上位者少女が夢みるヒーローアカデミア (百合好きの雑食)
しおりを挟む

0話 トガヒミコは2人います

 

 

「私は、()()に生きるのです」

 

 

 それが、最初に浮かんだ願い事だから。

 

 私の望み、本心、目指すものは、そんなささやかな、だからこそ私という人間には難しすぎる在り方で、自分で口にしながら、あまりの無茶無謀ぶりに笑みがこぼれてしまう。

 

「? 私は普通に生きていますよ」

 

 ……ああ、嫌ですねぇ。

 もう一人の()と分かり合える気がしない。向かい合ってお茶をしているだけで、心臓にチクチクと不快感を覚えている。

 

 以前までの私なら、そして目の前の()なら、自分ではなく世界が悪いのだと、そう言うのでしょう?

 

 現実の生き辛さに耐えきれず、世界そのものを変えてしまおうと間違えた結果、血に濡れていた可能性すらある。普通なのに普通になれない、仲間外れの誰かを探していたかもしれない。

 

 でも、と。私はもう違うのだと顔をあげて目の前の()を睨む。一般的に不気味だと言われる()の楽し気な笑顔に、胸がざわめく。

 

「……あはっ♪」

 

 輸血液入りの紅茶を飲みながら()が、そんな私の表情がおかしいと余計に笑みを深くする。

 

 見た目だけなら、全く同じの、同じだった筈の私達。

 すでに人では無く”上位者”として成った私達はあの悪夢を終わらせた。その流れで、()は夢の住人達にとってのヒーローになった。……そう、だから。

 

「……。私だって、ヒーローになるのです」

「はえ?」

 

 ()の目が丸くなり、流石に驚いたのか口をぽかんとあける。

 

「ヒーロー、ですか? ヴィランじゃなくて? どうしてそこでヒーローなんですか?」

「……私の癖に、分からないんですね」

「分かる訳ないですよぉ! 分裂した時に、そっちに多めに人間性あげたんですよ? 同じだけど個体差はあるんですからね!」

 

 ぷんすこと怒る()に、視線を逸らしながら口を開いて、閉じる。

 やっぱり、()にとはいえ、正直に話すのは嫌です。

 

 夢の支配者である()。得体の知れないへその緒をつかい上位者へと成り、永遠に終わらない夜に安定をもたらした私達。現実で寝ている私の事を気まぐれに思い出して分裂し、二つに別たれたもう1人の()

 

(……夢の私が、誰よりも“ヒーロー”なのが、ずるっこなんですよ)

 

 私より“悪”なのに。なんか、ちがうじゃないですか……!

 

 実際に、善性は私の方が多めに貰っている。上位者として幼体になったばかりの私達は、そんな危うい状態で二つに分かれたのだ。その時に、私の方に善性を。()の方に悪性を。多めにわけて分かりやすくした。何かを考えての事では無く、私達は、ただ何となくそうしたかった。

 

「……頭がおかしいんです」

「自画自賛ですか?」

「違います。死んでください」

「……あっちの私は良い子ちゃんなのに、トガには口が悪すぎです」

 

 しくしくと、わざとらしい泣き真似にイラッとする。

 すでに私と()は人間では無く、上位者と呼ばれるナニカであり、恐らくだが不死である。つまりは人間社会で生きて行くのは無謀であり、それを()も理解しているからこそ、泣き顔の下で面白そうに私を見つめている。

 

「……ヴィランは、こそこそ隠れなくちゃいけないのです。私は、お日様の下がいいんです!」

「ああ、それはそうですねぇ」

 

 雑な説明で、()はあっさりと納得してくれた。

 呪われたヤーナムの夜を延々と繰り返していたからこそ、お日様の下が恋しい気持ちを理解してくれる。

 

「…………」

 

 幼い日、本来なら何も無かった筈のあの日に、私達の運命は変わってしまった。

 

 あの日、校舎裏に呼び出されて、知らない子にコップ一杯の血を貰った。

 寝る前に変身してと、必死な様子で懇願されたから、血のお礼のつもりで大きく頷いた。だから……寝る前に変身したら、病院着を着た青白い顔の女性に変身して(誰だろう?)と思いながら、口の中に広がる味にうっとりして、幸せな心地で眠りについた。……それが、終わらない夢の始まりになるなんて想像もしないまま、当たり前に日常は崩壊した。

 

 

 獣狩りの夜は……―――良い意味でも悪い意味でも、私に最高の悦楽を与えてくれた。

 

 

 眠る度に続いていく終わらない夜を、心底から喜び楽しんでいた無邪気で幼かった己に、苦虫を噛み潰す心地で紅茶を飲み下す。

 多少の善性と脳に宿る瞳が……自分がどれだけ普通ではなかったかを、客観的に見せてくる。

 

「? 人形ちゃんの紅茶、お口にあいませんか」

「……美味しいですよ」

「なら、もっと美味しそうな顔して飲んで、にっこり笑いましょうよ~」

「……私は、笑いたくないんです」

 

 不気味な顔になるだけだと、余計に顔を顰めてしまう。

 それに、人形ちゃん、と呼ばれる狩人の夢にいる、精巧な人形として形作られた彼女の事を思い出して、余計に顔がひきつっていく。

 昔は、色々な意味でお世話になった彼女が……今はとても苦手だ。

 

「……そっちの()は、相変わらず人形ちゃんと仲良しさんですね」

「えへへ~♪」

「……気色が悪いです、死んでください」

「あ、もしかして嫉妬ですか? ヤキモチなんて可愛いですね~」

「……」

「無言で慈悲の刃を抜くのはダメじゃないです?」

 

 その口を裂いてしまおうと愛用の得物を持って立ち上がるも、空間が割れてそこからにゅるっと触手がでてきて押さえ込まれ、舌打ちが零れる。

 ……この夢では、目の前の()が王なのだ。知っているけど忌々しい。

 そして、あの人形ちゃんは……見事にこの世界で“女王”の立場を手にした訳で、色々な意味で受け入れられない。

 

「……もう、起きます」

「ええ!? 早すぎますよぉ! トガともっとお話ししましょうよ! 私ったら全然寝てくれないじゃないですかー!」

「会いたくないんです」

 

 立ち上がり、目覚めの扉に歩いていく私を、()が止めようと縋りついてくる。

 

「せめて一緒に町を歩きましょうよ! あれから一度も見てないでしょう? 朝も昼も夜もあって、前と違って賑やかですし、最近は新しい人もいっぱい入ってきて―――」

「っ、私達は」

 

 思わず振り返る。嬉しそうな笑顔に、奥歯を噛みしめる。

 

「……彼らを、何度も何度も、数えきれないぐらい虐殺してきました。……理由も無く、面白半分に、夜を繰り返しました!」

「わあっ、懐かしいねぇ、もうできないのが、残念だねぇ」

「……そういう、とこですよ」

 

 強めにデコピンして、以前には感じなかったもやもやに顔をしかめながら、逃げる様に背中をむける。

 ドアノブに手をかけると「……あはっ♪」と、楽し気な声。

 

 

「だから、トガは、そっちの私が大好きなんです♪」

 

 

 ……。

 勝手に言っていれば良いと、私は目を細めて、止めていた足を動かす。

 

 闇しかないソコへと一歩を踏み出せば――――――現実の私が目を覚ます。

 

 ギチリ、と。

 冷えた空気を感じながら、五感が夢から現実へと変わる感覚に目を細める。

 

 硬い椅子の上で、ぼんやりと視線を泳がせながら、スマホを手に足を組み直す。時計を見れば、時刻は早朝の04:44。

 

「…………はぁ」

 

 本日、雄英高校ヒーロー科1年生1日目という、はじまりの朝がきた。

 

 

 





 こういうのが読みたいと思ったので書きました。

 ダウナーで眠そうだけどカァイイものには弱い。パッと見はクール系の"善"トガちゃんが、普通のヒーローを目指してほどよく頑張っていくお話。
 

※ 彼女はヤーナムの夜を誰よりも多く繰り返した。朝になり目覚めても、夜になり眠りにつけば昨夜の夢から続きがはじまる。
 はじまりの狩人に首を差し出そうとも悪夢は終わらず、ただ最初に巻き戻る。
 しかし、少女はそれで良かった。たまにはキラキラしたカァイイ夢を見たくなるけれど、ここなら誰よりも『普通』だと、たくさんの血をあびて笑った。獣を殺して殺された。

 彼女は本能で、この悪夢の真相を知ることを拒み、理解もしなかった。

 だからこそ過去に訪れて失敗した狩人達と違い、"個性"による悪夢の歪みもなく、その代償を払う必要も無く、狂いすらせず正常に、上位者と成っても選択を間違えなかった。

 故に彼女は、この悪夢に真の平穏を、朝日を、もたらしたのだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1話 個性把握テストです

 

 

 こんな事を言ったら、色々な人に怒られる気はしますけど。

 

 私は、雄英に通うつもりは一切無かったのです。

 

(ドア……大きすぎませんか?)

 

 ぼーっと教室のドアを見上げて、欠伸を堪えて目元を擦る。

 気を抜くと意識を飛ばしそうになりながら1-Aの教室に辿りつき、のろのろとやる気なく教室のドアを開けて中へと入っていく。

 

 ドキドキもわくわくも、何もない。

 

 むしろ鬱屈した気持ちを抱きながら、誰もいない薄暗い教室に一番に乗り込み、支給された制服を適度に着崩しながら自分の席を探して視線を泳がす。

 

(……だるいです)

 

 っていうか、もう学校に来たくないです。

 

 きゅっと唇を噛んで、どんよりと落ち込みながら自分のだろう、壁際一番後ろの席を見つける。

 一つだけ後ろに飛び出ている孤独な席が、まるで今の自分みたいだとやるせなくなる。そして、己の体質を恨めしく思う。

 

 

(私、本当なら2年生なんですけど……?)

 

 

 まさかの留年ですよ……

 というか、去年はこの体質のせいもあって、たったの一日も出席できなかった。

 

 登校中に、意識を刈り取られる様に眠ってしまったのだ。

 

 原因の一つが、18禁ヒーローと呼ばれるミッドナイトの存在だった。

 個性事故というか、私と彼女の相性が抜群に悪かったのだ。ギリギリの時間に教室に入ろうとして漂う香りに気づいた途端、ばったりと眠ってしまった。

 

 そこで、まあ予想外の時間に狩人の夢に来訪してしまい驚いた()が、まさかの隠し事というか特大の秘密を五年越しで大暴露してくれやがって、その件で大喧嘩になり、気づいたら現実時間で十ヵ月も経過していた。

 流石に、見知らぬ病院で目覚めて両親に泣かれてと展開についていけずに唖然としていたら、雄英から留年のお知らせが届いた。……いっそ、退学にして欲しかったです。

 

(……気が重いのです)

 

 大体、雄英というのがいけない。目立ってしょうがないじゃないですか。

 学校側とお母さん達からのさりげなくないヒーロー科への怒涛のおすすめを断りきれず、迷いに迷いながら(当時はまだヒーローになるつもりはなくて)どうせ筆記で落ちるからと、倍率300倍というバカみたいな雄英に記念受験して…………少し、自分があの悪夢に浸かりきっていたという現実を突きつけられた。

 

 一般の、当たり前の感覚を忘れていた私の目の前に広がる、哀れな残骸たちの柔さと脆さに引いた。

 

 考えてみれば、私は夢の中で人形ちゃんに潜在能力? の様なものを限界まで引き上げて貰っていたのだ。

 

 脳の中の瞳に関してもそうだし、体力、持久力、筋力、技量……多分、個性使用に関係ありそうな血質、神秘も、終わらない夜を繰り返す内に限界まであげていた。それはもう考え無しに、現実に影響があると薄々勘付きながら、その意味を気にもせず、能天気に渡我被身子はやらかしたのだ。そして今の私は人間の皮を被った上位者である。

 

(……。だから、ヒーロー科にって、推されていたんでしょうけど……雄英や士傑でって、勧められていたのでしょうけど)

 

 頭が痛くて、思い返すだけでうんざりしてくる。

 12歳の頃、私達はあの悪夢を終わらせて、人ではなくなった。

 

 現実の私と夢の()に分かたれた後、私は改めて自分が大嫌いになった。

 

 ……あまりに救い様の無い、血に酔った獣でしかない己の過去の言動の全てに、頭を抱えて、ひたすらに後悔する毎日を送る羽目になった。

 

『トガはトガなのに、不思議だねぇ』

 

 そう言ってにんまりと笑う、夢の()が、更に大嫌いになった。

 

 あの悪夢が繰り返されるものだと知る前から、悪夢に囚われている住人たちを殺して回った異常者である渡我被身子に近い()は、苦悩する私を興味深そうに見つめていた。

 

 少しでも、普通でありたくて、両親に改めて普通になりたいと、普通について尋ねた。

 

 私の異常に疲弊していた両親は大喜びで、普通を目指して一緒に頑張った。それでも普通という感覚が遠い私は、せめて擬態をしようと両親に協力して貰い努力した。普通の家族の様にお出かけしたり、旅行をしたり、笑うのだけは控えて、がむしゃらに普通を目指した。

 

 だから、お行儀良くしていたのに、まさか学校側からヒーロー科を勧められて、両親も乗り気になり、そして本当に雄英に受かるなんて思ってもいなかった。

 

(……最悪です)

 

 留年のせいで、異例のA組21人。……私、これじゃあただの異物じゃないですか。

 

 もうやっていられなくて、自分の席にのろのろと近づいて、感慨もなく座り、腕を枕にふて寝する姿勢になる。

 

(……ねむい)

 

 心地良いトロトロとした眠気に身をまかせたくて、でも、眠るのは嫌いだとイライラする。

 

 深く眠れば、あの夢で()と顔を合わせる事になるから、浅い眠りを繰り返している。本当は授業中に寝るのが一番良いのだけど(夢を見る間もなく目が覚める)この学校でそういうのは厳しそうだと、小さく欠伸。

 

 ……ダメだ。意識を保てない。……今なら、登校してきたヒーローの卵の誰かが起こしてくれるだろうと信じて、快感と不快感を同時に抱きながら目を閉じる。

 

 眠りは、数秒かからずやってきて、意識はストンと落ちた。

 

 

 

 

 

 ――――がっこう、がんばってね~。

 

 

 

 

 

 はあ?

 

 夢の方から能天気な声がかけられた気がして、意識が覚醒する。

 

 目を閉じたまま気配を探れば、教室内はすでにざわざわと賑わい、人が集まっている。

 ……少しは睡眠時間がとれたようだと、全身に漂う二度寝の誘惑と戦う。

 

(眠い……けど、寝たくない、です。……でも、眠い。……私、まだ赤ちゃんなんですよぉ)

 

 泣きたい気持ちでバブバブしたくなる。

 上位者として生まれたてなのが現実にも影響している。寝ようと思えば前の様に一年近く眠ってしまえるからこそ、我慢しなくちゃいけないのに、我慢している自分がおかしいとぐずりたくなる。

 

 ……これだから、寝起きは嫌いなのだと、ちゃんと起きなくてはと瞼に力をいれる。

 

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよてめーどこ中だよ端役が!」

 

 

 え、うるさ……

 

 むしろ、この騒ぎに今気づいた自分にショックを受ける。……寝ていると本当にダメなんだなぁと、明確な弱点に気づきながら、己の体質に改めての危機感を抱きつつ、しかしまだ寝ていたいと心の赤ちゃんが抵抗している。しかし、繰り返すがこの学校にはどこかしこにミッドナイトの残り香があって、眠気を余計に誘ってくる。

 

(……っ、寝たら、下手したら()と顔を合わせることになる。……あ、嫌悪感で目が冴えてきました)

 

 たまには役に立つと、ようやく顔をあげようと「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」……したら、先生が来たっぽいですかね? ……あれ、ここで顔をあげたら、寝たふりしてたって思われます?

 

(それは、ヤですね……)

 

 流石に初日からそんな恥ずかしい事してる子って見られるのはヤです。私の方がお姉ちゃんですし「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間が有限、君たちは合理性に欠くね」うーん「担任の相澤消太だ。よろしくね」……いつ起きましょう?「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」いえ、もうこのまま寝てしまった方がいいのでは?

 

「それと……おい、誰かそいつを叩き起こせ」

 

 あ、起こされた。良かったー!

 

 寝たふりもばれなかった様だと、ホッとしつつ、誰かに肩をゆさぶられる心地良さにうとうとする。

 誰かが「……熟睡じゃん」「……えぇ」と呟いているのが聞こえて、寝たふりをしている変な子にはならなくてすんだと、目を閉じたまま引きずられる様に立ち上がり、数人の誰かさん達に甲斐甲斐しく手を引かれたり、背中を押されたりしながら更衣室に辿りついた。

 

(ねむい……)

 

 そして、着替える際にもちょっとぐずついて、年下の子たちに更に着替えを手伝って貰った。

 ……いえ、大丈夫です私は変な子じゃない筈です。眠かったら誰でもこうなる筈だと自分に言い聞かせて、欠伸をしながらグラウンドにでる。

 

 

「個性把握……テストォ!?」

 

 

 そこで響く驚愕の声を聞きながら、先生だという男性の説明を話半分に聞く。

 ふらつく身体を、カァイイ女の子に支えられながら、目元を擦ってなんとか意識を保とうとする。

 

 いえ、寝ぼけながらでも、ちゃんと状況は把握していますよ?

 

 こういう時、脳の中の瞳は便利だと思うんですけど、こうなっている元凶な気もしてきて複雑になる。

 爆豪君という子が派手に”個性”を使い、ソフトボールを投げるのをジッと見つめていると、脳に彼の名前と個性が浮かび上がってくる。

 

 ……『爆破』かぁ、なるほどですねぇ。

 

 見たところ手の平から爆破している感じなので、手首から切り落とせばいいですね。

 あと、傷口は焼いちゃえば止血もできて死にはしないでしょう。……あ、いや。ヒーローが切り落としちゃダメなんでしたっけ? ふあぁっと欠伸しながら首を傾げていると、先生にギロリと睨まれてしまった。思わずジッと見つめ返す。……へぇ。『抹消』なんですね。

 

「…………」

 

 私の視線に何かを感じ取ったのか、先生はスッと視線を逸らして、盛り上がるクラスメイト達に目を細めて口を開く。

 

 

「……面白そう……か。ヒーローになる為の三年間。そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」

 

 

 ピリッと空気が引き締まるのを感じながら、ふあ、っと漏れた欠伸を何とか手の平でおさえる。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

「「「「はあああ!?」」」」

「生徒の如何は先生の“自由”。ようこそこれが、雄英高校ヒーロー科だ」

 

 わー……入学初日からのソレに、流石に驚いて少しだけ目を見開く。続く彼らのやり取りを聞きながら、なるほどーと、目を擦る。

 

 そして思う。私……この学校には絶望的に向いてないですね、と。

 ヒーローにはなりたいけど、私の望む理想と、現実が求めてくるヒーローは違うのだ。

 

(……とりあえず、前向きに普通な感じに、最下位を狙いましょう)

 

 だって、私は普通のヒーローになりたい。

 

 普通になれない誰かを見つけて、普通にしてあげられる。そんなヒーローになりたい。

 

 だから。

 

 

「……“誰か”を蹴落とすのが前提のテストなんて、やる気がでる訳ないんですよねぇ……」

 

 

 ああ、うっかり声に出してしまった。

 

 ……けれど、どうせ誰にも届いていないだろうと、自分の番になるまで、ちょっとだけだと自分に言い聞かせて、静かに目を閉じた。

 

 

 

 




『ヤーナムの悪夢』

 それは、夢関連の"個性"持ちだけが引き込まれるという『都市伝説』の一つ。

 その夢を見てしまった者は、数日の内に精神を病み、一生眠り続けるか廃人になってしまうとまことしやかに囁かれている。
 そして、夢見る誰かが死んだなら、新しい宿主を探して地球の裏側に逃げようと寄生する。距離は関係なく、血に執着するらしい。

 この広い世界で、たった一人だけが見られる特別な夢。

 その噂がただの真実である事を知る者は限られている。

 現在の『夢』の所有者は渡我被身子。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 転校したいのです

 

 

 7歳の頃から、私は獣を狩っている。

 

 最初の夜、見知らぬ町中で目を覚ました私は混乱した。

 夜だし、暗いし、血の臭いはともかく鼻につく獣臭に顔をしかめて、怯えながら歩きだした。

 

『なにぃ、これ……?』

 

 暫く彷徨い、裸足の足に石畳は冷たくて、猫ちゃんのパジャマをぎゅっと握りしめる。謎の物音にいちいちビクつきながら進んでいると――――衝撃。死角から飛びかかってきた屍犬に襲われる。

 

『ふあ!? ァ、ぎ……ぇ、なん、れ……? あッ、ヤ、です…ぅあ……いたい、いた、ぃ、です……っ、ぅア!!??』

 

 ゴキリ!! 最後あたりに、粘度の混じったそんな音が自分の喉から脳に響いて、あっさりと息絶えた。

 

 そうして狩人の夢に辿りつき、呆然と悪夢で目覚めながらも、すぐに鮮烈な痛みと死の恐怖を思い出してわんわんと泣き叫ぶ。

 

 

 

 

 

「………ふあ」

 

 そんな、最初の夜を思い出しながら、走っているクラスメイト達を見つめる。

 

 あの当時は10mもまともに走れなかったと、50m走をしている彼らを微笑ましく見つめる。

 だから、あんな犬に殺されるのだと、過去の己に(……ざまあみろです)音も無く呟いて、胸がすく思いで目を細める。

 

(……良い天気です)

 

 ふあぁ、と。青空に目を細めて、欠伸交じりに頑張るクラスメイト達を応援する。

 

 幸い、私の順番は最後なので、平均を見てそれ以下の記録を不自然にならないレベルで出せば良い。

 それにしても『エンジン』の子、速いですねぇ。『蛙』の子もカァイイなぁ。本名も見えるのだけど、読み方があっている気がしないので、自己紹介するまで“個性”でいいですよね。

 

「……?」

 

 そんな時、私を支える手が小さく震えているのに気づいて、くるりと振り返る。

 

「あ」

 

 そしたら、カァイイ女の子が、ハッとした様子で『しまった』って顔をして、表情を強張らせながらも明るい声で「大変な事になっちゃったね! お互い頑張ろうね!」と、大げさに身体を動かしてぐいぐい私の背を押してくる。

 

「……。いえ、無理しないでください。不安だーって、顔にかいてありますよ」

「え?」

 

 ピタリと固まる女の子に、頬が緩みそうになるのを堪えて、手を握ってあげる。

 

「私、トガです。渡我被身子」

「……わ、私は、葉隠透、です」

「そっか。よろしくね葉隠ちゃん」

 

 何故か、握手した手を驚いた顔で見つめる葉隠ちゃんに「大丈夫ですよ」と、こっそり彼女の耳元で囁く。

 

「私が最下位になるから。葉隠ちゃんは心配しないでください」

「……」

 

 ね? と笑って、これ以上は支えて貰うのも悪いなぁと、ふらつきながら前に進む。

 

「……どうして?」

 

 ポツリと呟く彼女の声を聞き流して、軽い伸びをする。

 

 それにしても『透明化』ですか。手にした武器を透明にできたら、たしかに怖いですねぇ。まあ、私には“見える”からいいですけど。

 

「……位置につけ」

「はぁい」

 

 歩いていると丁度よく順番になったので、そのままスタート。……これ『加速』つかったら、それなりに速そうですね……しませんけど。

 

「ほ、っと」

 

 ゴール。可もなく不可もないタイムを出す私を先生が睨んできますが、ぷいっと顔を逸らす。

 そのまま、次のテストの順番を待ちますが、ふと今更な疑問が浮かんでくる。

 

(そういえば、私と()って繋がってますよね?)

 

 上位者になってすぐに「管理めんどいです」って、夢で手に入れた私物を全部食べたのだ。あまりの雑さに唖然とした記憶がある。

 

「…………」

 

 嫌な予感がして、更に記憶を探っていく。

 

 確か、喰い合わせがどうとか言い訳して効果が下がったのもありますけど、本当に全部食べてしまったのなら、今の私って『加速』も無制限に使えて、手も触手でにょろにょろできて、レーザーも出せたり衝撃波で敵を吹き飛ばせたり、なんなら聖歌の鐘効果で範囲回復もできるんです?

 

 …………こわっ。

 

 ゾッとした。

 その可能性には気づかなかった。入試の時も“聖職者の獣”を人間サイズにして振るっていただけなので、そんな可能性は考えてもいなかった。

 

(流石に、これは要検討しなくてはダメなやつです)

 

 自分の手が意図せずにゅるにゅるになるとか、可愛くなさすぎて背筋が凍りそうになる。

 今だけは眠気も遠ざかり、腕を擦りながら皆の姿を見つめれば、その頑張っている姿に(かぁいいなぁ)と、心が落ち着いてくる。

 

 いいなぁ、子犬の様なクラスメイト達。……抱きしめたいなぁ。

 

 上位者になった影響か、年上はともかく年下に対して甘くなりがちになっている。

 ついつい保護欲や加護欲を抱きながら、自然と笑いそうになって慌ててこらえる。……悲しいけど、私の笑顔はどうあがいてもアレなんです。我慢ですよ我慢。

 

「次、はやくしろ」

「はぁい!」

 

 と、次は握力のテストですね。

 ふふふ、これは簡単ですね。普段から制御しているので朝飯前です。――はい、確認するまでも無く最下位ですね! ……ええ、幼女レベルですよこれは。……手加減しすぎました。流石に先生の視線が痛いです。

 

「……」

 

 ダメです。これ下手に言い訳したら怒られるやつです。視線から逃げる様にこそこそする。

 

 流石に、次は頑張るべきかと思い始めますが……最下位を目指すならこれで間違っていないので私は手抜きをやめません。

 私は! 除籍を言い訳に地元の高校に転校して(制服がカァイくて一目惚れしたのです!)そこで普通のヒーローを目指すのです! 俄然やる気が下がっていく。

 

 立ち幅跳びも、ぴょーんっと軽く飛んでおしまい。

 もし私が“個性"をつかうなら適当な獣に『変身』して飛び越えちゃいますかね。体操服が破けるのでしませんけど。

 

 反復横跳び。これは、調整がちょっと難しいですね。……うっかり手が出て仮想敵を切りたくなります。狩人の癖がでてきちゃいます。……なんだか懐かしくなってきましたし、たまには地下に潜って狩りをするのも良いかもしれません。

 

 まあ、それはそうとして……あの子、私を見る目が熱いですね。

 

 最下位候補の男の子。私が余裕に見えるせいで、絶対に何か隠し玉を持っていると、勝手に追い込まれている。“個性”は……?『わん・ふぉー・おーる』……名前で個性の予測がつきませんね。

 

(……うーん。葉隠ちゃんの時みたいに、大丈夫だよって言ってあげたいけど)

 

 先生が油断なく私を睨んでいるので、断念するしかなさそうです。

 そして、ボール投げがはじまり、あの子の番になる。

 

「緑谷くんはこのままだとマズいぞ……?」

「ったりめーだ。無個性のザコだぞ!」

「無個性!? 彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

「は?」

 

 外野の声を聞きながら、私も彼を見守る。

 そして、彼が“個性”をつかうのを目視して「!」それが、フッと掻き消えた事に驚く。

 

「な……今確かに使おうって……」

「“個性”を消した」

 

 ――――わぁ。

 

「つくづく、あの入試は……合理性に欠くよ。お前のようなやつも入学出来てしまう」

 

 思わず、パチパチと手を叩く。

 すごい! すごく素敵じゃないですか! 予想以上に『抹消』って素晴らしいです! 先生の血が欲しいです一滴でいいから貰えませんか!?

 

(ああ! でもでも、先生は私の“個性”と条件を知っているから、頼んでも断られそうですね? 襲ってでもストックしておきたい“個性”ですどうしましょう!?)

 

 ワクワクして、手を合わせる。

 

 個性そのものを『抹消』できるなら、普通になれない誰かと話し合いをする時に、凄く役に立つじゃないですか!

 やっぱり一滴じゃ無くてコップ一杯は欲しいと襲撃方法を考えていると、緑谷くんと呼ばれていた子が先生に捕まって何やら説教されていた。……わあ、先生厳しい。

 

 

「“個性”は戻した……ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」

 

 

 ……大丈夫でしょうか?

 手を抜いて良いんだよと教えてあげたいのに、先生が私に厳しい目を向けすぎている。悩んでいると私の耳にブツブツブツブツと絶望顔で追い詰められた少年の声が届いてくる。その必死すぎる顔と考察に、思考が止まる。

 

(そんなに、追い詰められているんですか……?)

 

 その気持ちが分からなくて、呆然としてしまう。

 

(たかが、除籍になるかもしれないって、それだけで?)

 

 少しだけ、この学校を見る目が変わっていく。

 

(そんなにも、彼にとってここは魅力的な場所なんですか?)

 

 そして、聞こえてくる台詞に、彼にはナニカがありそうだと予測しながら一挙一動を観察して。―――わぁ、と。その剛球に喉奥で笑ってしまう。

 

(面白い子ですね。緑谷くん)

 

 指、バキバキだぁ。

 私なら、輸血液とか誰かの血でも飲めばすぐ治りますけど、普通の子じゃダメなのに。すごいね。

 

 

「先生……! まだ……動けます」

 

 

 絞り出す様な声に、痛いんだろうなぁと口元がによによする。

 ……って、いけない。私は良い子のトガなのです。……よし! 頑張った緑谷くんには聖歌の鐘が生身でつかえるかの実験を「どーいうことだこらワケを言えデクてめぇ!!」あら、『爆破』の子ですね。

 ボボボって“個性”ではしゃいでて元気ですねぇ。先生に鮮やかに捕まってしまいましたが……うーん。視線がいちいち私を見てるんですよねぇ。……先生の目が油断ならないので、今は下手な事はしないでおきましょう。ごめんねぇ緑谷くん。

 

(……でも)

 

 気づけば、緩んでいる頬に触れながら、口元を覆う。

 

(なんだか、予想外に楽しめそうですね。このクラス)

 

 笑っている唇を隠して、少しだけ惜しむ気持ちがわいてくる。けれど、除籍の誘惑には逆らえない。

 

 それに、だ。今の私は個性テストよりもどうやって先生の血をコップ一杯ほど、合法的に手に入れるか考えるのに忙しい。

 個性テストに対しての興味が元から無かった事もあり、残りは最初よりも適当にこなしていく。そして、途中から平均すら目指さなくなった私を、クラスメイト達が心配そうな瞳で見つめてくる。

 

(やっぱり、こんな最難関なヒーロー科に来る物好き、いいえ、ヒーロー志望の子達って、良い子が多いんですね)

 

 なんだか、勝手に自分と比較して卑屈になってしまいそう。

 でも、これがヒーローって奴なんだろうかと考えて(……そういえば、ヒーローの『普通』って、あんまり知りませんね)なんて、今更な事を考える。

 

 普通のヒーローになりたいけど、考えてみたらヒーローという職業が当たり前すぎて、ヒーローの平均というものが良く分かっていないと気づく。

 

「……おい、渡我。少しはやる気をだせ」

「ふあぁ……どうせ最下位だし、別にいいです」

 

 欠伸をしながら答えると、クラスメイト達がギョッとするが、先生はため息をついている。

 

 気にせず最後のテストも終わらせると、クラスメイト中の視線が私に注がれる。まあ、最下位は確実に私ですからね。

 そんな重めの空気を気にもせず、先生が「んじゃパパっと結果発表」と、軽い調子で口を開く「口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」とかいって文明の利器を利用する。

 

 

「ちなみに、除籍はウソな」

 

 

 はい? ……はい????

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

「「「「はー!!!!??」」」」

「あんなのウソに決まってるじゃない……ちょっと考えればわかりますわ……」

 

 う、ウソ、ウソって、それがヒーローの先生がやる事なんです!? 流石に酷くないですか!?

 

「……まあ、渡我には逆効果だったみたいだがな」

「はぁい! やる気激減でしたー!」

 

 手をあげて怒りを滲ませて宣言すれば、先生にギロリと睨まれたので渋々手を降ろす。

 

「……今回は大目にみてやるが、次は真面目にやれ」

「……ヤです」

「おい」

「知らないです! どうせ私が一番強いんだし、意味ないじゃないですか!」

 

 すっかり拗ねた気分で、せっかく合法的な除籍のチャンスだったのにと頬を膨らませると、先生の顔がますます呆れてしまう。

 

 あーあ。……流石にお母さんもお父さんも、何も無いのに転校なんて許してくれないだろう。でも、普通を目指す私に雄英はやっぱりビッグすぎるんですよねえ。

 

「……緑谷、リカバリーガールのとこ行って治してもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ」

 

 どうしたもんでしょうと思っていると「……?」強めの怒気が向けられているのに気づいて、気配を探る。……『爆破』の子ですね。不機嫌そうですけど、何かあったんでしょうか?

 

「おい。欠伸女がでけぇ口叩くじゃねぇか、ああ!?」

「……ふぁ?」

 

 振り返ると、クラスメイトの男子数人が「おい!」「やめろって」みたいに彼を止めようとしている。緑谷くんも慌てて間に入ろうとしている。

 

「お前が一番強いだと!? ふざけてんじゃねぇぞクソザコがぁ!!」

 

 んぅ? 一番? ……ああ、そういえばさっき言いましたね。ポンっと手を叩いて、怒る彼に近づいて頷く。

 

「はい。私が一番強いです」

「あ゛?」

 

 ビキキッと、血管が浮き出てますね。短気過ぎませんか? 周りの人達も『うわあ』って顔しているし、今のって私が悪いんです?

 私としては、彼は吠え癖のあるワンちゃんにしか見えず、カァイイなぁって優しくしてあげたいんですけど、こうも歯をむき出しにされると……手がでてしまいそうです。まあ、彼から暴力を行使する気配はないので、良いんですけどね。

 

 んー。眠いです。

 

「それじゃあ、そういうことで~」

「待てやこらぁ!!」

 

 彼が押さえ込まれているのを横目に、更衣室に向かう。

 

 忘れかけていたけど、今日は買い物に行く予定があるのです。

 雄英に通うにあたって、当たり前に一人暮らしを強いられているので、ご近所のスーパーで夕飯を買わなくてはいけない。

 

「……はぁ」

 

 本当に、親の存在はありがたい。

 

 洗濯機の使い方を二回連続で失敗した私は、今日こそは失敗できないと重い溜息を吐いた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 これが普通の気持ちなんですね

 

 

 難しい事は分かんないですけど、アレです。

 

 睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠っていうのがあって、私があの夢に行くには深いノンレム睡眠中じゃないとダメみたいなんです。

 そして夢を見て繋がったら、後は目覚めるまで、深かろうと浅かろうと夢に囚われて、現実の自分が『朝日』を浴びるまで目覚められない。

 

 理屈はさっぱりですが、つまりは熟睡しなければ夢と繋がらないのです。

 

 

 

 

 

(……でも、人間の三大欲求には『睡眠』があるんですよねー) 

 

 眠気がピークになってしまい、欠伸をしながらうんざりする。

 全身が酷く気だるくて、気づけばロッカーに頭を擦りつけている。久しぶりに現実で身体を動かしたからか、もしくは学校中でフッと感じるミッドナイトの残り香のせいか。とにかく眠くてしょうがない。こんなに眠いのはいつぶりでしょう……?

 

(……昨夜は登校初日だから、久しぶりにちゃんと眠ったんですよね)

 

 つまり、暫く()に会いたくない。できれば半月は顔も見たくない。

 眉間に皺をよせて絶対に熟睡したくないと、半ば意地で着替えようとしたところ「トガちゃん!」声をかけられる。

 

「……ふぁ?」

「あはは、眠そうな声! お疲れ様、今日は大変だったね!」

 

 葉隠ちゃんだぁ。

 パッと華やくカァイイ笑顔に見惚れて、自然と頬が緩みそうになる。

 

「はい。葉隠ちゃんもお疲れ様です」

「うん!」

 

 何やら嬉しそうに笑い、隣に並んで着替えだす。

 そんな彼女に色々とお世話された朝の事を思い出し、気まずさを覚えながら重たい瞼を閉じる。……少しだけ、眠気を振り払おうと息を吸って「あ、そうだよね」と、素早く着替えた葉隠ちゃんが、穏やかに手を伸ばしてくる。

 

(……?)

 

 どうしたのかと、とろんと首を傾げる私に葉隠ちゃんは微笑み、脱ぎ掛けの体操服に指をかける。

 

「はい、ばんざいしてー」

「……」

 

 まって?

 

「トガちゃん良い子だねー、下も脱がしちゃうから、私の肩つかめる? ……うん、そんな感じ! 右足からあげてね?」

「……」

 

 まって!?

 

 いえ私も何で素直にお世話されてるんですか!? 言われた通りに動きながらあまりにあまりな展開に目を見開いていく。

 

「え? は? ……ええ!?」

「あ、目が覚めた感じ? ちゃんと立てる?」

「あり、がとうござ……いえ、そうではなくて!」

 

 うっかり乱れた髪まで直されそうになってしまい、ギリギリで理性が働いてくれた。

 

「だ、大丈夫です……! トガは今バッチリ起きました! ありがとうございますごめんなさい!」

「いいよいいよ。困った時はお互い様だし、トガちゃん良い子だし!」

 

 一切良い子ムーブした覚えがないですよ!?

 むしろ、朝といい今といい、彼女には迷惑しかかけていない。ほっぺが熱くなってしまった。

 

「トガちゃんは、帰りは駅まで?」

「……そ、そうです」

「お家から通ってるの?」

「い、いえ。アパートを借りていて、1人暮らしをしています」

「同じやん!」

 

 ふあ!? 突然の声に振り返ると、興奮している様子の『無重力』少女。

 

「あ、驚かせてごめんね! 私は麗日お茶子! よろしくね!」

 

 にこっと笑う笑顔に、不意打ちめいた衝撃を受ける。

 鼓動が跳ねて、見る人を朗らかにさせるふわっとした笑顔に(いいなぁ)と、見惚れる。……私も、こういう笑顔なら良かった。

 

「……っ。わ、私は、トガです。トガヒミコ」

 

 気まずくなりながら自己紹介すると「うん!」と、理想の笑顔がかえってくる。

 ……っ。情けなくも少しだけ犬歯が疼いて、それを意思の力でおさえながら、この笑顔に笑い返せない自分が嫌いだと思う。

 

「あ、もしかして麗日さんも1人暮らしなの?」

「そうなの!」

 

 そんな私の前で、きゃっきゃっと笑いあう2人。

 ……ヤーナムの夜に浸かりきっている穢れた心には眩しすぎると、苦い気持ちで目を逸らす。

 

「あ、自己紹介してる感じ? じゃあ次は私ね! 芦戸三奈! よろしく!」

「へっ」

 

 と、そこにピンク色の『酸』の女の子がずずいっと身体ごと乗り出して声をかけてくる。

 

「便乗すると、ウチは耳朗響香ね」

「は、はい。芦戸ちゃんと耳朗ちゃんですね」

 

 驚きながら頷けば『イヤホンジャック』の子も笑ってくれる。

 その更に後ろには、自己紹介待ちをしてくれる『創造』と『蛙』の子がいて、慌てて居住まいを正す。

 

「私は八百万百ですわ。以後お見知りおきを」

「こ、こちらこそです!」

 

 一位の子。お嬢様って感じのお上品な子ですね。

 

「ケロ。蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「はい、梅雨ちゃん。私の事は好きに呼んで下さい」

 

 『蛙』の子は落ち着いて、静かで大人びている感じですね。

 

(……あれ、でもこの流れ……なんだかつい最近見た様な……あ)

 

 朝の記憶がうっすらと蘇ってくる。

 そうですこれ、私が寝ぼけている間に皆さんこれと近い会話をしてました! つまり、私以外の面々はすでに自己紹介をすませていたんですね!?

 

(っ……学校で寝るの、頑張ってやめた方が良いですね)

 

 色々な意味でやらかしが酷いです。

 年下の女の子達が楽し気に自己紹介している横で、甲斐甲斐しく介護されている自分とか、最悪すぎます。

 

「トガさんって寝起きが悪いんだね。夜更かししてるの?」

「……い、いえ。体質で、ずっと眠いのです」

「それは大変だね。あ、もしかして“個性”が関係ある?」

「……ど、どうでしょう? 後天的なものなので、有るかもしれないですね」

 

 うぅ。麗日ちゃんの笑顔に勝手に追い込まれながら、手で顔を覆う。

 

「……もしかしたら、枕が合っていないのでは?」

「あー、それはあるかも。どう? 今の枕でよく眠れてる?」

「……枕は使ってないです」

「「「え?」」」

 

 一斉に目を丸くする彼女達に「そもそも持ってないです」と付け加える。

 

「……枕が無いから眠りが浅いのかもね。今日にでもウチと買いにいく?」

 

 コミュ力の塊ですかこの子達?

 

 小・中と友達のいない私には、彼女たちの明るい行動力についていくのでやっとです。

 気がついたら、葉隠ちゃんに背を押される様に更衣室を出て、廊下を賑やかに歩いている。

 

「じゃあさ、枕はそれで良いとしてトガさんはベッド派? それとも布団派?」

「……どっちでも、ないです」

「? あれ、もしかしてハンモックとか? おしゃれじゃん!」

「いえ、椅子で寝てます」

 

 ピタ、と。

 教室へと向かっていた女子たちが一斉に足を止めて、ぐるんっと私の顔を見る。……え、怖ッ。

 

「待って。体質でずっと眠いんじゃないの?」

 

 顔を寄せてくる葉隠ちゃんにこくこくと頷く。

 

「そ、そうですよ。そのせいでずーっと眠り続けてしまうので、1人だと起きられないのです」

 

 耳朗ちゃんが、真剣な顔つきで顎下に指をあてている。

 

「……目覚まし時計とか、ダメな感じ?」

「はい。スマホのアラームじゃ起きれないので、いっそ数十分毎に起きて寝るを繰り返すのが一番効率が良いんです」

「「「…………」」」

 

 待って、怖いです。

 ヒーロー科の女子って、一年生からこんな空気を醸し出せるものなんです?

 

 ヤです、その要救助者を何としてでも何とかしなくてはみたいな顔。私達は出会って一日目ですよ? 落ち着いて? 放っておいて?

 

「……わ、私、夕飯を買いに行く予定があるので、先に失礼しますね!」

「「「…………」」」

 

 だから怖いんですよ!

 なんでたった一日の付き合いでそんな意味深なアイコンタクトを交わせるんです? 最終的に麗日ちゃんが皆の想いを受け取って、ずいっと近づいて来る。

 

「私も、今日は買い物の予定があるし、途中まで一緒に帰ろう!」

「……は、はい」

「それじゃあ、ひとまずは麗日さんに任せるとして。……帰ろっか!」

「ケロ」

 

 私だけ蚊帳の外で、A組女子が結束を固めているんですけど?

 

 疎外感には慣れているけど、自分が中心なのは落ち着かない。それに、私はそんな反応をされる様なおかしな事を口走っていない筈だ。お母さんとお父さんも、変ではあるけど前よりは普通だ! って太鼓判を押してくれた生活ですし。

 

「そうだ! トガちゃんは今夜は何を食べるの?」

 

 考え込んで、言葉少なになる私に、落ち着いたらしい彼女達は気さくに声をかけてくれる。

 それに、ちょっとだけ嬉しくなりながら「そうですねぇ」と、目を細める。

 

「今夜は、冷ややっこにしようと思うんです」

「おかずの話? ヘルシーだね」

「いえ、冷ややっこだけ食べます」

 

 ……シンッ。と何故か先程の様な沈黙が数秒流れ、廊下を歩く足跡だけが響く。

 

「他には? ……他にも何か食べるんだよね?」

「? じゃあ、生卵も食べます」

「じゃあ!? それ調理する気のない口調やん!?」

「お腹に入れば(血以外は)一緒ですから」

 

 真面目に答えれば、その場の全員が深刻そうに考え込んでしまう。……だから、なんでです? 今のは絶対におかしくないですよね? ご飯を抜いてる訳じゃないですし。

 

「……ケロ。……調理器具は、揃えているのかしら?」

「まだですね。こっちに来てから買う予定でしたけど……うっかり忘れてました」

 

 何やら沈んだ様子の梅雨ちゃんに、何ともいえない視線を向けられる。

 

「ダメじゃん! 一応聞くけど、冷蔵庫とか電子レンジはあるよね!?」

「電子レンジはないですけど、冷蔵庫は小さいのがありますよ。お水がいっぱい入ってます」

 

 葉隠ちゃんに詰め寄られて、意識的に冷蔵庫の中身を答えたのに、言葉を失ってしまった。

 

「固形物は!? お腹に溜まるものは入ってないの!?」

「まだ買ってないだけですよぉ。今夜にも豆腐と卵、それからサラダ油と砂糖が入る予定です」

 

 芦戸ちゃんの顔が『ちがう、そうじゃない……!!』って言っている。器用な表情筋してますね。

 

「……まさか、と思うけど、今夜からそれだけで生きていくつもり……?」

「? はい。たんぱく質(豆腐と卵)脂肪(サラダ油)糖分(砂糖)があれば、人間生きていけるそうなので」

 

 耳郎ちゃんが「……生活破綻者がいる」って、暗い表情をしている。……流石に失礼がすぎません?

 

「いいえ、ダメです渡我さん!! その食生活では身体に必要なビタミンがとれませんわ!!」

「あ、そうですね。じゃあ野菜も買っときます!」

 

 もやしで良いですか? と聞けば、八百万ちゃんがフラァっと膝から崩れ落ちた。……そ、そんなにもやしって駄目です?

 

 クラスメイト達の様子がおかしいと、唯一静かだった麗日さんを見ると、突如強い力で肩を掴まれる。

 

「――――トガさん!」

「は、はい?」

「―――私と、ルームシェアしよう!!」

 

 はい?

 

 この子は何を言ってるんです今そういう話の流れじゃ無かったですよね私でも分かりますよ?

 

 唖然としていると「「「それ(よ)(ですわ)だあ!!!!」」」と急に元気になる彼女達。スマホを取りだして色々調べだしたりノートにペンを走らせたり電話をかけたりと、キビキビ動き出す。

 

「親の同意は必須ですわね。いざという時の為に弁護士に声をかけておきますわ!」

「私はひとっ走りして先生に相談してくる!」

「さっきの会話を書きだしてくるよ! 絶対に決め手になると思う!」

「クラスメイトで同性だし、数日なら家で預かれると思う」

「ケロ……私の家も、候補にいれてくれて良いわ」

「……私、家事に自信があるわけじゃないし貧乏だけど、トガさんに人並みの暮らしは約束するから!」

 

 

 怖っ……。

 

 どん引きです。……どうしてそうなるんです? ……ああ、そうなんですね。理解しあえないって、こんなにも怖い事だったんですね。

 

 私はまた一つ『普通』の感覚を理解できました。

 

 ごめんなさいお母さん。ありがとうお父さん。

 トガヒミコが異常なせいで、今日までいっぱいご迷惑をおかけしました。今なら前よりもちゃんと話せる気がします。ですから―――

 

 ルームシェアの提案、絶対に断って下さいお願いします……!!

 

 

 




 実は……眠くてバブバブしているトガヒミコを気にかけていたA組女子と先生、一部男子は『”誰か”を蹴落とすのが前提のテストなんて、やる気がでる訳ない』発言を聞いていた。

 それでも、除籍がかかっている以上は途中から、もしくは一回ぐらいは本気になるだろうと予想していた。
 しかし、トガヒミコは最初から最後まで、鋼の意志で一貫して最下位を貫いた(様に見えた)ので、彼女の株と好感度は水面下で上がっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 ヒーロー基礎学です

 

 

 クラスメイト達から逃げる様に気配を消して、静かに教室を後にする。

 

 この学校はおかしい。除籍という夢と希望しかない横暴を『合理的虚偽』でバッサリ切り捨てた挙句、血が欲しいと好ましく思う女子からルームシェアのお誘い。私への罠でできているとしか思えない。いくらトガヒミコが普通じゃないからって限度というものがある。……肉体的にはともかく精神的に疲れきってしまった。

 

(……輸血液、飲みたい)

 

 溜息をつきながら歩いていると、同じ様に疲れきった背中を見つける。

 

(……あれは、緑谷くん、でしたっけ?)

 

 少しの興味を惹かれて彼に声をかけ――――ようとして。出かかった言葉は先程のA組女子を思い出してピタリと止まる。

 

(ダメです。ヒーロー科に在籍している人間はすべからく警戒すべきです)

 

 小さな好奇心に蓋をして、気づかれない様に気配を消す。

 

「指は治ったのかい?」

「わ! 飯田くん……! うん、リカバリーガールのおかげで……」

 

 そんな私を通り越して『エンジン』の子が緑谷くんに声をかける。

 

「しかし、相澤先生にはやられたよ。俺は『これが最高峰!』とか思ってしまった! 教師がウソで鼓舞するとは……」

 

 少しだけ歩く速度が落ちた2人の横を、気配無く追い越そうとして「おーい!」……今だけは聞きたくなかった声が届いてくる。

 

「トガさーん! 駅までだよね? 待ってー!」

「……ひぇ」

 

 近くの人間に焦点をあわせすぎて、遠距離から簡単に発見されてしまった。

 

「君は∞女子。それに最下位女子!?」

「え? いつの間に!?」

「麗日お茶子です! それにこの子はトガヒミコちゃん! えっと飯田天哉くんに緑谷……デクくん! だよね!!」

「デク!?」

 

 代わりに自己紹介されてしまいました。

 しかも、駆け寄ってくる勢いでするっと腕を絡めとられてしまう。笑っているけど『逃がさない』的な圧力を感じてしまう。

 

「え? だってテストの時、爆豪って人が」

「あの……本名は出久で……デクはかっちゃんがバカにして……」

「蔑称か」

「えーそうなんだ!! ごめん!!」

 

 ……会話を続けるなら離してくれません?

 

 この場、というか麗日ちゃんから逃げたいですっ。犬歯も疼くし良い匂いするしこの先の展開も怖いしでヤなんですっ!

 ええい、ここははっきりと言うんです。麗日さんの顔をバッと見て。

 

 

「でも『デク』って……『頑張れ!!』って感じで、なんか好きだ私」

 

 

 カァイイなあ!!

 

 今は恐怖の対象だけど、笑顔が理想でカァイすぎます大好きです!

 

「デクです」

「緑谷くん!!」

 

 気持ちは分かります! でも、緑谷くんはそれでいいんですか?

 

「浅いぞ!! 蔑称なんだろ!?」

「コペルニクス的転回……」

「コペ?」

 

 麗日ちゃんと同じく首を傾げていたら、麗日ちゃんが「なんだろね?」って笑いかけてくれる。

 不意打ちにドキっとしていたら「トガさん、気づいたら教室にいなくてびっくりしたよー」と、腕に力がこもる。……あ。これ、もう逃げられない奴ですね。

 ガラケーで『見つけました。このまま一緒に帰ります!』って、葉隠ちゃんに送っているのが見えた。

 

「…………私は、生活破綻者じゃないですもん」

 

 気づいたら、耳郎ちゃんの言葉を思い出してほっぺがふくらんでいる。聞こえてしまったのか、麗日さんが「あー」と困った顔をする。

 

 そんな私と麗日ちゃんを不思議そうに見ている緑谷くんと飯田くん。この2人なら味方になってくれるかもと、淡い期待を抱いてすがる様な視線を送る。

 

「……あの、何かあったの?」

 

 おずおずと聞いてくれる緑谷くんに「……皆が酷いんです!」と、つい拳をにぎって不満を訴える。

 麗日ちゃんは少し押し黙って「……話しても良い?」と私の顔を見つめる。その、真摯ともいえる表情に首を傾げながら「構いません」と頷くと、麗日さんは意を決して、先程までのA組女子の暴走っぷりを語ってくれる。

 

 ……おお。

 

 実に起承転結が分かりやすい説明で、私がどれだけ困惑しているのか伝わってきます。

 流石はヒーローを目指す女の子。自分を良く見せようとしない語りっぷりに感心していると、緑谷くんと飯田くんの顔が徐々に強張っていく。そして……

 

「トガさん! 今日は麗日さんと一緒に帰った方が良いよ!」

「そうだな。ああ、大丈夫だ。僕たちが君を必ず立派な真人間にしてみせる……!」

 

 嘘でしょう? ……味方は、できませんでした。

 

 納得がいかなすぎるけど、気づけば4人で駅まで歩いている。

 その流れで、当たり前に麗日ちゃんに家まで押しかけられて、もう好きにすればいいと投げやりになる。

 

「お邪魔しまーす! わあ、ここがトガさんの住んでる、へや………………」

「何もありませんけど、寛いでください」

 

 冷蔵庫の中にはお水しかないので、近くの自販機からジュースでも買ってこようとしたら、急に手を握られる。驚いて足をとめると、麗日ちゃんがぐるんっと振り返る。

 

「……トガさん!!」

「は、はい」

「……絶対に、ルームシェアするから!!」

 

 なんで????

 

「今夜は、とりあえず家に泊まって……!!」

 

 嫌ですけど?

 でも、あの、もしかして麗日ちゃん、泣いてます?

 

 何か悲しい事でもあったのかとオロオロしていると、その勢いのまま手を引かれて、お泊りセットをもってのお泊りイベントがはじまってしまう。

 

「トガさん、食べたい物はある?」

「特にないです」

「好きな食べ物は?」

「ええと(血とは言えませんね)……食べられないものがないので、好みという好みはありません」

「……そっか」

 

 気落ちする麗日ちゃんにそわそわして「……本当に、何でもいいのです」と付け加える。……なんででしょう? 迷惑しているのは私なのに、そんな顔をされると胸の奥がチクチクします。

 

 そうして、麗日ちゃんの家にお泊りしたんですけど。

 

「…………」

 

 ちょっと、一夜の密度が濃すぎたというか。

 心身への負担が大きすぎたというか。……気づいたら次の日になっていました。

 

 

「…………?」

 

 

 いえ、自分でもびっくりですよ? でも、無理ですよね?

 

 

『いらっしゃい! 先にご飯にする? それともお風呂?』

 

 

 って、最初に言われたのはうっすら覚えています。

 

 それで私はお風呂を選んで、その後は麗日ちゃんの手作りご飯をご馳走になって、とても美味しくて、会話は少な目なのに楽しかった。

 

(そこまでは、記憶が続いているんです……)

 

 でも、麗日ちゃんが『お風呂に入ってくるね!』と部屋を出て行って数分後、突然、半裸で現われて、

 

『トガさん、もしかしなくてもお水しかつかってない!?』

 

 と、ちゃんと遠慮したのに怒られて、改めて一緒に入ろうと熱い湯船に押し込まれてしまった。

 

 そして、あわあわしている内に髪を乾かされ、パジャマも着せて貰った。

 

 至れり尽くせりすぎて、せめて睡眠の邪魔はしないでおこうと『お、おやすみなさい……』と、畳に正座して寝ようとしたところで『トガさんは、こっち!!』と、布団の中に引っ張りこまれて、あまつさえ逃げられない様に抱きしめられて――――もろもろの衝撃が強すぎて記憶が飛びまくっている。

 

「…………」

 

 濃すぎです。

 出会って1日目で、どうしたらこうなるんです?

 

 こんなの、夢と現実の区別がつかなくて、ずっと呆けていてもしょうがないです……

 

(……いえ、快適ではあったんですよ?)

 

 誰かと一緒に寝るのははじめてで、戸惑いながらも心地良かったです。

 

 熟睡はしなかったし、麗日ちゃんが身じろぐ度に起きて、すぐに眠れて、起きて、という感じで、とても理想的な睡眠をとれました。でも、でもですよ?

 

(……ねがお、みられました)

 

 早朝、フッと目覚めた時に、微笑む彼女と目があった。

 

「――――」

 

 思い出して恥ずかしくて、思わず足が止まると、気づいた麗日ちゃんが「どうしたの?」笑ってくれる。

 ……ずるいです。なんでもないって、顔を隠しながら目を逸らすしかないじゃないですか。

 

 そんな風に、ときめきの記憶喪失に陥りながら、2人で並んで教室に入ると『ざわっ』と騒がしくなる。

 

「おはよう2人とも!」

「それで!? トガちゃんはどうだった!?」

 

 はい? どういう意味ですか!?

 

 葉隠ちゃんの喰い気味の質問に、麗日ちゃんは「…………うん」と、悲痛な表情で首を振る。

 その反応に、周りから『ああ、やっぱり……』な視線が集まってくる。……もしかして喧嘩を売られてます?

 

 流石に、これには普通を目指して良い子な私でも言い値で買わなくてはいけない。文句を言おうとして、

 

「今日も、トガさんは私の家にお泊りね!」

「…………」

 

 麗日ちゃんの笑顔と台詞に、何故か言葉を飲み込んでしまう。

 自分でもよく分からない感覚で、その後はむしゃくしゃしてふて寝してしまった。

 

 あまりに怒涛すぎて窒息しかねなかったからこそ、当たり前に授業がはじまった時はホッとした。

 午前は必修科目・英語等の普通の授業で、ここまでは普通です。

 

(……すごく、落ち着きます)

 

 しみじみしながら、眠気をこらえて授業を聞いていく。

 

 お昼は、大食堂で葉隠ちゃんに誘われて一緒にご飯を食べました。……遠くの席で、残りのA組女子と緑谷くん飯田くんが揃って話しあっているのは全力で無視します。

 

 そして午後の授業になり、ヒーロー科として必須だというヒーロー基礎学がはじまります。

 

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!」

 

 

 HAHAHA! って登場するオールマイトに(有名人がいる!)と、本当に雄英は普通じゃないと感心する。

 

「オールマイトだ……!! すげえや本当に先生やってるんだな……!!」

「銀時代のコスチュームだ……! 画風違いすぎて鳥肌が……」

 

 ……んー。夢でならともかく、現実でオールマイトって私に殺せますかね?

 

 現実は一発勝負ですし、入試のアレも準備運動にすらなりませんでした。……どうにも力の差というものが曖昧です。

 

(まあ、真面目に考えれば勝てないでしょうね。……たかが5年ほど悪夢で戦ってきた私と、ナンバーワンヒーロー。……一対一で耐久戦にもちこめれば、手数が多い分あるいは……というところですか)

 

 あの悪夢に“個性”は無く。だからこそ現実の自分がどの程度の実力なのか、予想もつかない。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う科目だ!! 単位数も最も多いぞ。早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!!!」

 

 ……けれど。

 

「戦闘……」

「訓練……!」

 

 湧き上がるクラスメイト達よりは強いと、自負している。

 

「そしてそいつに伴って……こちら!!!!」

「!?」

 

 え、あの壁、あんな動きするんです?

 

「入学前に贈ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた……」

「戦闘服!!!!」

「おおお!!!!」

 

 雄英、お金かかってますね……

 

「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!!」

「「「はーい!!!!」」」

 

 元気な彼らを見つめながら、自分の要望を思い出して目を細める。

 

 ヒーローとしての戦闘服。というよりは、私にとって着慣れた狩装束。

 それを現実に着込むおかしさと、夢とは違う着心地に唇をゆがめながら、嘴の仮面を被る。

 

 

「格好から入るってのも大切な事だぜ少年少女!!」

 

 

 そうですね。

 身が引き締まる思いです。嫌でも、あの夜を思い出して目が冴えてきます。

 

 

「自覚するのだ!!!! 今日から自分は……ヒーローなんだと!!」

 

 

 仮面の下で、遠慮なくニィ……と笑う。

 

 

「さあ!! 始めようか有精卵共!!」

 

 

 少しだけ、楽しくなってきました。

 

 

 

 




 頭は『嘴の仮面』胴は『異邦の服』と『狩人の装束』からマントとコートをとって組み合わせた戦闘服。
 手には手首までの黒く上等な皮手袋をはめて、私物だといって『慈悲の刃』を申請して奇跡的にオーケーを貰った。
 
 嘴の仮面はフェロモン防止機能付き(重要)らしい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 脳に瞳を得ています

 

 

 グラウンドに出る少し前、着慣れた狩装束だと思って袖を通すと、想像よりずっと着心地が良くて驚いた。

 

 軽くて肌触りも良い。どれだけ動いても服が邪魔にならない。

 一つ一つを確認しながらコスチュームを着ていく。シャツを着て、ベストを着て可動域を確認している間に、着替え終わった女子達が速足でグラウンドに向かって行く。

 相澤先生の『合理的虚偽』が効いている様で、担当がオールマイトでも遅れたら大変だと思っているらしい。気づけば更衣室には私1人です。

 

「……ふぁ」

 

 欠伸をして、コートとマントを着込んでいく。

 そして最後に嘴の仮面は被れば、予想よりずっと快適な付け心地です。

 肌に触れているのにストレスが少ない。夢のよりずっと上等な品だと頬が緩む。この仮面には鳥葬の意味があり()()()()()()()()()()()()()()と、アイリーンさんの言葉を幼心に都合良く解釈した渡我被身子。あろう事か気に入った人を殺す時だけ被る様になった。

 

「…………」

 

 いらない記憶を思い出して不機嫌になるが、この仮面は顔を隠すのにとても優れている。

 我慢だと自分に言い聞かせて髪をほどき、本来なら帽子であるところをマントについた厚めのフードで覆えば、ほぼ顔が見えなくなる。

 

(うん。仮面が脱げても、これなら顔が隠れます)

 

 ニィ、と。それが嬉しくて、仮面の下でにっこりと笑う。

 

(完璧です!)

 

 胸を張りたい気持ちで、鏡の中の自分と見つめあう。

 フェロモン防止と笑顔隠しが主な嘴の仮面と、防刃機能があるフード。

 炎耐性も強く防御力に優れたマントとコートには裏ポケットが多めについている。そして丈夫で綺麗な革手袋はおしゃれで、異邦のズボンとくるぶしまでの頑丈ブーツ(音消し機能あり)も見た目が良い。……戦闘服というには少し違う気もしますが、私は狩人なのでこれでいい。

 銃は流石に無いけど、慈悲の刃を特殊な鞘にいれてしっかりと腰に下げる。

 

 色々と現代風にアレンジされている狩装束に、テンションがあがって頬が緩む。

 

 特にスマートになっているのが良い。フードとマントとコートの組み合わせで、首回りがもこもこすると思っていたのに、工夫が凝らされてスッキリしている。カァイくはないけどおしゃれポイントが高いです。

 

 つい、癖で慈悲の刃を抜いて、どこまで動けるか試したくなりますが……これを抜く時は先生の許可が必要だと口を酸っぱく言われたので、我慢です。

 

 ふあぁ……っと。満足の欠伸をしながらグラウンドβに向かってのんびりと歩いていく。

 その途中で、癖でスゥっと気配を消しながら、集まっているクラスメイト達の間に紛れ込む。

 

「あ、デクくん!? かっこいいね!! 地に足ついた感じ!」

「麗日さ……うおお……!!」

 

 私のすぐ後に来た緑谷くんと、それに気づいた麗日ちゃん。そちらを見て「!?」その、ぴっちり具合に昨夜のお風呂の時を思い出してバッと顔を逸らす。

 か、仮面をつけて、というか気配を消していて良かったです! 動揺を押し隠しながら、この格好は少し暑すぎるので夏服バージョンも申請しようと思考を逸らす。

 

 ちょっと、麗日ちゃんが目に毒すぎるので距離を保とうと後方に移動して、一息ついて目を閉じる。

 

 オールマイトの説明を話半分に聞きながら、積極的なクラスメイト達の質問に聖徳太子ィィと困っているのが面白くて、どんな顔をしているのかと少し興味がわいた。

 うっすらと瞳を開くと、視界に葉隠ちゃんのぷるっとしたお尻があり、視線が吸い込まれる。……ん? ……んん? お尻? いやそんなまさか、きっと麗日ちゃんと同じぴっちりスーツとかそういうでも色合いというか肌色が瑞々しいお肌に太陽の反射光が「―――――ちょおおお!!??」全裸じゃないですか!! コートを脱いで後ろから強引に被せる。

 

「うわあ!? えっ、誰!? いやトガちゃん!? なんでペスト医師!? っていうかいつの間にコートなんで!?」

 

 混乱している葉隠ちゃんに対して「何してるんですかぁ!?」思わず大声がでてしまう。

 視線が集まるし、オールマイトの説明を遮ってしまったけど、コートはしっかり着せたので問題ない。

 

「お、女の子がお風呂でも無いのに全裸……いえ、手袋と靴は履いてますね……いやいやダメですよ!? 危ないですよ!?」

「え? ……え? ……ええ!!??」

 

 驚愕の表情を浮かべる葉隠ちゃんをコートで包んだまま、なんで他の人達は指摘してあげないのかと、仮面の下で皆にじと目を向けてしまう。

 

 もしや、ここで普通なのは私しかいないのかと、彼女を守らんとコートが脱げない様に抱きしめる。「……も、もしかして」じわじわと、葉隠ちゃんのカァイイお顔が赤くなっていく。

 

 

「トガちゃん……わ、私が“見え”てる?」

 

 

 はい?

 

「……どういう意味です?」

 

 変な質問です。

 でも、葉隠ちゃんの問いに周りが少しざわつき、視線が集まる。……なんです? さっきの葉隠ちゃんの言い方は、まるで見えないのが()()()()みたいな―――

 

「あ」

 

 何故か今、ヤーナムの、聖堂街広場での衝撃を思い出して……まさかと目を見開く。

 

 葉隠ちゃんの“個性”は『透明化』です。

 

 私はてっきり、道具や武器を透明にできるものだと思い込んでいましたが、まさかと固まっていると、オールマイトがコホンと咳払いする。

 

「……言い辛いが渡我少女! 私を含め、葉隠少女の姿を見た者はいない!! 凄いね君!!」

 

 ビシッと親指をたてられ、唖然としてしまう。

 

(ウソぉ……)

 

 急速に理解が追いついて、仮面の下で顔が引きつり、背中に嫌な汗を感じる。

 

 これ、脳に瞳を得てるせいで、見えすぎちゃう問題です……!

