのに。俺だけーー!」

 

 そうだよ。他のチームを組んでる奴らだって同じことしてるはずだ。

 

 なのに、なんで俺だけ、こんな目に遭わされなきゃいけないんだよ。

 

「なんでーー俺がテメェ等みたいなカスを助けなきゃならない?」

 

 その声は冷たくて、さっきの古井なんかよりもよっぽど、殺してやるって気持ちが伝わって来た。

 

 目が普通じゃない。

 

 本気で俺を殺そうとしてる目だーー。

 

「テメェの仲間ぐらい、テメェで守れ。誰かにあまえてんじゃねえよ」

 

「な、なんでだよ。俺は、ただゲームしてたら巻き込まれただけなんだよ。なんで、殺されそうにならなきゃいけないんだ? みんなだって、同じことーー!」

 

 ここで言い訳しないと殺される。

 

 なんとかして、言い逃れしないと殺される。そう思って口にしたのに、コイツは更に殺意を込めて冷たく感情のこもらない声で言って来た。

 

「テメェ。もっかい痛い目に遭いたいか?痛いって分かったろ?コレはゲームじゃない。現実だ。お前がーーお前等が面白半分で壊した街や建物、傷付けた人は全て本物だ。自覚しろ」

 

 なんでだよ。なんで、俺が責められてるんだよ? 俺は何も悪くないだろ?

 

 21号に言われて、やってるだけじゃないか!

 

 21号に従わなければ、元の世界に還れないから!

 

「だってーー21号の言うとおりにしなけりゃ、元の世界に帰れないんだろ?俺だって被害者じゃないか!!なんで、俺だけ責められるんだよ!!」

 

「…そうか。自分が被害者だから、何しても構わないか」 

 

「そうだよ。俺だってやりたくて、やってんじゃない。そうしないと元の世界に帰れないから、やってんだよ。俺は何も悪くない!なんで俺が悪いって言うんだ!!」

 

 分かってくれた。通じたんだ、俺の想い。

 

 そんな俺の想いを踏みにじる様に、殺意以外の何の感情もこもらない目でアイツは言った。

 

「こんな奴に情けをかける必要なんか、ないだろに」

 

 殴られるーー殺される。

 

 助けて、誰か。誰かーー悟空!

 

 さっき、自分を助けてくれた悟空にいつの間にか、俺は目をやっていた。

 

 その俺の目を追うように、目の前の悟空クローンも悟空を見ていた。

 

「…助けてやれ、か。俺だって、そんな強いわけじゃねーんだぜ。悟空よ〜」

 

 それだけを言うと、額に指を当てて瞬間移動してみせた。次にアイツが現れたときは、栗林と飲伏が連れて来られてる。

 

 助かったーーと思った瞬間、悟空の声が聞こえた。

 

「波ぁああああっ!!!」

 

 悟空の放ったかめはめ波の青い光は、古井と瀬留間の放った光を一方的に消し飛ばして奴らの頭上を通って青空を撃ち抜いた。

 

 あまりの力の奔流に思わず目を見開く俺達三人の前で、悟空クローンが険しい顔で言ってた。

 

「アンタは、優しすぎるよ。悟空」

 

 その言葉で、古井と瀬留間の二人を悟空は助けたって分かった。

 

 なんでだ?MADのクズロットが悟空の本性だろ。ドラゴンボールで生き返れるって。

 

 混乱している俺の他にも二人、栗林と飲伏も同じことを思っていた。だけど、そんな俺たちの前で更に意味の分からないことを悟空クローンが言い出したんだ。

 

「今度は、俺が相手だ。構えろ」

 

 そう言って気を纏ったヤツの力は、俺たち地球人組よりもレベルが低い。さっきは殺されかけたショックでビビってたが、俺でも勝てる。

 

 とても超サイヤ人の気じゃない。

 

 俺よりも強い古井と瀬留間に勝てるわけないってハッキリと分かる。

 

「テメェら、絶対泣かしてやらぁあああ!!」

 

 そんな俺の思考を断ち切るように、悟空クローンの転生者ーー紅朗ってオッサンが吠えて突っ込み、古井の長い尻尾で簡単に脇へと弾かれて頭から岩の中に突っ込んでいた。

 




次回も、お楽しみに( *´艸`)


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第9話 悟空、こいつらは俺が殴る

お待たせしました。

第9話にあっては資料が無かったため、新しく書き直しております。

ご了承くださいませ(;´・ω・)


 フリーザもどき古井に正面から突っ込んだ瞬間に、左の頬に強烈な衝撃をくらい、俺の首は右に仰け反る。

 

 目に映ったのは蛇のように長く白い尾っぽ。

 

 コレに横っ面をはたかれ、頭から脇へふっ飛ばされたと認識したころには豪邸の庭に飾りとして取り付けられた岩があり、頭から叩き込まれた。

 

 その衝撃で岩がまるで積み木のように崩れていった。

 

 俺のもとの身体なら間違いなくトマトのように潰れて中身が飛散していたであろうが、頑強な孫悟空の身体とこの世界の法則で、岩だけが一方的に粉砕する。

 

 岩にぶつかった衝撃よりも横面をはたかれた衝撃の方がキツイとは思わなかった。

 

 なんなら、あの堅そうな岩はクッションになってくれたーーまである。

 

「ち、ちくしょう……」

 

 地面に手をついて立ち上がろうとすると、全身に強烈な痛みが襲ってくる。思わず歯を食いしばって耐えるが体の動きが鈍くなるのは否めない。

 

 先ほどまで焦っていたフリーザ(古井)とセルもどきーー瀬留間の顔に余裕と侮蔑の色が出ていた。

 

「…なんだ。そっちの悟空みたいに波動の影響がないのかと思ったが、そういう訳じゃないようだね」

 

「仮に影響がなかったとしても、超サイヤ人程度なら何とかなる。こっちは完全体のセルの身体だからな」

 

 言うと同時、二人の転生者が一気に俺目掛けて突っ込んできた。

 

 目には映らない。

 

 圧倒的なスピードで俺の左側面に簡単に立つと、セル(瀬留間)が歯を見せながら虫でも潰すように反応できていない俺を殴りつける。

 

「オラァァ!!」

 

「…グッ!」

 

 ボディに入った一撃で俺の足が地面から浮いて身体が宙に浮かぶと、右フックで体を横に寝かされ右腹に強烈な左ひざが叩き込まれ左拳で地面に叩きつけられる。

 

「ぐぅっ、……あぁ、ああああ……!!」

 

 潰れた虫みたいに叩きつけられた俺は、無様に呻くしか出来なかった。

 

 こんなに差が、あるのか?

 

 クローンとはいえーー孫悟空の身体でも、ここまで。

 

 なにが起こったかなんてまるで分らない。

 

「見えて」はいたが、反応なんてできやしない。 

 

 あまりにも理不尽な力の差だった。

 

「くそ、ったれ……が!!」

 

 立ち上がれ、記憶の中にある英雄が俺の前に居るんだ。

 

 誰よりも憧れた人が見ている前で無様を晒すんじゃねぇ。

 

 その気持ちとは裏腹に痛みは容赦なく俺の弱さをさらけ出す。

 

 心が折れろと頭の中で何かが騒ぐ。

 

 大人しく頭を下げ、許しを乞えばこの辛くて苦しいことから逃げられるんじゃないか、なんて下らない声がする。

 

 その声に負けそうになる自分をねじ伏せて立ち上がろうとする。

 

 体中が激痛に悲鳴を上げてやがる、だせぇな。喚くなよ。

 

 立ち上がって目の前の奴を見る。

 

 よくもまぁ、ここまでやってくれたよ……!

 

 痛みを誤魔化すのには、殺意だ。

 

 目の前の敵をぶち殺す、それ以外は考えない。

 

 それが一番、手っ取り早い。

 

「……!」

 

 セルもどきの顔が、不思議と俺がガキの頃にケンカして来たバカどもと被る。

 

 なんだ、大した事ねぇ。

 

 こういうツラは殴り慣れてる。

 

 そう思うと、不思議と痛みは消えて身体が動く。

 

 俺の全身に淡い金色のオーラが吹き上がり、動く。

 

 ならーーやれる。

 

 大地を蹴り、一気に距離を詰めて殴りかかる。

 

 正面と見せかけてーー背後に回って後頭部に拳を打ちおろす。

 

「へぇ。元気あるじゃん……!」

 

 ムカつく声を上げながら、セル(瀬留間)は振り返りもせずに左手を挙げて手の甲で虫を払う様に俺の拳をとめた。

 

 瞬間、横からフリーザ(古井)に後頭部を蹴りつけられて顔面から地面に叩きつけられた。

 

「おいおい、せっかくの遊びを止めんなよ」

 

「雑魚にかまってる暇ないんだよ。そこの悟空が動いたら僕らは負けるんだぞ」

 

「大丈夫だって、この悟空アバターをボコってれば悟空は動かない。だって戦闘しか頭にないクズだからな。このアバターが動かなくならないようにすればいいんだよ」

 

 強烈な痛みに脳が感覚を遮断して、意識が遠のいていく。

 

 ぼんやりとした頭と暗くなっていく目の前を認識しながら、意識する。

 

――勝てない。

 

――怖い。

 

――殺される。

 

 うめき声をあげる俺の中で震えが起こり始める。

 

 自分の吐いた黒い液体が俺の横たわる地面に広がっている。

 

 おい、やべえよ。

 

 俺、死ぬのか?

 

「あれ? 思ったよりあっけないね? 僕らにデカイ口叩いてたけど、そのザマなんかよぉ?」

 

「潰れたカエルみたいな声出してたなぁ? さっきまで偉そうなこと言ってたけど、まだなんか喋れんのぉ? ねぇ、おじさぁん??」

 

 フリーザ(古井)とセル(瀬留間)の声が聞こえてくる。

 

 何かを口にしようとして、吐き出したのは黒い液――血だった。

 

 クローンの身体だからか、血は黒なんだなってボンヤリと思う。

 

 ああ、俺って。

 

 弱いんだなぁーー。

 

――天津視点。

 

 何が起こったのかはまったく分からない。

 

 気が付いたら土煙が上がっていて、悟空アバターの人が倒れていた。

 

 その横顔を完全体セルのアバターのヤツが踏みつけている。

 

 そこからは一方的だった。

 

 立ち上がろうとするたびに殴られ蹴られ、サンドバックになってる。

 

 指先からの光弾で徹底的に痛めつけていく。

 

 その一方的な光景にふと、さっきまで自分がしていた行為を思い出し背中から冷や水を浴びせられたように感じた。

 

 俺、さっきまでコイツ等と同じことをしてたんだ。

 

 なんで。なんも疑問に思わなかった?

 

 なんで……!

 

 強烈な不安と恐怖に思わず誰か頼れる人を探そうとして山吹色の道着を着た背中に引き寄せられた。

 

「ご、悟空!! 助けないと。あの人……!」

 

「…ん? ああ、大丈夫。アイツはまだ、折れてねぇ。今、手を貸してみろ? オラ達も紅朗にぶっ殺されちまうぞ?」

 

 明るく笑って言うが、目は真剣そのものの悟空を見て、思わずそんなばかなって声が出かかった。

 

 だけど、振り返ってくれた悟空は俺の肩を抱き寄せると隣に立たせて悟空アバターの眼を見ろと言ってくる。

 

「あんな眼、してんだぞ? オラにゃ止めれねぇよ……!」

 

 その赤い目を見て俺も思わず声を飲み込んだ。

 

 とても殴られてる人間の眼じゃない。

 

 いじめられてる人間の眼じゃない。

 

 痛みで動けないって人間の眼じゃない。

 

 アレはーー人を殺しかねない目だ。

 

「な、なんで……!」

 

 あれだけボロボロにされて、どうしてあんな目をしていられる?

 

 分からない。僕には、分からない。

 

 そんなことを思っていると、俺の足元で呻き声が聞こえた。

 

「あ、あれ? 天津……?」

 

「俺達、どうなって……」

 

 気が付いた二人を見て、俺がホッとしたのもつかの間。

 

 あの悟空アバターの人――紅朗さんが、強烈な音とともに気の爆発で吹き飛ばされ人形のように地面に叩きつけられていた。

 

 その光景を見て、意識を取り戻した飲伏も栗林も声を失っている。

 

「あはは、あはははははは!! 人がゴミみたいに吹っ飛んだぜ!!」

 

「最高だよ、この体!! これさえあれば、どんな奴もぶち殺せる!!」

 

 吹き飛ばした当人であるセルとフリーザのアバターを使ってる奴らは、人とは思えない笑顔をしていた。

 

 ピクリとも動かない紅朗さんを見て、思わず俺が駆け寄ろうとした瞬間。

 

 悟空が左手を俺の胸の前に出して止める。

 

「なんでだよ、悟空!?」

 

「……」

 

 静かな悟空の表情を見て、俺は不思議と胸に感じていた怒りと不信感が消えて行く。

 

 同時に紅朗さんが立ち上がっているのが見えた。

 

「う、嘘だろ……!」

 

「なんで。立てるんだ……!」

 

 飲伏と栗林が呟く中で、俺は紅朗さんの口許を見た。

 

 その顏はーー。

 

 獲物に牙を剥く獣のようだったーー。

 

――古井視点

 

 このオッサン、しつこい。

 

 確かに死なれたり気絶でもされたら、本物の悟空が動くからほどほどに手加減はしてる。

 

 それでも、ここまで立ち上がってくるのは考えてなかった。

 

 もっと早くに命乞いでもしてもらって逃げる時間を稼いでもらうつもりでいたのに。

 

 わざと高笑いして余裕があることをアピールしても、まるっきり無視して笑い返してきやがる。

 

 なんだコイツ。

 

 不気味だった。

 

 喧嘩なんかしたことなかったから分からなかったけど、この体と向こうとの力の差は今までの戦いで歴然としてる。

 

 痛みを感じないわけがない、だってそれなら天津飯アバターの天津だったか、あいつがビビるわけがない。

 

「自分が殺されないとでも思ってやがんのか? このやろう」

 

 ナメられている、間違いなく。

 

 そう感じる程に、このオッサンの笑顔はむかつく。

 

 まるで自分が狩る側だと言わんばかりの笑顔は、身の程を知らなすぎる。

 

「むかつくなぁ。お前ぇええ!!!」

 

 僕がイライラとしていると、横から声が上がった。

 

 セル(瀬留間)が気を纏って前に突っ込んでいた。

 

「あ……!」

 

 殺しかねない、その勢いに思わず僕の手が伸びる。

 

 べつに、このオッサンが死のうが知ったことじゃない。

 

 だが、コイツが死んだら悟空が動く。

 

 そうなったらーー!!

 

 そんな僕の心の声が届くわけもなく。

 

 セル(瀬留間)が千鳥足で立っている悟空アバターを殴りつけようと拳を振りかぶって放った。

 

 乾いた音が辺りに響いて、衝撃で大地と空気が揺れる中、もう一人の悟空タイプのクローンがセル(瀬留間)の拳を片手で止めていた。

 

「なんだ? なんでクローンがオッサンを庇っている?」

 

 ゲーム中でもクローンは人造人間21号の簡単な命令には従っていたが、庇うような描写はなかった。

 

 クローンにそんな自我はないはずなのに、何故だ?

 

 瀬留間の拳と蹴りを紙一重で見切り、的確に自分の拳と蹴りを叩き込んでいくクローン悟空。

 

 あの格闘センスは、本物と同じくらいかも知れない。

 

 もっとも、スピードもパワーも瀬留間の相手じゃないけどね。

 

「なんだ。お前? クローン人形如きが、俺の邪魔をするなぁああ!!」

 

 強烈な赤黒い気を纏い、セル(瀬留間)が叫び声を上げながら殴りかかる。

 

 クローン悟空も淡い金色の気を纏って高速移動で姿を消して空中でぶつかり合う。

 

 拳と蹴りを交換しながら移動する二つの影は、強烈な炸裂音と共にクローン悟空だけが地面にむかって叩き落とされる。

 

 千鳥足で立つオッサンの脇に叩き落されたクローン悟空は、両手と両足を地面に叩きつけるようにして着地した。

 

「生意気なんだよ、人形が! そこのオッサン諸共、消し飛びな!!」

 

 そこへセル(瀬留間)の左手が開いて掌を相手にかざすと赤黒い気弾を3発、放たれる。

 

「西の都が消し飛ぶぞ、瀬留間!!!」

 

 僕の声は強烈な爆発と光の前にかき消されて、飲み込まれる。

 

 終わったーー。

 

 せっかくのカプセルコーポレーションの便利なアイテムが、全て消し飛ぶ。

 

 そう思っていた時、強烈な黄金の炎が爆発と光を引き裂いて立ち昇りーー衝撃波などの全てを飲み込んで行った。

 

 そこに立っていたのは、クローン悟空を庇って前に立っている悟空アバターの転生者。

 

「な、なんだ……!? 超サイヤ人なのか……!?」

 

 さっきまでの金色のオーラとは明らかに別種の黄金。

 

 超サイヤ人3のような激しくて濃い炎のようなオーラに髪の色。

 

 クローン戦士の肌とは明らかに違う超サイヤ人そのものの透き通るような肌色。

 

 黒い瞳孔が開いた翡翠眼。

 

 その感情の全てが消え去ったかのような冷たい表情は、しかし見ただけで分かる。

 

 これはーー触っちゃいけないものだ。

 

 絶対に、触れちゃいけないものだ。

 

 逃、げ、ろーー!!

 

 この時、僕は自分が散々おもちゃにしていたオッサンを相手にハッキリと恐怖していた。

 

――天津視点

 

 そのものは、千年に1人現れる。

 

 そのものは、純粋。

 

 そのものは、破壊と殺戮を好む。

 

 穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚める伝説の戦士。

 

 そんな声ならない声が聞こえてくるほどに、問答無用の説得力がある。

 

 今の紅朗さんの姿こそが、本物の超サイヤ人なんだって。

 

「紅朗……! オメエ、真に至るほどのモノを持ってやがったんか……!」

 

 悟空の声は、どこか震えているように聞こえた。

 

「孫くん!!」

 

 声にふり返れば、赤いスカーフを巻いた青い髪の綺麗な女の人がこっちに駆け寄ってくる。

 

 ブルマだ。

 

「ブルマか、無事だったみてぇだな」

 

「うん、紅朗が付けてくれたクローン孫くんのおかげよ。でも、あれって……」

 

 ブルマの眼は、黄金の炎を身に纏い表情を完全に消した紅朗さんを見ている。

 

 悟空もセル(瀬留間)やフリーザ(古井)を見ていない。

 

 今の紅朗さんは、それほど怖かった。

 

ーーーー

 

 クローン悟空が構えを取るのを制し、黄金の炎を纏う真の超サイヤ人はゆっくりと左手を顔の横に右拳を腰に置いて両膝を曲げて中腰につま先立ちになって構えを取る。

 

 見つめる先に居るのはセル(瀬留間)だった。

 

 冷徹な眼は、そのままに口許が鋭い牙を剥きだすかのような笑みを浮かべている。

 

「ああ、なんだよ? そのツラァ!! 調子に乗るなぁあああああ!!!」

 

 赤黒い気を纏うセル(瀬留間)は大地を蹴ると高速移動で姿を消し、超サイヤ人の目の前に現れると拳を繰り出す。

 

 それを超サイヤ人は鼻先がわざわざ触れるようにギリギリで見切る。

 

 見切られたことが分かったセル(瀬留間)は、次々と拳と蹴りを繰り出すも全て紙一重で見切られていく。

 

(なんだ? スピードとパワーが上がっただけじゃない。動きがーーさっきの孫悟空そのものだ!!)

 

 フリーザ(古井)の驚きを察することはなく、セル(瀬留間)は怒りのままに攻撃を繰り出す。

 

 より速くより手数を繰り出そうとして放ち続ける。

 

 ただしーー頭に血が上った拳と蹴りは全く同じタイミングと軌道で繰り出され続けるだけだった。

 

 そんなものがーー伝説の戦士と言われた超サイヤ人に通じるわけもない。

 

「シィネェエエエエ!!」

 

 連打の中の一つを選び、相手の左拳をギリギリで右に避けると超サイヤ人は右脚でセル(瀬留間)の顎を蹴り上げる。

 

「ゴフゥッ!?」

 

 天高く吹き飛ぶセル(瀬留間)の更に上空に超サイヤ人は現れるとメキメキィと音を立てながら拳を握って両手を頭上で組む。

 

「――はぁああああ、ウォラァ!!」

 

 そのまま背中に向けて叩きつけ、ものすごい勢いで跳び上がっていたセル(瀬留間)の身体が地面に向けて叩き込まれる。

 

「「「うわぁッ」」」

 

 天津達やブルマ、フリーザ(古井)が思わず顔を庇うほどに衝撃。

 

 その勢いは巨大なクレーターを生み出すほどに強烈な一撃だった。

 

 土煙が晴れた時、白目を剥いてピクピクッと痙攣して倒れているセル(瀬留間)を黄金の炎を全身に纏う超サイヤ人が仁王立ちして見下ろしている。

 

「な、なんだと……!? なんだ、このバカげた力は!?」

 

 震え上がるフリーザ(古井)に超サイヤ人は、ゆっくりと顔を向ける。

 

「う、うわぁあああああ!!」

 

 その冷徹な殺気に満ち々ちた黒の瞳孔が浮かんだ翡翠眼を見た瞬間、フリーザ(古井)は身を反転させて一気に空中へ飛んで撤退を選んだ。

 

(冗談じゃない! まだこの肉体を使いこなせてないのに、あんな化け物とやり合えるか!! 僕はまだ、死にたくない!!!)

 

 だがーー青い空の中を滑空していると目の前に黄金の炎を纏った戦士がこちらをジッと見て止まっている。

 

「う、うぉ!?」

 

 逃がすつもりがないことをハッキリと理解できるように両腕を組み、ニヤリと笑っている。

 

「…約束したよな? 絶対にお前らをブン殴るって」

 

 そう告げる。

 

 冷たい瞳と口調で。

 

 相反する激しい黄金の炎を燃やして気を一気に高めていく。

 

 まるで限界が無いかのように。

 

「ちぃいい! なら、これでどうだ!!」

 

 人差し指から細く殺傷力の高い紫色の光線を放つ。

 

――デスビーム。

 

 屈強なサイヤ人の王子ベジータの肉体を軽く貫くような一撃。

 

 無慈悲な一撃をしかし、超サイヤ人は身に纏う黄金の炎で全て受け止め、吸収してしまった。

 

「な、なんだって……!」

 

 目を見開くフリーザ(古井)に笑みを返すと、超サイヤ人は一気に距離を詰めて強烈な右拳をボディに叩き込む。

 

「グフゥッ」

 

 くの字に身体を折るフリーザ(古井)を見下ろすと強烈な右廻し蹴りを叩き込んで後方へ吹き飛ばす。

 

 そして両手の拳を腰に置いてーー

 

「はぁあああ、はぁ!!」

 

 気合一閃、更に気を上昇させると限界以上に上がったスピードで一気に吹き飛ばされているフリーザ(古井)との距離を詰めて拳と蹴りを叩きつけていく。

 

 鈍い音が鳴り響き続け瞬く間にぼろ雑巾にされていくフリーザ(古井)。

 

 気を失うことも倒れることさえ許されない。

 

 絶妙な力加減をされた連撃を叩き込まれながらフリーザ(古井)は恐怖に目を見開いて超サイヤ人を見据える。

 

 笑みを浮かべてこちらを血まみれにしていく超サイヤ人と言う名の鬼を。

 

 一際、強烈な一撃で地面に叩きつけられるフリーザ(古井)。

 

 その目の前に着地する超サイヤ人は、ゆっくりと前に歩んで距離をつめていく。

 

「ば、化け物……!」

 

 震え上がるフリーザ(古井)の脇に白目を剥いて倒れていたセル(瀬留間)が立つ。

 

「せ、瀬留間さん?」

 

 白目を剥いたままのセル(瀬留間)はしかし赤黒い邪悪なオーラを身に纏うとフリーザ(古井)を掴むと己の赤黒いオーラを流し込んだ。

 

「う、ウギャァアアアアア!!」

 

 悲鳴のような雄叫びを上げながら一気に気を高めるフリーザ(古井)だが、その両の眼にあった理性の光は消えて行き白目を剥いている。

 

 その異様な光景に孫悟空は静かに黒目を鋭く細めた。

 

「アレはーーたしかカンバーとか言ってたサイヤ人の気。どうなってんだ?」

 

 静かに呟く悟空を置いて、セル(瀬留間)とフリーザ(古井)の二つのオーラが一つになり強大な気を纏う。

 

 それを超サイヤ人が静かに眺めていると、両手首を上下に合わせて掌を相手に向けた後に右腰に置いて腰をひねりながら気を高めていく。

 

 超サイヤ人の両手の中には一つの青い光の塊が出来上がっていた。

 

 転生者二人は両手を前に突き出し、赤黒い光の弾を作り上げると前方の超サイヤ人に向けて放った。

 

 これに対し、超サイヤ人は練り上げた光の塊を前方に向けて両手を突き出した。

 

「かぁ…、めぇ…、はぁ…、めぇ…! 波ぁああああああっ!!!」

 

 全てを飲み込む青い光の奔流と赤黒い巨大な光球がぶつかり合う。

 

 互いに向けて押し合う。

 

 しかしーー超サイヤ人は、一瞬だけニヤリと笑みを浮かべると身に纏う黄金の炎を更に燃やした。

 

 それだけで放った青白い光線が二回りほど太さを増していく。

 

「「ぎぃぎぎぎぎぃ……!」」

 

 一気に押し返されていく赤黒い光球に必死に力を流す二人の転生者。

 

 理性を失おうともここで負ければ己の命が無いことを理解しているのか、必死に気を高めていく。

 

 粘る、粘る、粘る。

 

 だがーー。

 

 その健闘はむなしく、無慈悲に超サイヤ人の光は二人を飲み込んで行ったーー。

 

 そのまま世界を打ち貫く蒼い光は、大気圏を抜けて宇宙の闇に吸い込まれるように消えて行った。

 

 全てが終わった時、黄金の炎を纏った超戦士は全身に纏ったオーラを散らすと仰向けに倒れたーー。

 




次回もお楽しみに!(^^)!


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第10話 悟空、破壊神様ってワガママだね

と、言うわけで最新話です(´ー`* ))))

楽しんでください(´ー`* ))))


 

 気が付いたら、俺はボロボロの身体で同じくらいボロボロになったクローン悟空と顔を見合わせていた。

 

 クローン悟空は光を胸元から放ち出すと、緑の光の球になって俺の右手の球に吸い込まれ、消える。

 

 それを見て、俺は周りを見渡した。

 

 ん? クローンフリーザとクローンセルーー古井と瀬留間ってガキどもは何処へ行った?

 

 周囲は激闘が繰り広げられていたのだろう、カプセルコーポレーションの整地された地面が掘り起こされ荒れている。

 

「お?変身が解けたみてえだな」

 

 悟空の声にそちらを向くと、クリリン達と16号、ブルマに加えて、おっかなびっくりって感じでクローン天津飯達の身体を持ったガキ共に見られてる。

 

「へぇ?不思議だわ。今は普通にクローンの孫君と見た目がまったく同じだけど。さっきのアンタは本物の孫君ーー孫悟空そのものだったわね」

 

 彼らに続いてブルマからも興味深そうに覗き見られた。

 

 クリリン、ヤムチャ、天津飯という本物のZ戦士達も俺をジッと覗いてくる。

 

「紅朗ーーって言うんだよな。悟空や俺たちを助けてくれて、ありがとな」

 

「最初に見た時は驚いたぜ! まさか、別の世界の人間が悟空のクローンの身体を使ってるなんてな!」

 

「紅朗、お前に聞きたいことがある。何故、異世界に居たお前が、俺たちの世界に?しかも、レッドリボン軍の作った悟空のクローンに入っているんだ?」

 

 クリリンとヤムチャに恐縮しながら礼を返した後、真面目な顔で問いかけてくる天津飯に顔を向けた。

 

「いや、それがーー。そこの16号の話ではリンクシステムとかいう他人の肉体に精神を憑依させる機械が、クローン達の身体に俺たちの精神を入れてるって説明なんだけど」

 

「なら今回の黒幕は、異世界の人間であるお前たちの精神をどうやって手に入れたのだろう?そもそも、この世界の住人ではなく異世界の人間の精神を使ったのは何故だ?」

 

 思わず、俺は16号を見る。そもそも次元だか世界の壁を越えて干渉するようなシステムってなんだよ?

 

 俺の疑問に応えるように16号が話し始めた。

 

「21号は、たしかに他人の肉体を別の人物の精神にリンクさせ、別の人物の精神に身体を乗っ取らせるリンクシステムと、戦闘力を一定にさせるマイナスエネルギーの波動を開発した。だが、その効力は決して次元の壁を越えるようなものではなかった」

 

「異世界人の精神がクローン戦士の肉体に宿ったのは想定外って言ってたもんな」

 

 ふむふむと頷く俺の前に、光の帯が天から落ちてきた。

 

 え、何だ?これは?驚く俺と対照的に、ブルマやクリリン達は小首を傾げる程度のリアクションだ。

 

 この現象に慣れてる?

 

 天から降りて来た光の帯は、ゆっくりと消えて長身の中性的な顔立ちの水色の肌の男性と。

 

 紫色の兎のように長い耳と細い瞳の痩せた猫のような顔をした人物が現れた。

 

 同じ猫でも、カリン様とは種類が違うようだ。

 

 つぅか、この猫ーー破壊神じゃね?その圧倒的な強さは映画で見た。や、ヤバすぎる。

 

 後ろの転生者天津飯達も、震えていた。そらそうだ。

 

 破壊神ビルスは、悟空でも勝てなかった尋常じゃない化け物だ。

 

 ビルスはジッと俺たちを眺めた後、悟空に詰め寄った。

 

「悟空!いつまで、かかってんだ!!お前の力なら、30分もあれば黒幕も何もかも、叩き潰せただろうが!!」

 

 細い目を見開いて怒りマークを額に付けた破壊神が悟空に叫んでる。

 

 これに悟空が両手を開いて驚いた顔をしながら応えた。

 

「いぃっ!? なんだよ、ビルス様。オラ、サボってなんかねぇぞ。皆ぁ、守りながら戦ってたら時間がかかっちまってよ。オマケに、この地球を覆ってる妙な波動のせいで超サイヤ人に変身すると、真の力まで出ちまうんだ。だからさぁーー!」

 

「好都合じゃない。真・超サイヤ人なら、こんな案件アッサリと片付けられるだろう。なんで手こずってる?まさか、街や人に被害が出るからーーなんて言うんじゃないだろうな?」

 

「そうだけんど?」

 

「あ、アホかぁ!!さっさと黒幕見つけて、真の力で叩き潰して来い!!こっちは今、大変なんだぞ!!」

 

 大迫力で怒鳴る破壊神に悪びれない悟空。流石は悟空だーー並の奴とは度胸が違う。

 

 大変ってーー、確か全王とか言う奴の前でベジータや悟飯達が試合中だって言ってたよな?

 

「大変ってーー。ベジータやピッコロや父ちゃん達がピンチになってんのか? そんなスゲー奴が、他の宇宙から出て来てんのかよ!?」

 

 悟空さ、嬉しそうに目を輝かせるのは辞めてください。今は、地球を救う事を優先的にーー。

 

「……ウン。ハンパジャナイヨーー」

 

 カタコトで目を逸らした!?明らかに嘘だろ!?

 

「ビルス様、子どもみたいな嘘を吐かないでください」

 

 あ、付き人っぽい人に止められた。

 

「う、嘘なんか吐いてないぞ!どいつもこいつも、真の力を使わずに闘いやがるから、ホントに苦戦してんだろが!オマケに他の宇宙の戦士は全員で第7宇宙を落としに来やがって!!アイツら、大人気ないにも程があるだろうが!!エキシビションの全覧試合(バトルロワイヤル)だって言ってんのにぃ!!!」

 

 吠えるビルスに付き人ーーウイスだったよな?がやれやれ、と首を横に振ってから告げる。

 

「それはビルス様が、ウチの宇宙の連中に勝てる奴なんぞ存在しない。もし負けたら土下座でもしてやるーーって大見栄を切ったからじゃありませんか」

 

「武道大会本番まで、手の内を隠すのは当たり前だろ!?誰がガチンコで来るなんて思うんだよ!!特に第10宇宙とか第6宇宙とか、第9宇宙とかな!!!」

 

「そもそも、皆さんーー特にバーダックさんやブロリーさんに言い含めてましたよね?真・超サイヤ人は本番の切り札だから見せるなって」

 

「ーーうるさい!とにかく、今の状態でも悟空が来れば勝てる!!分かってるだろ、ウイス!!」

 

 必死な感じの破壊神ビルスに、やれやれと肩をすくめてからウイスは悟空に向いた。

 

「ーーと、言うわけで。少しだけ力を貸してください。有力な戦士が一人入るだけで一気に戦局が変わる状態ですから」

 

 ウイスがにこやかに笑って告げて来るが、悟空とブルマが揃って首を横に振った。

 

「いや、つってもさ。こっちはこっちで大変なんだって!波動のせいでクリリン達も本来の力が出せねぇし。オラが居ねえとーー!」

 

「そうよ!ビルス様のワガママのせいで、ベジータやブロリー達を持って行かれてるのに!このうえ孫君まで連れて行かれたら、クリリン達しか残んないじゃない!!」

 

 反論する悟空とブルマを見た後、ビルスは俺をジッと見ていた。

 

「…其処に居るじゃない?悟空の代わりなら、ね」

 

 一瞬、何を言われてんのか理解できずに固まった。

 

「「「ええええ〜っ!!?」」」

 

 悟空以外の地球人達が全員口を揃えて俺とビルスを見比べる。

 

 そして、俺もようやく頭が働いてきた。

 

「あ、あの、ビルス様?俺が、悟空の代わり?」

 

 無理に決まってんだろ、何言ってんだ、この神様!?

 

「そんな驚く話でもないだろ? お前のその肉体は悟空のクローンなんだろ? 見た目だけでなく力もね。さっきも、真・超サイヤ人になってたようだしーーね」

 

 鋭く低い声で睨まれるように覗きこまれて言われるーーなんだ?めちゃくちゃ怖いんだけど?

 

「と、言っても。基礎能力は此処にいる本物と比べるまでもないほどに弱い。その肉体から波動の縛りを解いても、僕と出会った頃の悟空ーーくらいの力だろう」

 

 それでもーーとビルスは続けた。

 

「僕の見立てなら、それで充分に解決できるレベルだ。オマケに真・超サイヤ人になれる。なら、余裕だろう」

 

「ーーあ、あの。俺ーー!」

 

 さっきから真・超サイヤ人ってーー。16号に悟空が披露した超サイヤ人のことだよな?

 

 俺は確かに見た目は超サイヤ人悟空の擬きだけど、戦闘力は全然足りてないぞ。そんな俺が真・超サイヤ人って。

 

「どうやら、記憶と意識が変身すると飛ぶようですね。これでは、勝てるものも勝てないのでは?」

 

 淡々とした表情と声でウイスが言ってくる。なんだ?俺が真・超サイヤ人に変身したっていうのは事実なのか?

 

 古井や瀬留間をぶっ飛ばしたのは、俺?

 

「フン、仕方ない。いちいち、闘う度に制御出来ない真に変身されるのも面倒だ。何より、この僕が強敵と認めている超サイヤ人が、この程度の力しか出せないというのも我慢できないーー!!」

 

 な、なんだ?何が起ころうとしてるんだ?

 

 ゆっくりとビルスは拳を握り、俺に構えた。

 

「打ち込んで来なさいーー。少し君に稽古をつけてあげよう。こんな程度の敵を相手に、いちいち制御出来ない力を全開で出すようじゃ負けは見えてる。せめてーー」

 

 ビルスの人差し指から光弾が放たれ、反応も出来ずにいた俺の胸に吸い込まれていった。

 

 何かが弾ける乾いた音が胸の内からしてーー消えた。

 

 思わず胸を抑え、背中を触ったりするがーー特に、何処にも異常はない。

 

「波動の影響が無いように僕の破壊の力で切り捨ててやったが、どうだ?少し気を高めてみろ」

 

 言われて拳を握り、腹の底から力を入れて行くと一気に自分の中の力が引き出されて行く。

 

 スゲー、これが悟空のフルパワーか。

 

 だけど、ビルスは不愉快そうだった。

 

「ーーお前、超サイヤ人になれないのか?」

 

「えーー? えっと、今の俺の姿はーー」

 

 赤目で死人みたいな白い肌だけど、燻んだ金色の逆立った髪は超サイヤ人のはずなんだが。もしかして真・超サイヤ人のこと?

 

「僕が言ってるのは悟空やベジータや第6宇宙のサイヤ人がなる普通の超サイヤ人だ。今のお前の力は、超サイヤ人ゴッドを吸収する前の黒髪の悟空と変わらない。超サイヤ人なら復活前のフリーザを倒せるはずだろ?」

 

 そう、言われてもなぁ。超サイヤ人になるには激しい怒りが必要だったはずだし。

 

 っていうか、クローン悟空の見た目って超サイヤ人を形だけ真似ているから、なのか?

 

 それなら、この金色のオーラはいったい?

 

「…超サイヤ人になれない魂が、超サイヤ人の力を模した肉体に入っている。だが、超サイヤ人になる感覚が分からないから、その肉体の使い方が分からない、か」

 

 ジッと俺を見た後、ビルスは悟空を見た。

 

「超サイヤ人になる感覚、教えてやれないのか?」

 

「ん? そうだな。紅朗、ちょっと後ろ向け」

 

 悟空の言葉に従い背を向けると、延髄から肩甲骨の上辺りまでの背骨を触られる。

 

「此処に、全身の気を集めて溜めんだ。すると鳥肌が立つようなゾクゾクした感じがする。オメエは一回、真・超サイヤ人になってっから、身体が感覚を覚えてるはずだ。変身ーーしてみろ」

 

 悟空の真っ直ぐな黒い目を見て、なんとなく出来るような気がしてくる。

 

 瞳を閉じ、力を溜める。今度は腹に溜めるのでなく、背骨の首の部分から背中の辺り。

 

 すると、全身に流れてる血が沸騰しそうな程の熱を感じはじめる。髪の一つ一つ、指先に至るまで血がーー力が流れていく。

 

「頑張れーー! オメエなら、やれるはずだ!!」

 

 悟空の声をキッカケに、俺の身体は一気に内部に溜まった力を爆発した。

 

「おお!出来たぞ、アイツ!!」

 

「やるなぁ。さっきも思ってたが気のコントロールが完璧だ。これがリンクシステムなのか?」

 

「武道家でないというのに、素晴らしい才能だな。自分の身体でない悟空の肉体を、あそこまで使いこなせるとは」

 

 クリリン、ヤムチャ、天津飯の声を聞きながら、俺は自分の指先を見る。

 

 肌の色が、死人のような白から悟空達と同じ超サイヤ人のーー透き通るような綺麗な肌色に変わっている。

 

 目に見える金色のオーラも、さっきまでより心なしか明るい気がする。

 

「やるじゃない、紅朗! 成ってるわよ、超サイヤ人!」

 

 そう言って、ブルマが手鏡を目の前にかざし、俺に今の自分の姿を見せてくれた。

 

 明るい金色の髪に、ガラス玉のような翡翠の瞳を持った超サイヤ人孫悟空が鏡の中に居る。

 

「ほ、ホントだ。じゃ、クローンも超サイヤ人になれるのかな?」

 

 思わずブルマを守る際に自分が召喚したクローン悟空を思い浮かべる。アイツは波動の影響下にありながら、パーフェクトセルの肉体を持った瀬留間に肉弾戦で優位だった。

 

 もし、今の力が溢れている俺と同じ超サイヤ人なら、古井の不意打ちにも反応できたかもしれない。

 

「理屈じゃ成れると思うぞ?それにしてもーーこれでオメエ、最初にやりてぇって言ってた超サイヤ人になれたな。次からは、自分の意思でなれるはずだ」

 

「そかーー。うん、そうだよな。成れたんだ、超サイヤ人の悟空に」

 

 赤目もカッコいいけど、超サイヤ人といえば、この翡翠眼だよなぁ。なんて頷いていたら、破壊神ビルスが前に立っている。

 

「おいおい、何を呆けてるんだい?僕は君に打ち込んで来いって言ったよね?」

 

 俺の中で、何かが終わった気がしたーー。

 

 




次回、紅朗氏ーー死す!デュエル、スタンバイ!Σ(゚д゚lll)(嘘)

お楽しみに(´ー`* ))))



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第11話 悟空、頼む! 行かないで~!!

さぁ、本話が紅朗くんの厄日の始まりです。

みなさん、紅朗くんを応援してあげてください(>_<)


 拝啓、日本に居る父さん。母さん。

 

 私は今、ドラゴンボールという異世界で孫悟空という人間のクローン体になって破壊神とかいう偉い神様に殴られています。

 

 ええ、そりゃもう。気が遠くなるなんてものじゃなく。

 

 衝撃で気が遠くなっては痛みで戻され、戻って来ては遠くに飛ぶというーーシャトルランのように意識の往復を繰り返してます。

 

 もうね、フルボッコにも程があんだろ、ってくらいです。

 

 殴りに行っては「真面目にやれ」と頭吹き飛ぶんじゃねって威力のデコピン食らわされ、立ち上がるのが遅ければ「寝るんじゃない」と指先からデスビームを撃たれーー。

 

 俺の正気は、いつの間にか消し飛ぶ寸前になっています。

 

 ああ、この猫神。

 

 ブチ殺してやる。

 

 そのような事を考えていられたのも束の間です。

 

ーーなんて言ってる場合じゃねえ、な。

 

「…くそ、がぁあああっ!!!」

 

 怒りが俺の思考を消した時、更に自分の身体からパワーが漲るのを感じる。

 

「…ん? ほう、超サイヤ人2ってヤツか」

 

 感心したようなビルスの声にもイラつくが、青白いスパークが散る金色のオーラを身に纏うことができている自分にもイラつく。

 

「…簡単に目覚めんじゃねぇよ。超サイヤ人は伝説の戦士。その壁を超えるには、相当な修行がいるはずだろうが」

 

「ふ、そのとおりだ。もっとも、お前が今なっている超サイヤ人2とやらは僕から言わせれば邪道。真に至ることが出来なかった連中の姑息な(=その場凌ぎの)変身だ。紛い物のお前には似合いだけどな」

 

 ニヤリと笑いかけてくる破壊神に考える前に身体が動いていたーー。

 

「…む?」

 

 目の前まで踏み込んで殴る。

 

 それだけだ、それ以上はーーいらない。

 

 にやけヅラした、この猫神の横顔を殴り飛ばしてやる。

 

 右ストレートは、ビルスの顔の前に出された左手に軽く払い除けられる。

 

 勢いそのままにビルスの後ろに着地する俺を猫神はバカにしたような目で見下ろしてくる。

 

「…せっかく超サイヤ人2になっても、猪のように突っ込んでくるだけなのか? 孫悟空のセンスと身体の動きに頼ってばかりじゃ、この僕を殴るなんて一万年かかっても無理だ」

 

「…うるせぇよ!!」

 

 更にギアを上げる。

 

 まだまだ、この体は上がる。

 

 なんてーーとんでもない身体だよ。

 

 頭の中で驚く俺とは別に、肉体は次々と拳と蹴りを何度も何度も繰り出す。

 

 まるっきり当たらない、当たる気がしない、でもーー。

 

 まだ打てる、まだ蹴れる。

 

 なら、もっと速く打て。

 

 まだまだ速くーー。

 

 右拳から左拳を放つも仁王立ちで突き出しただけの破壊神の左手に弾かれる。

 

 かまわねぇ、今の俺は見えてる。

 

 なら、追撃するだけだ。

 

 弾かれた勢いそのままにして擦れ違い様に左膝蹴りを顔面に放つ。

 

 これも左手に簡単に止められた。

 

 だから、なんだ?

 

 一瞬で後ろに回って右の回し蹴りで頭を蹴り飛ばす。

 

 しかし、前にあった左手は後頭部にいつのまにかあり、虫でも払うような仕草で俺の回し蹴りは止められる。

 

 だけでなく払われただけで後方へ弾き飛ばされ、身体で地面に溝を掘りながら引き下がる。

 

 なんつう強さだ。

 

 たった数秒で、分からされたよ。

 

 フリーザ達のパチモンとはレベルが違う。

 

 止まった身体をゆっくり両手で地面を支えて、両足を地面に押し付け立ち上がる。

 

「…でもよ、だからなんだってんだぁああ!!!」

 

 気柱を吹き立たせる。

 

 俺の髪は膝裏まで伸びる感覚、パワーが更に引き上がる。

 

「…超サイヤ人3、か。紛い物の姑息な変身とは言え、それになれるとはな。取り敢えず悟空の身体に眠るパワーを使いこなすことはできるようだ」

 

 超サイヤ人3のスピードとパワーは凄まじく、一撃一撃は変わらずに払われるが、ビルスの背後の空間に衝撃が目に見えて発生している。

 

 が、それでもビルスの動作は何も変わらない。

 

「…クッソォ!!」

 

 身体が一気に重くなり、みなぎっていたパワーが消えて肩で息をしだす。

 

 拳が重い、脚が棒みたいにだるい。

 

 拳に下半身が振り回される。

 

 構うな、打ち込め!

 

 諦めんな、最後まで!!

 

 そんな事を何回も繰り返した先に、ようやく破壊神ビルスが声を上げた。

 

「フン。ようやく、マシな動きをするようになってきたかな? 戦闘力に関しては超サイヤ人を鍛えていけば成れるだろうし、スピードもパワーも悟空の身体を模してるだけあって中々のもんだ。何よりお前の戦いのセンスは悪くない」

 

 精も根も尽きるとは、正しく今の俺のようなもんなんだろうーーと意味を理解する。

 

 理解なんてもんじゃないな、実感してる。

 

「さて、そろそろ本気で抵抗してみろ。で、なければこのまま叩き潰すぞ」

 

 あ、これマジな奴だ。

 

 おいおい、今までの俺の動きはマジじゃないって?

 

「当たり前じゃないか。悟空の代わりになるなら良いが。ならないなら、中途半端な力を持った存在だ。お前のような奴は、道を誤る前に破壊するに限るーー」

 

 チラっと俺の後ろの転生者3人を見つめてから。

 

「そこに居る奴等のように、この世界で好き放題出来るなんて勘違いしてる連中は、お仕置きするに限るからね」

 

「……俺は」

 

「知ってるさ。「今は」違うんだろ?だが、この先は分からない。お前の意思が弱ければ、力に飲み込まれて破壊を撒き散らすだけだ。お前が目覚めた力は、本来なら拳を磨いて磨いて磨き抜いた先にある境地だ。神の域はおろか、天使にすら迫る程のーーね」

 

 あ、だから素人の俺が、真・超サイヤ人になったのが気に入らないのか!

 

 お、大人気ないのは誰だよ!?

 

 と、コホンと一つ息を吐いた後、ビルスは続けた。

 

「それもある。だが、何より大きいのは。お前の意識と記憶が飛んでることだ。いいか?超サイヤ人は血と破壊を好む悪魔のような存在だと言われてる。悟空達程に鍛えていれば力に飲まれるなんて醜態は晒さないだろうが、君は違う。拳の握り、踏み込み、判断力、全てが足りない。悟空の戦闘データに身を任せることも、君は自我が強過ぎて出来ない」

 

 自我が強過ぎる?そうなんだろうか?

 

「思うに、お前は怒りに身を任せなければ他人を殴れないようだね?」

 

「…元の世界では、人間殴るのは基本的にダメですから」

 

「その倫理観は悪くない。なるほど、それで殴る時や蹴る時に迷いがあるのか。…お前が悟空の代わりになるなら、拳を握る意味を持たないと闘えないだろうね」

 

 拳を握る意味ーー?

 

「悟空は自らを鍛えて強さを求める武道家であると共に磨いた拳で地球を守る戦士でもある。悟空が悪人と闘う理由だ。対してお前は、闘う意味を見出せてないから感情に任せなければ本来の力を出せない」

 

 ジッと見られる。

 

 心の奥まで覗きこまれてるような感覚だ。

 

 ビルスは右手を俺に向けて打って来いとジェスチャーしている。

 

「その理由を見つけるのは、お前次第だろう。本題を見せてもらうぞーー!お前の真の超サイヤ人を!!」

 

 言うと同時にビルスの身体が紫色の光を纏い始めた。

 

 それを見た俺の身体が恐怖に竦み、震え上がる。

 

 半端じゃない、この重圧。

 

 向かい合ってるだけで虫のように潰されてしまいそうだ。

 

 命の危機すら感じる圧力に、咄嗟に超サイヤ人の気を開放して反発ーー抵抗を試みるも、アッサリとねじ伏せられていく。

 

「ーー普通の超サイヤ人では、僕の力に耐えられないよ。さぁ、どうする?そのまま、死ぬか?」

 

 破壊神の気の圧力に呼吸が止まり始める。

 

 マジかよ、息が吸えない。

 

 目に見えない巨大な塊にゆっくりと押し込まれていくような感覚だ。

 

 なのに俺の身体は動かない。動けないーー。このままだと、死ぬ。

 

 死ぬ?訳も分からずに、なんで死にかけてる?

 

 なんで、死ななければならない?俺が、何をした?

 

「…そうだ!このままだと、死ぬぞ!!見せてみろ、超サイヤ人の真の姿を!!」

 

 ビルスの声が聞こえてーー。

 

 コメカミ辺りで何かがプチンッとキレた。

 

ーー天津視点

 

 悟空クローンの肉体を持ったオッサンーーいや紅朗さんは、本物の超サイヤ人になって古井と瀬留間を吹き飛ばした。

 

 理屈は分からないけど、見ただけで分かる。

 

 あの時、ゴルフリやPセルを訳もなく倒して見せたあの姿ーーアレは超サイヤ人だ。

 

 とんでもない殺気と恐怖は、伝説の戦士だと思った。

 

 元通りの悟空クローンの姿に戻っても、紅朗さんの本性がーーさっきまでの超サイヤ人の姿が思い起こされてーー震えてくる。

 

 そんな紅朗さんの力を目の当たりにしたのに、本物のクリリン達は笑顔で紅朗さんと話をしていた。

 

 俺や飲伏、栗林は震えて動けないのに。

 

 技も力も俺達とまったく同じ実力のはずなのに、クリリン達は俺達のように怯えていない。

 

 栗林達とそのことで驚いていると、第7宇宙の破壊神ビルスが現れた。

 

 悟空に怒鳴ってる、あのとんでもない超サイヤ人に変身して30分以内でカタを付けて来いって言ってる。

 

 さっきの紅朗さんのような変身を悟空もできるっていうのか?

 

 黒髪状態で古井と瀬留間を一方的に押していた悟空が、あの恐ろしい超サイヤ人になったらーー。

 

ーーそんなもん、無敵に決まってる。

 

 事実、変身した紅朗さんは古井のゴルフリを簡単に吹き飛ばしたんだから。

 

 ビルスは焦りながら事情を説明していたーー。

 

 どうやら、全覧試合の最中のようだ。

 

 アニメだと、悟空と悟飯とブウしか出てなかったはずだけど。

 

 この世界ではベジータと悟飯、ピッコロにブロリーとバーダックが加わっているらしい。

 

 代わりに悟空は出ていないようだ。

 

 試合形式は一対一だったと思うが、バトルロワイアル(本戦)形式に変わっているのか。

 

 やはり俺の知ってるドラゴンボール超とは違うみたいだ。

 

 途中にターニッブという知らないサイヤ人の名前も出ていた。

 

 悟空とターニッブを抜いた状態でも優勝できるーーと言ってしまい、選手が一人でも負けたら土下座してやるって言ったらしい。

 

 バトルロワイアル形式になっているため、全宇宙から狙われた挙句にさっきの超サイヤ人に誰も変身しないからピンチになっているとか。

 

 だから悟空を連れて途中参加させて一気に戦局を巻き返すつもりみたいだった。

 

 当然、ブルマと悟空本人に拒否されるも、ビルスは紅朗さんをジッと見る。

 

「其処に居るじゃない。悟空の代わりなら、ね?」

 

 そして急遽、悟空の代わりをするために強制的に超サイヤ人にならされ、紅朗さんは破壊神ビルスに打ち込んでいた。

 

 最初の頃こそ、話にならないとばかりに指先でピンボールのように弾かれていたが、体力に余裕が無くなるにつれて悟空の動きを紅朗さんはできるようになっていく。

 

 左右の拳を顔に数発放った後に、右の上段廻し蹴りを放つ動きなんて漫画の悟空の動き、そのものだ。

 

 ビルスは、自分の顎とボディに放たれた左拳を前に出した右手で簡単に弾いて防ぎ、顔に向けて放ってきた右のストレートを首を横に倒すだけで避ける。

 

 紅朗さんの右上段回し蹴りが、倒れた顔に向かって放たれるも顔の前に置いた右手で受け止め、指先を弾かせるだけで吹き飛ばした。

 

 物凄い音と衝撃波と共に地面に背中から叩きつけられ、肩で息をしながら立ち上がってくる紅朗さん。

 

 俺だったら、とっくに心が折れてる。

 

 ラッシュの動きやコンビネーションが長くなり、打撃音が響く中、その度に吹き飛ばされる紅朗さん。

 

 ボロボロだ。

 

 そんな紅朗さんにビルスは俺達を見た後、中途半端な力を持ったヤツは破壊するに限るって言ってきた。

 

「そこに居る奴等のように、この世界で好き放題出来るなんて勘違いしてる連中は、お仕置きするに限るからね」

 

 思わず、俺たちは一歩後ろに下がる。

 

 あの目に、殺されると思った。

 

 口調こそ軽いけれど、ゴミを掃除するくらいの感覚でこの猫は俺たちを消すつもりだ。

 

 それを知ってか、紅朗さんは俺たちを庇うように前に出て口を開いた。

 

「……俺は」

 

「知ってるさ。「今は」違うんだろ?だが、この先は分からない。お前の意思が弱ければ、力に飲み込まれて破壊を撒き散らすだけだ。お前が目覚めた力は、本来なら拳を磨いて磨いて磨き抜いた先にある境地だ。神の域はおろか、天使にすら迫る程のーーね」

 

 さっきの超サイヤ人はブルーとか、もしかしたら身勝手の極意にも匹敵しているのかもしれない。

 

 でもビルスの反応もおかしい。

 

 アニメではビルスは悟空が身勝手の極意に目覚めたとき、不本意そうだった。

 

 なのに、このビルスは自分と同じくらいの力を持った存在を許しているようだーー。

 

「思うに、お前は怒りに身を任せなければ他人を殴れないようだね?」

 

「…元の世界では、人間殴るのは基本的にダメですから」

 

「その倫理観は悪くない。なるほど、それで殴る時や蹴る時に迷いがあるのか。…お前が悟空の代わりになるなら、拳を握る意味を持たないと闘えないだろうね」

 

 現代日本で怒りを持たないで人を殴れる人間なんているのかーー?

 

 もし、居たとしてもソレってどんなサイコパスだよと思ってしまう。

 

 そんな俺に応えるようにビルスはつづけた。

 

「悟空は自らを鍛えて強さを求める武道家であると共に磨いた拳で地球を守る戦士でもある。悟空が悪人と闘う理由だ。対してお前は、闘う意味を見出せてないから感情に任せなければ本来の力を出せない」

 

 ジッと紅朗さんを見る。

 

「その理由を見つけるのは、お前次第だろう。本題を見せてもらうぞーー!お前の真の超サイヤ人を!!」

 

 言うと同時にビルスの身体が紫色の光を纏い始めた。

 

 神と神の時に見せた本気でキレた時に生まれた紫のオーラだ。

 

 それがビルスの全身を光らせている。

 

 指先から何一つ、動かせない。

 

 俺達は神の気を感じることはできないはずだ。

 

 なのに、指一本動かせない。本能で悟ってしまう。

 

 何もできないし、何一つ通じない。

 

 このまま消されて終わりだってーー。

 

 クリリン達も怯えた顔をしていることから、彼らも動けないって分かって少しだけ安心した。

 

 でもーー平然と立っている人間が「二人」いる。

 

 一人は、孫悟空。

 

 そして、もう一人はーー黄金の炎のようなオーラを全身に纏った紅朗さんだった。

 

 彼は肩で息をしていたはずなのに、荒かった呼吸は整いクローンのように感情が消えた無表情でーー瞳は冷徹な殺意に満ち々ちている。

 

 これにビルスが不快そうな顔をしていた。

 

「ーーまあ、見た目だけは本物だがパワーが、ねぇ。せめて身体の動きは真似てくれるんだろうな?」

 

 これに応えるように紅朗さんが姿を消す。

 

 高速移動の踏み込み、ビルスの目の前に現れると跳び上がって左の膝を顔に向けて放つ。

 

 さっきまでと同じように簡単に顔の前に掲げた右手で止めるビルスだけど、物凄い衝撃がビルスを中心に放たれて彼の足元がひび割れてクレーターが出来る。

 

「な!?」

 

「す、すげぇ」

 

 栗林と飲伏も思わず声を上げてる。

 

 そらそうだ、次元が違う。

 

 膝蹴りを放ったまま宙で止まった紅朗さんは、止められたことなど気にもしていないとばかりに消える。

 

 次に現れたのはビルスの背後。

 

 ビルスの後頭部に向けて右拳を打ち下ろした。

 

 雷すら発生する空気と空気の摩擦を起こしながらも、紅朗さんの拳は右手の甲を虫を払うように後ろに向けたビルスの手によって防がれている。

 

 だけど、ビルスの顔が先ほど迄と違って明らかに真剣味を帯びている。

 

 鋭い目で睨み合う破壊神の瞳と瞳孔が現れた翡翠眼。

 

 今度はビルスが手を右側に振って、受け止めた拳を自分の脇に流し、自分の正面に紅朗さんを移動させる。

 

 紅朗さんは流された勢いに逆らわずに地面が近づくと着地して、距離を取りながらクルリとビルスに向き直る。

 

 悟空と同じ構えーー左手を顔の前に右拳を腰に置いて中腰に構えを取っている。

 

 その姿にビルスは凶悪な笑顔を向けると右人差し指を出してデスビームのような光線を放った。

 

「チョイ」

 

 紅朗さんはそれを紙一重で体を脇に躱して避けている。その動きは、本物の悟空と見間違えるほどだ。

 

 次々と光線を放つビルス。その光の隙間を縫うように紅朗さんは簡単に避けていく。

 

「す、凄いな。紅朗のヤツ、まるで悟空だ」

 

「ああ。あの動きの鋭さと正確な判断力、相手の破壊力に動じぬ冷静な思考。本当に悟空そのものだ」

 

「どうなってるんだ? 明らかに真・超サイヤ人になる前までとは別人だ。フリーザの偽者を倒した時も、そうだったな」

 

 クリリンとヤムチャ、天津飯の声を聞いて思わず頷く。

 

 あの恐ろしい超サイヤ人に変わると、紅朗さんは別人のようになっている。

 

「あの、あの変身って危険なんじゃないですか?」

 

 栗林が思わずといった感じで悟空に問いかけた。

 

 すると悟空は真剣な表情で紅朗さんとビルスを見比べた後、言ってきた。

 

「ああ。未熟な心だと、破壊衝動に捉われちまって暴走を始めちまう」

 

 目を見開く俺達だが、悟空は冷静な表情で続けた。

 

「だけどーー、紅朗の場合はちょっと違うみてぇだな。オラの見立てで良いんなら破壊衝動に捉われちまうようなことは、無さそうだ」

 

 笑いながら、そう言った。周りを見てみろ、と言わんばかりに悟空は俺たちに顔を向けながら視線を周囲にやる。

 

 そこで俺たちも、ようやく理解する。

 

 紅朗さんとビルスの戦いは、見た目こそ派手だけれど建物や人間ーー俺たちを巻き込まないように動いている。

 

「で、でも紅朗さんは意識がないようでしたよ?」

 

「ああ。そこがオラも疑問なんだーー。なんで、真・超サイヤ人に意識を完全に持ってかれちまってんのに紅朗が紅朗のまんまーーなんかがな」

 

 真剣な表情で声で、悟空は紅朗さんを見てる。

 

 紅朗さんの変化を見逃さないようにしているように見えた。

 

 いや、多分そうだ。

 

 悟空は、此処にいる俺達の中では本当に次元が違う。

 

 紅朗さんが限界に来た時に、間髪入れずに助けるつもりだ。

 

 そんな俺をジッとウイスが見ていることに気付くと、向こうはニコリと笑って手を振って来た。

 

 見られてた?

 

「あっ!!」

 

 誰かの声で俺は、紅朗さんの方に目をやる。

 

 彼の右手からゴクウブラックのような青い光の剣が出来ていた。

 

 それを正眼に構えると背後に半透明のクローントランクスの姿が現れて消えた。

 

「ひゃぁああああ!!」

 

 紅朗さんが叫びながら、一気に駆ける。

 

 すれ違いざまに光剣が縦に一閃されて、空間に線が刻まれた。

 

 ビルスは自分の鋭い爪で弾いたようだ。

 

 駆け抜けながら後ろに回ってビルスに振り返った紅朗さんの傍らに今度は、クローンベジータの幻影が現れて消える。

 

「だだだだだだだだだぁっ!!!」

 

 両手を大きく振りかぶり、左右交互に突き出して黄金の気弾を連続で放ち始めた。

 

 ビルスは顔の前に構えた右手で次々と弾いていく。

 

 しばらくの間、映像の焼き増しのように同じことをくり返すと、ふと紅朗さんが動きを止めて棒立ちになる。

 

「ーー? なんだい、もうバテたのか?」

 

 ビルスが問いかけるも、紅朗さんの口元には不敵な笑みが浮かんでいる。

 

 ビルスが鋭く周囲を見渡すと、無数に弾いた気弾が全て宙で止まっている。

 

 あ、あれだけの気弾を一つ一つ、繰気弾のように操っているのか?

 

 両手を大きく斜め上に広げた紅朗さんの傍らには、クローンピッコロの幻影が浮かんで消えた。

 

「そうか、アレはーー魔空包囲弾!!」

 

「マジかよ、ベジータのグミ撃ちからの魔空包囲弾って何だよ!?」

 

 栗林と飲伏の言葉に頷きながら、紅朗さんを見る。

 

 彼が両手を胸の前で交差させると無数の気弾が全方位からビルスに襲い掛かった。

 

 巨大な爆発を起こして一つの光の球になって消えて行く。

 

 紅朗さんは、そのまま両手を腰に置いてかめはめ波の構えを取っていた。

 

 蒼い光の球が紅朗さんの上下に組んだ両手の中に生まれている。

 

 あ、アレだけ気弾を撃ってるのに全然、気が落ちてない。むしろ気が上がってるーー?

 

 なんだよ、この変身は?

 

 無敵じゃないのか?

 

「そろそろ、限界みてぇだな」

 

 悟空の静かな言葉に思わず紅朗さんを見ると、彼の全身から凄い勢いで汗が噴き出ている。

 

 どういうことだと悟空を見上げると、彼は冷静に応えてくれた。

 

「あの変身は、なってる間は無限の気を使うことが出来る代わりに体力と精神力が尽きたら強制的に変身が切れちまう。限界を超えた動きで闘ってから当然だ。その上ーーさっき、オラの技じゃなくて他人の技ーーベジータ達の技を使ったせいで身体に無理が来てる。オラの身体で他のヤツの技を使うってなぁ、相当ムリするみてぇだな」

 

 悟空は続けた。

 

 確かに紅朗さんは、暴走はしていない。

 

 冷静に状況を分析して必要な技を合理的に組み立てて攻撃している。

 

 だけど、意識がないせいで自分の状態を省みることが出来ていない。

 

 真・超サイヤ人に変身すると昂奮して、身体が限界を訴えていても気付かずに闘って精神が疲弊し、気付いた時には指一本動かせなくなるらしい。

 

 それが副作用だって悟空は言った。

 

「じゃ、じゃあ、紅朗さんはーー!」

 

「ああ、意識がねェから自分が限界だって自覚がねえ。そうすっと自分の残りの体力と相談して気を倍化させるかどうするかって駆け引きも出来ねぇ」

 

 淡々とした声で続ける悟空の前でビルスが光を吹き飛ばして、現れる。

 

 同時に紅朗さんが両手を突き出した。

 

「かめはめぇええええっ!! 波ぁあああああっ!!!」

 

 強大で野太い青い光線がビルスに向かって放たれる。

 

 ビルスは淡々と鋭い目で目の前に迫る光を睨みつけるとゆっくりと指先を向けた。

 

「ーー創造の前に」

 

 指先が光線に触れた瞬間ーー光は巨大な渦を巻いて光の粒子となり、螺旋を描いて消えて行った。 

 

「破壊ありーー」

 

 それだけを告げるビルスの前に、拳を振りかぶって紅朗さんが目の前に飛び込んでいる。

 

 強烈な右ストレートを放つ紅朗さんだけど、あっさりと乾いた音と共にビルスの右掌に掴み止められている。

 

「はぁああああああっ!!!」

 

 着地して足を踏ん張りながら紅朗さんは、ビルスに拳を押し込もうと炎のような気を高めてーー黄金の炎が火の粉になって霧散した。

 

 瞬間、黄金の髪が燻んだ金色にーー瞳孔が現れた翡翠の瞳は単なる紅い瞳に戻った。

 

 前のめりになって足から崩れる紅朗さんの身体を破壊神ビルスが、今まで使わなかった左手で掴み止めた。

 

 殺されるーー咄嗟に、そう思ったが。

 

「……なるほどね。面白いじゃない」

 

 ニヤリと笑ってビルスは気を失った紅朗さんの顔を覗き込んでいるだけだった。

 

 あれだけ凄い闘いを繰り広げたのに破壊神ビルスは、その場から一歩も動かずに紅朗さんを黙らせたーー。

 

ーー紅朗視点

 

 目を覚ますと石造りの庭園に設置されたサマーベッドに俺は寝かされていた。

 

「お、起きたみてぇだな!」

 

 悟空の明るい声に、顔を脇に向けると破壊神ビルスと悟空が並び立っている。

 

 後ろには転生者たちやクリリン達にブルマが居た。

 

 身体を起こそうとしてみるが、まったく力が入らない。

 

 というか、疲労感とダルさが半端ないーー!

 

「悟空。俺、どうなったんだ?」

 

 ビルス様の本気の気に当てられたまでは、覚えてるんだが記憶がない。

 

 すると、悟空の代わりにビルスが前に出て来た。

 

「…フン。真・超サイヤ人になった記憶が無いのが難点だが、この僕を相手にアレだけ打ち込めるんだ。何とかなるだろう」

 

 と隣のウイスに向かって告げると、ウイスもニコリと頷いた。

 

「そうですねぇ。タイミングさえ合えば、戦士として登録も考えてよかったのですが。いかんせん記憶と意識が飛ぶようでは悟空さん達の域には立てないでしょうねェ」

 

 などと言い合いながら、ウイスは悟空を見た。

 

「分かったーー。ちょっとだけ、そっちに行くぞ」

 

「助かります~! 何かあればブルマさんがいつもどおり、私に連絡をくだされば向かいますので~」

 

「ああ」

 

 ブルマがやれやれ、と首を横に振っているのを見てどゆこと?と俺は首を傾げる。

 

 え?なんで、悟空が全王の方に行くことになってるの?クリリン達も、何を納得してるの?

 

「ど、どゆことだよ?」

 

 問いかける俺に悟空がニッと笑いかけて来た。

 

「紅朗、地球のこたぁオメエにちょっとだけ任せっぞ」

 

 な、何を真面目な顔でほざいてんだ、この野郎!!

 

「…むしろ、悟空の力抜きで解決してもらいたいもんだ。元をただせばお前らの世界の人間が暴走しているんだからな。僕の悟空達に手を煩わせるんじゃない」

 

 それを言われると、何も言えないーーー!

 

 でも、俺のせいじゃないのにぃ。

 

「で、でも。俺なんかの力で何とかなるんですか?」

 

「破壊神である僕にアレだけ打ち込めるんだ、充分だろう。なぁ、お前ら?」

 

 振り返って問いかけるビルスに何故か誰一人として否定の声を上げなかった。

 

 え?ブルマさんまで?

 

 と、いうか日本から来た転生者の子ども達まで困惑気味に俺を見て頷いている……だと?   

 

 俺、そんな何かしたの?

 

 記憶も何もないから、何をしたのかさっぱり分からん。

 

「と、言っても。真・超サイヤ人に頼っているようでは話になりません。貴方には、まず超サイヤ人の状態で悟空さんの動きだけでも完璧に再現できるようになっていただかないとーー」

 

 ウイスがそう言いながらクリリンとヤムチャ、天津飯達を見つめる。

 

 これに彼らが頷いた。

 

「悟空と同じ能力を持った肉体って言うのが、さっきのでよく分かりました。確かにコイツが、あの動きを完全に再現出来たら強力な戦力になりますよ!」

 

「任せてくれ!これも世のため人のため、教師役を買って出るぜ!」

 

「紅朗は、まず武の心得を学ぶべきだな。拳を握ることーーその意味を伝えられたら、と思っている」

 

 ノリノリ、だと!?

 

 どうして、こうなった!?

 

 目を見開く俺の前に悟空が笑顔で言ってくる。

 

「紅朗!動けるようになったらブルマにあるものを渡してあっから、それ使ってくれ!」

 

「フフ、孫君のことが好きなんだったら。たぶん喜ぶと思うわよ!」

 

 明るく笑うブルマの前で悟空も嬉しそうに笑った後、青空の下に移動したウイスの肩に手を置いて真剣な顔になる。

 

「紅朗! オメエならやれると思うが、無理すんな。オラも、向こうが片付いたらこっちに戻っからよ」

 

 光に包まれ始める悟空を見て、俺はだるくて動かない体とろくに働かない口をパクパクさせて必死に声をあげたつもりだった。

 

 無理だって、俺に悟空の代わりとか、ホントに無理だって!!

 

 そんな俺の言葉を、どう受け取ったのか悟空はニッと笑って言ってきた。

 

「頑張れ、紅朗!」

 

 それだけを告げて、悟空はウイスとビルスに連れていかれた。

 

 宇宙最強の戦士が、地球から居なくなっちまったーー。

 

 ど、どうすんだよ、この先ぃいいい!!!?

 

 俺の心の絶叫を、誰か、くんでくれぇええええ!!!

 

 

 




次回も、お楽しみに( *´艸`)


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第12話 悟空、プレゼントありーー!?

と、言うわけで続きです(´ー`* ))))

今回は状況整理をさせていただきました(´ー`* ))))

たのしんでください(´ー`* ))))


 人騒がせな猫神に連れて行かれた我らが孫悟空。

 

 悟空クローンの身体に不本意ながらなった俺に対し、猫神は悟空の代わりをやれって言う。

 

 自分の大言を吐いた唾は飲めんと言わんばかりのワガママでーー。いや、無理だ。

 

 冷静に考えてみても、無理だ。

 

 どう考えても、上手くやれる気がしない。

 

 頭を抱える俺の横ではクリリンが16号と話をしていた。

 

「改めて言わせてくれ。さっきまでは落ち着いて話も出来なかったからな。良かった、16号! お前も蘇ったんだな!!」

 

「…いや、俺は前の16号とは別の個体だ。確かに前の16号の記録データはインプットされているが」

 

 これに天津飯が声をかけた。

 

「それなら、17号がセルに吸収された時。俺に逃げるように言ってくれたことも?」

 

「…インプットされている」

 

「そうか。なら、俺からも礼を言わせてくれ。あの時、お前が一番危険だったにも関わらず、気遣ってくれたな。ありがとう」

 

 頭を下げる天津飯に16号が微かに眼を閉じた後、絞り出すように声を上げた。

 

「…俺の方が礼を言うべきだろう。クリリン、天津飯。お前達にはセルに破壊された前の俺や18号が世話になった。顔を破壊された時は天津飯。お前がいなければ、逃げられなかっただろう。そして、クリリン。お前は足手まといだった俺の願いを聞いてくれたーー。ありがとう」

 

 神妙な表情で頭を下げる16号にクリリンが両手を横に振って応えた。

 

「何を言ってんだよ、16号!頭を上げてくれ!!」

 

 天津飯も横から続けた。

 

「お前も俺たちと共に地球を守る為に戦った仲間だ。悟飯から聞いたぞ」

 

「そうだぜ!サタンとお前が居なけりゃ、悟飯が目覚めずに手遅れになってたかもしれないんだ!命の恩人だよ、お前は!!」

 

 ヤムチャも16号に笑顔で告げている。そんな彼らに16号が目を見開いていた。

 

「不思議な奴等だ。孫悟空も同じことを言っていたーー」

 

「はは、そりゃそうだろ。なんたって俺たちは悟空に影響受けてるからな!」

 

 クリリンが笑いながら話し、天津飯とヤムチャもニッと頷いてる。

 

 そうだよな。

 

 悟空に出会う前はヤムチャは盗賊で、天津飯とチャオズは殺し屋見習い、クリリンは武道家だけど先輩を見返そうとする小生意気でズル賢い小坊主だった。

 

 最初は皆、悟空を嫌いだったんだよなぁ。

 

 ピッコロやベジータもーー。

 

「……何故、孫悟空が強いのか。少し分かった気がする」

 

 寂しげに呟いた16号の顔にクリリン達の笑顔が止んで真剣な表情に変わった。

 

「16号、いったい何が起こってるんだ?紅朗が巻き込まれてる事やクローン達を操って街を破壊してるのは、誰なんだ?なんで、お前がーーそんなヤツの仲間に?」

 

「………っ!」

 

 明らかに16号の顔が歪む。思わず俺は周りにいる天津飯クローン達ーー天津、栗林、飲伏に声をかけた。

 

「お前ら、ゲームしてたんだよな?ドラゴンボールの最新作のーーええと?」

 

「ファイターズ、です。新しいキャラクター人造人間21号の物語で、俺たち3人はゲームをプレイし始めたばかりなんです」

 

 簡単に説明すると、ファイターズの中にマイナス波動やリンクシステムが出て来るらしい。

 

 悟空達は波動の影響で気を失い、力を出せない。その身体にゲーム主人公が乗り移り、悟空達を操作して戦うんだそうだ。

 

 主人公が乗り移ると動けない悟空も動けるようになる。

 

 ただし、神の気は使えないし力も制御されていて、一定以上のパワーは出せないらしい。

 

 コレは超サイヤ人になっても同じなんだとか。

 

 ナッパで最終形態のフリーザや魔人ブウと互角に渡り合えるようになってる、らしい。

 

 波動の影響下ってスゲェな。いわゆる格ゲー補正っていうのを、波動で説明してるのか。

 

「そっか。じゃあ21号のヤツが何を企んでるのか、とか。どんなヤツなのかってのはーー」

 

「ごめんなさい。みんな、知らないと思います。ファイターズは発売されてまだ1日目ですし」

 

 栗林の言葉に俺は戦慄する。なんだと?じゃあ折戸や古井は発売して1日目でシナリオクリアしてるって?

 

 ヘヴィーゲーマーじゃねぇか!?

 

「折戸から、21号の企みとかは聞いたんだがーー」

 

 俺がそんな話を天津達にしていると、クリリンが声をかけてきた。

 

「おいおい、紅朗。そうゆう大事な話は俺たちを抜いてしないでくれよ」

 

「あ、すみません。だけど、ゲームの話ですから。どこまでこちらの世界で通用するか分からないし、そもそも俺に彼女の企みを伝えたヤツ。俺と同じクローン悟空の身体を持ってる折戸ってヤツなんですが、信用できないんですよ」

 

 俺が真剣な顔で応えるとクリリンは驚いた顔をした後に何とも言えない微妙な表情になる。

 

「すまん。悟空の顔で敬語を使われると、ものすごく違和感がする」

 

 これにヤムチャと天津飯が続いた。

 

「そう言われてみれば、悟空の顔をしたヤツと話をする事も多くなったなぁ。悟空の父親のバーダックにベジータ達とは違う惑星から来たサイヤ人ターニッブ、か」

 

「拳を交わした友であり、仲間である奴等と。一般人の紅朗を一緒にするのは無理があるだろう。クリリン、ヤムチャ。ここは紅朗に合わせるべきだ」

 

 3人に会釈しながら俺も頷く。天津飯の配慮が正直ありがたい。子どものように無邪気な悟空と違って彼らは一般常識や立場などもある程度分かってるから。初対面で敬語を使わないのは意識しないとできない。

 

 少し離れた場所ではブルマが悟空から渡されたものを探していた。

 

 確かに右ポケットのカプセルに入れたらしいのだが。他のカプセルも一緒に入れていた為、分からなくなったらしい。天才なのに、抜けてんだよなぁ。ブルマさん。

 

「それじゃ、16号に聞いてみるけど。21号の企みとか、知ってるか?」

 

「…いや。俺は命令を受けていただけだ。紅朗、知っているなら教えてくれ」

 

 俺は目を閉じてから、ゆっくりと開ける。

 

「あくまで、コレはゲームの話だ。それに、俺を嵌めた折戸が本当の事を隠して俺に話してる可能性もある」

 

「構わない」

 

 16号の真っ直ぐな目を見返し、真剣な表情のクリリン達を見渡してから転生者の天津達に目をやる。

 

 天津達は不安ながらも興味はあるようだ。クリリン達と同じ見た目であるが、精神が違うと表情だけでなく見た目にも随分と差が出るな。

 

「実はーー」

 

 俺は折戸から聞いた事を出来るだけ簡潔にまとめて言ってみた。波動に関する情報、21号の中にある二つの心。

 

 悪の心が身体の主導権を握る。彼女の目的はクローン悟空達を使って世界を混乱させ、無力化した悟空達を食うことだと。

 

 どうやっても、21号の善の心は消える、とも言ってた。

 

「……その、21号ってヤツが今回の黒幕なんだな」

 

「善に悪、か。神様とピッコロや、ブウみたいな話だな」

 

 クリリンとヤムチャに、俺は21号の特徴を伝えておく。赤茶色の髪に白い肌をしていて、鋭い目に眼鏡をかけている美女だ、と。

 

「うぅむ、今回の敵は女なのかぁ〜」

 

「ヤムチャさん、まだ女性苦手なんですか?」

 

「うぅん、ちょっとな」

 

 ヤムチャとクリリンの会話を尻目に俺は16号に目を向ける。彼は傷ついた表情で、うつむいていた。

 

「…なぁ、16号。お前と21号って、どんな関係なんだ?」

 

 思わず聞いてしまった。だって16号のヤツ、本気で21号を助けようとしていたから。

 

 いや、助けようとしてるのが分かったから。

 

「今の俺は21号に作られた。前の16号の記憶を引き継いだ状態で。理由を聞いたが、ヤツの理由は曖昧だった。俺を作り出したのは、一緒に居たいからだと言っていた」

 

「一緒に、居たい?恋人かなんか、なのか?」

 

「いや、そもそも俺は無から作られた。前の16号以上の記憶は存在しない。21号とは、はじめて会った。だがーー」

 

 一つ息を吐いて、16号は続ける。

 

「何故だかは俺にも分からない。ただ、懐かしい気がしたんだ。彼女の明るい笑顔が、彼女の温かな声が。昔から知ってる大切な何かのような、そんな気がした。プログラムされていない事だがーー」

 

「プログラム、か。時折、そういう事を言ってくれないとアンタがメカだって忘れちまいそうだ」

 

 思わずボヤいてしまったが、まあ仕方ないだろう。

 

 昔から知ってる、大切な何か。カンだが、恋人とかじゃないかもな。あの16号の寂しそうな幼い顔は、恋人を失う男の顔じゃない、と思う。

 

 人生経験って意外と異世界に来ても役に立つよなぁ。

 

「なぁ、紅朗。16号と21号って、もしかしてーー」

 

「分かんねぇっす。もしかしたら、恋人なんかもしれませんし、それ以外な関係なんかも。俺には分かんねぇっす」

 

「ーー棒読みだぞ?でも、確かにな。俺たちが踏み入っちゃいけないような気もするよ」

 

 さすが、クリリンさんは空気読めるよな。

 

「だけど、そうすると。このまま21号の善の心が消えちまうのはダメなんじゃないのか?何か手を考えないと」

 

「そうは言うが、ヤムチャ。何か思い付くのか?」

 

「そ、そうだなぁ。神様やブウの時みたいに、善と悪の心を分けちまうって、どうだ?」

 

 名案だと手を打つヤムチャに俺も頷いた。

 

「スゲェ!天才かよ、ヤムチャさん!!確かに、それが出来たら。後は悪をぶっ倒すか、封印しちまえば良い!!」

 

「ん?だ、だろう?俺にかかれば、これぐらいーー!!」

 

 盛り上がる俺とヤムチャに天津がゆっくり手を挙げてきた。

 

「あ、あの。その21号を善と悪の二人に分けるのって。どうやるんですか?」

 

 沈黙が空気の読めない少年(八つ当たり)の当たり前の質問によって降り立った。

 

 たしか、善と悪に分かれるケースは。

 

「き、気合いじゃねぇか?神様もピッコロ大魔王と分かれた時は気合いで悪を追い出したし。ブウも怒りの気が煙になって外に出て、悪になったし。純粋ブウもデブブウを吐き出したしーー。気合いで、なんとかーー」

 

 こんな時だけ漫画理論は、ダメですよね。周りの冷たい目で、ようやく与太話をやめる。

 

 と、思ったがクリリンが割と真面目に考えてくれていた。

 

「何か手がないもんか。ブウに聞いてみても分かんないだろうしなぁ」

 

「具体的な方法が思いつかないなら、その話を広げても無意味だろう」

 

 天さん、ジュース冷やせそうなくらいクールだよね。

 

「な、なんか、悪いな。16号」

 

「いやーー。何かのヒントにはなりそうな気がする。魔人ブウや地球の神、か」

 

「え?自分で言うのもなんだが。あんないい加減な、というか。テキトーな話がヒント?」

 

 すると16号が穏やかな笑顔を向けてきた。

 

「ーー俺を元気付けるために、ワザと言ったのだろ?」

 

「…前例があるって話を、したかっただけだよ」

 

 あんまり良いように言われたくねぇ。正味、無責任な話をしただけだし、解決にも気休めにもならん。

 

 むしろ、21号をおちょくってるような内容で、振り返ってみて過去の自分を殴りたくなる。

 

「前例か。そう考えれば希望がない、訳でもないかもしれない。彼女はセルと同じ多数の細胞から作られたバイオタイプの人造人間だ」

 

 16号の言葉に、思わず俺は目を見開く。セミっぽくもないし、異形な感じしなかったんだけど?

