貴方に意識して欲しい (主義)
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耐性がない『めぐみ』
「さくらく~ん」
私は隣で台本と睨めっこをしている人の肩を優しく叩きながら言った。
「どうしたの?神野さん」
彼はこっちを向くことなく返事をする。仕事が忙しいのは分かっているし、応援もしている。だけど少しは私に構ってくれても良いんじゃないだろうか。昔は毎日のように一緒にいるのが普通だったのにこんな風に一緒に居られる時間は限られてくる。
「なんで昔みたいにめぐみって呼んでくれないの?」
「昔と違うからね。今の中学生に呼び捨てはさすがに嫌でしょ?」
「全然いやじゃないです!!むしろ呼び捨て以外では呼んでほしくないです。確かに何も知らない人に呼び捨てにされたりするのは嫌ですけど
ここで私と咲良くんの関係性について説明しておこうかな。私と咲良くんは家が隣同士事もあって幼い頃から付き合いが続いている。
咲良くんは私よりも四つ上で高校二年生。今の咲良くんはアイドルとして活動をしている。とても人気で最近はテレビに引っ張りだこである。ドラマなどもやったりもしている。昔から彼を知っている者からすれば顔は整っているからある程度は売れると思っていたけどここまでとは思ってもいなかった。
私は友達にも咲良くんと知り合いである事は一切口にしていない。もし、私がそんなことを言ってしまうと咲良くんに何かあるかもしれない。それに個人的に嫉妬を買うのはやめておきたいしね。
だけど今日のようにお互いの部屋に集まる事もたまにはある。彼がオフな日に限られているから一か月に一回ぐらいしか無理なんですけどね。
それでは話を元に戻そうかな。
私が喰い気味で言った事もあって咲良くんはとてもたじろいでいる。こういうところを見ると本当に咲良くんは押しに弱いんだなと思ってしまう。顔が整っているし、優しい。そしてたまに見せる肉食系男子のような一面もとってもカッコいい。そしてそういうところもひっくるめて私は咲良くんが好きだ。本人には絶対に言えないけど。
「めぐみ」
咲良くんは急に私の耳元で囁くように私の名前を呼んだ。
「ひぇ!」
急に耳元で囁くから驚いて変な声を出してしまった。こんな不意打ちをされたら誰だって驚いてしまう。
「ほら恥ずかしいでしょ。名前で呼ばれるって恥ずかしいんだよ」
「いや、さっきは不意打ちだったから驚いただけで普通に呼ばれたら別に恥ずかしがったりしない」
「そうかな。じゃあ…」
咲良くんは視線を台本から隣の私に移した。彼にそんな意識はないとは分かっているけど見つめられると照れてしまう。
「……///」
「めぐみ」
「………///」
「顔が赤いよ。めぐみ。大丈夫?」
「……やっぱり…苗字で大丈夫です」
自然に『めぐみ』と呼ばれると心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかなと思ってしまうほどにドキドキしている。やっぱりクラスの男子たちとは違う。それは勿論、彼は高校生だけど妙に大人びている。成人男性と言われたとしても納得してしまうほど。
今日もこんな風な私と咲良くんは普通の会話を繰り広げている。
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