 いえ、本当に瞳があるわけじゃないというか、知識というか、次元が上がって本来見えないものが見えてしまうというか……まさか、アメンドーズの時と同じなんてと、まさかの展開に思考が止まる。

 

「…………ッ」

 

 こんなところで異常な言動をしてしまうなんて、おかしな子だと思われてしまう。周りがわいわい言っているけど、聞きたくない。

 ギクシャクと、葉隠ちゃんにコートを貸したまま、一歩ずつ下がっていく。

 

「…………」

「…………」

 

 気まずい。

 

 一人だけ貴女の裸を見ちゃいました。って、致命的にいけないやつです!

 

 しかも、これが葉隠ちゃんの戦闘服で、それが全裸ってこれから戦闘訓練の度にクラスメイトの裸を見るんです私? そういえば葉隠ちゃんは妙に顔が近かったり際どかったりしたけど、周りから見えてなかったからなんだぁ……

 

 ハイ。恐らくですが芽生えかけていた友情が終わりました。

 

(……嫌われました)

 

 真っ赤な葉隠ちゃんが、クラスメイト達に励まされている。

 私も麗日ちゃんに「大丈夫だよ!」って慰められてるけど、なんならフードも降ろされて頭を撫でられているけど……無理です。今は立ち直れる気がしません。

 

「……んん!! 予想外のアクシデントが起こってしまったが、現場ではこういった“個性”同士のトラブルも多々起こりえる! 皆も肝に銘じて授業に励んでくれたまえ!!」

 

 オールマイトが気遣わしげに、だけど流石の胆力で授業を続けてくれる。

 おかげで、ちょっとだけこの空気が霧散してくれた。

 

「いいかい!? 状況設定は『敵』がアジトに『核兵器』を隠していて『ヒーロー』はそれを処理しようとしている!」

 

 説明を聞きながら、麗日ちゃんにいっぱいよしよしされる。

 

「『ヒーロー』は制限時間内に『敵』を捕まえるか『核兵器』を回収する事。『敵』は制限時間まで『核兵器』を守るか『ヒーロー』を捕まえる事。コンビ及び対戦相手は、くじだ!」

「適当なのですか!?」

 

 ……つまり、ごっこ遊びなんですね。

 少しだけ落ち着いて、気づけば麗日ちゃんにしがみついていた身体を離す。

 

「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いし、そういう事じゃないかな……」

「そうか……先を見据えた計らい……失礼致しました!」

「いいよ!! 早くやろ!!」

 

 ……葉隠ちゃんには、後で許して貰えなくてもちゃんと謝りましょう。

 

 お昼までの葉隠ちゃんの笑顔が、今まで知り合った女の子達みたいに歪んでしまうのはヤだなって思いながら、麗日ちゃんにもう大丈夫だと、ぽんぽん腕を叩く。

 麗日ちゃんは「……うん」まだ少し心配そうな顔をして、私に寄り添ったままでいてくれる。……天使すぎです。

 

 順番が来て、用意されたくじ引きをゆっくりと引く。……せめて、葉隠ちゃんと一緒じゃないといいなぁ、と願いながら、ボールの文字を見る。『I』の文字に、チームメイトを探して周りを見て。

 

「「あ」」

 

「……わあ」

 

 葉隠ちゃんと目が合い『尻尾』の子が、とても気まずそうかつ気遣わしそうに、大きな尻尾を揺らした。その手には『I』のボールがある。

 

 

「んん!! 続いて最初の対戦相手は、こいつらだ!! Aコンビが『ヒーロー』Dコンビが『敵』だ!!」

 

 

 盛り上がるクラスメイト達の横で、動揺しまくる私。

 

 いえ無理でしょうこれ!? この短い間に何が起こったかご存知ですよね!? あわあわして、誰かに交代して貰おう。いっそ今から麗日ちゃんに、って急いで移動しようとする背中に声をかけようとして「と、トガちゃん!」「!?」意を決した様に、ぎゅっとコートの前をあわせた葉隠ちゃんが近づいて来る。

 そして、彼女は手を伸ばす。

 

 あ、ひっぱたかれます?

 

 覚悟を決めていると、葉隠ちゃんの手は仮面に触れて、何やらもぞもぞ動かす。

 

「……葉隠ちゃん?」

「この仮面、どうやって取るの?」

「……えと……後ろで、カチャって感じに……ワンタッチバックル、でしたっけ? それで止めてます。……いざという時に、外れない方が危ないからって、上に力をいれればスルッととれるみたいです」

「そっか!」

 

 返事と共に仮面を脱がされ、葉隠ちゃんと向き合う。

 

「…………」

「…………」

 

 口の中がカラカラです。

 

 葉隠ちゃんからの視線を感じるのに、私は怖くて逸らしています。……近くにいる『尻尾』の人、こんな空気に巻き込んで申し訳ありませんが、見守ってくれるならせめて助けて欲しいです。

 こんな時、どうしたらいいのか分からなくて、ぐるぐる考えていたら、葉隠ちゃんが「……うん!」って、私の手を握る。

 

「……ごめんなさい!」

 

 へ?

 

 ……ごめん、なさい?

 

「私! 勝手にトガちゃんは感知系の“個性”だって思ってたの! それで、まさか全部見えてるなんて思わなくて、だから、動揺してごめんなさい! 訓練、一緒に頑張りたいです!」

「……!」

「私、気合いれちゃうから! トガちゃんの前でも……ぬ、脱ぐから! でも、あんまり見ないでね!」

 

 ――――。

 

 驚いて、言葉にならなくて、その顔を見て、はく、っと口を開く。

 

 恥ずかしくてたまらないって赤い顔、まっすぐに私を見る瞳に混乱する。

 

 葉隠ちゃんの表情は……私を嫌がっていなかった。

 

 

「…………はい」

 

 

 呆然としたまま、それでも何とか頷くと、その表情が喜色で染まる。

 

「よかった、仲直り、できた……!」

「わ、私も……うれしいです」

 

 私が悪いのに、葉隠ちゃんはまるで自分が極悪人の様に、許された事にふにゃっと笑う。

 

 近くにいる『尻尾』の人もホッとした顔をしている。『良かった』って心から思っている顔で微笑んでいる。もっと周りを見たら、私たちを気にしていたクラスメイト達が、オールマイトも、笑っている。

 

 ―――なんで?

 

 その理由が分からなくて、呆然とする。

 

 今までの様に、周りから人がいなくなるのだと思っていた。

 初対面で、個性や名前が分かって、対策して、見透かして、笑顔が怖い不気味な人間は、普通じゃないから。……なのに、なんで? 分からない。

 

「…………っ!」

 

 落ち着かなくて、顔が熱くて怖い顔になりそうで、葉隠ちゃんから仮面を返して貰う。そのまま急いで装着してフードも被って蹲る。

 

(このクラス、やっぱり変です……!)

 

 葉隠ちゃんも『尻尾』の人も、きっとおかしいんです。

 

 何も言わずに、突然しゃがみ込む私を気味悪がらずに、それどころか葉隠ちゃんは一緒に座り込んで、私に寄りそってくれる。

 『尻尾』の人の大きな尻尾が、私たちに触れないギリギリの位置で、くるんって巻かれて……恥ずかしさで唸りそうになる。

 

 なんなんですか、もう……!

 

 こんな変な気持ちははじめてで、喉の奥が絞られる様だった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 戦闘訓練です

 

 

 先程は取り乱しましたが、もう大丈夫です。

 

 今の私はクールにして“善”なトガです。年下のクラスメイト達に恥ずかしいところを見られましたが、いつか汚名返上するのです。

 密かな野望を胸に(麗日ちゃん、がんばってください!)地下モニタールームで麗日ちゃんを応援する。

 

 一回目の屋内対人戦闘訓練は、序盤から大いに賑わっている。

 

 緑谷くんと麗日ちゃんが『ヒーロー』で飯田くんと『爆破』の子が『ヴィラン』に別れて戦っているが、早々にドンパチ楽しそうです。

 

「爆豪ズッケぇ!! 奇襲なんて男らしくねぇ!!」

「奇襲も戦略! 彼らは今実戦の最中なんだぜ!」

「緑谷くんよく避けれたな!」

 

 クラスメイト達の感想を聞きながら、せっかくの奇襲なのに勿体ないと、バックスタブからの内臓攻撃への未練を……いえ現実でアレはダメです。今の無しです。

 

 自分の思考に猛省しながら、緑谷くんの『“『頑張れ!!』って感じのデク”だ!!』という台詞に頬が緩む。少しだけ良いなぁと羨みながら「……ふぁ」と欠伸。

 

(……ねむい)

 

 これだから、赤ちゃんはダメなのです。

 

 麗日ちゃんや緑谷くんを応援したいのに、いつもの眠気に負けそうになる。

 目を擦りながら首を振っていると、腕をくいくいと引っ張られる。

 

「トガちゃん、私に寄り掛かっていいよ」

「……あ、葉隠ちゃん、ありがとうございます」

「どういたしまして!」

 

 隣にいた葉隠ちゃんに引き寄せられ、私より小さな身体に寄りかかる。

 ふらつく視界が安定して、モニターが良く見えるとお礼を言えば、葉隠ちゃんはにっこりと笑ってくれる。

 葉隠ちゃんを挟んだ先には、自己紹介したばかりの尾白猿夫くんがいて、目が合うと微笑ましそうに笑ってモニターに視線を戻している。

 

「すげぇなあいつ!! “個性”使わずに渡り合ってるぞ、入試一位と!」

 

 サッとモニターに視線を戻せば、緑谷くんが頑張っている。

 それにしても一位なんて、去年の私とお揃いですね。『爆破』の子にちょっとした親近感を抱きながら、一瞬だが意識が遠のいてしまう。

 

(……ダメです)

 

 ぼやけていく両目を擦りながら、重くなる瞼に負けそうになる。輸血液でエネルギーチャージしたいと、血を求めて、青ざめた血が……………

 

 

「トガちゃーん、寝ちゃダメだよ~」

「……!?」

 

 

 揺すられてハッとする。目を開けるとモニターに麗日ちゃんがいて、その先には、飯田くんがいる。

 

『俺はぁ……至極悪いぞぉお』

 

「んっぐ!!」

 

 噎せた。

 

「わ! どうしたのトガちゃん!?」

「……い、いえ。飯田くんが面白くて……すごく、ヴィランに成りきってます」

「へ?」

「アレには、麗日ちゃんも笑いますよ……私もダメでした」

 

 お腹がよじれそうです。仮面を被っていなくて良かったと思いながら、ひぃひぃ言ってしまう。ちなみに嘴の仮面は葉隠ちゃんが持っていて、自分の姿が見えているのに、私が顔を隠すのはヤだと返してくれない。……自分はいいの? という疑問はありますが、なんかカァイイので有りです。

 

「トガちゃん、音声ないのに話してる内容分かるの? 飯田くんヘルメットしてるのに!」

「なんでか分かります。フィーリングかもしれません」

「へー」

 

 感心してくれる葉隠ちゃんに照れながら、本当に何でか分かるので、脳の中の瞳には副音声というか翻訳機能があるのかもしれない。……いえ、やっぱり無いですかね? 我が事ながら自身の事がさっぱりわからない。できる事とできない事も曖昧すぎると、葉隠ちゃんの香りと温もりに、またうとうとしてくる。

 

 パッと。モニターで派手な花火があがり『爆破』の子が鬼気迫る表情をしている。

 

 そして『殴り合いだ!』と、彼が緑谷くんに飛びかかった瞬間、眠気のピークが限界を通り越し―――プツッと、意識が途切れる。

 

 

 

 

 

「……! ……ね、ぇ……起きて……! ―――トガちゃん! トガちゃんってば!」

「――――はう!?」

 

 

 気づいたら、麗日ちゃんや飯田くん。『爆破』の子が室内にいた。

 

 少し焦げた甘い匂いがして、きょろきょろしてしまう。

 

「……え? ……あれ? ……訓練は? それに、緑谷くんはどうしたんです?」

「そっからかー!」

 

 あちゃー! と額を抑える葉隠ちゃんと、様々な反応をするクラスメイト。

 

「訓練は終わったし、その後の講評の時間も終わったよ」

「……そ、そうですか」

「いっぱい揺すったけど、全然起きなくて……ねえ、本当に大丈夫?」

「……はい。少し眠ったので、暫くは大丈夫です」

 

 訓練中には寝ないと伝えれば、葉隠ちゃんも尾白くんもホッとした顔をしてくれる。

 

 見れば、嬉しそうな飯田くん、反省気味に落ち込んでいる麗日ちゃん、そして愕然としている『爆破』の子と、ここにはいない緑谷くん。

 

(面白いものを、見逃してしまった様ですね……)

 

 少し惜しむ気持ちで、これだから赤ちゃんは唐突に寝る……! と、苛立ちまぎれの溜息を吐く。

 

 

「次は3対2かぁ……これは更にヒーロー側が不利だよな」

「まあ、くじ引きだし。1人は余る計算だからな」

 

 

 そんな会話を聞きながら、皆で場所を移して第二戦。

 

 私は、葉隠ちゃんや尾白くんと一緒に『ヴィラン』チームとして、核を守らなくてはいけない。

 

 とりあえずと張りぼての核の部屋で話し合う。五分後にヒーローチームが突入してくるし、あまり時間は無い。「どうします?」と尋ねれば、私が寝ている間に葉隠ちゃんと尾白くんが話しあっていたらしい。

 

「俺が核を守るよ」

「そして私が! 隠れて背後から奇襲する!」

「……なるほどー」

 

 つまり、私はいりませんね。

 

 分かってはいましたが、見事に余ってしまった。

 感情が顔に出そうで、葉隠ちゃんに仮面を返して貰おうと手を伸ばせば「ダメ」ってされる。

 

「トガさんには、俺か葉隠さんのどちらかに付いて欲しい。1人増えるだけで出来る事の幅が広がるし。トガさんの気配の消し方は見事だからね」

「そうそう! トガちゃんって見える系の“個性”なんだよね? 気配を消すのはどうやってるの?」

「……いえ、私は見える“個性”じゃないですし、気配消しは何となくでやっています」

 

 気まずく否定すると、2人が驚いた顔をする。

 説明したくても色々と複雑で、どう伝えれば誤解が無いかと悩んでしまう。そうしていると時間が危ういと気づいたのか、葉隠ちゃんがもじもじするので「あ」察した私は慌てて背をむける。

 

「ご、ごめんね?」

「こちらこそ、です」

 

 そう。脱ぐ時間がやってきたのだ。

 ……よく考えなくても、これって倫理的に大問題ですよね?

 

 あと、後ろで衣擦れの音がするの、心臓に悪いです。

 

 尾白くんも、別の意味で気まずそうに鼻の頭をかいている。尻尾の揺れも心なしか大きい。

 

「……み、見てないよね?」

「見てません!」

「……ふ、振り返らないでね?」

「今は尾白くんの尻尾だけ見てるので大丈夫です!」

 

 最初の勢いはどうしたのか、私の存在が葉隠ちゃんの羞恥心に火をつけてしまったらしい。こちらをチラチラ気にして、靴と手袋はともかく、コートを脱ぐ手が止まっている。

 

「……やっぱり、コートは着てていい? ひ、必要になったら脱ぐから……!」

「それで大丈夫です!!」

「……ッ。一応、もう時間だから……俺が奇襲に行こうか? 葉隠さんがここで核を守るのも防衛には良いと思うんだ! 見えないし!」

 

 尾白くん……!? 建設的な意見を出している様に見せかけて、顔を赤くしてこの場から逃げたそうにしています。男の子ですもんね! なんだか居た堪れない気持ちは分かりますけど、2人きりにしないでください!

 

 そんな事を考えてわたわたしていると、不意に脳の瞳が疼いてギョッと目を見開く。

 

「――――」

 

 視界が、というよりこの部屋が青で染まっていく。

 

 規模と範囲、予感からコレは攻撃の前兆です!

 地面を蹴る様に走り、咄嗟に葉隠ちゃんを片腕に抱き上げ「きゃあ!?」その勢いで「尾白くん、ごめんなさい!!」驚いている彼に飛び乗る。

 

 瞬間、室内が氷で覆われた。

 

「え!? トガさ――――!? ッッ!? ……これ、は!?」

 

 吐く息が白くなり、室温が一気に下がっていく。

 

 あまりの規模に驚いて、葉隠ちゃんを抱えたまま尾白くんの顔に胸を押し付ける体勢で、尻尾に支えられながら目を細める。

 

 油断したら、ダメな相手みたいです。

 

「……尾白くん。葉隠ちゃんをお願いします!」

「え、トガちゃん!?」

「……分かった」

 

 驚く葉隠ちゃんと、自分の足が動かない事に気づいて、無念の表情を浮かべる尾白くん。

 

「一応、私はまだ動けますから。葉隠ちゃんは尾白くんと待っていて下さい」

「……なら、せめて着ているコートは返すよ! トガちゃん寒いでしょう!?」

「ありがとうございます。それじゃ「いや!! 絶対に葉隠さんの方が必要だから借りていた方がいいと思うよ!!」……ええ?」

 

 どうしたんです尾白くん……? 突然の主張に2人で目を丸くしつつ「そ、そうですね」と、頷く。

 何故かとても安堵している尾白くんから降りて、コートでくるんだ葉隠ちゃんをその両腕に乗せる。

 

「それじゃあ、ちょっと行ってきます!」

「……うぅ、ごめんねトガちゃん! 私たちの分も頑張ってね!」

「無理はしないでくれよ!」

 

 頷いて2人に手を振り、葉隠ちゃんに返して貰った嘴の仮面を被って部屋の外に出る。

 

(確かヒーローチームは……『複製腕』の子と『半冷半燃』の子でしたね)

 

 ならば、この氷は『半冷半燃』の子がしたのでしょう。階段を飛び降りる様に階下に向かい、ブーツの消音効果に満足しながら考える。

 

(尾白くんと葉隠ちゃんには申し訳ないですけど、この規模の“個性”となると……)

 

 用心を重ねなくては、逆に狩られてしまう。

 

 もう少し我慢して下さいと心苦しくなりながら、二階の廊下で足を止める。

 これは狩りではなく訓練です。オールマイトも見ていますし、無茶な事はしないと予測して確保テープの準備をする。彼らなら、核のある部屋に最短距離で向かう筈だと()()事にする。

 

 

「…………ふぅ」

 

 

 心を沈めて目を瞑る。呼吸をおさえ、意識を周囲に同化させる様に、ゆっくりと気配を溶かす。

 

 それは悪夢に沈む様に、暗く蕩ける様に、たゆたい、ただ待つのです。

 

 

『そうしたら、ほら。足音が二つ』

 

 

 スウ、と。目を開くと、目の前を『半冷半燃』の子が通り過ぎていく。

 

 『複製腕』の子が、それに付き従う様に、耳や目を先端に生やして周りを警戒―――いいえ。念の為とばかりの索敵をしながら、歩いている。

 

(…………)

 

 今です―――『半冷半燃』の子と『複製腕』の子の間に滑り込む。

 音もなく現れた私に『複製腕』の子が目を大きく開く。何が起きているのか分からず思考が止まっている隙に、意識外からの攻撃。彼の顎下に、ジッ!! と、靴先を掠める。

 

「―――ッッ!!?? ………っ」

 

 衝撃が脳に直接届き、カクンと白目になるのを確認して、廊下の死角に滑らせる様に座らせる。

 確保テープをその腕に巻きながら、彼の頬に傷をつけて血を貰い“個性”をつかう。

 

「…………」

 

 そうして、何食わぬ顔で『半冷半燃』の子の後ろをついて行く。

 

「? どうした」

「……いや、何もない」

 

 ッ。『半冷半燃』の子が振り向いている!

 

 ちょっとドキリとしたけど『半冷半燃』の子は「……そうか」と、興味を失ってくれた。

 

 ホッとして、勘が鋭いなぁと、更に油断できなくなる。

 その背中を見下ろして(『複製腕』の子、本当に体格が良いですね)さっきの彼の真似をして、耳と目を複製しながら、彼についていく。

 

「ここだな」

 

 そうして核の部屋に辿りつけば、葉隠ちゃんは尾白くんに背負われていた。

 着ていたコートは畳んで床に置かれており、葉隠ちゃんは裸で震えながら『半冷半燃』の子の隙を狙おうとしている。

 

 ……尾白くんも、全力で囮をしているんですね。この2人は、流石のヒーロー候補です。

 

「動いてもいいけど、足の皮剥がれてちゃ満足に戦えねえぞ」

 

 葉隠ちゃんに気づいていない彼が、ゆっくりと核に近づいていく。

 もうすぐだと見守っていると、急に「おい」と振り向く。

 

 

「もう2人はどこだ? 一緒の部屋にいる筈だろう」

 

 

 ああ。……あと一歩で、葉隠ちゃんの奇襲が成功したのに。

 やっぱり、彼もヒーロー候補だと。私は警戒するふりをして彼に近づき、その耳元に複製した口を近づける。そして、

 

『―――ここですよ』

 

 返事をする。

 

「……は?」

 

 私の声に驚愕し、即座に腕をかざすも、終わりです。

 一瞬固まった隙に、その腕に確保テープを巻いちゃいました。

 

 

『ヴィランチームWIN!!!!』

 

 

 瞬間、オールマイトのアナウンスが響いて、変身をとく。

 

「えっ」

「な……!?」

「――ッ!!」

 

 現れる私に、3人とも驚いてくれる。

 

 そして、強めに睨んでくる『半冷半燃』の子から逃げる様に葉隠ちゃんと尾白くんの傍に寄る。

 コートを拾って葉隠ちゃんに羽織らせれば「……そこにも、いたのか」と『半冷半燃』の子が悔しそうにする。

 

「と、トガちゃん、今のって……!?」

「はい、私の“個性”は『変身』なので、ああいう事ができるんです。びっくりしました?」

「し、したよー! 負けたかと思ったー!」

「……いや、驚いた」

 

 でも勝ったと、勝てたんだと、嬉しそうに笑う2人を見て、私も頬が緩む。

 仮面の下でニィっと笑い「やりましたね!」「うん、やったね!」「勝ったぞ!」と声をかけあい、ハイタッチする。

 

 オールマイトが講評の時間だと声をかけてくれるまで、時を忘れて盛り上がってしまった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 講評と反省会です

 

 

 微睡みながら、ふわふわした心地で歩いている。

 

 実戦訓練の後は、皆で集まって講評をしなくてはいけない。オールマイト曰く、勝っても負けても振り返ってこそ経験は活きるのだそうで、葉隠ちゃんが手を引きながら教えてくれた。

 

「……ヤです」

「え?」

 

 気づけば口にして、足を止める。

 ふらつく足取りを危ぶまれていたのか、尾白くんの大きな尻尾で背を支えられながら、強烈な眠気の波に逆らえず、限界で、ぐずる様に壁にはりつく。

 

「もう眠いから寝ます!」

 

 雄英が真面目すぎて授業中に居眠りができず、先程の勝利の余韻で完全に糸が切れてしまった。

 そのまま床に転がろうとすると、ガシッと引っ張られて捕まってしまう。

 

「トガちゃんしっかり!!」

「もうちょっとだから! 頑張ろう!?」 

 

 無理です。

 赤ちゃん舐めないでください。

 

 もういいんです。今日は色々ありすぎて眠いのです。

 

 唸りながら、もう寝てやるのです! と、尾白くんの尻尾に抱き着いていやいやする。先っぽのふさふさが柔らかくて気持ち良いけど負けません! 運ばれているけどヤなものはヤなんです!

 

「ラッキースケベ野郎が……ッ!!」

「や、やめろよ!」

 

 『もぎもぎ』の子の舌打ちと共に吐き捨てられる怨嗟の声に、ビクッと大げさに顔を青ざめさせる尾白くん。

 

「うー……」

「ほ、ほら、講評の時間が始まるから! オールマイト、お願いします!」

 

 尾白くんの尻尾に浮かされて足がプラプラします。オールマイトは「あ、うん!」と、改めてポーズを決める。

 

「先程の戦いは、甲乙つけがたい素晴らしい実戦訓練だった! ベストが誰か、もう察しているだろうけどあえて言おう!! 渡我少女!! 君だよ!!」

「…………すぴぃ」

「もう少し起きていようね!? 葉隠少女、起こしてあげて!! ……さて、疑問がある人はいるかな!?」

「イイエ、オールマイト先生。この場の誰もが納得していますわ」

 

 八百万ちゃんの声と、葉隠ちゃんの揺すりと、尾白くんの尻尾ゆらゆらで、かろうじて意識を保つ。

 

「轟さんの“個性”に、いち早く反応してみせた判断力と感知力。迷いのない行動力と目の前を通過しても発見されない潜伏力。大柄な障子さんを短時間で無力化できる戦闘力と技術力。……その後の“個性”の使い方も、見事としか言いようがありませんでした」

「凄かったよな! 自分が一番強いって言えるだけの事はあるわ!」

「見ていてドキドキしたもん! プロって感じの動きだった!」

 

 すごく褒めてくれる。……良い人たちですね。

 

 嬉しいなって笑っていると、葉隠ちゃんが仮面を外そうとしてくる。……やめて? あ、取っちゃった。無表情を頑張ります。

 

「またしても正解だよ……! そして、今回の訓練は全員が己の役割を理解し、状況設定に合わせて行動できていた! 誰がMVPでもおかしくなかったぜ!!」

 

 それは確かにと、ふやけた欠伸をする。

 

「だよな! 渡我がいなかったら轟の1人勝ちだったもんな!」

「最強すぎるだろ、あの“個性”!!」

「それで? 両手に花どころか両手におっぱいの気持ちはどうだったんだ!? なあ!?」

「やめてやれって」

「峰田の奴、おいらと代われーってずっと叫んでたもんな」

「そうそ……って、いやそれはダメでしょう!?」

 

 ふあ? なんとなく尾白くんのふさふさを口に含んでいたら「―――葉隠さん!!」と、葉隠ちゃんにパスされる。……柔らかくて温かいです。尾白くん優しいなぁ。

 

「……赤ちゃんって、何でも口にいれるよな?」

「それ、年頃の娘としてどうなのよ」

「……話を戻しましょう。障子さんの索敵能力も正確でした。渡我さんが例外なだけで、他者には充分に脅威ですわ」

「……そういえばトガさん。あの時何してたの?」

 

 ふあ?

 麗日ちゃんの声に、かろうじて顔をあげると「起こしちゃってごめんね」と謝られる。

 

「障子くんを気絶させた後なんだけど、カメラから見えなくて。何してるんだろーって皆で話してたら渡我さん変身してるし! 轟くんも気づいてないしでホラーやし!!」

「……んぅ」

 

 目を擦りながら『複製腕』の子を見て、その頬に貼っている絆創膏をのろのろと指差す。

 

「……血、です」

「え?」

「……私の“個性”、発動させるには、血が必要なんです」

「ああ、それで……!」

「だから、このメスで切って舐めました」

「え?」

 

 マントの裏ポケットに手をいれて、一つ一つの先端がパックされているメスを数本取り出して見せる。

 

「な、舐めたの……?」

「? はい」

「ええと、指とかですくって」

「いえ、時間も無かったですし、直接舐めました」

「「「直接!!??」」」

 

 そんな、過剰に反応する事です?

 

「ほっぺを!? あっ、もしかしてその仮面の嘴にはそういう機能が!?」

「無いですよ。仮面は上にずらして、唇で直接舐めました」

「なんでほっぺ!? 腕とか剥き出しの部分はいっぱいあったじゃん!?」

「……“個性”が、腕と密接してそうだったので、下手に傷つけるのはダメかなって……舐めた後はちゃんと絆創膏つけましたよ?」

 

 もしかして、怒られているのかと不安になり、葉隠ちゃんの背中に隠れる。

 

 思考がぼやけて、何が悪かったのかと困ってしまう。さっきまで静かに佇んでいた『複製腕』の子が「――!!??」すごく動揺して、腕と触手が面白い事になっている。

 頬に貼った絆創膏に触れては離しと、表情はあまり動いていないけど、すごく困っています。

 

(……あ)

 

 これアレだと、遅れて気づく。そうだったとふらつきながら「トガちゃん?」葉隠ちゃんの声を背に、『複製腕』の子にぺこりと頭を下げる。

 

 

「……気持ち悪いことして、ごめんねぇ……?」

 

 

 “コレ”が、気持ち悪くておかしな事だと、忘れていた。

 

「……!?」

 

 手遅れかもしれないけど、もう一度謝ろうと顔をあげると、『複製腕』の子が大きく首を振っている。

 

『違う……! そういう事ではない……!』

『次があったら、腕を掻っ切ってくれて構わない!!』

『君は悪くない! だが、そういうのは良くない……!』

『俺の精進が足りなかった。また手合わせを願いたい……!』

 

 触手が全部口になって、慰めてくれる。

 驚いて、気持ち悪い事しちゃったのに、そんな風に言ってくれるんだ。

 

「……ありがとうございます!」

 

 うれしいと、衝動のまま四本の触手をまとめてぎゅっとすると『『『――――ッッ!!??』』』お口から面白い音がでてくる。……仕様ですか?

 

「……渡我、手加減してやってくれ……男ってのは、色々あるんだよ……っ」

「矜持というものがある。……これ以上は酷だ」

「チィッ!! 片頬チュー童貞をよぉ、寝ている間に奪われた気持ちはどうなんだよ!? しかも今めっちゃ柔らかいんだろぉ!!??」

「やめてやれって」

 

 スパン! と『もぎもぎ』の子が叩かれている。

 

 よく分からないけど、講評って優しいんですね。……麗日ちゃん達のも見たかったです。寝ていたのが惜しくなる。

 

「葉隠少女も、ナイスガッツだったぜ!!」

「わわ、ありがとうございます!!」

 

 葉隠ちゃんが、オールマイトに褒められて喜色満面になる。

 

「確かに、轟も気づいていなかったしな!」

「だけど、轟もよく止まったよな……!」

「感じていたんだぜオイラは! 寒さに震える透明おっぱいが、お前の後頭部をパフパフしたことをよぉ……!!」

「だから、やめてやれって」

 

 安心して床で寝ようとすると、麗日ちゃんの“個性”で無重力になっていた。麗日ちゃんと葉隠ちゃんに手を握られる。

 

「尾白も目立たなかっただけで、色々と活躍してたよな!」

「身体を張って2人を助けた様なもんだしな!! 男だぜ!!」

「なあ、生乳の感触はどうだったんだ!? 本日ラッキースケベ全世界ナンバーワン野郎がよぉ!!!!」

「お前、いい加減にしろよ? ……でも、さりげなく美味しい立ち位置だったよな」

 

 麗日ちゃんに「もうちょっと頑張ろうね?」って、撫でられる。……それ逆効果のやつですけど、気持ち良いから頷きます。

 少し上の方から彼らを見下ろせば、尾白くんと『複製腕』の子が、顔を覆ったまま膝から崩れ落ちています。……何かありました?

 

「ふぁ……」

 

 だめです、ねむいです。

 

 何も考えられないと、地上にいながら宙にいる感覚が、ゆりかごに揺らされている様で、もう瞼を開けていられない。

 

 

「……渡我少女は限界の様だね。それでは、次の戦闘訓練に入ろうか!!」

 

 

 その声を最後に、少しだけだと意識を手放す。……その際に、微かに興味を引いたのは、

 

「――――」

 

 ずっと無言だった『爆破』の子。

 

 誰かが、特に私が褒められる度に、強く拳を握りしめる意味が、分からないから気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……?

 

 あたたかくて、やわらかくて、きもちがいい。

 

「……ぁ」

 

 狩人の夢に誘われる寸前で、ふっと目を覚ます。

 夢の()が、何か言っていたけど無視です。反射で唸れば「あ、起きたんだ」柔らかい感触が髪を撫でる。

 

「……?」

「おはよう、トガちゃん!」

 

 カァイイ笑顔が、私を見ている。……どうやら私は、葉隠ちゃんに抱きつく様に眠っていたらしい。

 

「……おはよう、ございます?」

 

 どうして? 分からなくてきょろきょろすると、ここは教室だ。

 皆がいて、わいわいと積極的に何かを語り合っている様に見える。

 

「……ぁ」

 

 着ていた狩装束も制服になっていて、状況を早々に理解してぽそりと呟く。

 

「……残りの戦闘訓練、見逃しちゃいましたね」

 

 少しだけ勿体ない気持ちになると、葉隠ちゃんがおかしそうに笑う。

 

「お! 起きたんだな渡我! さっきまで緑谷もいたんだけどよぉ、帰っちまった!」

 

 赤……いえ、黒い髪の『硬化』の男の子が、元気に声をかけてくれる。

 

「俺ぁ切島鋭児郎、今皆で訓練の反省会してたんだ!」

「……ふぁい、トガです。トガヒミコです」

 

 返事をしながら、とても眠くて、もそもそと葉隠ちゃんの首に抱きつく。……あったかいのです。

 

「……あー、トガには見えてるから実感ないだろうけど、葉隠は透明だからな? そういう油断しきった顔はこっちから見えてるんだぞ? ……ほら、飴やるから」

 

 苦笑しながら『テープ』の子が、飴をくれる。やさしいです。

 

 舐めようとして、上手に包装を破れなかったら、葉隠ちゃんが「はい」って食べさせてくれる。……世界の『優しい』だけが詰め込まれている様な夢心地の味がして、コロコロと転がす。

 

「トガさん、相当にお疲れのご様子ですわね」

「……まあ、実際に凄かったからね。今日も麗日の家?」

「うん。あんな事故物件に、トガさんは帰さない……!」

 

 麗日ちゃんにもぎゅっとされて、血が欲しくて、歯がカチカチ鳴ってしまう。

 

「? むずがってるのかな」

「うん。朝もこんな感じだったよ」

 

 せっかくの飴も割れてしまい、むにむに頬を動かして欠片を飲みくだす。

 

 

「…………ふぁ」

 

 

 にぎやかです。

 

「……なんだよアレ天国かよ? おいらも女子に挟まれてあやされたいっていうか混ざりたい!!!!」

「だめだぞ」

 

 それが嬉しくて、

 

「峰田ちゃん。ヒミコちゃんの半径一メートル以内に近づかないで」

「保護者ばっかかよぉ!!」

 

 楽しくて、ウキウキして、

 

「やっぱり、寝起きはダメっぽいね」

「……難儀な体質だな」

 

 終わってしまうのが怖くなる。

 

「あ、また寝ちゃった感じ……?」

「んじゃ、声をおさえるか!」

 

 そんな夢を、

 

「なんか、トガってすっげー強いのに、赤ちゃんみたいだよな」

「……放っておけないわ」

 

 見ているんです。

 

「それにしても、トガくんはどこであんな技術を……」

「ねー! まともにやりあって勝てる気がしないのに、可愛い寝顔しちゃって」

 

 少しだけ、

 

「動きが洗練されていたね!!☆」

「……あそこまで高度な技術を、ああもたやすく実践できるとは、只者ではない。……仮面の趣味も良いしな」

 

 目覚めたくないなぁって、

 

「飴、もうちょっと持っとけば良かったな」

「近所の兄ちゃんかよ」

 

 そんな夢を。

 

「トガさん、不思議な子だよね」

「うん! でも、すっごく優しいよね」

 

 

 目覚めるまでは、見ていたい。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 委員長と警報です

 

 

 今日も、麗日ちゃんと一緒に登校しています。

 

 何故でしょう? 昨日の反省会の終わりに誘われて、連日は申し訳ないってちゃんとお断りしたのに、気がついたら麗日ちゃんと夕飯を食べていました。

 いっぱい困惑しながらも、そのつど眠気に負けてしまい、流されるがまま一緒にお風呂に入り、髪を乾かして貰い、うとうとしていたらお布団の中に誘われぬくぬく抱きしめられていました。

 

(……麗日ちゃん、羞恥心とかないんでしょうか?)

 

 すごく心配になる。

 

 出会ったばかりの人と一緒にお風呂かつ同衾が平気なんて……年頃の女の子として致命的なものが欠けていると思う。

 

(私が、守ってあげないとですね……!)

 

 カァイイ麗日ちゃんの笑顔が曇るのはヤですし、恩返しをするのは当然の事です。

 

「麗日ちゃん、何かあったら私に電話して下さいね!」

「え? それは私の台詞だけど……」

「絶対ですよ!」

「……うん、分かった! ありがとうねトガさん!」

 

 にこっと頷いてくれる麗日ちゃんに満足して、早速今日から麗日ちゃんを守る事にする。

 電車で揺られながら、麗日ちゃんが潰されない様に庇い、電車を降りて駅を出ても手を離さない。昨日より少しだけ近くを歩く事にする。「……うん!」と、そうしていたら、麗日ちゃんに「トガさん!」と声をかけられる。

 

「ふぁい?」

「改まって言うのも、恥ずかしいんやけど……!」

「?」

 

 気合をいれるように、赤い顔でまっすぐに私を見る。

 

「被身子ちゃん! ……って、呼んでも良い?」

 

 へ?

 

「……えぅ? っと?」

 

 変な声がでてしまう。

 

 そんな私に、麗日ちゃんは「被身子ちゃんって、呼びたいんだ」照れながらまっすぐ好意を伝えてくれるから、全身に纏っていた眠気が一時的に遠ざかっていく。

 

「……あ」

 

 手を繋いでいなければ、指と指をあわせていそうなもじもじ具合に鼓動が跳ねて、考えるよりも先にコクコクと頷いている。

 

「わっ!! やったあ!! じゃあさ、私の事も下の名前で呼んで欲しいな!」

 

 そんなに喜んでくれるんだって、思っていた矢先の不意打ちに、痺れる舌を無理に動かす。

 

「……っ。お、お茶子……ちゃん!」

「うん!」

 

 にこー! っていうか、ぺかー! って笑顔。

 眩しすぎて、ドギマギしすぎて歯がカチカチする。

 

 お茶子ちゃんのコミュ力レベル、高すぎます……!!

 

 あまりにもカァイイオーラがすごくて、敗北の悲鳴が情けなく漏れる。 

 

「えへへ! これからもよろしくね! 被身子ちゃん!」

「……っ、はい」

 

 お茶子ちゃん最強なんです?

 

 予想外の衝撃と展開に、片手でとにかく必死に顔を隠す。

 

 嬉しいけど、ダメです! 笑っちゃダメです! 笑うのはダメです笑ったらダメなんですっ! 怖いし悪魔だし不気味だしで、我慢です私! ぐぐっと表情筋を抑え込む。

 

「……可愛いのに」

「へ?」

「……なんでもないよ!」

 

 お茶子ちゃんは、繋いだ手を誤魔化す様に揺らす。

 

(カァイイなぁ!!)

 

 悩殺されながら、大好きってお茶子ちゃんを見つめて、カチカチ止まらない歯の音に「……あ」少しだけ、冷静になってしまう。

 

(……お茶子ちゃんは、本当にカァイイなぁ)

 

 でも、あんまり好きになりたくないな。

 

 疼く犬歯に眉を寄せて、口元を覆いながら目を伏せる。

 上機嫌なお茶子ちゃんに気づかれない様に、ぷつっと舌を噛んだ。

 

 

「あ! 見て、被身子ちゃん。今日もたくさんいるよ!」

「……んっ、本当ですね」

 

 

 顰めていた顔をあげると、雄英高校の門前にはたくさんの人がいる。

 

 オールマイトの就任が全国を驚かせて、連日マスコミが押し寄せる騒ぎになっている、だそうですが。あの人たち邪魔だなぁ。……飽きないんですかね?

 

「……うーん。被身子ちゃん、昨日のまたお願いしても良い?」

「はい、大丈夫ですよ」

 

 お茶子ちゃんのお願いに快く頷いて、繋いでいた手を離して、お茶子ちゃんの腰に手を回す。

 そのまま、お茶子ちゃんを抱き寄せながら門前までまっすぐに進んでいく。

 

 

「あ! “平和の象徴”が教壇に立っているということで、様子など聞かせて――――あれ?」

 

 

 マイクを持つお姉さんの視界から消える様に、纏わりつこうとしてくる大人達を躱していく。存在を消せないお茶子ちゃんをあえて囮にして、スイスイっと。邪魔な人達の波を通り抜けて、門の中に入る。

 

「うひゃあ! 昨日も思ったけど、被身子ちゃん凄いなぁ。力持ちやし、背中に目がついてるみたいやん!」

 

 お茶子ちゃんは、楽しそうに目をキラキラさせている。カァイイ。

 脳に瞳がありますね、とは言わずに「そうですかね」と謙遜してみる。

 

「あと、昨日も聞いたけど……重くなかった?」

「昨日も言いましたけど、軽いですよ」

 

 後ろのうるさい人たちの声を無視して、お茶子ちゃんを地面に降ろす。

 本心からそう言えば、お茶子ちゃんは嬉しそうにしている。

 

 ええ……ローゲリウスの車輪とかいう、頭がおかしい武器も扱える私としては、お茶子ちゃんを五人抱えても今の動きができる自信があります。

 

「……でもなぁ、昨日はお昼を食べ過ぎちゃったし……夕食も、食事代を半分出して貰えて、贅沢しちゃったし」

「お茶子ちゃんってば」

 

 笑顔が一転して不安になるのがカァイイと、ぽふぽふとその肩を叩いて宥めてあげる。

 

「お茶子ちゃんは、羽みたいに軽いですよ」

「は、羽?」

「はい。なんなら、教室まで抱っこしていきましょうか?」

 

 ね? って、戸惑うお茶子ちゃんの手を握って、からかう様にその頬に手を伸ばそうとして、ふわ……っと欠伸が漏れてしまう。

 

(……私が格好をつけるのは、一生無理ですね)

 

 ちょっとだけ、お茶子ちゃんの慌てる顔が見たかったけど、早々に諦めて止まらない欠伸を繰り返しながら教室に向かう。

 

「……被身子ちゃんって」

「? ふあぁ」

「……ギャップがずるいね」

 

 はい? ぎゅーっと手を握られて、首を傾げるも答えは返ってこなかった。

 

 よく分からなかったけど、教室に入れば席が違うので、手を振って早々に別れてしまう。

 そのまま自分の席にむかうと「おはようございます」と前に座る八百万ちゃんに挨拶される。

 

「おはようです……」

 

 挨拶して、いつもの様に寝ようとしたら……思いついてしまう。

 

(……んー)

 

 ちょっとだけ。

 せっかくだしと。

 

「ねえ」

 

 八百万ちゃんの背中を、ちょんちょんっと指でつく。

 

「はい?」

 

 振り向く八百万ちゃんに、少し間をあけながら口を開く。

 

「あのですね。……良かったらで、いいんですけど」

「何でしょうか? 遠慮なく仰ってください」

 

 微笑み、胸に手を当てる誠実さにホッとして、素直に口に出す。

 

「八百万ちゃんのこと『百ちゃん』って、呼んでもいいですか?」

 

 ピタ、っと。

 

「――――」

 

 笑顔のまま動きを止めてしまう八百万ちゃん。

 

 数秒ほど流れる沈黙に「あ……」出会って数日で、馴れ馴れしすぎたとやっと気づいて「や、やっぱりいいです!」と、机に逃げる様に突っ伏す。

 

「あ! 渡我さん!? 違うんです!」

 

 遅れて声がかけられるが、立ち直れそうにない。

 

「……いいんです。忘れてください」

「いいえ! 忘れませんし、誤解を与えてしまった事を正式に謝罪しますわ! 予想外で、不意打ちが過ぎただけなんです!」

 

 どういう意味ですか……!?

 流石に何かが酷いのではないかと、拗ねながら顔をあげると、八百万ちゃんに手を握られる。

 

「どうぞ、私の事は百とお呼び下さい」

「……じゃあ、百ちゃんも……私を下の名前で呼んで下さい。じゃないとヤです」

「……はい。よろこんで、被身子さん」

 

 滲む様に微笑む八百万ちゃんに、ようやく安堵する。

 

 そこで、自分のおかしな積極性に気づいて、軽く戸惑いながら「……もういいです」再度机に突っ伏す。

 きっと、全部お茶子ちゃんのせいだと、変な事をした自分を悔いながら目を閉じる。

 

「……」

 

 だけど、いつもより少しだけ寝付けないと腕の位置をかえて、もぞもぞ定位置を探していると、頭を撫でられる。

 

(……!)

 

 百ちゃんの手だと気づいて、身体から力が抜けていく。

 

(……私の方が、お姉ちゃんなのに)

 

 照れが混じった不満は、けれど纏わりつく眠気にあっさりと溶けてしまう。

 

 その撫で方が、少しだけ慣れていない感じで、カァイイと思った。

 

 

 

 

 

「渡我を起こせ」

「はい! 被身子さん、HRがはじまりますわ! 起きて下さい!」

「んむ!?」

 

 気づいたらHRがはじまっています。

 

 ずっと頭を撫でてくれた感触があるから、少し名残惜しい気持ちで百ちゃんにお礼を言えば、微笑んで頷いてくれる。

 相澤先生は厳しいから、下手に怒られて宿題とか課されたくないと、頑張って起きてますアピールをする。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」

「!!」

「爆豪、おまえもうガキみてぇなマネするな。能力あるんだから」

「……わかってる」

 

 なんか、空気が重いですね。

 

「で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か」

 

 え? 緑谷くん、また怪我してたんです? ……ああ、だから講評の時もいなかったんですね。

 

「“個性”の制御……いつまでも『出来ないから仕方ない』は通させねぇぞ。俺は同じ事を言うのが嫌いだ。()()さえクリアすれば、やれることは多い。焦れよ緑谷」

「っはい!」

 

 ……ねむいです。

 

「さてHRの本題だ……急で悪いが今日は君らに……」

 

 そういえば、アパートの四隅のお塩。もう黒ずんでそうですね。

 

「学級委員長を決めてもらう」

「「「「学校っぽいの来たー!!!!」」」」

 

 今日こそかえ…………びっっっくりしました。

 ドキドキしていると、皆が凄く盛り上がっている。

 

「委員長!! やりたいですソレ俺!!」

「ウチもやりたいス」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30㎝!!」

「ボクの為にあるヤツ☆」

「リーダー!! やるやるー!!」

 

 その狂騒を、物理的に机も離して見守ります。

 

 口を開かないだけで、物静かに手をあげている面々というか、私以外の全員がやりたがっている光景に、心の距離が開いていきます。『爆破』の子すら、やらせろ! って感じに手をあげています。……こわい。

 

「静粛にしたまえ!! “多”をけん引する責任重大な仕事だぞ……! 『やりたい者』がなれるモノではないだろう!!」

 

 飯田くん……!

 

「周囲からの信頼あってこそ勤まる聖務……! 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき事案!!!!」

 

 挙手したまま言っても、説得力皆無です……!

 

「そびえ立ってんじゃねーか!! 何故発案した!!」

「日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

 

 それな、ですよ。

 

「だからこそ、ここで複数票を獲った者こそが真にふさわしい人間という事にならないか!? どうでしょうか先生!!」

「時間内に決まりゃ何でも良いよ」

 

 あ、先生寝ます? じゃあ私も寝ます。……百ちゃんにいれとこ。

 もそもそと寝の姿勢にはいりながら、耳に入る喧騒を子守歌に目を閉じる、

 

 委員長とか、寝る時間が減っちゃうだけですと、我関せずにすやぁする。

 

 まあ、十分ぐらいですぐ起こされちゃいますけど、緑谷くんと百ちゃんが同票で、じゃんけんして百ちゃんは副委員長になったらしいです。

 

 

「まあ! では、被身子さんが私に入れてくださったのですね!」

「はい。百ちゃんなら、良いなぁって思ったので」

 

 お昼になり、改めて詳細を聞きながら、お昼ご飯の和食を食べる。

 ちょいちょいと焼き魚をほぐしながら頷けば、百ちゃんが大げさに感動している。

 

 ……ランチラッシュが、最終的に白米に落ち着くっていうから、白米だけを食べていると、クラスメイト達から無言でおかずを増やされていくという謎のシステムがあるので、最初からおすすめを聞いておくのが平和です。

 

「なになに!? いつの間にか2人ってばすごく仲良しだね! 名前で呼び合っちゃってさ~!!」

「そんな……! すでに親友だなんて……!」

「言ってないんだよなー!!」

 

 謙遜しながら満更でも無い百ちゃんと、乗っかってあげる葉隠ちゃん。カァイイなぁ。

 

「朝、すっごい可愛い事してたからねー。葉隠は見逃しちゃったかー」

「えっ、何それ知らない! 後で教えて!」

「私も知りたいわ」

 

 今度は芦戸ちゃんと梅雨ちゃんも加わって、楽しそうにきゃっきゃっしてる。

 

「……渡我って、やっぱり手先が器用なんだね」

「? そうです」

「うわ、魚の骨、すごい綺麗にとれてる!」

「偉いわ」

 

 耳郎ちゃんの感心した声と、驚く葉隠ちゃんと、褒めてくれる梅雨ちゃん。そういうものかと首を傾げながら、賑やかな昼食は楽しいです。

 お茶子ちゃん以外のA組女子が集まっていて、私の左右隣に耳郎ちゃんと葉隠ちゃん。迎いの席に百ちゃんと芦戸ちゃんと梅雨ちゃんが座っている。

 

 カァイイなぁって思いながら咀嚼していると「……んむ?」ふと、何らかの“前兆”を感じて、箸を置きながら姿勢を正す。

 

「トガちゃん?」

 

 どうしたの、と続くだろう声は爆音、というよりは激しく鳴り響く警報に掻き消える。皆がギョッとして腰を浮かし、構えていた私も音量にびっくりした。 

 

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』

 

 

 あらら。

 

「セキュリティ3!? 誰か知ってる!?」

「いいえ……しかし!」

「わ、わわわわっ!?」

「これ、まずくない、ウチらの位置って、入り口に近い……!!」

 

 食事中ですが、緊急事態ですしと席を立って、そっと手を合わせる。

 

「百ちゃん、芦戸ちゃん、梅雨ちゃん」

「はい!」

「えっ、どうした!?」

「ヒミコちゃん?」

「……そっち、頑張って下さいね」

 

 流石に手が足りないので、とお茶子ちゃんみたいに謝っておく。

 

 そして、耳郎ちゃんと「え!?」葉隠ちゃん「わわ!?」の腰に手を回してひょいっと抱き上げる。そのまま、ドッと出口を求めてパニック状態になる生徒達の群れを、スルスルと避けていく。

 

「まあ!」

「えっ、ずるい! っていうか、すごっ!!」

「……2人も抱えて、あんなに動けるなんてすごいわ」

 

 むむ? 不規則な人間の波を躱すのは、ちょっと難しいですね

 

 決して逆らわず、しかして流されず、巻き込まれるのだけは避けて、行儀が悪いので机の上には乗らずに、くるくると落ち着ける場所を探していく。

 

「うわ、ちょ、渡我、急すぎるって……!!」

「ごめんねぇ」

「重くない!? 昨日の訓練の時もだけど、腕とか大丈夫!?」

「大丈夫ですよ」

 

 少し楽しくなりながら、驚いている耳郎ちゃんと、慌てている葉隠ちゃんを両腕で支えたまま、お茶子ちゃんに言った時より気持ちを込めて言ってみる。

 

「羽みたいに、軽いです」

 

 あ、窓際の無人地帯発見です。

 

「ここなら安心ですね。百ちゃん達、大丈夫だといいんですけど、人混みが凄すぎますね」

 

 いざとなれば、窓をぶち破れば良いやと、2人を降ろす。

 耳郎ちゃん達を見れば、耳郎ちゃんは首ごと顔を逸らして胸をおさえている。葉隠ちゃんは両手で顔を覆っている。

 

「……渡我」

「はい?」

「あんた、顔と発言には気をつけた方が良いよ」

 

 え? 突然のダメだし……?

 

「トガちゃん……私もそういうのダメだと思う!」

 

 葉隠ちゃんまで……!?

 

 動揺して、考えて、もしかして『羽みたいに軽い』って、女の子にはダメな発言だったんです? と焦るも、私は言われたら嬉しいです。女の子なので、そこは間違っていない筈です。

 

「渡我はさ、日常と非常時の差異が激しすぎるんだよ」

「……うんうん!」

「いつ見ても寝てるのに、さらっとこういう事するのがさ」

「……ちゃんと考えて!」

 

 そ、そこまでの事なんです……?

 

(難しいです……!)

 

 悲しくなって、答えの分からない疑問に溺れていると、飯田くんが急に非常口マークみたいになって「大丈ー夫!!」と大きな声を出している。

 

 ……もしかして、ああすれば良かったんです?

 

 試しに尋ねてみたら、2人から何とも言えない顔で首を振られたので、もう考えるのをやめました。

 

 近くのテーブルでふて寝します。

 背中を撫でて謝ってくる2人なんて無視します。

 

「渡我、ありがとうね。すごく助かった」

「私の“個性”こういう時はすっごく危ないから、本当にありがとね!」

 

 ……ふん、です。

 

 そして、次に目が覚めたら教室で、自分の席にいました。

 その後はなんやかんやと、クラス委員長は飯田くんに決まりました。

 

 どうでもよかったし、すっかり拗ねてしまった私はそのまま更に眠って、起きたら相澤先生に宿題を増やされていました。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話 救助訓練です

 

 

 あの警報の後から、雄英の空気にスパイスがかかりました。

 

 ピリッと、侵入してきたマスコミに向けるには効きすぎている雑味に、何かしらあったのではと察するも、興味は数秒だって維持できない。

 ふありと欠伸して、一生徒の自分には関係ないと、浮かんだ疑問すらすぐに忘却した。

 

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった」

 

 それを、相澤先生の言葉と共に思い出して、目を細める。

 

(……ヤですねぇ)

 

 静かに顔を伏せて、表情を隠しながら指を噛む。

 

「ハーイ! なにするんですか!?」

「災害水難なんでもござれ、人命救助訓練だ!!」

 

 虫の知らせ、の様なものを感じます。

 

「レスキュー……今回も大変そうだな」

「ねー!」

「バカおめーこれこそヒーローの本分だぜ!? 鳴るぜ!! 腕が!!」

「水難なら私の独壇場。ケロケロ」

 

 匂いたつ、無視できない予感に脳がざらついている。

 

「おい、まだ途中」

 

 無数に散らばった点と点が結ばれる前から、あるいは結ばれる前にと伝えてくるナニカ。

 

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな」

 

 まあ……

 

 カリッと、指につけた歯形から血が流れ、溜息を零す。

 そんな予感があってもなくても、授業を避ける訳にいかない。

 

「訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗っていく。以上、準備開始」

 

 指の傷は、予感ごと無かった事にする。

 狩人の勘がどう疼いたところで、結局それは『嫌な予感』程度でしかないと鼻を鳴らす。

 

 精度がどれほど高かろうとも、引き返す選択肢が無い以上、気にしすぎて良い事は無い。

 

(……現実で感じるのは、初めてですが)

 

 夢とどう違うのか、少し興味もある。

 

 戦闘服に着替える準備をしながら、念入りに道具の確認だけはしておく。……こういう予感の嫌なところは、完全に無視すると()()()()痛い目にあう事だ。すでに懲りているので、そこだけはちゃんとする。

 

(……今度、仕込み杖も申請した方が良いですね)

 

 着替えながら、そんな事を考える。

 腰に下げている慈悲の刃は、抜く時に許可が必要になる。授業の度にそれは面倒だと、立ち止まって考えていたら、葉隠ちゃんに寝ていると勘違いされて、優しく手を引かれながら思う。

 

(でも、仕込み杖なら、仕掛けを発動するまで大丈夫そうです)

 

 気は進みませんが、狩人の夢から持ってこようと決めて、何やら張り切っている葉隠ちゃんを(カァイイなぁ)と、見つめる。

 

「バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に二列で並ぼう!!」

「飯田くんフルスロットル……!」

 

 その指示に頷いて、バスに乗り込もうとすると「……残念! トガちゃんの隣が良かったのに」って、耳元でこっそり囁かれて、カァイイがこみ上げて仮面の下で笑ってしまう。そしたら「今、笑ったよね!」と、仮面を取られてしまう。

 

「……!?」

 

 葉隠ちゃんは『透明化』であって『透視』じゃないですよね? ちょっとヒヤっとしました。

 

「こういうタイプだったくそう!!!!」

「イミなかったなー」

 

 先程の事にドキドキしながら後ろの席を確保しつつ、葉隠ちゃんは項垂れる飯田くんを気にしながらも「やったね!」と、私の隣で笑っている。……その姿に唇がむずむずするし、カチカチします。

 

(……今日の葉隠ちゃん、カァイイが過ぎません?)

 

 少し、いいえ、かなり心配になってしまう。

 

 彼女の“個性”が『透明化』なのは、もしかしたらこの可愛さが仇となり、悪意ある他人から身を守る為のものかもしれないと、そんな妄想まがいな事まで考えてしまう。

 

 それぐらい、狩人のコートで萌え袖する葉隠ちゃんはカァイイ。

 

 葉隠ちゃんも私が守らないと……! そう心に決めながら、葉隠ちゃんの柔らかいお膝を借りる。

 

「私思った事を何でも言っちゃうの、緑谷ちゃん」

「あ!? ハイ!? 蛙吹さん!!」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 頭を撫でて貰い、気持ち良くうとうとしていると梅雨ちゃんの声が聞こえてくる。

 

「あなたの“個性”オールマイトに似てる」

 

 ん。

 

「そそそそそうかな!? いやでも僕はそのえー」

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトはケガしねぇぞ。似て非なるアレだぜ」

 

 ……眠いのに、気になってしまう。……考えてみたら、不思議ですよね。

 

 緑谷くんとオールマイトの“個性”の名前、どうして同じなんでしょう?

 

(あと、オールマイトの“個性”がたまに文字化けしてるの、気持ち悪いです)

 

 何が起こっているのかと、少しの興味が首をもたげて。

 

「…………」

 

 まあ、そういう事もありますよね……と、すぐに思考が霧散していく。

 

 脳に宿る瞳が、またナニカ予感めいたものを知らせてきますが、知りません。貴重な至福タイムを邪魔しないで下さい。

 

「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな」

「ケッ」

「爆豪ちゃんは、キレてばっかだから人気出なさそ」

「んだとコラ出すわ!!」

 

 ……うるさいです。

 

「この付き合いの浅さで既に、クソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

 

 ああ、下水道の巨大豚みたいな人って事です? 

 

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

 

 ……いえ。流石に今のはダメですね。比較対象が酷すぎたので、爆豪くんには後で優しくしましょう。

 

「人気なら、渡我とかはけっこう出ると思うよ。ギャップ萌えとかで」

「分かる! 子猫だと思ったら急にライオンになるの、すっごくずるいって思ったもん!」

 

 耳郎ちゃん……?

 そして葉隠ちゃんも何言ってるですか? 私ってまさかの捕食者だと思われてます?

 

「お! アレだよな! 警報の時に一度もつっかえずに女子2人抱えたまま脱出って、何をどうやったらできるんだ!?」

「……ふむ。トガくんは何か、特殊な訓練を受けている可能性があるな」

 

 ないです。

 

 おかしな誤解に戸惑っている間にも、ワイワイと会話は続いていく。

 

「もう着くぞ、いい加減にしとけよ……」

「「「ハイ!!」」」

 

 ……もう、ついちゃったんです?

 

 結局一睡もできていません。せめて五分だけはと葉隠ちゃんのお膝に縋りついたら、お茶子ちゃんの“個性”で運ばれてしまう。……厳しいです。

 

「すっげー!! USJかよ!!??」 

 

 そんな声に、しかし目が重くて開けられない。

 

「水難事故、土砂災害、火事……etc.」

 

 誰です、この声? 

 

「あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も……(U)ソの(S)害や事故(J)ルーム!!」

 

 いや名前ギリギリじゃありません……!?

 びっくりして、目があいちゃいました。

 

「スペースヒーロー『13号』だ! 災害救助でめざましい活躍をしている紳士的ヒーロー!」

「わー私好きなの13号!」

「……!」

 

 お茶子ちゃんが、好きなヒーローさん。

 

 興味がわいて、目をしぱしぱさせながら、宇宙服にしかみえない戦闘服を着た13号先生を見る。

 

(……『ブラックホール』ですか。……やっぱり“個性”って怖いですね)

 

 なんとなく、葉隠ちゃんの前に立つと、不思議そうな顔をされる。

 先生同士の話が終わったらしい13号先生が「えー始まる前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」と数えだすので、寝そうになってしまう。

 

「皆さんご存知だとは思いますが。僕の“個性”は“ブラックホール”。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「その“個性”でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

「ええ……」

 

 嬉しそうに頷くお茶子ちゃん、カァイイ。

 

「しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう“個性”がいるでしょう」

 

 ? 人を殺すのに、“個性”って関係なくないです?

 

「超人社会は“個性”の使用を資格制にし厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないで下さい」

 

 あ、そういう意味ですか。

 なるほどです。

 

「相澤先生の体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り。オールマイトの対人戦闘で、それを人に向ける危うさを体験したかと思います」

 

 ……。え? 私ってどっちの授業でもそれらを学んでいませんね?

 

「この授業では……心機一転! 人命の為に“個性”をどう活用するかを学んでいきましょう」

 

 そ、そうです! 普通のヒーローとして、ここからですよね!

 

「君たちの力は、人を傷つける為にあるのではない」

 

 少しの焦りを感じながらも、

 

「救ける為にあるのだと、心得て帰って下さいな」

 

 その台詞に、少しだけ息が止まる。

 

 救ける、という言葉と、他者の血を欲する“個性”に。少しだけ、胸のあたりが疼いた気がする。

 

「以上! ご清聴ありがとうございました」

「ステキー!」

「ブラボー!! ブラーボー!!」

 

 ザリ、としたそれが、快か不快かすら、分からないまま、

 

 

「そんじゃあ、まずは…………渡我?」

 

 

 予感がする。腰に下げた得物の柄を握って、相澤先生の更に先、噴水のある広場を見つめる。

 

 虫の知らせが、形をもってソコに在る。

 

 

「一かたまりになって動くな!!」

 

 

 相澤先生の声に、指先で鞘を引っ掻く。……そうですね、まだ許可もとっていないのでした。

 まるで、悪夢から這い出てきた様に、黒い霧の中から現れる彼らを、瞳にうつす。

 

「13号!! 生徒を守れッ」

 

 数、多いですね。

 

「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

「動くなあれは、敵だ!!!!」

 

 瞬間、皆の視線が強く広場に集中したので、気配を消してしまう。

 

「13号に……イレイザーヘッドですか……先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが……」

「やはり、先日のはクソ共の仕業だったか」

 

 葉隠ちゃんが胸に抱く仮面を、そっと返して貰う。ハッとした葉隠ちゃんが不安そうに私を探しますが、ごめんねぇ……今、ちょっと忙しいんです。

 

「どこだよ……せっかくこんなに、大衆引きつれてきたのにさ……」

 

 仮面を被り、笑う。

 

「オールマイト……」

 

 とても久しぶりな怖気。5年ぶりに感じる背筋が凍りそうな悪寒。

 

「平和の象徴……」

 

 まるで知己の友にあったかの様に、胸が高鳴ります。なんて濃密な狂気と憎悪でしょう!

 

 

「いないなんて……」

 

 

 はじめまして、初対面な気がしない手の人!

 

 

「子供を殺せば来るのかな?」

 

 

 貴方、とっても素敵ですね! 気が合いそうなのに、お友達になれないのが残念です!

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話 手の人と敵連合です

 

 

 赤い月の夜を思い出す。

 

 私は、この場の誰よりも理解している。

 

 

「敵ン!? バカだろ!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

「先生、侵入者用センサーは!」

「もちろんありますが……!」

 

 アレは狂った獣です。アレは、すでに手遅れです。

 

「現れたのはここだけか、学校全体か……何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうこと出来る“個性”がいるってことだな」

 

 手の人を見つめながら、轟くんの話にその周辺を見るけど、そんな“個性”の人は見つからない。

 

「校舎と離れた隔離空間。そこに少人数が入る時間割……バカだが、アホじゃねぇ。これは、何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」

 

 その評価に、少し嬉しくなる。

 

 手の人からは、傷んで、腐って、崩れて、蛆が沸いた、虫の苗床の様な、悪夢で幾度も嗅いだ、懐かしくも不潔で不快な、魂の香りがする。

 

「13号避難開始! 学校に電話試せ! センサーの対策も頭にある敵だ、電波系の“個性”が妨害している可能性もある。上鳴おまえも“個性”で連絡試せ」

「っス!」

 

 そうでなくては、面白くないです。

 

「先生は!? 一人で戦うんですか!? あの数じゃいくら”個性”を消すっていっても!!」

 

 仮面の下で楽しく笑って、相澤先生の隣に移動する。

 緑谷くんの声を背中に、親しみを抱きながら手の人を見下ろす。

 

 貴方は、きっと今の内に、潰しておいた方が良いのでしょう。

 

(だから、ごめんね?)

 

 先生と共に降りたら、まっさきに息の根を止めようと、真摯な気持ちで嘴の仮面を被りなおす。

 

(貴方に、名誉ある死を約束しましょう)

 

 祈りを胸に目を閉じて、誓う様に手をあてる。

 

 階下の敵の多さに、多少の苦手意識はありますが……すぐに逃げれば良いと「……トガちゃん、どこ?」……葉隠ちゃん?

