ドラえもんではなくそのすぐ後ろでした (ひよっこ召喚士)
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ドラえもん…と思ったら違いました。

 目の前で作業の様に組み立てられていくなにか、それはどうやら自分の様だった。意識が曖昧だったが少しずつはっきりしていき、完成の少し手前には自分がどういう存在なのか分かってしまった。

 

(もしかしてドラえもんに転生した!?)

 

 黄色い身体、寸胴な体型、猫型である事を示す耳や鈴、そしてお腹のポケット……それ以外にないだろうと言う要素で一杯だった。しかし、次の瞬間に自分の予想が外れていた事が分かった。目の前に立っているロボット目掛けて電撃が落ちてきて、ねじが一本落ちたかと思うとそのままベルトコンベアから本人?本猫?も落ちて行った。

 

(ドラえもんじゃないのかよ!?ていうか目の前で見ると心配になるな。ねじ落ちたし、ドラえもんも落ちたし、確かこの下は焼却炉だよな?ノラミャーコさんが居るはずだけど、もし居なかったり、流れが変わってたら……ええい、ままよ!!)

 

 考えてる暇もないと言う思いで自分からベルトを飛び降りてドラえもんを追いかけた。その途中で外れたねじも回収する。どうやら自分もちゃんと猫型ロボットの様で高い所を降りる事に恐怖は感じなかった。だけど、高さが高さ、それに万が一に焼却炉に自分が落ちたくないので空を飛ぶ有名な秘密道具をポケットから取り出した。

 

「『タケコプター』!!」

 

 空を飛ぶと言う未知の感覚に戸惑ったが思っていたよりすぐに体勢を整えて飛ぶことが出来た。落ちる勢いを利用して一気に追いかけるとドラえもんともう一人ピンク色の猫型ロボットの姿も見えた。

 

「私、ノラミャーコ。ダンシングロボットよ」

「僕は……まだ生まれたてのほやほやなんで」

「ふうん、随分高い所から産み落とされたのね」

「私達は子守りロボットだよ。どうやら、無事だったみたいだね。いきなり落ちていくからつい飛び出してしまったよ」

 

 あまり介入するのもなんだと思ったが、ドラえもんと面識があった方が今後的にも良いだろう。仲良くはなりたいが親友枠からは少し外れないと下手すればドラえもんズに入れられてしまう。興味はあるが誰かを押しのける気はさらさらない。ドラミちゃんやドラパン、ジェドーラの様に臨時要員程度が理想である。

 

「ええっと君は?」

「私の名前は『ハイドラ』。見た目で同型のロボットなのは分かるだろう?それより君は大丈夫かい?電撃、欠損、衝撃とロボットとして問題が出ないと良いけど」

「電撃はなんとなく分かりますし、衝撃は落ちた事ですよね。欠損って?」

「電撃を喰らった時にねじが一本抜けて行ったよ。私が回収したが、整備で嵌める事が出来る位置のねじだと良いね、はい」

 

 怖い事言わないでくださいよとドラえもんは顔を青くしながら慌ててねじを受け取った。将来的には体も青くなるんだろうけどね。そして、そんな自分とドラえもんのやり取りを見ていた彼女は笑い声をあげた。

 

「貴方も面白そうね。同じ猫型ロボットとして社会の役に立てるように頑張りましょう!それじゃ、二人ともじゃあね!!」

 

 ドラえもんは見惚れているようだ。可愛らしい見た目だなとは思うが元人間としては惹かれる程ではない。この後はロボット学校に向かうはずだよな。ドラえもんも気づいたようで慌てて駆け出した。自分は落ち着いてポケットに手を入れる。

 

「『どこでもドア』入学式会場」

 

 ふむ、問題なく使えるみたいだな。自分がドラえもんでない事に驚きはしたがむしろ立場的には悪くないだろう。これからの事を考えると楽しみなくらいである。

 

 少し時間が経つと同型のロボットが一つの会場に集められていく、特に順番などは無い様なので近すぎず遠すぎない位置に陣取って待っていると時間になったようで校長が前に出て来た。

 

「諸君等は人間の子守用として開発された猫型ロボットである。このロボット養成学校で立派なロボットとして独り立ちできるよう頑張って勉強するように、オーケー?」

「「「「「オーケーオーケー!!」」」」」

 

 そう言えば子守用ロボットとして伝えられるのはこの時だったな。ドラえもんに何で知っていたのか訊かれるか?まぁ落ちた衝撃で忘れてただけじゃないのかとでも言って誤魔化せば問題ないだろう。

 

 授業風景はなにやら問題をとく学問的な物と体育的なもの、そして秘密道具の使用等があったよな……出来ればドラえもんの様に特別クラスに入りたいので別方向でぶっ飛んだ事をしたい……色々と秘密道具で試したい事もあるからな。

 

 


 

登場した秘密道具

 

 

『タケコプター』

 

気軽に空を飛ぶ事が出来る道具。体のどこにでも取り付けられる。吸着の方法には万能吸着盤とけん引ビームの2種類がある。超小型の電池を内蔵。時速80kmで連続8時間の運転が可能。休み休み飛ぶと、電池も長持ちする。頭に付けてスイッチを入れると、反重力ボードと呼ばれるプロペラが回りだし、反重力場が体の周りにでき、地球の重力を遮断して浮上する。方向やスピードを思い浮かべるだけで、脳波がコンピューターに伝わり、プロペラの回る速度が変わっていく。その回転速度の変化によって重力場の方向が移動して、前後・左右・上下と自由自在に飛ぶ事が出来る。

 

 

『どこでもドア』

 

行きたい所を頭に思い浮かべてドアを開くだけで、どこへでも行く事ができる。行き先受信ノブを握ると、頭に浮かべた行き先をノブ内蔵のコンピュータが読み取る。そして、宇宙地図の中から行き先を間違いなく探し出し、行き先の空間を歪曲装置が引っぱってきて、こちらの空間と向こうの空間がドアで接続される。ただし、10光年以上離れた星や、『地平線テープ』などで作られた特別な世界、地図に入力されていない場所には行けない。超空間にバリアーが張ってあると、ドアを通過できない。また、トイレや風呂など他人に見られたくない場所は、プライベートロックが役に立つ。個室に限るが、自分のどこでもドアに、来られたくない場所を入力すると、連鎖ユニットにより他のどこでもドアに指令が届き、ロックされた場所へは行けなくなる。学習機能があり、移動しながら地形データを記憶させる事も可能。オプションパーツもあり、ドアノブに付ける事で時間移動を可能にするダイヤル装置がある。ドラミの持つドアは、大きい物でも入るように自動的に伸び縮みする。この道具の発明により、銀河SL天の川鉄道が廃止になった。斜めの状態でも使用でき、通常通りドアの枠が境目になるが、どちらかで障害物があると、それ以上は倒れない。『昆虫探知カード』をドアに貼り付けると、描かれている昆虫がいる場所に繋がる。強引に突き破っても行けるが、壊れる。

 

 

 




色々と主人公の名前は考えていたけど、ドラの法則に加えてハイテンションとかのhighや灰からです。HIGHの方は性能が高めと言った設定からで、灰はどっちつかずや自由とかスマートなイメージとかからですね。灰猫だと恩知らずを罵る際の言葉になったりとあまりいいイメージでは無いですけどね。


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授業、勉強、試験、修行、改造、いやなんか忙しくない?

 中身がロボットでない私がロボット養成学校の勉強について行けるのかと不安はあったが始まってみると問題は何も無かった。それもそのはずで良くも悪くも不良個所のあるドラえもんと違い、問題が無い私はスペックは他の個体と一緒なのだから周りに出来てるのに私に出来ないなんていう落とし穴は無かった。

 

 今もムービングウォーク、いわゆるベルトコンベアの様な動く歩道の上を走る体育の様な授業を受けているが、問題なく走れている。とは言っても他の個体と同じであればドラえもんの様に個性の活かせるクラスに転入なんていうイベントは訪れてくれないだろう。

 

 ともなれば私にもなにか個性が必要であると考えた。ドラえもんは勿論のこと、ドラえもんが転入した際やオークションで出てきたドラえもんズのメンバーもどちらかと言えば問題児よりである。とは言ってもいきなり可笑しな行動をとって整備とかに回される訳にもいかない。それに出来ないふり何て言うドラえもんの真似による二番煎じなどは望む所ではない。

 

「ならば突き出るのみか?」

 

 幸いにも秘密道具と言う武器があり、前世と言う知識がある私であれば自分自身を改造することも不可能ではないだろう。ただし、ここには少し問題が存在した。秘密道具の使用に関しては先生などに頼めば自己学習の実習として許可を貰える。

 

 しかし、自分の改造にはロボットの製造、ロボット医師、秘密道具職人などの資格が必要になってくるようだ。などと言ったように他にも必要な資格や届け出などがある。それもそのはず、好き勝手に改造されては危険な機能を持ったロボットなどで溢れてしまう。

 

 資格は試験を受ければ取れるようになっているようだが試験において直接的な秘密道具の使用は禁止されている。たとえば『アンキパン』や『コンピューターペンシル』などの答えを出す道具や願いを叶える『うちでの小づち』や『願い七夕ロケット』、運命を操作するような『あらかじめ日記』や『ウソ800』がそれにあたるだろう。だが『時門』などを使って時間を作って勉強するなどはオーケーになる。当たり前だが他の受験者の妨害行為も一発でアウトだ。

 

「何が使えるか……時間確保に『タンマウォッチ』、効率を上げるのに『眠くならない薬』で睡眠を無くして、『ハッスルねじ巻き』、『ノーリツチャッチャカじょう』、『クイックとスロー』で自分の速度上昇、『デンコーセッカ』は制御が利かないからやめとくとして、『コピーロボット』も記憶の共有を利用すれば効率を上げれるな。環境づくりに『かべかけスタジオ』を利用できるか?後はやる気を維持するために『心つき出し撞木』、『すぐやるガン』、『ケッシンコンクリート』、『やり貝』、『ヤリトゲ』、『集中力増強シャボンヘルメット』も割る役を用意すれば平気だろ。『強いイシ』は……流石に止めとくか。『多目的お守り』とかも使えるか?『能力カセット』で先生役を用意したりも出来るか?」

 

 勉強を自力でやる必要があるが、それだって効率を上げる方法を考えればいくらでも思いつくことが出来る。という事で最初に私がやらないといけない資格取得の為に行動を開始した。他にもロボットであれば取れる資格は有用そうな物で受験に条件がないものは取ってしまおうと秘密道具の使用許可をとってから勉強を開始した。

 

「まずは『タンマウォッチ』を起動して、『コピーロボット』!それで早速コピーに訊きたいんだけど」

「言わなくても分かる。前世の記憶の有無については判断は難しいな。オリジナルであるキミがそう思い込んでるだけの可能性も排除できないだろう?」

「まぁ、そうだな。にしても同じ思考回路の存在が目の前に居るのは不思議な感覚だな」

「同じ顔とは言わないんだな」

「同型の機械の顔なんて殆ど同じだろう?」

「それもそうだな。さて私は場所づくりを進めるから、オリジナルは早く他の『コピーロボット』を起動していくと良い」

 

 そう言うとコピーは『かべかけスタジオ』を壁にかけると用意して置いた道具を持って中に入って行った。時間を止めてるので急ぐ必要性はないと思いつつも嫌な事、大変な事は先にやっておく派なので黙って準備を進める。

 

「それではこれから勉強を始める。最初に起動した『コピーロボット』に『能力カセット』による先生役と『集中力増強シャボンヘルメット』を使用してもらう。とりあえず共通で『眠くならない薬』、『ノーリツチャッチャカじょう』、『クイックとスロー』の『クイック』を使用するぞ」

 

 『ハッスルねじ巻き』は巻いた分だけ機能する道具の為、巻く作業が必要な分無駄だと判断したため除外した。先生役も動きについていけないと意味がないので使用し、これで全員の動きがとても速くなったはずだ。というのも全員が速くなっているため違いが分からない。時間も止めてるし、そこまで意味が無かったか?いや、ロボットとはいえ時間を止め続けていれば悪影響もあるかもしれないし、作業を早く終わらせようとするのは間違ってないだろう。

 

「次に『ケッシンコンクリート』を呑んで、各自の担当の場所を開始、最後に『集中力増強シャボンヘルメット』を先生役が起動する。『眠くならない薬』の効果を考えて、タイマーを用意したからこれがなったら一度先生役はシャボンを割ってくれ、全員の体調の調査をして問題が無ければ眠くならない薬をもう一度飲んで再開する」

 

 『ケッシンコンクリート』であれば成し遂げるまでずっと効果が続くため不測の事態が起きにくいと判断したので選んだ。もちろん決めた決心は資格の取得であるため、それに至るまでの勉強にも身が入るはずだ。ちなみに食事などをとらないと危険と気付けたので先生役には一定時間ごとに『食品視覚化ガス』を掛けた写真を置いてもらう予定だ。

 

「それでは開始だ!!」

「「「「「おー!!」」」」」

 


 

 止まった時間の中で約1年が経った頃だろうか、『ケッシンコンクリート』の効果もあり、全ての試験に合格できるだろうと判断できるまで終わる事の無かった勉学の日々が終わりを迎えた。『ノーリツチャカチャカじょう』と『クイック』を使用しているので体感ではさらに長かったのではないだろうか?

 

 流石に機械の身体だけあって物覚えはかなり良い方だったが量が量であった事と確実に合格できるまでと考えていたためにかなり時間を取られてしまった。『眠くならない薬』の都合で一日ごとに記憶の共有をしていたが、何日分も一気に共有していれば流石に電子回路が焼き切れてたんじゃないかと思うほどの量を学んでいた。

 

「ふぅ、それじゃ今までありがとう」

「自分に言うのも可笑しな話だとは思うが試験頑張れよ。それじゃまた」

 

 自分自身だと言う事も『コピーロボット』であると言う事も分かっているが通常時間で1年もの時間を共有しただけあり、解除するとなると少し寂しい気分であるが、お別れを言って鼻のスイッチを押し、他の秘密道具も全て片付けると『タンマウォッチ』を解除した。

 

「先生、ありがとうございました!!」

「ん、ああ、終わったようだね。ハイドラ君なら心配ないと思うけど念のため禁止行為をしてないか検査させてもらうよ。ハイドラ君は違反行為をしていない」

 

 先生が『マルバツ占い』を取り出して確認するとすぐさま赤いマルの方が浮かび上がった。事前に調べてあるから大丈夫だと思っていたが実際に目の前で調べられるとドキドキする物があるな。

 

「うん、うん。君は成績も優秀だし、勉学にも励んでいるようだからね。また、なにかあれば声をかけてくれて良いですよ」

「ありがとうございます!!早速で申し訳ないのですが校内で受けれる資格などはこの中でありますか?」

「ん、どれどれ。何個かは学校側で試験が可能だけど、ここいら辺は運営してる場所や国の試験を受けないといけないね。せっかくの休みの日を潰して出かけるってのも嫌でしょ?資格取得の為なら公欠も取れると思うよ。物によってはレポートとかは出してもらう事になるかもしれないけど、そこいら辺も含めて今から日程を調整していくかい?」

「お願いします」

 


 

 いい先生に出会えて本当に良かった。おかげで1学期の間に7割くらいの資格を取得できた。残りも夏休みなどを利用することで取る事が出来た。純粋な学力においては他の生徒に負けないレベルにあがったし、普通に勉強を頑張るだけでも楽しかったが、ここから先は待望の改造である。

 

 僕が考えた最強のロボットみたいな性能にも憧れないことも無いが何でも出来ると言うのも面白みに欠ける気がする。そのため『マルバツ占い』や『コンピューターペンシル』の様な答えが分かるような秘密道具を完全に組み込むようなことはしない。運命操作や願いを叶える秘密道具も詰まらないだろう。

 

 しかし、分からないものを調べたりする必要性は出てくるだろうから『宇宙完全大百科』をどうにか利用できないかとかは考えている。一々取り出して調べると言うのは流石に手間だし、端末機と機能を連結させれば頭の中で疑問を検索したりする事も出来る様になるだろう。もちろん、これも多用するようなことはしないだろう。

 

 後は外からの秘密道具に対する対抗手段とかは必要になるだろうし、安全面に関しては徹底的にやるつもりだ。流石に私だって壊れたいとは思わない。

 

 防御については『ひらりマント』も考えたがしっかり使わないと流れ弾がどこに行くか分からないので不採用。『絶対安全がさ』などの絶対安全系もしょうじき不安があるし、そのままでは手が塞がってしまう。生物ではないので不死身化も出来ない。『四次元若葉マーク』を改造して攻撃をすり抜けたり出来ないだろうか?他にも時間操作に関して言えば『タンマウォッチ』とかを改造すれば可能だろう。

 

 身体の異常や怪我などについては『直しバン』という道具があり、どんなものでも直す事が出来るが剥がれた際にどうなるかが不透明なので貼っておくだけで対策にはならないだろう。『全体復元液』などは欠片からでも元の姿に戻るがそれで複数になれば訳が分からなくなるだろうから『復元光線』の方がまだマシだろうか?だとしてもそれを浴び続けると言うのは流石に難しいだろうが、緊急時に内部で放つようにすれば万が一の際に安心かもしれない。普段は資格も取った事だし、『メカ救急箱』を使って自分を診察するとしよう。後は定期検診を受ければそうそう問題はないはずである。

 

 攻撃手段では『ESP訓練ボックス』を今度また時間をとめて訓練しよう。時間停止以外にも動けなくさせる道具があるが念力や瞬間移動が使えれば対策が出来る。後は『魔法辞典』を上手く使えば秘密道具で出来ない事もカバーできる。まぁ、基本的には『ショックガン』や『空気砲』で大丈夫だろう。後は『名刀電光丸』を改造して使うか、作品によってはあれでも勝てない事はあるみたいだからな。

 

 後は透明化に変身や空を飛ぶ機能なんかも秘密道具には多い。これらも上手く組み込めば使えそうだが、透明化は『透明マント』の方が知られているが『隠れマント』の方が性能が良い。変身は『変身ドリンク』が副作用が無く使いやすい。空を飛ぶのは魔法でも良いが普段は『タケコプター』が一番かな。念のため『飛行スカーフ』や『トビレットペーパー』などを改造して万が一の命綱は必要だろう。

 

 あ、あと身体の色を変えたい。改造の影響とでもいえば大丈夫だろうと言う事で名前通り灰色にチェンジしておこう。この方が個性が出て良いだろう。

 

 

「対策は順番にやれば良いとして、技能は能力カセットを使用して反復練習すれば良いだろう。後は特技や必殺技みたいなものがあれば良いか?」

 

 ドラえもんズの様にどこか秀でた物があれば特徴づけとして良いだろう。頭突き、射撃、カンフー、サッカー、狼化、闘牛、魔法、細かい物を上げれば他にもあるが出来れば被らない物がいいけどなぁ。

 


 

 そうした創意工夫を重ねて自身の強化を施していった私は二学期が始まってからというもの、授業で他の追随を許さないレベルで記録を出して、ある意味で授業を壊すような行動を続けていった。その結果ついに寺尾台校長に呼び出された。

 

「ふぅむ、君の努力などは教職員から聞いているが、どうにも性能に差が出過ぎておるな。君が悪いと言う訳ではないがこれでは周りに影響が出かねん。という事で個性を活かせるクラスに転入してもらえんか?」

「はい、分かりました」

「それじゃ、さっそくいってらっしゃい」

「え?」

 

 そう言った瞬間になにやらパイプの様な物に吸い込まれた。そう言えばドラえもんもこの移動方法だったな。万が一に移動先が間違っていた場合に備えていたがドラえもんと同じ間違いはしなかったようで無事に教室にたどり着いた。

 

「今日は転入生を紹介する。君の名前は?」

「ああ、私はハイドラ。子守用ロボットであるが、色々と資格を取って出来る事は幅広い。長く自分語りをするつもりはないが、これからよろしく頼む」

「あれ?ハイドラ!?」

「まぁ、ハイドラ?」

 

 そう自己紹介すると見知った顔が二人ほど反応を示し、近づいて来ていた。まぁ、ドラえもんとノラミャーコの事なのだが会うのは本当に久しぶりだな。しかし、二人とも少し不思議そうな顔をしている。

 

「えっ、というか本当にハイドラなの?初めて会った時と色が違うけど?」

「ああ、色々と改造してその影響だ。これから同じクラスとしてよろしく頼む」

「え、あ、うん。よろしく!!」

「ええ、よろしく!!貴方とも一緒のクラスで嬉しいわ!!」

 

「なんでぇ、ドラえもんとノラミャーコの知り合いか?」

「薄暗くて不気味な奴」

 

 ジャイベェとスネキチだったか、こうして目の前で見るとまんまジャイアンとスネ夫だよな。まぁ、声が一緒だしそう感じるかもしれないが性格もそっくりだよな。他に目を向けるとドラえもんズのメンバーもいる。

 

「……楽しくなりそうだな」

 

 


 

登場した秘密道具

 

『アンキパン』

 

この食パンに、暗記したい物を写して食べればスラスラ覚えられる。ただし、トイレで用を足すと忘れてしまう。ジャムやバターを塗って食べても暗記できる。

 

 

『コンピューターペンシル』

 

どんなに難しい問題でも、コンピュータ内蔵のこのペンがすらすら解いてくれる。ペンシル安定機がペンを安定させ、問題読み取りアイで問題を読み、コンピューターが答えを出す。重力をコントロールして微妙な動きを作り出し、文字が書ける自動筆記システムで、眠っていても答えを書いてくれる。

 

 

『うちでの小づち』

 

ちょっと振るだけでどんな望みも叶えてくれる。でも、すんなりとはいかない。

 

 

『願い七夕ロケット』

 

短冊に願いを書いて飛ばせば、すぐに叶えられる。但し、一度で効き目が消える。

 

 

『あらかじめ日記』

 

この日記に書いたことは、どんなことでも絶対にその通りになる。書いた内容を消しゴムで消す事は出来ないが、日記を燃やすと起こらなくなる。

 

 

『ウソ800』

 

フラスコのような物に入った液体で、これを飲んで喋ると、喋ったことがみんな嘘になる。薬に含まれている森羅万象強制逆転エキスによって、宇宙のあらゆることに対し、飲んだ人が喋ったことと反対の出来事が起こる。有効時間は75分。

 

 

『タンマウォッチ』

 

この時計のスイッチを押せば時間を止められる。もう一度ボタンを押せば元の通りに時間が動き出す。壊れて時間が動かなくなった時は、『タイムマシン』で止める前に行けば時間が流れている。

 

 

『眠くならない薬』

 

1粒飲めば24時間、眠くもならないし疲れもしない。これには、夜行性動物、特にフクロウと同じエキスが含まれていて、他にも薬草、強精エキスなども含まれている。

 

 

『ハッスルねじ巻き』

 

これを背中に当ててたっぷりとネジを巻くと、ネジの運動神経増幅磁波注入口から磁力が出て、運動神経に力を与え、動作が素早くなり、何でもテキパキとできるようになる。走ったら新幹線と同じ位になる。

 

 

『ノーリツチャッチャカじょう』

 

これを飲むと、仕事や勉強が能率よく速くできる。

 

 

『クイック』 

 

ビンに入った錠剤タイプの薬。これを飲むと、心も体の動きも早くなる。脳細胞と神経、筋肉、細胞、自律神経を物凄く活発にさせる。飲み過ぎると体の動きが速くなり過ぎて制御出来なくなる。『スロー』はその逆。有効時間は6時間。組成は1錠中、超ニューロン興奮エキス300mg、沈降炭酸カルシウム50mg、無水カフェイン20mg、筋肉強化剤100mg、新陳代謝活発剤50mg。

 

『スロー』

 

これを飲むと、心も体の動きも遅くなる。『クイック』はその逆。組成は1錠中、超ニューロン停滞エキス300mg、沈降炭酸カルシウム30mg、無水カフェイン20mg、筋肉緩和剤100mg、新陳代謝抑制剤50mg。

 

 

『デンコーセッカ』

 

これを飲むと、目にも留まらないくらい速く動くことができる。

 

 

『コピーロボット』

 

パーマンも使っている道具で、鼻を押すとロボットが押した人そっくりになる。

 

 

『かべかけスタジオ』

 

壁に掛けると、中は漫画の原稿を書ける立派な書斎がある。道具も一式揃っており、どんな資料でも声をかけると本棚から素早く出て来たり、書きかけの絵を1秒でペン入れ・バック・消しゴム・着色・仕上げをしてくれるアシスタントマシン、部屋いっぱいに流れる音楽、空腹時には何でも出前、疲れた時には椅子の全身マッサージ、居眠り時には上から大量の水が降ってくるなど様々な機能が備わっている。また、入口にある加速ボタンを押すと、何百倍ものスピードで作業ができる。

 

 

『心つき出し撞木』

 

これで頭を殴ると、殴られた人が黒くなった「怠け心」と白くなった「頑張り心」の、ふたつの心が出てくる。そしてお互いに戦いを始め、頑張る気持ちを持つか白の勝利を願えば白が強くなり、逆に怠けようとする気持ちを持つか黒の勝利を願えば黒が強くなる。白が勝つと黒は消え、バリバリの頑張り人間になる。黒が勝つと白が消え、徹底的に怠ける。白が消えずになんとか生き延びると、白の自分だけで何とか頑張り続けようとする。

 

 

『すぐやるガン』

 

後回しにしていたり、グズグズしている時にこのピストルを撃つと、何でもすぐやり始める。

 

 

『ケッシンコンクリート』

 

どんな意志の弱い人でも、これを飲めば決心を貫き通す事ができる。ただし、トイレにも行けないなど融通が全く効かない。

 

 

『やり貝』

 

『そうなる貝セット』のひとつ。背中に付けるとやる気が出てくる。セットの中では一番大きい。

 

 

『ヤリトゲ』

 

このトゲが体に刺さると、思った事を最後までやり遂げる事ができる。誰にも止める事はできない。

 

 

『集中力増強シャボンヘルメット』

 

何かをやりかけているとき、このスプレーで出したシャボンヘルメットをかぶせると、夢中になって続ける。ヘルメットを壊さないと辞められない。

 

 

『強いイシ』

 

この石に誓った事を破ろうとすると、頭に直撃して攻撃される。石の力はドラえもんやジャイアンでも敵わず、阻む者を徹底的に痛めつけ、逃げても逃げても飛んで追いかけてくる。変装も有効だが、気を抜くと気付かれる。4つのダイヤルで時間を指定するが、途中で辞める事はできず、1年を指定したらきっちり1年間守らなければならない。

 

 

『多目的お守り』

 

「金運」「交通安全」「恋愛運」「受験合格」があり、望みのボタンを押すと、コンピュータの働きでお守りとして役割を果たすよう、着けている人を動かす。「交通安全」が効いている間は、無事に家に帰るまで外せない。「受験合格」が効いている間は、机から離れられなくなる。このお守りは「恋愛運」を守っている間は「金運」まで手が回らなかったり、責任感が強く、一生懸命になって、多少強引にやり過ぎる部分がある。これをのび太に怒られて気付き、小さくなってしょぼくれた。

 

 

『能力カセット』

 

色々な人の能力がカセットに入っている。これを体にあてがうと、体に飲み込まれてセットされ、その能力を発揮できる。1時間テープ。カセットを取り出せば自動的に巻戻る。マラソン選手、数学者、野球選手、奇術士、歌手、強い人、考える人などがある。

 

 

『食品視覚化ガス』

 

これを食べ物の絵や写真にかけると、見ただけで食事をすることができる。忙しくて食べる暇がない人のための道具。テレビにかければ、食べ物が映った時に味わえる。

 

 

『マルバツ占い』

 

どんな質問にも、○か×ではっきり答えてくれる。

 

 

『宇宙完全大百科』

 

ある小学校の1学級の宿題とその解答や、草野球の決定的写真が付いた結果のような、非常に小さな情報から、特定の個人の情報まで、ありとあらゆる情報が載っている百科事典。使い方はまず、開いて呼び出しキーを押す。すると電波が衛星軌道の大百科に応答を求め、接続されるとチーンと音が鳴って、「質問をどうぞ」と聞かれる。そうしたらマイクを使って探したい項目を言うと、端末機から回答が印刷されて出てくる。質問の仕方が例えば「宿題を教えて」と聞くと、「先生が出した課題を生徒が自宅で学習する事」といった宿題の意味が出力される。宿題の答えが知りたい場合は、「何年何月何日何学校の何年何組に出た宿題」と詳しく言う必要がある。人物も調べる事ができ、他の人の関係や血筋、性格、略歴などが写真付きで分かる。データ量は膨大で、ディスクにギッチリ詰め込んでも星1個程の大きさになり、宇宙空間に浮かべてある。

 

 

『ひらりマント』

 

目の前に迫ってくる物に対してこのマントを振りかざすと、跳ね返す事が出来る。跳ね返せるのは物体だけでなく、光線などの不定形なものにも効果がある。電磁波の反発を利用している。

 

 

『絶対安全がさ』

 

この傘を差して歩くと、犬やジャイアンに出会しても安全に守ってくれる。緑、赤、青、黄の鮮やかな4色でできている。

 

 

『四次元若葉マーク』

 

これを付けると4次元空間に入って、何にぶつかってもそのまま突き抜ける。ただし、これを貼り付けた者同士はぶつかる。

 

 

『直しバン』

 

壊れている物にこれを貼ると直る。

 

 

『全体復元液』

 

どんなに小さな欠片でも、この液をかけると、欠けた部分から泡が出てきて元の全体の姿に戻る。

 

 

『復元光線』

 

壊れた物にこの光線を当てると元通りになる。

 

 

『メカ救急箱』

 

人間の薬のように、塗るだけで機械の故障を直すことができる。

 

 

『ESP訓練ボックス』

 

「念力」「透視」「瞬間移動」の能力を育てることができる。一人前になるには、毎日3時間訓練して3年かかる。訓練の足りない人がやると、念力は遅れて働く。

 

 

『魔法辞典』

 

中には何も書いていない。自分でこの事典に、したい事を書き、続いてどうすればそれが起こるかを書くと、その通りの事を実現させる事ができる。例えば、「ほうきで空を飛ぶにはスーイスイと唱える」と書けば、「スーイスイ」と言うと空を飛ぶ。効果をなくすには、逆に「イスイース」と唱えればよい。

 

 

『ショックガン』

 

相手を傷つけることはないが、気絶させることができる武器。

 

 

『空気砲』

 

空気圧を利用する武器。腕にはめて「ドカン」と言うと発射される。

 

 

『名刀電光丸』

 

レーダーが組み込まれている剣。相手の動きをキャッチすると、自動的に相手を倒す装置が働く。敵洞察センサーが敵の動きを探り、コンピューターが敵の動きを上回る作戦を計算する。作戦の動作を、刀の柄に組み込まれている反射神経支配装置で使用者の反射神経に伝える。と同時に、反射神経を鋭くしてくれる。力が弱くても、電気ショックで相手を気絶させてくれる。

 

 

『透明マント』

 

このマントをかぶると透明になる。細胞内光線通過糸からできたシースルー繊維の効果で、このマントをかぶると光が細胞を通過してしまう。

 

 

『隠れマント』

 

これをかぶると姿が見えなくなる。

 

 

『変身ドリンク』

 

これを飲んで、なりたい動物を頭の中で思い浮かべると、変身する事ができる。忠実に思い描かないと、中途半端になる。全身の細胞を作り替えるので、変身には多少の時間がかかる。何本か飲めば瞬時に変身できるが、見ただけで変身してしまう。効き目は6時間。

 

 

『飛行スカーフ』

 

空を飛べる羽衣のようなスカーフ。頭に巻くと空飛ぶはちまき。

 

 

『トビレットペーパー』

 

ちぎると空に浮かぶ紙。体に巻けば空も飛べる。たくさん巻く程空に浮き上がり、適量だと天女の羽衣のように空を自由に飛べる。のび太の体重で大体2m位あれば山道を楽に登れる。これで鶴を折って空を飛ばして楽しむ事もできる。

 

 

 

 



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個性が活かせるクラスってどう考えても濃いよね

 このクラスは一部の量産型ではないロボットやドラえもんや私の様に他の同型のロボットたちと規格がずれてしまっているロボットなどが集まっているようだ。何ロボットなのかも多種多様で建築、画家、検察官や裁判官、弁護士などの法務、スポーツや先生など殆どがバラバラである。

 

 製造目的がまったく一緒のロボットは1人でも居れば珍しいようで、まったく同じ型のロボットがいる事はまずないらしく、私とドラえもんの例はかなり珍しいようだ。そして既にジャイベエやスネキチはもちろん、未来のドラえもんズとも交友関係が出来ている様で時間がある時にそれぞれ紹介された。先に紹介されたのはジャイベエとスネキチだった。

 

「よう、俺様はジャイベエ様だ」

「僕がスネキチだ」

 

「ああ、薄暗くて不気味な奴だがよろしく、キミもこの『色々カラーパレットと筆』で薄暗くしてあげようか?」

 

「ゲッ、聞こえてたの……そんな、冗談じゃないか。ねっ、ねっ?」

「あっはっは、面白い奴だな。だけど調子に乗ってるようなら俺様がぶん殴るぞ」

 

「やれるならやってみると良い。こっちで好きに対処させてもらうよ」

 

 ドラえもんの世界観には合わないが殺気とでも呼べるような物をぶつけて睨みつけてやると少したじろぎはしたが未だにジャイベエも此方を睨んでいる。スネキチはヤバいと感じたのか少しずつ私達から距離を取っている。

 

「クソッ、これでも喰らえ!!」

「フッ、『痛み跳ね返りミラー』」

「ぎゃぁ痛ぇ!?」

 

 こちらも攻撃してしまえば流石に先生に怒られてしまうだろうからな。正当防衛とは言っても評価が落ちかねない行動は避けるべきだろう。となれば何かを言われても自業自得だと言い張れるものにした。避けたり、衝撃を吸収する系を選ばなかったのはあえてだけどね。

 

「なぁ、ドラえもん。あの道具はなんなんだ?」

「あれは『痛み跳ね返りミラー』って言ってその名前の通り、あれを持ってると2倍の痛みが攻撃した人に跳ね返るんだ」

「ハイドラって結構容赦がないのか?」

「う~ん、怖いことを言われたことはあるけど、基本的には優しいから仲良くしてれば大丈夫なはず……」

 

 小声で震えながらドラえもんに私の事を訊いているスネキチの姿が教室の端、何ならすぐにでも逃げれるようにかドアの近くに見えた。やるからには徹底的に、完璧主義とは少し違うが自分の考えを貫く感じでやっていこう。その結果で他のロボットから少し容赦なく映ってもそれは勘違いである。

 

「冗談だからそんな端に居ないで、これは本当に殴ってきたから防いだだけだよ。他愛も無い小さな蔭口で何かするほど心は狭くないつもりだ」

「そ、そう。でも本当にごめん、だから許してね」

「だから何もしないと言ってるだろ。それにしてもドラえもんはこの二人と仲がいいのか?」

「えっ、あー、いじめられたのが最初だけど、それがきっかけで他の友達とも出会えたし、授業でも一緒の事が多いからね。二人も大事な友達です」

「そうか……やはり不具合はあったようだし、クラスが一緒の頃は遠巻きに様子を見ていたが、このクラスに変わってから楽しいのなら良い事だ。他にもこのクラスで過ごしてきて思い出はあるだろ?時間がある時に教えてくれ」

「は、はい!!」

 

 これは嘘ではなく、実際の授業だとドラえもんが大変な事が他にもあるのではないかと気にかけてはいた。『タケコプター』の授業では飛び方が不安定なだけでなく危険な場所に墜落しかける事などもあったし、危ないと思った際には密かに助けていた。本来の世界ではどうやって助かったのか、それともこの世界のドラえもんの方が原作世界よりも故障が酷いのか?まぁ、分からない事で悩んでも仕方がないだろう。

 

 


 

「それではこの問題をハイドラ」

「はい、そこの答えはε+47・θ√45・deusです」

「正解だ。流石は学年首席だな」

 

 人より、いや他のロボットより長く勉強しているんだからこれ位は出来ないとダメだろう。しかし、まだドラミちゃんも製造されてない時期に王ドラの秀才の称号を奪ってしまったので一時期物凄い敵対心を持たれていた。というかドラえもんに紹介されてからも時折睨まれている気がする。

 

「ぐぬぬ、少し前まではわたしが1番だったというのに」

「はぁん、修行だなんだといってる間に唯一の取柄を失ってりゃ世話ないね」

「なんですと!?その侮辱は聞き捨てなりませんよエル・マタドーラ!!」

 

「こらっ、そこ煩いぞ!!」

 

 また昼休みになったら二人での追いかけっこが始まりそうだな。王ドラとエル・マタドーラの戦いは見ていて面白いから大歓迎だ。見ていて勉強になる事も多いからな。王ドラのカンフーやエル・マタドーラの『ひらりマント』はまだまだ真似できない。

 

 それと王ドラには漢方医学の知識があり、私は医師の免許を持っている。ああ、もちろんロボット用だけでなく人間用も持っている。それ故に敵視される事もあるがお互いに研究についてだと話が弾む事も多いので仲は悪くないはずだ。

 

 エル・マタドーラに関しては真面目なキャラで通している為シエスタの邪魔をする事があるので邪魔に思われている事も多い。頼られる時なんてナンパなどに行く際に誘われるくらいである。成績優秀で先生からの評判も良いために私は多少人気であり、女性型ロボットからモテルらしく、だしにしようとしているのが簡単に分かるがたまにプライベートなら手伝っている。が成功した試しがないので諦めた方が良いと思う。

 

「はあ~、ようやく授業が終わった。ハイドラも一緒にご飯に行こうよ」

「相変わらず食べるのが好きだねドラえもん。ノラミャーコ君やいつものメンバーも誘うんだろ?私は早めにいって良い席をとっておくからみんなで後からくると良い」

「ありがとう、それじゃボクみんなを呼んでくるね!」

 

 さて、それではタンクから『チーターローション』を排出、準備完了。それでは食堂に向けて全速でいくとしよう。もちろん周りに迷惑を掛けてはいけないのでぶつかったり、無駄に風を起こさないように足運びには気を付けている。

 

 液体系の道具を体内に保管していつでも排出出来る様にしたのは中々悪くないかも知れない。『どこでもじゃぐち』などの液体輸送の道具を活用して組み込んだが今のところは問題なさそうだ。液漏れもしなければ不要なタイミングで作動するなどもない。複数種類を使っても混ざったりしている感じも無いので成功で良いだろう。

 

「ふぅ、席の確保は出来たが、遅いですね。っとアレはドラリーニョ……?」

「あっ、ハイドラ!!」

「一応訊きますが何をしてるんですか?」

「アレ?ボク何しに来たんだっけ?」

「それを思い出してください」

「あっそうだ!!王ドラとエル・マタドーラの喧嘩が長引いて遅れるって聞いて伝えに来たんだった」

「連絡ありがとうございます。しかし、私達には通信系の道具もありますからそれを使ってください。いつもの事ですから話を聞いて一人で納得してここまで走って来たんでしょう?」

「その通りであ~る」

 

 気づいていたが後ろを振り返ると魔法のじゅうたんに乗っかっているが急いで追っかけたからか少し疲れた様子でドラリーニョのことを見ているドラメッド三世の姿があった。

 

「あっ、ドラメッド!」

「あっ、ドラメッドではないであ~る!!ワガハイたちが待つように伝えるより先に走り出しおって、どうせ伝達事項も一度忘れておったのあろう。まったく少しは落ち着いて行動するであ~る!!」

「ごめんごめん」

「それでドラメッド、みんなはどうしたの?」

「そうであった。それが二人を止めようとしたキッドが攻撃を受けて怒りに任せて『空気砲』を撃って喧嘩に混ざり始めたのであ~る。『ひらりマント』で弾いた攻撃が照明を壊して降って来た照明がぶつかってドラえもんは気絶、ノラミャーコが保健室に連れて行ってるところであ~る。ジャイベエとスネキチはノラミャーコに言われてドラえもんを運ぶのを手伝っておる」

「はぁ、彼らもこりませんね。また先生に呼び出されるでしょうね。今度はなんのバツが与えられるか、掃除か用具の整備かどっちにしろまた放課後は遊べそうにないですね」

 

 どうにもこのメンバーは血の気が多いというか我が強いというか、一日一回は何かしらの言い争いが発生し、三日に一回くらいのペースで問題に発展する。巻き込まれないように気を付けるのも結構大変なので流石に庇う気にもなれません。

 

「ところで名前が出てきませんでしたがドラニコフはどうしました?」

「ああ、落ちて来た照明が丸くて野獣に変身しおった。落ち着いたらこっちに来るはずじゃからそろそろ……」

「ガオ、ガオ!」

「あっ、丁度来たようであるな」

「ガオ、ガオ!!」

「ああ、壊れた照明とかを直していて遅れたんだね」

「それはご苦労様ですね。それでは今日は少ないですが4人で食事としましょう。食べ終わったらドラえもん用に取り分けてお見舞いもかねて差し入れでもしましょうか。あと付き添いの3人にも、騒いでいた3人は放っておきましょう。食事を抜くくらいのバツが無いと反省もしないでしょう」

「まぁ、更に騒ぐであろうが良い薬であ~る」

「それではみんな手を合わせて」

「「「いただきます!」」」

「ガオ、ガオ!」

 

 


 

 学校の設備を壊し、他の生徒に迷惑をかけたという事でキッド、王ドラ、エル・マタドーラの三人は奉仕活動という事で花壇や鉢植えなどの世話が言い渡されていた。

 

「まったくお前らの所為でひどいとばっちりだぜ」

「何を言ってるんですかキッド。貴方が『空気砲』なんて撃たなければこんなことにならなかったんですよ」

「そうだぜ。まったくシエスタの時間が丸つぶれだ!」

「何言ってんだ。初めに喧嘩してたのはお前らじゃねーか。止めようとして逆切れして殴られた正当な仕返しだ。なのに王ドラが喰らったのに一人だけ喰らいたくないってひらりマントを使ったエル・マタドーラが悪いだろ!!」

「なにぃ!!」

「なんですか!!」

「なんだよ!!」

 

「コホン、お前たちまったく反省をしていない様だな」

 

「「「あっ!?」」」

 

 言い争いに熱中してしまい近くまで来ていた先生に気付かず、作業を放り出してまた喧嘩をしている所を見られてしまった。

 

「反省している様ならもう終わりにしてやろうと思っていたが、そうもいかないようだな」

 

「ちょっ、先生そりゃないぜ」

「言い出したのはキッドです」

「俺は手はちゃんと動かしてたぜ。ほらっ」

 

「喧嘩をして迷惑をかけたのが問題なのに、未だに喧嘩を続けている者を見逃せるか!!おまえ達、この階だけでなく、この建物内全部の植物の世話をするんだな」

 

「「「そんな~」」」

 

 流石に見かねたのでドラえもんたちにしっかり謝り仲直りするのを条件に他のみんなも手伝ってどうにか植物の世話は終わらせることが出来た。途中で植物たちが自分で世話をすれば良いんじゃないかと『植物自動化液』を持ちだそうとしたアホが居たりもしたが、今日も最後は問題なく終わる事が出来た。毎日騒がしいが、やはり楽しい世界である。

 


 

登場した道具

 

 

 

『色々カラーパレットと筆』

 

何でも好きな色に塗り替えることができる道具。赤、青、黄、緑、黒、白の6色のなかから、パレットで好きな色を混ぜ合わせて他の色を作ることができる。色を着けた筆を、異なる色に変えたいものに向けて筆を走らせると、その色に塗り替えることができる。白色を塗ると、その対象物は目に見えなくなる。使い過ぎると、あらゆる物が真っ黒になって意思を持つようにうごめきながら襲ってくることがあるが、水で洗い流すことができる。

 

 

 

『痛みはね返りミラー』

 

この鏡を持った人を殴ると、2倍の痛みが殴った人に跳ね返る。

 

 

『チーターローション』

 

これを足に塗れば、目にも留まらぬ速さで走ることができる。

 

 

『どこでもじゃぐち』

 

この蛇口を好きな所に付けると、いつでもどこでも、自由に飲み物が飲める。これを頭に取り付けると、水道の水をまるで鼻水のように鼻から出すこともできる。

 

 

『植物自動化液』

 

この液を植物にかけると、足が生え、知能を持ち、自由に動けるようになる。

 

 

 



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ロボット改造大騒動!?

「……」

「……」

 

 目の前に居る相手に対して気を抜くような真似は元よりしないが、集中していないと一瞬でやられるのが分かるのが恐ろしい所だ。手加減せずに相手をしてくれてるという事は少なからず認めるだけの技量があると思ってくれてるのであれば嬉しいのだが、そこまでは分からない。

 

「はぁああ!!」

「とぉりゃっ!!」

 

 動き始めたのは同時であったが、私の拳は相手に届くことなく、相手の足が私の首元で止められていた。秘密道具で速度を上げていてコレなのだからまだまだという証拠だ。

 

「助かった王ドラ。感謝する」

「いえいえ、私にとっても良い修行になりました」

 

 しっかりとした武術を習得している相手と言うのはこれほどまでに違うのか、ロボットなので身体を鍛えるといっても馬力が上がる事はない。むしろ改造しているだけこちらの方が機体の能力だけで言えば上なのに負けたのだから少し悔しさすら感じる。

 

「すごいね。二人とも!!」

「うむ、見事な技であ~る」

「やっぱり王ドラの方が強いんだな」

 

 観戦していたドラえもんズの他のメンバーが決着と共に騒ぎ始めた。まぁ、普段からドラニコフを除けばやかましさの塊でしかない面々がよく黙って観戦してたものだ。ドラえもんとドラメッドの素直な賞賛とキッドからの少し棘のある言葉が耳に入る。

 

「それはそうですよ。私も練習はしていますが道具頼りの付け焼刃です。常に修行している王ドラには勝てませんよ」

 

「いつもの馬鹿みたいな修行も無駄じゃないってことか」

「でもボクたちロボットなのに修行って意味あるの?」

 

 エルマタドーラの感心したような声とドラリーニョの純粋な疑問の声が響く。ドラリーニョの声を聴いて、たしかに人間と違って体が鍛えられる訳でもないのになと疑問が広がって行く。

 

「同じ動きを繰り返す事でコンピューターであっても学習します。しっかりと動きを繰り返す事でより速く身体に動きをさせる事が出来る様になったり、誤差などをしっかり理解して動きの最適化をして行く事で技術は上がっていきますよ。まぁそれには地道な鍛錬と正しい知識が必要になりますけどね。私の改造や道具の使用法は邪道ですよ」

 

 そっかぁ、やっぱりちゃんと学ばないとダメなんだね。と納得が広がって行く中で何かを思いついたのかこちらに近づいてくる者がいる。なんだか嫌な予感がするので逃げようとしたが今回はその前に引き止められてしまった。

 

「邪道でもそっちの方が速く強くなれるだろ?俺たちも改造してくれよ」

「足が速くなったらもっとサッカーが出来るかな?」

「面白そうだな。おれにも頼むぜ」

 

 強さとかにあまり興味がないドラえもんやドラニコフ、そして武術ではなく魔法を修めているドラメッドなどは参加していないが、キッド・ドラリーニョ・エルマタドーラの3人が私を囲むように近寄って頼んで来た。

 

「ロボットの改造には申請が必要ですので出来ませんよ」

「えー、そうなの?」

「がっかりだぜ」

「待てよ。ハイドラはどういう理由で申請してるんだ?」

 

 このまま気付かずに話を終えられれば良かったが、こういった時にだけ頭の回転が早くなるのは何故なんだろうか。

 

「主に秘密道具の実験ですね。秘密道具の新たな可能性を探したり、道具同士の相性などを確かめたり、それらを元に新しい道具の開発や今ある道具の改善など研究の結果をレポートに纏めて提出し、一定の功績を上げているから許されているんです」

 

 提出したレポートのコピーや開発中の道具を見せながら説明を加えると見せて見せてとみんな近寄ってきた。道具の方は起動しないようにだけ注意して渡す。

 

「なるほどこれは……こうして分かりやすい差があると余計に悔しいです」

「うーむ、なんとなく凄いことは分かるであるが、これを読み解ける王ドラも、わがはいから見れば十分であ~る」

「僕なんてちんぷんかんぷんだよ」

「ガウゥ」

 

「じゃあよ、その手伝いとかで申請は通らねぇのか?」

 

「通るか通らないかで言えば通るでしょうね」

 

「おっ、それなら」

 

「やりませんよ」

 

「なんでだよ!!」

「改造してくれよ!!」

「ハイドラ~!!」

 

 道具の使用などで失敗することもあり、計画性のない行き当たりばったりなこの面子に改造なんて施して問題を起こさない訳がないでしょう。監督責任という言葉を知っていますかね?あなた方が問題を起こした場合に私も責任を問われるんですよ。問題の大きさにもよりますが下手したら資格の取り消しも在り得ますよ。

 

 とは言っても真っ向から否定するようなことを伝えればそんなことはない、馬鹿にするなと意地になるでしょうから改造できない理由を一つずつ伝えていく。

 

・改造は負担が掛かり、慣れていないと難しい

・申請が通るのに時間がかかる

・改造もタダで出来る訳ではない

 

「ハイドラは簡単に改造やってるじゃん」

 

「だから私は慣れてるから出来てるんです。秘密道具の事を一から百まで理解していないと身体に組み込んだ際に誤作動させてしまう事だってあります」

 

「慣れてる道具でやればできないのか、俺なら空気砲を使うとか、エルマタドーラならひらりマントとか、ドラリーニョは何だろうな。まぁ、だがそんな感じならどうだ?」

 

 本当になんで成績とは関係ない場所でこうも頭が働くのか……たしかに使い慣れてる道具であれば誤作動はある程度は回避できるだろう。とは言っても身体に組み込んだ際に普段とは違う挙動をする事もある物を制御できるとは思えない。むしろ普段との違いに振り回されるのではないだろうか……そもそもドラリーニョは組み込んだ道具の事を忘れるのではないか?