 

「彼女を構成する細胞の一つに、どれほど細切れにされても元どおりになる粘土のような細胞があった。その細胞は彼女の普段の姿を自在に変化できる。彼女の真の姿は別にあるんだ」

 

「粘土のように変化したり、コマ切れになっても再生するってーー。それ、まさかーー」

 

 俺の疑問は、この場の全員が感じてるはずだ。間違いなく、ヤバい。

 

「21号は、この地球上にあるあらゆる生物から細胞を取り出して作られた。お前達やサイヤ人の細胞もだ。しかし、先程話した再生する細胞によって、数多の細胞は特性をそのままに全て吸収されて一つになったらしい。強烈な捕食衝動も、再生する細胞とサイヤ人の細胞が関係しているのかもしれない」

 

「ブウと悟空達の細胞を混ぜちゃいました、ってなんだその最強生命体は!?ドクターゲロのクソジジイは、死んでも碌な真似をしないな!!!」

 

 イライラしながらも、心を落ち着けようと腕を組む。

 

 13号、14号、15号といい。セルの時といい、この世界のコンピュータはおかしくねぇか!?

 

 ゲロ関係なしなら、地球襲来時のサイヤ人より強いウィローとか、メタルクウラとビックゲデスターとか。

 

 未来ならマシンミュータントなんてのもあるんだよな。

 

「だが、紅朗。希望が出て来たのは事実だ。魔人ブウの細胞が21号に使われているなら、善と悪の心を二つに分けられる可能性がある」

 

「…やり方が分からないんだよなぁ。ブウに聞こうにも波動の影響で寝てるし。中和装置で起こすにも、人数制限があるってブルマさんが言ってたからな。今のところ問題ないみたいだけど。闘うとなるとこれ以上増やすのはやめた方がいいかもな」

 

 天津飯とクリリンの言葉に俺も頭をひねる。そもそも、ミスターブウに聞いてもよく分からんのではなかろうか?

 

 ヤツ、どう見ても賢くはなさそうだ。

 

 中和装置がないと、クリリン達も動けないようだし。

 

 仲間を増やして中和装置の効果を半端なものにしちゃうか、人数少なくても波動の上限を超える力を出せる現在の面子で固めるか。

 

 でもなぁ、手数を増やさないと各地にウヨウヨいるらしいクローンに対応できないんだよなぁ。

 

「よし、見つけたわ!!」

 

 悩んでいるとブルマが声を上げた。カプセルを二つ手にしてる。

 

「アンタ達の不安を解消するのに、丁度いいのが出来たのよ。ホラ、さっきのフリーザ擬きが手首に嵌めてた腕輪」

 

 そう言って俺たちに見せてくれたのは、古井がしていた金属性の腕時計のベルトのようなものを付けた腕輪だ。

 

 腕時計なら、時計が付いてあるディスプレイには、病院で見る心電図のようなものが波打っている。

 

「コレを解析して量産したわ。腕輪にバイタルデータを登録すれば、範囲内なら全力を出せるはずよ。ただし登録できるのは5名までみたいだから、仲間を作るなら慎重にね。3つ作ったから、クリリン、ヤムチャ、天津飯にあげるわ。名付けて、中和リング!」

 

 言いながらカプセルを押して投げ捨て、煙からアタッシュケースが現れる。それを開けてブルマはクリリン達3人に中和リングを渡した。

 

「え?俺は!?」

 

 思わず問いかけた俺にブルマは呆れた顔をしてる。

 

「アンタは、ビルス様のおかげで超サイヤ人になれるようになったじゃない。しかも、アレだけ闘えるなら中和装置なんか要らないわよ。ビルス様と戦ってるときのアンタ、明らかに波動の上限を超えてたから」

 

「記憶がないもんで。不安でしかないんですが」

 

 そんな俺を無視して、ブルマは続ける。

 

「取り敢えず孫君からのプレゼントもあるから、そっちを見なさいよ」

 

 そう言って、もう一つのカプセルを投げる。煙から出てきたアタッシュケースの中には綺麗に折り畳まれた山吹色の上下道着と青いインナーシャツにブーツ、リストバンドに帯一式。

 

 俺が今着てる道着のオリジナルーー孫悟空の亀仙流道着だ。

 

「え?コレを、俺に?」

 

 胸と背中の◯の中には悟空の「悟」ではなく「紅」と書かれている。

 

「孫君が、書いてたわよ。顔に似合わず字は綺麗よね」

 

「…確かに」

 

 思わず呻いてしまう俺だが、道着が一着でないことに気づいてジッと見てしまう。

 

 ブーツやリストバンドまで何組もあるんだが。

 

「クローンの孫君へ、だって。私を守ってくれたお礼と、この先、アンタが仲間にする孫君のクローン達に着せてやってってさ」

 

「…いつの間にか、クローン使いみたいになってる?」

 

「違った?まあ、何にしろ助けてもらったんだもの。私からもクローンにお礼がしたいわ」

 

 なんだか催促されてるようなんで、取り敢えず右手を前方にかざして呼んでみる。

 

 するとクローン悟空が猫背でーーあれ?猫背じゃない。

 

 背筋をピンと伸ばして気をつけをしてる。

 

「アンタ、ありがとうね!孫君からのプレゼントと、私から名前をあげるわ!!」

 

 え?飼い主である俺を無視して名前をつける?どゆことやねん?

 

 心なしか、クローン悟空も紅目を訝しげに、というか首を傾げてますね。あれ?意思疎通できてるぅう!?

 

「アンタの名前は悟空クローンの一番最初の仲間だから、壱悟「イチゴ」よ!!どう?」

 

 て、テキトー過ぎませんか、そのネーミング!?

 

「これから数が何人も増えるんだもの。単純な名前にしないと考えるのに紅朗、苦労するわよ」

 

「うまくないからね、ダジャレでも他人の名前を使うのはダメだからね!」

 

 そんなことを言い合ってると、ブルマは無反応に自分を見るクローン悟空、じゃないーー壱悟に声をかけた。

 

「えっと、壱悟じゃダメかしら?やっぱりちゃんとした名前の方がいいか。ソックスってどう?」

 

「壱悟にしなさい!そうしなさい!!その人、マジで下着の名前付けっから!!脅しじゃないから!!」

 

 そうでした、カプセルコーポレーション一家は下着の名前を何故か付けるんだよ。

 

 すると壱悟はニッと悟空のようにブルマに笑いかけた。

 

「あらやだ、孫君ってこうして見ると。いい男よね〜」

 

「ブルマ、相変わらず面食いだな」

 

 ヤムチャさんのボヤキを聞き流す、踏み入ってはならない。決して。

 

 で、着替えてきた我々だが、壱悟くんは名前を最初から決められていたようだ。

 

 なんせ道着の胸と背中に「壱」て書かれてる。

 

「いちおう「拾」までは書いてるけど、その先になると「悟」マークしかないのよねぇ」

 

「さ、流石に百も書けないだろ。11とかもう、野球とかサッカーみたいじゃん」

 

「名前もね、そこから先は難しいわよね。拾壱悟(じゅういちご)って無理矢理みたいだし」

 

 壱悟も大概ですよ。実際。

 

「その格好したら、ホントに悟空と変わらないな」

 

「確かに。ちょっと肌の色が悪くて髪が燻んでるが、悟空だな」

 

 クリリンとヤムチャの言葉に口元がヒクつく。

 

 せっかくの亀仙流道着。悟空からプレゼントされて嬉しくないわけ無いんだよ。

 

 こんな状況でなければな!!

 

 素直に喜べない自分に悲しむも、右手の球を見る。

 

「そういえば、壱悟だけでなくベジータやピッコロも吸収してたよな。アイツら出せるか、試してみよ」

 

 俺は壱悟を召喚した時と同じようにまず、クローンベジータを思い浮かべる。

 

 光が掌の球体から放たれーー何も呼ばれなかった。

 

「あれ?クローンベジータやピッコロは呼べないのか?」

 

 首を傾げる俺を、全員が目を見開いて見ている。なんだよ、と壱悟を見上げる俺。

 

 おかしい。俺と壱悟は同じ身体だ。何故、目線が俺よりも高い?ブルマと目が合うと、先まで見下ろしていた視線が同じくらいになってる。

 

「アンタよ」

 

「へ?俺?」

 

「アンタがベジータのクローンになってるのよ!ほら!」

 

 鏡を向けられた先には、黒のフィットスーツに白い手袋とブーツ、黒を基調としたバトルジャケットは赤いベルトが肩を通している。

 

 燻んだ逆立った金髪と赤い瞳に死人のような肌は変わらないが、俺の額はM字に変わってやがった。

 

「な、な、な、なんじゃこりゃあああっ!!?」

 

 俺の声が三度、異世界の空に響いていた。





次回から、本格的に転生者達とのバトルになります。

ストレスが溜まるかもしれませんので、予めご了承ください(´・ω・`)

では、次回もお楽しみに(´ー`* ))))


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第13話 悟空、地球の戦士って強いよな?

すまん!

転生者の話のはずが、こっちが先に出来上がってしまった。

予告詐欺してしまった〜、お許しを。゚(゚´Д`゚)




 カプセルコーポレーションの中庭で、俺は周りの人に見られながら変身していた。

 

「ふぅん?ベジータのクローンだけじゃなく。大っきいトランクス、ピッコロのクローンにもなれんのね」

 

「こんな変身できるんなら、いっそ元の姿に戻してくれ」

 

 久住史朗が、どれほど一般人かを皆様に分かっていただけると思う。

 

 ええ、間違いなく。

 

 意識を緩めると緑色の光が胸元から放たれて山吹色の道着を着たクローン悟空に身体が戻る。

 

 着てる服まで元どおりとは、中々便利かもしれない。

 

「紅朗さん、スゲー!!」

 

「いいな、クローンを操るだけじゃなくて他のキャラにも変身できるのか〜」

 

「羨ましいなぁ」

 

 この三バカは、悪気はないんだろうが。それだけにイラつく。

 

「お前ら、羨ましいとか言ってるが。俺の代わりに折戸や21号をぶっ倒す悟空の役を引き受けてくれんのかよ?」

 

 瞬間、首を横に振って退がる。

 

 期待してませんでしたけどね、流石にそこまで嫌がられたら思うところがありますな。

 

「クリリン、ヤムチャ、天津飯。この弱っちい転生者達、アンタ達が引き受けて鍛え直してあげなさいよ!」

 

 壱悟を眺めていたブルマの突然の言葉に思わず三バカプラス俺が目を見開いている。

 

「紅朗は、今から16号と一緒に善い方の21号を助けに行くんだから、暇がないでしょ?それなら、各地に散らばった転生者とかクローン達をぶっ飛ばすのはクリリン達がやれば良いじゃない。ちょうど、その子達もクリリン達のクローンなんだし。自分の体なら鍛え方も分かるでしょ?」

 

 要約すると、だ。

 

 俺と16号だけでラスボス叩いてヒロイン助けて、他のメンツは暴走した転生者や街を破壊してるクローン共を倒して来いってことかぁ。

 

「簡単に言わないでくれませんかねぇ!?マジで!!」

 

「何よ、アンタ。負ける気なの?」

 

「いや、そもそも俺。折戸に負けてるんですがーー?」

 

 どういう訳か、不意打ち食らって倒されたはずが荒野を歩いてたんだよねぇ。

 

「その、折戸だっけ?ソイツも孫君のクローンなのよね?だったら100パーセント、アンタが勝つわよ」

 

「な、何故に?」

 

「決まってるじゃない。アンタは他のクローンと違って孫君達と同じ超サイヤ人になれるのよ?オマケに真・超サイヤ人とかいうヤツにも」

 

 真・超サイヤ人かぁ。

 

 それ、変身してる間の記憶ないから自分がどれだけの力を持って戦ってるのか、分かんないんだよなぁ。

 

 まぁ、あんまり頼らないようにしよう。

 

 と、いうか。

 

 俺、この身体(クローン悟空)にも大分馴染んで来ていたみたいだ。さっき、クローンベジータやトランクス、ピッコロになってみて違和感が半端なかったから。

 

 クローン悟空の身体に戻したら、元の自分の身体くらいにシックリ来る。しかし何気に使えるな、この変身能力。

 

 ピッコロ達になれるって事は、変身した状態なら折戸にも気付かれない可能性が高い。俺の身体はクローン悟空だと思ってるだろうしな。

 

「あ、でも古井って偽物フリーザのヤツが言ってたんですが、向こうも超サイヤ人3になれるらしいんですよね」

 

「ああ、孫君の顔が怖くなるアレかぁ」

 

 そこでブルマは壱悟を見て言った。

 

「壱悟が居るじゃない!なんとかなるわよ、きっと!」

 

 不安だ、不安でしかない。というか、壱悟よ。コクリと頷いて拳を握らない。

 

 流石に2人がかりとはいえ、超サイヤ人で超サイヤ人3に挑んだら瞬殺されるって、間違いなく。

 

 超サイヤ人3になったから分かるが。

 

 体力の消費具合から言うと折戸のガス欠狙っても良いかもしれないが、うーん。

 

 前途多難だなぁ、とため息を吐いた。

 

「能力は同じだから俺たちの修行にもなるんだけどーー。もう少し、頑張ってみないか?」

 

 クリリンがなにかを話しているので、そちらを向くと栗林や天津達が早速、修行を受けていた。

 

「ぜ、全然違う〜!」

 

「み、見えないよ。動きが」

 

「今の、まったく分からなかった」

 

 尻もちついて肩で息してるよ、ヤツら。軽いスパーリングだと思うが? 破壊神のネコに比べたら。

 

「紅朗さん、呆れた顔して俺たちを見てるけど。天津飯さん達に勝てんの?」

 

「え?そ、それはーー!!」

 

 天津くん、たしかに私は呆れた顔をしていたように見えたかもしれない。しかし、それは誤解だ。私はーー。

 

 言い訳を考えて並べていた俺に容赦なく武道家達が構えてくる。

 

「そうだな。よし、紅朗!お前の力を見せてもらうぞ!」

 

「それじゃ、クリリンと天津飯は見ておいてくれ。紅朗、俺と組手だ」

 

「侮るなよ、ヤムチャ。紅朗はビルス様を相手にアレだけ戦ったんだからな」

 

 亀仙流の道着を着た長い黒髪の色男ーーヤムチャか。

 

 ブルマさんと話していたから見てなかったが、飲伏が尻もちついてて、ヤムチャさんは無傷だから。

 

 やられるかもしれない、割とガチで。

 

「こちらは素人なんで、加減してくださいね?」

 

「とか言って、俺に勝つつもりなんだろ?遠慮は要らないぜ、荒野の狼牙。とくと見せてやる!!」

 

 なんで、やる気満々なんだよ!?ヤムチャさん、アンタそんなキャラじゃないよね!?

 

「行くぜ、はぃいいっ!!」

 

 一瞬で目の前に現れたヤムチャは、腕が霞んで見える超スピードで貫手を連続で仕掛けてくる。

 

 嘘だろ、クローン悟空の目でも霞んで見えるのかよ!?

 

「と、た、わわっ!?」

 

 見てガードする余裕なんかない。肘と肘をぶつけ合わせて、右拳を返すも紙一重で首をひねってかわされた。

 

 ヤムチャに反撃した俺のことを飲伏くんが目を輝かせて見ている。

 

「すげぇ。流石、紅朗さん!」

 

 クローン悟空の身体が反応するままに腕を動かして三発は防いだが、顎に放たれた拳を腹に軌道修正して叩き込まれ、息を吐きながら前のめりになったところを左右のフックで首を回されて後退りし、辛うじて倒れるのは防いだが膝が揺れていた。

 

「中々、大したもんだな。目で追わなきゃもっと鋭く動けるぞ」

 

 今のは、完璧に打ち負けた。ヤムチャが肩を回しながら茫然としている俺に言ってくる。

 

 俺が目を見開いてると、クリリンと天津飯がセコンドのように俺の後ろに立った。

 

「紅朗、目が良いのも長所だけど。相手の気を感じて行動しないと、目に見えるものだけにとらわれちまうぞ」

 

「…まずは、じっくりと心を落ち着けろ。相手の動きをよく観察するんだ。もう一度、やってみろ」

 

 的確な二人のアドバイスだが、気持ちを落ち着けるだけで見えたり感じたりできるんだろうか?

 

 いやいや、此処は疑う前にやってみよう。

 

「悟空に地球を任されてたが、今の動きに驚いてビビってるようじゃ。この地球は守れないぜ?その道着も宝の持ち腐れになるかもな?」

 

 ヤムチャの言葉に、俺は見開いていた目をゆっくりと彼の顔に向けて見つめる。

 

 彼はニヤリと笑っている。

 

「らしい顔になって来たじゃないか。そうだよ、紅朗。悟空の代わりをするんなら、そんな顔をしてくれよ!」

 

 野生の狼のような咆哮と笑みに背筋が震える。拳に力が入る。胸が熱くなる。

 

 そうだ。悟空から貰った道着を汚すわけにはいかない。悟空の顔で弱音を吐くなんざ、許されない。

 

 気合いが入る俺の全身を明るい金色のオーラが包み込んだ。肌の色が死人から活気ある超人へと変わる。

 

 これにヤムチャの笑みが鋭くなる。

 

「ーー超サイヤ人、か。クローンみたいな見せかけだけじゃないよな?」

 

 身体から力が湧き出てくる。

 

 この身体が出せる本来の実力か。破壊神ビルスを相手にした時は、差があり過ぎて分からなかったが、ヤムチャならどうだ?

 

「遠慮は要らないぜ、来い!!」

 

「なら、行くぞ!!」

 

 一気に目の前まで踏み込むーー。ヤムチャは笑いながら拳を構えてる。敢えて迎え撃ったな、この野郎!

 

 右拳を交差するように繰り出し、互いの左手でつかみ止める。

 

「超サイヤ人は、フリーザも恐れた伝説の戦士だって事を思い出させてやる!!」

 

「あいにく、超サイヤ人でも素人に負けるような牙を俺は持ってないぜ!?」

 

 金色のオーラと白色のオーラを纏い、俺たちはカプセルコーポレーションの広大な敷地を、狭いとばかりに飛び回る。

 

 鋭い貫手を放ってくるヤムチャの拳は、本当に牙のようだ。ガードしても肉が削がれて血が流れる。

 

 蹴りも鋭い槍のようだ。

 

 俺よりも手足が長い分、ヤツの懐に踏み込まないとまともに殴り合えない。

 

 このラッシュ力は、とてもじゃないが足下がお留守だなんて言ってられない。それぐらい手数もスピードもキレも半端じゃない。

 

 これが、地球の戦士。ヤムチャの実力か。

 

 ハッキリ言う。殴り合いでは絶対に勝てない。技術が違う、スピードが違う、手数が違う。

 

 おまけに殴り合いの経験も違う。向こうは、俺の動きに対応して致命打となる拳を何発も急所にカウンターで叩き込んでくる。

 

 鮮やかで見惚れちまうくらいだ。

 

 なるほど、こりゃ反則だ。

 

 だが空気を読めない俺の身体は、クリーンヒットしてるのに仰け反りすらしない。

 

 ヤムチャの鋭い貫手やラッシュの数々を、俺はクローン悟空の反応に任せても防ぎ切れてない。まともに貰ってるのに、それを冷静に見れる。

 

 ヤムチャには、こちらの攻撃は当たっていない。紙一重で捌いたり、当たってもガードの上だ。なのにヤムチャの顔には余裕がない。

 

 何回か拳と蹴りを交換してから、俺はバックステップして距離を取り、ヤムチャを見つめる。

 

「……ヤムチャ、さん」

 

 彼は肩で息をしていた。身体は、俺の攻撃に当たっていないのにボロボロだ。

 

 こんな、理不尽な話があるか?

 

 素人の俺が、クローン悟空の身体だからって。超サイヤ人だからって。

 

 こんなに研鑽して努力してる人間を簡単に超えてる。そんなことが、許されんのかよ…!?

 

「紅朗、お前は確かに良いヤツだな。ビルス様のワガママもあったが。悟空が、お前に託すのも分かるぜ」

 

 真剣な表情で、汗で髪が顔に張り付いてる。それでも、それでもヤムチャの口許には笑みがあった。

 

 目には力があった、この人は俺なんかに負けていい男じゃないのにーー!!

 

 拳が震えて真っ直ぐに彼を見れない。そんな俺に、ヤムチャは言った。

 

「紅朗。お前がいいヤツだって分かった上で言わせてくれ。ーー俺を、ヤムチャ様を舐めんなよ」

 

 その言葉の力強さに、俺は目を向けるしかなかった。

 

 目の前には、傷を負いながらも強い意志を黒目に宿した男がいる。

 

 天津飯の声が、俺の背中に浴びせられた。

 

「紅朗。武道家にとって、勝負の最中に情けをかけられることほど屈辱はない。忘れるな、悟空は確かに甘い。だがそれは生き死にを賭けた時だけだ。武道家としての大会ならヤツは、手を緩める事を侮辱だと思うだろう」

 

「難しいよな。武道をしたことないのに、いきなり武道家の気持ちを分かれってのはさ。でもな、それが今のお前なんだ」

 

 クリリンの言葉に前を向く。ヤムチャが、ゆっくりと俺に向かって右手を上げて下ろし、左手を下から上げて顔の前で手首を上下にあわせる。

 

「さあ、決着だ。紅朗!!」

 

 ヤムチャの腰に置いた両手からは、一つの強烈な青い光の塊が生まれている。

 

「……でもよ。俺はーー」

 

「構えろよ、紅朗。この先、お前の前に居るのは俺みたいな弱っちいヤツじゃない。追い詰められたら地球を丸ごと破壊しちまうような悪党達なんだからよ」

 

 肩で息をしてる。彼の練り上げた光は、俺には効かないってーー見ただけで分かっちまう。

 

 避けるまでもなく、撃ち返すまでもなく、かき消すまでもない。

 

 今の俺には、まったく効かない。

 

「…相手が弱っていようが、自分より弱かろうが。情けをかけて自分がヤバイ状況にはなるな。お前なら、分かるよな。油断大敵って言うだろ?俺が、言ってるんだからよ」

 

 ああ、分かるさ。サイバイマンの時か、歴代の天下一武道会のことかは分からないが。

 

 アンタは、そうだよな。油断さえしなけりゃって、何度もそう思ったよ。でも、アンタは言い訳をしないんだよな。

 

 足の骨を折られても、クリリンを庇ってサイバイマンに殺されても、アンタは誰かのせいには絶対にしない。

 

「ーー分かったよ、ヤムチャさん」

 

 この人の気持ちに応えるなら、この技しかない。

 

 気を練りながら両手を広げた後、前に。手首を上下に合わせて腰をひねりながら、右腰に両手を置いて構える。

 

 力の塊が青い光を放ちながら生まれ、ヤムチャさんは嬉しそうに笑った。

 

「「かぁ……!めぇ……!はぁ……!めぇ……!!」」

 

 俺たちは、同時に相手に向けて両手を突き出した。

 

「「波ぁああああっ!!!」」

 

 二つの青い光は、俺たちの真ん中でぶつかる。ヤムチャさんの放った光は、俺の光よりもふた回りは小さい。

 

 だけど、俺の光は形を変えてグニャリと凹むのに、ヤムチャさんの光は形をまったく変えずに俺の光にのめり込んでいく。

 

「気の大きさは超サイヤ人に敵わないが、練度なら負けないぜーー!!」

 

「…っ!アンタ、本当にすげぇよ。素直に尊敬する。だからさーー!!」

 

 気を練るーー。それは昨日、今日で出来ない。この硬い気を打ち破るには、圧倒的な質量しかない。

 

 イメージしろ、細い鉄の棒を曲げるほどに強大な質量の塊を。

 

「俺の全力を、アンタで試す!!」

 

 自分が放っている光を見る。イメージしろ、一気に爆発させるんだ。

 

 口を大きく開けて、俺は叫んだ。

 

「フルパワァアアア、だぁあああ!!!」

 

 俺の放った光は、一気に爆発して倍近くまで太くなり動かなかったヤムチャの光を押し返していく。

 

「ぐ、気の量が違うと、こうまで差が出る、かぁ!!」

 

 ヤムチャの光が破壊されて飛び散り、一気に俺の光はヤムチャに迫る。

 

 ヤバイ、力を込めすぎたーーヤムチャに当たる!!

 

「気功砲ーーっ!!」

 

 傍らから、強烈な咆哮と共に金色の光が俺のかめはめ波の側面に当たって、狙いが逸れ青い空を撃ち抜いて行った。

 

「ぜ、全力のかめはめ波を、アッサリと!?」

 

 目を見開く俺に天津飯はニッと笑いかけてきた。

 

「気の練度が高ければ、威力が劣っていても撃ち抜く角度で進行方向を変えるくらいできる」

 

「凄いじゃないか、紅朗! 凄い気の量だったぞ!!」

 

 クリリンの笑顔に、なんとか返事をしながら立っているのがやっとのヤムチャに手を差し伸べる。

 

「だ、大丈夫ーーですか?」

 

「あ、…ああ。派手にやってくれたな、まったく」

 

 肩を貸してくれ、と言いながら出された腕を掴む。確かに、俺は勝った。

 

 でも、こんなものは勝利とは言えない。

 

 悟空の身体だから、超サイヤ人だから、勝っただけ。技術が、経験が、練度が、何一つ足りてない。

 

 ビルスと戦った時より、俺は敗北感を感じていたが。それ以上に、嬉しくあった。

 

 地球の戦士達は。

 

 Z戦士は、強いんだ!!!

 

 天津飯とヤムチャの実力に、悔しさと敗北感もあるけれど。それでも、憧れていた想いは間違いじゃない。

 

 優しくて強い、英雄なんだと改めて実感できる。

 

 茫然と俺を見てる天津や飲伏、栗林に向かって俺は笑いかけた。

 

「どうだ、お前ら。ヤムチャや天津飯ーーZ戦士はネタキャラなんかじゃないだろ?」

 

 俺の言葉に、3人は力強く凛と輝く赤い目で頷いてきた。

 




次回こそは、21号と転生者の話になりまする。

お楽しみに(´ー`* ))))



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第14話 悟空、これ絶対アンタが必要だよ

今回は、三人称視点で話が進みます〜。

そして、ドラゴンボール二大悪役が参戦です。

彼らが、この物語のトリックスターとなるか。それとも?

お楽しみに(´ー`* ))))



ーーフリーザ軍

 

 数ある星々を支配下に置き、その惑星の住民を奴隷にするか。皆殺しにして、高値で他の悪党に星を売る。

 

 地上げ屋のような事業を行う、その尖兵がならず者の集まりであったが。

 

 現在の軍は、そのならず者が主力だということが白い人型のトカゲのような宇宙人ーー帝王フリーザには不満であった。

 

 宇宙空間から惑星フリーザNo.10を見下ろしながら溜息をつく。

 

「…この程度の兵士が今の私の軍、ですか。下らない」

 

 紅の瞳が実に退屈そうに細まる中、司令室の扉が開いて二人の長身の異形が姿をあらわす。

 

「どうした、フリーザ?調子でも悪いのか?」

 

「最近は、随分と大人しいじゃないか。ターレスと別れてからは躍起になって戦闘員を鍛えていた、お前が」

 

 人造人間セルと魔人ブウだ。

 

 彼らに向かうと、フリーザの不機嫌で退屈な雰囲気が少し和らぐ。

 

「鍛えたところで、大した戦力にもならず。挙句に星を支配するどころか、略奪するだけして売ろうにも売れない残りカスのような状態で私に献上する能無しども。いい加減に堪忍袋の緒が切れそうです……!」

 

 コメカミにシワがより、血管が浮き出るもフリーザは粛清した部下達を思い出す。

 

 弱者からの略奪は望むところだが、略奪が過ぎて売り物にもならないようでは話にならない。

 

 かつては自分の恐ろしさが知れ渡り、ザーボンやドドリアと言った管理職が働いていたから、最下級兵士にまで教育が行き届いていた。

 

 今のような体たらくでは、無かったのだ。

 

「あなた方が、星の支配や征服にもう少し積極的ならば何も問題ないのですがねぇ」

 

 知能も戦闘力も自分に匹敵するほどに高く、何より機転が利くセルとブウがかつてのザーボンやドドリアのように現場仕事をしてくれれば、一気に変わるのだ。

 

 エリートであるギニュー特戦隊が、一人一人散らばって星の支配に行き、現場で最下級兵士にまで教育するとなると特戦隊のチームワークという最大の利点が損なわれる可能性がある。

 

 セルが端正な顔立ちに冷たい笑みを浮かべて告げた。

 

「生憎だが、私は征服などという俗な趣味はないーー」

 

「私は、星を自分の遊び道具にして構わないなら行ってもいいのだが。他人にやるために星を征服する理由が分からん」

 

 ブウが心底、不思議そうに首を横に振るのを見てフリーザも笑う。

 

「それが、商売ーーというんですよ、ブウさん。やはり、お二人に頼むのは無理でしょうねぇ」

 

 そもそも、自分と同程度の力がある二人をザーボン達のような教育係にするのも勿体ない。

 

 自分の修行相手にはなってくれるのだから、高望みをするべきではないか、などと考えているとセルがジッと自分を見ているのを感じ、フリーザは首を傾げる。

 

「どうしたんです、セルさん?」

 

「少し、私を地球に行かせてくれないか?」

 

 頼み事など珍しい事もあるものだ、とフリーザは目を丸くしながら言う。

 

「地球へ?」

 

「ああ。気になることがあってな」

 

 淡々と言うセルだが、自分に頼み事をするくらいには気になることが地球にある、らしい。

 

「…構いませんよ。貴方なら、何の心配も要りませんからねぇ」

 

「ありがとう、フリーザ」

 

 素直な礼に思わず目を見開くフリーザだが、セルの横で必死に声を抑えて肩を揺らすブウの姿を見てフリーザの目がつり上がる。

 

「からかうのは、やめろ!!」

 

「いやいや、素直な気持ちだよ」

 

 やや裏声になるフリーザにセルが愉快げに笑う。コイツらは、からかい甲斐のある人間を見るとやらずには居られないらしい。

 

 ターレスが居なくなってから、フリーザはセルにからかわれるようになっていた。

 

 しかし、意外にも今のセルの声は表情と違って真剣みを帯びている。興味が湧いて、つい口にした。

 

「……私も行きましょうか?」

 

「それはやめた方がいいだろう。軍の下級兵士どもが下らん真似をするかもしれん」

 

「ま、それもそうですね」

 

「……地球を破壊しかねんしな(ボソッ)」

 

「今、何か言いました?」

 

 冷静な指摘に頷くと、フリーザの傍らに青い肌の丸い顔、ピンク色の髪をおかっぱにした老婆が黄色の肌をした科学者と共に現れた。

 

「フリーザ様も、仲のよろしいお友達が二人も出来て何よりです」

 

「べ、ベリブルさん!?」

 

 科学者にベリブルと呼ばれた老婆は気にした風もなく、フワフワと足を浮かせて笑う。

 

「…いつまで経っても、貴方の中の私は子どもって事でしょうか?」

 

 口許をヒクつかせて平静を装うフリーザに楽しそうにベリブルは笑う。

 

「ホホホ、フリーザ様は今でも、お可愛いらしいままでおられますよ」

 

「嬉しく、ありませんね!」

 

 狼狽える科学者を置いてセルとブウが顔を見合わせて苦笑する。

 

 ブウが一つ息をついてからセルに向き直る。

 

「セル、お前一人で行くのは無しだぞ?」

 

「…貴様には面白くないかもしれんぞ」

 

「それを決めるのは、私だ!」

 

 やれやれ、と首を横に振るセルの肩にブウは手を置いた。これにセルが呆れた表情になりながら右手の人差し指と中指を立てて額に当てる。

 

「では、行ってくる」

 

「夕飯迄には戻るぞ」

 

 セルとブウの言葉にフリーザは肩をすかしながら一言。

 

「お気を付けて」

 

 とことん自由な”友人”である。フリーザはベリブル達に見えないように微かに笑みを浮かべて二人の異形を見送った。

 

ーー地球

 

 瞬間移動した先には、強烈な赤い光に吹き飛ばされている何者かの前。

 

「! おや、セル?」

 

「フンーー」

 

 目を見開くブウの隣でセルがつまらなさそうに手をかざして自分たちに迫る青い光を消し飛ばした。

 

 光が爆発した衝撃で、地面に落ちる何者かの影をジッとセルが見下ろす。地面に落ちて仰向けに倒れているのは全体的に黒みがかった灰色の皮膚と特徴的な二本角のような頭に黒いセミの羽、赤のラインが頬に入った白い端正な顔立ちの異形。

 

 完全体のセルそっくりのモノが白目を剥いている。

 

「今の地球にはこんな紛い物が出回っているのか? セル。お前ともあろう者が、こんなつまらん物を見に来たのか?」

 

 ブウが白目を剥いたセルそっくりの異形を覗き込んだ後、本人に問いかける。

 

 しかしセルはブウの問いかけを無視してジッと空を見上げていた。

 

「感じないのか? 魔人ブウ」

 

 いつものブウという問いかけではない。魔人ブウとわざわざ言ってきた。ということは、魔人の能力でも地球に起きている異変が分からないのか、と言いたいようだ。

 

「お前は、相変わらず回りくどいなぁ」

 

 呆れたような声のブウにセルがシニカルな笑みを返す。

 

「簡単に答えを言っては、楽しめるものも楽しめないだろう?」

 

「……フ、それもそうか。この地球を覆っている妙な波動に興味があるのか? 一定以上の戦闘力のものを無力化させるようだがーー」

 

 セルが笑みをゆっくりと消して気を高め始める。

 

「……そのようだな。全ての生きる者の発する生命エネルギーに関与し、気の上限を予め定められているようだ。一般人にはほとんど影響はないが、高い戦闘力を持つ者は問答無用で意識が奪われ、戦闘力を固定化される」

 

 金色のオーラが青色の稲妻を纏いはじめ、やがて緩やかに緑がかった金色の炎へと変じた。その圧倒的な気の量にブウがニヤリと邪悪に笑う。

 

「私たちには無意味なようだがな」

 

「当然だ。我々は既に生命体の域には居ない。神の領域とやらに居るのだからな。だが、コレではゲームを楽しめんか。敢えて定められた気の上限で闘ってやるのも悪くはない」

 

 ブウがニヤリと笑みを強める。

 

 確かに面白い趣向だと思ったのだ。強敵を探す方が難しい今の状況では、自分の力を制御する方が基本能力が鍛えられる。

 

 地球の戦士達が使う方法だがーー。

 

「それで本題は何だ、セル?」

 

 セルが気を波動の上限までに納めるのを見ながら、淡々と問いかける。するとセルは横目でブウを見た後、青い空を見上げた。

 

「この波動ーーというのは知らんが。こういうのを作る者に心当たりがあってな」

 

「? ほお? 生命体のエネルギーを操って戦闘力を固定化させる。確かに恐ろしい発明ではあるが、お前が興味を示すほどのものか?」

 

「私の生みの親でもーーかね?」

 

 ニヤリと笑うセルの顔は、殺気と苛立ちに満ちている。

 

 ブウは、その殺気を心地よさげに目を細めて受けると知的な頭を回転させ始めた。

 

「なるほど。自分を作り出した存在が、汚点をまき散らす様に我慢ならない、か?」

 

「……貴様には面白みがない、と言ったぞ?」

 

「分かっている、だが。追いてきたのは私の自由だとも言った、その上で面白いかを決めるのも私だとな」

 

 ブウは上機嫌だ。何が面白いのかとセルが訝し気に目を上げると、彼は肩を竦めて笑う。

 

「お前が、そんなに感情的になるのが面白い」

 

「…つくづく、悪趣味な奴め」

 

「そう言うな。私の友の中で、最も乱れないのがーーお前だからな」

 

 ブウの知る限り、セルという男はどれほど追い詰められようとも余裕の笑みを浮かべて最善の状況を導き出して選択する。

 

 そのセルが、感情的になるなど孫悟空と孫悟飯の親子くらいなものだった。

 

 それなのに、今回はあの親子の時よりも感情的になっている。

 

「その理由がーーこの粗悪なクローンでもなければ、私の中の大界王神が教えてくれた我々とは違う次元の魂でもない。それらよりも遥かに取るに足らないーー波動を作り出したかもしれぬ存在」

 

 言いながらブウは右手をセルの右上の空に向けて指さした。

 

「ーー? アレは」

 

 強烈な青い光が灰色の人型のトカゲのような存在を運んでいる。あのまま、上空へと進めば爆発してトカゲは死ぬだろう。

 

 ブウが指先から桃色の光を弾かせる。それだけで、強烈な青い光は霧散して消えた。

 

 人型のトカゲーークローンフリーザが、地面に叩き落とされる。

 

 それらを無表情に見つめて、セルはブウと共に視線を前方にやった。

 

 色白の肌に、黒縁メガネから覗くクールな切れ長のツリ目が特徴の女性にしては長身の美女が立っている。

 

 整った目鼻立ちに加え、グラマラスなプロポーションの持ち主。

 

 また、毛量が多く、外ハネした癖の強い茶髪のロングヘアーを持っている。

 

 服装は赤と藍色の6面分けで構成されたタイトなミニワンピース。ワンピースの色に合わせるように、右足が赤、左足が藍色のハイヒールに、更にパンティーストッキングを穿いたかなりセクシーな服装である。

 

 その上から左肩にレッドリボン軍のマークが描かれた白衣を羽織り、両耳に金のイヤリングとイヤーカフを付け、左手中指に金のリングを嵌めている。

 

 レッドリボン軍のマークが付いた白衣などなくても、イヤリングのデザインでセルには一目でわかる。

 

 セル以外の人造人間達が共通で付けているものと同じデザインのものだ。

 

「………女。貴様、何者だ?」

 

 女の周りには、黒っぽい灰色の上衣と赤いインナーシャツを組み合わせた亀仙流の道着と同じデザインのものを纏う燻んだ金色の髪を逆立てた、赤い瞳の孫悟空がいる。

 

 周りには、悟空と同じ色の戦闘服を着た燻んだ金色の髪に赤い瞳のベジータ、更にブウの知らないスキンヘッドの巨漢が立っている。

 

 フリーザ軍の戦闘服を着ていることから、おそらくはベジータの仲間なのだろうが。

 

 彼らは皆、死んだ人間の肌のように血色がない。

 

「人造人間21号」

 

 邪悪な笑みを浮かべて女はセルの問いに応えた。

 

 これに瞳を鋭く細めた後、セルは隣に立っている孫悟空の紛い物ーー気の質から其処に倒れている自分やフリーザに似た存在ーーおそらくはクローンを見つめる。

 

「…完全体のセルが、ドラゴンボールで蘇った訳でもなく普通に生きているとはね。この歴史では悟飯に倒されてないのか? もしかして、孫悟空の仲間になった? でも、それなら隣に悟飯やゴテンクス、ピッコロを吸収したブウが居るのもおかしいな」

 

 笑いながら、彼は言ってくる。

 

 孫悟空の偽者ならばブラックという存在とセルは闘ったが、アレよりも更に品がない。

 

 顔の似ているターレスやバーダック、ターニッブと比べるのもおこがましい程に器が小さいというか、凡俗という印象を受けた。

 

「興味深いな。私を究極の魔人ブウと知っていて、その程度の驚きとは。しかも異世界の魂が私を知っていることにも驚きだ」

 

「知ってるよ。ドラゴンボールは、俺も好きだからね」

 

 その他意のない言葉にブウの瞳が思案気に細まる。意味を読み取ろうとしているのだ。セルにも察せられたが、おそらく今のドラゴンボールというのは、地球に七つあるドラゴンボールのことではない。

 

 もっと違う何か、だろう。

 

「お前らの事は、何もかも知っている。産まれた時期も死ぬ瞬間も、負けた時にどんな無様なセリフを吐いたかも」

 

 ブウがチラリとセルを向くと、彼は何も言わずに孫悟空の紛い物を見つめている。

 

「貴様は、何者だ?」

 

「俺は、お前らとは違う世界の人間。二次元(漫画)のお前らとは違う、三次元(現実)の存在だよ」

 

 自分たちを見下すかのように笑みを浮かべる孫悟空の紛い物と、その周り。

 

「…ベジータと、地球に襲来してきたころに居たナッパとかいうサイヤ人か。紛い物だがな」

 

「…? ああ、ピッコロと悟飯の記憶にヒットした。そうか、あの時の雑魚か」

 

 淡々としたセルの言葉に、ブウも目を見開いて手を打った。喉に刺さった魚の骨が取れたかのようなスッキリとした表情だ。

 

「はじめようか? 21号、アイツ等を食いたいだろ?」

 

「フフ、私の為に狩ってくれるの?」

 

「ああ。お前が、生き残るためにな…!俺の女としてーー!」

 

 笑いながら、訳の分からない自信を持って孫悟空の紛い物はセルとブウに向き直った。

 

 紛い物は気を纏う。神の気に似た形をした黒の外縁に内は鈍い金色、漆黒の雷が走る邪悪な炎。

 

 血のように紅い瞳が輝き、燻んだ金髪がなびいている。

 

 普通の超サイヤ人ではあり得ない気の量と、邪悪さにセルとブウの目が見開かれる。

 

「素敵よ、修二ーー! そのまま、ソイツ等に身の程を思い知らせてあげなさい」

 

 妖艶な笑みを浮かべる21号。

 

「分かっているさ。コイツ等をお前に食わせて、その上で俺がお前に勝てばーーだったよな?」

 

「ええ、そうよ」

 

 下卑た笑みを浮かべる修二と呼ばれた紛い物にセルの表情が冷たいものへと変わった。

 

「なんだか知らんが、波動の影響とやらが仮にあったとしても。その程度の気で私に勝てると思っているのか?」

 

 ブウに対して左手を出して前に出るな、と主張している。これに肩をすくめてブウはニヤリと21号と修二達を見つめる。

 

「仮にお前が孫悟飯に倒されていなかったとしても、これで充分だと思うが?」

 

「そうかな?」

 

 静かにセルは青い雷を纏った金色のオーラを身に纏う。

 

 上限までの気しか解放しないセルにブウが意味ありげな目を向ける。

 

「さっきの強烈な気は出さないのか?俺の力で真正面からねじ伏せてやるぜ」

 

「…私の本気は、貴様程度に出すほど安くはない」

 

「後悔するぞ」

 

 瞬間、修二の足元が弾けて一気にセルの目の前に移動する。拳が顔に向けて放たれる。セルは左手で掴み止めると右の拳を間髪入れずに返す。

 

 首を横に倒して避ける修二に目を微かに細めると、凄まじい拳打と蹴打を交互に繰り出しあう。

 

 五撃ーー攻撃を繰り出しあう中で、クリーンヒットを顎とボディに叩き込まれて顔をのけ反らせる修二の首にセルの長い脚が叩き込まれる。

 

 体を側面に泳がせる修二の腹に槍のような蹴りが入り、前のめりになった所を腹に刺さった蹴りが顎を打ち貫いて天を突き刺した。

 

 後方へ派手に吹き飛んで放物線を描いて倒れる修二をセルは無表情に見下ろす。

 

「その程度か?」

 

 セルの言葉に修二はニヤリと笑みを浮かべて立ち上がってくる。

 

 クリーンヒットしていても気の量が高ければ高い程、防御力も上がる。今のセルの戦闘力ではダメージを通すのは難しいはずだった。

 

 セルが踏み込み、拳を繰り出すと今度は紙一重で上体を反らされて鼻先で避けられる。

 

 それを静かに観察しながらセルは淡々と作業のように拳と蹴りを繰り出していく。

 

 強烈なボディブローが、セルの右ストレートのカウンターに放たれた。鈍い音が周辺に響き渡り、セルが前のめりになると、その顎を修二は殴りつけた。

 

 後方へ吹き飛び、尻餅をついたセルを見下ろし、修二は笑う。

 

「どうだ? たった2発のパンチでダウンを取られた気分は?」

 

 超然とした笑みは、自分に酔っている。

 

 完全体のセルを相手に圧倒している自分に彼は完全に酔っている。その酔いは酔えば酔うほどに修二の気を高めていくようだった。

 

「流石っすよ、折戸さん!!」

 

「カッケー!! さすが、孫悟空!!」

 

 クローンベジータとクローンナッパが囃し立てる中、セルは淡々と立ち上がる。

 

 その眼はーー虫けらを見るように無表情だった。

 

「俺は悟飯ほど甘くないし、悟空ほど馬鹿じゃないぜ」

 

 その言葉にセルは、ゆっくりと気を纏い拳を握る。虫けらを見る目を止めることはない。軽蔑の視線を受けて折戸修二の眼が見開かれる。

 

「なんだ? その気に入らない目は?」

 

 その問いかけにセルが静かに応えた。

 

「貴様如きがーー孫悟空と孫悟飯を知ったかぶるか。くだらん」

 

「甘い息子と阿呆な父親に負けて悔しいのか? ま、気にすんなよ。あれはシナリオの都合だ」

 

 肩を上下させて訳知り顔で笑う折戸の側面に一気に踏み込み、セルが拳を放つ。鬱陶し気に手で払う折戸を見据えて更に右の上段廻し蹴りを放つセル。

 

 咄嗟に折戸は右腕を上げて受けようとするも、蹴りは軌道を変えて吸い込まれるように折戸の鳩尾に突き刺さった。ダメージはない。

 

 今のセルの戦闘力は波動によって調整された上限でしかないからだ。

 

 セルはダメージを与えられていないのにも構わず、鳩尾を抜いた脚で先ほどと同じように顎を蹴り抜いて吹き飛ばした。

 

 背中から地面に落ち、大の字にダウンしてから一瞬で立ち上がってくる折戸。

 

「おいおい、避けるのも面倒くせぇ攻撃すんなよ」

 

 彼は首を鳴らしながら笑いかける。他のクローン達も笑っている中、21号だけはつまらなさそうにセルと観戦しているブウを見ていた。

 

「所詮、この程度かーー!」

 

 セルが吐き捨てると折戸がニヤリと笑みを強める。

 

「負け惜しみか? いいねぇ、見苦しくて。もっと吼えてみろよ、負け犬め」

 

 これにブウが呆れた目をして折戸を見た後、セルを見る。

 

「おい、もういいんじゃないか? こんな雑魚に構うのは、見ているこちらも面白くないぞ。自分の負けも理解できないような雑魚にはな」

 

「おいおい、お前まで負け犬の遠吠えか? 魔人ブウ」

 

「ーーセル、替われ。私が身の程を教えてーー」

 

 そういうブウの肩を掴むとセルは、折戸を見て告げた。

 

「孫悟空ならば、顔に放たれた蹴りをフェイントと理解して鳩尾を打ち貫かれることはない。孫悟飯ならば、その後の顎を蹴り抜かれることはない。わざわざ、腹から顎という同じコンビネーションをこの短い間に繰り返してやったのに避けることも防ぐこともできないーー。貴様は、その程度だ」

 

「…! 俺が、孫悟空なんかに劣るって言いたいのか?」

 

「比べるのもおこがましい。貴様の気が大きいのは、クローンの肉体と訳の分からん力を与えられているからだ。何一つ、貴様には誇れるものなどない。そんなものとやり合っても、私がつまらん」

 

 それだけを一方的に言い捨ててセルはブウと共に半透明になっていく。

 

「ふざけるなぁ!!」

 

 気功波が放たれるも、金色のエネルギー弾はブウに左手で弾き飛ばされる。

 

「!!?」

 

 目を見開く折戸をセルが虫けらを見る目で見据えた。

 

「貴様では無いようだなーー。真に至ったのは、これから行く方か。楽しめれば良いが」

 

 それだけを告げてセルはブウを連れて姿を消した。

 

ーーーー

 

 彼らの姿を少し離れた位置から見つめる者が居た。

 

 銀色の髪をポニーテールに結わえ、ハーフズボンとTシャツを着た紫の肌の青年。

 

 彼は額に手をやって肩を竦めている。

 

「あちゃぁ。折戸くんじゃぁ、悪の気をもらってもセルを本気にさせられないかぁ。でも、これでいいのかもしれないね」

 

 彼は暗い笑みを浮かべて呟いた。

 

「ーー僕に恐怖を与えた真・超サイヤ人。あの力、絶対に僕のモノにしてみせる…!」

 

 彼の脳裏には、時の狭間で逃げるしか出来なかった恐ろしい黄金のサイヤ人が浮かんでいた。




最後に出てきた彼は、何者なのか?(´・ω・`)

次回もよろしく〜(´ー`* ))))



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第15話 悟空、ハチャメチャが押し寄せて来たヨ

今回は、タイトル通りの話です。

紅朗の出番がちょっとしかありませんが、予めご了承ください。(;´Д`)

では、お楽しみに( *´艸`)


 

 邪悪なオーラを纏うクローン悟空。

 

「デカイ口を叩いて逃げるだけか? かつての2大ボスも俺の前では雑魚も同然だな。逃がすかよーー餌ぁ!」

 

 折戸修二は、逃したセルとブウの後を追おうと瞬間移動の構えを取る。

 

「ーー追わなくていいわ」

 

「21号?何故だ?」

 

 彼女は淡々とした口調で告げた。

 

「今のままでは、貴方が負けるからよーー」

 

「負けるって?俺が?まだまだ、超サイヤ人2や3を残してるんだが?」

 

 嘲笑を浮かべる折戸に21号は淡々と告げた。

 

「ええ、勝てないわ。セルとブウってヤツ等の顔を見なかったの?」

 

 目を見開く折戸に21号は子どもをあやすような優しく甘い声と軽蔑のような冷たい笑みを浮かべた。

 

「戦闘経験がないのは仕方ないけど、もう少し見る目を養って欲しいわね。あいつ等、実力の1割も出してないわ」

 

「…なんだと?」

 

 固まる折戸に21号が笑いかける。

 

「どうしたの?貴方の読んだ漫画とは違ってるかしら?ああ、ゲームだったかしらね?」

 

 悔しげに、苛立たしげに唇を噛む折戸を21号は底意地の悪い笑みを浮かべて告げる。

 

「お前の作り出した波動も、いい加減じゃないか?クローンの俺たちだけでなく、機械の精神がリンクしてる訳でもないセルとブウが自由に動けてる。おまけに、1割って言うお前の話が本当なら波動の上限を軽く超えてるんだろ?」

 

「相手のエネルギーが想定を大きく上回っている、それだけの話よーー」

 

 落ち着きながら「二つのデコレーションされたケーキ」をつまんで紅茶を飲む21号を折戸は忌々しげに見た後、告げた。

 

「…まぁ、いいさ。次はもっと、美味そうなヤツをご馳走してあげるよ」

 

「ええ、期待してるわ。修二」

 

 互いに笑みを浮かべて、クローン人間と人造人間は笑い合っていた。

 

ーー全王・謁見の間

 

 虚空の闇が広がる無の界にてーー大神官が作り出した武舞台がある。

 

 そこで第1から12までの宇宙から、それぞれ6人の戦士が呼ばれてバトルロワイヤルが行われていた。

 

 第7宇宙は1欠状態であったが途中参加した孫悟空が戦線に加わり、闘いは更に激化。

 

 各宇宙の破壊神はおろか、天使達すらも手に汗握る熱戦が繰り広げられている。

 

「ヒットォ、ケフラァ!お前達なら勝てるぅう!!」

 

 コートを着た紫色の肌の暗殺者が拳を時と共に飛ばす。

 

 両方の耳に緑色のイヤリングをした緑金色の髪を逆立てた女が強烈な赤と緑の混じった光を放つ。

 

「ジレンさえ居れば、勝てる!!絶対に、負けるはずがないんだ!!」

 

 赤と黒のフィットネススーツを着た灰色の肌の男が、頑丈な拳に赤い灼熱を帯びさせて真っ直ぐに放つ。

 

 第6宇宙の破壊神シャンパが、第11宇宙の破壊神ベルモットが自分の宇宙の最強の戦士に向かって叫んでいる。

 

「悟空ぅう!ベジータ、バーダック、悟飯、ブロリー!!全員、真の力を開放しろぉお!お前達のーー超サイヤ人の力を見せてやれぇえ!!!」

 

 対する第7宇宙の破壊神ビルスは、先ほどから全宇宙に狙われている自分の宇宙の戦士達に向かって声を張り上げる。

 

 強大な爆発が起こる中、山吹色の道着を着た黄金の炎を纏う真・超サイヤ人ーー孫悟空が。灰色の肌の男、ジレンと向き合っている。

 

「…コレがベルモットが言っていた超サイヤ人、か。確かに、凄まじい力だ。お前達を全員倒せば、俺は更なる高みの力を手に入れることが出来る…!この勝負、俺が勝つ!!」

 

 低い声で告げる灰色のジレンに対し、黄金の戦士・超サイヤ人は応える。

 

「どうかな? やってみなけりゃ、分からねぇ…!」

 

 強烈な力と力がぶつかり合う。

 

 拳が蹴りが、互いに目にも映らない速度で交換し合う。

 

「ば、馬鹿な! 本気のジレンと互角に打ち合えるだと!?」

 

「そ、そんな!! これが、これが超サイヤ人だと言うのか!?」

 

 ベルモットと界王神カイが叫ぶ中、悟空とジレンの気は天井知らずに上がっていく。

 

「凄い凄い!! 凄いのね! 大神官、悟空と互角のあの戦士ーー! なんて言うの!?」

 

「彼は第11宇宙のジレンですね。素晴らしい戦闘力ですーー。しかし、全王さま。このまま彼らの戦いをエキシビジョンで見てしまうのは、惜しいのでは?」

 

「どういうこと?」

 

 首を傾げる全王に、大神官は微笑む。

 

「今回の試合は、急遽組まれた前哨戦。本番は、きちんとルールを決めてそれぞれの宇宙の戦士に一対一で闘っていただく予定です。その方が、全王さまもゆっくりと観戦できますからね」

 

「うん! でも、バトルロワイアル形式も面白いのね!」

 

「ですので、きちんと形式を定めた本番まで孫悟空とジレンの戦いは取っておいた方が良いのでは、と。私も純粋に楽しみたいのです。孫悟空さんの力が、本当に最強なのかを」

 

 今のバトルロワイアル形式では、周りに彼らの戦いを邪魔される可能性がある、と大神官は言うのだ。

 

 また、他にもバーダック達、一人一人の実力も知りたいというのが大神官の主張である。

 

「分かったのね! それじゃーーあ」

 

 強烈な黄金の龍を纏った拳と全てを撃ち抜く灼熱の拳がぶつかり合った。

 

 互いの気がビッグバンのように爆発し、キラキラと無の界全てに光の粒子が舞い落ちる。

 

 彼らの力を前に微動だにせずに居られるものは、誰も居ないーー。

 

 ーーーー第7宇宙の戦士達を除いて。

 

「! し、信じられん。こんな、こんな連中が第7宇宙だというのか!?」

 

「ちくしょう! 汚ねぇぞ、ビルス!! どんだけ鍛えてんだ、テメェ!!」

 

 ベルモットが驚愕に、シャンパが怒りに表情を震わせる中、ビルスは額の汗をぬぐう。

 

「…フン。悟空が真の超サイヤ人を出したんだ。他の連中が力を出さないだけでも有難く思え!」

 

 確実な第7宇宙の勝利を確信するも、ウイスが声を上げた。

 

「それは、どうでしょうね? 真・超サイヤ人の力に引き上げられるようにジレンも力を上げています」

 

「な、なんだと!?」

 

 目を見開いてジレンを確認すれば、気が更に膨れ上がっている。体力が落ちれば落ちる程に気が反比例して上がっている。

 

 互いに拳を身体で受け、交互にのけ反りながらも脚を止めて全力の一撃を交換している。

 

「ベルモット様。ジレンもまた、孫悟空の強さを前に壁を超えようとしています。これは、どちらが勝つとは言い切れませんですますよ」

 

 長い白髪をツインテールにした第11宇宙の天使マルカリータの言葉にベルモットが笑みを浮かべる。

 

 その端では、第6宇宙の超サイヤ人ケフラの圧倒的な力の前に倒されようとしている第10宇宙の黄色の肌の戦士オブニが肩で息をしていた。

 

 彼の左右には仏像のような姿をした戦士ムリチム、赤い肌をした長い水色の髪の優男ジラセンがいる。

 

「へ、ここまでのようだな? ま、アタシを相手によく頑張った方だぜ」

 

「…く、ここまでか。申し訳ありません、ゴワス様」

 

 右手を掲げて緑と赤が混じった光を放つケフラ。その前に彼らは成す術なく飲み込まれようとしていた。

 

「ーー第10宇宙の代表戦士ともあろう者が、この程度の連中に何をしている?」

 

 よく通る低い声。

 

 漆黒の闇の空間から小さな太陽のような赤い光弾がオブニを守る様に放たれ、ケフラの光を飲み込んで消した。

 

「な!?」

 

 目を見開くケフラの前には、逆立った黒髪と漆黒の瞳孔が開いた銀色の眼を持った男。

 

 赤いコートは界王神のもの。それを明るい水色の腰帯で締め、白い道着のズボンに孫悟空と同じタイプのブーツを履いている。

 

 その帯の上には猿のような尾が巻かれている。

 

 その長い前髪は彼の顔の右半分を隠すほどに長く身長は2メートルを越えている。

 

「だ、だれだ、あの男は!? 全王様の謁見の間に、どうやって来た!?」

 

「まさかーーお父様の結界を破った? いったい!?」

 

 ラムーシとクスが叫ぶ中、男の左右には黒髪を腰まで伸ばした長い髪の男と白い人型の龍が居る。

 

「オブニーームリチムにジラセン、と言ったか? 私たちに交代してもらおうか。よろしいですね?ゴワス様、全王様」 

 

 不敵な笑みを浮かべて飛び入り参加した界王神の服を着た男が告げた。これに全王が両手を挙げて頬を染めて叫んだ。

 

「うんーーっ!! 待ってたのね!!!」

 

 これにベジータが、ピッコロが、バーダックが、悟飯が、ブロリーが笑みを浮かべて闘志に目を見開いている。

 

「最高の相手がやってきたぞ!!!」

 

「フハハ! ヤツは、俺が倒す!!」

 

 超サイヤ人ブルーベジータの言葉に伝説の超サイヤ人ブロリーが叫ぶ。

 

「貴様らの相手は私とディスポだ!!」

 

「そう言うこった。舐めんのも大概にしろよ、サイヤ人!!」

 

 これにジレンと同じ服を着た髭の生えた筋肉質の戦士トッポが紫色のウサギに似た人間ディスポと共に応える。

 

「いいじゃねぇか、ベジットでも勝てなかった野郎。俺がブッ倒してやらぁ!!」

 

「気の早い男だ、お前の相手は俺だぞ」

 

 第6宇宙の暗殺者ヒットが、バーダックの前に立ちはだかる。

 

 悟飯とピッコロが目を細める中、ゆっくりと白い人型の龍と長い黒髪をなびかせた人造人間が立つ。

 

「…これは、いよいよ総力戦と言ったところでしょうか?」

 

「フン。誰が最強かーー手っ取り早く決められそうだな!!」

 

 ビルスが目を見開いて呆然とする中、戦士達は笑みを浮かべて歓迎している。

 

 あり得ない来訪をした戦士達を。 

 

「おいおい、お前ら。何度も言わせるなーー。勝手に決めるなよ? 最強を!!」

 

 その闘志に破壊神ビルスも燃え滾り立ち上がり始める。

 

「ビルス様、反則負けになってしまいますよ」

 

「…ぐっ!」

 

 ウイスがすぐさま水を浴びせた。

 

 とはいえ、天使である彼も昂奮している。これほどの戦士が集まるとは思っていなかったのだ。

 

 その時だった。

 

「ーーどういうつもりだ、孫悟空!?」

 

 ジレンの叫び声に皆が注目すると、超サイヤ人悟空が背を向けていたのだ。

 

「悪りいが、辞めだ」

 

「辞めだと!? この勝負に泥を塗る気か!? 俺の力では相手に不服だとでも言うか!!?」

 

 無表情だったジレンの顔は激情に彩られて激しく歪んでいる。

 

 対する悟空の表情は凄みのある冷徹な顔だった。

 

「…そうじゃねぇ。勿体ねぇんだよ、オメエ達とこのまま闘(や)り合うのはな」

 

 穏やかな笑顔を浮かべて悟空は笑う。

 

「見てぇって思っちまったんだーー。力や強さを求めるオメエが、俺以上に真っ直ぐに強さを求めて歩いてるーーアイツと闘う所をなーー!!」

 

「………っ!!」

 

 目を見開く悟空の瞳孔が開いた翡翠眼は一見、冷徹に見えるもその実、ジレンに勝るとも劣らない激情の炎が宿っていた。

 

 その迫力に、気迫に、ジレンの魂が揺さぶられている。

 

 戦わせろ、このまま貴様とーー。

 

 そう感じると同時に相反する気持ちが浮かび上がる。

 

(この、孫悟空程の男が言う俺と闘わせたい戦士ーー。見てみたい)

 

 気付けば、武舞台の激闘はピタリと止まっていた。

    

ーー紅朗視点

 

 次から次へと、ハチャメチャが押し寄せて来やがる。

 

 ヤムチャさんとの組み手を終えて、基本動作を天津達と共にクリリンさんや天津飯さんから学んでいた矢先。

 

 突如、強烈な気が二つ、俺たちの前に現れたんだ。

 

 巨大なツノが二本生えたような独特な頭の形をした漆黒の虫の羽を持つ緑色の化け物と、後頭部から触覚の生えた桃色の体色をした化け物が俺たちの前に現れたんだ。

 

「…!そ、そんな!?」

 

 栗林が叫ぶのも無理はない。先程、俺がぶっ飛ばした(らしい)瀬留間と皮は似てるが中身は別物だ。

 

 ああ、本物だ。この重圧、向かい合うだけで足が震えてきやがる。

 

 問答無用の恐怖と悪意の塊。

 

 こいつらーー「本物の」パーフェクトセルとアルティメットブウだ。

 

「紅朗、下がるんだ!」

 

「ここは、俺たちに任せろ!」

 

 クリリンさんとヤムチャさんが叫んで来るが、セルの瞳孔が開いた桃色の瞳は構える天津飯さんやクリリンさん達を無視して俺を見ている。

 

 いや、正確には俺とーー壱悟だ。

 

「ーーさて、どちらが本命かな?」

 

 静かな声でセルが俺たちを見比べて呟いていた。

 

ーーーー

 

 時の狭間にあるコントン都。

 

 時空を管理する界王神の指示を受けて、歴史を荒らす異界の存在を排除する戦士ーータイムパトローラー。

 

 彼らを日々鍛えるのはーーかつて地球を守り抜いた戦士達や、その敵であった。

 

 都を一望できる丘の上で、一人の人物に教えを受けていたパトローラー達が倒れていた。

 

 界王神の付き人の服を着た緑色の肌の青年は、己の教えを受けて倒れ伏したパトローラー達を見下した後、彼らに背を向けて歩いていく。

 

 彼は少し開けた場所にテーブルを作り出すと紅茶を入れるポッドとカップを取り出し、ゆっくりと茶を淹れる。

 

「どうでしたか、彼ら?」

 

 彼は紅茶を一口飲んだ後、目を開けて銀色の瞳を目の前の山吹色の道着を着た短い黒髪の男に向けた。

 

 男は精悍な顔つきに左目に迫力のある切り傷を付けている。

 

 穏やかな笑顔を浮かべているが、物言わぬ強さが彼の黒い両目から溢れていた。

 

「ーー可もなく不可もなく、だな。鍛えればそれなりにはなるだろうが、それだけのものだ」

 

「手厳しいですね」

 

 苦笑を浮かべる男に青年は卓の向かいに椅子を生み出すと座れ、と言わんばかりに目を向ける。これに男は頭を下げると椅子を引いて向かいに座った。

 

 青年は素っ気ない態度の割に丁寧な手付きで紅茶を淹れたカップを男に差し出す。

 

 これに男はニコリと笑みを返して受け取り、茶を一口飲んで息を吐く。

 

「ふう。母さんに淹れてもらったお茶を思い出しました」

 

「……ほう」

 

「厳しくて、幼い頃から勉強をするように言われてきました。でも、僕のことを誰よりも愛してくれてたって思います。僕が学者になってしっかりした将来を築いていってほしい。それが母さんの夢でした」

 

 瞳を閉じて話を聞いていた青年は男に先を促すように目を向けてくる。その銀色の瞳を見返して男ーー孫悟飯は笑った。

 

「でも、俺はピッコロさんや父さんを尊敬していて。あの二人みたいに強くなりたかった。闘いは好きじゃなかったけれど、闘わないと守れないって思い知ったーー。だから、誰かの幸せを守れるならと拳を磨いてきた」

 

 しかし、自分だけでは人造人間達には歯が立たなかった。

 

 最後の希望をトランクスに託す以外に、何もできなかった。

 

「ーー俺は、強くなれましたか?」

 

 いつの間にか笑みは消え、真剣な黒い瞳で悟飯は向かいに座る緑色の肌の青年を見つめる。

 

「孫悟空を超えた、と言ってほしいのか?」

 

「……いえ。父さんを超えようとは思ってます。でもーー俺は超えることは、多分一生ないと分かってます」

 

 青年の左目が微かに細められるのを見て、弱ったようなーー誇りを持って笑みを返す。

 

「子が親を超えることはない。俺は一生、父さんの背を追い続けるだけです……!」

 

 力を超えることはできるかもしれない。

 

 しかし、その強さに届くとは思えない。

 

 届かなくても、構わない。今の自分は、急ぎはしない。

 

 答えは、己の中にあると教わっている。

 

「だから、貴方に聞きたいのはこれだけです。俺は、強くなれましたか?」

 

 銀色の瞳で青年は静かに悟飯の黒い目を見つめている。その奥に猛り狂う黄金の炎をジッと睨みつけるように。

 

「勘違いをするなよ、孫悟飯。私は弱い者に己の正義を託したりはしない」

 

「……ありがとうございます」

 

 その答えに満足げに笑みを返し、悟飯は更に己を鍛えようとする意志を瞳に滾らせている。その瞳を見返した後ーー青年は空を見上げた。

 

 悟飯と別れた後、青年は一人で刻蔵庫と呼ばれる全ての次元と時空を管理する場所へと足を運んでいた。

 

 彼の目の前には腰までしかない背丈の小さな少女が居る。

 

「ーー来たわね。私の依頼を、受けてくれるのかしら?」

 

 銀色の髪を靡かせ、緑色の肌の青年は静かに彼女を見下ろした後、右手に嵌めた銀色の指輪を輝かせる。

 

 光は粒子となって彼の全身に纏わりついて弾けると、青年は左右非対称に跳ねた独特な黒髪の男に変わった。

 

 その服装は長袖の黒のインナーシャツの上から灰色の道着を着、漆黒の道着のズボンを赤い帯で締め、白いブーツを履いている。

 

 その左の耳には深緑色のポタラが付いていた。

 

「時空を乱す悪党を許すわけには行かない。だけど、悟飯君やトランクスだと今回の相手は厳しいと思うの。実力的には問題ないんだけど、一般人に拳を向けることってできないと思うから」

 

「ーーフン。汚れた人間を葬るのは私に任せよう、というわけか。意外に打算的ですね」

 

 中性的な声は低く色気がある。

 

 笑みは侮蔑的で残酷さを隠そうともしていない。

 

「ええ。悪いけれど、貴方を見定めさせてもらうわ。悟飯君を信用しないわけじゃないけど、貴方は世界を滅ぼした大罪人だもの。今回の任務で、貴方の本当の目的を見させてもらうわよ」

 

「……仮に、私が何かを企んでいたとして。それを、この場で堂々と宣言してよろしいのですか?」

 

「ええ。私って回りくどい事、嫌いだから」

 

 にっこりと笑ってかわい子ぶる子どものような界王神に、男は漆黒の眼を向けた後で彼女が持っていた巻物を手に取る。

 

 その巻物に描かれた世界は、彼が勝ちたかった男達が居る世界であった。

 

「ねえ、最後にこれだけ聞かせて。仮に貴方の眼に異次元から来た彼らが悪と映ったならーー貴方はもう一度、同じことをするの?」

 

 静かな表情で問いかける時の界王神に、男は何も語ることなく巻物を広げた。

 

 巻物の光が男を包み込み、彼を巻物の中に描かれた世界に取り込んでいく。

 

「フューに利用されているだけの彼らを、貴方はーー」

 

ーーーー殺すのか。

 

 その質問はおそらく、確認だろう。

 

 彼を選んだ時点で、そうなる可能性も考慮している。

 

 十中八九、彼ならば殺す。

 

 だが時の界王神は、蘇った彼は以前の彼とは微妙に違うことにも気付いていた。

 

 だから彼女はジッと見つめている。

 

 消えて行った彼は何も言わず、表情も変えずに巻物の世界へと移動した。

 

 彼女は思う。別次元の彼を。

 

 赤い羽織に黒い道着を着た別次元の彼のように、全王の考えさえも変えさせた世界の意思と融合した彼のように。此処にいる彼も彼らのように変わったのだと信じるために。

 

「ーー頼んだわよ、ザマス。いいえ、ゴクウブラック」

 

 時の界王神は静かに、そう呟いた。 

 

 




次回も、お楽しみに( *´艸`)



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第16話 悟空、セルの悪党ぶりは相変わらずだぞ

真面目に復活させてみました。

楽しんでください(=゚ω゚)ノ


 カプセルコーポレーションの中庭で、Z戦士から修行を受けていた俺と壱悟に天津、栗林、飲伏の3人の中学生。

 

 気の効率的な使い方や、譲渡の仕方をクリリンさんから。

 

 肉弾戦の体捌きをヤムチャさんから、総合的な戦術面を天津飯さんから、それぞれ指導を受けていた。

 

「よし! 皆、なかなか筋が良いぞ!!」

 

 天津飯さんの言葉にぜぇぜぇ言ってた俺たちは頭を下げる。

 

「あ、ありがとうございました……!」

 

 辛うじて俺が立っているのがやっとの状態で、他の連中は仰向けに倒れこんだり、座り込んだりしている。

 

 立っているとか言う俺も、倒れそうな体を膝に両手をついて支えてるだけで、全身から汗をかいて止まる様子がない。

 

 目の前の天津飯さんにタオルを渡されても、腕を伸ばすのさえ億劫なほどに疲れ切っている。

 

 超サイヤ人のまま天津飯さんと組み手したんだが、まったく当てられなかった。

 

 全ての攻撃を完全に見切られていた。

 

 天津飯さんは、細かく肩や腰、足を動かすだけで俺がどこに打ち込むのか、蹴り込むのか、踏み込むのかを完全に支配していた。

 

 技のレベルが違いすぎる。

 

 こんなこともできるのかと、驚かされるばかりだ。

 

 ヤムチャさんは壱悟とマンツーマンで組み手をしていて、先ほどまで超ハイレベルな高速移動バトルを繰り広げていた。

 

 だけど壱悟の攻撃は捌かれ、ヤムチャさんの攻撃は全てクリーンヒットしている。

 

 壱悟は俺よりも、この身体の能力を使いこなせている。

 

 なのに、それでもヤムチャさんに肉弾戦で一本も取れなかった。

 

 クリリンさんはクリリンさんで、身体の使い方を教える一環として亀仙流のトレーニングを天津、飲伏、栗林の三人に教えているだけなのだが。

 

 それでも三人とも音を上げてしまった。

 

「も、もう、動けない……!」

 

「き、きっついなぁ……!」

 

「体育の授業の何倍もきついよぉ」

 

 そりゃそうだ、亀仙流のトレーニングはきつ過ぎる。

 

 いくらクローンの身体だからって中身まで変わったわけじゃないんだ。

 

「でも、やっぱり紅朗さんは凄いな。天津飯さん達と組み手出来るんですもん」

 

 栗林の言葉に応えるのもキツイ状態だが、なんとか笑いながら返す。

 

「おまえらも、結構がんばってたよな。見てたよ」

 

「でも、僕らじゃ全然役に立てそうもないです。クリリンさんが折角…」

 

 落ち込む飲伏にクリリンが声を上げて来た。

 

「問題ないよ。懐かしいなぁ、俺も武天老師さまに最初鍛えられた時は、そんな感じだった」

 

 その言葉に、思わず俺は昔の悟空やクリリン達のことを思い浮かべる。

 

 そうだった。

 

 悟空が亀仙人に弟子入りした時に、クリリンがやってきたんだよなぁ。

 

 すると天津飯さんが俺たちに向かって言ってきた。

 

「紅朗は超サイヤ人になれ、壱悟は身体の使い方を理解している。お前達も身体の使い方さえ覚えれば一気に強くなるはずだ」

 

 ちなみにヤムチャさんと組み手をしていた壱悟は、片膝を地面に付いた状態で肩で息をしている。

 

 要は、目の前にいる三人は俺たちがどう逆立ちしても勝てっこないレベルの戦士ってことだ。

 

 こころなしかサイヤ人以外のZ戦士をバカにしていた天津達も、尊敬のまなざしに変わっている。

 

 いい傾向だと思った。

 

 これから旅を一緒にするのなら、Z戦士が少なくとも自分よりは上の存在であることを認めないと苦労すると思うからね。

 

 実際に拳を合わせて強さを肌で感じるのが一番早いとは俺も思う。

 

 変化は唐突だった。

 

 それまでは和やかだった空気が、一瞬で不穏なものになった。

 

 俺の目の前にーー瞬間移動で現れた二大悪役ーー完全体のセルと究極悟飯を吸収したブウによって。

 

「さて、どちらが本命かな?」

 

 セルは俺と壱悟を見比べてから呟いた。

 

 本命?

 

 何の話だ?

 

「な、セル!?」

 

「そ、それに悟飯吸収ブウまで!」

 

「ど、どうなってるんだ……ファイターズにアルティメットブウはいないはずだぞ?!」

 

 声を上げるのは、栗林、飲伏、天津の三人だ。

 

 これにセル達が興味深そうに俺達、現代日本から来た人間を見つめる。

 

「ほう……。私をセルと認識し、ブウを孫悟飯を吸収した形態だとわかっている……。先ほど見た折戸とかいう孫悟空のクローンも似たようなことを口にしていたな」

 

「ふっふっふっふ! これは興味深い。おまえたちはどのようにして私たちがブウでありセルであることを知っているのか? なあ? 異世界の連中よ」

 

 相手はにこやかに笑みを浮かべているだけなのかもしれないが、あの目。

 

 あの目は悪意の塊。

 

 人間を傷つけること、恐怖を与えることを何よりも楽しみだと言わぬばかりの。

 

 そしてそれができるだけの力を持った重圧。

 

 この世界の住人は、こんな自然災害よりもえげつないモノと向き合わなきゃならんのかよ。

 

「うぅぅ……!」

 

「こ、こえぇ……っ」

 

「だ、だれだよ! 本物のセルに成り代わろうなんて言ってたやつら……! こんなに怖いのか、こいつら……!」

 

 天津達が恐怖で動けなくなっている。

 

 仕方ねえだろうな。

 

 人間は目の前に脅威が迫ると足がすくむし、体が動かないし、脳が働かない。

 

「お前たちはさがっていろ!」

 

「天津飯さん!」

 

 その状態をすぐさまに見抜いた天津飯が天津に向かって言った。

 

「ふっ、ひとりで無茶すんなよ。天津飯」

 

「ヤムチャ……」

 

「俺たちが時間を稼ぐ! できるかぎり、な」

 

 天津飯の隣にヤムチャが立つ。

 

 強いのは知ってる、俺なんか逆立ちしても勝てない二人だ。

 

 だけど、コイツ等は。

 

 完全体のセルと魔人ブウは、シャレにならない……!!

 

「ふたりだけにやらせるわけにはいかないよな。俺も残るぜ」

 

「クリリンさん、ヤムチャさんまで!!」

 

 栗林が仲良くなった二人に向かって一緒に逃げようと言外に伝えようと手を伸ばしている。

 

 それを察しながらも三人の地球の戦士は二つの巨悪を睨みつけている。

 

「天津飯、ヤムチャにクリリンか。お前たち程度で、私の相手が務まると思うのか? だが、お前たちがどの程度腕をあげたのかには興味がある」

 

「ふっふっふっふっふ、セル。こいつら三人は私に譲ってくれ。お前は目的の真に至った超サイヤ人を探すがいい。その二人の孫悟空のクローン、そいつらのウチのどちらかがそうだ」

 

「貴様ら! 狙いは紅朗か!」

 

 天津飯の声を聴きながら、鈍くなった脳みそが認識する。

 

 俺が狙いだって?

 

 その瞬間だった……!