 

 私を小声で呼んで、きょろきょろと探している、必死な表情の葉隠ちゃんが瞳にうつる。

 

「…………ぅ」

 

 え、っと。

 

 どう考えても、手の人は、今の内に狩っておいた方が良い。

 

(……でも)

 

 不安そうに、私を心配する葉隠ちゃんは……もうちょっとで、泣きそうで……。

 

「13号! 任せたぞ」

 

 あ。

 バッと、気づいたら相澤先生は階段を飛び降りていた。あ、ああ……行っちゃいました。…………。

 

(ダメダメです……)

 

 がっくりと肩を落とす。

 バカです。私はどうしようもない大バカです。

 

 “善”の私は、どうにも流されやすいというか、優柔不断が過ぎる。

 下に交ざり、殺すと決めた時点で、葉隠ちゃんの事は無視すべきだった。……どうして、躊躇してしまったのか。

 

(……分かりませんよ、そんなの)

 

 苛立ちを溜息で誤魔化し、気配を消したまま、皆を誘導している13号先生の背後に立つ。

 

「先生」

「……!?」

 

 ギョッとする13号先生に「シー」っと「私です、渡我です」こそこそ囁く。

 

「……静かに聞いて下さい。目立たれると、流石に見つかっちゃいます」

「……!」

 

 緑谷くんが、足を止めて相澤先生の分析をしているのを見ながら、目を細める。

 

「あの黒いモヤモヤの人、個性が“ワープゲート”みたいです」

「ッ!?」

 

 流石はプロですね。「つまり、こっちに来ます」そう言う前に、すでに同じ結論に達していたのか、緊張しながら周りを警戒している。

 

「……13号先生、私が隙をつくるので、その際にモヤモヤの人の無力化をお願いします」

「……ッ」

「そんなのがいたんじゃ、逃げられないの、分かるでしょう?」

 

 そう締めくくり、そのまま13号先生の後ろを離れる。

 

 その際に、葉隠ちゃんの隣を通り過ぎて、その表情に心臓がチクチクしてしまう。

 もう、こうなったらステルスで素早く避難して、葉隠ちゃんにいっぱい謝るのが良いんです。少し離れた場所で、自分に言い聞かせる様に身を潜める。

 

 そして、一生徒がでしゃばれるのは、きっとここまでです。

 

(普通も、ヒーローも、本当に面倒です……!)

 

 出来るのにやってはいけない、というのが窮屈すぎる。

 

 それでも、それを我慢できるか、できないかが、大事なのだ。

 境界線を踏み越えるか、踏ん張れるかで、目には見えない、脳に得た瞳ですら分からない、ナニカが守られるのだ。

 

(大丈夫、我慢できます……! だって、私は普通のヒーローになるんですから!)

 

 ふうぅ、と息を整える。

 それに、たまにはこういう狩りも悪くありません。

 

 ほら。

 

 

「させませんよ」

 

 

 獣が、自ら罠にかかりにきた。

 

「初めまして、我々は敵連合。僭越ながら……この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは」

 

 ゆっくりと、パックしたままのメスを取り出し、もう少しだけ待つ。

 

「平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでし―――」

 

 今。

 

 目的を明かすという、一つの目標を達成した小さな隙を縫って――――殺意を込めた投擲。

 

「ッ!!??」

 

 露骨すぎる殺意に、モヤモヤの人が反応し、メスを避けて驚愕を滲ませて振り向く。

 

 やりました! 目の前のクラスメイト達より、私が怖く見える様に、ちょっとだけ上位者の気配を漂わせたのが正解だった様です。

 

 後は、13号先生がこいつを背後から、って。

 

 グワッ!! と、先生の射線を遮る様に、勢いよく飛び出す爆豪くんと切島くん。射線は上手く避けつつ“個性”を使う轟くんの姿に目を丸くする。…………あ、そうですよね!

 

「……ッ!?」

 

 ヒーロー志望の子達が、こんな絶好な機会を、隙だらけの背中を、逃す筈がないんでした。

 ミスりました。爆発と氷と硬化パンチが炸裂しています。

 

 

「その前に俺たちにやられることは、考えてなかったか!?」

 

 

 とても失敗しました。

 

 やっぱり、私はまだまだですね。……さて、この後はどうしましょう?

 とっくに、私の姿は見つけられている。クラスメイト達が、モヤモヤの人の背後にいた私に驚いている。

 

「……っ、恐ろしい。……生徒といえど、優秀な金の卵」

「ダメだ、どきなさい二人とも!」

 

 目の前でズアァ! と広がる“ワープゲート”の、大きさに目を見開く。

 

「散らして、嬲り、殺す」

 

 予感のまま、即座に駆け出す。

 

「え」

 

 この中で一番、飛ばされて危ないのは「葉隠ちゃん!」すくいあげる様に抱き上げて、霧の隙間を潜り抜けていく。

 

「……!!」

 

 本体を、狩りたいのは山々ですが……!

 

 こっそり、やるならともかく、この状況でヤったら先生に怒られるから、我慢です! もう、宿題を増やされるのは、ヤです……!

 こちらを追いかけてくる霧を避けながら、振り向きざまにメスを投げるも叩き落される。

 

「皆は!? いるか!? 確認できるか!?」

「散り散りにはなっているが、この施設内にいる」

「…………!!」

 

 と、他にも何人か残っている様で良かったです。

 

 お茶子ちゃんがいます! 飯田くんと芦戸ちゃん、障子くんと瀬呂くんと砂藤くん。そして13号先生。

 ここなら葉隠ちゃんも安全だと、安心して降ろしてあげると、涙目でポカポカされました。……え? すごく怒ってます?

 

「物理攻撃無効でワープって……!! 最悪の“個性”だぜ、おい!!」

「……委員長!」

「は!!」

「君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えて下さい」

 

 葉隠ちゃんを宥めつつ、私を警戒するモヤモヤの人に手を振る。

 

「警報も鳴らず、そして電話も圏外になっていました。警報器は赤外線式……先輩……イレイザーヘッドが下で“個性”を消し回っているにも拘らず、無作動なのは……恐らく、それらを妨害可能な“個性”がいて……即座に隠したのでしょう」

 

 おお……さすがはプロです。私は、そういうの全然考えていませんでした。

 

「とすると、それらを見つけ出すより君が駆けた方が早い!」

「しかし、クラスを置いてくなど委員長の風上にも……」

「行けって非常口!! 外に出れば警報がある! だからこいつらはこん中だけで事を起こしてんだろう!? 外にさえ出られりゃ追っちゃこれねえよ!! おまえの脚でモヤを振り切れ!!」

 

 え。砂藤くんも……頭良い感じなのです?

 

 ちょっとショックを受けつつ、葉隠ちゃんが落ち着いてくれるならと、渋々と嘴の仮面を脱いで持たせる。そのまま、私の一挙一動を見逃してくれない、モヤモヤの人から葉隠ちゃんを隠す様に立つ。

 

 ……これはもう、ステルスは無理っぽいですね。

 

「救う為に、“個性”を使って下さい!!」

「食堂の時みたく……サポートなら私超出来るから! する!! から!! お願いね、委員長!!」

 

 葛藤する飯田くんを見て、その気持ちが分からない。

 すぐに助けを呼びに行けばいいのに、現状を打破するのに有効だろうに、どうして迷うのか、分からないから悩む。

 

 うーん……?

 

「手段がないとはいえ、敵前で策を語る阿呆がいますか」

「バレても問題ないから、語ったんでしょうが!!」

 

 あ。

 

 13号先生が“個性”を発動する。そして、私にはモヤモヤの人の“ワープゲート”の繋がる先が目視できている。

 モヤモヤの人は、13号先生の“ブラックホール”を、ワープさせようとしている。

 

「――――」

 

 13号先生の『背後』に、だ。

 

 巧みすぎる、モヤモヤの人の戦略に見事に嵌っている。

 

(……これは、”ブラックホール”な時点で無理ですね)

 

 手を出すには、あの“個性”は脅威がすぎる。

 高い授業料ですが、今回は13号先生の脇の甘さが『わー私好きなの13号!!』…………。

 

 ―――いえ、ダメです。

 

 さっき、優柔不断で、後悔したばかりで『君たちの力は、人を傷つける為にあるのではない』…………。

 

 

『救ける為にあるのだと、心得て帰って下さいな』

 

 

 

 そういえば、今は救助訓練でしたね……

 

 チラとお茶子ちゃんを見つめて、即座に『加速』する。

 我ながら咄嗟だったので体勢が崩れている。不格好に13号先生に手を伸ばす。

 

 その宇宙服に、手を差し込む様にして、不安定な体勢で庇う様に前に押し出す。

 

 

「―――――ッぅ!!??」

 

 

 経験した事のない、激痛と悪寒に息が詰まる。

 

 一拍おいて、抉られた患部からブシャリ!! 鮮血が溢れ出る。

 

 

「……13号。災害救助で活躍するヒーロー。やはり……戦闘経験は、一般ヒーローに比べ半歩劣る……」

 

 

 イタ、イです。

 

 いたくてイたくていたクて、あまりの痛みに、生理的な涙が溢れる。

 

 

「自分の生徒の『腕』を、犠牲にしてしまった」

 

 

 うる、さいですね……ッ!

 

 まさか、勝ち誇っているのですか……? 腕から手の甲にかけてごっそり、皮と肉をチリにしただけで? 骨も、神経も、無事なのですよ……?

 

「トガちゃん!?」

「被身子ちゃん!!」

 

 狩人、舐めないでください。

 それに、一応は上位者なので、痛いけど元気です。目がいつになく冴えています。

 

 経験の無い激痛を無視して『加速』を連続使用。意識が飛びかけるも、油断しきったモヤモヤの背後に回り、その頭に真横からの蹴りをぶち当てる。

 

「――――がッ!!??」

 

 ブシャッ!! と、自分の左腕から手の甲まで、一定の量の血が噴きあがるが、無視。反転してもう一撃!!

 

「ッ、飯田ァ、走れって!!!!」

「くそう!!」

「トガさん、ダメ!! 今すぐ止血しないと!!」

 

 バカですか先生は今こいつ目を離したら飯田くん逃げられないです!!

 

「麗日どうしたの!!」

「被身子ちゃん!! 一人で頑張らないで!!」

 

 ―――……?

 

 その声に動きを止めると、私の横を障子くんが駆け抜けていく。蹲るモヤモヤの人に飛びかかって押さえ込む。

 

「理屈は知らへんけど、こんなん着とるなら、実体あるってことじゃないかな……!!」

 

 そして、押さえ込んだ本体に、お茶子ちゃんが触れる。途端、ブオンと飛んでいくモヤモヤの人と「行けええ!! 飯田くーん!!」と、泣きながら叫ぶお茶子ちゃんに、目を丸くする。

 あと、瀬呂くんが更にモヤモヤの人を“個性”でつかまえて「行けええ!!」と、叫んでいる。

 

 飯田くんは、うん、ちゃんとドアを通ってお外に出られましたね。

 

 ボタボタと血を零しながら、一息つく。

 

 

「…………。応援を、呼ばれる。…………。ゲームオーバーだ」

 

 

 掻き消える(うわぁ……)モヤモヤの人を見送って、少しうんざりする。

 

 マントの裏ポケットから包帯を取り出して、止血を試みながらきつく縛り、残りを適当に腕から手の甲にかけてまいていく……何と表現して良いか悩ましい“ブラックホール”産の傷跡に少し恐れを抱きながら……まあ、いいです。

 

「13号先生」

「っ、はい……」

「武器、抜いていいですか?」

「……は、い?」

「状況、変わりました。……手の人、きっとヤな事してきますよ」

 

 獣というものは、追い詰められた時こそが一番怖いのだ。

 唖然とする13号先生に、許可は貰えたと判断して、慈悲の刃を鞘から抜く。

 

 それでは、後半戦を始めましょう。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話 出血大サービスです

 

 

 慈悲の刃は、仕掛けにより二枚に分かたれる双刀の武器。

 

 二振りで一つの武器であり、まるで私と()の様であり、歪んだ刀身には星に由来する希少な隕鉄が用いられ、月の下ほど綺麗な照り返しを見せてくれる。

 

(……今日は、片手で使うしかありませんね)

 

 軽く振るいながら、ボタボタと出血する左腕を動かして、手をぐーぱーしてみる。……うん。ダメですね。このままいけば失血死が待っています。

 

(輸血液が欲しいです……)

 

 本来の使い方ができない得物の試し振りを終えて、走る勢いのまま階下に飛び降りる。

 

「トガちゃん、お願いだから戻ってきて!!」

「ダメだよ!! 被身子ちゃん!!」

 

 背中にかけられる、葉隠ちゃんとお茶子ちゃんの優しい声を無視して、内臓が持ち上がりそうな落下に身を任せる。

 

 数分前の事です。

 私の予感が信じられず、何を言っているのかと困惑している面々の前で、慈悲の刃を抜きました。

 

 これは獣を殺す、特別な仕掛け武器です。

 

 命を奪う事を前提とした、日常生活では見る事のない形状をした刃物。歪む刀身から感じる独特な迫力に、その場の全員が注目したのを狙って『加速』した。

 

 向かう先がどこかなんて、言うまでもない。

 

 だけど、お茶子ちゃんが苦しそうな顔をしている。葉隠ちゃんがいっぱい泣いている。

 

 障子くんは、咄嗟に私を捕まえようとしていた。芦戸ちゃんも、嫌だって泣きそうな顔で手を伸ばしている。瀬呂くんはダメだやめろと言いたげな姿勢で固り、砂藤くんは怒っている顔で拳を握っている。13号先生は、分かりませんね!

 

 それらを横目に(ごめんねぇ……)心の中で謝って、たくさんの声を振り払って走っている。

 

(私は、これ以上、優柔不断になりたくないのです……!)

 

 だから、耳を塞ぐ様に逃げ出した。

 私の事が、心配だと顔に書いてあるクラスメイト達の傍に一秒だっていたくなかった。

 

(やめてと言われたら、やめてあげたくなります)

 

 でも、それは優しいけど、たぶん、優しいだけなのです。

 

 だから、あの場にいたら、もっとダメダメになるから、しょうがなかった。……そして、何よりお茶子ちゃんから逃げたかった。

 

(……今はいいけど、冷静になったら)

 

 嫌われてしまいそうで、怖かった。

 

(……ヤだなぁ)

 

 喉奥で小さく唸る。ズクズクと、左腕の傷が脈を打つ様に痛む。

 

 分かっています、本当は、()()()()13号先生を救けようと動いていたら()()()()()()()のです。

 こんな傷を負わなくてすんだと、あの一瞬で気づいて、だからお茶子ちゃんも、皆も、落ち着いたら気づいちゃう。

 

(私が、13号先生を助けるつもりが無かった事を……)

 

 そしたら、いくら優しいお茶子ちゃんでも、自分の好きなヒーローを見捨てようとした私を、許さないと思うから。

 

(……顔を、合わせ辛いのです)

 

 混乱している今の内に、強引に許して貰えれば、と思わないでもない。少しは、仲直りの余地はあるかもしれない。

 

(……でも)

 

 そんな時間は、無いのです。

 逃げたモヤモヤの人を、広場にいる手の人を、私は狩人として優先しなくてはいけない。

 

 手負いの獣を、あえて放置する事はできない。

 

 

(だって、ちゃんと殺さないと……可哀想です)

 

 

 着地点が見えてきた。

 景色はどんどん流れていく。それでも遅いと、空中で秘儀を惜しみなく使っていく。

 

 あの、渡我被身子でさえ、狩りを全うしたのだ。

 

 繰り返される悪夢の中、無視しても良い筈の獣を憐れんで、ちゃんと殺してあげると、そうして『次』に連れていってあげると、トガヒミコはどんな夜でも全ての獣を狩って来た。

 

 ならば“善”なる私は、それ以上の慈悲で狩りをしなくてはいけない。

 

 広場に下りる際に「は? 影――ぐぎゃ!?」「ぐえぇ!?」数人を下敷きにして衝撃を散らし『加速』する。

 本当は、友情を捨てる覚悟は無く、お茶子ちゃんへの未練はたらたらで、どうすれば良いのか分からないままだけど、狩りは大事だからと、問題の先送りをしている。

 

 そんな自分が嫌で、だけど、立ち止まるよりはマシだと、広場の確認をする。

 

 

「あ? おい、アレ見ろよ」

「あのガキ、いつの間に下りてきやがった!?」

「バカが!! のこのこと自分から殺されに来やがった!」

「恨みはねぇが―――」

 

 

 相澤先生がピンチですね!

 

 近くにたむろっていた敵を、死なない程度に切り裂きながら、勢いを殺さずに跳躍する。

 

 空中で身をひねらせ、慈悲の刃を逆手に持つ。

 スッと、相澤先生に乗り上げる巨体の正面を「!?」横切る様に飛んだ私は、突然現れた私への反応の遅れを狙い、シュッ、と、ぎょろついた眼球を横に裂いて潰す。

 

「……あ?」

 

 手の人が、気分を害された様な声を漏らす。

 

 どぴゅっ! と巨体の両目から血が溢れるのを音で判断し、先生の腕を折らんと伸ばされていた手に、グッと靴先を押し当て、勢いを利用してゴッ! と蹴り上げる。

 

「――!?」

「はい、トガです」

 

 位置を調整して、相澤先生の目の前に着地する。

 驚愕に見開かれる瞳と、小さく動いた唇が私を呼んだのを確認し、そのボロボロっぷりに顔を顰める。

 

(とりあえず、この大きい人をどかしましょう)

 

 これ、下半身は無事でしょうか……? 心配しながらも慈悲の刃を構え直し、潰した筈の目をギョロつかせる巨体に「わあ!」嬉しくなる。

 弱点が復活するなんて好機です! 踏み込んで身体をひねり、近距離故にか、分かりやすい軌道の拳を躱して再度両目を裂いた。

 

「――――」

 

 巨体がひるみ、一歩後ずさる。

 よし、です!

 

 味を占め、もう一度と飛び込み、暴れる腕を利用して鉄棒の様に巨体の身体をくるんと一周すれば、私を殴ろうとして自らの頭を『ゴガッ!!』と凹ませる間抜けっぷりを見せてくれる。

 

(うわぁ……)

 

 ひしゃげた上半身を見ながら、もしや頭が弱いのです? と、距離をとる。

 

「……ッ!! 渡我、なんで、ここに」

「はい! モヤモヤの人が逃げたので、此処にいると思って追ってきました!」

 

 返事をしながら、手の人を見て、それから先生の目を見つめる。

 

 敵の前なので、飯田くんが外に出た事や、すでに場が後半戦というか、耐久戦になった事をあえて伝える必要はないだろうと、とにかく有利に事が進んでいると視線に込める。

 何かしら察した先生は「……まあいい」と、布を巻きなおす。

 

「……反省文10枚だ」

「ええ!?」

 

 先生は巨体から目を離さないまま、割と重めな罰を出して、私がここにいる事を遠回しに許可してくれる。……でも、反省文10枚は酷くないですか!?

 

 慄きがらも、軽くフラついている相澤先生の様子を観察する。

 巨体の下から抜け出たばかりの先生はボロボロで、右腕はバキバキになっている。……前に出すのは無謀っぽいなぁと、サポートに徹するつもりだった予定を変更して、立ち位置を変更する。

 

「……どういうつもりだ」

「先生は下がっていて下さい。合理的に、こっちの方が良いです」

 

 怒気を孕んだ先生の声に(怖いです!)振り向き様に言い訳した瞬間、影が差す。

 ズオッ!! と―――顔の横に手が今まさに掴みかかろうとし……速ッ!!

 

「―――んっ!!」

 

 咄嗟に指を切り落とし顔を逸らす。

 

 頬が裂け血が溢れるが、相手の目測を強引にずらさなかったら頭パーンしてました!!

 っていうか痛いです! そのまま視界から掻き消える様に、脚の間をくぐり抜けて背中側から頸動脈を裂くも、噴き出す血はすぐに止まってしまう。

 

(あ、これ接近しすぎると捕まった時点で終わりますね!)

 

 改めて、慈悲の刃を鞘に戻して、相澤先生の腰を持って五メートル程後方にバックステップ。

 

「っと! そういう訳です先生! サポートお願いします!」

「……後で職員室」

「なんでです!?」

 

 ちゃんと丁寧に降ろしたのに!

 渋い顔で、共闘を許可してくれたかと思ったら、コレですよ意味が分かりません!

 後、先生は男の人なのに軽かったです。持ち運びやすくて実に良いですね!

 

「…………」

 

 と、先生の視線が私の左腕に注がれているのに気づく。……あ、先生は右がバキバキで、バランス的には丁度良いですね。

 

「お揃いですね、怪我の度合いとか!」

「……生徒指導室」

 

 んー?

 なんでー?

 

 しかも、コレ、本気で怒っていますよ?

 血だらけの左をぶんぶんと振って見せて、場を和ませようとしただけなのに、いつにない相澤先生の本気の怒りを感じて、悲しみを背負いながら「……ハイ」と頷く。

 

 先生、情緒不安定なんです……?

 

 ボコボコにされて心が繊細な感じなのかもしれません。今日は踏んだり蹴ったりだと思いながら、唇を尖らせて、油断なく巨体を観察する。

 

「……脳無、やれ!」

 

 っとお。手の人の声に反応したのか、脳無という彼が五メートルの距離を一瞬で無かった事にしてきました。ゾアア!! と、突然目の前に現われる圧倒的な威圧感に、唇がひくつく……だから、速すぎです。

 

「―――ん、っぎ!!」

 

 動体視力が良くて良かったです。

 叩きつけてくる拳を慈悲の刃で受け流し―――相澤先生を巻き込む様に躱す。

 

 受け流しているのに、手がすっごく痛いです!!

 

「くっ……! 渡我、次も避けられそうか!?」

「――はい! 速いですけど。事前のモーションを読み切れば、動きは予測できます!」

 

 狩人として、後だしじゃんけんみたいな獣との戦いをこなしてきたんです。

 そういう意味では、脳無の動きは実に読みやすい。

 

「っ……フォローする」

「はい!」

 

 返事をしながら、先程とは違い相澤先生ではなく、私を中心に狙ってくる脳無の動きをよく見て、やはりまだ『人』だと思う。

 

(強く、恐ろしく、圧倒的ですが―――私は、そういう相手に慣れています!)

 

 笑みが漏れ、気に障ったのか更に激しい追撃に襲われる。

 ギリギリで避けると皮膚が裂け、今は太股が裂けた。お返しとばかりに伸びた腕をぐるりと切り裂くも、ひるみもせず追撃してきて「!」首筋から出血しながら、相澤先生の布が脳無の腕にまとわりついて、僅かに動きが鈍った隙に離脱する。

 

(もしかして、痛覚がない感じです?)

 

 即座に確認する。フェイントを交えて飛び込み、切り上げて手首を飛ばす。ぐるりと血を飛ばして円を描く手はともかく、断面図から噴き上げた血が萎む様に止まり、あろうことかぐつぐつと盛り上がる。

 

「“超再生”だと……!?」

「そんなのあるんですかあ?」

 

 ずるいです! 知っていたけど“個性”って反則です!

 

 怪我を全く気にしない動きにナニカありそうだとは思いましたが、これは酷いです。

 ならばと、もう一度両目を狙って動けば、視界が途切れる事は嫌がって、攻撃の合間に避ける動きが加わる。コレだと、少しずつ脳無への攻め方を模索して、最適解を探っていく。

 

「――――フ、ぎッ!!」

 

 脳無の拳と慈悲の刃がなんどとなく絡み合い、間合いを意識し、いなし、余波に傷ついていく。

 

 パワーとスピードとタフネスを兼ね揃えた強敵に、狩人の基本を思い出しながら、中距離を維持して、避けて、切り、躱して、切り、転がって、切り、ヒットアンドアウェイで、何とか場を持たせる。

 

「……ッ!!」

 

 脇腹が裂けて、痛い。

 もう使えない左でのガードが間に合わない。でも、相澤先生が絶妙にサポートしてくれるから、戦いやすい。

 悪夢での共闘の事を思い出して、つい笑ってしまう。

 

 

(でも、脳無をやっつける方法、現状無いんですよね)

 

 

 楽しいけど、そこは冷静に考える。

 

 動きすぎて呼吸を止めながら、攻撃が重すぎて右腕が上がらなくなってきた。

 体力とスタミナが初期のままなら死んでると思いながら、僅かな隙を勝ち取って呼吸する。

 

「――――ふぅ」

 

 出血が止まらない。

 

 返り血よりも、自らが流した血で戦闘服が赤く染まっている。

 これは、粘っても後10分を限度にしないと、生き物として不自然になる。……それ以上の戦闘は『普通』でいられない。

 

(応援、まだですかねぇ?)

 

 活動限界と定めた時間を越えたら、相澤先生は殺されてしまう。

 かといって“個性”をつかって悪夢の獣に変身したら……刺激が強そうですし……どうしようと考える。せめて、両手で慈悲の刃を振るえれば、もう少しやり様があるのに……と思っているとモヤモヤの気配。

 

(……おや?)

 

 ずっとこちらの様子を窺っていた癖に、ここにきて動くんですね。

 

「……。死柄木弔」

「っ、黒霧、あいつは、何だ?」

 

 ガリガリと、手の人が苛立たし気に首を掻いている。

 そして、ついでとばかりに「13号はやったのか」と聞いていて、もしかして13号先生を庇えたのはファインプレーだったのではと、少しだけ気分が上がる。

 

「……いいえ。五体満足です。今も活動しています」

「…………。は?」

 

 活動? もしかしてあの後に色々と動いていたんですかね?

 

 思考しながら、相澤先生の巻き付けた布を足場にして、脳無の両目を潰す。先生のおかげで空中戦ができる様になり、今はちょっと楽しいです!

 

「散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」

「…………。はー……」

 

 布を移動する私を捉えきれず、一撃一撃が不安定になっている。更に攻撃の芽を潰そうと、切断しやすい手首と指をとにかく切り落としまくる。

 

 

「はあー……黒霧おまえ……おまえがワープゲートじゃなかったら、粉々にしたよ……」

 

 

 ガリガリガリガリって、貴方、カルシウム足りてないですね。モヤモヤの人はちゃんと頑張ってましたよ?

 

「さすがに何十人ものプロ相手じゃ、敵わない。ゲームオーバーだ、あーあ……()()()ゲームオーバーだ」

 

 ぴた、と。彼の首を掻く指が止まる。

 

 途端、相対している脳無の攻撃が止んだ。まるで、彼の声を待つ様に静かになる。

 

 

「帰ろっか」

 

 

 ……うわ。

 

「けども、その前に、平和の象徴としての矜持を少しでも」

 

 弔くん、でしたっけ? 

 

「へし折って、帰ろう!」

 

 性格すごく悪いね。

 

 人というか、ヒーローを不快にすることにかけては天才だと思います。

 何をするつもりなのか、理解してしまった私は目を見開く。いつの間にか、水辺に梅雨ちゃんがいる。緑谷くんと、峰田くんもいる。

 

 そして、すでに彼もいる。……本当に、性格が悪いです。

 

 ワープゲートで移動した弔くんが、伸ばす手の先には、梅雨ちゃんがいる。

 緑谷くんと峰田くんは、ダメです判断が遅いこれじゃあ梅雨ちゃんの顔に指が触れる。

 

 そして、彼の“個性”は『崩壊』で――――――

 

 

(今度は、最初から迷いません!)

 

 

 慈悲の刃をモヤモヤに投擲して連続『加速』する。

 

「!! 死柄木弔」

 

 ダンッ! と、無防備な弔くんの背中を、あえて飛びこえる。

 

 そして、数秒だけ、逆さまに見つめあう。

 

 私の手から溢れる血が、彼の手と顔を汚していく。

 梅雨ちゃんの顔前に、チリになりかけた左を差し込み、抱きしめる様に守る。

 

 

「―――梅雨ちゃんに、触らないでください!!」

 

 

 瞳が「……はぁ?」手の隙間から覗く、弔くんの目と、あった。

 

「―――」

 

 その、

 

(……ぁ)

 

 どこか、なにか―――見えた気がして、しかし、私は梅雨ちゃんと一緒に『加速』の勢いのまま飛んでいる。

 

 間もなく、水の中に頭からドボンッ! と、投げ出され、沈んで、水をかく羽目になった。一瞬で視界が歪み、戦闘服に水が染み込んでいく。

 

「――――……!?」

 

 脳に走った、電流の様なナニカに動揺する。なんです、今の?

 

 瞳が、ナニを見せた?

 

 言葉に出来ない不快感を覚えて、水が赤く汚れていくのを横目に、梅雨ちゃんの活動の邪魔にならない様、彼女の背を強く押す。

 

 とりあえず、考えるのは後です!

 今は、溺れない様にマントを脱ごうとして、ぬっ!! と眼前に梅雨ちゃんのお顔。

 

『……ワブッ!!』

 

 びっくりして泡吐きました。

 

 ゴボボボっと動揺する私を見て、何故か凄い勢いで戻って来たらしい梅雨ちゃんに抱きしめられ、そのまま水中を泳いでいく。

 

(!? 凄く速いです! ……でも、1人の方がもっと速いですよね!?)

 

 ここは、即座に緑谷くんや峰田くんのところに戻るべきでは?

 

 飯田くんといい、梅雨ちゃんの考えている事もよく分からないと、彼女に抱えられる様にして、ずっと早く水面から顔を出す。

 

 ふはっ!!

 

 空気が甘く、止めていた呼吸を再開して、少し咳き込む。

 水を吐いていると周囲に緊張が走っていて「……?」歪む視界で視線を走らせれば、見つける。――――笑っていない、オールマイトの姿を。

 

 

「あー……。コンティニューだ」

 

 

 ポツリと、呟く様な弔くんの声が聞こえて。

 

 それに「……ふあ」ようやく、気をぬいた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話 延長戦です

 

 

 後半戦は終わり、延長戦がはじまるも私の役目は終わっている。

 

 弔くんの恋する乙女みたいな真っ黒い憎悪は、今やオールマイトに一途に向けられている。

 狩人として、モヤモヤの人と弔くんを狩ってあげたいけど、時間切れには素直に従います。ここは悪夢では無く現実で、だからこその狩りの形がある。

 

(……でも。“善”の私は、狩りが下手みたいです)

 

 場に流されて、標的を全く狙えなかった。

 少しだけショックですが、それほど悲観はしていません。現実の獣を、現実の狩人ことヒーローが狩るのならそれはそれで良しです。梅雨ちゃんにぷかぷか身を任せながら、そう自分を慰めます。

 

「ヒミコちゃん……しっかりして……!」

 

 ところで、どうして梅雨ちゃんは涙声なんです?

 

 返事をしてあげたいけど、眠すぎて呻くのもだるいです。

 

「ごめんなさい……助けてくれて、ありがとう」

「……」

「お願い、目をあけて、ヒミコちゃん……っ」

「……」

 

 今さらですが、梅雨ちゃんの私を呼ぶ声というか響きが、年下に向ける感じです?

 

 まるで、幼子に語り掛ける様で、幼稚園の先生が子供たちを呼ぶような、そういう慈しみが込められている気がします。あと、梅雨ちゃんが何に謝っているのか分からなくて、困ります。

 

(……ありがとう、だけでいいのです)

 

 謝られるのは、何かを失敗したみたいで不安になる。

 

 かろうじて、梅雨ちゃんに触れる指に力をいれて、気にしないでと伝えるも、意識が軽く飛んでいる。

 

(血を、流しすぎました)

 

 脳無の血で少し回復しましたが……現実の血はダメですね。

 浴びるのではなく、飲まないとあまり回復しない様です。……まあ、傷口からはたくさんいただいたので、ストックはできました。今度弔くんを見習って嫌がらせしてやります。

 

 そんな事を考えていると、急激に水への重みを感じて息が詰まる。陸についたらしく、引きずる様に梅雨ちゃんの細腕に引っ張られる。

 

「……ぅ」

 

 流石に、ここからは梅雨ちゃんに甘えられない。

 眠気を追い払おうと小さく呻いて「! ヒミコちゃん」梅雨ちゃんがハッと私に声をかける。それと同時に「トガちゃん!」ふわりと、温かい感触が頬に触れる。

 

 え。

 

「! 透ちゃん、いるのね」

「うんっ、一緒にトガちゃんを連れて行こう!」

 

 は、葉隠ちゃん?

 こんなところにいたら危ないですよ!?

 

 焦りに、指先が動く。

 オールマイトと脳無が戦う音が届いていますし、少し距離があると言っても、あの人達にこの距離はあってない様なもので、心配のしすぎで眠気が薄れていく。

 

「……っ、おさえても、血が止まらない」

「……ええ。水に浸かったのも悪かったわ。………急いで運びましょう」

「うん……そうだ、トガちゃんのコート、羽織らせてもいいかな?」

「そうね。少しでも体温を維持しないと。マントは脱がせましょう。傷には触れない様に……」

 

 介護です?

 2人のクラスメイトに甲斐甲斐しくマントとベストを脱がされ、コートを羽織らされてしまう。更には過剰なほど丁寧に運ばれてしまう。

 

(……あったかいです)

 

 冷え切った身体に、梅雨ちゃんと葉隠ちゃんが温かすぎる。

 このまま、流れに身を任せて眠ってしまいたいが、梅雨ちゃんだけじゃなく葉隠ちゃんもいるのが心配で、改めて周囲に危険が無いか気配を探る。

 

(……緑谷くんと峰田くんは、オールマイトのおかげで避難できていますね)

 

 ですが、感じる残党の配置的に……襲われる可能性が少しだけど有る。ここは、惜しいけど起きた方が良いでしょう。

 

「…………ぅ」

「! トガちゃん」

「ヒミコちゃん……!」

 

 2人の足が止まり、揺れが収まる。

 

 身体が重い。意識がありながら肉体は寝ている状態だったので、葉隠ちゃんと梅雨ちゃんの呼び声に、改めてもう一度(大丈夫)と呻いて、気だるい身体にゆっくりと力を込めていく。

 

(……ぁ、そういえば慈悲の刃……投げたまんまでした)

 

 ゆっくりと顔をあげると、嬉しそうな葉隠ちゃんと梅雨ちゃんが、近い。

 ちょっと動揺しつつ、寝起きみたいにきょろきょろして―――は? 慈悲の刃が、モヤモヤの人に回収されてる?

 

「……ッ!!」

 

 気だるい体を強引に動かして、自分の足で立つ。

 

 葉隠ちゃんと梅雨ちゃんが驚いているが、今はそれどころじゃないです! ちょっとそれ、新しく使者ちゃんから買ったばかりの下ろし立てなんですけど!? 返して下さい!!

 

(泥棒さんです!)

 

 ふらつきながら、一歩進むと「ダメ! トガちゃん、落ち着いて……!」「ヒミコちゃん、お願い、冷静になって……!」2人に必死に止められる。

 

 ですが、慈悲の刃は絶対に返して貰わないとダメなんです。

 

 心苦しいですが、できるだけ優しく葉隠ちゃんと梅雨ちゃんを振り払い「ごめんねぇ」って眉を下げて「……助けてくれて、ありがとうございます!」ぺこりと頭を下げて、駆ける。

 

 モヤモヤを目指してまっすぐ『加速』する。

 

 

「やだ、トガちゃん! 行かないで!!」

「ッ、ダメよ、ヒミコちゃん! ……ダメッ!!」

 

 

 とても、ヤな感じがします。

 

 慈悲の刃はダメです。悪夢から持ち込んだ仕掛け武器が盗まれる事へのヤな予感が止まらないんです。絶対に取り返すと、モヤモヤに連続『加速』して、右腕に“個性”を―――

 

 

「オールマイトォ!!」

 

 

 はい?

 

 何故か、緑谷くんも飛び込んでいて、更に「どっ」鼓膜が破れそうな派手な爆破音と衝撃。

 

「け、邪魔だ!! デク!! 欠伸女ァ!!」

 

 ええ? 爆豪くんも? 来たのです? ……なんで????

 

 驚きすぎて目的を見失いかけるも、モヤモヤの人から投げ出される慈悲の刃を捉えて、慌てて回収する。

 

(やった!)

 

 モヤモヤの人は爆豪くんに地面に叩きつけられている。

 

「てめェらが、オールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた」

「!」

「だあー!!」

 

 轟くんと切島くんも来た。切島くんは、弔くんに殴りかかって避けられてます。

 

「くっそ!!!! いいとこねー!」

「スカしてんじゃねえぞ、モヤモブが!!」

「平和の象徴は、てめェら如きに殺れねえよ」

 

 ……?

 いえ、何事なんです? 

 

「かっちゃん……! 皆……!!」

 

 ダメです、とても状況が分かりません。

 

 私、場違いです?

 邪魔です?

 帰っていいですか……!?

 

 表情を強張らせながら状況を確認すれば――――あ! オールマイトが面白い格好でピンチですね! なるほど元凶はモヤモヤの人の“個性”ですか! 

 

(―――ッッ!! これ、私も助けに入ったみたいに誤解されませんか!?)

 

 鼓動が跳ねて嫌な汗が浮かぶ。

 

 そ、それはいけません。

 これ以上でしゃばれば、目立ちたがり屋で空気を読まない子、みたいな烙印をおされます! 小・中の事を思い出して何とか誤魔化さなくてはと焦る。

 

「出入り口を押さえられた……こりゃあ……ピンチだなあ……」

「このウッカリヤローめ! やっぱ思った通りだ! モヤ状のワープゲートになれる箇所は()()()()()! そのモヤゲートで実体部分を覆ってたんだろ!? そうだろ!?」

「…………」

 

 今からでも葉隠ちゃんや梅雨ちゃんのところに戻れませんかね? ……ダメです、視線が凄く集まっています。階段の上からも皆が見ています。……あれ? 散らされた人達も戻ってきてます?

 

「全身モヤの物理無効人生なら『恐ろしい』っつって避けたりしねぇもんなあ!!!!」

「ぬぅっ……」

「っと、動くな!!」

 

 イキイキしている爆豪くんに、いいです、もっと目立って下さい! 心から応援する。

 

「『怪しい動きをした』と俺が判断したらすぐ爆破する!!」

「ヒーローらしからぬ言動……」

 

 そんな貴方に助けられる私がいます! 爆豪くんへの好感度をあげながら、今です! 静かに気配を消そうと試みる。

 

「攻略された上に……そこのイカレ女以外はほぼ無傷。すごいなぁ、最近の子どもは……恥ずかしくなってくるぜ、敵連合……!」

 

 ちょ、余計な事を言わないで弔くん!!

 

 せっかく羽織ってるコートで誤魔化せてたのに! 爆豪くんや切島くん、轟くんの視線が集まって……驚愕に目を見開かれてしまった。緑谷くんは酷く苦しそうな顔で……気配ぃ。

 

「脳無、爆発小僧をやっつけろ、出入り口の奪還だ」

 

 弔くんって、本当に嫌がらせの才能ありますね……

 

「!?」

「身体が割れてるのに……動いてる……!?」

「皆下がれ!! 相澤くんから聞いたが、奴は超再生の“個性”まで持っている……!!」

 

 あ、そういえば先生がいませんね。……まあ、手があいたならやる事はたくさんありそうですし、駆けずり回っているのでしょう。

 

 各地に飛ばされたクラスメイト達が集まりだしている事や、13号先生が何やら活動していた、という情報もあわさり、プロの仕事は早いようだと感心する。

 

「そうだよ。そして“ショック吸収”があわさり、脳無はおまえの100%にも耐えられるよう改造された、超高性能サンドバッグ人間さ」

 

 それは―――ん?

 

 ショック、吸収……?

 

 つまり、殴っても、死なない……?

 

「……!?」

 

 あ、ちょっとカチンッときました。

 

(あ、あんなに、ちまちま、ちょっとは死なせないよう、頑張ったのに……!)

 

 それが全部無意味だった? ……そんなの酷すぎると、衝動に身を任せる。

 脳無のモーションに慣れた私がいち早く反応して、爆豪くんとの間に遮るように滑り込む。そして、右腕を聖職者の獣に“変身”させる。

 

「!!」

 

 オールマイトが、私の動きを見て即座に爆豪くん救出に動いた辺り、やっぱり現場慣れしているというか、突発的な動きに合わせられて凄い! さすがナンバーワンヒーロー! と感心しながら――――はい。

 

「かっちゃん!!」

 

 今日のストレスの全っっ部を込めて、殴ります。

 

 サンドバッグ、良い響きですね。

 

 ゴッ!!!! と。

 

「は……?」

 

 音を置き去りにして、血潮が霧の様に舞い散り、脳無の上半身がひき肉以下になる。

 

 内臓がボロリと零れ、残された下半身がドサリと倒れるも……どうせ回復するのでしょう? ほら、ぼこぼこしてきました。

 

 

「かっちゃん!? 避っ避けたの!? すごい……! って、何があったの!!??」

「違ぇよ、黙れ、節穴かカス」

 

 

 すっきりしたので“変身”をといて、膝をつく。……つ、つかれました。

 

(でも、左の方がもっと凄いんですよ……?)

 

 そんな風に心晴れやかに周りを見れば、ほとんどの人は何が起きたか分かっておらず、オールマイトに驚愕の視線を向けている。……あ、モヤモヤの人はどさくさで逃げましたね。

 

「…………ふぅ」

 

 満足しました。この気分のまま寝たいです。

 

 何やら驚愕してぶつぶつ言っている弔くんの声を聞き流しながら、欠伸をしながら目を擦っていると、右手の指が折れている事に気づく。……ああ、脳無と戦っていた時ですね。正直、13号先生の“個性”が強烈すぎて、気づきませんでした。

 

 さて。弔くんのウソがあっさりオールマイトにばれる心温まる一場面を横目に、何故かやる気を出しているクラスメイト達に辟易する。……皆とっても元気ですね。

 

「3対6だ」

「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた……!!」

「とんでもねえ奴らだが、俺らでオールマイトのサポートすりゃ……撃退出来る!!」

 

 私を数にいれるのやめてください。

 

「ダメだ!!!! 逃げなさい」

 

 流石ですオールマイト! もっと強く言ってやってください!

 

「……さっきのは俺がサポート入らなけりゃやばかったでしょう」

「オールマイト、血……それに時間だってないはずじゃ……ぁ……」

 

 時間?

 ……それ、“個性”が文字化けしてるのと関係あったりします?

 

「それはそれだ轟少年!! ありがとな!! しかし大丈夫!! プロの本気を見ていなさい!!」

 

 そして、オールマイトが私を見る。

 

 その瞳が、まるで自分が倒れても君がいる! と言わんばかりで『皆を頼んだよ!!』と、言っていて……え? 色々な意味でやめてください。

 

 その、この場で後顧の憂いを無くし後を託したからこそ、惜しみなく全力で戦える!! みたいなやる気が怖いです。これ、寝たらダメなやつじゃないですかぁ……

 

 

(……それに、やはり目が養われていますね。眠気が限界なだけで、余力がまだ充分にあるの、ばれてます)

 

 

 ナンバーワンヒーローとしての経験故か、彼の目に私の努力は無駄らしい。

 

 普通でいるには、彼の経験で彩られた目は厄介だと、ここは期待を裏切る方が面倒そうで、慈悲の刃を鞘に、右腕を“変身”させる。

 

 人間サイズに圧縮しているのに、威力は本来のものより上がっている。入試の時にロボをプリンの様に裂いて潰した、罪深き獣の手を惜しみなく晒す。

 

「そ、それも……“変身”なの?」

「はい。もう誰も覚えていない、信心深い聖職者が堕ちた姿、その右手です」

 

 不気味で、怖気を感じるだろうソレに、状況も忘れて彼らの視線が釘付けになっている。

 そんなんじゃあ、良いところを見逃しますよ?

 

 ほら、オールマイトが仕掛けた。

 

 彼の拳が脳無の拳を捉え、そのまま連続で殴り合う。

 凄まじい殴り合いの音と衝撃に、周りが注目していますが、私は守りを頼まれたので、全体をぼんやりと観察する。

 

「“無効”でなく“吸収”ならば!! 限度があるんじゃないか!? 私対策!? 私の100%を耐えるなら!! さらに上からねじふせよう!!」

 

 でも、文字化けが酷いです……

 

「ヒーローとは、常にピンチをぶち壊していくもの!」

 

 オールマイトに夢中で、油断しきった弔くんと、モヤモヤの人。……狩れそうですが、我慢です。()は私の狩りじゃない。

 

 

「敵よ、こんな言葉を知ってるか!!?? Plus(更に)

 

 

 冷静を装いながらも、ゾクゾクする迫力に、感心しながら目を見開く。

 

 

Ultra(向こうへ)!!」

 

 

 ドッ!! と脳無への限界を超えた一撃が突き刺さり、吸収しきれなかった衝撃がドガァン!! と天井ごと脳無をぶっ飛ばしていく。

 

(……アレ、本当に人間です?)

 

 実は、私と同じ上位者だったりしません?

 ヤーナムの悪夢みたいに、人から人に伝染するナニカが憑いてたりしそうです。

 

「……漫画かよ。ショック吸収を()()()()にしちまった……究極の脳筋だぜ」

「デタラメな力だ……再生もまにあわねぇ程のラッシュってことか……」

 

 呆然と、目前で起こった現実をなんとか受け入れようとしている切島くんを見ながら、改めて使い物にならない左手に包帯を巻く。

 

 

「やはり衰えた。全盛期なら5発も撃てば充分だったろうに。100発以上も撃ってしまった」

 

 

 まだ余力ありそうですもんね……オールマイト。いざ敵に回った時、ちゃんと殺せるかなぁ?

 

「さてと(ヴィラン)、お互い早めに決着つけたいね」

「チートが……! 衰えた? 嘘だろ……完全に気圧されたよ。よくも俺の脳無を……チートがぁ……!!」

 

 ガリガリと、弔くんは癇癪を起した子供の様に首を掻いている。

 

「全っ然、弱ってないじゃないか!! ()()()……俺に嘘教えたのか!?」

「…………。どうした? 来ないのかな!? クリアとかなんとか言ってたが……出来るものならしてみろよ!!」

 

 その圧力と迫力が合わさった眼力に、違和感。

 ……? 余力はあっても、余裕がない?

 

「さすがだ……俺たちの出る幕じゃねぇみたいだな……」

「緑谷! トガも! ここは退いたほうがいいぜもう、却って人質とかにされたらやべェし……」

 

 うーん……?

 軽く首を傾げながら、チラと緑谷くんを見ると、同じ“個性”同士、何か察する者があるのか、追い詰められた表情をしている。

 

「さあ、どうした!?」

 

 そして、たまに私にすがる様な視線を向けて、それを後悔する様に死にそうな顔で奥歯を噛みしめている。……やっぱり、もうちょっと様子見した方が良いですね。

 

「脳無さえいれば!! 奴なら!! 何も感じず立ち向かえるのに……!」

「死柄木弔……落ち着いて下さい。よく見れば脳無に受けたダメージは確実に表れている」

 

 モヤモヤの人……ええと、そう、黒霧さん、でしたっけ? 影薄いですね!

 

「どうやら、1人を除いて子どもらは棒立ちの様子。あと数分もしないうちに増援が来てしまうでしょうが、死柄木と私で連携すれば、まだヤれるチャンスは充分にあるかと……」

 

 ……保父さん? 弔くんも、その言葉に子供みたいに「……うん」って頷いている。

 

 

「そうだな……そうだよ……そうだ……やるっきゃないぜ……目の前に、ラスボスがいるんだもの……」

 

 

 やる気になるんだ!

 

 もう帰れば良いのに、弔くんは流石の狂人さんだと嬉しくなっていると、緑谷くんがブツブツ言っている。……その内容に、ふぅん? と、点と点が線になる感覚。

 

 

「何より……脳無の仇だ」

 

 

 戦闘の続行、そして、緑谷くんの予想ではオールマイトのピンチ。

 

 彼の姿が掻き消えたのと同時に『加速』して、その背を追う。……振るう獣の腕に、手加減はいらない。

 

「な……緑谷!!?? トガ!!??」

 

 緑谷くんの足が折れているのを見ながら、大げさに開いた獣の五指を見せつける。

 

 

「オールマイトから、離れろ」

 

 

 予想通りに、緑谷くんの振るった拳と私の腕がワープゲートに吸い込まれる。―――弔くんの手が、緑谷くんに触れる直前、()()()()()()()()()()慈悲の刃を振るう。

 

 ズン、と。弔くんの手に刃が貫通すると同時に――――ズドッと、銃弾?

 

「来たか!!」

 

 オールマイトの声に、味方の到着を確信しつつ、変身を解いて緑谷くんの腰を掴んでオールマイトの傍に着地する。

 

「ごめんよ皆、遅くなったね」

 

 やっと、来ましたね!

 

「すぐ動ける者をかき集めて来た」

 

 そして、顔をあげれば飯田君と、雄英に所属するプロヒーローの錚々たる――――えっ。

 

 

「1-Aクラス委員長、飯田天哉!! ただいま戻りました!!」

 

 

 ちょ!? ミッドナイトがいるのは――――すやあ…………

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話 大喧嘩の理由です

 

 

 狩人の夢で目覚めた私は、静かに佇んでいる。

 

 そして、目の前の食卓からは美味しそうな香りが漂っている。サクリ、と焼きたてのほかほかクロワッサンを熱々のまま二つに裂き、そのバター香る生地に更なるおいバターをして頬張る罪深い女がいる。()だ。

 

「あえ? おかえりなさい!」

「…………」

 

 しかもこの()ときたら、もう半分に手作りだろうザクロジャムをたっぷりとつけている。絶対に輸血液いりです。私には分かります。()は指を舐めて「ああ」と納得した様に笑う。

 

「ミッドナイトに会ったんです? それと、急にお腹がすいてびっくりしたんですけど、怪我しました?」

「…………」

 

 ちゃんと飲み込んで口を開くのは評価しますが、今度はクロワッサンをサクリと途中まで切って、用意されていた器からレタスとカリカリベーコン、スクランブルエッグをスプーンですくって詰めないでくれます? しかも、それを私の席に置く……とか。

 

「食べないんです?」

「…………」

 

 食べます、けどぉ……!

 

 葛藤しつつ渋々と椅子を引いて座る。()と向かい合いながら用意されたクロワッサンを手に取り齧れば、想像通りの味が舌を刺激する。……つまり、とても美味しい。

 

「人形ちゃん、最近は一日中キッチンにいるんです」

「…………」

「美味しいねぇ」

「…………」

「それで、何があったんです?」

 

 にこにこと、適当に頷くだけの私を気にもせず嬉しそうな()は余裕たっぷりで、無言でいるのも負けた気がして「……大した事じゃありません」意味の無い嘘をついてそっぽをむく。

 

「ふぅん。……じゃあ、覗きますね?」

「!?」

 

 急いで顔を戻せば、ニィっと笑う()が、右手をあげている。

 

「だって、私が教えてくれないなら、しょうがないよね?」

「…………ぐ」

「私は、ちゃあんと約束を守って、覗いてないですよ?」

「…………ぅぐ」

 

 過去に、なるべく嘘はつかないと約束した記憶を思い出す。

 

 それは、お互いに誠実であろうとかそういうのでは無く、無意味だからだ。

 結局は自分同士、本当も嘘も有って無い様なもので、お互いの事がお互いの事以上に分かってしまう。今回は私が誤魔化したのが悪いと分かっているので、止めるに足る理由も無い。

 

「…………」

 

 美味しいクロワッサンが苦く感じてしまい、不満を感じながら押し黙る。

 

 にこにこと返事待ちをする()の笑顔が腹立たしくて、しかしパンは美味しく、じっくりと咀嚼しながら『もう好きにすれば良い』とばかりに()が食べていたクロワッサンを奪えば、()は楽しそうに宙を指でなぞる。

 

 途端、空間が丸く裂かれて、私の肉体があるUSJが映し出される。

 

 

『なんてこった……』

『これだけ派手に侵入されて、逃げられちゃうなんて……』

 

 

 私をアンテナにして、まずは私の付近から映し出されている。

 ミッドナイトの姿が不意打ちすぎて喉がつまり、慌てて紅茶で流し込む。……それと、この()はプライバシー侵害で訴えられれば良い。

 

 

『完全に虚をつかれたね……それより今は生徒らの安否さ』

『それと……』

 

 

 フッと、教師たちの姿が遠ざかり()が「うーん? どこですかね」と軽く呟きながら「あ、見つけました」と、楽しそうに私を見つける。

 

 そこには、左腕が手の甲まで削られて出血し、白かったシャツが変色している。びしょ濡れなのも相まって、濡れ鼠の様に不潔な私がいる。

 

 緑谷くんが、這いずりながら私に近づいて、骨折と痣で赤黒くなった右手を見つけて、悔しそうにボロボロと泣いている。

 

「……うわぁ。カァイイ男の子を泣かせるとか」

「わ、私じゃ無くて、授業中に襲撃してきた『敵連合』が悪いです!」

 

 反論しつつ、気まずくて目を伏せる。

 

 もしかしたら、緑谷くんが勘違いしている可能性に気づいたのだ。……最後のアレは、彼を庇って無理に動いた様に見えたかもしれないが、本当は誘い込んで差し出してきた弔くんの指を切り落とすつもりだった。……まあ、銃弾が加わってタイミングを失いましたが。

 

「……ま、まあ! 大げさに心配してくれる緑谷くんには悪いですけど、軽傷で良かったです!」

「それ、狩人視点ですよね? 一般でもセーフな怪我なんです?」

「……。うるさいです! 現実でも五体満足だから大丈夫な筈です!」

 

 ちょっとドキリとしつつ、非常識な癖に不意打ちで常識人ぶる()に反論する。

 

 現実の肉体も、私に連動してちょっと寝苦しそうにしている。……何となく、誤魔化す様に更なるクロワッサンを頬張る。ザクロジャムをたっぷりと塗りつけた甘酸っぱい味に夢心地になる。

 

「怪我、一気に治します?」

「……やめてください。これなら自然治癒で問題ないです」

 

 ボロ雑巾な私が気になるのか、()が新たにバナナとチョコソースを挟みながら言うが、絶対に嫌です。常識の範囲内で健康になりたいので、()の申し出はすべて却下します。

 

 

『教師陣か……ここにこれだけ集まれるってことは、学校全体に仕掛けて来たってことじゃなさそうだ』

『緑谷ぁ!! トガぁ!! 大丈夫か!?』

『切島くん……!』

 

 

 あら。起きている時は狩人のコートで傷と変色したシャツを隠していた私ですが、重傷だったのは見てとれるし、緑谷くんは起き上がれないしで、切島くんが駆けてくる。

 ところで、緑谷くんと同じく私を介抱しようと止血している細身の彼は……え?「それで、あの骸骨さんは誰で……ん?」私と()が目を丸くする。

 

「はい? 『オールマイト』です!? 少し見ない内に、キャラアイコンごと変えたんですか!?」

「い、いえ。……さっきまで、アメリカンな画風で戦っていたん、ですけど……!?」

 

 困惑する。緑谷くんの独り言で、ある程度の予想は付いていましたが、あまりの変貌ぶりに驚く。

 思わず、2人で前のめりに注目してしまい、用意されている紅茶を同時に鳴らす。

 

 そして映像の中では、切島くんと私達、というよりオールマイトを遮る様にコンクリートが盛り上がり『生徒の安否を確認したいから、ゲート前に集まってくれ。ケガ人の方はこちらで対処するよ』と、雄英ヒーローに露骨に遠ざけられている。……うーん、これは。

 

「「何かありますね」」

 

 声が重なり、私が嫌そうな顔をすると()は嬉しそうな顔をする。

 

 

『ありがとう、助かったよ……セメントス』

『俺もあなたのファンなので……このまま姿を隠しつつ保健室へ向かいましょう。しかしまァ、毎度無茶しますね……』

 

 

 ニーって笑うセメントス……カァイイ! 意外な一面に弱いので、ついほっこりしてしまう。

 

 

『無茶をしなければやられていた。それ程に……強敵だった』

 

 

 オールマイトの言葉に「……へー?」なにやら()がにっこりと、まるで(代わりに始末しときます?)的なシャドーボクシングするので「やめてください」アボカドとゆで卵のスライスを挟んだクロワッサンをその口に強めに突っ込む。

 

「むー」

 

 ()が不満そうに咀嚼している内に、映像がまた変わる。USJの外の景色だ。そこには警察の人が集まっている。

 

 

『16……17……18……両脚重傷の彼と、緊急手術中の彼女を除いて、ほぼ全員無事か』

 

 

 そこで、責任者らしき男性がそう言って(あ、私は手術中なんですね)と状況を理解する。

 どうも()は私の状態よりクラスメイト達に興味をもったらしく、一部が賑わっているのに、一部がお葬式みたいな彼らを面白そうに見つめている。

 

 

『刑事さん、ヒミコちゃんは……』

『トガちゃん、緊急手術って大丈夫なんですか!?』

『被身子ちゃんや、デクくんや、相澤先生も……!』

『どうなんでしょうか!?』

 

 

 心配してくれる皆に、嬉しくなってクロワッサンを()に突っ込む。照れ隠しに近い行動に迷惑そうにしているけど、どれだけ詰め込んでも平然と食べきるので遠慮なく突っ込む。

 

 

『……相澤先生は、右腕が粉砕骨折して重傷だが、保健室で間に合うそうだよ。緑谷くん……彼も保健室で間に合うそうだ。』

『ケロ……ヒミコちゃんは』

『……。今のところ予断は許さないらしい。左腕に関しては、後遺症が残る可能性があるそうだ』

『……そん、な』

 

 

 あ、本当に軽傷ですね。

 良かったーと胸を撫で下ろして、()からクリームと苺を挟んだクロワッサンを受け取る。

 

 

『……さて、保健室の方に用がある。三茶! 後頼んだぞ』

『了解』

 

 

 猫のおまわりさんもいる。カァイイ……!

 

 

『セキュリティの大幅強化が必要だね』

『……ワープなんて“個性”ただでさえものすごく希少なのに、よりにもよって敵側にいるなんてね……』

 

 

 憂いが見えるミッドナイトに気づいて、少しだけ胸が騒ぐ。

 普段、遠目に見つめる彼女と違い、変に気落ちしているというか、そわそわしていますね。何かあったのでしょうか……?

 

 気になるも、この後はずっと事件の後処理みたいな会話が続き、()が早々に飽きて空間が元に戻る。

 

「私ってば、大変だったんですね」

「…………そーですよ」

「あと、関係ないんですけど、実は人形ちゃんがずーっとドアの前でお料理をもって待機してるんです。招いていいですよね?」

「…………ぅ」

「気づいてましたよね? じゃあ、おやつの時間はやめてご飯にしましょう! 人形ちゃん、今開けますね~」

「…………ぐ」

「あと、()()()も呼びますけど、いい加減に腹をくくって下さい」

 

 はい……? はい……!?

 それは、まだ、少し難しくて、動揺して後ずさり、椅子が倒れてしまう。

 

「ち、ちょっと、()のやらかした責任を、私にも背負わせようとするのやめてください!」

「まあまあ、その件は十ヵ月間たっぷり殺し合って、お互いに都合の悪い事には目を瞑るって結論になったじゃないですか」

「無責任すぎです!」

 

 怒りつつ、やっぱりもう一発殴ろうとしたところで人形ちゃんが入ってくる。そして私を見つけると、お鍋をもったまま恭しく頭を下げる。

 

「お久しぶりです、もう1人の狩人様。」

 

 うっ。

 揺れるサラリとした銀髪から視線を泳がせて「……はい」と、一方的な気まずさで目を伏せる。

 

「……お、お久しぶりです」

 

 いつかの夜で着ていた、上流階級用のドレスでは無い人形ちゃんは見慣れない。

 

 現代の衣装に身を包み(シンプルなセーターに足首までのロングスカート)桃色のエプロンをつける長身の人形ちゃんは新鮮すぎて、直視するのが難しい。

 

 ()が、そんな人形ちゃんからお鍋を受け取り、テーブルに置いている。

 

「それじゃあ、家族水入らずしましょうか!」

「……()のでしょうが」

「つまり、私のって事ですよ」

 

 ……否定はできなくて、恨めし気に呻く。

 

「現実を生きる私とトガは繋がっているのです。同じなのです」

 

 笑う()の言葉は、真実だからこそ何も言えない。

 

 私は、現実でヒーローにならんとほどほどに頑張っていますが、()は悪夢で新規に人を取り入れながら街作りを頑張っている。後、メンシス学派と教会からは特に目が離せないそうだ。

 

 そんな風に別々に生きているのに、どうしたって同じ存在なのだ。

 

「……それは、受け入れています。……私は人間ですが上位者です。()は上位者ですが人間です」

 

 カチャカチャと、諦めた私が食事の準備を手伝えば、人形ちゃんが表情を少しだけ緩ませる。

 

「そして、渡我被身子の“個性”は『変身』であり、己という『設計図』が確固としたレベルでありました」

 

 ()は語り、私の顔を見つめている。その瞳に、私が写っている。

 

「過去、渡我被身子と同じ結論に至り、同じ偉業を成した狩人達はしかし、悪夢で生きるにしろ、現実に戻るにしろ、上位者となった己を保てず、小さな奇跡を成しとげて自滅しました。……かくして悪夢は終わらず、繰り返される夜の旅は続けられた」

 

 果たして……全てを終えた後に、こうして続いてしまった私達は、運が良かったのか悪かったのか。

 

「渡我被身子が渡我被身子を二つに分けたからこそ……どちらにも“個性”があり、問題なく維持できているからこそ『ループ』の条件が満たされず、今日も夢に朝日は昇る」

 

 だから、そう『自分』を嫌わないでくださいと、()は言っている。

 

「…………」

 

 同じ人間から別たれた、もう1人の()は……かつての悪夢だったヤーナムの『王様』として、統治者として、中身の邪悪っぷりはどうあれ立派にやっている。

 終わった悪夢に、そこに住む人々がどれだけ救われているのか、賑わい豊かになっていく生活に、どれほど喜んでいるのか、()越しに伝わってくる。

 

 それが、私よりもずっと『ヒーロー』っぽくて、むかつくのです。

 

「……どうでもいいです。それより、お腹がすきました。現実で血を流しすぎたんです」

「はぁい。人形ちゃん()()()を呼んできて下さい」

「はい、狩人様」

「…………」

「そんな顔しないで下さいよぉ、私達と人形ちゃんの可愛い『娘』じゃないですかぁ」

「――――!!」

 

 眼球を狙って殴った。

 

「い!? 危ないですってば! いえ、地下で拾った指輪を人形ちゃんにあげるのが条件になるとか、知るわけないじゃないですかぁ!! どう考えても過去の狩人の誰かが、人形ちゃんへの偏愛を拗らせて悪夢を歪ませたからで、私は悪くないです!!」

 

 受け止められたかつ反省が足りないので全力で蹴った。

 

「ちょ!? だ、だいたい『上位者』としての私が『チウチウ』すると赤子ができるとか、トラップじゃないですか!! 赤ちゃんに赤ちゃんができるとか予想外ですし、私だってすごく焦ったんですからね!!」

 

 ……それを5年も私にひた隠しにして、あの日ミッドナイトの“個性”で熟睡して家族団欒に鉢合わせして、大喧嘩になった事を忘れている()への怒りがまたむくむくと蘇り、遠慮なく掴みかかる。

 

「ま、待ってくださーい!? 大丈夫ですよ!? 現実の私が『チウチウ』しても気持ち良いだけですから! ええと、葉隠ちゃん? お茶子ちゃん? 梅雨ちゃん? ミッドナイト? いっぱい『チウチウ』できますね!?」

 

 ――――血管が切れる音が聞こえる。

 

 これに関しては誰にも責められないと()をタコ殴りにする。どれだけ殴ってもダメージ0ですが、それはそれです。

 

 後から来た人形ちゃんと、()()()に止められるまでやりました。

 

 困惑する()()()に、人形ちゃんが淡々と、だけど母親らしく語りかける声に我に返る。

 

 

「狩人様は『赤ちゃん』です。お戯れもお仕事の内です」

 

 

 やめて?

 

 その教え方は絶対にダメでしょう?

 

 人形ちゃんに良く分からない理解を示され()()()にも誤解されて後悔しますが、これに関して私は悪くないです……! 

 

「……何で怒るんですかぁ?」

「悪気も悪意も無ければ、何を言ってもいいと思ってます?」

「……?」

「ッ、これだから、トガヒミコは……!!」

「自画自賛です?」

 

 フォークで刺した。

 

 いつもの事ながら、己同士の不毛な争いは終わらない。まるで、鏡をみて自分に爪をたてる赤子の様な気持ちで、ため息が漏れる。

 

 とにかく今は早く目が覚めたいと、人形ちゃん特製輸血液入りビーフシチューを頬張る。

 

 思わず唸る程に、とっても美味しかった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話 臨時休校と退院です

 

 

 私にとって()()()は、とても複雑な存在なんです。

 

 実の娘に対して何を……と、大抵の人は眉をひそめるでしょうが、そんな人達に聞きたいです。覚えが一切無いにも関わらず5歳の娘と妻がいる現実を、受け止めきれる人いるんです?

 

 こんなの、オールマイトだって裸足で逃げると思います。

 

「…………っ」

 

 ()()()から逃げる様に目覚めの扉を潜り抜けた私は、見知らぬ部屋(病室?)で目を覚ます。

 ドッドッドッと心臓が高鳴り、近くの心電図モニターから発せられるアラームがうるさい。

 

 ……焦りました。

 

 ()()()は、まだ数回しか会った事のない私を、それでも『父親』として慕ってくれる。

 しかも、初めて一緒に食事をとった事がよほど嬉しかったのか『私は、大きくなったらお父様のお嫁さんになりたいです』と言われました。

 思わず、楽しそうにからかう()をぶん殴って『そういえば、もう目覚める時間でした!』と、返事もそこそこに飛び起きたのですが……。

 

「…………」

 

 罪悪感に苛まれている。

 

 色々な人に、不甲斐ないと責められても仕方のない状況ですが、でも、無理でしょう?

 5()()()()()()()()()()()に、どう接すれば良いのかなんて分かりません。普通のパパさんが言われて嬉しい台詞集とか、私には吐血ものに受け入れがたいのです。

 

 包帯だらけの手で、顔をおさえて呻く。

 

 いっそ、()()()が娘だと言う事実が性質の悪い冗談なら……いえ、直感と脳に得た瞳が()()()()と人形ちゃんの娘だと確信レベルで教えてくれるので、疑いようが無いのです。

 

(ッ。本当に……()って、あがってきた株をマイナスにまでさげる天才ですね)

 

 雄英に入り、現実の私も高校生だし、()に対して少しは大人の対応をしようと思っていた矢先で、まさかの隠し子発覚ですよ。そりゃあ殺し合いになりますよ。気づいたら十ヵ月経過ですよ。心の底から惨たらしく死んで欲しい。

 

「……ッ。はあぁ!」

 

 殺意を溜息で拡散していると、ドタドタとこちらに駆け寄る数人の気配。

 

 ……改めて自分の姿を客観視すれば、どこもかしこも包帯だらけで、色々な機械に繋がれている。

 

「……ふむ」

 

 自分の手を見ながら、思わず口元を緩ませる。

 

 自然治癒が『普通』寄りで、異常な回復はしなかった様だと満足する。そして、ようやく心が落ち着いてきて、ふわりと欠伸。

 出来る範囲で筋肉をほぐして、身を起こしたまま二度寝に入ろうと目を閉じる。

 

 ガーっと、病室のドアが開いて誰かが声をあげながら入ってくるのと同時に、私は眠りに落ちた。

 

 

 

 

 ……。そして、朝。

 

 パチリと目を開ける。朝日を浴びると自然と目が覚めるも、すぐに眠りたくなる。

 

「んー……!」

 

 しかし、今日は学校です。

 遅刻もずる休みもJKなら『普通』ですが、私は同じ『普通』なら良い子で真面目ちゃんな方を選びたいのです。

 

 もぞもぞしながら、学校に行く支度をしようとして、何故かベッドに横たわっている己に首を傾げる。うっかり熟睡しない様に、1人の時はいつも座って寝ているのに……疑問は、しかし睡魔に負けかけて―――ッん! 気合をいれている内に忘れていく。

 

 そうして、苦労しながら起き上がり、ふっと右を向いたら。……? ……ええと?