 

「申請にかかるってどれくらい必要なんだ?ハイドラってしょっちゅう改造やってるし、一年どころか一ヶ月も掛かんないだろ?」

「……審査を入れても一週間から二週間もあれば可能です。ですが良くも悪くも有名なドラドラ7のあなた方の申請が通るか分かりませんよ。それに最後のお金の問題はどうするんですか?」

 

 これに関して言えば苦し紛れだったから気づかれてもしょうがないでしょう。私自身、適宜改造を施していましたし、それを隠していませんでしたからね。ですが最後の問題についてはどうしようもないでしょう。お金に困ってるというほどではないにしろ。裕福とはとても言える者はいませんからね。

 

「友達だろ?まけてくれよぉ!!」

 

「友人だからと言ってお金のことに関してはしっかりしないとダメです。それこそ線引きをしっかりしなくては友情なんてなくなりますよ」

 

「お金なんてあんまりないよー」

「おれも年中金欠だしな」

「ぐぬぬぬぬ」

 

「これはハイドラの言う事が正しいであ~る。友達だからとズルズルしていれば碌な事にならないであ~る」

「ワァウ!」

「3人とも無理を言わないで諦めたら?」

 

 比較的常識的であるドラえもんたちがキッドたちを止めようとしてくれる。お金の問題は解決しようがないから流石に諦めるだろうと高をくくって居たら、思わぬところから反撃がきた。

 

「これくらいしっかりした研究であれば実験とかに補助金とかも出るんじゃないですか?治験とかと同じような試験役として出来るものがあればむしろ給金も貰えますよね」

 

「王ドラ!?」

 

 私が声を上げてそちらを睨むとつい考えが口から零れてしまっただけの様でしまった!?と王ドラも自分のやらかしに気付き、すぐさま申し訳なさそうな顔をしていたがもう遅い。場を濁すために聞かなかった事にしてその場から離れようとしたが私の服、白衣を掴まれ動けなくなった。

 

「ハイドラ君、そう言った制度があるんなら教えてくれても良いじゃないか。友達だろ?」

「実験とかで人手が居るんならおれ達が手伝おうじゃないか」

「手伝いが必要ならぼくなんでもやるよ」

 

 目をキラキラとさせてそんなことを言ってくる三人。本当に余計な事をしてくれたなと王ドラを睨む。後で何かしら代償は払わせてくれよう。そう思っていると何かを感じたのか身震いをして顔を青くしている王ドラの姿が見えた。

 

「改造の為であれば、なんでもするんですか?」

「おう」

「もちろんだぜ」

「やるやる~」

 

「分かりました。それでは申請などに必要な書類や準備がありますのでまずは書類の記入をしてください。私もやらないといけない事があるので、約束を忘れないでくださいね?」

 

 ()()()()()と言ってのけたのだからある程度の事は覚悟してもらいましょう。ええ、私に対してこのようなマネをしたんですからねぇ…ふっふっふっふ………

 


 

 あれから二週間が経った。毎日毎日、まだかまだかと訊いてくる二人はとてもうざかった。二人の声を聴いて思い出したかのように、というより思い出してワンテンポ遅れて訊いてくるドラリーニョも面倒でしか無かった。だが、それもこれでようやく終わるだろう。

 

「それじゃぁ改造を施しますよ。慣れている道具の方が良いためキッドは空気砲、エルマタドーラはひらりマントにして、ドラリーニョはこれと言って得意な道具が無く、サッカーの力を高めたいという事なのでポータブルピラミッドにしましたが大丈夫ですか?」

 

 三人とも頷いて楽しみな様子で手術台に寝転んでいる。しっかりと書類は提出してもらいましたし、根回しも間に合いましたから存分に楽しんでもらいましょう。

 

「それでは一度スイッチを切りますよ。目覚めたら改造は終わってますので」

 


 

「んあ、ふわぁ」

「あれぇ」

「……手術は終わったのか?」

 

 目が覚めて辺りを見渡してもハイドラの姿がない。身体をざっと動かしてみても分かりやすい変化はなく、どういう事だと首を傾げていると机の上になにやら紙が置かれていたことに三人は気づき、手を伸ばして代表してキッドが読み上げた。

 

 

【改造手術は無事成功しています。みなさんの身体に無事、それぞれの秘密道具が組み込まれているのでご安心ください。普通の秘密道具と使い方などが変化していますので注意点も含めて説明します】

 

 

キッド

 

・空気砲と空気ピストルの薬を合わせたような物を体内に仕込みました

・ドカンと撃つと意識しながら口に出す事で体から空気砲を放つことが可能です

・いつもの空気砲をつけたまま撃つことで威力をあげたり、連射することも可能です

・腕だけでなく足や背中などから撃つことも可能です

・薬の分泌量は意識して調節が可能ですが容量には注意が必要です

 

 

 

エルマタドーラ

 

・ひらりマントの特性をそのまま体に付与しました

・ひらりと意識して言う事で効果は発動できます

・また、直接的に触れる物を自動で弾く効果もあります

・また、効果範囲が広がっています

・上記の対策として何に対して使うのか指定を細かく出来ます

・跳ね返しや反射の基点を変える事も可能です

・オンオフは可能になっているので落ち着いて使用してください

 

 

ドラリーニョ

 

・全体的に能力が強化されています

・得意な物はさらに得意になっています

・力加減などに気を付けてください

・いつもと同じ加減で動くと危険です

・くれぐれも忘れないようにこの紙を持ち歩いてください

 

 

「へぇ、なるほどな。ドカン!ドカン!おっ、すげーな。空気砲と合わせるといつも以上の早撃ちが出来そうだぜ。足から発射か、ドカン!ぐへっ!?天井がある所でやるもんじゃねぇな……」

 

 腕から直接発射される空気砲と腕に付けている『空気砲』から放たれる空気砲でいつもより短い間隔での連射が楽しいキッド、紙に書かれていた例を見て足からの発射を試すと天井に頭をぶつけて顔が潰れていた。その際に意識がおろそかになったのか腕についている『空気砲』から放たれた空気砲がエルマタドーラの方に飛んで行った。

 

「うぉっとあぶねぇなキッド!?お前が体勢崩した時にこっちに空気砲が飛んできたぞ!?身体から放つのと空気砲から放つのとしっかり意識しろよ……にしても間に合わないと思った時には弾けてたな。こりゃ闘牛じゃ負けなしだな」

 

 予想外な攻撃に加えて、同じ部屋のとても近い距離から放たれたそれに衝撃を覚悟して身を固めていたエルマタドーラであったが身体に当たる直前に空気砲はそれて別の方向に飛んで行った。

 

「みてみて、いつもより体が軽いよ。わぁい、ボールが自由自在だよ。いけ、シュート!!」

 

 部屋の中をいつもより速く動き回っているドラリーニョ、速すぎるせいか声がダブったり、遅れて聞こえてくる時もあった。そのまま勢いで得意のサッカーを披露すると部屋の壁や床に乱反射してキッドやエルマタドーラを襲う。

 

「危ない、ドカン!!ふぅ、移動にも使えそうだなこれは、反動なら普段から味わってるし調整くらいわけないぜ。ドカン!」

 

 体の横から空気砲を発射して素早く移動して飛んできたサッカーボールを華麗に避けて見せた。そして跳ね返って戻って来たボールをそちらに向き直らずに空気砲だけを発射して勢いを止めて見せた。

 

「こっちにもボールが跳ね返って来たぞ。にしても今の動き、ボールの勢いを利用して俺が動いたのか。こりゃ面白い事が出来そうだ」

 

 エルマタドーラは基点を変えるという追加機能でボールを弾くのではなく、ボールの運動エネルギーを利用して自分を移動させてボールを避けて見せた。文字通りひらりと避けて見せたエルマタドーラはその動きを何かに使えないかと想像を巡らしている。

 

「あははは、二人ともごめん……」

「気を付けてくれよ。っと紙に続きがあるみたいだな」

 

 

【追伸、改造後に目覚めるまでに時間がかかるでしょうから学校側には連絡済みです。目覚めてから授業に参加してくれれば大丈夫になっています。私は普通に授業があるのでここを離れますのでそのようにお願いします】

 

 

「へぇ、アフターサービスまでばっちりか、流石ハイドラだぜ」

「てことはよう。いつ改造が終わったかなんて分からないんだし、このままこっそり能力を使って遊ぼうぜ」

「わぁ、楽しそう。やるやる」

 

 それぞれが改造で手にいれた力を試そうとバレない内にと部屋から抜け出した。流石に校外に出る様な真似はしなかったが授業をサボって遊びに行く事には変わらず。また、その姿をカメラで監視している視線に気づくことはなかった。

 


 

「わぁい、狭い場所だと危ないからグラウンドに行こっと」

 

 そう決めるとサッカーボールを蹴りながら駆けだしていき、途中でその手に持っていたメモを落としていったが、何かを手に持っていた事すら忘れて止まることなく、走り続ける。

 

「あれ、なんで走ってたんだっけ?」

 

 急に走っていた目的を忘れたドラリーニョはその場で足を止めた。すると制御を失ったサッカーボールが飛んでいき、学校の校舎の方へ飛んでいき、窓ガラスを盛大に割った。

 

「あれ、さっきまで何かあった気がするけど、なんだっけ?」

 

 『ポータブルピラミッド』、小さなピラミッドの模型で、これを頭の上に乗せると、その人が持っている様々な能力を高めてくれる。様々な能力を高める機械であるが、それを機体に組み込んだせいか物忘れの酷さにも拍車がかかってしまったようだ。

 

「あ、居たぞ。ドラリーニョだ!!」

「壊れた教室をどうしてくれるんだ!!」

 

「えっ、えっ、なんのこと。ぼくしらないよ~!?」

 

 そう言いながらも相手の必死な形相からヤバいと思ったドラリーニョは身体機能の調節など完全に忘れて全速力でその場から駆け出した。風が舞い、辺りの物を全て吹き飛ばし、地面を少し削りながら縦横無尽に走り回るドラリーニョ。

 

「あははは、凄い、凄い、なんでぼくこんなに速く走れるの?あはははは、ははははは、わぁい!!」

 

 楽しさだけを味わいながら止まり方も自分が誰かも忘れながら走り続けるドラリーニョ。彼が走った後ろには破壊された跡と弾き飛ばされたロボットが積み重なるばかりであった。

 

【身体機能の上昇、技術の向上は確認されたが機体の特性、特徴なども強化されている。被検体、ドラリーニョは記憶障害が進行し、全てを忘れて暴走。性格などを含めた特性の中で不安点のない者にしか使用は不可能だろう。ただし、『いいとこ選択肢ボード』などを利用して欠点を緩和することができれば有用な使い方が出来るかもしれない】

 

 


 

「こんな良い能力が手に入ったんだ。存分に試さないとな。おもちゃだけどこれでも使ってみるか『立体インベーダー』」

 

 『立体インベーダー』未来の世界ではありふれてるシューティングゲームであるが、専用の銃以外にも反応するように設定すると道具が無くても複数人で遊べるようになるという裏技があり、キッドは設定を決めると当たり前のように難易度をマックスにしてスタートした。

 

「ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!」

 

 最初から大量に迫ってくるインベーダーたちに対して連続で空気砲をお見舞いするキッド、慣れてくると反動を相殺するように背中からも空気砲を放ったり、反対の腕からも飛ばしたりも始めた。

 

「ははっ、空中移動、回転撃ちだ。ドカン!両腕から同時に行くぜ。分泌量アップ、スペシャルドカン!!」

 

 迫りくるボス個体である宇宙船を分泌量をアップして無理やり空気砲の威力を上げて一撃で倒すと楽しそうにまだまだ湧いてくる敵を倒している。だがやはり最高難易度となると難しいものがあるのか、多すぎる数と硬いボス個体の複数登場に焦りが見えてくる。

 

「ちくしょう、数が多いな。新記録は更新できたがまだまだいける。こんなところで止まってられるか!!分泌量をアップだ。連続ドカンだ!!うわぁっと、なっ、なんで、違う、腕から出すんだ。ギャッ!?ダメだ腕からだけじゃバランスが取れない、うわっ!ゲッ!?ごべっ!?ギャー!?誰か止めてくれぇえええ!!ひぃい高い所こわ~~い!!!」

 

 分泌量を上げ過ぎて空気砲の威力を制御できなくなったキッド、しかも制御できるかを確認する前に連続で撃ち始めてしまったために身体をあちこちに打ち付けながら飛ばされていき、空高くにあがってしまったキッドは高所恐怖症で我を忘れて空気砲を無駄打ちしながら空を飛び続けた。

 

【五倍くらいまでであれば容量をオーバーしても大丈夫であるが反動などを考えると三倍ぐらいでリミッターをつけるべきである。姿勢制御などが可能なように全身ではなくどこから空気砲が発射されるかある程度、場所と方向を決めておいた方が汎用性はなくなるが安全性にはよし。使用者が慣れていたために問題が無かったが動きについて行けずに酔ったり、身体を壊す可能性も考えられる。『がんじょう』や『万病薬』を事前に処方するか『バランストレーナー』で訓練を受けるか、『バランスローラースケート』や『ウルトラバランススキー』などの姿勢制御装置を組み込んだ方が良いかもしれない】

 

 


 

「これはもう『闘チュウ』なんかじゃ我慢できないな。闘牛を試すしかないだろ。とは言っても学校からでればバレるしな。『実感帽』で代用するか」

 

 かぶって欲しい物の姿を思い浮かべると、その幻が現れる。細かく思い浮かべる程、形、重さ、味、臭いなどが忠実に再現される。闘牛の事であれば簡単に想像ができるのでエルマタドーラの視界の中には『実感帽』によって生み出されたエルマタドーラ専用の牛たちが群れを成して現れている。

 

「ひらり!ひらり!ひらり!こんなもんじゃないだろ!!もっと来いよ!!」

 

 次々に襲い掛かってくる牛をひらりと避けたり、ひらりと弾いたり、牛の突撃に合わせて自分で発動していた。たまに意識できなかった物も勝手に発動し、牛を動かしたり自分を動かして気付いたら回避している。調子にのったエルマタドーラは次々と想像の牛を生み出して闘牛を楽しみ始めた。

 

「ひらり!ひらり!ひらり!ひらり!ひらり!、ぐえっ、なんで、身体が勝手に、牛を弾けよ、ばか、こっちに避けたら、うべぇ!?か、顔が、潰れ、お前らと、止まれ!!??これ以上突っ込んでくるな!!うわぁあああ!!」

 

【おそらく『実感帽』にて想像の牛を創造し、闘牛を始める。牛の数が捌ききれなくなり自動発動が多発、発動中にさらに発動することで切り替えに誤作動が生じ、牛を弾くのでなく、自身の移動が多発、自ら突っ込んでいくために壁への激突は防げず、さらなる牛の突撃により壁や天井を壊しながら動き続ける。『実感帽』をかぶったままのため、意識消失時に闘牛の夢などを見れば状況はさらに悪化するだろう。意識による発動により、認識系の道具と効果が重なり被害が増加する。自動発動をきれば牛の衝突をもろに受けるために解除も不可能……自業自得ですが『実感帽』は厄介ですね。永続性もあり、他の人には認識できないから解除が難しい。他の二人もそうですが仕事を余計に増やしてくれますね】

 

 


 

「あははっはは、あはっははは」

 

 笑いながら走り続けるだけのロボットになり下がったドラリーニョ。しかし、その優れた運動神経も合わさって誰も止めれずにいるといきなりドラリーニョが方向を変えて一直線に進み始め、スポンと何かに吸い込まれた。

 

「『万能わな』に『てまね木』『カムカムキャット』などの思考誘導、身体操作系を組み込み、万が一の対策で『吸い寄せ磁石』のスイッチを切らない限りわなの中から出れない様に設定。私特製道具【お手軽誘導捕獲機】です」

 

 わなの中を覗き込んでみると磁石の磁力に捕らわれながらも走る事を辞めずに、金魚鉢の見た目をしたわなの中で未だに走り続けていた。

 

「はぁ、【改造版いやなことヒューズ】起動!!」

 

 『いやなことヒューズ』、本来であればこれを襟首に付けておくと、嫌な事があった時にヒューズが切れて何も感じなくなり、体の動きや脈も息も止まって15分後には元に戻るというその場を凌ぐための道具だが万が一の為に改造時に取り付けておいた。

 

「さて、次はキッドですね」

 

 ロボット学校の上空を飛び続けながら空気砲をハチャメチャに撃ち続けている。そのために簡単には近づけず、誰も対処が出来ない状態に陥っていた。

 

「学校の被害はまぁ良いですが、他のロボットも危険そうですね。台風ネットを改造して空気砲を防げるようにして学校を覆う」

 

 本来であればその名の通り台風から町などを守る道具だが、風を防ぐ効果を利用すれば空気砲封じに改良するのは簡単だった。なので同じように風に作用させられる道具を使って対処を進める。

 

「『台風トラップと風蔵庫』に『気候集中装置』を組み込んでっとよし、これで、空気砲を吸い込めるな。後はアイツ自体を捕まえないとな。特製【捕獲ミサイル】発射!!」

 

 『見せかけミサイル』と『ハッタリバズーカ』に『ナゲー投げ縄』と『御用セット』の縄を組み合わせた【捕獲縄】を搭載し、『サイコントローラー』の機構を利用した思考誘導で確実にキッドにぶつける。見せかけの為に威力は無いが、縄を相手に届かせるには十分だ。ミサイル自体はキッドの近くまで行った所で空気砲の一つを受けて迎撃されたがキッドは飛び出した縄にがんじがらめになって落ちて来た。

 

「た、助かったのか?」

 

「助かったじゃないですよ。注意を守らずに暴走させて、貴方も元に戻るまで眠ってなさい【改造版いやなことヒューズ】!」

 

 強制的に意識を堕とさせると『どこでもドア』を開いて改造を施した手術室に放り込んだ。さて、最後はエルマタドーラなのだが、どうやって止めようか思考を重ねる。

 

「『実感帽』なんて厄介な物を使ってくれましたね。本当に……あれは他の人は干渉できないというのに」

 

 実体のない存在を消すなんて幽霊を退治するようなものだ。どうしたものか……まず被害を抑えるためにエルマタドーラを回収する必要があるな。だがそれは【捕獲ミサイル】があれば簡単にできる。何なら今回はキッドの空気砲と違って牛には実体がないからミサイルを破壊されることも無い。

 

 にしてもどうするか……『もどりライト』で元の空想に戻ったりはしてくれないだろうな。そもそも実体がないから光は当たらないだろう。光さえ当てられれば可能かもしれないが……実体を与える事は出来るか?

 

 『イメージ実体機』で既に作られてる幻を実体化させる。改良を施せば可能だろうけど『イメージ実体機』を大量に使った際にかかる費用は流石に研究費で落とせないだろう。もちろんエルマタドーラに払えるわけがない。

 

 干渉するためにエルマタドーラとイメージを共有する。『テレパしい』を利用すればうまくいくだろうか?それとも『異説クラブメンバーズバッジとマイク』とかの方が確実か?いや余計に想像が広がって手に負えなくなるだけだろう。

 

「誰かに夢を見て貰って、エルマタドーラを追いかけているみたいだから『ユメプロジェクター』と『ユメスクリーン』から夢の世界に牛を誘導して『夢破壊砲』で夢ごと葬るか?うん、それなら想像物と夢で干渉させることは出来そうだ」

 

 そうと決まれば早めに動くとしよう。まずは被害を防ぐためにエルマタドーラに向けて【捕獲ミサイル】を発射!直接当てたり狙えないが、エルマタドーラの周囲を囲う様に縄を網上に展開して待っていれば捕まえることはできる。

 

 そしてすぐに『実感帽』を回収する。そして、エルマタドーラを狙わせない様に逃がしながら夢の準備を進める。三人の被害で気絶している人も居るので『夢風鈴』で一番近い眠っている人を呼び寄せて協力してもらう。

 

「『ユメスクリーン』と『ユメプロジェクター』を起動!エルマタドーラ、とりあえず夢の中に潜ってこい!!『ユメ監督いす』で補助はしてやる」

 

 そういってスクリーンの中に叩き込むと慌てながらも必死に夢の中を駆け回り、想像の牛たちはどうやら夢の中に納まったらしい。そして、エルマタドーラが夢の中から帰って来た瞬間に『夢破壊砲』を放って夢を壊し、牛は消し去る事が出来た。

 

「た、助かったぜ」

 

[ピンポンパンポーン、最後の訓練が終了しました。参加した生徒も避難した生徒もお疲れさまでした。これよりロボット学校は修復作業を開始します。1時間の休憩後、通常通り授業を再開します]

 

「へっ、訓練?」

「【改造版いやなことヒューズ】……ふぅ、あぶないあぶない、種明しは最後にやらなくてはつまらないだろう。さて、とっとと改造した部分を元に戻すとしよう」

 

 

 


 

 

「「「はぁ!?学校全体での訓練と実習の時間にした!!??」」」

 

「ああ、君たちが暴走しない訳がないからね。ならば最初から暴走しても良い状態にしてから改造してやれば良い。学校を借りるのに苦労したが、暴走した後で直ぐ直せるように『ムシャクシャタイマー』を『ビッグライト』で巨大化させて学校全体を効果範囲にして、通常の生徒は暴走が始まったら避難の訓練だが誘導ロボットや警備ロボット、レスキューロボットなどそういった災害時に役立つロボットたちは君たちの暴走に対してどう動くのかを見る実習試験として役立てたのさ」

 

 暴走した時のデータや一般のロボットがそう言った秘密道具災害に巻き込まれた際の対処法など、暴れ具合などもカメラで撮影してあり、実習とは別に通常の授業でも使われることになる。良かったじゃないか卒業前に有名ロボットになれるよ。暴走ロボットや秘密道具災害の例としてだけどね。ロボット学校だけじゃなく、警備会社やタイムパトロールの研修でも役立つだろうよ。

 

「おれたちを実験台にしたのか」

 

「元からそう言う約束だろう。それに別に制御できない不良品を渡したわけではない。ドカン!ひらり!っとね?」

 

 そう言うと私は自分の身体から空気砲を撃って見せたり、わざと自分に向けて跳ね返した空気砲で素早く移動して見せたりと技を披露してみせた。

 

「そもそも簡単に強くなる方法なんて無いんだよ。どんな方法であっても才能か努力は必要になる」

 

「へっ、天才様の言う事は違うね」

 

「ほぉ、その言葉は私が休みの日を潰して訓練や実験に使ってるのを知ってて言ってるのかな?お前たちが旅行だの遊びなどに出かけている間も私は努力をしている。無理を言って申請が通るようにし、暴走しても問題にならない様に準備をしてやった挙句に勝手に嫉妬されても呆れる事しか出来ないな」

 

「うぐぐ、悪かったよ。無理を言って」

「もう改造してなんて言わないから許してくれ」

「ごめんなさ~い」

 

 そう言って反省する三人を見て私は笑って許してやる。別に好き勝手言われてもしょうがないとは思っている。努力しているのは本当だが、私には知識と言うアドヴァンテージがあるのは事実だしな。それに罰はまだ終わって居ない。

 

「別に良いさ。さて、残った仕事などはしっかりやっておくんだよ」

 

「「「仕事?」」」

 

「ああ、手伝いを申請したんだから君たちにもレポートの提出の作業があるに決まってるだろう。既定の用紙と書き方をまとめた物は私が用意しよう。これだけの規模の実験だからねざっと一人、30ページは必要だろうね」

 

「「「30ページ!!??」」」

 

「ああ、しかも最低量だし、内容が伴わなければ必要枚数は増えるからね。それと授業に出なかった分の課題があるからね」

 

「はぁ!?授業は出なくてもよくなったって」

 

「私は目が覚めてから参加すれば良いとしか書いてませんよ。参加できなかった分は課題を提出しないと欠席になりますからね。さぼって遊び始めた件は先生方もご存じなので課題の量は覚悟しておくことですね」

 

「そんなぁ、あんまりだぁ~~!!!!」

 

 私からの宣告に三人は暴れた疲労とこれからの苦労を思って人目も憚らずに泣きだして、悲痛な叫びをあげた。それを遠巻きに見ている他のメンバーも今回ばかりは助ける事はしなかった。

 

「全部ハイドラの掌の上だったね」

「簡単に強くなれるなどと考えた良い罰ですよ」

「これで少しは反省すると良いであ~る」

「ワゥワゥ」

 

 

 


 

 

登場した秘密道具

 

 

 

『見せかけミサイル』

 

脅かすためのミサイル。

 

 

『ハッタリバズーカ』

 

脅かすためのバズーカ。

 

『サイコントローラー』

 

これを握って心の中で思うだけで、脳波制御によって思い通りにロボットを操作できる。

 

 

『ナゲー投げ縄』

 

この縄に命令すると、どこまでも縄が伸びて何でも取り寄せる事ができる

 

 

『御用セット』

 

十手、提灯、縄のセット。逃げる相手に目がけて縄を投げるだけで、見事に捕まえることができる

 

 

『台風トラップと風蔵庫』

 

台風の一部を捕まえる道具。これを台風による暴風の中で広げ、『風蔵庫』のバルブに接続して溜める。

 

 

『気候集中装置』

 

1㎞四方の天気を、ホースで囲んだ中にまとめることができる。強弱も調節できる

 

 

『台風ネット』

 

目に見えない網のようなものを出して、台風から街を守る

 

 

 

『実感帽』

 

この帽子をかぶって欲しい物の姿を思い浮かべると、その幻が現れる。他の人には見えない。細かく思い浮かべる程、形、重さ、味、臭いなどが忠実に再現される。帽子を脱いでも効果があり、かぶったまま夢を見ると、起きても幻で出てきてしまう。

 

 

 

『イメージ実体機』

 

相手のイメージを形にする機械。心の中を探って望みを突き止め、必要な分子を集めてきて、そのイメージを実体化することができる。使用料がすごい高く、ドラミでも1度きりしか使えない。

 

 

『もどりライト』

 

このライトの光を当てた物は元の姿に戻る

 

 

『異説クラブメンバーズバッジとマイク』

 

マイクに自分の考えを喋ると、バッジを付けた人はみんな同じ考えになる。

 

 

『テレパしい』

 

この実を食べると、喋らなくても頭の中で思っている事が相手に伝わる。しいの木の実でできている。何でもすぐに相手に伝わってしまうため、心の本音がそのまま伝わってしまう。何も言わなくても分かるだろうと思っている人を懲らしめる道具。

 

 

『いやなことヒューズ』

 

これを襟首に付けておくと、嫌な事があった時にヒューズが切れて何も感じなくなる。体の動きは止まり、脈も息も止まるが、15分後には元に戻る。

 

 

『夢風鈴』

 

眠っている人を眠らせたまま呼び集め、自由に操ることができる

 

 

『ユメスクリーン』

 

ユメプロジェクターから出る光を映像として映し出すもやもやとしたスクリーン。これを見ながら『ユメ監督いす』で夢を操作できる。このスクリーンに映る夢の中から出入りする事もできる。

 

 

『ユメプロジェクター』

 

夢の中を見たい人にアンテナを向けて距離を調節し、『ユメスクリーン』に映し出すプロジェクター。

 

 

『夢破壊砲』

 

人の夢を消してしまえる大砲。

 

 

『ユメ監督いす』

 

これに座ると、人の夢にあれこれ口出しできる。「カット!!」と言って話を中断させたり、配役はもちろん、話の成り行きも自分の好みに変える事もできるが、相手も夢の中で思いのままなので、なかなかそう簡単には行かない。

 

 

『ムシャクシャタイマー』

 

ムシャクシャした時に壊した物は、このタイマーをひっくり返せば元に戻る。ただし、元に戻るのは4回までで、5回目からは効き目が無くなる。中に入っている砂は、実は『全体復元液』を砂にコーティングしたもの。何かを壊してこのタイマーをひっくり返すと、砂が落ちる中央のくびれ部分で、容器との摩擦によって復元波が発生する。すると、壊した物が元に戻る。

 

 

『ビッグライト』

 

スイッチを入れると発光し、その光を物体に当てると、一定期間その物体を大きくする事が出来る。

 

 

 


 

 

オリジナル道具

 

 

【空気砲の薬】

 

空気ピストルの薬の空気砲版。

ドカンと言うと空気の塊が手から発射される。

 

 

【改造版いやなことヒューズ】

 

いやな事がなくても発動可能なヒューズ。

暴走を予想していたハイドラによって取り付けられた。

強制遠隔緊急停止装置。

 

 

【捕獲縄】

 

命令通りに伸びる『ナゲー投げ縄』と悪人を捕まえる『御用セット』の縄を組み合わせた捕獲用の縄。

 

 

【捕獲ミサイル】

 

『見せかけミサイル』『ハッタリバズーカ』『サイコントローラー』『ナゲー投げ縄』『御用セット』を組み合わせて作り上げられた捕獲用のミサイルで命令通りに伸びる『ナゲー投げ縄』と悪人を捕まえる『御用セット』の縄を組み合わせて強化した【捕獲縄】を搭載している。『見せかけミサイル』と『ハッタリバズーカ』によって遠くに居る相手にでも届ける事が出来る。遠隔でも操作できるように『サイコントローラー』の機構をバズーカの部分に組み込んでいる。操作できるのはミサイルの軌道と罠の挙動である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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はちゃめちゃボランティアで大忙し?!  前編

かなり久しぶりの投稿となりました。この作品は基本的には不定期投稿です。


 

 学校で一番の成績を誇る優等生であるとされているハイドラ…ドラえもんやその周りの仲間たちと共に居ることが多く、彼らのストッパー役をこなすこともできるほどに落ち着いた性格である彼にしては珍しい姿が教室で見かけられていた。

 

「うぅむ、こっちには秘密道具研究会の発表があるし、来週だとロボット医師会の集まりがある。後は明後日のだけだが……募集要項を満たせないな。はぁ、これじゃあ単位は諦めるしかなさそうだな」

「ずっとスケジュール帳とにらめっこしてどうしたのハイドラ?」

「ハイドラが困っているなんて珍しいですね」

 

 授業中もどこかソワソワした様子を見せ、休み時間の間は電子端末とスケジュール帳を交互に見ては落胆するという有様だ。心配した様子でいつものメンバーがハイドラの周囲に集まっていた。

 

「悩みがあるならオレが解決してやるぜ」

「……それはちょうど良い、私が置いていたおやつのドラヤキがなくなった話をしますか?皿にはなにやらケチャップとマスタードらしき跡があったんですが」

「ギクッ!?い、いやぁ不思議な事件もあるもんだなぁ」

「ちっとも反省してないであ~る」

「キッド、人の物を勝手に食べるのは良くないよ」

「わ、悪かったよ」

「はぁ、市販品なので許しますよ。特性のごま餡ドラヤキでしたら何をしていたか分かりませんが……ねぇ?」

「……ゴメンナサイ」

 

 ハイドラは面倒見も良いが、それ以上に容赦の無さも目立っており、全く光っていない目に見つめられたキッドは静かに頭を下げて謝った。食の恨みというのは恐ろしいものなのである。

 

「それでいったい何をあんなに悩んでたんだ?」

「皆さんは実習ボランティアは済ませましたか?」

 

 ハイドラの口から出てきたのは少し前から始まった実習授業についての事だった。生徒達が募集先に出向いて、実際に社会に出た際の練習をさせてもらう授業であり、「たしか今月末が期限だったよなぁ」と思い浮かべる。

 

「あぁ、俺は終わらしたぜ」

「僕はもう子供広場とか保育園にいかせてもらったよ」

「ドラえもんは子守用だもんね〜ボクは少年サッカーのコーチさんを手伝ってきたよ」

「わたしは土曜にもう一度行けば終わりですね」

「オレも終わってるな。場所が少し高所でよぉ、勘弁してほしかったぜ」

「バウワウ」

「わがはいも終わってるであ~る」

 

 皆が口々にその時の楽しかった事や大変だった事と一緒に語り始めた。この様子だと全員問題なく終わりそうだなとハイドラはまた一つため息を吐いた。

 

「なんだ?ため息なんて吐いて」

「ハイドラ、もしかして点数足りてないの?」

 

 ボランティアには必要な時間や日数、そしてボランティアの内容ごとに定められた点数があり、それらの基準を満たしていないと単位が認められないのだ。

 

「ええ、余裕を持ってとっていたんですが一つは一緒に行く予定だった方の都合が悪くなり、もう一つが突然先方の都合でキャンセルになり……」

 

 日数や時間は一人でも行けるボランティアでどうにか確保したハイドラだが、行けなかったボランティアで点数を大きく確保する予定だったためにこのような事態になっていた。

 

「そりゃひどいな」

「まぁ、我々はあくまで協力してもらってる側ですからあまり強くは言えません。とはいえハイドラが突然と言うからには本当にギリギリで連絡されたんですか?」

 

 ハイドラに確認をとるとボランティア予定日の前日、しかも夜にメールで連絡がきたとのことだ。

 

「先生には伝えたのであるか?」

 

「流石に問題があると判断されたようで相手先と対応はしてくれるようですが日程的に余裕はあるので点数の特別扱いはできないとのことです」

 

「バウゥ…」

 

 期日までに足らなくなった分を新たに取ろうとボランティアの募集とスケジュール帳を比べていたという訳だ。

 

「既に募集自体が減ってるのに加えて予定と照らし合わせると行ける日も少なく…最後に確認した日も募集人数が5人となっていて仕方がなく諦めようかと」

 

 幸いと言ってはなんだが、実習ボランティアの単位は評価には関わってくるものの必修ではないため、他で単位を稼げているハイドラは仕方がないと諦めることが出来ていた。

 

「ふむ、そういう事情であったか。それならハイドラを手伝うであ~る。わがはいは今月は特に予定がないのでいつでも行けるであ~る」

「ちょっと募集内容みせてもらってもいいですか?……明後日の朝から夕方までですね。私もいけますよ」

「バウ!」

「なになに力仕事もあるのか、それなら俺の出番だな」

 

 しかし、それを良しとしないお人好しな友人達は募集内容を確認するとちょうど、ドラメッド三世、王ドラ、ドラニコフ、エル・マタドーラの四人が手伝いを申し出た。

 

「無理をしなくても良いんですよ?少し評価は落ちるでしょうが、卒業に問題はないですから」

 

 とは言っても卒業を諦めている生徒以外は全員が取得する単位を取れていないと言うのは今後にも影響を与えるのは簡単に予想できた。そして、そんな友人を彼らが放っておく訳がないのだ。

 

「遠慮しなくても良いんだよ」

「友達を助けるくらいわけないですよ」

「いつも助けられてるお礼であ~る」

「バウワウ!」

 

 そうして五人の人員を確保できたハイドラは話を聞いてくれた面々に礼を告げると用紙に一緒に行くメンバーの名前を記入して提出し、募集先にも連絡を入れた。

 

「それじゃあ、明後日はよろしくおねがいします」

 


 

 ボラティア先の最寄りの駅で集合と決めていたがみんなはもう来ているだろうか?エル・マタドーラは少し心配だが逆に他の三人は比較的真面目だからまだ30分前だけど既に来ていてもおかしくない。そう思い待ち合わせ場所周辺をきょろきょろと見渡してみると向こうから声がかかった。

 

「おはようございますハイドラ」

「王ドラか、おはよう。来るのが早いな」

「私も来たばかりですよ。ハイドラも同じ時間に来ているんですから私の事は言えないですよ」

「礼儀として頼んでる側が遅れるわけにはいかないだろう?」

 

 他のメンバーが来るまでなんてことない会話を楽しんでいると遠くから誰かが近づいてくるのに気付き、そちらに目を向けるとトコトコといつもの調子で歩いてくるドラニコフの姿があった。

 

「おはようございます。今日はよろしくおねがいします」

「ワゥ」

「それにしてもエルマタドーラはまだしも、ドラメッドがまだ来ていないのは不思議ですね」

 

 それは私も少し思った事だが、ドラメッドとて完璧ではないのだから遅れる事もあるだろうと3人で今日の事や学校での事を話して時間を潰していると、予定の5分前になった頃に見慣れた絨毯がそれなりの速度で飛んできた。

 

「遅くなったであ~る」

「悪い、俺が寝過ごしたんだ」

 

 どうやらエル・マタドーラがいつも通りに気持ちよく寝て起きたら予定していた電車の時間を過ぎており、通常の移動手段では間に合わないと慌ててドラメッドに絨毯での迎えを頼んだそうだ。

 

「まだ時間前なので大丈夫ですよ。むしろ先に来ていた二人には一度伝えましたが、みんなありがとうございます」

「良いってことよ」

「これくらいわけないであ~る」

「バウ」

「それでは揃ったことですし向かいますか?」

 

 王ドラの提案に頷き、私を先頭にしてボランティア先へと足を進める。少し歩けばすぐに目的地らしき建物が目に入ってきた。

 

「あれがそうであ~るか?」

「ええ、あそこがボランティア先の『スーパージャイアンズ』の大型倉庫だよ」

「どこも併合していったり、家からの注文ばかりになって小売業の店が減っている世の中で未だに残っているもんだな」

「行く前にと少し調べてみましたが、業界ではそれなりに有名な店みたいです。なんでも創業者の代からあの『ホネカワ』とも関係があるらしく、あちこちに顔がきくそうです」

 

 店舗自体が残ってる数はかなり少なく、ネット注文が主流で未来デパートが一強の中で、工場等の生産量に負けずに自然食材を扱うのは厳しい。それでも残ってるのは力があり、愛されているからだろう。

 

 名前から気になっており、私も実は調べていたが結果は予想通りあの()()()()()の店で間違いはない。ミニドラSOSでは1店舗だけだったが、その後全国に展開したそうだ。

 

 時代の流れで段々とどの店も廃れてきており、スーパージャイアンズも数を減らしているが未だに残されていて、数年前に創業100周年記念なども行われていたそうだ。

 

 家が続いているのかと思ったがよくよく考えれば、ハロー恐竜キッズで子孫らしき子どもが登場していたのを思い出した。

 

「事務所はここのようだ」

 

 私はみんなに確認をとってからノックをする。すると中から入室を許可する声がかかり、こちらも失礼しますと声をかけてからゆっくりと扉を開いた。

 

「よく来てくれた。ロボット学校の生徒さんたちだね?」

 

 少し恰幅の良い初老の男性は朗らかに笑ってみせた。優しい表情を浮かべる顔はどこか既視感を覚えるものであり、おそらくは社長の親類だろう。

 

「はい、代表のハイドラと申します。本日は我々のボランティアを受け入れていただき誠にありがとうございます」

 

「なになに、毎年ロボット学校にはボランティアの願いを出してるんだ。緊張してしまうかもしれないがそう固くならないでおくれ、ここの管理をしている武雄だ。今日はよろしく頼む」

 

 今、お茶を用意しよう。と男性自ら道具を使ってお茶を淹れ始めた。よく淹れるのか手つきは慣れたもので無駄が見られない。

 

「さぁ、どうぞ」

 

「ありがとうございます。いただきます」

 

 礼を言い、落としたり溢したりしないように気を付けながら湯呑を手に取ると、そっと口をつける。深い香りが通り抜け、お茶特有の苦味と甘味が広がった。

 

「これは、とても美味しいですね」

 

 他の面々も熱さに少し苦戦しながらもお茶の味自体には感心した表情を浮かべている。それを見た武雄さんもも嬉しそうだ。

 

「それは人と思考回路持ちのロボットが一つ一つ手で摘んだ茶葉なんだよ」

 

 補足するかのように語り始める武雄さんの声に全員が自分の手の中にある湯呑に目が行く。

 

「どんなものも昔は手間暇をかけて作られていたが、今となってはそこそこの出来のものが大量に作れてしまい廃れてきているが、たしかに残ってる技術だ。ボランティアとはいったが、実際には諦めきれない爺の趣味に付き合ってもらいたいんだよ」

 

 会社と提携し、どうにか残してきた田畑を今日は巡って作業を行うらしい。耕し、種を蒔く場所もあれば、収穫の手伝いもあるそうだ。

 

 ついてきてくれ、と向かった先にあったのは少し古い型の車だった。後ろに乗らせてもらうと、ゆっくりと車通りの少ない道を進みだした。

 

 進んでいる道も直されておらず、舗装の剥がれた部分が見える。使われなくなった、自然と廃れていったものへの哀愁さえ感じられるようだった。

 

 小一時間も走ったところで22世紀とは思えない殺風景と言っては何だが、静かな場所へと辿り着いた。自然保護区でも無いのに草木が乱雑に生えて見える。ここはおそらく、開発される事のなかった旧時代からの私有地なのだろう。

 

「少し待っててくれ、今日行くとは伝えてあるからここらに居ると思うんだが、あ!おーい!!」

 

 手を振って呼びかけている方向を見ると、ロボット学校でも見かけることがある型のロボットがこちらに駆けてきていた。

 

「ああん、たくよぉ、まぁた若いの捕まえてこんな辺鄙な所まで来たのか?」

 

 主な用途は芋掘り用であるゴンスケ、たしかに農場であれば一台や二台居てもなんらおかしくない。むしろ、適任とさえ言える。あれで色んな業種に見られるのだから、見かけによらず優秀なのかもしれない。たしか学校でも姿を見かけたことがある。

 

「そう言ってくれるな。それにしてもお前さんだけか?」

 

「爺さんは買付と通院だ。納屋の方に婆さんは居るがな。後は先に向かってんぞ。はぁあ〜そいつらが別に使えるわけでもねぇだろうに無駄なこと…オラも先に行ってっかんな」

 

 尊大な態度にこちらの面々の中にはイライラしている者も居るが、まぁまぁと宥めておく。受け入れる側にも苦労はあって当然だろう。

 

「はは、彼もそう悪い子ではないんだ大目に見てやってくれ。それじゃ、行くとしようか」

 

 そう言って進んでいく武雄さんの後ろをついて歩いていく。それにしても、これだけの広さの畑を今どき全部ではないだろうが手作業でやっているとは驚きだ。

 

「ふむ、見たことあるものもないものもあるであ〜るな」

「専門店でもないと、基本的には加工品ばかりですからね」

「う、バウワゥ……」

「あ、丸い作物か、ほら布で目隠しするから気を付けてついてこい」

 

 初めはただ歩いているばかりだったがキョロキョロと辺りを見ているようだ。約1名は見ると大変なことになるので物理的に見れなくなってるが仕方がない。

 

「あれ、陰ってきましたね。今日は晴れのはずですが?」

 

「はっはっはっ、ここいら辺は街の予報エリアから外れているんだよ。天気局のお天気コントローラーの管轄エリアの境い目でもあるし、少し不安定でもある」

 

 未来の天気は管理されている。必要な場所に雨が降り、必要な場所に日が差す。だが大規模な降雨などをパッと生み出せるわけではなく、調整などが遥か空の上の衛星と地上のコントロールによってなされている。

 

「向こうは天気の調整エリア、あっちの空は街の管轄、向こうは自然保護区だから台風などでない限り自然のままになっておるな」

 

「ここは何処にも属してないんですか?」

 

「街からは離れてしまって、生産区域として申請するには土地も生産量も足りない。そもそも申請料を払っていればここの作物はまともに買える値段ではなくなるだろう」

 

 元々は行政が買い上げて保護区か調整エリアの一部になる予定だったが流れに逆らってきた故の弊害だという。

 

「やっと来たか、チンタラ歩いて観光にでも来てんか?」

「コラ、ゴンスケ。せっかくボランティアで来てくれてるんだからそういう事は言わないの、武雄支部長さんもお久しぶりです」

 

「支部長の椅子はとっくに息子に譲ったよ。それで今日はなにが出来そうかい?」

 

「主に収穫かな?向こうは車で一気にやれるけど、そっちは斜面だからそうもいかないからね。来てくれて助かったよ」

 

 そう言って笑うのはこの農場の持ち主であるお爺さんとお婆さんの息子さんだそうだ。親子で代々土地を継いできたらしい。

 

「向こうの作物を集めれば良いんだな」

「注意点とかやり方ってありますか?」

 

「ヘタがあるんだけど少し上を切った方が長持ちするから気をつけて、後はカゴに入れてくれれば良いから。潰れる心配はないだろうから重ねて良いよ」

 

 その言葉を聞くと全員が道具を持って駆け出した。坂で物を持って走ると危ないと思ったが仮にもネコ型ロボット、バランス感覚は十分かと思いつつ私も作物の方へと急ぐ。

 

「おっと、見た目よりズッシリしてるな」

「中身が詰まってる証拠であ~る」

「バウ」

「なんですか?ドラニコフ……作物?あっ、虫食い!!教えてくれてありがとうございます。これは、色の違うカゴにいれるみたいですね」

 

 この時代にしては大規模な農地だが、経営者が少数なのでまぁそこまで広くはない。それ故に手分けして動いていけばスムーズに収穫を進められた。とはいっても慣れない作業でみんな疲れが見えており、終わる頃には空の端が赤く染まり始めていた。

 

「ふぅ~、終わったであ~る」

「一日で結構な点になると思ったらかなり重労働だぜ」

「足腰にきますね。ちゃんと続ければそれなりに体作りができそうですよ」

「バゥウゥ〜」

 

「はっ、街のロボットは貧弱だなぁ。これぐらいでへばるなんて……ムゴムゴ」

「きつい言い方をしない。みんなお疲れ様」

 

 作物でいっぱいになったかごを倉庫の前まで運びきってようやくボランティアの終了となった。ヘトヘトな様子の私たちを見てゴンスケは馬鹿にするように笑っていたがすぐに抑えられていた。

 

「これでボランティアは終わりだけど、時間があるなら家によってかないかい?毎年ボランティアの子には作物を使った料理を振る舞ってるんだ」

 

 疲れてヘトヘトな面々にはその言葉はとても嬉しかったようで、ご厚意には甘えようと私も含めて満場一致で参加させてもらった。

 

 


 

 

 手間暇をかけて作られた新鮮な作物を使って作られた料理はどれもとても美味しく、遠慮という言葉を忘れてみんな食べていた。

 

「めっちゃ美味かったなぁ」

「ご馳走様です」

 

 これだけご馳走していればボランティアを呼ぶだけ赤字になりそうだが大丈夫なのだろうか?と疑問に思っていると視線で伝わったのか答えてくれた。

 

「なになに、こういう物があると知ってもらえるだけで良いんだよ。よく知るには体験するのが一番だからね」

 

 最後に礼をもう一度言ってから農場を去る。空模様がさらに怪しくなり、ポツポツと雨が振り出すと危ないからと駅まで車で送ってもらえる事になった。

 

「本当に良いんですか?」

 

「ボランティアの子に万が一があるといけないからね。遠慮しないでくれ……それにしても風まで強いのぉ」

 

 コントロールされていないとは言えこれはおかしいなと首を傾げながらも武雄さんが車を出そうとしていると遠くからちょっと待て〜と声が聞こえてきた。

 

「はぁはぁ、間に合っただな。たくっ、オラを走らせて……ったく疲れた」

 

「ゴンスケ君?どうしたんだい、そんなに急いで」

 

「それがさっき天気局から職員が来たんだども、向こうの天気のコントロールが壊れてんだと言ってきたんだ」

 

「なんだって!?それは本当かい?」

 

「こんな時に嘘なんかつかねぇよ。自然保護区のコントロールから干渉しようとしても、無駄で嵐みてぇな雲がこっちから街まで行こうとしてんだ。今車を出すと危ないぞ」

 

 今はまだ大丈夫でも移動中に風に煽られて横転でもすればロボットの僕たちはまだ大丈夫でも人である武雄さんは無事では済まないだろう。

 

「おいおいまじかよ」

「異常に発達した嵐が街に直撃でもすれば一大事であ~る」

「バウバウ」

「通り道にあるここの畑にも被害がでかねませんよ」

 

「オメェの言うとおりで慌てて帰ってきた爺さんとオラたちで慌てて網かけたり、支柱で固定してるとこだ。お前ら、もっかい家に入ってろ」

 

 重要な施設には好き勝手に入れないように超空間にバリアを張っている事が多い。しかし、緊急時などは解除して立ち入ることが出来るはずだが、本部からの操作が出来ない状態なのかもしれない。

 

 台風の複眼等の道具は基本的に必要がないためにマイナーだ。用意がされてなければ職員が施設までたどり着くのも難しくなる。

 

 大規模な道具はセットに時間がかかるだろうし、挙動がおかしいだけで動いているのなら他の天気操作系統の道具は干渉しあって機能しないだろう。

 

「何もせずに待ってるほど薄情者ではありませんよ」

「人手は必要だろう?」

 

 さてと、忙しくなりそうですね。私達も作業を手伝いますので指示をお願いします。作業によっては道具を使って早められますよ。

 

「はぁん、物好きばっかり集まったもんだな。こき使うから覚悟しとけよ。オメェら良いか!!」

 

 人間であり、普段から農業に従事している訳ではない武雄さんは安全な家に待っててもらい。私達の農場を守るお手伝いが始まり、はちゃめちゃなボランティアはまだまだ続く様だ。

 





今回はなんと秘密道具が登場していません……たぶん。なので後書き恒例の秘密道具説明が無いですね。代わりに作者の事情というどうでもいい情報はあります。

パソコンが壊れてスマホで打ってるので投稿は不定期な上に遅いです。作者の事情終わり。

次が中編になるか後編になるかはまだわからない状態です。次の話の進捗は4割ってところです。気長にお持ちください。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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はちゃめちゃボランティアで大忙し?!  中編


一ヶ月ちょっとぶりの投稿ですねぇ。少々お待たせしてしまいましたが、はちゃめちゃボランティア、中編をどうぞお楽しみください。



 

「ほれ、遅れるでねえ。そっちの木から上に引っ掛けろ。そして向こうの枝まで引っ張れ!!そこ!!支柱の固定が甘ぇぞ。もっと、グッとやるんだ」

 

「それなら吾輩が、フンッ!!ここら一帯の網は吾輩に任せるであ~る」

「巨大化か、さすがだな。支柱はオレ様がぶっさしてやる」

 

 これからやっていく作業の方は3人に任せていれば良さそうですね。私も別の方向から動くとしましょう。

 

「王ドラにドラニコフ、ちゃんと塞げているか、そしてどこまで塞げているか見て回ってください。王ドラは上から、ドラニコフは下から、行けますね?」

「バウバウ!!」

「任せてください!!」

 

 後は『復原光線』に『カチンカチンライト』後は『空間接着剤』を取り出しましょう。

 

「向こうの木からここまでは問題なさそうです」

「バウバゥ!!」

 

「そっちに穴があったんですね。『復原光線』で直しておいてください。王ドラ、一緒に『空間接着剤』で網を固定しますよ」

「バウ!!」

「分かりました」

 

 ドラニコフが駆け抜けながら見つけた場所を照らしていくとすぐさま網が修復されていく。その網をさらに固定するために『空間接着剤』で空中に留めていく。

 

「後は『カチンカチンライト』!!」

 

 形の無いものに形を与えたり、硬さを上げたりと登場する話によって微妙に性能が違うが、確かめたところどちらの効果もある便利な道具だ。『瞬間固定カメラ』でも良いが、何回も写して回る必要があるカメラと光を当てるだけの光線では光線の方が早い。

 

「これで覆うことは出来たはず」

「この硬さなら風に飛ばされる事はないですかね」

「バウバウ」

 

「こっちの作業は終わったぞ!!雨風が強くなってきたから少し戻るってよ」

「向こうの方にどす黒い雲が見えるであ~る」

 

 ゴンスケの姿が見えないと思い尋ねるとお爺さんに呼ばれたらしく、なにやら「役所の人間がぁ!!」と物凄い剣幕だったそうだが……私達も早めに戻るとしようと。

 

 


 

 

「だからなんで街の為にオラたちがハズレ引っ掴む必要があるんだ?!えぇ!!道理っちゅうもん知らねぇのか!!」

 

「補償の方は必ずいたします。もちろん嵐が通り過ぎれば元通りに修復します」

 

「そういう問題じゃねぇ!!作物には道具を使わずにここまでやってきたんだ!!」

 

 

 なにやら職員とゴンスケの言い争う姿を見かけて慌てて近づく。話を聞くとどこにも属していないこの畑で台風を押し留め、街への被害を抑えたいとの要求があったそうだ。

 

「自然保護区や街に台風を運ぶ訳にはいかないのです。どうかお願いします!!」

 

「だからそれをのむ理由がねぇってんだよ!!」

 

「もう良いさ、ゴンスケ……街に住んでる人の数を考えればのぉ……」

「爺さん……」

「親父……」

 

 お爺さんの諦めた姿にゴンスケも息子さんも揃って暗い顔で俯いた。

 

「そんな…どうにもならないんですか?!」

「あんまりだぜ!!」

 

「……施設への接近が難しくなっています。本庁が現在、街を守るために施設の破壊を申請中です。それでも申請が通るまでにも時間がかかり、仮に申請が通り、施設が破壊されても嵐が一瞬で消え去る訳ではありません。施設が消えて、誘導が可能になるまでの間、街への被害を出さないためにはこうするしか……」

 

 悠長に直せるかもわからない施設に乗り込むための準備をするよりかは壊す方が早いのは確かだろうが、役所の仕事は手続きが多いのが難点だ。

 

「なんでそんなに時間がかかるであるか?すぐに壊す訳にはいかないのであ~るか?」

「バァウ」

 

 そう言いたい気持ちも理解できるが申請が必要な理由は私でも分かる。

 

「それは無理ですよドラメッド、天気局の施設ということは国の施設です。危険だからすぐにポイなんて真似は出来ません。それが国を守るためであっても、それをやってしまうと問題として取り上げられるでしょうからね」

 

 だから、街にも被害を出さず、許可が出るまでの時間を稼ごうとしているのだ。それ以外にもこれが人為的なものか調査したり、破壊に乗じて隠蔽工作等が行われないか等の内部調査もあるだろうからどっちにしろ時間はかかるでしょう。

 

 むしろ、事件性があればタイムパトロールも介入できるのでその方が解決は早まるでしょうが、そう都合よくいくとは思えませんね。

 

「どうにかならないのかハイドラ!?」

「……畑の事を考えるのなら嵐を抑えるのに協力するしかないでしょう。土地の借用を求める状態なら()()()()()()()()()はおりていますよね?」

 

「は、はい」

 

「ならば関係者と言い張るにはきついかもしれませんが……ぎりぎりここに残ることは可能ですね」

 

 急場しのぎにしかなりませんが『水よけロープ』、『抜け穴ライト』、『雲もどしガス』も使えますかね。

 

「ゴンスケさん、川の水と水路の水はどう繋がって、どちらへ流れていますか?」

 

「ん、ああ…たしかだども、向こうの山側からきて、自然保護区の方に流れて海まで流れてる筈だ」

 

 このまま雨が強まっていけばまず最初に浸水、洪水等の被害が酷くなるでしょう。水が溢れて土壌が壊れればそのまま土砂崩れも起きかねない。

 

「ドラニコフ、川と水路に沿って『水よけロープ』を両岸に隙間なく配置してください。川や水路を跨ぐ様に配置してはいけませんよ」

「バウ!!」

「王ドラ、『抜け穴ライト』で一時的に水路や川を拡張します。『水よけロープ』を自分の身体に結んでから入ってください」

 

 水の侵入を防ぐこのロープを両側に配置すれば水が溢れる事は避けられる。そしてそもそもの受け入れ量を増やすためにも一時的な抜け穴を作れるライトで簡易的に補強する。

 

「ドラメッド、この『雲もどしガス』をもっていてください。補強が済み次第、遠くの雲に吹きかけて雲を水に戻して時間を稼ぎます」

 

「なぜ遠くの雲なのであ~るか?」

 

「雨程度ならまだしも頭から水を被りたいのなら真上に振りかけても良いですよ」

 

「うぅ、それは嫌であるな。気遣いに感謝であ~る」

 

 水に戻しても補強してあるので水害は防げる。だが水に戻した所で次から次に雲を作られるので本当に急場しのぎでしかない。

 

 何をしても良いのであれば手の打ちようもあるのだが、緊急時協力申請許可の域を超える様な行為は出来…ない……待てよ。

 

「職員さん、施設への立ち入り許可は出たままですか!!」

 

「えっ!?この風と雨の中を進むのは無理です?!」

 

「出ているかどうかを聞いているんです!!」

 

「取り消されてはいないので許可はありますが……それがなにか」

 

 土地を借りるために発行された許可だろうが関係ない。2つの許可を持ってる職員に協力者がついていくのはなんもおかしな事ではないでしょう。悪い笑みを浮かべながら職員にそう呟くとエル・マタドーラを呼ぶ。

 

「今から秘密道具をフル活用して職員さんを守りつつ施設へ向かいます。着いてこれますか?」

「フッ、愚問だな。俺様に任せとけ」

 

「そ、そんな無茶な。ロボットならまだしも人間の私は耐えれません」

 

 職員さん、いや呼び方が堅いし面倒だな。公務員なら名札か名刺があるでしょう。えっと、ナキチさんですね。

 

「そのための秘密道具ですよ。お爺さんとゴンスケさんにあれだけ無理強いしておいて自分は出来ないとか言いませんよねナキチさん?」

 

 後ろで鬼だ悪魔だとか聞き捨てならない言葉がクラスメイトの口から聴こえてきますが今は無視しておきましょう。えぇ、今はです。

 

「わ、分かりました。でもどうやって向かうと言うんですか?!流石に案もなしに向かいたくはありませんよ」

 

「ふむ、ポケットに入ってはどうであ~るか?」

 

「それなら安全に進めそうだな!!」

 

 それは簡単に思いつくし、いい案に感じられるかもしれないがそれは絶対に出来ないようになっている。

 

「施設には超空間を封じるバリアのようなものが張られています。範囲内に入ればポケットも使えなくなりますよ。ですから使う道具も厳選してこの場で出していく必要があります」

 

「なんだよだめじゃねぇか。それじゃあ俺様はいつもの『ひらりマント』と剣だけにしとくぜ。使い慣れない道具はもうごりごりだぜ」

 

「風をどうにかするために『テキオー灯』は全員浴びておきましょう。自分が耐えれる様になるだけなので動きの邪魔は無くならないでしょうが多少はマシになるはずです」

 

 入るための道具は必要ありませんし、施設が壊れている事を考えると乗り気はしませんが『ミチビキエンゼル』をつけておきましょう。

 

 人為的だった場合を考えると武器は私も持っておきたいですが流石に両手を塞ぐ訳にいきませんし、『ナゲー投げ縄』を腕に巻いて……後は片方ですが『技術手袋』でもつけておけばたいていの自体には対応出来るはずです

 

 超空間のバリアがある場所では体内に組み込んだ『どこでもじゃ口』も使い物にならないだろうからタンクに入ってる液体系秘密道具も使えないか……言葉に気を付ける必要があるが【空気砲の薬】は先にある程度出しておくか、何があるか分からないし、役に立つかもしれない。

 

 秘密道具は空間に作用するものが多いので超空間を封じられるととても不便になる。『四次元若葉マーク』とかも使えないし、安全系の道具も害から守るのに空間に作用する要素があるし、バリア同士もおそらく干渉を受けて、出力で負けるので使えなくなるだろう。

 

「後はナキチさんの防御面ですね」

 

 運頼みはあまりしたくありませんが『ツキの月』はとりあえず食べて貰いましょう。本当なら『ラッキーガン』も使いたいですが黒が出たらどうにもなりません。こんな仕事を任されるんですから普段の運はないでしょうし効果は見込めます。

 

 後は『守り紙』は様々なセンサー感知式なので多少性能は落ちるでしょうがいけますね。ですが『がんじょう』は磁力膜の形成に影響が出る可能性もあるので慢心せず念の為程度にしておきましょう。

 

 一番は『強力ウルトラスーパーデラックス錠』があればよかったんですが流石に手持ちは無いですね。あれは少し値段もしますからね。最後に風で飛ばないように『おもかるとう』で重くして、動けなくなると困るので『いなずまソックス』をはいてもらう。

 

「後は私達で危険はできる限り排除します。これが今の精一杯です」

 

「……学生にここまでさせておいて渋る気はありませんよ。はぁ、覚悟を決めて行きますので本当にお願いしますよ」

 

 ナキチさんは私達の事を信用してくれたようで施設に行くことを了承してくれた。後はとにかく施設まで急がなくてはいけない。

 

「後は任せましたよ。ドラメッド、王ドラ、ドラニコフ、一応、何かあれば合図を出すのでその時は頼みます」

「行ってくるぜ」

 

 


 

「ヒラリ!ヒラリ!っと、そこだぁ!!」

 

「『右に進みなさい、岩が飛んできます』避けたらナキチさんに当たりますよ。『技術手袋』ドリル展開!!」

 

 意気揚々と飛び出したのは良いですがやはり進みは良くない。始めは調子は決して悪くなく、用意した道具やナキチさんの守りも問題無かった。

 

 しかし先に進むに連れて周囲の環境はさらに悪くなり、雨風で足場は悪く、岩や木等が飛び交う中を急いで進むのは中々に厳しい。それでいて安全第一ではあるがあまり長く時間をかけすぎると無理をした意味がなくなる。

 

「ここから施設までの距離はわかりますか?」

 

「え?!なんて言いました?!」

 

「距離はわかりますか!!」

 

「このペースだと日が変わりますよ!!」

 

 風音までは考えていなかったが発生源が近いだけあり、意思疎通に問題がでかねない。こちらはロボットなのでまだ聞き取れるが、ナキチさんは既に聞き取りにくくなっている。

 

 しかもグズグズしているとさらに規模は拡大するのだ。何か考えるよりも施設まで一気に突っ走る方が早いだろう。

 

 私はナキチさんをその場で素早く背負うとエル・マタドーラに近づき、目を合わせ頷き合います。

 

「「駆け抜ける!!」」

 

 お互いにぶつかりあわず、それでいてフォローしあえる位置を取り、無理やり進みます。『ナゲー投げ縄』で固定しているので落とす心配はない。

 

 飛来物に当たらない様に気をつければ『テキオー灯』で掛かるGなどは問題ないので大抵の動きをしても大丈夫だ。

 

「飛んでくる木は切り刻んでください!!小さいものは右側に流して!っと、頭下げて!!ドカン!!」

 

「っと、危ねぇ!!弾かれた石が飛んできたのか。サンキュー、っとヒラリ!!ヒラリ!!」

 

 開けた場所を進むと四方八方から飛んでくる物があり、降り注ぐようなそれらをとにかく処理して進んでいく。

 

 元々は整備されていた場所も今では道なき道となってしまい、通れる場所は限られている。中には完全に塞がれている場所もある。

 

「積み重なって邪魔です!!『技術手袋』、バーナー展開、最大出力!!」

 

「やるなら言ってくれよ!?ヒラリ!火の粉が流れて少し来たぜっと、あの岩は俺に任せろ!!ドリャぁ!!」

 

 積み重なって邪魔になっている木を作業用のバーナーで一気に焼き切り、残った火の粉や残骸をエル・マタドーラが切り払う。

 

 そのまま進んでいくと土砂崩れで落ちてきたのかドでかい岩に塞がれている。それを見ると剣を腰にさして両腕で押し出すことで退かすエル・マタドーラ。一番の力自慢は伊達じゃないですね。

 

「『いますぐに家に帰るべきです!!怪我を避けられませんよ』指示を出さないのなら分解しますよ!!ただでさえ忙しい、ッ!!とりゃあ!!ですからね!!『私はもう知りませんよ!!貴方の事を考えて帰るように伝えましたからね!!そのまま真っ直ぐ進むと足を取られます!!』水を弾きますよ!遅れないでください!!ドカン!ドカン!ドカン!」

 

 底なし沼に負けないレベルのぬかるみの中に空気砲を打ち込み、一瞬だけ固まった大地を足場に跳びながら進んでいきます。少しでも遅れれば即座にぬかるみに足を取られ、地中に埋まるでしょうがなんとか乗り切ります。

 

「ちょっ!?よっ!!はあっ!!とっとと…いぇーっい!!ギリギリだぜおい!!王ドラやドラリーニョじゃねぇんだぞ!!」

 

 やわなことを言っていますが貴方も闘牛の技術で動きは軽やかな方でしょう。それに王ドラなら用意しなくても自分の足場くらい確保しますし、ドラリーニョは沼の上でも走って行けますよ。

 