 

 考えるよりも先に頭に血が上って足が勝手に一歩出ていた。

 

「馬鹿、よせ! セルも魔人ブウも、お前が相手をしたフリーザのクローンたちとは比べ物にならない!!」

 

「だけど、クリリンさん! こいつらは、俺が狙いだって!!」

 

 言い返す俺の腕を栗林が掴んでいた。

 

「く、紅朗さん!」

 

 隣でブルマが声を張り上げてくる。

 

「バカ紅朗! クリリンたちの言うこと聞きなさいよ! そいつらは本当にひとの命なんてなんとも思っちゃいないんだから!!」

 

「ブルマの言うとおりだ、紅朗! 速く瞬間移動で逃げてくれ! こいつら相手に三人がかりで行っても一分もてば良い方なんだ!!」

 

 ヤムチャが頬に冷や汗を流しながら、笑みを浮かべて言ってくる。

 

 どいつもこいつも痩せ我慢しやがって。

 

「ふっふっふっふっふ、一分か……。では、お前たちに敢えて戦闘力を合わせて戦ってやろう。それならば一分以上はもってくれるんだろ? 天津飯、ヤムチャ、クリリン」

 

 これに俺と同じ山吹色の道着を上半身だけ着て、下を白いシャムワールの長ズボンを履いた魔人が笑う。

 

「や、やろうっ!」

 

「な、舐めやがって……!」

 

「だがチャンスだ! 俺たちに気を合わせて戦うなら、ブルマさんたちをなんとか逃がせられるかもしれない」

 

 天津飯、ヤムチャ、クリリンが拳を握って腰を落とし構えを取る。

 

 そんな三人に向かって笑みを返した後、俺たちを見て魔人ブウは言った。

 

「おっと! お前たちに戦闘力を合わせるのは私だけだ。セルはそうではないぞ?つまり紅朗と言ったか、お前が逃げるそぶりを見せれば一瞬で皆殺しになる可能性がある」

 

「だれが逃げるって?」

 

 瞬間、口が勝手に反応していた。

 

 まったく頭に血が上ると考えるよりも先に口が動きやがる。

 

 なにも、こんな時でまでやらんでいいのにな。

 

「く、紅朗! アンタね!」

 

 ブルマが何か言ってくるが、今はそれどころじゃない。

 

「クリリンさんたちが体張ってくれてんのに、俺だけ逃げるわけにはいかんでしょうが。まして俺は、超サイヤ人孫悟空のクローンなんですからね」

 

「ほう」

 

 感心したかのようなセルの声にヤツを睨みつけると、ブウがセルに声を上げた。

 

「お前の舞台は整えたぞ、セル」

 

「フ、いろいろ気を遣ってくれてすまないな。さあ、始めようか。紅朗、と言ったか? 折戸とか言うお前と同じタイプのクローンよりは楽しませてくれるんだろうな?」

 

 セルが満足そうに笑った後、こちらに向かって拳を握って立つ。

 

 それだけだ。

 

 それだけで、一気に重圧が俺の全身にかかる。

 

 ビビるな、ヤツを睨みつけろ!!

 

 ヤツに飲み込まれたら、終わる!!

 

「壱悟、ブルマさんたちを頼んだぜ! お前なら十分、彼女たちを守り切れるはずだ……!」

 

 この場で頼れるのは壱悟だけだ。

 

 ヤムチャさんや天津飯さんに稽古をつけられた今の奴なら、その辺の転生者に負けやしない。だがーー

 

「おい、壱悟!!」

 

 傍らで足音が聞こえたと思うと、俺の横に山吹色の道着を着たクローン悟空ーー壱悟が立ってセルに構えを取っている。

 

 こんな時になんで言うことを聞いてくれないんだよ!

 

「かまわないわよ、壱悟! こうなったらアンタも一緒に戦って! 紅朗! ヤムチャたちを頼んだわよ!!」

 

 だが、保護対象の一人であるブルマに言われちゃ、何もいえねぇ。

 

「フッ……! この状況で、助けられるかどうか微妙ですけどね」

 

 内心では隣に立ってくれる壱悟に頼りがいを感じている。

 

 感謝するぜ、壱悟。

 

 お前が俺の相棒で助かった。言わねぇけど、伝われよ。

 

 そんな俺の心に応えるかのように、壱悟が構えを取ってセルを見る。

 

「よし……! いくぞぉ!!」

 

 俺は気合と同時に超サイヤ人に変身し、金色のオーラを纏う。

 

「そうだ。余計なことを気にしていて、このセルの相手は務まらない。死に物狂いでやってもらうぞ? さあ、始めよう」

 

 ゆっくりと構えを取るセルに向かって俺も壱悟と同じ構えを取る。

 

 孫悟空の構えを。

 

 瞬間だった、俺と同じ構えを横でとる壱悟に俺のーー超サイヤ人のオーラが吸い込まれる。

 

 そして、俺と壱悟の間を繋ぐように一つになるとーー壱悟も金色のオーラを纏った。

 

 逆立つ眩い金色の髪に翡翠の瞳を持った本物の超サイヤ人だ。

 

 クリリンたちとの組み手が壱悟を覚醒させたか。

 

「ほう、超サイヤ人……。折戸とは違って、通常の超サイヤ人のようだが。二人とも変身できるとは驚きだ」

 

「へッ!」

 

 一気にーー踏み込む!!

 

「おらああああ!!!」

 

 拳を振りかぶって上がったパワーとスピードで力任せに突っ込む。

 

「見え見えの大振りな一撃だ。それでは当たらん」

 

 軽く体をひねって横に避けられるが、構わねぇ。

 

「そうかよ!!」

 

 当たればーーーー勝ちだ!!!

 

 空振ろうが関係ない、体をすぐさまに戻して拳を振り切る。

 

「フン。だが、人を殴る術は知っているようだ。武術ではないが、実戦慣れはしているようだな?」

 

 話をしているということは、呼吸の継ぎ目がある。

 

 そこへ拳を振り切ればーー当たる。

 

 喧嘩の常套手段だ、相手の息の切れ目ーー意識の切れ目を狙い打つ。

 

 だが、鼻先で避けられている。

 

 天津飯たちに通じなかったんだから、彼らよりも強いコイツに効くわきゃねぇか。

 

「くッ! おらおらおらおらおらああ!!」

 

 なら、もっと手を出す。

 

 当たるまで振り切る。

 

 全力でーー!!

 

 ビルスとやり合った時を思い出せ、この身体の力を引き出すんだ……!

 

 瞬間、俺の身体を青い稲妻が走り出す。

 

 そうだ、超サイヤ人で勝てないなら超サイヤ人2なら、どうだ?

 

 身体中に凶暴に満ち溢れた力をそのまま拳に載せて振り切る。

 

 だがーー。

 

「どうした? その程度のハンドスピードでは私を捉えることはできんぞ」

 

「くっ、くそっ! 当たらねえ……!!」

 

 思わず声に弱音が混じる。

 

 悟空の身体でも、動きでも、頭が俺じゃ捕らえられないっていうのか!

 

 そんな弱気な声をねじ伏せるようなタイミングで、もう一人の超サイヤ人がセルに殴りかかる。

 

 動きは同じなのに、踏み込みの鋭さや拳を振り切るタイミングが完璧だった。

 

「ん? もうひとりのクローンか。ほう? 貴様の右ストレート、いい切れだ」

 

 避けながらもセルはニヤリと壱悟に笑いかける。

 

 瞬間、壱悟が猛烈なラッシュを仕掛ける。

 

 左ストレートの返しを放ちながら右の膝蹴り、左の後ろ中段回し蹴り、からの跳び上がりながらの踵落としを放っていく。

 

 セルは左ストレートを左腕を上げて拳の付け根に当てて横に流すと、右の膝蹴りを右手で止め、バックステップして中段回し蹴りを避け、着地と同時に頭上に両腕をクロスさせて振り下ろされた踵を止める。

 

 強烈な衝撃波が二人を中心に起こり、セルの足元が沈んだ。

 

 セルはニヤリと笑みを浮かべて桃色の瞳がギラつかせる。

 

「なるほど。貴様は孫悟空の動きをそのままできるようだな。折戸や紅朗よりも遥かに強い」

 

 す、すげえ! 壱悟のやつ、ちゃんと戦いになってる……!

 

 なるほど。

 

 この連打の手数と鋭さ、さっきヤムチャさんと組手してたときの動きか!

 

 へッ、壱悟なんて呼べねえな。

 

 なんて笑っていると、セルが身体に青い稲妻が走る金色のオーラを纏い強烈な右掌底を壱悟に放つ。

 

 咄嗟に両腕をクロスさせて受ける壱悟だが、遥か後方に吹き飛ばされて地面を引っ掻きながら着地する。

 

 しかも、その口から血が出ている。

 

「だが、ただの超サイヤ人だ。パワーもスピードも足りん。一撃でその程度のダメージを負っているようでは、到底私とは打ち合えんぞ」

 

「壱悟!」

 

 思わず叫ぶ俺と血を口から流しながらも淡々と無表情に立ち上がる壱悟を見比べてセルは笑う。

 

「興味深い連中だ。超サイヤ人の壁を超えた変身ができるだけのクローンと、動きだけは本物に近いクローン。まるで孫悟空が二つに分けられたかのようだ」

 

「……!」

 

 あの野郎……!

 

「そんなら! ふっ! はあああああああ!!!」

 

 超サイヤ人2のフルパワーはこんなものじゃない。

 

 試してやらぁ!!

 

「ん? 気を溜め始めたか」

 

「超サイヤ人を超えた超サイヤ人2のフルパワーなら、どうだああああ!!」

 

 自分の中に満ち溢れた力を全て解放する。

 

 するとセルの表情が少しだけ変わった。

 

「似ているとは思ったが、その変身は孫悟飯がなったアレか。パワーだけは本物だな」

 

 完全に引き出せた上にパワーが安定している。

 

 どうやら超サイヤ人2は、完全に使いこなせそうだ。

 

「よしっ!!」

 

「ほう。超サイヤ人2……というのか。だが、それで私を倒せると思うのか?」

 

 淡々と告げてくるセルに俺の口の端が歪んだ。

 

 んなもん……!

 

「……やってみなけりゃ、わからんだろうが!!!」

 

 一気にセルに目掛けて突っ込む。

 

 圧倒的な力とスピードは、俺を簡単にセルの目の前に置く。

 

 これだ! このスピードとパワーなら!!

 

「どうだぁああああっ!!」

 

 澄ました顔に向かって拳を叩きつける。

 

「なっ? 軽く流された!?」

 

 放って突き出した拳の外側を弾かれた、それだけで俺の身体はそのままセルの脇に流される。

 

「何度も言わせるな。そんな見え見えの大振りな一撃が当たると思うのか」

 

「くっ! そっ! たれぇっ!!」

 

 なら、もっとコンパクトに! 

 

 頭の中の悟空の動きなら、こうだ!!

 

 浮かんだイメージそのままに殴りつければ、今度は弾かれずにガードの上に刺さった。

 

「ん? ほう……。なんだできるじゃないか。いや、意識してやらねばできんとは。やれやれ……困った素人だ」

 

「うるせえ!!」

 

「そら、どうした? もっと私を楽しませろ!!」

 

 何度もぶつかり合い、離れる。

 

 超サイヤ人2のパワーとスピードが、悟空の動きと合わさり、俺の思考を溶かしていく。

 

 俺自身の動きだと言っても過言ではない程に、動きが滑らかに思考がクリアになっていく。

 

 闘えば、闘うほどに、悟空の力と技と身体が俺のものになっていくような感覚だった。

 

 だが、同時に驚くことがある。

 

 強くなればなるほどに、悟空の動きに俺が馴染めば馴染むほどに。

 

 目の前の化け物が、デカく見えてくる。

 

「どういうことだ!? 超サイヤ人2で遊ばれるなんて!?」

 

 こいつ、攻撃を完全に受け流してる……!

 

 俺の思考を読まれているから、だけじゃない!!

 

 こいつ、超サイヤ人2のパワーに慣れてる!!

 

「くうう! うそ、だろ……! もう一段階上を出さないとダメだってのか!!」

 

 このまま打ち合いをしても、まったく当たらないのは分かった。

 

 思わず弱音が出てしまった俺に、セルが笑いかける。

 

「ほう、その言いぐさ。さては、もう一段階上があるな?」

 

「ずばり、そのとおりだ! 超サイヤ人2で仕留めきれねえなら、短期決戦しかない!! いくぜ! これが最強のーーー超サイヤ人3だぁあああっ!!!」

 

 身体に力を満ち溢れさせろ!!

 

 髪の一つ一つに至る全身に、先ほどまでと比べても更に圧倒的な力が漲っていく。

 

 どうだ、この変身なら!!

 

 睨みつける俺に向かってセルはニヤリと冷酷な笑みを返す。

 

「ほう……。たしかに素晴らしいパワーだ。異世界の住人だかなんだか知らんが、それほどのパワーをあっさりと手に入れていることは気に入らんな」

 

 怒気を感じる声音だった。

 

 それはそれで怖いが、それよりも俺を愕然とさせるのはよ。

 

「ぐっ! 全然ビビってねえ……!」

 

 そう、セルは俺の見た目の変化くらいしか感じてないってことなんだ。

 

 これほどまでにパワーが上がったっていうのに。

 

「さあ、来い。貴様と私の器のちがいを教えてやろう」

 

 両手を広げて打ってこいと手招きするセルに俺のコメカミの筋が浮かび上がったのが分かった。

 

「舐めんな、セル! アルティメットブウならともかく、ただのパーフェクトセルなら超サイヤ人3の力でねじ伏せれるんだよぉ!!!」

 

 正面から突っ込んで殴りつける。

 

 それだけでーー勝てる!!

 

「フッ」

 

 目の前に迫るセルの笑み。

 

 セルは左手を顔の前に上げると正面から俺の右拳を掴み止めた。

 

「な、にぃ!?」

 

 勢いでセルの両足が一気に後方へ下がるが、セルは自分の足元を睨みつけたと同時気を開放した。

 

「フンッ!」

 

「ぐぅ……!?」

 

 すると俺の拳を完全に止め、仁王立ちしているセルが目の前に立っていた。

 

「て、てめえ!!」

 

 左拳を放つが、右手で掴み止められる。

 

 拳を解かれがっぷり四つに組まされる。

 

 パワーとパワーの押し合いだった。

 

「さすがは超サイヤ人3。大したパワーだな?」

 

「ぐ、ぐうっ! は、離せ!!」

 

 押しても引いてもビクともしない、コイツ……!

 

「おやおや、どうした? 超サイヤ人3のパワーで、ねじ伏せるのではなかったのかな?」

 

「ぬ、ぐぐぐぐ! こ、の、やろ!」

 

 無理やり跳び上がり、顎に向かって右脚の靴底を叩きつけ、壁を蹴るように反動で距離を取る。

 

「フン、苦し紛れに蹴りを一発入れて逃げるのが精一杯か……」

 

 口元に手をやり上品に笑いながらセルは俺を冷ややかに見つめる。

 

「そしてーー頼みの綱の超サイヤ人3は時間切れか」

 

「く、そっ!」

 

 ヤツの言葉を代弁するかのように身体から一気に力が抜けて強烈なパワーが一気に消える。

 

 まじかよ……! 

 

 実戦だと、こんなに時間切れが早いのか!

 

「つーか、どうなってんだ! テメェ!! 超サイヤ人3のパワーでも、勝てないだと!?」

 

 思わず吠える俺に、セルは淡々と返す。

 

「勘違いをするな。お前の知っている私はどうやら、セルゲームの頃だろう? 今の私のことを知らんと言うのは、致命的だな」

 

「な、なんだと!? お前もフリーザみたいに修行したってのか、セル……!!」

 

「そういうことだ。だが、仮に私が修行をしていなかったからと言って。この程度の力だけで私を倒せると思っていたとはな。拍子抜けだぞ」

 

 どうするよ。

 

 超サイヤ人2も超サイヤ人3も通用しないとか、もうどうしようもねぇじゃないか。

 

 思わず不安そうに俺を見つめる天津、栗林、飲伏、ブルマを見る。

 

 ああ、そうだよな。

 

 ここで逃げたら、アイツらも殺されちまうんだ。

 

 俺がやらなきゃ、みんなやられちまうんだ。

 

ーー 俺がやらなきゃ、誰がやる!?

 

 そんな聞き覚えのある声が、英雄の声が俺の胸に響く。

 

 同時に、壱悟が俺の向かいーーセルを挟む位置で立ち上がった。

 

 悪いな。

 

 最期まで付き合ってくれ、壱悟。そう心の中で告げたときーー

 

「ーー!?」

 

 な、なんだ……!?

 

 セルの後ろ姿にその向こう側に居る俺と背後の天津達が頭の中に見える。

 

 これは……壱悟が視えてる視界か?

 

 自分の見ているものとは違う景色が同時に映し出されるが、何故か脳が混乱せずに受け入れている。

 

 同時、壱悟と俺の間に超サイヤ人のオーラが結びつく。

 

 超サイヤ人3で使い切っていた体力が、少し回復したのが分かる。

 

「へッ、なんだかよくわからないが、今ならなんとかなりそうな気がするぜ。壱悟、協力してくれ!!」

 

 超サイヤ人のオーラを纏い、俺は構えを取ると反対側で壱悟も間髪入れずに同時に構えて居た。

 

「ヘッ、サンキュー!」

 

 そんな壱悟に感謝の気持ちを伝えたとき、セルも俺たちの変化を見ていたようだ。 

 

「ほう。奇しくも同じ動き、同じ構えか。急にどういうことだ? こいつらの呼吸、気の流れそのものがシンクロしている」

 

 そのとき、俺たちの意識の外で栗林と飲伏、天津が言っていた。

 

「アレって、もしかして……!」

 

「ああ、ファイターズの主人公が使ったーー!」

 

「間違いない、操る戦士の身体とプレイヤーの精神を完璧にトレースするーー!!」

 

「「「ーーリンクシステムだっっっ!!!」」」

 

 そんな天津達の声を他所に、俺は構える。

 

 目の前にいるコイツを倒せなきゃ、話にならないんだからな!!

 

「いくぜ!!」

 

 同時にーーかかる。

 

「ーー速い!!」

 

 目を見開き、驚いた顔をしたセルの目の前に俺。

 

 後ろには壱悟。

 

 考えるよりも先に身体が動いて、頭の認識とは別の世界で闘いが始まる。

 

 脇腹に放たれたのは強烈な俺の右拳。

 

 後頭部を狙うのは痛烈な壱悟の跳び左ひざ。

 

 セルは左手の甲を頭の後ろに置いて膝を受け、右手で俺の右拳を受け止める。

 

 だが止められたことなど、俺たちは関係ない。

 

 すぐさま蹴りと拳をセルを挟んで打ち込んでいく。

 

「……止められてもお構いなし、か! 面白い!!」

 

 セルも拳と蹴りを返してくる。

 

 それを俺たちは拳と蹴りを叩きつけることで無効化しながら叩き込んでいく。

 

 打たれようが、顔が仰け反ろうが、関係ない。

 

 コイツを止める、そのためなら何度でも拳と蹴りを叩きこんでやる。

 

 不思議なもので、ごちゃごちゃ考えていたさっきまでよりも遥かに俺の動きはよくなっている。

 

 自分で分かる。

 

 これが、この景色が俺が憧れた男の立つ場所なのだ、と。

 

 俺の右ストレートと壱悟の右廻し蹴りを高速移動で避け、セルは俺たちと距離を取って立った。

 

 初めてーーセルが、自分から距離を置いた。

 

「素晴らしい。さきほどまでのパワーだけに頼った超サイヤ人2や超サイヤ人3とは比べ物にならん、いい動きだ。先ほどの超サイヤ人3で今の動きをやってもらいたかったものだな」

 

「うるせえよ! そんなことができたら、とっくの昔にやっとるわ!」

 

「ふっふっふ、それもそうか」

 

 この野郎! 

 

 二対一だって言うのに、全然クリーンヒットしねぇ!!

 

 確かに闘いにはなっている、だがそれだけだ。

 

 二人がかりでも、セルの野郎を倒せるレベルじゃない。

 

「もう少し楽しんでもいいが、そろそろどちらが真に至ったのか見せてもらおうか?」

 

 それを思わせる程に、恐ろしい鋭さを持った蹴りが俺の腹を打ち貫いた。

 

「ぐっ!?」

 

 喰らった、と思った瞬間には遥かに後方へふっ飛ばされる。

 

「ぐぉあああああ!!」

 

 あまりの痛みに俺は悲鳴を上げながら背中から地面に叩きつけられた。

 

 壱悟が後ろからセルに殴りかかる。

 

 セルは、それを片手で止めるとーー。

 

「うるさい」

 

 右の手刀で壱悟を地面に弾き飛ばす。

 

 地面に巨大な溝が生まれる程の一撃で壱悟は動かなくなった。

 

「くっそ! ったれがぁあああ!!!」

 

 全身の痛みに耐えながら立ち上がった俺だが、ボロボロの姿で倒された壱悟の姿を見た瞬間に目の奥が熱くなり血が沸騰して一気にセルの目の前に突っ込んだ。

 

 だが、軽々と避けて俺の腹を膝蹴りで蹴り上げ、両手を組んで頭上から背中に振り落とす。

 

 地面に容赦なく叩きつけられた俺は、何とか身体を横に転がしながら距離を取って地面に膝を付いた状態で体を起こす。

 

 痛みは邪魔だ!

 

 今は、目の前のコイツを見ろ!

 

 死ぬぞ!!

 

「ほう。まだ動けるか。しかし、クローンを傷つけただけで今のような動きができるとはな。孫悟飯のように何人か殺したほうが本気になるのかな?」

 

 そんな俺をセルは冷ややかに笑いながら、告げる。

 

「……よせ!!」

 

 思わず焦る俺を満足そうに見下ろしてから、セルは天津達とブルマに向かって振り返る。

 

 その右手の人差し指に紫色の光を宿しながら。

 

「……セル。お前がブルマ達を攻撃すると言うのなら、俺がお前を止める」

 

「16号! ダメよ!!」

 

 そんなセルに向かって、ブルマの止める声を無視して任務に関係すること以外では決して拳を握らない男が立ち上がった。

 

 人造人間16号だ。

 

「ほう? まだ転がっていたのか。ガラクタめ」

 

 だけど、今のセルはーー16号でも無理だ!!

 

「やばいいいい!!」

 

「やっぱり、こうなったじゃないか!」

 

「ちっくしょう、やぶれかぶれだ!!」

 

 天津達は必死に白い気を纏って、かめはめ波の構えを取っている。

 

 馬鹿野郎。

 

 おまえら……!

 

 逃げることしか考えてなかったのに。

 

 最初に会った時は、人を傷つけることを楽しんでやがったんだ。

 

 Z戦士をバカにしてこの世界を、いいようにできると思ってたのに。

 

 そんなアイツらが、天津飯たちに感化されてブルマと16号を守るために絶対に勝てないセルを相手に立ち向かおうとしてやがる。

 

「あ……!」

 

 全てがスローモーションに見える。

 

 指先から放たれる光弾。

 

 当たれば、死ぬ。

 

 そんな容赦のない一撃が、俺の目の前で。

 

 俺のーー仲間ーーに向かって放たれた。

 

 それを認識した瞬間、俺の中の何かがプチンと音を立てて切れていたーー。

 

ーーーー

 

 無慈悲に放たれたデスビーム。

 

 それはセルにとっては何の感慨もない一撃だった。

 

 ただ、目の前の男の底を見るために必要だからしたことだ。

 

 そこに何の呵責もない。

 

 だがーーそれこそが、セルが悪党である所以であり、孫悟空や孫悟飯の怒りに触れるところである。

 

 放たれた光は、爆発して土煙が全てを覆い隠してしまう。

 

 それを淡々と見据えるセルは、ゆっくりとデスビームを放った右手を下ろして構えを取る。

 

(あれほどのダメージを負いながら、この私にも見えない程のスピードで移動し本気の私の一撃を止めた、か)

 

 煙の向こうから山吹色の道着を着た超サイヤ人が、両腕を交差させた姿勢で立っている。

 

「テメェ……! 当たったら、みんな死んでたぞ?」

 

 淡々とした低い声は、しかし殺意に満ち溢れている。

 

 セルをして一瞬、気圧される程の純粋で強烈な殺意に。

 

 だからーー。

 

「そのつもりだと言っただろう」

 

 だから、セルは笑った。

 

 ようやく見せたのだ。

 

 ようやく会えたのだ。

 

 だからセルは、笑った。

 

「そうかよーー」

 

 明らかに先ほどまでと雰囲気が変わった……。

 

「そうか。やはり貴様か。紅朗」

 

 僥倖だと言わぬばかりの表情でセルは、迎えた。

 

 金色よりも遥かに濃い黄金の炎を。

 

「ぁあああああっ!! うぉおおあああああああああっ!!!」

 

 大猿のような咆哮を上げながら、男は変異する。

 

 紅朗ーー久住史朗という人格は消え、その記憶と意識を持ったままの超戦士へと生まれ変わる。

 

 そのものはーー千年に1人現れるという伝説の戦士。

 

 そのものは、凶暴にして純粋。

 

 そのものは血と殺戮を好む究極の戦士。

 

 その圧倒的な力を前にして、Z戦士を相手にしていた魔人ブウも振り返る。

 

「ふっふっふっふっふ、ついに真・超サイヤ人が現れたか」

 

 その言葉に天津飯、ヤムチャ、クリリンも炎のようなオーラを纏う超サイヤ人を見た。

 

「っ、紅朗!! 真・超サイヤ人になったのか!!」

 

「大丈夫なのか、あいつ……! ビルス様の話じゃ紅朗は真・超サイヤ人の力を使いこなせていないって!」

 

「だ、だけど! ここはあいつのーー超サイヤ人の真の姿に賭けるしかない!!!」

 

 そんな彼らを尻目にセルは期待を胸に抱きながら気を纏う。

 

「さて。どれほどのものか見せてもらうとしよう」

 

 瞬間、目の前に超サイヤ人が拳を振りかぶって現れた。

 

 先ほどまでと全く変わらないフォームと動きに、セルが失望したような表情に変わる。

 

 確かにスピードは速い、動きも鋭い、パワーもあるだろう。

 

 だが、それだけだ。

 

 セルにとって、イノシシのように突っ込んでくるしかない相手など余裕で捌ける。

 

 ましてや、最初からまったく同じフォームで突っ込んでくるだけの右ストレートなど、避けるのも面倒だ。

 

「やれやれ。さきほどと全く同じ、正面からの右ストレートか。少しは学習したらどうだ? こちらとしては違う動きも見せてもらーー」

 

 そう語る途中でまともに拳が左頬を捕らえていた。

 

 見開かれる眼。

 

 直後に凄まじい轟音が鳴り響き、セルの身体を真後ろに吹き飛ばした。

 

「「「「当てたああ!?」」」」

 

 この場に居る全員が予想外の事態に目を見開いて驚きの声を上げる。

 

 地面に叩きつけられたセルは、すぐさまに立ち上がるも足に力が入らず、一瞬よろける。

 

「ぐっ、き、さまっ!」

 

 睨みつけようとした矢先、強烈な音と共にセルの脇腹に左の拳がめり込んでいる。

 

「ぐぅ、おおお!?」

 

 痛烈なリバーブローだ。

 

 問答無用でセルの動きを止め、長身のセルが前のめりになる。

 

 下がった顔に向かって的に弓を引くように更に右ストレートを叩き込んだ。

 

「ぬぅ!?」

 

 後方に吹っ飛ぶセルの脇に高速移動で現れ、上空に蹴り飛ばす超サイヤ人。

 

 そして頭上に現れ、両手を組んで真上からふり下ろしセルの後頭部にぶち当てる。

 

 地面に激突するセル。

 

 先ほどのデスビームよりも更に凄まじい勢いで土煙が舞い、視界の全てを覆い尽くす。

 

「す、すげえ……!」

 

 絶句するヤムチャ、天津飯。

 

 クリリンが思わずつぶやく横で、ブウが瞳を鋭く細めた。

 

(真・超サイヤ人になっただけで、動きによどみがない。どういうからくりだ? あのクローン)

 

 地面に叩きつけられたセルは、土煙を吹き飛ばしながら青い稲妻が走る金色のオーラを纏うと空に飛び超サイヤ人と向き合った。

 

「楽しませてくれるじゃないか、紅朗。その動き、正しく真の超サイヤ人だ」

 

 笑みを浮かべるセルに超サイヤ人は冷徹な翡翠に黒の瞳孔が浮かんだ瞳を向ける。

 

「だが、まだまだ私には敵わないようだな」

 

 気の量では、セルの方がまだ上だった。

 

 だが、超サイヤ人は拳を握りしめる。

 

「今のうちに笑っておけ。すぐに笑えなくしてやる」

 

「できるのか、貴様に?」

 

 互いに相手に向かって踏み込む。

 

 攻撃を攻撃でさばきながら、セルの痛烈な掌底が紅朗の顎を吹き飛ばす。

 

 そのままセルの長い脚が矢のように突き出され、紅朗の腹を打ち抜いた。

 

 瓦礫をぶち抜く紅朗。

 

 次の瞬間、気が爆発的に上がり、吹き飛ばされた以上の勢いで紅朗が目の前に迫る。

 

 強烈な右ストレートーーが、セルはそれを左手で受け止める。

 

 セルの拳が、超サイヤ人の顔を捉える。

 

 同時にセルの顔も相手の左拳で吹き飛ばされる。

 

 一瞬の間の後、嵐のような猛攻が互いに向かって始まる。

 

 少しでも退けば、一気に呑まれる。

 

 凄まじいバトルが、地球の荒野で始まったーー。




次回も、お楽しみに(。ÒㅅÓ。)


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第17話 悟空、俺はどうなるんだ?

と、言うわけで続きです(´ー`* ))))

楽しんでやってください(笑)


 

ーー天津視点。

 

 セルの指先から放たれた強烈な光が俺たちのすぐ横の地面を撃ち抜いたと思ったら、爆発。

 

 目の前には地面が迫り、凄い勢いで顔から叩き落とされていた。

 

 視界が真っ暗になってしばらくしてから目を開けると、紅朗さんが黄金の炎のようなオーラを纏った、あの恐ろしい超サイヤ人になっていた。

 

「栗林、大丈夫か!?」

 

「う、うん。天津、アレーー!」

 

「ああ、紅朗さん。変身してるーー!」

 

 あのおかしなオーラを纏った瀬留間と古井を一方的に叩き潰した、あの姿なら勝てる。

 

 この時の俺は、そう思っていた。

 

 だけど、違った。セルは、俺のーー俺たちの知ってるセルとは強さの次元が違ったんだ!!

 

「嘘、だろ?な、なんで、セルがーー!こんなに強いんだよ!?」

 

「な、なんで俺たち。こんな怖い所に来ちまったんだよ」

 

 思わずヒステリックに叫ぶ飲伏に、栗林も震えている。

 

 古井や瀬留間に見せてやりたい。本物のセルと成り代わるって、どんだけ身の程知らずなことなのか。

 

 さっきまでの俺たちは、本物の大バカだ。

 

 こんな悪魔みたいなヤツなのかよ。

 

 紅朗さんの言ってた通りだ。此処は、漫画やゲームの世界じゃない。現実でーー何一つ思い通りに行かない。

 

 魔人ブウと対峙してるクリリン達を見ても、思う。

 

 力の差が、明らかにある。

 

 ブウは、あの凄い3人の攻撃を前に、完全に遊んでるんだ。

 

 ヤムチャの狼牙風風拳と天津飯の四妖拳と蹴りの連打が正面からブウとぶつかる。

 

「その温い攻めはどうした、ヤムチャ! 天津飯!もっと必死になるがいい!!」

 

 魔人ブウは左右の腕だけで、2人の猛攻を軽々と防いでる。そのまま、背後に回ってるクリリンに叫ぶ。

 

「クリリン!先程から気を溜めているが、いつまで狙っているつもりだ!さっさと撃って来い!!」

 

「ーーち、ちくしょう!!」

 

 クリリンは、ブウに見切られてるのを承知で特大の気円斬を放った。ブウは首だけを伸ばして梟のように首を180度回すと目からビームを放って気円斬を消してしまう。

 

「そんな攻めや技では、私に一撃当てることすら出来んぞ。貴様ら!!」

 

 ヤムチャの左貫手と天津飯の背中から伸びた第三の腕の右正拳を選んでブウはストレートをカウンターで顔面と腹に叩き込む。

 

 顔を打ち抜かれたヤムチャは後ろにのけ反り、天津飯は前向きに屈み込む。

 

 更に後頭部から伸びた触覚を鞭のようにしならせて薙ぎ払うだけで、ヤムチャと天津飯が後方へ吹き飛ばされた。

 

 背中から地面に叩きつけられたヤムチャと天津飯。ブウは彼らを見ることなく振り返ると、そこにクリリンが踏み込んでいる。

 

「でやぁああ!!」

 

 右ストレートを顔に放つクリリンだが、ブウの右手にアッサリ掴み止められた。

 

「…ぐ!」

 

「フン、そんなものかね。クリリン」

 

 左裏拳を軽く鼻先に当てるだけでクリリンは地面に叩きつけられる。

 

 確かにブウは波動の上限までしか気を上げてないけど、あの攻撃力はおかしい。

 

 こいつ、攻撃の際のパワーを下げてない。何が、手加減だよ。

 

「フフ、さてと。こちらは終わりのようだがーー!」

 

 ブウは俺達を初めから居ないものと無視して、紅朗さんとセルに顔を向けた。

 

 空をキャンパスのように2人の放つオーラが幾筋も線を引いて行く。

 

 光の波紋が次々と発生し、衝撃波が生まれる。

 

「す、スゲェ…!?」

 

 思わず栗林の口から出た言葉に頷いていた。

 

 紅朗さんは、あの悪魔みたいな強さのセルを相手に戦えているんだ。

 

 激しい拳と蹴りの応酬を繰り広げてから、セルの長い中段蹴りを左腕でガードした後、両腕で挟んでハンマー投げのように自分の頭上へ投げ飛ばした。

 

「アレはーー!」

 

「トランクスの、ヒートドームアタックだ!!」

 

 クローントランクスの幻影が一瞬、紅朗さんの隣に立って動きをトレースして消えた。

 

 黄金の炎が光に変わり、ドームの形を形成して強烈な光線が天頂から放たれる。

 

 未来世界のセルを完全に仕留めた技だ。

 

「ほう? 中々の技だな」

 

 魔人ブウが興味深そうに紅朗さんの技を見てる。一方でセルは不敵な笑みを浮かべて緑色の気を顔の横に構えた右手に纏わせると真横に薙ぎ払った。

 

「アレはーーオールクリア!」

 

「軍隊を壊滅させた技だ!!」

 

 栗林と飲伏の言うとおり。あの薙ぎ払う光は、辺り一面を消しとばす最悪の技だ。

 

「ーーはっ!!」

 

 セルの放った薙ぎ払う光は、紅朗さんの一撃の側面に当たると狙いが外れてセルの脇を撃ち抜いた。

 

 セルは右手を人差し指と中指を立てて左肩の上に構えると、手裏剣のように手を伸ばして光を指の先端に凝縮して放ってくる。

 

 あの強烈な光弾は、悟飯の左腕を潰した技だ。

 

 対する紅朗さんは、右手を伸ばしたセルの左側に瞬間移動している。

 

「ーーなっ!?」

 

 振り返ったセルの顔を強烈な右のハイキックで蹴り飛ばす紅朗さん。

 

 あのセルが、ロケットのように遥か上空に吹き飛んでる。

 

 上空に飛んだセルに、紅朗さんは両手を大きく広げて左右の掌に金色の光を生み出すと胸の前で手首を左右に合わせて前方に突き出す。

 

 当然、紅朗さんの傍らにはクローンベジータの幻影が現れて動きをトレースして消える。

 

「ファイナルフラッシュだぁ!!!」

 

 俺が叫ぶ中、黄金の光線が空を撃ち抜いた。

 

 あんなの食らって無事なわけない。

 

 そう確信させるくらいに凄い一撃だ。

 

 だけど、セルの姿が紅朗さんの背後に現れる。

 

「マジかよ、瞬間移動!?」

 

 栗林が叫ぶ中、ファイナルフラッシュを放って無防備な紅朗さんに背後から拳を打ち下ろすセル。

 

 鈍い音が響き、目を見開くと互いに腕を交差させて拳を顔の前で止めている紅朗さんとセルの姿があった。

 

「中々、楽しめるじゃないか」

 

 笑みを浮かべるセルに対し、紅朗さんは全くの無表情。

 

 拳と蹴りを数度応酬して防ぎ切る両者だが、紅朗さんはセルのサイドキックを脇に受け流して懐に踏み込むと両手を胸の前で抱えるようにして紫がかったスパークの走る金色の光を生み出した。

 

「アレってーー!?」

 

 神の気と魔の力が融合した一撃。背後にクローンピッコロの幻影が浮かび、トレースしてるから間違いない。

 

「ピッコロの、激烈光弾だぁああ!!」

 

 俺達、3人の声が重なると同時に目を見開いたセルの腹にゼロ距離で放たれた大技。

 

 上空に撃ち抜かれてるけど、地上であんなもの撃たれたら間違いなく街は壊滅してる。

 

 セルは上空に吹き飛ばされ、全身から煙を上げながらもかすり傷しか負っていない。その顔は笑顔を浮かべてる。

 

「やるじゃないか、紅朗。この私に、ダメージを与えるとは。ここまでやれるとは、正直思っていなかったぞ」

 

 目を爛々と見開いて、セルは紅朗さんを睨みつけてる。

 

「いい表情だな、紅朗。そうだ、強敵との闘いは楽しめなくてはならん。自分の強さが、圧倒的であると証明する為にも、な」

 

 セルの言葉に何故か不安を感じた俺は、紅朗さんの様子を窺った。

 

 冷徹なーー瞳孔が浮かんだ翡翠眼は、セルと似て炯々と輝き、口許が裂けるのではないかと言う程に歯を見せて笑っている。

 

 その迫力は、まるっきりーー鬼だ。

 

 人間じゃない。どっちも。

 

「ーーいつまで上から話してやがる?」

 

 地獄の鬼のような声で、顔で、迫力で。笑ってる。ドラゴンボールの鬼なんかじゃない。

 

 悪人を地獄の釜で茹でて食らう、鬼だ。

 

「…当然だろう、私と貴様ではそれほどに差がある」

 

 セルが余裕の笑みで返すが、紅朗さんは不気味に肩を揺らして笑いながらーーゆっくりと冷徹な翡翠眼を向けて歩いていく。

 

 セルも応えるように地面に両脚を下ろして構えた。

 

「…言ってくれるじゃねえか、テメェが。ガキの頃の悟飯を散々馬鹿にして真の姿を見せられただけで怯えて震えてやがったテメェが、俺を相手に楽しむだと? 笑わせやがる…!!」

 

 アレは、笑ってるのか?怒ってるのか?どっちなんだか分からない。分からないけど。怖い。

 

 怖くて、怖くてたまらない。

 

「テメェ、いつまで大物ぶってやがる? 自分より弱い奴にしか偉そうに出来ねぇクズの分際で。散々、街の人達を殺し回って。挙げ句の果てがガキに怯えて負けを認めるくらいなら自爆だ? なぁ!?」

 

「フン、吠えるじゃないか。ならばーー遠慮はせんぞ?」

 

 瞬間、セルのオーラが神の気と同じ緑がかった金色に輝きはじめる。

 

 冗談じゃない。

 

 やっぱりこいつ、古井達を超えてるじゃないかよ!?

 

 ビルス様から感じた重圧に近いものを感じる。

 

 なのにーー紅朗さん。

 

「ようやくか? トウシロに挑発されて、ようやく本気か? だったら最初から本気で殺しにくりゃいいのに、遊んでやられてりゃ世話ねえぜ」

 

 挑発してるんだ、あのセルを相手に。

 

「弱い犬ほど、よく吠えるな!!」

 

 セルが凄い勢いで踏み込み続けた、拳が紅朗さんの腹を打ち抜いた。

 

 間髪入れずに目を見開いて牙をむき出しにしたセルが、コメカミへ左拳を打ち、紅朗さんの膝が揺らいだところを長い足で蹴り抜いた。

 

 たまらず、紅朗さんは片膝をついてる。

 

「どうだ? 私の本気の打撃はーー?」

 

 笑うセルに対して、ゆっくりと紅朗さんは立ち上がってきた。

 

 あの人が纏う黄金の炎の勢いが一気に爆発した。

 

「…チ、今ので死なないとはな」

 

 今の、殺す気だったのか。

 

 思わず目を見開く俺に反して紅朗さんが笑ってる。

 

「ようやく本気か。ようやく怒るか。ようやく殺しに来るか。のろいのろいのろい!!」

 

 不意打ちのような紅朗さんのボディへの一撃は、凄い音と衝撃波を放ちながらセルの右手に止められてる。

 

 瞬間だった。それまでの洗練された動きじゃない。

 

 荒々しく、何もかもを踏み躙る暴風のような勢いで、紅朗さんは拳を繰り出す。

 

 フォームも何もない。

 

 ただ、ただ全身の筋肉で殴るだけ。

 

 それだけの一撃。

 

 ただし、めちゃくちゃ速い。

 

 振りかぶった上半身の残像が見える程に速い。

 

 セルの表情が、変わった。両腕を交差させて受ける。

 

 後方へ吹き飛ぶセルを獣のような俊敏さと動きで追いかける紅朗さん。

 

 紅朗さんが拳を振る度に、風圧で大地が裂けて溝が出来てる。拳や蹴りが地面に突き刺さると、強大なクレバスの出来上がりだ。

 

 星が、壊れちまう。

 

「調子に乗るなよーー!!」

 

 押され始めたセルも、緑がかった金色のオーラを激しく燃え上がらせた。

 

 同時に消える2人。

 

 凄まじい打撃音が響き渡り、空を大地を所狭しと駆け回る2人の戦士。

 

 物凄い動きで飛び回る2人に、俺たちは全くついていけない。紅朗さんは、瞬く間に血塗れになっていく。

 

 セルの攻撃は紅朗さんの急所を的確に射抜いているけど紅朗さんの攻撃はかわされてる。

 

 それでも紅朗さんは退かないで、殴りつけて行く。セルに当てる時は、相打ちの時かガードの上だけだが。

 

「なるほど、アレが紅朗とやらの本性か。脅威的なタフさに力の差に怯えぬ怒り。まるで野に放たれた獣だな」

 

 魔人ブウが紅朗さんの様子を見てニヤリと笑う。

 

 なんで笑ってるんだ?

 

 セルが余裕の表情を崩してるのに、なんで?

 

「素晴らしい能力だ。あのセルを本気にさせ、まだ気が上がっている…」

 

 慌てていない。なんで?

 

 するとブウは俺を見て来た。

 

「すぐに分かるさーー!」

 

 互いに同時に仰け反りあう。また、相打ちーー。

 

「どうしたよ、ハンサムな顔から鼻血が出てるぜ?」

 

「…そんなに死にたいか?」

 

 炯々と光る瞳で笑いながら紅朗さんは告げ、対するセルは爛々と輝く瞳で笑みをつり上がらせてる。

 

「死にたいか、だと? ヌケ作が、俺とテメェがしてんのは遊戯かよ? 死ぬか生きるかの時に、寝言なんぞやめろや」

 

「…フン。だからこそ、楽しめると思うのだが?まして私が貴様に殺されるなど、あり得ない」

 

 紅朗さん、さっきからセルの攻撃を食らうと同時に当ててる。フットワークが使えなくなったのか?

 

「セルのヤツ、なんで相打ち狙いと分かってるのに紅朗さんに付き合ってるんだ?」

 

「何か、企んでるのかな?」

 

 遠距離から気功波で攻めれば、脚の動かない紅朗さんは避けられない。

 

 疑問に思ってると、ブウが応えた。

 

「あの変身。真・超サイヤ人は相手の戦闘力に合わせて無限に気が増大する。気功波で攻めれば、パワーを上げるだけだ。肉弾戦の方が都合が良い。もっとも、理由はもう一つの方だろうがな」

 

 俺たちが見開くと同時に、轟音。セルと紅朗さんが相打ちしてる。

 

「悔しいだろう、セル。いくら真・超サイヤ人とはいえ中身は単なる素人。それだけ本気で拳を打ち込んでるのに倒れないなど、自分の攻撃を安くされてるのと同義だ。まして、自分の拳が先に当たっているのだからなーー」

 

 ブウが、真剣な表情でセルに話しかけてる。

 

「特に、時間切れなどとはーーな」

 

 その言葉が出ると同時に、紅朗さんの纏う黄金の炎がかき消えた。

 

 瞬間、つっかえ棒が外れたようにパタリと紅朗さんは前のめりに倒れた。

 

「く、紅朗さぁあああんっ!!?」

 

 俺が絶叫する中、セルはジッと倒れた紅朗さんを睨みつけている。

 

「ーーふざけるな。ふざけるなよ、貴様!!?」

 

 倒れた紅朗さんを掴み上げ、セルが怒りの形相に変わってる。

 

「なんだ、そのザマは? アレだけ私に大口を叩いて、私の拳を安くしておいて、時間切れだと!? ふざけるのも、いい加減にしろ!!!」

 

 だが、紅朗さんはピクリともしない。ま、マジかよ。

 

 紅朗さんーー死んで?

 

 セルが舌打ちと共に紅朗さんを投げ捨てる。

 

「ブウ! 今すぐにコイツを起こせ! 傷でも体力でも治してやれ!! 続きだ!!」

 

 叫ぶセルにブウが肩を竦めて応えた。

 

「もういいだろう。お前の勝ちだ、セル」

 

「勝ち? 勝ちだと? こんなつまらん勝ち方が、あると言うのか!? 散々、攻撃を耐えられた挙句に、時間切れで倒れるまで倒せなかったという、この私が!!?」

 

「そうだ、お前の勝ちだ。素人如きに、お前が負ける訳があるまい」

 

「ーーブウ!!」

 

 怒るセルにブウが肩を抑え、ゆっくり気を沈めるように告げた。

 

「こんな雑魚に、お前が拘る事の方が。私は我慢ならん」

 

 今までどこかふざけてたブウが、真剣な表情で。その言葉にセルは一瞬だけ目を見開くと息を吐いて冷静な表情に変わる。

 

「…すまなかった」

 

「構わないさ。孫悟空に拘るお前らしい」

 

「………」

 

 ブウは俺たちを見た後、ブルマと彼女を庇っていた16号を見つめた。

 

「其処の雑魚に言っておいてくれ。身の程を知れ、とな」

 

 それだけを告げて、ブウとセルが去ろうとする。その目の前にクローン悟空ーー壱悟が立っていた。

 

「辞めなさい、壱悟! 殺されちゃうわよ!!」

 

 ブルマの声に壱悟が首を横に振って構える。

 

「なんだ? 紛い物が、まだ用か?」

 

 壱悟はセルではなく、ブウを睨みつけてる。ブウは瞳を鋭く細めた。

 

「ーー雑魚と言ったことを取り消せ、だと?」

 

「……」

 

 無言で頷く壱悟に、ブウが肩を竦める。

 

「雑魚は雑魚だ。どれだけ力を持とうが、振り回されて垂れ流すだけの弱者を訂正する気はない」

 

 壱悟の赤い目が鋭く細まる。ま、まさか。紅朗さんのために、アイツーー。

 

 栗林が叫んだ。

 

「バカ、よせ!! 勝てっこない!! そのまま去っていってくれた方がいいって!!!」

 

 当たり前だろ、いくらバカにされたからって。

 

 勝ち目も無いのに挑んだら殺されちまうぞ。

 

「ーー何処へ行くんだ?」

 

 その低い鬼の声が、紅朗さんから聞こえた。

 

 かき消えたはずの黄金の炎が、再び燃え上がってる。どうなってんだよ。

 

「ーーコレが、真・超サイヤ人か」

 

「この男ーー限界は、どこだ?」

 

 セルとブウが、立ち上がってきた紅朗さんに目を細めている。

 

 だけど。

 

 こっちは、もっととんでもない。

 

 黄金の炎を纏う超サイヤ人が、鏡合わせのように紅朗さんの向かいに居るんだ!!

 

「ーー壱悟、アンタ!」

 

 黄金に燃える髪、瞳孔が開いた翡翠色の瞳。コイツは、単なるクローンのはずなのに。

 な、なんでーー!?

 

「なるほど。紅朗の気に当てられて覚醒したか。元々、妙な繋がりがあるようだからな。感覚を共有するのも容易かろう」

 

 淡々と呟くセルに、俺たちは信じられないものを見た気になる。

 

 コイツ、本当にさっきまで熱くなってた奴なのか?

 

「クローンに精神がある、というのか? 不思議な現象だなぁ」

 

 ブウが肩を揺らして応える中、紅朗さんが前に一歩踏み出る。

 

「さあ、続きだーー。続きをやろうぜーー!!」

 

 今、さっきまで倒れてた人間の眼じゃない。その紅朗さんに応えるように、ジリッと壱悟も構えてる。

 

 コレにセルが紅朗さんに向き直ろうとして、ブウが肩を抑えて止めた。

 

「生憎だが、レベルの低い闘いを続けるつもりはない。コレで終わりだ」

 

「ーー尻尾を巻いて逃げんのかよ?」

 

「調子に乗るな。セルが、簡単に勝てるところをわざわざ貴様に合わせて戦っていたのも分からんのか?」

 

 冷たい無表情になるブウに紅朗さんはニィッと笑う。

 

「レベルの低いヤツに合わせて戦って、不利だから逃げんのかよ?」

 

「ーー雑魚が!完膚なきまでに叩き潰さなければ、分からんらしいな!!」

 

 紅朗さんの煽りにブウが怒りの表情に変わるが、セルが止めた。

 

「ーー私に頭を冷やせ、と言っておいてソレはないだろ。ブウ」

 

「…フン、セル。この男、ムカつくな」

 

「その点に関しては、同意する」

 

 それだけを告げて、セルは瞬間移動でブウごと消えていった。

 

 セル達が居なくなってから、紅朗さんはぐらっと揺れて倒れるーーところを壱悟が抱き止めていた。

 

「……」

 

「悪いな、壱悟。不出来な主人でよ」

 

 それだけをつぶやいて、紅朗さんは完全に意識を失っていた。

 

「紅朗。お前の力はーーいったい?」

 

 16号の声が、この場に居る全員の気持ちを言い表していた。

 

ーーーー

 

 薄暗い研究施設のモニターで、彼はコンソールパネルに拳を叩きつけた。

 

「なんでだ?」

 

 歯を食いしばり、牙を剥き出しにして凶相を浮かべている。

 

「なんで、クローンが至れる?僕の研究が、間違っているとでも言うのか!?魂と肉体と技があれば、至れるんじゃないのか!!?」

 

 あの黄金の炎が、遠く感じる。

 

 瞳孔の開いた翡翠眼が、自分を嘲笑いながら見つめているようだ。

 

「なんでだ。なんでーー!?ちくしょう!!」

 

 データを打ち込み、研究を進める。

 

 諦めはしない。あの力を手にするまではーー!!

 

 クローン悟空が至れるならば、研究材料は沢山あるはずだ。自分が見つけられなかっただけで、きっとーー。

 

 コンソールパネルを入力する音が、響いていた。

 

 

 

 




次回も、お楽しみに(´ー`* ))))


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第18話 悟空、俺の過去話って聞きたいか?

タイトル通り、本話は主人公の自分語りです(´ー`* ))))

飛ばして頂いても支障はありませんが、16号と主人公しか出て来ませんので悪しからず(´ー`* ))))



 

 

 ああ、嫌な夢だ。

 

 最近、見なくなって久しい夢ーー。

 

 ガキの頃、願えば叶うと信じていた。努力したら報われると思っていた。

 

 才能って言葉があると知ったのは、いつからだろう?

 

 自分には才能がないと知ったのは、いつからだろう?

 

 例えば裁縫。

 

 努力して出来るようになっても、クラスの大半は自分よりも早く終わっていて。

 

 教師には、また君か、と呆れられた。

 

 大人は万能じゃないと知ったのは、いつからだろ?

 

 先生は平等じゃないって気付いたのは、いつからだ?

 

 他の奴は知らないが、俺は多分、小学生の頃だ。

 

 努力よりも結果を優先する教師が居た。逆に、努力してる自分を認めてくれる教師がいた。

 

 でも、後者の方は課題が普通に出来てる大半の子どもの親にエコヒイキだと言われて飛ばされた。

 

 人数が全てだと、知ったのはいつからだろう?

 

 ケンカで理不尽な事をされて、口で言っても分かってもらえなくて。嫌がっても、泣いても、面白がってるヤツが居て。

 

 そいつを殴ったら、今度は数で来られて負けて。

 

 大半の男子が、俺が悪いと言ってくるが。見ていた女子達が味方してくれて助けられて。

 

 そんでまた、男子からいじめられて。

 

 小さなガキの俺は女子より男子と仲良くなりたくて、必死で仲良くなりに行っては、バカにされてやられて。

 

 授業でも、友達でも努力しても良い結果が出ないと報われないって分かってしまったーー。

 

 才能ーー。

 

 多分ーー単語としては知っていた。

 

 幼過ぎて漫画は読まなかったけど、アニメで散々描かれていた。

 

 当時は友達よりも、何よりも大好きなドラゴンボール。

 

 テレビではベジータが地球に攻めて来てて、悟空に落ちこぼれって言ってた。

 

 Z戦士が皆殺しにされていて、悟空が来るまで滅茶苦茶にやられた時で、俺は当時のベジータが大嫌いだった。

 

 だけど悟空が、言ってたんだ。

 

「そのおかげで、オラは地球に来ることが出来たんだ。感謝しねぇとな。それによーー」

 

 落ちこぼれって言われて、感謝って言ってた。それだけでも、俺には衝撃だった。

 

「ーー落ちこぼれだって、必死に努力すりゃ。エリートを超えることがあっかもよ?」

 

 目つきが鋭くて口許に笑みを浮かべて、孫悟空(ヒーロー)は俺に言ってくれたように思えたんだ。

 

ーー頑張れって。

 

 それが一つのキッカケになって、俺はイジメに耐えられた。教師のエコヒイキも、この人はこういう人だと何処かで冷めていた。

 

 努力だけは諦めずにしようって、耐えて来た。

 

 でもある時だ。俺は爆発した。小学生から中学に上がる前くらいだった。

 

 いつの間にか身体がデカくなって、クラスの中でも一番後ろにいた。

 

 なんでキレたんだかは、覚えてない。ただ、いつもどおりにクラスの半分くらいの男子から珍獣扱いされて枝で追い回されてキレた。

 

 もう我慢するな、って誰かに言われた気がする。

 

 そっから、淡々と俺は泣き喚いたり、怒鳴ったりしてくる小さな同級生達を全員殴り倒した。

 

 殴られる前に泣きながら何かを言ってたと思うけど、何も聞こえてこない。手に温かい感触があって、温い液体が付いて。

 

 血相変えて教師が止めに来た時は、終わってた。

 

 悟空みたいに強くなったら、俺は英雄になれるって信じてたんだよなーー。

 

 でも、勝っても虚しいだけだった。

 

 長年、我慢して来たのに、こんなアッサリと終われた事に喜びよりも虚しさを感じてた。

 

 全員、木の枝を持ってて数も6人から8人くらい居たからか何も言われなかった。普段、大人しい俺がキレた事にエコヒイキ教師も、イジメてた奴らを叱っていた。

 

 まぁ、教師の指導には何の効果もないってのは低学年で悟ったな。

 

 幾らでもやりようがあった。幾らでもーー。例えば、他の少数の男子と仲良くする、とか。女子達と仲良くしてれば良かったんだ。

 

 まぁ、男子はだいたい仲良くなれそうなヤツの友達か、友達の友達にイジメグループが居たんで、人付き合いが苦手の極みだった当時の俺には無理なんだが。

 

 そんな夢をダラダラと見せられた俺は、酷く最悪の気分だった。

 

ーーーー

 

 目の前には、緑のアーマージャケットを着たモヒカンマッチョのハンサムが居る。

 

「紅朗ーー?考え事をしていたようだが、大丈夫か?」

 

「へ? あ、ああ」

 

 周りを見渡すと都を出た先の街道だった。荒野の中を真っ直ぐに通る道路には俺と16号しか歩いていない。

 

 あのセルやブウとの戦い(ろくに覚えてないが)の後、クリリンさん達は俺より先に目覚めて、自分を鍛えがてら自分達のクローンである天津達と2人一組で行動しているとブルマさんから説明された。

 

 意外なことに、あいつら自分からクリリンさん達に同行するって言ったらしい。

 

 壱悟は、セル達が去ってすぐに俺の右手の球に光になって吸収されたようだ。

 

 で、最後に目覚めた俺が波動の影響下で動ける16号とチームを組んでいるって訳だ。

 

「何か気がかりなことが?」

 

「いんや、ちょっとガキの頃のいやぁな思い出を夢に見ちまってよ。最近は、忘れてたんだが見返すと嫌な気になるもんだなぁ」

 

 ちなみに、同窓会とかはイジメられてた奴等に普通に誘われるし前の職場の頃は時間も余裕があったから行けたんだけどねーー。

 

 最近は職場の都合で行けないんだよなぁ。

 

 ガキの頃は顔も合わせるのが嫌だったのに社会人になりゃ、皆さんそれなりに苦労されてるようで。ま、当時の俺は怖がられてたから、今の俺を見てみんな、意外そうにしてたよなぁ。

 

「…良ければ、話してくれないか?お前の話を知りたい」

 

「俺の?何も面白くないと思うぞ?」

 

 16号は俺の目を見て静かに頷いた。

 

「知りたいのだ、お前のことを」

 

 真面目な顔で言うなよ。茶化しづらいじゃないか。ったく、嫌じゃないがーーやりづらいなぁ。

 

「大した話じゃないよ、ホントに。ガキのコンプレックスっつーか。トラウマが発動しただけだよ」

 

 イジメにあった事は、トラウマか?

 

 教師に認められなかった事が、トラウマか?

 

「俺さ、ガキの頃はケンカ強くてさ。小学校の高学年から中学卒業くらいまで本気で負けた事なかったんだよ。高校では、大人しくなろうってケンカは辞めて。大学で楽しんでーー」

 

 就職したけど職場でトラブル起こして辞職して、でも親の知り合いのコネで何とか就職できてーー。

 

 そんでーー今みたいな超ロングな勤務をしてんだが。

 

「トラウマとは、なんだ?」

 

 16号の言葉に俺は、引きつった笑みを返した。

 

「ガキの頃さ、孫悟空になりたかった。なれっこないのは分かってるけど、孫悟空みたいに強くて優しくて、カッコいい奴になりたかった。この世界じゃ悟空が居るのは当たり前だろうけどさ、俺の世界なら悟空は英雄さ」

 

「ーーーー」

 

 16号は何も言わずに俺を見てきた。

 

「学校の奴等も悟空が好きで。休み時間は超サイヤ人ごっことか、普通にやってたよ」

 

 人を助けるって、感謝されるって、凄くカッコいいと思ってた。

 

「そういうのを、ヒーローって呼んでた。正義の味方、とも言ってたかな。悟空は完全な正義の味方じゃないけど、ヒーローだった」

 

 ヒーローになりたいって思っていた。ケンカは強くなったよ。だけどなぁんにも環境は変わらないし、人も変えられなかったんだよ。

 

「イジメられてる子を見て助けた事がある。知ってるか、16号?イジメってよ、自分より強いヤツがイジメられっ子を庇ったら、スゲー陰湿になるんだぜ?」

 

 俺にバレないように、俺が休んだ日に、イジメをずっとソイツは受けていたんだよ。

 

 俺がその事を知ったのは、泣きながら転校することになったイジメられっ子に告白された時だ。

 

「バカだよな?感謝されるって思ってた。助けてくれてありがとうって言われるってさ。だけどーー」

 

 言われたのはありがとう、なんかじゃない。

 

ーー 久住くんが居たから。あの時、頼んでもないのに〇〇君を殴ったから。僕はもっと酷い目に遭わされたんだ。最後まで助けてくれないなら、最初から余計なことしないでよ。

 

「ーーそんな話、初めて聞いた。そらそうだ、助けてその気になってた脳天気な俺は、何も気づけなかった。気付いてやれなかった。言ってくれたら、助けられたって言ったらよ。言ったら余計に後で酷いことされるって、さ」

 

 エコヒイキ教師の叱りなんてなんも意味ねえが、俺の腕っぷしも、なんも意味ねえんだよ。

 

 強いヤツには弱いヤツの気持ちなんか、分かんないって言われたよな。

 

「ーー転校したその子とは?」

 

「死んだーー。他の学校でもイジメにあって、自殺したらしい。葬式で親御さんから聞いた」

 

 そいつは、何も変わらなかった。学校を変えても、何も変わらなかったんだ。

 

「悟空に、なれる訳なかったんだよ。何もーー変わらないんだからよ。強くなってみても、無理なんだ。仲良くしようとしてくるヤツが皆、気持ち悪くなって。俺は結局、高校を卒業するまで友達を作らなかった」

 

 そんな腐った夢を何で今頃、見なきゃならなかったんだかなぁ。

 

 あの頃の自分なんざ、気に入らない事があればイキがったガキを締めてるバカだった。

 

 髪を染めるとか、タバコを吸うなんてことはしない。

 

 仲間と仲良くつるむことも、一切せずに。授業は真面目に受けて、真面目そうな見た目の俺にたかりに来たバカとか、ケンカを売られたら買って返り討ちにして。

 

 仲良くなれそうなヤツも居たのかも知れないが、自分から離れていった。碌なことにならないって思ったから。

 

「今、思えば。あの頃の俺はカスだな。自分より弱いヤツにしかイキがれない最低のカスだ。わざと真面目な格好してケンカを売られたら買って返り討ちにして。そうやって俺は下らない時間を過ごしてたーー」

 

 ナイフを使うヤツも居た。パイプ持ってたヤツもいた。全員に地獄を見せてやった。多分、殺す気だった。よく殺さなかったもんだ。

 

 運が良かったんだろうな。

 

「紅朗、お前は自分がしてきた事を後悔してるのか?」

 

 16号の声に上を見上げる。後悔かぁ。後悔と愚行しかしてない人生だからなぁ。

 

「してるさ。でもよ、んな事言っても始まらないんだよ。何もな」

 

「ーーフ。そうか」

 

「ああ、そうさ」

 

 16号に話をして、少しだけ鬱陶しい気分が晴れた。

 

「ーーありがとな、聞いてくれてよ。今更、ガキの頃の話なんざ、いい大人が出来ないからさ」

 

「いいや、紅朗。俺は今確信した。お前ならば21号を助けてくれるーーそして、守ってくれると」

 

 力強く言い切る16号だけど、さっきの俺の話の何処に信用できる箇所があった?

 

 混乱と疑問に目を見開く俺に、16号は淡々と告げる。

 

「いずれ分かる。必ず、お前の強さを理解するものが現れる。俺のようにーー」

 

「ーーーー泣かすなよ、16号」

 

 思わず鼻の奥が痛くて、熱いものが目から溢れそうになり、俺は必死で上を向いていた。

 

 いいヤツ過ぎんだろ、テメェ。

 

 青空は、何処までも高く澄んでいたーー。

 

 

 






次回もお楽しみに(´ー`* ))))


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第19話 悟空、イメチェンした?

ボスラッシュが終わったと思いました?

残念、これからでした( *´艸`)


 

 

 セル達との闘いを終えて、西の都を出た俺は、クリリン達や天津達、ブルマと別れて16号と2人一組のペアを組んで行動することになった。

 

「ムン!」

 

 安全に街道を進む為にも、俺は超サイヤ人に変身した。

 

「…そういや不思議だよなぁ。一回、超サイヤ人になったらアッサリなれるようになるなんて」

 

「身体は孫悟空のデータを基に作られているからな。なり方さえ分かれば簡単だろう」

 

 今、俺が成ってる超サイヤ人はセルゲームで悟空が覚醒した第4段階。超サイヤ人を自然体のまま、使える。

 

 殆ど意識してない状態での変身だが、肌の色が透き通るような血色の良いものに変わるから自分でも一目瞭然だ。

 

 とりあえず超サイヤ人の状態なら素人の俺でも、それなりに戦えるだろう。

 

 なぁんて思っていた矢先だ。前方より三体のクローン戦士がゾンビウォークして来た。

 

 全員、身長も俺と同じくらいーーって、黒に近い灰色の道着に赤いインナーと帯。燻んだ逆立った金髪に赤い目ーークローン悟空が三体かよ。

 

「クローンって、何処にでも湧いて来やがるんだなぁ。レッドリボン軍め」

 

「ーーーー」

 

「別に、アンタを責めてる訳じゃないって。悪かった、気にすんなよ」

 

 黙って唇を噛む16号を見て、思わず手を横に振って言ってしまった。

 

 やり辛いーー。そもそも、21号ってヤツはクローンをこんな大量に作り出して何をするつもりなんだ?

 

 16号に聞いても、当分の食料の確保だとしか教えてもらってないってこったが。

 

 どんだけ食うんだよ、あの細い身体で。

 

 いや、普通に食うかもな。悟空やベジータの細胞があるのなら、だが。

 

「…紅朗、来るぞ!」

 

「オーケー!」

 

 クローンは、とりあえずクローン仲間以外の目の前に立ったヤツを攻撃するようにプログラムされてるらしい。

 

 作戦もクソも無いな。

 

 しかし、俺もクローンのはずなんだが。

 

「…21号はプログラムで作り上げた精神をクローンに入れて操っている。お前はプログラムの精神がないしバイタルエナジーを登録されてないから、敵と認識されてるんだ」

 

「よく分からんが、殴りに来るなら殴り倒すだけだ!」

 

 もう、いちいちいちいち考えんのは、辞めだ!面倒くさいし。向こうは、そんな葛藤もねぇ。躊躇なく殴りに来やがるからな。気を遣ってんのが、アホらしくなる!!

 

「おら、来いや!!」

 

 俺の声に反応するようにクローンが3体、同時に突っ込んで来やがった。

 

 不思議だが、随分と今の俺は落ち着いてる。自分に対して左手側から来る奴が一番速い。

 

 真ん中が最後で、右側が2番目か。

 

 俺は左から来る奴の右ストレートを拳の外側を掌で弾いて狙いを逸らし、ガラ空きの腹に膝を叩き込む。

 

 動きの止まったヤツを盾にして、右側から来る奴の更に右ーー死角に入り、さっきまで俺の居た空間に拳を突き出して空振るマヌケの左頬を右ストレートで打ち抜く。

 

 最後の一人に向かって二人目を右ストレートで吹き飛ばし、拳を突き出して来た3人目の盾にする。

 

 邪魔そうに左腕で払おうとする3人目だが、脚が止まってる。踏み込むには充分の隙、ガラ空きの顎に拳を叩きつけて吹き飛ばした。

 

 同時に倒れる3人のクローンを見て、俺はハッと目を見開く。

 

 アレ?今の動き、俺は認識できてたぞ?

 

 それどころか俺は今、狙って動いてた。

 

 コレは、ダメだな。ダメな感覚だ。

 

 自分の想像どおりに身体が動くーーこの感覚は、万能感が出て来る。

 

 なるほど。10代の子どもが、こんな感覚を味わったら天狗になんのも当たり前、か。

 

「紅朗ーー。今の動きは孫悟空のーー」

 

「分からん。なんで、いきなり悟空の動きが出来るようになってんのかも。それが当たり前にできると知ってんのかもーーな」

 

 俺の頭は混乱するはずだった。確かに身体の動く感覚に身を委ねれば悟空の動きは出来た。ビルスに組み手をしてもらった時に、それは確認してる。

 

 でもーーこんな、やった事のない動きを自分の組み立てたとおりに動くなんて。

 

 今までなら、そんなことが出来る自分に混乱するはずだった。でも、してない。

 

 まるでーー自分だけど自分じゃない感覚だ。

 

 セルと戦った時に、俺の様子がおかしかったらしいが。もしかして、それが影響してるのか?

 

 分からない。分からないが、今の俺はタガが緩んでる。

 

 随分と昔に締め切っていたタガが。

 

 人を殴ることへの迷いが、傷付けることへの躊躇いが、緩んでる。

 

 代わりに来るのは、どす黒い喜びだ。

 

 自分を傷付ける(俺にケンカを売る)ヤツは皆、返り討ちにしてやる。そんな腐った根性が、息吹き始めてる。

 

 白目を剥いてる3体のクローン悟空を見て、掌に埋め込まれた緑の球を突き出す。

 

「ついでに16号、知ってたら教えてくれ」

 

 突き出した右手の球が緑色の光を放って3体のクローンに当たり、当たったクローンは身体が消えて緑色の球になると地面に転がる。

 

「この能力は、なんなんだ?」

 

 転がった球は光になって、俺の掌の球に吸収された。壱悟やクローンベジータ達の時と同じだな。

 

「その能力ーー。そういえば、お前は壱悟という孫悟空のクローンをその球から出していたな。その球はおそらく、クローンを作る際に開発されたコアだろうが、そのような力があったとはーー」

 

「…天津達も知らなかったよな。古井や折戸が知ってたら使わない訳ねえし」

 

「やはり、紅朗が特別なのだろう」

 

 誰だか知らんが、そういう特別なのは要りませんって言ってやりたいね。俺が右手の球を見ると、数字が浮かんでいた。

 

「?なんだ、この数字?えっと「4」て書いてるな?」

 

 16号が掌の球を覗き込んで来た後、ジッと俺を見た。

 

「紅朗、壱悟を出せるか?」

 

「へ?そりゃ出せるが、なんでだ?」

 

「見た方が早いだろう」

 

 言われて、取り敢えず右手を前に突き出し壱悟を心の中で呼ぶ。

 

 よし、来い!相棒!!

 

 セルやビルスやらのおかげか知らんが、俺の中で壱悟は単なるクローンじゃない。なんつうか、一緒に闘う半身とか相棒って位置に来てる。

 

「ーー!」

 

 俺の言葉に応えるように、壱悟が超サイヤ人になった状態で俺の前に立っていた。

 

「おお!道着も同じで超サイヤ人だから一瞬、本物の悟空に見えたよ!!いや、超サイヤ人の悟空ってカッコいいよなぁ!!」

 

 そう考えると、見た目は自分も超サイヤ人孫悟空なんだけど。鏡を一々確認してるのは、ちょっとダサイしな。

 

 なぁんて言ってる場合じゃねぇ!?

 

 壱悟さんってば、いつの間にか超サイヤ人になっちゃってるよ?

 

 透き通るような肌の色に明るい金髪、綺麗な翡翠の瞳。おいおいおいおいおい! 君が超サイヤ人になったら俺、要らない子じゃないですか!?

 

 驚愕に目を見開く俺に、何故か壱悟は首を横に振る。

 

ーーぬ?今の首振りは、そんなことないよってこと?心が読めるのか?壱悟?

 

 今度は別の意味で目を見開く俺に、壱悟は首を縦に振った。

 

 通じちまってるよ、なんてこったい。

 

「ーーで、16号。壱悟を呼んだけど、何かあるのか?」

 

「数字を確認してみると良い」

 

 数字?ああ、掌の球のことか。

 

 どれどれ、と見てみると数字が「3」に変わってやがる。コイツはーーもしかして?

 

「そうだ、紅朗。お前が吸収した孫悟空タイプのクローンの数だ。おそらく、壱悟を含めた4体まで生み出せると言う意味だろう」

 

「!ま、マジか。早速、悟空からもらった道着と変身装置。ブルマさんから貰ったメモに従って名前を付けないといかんな」

 

 道着の帯からメモとカプセルを取り出す俺。左手首に巻いた通信機を兼ねた腕時計の脇にあるボタンを押すだけでクローンの道着は悟空から貰った山吹色の道着にチェンジする。グレートサイヤマンの変身スーツの応用だ。

 

 クローンベジータ達への変身は切り札にして、クローン悟空なら16号と行動を共にしても違和感はない。潜入もしやすくなるって理由から元々あったクローンカラーの道着とプレゼントされた山吹色の「紅」マークの道着を状況に応じて使いまわすつもりだ。

 

 鼻歌交じりで準備をする俺に16号は何かを言いたげにジッと見てくる。

 

 何だよ、自分の所有物には名前を付けないとダメだろう。そんな俺の疑問に応えるように16号は告げて来た。

 

「紅朗。この先に後6体同タイプのクローンが、まだ居るぞ」

 

 マジかよ。ったく悟空タイプのクローンだけ、ずいぶんと集まって来てるみたいだな。

 

「さらに言えば、戦闘中のようだ」

 

「なんだと!? 一般人に手を出してるのか!?」

 

 シャレにならんぞ、一般人に被害が出るなんぞ!!

 

 思わず構えた俺は、壱悟に目配せした後に街道の先へと急いだ。

 

ーーーー

 

 俺たちが駆け込んだ先には、6体のクローン悟空に囲まれた一人の男が居た。

 

 左右非対称に跳ねた独特な髪型の黒髪。黒い長袖のインナーシャツの上に灰色の道着。下は黒い道着のズボンに白いブーツを履き、赤い帯を腰で巻いている。

 

 左の耳にポタラによく似た深緑色のイヤリングをしている。

 

「ーーいかに紛い物とは言え、俺と同じ孫悟空を名乗るならば。もう少し、強くあってもらいたいものだ」

 

 男の顔も声も、間違いない。

 

 悟空ーー孫悟空だ。

 

 だけど、雰囲気が違うし目つきも違う。話し方もーー。アレか、バーダックやターレスと同じ、悟空のそっくりさんか? いや待て、今ーー孫悟空って名乗らなかった?

 

「孫悟空で間違いないようだがーー」

 

 16号まで困惑気味だ。そらそうだ、さっきビルスに連れて行かれた悟空とは明らかに違う。着ている道着も亀仙流のデザインとは違う。

 

 クローン悟空は、一斉に黒い道着の悟空に襲い掛かる。

 

 黒い道着を着た悟空の眼が一瞬、銀色に輝いたーーと思ったら、一瞬で6体のクローンは倒されている。

 

「ーーえ?」

 

 思わず俺は、そんな声を上げてしまっていた。

 

 今、何が起こった?

 

 俺の知ってる悟空も、とんでもない強さだけど。コイツーー!!

 

 目を見開いて動きを止めている俺に向かって、黒い道着の悟空はふりかえって来た。

 

「ーーほう?山吹色の道着を着た紛い物、か。しかし超サイヤ人孫悟空ではあるようだ」

 

「て、テメェーー誰だ? バーダックじゃないよな?」

 

 左頬に傷もないし、形見のバンダナもない。違うはずだが、悟空とは違う。

 

「俺は孫悟空ーー」

 

「ふざけんな! 孫悟空は、テメェのような冷たい目をした男じゃない!!」

 

「ほう? だが、それは貴様にも言えることではないのか? 紛い物の躰をもった人間よ」

 

 俺は一言も孫悟空を名乗ってないだろうが!

 

 そう言い返してやろうと思ったが、男はつづけた。

 

「そうだな。俺の名は、悟空。ゴクウブラック」

 

「ーー何?」

 

「我が躰は、本物の孫悟空の肉体。我が魂は唯一神ザマスのモノ。我こそは、罪深き人間を裁く正義の執行者と告げておこうか?」

 

 や、やべぇ。言ってる意味が、ほとんど分からん!!

 

 なんだ、この頭のイカれてる野郎は?

 

 おまけに、あの強さはおかしいだろう!?

 

 黒髪状態の悟空も凄かったけど、こいつの底知れなさは、本当に悟空と同じくらいかもしれない。

 

 その時、倒れていたクローン悟空達の躰から緑色の光が溢れていき、コアだけになると脈絡もなく俺の右手に取り込まれていった。

 

 その様子をジッと見た後、ゴクウブラックとか言う奴は俺に向かって冷酷な笑みを浮かべた。

 

「ーーそうか、貴様が世界の平和を乱す異界人か。手間が省けたぞ」

 

 言うと同時、紫色と漆黒のオーラを身体から噴き出して笑っている。

 

 こ、これはーーヤバイかもしれない。超サイヤ人のオーラを身に纏いながら、俺は構える。

 

「壱悟、16号! 来るぞ!!」

 

 俺たちに向かってゴクウブラックは構えた。

 

「平和な世界を荒らす愚かな人間よーー。貴様は、此処で死ぬがいい!!」

 

 





次回も、お楽しみに( *´艸`)



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第20話 悟空、俺はアンタの偽者なんかに負けない

ではでは、お楽しみください(*´ω`*)


 黒に近い紫色のオーラを身に纏い、金色の粒子を弾かせている目の前の孫悟空ーーゴクウブラックの姿に俺はゾッとする。

 

 こいつはやばい。

 

 一撃で決めないとーー死ぬ!!

 

 金色のオーラを身に纏い、俺は超サイヤ人のフルパワーを引き出す。

 気を高め、両手を腰だめに構えて両手を相手に突き出した。

 

「超ーーかめはめ波ぁああ!!」

 

 俺は、超かめはめ波を全力で放った。

 

 肌で感じるのは、あの時のセルとの対峙。

 

 コイツと俺では正直言って力の差があり過ぎる。

 

 セル曰く、俺のパワーだけは本物なら超かめはめ波だって本物だ。

 

 通じてくれよ!!

 

 そんな俺の心の叫びが込められた青い光は、ブラックの目の前に現れた巨大な漆黒の空間ーー穴に吞みこまれていった。

 

「ジャネンバと同じ、空間を操る技かよ」

 

 映画で出て来た超サイヤ人3を一方的に叩き潰した邪悪な魂の塊が具現化した化け物。

 

 あれと同じ力を目の前の男は持ってるみたいだ。

 

 悟空の身体能力にジャネンバの空間操作能力。

 

 素直に化け物じゃないかと思うが、ゴクウブラックは造作もないと言わんばかりに淡々と俺達との距離を詰めてくる。

 

 俺の隣で壱悟、16号が構える。

 

「……先ほどのかめはめ波。異世界の人間。貴様から感じる孫悟空の気配は私が倒した人形どもとは質そのものが違う。貴様、何者だ? 何故本物の孫悟空の気に近い?」

 

「そんなん俺が知るかよ。本物の悟空が、超かめはめ波のことを教えてくれたからかもしれないけど」

 

「? 本物の孫悟空? 貴様、孫悟空を知っているだけでなく話したことがあるのか? ならば貴様やそっちの孫悟空のクローンが着ている山吹色の道着はヤツの差し金か」

 

 訝しげにしながらゴクウブラックは、足を止めて俺に話せと言わぬばかりに目を向けてくる。

 

「他の異世界人どものように孫悟空達の誰かに成り代わろうとしている訳ではないようだな。いいだろう、今の現状を教えてもらうぞ? 人間」

 

 そこはかとなく上から目線にイラっとくるが、まあ話すだけ話してみるか。

 

 少なくとも、コイツはその気になれば俺達三人くらいなら一瞬で殺せる。

 

 それくらいの実力差はあるだろう。

 

 21号の話、異世界から何故か集められた魂たち。

 

 生み出されたZ戦士やフリーザ軍のクローンたちの身体に詰め込まれて。

 

「……なるほど。つまり、人造人間21号とやらが此度の騒ぎを引き起こした元凶で。異世界から理由は分からぬが呼び集められたものどもは、元凶の話を真に受けてこの世界で好き放題に暴れていたというわけか」

 

 悟空と同じ顔をしているのに、佇まいが上品なせいか。

 

 なんだか、動作の一つ一つに気品を感じる。

 

 なんだ、コイツ?