 

 ほとんど、13号先生みたいな防護服に身を包んで『シュコー……シュコー……』言っている誰かが、椅子に座っている。

 

「……あ!?」

 

 視覚からの暴力じみたドッキリに心臓をおさえつつ、その正体に気づいてかなり驚く。

 

 さっきまで首をへし折ろうと考えていただけに、二重にドキドキしながらその肩に触れ、遠慮がちに揺する。ぐらぐらと、暫くすると『彼女』がハッと顔をあげる。

 

『……! 起きたのね、トガさん』

「は、はい。おはようございます、ミッドナイト」

 

 そう、この人はミッドナイトです。

 

 ごつい防護服に身を包んだ彼女から綺麗な声が聞こえてきて……つい、脳液を欲しがるあの人の事を思い出してしまい、そっと目を逸らす。

 

『……良かったわ。深夜に一度起きたと連絡が入ったから、私が付き添っていたの』

「……あ、ありがとうございます」

 

 18禁ヒーローの所以たる18禁要素がどこにもない、ごつい彼女に困惑してしまう。

 でも、私の為にフェロモン対策しているのだと思えば、つい頬が緩んでしまう。

 

『……改めて、今日のお昼前には校長先生が謝罪に来ると思うから、それまで眠っていなさい』

「?」

 

 分厚い防護服越しに背中を撫でられて、首を傾げる。何か謝られる様な事があったかと少し考えて、ハッと閃く。

 

「相澤先生の、私への生徒指導室呼び出しと反省文10枚が不当だったんですね!?」

『いいえ。それは妥当だと校長先生もオーケーを出したし、登校したら私も付きっきりで指導に当たるわ』

「……ヤぁああ」

 

 希望は死にました。

 やっぱり雄英って理不尽の塊ですね。

 

 シーツに額をぐりぐりしていると、肩に硬い手を置かれる。

 

『疲れているでしょう? もう眠りなさい』

「……はいぃ」

 

 優しい声に、少しだけトゲトゲした気持ちがおさまっていく。

 

「…………」

 

 シーツに口元を隠して、笑う。……私は、ミッドナイトが好きです。

 “個性”の相性は最悪だけど、この人が私を気遣ってくれた時間の長さを知っています。

 

 十ヵ月の眠りから目覚めた時、すぐに気づきました。

 病室に、うっすらと彼女の香りがこびり付いている事に。そして、そうなるぐらいには、ミッドナイトが私のお見舞いに来てくれた事に。

 

 お母さん曰く、凄い防護服の人が良く出入りしていたらしいので、彼女の今の姿を見てすぐに気づきました。

 残念ながら、その防護服でも“個性”は無効化できていないけれど、その気持ちがとても嬉しい。

 

(……カァイイなぁ)

 

 私が、退院するまでの間も、ずっと花を贈ってくれた。

 

 微かにだけど、花からミッドナイトの香りを感じて、ついでに混ざるビニール手袋らしい匂いに、相当に気を使ってくれた事が分かる。

 

 

(……でも、もうそんなに優しくしなくていいんですよ?)

 

 

 シュコーシュコーって、息苦しいだろうに、それでも私に付き添ってくれるミッドナイトに申し訳ないと思う。

 

 彼女は恐らく“個性”事故が認められて、何も罰せられなかった事を気に病んでいる。

 

 本当なら、私が元気に学校に通っている時点で解放されている筈なのに、今回の事件で罪悪感が刺激されたのか、妙な責任感を覚えて親身になっているらしい。

 

(……ヒーローって、大変なんですね)

 

 それとも、彼女が特別に優しいのだろうか?

 

 そんな事を考えて、防護服の向こうでどんな顔をしているのか……少しだけ目を凝らそうとして、やめる。

 今は、促されるままにゆっくり目を閉じていく。

 

『おやすみなさい、トガさん。……私がいるから、安心して眠りなさい』

「…………ァい」

 

 良い匂い。

 

 一瞬で、熟睡にまでもっていかれるのは、ヤだけど。……やっぱりすごく、好ましい。

 

 でも、座ったまま寝るのを、阻止するのはぁ、ダメです。いけません、私を横たえて、お腹ぽんぽんはダメぇ…………すや。

 

 

 

 

 

「あれ? おかえりな―――ぶえ!?」

 

 

 

 

 

 一瞬、また熟睡して狩人の夢に行ってしまった気がしますが、気のせいです。

 

 爽やかな気持ちで目覚めつつ、少し早い朝が始まる。

 ミッドナイトに顔を拭いて貰ったり、歯磨きを手伝って貰ったり、ご飯を食べさせて貰ったりと、かなり面倒をかけているのが気になりますが、両親は距離もあって、今すぐには来れないとの事。

 ついでに、明日には退院する予定だと伝えて貰ったので、今日限定でミッドナイトにおんぶにだっこ生活を受け入れる。

 

 そして、午前の内にミッドナイトが言っていたとおりに校長先生がやってきましたが……ごめんなさい、半分以上寝てました。

 

『トガさん、起き……あー。これは無理ですね』

 

 すぴょすぴょしつつ、校長先生が笑っているのを感じる。……いえ、言い辛いけどミッドナイトがずっと付き添っている時点で、起きると期待する方が間違いです。

 

 そうやって、臨時休校となった一日をほぼ寝たきりで過ごして、登校日。

 

 

 

 

「……おはようございまふぅ」

「「「「何でいるの!!??」」」」

 

 クラスメイトが酷いです。

 

 ミッドナイトやお医者さんに無茶を言って退院して、何故か解約されているアパートに愕然としながら、荷物が運ばれているというお茶子ちゃんの住んでいるアパートに向かい、渡されていた合鍵を手に制服に着替えて、諸々な疑問符に苛まれながらもタクシーに乗って登校して来たのに……

 

「重傷で入院中の筈やよね!? お見舞いも今は難しいってレベルだったよね!?」

「……ふあぁ? そうなんです? 病院は嫌いですし、わがまま言って退院してきました。通院はします」

 

 お茶子ちゃんが愕然としつつ、私の身体を頭から下まで見て「ふええぇ……!」と泣きだしてしまう。「え!?」これにはかなり焦って、お茶子ちゃんの顔を覗き込む。

 

「お、お茶子ちゃん、ど、どうし「トガちゃああん!!」んっぐぅ」

 

 横から、いつの間にかお茶子ちゃんと同じぐらい泣いている葉隠ちゃんに飛びつかれた。

 咄嗟に脇腹の傷を庇いつつギリギリで受け止めれば、ふわっと今度は正面からお茶子ちゃんに抱きつかれて、色々と動揺する。

 

「は、葉隠ちゃん? お茶子ちゃん? 2人とも、何か「トガぁあああ!!」あっひゅう」

 

 芦戸ちゃんまでどうしたの!?

 

 変なところに後ろから抱きつくから、くすぐったくて恥ずかしい声がでました。

 でも3人とも、ちゃんと抱きつくところは選んでくれるから優しいですね。

 良かったぁって泣いてしまった3人にオロオロしていると、少し離れている梅雨ちゃんと目が合う。

 

「ヒミコちゃん……無事で良かったわ」

「あ、ありがとうございます」

「……ところで、怪我の具合は、どうなのかしら……? 特に、左腕は……」

「? 見ての通りですよ。暫くはろくに使えないですね」

 

 笑って伝えれば、梅雨ちゃんの肩が小さく跳ねる。

 

「そう……なのね。……右手は? そちらの怪我も、酷いのかしら?」

 

 少し元気の無い梅雨ちゃんに、お腹が空いているのかと心配になりながら「大丈夫ですよ」と、右手を見せる。

 

「こっちは、人差し指と中指が折れて、手首には罅が入っていますが、割と動かせ「ダメよ」るう?」

 

 近いっ。

 瞬発力が凄いのか、ぐんっ! と顔を寄せられ、振ろうとした右手を優しくもしっかりと抑えられる。目を丸くして「あの……本当に、大丈夫ですよ?」と、優しく宥めるも。

 

「……ダメよ、お願い」

「……はい」

 

 苦しそうな声でダメだと言われたので、大人しくする。……な、なんなんです?

 

 チラと見れば、百ちゃんや耳郎ちゃんも、辛そうな顔をしている。

 更に視線を泳がせれば……緑谷くんは、何やら決意を漲らせた表情で私を見ているし、爆豪くんは妙に張りつめて今にもぶち切れそうだし、轟くんは普通だけど、どうにも視線を感じるし、切島くんは慙愧の念に堪え切れず、今にも土下座してきそうだしで……な、何があったんです? 私の姿を見た瞬間、喜色を通り越して罪悪感たっぷりなクラスメイト達に困惑します。

 

「……?」

 

 お茶子ちゃんと葉隠ちゃんと芦戸ちゃんを順番によしよししながら、おかしいですよね……? 考える。今の私は、そんなにおかしいのでしょうか?

 

 もしかして、頬に貼られた分厚いガーゼが同情を誘っているのですか?

 

 左腕に関しては、がっつり吊り下げられていますが、動かせますよ?

 右は、分厚い包帯に覆われて、今は梅雨ちゃんが離してくれませんけど、元気です。

 太股も、ガーゼと包帯で少し痛々しいかもしれませんが、切断もされてないし軽傷です。

 ……他にも、痣と切り傷での真新しい治療跡が残っているのがダメなのでしょうか?

 

「…………」

 

 もしかして、心配されている? ふと、そんな事を考えて。

 

(……いいえ、それは無いですね)

 

 すぐに否定する。

 

 むしろ、心配でずっと気を揉んでいたのは私の方です。

 

 か弱くて脆弱なクラスメイト達は、目を離した隙に死んでしまうのではと、とてもハラハラしました。

 

 私の方が強いのに、弱い彼ら彼女らが私を心配するのもおかしな話です。

 もしかしたら、他にも何か危惧しているのかもしれない。根気強く思考を巡らせていく。

 

(―――あ!)

 

 もしかして、次は自分が怪我をするかもしれないと、不安で堪らないのかもしれない。

 だから、強い私の負傷具合を見て、震えているのだ。

 

(ああ……皆、まだまだ子供ですもんね)

 

 痛いのも、辛いのも、初めてだと怖いよね。

 可哀想だと同情しつつ、優しい気持ちが溢れてくる。少しだけど頬が緩む。

 

「大丈夫ですよ」

 

 怖くないと、優しい声色を意識して、お茶子ちゃんと芦戸ちゃんと葉隠ちゃんを、順番によしよしする。

 

「被身子、ちゃん」

「トガちゃんっ」

「トガぁ……!!」

 

 カァイイと、目元まで緩んでしまう。

 

「本当に、大丈夫ですよー」

 

 ぎゅーってして、梅雨ちゃんの手も、握られたままの右手で包んであげる。

 

 実は両手が塞がっているので、3人の頭は顎でぐりぐり撫でていますが(3人とも別々の良い匂いがします)次に同じ事があっても、絶対に私が守ってあげますよーって、心配しないでって気持ちで大丈夫だと繰り返す。……本当に皆、カァイイなぁ。

 

 ほんわかしていると「―――ハッ!? 皆ー!! 朝のHRが始まる、席につけー!!」と石の様に固まっていた飯田くんが再起動する。

 

 その声に、慌てて皆も動き出し、私は百ちゃんに優しく手を引かれて席に座らせて貰う。

 

 

「お早う。……渡我は放課後に職員室だ」

「なんで!?」

 

 

 突然の理不尽。

 私と反対の腕を吊った相澤先生の挨拶ついでのソレに反論するも、無視される。

 

「さて、渡我の事は一旦置いておけ「酷いです!」黙ってろ。……何よりまだ、戦いは終わってねぇ」

 

 くぅ。放課後までに反省文を10枚書いておかないと、更に課題が増えそうです。

 

「戦い?」

「まさか……」

「また敵がー!!??」

 

 でも、反省文って何を書けば良いんです……?

 

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

「「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」」

 

 

 クラスメイト達の大声に慣れてきた私は、鞄から作文用紙を取り出して、萎れた気持ちでシャーペンを走らせる。

 

 とりあえず、反省文の『反省』の部分に心当たりが無かったので、私は何も悪くないですよね? という正当性を訴える内容にしようと決めた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話 目指す理由、です

 

 

 先生とクラスメイト達の声をBGMに、作文用紙にペンを走らせる。

 

 ついでに、私が見えていた敵の情報を予想という形で書き記す。不自然にならない形にとどめつつ、記憶を呼び起こして文字かさを増していく。……反省文という敵との戦いは初めてではないので、早く終わらせるコツも掴んでいるのです。

 

 

「待って待って! 敵に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」

 

 

 ただ、弔くんの“個性”は警察や雄英側にばれていない可能性が高いので『崩壊』と書くのは不自然すぎる。なので、あの時にチラと見えた相澤先生の傷跡を思い出して、こういう“個性”ではないかと予想を詳細な理由付きで書いていく。

 

 つまり、あの時は私が動かないと最悪死者が出ていたかもしれない(でなかったかもしれないけど)クラスメイト達が心配で焦燥にかられてしまった(ウソですけどね。弔くんと黒霧さんを狩りたかっただけです)ので、私に情状酌量の余地はたっぷりあります。という内容をそれっぽく書いていく。

 

「逆に開催することで、雄英の危機管理体制が盤石だと示す……って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ」

 

 あと、相澤先生へのダメ出しも書いておこう。絶対に書いておこう。

 

「何より、雄英の体育祭は……()()()()()()()

 

 まず、“個性”の関係上仕方ないとはいえ、戦闘時の視野の狭さが気になります。

 

「敵ごときで中止していい催しじゃねえ」

「いや、そこは中止しよう?」

 

 敵を凝視しないと“個性”が発動しないというなら、若干の視野狭窄も仕方ありませんが、それならもっと周りの気配に鋭敏になってください。

 

「峰田くん……雄英体育祭見たことないの!?」

「あるに決まってんだろ。そういうことじゃなくてよー……」

 

 現状、それで十二分に戦えているからと満足して思考停止になっていませんか?

 

 世の中、もっといろいろな武器や防具、サポートアイテムがあります。

 身の程を知り非合理を嫌った合理性を突き詰めるのも良いですが、非合理性から得られる経験も大事なのです。

 過去、色々な武器を好奇心のままに使って、痛い目にあった経験が実際に活きている身として、そこは誠実かつ真摯に書いていく。

 

 まあ、この後に待ち受けているだろうミッドナイトも含めた生徒指導室への恨みもたっぷりと込めていますが。

 

「ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!! かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。今は知っての通り規模も人口も縮小し、形骸化した……」

 

 それと、繰り返しになりますが先生は『目』に頼りすぎです。

 それなら、最低でも周囲の空気の揺らぎから周辺にいる個体を把握して敵味方の判別をつけられる様になって欲しいです。

 

「そして、日本に於いて今、『かつてのオリンピック』に代わるのが、雄英体育祭だ!!」

 

 私が脳無の目を潰した時、先生が私の接近に気づいていればその場で脱出できていた筈です。

 “個性”の関係上、どうしても『目』に頼りきりになってしまう事情は理解しますが、それはそれです。暫くは目を閉じての生活をご提案します。

 

「当然、全国のトップヒーローも観ますのよ。スカウト目的でね!」

 

 そういう内容を、とってもオブラートに包んで書いていく内に気づく。

 先生に『狂人の智慧』を授けたら良いのでは……?

 

「資格修得後はプロ事務所にサイドキック入りが定石だもんな」

「そっから独立しそびれて万年サイドキックってのも多いんだよね。上鳴あんたそーなりそう。アホだし」

「くっ!!」

 

 比喩ですけど、脳に瞳が増えるのは“個性”とも相性が良さそうです。

 これは、かなり良い考えでは? 思わず手を止めて思考していれば、すでに反省文を半分ほど書き終えている事に気づく。

 

 理不尽への反逆のつもりで意地悪も書いていますが、実際のところ先生は充分に強いです。

 サポートの腕も的確で、この程度の傷ですんだのも先生のおかげです。彼ならガスコイン神父と戦っても前半は余裕で勝てると思います。後半戦は……先生、虚をつかれるの弱いっぽいですし、勝率半分ってところでしょうか?

 

「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ」

 

 んー? 反省文が一段落ついたので、ようやく話が頭に入ってくるも(あ、そういうの良いです)と、即座に興味を失う。

 

「年に一回……計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら、絶対に外せないイベントだ!」

 

 いえ、私は資格さえとれればそれで充分なので、頑張る理由がありません。

 だらけきっている私に、相澤先生だけが気づきましたが、素知らぬ顔で誤魔化します。

 

 けれど、皆は違うようで。少しだけ空気がピリッとしました。

 

「…………」

 

 本当に、ヒーローというのは目立ってなんぼなんだなぁと……包帯で覆われた手で隠す様に『んべっ』と舌を出しました。

 

 

 

 

 ふあ、っと。

 午前の授業が終わって昼休み。

 

「あんなことはあったけど……」

 

 薬指と小指でペンを握るのにも慣れてきた私は、滲む涙をそのままに『わっ!』と盛り上がるクラスメイト達をチラと見る。

 

「なんだかんだテンション上がるな、オイ!! 活躍して目立ちゃ、プロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!」

 

 ……。

 まあ、そういうノリなんでしょうね。

 

 夢を追い、目立つ事しか考えないヒーロー達の辿りつく先が、過去のトガヒミコの悲鳴に気づきもしない、上辺だけのヒーロー達。

 

(少しだけ、ヤな感じです……)

 

 授業の合間に反省文を書き終えた私は、机を片付けつつ目を細める。

 

 別に、彼らがそうなるとは思いませんが、こういう積極性を見せられる度に、私は皆とは違うのだと線引きされている気になる。

 

「皆すごいノリノリだ……」

「君は違うのか? ヒーローになる為、在籍しているのだから燃えるのは当然だろう!?」

「飯田ちゃん、独特な燃え方ね、変。……ヒミコちゃん、一緒に食べましょう」

 

 梅雨ちゃんが、眠ろうとした私の前に来て誘ってくれる。

 というか、今日は百ちゃんや葉隠ちゃん、芦戸ちゃんと耳郎ちゃんも教室で食べるらしい。

 

「僕もそりゃそうだよ!? でも何か……」

「デクくん、飯田くん……」

 

 え? お茶子ちゃんの感情の込められた声に、思わず目を向ける。

 

「頑張ろうね、体育祭」

「顔がアレだよ麗日さん!!??」

 

 ち、ちょっとびっくりしました。

 

「どうした? 全然うららかじゃないよ麗日」

「生……」

 

 スパァンと、峰田くんが元気にぶたれていますが、本当にどうしたのでしょう? すごく一生懸命って感じです。

 

「皆!! 私!! 頑張る!」

「おお―――けど、どうしたキャラがフワフワしてんぞ!!」

 

 ……。

 どうしてか、さっき考えていた事もあって、気合の入ったお茶子ちゃんの横顔に動揺してしまう。

 

「……ぅ」

 

 そわそわする。

 いえ、お茶子ちゃんが、上辺だけなダメダメヒーローを目指していても、全然、どうでも良い筈なのに……足が止まる。

 

「…………っ」

 

 お茶子ちゃんだけじゃない。

 本当は、クラスメイト達がこの先にどんなヒーローを目指していようとも、それは彼ら彼女らの選択であって、私がどうこう思って責める筋合いはないのです。

 

 知らない事は、無い事と同じなのだから。

 

 ()()()に5年も気づかなかった私が……無い事にしていた私が、このヒーロー飽和社会だからこそ犠牲になってしまう、()()()()()()()()()()()()の存在を、彼ら彼女らが知らない事を、分からない事を、見えない事を……っ。いいえ、やめましょう。

 

 希望に溢れる姿を滑稽だと皮肉ってみても、眩しくて目が潰れそうになっていても、邪魔する様な言動をして良い理由にならないのです。

 

 

「…………ち、ちょっと、ジュース買ってきます」

 

 

 でも、少しだけ気になったから。

 

 梅雨ちゃん達に断って、いつの間にか羽織っていた毛布を(あれ? 本当にいつの間に? 誰のです?)そのまま纏いつつ、お茶子ちゃん達を追いかける。

 

 そして。「お金欲しいからヒーローに!?」と、意外そうに上げられた声に気づいて「ふえ?」変な声が漏れてしまう。

 

「あ!?」

 

 驚いた顔で振り向いたお茶子ちゃんと目があって、慌てて駆け寄られる。

 

「ひ、被身子ちゃん!? 聞いてたの!?」

「は、はい。……お茶子ちゃん、お金欲しいんです?」

「き、究極的に言えば……」

 

 なんだか、すごくカァイイ顔で動揺しているお茶子ちゃんにキュンとしつつ意外な理由に目を丸くする。あと、緑谷くんがとても自然にうっかり階段から落ちてもフォロー可能な位置に移動してくれるの優しいです。

 

「なんか、ごめんね不純で……!! 飯田くんとか立派な動機なのに、私恥ずかしい」

 

 あーって、恥ずかしがるお茶子ちゃんが、そのまま私を労わる様に毛布を巻きなおして、ほっぺをにくきゅうでぷにぷにってしてくれる。やわらかい。

 

「何故!? 生活の為に目標を掲げる事の何が立派じゃないんだ?」

「うん……でも、意外だね……」

 

 飯田くんも、動きが面白いけどスススッと私を人目から隠す様に立ったりして……え? 今の私って人目に触れるのダメな感じなんです?

 

「ウチ、建設会社やってるんだけど……全っ然仕事なくってスカンピンなの。こういうの、あんま人に言わん方が良いんだけど……」

「建設……」

「麗日さんの“個性”なら、許可とればコストかかんないね」

「でしょ!? それ昔父に言ったんだよ! でも……」

 

 そうして、お茶子ちゃんが語ってくれるご両親の話を(……っ)聞いて。そのお茶子ちゃんへの想いが込められた台詞に、動揺して、気づけば目を見開いている。

 

 ああ。

 

 自分の両親を、そして、己と()()()の事を考えて、酷く足元がおぼつかなくなる。

 

(……本当に、良い子ですね、お茶子ちゃん)

 

 ご両親も、とっても優しくて、お茶子ちゃんが、こんなに優しい子に育つの、よく分かります。

 

 

「私は絶対ヒーローになって、お金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」

 

 

 強く、まっすぐな瞳が綺麗すぎて、息が止まる。

 お茶子ちゃんの全てに見惚れながら、なんてか弱くも強い子だろうと、胸が高鳴る。

 

「麗日くん……! ブラーボー!!」

 

 飯田くんの言葉に一緒にこくこくと同意しながら、でも、何も言う資格がない私は、静かにお茶子ちゃんを見つめる。

 

 でも、お茶子ちゃんは「あ」少しだけ驚いた顔をして、パアっと「えへへぇ……♪」って嬉しそうに、気づけば笑っていたらしい、持ち上がっている私の頬をつんっとする。……こ、怖い顔を晒してごめんなさい。

 

 

「おお!! 緑谷少年がいた!! ……渡我少女も!?」

 

 

 あら。

 接近には気づいていましたが、唐突ですねオールマイト。皆がビクッとしてます。

 

「ごはん……一緒に食べよ?」

「乙女や!!!!」

「ぜひ……」

「あと、渡我少女は決して無理はしない様に! 食事の後はリカバリーガールのところにちゃんと顔を出すんだよ! 寝ないでね!?」

「はーい」

 

 軽く返事をして、あっさりと別れた緑谷くんを見送り、私も教室に戻る事を伝える。

 言い訳のジュースだけ買いに行こうとしたら、何故か飯田くんがぐわっと迫ってきて「僕が買って来よう!!」とお金を受け取り、お茶を買ってきてくれた。……いえ、良いのですけど。

 

「おかえりなさい」

「おかえりー」

「麗日どうだったー?」

「……すっきりした顔をしているわ」

 

 んぐ。

 教室に戻れば、皆はお弁当を食べずに待っていてくれた。あと、私がお茶子ちゃんを気にしているのはバレバレだった様です。

 

「……ただいま、です。別に、何もないです」

 

 落ち着かない。

 そういう空気、変に心臓がくすぐったくなるのでヤです。

 

 そっぽを向いた私のポーカーフェイスに、特に問題はなかったと判断したのか、妙にほっこりした表情で食事を始める皆を見てホッとする。察しが良すぎるのも困ったものですと、コンビニで買ったバナナを取り出して口でむいていく。

 

 ピタリ。一同の動きがそこで一旦止まる。

 

「……バナナは片手で食べやすいもんねー。……一応聞くけど、そのコンビニにはおにぎりとかサンドイッチは一つも無かったの?」

「普通にありましたよ?」

「そっかー! なんでバナナ!?」

「栄養価が高いって聞いたので」

「んぅー!!」

 

 葉隠ちゃん、カァイイ顔をくちゃっとさせてもカァイイね。どういう鳴き声なんです?

 

「……ヒミコちゃん、あーん」

「? あーん」

「……こういうの、嫌じゃないかしら?」

 

 いえ別に。

 卵焼きが美味しいと首を振れば、ホッとした梅雨ちゃんにミートボールを更に『あーん』される。

 

「被身子さん、こちらもどうぞ」

「肉食べなって肉!」

「辛いの平気?」

「トガちゃん、バナナはね? おやつじゃないけどおかずでもないんだよ……!」

 

 百ちゃん、芦戸ちゃん、耳郎ちゃん、葉隠ちゃん。そして梅雨ちゃんを見て、食べさせて貰いながら思う。思ってしまう。

 お茶子ちゃんと同じぐらい優しい彼女達は、どんな『ヒーロー』になるのだろう?

 

「…………」

 

 お茶子ちゃんと同じ様で、違う。似ている様で、似ていない。

 だけど、あの瞳をするのだろうと思った。

 

 貫かれる様な、ハッと息を忘れる様な、そんな理由があるのかもしれないと思えば、変に心臓がもやもやする。喉が詰まって、ごくん、口の中のものを無理に飲み下す。

 

 ……まあ、そうですよね。

 

 

(皆は、私みたいな成り行きとは違う)

 

 

 感じてしまう疎外感を、当たり前だろうと受け入れる。

 

 最初は、ヒーローを目指すのが『普通』だからと、学校や親の希望に流されただけ。

 そして、まさかと思っていた雄英に受かってしまい、初めて『ヒーロー』について考えた私は。もしも、こんな『ヒーロー』がいたならばと、理想のヒーロー像を見つけた。

 

 そして、そんな『ヒーロー』がいないなら私がなれば良いと……夢をみてしまった。

 

(……バカみたい、です)

 

 改めなくても、私が一番くだらない。

 

「トガちゃん、もうお腹いっぱい?」

「……はい」

「被身子さん、先生に食後は必ず保健室に行く様にと……あっ! いけません! 起きてください!」

「ちょっ、薬! せめて薬だけは飲ませないとダメだって! 確かポーチにいれてる―――って多ッ!!??」

「ちょ、トガを起こして!! これ絶対に飲ませないとダメなやつ!!」

「起きてヒミコちゃん。……っ、熱があるわ、高いわ」

「あー!! どーう考えても解熱用の薬も入ってるよねぇ!? トガちゃーん!!」

 

 ……ご迷惑をおかけしています。

 でも、お願いなので今は放っておいて下さい。

 

 どうして、私はこのクラスで一番強いのに……一番どうしようもないのでしょう?

 どうして、私より『普通』でしっかりしている子達が……こんなにもか弱いのでしょう?

 

(……そんなの、『普通』じゃない私に分かりっこありません……)

 

 どうして、私はどこにいても『普通』になれないのでしょう?

 どうして、私はこんな事を考えて苦しくなっているのでしょう?

 

 どうして、私は『此処』にいるのでしょう?

 

 

「―――――」

 

 

 いっぱい考えていたら、ごちゃごちゃして、しんどくなる。

 

 額に手をあてている梅雨ちゃんを引き寄せて、無理やり抱きついて、突き飛ばされるのを覚悟でぐりぐりと額をおしあてた。

 

 眠いし、だるいし、熱いしで、もうぜんぶ、分かんなくなっていた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話 宣戦布告とチャンスです

 

 

 気づいたら、保健室のベッドで寝ていました。

 

 そして、傍に控えていたリカバリーガールに目覚めの一発、とばかりに怒られました。怖かったです。

 

(……例えるなら、正論の銃弾でパリィとられて内臓抜きされた気分です)

 

 意気消沈しすぎて、弱々しい溜息が漏れる。

 

 リカバリーガールに『次にクラスメイトに迷惑をかけたり、保健室に来るのを忘れる様なら即入院手続きを取るからね!』ってぷんぷん言われました。これに関しては私が悪すぎるので、迷惑をかけた皆にはちゃんとごめんなさいして、昼休みいっぱいお説教を聞いて凄く反省しました。

 

(……私は、何をしているのでしょう?)

 

 口元を押さえて、冷静にならなければ血を欲してしまいそうだと、自分の舌に歯をたてる。

 

(……私って、人を超越してる存在でしたよね? もしや、まだ悪夢を巡ってます?)

 

 そんな事を考えるぐらいには、気落ちしている。でも、リカバリーガールのおかげで目が冴えてきた。

 

(……お婆ちゃんの言う通りです。我が儘を言って登校しているのに、誰かに迷惑をかけるのはダメダメです)

 

 このままではいけないと、自分が『普通』じゃない事も、クラスメイト達より薄っぺらい事も、とっくに分かっていただろうと切り替える。

 保健室からとぼとぼと戻ってきたら、皆に驚かれて心配されましたが、大丈夫だと胸を張り、午後の授業はキリッとした面持ちで受けました。チャイムの音と同時に寝落ちますが、私はできる子です。

 

 

(―――そうです。私は、元の渡我被身子や()とは違うのです!)

 

 

 そうして集中していると、すぐに放課後になる。午後の授業を卒なくこなせた事にホッとする。

 

「……ん」

 

 そういえば、職員室に呼ばれているんでした。

 これも、しっかりこなさなくてはと。知らず突っ伏していた身体を起こそうとする、が。ふわふわ柔らかい枕の感触に、顔をあげられない………すぅ。

 

(―――ハッ。寝ちゃダメです! ……くっ、なんて凶悪な枕……が、なんで学校にあるんです? あと、背中の毛布といい誰のです?)

 

 今更な驚きに目を丸くする。

 しかし、頬に当たる極上のすべすべ弾力はふわふわ、魔性ともいえる魅力に、瞼がどんどん重くなっていく。

 

「……ぁう」

 

 寝ちゃい、そうです。

 

 ああ、ダメです、この枕はぜったいお高いやつです。でも、私は負けないのですっ。大体、思い返せばおかしな事だらけです。毛布は羽織っているし、冷えピタは額についているし、机の上が片付いていたり、気づいたら次の授業の準備がされていて……あれ?

 

(私は、ちゃんとしているつもりで、実は誰かに助けられているのでは?)

 

 驚愕な気づきだった。

 あまりの衝撃に愕然とする、が。……優しい睡魔の誘惑に『ふわあ』っと意識が飛んでいく。……私の幼年期って、いつ終わるんですか?

 

「んぅうう……っ!」

 

 不機嫌に唸ると「あらあら」心配そうな百ちゃんが、優しく頭を撫でてくれる。

 そして、スッと勝手知ったるとばかりに冷えピタを取り換えられ、良い匂いがするハンカチで汗を拭かれ、ずれた毛布を肩にかけられ、帰り支度の準備を―――って、犯人は百ちゃんでしたかー!? ありがとうございます甘やかしちゃダメです!!

 

「……んんんんっ!!」

 

 な、なんたる不覚と不甲斐なさだと「まあ!」百ちゃんの手を引っ張り、衝動のままかぷっ! と噛みつく。

 

「ひ、被身子さん……!?」

 

 嬉しいけど、ありがたいけど「あ、あの。くすぐったいですわ」次からは、自分で頑張りますから私に優しくしないでください! かぷかぷして、でも、チウチウは我慢なんです……!

 

 これ以上、百ちゃんに迷惑かけたくないのです!

 

 そういう意志を込めて、ハムハムして……でも、別にヤって訳じゃないです……だんだん、歯に力が入らなくて、ぐりぐりと頬を押し付ける。

 

(……ああ、百ちゃんの手、ポカポカしています)

 

 このまま、もっと、噛みたい……がま……寝ちゃ、ダメで…………すぅ。

 

 

「――――被身子さんは、私の子供だった……?」

「なんで!?」

 

 あ、うるさい。寝れないです。

 

「落ち着けヤオモモ!!??」

「ダメだよ!? トガちゃんはトガ家の子供だから正気に戻って!?」

「気持ちは分かるわ。……でも、それ以上はいけないわ」

「あわわ……!? 起きて被身子ちゃん!!」

 

 あ、お茶子ちゃんの声ぇ……

 

 ゆさゆさされて、気づけば百ちゃんの指をチゥと咥えている。……あ、汚いって思われちゃう。

 

 ねむねむのまま、取り出したハンカチでごしごしして「ごめんねぇ……」すると、百ちゃんが感極まった様な顔で「被身子ちゃん! 今はダメー!」ぐいーっと、引っ張られる。

 

(どう、したんですかね……?)

 

 ……眠くて、状況、さっぱり。

 そういえば……お茶子ちゃんに……アパートの解約……きいてない……

 

「被身子ちゃーん! 職員室に呼ばれてたよね!? 一緒に行こうか!!」

「…………ぅ」

 

 そう、です! 眠いけど、頑張ります……!

 

 私の方が、お茶子ちゃんよりお姉ちゃんです。ぬくぬく毛布だけは手放しがたくて羽織りながら、お茶子ちゃんに手を引かれて歩く。

 

「じゃあ、行こうって……うおおお」

「……?」

「何ごとだあ!!??」

 

 ……? あ、人がいっぱいですね。

 

 眠くて、気づけませんでした。……でも、別に気にしなくて良いのでは? ふらつきながら、お茶子ちゃんの腰に右手を回そうとして「ダメ!」と怒られる。

 

(……え?)

 

 ヒュン、と。お茶子ちゃんに怒られたと眠気が飛ぶ。

 

 え? ……え? 予想外に大きなショックを受けてオロオロするも(……あ)今のは拒絶されている訳ではなく、怪我をしているからダメなのでは? と気づいて、持ち直す。お茶子ちゃんはやっぱり優しいです。

 

「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ」

「敵情視察だろザコ」

 

 お茶子ちゃんに「チガウヨ!? 違うからね!?」って、いっぱい頭をなでなでされる。お団子を崩さない様にしてくれてますます優しい。でも、何が違うんですか?

 

 あ、爆豪くんはちゃんと教えてくれて優しいねぇ。

 

「敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてえんだろ」

 

 安心したら眠くなって、お茶子ちゃんの肩に額を乗せる。……何か頑張ろうと思っていた記憶がありますが、今日はもう失敗している気がするので、明日から頑張ります。

 

「意味ねぇからどけ、モブ共」

「知らない人の事、とりあえずモブっていうのやめなよ!!」

 

 ふぁ。知らない人にモブって言うの、ダメなんですねぇ。覚えました。

 爆豪くんを見ていると、ダメな事が事前に分かって安心します。良い子ですよね。

 

「どんなもんかと見に来たが、ずいぶん偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」

 

 うとうとしていると、お茶子ちゃんが背中を撫でてくれる。暖かいです。

 

「ああ!?」

「こういうの見ちゃうと、ちょっと幻滅するなぁ。普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴、けっこういるんだ。知ってた?」

 

 え?

 

 ぴくっと、目を開く。……『普通』科?

 

 そこに、憧れの普通科さんが、いるのです……? 纏わりつく眠気を振り払う様に、ゆっくりと顔をあげる。

 そこには、気怠そうな紫髪の少年(『洗脳』ですか)がいる。

 

 

「体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ……」

 

 

 ―――え。

 

 予想外の情報に、肩を震わせて固まる。

 

(……ウソ)

 

 それ、本当のお話ですか? ……合理的虚偽とか、夢ではなく?

 

 ガーゼをつけた頬を引っ張ろうとしたら「痒くても触っちゃダメ!」ってきつめに止められて断念する。

 

(……い、いえ()がいない時点で、此処は現実ですね……!?)

 

 っ、じゃあ、雄英って理不尽なだけじゃなくて、ちゃんと救済措置があったのですね……!

 ぱあっと、目の前が拓けた様な気持ちになる。

 

「敵情視察? 少なくとも普通科は。調子のってっと、足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー、宣戦布告しに来たつもり」

 

 そんな、奇跡みたいな事、あるんですね……!

 

(じゃあ、私が憧れの普通科に入れる事もあるんですね!?)

 

 可能性が現実味を帯びて広がり、今日ごちゃごちゃ考えていた気持ちが一気に晴れ渡っていく。

 

 私には合わない、勿体ない、ヒーロー科しかないって……言われ続けて、だから普通科を諦めました。

 でも、雄英では『ヒーロー科』こそが、私には合わなくて、勿体なくて、分不相応じゃないかと思うのです。

 

 そして此処ならば、こんな私でも『普通』の代表みたいな『普通科』に通える可能性があるのだと、頬が緩む。

 

「隣のB組のモンだけどよぅ!! 敵と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!! エラく調子づいちゃってんなオイ!!!!」

 

 っ、そうです。彼の言う通り、少し冷静になるのです!

 

 改めて記憶を呼び起こして、雄英体育祭の仕組みを思い出します。

 確か、各学科でわちゃわちゃして、学年ごとに各種競技の予選を行い、勝ち抜いた生徒が本戦で競う……学年別総当たりの全国で有名な奴です!

 

(……つまり、本戦に普通科さんが残り、私が最下位、いいえ、もっとダメダメな印象を残せば、ヒーロー科を晴れて除籍されて、普通科への夢が開かれる……!?)

 

 高鳴りすぎて、そわそわする鼓動と期待を抑えて、真剣に考える。

 

「本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」

 

 そう。今こそ参加する気も無かった体育祭へのやる気が生まれている。

 

「…………」

「待てコラどうしてくれんだ、おめーのせいでヘイト集まってんじゃねえか!!」

 

 お茶子ちゃんの支えてくれる手をそっと外して、静かに歩んでいく。「被身子ちゃん……?」お茶子ちゃんの戸惑う声を背に、足取りに迷いは無い。

 

「関係ねえよ……」

「はあ―――――!?」

「上に上がりゃ、関係ねえ―――あ?」

 

 そんな、爆豪くんの隣をスッと通り抜けていく。

 

 そして「え!?」彼ら彼女らの前に「トガさん!?」静かに立つ。

 

「……?」

 

 毛布を羽織る私を見下ろす『洗脳』くんが、いぶかしげな表情をする。

 

 その場の全員から誰だこいつ……? という視線を向けられ、ここで自己紹介を……いいえ、このままでは失礼ですね。

 スッと、首から下に纏っていた毛布を脱いで、剥き出しになったギプスにひっかける。

 

 改めて「トガです。トガヒミコです!」胸をはって自己紹介。

 

 

 ザワッ、と。

 

 

 さっきまで、ひっそりと昂っていた熱が、何故か急激に冷えていく。

 私を見る瞳に、驚愕と動揺、微かな恐怖がいり混じっているのが不思議で、普通科代表だと言う『洗脳』くんも、目を見開いて息を呑み、湧き上がる感情を何とか堪えようとしている。

 

(……もしかして、ギプスですか?)

 

 腕を吊っているJKとはそんなに痛々しいものなのか、もしくは珍しい? 内心で首を傾げながら、目的を忘れてはいけないと、口を開く。

 

 

「応援しています」

 

 

 あえて、普通科代表の『洗脳』くんを見上げて伝える。

 

「……は、ぁ?」

「心から、貴方達に期待しています」

「……何を」

「頑張ってください。……こんな事を私が言うのは、気に障るかもしれませんが」

 

 胸に、包帯だらけの右手を当てる。

 ヒーロー科に在籍する私が、憧れの普通科さんに言うのは図々しいでしょうが。私は―――そんな普通科さんになりたいのです! という気持ちを込めて口を開く。

 

()()に、丁度良く足を掬える人間がいます!」

 

「―――――!?」

 

 

 ザワリ!! 先程とは違う意味で周りがざわめく。

 

 

 よし……! 掴みは上々ですと満足しながら、まっすぐに彼ら彼女らの視線を受け止める。

 

 伝わったでしょうか? 伝わったと信じますよ! そうです、私です、私こそをターゲットにするのです!

 

(私を狙うのです! おもいっきり恥をかかせて蹴落とすのです! 怪我人だからチャンスはたっぷりです! 頑張って私をこきおろすのです!)

 

 そんな気持ちを瞳に込めて、自らを差し出す様に目を細める。

 

 ここにいる彼ら彼女らが、もれなく私を普通科に昇らせてくれる蜘蛛の糸に成りえるのです!

 

 

「足元を掬う、なんて生温いです。―――足首からその先まで、全てを砕く勢いで私と舞いましょう。私と貴方達で、悔いの無い素晴らしい戦いをしましょう!」

 

 

 今だけは、不気味に笑ってやります。

 

 さあ、この邪悪な笑顔を見れば、私を狙う事への罪悪感などバカらしいと……いえ、ちょっと強張っていますね。あえて笑おうとするのは久しぶりで……もういいです、やめます。

 

 大きく目を見開いて、息を呑んでいる『洗脳』くんに手を差し出す。

 

「よろしくです。……本気で私に、普通科への招待状を叩きつけてください」

「……ああ」

 

 彼と目が合い、視線と視線が混じりあう。

 

(想いは通じ合った、筈です! きっと曲解ではありません! 裏取引が成立しましたよね!?)

 

 彼に、私の気持ちは(恐らく)通じた筈です。

 そして伸ばされる、彼の手は大きく、取引成立の握手は、あれ?

 

 そっと、包まれる様に、両手で握られる。

 

「……?」

 

 あの、気にせずバキバキって握り潰さないんです? むしろ、バキバキチャンスですよ? 全然力が入ってないですよ?

 

 あの、本当に潰さなくて良いのです?

 

 

「く……っ。トガの奴、男らしいじゃねえか……っ!!」

「普通科であろうと、好敵手として認める、という事か……」

「……自分を、奮い立たせてもいるんだろうな」

「くそっ。……あんな大怪我しといて、やる気満々ってか!? 負けられないな!!」

 

 

 ん……?

 

 外野から感じる空気、少しおかしくないです?

 あと、爆豪くんの、言葉にするなら『そんなザコ共より、俺を見とけやあ!!!!』みたいな視線が不穏で凶悪です。

 

 あと、怖い顔をしているB組の人は「……」暫く無言だったかと思えば、ズンズンっ威圧的にこっちに来て、その勢いに似合わないちっちゃい動きで毛布をバッと取って、バサッ! と肩に被せてくる。

 

「……おう! 事情を碌に知りもしねぇのに、まとめて煽っちまって悪かったな! 俺は鉄哲徹鐵だ!」

「よ、よろしくお願いします」

 

 なんか、カァイイ名前ですね。この人からは切島くんと似た空気を感じます。

 

 でも、何で毛布を被せるのです? 脱ごうとすると、強い力で阻止するの何でです? もしかして、この場では着てた方が良いのですか?

 

「……心操人使だ。……渡我、さん。当日は覚悟しておいてくれ」

「ええ、勿論です。どうか、私を喰らい尽くすつもりで来てください。―――こんなチャンス、滅多に無いですよ?」

 

 ニィ、と。

 今度の笑顔は成功しました。

 

 

(……ええ。とても、良い感じです!)

 

 

 これは、普通科に行っても上手くやれそうですね!

 

 ヒーロー科の私が、自らトレードを望んでいると大々的にアピールできた筈です!

 当日は、ただ待っているだけで此処にいる面々が私を陥れ、普通科へと導いてくれる。そう思えば嬉しくて、つい「ヒッ!?」「……ぅ!?」気持ちが緩んでしまう。……おっと、いけません。威圧感っぽいの出てるし落ち着きましょう。

 

 ヒーロー科で頑張るぞー! って感じのクラスメイト達に、この裏取引はばれてないでしょうが、怪しい行動は控えるべきです。

 

 ふぅっと肩の力を抜けば……ふありと欠伸がでてしまう。「……あ、職員室、行くんでした」ふやけた声がでて、お茶子ちゃんの手をつい探してしまう。「そ、そうだね!」そしたら、お茶子ちゃんにぎゅうって繋いで貰えて、うれしい。

 

「被身子ちゃんって……!」

「ふぁい?」

「やっぱり、ギャップが詐欺だと思うんよ!」

 

 え? 今、存在が犯罪者だって言われました?

 

 聞き間違いを願いつつ、人混みが割れていくので楽に職員室に向かいながら……それにしても、と視線を向ける。

 

(緑谷くん……急に怖いぐらい真剣になりましたけど、何かあったんですかね?)

 

 話している途中から、彼の空気がぐんっ! とやる気に満ち溢れていったのだ。

 爆豪くんは……ちょっと私への敵愾心? 闘争心? そういう感情が更に研ぎ澄まされていて、これ以上ロックオンされるとうっかり手がでちゃいそうで困ります。そしてクラスメイト達は、ピリピリ度があがっています。

 

 ……。

 もしかして、普通科さんに喰われる可能性に慌てているのでしょうか? ……それなら安心してください。個性テストの時と同じで、大丈夫です。

 

 

(だってソレは、私にこそふさわしい栄光です……!)

 

 

 ええ、私はヒーローになります。なります、が……『普通科』にも入ってみたいのです!

 

 結局はトガヒミコである私は、目の前にぶら下げられる魅力的な欲望に抗うのは難しく、道徳的に問題がないのなら積極的に取りにいくのです。

 

 普通科のトガ……素敵な響きです……!

 

 

 




 ※おまけなトガちゃんの怪我の具合について。

 13号の“個性”である『ブラックホール』により、左腕から手の甲にかけて皮と肉がチリになっている。保護する皮膚が無い為に出血が止まらず、緊急手術。一番の大怪我。

 脳無の攻撃による右頬の切創。彼女は平然としていたが、一部口内にまで貫通していた。なので、彼女が口を開く際、頬の傷と混じって口からもポタポタと血が流れていた。相澤先生は勿論気づいていたし、リカバリーガールが左腕の次に気にかけて“個性”をつかっている。

 右手。脳無への攻防により人差し指と中指の骨が折れている。親指と手首は罅が入り、細かい傷や痣で赤黒くなっている。

 頸部。鎖骨から顎下にかけて切創があり、右頬と同じくガーゼと包帯でしっかりと保護されている。

 左脇腹と右大腿部。切創により何針も縫っている。包帯でがっちり保護されている。

 全身。とにかく裂傷、擦過傷、熱傷、その他の細かい傷があり。治療跡で痛々しく保護されている。


 結論として、顔は右頬のガーゼのみが目立つが、首から下を一般人が見たら腰を抜かす。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話 勝負には罰ゲームです

 

 

「体育祭? ……最低でも、そのギプスが外れないなら出場禁止だ」

「なるほど」

 

 いきなり前途多難ですね。

 相澤先生に「そういえば、私って体育祭に出られるんです?」と、反省文を渡しながら聞いたら、少し驚いた顔でそう答えられる。

 

(うーん……)

 

 後で、普通の人が2週間でこんな感じの傷が治せるか調べないとです。

 

 どう誤魔化そうかと考えていると、お茶子ちゃんが「で、でも!」と身を乗り出して、相澤先生に先程の事をカァイイ顔で説明してくれる。

 相変わらず、お茶子ちゃんは説明が上手で、聞いていて楽しくなります。一生懸命な様子に、周りで耳を澄ませている先生もいるぐらいです。

 

「……渡我、何を企んでる?」

 

 そして相澤先生の疑いの目が的確すぎます。

 首ごと顔を逸らすと「え? ……え?」お茶子ちゃんが私と相澤先生を驚いた顔で見ている。

 

「……まあいい。リカバリーガールに頼んで、2週間の集中治療で何とかならんでもない」

「本当です?」

 

 軽い調子で身を乗り出すと、相澤先生は「……ああ」反省文に目を通しながら、保健室利用書を数十枚渡してくれる。

 

「体力が回復したと思ったら、リカバリーガールに治して貰って来い」

「はい!」

「後、反省文は書き直しな」

「なんでです!?」

 

 強い調子で抗議すると、相澤先生は呆れ顔をして机に置いた作文用紙を指先でトントンする。

 

「二度ほど読み直したが、この反省文には一言も謝罪が書かれていない」

「!? ……い、今から追記してもいいですか?」

「ダメだ。ちゃんと反省しろ」

 

 くぅ……ッ。

 これはうっかりしていました。項垂れながら新しい作文用紙を受け取る私の横で、お茶子ちゃんは苦笑いしている。

 

「だが、着眼点は悪くない」

「……はぁい」

「次は謝罪を忘れずに記載しろ。もう少し詳細に書いても良い。それと、問題を提起するなら実現可能なレベルに落とせ。その域に達するには時間が足りん」

「……ん?」

 

 何かおかしくないです? 首を傾げるも「はぁい」まあいいかと返事をして、こみ上げる欠伸をかみ殺す。

 

「じゃあ、保健室に行ってき……ふあぅ」

「……おい。昼休みにすでに治療を受けている筈だろう? 焦れば良いってもんじゃないぞ」

「ん、大丈夫です。私は体力とスタミナ、いっぱいあるから、平気です……」

 

 眠いだけだと、先生に包帯だらけの右手を見せる。

 

「そうじゃなきゃ、先生も私もとっくに死んでますよぉ」

「……。そうだったな」

 

 ねーって。

 先生の苦そうな同意に満足する。死線を駆け抜けた者同士の小粋なジョーク(悪夢ではよくやってた)を現実でできた嬉しさに頬を緩めていると……隣にいるお茶子ちゃんがすごい顔をしてる。

 

「お!? お茶子、ちゃん? どうしたんですか?」

「被身子ちゃんの、ばか!!」

「えっ、あっ、バカですごめんなさい!!」

 

 丸いお顔が更にぷくぅって丸くなって涙目で、これは絶対に怒っていると焦る。

 いつかの()が、不機嫌な女の子にはひたすら低姿勢になってさっさと折れるのが楽、と愚痴っていた事を思い出し、オロオロしながらひたすらにそんな風に接していると、お茶子ちゃんは「……もう!」って、頬の空気を抜いてくれる。(ゆ、許して貰えた……?)心から安堵する。天文学的な確率で役に立ちますね()も。

 

「……被身子ちゃん、保健室に行こっか!」

「はい! どこにでもついて行きます!」

 

 とにかく低姿勢、を意識しつつも「あ」と、お茶子ちゃんの制服を引っ張る。

 

「……そういえば、私の住んでる、いえ、住んでいたアパートが知らぬ内に解約されていた件なんですが……」

「え、被身子ちゃんのご両親から許可は取れたって、手続きは先生たちがしてくれたよ?」

「は?」

 

 ぐるんっと振り向いて先生を見たら、すでにこっちを見てすらいなかった。

 ちょっと? 聞こえている癖に我関せずな背中に溜め攻撃をしたくなる。

 

(まさかの黒幕? いえ、正確には違うのでしょうが一枚噛んでいるとは思わなかった!!)

 

 もっとダメだししてやると、反省文への意欲をあげていると、少し慌てた様子のお茶子ちゃんに手を引かれて、大人しく保健室に向かう。

 

 そして「失礼します」と、保健室にお邪魔すると、保健室利用書を持った私を見て「昼に治したばっかりだろう!」って、リカバリーガールに怒られました。……踏んだり蹴ったりです。

 

 私は眠いだけで体力は有り余ってます! と訴えて、お茶子ちゃんも味方してくれる。

 そのかいあってか、渋々ながらもリカバリーガールに“個性”を使って貰える。

 

「……息切れもしてないね」

「はい!」

 

 そうして暫く治して貰っていると「流石に終わりだよ!」と、お菓子を貰える。

 

「……あんた、体力が有り余ってるのは本当みたいだね」

「はい! まだまだ元気です!」

「……分かったよ。明日から朝と放課後にも来なさい」

 

 やりました!

 という訳で、リカバリーガールから朝・昼・放課後に様子見で治療して貰える事になりました。

 これなら2週間でギプスがとれても不自然じゃないと、実に満足です。

 

 これで、雄英体育祭が終われば『普通科』のトガが爆誕だとウキウキ気分で帰宅します。

 

 お茶子ちゃんと並んで校門の前でタクシーを待ち(この格好で電車に乗るな! と言われました。雄英宛の領収書も認められました)コンビニで買ったアイスを食べさせて貰ってます。

 

「……被身子ちゃん」

「はい」

「アパートの事、勝手な事してごめんなさい……!」

 

 ? 今更過ぎて、頭を下げるお茶子ちゃんを目を丸くして見つめる。

 その表情は真剣で、すごく落ち込んでいる様に見える。

 

「その……被身子ちゃんが入院して、面会謝絶って聞いた時……何か、私に出来る事はないかなって、いてもたってもいられなくて……」

「ふぁい」

「……色々、ぐるぐる考えてたら、被身子ちゃんは退院した後も、1人であのアパートに帰るのかな、って気になって、先生に相談したんよ」

 

 なるほど?

 チョコアイス美味しいです。でもペース早いです。さっきからひっきりなしでお口冷たいです。

 

「だ、だからね? 被身子ちゃんに何の相談も無しで「怒ってないですよ」勝手な事して……え?」

 

 お茶子ちゃんからアイスのスプーンを取り、お返しですとそのお口にチョコアイスを食べさせる。

 

「驚愕はしました。でも、お茶子ちゃんに怒ってる事なんて無いです」

「……で、でも」

「個人的に、静かで気に入っていましたが、それだけです」

 

 本心からそう言って、少しだけ口角をあげる。

 お茶子ちゃんは目を見開いて「被身子ちゃん……っ」うるうると瞳を潤ませる。それから「……ん。ありがと!」って、カァイく笑ってくれる。

 

(……良かったです)

 

 心から安堵する。でも、と。その安心しきった横顔を見つめる。

 

(……むしろ)

 

 お茶子ちゃんの方こそ、怒っていないのですか?

 

「…………」

 

 それとも、忘れている? いいえ、それは無いでしょう。

 だからこそ湧き上がる疑問を、アイスの甘みと一緒に飲み下す。

 

 ずっと、13号先生の件を責められないのが不思議だった。

 

 ヒーローを目指す彼ら彼女らが、あの一瞬に下した私の判断を、見逃したとは思いません。

 

 もしかして、知らない振りをしている……?

 お茶子ちゃんは優しい人だから、証拠も無いのに責められないと、無理して笑っているのかもしれない。

 

「…………」

 

 そう思うと、少しだけホッとする様な、落ち着かない心地を覚える。

 

 ズキズキと、左腕から手の甲にかけて幻痛がする。

 あの時の痛みと悪寒に顔をしかめ、漏れかける声を飲み込む。……ああ、この感覚を忘れない限り、人助けに躊躇する余裕は無さそうだと、静かにギプスを見下ろす。

 

「……ッ。被身子ちゃん、帰ったら買い物行こう!」

「へ?」

 

 唐突に、お茶子ちゃんに背中から抱きつかれる。

 

「いっぱい、美味しいの作るから! お腹いっぱい食べて、お風呂に入って……あ、その傷じゃダメだね!? ええと、身体拭かなくちゃだ!? ドライシャンプーとか買わないとかな!?」

 

 その視線が、私のギプスにチラチラ注がれて、変にテンションが高い。

 その表情は、笑っているのにどうしてか悲しそうで、苦しそうにも見えて、だけど、怒ってはいなかった。……その体温を、戸惑いながら静かに受け入れる。

 

「っ。……それで、ぐっすり眠ったら……早く、全部、リカバリーガールに治して貰おう!」

 

 ぷにって、頬に少しだけ触れるにくきゅうが温かい。

 悲しそうな表情は、けれど曇らずに、強い光を宿して私をまっすぐに見つめている。

 

「…………」

 

 お茶子ちゃんの、この瞳が好きだと思う。

 息を呑む美しさだと、柔らかい声で「……はい」自然と頬が緩んでしまう。

 

(ああ、でも……)

 

 お茶子ちゃんは、何をそんなに気にしているのでしょう?

 

「っあ、タクシー来たね。……帰ろっか、被身子ちゃん」

「……はい、帰りましょう、お茶子ちゃん」

 

 分からない。でも。

 薬指と小指だけ、しっかりと繋いでくれる、優しいお茶子ちゃんの手の感触が、特別に感じている。

 

「…………」

 

 今日から、彼女と2人で並んで帰路につく日が増えるのだろう。

 

 数日前には戸惑いでしかなかった非日常が、当たり前の日常になっている。その不思議さを受け止めきれず、ぼうっと空を見上げる。

 

 赤い夕暮れに、何かを感じた事はないけど。今日は少しだけ暖かい色に見える。

 

 タクシーに乗り込むお茶子ちゃんに「夕日、綺麗です」気づいたら、そんな事を言っている。

 

「……そうだね、綺麗」

 

 そう言って、笑ってくれるお茶子ちゃんに、背筋が痺れる様な心地で頷く。

 同じものを、綺麗だと共有できた経験は初めてかもしれない。……それが、妙に記憶に焼き付いた。

 

 

 

 

 そんな事を思い返して一週間。

 

 リカバリーガールのおかげで左腕も治ってきて、ほぼ全身に巻いていた包帯の数も減ってきました。もう少ししたらお風呂にも入っていいそうで、ウキウキしています。

 

(髪、少しべたべたしてそうですし、クラスの子たちにお団子にして貰うのも我慢です!)

 

 早く入りたいと、足を軽く揺らす。

 

 だけど、今は我慢です。リカバリーガールに言われた通りに大人しくして、クラスメイト達にも迷惑をかけない様に頑張っています。それが功をなしたのか、最近は少しだけリカバリーガールが優しいです。

 最初は凄く怖かったですと伝えると、リカバリーガールは呆れ顔。

 

「あんな大怪我で学校に来るあんたも、それを許可する学校側も頭がおかしいって呆れてたんだよ!」

 

 との事でした。……そういうものでしょうか?

 よく分からないって顔をしていたのか、リカバリーガールは溜息を吐いてお菓子をくれました。美味しいです。

 

「……それにしても、どういう身体してるんだい? 左腕が()()()()()戻ろうとしている。治り方がちぐはぐだよ」

「んぐ? ……んー。私の“個性”が『変身』だからでしょうか?」

 

 お茶をいれて貰い、ありがたく受け取る。いまだ包帯はとれないものの、動かしやすくなった右手でズズズッと飲む。

 

「私は、血を飲めば誰にだってなれます。リカバリーガールにもなれますし、その“個性”も使えます」

「!」

「なので、私は自分の『設計図』が人よりしっかりしているのです。多分、四肢が切断されても、今の『形』に戻ろうとするでしょうね。……体重と見た目がおかしいって言われて、最近気づいたのです」

 

 そう、素知らぬ顔で答えつつ(まあ、上位者になった影響でしょうけどね)と内心で舌を出す。リカバリーガールが、驚いた顔で「そんなことが……」と言ったところで、保健室のドアが「し、失礼します」と開く。

 

「あれ? トガさん……!」

 

 そこには、体操服姿の緑谷くんが立っている。

 

「教室ぶりです。怪我したんですか?」

「う、うん。ちょっと手首を捻っちゃって、湿布を貰えないかなって」

 

 自主練中だったらしい緑谷くんは、相変わらずドギマギしてカァイイなぁと笑ってしまう。

 

「……ちょっと席を外すよ」

 

 と、思案顔のリカバリーガールが立ち上がる。そして去り際に、「はい、湿布」って緑谷くんに渡して「あんたは、もうちょっと休んでな!」と、私を見て言う。

 

「はぁい」

 

 本当は帰りたかったけど、もう少し大人しくしておく。

 今日は、お茶子ちゃんは買い物があるから先に帰っている。「今晩はオムライスね!」って話していた今朝の事を思い出して、今から楽しみだと思う。バターライスかケチャップライスか、迷っていたけどどちらになるのでしょう? 残りのお菓子を食べながら頬が緩む。

 

「…………あの!」

「? はーい」

 

 もぐもぐと振り向くと、緑谷くんが私を見ている。

 何か用事があるのか、いつものオドオドした様子が少しだけ鳴りを潜めている。

 

「と、トガさんに……僕、まだちゃんとお礼を言えてなかったから……それで」

「? 私、お礼を言われる様な事しましたか?」

「……へ?」

 

 目を丸くする緑谷くんに、ちょっと申し訳ない気持ちを抱きながら、本当に心当たりがありません。

 何かしましたっけ? むしろ……

 

「私が、緑谷くんにお礼を言いたいぐらいですよ?」

「……え!?」

 

 更に目をまん丸にする緑谷くんに、ほらっと指をたてる。

 

「階段で、お茶子ちゃんの話を聞いた時です!」

「……え? あの時? 僕は……何も」

「私が落ちても大丈夫な様に、スって移動してくれたじゃないですか! 嬉しかったです!」

「―――!」

 

 あと、格好良かったです! と伝えれば、赤い顔で固まってしまう緑谷くん。

 

(うーん?)

 

 でも、本当に何をしたのか思い出せないです。

 

 この、人の良さそうなクラスメイトに物忘れが激しいと思われたくなくて、なんとか誤魔化せないかと思案する。そして(そうだ……!)と、良い事を思いつく。

 

「緑谷くん、提案です!」

「え……!? な、なん、ですか!?」

 

 ずいっと、立ち上がり、彼との距離を詰める。

 

「雄英体育祭! ギリギリになりそうですが、私も晴れて出場できそうなんです!」

「……!」

「そこで、私と勝負しましょう!」

「え!? し、勝負……!? トガさんと!?」

「はい!」

 

 ギクシャクして赤くなったり青くなったり真顔になったりする忙しい彼に、カァイイと思いながら、唇に指をあてる。

 

「緑谷くんが、私より上な感じだったら――緑谷くんのお礼を受け取ります」

「!」

「その時に、お礼の理由も教えてくれると嬉しいです」

 

 そう伝えれば、緑谷くんの顔がハッと引き締まる。

 打てば響く反応に楽しくなりながら「そして」と、少し勿体ぶる。

 

「もし、緑谷くんが私より下な感じだったら『罰ゲーム』です」

「―――ひえ!? ……っ、ど、どんな……!?」

 

 おや? すでに怯んでいる緑谷くんの、それでも負けられないって引き締まる表情に、少し驚いてしまう。

 

(……え? そんなにも私に言いたい事があるのです?)

 

 もしかして、知らずに下着でも見られていたのでしょうか?

 それぐらいでお礼なんて良いのに、内心で苦笑する。

 

「はい! お互いに下の名前で呼び合いましょう!」

「それ、は……ん? ……え……ちょ――――――!!??」

 

 埴輪みたいな顔で沸騰する緑谷くん。表情筋すごいね?

 

「ほら、『罰ゲーム』でしょう?」

「いや、それ罰じゃ、いや、ええと!!??」

 

 動揺する緑谷くんに唇を緩めながら、軽めな罰ゲームだろうにと微笑ましくなる。

 

(少し、彼と仲良くなるきっかけになるかなーって、思っただけです)

 

 彼の負担が大きい様なら、一回の呼び合いで許してあげましょう。

 

「では緑谷くん、手を出して下さい」

「―――!? は、はははははい!?」

 

 まだ混乱して、目を白黒させながらも緑谷くんはわたわたと手を差し出してくる。

 

(いえ、そんなに嫌がらなくても良くないです?)

 

 そんなに、下の名前で呼び合いたくないのかと、ちょっと悲しくなりますが……まあ、私がまた距離感を見誤ったのでしょう。寂しくないです。これは、ちょっとした布石みたいなものです。

 

 右の手の平に、ちょんっと人差し指を乗せる。

 

「ここに、私の約束を乗せておきますね!」

「……え!? あ、あの、さ、触ってマスヨ……!?」

「あ、背中に背負うんじゃないですよ? 私と緑谷くんの『約束』を、()()に置いておくんです!」

「? ……ぇ、っと。……右手に?」

「はい!」

 

 頷いて、そっと拳を握らせる。

 動揺して強張る緑谷くんの指は、私以上に痛々しくなっている。……どうにも、力が入りすぎているというか込めすぎている気がします。だから、これが丁度良い呪縛になるでしょう。

 

「緑谷くんは、この見えない約束を、どう扱いますか?」

「え?」

「それは、緑谷くんの自由です。この拳をおもいっきり握って『約束』の事なんて忘れて、握り潰してもいいのです」

「―――!」

「でも、もしも思い出してくれるなら、ほんのちょっとだけ、力を抜いて下さい」

 

 彼には、緩急が足りないのです。

 

 緑谷くんの拳を「ね!」と解放すれば「……」彼は静かに、自身の拳を見下ろしている。

 その表情に、こっそりと(大怪我とかして、リカバリーガールを怒らせないでくださいねぇ)って、念を送る。

 

(お婆ちゃんには、優しくしないとですしね……)

 

 ちょっと怖くても、なんとなくお婆ちゃんは放っておけないのです。繰り返した夜の、あのお婆ちゃんの事を思い出す。

 

(……まあ、オールマイトと同じ“個性”を持つ緑谷くんが頑張れば頑張るほど、私が除籍される可能性は高まりますしね)

 

 良い事づくめですと、肩をすくめる。

 

「それじゃあ、帰りますね」

 

 もう充分に休みましたと、これならリカバリーガールも怒らないでしょう。鞄を持ってドアに近づくと「トガさん!」緑谷くんの声。

 

 

「あの…………が、頑張ります!!」

 

 

 振り返ると、思った以上にやる気に満ちた緑谷くんがいて、頬が緩む。

 

「はい!」

 

 とっても、良い顔です!