「っと、上の方から凄い水音がします。おそらくどこか決壊して鉄砲水が来ますね。進路を変えますが間に合うか……微妙です。ナキチさん!!『ナゲー投げ縄』を使います!!スピードは落とすので自力でしがみついてください!!エル・マタドーラ!!貴方を先に送るので少しで良いです西寄りに水を弾いてください!!」

 

「送るってどうやって…うわっ?!待てっ!!俺を投げるな!!うわァァァ!?」

 

 その間にまたナキチさんを『ナゲー投げ縄』で固定して急ぎましょう。反らしたところで水が溢れている事に変わりありません。

 

 獣道すらない山道、藪も多くそのままでは進めませんがこれでもネコ型、木々から木々へ進むのはお手の物です。まずい!?少し間に合いそうにないですね。空気砲はむしろ視界と移動先を潰しかねない。ですが向こうからなら……

 

「弾いてください!!ドカン!!」

 

「はあっ…ッ!そういうこ、っとヒラリ!!かよ!!反応遅れてたら共倒れだぞ!!」

 

 エル・マタドーラに向かって空気砲を撃ち出すと即座に理解した彼の手により弾かれた空気砲が鉄砲水に当たり、私達の進行を邪魔せずに時間を稼ぐことが出来ました。その間に一気に駆け上り、どうにか難所を超えました。

 

「出発前に見た地図と照らし合わせれば、ここは施設の東側ですかね?遠回りになりましたが後は少し下れば施設です!!」

 

「ここから下るってのか?!てっきり一番上の方にあるもんだとばっかり。てかこれだけ水が押し寄せて施設水没してやしねぇだろうな」

 

「地図を確認した時に等高線を見ていないんですか?施設は少し窪地になってる場所ですよ。川や谷の方に向けて傾斜になってるから流石に水没はしてませんよ。それにしてても施設自体は保護バリアもあるので影響を受けてないでしょうし、やることは変わりませんよ」

 

「ナビや自動運転は当たり前、許可エリアならワープも使える世の中で地図なんて読めなくても良いんだよ!!」

 

「道理で昔学の成績が低いわけです」

 

 昔年時代倫理・常識論・航時法干渉事象前提知識学……ロボットにおいては製造日の含まれる時代より前のありとあらゆる事象の中でもその時代地域の常識や必須技能を学ぶ授業だが、流石に膨大な情報量の為に毛嫌いされがちな科目の一つである。

 

「まぁ説教してる時間はないですからね。さて、行きますよ」

 

「おう!!」

 

 そのまま坂になっている道を気を付けながらも駆け抜け、目的地である施設、その敷地の証であるバリアの内部へとようやく足を踏み入れた。

 

 


 

登場したひみつ道具

 

 

『復原光線』

 

壊れた物にこの光線を当てると元通りになる。「復元光線」が正しいと思われるが、現在の単行本では「復原光線」とされている。

 

 

『カチンカチンライト』

 

このライトの光を当てると、水や煙などの形の無い物を5分間固める事ができる。または光を当てた対象を硬くすることが出来る。

 

 

『空間接着剤』

 

物を空間に接着することができる。

 

 

『瞬間固定カメラ』

 

 

ある瞬間の動きをそのまま止めておけるカメラ。もう一度シャッターを押すと動く。これは鳥や虫の飛び出す姿や水しぶき、物が壊れる時のありさまなど、目に留まらない動きを止めておいて、ゆっくり観察するための道具。しかし、使い方によっては高い場所から落下してギリギリでシャッターを押してスリルを楽しんだり、すぐにでも辞めて欲しい歌声を強制的に止める様な事にも使える。

 

 

『水よけロープ』

 

紐状の形をしていて、この紐を輪にすると、水を跳ね返し、輪の内部には水が入らなくなる。このロープの中に入ると、水を寄せ付けないので、泳げない人でも海中を散歩出来る。

 

 

『抜け穴ライト』

 

このライトで照らすだけで、トンネルを掘って抜け穴を作る事ができる。戻ると自動的に塞がって元通りになる。

 

 

『雲もどしガス』

 

「雲かためガス」で固めた雲を元の水蒸気に戻すガス。作品内では非常用にタンクにガスを貯めておいたが、このガスを雲目掛けて撃ち出す「雲もどしガス砲」もある。

 

 

『ひらりマント』

 

目の前に迫ってくる物に対してこのマントを振りかざすと、跳ね返す事が出来る。跳ね返せるのは物体だけでなく、光線などの不定形なものにも効果がある。電磁波の反発を利用している。ドラえもんズのエル・マタドーラはこの道具を使うのが得意。また、怪盗ドラパンの普段付けている黒いマントもひらりマント。

 

 

『テキオー灯』

 

22世紀の未来において宇宙の様々な天体に進出した人類が、大気・温度・重力などが地球と著しく異なる環境で活動するために開発された道具。この光線を浴びれば、24時間は高水圧の深海や、宇宙空間、どんな状況下のいかなる星でも、特別な装備無しで地上と全く変わりなく活動できる。酸素の無い所でも呼吸ができ、潜水服も宇宙服も必要とせず、暗い深海でも昼間のように明るく見える。映画「のび太の海底鬼岩城」で登場したムー連邦の海底人達も、独自に開発した同機能の物を所持していて、時折地上の人間の様子を観察するために使用している。また、この映画が作られる以前から海底の物語を構想していたが、暗黒で高水圧という苛酷な世界はなかなか描く気になれず、この環境で地上同様の明るく楽しい冒険を描きたい、という発想がこの道具のヒントになったという。

 

 

『ミチビキエンゼル』

 

手にはめて相談すると、一番良い答えを出してくれる。自分からは取れず、他人に取ってもらう以外、外す方法が無い。

 

 

『ナゲー投げ縄』

 

この縄に命令すると、どこまでも縄が伸びて何でも取り寄せる事ができる。

 

 

『技術手袋』

 

指先が色々な工具になっていて、どんな工作でもできる。

 

 

『どこでもじゃ口』

 

この蛇口を好きな所に付けると、いつでもどこでも、自由に飲み物が飲める。これを頭に取り付けると、水道の水をまるで鼻水のように鼻から出すこともできる。

 

 

『四次元若葉マーク』

 

これを付けると4次元空間に入って、何にぶつかってもそのまま突き抜ける。ただし、これを貼り付けた者同士はぶつかる。

 

 

『ツキの月』

 

これを飲めば三時間、信じられないほどの幸運がつきまくる。

 

 

『ラッキーガン』

 

4発で一揃いの弾を詰めて、自分の頭へ当てて撃つ。3対1の割合で赤玉が出る。赤弾が当たると一日中幸運に恵まれる。黒玉が当たると一日中ろくな目にあわない。

 

 

『守り紙』

 

1日3回この紙を拝んでいると、災難にあった時、この紙が助けてくれる。その反対に『びんぼう紙』がある。

 

 

『がんじょう』

 

飲むと、体が鉄のようになる錠剤タイプの薬。アイスクリームの味がするバニラ味コーティング、体を鉄のように固くする第2強化剤、体を石のように固くする第1強化剤からなる。これを飲むと体の表面に固い磁力膜ができ、だんだん体を鉄のように固くする。有効時間は10分。

 

 

『強力ウルトラスーパーデラックス錠』

 

空を飛んだり、強い力を持った、ウルトラスーパーデラックスマンになれるキャンディみたいな薬。小さな子供でも車を持ち上げたり、建物を破壊したりもできる。値段は高いがお試し用もあり、お試しの場合は1粒で3分間効果が続く。効果を無くす薬もある。

 

 

『おもかるとう』

 

このライトの光を当てると、物を重くしたり軽くしたりできる。軽すぎると風に流され、重すぎると地面にめり込む。

 

 

『いなずまソックス』

 

『けんかマシンセット』のひとつ。目にも留まらぬフットワークが身に付く。

 

 


 

 

オリジナル道具

 

 

【空気砲の薬】

 

空気ピストルの薬の空気砲版。

ドカンと言うと空気の塊が手から発射される。

 

 





結局は中編になりました。中編②とかにはならずに後編で終われる予定です。後編の進捗は6割って所です。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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はちゃめちゃボランティアで大忙し?!  後編

なんか書けたので投稿しちゃいます。


 

 施設の付近にはバリアが張られており、この台風の中でも外の影響がなく安全になっている。こちらには異常がパッと見で見られないので、周囲を確認しつつナキチさんを下ろす。

 

「ようやく一息つけます……ハァ、怪我はしてないし、途中から背負われてただけなのにどっと疲れた気がします……」

 

「悠長にしてる暇はないですよ。セキュリティカードを早く出してください」

 

「分かってますよ……」

 

 道中で無くしてしまわないように厳重に結びつけたカードを扉についている認証装置にかざすと、第一認証が解除され、その後に続いて職員の声紋等の登録されている情報が判別され、扉はようやく開いた。

 

「にしても本人認証だけで十分なんじゃねぇの?」

 

「私達も持ってるひみつ道具対策ですよ。『モンタージュバケツ』や『声のキャンデー』なんかもあるから少し調べられれば意味がないですからね」

 

「職員も自衛を命じられてます。ですが犯罪者の手口も多様化して、年々厳しくなってるんです。ちなみに常に職員がいる施設でもないので許可証もその都度発行されているんです」

 

 そんな事を駄弁りながらも無事に開いた扉をくぐり抜けて施設の内部に入り込む。操作を受け付けない施設がどれほどのものか把握出来ていないので警戒は続けている。

 

「『危ないしゃがみなさい!!』ッ!?何が……」

 

 『ミチビキエンゼル』の指示に無理やり身体を動かし、従うと先程まで自身の頭があった位置にピュンと音を立て光線が通り抜け、後ろの壁をジュッと焼いた。その発生源らしき球形の機械が通路の先に幾つもふわふわと浮いていた。

 

「警備システムまで誤作動しているんですか?!あれは指名手配犯やテロリスト対策のガードロボです!!」

 

「つまりどういう事だよ!!」

 

「危険な武装がいくつか積まれています!!人間も半殺しレベルは堅いとか……」

 

「ロボットなら問答無用で処分ですか……」

 

 視線をもう一度向けると依然としてその数を増やしてこちらの方をカメラが捉えている様だ。残念な事に挨拶をして仲良くなれるような相手ではないみたいだ。3人で顔を見合わせると、そおっと後ろに向き直る。

 

「「「逃げるぞ!!」」」

 

 合わせるでもなく正面突破は難しいと揃って駆け出す。後ろから容赦なく飛んでくる光線は大半をはね返し、確実に機械を壊しているがまだまだ増援は止まらない。いくつも通路を曲がっていると1つの小部屋を見つける。

 

「ナキチさん!!」

 

「部屋のロックはカードだけで可能だ!!先に持っていけ!!」

 

 そう言って投げ渡されたカードを受け取るとエル・マタドーラにナキチさんの守りを任せ、通路を一気に駆け抜けると扉のすぐ横にカードを叩きつけるように翳す。

 

「認証出来ました!!ナキチさん!!エル・マタドーラも!!」

 

「ヒラリ!ヒラリ!うおぉおおおお!!セーフ!!」

 

 殿を引き受けてくれていたエル・マタドーラが部屋に入るとすぐさまロックをかけて周囲を確認し、ガードロボットがいないのが分かるとその場にへたり込んだ。

 

「あ、あんなのを政府は各所に置いてんのか?!」

 

「ハァ、ハァ…テロ対策って言っただろう……今回みたいな嵐でも作られればヤバいから警備や防衛はそれなりに厚いんだよ……」

 

「…………ナキチさん、いくつか聞きたい事があるんですけど良いですか?」

 

「……唐突になんだ?」

 

「いえ、少し休んでからにしましょう。焦り過ぎと疲れからか口調が崩れてますよ?」

 

 丁寧な喋り方から一変してしまっている。この喋り方の方が素なんでしょうが、それだけ余裕が無かったって事ですね。とりあえず、荷物から水筒と携帯食を取り出して全員に配る。我々も電子頭脳を酷使してますから補給をしておきましょう。ナキチさんも黙ってそれを受け取るとそのまま口に放り込んでいた。

 

「ングング…ぷはぁ……政府職員として口調はキチンとしたもので無いといけないんですよ。さっきのは忘れてください。それで質問というのは?」

 

「メインシステムと警備システムって連携してるんですかこの施設?」

 

「どうでしたかねぇ……正直全ての施設について知らされてる訳ではありませんが、制御の関係上無関係ではないかと……」

 

 メインシステムの異常がそのまま警備システムにまで回った?仮に回ったとしても通常の防備ではない警備ロボットが現れるものなのでしょうか?

 

「いえ……どっちにしろ気は引き締めるべきですね。所でロボ達は室内には侵入しないのですか?」

 

「機器やデータ等が置かれてる場所でレーザーを撃たれる訳にはいきませんからね。緊急通報がなされてからでないと侵入許可が伝達されないんです」

 

 そう言ってナキチさんは部屋を見渡して何かを探すと、あったあったと何かを見つけ、見てくださいと私達を呼んだ。彼が手をかざすと壁の近くにホログラムで何かが表示された。

 

「これが通報システムですね。今はオープンにして見せてますけど本来は見えないようになっててこっそりと通報出来るんですよ」

 

「そんなとこにあったなんて全く分からなかったぜ」

 

「登録者だけに見えるようになる仕組み、もしくはその逆ですか」

 

 おそらく他の場所にも置かれているだろうが流石に教えてはくれないだろう。仕組みなども気になるが流石に解明している時間はない。

 

「通報システムが作動する条件は職員が起動する以外にありますか?」

 

「室内の損傷度合い、施設によりますが他の部屋からの一定数の申請、後は室内で死者が出た際ですね」

 

 となると壁に穴を開けるなどは出来そうに無いでしょう。これなら『通り抜けフープ』を持ってくるべきでしたかね。いや、あれもバリア内では使えませんか。

 

 とりあえず部屋の中まではガードロボットが入り込めないのであれば部屋を転々としながら進むことも出来るでしょうが……正直その作戦は厳しいですね。

 

「この施設の部屋の数はどうなって居ますか?」

 

「えぇっと言えない場所もあります。今私達が居る様な小部屋も少しあります。ここは紙媒体の資料室ですかね。小部屋は全部で三個、主要な部屋はメイン、データ、ジェネレーター、ジャンプ、ストレージ、レスト、そしてウェザー」

 

 詳しく聞くと、メインが施設全体の管理がされており、異常の確認や各部屋の制御を試すために目指している場所だ。ガードロボットの停止も壊れていなければ可能らしいが、施設の二階の奥の方らしく、まだまだ遠い。

 

 データは情報を蓄積している場所で問題解決が出来たら原因究明に利用するだろう。逆に問題が解決出来なければ来ることになるかもしれない場所でもある。施設の入退出や防犯カメラの映像等もここで確認出来るそうだ。こちらも二階でメインからそう遠くない位置だと言う。

 

 ジェネレーターは発電とエネルギーの貯蓄だが今のところは用はない。施設は問題なく稼働しているからな。ガードロボに回されてるエネルギー供給を止めれるかとも思ったが供給を止めても一日は保つそうなので意味はない。これは地下に置かれている。

 

 ジャンプは本来ここに直接来るために使われる部屋だが人を呼べる様に出来るか分からないので後回しだ。呼べたとしてもこの状況では犠牲者が出かねないから役には立ちそうにない。荷物の搬入等の事情から一階のエレベーター付近にあるそうだ。

 

 ストレージはまんま倉庫であり、通路にいるガードロボットもそこに居たらしい。他にも整備などに使える道具やスペアのパーツ等もあるらしい。修理が必要になった際はここも必要になる場所だ。こちらは地下にあり、一番大きな部屋になっている。

 

 レストは作業員が長時間居座る際の休憩室らしく、ソファやベッド、ドリンクサーバー等が置かれているらしいが休んでる場合では無い。こちらは一階と二階にそれぞれ置かれているらしく、一階のはここからそう遠くないそうだ。

 

 ウェザーは気象を生み出す機構が備えられている場所であり、メインからの操作も受け付けない場合に向かう場所だ。さらに言うのであればこの施設の屋上部分が丸々がウェザーだ。

 

 今いる部屋も入れた小部屋の内訳は一階に二個、二階に一個らしく、ウェザーがあるだけの屋上を除き、二階に部屋が四個、一階に部屋が四個、地下に二個となる。

 

「ガードロボの入室に必要な申請数は?」

 

「既に稼働している状況なら5で可能です」

 

「それを利用してガードロボを誘導することは出来ませんか?」

 

「……可能かもしれません。ジェネレーターは無理ですが地下のストレージに集めれば多少は動きやすくなるかと……」

 

 階段への道も塞がれている状態であるが一階だけでは申請が足りない。そもそも一階の通路だけでもけっこう命懸けだというのに……

 

「私たちだけでも通報は出来ますか?」

 

「室内のコントロールパネルが誰の目にも見える通報装置になってます。そこにカードをかざせば操作可能です」

 

 カードが必要なら一箇所ずつでないといけませんね……面倒ですがナキチさんに待ってて貰い、私が部屋を回るのが一番でしょう。

 

 引きつけるだけならここから遠い部屋で暴れれば良いですが、流石に許可のない破壊活動は問題がありすぎますからね。ガードロボットは正当防衛でいけますが部屋を荒らすのは流石にアウトでしょう。

 

 稼働しているならエレベーターで地下に向かえば階段や通路のガードロボットを避けてストレージかジェネレーターに辿り着ける。

 

 最後にこの部屋で申請をすれば良いのだから順番は考えなくて良いでしょうか?いや、他の部屋に向かう通路を通りやすくするために先にエレベーターで地下に向かい、その後で一階の部屋を素早く回るとしましょう。追尾してくるということは自力でも多少は引き付けられる筈ですからね。

 

「すみませんが『イナズマソックス』を貰っても良いですか?少しでも速いほうが振り切り易いので」

 

「俺も行くか?」

 

「いえ、一人で一気に回るほうが効率的です。それに万が一の場合を考えてナキチさんの守りをお願いします」

 

 そう言うとナキチさんに貸していた『イナズマソックス』を自身の足に装着し、少し室内で動いて具合を確かめる。そして問題が無いのを確認すると借りたカードを手にして部屋の外へと飛び出した。

 


 

 部屋の外に一歩踏み出すとその時点で私の居る位置めがけてレーザーが飛んでくる。それを走って回避しますが通路がそこまで広くないのに加えて数が如何せん多い。

 

 『ミチビキエンゼル』は外すべきだったか?と一瞬頭に過るが余計な事は後に回して思考を対処の方に向ける。

 

 幸いと言ってはなんだがこれまで通ってきた通路にはエル・マタドーラの『ひらりマント』ではね返したレーザーによって壊れた残骸が転がっている。

 

 通路を押し通りながら『ナゲー投げ縄』でその残骸を拾い上げると『技術手袋』を用いてレーザーの発射機構だけを使える様にするとそのまま手袋をはめた手で握り込んでガードロボットに撃ち放つ。

 

 空気砲も使い方によっては危険であることに変わりはないですがレーザーの方が空気砲より威力がある事にもかわりはない。空気砲と違って反動が少ないのは良し悪しがありますがね。反動で避けるなんて事は出来ないので使い分けには頭を使う必要性があります。

 

 レーザーでロボットを壊しながら順調に進んでいくと利用する予定のエレベーターが見えた。すかさず『ナゲー投げ縄』を伸ばして扉を開けると付近にいるガードロボットを退かす為にドカン!!と空気砲を放ち、風で動きを阻害させ、滑り込むように入り込むと直ぐにドアを閉めた。

 

 部屋の扉の開閉や通報機能がいきているのでエレベーターも動いているだろうと安易な予測で動いていたが無事に乗り込むことが出来て良かった。

 

 このまま地下に向かう訳だがジェネレーターは整備の時くらいしか用がないので少し遠くにあるとの事だが、必要な申請数は5 で、一階の部屋の数は4、そしてもう1つは集める予定のストレージで申請は出来ないのでジェネレーターに行く必要がある。

 

 まぁ、ストレージが広く、いくつか出入り口があるそうなのでずっと戦い続けるのは必要はないのだ。落ち着いて行こうと深呼吸を行うとエレベーターの扉が開いたと同時に飛んでくるレーザーを姿勢を低くして避けるとそのまま通路に飛び出した。

 

 そのまま向かいの部屋がストレージだが流石にガードロボットが多く、カードをかざしている余裕がない。少しまき、違う入り口から入る事に決めるとそのまま通路を走り出す。

 

 ガードロボット同士は互い認識しているようで同士討ちをそのまま狙う事は出来ないが塊になっている所に空気砲を打ち込むと狙いがズレてけっこう巻き込んでくれる。

 

 進行方向はレーザーで対処、後ろは空気砲で片付け、距離を少し離すことに成功する。落ち着いてる暇はないがストレージの出入り口にカードをかざす時間は稼げた。認証を済ませるとストレージに入り、扉を閉めて一息つく。

 

 観光に来ている訳でもないので中をキョロキョロと見渡す事はせず、ジェネレーターの方向を確認してあるき出そうとしたその時、何かを踏んづけたのを感じ、ガードロボットの残骸か?とふと視線を足元に向けるがそれはガードロボットの部品とは明らかに毛色が違っていた。

 

 不思議に思い、当たりを見渡すと施設を飛び交っているガードロボットとはまた違う、通常時の警備を担当しているであろうロボットや荷物を運ぶのを補助する機械系のロボットが軒並み破壊されていた。

 

「これは?!…ロボットの暴走による被害ではなさそうですね……ガードロボットも識別機能はいきていましたしね……だとするとこれは一体…?」

 

 これが誰かの手によって行われたのだとすると、一連の事件も全て、その何者かの企みということになる。畑を狙った犯行という線は正直薄い。考えるとすれば街へのテロ行為、止められない様にガードロボットを引き出して暴走までさせたのであれば相当な計画犯です。

 

「……合図を出さなくては……それに施設内にまだその犯人がいる可能性もあります。急いで合流しましょう」

 

 


 

 

 ストレージ内を走り、通路を走り、ジェネレーターで申請を済ませると行きと同じ手順でエレベーターに乗り、一階の各部屋を回って二人の待っている資料室まで戻りました。そして、ストレージの状況からこれがただの不具合ではなく大規模テロの可能性があることを伝えました。

 

「マズイですね……悪い言い方をしますがテロによって被害が出れば()()()()()()()()()()()問題視されます。もちろん施設不備なんかよりも重く扱われるでしょうね。なんとしてでも嵐を止め、この情報を伝えなくては……」

 

 逆に解決できればテロに屈することなく対応したと言える訳ですからね。天気局職員としての立場もあるんでしょうが、政治的な話はどうにも……いえ、これ以上はやめておきましょう。

 

「これが人為的なものだとすると犯人はどう動いてると思いますか?単独犯なのか複数犯なのか、それとももっと大掛かりな組織だったものなのか、前提によって変わると思いますが予想できる限りで良いので」

 

「……操作がきかないのはメインを抑えられてるか、ウェザーを直接操作してるかの二択です。移動を封じられてる事からもおそらくメインに一人は居るはずですが、それ以上は分かりませんし、メインに道具を置いてウェザーで遠隔操作している可能性もなくはないですから……」

 

 便利な道具に溢れた世の中というのも考えものだな。仮定の話をすれば何処までも際限がない。私達の目標から行動指針を決めていった方が良いだろう。

 

「第一目標は嵐を止めること、第二目標がこの施設で起こってる事を知らせる事で良いですか?これはもちろん命は守ること前提です」

 

「犯人と戦わねぇのか?」

 

「仮に全滅でもすれば何も分からず迷宮入りです。無理はしない方が良いです」

 

 人間であるナキチさんを殺される訳にはいきませんし、ドラえもんズの一員であるエル・マタドーラが死ぬ様な事もあってはいけません。こればかりは譲るわけにはいきません。

 

「第一目標はウェザーに向かうのが一番です。第二も合図を送るだけなら屋上に出る訳ですから出来るでしょう。揃ってウェザーに向かうで大丈夫ですか?」

 

「……はい、タイムパトロールが動けば正規のバリアは問題ないでしょうからね」

 

 超空間を封じるバリアは手順を踏めば解除することも可能である。張ることが出来れば剥がすことが出来るのは自然なことである。

 

 タイムパトロールは正規手段で張られたバリアは問題なく突破できる。逆に非正規の方法で作られたバリアも見つけさえ出来れば時間はかかるがなんとか出来るだろう。だからこそ時間犯罪者は封じるよりも見つからない事を前提に動くのだ。

 

 行動指針が決まれば直ぐに動く準備を開始する。ナキチさんに『いなずまソックス』をまた貸し出し、この部屋でストレージに向けてガードロボットの立ち入り許可の申請を送る。

 

 扉に耳をくっつけ、外の様子を伺う。少しして明らかにガードロボットの気配が減ったのを確認すると全員で一気に飛び出し、階段を目指した。

 

 ガードロボットが明らかに減っている為、無理に応戦することもなく、階段まで辿り着く事が出来た。そのまま上へ上へと登っていき、ウェザーがある屋上にたどり着いた。

 

「先に合図を送らなければ……エル・マタドーラ、これを思い切り上に投げてください」

 

「これは……花火か?」

 

「『安全花火』の一種で打ち上げ型の物です。バリアの外まで飛ばせばそこからさらに上に上がり向こうに報せてくれます」

 

「よっしゃ、オレ様に任せとけ…オラッ!!」

 

 エル・マタドーラが全力で投げた『安全花火』は直ぐにバリアを突き抜け、それでも止まることなく上に上がり、花火自体の推進力も相まってかなり上まで飛んでいった。

 

「これで伝わったはずです。私達はウェザーに乗り込みましょう」

 

 


 

 

 

「ガウ!!ワォーーーン!!」

 

 少しでも被害を減らすために休まずに作業を続けている面々の中でも、走り回る為に狼化していたドラニコフが一番にそれに気付き、遠吠えでみんなに報せる。

 

「ムッ!あれは……ドラメッド!!」

「わがはいも確認したであ〜る!!あの色は事件性ありの合図、直ぐに通報するであ〜る!!」

 

 


 

 

 いよいよウェザーに入る訳だが、今回の事件の犯人がこの中に居る可能性がある。私達が先に入り安全を確認していくのが一番だろう。

 

 扉をナキチさんに開けて貰うとそのまま二人で入ります。奥に見える気象操作用であろう機械等も特に変な様子はなく、物音一つしない部屋の中を進んでいく。

 

『キケンデス!!』

 

「なっ!?うぐぅ……」

 

「ハイドラ!!??誰だ!!何処にいる!!」

 

「エル・マタドーラ、落ち着いてください。私は大丈夫です」

 

 何もない部屋に事件を起こした犯人は別の場所か、既に逃亡した後かと思って油断しました。『ミチビキエンゼル』が無理に腕を動かしてくれたお陰で直撃を避けることが出来ましたが飛んできた攻撃で『ミチビキエンゼル』は壊れ、『ミチビキエンゼル』をつけていた腕も破損しました。

 

 壊れた腕からオイルが漏れ出ていますが、内部に組み込んである『復原光線』を起動させる事で映像を巻き戻すかのように再生させ、応急手当てとします。本当は精密検査をするベき状態ですが今すぐに動けないと意味がありません。

 

「そこに居るのは分かっています。出てきなさい!!」

 

 ガードロボットから作ったレーザー銃を向けながらそう言い放つとゆっくりと攻撃を放った犯人が姿を見せます。

 

「小手調べの挨拶だったがこうも効かないとは……してやられた気分だよ」

 

「人間か……まずいな……」

 

 犯罪者相手とはいえロボットが人間に攻撃するのは中々に難しく、力加減を間違えれば殺してしまう可能性すらあるロボットの行動はかなり制限される。レーザーも構えてはいるが撃つ事は出来ないだろう。

 

「既に外へ連絡しています。大人しく投降する事を提案します」

 

「それは出来ない…が君たちがここに来た時点で今回の計画は遂行された。ここらでお暇させて貰うよ」

 

 そう言うと彼は開けない筈の超空間を背後に出現させた。時間移動で逃げる気だと急いで詰め寄ろうとするが流石に距離がある。

 

「あぁ、そうだ。私はDr.ブレンド、君とはまた会うかもしれないね。その時はよろしく()()()()()()?」

 

「待て!!」

 

 腕を伸ばし、『ナゲー投げ縄』を飛ばすも一歩及ばす、相手はそのまま超空間の中へと消えていった。職員の移動用の出入り口を自分の脱出用に使っていたのだろう。探れば逃亡先が分かるか?とも考えたが道具は取り出せないし、後はタイムパトロールに任せるしかないな。

 

 その後はウェザーのシステムにアクセスしたナキチさんが嵐を制御して消し去ることに成功した。そのままメインにも向かい、ガードロボットを緊急性停止させ、職員が来れないようにされていた細工を解除し、事件は終わった。

 

 


 

 

「おう!!お前ら、お疲れだなぁ」

「事情聴取は終わったのかい?」

 

「えぇ、武雄さんやナキチさんが口利きしてくれたお陰で思ってたよりすんなりと」

 

 有名企業であるジャイアンズの関係者である武雄さんはやはりそれなりに顔が利く様で変に追及されることがなくて良かった。

 

 学校に戻ったらまた報告とかは別でしないといけないだろうがそこいらへんは仕方がない。

 

「なに、お陰で被害はかなり抑えられた。少し大変だがこれならまだ取り戻せるからね」

 

 畑は土の方にダメージはあるが、作物達はどうにか死なずに済んだようで、急いで整えればこのまま続けられるそうだ。

 

「お礼にと爺さんから作物を預かってるで、帰りに持ってけ」

「ただのボランティアの予定だったのに大忙しだったからね。うちからも君たち宛に何か贈るから楽しみにしとくと良いよ」

 

「そんな私たちに出来る事をしただけなので」

「悪いであ〜る」

 

「そう言わずに受け取ってくれ」

 

 御礼の品をを押し付けられるというのは中々に珍しい状況だが、断り続けるのも失礼に当たるので作物を受け取り、後で届くという品を楽しみにして帰ることになった。そうして私達の短いようで長い、はちゃめちゃなボランティアは終わりを迎えたのだった。

 

 


 

「使用した道具等の確認も取れた。君たちの証言から犯人を捕まえて見せるよ。協力ありがとう」

 

「いえ、それでは失礼します」

 

 ボランティア先で巻き込まれたという学生さん達から得た情報を纏め報告書を作る。これからさらに忙しくなるだろう。

 

「先輩、ようやく手がかりが掴めましたね」

 

「あぁ……しかし、どうにも不思議だ」

 

「えっと、何がでしょうか?」

 

 こいつは真っ直ぐで期待できる後輩だがどうにも純粋過ぎるのが玉にキズだな。俺は連続時間破壊テロに関するデータを表示しながら説明する。

 

「始まりは22世紀後期、この時代よりも先の時代で行われ、民間への被害は()()()()()()()()()。その時点で異例の事態だ」

 

「公安部が動いているって事ですよね?」

 

 何らかの問題が発生して歴史を改変しなくてはいけない事態が起きたということだ。22世紀で解決出来るのか確証が得れず、過去干渉以上に厳しい未来干渉が試まれるのではないかと噂が上がるほどだ。

 

「だが奴は確かに犯行を行い、タイムパトロールの追跡を確認すると直ぐに姿を消している。そのまま21世紀、20世紀、19世紀と多くの時代で事件を起こし、これまで手がかり一つ残してこなかった。そんな奴が姿を見せるだけでなく、偽名とはいえ名乗りを上げたんだ……」

 

 遊びのように犯行を行う愉快犯ならば気まぐれという線も考えられるが、一貫性のある犯行から何らかの意志に基づいた思想犯であると推測されている。そんな奴が無関係な学生に名を伝えるだろうか?俺の考え過ぎならば良いのだが、もしかしたら彼が何らかのキーになるのかもしれない。

 

「トーキョーマツシバロボット工場製、型番号R-01 FR001-MKII、子守用猫型ロボット、個体番号MS-904、個体名、ハイドラ……念のため目をつけておくべきだろう」

 

 

 


 

 

『モンタージュバケツ』

 

色々な人相を合成して、別人を作り上げてしまうバケツ。

 

 

『声のキャンデー』

 

声を録音すると飴玉になる。その飴玉を食べると、録音した人と同じ声になる。効き目は30分。

 

 

『ミチビキエンゼル』

 

手にはめて相談すると、一番良い答えを出してくれる。自分からは取れず、他人に取ってもらう以外、外す方法が無い。

 

 

『通り抜けフープ』

 

通り抜けたい所に当てると、どんな扉や壁でもフープをくぐって反対側へ抜けられる。次元を操作すると、通り抜けられなくしたり、全く違う所へ通じさせる事も出来る。壁に当てると自動的にスイッチが入り、空間原子分解装置が動き出し、そこから電波が出る。空間原子分解装置同士が電波で共鳴し合い、通り抜けられる物の原子を揺らして穴を開ける。ドラえもんが普段使っているのは1人が潜って通れる位の大きさだが、映画「ザ☆ドラえもんズ・怪盗ドラパン謎の挑戦状!」では、「通り抜けフープLLサイズ」というドラえもんズとドラパンの8体が余裕で同時に通れる大きさの物が登場している。

 

 

『いなずまソックス』

 

『けんかマシンセット』のひとつ。目にも留まらぬフットワークが身に付く。

 

 

『ひらりマント』

 

目の前に迫ってくる物に対してこのマントを振りかざすと、跳ね返す事が出来る。跳ね返せるのは物体だけでなく、光線などの不定形なものにも効果がある。電磁波の反発を利用している。ドラえもんズのエル・マタドーラはこの道具を使うのが得意。また、怪盗ドラパンの普段付けている黒いマントもひらりマント。

 

 

『ナゲー投げ縄』

 

この縄に命令すると、どこまでも縄が伸びて何でも取り寄せる事ができる。

 

 

『技術手袋』

 

指先が色々な工具になっていて、どんな工作でもできる。

 

 

『安全花火』

 

水につけると反応して光を出す。水性火薬の発明で実現した燃えない花火。

 

 

『復原光線』

 

壊れた物にこの光線を当てると元通りになる。「復元光線」が正しいと思われるが、現在の単行本では「復原光線」とされている。

 

 

 




なんか、書き進められたので投稿しちゃいました。次の話はネタのストックはあるけど進捗はほぼ0です(断言)

私は話したがりなので説明しだすと何から何まで話してしまいそうになるので後書きではあまり語りませんが、Dr.ブレンドは今後も出てきますとだけ。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。



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水平線の漂流記?!前編


ストーリーとは関係ない日常回ではありますが長くなったので区切って投稿します。


 

 

 果てしなく続く海、見渡しても見えるはずのない陸、波の揺れはなく、生き物の居ない静かな世界、プカプカと浮かぶのは小さな頼りない船。

 

「はぁ、いつになったら帰れるんだろう」

 

 言葉の意味的にも、そのままの響き的にも地に足付かない状況がかれこれ数時間続き、不安の声を上げるドラえもん。

 

「ガウウ……」

 

 それに同意するように悲痛な唸り声が聞こえる。船の上には彼一人ではなく同じクラスに所属する猫型ロボットが彼も含めて6人。

 

「ドラメッドがハイドラを呼んで来てくれると良いんだがな」

 

「まったく、ドラリーニョのせいでこんな目になったんだぞ」

 

「えっ??そうだっけ〜??」

 

「ドラリーニョに言っても無駄ですよキッド、もうしでかしたことを忘れていますからね」

 

 彼らがこうして船で漂流しているのは言動からも分かるように不本意な状況であり、なぜこうなったのかを語るには今日の朝まで時間を遡る必要がある。

 

 


 

 

 始まりはドラえもんズのみんながハイドラの部屋に訪れた事だった。特別に設立された研究室では触れてはいけないものも多いので友達を招くことは出来ない。

 

 そのためにキチンと自室も用意されており、少し広めのロボットマンションの一室がハイドラの部屋になっている。

 

「うわ、スゲーな!!」

 

「道具でいっぱいだ〜」

 

「同室の方は居ないんですか?」

 

 ロボット学校の生徒の多くは多人数で共同生活をおくるか、小さな部屋を一人で使うかの二択になっている。しかし、ハイドラの部屋は一人で使うにしては広々としている。

 

「研究成果に学校も期待してくれていまして、一応私一人で使わせて貰ってるんですよ」

 

「僕なんかジャイベエと一緒だからスネキチと一緒に寝る前にリサイタルに巻き込まれるのに……」

 

「ジャイベエの歌はひどいであるからな」

 

「あー、たまに騒音騒ぎが寮であるって言うのはそれか……おれの部屋に問題はねぇが一人で広い部屋使えるのは羨ましいな」

 

「おっ、これはなんだ?」

 

 寺尾台校長先生には本当に感謝ですとにこやかに笑っているハイドラに対し、少し嫉妬や羨望の視線が送られるが周囲には気になるものも多く、すぐに和らいで逸れていった。

 

「一応ここに在るものは調整は済んでいる道具なのでキチンと使えば問題はないですが、説明前にいじったりはしないでくださいね」

 

 今日はハイドラが改造したり、新しく作った道具等を見せてもらう事になっている。それ以外にもお菓子に飲み物、ゲームなんかを持ち込んでいるので休みの間は泊まり込で遊ぶ気なのだろう。

 

「うわぁ〜なにコレ貯金箱かな?ボクの10円玉いれよっと!!」

 

 ハイドラの注意も聞かずに既に道具の物色を始めていたドラリーニョは緑色をした黒い帽子を被った小さなロボットを手にしていた。

 

「マズイであ〜る!?入れちゃダメであ〜る!!」

 

「えっ?なぁに、()()()()()?」

 

 ドラリーニョは急に叫ばれた事でなんだろう?と不思議に思い、自身の名を呼んだ相手であるドラメッドの名前を呼びながら振り返った。もちろん、10円玉は入れ終えている。

 

「げっ!?」

 

「なんということを!?」

 

「ドラメッド逃げろ!!」

 

 報復やイタズラなどで使われる事のある道具は有名であり、みなが名前を呼ばれてしまったドラメッドを庇い逃がそうとする。ドラメッドも慌てて走り出そうとする。

 

「あ、ソレは大丈夫ですよ。ドラメッド、止まってください」

 

「ハッ?!え、とっとどわぁ!?」

 

 いきなり声をかけられて静止を勧められたドラメッドは理解が追い付かずにどうして良いのか悩み、自分でバランスを崩してその場で転んでしまった。

 

 その目の前には緑の貯金箱の様なロボットが視線の先におり、銃口を向けてニヤニヤと笑っている。 ドラメッドは反射的に逃げようとするがそれをハイドラが手で制する。

 

「これは『ころばしや』では無いんですよドラメッド、なので安心してください」

 

「ふぇ……違うであ〜るか??」

 

 そう言ってその場に居ても確かにドラメッドに対して銃口を向けたり、不気味な笑みを浮かべたり、目前まで飛んで驚かしたりはするがいつまでも転ばせにこない。銃を撃っても見当違いの場所に飛んでいっている。

 

「なんなんだコレは?」

 

「『ころばしや』ではなかったんですねぇ」

 

「えぇ、これは『ころばしや』を改造して作った【ころがしや】という虚仮威しの道具です」

 

「「「「「「【ころがしや】!?」」」」」」

「ガゥ!?」

 

 『ころばしや』と同じような形状をしており、名前を告げながらお金を入れることで起動する所までは同じである。

 

 腕につけられた銃を撃ちながら名前の者を追いかけるが転ばせる様な事はせずに、逃走者にギリギリで対処できていると錯覚させて、延々と逃げさせる。

 

「その名の通り、相手を手のひらで()()()()()笑う、イタズラやドッキリ向けのジョーク道具です。まぁ、慌てて逃げてドラメッドの様に勝手に転ぶこともあるでしょうがね」

 

「イジの悪い道具であ〜る!!」

 

「3回転べば終わりの『ころばしや』よりも場合によっては酷い目にあいますね」

 

「一応逃げる方向は調整して命の危険とかは無いようになっているんですよ。勝手にころんだ際に危険な姿勢だと判断すると銃で姿勢を変えて守ってもくれますよ」

 

 そこまでするのであればイタズラをしないで欲しいと言うのが正直な所であるが疲れ切ったドラメッドは抗議する元気が無いようだ。

 

 そして、勝手に触ってドラメッドを疲れさせたドラリーニョは他の面々に注意をされており、『ころばしや』についても教えられている。

 

「これはなんですか大きな貝みたいですけど」

 

 みんなで気をつけながら改めて道具を眺めていると王ドラが不思議そうにそれを持ち上げていた。

 

「あぁ、それは【ヤドカリハウス】です。『でんでんハウス』の改造品です」

 

 『でんでんハウス』、でんでんむしの殻の形をした道具であり、お尻につけると伸縮して中に入ることが出来る道具だ。外で何が起きても平気で、中はとても快適になってる。

 

「ヤドカリということはこれは背中に乗せれば良いのですか?他に変わった部分はあるんですか?」

 

「基本的には変わりませんね。外敵排除にイソギンチャク型のアームでも付けようかとも思ったんですが重くなりすぎてしまって」

 

 どうやら見た目とつける位置が違うだけで『でんでんハウス』となんら変わらないらしい。それでも道具の中には柄が違うだけで人気や値段が違う物もあるので王ドラもそこまでおかしくは思わずに形を観察していた。

 

「これはポーチか?少し可愛らしいデザインだけど」

 

「おれらが持つにはちょっときついな……何か入ってんのか?」

 

 白を基調としたデザインで肩からかけられるようになっている。羽やハート、十字、可愛くデフォルメされているヘビの模様が入っている。

 

「あぁ、それは【ナースさんポーチ】です。『お医者さんカバン』から着想を得た道具でして、あちらが治療目的に対し、こちらは看病用の道具です」

 

 実際のナースの仕事とはズレているがあくまでイメージとして分かりやすいからつけたそうで、その人の看病に必要な道具がなんでも出てくるそうだ。

 

「へぇ、便利なんだな」

 

「まぁ、おれたちはロボットだから使うことは無いわな」

 

 それでも人間だけでなく動物とかの看病も出来る様になっており、利便性はかなりあるだろう。

 

「ねぇねぇハイドラ!!このクラッカー食べても良い?」

 

「ドラリーニョ!!勝手に触ってはダメであ〜る!!」

 

 先に酷い目にあったばかりのドラメッドがドラリーニョの行動を直接みているようで抑えている。にこやかなドラリーニョと疲労のうかがえるドラメッドと対照的な姿には周りから同情の視線が送られている。

 

「あぁ、それは食べても大丈夫ですよ。特に危険はない道具なので……」

 

「やったぁー!!あむあむ、ん??」

 

 喜んでバクバク食べていたドラリーニョであるが、何か口の中の感覚やお腹の中に違和感を感じ取り動きが止まる。そしてなにやら口元を抑えてムゴムゴしている。

 

「どうしたであ〜るか?ドラリーニョ?大丈夫なのであ〜るか?!」

 

「ドラメッド、それは……」

 

 様子がおかしい事に気がついたドラメッドは道具の効果とかを疑う前にドラリーニョが喉にでもつまらせたのでは無いかと慌てて背中をさすり始めた。ハイドラの声かけにも気付いていないようだ。

 

「パン!!」

 

 ドラメッドが何も喋ろうとしないドラリーニョに焦って口を開かせたその瞬間、大音量でパン!!と音が鳴り響き、口の中から紙吹雪や紙テープが降り注いだ。それを超至近距離で喰らったドラメッドは目を回して倒れている。

 

「あ〜ビックリした!!」

 

 口から大音量と紙吹雪が飛び出した張本人はケロッとしており、ドラメッドが寝てるー!!と楽しそうに笑っている。

 

「あれはなんなのハイドラ?」

 

「あれは【食べるクラッカー】だよ。食べることで発動するパーティ用のクラッカーで音の大きさや紙テープ、紙吹雪の量は食べた量に比例するんだ」

 

 食べすぎると食べた本人もショック死してしまうので一箱が一人が食べて良い上限と同じにしているそうだ。心臓が弱い人やショックを受けやすい人は使わないようにと注意書きもされている。

 

「ドラメッドは大丈夫でしょうか?」

 

「覗き込もうとしてたからダメージは大きいけど、ドラリーニョの食べた量的に危険ではないから直ぐに起きますよ。ほらっ」

 

「うぅ、頭がクラクラするであ〜る。あぁ、もうドラリーニョ!!人を散々驚かせて、わがはいいい加減怒るであ〜る!!」

 

「えぇ、ボクが悪いの!?ボク、クラッカー食べただけだよ!!」

 

 ドラメッドがドラリーニョに怒り心頭な様子で話している。面倒見の良いドラメッドにしては珍しく本気で怒っているがドラリーニョは自分が悪いと思ってない様でいつまでも終わらず言い争っている。

 

「遊びに来たのにあんな感じだと……」

 

「バウワウ」

 

「とはいえ間に入るのも中々大変だぜ?」

 

 みんながどうしようかと遠巻きに見守っているとなにやらハイドラがひみつ道具の山から何かを見つけ出して、それを二人の所に向かわせた。

 

「そもそもドラリーニョは……!!」

 

「そうじゃなくて…うぅう〜……!!」

 

『ラララ~〜〜ドラリーニョは悪くない〜〜〜音をワザと出したわけでも〜〜驚かそうとしてたわけでもない〜〜ドラメッドの早とちり〜〜ハイドラが声をかけてるのにも気付いてない〜〜ラララ~〜〜』

 

 

 部屋の中にとても美しい声が響き渡り、その声は怒られているドラリーニョを擁護するものであり、声の聞こえる方向からは証拠を示す写真や映像も映されている。

 

「わ〜やっぱりボク悪くないじゃん。鳥のお姉さんありがとう〜!!」

 

『ラララ~私は〜【潔白セイレーン】〜〜清き者の味方〜〜』

 

 声の主は半身半獣型のロボットで鳥の羽根を持つ女性型のロボットだ。その声はもちろん姿も美しく、ドラえもんズの面々も歌う姿をじっと見ている。

 

「その子は自分で名乗った通り【潔白セイレーン】と言って、清廉潔白な人の味方となり擁護してくれるんだ。ただし自分が悪いのに擁護を頼むとその人の罪という罪を暴露するように出来てるからね」

 

 今出てきているのは鳥型のセイレーンだが、もう一種類魚型のセイレーンもおり、どちらも機能は変わらない。

 

「怖っ!?」

 

「暴露ってどこまで?」

 

「些細な事まで余すことなくだからね。客観的に見て自分が悪くないと確信が持てないと使えない道具かもね」

 

 歌声自身にも鎮静効果などがあり、ドラメッドも既に落ち着いており、酷い目にあってばかりで少し八つ当たり気味であったとドラリーニョに謝罪し、仲直りしている。

 

「なんか遊べるような道具って無いの?」

 

「いくつかあるけど、この部屋で使える物は少ないかな?」

 

「ちぇっ、つまんねぇの」

 

「だからコレを使うんだ。みんな少し離れていてほしい」

 

 ハイドラの指示に従いみんながハイドラのいる壁から離れる。そうするとハイドラは手に取ったテープ型の道具を壁の下の方にくっつけ、向かいの壁に向けて伸ばしていき、貼り付けた。その瞬間、壁が消え、向こう側には何処までも続く水平線が現れた。

 

「おいおいおい!!これはなんだ!!」

 

「スゲーな!!一面水じゃん」

 

「これは『地平線テープ』を基にして作った【水平線テープ】だ。本来なら水平線は海と空の境界線だけど、水の設定は真水になってる。異次元空間を四次元的に広げていて、果てもなければ底もないから溺れない様にだけ気を付けて。それとテープが切れたら出れないから出入りの時は慎重に……って聞いてないね」

 

 一部の面々は既に楽しそうに泳ぎだしており、とっくにテープの向こう側へと行っていた。

 

「まったく、いくつか船系の道具と水遊びが出来る道具を浮かべといてっと、ドラメッドは……行くわけないですね」

 

「うぅ、水は大の苦手であ〜る……」

 

 水が苦手であるドラメッドが水しかない空間に行くわけがなく、水の中で楽しそうに遊んでる面々を見て、信じられないといった視線すら送っている。

 

「まぁ、他にも道具はあるし説明書もあるからドラメッドなら好きに使っても良いよ」

 

「え、なんでわがはいだけ?」

 

「ドラメッドと王ドラ辺りなら信頼出来ますからね。そしてあれだけ楽しそうに遊んでれば特別扱いしても文句は言わないでしょう」

 

 水上に船を浮かべ、水で建物や細工を作り、ボール等を投げあい、ハイドラとドラメッドの様子などこれっぽっちも確認していないようだ。

 

「揃いも揃って楽しみおって」

 

「羨ましいなら泳げるようになるしかないですよ。っとすみません電話がかかってきたようてす」

 

 会話の途中で何かに気付くとハイドラは自身の四次元ポケットの中から電話を取り出してかけてきた相手と何かを話している。

 

「すみません。みなさん、遊ぶの中止にしてもらっても良いですか?緊急の要件で人手の足りないロボット病院に出向かなければ行けなくなり……」

 

「そりゃないぜ」

 

「もう少し遊べないのか?」

 

「流石に私がいない状態で遊んでるのは……後日の埋め合わせはします」

 

「えー、他の道具はイジらないからよぉ……もうちょいこの海で遊ばせてくれよ」

 

 電話先の要件はかなり大事なようでハイドラはチラチラと時間を確認しながらみんなを説得している。仕方がないと諦め、ハイドラと一緒に他の面々を説得してる者もいるが中々に譲ってはくれない。

 

「……わかりました。念のため他の道具は片付けてから行きます。それと『カチンカチンライト』これでテープは補強しました。くれぐれも気を付けてくださいよ」

 

 一番大変なのが水平線テープが切れる事だ。目印の何もない海の上で出入り口が消えればいともたやすく異次元の迷子だ。それを防ぐために最低限の処置を施すとハイドラは『どこでもドア』をくぐり何処かへと行ってしまった。

 

「まぁ、テープを切らなければいい話だしな」

 

「部屋を汚すのもダメですからね」

 

 ワガママを許してもらっている状況のため、各自が気を付けて遊ぶように心がけていた。だが、遊び続けているとどうしてもエスカレートしていくものである。

 

「オラッ!!」

 

「なんの!!」

 

「シュート!!」

 

 派手にボールを飛ばし合い、ドラリーニョが思い切り蹴り上げると水面で跳ねてそのまま水しぶきを伴いながら部屋の中へとボールが落ちていった。

 

「うひゃあ!?みずこわい!?みずこわい!?」

 

 部屋中がびしょ濡れになっており、なかまで水が来ると思ってなかったドラメッドが大慌てで逃げ出していた。

 

「ごめん、ドラメッド……」

 

「おい、ドラリーニョ!!早くボール取ってこいよ!!」

 

「うん、今行く!!」

 

 ドラリーニョはボールを探し出すとそれを蹴って海の方へ戻す、そして自身も向こうへ戻ろうとする時、張られているテープの事をすっかり忘れていた。

 

「うわッ!?」

 

「ドラリーニョ!?」

 

 やったか!?とみなが驚き声を上げる。しかし、ドラリーニョは転んだだけでテープは無事だった。良かったとホッと周りがため息を吐いている。

 

「イテテ……もう危ないなぁ。これじゃま!!」

 

 ドラリーニョはそのテープの存在と共に重要性もすっかり忘れていた。テープを鷲掴みにすると思い切り引っ張った。テープ自体は固められており、千切れる事はなかった。しかし、水で濡れた壁紙が弱っていたのかテープごと剥がれ落ち、出入り口が解除された。

 

「あ!」

「バカッ!!」

「え??」

「嘘でしょう……」

「ガウ?!」

「まじかよ……」

「あれ?」

 

 

「「「「「えぇえええええ!!??」」」」」

 

 

 


 

登場したひみつ道具

 

 

『ころばしや』

 

背中の穴に10円入れて嫌いな相手の名前を言うと、確実に3回転ばせてくれる。取り消すときには100円取られる。お金を入れた本人以外が名前を呼んでも反応する。銃で撃ったものに当たると転ぶので、だれかがかばう事も可能だが、対象の人物を3回転ばすまでどこまでも追いかけてくる。

 

 

『でんでんハウス』

 

この中に入ってしまうと、外で何が起きても平気。エアコン付きの快適な住まい。まず、おしりをデンデンハウスの吸排出口に押し付ける。すると、吸い込まれながら伸縮機によって小さくされる。転がされたりしても中はいつも水平に保たれ、壁のパネルスイッチ(エアコン、カーペット、スピーカー、ベッド)を押せば、4つの設備が出てくる。

 

 

『お医者さんカバン』

 

どんな病気でもピタリと当てるカバン。未来の子供がお医者さんごっこに使っている。レントゲンを撮ることも可能で、顕微鏡の機能もあり、手のひらのバイ菌を見る事ができる。仮病かどうかも分かる。宇宙からやってきた未知のウイルスを退治したり、人間以外でも未確認の動物の病気を治す事もできるが、治せるのは簡単な病気だけ。病診器(聴診器)をあてると病気を診断し、病名や原因がモニターに映しだされる。文章は漢字とカタカナで表示される。診察が済むと、注射器の形をした液体の薬や栄養ドリンク、毛布など必要な物を処方してくれる。のび太の頭に当てて、カバンは「ノウミソタリナイ」と診断した。

 

 

『地平線テープ』

 

このテープを使うと、地平線を作る事ができる。部屋の壁と壁の間に張ると壁が消えて何も無い地平線が広がっている世界へ通じる。ただし、テープによって作られた世界は特別な場所で、地面と空がある以外は星や太陽などが一切なく、テープが切れると壁は元の壁へ戻ってしまい、二度と元の世界へ戻れなくなる。そこは異次元空間なので『どこでもドア』も使えない。

 

 

『カチンカチンライト』

 

このライトの光を当てると、水や煙などの形の無い物を5分間固める事ができる。または光を当てた対象を硬くすることが出来る。

 

 

『どこでもドア』

 

行きたい所を頭に思い浮かべてドアを開くだけで、どこへでも行く事ができる。行き先受信ノブを握ると、頭に浮かべた行き先をノブ内蔵のコンピュータが読み取る。そして、宇宙地図の中から行き先を間違いなく探し出し、行き先の空間を歪曲装置が引っぱってきて、こちらの空間と向こうの空間がドアで接続される。ただし、10光年以上離れた星や、『地平線テープ』などで作られた特別な世界、地図に入力されていない場所には行けない。超空間にバリアーが張ってあると、ドアを通過できない。また、トイレや風呂など他人に見られたくない場所は、プライベートロックが役に立つ。個室に限るが、自分のどこでもドアに、来られたくない場所を入力すると、連鎖ユニットにより他のどこでもドアに指令が届き、ロックされた場所へは行けなくなる。学習機能があり、移動しながら地形データを記憶させる事も可能。オプションパーツもあり、ドアノブに付ける事で時間移動を可能にするダイヤル装置がある。ドラミの持つドアは、大きい物でも入るように自動的に伸び縮みする。この道具の発明により、銀河SL天の川鉄道が廃止になった。斜めの状態でも使用でき、通常通りドアの枠が境目になるが、どちらかで障害物があると、それ以上は倒れない。『昆虫探知カード』をドアに貼り付けると、描かれている昆虫がいる場所に繋がる。強引に突き破っても行けるが、壊れる。

 

 


 

オリジナル道具

 

 

【ころがしや】

 

『ころばしや』の改造品。『ころばしや』と同じような形状をしており、名前を告げながらお金を入れることで起動する所までは同じである。腕につけられた銃を撃ちながら呼ばれた者を追いかけるが転ばせる事はせずに、逃走者にギリギリで対処できていると錯覚させて、延々と逃げさせる。その名の通り相手を手の平で転がす、悪戯道具。ころばし屋が有名だからこそ成り立つ、見た目を利用した半分ジョークグッズである。そのため、『ころばしや』だと勘違いして逃げた結果、勝手に転んだりしても『ころがしや』には関係の無い話である。ただし、危険な転び方の場合は助けてもくれる。

 

 

【ヤドカリハウス】

 

『でんでんハウス』から着想を得た道具である。『でんでんハウス』と違う点はあまり無い。ただおしりではなく、背中にくっつくようになっている。外的排除にイソギンチャク型のアームをつける予定だったが重くなりすぎて辞めたという開発秘話がある。

 

 

【ナースさんポーチ】

 

『お医者さんカバン』を元にして開発された道具。『お医者さんカバン』が治療目的であるなら、これは看病を目的とした道具である。本来のナースの仕事とは少しズレている部分もあるが、これを身につけることで治療対象の看病を完璧に行うことができる。

 

 

【食べるクラッカー】

 

食べる事で発動させることが出来るパーティ用のクラッカー。見た目は普通のクラッカーであり、少し甘じょっぱい味で、付随品でクリームなどが何種類か存在する。食べるとお腹の中に何かが溜まっていく感覚があり、口を開くと口の中から火薬に似た音と共にテープや紙吹雪が飛び出る。音の大きさやテープや紙吹雪の量は食べた量に比例し、食べすぎると自分が発した音にショックを受けて気絶する可能性があるので注意が必要。一箱が許容量の限界であり、何箱も食べると命に関わる。

 

 

【潔白セイレーン】

 

半身半獣のロボット型の道具であり、鳥型と魚型がある。無実の罪で疑われている人を歌を歌いながら擁護してくれる。また歌声自体に鎮静効果が備わっている。罪を犯しておきながら『潔白セイレーン』に頼むと、そのことが暴露され、他の罪も次々に歌われる。擁護ロボットに見せかけ尋問用ロボットではないかと一部では言われている。

 

 

【水平線テープ】

 

『地平線テープ』の改造品。テープをくぐった先は波一つない静かな海が永遠と広がっている。海と称したが設定次第で水は変更可能である。

 

 

 

 





なんか道具を考えるのってひたすらに楽しいです。こんなのあれば良いなは二次創作の醍醐味ですからね。まさにあんな事いいなのテンションで色々と考えています。そのため矛盾点を見つけたり、この場合はどうなるの?といった疑問がありましたら感想などでお教えいただけるとありがたいです。

同じ道具が登場した際に紹介を載せるのが面倒、とはいえ何を書いて何を書いてないか把握するのも少し大変。それに戻って確認させるのは悪い気がする。ちょっと書き方は試行錯誤しながらやってるので意見とかあればお気軽にお声掛けください。

話の展開の都合でついついドラリーニョを便利に使ってしまいますね。物忘れが激しいと言うのを利用して問題を起こさせやすいけど、それに頼ってばかりじゃダメですね。決してドラリーニョが嫌いとかではないですし、馬鹿にしたい訳では無いのはご理解いただけると助かります。

むしろ好きな方です。作者の中でのランキングだと、ドラメッド、ドラリーニョ、ドラニコフ、ドラ・ザ・キッド、エル・マタドーラ、王ドラですね。(ドラえもんはあえて除外しています。そして皆さんは誰が一番好きですか?)