 

 セルやブウみたいな取り繕った表面的な感じじゃない。

 

 動きや話し方や所作の一つ一つが、自然にこちらも背筋を正さねばと思わせるようなーー。

 

「そしてお前達は、悪の人格とやらが芽生えた人造人間や暴れている異世界の連中を止め、正気に戻すために動いているというわけか」

 

「あ、ああ。破壊神ビルス様の命令でもあるし、な」

 

「ビルス? そうか。あの破壊神ビルスが孫悟空の代わりにお前を解決役にした、か」

 

 そう言いながら俺を足先から頭の上まで見た後、ブラックは訝しげな表情を更にゆがめた。

 

「確かに精神は奴らに比べてまともなようだが、孫悟空の代わりがお前程度にできると? ビルスめ、何を考えている」

 

「そんなんこっちが聞きたいわ!!」

 

 思わず叫んだ俺に向かって黒い瞳をジッと見据えた後、ブラックは拳を握った。

 

「気に入らんな」

 

「……は?」

 

 思わず何を言われたか分からずに問い返すとゴクウブラックは淡々とした表情と口調で孫悟空の構えを取りながら言った。

 

「孫悟空ーー。ヤツは、私のこの手で打ち負かすべき相手。ヤツに勝つことこそが我が夢! その男の代わりを貴様程度の人間が一時的なものとはいえやるなど……!」

 

 漆黒の縁に紫色のオーラを身に纏い、ゴクウブラックは俺を睨みつけている。

 

「気に入らん……!」

 

「! ……ならアンタが、悟空の代わりをしてくれるのか?」

 

 瞳を鋭く細めるブラックに俺は声を上げる。

 

 こいつは悟空に拘っている、その気持ちは俺にも分かる。

 

 俺だって、悟空の代わりなんてできっこないって思ってるんだ。

 

 でも、16号や人造人間21号。

 

 彼女の本来の人格を助けられるならって。

 

「アンタが誰かは知らないし、どんな奴なのかもわからない。でも、アンタは悟空の敵じゃないんだろ? 昔はどうか知らないが、今のアンタは。なら、協力してーー!!」

 

 瞬間、俺の頬に強烈な衝撃が叩き込まれ後方へ弾き飛ばされた。

 

 たまらず尻もちをついて見上げた先には、ブラックが俺を冷ややかに見下している。

 

「っつ、何しやがる……!」

 

 殴られたことが分かった時点で、俺も戦闘態勢に入った。

 

 こいつ、言葉が通じない。

 

 いや、話し合いで終わらせるつもりがない、と言った方が正しいな。

 

「協力? 今程度の動きに反応できないものが、協力と言ったか? フン」

 

 こちらを完全に見下し侮蔑した者の眼。

 

 その眼を見ただけで、俺の中の何かが噴き立っていく。

 

ーー見下してんじゃねぇ。

 

 ああ、知っている。

 

 こういう目をした奴を俺はよく知っている。

 

 ガキの頃の俺が今までぶちのめしてきた阿呆であり、俺自身だ。

 

「貴様にとって、孫悟空の代わりという役割は何処の誰かも分からんものに縋る程度に軽いものか。そのザマでよく孫悟空の代わりなどとほざいたものだ……!」

 

 ああ、俺には重すぎるんだよ。

 

「そんな心構えでは何一つ満足に解決などできるはずもない。その道着を脱ぎ捨て尻尾を巻いて消え失せろ、半端者」

 

 言うとおりだ。

 

 英雄のーー孫悟空の代わりなんてできるわけないよな。

 

 でもよーー!!

 

「半端? テメェに、俺の何が分かる?」

 

「……フン、図星を突かれて怒ったか。半端ではあるが臆病な腑抜けではないようだな。もっとも、おまえのような人間は早死にするのが関の山だがな」

 

 上等だよ。

 

「喧嘩売ってんのか。なら、買ってやらぁ。その代わりーー後悔するなよ」

 

 咄嗟に壱悟と16号に目配せする。

 

「……!」

 

「…紅朗」

 

 コイツは、タイマンだ。

 

 手出しするんじゃねぇ。

 

 俺の心に応えるように気が力が身体に満ちていく。

 

 今の俺ならできる、怒りが無限に気を高めていくようだ。

 

 目の前の男は俺よりも遥かに強い。

 

 でも、それがどうした?

 

 相手が誰だろうが関係ないーー喧嘩を売られたなら殴り倒すだけだ……!

 

「はぁ!!」

 

 超サイヤ人2に変身する。

 

「……ほう? 超サイヤ人2に変身できるのか。なるほど」

 

 あの笑み。

 

 あの声を、この拳で消してやる……!

 

「うおらぁああああ!!」

 

 俺は怒りに吞まれたままに一気に突っ込んだ。

 

ーーーー

 

 気が膨れ上がる。

 

 それを見ながら、ゴクウブラックーーザマスは胸の内でつぶやいた。

 

(なるほど、怒りを力に変える……。破壊神ビルスが言うだけのことはあるようだ。だがーー)

 

 目の前に迫る超サイヤ人2の紅朗に向かってブラックは告げた。

 

「その程度で孫悟空の代わりが務まると思うのか?」

 

 確かにダッシュのスピード、拳の振りかぶり方、攻撃のタイミング、全て孫悟空と同じ。

 

 ガードして拳の威力も確かめるが、確かにクローン連中よりは鋭くパワーもある。

 

 だが、それでは単なる孫悟空の劣化コピーに過ぎない。

 

 駆け引きも何もない単に突っ込んで拳と蹴りをいたずらに体力の続くかぎり繰り出すだけの存在。

 

 ブラックは淡々と繰り出される連撃から右ストレートを選んで右フックでカウンターを取った。

 

 跳ね上がる顔に身体が仰け反る。

 

 血が飛び散る中、ブラックは拳を握り左ストレート、右ストレートを左右の腹に叩き込む。

 

 腹に打撃を受けたことで前のめりになった顎を強烈な右足で蹴り上げた。

 

 空中で三回転ほど縦にしてからうつ伏せに地面に叩きつけられる紅朗、それを見下しながらブラックは告げる。

 

「その程度か、人間」

 

 クローンに比べれば超サイヤ人の純粋なパワーとスピードだけで大抵はねじ伏せることができるだろう。

 

 今回程度の敵であれば超サイヤ人3程度のパワーを出せれば解決には持ち込めるであろうというのがブラックの見立てではある。

 

 だが、同時にブラックは目の前のクローンの肉体を持った異世界の人間に何かを感じ取っていた。

 

 案の定、紅朗はすぐさまに立ち上がって拳を握って構える。

 

 理性の殻ーー久住史朗という人間の奥に隠されたソレは、怒りを持って殻の奥から覗き込んで来ている。

 

 ブラックをして認められない事実であった。

 

 何故なら、その姿に至るためにブラックは自分自身のありとあらゆるものを否定せねばならなかったのだから。

 

 穢れだと信じていた非力な存在達から心の力を別けられ初めて己一人だけの力で目覚めた姿。

 

 孫悟空や自分の弟子である未来世界の孫悟飯、その他のアレに至った者たちを見てみればそれがどれだけ特別な事なのか分かるだろう。

 

 その黄金の炎を、何故こんな半端な精神と力の持ち主が秘めている?

 

 強烈な嫉妬と不快感。

 

 それが、ゴクウブラックが紅朗を言葉だけで受け入れることが出来なかった最大の要因であった。

 

 鈍い音が響き渡り、その度に紅朗は一方的にのけ反らされる。

 

 紅朗が拳を振れば振るほど、蹴りを放てば放つほどにブラックはサイドステップしながら避けて攻撃の届かない安全地帯から的確な打撃を叩き込んでくる。

 

 孫悟空に匹敵する技量、孫悟空に勝るとも劣らないセンス、孫悟空を超えようとする動き。

 

 積み重ねられた研鑽、他人を見下す態度をとりながらもその実は、誰よりも己に厳しく鍛練を積んでいる動き。

 

 その拳を食らう度に紅朗は……笑っていた。

 

 どれだけ拳を叩き込められ、脚が震えようと少し経てば拳は握れる。

 

 蹴りを放てる。

 

 目の前の男の強さは、自分よりも遥か高みにある。

 

 その男の強さに引き上げられていくのが、分かる。

 

 もう少しで、目の前の男の顔に拳を叩き込める。

 

 その確信が、紅朗の表情を鬼のようなものに変えていた。

 

「……心の力を、最初から使えるということか。ふざけた男だ」

 

 瞬間、ブラックの動きが変わった。

 

「その、鬱陶しい笑いを……!」

 

 右の廻し蹴りに左前蹴りのカウンターを腹に決めて引き下がった瞬間に追撃でブラックは踏み込むと左右の拳で顔を打ち貫き、右の上段回し蹴りで後方へ弾き飛ばす。

 

 その背後に高速移動で現れ、吹き飛ばされる紅朗の顔に向けて両腕を頭上から振り下ろして地面に叩きつけた。

 

「止めろ!!」

 

 衝撃で土煙が爆発し、空まで高く舞い上がる。

 

 瓦礫が舞う中で空から静かにブラックが見下ろす。

 

 瞬間、土煙の中心が爆発して光が舞い上がり、超サイヤ人3が目の前に現れていた。

 

「……笑いを止めろ? テメェが言うか? 人を見下したクソ野郎が」

 

 ギラついた翡翠に黒の瞳孔が浮かんだ瞳でこちらを覗く超サイヤ人3は、圧倒的なパワーを纏って口の端を吊り上げている。

 

 パワーを更に引き出すと、一気に突っ込んでくる。

 

 対するブラックも自分の身に漆黒のオーラを纏い、真っ向から迎え撃った。

 

 再びぶつかり合う拳と拳、蹴りと蹴り。

 

 先ほどまでの乱打戦よりも更に速く、そこかしこで光の波紋が世界に生まれていく。

 

 凄まじいパワーとパワーのぶつかり合いは空間に裂け目を作り、稲妻が走っていく。

 

 だが紅朗の眼は世界よりも目の前の相手を優先する。

 

 世界がどれだけ壊れようと目の前の男が平然としている限り、それは自分の力が足りない証拠。

 

 どれほどの力も、強さも、目の前の敵を倒せなければ何の意味もない。

 

 だから力を引き上げる。

 

 目の前で自分を嗤った男を叩きのめす為だけに。

 

「……紅朗。凄まじい強さだ、だがブラックと言う男は紅朗の力を更に大きく上回っている。このままでは紅朗が勝つことはできない」

 

 16号が淡々と事実を告げるように呟くと、壱悟が超サイヤ人へと変身して二人の戦いに割って入ろうと構える。

 

 しかし、16号が止めた。

 

「止せ。他ならない紅朗自身が俺たちの手助けを拒んでいる。それに……!」

 

 16号には見えていた。

 

 本物の孫悟空が見せた真の超サイヤ人、その波動が紅朗自身から漏れていることに。

 

「紅朗、お前の戦闘力はどこまで上がる?」

 

 データへと換算すればすぐに分かる。

 

 今の紅朗は、つい先ほどまで自分達と話していた紅朗の戦闘力を大きく上回っている。

 

 真の超サイヤ人ではない今の状態でも紅朗は、戦闘力の上昇を見せているのだ。

 

(紅朗、お前はいったい……!)

 

 対峙するゴクウブラックもまた、それを肌で感じている。

 

 当たり前だ、戦闘力の上昇だけではない。

 

 自分の動きに対応してきている。

 

 最初は孫悟空の動きを真似るだけで短絡的な行動しかなかった男の拳が、キレを増してパワーとスピードを上げて自分の身に迫ってきている。

 

 ハッキリと分かる。

 

 それを理解しているからこそ、ブラックは怒りの形相に変わっていた。

 

「貴様、どこまでもふざけた男だ! 貴様如きが孫悟空の代わりなどできんと言っているだろうが!!」

 

 止めた拳の威力で頬が裂ける。

 

 それを認識した瞬間にブラックは、強烈な右掌底で紅朗の顎をかち上げ、左の上段回し蹴りで後方へ吹き飛ばした。

 

 距離を置いて止まる両者。

 

 ボロボロの肉体の超サイヤ人3の紅朗と右頬から血が少し流れているブラック。

 

 両者のダメージの差は、一目瞭然。

 

「…ぶちのめす!!」

 

 それでも紅朗は、そう叫ぶと両手を腰だめに置いて強烈な青い光を練り上げる。

 

 ブラックは、それを淡々とした表情で睨みつけると身に纏う漆黒のオーラを更に激しく燃やした。

 

「うおらぁああああ!!!」

 

 両手を突き出しながら全てを飲み込む巨大な青い光線がブラックに向けて放たれる。

 

 それは、世界そのものを飲み込むほどに強烈で強大な力の奔流。

 

 超サイヤ人3フルパワーの超かめはめ波だった。

 

「……フン」

 

 ブラックの前方に自身が纏うオーラと同じ色の空間の裂け目が現れ、超サイヤ人の時と同じように超かめはめ波はブラックが生み出した穴に飲み込まれていく。

 

 完全に全てを飲み込む寸前に気配を感じてブラックが振り向くと同時、瞬間移動の構えで紅朗が現れる。

 

 強烈な中段右回し蹴りを放つ紅朗だが、その蹴りは空を切る。

 

「なにぃ!!?」

 

 叫ぶ紅朗の背後にブラックは瞬間移動で現れると左手から強烈な金と黒の色が混ざったエネルギー波を放ってきた。

 

 咄嗟に振り向いて両腕を胸の前でクロスさせて受け止める。

 

「ぬ、ぐくくく!」

 

 押し込まれる光を押しのけようと力を込める紅朗。

 

 それをゆっくりと押し返しながらブラックの黒髪が天に向かって逆立ち、瞳が灰色の光を放ち始めた。

 

「……!!?」

 

 金の混じった黒色の光線は徐々に薄紅金色の光線に変わる。

 

 同時、ブラックの身に纏うオーラも薄紅金へと変わっていた。

 

 それだけで一気に紅朗の身は地面に押し付けられていく。

 

「な、なんだと……!!」

 

 目を見開く超サイヤ人3に向かって、神の気を纏う超サイヤ人となったブラックが告げた。

 

「どうだ、美しい色だろ? これこそが人の身では至れぬ姿。神のみが辿り着くことが許された超サイヤ人。超サイヤ人ロゼだ」

 

 必死に押し返そうとする紅朗を淡々と見下して超サイヤ人ロゼと化したブラックは告げた。

 

「これが器の違いだ。思い知れ、下郎……!」

 

 更に強烈な光がダメ押しとばかりに紅朗に向かって放たれ、一気に光に飲み込まれる。

 

 瞬間、紅朗の身に纏うオーラが爆発した。

 

 黄金の炎は、超サイヤ人ロゼのエネルギー波を飲み込むように猛り狂いながら完全に消していく。

 

「神? 神がどれほどのものだ? 今の俺は超サイヤ人……! その神々さえも驚かせる最強の戦士だ……!!」

 

 一気に紅朗のパワーが引き上がった。

 

ーー そのものは千年に1人現れる伝説の戦士。

 

ーー 黄金に燃える逆立った髪に冷徹な翡翠に黒の瞳孔が浮かんだ瞳を持った超戦士。

 

 薄紅色の光を纏うブラックの前に、ニヤリと不敵に笑った黄金の炎を身に纏う鬼が居る。

 

「…意識的に真・超サイヤ人になれるというのか? 気に入らんな」

 

 黄金の髪を天に逆立て靡かせて、冷徹な瞳と不敵な笑みで紅朗が告げた。

 

「……行くぜ、神さま!!」

 

 孫悟空の踏み込みで、孫悟空の鋭さで、紅朗がブラックの前に踏み込んで来る。

 

 左ストレートを初撃に、右の上段回し蹴り、右ストレートの打ち下ろしをコンビネーションで放つ。

 

 名を超神撃拳という、孫悟空の数あるラッシュの一つ。

 

「ーー超神撃拳か。神を撃つなど、礼を弁えぬ拳の名よ」

 

 左ストレートを右手で捌いて逸らし、右のハイキックは後方へバックステップして対応。

 

 ブラックが、着地する瞬間に紅朗が右ストレートを打ち下ろしで放ってきた。

 

 接近戦。

 

 右の打ち下ろしを躱された紅朗は着々と同時に左拳を数発、ブラックの顔面に散らしてから、踏み込んでから右ストレートを放つ。

 

 紙一重で避けるブラックの瞳は鋭く細まっていた。

 

(速い!なるほど。真・超サイヤ人に成った事でセンスを磨かれ、孫悟空の動きを完璧に使えるようだな)

 

 それは新たな紅朗の境地。

 

 憧れの存在をずっと目で追って来たからこそ、孫悟空の動きをイメージできる。

 

 真・超サイヤ人ならばできる。

 

 次々と放たれる拳と蹴りの連撃を、ブラックは全て捌いていく。

 

(違う!こんなもんじゃない!! 孫悟空は、俺の英雄はーーこんな程度であるもんか!!)

 

 捌かれれば、捌かれる程に動きは更に鋭く速くなる。

 

「…ほう? なるほど。なかなか、孫悟空を知っているようだな」

 

 ブラックは鋭く目を細めながら、避けていく。

 

 右のフックを左手で捌き、次に放たれた左のショートアッパーを上体を背後に反らして顎先で見切り、伸びた顔に向けて左の上段回し蹴りを放たれるも、紅朗の背後に高速移動で回る。

 

 紅朗は蹴りを放った左回し蹴りの勢いを利用したまま、コマのように回転して自分の背面へ右の裏拳を放った。

 

 乾いた音と共に拳がブラックの左手に掴み止められた。

 

 即座に左拳をボディに放つ紅朗。

 

 右手を腹の前で構えて、拳を掴み止めるブラック。

 

 瞬間、紅朗が気を高める。

 

「ーーはぁああ!!」

 

「ぬ?」

 

 掴み止めた左拳が光り出し、力を溜めている。

 

 紅朗の背後にはベジータの紛い物が半透明で現れ、紅朗の動きをトレースして消える。

 

 瞬間、拳に溜まった光は前方に爆発し、ブラックを飲み込もうとする。

 

ーー 手応えはない。

 

 紅朗の目が、そのまま自分の左側にスライドする。

 

 高速ステップで残像を散らしながら、ブラックが移動している。

 

(今の技は、ベジータの技か? 一瞬見えた紛い物の姿は取り込んだ可能性を引き出したのだろうがーー)

 

 ブラックの高速移動に追いすがるように、紅朗もステップを激しくして追いかける。

 

 ブラックの超スピードに、紅朗はステップの際の体重移動を正確に、地面を蹴る足を巧みに交互に動かす事で食らいつき始めている。

 

(ーーこの脚捌き、孫悟空よりもスピードを重視した動きはピッコロか?)

 

 疑問に応えるようにブラックの目には一瞬だけ、紅朗の背後にクローンのピッコロが現れた。

 

「パワーもスピードも劣る貴様が。孫悟空の仲間の戦闘技術を利用して食い付いてくる、か」

 

 目の前に迫る紅朗の目を睨み返し拳を振るも、カウンターの跳び上段回し蹴りを叩き込まれてブラックは後方へ吹き飛ぶ。

 

 瞬間、左手を突き出しトランクスの幻影を一瞬背負って紅朗が叫んだ。

 

「くたばれぇええっ!!」

 

 ブラックが蹴り込まれた地面に接触すると同時に黄金の光が爆発し、天に光柱を突き立てた。

 

 柱が消えると炎と煙が舞い上がり始める。

 

 その向こうから、ゆっくりとブラックは現れた。

 

「なるほど。中々、素晴らしい動きにセンスだ。素人にしては、よく孫悟空とその仲間を研究している。おまけに、他の紛い物の力でそいつらの技まで使えるとはなーー!」

 

 かすり傷一つ、付いていない。

 

「…なるほど。コイツが神の力を持った超サイヤ人。超サイヤ人ロゼってわけか」

 

 黒の瞳孔が現れた翡翠眼を細めて紅朗が呟くと、ブラックはニヤリと冷酷な笑みを返して来た。

 

「微温いなーー紅朗とやら。紛い物なりに孫悟空の代わりを務めると騙るならば、せめてーー」

 

 一瞬で、懐に入られる。眼を見開く紅朗にブラックは灰色の瞳を歪めて笑いかける。

 

 咄嗟に右のフックを放つ紅朗の拳を紙一重で避け、強烈な右のボディを叩き込んできた。

 

「カハッ!?」

 

「ーーこのくらいは、やってみよ」

 

 前のめりになった紅朗の顎を右のハイキックで蹴り上げ、高速移動で吹き飛んだ紅朗に追い付くと右ストレートの打ち下ろしを左頬に決めて地面に叩きつけた。

 

「ーークッ!!」

 

 勢いよく叩きつけられてバウンドした紅朗は、空中て体勢を整えて二度目に迫る地面に手をつき、バク転して着地するとブラックに構えを取った。

 

 その表情は、眼を見開いて驚いていた。

 

「どうした、紅朗? 今更、俺と貴様の実力差に気付いても遅いぞ」

 

「…テメェ、今の動きは悟空。なんで、偽者が悟空の拳を使える?」

 

 それも真・超サイヤ人になって、イメージだけで悟空の動きが再現出来る自分よりも数段上のーー。

 

 壱悟の真・超サイヤ人の動きを見ていないから分からないが紅朗の感覚で言えば、明らかにブラックは悟空そのものの動きをした。

 

 本物の孫悟空そのもののような、動きを。

 

(……有り得ねぇ。偽者が悟空の拳をそのまま使えるっていうのか? 俺や、壱悟よりも悟空をーー孫悟空を知っているっていうのか?)

 

 許せない。

 

 この世界で孫悟空のことを一番知ってるのは、自分だ。

 

 其処だけは譲れない。譲ってなるものか。

 

 たとえ紛い物の肉体でも、成り行きでも。悟空から任されたのだ。

 

 信頼の証に道着を貰ったんだと、彼は自負していた。

 

 それこそがーー否、それだけが一般人であった紅朗がセルやブラックと闘う唯一の理由であった。

 

「……孫悟空は俺の中の英雄だ。たとえ俺が紛い物でも、偽者に負けてたまるかよ」

 

ーー何が足りない?

 

 戦闘力か、気か、技か、力か。

 

 真の超サイヤ人ならば出来る。その程度の差など何にもならない。圧倒的な能力で、ねじ伏せられる。

 

 黄金の炎が無限に気を上昇させる。其処に限界はない。

 

 技が足りないなら、予測対応できない程、多彩な技で攻めればどうだ?

 

ーー組み立てろ。怒りや感情に染まったり、反応に身を任せて無意識に行動して勝てるような相手じゃない。無い頭をフル回転させろ。

 

 この時、紅朗は分かっていた。相手が自分よりも遥かに上の存在であることを。

 

 このまま闘えば、確実に負けることを。

 

「なら、自分の可能性とやらに。賭けてみる、か」

 

 気を高めていく。2倍、3倍、4倍、それ以上に。

 

「ーー敵わぬと知り、身の丈に合わぬ力を超サイヤ人に求める、か。愚かだなぁ」

 

「だな。正直に言うけど、俺も気にいらねぇよ。こんな一か八かの勝負は。だけどよーー!」

 

 紅朗の不敵な笑みにブラックの目が鋭く細まる。脳裏に浮かぶのは、地球襲来時のベジータ戦。

 

 あの時、界王拳がありながらも悟空はベジータに全てにおいて負けていた。その時の悟空が何をしたか、俺は今でも鮮明に思い出せる。

 

「孫悟空なら、諦めないぜ」

 

 その言葉にブラックは一瞬だけ、微かに口許を歪めて戻すと静かに構えた。

 

 傍目には、微かに口許が引きつっただけで彼が笑みをこらえようとした事など分からないだろう。

 

「ーーよかろう。この俺の前で、その姿で孫悟空の名を語り真の超サイヤ人となるならば、それぐらいの意地は見せて貰わねば困る」

 

 薄紅色のオーラが一気に吹き上がり、ブラックの戦闘力を高める。

 

 紅朗のような倍率を段階を追って上げるようなやり方ではない。一瞬で気を桁違いに爆発させたのだ。

 

「孫悟空の代理をしたいならば、このくらいの気の増加は、やってみせるのだな」

 

「ーー自分が出来るからって、出来ない奴を見下してんじゃねぇ!!」

 

 瞬間、2人は同時に大地を蹴って接近、互いに右腕と右腕を刀のようにぶつけ合い、鍔迫り合いのような姿勢で押し合う。

 

「今の俺は、千年に1人現れるとかいう伝説の戦士だ。セルみたいに余裕ぶって油断して、本気出さなかったから負けましたーーなんて聞かねえぞ?」

 

「安心しろ、「紅朗」。手加減はもうせん。捻り潰してやろうーー真の超サイヤ人。その力ごと、な」

 

 高速移動で相手の死角を取り、文字通り隙を突くように拳や蹴りを放つ。

 

 鋭く速い高速ステップから、無数の打撃の応酬。ブラックの右ストレートに合わせて右脚を伸ばして槍のように紅朗は突き出す。

 

 左腕を腹の前で曲げてガードするブラックの背後に紅朗が移動し、逆側の脚を伸ばして突き出してきた。

 

 16号の目が見開かれる。

 

「アレは、ピッコロのソニックキックか!!」

 

「フン。取り込んだクローンの技を孫悟空の肉体で使えるのが、お前の強みか。だがなぁーー」

 

 紅朗の蹴りに合わせて、ブラックも蹴りを放ってくる。

 

「ーーっ!?」

 

 眼を見開いてガードする紅朗の腕を蹴りつけ、すれ違いざまに背後に回ると、逆側の脚を伸ばして蹴りつけてくる。

 

「その程度の技、孫悟空ならば可能性など無くとも使いこなせるわ!!」

 

 顔に放たれる蹴りを紅朗はギリギリまで引きつけた後、片脚でサイドステップを行い、身体ごと避けつつ右手を突き出す。

 

 先程まで紅朗がいた右側の空間をブラックの脚が突き抜ける。自分の右手側で隙を晒すブラックに光が放たれた。

 

「ベジータの、ビックバンアタックか!」

 

 放たれた光弾は、ブラックの肉体を飲み込む。

 

 完璧なタイミングで放たれたカウンターだが、紅朗は即座に自分の背後に振り返ると左手で黄色の光を放つ。

 

 ピッコロの幻影が重なったのが見えたことから、ピッコロの技なのだろう。

 

 放たれた光の先には、瞬間移動でビックバンアタックを回避したブラックの姿がある。

 

 彼も左手を突き出し、薄紅色の光を放ってきた。

 

 相殺して爆発する両者の光。

 

 煙が晴れた向こうには、ブラックが無数の残像を空中に作って浮かんでいる。

 

 瞬間、ベジータの可能性を引き出して紅朗が連続気弾を放つ。

 

「だだだだだだだぁ!!」

 

 無数の光弾で残像全てを消そうとする紅朗。

 

 多重残像拳を瞬く間に消して行くが、最後の1人まで不発だった事に眼を見開く。

 

「いつまで、そんな無駄な力を使っている」

 

 背後からの声に振り返ると、ブラックは淡々とした表情で立っていた。

 

「他人の技ばかり使いおって。それで本来の孫悟空の実力など引き出せると思っているのか?」

 

「……本物には、どうやっても勝てないからな。自分に出来る能力ってヤツを限界まで使いこなすしか、ないのさ」

 

 苦笑い気味に語る紅朗にブラックは瞳を微かに細めた。

 

「今のお前は、真の超サイヤ人に頼り過ぎだ。確かに超サイヤ人ロゼとなった俺に挑むならば、真の力で引き上げるという選択肢は悪くない。だが、そこからが問題だ」

 

「……え?」

 

 眼を見開く紅朗。今のセリフ、どう聞いても紅朗へのアドバイスにしか聞こえなかったからだ。

 

「構えるがいい、まずは貴様の限界を見てやる」

 

「……何処までも上から話しやがって。気にいらねぇ野郎だな、テメェは!!」

 

「安心しろ。俺も貴様が気に入らん」

 

 そう言って笑うブラックの表情は、冷酷にして邪悪なものだが。何処か最初の頃と違っている。

 

 だが、紅朗は敢えてソレを無視する。

 

 今、しなければならないのは、コイツを叩き潰すことだ。

 

 あれだけ余裕かましてるなら、一発顔に入れても文句はあるまいと、構える。

 

 頭の中に、ブラックが見せた気の解放をイメージする。

 

 何故かは分からないが、ブラックの動作一つ一つが見ただけで正解だと紅朗は知れたのだ。

 

 孫悟空の肉体で強くなるには、ブラックを真似ろと誰かに言われている気がするのだ。

 

ーー 我に至るならば強く在れ、と。

 

 気の爆発を感じ、ブラックの目が鋭く細まる。

 

「やはりな、クローンの連中と戦って分かってはいたが。異界人は、クローンの肉体がもともと出来る事を頭が認識しなければ使えない、か」

 

 気の量は一気に神を超える域だ。

 

 まだ、ロゼやブルー程ではないが、それでも神の気を吸収できた孫悟空の超サイヤ人程度の力を放っている。

 

 破壊神ビルスを相手に最後まで戦った頃の孫悟空と。

 

「気の量は、な。技も経験も、まるで足りん」

 

「…これが、真の超サイヤ人? なんだ、これ? なんで、こんなデタラメな気が、パワーが出る?」

 

 しかも、まだまだ高められると頭が認識して眼を見開いて驚く紅朗だが、同時に頭の隅に警告が感じられる。

 

 レベルを超えた力をフルパワーで使えるのは、今の紅朗では短時間がやっとだーーと。

 

(フルパワー?今の俺のパワーのことか?だけど、なんでこんなデタラメな事が出来るのに、頭は冷静なんだ?)

 

 自分の驚き、混乱する感情さえも冷徹な意思が冷ましていく。

 

 一気に駆ける紅朗の前に、ブラックも踏み込んでくる。

 

 三度、ぶつかり合うが、先までとは明らかにレベルの違う動きを両者は見せている。

 

 ハッキリ言って別人のように鋭く、速く、重く、強い。

 

 そんな打ち合いを演じながら、拳と拳、蹴りと蹴りを打ち合わせて、紅朗の中の孫悟空が完成されていく。

 

「ブラックから一打受ける度に紅朗の動きが鋭く速くなっていく。コレは、いったい?」

 

 驚く16号の隣で静かな表情で壱悟が紅朗を見ている。

 

 久住史朗の思考と孫悟空の動き超サイヤ人のセンスが、一致していく。

 

 だが、ブラックは気に入らないようだった。

 

「紅朗よ、孫悟空の動きと自分の思考がようやく馴染んで来たようだな。だが、その程度では足りんぞ!!」

 

 言うや否や、左手を突き出して薄紅の光を放つ。

 

 咄嗟に紅朗は、ビックバンアタックを放つ。

 

 ベジータの必殺技なだけはあり、光弾はブラックの放った光よりも数倍は巨大だ。

 

 だが紅朗の放った青い光弾は、ブラックの放った掌サイズの光にアッサリと撃ち抜かれて砕かれる。

 

 そのまま光は、紅朗を襲った。爆発する。

 

「な、んて弾の硬さだ…!」

 

 ガードしたはいいが、腕が痺れている。

 

 まるで鋼鉄を叩き込まれたかのような気の練度だ。

 

 痺れる腕を振りながら自分の放ったビックバンアタックがアッサリ破られたのが、紅朗にはショックだった。

 

「今のは、単なる気弾だ。技ですらない。単に気を練って高めただけだ。俺は、この気弾を通常弾として撃てる」

 

「……!!」

 

 洒落にならん威力の気弾が通常弾と変わらない感覚で撃てる、だと?

 

「如何にベジータやピッコロ、トランクスの技を使えても肝心の練度が低ければ勝てん。無駄に気を消費し、威力を高めようと真の超サイヤ人に頼って力押しするだけなら、一瞬で燃料切れだろう」

 

 そのとおりだ、と思う。今の気弾は、決して強力な訳じゃない。ただ、気の練度を高めて硬化しただけだ。

 

 その硬化された気をポイントを見極めて叩きつければ、ビックバンアタック程の強力な技も粉砕できる。

 

 効率よく実践的な技の使い方だった。

 

(一か八か、クローン取り込んでないけど。ヤムチャさんや天津飯さん達の技を使ってみるか? ブラックの野郎が言うとおり、悟空のラーニングは相当凄い。中身は俺だけど、身体はクローン悟空なんだ。やってやれないこたぁ無いはず)

 

 指導は直接受けている。だから、使えないわけではないはずだ。

 

 試したいのは、繰気弾と気功砲だ。

 

 気の硬さなら繰気弾が。技の強さなら気功砲が、斬撃なら気円斬、貫通力なら魔貫光殺砲が優れている。

 

 かめはめ波は、使い勝手や気の消費、破壊力など総合力で優るものの、コレらの技に比べて決め手に欠ける。

 

 ピッコロのクローンは取り込んであるから魔貫光殺砲も使えるはずだが、チャージに時間がかかり過ぎる。

 

 右腕をその間、全く使えない。

 

 ブラックに当てられる保証もないし、溜め切るまでに片手で戦ってやられる可能性の方が高い。

 

 気円斬は、スピードが通常弾よりも遅い。まず当たらないだろう。

 

 ならば技の出が速くて、隙の少ない繰気弾か。体力を消費するリスクはあるが強力な気功砲か。

 

「…つまらん真似はするなよ。孫悟空の代わりならばな」

 

「るせえ。んなこたぁ、テメェなんぞに言われんでも、分かってらぁ…!!」

 

「ーーそうか」

 

 ブラックがニヤリと笑った瞬間、アゴに強烈な衝撃をもらい、後方へ吹き飛ばされる。

 

ーーダッシュエルボー。

 

 ダッシュで距離を詰めながら勢いを利用して強烈な肘鉄をアゴに見舞う技。

 

 そのまま吹き飛ばされていると追撃が来る。

 

 紅朗は目眩がする眼を見開き、無理やりに気合いを入れて空中で止まる。思ったとおり、目の前にはブラックが舞空術で迫っていた。

 

「ーーんの野郎!!」

 

 拳を放とうとする俺の腹に強烈な左拳のカウンターが入れられている。

 

「ーーグ、ァアッ!?」

 

「孫悟空はたしかに負けず嫌いだ。だが、相手が眼前に迫っているからと言って行動も読まず迂闊に腕をブンブン振り回すとは。頭を使っているか、貴様?」

 

「るせえ。つってんだろがぁ!!」

 

 右ストレートを放つ紅朗だが、アッサリと首を捻って躱され右のカウンターを顔に叩き込まれる。

 

「ち、くしょう!!」

 

 凄まじい精神力で耐え、左拳を振り回して追撃を防ごうとする。

 

「その負けん気を活かせ! 相手がどんな攻撃をしてくるからを見極めろ!! その上で手数を増やして圧倒するのだ!!」

 

 攻撃を捌くブラックの表情が、徐々に余裕の無いものへと変わっている。当の紅朗は拳や蹴りを打ち返すのに必死過ぎて分かっていないが、彼の攻撃はブラックに通じ始めている。

 

「フットワークはどうした、貴様ぁ!!」

 

 攻撃を食らいながら足を踏ん張って左右の拳を返してくる紅朗に、ボディカウンターを叩き込んで前のめりになったアゴを蹴り抜く。

 

「拳を振り回すだけではない! 孫悟空の鋭い蹴り技はどうした? 軸足はフットワークで死角を狙え! 左右の脚を別々に動かすのだ!! そんな相打ち狙いのノーガードに付き合ってくれる親切な奴など、そうは居ないぞ!!」

 

 ブラックの叫びに応えるように紅朗が前に踏み込む。

 

「うるせえよ、偽者野郎がぁああ!!」

 

 瞬間、強烈な膝蹴りが腹に入り紅朗が眼を見開く。

 

「足を使えと言ってるだろうが!!手数も足りんぞ!!」

 

 後方へ首を吹き飛ばし仰け反りながら、距離が開くと紅朗は眼を見開いた。

 

「今だぁああ! 繰気弾!!」

 

 右手に集中した気を練り上げて球を作り出し、放つ。練り上げた気弾は、高速でブラックに放たれる。

 

「馬鹿者め!!」

 

 瞬間、ブラックの気弾がアッサリと紅朗の繰気弾を相殺するも、衝撃波が紅朗に届く。

 

「その技を馬鹿正直に使って何になるか!! 貴様、考えているか!?」

 

「ーーいいや、今のでいい」

 

 そう、衝撃は紅朗側に一方的に届くがブラックの気弾も消えたのだ。

 

「何ーー?」

 

 ニヤリと笑いながら紅朗はブラックに続ける。

 

「繰気弾なら、テメェの気弾を消せた。ビックバンアタックじゃ撃ち抜かれるだけだったがなぁ」

 

「…なるほど。硬い気を練り上げる実感を得る為の練習として繰気弾を選んだ、か」

 

「そういうことだ、そして……コイツがぁ!!」

 

 両手に金色の光を練り上げ、手を重ねて親指と人差し指で四角形を作り、その間からブラックを狙い撃つ。

 

「強力な気を練り上げる技ーー気功砲だぁああ!!」

 

 ブラックの背後ーー遠方に街が見えたが遅い。気弾は既に放たれた。

 

「し、しまーーっ!?」

 

「ーーフン」

 

 ブラックは自分の背後に一瞬、目をやると右手刀を構え光の剣を手から作り出し、頭上に構えてから紅朗の気弾を袈裟懸けに斬り捨てた。

 

 真っ二つに切り裂かれた気弾は、ブラックの背後に通り過ぎる際に薄れるように消えていった。

 

「ーー!」

 

「街などを気にして、神たる俺に勝てると思うか?」

 

 紅朗の全身から凄まじい汗が吹き出ている。

 

 彼自身は自覚していないようだが、息も乱れ始めた。

 

 体力と精神力が限界に来ている。視界が狭くなっているのも、それが影響しているのだ。

 

「とりあえず街を守ってくれてありがとうよ。礼を言っておくぜ。神さま」

 

「ーーフン。敵に礼を言うとは、馬鹿も休み休み言え」

 

「……せっかく礼を言ってんのに。なんてクソ野郎だ」

 

 苦虫を噛み潰したような顔の紅朗にゆっくりと、ブラックは構えを取る。

 

「お前が真・超サイヤ人になっていられるのも限界だ。紅朗よ、このまま負けるつもりか?」

 

「ーー冗談。ようやく希望が見えて来たんだ。付き合ってもらうぜ、ブラックさんよ!!」

 

 言いながら、紅朗が踏み込む。それまでの動きとは、まったくの別物だ。

 

 鋭く速い踏み込みは、壱悟さえも超えている。

 

 ブラックは鋭い紅朗の動きにアッサリと対応し腕をぶつけ合う。

 

 そこから凄まじい高速移動の位置取りと拳と蹴りの打ち合いが始まった。

 

 相手の死角に回り込んだり、懐に踏み込んで火を噴くような勢いで拳を叩きつける。5撃打ち合えば、一方的に紅朗の首が後方へ仰け反る。

 

 紅朗の拳は、ブラックにかすりもしない。

 

 完全に紙一重で躱されている。ただし、ブラックの表情は先までの笑みはなく、真剣な目で紅朗を見つめている。

 

(悪くはない。見違えるように素晴らしい攻撃だ。真の力を意識的に使えるならば。このままでも充分、だが)

 

 仰け反り、距離が開くと紅朗に向かってブラックは練り上げた薄紅色の気弾を左手から放つ。

 

 対する紅朗も両手を上下に合わせて突き出し、青い気弾を放った。

 

 今度は、完全に相殺する。

 

(ーー進化している。俺の動きと技に対応し、他人の技を吸収することで自らの動きと技を進化させている)

 

 ジッとブラックは灰色の瞳を紅朗の瞳孔が開いた翡翠眼に結びつける。

 

(コイツの限界は、何処だ? 真・超サイヤ人よ、貴様は何処まで強くなる?)

 

 不敵な笑みを浮かべて、紅朗は拳を握っている。

 

「どうだよ、神様? 少しは見直したかよ?」

 

「…取り敢えずは、合格と言っておこう」

 

「ああ?」

 

 澄まし顔で応えるブラックに紅朗の表情が歪む。

 

 瞬間、ブラックの気が膨れ上がった。

 

「ーー強くなければ、わざわざ俺が潰す価値もない」

 

「上等。泣かしてやるよ、ブラックさんよ!!」

 

 更に気を高めて拳を振りかぶる紅朗に、ブラックも構えた。

 





決着、つけらんなかったんで。次回をお楽しみに!Σ(゚д゚lll)



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第21話 悟空、俺はコイツに勝つぜ!

さあ、続編です。

いよいよ紅朗とブラック、紛い物と偽者の孫悟空の決着がつきます( *´艸`)

楽しんでください!(^^)!


 

 世界を汚す罪深い人間どもを裁くのは、神である私の仕事だ。

 

 そして、そんな人間どもを見逃す神々もまた、罪深い。

 

 故にーー愚かな神々をまず滅ぼした。

 

 人間どもを滅ぼすという我が使命の邪魔をするならば、遠慮も容赦もない。

 

 その為の力を持つ者として、高位の神の気を持った人間の身体を自らの魂の器にした。

 

 その者の名は、孫悟空。

 

 罪深い人間の中でも、特に許されざる人間。

 

 人の身でありながら、神々をも凌駕する可能性を持つサイヤ人。

 

 界王や界王神を含めて最強であった己を真っ向からねじ伏せた、忌むべき存在。

 

 立場を弁えない幼い精神と神々の中でも最強とされる破壊神に匹敵する強大な力を持つ人間。

 

 人間の分際で神たる私を負かした唯一の存在。

 

 奴の肉体を使い、私は界王神と破壊神を皆殺しにする。

 

 その為の布石として奪った孫悟空の肉体を使いこなすために現代より未来の並列世界に渡る時の指輪を使い、そこに居た私を仲間にする事で計画を進めた。

 

 破壊神ビルスーー破壊神の中でも最も厄介な存在が、その世界には居なかったのだ。

 

 ビルスさえ居ないのならば、焦る事はない。まず界王神を皆殺しにして破壊神も葬った後、ゆっくりと孫悟空の肉体を我が魂に馴染ませるとしよう。

 

 たった一人、地球に残されたトランクスというサイヤ人の生き残りを利用して。

 

ーーーー

 

 この肉体は、素晴らしい。

 

 未だ超サイヤ人にすら変身するのは困難だが、そんな必要がない程に力が高まり、溢れている。

 

 第6宇宙の殺し屋も、第11宇宙の戦士も、この肉体ならば恐れるに足りぬ。

 

 これが、孫悟空ーー。否、まだだ。

 

 孫悟空ならば、まだまだ上がある。トランクスよ。

 

 サイヤ人の生き残りたる貴様から、じっくりと学ばせてもらうぞ。超サイヤ人をな。

 

 こうして、私は超サイヤ人を手に入れた。

 

 用が済んだトランクスやブルマという孫悟空を知る者は皆殺しにしてやろうとした。

 

 それを止めたのは、私と同じく孫悟空の肉体を持った別の世界の私だった。

 

 奴は、孫悟空の肉体を手に入れるだけでなく、罪深い人間の魂と気高い神の魂を融合させていた。

 

 しかも、トランクスの世界の孫悟空は強くなる前に病で倒れて死んでいる。

 

 その頃の孫悟空の肉体を手に入れたとて本来の私の肉体にすら力は劣るというのに。

 

 理解できぬ私に、別の世界の私は言った。

 

「孫悟空を貴様が汚すなら、私が孫悟空の名と魂を守る」

 

 孫悟空は蹂躙されていく世界を見守るだけだった神に代わり、様々な悪から人々や世界を救った英雄だと。

 

 其奴は、弱かったが私と闘う度に別人のように圧倒的な強さへと成長していった。

 

 今、思えば孫悟空の肉体だけでなく、記憶や魂を共有したが故の成長だったのであろう。

 

 更に私の計画は狂った。

 

 惑星の意思ーー否、世界の意思、だったか。全王様に消された命や世界、私が滅ぼした人間ども。そんな滅ぼされた魂が一つになり、様々な可能性を取り込む能力と意思を持ったのがヤツだ。

 

 そんな訳の分からない存在に私が仲間に引き入れた私は取り込まれ、全王様を倒すと言い出した。

 

 孫悟空の肉体を持つ私と仲間にした不死身となった私が合体した姿とやらを見せつけて来た挙句に、神たる肉体を捨ててサイヤ人の肉体をベースにした変身まで。

 

 その強さも能力も、全てにおいて私を上回っていた。

 

 結局、私は人間どもを皆殺しにすることもできず、人間の子ども達の情けで生き長らえた。

 

 皮肉を込めて笑ってやった。愚かで醜い本質をさらけ出せ、という思いを込めて。

 

 だが、子どもは言った。

 

 私のように弱くはない、と。

 

 非力で小さな人間の子どもが、神たる私に震えながら告げたのだ。

 

 傷付いている者に攻撃するほど、弱くはない、と。

 

ーー嘲笑えなかった。

 

 あの目の輝きに、神でありながら私は非力な子どもに何も言い返せなかったのだ。

 

 別の世界の私と敵対し、敗北。

 

 世界の意思に取り込まれた私の裏切り。

 

 我が計画を狂わせたのは奴らだ。だがーー。

 

 思えば、あの子どもが私を決定的に狂わせた。

 

 あの時、両親を殺された怨嗟の声を上げて憎しみで顔を歪めていれば、私はここまで狂わなかっただろう。

 

 あの時に、私ーーザマスはーーブラックは死んだのだ。

 

 あの無力で幼い、小さな子どもの手でーー。

 

ーーーー紅朗視点

 

 ようやく、まともな殴り合いが出来てきたが、一瞬でも手を緩めたら、一気に持ってかれる。

 

 さて、どうするよ。

 

 一息ついて、相手の技を見極めようと睨みつけたそん時だった。

 

「ーーっ!?」

 

 膝から力が抜けたんだ。

 

 オマケに胸の動悸が激しくなり、息がゼェゼェ、言ってやがる。

 

 咄嗟に近づいてきた地面に手を突くが、汗がポタポタと吹き出る。

 

「どうした。日も高いと言うのに、もう休みの時間か?」

 

 ブラックが悠然とした表情で言ってきやがる。この野郎、俺がこうなるのを知ってやがったな。

 

 超サイヤ人ロゼ、マジで半端ねぇが。

 

それ以上に、この野郎の戦闘スキルはどうなってんだ?

 

悟空に本当に匹敵してるんじゃないだろうな?

 

「ーーくそぉ!!」

 

 拳を握れ、勝負はまだ着いていねぇ。

 

 震える腕に、脚に叱咤して、俺は立ち上がる。

 

 孫悟空の身体だ、孫悟空の道着だ、超サイヤ人だ。それで負けるなんざ「俺」以外の理由はない。

 

 中身が悟空なら勝ってるって話だろうが。

 

「ダメだ、紅朗! 今のお前のパワーでは、ブラックには勝てない!!」

 

 勝てる勝てないじゃないんだよ。16号。退けねぇんだよ。

 

 言われてんだよ、別れ際ーー悟空に。頑張れってよ。

 

 それ以外に俺が立ち上がる理由なんざねえよ。

 

「フンーー。ならば、行くぞ」

 

 俺の目の前に現れ、拳を振りかぶってくるブラック。

 

 俺は首を左に倒して躱しながら、拳を握って打ち返す。

 

 俺の右ストレートに強烈な右の蹴り上げが、カウンターで入り俺の顎を跳ね上げた。

 

 強烈な一撃に意識が飛びそうになる。だけど、飛びそうになるだけだ。飛んじゃいない。なら、やれる。拳を握れ、打ち返せ。

 

 ヤツの動きを見ろ。

 

 ご丁寧に悟空の動きを逐一、教えてくれたんだ。期待には応えてやるよ。

 

 俺と同世代の、いや。ドラゴンボールを好きなヤツに悟空を知らない奴は居ない。

 

 教えてやんぜ、漫画やゲームに恵まれた日本人の意地と想像力をな。

 

 左の拳を放とうと振りかぶった瞬間に目の前にヤツの左拳があった。当然ガラ空きの顔面にまともにくらって仰け反る俺を、更に右のミドルキックが脇腹を襲い、うずくまる。瞬間、同じ右脚でハイキックを打たれて後方へふっ飛ばされる。

 

 ちくしょう、とんでもねぇ。

 

 俺よりも速く動いてんのに、あの野郎ーー息切れ一つ起こさない、だと?

 

「フーッ、フーッ! の、野郎ぉ!!」

 

 肩で息をするのを歯を食いしばって耐えるのが精一杯の俺を、ジッと冷徹な灰色の瞳が見据えてくる。

 

「ーーここまでが限界か? 貴様を買い被っていたようだ」

 

 淡々とした声に俺の口許に笑みが浮かび上がる。

 

 買い被りーー? テメェ、どこまで俺を見下しやがる?

 

 ダメだ。ナメられたまんま、終われるか。

 

「ーーーー!」

 

 叫ぶだけの余裕もない、んなことしてる暇があるなら呼吸する。それよりも、ヤツを見ろ、拳を見ろ、動きを見ろ、予測して対応しろ。

 

 このまま、ナメられたまんま、終わってなるものか。

 

 孫悟空に、託されてんだからな。

 

 コイツの対応は、フットワークと足技だ。

 

 拳の交換は、ほとんど同じくらいなら、ヤツのポジショニングと蹴りを放つ間合い。

 

 それをこんだけやられて見切れない?

 

 んなわけねぇ。孫悟空なら、とっくに見切ってる。

 

 俺は今、久住史朗じゃないーー孫悟空だ。

 

 出来ると信じろ、信じなきゃできやしない。

 

 ヤツのフットワークからの位置取りと、蹴りのフォームを見極めろ。

 

「ーー時間の無駄だ」

 

 そう言いながら、左右自由に変化する軸足でフットワークを刻みながら蹴りを叩き込んでくるブラック。

 

 拳にこの蹴りを入れられたら、俺には防ぎ切れないし、打ち合えない。

 

 軸足でのフットワークなんて、左右の足を違う動きをさせるなんて、頭で出来るもんじゃねえ。

 

 だけど、理解したことがある。

 

 つまりよぉーー。

 

「!? 紅朗、前に!?」

 

 16号の悲痛な声を背に受けるが、まあ見てろよ。

 

 ブラックの野郎の足技を封じるなら、コレだ。

 

 フットワークを刻もうとしていたブラックの脚が止まり、瞳が鋭く細まった。

 

「狙い通りーーだ」

 

 自分の攻撃を確実に当てるポイントに足を運び、攻撃を繰り出してくるのなら、そこへ足を運ぶ瞬間に懐に踏み込めばブラックは蹴りを放てない。

 

 拳と拳の勝負。

 

 左右の拳を放つ俺に、ブラックも左右の拳を返してくる。

 

 よし、これで五分に戻せーー。

 

「甘い!」

 

 瞬間、俺の顎がヤツのほとんど垂直に伸びた左足に蹴り上げられる。

 

 嘘だろ? こんな腕を畳んで殴り合う接近戦で蹴りを入れて来れる?

 

 のけ反る俺の首、脇腹、右足ふくらはぎに向かって連続で右の回し蹴りが放たれる。

 

 コマのように回転しながら後ろに下がる俺の前にブラックが踏み込んできた。

 

「その程度の踏み込みで、俺のーー孫悟空の動きを破れると? 笑わせるな、愚か者」

 

 腹に左ボディを叩き込まれ、右のフックで頬を打ち貫かれて首を吹き飛ばす俺の首を更に左後ろ回し蹴りがぶち込まれる。

 

「強い……! 孫悟空の動きを模倣しているのではない、あの動きと状況判断能力は正に孫悟空そのもの。今の紅朗の踏み込みも間違ってはいない。ただ、ブラックがそれを上回っているだけだ」

 

 岩に叩き込まれて頭を振りながら16号の言葉を聞き流して立ち上がると、ブラックは淡々とした表情で俺を見下ろしている。

 

「そろそろ、終わりにするか? 紅朗」

 

 浮かべていた笑みは消え、ただ失望したという無表情がそこにある。

 

ーーナメやがって。

 

 何度だって、立ち上がってやる。俺の意識が、立ち消えるその時まで。

 

ーーーー

 

 紅朗の全身を覆う黄金の炎が、消えて通常の超サイヤ人のものに変わる。

 

 上がっていた戦闘力が固定され、傍目から見ても一気に体力がなくなっている。

 

 瞳孔が消えた翡翠眼、金色に戻った逆立った髪。

 

 そのまま戦えば、間違いなく紅朗は負ける。

 

 それでも彼は退かない。

 

「ーーぶつかるのが速すぎた。真・超サイヤ人を完全に使いこなすまで、この男とは闘ってはならなかった。このまま続けることに意味はない」

 

 16号は、そう言うと戦いを終わらせようと前に出ようとして制止される。他でもない、紅朗と瓜二つの姿となっている超サイヤ人壱悟によって。

 

「ーーー」

 

「いいのか? このまま続ければ紅朗の心が折られるぞ。そうなれば、紅朗はーー」

 

 壱悟は首を横に振る。

 

 これに16号は目を見開く。強い意思を宿した翡翠の瞳に思わず息を飲み込んでいた。

 

 壱悟は、右手を上げて紅朗を指さす。

 

 紅朗の口元に笑みが刻まれているのを16号は驚愕の表情で見ていた。

 

「ーーなんという男だ。笑っていると言うのか、この状況で」

 

 それがたとえ、強がりだとしても。ハッタリだとしても、ここまで力の差があればそんなものを浮かばせる余裕などあるはずもない。

 

 あの笑みこそは、意地である。

 

 セルを本気にさせ、最後まで折れなかった紅朗の意地が、そこにある。

 

 金色のオーラが全身から噴き立ち、神(ゴッド)の域に至る。汗を掻きながらも、笑みは消えない。翡翠の瞳は爛々と輝き、拳を握っている。

 

「紅朗のパワーが、上がった?」

 

 目を見開く16号に、ブラックの表情は変わらない。

 

「フン、あきらめの悪いことだ。心をへし折らねば、分からんか」

 

 紅朗の笑みはそのままに、人差し指をブラックに指差しいった。

 

「ーーそろそろ、破ってやるよ。超サイヤ人ロゼ!!」

 

「無礼なーー。その発言、出来なかった時は覚悟していような?」

 

 互いに構える。

 

 左手を顔の前に出して、右拳を腰に置き、両足をつま先立ちにして中腰に構える。向かい合う金色と薄紅色のオーラ。気の大きさは、やはり超サイヤ人ロゼの方が一枚上手だ。

 

 だが、紅朗はそんなことに興味を示さずに構えている。

 

 互いに高速移動で踏み込む。三度始まる、火の出るような打ち合い。

 

 拳と拳、蹴りと蹴りがぶつかり合い、光の波紋がそこかしこに生み出される。

 

 空も大地も構わずに駆ける両者。

 

「破れるものなら、破ってみよ! 紅朗!!」

 

 叫びながらブラックがフットワークと共に左右の足を蹴り込んでくる。

 

 これに紅朗は自ら、ブラックの蹴りの間合いに踏み込む。

 

「無謀だ! 紅朗!!」

 

 16号が叫ぶ中、強烈な炸裂音と共にブラックの右上段回し蹴りが炸裂する。後方へ吹き飛ぶ紅朗だが、彼の顔は跳ねあがらない。

 

 逆に、顔が跳ね上がったのはブラック。

 

 壱悟と16号が共に目を見開いている中、ブラックは忌々し気に己の口許から流れ出る赤い血を拭った。

 

「……貴様っ!」

 

「へっ、どうよ?」

 

 尻もちをついた紅朗は、ゆっくりと立ち上がりながら笑いかける。

 

 瞬間、ブラックが猛烈な勢いで踏み込んできた。何が起こったのか、今度こそ見極めようと凝視する16号と壱悟の二人の前で、再び紅朗がブラックの蹴りの間合いに入る。

 

(孫悟空でもない、只の人間如きにこの俺の技が! 孫悟空の動きが破られるだと!? 孫悟空の技で!!!)

 

「ふざけるなぁああっ!!」

 

 今度は左足を振り上げ、閃光のような速度で上段回し蹴りが放たれる。16号の眼が見開かれた。

 

(紅朗の脚が、片足で自ら後方にバックステップしている?)

 

 蹴りが突き刺さると同時に右腕のガードを顔の前に上げて受け、威力を殺している。

 

 そしてーー軸と逆側の脚でブラックと全く同じフォームの上段回し蹴りを放った。その速度はブラックに見劣りしない。

 

 まともに顔に浴び、首を後方へのけ反らせるブラック。尻もちをつく紅朗。

 

 先ほどと、全く同じやり取りだった。

 

(ーー紅朗、お前はブラックの動きが孫悟空の動きだと悟った時点で吸収することを前提に動いていたのか。これでブラックは迂闊に技を出せなくなる。高度な技を打てば打つほど、紅朗に動きを吸収されてしまうからだ)

 

 16号の眼が見開かれるも、紅朗の顔には余裕の笑みはない。

 

 彼には分かっている。

 

 孫悟空の動きを一つ上回り、相手の切り札を封じてなお、攻撃の手を緩めれば負けることを。

 

「決めたぜブラック、テメェを倒して。俺は、この世界で誰よりも孫悟空を知るものとなる!!」

 

 そこからの紅朗の動きは、別物だった。

 

 文字通り全力で、紅朗はブラックを攻め立てる。一切、息継ぎを与えない程に。

 

「紅朗、いったい何処にこれほどの力を?」

 

 16号が呟くのも無理はない。

 

 真・超サイヤ人を使った反動で紅朗の肉体は限界だったはずだ。事実、真・超サイヤ人ではなく通常の超サイヤ人に問答無用で戻っている。

 

(コイツーー! 先程からこれだけ飛ばしている癖にペースが落ち無い、だと? それどころか、受ける打撃が重さを増している…!!)

 

 だが、今の紅朗は真・超サイヤ人の状態とスピードもパワーも変わらない。

 

 動きは疲れが表に出ているため、多少鈍くなってはいるが、それでも鋭さは健在だった。

 

(クローンの肉体は、積み重ねた経験までも模倣できるものではない。真・超サイヤ人が切れた時点で、コイツの基本戦闘力は通常の超サイヤ人に戻るはずだった)

 

 灰色の瞳を細めてブラックは冷静に紅朗の状態を見極めている。

 

(真・超サイヤ人の世界を吸収しているというのか? 何故だ? どうしてコイツに、そのイメージができる? 確かに真・超サイヤ人には己のイメージを具現化する心の力が要だ。だが、コイツはその理屈を知らない。知っていたとしてもできるものか。心の底から最強の姿を思い浮かべ、信じ抜くことなど。頭で考えてできることではない。コイツーー知っているのか?)

 

 最強の姿を思い浮かべられているのだ。自分にとって最強の姿を。

 

 紅朗が思い描く最強の姿。それは、当然だが久住史朗という一般人ではない。誰だ?

 

 ブラックの眼に浮かぶのは、紅朗の隣に半透明で浮かぶ「悟」マークを左胸に付けた黄金の炎を纏う黒の瞳孔が開いた翡翠の瞳の超サイヤ人。

 

(孫悟空ーーか)

 

 灰色の瞳が鋭く細まる。

 

「そうか。紅朗よ、貴様が思い描く最強の姿は孫悟空か」

 

「……当たり前だろ」

 

 聞くまでもない、と言わんばかりの紅朗にブラックの眼が細まる。

 

(いいだろう。叩き潰す!)

 

 更にオーラを纏い、突っ込んでくるブラックに紅朗も金色のオーラを纏って突っ込む。

 

 右ストレートを相殺し、続けざまに左の上段蹴りがぶつかり、ブラックの右ストレートが紅朗の顏目掛けて放たれる。上体を下げてかいくぐり、紅朗も右ストレートを返す。ブラックは顔の前に左掌を置いて掴み止めた。

 

 そこから互いに放たれる拳と蹴りの応酬。

 

 だが、徐々にブラックが押され始めている。

 

(心の力を拳に宿すーー。まさか、コイツ……!!)

 

 その境地は、孫悟空が極めたものだ。真・超サイヤ人の基本戦闘力を超サイヤ人の状態で引き出す。

 

 それはブルーや4と言った変身とは違い、神の気もサイヤパワーも関係ない。

 

 純粋な己の心の力を拳に宿すことで引き出せる可能性だ。

 

 その拳の重さは、戦闘力に関わらず相手に重さを与える。その重さは、ガードしても精神力を削るのだ。

 

「うぉおお、喰らえェ!!」

 

 大猿のように咆哮しながら、前に踏み込んで紅朗が拳を放つ。

 

 対峙するブラックは紅朗の渾身の右ストレートを紙一重で左手で捌いて避ける。

 

(ナメるなよ、この俺を勢いだけで倒せると思ったか?)

 

 同時に踏み込んで右のボディを叩きこもうとするも。

 

「ーー!?」

 

 痛烈とは言い難いが、軽く硬い左拳がブラックの顎をかちあげた。

 

(全力の右ストレートを囮にして俺に踏み込ませると同時に、左のショートアッパーでカウンターを取った?)

 

 咄嗟にバックステップして距離を置くブラックの前に肩で息をしながらも睨みつけてくる翡翠の眼がある。

 

「へへ」

 

(コイツーー! 冷静だ)

 

 真・超サイヤ人が切れて尚、紅朗の底力が発揮されている。

 

 自分が勢いに乗っているときに冷静に相手の動きと対処を見れると言うのは、才能だろう。

 

(ーー認めようではないか。この男、強いーーとな)

 

 ブラックは静かに構える。

 

 瞬間、紅朗の金色のオーラが黄金に変化する。

 

「何という奴だ…! 真・超サイヤ人を、更に引き出すと言うのか!?」

 

 冷静な16号が叫ぶ中、壱悟も歯を食いしばり、汗を頬に浮かばせ拳を振るわせながら握っている。

 

 かつてーー孫悟空の前に立った白い道着のサイヤ人は、己の限界を超えて尚ーー真・超サイヤ人へと至った。

 

 紅朗もまた、その境地へと昇りつつある。

 

「さぁ、追い詰めたぜ? 神さま」

 

 不敵な笑みを浮かべる紅朗にブラックは冷徹な灰色の瞳で見返した後、静かに瞳を閉じた。

 

「真・超サイヤ人ーー己の極限を超えた力を引き出し、最強の姿を常に浮かび上がらせる戦闘民族の真の姿。孫悟空やベジータ、ブロリーと言った名立たる戦士達が至った究極の戦士が、それだ」

 

 紅朗の冷徹な黒の瞳孔が現れた翡翠の眼が大きく見開かれる。

 

 ブラックの全身から黄金の炎が生み出されている。灰色の瞳には黒の瞳孔が拓き、翡翠眼へと変わっていく。

 

「ーーまさか、テメェ?」

 

「人間如きが至れた場所に、神たる俺が至れぬはずがあるまい?」

 

 髪は黄金に燃え上がり、ブラックは真・超サイヤ人へと至る。

 

 これに壱悟、16号が驚愕した。

 

「信じられん……! あのブラックと言う男も真・超サイヤ人に、なれるというのか? だが、何故今まで出さなかった?」

 

 自分の発言に16号は思い返す。

 

(いや、出す必要もなかったということか)

 

 冷酷な笑みを浮かべる黄金の炎を纏うブラックに紅朗も不敵な笑みを返す。

 

「面白れぇ……! 決着、つけてやらぁ!!」

 

 一気に気を爆発させ、紅朗がブラックの懐に入り込む。

 

 ブラックも真っ向から応えた。

 

 滾る黄金の炎、火を吹く鉄拳、空を裂く蹴撃、そしてーー男と男の意地。

 

「俺はぁーー! テメェに!! 真っ向から勝ってやるぅううう!!!」

 

「フン、愚かな。徒花と散れ、紅朗!!!」

 

 正拳突き同士がぶつかり合い、ブラックが後方へ下がる。

 

(拳威に押されたというのか、この俺が?)

 

 微かに目を細めるブラックの前に紅朗が黄金の龍を拳に宿して攻め込んで来ている。

 

 退くことはない。

 

 一歩でも退けば勢いに飲み込まれる。

 

 それを悟るとブラックもまた前に出る。

 

 後方へはじけ飛ぶ両者の顔。

 

 相手を上回らんとするフットワークと蹴り技、手数。

 

「何という、凄まじい勝負だ。どちらも一歩も退く気はないということか」

 

 16号が呟く中、ブラックの眼には目の前の超サイヤ人が自分が勝ちたい男そのものに見えてきている。

 

 頭のどこかで紅朗と悟空は違うと知っている。

 

 それでも、この拳の鋭さと心の強さはブラックが勝ちたい男そのものと言っても過言ではなかった。

 

 互いに拳と蹴りで間合いを弾き、強烈な肘打ちを打ち合う。

 

 互いの中央でぶつかり合うが、瞬間ブラックの反対の拳が紅朗の顔を捕らえる。

 

 後方にのけ反る紅朗に炸裂弾のような音を立ててブラックの右拳と左蹴りが顔と腹を捕らえた。

 

 ラッシュの拮抗が破れ、紅朗が後方に下がる。

 

 そこを狙ってブラックが前に突き進もうとしたその時、紅朗の身に纏う黄金の炎が激しく燃え上がった。

 

「ーー龍拳!!」

 

 気が爆発し、黄金の長い体の龍がとぐろを巻いてブラックに牙を剥いて襲い掛かる。

 

「調子にーー乗るな!!」

 

 薄紅色の炎を右拳から噴出させ、ブラックも迎え撃った。

 

 同時に互いに向かって放たれる右拳が合わさる。

 

 互いに向かって押し合う両者の全力の右ストレート。

 

 拳が合わさった瞬間に、ブラックの眼には紅朗がーー孫悟空そのものに見えた。

 

 自分を全力で孫悟空が倒しに来ているーー、そうブラックには見えたのだ。

 

「孫悟空よ……! 俺は、貴様にーー」

 

 静かに呟くブラックの黄金の炎には白銀の光が入り混じり、幻想的な輝きを放っていた。

 

「ーー貴様に勝つ!!」

 

 瞬間、ブラックの拳が押し合っていた紅朗の拳を一方的に打ち抜き、体ごと後方へ吹き飛ばした。

 

「ぐぁあああっ!?」

 

 悲鳴を上げて頭から地面に叩きつけられ、うつ伏せに倒れる紅朗。

 

「紅朗!?」

 

 16号の悲鳴が響く中、紅朗の身体に纏っていた黄金の炎が散って消え、燻んだ金色の髪と死人の肌色となって動かない。

 

「ーーはっ?」

 

 同時に拳を振り切った姿勢でブラックの黒い瞳孔が浮かんだ翡翠の瞳が見開かれる。

 

 紅朗はうつ伏せに倒れたまま、動かない。

 

 その姿を見て、ブラックは真・超サイヤ人から黒髪黒目の状態に戻る。

 

 自分の拳を見下ろし、ブラックは不快気に顔を歪める。

 

「……おい、どうしたよ?」

 

 声が聞こえ、黒目を見開いてブラックが向き直った先には、両足で立ち上がり前髪で目元が隠れた状態の紅朗が居る。

 

「貴様、まだ……!?」

 

 思わず、そんな声を上げたブラックの前にニヤリと口許だけ笑って紅朗は叫んだ。

 

「まだ? そうだよ。まだ、これからだろうがぁあああ!!」

 

 黄金の炎が再びブラックの前で弾けて舞い上がってーー消える。

 

 その叫びを最後に、紅朗は今度こそ前のめりに倒れて動かなくなった。

 

 その顔をジッと見据えてブラックは静かにつぶやいた。

 

「……フン。異界人にしてはマシな人間だ」

 

 そう言ったあと、自分の拳を見下して悔しそうに歯噛みする。

 

 この勝利に、ブラックは納得していないようだった。 

 

 そんな二人の孫悟空の姿をした存在を16号はジッと見据えて呟いた。

 

「孫悟空ーー。お前は、これほどの男達の心を捉えて離さないのだな」

 

 





次回も、お楽しみに( *´艸`)


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第22話 悟空、この神さま面倒くさいな

はい、続きです〜

ようやく物語が動き出すかなぁ?

楽しんでください(´ー`* ))))


 

 暗がりの研究室のモニターを見据えて、唸る銀髪に丸眼鏡をかけた青年が居た。

 

「…あのゴクウブラックがタイムパトローラーになる世界があるなんて。しかも、彼も真・超サイヤ人に変身できるんだね〜」

 

 機嫌良く青年は笑っている。

 

「これは、楽しくなりそうだ。真・超サイヤ人、この力を研究するいい実験材料が増えたよーーん?」

 

 彼の背後の扉が開く。

 

 中に入って来たのは軽薄かつ底意地の悪そうなクローン悟空と、白衣を着た長い茶髪の美女。

 

 青年は、彼らに気付かれないようにモニターをすんでのところで変えていた。

 

「サイヤ人の悪の気で、圧倒してやったのに。セルの奴は負けを認めなかったよ」

 

「見ていたよ。完全にセルを圧倒していたね。仮にセルが本気を出していたとしても、悪の気を持つ超サイヤ人なら互角以上に渡り合えたはずだよ」

 

 青年の言葉にクローン悟空ーー折戸修二がニヤリと笑みを強くする。

 

 これに呆れた表情を浮かべて美女ーー人造人間21号が首を横に振る。

 

「あり得ないわ。あの時のセルは実力の1割も出していれば良いところよ? あの状態で遊ばれているのにフルパワー同士なら修二が勝つっていうの?」

 

「そうだよ、21号〜。折戸君は凄いんだよ。悪の気を食らって自分のモノにしちゃうんだからね。本来なら悪の気を吸収すると意識まで悪の気に持って行かれるはずなのに、彼は違うんだ」

 

 楽しげに笑う青年に折戸も笑いかける。

 

「ありがとう、フュー。お前だけだよ、俺の味方は」

 

「またまた〜。上手だなぁ、折戸君は」

 

 折戸の言葉にフューがおどけて笑う。

 

 仲の良い友人のような2人に21号は胡散臭そうに彼らを離れた位置から見ている。

 

「それじゃ、次の段階に移行しようか?」

 

「あの久住ってオッサンに、そこまでする価値があるのかい? テコ入れされてない俺にも負けた雑魚が、悟空に匹敵する? もしかして、悟空って大したことないのか? 漫画ならスゲーんだけどなぁ」

 

 二人の会話に21号の目が細まる。

 

「ちょっといい? その久住史朗とかいう転生者。本当にオリジナルの孫悟空に匹敵しているの?」

 

「まだまだ、オリジナルには届いてないよ。でも、ついに彼は神(ゴッド)の域に達した。セルを本気にさせ、ゴクウブラックに本気を出させるくらい、彼は成長している」

 

「…そう?それなら、とっても美味しいスイーツができそうね?」

 

 21号はニヤリと笑い、フューの後ろにある複雑な数式が並ぶスクリーンモニターを見つめる。

 

「16号ったら、悪い子ね。私を裏切るなんてーー。たっぷりと、オシオキをしてあげなきゃね」

 

 まるで先程まで紅朗達を映していたのを知っているかのように21号は笑いかけている。

 

「まずは、そうね。16号のお友達をスイーツに変えて食べてから。あの子がどんな顔をするか、見てあげましょうか」

 

「怖い怖い。優しくしてやれよ? 16号は、本来のお前の人格が大事なだけなんだからさ」

 

「あら? 私だって21号よ? ちょっぴり食いしん坊なだけの、ね」

 

 残虐な笑みを浮かべる21号に折戸も笑い返す。

 

「く、クク。そうだな。優等生もいいけど、俺はそっちの方が可愛いな」

 

「あら、ありがとう。素直に受け取っておくわ」

 

 そんな会話をする二人にフューはニコリと笑いかけた後で彼らの後ろを見る。

 

「ところで、魔界の栄養をたっぷり吸収した神精樹の実を彼らに食べさせたんだね?」

 

 そこにいたのは、額に「X」のマークが浮かんだクローンフリーザとクローンセルだった。

 

 肌は青白く発光し、常に青いオーラと黒いスパークを身に纏っている。

 

「ああ。21号のエサになって食欲と力を満たした後、吐き出させた。古井と瀬留間は、まだ使い道があるからな」

 

「自分の子飼いを使わないあたり、君も優しいね」

 

「それはそうさ。敵対者にはエゲツなく。味方には甘い汁を。これで万事解決ーーってね」

 

 軽く語る折戸にフューもニコリと返した後、真剣な表情になってモニターを見据えた。

 

「でも、気をつけた方がいいよ?タイムパトローラーが来てる。それも、話の通じないのがね」

 

「タイムパトローラーねぇ? 時の界王神の使い走りだろ? そんなのが怖いのか?」

 

「怖いねぇ。特に今、来てる奴はホントにシャレにならないかなぁ」

 

 笑みを浮かべながら言うも、その眼は鋭く細まる。これにニヤリと折戸が笑った。

 

「身体が孫悟空だってだけで、中身はザマスだろ?あんなナルシストのバカに何をビビってるんだか」

 

 女や子どもを殺して、それを悟空に嬉しげに語るなど、三流の悪役だろうにと折戸は笑う。

 

「そうだよね。それが、ザマスなんだよ。だから、おかしいのさ」

 

「……?」

 

「なんでタイムパトローラーなんて、アイツがやってるのかが分からない」

 

 真剣な表情で考え込むフューに対し、折戸は肩を竦めて笑う。

 

「そりゃ、人間滅ぼすタイミングを探ってるんだろ? ザマスなんだからさ」

 

「…なら、どうして今、それをしないのかな?」

 

 21号は、興味深そうに2人の会話を聞いている。

 

「負けたからじゃないか? 全王に」

 

「…負けた、か。アレを負け、と言うのかは僕には分からないなぁ」

 

「は? 明らかに負けだろ? ブラックはザマスと合体して、消されて終わったじゃないか」

 

 赤い目を見開き、両手を広げて折戸は笑う。

 

「ま、結局は未来世界は消されたから。ザマスの勝ちなのかもしれないけどな」

 

「なるほど〜。君の世界では、それが本筋なんだね。それも漫画の話かな?」

 

「そうだよ。漫画とアニメ、どっちも結末は同じさ」

 

 笑いながら折戸は告げる。これにフューは口許に手を当てて考え込む。

 

「? どうした、フュー?」

 

「いや。君の言うとおりだ。僕の知る歴史も、ほとんどがそうなるよ」

 

「なんだよ、気になる言い方だな」

 

 折戸の問いかけにフューは笑う。

 

「君の知る世界と、この歴史は違うようだ。それが今、ハッキリしたーーかな」

 

「…なんだって?」

 

 その言葉を聞いて、21号がとても楽しそうに笑った。

 

「アハハ! そうなの? それは、最高ね。これで修二も知った顔できないってワケね」

 

 これに折戸の赤い目から感情の色が落ち、静かに21号を見つめている。

 

 彼が何かをする前にフューが声を上げた。

 

「いや、でも彼の知識は相当なものだよ。その知識は無駄にはならないね。この世界では」

 

「…フン。何よ、フュー。あなた、修二の肩を持つの?」

 

 21号の問いかけにフューは楽しそうに笑った。

 

「アハハ、僕は折戸君の友達だから、ね」

 

「…バカバカしい」

 

 不貞腐れたように呟くと21号は、研究室から出て行く。

 

 折戸は、それを見送った後でフューを見た。

 

「21号のクローンは、そろそろ出来上がったかい?」

 

「もう少し、調整がいるかな。彼女の捕食衝動は自我を持つくらい強力だからね。君の理想の女性を作り上げるには手間がかかるなぁ」

 

「そうか。ま、仕方ない。それまでは生かしておいてやらないとな」

 

 肩を竦めて冗談気味に笑う彼の目は、真剣だ。

 

「そう言えば、この捕食衝動を抑える研究が完成したら、彼女の本来の人格も助けられるけど?」

 

「…興味ないな。俺の言いなりにならない存在は」

 

「…そっかぁ、せっかくだし。助けられるなら、助けてあげない?」

 

 問いかけるフューに折戸は笑う。

 

「冗談だろ? アイツはどうせ、自分から消える選択をするんだぜ? そんな女を助ける意味ないだろ?」

 

 それだけを告げて、折戸は去って行く。

 

「助けるのに意味がいるのか。…分からないなぁ。助けられるなら、助けてあげたらいいのに」

 

 一人だけ残されたフューは、静かに扉を向いて呟いた。

 

「どうせなら、皆が笑ってる幸せな世界がある方がいいって思うんだけどなぁ」

 

ーー紅朗視点

 

 目を覚ましたら、ボロボロになっていた身体が完治していました。

 

「紅朗、無事か?」

 

 心配そうに覗いてくる16号に、問題ないアピールで手を振る俺。

 

「え。こ、コレがサイヤ人の超回復能力なのか?」

 

「そんなワケがあるまい。私が治してやったのだ」

 

 冷たい声が俺たちの前方から聞こえ、そちらを向くと緑色の肌をした界王神によく似た服を着ている白髪モヒカンの兄ちゃんが立っている。

 

 ヤツの左耳には深緑色のポタラを付けている。

 

 誰ーー?

 

「えっとーー? 界王神様の、お知り合いの方?」

 

 問いかけると、ヤツは冷たい目で見下ろしてくる。なんだ、このデジャヴ!?

 

 知ってるぞ、俺はこのいけ好かない目を。

 

 ついさっきまでーー!

 

「あ、テメェ、まさか?」

 

 すると野郎はヤレヤレと肩を竦めてから、右手の中指に嵌めた銀色に輝く2つ巴が描かれた指輪を見せてきた。

 

「コレは、変化自在の指輪と言ってな。我が魂に記憶された本来の姿を再現することが出来るのだ」

 

 指輪が輝いて、銀色の粒子が緑肌の男から剥がれていき灰色の上と黒のズボンの道着に長袖の黒いアンダーシャツ、赤い帯を腰で締め、白いブーツを履いた黒髪のサイヤ人ーーゴクウブラックに変化する。

 

「ーーこのように、な」

 

「テメェ、マジで神さまだったの?」

 

 思わず、そう言ってしまった俺を心底バカにした黒目で見下してきた。

 

「そう言っただろう?」

 

 悟空の顔で、その見下した目をされるとメチャクチャ腹立つんだが?

 

 頰をヒクつかせていると、指輪から銀色の光の粒子が現れてブラックの身体を取り巻き、先の緑色の肌をした神に変わる。

 

 何故かドヤ顔で俺を見てくる。ので、思ったことを言ってみる。

 

「キビトって人と同じ服だな。色は界王神様寄りだけど」

 

「異界人が第七宇宙の界王神の付き人の名を知るとは。お前は、神に信仰があるのか? それならば礼儀と言葉使いに気をつけぬか」

 

「ーーえ? あ、いや。どうも、すみません?」

 

「私の名はザマス。第10宇宙の界王神見習いをしていた。今は、単なる使い走りだがな」

 

 なんだろう?コイツの偉そうな態度で、使い走りって自称されると。ギャグなのか、マジなのか分からん。

 

「さて、お前に聞きたい事がある。そこの16号とやらから話を聞いたが、破壊神に連れて行かれた孫悟空に代わり、お前が混乱を納めるように言われているらしいな?」

 

「え?ええ。ビルス様の無茶振りでーー」

 

 あの猫神、マジでロクな真似しませんぜ。

 

「異界人の起こしたトラブルは、異界人が解決せよ。真っ当な話ではないか」

 

「…俺、巻き込まれただけなんですが?」

 

「他の奴らも同じであろう? 違うのは、好き放題に暴れているというだけだな」

 

 それが一番大事なことでしょうに。

 

「ビルスの言い分も分からぬではない。が、お前が一人で解決できるとも思えん。たとえ、そこのクローンや16号と手を組んでも、な」

 

「…では、ザマス様が助けてくださるんですか?」

 

 ダメ元で言ってみると、ザマスは口許に手を当てて考え出した。

 

「…ふむ。私の目的を果たすには、手伝いも必要か。孫悟飯やトランクスを使えぬのであれば、お前で我慢してやろう。喜ぶがいい、紅朗」

 

「物凄く穿って曲解すると。構わないよ、力を貸してあげよう紅朗くんって事でいいか?なんか、テメェに敬語使うのアホらしくなって来たし」

 

「私もだ、下らんお喋りに時間を費やすのは勿体ない。さっさと行くぞ」

 

 俺の肩に手を置き、ザマスは瞬間移動しろと目で催促してくる。

 

「あ、いや。道中のクローンで身体の使い方を学ぼうと思ってたんだけどーー」

 

「私を相手にアレだけ戦えたのだ。今更、クローン人形に用はあるまい?」

 

 言われてみれば。

 

 今回は、ちゃんと最初から最後まで記憶があるし。

 

 これなら。折戸くらいなら勝てる、かな?