 彼に小さく手を振って、改めて背を向ける。

 

 その静かな気迫は、体育祭を勝ち残ろうとする彼なりの理由がある様に思う。

 そして、そこに私との約束が一つ追加されて、更に気合が入っている様に見える。

 

(……そうです。私と下の名前で呼び合う『罰ゲーム』が本気で嫌とか、そういう理由で頑張る訳じゃないですよね?)

 

 つい、ネガティブな思考になってショックを受けてしまう。

 お茶子ちゃんと仲良しの子だからこそ、これからも顔を合わせるだろうし、気まずいのはヤだなって溜息。

 

(……男の子って、難しいです)

 

 というか、人間全般が難しすぎると、久しぶりに1人で帰路についているせいか隣が寂しく感じる。

 

 ……今日のご飯。オムライスはケチャップライスがいいなぁって、あの赤色が恋しくなっていた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話 雄英体育祭と第一関門です

 

 雄英体育祭の当日。

 

 最終確認ともいえるリカバリーガールの健康診断を終えた私は、無事に出場を許可されました!

 安堵と同時に訪れる眠気に逆らわず、その後は控え室でまったりと過ごしています。

 

「……♪」

 

 パイプ椅子を集めて簡易ベッドを作り、百ちゃんが好意で膝枕もしてくれて、とてもご満悦です。

 数日前にはギプスが外れてお風呂にも入れる様になりましたし、良い事づくめです。

 

「トガちゃん、リラックスしてるねー」

「……廊下であんな啖呵きっといて、本人はこれだもんね」

 

 むぅ? 耳郎ちゃん、つんつんやめてください。

 ヤですと体勢を変えながら、百ちゃんのお腹に鼻をくっつける様に抱きつく。

 

「あ、ごめん。ヤオモモ大丈夫?」

「はい! むしろ、ありがとうございます!」

 

 なにがです?

 

「……やっぱり、引き離した方が良い?」

「ヤオモモのママ進行度、今日は早いね」

「トガちゃん、今日もお団子にしてないね?」

「うん。無い方が撫でられる面積が増えるからって」

「……子供だわ」

 

 ん~……百ちゃんは良い匂いがします。

 頭もいっぱい撫でてくれるし、ほっぺもなでなで気持ちが良いのです。……ああ、このままずっと微睡んでいたいと、うとうとに拍車がかかる。

 

「…………んに」

 

 チゥ、と。百ちゃんの手に吸い付いて「!」体育祭の事を今だけは忘れて、ゆったりと意識をたゆた「皆準備は出来てるか!? もうじき入場だ!!」ビクッとしました。……あ、飯田くんですか。

 

「飯田さん! 被身子さんが微睡んでいましたのに!」

「もうちょーっと、声をおさえてあげてー!」

「被身子ちゃん、びっくりしたねー。……でも、タイミングは良かったかも。指を吸い出したら本格的にねむねむちゃんになるんよ」

「トガー、1人で起きれそう? 抱っこする?」

「そ、それはすまなかった!! トガくん、オレンジジュースを飲むかい?」

 

 ありがとうございます。ちょっと心臓が跳ねていますけど平気です……

 フラフラしつつ、まだ意識はしっかりしている方だと、百ちゃんに髪を耳にかけて貰いながら身を起こします。

 

「……っ。響香ちゃん。私たちが最後の砦よ。私たちだけはヒミコちゃんに厳しく接するのよ」

「……いいんだけどさ。ウチはともかく、梅雨ちゃんちょくちょく陥落してるよね?」

 

 起きれました。飯田くんがくれたオレンジジュースを飲みます。

 

「にしても、コスチューム着たかったなー」

「公平を期すため、着用不可なんだよ」

 

 んむ? 百ちゃん、口元をわざわざ拭いてくれなくて良いですよ?

 

 もう自分で拭けますし、お茶子ちゃん曰くまだ怪我人の出で立ちらしいですが、すでに全快と言って差し支えないのです。……まあ、嬉しそうにお世話してくれて嬉しいので、本気で止めるつもりはないのですが……私の方がお姉ちゃんだって、いつ伝えればいいのでしょう?

 

「緑谷」

 

 そんな時、轟くんの声がして、百ちゃんが少し気にして手を止める。

 

「轟くん……何?」

「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」

「へ!? うっ、うん……」

 

 そうです? うーん……どうなんでしょう?

 私より弱い子の強さの順番とか、気にした事なかったです。

 

「おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな」

「!!」

「別にそこ詮索するつもりはねぇが……おまえには、勝つぞ」

 

 元気ですねぇ。

 

「おお!? クラス上位からの宣戦布告!!??」

「急にケンカ腰でどうした!? 直前にやめろって……」

「仲良しごっこじゃねえんだ。何だって良いだろ」

 

 ふあ、っと欠伸をすると、少し緊張していた百ちゃんが『ふう』と詰めていた息を吐いて、私をそっと抱き寄せる。

 

「……。轟くんが、何を思って僕に勝つって言ってんのか……は、わかんないけど……」

 

 おや?

 想像よりずっと、緑谷くんの声はしっかりしている。

 

「そりゃ、君の方が上だよ。実力なんて大半の人に敵わないと思う。客観的に見ても」

 

 スッと、俯いていた顔をあげる緑谷くんの瞳は、挑む者のみが持つ光を宿している。

 すでに腹を決めた者にのみ出せる輝きに、何かを言おうとした切島くんも「……!」口を閉じる。

 

「皆……他の科の人も、本気でトップを狙ってるんだ。僕だって――――遅れを取るわけには、いかないんだ」

 

 彼の瞳が、一瞬だけ私を見て。まっすぐに轟くんに向けられる。

 

「僕も本気で、獲りに行く!!」

 

 ……。

 男の子って、成長が早いんですね。微笑ましくなりながら『ふあり』と欠伸。

 

「………。おお」

 

 さて。そろそろ時間の様だと、そんな彼らを横目にのんびりと伸びをする。

 

(良い感じです)

 

 クラスの皆がやる気を出せば出すほど、私は『普通科』に近づけるので、こういうカァイイ諍いはむしろもっとやって欲しいのです。

 

 控え室に充満していく熱意とかやる気の様なものに、満足しながら立ち上がる。

 それと同時に、控室のドアが開いて入場ゲート前に移動だと伝えられ、欠伸を堪えながらのんびりと皆より先を歩いていく。

 

(……?)

 

 途端、私の背中に視線が集まってくる。場の空気が一つになるのを感じて、ちょっと戸惑う。

 

 ……私、実は恨まれてます? 今日に限っては都合が良いですが……こんなにも『負けられない』って感情が一心に向けられるのは変な感じです。

 

 まあ、眠くて歩調は遅めなので、即座に追ってきた皆に追い抜かれるんですけどね。

 

『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!』

 

 ゲートから、声が響いてくる。

 

『どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!?? 敵の襲撃を受けたにも拘らず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!!』

 

 皆に合わせて歩きながら、ぼんやりと目元を擦る。

 

 

『ヒーロー科!! 一年!! A組だろぉお!!??』

 

 

 ……ちょっと、うるさすぎません?

 テレビで見るのと違って、音量調節できないのが辛いです。

 ゲートを通り抜けると太陽が眩しくて、目がしぱしぱする。

 

「わあああ……人がすんごい……」

「大人数に見られる中で、最大のパフォーマンスを発揮できるか……! これもまた、ヒーローとしての素養を身につける一環なんだな」

 

 ……? 緊張するんです、これ?

 

「めっちゃ持ち上げられてんな……なんか緊張すんな……! なァ爆豪」

「しねえよ、ただただアガるわ」

 

 アガる? ……私には眠気しか押し寄せてこないです。

 

『B組に続いて、普通科、C・D・E組……!! サポート科、F・G・H組もきたぞー! そして経営科……』

 

 放送、露骨でとてもいいですね! もっと他の科を煽ってやる気を出させて欲しいで――――えっ????

 

『選手宣誓!!』

 

 最近、凄くどこかで見た事がある全身防護服の、ええと『ミッドナイト』が、ごつい格好のまま、軽快に鞭を振るっています、けど…………何してるんです?

 

 周りの皆も、観客も、18禁要素の消えた声だけミッドナイトの姿にザワッザワしています。

 

 いえ、本当に色々な人の目がある今日という日に、どうしてそんな恰好で……

 

 

「ミッドナイト……とうとう規制されたか」

「なんっでだよ!!?? やる気激減じゃねぇか!!!!」

「18禁ヒーローだしなぁ……」

「実は、いつかこんな日が来ると思ってた……」

 

 

 ピシャン!! と鞭を振るい『静かにしなさい!!』と怒っているミッドナイト……もしかして、私のせいです?

 

『選手代表!! ―――1-A爆豪勝己!!』

 

 私が、眠くなっちゃうから……ミッドナイトはそんな恰好で人前に立っているのかと思うと、なんだか落ち着かない気分になる。

 

「え~かっちゃんなの!?」

「あいつ一応、入試一位通過だったからな」

 

 複雑な気持ちでミッドナイトを見つめていると、マイクの前に立った爆豪くんがそんな私に気づいて、苛立たし気に睨んできた気がする。

 

(ん?)

 

 少し気になりますが、気のせいでしょうとミッドナイトを見つめる。

 顔は見えないけど、感覚で目が合っているのが分かり、少し嬉しくなっていると『せんせー』選手宣誓がはじま……あれ、爆豪くんがまっすぐに私を指さしているような?

 

 

『俺が! 一位になる!』

 

 

 んー? 驚いて目を丸くするも「絶対やると思った!!」爆豪くんと目があうと、物騒な笑みをニヤリと浮かべて、首を掻っ切る様なポーズをする。

 

『せいぜい、跳ねの良い踏み台になってくれ』

 

 あの、私を見て言ってません?

 

(……いえ、もしかしたら自意識過剰な可能性もありますし)

 

 実は私の後ろに「調子のんなよA組オラァ」爆豪君が気にしている人が「何故品位を貶めるようなことをするんだ!!」あれ、いませんね? というか「怪我人に宣戦布告かよ!?」そこにだけ誰もいないというか「ヘドロヤロー」皆あえて私の後ろに立とうとしないというか避けて……え? 苛めです?

 

 んー? きょろきょろしていると、戻って来た爆豪くんにギラギラした目で睨まれたままで……とりあえず手を振っときました。…………わぁ、殺意すら滲んできたんですけど、短気過ぎません?

 

『さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう』

 

 余韻も何も無いですねミッドナイト。お茶子ちゃんも「雄英って何でも早速だね」って呆れてますよ。

 

『いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ(ティアドリンク)!! さて運命の第一種目!! 今年は……コレ!!!!』

 

 あ、今気づいたけど、防護服の手首部分に手錠があります! ……ちょっとカァイイですね! ええと、モニターの内容は「障害物競走……!」ですか。緑谷くんの声を耳に、少しだけ気合をいれます。

 

『計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周約4km! 我が校は自由さが売り文句! ウフフフ……コースさえ守れば()()()()()()構わないわ!』

 

 とりあえず、後ろに下がっていますか。

 スタートへの合図に皆が注目しているので、気配を消すのも楽々です。

 

『さあさあ位置につきまくりなさい……』

 

 そう。上手に『普通科』に入るためにも……この子達のレベルが分からないと調整も難しいのです。場に急激に満ちていく熱気に、ふう、と気配を溶け込ませていく。

 

 

『スタート!!』

 

 

 ワッ!! と、ミッドナイトの声と共に、溜め込まれた緊張感が一気に爆発して、熱気を纏いながら走っていく同級生たちを静かに見送る。…………んー。

 

(“個性”ありきで考えても、全員弱そうって直感以上に分かる事がありません!)

 

 力量差以前に、例えるなら地面で働く蟻さんの見分け方とか、専門家以外で分かる人いるんです?

 

(……いえ、ダメです! ここで頑張れば夢の『普通科』ですよ!) 

 

 面倒臭くなってはいけないと、動きながら出来る事を探っていこうと目を細める。入り口のゲート付近が凍ったのを見つめながら、人ごみに紛れて走り出す。

 

『さーて実況してくぜ! 解説アーユーレディ!? イレイザーヘッド!!』

『無理矢理呼んだんだろが』

 

 先生たちは楽しそうで良いですね。……私もあっち側がいいです。

 

 解説の声を聞きながら、このくらいの速度かと、足が凍っている生徒たちを避けて走っていく。……先頭はガヤガヤ騒がしそうです。……あ、ロボがいっぱいいます。

 

『さあいきなり障害物だ!! まずは手始め……第一関門ロボ・インフェルノ!!』

 

 なんか、どっかで見た事がある様な……「入試ん時の0P敵じゃねぇか!!」ああ、そうでした。柔らかいって事は覚えています。

 最後尾なので、落ち着いて周りが見えますね。……やっぱり私は観客が良いです。

 

『1-A轟!! 攻略と妨害を一度に!! こいつぁシヴィー!!!!』

 

 んー。何してるか分かんないけど、頬に当たる風が冷たくて心地良いです。

 

『すげぇな!! 一抜けだ!! アレだなもうなんか……ズリィな!!』

 

 しかし、どうしたものでしょう……?

 

 ここまで、ちゃんと普通科さんはついて来ている様ですが、初めて見るロボに怯えている人もいる様で、足が止まって尻込みしている人が多いです。

 

(……普通科さんが上に来てくれないと、意味が無いのです)

 

 しょうがないですね。

 

 少し速度をあげて、立ち往生している生徒達の間にスッと紛れ込み、姿を隠しながら手を合わせる。そして祈り、合わせた手を高く捧げる。

 

「――っ」

 

 瞬間、合わせた手に宇宙を感じると同時に、星の小爆発が起こる。

 

 独特の音が生まれ、集中した結果100発以上の光が太陽の下で煌めいて飛び散り、尋常じゃない破壊力をもって全方位に雨の如くズガガガガガッという感じに降り注ぐ。

 

「え!?」

「なんだぁ!?」

「誰かの個性!?」

 

 そして、全ての光が狙い通りロボを追尾し、避けようとしても続けざまに悉くを破壊していく。

 

「ふぅ……!」

 

 彼方への呼びかけ。悪夢では、立ち回りに気をつけないとほとんど当てられませんでしたが、これだけ大きくて鈍い機械が相手なら、全弾命中もいけるものです!

 

 

『―――はああ!? ロボ地帯、突然小規模の大爆発とかいう意味不明な事が連続で起こったかと思えば、ロボが全部ぶっ壊れてやがる!! 何が起こったー!?』

 

 

 この隙に、紛れこむ様に走り出します。

 他の科の人達も、これに息を吹き返して楽しそうに駆けて行きます。

 

「……」

 

 ふと、髪が茨の様な女の子に、ジッと見つめられましたが……ばれていないですよね? いえ、むしろばれても問題ない筈です。

 

 ふふふ、この調子で普通科の人達をこっそり牽引していけば、最後尾で早々に脱落するヒーロー科の私が除籍されるのは確実です。

 

 さあ、次も彼ら彼女らを守ってみせますよ!

 

『オイオイ第一関門チョロイってよ!! んじゃ第二はどうさ!? 落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!!』

 

 さて、次は……………ぁ。

 

 

『ザ・フォール!!!!』

 

 

 無数にできた崖と、縄。……つまり、綱渡り……うん。無理ですね!!

 

(これは、こっそり助けられないです……っ)

 

 ここで余計な事をしたら、絶対に相澤先生にはバレる気がするので、泣く泣く1人で走る事にします。……一応、ロボは全滅してるっぽいし、ここを越えられる普通科さんはいると信じてますからね!!

 

 やる気を激減させながら、縄に一歩を踏み出した。

 

 

 




 ※おまけな爆豪くんのトガちゃんへの心境について。


 初期→最下位の癖に「私が一番強い」発言に調子のんな死ね!!!! ブチギレ。次に目ざわりだったらぶっ潰す!!!!



 戦闘訓練→緑谷くんへの敗北で、尊大な自尊心が傷心中でも、気に喰わない相手の戦いは見ている。
 そして、初手の轟くんの氷を葉隠ちゃんを助けながら避ける(……ッ!! 俺んだって、そんくらいできるわボケェ……!!)カメラにはしっかり映っているのに、目の前を通過しても気づかれない様子に驚くも(そういう個性か……!?)と、納得。からの障子くんノックアウト(……あ゛!?)そして“変身”(――――!?)轟くんの後ろを歩いていく姿に、自分だったら気づけるかと想像してゾッとする。

 そして、核の部屋での不意打ちから確保までの派手さは無いが圧倒的な試合運び、それを可能にする力量差に、轟くんの“個性”と同じか、それ以上に底が見えないと(なん、なんだよ、アイツ……!!)勝てないんじゃないかと、思ってしまった。



 USJ→飛び出して殴ってから、その『ありゃ……』とばかりの少し困った顔に、知らぬ間に教師と打ち合わせ済みな事を知った。知るかクソが!!!! やった事よりも、そのやりとりに一切気づけなかった自分に一番腹を立てる。

 戻ってきたら、飛び出していた緑谷くんやトガちゃんより先にモブモヤに効果的な一撃をいれられて(ザマア!!!!)テンションぶち上がり、からの怪我ぁ? あんなモブにやられたんかと複雑なイラつきを爆発させてトガちゃんを見て、その有様に目を見開く。

 羽織る真っ黒なコートで気づかなかったが、よく見れば赤く染まったシャツとすでに機能しているとは思えない左腕。謎の形状をした武器をもった右手もところどころ赤黒く変色している。(―――あ?)予想の許容範囲外の重症に『……ッ!?』苛立ちと混乱を同時に脳内爆発させながら、突然の脳無の動きに一切反応できず、しかし見てしまう。

 自分を守る様に前に立つ、トガヒミコの背中を。

 オールマイトが、彼女を信じて自分を助ける事を優先した事。そして、ナンバーワンヒーローが、彼女に自分たちを託す様な視線を向けている事。
 そんな重症を負いながら、オールマイトに頼られる女。……自分では無く。

 現状の全てを屈辱に変換して、血を吐く様な怒りを覚える。 

 後に、あの左腕が13号を庇った末に負ったのだと、泣いているクラスメイト達から聞いてしまう。
 その場にいた自分たちは反応すらできず、彼女だけが動いたと。そして、そんな傷を負いながら駆けて行った背中を、誰も止められなかったと。

 切島くんが零す様に『あの時、俺たちが考え無しに動かなきゃ……トガは怪我しなかったんじゃないか……?』その可能性に気づいていたからこそ『知るか!!!!』吐きすて、苛つく。

(つまりあの欠伸女は……あの化け物と、右だけで戦ったっつうんか……!?)

 その事実が、一番堪えていた。



 廊下→大怪我で登校してきやがったので、流石に寝てろや!!!! と叫ぶのをいっぱい我慢した。

 今口を開いても、助けられた事への文句やら、絶対に言う予定の無い謝罪とか、宣戦布告とか、自分でも心の整理がついていないので、無視という形で視界にいれない事にした。

 だってのに、自分をさしおいて普通科モブと勝負するとかふざけんな! なんっで俺じゃないんだと、内心で大爆発を起こしている。

 緑谷くんは、まだ自分を意識しているから気に喰わないが視界に入る度にぶっ潰す!! で、すんでいるけど、トガヒミコは自分を意識すらしていない。クラスメイトと認識されているのかも怪しい。いつも眠そうに女子に世話されて、睨んでいるとさりげなく壁ができるし、男子達もしれっと間に入ってくる。

 自分が気にしている相手に、存在すら気に掛けられていない現実に、内臓が煮えくりかえる様な怒りを知った。

 俺を、無視できなくしてやる……!!!!

 彼が、トガヒミコを睨む視線は日に日に数と時間と濃度を増しているが、トガヒミコは気づいていない。彼女は、普通科に通えるかもしれない未来にウキウキしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話 ゴールと順位と交渉タイムです

 

 トットットットッ。

 

 綱の上を気怠く走りながら、普段なら眠くて最短のルートを選びますが、今日はちょっとだけ遠回りなルートを選びます。

 

(あまり露骨だと、怒られそうですし)

 

 反省文はもうヤです。

 こっそりと普通科を牽引できないとなれば、知らず狭まっていた視野も元に戻ります。……なので、こっそり反省中なのです。

 

(……彼方への呼びかけは、ちょっとやりすぎでしたよね?)

 

 チラと見れば、後方でプスプスと煙を出しているゴミ(ロボ)の山。抉れて剥き出しになった回路が、実に残骸っぽさを主張している。

 

 ……知らずにはしゃいでいた自分に苦い思いを抱きつつ、ずっと前を走る『ツル』の子を見る。人込みには紛れていましたが、もしも彼女に一部始終を見られていたなら……口止めしなくちゃです。

 

『さあ先頭は、難なくイチ抜けしてんぞ!!』

 

 下手をしたら、また生徒指導室かもしれません。

 

 閉め切られた一室で、先生達と顔を合わせながら、ポップコーンやコーラを片手に大画面で映画を視聴するだけの謎の時間。映画の内容がつまんなくて苦手です。

 感想を聞かれても、登場人物の心情とか意味不明すぎて『分からない』としか答えられないです。

 

(……あれ、小学生ぐらいの子が見る映画だと思うんですけど?)

 

 なんで、お説教とかじゃなくてあんなのを見せられるのか、疑問がつきません。

 考えすぎて『ふあっ』と漏れてしまう欠伸を手で隠しながら、だらだらと走る。

 

 本当はここで終わっても良いのですが、次の種目で残る普通科もサポートしなくちゃですし、寝るのは我慢です。

 

「なんっで、落ちないのよアレ!?」

「体幹やべぇ……」

「地面を走ってるみたい……」

「……くっそっ!!」

 

 周りは騒がしいですけど、落ちても死にそうにないですし、助けるのは無しです。

 

(目立ちたくないですし)

 

 誰かが無茶をして飛んでくる、“個性”の余波やら岩を躱して、だらっだらと走る。

 

『今年の普通科はハッスルしてんなー!! そして欠伸ガールもといA組渡我、飛んでくる岩に対して靴先だけで綱を一回転して避けやがった!! やる気の無さに反して危なげがねぇー!!』

 

 やめてください。目立ちます。

 

『先頭が一足抜けて下はダンゴ状態! 上位何名が通過するかは公表してねえから安心せずにつき進め!!』

 

 んー。……『43名』ってところですかね? 脳に宿る瞳って、こういう時に直感で分かるから便利です。理屈はさっぱりです。

 

『そして早くも最終関門!! かくしてその実態は――――』

 

 まあ、私は綱の上で順位を調整しておきましょう。最下位を目指すのです。

 

『一面地雷原!!!! 怒りのアフガンだ!! 地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!! 目と脚酷使しろ!!』

 

 ふむ。……それなら普通科さんをフォローできそうですね?

 

『ちなみに地雷! 威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!』

『人によるだろ』

 

 チラと全体を俯瞰すれば、ヒーロー科以外の大半がこの崖でリタイアしている。……これは、むしろ弱すぎて心配になってくるレベルですね。ハラハラします。

 ここまで頑張って偉かったねぇって気持ちで、こっそりと崖を越えられない他の子達を労わります。

 

『ここで先頭がかわったー!! 喜べマスメディア!! おまえら好みの展開だああ!!』

 

 本当に、

 

『後続もスパートかけてきた!!!!』

 

 憧れを抱く『普通』の人達は、お疲れ様でした。

 

(ですから……)

 

 その『普通』から脱したがるおかしな子を、集中してフォローしましょう。

 

『だが、引っ張り合いながらも……』

 

 少しだけ、先を走っている『洗脳』の子を見つめる。

 貴方の気持ちはさっぱり分かりませんが、都合が良いのでお互いに利用しあいましょうと、笑みが漏れる。

 

『先頭2人がリードかあ!!??』

 

 綱地帯が終わっても、ゆったりと速度を変えずに走ります。

 途中で、ブツブツ言いながら穴を掘る緑谷くんを追い越し「あ……」目が合う。

 

「ねえ、そこにたくさん埋まってますよ!」

「―――!」

 

 少し振り返り、意図はさっぱりだけど地雷を掘っているのだと気づいて、固まっている場所を教えてあげる。

 彼は「……!?」複雑に顔を引き締めると、まっすぐな視線だけで目礼して、教えた場所を必死に掘り始める。うん、素直でカァイイね。

 

 皆がひょこひょこと進んでいるのを見て、走るのはやめて歩くことにする。

 さてさて、緑谷くんは何を…………おお! 派手な爆音と爆風に背中を押され、身体が浮きました!

 

『後方で大爆発!!?? 何だあの威力!?』

 

 煙を巻き散らしながら頭上を飛んでいく彼に、少し楽しくなる。

 

『偶然か故意か――――』

 

 一瞬、私と目が合った彼が、私に向けて『ぐうっ』と右手を握るのが見えました。

 ……アハッ。

 

 

『A組緑谷、爆風で猛追ー!!??』

 

 

 口元を咄嗟に隠して、大きく手を振って見送る。

 

『抜いたああああああー!!!!』

 

 うーん。目立ってます。私より目立ってくれる人は良い人です!

 

『元・先頭の2人、足の引っ張り合いを止め緑谷を追う!! 共通の敵が現れれば人は争いをやめる!! 争いはなくならないがな!』

『何言ってんだお前』

 

 そうですよ。共通の敵よりも絶対的な支配者です。()の存在は死ねば良いと思いますが、その存在が生み出す平和と安定は確かなものです。

 

『緑谷、間髪入れず後続妨害!! なんと地雷原即クリア!! イレイザーヘッドおまえのクラスすげえな!! どういう教育してんだ!』

 

 先頭は、相当に盛り上がっている様です。

 改めて周りを確認して……あら。

 

『俺は何もしてねえよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう』

 

 青山くん、お腹痛そうですね。……うーん。

 

『さァさァ、序盤の展開から誰が予想出来た!? 今一番にスタジアムへ還ってきたその男――――……』

 

 あ、サポート科の人も焦げてる。……じゃあ、はい。

 

 

『緑谷出久の存在を!!』

 

 

 大歓声を聞きながら、この中で余力がギリギリ、それでも諦めていない2人の背を、軽く押しておく事にする。

 

『さあ続々とゴールインだ! 順位等は後でまとめるから、とりあえずお疲れ!!』

 

 まずは……『ズーム』の子の手を取り「え?」そのまま、青山くんのところに行って同じ様に引っぱってあげる。

 

「……!?」

「青山くん、お腹大丈夫です?」

「おや、貴女誰ですか? でも助かります! このままゴールを目指しましょう!」

「いいですよー。私はトガです。トガヒミコです!」

「私はサポート科の発目明です!」

 

 

 目を白黒させつつ、お腹が痛くて大変そうな青山くんを引っ張り、プスプス焦げている『ズーム』の子、発目さんもそのままゴールに連れていってあげる。地雷を踏まない様に、2人の足取りにも注意する。

 

『おいおい、これは競走だぜ? A組渡我!! 自分は落ちても構わないってか!?』

『……あいつ』

 

 知りませーん。

 続々とゴールして行くヒーロー科の面々を見て、すでに後続の人たちは諦めてるんですもの。諦めていない人を助けるのは、私が普通科に行く為にも当然です。

 それに、この2人は私が手を引かなくてもゴールしていました。なので、青山くんのお腹の為にも早めにゴールさせるだけです。発目さんはついでです。

 

「と、渡我さん……! 助太刀はありがたいけど……これは勝負だ! 僕が先にゴールするよ!!☆」

「はい、どうぞー!」

「えー!?」

「おお!!」

 

 ゴール手前で発目さんを放り込んで、青山くんの背中も押して、歩いてゴールする。

 ぴったり43位ですね。

 

「―――何してるのぉ!!??」

「え? ……あ、発目さんより先にゴールさせた方が良かったです?」

「んー!!??」

 

 首を傾げたら、お腹をおさえながら凄い顔で疑問の声を発されてしまう。とりあえず、背中を撫でてあげましょう。

 

「ありがとうございました! 渡我さん、お礼は後日に!」

「はーい、どういたしましてー」

 

 そのまま、マイペースな発目さんとは別れて、ようやく障害物競走が終わったと欠伸を洩らす。

 青山くんは辛そうですが、休む時間が増えた分回復も早いでしょう。

 これ以上の手助けはプライドを刺激するみたいなので「なんか、ごめんねぇ」謝って、その場を去る事にする。

 

「!? ちょ」

 

 ああ、そうだ。

 今の内に、あの子に口止めを『ようやく終了ね』ミッドナイト?

 

『それじゃあ、結果をご覧なさい!』

 

 あ、結果発表はじまっちゃいました。

 

 そして表示される画面を見て、緑谷くん、1位凄いねぇという気持ちは……心操くん(普通科)いましたー! という気持ちで押し流される。 良かったー……! ゴールしているのは見えてましたけど、改めてここまで来てくれてありがとうございます!

 

(最後まで残してあげないとですね……!)

 

 安堵の欠伸をふにゃふにゃ洩らしていると……なんか視線がうるさいですね。

 もしかして、注目されてます?

 

 

『予選通過は上位43名!!!!』

 

 

 ザワッ!! と、更に視線が集まってきて……いえ、もういいです。気にしない事にします。

 

『残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい! まだ見せ場は用意されてるわ!! そして次からはいよいよ本戦よ!! ここからは取材陣も白熱してくるよ! キバリなさい!!!!』

 

 ふむ、どうやって心操くんを目立たせましょう……?

 

『さーて、第二種目よ!! 私はもう知ってるけど~』

 

 それにしても、さっきからミッドナイトがカァイイですね。テンション上がっているのが伝わってきます。……笑顔が見たいのに、私のせいで防護服が邪魔です。

 

『何かしら!!?? 言ってるそばから――――コレよ!!!!』

 

 ん? 『騎馬戦』……? って、何でしたっけ?

 

「「騎馬戦……!」」

「個人競技じゃないけど、どうやるのかしら」

 

 ええと、個人競技じゃないということは、こそこそする必要が無いんです?

 

『参加者は2~4人のチームで自由に組んで騎馬を作ってもらうわ! 基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど、一つ違うのが……先程の結果にしたがい各自にPが振りあてられること!』

 

 なるほど、そういう。

 

「入試みてえなP稼ぎ方式か、わかりやすいぜ」

「つまり組み合わせによって騎馬のPが違ってくると!」

『あんたら、私が喋ってんのにすぐ言うね!!!!』

 

 怒ってるのもカァイイ!

 

『ええそうよ!! そして与えられるPは下から……5ずつ! 最下位は0Pで42位から5P、41位10P……といった具合よ、そして』

 

 私は0Pですか。望んだ展開に満足です。

 

 

『1位に与えられるPは、1000万!!!!』

 

 

 わあ……0と1000万って、差が開きすぎて面白いですね。

 

『上位の奴ほど狙われちゃうー……下剋上サバイバルよ!!!!』

 

 緑谷くん、凄い顔してます。

 

『上を行く者には更なる受難を。雄英に在籍する以上何度でも聞かされるよ。これぞPlus Ultra(更に向こうへ)!』

 

 まあ、もう上にいる私には関係ないですけど。

 

 

『予選通過1位の緑谷出久くん!! 持ちP1000万!!』

 

 

 ふありと欠伸。

 やっぱり、上にいながら身軽なのが一番です。

 

『制限時間は15分、振り当てられたPの合計が騎馬のPとなり、騎手はそのP数が表示された“ハチマキ”を装着! 終了までにハチマキを奪い合い保持Pを競うのよ』

 

 再び、熱気の様なものが足元から場に籠っていくのを感じる。……皆、本当に頑張り屋さんですね。

 

『取ったハチマキは首から上に巻くこと、とりまくればとりまくる程管理が大変になるわよ!』

 

 つまり、私のハチマキってただ邪魔なだけですね。

 

『そして重要なのは、ハチマキを取られても、また騎馬が崩れてもアウトにはならないってところ!』

 

 ……えー?

 

「てことは……」

「43名からなる騎馬10~12組がずっとフィールドにいるわけか……?」

「シンド☆」

 

 ですよねぇ。

 

「いったんP取られて身軽になっちゃうのもアリだね」

「それは全体のPの分かれ方見ないと、判断しかねるわ、三奈ちゃん」

 

 結局、楽はできそうにないのです。

 

『“個性”発動アリの残虐ファイト! でも……あくまで騎馬戦!! 悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード! 一発退場とします!』

 

 ……。こっそりでも、怒られそうですね。残念です。

 

『それじゃ、これより15分! チーム決めの交渉タイムスタートよ!』

「15分!!??」

 

 短いです……まあ、私は人気が無いでしょうし、絶対条件として心操くんに――――え?

 

 ゾクッ!! と、緑谷くんに向けられているのと同等以上の圧力を感じて咄嗟の『加速』!!

 

 

「被身子さん、私と!!」

「被身子ちゃ―――いない!?」

「トガー!!??」

「まって、トガちゃん私と組もう!!」

「「「逃げたあああ!!!!」」」

 

 

 え? え? ……ええ?

 一部を除いてA組に狙われて、いや、誘われてるんですか私? なんで? 0Pですよ私?

 

 びたっ!! とミッドナイトの後ろに隠れます。ごつい防護服が今だけ凄くありがたいです。

 

 

「トガちゃん、どこー!?」

「被身子ちゃん、でておいでー!!」

「被身子さん、怖くないですよー!」

「マジかよ!? 渡我どこ行った!?」

「0Pなんて、旨味の無さ過ぎる強敵ありえねぇー!!」

 

 

 ほら、A組の狂乱ぶりに、B組さんと他の科2人がびっくりしてますよ。……やめて?

 

 ミッドナイトも、面白がってぷるぷる笑いをこらえているの、伝わってますからね!?

 

 予想の斜め上からやってきたピンチに、私は暫く動けもせず混乱するしか無くて、お願いだから心操くん先にチーム作らないでね!? 私と組みましょうね!?

 

 心の中で、じだんだを踏むしか無かった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話 チーム決めと騎馬戦の開始です

 

 

 ミッドナイトの防護服、太陽の光を吸ってポカポカしています。

 

 すよぉ……と、眠りそうになっていると、ミッドナイトにポンポンと優しく肩を叩かれてハッとします。

 そうでした、交渉タイムでした。こそこそとミッドナイトの防護服の隙間から顔を出して、場が落ち着いているか様子を見ます。

 

 

「気配消すの、相変わらずヤバ……!!」

「見つからないー!」

「刹那にて、眼前から掻き消える、か……」

「どんな“個性”の使い方だよ? 渡我の奴、絶対まだ隠し玉あるぞ!」

「ここで逃げるとか、クラス最強の自覚無いのか?」

「ある訳ないでしょ、渡我だよ?」

「ごめん」

 

 

 うえー、まだ探してます。

 

(諦めましょうよぉ……)

 

 というか、A組の“個性”まで使った捜索に、B組まで興味を持っています。

 チーム決めの交渉をしながら私を探してるの迷惑です。……これは、いずれ見つかりますね。……ヤですが腹をくくりましょう。

 

「あ、あの~」

 

「「「「いたー!!」」」」

 

 やめてください。

 目立つのヤなんです。

 

「ミッドナイトの後ろって、いつの間に!?」

「まあ! 被身子さんはかくれんぼもお上手なんですね」

「ヤオママ、今は和んでる場合じゃないから!」

「トガぁ! 俺と組もうぜ!! 爆豪も一緒な!!」

「ハアァ!!?? 勝手言ってんじゃねェぞクソ髪ィ!!!!」

 

 お、落ち着いて?

 そろそろ5分たちますよ? 真面目に私以外と交渉しましょう?

 

 少し悩んで、心苦しいけどちゃんと言おうと「あ、あの……」一度ひっこめていた顔を、意を決してミッドナイトの腕の隙間から出して、しっかりと伝える。

 

「私は、騎馬戦をA組の人とするつもり、ないのです……!」

 

 途端、皆の顔が驚き一色になる。

 

「「「!?」」」

「そんな……」

「被身子ちゃん?」

「なんで!?」

 

「だ、だから、ごめんねぇ……?」

 

 驚いている皆に申し訳なく頭を下げながら『加速』して、視界に捉えていた心操くんの後ろにザッ! と移動する。

 

「! ……渡我、さん?」

「突然ごめんなさい、心操くん。私とチームを組みませんか?」

「……っ!?」

 

 え、全身で動揺してる?

 

 まるで『自分が誘われると思わなかった』みたいな顔にこっちが困ります。

 私と貴方は、あの廊下でヒーロー科と普通科のトレード裏取引をかわした同士ですよね? ……あ、もしかして。

 

「0Pは、お呼びじゃ無いです?」

「! いえ、大丈夫、です。俺なんかでよければ……」

 

 あ、良かったです。

 表情がほとんど変わらないから、心操くんが何を考えているのか分かりませんが、ここで拒絶されなかったのは僥倖でした。流石に同チームじゃないとフォローするのも大変です。

 

「良かったです。一緒に頑張りましょう」

「……!」

 

 廊下の時と同じ様に握手しようとすると「「「えー!?」」」と、こっちに気づいた皆に見つかってしまう。差し出される心操くんの手がぴたっと止まる。

 

「トガぁ!? なんでだよ!? オイラじゃダメなのかよぉ!?」

「彼、廊下で宣戦布告していた人ね」

「ええ、普通科の方ですわ」

「……また、何を考えているのか分からない事をっ!」

「読めない……!」

 

 詰め寄ってくる皆の勢いが強すぎて、咄嗟に秘儀を使いそうになりました……

 

 ダメです。例えるなら皆は足元でにゃあにゃあ鳴いている猫ちゃんなんです。

 カァイくてか弱くて、下手に動くとうっかり殺しちゃいそうで、一気にこられるのは困ります。

 

 びっくりついでにマダラスの笛とか鳴ったら、A組が大蛇の餌になるので本当にやめてください……!!

 

「……ぅう」

 

 つい、で殺しちゃわない様に、すすっと心操くんの後ろに隠れます。

 

 ええと、とりあえず適当な事を言って皆を宥めなくてはですね。……そう、真面目で頑張り屋さんの皆なら……

 

 

「私は、皆に挑戦したいのです」

 

 

 こうです!

 

「「「「……!!??」」」」

 

 あ、ちょろい。

 嘘じゃなくて、ちゃんと真実を混ぜているので問題ないですが、そこまで喰いつきます?

 

「……私は、皆とちゃんと戦いたいです。だから、同じチームじゃダメなんです」

 

 平時から『普通』の仮面(ちょっとひび割れてはいますが)を被る私は演技が得意です。

 そして、今この場において私は、心操くんを目立たせる事を優先しているのです。

 

「ただの勝負なら、私が一番強いです」

「ッ!! 欠伸女ァ……!!」

 

 い、威圧はやめましょう?

 

 そんな迫力を出せちゃう子がいるからこそ、やっぱりA組と一緒に勝ちあがるのは無しです。

 地味でか弱い心操くんが霞みます。

 

「個人競技なら、好きに調整できます」

「……あ、最下位はやっぱり狙ってたんだ。……怖ッ!!」

 

 上鳴くんが失礼です。……いえ、何故か皆が同じ感想を抱いているのが分かったので、代表だっただけでつまり皆が失礼です。

 

 ……。

 心操くんを目立たせる為に、そんな失礼な皆には踏み台になって貰います。

 

「この団体競技なら。私は、A組に負ける可能性があります」

 

 ザワッとする皆に頷きつつ、まさかの5%の確率です。高いです。ヒントはミッドナイト。

 A組を通り越して、脅威であるミッドナイトを意識しながら彼ら彼女らを見つめる。

 

「だからこそ、私は皆と戦いたいです……!」

 

 スッと唇に指をあてながら、ニィと口角をあげる。

 

 

「敗北の泥味……私に、味わわせてくれますか?」

 

 

 ……うん。

 不気味な笑顔を浮かべられたと満足しながら落ち込んで、静かに待っていてくれた心操くんの背を押して、その場を去る。

 

 

「――エロイ!!」

「やめろ!? トガだぞ!? ……トガなのに……!!」

「ギャップがさ、犯罪どころか巨悪になってきたね」

「……ったく、トガはさぁ……普段は赤ちゃんなのに」

「ずるすぎる。……でも、なあ?」

「これで燃えないとか、無いな……!!」

「負けないぞー!」

「ああ! クラス最強からの挑戦状だ! やるしかないよな!!」

「…………ッッ!!」

 

 

 ズオォ……! と。

 

 皆の気合が良い意味で高まっている。

 下手すると、それは試合というより実戦に近い緊張感と集中力で……んー?

 

(……私、そこまで過激な事は言ってませんよね?)

 

 ちょっと、煽っただけですよね?

 殺し合おう、なんてニュアンスは含んでませんよね?

 

 なのに、実戦を経験したばかりの彼らは、まるで次の本番を前にした戦士の様で……A組の迫力に当てられた心操くんが顔を強張らせています。

 ……あの。このプレッシャーは、1位の緑谷くんに浴びせませんか? 緑谷くんも含めて、なんで私達に挑戦する形になってるんです? おかしいですよね? 冷静になりましょう?

 

(……様子見っぽいB組も、A組と私達への警戒度をあげまくってるじゃないですかー)

 

 ヤです面倒そうです。

 どうやってさぼろうと顎に指をあてていると「渡我さん」声をかけられて、つい振り向く。

 

「……はい。あ!」

 

 そこには、あの時の『ツル』の子が立っている。

 

 近くで見るとカァイイと見惚れていると、そんな私に近づいて、丁寧に茨のツルで覆われる頭を下げる。

 

「私は、B組の塩崎茨と申します」

「と、トガです。トガヒミコです」

「ご丁寧に。……渡我さん、突然の申し出、失礼します! 私と、チームを組んでいただけませんか?」

 

 ……はい?

 突然の申し出が意味不明すぎて固まっていると、ズイッとその横に大柄な影。

 

「おう、塩崎に先を越されたな! 渡我、俺とも組もう!!」

「て、鉄哲くん!?」

 

 これは、更なる予想外です。

 目の前には、あの廊下でお知り合いになった鉄哲くんが立っている。

 

 B組の塩崎ちゃんと鉄哲くんが、まさかのチームを組んでくれると申し込んでくれました。

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 B組なら、世間から注目されていないので嬉しい誤算ですが、どうしてでしょう?

 

 とにかく、興奮してこくこく頷いていると、2人は各々の表情で笑ってくれる。

 ……いえ、背後からのA組の視線が痛いですが、今は振り払うのです!

 

 と、とりあえず、こういう時は……自己紹介? チラと心操くんを見ると、彼は察して頷いてくれる。

 

「普通科の心操人使だ。渡我さんのおまけだが、よろしく頼む」

「謙遜するな! 俺はB組の―――」

 

 そのまま、心操くんとB組2人の自己紹介を聞きながら、一気にやれることが広がって、思考が少しだけ忙しくなる。

 

(……最初は、心操くんを背負ってハチマキを集めるつもりでしたが)

 

 この2人がいるなら、せかせか動く必要が無いですね。

 

 んー。『スティール』と『ツル』と『洗脳』…………ああ、いえ。その前に確認しないと喧嘩の元でした。

 

「あの、私が騎手でも良いですか?」

 

 手をあげて主張する。ダメなら、別の作戦を立てようと考えていると、3人に意外そうな顔で頷かれる。

 

「いいぞ!! 渡我が適任だろ!?」

「勿論です」

「渡我さんなら、問題ない」

 

 ……あれ?

 あっさりと決まってしまいました。

 

 あまりに都合の良い展開が不思議で、首を傾げてしまう。

 

「……ありがとう、ございます?」

 

 知らない人達と急造でチームを組んでいるのに?

 

「……作戦とかも……私が、決めていいのでしょうか……?」

 

 だんだん意味もなく不安になってきて、上目に見つめる。

 

「おう!! よろしく頼む!! さっきの話は聞こえていたしな!!」

「渡我さんの作戦、是非お聞かせください」

「……意見はします」

 

 おお……! いいんだと少し嬉しい。

 でも『さっきの話』ってどれでしょう? 覚えが無いのですが、都合が良いのはラッキーです。

 

「では、作戦ですが――――」

 

 塩崎ちゃん、鉄哲くん、心操くんの、真剣な視線がくすぐったい。……この3人は、勝たせてあげないとですね。

 

 眠いけど、頑張ります。

 今だけはと、欠伸を堪えながら考えたばかりの作戦を伝えていく。

 

 途中、眉を顰められたりもしましたが、なんだかんだ納得して貰い、作戦の共有はギリギリで交渉タイム中に終わる。

 

 

「という感じで、シンプルにいきます」

 

 

 締めくくると、塩崎ちゃんが手をあげる。

 

「はい、塩崎ちゃん」

「作戦は分かりました。充分に効果的であると理解もします。……ですが、それで良いのですか?」

「なにがです?」

「……渡我さんに責任の所在が傾きすぎています。……失敗すれば、私達はその時点で敗北します」

「しないですよ?」

 

 塩崎ちゃんは何を気にしているのでしょう? 分かりませんが、大丈夫ですと頷く。

 

「鉄哲くんが踏ん張れないとか」

「む?」

「心操くんがこけるとか」

「……」

「塩崎ちゃんのツルが脆弱でもなければ、失敗はないです」

「……」

 

 まあ、それ以外の要因で失敗するとしても。

 

「大丈夫です。皆が失敗しても私がフォローします」

 

 お姉ちゃんとして、君たちを助けますと目を細める。

 暫し無言で見つめられますが、気にせず視線は逸らしません。

 

「……言葉では無く、態度で語るか!! ますます気に入ったぜぇ渡我ァ!!」

「……そこまでのご意志がおありなら、私は全てを受け入れます」

「……渡我さんの足を、いや、誰の邪魔になるつもりも無い」

 

 ああ。良かった。

 気合は十分みたいですね。

 

 

『さぁ起きろイレイザー! 15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに11組の騎馬が並び立った!!』

『…………なかなか、面白ぇ組が揃ったな』

 

 騎手に私。前騎馬に鉄哲くん。後騎馬に塩崎ちゃんと心操くん。

 

『さァ上げてけ鬨の声!! 狼煙を上げる!!!! 血で血を洗う雄英の合戦が今!!』

 

 裸足になり、組んで貰った手の上に乗り上げる。

 

「ん?」

「え?」

「……は?」

 

 何故か3人に、異常なものを見る目を向けられますが、どこか変です?

 

『よォーし、組み終わったな!!?? 準備はいいかなんて聞かねぇぞ!! いくぜ!! 残虐バトルロイヤルカウントダウン!!』

 

「鉄哲、塩崎、恨みっこなしだぞ」

「お、おう!」

「はい……」

 

 B組の子に激励されてるのに、なんだか気もそぞろですね?

 

『3!!』

 

 まあ、いいです。

 

『2!!』

 

 それじゃあ。

 

『1……!』

 

 私達の勝利の為に。

 

 

『START!』

 

 

 緑谷くんには、負けて貰いましょう。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話 騎馬戦の終わりです

 

 

 視点が高いと、意味も無くワクワクしますね。

 

 鉄哲くんの頭に両手をおいて、顎を乗せながら『ふわあ』と欠伸を洩らす。

 開始の合図と共に狙われるかもと期待していましたが、今は緑谷くんがモテモテなのでちょっと退屈です。

 

 

「はっはっはっ!! 緑谷くんいっただくよー!! トガちゃんと戦うのは私達だー!!」

「悪く思うなよ!!」

「1000万の輝きは僕の物さ☆」

 

 

 は、んえっ……!?

 あまりの光景に落ちそうになる。は、葉隠ちゃんは……上半身裸でした。……み、見ない様にしようと、心配してくれる心操くんに大丈夫だと言って、赤くなった顔を鉄哲くんの髪に埋める。

 

「起きろ渡我ァ!!」

「……ヤー」

 

 190Pの葉隠ちゃんチーム。

 

 前騎馬の尾白くんと後騎馬の青山くんですか。普通に厄介な組み合わせです。

 尾白くんはリーチと破壊力のある尻尾、青山くんはいつ飛んでくるか分からないレーザー。そして葉隠ちゃんは上半身が……は、裸。触っちゃうかもと思うと、下手に手が出せません。ある意味で一番凶悪です。

 

 

「ウチらとしても1000万Pは当然として、渡我との挑戦権は欲しいからね!」

「おう!! こんなに早く機会が巡ってくるなんてなぁ!!」

「……!」

 

 

 365Pの耳郎ちゃんチーム。

 

 前騎馬の砂藤くんと後騎馬の口田くんは、滅多な事では崩れそうにないです。

 耳郎ちゃんは近距離と中距離の攻撃とサポートを両方こなせる時点で強いのに、砂藤くんはパワーがあってタフです。耳郎ちゃんのどんな動きもサポートできるでしょう。口田くんの『生き物ボイス』もどんな“個性”か読めなくて、普通に強敵です。

 

(……私なら、一旦避けて様子見ですね)

 

 もしくは、遠距離から仕留めます。……いえ、仕留めちゃダメですね。面倒臭くてもちゃんと接敵しましょう。

 そんな2チームと対峙する羽目になった緑谷くんチームには……お茶子ちゃんがいます。

 

 

「追われし者の宿命……選択しろ緑谷!」

「もちろん!! 逃げの一手!! ……渡我さんの性格なら、後半に仕掛けてくる!!」

「それまで、絶対に渡せないね!!」

 

 

 10,000,325Pの緑谷くんチーム。

 

 前騎馬に常闇くん、後騎馬にお茶子ちゃんと発目ちゃんがいます。

 緑谷くんは“個性”がオールマイトと同じで、戦闘力は今のところ未知数で諸刃の剣。常闇くんは……『だーくしゃどう』というのが良く分かりませんが、たびたび好意的な視線を感じるので良い人です。実力も有りと見ています。発目ちゃんはサポート科で『ズーム』の人という情報しかありませんが、身に着けている機械は便利そうです。そして、お茶子ちゃんは…………一瞬だけ私の方を見て、笑った。

 

(……うー)

 

 ふと、お茶子ちゃんのご両親も見ているのではと気づいて、よく分からない気持ちでもだもだしてきます。

 

 空を飛んで(発目ちゃんの機械ですかね?)逃げる緑谷くん達を見つめながら……迷いを振り払おうと、鉄哲くんの頭に額をぐりぐりします。

 

「寝るなァ!!!!」

「……むー」

 

 少しだけ心が重いです……でも。

 

(ソレはソレ、コレはコレ、です)

 

 割り切る事には、慣れています。

 

 自分の選択で誰が喜ぼうと、悲しもうと、狂おうと、死のうと、豚に喰われようと、人以外の者になろうと()()()()()()だからしょうがないと、迷いを消して顔をあげる。

 

 これは騎馬戦で、団体戦。

 

 心操くんや塩崎ちゃん、鉄哲くんを勝たせてあげると決めたから……お茶子ちゃんや、他の子達が負けても、しょうがないのです。

 

「…………鉄哲くん、温まっていますか?」

 

 少しくぐもった、しかし静かすぎる声が出てしまう。

 

「……ッ、おう!!!!」

 

 うん、良かった。

 鉄哲くんの威勢の良い声に満足しながら、観察を続けます。

 塩崎ちゃんも心操くんも、気を抜いてはいないらしく、足から2人の緊張が伝わってきました。

 

 ああ。

 そうしている内に、葉隠ちゃんがB組の子にハチマキを取られていますね。『コピー』ですか。

 やっぱり、A組と違ってB組は考えて動いています。というか、今のA組は緑谷くんを狙い過ぎです。……1000万のハチマキしか目に入っていない動きに首を傾げます。

 

 

『さ~~~~まだ2分も経ってねぇが、早くも混戦混戦!! 各所でハチマキ奪い合い!! 1000万を狙わず2位~4位狙いってのも悪くねぇ!! んだが、A組は緑谷に一点集中かー!?』

 

 

(なんか……危ういですね)

 

 大丈夫なのかと心配になってくる。

 いえ、それを凌いでいる緑谷くんチームも凄いですけど……

 

「……ねえ、鉄哲くん」

「なんだ!? もういいのか!?」

「ダメです。あのね……私の名前、呼ばれ過ぎじゃないです?」

「はあ!?」

 

 だって、おかしくないです?

 1位の緑谷くんの次に呼ばれるっていうか「トガと戦うのは私達だー!」って、ほらまた! 芦戸ちゃんは……爆豪くんチームに入ってるんですね。

 

「……B組さんからも注目されて、とても困ります」

「……そ、そうなのか!?」

「はい。だから、後半はお願いしますね。鉄哲くん」

「……ッ!!」

 

 ちょっと念押しをして、彼の髪をかき回して身を起こす。

 のんびりと背筋を伸ばしていると、途端にバッ!! と全方向から注目が集まるから……本当にやり辛いです。

 

(狩人が目立ったら、獲物に逃げられちゃいます)

 

 やれやれと、包帯でがっつり固定された左腕から指先までの可動域を、改めて確認する。

 

 

「ヒミコちゃんが準備している。……時間が無いわ」

「怖えェ!! でも、オイラだってやるぜえ!!」

「……!!」

 

 

 420Pの峰田くんチーム。

 

 前騎馬が障子くんで、後騎馬が梅雨ちゃんですね。ほぼ障子くんが1人で馬になっていますが、あの戦法もかなり有効ですね。

 峰田くんの“個性”と梅雨ちゃんの大抵の事ができる器用さを考えれば、油断して良い相手じゃないと素直に感心する。

 

(……んー)

 

 観察を続けながら、ゆっくりと指を開いたり閉じたりする。

 お腹と足にも包帯が巻かれている。少しばかり、平時より動きが阻害されているのをちゃんと意識して、欠伸をしながら腕を回す。

 

 

『峰田チーム、圧倒的体格差を利用し、まるで戦車だぜ!!』

 

 

 チラと見れば、鉄哲くんがギチギチと歯ぎしりしていて、良い感じですと目を細める。

 

 塩崎ちゃんには、ツルを細かく念入りに編みこんで強度の高い縄を用意して貰っている。心操くんは私の言った通り、緊張を滲ませながらジッと試合の様子を観察している。

 

 

「調子のってんじゃねえぞクソが!」

 

 

 っと。

 爆豪くんは相変わらず、よく動きますね。

 

 

『騎馬から離れたぞ!? 良いのかアレ!!??』 

 

『テクニカルなのでオッケー!! 地面に足ついてたらダメだったけど!』

 

 

 ミッドナイトの審判に、予想通りでしたけど、早めにオーケーがでてラッキーだと屈伸する。

 

 さて。665Pの爆豪くんチーム。

 

 爆豪くんに関しては……特に言う事もないですね。見たまんまです。

 前騎馬の切島くんは硬くてタフな子です。外がカチカチなので、内側に衝撃のいく攻撃をしたらどうなるか気になっています。

 後騎馬の瀬呂くんは、やれる事が多すぎるので一番厄介な相手です。引き出しが多い人ほど虚を突かれやすく、その一瞬で内臓攻撃されちゃうのです。芦戸ちゃんは、とても元気な子なので、油断すると酸を纏った蹴りとかきそうですね。実はA組の中でも動ける子です。

 

 

『やはり、狙われまくる1位と、猛追をしかけるA組の面々共に実力者揃い! 現在の保持Pはどうなってるのか……7分経過した現在のランクを見てみよう!』

 

 

 チラと見て、そりゃそうですよと、B組の子を見る。

 

 

『あら!!?? ……ちょっと待てよコレ……! A組、緑谷以外パッとしてねえ……ってか爆豪あれ……!?』

 

 

 彼の方が、視野が広かったですね。

 

 

「単純なんだよ、A組」

「んだてめェコラ返せ殺すぞ!!」

「やられた!」

 

 

 ゆっくりと、鉄哲くんに「そろそろです」と伝える。

 彼は「……ッ!!」嬉しそうに、歯を見せて笑う。塩崎ちゃんと心操くんも、静かに目と目を合わせて頷いている。

 

 

「ミッドナイトが“第一種目”と言った時点で、予選段階から極端に数を減らすとは考えにくいと思わない?」

「!?」

「だから、おおよその目安を仮定し、その順位以下にならないよう予選を走ってさ。後方からライバルになる者たちの“個性”や性格を観察させてもらった」

 

 

 ……おー! 頭が良い感じがします!

 

 

「その場限りの優位に執着したって仕方ないだろう?」

「組ぐるみか……!」

「まあ全員の総意ってわけじゃないけど、良い案だろ? ()()()()()()()()みたいに、仮初の頂点を狙うよりさ」

 

 

 ですよねー。1位とか目立つだけで良い事ないですよねー。

 

 

「あ、あとついでに君、有名人だよね? 『ヘドロ事件』の被害者! 今度参考に聞かせてよ。年に一度敵に襲われる気持ちってのをさ」

 

 

 あの『コピー』の子、とても元気で良いですね……!

 爆豪くんをわざわざ惹きつけてくれるなんて、良い子すぎます!

 

 

「切島……予定変更だ。デクと、欠伸女の前に、こいつら全員殺そう……!!」

 

 

 爆豪くん、顔がダメになってますよ? 私と同じぐらいダメな感じだと思いますよ?

 けれど、注目を集めるという点においてとても優秀なので、もっとやれなのです!

 

 

『さァ残り時間、半分を切ったぞ!!』

 

 

 半分。……ポン! っと鉄哲くんの肩を叩くと、あえてのゆっくりした動きを少し早めて、事前にお願いしていた適正距離に近づいてくれる。

 

 

『B組隆盛の中、果たして――――1000万Pは誰に頭を垂れるのか!!!!』

 

 

 ほんの少し、緑谷くんに近づいていく。

 

 

「あんま煽んなよ物間! 同じ土俵だぞそれ」

「ああそうだね。ヒーローらしくないし……よく聞くもんね。恨みを買ってしまったヒーローが()に仕返しされたって話」

「爆豪落ち着け、冷静になんねえとP取り返せねぇぞ!!」

「おォオオ……っし進め、切島……! 俺は今……すこぶる冷静だ……!!!!」

 

 

 盛り上がっていますね。んー……位置は、もうちょっと先で―――待った。

 

 地面がうっすらと黄色くなっている。パッとその中心に顔を向けると、轟くんと目があった。

 彼は「……っ」私が気づいたのを察して、表情を厳しくする。

 

「……皆、もう少し左に離れて下さい。多分ビリビリがきます」

「!!」

「分かりました!」

「……轟チームか……!!」

 

 地面の黄色い光が濃くなっている、指示を出しながらその範囲を抜けていく。

 

 

「もう少々終盤で相対するのではと踏んでいたが……随分買われたな緑谷」

「時間はもう半分! 足止めないでね! 仕掛けてくるのは……一組だけじゃない!」

 

 

 パチっ、と最初の音が鳴ると同時に――――バチバチバチバチ!!!! っと、唐突な電流の嵐。

 

「! わあ……」

 

 っ。離れていても余波でピリピリする無差別放電が場をかき乱して荒れ狂い、緑谷くんを狙って接敵していたチームが全体的に被害にあっている。

 

 ……アレは、暫く動けないでしょうね。

 

 

「残り6分弱、後は引かねぇ。悪いが、我慢しろ」

 

 

 615Pの轟くんチーム。……総合的に強いですね。

 

 騎手の轟くんは、攻守共に優れていますし、前騎馬の飯田くんはとても速くて、いざという時の機動力は無視できません。後騎馬の百ちゃんはカァイくて優しくて場に適応する物を即座に生み出せる恐ろしい子です。上鳴くんは……んー。ビリビリが強いです。

 

 続く青色に警戒していれば、予測通りに場が氷で覆われていく。

 吐いた息が白くなり、流石の威力だと目の前で隆起する氷に驚く鉄哲くんを誘導する。

 

 

『何だ何した!? 群がる騎馬を轟一蹴!』

『上鳴の放電で()()に動きを止めてから凍らせた……さすがというか……障害物競走で結構な数に避けられたのを省みてるな』

『ナイス解説!!』

 

 

 しかし、氷……氷ですか。……利用できそうですね。

 

「すみません。少しだけ作戦の微調整をするので、更に位置を変えます」

「……ああ!!」

「分かりました!」

「邪魔なのがいたら……使()()ます!」

 

 頷いて、そっと口元を隠す。

 やはり終盤に向かって、争いが激化していますね。……皆が、じわじわと私の存在を忘れています。

 

「凡戸! 仕掛けて来たな」

「物間あとは逃げ切るだけだ、このP数なら確実に4位以内に入る!」

 

 さあ、紛れ込みますよ。

 

「固まった! すげえ! 動けねぇ!」

「ちょい待ち! 私の“個性”で溶かすから!」

「早く! 0Pだぞ早く!!」

 

 目の前の敵に、目を奪われている内に。

 

「被身子さんは、私達が守ります!!」

「いや、戦うんだよな!?」

「はい! ですが、泥なんて飲ませません!」

「そうだな! 彼女にはオレンジジュースを飲ませよう!」

「……敗北の味は、オレンジジュースか……」

「嘘だろこのチーム、俺以外は天然しかいねぇのかよ!?」

 

 ……。

 ちょっと力が抜けましたが。……普段は真面目な百ちゃんのおかしな気合が、轟くんチームに良い余力を産んでいる様です。

 

(……いえ、脱力している場合じゃないですね)

 

 強い人達が、少し面白いのずるいです。

 改めなくても、轟くんチームはやれる事が多いという点で一番気をつけないといけません。

 

 ウズウズしている鉄哲くんの頭をよしよししながら「もうちょっとです」小さく囁く。

 ふぅふぅと「わかってる!!」飛び出したくて我慢して、青筋をたてている姿に、ごめんねぇという気持ちになる。

 

 それじゃあ、っと。

 少しだけ、集中します。―――周りの音を、選択して消していきましょう。

 

 

『残り時間約1分!! 轟フィールドをサシ仕様にし……そしてあっちゅー間に1000万奪取!!!! とか思ってたよ5分前までは!! 緑谷なんと、この狭い空間を5分間逃げ切っている!!』

 

 

 鉄哲くんの、肩に足を乗せる。

 

 その()()に、彼は“個性”を使い「ぐう!!!!」全身で、私の瞬発力が産む力に耐える。そして、塩崎ちゃんの丹念にまとめられたツルを右手に握りしめて(わざわざ棘も抜いてくれました)―――跳ぶ。

 

 

「ッ、うおッおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 爆ぜる、抑圧から解放された獣の如き男の雄たけび。

 

 ダンプカーの如き勢いと共に発せられ突進していく姿は、その勢いが乗って2倍3倍にも大きく見える事でしょう。そんな鉄哲くんの勢いに、喰いついて必死の形相で走る塩崎ちゃんと心操くん。そんな無視できない3人の動きに、この場にいる全員の視線が吸い込まれていく。

 

 

「トガチームが動いた!!」

「やっべええええ!!」

「!? 待った、その渡我はどこだ!?」

「何か伸びて――縄!?」

 

 

 ピン、っと張ったツルでできた縄。

 その先にいる私が見つかる前に、氷に手を伸ばす。――――氷とヒントをありがとう轟くん!

 

 この氷に、秘儀が生み出す雷、その熱を当てて、この場に即席の濃霧を生み出します!! ――――んっぶ!?

 

 

『なんだあああ、突然フィールドが白い煙に覆われたぁー!!』

 

 

 ぶわあああ、と盛り上がり膨れ上がる真っ白な濃霧、いえ氷煙? にグラウンドが一瞬で覆われていきます。

 

(やりすぎでは……?)