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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水平線の漂流記?!中編



前編と後編で終わる予定でした……予定というのはいつも何処かへ飛んでいくものです。

少しお試しで誰が話しているか分かりやすくなるかな?と会話の「  」の前に名前の一文字を入れてみました。今回は人数が多い所でやってます。お試しなので評判次第で続行か戻すかを決めます。

ドラえもん    →え
王ドラ      →王
ドラリーニョ   →リ
エル・マタドーラ →エ
ドラ・ザ・キッド →キ
ドラニコフ    →ニ
ドラメッド三世  →メ


初めの文字を取ると7人中5人が『ド』になってしまうのでこんな感じになってます。エル・マタドーラは『マ』にしようかと悩んだけどひらがなとカタカナだ違うから良いかな?って事で先頭の『エ』になりました。




 

 

 

 無限に広がる海の上を彷徨うことになった6人。幸いな事に波も海流も無いのでじっとしていれば位置がズレることはない。

 

 だが出入り口が消えて目印がない状態で待ち続けているというのはどうしても不安が募る。それ故に言い争いが絶えずにいたが、無駄に体力を消費するだけと学習し、今では喧嘩はおさまっていた。

 

え「試してみたけど『地平線テープ』と同じで『どこでもドア』も他の移動系の道具も使えなさそう」

 

キ「やっぱ助けを待つしかないな」

 

 待つにしてもどれくらいかかるか分からないので各自で遊びに使ってた船等の設備をそれぞれ確認する。

 

王「食べ物は『絶対安全救命いかだ』からお弁当が取れます。水も真水なので煮沸さえすれば問題なく飲めますね」

 

キ「『救命イカダ』のテントで休めるか……『探検ごっこ用蒸気船』や『ほどほど海賊船』にも部屋はある。やろうと思えば『水加工用ふりかけ』で造れるしな」

 

リ「マタドーラがもう寝ようとしてるよ〜」

 

エ「待つしか出来ないんだから良いだろ。シエスタしてるから何かあったら声かけろよ」

 

王「まぁ実際休むのは悪くないですからね。本当に長引くようなら交代でスイッチをきるなども視野にいれないといけません」

 

 退屈というのは長引くとかなり辛くなる。とはいえ遊んでるほど体力を無駄に使う余裕はない。なんとも微妙に面倒な事だ。

 

 


 

 

 一方その頃、ドラリーニョが撒き散らした水から逃げ惑っていたドラメッドはテープがなくなっている壁に気付き、顔を青くしていた。

 

「まずいであ〜る!!早く出入り口を作らなくては……」

 

 ドラメッドは辺りを見渡すと【水平線テープ】の本体を探し出し、それを手に取る。しかし、そのテープが貼られる事はなかった。

 

「テープが水に浸かってシナシナであ〜る!?ハイドラに連絡をいれなくては……」

 

 ハイドラの行き先は分からないので電話を掛けるしか連絡手段はない。ハイドラが出てくれるのを祈りながら必死に電話をかけ続けるドラメッド。

 

『ドラメッドですか?何か問題が起こりましたか?』

 

「大変なのであ〜る!!テープが!みんなも!ドラリーニョが!!」

 

『落ち着いてください。なんとか山場は乗り越えたので少ししたら一度戻りますから』

 

 忙しいのか中々ハイドラが電話を取ることはなかったが3度目にようやく繋がり、ドラメッドが早口でまくしたてるように状況を伝える。

 

 そしてハイドラはドラメッドの慌てようから何かあったのは確実だろうとどうにか時間を作り、『どこでもドア』で家に戻ってきた。

 

「ドラメッド、状況を1から教えてください」

 

「わ、分かったであ〜る」

 

 そこからは遊んでた時の様子から水で濡れた部屋について、そして問題のテープが外れた際の状況をドラメッドから聞き出した。

 

「テープは万が一外れた時の為に置いときましたよね?」

 

「それが水で濡れてこの有様であ〜る……」

 

 ドラメッドが手に持っているテープは水で濡れてシワシワになっており、粘着力等は期待できそうにない。

 

「多少は水を弾く様にしていましたが、貼られていない状態で完全に浸かったのが不味かったですね…………やっぱり道具の内部にまで水が入り込み本体が機能不全を起こしてます」

 

「なんとかなるであ〜るか!?」

 

「修復はちょっと難しいです……それでも繋がってる空間は把握してるので手はあります」

 

 それを聞いてドラメッドが安心したようで笑みを見せるがハイドラの表情は未だに優れない。

 

「その手というのもかなり曖昧な物です。他にも問題があり、このテープは販売用ではなく私用の半分実験場なんです。道具の影響を経過観察をするために出入り口が無いと内部空間の時間は早く進むんです」

 

「ということは?」

 

「何処に繋がるかは分かりませんが出入り口を作らないと何日、いえ下手をすれば何ヶ月も何年も待たせることになります」

 

 急ぎましょうとハイドラが道具の残骸を手にしたまま自身の研究室に向かう。その後をドラメッドも慌ててついていくのであった。

 


 

 

キ「いつまで待っても迎えが来ねぇ……」

 

王「ハイドラの用事も緊急性が高そうでしたし、時間がかかるのかも……」

 

キ「それにしても、遅すぎだろ……」

 

 何もない限りのない海の上でいつ来るか分からない助けを待つというのはかなり辛いものだ。1秒がどこまでも長く感じ、終わりの見えない時間に精神が削られる。

 

え「おーい、ご飯取ってきたよ〜」

ニ「ガウガウ」

 

 太陽も星も無く、ずっと明るいこの空間では時間がどれだけ経ったか分かりにくいが、入ったのが昼くらいで既に夕飯を食べるくらいに時間が経っている。その事実には少なからず焦りはあるだろう。

 

王「さて、食べながらというのは少し行儀が悪いですが話もしていきましょうか」

 

キ「まぁ、食ってる時の方が落ち着いてられるからな」

 

 変に頭を回すよりはながら作業で普段の雑談の様に話している方が気は楽だろう。

 

王「それでこれからどうしましょうか」

 

キ「どうするたって、助けを待つ以外に何も出来ないだろ?」

 

エ「待つにも色々あるってことだろ」

 

リ「いろいろ?」

 

え「ここで過ごす上でのルールとか、何か手はないかこっちでも探るとか?」

 

 今は何も問題が起きていないがここにいるメンバーは常に一緒に生活してきた訳では無い。それ故に共にいる時間が長くなればぶつかり合う部分も出てくるかもしれない。

 

王「ドラえもんの考え方でだいたいあってます。それに加えてこの空間は過ごしやすいとは言えませんし、何かしら改善するための案でも良いですね」

 

ニ「バウ?」

 

王「例えば……ロボットでも休息は必要ですがこの空間は常に明るくて寝にくいです。なので休みやすい様に『暗くなる電球』を船内にセットするのはどうでしょう?」

 

エ「そりゃあ良いな!!」

 

 王ドラが例を出すとそこから先は改善案やルール等をみんなで口々に言い始めた。

 

え「食事を取ってくるのは交代制で良いかな?」

 

ニ「ガウガウ」

 

キ「見張りと被らないようにしないとな」

 

エ「水もやらないといけないか」

 

王「いえそちらは『海水コントローラー』と『水加工用ふりかけ』で簡単に出来るので毎日やらなくても大丈夫かと、この後でみんなでやりましょう」

 

え「そう言えば時間ってどうなってるのかな?」

 

キ「正確なのって分かるのか?」

 

リ「時計の表示めちゃくちゃだよ」

 

エ「お前のそれ電波式だろ?」

 

王「そうですね。途中から経過時間をはかり始めましたけど外の時間はわかりませんね……入ってから大体ですが10時間、既に夜ですね」

 

え「そんなに経つんだ……」

 

ニ「ガウゥ」

 

王「私達が此処に居るのは知られているんです。辛抱強く待ちましょう」

 

 そうして話し合いの中で出たルールや当番などを確認し、当面の順番などを確定してから当番以外の者は休息をとった。テープが切れたばかりの時に起きた喧嘩以外は問題なく初めの一日が終わりを迎えたのだ。

 

 


 

 

 壊れたテープを手に研究室にやってきた二人であるが、ドラメッドはハイドラの邪魔にならないように見守ることしか出来ない。それがもどかしく、余計に焦燥感に襲われ、ついつい作業中のハイドラに声をかけてしまった。

 

「ハイドラ……どうであるか?」

 

「同じ空間に繋がるテープは問題なく作れます。しかし、彼等がいる場所に出入り口をひらける訳ではありません。何度も繰り返しで確認作業をする事になります」

 

 作業をしながらドラメッドの疑問に答えるハイドラ自身もそれがどれだけ厳しい事かを思い、苦い表情を浮かべている。

 

「どうしてダメなんであるか?」

 

「同じテープであれば同じ場所に貼れば同じ場所に繋がります。それは無限に広がる異空間とこちらの世界を同期させているからです。例えるなら大きな紙の上に小さな紙を画鋲で繋ぎ合わせる様な物です」

 

 そう言うとハイドラは空いてる机の上に白色の大きな画用紙を広げ、その上に分かりやすいように黒い紙を小さく切り取って画鋲で留めた。

 

 


 

 

 

       ■

 

 

 

 


 

 

「この黒い画用紙がこちらの世界、土台の白い画用紙がテープで繋がる異空間。実際には白い画用紙は永遠と広がってます。ここまでは良いですか?」

 

「なんとなくではあるが理解してるであ~る」

 

「それで十分です。前のテープが壊れたのは画鋲が壊れたと思ってください。説明の為に退かしはしませんが、先に落とした紙は動いてしまい使い物になりません。そして同じ空間に繋がるテープを作るというのはこの白い画用紙に新しく黒い紙を載せる作業です」

 

 そう言ってハイドラは白い画用紙の上に手を持っていくと新たに黒い紙を落とし、紙はヒラヒラと揺れて落ちていった。

 

 


 

 

 

       ■

 

   ◆    

 


 

 

「この様に同じ画用紙に載っても前のテープと新しいテープでは違う場所になります。それは無限に広がる空間に目印なんて無いからです。座標なんかは同期させた情報から作り出す事は出来ますが、同期させた位置が違うなら座標もその分ズレるので意味は無いです」

 

 そもそも前のテープの修復が難しいと言った理由も本体が壊れた時点で同期が外れてしまうからである。本体を直したところでそれは壊れた画鋲を直すだけで画鋲を付け直す事にはならないのだ。

 

 それならば新しく作るのとなんら変わりはない。いや、ボロボロになってしまった物を直すよりも新しく作る方が早いぐらいだ。

 

「テープを作ったら異空間と同期させ、出入り口を作っては道具を用いて彼等に呼びかけます。応答が無ければ同期を外し、再度同期させてからまた同じ作業を行います」

 

「繋げて探すのは……いや、それは無謀であるか」

 

「無限に広がる空間から彼らを探し出すのは宇宙で当もなく一つの砂粒を見つける様な物ですからね……出来ました!!」

 

 同期させる探し方でさえも効率的とは決して言えない。それでも他に良い方法がない以上は仕方がない。そう結論づけているとハイドラがテープを完成させた。

 

 その形は前のテープとは少し違い、本体は機械に接続されていたり、明らかにテープの長さが増している。

 

「同期接続・解除に加えて呼びかけは私が行います。ドラメッドは順次そちらの壁にテープを貼り付けと剥がす作業を!!」

 

「分かったであ~る!!」

 

 直ぐにでも同期操作を行うためにこの形態となっており、テープの取り出し口のすぐ近くは綺麗に片付けられてテープを貼りやすくなっている。

 

「明日までは休みですが、救出を考えれば今日中には見つけたい所ですね………」

 

 


 

 

 

 

王「さて見張りを始めますか」

 

リ「食事取ってくるねー!」

 

え「ドラリーニョ、今からドラニコフは休むから少し静かにね」

 

リ「そうだったそうだった。ごめんごめん。それじゃ行ってくるね」

 

 ドラリーニョは声の大きさを指摘したドラえもんに小声で謝るとドタバタと足音を立てて『絶対安全救命いかだ』の方へ走っていった。それを残された二人は苦笑して見送った。

 

王「ドラえもんは当番では無いですよね?」

 

え「心配だからドラリーニョの付き添いついでに水汲みをぼくがやっとこうかと思って、汲んでる分が無くなりかけてるんでしょ?」

 

王「それは助かります。ありがとうございます」

 

 ルールを作り、救けを待つ時間を少しでも良くした王ドラの判断は正解だった。もし決めていなければこれまでの時間で問題が幾つ起こっていたか分かったものじゃない。

 

王「これでもう2週間が経ちましたね。外の様子が分かりませんが、長引くようなら水汲みも当番化した方が良いですかね?」

 

 王ドラは先の事を考えるとしっかりとした方が良いだろうかと悩み、水の煮沸作業を始めたドラえもんに問いかけた。

 

え「うぅん、それなんだけど。ちょっとみんなイライラしてるみたいだから声かけてくれたらぼくがやっとくよ」

 

 ドラえもんは少し言いにくそうではあったがそう伝えた。すると王ドラも少し気まずそうにしていたが直ぐに切り替えて答えた。

 

王「それは……有り難いですが任せきりにしてしまうのは悪いので私もやりましょう」

 

 ドラリーニョは食事当番も忘れてないか確認が必要なので除くとして、ドラニコフも頼めばやってくれそうですかね?と二人での相談は進んでいった。

 

王「私も先程は少し迷惑をかけてしまいましたからね。まだまだ修行が足りません」

 

え「あれは仕方ないよ」

 

 新しいルール等の話し合いの際に些細なことから口論になってしまい王ドラ、エル・マタドーラ、キッド等の普段から争いがちな面々の関係がよろしくない状態になってしまった事件があった。

 

 いつまでこのままなのか分からないのに船を壊すような行為は憚られたのか暴れる事はなかったがそれがいっそうストレスになっている。

 

王「ドラえもんが間に入ってくれたおかげで大事にならなかっただけです。自分の考えをそのまま伝えがちなのは私の悪い癖です。結果的に不安を煽る様な時もあったでしょう?」

 

え「ぼくは正直、頭は良くないから色々と考える王ドラの事はすごいと思うよ。何かあってから対処するよりも起こるかもって身構えてた方が良いときもあるし」

 

王「それでも私はリーダー等に向いていないというのが良くわかりました。やはりハイドラはよく見ているんですね」

 

え「ん、ハイドラ?」

 

 王ドラは何かを思い出す様にここにいない友の名を出したが、急にハイドラの名前が出てきた事でドラえもんは不思議そうに聞き返した。

 

王「彼がクラスに転入した頃に私は嫉妬からよく絡みに行っていたでしょう?実は本格的にこのメンバーで遊び始めたばかりに頃に少し話をしたことがあったんです。その時に興味深い話を聞けたんです」

 

 王ドラとしては黒歴史……とまではいかないが少々恥ずかしい事ではあるようだが、話すことに問題はないようでその時の事をドラえもんに語り始めた。

 

 


 

 

 彼がクラスに転入するまではずっと私がクラスで一番の成績を誇っていました。学年でも一位であり、負けることなくそれを鼻にかけて天狗になっていましたね。

 

 えぇ、ドラえもんも疑問に思ったことでしょう。私も後で知ったんですが元々ドラえもん達が居た子守用ロボットだけを集めた学科と私達のクラスでは採点方式なども違うそうです。

 

 それで学年成績等も同じランキングに載ることは無かったので私は学年一位だったんです。とても優秀だとされていた彼の事も当時は噂でちょろっと聞く程度でした。

 

 優秀だと聞いた名前だけどあの時まではそこまで気にしていませんでした。同じネコ型なのかぐらいの認識でした。そして彼の転入してから最初の大きなテストの時です。私が彼にテストの順位で負けたのです。

 

 後からこのクラスに来た生徒、それも同じネコ型ロボットにテストの点で負けた。その時のショックは今でも忘れません。結果が書かれた紙を呆然と見つめて私はその場に固まっていました。

 

「おやおや?いつも一番だと威張ってた王ドラ君が二番じゃないかぁ?!」

 

 その様子を近くで見ていたエル・マタドーラが意気揚々と私の事をからかいに来てわざとらしく驚いた演技などもしていましたがその時の私は気にもとめていませんでした。今思い返すと少し腹が立ってきましたね。

 

 私は一位の欄に書かれていたハイドラの名前をジッと見つめていたんです。そして殴り込むような勢いで私は彼の席まで駆け寄りました。

 

「……貴方がハイドラですね?」

 

「あぁ、貴方は王ドラ君でしたね。何か御用ですか?」

 

 私は彼が気になっていたのに相手の平然とした態度が煽られているかのように感じて私は余計に苛立ちを感じていました。

 

「たった一度のテストで勝ったと思わないでください!!胡座をかいて座っている様なら一位の席なんて直ぐに奪い返して見せます!!覚悟していてください!!」

 

 クラスに響き渡るどころか廊下の外にまで聴こえていたらしい私の宣戦布告はドラえもんも覚えているでしょう?

 

 それから私は何かと授業やテストでハイドラを敵視して勝負を仕掛けていました。テスト前なんかはそれこそゾンビの様な風貌になるまで勉強漬けの日々でした。そしてそれでも勝てませんでした。

 

 負ければ負けるほどに敵意は強まっていきました。ですが授業の内容によっては協力せざるを得ない時もあります。そういった際に足を引っ張るような事は憚られ、冷たく接しながらも共に作業し、彼の実力は認めざるを得ないと少し考え直す機会があったのです。

 

 グループワークでも同じネコ型の中でも体格が同じであるこのメンバーで一緒にされる事もあったでしょう?私とハイドラに限った話だと先生に手伝いを頼まれて呼ばれた先で出会った事もありました。

 

 そうしてよく顔を合わす私達が話すことも増え、今では揃って遊ぶような仲になりました。っとそうでした話がけっこうズレていましたね。

 

 今では喧嘩はすれど確執なんてものはない仲です。それでも遊び始めたばかりの頃にはまだ私の思いは整理しきれていませんでした。

 

 そんな折に少し話をする機会があったんです。私が教室に忘れ物をして取りに行くと先生とハイドラが話していたのを聞いたんです。

 

「いやぁ、ハイドラ君は本当に優秀だねぇ。手伝ってもらって本当に助かったよ」

 

「恐縮です。また何かあれば声をかけていただければ出来る限り手伝わせていただきます。ですが予定も多く……」

 

「分かっとる分かっとる。君ほどのロボットならばあちこちから引っ張りだこだものなぁ。それが無ければ来年の学級委員も頼めたんだが、本当に惜しい」

 

 その時は私が学級委員でした。委員会や係を決めた際にハイドラは居ませんでした。それに忙しいハイドラは係や委員会に入る気はなかったそうです。それでも先生の口調は私が認められてないようで落ち込みました。そんな時にハイドラがこんな事を言い始めました。

 

「いえ、そもそも私は学級委員等のリーダーには向いていませんよ。人を仕切ったり纏めるのは大変ですから。そもそも今の学級委員もとても優秀でしょう。私よりも向いていますよ」

 

「リーダー性ねぇ…君にも十分にありそうに思えるが本人がそう言うならばなぁ。ならば来年も王ドラ君に頼むことになりそうだの」

 

「えぇ、リーダー云々はさておいて、責任感が強く真面目な彼は学級委員に向いてますよ」

 

「ふむ、リーダー性は彼以上が居ると?」

 

「……口が滑りました。忘れてください」

 

「ふっふっふっ、面白そうな話ではあるが仕事を頼んでる身だし追求はしないでおこう」

 

 敵視していた彼から私を認めるような、擁護する様な発言が出てきたのは驚きでした。正直、私の印象はあまり良くないと思っていましたからね。

 

 そして同時にリーダー性では私以上の者が居ると暗に示している彼の言葉は引っかかりました。彼が先生の手伝いを終えて教室に戻ったのを確認すると私は彼に話しかけました。

 

「ハイドラ」

 

「王ドラ?また何か私に用事でも?」

 

「先程、先生からの学級委員の推薦を断わりましたね」

 

 盗み聞きしていた事を隠すことなく直球で私はハイドラに問いかけました。ハイドラは珍しく少し驚いた表情を一瞬浮かべていたのを覚えています。

 

「聞いていたんですか?そもそも推薦とは言えない世間話の延長線だとは思いますが、なにぶん忙しい身なので…」

 

「ならばその時に私を庇ったのは何故ですか」

 

 ハイドラがまだ話している途中でしたがそんなのお構いなしに次々と質問をぶつけていました。本当に失礼な事をしたものです。

 

「庇ったつもりはないですよ。王ドラはとても優秀なのを私は知っています。そして真面目でルールを守ることの大切さを理解している。場を仕切るのも苦ではないでしょう?」

 

「……優秀と言ってもいつも貴方に負けていますよ……あんだけ色々な事が出来て、周りならも認められてる…そんな貴方にリーダー性が無い?ふざけるな!!私を憐れんでいるんですか?!」

 

 ハイドラの言葉はとても信じられませんでした。先生は切り上げて気にしていないようでしたが適当な事を言って私をからかっていると感じ、叫びました。それでもハイドラは落ち着いていました。

 

「リーダーってどんな者だと王ドラは思いますか?」

 

「……周囲に認められた者ですか?指導者ってそう言う者でしょう」

 

 急に何を言いたいのか分かりませんでした。それでも咄嗟に考えついた答えを私は口にしていました。そこから先はしばらくハイドラの話を聞いていました。

 

「王ドラの答えも正解の一つです。たしか中国では孫子が将、率いる者に必要なのは『智』『信』『仁』『勇』『厳』だとあげていましたね」

 

「少し省きますが『智』は物事の本質を見抜き深く考える力、『信』は周りからの信頼、『仁』は思いやりの心、『勇』はそのまま勇気あとは決断力等、『厳』は信賞必罰と言った厳格さ」

 

「『智』は互いに十分あるでしょう。『信』は王ドラはこれまでのクラスでの時間、私はこれまでの実績、『勇』は決めたことをやり抜く実行力にも繋ります。私は研究、王ドラなら修行ですかね。『厳』も問題なく、騒ぐことはあっても不正を働くような事はしないでしょう?いつも周りに注意を促してる姿も見ますしね」

 

「そして飛ばした『仁』、これは注意から言い争いに発展しているのを見かけます。相手の気持ちに立って落ちついて考える事に留意すればさらに良くなりますよ」

 

 孫子の教えは私も少し聞いたことがあり理解している。ですがその後の話は聞けば聞くほどにぐらついていた心が熱くなっていきました。

 

「なんですか『智』なら成績は貴方が上でしょう?!『信』も貴方なら社会に通用する!!だから先生も貴方を押したんです!!『勇』だって『厳』だって勝ててるか分かりません……『仁』なんて指摘を否定出来ない……何なんですか?貴方は何を言いたいんですか?」

 

 下手なフォローなのかそれとも遠回しな攻撃なのかハイドラの言いたいことが私には分かりませんでした。

 

「それでさっき上げた項目って全部完璧にいりますか?」

 

「……は、はい?」

 

「『智』なんて借りれば良いでしょう?全くないのは困りものですがかつての将も自分で全部決めた訳では無いでしょう?あ、ダジャレではないですからね。『信』なんて後から幾らでもついてきますし、後からしかついてきません。それにリーダーとか関係なく信じられない相手とは関われませんし、リーダー云々以前の話では?」

 

「それならば信頼を損なわない行動の方が大事じゃないですかね。となると信頼を失わないにはどうなんだっていうのは『勇』や『厳』です。決めたことをやり抜き、自分にも厳しく、手本となる姿勢、これは必要でしょう」

 

「そして『仁』、これは言い方が悪かったですが注意してるのもその相手の為を思ってですから、貴方の優しさは周りにもきっと伝わってます」

 

「何もかも完璧である必要はないんですよ。それにやり過ぎだってダメです。『勇』、『厳』なんかは将の五危にそのまま繋がりかねないですからね。『仁』だってそうです」

 

 先までの話は何だったんだと言ったくらいに考え方が切り替わり、ついていけていませんでした。それでも次々と語られる彼の話には惹き込まれていました。

 

「王ドラは『信』を一番気にしていたようですが、私は『仁』が大事だと思っています。だからこそ私はリーダーには向いていません。なにより……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私ほど自分本意なロボットは居ないでしょうからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを聞いて私はなんとも言えない気持ちになりました。あれだけ劣等感を感じてしまう相手であるハイドラも自分を認めていないのです。

 

 彼が自分本位とはとても思えません。それなのにそう考える理由は何なのかと疑問に思えましたが、聞いてはいけない気がして聞けませんでした。

 

「それじゃあ、私よりもリーダーに向いてるとハイドラが思っているのは誰なんですか?」

 

「本人には内緒にしてくださいよ……ドラえもんです」

 

 そう、そこでドラえもんの名前が出てきたんです。えぇ、話し始めて少ししてから口止めされてたことを思い出しました。ハイドラには黙っていてください。そして彼になぜそう思うのか理由も尋ねました。

 

「そうですねぇ、頭が良いわけではないですが、何処までも優しく、他者の為に頑張る事が出来、駄目な所の線引は知っている。周りを失望させる事はないと思わせる。安心感の塊と言いますか、いざという時に頼れます……たまに心配になって支えたくなるのもある意味リーダー向きです」

 

 そんな話しをしたからかハイドラという相手の事をしっかり見るようになり、敵としての認識がへり、今のような関係に繋がっていきました。

 

 


 

 

「まぁ、そんな少し前の話をドラえもんが場を取り持ってくれたのを見て思い出したんですよ」

 

「恥ずかしそうに話してたけど聞いてるぼくも恥ずかしかったよ!それにぼくに内緒にって話だったのに、ハイドラと話すときにどんな顔すれば良いのさ?!」

 

「すみません。ですが口止めの事をすっかり忘れてまして……まぁ、そんな話があり、今日の事でドラえもんは確かにリーダーに向いてると感じたと言いたかったんですよ」

 

「そうなのかなぁ?自分では分からないけど褒められたのは嬉しいよ。っと水は出来たから持ってくね」

 

「えぇ、お疲れ様です。ドラリーニョは後は私が見ておきますから、運び終わったら休んでください。本来は休みなんですから、休む時はきちんと休む」

 

「はーい、それじゃあ王ドラも見張り頑張ってね」

 

 去っていくドラえもんを笑顔で見送り、ドラリーニョが後10分経っても帰ってこなければ様子を見に行こうと決めながら先程までの話しを自分の中でまた振り返る。

 

 『仁』を大切にしているとハイドラは言っていましたが、なんというかそれこそ絶対的な『信』をドラえもんに置いてるように私は感じました。

 

 話しながら思い返してみて気付きましたが、語った内容というか形がハイドラらしくない気がします。何処かちぐはぐというか、発言に矛盾が見られます。

 

 何か他に考えがあったのでは?伝えたい事が幾つもあってごっちゃに混ざったのでは?とちゃんと彼のことを知ったからこそ思います。

 

 自惚れっぽくて恥ずかしいですが私を励まそうとはしていたんだと思います。次に自分がリーダーに向いてない事を伝えようともしていました。そしてドラえもんについても話そうとしていたのに間違いはない。

 

 それら全てを同時に話そうとしたから、それら全てを同じ例えで話そうとしたから、それら全てに並々ならぬ思いがあったから、だからああなった。

 

「なんて、考え過ぎですかね?」

 

 きっと救けに来てくれるであろう友の事に思考を巡らせながらその日の見張り番の時間は静かに過ぎていきました。

 

「王ドラ!!食事取ってきたよー!!」

 

 いえ、少し煩いですかね?まったくドラリーニョの物忘れの激しさには困りものですね。そう感じながらも私の顔はきっとほころんでいるんでしょう。

 

 


 

登場したひみつ道具

 

 

『地平線テープ』

 

このテープを使うと、地平線を作る事ができる。部屋の壁と壁の間に張ると壁が消えて何も無い地平線が広がっている世界へ通じる。ただし、テープによって作られた世界は特別な場所で、地面と空がある以外は星や太陽などが一切なく、テープが切れると壁は元の壁へ戻ってしまい、二度と元の世界へ戻れなくなる。そこは異次元空間なので『どこでもドア』も使えない。

 

 

『どこでもドア』

 

行きたい所を頭に思い浮かべてドアを開くだけで、どこへでも行く事ができる。行き先受信ノブを握ると、頭に浮かべた行き先をノブ内蔵のコンピュータが読み取る。そして、宇宙地図の中から行き先を間違いなく探し出し、行き先の空間を歪曲装置が引っぱってきて、こちらの空間と向こうの空間がドアで接続される。ただし、10光年以上離れた星や、『地平線テープ』などで作られた特別な世界、地図に入力されていない場所には行けない。超空間にバリアーが張ってあると、ドアを通過できない。また、トイレや風呂など他人に見られたくない場所は、プライベートロックが役に立つ。個室に限るが、自分のどこでもドアに、来られたくない場所を入力すると、連鎖ユニットにより他のどこでもドアに指令が届き、ロックされた場所へは行けなくなる。学習機能があり、移動しながら地形データを記憶させる事も可能。オプションパーツもあり、ドアノブに付ける事で時間移動を可能にするダイヤル装置がある。ドラミの持つドアは、大きい物でも入るように自動的に伸び縮みする。この道具の発明により、銀河SL天の川鉄道が廃止になった。斜めの状態でも使用でき、通常通りドアの枠が境目になるが、どちらかで障害物があると、それ以上は倒れない。『昆虫探知カード』をドアに貼り付けると、描かれている昆虫がいる場所に繋がる。強引に突き破っても行けるが、壊れる。

 

 

『絶対安全救命いかだ』

 

どんな大嵐になっても、これに乗っていれば必ず助かる。

 

 

『救命イカダ』

 

使わないときは小さいが、いざというときに水に浮かべると大きくなる救命イカダ。

 

 

『探検ごっこ用蒸気船』

 

未来の子供が探検ごっこに使う、遊び専用の船。

 

 

『ほどほど海賊船』

 

見かけは立派な船だが、実はモーターボート。ボタンを押す事により、相手には当たらない「ほどほど大砲」が発射されたり、レースモードに切り替える事もできるが、故障すると実際に当たったりして程々ではなくなる。

 

 

『水加工用ふりかけ』

 

これを水にふりかけると、水を色々な物に変えられる。材質を変える粘土、スポンジ、鉄、発泡スチロールや、色を付けるペンキ、水に戻す水戻しなどがある。これで作った固まりは水と分離し、船や潜水艦を造ることもできる。『水ビル建築材』で建物を簡単に造ることも可能。

 

 

『暗くなる電球』

 

普通の電球とは逆で、この電球の光が当たった所は、暗くなってしまう。

 

 

『海水コントローラー』

 

これで囲んだ海は、波を静めたり、水をお湯にしたりして、思い通りの状態になる。

 

 


 

オリジナル道具

 

 

 

【水平線テープ】

 

『地平線テープ』の改造品。テープをくぐった先は波一つない静かな海が永遠と広がっている。海と称したが設定次第で水は変更可能である。

 

 





ここまで書きながら思うことが次回で終わらせられると良いなぁ。になるのは本当に問題だと思う。終わりを決めて書いてるけど、途中を膨らまし過ぎてしまう……

ひみつ道具の説明というか考察というか、矛盾が無いと良いんですが、無限をそのままに現実に入れ込むのは無理だし、『地平線テープ』でのび太の家としずかの家までがおそらく実際の家同士の距離と変わらないであろうと考え

(理由はのび太が帰れなくなった際にしずかの作った入り口から帰れている。道具を使ってるとはいえ小学生が移動できる範囲で入り口を視認できる範囲であることから。また、のび太が二階の家で地平線テープを使ったのに対してしずかが一階の風呂場で使っても同じ高さに出入り口が描かれている。それは地平線を作り出す上で異空間側の出入り口のy軸を固定化、一定の高さに繋がる様にするためであり、その為同期がある限りはテープで入り口を作れる範囲は地球の表面積までとなる。そう仮定した場合にx、z両軸の値が同じ場所にテープを貼った際に入り口がどの様になるのか等の疑問は残るが今回は置いておく)

現実と異空間の位置関係は同期設定が破棄されていない同じテープであれば高さを除いて変化はなしとする。

今回はその同期が外れた為に6人は異空間の迷子になってしまっている。そして、ハイドラとドラメッドは毎回、地球一個分の範囲を確認していく……鬼のような作業量だし、けっこう無茶。

販売元は同じ異空間に繋がる同じ同期設定のテープを保管するなどの対策をするべきだと思う。そうすればどんなに離れていても入り口から移動できる範囲内を探せる。

帰れない不安というのは大きいだろうけど、水と食料の不安がないだけのび太達の時よりはマシだと思う。いや、ドラえもんの道具で生活くらいは出来そうだけどね。

っと語り始めると何処までも自分の考えを話してしまいそうなので後書きはここいら編で終わりにしておきます。気なる点がある人や私と語りたいという人は感想やメッセージをお気軽にお送りください。

そして感想をくれる方々、評価してくださった方々、本当にありがとうございます。感想等は気付き次第返信させて頂いていまし、追記等がされてないか時折確認もしています。ですが追記は見逃す可能性も高いのでお手数で無ければ新しく感想を送って貰えると助かります

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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水平線の漂流記?!後編

あけましておめでとうございますm(_ _)m(遅)

遅すぎる挨拶になってしまい申し訳ありません。活動報告を見ている方は知ってると思いますが、正月ボケが治らず単純に書く気力がなく、ダラダラと過ごしておりました。

昨年から読んでくれている方もたまたま見かけてから来てみたよという方も何卒よろしくお願いします。

と言うことで本編どうぞ。




 

 

 

「………………計測器オールグリーン、再度観測……結果変化無し」

 

「次であ~る!!」

 

「観測開始…磁場環境変異無し、通常無線反応無し、PSYエネルギー共鳴反応無し、タキオン反射反応無し、計測器オールグリーン、再度観測……結果変化無し」

 

「次であ~る!!」

 

 初めのうちはここまで流れる様に作業を進めることは出来ませんでしたが何度も繰り返すうちに効率化していき、声掛けも最小限で観測を続けている。

 

 開いた際にひみつ道具から生じるエネルギーによる磁場の範囲内に存在しないか、通常の無線に応答は無いか、PSY…要するに超能力の発動時に発生するエネルギーと精神や生命の反応等を共鳴させ返ってくるか、そして星雲間でも使われる無線であるタキオンによって広域の観測に反応はないか、あらゆる手を使って捜索を続けています。

 

 それでも中々結果を得ることが出来ず、長い時間苦戦を強いられています。それでも途中からタキオンを使える様になった事で確率は多いに跳ね上がった。いえ、収束している筈です。

 

 タキオン無しでは探せる範囲など精々太陽系内の範囲です。それが何光年あるか分からない範囲を捜索できるのは有り難い限りだ。

 

 タキオンを扱う資格は持っている。しかも宇宙船等に付属しているチャチなものではなく専門的な機器を用いた物を、しかしその機器は流石に持っていなかった。

 

 そもそも政府組織や大企業なんかでなければそんなものは必要としない。私が取得したのも宇宙で使うひみつ道具の作成時にタキオン通信の設定を必要とすることがあるからだ。

 

 それでも第一級宙域タキオン通信士の資格があれば十分な所をついでとばかりに特殊タキオン通信士まで一緒にとった自分も馬鹿だと思うが……そんな事はさておき、本来であればこの規模のタキオン設備など個人で扱う様な代物では無いのだ。

 

 一向に捜索が進まない現状に二人で焦ってる所にドラメッドからもっと何か良い方法はないのであ~るか?と泣きつかれ、ダメ元で考えついたのがタキオンを利用した捜索である。

 

 確かに私はそれなりに影響力はある。それでもまだ学生だ。コネクションもない訳では無いがタキオン通信設備を貸してくれと言ってもポンと渡してくれる筈は無いのだ。

 

 あちこちに問い合わせては断られてを繰り返し、時間の無駄だと諦めようとした際にとある口添えをしてくれた組織があった。

 

 それが天気局とタイムパトロールだ。どちらも政府に深く関わる大きな組織であり、その2組織によって保証された私に設備が貸し出された。

 

 天気局についてはまだ分かる。この前のボランティア先での施設確保に貢献した事に対しての御礼だろう。だとしても破格な対応であるがタイムパトロールに関しては謎なままだ。

 

 いや、この世界には正しく未来がより良いものとなるように調整している組織が大勢いる。タイムパトロールにおいてもそれは変わらない。

 

 ドラえもんズは映画等から分かるように大きな事件を幾度も解決する事になる。タイムパトロールの観察対象になっていてもおかしくはない。

 

 そしてそのタイムパトロールが動いた事でタキオン設備が与えられたのであれば逆に言えばタキオンを用いれば彼等を見つけられると言う保証に違いない。

 

 それからというもの、どの様なタイミングで発見出来るのか分からないが設備を用いてとにかく捜索を続けている。そして……

 

「磁場環境変異無し、PSYエネルギー共鳴反応無し、タキオン反射反応無し、計測器オールグリーン、再度観測……結果変…ストップ!?タキオン反射反応あり!!

再度タキオン放射開始!!」

 

「ほえっ?!見つかったであ~るか?!」

 

 他の計測器は最早確認の必要はない。反射反応があった先に再度タキオンを放ち確認…………反応あり!!

 

「彼等を見つけました。同期固定、固定したテープの複製保存を念のため行います」

 

「良かったであ~る!これでみんな助かるであ~る!」

 

 これで後は素早く回収するだけ……であればどれだけ良かったか。タキオンで感知できる範囲となるとそれなりに離れているのは確実だ。

 

「助かるのは確かですがこれで終わりではないです」

 

「まだ何かあるであ~るか?!」

 

 異空間内は出入り口を除けば隔絶された特殊空間であり、無限の空間である。固定した同期から座標を求めたところで出入り口を直接向こうに作るのは厳しいというよりは不可能に近い。

 

「彼等にも少し頑張って貰う必要がありそうです」

 

 少しばかり危険もあるのですが彼らなら大丈夫でしょう。そう考えながら彼らが出入り口まで来れるようにと準備を進める。

 

 


 

 

 交代制で行われる生活にも慣れてきた頃、全員が顔をみせる食事の時間に少しふらついた様子でエル・マタドーラが顔を出してきた。

 

「ん〜なんか気持ち悪い気がするぜ」

 

「エル・マタドーラ大丈夫?」

 

「病でしたら不味いですね。応急措置は出来ますし壊れることは無いでしょうが……」

 

 昨日の当番を終えてから朝までずっと寝ていたので体力的には問題ない。それにあのエル・マタドーラがまさかといった思いもある。

 

 しかし非日常的な状況にくわえてどうしても不規則になってしまう生活リズムで体調不良にと言う考えも捨て切れない。全員が少なからず心配する中でドラニコフが口を開いた。

 

「ワウ?ワウガウワウア?」

 

「えっ?船が揺れてるからじゃないのかって?」

 

「いえドラニコフ、この海は水平で波は無いですし、ひみつ道具の船は私達が動いた程度の重心移動では揺れませんよ」

 

 遊びに使われる道具であっても22世紀製の特別な道具、22世紀の普通の船と比べたらそりゃ玩具レベルだがその性能は馬鹿にできない。

 

「ガウガウ!!ガウガウガウ!!」

 

「それぐらい知ってる?少し前から船が動き出したけど誰も気付いてないから教えに来た?!」

 

「「「「なんだってぇ?!」」」」

 

 ドラニコフの発言に驚きつつ、頭がその内容を理解するやいなや全員が用意されてる食事を放って外に飛び出した。

 

 そして外に出て乗り出して船と海面の境界を見つめると波がたち、少しずつではあるが船が進んでいる事が確認できた。

 

「本当だ?!動いてるぜ!!」

 

「うわぁ~すごいね!」

 

「どうして動き出したんだろう?あ、このままだとぶつかるかも……ぼ、ぼく、念のため他の船を回収してくるよ」

 

「ハイドラ達が何かしてるんじゃないか?う、ウップ」

 

「なるほど、エル・マタドーラ。あなた昨日、疲れてるからって食事も取らずに寝たでしょう。胃が空っぽで揺れながら寝ていたから気持ち悪くなったんです。状況を整理するためにもいったん食事にしましょう」

 

 エル・マタドーラの体調不良の原因がはっきりした事に安心しつつ、状況の変化について話し合う為に全員がまた船に戻っていった。

 

 


 

 

「まずはこれを『四次元ペットボトル』!!水を吸い込み続けなさい!!」

 

 出入り口の作られた場所に固定すると水を吸い込み続けるように設定して放置する。永遠に広がる空間の為に水位が大きく変わることは無いが『四次元ペットボトル』の周辺は大きく渦を巻き、水平線に流れが生まれた。

 

「これで彼らが乗っている船が出入り口に向けて動き出します。変化が起これば向こうも考えるでしょうし、気付いてくれる筈です」

 

「タキオンとやらで届く距離となると相当なのではないであ~るか?」

 

 本来であれば宇宙空間、星と星の間で行われる通信技術でようやく届く距離なのだ。ドラメッドの言う通り、流れがあるとはいっても時間はかかってしまう。幸いにも銀河レベルで離れてはいなかったがそれでもかなりの距離ではある。

 

「なので伝言に成功したら彼らが到着するまで出入り口を閉じます」

 

「なるほどそれであれば明後日までに間に合……結局みんなが長時間航海しなくてはならないのは一緒では?」

 

「プカプカと浮いて流れに従うだけなので現状では漂流といった方が近いかもしれませんね」

 

 そもそも発見できるかも分からなかったのだ。こっちでの時間経過がなく、学校を休まなくて済むように出来ただけでも幸いと思ってほしい。

 

「方角が分かったのであるなら出入り口をそっちに近づけられないのであるか?」

 

「同期したままでは一度にずらせる座標に制限があります。地球半個分の距離を移動して同期し直し、その作業を続けた場合には更に時間がかかるだけです」

 

 時間や空間系の道具の扱いはけっこうシビアです。無限の空間を折り曲げて同一座標に無理やり繋げたりすればどれだけ負荷がかかるか……初めは空間に負荷を逃がせるだろうが何度も繰り返せば一気に崩壊する。そもそも先に壊れるのはこっちの世界だろう。

 

「全部上手くはいかないのであるか……星間程の距離を航海なんて内部でどれ程かかるであるか?」

 

「伝言が成功するか、成功してもどの程度まで出来るか分からないのではっきりとは言えませんが短縮する方法はあります。流れにのって航海してもらうのはその方法を試してからですので何百年も中で過ごすなんて事にはなりませんよ」

 

「それなら良いのであるが、みんな無事だと良いのであ~る」

 

 ドラメッドがみんなの心配をしてうなだれる最中もハイドラは落ち着いた様子で道具の準備をし、何かを取り出した。

 

「まぁ、とりあえずは一度連絡をとりますよ。あー、こほん。『約束します、彼らが帰ってきたら必ず話しますので……』」

 

 


 

 

「とりあえず『絶対安全救命いかだ』は水場に浮かべといたよ」

 

「ガウガウ」

 

「まさか船が動いてたとはな」

 

「ムグもぐ、ふぅ〜ようやく落ち着いてきたぜ」

 

「病気じゃなくて良かったね〜」

 

「それは本当にそうですね。ここでは万全な治療は出来ませんから、最悪な場合電源を切っての隔離処置ですから」

 

「おぉぉ怖ぇ、シェスタは好きだが自分で起きれないのはゴメンだぜ」

 

 食事をしながら話すことで全員が落ち着き、状況をしっかり把握できた所で本題に入る。

 

「これはおそらくハイドラが何かしたのでしょう」

 

「だろうな。でなければ水平線が傾く訳がねぇからな」

 

「だとするとこの船の流れの先には……」

 

「出入り口がある!!」

 

「ガウ!!」

 

「その可能性が高いでしょう」

 

「この近くに出入り口を作れなかったのかな?」

 

「道具の仕様に詳しくないので分かりませんが作れるならそうしない理由は無いでしょうから」

 

「無理なんだろうな」

 

「バウワゥワゥ?」

 

「確かに流れに任せるより船のエンジンを動かした方が早くつけますか……」

 

「障害物もないんだし全速で行こうぜ!!」

 

「絶対安全って保証もないのに平気かな?」

 

「危険っていう証拠もないだろ」

 

 あーだこーだと色々な意見が飛び交い、この先の方針を決めていると何やら声が響き始めた。

 

『……み…さん………みなさん……聞こえていますか?みなさん聞こえていますか?こちらハイドラ、こちらハイドラ。みなさん、聞こえていますか?』

 

「ハイドラだ!!」

 

「ハイドラの声だ!!」

 

「やっほー」

 

「何処から聞こえてるんでしょうか?」

 

「ハイドラ聞こえてるよ」

 

「ガウ」

 

『……みなさん、聞こえて…聞こえた様ですね……声が届くまで…に少しラグがある…のと聞き取りにくいので誰か代表して話してください……』

 

「それでは僭越ながら私が……ハイドラ聞こえてますか?王ドラです」

 

『……王ドラ…了解しました…とりあえず手短にですが入り口が壊れてからの事をお伝えします』

 

 そうして少し時間がかかったが一度道具が完全に壊れたこと、こちらと向こうで時間の流れ方が違うこと、なんとか見つけたが反応が遠い事等が伝えられた。

 

「私達はどうすれば良いのですか?」

 

『これから段階的に流れを速くします。これ以上は厳しいと感じたら伝えてください』

 

「分かりました一度外に出ますので待ってください……どうぞ……………………ストップです!!」

 

 合図を出すとハイドラが道具を操作しているのか徐々に流れが速くなり、ぐんぐんと船のスピードが上がっていく、障害物がないとはいえ速度が出すぎると生活が出来ないのである程度の所で止める。

 

『ではこれで、流れの行き着く先に出入り口がありますが出入り口を作れる範囲に入れば迎えにもいけます。なので定期的に確認はする予定です』

 

「待ってください。話によるとここから出入り口の付近まではかなりの距離があるのでは?」

 

『安心してください。みなさんが今乗っているの『ほどほど海賊船』ですよね?出した道具は全て私が手を加えたもので、その船にもある機能がついてるんです』

 

「ある機能?」

 

『本来であればごっこ遊びを盛り上げる為のゲームなんですが、それを使えば擬似的にワープが可能です』

 

「ワープですか?この空間ではそういった事は出来ないと思ったのですが?」

 

『空間跳躍はそうですね。ですが先程話した通り時間の操作等は可能です。時間跳躍…正確には船が進んだという結果を持ってくるんです。『タイムワープリール』は知ってますよね?あれを使った時の様になるんです。実際には少し仕様は違うのですがね。本来ゲームをクリアすると報酬として一気に船を進められるといった機能ですが今回は跳躍だけを使用します』

 

「ハイドラの道具なので心配はあまりしてませんが私達への負担はないのですよね?」

 

『人が使用することも想定してるので時間経過等のリバウンド(悪性反応)はないです。少し特殊なタイムマシンだと思ってください』

 

「分かりました。設定しなくてはいけませんよね。指示をお願いします」

 

 それから王ドラはハイドラの指示に従い、船の設定を行い準備を整えていった。

 

「これで全部ですか?」

 

『はい、跳躍やゲームの処理は行われるので一度会話は出来なくなります。それで一気に跳んだら少し航海してもらうだけで回収範囲に着くはずです』

 

 


 

 

「ふぅ、『約束先取り機』が機能してくれて良かったです。あくまで先取りですからねぇ…帰ってきたらどれだけ彼らと話さないといけないんでしょうか?まぁ、約束がなくても普段から話してますけどね」

 

 休みの日でさえ一緒に過ごすことが多いのですから約束を履行するのはさほど大変では無いでしょう。

 

「ゲームと言うのはどんなであるか?」

 

「海賊船ですからね。船同士の海戦やモンスター相手ですよ。『ヒーローマシン』の敵キャラ等のデータから引用してるんですがひみつ道具の使用も可能なのでそこまで難しくもないですよ」

 

 今回は時間短縮のためにやりませんが私一人でも最高難易度をクリア出来てるので彼らなら難なくクリア出来ます。

 

 『ヒーローマシン』は出入り口が常に存在しているから締め忘れなどの問題が発生するのであってゲーム起動時以外は存在しない様にすれば安全に使える。その他の安全性にも気を配っている。

 

 ゲーム中は専用の空間に送られるので攻撃等はされますが船が実際に壊れる訳ではないですし、戦えないと判断されたら即座に終了するようになってます。

 

「今回は処理するだけなので何もする必要はないですよ」

 

「みんなと船が安全なら安心であ~る」

 

 

 

 


 

 

 

 

「うわぁ?!危ない!!」

 

「ドラえもん頭を下げろ!!ドカン!!」

 

「みんな、無事ですか!!」

 

「こっちは大丈夫だ!!」

 

「うひゃあ?!」

 

「ドラリーニョ?!砲弾か、ひらり!!」

 

「ワゥ?!ワォーン!!」

 

「わぁあ、ドラニコフが砲弾をみて野獣化した?!」

 

「今は戦力になるので有り難いです!!それよりドラえもん、早く代わりの船を!!」

 

 時間跳躍を開始し、跳躍終了までの僅かな時間が過ぎるのを待つばかりと思っていた6人は突然衝撃がはしったかと思うと船外へ放り出され、船がバラバラになって吹き飛んだ。

 

 船が大破しただけでも驚きなのに、おそらくゲーム空間から溢れたと思われる敵キャラが周囲の海を埋め尽くし、それらの攻撃に翻弄されていた。

 

「えっと、えっと、『探検ごっこ用蒸気船』!!ってまた攻撃が来たよ!!みんな気を付けて!!」

 

 流れが生まれた際に船を回収したドラえもんが慌てて船を取り出すと破壊されないように攻撃をさばきながら乗り込んでいく。

 

「敵はそこまで強くないです!!アチョー!!落ち着いて対処しましょう!!」

 

「そんなことよりなんで船が壊れたんだ?!ドカン!ドカン!」

 

「そんなの知るかー!!喋ってる暇あったら戦え!!ひらり!ひらり!」

 

「ワオーン!!ガァオオオオオ!!」

 

「シュート!!」

 

「ええっと、これだ!!『スモールライト』!!」

 

 向かってくる敵を蹴り返し、敵船に『空気砲』を撃ち放ち、攻撃を『ひらりマント』で受け流し、唐辛子を食べて炎を吐き出し、飛んでくる砲弾を蹴り返し、『スモールライト』で小さくし、それぞれが出来ることをとにかく繰り返した。

 

 敵は王ドラも言う通りそこまで強いと感じる事はない。全員が善戦している事もあり現状では問題はないがそれでも数が数であった。このまま囲まれていれば体力を使い切り、いずれは危険になる。

 

「とりあえず距離を取らなくては……舵を取る為に離れます!!」

 

「流れにそって少し左が手薄だ!!」

 

「手分けして守るぞ」

 

 いつも問題に巻き込まれるだけあり、トラブルには慣れている面々は直ぐに持ち直し連携して周囲一帯から降り注ぐ攻撃の雨を防いでいく。

 

 奮闘すること十数分、どうにか包囲網を抜け出し、距離を取ることに成功する。追撃を防ぎながら全くいないわけではないが目に映る敵の少ない海域へと逃れようやく少し落ち着く事が出来た。

 

「ゼェゼェ…いったい何がどうなってこうなったんだ?!」

 

「船が壊れたのが原因じゃないの?」

 

「どうして急に壊れてんだよ……」

 

「ワゥワゥ」

 

「跳躍は出来なかったのかな?」

 

「だとすると何年も、下手したら何十年もこのままかよ?!」

 

「いえ、そうではないかもしれません」

 

 全員が不安を抱いている王ドラがゴソゴソと何かを探すと袖からなにかの部品の一部を取り出した。

 

「それって『ほどほど海賊船』の機械部分か?」

 

「海に放り出された際に飛んできて咄嗟に四次元袖に入れて回避したんですが……読み取れる設定を見る限り跳躍自体は殆ど済んでいる様です」

 

 そう言ってみんなにも見える様にすると確かに残り時間を示す表示は僅かとなっていた。

 

「途中までうまくいっていたって事は跳躍自体に問題はなかったのか?」

 

「おそらく船の方にがたがきたのではないかと……跳躍の負荷なら私達にも異常が起きてるはずです。おそらくですが時間の経過に耐えれなかったのではないかと」

 

「跳躍中に経年劣化で壊れて大破したって事か?」

 

「あくまで予測ですが……ハイドラの道具がそこまで軟だとは思えないのでなんとも……」

 

 正確には、長期間の時間が一気に流れた事で劣化が進み、綻びが生まれたことで負荷に耐えられなくなりその負荷が想定よりも大きかったのが一番の原因なのだがそれを知れる者はここにはいない。

 

「分からねぇ原因を考えててもしょうがねぇか…」

 

「そうですね。これからについて考えましょう」

 

「これからねぇ。予定から少しズレたがハイドラからの連絡を待つ方が良いんじゃねぇか?」

 

「ワゥワゥ」

 

「ねぇねぇ、残り少しまで来てるなら進んじゃえば」

 

「危険じゃないかなぁ?さっきみたいな敵もいるんでしょ」

 

「倒すぶんには問題ないだろ」

 

「ずっと戦う訳にもいかねぇだろうが」

 

「それより食べものは?『絶対安全救命いかだ』はどっかいっちゃったんじゃ?」

 

「誰か回収してるか?!」

 

「ワゥゥ……」

 

「誰もしてねぇか……」

 

「使えねぇな」

 

「お前もだろ?」

 

「あぁ!!なんだと?!」

 

「回収してねぇのは一緒だろうが?!」

 

 段々と不安が不満に変わり、言い争いが増えていく、ヒートアップしていく面々に止める側も声を荒らげ、雰囲気が一気に険悪なものへと変わっていく。一触即発な空気の中で弱々しい声が聞こえてきた。

 

「あ、あの、とりあえず休まない?ぼく、遊ぶ予定だったからおやつをポケットに入れてたの思い出したんだ!!これ食べながらとりあえず休憩しようよ?」

 

「……ドラえもんの言う通り一回落ち着きましょう」

 

 


 

 

「なんでですか……突然入り口が……」

 

「何が起こったのであ~るか?!」

 

 船が大破した時間、まったく同じ瞬間にテープが切れてもいないのに入り口が消失し、繋がらなくなった。

 

「分かりませんが何か問題が起きたのは間違いありません。同期が切れた訳ではないのが救いです。繋がるまでの過程で妨害されてるのか、時空間がズレたのか……原因解明を急ぎます」

 

「その船による時間短縮は関係してるであるか?」

 

「実験は何度も行ってましたが同一どころか類似した事象も確認してません。ですがこれまでが起らなかっただけの可能性も十分にあります」

 

 そう実験は十分な量をやっていた。短い時間を何回もや数十年単位での跳躍もやっていた。しかし百年以上をゲームを飛ばしてまで一気に行うのはやっていなかったのではっきりとはハイドラでも分からなかった。だがそれでも本来であれば耐えれる筈ではあった。

 

「とりあえずはパターンを増やして繋げられないか試し、それと同時並行で断絶した空間の解析を進めます」

 

 


 

 

 大変な自体になったものの慌てている場合でも喧嘩している場合でもないと半ば無理やり落ち着ける様に時間をおき、ドラえもんから提供されたお菓子を無言で食べていた。

 

「それでどうしよっか?」

 

 全員が食べ終わったが空気は変わらず、沈黙が続く中でそれを破ったのもまたドラえもんであった。

 