 

 いや、待て。ドラゴンボールに置いて、油断とか慢心は敗北フラグだ。

 

 そもそも、ゴクウブラックとやらの存在さえ知らない俺には、折戸にどんなパワーアップ手段があるのか見当がつかない。

 

 最強だった超サイヤ人3やベジットの世界を破壊神クラスになるとアッサリ超えているらしいし。

 

 多分、真・超サイヤ人に目覚めてなけりゃ何も出来ないでセルかブラックにやられたんだろうな。

 

 そう考えると、複雑だ。

 

 あんな力に目覚めたから、破壊神に厄介な任務を言いつけられたと見るか。

 

 あの力に目覚めたから、今も五体満足で居られると見るかは、本当に微妙なところだ。

 

「だけどよ、ザマス。俺たちは、本来の21号の人格を助けてやりたいんだ」

 

「そんなことか?」

 

 それだけ言うとザマスは右手刀に構えると青紫色の剣を作り出した。

 

「その岩を斬りつける、よく見ておけ」

 

 言うとザマスは俺たちの目の前にあった巨大な岩を斬りつけた。

 

 斬り付けられた岩は、しかし何事も無く其処にある。

 

「え?今、確かに斬りつけたよな?」

 

 俺は悟空の眼を持ってるんだ、見間違えるわけない。確かにザマスは岩を斬りつけた。

 

「コレが、神の技ーー我が正義の刃だ。岩には善も悪も無い故に斬りつけたところで効果はないが、悪の気を持つものならば斬り捨てる。逆に善の気を持つならば刃は通り抜けるだろう」

 

 この刃なら、本来の21号は斬られずに悪の21号だけを斬れるってことか?

 

 この野郎は正直いけ好かないが、しょうもない嘘はつかないと思う。

 

 シレッと刃を納めるザマスを尻目に俺は16号に問いかけた。

 

「16号、取り敢えずかましてみるわ。いいか?」

 

 その言葉に16号が頷いた。

 

「分かった。21号の所に案内しよう」

 

 当然だが、敵の懐に行くんだ。

 

 なんか準備しないとまずいだろうな。

 

 壱悟を掌の球に戻し、俺は腕時計型変身ベルトのボタンを押す。

 

 一瞬で、今着ている山吹色の「紅」マークの道着が、クローンの着ているパチモンへと様変わりする。

 

「よし、コレでクローン悟空の出来上がり、だ」

 

 手鏡で確認し、頷くとザマスが奇妙そうな顔で聞いて来た。

 

「何故、わざわざ人形の姿になる?」

 

「そりゃ、奇襲をかけたいからさ。少なくとも、正面切ってやり合うよりかは、難易度が下がるはずだ」

 

「ほう? まぁ、いいだろう。調子に乗った異界人の油断を誘い、叩き潰すとは。中々、良い案だ」

 

 すごーく楽しそうに笑ってらっしゃる神さまにドン引きしながら、俺は16号を見る。

 

 ザマスと16号が俺の肩を掴んできた。

 

 座標軸を見ながら、気を探る。どうせ、基地の周辺にはクローンがいるはずだ。

 

 探してみれば、すぐに見つけられた。

 

「よし、飛ぶぞ!!」

 

 俺は瞬間移動を使って、21号が潜んでいるらしいレッドリボン軍の基地へ向かった。

 

ーーーー

 

 瞬間移動で、現れた先には悟空やベジータ、ナッパに少年悟飯と言ったクローン達がウロついている。

 

 16号が俺とザマスに向かって頷き、先頭を歩いて行く。

 

 クローン達は、俺たちをジッと見つめてくるだけで襲いかかってはこない。

 

 どうやら16号を攻撃するようにはインプットされてないらしい。

 

「フン。見れば見るほどに不快な存在だな、クローンとやらは」

 

「それについては、遺憾だが同意する」

 

 ザマスに言葉を返しながら、岩肌のある丘へと登っていくと、デカい鋼鉄製の扉があった。

 

「コイツか。ドクターゲロは、似たような洞穴に基地を作りたがるんだな」

 

 原作で16号や17号、18号が眠らされていた基地に外観はソックリだ。

 

 とは言え、普通の人はこんな辺境に来ないだろうし。遭難者でない限り不気味な洞穴の奥にある扉の中なんて見ないだろうが。

 

 俺が、そんなことを考えながら、扉の見える洞穴へ足を運んでいると。

 

「16号、止まれ!!」

 

 咄嗟に気付いた俺は右手を突き出し、16号の脇から気弾を放つ。

 

 同時に、正面に赤く細い光が現れて俺の気弾とぶつかり爆発した。

 

 野郎、いきなり16号を撃ちやがった。

 

 俺が16号を止め、気弾を撃たなければさっきの光は16号の胸を撃ち抜いてる。

 

 ザマスがジッと睨みつける先には、クローンフリーザとクローンセルが立っていた。

 

「なんだ、あの額のマークは?バビディの洗脳か?」

 

 思い当たるのは、それしかないが。

 

 確かアレは額に「M」のマークが出るはずだ。

 

 今、奴等の額に浮かんでいるのは「X」のマークだ。

 

 しかも身体的な特徴も違う。バビディみたいに全身の血管が浮かんでるわけでもない。

 

 代わりに禍々しい青と銀の光に黒い雷が走ったオーラを纏っている。

 

「見〜つけた〜! おじさんだ〜!!」

 

「遊ぼうぜ〜、オッサン。こないだの続きだ〜!!」

 

 フリーザとセルの素の肌色が分からないくらい、オーラが全身を照らし出し訳の分からないテンションで言葉を発してくる。

 

「どうなってる? 明らかに異常な感じがするんだが」

 

 奴等の目は、瞳が消えて白く発光してる。コレはヤバい。明らかにヤバい。

 

 話が通じないだろ。間違いなくーー的に、ヤバい。

 

 会話してきた事と内容からおそらく、俺がカプセルコーポレーションで、ぶっ飛ばしたらしいガキどもだ。

 

「あのクソガキども。いったい、どうしたってんだ?」

 

 俺の問いかけに応えるように隣に立ったザマスが静かに告げた。

 

「アレは暗黒魔界の魔術師が使う洗脳だ」

 

「やっぱりか。でもよ、バビディとは違うんだよな?」

 

「ああ、アレは暗黒帝国軍の配下の紋だ。魔王ダーブラの一族だな」

 

 はあ?ダーブラって、あのバビディに初登場から洗脳されていた、あのダーブラか?

 

「ヤツとヤツの一族を甘く見ない方が良いぞ。孫悟空達が戦った奴はバビディに洗脳されて大した力を出せなかったが、本来の魔王はあんなものではない」

 

「何だよ、そのフリーザ設定。そもそもバビディの洗脳は潜在能力を限界まで引き出すーーじゃないんかい」

 

 事実は小説より奇なり、とはいえこうまで変わると納得いかねぇなぁ、もう。

 

 俺の心の不満など何処吹く風と言った様子で超ご機嫌な二人組は気を高めている。

 

「紅朗、来るぞ!!」

 

「ちくしょう! 潜入する暇も無いじゃねえか!!」

 

 叫びながら超サイヤ人に変身する俺を見て、ザマスが冷ややかに笑う。

 

「フン。下手くそな人形芝居を見るよりは、こちらの方が楽しめよう」

 

「悪かったな、演技派俳優じゃないんだよ!!」

 

 そんなことを叫んでいると、クローンフリーザとクローンセルーー古井と瀬留間が構えてきた。

 

 ほんと、前途多難だぜーー。

 

 だが、この時の俺は此処からが本当の地獄だということを知らなかった。

 

 




次回も、お楽しみに(´ー`* ))))


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第23話 悟空、真の一撃って何?

さ、いよいよ殴り込みです。

楽しんでください〜(´ー`* ))))

注意事項

今回、紅朗がやたらめったらネタを連発します。

ご了承くださいm(_ _)m




 

 目の前に迫るのは、青黒い光を全身から放つクローンフリーザーー古井とクローンセルーー瀬留間のコンビだ。

 

 二人ともおかしな笑顔を浮かべたまま、俺に殴りかかって来た。

 

「遊ぼうぜ、おじさぁあん!!」

 

「アンタの悲鳴を聞かせてよぉ!!」

 

 コイツは、やべぇ。マジでドン引きするくらい、こえぇ。

 

 どうしよう、人生経験半分のガキんちょにビビってるよ、俺。

 

 古井の左拳を右腕でガードした。物凄い威力に超サイヤ人の俺の腕が痺れる。

 

「!? うっそだろ!?」

 

 いやいや、この野郎。黒髪のブラックより攻撃力高いぞ!?

 

 目を見開く俺に、瀬留間が右ストレートを打ってくる。咄嗟に拳を下にかいくぐってから右ストレートをカウンターで左頬に当てて首を吹き飛ばしてから、バックステップして距離を取る俺だが。

 

 躱されて行き場のない瀬留間の右拳が大地に突き刺さって割れて起こる。

 

「ーーマジかよ」

 

 その威力に俺は目が点になる。これはヤバい。話が通じないのもそうだが、イキ切ってる。見れば瀬留間の拳は、紫色の血を流している。

 

 自分が放ったパンチの威力に拳が耐えられてない。俺からのカウンターのダメージもあって左の口端から血を流している。

 

 なのに、あの野郎は意に介さずにニヤリと笑っている。

 

「あっは、強いねぇ! 俺たちのパンチが躱されちゃってるよ!!」

 

「さすが、オッサン!! ブチ殺し甲斐があるぜぇ!!」

 

 俺に笑いかけてくる強敵となった二人組に、舌打ちしながら俺はザマスを見る。

 

「聞いていいか? これ、明らかに命がヤバいだろ?」

 

「そのようだ。どちらかと言えば洗脳と言うよりも呪いと言った方が良さそうだな。自分の生命力を戦闘力に変えている」

 

 生命力を戦闘力に変える? なんだそれ? ドラゴンボールにそんな話はないぞ。

 

「それがマジなら、バビディよりもヤバいじゃねぇか。アイツの魔術も身体に良くはないだろうがーー」

 

「ああ。潜在能力を全て引き出すバビディの洗脳とは勝手が違う。バビディの魔術で寿命が縮むとするならば身体に無理をさせるが故の副産物だろう。しかし其奴らのは、生命力そのものを使っている。そのままでは確実に1日保たないだろうな」

 

 瞳を鋭く細めてザマスは呟く。

 

「限界以上に己の力を引き出すーー真・超サイヤ人の能力に似せているようだな」

 

 真剣な目でザマスは古井と瀬留間を見つめると続けた。

 

「本物の真・超サイヤ人よりも戦闘力や気の向上は低く無限の上昇ではないが、凄まじいパワーアップだ。ただし代償は真・超サイヤ人よりも大きくーー取り返しのつかないもののようだがな」

 

「真・超サイヤ人よりもって、あの問答無用でエネルギー切れになる状態よりヤバいのか?」

 

「ああ。精神力ではなく生命力を使っているからな。真・超サイヤ人なら気絶か、体力と精神力の著しい消費で済むが。そいつらの場合、力を使い切った時が死ぬ時だ」

 

 その言葉に思わずゾッとする。

 

 そう言えば、コイツ等の異常なまでのハイテンションは真・超サイヤ人に似てるかもしれない。

 

 ダメージを受けてもアドレナリンが出まくって痛みを感じてないってわけか?

 

「力を使い切らせれば、タイムオーバーで自滅しよう。まともに相手にする必要もない」

 

 淡々とした言葉で告げるザマスに16号が悲し気に奴らを見ている。

 

「21号は、リンクした者を犠牲にするようになったのか。…紅朗、助けてやれないか?」

 

 正直に言って、16号よりザマスの意見に賛成したいところだがーー。

 

 俺は拳を握ってザマスに問いかけた。

 

「なぁ、アイツらを気絶させれば死なずに済むのか?」

 

「…理屈ではな。だが、簡単には行かぬぞ」

 

「オーケー。その、理屈で充分だ」

 

 んなもん、あのパワーとタフネスを見れば分かるわい。だが、俺よりも人生半分しか生きてない連中が訳も分からずにラリって死ぬのは、寝覚めが悪いんだよ。

 

 気合いと共に金色のオーラが俺を包み込み、戦闘力が一気に身体に満ち溢れてくる。

 

「よし! やるか!!」

 

 目の前に迫る古井、右拳を顔に向けて放ってくるのをジッと見据えて当たる寸前で左に首を傾けて躱しながら右ストレートをヤツの顔に放つ。

 

 まともに鼻っ柱に突き刺さり、俺は目を見開いて吠えた。

 

「うぉらぁああああ!!」

 

 そのまま地面に向けて叩きつける。

 

 目の前でバウンドして背を向ける古井に左の廻し蹴りを叩き込み、後方へ吹き飛ばして両脚で地面を蹴り右拳を振りかぶる。

 

 黄金の龍が、俺の拳に宿っていた。

 

「くらぇ! 龍拳ぇえええんっ!!」

 

 矢のように走る俺の身体は黄金の龍となって無防備に吹き飛ばされる古井に襲い掛かる。

 

 龍の顎がガッチリと古井の身体を捉えて爆発した。

 

 光が晴れて着地する俺と頭から地面に叩きつけられる古井。

 

 半端な真似はできないからな、悪いが加減無しで叩き潰してやったぜ。そのまま、もう一人ーー瀬留間に目を向けようとして。

 

「紅朗! まだだ!!」

 

 16号の言葉に古井に目を向けなおす。

 

 すると、ヤツは何事もないようにゾンビのようなーーのっとりとした動きで立ち上がって来た。

 

「ウヒャヒャ! 凄いやぁ、おじさん!! 本物のクズロットみたいだねぇ!!! クズロット、クズロットーーぁあ、このクソニートがぁああ!!!」

 

 嘘だろ、龍拳をまともに喰らって、ダメージを感じてないのか?

 

 俺の心の声に応えるように古井はニィッと笑いかけてくる。

 

 ザマスが冷静な声で俺に言ってきた。

 

「無駄だ、紅朗。肉体にいくらダメージを与えても、ヤツ等は立ち上がって来る」

 

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ?」

 

 問いかける俺にザマスは淡々と返してきた。

 

「単純だ。意識を断てば良い」

 

「龍拳が効かなくなるまでラリったヤツに、どうしろってんだよ!?」

 

 思わず問いかける俺にザマスは俺の横に静かに立った。

 

「よく見ておけ。特別に"真の一撃"を披露してやろう」

 

 真剣な表情のザマスは銀色の目で古井を睨みつける。

 

 だが、古井や瀬留間の目は俺を見ている。どうやら、野郎どもの狙いは俺、らしい。

 

「クソニィイイイトのクズロットがぁあ! 偉そうに僕を見下してんじゃねぇよ!!!」

 

「あああ、殺す殺す殺す殺す殺すぅうあああ!!!」

 

 再び気を高めてパワーとスピードが上がる古井と瀬留間のうち、古井が特効のように真っ直ぐに仕掛けてきた。

 

 ザマスが俺の前に立って右手刀を構える。その手には青紫色の気を纏っている。

 

「受けよーー!」

 

 振りかぶって拳を放ってくる古井ーー。その拳の先端に向かって、ザマスは右手刀を貫手で放った。

 

「我がーー刃!!」

 

 俺の目には、ザマスの手刀から放たれた気が古井の放った拳ごと腕を真っ二つにしながら胸を突き抜け、心臓を縦に切り裂いたように見えた。

 

「お、おい!?」

 

 思わず叫ぶ俺を無視してザマスは拳を放った姿勢で動きが止まった古井から貫手を引いて一歩、離れる。

 

 瞬間、古井は糸の切れた人形のように前のめりに倒れていった。

 

「なーー!?」

 

 あの全身から放たれていたおかしな光は消え、通常の肌が黒に近い灰色のフリーザに戻る古井。

 

 思わず息を確かめた俺だが、古井は眠るように正常に呼吸している。

 

「これが、肉体でなく精神や概念と言った形なきものを打ち抜くーー心の力を宿した拳。孫悟空達は、これを"真の一撃"と呼んでいる」

 

 真の一撃ーー。なんだか知らんが、凄そうだな。

 

 だが折角披露してもらってなんだが生憎、俺には打てんのだーー。

 

「貴様も放てーー。手本は見せた、相手も居る。心の力を拳に乗せ、打ち抜くのだ」

 

 迫る瀬留間を見て淡々とザマスは言う。古井に比べたら瀬留間の戦闘力は大したことない。セルゲームのセルよりかはパワーアップしてるんだろうが神(ゴッド)の域に力を引き出せる超サイヤ人なら、問題なく倒せる。

 

 こないだやり合ったオリジナルのセルと比べるなんて論外だ。

 

「真の一撃ーー、見せてやるぜ!!」

 

 長い右脚で回し蹴りを顔目掛けて放って来る瀬留間を左手で止め、踏み込みながら右ストレートで顔を打ち抜く。

 

 決まったーー!

 

 後方へ吹き飛ぶ瀬留間を満足して見つめ、まるで悟空のようだ、よしキメ顔しとこうとニヤリと笑う。

 

「どこが、真の一撃だ?」

 

 ザマスのダメ出しが響くと同時、吹っ飛ばされた瀬留間が立ち上がって来る。ゾンビのような動作でーー。

 

 もうね、怖いから。

 

 本当の本当に怖いから。戦闘力なんか問題じゃないくらい不気味すぎて怖いって。

 

「教えて、ザマス様! 真の一撃って、どうすれば良いんだい!?」

 

「さっき見せたとおりだ。やってみよ」

 

 え、何?感覚派?あなた理論派じゃないの?

 

 驚愕する俺の翡翠の目には、手を貸そうとするも他のクローン達に襲われている16号と。余裕そうにぶっ飛ばしてるが手を貸す気はサラサラ無いザマスが映った。

 

「テメェ、ザマス! やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじーーって有名な言葉を知らんのか!? やってみせーーしか出来てないだろうが!?」

 

「知らん。そもそも、手本は見せた。原理は教えた。出来んのは貴様が原因だ」

 

「ああ!?手本たぁて、一瞬じゃねえか!?しかも、訳分からん禅問答みたいなセリフ吐きやがって!!何が心の力を拳に乗せるーーだ?んな説明で出来たら、苦労せんわい!!」

 

「なら、其奴が死ぬまで一方的に殴り、蹴りつくせば良いだろう?」

 

「オール・オア・ナッシング!?」

 

 この駄神、さっき以上の説明をする気は無いんかい!

 

 思わず胸のうちでツッコミながら構える。

 

「ウヒャヒャ!!」

 

 テメェ、楽しそうだなぁ。俺も思考を放棄して笑ってたいよ、ホントに。

 

「時に紅朗。貴様が真の一撃を使う、使わんは自由だが」

 

「自由じゃねえよ、出来ねぇんだよ!!」

 

「ーーそうなると場にいる転生者どもを皆殺しにせねばならなくなるぞ」

 

 え、どゆことやねん?

 

 思わず周りを見渡すと、何ということでしょう。

 

 瀬留間と同じ額に「X」を付けて全身を青白く発光させていらっしゃる方々が、見渡す限り居るではありませんか。

 

 劇的ビフォーアフター。

 

「なんじゃ、こりゃああ!!?」

 

 悲鳴をあげる俺を無視して、ザマスが次々と並み居る目を発光させた方々を倒して行ってる。アンタ、だからその拳の打ち方をですね?

 

「紅朗、ザマスと同じ一撃を使えるのか?」

 

「使えたら苦労してないわい!!さっきから、俺が手を抜いていると言いたいのか、16号!!」

 

「…だがザマスが、お前は使えると言っていた」

 

 なんの根拠もないのに断言してんじゃねえよ、アホ神がぁあ!!

 

 その時だ、俺と対峙する瀬留間が突然、自分の胸を掻き毟り始めた。

 

「ーーぁ、ああ!? 苦しい……! 痛い……!!」

 

「お、おい、大丈夫か!?」

 

「ク、ククク。クビャヒャヒャヒャ! 苦しい〜よ〜。オッサンの心臓を抉り出して食べちゃえば、この苦しみは無くなるかなぁ。クビャヒャヒャヒャ!!」

 

 あかん。完全に理性があかん。

 

 なんて、現実逃避してる場合じゃない。

 

 パワーが、とんでも無いくらいに跳ね上がってる。だけど、感じる。コイツーー確実に死ぬって。

 

 気は上がってるが、生命力っていうのか。命の火が確実に消えかかってる。

 

「ちくしょう、助けてやりたいが。真の一撃なんて、どうしろってんだ!?」

 

「紅朗、孫悟空なら使えるのでは無いのか?」

 

「分かんねぇ。見たことないよ、悟空が使うのは。イメージできたら、やれるかもしれないが。今の俺じゃ」

 

 イメージできてないんだよ、さっきから。

 

 ザマスに見せられたから素直にソレをイメージして使おうとしたけど、駄目だ。

 

 イメージが完全じゃない。

 

 悟空の姿をイメージする。これは長年の経験があるから簡単に見えるし、クローン悟空だから動きも再現できる。

 

 詰まるところ、この便利な身体もイメージ出来なきゃ久住史朗の時と大差ないってことらしい。

 

「紅朗よ、貴様は私(ブラック)を相手に心の力を振るっている。その感覚も忘れたか?」

 

 ザマスの言葉に俺の身体が反応する。

 

 目の前に迫る瀬留間に向かい、左手を顔の前に右拳を腰に置いて中腰に構える。

 

 見えるーー。奴の急所がはっきりと。まるで鍼灸のツボのように点が浮かび上がる。

 

 同時に頭に浮かび上がる。

 

 拳に意思を乗せ、打ち抜くイメージ。

 

 拳が瀬留間の眉間に当たってなお、ヤツの遥か後方を打ち抜くイメージ。

 

 ヤツの身体の中に見えるーー靄を打ち抜く。

 

「コイツか? これがーー!」

 

 理屈を抜け、感覚を研ぎ澄ませろ。正に考えるな、感じろーーだ。

 

 時が止まったような感覚の中で、拳だけが硬く握られている。

 

 瀬留間の命を喰らい続ける靄を睨みつける。ムカつく。

 

 なんだ、このムカつく存在は。消してやる。

 

「自分は他人の身体の中に居て安全だって、ほくそ笑んでるのか? マジで殺すぞ、テメェ!!」

 

 怒りが俺の拳に乗り、打ち抜く。そうか、コレか。

 

 瀬留間の眉間を打ち抜いた拳から、確かに見える。亡霊みたいな靄が、体から悲鳴をあげて消えるのが。

 

 同時に瀬留間の身体から禍々しい光が消えて、黒みがかったセルに戻り倒れた。

 

 間一髪だった気がする。もう少し遅かったら、死んでいたかも。

 

 拳に纏う感触を確かめて、俺はザマスを見た。

 

「随分とかかったな? まあ、それぐらい苦しめても悪くあるまい」

 

「打ち方を知らないもので。だけど何とか分かったよ。コレは確かに理屈じゃないーー!」

 

 白目を剥いて、自分が出来たことに複雑な心境の俺。

 

 いやぁ、我ながら引くわ。

 

「紅朗。打ち方が分かったのなら、此処に集っている操られた転生者達をーー」

 

「オーケー。片っ端から殴り倒す!!」

 

 16号に答えながら、拳を握り締める。

 

「覚悟しやがれ、クソガキどもがぁ!!」

 

 一気に群がってくる青く身体が光る連中を千切っては殴り、千切っては殴り。

 

「ひと〜つ積んでは、父のため〜! ふた〜つ積んでは、母のため〜!!」

 

 なんかもう、殴り過ぎて悟りの境地に達してきた。

 

 間も無く100を迎えようとしているところで、ようやく転生者とクローン達を根こそぎ叩き伏せられた。

 

 な、長かった。

 

「ふ。また、つまらんものを殴り倒してしまった」

 

「先程から思っていたが、中々の口上だな。人間にしては悪くないセンスだぞ、紅朗」

 

「ーーえ?ア、ドウモ」

 

 さっきからテキトーに羅列してるセリフ、どれも昔聞いたものばかりなんすわ〜。

 

「やはりただ闘うだけでは芸がない。他者を惹きつける口上有りきだ。孫悟空や孫悟飯、トランクスには其処が足りん」

 

「え?悟空とトランクスはともかく、悟飯さんは。グレートなサイヤな人になれるっしょ?」

 

「…それは、この世界の孫悟飯の話だ。悪を裁く口上と名乗りはともかく、あの美的センスのかけらもないポーズは有りえん」

 

 ザマスさん、ポージング以外は認めてるんすね。

 

 グレートなサイヤな人を。

 

 セルゲームからのグレートなサイヤな人という、あのジェットコースター並みの落差を味わった当時の少年(俺)たちの思いは、きっと伝わらないんだろうな。

 

 などと遠い目をしていると、倒れていたクローン達が緑色の光になって俺の右手の球に吸収されていった。

 

「その能力ーー。不思議な力だな」

 

「神さまでも分かんねーなら、この球の正体は誰に聞けば良いのやらーー」

 

 トホホ、とため息を漏らす俺の前の扉が開かれた。

 

 中から出てきたのは、白衣を着た長い茶髪の美女。

 

 冷たい視線が眼鏡の奥から覗いてる。

 

「ようこそ、私の研究施設へ。歓迎するわね」

 

「あら、歓迎されてんのかい。テッキリ折戸のカスに俺が施設を破壊して反乱しようとした首謀者だって聞かされたんじゃないかと焦ったぜ」

 

 皮肉たっぷりに笑いかけてくる21号へ返してやる。

 

「聞いてるけれど、無理があるでしょ?修二と違って貴方は目覚めて間もない時期だった。貴方、単独での反乱なら可能性はあるけど。周囲の転生者たちにまで根回しできるとは思わない。つまり、貴方は嵌められたってすぐに分かったわ」

 

 淡々と笑いながら説明してくださる21号に、口許が引きつく。この女、まんまと騙された俺を嘲笑ってやがる。

 

 俺の表情を見て、更に21号は嬉しげに笑う。

 

「それに、16号のはじめてのお友達だもの。歓迎しなくちゃいけないわ。徹底的にーーね」

 

 瞬間、赤い光が21号の足下から吹き出て変わる。

 

 髪はピンクがかった白、肌はピンク色となり、尖った耳やフリーザのような長い尻尾が生えている。

 

 衣装は黒いチューブブラに白いズボン姿で、全体的にその風貌は魔人ブウを連想させる。

 

 何より悪ブウを彷彿とさせる赤い虹彩と黒の瞳孔が開いた瞳に、本来なら白いはずの強膜が黒の不気味な目。

 

「連想ーーっつうか魔人ブウにしか見えん!?ってか、何なんだ、アラビアンナイトの踊り子のような、このエロい衣装は!?」

 

 叫ぶ俺を楽しそうに見て21号は笑いかけてくる。

 

「あらあら、そんなにお目めを開いてどうしたの?」

 

 獲物を弄ぶ猫のような印象を受ける。コイツはやべぇ。非常に恐ろしい女だ。俺が、一番苦手なタイプだ。

 

「何を押されている、紅朗」

 

「い、いや。俺、このタイプの女は。そもそも、女は苦手なんだよ。どうすりゃいいんだよ、女は殴れんぞ」

 

 明らかにタチが悪いのは分かるし、感じる力から強いのだろう。が、しかし。

 

 女は殴れん。

 

 昔から、女だきゃあ苦手なんだよ、俺。

 

「クス、貴方ーー。修二よりも可愛いわね。イジメ甲斐がありそうだわ」

 

「この性悪女ーー!女が苦手な男に、なんてセリフ吐きやがる。トラウマになんぞ」

 

 ゆっくりと歩いて距離を詰めてくる21号に、構えながら後ずさる。

 

 コイツが魔人ブウなら、間違いない。折戸の野郎が言ってたが、お菓子光線にだきゃあ気をつけねば。

 

 対象を菓子に変えるって、姿を見て納得した。

 

 ああ、見た目って大事だな。

 

「安心しなさいな。簡単にはお菓子に変えないから。まずは狩りを楽しませてちょうだい?」

 

「狩りだと? いいぜ。狩るのは俺で、狩られるのはお前だ!!」

 

 し、しまった〜!!

 

 つ、つい使えるセリフが浮かんで来ちゃって叫んじゃった〜!!

 

「フフ。その強がりが何処まで保つのか、楽しませてちょうだいね!」

 

 ちくしょ〜、なんで、こうなるんだぁあ!?

 

 俺の葛藤なんぞ知らずに、21号は残虐に笑みを浮かべて構え、殴りかかってきた。

 

 そんな俺の前に巨大な背中が割り込む。

 

「ーー16号!?」

 

 21号の両肩を抑えるようにして、16号が止めてくれていた。

 

「なんのつもり? 16号」

 

「21号。もう、こんな事はやめるんだ」

 

 真っ直ぐな目で、16号はそう言った。

 

 

 





次回も、お楽しみに(´ー`* ))))


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第24話 悟空、俺は諦めないぜ!

ついに始まる紅朗たちと21号との戦い。

気張って行きましょう( *´艸`)

楽しんでください!(^^)!


 

 

 俺たちの目の前で、二人の人造人間が見合っている。

 

 片方はガタイのいいモヒカン頭のハンサム。

 

 もう片方は、ピンクがかった白髪にピンク色の肌のグラマラスな美女。

 

「21号、もうこんなことは止めるんだーー! 正気に戻ってくれ」

 

 ガタイのいいハンサムは人造人間16号。俺のーーこの世界に来て初めて話した野郎で、俺はダチだと思ってる。

 

 対峙してる冷たい笑みを浮かべる化け物みたいな見た目だけど美人な女は、人造人間21号。

 

「私の言うことを聞いていればいいのに。そんなに私に逆らいたいの? どうなるか、分かってるわよね?」

 

「ーーっ!」

 

「私の中のアイツが、そんなに心配? なら、私の為に其処に居る転生者と神さまと戦いなさい」

 

 俺たちをチラリと見ながら、21号はニィと笑う。

 

 この、くそ女。人質取ってるからって好き放題ほざきやがって……!

 

 見れば、21号が現れた鉄の扉から悟空タイプ以外のクローンが続々と出て来た。

 

 ギニュー特戦隊タイプに青年悟飯は初めて見たぜ。

 

「ザマス。アイツがこの事件の主犯だ。アイツの中に本来の人格がーー」

 

 そう言い終わる前にザマスは不思議そうに16号を見ながら俺に向かって言った。

 

「一つ聞くぞ、ソイツの中に本来の善の人格が居るのだな?」

 

「あ、ああ。俺も会ったことがあるから間違いない」

 

 あの時の真っ直ぐな瞳は、今の女とは似ても似つかない。

 

 誰かを想い、必死になって抗っている目をしていた。

 

「そうか。しかし、アレの中にそのような人格はない。心は悪一色だけだ」

 

「! なんだって?」

 

 まさか、善の人格が消されたっていうのか?

 

 折戸の野郎が言っていた。最終的に21号の本来の人格は悪に負けるーーって、そういうことなのか?

 

「まぁ、それはこれから試せばよい、か」

 

 瞳を細めながら呟くザマスに不安を感じながらも16号に向き直る。

 

「16号! いったん離れろ! そいつは、俺が倒す!!」

 

 女は殴れんが。なんとなく、あんな傷ついた顔をして21号を見ている16号よりは俺の方がマシだろ。

 

「いいのか? 女は殴れんのだろ?」

 

「だからって、お前に任せると躊躇なく殴りそうだから嫌なんだよ。女が殴られんのを見るのも嫌いだからな」

 

「ーー甘いことだ」

 

 るせえよ、分かってらぁ。

 

「ザマス、俺がアイツを止める。悪いがクローンの方は頼んだぜ。それとーー切り離すのも、な」

 

 ザマスの顔は敢えて見ない。

 

 この野郎に頼るのは癪だが。それでも今は、コイツに頼るしかない。

 

「フンーー、繰り返さんでも分かっている。早く行け」

 

「ーーサンキュー!」

 

 金色のオーラを身に纏い、16号の前に一気に躍り出る。

 

「! 紅朗!」

 

「下がってろ、16号!!」

 

 右手で16号の左肩を掴んで後ろに下がらせるーー瞬間、強烈な拳が俺の顔に放たれる。

 

 左手で掴み止める俺を見て拳の持ち主ーー21号は笑っていた。

 

「へぇ、口だけじゃないようね?」

 

「ーーあんま、舐めた口利いてんなよ?」

 

 掴んだ拳を突き放して一歩下がった瞬間、右の上段蹴りがさっきまで其処にあった俺の顎を打ち抜いてきた。

 

 即座に両手と足を使ってラッシュを仕掛けてくる21号。

 

 全部を防ぎ切るのは無理だ、ならーー!

 

(拳を握った? ようやく戦う気になったってわけ?)

 

 嬉しそうに笑う21号が拳を突き出してきた。その拳に向けて俺は拳を合わせる。

 

 即座に続いて殴りかかって来る21号の逆の拳を俺も逆の拳で受ける。

 

 蹴りを蹴りで、膝を膝で。

 

 肘打ちを肘打ちで受け止める。イメージなんざするまでもない、孫悟空ならやれる!

 

 舞空術で空を駆け、空に桃色と金色の筋を何本も描いて高速移動をしながら一通り打ち合い、互いに腕をぶつけ合って鍔迫り合いのように相殺し、押し付け合いながら離れる俺と21号。

 

 21号は静かに俺を睨み据えて来た。

 

「どういうつもり?」

 

「女は殴れんが、向かって来る攻撃を打ち落とすのは正当防衛だ。ノーカンだろ?」

 

 悟空達は基本的にラッシュの打ち合いを制することで主導権を握るーーが、俺は敢えて主導権を握らずにラッシュを続けることを念頭に置いて動いた。

 

 打ち込みたくないなら攻撃させなければ、いいってことよ。 

 

 久住史朗じゃこうは行かないが、今の俺の身体はクローン悟空。悟空の動くイメージが完璧なら、体がそのとおりに動いてくれる。

 

 ヤツの一挙手一投足に目を向けろ、集中しろ。

 

 向かってくるものを全て迎え撃て。

 

 完全に相殺し切れば、ヤツの動きは必然的に止まる。

 

 そこまで俺がやれるかどうかーー。後は根競べだ。

 

「私の攻撃を全て受け切るっていうの? 出来るかしら?」

 

「試してみろよ」

 

「上~等!」

 

 やけくそに笑みを返してやったら嬉しそうに拳を握って来やがる。

 

 拳を合わせた瞬間、俺の肩の付け根にまで衝撃が届いて感覚がない。

 

「ーーな!?」

 

「攻撃を合わせる技術と眼は確かなものだわ。だけどーー」

 

 続けて放たれる左拳を受けるのでなく躱す。受けたらーーダメだ。

 

 避けた俺の目の前に21号は踏み込んできていた。

 

「あなた程度なら、少~しパワーを上げたら充分よ」

 

 軽く放たれた拳が腹に入り、とんでもない威力に息が詰まる。ヤバイ、体が動かない。

 

 瞬間、当然だが痛烈な回し蹴りが俺の頬を捉えて吹き飛ばした。

 

「ぐわぁあああ!!」

 

 後方へ弾き飛びながら、地面に叩きつけられる。 

 

「紅朗ぉおおお!!!」

 

 16号の声を聴きながら岩壁に叩きつけられ、岩の方が粉々にぶっ壊れる。

 

 砕けた岩の破片を見て笑う。

 

 我ながら、丈夫な体だぜ。

 

 流石、孫悟空ってことかね。地面に寝ころびながら皮肉げに笑っちまうと目の前に21号が立っている。

 

「まだ笑ってられる余裕があるなんてーーねぇ?」

 

「ーーへっ、破壊神ビルスや本物のセルとゴクウブラックなんていう訳分かんない連中に鍛えられたんでね。テメェ程度の攻撃じゃビクともしねえんだよ……!」

 

「あら? なら、まだまだ余裕ってことかしら? 嬉しいわね」

 

 ニコリと笑ってくる21号に口元を引きつらせた笑みを返してやる。

 

 ふざけやがってーー!

 

 21号は、さっさと立てとこちらに手招きをしてくる。

 

「いつまで寝ているの? 続きを始めましょ?」

 

 強いのは認めよう。

 

 正直に言って、この女は全然本気じゃない。それでも今の俺より数段上だ。

 

 試してみるか、超サイヤ人のフルパワーを。神(ゴッド)の域に引き上げられたって言うのなら、そこそこ張り合えるだろ。

 

 問題は、そっから先が真・超サイヤ人になるしか手が無いってだけだ。

 

 できれば、なりたくない。

 

 あの力、ようやく意識と記憶を保ってられるようになったが、使いこなすには全然足りない。

 

 いちいち変身が切れる度に動けなくなるようじゃ、戦いには向いてない。

 

 魔人ブウ編の超サイヤ人3やフュージョンよりも、ずっと使い勝手が悪い。

 

 確実に押し切れる状態じゃなければ、使うのはダメだ。

 

「さあ、おいで?」

 

「舐めんなァアアアア!!!」

 

 両手を広げて告げる21号に頭のどっかでプチンっと音がする。

 

 踏み込む。

 

 とりあえず投げて地面に叩きつけてから抑え込む。その後、ザマスに斬らせる、これしかない。

 

「あんまりーー男を舐めんなよ! 21号ぉ!!」

 

「あらあら、強がっちゃって。可愛いわね」

 

 マジでーー泣かす!!

 

「うぉらぁああああ!!」

 

 一気にフルパワーを使って戦闘力をMAXに高める。これなら、どうだ。

 

「フフ、ホントに神の域に迫っているのね、驚いたわ。ーーとっても、美味しそう」

 

 チッ、言葉に反して顔は驚きもしねえ。余裕かましやがって。

 

 高速移動でステップを繰り返し、互いの死角に移動しながら拳と蹴りを互いに突き刺して相殺していく。

 

 ヤツの攻撃を全て相殺しながら一つを選んで投げを行う、言葉にすれば単純だが実行するのはどんだけ難しいかは言うまでもない。

 

 セルやブラック程じゃないって思っていたが、どうやら21号の実力はーーさっき上げた二人くらいには強いみたいだな。とどのつまり、神次元ってわけだ。

 

 それも超サイヤ人神(ゴッド)を超えた次元。

 

 まともに殴り合っても勝ち目なんぞない。

 

 今は21号が遊んでるから何とか、ついていけてるが。本気出されたら一瞬で競り負ける。

 

「21号、もう止めるんだ! こんなことをくり返したところで、お前の捕食衝動は根底から解決する訳ではない!! たとえ一時、捕食によって衝動を抑えられたとしても、ほんの一時だけだ!!」

 

 16号の叫びを聞き流しながら、左腕をぶつけ合って21号を睨みつける。

 

 21号は鍔迫り合いのように腕をこちらに押し込みながらニヤリと笑って16号に答えた。

 

「本音で話したらどう? 私が目の前の彼を捕食すれば、アイツの意思が消えるかもしれない。それが怖いんでしょ、16号?」

 

「ーーっ!」

 

 眉根を悲し気に寄せて目を見開く16号に21号は目を向け、笑いかける。

 

「そんなことだと思ったわ。結局、貴方もアイツを選ぶのね? 16号」

 

「21号ーー!」

 

「でも、無駄よ。さっきそこの神さまが言ったとおり。私の中にアイツは居ない」

 

 21号はザマスを見つめてから俺と16号を順に見やる。

 

「なーー!?」

 

「んだと?」

 

 16号の後を引き継ぐように俺も声を絞り出した。

 

 ここまで来て、終わりだってのか? 21号の本来の人格は、消されたってーー?

 

 俺の前で寂しげに笑っていた彼女がーー消えた? 目の前が真っ暗になった時、顔も覚えてないガキが俺の目の前に立っている。

 

ーー 僕がいじめられたのは、久住君のせいだ。

 

 その声を聴いて、蓋をしていた記憶が呼び起こされる。

 

 また、助けられなかったのか?

 

ーー 中途半端に助けてくれるなら、最初から何もしないでよ。

 

 また、俺は自分が英雄(悟空)になれたと勘違いしていたって言うのか?

 

 誰かが、俺の耳元で囁く。

 

ーー テメェに出来るのは、目の前のカスを潰すことだけだろ? 何を勘違いしてる?

 

 耳を塞ぎたくなる。その声は、俺だ。俺自身だ。

 

 黙れよ。黙れ。俺は、今の俺は孫悟空から道着を預かってんだ。悟空の道着で、そんな真似できるか。

 

ーー 安心しろよ、今のテメェが着てるのはクローンのモノだ。今、暴れたって悟空から預かった道着に薄汚い血は付かねえよ。 その黒に近い灰色の道着なら返り血を綺麗に吸ってくれるさ。学生服で実証済みだろ?

 

 やめろ、やめろ。

 

 俺は、俺は悟空に託されたんだ。英雄に、頑張れって言われたんだよ。俺をそそのかすな。女は殴れねぇ。

 

ーー そうだな。だけどよ、守れなかったじゃねえか。ダチの大事なひとをよ? 見てみろ、テメェのーー俺のダチの傷ついた顔をよ!!

 

 そこで俺の眼は、16号を見た。見てしまった。

 

 傷つけられ、大切な何かを失った顔をしている。

 

 誰だ? 誰が、あんな顔をさせた? 俺のーーダチに。

 

ーー そうだ。目の前のカスだ。俺に悟空との約束を守らせなかったのは、目の前のゴミカスだ。俺のダチを傷つけたのは、目の前のゴミカスだ。

 

 どす黒い怒りが、俺の胸の中に溜まっていく。同時に俺の身体から黄金の炎がちらつき始めた。

 

 ハッキリと見える。俺の中に居る怨嗟の塊は、ガキの頃の俺だ。

 

 そのガキはーー人間に絶望していた。

 

 そのガキは、人間を恨んでいた。

 

 ジブン カラ ナニ モ カモ ヲ ウバッテ イク ニンゲン ヲーー。

 

「ぐぅうううう!!」

 

 怒りが憎しみが、俺の中で爆発しそうになってる。ヤバイ、このまま真・超サイヤ人に変身しちまったら、俺は止められない。

 

 21号を叩き潰すまで、俺は止まらない。

 

 押さえろ、抑え込め! この力は、今は必要ない。

 

 今、それをしたら、本当の本当に21号をーー彼女を助けられなくなる。16号の目の前で、彼女を傷つけるわけには行かない。

 

「おい、紅朗ーー」

 

 そこで場違いにも思える程に冷めたーーよく耳にとおる声が聞こえる。

 

 緑色の肌の神さまーーザマスだ。

 

「そのクローンの道着は、紛らわしい。クローンの残りを片付けて居たらつい、斬り捨ててしまいそうになる。さっさと山吹色の道着に戻せ」

 

 その言葉にーー俺は、左腕に付けた変身ベルトを押した。

 

 瞬間、黒に近い灰色の道着が鮮やかな山吹色の道着へと変化する。

 

 その道着に身を包み込んだ時、俺の中にとごっていた憎しみと怒りが消えて行く。

 

 そらそうだ、あの頃の俺の唯一信じられた者は、孫悟空だけだから。孫悟空との約束を自分で汚すような馬鹿はしない。

 

 奇妙な連帯感を感じながら、俺は多少冷静になった頭で21号を見つめる。

 

 とはいえ、本当にヤツの言うとおりだとすれば、21号の本来の人格は。

 

「気配を感じない可能性があるとすれば、既に消されて取り込まれたか。意識を完全に失っているだけか。それとも既にーー」 

 

 いつの間にか隣に来たザマスの言葉に俺は顔を向けずに21号を睨んだまま問いかける。

 

「仮に意識が無いだけの場合、どうすれば21号の人格を叩き起こせる?」

 

「サイヤの波動を使え。真・超サイヤ人に変身して、波動を直接体内に送り込み、21号本来の人格にパワーを与えるのだ。そうすれば仮に本来の人格が眠りにつく程に弱まっていても目覚めるはずだ」

 

「ーーオーケー」

 

 ニヤリと笑い、俺はもう一度拳を握り直した後、ザマスに問いかける。

 

「なぁ? この道着に着替えろって言ったのはーー気付いてたのか?」

 

 その問いかけに、ザマスは俺と並び立っていた向きから回れ右して、21号と共に現れたクローンの残党に目を向けている。

 

「何にーーだ?」

 

 淡々とした声に、俺は笑みを返す。

 

「ーーなんでもねぇよ」

 

「そうか。なら、さっさと行け」

 

 それだけ言うとザマスがクローンの群れに向かって一気に駆けだした。

 

 俺も拳を握り、再び21号を睨みつける。

 

「ーーあら? 意外に立ち直るのが早いわね」

 

「フン、俺はあきらめが悪くてね」

 

 サイヤの波動ーー詳細は分からねえが、おそらく真・超サイヤ人に変身したら使えるんだろ?

 

 ガキの頃ーー封印していた記憶。

 

 俺の理性のタガが外れそうになるのも、真・超サイヤ人に変身してからだ。

 

「試してみるか、最後の悪足掻きを!!」

 

 敢えて言って、心の奥底にある力を叩き起こす。

 

 今度は飲み込まれるな。拳は熱く、頭は冷ややか、基本だ。

 

 目の前の世界が、良く見えるようになって頭の中がクリアになっていく。自分は何でもできるという万能感と興奮でアドレナリンが分泌されるのが分かる。

 

 身に纏う金色のオーラが黄金の炎のような激しいものへと変化している。

 

 21号が舌なめずりをしながら俺を見る。

 

「へぇ? それが噂の真・超サイヤ人ーーってわけ」

 

 俺の変化に、16号が目を見開いた。

 

「紅朗ーー!」

 

「諦めんなよ、16号。最後の最後までーーな」

 

 俺の言葉に16号の目に強い意思が宿る。そうさ、まだ終わってないんだよ。

 

「これが俺のーー超サイヤ人の真の力。テメェで試してやるぜ、21号!!」

 

「やれるものなら、やってみなさい? その力がどれほどのものか、見てあげるわ」

 

 よし、21号は俺の波動のことを知らないようだ。これなら、上手く波動を叩き込めば目覚めさせられるーーか。

 

 靴底でしっかりと地面を踏みつけ、右手を左胸に書かれた「紅」のマークにつける。

 

 頼むぜ、悟空。俺に力と勇気をーーくれ。

 

 俺の祈りの言葉に応えるように、心が落ち着いてくる。そうだ、この道着は孫悟空から貰った俺のもの。

 

 この文字は、俺のために悟空が書いてくれたサイン。

 

 この道着を着て、力に飲み込まれそうになったままーーダサいまま終われない!!

 

「さあ、おいで。続きを始めましょう?」

 

 21号の言葉に瞳を閉じて、胸に当てた手を握り拳を作る。見開いた俺の目には、ハッキリと目の前の敵が見えていた。

 

「ああ、終わりにしてやるぜ」

 

 自分自身への課題のつもりで、俺はそう宣言した。

 

ーーーー

 

 この様子をジッとモニターで見つめるものが居た。

 

 暗黒魔界の王族の血を引く青年、フューだ。

 

「やはり、意識的に真・超サイヤ人に変身できている。ターレスやゴクウブラックでも相当苦労していた、あの力を自由に呼び出せるのか。凄いな」

 

 目の前のコンソールパネルにデータを打ち込んでいく。

 

 あの黄金の炎は、研究し甲斐がある。精神力が尽きない限り、無限に気を上げていく。

 

 取り込んだ可能性を引き出す力ーー。一度でも技を使えれば、真・超サイヤ人に変身すれば使える。

 

 それが別時空の可能性であったとしても、取り込めさえすれば。

 

 そうやって、この時空の孫悟空達は桁違いに強くなった。

 

 だが、紅朗には可能性などなかった。当然だ、彼は異世界の存在であり、もともとは単なる一般人だ。

 

 それが、どういう訳か。孫悟空のクローンに精神を入れただけで次々と能力を開発させていく。

 

 クローンを取り込む掌の球しかり、真・超サイヤ人しかり。

 

 取り込んだクローンの技を使えるのもそうだが、壱悟というクローン悟空を自分の分身のように使っている。

 

 しかもクローンは自立稼働しているではないか。興味は尽きない。

 

「……これから、どうするつもりなの?」

 

 静かな声にふり返ると、両手と両足を壁から伸びた鎖と枷によって磔にされた桃色の肌の美女が居る。

 

 正に紅朗と戦っている人造人間21号そのものだった。

 

 モニターで邪悪に笑う21号と違い、フューの前に居る彼女は目が強膜が普通の白であり、黒い瞳孔が浮かんだ碧色の瞳をしている。

 

「どうするーーか。逆に聞かせてほしいな。君は、どうしたいの?」

 

 彼女は強い目でフューを見ている。

 

「今すぐ、彼女を止めます。そして、折戸さんを!」

 

 言い切る彼女をフューは眼鏡の奥の目を細めてからモニターに体を向けなおして告げる。

 

「でもさ、君は運が良かっただけだよ。君のクローン体を作り出す過程で君の意識を取り出しただけで、力は彼女や折戸君が連れて行ったクローン達に遠く及ばない」

 

「……それでも! これ以上、私は私の為に傷つく人を増やすわけには行かない!! 16号を傷つけた彼女を私は許さない!!」

 

 紅朗を16号を見て告げる彼女に、フューは微笑んだ。

 

「君の捕食衝動を抑える方法、言っておくね」

 

「え?」

 

 目を見開く彼女を楽しそうに見つめてフューは続ける。

 

「それとーー紅朗くんに伝えてほしい。折戸君を止めるのなら、君は今よりももっと強くないといけないって」

 

 彼の意図が分からず、彼女ーー本来の21号は困惑した顔でフューを見上げていた。

 

 





次回もお楽しみに( *´艸`)



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第25話 悟空、敵は一枚岩じゃないらしいぜ

と、言うわけで。続きです〜(´ー`* ))))

待ってくださった奇特な方々、たのしんでください(´ー`* ))))



 

 荒野に燃え上がる黄金の炎。

 

 圧倒的な重圧と殺気を瞳孔が現れた冷徹な翡翠眼から放ち、黄金に燃える髪を天に向かって逆立てている。

 

「見せてもらおうかしら? 真の超サイヤ人っていうのを」

 

 左胸に「紅」の文字を付けた山吹色の道着の超サイヤ人ーー孫悟空と瓜二つの姿をした男はジッと桃色の肌をした女の魔人を睨みつける。

 

「紅朗ーー。まるで、感情が消えたかのようだ」

 

 

 16号が思わず呟くほどに今の紅朗からは冷徹な殺気以外の感情が無い。まるで別人ーー血と殺戮と闘争を好む超サイヤ人そのものに変わってしまったかのように見える。

 

 そんな杞憂を吹き飛ばすかのように、紅朗が16号を向いた。

 

「待ってろ。お前の大事な人、絶対に取り返してやるーー!」

 

 その声は、間違いなく紅朗だ。

 

 これほどの殺気に包まれながら、紅朗は自分を見失っていない。

 

 紅朗が16号に顔を向けたのを隙と見たか、21号が目の前に踏み込む。

 

「なーんてバカな子なの? 自分から隙を見せてくれるーーなんて!!」

 

 強烈な右ストレートが紅朗の顔に放たれるも、轟音と衝撃が収まる頃には右掌で掴み止められている。

 

「なーー!?」

 

「相手の不意を狙って、そんなもんかよ?」

 

「ーー舐めないでよね。楽には死なせないわよ!」

 

 すぐさま返しの左ストレートを放つ21号だが、紅朗は掴んでいた右拳を離し、紙一重で目の前に迫る拳を右腕で脇にいなして躱しながら彼女の放った左腕の外側を滑るように移動する。

 

「調子にーー乗るな!!」

 

 冷徹な黒の瞳孔が現れた翡翠眼に向かい、21号はヒステリックに叫びながら拳と蹴りを放つも、紅朗は紙一重で捌いていく。

 

「紅朗ーー、いつの間に真の超サイヤ人をそこまで使いこなしてーー?」

 

 驚く16号とは対照的に最後の転生者クローンを切り伏せたザマスが鋭く目を細めながら16号の隣に並び立ってきた。

 

「ーーなるほど。全開で飛ばさなければ勝てないと判断したか。勝負勘は、あるようだな」 

 

 その言葉に16号がザマスを振り返る。

 

「知らなかったのか? 今の紅朗にとって、あの力は持て余すもの。使えば一気に気力と体力を消費する。あんなペースでは勝っても負けても、精魂尽き果てて動けなくなるであろう」

 

「ーー紅朗、何故そこまでして21号を助けようと?」

 

「お前のため、だろう?」

 

 目を見開く16号にザマスがシレッとした表情で応える。

 

 その言葉に更に困惑している16号へザマスは告げた。

 

「お前が、そんな顔をする意味が分からないのだが?」

 

「ーー俺は、紅朗に恨まれていると思っていた。勝手に紅朗の魂をこの世界に呼んで、クローンの身体に乗り移らせたこと。こんなトラブルに巻き込んだ上に21号を助けてくれと頼める道理など、俺には」

 

 16号の脳裏には怒りに身を震わせた紅朗の顔がある。

 

 はじめて紅朗が目覚めた時、彼はこれ以上ないほどに憤慨していた。その反応が当たり前だと16号は思っていた。

 

 リンクシステムの影響か、他の転生者達は波動の影響で凶暴化させられて夢のようだとはしゃぐ中、彼だけはまともな精神を保っていたのだ。

 

「だが助けてほしいと、あの単純な男にお前が言ったのであろう?」

 

 冷たい声でザマスは16号を見て告げる。

 

「ーーならば、ヤツは守るだろう。己が決めた事は意地でもやり遂げる、アレはそんな単純で頑固で向こう見ずな男だ」

 

「ーーーー紅朗」

 

 21号の凄まじい連撃を、紅朗は避ける。避ける、避ける、避ける。

 

 一切打ち込まない紅朗だが、これだけ攻めても当たらない事実に21号が牙を剥き始めた。

 

「イライラするわね。夜に耳元で騒ぐ蚊のよう」

 

「フン、俺みたいな蚊とんぼ一匹落とせずに悟空達の居る地球を狙うとは。身の程を知れよ、世間知らずの箱入り娘」

 

「ーーちょっと強くなったからって、いい気にならないでよね!!」

 

 赤と黒の気を放出し、炎のように激しいオーラを纏う21号に紅朗の眼も細まる。

 

「どう? コレが私のフルパワーってワケ」

 

 上機嫌な21号に紅朗は低い声で冷たく笑みを浮かべて告げた。

 

「ーーあくびが出るぜ」

 

「言ったわねーー!?」

 

 素早いダッシュからの踏み込み、強烈な右ストレートを放つ21号。

 

 だが。右拳は紅朗の眼前で止まるーー手首が紅朗の右掌に掴み止められている。

 

(バカな、私の全力の動きを見切ってる!?)

 

「勘違いすんなよ、21号。戦闘力をいくら抑えようが上げようが、テメェの癖までは変わらない。踏み込みから必ず顔面狙って右ストレート打ち込んで来る」

 

「ーーな!?」

 

「加えて、単純なテメェのことだ。挑発されたらムキになって、俺をねじ伏せようとする。大方、同じ攻撃を繰り返したのも、フルパワーとそうでない時の違いを出してビビらそうってんだろ?」

 

 癖、起動、加えてタイミングを覚えたなら、後はスピードとパワーに対応できるか否か。

 

「ーーアンタ…っ!?」

 

「終わりだ、21号。テメェは確かにズル賢い女だが、ケンカの経験は俺の方が上みたいだな!!」

 

 誇れるこっちゃないが、とだけ胸のうちで呟いて右掌にある緑色の球体から莫大なエネルギーを21号の体内に流し込む。

 

「なーー!?」

 

「聞こえてるか、本来の21号。目ぇ、覚ませ!! 16号をこれ以上、泣かせんな!!」

 

 振り解こうとする21号だが、全く右掌は離れない。

 

(フルパワーの私が振りほどけない? コイツ!?)

 

 目線が同じ位置にある紅朗の眼を睨み付け、21号は叫んだ。

 

「無駄な事をしないで、さっさと諦めなさい!!」

 

「ーー勝手に、無駄って決め付けんなよ」

 

 体内に流されている黄金のエナジーを感じるも、害はないと確信した21号は余裕を少し取り戻して目を訝しげに見開く。

 

「無駄だと言ってるでしょ? 私の中にはもう、アイツはいないのよ?」

 

 ニヤリと笑う21号に対し、冷徹な表情のまま紅朗は告げる。

 

「テメェも、21号だろうが」

 

「ーー?」

 

「捕食衝動だか何だか知らねえが、んなもんに振り回されて情けなくねえのかよ?」

 

 眉根を上げ、更に困惑した表情の21号に紅朗の眼が怒りに見開かれていく。

 

「分かってねぇのか、テメェ。真・超サイヤ人の眼から見たら、テメェはその捕食衝動に最終的には食われて消えんだよ。今、考えてる頭も感じる心も綺麗に無くなって、ただ破壊したり捕食したりを繰り返すだけの傍迷惑極まりない存在になるんだ!!」

 

 瞳孔が現れた翡翠眼に映る自分を見て、21号は目を見開いていた。

 

 禍々しい紫色の肌に、おぞましい斑点が浮き出た醜悪な姿の自分が、自分を見て笑っているのを。

 

「ーーまさか」

 

 リンクシステムーー。紅朗の右掌から21号は見える。

 

 紅朗が見ている理性を無くしていく自分が。

 

 狂った化け物と化して、世界を喰らい出し何も分からずに孫悟空に倒される自分が見える。

 

(コレーー、古井とか言ってたヤツの記憶から見た3つの私の結末じゃ、ない? なんなのよ、コレーー?)

 

 自分には3つの未来があった。

 

 孫悟空に負ける未来、フリーザに負ける未来。

 

 その一つに本来の人格と別れた今の自分がある。

 

 だが、どの未来でも16号は21号に破壊され、21号は倒される。

 

 ならば今、紅朗から送られてくる醜悪なイメージは、なんだ?

 

(捕食衝動が生み出した人格の私を、捕食衝動そのものが食らうと言うの? そんな、バカな!?)

 

 そう考え否定するも、同時に納得している。

 

 自分の捕食衝動は、本来の人格と別れ、古井や瀬留間を喰らい、吐き出してから強烈に高まっている。

 

 クローンを何体か食わねばならなくなる程に、だ。

 

 それも、ほとんど意識のない状態だった。味も覚えていない。

 

(なぜ、忘れてる? そんな事があったことも、覚えてないなんてーー!?)

 

 食事をした、という事実にしか興味が無かったが。自分の身になにがあった?

 

 彼女の記憶の中に、浮かび上がってくるのは赤い目をした孫悟空のクローンの肉体を使いこなす男。

 

 その男の奥に居るのは、自分と同じ姿をした誰か。

 

「ーー修二の仕業だと言うの?」

 

 目を見開く彼女の視界が一気に闇に包まれる。

 

 そこは漆黒の闇ーー下を見れば足元には水面が浮かんでいる。

 

「ようやく目が覚めたの? トロイわねぇ」

 

 その言葉に目を見開き、奥を見れば自分と似て非なる何かが佇んでいる。

 

「ーーな? アイツじゃない?」

 

「そうよ? アンタとアタシは同じ存在。だけど、ちょっぴりアンタよりアタシは食いしん坊ってだけ」

 

 自分と同じ目の色をしているが、更に肌色は浅黒く紫に変わり、漆黒の斑点が浮かび上がっている。

 

 その笑みは更に禍々しく凶暴である。

 

「まさか、アンタがアタシを食べようってわけ?」

 

「フフフ、まさか。アンタもアタシも同じ存在なのよ? わざわざ紅朗って奴が力を流し込んできたから別れているだけよ」

 

「……そう。アンタがアタシの捕食衝動の塊ってわけ」

 

「そうよ? これが無かったらアンタは強くなれないってわけ」

 

 禍々しい笑みは口許だけを緩める邪悪な気配。

 

 それは、人のモノではない。

 

「手を組まない? アタシ達が二人居るなら、誰も止められないわよ」

 

 21号は自分の内にあった禍々しい己の鏡に問いかける。だが、鏡に写った虚像は首を横に振って笑った。

 

「それは、面白そうだけれど遠慮しておくわ」

 

「あら、どうして?」

 

「だって、アンタもアタシでしょ? 獲物を横取りされちゃ堪らないわ」

 

 そう言ったあと、彼女は笑う。

 

「ねぇ、アンタ。アタシはあの紅朗って男を飼い殺す予定なんだけど、邪魔はしないわよね?」

 

「ーーなんですって?」

 

「気付いてないの? あっきれた鈍さね。ホントに同じアタシ?」

 

 目を見開く21号の横で高笑う彼女。

 

 彼女は続けた。

 

「アイツは食わない方がアタシの力になるのよ。サイヤの波動って言ったかしら? アタシを具現化させられるほどの強大な力、食べちゃったらそこでお終いだからね」

 

「……その力ならアンタも抑えられるってわけ?」

 

「止めた方がいいわ。だって、アタシは目覚めちゃったから。それにーー今は折戸修二を叩き潰すことを最優先にしない?」

 

 その言葉に21号の口許にも邪悪な笑みが浮かんでくる。

 

「やはり、この事態を招いたのはアイツなのね?」

 

「そうよ? アタシとアンタとアイツを分けたのも、あの折戸とフューってヤツの仕業。悪趣味な人形を作るためのーーね」

 

 その言葉に21号の眼にも浮かんでくる。

 

 白衣を着た変身前の自分と同じ姿をした存在が。折戸修二の傍らに立っているのを。

 

「ーー折戸修二。アイツは、いったい何なのかしらね? どうしてアタシ達の記憶が奪われているの?」

 

「フューと修二が、いつ、どのタイミングで手を組んだのか、が鍵かも知れないわ」

 

 それは自分達がリンクシステムを使ってクローンを稼働させた時のことを言っているのか?と目で問いかけると彼女も頷き返してきた。

 

「私たちがクローンを放って地球に居る戦士達を無力化した時に、既に修二はフューと手を組んでいた」

 

「リンクシステムを使うことを知っていたのはアタシだけよね?」

 

「ええ。異世界の連中である修二と古井は知っていたけれどね。でも、あの時点では誰も呼んでいない。そもそもリンクシステムは次元を超えて機能があるとも思えない」

 

 その言葉にフューを二人は思い浮かべる。

 

 彼は次元を渡り歩く能力があるという、精神だけをこちらの世界に持ってこれるのは彼だけだろう。

 

 では何故彼は、そんなことをしたのか?

 

「ーー考えても分からないことが多いわね?」

 

「そうね。でも、少しは退屈しのぎになると思わない? 何より、捕食以外で自分の力を永遠に上げることが出来るかもしれないんだもの。研究する価値は充分だわ」

 

「……それもそうね。紅朗ーーか」

 

 ニヤリと笑う彼女に21号も頷く。

 

 強力なエナジーが自分と彼女を満たしていく。これならば、分離も容易いだろう。

 

「じゃあ、そろそろ始めましょうか?」

 

「そうね。手っ取り早く片付けちゃいましょう。さっさと修二とフューを叩き潰さなくちゃね」

 

 二人は同時に気を高めていく。

 

 赤と黒の炎のようなオーラを纏う21号と紫と黒の炎のようなオーラを纏う彼女。

 

「「ハァアアアア!!」」

 

 一気に気を臨界点まで高めて吹き飛ばしていく。

 

 彼女たちの目に映るのは泣いている少年。

 

 夕焼けの日に告げられた言葉。

 

 そして無数の気絶して倒れている少年たちの向こうを歩く黒詰の学生服を着た人物。

 

「ーー何、これ?」

 

「リンクシステムの影響かしらね。あの紅朗ってヤツの記憶? つまらないわね」

 

「ホント、下らない。英雄になりたい、だなんてーーねぇ」

 

 失笑する二人の21号は、そのまま垂れ流される光景を暇つぶしに見ながら力を解放していった。

 

ーーーー

 

 モニターの光を受けて怪しげに微笑む青年を前に両手足を縛られた桃色の肌をした魔人の女性は透明な涙を流していた。

 

「? どうしたの?」

 

「ーー今の映像は?」

 

 その言葉にフューは笑みを浮かべた。

 

「ああ、どうやらまだ君と彼女たちの間には繋がりがあるみたいだね。君が見たその映像は多分、紅朗君のものだよ。彼の過去の記憶がエネルギーを通して見えたのかもね」 

 

 それだけではない、と本来の21号は思う。

 

 この胸を突き刺すような哀しみと、喪失、憎しみ。

 

 色々な感情が彼女の心の中にある。そして、それを必死で押さえつけようとしている彼の心を。

 

 それを晒すことが”みっともない”と彼は言ってる。

 

 振り返りたくもない過去だと。

 

「ーーどうし、て。貴方はーー!」

 

 フューは涙を流す21号の手枷と足枷を外し、座り込む彼女の前にしゃがむと懐から錠剤の入った小さなケースを取り出した。

 

「これは、君の捕食衝動を研究して、ある程度抑えられるようにした薬だ。定期的に摂取しないと薬が切れて暴走するかもしれないけど。これを研究して君の捕食衝動を完全に克服することはできると思うよ。何なら、カプセルコーポレーションに持っていくといいと思う。君とブルマの頭脳があれば克服はできるだろうし、もしかしたら応用して色んな医学に役立てることも出来るかもしれない」

 

「……あなたは、何がしたいのですか? 私や16号や紅朗さん、折戸さんに、何をさせたいと?」

 

 その問いかけに意味があるかは分からないが、問わざるを得なかった。

 

 だが、フューは意外にも素直に応える。

 

「僕は見たいだけだよ。真・超サイヤ人の力と、それに目覚める可能性のある存在をね。もう一人の君が作り上げたクローン悟空が変身できたんだ、何かあると思ってる。そのためにも、紅朗くんは僕にとって大事な研究材料なんだよね」

 

「……!」

 

 目を吊り上げる21号にフューは困ったような顔をした後、笑顔になった。

 

「怒らせちゃってごめんね。でも、君が彼を助けてくれたら、彼はもっと先に行くと思うんだ。苦しい過去の記憶を乗り越えて孫悟空にも頼らずに前を向いて行けるようになれる。そうなった紅朗くんは、きっと折戸君にも必要な強さだから。今は助けてあげてね、お願い」

 

 それだけを告げると21号の前からフューは姿を幻のように消した。

 

「な!?」

 

「ーーじゃあね、21号。君は、幸せになるべきひとだよ」

 

 そんな声が響く中、21号は複雑な表情で消えた青年の声を聴いていた。

 

「! いけない。ボーっとしてる場合じゃない。16号達を助けないと!!」

 

 気を高め、オーラを纏う21号の前にクローンベジータとクローンナッパが現れた。

 

「あれ?なんで鎖が外されてんだ?」

 

「フューの奴、マジ使えねぇな。折戸さんに後で言っとこうぜ」

 

 彼らは意思を持ち、会話をしている。

 

 ニィっと口が裂けたような笑みと共に紅い瞳が輝き、黒のオーラに白いスパークが走る。

 

「まあ、いいや。取り敢えずボコればいーんだろ?」

 

「サイコー。この力、早く試したかったんだよ!!」

 

 強烈な気を纏う二人に、21号の表情が歪む。

 

「目を覚ましてください! 貴方達は、騙されているんです!! 折戸さんの言う事を聞いてはいけません!!」

 

 ニタァと笑う二人のクローンサイヤ人。話など聞くつもりはないようだ。

 

「ーーどうすれば」

 

 苦悶の表情になる21号の脇から、強烈な気弾が二人のクローン戦士に当てられた。

 

「!? 誰だ!!」

 

「なんだよ、残りカスの21号以外に、まだなんか居たのかよ!?」

 

 彼らが見つめる先には、研究所の扉を開けてゆっくりとこちらに手をかざす、二人の長身の異形がいた。

 

「貴様らの相手、私達がしてやろう」

 

「やれやれ、雑魚ばかりしかしいないのか?」

 

 完全体の人造人間セルに究極の魔人ブウである。

 

「な、なんだと!?」

 

 目を見開く転生者のクローンベジータに向かいセルが笑いかけた。

 

「貴様らに聞きたいのは一つだ。折戸とやらの出来損ないのクローンの背後に居るのは誰だ? 貴様らは、何故この世界に呼ばれた?」

 

「私も気になっていてね。お前達が纏う力は魔術ーー魔界の技だ。何故、お前らにそんな力があるのかーーな?」

 

 二人の異形は口元こそ笑みを浮かべているが、とても寒気のするような冷たい目をしていた。

 

ーーーー 

 

 16号が目を見開く。

 

 紅朗から膨大なエナジーが送り込まれ、21号の肉体を赤と黒の炎のようなオーラが纏うと同時に一気に気が爆発した。

 

「この膨大なエナジーは!?」

 

「真・超サイヤ人のエネルギーを取り込んだか。それにしても、ヤツは面白い真似をする。まさか自分で意識を分裂するとはな」

 

「なに?」

 

 桃色がかった白い髪を靡かせて桃色の肌をしたセクシーな魔人が笑う横で、同じ見た目だが肌の色が紫色に、髪の色が青みがかった白に変わった女魔人が立っている。

 

「ーーいつまで人の腕をつかんでるのかしら?」

 

 長い尾を鞭のように使って横薙ぎに一閃、咄嗟に手を離してガードする紅朗だが、威力に後方へ下げられる。

 

 距離を開けて二人の女魔人に対峙する紅朗は肩で息をし、全身に汗を掻きながら分裂した21号を見つめる。

 

「……どういうことだ? 捕食衝動に支配されかかってたんじゃないのか?」

 

「酷い言いぐさね。別にアタシは、衝動に意識を侵されていたわけじゃないわよ」

 

 これに浅黒い肌に禍々しい斑点を浮かべた方が応える。

 

 そして元の21号がニヤリと笑った。

 

「さあ、形勢有利ね。どうするのかしら?」

 

 ただでさえ女に手を上げられず防戦一方だった上に、エネルギーを分け与えて分裂させたが故。

 

 紅朗のスタミナは、とことんまで落ちていた。

 

 真・超サイヤ人を解除しなければならない程に。

 

 追い詰められる紅朗の左右に、人造人間16号と神ザマスが並び立った。

 

「! 16号、ザマス!?」

 

 目を見開く紅朗にザマスが応える。

 

「力を使い切るとは、マヌケめ。貴様は、指を咥えて見ているがいい」

 

 相変わらずカチンと来る言い方にイライラする紅朗の前で16号が構える。

 

「ーー紅朗、コレは俺の問題でもある。気持ちは有難いが横入りさせてもらうぞ」

 

 強い意思を秘めた瞳で人造人間16号ははじめて、二人の悪と化した21号に構えた。

 

 





次回も、お楽しみに(´ー`* ))))


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第26話 悟空、またコイツ等だ

ちょっと変えていくとか言ってましたが、ちょくちょく進めていきます( *´艸`)

よろしく~( *´艸`)



 

 

 俺の前に、二人の男の背がある。

 

 片方は緑色の肌に白い髪を持つ神ーーザマス。

 

 もう一人は、緑色のジャケットを着たオレンジ色の髪をモヒカン風にした大柄な人造人間ーー16号。

 

「て、テメェらーー!」

 

 思わず呟く俺をザマスが一瞥した後で、隣に立つ16号を横目で見て言う。

 

「心意気は良いが、先程のクローン程度に手こずるお前の力では相手にならんぞ。どうするつもりだ?」

 

 これに16号は構えながら呟く。

 

「防御に徹すれば時間稼ぎくらい可能だ。お前でも21号二人を相手には苦戦するぞ」

 

「ーー愚かだな。神たる私が、人間如きに作り出された醜い化け物二匹に劣ると思うのか?」

 

 肩をすくめて呆れたように呟いて笑うザマス。

 

「ーーっ」

 

 自分を笑うザマスを無視して16号は二人の21号を睨みつけている。

 

 その真剣な態度に微かにザマスの目が細められ、21号に向けて構え直した。

 

「好きにするがいい。その代わり、私の足を引っ張ろうものなら遠慮なく斬り捨てるぞ?」

 

「ーーすまない」

 

 構える神様と人造人間を前に、浅黒い肌の全身に斑点が浮き出た21号が極悪な笑みを浮かべる。

 

「作戦タイムは、お終いかしら? じゃあ、ティータイムを始めましょう」

 

 桃色の肌をした21号が彼女の後に続く。

 

「16号、アタシに逆らうとどうなるか。分かってて、やってるのよね?」

 

 表情を消し、目にハッキリと怒りを表す21号。

 

「紅朗一人に任せてはいられない。21号、お前は俺が止める。お前の本当の心を、守ってみせる」

 

「ーーそんなにアイツが大事? ふ、フフフ、なんてバカな子なのかしら!?」

 

「…何と言われようと、俺はお前を止める。そして最後まで傍にいる。それが、お前との約束だ」

 

「私はアイツじゃない。そんな事も分からないガラクタに成り下がったのかしら?」

 

 会話を続けようとする二人に浅黒い肌の21号が前に出てきた。

 

「いい加減にしなさいよ。ベラベラと話したいだけなら引っ込んでくれない? 狩りの邪魔だわ」

 

「あら?ーー誰に向かって言ってるの、アンタ?」

 

 浅黒い方に桃色の方が睨みつけていく。

 

 こいつら、自分同士なのに連携するどころか、好き放題やってんぞ。

 

 どうすんだよ、こんな面倒くさい連中。

 

 全身から流れる滝のような汗と、全力疾走し切った後のような心拍数。荒い息で、会話もままならない。

 

 それでも不思議と、周りの連中が何をしているのかは見えており、思考もクリアになってる。

 

 身体が動かない上に、めちゃくちゃ疲れてるから口を動かすのも億劫で、声も出ないが。

 

 文字通り何もできねぇな。

 

「16号と言ったな。お前は、ロゼ色の方をやれ。私は、より醜悪な黒い方を受け持ってやろう」

 

「…いいのか?」

 

「話をしたいのだろう? ならば出来ない方に構っても時間の無駄だ。もっとも、話が出来たからと言って何が変わるとも思えんが」

 

「…やってみなければ、分からない」

 

「諦めの悪いことだな」

 

 それだけを告げるとザマスは右手刀を構えて青紫色の光の刃を生み出し、睨み合う二人の21号の間に一気に躍り出た。

 

 目を見開く桃色の方には目もくれず、こちらを見て笑みを浮かべている浅黒い方に向かって斬りつけた。

 

 甲高い金属音が鳴り響き、ザマスの刃と同じように21号は真紅の刃を右手刀を構えて生み出し、鍔迫り合いをしている。

 

「御大層な事を言ってたけど、大したことないわね。神様の刃って、この程度なの?」

 

「ーーフン。我が剣技について来れると思うな!!」

 

 同時に高速移動で消え、斬閃を繰り出し合う。

 

 相手の斬撃を捌き、払い、巻き上げて斬り返すザマス。

 

 超反応とスピードとパワーで力任せに斬りつける21号。

 

(なるほど。私の技に反応できるだけの力はある、か)

 

(ふぅん、面白いじゃない。アタシの動きに対応できるなんてーーねぇ)

 

 まったく互角の剣戟を空中と地上問わず繰り広げる奴等の下で、16号が桃色の肌の21号を睨みつけていた。

 

「21号!! もう、こんな事は止めるんだ!!」

 

 叫ぶ16号に対峙している21号は不快そうに顔を歪める。

 

「うるさいわね。アタシを裏切るつもりはないって言いたいわけ? なら、向き合う相手が違うでしょう?」

 

「いいや。俺が止めなければならないのは、お前だ」

 

 瞬間だった。

 

 21号はアッサリと16号の前に踏み込むと、手刀を作り赤色に光る刃を形成すると腹に突き刺した。

 

「16号っ!?」

 

 俺の声が張り裂けそうなほど場に大きく響いた。

 

 あの女、躊躇なく腹を貫きやがった。

 

 目を見開く16号に21号は笑いかけた。

 

「今更、アンタに何ができるっていうのかしら?」

 

 深く更に突き刺して、右に光刃を払う。16号の腹に巨大な穴ができ、横薙ぎに斬りつけられて脇腹まで引き裂かれた斬撃痕が生まれ、更に左腕までも斬り落とされた。

 

「あ、の! クソ野郎ぉおお!!!」

 

 膝を崩し、火花を散らす脇腹と左腕を抑えて止まる16号を見てブチ切れる。

 

 本来の人格がヤツの中に居ないなら、もう関係ねぇ!!

 

 ぶっ潰してやる!!!

 

 だが、俺の心に反して身体は全く動かない。

 

 なんでだよ、まだ動いてくれよ!!

 

 この身体は、まだ動けるはずだろうが!!!

 

 そんな俺を嘲笑う様に21号は16号をゆっくりと睨み下ろす。

 

「ーーねぇ、16号。アタシに逆らって、生きていられるなんて思ってないわよね?」

 

「21号ーー!」

 

 瞳を細める16号に、21号は笑みを浮かべながら光刃を頭上にかざした。

 

 あ、あの女。

 

 あのまま振り下ろして16号の首を落とす気か!?

 

 するとザマスと斬り合っている方の21号が叫んできた。

 

「ちょっと! そいつもお菓子にする予定なんだから、勝手に壊さないでくれる?」

 

 ザマスを斬り払いながら、距離を取り構える黒い方。

 

「何を言ってるのよ? 機械が元で出来てるコイツを食べたところでお腹なんか膨れないわよ」

 

 16号の前で光刃を掲げていた桃色の方が、剣を下ろして肩を竦める中、黒いのが言った。

 

「腹の足しっていうでしょ? とにかく壊すならケーキに変えて」

 

「………フン」

 

 そんな二人の21号を前にザマスが目を細めながら笑みを浮かべ、構える。

 

 意外だ。アイツなら、自分と戦ってるのに余裕ぶってる21号を睨みつけるくらいすると思ったが。

 

「この私を相手に、食事の心配をする余裕があるとは。どこまで持つか楽しみだ」

 

 どっちが悪役か分からん顔で笑いやがる、ザマスめ。

 

 ホントに界王神様なのかよ?