 

 我が事ながら目を丸くする。……いえ、丁度良い加減が分からなかったので、脳に得た瞳と直感に身を任せた結果、観客席にも届くぐらいの勢いで氷煙が発生しています。

 

(ま、まあ、私は見えるからいいですけど……)

 

 びしょ濡れです。……白い息を吐きながら、地面では無く残った氷を足場にして『加速』―――1000万のハチマキに狙いを定める。

 

 

『準備はできたな!? このままじゃ反則し放題になるし即行で換気させて貰うぜ!!』

 

 

 あ、そういう事もできるんですね。

 機械なのか“個性”なのかは知りませんが、便利なものです。

 

 ……さて。

 

 やれる事も終わったので、縄を三回引いて、塩崎ちゃんに引っ張って貰う。

 ぐんっ!! と引き寄せられるまま、くるくると騎馬の上に戻ってくると、まだ白い視界で周りが見えない3人に、もう少しだけ後ろに移動して貰う。……そうそう、ここです。

 

 

『さあ、煙が晴れた今―――おおっと、緑谷、轟、爆豪チームで三竦みしてやがったあああ!!!!』

 

 

 ワアアア!!!! と一気に盛り上がる歓声と、氷煙の勢いで上空を舞っているハチマキ。それを見つけた三人が、ほぼ一斉に跳びかかる。

 

 

「クソが、どけえェ!!」

「……ッ!!」

「ぅ、あああああ!!」

 

 

 そして、重力に逆らえず落下してくるハチマキは、氷煙により瞬間的に冷え切った身体を突き動かせる“個性”の差により、緑谷くんの右手に握りしめられ、勝敗は決した。

 

 

『緑谷チーム!! 1000万ポイントを奪回!!!! これにて変動が…………あ?』

 

 

 まあ、するわけないですけど。

 

 

『あ、やべぇ!? もう時間だカウントいくぜエヴィバディセイヘイ! 5!』

 

 

 緑谷くんがハチマキの数字に驚愕して、全身を動かして私を見ている。

 

 

『4』

 

 

 それに釣られるように、様々な感情を含んだ視線が集まってきますが……もう見られても平気です。

 

 

『3』

 

 

 ふありと欠伸をしながら、右手を伸ばす。

 

 

『2』

 

 

 手の平に、1000万のハチマキが落ちてくる。

 

 

『1』

 

 

 モニターの順位も変わり、これにて。

 

 

『タイムアーップ!!!!』

 

 

 私達の勝利です。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話 結果発表と昼休憩です

 

 大歓声が沸き起こっている。

 

 試合が終了して数秒。シン……と音の消えた静寂が嘘だったかの様な割れんばかりの歓声に、プレゼント・マイクの実況すらかき消されている。

 

(……これで、最終種目に通過できますね)

 

 ふぅ、と。濡れた体操服の不快な感触に目を細める。

 ちょっとした不安要素はありますが、ギリギリで作戦通りにいけました。

 

 ハチマキを手にしたまま、妙に静かな3人が気になって見下ろせば、そんな私をポカンと見上げて、だんだんとその顔を喜色に染めていく。

 

(あ、一時的に0Pだったから、気を揉ませちゃったんですね)

 

 少し申し訳なくなり「えーとですね」騎馬の上でしゃがみこんで「まずは」と、1000万のハチマキを心操くんの首にかける。

 

「え……っ」

「心操くん、お疲れ様でした」

 

 目を見開く彼の頭を、よしよしする。

 

「ッ!? いや、俺は何も……本当に、何も……」

「なぁに言ってるんですかー」

 

 もう片手を伸ばして、振り向いている鉄哲くんの頭をぐりぐりっと撫でる。

 

「最後の鉄哲くんの暴走機関車は、塩崎ちゃんだけじゃ振り払われていました」

「……!」

「心操くんがいたからこその、作戦ですよ」

 

 チラと見れば、3人の組まれた手には茨がぐるぐるに巻きついている。

 血の流れるがんじがらめな有り様が嬉しくて、歯がカチリと鳴る。

 

「……心操くんの足がもつれて、騎馬が崩れていたらこのハチマキも無意味でした」

 

 そういう可能性もあったのだと「ねー?」って、鉄哲くんの髪をわしゃわしゃすると、彼は少しばつが悪そうな顔で「……すまん!!」と乱れ髪のまま勢いよく頭を下げる。

 

「だから、踏ん張ってくれた心操くんは、とても頑張りました」

「……っ、はい」

 

 ゆっくりと、耳を赤くして俯いていく心操くんの頭をよしよしして(……ですが)内心で小さな不満を己に抱く。

 

(……まさか、最初から最後まで騎馬が狙われないとは思いませんでした。……心操くんの“個性”で撃退して貰う予定だったのに)

 

 肝心の心操くんが目立たなかったと、溜息を飲み込む。

 

 ……まあ。強力な“個性”の秘匿は出来たので、最終種目で勝ち残れる可能性が高くなったと、前向きに捉えましょう。

 

(というか、この試合を見ていた人々は、この作戦を立てたのが心操くんだと考えていそうですし)

 

 0Pの最下位より、普通科の立場でここにいる心操くんの注目度の方が高そうです。最後の一押し以外の活躍が無い私より、囮として突撃した彼らの方が目立っていた筈です。

 

 ワアアアアアア!!!! と、頭上からの歓声はいまだ鳴りやまず、結果発表すら始まりませんが、フィールドの視線は私達に釘付けです。

 

(私まで注目されるのはヤですが。……これは良い感じです)

 

 私が、彼らにお願いした指示は実にシンプルなものでした。

 

 鉄哲くんは、彼の性格上辛いだろう、我慢と、それが生む爆発力、囮としての優秀さ。

 塩崎ちゃんは、『ツル』の応用力と飛距離、強度、防衛力。

 心操くんは、“個性”をつかった撃退による攻撃力……をアピールする筈でした。

 

 それぞれの良さを活かせる様に作戦を組み立てたのに、鉄哲くん以外ほぼ失敗しました。

 まあ、心操くんの頑張りは、その汚れた足元から見ても分かるでしょう。……いえ、やっぱり鉄哲くんばかり目立っていた気もしますが。

 

(本当に、何で騎馬が狙われなかったのでしょう? 440Pのハチマキは美味しい筈なんですが……)

 

 全チームから避けられました。

 反省も込みで、心操くんの頭を長めに撫でてから、もしかしたら一番地味な立場に置いてしまったかもしれない彼女を見る。

 

「そして、塩崎ちゃん」

 

 組んだ手の上で向きをかえて、塩崎ちゃんの頭に手を伸ばす。

 

「! 渡我さん、私の髪は」

「チクチクしますねぇ」

「あの、棘が………」

 

 じんわりと赤くなる顔がカァイイ。

 

「塩崎ちゃんは優しいねぇ。撫でても、全然血がでてこないのです!」

「……っ。痛みを、感じないわけではありません」

「それ、撫でない理由になりませんよ? 今日はいっぱいありがとうねぇ」

「……はい」

 

 両手でよしよしして、ツルの間に指をいれて頭皮もまとめて撫でてあげれば、耳まで赤くなってしまう。そんな赤いお顔がとってもカァイイと目を細める。……そして。

 

「……女の子の髪を、雑に扱ってごめんねぇ……」

「え」

 

 “個性”とはいえ、ちゃんと割り切ったとはいえ心苦しくて、小声で謝罪すれば、驚きに目を丸くする塩崎ちゃん。そのお顔から目を逸らして、誤魔化す様に足を指差す。

 

「……それで、そろそろ降りていいです? 塩崎ちゃんのツルが足に絡まっているのです」

「……! いいえ、渡我さんは濡れています。このままでは土で余計に汚れます」

 

 ようやく、巻き付いたままのツルに気づいて、シュルシュルと申し訳なさそうな顔で解放される。途端に崩れる騎馬から「失礼します」優しく引き寄せられる。

 

「おお……!」

 

 塩崎ちゃんにお姫様抱っこされています。

 

 鉄哲くんと心操くんは、手首の痣や血を気にしつつ「ハンカチの予備はあるか?」「俺は、渡我さんの靴をとってくる」と、何やら忙しそう。

 

「あ、鉄哲くんも、囮をありがとうねぇ」

「……おう!!」

 

 手を伸ばせば、腰を曲げて頭を寄せてくれる鉄哲くんの髪をわしゃわしゃする。……試合中から撫ですぎて髪型が崩れてるのに、優しいなぁ。

 

 少し楽しくなって足がぱたぱたすると、その指先から水滴が跳ねる。氷煙を至近距離で浴びましたからね。……塩崎ちゃん、あったかいです。…………すぅ。

 

「……え、渡我さん?」

「嘘だろ!?」

「……こ、この数秒で?」

 

 あ、大丈夫です。

 ちゃんと起きてますよ。

 

 ちょっと体の電池が切れただけで、意識はまだ寝ていません。

 

 

『――――だああ!! やあっと俺の声が届いたな!? 色々言いたい事もあるが時間無いし早速上位4チーム見てみよか!!』

 

 

 んあ?

 足がくすぐったいです。ハンカチで丁寧に拭いて貰ってます? ……後で、洗って返さないとですね。

 

 

『1位、渡我チーム!!』

 

 

 知ってます。

 

 

『2位、爆豪チーム!!』

 

 

 あー……『コピー』の子から奪取してたの、チラッと見えてました。

 

 

『3位、緑谷チーム!!』

 

 

 そうでしょうね。私達のハチマキと、常闇くんが轟くんチームのハチマキも取ってましたし。

 

 

『4位、轟チーム!!』

 

 

 え? ……ああ、なるほど。

 

 ちょっと驚きましたが、百ちゃんが生んでいた余力のおかげで、他チームのハチマキもちゃんと集めていたんですね。てっきりB組の『大拳』の子だと思っていました。流石は百ちゃんです。

 

 

『以上4組が最終種目へ……進出だ―――――――!!!!』

 

 

 ああ、靴下まではかせて貰いました。……靴まで……? 待って、起きます。起きてるんです……!

 

 違うんです、塩崎ちゃんの良い匂いが動く気力を奪っていくんです。塩崎ちゃんからはすごく素敵な花と草と太陽と水の匂いがしてるんです。

 

 

『1時間程、昼休憩挟んでから午後の部だぜ! じゃあな!!!! オイ、イレイザーヘッド飯行こうぜ……!』

 

 

 ごはん……? あ、食べないと、お茶子ちゃんが『もー!』って、カァイイ顔になっちゃう。

 塩崎ちゃんにべったりくっついている場合じゃ……

 

「渡我さんをA組の皆さんに託しましょう。……彼らが、渡我さんの異常を知らないとは思えません」

 

 ああ、身体がゆらゆらします。

 運ばれるのは気持ちが良いです……起き……なくて、いいのでは? ……もう、このまま、寝るべきでは……?

 

「そうだな……っと、クラスの奴らに呼ばれてしまった!! すまんが行ってくる!!」

「分かりました」

「! ……俺も呼ばれた。渡我さんの事を頼む」

「はい。私も渡我さんを託した後、友人たちと合流します」

 

 んあ……?

 

 鉄哲くん、B組男子に呼ばれて行っちゃいましたね。……最終種目に残ったB組唯一の男子ですし、色々とあるのでしょう。同じ理由で塩崎ちゃんや心操くんもクラスの子に呼ばれているみたいで、3人共友達がいっぱいの友達想いで、ヒーロー候補って感じです。

 

 と、見知った足音が駆けてくる。

 

「あの! 塩崎さん、だよね? 被身子ちゃんをありがとう! 私、麗日お茶子!」

 

 お茶子ちゃんだ……!

 

「ご丁寧に。私は、塩崎茨です。……あの、麗日さん。ぶしつけで申し訳ありませんが、渡我さんは……」

「あはは。……軽くてびっくりするよね」

 

 頬に触れる感触にぴくっと身体が動くと、柔らかく手を握られる。

 触れる先から感じる、お茶子ちゃんのにくきゅうの感触に安心する。

 

「……渡我さんは、普段から食堂でも食べていない様子でしたが」

「うん。……一定量食べると眠気が凄いみたい。食べさせ過ぎちゃうと、午後の授業で十分ごとに机に頭突きするの」

「……それは」

「だから、最近は前席の子がね、黒板を見ながら枕ガードしてくれてる」

 

 お茶子ちゃんが朗らかに笑い、塩崎ちゃんが呆気にとられた顔から、穏やかに微笑むのが薄目に見える。

 

「あ、そういえばさ! 塩崎さんはどうして、被身子ちゃんとチームを組んだの?」

「……。詳しくは言えませんが、そうですね。……障害物競走の時に」

 

 私の身体が、お茶子ちゃんの腕に渡されて、その温もりにもう限界だと、瞼が閉じきってしまう。

 背中を撫でる、優しい手つきにゆったりと眠りに落ちていく。その際に……

 

 

「彼女の祈る姿が……とても綺麗で――――」

 

 

 柔らかな声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 鼻がむずっとして「くちゅ」っとくしゃみ。

 

 ……? そんな、自分のくしゃみで目を覚ますと、目の前にぐわわっ!! と毛布が迫っていてびっくりする。

 

「……!?」

「被身子さん! こんなに冷たくなって……! 無茶しすぎですわ!」

 

 見知った香りだったので大人しくしていたら、ぐるっぐるに包まれてぎゅーっとされる。

 というか、百ちゃんだった。

 

「……あれ、塩崎ちゃんは?」

「おはよう。塩崎さんは、あっちでB組の子と食べてるよ」

 

 頬に当たる百ちゃんのほっぺにすりすりしながら視線を向けると、お茶子ちゃんがクラスメイトと楽し気に談笑している塩崎ちゃんの背中を教えてくれる。

 その時、ふっと振り向いた彼女と目があって、驚きながらも嬉しそうに手を振られる。

 

「……カァイイ!」

「被身子さん……!」

「百ちゃんも、カァイイねえ」

「んん……っ」

 

 毛布で包まれて抱き着けないので、塩崎ちゃんには頷く事で返事をして、百ちゃんの頬にはすりすりしながら首に顔を埋めたら、もっとぎゅーっとされる。

 

「……渡我、いつもより甘えてるね」

「寝起きだからでしょ? それより、ヤオママのママ度がまた上がりそうなんだけど……」

「手遅れよ。ヒミコちゃんの顔をこっちに向けて。ご飯はちゃんと食べないとダメよ」

「あ、そうだね! トガちゃん起きろー! 梅雨ちゃんがお魚ほぐしてくれてるよ! 今ならあーんして貰えるよー」

「透ちゃん。私はヒミコちゃんには厳しく「あー」……すると決めていたの。いえ、いるの」

 

 梅雨ちゃん、優しいです。

 

 もぐもぐと咀嚼していると目が覚めてきて、毛布から抜け出して目を擦ると「あんまり擦ってはダメです」百ちゃんに止められて、ハンカチで目元を撫でられる。

 

「……んー」

「はい、ヒミコちゃん」

 

 あ、また魚を食べさせて貰いました。脂が乗ったお魚美味しいです。

 

「……これが、あの『最下位の逆転劇』を生み出した女かぁ」

 

 芦戸ちゃん? 髪を拭いてくれてありがとうございます。でも、どうして毛布を広げて、全体的に覆ってくるんです?

 

「ネットも凄いらしいね。0Pと1000万Pが見事にひっくり返ったって。……ったく、こんなに濡らして、顔の傷が悪化したらどうすんのさ」

 

 耳郎ちゃん? “個性”でカーテンを広げる行動の意味は分かりませんが、ほっぺのガーゼを換えてくれるの助かります。痒かったんです。

 

「……口内にまで、貫通してる傷だから……ちゃんと清潔にしないとね。理屈はともかく、トガちゃんの“個性”で傷跡は残らないってリカバリーガールも言ってたし!」

 

 葉隠ちゃんも、左の包帯を換えてくれるんです? ありがとうございます。リカバリーガールの所に行くの面倒だったんです。

 

「……左腕、まだ全体的にじゅくじゅくしてるね」

「……ギプス、とれただけ奇跡だからね」

 

 そうそう。リカバリーガールに無理を言ったかいがありました。

 

「……これでも、傷が一定以下になって防水フィルム使える様になったんよ」

「……トガ、最終種目、出られるのかな?」

 

 でます! 心操くんに負けたいです。

 

「……脇腹と、足は……流石にここじゃダメか」

「……被身子さん」

 

 それはそうと、全体的に暗くないです?

 今日もご飯は美味しいですし……もしかして、最終種目に出たかったとか、そういう事です?

 

 ……うーん。

 私が出場辞退したとして、仮に繰り上がりが認められても5位はB組の子でしたし、どうしましょう?

 

 あと、皆は気づいていませんが、周りの人がこっちに耳を欹てているというか、同級生が介護されている謎の光景に驚愕していますよ?

 皆は毛布をカーテンにして、声もくぐもって聞こえてないと思っているでしょうけど、ええと。……もういいです。

 

 それより、興奮している様子だった峰田くんと上鳴くんが、漏れ聞こえてくる内容に、急に暗い顔して自主的に正座してるの大丈夫です? 躁と鬱が激しすぎません?

 

「よし、こんなもんで……あんたら何してんの?」

 

 毛布のカーテンが終わり、またぬくぬくされます。

 

 脇腹と足以外の包帯を巻きなおして貰って、若干すっきりしました。体操服は、後で百ちゃんが新しく出してくれるそうで、今はご飯が優先らしいです。

 

「……いや、なんでもない」

「……オイラ達の事は、放っておいてくれ。……くそッ!!!!」

 

 ええ? 床をめっちゃ叩いてますよ?

 

 せっかくのチャンス的なものを、自らの意志で捨て去る事への悔しさに顔が歪んでいます。梅雨ちゃんが「ろくでもないことを考えていたのね」ってすっぱりです。

 

「梅雨ちゃん、どれだけ食べさせた?」

「ギリギリの範囲でおさえているわ。これなら午後も大丈夫よ」

「分かった。じゃあ、薬ね」

 

 何故か、学校で私の薬を管理している耳郎ちゃんと、食事管理している梅雨ちゃん。……いえ、本当になんでですか? 1人でできますよ? しかし、有無を言わさずに耳郎ちゃんがポーチから薬をズザザッと出して、慣れた調子で山となっていく薬を私に飲ませようとしてきます。

 

「…………ヤ」

「ダメだって」

「ヒミコちゃん、頑張って」

 

 ちょっぷされました。

 やめてください。ゼリーに混ぜて一気に飲ませようとするの、嚥下するのが面倒なんです。

 

 ほら、遠目に見てる人達もこの暴挙に……いえ、何故か薬入りのゼリーに注目してますね。細かいつぷつぷで見るからにまずそうですものね、分かります。

 渋々と、全部ごっくんと何度か嚥下して飲み込んだら、皆からよしよしされました。……私の方がお姉ちゃんって、いつか暴露するんです。

 

 口の中が苦いと、百ちゃんにしがみつくと優しく抱きしめられる。

 

「……耳郎さん、ありがとうございます。……私には、とてもできなくて」

「あのさ、優しいだけじゃダメだって! ヤオモモが甘やかすから、渡我も逃げ場所にしてるし!」

「光栄な事ですわ。それに、被身子さんは今日も頑張りましたし……!」

「ダメ! 渡我の事を考えるなら、もうちょっと優しく突き放すべき!」

 

 ……え? 私を挟んで争わないでください。落ち着いて寝れないです。

 

「夫婦の会話かな?」

「ケロケロ。百ちゃんと響香ちゃんは仲良しね」

 

 というか、なんで私は更に運ばれて……やめてください、もう、寝たいんです……

 

「薬が優先だったけど、時間はまだあるね。ほとんど乾いてるけど着替えさせよう」

「服の下の包帯も換えなくては!」

 

 ああ、耳郎ちゃんの抱っこはダメです。お肌すべすべ気持ち良いけど、容赦なく起こされるんですっ。

 

「トガちゃん、放っておくとそのまんまだからね」

「被身子ちゃん、寝るの大好きだから……」

 

 ま、待ってください。身体は電池切れでも、意識が起きていたら、寝てないっていうか……

 

「2人は、もう少しヒミコちゃんに厳しくしないとダメよ」

「ぅ。……がんばります」

「き、気をつけます」

 

 あ……。

 もしかして、寝れないやつです?

 

「おーい。アタシはここの片付けしとくから、先に行ってて!」

 

 芦戸ちゃん、待って。

 そんな私の汁とか血がついた包帯やらガーゼを捨てさせるのは申し訳ないですが、置いてかないで。私も食堂に残って、寝たいんです。

 

 うー……5分で、いい、から………あうううううう。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話 組み合わせと応援です

 

 

『最終種目発表の前に、予選落ちの皆へ朗報だ!』

 

 

 んえっ、朝!?

 

 突然の大きい声にびっくりしていると、頭とか頬とか顎とか肩とかをお茶子ちゃん達に撫でられる。

 ……あ、そうです体育祭でした。力を抜きながら、背もたれ代わりの誰かに体重を預ける。ん、この感触と匂いは芦戸ちゃんですね。

 

 

『あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ! 本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ――――』

 

 

 ふあ、と。少しは眠れた様だと欠伸をしながら視線を動かし―――その光景に止まる。

 

(わあ、チアのお姉さん達、綺麗です……!)

 

 眠気が少し晴れる。

 カァイイ衣装もだけど、つい揺れるお胸とか腰回りとかおへそに視線が吸い寄せられてしまい、頬すら緩んでしまう。

 ……いえ、違うんです。上位者になると本能で赤子を求めちゃうせいで、どうしても女体に癒しを覚えてしまうのです。おかげさまで、思春期男子の気持ちが良く分かります。

 女の子に優しくされたりなでなでされると、今日も頑張ろうって気持ちになりますよね!

 

「……皆さん、少し席を外します!」

「落ち着けヤオママ! あれは幼児番組のマスコットを見てる目だから!」

 

 え? なに?

 

「トガちゃん、身体も揺らしてノリノリだね~……私もチアに興味がでてきたかな~?」

「! 透ちゃんも落ち着いて。全国放送よ」

「……渡我の視線、胸に吸い寄せられてない?」

「き、気のせいじゃないかなぁ」

 

 起き抜けに、何やら理解の及ばない言い合いを聞かされて首を傾げる。

 なんとなく、手持ちぶさたにお腹に回される芦戸ちゃんの腕をふにふにすると、急にぎゅーっとされて足が浮いた。

 そうやって戯れている間にも、プレゼント・マイクの放送は進行していく。

 

 

『さァさァ、皆楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目、進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!!』

 

 

 やっぱり眼福です。

 

 太陽の下でキラキラしているチアのお姉さんたちの眩しい太股に視線を吸い寄せられながら、支えてくれる芦戸ちゃんの温もりと柔らかさを堪能する。

 

 

『一対一のガチバトルだ!!』

 

 

 ……。

 

 そろそろ、ちゃんとしなくてはと。芦戸ちゃんに預けた身体を少しだけ起こす。

 

「トーナメントか……! 毎年テレビで見てた舞台に立つんだあ……!」

「去年トーナメントだっけ」

「形式は違ったりするけど、例年サシで競ってるよ」

 

 そう。

 ここまでは、毎年テレビで見ている通りだと、芦戸ちゃんに頬ずりされながら目を擦る。

 

(にしても、気が重いです……)

 

 狩人に一対一の勝負とか、理不尽すぎます。

 せっかくの“個性”という要素が台無しというか……私に有利すぎるでしょうと溜息が漏れそうになる。

 

 ()()で評価を落としたいのに、どうしようと大型連休の溜まった宿題と向き合っている気分。

 

 障害物競走の時の最下位が、騎馬戦の一位通過メンバーに入った事でプラマイ0になっている可能性がある。この辺りで普通科への狭き門をもう少し広げておきたい。

 

(……多分、ヒーローらしくない行動をとるのが良いのでしょうが)

 

 そも、どうすればヒーローらしくないのか、分かる訳がない。同じ理由で、ヒーローらしい行為というのも謎すぎる。

 

(……爆豪くんみたいな言動をしたら、ヒーローらしくない?)

 

 でも、爆豪くんはヒーロー科にいますし……将来はヒーローになるという事で、ヒーローらしくないけどヒーローになれるなら、それは許容範囲という事で……

 

 ダメです、わかりません。

 

『レクに関しては進出者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね』

 

 ヒーローらしいヒーロー。……オールマイト? つまり、一撃必殺すればオールマイトでヒーローっぽい。……なら、いたぶって勝利すれば、ヒーローらしくないという事で……?

 

 ふむ。

 

『それじゃあ、組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!』

 

 ごつい防護服を揺らして、ミッドナイトが器用にくじ箱を掲げてみせる。カァイイ。

 

『んじゃ、1位チームから順に引いてちょうだい』

 

 うーん、と。ヒーローについて真面目に考えていると「トガ、くじ引きだよ!」と、背を押される。

 芦戸ちゃんってば、急かさなくて大丈夫ですよ。引くのは私が最後でしょうし。適当に…………なんで塩崎ちゃん達、こっちに来るんです?

 

「渡我さん、こちらに」

「引くならお前からだろ!!」

「行きましょう」

 

 んん?

 

 塩崎ちゃんに手を引かれて、鉄哲くんに後頭部を優しく押され、心操くんには気遣う様に背中を支えられている。

 え? 何この謎のいやがらせ……いえ、多分善意なんでしょうけど、目立ちたくないから是非とも先に引いて欲しかったというか……3人の考えている事が本気で分からないというか。

 

(……ぅ。ここで渋っても、注目される時間が増えるだけです)

 

 目を擦りながら、3人に促されるまま最初にくじを引くと、とても満足そうな顔をされる。

 

(……どうして????)

 

 理解が及ばなすぎて、ミッドナイトや他の子達も似た様な顔をしているから、どうにもずれているのは私だけらしいと、急に白けてくる。

 

 ……拗ねた気持ちを隠しつつ、次の2位チームである爆豪くん達に道を譲ろうとして「……!」え、爆豪くんに尋常じゃない顔付きで睨まわっぷ。

 

「行くぞ!!」

「こちらに」

「……」

 

 しれっと、鉄哲くんの背中に隠されました。

 塩崎ちゃんが私を誘導し、心操くんまで間に入ってくる。

 

(……分かんない)

 

 こういう時は、流されるのが大事って覚えています。ここで疑問を発して白い目で見られるのはヤだから、頑張って考えましょう。

 

 あと、爆豪くんが舌打ちしてますけど、大丈夫です?

 いえ、この場で喧嘩しないなら良いですが……もしかして私、爆豪くんに敵視されているのでしょうか?

 

(……? あ、いえ。縄張り意識強そうですものね、彼)

 

 心当たりに気づけて偉いですが、新たな問題が浮き彫りになりました。

 

(……困りました。予想するなら、クラスという群れの一番になりたいのでしょうが、私がいる限りそれは不可能ですし)

 

 うーん?

 色々と考えすぎて足が重くなっていると、塩崎ちゃんに優しく抱えられ、迎えに来てくれた葉隠ちゃんに「ありがとう! トガちゃん、こっちにおいでー」と、抱っこされる。

 そのまま、葉隠ちゃんに背負われる様に運ばれる。

 

「お疲れ様、トガちゃん」

「…………はい」

 

 葉隠ちゃんは天使です。

 彼女の背中に体重を預けながら、考える事を放棄してぽへーっとくじ引きの様子を眺める。そして、気だるさに負けて瞼を閉じる。

 

『というわけで、組はこうなりました!』

 

 すぅ……

 

「一瞬も見ないで寝たー!?」

 

 いえ、落ち着いてください葉隠ちゃん。まだ寝てはいません。しかし、組が決まったならもう寝ていい筈です。

 

 この後は、評価を下げる方法を考えながら、皆との世間のずれを少しでも縮める考察をしつつ、爆豪くんとの関係改善とかいっぱい脳を働かせてお昼寝タイムなんです……

 

「え……? 一回戦から……トガ?」

「三奈ちゃん、とてもやり辛そうね」

「なんやろ……爆豪くんがマシに思えてきた」

「遠慮なくぶつかれるもんね!」

「この組み合わせなら……たとえ被身子さんと戦うとしても、決勝戦ですわね!」

「……分かっていると信じたいけど、渡我は手加減して勝てる相手じゃないよ」

 

 んー?

 思った以上に、皆は興味津々なんですね。

 

(別に、誰と誰が戦おうと、勝敗がどうなろうと、どうでも良くないです……?)

 

 唯一気にしている心操くんに関しても、一回戦で負けないといいなぁ、ぐらいの希望しか持っていません。いえ、勝ち残って欲しいですけど、それは無理だと分かっています。

 

 彼の“個性”がどれだけ強力であろうと、まともに使えるのは楽観して三回戦まで。

 

 心操くんは此処にいる誰よりも飢えていますが、勝ち続けるには何もかもが足りません。

 憧れが身を削り、飢えた心と貧弱な身体の彼に、絶対に勝てと応援するのも酷でしょう。……本当に、騎馬戦での件が悔やまれます

 

「トガちゃん、せめて試合の順番ぐらいは見ないと、本番に遅刻しちゃうよ!」

「……んー」

 

 葉隠ちゃんに揺さぶられて、確かに遅刻はダメですね……と目を開ける。

 

(……いえ、遅刻? なるほど……?)

 

 遅刻して失格、は良いかもしれません。

 ヒーロー以前に、一般的なマナーとして遅刻はダメだから、これはポイント高いのでは?

 

 改めて、トーナメント表を見つめる。

 

 第一試合で……えっ、いきなり心操くんなんです? そして相手は……緑谷くん。

 これは、どっちも応援しづらいです。

 

 飢えて、肉のついていない心操くんと、飢えるも木の根にかじりつき、泥にまみれながら肉をつけていた緑谷くん。……しかし相性を考えると、どっちも良い線いきそうで、なんともいえませんね。

 

 そして、第二試合は轟くんと瀬呂くん。轟くんには、席が近くてよくお世話になっているので、頑張って欲しいです。でも、瀬呂くんも飴をくれるし優しいから、同じぐらい頑張って欲しくて、これも応援しづらいですね。

 

 第三試合は、塩崎ちゃんと上鳴くん。今のところ、放電のみが武器の上鳴くんと、“個性”を広い範囲で使いこなしている塩崎ちゃん。……上鳴くん、頑張ってください!

 

 第四試合が、私と……芦戸ちゃんかぁ。……意外と、戦う順番が早いですね。もっと後が良かったです。とりあえず、遅刻も候補にいれて……すぅ。

 

 

「……分かっていたけど、顔色一つ変えないかぁ」

「三奈ちゃん、ヒミコちゃんは強いわ」

「……ん。分かってるよ、梅雨ちゃん。……ちゃんとね!」

 

 わしゃわしゃと、頭を撫でる感触は複雑そうで……なのに、指先まで優しい。

 

(……私は、芦戸ちゃんが分からないです)

 

 本当に『普通』の人達が羨ましい。

 

 私との試合に、何かを悩んでいるらしい芦戸ちゃんと、それがどういう心理からくるのか当たり前に理解しているクラスメイト達。

 その会話が、同調が、ずっと遠い次元の向こうから聞こえてくる様だと、脳がざわめく。

 

(いいなぁ……)

 

 私も、いつかは()()というものをしてみたいと、葉隠ちゃんに少し強く抱きついた。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの!」

 

 ぴく、と。

 声を掛けられて「ふあ?」と目を覚まして顔をむける。

 

 そこには、見知らぬ女の子と男の子がいて……奥にはもっといますね。

 寝ていた様だと目を擦ろうとして、毛布でぎゅうぎゅうに包まれている事にびっくりする。それでいて、周りに誰もいな…………なんでチアしてるの皆????

 

 遠目に見える光景に困惑しつつ、どうやら私の周りに誰もいないチャンスを活かしているらしい、こそこそしている見知らぬ子達を見る。

 

「渡我さん、ですよね!」

 

 確認されたので「そうですよー」と返事をする。

 

「あの! 俺たち、心操のクラスメイトで……!」

 

 ふむ?

 

「その、一回戦だけでも、心操の応援をして欲しくて!」

「渡我さん的には、同クラが対戦相手だし……ダメかなとは思ったんだけど、ダメ元で確認ぐらいしときたくて……!」

「あいつ、渡我さんに応援されたら、絶対気合入ると思うんです!」

 

 ……うん。つまり、何事です?

 

 廊下の時に見かけた人もいますね?

 つまり、彼らの言い分を信じるなら、私は心操くんのクラスメイト達に囲まれて、お願いをされているらしいと、寝ぼけた脳みそに力をいれる。

 

(……心操くんを応援しろなんて、残酷な子たちですねぇ)

 

 まあ、しろというならしましょう。

 とりあえず毛布を解こうとして……固すぎません? 私じゃなかったら、拘束されていると勘違いしますよ? かろうじて出した指先でベルトの鍵を外して、軽く伸びをしながら身支度を整える。

 

「いいですよ。どこで応援します?」

 

 そのまま、欠伸をしながら彼ら彼女らに向き合う。

 

「「「え?」」」

 

 と、何故か呆気にとられた顔をされる。

 ……え? 一回だけでいいから応援して欲しいって、そういうお願いでしたよね?

 

「い、いいんですか……!?」

「お、俺達と同じ場所で応援って……その」

「普通科ばっか、集まってるんすけど……」

 

 え、最高だと思います。

 周りが普通の人とか、落ち着かないけど落ち着きそうです。

 

「ダメなんです?」

「「「ダメじゃないです!!!!」」」

 

 元気ですね、普通科の人たち。

 

 というか、この人達のお願いを理由なく断ったりしません。もしかしたら今年度、もしくは来年に同じクラスになるかもしれないのに。

 スマホを取りだして、ちょっと出かけてくるとお茶子ちゃんに連絡も残したので、これで怒られる事もないでしょう。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

 見つかると説明が面倒そうだし、速やかに移動したいと態度で示せば、全員でこくこくと頷いて誘導してくれる。

 

 そうして、ぞろぞろと心操くんのクラスメイト達と歩いていると、暫くして外の歓声がかろうじて聞こえる通路で「あの」と、彼らの一人が、気まずそうな顔をして振り返る。

 

「……我儘に付き合って貰って、すみません」

 

 それに準ずる様に、彼ら彼女らが口を開く。

 

「えと、心操の奴……渡我さんに、宣戦布告を真剣に受け取って貰えて、めちゃくちゃ張り切ってるんです」

「そ、そうなんです! 格好つけっていうか、見栄っ張りな面もあるけど、良い奴で……普通科の宣戦布告なんて、鼻で笑われるか愛想よく受け流されるのがオチだって言ったのに、意外と情熱的で、絶対に相手にされないって本人も分かってたのに……ちゃんと、認められたから!」

「……いつのまにか、ヒーロー科を諦めてる俺たちの代表みたいな感じで……応援してたら、トーナメントまで残るなんてマジで凄くて! でも、相手は障害物競走の一位だから、やばいんじゃないかって皆で話してて」

「なにか、私達にできる事ないかなって……そんな流れになって……渡我さんが1人で寝てて……」

 

 どうにも落ち着きのない彼ら彼女らを見つめて、疑問を覚える。

 

 熱気がある様な、空回っている様な、期待している様な、そうでもない様な、ちぐはぐなテンションに首を傾げる。というか、本人たちも気づかない内に一種の興奮状態に陥っているのかもしれない。

 そうなる理由が、心情が、やはり私には分からない。でも、何かを言わなくちゃ彼らの気がすまない事も分かる。

 

(……なら)

 

 ずれていても、嘘やとりつくろいは悟られそうで、本心で場をもたせようと、肩をすくめる。

 

「貴方達は、賢明で幸福です」

「え……?」

 

 足を止めれば、全員が動きを止める。

 1人1人の顔を見つめながら、言葉をつづける。

 

「貴方達はヒーロー科を諦めました。それは、自らの手で幕を降ろしたという事です。……つまり、ちゃんと降ろせたという事です」

「……」

「心操くんは、それができませんでした」

 

 だから、諦められずに苦しんで、足掻いて、本気だからこそ這い上がろうと必死で、今こそチャンスを掴もうと、酷い緊張の下にいるのでしょう。

 くじ引きの時、背中に触れる彼の手は震えていました。

 

(……難儀なものです)

 

 足を止めるという選択すら、自らの意志で定められなくなった、壊れた人間の末路を、私はよく知っている。

 

「ヒーローなんて、なりたくて()()()人に任せていればいいのです。憧れは宝物で、夢は希少品で、現状が窮屈に感じるとしても……」

 

 左腕の包帯を見せる様にあげて、小首を傾げる。

 

「生皮と肉をチリにされる。なんて事故みたいな激痛に耐えないといけない仕事なんて、頭と心がおかしいヒーローに任せていれば良いのです」

 

 ザワリ、と。動揺してざわつく面々に、目を細める。

 脅しとして、この分厚い包帯は役に立ったらしいと、手をひらひら動かす。

 

「私は、貴方達こそが羨ましい」

 

 本当に、心の底から。喉から手がでるほどに 妬ましくて、悔しくて、壊したくなるほどに。

 全部ひっくるめて、愛おしさすら感じているほどに。

 

「……自覚は無いでしょうが、貴方達は不特定多数のヒーローではなく、近しい誰かのヒーローになる事を選んだのです」

 

 適当な言葉を混ぜながら、少しの八つ当たりを本音にして、言葉をつづける。

 

「だから、諦められる自分を誇りに思ってください」

 

 自分でも、少し何を言っているのか分からなくなってきますが、こういうのは雰囲気でしょう。

 

「決して、惨めに感じないでください」

 

 つまり、これ以上目の前で、項垂れないでください。

 

 どうしたってそちら側に行けない、私という立場の者にとって、それは度し難い侮辱だと、自覚してください。

 

「ヒーローになれない。それはきっと、幸せな事の筈なんです」

 

 まるで、諦めた事が悪いみたいな、負けた事がダメみたいな、一番じゃないと無意味みたいな、ヒーローじゃないからヴィランみたいな、そんな『普通』の感覚が分からない。

 

 そんな私には、特に言う事もないけれど、憧れの存在達が目の前でもだもだしている光景は、理想の遠さを自覚させて、複雑な心地になる。

 

 普通とは、少しばかりデリケートにできているものらしい。

 だからこそ、鬱陶しくてカァイくて、気をつけないとすぐに死んでしまう、花みたいな存在。

 

(……こんな感じですかね?)

 

 立ち止まっている彼らを追い越して、前を歩いていく。

 

 改めると、台詞の内容を間違えた気がしますが、良い単語が組み合わさった気はします。

 沈黙する面々から憎悪は感じないし、恐らくは大丈夫でしょうと欠伸を洩らす。……眠いんです。今日は考える事が多すぎて大変なんです。

 

 さて、心操くんへの応援の言葉はどうしようと、顎に指を添えながら浮かぶ単語を組み合わせていくと、プレゼント・マイクのテンションの高い放送が通路に響いてくる。

 

(……そろそろ、第一試合が始まりそうですね)

 

 せめて5分はちゃんと見ようと、眠気を振り払う様に伸びをした。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話 普通科とヒーロー科です

 

 

 普通科の生徒が集まる観客席の真ん中。

 

 招かれるがまま椅子に座り(敷かれたクッションはふかふかで、ひざ掛けと肩掛けに包まれながら)ステージを快適に見下ろしている。

 

(……ん?)

 

 流石に、もてなしすぎじゃないかと疑問を抱きつつ「あーん」と、普通科女子にホカホカのたこ焼きを食べさせて貰い、ハフハフと頬張る。最初のぎこちなさはどこにいったのか、妙に距離が近い普通科の面々に戸惑いを隠せない。

 

(私、心操くんの応援にきたんですよね?)

 

 かろうじて目的を思い出すも、何を言うべきか考えがまとまらない。すでに頑張っている彼に『頑張れ!』と声をかけるのは違う気がするし、不自然なもてなしも気になるしで、だんだん眠たくなってくる。

 

 

『一回戦!! 成績の割に何だその顔、ヒーロー科、緑谷出久!! 対、ごめんまだ目立つ活躍なし! 普通科、心操人使!!』

 

 

 差し入れを咀嚼している内に意識が途切れて、カクンッと頭から落ちかけると複数の手に支えられる。

 

「あぶな……食べながら寝ちゃうんだ……」

「あ、でも口は動いてる!」

「起きた! ……喉に詰まらせてない? お茶飲みます?」

 

 ……んー?

 

 色々と言いたい事はありますが、わざわざ支えなくても直前で起きるので大丈夫ですよ? 口の中のものを飲み込んで「あいがと、ございます」お礼を伝えながら、まとわりつく眠気に頭が揺れる。……ねむい。

 

「……っ! 渡我さん、焼きそばも美味しいですよ! 紅生姜たっぷりだけど食べれます?」

「んんっ! 綿菓子もありますよ!」

「ピザもあります! 心操が勝っても負けてもお疲れ様会しようって、屋台で買い漁ったんです!」

 

 あ、そういうの普通っぽくて良いですね。

 何故か、箸もスプーンも渡してくれないので、しょうがなく食べさせて貰いながらこくこくと頷く。

 

「こっちのたこ焼きが美味しいって! ソースが決めてでしょ?」

「いいや! ふわっとろっカリっのプロの技が光るこっちでしょ! 渡我さん、お口あけて~」

「ずるい! 私も!」

 

 ……。

 

「この色えぐくね? どんな味で……青汁じゃねぇか!!」

「やめろやめろ! 目は覚めるだろうけど子供に飲ませるもんじゃねぇ!」

「焼きトウモロコシは、炭火で炙られたバター醤油が最高で、熱々のうちに齧りつくのが至高なんだが、渡我さんには無理っぽいから速やかにスプーンで削り取れ!」

「……ギャップ萌えってこんな殺傷力あった? お世話するしかないでしょ……!」

 

 普通科、楽しすぎません?

 

 わいわいしている彼ら彼女らのやりとりが微笑ましくて、会話の内容は分からないけど居心地が良いです。

 色々なご飯を「あーん」されながら、私もこんな風に、自然とその輪に入りたかったと目を細める。

 

(こういうの、好きです……)

 

 普通っぽい空気に嬉しくなりながら、A組の皆を思い出して格差を思い知る。

 

(……なんで、たかが学校行事で将来がどうこうって話になるんですかね……)

 

 もっと普通に、体育祭を楽しみたかった。

 だからこそ、目の前の普通のやりとりがこんなにも心を癒してくれる。

 

(……いいなあ)

 

 友達を応援して、パーティの準備をして、皆で屋台の品を買い漁って、味比べして、どうでも良い話題で熱くなれて、たくさん盛り上がって、いっぱい気楽に笑っている。

 

 ヒーロー科の中で、己だけ冷めきっていた自覚があるだけに、この適温が心地良い。

 

(ずっとここにいたい……)

 

 目を閉じて、プレゼント・マイクの放送を片手間に聞きながら、普通の人達と過ごすお祭り気分を堪能する。

 

「あ、歯に青のりは女子高生として致命的なんで、気をつけてください!」

「渡我さん、いーっ! ってしてみて」

「わ、犬歯すごっ!! ワイルド可愛い~!!」

「って、お前ら!! 試合始まるって!! あ、渡我さんはどれ飲みます? 自販機からジュース買いまくったんで、色々ありますよ!」

 

 どんどん気安くなっていく普通科の面々に嬉しくなり、ヒーロー科をやめたい気持ちで足が揺れる。

 

 一時的な構われだとしても、この子達と同じ空間にいるだけで癒される自信がある。 

 心操くんが晴れてヒーロー科に移籍して、私が普通科に通う未来の為にも頑張ろうと思える。

 

 そうしていると、プレゼント・マイクの元気の良い試合開始の合図が聞こえてきて「「「!?」」」全員の視線がステージに注がれる。

 

 そういう切り替えも良いと、声を張り上げて心操くんを応援する彼ら彼女らの手に汗握る表情がカァイイと、頬が緩む。

 

(さて……)

 

 おすすめだというジュースを飲みながら、私としては望まぬ展開に目を細める。

 

(心操くん、早速しかけちゃいましたね)

 

 先手必勝とばかりの“個性”の発動に、性急ですねと缶の中身を飲み干す。

 

 

「何てこと言うんだ!!」

 

 

 試合開始の直前、なんやかんや言っていた心操くんが、最後に声を荒らげて「お前らは、揃いも揃ってあの人だけを生贄にして、無傷で生還したんだろう!?」と煽り、緑谷くんがらしくなく激昂したのだ。

 ……あちゃあ、ってやつです。これはもう次の試合では通じないです。

 

(心操くん、焦ってますね……)

 

 緑谷くんが相手なら、もっとやり様はあったでしょうに。

 スタート直前に“個性”を発動させるのは良い案でしたが、それはもっと格上に使うべきでした。

 

(……やはり、経験が足りてないですね)

 

 スマートな圧勝より泥にまみれた辛勝。つまりは様子見しながらの挑発に混ぜて“個性”をかける方が、勝ちあがる勝率も上がったでしょうに。

 ほぼ優勝できない事を除けば、彼の個性は手品の様に種を隠すからこそ、不気味で映えるのです。……これじゃあ、目立っても一時的ですね。

 

 パキリと缶を潰す。……彼を過信しすぎた私のミスですね。

 

 反省しなくてはと小さくため息を漏らすと、周りの子達が何故かビクついて、なんです? ひそひそして「心操、その煽りはやばいって」「……まあ、噂に憤ってたし、気持ちは分かるけどさぁ」と気まずそうです。

 

「……?」

 

 疑問を感じるも、普通の子達の思考は読めないので興味を失う。

 

 

『オイオイどうした、大事な緒戦だ盛り上げてくれよ!? 緑谷、開始早々――――完全停止!?』

 

 

 小さくなった缶を、燃えないゴミ用のビニール袋に捨てながら、足を組んで頬杖をつく。

 二回戦を勝ち抜けないだろう心操くんに憂いを感じていると「……?」ここにきて、妙な予兆を瞳が訴えてくる。

 

 ……何でしょう? この、花粉みたいにじわじわと積み重なる不愉快な予感は。

 

 

『アホ面でビクともしねえ!! 心操の“個性”か!!??』

 

 

 ある様でない様な、妙にまとわりつく前兆に、気づけば彼らから目を離せない。

 

 

『全っっっっ然、目立ってなかったけど彼、ひょっとしてやべえ奴なのか!!!!』

 

 

 いいえ。どんな嫌味や悪意も、平然と無視すれば無傷ですむ程度の“個性”です。

 だからこそ、身体能力の低さを嘆いているのでしょうし、こんな違和感を起こせる子でもない。

 

 

「……振り向いて、そのまま場外まで歩いていけ」

 

 

 なら、緑谷くん? 心操くんの指示に大人しく従っている彼のポカンとした童顔に……――――は?

 

 ザワリと、脳の瞳がざわめく。

 

「……っ!」

 

 緑谷くんから、死人の気配……!? 

 意味が分からなすぎて勢いよく立ち上がる。

 

(それも複数……!)

 

 これに似た視線を、私は知っている。

 此処ではない、次元の向こうから緑谷くんを見ている気配に「……!」緑谷くんの“個性”が暴発する。

 

「……!」

 

 彼の指がバキッと折れて衝撃の暴風がゴウッ! と巻き起こる。

 

 っ。瞬間、醸し出されていた気配が消える……。いえ、これは消滅ではない。

 ざわつく脳の瞳に苛立ちを覚えながら、頬の煩わしいガーゼに爪をたてる。掻き毟るなと言われていなければ、苛立ちに任せて剥がしていたところです。

 

 

(緑谷くん、貴方……何を飼ってるんです?)

 

 

 もしかして、私のお仲間さんですか?

 

 

『――――これは……緑谷!! とどまったああ!!??』

 

 

 残滓を感じます。

 

 緑谷くんに興味を抱きながら静かに観察していると、緑谷くんが不意に顔をあげて、目が合う。

 

 

「……っ!」

 

 

 緑谷くんは少し驚いて、だけど(うん!)とばかりに大きく頷いて、気を引き締める様に心操くんと向き合う。

 

(……ん? え? ……なに?)

 

 今の一連の動きがよく分からない。

 緑谷くんは見ているだけの私にどんな幻覚を見出したのか困惑するも、緑谷くんの纏う残滓が気になって目を離せない。

 その一連の動きに心操くんも気づいて「!?」私を驚愕の表情で見て……あの、私がここにいるの、逆効果になってません?

 

 

「ッ、何で……!? いや、後だ! 体の自由はきかないハズだ、何したんだ!」

 

 

 心操くんの叫びを聞いて、パッと口を塞ぐ緑谷くん。……やはり警戒されてますね。分析と解析が得意な緑谷くんは、早々に彼の“個性”に当たりをつけた様です。

 

 

「なんとか言えよ!」

「――――」

「……! 指動かすだけでそんな威力か、羨ましいよ!」

 

 

 ダメですよ心操くん。焦りが顔にでています。

 

 

「俺はこんな“個性”のおかげでスタートから遅れちまったよ。恵まれた人間にはわかんないだろ!」

 

 

 そして、緑谷くんをバカにしすぎです。

 彼からは、貴方以上の飢えを経験した匂いがします。

 

 

「誂え向きの“個性”に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよ!!」

 

 

 彼は我慢できる子です。耐えられてしまう子です。

 痛くて、苦しくてしょうがないって顔してる癖に、貴方と同じ様に幕を降ろせない子です。

 

(……だから私は、緑谷くんや心操くんを、見つけてしまうのです)

 

 最初から、普通を持っていない私と、自ら普通を置いて行こうとする貴方達。

 お互いにどういう結末を迎えるのかと、未来の楽しみが増えた気分です。

 

 取っ組み合い「なんか言えよ!」殴られ、鼻血を流す緑谷くんと、その血に内心で狼狽えてしまう心操くん。

 

 やはり、同じ飢えを体験していても、根や環境によって違いはでてくるものです。

 緑谷くんの迫力に怯んでしまった心操くんは、すでに負けています。

 

(……そして)

 

 脳の瞳が答えを得ました。目を細めて緑谷くんを見つめる。

 

 彼は、人から人に受け継がれる『ナニカ』を身に宿している。

 

(……私の様に)

 

 人から人に寄生していった悪夢と、似て非なるものをもっている。

 

 

「……♪」

 

 

 心操くんの応援のつもりで、面白い事を知れたと口元を覆う。……勝敗への興味は消えて、その場を去ろうとし、気づく。……そういえば、応援らしい応援をしていません。

 

(……。それは、いけませんね)

 

 もう関心を失っているとはいえ、約束は大切です。一言ぐらい適当な応援を放とうと口を開いた瞬間、心操くんは場外に背負い投げされる。

 

 

『心操くん、場外!! 緑谷くん、二回戦進出!!』

 

 

 ……終わりましたね。

 

 それなら、せめてお疲れ様の一声ぐらいかけようと思い直せば、何故か普通科の子達がついてくる。……まあいいですけど。

 

 

『二回戦進出!! 緑谷出久―!!』

 

 

 あの辺りが良いですかね?

 

 なんとなく、うずうずしている普通科の面々を先に行かせると、彼ら彼女らは大きく頷いてドタバタと走っていく。

 

 

『IYAHA! 初戦にしちゃ地味な戦いだったが!! とりあえず両者の健闘を称えてクラップユアハンズ!!』

 

 

 やっぱり、心操くんはヒーローになれますね。

 だって、良い友達に恵まれています。

 

 

「かっこよかったぞ心操!」

 

 

 その一声で、俯いている心操くんに上を向かせてくれる。

 1人ぼっちじゃないと、教えてくれる。

 

 

「正直ビビったよ!」

「俺ら普通科の星だな!」

「障害物競走一位の奴と良い勝負してんじゃねーよ!!」

「それに、お前の憧れの人も応援してたんだぜ!」

「羨ましいぞこのやろー!」

 

 

 へえ、心操くん、憧れてる人とかいるんですね。

 

 何故か背中をおされて、最前列に押し出されると、友人達を見上げていた心操くんが一瞬で気まずそうな顔になり、まるで合わせる顔がないとばかりに俯いてしまう。

 

 ……。

 あの、そこまで気にしなくて良いですよ?

 

 確かに、トレードの条件は満たせなかったかもしれませんが、まだチャンスはありますし、心操くんは充分に頑張ってくれました。

 

 知らず昂っていた心が落ち着いて「心操くん」迷いましたが、ちゃんと応援をしましょう。

 いいんですよね? と、確認する様に周りを見れば、期待の籠った表情ばかりで、止める者はいないと心操くんを見下ろす。

 

 

「……すみません。渡我さんが、ここまで引っぱりあげてくれたのに。……負けました」

 

 

 ええ、負けましたね。

 

 彼は俯いたまま、悔しそうに拳を握っている。その震える身体を静かに見下ろす。

 

 

「……俺、中途半端で……やっぱり、こんな“個性”がヒーローなんて、分不相応で……渡我さんにも、迷惑をかけました」

 

 

 彼の表情は見えないけれど、その声は震えています。

 

 もしかしたら彼は、幕を引く為の準備をしているのかもしれません。震える手で、諦めに指を伸ばしているのかもしれません。

 

 ……なら、私はその邪魔をしましょう。

 

 

(だって、応援しても良いのでしょう?)

 

 

 それなら「心操くん」私は応援という名の、祝福と呪いを君にかけましょう。

 

 俯いたままの油断しきった背中を押して。

 

 

「君は、ヒーローになれます」

 

 

 普通から、ヒーローという異常へと。

 優しい台詞で、地獄に落としてあげましょう。

 

 

「……、え」

 

「オールマイトにも救えない誰かを、救けられる凄いヒーローになれます!」

 

 

 この一時だけは、善なる私も悪女になりましょう。

 我ながら残酷な台詞だと、周りの視線が心地良い。

 

 

「……、あ」

 

 

 興が乗って、塀を乗り越えて飛び降りる。

 くるんっと一回転して着地すれば、目の前に驚愕、というより放心している心操くんがいる。

 

「……渡我、さん」

 

 背伸びして、手を伸ばして頭を撫でる。

 

「まずは、身体を鍛えましょう」

「……ぁ」

「あと、話術ですね。北風と太陽です。緑谷くんタイプに北風は逆効果です」

「……っ」

「そして、君はもっと、この声を聞くべきです」

 

 ほら、たくさんのプロの人達が、君の“個性”を称賛している。

 

 撫でる手を止めて促せば、心操くんは周りの声を聞い……うん? ちゃんと聞いてます? すごく褒められてますよ?

 なのに、心操くんは私だけを見つめている。……その瞳を見て、刷り込んだひよこですかと苦笑する。

 

 もう、しょうがないですね「心操くん」彼の前で、大きく両手を広げる。

 

 

「聞こえてますか、心操くん。……貴方は、すごい子です!」

 

 

 ちゃんと聞きなさいと、応援を終える。

 

 

「…………ッ」

 

 

 ぇ?

 

 そしたら、心操くんの両目から、液体がボロボロと……あの……?

 

 

「……おれ、ぜったい、あきらめません……っ!!」

 

 

 んん?

 ズビッと鼻まで鳴らして、え、ええ?

 

(な、なにも、泣く事ないじゃ……ないです?)

 

 台詞、間違えました? 応援、ダメでした?

 いえ、私は依頼をしっかりこなしただけで、普通科に入りたいしで、男の子を泣かせちゃったのは誤算で?

 

 動揺するも、気づけば周りの歓声と心操くんへの励ましの声も激しくなっていき……動揺する。

 

(ど、どうすればいいんですか、この空気!)

 

 とりあえず、泣いている子をこのまま晒すのはいけないと、逃げる様に彼の腕を引けば、片腕で両目を覆い、唇をぎゅっとしたまま大人しくついて来てくれる。

 

 でも、溢れる涙は止まりそうにありません。

 

(そ、そういえば、緑谷くんがいましたよね? ……な、なにか良いアドバイスを――――って、なんですその顔?)

 

 見れば、まるで自分ではどうしようもできなかった迷子を託された様な、そんなおかしな気分になる複雑な表情をしている。

 

 折れた指を、そんなに強く握ったら痛いですよ? そして私に向かって、大きくぺこっと頭を下げるのも……なんで?

 

(……。もうヤです、この体育祭は分からない事ばっかで帰りたいです)

 

 とりあえず、お疲れ様と緑谷くんに手を振って、疲れきった心地で心操くんの手を引いていけば、通路の途中で普通科の子達が迎えに来てくれる。

 

「心操、すごかったな!」

「お疲れ様! ……お前、絶対ヒーローになれるよ!」

「渡我さん、ありがとうございます!」

「私、渡我さんのギャップ萌えがどうこうって噂の真意、よく分かりました!」

 

 ……もう帰っていいです?

 

 一気にガヤガヤと通路は賑やかになり、そのまま囲まれて辟易する。

 心に余裕が無いので、気配を消して逃げようとすると「被身子さん!」……。逃げたら、心配しちゃう子が来てしまう。百ちゃんと芦戸ちゃんが駆け寄ってくる。

 

 丁度、普通科の子達から離れようと抜け出したタイミングだったので、その勢いのまま2人に抱きしめられる。

 

「トガ、私との試合があるって覚えてる? 探したんだからね!」

「……次は、もう少し詳細な書置きを残してください!」

 

 ……えぅ?

 温もりに包まれながら、心配されるだけだと思っていたのに、探されていたという事実に不意打ちめいた感情が生まれる。

 

 百ちゃんが、改めて「被身子さんがお世話になりました」と、普通科の子達に頭を下げている。彼ら彼女らが恐縮するも、心操くんは赤い目で静かな表情を浮かべている。

 そして、百ちゃんは芦戸ちゃんに私を託しながら「……心操さん」心操くんを、真剣な表情で見つめる。

 

「被身子さんにあそこまで言わせる貴方と、共に学べる日を楽しみにしています」

「……!」

 

 軽く目を見開くも「ああ」急にぐっと大人びた心操くんが、百ちゃんの顔をまっすぐに見て頷く。

 

 色々な意味で驚いている普通科の子達に軽い礼をして、百ちゃんはそのままスマートに集団から離れていく。

 ……すごいです。私は気配を消して無言で立ち去る事しかできないのに、その社交的な別れ方は参考にしなくてはと、抱っこされながら感心する。

 

 そうして暫く運ばれていると、通路を曲がった辺りで「もう!」予想していたけど、百ちゃんにパスされてぎゅーっとされる。

 

「……心配しました!」

「ごめんねぇ?」

 

 爪先が浮いてます。

 

「……いいえ! 耳郎さんが言う通り、私が過保護すぎるんです! ……ですが、何事も無くて良かったです」

「……はい」

 

 頬ずりされて、少し照れる。

 まだ、素直に気持ちを伝えられるのに慣れてない。

 

「……え、っと」

 

 でも、さっきの普通の子たちとのやりとりで、こういう時は……その背中にもっと気軽に手を回しても良いと知ったから。ぎゅーっと、抱き着いてみる。

 

 

「!? ……――――今すぐ市役所に行きましょう!」

「暴走するなヤオママ!! それ系の話はダメって皆で話し合ったよね!?」

「ハッ!? そ、そうでした! ですが、普段はされるがままの被身子さんが……ついに私の娘になる決心を……してくれたという事では!?」

「違うし落ち着け!!」

 

 おお? 芦戸ちゃんにガバッと奪われました。

 

 私はぬいぐるみですか? いえ、抱きしめて落ち着くならお好きにどうぞですが。ちょっと私を軽率に持ちすぎだと思います。

 

「暫くトガへの抱っこ禁止!!」

「……っ。はい」

「あとトガ、次は轟と瀬呂の試合で、その次の次が私との試合! うっかり寝過ごしそうだし、私と一緒に行くからね!」

「……はい」

 

 頬をつんつんされて、目を逸らす。……遅刻とサボリを封じられましたが、まあ、良いでしょう。

 

「頑張ってくださいお2人とも! 私の試合は、お2人の次の次ですわ!」

「相手は常闇だよね? ……ねえトガ、ヤオママが凄く緊張してるし、何かアドバイスとかある?」

「芦戸さん!? 何を……」

「まあまあ」

 

 そんな会話を聞きながら、ああ、やっぱり彼女達はヒーロー科だと肌で感じる。

 

 適当に、常闇くんの“個性”はだーくしゃどう。黒で影なんだから、とりあえずサングラスと閃光弾で様子見しますねーという軽い会話への食いつきが、違う。

 

 真面目な顔で「ですが、太陽の下でも“個性”が消えていません」とか「いや、影は光で消えるし、昼間でも当然影はできる。……試してみる価値はあるんじゃない?」普通科が懐かしくなるぐらい、会話の熱と重みが違う。

 

(……普通科、通いたいです)

 

 改めてそう願いながら、芦戸ちゃんに横抱きされてうとうとする。

 

 芦戸ちゃんの、背中をぽんぽん叩く感触が絶妙すぎて、心地良さに任せてぎゅうとしがみついた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭を雑に楽しむスレ1

 

 

1:名無しのヒーロー

雄英体育祭を雑に楽しみたい。そして推しを見つけたい

 

2:名無しのヒーロー

>>1乙

有料版はガチが多すぎて、こういう軽そうなの助かる

 

3:名無しのヒーロー

>>1乙

一応新規がいるなら言っておくが、有料版で過度な暴言、アンチに荒らしは一発アウトです

 

4:名無しのヒーロー

そういう汚物を見たくなくて金払ってる

 

5:名無しのヒーロー

>>1乙

はじまったなー

今年は一年に注目が集まってて余計に楽しみ

 

6:名無しのヒーロー

無料版もだけど他スレの速度おかしい

 

7:名無しのヒーロー

それぐらい期待してるんでしょ

 

8:名無しのヒーロー

お、開会式はじまったな

 

9:名無しのヒーロー

あれがA組か

 

10:名無しのヒーロー

露骨なA組上げwwww

 

11:名無しのヒーロー

他クラス悲惨やな

 

12:名無しのヒーロー

これでA組がやられたら盛り上がりそう

 

13:名無しのヒーロー

なんかすげー小さい子もいる

 

14:名無しのヒーロー

怪我人もいるじゃん・・・

 

15:名無しのヒーロー

どこ?

 

16:名無しのヒーロー

ほら、おっぱい格差に挟まれてる子

 

17:名無しのヒーロー

おいwwww

 

ここだと、その書き込みも報告されるからやめとけ

 

18:名無しのヒーロー

はい

 

19:名無しのヒーロー

ほんとだ、寝てなくていいのか?

 

20:名無しのヒーロー

いうてそこまで酷くないんじゃない? 首も包帯ぐるぐるだけど、個性の影響かもしれん

 

21:名無しのヒーロー

襲撃を受けた組だから邪推してしまうな・・・

 

22:名無しのヒーロー

顔にあんな分厚いガーゼって・・・もし個性の影響じゃないなら、襲撃の際にやられたって事で・・・

敵マジ最悪だな

 

23:名無しのヒーロー

女の子の顔になにしてくれてんだよ・・・

 

24:名無しのヒーロー

そうと決まったわけじゃないし、他の子にも注目してやれよ。気になってしょうがないけど

 

25:名無しのヒーロー

やけに眠そうだけど、薬のせい?

 

26:名無しのヒーロー

足取りふらふらじゃん

 

27:名無しのヒーロー

あのごつい防護服だれ?

 

28:名無しのヒーロー

ん? 雄英にあんなごついヒーローいた? 13号じゃないよな 

 

29:名無しのヒーロー

まって? 『選手宣誓』って言ったあの声めっちゃ聞き覚えある

 

30:名無しのヒーロー

・・・ミッドナイトじゃん!!!!

 

31:名無しのヒーロー

うっそだろお前!? 18禁要素どこいった!?

 

32:名無しのヒーロー

とうとうPTAに負けたのか!?

 

33:名無しのヒーロー

おいwwwwついに規制されたとか言われてるぞwwww

 

34:名無しのヒーロー

SNSでトレンドになっとるwwww

 

35:名無しのヒーロー

なにがあったし・・・

 

36:名無しのヒーロー

だめだ衝撃が抜けねぇ・・・目の保養が・・・

 

37:名無しのヒーロー

くそwwww

いつかこんな日がくると思ってた・・・って学生に言われとるwwww

 

38:名無しのヒーロー

鞭さばきが変わらねぇのプロだわ

 

39:名無しのヒーロー

そのまま進行するのかよ・・・もう雄英体育祭終わっていいよ

 

40:名無しのヒーロー

まだ始まってもいないんだよなぁ

 

41:名無しのヒーロー

ミッドナイトが出オチすぎるだろw

 

42:名無しのヒーロー

存在が面白すぎる

 

43:名無しのヒーロー

マジで規制されてたら笑えない

 

44:名無しのヒーロー

いや、他スレ見たけどそういう話は無いから

自主的に着てるっぽい

 

45:名無しのヒーロー

あの人に自制とかないだろ???? なんの為に着てんだよ????

 

46:名無しのヒーロー

さあ?

 

47:名無しのヒーロー

謎が謎を呼びすぎる

 

48:名無しのヒーロー

あ、選手宣誓はじまった

 

49:名無しのヒーロー

へー、彼が入試一位なのか

 

50:名無しのヒーロー

あの目つきの悪さ、見覚えがある様な?

 

51:名無しのヒーロー

わかった去年のヘドロ事件の子だ!

 

52:名無しのヒーロー

あー!! 思い出した!!

 

53:名無しのヒーロー

雄英に通ってるんだ! 将来有望じゃん

 

54:名無しのヒーロー

って、おい

 

55:名無しのヒーロー

『俺が! 一位になる!』wwww

 

56:名無しのヒーロー

これが若さゆえの・・・

 

57:名無しのヒーロー

やめろよ

共感性羞恥が刺激されちゃうだろ

 

58:名無しのヒーロー

逆にすごいわ・・・って、怪我人の子を指差してないかこれ?

 

59:名無しのヒーロー

は? 本当だよ?

 

60:名無しのヒーロー

怪我の子、きょとんとしてるし、途端に後ろにいた子達がすすすっと左右に移動したよ

 

61:名無しのヒーロー

振り向いて首傾げとるw 小動物めいた動きするな

 

62:名無しのヒーロー

つまり一位の子は、怪我人女子に対して『せいぜい、跳ねの良い踏み台になってくれ』と言っているわけで・・・マジかよ

 

63:名無しのヒーロー

どういうことなの?

 

64:名無しのヒーロー

わからん

だが年甲斐も無く面白くなりそうだと、ワインの二本目をあける

 

65:名無しのヒーロー

もう開けてんじゃねえか、水にしとけおっさん

 

66:名無しのヒーロー

つまみはお洒落っぽさで選んだチーズだ

 

67:名無しのヒーロー

wwww

 

68:名無しのヒーロー

これぐらい緩い方が見ていて楽しいわ

 

69:名無しのヒーロー

他スレも一緒に見てるけど、無料版はさっそくアンチと荒しが沸いとるな

 

70:名無しのヒーロー

ばくごうくんって子、香ばしそうだもんな

 

71:名無しのヒーロー

これぐらい元気だと見ていて面白いけどな

 

72:名無しのヒーロー

お、第一種目が決まったな

 

73:名無しのヒーロー

障害物競走か・・・

 

74:名無しのヒーロー

過去にもあったけど

雄英のはとにかく規模がやべぇんだよ

 

75:名無しのヒーロー

ミッドナイトとばくごうくんで場も温まってるしな

 

76:名無しのヒーロー

あれはずるいって・・・

 

77:名無しのヒーロー

みんな位置についてるな

 

78:名無しのヒーロー

スタート!

 

79:名無しのヒーロー

うっわ、いきなり妨害かよ

 

80:名無しのヒーロー

氷すごいな

 

81:名無しのヒーロー

って、それをよけるA組もやばい!

 

82:名無しのヒーロー

いきなり接戦じゃん

 

83:名無しのヒーロー

あの氷出した子、エンデヴァーの息子だって

 

84:名無しのヒーロー

納得しかできん

 

85:名無しのヒーロー

すごい子がいるなあA組

注目されるのも分かる気がする

 

86:名無しのヒーロー

ロボwwww

 

87:名無しのヒーロー

でっっっっか

 

88:名無しのヒーロー

相変わらず手加減をしらないwwww

 

89:名無しのヒーロー

こんなの見ててハラハラするわ

 

90:名無しのヒーロー

轟くんやべえええ!!!!

 

91:名無しのヒーロー

ロボがゴミの様だ・・・

 

92:名無しのヒーロー

派手だし強いしめっちゃヒーロー向きじゃん!

 

93:名無しのヒーロー

潰れた子もいるけどいいんだろうか・・・

 

94:名無しのヒーロー

めっちゃ元気だったわ

 

95:名無しのヒーロー

2人もいたのかよw

 

96:名無しのヒーロー

ばくごうくん飛んでるわ

 

97:名無しのヒーロー

すげえなどんな個性だよ!?