「当座の問題である食料についてはまた考えるとして、全体的な方針について決めてしまいましょう。先程出た案は、ハイドラを待つか出入り口付近まで進むの2つでしたね」

 

「元々の予定からズレたんだからハイドラからの指示を待つ方が確かじゃねぇか」

 

「ワゥワゥ」

 

 このまま待つ方が良いという意見を出したのがエル・マタドーラとドラニコフ。

 

「進んじゃえば良いじゃん。その方が早くつくかもよ?」

 

「よく分かんねぇ敵も囲まれさえしなけりゃ数人で対処出来るし、進んじまおうぜ」

 

 跳躍自体は殆ど済んでいるのだから元々の予定にそってこのまま船を動かそうという意見がドラリーニョとキッド。

 

 現在は2対2に別れてしまっている意見、全体で6人なのでどちらにしても半々になってしまう可能性があるがまだ意見を言ってない王ドラとドラえもんに自然と視線が集まった。

 

「……正直な事を言うとイレギュラーな状況ではどちらもリスクがあり、選べそうにありません」

 

 王ドラは頭が良い、それ故にどちらを選んでもその際に起こるであろう問題点に意識がいってしまい答えが出せずにいた。

 

 頑固で真面目な王ドラだからこそ答えのない問いに対して固く考えてしまう。このままでは答えはいつまでも返ってこないだろうと四人の視線はドラえもんに集中する。

 

「えぇっと、僕は進む方が良いんじゃないかなぁって」

 

「やったぁ!!」

「よっしゃ!!」

 

「ちぇっドラえもんはそっちか」

「ワウゥ」

 

「ちなみに聞きたいのですかどうしてそちらを選んだのですか?」

 

「だって結局船は流れにそって動くでしょ?待つって言ってもわざわざ逆流するように動かしてまでとどまるわけじゃないなら、進んじゃった方が良いかなって」

 

「それは……一理あるな。ドラえもんの言う通り無理にとどまるつもりじゃなかったがとどまるにも目印もないし、どうせ動くか」

「ワゥワゥ」

 

 元々同じ意見だった2人はもちろん、エル・マタドーラとドラニコフも思うところがあったようでドラえもんの意見には納得したようだ。

 

 みんな元々の予定と敵にしか考えがいっていなかったがそもそもこの海でただ待つのはそもそも難しい事に気付かされ、意見は一つに纏まった。

 

(みんなを落ち着かせた時もそうですが、幅広い視点で物を考えたりとやっぱりドラえもんは……)

 

「それでは進む方向で考えましょうか、それとこの船を含めて他の船にも食料がないかみてみましょう」

 

 数人で敵が現れないか見張りつつ、船内を探索してみた結果非常食の様なものがみつかり、かき集めた結果それらは一週間分の食料になりそうである。

 

「これでなんとか出入り口まで辿り着ければ良いな」

 

「おそらく大丈夫だとは思いますが……」

 

「なんとかなるよ」

 

「そうそう俺たちならいけるって」

 

「ワゥ」

 

「みんなで頑張ろう」

 

 

「「「「「「おぉー!!」」」」」」

 

 こうして不安も僅かにあるがなんとか意見も一つに纏まり、意気揚々と最後の漂流生活が開始したのだった。

 

 


 

 

 カタカタとリズミカルに機械を叩く音、ハイドラの指示で動くドラメッドのドタドタと言う足音、ジィーと一定の音を奏で続ける機器の作動音、それらが響き続ける中で気の遠くなりそうな作業を行なうハイドラ。

 

「……なるほど原因が分かりました」

 

「な、何があったのであるか?」

 

 急に動きを止めたかと思うと、歪んだ表情で喜色の声をあげた。そのアンバランスな様子にドラメッドは何があったのか聞くのを少々躊躇いそうになるが思い切って尋ねた。

 

「繋がらないのは時空間の歪みが原因です。元々近くの時空間が不安定になっていた様ですね。それが時間操作と干渉したみたいで、タイミング的に内部の時間操作とタイムワープで二重になってしまったのも引き寄せた原因かもしれません。時空乱流の発生とまでいかなかったのは幸いですが……」

 

「ですが、なんであ~るか?」

 

「時空間の歪みがおさまるのを待つしかないんですよ……他に手があるとすれば『時空震カウンター』」

 

 時空間の調査に使えるこれで常に状態をチェックし、【水平線テープ】で繋がる異空間への歪みがあいた一瞬で道を繋ぎ、強化することによって無理やり出入り口を作る。そんな一か八かといった賭けの要素に頼るしかないのだ。

 

「上手くいくであるか?」

 

「歪みと道が一致するかは運次第ですし、強化しても保って数分、彼らが到着してないと意味がないです」

 

 それでも諦めようとはしないのはタイムパトロールの干渉があったからか、それとも彼等を信じているからなのか、答えこそないがハイドラに迷いはなかった。

 

「ドラメッド、貴方にもやってもらう事があります」

 

「なんであ~るか?」

 

「それは…………」

 

 

 


 

 

 進みだす事に決めた船は順調な航海を続けていた。初めの様に周囲を完全に囲まれる事は無くなったが、襲撃が無くなることはなく、今まで以上に見張り役の仕事が大変になっていた。

 

 見張りも以前なら連絡があるか確認するだけなので最低でも一人いれば良かったが今では三人ずつでの交代制だ。

 

「イカみたいなのが出だぞ!!船を左に!!」

 

「任せて!!面舵いっぱ〜い!!」

 

「面舵は右だ!!曲げる方向は合ってるからもう良いか……とりあえず脚を弾くぞ、ドカン!ドカン!ドカン!」

 

 振り上げられた脚が船に叩きつけられようとする。大きな攻撃にはわかりやすい予備動作がある故にこれらがゲームから湧いたモンスターだと分かる。

 

 相手を注視すれば何をしてくるのか分かりやすいのは防衛の事を考えれば有り難く。気付いた事があれば即座に共有され、キッドは振り上げられた順番通りに砲撃をしていく。

 

「バウワゥ、ワォーン!!」

 

 ドラニコフも敵に対して火を吹きかけて攻撃する。辺りは水で溢れており、敵自体もゲーム的に考えると水の属性に分類されそうだが火が効かない訳ではない。

 

 海賊船なんかは火がつけば燃え上がるし、武器庫らしき場所に着火すると爆発して四散してくれる。こういったモンスター等にも何度も効きはしないが火を喰らうと怯んで行動を取りやめるというパターンがみられる。

 

「ナイスだドラニコフ。少しの間脚は任せた。動きはとろいから一気に抜ける…ドッカーン!!」

 

 簡単に倒せる相手なら対処し、標的が大きかったり狙いにくかったりする場合は逃走を優先する。あと少しとは思っていても全力で戦えば溜まる疲労も馬鹿に出来ない。

 

 キッドは船の後方で船体に身体を預けると溜めた『空気砲』を一気に撃ち放って船を急加速して現在進行系で燃えているモンスターの領域を抜け出した。

 

 直ぐに船を動かせる位置に一人、前後左右を手分けして見張り索敵するのに二人が基本的な陣形になっている。

 

「ガゥガゥ」

 

「ふぅ、なんとかなったな。ドラリーニョ、船の向きは直したか?」

 

「あ、忘れてた!直してくるね!!」

 

 こうも騒がしいとしっかりと寝たりは一人を除いて難しいが、もう慣れたもんだと休める時に身体を休められる様になっている。

 

「お疲れ様です」

 

「交代の時間だよ」

 

「ふぁあ、まだ眠いぜ」

 

「あぁ、昨日は大きいのが居たからね。でもしっかり起きてね」

 

「わぁってるよ」

 

 逃げれない敵は偶にだが出くわすときは出くわす。そういう奴は他の敵も集まりだす前に倒す必要があって休んでる面々も起こしての総力戦になる。

 

 昨日は交代近くの時間で面倒な敵に出くわした所為で残業となり、睡眠時間が削れてしまったのだ。シェスタが好きなエル・マタドーラからしたらたまったものではないが文句を言う先も無いが……

 

「今日明日で着くんだろ?もう少しの辛抱だしな」

 

「概算ですが、流れもかなり早くなってますので出入り口付近が近いのは確かです」

 

 ワープ前と後で明らかに船の動きが速いのには直ぐに気付いた。出入り口付近でハイドラが何かを施したのだろうと考え、その変化を観測することで王ドラが大体の当たりをつけていた。

 

 下手に動かすと敵にぶち当たる事もあり、基本的に船を加速させるのは逃げる時だけである。それでもかなりのスピードが出ている。

 

 そんな海の中でもゲームから湧いてきた敵は影響を感じさせない動きをしてくる。おそらく、なんらかの補正効果が残っているのだろうとそう結論付けていた。

 

「正面から海賊船!!」

 

「くっ、舵をきっても間に合いませんよ?!」

 

「任せな!!ひらり!!」

 

「ちょっ?!エル・マタドーラ!!」

 

 かなりの流れがある無風地帯を全速力で逆流して向かってくる敵なんかは非常に厄介である。対処が間に合わず、船体を損傷させたことも何度もあった。

 

 その度になんとか修復しているが、船を乗り換えてすぐの頃と比べるとかなりぼろぼろである。これ以上は避けたいと誰もが思っており、衝突を避けるのは厳しいと感じたエル・マタドーラは船と船の間に飛び込んで『ひらりマント』を使うことで船の進路をそらした。

 

「エル・マタドーラ!!これに掴まってください!!ドラえもん手を!!」

 

「うん!!それぇえええ!!」

 

 かなりの無茶をするエル・マタドーラに二人は驚きと呆れを示しながらロープを投げると海に落ちつつあるエル・マタドーラがロープを掴んだ瞬間に引っ張ってなんとか引き上げる。

 

 この船はかなりの速度が出ている。敵から逃げようとしている時なんかはタケコプターの最高速度である80キロを超えている。

 

 海に落ちたりなんかすれば復帰する術が無いのである。回収しようと思えば船を減速させて敵を全滅させなければ難しい。

 

 そのために船から落ちると言うのはかなりの危険行為であり、船を守るためとはいえ迷わずに飛び込んだエル・マタドーラの胆力には感心させられる。

 

「チッ、一息つく暇もねぇか、また海賊船だ!!デカくはねぇが少し多いぞ!!」

 

「舵を大きくきります。少し揺れますよ!!前は私が確認しますので二人で対処にあたってください!!」

 

「追いかけてくる時だけ流れにのるのはずりーぜ……攻撃は弾くからドラえもん、アイツラに攻撃を」

 

「ええっと、どうしよう…そうだ!『通りぬけフープ』!!」

 

 次々と飛んでくる砲弾を『ひらりマント』でなんなく弾き続けるエル・マタドーラ、攻撃といっても何をしたものかと少し悩むと『通りぬけフープ』を取り出した。

 

 それは1つや2つではなく5、6個を一気に取り出し、そのまま追いかけてくる船の方にばら撒いた。すると船の下の方に何枚か張り付き、そこから掻き分けた波の一部が入り込んでいく。

 

「船が減速したな!やるなドラえもん!」

 

「えへへ、穴が空いたのとは違うから掻き分けた際に跳ねた水しか入らないけど妨害にはなるし、時間をかけたら沈む筈だよ」

 

「今のうちに距離を離してしまいましょう」

 

「それにしてもなんであんなに『通りぬけフープ』を持ってたんだ?本来の用途なら1枚あれば十分だろ?」

 

「壊れたときに買ったんだけど注文を間違えちゃって、気付くのに遅れて返品はきかないし、転売は出来ないしで、どうせあんなに使わないならいっそのことって思ってさ……他にもサイズ違いとかも幾つかあるんだよね……」

 

「ま、まぁ、おかげで助かったんだから良いじゃねぇか」

 

 いい攻撃方法を思いついて凄いなと思ったエル・マタドーラだったがもしかして不良在庫の処分が目的だったんじゃないかと思いつつも落ち込みかけてるドラえもんを励ました。

 

 気落ちしたドラえもんはその言葉を聞いてそうだよねと少し持ち直したが、ssサイズとか何に使うんだと制作者に問いただしたいと頭の中で考えていた。

 

 


 

 

 ハイドラのじっと見つめる『時空震カウンター』の反応は未だに激しい揺れを繰り返している。

 

「大きく数値が跳ねました。空間の弾性によって歪みが無理に元に戻ろうとします。まだエネルギーが有り余ってるのでまた歪もうとするでしょう」

 

 歪んでは戻ろうとし、また歪んでを繰り返すその有り様を例えるのであれば振り子だ。それこそ抵抗等を振り切って動き続ける豪速球。

 

「エネルギーが弱まるのを待つ方が成功率は上がります。ですが内部の時間は絶えず進んでいます。これ以上待たせる訳にはいきません」

 

 水中で水を切り裂きながら動くメトロノームがあると言った方が分かりやすいか?そのメトロノームが中央に来た瞬間に頑丈な針を突き刺して縫い付けなければいけない。それも動き続けようとする振り子の腕に針が壊されない様にだ。

 

 水は揺らめき、振り子の腕ははっきりと見えることはなく、留まることをしらない。それをコンマのズレもなく射抜き、補強して維持する。果たしてそんな事が出来るのか、ハイドラ自身が提案しておきながらいつまでも同じ疑問が浮かんでやまない。

 

「飛び込む準備を……出来る限り維持はします……けど5分保たないと思ってください」

 

「分かったであ~る……」

 

 最後の声掛けを終えると静寂が部屋を包み込む。決して失敗できないプレッシャーは等しく両者に降りかかり、等しくない重さを与えている。

 

 緊張で汗をかくことのないロボットの身体にハイドラがこれほど感謝した事はないだろう。手元を少しでも狂わせる要因を排除し、そして遂に時は訪れた。

 

「時空間固定化…通路確立…ドラメッド!!」

 

 計器が物凄い勢いで振り切れている。入り口は作られたが小さく、空間ごと揺れて不安定な姿を見せている。頼りない一人が通るのがやっとの大きさのそれにドラメッドは迷わずに飛び込んだ!!

 

 


 

 

 7日の航海を終えようとしている船は悲鳴を上げていた。エンジンをフル稼働させ、流れに逆らい、一帯から降り注ぐ攻撃に耐え続けていた。

 

 ハイドラが6人を導くために流れを作り出したその場所は水平線にあり得ない大穴をあけ、全てを呑み込む様な大渦は船やモンスターの巣窟と化していた。

 

「また後ろから来るぞ!!ドカン!ドカン!」

 

「集まり過ぎです!!アチョー!!空からの敵を捌ききれませんよ!!」

 

「ワォーン!!」

 

「シュート!!シュート!!」

 

「ひらり!ひらり!横からだと砲弾の当たりが広がって間に合わねぇ!!」

 

「舵が持ってかれる!!ぐうぅう…フルパワァァァ!!」

 

 大渦の中心にはゲームのボスなのだろうか立派な風体をした大蛸が居座っており、これ以上近付けば船ごと握り潰される事は間違いない。

 

 海からも空からもモンスターは襲いかかり、降り注ぐ砲弾は数えるのも馬鹿馬鹿しい量だ。少なからず被弾し、その度に船は航行速度をおとしていく。

 

「大蛸が動き出したぞ!!」

 

「怯ませれば良いんだろ!!狙ってくださいって言ってる様な場所があるだろ!!ドラニコフ、アイツの目に炎を!!」

 

「ワォワォワゥ?!」

 

「距離があって届かない?!」

 

 炎を喰らわせる事でこれまでの敵の様に動きを止めてくれることを期待して、明らかに弱点、そうでなくても攻撃の通りやすそうな部位をドラニコフに攻撃する様に頼むが遠過ぎで届く前に炎が崩れてしまうと言う。

 

「ならドラリーニョのサッカーボールに火をつけるんだ!!ドラリーニョ、アイツの目に向けてボールを蹴っ飛ばせ!!」

 

「分かった!!いっくよ~!!それっ!!」

 

「ワォーン!!」

 

 ドラリーニョがボールを蹴った瞬間に合わせてドラニコフが炎を吹きかけ、燃えるボールが完成した。ボールは勢いをおとすことなく真っ直ぐ吸い寄せられる様に大蛸の目に向かっていき見事に命中した。

 

「よし、動きが止まったぞ!!」

 

「今のうちに急いで立て直しましょう」

 

「ちょっと待て大蛸の攻撃が届くようになってから砲撃が止んだぞ?!」

 

「なに?!どうしてだ?!」

 

 砲撃を殆ど一人で捌き続けていたエル・マタドーラが急に砲撃が止まった事とそれが大蛸の攻撃とほぼ同時である事をみんなに伝える。

 

「ゲーム由来の敵ならボス限定のエリアとかあるんじゃねぇか!!」

 

「なら、ギリギリの距離で居たほうが安全だな!!ドラえもん!!」

 

「うん、聞こえてたよ!!でもボロボロで逆走しても少しずつ近付いちゃう!!」

 

「船を渦に合わせて動かしてください。速度が乗れば付かず離れずで航行出来ます!!」

 

「分かった!!」

 

 周りからの妨害が無いというのであればむしろ大蛸を相手取る方が集中出来る。だが大蛸を倒せばまた周りの敵が動き出すだろうし、渦に完全に呑み込まれれば逃げ出すことは出来ない。

 

「大蛸を倒さずに相手取ります!!」

 

「それしかないか!!!」

 

「舵は任せて!!」

 

「やるぞー!!」

 

「ワゥ!!」

 

「全力でいくぜ!!」

 

 巨大な脚を叩きつけるという大蛸の基本的な攻撃のパターンである。単純だがその巨体を考えると一撃でゲームオーバーだ。

 

 これだけでかい奴がそう簡単に倒せるとは思えないが万が一、倒し切ってしまわないようにこちらからの攻撃はしない。

 

 船を進める手伝いをしたり、振り上げられた脚を時には『空気砲』で時には『ひらりマント』で弾いたり、炎のボールを当てて怯ませて、そんな動きを繰り返して大蛸の周りをグルグルと回る。

 

 何度も繰り返しているうちに炎は効果がなくなり、ボール自体も届く前に脚で弾き始めた。上から振り下ろすだけだった脚は船の行き先目掛けて斜めに下ろしたりと明らかに学習している。

 

「通常の敵とはシステムが違うのでしょうか!?」

 

「なんかさらに変な動きしてねぇか…?」

 

 急に脚の動きが止まったかと思うと船をじっと見つめて口をすぼめている。

 

「ドラえもん舵をきれ!!」

 

「えぇ?!とりゃあぁぁ!!うひゃあ?!」

 

 何をしてくるのか気付いたキッドの声が届き、ドラえもんは渦に内側に入り込むのを承知で舵をきって船をずらした。その瞬間、大蛸の口から何かが飛び出した。

 

「アイツ、スミ吐きやがった!!」

 

 口から飛び出てきたの大量のスミ。少し船の後方にかかってしまったが壊れた様子はない。おそらく攻撃用ではないのだろう。

 

 ダメージこそないものの当たった場所は真っ黒に染まっており、かかってしまえば視界が遮られてしまうだろう。

 

「ただでさえ面倒だっていうのに!!」

 

「もう一発来ます!!」

 

「スミだけなら…みんな集まれ!!ドラニコフ合わせろ!!ドカン!!」

 

「ガォオー!!」

 

 スミの量はかなりのものだが、脚による攻撃と違って形がなく、軽い。中心で『空気砲』と炎が合わさるようにぶつける事で爆発を起こして無理やり吹き飛ばす。

 

「ふぅ、なんとかなって良かった…」

 

「船にも少しはねてるので足元気をつけてください」

 

「口をすぼめたらまたいくぞ!!」

 

「ガゥ!!」

 

 スミにはキッドとドラニコフの二人で対応するようになり、どうにか新しい攻撃も捌けるようになってきた頃、何度もスミを弾いた影響が出てきていた。

 

「辺りの水が真っ黒だぜ」

 

「心なしか船の速度が遅くなった気がする」

 

 スミは直接当たらなくても多少はデバフのような効果があるようで航行速度が遅くなり、少しずつ渦の内側へと引き込まれている。そして、さらに変化が訪れた。

 

「なんだ?出した脚を引っ込めたぞ?」

 

「いったい何がしたいんだ?」

 

「まさか?!ドラえもん!!どちらでも良いので舵を!!うわぁ、しまった?!気付くのが遅かった!」

 

「ふ、船が?!」

 

「下からの攻撃か?!」

 

「がうう?!」

 

 海面が黒く染まったことで気付くことが出来ずに脚が船に直撃し、そのまま船ごと六人が空中へと運ばれる。

 

「だ、脱出だ?!『タケコプター』!!」

 

「に、にげろー!!」

 

「ひぃ~、高いところは怖いが背に腹は代えられないぜ」

 

 船体がミシミシと悲鳴を上げて崩れていく。このままでは残骸と共に水面に叩きつけらてスクラップになってしまうと慌てて逃げ出した。

 

「『救命イカダ』はエンジンがないし、出したところでただの的だな。ってうわぁ?!」

 

「ガォオ!!」

 

「鳥の敵が動き出した?!」

 

 大蛸の攻撃が届かない高さまで来てホッと一息ついているエル・マタドーラにいきなり後ろから鳥が突撃を仕掛け、体勢を崩したところにドラニコフがフォローに入りなんとか立て直す。

 

「空に逃げられたらゲームとして成り立たねぇからか!!」

 

「高度を下げてみましょう!!」

 

 船に乗っていた時と同じ高度にまで下げると鳥は少しずつ距離をとって大蛸の付近からも離れていった。

 

「船が無ぇとダメってわけじゃなくて良かったぜ」

 

「範囲内でどうにか耐えましょう!!」

 

 迎えが来ない限りは此処から出られないのであれば待つしか無い。船がなくなっても大丈夫だと判断しそのまま耐え続けた。

 

「うわぁっ?!」

 

「わりぃ!!ってあぶねぇ?!」

 

 限られた狭い範囲内を飛び回って攻撃を避け続けると言うのは中々に難しく、攻撃を避けるのに集中すれば味方にぶつかったりもする。

 

 逆に味方を気にしていたら攻撃を避け損なったり。攻撃や味方は大丈夫でも今度は範囲外に出てしまい鳥に集られたり。

 

「わー?!」

 

「ガゥガゥ!!ワゥ?!」

 

「ドラリーニョにドラニコフ?!くっ、数が多過ぎます……」

 

 一人が捕まると空間は広くなったが一人当たりの攻撃の頻度は増えるので捕まりやすさは五分五分、いや少し分が悪い位かもしれない。

 

「くっ……うおぉ『タケコプター』が?!」

 

「うわぁああ?!っ…助かった……」

 

「捕まってるのを助かったと言っていいのか?」

 

 逃げ惑う内に範囲外に出てしまい鳥に『タケコプター』を外されるが落ちる途中で脚に捕まり事なきを得た。

 

 海面に叩きつけられて粉々に砕けるよりはマシかもしれないが身動きが取れなくなってしまえばおしまいである。

 

「ぐぐぅ…出れねぇ……」

 

「このままじゃ……スクラップです……」

 

「クソォ……」

 

 もう駄目かと諦めかけたその時、一瞬にして雲ひとつないこの空間が薄暗くなった。大蛸の真上から光を遮るその巨大な影は降ってきた。

 

 

「友達に何をするであ~るか!!わがはい怒ったであ~る!!」

 

 

「「「「「「ドラメッド!!」」」」」」

 

 空から落ちながらも真っ直ぐに大蛸目掛けて腕を伸ばし、そのままの勢いで一撃をいれるドラメッド。あまりの衝撃に目を回して大蛸は脚から力を抜いた。

 

「た、助かったぜ!!」

 

「ドラメッド、サンキュー!!」

 

 タケコプターが壊れてしまった面々はドラメッドの手のひらに載っけられてお礼を言っている。無事な面々もドラメッドの近くに集まって飛んでいる。

 

「ドラメッド、水は大丈夫なんですか?!」

 

「あれ〜ドラメッドの周りに水がないよ!!」

 

 ドラメッドが大の水嫌いである事は周知の事実、なのにどうしてと王ドラが不思議に思っているとドラリーニョがその絡繰りをみつけた。何の道具を使ったのか聞こうとするが、ドラメッドが待ったをかけた。

 

「話は後であ~る!!みんな速くあそこの出入り口に飛び込むであ~る!!後3分もしないで閉じてしまうであ~る!!」

 

「なんだって?!」

 

「急ぎましょう!!」

 

 ドラメッドも3人を抱えたまま出入り口を目指すがそれを良しとしないのが大蛸である。脚を伸ばすとドラメッドの足に巻き付けて捕まえようとする。

 

「くっ、放すであ~る!!いでよ魔法道具たち!!」

 

 空中にいくつもの道具を取り出すとそのまま道具が動き、大蛸を攻撃する。怯んだ隙に抜け出して出入り口まで辿り着くと『タケコプター』の無い面々を先に降ろす。

 

「ドラメッドもはやく!!」

 

「分かってるであ~る!!いま小さくなるであ~る!!」

 

 みんなを助ける為に大きくなったがこのままでは通れないと身体を小さく戻し、いざ潜ろうとしたその瞬間、ドラメッドにスミが吹きかけられた。

 

「な、なんであるか?!見えないであ~る?!『カサイラズ』をつけた筈であ~る?!」

 

 『カサイラズ』ではスミは防げなかったのかそれともゲームのシステムで防げなかったのかは分からないがいきなりスミをかけられたドラメッドは慌ててしまい、視界が悪い中でもがいた所為で出入り口から落ちてしまった。

 

「うわぁ、ドラメッド?!」

 

「マズイ救けに、ってうわぁ?!」

 

「あれは?!」

 

 『カサイラズ』によって嫌いな水に落ちる心配はないが結構な高さである。それに加えてもう残り時間も少ない。

 

 慌てて救助に向かおうと動く六人の横を何かが飛んでいった。それは道具を幾つも抱えた【潔白セイレーン】だった。

 

「彼女に任せて大丈夫です」

 

「ハイドラ!!でも…」

 

「彼女は機能上かなり高度な電子頭脳が搭載されています。判断を間違える事はありません。それに荒事の仲裁に入ったって問題ないような性能になっているんです」

 

 【潔白セイレーン】はドラメッドに追い付くと見掛けによらないパワーで落下を止めて支える。構造の問題で服を足で掴んで支えているので少々苦しそうであるが仕方のない事だ。

 

『ラララ〜もう大丈夫よ〜』

 

「うぅ……こ、この声は【潔白セイレーン】であるか?」

 

 地面に激突しないようにと空中で支えたのは良いがそれを確認した鳥達が襲いかかってくる。

 

『ラララ〜「ドラメッド」〜』

 

「な、それは?!」

 

 それを見た【潔白セイレーン】が取り出したのは嫌な思い出のある【ころがしや】だ。なんの意味があるのかと思うと起動した【ころがしや】はドラメッドに今にもぶつかろうとしている鳥を撃ち落としていった。

 

「なんで【ころがしや】がドラメッドを守ってるんだ?!」

 

「危険な転び方の際は助けると言いましたが他にも対象が危ないと判断すると防衛するようになってるんですよ」

 

「中身を知ってる人からしたら最早ガードロボの一種ですね」

 

 飛んでくる鳥を撃ち漏らすことなく仕留めていく【ころがしや】、その腕前は中々のものだ。しかし、次の攻撃を察知すると慌てた様子で【潔白セイレーン】に伝える。

 

 大蛸が狙いをつけてドラメッド達を狙っていたのだ。流石の【ころがしや】も巨大な脚を弾くほどの威力は持ち合わせていない。

 

『ラララ〜これを〜』

 

「これは【ヤドカリハウス】、えっとこうであるか?」

 

 ドラメッドに【ヤドカリハウス】を装着させて防御する。その硬さは『でんでんハウス』と同水準であり、なんなく大蛸の攻撃を受け止めた。

 

「凄いぜ!!」

 

「でももう時間がないよ?!」

 

 ドラメッドを回収して攻撃を回避している間もどんどん時間は過ぎている。真っ直ぐ飛んでもギリギリになるだろう。

 

『ラララ〜こっち〜』

 

「な、何を?!」

 

 【潔白セイレーン】にドラメッドは【ヤドカリハウス】の中に押し込まれ、ドラメッドが入ったのを確認するとそのまま大蛸の近くまで飛んでいく。

 

『ソレ〜』

 

 脚を躱しながら口の前まで飛んでいくと持ち込んだ最後の道具を全て放り込んだ。

 

「あれは……」

 

「【食べるクラッカー】だ〜」

 

「10箱以上纏めて放り込んだぞ……」

 

 許容量を大幅に超えるクラッカーを放り込まれた大蛸は初めはキョトンとしていたが徐々に身体を赤くしながら膨らんでいき、風船の様にパンパンになった。そして……

 

 

 

 

パン

 

 

 

 細い口から破裂したかの様な轟音が響いたかと思うとその勢いに乗って一気に【潔白セイレーン】が出入り口まで飛び込んで来た。

 

「お疲れ様です」

 

『ラララ〜もうまんたい〜』

 

 なんとか無事出入り口が消える前にドラメッドと共に戻ってきた【潔白セイレーン】に『耳バン』を外しながらお礼を言うハイドラ。

 

 そして出入り口を隔てても轟いた轟音のショックで白目をむいて倒れる6人。どうしたものかとハイドラが首をひねってるとちょうどよくドラメッドが【ヤドカリハウス】から出てきた。

 

「み、みんな?!何があったであるか?!」

 

「……悲しい事故でした」

 

 自分だけしっかりと対策をしながらそうのたまうと命に別状はないと説明してからドラメッドと協力して物で散らかった研究室ではなくロボットマンションの部屋へとみんなを運び込むのであった。

 

 


 

 

 程なくして順次全員が目を覚まし、怪我などがないか健康チェックを行って問題が無いのを確認した。

 

「無事帰ってこれて良かった〜」

 

「水遊びはもうしばらくしたくないぜ」

 

「流石にくたくたですね」

 

 内部でかなりの時間を過ごした事を考えると疲労は相当なものだろう。あれだけ水と共にある生活をおくれば普段から水を見たくないドラメッドの気持ちが少しは分かるというものだ。

 

「とは言っても明日は学校ですからね。休んでる暇はそんなに無いですよ」

 

「そんなぁ〜」

 

「ワゥワゥ……」

 

「少しでも身体を休めるしかないか」

 

 帰って来れたのは嬉しいが結局休みは殆ど無駄に使ってしまった事で六人が項垂れている。そして、救出に当たって弊害が一つ発生していた。

 

「ハイドラ、スミが落ちないであ~る?!」

 

「えっ、水洗いすれば落ちると…あっ……『カサイラズ』の効果は一日でしたね。とりあえず、『色々カラーパレットと筆』で上から塗り直しましょうか」

 

「うぅ、あんまりであ~る」

 

 表面は蛸スミでベッタリな事に変わりはないが上から色を塗り直すことで傍からは普段と変わらないように見える筈だ。

 

「まぁ、無事帰って来てくれて本当に良かったです」

 

 


 

 

 働きっぱなしであったハイドラも疲れてはいたがなんとか学校を終えて家に帰ってきていた。

 

 あの日に使われた道具の確認やメンテナンス、そして監視は続けるが空間ごと破棄予定である異空間の情報を纏めている。

 

 作業の傍らでカタカタとパソコンを弄くりあの日の時空間の異常について情報収集も行う。キーワードを変えながら検索を続けていると大きく見出しで書かれたニュース記事をクリックする。

 

「……『時空間系の道具の一斉不具合、原因は時空間の異常?!タイムパトロールから公開された情報では自然発生したものではない疑いが…?!』」

 

 読み込んでいくと昨日の時空間異常は広範囲に影響を与えていたらしく、タイムパトロールだけでなく他の公的機関も厳戒態勢だった等の情報もある。

 

「知っていて狙われた可能性は低いですね……いえ、相手が未来人ならなくはない話ですが、今回は偶然の産物ですね」

 

 未来から過去へのプライバシーの配慮なんて殆どない。調べようと思えば簡単に調べる事が出来る。ただ、調べておいてやることが数十分の足止めと言うのは考えにくいと言うのがハイドラの考えだ。

 

「近い時代で何かがあったのは確かでしょうが……」

 

 違いを知れない立場なら探るだけ時間の無駄。特異点であれたとしても何が変わったか手作業で探るのは厳しい。

 

「とりあえず流石に一休みしますか」

 

 ハイドラは心の底から自分に関わる厄介事でないことを祈りながら横になるとそっと目を閉じるのであった。

 

 

 


 

登場した道具

 

 

『四次元ペットボトル』

 

目測1メートルぐらいの大きさがある巨大なペットボトル。てっぺんにあるボタンを押すと、何でも吸い込む。なお、この道具は未来犯罪者のDr.ストームが使用している。

 

 

『絶対安全救命いかだ』

 

どんな大嵐になっても、これに乗っていれば必ず助かる。

 

 

『ほどほど海賊船』

 

見かけは立派な船だが、実はモーターボート。ボタンを押す事により、相手には当たらない「ほどほど大砲」が発射されたり、レースモードに切り替える事もできるが、故障すると実際に当たったりして程々ではなくなる。

 

 

『タイムワープリール』

 

ある時間から先の時間へ、一気に進ませる事ができる。分や年単位でレベル調節でき、回した分だけその時間が進む。カットした分はちゃんと過ごしているため、再びその時間を過ごす事はできないが、無茶な使い方をして壊れると使う前に戻る事もある。

 

 

『約束先取り機』

 

これで予約すれば、その結果を先取りすることができるが、約束したことは後で必ず守らなくてはいけない。

 

 

『ヒーローマシン』

 

未来のゲーム。好きなゲームカセットを入れると、そのゲームの主人公になって遊べる。

 

 

『探検ごっこ用蒸気船』

 

未来の子供が探検ごっこに使う、遊び専用の船。

 

 

『スモールライト』

 

このライトの光を浴びせると、どんな物でも小さくなる。縮小スイッチと、元の大きさに戻すことができる復元スイッチが付いているが、逆の効果を持つ『ビッグライト』で元の大きさに戻す事が多い。電源は普通の1.5Vアルカリ電池を2本使用。たった3Vの電圧でエネルギー転換装置が作動し、電気を縮小ビームに変える。効力には時間制限があり、いったん小さくした物も時間が経つと元の大きさに戻る。

 

 

『空気砲』

 

空気圧を利用する武器。腕にはめて「ドカン」と言うと発射される。ドラえもんズの一人、ドラ・ザ・キッドが使う武器。

 

 

『ひらりマント』

 

目の前に迫ってくる物に対してこのマントを振りかざすと、跳ね返す事が出来る。跳ね返せるのは物体だけでなく、光線などの不定形なものにも効果がある。電磁波の反発を利用している。ドラえもんズのエル・マタドーラはこの道具を使うのが得意。また、怪盗ドラパンの普段付けている黒いマントもひらりマント。

 

 

『時空震カウンター』

 

時空間の流れの波動をキャッチして、漂流物などがどこから来たのか調べられる。※今回は時空間の調査が出来るという設定で使用。

 

 

『通りぬけフープ』

 

通り抜けたい所に当てると、どんな扉や壁でもフープをくぐって反対側へ抜けられる。次元を操作すると、通り抜けられなくしたり、全く違う所へ通じさせる事も出来る。壁に当てると自動的にスイッチが入り、空間原子分解装置が動き出し、そこから電波が出る。空間原子分解装置同士が電波で共鳴し合い、通り抜けられる物の原子を揺らして穴を開ける。ドラえもんが普段使っているのは1人が潜って通れる位の大きさだが、映画「ザ☆ドラえもんズ・怪盗ドラパン謎の挑戦状!」では、「通り抜けフープLLサイズ」というドラえもんズとドラパンの8体が余裕で同時に通れる大きさの物が登場している。

 

 

『タケコプター』

 

気軽に空を飛ぶ事が出来る道具。体のどこにでも取り付けられる。吸着の方法には万能吸着盤とけん引ビームの2種類がある。超小型の電池を内蔵。時速80kmで連続8時間の運転が可能。休み休み飛ぶと、電池も長持ちする。頭に付けてスイッチを入れると、反重力ボードと呼ばれるプロペラが回りだし、反重力場が体の周りにでき、地球の重力を遮断して浮上する。方向やスピードを思い浮かべるだけで、脳波がコンピューターに伝わり、プロペラの回る速度が変わっていく。その回転速度の変化によって重力場の方向が移動して、前後・左右・上下と自由自在に飛ぶ事が出来る。

 

 

『救命イカダ』

 

使わないときは小さいが、いざというときに水に浮かべると大きくなる救命イカダ。

 

 

『カサイラズ』

 

このガスを体に吹き付けると、水を近づけない。ひとふきで1日は効き目がある。

 

 

『色々カラーパレットと筆』

 

何でも好きな色に塗り替えることができる道具。赤、青、黄、緑、黒、白の6色のなかから、パレットで好きな色を混ぜ合わせて他の色を作ることができる。色を着けた筆を、異なる色に変えたいものに向けて筆を走らせると、その色に塗り替えることができる。白色を塗ると、その対象物は目に見えなくなる。使い過ぎると、あらゆる物が真っ黒になって意思を持つようにうごめきながら襲ってくることがあるが、水で洗い流すことができる。

 

 


 

 

【水平線テープ】

 

『地平線テープ』の改造品。テープをくぐった先は波一つない静かな海が永遠と広がっている。海と称したが設定次第で水は変更可能である。

 

 

【潔白セイレーン】

 

半身半獣のロボット型の道具であり、鳥型と魚型がある。無実の罪で疑われている人を歌を歌いながら擁護してくれる。また歌声自体に鎮静効果が備わっている。罪を犯しておきながら『潔白セイレーン』に頼むと、そのことが暴露され、他の罪も次々に歌われる。擁護ロボットに見せかけ尋問用ロボットではないかと一部では言われている。※たまに変換ミスで潔癖セイレーンになってる事がある。

 

 

【ころがしや】

 

『ころばしや』の改造品。『ころばしや』と同じような形状をしており、名前を告げながらお金を入れることで起動する所までは同じである。腕につけられた銃を撃ちながら呼ばれた者を追いかけるが転ばせる事はせずに、逃走者にギリギリで対処できていると錯覚させて、延々と逃げさせる。その名の通り相手を手の平で転がす、悪戯道具。ころばし屋が有名だからこそ成り立つ、見た目を利用した半分ジョークグッズである。そのため、『ころばしや』だと勘違いして逃げた結果、勝手に転んだりしても『ころがしや』には関係の無い話である。ただし、危険な転び方の場合は助けてもくれる。※毎回やを屋と一度間違えて入力してから確認時に直している。

 

 

【ヤドカリハウス】

 

『でんでんハウス』から着想を得た道具である。『でんでんハウス』と違う点はあまり無い。ただおしりではなく、背中にくっつくようになっている。外的排除にイソギンチャク型のアームをつける予定だったが重くなりすぎて辞めたという開発秘話がある。

 

 

【食べるクラッカー】

 

食べる事で発動させることが出来るパーティ用のクラッカー。見た目は普通のクラッカーであり、少し甘じょっぱい味で、付随品でクリームなどが何種類か存在する。食べるとお腹の中に何かが溜まっていく感覚があり、口を開くと口の中から火薬に似た音と共にテープや紙吹雪が飛び出る。音の大きさやテープや紙吹雪の量は食べた量に比例し、食べすぎると自分が発した音にショックを受けて気絶する可能性があるので注意が必要。一箱が許容量の限界であり、何箱も食べると命に関わる。

 

 

 




久しぶり過ぎで何かミスがあっても全然おかしくないです。変なところあったら報告お願いします。

いつも報告してくれる皆様には大変助かっております。本当にありがとうございますm(_ _)m

それと前回のお試しとそれに関するアンケートにご協力頂きありがとうございます。そして、結果を顧みたところ、アレは止めにします。人数増えまくってもなんとか分かるように書き上げていけるよう努力いたします。

次はちょっと長いのばかり書いてたので短い話を持ってくる予定です。(と言いつつ書き直したりチェックをしてる最中に延ばすのが私の悪い癖)

気になる事がある場合やこれおかしいんじゃないの?といった点がありましたら感想でもメッセージでも送ってください。送られると嬉しいです。いつも励みにさせてもらっています。

ひみつ道具の効果とかは曖昧だったり、どこまで範囲なのかとかを考えさせられるものが多いんですよね。今回、『約束先取り機』を後でお話するから今伝えさせてといった形で使用した事になるんですが、あれいけますよね?

正直、この道具もなんでもあり寄りの道具だと思います。後で出来るのであれば今に結果が現れる。逆にいえば結果を持ってこれない事象であれば未来でそれは絶対に行えないということになるのでできるできないの調査にも使えそう。今と未来で矛盾さえなければなんでも出来るのは強すぎる。

直接的なものとか、後で出来なくなるものは難しいかな。後で倒すから今倒してとかは無理かな。今倒した時点で後で倒す対象がいなくなるから約束が果たせない。だから今は倒せない。うぅん、文字だけだとややこしいな。

話が少しそれましたが道具の範囲の話ですが他にも『カサイラズ』を水だけを弾く道具と私は完全に限定させました。

なので勢い次第ではありますが泥水をかけたとしたら水分が取り除かれて土だけが身体にかかると思ってください。全てではなく一部は止められた水に溶け直して落ちるかもね。

水だけと言っても何処までを水とするかとかも難しい。純粋にH2Oだけなのか、多少の不純物を許容するのか、そこいらへん次第では使い道に差が出そう。

本当に水だけを弾けるのであれば水に溶け込んだものを取り除くのにも使える便利な道具になる。


『通りぬけフープ』も穴が空いたのとは違うから船に貼っても直ぐに沈みはしないでそこを通った水が入り込むといった。細かい仕様とかを考えて書いてるけど、通るって何をもって言うのか、意思をもって通ろうとすればなのか、それとも物だろうとなんだろうとフープに対して勢いをもって入れば通るなのか。

ひみつ道具の性質とかって考え出すと止まらなくなりそうです。大きな事よりも小さな部分が気になる質でして、それにたぶん他の人とは気にする場所はズレてると思います。またなんか変な事語りだしたって思っても温かい目で見守ってください。

と無駄な所でここぞとばかりに話しましたがそろそろお開きにさせていただきます。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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ミュージアムで大騒動?!オカシナひみつ道具!!前編

八ヶ月……時の流れは早いですね……

お久しぶりでございます。
まだ見てくれている方はいるのでしょうか?

もしいましたら、大変おまたせしました。
たまたま見つけたよという方も気長に待ちつつ、読んでいただけると嬉しいです。




 

 

 私は新しいひみつ道具の作成や今あるひみつ道具の改造などに携わっている。その過程で出来た道具の中には食べ物や飲み物などを媒体として効果を発揮するものがある。

 

 元々存在する道具でも有名なものでは『桃太郎印のきびだんご』『ほんやくこんにゃく』等は定番だ。他にも『おすそわけガム』『食用宇宙服』『食用浮きわ』『音楽イモ』『うぐいす印のおまんじゅう』と多岐に渡る。

 

 私が作ったものでは【食べるクラッカー】なんかがそれに当たる。イモなどの素材そのものを使う物や宇宙服の様に元となる道具に食材の要素がない物は関係ないが、既存の食品が元にあるひみつ道具であれば本体の味もこだわりたい所だ。

 

 どうせなら美味しい方が使用者も嬉しいだろう。そんな考えのもと構想していたひみつ道具の中からとある条件を満たした物をリスト化させるととある人物のもとへと向かった。

 

「えぇ!?ボクがひみつ道具の味を!?」

 

「はい、素晴らしいお菓子を作る貴方に協力して欲しいのですよ。()()()()()

 

 ロボット養成学校に通うネコ型ロボット仲間のジェドーラ……彼はおかしなお菓子なオカシナナ?に登場したパティシエだ。

 

 私と彼とは直接的な知り合いではなく、ドラえもんズの面々に呼ばれて参加したお菓子パーティで顔見知りになった程度ではあるが、そこそこの関係は築けている…筈だ。

 

 正直なところ、ドラえもんズの面々と比べて会う頻度は少ないのでどう思われているのかは定かではないがそれは関係ない。

 

 どんな物でも専門の者の方が技術的には優れている。例外も無いとは言わないが、ジェドーラは本当に凄腕で作るお菓子には笑みがこぼれる程だ。

 

「道具への効果付与についてはこちらがやります。ジェドーラにはリストにあるお菓子をいつも通り作って貰えれば大丈夫です」

 

 そう言って計画にあるひみつ道具の作成に必要なお菓子のリストを手渡すとおどおどしてたのから一転して興味深く目を動かしている。

 

「洋菓子に和菓子にと色々あるねぇ…ボクで良いのかは不安だけど発表できる場が貰えるのは嬉しいし……うぅん」

 

 まだ時間があるとはいえ急に呼び出して話したからかとても悩んでいますね。普通に悩む分には構わないのですが……

 

「いやぁーー!!困った困った困っ・・・」

 

「ああ、やはりですか……」

 

 困った自体に陥ると走り回って暴走する癖が彼にはあります。こうなると落ち着くのを待たないといけません。

 

 どうしてドラえもんやその知り合い達は一癖あったり、分かりやすい弱点があるのだろうか。そんな事を考えつつしばらくの間、周りに被害が出ないようにジェドーラを見守った。

 

「ようやく落ち着きましたか?」

 

「いや~ごめんよ…」

 

「貴方の癖は理解していますので、それで今回の件は受けて貰えますか?」

 

 これでダメだったら専門の所に依頼するしかないので少々出費的な面でも痛い所なのだが……そんな現実的な事を考えつつ返答を待つ。

 

「受けようかなって思うんだ。腕を褒められたのは嬉しいし、それを見せる場を学生の内に貰えるってのはあまりないと思うから」

 

 快い返事を貰え良かったと安心し、詳しい話を二人で詰めていった。お菓子の試作や道具化に当たっての注意事項の確認、コストを踏まえて可能なラインの見極め、色々と含めると準備の期間もかなり必要になる。

 

 数ヶ月かけての調整を終える頃にはひみつ道具の食べ過ぎでお菓子はしばらく見たくないと思えて来るほどで、一部を除くとかなり甘い時間を過ごすことになった。

 

 それでも二人で力を合わせて作り上げた道具は自信を持っておすすめできるレベルに到達した。

 

「これならいけますよ。今からなら来月にあるひみつ道具の発表会にも間に合います」

 

「それって企業とかも見に来るって言うあのかい?!」

 

「ええ、しかも今回の開催場所はあの()()()()()()()()()()()の位置する島……専門の職人が多く出場する筈です」

 

 新作の発表会はもちろん、出品者同士のコンペに企業側のお題提示、職人と研究者による討論やミュージアムからの審査と本場だからか今回は全体的に企画が多い。

 

「新作発表とコンペは出たいところです。それと食品全般の企業イベントがあってそちらが今回は本命ですかね。個人的に参加する物もありますがね」

 

 これは味や効果はもちろん、必要性、保存性、社会性、流行、その他にも多くの観点から評価されるものとなっている。

 

「新作発表やコンペはひみつ道具の登録に、企業イベントは専売契約などに繋がります。そこで結果が残せればもちろん評価にも……」

 

「そんなとこでボクのお菓子が戦えるのか分からないけど応援してるよ」

 

「ジェドーラ……この企業イベントは当日作成の規定なので貴方も行くんですよ……」

 

「えぇーー!?」

 

 少々抜けてる所もあり大丈夫なのかと不安になりますが、ジェドーラであれば問題なく終えられる筈です。そう励ましながら当日までの時間を過ごしていった。

 

 そしてひみつ道具発表会当日、ひみつ道具ミュージアムへと向かう特別バスに9人で乗り込むと、車体が宙に浮かび、空を駆け始める。

 

「いやぁ、楽しみだぜ」

 

「ワウワウ」

 

「新しい道具、有用な物があれば良いですね。それに各企業のイベントも興味深いです」

 

「僕はひみつ道具市の方を見に行こうかな。新作発表に合わせて比べられる様に旧型が定価より安く売られてるんだって」

 

「ハイドラとジェドーラが参加する催しはみんなで見るんだよな」

 

「それまでは自由時間であるが、5分前には集合であ~る。忘れてはならんぞ特にドラリーニョ」

 

「分かってるって大丈夫大丈夫」

 

 本来であれば抽選に当たらなければ会場に向かうことさえ出来ないがそれぞれの首元には関係者向けのパスがぶら下がっている。

 

「賑やかで楽しいねぇ」

 

「まぁ、緊張するよりはマシですかね」

 

 島にたどり着くと各々でイベントを楽しもうと直ぐに一同は解散して島のあちこちへと散らばっていった。それを見送るとジェドーラと共に用意されてる設備を見に行く。

 

「うわぁ、凄いよこれは!!」

「規定上そこまで参加者は多くないでしょうが、エントリーしたグループの数だけ用意したとなると中々に手間が掛かってますね」

 

 立ち並ぶは最新のものと思われる家電たちや調理器具、そしてそれを遺憾なく使えるであろう調理場も機能的で素人目に見ても優秀なのが分かる。

 

「材料は予備がありますし、此処の道具に慣れる為にも試作をしませんか?試作分は後で顔を見せる彼らに食べてもらえば無駄になりませんしね」

「うんうん、良いね。何から作ろうか?」

「それでは……」

 

 


 

 

 イベントの関係で通常の客を制限しているひみつ道具ミュージアム、その非正規の入口から飛び出した影はその高さを気にすることなく飛び降りて下の島へと移った。

 

『まったく…あれじゃあ怪盗なんてまだまだ先だね。あのキザな奴を紹介してやろうかと血迷う所だったよ』

 

 灯台下暗しとはよく言ったもの…相手の膝下で暮らす面白い奴目当てに接触を試みたが生憎と収穫は少ないと愚痴をこぼすが、それでも目当ての物の他に幾つか使えそうな道具は確保している。

 

『フルメタル非使用でこれほどの効力は普通に笑えないねぇ。さて、後はあちこち見て回るかな。()()()とも合流しないといけないんだが…げっ?!』

 

「居たぞ!!通報にあった指名手配犯だ!!」

 

 彼女が気付いた時には相手も既に気付いて居たようで身を隠すには少々遅かった。距離が微妙に空いており、応援を呼ぶ前に倒すともいかない。

 

『警察も働くねぇ…って一旦走るか、一人で逃げる訳にも行かないしねぇ』

 

 踵を返すように駆け足で警察の姿のない方へと建物を利用しながら進んで行く。イベントで賑わっている為に人混みに紛れれば逃走も容易い。

 

 路地から路地へ、壁を蹴り上下にもその身を移して翻弄する。しつこいなと舌打ちを1つした時にふと前を見るとそこには観光客らしき姿があった。

 

「むげっ?!」

 

『おっと、悪いね。頭の上失礼するよ』

 

 申し訳ないと口には出すが実際の心の内ではケラケラ笑い、丁寧に避けてやる道理はないと頭を思い切り踏みつけてその場を駆け抜ける。

 

「……なに人様の頭を足場にしてくれたんだ!!待てやこらぁあああ!!」

 

 1つ誤算があったとすれば相手がただの観光客ではなく、少なからず腕に覚えがあり、少々短気という厄介な存在だった事だ。

 

「ドカーン!!ドカーン!!」

 

『うわっ?! いきなり撃ってくるとは…中々にクレイジーだねぇ……』

 

 体勢を崩しつつも着地をしっかり行い、ルートを修正して走り出した。それを確認するとキッドも待ちやがれと叫びながら後に続いていった。

 

 それらの遣取を少し離れた位置から観察していた者は彼らの向かった方角を確認すると通信機を懐から取り出した。

 

〘くそっ()()()()め!!こんな場所で事を起こされれば問題どころの話じゃないぞ!!お前らイベントエリア方面に先回りするんだ!!…それにしても『空気砲』の彼は何者だ。かなりの腕の様だし首にあったのは関係者パス、休憩中の護衛ロボか? どちらにせよ一般人にかわりないが……いや、追い詰めてくれるなら儲けものだな〙

 

 


 

 

「エル・マタドーラありがとう。おかげで掘り出し物が手に入ったよ」

「このぐらいどうってことねぇよ。それじゃ、ちょいと離れてしまっちまおうぜ」

 

 ドラえもん達の中で一番の力持ちであるエル・マタドーラのおかげで買い物をしたまま市の中を見て回るのも楽に済んだ。

 

「あったあった。おーいドラえもんこっちだ。ここに超空間使用許可所があるぞ。とっととポケットに入れちまえよ」

「うん、それにしても警備が厳重だよね」

 

 関係者パスをかざして監視カメラの設置された小部屋に入るとようやく荷物を四次元ポケットにしまうことが出来た。

 

「特定のエリアか許可所以外じゃ使えねぇのは不便だよな。うっかりでも手を入れたらおもっきし弾かれるしよぉ」

「ははは、イベントがイベントだからやっぱり部外者が入り込む余地は削っておきたいのかな?」

 

 企業スパイ、他社企業への妨害や参加者同士の争い等で雇われた者、関係のない情報屋や道具目当ての犯罪者、そういった手合が来れない様にするには出入りを完全に塞いでしまうのが一番だ。

 

 ひみつ道具自体の使用はよっぽど危険なものでなければ問題ないがそれを持ち運ぶ為のポケット等は軒並み規制の対象になり、使用許可のない場所ではバリアが貼られて荷物の出し入れも出来ない。

 

「リュックなんて持ち出したのも久しぶりだからな」

「はは、普段は何でも入れっぱで良いからね…ってなんだろう?向こうの方が少しざわついてる」

「本当だな、ちょっと行ってみるか」

 

 出店などがあるわけでもゲリライベントが開催されてる訳でもないのに出来ている人集り、その中をかき分けるように進んでいくと集まる人々の視線の先には何やら規制線らしきものが張られていた。

 

「警察の姿もあるし何かあったのかな」

「まぁ、俺らには関係ないだろ。そろそろジェドーラ達の所に向かおうぜ」

 

 問題を起こしたり、騒動に巻き込まれたりで少なくない回数お世話になっているがわざわざ自分たちから関わる相手ではない。そう思っていると警察達の会話が耳に入る。

 

「ここよりやや西側、住居エリアからイベントにおける特設エリアにかけて対象が移動中」

「規制線を避ける様に移動方向を変更したか……」

「現場には対象の他に黄色のネコ型ロボットが一体、犯人を追跡中、腕のあるガンマンらしく『空気砲』を所持しているそうだ」

「増援で特殊部隊が来たって話は無いが、それって一般人か?」

()()からの報告によると関係者パスを持っているのを視認済みで一般人と判断。ただ有用だから邪魔をせずにむしろ協力しろとのお達しです」

「あの人の悪癖が出たな。使えるならその場にいる誰でも使うんだからまったく」

「規制線は変わらず展開、数名はこの場で待機、経路に不審物が置かれてないか及び被害の確認を急げ、移動方向を予測し制限する様に新たに規制線を張り直すぞ!!」

 

 警察の人たちは指示を聞くと素早く動き回り、周辺の調査などを進めていく。そんな中でドラえもんとエル・マタドーラは嫌な汗をかいていた。

 

「黄色のネコ型……」

「『空気砲』を持ってるガンマン……」

 

「「なにやってん()?!キッド(あのバカ)?!」」

 

 関わりたくないと思っていても既に身内の一人が関わってるとなると話は変わってくる。ドラえもんとエル・マタドーラは犯罪者とキッドが向かってるであろう特設エリア方面へと慌てて駆け出すのだった。

 

 


 

 

『うわぁ、まだ追ってくる……警察も面倒な動きしてるしなぁ』

 

 おいかけっこを始めてから既に十分以上経過している。警察への足止めに利用しようとした一般人の怒りの力にはさしもの犯罪者であっても一欠片の恐怖を抱くレベルである。

 

 警察は一般人を最大限に利用しており、彼によって追い立てられているパンドラの逃げ先を少しでも潰すようにしている。

 

 このままでは仲間との合流もままならないままに道具も体力も消耗するだけである。

 

『流石にしつこいし、使っちゃうか。呪い(想い)を込めた絶望(プレゼント)……開いちゃえ〚パンドラボックス〛!!』

 

 懐から取り出した箱に何らかの道具を放り込むと、立ち止まって追跡者や隠れている警察の方へと中の物を放った。

 

「なんだコイツ?!くっ、ドカーン!!」

 

 機械仕掛けの獣とでも言えば良いのか普通のロボットとは違う物々しいその姿に焦りを見せながらも空気砲を放ちながら距離をとって様子を見る。そういえばもう一体は何処に行った?と気付き振り向くと警官数名が獣と向かい合っていた。

 

「警部、〚パンドラボックス〛の使用を視認。出現個体数2、表出機能は現時点で確認出来ていません」

「消費されたひみつ道具数はおそらく4、その内3つは視認成功、『ぺたり手ぶくろとくつ』『デンデンハウス』『チータローション』です」

「対応に当たりますが念のため増援をお願いします。協力者への情報提供は…はい、了解しました」

 

 キッドの位置からでは何を話しているのかその内容までは届いていなかったが冷静に対応していることから目の前の存在について知ってると判断した。

 

「おい、あれってなんなんだ。壊しても問題ないのか?」

 