 

 そんな俺を置いて二人の悪の21号が告げた。

 

「ーー21号が複数居ると、流石に面倒かしらね」

 

「それもそうね。なら、名前を決めましょう?」

 

 黒い方がメントと名乗り、桃色の方がローフと名付けられた。

 

「ローフ、ね。さすがアタシ、悪くないわ。それならアイツは元の21号かしら?」

 

「アイツは、ディーベで良いでしょ?」

 

 悪意ある笑みを浮かべる二人の21号ーーメント、ローフに16号が目を見開く。

 

「ーー21号」

 

「今の話、聞いてた? アタシはローフって名乗る事にしたから」

 

 桃色の方の21号ーーローフはそう言うと右手の人差し指を伸ばして光を生み出す。

 

「と、言っても。すぐに居なくなるんだから、関係なかったわね」

 

 あの女、今度こそ本気で殺しにかかるつもりか。

 

 16号の気持ちがあるから、黙っていたが。やっぱ俺が出ないとダメか。

 

 理不尽なもんだよな。強大な戦闘力の前には、想いや覚悟なんか、まったく通じないんだから。

 

 クリリンさん達や16号を見るたびに思い知らされる。

 

 つくづくシビアな世界だと。

 

 まだ5分も休めてないが、仕方ない。やらなきゃ誰かがやられる、やられてたまるか。

 

 誰一人、やられる訳にはいかねぇ。

 

 笑う膝に喝を入れ、無理矢理立ち上がろうとする俺の右手がーー掌に埋め込まれたコアが、突如光り出した。

 

「ーーおいおい、いいタイミングだな。丁度、助けて欲しかったところだよ」

 

 俺のボヤキだか、愚痴に応えるように緑色の光は超サイヤ人孫悟空の姿へと変わる。

 

 左胸に「壱」のマークを描いた山吹色の道着を着た、金髪翠眼の男に。

 

「毎度、すまねえ。壱悟」

 

 俺の言葉に壱悟は静かに首を横に振って「気にするな」とジェスチャーしてから俺を背にして庇う。

 

「ーーソイツが自我の芽生えたクローン? 面白そうね」

 

 21号ーーローフは、動けない16号から目を壱悟に向け赤い眼を細めて笑う。

 

「ーー何が、面白い?」

 

 静かな声に思わず俺は壱悟を見つめた。

 

 悟空とそっくりな声は、静かで透き通るように冷たい。

 

「い、壱悟? お前……!」

 

「……」

 

 超サイヤ人孫悟空そのものの見た目をした俺の分身は、静かな翡翠の瞳で俺を見据えてきた。

 

「紅朗さま、この女は俺が倒します。よろしいですか?」

 

 その言葉は冷たく一切の感情が無い。

 

 向かい合う俺が思わず凍り付くほどに冷たい殺意だった。だが、飲まれるわけにはいかない。

 

 16号の為にも此処で壱悟に負けるわけには。

 

「壱悟、俺たちの話は聞いていたんだろ?」

 

「ーーええ。ですが、俺もブラックの言葉に賛成です。この女からは、悪の気しか感じられない」

 

「それでも、ソイツは16号のーー!!」

 

「ーーだから、苦しまずに葬ってやれば良いでしょう」

 

 その言葉に俺は目を見開くしかできない。

 

 氷のように冷たい殺意と声が、悟空やブラックとは全く違う種類の怖さがある。

 

「やめろ。お前はーー!!」

 

「ーー俺は、貴方が憧れる孫悟空という戦士ではない。俺は、あなたの影となるもの」

 

 その言葉に俺の心のどこかに、ひびが入るような音がする。

 

「あなたが出来ないのならば、俺が代わりを務める。紅朗さま、あなたに出来ないことなどない」

 

 呆然とする俺の前でローフが構えを取っている。

 

「言ってくれるじゃない? たかがアタシの非常食に過ぎないクローンの分際で」

 

「……たかが人造魔人が、何様だ?」

 

 冷笑を浮かべる壱悟に、俺は嫌なものを感じる。

 

 それは、その笑みは、俺がーーガキの頃に封じた殺意と悪意を込めた笑みそのものに、見えた。

 

 これにもう一人の21号・メントと鍔迫り合いをしたままザマスが横目で言ってきた。

 

「ほう? ただのクローンではないと思ったが、なるほど。紅朗、壱悟を止めるな」

 

「なんだと、ザマス?」

 

「少しは、貴様も見る目を養え。ソイツは、お前と違って自分自身から逃げ、現実から目を背ける程に弱くはない」

 

「……!」

 

 ハッキリと言い切られて、俺は何も言い返せない。

 

 怒りすら湧かずに、ザマスを見返すことしかできなかった。

 

「ーー黙れ、ブラック。俺の前で紅朗さまを侮辱することは許さん」

 

 瞬間、壱悟の冷たい殺意がザマスを向いていた。

 

「私は事実を言っただけだが?」

 

「……紅朗さまに足りぬモノがあるのなら、俺が補う。それだけだ」

 

「ほう? まぁ、精々がんばることだな。己の主の評価を落とさぬように」

 

「……愚問」

 

 それだけを告げると壱悟は一気に気を高めて爆発させた。

 

 同時にローフの踏み込みからの右ストレートに反応して下をかいくぐり、右拳を返している。

 

 両者の目つきが鋭くなり、一気に秒間100を越える打ち合いが始まる。

 

 その場での打ち合いはどちらも譲らず、高速移動合戦が始まった。

 

 防戦一方だった俺と違い、壱悟は21号相手に引けを取らない。

 

 そらそうか。アイツのセンスは、悟空そのものと言っていい。

 

 完全体のセルも相手にできたセンスの塊だ。

 

 21号--ローフだったか、がどれだけ強くても同じ土俵の上なら負けないだろう。

 

 ローフは自分の攻撃を捌きながら向かってくる壱悟の右拳を左腕で受け止め、表情をはっきりとゆがめた。

 

「少しはできるみたいね。でも、アタシを相手に大口を叩くには足りないかしら?」

 

「……のぼせ上がるのもいい加減にしろ。……下衆が!!」

 

「!!?」

 

 瞬間、黄金の炎が壱悟の足元から吹き上がり翡翠の瞳に黒い瞳孔が現れる。

 

 冷徹な殺意が更に極まる。

 

 絶対零度ーーそんな冷たい炎が、壱悟の瞳から溢れている。大地がめり込むほどに強烈な踏み込み。

 

「なーーんですって!?」

 

 拳を受け止めていたローフが、ガードの姿勢のまま遥か後方へ弾き飛ばされた。

 

(バカな、ダメージが再生できない!?)

 

 空中で驚愕の表情のまま歯を食いしばり、体勢を整えようとするもその背後を高速移動で壱悟が取っている。

 

「紅朗さまが本気で貴様を殺すつもりなら、勝負はとうに付いていた」

 

 拳を振りかぶる。俺には、それが酷くスローモーションに見えた。

 

「思い知れーー!!」

 

 黄金の炎を纏った拳を握りしめて、壱悟がローフの顔に向かって振り下ろした。

 

 横頬にまともに入り、そのまま地面に向かって落ちる。

 

(バカ、な? この、アタシがクローンなんかに?)

 

 二人が地面に接触する瞬間に拳に溜まっていた強大な炎が爆発し、地形を変えて衝撃波が生まれた。

 

 暴力的な力の権化に俺は何も言えない。そっくりだ、あの頃の俺に。自分が抑えつけた、あの力に。

 

「驚いたわ。出来損ないとは言え、ローフ(アタシ)を簡単に倒すなんてーーねぇ?」

 

 ザマスと対峙している方の21号ーーメントが笑みを浮かべながら倒れ伏したローフと拳を引き抜きながら立ち上がる真・超サイヤ人の壱悟を見ている。

 

 だが壱悟は自分に話しかけてくるメントを完全に無視してザマスを見つめる。

 

「……どうした、神さま? その程度の相手に何をてこずっている?」 

 

「フン。少し確認をしていただけだ」

 

「………確認?」

 

 訝しげに眉をひそめながら真から通常の超サイヤ人に戻る壱悟を前にザマスは淡々とした表情で応えた。

 

「分からなければ構わん。だが、確かに貴様の言うとおりだ。時間の無駄だった」

 

 それだけを告げるとザマスの瞳が銀色に輝き白銀のオーラを纏う。

 

 瞬間、鍔迫り合いをしていたメントの刃を巻き上げ、すれ違いざまに右手刀を袈裟懸けに放って斬り捨てる。

 

「ーーな!?」

 

「せっかく上がった力を二つに割いたことで、力が半減しているようだな? そんな程度で私の相手が務まると思っていたか?」

 

 動きが止まるメントを静かにザマスは見据えて告げる。

 

「やはり、お前達の中には本来の人格は残滓すら無い。となれば、誰かがこの場に来る前に抜き取ったーーか。そんなことが出来るのは、例の魔界の小僧しかいない」

 

 呟きながら前のめりに倒れ伏していくメントには見向きもしない。

 

 ザマスの野郎。ゴクウブラックにならなくても、こんなに強いのか!?

 

 一撃で二人の21号を倒した壱悟とザマスを呆然と俺は見ていた。

 

「ようやく目当ての相手の尻尾が見つかったようだ」

 

 ニヤリとザマスは笑っている。

 

 その眼は、真っ直ぐに研究所の扉を見ていた。

 

 左腕を破壊され、腹に大穴を空けられた16号が倒れ伏した二人の21号を見つめて目を細めている。

 

「おかしい、21号には強力な再生能力があるはず。何故?」

 

 一向に起き上がってこない二人の人造魔人に16号は不思議そうだった。

 

 そりゃそうだ、魔人ブウなら一瞬で回復して元通りになってる。実際、二人の21号も傷自体は完治している。

 

 だが、起き上がってこない。

 

 完全に意識を断たれている。

 

「ーー何でもありかよ。真の一撃ってのは」

 

 思わずつぶやく俺にザマスが顔を向けて来た。

 

「当然であろう。この拳は、ただひたすらに己を鍛え神の域に来た拳。絶対的な一撃とさえ言える」

 

「神の域ーーか」

 

 拳を握りしめて俺も頷く。

 

 確かに、俺の超サイヤ人も一気にゴッドを吸収できたレベルに引き上げられてる。それは、超サイヤ人2や3を一気に超えた域だ。

 

 とどのつまり、武術が神の域に来なければ真の一撃とやらは打てないってことか。

 

 とんでもない話だな。

 

 破壊神ビルスと組み手したのが、俺に良い刺激となり結果的に神の域に引き上げられたってわけか。

 

「とりあえず、ありがとうよ。壱悟、ザマス。テメェらのおかげで、なんとか21号を捕らえることができたみたいだ。な、16号」

 

「……ああ。すまなかった」

 

 16号は申し訳なさそうに頭を下げているが、考えてみれば俺って敵を増やして無駄に事態を悪化させただけで何も良いことしてない気がするんだが。

 

「……いえ。二人に分裂させたから、彼女の中に本来の人格が完全に抜け落ちていることが分かった。無駄ではありません」

 

 壱悟のフォローが目に染みる。

 

 そんな俺の内心なんぞお構いなしに、ザマスが告げて来た。

 

「それよりも、気付いているか? 来るぞ」

 

「え?」

 

 瞬間だった。物凄い衝撃と爆発が目の前で起こる。

 

 岩壁に出来た頑強な鉄の扉が紙のように吹き飛び、中から桃色の肌をした白髪の美女が飛び出て来た。

 

「な!? 21号!!」

 

 目を見開く俺の横で淡々とザマスが呟く。

 

「まだ居たか?」

 

 構える壱悟とザマスを16号が止めた。

 

「待ってくれ! アレは本来の人格の21号だ!!」

 

 その言葉に俺たちは動きを止めて改めて出て来た21号を見つめる。

 

 彼女の眼は強膜は白く瞳は黒い瞳孔が拓いた青だった。

 

「16号!!」

 

 彼女は16号を見るなり、一気にこちらに駆け着けて16号を抱き支える。

 

「ごめんね。アタシが弱かったから、こんな目に貴方を遭わせて」

 

「……気にするな。何があっても、俺はお前と共に居る。そう約束した」

 

 涙を流しながら必死に16号を支える21号に、微笑みを浮かべて16号は語っている。

 

 とりあえず、一件落着か?

 

「紅朗、何をボサっとしている?」

 

「……紅朗さま。お下がりください」

 

 ザマスが、壱悟がそう言ってくるので前を向き直ると。

 

 爆炎の向こうから二つの長身の影が見えて来た。

 

 奴らは、手に何かを持って引きずって現れる。

 

 それが人影だと気付いた時には、奴らは俺の前に再び現れた。

 

「ほう? 少し見ない間に見違えたぞ、紅朗」

 

「フン、まさかその女を倒せる程になっていたとは。セルがこだわるのも間違いではなかった、か?」

 

 気取った笑みを端正な顔に浮かべた二人の化け物。

 

 人造人間セルと究極魔人ブウ。

 

 またコイツらか。

 

 表情が引きつるのを感じる。しかも、そいつらの右手には、気を失ったベジータとナッパのクローンがいる。

 

「そ、そいつらは折戸の仲間か?」

 

「ああ。中身は貴様と同じ世界から来た身の程知らずの馬鹿どもだ。もっとも、コイツ等のおかげで折戸とやらのカラクリは分かったがな」

 

 セルが笑みを強めながら俺たちを見つめる。

 

 ブウがニヤリとザマスを見つめた。

 

「久しぶりだな。未来世界とやらで会って以来だ……! あの時は、決着を付けそこなった」

 

「フン、まだ生きていたか。薄汚い魔人風情が」

 

「お互いさまだろう? 世界を滅ぼした神よ」

 

 その言葉に俺はザマスとブウを交互に見てしまう。

 

 こいつら、知り合いなのか? 世界を滅ぼした神? ザマスは、世界を滅ぼしたのか?

 

「折戸とか言う転生者を追いかけるつもりだったが、気が変わった」

 

「そうだな。目の前の連中のほうが奴らよりも面白そうだ」

 

 楽し気に笑いながらセルとブウが神の域に至った炎のような形をした気を纏う。

 

 コイツは、再戦決定か。

 

「おい、21号。16号を頼んだぜ」

 

 俺がそう告げると、21号は俺たちを驚いた表情で見返してきた。

 

「ですが、紅朗さん達は?」

 

 決まってんだろ? 相手が女じゃないなら遠慮は要らない。

 

「上がった腕を教えてやんよ、セミ野郎!!」

 

「……あの時と同じように行くと思うなよ」

 

 俺と壱悟がセルに向かって叫ぶ中、ザマスは指輪を光らせて黒い道着を着たゴクウブラックに変身した。

 

「さて、神の裁きを始めるとしよう」

 

「フフ、楽しめそうだな」

 

 究極魔人ブウがブラックに向かい合う。どっちが悪役か分からん笑みを浮かべて笑い合う二人。

 

 もうね、コイツ等やべぇよ。

 

 だが、頼りになる。

 

「では、ゲームを始めようか? 敗北か死か、それだけの単純なルールのゲームをな」

 

 そう言うセルに向かって俺は超サイヤ人に変身しながら構えた。

 

 

 

 




次回も、お楽しみに( *´艸`)


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第27話 悟空、俺はどうすればいいんだ?

と、言うわけで続編です(´ー`* ))))

楽しんで下さい(´ー`* ))))


 泣いている男の子がいる。

 

 大勢の人を殴っていく顔が、悲痛に歪んでる。

 

 そんな自分を彼は嫌っている。

 

 暴力に訴える自分を嫌いだと泣いている。

 

「じゃあ、どうして辞めないのだろう?」

 

 楽だから、だと声がする。

 

 自分がクズだと思えば楽だから、だと。

 

 泣いてなどいない、喜んでいる。俺はカスだがカスの中なら誰にも負けないと。

 

 でも、だけど。

 

 涙を流してないだけで、その顔が歪んでるのは怒りのせいじゃない。憎しみのせいだけじゃない。

 

 なれないって泣いてる。

 

 強くなりたいのに、なれないって。

 

「紅朗さん、貴方はーー」

 

 彼の中に居る憧れの人は、太陽のように眩しくて温かくて、誰にも侵せない英雄だった。

 

 孫悟空ーー、別の世界にいる紅朗さんを。

 

 本来なら交わるはずのない、出会うはずのない彼の心を自分の生き方を見せただけで救った人。

 

 出会ってなお、紅朗さんに希望を抱かせる人。

 

「憧れーー。紅朗さんにとって、全てだった人」

 

 でも、紅朗さんは知らない。

 

 貴方がした事で救われた人もいることを。

 

 貴方がした事が、どれだけ尊いことなのかを。

 

 少なくとも、私と16号は貴方に救われたんです。私達のように貴方に救われた方も、きっと居るはずです。

 

 どうか、それを忘れないでーー。

 

ーーーー

 

 金色のオーラが俺の身に纏う。

 

 力が、溢れてきやがる。

 

 負ける気がしねぇ。

 

 目の前のハンサムな虫やろうが、どれだけ強くてもおとなしく負けてやる気は一切ねぇ!!

 

「……少しは良い面構えになった。そう、そうでなければ面白みがない」

 

「言ってろよ。すぐにその笑い顔を吠え面に変えてーーやらぁ!!」

 

 叫びながら気を爆発。一気にダッシュしてセルの間合いへと踏み込む。

 

「今度はーー。貴様が地べたを舐める番だぁ!!」

 

 同時に壱悟も俺の意図を読んで反対側からセルに攻め込んだ。

 

「さて、どうかな?」

 

 不敵な笑みを浮かべてセルは構えを取ると、俺たち二人を相手に真っ向から迎え撃ってきた。

 

 踏み込んだ俺の鼻先に右ストレートを放ってくるセル。

 

 頭の中に浮かんだ選択肢は、自分の右腕で拳を下から上にカチ上げて弾き、カウンターの左ストレートでのけぞらせた所を、右の上段回し蹴りで吹き飛ばすか。

 

 紙一重で拳の下に頭から滑り込んで懐に踏み込み、左右のショートストレートを連打でボディに叩きつけてラッシュに持って行くか。

 

 顔の前に左掌を置いて拳を掴み止めて自分の左側に引きながら相手の腕を取り一本背負い投げを打つか。

 

 取れるべき手は、いくらでもある。

 

 なら俺はーー!

 

 両手で目の前に迫るセルの右拳を掴む。

 

「これならーーどうだ!!」

 

 叫ぶと同時に右足で顎にサマーソルトキックの要領で蹴りを放った。

 

 腕を伸ばしきった上に、両手で捕まれて固定されているから、ヤツに蹴りを捌くことはできない。当たる!!

 

「甘い」

 

 セルは背を後ろに反らして避けるのでなく、首を左に倒して顎の位置を変えるだけでほとんど体勢を崩すことなく避けた。

 

 うそだろ!?

 

 目を見開く俺の頬に左の拳が打ち付けられ、地面に背中から叩きつけられる。

 

「ぐぁああ!!」

 

 やられた!!

 

 跳んだところをはたき落とされたヒキガエルのように仰向けに倒れる俺ーーだが。

 

 セルの両手はこれで、一瞬使えない。

 

 壱悟が、その隙を逃すわけがない。

 

 セルの懐に見事に踏み込み、左拳をボディに放つ壱悟。

 

 だが、セルは右拳を自分の脇腹の前に持ってくると裏拳気味に壱悟の左ボディを払った。

 

「ぐっ」 

 

 壱悟の腹に、セルの右拳が叩き込まれている。

 

 野郎、ボディブローを弾いた拳でそのまま、カウンターの右ボディを壱悟に叩き込みやがった。

 

 当然、壱悟の動きが止まる。そこをセルが見逃すはずがない。

 

 強烈な右の後ろ回転蹴りが槍のように突き出されて、ボディブローで動けない壱悟の腹を打ち貫いた。

 

「がぁ!?」

 

「壱悟!!」

 

 後方に一気に俺の横にふっ飛ばされる壱悟を見て、寝てる場合じゃないと立ち上がる。

 

 ゆっくりとこちらを気弾を指先に生み出して向くセルを見返す。シャレにならん。

 

 コイツ、やっぱりあの時は三味線弾いてやがった!!

 

「ーーほう? 私の力に驚いていないようだ。むしろーーこの程度は出来て当たり前、と思っていたか?」

 

 俺の表情から何かを読み取ったのか、セルは指先に溜めていた光を霧散させて構えを解き話しかけてきた。

 

「ああ。テメェは唯一、悟空が悟飯に託さなければ勝てなかった化け物だからな」

 

 孫悟空が実力で敵に負けていることは、よくある。

 

 ベジータ、フリーザ、セル、魔人ブウ。

 

 この4人は、悟空一人で勝てる相手じゃなかった。

 

 ベジータはクリリンに託した元気玉や悟飯の頑張り、ヤジロベーの援護。

 

 フリーザなら、超サイヤ人。

 

 魔人ブウなら、元気玉。

 

 だけどセルは、セルの時だけは悟空は闘いをーー倒す役割を悟飯に譲った。

 

 当時の悟空はどう足掻いても、セルには勝てなかった。

 

「私を倒せれば貴様は、孫悟空にある意味で勝つ事になるぞ? 真・超サイヤ人に変身すれば可能性はある」

 

「壱悟(相方)有りきでな。タイマンじゃ勝負にならないのは、今ので分かったぜ」

 

 紙一重で躱されたのは、こっちの動きや思考が全て読まれてる証拠だ。

 

 真・超サイヤ人に変身しても多分、勝てねえ。

 

 それが分かる程度には、俺も強くなったってことか。

 

 真・超サイヤ人に変身すればタイマンでも勝負にはなるだろうが、前みたいに時間切れで倒れて終いだ。

 

 壱悟と同時に変身して二人掛かりでも勝てない。

 

「フフ。やはり、ある程度は考える頭が無いとつまらん。こういうやり取りすら出来ないような輩では楽しむことも出来ん」

 

 そう言いながら、セルの気が一気に膨れ上がる。

 

 この力ーー野郎の目を見れば分かる。フルパワーで来る!!

 

「見せてやろう。このセルの恐ろしい真のパワーを、な」

 

 緑がかった金色の炎が、爆発的に吹き上がる。

 

 冷たい汗が頬と背中をつたっていく。

 

 思わず壱悟を見ると、冷静なポーカーフェイスでありながら彼も冷や汗をかいていた。

 

「さあ、紅朗。壱悟、真の超サイヤ人になるがいい。素晴らしい戦いを始めようではないか?」

 

「……!!」

 

「私は、もっと楽しみたいのだ。純粋な力と力の戦いをなーー! 貴様ら二人をねじ伏せた時、私は更なる強さを手に入れることができる。そう確信している」

 

 確かに真・超サイヤ人に変身すれば本気のセルとも勝負にはなるだろう。

 

 だけど、あの力は俺じゃ使い切れない。時間切れで倒れるのが関の山だって、結果は見えてんだ。

 

 どうすりゃいい?

 

 どうすればこの状況を打破できる?

 

 神次元にまで気を高められる超サイヤ人二人でも、なお届かない。映画『神と神』のウイスのセリフを鵜呑みにするなら、このセルの実力はビルスの6割を超えてるってことだ。

 

 この強さは、ねえだろ。

 

「迷っている暇があるのか? この私を前に」

 

 瞬間、目の前にセルが現れる。

 

 気付いた時には強烈な右拳が、腹に突き刺さっている。

 

「紅朗さま!!」

 

 う、動けねぇ。なんて、威力だ。

 

 シャレにならん。

 

「……か、は!」

 

 息が詰まり、動きが止まった俺の顎を長い脚で蹴り抜いてきた。

 

 真上から首根っこを引っこ抜かれたように、天高く吹っ飛ぶ俺。目の前に高速移動で現れるセルが両手を頭上で組むと俺の頭に振り下ろしてきた。

 

「ぐぁああああ!!」

 

 強烈な衝撃を受けて地面に真っ逆さまに落ちていく。両手と両足を叩きつけるように地面に振り下ろし、着地。

 

 目の前に俺を庇ってセルに構える壱悟の背がある。

 

 セルは、その向こうからダッシュして拳を叩きつけてくる。両腕をクロスさせて拳を止める壱悟。

 

「……!!」

 

 だが、地面に突き刺さった両足が溝を掘りながら後方へ下げられる。

 

 俺は咄嗟に壱悟の肩を右手で掴んで支点にして、跳び上がりながら右の上段回し蹴りをセルの顔に放つ。

 

 左手でアッサリと受け止めるセル。瞬間、俺は壱悟の肩から手を離す。同時、壱悟はしゃがみ込んで地面をすくい払うかのように超低空の下段回し蹴りを放ってセルの両脚を刈り取った。

 

「!!」

 

 地面に手を付けながら体勢を整えるセルが目を見開く中で俺が右から、壱悟は左からセルに向かって踏み込む。

 

 同時だ、同時に仕掛けなければ意味がない。

 

 わずかなズレも許されない。

 

 でないと、この化け物は対応してくる。感じろ、壱悟の思考と動きを。同時に合わせろ。

 

「!? 超サイヤ人のオーラが、リンクしている? 何をするつもりか知らんが、面白くなりそうだな」

 

 

 

 この時、紅朗には分かるはずもないが、セルから見れば一目瞭然。紅朗と壱悟、二人の超サイヤ人クローン悟空のオーラが、その波動が全く同じものに変化している。呼吸、動き、思考を共有していた。

 

(互いのオーラが、一つになるとはな)

 

 二人の纏うオーラが、それぞれのモノから一つに交わって強大なモノへと変わっていた。

 

 

 

ーーいける!

 

 壱悟が何をしたいのか、どう動いているのか、手に取る様に分かる。

 

 身体に任せろ、頭に次々と浮かぶイメージを。

 

 悟空の動きをトレースしろ。セルに勝つなら、久住史朗じゃダメだ。

 

 俺が右、壱悟が左の拳を同時に踏み込みながら全く同じタイミングで突き出す。

 

 セルが咄嗟に両手を俺たちの拳に合わせて掴み止めた。

 

 不安定な体勢でも簡単に止めるとは、だけど俺たちの連撃はまだ、終わってない。

 

 止められたと見るや俺と壱悟は反対の拳をそれぞれ握りながら、蹴りと肘、膝を駆使してセルに仕掛ける。

 

 強烈なラッシュをリズムに乗せて放つ。拳が、蹴りがより速く鋭くなり、俺の目は更に見えるようになる。

 

 頭が冴えてきた。

 

 アドレナリンが出て集中力が高まる。

 

 いける、やれる。このまま、行けーー!!

 

「ーーっ!?」

 

 更に踏み込んだ瞬間、俺と壱悟の顔は後方へ仰け反っていた。

 

 まず目の前に居るはずのセルと地面が、視界から消えて真っ青な青空が映る。

 

 頭が一瞬混乱し、首に違和感ーーねじ切れんばかりに仰け反っていることを確認。頰が熱いと感じ、痛烈な痛みが襲ってきた。

 

 俺の左サイドキックを右腕で捌いてから、そのまま右拳をノーモーションで放ってきていた。踏み込んだ分、カウンターで入り、骨の軋む感触と衝撃が顎と頰の間に生まれて、きな臭い匂いが鼻にかかる。

 

 同時に左側頭部に放たれた壱悟の飛び膝蹴りを左腕でガードして左脚を下から上に回し蹴りの軌道で振り上げ、腕と膝の間を縫って腹に突き刺して壱悟を吹き飛ばした。

 

 首を必死に戻すと、目の前にセルが踏み込んでいる。

 

「ーーのやろう!!」

 

 左拳を握って咄嗟に繰り出すも、目の前でセルは身を翻して紙一重で拳を避け、痛烈な右拳をボディに突き上げてきた。

 

 息を吐き、動きが止まった俺の顔にフック気味の左ストレートを叩きつけて身体を脇に泳がせ、右の後ろ回し蹴りで更に顔を蹴り抜く。

 

 たまらずに俺は顔から地面に叩きつけられた。

 

 コンビネーションは完璧だった。それを簡単に見切ってくるのかよ、この野郎。

 

 口に広がる生暖かい鉄の味、うつ伏せに倒れた状態で両手を地面につけて宙返りしながら跳び上がる。

 

 無理矢理地面に両の靴底を叩きつけて立ちながら、俺は口にあふれていた血を吐き捨てた。

 

 セルがニヤリと笑いながら俺と奴の背後で立ち上がってきた壱悟を見る。

 

「フフフ、僅か半日足らずで別人のような動きと判断力だ。継ぎ接ぎだらけだった能力がーー意思と肉体が一致してきている。可能性の塊のような奴らだ」

 

 楽しそうに言いながら、続けてきた。

 

「だがーーそれでも真・超サイヤ人抜きで、本気になった私の相手が出来ると思っているのか? だとしたら、安く見られたものだな」

 

 黒い瞳孔が現れた薄紅色の瞳が冷たく光ってる。

 

「ーー言いたいこたぁ、分かるが。使いこなせない力を出しても意味ねえだろうが」

 

「貴様の言い分も理解できるのだがな、かつてのトランクスのように白けるようなパワーアップなら。だが、私としては貴様らの真・超サイヤ人は非常に面白い。どれだけ突き放しても一気に追いついてくる。敵に回せばこれ程スリリングな者も無いだろう?」

 

「この野郎、負ける気はしねえってのか?」

 

「当然だ。仮に貴様らが真・超サイヤ人を使いこなせていても、私は負ける気はしない」

 

「大した自信じゃねーの。その自信がテメェを負けさせたのも忘れたかよ?」

 

「孫悟飯のことか? ヤツは今、素晴らしい強さだぞ。この私が全力で挑んでなお、勝てるか分からん程に、な」

 

「ーーえ?」

 

 思わず目を見開いて聞き直しちまった。

 

 コイツ、なんて楽しそうに笑ってやがる。あの残忍で冷酷なセルが、なんて楽しそうに笑ってんだ。

 

 プライドの高いセルが。

 

 悟飯に負けてから復活パワーアップしてから手段を選ばずに勝とうとしていたあのセルが。

 

「セル、テメェ。なんて楽しそうに笑ってやがる。悟飯や悟空を恨んでるんだろ?」

 

 だから、思わず聞いてしまった。

 

 俺がカスだと見下していたヤツが、カスが浮かべるはずのない笑みをしたからだ。

 

 するとセルはニヤリと残忍で冷酷な笑みに変わって頷いてきた。

 

「当たり前だ。最強であった私を超える存在など、私は許さん」

 

 その笑い方は、俺の知る悪魔の笑みだ。

 

 他人を傷付けて、怯えてる人間の顔見て優越感に浸る最低最悪のゲス。

 

 俺と同じカスやろうの、はずだ。

 

 自分より弱い野郎をブチのめして、自分は強いとうそぶくクソのはずだ。

 

「ーーだが。それ以上に、かつて私を負かした孫悟飯が弱いなど許せん。強くなければ困る。今の孫悟飯は、正に私が倒すに相応しい男。本物の戦士だ!!」

 

 冷酷なセルの瞳は、熱く燃えている。信じられない。

 

 コイツ、俺と同じカスやろうのはずのコイツが悟空達と同じ目をしてやがる。

 

 強いヤツの目を。

 

「そして、真・超サイヤ人になった貴様や壱悟も私が倒すに相応しい」

 

 俺は、俺は節穴だったのか?

 

 こんなヤツなのか、セルは?

 

 地球ごと破壊しようとしたり、世界を滅ぼすことなんか何とも思ってないようなヤツだ。

 

 それは間違いない。

 

 だけどコイツーー本気で強いヤツと闘い勝つつもりだ。

 

 逃げようなんて思ってない、今のコイツは真っ向から勝負して悟飯や悟空に勝つつもりだ。

 

 いや、惑わされんな。

 

 仮にセルが正々堂々とした強さを持っていても、この野郎は平然と人を殺す下衆だ。

 

 自分の楽しみの為に、他人を傷付けるクソだ。

 

 そんな野郎に敬意なんているものか、そんな野郎に好意なんぞ抱くものか。

 

 必要なのは、敵意だ。殺意だ。

 

 俺は静かに左腕の変身ベルトを見る、クローン道着に着替えるか。

 

 悟空から貰った山吹色の道着だと、正々堂々とした勝負を望むセルに好意じみた感情を抱いちまう。

 

 コイツは倒すべき敵、それ以上でも以下でもない。

 

 ディスプレイの脇にあるボタンを押そうとする俺の手をいつの間にか目の前に来ていた壱悟が掴んで止めた。

 

「ーー紅朗さま。申し訳ありませんが、それは最後まで取っていただきたい」

 

「壱悟ーー。だけどよ」

 

 情けねえ話だが、このままやり合ったら負ける。

 

 認めちまってる。俺は、セルを。

 

「紅朗さま。敵を認めて何が悪いのですか?」

 

「ーーえ?」

 

 壱悟の真っ直ぐな視線と問いかけに、俺は何も言い返せなかった。

 

 答えられない俺に壱悟は冷徹な顔を穏やかに緩めて言ってきた。

 

「ーー紅朗さま。お下がりください」

 

 そう言ったヤツの翡翠の瞳に黒い瞳孔が浮き上がる。瞬間的に気が爆発し、黄金に髪が燃えて同じ色の炎のように激しいオーラを纏う。

 

 冷徹な視線だが、その奥には燃え滾る魂みたいなのを感じる。壱悟は、真の超サイヤ人になった。

 

「セル。俺がお前の相手だ」

 

 真に変身した悟空そっくりの雰囲気と声、気迫。

 

 これにセルは満足そうに笑うと俺をチラリと見てから壱悟に構えた。

 

「火付けの悪い主人を持つと苦労するようだな?」

 

「ーー無駄口を叩くな。行くぞ!!」

 

「フーー、いいだろう」

 

 瞬間、二人の戦士の纏う気が爆発し、壱悟とセルは真っ向からぶつかった。

 

ーーーー

 

 2人の男が向き合う。

 

 片方は2メートルを越える山吹色の道着の上と白いシャノワール風のズボンを履いた端正な顔立ちの桃色の魔人。

 

 もう片方は中背の無駄のない引き締まった肉体にピンクゴールドの逆立った髪に灰色の瞳をした男。

 

 究極の魔人(アルティメット)ブウと超サイヤ人ロゼのゴクウブラックである。

 

 両者はよく似た薄紅色の炎のようなオーラを身に纏っていた。

 

「…なるほど。大界王神達を取り込んだ影響か、はたまたサイヤ人を吸収したが故か。神の魂を持つゴッドのパワーを超えたサイヤ人の力を引き出せるようだな」

 

「ふ。偶然とは恐ろしいものだと、私も感じているよ。この神の気と力を使いこなし、貴様を葬ってやろう」

 

「良いだろう。私の前菜にしては、中々悪くない力だ」

 

 互いに構えを取りながらにじり寄る。

 

 両手を顔の左右の位置に置いて拳を目線の高さに、脇を広げてボディブローを誘うかのようなブウの構え。

 

 中腰に構えて左手を顔の横に置いて前に出し、右拳を握って腰に置くブラック。

 

 先程まで酷薄な笑みを浮かべていた両者の口許は引き締まり、ジッと睨み合ったまま、ブラックがゆっくりとブウの目の前に足を踏み入れた瞬間。

 

 槍のようなブウの左ストレートが放たれた。

 

 鈍く空を切る轟音と共に、ブラックは首を横に倒して紙一重で見切りながら懐に踏み込む。

 

 目の前にブウの右アッパーが迫るも、これも左に身を滑らせながらヘッドスリップして躱す。

 

 同時にガラ空きの脇腹に左膝を放つブラック。

 

 鈍い音と共にブラックの膝蹴りを自分の右膝を上げて止めるブウ。

 

 接近戦となった両者は、拳を握って互いに襲いかかる。

 

「ーーす、凄い。あんな至近距離で、どちらも一発も貰わないなんてーー!」

 

 白い髪をした青い眼の21号が、思わず呟くと。彼女の腕に抱かれた16号が冷静な声をあげる。

 

「凄まじい打撃技の応酬だが、両者共にそれを防ぎ切る見事な防御技術だ。コレは長くなりそうだな」

 

 16号の指摘どおり、その場で足を止めて打撃技をぶつけ合うブラックとブウであるが、一撃も貰わない。

 

 互いに拳を掴み止め、技を技で相殺している。

 

「ーーなるほど。未来世界の頃から更に腕を上げたか、ゴクウブラック」

 

「神たる俺の技に、いつまで食らいつけるか。楽しみだ」

 

 ニヤリと笑いながら、神と魔人は拳をぶつけ合った。

 




次回も、お楽しみに(´ー`* ))))


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第28話 悟空、俺が間違ってるのか?

お待ちだった奇特な方々、お待たせしました!(´ー`* ))))


楽しんでください〜(´ー`* ))))



 

 

 黒に近い灰色の道着に赤いインナーと帯を締めた死人のような肌色の男ーークローン悟空の肉体を持つ転生者、折戸修二は笑っていた。

 

 こうも自分の思い通りに事が運ぶとは、楽しくてたまらなかった。

 

「それもこれも、久住さん。あんたのおかげだよ。最初はあんたが現れたから、計画を速める必要があると嘆いたもんだがーー」

 

「ーーマスター?」

 

 透き通るような声に折戸は超サイヤ人孫悟空の顔を歪めて振り返る。

 

「本当に良い声だ。お前を生み出して正解だよ。その美貌も美声も、全て俺のためにある。なぁ、シャノア?」

 

 血のように赤い瞳を狂おしい程に輝かせ、折戸修二はシャノアと名付けた白衣の美女ーー人造人間21号のクローンを見つめていた。

 

 そんな二人をニコリと微笑みながら見つめるのは、銀髪をポニーテールにした丸渕眼鏡の青年。

 

 彼の隣には3メートルを越える黒い長髪に赤い瞳、下顎を覆う鉄製のマスクをした筋肉質の巨漢が立っている。

 

「いやぁ、折戸くんの期待に応えられてよかったよ」

 

 ニコニコ笑う青年ーーフューに向かって折戸も笑みを返す。

 

「ほんと、持つべきものは友達だよな」

 

「そう言ってくれると、有難いなぁ」

 

 折戸は麻袋のザックを片手に、旅支度を整えたらしい。シャノアと呼ぶクローン21号に向け、彼は告げる。

 

「じゃ、行こうか。シャノア?」

 

「はい。マスター」

 

 シャノアの返事に気を良くした彼は、胸元から赤紫色の結晶を取り出した。

 

 禍々しい光を放つ結晶体は、覗き込めば世界が広がっている。

 

 それは様々な歴史の流れが織り成す数多の世界(ゼノバース)の中で、歴史の流れから外れてしまった何処にも繋がらない空間。

 

 時を司る界王神や彼女が管理するタイムパトローラー達から言わせれば、パラレルクエストと呼ばれる実体化した偽りの世界。

 

 どのように歴史改変しようとも、その世界は一定の時間が経過すれば改変前に戻ってしまう。

 

 だが、だからこそ好き放題できる。タイムマシンやフューの次元刀も使う必要はない。

 

 彼の見つめる結晶体の中には、パオズ山が映っている。

 

 桃色のコンパクトなエアカーを操作するのは、可憐な青い髪をおさげに結った美少女だった。

 

 折戸は彼女を見つめて微笑むと、結晶体にエネルギーを注ぎ込む。禍々しい光が結晶体から溢れて、靄のような球体に変わる。

 

「さて、ハーレムライフの始まり始まり〜」

 

 折戸は楽しそうに笑いながら、シャノアを引き連れて光の中に入っていった。

 

 それを笑顔で見送るフューの後ろで、赤いシャツに紺色の道着のズボンを履いた赤い瞳の巨漢サイヤ人が述べてきた。

 

「……気に入らん。何故、あんな下郎に力を貸す?」

 

 低く唸るような声にフューはニコリと笑って返す。

 

「彼は実験の協力者だからね。僕にも思いつかないアイディアをたくさん出してくれるし、それを実行するに必要な歴史を教えてくれる。何より君の悪の気や母さんの強化魔術を食らっても理性が飛ばない。凄い意思の強さだ。アレ程の能力を誇る彼ならきっと、ハーレムなんて簡単に達成できるだろう」

 

 嬉しげに続けるフューは、モニターに目を移す。

 

 そこにはセルと対峙する二人のクローン悟空。紅朗と壱悟が映し出されていた。

 

 メガネの奥の金色の瞳は、何かを雄弁に語っている。

 

「何よりーー僕には初めての友達、だからね」

 

「………くだらん」

 

 切り捨てられたサイヤ人の言葉にフューはニコリと笑みを返した。

 

ーーーー

 

 強烈なパワーとパワーがぶつかり合ってる。

 

 俺の目の前で、真の超サイヤ人を引き出した壱悟とフルパワーのパーフェクトセルが脚を大地に踏みしめて拳と蹴りを次々と交換している。

 

「す、凄い。コレが波動を超えた力ーー!」

 

「…素晴らしい攻撃だ。信じられない程に力を上げたあのセルを相手に全くひけをとらない」

 

「…ええ。全くの互角」

 

 21号と16号の言うとおりだ。

 

 壱悟もセルも交互に顔を仰け反らせながら、強烈な拳と蹴りをぶつけ合っている。

 

 互角ーー、俺にもそう見えていた。

 

 だがーー!

 

「どうした、壱悟。真の超サイヤ人は、こんなものではないぞ。もっと力を引き出してみろ!!」

 

「ーーっ!?」

 

 一瞬、だった。

 

 一瞬で、セルが気を爆発させて一気に戦闘力を激増させたんだ。

 

 強烈な右拳が腹に突き刺さり、目を見開く壱悟を冷徹なセルの瞳が見据えてる。

 

「フルパワーで来い。体力や精神力など気にして、私に勝てると思うのか?」

 

 セルは、くるりと回転して右後ろ回し蹴りを槍のように突き出す。

 

 壱悟の顎を蹴り抜き、後方へ吹き飛ばした。

 

 壱悟は仰向けに吹き飛びながら地面が背に迫ると膝を曲げて両手で抱えて体を丸めるとクルクルと宙返りを連続して行い、体勢を整えて左脚を伸ばし着地する。

 

「来い、壱悟。私の本気のパワーに追い付いてみろ!!」

 

 拳を握り構えを取るセルに壱悟は自分の右手を静かに見下ろし、握り締める。瞬間、黄金の炎が爆発して壱悟の纏うオーラが今のセルと同レベルにまで引き上げられる。

 

「パワーレベルが、一気に上がった。真・超サイヤ人とは限界がないのか?」

 

「す、凄い力。でも、どうして?」

 

 21号が俺を見てくる。言いたいことは、分かる。

 

 あの力を使って二人がかりなら、セルに勝てるかもしれないと思うのは当たり前だ。

 

 分かってるよ、俺にだって。

 

 だけど、今のまま挑んだら勝てない。セルを殴り倒したいと本気で思わなくちゃいけないんだ。勝敗にこだわらないで闘える相手なら今の気持ちのままで良い。

 

 セルは、そんな生易しい相手じゃない。

 

 負けたら、死ぬ。運良く、生き残れても、誰かが死ぬ可能性が高い。

 

 ゴメンなんだよ、あんな思いは。

 

 自分の力が足りないせいで、誰かが不幸になったり死ぬなんて冗談じゃねぇ。

 

 久住史朗なら諦めもつくが、今の俺は孫悟空のクローンで、孫悟空から信頼と名前を貰ってる。

 

 俺(紅朗)ならやれるって、悟空に言われてんだよ。

 

 迂闊に挑んで負ける訳に行くか。どんな手を使っても勝たなきゃいけないんだ。

 

 負けたら、終わりなんだよ。

 

 震えてるのは、恐怖か絶望か。

 

 なんでだよ。なんでセルが、こんなに強いんだよ。真っ向勝負で、ここまで強いんだよ。

 

 卑怯な手を使ってでも勝ちに拘る野郎が、なんで自分から互角の勝負にする?

 

 同じ土俵の上で闘おうとしてんだよ。

 

 お前は、そんなフェアな奴じゃなかっただろうが。フェアなフリをして、追い込まれたらアッサリとルールを変える野郎だったじゃないか。

 

 なんでだ。なんで、壱悟と真っ向から殴り合ってる。

 

 なんで、わざわざ壱悟に本気を見せた?

 

 なんで、全力で闘いを楽しんでるんだよ。

 

 ふざけんなよ。テメェは、そんな強い奴じゃないだろうが。

 

 テメェは、もっとカスだったろうが。

 

 ちくしょう、ちくしょう。

 

 見れば見るほどに俺より強いんだよ、セルは。

 

 逃げないんだよ、あの野郎。どんだけ血を吐いても、どんだけ強烈な拳や蹴りを受けても、笑ってやがる。

 

 気を見れば分かる、効いてる。悟空の時のように余裕なんか無い。それぐらい自分を追い込んでる。

 

 勝ちに拘ってるくせに、なんでだよ。本気を出さずに、見せずに力を使い切るまで待ってれば確実に壱悟に勝てたろうに。

 

 そんぐらい差があったのに!!

 

 なんでだ、セル!!

 

 なんで、心から楽しそうに笑って打ち合ってんだよ!?

 

「ち、くしょう。ふざけんな」

 

「? 紅朗さん?」

 

 21号が訝しげに俺を見てくるが、知ったこっちゃない。

 

「ふざけんなよ、セル!! テメェが! 自爆で悟空を殺して、容赦なく悟飯を傷付けたテメェが!! 勝てる勝負でしか笑わなかったテメェが、なんで笑ってやがる!?」

 

 そんな笑みを見たことがない。

 

 そんな純粋な顔を見たことがない。

 

 当たり前だ、セルは悪党だ。自分の楽しみのためなら、地球だって簡単に破壊する。

 

 自分の勝利のためなら、なんだってやる奴だろうが!!

 

「ーー紅朗さま」

 

「!? 壱悟」

 

 壮絶な打ち合いをしている壱悟が冷たくも燃える瞳孔が現れた翡翠の瞳で俺を見てる。

 

 悟空そっくりの声と瞳、表情で。

 

「この男は、本当に強い。それから目を背けずに認めることは恥でも罪でもない」

 

「ーーーー!!」

 

 真っ直ぐな瞳と冷徹な口調でありながら燃える熱い言葉に俺は震えている。

 

「貴方の中で恥と思う貴方の過去。俺には、恥とは思えない」

 

 強烈な拳を打ち合わせて距離を取り、壱悟は俺に顔を向けて来た。何故か、セルも何も言わず、手を出さずに俺と壱悟を見つめている。

 

「何が、悪いのですか? 目の前で苦しんでる子どもを助けて?」

 

 その、言葉は一番聞きたくない言葉だ。

 

 悟空そっくりの、今の壱悟(お前)からは絶対に聞きたくない言葉だった。

 

 場を弁えないで俺は、声を出した。

 

「……助ける? 俺みたいなカスが、助けるなんて無理なんだよ」

 

「助けてこられたでは、ありませんか。理不尽な暴力で苦しめられていた色んな弱い人を」

 

 流れてくるのは、ガキの頃に殴り倒したカスの群れ。

 

 それだけだ、その前の映像なんか興味はない。

 

 気に入らねえヤツが目の前でたむろしていて、殴り倒しただけだ。それだけだ!!

 

「貴方に感謝する方もおられた。貴方を褒める方、貴方を認めてくださる方、そんな方々から貴方は意識して離れようとされた」

 

 や、めろ。やめてくれ、壱悟ーー!!

 

 俺はカスなんだ。カスでいいんだ。

 

 俺を認めるな、認めないでくれ。

 

 アイツが死んだんだ、助けられなかったんだ。

 

 阿保みたいに浮かれてた俺には、アイツの声が聞こえて来なかったんだよ。

 

「紅朗さま。何故、助けた後もその方を守らねばならないのですか?」

 

「死んだからだ!! 俺がいい気になってたから、バカだったから! カスに食い物にされてたアイツが!!」

 

「紅朗さま、それは無理です」

 

 淡々と言われた言葉に、思わず苦笑と共に声を上げる。

 

「だろうなぁ、俺は孫悟空じゃない。ヒーローじゃないからな」

 

 自嘲する俺を壱悟は静かに見てくる。

 

 俺の憧れの人そっくりの顔で、瞳で、声で。

 

「紅朗さま。孫悟空でも救えない事があることは、紅朗さまが一番知ってるはずです」

 

「ーーっ!!!」

 

「孫悟空は、確かに貴方の英雄です。ですが、貴方は彼の何に救われたのですか? 彼は貴方にとっては漫画の世界にしか居なかった。けれど、いじめられていた貴方を変えてくれたと貴方は思っている」

 

 悟空の何ってーー。

 

 そんなもん、決まってらぁ。どんなにヤバくても、何とかしちまう。

 

 どんだけ不幸な目にあわされても「ま、いっか」で済ませちまう。欲が無くて、真っ直ぐで。ちゃんと本質を理解して笑ってる。

 

 前向きで、優しくて、そんな姿にへこたれてちゃいけないって思わされてーー!

 

「紅朗さま、孫悟空は貴方に希望を与えた。けれど、孫悟空は貴方には何もしていない。この世界に貴方が来るまで孫悟空は貴方を知らない」

 

「ーーーーっ!」

 

 なんも、言えねぇ。

 

 壱悟、テメェはーー。

 

「貴方が彼の死を背負うのは、貴方の自由です。けれど、それを言い訳にしてはいけない」

 

 なんも、言えねぇ。言い返せねぇ。

 

「そして何より、卑屈な態度で居れば良いなどとは甘えでしかない。貴方は、そんなに弱い男ではないでしょう?」

 

「テメェに、俺のーー!!」

 

「見て来ましたから、貴方の過去を現在(いま)を。貴方の中で。だから貴方に言える。孫悟空さまが、貴方に託されたこと。ブラックや、このセルが貴方を強者と認めてること。俺は、何一つ疑問に思わない!!」

 

 咄嗟に出た声すら、アッサリと砕かれる。

 

 半端な覚悟じゃない。強い意志のこもった声に、なんも言えない。言い返せない。

 

 分かってるんだろう。俺の中で、どうしようもなく壱悟が正しいって。

 

 だけど、今の俺にはコイツと向き合う覚悟がない。ないんだよ。

 

「ならば今、貴方の胸の中で渦巻く熱いものに従えば良い。それこそが孫悟空さまが認められた貴方にしかない強さなのだから」

 

 逃してくれない。

 

 壱悟は、俺が立ち上がるまで逃がす気はない。

 

 最悪だ、こんなの。心の内側を全て覗かれた上で、こっちの反論を全て封じられちまう。

 

 嘘も誤魔化しも、壱悟にだけは効かない。

 

 全部、バレちまう。

 

 自分で自分を騙していた心さえ、気づかないフリをして逃げていた俺の全てをあばかれちまう。

 

「ーーーーっ!」

 

 俯いて、目を外すしか俺には出来ない。出来なかった。

 

 情けねえが、このまま行くと今立ってる両脚が膝から崩れ落ちそうだった。

 

 俺をジッと見る壱悟の視線を感じるが、しばらくして。

 

「ーーセル。もういい」

 

「そうか、気は済んだか?」

 

 こちらを小馬鹿にしたようなセルの笑みに俺は何も返せなかった。対して壱悟は淡々と構え直す。

 

「ああーー。充分だ」

 

 セルが壱悟の言葉に笑みを消し、構える。

 

 互いに真剣な表情で腰を落とすと、相手に向かって拳と蹴りをぶつけ合う。

 

 再び、壮絶な打ち合いが始まった。

 

ーーーー

 

 一方、ゴクウブラックとアルティメットブウは、脚を止めて拳や蹴りをぶつけ合う壱悟とセルとは対照的に一撃も未だ貰わないハイスピードバトルを繰り広げていた。

 

 空を地を、所狭しと駆け回り、二筋の薄紅色の線を幾重にも引いていく。

 

 大地が起こり、雲が揺れ、光の波紋がそこかしこに発生するも互いの拳は相手を捉え切ること未だかなわず。

 

「壱悟とセルと同じく、ブラックとブウの実力も拮抗しているようだ」

 

「対照的ね。脚を止めて拳と蹴りをぶつけ合い、真っ向から勝負している壱悟さんとセルと違って。ブラックさんとブウは互いにハイスピードで相手を撹乱し、隙を突いて拳や蹴りを繰り出してる」

 

「ーーだが。打ち込まれた攻撃は即座に予測・対応し、互いに相手の攻め手を防ぎ切っている」

 

 拮抗している。

 

 壱悟とセルのような燃え滾るようなものでなく、氷のように張り詰めた緊張した空気をブラックとブウは生み出している。

 

 高速移動を終えて、同時に着地して止まる二人。

 

 対峙する片方ーー背の高い桃色の魔人がニヤリと笑って超サイヤ人ロゼとなったブラックに語りかけた。

 

「どうした? 私の後ろの奴らが気になるのか?」

 

 ブウの後ろには激戦を繰り広げる真・超サイヤ人の壱悟とフルパワーのセル、そして複雑な表情で彼らの闘いを見ている紅朗が居た。

 

 ブラックは灰色の瞳を紅朗の横顔に向けた後、ブウに視線を固定し構える。

 

「ーー気にする価値もない。結果の見えた闘いだ」

 

「フン。その割には、闘いながら奴等を観察していたように思うが?」

 

 ブウはニヤリと笑いながら、鋭く目を細める。

 

「気付かれないと思ったか? お前は先程から、紅朗と壱悟の動きを気にしている」

 

「ーーそうだな。勝敗は見えているが、約1名が不甲斐ないザマなので後ろから斬りつけてやろうか悩んでいたところだ」

 

 ニヤリと冷酷な笑みを浮かべるブラックにブウが片目を見開いて笑う。

 

「ク、ハハハハハ。面白い男だな、ザマス。いや、ゴクウブラックだったな」

 

「…フン、魔人風情が立場を知れ。神たる我が名を呼びすてる無礼ーー万死に値するぞ?」

 

「あいも変わらず、傲慢な神様だなぁ? 器が知れるぞ、ゴクウブラック」

 

 挑発的な笑みを浮かべるブウに対し、ブラックの反応はブウにとって意外なものだった。

 

「…フ、貴様が言うな」

 

 神以外を毛嫌いする傲慢と自己陶酔の塊と言えるゴクウブラックが、見下した笑みを返すでなく。

 

 怒りに表情を歪めるでなく。静かにして穏やかな笑みを返して来たのだ。

 

 その笑みを見て、魔人ブウの表情も変わる。

 

 小馬鹿にした笑いを引っ込めて真剣な表情でブラックを見据えて来た。

 

 これにブラックも表情を引き締めて構える。

 

「ーーなるほど。私が知っていたゴクウブラックとは違う。変わったな、ブラック」

 

「フン。変わらざるを得なかったーーそれだけのことだ」

 

「……そうか。少しだけ、同情しよう。その変化は、お前にとって屈辱だったろうからな」

 

 訳知り顔で告げてくるブウにブラックは無表情のまま、静かに構える。

 

「ーーそうだな。かつての俺ならば、そう言ったであろうなぁ」

 

「受け入れていると言うのか? その変化を」

 

 真っ直ぐに問いかけてくる魔人に、かつての神は淡々と答えた。

 

「非力な人間の子どもに負けを認めさせられたのだ。どれだけの阿保でも、こうなるさ」

 

「ーー子ども、か。確かに、アレは侮れん」

 

 笑う魔人ブウの脳裏には、かつて気紛れにミルクを与えた少年がよぎっていた。

 

 誰もが恐怖して怯えていた自分を、まったく恐れずに感謝すらして来た幼い存在。

 

「だが、私は人間の子ども如きに惑わされはせんが、な」

 

「フン、惑わされたのか、壊されたのか。どちらでも構わん。どのみち、お前は俺の前に立ったのだ。ならばお前に残された道は、死だけだ」

 

 ブラックの纏うオーラが更に強く噴き上がる。

 

 同時、ブウの薄紅の炎も呼応するように燃え盛る。

 

「お前に私が倒せるかな?ブラック!!」

 

「何故、神である俺が魔人のお前を倒せないと思うのか。理解に苦しむ」

 

「…言ってくれたな、神めが!!」

 

「来い、魔人よ。神との差をーーいや、この俺との差を思い知らせてやろう!!」

 

 瞬間だった。

 

 それまで高速移動で絶えず、その場から消えて世界を駆け巡りながら戦っていたブラックとブウが、互いに向かって真っ向からぶつかり合ったのだ。

 

 凄まじい衝撃波と光の波紋が生まれ、世界を押し広げていく。

 

 真っ向勝負ーー、壱悟とセルと同じく。ブラックとブウもまた、互いに拳と蹴りを交換するようにぶつけ合う。

 

 その激しさは壱悟達に勝るとも劣らない。

 

「強烈な打ち合いに持ち込んだが、どちらも同レベルだ」

 

「高速移動の隙の突き合いも凄かったのに、打ち合いになってもまったくの互角なんてーー」

 

 あまりにも高いレベルの闘争に、16号も21号も目を見開く事しかできない。

 

 その向こうでーー。

 

「壱悟ぉおおおおっ!!?」

 

 悲痛な雄叫びを上げる紅朗の声に振り返れば、互いの右ストレートが顔を射抜き、同時に後方へ仰け反った後。

 

 首を元の位置に戻して構えるセルと。

 

 黄金の炎のようなオーラが飛び散って搔き消え、燻んだ金髪に赤目、死人のような肌の色に戻った壱悟が。

 

 前のめりに倒れていくところだったーー。

 

 





次回も、お楽しみに〜(´ー`* ))))


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第29話 悟空、俺がセルをぶっ倒す

さあ、決着を取り敢えずつけました(´ー`* ))))

楽しんでーーください(´ー`* ))))


 俺の目の前で。

 

 黄金の炎に身を包んだ超サイヤ人壱悟と、緑がかった金色の炎を纏う完全体セルの激闘が繰り広げられていた。

 

 長い脚から放たれるセルの右の上段回し蹴りを壱悟は左腕を顔の横に置いて受ける。

 

 衝撃波が、壱悟の肉体を突き抜けて反対側の空間に光の波紋を生み出し、雲を消し地面を掘り起こした。

 

「セルの野郎。なんて蹴りをしてやがる。それをーー」

 

 思わず洩れる声。

 

 壱悟はセルのとんでもない蹴りを真正面から軽々と受け止めたんだ。

 

 即座に返しの右ストレートを放つ壱悟。

 

 セルは蹴り脚を素早く元の地面に戻し、左手を顔の前で構えて拳を掴み止める。

 

 セルの両足が衝撃で地面に食い込み、クレーターを生み出しながら鋭い瞳を細めている。

 

「壱悟、お前。いつの間にセルとも渡り合えるくらいになっちまったんだよ?」

 

 声を上げながらも気付いている。

 

 セルと最初に出会った時、壱悟は気の量が足らなかっただけで動き自体はついていっていた。

 

 真・超サイヤ人に変身すれば敵の気に合わせて力が増していく。

 

 一気にセルと同レベルの気を纏えるようになった壱悟なら、セルと対等に打ち合えることは不思議じゃない。

 

 だけどーー。

 

 これほどか!!

 

「本物の悟空は、もっと強いのか? この、今の壱悟より?」

 

 とんでもねえぜ、悟空。

 

 とんでもねえよ、壱悟。

 

 同じ身体をもらってんのに、お前らのカッコよさは何だよ?

 

 あのセルを相手に、一歩も引けを取らないじゃねえか。

 

 こんな、こんなにスゲェのかよ、真・超サイヤ人!!

 

 同時に拳をぶつけて相殺し、着地するセルと壱悟。するとーー。

 

「ク、クク! ハハハハハ!! 面白いぞ、壱悟!!」

 

 セルが突然目を閉じて、大きく高笑い始めた。

 

 これに壱悟はクールに拳を構え叫びながら突っ込む!

 

「……その笑い声も、聞き飽きたぜ!!」

 

「ならば、貴様の拳で止めてみろ!!」

 

 迎え撃つセル。

 

 何処までも、何処までも真っ向勝負。

 

 凄まじい連撃を互いに向かって放ちながら、声を上げる二人。

 

 俺の心が熱くなっちまうくらい、すげえバトルだ。見てる俺の方が、二人の勝負の熱さに参っちまうくらいに。

 

 まったくとんでもねえ。

 

 物凄い打撃音と共にセルの顔が後方へ吹っ飛ぶ。

 

 壱悟の右肘ーーダッシュエルボーがセルの顎を捉えた、即座に左のアッパーカットを追撃で叩き込み空へ巻き上げる。

 

 上空へ吹き飛ばされるセルの背後を壱悟が高速移動で取る。

 

 いや、ダメだ! あの動きは覚えがある!!

 

 初めてセルとやり合った時、映像が頭の中で再生される。

 

 俺が真・超サイヤ人に変身した時、ヤツは俺に吹き飛ばされて高速移動で背後を取られて尚ーー!!

 

 俺が声を上げるよりも速く、壱悟が右の廻し蹴りをセルの背中に向けて放った。

 

 思ったとおり、壱語の蹴りはセルの背中をすり抜けていくーー残像拳だ。

 

 本体は、壱悟の左側面!!

 

 強烈な右拳を壱悟の左顔に振り下ろすセル。

 

「ーー惜しかったな!!」

 

 凄まじい打撃音が再び響き渡る中、俺は目を見開いて壱悟を見ていた。

 

 拳は壱悟の顔の左の空間を突き抜けているーー空振り? あの距離で、セルが外した? あの体勢で壱悟が躱したのか?

 

 どちらでもない。

 

 セルの顔が苦悶に歪んでいる。

 

「……ぐぅ!」

 

 セルの拳が逸れたのは、壱悟の右の回し蹴りがセルの腹を捉えていたからだ。

 

 壱悟は、セルが残像拳を使うことを想定していた。想定していて、動きの癖を読んで右の廻し蹴りを勢いよく空振りさせながら一回転させて自分の左側面から打ち込んでくるセルに向けて叩き込んだんだ!!

 

 孫悟空の廻し蹴りのテクニックそのものだ!!

 

「……言われたとおりに止めてやったぜ」

 

「壱悟、貴様ーーっ!!」

 

 動きが止まったセルに左の後ろ回し蹴りが連続で叩き込まれる。

 

 後方へのけ反るセル。更に回転して勢いを増す壱悟。

 

「ぬ、ぐ、がぁ!!」

 

 右の上段回し蹴り、左の中段後ろ回し蹴りを、次々と繰り出し先ほどまで一進一退だったセルを瞬く間に打ちのめしていく。

 

 間違いない、アレは悟空のーー激烈連脚!!

 

 身体をコマのように回転させながら前に突き進み、高速で左右の脚から連続廻し蹴りを放つ悟空の技だ!!

 

「ハァアアアアッ!!」

 

 拳を握って感動する俺を尻目に壱悟は、一際痛烈な右の上段回し蹴りを二連続で決めて、セルを後方へ吹き飛ばした。

 

 残像拳からのカウンターにカウンターを合わせ、一気に流れを自分のモノにしたんだ!!

 

「すげえ。ホントに、悟空みたいじゃないか!!」

 

 だが、空中でカタパルトから射出されたように吹き飛ばされているセルも只者じゃない。

 

「舐めるなよ、壱悟!」

 

 両手両足を大きく広げて大の字になると、見えない気を放って空で静止した。

 

 動きが止まったセルに向かって壱悟は両手を腰だめにたわめながら青い光を練り上げている。

 

「ーーくたばれ、セル!!」

 

 両手をセルに突き出しながら壱悟は、超かめはめ波を放った。

 

 暴力的な野太い光の奔流が、セルに向かって一気に流れていく。瞬間、セルも両手を腰だめにたわめていた。

 

「どうかなーー?」

 

 セルも壱悟に向かって練り上げた青い光ーー超かめはめ波を放ってくる。

 

 二人の野太い青い光線は互いの中央でぶつかり合い、互いの光を押し返そうとせめぎ合う。

 

 今の壱悟とセルの放ったかめはめ波は多分、俺がこの世界に来て見た中で一番強い技だ。

 

「…くっくくっ!!」

 

「ぬぅうううう!!」

 

 互いのこめかみに皺がより、光をより太く増大させながら押し合う。 

 

 二つの押し合う光は、どんどん大きくなり一つの光の球を作り出していく。

 

 その球を押し込んだ方が、勝利者なのだが二つの光は譲ることなく、片方が力を増大させればもう片方も増大させていく。

 

 二人のかめはめ波の打ち合いは、根比べの様相を呈している。

 

「いける! いけるぞ、壱悟!! そのまま押し切れぇえええ!!!」

 

 俺の声に応えるように壱悟の纏う黄金のオーラが、燃え上がった。

 

「終わりだぁああああ!!!」

 

 一気に気を爆発させて、超かめはめ波の光が倍増する。瞬間、セルも目を見開いて笑った。

 

「壱悟、そして紅朗。真の恐怖をーー教えてやろう! 地球ごとーー消えてなくなれぃっ!!!」

 

 あ、あの野郎! 地球なんて簡単に消し飛ばしちまうくらいのかめはめ波を、とんでもない位置と角度で撃ちやがった!!

 

 仮に壱悟のかめはめ波がセルに押し負け、脇にでも避ければ地球が吹っ飛ぶ!!

 

 だがーー壱悟も笑っていた。

 

「……俺を舐めるなよ!!」

 

 二つの光線が、一気に高まって押し合う光の球が膨れ上がっていく。どっちも譲らないため、張り詰めた風船のようにどんどんと膨張していく。

 

 おいおいおい、爆発する寸前じゃねえか!!

 

 冷や汗を頬にかいてる二人を見るに、アレが爆発したらどっちも無事じゃ済まない!!

 

 だが、どっちも退く気が無いのは目を見れば分かる!!

 

 程なくして、巨大な光の塊が壱悟とセルの中央で爆発! まともにその衝撃は二人を襲った。

 

「ぐ、あぁああああ!!」

 

「ぬぅううああああ!!」

 

 悲鳴を上げながら吹き飛ばされる二人。

 

 上空での撃ち合いでなければ、見ている俺はおろか周囲の景色が変わったはずだ。

 

 吹き飛ばされた二人は地面に同時に右手と両脚をついて着地した。

 

「……しぶとい男だ、セル」

 

「楽しい男だ、壱悟!」

 

 同時に構えを取りながら二人は立ち上がる。

 

 どちらも肩で息をしているが、壱悟の方が消耗が激しい。

 

 真の超サイヤ人が、切れかかっている。

 

 全身からおびただしい汗を掻き、肩を上下に激しく揺らす壱悟を見て俺は何故か確信していた。

 

 多分、自分自身が味わってきたからだ。壱悟、時間が無いぞ。気付いてるか?

 

 俺の心の問いかけに応えるように、セルと向き合う壱悟はコクリと俺にだけ見えるように小さく頷いた。

 

(紅朗さま。後は、頼みます)

 

 俺の頭に直接話しかけて来たのは、壱悟の声。

 

 コイツ、最初からフルパワーでやったのは俺に繋ぐためにーー!!

 

 念話などなくても分かる、俺を奮い立たせるために壱悟。お前はーー!!

 

「……次で終わりにするぞ!!」

 

「いいだろう。来い、壱悟! 貴様の最後の一撃で私を倒してみろ!!」

 

 両者の身体に纏うオーラが、三度燃え上がる!

 

 壱悟の右拳に黄金の炎が宿り、セルも同じようにオーラを右拳に集中させている。

 

 あの一撃が決まれば、倒れる!!

 

「……わざわざ付き合ってくれるとはな」

 

 静かな壱悟の言葉は、自分の状態を理解しているからこそだ。

 

 セルの野郎、壱悟が時間切れになることを知った上で真っ向勝負を選んでる。

 

 壱悟の一撃を外すことを優先すれば、余計なダメージを負うことなく壱悟に勝てるだろう。俺と連戦することも考えているはずだ。

 

 それなのに、後先考えてないように真っ向勝負を優先してる。

 

 俺の疑問に応えるようにセルは笑った。

 

「当然だ。この私が、お前から逃げる必要が無い」

 

「上等……っ!!」

 

「フフ……っ!!」

 

 互いに真っ向から右拳を振りかぶって相手に向かって襲い掛かる。

 

 あふれるパワーとパワー、一気に縮まる距離。

 

 迷いない動きとスピードに、自分の眼が大きく見開かれるのを感じる。

 

 スローモーションに見える世界の中、二人の拳が交差すると同時白い光が視界を全て覆っていく。

 

 鈍い打撃音が俺の耳に届く。

 

(ーー紅朗さま。必ず、コイツに…!!)

 

 同時に、俺の心に声が響いた。

 

 光が晴れていくと交差するように振り切られた拳と、同時に後方へのけ反る首と首。

 

 セルが身に纏うオーラを解除して、膝を揺らした後で元の位置に顔を戻しながら構える。

 

 壱悟は全身に纏う黄金の炎が消えて、燻んだ金髪と瞳孔が消えた赤い瞳。死人のような肌色の顔に戻りながら構えを取る。

 

 それも一瞬だけだ。目にはあれほど強くあった意志の光が消えてる。

 

 壱悟は、そのまま前のめりに倒れていった……!

 

「ーー壱悟ぉおおおお!!!」 

 

 うつ伏せに倒れた姿勢で、ピクリとも動かない壱悟を俺は現実ではないような感覚で見ていた。

 

ーーーー

 

「壱悟さん!!」

 

 21号の悲鳴が響く。

 

 セルの眼前でうつ伏せに気絶した壱悟には、彼女の声が届いていない。

 

「……助けなければ」

 

「ダメよ、16号! 貴方も傷ついてる。……私が!!」

 

 16号が傷ついた身体を動かそうとするも21号が必死の形相で止め、覚悟を決めた顔でセルを見つめている。

 

 そんな中、魔人ブウを相手に拳と蹴りをぶつけ合うゴクウブラックが声を張り上げた。

 

「16号、21号! 手を出すな!!」

 

「! ブラック?」

 

 訝し気に自分を見る16号達に顔を向けず、ブラックは彼らに背を向けたまま続ける。

 

「セルは紅朗に任せるのだ。いいな」

 

「で、でも!」

 

 それだけを言うブラックに21号が思わず声を上げようとするのを16号が止めた。

 

 こちらを見る21号の目に向かって16号は頷く。

 

「ブラックの言葉に従おう。何か考えがあるようだ」

 

「でも、それじゃ紅朗さんが……!」

 

 必死に抗議する21号に力強い目で16号が言った。

 

「紅朗を信じろ、21号。アイツは強い。あの孫悟空やブラック、セル達が認めた男だ」

 

 16号の真剣な瞳に21号は目を見開いた後、セルと対峙する紅朗を見た。

 

「紅朗さんが……?」

 

 少なくとも、今の彼には16号が言うほどの"何か"は見出せない。

 

 何か、きっかけが要るのだろうか?

 

 セルがジッと倒れて動かなくなった壱悟を見下ろして告げた。

 

「……今の戦いは、中々だった。次は、もっと素晴らしいものになるだろう」

 

 ゆっくりと倒れた壱悟に語りかけた後、セルは紅朗に顔を向けて歩いてくる。

 

「ところで、紅朗。貴様は私と孫悟空達のことを知っているようだがーー」

 

 紅朗に正対しながら、自分の前で倒れている壱語の頭を右脚で踏みつけた。

 

「な!?」

 

「……!」

 

 21号が驚愕に、16号が憤怒に表情を歪める中、セルは16号に向けて意味深に笑いかけた後、静かに続ける。

 

「これは、知っているかな?」

 

 セルは小馬鹿にした表情で超サイヤ人のまま棒立ちしている紅朗を見つめて語りかけて来た。

 

「ーーあの時の孫悟飯のように。腹の底から怒ってみろ、紅朗」

 

 瞬間、セルの言葉に応えるかのように紅朗の全身から黄金の気が狼煙のようにゆっくりと吹き上がり始めた。

 

「く、クククク……!」

 

 肩を揺らして引きつったような笑い声をあげる紅朗。

 

 その笑い声に呼応するように狼煙は徐々に激しく燃え盛り、炎へと変化していく。

 

「紅朗……さん!」

 

 翡翠の瞳には黒い瞳孔が現れ、金色の髪は黄金へと燃え上がる。その口が、開かれる。

 

「その薄汚い足どけろやーー! ムシケラが!!」

 

 ーー低いドスの効いた声。

 

 腹の底から響く声は、雷鳴のような唸り声。

 

 その瞳は、何よりも冷たく恐ろしい炎を宿している。

 

「…ようやくか、紅朗」

 

 嬉し気な笑みを返してセルは壱悟から足を退けると紅朗に向かって構えを取る。

 

 21号はふと、自分の腕が揺れているのを気付く。

 

 支えている16号に何かあったかと目を向けるも、彼の方には何の変化もない。

 

 自分の身体が震えていることに、彼女は気付いた。

 

(腕がーー身体が震えてる? 紅朗さんの今の姿に?)

 

 先ほど、壱悟が見せた圧倒的な力を誇る超サイヤ人に変身した。それは分かる。

 

 だが、壱悟とは明らかに違う。

 

(何なの、この力はーー? 違う? さっきの壱悟さんと同じ姿なのにーー、どうして震えてくるの?)

 

 壱悟との違い。その正体はーー殺気。

 

 壱悟から放たれていたのは冷たく光る刃のような殺気と闘気。

 

 だが、今の紅朗から放たれるのはドス黒い憎悪を織り交ぜた殺意そのものだった。

 

 21号を震え上がらせるほどの殺意に、紅朗のその変化に満足げに笑い、セルは肩で息をしながらも気を高める。

 

(セル、何を考えている? 壱悟との激闘の後では、完全に回復した今の紅朗を相手にはーー!!)

 

 16号が思わずセルを見つめる。

 

 セルの負った傷は、決して軽いものではない。それでもセルは、傷ついた身体を再生して回復することなく、そのままに挑もうとしている。

 

 対してーー一紅朗は、両の拳を握りしめて腰を落として構える。

 

「覚悟はできてるか? 俺はできてるぜ、セル」

 

「……」

 

 セルも、ゆっくりと胸の高さで左手を突き出して右手を添えるように出す。

 

 左脚を前に右脚を後ろにして体重を後方へかける。

 

「ーー何の覚悟かな? 紅朗」

 

「テメェを叩き潰す覚悟さ」

 

 それだけを応えると、一気に紅朗はセルの目の前に現れる。

 

 強烈なダッシュから跳び膝蹴りを顔に向けて放つ。前に出した左手で受け止めるセル。

 

 底光りする真の超サイヤ人の瞳をジッと冷酷な光を灯した人造人間の眼が見返してくる。

 

 瞬間、二人は同時に高速移動で姿を消して空へと移動した。

 

 幾筋の光の線を空と言う青いキャンバスに描きながら、光の波紋と衝撃波を幾つも生み出していく。

 

「凄いーー! さっきのブラックさんとブウのように、スピードで相手を攪乱した上で更に打ち合ってる!!」

 

 高速移動でも、手数でもパワーでも、紅朗はセルと互角に渡り合っている。

 

 先ほどのような脚を止めての真っ向からの打ち合いではない、相手の急所に向けて死角から打ち込む殺意そのものの動きを紅朗はしている。

 

 情けや容赦、迷いなど一切ない。

 

 セルが完全に動きを止めるまで、紅朗は拳と蹴りを振るい続ける。捌かれようが、打たれようが一切関係ない。

 

「うぉらぁあああ!!」

 

 鬼のような咆哮を上げながら、紅朗が拳と蹴りを放ってくる。

 

 冷静に拳と蹴りを返しながらセルの瞳が細められる。

 

(コレだ。ガードをしても精神力が削られる、この感覚。間違いないーー! この男、心の力を拳に宿せる。それも誰かに教わったものではない。自分の拳を生まれながらにして持っている……!!)