 

98:名無しのヒーロー

それに追従してるのもA組だろ? やっぱ頭一つ抜きんでてるな

 

99:名無しのヒーロー

で? 一位の子にライバル宣言された子はどこいるの?

 

100:名無しのヒーロー

なんだあの光

 

101:名無しのヒーロー

え、何が起きたん? 

 

102:名無しのヒーロー

・・・ロボ全滅してない、これ?

 

103:名無しのヒーロー

光が降り注いだと思ったら、ロボが粗大ゴミになってる

 

104:名無しのヒーロー

誰の個性だよ!? やべええええ!!!!

 

105:名無しのヒーロー

あの光、ロボを追尾してる様に見えたけど・・・

 

106:名無しのヒーロー

マジかよ

 

マジかよ・・・

 

107:名無しのヒーロー

そして怪我の子は

欠伸しながらのんびり走ってますね

 

108:名無しのヒーロー

怪我とか関係ないね

普通にやる気がないねソレは・・・

 

109:名無しのヒーロー

でも、この惨状に驚いた顔一つしていないって事は・・・そういう事じゃろ?

 

110:名無しのヒーロー

あ!? 他の子はおっかなびっくりなのに一人だけ余裕だ!!

 

111:名無しのヒーロー

って事は、これあの子がやったんかよ!?

 

112:名無しのヒーロー

うわあ・・・

他スレでもそういう予想がたてられて動画もあるけど・・・詳細が分からん

 

113:名無しのヒーロー

分かんないのかよ!!

 

114:名無しのヒーロー

いや、光の雨が発動する直前に人込みに紛れ込んだみたいで、どの動画にも証拠が残ってないらしい。

 

115:名無しのヒーロー

ええ・・・

 

116:名無しのヒーロー

逆説的に、あの子以外に不審な動きをした子もいないから、あの子の個性って事になってる

 

117:名無しのヒーロー

なるほど?

あのプライド高そうな一位の子が、わざわざライバル宣言する子

 

118:名無しのヒーロー

もしかして

只者ではない?

 

119:名無しのヒーロー

第二関門もやばいし、どうなるんだこれ?

 

120:名無しのヒーロー

いやガチでなんだよ、崖と縄って・・・

 

121:名無しのヒーロー

雄英はいつもこうだ・・・愛してる

 

122:名無しのヒーロー

見ていて楽しすぎるんだよなー

 

123:名無しのヒーロー

轟くんはかなり先行してるな

 

124:名無しのヒーロー

お! サポート科に面白い子がいるな

 

125:名無しのヒーロー

元気でいいね!

 

126:名無しのヒーロー

他の子も続々と渡ってるな・・・

 

127:名無しのヒーロー

やっぱりヒーロー目指す子は違うわ

 

128:名無しのヒーロー

先頭もだけど

後方で光の雨をだしただろう怪我の子が気になる

 

129:名無しのヒーロー

ああ

他が必死な顔してるのに、怪我の子は欠伸交じりだもんな・・・別の意味で気になる

 

130:名無しのヒーロー

ちょ、みてみてこれこれ!

 

【怪我をした少女が、綱を靴先だけでくるりと一周して岩や個性の余波を避ける動画】

 

131:名無しのヒーロー

すげええええ!!

 

132:名無しのヒーロー

避けた後に平然と小走りするの強者すぎるわ

 

133:名無しのヒーロー

どうやったらそんな動きできるの?

岩が飛んでくる直前に欠伸しててあぶないと思ったら、くるんって!

 

134:名無しのヒーロー

先頭が気になるけどこっちも気になる

 

135:名無しのヒーロー

プレゼント・マイクも言ってるけど、大怪我っぽいのに危なげが全然ないんだよな

やっぱり、あの包帯は個性の影響なんかね?

 

136:名無しのヒーロー

って、おい

 

137:名無しのヒーロー

ロボもだけどやりすぎだろwwww

 

138:名無しのヒーロー

地雷原って、やる事なす事派手だな雄英!

 

139:名無しのヒーロー

ほう?

人によっては失禁するのか

 

140:名無しのヒーロー

>>139 通報しました

 

141:名無しのヒーロー

>>139 通報しました

 

自重しろもしくは無料版行け

 

142:名無しのヒーロー

冗談が全く通じないけどそこが良い!!

 

ごめんなさいもうしません!!

 

143:名無しのヒーロー

>>142 ・・・通報は撤回してあげるけど、気をつけようね

スレスレを狙って二度と利用できなくなった奴ごまんといるし

 

144:名無しのヒーロー

すんません反省してます・・・

 

145:名無しのヒーロー

ここ

無料版の無法地帯が嫌すぎて作られた場所だからね

 

146:名無しのヒーロー

窮屈だけど俺はこっちがいい

 

147:名無しのヒーロー

わかりすぎる

楽しく利用したいだけなのに、すぐ荒されるの辛い

 

148:名無しのヒーロー

しっかし地雷すごい派手だな

 

149:名無しのヒーロー

ばくごうくんスピードあがってるよな

 

150:名無しのヒーロー

スロースターターなのかもな

 

151:名無しのヒーロー

踏んじゃったやつ悲惨だなw

 

152:名無しのヒーロー

本当に派手なだけなんだねw

 

153:名無しのヒーロー

ん? 1人変なことしてるもじゃもじゃの子いるな

もしや地雷を掘っているのか?

 

154:名無しのヒーロー

何してるん?

ゴールを諦めてるにしちゃ、めっちゃ頑張ってるし

 

155:名無しのヒーロー

怪我の子がもじゃもじゃ君に何か言ってる?

 

156:名無しのヒーロー

他スレに、口の動きで会話わかる奴いて解析してる

 

157:名無しのヒーロー

『ねえ、そこにたくさん埋まってますよ!』って言ってるみたい

 

158:名無しのヒーロー

地雷が?

 

159:名無しのヒーロー

あ、ごっそりとれた

 

160:名無しのヒーロー

目がいいんだなーって、そういう事か!!

 

161:名無しのヒーロー

他スレは先頭の争いに夢中だけど、後ろは後ろで面白いな

 

162:名無しのヒーロー

何すんだろって

わくわくするもんなってやりやがった!!??

 

163:名無しのヒーロー

うお、そうきたか!!

 

164:名無しのヒーロー

障害物競走の障害物を逆に利用したのかよ

 

すごいなもじゃもじゃ君!

 

165:名無しのヒーロー

一気に先頭に追い付いた!

 

166:名無しのヒーロー

こういうのだよこういうのが見たかったんだよ!!

 

167:名無しのヒーロー

すっげえわ!!

 

168:名無しのヒーロー

雄英の子って、何するか分かんなくて手に汗握る

 

169:名無しのヒーロー

さっきのも今のも狙ってたよな!?

狙って爆発させて地雷原を抜けるとか・・・興奮して涙でてきた

 

170:名無しのヒーロー

わかる

見てるだけでアドレナリンがドバドバしてる

 

171:名無しのヒーロー

一位おめでとう!!!!

 

みどりやいずく君っていうのか!!

 

172:名無しのヒーロー

おめでとう!!

でもまだ個性見せてないよな? にしても立派だ!

 

173:名無しのヒーロー

二位の轟くんも凄いし、三位のばくごうくんの追い上げも良かった!

 

174:名無しのヒーロー

緑谷くん、マジでどんな個性なんだろ?

 

175:名無しのヒーロー

他も続々とゴールしていくな

 

176:名無しのヒーロー

怪我の子、何しとるん????

 

177:名無しのヒーロー

え? テレビは緑谷くんばっか映してて分からん

何かあった?

 

178:名無しのヒーロー

・・・地雷踏んで、目を回してるっぽいサポート科の子を助けてる

 

179:名無しのヒーロー

は?

 

180:名無しのヒーロー

そんで、お腹が痛そうな男の子の手もとって一緒に走ってる

 

181:名無しのヒーロー

ほう

 

ほう????

 

182:名無しのヒーロー

競走ってなんだっけ?

 

183:名無しのヒーロー

この子は何がしたいんだ・・・?

 

184:名無しのヒーロー

って、ちょっと怪我の子おおおお!?

 

185:名無しのヒーロー

待って

 

一緒に走るのはまだ分かるけど、2人を先にゴールさせるのは分からない!!

 

186:名無しのヒーロー

本戦に進める人数ってまだ発表されてなかったのに・・・

 

すげー事するな

 

187:名無しのヒーロー

欠伸してる・・・

 

188:名無しのヒーロー

ね、寝不足なのかな?

 

189:名無しのヒーロー

戸惑いが抜けない

他スレでも色々言われてるけど、これで予選落ちたら禍根が残らない?

 

190:名無しのヒーロー

友情に亀裂が入ってもおかしくない・・・と思ったら大丈夫だったわ

 

191:名無しのヒーロー

予選通過は43名!!

 

192:名無しのヒーロー

ばっちり入っとるやんけ!!!!

 

193:名無しのヒーロー

うっわぁwwww

一位の子より目立ってないかこれ?

 

194:名無しのヒーロー

そりゃお前・・・

 

195:名無しのヒーロー

こんなおかしな事しといて

それでいて予選通過されたらねえ?

 

196:名無しのヒーロー

偶然だろうけど

計算なのではと邪推しちゃうよな

 

197:名無しのヒーロー

欠伸しすぎだよ・・・

 

198:名無しのヒーロー

他スレで、欠伸の回数数えてるやばいのいるwwww

 

199:名無しのヒーロー

wwww

 

結果は?

 

200:名無しのヒーロー

走ってる時でさえずっと欠伸してて、こいつ余裕すぎるわって戦慄したらしい

 

201:名無しのヒーロー

数え忘れたんだなwwww

 

202:名無しのヒーロー

次は騎馬戦か

 

203:名無しのヒーロー

ほうほうP制なのね

 

204:名無しのヒーロー

怪我の子は0Pなんだな

 

205:名無しのヒーロー

点数的には美味しくないな

 

206:名無しのヒーロー

ちょwwww

 

207:名無しのヒーロー

一位が1000万はおかしい!!

やっぱり雄英は最高だぜ!!

 

208:名無しのヒーロー

緑谷の顔w

そりゃそうなるわ・・・

 

209:名無しのヒーロー

同情しかできない

 

だが、それが良い

 

210:名無しのヒーロー

Plus Ultra!!

 

211:名無しのヒーロー

順位表で分かったけど、怪我の子は渡我ちゃんって言うのか

 

212:名無しのヒーロー

団体戦でもおかしな事するのかな・・・

 

213:名無しのヒーロー

チーム決めが始まるな

 

214:名無しのヒーロー

 

215:名無しのヒーロー

は? 渡我ちゃんが消えた?

 

216:名無しのヒーロー

A組もどうしたwwww

 

217:名無しのヒーロー

なあ、彼らは何て言ってるんだ? 他スレにはりついてた奴!!

 

218:名無しの張り付き

俺がきたぞ! 乗せとくね!

 

『被身子さん、私と!!』

『被身子ちゃ―――いない!?』

『トガー!!??』

『まって、トガちゃん私と組もう!!』

『『『逃げたあああ!!!!』』』

 

だってよwwww

 

219:名無しのヒーロー

>>218 愛してる

 

トガちゃん大人気じゃん・・・

 

220:名無しのヒーロー

>>218 ありがとう!!

 

どういう事なの?

 

221:名無しのヒーロー

渡我ちゃんの立ち位置がますます謎になったわ

 

222:名無しの張り付き

関係ありそうなとこピックアップすると

 

『0Pなんて、旨味の無さすぎる強敵ありえねぇー!!』

 

だって

 

223:名無しのヒーロー

強敵?

 

ほんとうに? 

 

224:名無しのヒーロー

いや、綱をぐるんってのは凄かったけど・・・

 

225:名無しのヒーロー

そういや、光の雨ってこの子がしたんだよな・・・

 

226:名無しのヒーロー

A組が諦めないwwww

 

227:名無しのヒーロー

めっちゃ探すじゃん

 

B組がびっくりしてるwwww

 

228:名無しのヒーロー

もう二分経ちましたけど・・・

 

まだ探してる、っていうか渡我ちゃんはどこにいるんだ?

 

229:名無しのヒーロー

ミッドナイトの後ろ

 

230:名無しのヒーロー

は?

 

231:名無しのヒーロー

だから、ミッドナイトの後ろ

 

【ミッドナイトの背中にくっついてむにゃむにゃしている動画】

 

232:名無しのヒーロー

起きなさいwwww

 

233:名無しのヒーロー

嘘だろいつの間に!?

 

234:名無しのヒーロー

ミッドナイトは何で教えてあげないんだよw

 

235:名無しのヒーロー

そして、まだ探してるA組・・・

 

236:名無しの張り付き

新情報

 

『どんな“個性”の使い方だよ? 渡我の奴、絶対まだ隠し玉あるぞ!』

『ここで逃げるとか、クラス最強の自覚無いのか?』

『ある訳ないでしょ、渡我だよ?』

『ごめん』

 

 

237:名無しのヒーロー

クラス最強なの?

 

【ミッドナイトにさりげなく支えて貰いながら寝ている動画】

 

この子が?

 

238:名無しのヒーロー

爆豪って子じゃなくて?

 

239:名無しのヒーロー

他スレは、この発言のせいで渡我ちゃんの評価が二転三転しててめっちゃ面白い!

 

240:名無しのヒーロー

いやもう疑問符ばっかだわ

雄英って本当に面白い

 

241:名無しのヒーロー

動きがあったな

 

242:名無しのヒーロー

【ハッと目を覚ますと、ミッドナイトの腕の隙間から顔を出して何か言っている動画】

 

243:名無しのヒーロー

ミッドナイトちょっと震えてね?

 

244:名無しのヒーロー

笑いを堪えているのか悶えているのか・・・

 

245:名無しのヒーロー

どっちでもおかしくないね

それで何て言ってるんだ? はやくしてくれお願いします!

 

246:名無しのヒーロー

気持ちはわかる俺も待ってる!! はやく他スレの奴解析して!!

 

247:名無しの張り付き

でた! 色々言ってるみたいだけど

 

『私は、騎馬戦をA組の人とするつもり、ないのです……!』

 

だってよ

 

248:名無しのヒーロー

そうなん?

 

249:名無しのヒーロー

ええ・・・

こういうのって見知った子とするのがセオリーだと思うけどな

 

250:名無しのヒーロー

また消えた!?

 

マジどんな個性だよ!! 

 

251:名無しのヒーロー

いた! それで他クラスの男子を勧誘してるっぽい

 

252:名無しのヒーロー

・・・動きやべぇ

これは、A組がこぞって勧誘する訳だわ

 

253:名無しのヒーロー

A組諦めてねぇwwww

 

254:名無しのヒーロー

勢いがやばいな

 

255:名無しの張り付き

おまたせ!

 

『彼、廊下で宣戦布告していた人ね』

『ええ、普通科の方ですわ』

『……また、何を考えているのか分からない事をっ!』

『読めない……!』

 

彼は普通科らしい

 

256:名無しのヒーロー

>>255 ドラマが生まれている!?

 

257:名無しのヒーロー

はやく続きを!!

お願いします!!

 

258:名無しの張り付き

 

『私は、皆に挑戦したいのです』

 

259:名無しのヒーロー

>>258 ひょ

 

260:名無しのヒーロー

>>258 これは

 

261:名無しのヒーロー

やる気ないと思いきや・・・

 

262:名無しの張り付き

・・・

 

『ただの勝負なら、私が一番強いです』

 

263:名無しのヒーロー

>>262 うおおおおい!?

 

264:名無しのヒーロー

>>262 ちょ・・・!?

 

265:名無しの張り付き

他スレでも懐疑的な意見多いわ。でも

 

『個人競技なら、好きに調整できます』

『……あ、最下位はやっぱり狙ってたんだ。……怖ッ!!』

 

・・・これで、一気に渡我ちゃんの実力を疑う奴は減った感じ

 

266:名無しのヒーロー

>>265

 

267:名無しのヒーロー

>>265 マジ?

 

268:名無しのヒーロー

>>265 嘘だろ・・・

 

269:名無しのヒーロー

>>265 調整してたんだあそっかあ

とはならんやろ!?

 

270:名無しのヒーロー

それをできると思われてるんだ・・・ふーん?

 

271:名無しのヒーロー

やばい子じゃん!

そんな実力を隠し持ってるのに欠伸ばっかとか・・・

 

ファンになります!!

 

272:名無しのヒーロー

すでに、この子専用スレがたってるぞ!!

 

無料版はおすすめしない

 

273:名無しのヒーロー

なら、俺が有料版でつく――――もうあるやんけ!!

 

274:名無しのヒーロー

雄英の個人スレはすぐできるからなw

爆豪くんスレもこっちは平和だが、あっちは見ない事をおすすめする

緑谷くんや轟くんスレは有料版にもあるな

 

275:名無しのヒーロー

勧誘した子が盾にされて可哀想・・・と思いきや、満更でも無い?

 

276:名無しのヒーロー

まあ、そんな凄い子に誘われたら嬉しいだろうな

 

277:名無しのヒーロー

普通科なのに、本戦に残るとかすごいよな!

 

278:名無しの張り付き

むり

 

『この団体競技なら。私はA組に負ける可能性があります』

 

『だからこそ、私は皆と戦いたいです……!』

 

『敗北の泥味……私に、味わわせてくれますか?』

 

【うっすらと唇に指をあてながら、酷薄に見えなくもない笑みを浮かべる動画】

 

 

ギャップぅ!!!!

 

279:名無しのヒーロー

>>278 変な声でた

 

280:名無しのヒーロー

>>278 ごめんまってリアルで聞きたい聞かせてください

 

281:名無しのヒーロー

????

 

【ミッドナイトの背中にくっついてむにゃむにゃしている画像】

 

【うっすらと唇に指をあてながら、酷薄に見えなくもない笑みを浮かべる画像】

 

同一人物?

 

282:名無しのヒーロー

>>281 ギャップ!!!!

 

283:名無しの張り付き

A組の反応wwww

 

『――エロイ!!』

『やめろ!? トガだぞ!? ……トガなのに……!!』

『ギャップがさ、犯罪どころか巨悪になってきたね』

『……ったく、トガはさぁ……普段は赤ちゃんなのに』

『ずるすぎる。……でも、なあ?』

『これで燃えないとか、無いな……!!』

『負けないぞー!』

『ああ! クラス最強からの挑戦状だ! やるしかないよな!!』

『…………ッッ!!』

 

284:名無しのヒーロー

>>283 トガちゃんはどういう子なんだ・・・

 

285:名無しのヒーロー

>>283 赤ちゃんwwww

 

286:名無しのヒーロー

お! トガちゃんがB組の子に声をかけられてる

 

287:名無しのヒーロー

A組じゃないから即オーケーしてるな

 

288:名無しのヒーロー

おお、A組とB組と普通科の混合チームか

 

289:名無しのヒーロー

この場でそれができるって凄いな・・・

 

290:名無しのヒーロー

ドキドキが止まらねえ!!

作戦は渡我ちゃんが決めてるっぽいね

 

291:名無しのヒーロー

何を言ってるんだ!?

 

292:名無しのヒーロー

俺も知りたい・・・!!

渡我ちゃん達こそこそしてるから口元が見えないんだって

 

293:名無しのヒーロー

色々な意味でダークホースだな

 

294:名無しのヒーロー

0P詐欺が酷い

 

295:名無しのヒーロー

そろそろ始まるな

 

296:名無しのヒーロー

やはり、渡我ちゃんが騎手か!!

 

297:名無しのヒーロー

他も・・・予想通りだな

 

298:名無しのヒーロー

緑谷、轟、爆豪の上位陣はやっぱり騎手してるな

 

299:名無しのヒーロー

今回はガチで予想が難しいな!

 

くるぞくるぞ!

 

300:名無しのヒーロー

騎馬戦、スタート!

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭を雑に楽しむスレ2

 

 

301:名無しのヒーロー

開幕早々に緑谷チームが狙われてるw

 

302:名無しのヒーロー

実質1000万の取り合いだし、そりゃそうなる

 

303:名無しのヒーロー

飛んだ!!??

サポート科アイテム良い仕事するじゃん!!

 

304:名無しのヒーロー

個性も仕事してると思う!

じゃないとあんなに飛べない

 

305:名無しのヒーロー

これA組全員が緑谷を狙ってないか?

 

306:名無しの張り付き

そうみたいw

 

透明チーム

『はっはっはっ!! 緑谷くんいっただくよー!! トガちゃんと戦うのは私達だー!!』

『悪く思うなよ!!』

『1000万の輝きは僕の物さ☆』

 

耳チーム

『ウチらとしても1000万Pは当然として、渡我との挑戦権は欲しいからね!』

『おう!! こんなに早く機会が巡ってくるなんてなぁ!!』

『……!』

 

大人気w

 

307:名無しのヒーロー

>>306

また渡我ちゃんか・・・w

 

308:名無しのヒーロー

>>306

あの子の立ち位置本当に謎

今は大人しいっていうか平和に微睡んでるけど

 

【鉄哲くんに全身を預けてリラックスしている画像】

 

309:名無しのヒーロー

は?

 

【後頭部に柔らかな胸が押し付けられている画像】

 

310:名無しのヒーロー

そこを強調するなwwww

は?

 

311:名無しのヒーロー

雑コラじゃないから報告すべきか迷うだろwwww

は?

 

312:名無しのヒーロー

落ち着けwwww

 

313:名無しのヒーロー

は?

って憤ったけど、前騎馬の子それどころじゃないっぽいね

 

【飛び出したくてうずうず身体を揺らして凶悪な顔で歯ぎしりしている鉄哲くんの動画】

 

314:名無しのヒーロー

うわあ・・・

こういう子に『待て』はかなり辛そう

 

315:名無しのヒーロー

作戦を考えただろう当人はこれである

 

【頭に両手を乗せて、むにむにしている渡我ちゃんの動画】

 

316:名無しのヒーロー

この状況で?

素で二度見した

 

317:名無しのヒーロー

色々な意味で大物すぎるwwww

 

318:名無しのヒーロー

起きてる時は起きてるんだけどねw

 

【顔を赤くして、バッと目を逸らしながら鉄哲くんの頭に顔を埋める渡我ちゃんの動画】

 

【鉄哲くんの頭に柔らかほっぺを乗せながら、うっすらと目を細める静かな表情から一転、ふやけた顔になる動画】

 

319:名無しのヒーロー

・・・????

 

320:名無しのヒーロー

二つ目の動画を見て思うけど、表情の落差がずるすぎる

 

321:名無しのヒーロー

他スレで予測されてたけど、渡我ちゃんって透明の子が見えてるっぽい

 

322:名無しのヒーロー

あー・・・なるほど?

 

【ハチマキだけが浮いている画像】

 

そりゃ気まずいな

 

323:名無しの張り付き

 

透明チーム

『この場で、私が一番トガちゃんに有利をとれるよ! ……はずかしいけど!』

『……うん!』

『大胆だね☆』

 

作戦時にこんな会話してたってw

 

324:名無しのヒーロー

男子2人wwww

 

325:名無しのヒーロー

1人は絶対思考停止してるだろwwww

 

326:名無しのヒーロー

実際に効果抜群っぽいのがwwww

 

327:名無しの貼り付け

 

緑谷チーム

『追われし者の宿命……選択しろ緑谷!』

『もちろん!! 逃げの一手!! ……渡我さんの性格なら、後半に仕掛けてくる!!』

『それまで、絶対に渡せないね!!』

 

ここも渡我ちゃん警戒してるw

 

328:名無しのヒーロー

>>327

1人中学二年生の方がいらっしゃいますねwwww

 

329:名無しのヒーロー

そうまで意識される渡我ちゃんの実力が気になる・・・

 

330:名無しのヒーロー

光の雨以降の目立った動きはないし

順位の調整に関しては・・・ブラフの可能性もあるから判断が難しい

 

331:名無しのヒーロー

まあ、順位調整に関してはね・・・

 

332:名無しのヒーロー

でも、A組は渡我ちゃんを意識しすぎじゃね?

 

333:名無しのヒーロー

わかる

不自然なぐらい注目してる

 

334:名無しのヒーロー

精神科の弟曰く

『襲撃の時に、罪悪感をバリバリ感じちゃう出来事でもあったんじゃね?』

 

とのこと。詳しい説明は専門用語込みで理解不能だったけど、そういう傾向があるんだって

 

335:名無しのヒーロー

ほーん・・・?

 

336:名無しのヒーロー

面白い騎馬だなアレ!

繋がった腕の中に小さい男の子と女の子が隠れてる!

 

337:名無しのヒーロー

ありなんだw

 

338:名無しのヒーロー

>>334

渡我ちゃん、ガチの大怪我な可能性があるのか・・・

 

339:名無しのヒーロー

やめろよ・・・

体操服の下も不自然に膨らんでる個所あるし、個性の影響じゃないなら入院レベルだろ・・・

 

340:名無しのヒーロー

処置が大げさなだけじゃないか?

体育祭に出る事を雄英も許可してるんだし

 

341:名無しのヒーロー

平和だなー・・・

 

他スレに渡我ちゃんの怪我はポーズだなんだの人の心が無いアンチが沸いててさあ・・・

 

342:名無しのヒーロー

ここで愚痴るなwwww

 

343:名無しのヒーロー

ごめん!!!!

 

344:名無しのヒーロー

現在ランク、当たり前だけどA組パッとしないな

 

345:名無しのヒーロー

緑谷一点狙いだからなw

 

346:名無しのヒーロー

あ、変動した

 

347:名無しのヒーロー

爆豪くん取られてる!

 

348:名無しのヒーロー

おお!

A組が猪突猛進してるからこそ、B組の暗躍が進んでるな!

 

349:名無しのヒーロー

B組、ついでとばかりにめっっちゃ煽ってるwwww

 

350:名無しのヒーロー

教えて張りつきの人!

 

351:名無しの張り付き

任せろ! ちょい長いからはしょるけどB組はミッドナイトの発言から

予選段階で極端に数を減らさないと予想して動いていたみたい!

 

『その場限りの優位に執着したって仕方ないだろう?』

『組ぐるみか……!』

『まあ全員の総意ってわけじゃないけど、良い案だろ? ()()()()()()()()みたいに、仮初の頂点を狙うよりさ』

 

そんで、とどめがこれwwww

 

『あ、あとついでに君、有名人だよね? 『ヘドロ事件』の被害者! 今度参考に聞かせてよ。年に一度敵に襲われる気持ちってのをさ』

 

352:名無しのヒーロー

>>351

ぶちぎれてますやんw

2人共若いなぁ

 

353:名無しのヒーロー

>>351

見事なヴィラン顔ですねw

一言どころかいっぱい言いたい事があったんだねw

 

354:名無しの張り付き

うーんw

これはヴィラン

 

『切島……予定変更だ。デクと、欠伸女の前に、こいつら全員殺そう……!!』

 

真顔になったわ

 

355:名無しのヒーロー

>>354

ええ・・・

この子、本当にヒーロー目指してるの?

 

356:名無しのヒーロー

>>354

ちょっとこれは・・・

 

357:名無しのヒーロー

>>354

まあ、まだ若いし・・・

雄英に通ってるなら、おいおい言葉遣いも治ってくでしょ。オールマイトもいるんだし!

 

358:名無しのヒーロー

残り時間もう半分過ぎたのか

 

359:名無しのヒーロー

渡我チームにいまだ動きは無し

 

いや、ストレッチはしてたけどw

 

360:名無しのヒーロー

渡我ちゃんの動きに周りがビクビクしてるの、どう反応すれば良いのか分からん

 

361:名無しのヒーロー

実力が未知数すぎる

 

362:名無しのヒーロー

いや、これ動き出してないか?

序盤の時より明確な意思をもって動いてる

 

363:名無しのヒーロー

ようやくか!!

勝手に期待しすぎて食い入る様に画面見てる!!

 

364:名無しのヒーロー

分かるけどwwww

 

365:名無しのヒーロー

と思ったら不自然に方向を変えってなんだこれ!!??

 

366:名無しのヒーロー

放電!? めっちゃバリバリしてるなこれw

 

367:名無しのヒーロー

轟チームの周りにいたチームが軒並みやられてる!

 

368:名無しのヒーロー

いや、渡我ちゃんチームは無事だ!

 

【轟チームをジッと見つめたまま眠そうに指示を出している動画】

 

369:名無しの張り付き

字幕お待たせ!

 

『……皆、もう少し左に離れて下さい。多分ビリビリがきます』

『!!』

『分かりました!』

『……轟チームか……!!』

 

渡我ちゃん、前兆とか察せられる系の個性なの?

 

370:名無しのヒーロー

>>369

あの瞬間移動っぽい動きが個性だと思ってた

 

371:名無しのヒーロー

>>369

もうわっかんないなwwww

 

更に指示だして下がったら氷が隆起してて、前騎馬の子が危機一髪だったwwww

 

372:名無しのヒーロー

笑うしかねえわ・・・

 

これ、個性攻撃の前兆らしきものを正確に把握してるよね?

 

373:名無しのヒーロー

こっっわ!!

 

374:名無しのヒーロー

こんなに油断ならないのに、もう誰も渡我ちゃんチームを意識してないのも怖い・・・

 

375:名無しのヒーロー

目の前のPに夢中になるよね・・・

 

376:名無しのヒーロー

外から見ていると分かる、渡我ちゃんの巧みさ・・・

 

377:名無しの張り付き

wwww

 

『被身子さんは、私達が守ります!!』

『いや、戦うんだよな!?』

『はい! ですが、泥なんて飲ませません!』

『そうだな! 彼女にはオレンジジュースを飲ませよう!』

『……敗北の味は、オレンジジュースか……』

『嘘だろこのチーム、俺以外は天然しかいねぇのかよ!?』

 

轟チーム、実は愉快な子の集まりだったわwwww

 

378:名無しのヒーロー

>>377

ジュース噴いてモニターべたべたになったわwwww

 

379:名無しのヒーロー

>>377

敗北の味は、オレンジジュースwwww

 

380:名無しのヒーロー

>>377

嘘だろ!?

 

【喚く1人以外は真顔の轟チームの画像】

 

この真面目な顔でそんな会話してんのかよwwww

 

381:名無しのヒーロー

A組の保護者枠かな!?

 

382:名無しのヒーロー

当の渡我ちゃんは寝てるけどねwwww

 

383:名無しのヒーロー

もうこれどうなるか分んねぇなwwww

 

384:名無しのヒーロー

緑谷チームすごい!

サシでまだ生き延びてる!

 

385:名無しのヒーロー

轟チーム

愉快なだけじゃないのにやるじゃない!

 

386:名無しのヒーロー

氷で動けない面々以外は、今も激しく競い合ってるしな

 

387:名無しのヒーロー

こういう遊びの無い真剣勝負が見たかった!!

 

388:名無しのヒーロー

一部は氷を削ろうとして、諦めてないのが熱い

 

389:名無しの貼り付け

友情尊い・・・

 

透明チーム

『トガちゃんなら、この状態でも何とかしちゃうもの!』

『確かに……!』

『まず捕まらないと思うけどね☆』

『諦めないよ! トガちゃんに私達だって強いんだってちゃんと伝えたい!』

『うん……!』

『当然さ!』

 

耳チーム

『砂藤、口田、壊せそう?』

『やってやらぁ!! ……こんな冷てぇの屁でもねえ!!』

『……!!』

『ちょっと、血がでてるじゃん!? ……ったく。そこは、渡我を真似るところじゃないっての!』

『あいた!?』

『……!?』

 

緑谷チーム

『逃げ延びるんだ……! 渡我さんも準備してる……!』

『……!? この氷に覆われた決戦場であろうと、彼女は来るというのか……?』

『来るよ! 被身子ちゃんならきっと来る!』

『麗日さん……!』

『被身子ちゃんは、すごくて強い人だから!』

『……その彼女ですが、気持ちよさそうに寝てますよ?』

『『!? 警戒!!』』

『えー?』

『了解した……!』

 

 

390:名無しの張り付き

続き

 

轟チーム

『あっちも渡我を警戒している、が……そろそろ動かねぇとまずい』

『しかし、トガくんのチームは此方との距離を一定に保っている。……油断すべきではないな』

『ええ! 被身子さんの身体能力を駆使すれば、この距離も一瞬ですわ!』

『試しに、こっちから攻撃してみるか? まだウィけるぜ?』

『『は?』』

『ごめんなさい』

『……君達! トガくんと席が近いとはいえ過保護が過ぎるぞ!』

 

小さい子チーム

『狙うは漁夫の利だ!!!!』

『みみっちいわ峰田ちゃん』

『しょうがねえだろ!? 障子は動けねぇし、もうそれぐらいしか渡我を出し抜けねぇんだよ!!』

『……すまない』

『っ、オイラは、もう見てるだけなんてごめんだ……!!』

『そうね……私も、それは耐えられないわ』

『……まだ、やれる!』

 

爆豪チーム

『1位だ……ただの1位じゃねえ俺がとるのは、完膚無きまでの1位だ……!!』

『だからって、怪我人に宣戦布告するなっての!! まだかかるか!?』

『もう少し!! ……ねえ爆豪、トガは強いよ』

『ああ゛!!??』

『たった一人で、敵の中に飛び込んでいけるぐらい、怪我が痛くて涙目なのに走って行けるぐらい、強いよ』

『芦戸……?』

『――――ッ!?』

『そんなトガに、挑戦するんでしょう? なら、ぱぱっと取り返そうよ!! 私だって―――もう、トガに置いて行かれたくない!!』

 

A組まとめて好きになった・・・

 

391:名無しのヒーロー

・・・ほわあ

 

392:名無しのヒーロー

いや、俺も感動してるけど・・・

誰かが言ってた罪悪感云々って予想、ガチだったの・・・?

 

393:名無しのヒーロー

もう確定でしょこれ・・・

 

394:名無しのヒーロー

襲撃で何があったんだよ・・・

 

395:名無しのヒーロー

あっあっ・・・

 

396:名無しのヒーロー

尊さだけを素直に感じさせろよ・・・!

マジで敵って最悪だな!

 

397:名無しのヒーロー

轟チーム急加速!!

 

しんみりも一緒にぶっ飛ばしてくれ!!

 

398:名無しのヒーロー

眼鏡の子やるじゃない!!

 

399:名無しのヒーロー

とうとう緑谷チームのハチマキがとられた!

 

400:名無しのヒーロー

爆豪チームもハチマキ奪い返してる!

 

401:名無しのヒーロー

でも残り時間って一分も無いよな!?

 

402:名無しのヒーロー

うお、びっくりした

 

403:名無しのヒーロー

渡我ちゃんチームが突撃してる!

 

すっげー迫力!!

 

404:名無しのヒーロー

後騎馬の2人、前騎馬の子に引きずられてるwwww

 

405:名無しのヒーロー

ずっと我慢してたもんねw

でも、まさか最後の最後まで温存とは驚いたわ

 

406:名無しのヒーロー

渡我ちゃんいなくね?

 

407:名無しのヒーロー

渡我ちゃんいないね!?

 

408:名無しのヒーロー

は????

前騎馬の子の迫力で隠れてるだけかと思ったら本当にいない!?

 

409:名無しのヒーロー

煙幕!?

 

410:名無しのヒーロー

めっちゃもくもくしとる!!

 

411:名無しのヒーロー

フィールドが真っ白になってるw

 

412:名無しのヒーロー

他スレも混乱中!

 

413:名無しのヒーロー

これ反則し放題になるんじゃね?

 

414:名無しのヒーロー

雄英流石wwww

 

415:名無しのヒーロー

換気できるのかよw

 

416:名無しのヒーロー

みるみる晴れていくな

 

417:名無しのヒーロー

おお! 三竦みしてる!!

 

418:名無しのヒーロー

煙幕の中でも進んでいたんだな! 3チームが目と鼻の先じゃんw

 

419:名無しのヒーロー

ハチマキ、上!

 

420:名無しのヒーロー

3チームの上でひらひら舞ってる!

 

421:名無しのヒーロー

騎手3人同時に飛んだ!!

 

422:名無しのヒーロー

おお!?

轟くんが飛んで、爆豪くんも爆破で飛んで、緑谷くんが抜きんでたわ!!!!

 

423:名無しのヒーロー

掴んだ!!

 

ハチマキとったの緑谷くん!!

 

424:名無しのヒーロー

すっげー!!

地味な見た目に反して根性ありすぎるだろ彼!!

 

425:名無しのヒーロー

様子がおかしい?

 

426:名無しのヒーロー

え? 緑谷くんが一位に返り咲いてない

 

427:名無しのヒーロー

緑谷くん、めっちゃ渡我ちゃんを見てる

 

428:名無しのヒーロー

え?

渡我ちゃん0P? いつハチマキ失った?

 

429:名無しのヒーロー

待って

 

430:名無しのヒーロー

ハチマキ、もう一つ上・・・

 

431:名無しのヒーロー

ちょ

 

432:名無しのヒーロー

渡我ちゃんの伸ばした手に、落ちてくる

 

433:名無しのヒーロー

うっわ!!!!

 

434:名無しのヒーロー

順位が動いた!!

 

435:名無しのヒーロー

タイムアップ!!!!

 

436:名無しのヒーロー

うっそだろお前!!??

 

437:名無しのヒーロー

1000万のハチマキ、最後の最後に取りやがった!!!!

 

438:名無しのヒーロー

まってまって、変な声がとまらない

 

439:名無しのヒーロー

隣部屋の奴も叫んでるwwww

 

俺も叫んでるwwww

 

440:名無しのヒーロー

他スレすっげー流れが速い

 

441:名無しのヒーロー

反則したんじゃって一部で騒がれてるけど、一切の不正は無かったらしい!!

 

442:名無しのヒーロー

ちょwwww

テレビがずーっと渡我ちゃんのハチマキゲット映像繰り返してるwwww

 

443:名無しのヒーロー

お前お前お前・・・

 

ずっと寝てたやん!!

 

444:名無しのヒーロー

見ろよ・・・

このハチマキを欠伸交じりにゲットして、気だるそうにしてる態度

 

445:名無しのヒーロー

強者がすぎる・・・

鳥肌が止まらない・・・

 

446:名無しのヒーロー

かつてない盛り上がりだわ

本当に学生なのかこの子・・・

 

447:名無しのヒーロー

2年や3年より盛り上がってる

今めっちゃ1年ステージが熱くなってる

 

448:名無しのヒーロー

自分の声で麻痺ってたけど、現場の歓声も凄いw

 

449:名無しのヒーロー

そりゃそうだろ!?

今めっちゃ興奮してる!

 

450:名無しのヒーロー

チームメンバーをよしよししてる渡我ちゃん・・・

 

ファンクラブどこですか!!??

 

451:名無しのヒーロー

今すぐ誰か設立しろよ!!

こんな事されたら一生推すわ!!!!

 

452:名無しのヒーロー

1000万のハチマキを普通科の子の首にかけるの優しい

 

453:名無しのヒーロー

他チームは唖然としてるわ・・・

 

454:名無しのヒーロー

まさに意識の外から刈りとられた感じだもんなw

 

455:名無しのヒーロー

緑谷チームが最後に手に入れたハチマキ

大方が予想しているだろうけど渡我ちゃんチームのものだった

 

456:名無しのヒーロー

自分のハチマキを囮にするとか・・・

 

457:名無しのヒーロー

煙幕を発生させて仕込んだのだろうけど

仕事ぶりが鮮やかすぎる

 

458:名無しのヒーロー

渡我ちゃん寝てるwwww

 

459:名無しのヒーロー

褒め疲れちゃったんだねwwww

 

460:名無しのヒーロー

普通科の子も、B組の男女も褒められて嬉しそうだったもんねwwww

 

461:名無しのヒーロー

特に女の子の頭をさ、あんなによしよしするの尊いわ・・・

 

462:名無しの張り付き

・・・

 

『! 渡我さん、私の髪は』

『チクチクしますねぇ』

『あの、棘が………』

『塩崎ちゃんは優しいねぇ。撫でても、全然血がでてこないのです!』

『……っ。痛みを、感じないわけではありません』

『それ、撫でない理由になりませんよ? 今日はいっぱいありがとうねぇ』

『……はい』

 

 一拍おいて

 

『……女の子の髪を、雑に扱ってごめんねぇ……』

『え』

 

目覚めそうになった

 

463:名無しのヒーロー

>>462

んぅ!!!!

 

464:名無しのヒーロー

>>462

女の子になるところだった・・・

 

465:名無しのヒーロー

>>462

自分の性別を間違えそうになった・・・

 

466:名無しのヒーロー

渡我ちゃん・・・恐ろしい子!!

 

467:名無しの張り付き

普通科男子との心温まるやりとりを張ろうとしていたけど

女の子同士が生み出す尊さに負けた

 

468:名無しのヒーロー

いや、そっちも気になるだろwwww

 

469:名無しのヒーロー

気持ちは分かるけどそっちも頼むwwww

 

470:名無しの貼り付け

はい

 

『心操くん、お疲れ様でした』

『ッ!? いや、俺は何も……本当に、何も……』

『なぁに言ってるんですかー』

 

そこで頭なでなで

 

『最後の鉄哲くんの暴走機関車は、塩崎ちゃんだけじゃ振り払われていました』

『……!』

『心操くんがいたからこその、作戦ですよ』

『……心操くんの足がもつれて、騎馬が崩れていたらこのハチマキも無意味でした』

 

目を細めて、うっすら唇を緩める

 

『だから、踏ん張ってくれた心操くんは、とても頑張りました』

『……っ、はい』

 

年甲斐もなく泣きそうになった

 

471:名無しのヒーロー

>>470

なのにwwww

女の子同士のやり取りに流されたんだなwwww

 

472:名無しのヒーロー

そっかー渡我ちゃんの作戦通りだったのかー

 

策士かなこの子は?

 

473:名無しのヒーロー

前騎馬の子も、わざわざ腰を曲げてなでなでされてるの良いな

 

474:名無しのヒーロー

わんこ味を感じる

 

475:名無しのヒーロー

結果発表も歓声で聞こえ辛いw

 

476:名無しのヒーロー

歓声を浴びる筈の当人はぐっすりだしなw

 

477:名無しのヒーロー

なんでびしょ濡れなんだ?

ハンカチで足を拭かれて、靴も履かして貰ってるけど・・・

 

478:名無しのヒーロー

あの煙幕って氷煙だったみたい

 

479:名無しのヒーロー

え?

轟くんの氷を逆利用したってこと?

 

480:名無しのヒーロー

そうそう

現場のスレ民が、冷たいって書き込んで判明したらしい

 

481:名無しのヒーロー

・・・渡我ちゃんの個性が余計に分からなくなった

 

482:名無しのヒーロー

もう昼休憩か

あっという間だった

 

483:名無しのヒーロー

渡我ちゃんがA組の子に託されてるw

 

484:名無しのヒーロー

起こしなさいwwww

 

それにしてもヒーロー科の子は力あるんだね

渡我ちゃんそこまで軽くないだろ?

 

485:名無しのヒーロー

あ、渡我ちゃんが甘えてる

 

486:名無しのヒーロー

緑谷くんチームの子だよね?

めっちゃスリスリしてるw

 

487:名無しのヒーロー

赤ちゃんっぽい

 

488:名無しのヒーロー

昼休憩の間に、さっきの試合をもう一回見てくる

 

489:名無しのヒーロー

何度見ても興奮する自信あるわ

 

490:名無しのヒーロー

まあ、渡我ちゃんチームは最後の方しか目立って動いてないけどな・・・

 

491:名無しのヒーロー

隙あらば寝てるよねw

 

492:名無しの張り付き

あの・・・

本来これは盗聴みたいなもんで、貼るのはダメかもだけど食堂での会話だそうです・・・

 

『ネットも凄いらしいね。0Pと1000万Pが見事にひっくり返ったって。……ったく、こんなに濡らして、顔の傷が悪化したらどうすんのさ』

『……口内にまで、貫通してる傷だから……ちゃんと清潔にしないとね。理屈はともかく、トガちゃんの“個性”で傷跡は残らないってリカバリーガールも言ってたし!』

『……左腕、まだ全体的にじゅくじゅくしてるね』

『……ギプス、とれただけ奇跡だからね』

『……これでも、傷が一定以下になって防水フィルム使える様になったんよ』

『……トガ、最終種目、出られるのかな?』

 

怪我・・・現在進行形で酷いみたい

 

493:名無しのヒーロー

>>492

は?

 

494:名無しのヒーロー

>>492

いやいや

は?

 

495:名無しのヒーロー

>>492

・・・なんで体育祭でてるの????

 

496:名無しのヒーロー

>>492

口内に貫通・・・?

はあ????

 

497:名無しの貼り付け

ごめん・・・

これ、盗撮なんだけど加工したから許して・・・

 

【ぼかしが入った、お薬がいっぱい詰め込まれた蛙の卵みたいなゼリーの画像】

 

中身、全部渡我ちゃんが飲む薬だって

 

498:名無しのヒーロー

>>497

いや、うん、衝撃がおさまらないよ・・・

 

499:名無しのヒーロー

>>497

盛り上がっていた熱が一瞬で冷えたわ・・・

 

500:名無しのヒーロー

>>497

とりあえず、薬の画像に加工入ってない他所スレに削除依頼だすわ

渡我ちゃん・・・

 

501:名無しのヒーロー

過剰に意識されてるなあ甘やかされてるなあとは思ったけど

これは放っておけねえよ・・・

 

502:名無しのヒーロー

雄英に襲撃したとかいう敵連合に

俺はかつてないヘイトを抱いている

 

503:名無しのヒーロー

もう純粋な目で渡我ちゃんを見れない・・・

 

504:名無しのヒーロー

冷静になって目を覚ませ

彼女はその怪我で騎馬戦一位をもぎとれる強者だ

 

505:名無しのヒーロー

そうだけどさー・・・

 

506:名無しのヒーロー

強いけど心配になるだろ!

めっちゃねむねむしてるJKだぞ!?

 

507:名無しのヒーロー

その点、オールマイトの安心感の異常さよ

 

508:名無しのヒーロー

いやこの子、SNSでもほぼ寝顔ばっかで・・・

仮にオールマイト並に強くても心配すると思う

 

509:名無しのヒーロー

わかってしまうwwww

 

510:名無しのヒーロー

色々な意味で話題かっさらってく子だしね

 

511:名無しのヒーロー

怪我人+謎ムーブで最下位+怒涛の同級生ズのお誘い+騎馬戦一位+実は重傷者+とにかく眠そう

 

512:名無しのヒーロー

属性が多いwwww

 

513:名無しのヒーロー

他の子達が薄いって訳じゃないのに、1人で我儘セットしてるwwww

 

514:名無しのヒーロー

見た目のインパクトが圧倒的すぎるwwww

 

515:名無しのヒーロー

頬のガーゼとかいちいち目につくしね

 

516:名無しのヒーロー

やめろ

 

冷静になっちゃうだろ・・・

 

517:名無しのヒーロー

次って一対一のトーナメント形式だろうし

渡我ちゃんも参加するのかな?

 

518:名無しのヒーロー

雄英が許可してるって事は恐らく大丈夫なはずだし・・・

俺達が心配しすぎてもしょうがないだろ

 

519:名無しのヒーロー

そろそろ昼休憩も終わるな

 

520:名無しのヒーロー

不穏な空気はあるけどトーナメントは楽しみだ

 

521:名無しのヒーロー

生徒達も集まって来たな

 

522:名無しのヒーロー

そして予想通り渡我ちゃん運ばれてるなw

 

523:名無しのヒーロー

今は抱っこだな

 

【ピンク色の少女に後ろから抱きしめられている画像】

 

524:名無しのヒーロー

起きたと思ったら、めっちゃ撫でられてるw

 

525:名無しのヒーロー

あら~気持ちよさそうでちゅね~

 

と思ったらチアのお姉さんズ見てはしゃぎだしてるw

 

526:名無しのヒーロー

ガチの赤ちゃんかな????

 

527:名無しのヒーロー

クラスメイトが対抗意識燃やしてるのなんなんだよwwww

 

528:名無しのヒーロー

くじ引きにもお迎え来ちゃってるじゃないwwww

 

529:名無しのヒーロー

当の本人はちょっと迷惑そうにしてる

 

【絶妙に苦そうな顔でくじを引くトガちゃんの画像】

 

多分、目立ちたくないんだろうなw

 

530:名無しのヒーロー

それさえ微笑ましく見守られている・・・こんなJKはじめて

 

531:名無しのヒーロー

そして結果も見ないで寝ちゃうのかー!

透明な子が支えてるから、ガチ寝なのがよく分かる!

 

532:名無しのヒーロー

そして爆豪くんが案の定睨んでるw

 

533:名無しのヒーロー

もうこれはしゃーないと思う

こんなのがクラスメイトでライバルの1人とか宣戦布告もするわ

 

534:名無しの貼り付け

他スレからのコペピね

 

緑谷 VS 心操

轟  VS 瀬呂

塩崎 VS 上鳴

芦戸 VS 渡我

 

飯田 VS 発目

常闇 VS 八百万

鉄哲 VS 切島

麗日 VS 爆豪

 

 

535:名無しのヒーロー

>>534

これは助かる

 

536:名無しのヒーロー

個性予想とかいらんネタが無いシンプルなのをありがとう!

 

537:名無しのヒーロー

組み合わせが発表されるとテンションあがる!

 

538:名無しのヒーロー

ところで、ここに『ただの勝負なら、私が一番強いです』と言ったJKがいます

 

【ピンクの子に諦めた様に撫でられ抱っこされるJKの画像】

 

539:名無しのヒーロー

ほんとにぃ?

 

いや、凄い子なのはもう分かってるんだけど・・・本当に????

 

540:名無しのヒーロー

うーん

 

【ツルの縄を握り、鉄哲くんの肩を足場にとんでもない距離を跳ぶ動画】

 

どうしてこんなに凄い子なのに、強いイメージがつかないんだろう?

 

541:名無しのヒーロー

寝てるからだろ?

 

【塩崎さんの腕の中で、ツルに守られながら無防備に眠っている動画】

 

542:名無しのヒーロー

それなwwww

 

543:名無しのヒーロー

>>540

あの・・・足場にされた子の反動が凄まじいんですけど

 

544:名無しのヒーロー

真面目な話、一年のトーナメント戦で一番期待されてるの渡我ちゃんだよね

 

545:名無しのヒーロー

何するか全然予想がつかないからねw

騎馬戦で一気に世間の注目を集めてる

 

546:名無しのヒーロー

たぶん、本人は目立つの嫌いっぽいんだけどね

 

547:名無しのヒーロー

早々に諦めた方がいい

渡我ちゃんはそこにいるだけで視線を集めちゃう子だ

 

548:名無しのヒーロー

それはそうかも

襲撃や怪我が無ければ、こうまで注目されなかったかもだけど

 

549:名無しのヒーロー

どっちにしろ目立ってたと思う

渡我ちゃん繋がりでA組は更に目立ってるし

 

550:名無しのヒーロー

レクリエーションもはじまったな!

 

551:名無しのヒーロー

どうせ渡我ちゃんは寝てる

 

552:名無しのヒーロー

参加するとは思ってないけど、もしかしたらがあるかもしれないだろぉ!?

 

553:名無しのヒーロー

待ってwwww

 

554:名無しのヒーロー

どーしたA組wwww

 

555:名無しのヒーロー

突然のチアwwww

意味わからんwwww

 

556:名無しのヒーロー

そして、渡我ちゃんは奥で寝かされてるwwww

 

557:名無しのヒーロー

くっそ! 不意打ちで腹筋を刺激するのやめろよ!

モニターが更にべとべとじゃないか!

 

558:名無しのヒーロー

どうしてチアのお姉さんたちに勝負を挑んでるの????

 

559:名無しの貼り付け

腹筋wwww痛いwwww

 

『被身子さんの視線を、ポッと出のチアガールに奪われてはいけません!』

『……まったく、トガちゃんったらおませさんなんだから!』

『あんたらバカだろ!!??』

『……響香ちゃん、もう諦めましょう』

『ヤオママ、絶対に騙されてるよね? トガって本当にこういうので喜ぶの?』

『え? うーん……うん! なんだかんだ最後には楽しんでくれると思う!』

 

ひぃーwwww

 

560:名無しのヒーロー

>>559

A組・・・wwww

 

561:名無しのヒーロー

>>559

ごめん予想の斜め上に渡我ちゃん愛されてたわ

 

562:名無しのヒーロー

まだ出会って二ヶ月も経ってないよね????

 

563:名無しのヒーロー

ノリノリが2人いるwwww

 

564:名無しのヒーロー

ちょw

流石とばかりの華麗な動きしてるw

 

565:名無しのヒーロー

カメラ目線で写りも意識してるwwww

 

566:名無しのヒーロー

本当に後で見せるつもりなんだねw

 

567:名無しのヒーロー

B組の影がますます薄くなっちゃうだろwwww

 

568:名無しのヒーロー

【何も知らずに毛布に包まれて眠っているバブちゃんの画像】

 

なんか、だんだんガチの赤ちゃんに見えてきた

 

569:名無しのヒーロー

二重の意味で目を覚ましなさいwwww

 

570:名無しのヒーロー

もうやだ

A組が面白すぎるw

 

571:名無しのヒーロー

一年ステージが別の意味で楽しすぎるわw

 

572:名無しのヒーロー

レクリエーションがこんなに盛り上がるの珍しいな!

 

573:名無しのヒーロー

実際、ちょこちょこドラマがあって面白くはあるけど本戦と比べるとね

 

574:名無しのヒーロー

そして、そろそろトーナメントが開始される時間だ

 

575:名無しのヒーロー

一番の楽しみがきたー!!!!

 

576:名無しのヒーロー

あれ? 渡我ちゃんいなくない?

 

577:名無しのヒーロー

渡我ちゃんなら、さっき他クラスの子に誘われてどっか行ったよ

 

578:名無しのヒーロー

へー・・・

 

ちなみにチアへの反応は?

 

579:名無しのヒーロー

これw

 

【は? って顔で困惑している画像】

 

580:名無しのヒーロー

そっかwwww

 

581:名無しのヒーロー

まあそうだよねw

見知らぬ人のチアと身近な人のチアが一緒な訳ないよねw

 

582:名無しのヒーロー

A組、渡我ちゃんの不在にとうとう気づいたみたい

 

583:名無しのヒーロー

めっちゃ慌ててるな

 

584:名無しのヒーロー

誘拐を疑ってそうな勢いだわw

面白すぎてカメラの一つがそこばっか映してるw

 

585:名無しの張り付き

反応に困るw

 

『落ち着けヤオママ! トガが誘拐される訳ないでしょ!』

『で、ですが……!』

『というか、毛布に鍵までつけていたのね』

『やりすぎでしょ!?』

『でも、外されてるんだよねー……』

『被身子ちゃん、器用だから!』

 

過保護かな?

 

586:名無しのヒーロー

>>585

鍵までつけてたのかあ・・・そっかー・・・

 

587:名無しのヒーロー

>>585

やりすぎwwww

 

って思ったけど、外してるって何? 鍵って素手で外せるものだっけ?

 

588:名無しのヒーロー

>>585

透明の子が持ってる南京錠、綺麗に外されてるね

 

589:名無しのヒーロー

どっちに恐怖すれば良いのか分からなくなってきた・・・

 

590:名無しのヒーロー

どうやら書置きは残してあったみたいで、ガラケー女子が画面見せてる

 

591:名無しのヒーロー

今時ガラケーとは渋いな! 仲良くなれそう!

 

592:名無しのヒーロー

ああ・・・A組のチアが去ってしまう

 

593:名無しのヒーロー

我慢しなさいw

 

594:名無しのヒーロー

それで、渡我ちゃんはどこに行ったんだ?

 

595:名無しのヒーロー

観客席でもてなされてる

 

596:名無しのヒーロー

は?

 

597:名無しのヒーロー

これな

 

【いっぱいご飯をあーんさせて貰っているトガちゃんの画像】

 

598:名無しのヒーロー

>>597

なんで????

 

599:名無しのヒーロー

>>598

さあwwww

 

600:名無しのヒーロー

やっぱ赤ちゃんじゃないこの子????

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話 事故とハプニングです

 

 

 瞬間、夢を見ていると気づいて目を見開く。

 

「……は?」

 

 体操服では無い、この世界の私服を纏った私が、狩人の夢でいつもの様に立ち尽くしている。

 

「おかえりなさい」

「……!?」

 

 キィ、と椅子を軋ませて、()が熱々のアップルパイにアイスを乗っけて食べている。

 目の前のテーブルには手の込んだデザートが山と積まれ、甘い香りが鼻孔をくすぐる。

 

「なんで……」

「轟くんと瀬呂くんの試合が原因ですね」

 

 混乱するも、()の落ち着いた様子に襟を正し、招かれるまま椅子を引いて席につく。

 

「……どういう事です?」

 

 気が急くも、努めて落ち着こうと空のカップに紅茶を注ぐ。

 私が、一瞬で熟睡する心当たりは1つだけ。焦りが滲むも()は気にする様子もなく、お皿にアップルパイとホットりんごを載せて「どうぞ」と差し出してくる。「……」文句を飲み込んで受け取り、とにかく落ち着こうと紅茶を一気に煽る。

 

(……美味しい)

 

 ふぅ、と一息ついた。

 輸血液入りの濃厚な味わいに、目を細める。

 

「……それで、何があったんです?」

「轟くんがハッスルして、ミッドナイトの防護服が壊れちゃったんです」

「……え」

 

 サクッ、とアップルパイが良い音をたてて、ついでにお皿もキンッと切れてしまう。

 ()が指をたてると、上下左右の空間から数多のモニターが浮かび上がり、雄英体育祭の様子が解説と共に流れていく。

 

「……覗きですか?」

「違いますぅ! 全国放送なので、どこからでも見れるだけですぅ!」

 

 怒った振りをして、新しいお皿を用意してくれる。

 

「直接だと、視線がうるさいって怒るじゃないですか」

 

 何が面白いのか意味深に笑いながら、一斤食パンをくりぬいていく。

 

「……よく、食べれますね」

「私が食べないからです。……そういう私は、よく寝ますね」

 

 くりぬいた中身を丁寧に切り分けて、シナモンをかけている。空いた穴にバターやアイスを落として蜂蜜まで垂らしている。

 

()が寝ないせいです……ちょっとは寝てください」

「ヤです。そうしたらますます、私は夢に来ないじゃないですか」

 

 当たり前ですと、その台詞はアップルパイと共に飲みこむ。……人形ちゃん、どんどん料理の腕をあげていきますね。でも、お茶子ちゃんのご飯も美味しいんです。

 

「……それで、ミッドナイトは無事ですか?」

「無傷ですね。防護服の頭がパキッと割れて、溜まっていた香りが解放されただけです」

「……」

 

 そっと頭を抱える。

 まさかのとんでも事故ですと、やるせない気持ちをホットりんごと一緒に咀嚼する。

 

 轟くんと瀬呂くんの試合に関しては、どちらも応援したいからこそ迷って、結局はどちらも応援しない事に決めた。

 だから、百ちゃんの膝枕でぬくぬく寛いでいたのに……チラと見れば、画面には防護服が壊れて驚いているミッドナイトのカァイイ顔がアップで映されている。

 

(……久しぶりに、顔を見ました)

 

 やけに焦った顔をしているのがまたカァイイと「だけど、いいんです?」見ていると、()がぺろりとトーストを食べ終えながら首を傾げる。

 

「このままだと、普通科に通うのは無理ですよ?」

「……はい?」

 

 寝耳に水すぎて、思わず腰が浮く。

 こういう時の()の意見は(とても不愉快だけど)的を射ている事が多いので、焦りが顔に出てしまう。

 

「トガとしては見ていて面白いですけど……このままだと、心操くんがヒーロー科に通えても、私が普通科に通うのは無理ですね」

「……!?」

 

 確定している様な()の台詞に、十中八九普通科に通えると思っていた私はショックを受ける。

 何を間違えたのかと、熟考する。

 

「ま、手っ取り早い方法は、事故に見せかけて芦戸ちゃんをヤる事ですね」

「……」

「死体も損壊する事をおすすめします。後は周りが勝手に気遣って、普通科に通える様になりますよ」

 

 ……。

 現状を俯瞰できる瞳はともかく、改善案は欠片も参考にならない。

 マリトッツォを頬張る()の戯言を頭から追い出して、考える。

 

 ヤーナムの王にして夢の支配者たる()は、私よりずっと多くの瞳を得ている。

 

 なので、やろうと思えばifの光景や過去、未来の出来事さえ視れるので、こういう予想は信用できる。つまり、このままだと普通科には通えない。

 

「ですからぁ、芦戸ちゃんを「却下です!!」……私って、トガ以外の女の子に優しいですよね」

 

 ニィと笑うその顔にスフレを叩きこむと、モニターが塩崎ちゃんと上鳴くんの試合を流し始める。つい、見知った者同士のやり取りを見つめていると、()がそっとデザート類をテーブルの端に寄せながら口を開く。

 

「塩崎ちゃん、いい子ですよね~」

「はい?」

「私を信仰したら、アデーラちゃんみたいにエッチでカァイくなるんですかね?」

「……」

 

 え?

 なに?

 

 突然すぎるアレな内容に、テーブルを飛び越えてフォークで急所を狙う。

 

「まあまあ、落ち着いて下さい」

「……?」

 

 デザートを器用に遠ざけながら、()が降参ポーズで空間から生やした触手をピチピチさせる。

 

「この話題には、ちゃんと意味があるのです」

「……は?」

「つまり、折り入って相談があるのです」

 

 ()にしては、殊勝かもしれない表情を浮かべているが、ふざけている。

 

 アデーラちゃんは、悪夢でそれなりに気が合うちょっぴりやんちゃな尼僧のお姉さんで、今は『表』にある狩人の家を管理する一人である。

 

 そして、もう一人の管理人である元娼婦のお姉さん、アリアンナちゃんとは色々な意味で血の橋が繋がった鉄臭い関係で、アデーラちゃんに手を出しているという事はアリアンナちゃんに手をだしていない訳がなくて、まさか知らない内にそんな事になっていたなんてと、スプーンで眼球を抉ろうとして止められる。

 

「誤解で、いえ、誤解じゃないけど、手を出したというか、出されたというか……」

「は?」

「分かりました! この話題は次の夢でちゃんと白黒つけます! 流石に、もう起きないと怒られますよ!」

「……ぐ」

 

 モニターを見れば、焦った顔の芦戸ちゃんが私を背負っている。

 

「……トガだって、私に怒られるのはヤですけど、この件はちゃんと話し合わないとなーって思っていたのです」

 

 この()は、まだまだ私の怒りに触れる案件を隠している。

 

 探ろうと思えば探れますが、そんな事をすれば百年単位で殺し合う事になるとお互いに承知している。女の子には、自分同士とはいえ守らなくてはいけないプライバシーがあるのです。

 

「……分かりました。次の夢で説明してください」

「はい!」

 

 元気の良い返事に、イラッとしながら立ち上がる。

 

 モニターには、新しい防護服に着替えたミッドナイトと、私を揺さぶっている芦戸ちゃんがいて、流石に寝過ごしすぎたと目覚めの扉を開ける。

 

 

 

 

「頑張ってくださいねー!」

 

 

 

 

 ()の声援なんて当然無視です。

 

 そのまま、意識が覚醒すれば「……う?」眩しいばかりの青空が視界を占領する。……プレゼント・マイクの放送と、周りの歓声がうるさいです。それに身体が上下に揺れている。

 

「起きたー!!」

 

 芦戸ちゃんに、たかいたかいされている。……えと、ご迷惑をおかけしております?

 

「……おはよぅ、ございましゅ?」

「おはよう! トガのバカ! もう少しで失格になるところだったじゃん!」

 

 激しくぶんぶんされて、少し舌がまわりませんが、すぐに戻るでしょう。

 しょぼしょぼする目を擦り「ごめんねぇ」たかいたかいが楽しくなりながら謝ると、芦戸ちゃんが「もう!」って降ろしてくれる。ついでに頭も撫でられる。

 

 

『起きたな!? 改めて前代未聞の登場だなあおい!? 対戦相手を背負ってステージに立つピンク娘! ヒーロー科、芦戸三奈!! 対、最下位から一位をもぎ取ったダークホース!! ヒーロー科、渡我被身子!!』

 

 

 夢では感じない眠気が、全身にまとわりついている。

 つい、芦戸ちゃんにくっつこうとしたら「……ごめん!!」数秒の葛藤の末に定位置まで戻されてしまう。

 

 残念です……眠い……ダメです、眠すぎます。

 ミッドナイトが近くにいるのも、睡魔に拍車をかけています。

 

「ちょ!? 起きて、トガ! もう試合始まってるから!」

「…………」

「トガー!!」

 

 芦戸ちゃん、ダメなんです。

 この眠さの原因だけは、どうしてか耐性ができないんです。

 

『……っ』

 

 ミッドナイトも分かっているのか、思い詰めた雰囲気を漂わせながら『トガさん、体調が優れないなら……』「待ってください、トガはいつだって眠そうで、これで大丈夫なんです!」何か言おうとして、芦戸ちゃんに遮られている。

 

「だよね、トガ!」

「……ぅ?」

 

 ねむい……ねむくて、眠れないのが……ヤです。

 視界がぶれて、理性が溶けていく。顔をおさえて、ふらつきながら俯く。

 

「……っ。い、いくよ!!」

 

 戸惑いながらも、芦戸ちゃんが溶解液を靴に纏わせて、滑る様に飛び込んでくる。

 私を気遣う様に、場外に引っ張ろうとする勢いを利用して、掴もうとした手を逆に掴み返し、彼女を宙に放り投げる。

 

「うえ!?」

 

 そのまま、3mほど飛んで背中から叩きつけられる、訳もなく。芦戸ちゃんは身を捻って不格好な体勢で着地する。

 

(……やっぱり、芦戸ちゃんは動ける子ですね)

 

 その頭を、気だるく近づきながら手の平で、

 

「え――……?」

 

 トン、と押す。

 

「―――がっ!?」

 

 首に負担をかけない様、力加減には気をつける。

 芦戸ちゃんは不自然な体勢のまま、上半身が浮いて、それを丁寧に支えながら優しく座らせる。後は指先で瞼を閉じさせ「あ」違う、そうじゃないと気づいて、慌ててふにふにっと頬を引っ張る。

 

「……っ!? あ……う!?」

 

 数秒後、芦戸ちゃんがハッとした顔で私を見て、ギョッとした顔をする。

 

「えっ!? ……トガ、何したの!?」

「……芦戸ちゃんを投げ飛ばして、着地を狙って攻撃しました」

「!? う、うん! そっか、それで頭がくらくらしてるんだ!」

 

 驚きながら、慌てて立ちあがる芦戸ちゃんから数歩離れる。

 

「い、痛くない、けど、なんか。……ちゃんと立てない!?」

「……脳に、衝撃がいく様にしたので」

「え!? それ大丈夫なの!?」

「大丈夫です……じゃあ、やりなおしましょう」

「……!?」

 

 危なかったです。

 今ので勝負がついていたら、芦戸ちゃんをいたぶれませんでした。

 

「……トガ、どういうつもりか聞いてもいい?」

「? 何がです」

「多分、だけどさ。……解説を聞く限り、今ので勝負は決まってたんでしょ?」

 

 解説? ……ああ、うるさいので自然と聞かない様にしてました。

 歓声と合わせて、眠い身体には不愉快です。

 

「……怒らないなら、教えます」

「! じゃあ、怒らないから、教えてっ」

 

 おっと。仕掛けてきました。

 

 今度は先程よりは本気の様ですが、その手には僅かばかりの『酸』も纏われていない。温すぎる攻撃に目を細める。

 あくまで、肉弾戦で私を倒そうとする甘さに苦笑して、彼女の攻撃を躱していく。

 足払いを躱し、顎下への掌底を躱し、肩への追撃も躱しながら、その度に修正して次への攻撃に活かす芦戸ちゃんをいなして、少し心配になる。

 

 ……もしかして、舐められてます?