「あれは犯罪者パンドラの所持している特殊なひみつ道具〚パンドラボックス〛によって作られた存在だ。他のひみつ道具を材料に作られたロボットで、使用されたひみつ道具と同じ効果を持つから即席とはいえ厄介だぞ。本来なら一般人は下がってろと言いたいがうちのボスが戦闘許可を出してる」

 

「遠回しだな。手が足りないから手伝えって言ってくれて良いんだぜ」

 

「そうもいかないのが組織であり、社会だ。確認してるのは『ぺたり手ぶくろとくつ』『デンデンハウス』『チーターローション』後一つが分かってない。おそらく2つずつ使用されてる筈だ」

 

「そんだけ分かれば十分と言いてぇが、『ひらりマント』じゃないことだけは祈るとするか」

 

 素早く情報交換を終えるとキッドは元々自分が相手をしていた獣の方へと向かっていった。軽く調子に乗った様子で悪態をついていたが、内心では暴れたお咎めがないかとヒヤヒヤしていた為に許可を出したというボスとやらに感謝していた。

 

「ヘヘ、いくぜ!!ドカーン!!ドカーン!!」

 

 連続して空気砲を放っていくと細かい動きで避けているとはいえ少しずつ追詰め、段々と逃げ場を封じていく、次で当たる。そう考えて思い切り撃ち放ったそれは地面をへこませるだけだった。

 

「『ぺたり手ぶくろとくつ』の力か…壁に張り付いて逃げるとはやってくれるな。だが逃げる先が分かれば当てるのなんてわけないぜ!!ドッカーン!!」

 

 壁に張り付いている相手を下から上に向けて追い詰めるように誘導してから大きな一撃を食らわせて吹き飛ばして地面へと落とした。

 

 『デンデンハウス』や『チーターローション』を使う様子は見られなかった。分かってない道具の可能性が高いと考えたが「あの高さから落ちれば無事じゃすまないだろ」と警察が相手をしている方へと視線を向けた。

 

「っぐぅあ?!」

 

 次の瞬間にキッドは背後から物凄い勢いで叩きつけられる様な痛みを与えられると同時に地面を転がる様にぶっ飛んだ。

 

 何が起きたのか分からないそんな困惑した頭の中の思いを振り払い、痛みに耐えながら目を開くとそこには多少は『空気砲』のダメージが見られるがそれでも五体満足で立っている敵の姿があった。

 

 なんで、どうして、そんな問いかけよりも先にこの場から逃げなければと身体を動かそうとするが痛みで直ぐには難しく、それでも無理に動かそうとすれば逆にうずくまる事になった。

 

「おいおい、かんべんしてくれよ……」

 

 だがそんな事情は相手からすれば知ったことではない様で一気に駆け出すとキッドを目掛けて一気に跳び上がった。

 

「……?」

 

 来るであろうさらなる痛みに目をつむり、少しでも絶えれるようにと頭を抱える様に自身の身体を守る。だがしばらくしても痛みが来ないことを疑問に思い頭を上げるとそこにはロボット相手に蹴りを叩き込んでいる親友の姿が映った。

 

「危なかったですね。キッド」

 

「王ドラ?!なんでここに?!」

 

「ドラえもん達から連絡があったんですよ。イベントエリア方面なら私の方が近いだろうと」

 

 助かった事への感謝は無論あるがそれ以上になぜ彼がここに居るのかを訊くとこれまたこの場に居ない親友達の名前を聞かされ何がなんだか分からないがとりあえず自身の無事にホッと息をつく。

 

「助かったぜ王ドラ」

 

「感謝は後で、まだ終わっていませんよキッド」

 

「お前の蹴りでけっこう吹き飛んでたがまだ壊れてねぇのか?!」

 

「あれを見れば分かりますよ」

 

 視線を向けた先には建物の壁から壁に飛び移るだけでなく、飛び降りた先の地面に口から何かを吐きかけるとそのままトプンと地面に沈み込んでいく敵の姿。

 

「あれは『ドンブラ粉』か、そりゃ地面に叩き落としてもダメージが無いわけだぜ……」

 

「だからといって建物に叩きつける訳にもいきませんし、『ぺたり手ぶくろとくつ』である程度の衝撃は吸収されるでしょう」

 

「となるとやることは一つか……俺は大きく動けねぇから上手いこと頼む」

 

「えぇ、やってみせます!!」

 

 王ドラが前に出ると事前に蹴り飛ばされたのもあってか敵対心むき出しで飛びかかってきた。

 

「来るのが分かっていれば避けるも受けるも容易いですね」

 

 立体的な動きは面倒ではあるがそこまで速度があるわけでもなく、『ドンブラ粉』で潜っての奇襲も地面の揺れから位置を特定できれば脅威ではない。

 

 だが王ドラの攻撃も効いてない訳ではないが決定打にかけており、ちまちまとした攻防がしばらく続く。

 

「どうにかして不意をつければ、道具は取り出せませんしどうしたものか……待てよ取り出す……キッド!!」

 

 王ドラはキッドに呼びかけるととある物を素早く借りて機会を待つ。どんな形でも良いが敵が飛び込んで来た時がその時だ。攻撃を捌きながら、自分たちの位置を把握し、相手が大きく動いた瞬間にそれを目の前に取り出した。

 

「喰らいなさい『四次元ハット』!!」

 

 敵の攻撃をキッドから借りた『四次元ハット』の取り出し口で受け止める。今日この会場では特定のエリアが許可所以外では四次元空間も封鎖されており、バリアが張られている。

 

 それは飛びかかってきた敵も例外ではなく、バリアに触れた勢いをそのまま返されて何もない空中へと綺麗に誘導された。そして弾いたのを確認すると王ドラは壁を蹴って敵の上をとった。そして真下には王ドラから作戦をきいたキッドが待ち構えていた。

 

「そこには潜れる地面も張り付ける壁もありません」

「空中で2方向から衝撃を与えられたら逃がしようもねぇよな?」

 

 互いの力量を疑うような真似はしない。ただ敵を倒すべく、必要なのは寸分違わず、同じ場所に相手に負けないだけの力を込める作業だけ、ならば狙うのはただ一点。

 

「「ど真ん中(中心)撃ち抜く(打ち抜く)!!」」

 

 叩き落さんと身体を弾丸の様な勢いで落とす全体重をかけた飛び蹴りとその全てを支えるかのようにフルパワーで放たれた空気砲が宙でぶつかり合い、そして弾けた。

 

「ここまでバラバラになれば疑いようもねぇよな」

 

「っと、再生機能はなさそうですし終わりかと」

 

 倒したと思った相手から攻撃を食らったキッドは苦い顔をしながら確認していると着地した王ドラからの報告を受けて安心する。

 

「ふぅ、落ち着いたらまた身体が…イテテテテ?!」

 

「とりあえず病院とまでいかずとも治療の出来る場所に向かいましょう。その怪我で無理は禁物ですよ」

 

「あぁ……あっ?!でも追いかけてた奴はどうすんだよ?!」

 

 相手の作ったロボットにだいぶ足止めされてしまったが諦めた訳では無い。思い出すと頭を踏みつけられた怒りも思い出した様だが今から追いかけるのは無理がある。後は警察に任せるしかないのかと考えていると王ドラが口を開いた。

 

「その心配はいりませんよ」

 

「なんでだよ?」

 

「あなたが成り行きで追いかけてた犯罪者はドラえもんとエル・マタドーラ(二人)が追跡中ですよ」

 

 

 

 

 


 

登場したひみつ道具

 

『桃太郎印のきびだんご』

 

桃の絵が描かれた網袋に数十個入っている。味は美味。どんな動物でも、これを食べると言うことを聞くようになる。人間以外の全ての動物に有効で、脳の大きさが小さければ小さいほど効果は長持ちする。目安はハトで30分。作り方はまず、キビというイネ科の実をすり潰し、それを特製液で混ぜ合わせてダンゴにする。腐らないように粉状のオブラートでコーティングし、袋に詰めて出来上がり。このキビダンゴを食べた動物は、生まれたばかりのヒナが初めて見た動くものを母親だと思いこむ“すりこみ現象”と似たような事になる。ダンゴに入っている特製液によって、その動物の脳は生まれた時と同じ状態になる。そして、初めて見た人を自分の主人だと思い込んでしまう。これを食べさせて何度も訓練すれば、しだいに食べさせなくても言うことを聞くようになる。

 

 

『ほんやくこんにゃく』

 

これを食べれば、日本語が外国語に、外国語が日本語に聞こえる。また本来食べる事の出来ないロボットにも、対象の上に乗せれば自動的に翻訳してくれる。会話だけでなく、外国語で書かれた文章を読む事も可能。さらに外国人だけではなく、宇宙人、動物、ロボットの言葉、古い言語なども翻訳出来る。映画「のび太の日本誕生」では、お味噌味が登場した。『ほんやくコンニャクアイス味』もある。

 

 

『おすそわけガム』

 

このガムを分け合って食べると、分けた人の食べた物の味が伝ってくる。

 

 

『食用宇宙服』

 

これを食べると体の中で酸素が作られて、外側に膜ができ、宇宙服を着たのと同じ状態になる。

 

 

『食用浮きわ』

 

これを食べると、お腹の中で膨らみ、水に飛び込んでも沈まない。

 

 

『音楽イモ』

 

この芋を食べて10分経つと、おしりからメロディーガスが流れる。大量に食べ過ぎるとメロディーガスをコントロール出来なくなり、ガス爆発を起こす事がある。臭いも凄い。

 

 

『うぐいす印のおまんじゅう』

 

これを食べると美しい歌声になる。

 

 

『空気砲』

 

空気圧を利用する武器。腕にはめて「ドカン」と言うと発射される。ドラえもんズの一人、ドラ・ザ・キッドが使う武器。

 

 

『ぺたり手ぶくろとくつ』

 

蛙の手のような形をしていて、これを身に付けると、表面としっかりくっ付き離れない。

 

 

『デンデンハウス』

 

この中に入ってしまうと、外で何が起きても平気。エアコン付きの快適な住まい。まず、おしりをデンデンハウスの吸排出口に押し付ける。すると、吸い込まれながら伸縮機によって小さくされる。転がされたりしても中はいつも水平に保たれ、壁のパネルスイッチ(エアコン、カーペット、スピーカー、ベッド)を押せば、4つの設備が出てくる。

 

 

『チーターローション』

 

これを足に塗れば、目にも止まらぬ速さで走ることができる。

 

 

『ひらりマント』

 

目の前に迫ってくる物に対してこのマントを振りかざすと、跳ね返す事が出来る。跳ね返せるのは物体だけでなく、光線などの不定形なものにも効果がある。電磁波の反発を利用している。ドラえもんズのエル・マタドーラはこの道具を使うのが得意。また、怪盗ドラパンの普段付けている黒いマントもひらりマント。

 

 

『ドンブラ粉』

 

この粉を体に付けると、体の周りが水みたいになって土の中でも泳げる。水より浮きやすいので、下手でも何とか泳げる。万が一溺れると、掘り起こさなければならないので大変な事になる

 

 

『四次元ハット』

 

『四次元ポケット』の一種

 

 

『四次元ポケット』

 

正式名称は「ロボット専用四次元空間内蔵秘密道具格納ポケット(四次元空間使用許可管理局承認番号D7E1293)」。ドラえもんのポケットのこと。中にいくらでも物を入れる事が出来るが、あまり乱雑に入れておくと目的の物を取り出すのに時間がかかる。伸縮自在の繊維で出来ていて、裏側はどこにでもくっ付くようになっている。四次元ポケットの中は超空間になっていて、三次元の物体をほぼ無限に収納出来る。ポケットの入り口にイメージ検索機能が付いているので、出したい道具を頭の中でイメージするだけでポケットの中のコンピュータが探しだしてくれる。また、スペアポケットは四次元ポケットと超空間で繋がっていて、どちらからでも道具が取り出せるようになっている。スペアポケットに入って四次元ポケットに出ることも可能。ドラえもんが自分のポケットから同名・同型の『四次元ポケット』を出した事があるが、こちらには普段使わない物を入れておく道具としてのみ使われている。バリエーションとして、ドラえもんズのドラ・ザ・キッドの四次元ハット、王ドラの四次元そで、ドラメッドⅢ世の四次元ランプ、ドラニコフの四次元マフラーがある。

 

 

 

 

オリジナルひみつ道具

 

【食べるクラッカー】

 

食べる事で発動させることが出来るパーティ用のクラッカー。見た目は普通のクラッカーであり、少し甘じょっぱい味で、付随品でクリームなどが何種類か存在する。食べるとお腹の中に何かが溜まっていく感覚があり、パーンと口に出すことで口の中から火薬に似た音と共にテープや紙吹雪が飛び出る。音の大きさやテープや紙吹雪の量は食べた量に比例し、食べすぎると自分が発した音にショックを受けて気絶する可能性があるので注意が必要。

 

 

オリジナルひみつ道具?

 

〚パンドラボックス〛

 

指名手配犯パンドラの持つ特別製の道具、その全容は彼女を追いかけ続けてる警察も把握しきれておらず、取り込んだ物をその場に合わせて作り変えるなどその機能には目を見張る物が多い。

 

 





私はドラリーニョを原因にするか、オリキャラを出さないと話を書けないのだろうか?

いや、元々強めで特殊なひみつ道具を持つキャラは出そうと考えていたんですが、話の構成の仕方が基本的にいつも同じになりがちです。

これ書き終わったら純粋な日常回みたいなのを書けるように頑張ろうかな。


読んでくれている方々に多大なる感謝を。




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ミュージアムで大騒動?!オカシナひみつ道具!! 後編

前編の4倍の文字数があるって、分け方下手くそ過ぎかな?前みたいに中編も入れるべきだったかな?しかし、もう作業がめんどいんだ……なんか普通に頭痛いし寝たいんだ……とりあえずなんとか活動報告の宣言には間に合わせたから許して。


 

 

 ドラえもんとエル・マタドーラに追いかけられているパンドラ、このペアは逃走するうえでそこそこ厄介であった。それでも逃走を続けられているのはパンドラの持つ力量が故である。

 

 追跡を妨害しようと投じた物は『ひらりマント』によって弾かれてしまう。その時点でただ浪費するだけだと道具や持ち物を用いた妨害は諦めた。

 

 そしてこの超空間の禁止された場所では持ち込んだ道具以外は使えない。だがドラえもんは市に寄る為に持ち運びに便利なリュックを持ってきており、使えそうな道具をいくつか仕込んでからやってきていた。

 

「この壁の向こうに逃げだぞ」

 

 王ドラであれば身のこなしだけ追いかける事も可能だが二人には難しい為にドラえもんが荷物を漁り道具を取り出す。

 

「えっとえっと…『トランポリンゲン』!!」

 

 地面に撒き散らすと、そこを踏み台にして壁を飛び越えてる。華麗に着地とはいかないがなんとかパンドラを見失わずに走り続ける。

 

「ナイスだドラえもん!!」

 

「えへへ、割高な薬系も安く買えたから幾つかあるんだ」

 

『なんで警察より面倒なロボットが何体もいるのかなぁ?!』

 

 それが片方はまだ闘牛士ロボットと戦闘にも対応しそうなものだがもう一方が子守用なのだから笑えない話である。そうしてなんとか時間を稼ぎ続けようとパンドラは一つの建物へと入っていった。

 

 


 

 

 一方で少し時間は戻り、キッドと即席ロボットが戦い始めてすぐの頃、もう一体のロボットと警官達が戦っていた。

 

「『チーターローション』の加速が…くっ?!」

 

 『チーターローション』は効果時間こそ短いが効力自体はとても高い道具である。塗ることで得られる目にも止まらぬ早さというのは例えではなくそのままの意味であり、敵を捉える事が出来ずにいた。

 

 とにかく攻撃を食らうと不味いと判断して二人の警官は背中を預けるように陣取って防御態勢を取ることで相手の猛攻を凌ぎ切る。

 

 そして段々と動きが鈍くなっていく相手、再び『チーターローション』を使われる前に攻撃を仕掛けたい所だがそうは問屋が卸さない。

 

「こっちの攻撃は『でんでんはうす』に籠もられると通らない。ぐっ…おりゃあ!!」

 

 相手はこちらの攻撃が当たるかどうかという所で大部分を『でんでんはうす』に隠してしまう。全てでないのは即席故の粗さ故だろうが露出している部分を狙い撃つのは至難の技である。

 

 別に射撃の腕前がキッドと比べて警官達が大きく劣っている訳では無い。2つの意味で未来の宇宙一のガンマンであるキッドの方が腕前自体は確かに上ではある。

 

 それでも警官達だって訓練などを怠った事はなく、それなりの腕は持っている。それでも上手く当てられないのはこれもまた『チーターローション』のせいである。

 

 効力がきれて動きが少しずつ鈍くなったり、再び使用されて一気にフルスピードになったりの繰り返しで相手の移動予測がとてもではないが難しいのである。

 

 相手は意図していないが常に移動速度が変化している様な状態である。唯一変化がない時となればそれは使用してから数秒間のフルスピード状態だけだ。

 

 目にも止まらぬ速度の相手を捉えられず、変化の著しい相手の動きを予測してピンポイントを射抜くのは不可能に近い、この状況下で持ち堪えているだけでもそれなりのものである。

 

「なんとかして『チーターローション』の速度か『でんでんはうす』の防御を突破しなければこのままじゃジリ貧だぞ!!」

 

 防御を続けてはいるが攻撃を受けるたびに少しずつ腕の痺れが酷くなってきている。通常時の倍の力を発揮できる『スーパー手袋』を着けていてこれなのだから笑えない。

 

 まだ保たせられているがふとした瞬間に突破されてもおかしくはないのだ。焦りは禁物とは言え何か案はないかと声を上げて相談する。

 

「とはいっても武装で持ってるのは通常配備の『空気砲』と『ショックガン』ぐらいだ。突発的な事件だったからな俺は武装以外も標準装備だけで、申請制の物は持ってない。そっちは何かないのか?」

 

 警官とはいえ大きな被害が出るような物や殺傷性の高いひみつ道具はそれ相応の理由がなければ使用は出来ない。だが通常配備の装備では威力に欠ける。

 

 業務に必要のない物を持ち運ぶのは如何なものかと問われる為に配備物以外はあまり持ち歩いていない。しかも今日は超空間が禁止されている為に嵩張るものは持てていない。だが各個人で申請して持ち歩いてる物は別である。

 

 その中に逆転の手はないかと期待するが現実はそう甘くない。相方の問いかけに苦虫を潰した様な顔に変わったかと思うと曖昧に苦笑しながら口を開けた。

 

「……夜勤用に『眠くならない薬』、それと『コンクフード』なら申請して持ってる」

 

「はははは、そりゃあ美味そうでなによりだなぁこの野郎!!」

 

 こちとら最近はずっと申請要らずの『チューイングピザ』だよと悪態をつきながらもこの状況を打破する物が見つからずに必死に頭を働かせている。

 

 そんな警官をみてかどうかは知らないがロボットは殻に籠もったままその場で回転を始めた。スピードが倍々で上がっていく様子に血の気が引く。

 

 『チーターローション』で上がるのはあくまで足の速さである。そして効果が切れれば足の速さは落ちる。だがその足が生み出した速度によって転がる相手の速さはそのままである。

 

 速度が衰えにくいのは厄介だが『チーターローション』による速度と違って目で追える速度なのは確かである。それが救いになるかはまた別の話になる。

 

「鍛えてて40kgくらいまで持てるとして2倍で80kg、2人で160kg、抑え込むには弱すぎるな」

 

「相手が半径1.5mくらいの球体、体積が14㎥くらい、ぎゅうぎゅうにつまってなくて半分の7㎥くらいと考えても鉄製なら約8t×7で56t、2分の1で体感は28t、大型トラックの車両総重量を超えるぞ」

 

 絶望的な状況、血の気が引いて逆に落ち着いた頭が出した所で仕方のない計算の答えを導く。実際の所はひみつ道具に使用されている金属の関係でもう少し軽いのだが、それでも20t弱はある。

 

「何か挟み込んで上に跳ばすか?」

 

「下手にやれば周りの被害が馬鹿でかくなりそうだな」

 

 重さも硬さも超級の勢い付いた巨体が跳ねれば落下の際の衝撃も計り知れない。周辺に一般向けの建物はないので人命には及ばないが、施設などがある関係で被害額はかなりのものになる。軽々しく犠牲に出来るだけの判断は下っ端でなくとも出来ない。

 

「『空気砲』で速度軽減を図るか」

 

「威力最大で集中させればいけるか…微妙な所だな」

 

 ギュリギュリと地面を削るかの様な音を響かせているロボットは待ってはくれない。他に手が思いつかない以上は仕方ないと即座に空気砲を装備する。

 

「穴から飛び出した瞬間に」

 

「浮かせるんじゃなくて反す様にだろ」

 

 互いに黙り込んで相手の動き出しを待つ。そして、ロボットの動きが確かに変化し、鳴り響く音が変わったのを耳が捉える。

 

 

「3」

 

「2」

 

「1」

 

 

「「ドカン!!」」

 

 

 寸分違わず撃ち込まれた空気の弾丸は相手が無事な地面へと接地した瞬間に届き、確かにその動きを阻碍した。だが完全に停止させる事は叶わなかった。

 

「くそっ、防御を!!」

 

「駄目だ間に合わん?!」

 

 警官2人が『スーパー手袋』をつけ直して防御を試みるが相手の接近の方が早く、もう駄目かと目を瞑ったその瞬間。

 

〘私の部下に何してくれてるんだ?〙

 

 2人にとって聴き慣れた声が後ろから聴こえ、次の瞬間には警官達とロボットの間にその身体を挟み込んでいた。そして手に持っていた道具を1振りすると相手は3人を避ける様に真っ二つになった。

 

〘横倒しにしろ!!〙

 

 警部の咄嗟の指示に慌てながらも空気砲を真横から撃ち込み、勢いのままに転がり続けようとしていた半球2つはその場に横になった。

 

〘悪いな伝々虫、爆弾でも壊れない頑丈さも『チャンバラ刀』には関係ねぇんだよ〙

 

 本当に切れるが専用のノリでくっつけられるこの刀型のひみつ道具は壊してる訳では無いために防御も意味をなさない。とはいえ、猛スピードで迫りくるロボットに臆さず、弾かれずに刀を差し込んだ技量はかなりの物である。

 

「警部、おかげで助かりました。ありがとうございます」

「我々だけで倒すことが出来ず不甲斐ない思いです」

 

〘ああいった手合には非攻撃性のひみつ道具の方が相性が良いもんなんだよ。無理にスクラップにするよか動きを封じたほうがはやいだろ?その動きを封じるタイミングも『チーターローション』だと難しいがな〙

 

「なるほど『瞬間接着銃』等を使った方が良かったですかね」

 

〘アイツのパワー次第ではあるがありだな。だが後で回収が大変になるから係に嫌がられるぞ。超空間が禁止でなければ『即席落とし穴』とかもありだし、そもそも海まで何かしらのワープ装置で飛ばせるんだがな〙

 

「なるほど……勉強になります」

 

 警部から直々に教導のようなものを受けていると警部と共にやってきたであろう同僚が通信機を片手にやってきた。

 

「警部、パンドラの行き先が掴めました」

 

〘経緯は省け、やつは今何処だ〙

 

「特設エリアの一角、食品ひみつ道具部門貸し出し調理施設です。空間区画番号は4504-9114-7503、借り主である参加者はハイドラ&ジェドーラです」

 

 


 

 

「たくさん出来たねぇ」

 

「うん、さすがの出来ですね」

 

 【卵のボーロ】【恐竜変身ビスケット】【神社クッキー】等の焼き菓子系統はもちろん、【アンドゥナツ】【善哉善哉】【セイレーン印のおまんじゅう】と言った和菓子、【雪かき氷】【ジェラ〜ト】等の氷菓子、【ホットケーキとコールドケーキ】【ドリ安牌】等のパイやケーキも用意されている。

 

「ビスケットやクッキーなら商品化が決まれば高級志向のも作れそうですね」

「そん時は素材からもっとこだわって作りたいねぇ」

「『宇宙一サクサク焼ける小麦粉』でも用意しますか」

「流石に予算オーバーじゃない?」

「太陽系一くらいに抑えますかね。っとそんな事を言ってないで保存処理も施しませんとね」

 

 出来上がった特別美味しいひみつ道具たちを無駄にしてはジェドーラに頼み込んだ意味がない。そう思ってひみつ道具達に保護を施したり、一部を保存庫に入れていると何やらガタゴトと騒音が部屋の外から近付いてきた。

 

「待てー!!」

 

『待てと言われて待つ馬鹿が何処にいる!!』

 

 その音はどんどん近づいて来てついにはなんて言っているのか声が届く程になり、ついに扉が蹴破られる勢いで開かれ初めて見るネコ型ロボットが姿を見せた。

 

「あ、ハイドラにジェドーラ!!」

「そこのロボットを捕まえろ!!」

 

 その向こうにはドラえもんとエル・マタドーラもおり、すぐ近くに迫っているロボットを捕まえろと伝えられる。この数時間でいったい何に巻き込まれているのやら。

 

「うわぁ?!な、なにごと?!」

「分かりませんが…ここで暴れられても面倒です。とりあえず彼女を捕らえます」

 

『げっ、ここに来てさらに新手か?!んん〜良いモノ発見!!』

 

 彼女に道具を向けようとした瞬間、こちらへと視線を向け懐から何やら箱の様なものを取り出した。おそらくひみつ道具の類…まずいと感じた時にはもう遅かった。

 

『開いちゃえ〚パンドラボックス〛!!愉快な愉快な絶望(プレゼント)!!』

 

「『パンドラボックス』?!『正体スコープ』を…って違う?!」

 

 対応しようと道具を出すがそれはハイドラの知らない効果を見せた。〚パンドラボックス〛…そう口にされた道具は作り置かれた試作品の道具と材料を軒並み吸い込むと最悪な形で吐き出した。

 

 道具同士が混ざり合い、大きくなったのは目に見えてわかりやすい。そしてその姿は恐竜や鳥、爬虫類などを形取り一人で動いている。

 

「材料を元に道具のコピー及び改変?! 姿形は【恐竜変身ビスケット】に【卵のボーロ】からか、『おかし牧草』を使ったでもないのに動き出すとは、いったいどんな工程で効果を……」

 

「考察してる場合じゃ無いでしょハイドラ?! 」

 

『それじゃ足止めは頼んだよスイートちゃん達、それじゃバイバーイ!!』

 

 パンドラと呼ばれた者の声に反応するかのようにお菓子から作られた存在は周囲を壊しながらあちこちへと散らばっていく。

 

「…お菓子も彼女も逃す訳にはいきませんね。出てきなさい『通せんぼカバー』!!」

 

 作り変えられた道具たちの所為で距離があいてしまったパンドラを逃がすまいと施設をまるごと封鎖する様にバリアを張るひみつ道具を起動させる。

 

 そして気付けばパンドラはもちろん、作り変えられた道具たちも部屋からいなくなり、残ったのは吹き飛んだ天井…割れに割れた窓ガラス…天板に傷がついたテーブルや脚の折れたイスがそこら中に倒れ、調理器具も中身を溢しながら床に転がる惨状である。

 

「うぅう、いったいなんだったの……」

 

「ジェドーラ大丈夫?!」

 

「とりあえず被害を広げない為に出入りを封じました。エル・マタドーラ、説明をお願いします」

 

 ドラえもんに加えてドラえもんズの面々も居たのだ。何かしらの事態に巻き込まれたのだと察することが出来た。しかし、先程のロボットの姿は自分の記憶にはない。

 

 どういった存在なのか、先程使われた道具〚パンドラボックス〛とはなんなのか、どういった経緯で追いかける事になったのか、気になることは多い。

 

 とはいっても一から十まで聴いている様な時間的余裕はない。ざっくりで良いから流れを聴き出すと目を少し瞑って対策を考える。

 

……イベントの失敗はダメだ。理由があってもジェドーラの経歴に不要な傷がつくのはいけない。被害を出してしまっても全員に問題が出てくる。必要なのは道具の処理、お菓子の再度作製、パンドラの捕獲……

 

「ハイドラ…?」

 

「あぁ、ジェドーラ、おまえの癖と同じでありゃハイドラの癖だ。頭を働かせる上で思考を整理してるんだ。害はねぇし、そろそろだ」

 

 必要なひみつ道具、適切な人員、後は託すだけ、そうすれば彼らはやり遂げてくれる。

 

「私とジェドーラで会場とお菓子をどうにかします。二人は作り変えられたお菓子を倒してください」

 

「あ、うん。わかったよ」

 

「それは良いけどよ。パンドラはどうすんだ?」

 

 成り行きとはいえ追いかけていた犯罪者をそのまま野晒しには出来ないとエル・マタドーラが疑問を口に出しますがそれは最後です。

 

「パンドラを捕まえるにもあの改造お菓子は邪魔です。通常の手段では出れないのですから、落ち着いて障害を先に排除します」

 

 それを聴けばパンドラとお菓子を同時に相手取るのは厳しいのを認める様で少し悔しそうにしながらもエル・マタドーラも納得しました。次の疑問はジェドーラから……

 

「お菓子を作るにも材料が足りないよ……」

 

 潤沢にあった材料を全て使い切るつもりであのお菓子道具を作ったので残っているのは僅か、残ってる分だけでは少量の焼き菓子を作れれば御の字ですからね。ですがそれも問題なしです。

 

「材料ならあります。あの改造されたお菓子です。あれを倒してもらったら、特設エリアは超空間も使用可能なので『ブラックホールペン』『ホワイトホールペン』、これで倒したお菓子を直接こちらに送ってくれればそれを『原料ライト』で材料まで戻します」

 

 材料さえあればジェドーラの腕なら審査に必要なお菓子はどうにか間に合うだろう。ただ集める時間考えればギリギリになりそうでもあるが、そこは二人を信じよう。

 

「ぼくたちは『ブラックホールペン』を使えば大丈夫だよね」

 

「使ったら消すのを忘れずにお願いします。それでは全員、気を付けていきましょう」

 

 


 

 

 施設内での騒動が起きる前には周辺には警察が集まっていたのだが、突入を前にして『通せんぼカバー』が発動したために立ち往生していた。

 

「確認取れました『通せんぼカバー』で間違いありません」

「登録番号の照会もすみました。販売履歴からの予測ですが使用者はハイドラ氏で間違いないかと」

「展開前にエネルギー反応を確認、内部で〚パンドラボックス〛が使用されたものだと思われます」

 

〘よし、周囲の避難と封鎖を急げ。内部での動きが分からない以上は警戒を続けるんだ。効力が失われた時点で突入する部隊を編成しておけ〙

 

 逃げ場をなくす様に二重の網を用意する様に指示を出し、警部自身もその場の変化を見逃さないようにと施設を睨み続けている。そしてその網の外側からそれを眺める者が一人。

 

『ん〜、困りましたねぇ。合流しようにもこれではねぇ』

 

 建物の上から警察にみつからないように目の前にある透明な壁を確認していくが、隙間なんかはなさそうだ。

 

『なるほど、少しでも施設内に入れれば後は超空間も使える様ですねぇ……もう少し詳しく探ってみましょう』

 

 


 

 イベントの審査用の道具をなんとかもう一度用意するため、破壊されつくされた部屋の中にジェドーラと二人で残ったわけだが……

 

「それにしても困った困った?!」

 

「本当に困りものではありますがね……」

 

 この惨状を生み出した存在は他のみんなに任せたとしてここの修復はどこから取り掛かっていけば良いものか…いや、考えるのは後にするべきですね。

 

「ジェドーラ、部屋は私がなんとかします。『原料ライト』は貸し出しますので貴方は調理場だけでも整えて随時送られてくる素材で調理を!!」

 

「……そうだね、困ってても仕方ない!!とりあえず調理台周りを綺麗にして、大きな機材は幸い無事だから、オーブンの予熱もそれぞれして、調味料は残ってるから計量も済ませて並べて……やることだらけだ。それに道具もいるね!!」

 

 そう言うと彼は散らばった道具を集めて調理台の付近の片付けの為に部屋を駆け出した。明確なやることがあれば暴走の心配は無いでしょう。

 

「まずは部屋の外装をどうにかしないと、大物は『復元光線』の方が良いかな。修復時に周りの物を巻き込まない様にっと、小物は『タイムふろしき』で、あれ?なんか足りない……『全体復元液』でカバーして、余ったゴミに汚れは……下手なことをしても仕方ないですね『らくらくお掃除3点セット』」

 

 最終的には地道な作業の方が便利な時もあります。特にこの道具は汚れなどにしか反応しないから誤作動の心配がないですし、使い勝手が良いんです。

 

「さて、ジェドーラも調理を始めたみたいですし、ドラえもん達も戦ってるんです。私も精一杯頑張りますか」

 

 


 

 

「何処だお菓子野郎!!」

 

「ちょっと、エル・マタドーラペースがはやいって?!」

 

 部屋を出てからというもの、動くお菓子を見つけては倒し、倒しては探しに行きをハイペースで繰り返していた。

 

「はやいって言ってもよぉ。これぐらいでなければジェドーラ達のほうが間に合わなくなっちまうだろ」

 

「なおさら闇雲に追いかけても仕方ないんじゃない。段々とお菓子も数を減らしてきたんだしさぁ」

 

「なんか良い方法があんのかよ?」

 

「生き物型のお菓子たちは本当にそのままの動きをしていたからこれを着けてみたらどうかな『猛獣さそいよせマント』!!ただ、一気に来る可能性もあるから気を付けて使う必要はあるかも」

 

「上手くすれば向こうから寄ってくるって訳か、残りの奴らが一気に来たくらいで捌ききれなくなるオレサマじゃないぜ」

 

 意気揚々とマントを着けると無事に効果が発動した様で猛獣を怒らせて誘い出す光がマントから放たれた。後ろに『猛獣さそいよせマント』前には『ひらりマント』とマントだらけで少しマヌケにも見えるが戦いの最中の為に二人共気付かない。

 

「来たぜ、ひらり!!ひらり!!」

 

 一直線に向かってくるお菓子などは闘牛士ロボットであるエル・マタドーラからすればわけない相手である。跳んできた所を互いにぶつけ合わせ様に弾くだけで小さいものは方がつく。

 

「よし、ぼくも…『声カタマリン』!! ゴクゴク…せ~のでわっ!!

 

 形を得ることで空気抵抗の影響を受けるために音速とは比べ物にならない位遅くなるがそれでも十分な威力を持つ声の塊がお菓子を破壊して突き進む。

 

「おっ、それ良いな!!ドラえもん、こっちにも一発デカいの頼む!!」

 

「うん、いくよ〜せ~のでわっ!!

 

「おりゃ、ひらり!!」

 

 飛んできた『わ』を近寄ってきたお菓子達を大きく巻き込むように跳ね返して一気に倒し切る。そうして効果範囲のお菓子がいなくなったのか少し勢いが落ち着く。

 

「だいぶ片付いたんじゃないか?」

 

「そ…だね…あ~、あっあ〜でもちょっと喉が疲れたかな」

 

「とりあえず今倒した分も送っちまおう」

 

 『ブラックホールペン』で丸を描くと倒したお菓子の山を入れていく、しかし如何せん量が多く運んで入れてを繰り返すだけで重労働だ。

 

「単純な分、戦うより大変に思えてくるぜ」

 

「おーい、ドラえもん、エル・マタドーラ!!」

 

「ははは、ってあれは?!」

 

「二人ともこっちであ~る!!」

 

「あれってドラメットじゃねぇか?!」

 

 遠くの方から微かだが叫んでる声が聴こえ、そちらの方に顔を向けるとこちらへとまっすぐ駆け寄ってくる仲間(ドラメッド)の姿がそこにあった。

 

「やっと他の者と合流出来たであ~る」

 

「ドラメッド大丈夫?!」

 

「お前もこの建物の中にいたのか!!」

 

「ハイドラとジェドーラの一大イベント、見守る他はないとドラニコフにドラリーニョの二人と一緒に開始前にはこの建物に来ていたのであ~る。そしたら謎のお菓子に襲われて散り散りに……」

 

 何事かも分からないままに襲われてなんとかやってきたのか、少しボロボロの風体でこれまでの経緯を話すドラメッドを労る様に受け入れる。

 

 そしてどうしてこの様な事態になったのかの説明もして、今の二人の役割についても伝えた。

 

「なるほどその様な事になっていたであ~るか、それにしても友達の大事なイベントを破壊するとはパンドラとやら許さないであ~る!!っとイタタタ?!」

 

 立ち上がりながら怒りを示すドラメッドであったがその動きが傷に響いたのか身体を抑えながら少しだけうずくまった。

 

「うわぁ、無理しないでドラメッド?!」

 

「大丈夫であ~る。叫んで急に動いたせいで少し痛んだだけであ~る。そうと決まればお菓子の運送はワガハイに任せるであ~る!!」

 

 傷に響かない様に器用に声を出して二人に宣言するドラメッド、その姿に心配と呆れの視線が突き刺さるが本人はやる気満々の様だ。

 

「おいおい、ケガしてんだから無理はすんなよ…」

 

「ワガハイは魔術師であるぞ。いでよ魔法道具達よ!!」

 

 ドラメッドが唱えると空中からたくさんの道具が現れて倒されたお菓子達を次々にブラックホールへと運び込み始めた。

 

「へぇ~、こりゃはえぇな!!」

 

「ここいら辺は二人のおかげで残るお菓子は少そうであるからワガハイ一人でも大丈夫であ~る。二人はワガハイが来た向こうの方へ先行して欲しいであ~る」

 

「向こうの方?」

 

「分かれ道があって、その先に階段があるのであ~る。一階はぐるぐる回ったであるが他の二人はいなかったのであ~る。そうすると後は探してない二階の方にいるかも知れないのであ〜る。それに残りのお菓子もそっちにいる筈であ~る」

 

 はぐれた二人を探しながらお菓子の群れを突破する中でしっかりと館内の姿を把握しているあたりさすがである。ドラメッドからの情報をもとに二人は階段から上へ向かった。

 

「これお菓子の残骸だよね?」

 

「ドラリーニョかドラニコフ、どっちも二階に居るのは確かだな」

 

 確かにお菓子は居たのだろうが戦闘の跡を残してそれなりの数が倒れている。後から追うと言っていたドラメッドにお菓子の残骸は任せる事にして、跡が続く方へと足を進める。しばらく進んだ先で道が二手に分かれており、これまでは二人分の形跡が残っていたのだが……

 

「向こうにサッカーボールが落ちてたよ」

 

「こっちの残骸は噛み跡だな。野獣化してるなこりゃ」

 

「二人も逸れてるのかな?」

 

「ドラリーニョは後先考えねぇし、ドラニコフも野獣化してたら本能のままに暴れるからな……」

 

 はじめのうちは二人で行動していたのだろうがここから二手に分かれてしまった様だ。

 

「俺等まで分かれる訳にはいかねぇよな」

 

「確実に合流出来るならまだしも、敵がいるかもしれない状況で離れるのはちょっとね」

 

「どっちに行くよ?」

 

「うぅん……ドラリーニョの方かな? ドラニコフの野獣化が終わってなかったら下手したら同士討ちになっちゃうから、とりあえず話は通じるドラリーニョにしよう」

 

 普段落ち着いてる状況で野獣化したのであればある程度は抑れないようにドラニコフ自身も抑制出来るが、非常時に戦闘したままだと呑まれているだろうと思っての判断だ。

 

 ドラリーニョは思考と行動が直結しているが待つように言えば待つし、合流すればまず勝手に離れる様な事はしない。それに合流して三人になってからであればドラニコフに襲われても余裕をもって止められるだろう。

 

「はやく見つけよう」

 

「おう!!」

 

 


 

 

 施設が封鎖されてから少し時間が経った頃、王ドラと治療を終えたキッドが警察の包囲網を訪れていた。

 

「あなたが警部さんですか?」

 

〘あぁ、トゥマトという。トゥマト・K・チャップル〙

 

「トマトケチャップ?」

 

「キッド?!」

 

 王ドラも一瞬頭を過りはしたものの口には出さなかったというのに思ったままに口に出してしまった。

 

〘トゥマト・K・チャップルだ!!〙

 

「ひぇっ、ご、ごめんなさい。トゥマト警部だな」

 

「キッドがすみません。よろしくお願いしますトゥマト警部」

 

 直ぐにキッドが頭を下げ、一緒にやってきた身内として王ドラも謝罪した事で怒りは収まった様で話し合いが始まった。

 

〘初めての者には必ず言われるが私はケチャップ呼びは嫌いでな。過剰に反応してしまいすまないな。それで君等の友達が全員中に入っているんだな〙

 

「はい、イベントに参加している二人とイベントを見守りに行った三人、そしてパンドラを追っていた二人の計七人です」

 

〘本来であれば一般の者が犯罪者を追うなどは危険なのだがな〙

 

「うっ……」

 

 自分の事も言われているのでないかと思い、少し居心地が悪くなるキッドだがトゥマト警部は安心するように伝えた。

 

〘今回の件は捜査に協力してもらったという形で済ませるから諸々の事については心配しなくても良い。実際に一体のロボットの破壊に貢献してもらったしな〙

 

「ほっ、ドキドキしたぜ」

 

「まぁ、キッドはロボットの前から追いかけてましたけどね」

 

「頭をいきなり踏んづけられたんだ。仕方ねぇだろ?」

 

〘誰彼構わず殺すような相手でなくても良かったが短気過ぎると余計な危険を生むから程々にしておいた方が良いだろうがな〙

 

「ちぇっ、はーい」

 

「少しは反省してくださいよ……それでこの状況からどうなるとお考えですか?」

 

 不貞腐れた様に返事をしているキッドに呆れながらもこの後の警察の動きや中の仲間についてどうなるのか、どうしていくのかを尋ねる。

 

〘一応こちらでも『通せんぼカバー』を剥がす用意はしているんだが下手に剥がして逃げ道を増やすよりは動きを待った方が良さそうでな〙

 

 これがパンドラによる立て籠もりであるならば籠もらせた分だけ不利になるため素早く剥がしてしまうが、『通せんぼカバー』を張ったのはハイドラであり、張らざるを得ないような状況だった際に取り返しがつかなくなってしまう可能性があるのだ。

 

『流石に一日以上経過するようなら強行突破といくが、今のところは周囲の包囲網の維持と動きがあった際の突入の準備を整えている』

 

「なるほど、ありがとうございます」

 

「突入っておれらも行って良いか?」

 

〘構わんよ。友達が中にいる以上、不安で当然。助けに行きたい気持ちはよく分か、ん?……はっ?!『通せんぼカバー』に動きありだ!!〙

 

 話してる途中で止まり、微かな変化が気の所為でないか確認すると急いで指示を出すがその最中、警察が集まっている場所に煙が立ち込めた。

 

〘くっ、私だけでも!!お前たちは包囲網を維持し続けろ!!〙

 

 僅かにだが間のあいているカバーと地面、その僅かな隙間が閉じてしまう前にとチャップル警部は駆け出して滑り込む様にして施設内に入った。そして……

 

「セ、セーフ?!」

 

「何がセーフですか万全じゃないのに無茶をして…」

 

〘良い判断力をしているな。来てしまった以上は仕方のない。それなりに働いてもらうからな〙

 

 キッド、王ドラ、チャップル警部の三人が施設内に入り込み、パンドラの捜索を始めた。そして、その裏側にて……

 

『なんとか気付かれてなさそうですね。少々力は使いましたが『ずらしんぼ』のおかげで無事入れましたし、合流を急ぎましょう』

 

 


 

 

「おーい、ドラリーニョ!!」

 

「あいつ何処にいるんだ? 」

 

 ドラリーニョの形に穴があいたお菓子が道中で見られたからこちらへと走って来ているのだろうがいっこうに姿を捉えられないうえにその痕跡すらなくなりつつあった。

 

「あっ、またボールがあった」

 

「ドラニコフが戻った時にまた野獣化してもなんだから回収しておくか」

 

 落ちているボールを拾おうとしゃがんだ瞬間に二人の上に影がかかり、見上げるとそこに口を大きくあけた恐竜が立っていた。

 

「「うわぁああ?!」」

 

「わぁ〜ドラえもんにエル・マタドーラ!!」

 

「「は?」」

 

 いかつい姿から放たれる声は少し高めで気が抜けてしまい。開けた口の形のまま疑問の息が溢れた。

 

「ぼくだよ〜!!」

 

「あっ、お前【恐竜変身ビスケット】食べたな?!」

 

 眼の前の恐竜は『動物変身ビスケット』を元にして作り上げたハイドラオリジナル道具【恐竜変身ビスケット】、それを食べたドラリーニョであった。

 

「変化しててもひみつ道具としての機能は残ってたんだ……」

 

 情報を共有しきれてない為に〚パンドラボックス〛によって変化した道具の詳細を知らなかったために少し焦りもあったが合流出来たのは良かったとあらためて一息つく。

 

「この姿になってから力が強いんだ!!」

 

「通りで途中からグシャグシャのお菓子が転がり始めたわけだ」

 

「あ、ドラリーニョ。一応聞いておくけどドラニコフの居場所知ってる?」

 

「うぅん、途中で分かれてから見てないよ!!」

 

 予想していたがこれで手掛かりはなくなったので少し残念に思いながらこの後どうするか話し合う。

 

「分かれ道の所まで戻ってそっちに行く?」

 

「けっこう距離あるぞ。ぐるっと回るようになってるけど繋がってんならこのまま進んだ方が出会える可能性は高いんじゃないか」

 

「あぁ、たしかに。仮にドラニコフが正気になって道を戻ってたらドラメッドとあってるかもしれないし、そこまで問題はないかな」

 

「すすめすすめ〜!!」

 

 どちらにせよドラニコフが単独になる事はよっぽど巡り合わせが悪くない限りない。そう考えて続きの道を進む事にした2人と特に考えてない1人。

 

 3人が戻っていても戻らなくてもドラニコフの所へ辿り着くには少し時間がかかり過ぎる。それ故にこの結果は変わらないままだ。

 

『はぁ…はぁ…ふぅ、流石に(あせ)らされたよ。本能のままに動かれる事の厄介さ……いやあの力で理性的に動かれるのも困りものか』

 

 熱い空気にさらされて掻いた汗をそっと拭うと、ボヤキを口にしながら今まで戦っていた相手について評価すると身嗜みを整えてからその場を去った。

 

 辺りには砕かれたり、焼かれて朽ち果てたお菓子が山の様になっており、壁や床もボロボロで一部は完全に穴が空き、隣の部屋や下の階が見えている。そして……通路の真ん中に落ちたマフラーが戦いの決着を告げていた。

 

 


 

 

 舞台は変わって一階特別調理室。こちらは次々に送られてくる食材を見事に捌き切り、お菓子の調理を終えた所だった。

 

「ハイドラ!!前みたいに予備も含めてとはいかないけど最低限の数は揃ったよ!!」

 

「こちらも審査に必要なスペース程度は片付き、なんとか体裁は整えられそうです。それにしても思ってたより食材の回収ペースが早かったですね」

 

 派手なことをしている様に見えるが基本的にハイドラの動き方は準備に準備を重ねて様々な事態に備えるタイプであり、コツコツとした作業は得意中の得意、片付け自体は早めに終わっており、飾りや備品などの修復も含めて終わらせていた。

 

 回収ペースについては2人は知る由もないが途中からドラメッドが魔法道具を用いて手伝い始めた事で純粋な人手として十倍以上の成果を果たしてくれたのだ。

 

「それにしてもどんどん残骸が送られるけど、このペースが続くと元の量より増える気がするんだけど?」

 

「【卵のボーロ】も取り込んでましたからね。成長して嵩増ししてるんでしょう」

 

 ハイドラオリジナル道具の【卵のボーロ】、そのまま食べても美味しいが時間が経過すると中から様々な卵生の動物が生まれるボーロで、放置しているとさらに大きくなるが、活発にもなるため捕まえて食べるのには苦労するという面白要素を加えた道具。

 

 それを取り込んだお菓子が成長すれば成長した分の体積は増す、なんならもし番でも作れば卵が産まれて数自体も増えるだろう。

 

「まだ作れるだけ作る?それともみんなにもう良いよって伝える?」

 

「我々に非はあまりないとはいえ騒動が起きてますし、別に贈答用の物があっても良いかもしれませんね。それと幾つか多めに作ってください。役立つかもしれませんので」

 

 少し前から建物全体に響くような音が大きくなったり、遠くから振動が伝わってきたりしていて向こうが大変なことには気が付いている。

 

「良いけど何を作っとけば良い?」

 

「それでは■■■をお願いします」

 

 多めにお菓子を作り、更にはハイドラの注文した物も用意すると2人も調理室を後にするのであった。

 

 


 

 

「いけいけ〜」

 

「恐竜パワーすげぇな。お菓子が簡単にバラバラだぜ」

 

「ぼくたち乗ってるだけで良いのかな?」

 

 ドラリーニョと合流した2人は恐竜化したドラリーニョの背に乗って通路を思い切り駆け抜けていた。卵生の動物程度では止められず、恐竜とはいえ元がお菓子、本物の恐竜に変身したドラリーニョとは耐久性能に差があり、まぁ負けることはなかった。

 

 調子に任せてぐんぐん進み、超空間を利用して拡張されている建物の奥側の方へと3人は入り込んでいき、ついに彼女の姿を見つけた。

 

「あっ、お前は!!」

 

『足止めのスイートちゃんはあまり役に立たなかったのかな。もう少しで解析も終わったというのに……』

 

 〚パンドラボックス〛を片手に建物を囲う透明な壁に手を当てていたパンドラはクルリと振り返ると解析をやめて周囲を観察した。

 

『もう少しだけ働いて貰おうか、〚パンドラボックス〛!!』

 

「うわっ?!後ろからお菓子の残骸が?!」

 

「あの箱に吸い込まれてるぞ!!」

 

「なになに、なんなの?!」

 

 お菓子の残骸が〚パンドラボックス〛目掛けて飛んでいき、避けないと危ないとドラえもんと、エル・マタドーラはドラリーニョの背中から降りて防御態勢を取る。

 

 ドラリーニョもドラメッドと同じ様に事のあらましは走りながら伝えているが急な展開に大慌てであった。恐竜ボディのおかげで怪我はなくお菓子の吸収は終わった。

 

『壊された恨みを果たしなさい。ベリースイートちゃん!!』

 

 その声と共に吸い込まれたお菓子の残骸を1つに纏めたかのような大きさをした様々な動物や恐竜のパーツのキメラの様なお菓子が飛び出てきた。

 

「何だありゃ?!」

 

「お菓子だろうけど…なんかヤバそう?!」

 

「よーし、ぼくにまかせて〜とりゃああ!!」

 

 その巨体と迫力に慄くドラえもんとエル・マタドーラを横目にドラリーニョが前に飛び出してお菓子キメラ目掛けて体当たりを食らわした。

 

『先程戦った獣のロボットもそうですが貴方がたも厄介ですね』

 

「獣ってまさかドラニコフ?!」

 

「まさかアイツやられたのか?!」

 

「ゆるさないぞ!!えーい!!」

 

 獣と称されるような者は1人しかいない。丸いものを見ることで野獣化してしまうドラニコフただ1人だ。パンドラの発言に驚き、ドラリーニョはさらに追撃を仕掛けに行った。

 

「おい、ドラリーニョ?!」

 

「とりあえず援護を…わっ!!

 

『させませんよ〚パンドラボックス〛!!』

 

「わぁ、声が吸われた?!」

 

『ふふふ、吸ってもそこまでエネルギーにはなりませんか

 

 『コエカタマリン』によって固形化した声も〚パンドラボックス〛を前にして無力化され、起き上がりを邪魔する事は出来ず、お菓子キメラはなんなく立ち上がった。

 

「もう一度だ!!」

 

『取っ組みなさい!!』

 

 もう一度突進を仕掛けようとしたドラリーニョの初動を潰して互いに掴み合う様な形になる。そうすると大きさで負けているドラリーニョの方が力負けしてしまう。そしてタイミングの悪いことにドラリーニョの姿が歪み始めた。

 

「うぐぐ、体が元に戻って力が……」

 

「ドラリーニョの変身が解けた」

 

「『動物変身ビスケット』と同じで効果時間がそんなに長くないんだ!!」

 

 『動物変身ビスケット』は5分で変身が解ける。長過ぎず短過ぎずでちょうど良いとハイドラは【恐竜変身ビスケット】も同じ設定にしていたのだ。

 

『形勢逆転のようですね。いきなさいベリースイートちゃん』

 

「あぁああ?!」

 

 そのまま捕まえていたドラリーニョを攻撃する様に指示し、ドラリーニョがお菓子キメラに握り潰され、苦悶の声を上げる。もう駄目かと思われたその時に巨大な白い球体がお菓子キメラを横から弾き飛ばした。

 

「わがはいの友達に何をしてるであ~る!!」

 

「ドラメッド!!」

 

 巨大な白い球体の正体は手だけを巨大化させたドラメッドであった。振りかぶって当たる瞬間に巨大化させた拳は強化されたお菓子キメラでもひとたまりもなかった。

 

「お菓子の残骸は大体集めきったので戦いの音を聞きつけて加勢に来たであ~る」

 

「助かったぜドラメッド!!」

 

「ドラリーニョ大丈夫?」

 

「な、なんとか〜」

 

 軽く目を回してふらついているが機体に損傷はなく、問題なく動ける様子のドラリーニョにパンドラを除く、その場の全員がホッとする。

 

『2回の改変でフルメタルのエネルギーも底をついたみたいだね……これ以上はお菓子を集めても無意味かな……』

 

 もう一度そのまま〚パンドラボックス〛を翳そうとしたパンドラであったが〚パンドラボックス〛から返ってくる反応をみてそれをとりやめる。その隙をチャンスとみたドラメッドが先手を取った。

 

「魔法道具達よ!!行くであ~る!!」

 

『この程度…ん…? これは『猛獣さそいよせマント』? 残った遠くのスイートちゃんを私に寄せるつもりなら無駄だな。ある程度の範囲内ならばあれ等は私の操作化にある』

 

 飛び交う魔法道具の嵐をヒョイヒョイと軽く避けて見せるパンドラ。だがドラメッドは魔法道具の攻撃に混ぜてドラえもん達が使っていた『猛獣さそいよせマント』を飛ばして、巻き付けた。動きの制限にはあまりならず、パンドラにはお菓子を引き寄せる事も出来ないと一笑にされるがドラメッドもニヤリと笑い返した。

 

「狙いが違うであ~る。いでよ火の魔術!!」

 

 ドラメッドが魔術を使うと周囲から火の手があがり、パンドラを囲い込むかの様に動いて攻撃を仕掛ける。

 

『熱いが…これと『猛獣さそいよせマント』がなんの関係が……』

 

「ガォオオオオン!!」

 

『あの声…しまったこの火は視界を、ぐぅ?!』

 

 周囲から襲い掛かる火はパンドラに掠ることもなかったが動きが制限され、視界も悪くなった所に何処からか駆けつけたドラニコフの攻撃が『猛獣さそいよせマント』越しにきれいにパンドラまで通った。

 

「うわぁ~マントボロボロだね〜」

 

「そこじゃねぇだろ?!」

 

「ドラニコフ無事だったの!!」

 

「ガウゥゥ!!」

 

「ドラニコフは確かにパンドラと戦って負けたであ~るが咄嗟に『四次元マフラー』に隠れてやり過ごしていたのであ~る」

 

 ドラニコフが口元を隠すように着けているマフラーは『四次元ポケット』の仲間であり、パンドラとの戦い時に本能的に危険を悟って、咄嗟に四次元空間へと入り込んだそうだ。

 

 野獣化を一度落ち着かせる為にそのまま四次元空間に留まり、出てきた所でボロボロになった床が崩れて下に落ちてドラメッドと合流したそうだ。

 

「こっちに来るまでに物音でみんなが戦っているのには気付けたであるからドラニコフとは挟みうちする形で奇襲を仕掛けたのであ~る」

 

「あぁ!!その為の『猛獣さそいよせマント』だったのか!!」

 

「それを目印にドラニコフなら攻撃が出来たんだね」

 

 普段から吐いている火については耐性があり、周囲を囲む火にも臆さずに立ち向かえ、野獣化すれば少なからず影響を受けるひみつ道具を利用して、視界が悪い中でも攻撃したくなる本能を目印に突き進んでパンドラに当たった訳だ。

 

『道具を使用する様子がなかったから肉弾戦専門かと誤解していしまいました。だが一撃当てたくらいで…ッ?!』

 

 『四次元マフラー』に気付かなかった事を反省しつつも余裕ぶって強がろうとしたがふとした時に痺れが走り、動きが一瞬固まってしまいそれが相手にもバレてしまう。

 

「先のキッドとの鬼ごっことドラニコフとの戦いで既に体力は消耗済みだろうよ」

 

「キッドの件はともかくとして野獣の獰猛さと執念深さは伊達じゃないであ~る」

 

「もう、逃さないよ」

 

「ガウガウ!!」

 

「やいやい、かんねんしろ〜!!」

 

 散々暴れ回り、逃げ続けてくれた犯罪者を壁際まで追い詰めた5人。それに対してパンドラは少し苦しい顔をしているが、まだ目は諦めきっていない。

 

『まだ動く分には問題ない。足は無事、痺れている腕も利き腕じゃない。時間を稼ぐか……さて悪役らしく悪足掻きといきましょう〚パンドラボックス〛!!』

 

「また何か作る気か?!」

 

「だけど周りには何もないけど?」

 

 しかしパンドラが〚パンドラボックス〛を起動してからというもののゴゴゴゴと何やら凄まじい音が響き、揺れが5人にも届いている。

 

「はったり?」

 

「いや、違うであ~る。これは……まずいであ~る?!」

 

「足元にヒビが?!」

 

 ドラメッドが変化に気付いた時には既に手遅れであった。床に大きなヒビが走り、次の瞬間には床の全てが崩壊しながら〚パンドラボックス〛へと吸い込まれていき、その場の全員が階下へと落ちていった。

 

「いててて……」

 

「突然とはいえ誰も着地出来ないとは……」

 

「ネコ型なのにねぇ〜……」

 

「情けないであ~る……」

 

「がうぅ……」

 

「「「「「ん?」」」」ガウ?」

 

 倒れている辺りが一気に暗くなり、顔を上げると全員を覆って余りある影の持ち主、お菓子キメラよりも大きい瓦礫で出来たであろう存在が5人を見下ろしていた。

 

「「「「うわぁああ?!」」」」

  「がうううう?!」

 

 全員がその存在に対して叫び声を上げ、ドラえもんの口からは『コエカタマリン』の効果を受けた塊が飛んでいくが、当たってもびくともしていない。

 

『それは解析中だった『通せんぼカバー』も一部吸収しているからねぇ。アーマー部分の頑丈さは並じゃないよ。さぁ、巨大な絶望に抗えるかな?』

 

 よく見なければ分からないが攻撃を受け止めた部分は瓦礫の身体ではなく、その僅か数センチ手前の空間であった。透明なアーマーは何処まで覆っているのか分からず厄介な事には変わりはない。

 

「やるしかないか、オレサマの剣捌きを見せてやる」

 

「わがはいも魔術で援護を」

 

「ボール効くかなぁ?」

 

「『コエカタマリン』は弾かれると邪魔になりそう……何か買った物に良いものは……」

 

「ガゥガゥ……」

 

 どうにかしてみせようと獲物や特技の準備をする3人と他に使えるものがないか探すドラえもんと瓦礫相手では爪や牙はもちろん、火を吹いても効きそうにないと悩ましい声を上げるドラニコフ。

 

「敵は待ってはくれねぇぞ」

 

「とりあえずわがはい達で引き付けるであ~る。その間に2人で何か良い手を考えて欲しいであ~る」

 

「たのんだよ〜」

 

 ドラリーニョがその素早さを活かして囮になったり、アーマーの範囲を探ろうとエル・マタドーラが剣であちこち叩いたり、動きを止めようとドラメッドが色々な魔術を試し時間を稼いでいる。

 

「どうしよう…とりあえず買った物を一緒に見よう」

 

「ガゥガゥ…ガゥ?」

 

「薬ばかりなのは薬系って何回か使えるのもあるけど基本的に使い切りだし高めだから余計に安く感じちゃってついつい買い漁っちゃって……」

 

「ガゥガゥガゥガ!!」

 

「これは確かに使えるかも…でもやるなら最後じゃないと危ないし、とりあえずはこれで行ってみる!!」

 

 2つの道具を選ぶと1つは先にドラえもんが使い、もう1つはドラニコフが周囲へと使いに行った。そして、3人に準備が出来た事を伝える。

 

「ドラえもん!!可動部分にはアーマーはつけれないみたいだ。関節はノーガードだ!!」

 

「足止め中に気付いたであ~るが、身体のアーマーは全体には張れずにその場その場で動かして防いでるアーマーというよりはシールドに近いであ~る!!」

 

 叩きつけた際に攻撃が通った場所からアーマーの有無を確認したエル・マタドーラと魔術で身体を覆った際に効かずとも魔術が身体に通ったのと、通った場所が毎回微妙に変わっていたのに気付いたドラメッドからの報告がドラえもんに届く。

 

「ワォオーーン!!」

 

 ドラニコフがすかさず火を吹きかけると手前で掻き消えている箇所と瓦礫に当たってから拡散している箇所の違いがはっきり分かった。

 

「ドラリーニョお願い!!」

 

「うん、いくよ!!シュート!!」

 

 ドラリーニョに頼んだドラえもんはその場で丸まって見せると、鋭い蹴りと共にアーマーのない部分に思い切り頭から突っ込んだ。

 

「特別石頭のドラえもんとはいえ瓦礫相手じゃ…?!」

 

「ガゥガゥ!!ガゥ!!」

 

「それなに〜?」

 

「なるほど『がんじょう』で全体的に硬化しているであ~るか」

 

 『がんじょう』は身体自体を固くする効果もあるが、身体の表面に形成される磁力膜由来の効果であり、守りをかたくするには持って来いであり、元々金属製のドラえもんでも耐久は増す。

 

 ドラえもんは瓦礫の身体を突き破る様にして敵の向こう側になんとか着地をしてあらためて敵の方へと向き直る。そして敵の向こうに見える仲間が避難したのを確認すると大きく息を吸って最後の攻撃に移った。

 

「トドメだ!!うわぁああ!!