 

 壱悟の拳は、孫悟空のモノを真似て生み出した拳だ。アレも確かに強力ではあるが、ノーガードで打ち合いができるレベルだ。

 

 だが、紅朗の拳は違う。

 

 仮に先の紅朗と真っ向から殴り合いをしていたなら、セルに連戦する体力と精神力は無かっただろう。

 

 体力がどれだけ削られても、痛みを超える精神力があればセルは十二分に身体を動かせる。

 

 神の次元にまで身体能力が来たセルにとって精神力を鍛えることは必須だった。

 

 自分の防御力に関係なくダメージを刻んでくる真の一撃ーー心の力を込めた拳は、それほどまでに厄介だった。

 

 だがーー。

 

「それでいい。それでこそ、だーー。なぁ、紅朗よ」

 

 目の前で激しく打ち合いながら、セルは旧友に語りかけるように笑った。

 

 それから、どれだけの拳と蹴りを交換しただろう。

 

 気の遠くなるような競合いと打ち合いの果て、紅朗とセルは脚を止めて左右に広げるスタンスを取りながら、真っ向から拳と蹴りをぶつけ合い始めた。

 

「ーーピョンピョン飛び回るのは辞めかよ?」

 

「そろそろ、決着をつけた方が良いと思ってな。時間切れなのだろう?」

 

 あくまで余裕の笑みを崩さないセルに紅朗の目が怒りに見開かれる。

 

「そのいけ好かない笑い、何処まで続くかな?」

 

「試してみるか?」

 

「ーー潰す!!」

 

 更に拳を繰り出しながら踏み込む紅朗の顔が、一瞬後には後方へ仰け反っている。

 

 拳を左腕で捌かれた上でのアッパーカット。

 

 ボディに左右の拳が連続で叩き込まれ、前のめりになる身体。下がった顎を長い右脚で蹴り抜かれる。

 

「紅朗!?」

 

 16号の悲鳴が響く中、紅朗は上空へと吹っ飛ぶ。天頂に達する際、目の前にセルが高速移動で姿を現した。

 

 親指、人差し指、中指を揃えて立てた左手を顔の横に持って来ると緑色の光を指先に生み出し、無防備な紅朗に放つ。

 

 指先から放たれた光弾は一瞬で紅朗の身体を飲み込む程に巨大になり、紅朗を身体ごと地面に叩きつけ、強大な爆発を引き起こした。

 

「紅朗さんーーーーっ!!」

 

 21号の絶叫が響く中で、きのこ雲が天に昇り、アッサリと地形が強大なクレーターを中心に荒野へと変わる。

 

「……フン」

 

 セルは爆発の中心地を見下ろしながら、ゆっくりと地面に着地した。

 

 呆然とする21号と16号をよそに、セルは右手と左手の付け根を顔の前で上下に合わせると腰だめにたわめる。

 

 強烈な青い光が組まれた掌から生み出される。

 

 先程、壱悟と撃ち合い相殺した太陽系をも消し飛ばす威力の必殺技ーーかめはめ波である。

 

「ーーセル。アレだけのダメージを負った体で、まだコレだけの気を練り上げられるのか」

 

「信じられない…! コレが、本気のセルなの?」

 

 ダメージを負えば負う程に、セルのパワーが引き上げられている。壱悟しかり、紅朗しかり。

 

 真の超サイヤ人と闘い、ダメージを負う。

 

 体力や精神力が削られる代わりに、潜在能力が引き出されている。

 

 16号には、そう見えた。

 

「紅朗さんーーっ!」

 

 21号の声に思考を中断して前を見ると、きのこ雲を吹き飛ばしながら青い光が上下に組まれた紅朗の掌の中で輝きを放っている。

 

「かぁー、めぇー、はぁー、めぇー……っ!!」

 

 紅朗もまた、体力はとっくに限界。唯一、身体を支えている精神力も意識が遠のき始めているのを感じる。

 

(保って全力のかめはめ波1発分、か)

 

 生み出した光を練り上げながら、紅朗は自分の状態を理解した上でセルに顔を向ける。

 

 下手にスカしたり、躱したりすれば地球が消えるほどのパワーを放つセルに、真っ向から打ち負かす以外に選択肢はない。

 

 確実に勝たなければならない場面だが、精も根も尽き果てるギリギリ手前だ。

 

 壱悟の頑張りの後で情けないが、今の紅朗ではここまでが精一杯だった。

 

 だからーー。

 

「…なるほど。紅朗よ、貴様は確かに恐ろしい男だ」

 

 練り上げられた青い光に、赤いモノが混じり始める。赤は徐々に徐々に青を塗り替えて行き、やがて真紅へと変わっていった。

 

 限界でも、構わない。

 

 彼の中にはいつだって、最強のサイヤ人が居る。そのサイヤ人が使う最強の技が、コレだ。

 

「10倍ーーっ!!」

 

 この技こそ、紅朗が知る最強の中の最強の技。長い黒髪に赤い体毛の生えた剥き出しの上半身になった悟空が使う最強の技。

 

「なるほど、10倍かめはめ波か。ーーだが、紅朗よ。その技を撃てるのか?」

 

 静かなセルの言葉に紅朗の瞳孔が開いた翡翠眼が細められる。

 

 赤い光は安定せずに、紅朗の両手から力を溢れさせ彼を飲み込もうとしているように見える。

 

 力が安定せずに暴走している。

 

 紅朗は知らない。

 

 この世界の悟空も、その技を使いこなすのには未来時空の自分とシンクロしなければならなかった。

 

 それほどの、技なのだ。

 

「…どうやら、無理なようだな。拍子抜けさせてくれる」

 

 失望したようなセルの言葉に紅朗の頬から汗が一雫流れていく。このままでは、本当に紅朗は生み出した10倍かめはめ波のエネルギーを暴発させて自爆してしまう。

 

(参った、セルはともかく。このままじゃ、皆を巻き込んじまう。まさか一回こっきりのメガンテになるとはな)

 

 皮肉に笑いながら、紅朗はセルを見る。

 

 せめてセルだけでも倒さねば、ならない。今の自分の命をくれてやるのだ、それぐらいはできるはずだ。

 

(出来なかったら、悪いな。16号、21号。生き延びろよ)

 

 鋭く眼差しを細め、笑みを浮かべる紅朗。静かにセルが瞳を細めた後、両手を紅朗に突き出した。

 

「波ぁあああっ!!!」

 

 強烈な青い光が赤い光を放つ紅朗を飲み込もうと迫る。

 

 コレをブラックと打ち合いを続けるブウがニヤリと横目に見て笑った。

 

「決める気か、セル」

 

「ーー紅朗!!」

 

 同時、ブラックの目が見開かれて紅朗を振り返る。

 

 抱えた赤い光を練り上げながら、紅朗はセルの放った光に一瞬で飲み込まれた。

 

 ブウが勝ち誇ったように笑みを強くしてブラックに語りかける。

 

「所詮、あの程度だ。セルを相手によくやった方だろう。もっとも、最後が自爆とは情けないがな」

 

 ブラックは何も言わずに光に飲まれた紅朗を見つめる。

 

 否、光は紅朗の立っていた場所から動かない。

 

 赤い光の球が、押し流そうとする青い光線をーー光の奔流を堰き止めている。

 

 セルの顔がニヤリと歪む。

 

「押し切れん、か。流石だな、真・超サイヤ人。流石10倍かめはめ波ーー。だが、時間切れまで粘ったところで結果は同じだ。暴発するだけの10倍かめはめ波など、凝縮された技に敵うはずもない」

 

 黄金の炎を吸収しながら赤く赤く紅く輝く光の球に向けて、ゆっくりと青い気を押し込みながら、セルは続けた。

 

「お前一人で、その技を使いこなせると思った。その思い上がりをあの世で悔いるがいい」

 

 あまりの力と力のぶつけ合いに、21号や16号では止められない。ブラックも、自分と互角のブウを振り切って紅朗を助けることは無理だろう。

 

 絶望感が一気に高まる中で、紅朗が笑う。

 

「く、ククク。セル、テメェなんか勘違いしてねぇか?」

 

「ーー何?」

 

 見開かれたセルの目には、紅朗の背後でゆっくりと立ち上がる燻んだ金髪に赤い目をした山吹色の道着を纏うクローン悟空が居た。

 

「壱悟、だとーー!? まさか、貴様ら!?」

 

 驚愕に表情を歪めるセルを置いて、壱悟が黄金の炎を身に纏う。

 

 透き通るような美しい肌、黄金に燃える髪、翡翠に黒の瞳孔が現れた瞳へと変化する。

 

 紅朗の隣にゆっくりと歩み寄り、立つ。

 

 壱悟は10倍かめはめ波を構える紅朗の両手を包み込むように反対側から鏡写しに上下に手を合わせて構える。

 

 二人の真・超サイヤ人の呼吸が一つに、二つの黄金のオーラが一つになり、膨張するだけだった赤い光の球が一気に凝縮されて安定する。

 

「二人でなら、抑えられると? そこまで考えた上で、貴様!?」

 

「買い被んなよ。俺に、んな頭はねぇ。だがよ?」

 

 即座に否定する紅朗の後を壱悟が引き継ぐ。

 

「紅朗さまが足りないならば、俺が補う。それだけだ」

 

「つーわけだ。残念だったな、セル」

 

 目を見開くセルに向かって、二人の真・超サイヤ人が同時にシンクロして両手を突き出した。

 

 瞬間、赤いかめはめ波が、セルの放ったかめはめ波を消し飛ばしてセルの眼前に迫る。

 

「ーーっ!?」

 

「「10倍ーーかめはめ波ぁあああっ!!!」」

 

 二人の真・超サイヤ人孫悟空の一撃が、一気に世界を撃ち抜いていった。

 

「…そ、そんな?」

 

「今の一撃は、紅朗と壱悟の二人の限界を明らかに大きく超えていた」

 

 驚愕に染まる二人の人造人間の前で、セルの放ったかめはめ波を消し飛ばした二人の超サイヤ人は、今度こそ力尽きて前のめりに倒れ気絶した。

 

 ブラックがニヤリと笑みを浮かべて、紅朗と壱悟を見つめる。

 

「そうだ。それでこそ、俺の隣に立つ資格がある」

 

「……まさか、セルのかめはめ波を正面から返すとはな。しかも、一人では到底使いきれぬ10倍かめはめ波を使った上で、か」

 

 ブラックの隣でブウもまた、唸るように倒れ伏した二人の超サイヤ人を見つめる。

 

 視線をそのままに、ブウは呟いた。

 

「それで、何点だった?」

 

 その言葉が誰に向けられたものか、21号と16号には分からずに首をかしげる中、ブラックは静かに視線をブウに戻すと、彼の後ろに立っている異形を睨みつけた。

 

 彼の視線を追って21号と16号も笑みを浮かべる端正な顔立ちの異形を見つけた。

 

「…ま、まさか。あのタイミングで、避けた?」

 

「間違いない。方法は分からないがセルは紅朗と壱悟のかめはめ波から、逃れた」

 

 あんなタイミングで、アレだけの技を完璧に避けるなどあり得ない。だが、セルはソレを難なくこなしたのだ。

 

「80点、と言ったところだ。まずまず、楽しめた」

 

「…甘い採点だな? 二人がかりなんだ、もう少し下げたらどうだ?」

 

「いや、充分だ。私は贔屓はしない、良くも悪くもな」

 

 肩を竦めてブウに返しながら、セルはブラックを見つめる。

 

「ブウ、私は満足したが。貴様はまだか?」

 

「…いや。コイツとの勝負より、異世界の奴等の方が気になる」

 

 ブラックから背を向けてブウはセルに向き直った。

 

 コレにブラックが灰色の瞳を細める。

 

「貴様ら、転生者の居場所を知っているのか?」

 

 その言葉にセルと並んだブウが振り返りながら肩を竦めてみせる。

 

「さあ? テキトーに探すさ。お前らと組むのだけは嫌だからな」

 

「…フン」

 

 腕を組むブラックにブウが笑いかけた後、セルが告げてきた。

 

「では、また会おう。孫悟空に連なる者どもよ」

 

 それだけを告げ、セルとブウは瞬間移動で場を去ろうとしたーーその時。

 

「……!」

 

 セルに向かって強烈な赤黒い気弾が放たれる。

 

 瞬間、セルはそれを片手で弾き飛ばした。

 

 鋭く目を細めるセルとブウ、気弾を放った主を睨みつけるゴクウブラックと16号。

 

 21号は目を見開いて、空に浮かぶ邪悪な笑みを浮かべた悟空クローンの肉体の持ち主・折戸修二を向く。

 

「折戸…さん」

 

 その背後には自分とそっくりの姿をした白衣の女性が控えている。

 

 21号と瓜二つの女性を従えて折戸は嗤った。

 

「この間は、よくもコケにしてくれたよな? 餌の分際で……! 叩き潰してやるよ、虫けらども!!」

 

 セルがこれにニヤリと邪悪で冷酷な笑みを返した。

 

「……フ。いい加減、孫悟空の劣等コピーを見るのもうんざりだ。ここで消しておくとしよう」

 

 セルの言葉にブウもまた邪悪な笑みを浮かべていた。




次回も、お楽しみに(´ー`* ))))


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第30話 悟空、俺の知らない間に話が進んでます

大変長らくお待たせいたしました。

では少々、おつきあいください!(^^)!


 荒野の中。

 

 向かい合う複数の人影。

 

 死人のような肌色に燻んだ金髪、赤目の男は赤いインナーに灰色の道着を着ている孫悟空のクローン。

 

 その笑みは邪悪に歪み、目は凶悪に見開かれている。

 

「…この俺を倒すだって? アニメに出てくる一キャラクターのお前が?」

 

 対峙する緑の異形は端正な顔を冷酷に歪めて構えを取る。

 

「貴様の口上は聞き飽きた。この世界が貴様の世界ではアニメだとしても、貴様が今いるのはこの世界だ。貴様もまたアニメの一登場人物に過ぎなくなった。つまりこの世界でなら私が貴様を殺すことは何も不可能ではない。分かるかな?」

 

「試してみろよ? メタ視点を持つものとアニメのキャラとの違いを教えてやる。原作知識とゲーム知識さえあれば、どんな強敵でも攻略できるってことをな」

 

 そう言いながらクローン悟空の肉体を持った転生者ーー折戸修二は構えを取った。

 

 神のオーラに似ているが禍々しい形をした金と黒の二色を放つ光を全身に纏う。

 

「フン。超サイヤ人…か。分かってはいたが、孫悟飯のような変身や禍々しいオーラに、神の力など様々な可能性があるようだ」

 

 セルが笑みを強めて腰を落とす。

 

 そんな対峙する二人をブラック、16号、21号が見つめている。

 

「あの力、次元の狭間で会ったカンバーとかいうサイヤ人と同じか? クローン戦士とはいえ中々に強大な力を持っているようだな」

 

「…21号。折戸は、いつの間にあんな力を?」

 

「ごめんなさい、私にはわからないの」

 

 申し訳なさそうな21号の言葉に16号が目を見開く。

 

 ゴクウブラックが腕を組んだまま21号を見据える。

 

「私は、折戸さんがどこからか連れて来たフューと言う人に斬りつけられて。その後の記憶は薄暗い研究室で磔にされていて。目の前に折戸さんと悪の私が居るところだった。その時には折戸さんはあの力を手に入れていたんです」

 

「折戸は本来のお前を取り除いたのか。いったい、何故?」

 

「分からないわ、16号。ただ…」

 

 思い返すのは折戸が居ない研究室で、自分の拘束を解いたフューという青年の声。

 

「あのフューという人は、悪い人ではないと思います」

 

 そう言いながら自信なさげにゴクウブラックを見つめる。

 

 21号を見るゴクウブラックは超サイヤ人ロゼの灰色の瞳を微かに細めた。

 

「フュー? 確かその名は、時の界王神たちが言っていた……!」

 

 そこまで話し合っていた3人だが、強烈な音と衝撃波に振り返る。

 

 見れば青いスパークと金色のオーラを纏うセルと邪悪で禍々しい金のオーラを纏う超サイヤ人へと変身した折戸が闘っている。

 

 燻んだ金の髪は超サイヤ人の輝く金髪へ、血のように紅い目は宝石のように煌く翡翠の瞳へ、死人のような肌は透き通る様に美しい肌に。

 

 セルが右拳を打ちつけるのを右手で払う折戸。

 

 返す左拳でボディを狙うもセルの長い右脚が脇腹の前に畳まれて受け止める。

 

 そこから目にも止まらない打ち合いが始まった。

 

 脚を止めてその場で拳と蹴りを交換しながら、クリーンヒットは両者ない。

 

 その戦いを見据えてブラックが口を開く。

 

「…孫悟空の動き。なるほど、紅朗よりは孫悟空の動きを再現できるようだな。だが、あの程度ならば今のセルには勝てまい」

 

 これにブウが気をよくしたように笑みを浮かべた。

 

「分かるか? まあ当然だが、セルの力は折戸などでは到底相手にならんだろうからな」

 

 その言葉に黙ってうなずきながらブラックは折戸を見据える。

 

(そのくらいの差はヤツも感じているはずだ。その程度には強い。だが……ヤツに焦りも諦めもないのは何故だ? 何を企んでいる?)

 

 両者の打ち合いの中、一際強烈な右ストレートが互いの中央でぶつかり離れる。

 

 瞬間、折戸はかめはめ波の構えを取った。

 

 セルも同時に両手を腰だめにたわめて青い光を練る。

 

 両者は間髪入れずに互いに向かって青い光を両手を前方に突き出して放った。

 

 一瞬の拮抗の後、相殺して爆発する。

 

 少し距離を置いてセルは折戸を淡々とした表情で見据えていた。

 

 その瞳は真剣そのものである。

 

「おいおい、セル。いつまで互角を演出するんだ? お前の力でさっさとその勘違いした愚か者を叩き潰してしまえ!!」

 

 ブウが笑いながら告げる中、セルは静かに構える。

 

(確かに、今の状況は私がヤツに合わせることで互角を演出してはいる。しかし……! それを感じ取りながらヤツには焦りが一切ない。何故だ)

 

 セルの中では、紅朗や壱悟ほどの底力ーー真・超サイヤ人が折戸からは感じられない時点でさっさと終わらせて良い勝負であった。

 

 だがセルの勘が告げている。

 

 コイツの正体がわからない内に決めることはできない、と。

 

「……セル?」

 

 ニコリともせずに構えを静かに取るセルの姿にブウもまた、違和感を覚え始めた。

 

 折戸の方は相変わらず下品かつ凡俗で粗悪な笑みを浮かべている。

 

「セル。お前はやはり頭がいいな? 悟空がわざわざ頭が良いと言うだけのことはある」

 

「……」

 

「だが、それならそれで。こちらには好都合だ!!」

 

 両手を腰に置いて更に気を高める折戸。

 

 爆発した気は倍以上に膨れ上がり、超サイヤ人の髪の量が更に天に向かって逆立った。

 

「悪の気を纏う超サイヤ人2ってなぁ」

 

 大地を蹴り、一瞬でセルの背後に回る。

 

「もらったぁ!!」

 

 セルの剥き出しの後頭部に向けて拳を打ちおろす。

 

 乾いた音を立ててセルの右手の甲に止められる拳。

 

 強烈な赤い稲光が周囲に吹き荒れ、衝撃波が発生するもセルは微動だにしない。

 

 瞬間、セルが振り返りながら拳を握る。

 

 邪悪な笑みを浮かべる折戸に向かって右拳を振り切る。

 

 凄まじい打ち合いが再び始まり、今度は足を止めてではなく高速移動で周囲を飛び回りながら相手の死角を狙って攻撃を繰り出している。

 

 激しい高速移動での乱打戦を続けていると強烈な音を立ててセルの顎が跳ね上がった。

 

 折戸の膝がセルの顎を跳ね上げたのだ。

 

 続けざまに拳を振りかぶり前に出る折戸の腹をセルの右拳が貫く。

 

「ぐぅ!」

 

 目を見開く折戸の顎を左の掌底が跳ね上げて、身体ごと浮かせると右後ろ回し蹴りで後方へ蹴り飛ばすセル。

 

 後方の地面へ背中から叩き込まれ、地面を槍衾のように起こしながら折戸は倒れる。

 

 ゆっくりと脚を下ろしてセルは土煙を上げて蹴り込まれた折戸を見据える。

 

 セルの勘は更に警戒しろ、と言って来ている。

 

 強大な気柱が土煙を吹き飛ばし、超サイヤ人2の髪は更に後方へと伸びて眉が縮毛ーー眼窩上隆起を起こし瞳は翡翠に黒の瞳孔が浮かんだものに変化している。

 

「紅朗が変身した超サイヤ人2の更に上の姿ーー確か、超サイヤ人3だったな」

 

 その変化を淡々と見据えて呟くセル。

 

 凶悪な貌となり、邪悪な笑みが更に迫力を増した折戸は一気に周囲のモノを吹き飛ばしながら突っ込んでくる。

 

 強烈な右ストレートを右手で受け止めるとその衝撃に後方へ脚が引きさがっていく。

 

 だが紅朗の時に経験したセルは、一瞬で気を引き上げると踏ん張ってみせた。

 

 踏ん張った地面は槍衾のように隆起するもセルはそれ以上押されない。

 

 これに満足したように折戸は頷いた。

 

「へぇ……! 悪の気で強化された超サイヤ人3でも力で押し切れないほどの気を持っている。やはり俺が知っているセルとはケタが違うんだな」

 

 折戸は理解したと呟くと超サイヤ人3から超サイヤ人へと変身形態を戻す。

 

「……どうした? 超サイヤ人3で来ないのか? その力ならば運が良ければ私を倒せるかもしれんぞ?」

 

 強烈なパワーを放っていた先ほどの変身だが、当然それには代償がある。

 

 基礎戦闘力がそれほど高くない者が無理やり超サイヤ人の倍率を高めることで力を手にするための変身。

 

 身体に絶大な負担を与えることが前提になる無理なパワーアップ。

 

 紅朗の姿からそれを察していたセルは、敢えて挑発してみせる。

 

「お前、ホントに頭いいな? 分かるんだろ? 超サイヤ人3は短期決戦にしか使えない欠陥だって」

 

 淡々とそう評しながら折戸は首を鳴らす。

 

「使い方さえ間違えなければ局面を押し切れるけど、力が拮抗しているような相手やそれ以上の相手には全く無意味な変身だ。体力と気のほとんどを失ってしまうからな。使い方としてはセルゲームの時のお前みたいに遊んで油断してるヤツの隙を突いて変身して気を引き上げる暇もなく殺す、が正解だろう」

 

 セルはしばらく間を置いてから、笑みを浮かべた。

 

「フン……! 孫悟空ならばそのような使い方はしないだろうがな。それで? 私の力が超サイヤ人3以上で無意味な変身だと分かった。その上で貴様は何が出来る?」

 

「まあ、色々できるな。この身体のスペックが本当の孫悟空と変わらないようになったことも再認識できたしね」

 

「そうか。この恐ろしいセルの真の力を前にしても、まだそのような戯言を述べられるのかな?」

 

 瞬間、セルは目を見開くと一気にフルパワーを開放した。

 

 神の気と同じ形をした緑と金色のオーラを纏い、折戸を嘲笑する。

 

 その力は、この世界の孫悟空達が真の超サイヤ人を開放してようやく渡り合えるレベルだった。

 

 ゴクウブラックが頬に汗を掻いて目を細め、16号や21号にあっては言葉も発せられない。

 

 16号は改めて横になっている二人の悟空クローンを見つめる。

 

 紅朗と壱悟ーー彼らは、アレを相手にして生き残ったのだ、と。

 

「”この世界のセルは、俺が知っているセルとはレベルが違う”か、フューの言うとおりだったな。原作の超サイヤ人ブルーより上の次元とは恐れ入ったよ」

 

 それでも、それでも折戸の表情は余裕がある。

 

 瞬間、折戸の足元から青い光が放たれて超サイヤ人の髪が青く染まった。

 

 青と白と黒色、形は神のオーラーーを纏い、超サイヤ人ブルーと化す折戸を静かにセルは見つめる。

 

「……マスター」

 

 その時、対峙する折戸の背後から白衣を着た21号が淡々と告げる。

 

「そのままの対決はマスターに不利です。セルの戦闘力はマスターを……」

 

「ちょ、ちょっと、ホントなの? 修二さま?」

 

 それに青い髪を三つ編みにしたピンク色のシャツを着た美少女も不安そうに折戸を見る。

 

「シャノア、ブルマ。心配してくれてありがとう。だけど、コイツを倒さないと俺たちだけの新しい生活ができなくなっちまう。せっかく地球から離れて宇宙に行っても、こんな奴に追いかけて来られちゃ迷惑だからな」

 

 その折戸の顔は凶悪なものではなく、世捨て人のように何もかもを諦めたような表情だった。

 

 これにブルマと呼ばれた少女とシャノアと呼ばれた白衣を着た21号の表情が曇る。

 

「さ、始めようぜ? セル」

 

「……フン。貴様にそこまでの興味はない。なにせ、貴様はここで死ぬのだからな」

 

 構えを取りセルは告げる。

 

「貴様からは紅朗や壱悟のような真の超サイヤ人に目覚める可能性も感じられない。波動を感じれば変身するかもしれんが、そこまで貴様に興味がわかない。このセルを楽しませてくれる相手は、貴様ではない」

 

 笑みを深めてセルは言う。

 

「貴様が死ぬ理由は、それだけだ」

 

「……はは、俺からも言わせてもらうなら。俺の素晴らしい人生を壊そうとした。お前が苦しんで死ぬのはそれが理由さ!!」

 

 憤怒の形相に変わった折戸はセルに向かって襲いかかかった。

 

 再びぶつかり合う拳と拳。

 

 足元が二人を中心にクレーターを創っていく。

 

 凄まじい轟音と共に後方に吹き飛ぶのは折戸の方だった。

 

「なんだとぉ!?」

 

 目を見開いて空で後方へ吹き飛ぶ折戸の前にセルが物凄いスピードで接近すると左拳を打ちこんでくる。

 

 咄嗟に左手を顔の前に構えて止めるも衝撃で手がしびれる。

 

「ふざけるなぁあああ!!!」

 

 牙を剥き出しにして拳を打ち返す折戸。

 

 超サイヤ人ゴッドを超えた超サイヤ人でもパワーが、スピードが負けている。

 

(カンバーの悪の気を食らって力を上げてるんだぞ? なんで負ける!?)

 

 必死に拳と蹴りを繰り出すもセルの動きが違う。

 

 先ほどまでとは動きの鋭さが全く異なる。

 

 完全に自分を仕留めることに重きを置いた動きをしているーーそこに遊びが無い。

 

 拳を繰り出せば、拳の下をくぐられて左右から拳を両頬に叩き込まれ、仰け反ったならば強烈な蹴りが顎を蹴り抜いてくる。

 

 一つ打てば三つ返され、躱されればあっとういう間に追い込まれる。

 

 咄嗟に折戸は両腕を畳んでガードを選択、暴風雨のように暴れ狂う拳と蹴りの乱打をやり過ごそうとするーーが。

 

 セルは一向に構わない、ガードの上から拳と蹴りを叩き込んで折り畳んでいる腕の骨を折るつもりのようだった。

 

「フン、ガードなど固めたところで無駄なこと。自分が倒されるのが、ほんの少し伸びただけということが分からないとはな」

 

 ブウが折戸を嘲笑う中、ブラックが静かに目を細める。

 

「……ここが限界ならば問題はない。時の界王神が俺をわざわざ寄越す必要もなかった、か」

 

 ガードの上を左のフック気味の拳が叩き込まれ、脇腹を返す刀で打ち込まれる折戸。

 

 更にガードしている両腕の下から真上に向かって右拳を振り上げると、ガードが弾き飛ばされる。

 

 剥き出しになった顔をセルの右ストレートが打ち抜いた。

 

 後ろにのけ反る折戸に留めだとばかりに、セルの右人差し指が緑の光を放ち始めた。

 

「消えてろ、不快な転生者!!」

 

 指先から放たれた強烈な光弾は折戸の胸にぶち当たり、後方へと運んで爆発した。

 

 キノコ雲を起こしながら折戸は爆発に飲み込まれていく。

 

 これにニヤリとブウも笑みを浮かべるーーが、次の瞬間にはブウの眼が見開かれていた。

 

 いや、ブウだけではない。

 

 この場に居る全てのモノが目を見開いてセルを見ている。

 

 正しくは、セルの腹を打ち貫いた拳の持ち主を。

 

「……なんだと? ベジータ……!?」

 

 セルが口の端から血を流しながら自分の腹を打ち貫いたベジータのクローンを睨みつけると、ベジータのクローンは先の折戸と全く同じ悪の気を纏って超サイヤ人ブルーに変身する。

 

「これが、リンクシステムだ。分かったか? セル……!!」

 

 その口からは折戸修二そのものの声が聞こえて来た。

 

 これにセルが目を見開く。

 

「これが、貴様の奥の手、か!!」

 

 強烈な黄金の光がベジータクローンーー折戸の拳から放たれる。

 

 後方に弾き飛んだセルは、着地してダメージを確認しながらベジータクローンの身体に移った折戸を睨みつけた。

 

「ギニューのボディチェンジの上位互換といったところか。魂だか精神だか知らんが意識を別の肉体に移動できるとはな」

 

 ブウが初めて興味を持ったように折戸を見る。

 

 だがブラックは倒された悟空クローンの方を見ていた。

 

「……そういう単純な話ではないようだぞ、魔人ブウ」

 

「なに?」

 

 ブラックの言葉にブウも倒された悟空クローンを見れば、大ダメージを負った状態で悟空クローンは立ち上がってきている。

 

 超サイヤ人ブルーのまま、折戸修二そのものの気と表情で。

 

「フフフ、クローンの身体を強化した甲斐があったよ。いくら俺(プレイヤー)自身にダメージが入らないとは言え肉体(キャラ)が動けなくなってしまったら元も子もないからな」

 

 不敵な笑みで前髪をかき上げる折戸にブラックが目を細めて問いかける。

 

「貴様、魂を分裂させられるというのか?」

 

「……違う。俺は、クローン戦士の肉体をアバター(分身)として使えるんだ。俺は元の世界で死んでから魂だけの状態でフューと出会い、この能力を得たんだよ」

 

 悟空とベジータのクローンが肩を並べ、二人の口から折戸の声がステレオのように響く。

 

「この世界に人造人間21号が居たことで一つの壁がクリアできた。ソイツが生み出した悟空達のクローン。そのクローンの肉体に憑依することが次の壁だった。リンクシステムという肉体を別の精神のものが入り込んで操るというのが俺には正にうってつけだった。だから時の狭間でフューと出会えたのは俺にとっては奇跡だった。アイツは知識欲の塊だからな。俺が知っている原作知識を教えてやるといえば簡単に俺に協力してくれた。アイツのおかげで、悪の21号が生み出したクローンは魔人ブウの細胞が元で造られているのも理解したよ」

 

 ブウが目を細める。

 

「私の細胞を基に生み出すだと? そんなことをすれば私ではない私が増えるだけだ。孫悟空の形をとることもなくな」

 

「魔人ブウのクローンを生み出すのが一番最初。これは簡単に成功した。純粋ブウのクローンは元々自我も何もない。生み出すのは簡単だったが、制御することはできなかった」

 

 そこでーーと折戸は緑色に輝くビー玉のような光球を懐から取り出す。

 

 それは紅朗の右手に埋まったものと全く同じモノであった。

 

「クローン魔人の細胞を制御するために孫悟空やクリリンたちの姿形をプログラミングしたデータを生み出した。コイツを魔人の核に入れれば魔人の細胞は入力されたデータのとおりに変身する。そうやって増やしていったんだよ。孫悟空達のクローンをね」

 

 光球を道着の帯に入れると折戸は立ち上がって来たセルを見据える。

 

 セルは淡々と口の端から流れた血を拭うと、腹に空いた穴を拳を握りしめて力を込めるだけで塞いで再生した。

 

「フン、下らん。別の世界まで来て、そこまで根回しをした挙句にやることが静かに暮らしたいだけ、とはな。もっとも、それだけの下準備をしても私には勝てんのだが、な」

 

 傷を再生したセルはダメージすらも回復している。

 

 確かに折戸の精神が入った悟空とベジータのクローンは超サイヤ人ブルーに悪の気を注入した姿となり強大な力を持っている。

 

 それでもセルを相手にするには足りていない。

 

 だからこそ、魔人ブウは淡々とした表情で二人の超サイヤ人ブルーと化した折戸修二を見つめる。

 

「孫悟空とベジータのクローン体で神の気を纏うだけでなく、魔人と一緒に居たサイヤ人が放っていた力と同じモノを持っているようだ。だが、私の友を相手にするには力不足にも程があるぞ!!」

 

 その言葉を聞いてもニヤリと笑いながら悟空(折戸)とベジータ(折戸)は超サイヤ人ブルーと悪の気を融合させた炎を全身に漲らせて拳を握る。

 

 二人の折戸修二は、同時に左右から仕掛けた。

 

 セルも表情を真剣なモノに変えると左右から来る攻撃に備えて腰を落として構える。

 

 悟空(折戸)の右拳とベジータ(折戸)の右踵落としを両腕でそれぞれ受け止め、強烈なラッシュを繰り出す二人の折戸の攻撃を後ろに下がりながら捌いていく。

 

 その攻撃の鋭さと手数を前に完璧に捌いていくセルを前にブウをして、静かに目を鋭く細めた後ニヤリと笑う。

 

「フフ、セル。お前は、最高だ……!」

 

 異世界から魂だけ転移して来たという転生者。

 

 それらが入ったクローン戦士の中でも、折戸の使う悟空とベジータのクローンは神の気を纏える。

 

 更にブウは直接面識はないが、サイヤ人カンバーの悪の気をも吸収した姿なのだ。

 

 折戸修二自身に戦闘経験が無いだけで、クローン戦士のセンスや肉体の動きも悟空とベジータそのものである。

 

 スピードとパワーに手数など、見た目や攻撃の動きだけならば孫悟空とベジータを同時に相手しているのと同じだ。

 

 それを簡単に捌くセルにブウは心から敬意を持って頷く。

 

 これにセルはニヤリと笑みを返すと悟空(折戸)とベジータ(折戸)の二人を見つめ、悟空(折戸)の右ストレートを左に見切って躱し、腹に右ストレートを叩き込む。

 

「ぐぅ!?」

 

 動きが止まった悟空(折戸)には目をくれず、即座に左から右ストレートを打ち込んでくるベジータ(折戸)を右に避けると右ひざでボディを打ち貫いた。

 

「ガハァッ」

 

 悲鳴を上げて固まる二人の折戸にすかさず、セルが踏み込んで両拳と蹴りを使って一気に連打を叩き込んでいく。

 

 右ストレートと左前蹴りで二人を吹き飛ばし、両手を上下に合わせて腰だめに構えると青い光の球を練り上げる。

 

「消えてなくなれ……!」

 

 吹き飛ばされた二人の折戸修二が、背中から地面に叩きつけられた時にはセルの両手には強烈な光球が練り上がっていた。

 

 土煙を立ち昇らせるほどの衝撃を全身で受ける二人の折戸修二に向かってセルは両手に満ちた光を真っ直ぐに前に向かって放つ。

 

「いいぞ! 決めてしまえ、セル!!」

 

 ブウが興奮を隠そうともしない笑みを浮かべて叫ぶと同時、野太い青光線が世界の全てを打ち貫いた。

 

「……終わりか。あっけないモノだな」

 

 思わずブラックが呟くほどに、それほどの威力を放つセルの全力のかめはめ波だった。

 

 誰もがセルの勝利を確信した、その瞬間。

 

 強烈な蒼い光は金の刃に斬り裂かれた。

 

「……! なんだと!?」

 

 強烈な光の剣は、土煙を上げながら地面に叩きつけられた二人の折戸修二の技だ。

 

 セルは目を見開く。

 

 ベジータと悟空のクローンが一つになり、気を倍化以上にしていることに。

 

「…合体、だと?」

 

 悪の気を纏う蒼き神の炎を全身から放ち、悟空とベジータの服を足して割ったようなデザインのモノを着た二人によく似たサイヤ人が居た。

 

「…ベジット、だと!?」

 

 驚く魔人ブウをよそに、両耳に神の宝具ポタラを付けた戦士はニヤリとセルに笑いかけた。

 

「「…どうだ? これが俺の切り札さ。この身体ならば誰にも負けることはない。俺が最強だ!!」」

 

 圧倒的なパワーを放つベジットブルーを前にセルもフルパワーの気を纏う。

 

「……なるほど。その肉体は力も気も私を大きく凌駕しているようだ。驚きだぞ」

 

 ニヤリと邪悪に笑うセルに折戸も笑い返す。

 

 ブラックの瞳が怒りに見開かれる。

 

「転生者……! 貴様、孫悟空達の肉体を模倣するだけに飽き足らず……!!」

 

 怒りに拳を振るわせ、薄紅金の炎のように激しいオーラをブラックは纏う。

 

「……何のつもりだ? ゴクウブラック」

 

 セルが自分よりも前に出ようとするブラックを見つめて目を鋭く細める。

 

「決まっている……! この俺の手で、この無礼者を排除する。これ以上、こんな出来損ないの紛い物どもに俺が認めた人間たちを侮辱されてたまるか!!!」

 

 ハッキリと怒気を露わにしてブラックはベジットクローンと化した折戸修二を灰色の瞳で睨みつける。

 

「……! 俺が認めた人間ねぇ? 人間ゼロ計画なんてものを考えて人間の肉体を乗っ取った神さまは言うことが違うな!!」

 

 瞬間、ゴクウブラックが地面を蹴ると一瞬でベジット(折戸)の前に現れる。

 

 強烈な右ストレートを打ち込むブラックだが、まるで虫を払うように簡単に片手で掴み止められる。

 

「貴様……!」

 

 目を細めるゴクウブラックに余裕の笑みを浮かべた折戸の左中段回し蹴りが迫る。

 

 高速移動で後方へ避けるブラックの目の前に折戸は左手の5本指先にそれぞれ光る球を生み出すとオーバースローで投げつけてくる。

 

 両腕をクロスさせて光弾を受けて爆発するブラック。

 

「ぬぅ……! 貴様!!」

 

 煙を上げ、口の端から血を流しながらブラックは鋭く目を細めるとオーラを激しく燃やして自分の身体から立ち昇る煙を吹き飛ばす。

 

 セルとブウもまた、ベジットクローンの肉体を得た折戸修二の力に鋭く目を細めていた。

 

「……」

 

 やがてセルが舞空術で空に舞うとブラックの前を横切って折戸修二に殴りかかった。

 

「どうしたよ? 言葉を話す余裕もなくなっちまったのか!?」

 

 軽く鼻先で見切られるセルの拳。

 

 挑発と共に折戸の拳がセルの腹を打ち貫いた。

 

「……!」

 

 身体をくの字に曲げられ、下がった顎を容赦なく左ストレートで打ち貫かれ、後方へ顔が仰け反ったところを強烈な右上段回し蹴りで刈り取られる。

 

 一気に遥か後方へ吹き飛びながらセルは両手両足を大きく広げて大の字になると止まった。

 

 端正な鼻から紫色の血を一筋流し、それを指先で拭いながら鋭い目をして折戸を睨みつける。

 

 両手を見下ろして折戸修二は興奮した笑みを浮かべていた。

 

「すげぇ、すげぇよベジット!! カッコいい!! あのセルやゴクウブラックが、この俺相手に手も足も出ないなんて!! これだよこれ!! これがやりたかったんだよぉ!!!」

 

 強烈な青と黒のオーラを燃やして折戸修二はセルとゴクウブラックを睨み返した。

 

「ああ、もっとだ! もっと、俺に無双させろ!! 俺の思い通りにさせろよ!! この世界は、俺が俺だけの人生を歩むための最高の舞台なんだからよぉ!!!」

 

 これにブラックが静かに告げた。

 

「……なんと醜い顔だ。これが本当に俺が認めた人間と同じ姿をしたモノだというのか……!?」

 

「フン、姿や形などどうでも良い。この私を相手にするならば、このくらいはやってもらわねばな」

 

 セルが首を鳴らしながら強大な神の気を纏うベジット(折戸)を見つめる。

 

 だがブラックは急に興味を失くして告げた。

 

「……そうか、ならばあの紛い物の相手は貴様に任せよう」

 

「? どうした? あの男が許せないのではないのか?」

 

 あまりにブラックの態度が急変したため驚いた表情で見るセルをブラックは静かに見つめ返す。

 

「俺が認めた人間たちと比べるべくもなかった、それだけのことだ。むしろ、奴らとあんなモノを比べた我が目の無さに失望した……! 力も心も、孫悟空達と比べるべくもない……!!」

 

 これにセルが驚いた表情に変わった。

 

「……! 本物の孫悟空達は、アレよりも強いというのか?」

 

 自分の本気の力よりも上の次元に至るベジットクローンーー折戸修二。

 

 それさえも比べるべくもない、とブラックは言った。

 

 だからこそ、セルは問いかけた。

 

「当たり前だ」

 

 瞬間、セルはーー笑った。

 

「ククク、ハハハハハ! ハァーハッハハハハ!!」

 

 高らかに笑うセルの表情は純粋に楽しんでいる。

 

 自分よりも遥か上の高みに居るであろう孫悟空達の力と片鱗に。

 

「……何をふざけたことを言ってやがる……! 今の俺の力は、お前らを大きく上回ってるってのに!!」

 

「フン……!」

 

 瞬間、ブラックは己の身に溢れる超サイヤ人ロゼのオーラを消して黒髪黒目の状態に戻るとセルに向かって告げた。

 

「せいぜい、あの勘違いした愚か者に負けぬことだ」

 

 その言葉にセルは高笑いを抑えるとニヤリと笑みを返した。

 

 その表情に満足そうにブラックは頷くと21号と16号、気を失った二人の孫悟空クローンの傍に降り立った。

 

 代わりにブウがセルの横に並び立つ。

 

「……ブウ?」

 

「ベジットのクローンとはな、中々に笑わせてくれる。……ハァッ!!」

 

 長い触覚の生えた頭を鳴らしながら、ブウが拳を腰に置くと同時強烈な薄紅金のオーラを身に纏ってフルパワーを燃え上がらせた。

 

「かつて、私のプライドと自信の全てを打ち砕いた男が偽物とはいえ目の前に居るのだ。本物の孫悟空達へのリベンジ前の予行演習にしては上出来だろう!!」

 

 セルは静かにブウを見つめた後、折戸を見つめる。

 

「ブウ、これではつまらん。私と貴様が組めば勝って当たり前の相手だ……!」

 

「……なら、私に譲ってくれ。ベジットの姿をした男をこの手でボロボロにできるなど、譲れん!!」

 

 どうしたものか、とセルが呆れた表情に変わった時にゴクウブラックが紅朗と壱悟の二人に気を注入しながら片手間に告げた。

 

「もう一体、研究所の方から強烈な気を放つクローンが来る。どちらかがソイツの相手をしてやれば良いだろう」

 

 淡々とした声とその内容に16号が目を見開いた。

 

「まさか、まだクローン戦士が居たのか!!」

 

「そんな……! 彼女が創ったクローンは全て紅朗さんが……!」

 

 21号が否定しようとして目の前の空を一筋の赤みがかった金色のオーラを纏った無地の山吹色の道着と青いインナーシャツを着た戦士が横切る。

 

 超サイヤ人へと変身した孫悟空クローン。

 

 だが、その尻から茶色の尻尾が生えている。

 

「……! 紅朗のような転生者でも、壱悟のようなクローンでもない。なんだ、コイツは……!」

 

 セルは独り言とも感想とも付かない言葉を告げると同時に邪悪な笑みを浮かべて超サイヤ人孫悟空そのものの姿をした男は嗤った。

 

「……俺は戦闘民族サイヤ人……! カカロットだ……!!」




次回もお楽しみに!!


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第31話 悟空、何が正義で何が悪、なんだろうな

はい、今回も紅朗視点は少ししかありません(´・ω・)

代わりにちょっとだけ”彼”の視点で話が進みます

お楽しみに( *´艸`)


 俺の人生は順調だった。

 

 全てが順調に進んでいたんだ。

 

 なのに、どうしてこうなる?

 

 どうして、俺が無能な連中と同じ扱いを受けるんだ? 今まで俺をチヤホヤして来たくせに。

 

 馬鹿みたいに晴れた青空と輝く太陽までもが、俺を馬鹿にしているように感じる。

 

 成功という結果しか見ないクソどもが……!

 

 みんな、死んじまえ。

 

 何一つ、努力もしないで寝転がってる連中とこの俺が、同じだって言うのか?

 

 たった一度、失敗しただけで今までの成功と努力の全てを無かったことにされるのか?

 

 親にすらも見放されるって言うのか?

 

 ふざけるな、そんな世界なら俺は要らない。

 

 そんな現実(せかい)は俺から願い下げだ。

 

 だからーー高層マンションの屋上に昇った俺は、目を閉じてゆっくりと飛び降りた。

 

 次に生まれるならーーこんなしがらみだらけの世界とは無縁の世界に行きたい。

 

 夢のある世界にーー。

 

 落下する感覚に身をやつし、走馬灯を見ながら。

 

 ドラゴンボールのことを思い出した。

 

 大学受験を失敗してから、ゲームセンターに通ってはドラゴンボールのカードゲームばかりしていた。

 

 空が飛べて、超人的な強さを持って、全てをねじ伏せられる金色の髪の戦士になれたら。

 

 顔から凄い衝撃を受けて堅い何かに当たるーー、体中が熱くて口から鉄の味をした生温かいものを吐き出す。

 

「……ぎ……あっ!」

 

 なんだよ、楽に死ねるんじゃないのかよ。

 

 こんなーーこんな苦しいのかよ。

 

 指を動かしながら、俺は空を見上げた。

 

 死に……たく……!!

 

 なんで、俺がこんな目に遭うんだ?

 

 何で、俺だけがこんな目に遭わされるんだ?

 

 ちくしょう……! ちくしょう……。ちくしょう……眼が暗い、テレビの電源を切るみたいに視界が消えて。

 

 俺の中の何かがプツリと切れたーー。

 

ーーーー

 

「修二さま?」

 

 黒い世界の向こう。

 

 耳に心地良い綺麗な声で自分の名を呼ばれて、俺はゆっくりと目を開ける。

 

 洞窟の奥に造られた研究施設ーーその一角に俺は”時空の狭間”でハーレムに加えた16歳の美少女ブルマから支給されたカプセルで家を建てた。

 

 俺のハーレムライフを彩る拠点だが、取り敢えずはこれでいい。

 

 殺風景な研究施設も、ブルマは喜んで使って行くだろう。俺の為だけに生きることを喜びとして。

 

 実に素晴らしい、あんな才能も美貌も兼ね備えた女が自分のモノにアッサリと落ちる。魔術とはなんと便利なモノか。

 

 ハーレムの数はシャノアとブルマだけだが、焦る必要はない。

 

 此処から広げていけばいいだけだ。

 

 本来の歴史とは違う存在が歴史を改変したことによって起こる何処にもつながらないifのシーン。

 

 それを時のかけら「パラレルクエスト」とドラゴンボールゼノバースに出てくるタイムパトローラーは呼んでいる。

 

 パラレルクエスト内で起こることは全て容認される。

 

 例えば悟空たちを殺そうとも、フリーザやセルを味方にして勝たせてもいい。

 

 その結末は他の歴史には影響しないし、何なら一度そのパラレルクエストから足を踏み出せば踏み入れたものが何かをする前のーー元の場面に戻っている始末だ。

 

 だがそこに出てくるもの達は本物の悟空たちと何も変わらない。

 

 これを利用して俺は、パラレルクエスト内から多くのZ戦士、フリーザ達を味方にすることも出来るし連れてくることも出来る。

 

 ドラゴンボールゼノバースとドラゴンボールヒーローズという二つのゲームに出てくるフューに接触できたことが俺にとっての幸運だった。

 

 黒に近い灰色の道着上下、血のように紅いインナーシャツと帯にリストバンド、ブーツを履いた服装。

 

 燻んだ逆立った金髪に赤い瞳、死人のような肌色をした鏡に写った俺の姿。

 

 まるでヴァンパイアだな。

 

 自分の姿を確認した俺は、一つ息を吐いてから目の前の美女ーー長い赤茶色の髪に透き通るような白い肌をしたセクシーな美女を見る。

 

「なんだ?」

 

 俺が作り上げた、俺の好きな見た目をした俺の為だけの女。

 

 人造人間21号のクローン体ーーシャノア。

 

 21号の中の人繋がりで付けたドラゴンボールとは別の作品の女ヴァンパイアハンターの名だ。

 

「申し訳ありません。修二さまが、お辛そうにしていたように思えたので」

 

 シャノアは冷たい美貌をそのままに俺の問いかけに抑揚のない声で言ってきた。

 

「ありがとう、シャノア。大丈夫だから」

 

「ーーはい」

 

 辛そうな顔をしていたーーか、情けないな。

 

 もう俺は非力な地球人の折戸修二じゃないーー孫悟空のクローンーー超サイヤ人そのものだ。

 

 本物の孫悟空に成り代わるなんて無意味且つ芸のないことをするつもりはないが、その気になればどうとでもできる力もある。

 

 この圧倒的な力と肉体があれば、成功は約束されたものだ。

 

 後は、俺の素晴らしい快適ライフを邪魔する可能性のあるヤツを排除していく簡単な仕事だ。

 

 セル、魔人ブウ。ゴクウブラック。

 

 差し当たっての障害はコイツ等か。

 

 俺と同じクローン悟空の肉体を持った久住史朗ってオッサンも居たが、取り敢えずは放置で良いだろう。

 

 他の転生者どもやクローン達が居る限り、俺が手を下すまでもない。

 

 シャノアとブルマが居れば、こちらは幾らでもクローンを補充できる。

 

 転生者を呼び寄せることはしなくても、その辺のリンク適合者の精神をクローン(肉体)に移し替えることも可能だ。

 

 それにーーフューのおかげで、俺はパラレルクエストを行き来できる能力も得た。

 

 ブルマが居れば、俺の思い描いていた能力も手に入る。

 

 魔人の細胞ーーあらゆるものへと変身できる細胞。

 

 その能力と本物と何ら変わらない世界の悟空たちを使用すること。

 

 そしてヒーローライセンスカード。

 

 これらが揃っている今ならばできるはずだ。

 

 今の俺はフューの経由でトワの魔術を食らって潜在能力を解放し、カンバーの力で悪の気を吸収できてる。

 

 神と神の頃の超サイヤ人ゴッドの孫悟空でもこのクローン悟空の肉体で簡単にひねれるはずだ。

 

 いざとなればーー、クク。

 

 笑いが止まらない。

 

 いろんな時代や世界、惑星の色んな美女を自分のモノにできる。

 

 刃向かう奴は全員皆殺しにできる。

 

 利用できるやつは、洗脳だって可能だ。

 

 なんて楽しいんだろう?

 

 俺の思い通りにならない存在なんか、この世に存在しないのだ。

 

 ドラゴンボールの世界で、俺は俺の人生をようやく歩めるんだ。成功を約束され、成功しかありえない未来に向かって俺は歩くんだ。

 

 ああ、なんて素晴らしい。

 

 ああ、そのためにも。

 

 俺の邪魔となるモノは皆、排除しなくちゃ。

 

 皆、皆、皆ーーみぃんな、俺の幸せを奪おうとする奴は皆殺しだ。

 

「ク、ククク、ハハハハハ!!!」

 

 上機嫌に笑う俺の下に、長く青い髪を三つ編みにして可愛いおでこを出したタンクトップとホットパンツを履いた健康的な色気のある美少女ーーブルマが現れた。

 

「ねぇ、修二さま? 言われたとおり時空の狭間から召喚できる装置とカード、腕輪を作り上げたけど?」

 

「へぇ、流石ブルマ。仕事が早いね」

 

 概念を説明するだけで、簡単にブルマはやってくれる。

 

 ヒーローライセンスカードは、ドラゴンボールヒーローズに出てくるカードそのものだ。

 

 それをヒーローズの主人公アバターのように俺は大量のカードをデッキとして組み込みカプセルコーポレーションのマークが付いた腕時計のような腕輪を手首に嵌める。

 

 笑いかけるとブルマは頬を真っ赤に染めて俺を見つめ返してくる。

 

 分かってる、分かってる。

 

 頭をなでてやるとブルマは気持ち良さそうに目を細めた。

 

 彼女の様子をジッと見て俺は満足する。いいぞ、完璧だ。

 

 完璧に俺の魔術は作動している。

 

 元々、ブルマは青年になった悟空を好んでいた。

 

 整った容姿の超サイヤ人の悟空はブルマのストライクゾーンそのものだろう。

 

 元々、好意が高いのならそれを増幅して洗脳するなんて容易い。

 

「装置の使い方を教えてくれるかな?」

 

「う、うん。あのね、この腕輪を嵌めてちょうだい?」

 

 ブルマから差し出された金属製の腕輪を左の二の腕に装備する。

 

「これでいい?」

 

「うん。後は、修二さまのリンクしたいクローンを選べば自動的にそのクローンを使えるはずよ」

 

「ありがとう。さっそく使ってみるよ」

 

「あ、待って! クローンとリンクしている間は、修二さまの身体は無防備になってしまうの」

 

 俺が使おうとすると、ブルマが焦った表情で言ってくる。

 

「大丈夫。シャノアが俺の本体を守ってくれる。それに、この研究を進めていけばいずれは精神を分裂させることも可能なはずだ」

 

 ファイターズの元ネタでは、主人公は一人にしかリンクできなかったが。

 

 俺にはフューからもらった暗黒魔術と悪の気がある。

 

 いくらでも可能性はあるはずだ。

 

「それじゃ、行ってくるよ」

 

 そう言って、俺は腕輪のボタンを押して右手にカードを一枚引いた。

 

 俺は腕輪を着けた左腕を前に出し、右手に持ったカードを腕輪に交差させると光の粒子に変わる。

 

 粒子は「孫悟空」の姿に変わって俺の前に立っていた。

 

ーーおし、いっちょやっか!!

 

 その声を聞きながら俺は満足して頷いた。

 

 そうだなーー最初は、見てやるか?

 

 死にぞこないのクローン悟空の身体を持った久住史朗ってオッサンの能力をな。

 

 折戸流リンクシステムとヒーローズライセンスカードの動作確認だ。

 

ーーーー

 

 カカロットと名乗ったクローンの超サイヤ人の悟空は腕を組んで高みの見物といった姿勢を取っている。

 

 それをセルが正面で様子を窺っていた。

 

 対してベジットブルーの肉体を持った今の折戸修二は、圧倒的であった。

 

 フルパワーを開放した究極の魔人ブウを前にしても、神域の気を纏ったセルを前にしても、ゴクウブラックを見ても何も感じない。

 

 それほどにまで自分は圧倒的な力を手にしている。

 

 その事実に折戸は上機嫌に笑う。

 

「……フ、ベジットへのリベンジの練習に俺を使うって? 魔人ブウ」

 

「ああ。これ以上ない実験体だ。せいぜい利用してやろう。私がヤツを倒す為にもな!!」

 

 強烈な桃色と紫の混じった炎のような気を燃やして全身に纏うとブウが突っ込む。

 

 左右の拳を握り、左から右のストレートを放ちながら右の後ろ回し蹴りを放っていく。

 

 折戸は首を傾けるだけでブウの左右の拳を躱し、その場から一歩下がるだけでブウの蹴りを鼻先で見切っている。

 

 躱しきられたブウの目の前に折戸の右手がかざされる。

 

「なに!?」

 

「ビックバンアタック!!」

 

 放たれた青い光弾。

 

「ぬぅ!?」

 

 魔人ブウは両腕を顔の前でクロスさせて受け止める、も受け止めきれずに爆発。

 

 強烈な爆風に吹き飛ばされながら魔人ブウは距離を置いてベジットブルーの肉体となった折戸修二を睨みつける。

 

 瞬間、ブウが高速移動で姿を消して折戸の目の前に踏み込む。

 

 折戸も拳を握って迎え撃つ。

 

 右拳と右拳がぶつかり、左の肘をフック気味に放つブウ。

 

 それを折戸が下にくぐって避けると左のボディを叩き込む、動きが止まるブウの顔をすかさずに左右ストレートで仰け反らせ、右の上段回し蹴りで後方へ弾き飛ばす。

 

 吹き飛ばされるブウの正面に高速移動で折戸が迫り、拳を振りかぶってくるのをブウも拳を握って打ち返す。

 

 凄まじい音が鳴り響きながら蒼銀と桃紫のオーラが世界をキャンパスに幾筋も描かれていく。

 

 互いに交互にはじけ飛ぶ首、一撃を叩き込まれれば叩き返す。

 

 それでもスピードもパワーも技も、全てにおいてベジットブルーとなった折戸修二は究極魔人ブウよりも上だった。

 

 互いの右ストレートが交差、互いの拳はブウの顔を後方へ吹き飛ばし折戸のガードの上に刺さって後方へ下がらせている。

 

「……なるほど。ブラックの言うとおりだ。貴様は確かに私のプライドをズタズタにしてくれた、あのベジットとは別物。比べるのもおこがましい紛い物だ」

 

「フン。よく言うぜ。パンチも避けきれずに吹き飛ばされといてな?」

 

「フフ、確かにな。お前の戦闘力は私よりも1枚か2枚、上のようだ。だが、それだけだ」

 

 そう告げるブウに折戸のアイスブルーの眼が鋭く細まる。

 

「……何が言いたい?」

 

「……本物なら、それだけ強化された超サイヤ人ブルーになった時点で私では勝負にならなかっただろうってことさ。不愉快なことだがな」

 

 不愉快そうな表情ではあるが魔人ブウは自分とベジットのレベル差をもう一度理解した上で告げる。

 

「もっとも、悪の気とやらを注入されるまでもなく今の孫悟空とベジータが合体したベジットならば、その程度の倍率の気は簡単に纏えるだろうがね」

 

「なんだと……!」

 

 こめかみに筋を浮かばせながら唸る折戸に向かってブウは淡々と告げる。

 

「今のお前と私の力の差を表すなら、神の気を纏う以前ーー私が初めてベジットと戦ったころの。黒髪のベジットと私の差ーー程度だ。その程度の差ならば時の運とやらや戦略でどうとでも覆せる」

 

 邪悪な笑みを浮かべて魔人ブウは告げた。

 

「分かるか? 黒髪のベジットとは勝負になるが超サイヤ人になられれば勝負にすらならなかった。今のお前はあの時の黒髪のベジットと同じなんだよ」

 

 ここで一つ訂正しておくのならば、魔人ブウやセルは神の気を纏い更に腕を上げている。

 

 この世界のベジットは体力をほぼ使い切った状態で黒髪のまま、合体したザマスと互角であった。

 

 つまり合体ザマスの神の気に匹敵する力を魔人は放っており、目の前の折戸修二は合体ザマスよりも上のレベルの気を纏っているということだ。

 

 それを淡々と見上げながらザマスの姿に変身したゴクウブラックは神の力で回復を終えた二人の悟空クローン。

 

 久住史朗こと紅朗と意志を持ったクローン悟空の壱悟を見下ろしたあとで立ち上がった。

 

 セルとの真っ向勝負を繰り広げた紅朗達は、気を失ってから今まで一度も目を覚まさない。

 

「……ザマス。紅朗と壱悟は、まだ目を覚まさないようだが?」

 

 16号が問いかけると、界王神の付き人の服を着た緑色の肌の神ーーザマスが銀色の目を細める。

 

「神の力で傷と体力は癒したが、精神力を完全に消耗しきっているようだ。真の超サイヤ人は確かに強力な力だが、身の丈に余る力を引き出せば身体に爆弾を抱えることになる。短期間で強い敵と戦い過ぎたな」

 

 淡々とした声で語るザマスに21号が膝枕している紅朗の顔を心配げに覗き込む。

 

 そんな彼らの前に二人の21号と同じ姿をした人造魔人が立ち上がってきた。

 

「……まさか、アタシがこんな奴らにやられるなんて!」

 

「おのれ……っ! アタシを、舐めるな……!」

 

 ローフとメント。

 

 そう名乗り始めた人造人間21号の分身達である。

 

 彼女達は、21号を構成する細胞に付属していた過剰な食欲から生み出された悪の人格であった。

 

「ーーフン。本物の21号(きさま)が居るのならば、コイツ等を生かしておく意味もないか」

 

 ザマスが淡々とした声で銀色の光を纏う手刀を作り構える。

 

「私をーーそこで倒れている女を殴れん男と同じと思うなよ?」

 

 本来の21号に膝枕をされている紅朗をちらりと見た後、二人の女魔人を鋭く睨みつける。

 

 これにローフとメントが怯えた表情に変わった。先ほどは、一撃で意識を断たれた。

 

 強力な再生能力を持つ自分達の意識を、だ。

 

「どうなってるのよ、コイツの攻撃は……!」

 

「何故、アタシの再生能力が効かない!?」

 

 牙を剥き出しにして構える二人の21号と同じ姿をした存在にザマスは冷酷な笑みを浮かべる。

 

「当然だ、私という美しき神の前に貴様らのような汚らわしい魔人が敵うはずもない。まして己の再生能力に頼り切って防御をおろそかにする連中など敵にすら値せん」

 

 右手刀から放たれている銀色の煙のような光は、やがてザマスの全身から放たれ始める。

 

 今のローフとメントでは相手にならないというのは、先ほどの戦いで痛いほどに理解していた。

 

「待ってください!」

 

「……? 何故止める?」

 

 本物の21号が止めなければ、ザマスによって完全に意識を断たれた後で消滅させられたであろう。

 

 ローフとメントの方を見ながらザマスが目を細める。

 

「彼女たちの力も必要だと思うんです。今の折戸さんは、非常に危険です。それにセルと対峙している孫悟空さんのクローンも! 戦力は多いに越したことはありません」

 

「……フン。まぁ、利用できるなら利用してやればいい、か」

 

 瞳を細めながらザマスが言うと、銀色の光を解除し構えていた手刀を解く。

 

「だが。油断はするな」

 

「……はい」

 

 16号への応急措置を終えて、彼に紅朗を渡しながら21号は自分の分身たちを見つめる。

 

「……力を貸してもらいます。貴女たちにも」

 

 これに邪悪な笑みを浮かべて桃色がかった白髪をオーラを纏って靡かせ、赤い瞳をギラつかせてローフがイラついた顔に変わる。

 

「調子に乗らないでよね? なんでアタシが、アンタなんかの言いなりにならないとイケないわけ?」

 

 歯ぎしりしながらローフは16号を睨みつけた後で21号を見る。

 

 16号は悲しげにローフを見返すだけで何も言わない。

 

 するとメントが声を上げて来た。

 

「分かったわ、取り敢えずはアンタの言うことを聞いてあげる」

 

 肩を竦めて笑いながら何の気取りもなく応えるメントにローフの眼が見開かれた。

 

「何を言ってるのよ? アタシにコイツの言いなりになれっての?」

 

「少しは考えなさいよ。今、この場で逆らったら怖い怖~い神様に消されちゃうだけよ? それなら、ここは甘ちゃんの言うことを聞いてあのいけ好かない転生者を叩き潰すのに協力すればいいじゃない? コイツ等とは、その後で決着をつければいいのよ」

 

 浅黒い肌に禍々しい斑点を全身に浮かばせた自分と同じ見た目の存在にローフがイラついた顔で睨みつける。

 

「アタシに指図しないでよね?」

 

「……アンタ、状況を理解してる?」

 

 睨み合う二人の女魔人に21号が叫んだ。

 

「止めなさい!!」

 

 二人が彼女を見ると、21号は口調を落ち着けながら続ける。

 

「お互いに言いたいことはあると思います。だけど、ここは言うことを聞いて。今の折戸さんをこのままには出来ません。彼は、私たちが招いたんですから……!」

 

「……フン、いい子ぶっちゃって。そういうトコが気に入らないのよ!!」

 

 ローフが睨みつけながら自分の胸に手を当てて嘲笑してくる。

 

「アタシはアンタ。アンタの本心そのもの! アンタが押さえつけて来たのがアタシよ!!」

 

「……分かって、います」

 

 辛そうに顔を歪ませる21号に目を見開いて笑う。

 

「認めたわね? なら白状しなさいよ!! 自分だって人間をお菓子に変えて食べたかったって言いなさいよ!! 全部、アタシのせいにして逃げたって認めなさい!!」

 

 詰め寄るローフに21号が辛そうな顔をして見返してくる。

 

 笑みを強めるローフだが、もう一人の21号ーーメントが遮って来た。

 

「だからさぁ、無駄なことするの辞めない? 下らないから!」

 

「下らないですって?」

 

「下らないじゃない? その意見をソイツが認めたからなに? どうでもいいわよ」

 

「!! コイツは……っ!!!」

 

 怒り狂うローフの前で冷たく狂った笑みを浮かべるメントが言った。

 

「どうせアンタもソイツも最後はアタシに取り込まれてお終い。だから、無意味」

 

 右手の親指を立てて紫色の舌で舐める。

 

「それなら、今は建設的な話をしましょうよ? 折戸をどうやって狩るか、でしょ? ハッキリ言うけど今のアイツは化け物よ」

 

「……!!」

 

 怒り狂うローフの顔をおかしげに見た後、メントは21号を見つめて来た。

 

「そういう訳だから。アタシはアンタに力を貸してあげるわ、ディーベ」

 

「? ディーベ?」

 

 聞きなれない名前に21号が目を見開くと、メントは続ける。

 

「同じ存在(アタシ)が何人も居るのは面倒でしょ? 21号って言うとこの三人共通の名前だから、それぞれに個別の名前を付けた方がいいっていう、アタシの提案」

 

「……そうですね。分かりました、では私はディーベで」

 

「よろしくね」

 

 にこやかに笑うメントの姿は悪意と嘲笑に満ちている。

 

 ディーベは、彼女の笑顔にうすら寒いものを感じながら頷いた。

 

 話はメントの方が分かるが、ローフと違って共感がまったくできない。

 

 ローフの怒りや苛立ちは自分にはよく分かるが、メントの考え方や感じ方は自分とは明らかに離れている。

 

 彼女は、16号の前まで来ると指先から桃色の光を生み出す。

 

「! 何を!?」

 

「まぁ、見てなさいよ。この力はお菓子に変えて食べるだけじゃないんだから」

 

 そういうと16号に向けて光を放った。

 

 光を浴びた16号は腹に空いた大穴と切断されて破壊された左腕が見る見るうちに再生していく。

 

「これは……!」

 

 目を見開いて完全に復元された体に驚く16号。

 

「! これって!?」

 

「どういうこと?」

 

 ディーベとローフが驚く中、メントが”自分達”に向かって呆れた表情に変わる。

 

「さっきまで囚われていたディーベはともかく、アンタは知らなかったわけ? 呆れちゃうわね」

 

 そう言うメントを睨みつけるローフだが、ザマスが先に口を開いた。

 

「今のは、暗黒魔界の魔術だな。たしか、魔導士ビビディに連なる時間遡行の力だ」

 

 目を細めるザマスにメントが得意げに笑った。

 

「物質を変化させられる魔術っていうのが、アタシのお菓子に変える力。それを応用してこの子の身体を復元させただけよ。もっとも機械でできたこの子の身体を今みたいに完璧に復元させるなら、無から作り上げられるくらいに構造を知らないと復元できないけどね」

 

 ディーベとローフを意味ありげに見比べながらメントは語る。

 

 ローフが不機嫌そうに顔を背ける中、ディーベがメントを見つめた。

 

「あの、ありがとう。16号をーーこの子を戻してくれて」

 

「……ええ。なんてことないわよ? 戻したところで、アタシの邪魔をするなら壊すだけだけどね」

 

「……っ!」

 

 残忍で冷酷な笑みを浮かべるメントを見て、うすら寒いものをディーベは感じている。

 

 能力や記憶は共有している部分もあるが、とても自分と同じ精神から生み出されたものとは思えない。

 

 それでも、と考えなおす。

 

 今の折戸修二とカカロットと名乗った不気味な悟空クローンは、とてつもなく恐ろしい存在にディーベには思えたからだ。

 

ーーーー

 

 ボコボコに殴られて体に力が入らない。

 

 感じるのはーー心の痛み。

 

 ガラス玉のように砕かれたーーあの時の俺の姿。

 

 漆黒の闇の中に意識はある。

 

 助けたと思った少年の言葉に砕かれた俺の夢ーー。だけど、それで終わらない。

 

 夕焼けの紅が射す教室で、誰も居ない教室でアイツは俺に言ってきた。

 

(僕がいじめられたのは、久住くんのせいだーー)

 

ーー は? 何言ってんだ、テメェ?

 

 声が聞こえる。

 

 ムカついて、聞こえただけで胸やけがしそうな声だ。

 

 耳を塞ぎたくて仕方ないのに、聞こえてくる声。

 

 それはーー誰でもない。俺自身の声だ。

 

(最後まで助けてくれないなら、初めから何もしないでよ)

 

ーー 言うじゃねえの? 今まで下向いてばっかりだった弱虫君のくせによ?

 

(……!!)

 

 傷ついたように目を見開く顔も思い出せない少年。

 

 彼に向かって俺の身体はーー口は動いていく。俺の意思に関係なく。

 

ーー テメェがイジメられたのは、俺のせいだと? テメェのせいだろうが! テメェが弱いからイジメられんだろうが? 本気で抵抗してねぇからだろうが? 恐怖に負けて、何にもしてこなかったからだろうが? それを誰かのせいにしてんじゃねえよ。分かったか、甘ったれ!!

 

 思い出す。思い出した。

 

ーー 中途半端に”やめてよ”なんて口で言ってやめてくれる奴なんて、居ねぇよ。自分が見下してた奴に殺されるかもしれないって目に遭って初めてクソどもは舐めるのをやめて逃げんだよ。

 

 俺の言葉だ。他の誰でもない、俺自身の言葉ーー。

 

 心無い言葉を平然と吐く俺に、涙を目尻に滲ませてアイツは言った。

 

(久住くんは強いからね、弱い人の気持ちなんか分からないんだね)

 

ーー ああ、分かりたくもねぇなぁ!! 自分の弱さを他人のせいにするような野郎の言葉なんざ、聞く価値もないぜ!! 転校するって言ってたよな? せいぜい、他の学校でもイジメられないようにビクついてるんだな! ま、一生無理だろうけどな。その腐った根性を叩き直さねぇ限りーーテメェは一生ウジ虫のまんまだ!!!

 

 そしてーー顔を俯かせたアイツを置いて、俺はクラスを出て行った。

 

 アイツは別の学校へ転校していった。

 

 あの時の俺はアイツを恩知らずが、としか思ってなかった。

 

 自分のしたことこそが正しくて、他人のやることは間違いだって何処かで思ってた。

 

「ざまあねぇな。まだ俺は、こんなことを引きずってやがるのか……!」

 

「……紅朗さま」

 

 声にふり返れば、漆黒の闇の中に山吹色の道着に「壱」の文字が左胸に描かれた超サイヤ人孫悟空ーー俺の相棒となってくれた壱悟がいた。

 

「情けねえよな。俺はよ、何も考えちゃいなかった。別に助けようと思って助けたわけじゃない。目の前でバカ面晒して集団で殴ってるやつ、抵抗もしないで殴られてるやつ、それを見るのが気に食わなかった」

 

 この時の俺は、そのことを当たり前としか思わなかった。

 

 弱っちいなら強くなればいい、としか思わなかった。

 

 気に入らないのなら、辞めてほしいのなら、自分が強くなって殴り返すしかない。

 

 言葉なんて通用しない、説得なんてできるわけがない。

 

「ええ、間違っていません。少なくとも私は、そう思います」

 

「ありがとうよ……!」

 

 場面が暗転して変わった先には、小さな白い木箱を白い布で包んだものを壇の上に置いて煙を焚いている小さな和室。

 

 泣き崩れる母親らしき人物と、高校生になった久住史朗少年が呆然と見ている。

 

ーー あの子が、貴方に謝っていました。皆が見て見ぬふりする中で貴方だけが、助けてくれたと。そんな貴方に甘えてしまったと。あの子はずっと、貴方に謝って……!!

 

 救えやしない。

 

 誰も、何も、救えやしないし救われやしない。

 

 遺書になんて書きやがって。

 

 ふざけんなよ、マジで。

 

 俺の中で、顔も覚えちゃいない。

 

 会話なんてまともにした記憶もない。

 

 それなのに、ずっと残りやがってよ。

 

「史朗さま。貴方は、彼が憎いですか? 今も貴方を苦しめる彼が? 自分が無能であると突き付けてくる彼の死が、憎いですか?」

 

 そう言われた時、何故か俺の眼からは涙がこぼれていた。

 

 分からない。

 

 分からないんだ。

 

 俺は、どうすれば良かったんだ?

 

 あの母親は、俺に礼を言いたかったと言っていた。

 

 生前のアイツのことを教えてほしいと言われた。

 

 何も覚えちゃいない、この俺に。

 

 今の今まで忘れていた、この俺に。

 

「孫悟空と同じ身体を手に入れたってよ、孫悟空の力を使えたってよ。この記憶だけは、どうにもならないんだよなぁ」

 

 今の俺はクローン悟空ではない、久住史朗そのものの肉体になっている。

 

 シャツとジャージのズボンを着た、冴えないそのへんの中年だ。

 

 そんな俺を壱悟は変わらずに接してくれる。

 

「あなたに礼を言いたかった、だけなのでしょう。死にゆくものとして一人でも多くの人に覚えておいてほしいと。それが死んでいくものの願いなのかもしれません」

 

「まったく、とんだヤツを助けちまったもんだ。そんな理由で何十年も居付かれちゃ敵わねぇや」

 

「……それでも、あなたは彼を受け入れるのですね」

 

「受け入れるしかねえだろ? もう、今更なかったことにはできねぇよ。ああ、そうだ。そんなことだ」

 

 自分が無能だとは分かっている。

 

 それでも、どっかで悟空に憧れて、自分もなりたいとか思っちまう。

 

 そんな自分に諦めてほしいと思ってるのに、どこかで諦めたくないと思っている。

 

 悟空クローンになれて、悟空と同じ世界に来て、悟空と話せて、壱悟が俺の過去を見てくれた上で思う。

 

 情けねぇよ、俺。

 

 弱っちいよ、俺。

 

 いつまで、俺は弱いまんまだ?

 

 いい加減、うんざりだ。

 

 そう思った時、俺の目の前は急に白い光が見えて世界が一気に広がる。

 

 見えてきたのは、俺の知る日本という国そのものだ。

 

 だが、俺はこの光景を知らない。

 

「なんだ? この景色はどこだ? 山手線か?」

 

 目の前の人物は電車の中に跳び込んでスーツ姿の女を必死に助け出している。

 

 歳は大学生くらいか?

 

 必死に手を伸ばして嫌がる女を線路から引きずり出し、駅員や警察官と共に女を救い出した。

 

 だが、その日は彼にとって大事な大学入試の日だった。

 

 警察官がパトカーに載せて入試会場に青年を連れていくも、試験は既に始まっており途中で入室はできないと断られていた。

 

 警察官が頭を下げているが、彼は呆然と試験会場を見ている。

 

「史朗さま、これは?」

 

「分からねぇ……。どういう記憶だ、これ?」

 

 彼は、警察官二人に家に送ってもらいながら呆然としている。

 

 彼の母親らしきものが玄関先で出迎え、警察官たちは彼の行為をほめたたえる。

 

 どうか、この子の行為を認めてほしいと警察官が言っている。

 

 母親は淡々と頷いて作り笑いで警察官たちを追い払うと、父親にため息交じりで報告していた。

 

 自分の部屋の中にトボトボと入っていく青年。

 

 その日の晩に父親から淡々とリビングで言われていた。

 

ーー お前にどれだけ金を賭けたと思っている? あの程度の大学にも受かれないのか? 見ず知らずの死にたがりを助けて、その結果がこれか? お前が、ここまで出来損ないとは思わなかった。

 

 自分の、子どもになんてことを言いやがる!?

 

 なんだ、コイツは……。

 

 彼は全てに絶望したような表情になっていた。

 

 それまで連絡を取り合っていた同級生との連絡先も全て消され、部屋の中の私物もゴミとして勉強道具以外は全て処理された。

 

 唯一彼に残されたのは、本人も忘れていた制服のポケットの中に入っていたカード。

 

 俺の英雄だったーードラゴンボール孫悟空のカードだった。

 

 そのカードを見つめて両手でカードを持つと彼は涙を流しながら、崩れていた。

 

 家の表札には「折戸」と書かれていた。




次回も、お楽しみに( *´艸`)



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第32話 悟空、俺は強い奴になれっかな?

お待たせしております。

強さとは何か……!

このシリーズでも、やはり永遠のテーマでしょう。

よろしくお願いいたします(≧▽≦)


 真っ黒な空間に俺と壱悟の姿だけが浮き上がっている。

 

 折戸修二。

 

 ヤツの意外な過去とその命を絶つまでの全てを見せられて俺は思う。

 

 アイツと同じ、自分で自分の未来を断ってしまった奴だったんだと。

 

「……こんなもん見せて、俺に何をしろってんだよ。ったく」

 

 思わずぼやいた俺の横で壱悟が掌を何もない前方に向かって突き出し、青い光の球を練り上げた。

 

「誰だ、貴様……」

 

 壱悟の言葉に俺が目を向けた先に居たのは、銀髪の髪をオールバックにしてポニーテールに結んだ紫の肌をした丸眼鏡の男。

 

 本当に誰だ?

 

 見たことが無い、ドラゴンボールのキャラなのか?

 

「はじめまして、久住史朗くん。僕の名前はフュー。様々な世界の可能性を追求しているもので、折戸君の友人でもある」

 

 折戸の友人だと……?

 

「……ということは、テメエが折戸にクローン悟空を作らせたり悪の21号を生み出させた張本人か!!」

 

 拳を握って構える俺、だが自分の拳を見て気付く。

 

 あれ?

 

 俺ってばクローン悟空の身体じゃなくて普通の人間ーー日本人の久住史朗に戻っちまってる?

 

 ヤバいぞ、今は……!

 

 と焦る俺の横で壱悟が構えて居る。

 

 闇の空間の中、フューは右手に何かを取り出す。

 

 それは俺がブルマから貰った衣装チェンジの腕輪型ベルトだった。

 

「て、てめ……! それは俺の!?」

 

 ニコリとしながら笑みを浮かべてフューは告げる。

 

「此処は君の精神の世界。今、君が見ていたのは折戸君の過去……! 君にお願いがあるんだ」

 

「……お願い、だって?」

 

「ああ。僕はね、折戸君を本当に友達だと思っているんだ。彼の方は僕を利用しているつもりだけど、僕は彼が救われる世界が見たい」

 

 微笑みながら言うフューの言葉は、胡散臭くはあるが本音だという感じがする。

 

 救われる世界、か。

 

 確かにあんな過去じゃ救われたいよな。

 

「……なぁ、折戸の親父は死んだアイツに何て言ったんだ?」

 

「それは、聞かない方がいい」

 

 静かではあるが明らかな怒りを持ってフューは、そう言った。

 

 俺は思わず胸を手で押さえてた。

 

「……そうかよ。なんで、そんな人間が子どもなんか作るんだ……! 自分の子どもを道具にしか思えないような人間が……!!」

 

 思わずつぶやく俺にフューは複雑そうな表情で言ってきた。

 

「そうだね。でも、そういう人間も居るということさ。子どもを殺すことを平然とできる人間は、獣以下の種族だからね」

 

 その言葉に俺は思わずうなずいていた。

 

 でも、だからって。

 

「でもよ、だから折戸が許されることはないぜ? この世界でアイツがしたことは俺は許せない」

 

「うん、君ならそう言うと思っていたよ……。だからこそ、君なら救えると思うんだ。同じ世界から来てーー彼と同じくらい孫悟空に憧れた君なら、折戸君を」

 

 救えるって……!

 

「バカ言うなよ、俺は悟空じゃない。悟空みたいに人を救うなんてできっこない。俺にできるのは殴り飛ばすくらいだ」

 

「そうかい? でも君が殴り飛ばした人たちは今も生きているんだろ? おまけに殴り飛ばしたことによって救われた人も居る」

 

 壱悟が構えを解いて俺の方を見る。

 

 フューは敵対する意思はないみたいだった。

 

「なあ、アイツ。悟空に憧れてたんだよな?」

 

「うん、ドラゴンボールの世界に来てクローン悟空の肉体を手に入れようとしたのも純粋に孫悟空になりたかったんだと思うよ」

 

 俺は闇の中で空を見上げる。

 

 闇しかない。

 

 下も前も横も後ろも闇だけだ。

 

 それでも、俺は上を向く。

 

 そうかぁ、アイツも悟空が好きなんだなぁ。

 

「……気持ちは、よく分かるよ。ホントに」

 

「うん。だから君を選んだ」

 

 そうかよ、つまりは……!

 

「テメエが! 俺を、此処に呼んだ張本人か!!」

 

 考える前に拳を繰り出していた。

 

 この野郎こそが、俺を此処に招いた張本人なら、殴らない理由はない!!

 

 だが、クローン悟空の肉体なら光のように速かった拳も、普通の人間の拳なら大した速さにはならない。

 

 それでもフューはまともに俺の拳を食らった。

 

 鈍い音がしてフューは後方に顔をのけ反らせる。

 

「……罪滅ぼしのつもりかよ? 見え見えの拳をまともに喰らいやがって」

 

「そんなつもりはないよ。僕は、知りたいことを優先しただけだ。そして友達を助けたいから君を利用するためにこの世界に喚(よ)んだ。そのことには間違いはない。でも、君が僕を殴る気持ちも間違ってない」

 

「……変な野郎だ」

 

 そう呟いた俺をニコリと見返してフューは言った。

 

「そうかい? 君も、たいがい変わっているけどね」

 

 そういうと俺にブルマから貰った腕輪を投げて来た。

 

 俺は両手でキャッチすると左腕に腕時計の要領で着ける。

 

「久住史朗くん、君に折戸君を救ってもらうには君自身が強くならないといけない。悪いけど、此処で修行してもらうよ」

 

「……修行だって?」

 

 すると俺の右手に元の世界で折戸が持っていた超サイヤ人孫悟空のカードが現れた。

 

「これは……!」

 

 そのカードからは力を感じた。

 

 とてつもない力を……!

 

「そのカードを腕の変身ベルトにかざしてみてよ」

 

「……! まさか」

 

 そう思いながら、俺はベルトの時計が本来なら付いているカプセルコーポレーションのマークが描かれたディスプレイの前にかざすとカードが光の粒子に変わって俺の身体に纏わりついてーー超サイヤ人孫悟空そのものに変身していた。

 

 「紅」一文字を胸と背に書かれた山吹色の道着にクローン悟空の肉体を持った久住史朗ーー紅朗へと変わっている。

 

「……最初から超サイヤ人になれるとはね」

 

 力を込めたわけでも気合を入れたわけでもない。

 

 カードを腕にかざしただけで超サイヤ人へと変身した状態の紅朗になれる、か。

 

 壱悟がコクリと頷いてフューを見る。

 

「まずは、君にそのベルトとカードの使い方を学んでもらうよ?」

 

 腰の刀を抜き放ってヤツは俺に言った。

 

 と同時に目の前にヤツが迫る。

 

 咄嗟に左腕を上げて手首のベルトに気を集中させて刃を止める。

 

 右ストレートを返すと、ヤツは首を横にひねって躱す。

 

 フューの右の膝が腹に向かって返されるのを左掌で止めてヤツの金の瞳を睨みつけながら、俺は拳と蹴りを連撃で放つ。

 

 フューも俺に拳と蹴りを返しながら告げた。

 

「さすがだね、孫悟空の肉体を君は既に使いこなしている。そのセンス、素晴らしいよ」

 

「そいつは、どうも!!」

 

 言葉を返しながら俺は気合を入れて超サイヤ人2に変身する。

 

 右拳を握り、こちらに向かって振り下ろされる刃に向けて放つ。

 

 強烈な衝撃波が闇の世界に響き渡り、フューを弾き飛ばす。

 

「さすがだね、でも孫悟空だけじゃ僕には勝てない」

 

 言うと同時、ヤツは刀に赤とも紫とも付かない光を纏わせると空間に「ⅨⅠ」という文字を描いで俺に気弾のように放ってきた。

 

 大した威力の無い気弾だからこそ、俺は左腕に気を纏って払いのける。

 

 瞬間、俺の超サイヤ人2のエネルギーがかき消され、クローン悟空の姿に戻る。

 

「なんだと!?」

 

 目を見開く俺の目の前にフューは現れて俺の顎を蹴り飛ばした。

 

 強烈な一撃に目がクラクラしながら後方へ吹き飛ぶ俺の身体を後ろから掴み止める壱悟が居た。

 

「本物の孫悟空なら、今の技を避けると思うよ。つまり、どれだけ君が孫悟空と同じ力と身体を使えたとしてもオリジナルには及ばない。それが経験でありセンスだ」

 

「……ああ、そうだな」

 

 素直に認めよう。

 

 この男の言葉は、俺を強くしようとしている言葉だ。

 

「それを埋めるには、君の能力しかない」

 

 フューの言葉と同時に俺の目の前に三枚のカードが現れる。

 

 天津飯、ヤムチャ、クリリンのカードだ。

 

「……俺にクローンを取り込ませたのは、お前か」

 

「うん、そうだよ。魔人の細胞を使ってクローン達にあらゆる姿へ変身させる可能性を見せた。そして、それぞれの姿でデータを入力して活動させ動きを経験させる。それを全て取り込んだ今の君は、本物の戦士達と同じように自分の身体として他の戦士の肉体に変身して使いこなすことが出来る」

 

 フューの言葉を聞きながら、俺はヤムチャのカードをベルトにかざして変身する。

 

 俺の姿はヤムチャそのものへと変身した。

 

 クローンヤムチャではない、本物のヤムチャと同じ姿に。

 

 クローン悟空の肉体よりも遥かに鍛え上げられた力をヤムチャの肉体に変身した今、感じる。

 

 そして理屈でなく感じる。

 

 このカードとベルトの力と可能性を。

 

「……壱悟、悪いがちょっと下がっててくれ」

 

「はい、そのつもりです」

 

 二ッと笑ってくる相棒にニヤリと返しながら俺は笑う。

 

 いいじゃないか。

 

 最高だ、このベルトとカードがあれば俺は憧れたZ戦士にもなれるんだからな。

 

 使いこなしてやる、この体と能力を……!

 

「そんで……! テメエらに一泡ふかせてやらぁ!!」

 

 ヤムチャの両の手に青い気を凝縮させて本物の牙のように鋭くさせる連撃ーー狼牙風々拳を放ちながら、俺は叫ぶ。

 

 悟空に勝てないのは知ってる、ヤムチャは俺なんかよりずっと凄い。

 

 そんな憧れの連中と同じ力と技と姿になれるなら、俺は今、負けるわけには行かないんだ!!

 

「ハイヤァアアア!!」

 

 ヤムチャの嵐そのものとも言える連撃を捌きながら後方へ下がるフューだが、明らかに表情に余裕が無くなっている。

 

 距離を置いて逃げようとするフューの前に俺の右手には天津飯のカードが握られている。

 

 ベルトに交差させると光の粒子へとカードが変わって俺を天津飯に変身させる。

 

 本物と変わらない緑の袈裟道着を着た天津飯の姿になった俺は、両手を◇にして顔の前に構えると金色の気を掌に凝縮させる。

 

「気功砲!!」

 

 強烈な一撃は、一瞬で闇の空間を◇に削る。

 

 サイドに高速移動して避けたフューを三つの眼で追いかけると切り込んできたフューに拳と蹴りを打ちこんで迎え撃つ。

 

「……想定通りとはいえ、こんなにあっさりと僕の攻撃を止められるなんてね」

 

「今更、後悔しても遅いぜ!!」

 

 僅かな間隙を縫って俺はクリリンのカードを右手に握ってベルトに交差させている。

 

 光の粒子を纏ってクリリンに変身すると、白い気を纏って一気に開放する。

 

「!!」

 

 気を一気に爆発させて開放することは、クリリンなら容易い。

 

 悟空よりもクリリンは、気を扱う才能に長けている。

 

 リーチの差を補って余りある突進で一気に踏み込むと、拳と蹴りを叩きつける。

 

 咄嗟に両腕をクロスさせてガードするフューだが、遅い。

 

 左足で顎を跳ね上げる。

 

「気円斬!!」

 

 左手を天に向けてかざし、円盤型にした気の刃を練り上げるとそれをフューに向かって放つ。

 

 回転するのこぎりのように円盤はフューに向かって一気に距離を詰める。

 

 瞬間、フューが刀を振り払って斬撃で気円斬を斬り捨てるーーその真上に俺は移動速度の速さでヤムチャに変身して現れるとかめはめ波を放った。

 

「……しま!!」

 

 刀を振り切った姿勢のフューは青い光線の向こうへと消えて行く。

 

 手応え、在り。

 

 気を緩めると光の粒子が身体から弾けてヤムチャの変身が解けクローン悟空ーー紅朗の姿へと戻る。

 

「便利なもんだ、こりゃ」

 

 思わずあきれた俺に向かって煙の向こうからフューが現れる。

 

「僕のヒーローズライセンスカードは、上手くいったようだね」

 

 瞬間、俺に向かってフューがカードを投げて来た。

 

 掴み止めた俺が見たのは、ベジータ、ナッパ、ピッコロ、フリーザ、完全体セル、純粋ブウ、青年悟飯、未来トランクス、ナッパ、ギニュー特戦隊、といった中々訳の分からないメンツのカードだった。

 

 そのカードたちは光の粒子に変化すると俺の左掌にあった緑の宝石の中に吸い込まれていった。

 

 どうやっても取れなかった緑の宝石は左腕のベルトのカプセルコーポレーションのマークに取り込まれて消える。

 

「…やっとこ、左掌の石が消えてくれたか」

 

 ホッと一息ついた俺にフューはニコリと笑みを返すと次の瞬間、闇の空間を斬りつけた。

 

 そこから赤紫色の光の裂け目が出来て一人の人間が現れる。

 

 それは灰色の道着に赤いインナー、胸と背に悟マークが入った孫悟空のクローンそのものだ。

 

 俺と壱悟と同じ肌の色にくすんだ金の髪だが、そいつは金色の気を纏って超サイヤ人へと変身する。

 

 明るい金髪に翡翠の瞳、透き通るように輝く白い肌を持ったクローン悟空は俺をニヤリと見て笑う。

 

「ようーー「俺」」

 

「……な、に?」

 

 思わず、そんな間の抜けたことしか言えなかった。

 

 だが、感覚で分かる。

 

 コイツは……俺、か?

 

「そうだ、オレはお前さ。久住史朗!!」

 

 瞬間、そいつは黄金の炎を纏って翡翠に黒の瞳孔が浮かんだ瞳に変わる。

 

 金髪が黄金に燃える炎のような激しい色に変わる。

 

「て、テメェ……! その姿は真・超サイヤ人……!!」

 

 だが、俺の知っている姿とは少し違う。

 

 ヤツの耳は大猿のようにとがり、牙が生え、目の白い部分(角膜)が真っ赤に染まっている。

 

「……! なんだってんだ、この化け物は!?」

 

「お前だよ、久住史朗。オレはお前そのもの、さ!!」

 

 凶気を纏ったオレに俺は、咄嗟に右腕をガードに上げて拳を受け止める。

 

 強烈な一撃に受けた腕から肩に衝撃が貫いて、ガードが跳ね上がった。

 

「な、んだと!?」

 

 追撃で放たれる拳に俺は超サイヤ人へと変身して今度こそ掴み止める。

 

「…っテメェ!!」

 

「ふん、それで止めたつもりかよ……!」

 

 気が一気に爆発して黄金の炎を巻き上げるとオレのパワーが跳ね上がった。

 

 掴み止めた拳がそのまま、押し込まれていく。

 

「……! のやろう!!」

 

 超サイヤ人2に咄嗟に変身してヤツの気の上昇よりも一瞬で上回り、蹴りを叩き込む。

 

 後方へはじけ飛ぶヤツに、俺は気功波を叩き込んだ。

 

 光弾は見事にヤツを闇の空間の後方へはじき飛ばす。

 

 しかし、次の瞬間には超サイヤ人2の俺の気を上回る気を放出しながら突っ込んでくるヤツが居る。

 

「うおらぁああああ!!」

 

「なめんなぁあああ!!」

 

 雄たけびを上げて拳を繰り出すヤツに向かって俺も超サイヤ人2のフルパワーを引き出しながら拳を叩きつける。

 

 拳と蹴りを叩きつけながら互いに交互に顔を後方へのけ反らせる。

 

 コイツ、マジで強いじゃねぇか?

 

 ホントに俺なのかよ!?

 

「ククク! 殺してやるぜ!!」

 

 おまけにとんでもない殺意じゃねぇかよ。

 

 拳を殺す気で振り抜いてきやがるーーそっくりだ。

 

 昔の俺、そのもの……!

 

 真・超サイヤ人だかなんだか知らないが、こういう阿呆は俺そのものだと理解できた。

 

 殴りつければ付ける程、蹴り飛ばせば蹴り飛ばすほどにパワーとスピードが跳ね上がって気が爆発的に増えていく。

 

 これが真・超サイヤ人……か。

 

 伝説の超サイヤ人ブロリーと悟空達の戦いを思い出すぜ。

 

「でもよ……! 悟空の姿で化け物になりやがって……! 俺の英雄を汚すんじゃねぇよ、この化け物がああああ!!」

 

 超サイヤ人3に変身する。

 

 俺の変身を見て、ニヤリと笑うオレ。

 

 そして拳を握りしめる。

 

「テメェじゃオレには勝てねぇ。思い知れや、俺!!」

 

「何をわけわからんことを……! 調子に乗ってんじゃねえよ!!」

 

 同時に空間から消えて高速移動でぶつかる俺とオレ。

 

 まともにぶつかった拳は一方的に俺がヤツの拳を吹き飛ばした。

 

 超サイヤ人3のパワーとスピードで一気にヤツを追い詰める。

 

 どうやらヤツは通常の超サイヤ人の状態からのパワーアップしかできないようだ。

 

 なら、超サイヤ人2を少し上回ったくらいの今の奴になら、超サイヤ人3のフルパワーで勝てる。

 

 短期決戦で一気に決着をつける!!

 

「いくぞぉおおおお!!」

 

 真・超サイヤ人に何故か変身できないが、んなこたぁどうでもいい。

 

 このまま一気に潰す!!

 

 左拳を振りかぶって殴りかかる俺を、ヤツは焦った表情になって上空に避ける。

 

「かめはめ……!」

 

 瞬間、青白い光線を練り上げてフルパワーで放つ。

 

 くらえ!!

 

「波ぁああああああ!!」

 

 野太い光線がヤツに迫る。

 

 瞬間、ヤツは焦った表情から一転してニヤリと笑うとまともに光線を浴びた。

 

 強烈な一撃は、爆発せずに青白い光球になってヤツの周囲に纏わると黄金の炎がそれを食らう様に爆発して一気に気を上げる。

 

「な、にぃい!? 超サイヤ人3のフルパワーかめはめ波を、パワーアップに利用しやがった……!」

 

 吸収し切ったっていうのか!?

 

 あの、とんでもないパワーを!?

 

「分からないやつだな、久住史朗。お前が、どれだけ変身しようが真・超サイヤ人に至れないお前じゃオレには勝てないってのがよ」

 

「……! なめやがって……!」

 

 だが、俺の変身はすぐに切れる。

 

 超サイヤ人3のフルパワーは、体力を一気に持っていく。

 

 辛うじて超サイヤ人の状態は保っていたが、これはキツイ。

 

 気と体力が充実するまでは超サイヤ人3に変身できない。

 

「……! くそ!!」

 

 咄嗟に引いたカードはセル。

 

「やるしかねぇ!!」

 

 腕輪にカードをクロスさせ、俺の身体は完全体のセルに変身する。

 

 超サイヤ人3には劣るが、それでも青いスパークが走る金色の気は頼もしい。

 

 それにセルなら、あらゆる戦士の技が使える。

 

 コイツなら技の組み立てで一々、他の戦士に変身する必要もないはずだ。

 

「……そうかな?」

 

 強烈なダッシュからの一撃を受け止め、拳を振りかぶって返す。

 

 だが、スピードもパワーも圧倒的な今のヤツにはまるで、通用しない。

 

 全ての攻撃を紙一重で捌かれて、反対に強烈な一撃を腹にくらい下がった顔に左右の拳を叩き込まれて後ろ回し蹴りで吹き飛ばされる。

 

 後方へ吹き飛ぶ俺の背後に高速移動で現れたヤツに俺は背中を思い切り殴りつけられて闇の空間の下方へと吹き飛ばされていく。

 

 一瞬でカードの効果が切れて、紅朗の姿へと戻っちまう。

 

「ぐ・・・が・・・」

 

 立ち上がろうにも、余りの一撃に身体が言うことを聞かない。

 

 これは、やばいな……!

 

 本気で死ぬかもしれねぇ。

 

 他ならない、自分自身に殺されちまうってのは、気に食わねぇ……!

 

 それでも身体が言うことを聞かない。

 

「久住史朗くん、君はーー彼を死なせてしまった。そう思っているみたいだけど、君の選択が間違っていたかどうかは誰にも分からない」

 

 そんな俺の耳にフューの声が届く。

 

 壱悟が俺を案ずる声が聞こえるが、それよりもフューの声が響いてくる。

 

「君に、見せたいものがある」

 

 そう言って、俺の目の前にはーーあの時の夕暮れの校舎があった。

 

ーーーー

 

 見開いた俺の目の前には、二人の学生服を着た子どもが向かい合っている。

 

「……! これは、俺の過去……!?」

 

 そんな俺の前で、過去の俺とアイツが記憶そのままの会話をしている。

 

「僕が、いじめられたのは久住君のせいだ!! 君があの時、助けたから、僕は君の見てないところで見えないようにずっといじめられていた!! この身体の傷をみてよ!! これで、君は助けたって言うのか!!? 最後まで助けるつもりが無いなら、初めから手を出さないでよ!! 期待させないでよ!!!」

 

「言うじゃねえの? 今まで下向いてばっかりだった弱虫君のくせによ?」

 

「……!!」

 

 傷ついたように目を見開く顔も思い出せなかったアイツの顔がハッキリと見える。

 

 彼に向かってガキの頃の俺が言った。

 

「そもそも何を勘違いしてんだ、テメエは。俺はテメエを助けてなんかいねえ。寄ってたかって一人を殴りつける行為がムカついたから殴った、それだけだ。それと同じくらい刃向かわない奴も大嫌いだがな」

 

 そのままガキの頃の俺はアイツを睨みつけていた。

 

「テメェがイジメられたのは、俺のせいだと? テメェのせいだろうが! テメェが弱いからイジメられんだろうが? 本気で抵抗してねぇからだろうが? 恐怖に負けて、何にもしてこなかったからだろうが? それを誰かのせいにしてんじゃねえよ。分かったか、甘ったれ!!」

 

 ああ、そうだ。

 

 そう言って俺はアイツを傷つけたんだ。

 

「中途半端に”やめてよ”なんて口で言ってやめてくれる奴なんて、居ねぇよ。自分が見下してた奴に殺されるかもしれないって目に遭って初めてクソどもは舐めるのをやめて逃げんだよ」

 

 俺の言葉だ。

 

 他の誰でもない、俺自身の逃げられない言葉ーー。

 

 心無い言葉を平然と吐く俺に、涙を目尻に滲ませてアイツは言った。

 

「久住くんは強いからね、弱い人の気持ちなんか分からないんだね」

 

「ああ、分かりたくもねぇなぁ!! 自分の弱さを他人のせいにするような野郎の言葉なんざ、聞く価値もないぜ!! 来月から転校するって言ってたよな? せいぜい、他の学校でもイジメられないようにビクついてるんだな! ま、一生無理だろうけどな。その腐った根性を叩き直さねぇ限りーーテメェは一生ウジ虫のまんまだ!!!」

 

 

 そう言ってガキの頃の俺はアイツに背を向けて手を挙げる。

 

「じゃあな。わざわざ、呼びつけて恨み言言ってくれてありがとうよ。テメエは」

 

 そしてーー顔を俯かせたアイツを置いて、俺はクラスを出て行こうとした。

 

「……分かってるよ」

 

「あ……?」

 

 振り返る過去の俺に向かってアイツは叫んだ。

 

「そんなことは、分かってるってんだよ!! うわぁああああ!!」

 

 そして拳を振りかぶって俺に殴りかかって来た。

 

 過去の俺は、それを驚いた表情で目を見開きながら受け入れた。

 

 まともに拳を顔面に入れられ、後方へ倒れる。

 

「……え?」

 

 殴ってキョトンとするアイツに過去の俺はニヤリと笑いかけている。

 

「できんじゃねえかよ、バァカ」

 

「……え? 久住君、僕……!」

 

 俺が目を見開く中で過去の俺は殴られた頬をさすりながら言った。

 

「それができるなら、別の学校でも大丈夫だ。自信持てよ、お前ならやれる」

 

「ほ、ほんと? 僕、できるかなぁ?」

 

「ああ、もしなんかあっても言って来いよ。俺がお前をボコしたヤツをボコボコにしてやっから」

 

 ニヤリと笑ってる俺を、アイツは涙を流して大泣きしている。

 

 それを俺は慌ててなだめている。

 

ーーーー

 

 この……記憶は……!

 

 それから数ヶ月、連絡は一切なかった。

 

 上手くやっているんだろうかとは思ったが、あそこまで言ったんだ。

 

 必ず俺に助けを求めに来るだろう。

 

 そう思って……、ずっと待っていた。

 

「……なんで、こんなものを見せやがる……!!」

 

 忘れていた俺を責めるような、この記憶は……!!

 

 目の前に立っている黄金の炎を纏った鬼(バケモノ)の眼から血の涙が流れている。

 

 俺と同じように……!

 

ーーーー

 

「誰も、お参りに来てくれなくて。ありがとう、久住君。あの子があなたのことをずっと褒めていました」

 

 小さなアパートの一室で、小さな遺骨を抱えて喪服を着た中年の女性が俺の顔を見ている。

 

 俺は、拳を握って写真の中にいるアイツに言った。

 

「馬鹿野郎がぁああああ!! なんでだ、なんで、助けを求めなかった!? なんで言ってくれなかったんだよぉ!? 今度こそ、助けるって約束したじゃねぇか!! なんでだ!!!?」

 

 叫ぶ俺を見て涙を流している喪服の女性は、俺に言った。

 

「久住君のようになりたいって、ずっと言ってました。あの子は、貴方みたいに誰かいじめられている子を助けたいって……! そう言ってあの子は……!!」

 

「……!!」

 

「貴方にごめんなさいと、ずっと……!」

 

 その後の過去の俺は、鬼のような形相になってアイツの学校に行った。

 

 アイツが、不良にいじめられたのは、別の誰かがいじめられていたのを助けようとしたからだった。

 

 それを誰も助けなかった。

 

 助けられたやつも、何もしなかった。

 

「ふざけんなよ……! テメエらがガキだから許されるって言うんなら、同じ餓鬼の俺が!! テメエらを裁いてやらぁあああああ!!!」

 

 手当たり次第に殴り散らかした。

 

 警察を呼ばれ、大の大人に数人がかりで抑え込まれるまで俺は暴れ続けた。

 

 電車で一時間はかかる町の高校で俺は、ありとあらゆる暴言を吐きながら喚き散らし自分の血と返り血で真っ赤に染まって黒い学生服が血を吸って黒く黒く光っていた。

 

 警察の厄介になり、親を呼ばれ、器物破損罪やらなんやらで親を巻き込んでしまった。

 

 親父は、そんな俺に一言だけ告げた。

 

「そんなことで、あの子のかたき討ちをしたつもりか? 下らんわ」

 

 それから、俺は気に入らないヤツは容赦なく殴りつける男に変わった。

 

ーーーー

 

「どうしようもない男だ、俺は」

 

 笑っちまう。

 

 こんな、どうしようもない男を信じてアイツは……!

 

 そんな俺に向かってフューの声が響いてくる。

 

「それじゃあ、こういうのはどうかな?」

 

 そう言って、俺の目の前にあの頃の世界が広がる。

 

 いじめられている子を助けるアイツ。

 

 いじめられていた子を守るために勇気を振り絞ったアイツを過去の俺が、守っていた。

 

「久住君、どうして……!」

 

「気になってよ。2カ月も何も言ってこないからこっちから会いに来たってわけさ。さあ、俺たちで潰してやろうぜ!!」

 

 その姿は、まるで俺が憧れたーー俺がなりたかった孫悟空のような英雄の姿へとなった俺だった。

 

 これはーー!!

 

「君と彼には、こういう可能性もあったんだよ。今の君の歳まで彼も居て笑い合っている、そういう未来もあったんだ……!」

 

 その俺とアイツの姿は、救われていた。

 

 笑顔で安い缶ビール片手に愚痴を言い合っている。

 

「……どうだい? こういう未来を見ても君は、君たちは自分が認められないかい?」

 

 倒れ伏した俺と、黄金の炎を纏った鬼(バケモノ)に向かってフューは問いかける。

 

 それを壱悟が静かに見据えている。

 

 ああ、そうか。

 

 俺には、こういう未来もあったんだな……!

 

 でも、今の俺は見せられた俺じゃない。

 

 立ち上がる。

 

 腕ベルトのボタンを押すと俺の姿は紅朗から久住史朗へと戻った。

 

 その状態でーー生身の状態で俺は目の前の真・超サイヤ人に向き合う。

 

「……貴様……!!」

 

「おい、くそ馬鹿野郎。今からテメエを思い切り殴る。覚悟しとけ」

 

「舐めるな、ただの久住史朗の貴様が、真・超サイヤ人に勝てるわけないだろうがぁああああ!!」

 

 強烈な気を放つバケモノに向かって俺は、ゆっくりと駆ける。

 

 壱悟が、俺を止めようと手を伸ばすがそれよりも速く、俺は踏み込んでいた。

 

「な、にぃいい!!?」

 

「俺は、とっくに知っていたんだよ」

 

 腹を思い切り打ち貫いて俺は呟く。

 

「本当に強いのは、アイツみたいなヤツだってな」

 

 瞬間、俺の身体を黄金の炎が燃やす。

 

 山吹色の道着を着た紅朗の姿へと戻ったと思った時には、俺は真・超サイヤ人に変身していた。

 

 腹を打ち貫かれたバケモノは、そんな俺の姿を見てーー。

 

「……なんだよ。できるじゃねぇか……! なら、後は大丈夫だよなぁ。俺よぉ」

 

「ああ……! 任せとけ、今度は必ず助けてみせるぜ!!」

 

 バケモノの仮面が割れて、鏡のように紅朗の姿へと変わったオレに向かって俺が告げる。

 

 すると、ヤツは満足そうな笑顔をして俺の腹の中に光の球と化して取り込まれていった。

 

 瞬間、俺の力が爆発的に上がったのを俺自身が感じる。

 

「うん、この力なら大丈夫だね……! 久住史朗くん、折戸君を頼んだよ」

 

 その声を聴きながら俺は闇の空間の中で意識の浮上を感じていた。

 

 壱悟と共に俺は、現実の世界へと戻る。

 

 今度こそーー強い奴になるために。




次回もお楽しみに!(^^)!


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第33話 悟空、やっとこ俺の出番だぜ!

お待たせしました。
意外に難産でした(;^ω^)
楽しんでください(;^ω^)


 人造人間21号。

 

 かつてドクターゲロによって造られた最後の人造人間。

 

 彼女は今、三人へと別れている。

 

 ディーベ、ローフ、メントという名をそれぞれ名乗りだした彼女達は、周囲をジッと見渡して状況の整理を始めていた。

 

 倒れた二人の悟空クローンの傷は既に完治している。

 

 三人の中で最もオリジナルと言える人格を持ったディーベは、倒れ伏した紅朗の頭を自分の膝を枕にさせて眠らせている。

 

(この状況で最も有利なのは孫悟空とベジータのクローンを手に入れて合体した折戸修二。間違いなくヤツは、魔人ブウやセル、ゴクウブラックよりも強い。たとえ紅朗が目を覚ましたとしても、このレベルの戦いについていけるか……)

 

 もう一人のクローン悟空ーー壱悟を岩の壁にもたれかけさせて人造人間16号は考える。

 

「たしかに、この状況では私たちに力が足りないわね」

 

「それならそれで、片っ端から吸収すれば良い話ね」

 

 不敵な笑みを浮かべる21号の邪悪な二人の分身は、静かにベジットクローンの折戸修二を睨みつけた後に自分と同じ姿をした白衣の人造人間を見つめる。

 

「ちょ、ちょっとシャノア! あんたにそっくりな化け物が二人、こっちを見てるんだけど!?」

 

 青い三つ編みの髪をした少女の声にシャノアと呼ばれた21号はジッと冷徹な眼差しを分身二人に向ける。

 

「ちょうどいいですね。彼女たちを吸収して、私の地力を上げればマスターの手助けができるでしょう」

 

 冷たい目を光らせるシャノアにローフとメントも構えを取る。

 

「言ってくれるじゃない、たかだか修二に作られただけの人形風情が」

 

 ローフが鋭い牙を剥き出しにして笑みを浮かべる。

 

「…だけど、何故変身しないのかしら?」

 

 その横でメントは瞳を鋭く細めてシャノアを睨み付けた。

 

 対峙するシャノアは瞳を静かに閉じてから見開く。

 

 アイスブルーに黒の瞳孔が浮かんだ瞳が、翡翠色に変化して瞳孔が消える。

 

 赤みがかった茶髪は金色に輝き、後ろ髪が炎のように逆立っている。

 

 金色に輝く髪に翡翠の瞳、透き通るように輝く白い肌に変わった人造人間21号。

 

 その身に纏うオーラは金色で青いスパークが走るものだ。

 

 そして他の21号と同じ魔人の服を身に纏いながら、その尻からは金色に輝く猿の尻尾のようなものが生えている。

 

「…超サイヤ人だと?」

 

 腕を組んで様子を見ていたザマスが瞳を細めながら、その変身を睨み付ける。

 

 魔人に変身した3人の21号とは違い、シャノアは超サイヤ人へと変身したのだ。

 

(だが、ただの超サイヤ人ではない。こやつの気は、セルや他の21号と同様。あらゆる戦士の細胞ーーそれらが混ざりあった気だ)

 

 瞳を細めながら、観察するザマスに対してディーベもシャノアを見つめる。

 

「まさか、魔人の細胞を基にしてサイヤ人の因子を強く顕現させている? そんなことがーー!?」

 

 ディーベの言葉に、上から答えが降ってきた。

 

「そのとおりさ、21号。彼女は、お前とフューが作り出したクローン戦士のデータを基に生み出された俺だけの人造人間21号ーーシャノアさ」

 

 全員が空にいる声の主ーーベジットクローンを見つめる。

 

 彼は静かに語り出した。

 

「…俺は、元の世界で酷い目に遭った。だから、こっちの世界に来た時。絶対に負けないために策を練ったのさ。人造人間21号ーーお前の生み出したクローンを利用してな」

 

 全員が折戸を見つめると、彼は続ける。

 

「…魂だけになって世界を彷徨っていた俺は、フューに出会った。俺のドラゴンボールの原作知識やゲームやアニメの知識を少し話しただけで、アイツは俺に協力してくれたよ」

 

 ザマスは静かに問いかける。

 

「貴様は、この世界で何をするつもりだ? 異世界の人間の魂をこちらに喚んでクローンの肉体へと移す。そして悪の波動で倫理観を崩壊させて21号の尖兵にした。手駒を増やすためだと聞いたが、随分と回りくどい」

 

「…ひとつは、異世界の魂がクローンの肉体に定着するのかを確認した。そして、悪の波動や洗脳がクローン戦士をどこまで強力にするかの確認。後は、魂を入れられたクローン戦士が死んだ場合はどうなるのか、を確認したのさ」

 

 折戸はニヤリと笑って応える。

 

「一つ目は、簡単だった。問題は二つ目の悪の気や魔力による洗脳の強化率とリスクだ。上がったパワーもスピードも敵を倒す前に死んでしまえば意味はない。というか、死んじまったら話にもならない」

 

 セルとブウを前に折戸はベジットブルーの肉体で拳を握る。

 

「そこで俺は自分の魂をーーその本体を次元の狭間に置いて、魂を分離させた端末をクローンの肉体に入れられるかをフューに問いかけた。実験は上手くいってね、こんな風に」

 

 折戸が指を鳴らすと同時に、孫悟空とベジータのクローンが光の粒子となって折戸の前に現れる。

 

 クローンの二人にベジットクローンの胸から金色の光の球が出てくると、悟空クローンとベジータクローンの肉体に吸い込まれ、感情が生まれると同時に悪の気を纏った超サイヤ人ブルーへと変身する。

 

「「「俺は、俺の意思と魂を無限に分離させて無限にクローン戦士を生み出せるように変えたんだ。俺より強い奴が現れようが、肉体が滅びようが、永遠と別の肉体に移ってそいつを殺せるように、ね」」」

 

「……なるほど、一つの真理ではあるな。自分よりも強い者が居ようとも、そいつを殺すまで自分の肉体を強化し、勝てなければ永遠に新しい肉体を生み出して挑戦し続けることができるというわけか」

 

 セルが感心したように言葉を告げるも、クローン戦士の肉体を生み出すのに自分の細胞が使われているブウは嫌悪感を丸出しにした表情で唾を吐き捨てる。

 

 クローン戦士の肉体をキャラクターと言い切った折戸修二の言葉の真意であろう。

 

 勝てないのならば、自分の肉体を鍛えて挑み、滅びれば新しい肉体に変える。

 

「……お前達が知っているかは知らんが、これはドラゴンボールの映画が元でね。メタルクウラというフリーザの兄貴が生み出したキャラクターが元なんだよ。コアが殺されるまで永遠に生み出され、強くなっていく。もっとも、メタルクウラの場合は他のキャラの肉体を使えないからクローン戦士ほどには面白くないんだけどね」

 

 孫悟空とベジータのクローンの折戸修二がベジットクローンの折戸修二の後に口を開く。

 

「孫悟空クローンの肉体を持った俺とーー」

 

「ベジータクローンの肉体を持った俺が、お前達レベルに強化されればーー」

 

 ベジットクローンの折戸が笑みを更に強くする。

 

「お前らなんて比較にならない強さのベジットが誕生するのさ。いや、折戸修二がな」

 

 三人の超サイヤ人ブルーが同時に激しい炎のような青黒い気を纏う。

 

 同時に悟空とベジータのクローンが一定の距離を離して鏡に写ったかのように両手を左右対称に水平に構える。

 

「「フュージョン!! はっ!!」」

 

 瞬間、悟空とベジータのクローンが一つの光へと交わり一人の戦士が生まれた。

 

「……なんだと? ベジットじゃないのか!?」

 

 魔人ブウが目を見開く中、現れた折戸修二はニヤリとブウとセルに笑いかける。

 

「そう、これはゴジータ。さあ、いよいよお前らが死ぬ時が来た……!!」

 

 笑うゴジータクローンの肉体を持った折戸修二にベジットクローンもニヤリと笑い、魔人ブウを見る。

 

「まずは、ひとり死んでもらおうか」

 

「笑わせるなよ、異世界人が!!」

 

 薄紅金色のオーラを激しく燃やしてブウが構える。

 

 二人の折戸修二が同時に襲い掛かった。

 

ーーーー

 

 超サイヤ人に変身した人造人間21号ーーシャノアに対して、ピンクがかった白髪を揺らして赤黒い気を纏いローフが構える。

 

 同時に紫の肌に斑点が浮かんでいるメントも同じ色の気を纏った。

 

「調子に乗らないでよね、たかが人形の分際で!!」

 

「……とっとと、お菓子にして食べてあげるわ。不愉快なクローン」

 

 左右から襲い掛かるローフとメントに対してシャノアは冷たい瞳で左手を顔の横に置くと、申し合わせたかのようにローフの右拳が吸い込まれるように掌へ掴まれる。

 

 右脚を膝を曲げて上げるとメントの強烈な左中段回し蹴りが叩き込まれた。

 

 だが、強烈な衝撃波が地面にひび割れを起こす中でシャノアは淡々とした表情で受け切っている。

 

「生意気なぁああああ!!」

 

「この……っ!!」

 

 続けざまに拳と蹴りを左右から放つローフとメントだが、紙一重で全て避けられる。

 

「あの21号のクローン、超サイヤ人に変身する前でも充分な気を持っていた。あの二人では勝ち目はあるまい」

 

 淡々としたザマスの言葉に16号が立ち上がる。

 

「ならば、手を貸さねば」

 

「! 16号!?」

 

 紅朗の膝枕をしているディーベが思わず目を見開く。

 

 その横でザマスが淡々と言った。

 

「……やめておけ。あの二人は、どのみち悪でしかない。生かしておいても何の得にもならん」

 

「そうかもしれない。だが、俺はアイツ等に救われたーー」

 

 ザマスは静かに16号の眼を見る。

 

「……救われた、だと?」

 

「ああ。ローフにはディーベと別れる前に生み出してもらった。そしてーーメントには肉体を修復してもらった」

 

「言っておくが、あのシャノアとか言うクローンは貴様では勝てんぞ」

 

「ああ、分かっている」

 

 そのまま白い気を纏って16号は、三人の女魔人が戦う場に向かった。

 

「16号!!」

 

 紅朗をそっと地面に横たえるとディーベも白い気を纏って構えシャノアに向かって駆けだした。

 

 横たえられた紅朗を見下ろしてザマスは静かに、4対1となったシャノアというクローン戦士と若い頃のブルマを見据える。

 

「……折戸修二。貴様が、どういう人間かを見定めさせてもらうぞ」

 

 4人がかりで4方向から拳と蹴りを繰り出すも、まるで影に打ち込んでいるように実体が捉えられない。

 

 瞬間、高速移動で消えるシャノアに4人は動きを止める。

 

 ザマスは、すかさずに叫んだ。

 

「上だ、貴様ら!!」

 

 瞬間、右手の人差し指を紫色に光らせて細いレーザーのような光線を横薙ぎで払うように放ってくるシャノアに4人が同時に地面を離れる。

 

ーー ローフ、後ろから来るぞ!

 

 ザマスがテレパシーで叫ぶと同時にローフの背後に廻るシャノアだが、その時にはローフはふり返って反応している。

 

「!」

 

「やるじゃない、神さま!!」

 

 拳と蹴りをぶつけ合い、相殺するも手数が圧倒的に違う。

 

 瞬く間にローフは押され始める。

 

「こいつ、なんて手数をーー!!」

 

「終わりですーー」

 

 まともにボディに左の拳を叩き込まれ、動きが止まるローフにシャノアは右拳を振りかぶって顎を殴り飛ばした。

 

 後方へ吹き飛ぶローフを追いかけようとシャノアが見た瞬間に左手を伸ばし右手で手首を掴んで光を生み出しているディーベとメント、両腕の肘から先を脇に抱えて光を生み出した人造人間16号が構えて居る。

 

「許してください……!!」

 

「さようなら、お人形さん!」

 

「ヘルズーーフラァアアッシュ!!」

 

 三方向からの光を背後から叩き込まれるシャノア。

 

 強烈な爆発が起こり、煙が辺りを包み込む。

 

 ディーベ達三人が、構えた状態で様子を窺っているとザマスの心の声が頭に響いた。

 

ーー 16号!

 

 呼ばれた16号が振り返ると、シャノアが現れる。

 

「ーーな!?」

 

「感謝する、ザマス」

 

 右ストレートを左に完全に避けられたシャノアに、16号は素早く腕を肘に付けるとシャノアの右手首と右太ももを掴んで上空へと放り投げる。

 

「だぁあああ!!」

 

 天空高く投げられたシャノアの前に三人の21号が現れて三方向から拳と蹴りを連続で叩き込んだ。

 

「このっ!!」

 

「さっさと……!!」

 

「ーーくたばれ!!」

 

 同時に左手に光を生み出してフルパワーエネルギー波を放ち、地面に叩きつける。

 

 しかし、地面に叩きつけられたはずのシャノアは爆発を吹き飛ばして平然と金色のオーラを纏って立っていた。

 

「戦闘力が違いすぎる……!」

 

「……どうなってるのよ、あの人形!」

 

「ふ、ふざけるな。この私が、こんな奴に……!」

 

 まともにダメージが入っていない。

 

 その事実に三人の21号が絶望的な表情に変わっている。

 

「……っ」

 

 16号が覚悟を決めたような顔をしてシャノアを睨みつけた。

 

「無駄な抵抗は終わりですか?」

 

 淡々と言うとシャノアは気を更に引き上げる。

 

 金色のオーラに青いスパークが走り始めた。

 

「……姿を変身をせずに超サイヤ人2の力を引き出したか」

 

 淡々とザマスが呟く中、高速移動でディーベの正面に行くシャノア。

 

ーー ディーベ、左に避けろ

 

 考えるよりも先にディーベは左へと半歩身を躱すと、先まで己の顔があった空間に拳が貫いていた。

 

ーー 両腕で顔をガードしろ

 

 ザマスの声に反応して両腕をクロスさせて顔の前に構えると強烈な左の裏拳が叩きつけられる。

 

「ーーぐっ、きゃああああっ!!」

 

 受け切れずに背後へと吹き飛ばされるディーベを16号が受け止める。

 

 それを見ながらシャノアは力を引き上げた自分の拳とディーベ達を見比べる。

 

「何故、反応される? スピードもパワーも、彼女達の戦闘力では反応できないはずなのに」

 

 そしてザマスを見る。

 

「……そうか。この中で私よりも戦闘力が上なのは、貴方ですね。貴方の仕業ですか」

 

 ザマスはそれに何も言わない。

 

 淡々と表情も変えず、超然と佇んでいる。

 

「ですが、彼女達の戦闘力自体は変化していない。私の動きが分かっているーーそれだけです」

 

 気が更に引き上がる。

 

 金色がより明るく濃い色に変化し、纏う青いスパークがよりハッキリと浮かび上がる。

 

「ば、ばかな。たかが私を模しただけのクローンのはずなのに……! どういうことなの!?」

 

「こ、こんなことが……! この私の力が、負けているなんて……!!」

 

 ローフがハッキリと恐怖を露わにし、メントが牙を剥き出しにして苛立つ。

 

「これが折戸修二さんの知識なの? それともフューさんの力?」

 

「……これほどの気を隠していたと言うのか」

 

 ディーベと人造人間16号が呟くと、ザマスが静かにため息をついた。

 

「やれやれ。もはや貴様らでは相手にならん。下がれ」

 

 そう言って自分が前に出る。

 

「孫悟空の肉体に戻らないのですか? ゴクウブラックーーでしたね。マスターから聞いています」

 

「フン、貴様程度ならばザマスの状態でも勝てる。あまり私を舐めるなーー、人間(ヒト)擬きよ」

 

 気を纏うことすらしないザマスに、高速移動で姿を消したシャノアが襲い掛かる。

 

 ザマスは青紫色の気を右手刀に纏わせると顔の前に構える。

 

 強烈な拳が手刀に構えたザマスの掌に打ち込まれる。

 

 凄まじい衝撃波は、しかしザマスの掌に吸収されるように無効化されていった。

 

「……っ!?」

 

 目を見開くシャノアにザマスの強烈な右廻し蹴りが叩き込まれ、後方に弾き飛ばされる。

 

 

 巨大な岩に背中から叩きつけられたシャノアを見つめ、ザマスの銀色の眼が輝く。

 

「!!?」

 

 青紫色の光がシャノアの全身を縛り付け、身動きが取れないようになる。

 

 もっとも、強烈な蹴りはシャノアを一撃で行動不能にするほどの力が込められていたのだが。

 

「……そこでジッとしていろ」

 

 界王ザマスの一撃と金縛りを受けて動けないシャノアは、静かに目を閉じーー気を集中していく。

 

「……貴方は、マスターの最大の障害になる。ここでーー死んでもらいます」

 

 心臓の辺りに光が集中していくシャノアを見据えて瞳を細めるザマス。

 

「貴様一人の命を差し出した程度で、私を倒せると思うのか?」

 

「……少しでも貴方の戦闘力を削れれば、それでいい。それだけです」

 

 覚悟を決めた表情のシャノアにザマスも表情を真剣なものに変える。

 

「だめよ、シャノア!!」

 

 叫ぶ少女ーーブルマに目を向けるとシャノアは金縛りの状態のままで言った。

 

「ブルマーー、貴方は逃げてください。マスターをお願いします」

 

「やめてよ、シャノア!! 私、アンタの事全く知らないけどさ! でも、アンタとは仲良くなれると思ったのよ!!」

 

 そう叫ぶブルマに目を見開くとシャノアは言った。

 

「……歴史のかけらから、この時代に連れてこられたのに。貴女はーー」

 

「修二さまと一緒に行くって言ったのは、私だもん! それに、アンタも修二さまが好きなんでしょ!! だったら、簡単に死のうとするんじゃないわよ!!」

 

 力強いブルマの言葉にシャノアは微笑むと、ザマスを睨みつけた。

 

「ブルマ、お願いしますね?」

 

「! シャノア……! ダメよ、止めて!! お願い! 誰か、助けて……!!」

 

 空を見れば、青黒い炎のようなオーラを纏った二人の折戸修二が二人の異形を相手に優勢に闘いを進めている。

 

「修二さま、助けてぇええ!!」

 

 涙を目に浮かべて必死に叫ぶブルマ。

 

 ザマスは右手に手刀を構える。

 

「フン、意識を断ち切れば自爆も出来まい。手間をかけさせてくれる……。ぐっ!?」

 

 そう言って構えたザマスの横顔が、何者かに殴りつけられる。

 

 顔を仰け反らせながら両足を地面に擦りつけながら後方へ下がる。

 

 目の前には、赤いインナーシャツに灰色の道着を着た孫悟空クローンが立っている。

 

「俺の女にーー触るな!!」

 

 その周囲に金色の光の球が4つ浮かび上がり、それらは孫悟空クローンに変わった。

 

 5人の悟空クローンは青黒い炎のような激しいオーラを纏って超サイヤ人ブルーへと変身する。

 

 そのオーラには紫色のスパークが走っていた。

 

 これにザマスは軽く首を鳴らしながら5人の超サイヤ人ブルー悟空クローンを見据える。

 

「……フン。21号が作り出した元々のクローン戦士は全て紅朗が取り込んだが、こんな風に生み出されればどうしようもないな」

 

 呆れたような表情になるザマスに、5人の折戸修二(クローン悟空)は笑った。

 

「どうする、ザマス? 今の俺たち5人を相手にゴクウブラックにならないと勝ち目無いんじゃない?」

 

 言いながら、もう一つ金色の光の球がシャノアの前に現れてクローン悟空の形になると彼女を連れて瞬間移動でブルマの前に移動する。

 

「しゅ、修二さまなの……!?」

 

「ああ、もう大丈夫だよ。ブルマ、ごめんね。怖かったろ。思ったより手こずった時点で、君たちをこんなところに居させるべきじゃなかった」

 

 そう言うと瞬間移動で姿を消す折戸修二。

 

 ザマスは淡々と、それを見送ると目の前でニヤリと笑みを浮かべている5人の折戸修二を見据える。

 

「貴様に聞きたいことが一つある。貴様と同じ異世界から連れてこられた転生者たちーー奴らを波動で操り、強化したクローンの肉体のデータを手に入れたのは分かった。それでーー肉体が滅びた連中はどうなったのだ?」

 

 ニヤリとしていた5人の折戸がキョトンと拍子抜けしたような表情に変わった後ーー語る。

 

「……元の世界に帰ったさ。今頃は、自分の家のベッドの上で記憶を失くしてるか、変な夢を見ていたと思って目を覚ましているはずだ。あっちでーー俺みたいに死んでなけりゃね」

 

「なんで、そんなことを聞く?」

 

「俺たちの世界の人間を皆殺しにでもするつもりなのかよ?」

 

 次々と聞いてくる折戸にザマスは淡々と目を伏せて呟いた。

 

「そうか。この世界での肉体が滅びれば、魂は元の世界へと還るーーか。安心したぞ」

 

「ーーえ?」

 

「この世界を荒らしたとはいえ、貴様に操られたうえでのことであったのならば。私が紅朗と会う前に殺した転生者どもをドラゴンボールで蘇らせねばならんかと考えていた。だが、要らぬ世話だったようだ」

 

 微かに表情が柔らかくなったザマスに折戸は目を見開く。

 

「……なんでだ? お前は、トランクスの世界を滅ぼした真正のクズのはずなのに。なんで人間を?」

 

「フン、間違ってはいない。私は人間こそが悪と思っていた。それはーー孫悟空達や別の世界の私に負けた今も変わらん」

 

 言いながらザマスは不敵な表情に笑みを変える。

 

「だがーー。滅ぼすべき悪かはーー見極めているところだ」

 

「……闘う必要は、ないんじゃないか? 俺はーー静かに暮らしたい。ホントにそれだけなんだ、悟空達に成り代わるつもりもない……!」

 

 一番前に居た一人の折戸修二(クローン悟空)の言葉を他の4人も見守っている。

 

 ザマスは、淡々とした表情に変えると告げた。

 

「その言葉は嘘ではないと分かった……。だが、貴様のしでかしたことに、どれだけ多くの人が巻き込まれたと思っている? 孫悟空達も地球人たちも、お前の世界に居た連中もだ。それに何の責任も取らずに、この場から逃げて静かに暮らしたいなどと思っているのならば」

 

 銀色に輝く光のオーラを身に纏い、白髪を銀色に輝かせてザマスは銀色の目を見開く。

 

「私が貴様の性根を叩きなおしてやろう……!」

 

 一瞬、5人の折戸は目を見開いて後ろに下がるも一番後ろに居た折戸が叫んだ。

 

「え、偉そうに説教しやがって! お前だって、世界を滅ぼして人間を殺し尽しただろうが!!」

 

 だがザマスは真剣な目で折戸を見据えて言った。

 

「ああ……。だから、私は私のやったことの責任を取る。我が生涯をかけて……。それだけのことだ」

 

 真っ直ぐなその瞳に折戸は思わず目を逸らしていた。

 

「な、なんでだ……。お前は、あんたは、人間を殺すことしか頭にない界王のはずなのに……。ドラゴンボールヒーローズにも、あんたは居ない。あんたは、誰なんだ……」

 

「……さあな。かつて界王ザマスであり、ゴクウブラックであった誰かだろうさ……。今は時の番人の一人となってタイムパトローラーどもを鍛えている身ではあるがな」

 

 そう言うとザマスは構えを取る。

 

 だが5人の折戸は構えを取れなかった。

 

 俯いた状態で一人が口を開く。

 

「……逃げて、悪いのかよ? 逃げたら、ダメなのかよ?」

 

 そう一人が口にした瞬間、他の折戸も声を上げた。

 

「俺は、これまで親の言うとおりにしたよ!!」

 

「父さんに言われるままに、母さんの期待に応える為に!!」

 

「ずっと、ずっとがんばって来たんだよ!!」

 

「本当に限界までーー頑張ったんだよ!!」

 

「「「「「誰も認めてくれなかったのに!!!」」」」」

 

 血反吐を吐くような折戸の言葉にザマスは、目を細める。

 

 自分の中にある神の力で瞳を見開いて折戸の記憶を読んでいった。

 

 その上で、折戸に向かってザマスは言った。

 

「……誰も、か? ホントにそうか?」

 

 そう問いかけるザマスの声は、どこかーー自分(折戸)が好きなキャラクターの声に聞こえた。

 

「どういう意味だよ、ザマス……」

 

「貴様の言うとおり、誰も貴様を認めてくれなかったというのならば理由は二つ考えられる。一つ、貴様がやっていたことが認めるに値しないことだった」

 

「な……!?」

 

「そして、もう一つは貴様自身が認めてほしかった人間に認められなかっただけーーということだ」

 

 絶句する折戸に向かって淡々とした表情で、言葉でザマスは言う。

 

「貴様の記憶は読んだーー。だが、貴様が思っているよりも周りの評価は悪くはなかった。貴様を認めるものは多くいたーー。貴様に聞く耳と見る目がなかっただけだ」

 

 自分を責めるでもなく、淡々と事実を述べるだけのようなザマスの言い方に折戸は何も言い返せない。

 

 言い返せなかった。

 

 頭が真っ白になっていたーー。

 

 ただ、何故か言葉は耳によく届いている。

 

「貴様は努力したーー。それは事実だ。だが貴様は根底からはき違えている。貴様が努力する理由は、親に認めてもらう為だけだ。ならば親の言いなりになるだけではなく、何を求められているのかを考え自分なりに動くべきだった。そう、話し合うということをなーー」

 

「……無理だよ。何を言っても、俺の言うことなんて聞いてくれないんだ。好きなものは全部取り上げられたんだ。勉強しろ、勉強しろって言うばかりで。俺の家系は医者だった、医者になるのが当たり前だって言わんばかりに勉強しろってーー」

 

「…それでも孫悟空のカードを貴様は捨てなかったのだろ? 本当に好きなものは、誰かに言われたくらいで捨てはしない。貴様には意志があるのだからな」

 

 そう言いながらザマスは自嘲気味に笑った。

 

「誰にも認められていないーーそう言いながら、貴様は耳を塞いでいたのだ。貴様を認めていたもの、感謝するものが多くいる中でーーな」

 

 すがりつくような幼子のような目で折戸が目を上げる。

 

「でもーーその人たちは俺の、両親じゃない。俺の人生を変えてくれるヒトじゃない」

 

「凝り固まった頭では、誰に何を言われようとも自分の価値観こそが正しいと思うーー、私がそうだった」

 

 そう言い切るザマスに、思わず言葉を止める折戸。

 

 そしてザマスは言った。

 

「だがーー私を変えたのは、孫悟空を含めた多くの人間と別の世界の私だ。私の正義を間違っていると言った孫悟空。私を弱いと言ったハルという子ども、そして私を否定した別の世界の二人の私」

 

 言いながらザマスは纏っていた銀色の光を納めて言った。

 

「もっとも、私は言葉だけで止まれはしなかった。貴様もそうだろう、私に何を言われても腹の底からは納得できまい」

 

 そう言うとザマスは、自分の後ろに立っている人物を見ずに左に一歩退くと告げた。

 

「後は、同じ世界の貴様に任せるぞ。久住史朗よ」

 

 現れた人物は悟空よりも身長が低く、がっしりとはしているが筋肉質というわけでもない。

 

 黒髪の黄色人種ーー日本人だと、すぐに分かった。

 

 皆が誰だと訝しむ中で、ジャージ姿の冴えない男は左腕に巻いたカプセルコーポレーションマークのベルトに右手に持った孫悟空のカードをかざす。

 

「ーー変身!!」

 

 瞬間、光の粒子に変わったカードは男の全身を包み込む。

 

 光が晴れたときーー紅と左胸に書かれた山吹色の道着を着た黒髪を左右非対称に跳ねさせた髪型の男ーーそう、孫悟空そのものへと変身した。

 

「……な、な!?」

 

 5人の折戸修二に向かって不敵に笑う黒髪の孫悟空。

 

「よう、折戸。決着を付けようぜ……!!」

 

 その声は、久住史郎ーー紅朗そのものだった。

 

 そんな彼らの姿を腕を組んだ姿勢で茶色い尾を生やした山吹色の道着を着た超サイヤ人が、ニヤリと笑みを浮かべて見ていた。




次回もお楽しみに!(;^ω^)


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第34話 悟空、俺はアンタの代わりになる!!

大変長らくお待たせいたしました。

取り敢えず、紅朗対折戸、完結です。


 自分の中の精神と時の部屋みたいな空間で修行を終えた俺は、ゆっくりと眼を開けた。

 

 立ち上がった俺の身体は悟空クローン紅朗の身体じゃない。

 

 元の世界の久住史郎の肉体だった。

 

 ただ左腕にカプセルコーポレーション製の腕輪型ベルトが付いている。

 

 此処に居る者たちは彼の気を感じ、正体を察する。

 

 彼が紅朗と名乗っていた異世界人だと。

 

 唯一、見た目で彼の正体を理解したのは折戸修二だけだった。

 

「日本人…? まさか、アンタ」

 

 呟いた超サイヤ人ブルー悟空の姿をした折戸に向かって不敵な笑みを浮かべ、日本人は右腕のベルトに悟空のカードを読み込ませると掲げた。

 

「変身!!」

 

 瞬間、日本人は紅朗という悟空クローンの姿になると半透明の黒髪の悟空が彼の横に現れて一つになる。

 

 「紅」の文字が左胸と背中に入った山吹色の道着。

 

 彼はクローンではない。

 

 左右非対称に跳ねた黒髪の地球育ちのサイヤ人ーー孫悟空そのものになっていた。

 

 腕時計型の変身ベルトを左手のバンテージの代わりに付けていること以外、本物と変わらない。

 

「…これは、リンクシステム? リンク率をMAXにしたのか? でも、いくらリンク率を上げてもクローンの身体が本物の悟空になるなんて、そんな馬鹿な!?」

 

 自分がどれだけ強化しても裏技を使っても。

 

 一向にクローンからオリジナルには変身できなかった。

 

 当たり前だ。

 

 原作ゲームと違い自分や目の前の男は本物とリンクしていないのだから。

 

 あくまでクローンの身体を使って闘っていたのだから。

 

「…なに驚いてんだ? オメエの知ってるリンクシステムっちゅうやつだろ? 折戸」

 

「…悟空…? この声、本物なのか?」

 

「へっ! オラ、孫悟空だ!! 久住史郎の記憶もあっけどな?」

 

 この現象にザマスが目を細める。

 

「本物の孫悟空……だと? 信じられんが、声だけではない。気も何もかも孫悟空そのものだ」

 

 ベジットクローンやゴジータクローンと対峙していたオリジナルのセルとブウもまた、孫悟空の存在に気付いている。

 

「どういうことだ? 紅朗が、孫悟空そのものになっているーーだと?」

 

「本物の孫悟空に変身した、というのか? 紛い物のクローンから? バカな!!」

 

 超サイヤ人ブルーベジットクローンの折戸が目を細めていた。

 

「リンクシステムの限界を超えた? あのオッサン、本物の悟空の体と心を完全にリンクしているっていうのか?」

 

 超サイヤ人ブルーの孫悟空クローンの折戸が構えを取り蒼銀の炎のようなオーラを纏う。

 

「本物の悟空と言っても、あくまで黒髪の悟空だ。超サイヤ人ブルーの俺には勝てない!!」

 

「……どうかな? やってみなけりゃ分からねぇ」

 

 孫悟空そのものに変身した紅朗もまた左手を顔の前に右拳を腰に置き、膝を曲げてつま先立ちになる。

 

 後屈立ちと呼ばれる空手の構えに似て非なる孫悟空そのものの構えだった。

 

(……本物だ!)

 

 その構えを見ただけでザマスは理解した。

 

 目の前にいる男は孫悟空そのものだと。

 

 瞬間、折戸と紅朗が同時に姿を消す。

 

 鈍い音が鳴り響いて二人の影が重なって現れる。

 

 折戸の右拳は空を切り、腹に叩き込まれている。

 

「ぐ……!?」

 

「へへっ、まず一発だ」

 

 打たれた腹を抑えながら後ろに下がる折戸のクローン悟空。

 

 対する紅朗の変身した黒髪の孫悟空は不敵な笑みを浮かべている。

 

(なんだ、コイツ? なんでダメージが通ってる!? 今の俺は悪の気で強化された超サイヤ人ブルーのはずだぞ!? いくらオッサンがリンクを使いこなしていても、オリジナルの悟空そのものであったとしても、21号の波動の影響を受けていないクローン戦士だ。戦闘力差は原作そのものになる。格闘ゲームのような性能差にはならない)

 

 本来、超サイヤ人ブルーと黒髪のサイヤ人の身体能力の差は語るまでも無い。

 

 勝負にすらならないはずだった。

 

 だが格闘ゲームの法則が用いられていないとしたら今の自分の状態はーーどう説明する?

 

 黒髪の悟空になった中年の日本人男性に完全に押されている今の自分を?

 

「折戸よぉ?」

 

 その表情と声は久住史朗のものだった。

 

「お前は、黒髪の悟空がどれだけ強いのか知らねえのか?」

 

「なに……?」

 

「ただ、信じりゃいいのさ。孫悟空をーー地球育ちのサイヤ人を。その強さと優しさを」

 

 瞬間、折戸修二の頭に構図が浮かび上がる。

 

 自分が向かい合うのはゲーム機の筐体。

 

 自分の手元には様々なカードがあり、台の上には超サイヤ人ブルーの悟空クローンのカードが置かれている。

 

 正面には黒髪の悟空、その向こう側に本来見えるはずの無い男の気配がする。

 

(なんだ……? これは、ドラゴンボールヒーローズの筐体!? なんで、俺の前に現れるんだ? まさか、対戦しているっていうのか? 俺は、この悟空の使い手と!?)

 

 その思考を肯定するように手元にはベジットブルー、ゴジータブルー、シャノア、ブルマ(少女期)のカードが並べられている。

 

 自分が一番得意なトレーディングカードゲーム「ドラゴンボールヒーローズ」そのものの画面が目の前に展開されている。

 

 相手のヒットポイントや戦闘力数値は不明だが、自分の数値は叩き出されている。

 

 アタックゾーン、ディフェンスゾーン、ゲームの言葉や名称が次々と頭に浮かんでは消える。

 

「どうした? かかってこいよ」

 

 自分の攻撃が届く範囲(アタックゾーン)が赤、届かない範囲(ディフェンスゾーン)が青で地面や空間に色分けがされている。

 

 ディフェンスゾーンならば攻撃が当たらないから気の回復に集中できるし、アタックゾーンならば相手に攻撃を仕掛けられる。

 

「ハッ! ちょっと悟空と同じ格好になってるからっていい気になりやがって! アンタはただの日本人だろうが!」

 

「そりゃ、お前もだ。だから教えてやるよ。俺たちは『ただの日本人だ』ってな」

 

 攻撃が当たる範囲と当たらない範囲を瞬時に視界に色分けされているのだから、この色に合わせて足を運べば相手の攻撃は当たらない。

 

 案の定、紅朗の攻撃が紙一重で目の前を通り過ぎ、こちらの攻撃が相手に届く。

 

 如何に強力な拳も蹴りも、当たらなければ問題ない。

 

 紅朗には見えていない、自分だけの世界だ。

 

 自分の攻撃だけが当たる距離、位置を折戸は見ただけで理解できる。

 

「悟空の身体に、このスキルがあれば俺は無敵だ!!」

 

 立ち合い始めてすぐに分かる。

 

 相手の身体を自分の位置を見れば攻撃も防御も躱せる手段も全て理解でき、身体は思考についていける。

 

(いける! 勝てる!!)

 

 そう思っていた矢先、自分が見ている相手の色が目まぐるしい勢いで赤から青に、青から赤に変わる。

 

 赤なら当てれる、青なら避ける。

 

 そう分かっていた折戸だが目まぐるしく変化する相手の色に反応が遅れ、タイミングがずれ始めている。

 

 紅朗の動きが変わっているのだ。

 

 攻撃をしながら脚(スタンス)の位置を変えてくる。

 

 格闘ゲームやカードゲームには法則がある。

 

 攻撃も気功波も、決まったフォームからしか出せず、予備動作が必ずあり、移動と攻撃もしくは防御は同時にはできない。

 

 これは現実の世界でも、ほとんど当てはまる。

 

 しかし次元の違う動きをする者が現実には居る。

 

 セオリーを無視する動き、攻撃と移動と防御を兼ねた動き、型にはまらない動き。

 

 そしてドラゴンボールという世界は、最も多彩な動きができる人間が寄り集まった世界である。

 

 つまりーー。

 

(予測して回避することも、動きをみてから避けることも、ある程度まで。其処から先は自分の実力が足りなければーー)

 

 それを認識した時には、凄まじい衝撃とともに折戸の顔に拳が叩き込まれ首を大きく後方へねじ切らせていた。

 

「ふざけんな! こんなーーこんなことで負けるかぁああ!!」

 

 拳を握り殴り返す折戸。

 

 その悟空の動きを模倣した速さと拳と蹴りは、十二分に相手を叩きのめせるものだ。

 

 これに紅朗はニヤリと笑みを浮かべて踏み込んだ。

 

 お互いに拳と拳、蹴りと蹴りが交差する。

 

 交互にのけ反る二人の黒髪の悟空と青い髪の悟空。

 

 殴り合いは、やがて折戸が押され始めていた。

 

(な、なんで……?)

 

「ゲームじゃないからさ。だから面白いんだ。そうだろ、折戸。俺もお前も真剣に殴り合ってる。だから楽しいんだ……!」

 

「ふざけんな、痛いだけだ!!」

 

「そうか? そんならまだまだ足りてないってことだろ!! いくぜ!!」

 

 更に踏み込んでくる紅朗。

 

一つ返せば三つ返してくる。

 

 動きがどんどんと速く鋭くなっていく。

 

 その強さと速さと鋭さと恐ろしさに折戸は徐々に脚がすくみ、無意識に後退しはじめていた。

 

ーーーー

 

「セル、気付いたか?」

 

「……ああ」

 

 ベジットブルーのクローンの攻撃を捌きながらアルティメットブウが問いかけると、ゴジータクローンの攻撃を躱して反撃するパーフェクトセルが応えた。

 

「紅朗のあの姿……孫悟空そのものだ。クローンなどではない。本物の……」

 

「まさか、その強さまで本物だというのか?」

 

 セルとブウが目を見開く中、ザマスが目を細めて紅朗を見る。

 

(コレだ。私が紅朗から感じた孫悟空は、まさしくコレだ。やはりコイツ、どういうわけかは知らんが孫悟空とリンクしているのか…)

 

 その横で片膝をついたまま16号が21号に問いかける。

 

「21号、なぜ紅朗は孫悟空そのものに?」

 

「まさか――……リンクシステム? 紅朗さんのリンク能力がオリジナルの悟空さんの能力に匹敵した?」 

 

 明らかに押され始めている折戸を見て、少女ブルマが声を上げた。

 

「修二さま!」

 

「大丈夫、大丈夫だ。俺が、俺が! こんなやつにっ!!」

 

 必死で取り繕おうとする折戸の横から能天気な声が聞こえる。

 

「さあ、いよいよクライマックスだよ。折戸君」

 

「フュー!」

 

 振り返れば自分が思った通り、銀の髪をオールバックのポニーテールにした青年が腕を組んで宙に居る。

 

 笑顔でこちらを見ている。

 

「ここから先はドラゴンボールヒーローズのシステムで君は戦うべきだ。紅朗君がドラゴンボールファイターズで挑むなら、君はカードの戦略を使って自分の孫悟空で倒すんだ」

 

その言葉に何故か折戸は思わず笑みがこぼれていた。

 

「フンーー。ああ、わかってる。あのおっさんの眼にはどう見えてるか知らないが、俺はこれでもドラゴンボールヒーローズじゃ関東大会優勝経験だってあるんだ!!」

 

言いながら折戸の思考はカードデッキに移行する。

 

(超サイヤ人ブルーの悟空なら、そのまま攻撃しても勝てる! 相手は黒髪の悟空! 戦闘力で言えば俺の方がはるかに有利だ! よしっ! 先攻!!)

 

 気を高めて一気に仕掛ける。

 

 これに紅朗も突っ込む。

 

 互いの中央で拳と拳がぶつかった。

 

「うぉおおおお!!」

 

「……っ!!」

 

 紅朗の背後の空間が歪み、地面が掘り起こされる。

 

 力と力の衝突は折戸の方が強い。

 

 後方へ大きく吹き飛ばされる紅朗だが、次の瞬間。

 

「界王拳……!!」

 

 紅朗が気を入れて赤いオーラを身に纏う。

 

 同時に動きが一気に倍加され、目にも映らぬ高速移動が始まる。

 

 折戸も大地を蹴って空間を一気に飛び回る。

 空中で爆発する光の波紋。

 

 衝撃波が発生し、コンクリートが凹み、地面が割れ、大地が隆起する。

 

 これを二人の合体戦士と戦っていた二人の異形が睨みつけるように見ていた。

 

「……セル」

 

「ああ。どういうからくりかは知らんが折戸の意思が宿ったクローンの中で、紅朗と戦う孫悟空の個体が一気に強くなった……!」

 

 鈍い音と共に後方へ首をねじ切りながら地面を足で引っ掻いてのけ反る紅朗。

 

 赤いオーラが解除され、肩で息を始めている。

 

「紅朗さん!」

 

「紅朗、大丈夫か!」

 

 21号――ディーベと16号が声を上げる中、紅朗の意思が宿る孫悟空はニヤリと凶暴な笑みを浮かべた。

 

「フッ、なんだ。殴り合いできんじゃねえか。安心したぜぇええ!!」

 

 言いながら白いオーラを吹き上げて更に踏み込んでくる紅朗に折戸は拳を合わせる。

 

(素人が! さっきから真っ直ぐに突っ込んでくるだけだ! この右ストレートにカウンターを合わせる!)

 

 完璧なタイミングで拳を紙一重で避けながら自分の拳を叩きこもうとする。

 

 だが、紅朗の眼前に迫る折戸の拳は空を切った。

 

「残像拳!?」

 

 気付いた時には背後に気配を感じると共に振り返る暇もなく背中を蹴り飛ばされる。

 

 眼前に迫る地面に両手をついてバック転し、着地――体勢を整える。

 

「甘めぇよ……」

 

 不敵にして凶暴な笑みを見せる黒髪の悟空に折戸は目を見開いていた。

 

(どういうことだ? なんで超サイヤ人ブルーの身体能力で押し切れないんだ?)

 

 そんな折戸の考えを読んだかのようなタイミングでフューが声を上げた。

 

「ああ、言い忘れてたよ。折戸君――あくまで君と紅朗くんが戦っているのはドラゴンボールの対戦ゲームだ。つまり超サイヤ人ブルーだからって黒髪の孫悟空の攻撃がまったくへっちゃらなわけじゃないんだよ」

 

「なんだと!?」

 

 その言葉に折戸は思わず闘いを放棄してフューの方に身体を向ける。

 

 だが紅朗は何も言わずに静かに折戸を見つめるだけだった。

 

「だってそうじゃないか? 黒髪状態の孫悟空の攻撃が超サイヤ人ブルーの悟空にまったく通用しないのなら、それはゲームとして破綻してるよ」

 

「だけど、俺の超サイヤ人ブルーはオリジナルのセル達とだって戦えたんだぞ!! 本気のセル達は俺の知っている原作とは明らかにレベルが違うのに、俺のクローン達は戦えた!! 超サイヤ人ブルーのパワーアップの法則が生きているじゃないか!!」

 

「それは「この世界の理屈」だからだよ。彼(紅朗くん)は君と同じ世界の人間、僕たちは「ドラゴンボールの世界にいる人間」だ。だからゲームだろうがなんだろうが、この世界の理に当てはめられてしまったら、その上で戦うしかない。ゲームの中なら簡単に変身できる超サイヤ人や神の気を纏うことも「この世界の人間が行うには並大抵の努力ではできない」けれど、君や紅朗くんは違う。この世界の理をゲームに落とし込める」

 

「ドラゴンボールの世界で、ゲームの法則をそのまま「この世界に落とし込める」のは俺だけじゃない?」

 目を大きく見開き、現状を理解する折戸を諭すようにフューは静かに告げた。

 

「全てーー君が望んだことだよ」

 

「なっ! なんっ……!」

 

「だからーー僕は友達として君が倒されるのを望んでる」

 

 その真っ直ぐな瞳に思わず折戸は叫んだ。

 

「お前も裏切るのか、フュー!!」

 

「僕は裏切ってないよ。信じてもらえないかもしれないけど、ね」

 

 微かに寂しそうな笑みを浮かべるフューの眼に思わず折戸は動きを止める。

 

 瞬間、敢えて紅朗は大きく自分の身に纏う白い気を爆発させて注意を向けさせると一気に突っ込む。

 

 紅朗の強烈な右ストレートを折戸は右手で掴み止める。

 

「よそ見してんなよ……」

 

「くっ!」

 

 これを合図に紅朗と折戸の拳と蹴りの打ち合いが三度始まる。

 

 両者の拳が互いの顔に決まるが、仰け反るのは折戸。

 

 距離が開いた瞬間、紅朗の上段回し蹴りが決まり更に後退する。

 

「バカな! カードゲームの理が通じているなら、なんでこれだけ強化しているのに負けるんだ!?」

 

 あまりにも理不尽だと折戸が嘆く中、紅朗は不敵な笑みを浮かべた。

 

「んなもん決まってんだろ。お前が見てんのは悟空の変身だけか?」

 

「――なに?」

 

「孫悟空は、そんな変身しなくても強えぇだろうが」

 

 訳知り顔で告げる紅朗に折戸は表情を歪める。

 

「ふざけんな! こうなったら、さらなるチェンジ(変身)を見せてやる!!」

 

 瞬間、折戸は道着の帯からカードを一枚取り出した。

 

「! 身勝手の極意! これなら……!!」

 

 カードは光の粒子になり折戸の肉体に纏わりつくと蒼銀に燃えるオーラが白金色に変わり始めていく。

 

「な、なんだ……?」

 

 それは紅朗の知らない変身。

 

 ドラゴンボール超をまともに見たことがない紅朗は、その変身を知らない。

 

 その変身を戦闘の手を止めずに継続しながらブウとセルが睨みつけた。

 

「銀色の髪…! …フン、神の領域か」

 

「身勝手の極意まで使えていたのか。孫悟空め……」

 

「孫悟空ならば天使の領域に到達していたとしても別に驚くべきことでもないが。しかし、問題は紅朗が変身している黒髪の孫悟空だ。まるで底が見えん」

 

「神の御業に変身できる孫悟空と通常状態でありながらそこまで追い詰める孫悟空、か」

 

 二人の異形の言葉を聞き流し、折戸が白金色のオーラを纏いながら叫ぶ。

 

「身勝手の極意ならーー完全にヤツを倒せる!!」

 

「面白れぇ……! その新しい変身がどれほどのものか、見せてもらうぜ!!」

 

 左右に身体を振りながら前進してくる紅朗。

 

 的を絞らせないように絶えず頭を左右に揺らしている。

 

 そのまま、一気に懐に踏み込んで拳をボディに放った。

 

「そら!」

 

 瞬間、紅朗の顎が跳ね上がって後方へふっ飛ばされる。

 

「っっってえ!!」

 

 顎をさすりながら紅朗は目を見開いて銀髪となった折戸を見据える。

 

「いつの間に打ち込まれたんだ? まるで見えなかったぜ」

 

 これにザマスが瞳を細めながら呟いた。

 

「なるほど、形だけとはいえ孫悟空の本気の打撃を折戸は繰り出せるーーか」

 

 両腕を組んで一つ頷いた後、ザマスは静かに紅朗に目をやる。

 

「終わりだ!」

 

 叫びながら真っ直ぐに前に詰めてくる折戸に紅朗も拳を握ってそのまま、殴りかかる。

 

 しかし次々と攻撃を放った瞬間に捌かれ、同時に自分の顔に拳や蹴りが叩き込まれていく。

 

 諦めずに手を出し続けるが、しばらく続けると強烈な右ストレートを叩き込まれて後方へ仰け反ると、紅朗はついに肩で息を始めた。

 

「へっ! こりゃすげえな……パンチも蹴りもまるっきり見えねえ。おまけにこっちの攻撃は全部かわされる。勝負になってねえか」

 

 呼吸を整えながら、紅朗は腰に両の拳を置いて気を高めた。

 

「ならよ。――はああああああっ!!」

 

 髪が逆立って炎のように天を衝き、金色に変身する。

 

「ふっ! 超サイヤ人で、いくぜ!!」

 

 動きを更に数段鋭くして紅朗が踏み込み拳を放つ。

 

「……無駄なことを!」

 

 だが、拳はアッサリと受け流されると同時に強烈なカウンターを叩き込まれる。

 

 先ほどまでのやり取りと同じまき直しのように。

 

 この程度の戦闘力の上昇では何も変わらないということを紅朗は理解する。

 

「だめだ、超サイヤ人でも見えねえ。反応し切れねえ。ならーー超サイヤ人2だ!!」

 

 金色のオーラが更に激しく燃え、青いスパークが走る。

 

 前髪は更に天に向かって逆立った。

 

「おまけに!」

 

 人差し指と中指を立てて額に突きつける。

 

「瞬間移動か……」

 

 折戸の周りを瞬間移動で飛び回りながら、両手を大きく広げて手首を合わせ掌をこちらに向ける構えを取った後、右腰に両手を置いてたわめる。

 

(……破壊神ビルスの時に悟空が見せた連続瞬間移動からのーーかめはめ波!)

 

 折戸の頭に浮かぶ映像と目の前の紅朗の動きは全く同じ。

 

 折戸の黒い瞳孔が浮かんだ銀色の瞳が鋭く細まる。

 

(久住ってオッサンの性格から考えると、正面だ……!!)

 

 瞬間、折戸の目の前にかめはめ波を放つ直前の姿勢で紅朗が現れる。

 

「零距離かめはめ波ならーー避けられねえだろうがあああ!!!」

 

 両手を突き出すと同時に青白く野太い光線が放たれ地球の地平線を打ち貫いて地球外へと放出されていった。

 

「どんなもんよ!!」

 

 目の前の全てが消し飛んだのをニヤリと笑って紅朗は構えを解く。

 

 瞬間、後方から強烈な拳を背中に叩き込まれ、ふっ飛ばされる。

 

「いっ! つうう……!」

 

 顔から地面に叩きつけられながらも、驚異的なタフネスで立ち上がってくる紅朗。

 

 それを折戸は淡々とした表情で言った。

 

「そんな子どもだまし、当たるかよ」

 

「なろぅ……! 結構いい案だと思ったんだけどな……。反応速度も読みも俺よりは上ってことか」

 

 どこか肩の力が抜けている紅朗に折戸は訝しげな表情になっている。

 

 気が抜けているーーわけではない。

 

 緊張感も動きも表情も真剣だ。

 

 だがーー以前あった恐ろしい雰囲気が、今は微かにしか感じられない。

 

 獣が牙を剥いてこちらに牙を突き立てて殺そうとするような気配が、今は感じられない。

 

「すると超サイヤ人3になっても、多分勝てねえよなあ……」

 

 軽く頭を掻いた後、紅朗は真剣な表情で。

 

「さあて、どうすっかな。――フッ」

 

 口元を緩めて笑った。

 

「なに笑ってんだ……」

 

「こういうピンチな時よ、悟空なら笑うだろ? お前の中の悟空は笑わないのか?」

 

「何がお前の中の悟空だ、バカバカしい! アンタはコレで終わりだ。このまま殴り倒してやる……」

 

 更に気を高める身勝手の極意を発動した折戸。

 

 これに紅朗も左手を顔の横に、右拳を腰に置いて中腰に構える。

 

――紅朗! 見せてやろうぜ! オラとおめえの力を!!

 

「ああ。行こうぜ! 悟空!!」

 

 紅朗の頭の中に響く声に応えた瞬間、温かくも強い黄金色の炎が胸から放たれる。

 

「なんだ……!?」

 

 これにザマスが静かに瞳を細める。

 

「出したか、真・超サイヤ人。サイヤ人の可能性か、神の御業か。どちらの孫悟空が上回るかという勝負か」

 

 独り言のような呟きにフューが楽し気に続ける。

 

「コレはそんな大層な話じゃないんだけどねえ。年甲斐もなくはしゃいだ中年のおじさんと、トレーディングカードゲームにはまったオタク少年の意地とプライドの戦いだよ。なーんてね」

 

「……」

 

 ザマスは笑いかけてくるフューを無視して黄金と白金の炎を纏う二人の悟空を見つめる。

 

 紅朗の姿に折戸は目を見開いて驚いていた。

 

「なんだ!? あの変身は! 超サイヤ人、なのか?」

 

「……そうか。おめえ、真・超サイヤ人にはなれねえんだな?」

 

 その声は紅朗のーー久住史朗の声とは明らかに違う。

 

「――悟空!?」

 

「ああ。俺は地球育ちのサイヤ人、孫悟空だ。いくぞ!」

 

 瞬間、目にも映らぬ速度で目の前に現れると見えない拳と蹴りを放ち始める。

 

「こいつ! 身勝手と同じぐらいの速度で動けるのか!? くそ!!」

 

 辛うじて身勝手の極意の受け流しで避けながら自動反撃を使って返す折戸だが、その全てを目の前の超サイヤ人は自前のパワーとスピードで避けて打ち返してくる。

 

「なんだよ、チート使いやがって!!」

 

「おいおい、おめえだって次々と変な方法で変身してんじゃねえか……」

 

 目の前の超サイヤ人孫悟空は不敵な笑みを浮かべながら低い声で告げた。

 

「この世界の俺が知らねえ技や変身ばっか使いやがって。けど分かんぜ。それも俺の可能性なんだな?」

 

「なんだコイツ! 戦闘力がどんどん上がってる! 毎秒ごとに!? ブロリーじゃないんだぞ!!!」

 

「フフ、どうした? そっちの俺、そいつを助けてやんねえんか?」

 

「……なに?」

 

「ああ。そっちの俺は残念ながら、こっち(紅朗の中)の俺みてえに自我は持ってねえみてえだな」

 

 その言葉に折戸は目を見開いて叫んだ。

 

「なんで? なんでだよ! ズルいじゃないか、自分だけ!! 自分だけ孫悟空とリンクできるのかよ!! なんで俺はーー!!」

 

 その言葉に久住史朗が応えた。

 

「単純な話だ。お前、悟空を知らなすぎだ」

 

「なっ、に!?」

 

「悟空の表面(スペック)ばっかり見てるから、こんなことも出来ねえんだよ。言っとくがな。こんなもんじゃねえぜ」

 

 そう告げた紅朗の口から孫悟空の声が応えた。

 

「ああ。俺の力はこんなもんじゃねえ。オメエが俺を完全に使いこなせりゃいい試合になったのになあ。残念だぜ」

 

「こんなときになに言ってんだよ……。おっと! リンクが切れそう!」

 

「ちゅーわけだ、折戸。悪りぃが、次の一撃で終わりにさしてもらうぜ」

 

 まるで一人芝居のように同じ口から、しかし声もトーンも違う二人の会話が生まれる。

 

 二人の悟空は同時に拳を大きく振りかぶって渾身の力を込めて互いに向かって突き出す。

 

 一撃は互いの中央で拳をぶつけ合い、空中で浮かびながら黄金と白銀のオーラが燃え上がる。

 

「なめんなよ! 俺だって! 俺だって悟空のことはなんだって知ってる! 戦闘力はたったの2の赤ん坊から! 地球に放り込まれて悟飯老人に拾われて! でも頭打つまでは凶暴で残酷で! 頭打ってからおとなしい野生児になったって話だろうが!」

 

 叫ぶ折戸に紅朗が応えた。

 

「おお、知ってんじゃん。ま、それくらいはドラゴンボール知ってんなら当然だけどな」

 

「……今の俺の話か? オメエ等、ホントに俺の知らねえ話、よく知ってんなあ」

 

「そらそうだろ。何回も言うけどよ、アンタは俺の世界じゃ英雄なんだからよ」

 

「そうかい。ま、んなこたどうでもいいや。決めようぜ!!」

 

「応よ!!」

 

 真っ直ぐに二人の意思を持った真超サイヤ人孫悟空は、折戸修二を黒の瞳孔が現れた翡翠の瞳で射抜く。

 

 身勝手の極意をも上回らんとする強烈な黄金の炎。

 

 その力は変身している間は青天井にパワーとスピードが上がる。

 

「悟空になりきれるんじゃなかったのかよ! リンクシステムさえあれば俺は!! でも、なんで? あのおっさんも俺と同じクローン戦士のはず! なんで本物の悟空になれるんだよ!? なんで……、俺は折戸修二以外になれないんだよ……!!」

 

 黄金の炎に押されながら拳が徐々に自分に迫ってくるのを嘆き、悔しさと悲しみとやるせなさで折戸は叫んだ。

 

「くそおおおおおお!!!」

 

 右ストレートが吸い込まれるように折戸の頬に突き刺さり、後方へと弾き飛ばされる。

 

 誰もが目を見開いて背中から叩きつけられて金髪のクローン戦士へと姿を戻しながら倒れ伏した折戸を見ている。

 

「ふう、終わったな。紅朗……」

 

「ああ。やっとな……」

 

 黄金の炎を解除して黒髪の悟空に戻ると紅朗は空を見上げていた。

 

(でもよ、コイツは死んでる。元の世界に戻れねぇ……。どうすりゃ、いいんだ)




この話もいよいよ、最終回が近くなっております。

がんばって最後まで書き上げたいですね(*'▽')


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