 

 ドラえもんが『コエカタマリン』による声の塊を通路の壁に向けて撃ち放つと壁に当たった瞬間に声が倍増するかのように跳ね返り、数を増やし大きさを増していった。

 

「ガゥガゥ!!」

 

「『コエカタマリン』と『こだまラッカー』の合せ技か!!」

 

 ドラニコフが先駆けて壁に噴霧していたのは『こだまラッカー』という吹きかけると吹きかけた場所から音がこだまの様に返ってくる道具で音を《そのまま》反射させる効果を利用した合せ技である。

 

「ドラえもんも中々考えるであ~る」

 

「すごいねぇ〜」

 

 壁に反射する度に威力を増大させていく『うわぁああ!!』の声は通路の真ん中に立ち尽くしていた瓦礫の敵を目掛けて突き進んだ。

 

「「「「「いっけーー!!」」」」ガウ!!」

 

 ドスンとぶつかった音が響き、その音さえも反射させて少し耳が痛くなるが破壊された瓦礫による砂埃が立ち込め、音の山に埋まって動いていないのを確認する。

 

「やったのか?」

 

「見えてないから完全にやられているのかは分からないであ~る」

 

 ドラえもんも他の4人の所まで戻り様子を見守っていると急にガタガタと音が鳴り響く、そして声の塊が浮かび始めた。

 

『君たち私の事を忘れてないかい?』

 

 瓦礫の怪物を倒すのに必死になり過ぎてまだパンドラ自体を捕まえていなかった事を忘れていた5人の方に声の塊が倒れ掛かってきた。

 

「「「「うわぁ?!」」」」

 

「ドカン!!」

 

 スクラップになる事はないだろうがある程度の故障は覚悟しないといけない。そんな危機的な状況に対して全員が目を瞑った瞬間に聴き慣れた声と共に空気の弾が目の前に着弾した。

 

「おい、大丈夫だったかお前ら?」

 

 5人が声の聞こえた方を見ると壮大な事態のある意味引き金とも言えるキッドとその付き添いの王ドラと1人の人間の男性がそこに立っていた。

 

「キッド、それに王ドラも!!」

 

「そちらの人はどちら様?」

 

「こちらの方は警部さんですよドラえもん」

 

〘トゥマトだ。詳しい話はまたにして先ずはアイツの対処だ〙

 

 全員が相手の方に向き直り、お互いの距離を確かめながら逃げ道を塞ぐように囲いを作り出す。

 

『見たことある顔もそうじゃない顔も勢揃いですか?』

 

 ゆっくりと辺りを見渡すように身体ごと回転してみせるパンドラ。その中でもトゥマト警部の方を見やると笑みを深め、互いに見合い、懐に手を伸ばす。

 

『やる気ですか? 損傷は回復済みとはいえきついな……』

 

〘素直に捕まる気はないだろ?〙

 

『それでは…応戦(パワー)競走(スピード)耐久(ハード)鸚鵡(ミラー)合戦(ウォー)?』

 

鸚鵡(ミラー)だ〙

 

 2人の間に特殊な空気を感じるとそっとドラえもん達は距離を取り、2人のやり取りを見守り始めた。しかし、パンドラの問いかけもトゥマト警部の回答もいまいちわかっていないのが殆どであった。

 

「なに、なんのこと?」

 

「何かの名称に聞こえるであるが」

 

「ひみつ道具の代表的な勝負形式です。互いに即興でひみつ道具を出し合い道具自体の力関係の優劣で競う応戦(パワー)、ひみつ道具を用いて規定の距離を駆け抜ける妨害ありのレースの競走(スピード)、これはルールが複数ありますが今回はこの場でやれる交代で直接攻撃し合い、避けても防いでも良いですが最終的に立っていた方が勝ちという集中力や忍耐力を競う 耐久(ハード)合戦(ウォー)は本来なら同人数からなるチーム同士の戦いですがたぶん総力戦の意、そしてトゥマト警部が応えた鸚鵡(ミラー)は同じひみつ道具で戦い使い手の技量や智謀をはかるものです」

 

 誰も分からないで困惑していると口を開いた王ドラが殆ど休み無しで説明しきり、ある程度は共有された。

 

「やけに詳しいな王ドラ」

 

「武術の大会の会場に他のイベントのポスターなどが貼ってあり、そこから興味を持って個人的に調べたんですよ」

 

 修行の成果を確かめるために参加可能な大会には出るようにしている王ドラだからこその情報源である。

 

「そう言えばなんかテレビでひみつ道具を出し合ってる映像を見た気がするな。めちゃくちゃ早口で似たような効果の道具を出しててよ」

 

 ひみつ道具を用いたスポーツなんかが派手さも相まって人気ではあるがそれなりに参加している人数は多くテレビでも取り上げられており、キッドも一度だけ見たことがあるのを思い出した。

 

「それはおそらく応戦ですね。相手の問いに対して詰まったり、一度出したものを出したり、相手の出した道具より明らかに劣っていたら負けです。即興性と知識量、後はリズム感が物を言います」

 

「何処となくラップバトルみてぇだな」

 

「たしかに…それじゃ妨害ありのレースって奴はいつもの俺たちでやるおいかけっこが近いんじゃないか」

 

「その道のプロに一度怒られた方が良いであ~る」

 

「ところでさぁ。なんで、えっとえっと……トゥマト警部?は鸚鵡ってやつにしたの〜?」

 

「捕まえられる可能性が高いからっていうよりかは消去法ですかね。まず警察の立場からして僕たちを巻き込めないから合戦は候補から消えます」

 

 警察で保護したり、直ぐに治療が出来る状況ならばトゥマトは巻き込んだだろう。しかし流石に閉鎖された環境下でそれはまずいと判断したのだ。

 

「なんとなく分かったであ~る。応戦は持ち込みが制限されてる場所で犯罪者相手には不利であ~るな」

 

 警察もある程度は緩和されているだろうが何を持っているか分からない犯罪者と比べると選びにくい選択肢である。他の2つなんかはさらに選ばれない理由が鮮明だ。

 

「競走なんてのは途中で撒かれたらそのまま逃げられちまうしな」

 

「人間とロボットでは端から耐久じゃ勝負にならねぇ」

 

 競走は犯罪者有利が過ぎ、トゥマト警部は人間でパンドラがロボットである以上は耐久は不公平。そして鸚鵡では唯一無二の利点も存在する。

 

「同じ道具での勝負だとあの不思議な道具も封じれるし、一番勝算が出てくるんだよ」

 

「そっか〜」

 

「本当に分かってるであ~るか?」

 

「ガゥガゥ……」

 

「とりあえず相手が何かルール違反をしない限り見守るしかないですね」

 

 


 

 

 

『警察に配備されているひみつ道具と言うと『空気砲』『ショックガン』『タケコプター』…他に何がありますかね?』

 

 確信じみた声色で呼ぶ3つのひみつ道具はこれまで追いかけられた際に何度も見たからだろう。なんとも忌々しい事だが苛立ちは冷静さを欠く、勝負の邪魔だ。

 

〘特殊な物や明らかに不要な物は除いて良いだろう。『タイム電話』などが合っても意味はない。単純な方が決着も早い、後は『スーパー手袋』だけで良い〙

 

 こいつは複数の道具を組み合わせて効果を発揮させる程の知識の持ち主、下手に手数を増やせば辛くなるのは私の方になるかもしれない。

 

『それでは合図はこれで、ほっ』

 

〘『チクタクボンワッペン』……物騒な合図だな〙

 

 距離を取って出来た空間のその中心に放り込まれたのは殺傷性はないタイマー型の爆弾。静けさの中でチクタクと描かれた針の動く音だけが響き、そして零の合図と共に煙が放たれ、相手の姿が隠れた。

 

 それと同時に先程まで居た場所目掛けて煙を突き抜けて届いた光線。驚きはしない、それぐらいであればこちらもしているのだから。

 

 今度はその放たれた角度から何処に居たのかを割り出し、どちらへ向かうかを予測して撃ち合う。

 

 こちらの腕前はもちろん、相手の腕前も相当な物で、予測の精度も非常に高く、見えてないにも関わらず掠りそうになっている物がちらほらある。

 

 それでも見えない相手に焦りは見せてはいけない。光線が通る瞬間に晴れて出来る穴からの情報さえも見逃さず、相手を倒す事だけに集中する。

 

 このままでは鼬ごっこにしかならないが、対応に追われる側では勝てない。先に手を打つためにもう1つ撃つ事にする。

 

〘ドカン!!〙

 

 『ショックガン』から『空気砲』に一度持ち替えて放つ事で残った煙がパンドラ側へと流れる空気の流れが生まれる。

 

 こちらの煙がなくなることで身を隠す場所は減ったが視界は良好、そして動きの早い煙の中で壁でもないのに滞っている所があればそこだ。

 

〘喰らえ!!〙

 

 銃に限らず遠距離の得物では手応えという物がない。『ショックガン』では相手が気絶するために反応も返って来ない時があるために当たったかは確かではない。

 

〘くっ?!まだだ!!〙

 

 返すように攻撃が飛んできたが警戒は怠っていなかったので横に跳ぶことで避ける。向こう側の通路は煙が立ち込めているが飛んでくる場所が大体同じな事から何かを盾にしていると想像がつく。

 

 当たり方と返り方から腕を出すであろう場所、高さを確かめて少しずつ精度を高めていく、隠れているというのはヒットの可能性は下がるが身動きは取りにくくなる。

 

 相手の行動が制限されている今がチャンスである。そう思ったが相手も馬鹿ではない。『空気砲』が地面に向けて放たれ、先程まで散って落ちていた煙の粒子が舞い上がり、流れも変わった。

 

 その煙に紛れて逃げると考え、完全に把握した盾の周囲を絶え間なく撃つ事で封じる。だが少しの時間を与えたのが駄目だった。

 

〘『スーパー手袋』で盾ごと移動したか……〙

 

 当たり方が変わったのに気付いた時には少し遅く、煙に紛れている間に素早く『スーパー手袋』を着け、盾にしていたのであろう瓦礫を持ちながら奥へ移動していた。

 

 こちらが移動に気付いたのを把握してるのかは分からないが通路の奥の方から足音が聞こえ始めた。詰めた分だけまた離された形だ。

 

〘煙はもう味方ではないな〙

 

 問題になるだろうが仕方がないと近くの窓や扉を片っ端から『空気砲』で吹き飛ばしていく、限られた通路だから利用し続ける事が出来たが完全に逃がせば勝手に晴れる。

 

『後は盾ごと吹き飛ばしてから決めるだけだ』

 

 やはり使っていたのは瓦礫などだったのだろう。彼らの戦闘があった場所はけっこう広範囲であちらこちらに色々と転がっている。

 

 『スーパー手袋』で持てるサイズとなるとそれなりになるがあれだけ動いてるのであれば最大とまではいかない。それなら『空気砲』の直撃なら諸共吹き飛ばせる。

 

 追いかけていると流石に前方から光線が飛んでくるが、かなり視界が良くなっているため冷静に避けるか、こちらも瓦礫を利用する。

 

 詰めていると途端にプロペラの音が響き出す。立体的に動く事で瓦礫の合間から狙われる。それでも少し体勢を変えれば心配はない。

 

『ドカン』

 

 こちらを逆に吹き飛ばそうとしているのか少し浮いた位置から空気の弾が放たれるがそう簡単に吹き飛ばされる訳にはいかないと壁に手をつき踏ん張る。

 

 こちらは相手の位置が大体ではあるが把握出来る。プロペラの音と『空気砲』の発射位置を頼りに少し行った先の十字路を曲がったのを確認すると『空気砲』を撃ち放った。

 

 瓦礫が吹き飛んだのを確認し、煙が晴れていくのを待たずにそのまま『ショックガン』を撃とうとした時、何故かまだプロペラが回っている。

 

〘なっ?!『タケコプター』だけ……しまっ?!〙

 

『チェックメイト』

 

 盾にしている瓦礫に起動していない『タケコプター』と『空気砲』を取り付けて曲がる際に自分の『タケコプター』を切って騙したのだろう。『空気砲』も当てる気がなければ音声認識だけで撃てはする。やられた悔しさの中で聞こえたその声を最後に私の意識は途絶える事になった。

 

 


 

 

 逃げると見せかけて罠に嵌め込み、相手の動きを完全に読み切って、後ろから放たれた『ショックガン』、一言声を掛ける余裕がありながら避ける隙を与えないその采配にドラえもん達は口を開けていた。

 

「うわ〜」

 

「戦略の組み立て方が上手い……」

 

「ロボット任せにしているから本人はそこまでかと思ってたが武器だけ見ても中々だぞ。流石にあんな使い方はしねぇし、『空気砲』の腕だけなら負けねぇが勝てるかは……」

 

「ありゃ、相当な手練れだぞ。身のこなしがかなり軽い、動き慣れてる身体の使い方に見えるぞ」

 

「ワゥワゥ」

 

「僕たちで勝てるかな?」

 

 らしくない物言いだが不安を溢すのも無理はなく、技術の発展と共に多様化していく犯罪に対応する警察、その力量は確かな物であり、警部となると大きな都市におけるトップクラスの実力者に当たる。

 

 もちろん得意不得意もあり、必ずしも強さが必要となる訳では無いが直接現場に訪れ、後方で指揮を取るでもない様な人物は死にたがりでない限りはその腕は保証される。

 

『すぅはぁ…このまま見逃してくれるんなら楽なんだけどなぁ』

 

 多少は息が乱れている事から戦い自体でまったく損耗がない訳では無いのだろう。しかし、ドラえもん達と戦った時の損傷は全く残っていない様にも見える。

 

 ゆっくりとドラえもん達の方へと歩みを進めるその所作は綺麗であるが故に何処か不気味にも思え、恐怖に後退る者もいる。個と集団の距離が最初よりも半分程になった所でその歩みは止まった。

 

『今度はそっちが相手かな?』

 

「「「「「「「えっ?」」」」」」ワゥ?」

 

 パンドラはドラえもん達に背を向けるようにくるりと回ってみせると、通路の角の方へ分かっているぞと『ショックガン』を構えた。

 

「問題にならないのであれば私としては関わらないのも手なんですがね……」

 

 銃口の先、影となっている場所から一仕事終えたばかりで疲れているんだけどなとぼやきながらも彼はその姿を表した。

 

「「「「「「「ハイドラ!!」」」」」」ワゥ!!」

 

「これも社会貢献と考えてお相手します」

 

「ぼくはみんなの所に行ってるね」

 

 しれっと隣に立っていたジェドーラはドラえもん達に合流すると先程のトゥマト警部とパンドラの時の様に今度はハイドラとパンドラでの空間が出来上がった。

 

 


 

 

 調理場に現れたあの一瞬では完璧に把握出来たとは言えなかったけど、確実に見覚えのない顔ですね。とはいえDr.ブレンドと同様な存在の可能性もあるので気は抜けませんね。

 

『ルールは?』

 

手頃(シンプル)なんてのは?」

 

『マイナーですねぇ……路地裏の喧嘩かガチの殺り合いでしか使われない物を選ぶなんて』

 

 耐久よりもさらに殺伐としている細かいルールなどない殆どなんでもありの戦い方。私に限って言えばその方がやりやすいだろう。

 

 ルールや当て字の由来はシンプルな喧嘩から素手喧嘩(ステゴロ)を連想、しかし端からひみつ道具を使用した戦い、素手にはどうやってもならない。なので()()()()()()()()()()()()を使った手頃な戦いで手頃(シンプル)となった。

 

 そこから由来が由来であるために今では手に持てるだけしか使わなければ後は()()使()()()()()()()()()()()()()()()、実質的な()()()()()()のルールとして知れ渡っている。

 

「それで返答は?」

 

『悩みますが……YESで、っと危ない?!』

 

 YESと言い切った瞬間には牽制に『ショックガン』を撃ち放つ、手頃に合図なんて物はない。相手が了承した時点でそこは戦場である。

 

 だが流石に相手も理解しているのか答えながらもステップを踏んで綺麗に避けて見せる。もう少し早ければ撃ち抜けたか?だが私にはキッドやのび太くんレベルの腕はない。当てるならばもっと動きの制限をしなければならない。

 

「『手なげミサイル』」

 

 投げれば目標目掛けて飛んでいってくれるミサイル。説明では必ず当たると言われているが防ぎようも避けようも全然ある道具だ。

 

 飛行軌道の関係で急な動きに対応しきれずに障害物に当たって起爆してしまったり、先に起爆したものに誘爆したり、撃ち落とす事も可能だ。

 

 それでも近くで受ければ爆風の煽りを受けたり熱風で焼けてしまう。避けることを強要することで相手の動きを制限する事ができる。

 

『やられっぱではいられないよ。いけ『ミニ雷雲』!!』

 

「ミサイルに落ちて迎撃か……残ると厄介ですね強力うちわ『風神』!!」

 

 風を起こして接近や相手の攻撃の起こりを防ぎながら相手の生み出した雷雲を吹き飛ばして蹴散らす。そのまま追撃と思うが相手の判断が早かった。

 

『風には風で、舞え!!『つむじ風うちわ』!!』

 

「『風神』で起こした風を利用して……くっ目眩ましか?!」

 

 起きた風をつむじ風で吸収させてから操り、台風程ではないが厄介な風が周囲に集まってくる。複数のつむじ風を操っているからか明確な中心がなく、何処に避けても影響を受ける……これはまずい。

 

『風からのプレゼントだ『風合戦手袋』に『空気砲』ドカン!!』

 

「『風ため機』!!」

 

 固形化した空気を『空気砲』で放つなんて当たれば一溜まりもない。つむじ風のせいで軌道を読むのも難しいから『風合戦バット』で打ち返すのも不可能だ。

 

 そもそも捕まってるこの状況自体をどうにかしなければならないので風自体を封じる様に『風ため機』を置くことでつむじ風も固形化した空気も『空気砲』も防いで仕切り直す。

 

『もう少し踊って貰おうかな『おもちゃの兵隊』!!』

 

「『無生物指揮棒』!!瓦礫よ盾となれ!!そして落ちろ!!」

 

 自身の近くにある瓦礫を目の前に来させて盾とすることで『おもちゃの兵隊』の攻撃を防ぎ、そのまま余った瓦礫に跳び跳ねさせて相手目掛けて落としていく。

 

 防御と攻撃を同時に行うことでなんとかペースを取り戻す事が出来そうだ。そして瓦礫を移動させることで次のステージも用意してしまえば良い。

 

 狙う様に見せかけて瓦礫を動かし、相手を囲むように幾つかの壁を周りに作り出してしまえば第一段階終了。後は『ショックガン』に持ち替えて『チーターローション』をタンクから排出。

 

『この速度は『チーターローション』?! 使用している隙なんてなかったのに……』

 

「『材質変換機』!!」

 

 この光を浴びせる事で相手を囲い込む瓦礫を鏡に変質させる。こうすることで光を跳ね返す土台まで完成したが、『チーターローション』の効力が切れかけてきた。

 

『何を企んでるか大体分かったけど逆に利用してあげるよ』

 

 相手が『ショックガン』を持ち出し、鏡に反射させる事でこちらを狙ってきた。死角から飛んてくる光を避けるともう一発、タイミングを合わせてクロスするように撃ち込まれる。

 

 『チーターローション』の効力が完全に切れておらず、掛け直す事が出来ないタイミングを狙う当たり、ひみつ道具への知識量はかなりのものだと窺える。

 

 しかし、どれだけひみつ道具に詳しかろうが()()()()()であれば即座に対応は難しいだろう。

 

「【アンドゥナツ】!!」

 

『なにっ消えた?! 何処に……危ない後ろかっ?!』

 

 ジェドーラに多めに作るように頼んだ道具【アンドゥナツ】それを口に含んだ私は即座に呑み込み、その効果でパンドラの背後を取り、『ショックガン』を撃ち返したが勘が働くのか避けられた。

 

『どうやってそこまで移動を……『チーターローション』にしては今の挙動はそのままだし、くっまた?!』

 

 もう1つの口に含むとさらに移動して『ショックガン』を放つ。直接狙う時もあれば反射を狙い、チクチクと撃ち続ける事で相手の集中を奪う。

 

『空間転移にしては指定の動作がない。現れる場所…限定的な時間移動か? となればそこだ!!』

 

「おっと流石に頭が回るみたいですね。ですが残念、まだまだあるのでどれだけ戻るかは分かりませんよ」 

 

 十回程は撃った頃に相手もこちらの挙動から効果を推測し、現れる場所を予測して『ショックガン』が放たれる。しかし、もう1つ即座に食べる事で避けるのは他愛もない。

 

 私オリジナル道具の【アンドゥナツ】は『現実ビデオ化機』が近いだろうか。対象の行動を1つ分だけなかった事にするという巻き戻しを可能とする道具で、極めて限定的な過去改変の為に食べるというだけで効果を発揮させる事が出来ている。

 

 食べた対象の行動を1つ分巻き戻し、なかった事にするために対象以外が絡んだ事象は対象に付随したままで、無くなることはない。

 

 今やった様に当たる前に食べる事で攻撃を避ける事は可能だが、当たった事はなかった事にならないため、仮に当たってから食べたとすると私の移動だけがなかった事になり、殴られた私が過去の場所に現れる。

 

 また何処までを1つの行動とするかの判断が非常にシビアであり、状況の展開が激しい場面での使用にはかなりの技量を必要とするだろう。

 

 だがその技量さえあれば自身のリズムを用いた完璧な立ち回りが可能となり、戦いにおいても大きな効果を発揮してくれる。

 

 食べては撃ち、撃っては食べてを繰り返す事でとにかく逃げる隙を与えない。そうすれば確実に避けきれない盤面が訪れる。

 

「なんてしたっけ? あぁ、チェックメイト」

 

 多方向から飛んでくる攻撃を捌き避けてと対応に追われ続けるパンドラに向けて真っ直ぐに放った不可避の光線。向こうが気付いた時には逃げ場はなく、諦めに目を瞑ろうとする敵の姿を見たその瞬間。

 

『ジャムジャムジャミング!!』

 

 聞き覚えのない声と共に確かな妨害が入り、トドメとなる筈だった攻撃は霧散していくのをこの目が捉えた。()()()()というのはここまで厄介なのか……どうやらまだこの騒動は終わらないらしい。

 

 


 

 

『ジャムジャムジャミング!!』

 

 何処からか声が響いたかと思うもパンドラへと向かっていた攻撃が何もない空間で弾かれてしまった。

 

『ジャム!! ナイスタイミングだ!!』

 

「横入りとはずるいですよ!!」

 

「いえ、王ドラ。手頃はなんでもあり、縛らない限りは多対一も乱入も容認されるんです」

 

 仲間がいるとは知らなかったと心底悔しそうな表情を浮かべるハイドラ、その苦虫を噛み潰したような顔にはなぜそこまでと周囲の一部は疑問に思うが状況が状況なために直ぐに流れる。

 

「ジャム? アイツの味方か?!」

 

〘うぐぅ……あいつは厄介なサポート担当だ〙

 

「トゥマト警部無理しないで?!」

 

 攻撃を防いだ物が飛んできた方向へと視線を向けるとシャム猫型と思われるネコ型のロボットがそこに優雅に立っていた。そしてハイドラ達の戦いが長引いた事でトゥマト警部が目をさまし、謎の存在について補足する。

 

『お初の方もいらっしゃる様で、這々を転々とパンドラのサポート役、名前にもちょいと点々をシャム猫のジャムと申します。以後お見知りおきを!!飛び道具は厳禁、手詰まり行きのジャムルーム!!』

 

 トゥマト警部の簡易的な説明がなくとも十分なくらいに堂々と自己紹介をして優雅に一礼すると今度は手を広げて何かを宣言した。

 

「突っ立てりゃいい的だぜ。ドカン!!ってありゃ?!」

 

 呑気におしゃべりしている相手を撃ってやろうと『空気砲』を構えて叫んだキッドであったが、その腕の先から空気の弾が放たれる事はなかった。

 

〘サポート担当と言っただろう。あいつはこっちの行動の阻害もしてくる。まるで『キンシ標識』みたいにな。今は飛び道具が使えなくなってる筈だ〙

 

 だから俺は近接武器も用意する様にしているんだと『チャンバラ刀』を全員に見せるチャップル警部。

 

「なんだってー?!」

 

 自身が一番得意とする『空気砲』を封じられたキッドはその理不尽さに怒りを抱きながらも引き下がるしかなかった。そして、キッドに代わるように王ドラが前に出る。

 

「ならば近接戦の出番!!アチョー!! 」

 

『スリップ注意、甘いイタズラ、スイートジャム!!』

 

「へっ…足がとられ、うわぁああ?!」

 

 得意のカンフーでパンドラ達を攻撃しようと跳び跳ねて向かったがジャムが何かを撒くとそれに足をとられて床まで落ちてしまった。

 

 何事だと注目する中で匂いに気付いたジェドーラが撒かれた物をひと掬いして口に含んだ。犯罪者の出した物を安易に口に入れるべきではないが毒などはなく、甘い香りのそれが何かを答えた。

 

「これ、いちごジャムだね。食べ物を粗末にするなんて許さないぞ!!」

 

『とは言われましてもこれが私の戦い方ですのであしからず。それでは『通せんぼカバー』もだいぶボロボロになった様なのでここらで失礼します』

 

『それじゃバイバ〜イ!!』

 

「待て!!」

 

 手を伸ばしたり、何かないかと道具を取り出すも一歩遅く、空いた穴から出ていった2人組の姿は早々に見えなくなってしまい。事件は幕を閉じることになった。

 

 


 

 

 そこからは目まぐるしいぐらいの忙しさが嘘みたいに落ち着き、警察からの簡単な聴取を受けたらそのままイベントは開催され、企業からの審査を受けることが出来た。

 

「【卵のボーロ】最優秀賞獲得おめでとう」

 

「あれなぁ。強かったからなぁ納得だぜ」

 

「いや強さは基準じゃないでしょうよ。それにあれはパンドラの改造品ですよ」

 

 色々と作ったが企業から評価が高かったのは【卵のボーロ】だった。シンプルなお菓子でありながら詰め込まれた様々な動物のプログラムをまずは褒められた。

 

 そして、卵から何が生まれるか分からないドキドキ、成長することで食べごたえが増す点、戦うことでのアクション要素が他にないので話題になると売る側の視点での評価が大きい。

 

 原料が安く済む点と既にプログラム関係が設定され尽くしている為にそのまま作ろうと思えば即座に商品化が可能なのも企業としては良かったのだろう。

 

 こういった大会では一例だけを作って、他の部分は企業にお任せするという。商品のネタというか案と簡易的な仕組みだけを提出するのも珍しくはない中で完成度で勝ったとも言える。

 

「他のも商品化するんだろ?」

 

「お店に並ぶのが楽しみだね」

 

「ワゥワゥ!!」

 

 実際に店頭で見るようになるには流石にまだ時間はかかるだろうがこう楽しみにされると嬉しいものである。

 

「後は特別賞の味の評価であ~る」

 

「ジェドーラもおめでと〜」

 

「い、いやぁ~、嬉しいよ。みんなありがとう」

 

 調理を担当してジェドーラの方も無事に評価され、【ジェラ〜ト】が特別賞を受賞した。本来は妬ましい、羨ましい等の嫉妬を込めて混ぜることで完成するジェラートで、食べることで思いをしょうかし、気持ちを切り替える道具。

 

 嫉妬の強さでそのジェラートの味や温度が変わるのだが大まかな【ジェラ〜ト】の味のモデルを用意し、実際の変化も合わせて味わってもらった所、多彩な味と滑らかな舌触りで大人気となった。

 

 その評判の良さから他の参加者の放たれた嫉妬をさらに吸収したりもしたが、まぁ特に問題にはならずに終了し、そのまま開催中はひみつ道具ミュージアム周辺を全員で楽しみ尽くす事になった。

 

 


 

 

 事件が終わり、イベントも一部を除いて中止にはならずに済み、警察官の大半が撤収された頃にチャップル警部とひみつ道具ミュージアムの館長が秘密裏に会合していた。

 

 警部は出された茶を味わい、館長も話の前に落ち着くために一口含んで飲み干すと息を吐き出す。静けさによる緊張が残る中で警部から口を開けた。

 

〘それでは話を始めたいのですが、まず確認ですがひみつ道具ミュージアムから盗まれたものがあるというのは本当ですか?〙

 

 パンドラによる事件を追っているチャップル警部だからこそ気になる情報であり、公には出来ずにこうして機会を設ける程の事情とはなんなのか。鋭さを隠さない瞳が館長へ向く。

 

「はい……あれは危険性から存在を秘匿された道具でして、情報の流出時に備えて身代わりとなる()()()()()が作られた程のものです」

 

〘そういった物は即座に破棄されるべきなのでは?〙

 

 安全面から考えればこれ以上ない方法だろうと簡単に返された警部の言葉に館長はひみつ道具に関わる一人の人間としてとても苦い顔を浮かべる。

 

「そうするべきなのでしょうが、流失した技術を復元しようと試みたプロジェクトの中で作られた物でして、技術的価値が高く、完全に消してしまうのは惜しまれたそうです。その為に万が一に対策が取りやすく、警備の厳重なここひみつ道具ミュージアムの秘匿展示室にて保管されていたのですが……」

 

 盗まれた現状があるということはその厳重な警備とやらは意味をなさなかった事になる。そもそも何処から隠された場所の情報が漏れたのか謎ばかりである。

 

〘パンドラにしてやられたという訳ですな。その現場は見せていただけると助かるのですが〙

 

()()()()()、あそこは館長のみが管理を許されている場所でして、他にも回収されている道具があります。その為に不用意に立ち入るだけでも危険性があるのです。それ以前に私の判断だけでお入れすることも難しく……」

 

 ミュージアムという優れた立地も相まって保管場所になり、ひみつ道具に詳しく、その扱いにも長けているのには間違いない為に管理人となったが彼が全てを決定している訳ではなく、その上がいる。

 

 ただでさえ今回の一件で責任がどうなるか分からないというのに許可なくこれ以上の情報の開示は出来ないと暗に否定する。そして、上下関係については警察という組織に所属しているチャップル警部もよくよく理解しており、これ以上は踏み込まなかった。

 

〘パンドラは騒動を起こしたり、ひみつ道具を盗んだりしていますが、盗んだ物を使用した記録は今のところありません。おそらく〚パンドラボックス〛に何らかの形で使用しているのでしょう〙

 

「あれがそのままの形で出ていかないのであれば不幸中の幸いと言えるでしょう……あれはそれだけ強力な道具でした。心無い人間が持てば世界が危険になる…そんな道具です」

 

〘パンドラに対する捜査権は私に預けられています。念のためその盗まれた道具の詳細だけは教えて頂きたい〙

 

 盗まれたのはなんという名の道具で、いったいどの様な効果があるのか、それを知っているのと知らないのでは対策の立て方も違ってくる。館長は悩みながらも重い口を開けて、その名を告げた。

 

「あれは、【悪魔のパスポート】です」

 

〘『悪魔のパスポート』と言うとあの?〙

 

 赤い表紙に黒い悪魔の顔の描かれたパスポートであり、取り扱いに制限のある道具をチャップル警部は思い浮かべる。だが、その想像は直ぐに否定された。

 

「おそらく想像している物とは別物です。皆様が知っているのは本物の【悪魔のパスポート】を隠すために発売されたデコイ…本当の名前を悪魔に対抗する様に【天使のパスポート】と名付けられています」

 

〘ややこしくて頭がこんがらがりそうだが……世間に出回っている『悪魔のパスポート』が本当は【天使のパスポート】で、今回盗まれたのが本物の【悪魔のパスポート】であっているか?〙

 

 なんともややこしいが本物を隠して、偽物を本物として流してまで守るとはデコイを考えた者たちの執念を感じる。

 

「はい、先程も言いましたが技術の復元を目的としたプロジェクトの下で開発は進められ、犯罪心理学などの研究に役立つとも当時は期待されていました。しかし、偶然作り出されたそれは制御出来ない程のそれは恐ろしい効果を有してしまった」

 

 詳細を知るからこその恐怖に館長は唇を少し青くさせ、顔の血色も悪くし、細かく震える腕をさすっている。

 

〘あなたがそこまで強調して言うほどの代物ですか…警察という立場からしても本物の【悪魔のパスポート】というのはかなり厄介に思えますが、そもそもそれほどの技術が失われる程の過去に存在したのですか?〙

 

 技術が失われるというのはそんなに単純な話ではない。一子相伝の秘法などであれば近年になって急に失われる事もあるだろう。

 

 この様な道具の元になるほどの技術が急に失われるのかは疑問に思える。だが館長の次の言葉でその疑問は掻き消えることになった。

 

「今も続くあの()()の家系、そこが源流となる技術です」

 

〘っ?! 日本のエジソンとも呼ばれ、現在の自動調理器の先駆けとなった『包丁いらず』やタイムマシンの一般普及や航時法の制定時にも大きく貢献した21世紀の天才()()()()、そしてかの江戸の時代にこの時代のひみつ道具と遜色ない品を作り上げた()()()()の……確か発明家として今も家が続いていたと思うが?〙

 

 はるか未来にまで語り継がれる様な偉人が排出された家の名の前には先程までの疑問なんて吹けば飛ぶ物である。

 

「えぇ、その内の一人がひみつ道具研究に携わりプロジェクトにも参加していました。そのおかげで木手の一族に伝わる知識の一端、そして受け継がれてきた頭脳による閃きを利用でき、プロジェクトは順調に進んでしまいました。【悪魔のパスポート】は奇天烈斎の『御赦免印籠』という道具の技術を利用した物です。それ自体も悪人が持てば危険な代物ですが使い続ければ壊れる欠陥品だったそうです。ある意味欠陥品だからこそセーフティが掛かっていたんですが……」

 

〘【悪魔のパスポート】はそれも克服してしまった。だが二つとない一点物であり、現在の技術では取り押さえることが出来ないオーパーツとしてか……〙

 

「オーパーツ……言い得て妙ですね。それほど表すのに適した言葉はないでしょう。木手一族の発明品は何時の時代においても未来を生きているとしか思えないものばかり、それを再生しようとしたのが間違いだったのでしょう」

 

 何処か遠い目をして当時のプロジェクトに思いを馳せる館長、天才とそうでない者との差とはこれほどまでに辛いものなのかと悩ませるがこのままでは話がそれてしまうと声を掛ける警部。

 

〘大変貴重なお話、そしてご協力に感謝します〙

 

「いえ、こちらこそ配慮頂きありがとうございます。他に何か聞いておきたい事とかがありましたらまだお時間ありますが」

 

〘それでしたら【悪魔のパスポート】の話を聞いてから気になっている事があったのですがいいですか?〙

 

「機密に関わる事でなければ」

 

〘いえいえ、そちらの事に関することではないのです。ただ今回の盗みを働いた犯人であるパンドラ、彼女が使う〚パンドラボックス〛…あれと同名のひみつ道具がありましたね〙

 

「えぇ『パンドラボックス』、危険性もない道具のためこのミュージアムにも展示されています」

 

〘あれと彼女の持つ道具では類似性はありませんが……あれが()()()()()である可能性を私は追っています〙

 

「あれがデコイですか……パンドラの持つ〚パンドラボックス〛を本物としてそれを隠すために『パンドラボックス』が作られたとして、パンドラが暴れているのを考えると意味がないのでは?」

 

〘いや、『パンドラボックス』の方が初めて販売されたのはかなり前だ。その頃にパンドラはまだ活動していないし、販売されてからもそれなりに時間があいている。あれが本当の意味でパンドラの箱だったとしたら?〙

 

「……?!も、もしや 、オーパーツに数えられる様な強力なひみつ道具、いや正確にはひみつ道具ですらないかもしれない秘宝!! それを確実に手に入れるため、独占するために『パンドラボックス』を普及させる事で他の者が〚パンドラボックス〛にたどり着けないようにした?!」

 

〘あぁ、仮定通りだとすれば『パンドラボックス』の開発者とパンドラには何らかの関係性があるはずだ。ジャム同様に共犯なのか、それとも〚パンドラボックス〛を狙い合う敵同士なのか、目的すら掴めない謎に包まれたパンドラのベールを剥がせる切っ掛けに成り得る〙

 

「ひみつ道具職人の資格取得者の情報は調べられます。販売されるレベルの道具を作っていれば検索にも引っかかる……出ました!!」

 

〘どれどれ……これは?!〙

 

 

 

 

・制作者

:バクスィー・テウス

 

・所属

:第六未来大学・昔年時代学科・エネルギー研究室

 

・代表作

:『パンドラボックス』『ゴルゴンの首』

 『ジークフリート』『ポータブルピラミッド』

 『モーゼステッキ』『うちでの小づち』

 『アラビンのランプ』『バショー扇』

 『キューピッドの矢』+etc

 

・備考

:研究調査に同行後死亡

:教授及び室員も同時期に死亡

:研究室は閉鎖済

 

 

 

〘詳しく調べる価値がありそうだな〙

 

 

 


 

 

『いてて、けっこうあちこちにガタがきてるな』

 

『そんなにやる人たちだったんですか』

 

『個々に力もあったけど連携するとかなり厄介かな?』

 

『あの警部もそうですが面倒ですね』

 

()()()()()()だからね』

 

『まぁ、必要な物は手に入れられたんでしょう? それなら身体をはった価値に見合うでしょうね』

 

『そうだね。【悪魔のパスポート】、これを取り込めば精神耐性は十分な筈』

 

『それでは養生を終えたら行きますか?』

 

『エネルギーの確保もしてからになるが……()()()()に挑むぞ』

 

 


 

登場したひみつ道具

 

 

『ひらりマント』

 

目の前に迫ってくる物に対してこのマントを振りかざすと、跳ね返す事が出来る。跳ね返せるのは物体だけでなく、光線などの不定形なものにも効果がある。電磁波の反発を利用している。ドラえもんズのエル・マタドーラはこの道具を使うのが得意。また、怪盗ドラパンの普段付けている黒いマントもひらりマント。

 

 

『トランポリンゲン』

 

これを吹き付けると、その場所がトランポリンのようになる。人間だとトランポリンのように跳ねる。殴られても痛みは感じないのでテニスボールになることもできる。

 

 

『チーターローション』

 

これを足に塗れば、目にも止まらぬ速さで走ることができる。

 

 

『でんでんはうす』

 

この中に入ってしまうと、外で何が起きても平気。エアコン付きの快適な住まい。まず、おしりをデンデンハウスの吸排出口に押し付ける。すると、吸い込まれながら伸縮機によって小さくされる。転がされたりしても中はいつも水平に保たれ、壁のパネルスイッチ(エアコン、カーペット、スピーカー、ベッド)を押せば、4つの設備が出てくる。

 

 

『スーパー手袋』

 

この手袋を付けると、怪力の持ち主になれる。重力を半分にしてしまう重力打ち消し粒子層と、はめた者の力を2倍に強めるパワー倍増粒子層の二重構造の特殊合成ゴムでできている。

 

 

『空気砲』

 

空気圧を利用する武器。腕にはめて「ドカン」と言うと発射される。ドラえもんズの一人、ドラ・ザ・キッドが使う武器。

 

 

『ショックガン』

 

相手を傷つけることはないが、気絶させることができる武器。

 

 

『眠くならない薬』

 

1粒飲めば24時間、眠くもならないし疲れもしない。これには、夜行性動物、特にフクロウと同じエキスが含まれていて、他にも薬草、強性エキスなども含まれている

 

 

『コンクフード』

 

色々な食べ物が半練り状態で入っていて、缶から出ているチューブから吸い出して食べる。中身が濃く、一缶30食分。海の中でも食べられる。圧縮ミート製法で作られた、体に吸収しやすい食べ物。

 

 

『チューイングピザ』

 

1粒で満腹感を得られる食料。

味はサラミ味になっている。

恐竜ロボットも喜ぶ一品。

 

 

『チャンバラ刀』

 

この刀で切ると本当に切れるが、セットになっているノリですぐにくっつけられる。

 

 

『瞬間接着銃』

 

一瞬で敵を接着してしまう銃。

 

 

『即席落とし穴』

 

いつでもどこにでも置くと輪に穴が開き、落とし穴になる。

 

 

『正体スコープ』

 

これを覗けば色んな怪奇現象の正体が分かる。

 

 

『おかし牧草』

 

この牧草を食べさせると、どんなお菓子でも増やす事ができる。草をあげていれば自然に繁殖して増えるが、1時間以上食べさせないと元のお菓子に戻り、二度と動かない。

 

 

『通せんぼカバー』

 

【ドラミ&ドラえもんズ ロボット学校七不思議!?】に登場したロボット学校を覆った透明な壁を作り出す道具。これで覆われて場所は出ることも入ることも出来なくなる。

 

 

『ブラックホールペン』

 

このペンで書いた円の中に物を入れると、『ホワイトホールペン』で書いた円から出てくる。用が済んだらすぐ消さないと、飲み込まれてしまう。

 

 

『ホワイトホールペン』

 

このペンで書いた円から、『ブラックホールペン』で書いた円に入れた物が出てくる。これを書かないと、入れた物はずっと出てこない。

 

 

『原料ライト』

 

光を浴びさせると元の材料に戻る。例えば料理に失敗した時、これを使えば材料からやり直せる。光を浴びさせる程原型に戻る。

 

 

『タイムふろしき』

 

生き物をこれで包むと、若くなったり年を取ったりする。物なら、新品にしたり古くしたりできる。裏返しに使うと古くなる。見かけは薄い布だが、時流漏洩防止膜、未来流ファイバー、タキオン織りこみゾーン、過去流ファイバー、時流漏洩防止膜の五重構造になっている。中央から放出されるタキオンエネルギーが、過去流ファイバーを通してふろしきで包まれた空間に作用して、包んだ物が新しくなる。人間の年齢を若くしても、風呂敷をかぶる前の記憶は持続する。

 

 

『復元光線』

 

懐中電灯のような形をした道具。 壊れた物体にこの道具から発する光線を浴びせると、壊れる前の状態に戻してくれる。 テレビアニメ第2作第2期では生物にも有効とされており、汚れている人間の体と服を綺麗にしている。

 

 

『全体復元液』

 

どんなに小さな欠片でも、この液をかけると、欠けた部分から泡が出てきて元の全体の姿に戻る。

 

 

 

『らくらくお掃除3点セット』

 

スーパーはたき、ウルトラほうき、バイパぞうきんのセット。スーパーはたき 1回はたけば、あらゆる汚れを落とすことができるというはたき。 ウルトラほうき 1回はけば、あらゆる汚れもきれいにすることができるというほうき。 ハイパーぞうきん 1回ふけば、どんな頑固な汚れでもピカピカにすることができるという雑巾。

 

 

『猛獣さそいよせマント』

 

これを付けると、猛獣を怒らせ、誘い寄せる光が出る。

 

 

『声カタマリン』

 

液体の薬で、これを飲んで大きな声を出すと、声がカタカナの文字をして固まってしまう。硬い物質でできていて、飛んできた文字にぶつかって怪我をすることもある。効き目は翌日まで続く。この薬を飲んだ後に風邪を引いたりしてくしゃみが止まらなくなると、文字も止まらずに出てくる。壁に向かって叫べば、一応音なので跳ね返る。

 

 

『ずらしんぼ』

 

本の汚れ、ふすまの穴、アイロンによる床の焦げ、水たまり、庭の池、本の中身など、どんな物でも場所をずらす事ができる。汚れや穴など、不要な物は紙に移動させてそのまま捨てれば良い。

 

 

『動物変身ビスケット』

 

これを食べるとビスケットの形の動物に変身して、鳴き声も仕草もそっくりになる。ビスケットの組成は時限変身薬、各動物のエキス、小麦粉、砂糖、バター。ビスケットを食べると、時限変身薬が細胞に浸透し、外見も体質もビスケットと同じ動物に変身する。効き目は5分程度。コミックスでは、ネコ、ワニ、ウマ、ニワトリ、チンパンジー、カエル、ウサギが登場した。

 

 

『四次元マフラー』

 

『四次元ポケット』の一種。

 

 

『四次元ポケット』

 

正式名称は「ロボット専用四次元空間内蔵秘密道具格納ポケット(四次元空間使用許可管理局承認番号D7E1293)」。ドラえもんのポケットのこと。中にいくらでも物を入れる事が出来るが、あまり乱雑に入れておくと目的の物を取り出すのに時間がかかる。伸縮自在の繊維で出来ていて、裏側はどこにでもくっ付くようになっている。四次元ポケットの中は超空間になっていて、三次元の物体をほぼ無限に収納出来る。ポケットの入り口にイメージ検索機能が付いているので、出したい道具を頭の中でイメージするだけでポケットの中のコンピュータが探しだしてくれる。また、スペアポケットは四次元ポケットと超空間で繋がっていて、どちらからでも道具が取り出せるようになっている。スペアポケットに入って四次元ポケットに出ることも可能。ドラえもんが自分のポケットから同名・同型の『四次元ポケット』を出した事があるが、こちらには普段使わない物を入れておく道具としてのみ使われている。バリエーションとして、ドラえもんズのドラ・ザ・キッドの四次元ハット、王ドラの四次元そで、ドラメッドⅢ世の四次元ランプ、ドラニコフの四次元マフラーがある。

 

 

『がんじょう』

 

飲むと、体が鉄のようになる錠剤タイプの薬。アイスクリームの味がするバニラ味コーティング、体を鉄のように固くする第2強化剤、体を石のように固くする第1強化剤からなる。これを飲むと体の表面に固い磁力膜ができ、だんだん体を鉄のように固くする。有効時間は10分。

 

 

『こだまラッカー』

 

このラッカーを吹き付けると、音がこだまのように返ってくる。例えばドアに吹き付けると、中に誰も入っていなくても、こちらのノックに対してノックの音を返してくる。

 

 

『現実ビデオ化機』

 

現実をビデオみたいに巻き戻し、早送り、一時停止などの操作出来る機械。3~20倍速まで調節が出来る。

 

 

『タケコプター』

 

気軽に空を飛ぶ事が出来る道具。体のどこにでも取り付けられる。吸着の方法には万能吸着盤とけん引ビームの2種類がある。超小型の電池を内蔵。時速80kmで連続8時間の運転が可能。休み休み飛ぶと、電池も長持ちする。頭に付けてスイッチを入れると、反重力ボードと呼ばれるプロペラが回りだし、反重力場が体の周りにでき、地球の重力を遮断して浮上する。方向やスピードを思い浮かべるだけで、脳波がコンピューターに伝わり、プロペラの回る速度が変わっていく。その回転速度の変化によって重力場の方向が移動して、前後・左右・上下と自由自在に飛ぶ事が出来る。連載初期は「ヘリトンボ」と名付けられていたが、2度目のアニメ化の際、呼びにくいという事でこの名前へ改名された。

 

 

『タイム電話』

 

時間を超えて過去や未来と連絡が取れる電話。旅先で『タイムマシン』が無くなった時、これでドラミを呼んだりする。

 

 

『チクタクボンワッペン』

 

針を書き込むと、それが動き出して予定した時間に爆発する。

 

 

『手なげミサイル』

 

投げると目標に必ず当たるミサイル。

 

 

『風神』

 

空気抵抗が大きいうちわで、かすかに動かすだけで風を起こす事ができる。大きく動かすと人間も吹き飛ばせる。柄を握るとスイッチが入る。空気抵抗削減機と空気反発増幅機が働き、少し扇ぐと凄い風力が出る。最高出力は、ひと振り秒速100mにもなる。また、扇ぐ事で発生する摩擦熱をエネルギーに変える温度差エネルギー発生装置が付いており、充電の必要は無い。これを2つ持って地面を仰ぐと空を飛ぶ事ができ、考案したのび太は「バタバタヒラヒラ」と命名した。

 

※『強力うちわ風神』と『風神うちわ』とあったから共通してる『風神』だけで使用。

 

 

『つむじ風うちわ』

 

このうちわをあおぐと、つむじ風が発生する。発生したつむじ風は、うちわで自在に操ることができる。

 

 

『風合戦手袋』

 

雪合戦の風版。空気の玉を相手にぶつけられる。使い方は団子を作るように空気を丸めて投げるだけ。

 

 

『風ため機』

 

この機械で貯めた風を袋に詰めてコックをひねると、空を飛ぶことができる。

 

 

『風合戦バット』

 

『風合戦手袋』で作った風の固まりを打つことができるバット。

 

 

『おもちゃの兵隊』

 

命令を受けると忠実に遂行し、助けを求めると、相手を撃破するまで徹底的に守ってくれる小さなおもちゃの兵隊の人形。人やボールを黒焦げにする位の威力を持った銃を装備している。

 

 

『無生物指揮棒』

 

生きていない物をまとめて動かすことができる。

 

 

『材質変換機』

 

この機械の光を当てると、物の材料を変える事ができる。例えば、木を紙に、布を金属に、ガラスをビニールに…などなど。

 

 

『キンシ標識』

 

禁止にしたい事を書いて畳などに突き刺すと、その事が絶対に出来なくなる

 

 

『悪魔のパスポート』

 

窃盗や痴漢等の犯罪行為からテストのカンニングといったどんな悪い事をしても、このパスポートを見せると許されてしまう。効力を発するときには、パスポートが光り、パスポートを使用した人の影が悪魔のような形になる。表紙には悪魔の顔のシルエットの絵柄が描かれ、「PASSPORT OF SATAN」の表記がある。

 

※この作品においては【天使のパスポート】と同一である

 

 

『パンドラボックス』

 

強い意志を育てるための箱。いろいろな誘惑で開けさせようとするが、開けるとお化けが出てくる。

 

 

 

『ゴルゴンの首』

 

ウオ~ンという鳴き声と共に、目から出る光線に当たると、生物の筋肉は強張り、石のようになって動けなくなる恐怖の道具だが、使いようによっては、廊下で立たされた時に、足だけ石にして立つのが楽なるような使い方ができる。へびのような髪の毛を引っ張ると元に戻る。通常は箱に入っており、出るとカメのようなゆっくりとした速度で動き回る事ができ、近づいた物を石に変えてしまう。

 

 

『ジークフリート』

 

ドイツの英雄で、巨大な竜を倒した時にその血を浴びて不死身の体になったという伝説から生まれた道具。真っ赤な入浴剤で、5分間全身が真っ赤になるまでお風呂に入ると、30分間は不死身の体になれる。

 

 

『ポータブルピラミッド』

 

小さなピラミッドの模型で、これを頭の上に乗せると、その人が持っている様々な能力を高めてくれる。

 

 

『モーゼステッキ』

 

このステッキを持ってボタンを押すと水が2つに分かれて、その底を歩くことができる。電池式。

 

 

『うちでの小づち』

 

ちょっと振るだけでどんな望みも叶えてくれる。でも、すんなりとはいかない。

 

 

『アラビンのランプ』

 

このランプを擦ると煙のロボットが出てきて、擦った人をご主人様と呼び、何でも言うことを聞いてくれる。ランプの側面はセンサースイッチになっていて、こするとコンピュータが作動する。すると粒子ロボットが出てきて、けむりロボットを形成する。粒子ロボットは、番号順に組み合わさるように記憶素子が内蔵されている。このロボットは全てランプ内の指令コンピュータでコントロールされていて、命令を取り消す場合はランプのふたの命令取り消しボタンを押す。

 

 

『バショー扇』

 

風の吹き続ける時間をダイヤルで指定し、どんな風かをマイクに指令してこの扇をふると、さわやかな風、南極のブリザード、甘い果物の匂いがする南国の風、暑くてじっとりと湿っぽい真夏の熱帯の風など、どんな風でも起こす事ができる。風向きや強さはふり方で調節する。向こうからこちらへ吹かせる事もできるし、下から上へ上昇気流を作り出す事もできる。もちろん台風も作れる。

 

 

『キューピッドの矢』

 

弓と矢からなる道具。この矢が当たった生き物は、矢を放った人が好きになる。矢に当たっても傷は付かず、痛くもない。人間だけでなく動物やロボットにも効果がある。手で直接相手に矢を突き刺しても良い。

 

 

 

オリジナルひみつ道具

 

 

【卵のボーロ】

 

そのまま食べても美味しいが時間が経過すると中から様々な卵生の動物が生まれる。放置しているとさらに大きくなるが、活発にもなるため捕まえて食べるのには苦労する。

 

 

【恐竜変身ビスケット】

 

『動物変身ビスケット』と根本的には同じ道具であり、食べることで一定時間恐竜に変身する。

 

 

【神社クッキー】

 

鳥居形のジンジャークッキー。忙しくて中々お参り出来ない人向けの道具で、祈りながら食べるとその神社までワープする。正しい手順でお参りする事で元の場所へと帰れる。

 

 

【ホットケーキとコールドケーキ】

 

見た目は普通のホットケーキだが食べるとそれぞれ暖房や冷房の様に温度を調整する機能がある。

 

 

【ドリ安牌】

 

ドリアンで出来た美味しいパイのお菓子。安牌をきると言うように、このパイを切って食べると中から今の現状を抜け出す上で無難な策を授けてくれる。

 

 

【雪かき氷】

 

食べると雪かきが出来るかき氷。お皿に付いてるボタンを押すとかき氷と周辺の雪がリンクして、かき氷を食べた分だけ雪が消える。

 

 

【ジェラ〜ト】

 

妬ましい、羨ましい等の嫉妬を込めて混ぜることで完成するジェラート。食べることで思いをしょうかし、気持ちを切り替える道具。嫉妬の強さでそのジェラートの味と温度は変わる。

 

 

【アンドゥナツ】

 

多くのソフトウェアが持つ機能および操作の一つで、直前に行った操作や処理を取り消し、元の状態に戻すアンドゥが由来であり、食べた人の直前の行動を取り消す事が出来る。

 

 

【善哉善哉】

 

よいかなぜんざい、ぜんざいの元々の由来から取った道具であり、これを食べると美味しさから食べた人を暖かな心持ちにし、周囲の人を褒めたり、優しく接するようになる。

 

 

【セイレーン印のおまんじゅう】

 

『うぐいす印のおまんじゅう』の改造品。とてつもない美声と歌のセンスに加えて、しばらくの間、歌を聞いた人を魅了する効果がある。

 

 

【天使のパスポート】

 

犯罪心理学の観点や心理実験、技術再生のために開発された『悪魔のパスポート』であったが、製造後にその危険性を考慮して研究を凍結、外部への公開を禁止したが何処からか漏れ出た情報を隠すために作られたデコイ道具。

 

外見は原本である『悪魔のパスポート』と変わらず、使われた際には防衛機能が働き、罪悪感を増幅させ、使用者を反省させ、償いをするように促す。これの発売により社会性の向上に貢献したが、効力は弱いが防衛機能の無い、海賊版が裏で使用されたり、製品に紛れ込ませるなどの犯罪行為も後を絶たない。

 

危険性を考慮して秘密道具ミュージアムにおいても、展示室には『天使のパスポート』が置かれており、非公開エリアには厳重な管理の元、本物の【悪魔のパスポート】が置かれていた。

 

 

【悪魔のパスポート】

 

奇天烈斎こと木手英乃進が作り出した御赦免印籠の技術を復活させ、それをひみつ道具に流用しようとした技術再生プロジェクトによって偶然にも生み出されたまさに悪魔の道具。使い過ぎると壊れてしまう不具合がなくなった本来の通り、何をしても許され、何をしても捕まる事はない恐ろしい道具。ひみつ道具ミュージアムの非公開エリアに秘匿され、管理保管されていたがパンドラによって盗まれている。

 

 

 

 

 

オリジナルひみつ道具?

 

 

『宇宙一サクサク焼ける小麦粉』

 

『宇宙一ふんわり焼ける小麦粉』のパロディ…【ザ☆ドラえもんズ おかしなお菓子なオカシナナ?】に登場する『宇宙一ふんわり焼ける小麦粉』のシリーズ商品。

 

 

〚パンドラボックス〛

 

指名手配犯パンドラの持つ特別製の道具、その全容は彼女を追いかけ続けてる警察も把握しきれておらず、取り込んだ物をその場に合わせて作り変えるなどその機能には目を見張る物が多い。

 

 

キテレツ大百科より

 

『御赦免印籠』

 

アニメ第101回「真夏の花博で大百科外伝をみつけ出せ!」に登場、大百科には未掲載で、改良の余地がある失敗作を掲載した「奇天烈大百科外伝」にのみ掲載された道具。相手に向けるとその動きを止め、何をしても許されるようになる。未完成であるため、使いすぎると壊れる。

 

 

『包丁いらず』

 

アニメ第97回「21世紀からブタゴリラ親子がやって来た」に登場、材料だけ入れておけば、包丁や鍋も一切使わず料理が出来る優れものであり、未来のキテレツこと木手栄一が作成した。

 

 

 

 





怒涛のひみつ道具量ですね。原本もオリジナルもそれなりに登場しましたが、戦闘描写もう少し格好良くしたかったなぁ。技量不足は否めない。

トゥマト警部とパンドラはまだまだ登場予定です。たぶん、因縁のあるDr.ブレンドよりも早く何度も登場すると思う。あっちは一応宿敵なので直接対決して決着つくときはこの話が終わる時だしね。引っ張るだけ引っ張ります。

今回名前もなく登場したミュージアムの館長は映画の人の前任だと思ってください。時系列おかしいかもしれないけど、そこは時空の歪みという事で。

そして少しだけですが登場したキテレツ大百科の要素です。基本的に矛盾しない程度にF組の世界は繋がってる事にしてます。

並行世界だったり、別の星だったり、時代が違ったり、色々と理由を用意しながら登場することがあるかもしれません。さぁてタグ足しとかないとなぁ……F組で纏めて良いかなぁ?だめかなぁ?とりあえずキテレツ大百科はたしとこ。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。
それと感想評価、誤字報告もありがとう。


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未来の日々に微笑みを

日常回のつもり。


〜売店〜

 

 

 殆どの店が無人化、もしくは機械化されていき、存在そのものが消えていく事が多い未来における技術発展の弊害の中で、ロボット学校には売店が残っている。

 

 授業で使うのはコンピューターだったり、壊れたりもせずインクの尽きることの無いペンだったりするのが多い中で、古臭い筆記具や一部の食べ物などが置かれている。

 

 そう言った筆記具にこだわりがあるロボットもいるのでそちらは時折買いに来る生徒はいるし、必要性があると言えるのだ。

 

 だが食べ物に関してはとても美味しいとかではなく、むしろ少し割高なくらいだ。食堂に行けば美味しい物が安く食べれるのにわざわざお金を出して行く生徒は少ない。

 

 それでも置かれてるのはそういった物に惹かれてやってくる生徒が0にならないからだ。

 

「腹減ったぁ、昼まで保たねぇから売店行ってパンでも買ってくるぜ」

 

「キッド次は移動ですよ?!間に合うんですか?」

 

「頼む王ドラおれの荷物も持ってってくれ!!」

 

「仕方ないですね。代わりになんですがシャープペンシルの芯を1つ買ってきてください。帰りに買うつもりだったんですが、ついでに済ませてくれたら助かります」

 

「任せとけ!!」

 

 ロボット学校の売店も流石に人は勤めていない。それでも完全無人ではなくロボットがおり、朝から夕方まで店を開けてくれている。

 

 その為に授業が始まる前に足りない物を買ったり、こうしてお腹を空かせた生徒が駆け込むことは珍しくない。

 

 全くとキッドの事を仕方がない物を見るような目で見送り。他の面々はそれぞれ準備をして移動を開始している。

 

「しかし王ドラにしては珍しく失敗をしましたね」

 

「…?何をですか?」

 

「キッドにシャーペンの芯のサイズ伝えてないでしょう」

 

「あっ?!」

 

 ハイドラの指摘にハッとしたが既に走り出したキッドを追い掛ける事は出来ず、連絡しても間に合いはしない。

 

「私は色々使ってますので使えない物なら買いますよ」

 

「ありがとうございますハイドラ……結局放課後寄る必要がありますね」

 

「まぁ良いんじゃねぇの?あそこならそんなに手間じゃねぇしよぉ。オレも帰りに寄ろうと思ってたし一緒に行こうぜ」

 

「貴方は運び込みの手伝いでしょう?」

 

「売店ボクも好きだよ?なんかおやつ食べたくなっちゃったな」

 

「ドラリーニョは買った物を忘れない様に気を付けてね。ぼくも部屋で飲む飲み物が切れてるんだよね」

 

「バウバウ」

 

「ドラニコフもであるか、吾輩も買いたいものがあるから皆で帰りに寄るであ~る」

 

 全員が売店に用事がある様で今から帰りにみんなで行こうと決めると、面倒に思ってた王ドラも笑顔になり、みんなで楽しみだねと話し合う。

 

 ちなみにキッドはやはり王ドラの持ってるのとは違うサイズの芯を買ってきてその芯はハイドラが買い取った。そしてみんなが行くのに自分だけ行かないのはやだと用もないのに売店へついていくのであった。

 


 

ドラえもん

→売店で買うのは飲み物くらい、おやつはどらやきと決めており、ちゃんとした所で買ってるから食べ物は滅多に買わない。どらやきにお金を使いたいから他の物もあまり買わない。お腹が空いても昼まで我慢する。

 

 

ドラリーニョ

→売店では気になった物があると結構なんでも考えずに買ってしまう。そのため部屋にいらない物がたまることもしばしば。お菓子の新商品とかが入るとよくみんなの所に持ってくる。ただ買って食べた事も忘れてしまい、覚えるまで何度も買いがちで、それが外れ商品だとみんなに必死に止められる。

 

 

王ドラ

→基本的に買うのは授業に使うものや自身の勉強に使うものばかり、たまに修行で疲れた際に飲み物だけ買ったりする事はある。それとみんなでワイワイしながら買食いするのは嫌いじゃない。そん時に買うのは肉まんが多い。

 

 

キッド

→ドラえもんズの中で1番売店を利用している。買うのは基本的に食べ物で身体を動かす授業の後はよくパンとか腹に貯まるものを買ってる。ジャンクな物を好んで買いがちで彼の机にバーガーやポテト、惣菜パンなんかが山になってる光景が見られる。

 

 

ドラメッド三世

→付き合いで行けば食べ物や飲み物を買うことはあるが自分から散在はあまりしない。情報収集をするタイプで雑誌や新聞なんかを買ったり、魔術の為に必要な道具の代用品を買うこともある。

 

 

ドラニコフ

→必要な物を淡々と買う。特に買うものに規則性はないが、誰かが買いに行く際に便乗して売店に行き、他のみんなが商品を見てる間に既に会計まで終わらしてみんながワイワイしてるのを眺めて笑ってる。

 

 

エル・マタドーラ

→売店にはロボット向けの商品も多く、大型のロボット用の物はそれなりの重量がある為に運び込みや配達の手伝いがよく募集されており、貯金の為によく請け負っている。無駄遣いは意外と少ないが、よく請け負う関係で売店のロボットと仲がよく、割引されたり訳あり品を安く買ってる。

 

 

ハイドラ

→人だった頃を思い出して懐かしいためによく売店には出向いてる。研究とかの関係でお金には困っていないので買えない物は無いが、多く買って無駄にするのは勿体ないと思ってるので買い漁ったりはしない。定期的に筆記具を買ったり、みんなと行った際に買い食いをして楽しんでいる。

 

 


〜部活動〜

 

 

「みんなは部活はやってないよね?」

 

 何気なくドラえもんが訊いたことから話が始まった。ドラえもん自身も部活には参加していないがなんとなく思いついた話題がそれだった。

 

「私は研究とかがあるからなぁ。そうったのが有意義なのは知ってるけどやる時間がないんだよ。興味があって顔を出した部活は一つありますけどね」

 

「私は学級委員なのでそちらの委員会活動がありますし、修行の時間を取ると中々……キッドやエル・マタドーラ、ドラリーニョとかはそれこそ運動部はどうなんですか?」

 

 賢い組と評されることの多いハイドラと王ドラはなんとも真面目な理由を話した。

 

「おれは射撃系の部活は覗いたんだけどレベルが低いし堅苦しくてな合わねぇと思って入らなかったんだ。乗馬の方も同じだな」

 

「オレは闘牛関係の部活は流石になかったし、アルバイトの時間がなくなるのもあって入ってないな」

 

「ボクは初めは誘われて入ってたんだけど、予定を忘れちゃって退部になっちゃった」

 

「それだけじゃないであ~る。ドラリーニョの動きについていけずに怪我人が出たのも理由の一つであ〜る」

 

 運動が得意な面々は合う部活がなかったり、部活と言う形態が合わなかったりでやっていないと言う。

 

「ドラメッドとかは意外と多彩だろ?!」

 

「意外は余計であ~る。吾輩も魔術の修行があるから時間はあまり取れないであ~る。時間うんぬんならドラニコフはどうであ~るか?」

 

「バウバウ」

 

「なるほど、部活に興味がないのな」

 

 ドラメッドはハイドラ、王ドラと同じく時間がなくやれないと言い、それなら時間に余裕のあるドラニコフはどうだと訊くと部活自体に興味がないそうだ。

 

「そういうドラえもんはどうなんだよ?」

 

「ぼくは補習が多いから時間もないし、得意なものもないからそんなに興味もないんだよね。だからみんなはどうなんだろうと思って訊いたんだよ」

 

「これだけ居て誰も部活をやってないと言う事ですね。あまり参考にならなかったんじゃないですか?」

 

 唯一部活の経験があるドラリーニョも居るが、そのドラリーニョが殆ど参加してないし、物忘れが激しいドラリーニョでは参加した数回の部活動の内容も覚えてないだろう。

 

「まぁでも良いよ。気になっただけだし、今から部活を始める気もないからさ。それにみんなが部活やってたらこうして集まってる遊べないしね」

 

 ドラえもんらしい言葉にみんながほっこりし、みんなでまた他愛もない話をして、お菓子を食べて楽しい時間を過ごしているとハイドラを呼ぶ声が聞こえた。

 

「ハイドラじゃないか、何やってんだ?」

 

「どう見ても友達と喋ってるのに話し掛けても良いの?」

 

 見た目から同じネコ型ロボットなのがよく分かる黒と白の二人組がドラえもんズが集まっている所に近寄ってきた。

 

「ハイドラの知り合いですか?」

 

「あぁ、さっき言ってた興味があって見学した野球部で会ったシロえもんとその友達のクロえもんだ」

 

「野球部には下手だから入れなかったけどね。よろしく」

 

「オレはクロえもんだ。ダメロボットだけどよろしく」

 

 これが落ちこぼれと呼ばれる7人とダメロボットと呼ばれる2人の出会いだった。

 

 


〜暇つぶし〜

 

 

「退屈だし、しりとりでもしようぜ」

 

「やるやる〜」

 

「安直ですがまぁたまにはそう言ったのも良いですね」

 

「よっしゃ、負けねぇぞ」

 

「お手柔らかに頼みますよエル・マタドーラ」

 

「バウバウ」

 

「ぼくも頑張るぞ」

 

「わがはい強いであるぞ」

 

「それじゃおれからだ。しりとりの”り”からだからリボルバー」

 

「ガンマンらしい単語ですね。伸ばし棒は一つ前ですから、”ば”ですよドラリーニョ。”は”や”ぱ”でも良いですが」

 

「”ば”かぁ、ば、ば、バタータケンチ!!」

 

「ドラリーニョもサッカー用語ですか……それなら気勢(チーシー)で、太極拳の基本姿勢です」

 

「”し”ねぇ、オレで”し”ときたらシエスタだな」

 

「”た”ですね。特にこだわりはありませんがひみつ道具開発者なので、ひみつ道具からタイタニックロボ、”ぼ”でも”ほ”でも”ぽ”でも良いですよ」

 

「バウゥ……『ホパーク』」

 

「なるほどコサックダンスの別名ですね。ドラえもんは”く”ですよ」

 

「”く”かぁ……く、く、首座り!!」

 

「保育用語であるか、子守ロボットのドラえもんらしいであ~る。となるとわがはいは”り”であるな。ふむふむ…リバース、わがはいお得意のタロットの逆位置であ〜る」

 

「ようやく回って来たな。リバースで”す”だろ。リボルバー繋がりでスイングアウトだ」

 

「”た”ならタ・ヂ・ボーラ・シェイア」

 

「”あ”ですかそれなら今度は生薬から阿膠(あきょう)で」

 

「”う”なら牛だな」

 

「返すまでが早いですね。”し”ときたら、親友テ…じゃないです違うのに……」

 

「詰まったら負けだぜ」

 

「ハイドラが間違うとは珍しいであ~る」

 

「バウバウ」

 

「やめたって事は”ん”の付く言葉なのか」

 

「いえ、”ん”は付きませんし、存在する物ですがみんなは知らなそうなのでやめたんです」

 

「そっか〜」

 

「今度は違う遊びにしますか?」

 

「ぼくはなんでも良いよ」

 

 暇さえ見つければ遊びへと向かう、ハイドラとドラえもんズの暇つぶしの時間はまだまだ続く。

 

 




前書きにも書いたが日常会の様な物。
なんか全然うまく書けてる気がしない。

とりあえず今回は全員出して、三人称視点で書いたけど次やるなら人数絞ろう。

ちょびっとだけ登場しました。ドラベースからクロえもんとシロえもんです。まだこの時は全然野球やってないでしょうから、関わる事は少ないかな。

そしてハイドラの珍しいうっかりで親友テレカの名前を出しかけました。親友テレカについては冒険にはついていかない、情報を教える出木杉ポジションになる予定なのでその布石かな。

活動報告を見ている方は知ってると思いますが年末年始、盲腸で寝て薬飲んでの生活でしたのであまり創作は全体的に進んでません。

次の話の構想と言うかネタだけは出来てますが、中身はないし一文字も書いてないのでまたしばらくお待ち下さい。

それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。


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四月馬鹿とただの馬鹿

 

『レディース&ジェントルマン!!特別クラスがお送りするスペシャル企画……エイプリルバトルの時間がやってきました!!』

 

 うおおおお、イエー、ヒューヒューとノリの良いクラスメイト達が司会の声に合わせて空気を盛り上げていく。

 

『エイプリルフールにちなんだ嘘を交えたトークで戦ってくれるのはこの4人だ!!』

 

 舞台の上には4つの座布団が置かれており、そこには誰も座っていないが、クラス内に姿が見えない事から何事だた様子を見に来た他クラスのロボットもなんとなく察しがついている。

 

『エントリーナンバー1、スタートを決めるのはこの男!!特技は早撃ち西武のガンマン、笑い話に混ぜ込んだ嘘という凶弾に観客は気付けるのか?!ドラ・ザ・キッド!!』

 

「やってやるぜ」

 

『エントリーナンバー2、二番手だからとなんのその!!ひらりと躱す身の熟し、観客の疑惑の視線も避けて力強い話を聞かせるぜ!!怪力闘牛士、エル・マタドーラ!!』

 

「座布団ってのも悪くねぇな。これはこれで眠くなりそうだ」

 

『エントリーナンバー3、その引き出しには何が隠されているのか?!口から溢れるその言葉さえ皆を引き込む魔性の響き!!魔術士ドラメッド三世!!』

 

「ズルはしないであるが、そこまで言われたら魔術師の本気を見せるであ~る」

 

『エントリーナンバー4、何でもこなすスーパーロボット!!繰り出す話も嘘も超級なのか?!最後を飾るのはこの人だ!!ハイドラ!!』

 

「まぁ、これも一興ですかね」

 

 謎のイベントに参加するドラえもん達とハイドラ、そして何故かその中に混ざっていないドラニコフ、何故この様な展開になったのかは前日に遡る。

 


〜前日〜

 

「よっしゃ明日はエイプリルフールだぜ」

 

「そっか、もう四月になるんだね」

 

 呑気に時間の流れを思いつつ、もっと暖かくなってきたら何をしようかなんて考えるドラえもん。そして、そんなのほほんとした空気に似合わないギラついた目で嘘を考えるキッド。

 

「へへ、どんな嘘をついてやるか」

 

「去年って何をしたっけ?忘れちゃったけどボクも何かしよっと」

 

 そしてキッドと同じく嘘を考えるエル・マタドーラと去年の記憶もないのに面白そうとノリで参加を表明するドラリーニョ。

 

「今年こそ騙されませんよ」

 

「言っておくであるが人の善意につけ込むような嘘は止めるであ~る」

 

「バウバウ…」

 

 頭の良い王ドラや情報収集に余念のないドラメッドもあの手この手で騙されイライラし、騒ぎに巻き込まれるドラニコフもこの時期には辟易している。

 

 イベントごとは大好きなドラえもんズであるが互いに仕掛け合う事になるエイプリルフールの前後では喧嘩沙汰になる事も少なくない。

 

「ドラえもん達も懲りないわね」

 

「まぁ、そこも含めて彼らの良いところだろう。しかし、純粋に楽しめないメンバーは不憫か……よし」

 

 そんなドラえもんズを見守って笑っていたハイドラとノラミャーコであるが、ハイドラが何かを思い付くと既に口論になりつつあったドラえもん達の所へと顔を出した。

 

「やぁ、みんな。私から面白い提案があるんだが聞くかい?」

 

「ハイドラ、面白い提案とはいったい?」

 

「まさか、適当な嘘じゃないだろうな?」

 

「エイプリルフールは明日だろう? 今から疑ってどうするんだ。私からの提案と言うのは……嘘付き大会さ」

 

「「「「「「「嘘付き大会?!」」」」」」」

 

 ルール無用で嘘をついたりするから問題に発展するのだ。ある程度の競技性を取り入れて制御すれば他の面々も楽しめるだろう。

 

「あぁ、君達にはそれぞれ何かしら話を用意してもらう。最低で三つぐらい、短めの話になるかな。そしてその中に一つだけ嘘を混ぜるんだ」

 

「嘘を当てられたら負けって事ですか?」

 

「そういう事だね。詳しく言うと評価はクラスのみんなにしてもらう。話す側の一人毎に嘘だと思う話に投票するんだけど、当てられたらマイナス一点、当てられなかったらプラス一点、話し方や用意した話の順番はそれぞれの自由、話す側の順番はクジで決める」

 

 話が本当か嘘かは後で道具で判別し、それ自体に嘘が発覚したら反則負けで失格。厳正な審査のもとで行われる噓つき決定戦。

 

「へぇ、本当に面白そうだな。俺は参加するぜ」

 

 迷う事なくキッドが参加を決めて、何を話そうかとブツブツと何かを呟き始める。

 

「話を聞くだけだと眠くなるから俺様は参加側だな」

 

「うぅん、話せる話なんてないからぼくは遠慮しとくよ。評価側?見破る側?も面白そうだしね」

 

 エル・マタドーラはある意味納得な理由で参加を決める。ドラえもんは聞き取り方次第では悲しくも取れる理由で棄権を表明した。

 

「面白そうですがやはり嘘は苦手ですし、見破る方が私には向いてそうです」

 

「ボクもやるやる〜」

 

「ドラリーニョ、話を覚えてられ無いのであるからやめとくのである。吾輩は演出も含めて魔術や占いの練習も含めて参加するであ~る」

 

「……ワウゥ、ワウワウ」

 

 ドラリーニョは保護者からストップが入り、その保護者ことドラメッドは意外と乗り気な様子、そしてドラニコフは話せないし、道具を使うのも面倒になりそうだからと棄権する。

 

「そうなると三人ですか? 四月に合わせて四人くらいと思ってたんですが…仕方ないですかね」

 

「それならハイドラが参加側に回ったらどうかな?」

 

 ハイドラがまぁ三人でも短くなるだけでやる分には問題はないかと思っていると思いがけない提案が飛んできて、少し驚きの表情を見せた。

 

「そりゃ良いな。ハイドラなら面白い話が色々ありそうだ」

 

「それって参加者からすれば不利なんですが…確かに面白そうな話には興味があります」

 

「へへ、ハイドラ相手とはいえ負けねぇぞ」

 

「それすっごく楽しそう。やろうよハイドラ」

 

「チェックなら事前に参加しない面々の誰かに道具を渡せば解決であ~る」

 

「ワウワウ」

 

 話がどんどん進んでいき、参加出来ないほど忙しいと言う時期でもない為に問題はないハイドラはドラえもん達の提案を了承し、こうして同じ舞台に座るのであった。

 


 

『なお、公平をきすために大会中に話が嘘かどうか調べる行為は全て禁止でございます。そして参加者の順番の前後で影響が出過ぎない様に投票は話が終わって直ぐですが、真偽の判定は結果発表と共に最後に行います。それでは一番からどうぞ!!』

 

 付け足す様にルールが語られると早速一番目であるキッドにバトンが渡されて、口を開いた。

 

「いきなり始まるな。っと自己紹介は既にされてるから省くが俺の一番目の話を始めるぜ」

 

「俺様はまぁ見た目からも分かるがガンマンで銃の腕前、それも早撃ちにはかなり自信がある」

 

「長期休みなんかには更に腕を磨く為に武者修行に出掛ける事もあるんだが、安いツアー旅行で未開の星に出向くのが中々ちょうど良いんだ」

 

「安全が確保されていない環境に身をおいた方が自身を高めるには持ってこいだ。だけど流石に安いツアーに頼ってばかりだと困った事態になる事もまぁあるんだ」

 

「そん中でも一番肝を冷やしたのはその着いた惑星に置き去りにされた事だ。迎えの宇宙船が来る筈の時間になっても影も形も無くて、何かの手違いかなんて初めは考えてたんだか、料金が先払いだった事を思い出して騙されたなって思い至った」

 

「そこからは未開の星でのサバイバルの日々よ。分解してエネルギーに変換できる物を探したり、原生生物と戦ったり、助かったのはそのツアー会社の奴が捕まって警察が探索に来てくれて保護してくれたからだ」

 

「厳しい自然の中で過ごした期間はなんと一ヶ月、あの日々を思い出せば大抵の事は乗り越えられるってもんだぜ」

 

 何かを思い出すかのような表情を浮かべるキッド、その雰囲気からはそれが確かな事の様に感じるが、果たして……

 

「っと時間も無いからどんどん行くぜ。二つ目の話は武者修行とは違う純粋な旅行に出かけた時の話だ。まぁこっちも格安ツアーなんだけどな」

 

「ゆっくりするなら温泉だろうと思ってツアーに申し込んだんだ。人気の温泉だと聞いてたんだが、かなり安かったからこりゃ良いと思ってな」

 

「そして現地に着いてから説明を受けたらびっくりしたんだ。格安の理由を聞かされたんだが、その旅館と言うのは秘湯と呼ばれる様な温泉がうりなんだが、結構な場所にあってな」

 

「最寄りの空港に降ろされたらその場からは自力で向かってくださいと言って宇宙船は帰っていった。整備されてない道一つない森とその奥に連なる険しい山々、その上の方に旅館があるって言うんだ」

 

「そんなのワープ系の道具を使えば良いって思うだろ。その星の中には持ち出し禁止の植物があって、密輸を防ぐ為に正式な許可が無いと使えないんだ。そう、格安なのは許可を取らなくて済むから格安だったって訳だ」

 

「せっかく来たのにここで泣き寝入りして帰るキッド様じゃねぇ。気候は悪くなくてある程度動いても問題はなかったからな。森を抜け、山を登る覚悟を決めた」

 

「森の中では原生生物に襲われないかとヒヤヒヤしたもんだが、そこでは問題もなか通り抜ける事が出来たんだ。だがまぁ山の方は問題だった」

 

「その旅館を建てるのにもワープ系の道具は使われてる。だから旅館までの道なんてものは存在しない。そんな中で自分で道を探しながらアタックする必要があった」

 

「ワープだけが禁止なら空を飛べば良いって?俺様が高い所がダメなのはお前らも知ってるだろ。能力を補助する様な物は使ったがとにかく地道に登った」

 

「良い感じに登れると思ったら岩崩れで塞がってたり、草や木に阻まれてたり、どうしても崖を登らないと行けなかったり、順調とは言えなかった」

 

「それでま俺はなんとか登りきって旅館に辿り着いた。ボロボロのヘトヘトで日は沈んでたが予定日になんとか倒れる様にな」

 

「そこで温かくて美味い食事を楽しみ、念願の温泉にゆっくり浸かってリラックス出来た。道中は大変の一言だったが旅館は最高としか言い表せない」

 

「これで終われば苦労が報われた良い話で終わりだろ。だがな旅館に行ったって事は帰りもある訳だ。下りなんて険しい山だとキツイだけで、休んだ分だけ辛く感じてな帰る頃には旅行前よりもヘトヘトになって、なんとも本末転倒な旅行だったよ」

 

 武者修行とは違う筈の旅行で疲弊しているのだから中々に笑えない話だが、一部からは馬鹿にする様な笑い声も聞こえる。そんな声を気にせずにキッドの話は続いていく……

 

「さて、三つ目もさくさく行くぞ。これはボランティアの話だ。あれはそれぞれで全然違う場所に行ったが一つや二つ苦労した事があるんじゃないか?」

 

「俺様が苦手とするものはみんなもう知ってるだろ。そう高い所だ。高所だけはキッド様でも克服は出来ねえ」

 

「そんな俺様はボランティアでは警備関係や害獣駆除とかの特技を活かせるものを選んだんだ。そしたらなんと害獣駆除の方で出向いた先がまぁまぁな高所だったんだ」

 

「その害獣っていうのが蜘蛛みたいな奴でな。ビルとビルの間に巣を作っちまう様などでかいのを退治する手伝いだったんだ」

 

「まだビル自体は壊れちゃいねぇし、綺麗で設備とかも問題なかったんだが、エレベーターが外が見えるタイプだったのが地獄だったぜ」

 

「配置とかは何処が良いかとか聞いてくれたんだが相手が上の方に陣取ってるから屋上か隣のビルへの連絡通路の二択でな。上から下を見る方が怖いのと、少しでも下が良いと連絡通路を希望して問題なく受け入れられた」

 

「絶対に下を見ないようにしつつ、駆除の開始を待って、上の人達が倒した奴が通路にぶつからないように撃って決められた場所に飛ばしたり、下から巣を壊して援護したりと始まると大変でな」

 

「それでも高所な事は忘れられなくて、足も声も震えてたけどな。我ながら情けなくて嫌になるぜ。それでも技術面でかなり褒められて良い評価を貰えたから全体的にはわるくなかったって感じだな」

 

「っとここまでで俺の話は終わりだな。さてと、『俺はここまでの話で一つしか嘘の話をしていない』」

 

 キッドがそう宣言すると『◯✕占い』の◯の方が高らかに上がり、キッドがルールに則って話をした事が確認された。

 

「えぇ、どれも嘘くせえ〜」「前二つは系統が似てるから何方かが嘘か?」「逆に話が全然違う奴じゃないのか?」「う~ん、キッドはあれでも銃の腕は確かだしな…」「プライベートからしておかしいな」「話し方はどれも自信満々だったから口調からは分かんねぇな」「どれが嘘か以前に格安とかおかしいと思えよ馬鹿か?」「ボランティアとはいえあいつが良い評価…それが嘘か」「いや、流石にあいつもそこまで惨めな嘘はつかないって」

 

 キッドのどの話が嘘が混ざっているのか、どの部分が嘘なのか、そしてハチャメチャなプライベートに対する苦言や微かな笑いが広がり、程なくして投票が終わり次の参加者の番がやってきた。

 

「ふわぁああ…もう俺の番か?……やっぱり話を聞いてるだけだと眠くなるな。起きれなくなる前に出番が回ってきて良かったぜ」

 

「さてさて、このエル・マタドーラ様が語るのは得も言われぬドラマチックな話ばかりだと宣言するぜ」

 

「まず初めは運命的な出会いを果たして出会った女性との話だ。休みの日に俺は散歩でぷらぷらと歩き回り、気付けば街の外れの方まで来てた」

 

「一応古臭い、自然を売りにした公園はあったが、他に店なんてものもなくて人の姿なんて道中で見られなかったん。ただ、公園の奥に視線を向けると困った表情で何かを探しているその人に出会った」

 

「女性が何か困っているのに声をかけない俺様じゃあない。何かお探しですかお嬢さんと薔薇を片手に問いかけた」

 

「するとお嬢さんはキョトンとしていたがクスクスと笑いながら薔薇を受け取り、声を掛けられてしまう程度には心配させる姿だったかしら?と照れくさそうな表情を浮かべた」

 

「落とし物か何かですか? お邪魔でなければお手伝い致します。ロボットの猫の手で良ければご遠慮なくと伝えた。すると、ありがとう…でも良いのよと悲しげな表情で女性は断った」

 

「そんな顔を見てそのまま帰る事は出来ない俺様は図々しいが理由を訊ねた。するとその落とし物とやらはこのご時世には珍しい紙媒体の手紙で落としたのは何日も前だと言うんだ」

 

「その時の情報を聞くと、手紙の送り主との思い出の場所である公園で見ようと思ったら思いがけない強風で手紙が飛ばされてしまったらしく、その後に天気コントローラーの不具合の速報もあって帰らざるを得なかったそうだ」

 

「それでも公園に足を運んでしまうのは諦めきれないからだろうと俺は言ってちょいと強引になるが手伝いを改めて申し出た」

 

「雨の日とかもあり、手紙自体がダメになってるかもしれないしと遠慮されたが欠片でも見つかればひみつ道具で復元も難しくないと手紙に何か特徴はないかと聞いた」

 

「折りたたまれた表紙に自分の名前が書かれ、その名前の由来である花のシールが貼られていたと教えてもらった俺は公園やその周辺を探して回った」

 

「あちこち駆け回りながら、右へ左へ、上へ下へと回ってもそれらしい物を見つける事は出来なかった。もうダメなんじゃないかと情けなくも諦めかけた時に知り合いにあった」

 

「その知り合いが言うにはここらで飛ばされた物は自然保護区の方に飛んでいくらしい、山の置かれている位置の関係で風の通り道がだいたい決まってると教えてもらった」

 

「とは言っても保護区には入れない。手がかりを見つけてもそれじゃ意味もないと肩を落としたが、少し前に自然保護区の方で大雨が降った事を思い出してその知り合いの人が蜘蛛の糸程度の可能性をくれた」

 

「山全体で雨だったから、川の流れに乗ってればうちの農業用水路の方に手紙が来てる可能性があると、そして下流側のゴミを排除する網の張られてる場所に案内してくれた」

 

「まだ十分に掃除出来てないと嘆く水路は流れ着いたゴミだらけだった。そのゴミを全部引き上げてくまなく探しても目当ての物は見つからない」

 

「やっぱりダメだったかと諦めかけたその時だ。視界の端にキラキラと光る物を見つけた。そう教えられてたシールが日の光を反射してたんだ」

 

「慌ててそれを手にして、当たりを見たが手紙は何処にも見つからない。網をすり抜けたか、溶けてなくなったか、と肩を落としたその時だ。シールの粘着面に薄っすらとだが紙が引っ付いてるのが見えた。そうシールの貼られてた手紙の一部だ」

 

「縋る思いで復元を試みると見る見る紙が再生され手紙が元の姿を取り戻したんだ。それを手にした俺は走りながら知り合いに例を叫び、公園へと戻った」

 

「手紙を見せるとお嬢さんはとてもびっくりしていたが、涙をポロリと一粒流してありがとうと両手で受け取り、震えた手で読み始めた」

 

「その手紙の内容はその日の日付と共に思い出の場所で会いたいと書かれてたんだ。そう、手紙を読み終えたすぐ後にお嬢さんの名前を呼ぶ声が響いた」

 

「幼馴染であると言う男がお嬢さんに駆け寄ると、お嬢さんも男の名前を呼んで二人は抱き合った。そのお互いの表情を見た俺はそっと足音を消して立ち去った。二人がその後にどうなったかは知らないが、感動の再会を果たしたんだきっと幸せに過ごしてるだろう」

 

 自信満々にそう言い切ったエル・マタドーラの表情は何処か暖かく、優しげなものに見えた。教室内の雰囲気も思いがけない本当にドラマチックな話に茶々も入れずに静まりかえっている。

 

「さぁて、お涙頂戴な話ばかりだとせっかくの四月馬鹿が湿っぽくなっちまうか。ここらで少し面白い話もしていかないとな」

 

「俺は見ての通り闘牛士だ。ひらりと軽い動きで牛を制して魅せるのが俺の生き甲斐みたいなもんだ」

 

「普段から身に着けてるこのマントは最早身体の一部と言っても良いくらいに馴染んでいるんだが、流石にずっと着けてると汚れも目立つ、牛をさばけても日々の汚れまでは弾けないってわけだ」

 

「となると汚れたら洗うのが道理と言える。ひみつ道具を洗っても良いのかと少し疑問もあったが布っぽいし大丈夫だろうも適当に旧型の洗濯機に突っ込んだんだが、それが大失敗だった」

 

「内部でぐるぐる回される度に水と洗剤を弾き回すもんだから普通ではあり得ないくらいに泡が立ち、洗濯機の内部に溜まっていった。そんな事も知らずにシェスタを決め込んでた俺は爆発音と部屋に溢れかえった泡で飛び起きた」

 

「ついには暴れまわる水と溜まりに溜まった泡の圧力に耐えられなかった洗濯機が壊れて部屋中が泡だらけになって、マントは汚いままで助け出されるまでの間で俺が丸洗いされちまったってわけさ」

 

 どんな物にも危険はあるからきちんと調べてから行動に移さないといけない。一種の教えとしてエル・マタドーラの学びの詰まったエピソードである。

 

「話してみるとけっこう早く終わっちまうもんだな。次で最後の話だが、あいつと被るのはしゃくだがボランティアでの話だ」

 

「流石に闘牛士関係のボランティアなんてのはなかったから俺様の特技と言えば良いかドラえもんズの中でも随一のパワーを活かしたボランティア先を選んだんだ」

 

「建築関係の場所で建材運びが主な仕事だった。現場まではワープを使った方が結果的に安上がりになるが建築作業中の移動なんかはまだまだこういった手が必要になる」

 

「便利な機械や道具も増えているが、何から何まで全自動で元が取れるのはよっぽど大規模な建物か、雇い主の金払いが良いかのどっちかだって現場の監督さんが教えてくれたよ」

 

「そういう事で力自慢の社員に交じってあっちへ運び、こっちへ運びと頑張ってるとまぁ結構褒められたんだ。パワー系のロボットは見た目がデカい事が多いが俺なら狭い現場でも働けるとスカウトの話まで出る活躍だ」

 

「流石にスカウトまでは受けないが人手が足りてなくて困ってる別の現場に言っくれないかと頼まれて次の日のボランティア先が変わったんだ」

 

「地下での作業で、一度に建材を運べないからワープだと割高になっちまうてんで俺がこれまた大活躍、専用の通路を行ったり来たりを繰り返して運び込み、まぁ単純作業はちと退屈だったけど頼られるのは悪くない経験だったぜ」

 

「最後の話は殆ど盛り上がりもないただの思い出話になっちまったな。さてと『俺もここまでの話で嘘の話は一つしかしてない』」

 

 エル・マタドーラが話を終えると流れる様に『◯✕占い』に声を掛け、問題なく◯が上がったのを見てまたクラスが騒がしくなる。

 

「エル・マタドーラのナンパは有名だし最初の話はそんな違和感ないな」「とは言っても流れが出来すぎな気もするぜ」「ひみつ道具に関する話は正直分からねぇな」「ハイドラならそういった仕様も詳しそうだけどあいつも参加者だしな」「ボランティアの話だけ短いのが怪しいな」「むしろ膨らませてないんじゃないか」

 

 それぞれドラマチックな話、失敗を含んだ面白い話、そしてボランティアでの思い出話と傾向の違う話であり、これまたみんな悩みながら投票している。

 

「ようやくワガハイの出番であるか。さてさて、魔法を用いた演出も含めてとくと味わってもらうであ〜る」

 

 そう言うとドラメッドの周囲に魔法の光が浮いたり、部屋が暗くなったりと怪し気な雰囲気が漂い始めた。

 

「さてワガハイは少し変わった方向から話をするぞよ。これまでの二人は自分の経験的な話が多かったであるがワガハイは嘘か本当か分からない皆からすればオカルトに思える話を用意したであ〜る」

 

「まず第一に魔法と呼ばれるものを始めとする非科学的な力は確かに存在しているであ~る。非科学と言うのは科学の法則に則っていないと言うだけであり、それぞれのルールに基づいた確かなものという点は科学との差はないのであ〜る」

 

「しかし、科学的なものと共通点があったり、実は科学と全く同じ事をしているだけのものもオカルトには存在しており、その代表が占いであ〜る」

 

「占いは多岐にわたる種類で溢れておるがその中には数学的や宇宙学、心理学等の分野と関わるものもあるぞよ。科学的根拠のある占いと言う意味ではそこの『◯✕占い』だって科学であり占いと言う非科学のあいの子と言える」

 

「ワガハイだって科学技術で作られたロボットでありながら魔法を使い、ひみつ道具も用いているぞよ。では科学と魔法は何故相容れないとされているのかが焦点であ〜る」

 

「第一に挙げられるのが管理出来るか出来ないかが重要だとワガハイは考えているのであ〜る。科学と言うのは研究し、共有し、高め合うのに適した法則であるが魔法はそうではない」

 

「魔法に限らず非科学分野と言うのは皆が使えるものではなく素質に左右されてしまう技術であ〜る。それ故に科学と比べて発展させるのは難しく、広まらないのも当然といえば当然。そして非科学の中でもそれぞれで扱い方も素質もバラバラともなれば科学と比べて便利さという点では見劣りするのも仕方ないこと」

 

「そして異質なものはどの時代でも嫌われるか排除されるのは自然の摂理。となれば便利さを盾に科学が優れていると非科学を敵視するものもおり、そうして溝は深まっていったというのが通説となるぞよ」

 

 ここぞとばかりに自身が扱う魔法についての歴史、考えなんかを語り切る姿は演出でいつの間にか薄暗くなってる教室とも合っており、妙に引き込まれる空気があった。

 

 それがなければ好きな事だけ饒舌になるオタクと対して変わらないが、実力が伴っている為に問題はない。また、迫力はあっても興味がなく、一部に寝ている者もいる。

 

「さて、二つ目は科学的な魔法についての話であ〜る。これはさっき話した科学に基づいた魔法とも内容が科学的な魔法とも違い、科学によって生み出されました魔法についての話であ〜る」

 

「魔法的な事象を発生させるひみつ道具ではなく、科学によって生み出された魔法が今回の対象である。ややこしい話であるが順番に話すであ〜る」

 

「魔法的な事象を発生させるひみつ道具の代表は『魔法辞典』になるぞよ。したいことと呪文の組み合わせ次第で何でも出来るであるが、これは魔法的ではあるがあくまで科学でしかないのであ〜る」

 

「これはあくまで『魔法辞典』と言う科学が発生させている事象でしかないからであ〜る。しかし前提から書き換えて魔法が使える様になった場合はまた話が変わるのであ~る」

 

「それを可能とする代表となると『もしもボックス』が分かりやすいである。例えば『もしもボックス』で魔法の世界を望んだとする」

 

「その世界で魔法を覚えた場合は科学的に作られた世界における本当の魔法を覚えた事になる。世界を作り出したのは科学であるが、事象を生み出してるのは世界なのであ〜る」

 

「これが科学が生み出した魔法であり、科学が発生させている魔法とは根本的な部分から違うのであ〜る」

 

 ややこしい話という語り手の言葉通りで成績を下から数えた方が早いグループはちんぷんかんぷんと言った様子で頭から煙を出しそうになっている。その様子を確認する事なく、語るのに夢中になっているドラメッドの話は続いていく。

 

「それでは最後に魔法と科学は別物と言う話をしたであるがそれでは魔法と科学の双方を用いて事象を起こした場合にその事象は科学的か魔法的かどちらに当たるかと言う話をするであ〜る」

 

「どちらを先に使ってどちらを後に使ったかの差、それとも使用者の意思か、色々と議論は古来よりされてきたであ~る」

 

「そして最終的に結論付けられたのは単純明快な答えであり、使用された魔法と科学の割合であ〜る」

 

「簡単に説明する為に事象を花を咲かせるに絞るであ~る。例えば魔法で杖の一振りで花を出せばそれは魔法であり、『花咲か灰』を使えば科学であ~る」

 

「そして『花園ボンベ』で種をまき、『ラジコン雨雲』で肥料入りの雨を振らせてから、促成させる魔法をかけたとする。それぞれ科学は二回、魔法は一回なのでこれは科学のなるであ〜る」

 

「だけど気を付けないといけないのは例えば『ラジコン雨雲』をいたずらに何回も使っとしても一回は一回となるであ~る。きちんと効果があると判断されない限りは使われても割合には換算しないのであ〜る。さて『ワガハイはこれまでの話で嘘の話は一つしかしてないであ~る』」

 

 最後まで魔法についてを語りきったドラメッドは何処か満足そうな表情で『◯✕占い』を起動させると当然と言った様子で◯が上がった。

 

「これで嘘を当てろって無茶だろ」「いや、分野は違うが法則があるんなら理論的におかしい部分を探せる」「一貫して同じ話題を語ったのは初めてだな」「とは言ってもオカルトには詳しくねぇし見逃しそうだ」「それにしてもどうやって部屋を暗くしてたんだ」「ひみつ道具は展開されてないしそれこそ魔法だろ」「笛で蛇を操ったりと不思議なやつだよな」

 

 話題がある意味難題であったために前の二人と比べて投票までに少し時間が掛かっていたが評価者達もそれぞれの考えの基で投票がなされた。

 

「さて、最後は私ですね。飾るほどの話が出来るかは分かりませんが語らせてもらいます。」

 

 ハイドラが口を開くと待ってましたと言わんばかりに拍手が鳴り、みんなの視線が集まる。期待の差が如実に現れてるがハイドラに臆した様子は見られない。

 

「第一の話から語っていきたい所ですが、何かと私は手掛けてる事が多くて何を話したら良いのか迷ってしまいました。そんな訳で私の普段の過ごし方をまずざっと語らせて貰います」

 

「まず第一に起きたら事前に立てていた予定を確認します。そして寝ている間に優先しないといけないお誘いが入っていないか確かめてからその日の準備を始めます」

 

「準備と言っても大抵の物はこのポケットに入ってますから何かを探して詰めたりする必要はありません。普段からよく使うものは取り出しやすい様に整理もしてますので足りてない物がないかの最終確認だけです」

 

「そして栄養補給を済ませてまず向かうのが病院です。基本的にまだ学生ですし、資格を取ってますが就職してるわけではないのであれこれ指示される事はありませんが、どうしても助けて欲しいと言われて請け負った患者さんは経過観察まで責任を持ちます」

 

「次に向かうのは研究室です。患者さんを抱えてない場合に一番に向かうのも研究室です。こちらは修理を頼まれたり、レポートの提出を命じられてるひみつ道具で提出する物を確認したり、軽度の作業を進めたりする為です」

 

「そして次はみなさんも知っての通り、ここロボット学校に向かいます。そして学校側への報告内容がある場合は校長室に届け出し、それから教室に向かいます」

 

「授業中はよほどの大事な要件がない限りは普通に授業を受けますし、昼食の時間もみなさんと過ごしてます。課後についてもある程度余裕を持ったタイムスケジュールを組んでますので遊びに着いていく事も多々あります」

 

「ですが少し日が傾いた頃には自宅に戻ります。そして課題などを終わらせると即座に研究室に向かって、終わらせる必要性の高い作業から順次進めていきます。寝る少し前の時間まで作業を終わらせると明日の予定をもう一度確認してから就寝します」

 

「基本的に学校以外は仕事が殆どと言う事ですね。それでも別に問題はないんですけどこう言うと大変そうに受け取られがちですが、趣味の面もありますし全体的に楽しい毎日ですよ」

 

 そう締めくくるハイドラの笑みは綺麗でとても整って見えるがその完璧さも一部のクラスメイトには不気味に映り、ややひかれている。

 

「さて、私の私生活なんてそこまで面白い話でもないですから本題と言いますか、次の話に移りましょう。忙しい私が特に手を掛けているひみつ道具の話です」

 

「私は独自でひみつ道具を開発する事もしていますが、基本的には改造する事の方が多いです。そちらの方が得意だからと言うのと、自分が使う事を考えてですね」

 

「もう少し軽ければ、もう少し強ければ、もう少し早く使えれば、そう言った少し手の届かない部分を補っているのが私の改造の基本です」

 

「ひみつ道具としての規格的に厳しい物や他の部分を削らないといけない物、他にもお金がかかってしまう物など商品とするには難しい一品物が私の持つ道具の中には数多くあります」

 

「そんな中でも大衆に受けた物はデザインも合わせてオリジナルにする事で売り出し、一種のブランドを作ってますが、使う人を選ぶ事には変わりません」

 

「そして中には個人的にひみつ道具を調整してほしいと頼む人も現れてきており、一部の層に向けて新しいサービスとして展開しています」

 

「ただ、細かい所まで要望を聞いて調整するのは時間も費用も掛かり過ぎてしまう為に本当に一部だけのサービスになってます」

 

「武器系の道具に例えますが、射程や攻撃回数、威力等の弄る項目を此方で決めて、どれをどうして欲しいと聞いていく方式が始まってます」

 

「細かい作業の方が好きな職人や研究費を稼ぎたい職人にちょうど良い仕事になっていて、フルオーダーメイドよりは安くておすすめですので機会があればサイトを覗いてみてください」

 

 自分の好きな事を語り尽くしたドラメッドとは違うが、話をする舞台を上手く使って宣伝をしてみせたハイドラに今度は感心と呆れが広がる。

 

「さて、最後の話にいきましょうか。最後はちょっとした冒険の話になり、長いですがお付き合い頂けると幸いです」

 

「私は危険な事に飛び込む質では無いのでドラえもんズのみなさんとの話になるので、他のみなさんよりは当てやすくてズルいかもしれませんが許してください」

 

「その冒険は三日間の連休でした。以前から何処かに遊びに行こうと約束していましたが前日まで予定は確定してなく、あーだこーだと行く場所を言い合ってましてね」

 

「誰の意見が選ばれても角が立つとある意味結論が出て世界中からランダムに決める事になり、その結果選ばれた旅行先がまさかの砂漠」

 

「ワープを使えるので時間的な問題はないですが引くに引けず全員が意地になって特に興味もないのに砂の山を見に行きました」

 

「やけになって体力が持ってかれるのも気にせずに駆け出す面々と慌てて追いかける面々、どちらが誰かは私の口からは言いませんが、止められなかった私も含めてまぁ馬鹿な状態でしたね」

 

「ピラミッドやオアシス等の観光出来る場所をスケジュールなんて無視して回っている内に砂嵐に巻き込まれました」

 

「怪我こそしてませんが飛ばされた結果で全員がバラバラに逸れました。そこからはもう大変なんてものじゃなかったです」

 

「各自で仲間を探して動き回ってるせいで合流も中々上手くいきません。中には流砂に埋まって動けない方もいたりもしました。まぁ、遭難したのが初日で探す時間があったのは不幸中の幸いと言えるのかもしれません」

 

「ただの旅行でも彼らの手にかかると一瞬で大冒険に変わります。今日の様なイベントの時期でも彼らはまず一番に騒いで賑やかしてくれますが、そこからいつも騒動に繋がるんですよ」

 

「最終的にはなんとか丸く収まっていますが、新しく何かが起こる度に今度は何だと少し呆れたりもしますが、なんやかんやで私はドラえもんズのそう言う所が好きなんですよ」

 

 話の終わりは笑顔でしめていたハイドラだが、そう言い切って笑うその表情は一番目や二番目とはまるで違う何処か優しいまなざしをしており、聞いていた者達がみな聞き入って静かであった。

 

『結果発表の時間となりました!!みなさんもうお疲れの様子なのでぱぱっと順位を伝えたいと思います!!』

 

 四人がそれぞれ話をしたのでそれなりに時間は掛かっており、投票結果の集計も含めるとかなりの物だ。それでも結果が出るとなると注目はされている。

 

『最下位からの発表となります。残念ながら一番嘘を見破られてしまったのはドラメッド三世だぁ!!それでは嘘の話と嘘の部分を簡潔に教えてください!!』

 

「ビリであるか…雰囲気では乗り切れなかったぞよ。嘘なのは三番目の話であ〜る。科学と魔法の境界線はまだ曖昧なのであ~る」

 

 ある種の学問の話である為に考える事でおかしな部分を当てられた者が多く出た結果のビリである。

 

 それでも懲りずに境界線が曖昧な中でも有力な説とされているのはどちらがより事象に対しての決定打になったかだとドラメッドは語り、落ち込んだ様子で下がっていった。

 

『続きまして、ドラメッドに続いて多く嘘を見破られ三位になってしまったのはドラ・ザ・キッド!!同じく嘘の話と部分をお願いします!!』

 

「ちくしょう、結構自信があったんだけどな。三番目にわざとらしく高い所の話をしたのがいけなかったか? 嘘の話は二番目の話だ。やらなきゃいけないボランティアならまだしも、自分で来た旅行で高い山や崖なんか登れるかってんだ」

 

 ヤケクソになりながら嘘の話を語ったキッドはその時の事を思い出してか更に悔しそうな顔を浮かべている。

 

 ドラメッドよりも順位が上だったのはどの話も非日常的なもので、嘘くさい部分があって票がバラけたからである。

 

『一位を争い、多くの人を騙す事に成功しながらも惜しくも二位となってしまったのはエル・マタドーラだぁ!!前二人にならって嘘の話と部分をどうぞ!!』

 

「二番か、順番と同じで二番手に甘んじる事になるとはな。ひみつ道具について知ってる奴がいたのか?俺の話で嘘なのは二番目の洗濯した話だな。汚れてる事を伝えたら業者や技術者に預ける様にハイドラに言われたから泡で溢れた話は丸々嘘だ」

 

 一番目の話が出来すぎていた為に嘘なんじゃないかと票が集まり、下二人と比べてかなり点を稼げたがエル・マタドーラよ予想通り、ひみつ道具の仕様を知ってる者が二番に投票した事で惜しくも二位となった。

 

『さてさて、最下位から二位が発表され、誰が一位なのかはみなさんもお分かりでしょう!!このエイプリルバトルをせいしたのは、企画者でもあるハイドラだぁ!!』

 

「勝ちましたか、嘘なのはもちろん一番目です。趣味の面もありますが流石に忙し過ぎると私でも嫌になる事はありますからね。最近はやらなくて良い事は回せる所に回して楽出来るように整えてますよ」

 

 直ぐに三番目の話はないだろうと除外されたが、一番目の話は実際にハイドラが授業を抜けて仕事にいく姿を見てきたが故にあまり投票されず、二番な票が集まり一位となった。

 

『それでは急遽行われたこのエイプリルフール企画はここで終了となります。みなさんお疲れ様でした!!』

 

 司会役の挨拶と共に帰る見学者達と運営側やその手伝いで片付けに回る者で教室はがやがやとしている。

 

「ハイドラお疲れ様、あと優勝おめでとう!!」

 

「お前、中々に嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

 

「そんな絡んで、内心三番目が嘘だったらとヒヤヒヤしてたんじゃないですか?」

 

「ハイドラに限って俺らを見放すような事はねぇよ……ねぇよな?」

 

 何柄にもなく不安ななってるんだとキッドをからかう声をあげつつもじっさいに迷惑を掛けた覚えがある面々は少しドキドキしたのを覚えてる。

 

「大変な目にはあってますが賑やかなのも事実ですから、みなさんの事は好きですよ。私はドラえもんズが大好きですからね」

 

 そう言って片付けに向かい出すハイドラに皆が安心して手伝いを申し出ながら追いかける。その手の中にある『◯✕占い』がどちらも上がろうとしているのには誰も気付かない。

 

 


登場したひみつ道具

 

『◯✕占い』

 

どんな質問にも、○か×ではっきり答えてくれる。

 

『魔法辞典』

 

中には何も書いていない。自分でこの事典に、したい事を書き、続いてどうすればそれが起こるかを書くと、その通りの事を実現させる事ができる。例えば、「ほうきで空を飛ぶにはスーイスイと唱える」と書けば、「スーイスイ」と言うと空を飛ぶ。効果をなくすには、逆に「イスイース」と唱えればよい。

 

『もしもボックス』

 

「もしも、こんな世界になったら」と電話で話すと、本当にその通りの世界になる。例えば、団地の1部屋をのび太達が住んでいる世界とすると、もしもボックスはその団地の中の空き部屋に、音声を入力した人の世界が作られるのだという。つまりこの道具で実現される架空世界は、一種のパラレルワールドであるとされている。まず、受話器に向かって自分が望む世界を話す。すると、ダイヤルセレクターが点滅してパラレルコンピューターが生まれてくる空間を探し出す。ジリリリリンとベルが鳴ったら、望んだ世界が出来上がったという合図。「元の世界に戻して」と受話器に向かって言うと元に戻る。

 

『花咲か灰』

 

この灰をまけば、どんな場所にでも花を咲かせる事ができる。

 

『花園ボンベ』

 

小さな種がガスのように飛び散って、一面お花畑にしてくれる。

 

『ラジコン雨雲』

 

肥料入りの雨を降らせる。

 

 

 



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