 

 ぴしっ! と芦戸ちゃんの額にでこピンする。

 

「あた!?」

「……芦戸ちゃん、何してるんです?」

「え……? あた!? こんの……!?」

「こんなに、分かりやすい弱点があるのに」

「いっつ!? ちょ、でこピン、ばっか……ッ、いったー!?」

 

 芦戸ちゃんの動きは分かったので、そのまま一歩一歩、近づきながらでこピンする。……もう。

 

「ダメじゃないですか。芦戸ちゃんは、私の怪我がどこにあるか知ってるでしょう?」

「……!?」

「ちゃんと、弱点は狙わないと」

「……あ」

「勝てないよ?」

 

 こつん、と。

 でこピンじゃなく、淡く握った拳で額に触れると、芦戸ちゃんはムッとした顔をして、すぐに勢いよく後退する。

 

「狙えるわけないでしょ!!」

 

 えー?

 

「リカバリーガールもいるし、大丈夫ですよ?」

 

 何を気にしているのかと、首を傾げる。

 芦戸ちゃんに遠慮されると、いためつけるのが難しくなる。

 

(……芦戸ちゃんは、優しくてカァイくて、温かい子です)

 

 それでも、今だけは芦戸ちゃんに狩人として、私という上位者に挑んでボロボロになって欲しい。人対人ではなく、上位者対狩人なら、上手にいためつけられそうなのだ。

 

「……絶対に嫌!」

 

 なのに、芦戸ちゃんは頑なである。

 ……眠くて余裕がないからこそ、困ってしまう。

 

「アタシは、トガの怪我に触れないで、トガに勝つ!」

「……無理ですよ」

 

 溜息交じりに、芦戸ちゃんを見つめる。

 

「無理は承知! でも……アタシたちを守って負った怪我を、狙いたくない!」

「……芦戸ちゃんの勘違いです。私は、誰も守れてないです」

 

 実際に、あの場には私がいなくても誰も死ななかった。

 相澤先生と13号先生が、余分に怪我するぐらいだったと思う。

 

「だから、気にしないでください」

「―――」

「私は、ただの愚か者です」

 

 いえ、本当に。

 13号先生も、最初から守っていれば良かったんです。左が無事なら、慈悲の刃も本来の使い方ができたし、こんな無駄すぎる怪我をしなくてすみました。

 我ながら、愚かが酷すぎると反省しています。なので、心から気にしないで欲しいのですが……うん。

 

 良い踏み込みです。

 

 パァン!! と、会心と褒めても良い、溶解液を纏った滑りと勢いを利用した拳を「ッ!!」受け止める。だけど、芦戸ちゃんはそれを真剣な表情で見つめて、何を思ったのかぐぐぐっと力を込めてくる。

 

「トガ、歯はちゃんと喰いしばってね!」

 

 はい?

 

「アタシ、怒ってるから!」

 

 ……え?

 じわりと、戸惑いが全身に浸透していく。……怒ってるの?

 

「……芦戸ちゃん?」

「ぐーで殴る!」

「……あの」

「本気だから!」

「……いえ、それは良いのですけど」

 

 全身を利用して拳に力を籠める芦戸ちゃんに、焦る。手の平で受け止めつつ、ここでいなして投げ飛ばすのは違う気がして、困る。

 

「……何で、怒ってるんですか?」

「トガが、っ……ふざけてるからでしょ!」

「……?」

「分かるまで、皆でいっぱい怒るから……覚悟、してよね!」

「はい?」

 

 皆?

 

 嫌な予感を覚えて恐る恐る観客席を見たら……スンっと表情を消している彼ら彼女らがいて、更なる不吉な予感に頬がひきつる。

 

「……言い訳を、させてください!」

「聞いて、あげる!」

 

 いつになく、芦戸ちゃんの勢いが強いです。でも、聞いて貰えるならとホッとして、口を開く。

 

「私は、雄英に通うまで友達ができた事ないのです!」

「―――突然どうした!?」

 

 はい。我ながら恥ずかしい告白ですが、このボッチ宣言を芦戸ちゃんが勝手に深読みして、色々と有耶無耶になるのを期待しています。

 

 狼狽える芦戸ちゃんを見て、更に頭を回転させる。

 怒っている内容がさっぱりだからこそ、面倒は避けたいのです。

 

「お茶子ちゃんが、私の初めてのお友達です」

「……ぅ」

 

 拳の力が緩まりました。

 ……これはいけると、胸を撫で下ろします。

 

「言葉を間違えて、誤解させてしまったかもしれません」

「……それは」

「芦戸ちゃんが、何に怒っているのか、今も分からなくてごめんなさい」

「……ん」

 

 むむむって顔をする芦戸ちゃんと、チラっと見たら『いや~』って照れた顔をしているお茶子ちゃん。カァイイなぁと和む。

 

「そんな、()()()()()()()()()()()()()()()ですが、次は間違えない様に気をつけます」

「―――……え?」

 

 ん?

 

 芦戸ちゃんが、急に空気を変える。

 ポカンと目を見開きながら私を見て、それから『……へー? ふーん? そういう事言うんだー?』とばかりの笑みを浮かべる。……芦戸ちゃんなのに、とても怖い顔するじゃないですか。

 

「トガ、聞きたい事があるんだけど、良い?」

「は、はい」

 

 これは、ダメです。

 恐らく何かを間違えました。

 

 とにかく、下手にでなくてはと腰を引かせながら頷く。

 

「トガのお友達って、麗日だけ?」

「はい!」

 

 ノータイムで返事をしつつ、とにかく素直に答えましょう。

 

「そっかー……じゃあ、ヤオモモは?」

「優しいクラスメイトです!」

 

 質問の意図は、分かりませんが。

 

「……梅雨ちゃん」

「カァイイクラスメイトです!」

「……爆豪」

「同級生ですね」

「葉隠」

「いっぱいカァイイクラスメイトです!」

 

 その後も、何度か質問を繰り返していけば、芦戸ちゃんはより一層笑みを深くする。

 

「……そっか。友達じゃないんだ」

「?」

 

 俯く芦戸ちゃんの声色がとても不穏で、今すぐ逃げた方が良いとピリピリしつつ、上位者の意地で踏みとどまる。

 それにしても、友達なんて……葉隠ちゃん達に失礼です。

 

「……芦戸ちゃん、いくら私だって分かってますよ?」

「……なにを?」

「友達って、休日にお出かけしたり、放課後に寄り道したり、そういうカァイくて楽しい事して、一緒にいて平気な人の事を言うんです!」

「……うん。続けて?」

「? お茶子ちゃん以外と、そんな風に過ごした事ないです。むしろ皆には、迷惑をかけっぱなしです」

「……それで?」

「でも、皆はとっても優しいから、いつかはお友達になれたらいいなぁって、夢をみています。……それで、芦戸ちゃんとも、お友達になりたいって…………」

 

 思っています、けど。

 

 私を見つめる、何かを期待している芦戸ちゃんの表情に、眉を下げる。

 どうやら脈無しの様だと、彼女の期待に応えて首を振る。

 

「ごめんなさい、今のは忘れてください……」

 

 ジュッ。

 

 ん?

 手の平が少し傷んで、気づいたら受け止めている拳が酸で覆われている。

 

 ようやく本気になってくれたのかと芦戸ちゃんを見て、ビクっと肩が揺れる。

 

「トガ」

 

 その顔は、とても笑顔だけど影をさしていて。

 そんな笑みを見せる女性の厄介さを、私は良く知っている。

 

 

「歯、喰いしばれ♪」

 

 

 もしかしなくても、芦戸ちゃんはとても怒っている。

 ……なんで????

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話 試合終了と約束です

 

 

 怒りに打ち震える人間は見慣れています。

 

 でも、芦戸ちゃんの怒りは、少しだけ違う気がするのです。

 

 

「えーい!!」

「……」

 

 拳に『酸』を纏わせた、不格好な突きを躱す。

 

 喧嘩慣れしていないのか、攻撃が不得手らしい芦戸ちゃんの拳は遅い。

 最初に酸で焼かれた手の平はヒリヒリするも、濃度は低くかなりの軽傷。私に勝とうとする意志はあるのに、命を刈りとろうとする気迫は皆無。

 

(……やり辛いですね)

 

 追撃の蹴りを首を傾げることで避け、見越して伸ばされる五指を『パリィ』して仰け反った首筋に手を伸ばす。

 

「!?」

「……」

 

 場合によっては、内臓は抜かずとも衝撃が響く様に殴打するつもりでしたが……迷った末に彼女の襟を握ってポーンと後方に投げ飛ばす。

 

「うわ!?」

「……」

 

 空中で「こんっ、の!!」無理に身を捻って酸を飛ばしてくるも、一歩、位置を変えれば当たる事もない。そのまま無様に転ぶのをギリギリで回避した芦戸ちゃんは「……ぐぬぬ!!」と、悔しそうに私を睨んでいる。

 

「ッ!!」

 

 そして、すぐさま地面を蹴って駆けてくる。

 

「だああ!!」

「……」

 

 そんな彼女に、困ってしまう。

 

 一方的な悪意や逆ギレなら何の感情も抱きませんが、コレは違うと、理解はできずとも感じるので、どう立ち向かえばいいのか分からない。

 溶解液の飛沫が、太陽の下でキラキラと光っている。目を細めて、勝てばいいのか負ければいいのか。当初の目的より優先度の高い悩みに冷や汗が滲む。

 

(……普通科には通いたいですが、今は芦戸ちゃんが優先ですね)

 

 こうなってはもう、彼女をいたぶっての勝利は望めない。

 

 怒っているから殺しにくる、なら分かる。でも、怒っている癖に私の怪我を気遣うのが分からない。

 敵意はあるのに、一切の害意を感じない矛盾に、ずっと迷っている。

 

(……どうすればいいんです?)

 

 芦戸ちゃんの思考が読めず、ひたすらに困惑する。

 

 でも、脳に得た瞳は、この子は()()()()()()()()()()()()と教えてくれる。

 理由も理屈もその結論に至るまでの過程もすっ飛ばされているが、直感もそれを肯定している。なればこそ、戸惑いながら彼女を見る目が変わる。

 

(……無抵抗に殴られたら、許されるでしょうか?)

 

 なんて、今更できる空気でもない。

 

 本来のトガヒミコなら、それら全てを無視して当初の目的を突き進めるでしょうが、“善”の私は理性的に、彼女への攻撃を控えられる。

 

「……こんのぉ!!」

「……」

 

 私は、普通になりたい。

 月光の下ではなく太陽の下を歩きたい。

 

 そして、なりたい自分を手に入れたい。

 普通になれない誰かが、普通だと受け入れられる、そんな夢物語のヒーローになりたい。

 

 そんな『夢想家』の私に、脳に得た瞳が芦戸ちゃんを求めよと示すなら、きっと芦戸ちゃんは役に立つのだ。

 

 彼女は、私と世界の摩擦を少しでも減らしてくれる鍵になるのかもしれない。だからこそ、彼女と敵対するのは得策ではない。

 

 すぐさま肉薄しようと迫ってくる拳を、寸前で避けながら肘を起点に投げ飛ばす。

 

「ん、ぎ!!」

 

 数秒、彼女は宙に投げ出されるも、タイミングを見計らう様に身を捻り、着地と同時にノータイムで此方に迫ってくる。

 

(……もう少し、考える時間が欲しいです)

 

 芦戸ちゃんとは仲良くすべきだと結論が出たのに、今度はどうやって怒りをおさめれば良いのか分からず頭を抱える。

 

 再度伸ばされる腕をとって、もう少し遠くに投げ飛ばす。

 けれど、彼女は間髪をいれずステージを蹴る様に立て直し、がむしゃらに突っ込んでくる。

 

 

『……受け身に慣れた様だな、着地からの立て直しが早い』

『あんだけポンポン投げられたらな!! だが、渡我は最初の位置からほとんど動いてねえぞ!! どうする芦戸ぉ!?』

 

 

 芦戸ちゃんは、私に一撃当てるまでは止まらないとばかりの顔をしている。今更に、試合の最初からやり直したい。

 

 彼女の様子がおかしくなったのは、お茶子ちゃんを『友達』だと言ってからです。

 つまり、私に嫉妬している? 自分の方がお茶子ちゃんと仲が良いと主張したい? ……いいえ、それはないですね。だって芦戸ちゃんは……

 

「そこー!!」

「……」

 

 不和を嫌い、調和を愛している子です。

 だからこそ、特定の敵も親しすぎる友も作らないタイプに見えます。

 

「またー!?」

「……」

 

 怪我をさせない様に投げ飛ばして、そんな彼女をジッと見つめる。

 

 だからこそ、分からない。

 そんな彼女が、怒りを露わにしている。試合に関係なく私に執着している。いったい、何をそんなに怒っているのです? 何が地雷だったのかと思考を巡らせる。

 

「……ん、ぎい!!」

「……」

 

 芦戸ちゃんは止まらない。

 呼吸もろくに整えず、間髪をいれずに攻撃をしかけてくるのは良いですが、USJで脳無と相対した今では亀並みに遅く感じる。

 

 それでも、戦いながら少しずつ修正されていく。

 彼女の動きが少しずつマシになっていくのは感心しますが、本来の私相手ならとっくに死んでいます。

 

(……弱い)

 

 あまりの非力さに、手加減すら難しい。

 

「そこ!!」

「……」

 

 今は、どうせ避けられるからと際どくなった酸をブラフにしているが、お話にならない。

 虚をつく様に突っ込めばあっさり動揺してくれる。そんな無防備な芦戸ちゃんの背後にまわるも、速攻で回し蹴りがきます。上半身の捻り具合に感心しつつ、ステージに散らばった溶解液をお借りして避ける。

 

 

『おおっと!! 渡我の奴、相手の“個性”を逆利用しやがった!! 体幹ぶれなすぎだろ!?』

 

 

 追いすがる様に、芦戸ちゃんがスライディングしてきますが、咄嗟だったのか溶解液を纏いきれていない。もう少しで触れられたのにねと、悲しくなる。

 

 

『……惜しいな』

『ああ! 芦戸も、ぶちキれているかと思いきやブラフ込みの追撃は光るものがあるぜ!! いけー!! そのまま渡我をぶん殴れー!!』

『……おい』

 

 

 プレゼント・マイク?

 明らかに芦戸ちゃん贔屓な解説に、今更に場の空気が芦戸ちゃんに染まっていると気づく。

 

「……ハァ」

 

 これは、ますます芦戸ちゃんの扱いが難しくなります。

 

 目の前には、間髪をいれずに酸を左右に撒き散らして、今度はしっかりと片靴に溶解液を纏って勢いよく滑ってくる芦戸ちゃん。

 私の動きを制限して顎下を狙う、のはいいですがみえみえです。大体、私の怪我を狙わないと宣言して実行している時点で、予測が容易になっています。

 

「んなっ……!?」

「……」

 

 格上に対して、自ら枷をつけて挑んでくる愚かさに、逆に心配になってくる。

 一動作で芦度ちゃんの頭に両手を乗せて、飛ぶ様にくるりと一回転。上に逃げて背をむける様に距離をとる。

 

「……?」

 

 あえて晒した背中への攻撃を待つも何も無い。カウンター狙いがばれたのかと振り返り……え? 芦戸ちゃんはこちらに手を伸ばして、酷く追い詰められた表情で立ち尽くしていた。

 

「……あっ」

 

 それは、迷子が親に手を伸ばす様な、力の無い動作で。

 今にも泣きそうな表情だと、目を見開く。

 

「芦戸ちゃん……どこか、痛いんですか?」

 

 気づいたら、声をかけていた。

 芦戸ちゃんは「……っ」痛みを堪える様にぐっと唇を噛んで、伸ばしていた手で拳を握る。

 

「……別に! トガの背中が……嫌いなだけ!」

「……」

 

 えー?

 己の一部位を嫌われた時って、どう反応すればいいんです?

 

 私と違って派手に動いている芦戸ちゃんは、息を乱しながら汗を拭っている。けれどその瞳からは複雑な感情が滲み出ている。

 

(……?)

 

 そんな表情で見つめられる心当たりが、私にはありません。

 

 

『そこで攻撃もせずに様子見ってか!? 芦戸の体力が回復するのもあえて見逃すとか、このガールマジで何考えてんだよ!? おい、イレイザーヘッド、担任のお前から見て渡我ってどんな子?』

『……そうだな。あの年で、心・技・体がひよっ子の水準を超えている。プロのヒーローでも、下手をすればあいつには勝てないかもな』

『……マジ?』

 

 

 ちょっと?

 

 今、そんな事を言う必要ありまし……あ、なんか大人の政治的探り合いとかカードを伏せつつの情報公開的面倒臭い気配を察知しました。

 雄英って色々な意味で敵が多そうですもんね。裏で勝手にしていてください。

 

(それに、芦戸ちゃんの息も整った様ですし……)

 

 彼女の表情に興味を抱いて、改めて芦戸ちゃんと向かい合う。

 

「……トガ」

「はい」

「言いたい事は、色々あるけど、まず」

「……?」

「歯を喰いしばれって、言ったのは……アタシだけどさ」

「はい?」

「試合中も、ことあるごとにずっと喰いしばるなー!!」

 

 跳び蹴り!? そして理不尽!?

 

 言われた通りにしているのに怒られるとか、情緒が難しすぎるでしょう?

 あと、飛び蹴りは隙も多いので今すべきじゃないです。ポーンと投げ飛ばしますが、最初よりも着地に慣れてしまった様で、すぐさま怒りの酸が飛んでくる。

 

 

『よっしゃあ!! まだまだやれるな芦戸!? この中身ベイビーにお前の一撃をお見舞いしてやれ!!』

 

 

 そして、プレゼント・マイクが酷いです!!

 

 だけど、声は冗談めかしていますが誠実な響きも混じっています。どうやら、私の発言にプレゼント・マイクも思う所があった様で、相澤先生も珍しく止めようとしません。

 

(……)

 

 そんなに、私の返答はダメでしたか?

 観客の大半が芦戸ちゃんを応援するぐらい、何かを間違えていたんですか?

 

「……」

 

 それは、常識ですか?

 常識とは多数決で選ばれる二択の内の一つですよね? 私はちゃんとそちらを選べていると思うのです。なのに、なんで急に二択以上の透明な選択肢が増えるんですか?

 

「……っ」

 

 それとも道徳ですか?

 人間に優しくしているのに、冷たいと言われるのはどうしてですか?

 

「……ッ」

 

 まさか平凡な事ですか?

 生まれつき血を求めている私に、そんな最初から無いものを察しろとか無茶です。

 

「……トガ?」

「――――」

 

 もしや、世間一般での当たり前な事ですか?

 それは、いつか私に分かる事ですか?

 

 

『あ』

 

 

 気づいたら、

 滑る様に接近して、溶解液を纏った靴で芦戸ちゃんを蹴っていた。

 

 

「―――ッ!!」

 

 

 此方に向けていた両手ともに、皮膚が破れて、ジワリと血が滲んでいる。

 

(あ……)

 

 いけない。

 考え込みすぎて自動で対処してしまった。同じ事をぐるぐると考えて現実逃避していた。

 

「……っ」

 

 ここまで、するつもりは無かったのに。

 

「……ッ、あ!?」

 

 こうなっては、もう手の平に酸を生み出せないでしょう。“個性”を使った途端、肉が溶けて試合どころじゃないです。

 

 いつか彼女自身が、“個性”を使いすぎると自分自身を傷つけると言っていた。

 すでに、真新しい傷口が酸に焼かれたのか、両手をおさえて痛みを堪える芦戸ちゃんの顔に見入る。

 

(……)

 

 今の自分が、どんな表情を浮かべているのか少し気になった。

 

 

『―――マジかよ!?』

『……酸の飛沫を、全て潜り抜けての一撃か』

 

 

 ぽつりと『のらりくらりしていたかと思えば、こういう一撃を交ぜてくる』などとぼやいている相澤先生の独り言はともかく、マイクに拾われていると突っ込む人は誰もいない。

 

「……え」

 

 だって、私も驚いている。

 

 

「―――ッ、だああ!!」

 

 

 酸が、飛んでくる。

 芦戸ちゃんが、痛みに蹲ることなく、攻撃をしかけてきた。

 

(……は?)

 

 なんで?

 

 ジュウゥ! と焼けている音と匂いがする。咄嗟に避けるのを忘れるぐらい、芦戸ちゃんの躊躇しない“個性”の使用に驚いた。

 

 

『……おいおい』

 

 

 解説すらも、芦戸ちゃんの行動を理解していない。なら、私に分からないのも道理だろう。

 

 駆けてくる。

 両手から煙を出しながら、嫌な臭いを発しながら、ダメな音を響かせながら、傷だらけになっていく手で、私を掴もうとしてくる。

 その、変わらぬ闘志に、目を見開く。

 

 痛くないの?

 

「痛くないの?」

 

 気づいたら、声に出して問いかけていた。

 

 

「ッ!! ――――痛いよ!!」

 

 

 返事は、吠える様な悲鳴。

 

「めちゃくちゃ痛くて、痛すぎて、意識飛びそう!!」

 

 涙が滲んだソレに、だろうね、とは言えなかった。

 

 芦戸ちゃんの両手から、更に煙が上がっていく。

 歪んで涙目のまま、それでも、私を見つめる瞳はまっすぐだった。

 

 そうしてようやく、私は芦戸三奈という少女を、低く見積もっていた事に気づいた。

 

 

「……なんで、痛いのに頑張るんですか?」

 

 

 そんな疑問に、芦戸ちゃんは痛みを誤魔化す様に吠える。

 

 

「アタシは、トガを倒したいの!!」

 

 

 それしか、今はもっていないとばかりに、更に突っ込んでくる。

 煙が増して、躊躇せずに“個性”を使用して、手の平が溶けて崩れてボロボロになっている。

 

「……ッ!! 分からないって、顔してる! ……ぐあ、ぁああ!!」

 

 赤で濁った『酸』が飛んでくる。

 ガクガクと、握れもしない拳をつくろうとして失敗して、それならばと腕ごと振り下ろしてくる。

 

 分からないと、もうその一撃を避ける理由が、私には無い。

 

 

「どうして、そんなに私に勝ちたいんです?」

 

 

 ぽすんと、私の肩に、ようやく彼女の一撃が当たる。

 距離をとれば、また無理して“個性”をつかってしまうから、距離を離さない様に問いかける。

 

「……ッ、トガのバーカ!!」

 

 暴言は、独特の臭いで気にもならない。

 痛みに耐性が無い癖に、無理をするからボロボロと泣いてるじゃないですか。痛くてしょうがないって……両手が溶けているじゃないですか。これ、もう綺麗な状態に戻らないでしょう?

 

「本ッ当に、全然分かってない!! さっきので分かってたけど、アタシがどれだけトガに憧れてるか、知らないでしょ!?」

 

 ……は?

 

「ほら、その顔!! 微塵も信じてないし、分かってない!!」

 

 ……なにを?

 

 体当たりしてくる身体を、避けてはいけないと、受け止める。

 ドンッ!! と全体重で押してくるのを、揺らがずに抱きしめる。

 

 

「ッ!! 自分の、“個性”でも、こんなに、痛くて、きつくて、怖いのに……なんで、あの時……1人で行っちゃうのよ!」

 

 

 分からない。

 彼女が、何を言っているのか、どうしたいのか、微塵も分からない。

 

 

「アタシだけ、何もできなかった……!! 立ち尽くして、役立たずだった……!!」

 

 

 悲鳴をあげる様に、痛みを誤魔化す様に、芦戸ちゃんは叫んでいる。

 痛みとショックでガクガク震えている腕を、無理に上げようとするのを咄嗟に抑えて止める。

 

「トガは、頑張ってたのに……! 庇って、怪我して、血だらけで、ボロボロだったのに……『きっとヤな事してきますよ』って、その通りだったけど、だからって、1人で行く事ないでしょう!?」

 

 気づいたら、ゴン、ゴンと胸元を頭突きされている。軽い衝撃は、妙に心臓に響く。

 

「……っ、ごめん」

 

 気づいたら、べそべそと芦戸ちゃんが泣いている。

 

「――――あの日、トガの力になれなくて、ごめん」

 

 胸元に、染み込む温かい液体に、手足が動かない。

 

「皆を守ってくれたのに、トガの事は守れなくて、ごめんなさい……っ」

 

 まさか。

 芦戸ちゃんは、そんな事を気にしていたんですか?

 

 

「……嫌だよ。アタシは、もう……トガの背中を見たくない」

 

 

 いつも笑っていたのに、明るくてキラキラしていたのに。

 

 裏で、そんな悲しい事を考えていたんですか?

 

 

「……今度こそ、一緒に戦いたいっ」

 

 

 無理だと、そう言いそうになって、喉が引きつった。

 

 そんなに弱いのに……私という上位者に並びたいと泣いている彼女が、酷く滑稽で、眩しくて、震える頭を撫でてあげる。

 

 

「……トガの、隣に立ちたいっ」

「いいよ」

 

 

 だから、頷いてしまった。

 

 その声が、あまりに願いに溢れていたから、どこまでも私の事ばかり考えていたから。全部、丸ごと受け入れる。

 

「じゃあ、弱い芦戸ちゃんを、私が強くしてあげます」

「……」

「私の隣に、立っていいですよ」

「ほんと、に?」

「はい」

 

 胸元に置いていた頭を、のろのろとあげる芦戸ちゃん。カァイイ顔が、涙と鼻水でくしゃくしゃで、目を細める。

 

「……いいの?」

「いいですよ」

「……アタシ、トガの……相棒になれる?」

「なんにでもなれますし、なっていいです。私が強くします」

 

 ポンポンと背中を撫でて、すでに痛みで限界だったのだろう、汗で濡れた身体を抱き上げる。

 

「トガ……っ」

「はい」

 

 ジュウ、と私の肌が煙をあげますが、“個性”が暴走しているのか、汗にも『酸』が混じっています。特に気にもならず歩き出す。

 

 

「あの日……アタシ達を、守ってくれてありがとう」

 

 

 そんな事を、ずっと言いたかったという声色で、嬉しそうに目を細める。

 

「……どういたしまして」

 

 別に、貴女たちを守ったつもりは無かった。けれど、そういう事にしておこうと思った。

 優しく抱え直して、ミッドナイトをチラと見つめる。

 

 

「私の負けでいいです」

 

『いいえ……芦戸さん、気絶につき渡我さん、二回戦進出!!』

 

 

 え? ハッとして芦戸ちゃんを見下ろすと、ぐったりと意識を飛ばしている。

 

 慌てて駆けだすと『二回戦進出、渡我被身子!! ……芦戸、ナイスファイト!!』プレゼント・マイクの声が響いた。

 

 

 思い出した様に沸きあがる歓声は……控えめだった。

 

 だけど、拍手は万雷の様に彼女に降り注いで、それに少しだけ頬が緩んだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27話 望まない怒涛の展開です

 

 

 焼けただれた指先から、赤が零れていく。

 

 芦戸ちゃんの両手は、私がつけた傷跡から広がり、今や指の第二関節まで溶けだしている。

 

 

「…………」

 

 

 煙を立てる地面が点々と続き、彼女の“個性”が痛みとショック状態で暴走しかけている。

 担架を持った救護班の人達に「ごめんねぇ」と一声、こっちの方が速いと『加速』ですり抜けていく。

 

(芦戸ちゃん、無茶しすぎです……)

 

 正直、ここまでしますか? と頭を抱えたい気分です。

 芦戸ちゃんを『弟子』にすると決めたからこそ、師として彼女の暴走っぷりが悩ましい。

 

「……はぁ」

 

 急いで治療しないと指が無くなってしまう。

 

 青白い顔で、溶解液を全身から放出して纏いだす彼女に、ため息がもれる。

 リカバリーガールの出張保健室へノックも無しに飛び込めば、すでに治療の準備を始めていたリカバリーガールは驚き、その危険な容態に顔を強張らせる。

 

「……これは」

 

 深刻な顔をするも、すぐさま麻酔を投与しようと忙しなく動いてくれる。『酸』で注射針が溶けるかと思いましたが、ちゃんと溶けない仕様になっていて感心する。

 

「こっちだよ!」

「はい」

 

 ベッドに乗せる前に、芦戸ちゃんの全身に中和剤を大量にかけるも、効果は薄そうです。

 彼女の指が目の前で溶けていくのを見つめながら、完全に“個性”が暴走していると嘆息する。あと、抱いている私の両腕もじわじわ痛めつけられているので、許可を得てベッドに横たえます。

 

 ジュウゥッと良い音とダメな臭いが溢れましたが……纏う溶解液が弱めなのは幸いでした。私の腕まで溶け落ちる事は無さそうです。

 

「……」

 

 芦戸ちゃんを横たえたベッドは、すでに彼女の形に溶けかけている。

 

 おまけに、全身を『酸』の繭で覆われて、溺れる様に意識を失っている彼女は、両手以外の皮膚も危険な領域に陥っている。

 

(んー)

 

 どうしようかな?

 

 弟子の自壊を憂いつつ、少し思案しながらリカバリーガールを見れば、同じく見上げられていたので目が合う。

 

「……あんた、この子に何かするつもりかい?」

「?」

 

 ベッドが溶けていく音と臭いを背景に、リカバリーガールが真面目な顔で問うてくる。

 

「……何か、できるっていうのかい?」

「リカバリーガール?」

 

 意味深な言い方に首を傾げつつ、まあできる事はあるので素直に頷いておく。

 

「はい」

「そうかい。……なら、好きにおし」

 

 はい?

 

「……だけど、目を瞑るのは5分が限界だよ」

 

 んー?

 

 どういう意味かと首を傾げている隙に、シャッ! とカーテンを引かれてしまう。ついでにカチャリと保健室のドアに鍵までかけられてしまう。

 

(……んん? つまり、この場だけの事にしてあげるから、芦戸ちゃんを治しても良いよ、って事ですかね?)

 

 ふむ、と頷く。

 

 いくら雄英とはいえ、これはリカバリーガールに迷惑がかかる意味でダメじゃないかなーと思いつつ(まあ、いっか)すぐに切り替えて、自分の人差し指を噛み切る。

 

(流石に、芦戸ちゃんの指が無くなるのは困ります)

 

 強くすると約束した以上、人間をやめるかどうかはともかく戦えないのは困ります。

 

「……。あたしには」

「?」

 

 カーテンの向こうから、リカバリーガールの声がする。

 

「……この子の生命を救けられても、ヒーロー生命は救けられないよ」

「ふあ?」

 

 そうなんです?

 

 驚いて、だから私に任せてくれたのかと遅れて気づく。

 治療したくても、酸で覆われて“個性”を使えないとかでしょうか? ……んー。でも、目を瞑ってくれるなら、私が治したとばれる訳でも無いしいいのか。

 

 早速、酸で覆われた芦戸ちゃんの唇に、血で濡れた指先を触れさせる。

 

「……あんたなら、この子の全てを救けられるんだろ?」

「? そうですね。……でも、なんで知ってるんですか」

 

 そんな事まで教えたかな? とカーテン越しにリカバリーガールを見れば「その子の……っ」何故か声を荒らげられる。

 

「……指が、目の前で溶けていく過程を見ていただろう?」

「はい」

「肉と骨が露出しようと、徐々に皮膚が焼けただれていこうと……シーツに染み込んだ残骸が、己にへばりつこうと……平然としてただろう……? だからだよ」

 

 んー……?

 それだけでどうして分かるんです?

 

 首を傾げると、その動きがカーテン越しに伝わったのか、怒気を抑え込む様な溜息が聞こえる。

 

「……。この年になるとね、そういう態度一つで隠し玉があるって勘付けるんだよ」

 

 おお?

 

 リカバリーガールのぷんすかした呆れ声に(そういうものなのか)と、納得する。もう少し慌てたふりをすれば良かったのかと頷きながら、芦戸ちゃんの口内に指先をねじこむ。

 

(やっぱり、リカバリーガールぐらいの人なら、そういう些細なところからバレちゃうんですね)

 

 感心して、流石はお婆ちゃんだと頬が緩む。

 ……前に“個性”を使えば、リカバリーガールに『変身』してその“個性”も使える、みたいな事は言いましたが、それ以上の手段がある事をあっさり見破られるとは思わなかった。

 

 唇を緩めながら、芦戸ちゃんの舌を指先で撫でると、ぴくりと反応が返ってくる。

 

「…………ぅ」

 

 微かに舌が動き「!」指を、ちうっ、と薄く吸われてくすぐったい。

 

(……んん)

 

 指を、もうちょっと深く差し込みたい衝動を覚えつつ、我慢です。

 

 丁度良いので、もう少し多めに血を流し込んでいく。そうして数秒待てば『酸』が落ち着いて、芦戸ちゃんの指も生えてくる。

 

「……! 落ち着いたかい」

 

 音と臭いが控えめになったのに気づいて、リカバリーガールが声をかけてくる。

 

「はい、もう大丈夫です」

「……そうかい」

 

 ホッと嬉しさが滲む声に、あの夜のお婆ちゃんを思い出してどうにもやりにくい。

 

「……あと、私が治せるのはナイショですよ?」

 

 それを隠す様に、からかい口調で言えば「約束は守るよ」と、ヒーローらしい言葉がかえってくる。

 

 なんだかんだ、私にはきつい面ばかり見せるリカバリーガールの、お人好しな面に自然と笑いそうになる。

 

 ……やっぱり、リカバリーガールはおっかないけどカァイイと、お婆ちゃんなのもあって優しくしてあげたくなる。

 だから、もう少し口を滑らせる事にする。

 

「……私の“個性”は『変身』で、だからこそ自分という『設計図』が他の人よりしっかりしている。って前に言ったじゃないですか」

「……」

 

 つまりは、私の上位者としての血は、欠けた腕でも脚でも内臓でも神経でも、当人の『設計図』に沿って、ちぐはぐな回復を可能にしてしまう。

 

 悪夢で使っていた輸血液の、ちょっとした上位互換な代物。そんな説明を、この個性社会で無理がない様に説明してみる。

 

「……つまり、あんたは……失った手足どころか、内臓や神経……いや、もしかしたら細胞の正常化すら……っ」

 

 あ、驚いてる。

 

 お婆ちゃんをびっくりさせられたと、妙な悪戯心に笑みを浮かべ「もう5分ですね」約束の時間が迫っていると、残念に呟く。

 

 もうちょっとお話したかったのにと、名残惜しくカーテンを開ける。

 

 リカバリーガールは強張った顔をしていて、ゆっくりと芦戸ちゃんに近づいていく。そして、彼女の失う前と変わらない指を見て「…………」長めに沈黙すると、私を見上げる。

 

「本当は、全部治せるんだね?」

「はい。でも、全部治ったら『普通』じゃないでしょう?」

「……普通、かい?」

「はい。やっぱり、あの状態で爪が溶けないのは変ですし、手の平もボロボロじゃないとおかしいです。だから、上手に加減して治しました」

 

 リカバリーガールだって、一気にそこまで治せないでしょう? そう言外に伝えれば、少し拗ねた様な顔をされる。カァイイ。

 

「……あんた、まだ隠し玉があるね?」

「ソレ、聞いちゃいます?」

 

 教えようかどうか、どうしようかな~? という態度がダメだったのか、リカバリーガールが青筋を浮かべて、手招きする。

 なんだろう? と首を傾げてしゃがみ込むと、途端にギリギリと耳を引っ張られて目を見開く。痛い痛い、かなり本気でねじってます!

 

「……フンッ! ちゃんと神経は通ってる様だね!」

「うぅ、暴力反対ですよぉ」

 

 痛いけどちょっと楽しい。

 

 くすくす笑って、リカバリーガールから逃げる様に立ち上がり、穏やかな表情で眠っている芦戸ちゃんの髪を撫でる。

 

「それで、どうなんだい?」

「まあ、隠し玉はありますね」

「…………」

「でも、そっちの隠し玉は私まで回復しちゃう不良品なんです」

「……は?」

 

 そう。手軽に使える筈だった『聖歌の鐘』は、そういうところで融通が利かないのです。

 使用すれば、問答無用で自分自身も回復とか、はた迷惑が過ぎます。

 

「そんなの『普通』じゃないから、私が怪我をしている内は使えません」

「…………」

 

 唖然としているリカバリーガールに笑い、会話をしながら改めて中和剤をかけて、芦戸ちゃんの体操服や下着を鋏で切るのを手伝う。

 局部はちゃんと隠しながら芦戸ちゃんの身体を丁寧に拭いていき、病衣を着せた辺りで、堪えていた欠伸がもれる。

 

「……ふぁ」

 

 生理的に浮いた涙をぬぐい、芦戸ちゃんをもう一つのベッドに横たえて、その隣を借りようとすると、ぐいっと体操服を引っ張られる。

 

「ふぁい?」

「あんたは…………」

 

 何かを言いかけて、止まったリカバリーガールに首を傾げる。

 

「なんですかぁ?」

 

 何だろうと、脳に宿る瞳で覗き込めば、小さく飲み込んだ声が唇に振動を送り、そこから読み取れる。曰く『金や名誉じゃ、動きそうにないね』との事。突然どうしたんです?

 

「あんた……いや、渡我」

「? はい」

「……あんた、あたしの助手になる気は」

「ヤです」

 

 即座にお断りする。

 ただでさえ芦戸ちゃんが弟子になって予定が詰まってるのに、新たな師とか絶対にいりません。

 

「待ちな」

「むう?」

「……あたしの心労が重なって早死にしない為に、何かしらがあった時、協力して欲しいんだよ」

「んー。ならいいですよ」

 

 そういうことならと頷けば、リカバリーガールが苦笑する。

 

 いえ、お婆ちゃんは長生きすべきじゃないですか。何ですそのダメな子を見る目は。

 改めて見透かせば、脳の瞳が『……厄介な子だね』と零しているのを拾う。……良く分からないけど、失礼だって事は分かります。

 

 まあ、もう話は終わった様だし今度こそと芦戸ちゃんの隣に横たわり、目を閉じる。……そうしたら、途端にリカバリーガールに診察される。

 

「……ちょっと?」

「いいから、寝てな。眠いのは体質だけじゃなくて、ミッドナイトの“個性”だろ?」

「……そう、です」

 

 何とか返事をして、身を任したまま目を閉じる。

 そういえば、私も怪我人でしたね。

 

「……後は、よろしくです」

 

 このまま眠れば、一瞬で熟睡するだろうけど……今回に至っては都合が良い。

 

 まだ、()と話す事は残っていると、芦戸ちゃんの体温を感じながら睡魔に身を委ねる。

 

 

 

 

 

 

 フッ、と。

 堕ちる様に一瞬で、夢の中で目を覚ます。

 

 慣れ親しんだ感覚に、閉じていた瞳を開けば「……?」珍しくテーブルには何も載っていなかった。

 

 いつ来ても何かを食べている()がいるので、珍しく思いながら顔を上げると『祝・芦戸ちゃん、弟子入りおめでとう&狩人の夢へようこそ!!』の垂れ幕をかけようとしている()がいる。

 

「…………」

 

 一瞬でこみ上げる殺意は抑えない。

 

 パーティの飾りつけを楽しそうにしている無防備な背中を、獣狩りの短銃でパァン! と撃ち抜いてみるが、聞き慣れた音と火薬の匂いを残したまま「?」きょとんとした顔で振り向かれる。

 

「あ、お帰りなさーい!」

「……」

 

 知っていたけど、無傷かつ無痛。次があったら火炎放射器で炙ろうと決意する。

 

「あれぇ、芦戸ちゃんは連れて来てないんですか?」

「……」

「血を飲ませたのに?」

「……」

 

 きょとんとしつつ、ご機嫌に笑う()に、血管が疼くも我慢する。

 

 前回の話し合いの続きに来たというのに、喧嘩腰では話が進みません。

 自重を心得ていたのに、目の前に広がる予想外の奇行に我を忘れて撃ってしまいましたが、()が悪いんだからしょうがないんです。

 

 色々な突っ込みを放棄して、改めて()と向き合う。

 

「それで、相談があると言ってましたよね? さっさと話して、ついでに隠している事も全部吐いてください!」

「ええー!?」

 

 不満そうな声をあげられた。殴りたい。

 

「そんな事より、今は芦戸ちゃんの話題が一番ホットじゃないですか!? そっちの話をしましょうよー!!」

 

 そんな事呼ばわりされた。殺したい。

 

 アデーラちゃんと恐らくアリアンナちゃんの件は、私としても絶対にはっきりさせておきたい事案なだけに、ガラシャの拳を取り出すも()は悪びれない。

 

「そっちのトガはせっかちさんですねぇ」

「……」

 

 誰のせいだと言いたい。

 つまり、トガヒミコのせいであり自業自得な殺意に眩暈がする。

 

「言っときますけど、トガだって白黒はっきりつける為にいっぱい言い訳を考えてたんですよ? なのに、まさかの芦戸ちゃん弟子入りですよ!? そっちの方がずーっと優先度高いじゃないですかー!!」

「…………」

 

 ()の主張に、咄嗟の反論ができなくて顔をしかめてしまう。

 

「だって『弟子』ですよ? トガは、芦戸ちゃんを強くするって約束したんですよね? 血を飲ませて怪我も治したんですよね? つまり、そういう事ですよね?」

「…………」

 

 邪気のない笑顔を向けられて、目を逸らしてしまう。

 ()()()()つもりかと問われれば、そうするつもりでした。ですが、それはもっと先になる予定です。

 

「ねえ、約束は守らなくちゃなんですよ?」

「……知ってます」

「もしも、芦戸ちゃんが誰かに殺されちゃったら、私達のせいですね」

 

 弱くて死なせたというなら、そうなるでしょう? という瞳に、苦い感情を抱く。

 

 大げさな動作で促され、奥歯を噛みしめながら渋々と頷く。

 そんな私を、()は満足げに見つめて身体を揺らす。

 

「だから、芦戸ちゃんを強くしないといけません。でも、現実で芦戸ちゃんを強くするのは無理です。トガはねむねむちゃんですから」

 

 ……そっちの()が、ちゃんと寝ればいいんです。

 

「ヤです。どうして夢の中で、更に眠らないといけないんです? 下手したらうたた寝で年単位使うから、町の治安や維持が大変になります」

 

 ……“悪”のトガに、心を読まれた上に正論で論破された。ぶっ飛ばしたい。

 

 ()が私でさえなければ、息の根を止められるのにと苦々しい。

 

 

「つまりー♪ 芦戸ちゃんを夢に招待するのは確定なのです!」

 

 

 はしゃぐ()をすかさず睨む。できる訳ないでしょう? と殺意を込める。

 

「夢の逢瀬で、カァイイ芦戸ちゃんを死なせない様に、強くしてあげてくださいね♪」

 

 黙ってください。まだ、他の方法があるかもしれません。

 現実で、なんとか芦戸ちゃんを鍛えられたら、こんなところにわざわざ招く必要も無いんです。

 

 

「あ、訓練場が必要ですよね? 望まれると思って、()()()建てときました!」

 

 

 は?

 

 テンション高く踊る()が何かほざいている。

 いえ……待ってください。私は、その先の流れが悪い意味で予想できてしまい、血の気が引いていく。

 

「狩人の夢と同じ深度で造っておきました。トガと芦戸ちゃんしか出入りできないから、エッチな事してもいいですよ?」

 

 よし、殺りましょう。

 

「とりあえず広大に造っときました。それに和風が恋しくなったので、竹やぶに囲まれた武家屋敷をイメージした一品です」

 

 …………ああ。

 なんでトガヒミコは、上位者になる過程で、自分自身を分裂させる事を思いついて、実際に行動に移してしまったのでしょう? 殺したいのに殺せないし、死にたいのに死ねないんです。

 

 

「そして、サプラーイズですよ♪」

 

 

 んっふっふとご機嫌な()が、指をたてる。

 

 全力で嫌な予感がして、咄嗟に抜いた慈悲の刃を二つに分ける。

 

 

「踏み切れないトガの為に、つい()()()に芦戸ちゃんをご招待しておきましたー♪」

 

 

 ――――んっ、ぐんんぅっっっ!!!!

 

 予想通りのおぞましい暴挙に、全力で()をぶっ飛ばしてぶっ刺した。

 

 

「何してくれてんですかあああ!!!!」

 

 

 ええ、ええ!! やると思ってましたよだって()は私ですからね!?

 

 無駄に反則行為ができる超常の存在に成ったせいで、そういういらん事を善意100%でやらかすと知っていましたとも!! 何でこう、トガヒミコってトガヒミコなんでしょうねえ!? そのままボコスカとタコ殴りにする。

 

「ああああもう!!?? 芦戸ちゃんの所に行きますから道を繋げバカぁ!!!!」

「自画自賛です? いたいいたい、もー、短気ですねー。目覚めの扉の隣に造ったから、これからは修行の度に私とご対面ですね♪」

 

 切実に殺したい……!!

 

 トガヒミコって、なんでこう純粋な好意で人の嫌がる事をやってくれるんですかね!? 悪意も悪気も一切ないから己を省みる事も無いしで最悪なんですよ死んで!!

 

 グチュリ、と。

 

 最後に、名残惜しく慈悲の刃で内臓を抉って、血だらけでキャラキャラ笑う()を足蹴にして、真新しい扉へと駆けていく。

 

 

「いってらっしゃい、芦戸ちゃんによろしくね~」

 

 

 手を振って見送る()を睨んで、ドアノブを捻って開け放てば、すぐに転移する。

 

 

 

 

 

 

 ザアァと、涼やかな音を聞いた。

 

「……っ」

 

 一瞬で変わった景色を気にもせず、すぐさま左右を確認して、見つける。

 

 

「え……渡我……?」

 

 

 日差しが眩しくて、それでも目を見開く。

 そこには、病衣を纏った芦戸ちゃんがいる。

 

 空は青く、明るい太陽が眩しい。

 

 遠目に、どこまでも続いていそうな竹藪が見えて、涼しさを含んだ風を感じると同時に笹が揺れる。一つ一つの微かな音が、数を増して大きな波となって耳朶をうつ。

 

「……なんだろ、これ?」

 

 芦戸ちゃんは、戸惑いながら()()していた姿で、ゆっくりと縁側から離れて、近づいて来る。

 

 

(……ああ)

 

 

 ここは夢の世界。

 

 私と()の世界になった、最初から“個性”の無い、呪われていた別の世界。

 

 だから。

 

「……変な夢」

 

 ぽつりと、真新しいケロイド状になったドロドロ一歩手前の手で、芦戸ちゃんは頬を抓っている。

 

 ピンクの髪でもピンクの肌でも無い、角も無ければ黒目ですらない。瞳の色だけは変わらず。

 

 

「でも、渡我に会えたのは嬉しい!」

 

 

 『普通』の容姿をした芦戸ちゃんが、弾ける様な笑顔を私に向けた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話 不意打ちはやめて欲しいです

 

 

 ……女の子って、ずるいですね。

 

 1秒前の笑顔に、考えていた色々な台詞がふっ飛びました。

 

「トガ?」

 

 はじめましての気持ちと、さっきぶりという気持ちがせめぎ合っている。

 

「……」

 

 いつもと違う雰囲気の芦戸ちゃんが浮かべる、変わらない笑顔。

 

 それは、想像外の破壊力があって、未知の衝撃に舌が固まってしまう。うっかり、状況を忘れて立ち尽くしてしまった。

 

「……」

「なになに、変な顔してるよ?」

 

 楽しそうに、いつもの様にぎゅーっと抱きしめられて、何かに負けた気分で芦戸ちゃんから顔を逸らす。

 

「あ、照れてる」

「……」

 

 珍しそうに顔を覗かれて、頬をつつかれる。

 気安くも優しい感触に抵抗しきれない。独特になった指の感触もむずがゆくて、唇を掠めればくすぐったくてしょうがない。

 

「……くすぐったいですよ」

 

 私も女の子ですけど、芦戸ちゃんのずるさは不意打ちが過ぎます。

 

「うん。アタシの夢なのに、トガは変わらないね」

 

 じと目を向けるも、嬉しそうな声色に困ってしまう。

 髪色や肌艶が変わるだけで、こうも印象が変わるとは思いませんでした。それに、この状況で無警戒な笑顔なんて二重に不意打ちで、妙にどぎまぎして、やっぱりずるいです。

 

「トガが、こんな風に照れるの初めて見た」

「……」

「夢なの、勿体ないなぁ……」

「……?」

 

 寂しそうな声色に顔をあげると、ざらついた手の平で、頬を撫でられる。

 

「どうしたんです?」

「……現実のトガも、アタシの手を受け入れてくれるかな?」

 

 はい?

 

「……気持ち悪いって、むずがらないかな?」

 

 そして、呆れるぐらい平和な事を気落ちしながら聞いてくる。

 

 ……いや、むずがるって何ですか? そこは嫌がるとか不快に思うとか、もっと最適な例えがあるでしょう?

 

「……バカですね」

「えー?」

 

 色々な感情を溜息にして、触れる手の平にスリスリと頬ずりすれば「……うえっ!?」赤い顔で固まってしまう。

 その表情を上目に観察して、中身はいつも通りの芦戸ちゃんで安心する。

 

 

(……急いで来たのが幸いしました)

 

 

 彼女は、こんな場所で笑えている。

 それは、無知による盲目のおかげであり、これからも開かせる気のない閉じた瞳のせいである。

 

(……芦戸ちゃんは、とても危うい場所にいるんです)

 

 だから、彼女の笑顔に動揺した。

 

 ただでさえ、どこまで行っても、どれだけ探しても、どうしてと迷おうと、出口の無い1人きりの空間なんて……普通の人間には耐えられない。

 

 夢見る心は無防備すぎて、肉体を介さないからこそ脆い。

 

(……ただの夢だと思っているのも、都合が良いですね)

 

 芦戸ちゃんの状況如何によっては、今日が説明で潰れる覚悟もしていましたが、これなら説明を先送りしても良さそうです。

 芦戸ちゃんの顔をジッと見つめながら、その手に頭を預ける。

 

「……っ、アタシの夢とはいえ、そういうのはずるいって」

 

 わぷっ、突然顔を挟まれました。「これだから、トガは……」と、謎な独り言を漏らしながら、芦戸ちゃんはほんのり赤みがつよい茶髪を振り、ほどよく日に焼けた健康的な肌色をそうと知らず桜色に染めている。変わらない金の瞳が、優しく私を見つめている。

 

「……」

 

 グッときてしまう。

 お願いだから、突然カァイイ顔するのやめてください。現実ならともかく、此処だと困ります。

 

 調子が狂うのです。夢だと眠気が無い分、うっかり抱きしめたくなるから誤魔化せません。

 つい、()のアレな台詞を思い出してしまい、振り払う様に見た目の猫度があがった芦戸ちゃんの手を引っぱる。

 

「トガ?」

 

 今の芦戸ちゃんは、“個性”の無い普段と違う姿だからこそ……色々と心臓に悪い。

 

「……芦戸ちゃんは、カァイイね」

「えっ……!?」

 

 恨めし気に囁けば、驚きながらポッと赤くなる。

 

(……カァイイくせに、無防備なのは困ります)

 

 元の肌色だと、赤くなっても分からないから、自他ともに自覚症状が無かったのでしょう。芦戸ちゃんは感情が顔色に出やすいらしい。

 

(ちょっと、面白いですね)

 

 言葉通りに、彼女は顔色を誤魔化すのが下手らしい。

 

 なるほど、自覚症状が無いから直せなかったんですね。天真爛漫に隠された意外な一面に、状況を忘れて遊び心を覚えてしまう。

 

 まあ、そこで遊んでいる時間は無いのですけど。

 

「そろそろ目覚めないと、次の試合が始まっちゃうかもしれません」

「え?」

 

 雄英体育祭の唯一の目的、普通科への道はいまだ道半ばです。

 少しでも道を開く為に、印象を悪くするためのアピールは更に必要でしょう。

 

「だから芦戸ちゃん、もう起きますよ」

「え……? う、うん」

「あと、起きたら手を握ってあげます」

「……!」

 

 目を見開いて耳まで赤くなるのを見届けて、目を閉じる。

 

 この、別宅というより訓練場の様な、ふざけた目的で造られた夢の出口は……私なのでしょう。

 だから、彼女の手を引いたまま、徐に目覚めようとすれば、フッと、夢は唐突に終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 そして目覚めれば、ズシリ……と身体にまとわりつく泥の様に不快な眠気。

 

(……現実が、辛いです)

 

 なぜ、私は起きなくてはいけないのでしょう……?

 

 泣きそうな気持ちで絶望感を覚えるも、()がいないだけで現実は楽園だと気づく。はい、私は起きます。

 

 んぐぐぐぐぐっと頑張って起き上がり、目を閉じたままぺたぺた隣の芦戸ちゃんを触って、ぷにぷにして、揉んで、違うなと探って、辿って、手を見つけて握る。……なんか分厚い? 

 

「んぅ……?」

 

 しょぼしょぼと頑張って目を開けると、何故か固まっている芦戸ちゃんと目があう。

 夢の彼女を見た後なので、ピンク色でも微かに赤面しているのに気づき、握っている片手を見れば包帯でがっつり保護されている。

 

「……あぅ?」

 

 怪我は治ってる筈なのにと鼻を近づければ、すっかり覚えてしまった人が溶ける臭いがする。……寝ている間に“個性”がちょっと漏れたみたいですね。

 

「……芦戸ちゃん」

「な、なに!?」

「この手で、トイレは大丈夫ですか?」

 

 とりあえずの疑問を覚えながら、包帯の手に頬ずりしてみる。……ごわごわですね。

 

「え、ええと、大丈夫じゃない?」

「そうですか。……ダメそうだったら、お手伝いしますね」

「なにを!?」

 

 弟子のお世話はちゃんとしなくてはいけません。

 ペットより手はかからないでしょう。

 

 口をパクパク、全身で動揺している芦戸ちゃんの怪我の具合は……うん。血の匂いはしますが、指の神経はちゃんと通ってますね。包帯越しにぴくぴく動いているのが分かります。

 よしよしと頷いて、芦戸ちゃんの手を握ったまま周りを見れば、ベッド脇に真新しい体操服が置いてあります。これは助かると、いつの間にか着させられていた病衣を脱ぐ。

 

「ちょっ!? なんで脱ぐの!?」

「? ほら、芦戸ちゃんも脱いでください」

「へあ!?」

 

 逃げ腰になっている芦戸ちゃんを引き寄せ、病衣を肌蹴させながら「あ、あああの……?」眼前に体操服を差し出せば「え!? ……えっ……ぅあー……」と、何故かへなへな崩れ落ちる。

 

(……情緒不安定ですけど、大丈夫です?)

 

 元気すぎるし、血を与えすぎたのかもしれません。

 

「心臓に悪い……」

 

 項垂れたまま、こちらに背を向けてぶつぶつ言っている芦戸ちゃんに首を傾げる。

 

「……ふあ」

 

 それより、芦戸ちゃんは戦闘経験が少ないので、今日の試合を一つでも多く見る必要があります。

 

(……とにかく、まずは死なせない為に鍛えないといけません)

 

 もそもそしながら「あ」そういう事は、分かりやすくちゃんと念入りに口に出さないと、愚かな弟子には伝わらない事を思い出す。

 

「芦戸ちゃんは弱いので、一試合でも多くを見て、己の糧にしてください」

 

 そう口にすれば、芦戸ちゃんは「……うん!!」振り向いて元気よく返事をする。何故か「……っ!!」すぐに顔ごと逸らされましたが。

 

 やはり、師弟のコミュニケーションは大事ですね。

 

 芦戸ちゃんは手のせいで着替えにくそうですが「えっ、下着は……!?」手間取りつつ急いで着替えてくれる。それを見守って、私も脱ぎ捨てていた病衣を畳んで、欠伸をしながら着替える。

 

「芦戸ちゃん、行きますよ」

「……ぅ、うん」

 

 何故か、心元無さそうにぎくしゃくしている芦戸ちゃんの手をとって、歩いていく。

 

 カーテンを引けば、リカバリーガールがお茶を飲みながら片耳にイヤホンをして、モニターで試合を見ています。気づいた芦戸ちゃんが「うおえ!?」と変な声をあげてます。

 改めて「お世話になりましたー」と、頭を下げて出張保健室をでて行こうとして、

 

「……ちょいとお待ち」

「はい?」

 

 その直前に呼ばれたので振り返る。

 

「あんた、左は極力動かすんじゃないよ」

「? あ、はーい」

 

 あえて指摘されて、ようやく違和感に気づく。

 自分の左腕がギプスで保護されている。……着替える時に邪魔だと思いつつ、最近までずっとこんなんだったので忘れてました。

 

「トガの怪我、悪くなったんですか!?」

「……安心おし。ちょっと傷が開いただけだよ」

 

 リカバリーガールは優しく微笑むも、一応は被害者である私は気づく。

 運んでいる際に、両腕どころか滴る『酸』で、お腹や太股も焼けただれたんでした。特に左腕が痛かったから『酸』で悪化していたらしい。

 まあ、左腕以外は治療済みの様ですし、これなら芦戸ちゃんを騙せますね。

 

「芦戸ちゃんのせいじゃないですよ。攻撃は当たらなかったですし、ちょっと寝ぼけてぶつけただけです」

「ぅ。ぐ……っ」

 

 心配そうな顔で、だけどちょっと悔しそうな顔がカァイイ。

 でも、芦戸ちゃんと手を繋いでいると口元を自然に隠せないと気づいて、顔を逸らす。

 

「……トガ」

「はい?」

「……ん、なんでもない」

 

 私の顔をチラチラ見てから、言葉を飲み込んで笑う芦戸ちゃんに「そうですか」と頷いて、改めて保健室を出ていく。

 

 そして、とにかく急ごうと駆け足で走っていけば、通路を抜けた途端に試合中のステージが見えた。

 

「……!」

 

 ワアワアと賑やかすぎる歓声が耳に痛い。

 芦戸ちゃんの手を引きながら眩しさに目を細めて見下ろせば、百ちゃんと常闇くんが試合をしている。

 

(百ちゃんの試合でしたか)

 

 少し興味を惹かれて、寝ようとしていた姿勢のまま見つめる。

 

 2人の戦いは、合間合間でピカピカしていて、色々な意味で目に痛い派手な戦いです。……とりあえず、通路脇の壁に背を預けたまま、試合の様子を芦戸ちゃんと一緒に観察する。

 

「席に戻らないの?」

「……。面倒そうだからヤです」

「! あー」

 

 芦戸ちゃんに声をかけられるも、試合中に見た皆のスンっとした表情が忘れられない。

 

 げんなりしていると、芦戸ちゃんがぴとっとくっついてくる。

 

「あれに関してはトガが悪い!」

 

 ……知らないですよ、そんなの。

 

「……いいから、芦戸ちゃんは試合を見てください」

「はーい」

 

 ……本当に分かってるんですかね?

 

 芦戸ちゃんの視線は、ステージと私の横顔をいったりきたりしている。……集中させる様に、そんな彼女の顔をステージに向けさせながら、改めて今後の事を口にする。

 

「……芦戸ちゃんは、私が強くします」

「! うん」

「……だから、また今夜、夢で逢いましょう」

「え……? と、トガ、それって」

 

 芦戸ちゃんが、戸惑った声をあげた瞬間、百ちゃんが生み出した長棒が、常闇くんの個性をすり抜けてその胴体に直撃する。

 

(……へえ)

 

 解説を聞くに、これが初撃だったらしく激しく盛り上がっている。

 しかし、二撃目は防がれ、常闇くんの“個性”に弾き飛ばされるも、すかさず閃光弾を生み出し追撃をかわしている。……あの素早い閃光弾の『創造』は、かなり予習した様ですね。サングラスも似合ってます。

 

 一進一退、という感じですね。

 お互いに同格で、決め手が無いからこそジリジリせめぎ合っている。

 そして、先程と同じ流れで百ちゃんは『黒影』の防御の隙をかいくぐり、再度生み出した長棒が常闇くんの腕を掠めた途端、カクンっと彼の足が崩れる。

 

 

「えっ!? なになに、何が起こったの!?」

 

 

 驚いている芦戸ちゃんは、やはり目が養われていません。

 

 百ちゃんの持つ長棒の先端。そこには小さな針がキラリと光っている。……何かしらの薬が塗られたソレは、掠めただけで体の自由を奪うものらしい。

 

(ちょっと意外ですが、百ちゃんもやりますね)

 

 ふあっと欠伸をしながら評価する。試合中に薬を使う、という発想ができる子だとは思わなかった。

 

 そういう意味では、目を見開いて驚愕している常闇くんと同じ気持ちです。睡眠薬だったのか、四つん這いになりながら意識を飛ばしそうになっている、しかし意識が堕ちる寸前に、自分の口で降参を宣言しているのが見えた。

 

 

『……常闇くん降参! 八百万さん、二回戦進出!!』

 

 

 ホッとした様子の百ちゃんが、勝利を噛みしめる様に眉間に皺を寄せる。それから、何かを探す様に観客席を見回して(……ん?)ピタっと私と目が合い、動きが止まる。

 

「……?」

 

 とりあえず、芦戸ちゃんの手を握ったまま手を振ってみれば「!!」百ちゃんが凄い勢いで反応する。焦った顔でぺこぺこと今にも寝落ちしそうな常闇くんとミッドナイトに頭を下げて走り出す。

 ? いいスタートダッシュですね。

 

「あーあ……」

「え」

「トガ、逃げちゃダメだよ」

「ええ?」

 

 楽しそうに芦戸ちゃんが笑い、どういう事かと問い返すも答えて貰えない。

 

(……えー)

 

 手を握っているので逃げられず、ヤな予感を覚えてどうしたものかと迷っていると、ダダダダっと通路から走ってくる音がして、あ「被身子さん!!」身体が浮いた。

 

「あぉ……?」

 

 変な声がでて、そのままぎゅーっと抱っこされて背中をぐりぐりされる。……え? またぬいぐるみ扱い? 何となく小さくなりながら、視線を集めつつ揺さぶられる。

 

「ちょっ!? ヤオママ、下手に揺らすとトガが寝ちゃうってば!」

「ですが!! ……っ、芦戸さん、両手が」

「あ……うん。ちょっと無理しすぎちゃって」

 

 えへへ、という虚しい空笑いが聞こえて、いつの間にか閉じていた瞼を開ける。

 改めなくても、両手が分厚い包帯で覆われて痛々しい芦戸ちゃんの姿に、百ちゃんは冷静になり「そう、ですね……」静かに、気まずくも優しい笑みを浮かべる。そして私を降ろさず(あれ?)そっと抱きなおして、クラスメイト達が集まる席に歩いていく。……え、やめて?

 

 

「ヤオモモ、二回戦進出おめでとう!」

「……ありがとうございます、芦戸さん」

 

 

 パタパタと、ちょっと四肢を動かして抵抗するも、余計に拘束が強くなるだけでした。

 

 というか、気づいたらお姫様抱っこで連行されるのは羞恥を覚えます。でも、この揺れ心地とふわふわした胸の柔らかさと甘い香りのあらがえない誘惑は……頭が重くなる。

 

「あ、寝た」

「あら、今日も早いですね」

 

 もう首を維持するのも難しくて、こてんと体重を預ければよしよしされる。……いえ、まだ起きています。……今寝ると、熟睡しちゃうから我慢なんです。

 

「相変わらず、寝つきが良いんだから」

「可愛らしい寝顔ですわ」

「……ん」

「……」

「……ねえ、ヤオモモ」

「……分かっています」

 

 私に触れる指の力がいつもより強いと感じながら、微睡みを楽しむ。

 

「トガ、凄く強かった」

「……はい」

 

 静かなソレに、歓声の騒がしさが遠ざかり、つい耳を澄ましてしまう。

 突然、そんな当たり前の事を口にするのが不思議だった。

 

「……でも、さ。それは置いといても」

「……はい」

 

 ん? 声色の微妙な変化に気づいて、肌が粟立つ感覚を覚える。

 

 

「……試合中のアレは、ちょーっと酷くない?」

「……同感ですわ」

 

 

 じんわりと、2人から滲む感情にびっくりした。

 

 何故か、じっくりことこと煮込む様な怒りの気配に、目を閉じたまま動揺する。な、なんなんです?

 

 

「……絶っ対に、このままじゃ終わらせない」

「……ええ、目に物をお見せするつもりです。麗日さんも交えてしっかりと話し合いましょう」

 

 

 え、怖い。

 

 謎の会話に(き、聞こえていますよ?)と言いたくて言えない。

 

 これは、誰かを追いこもうとしている?

 放課後に決行とか、休日の予定とか、作戦の前準備がどうとか、暗殺でもする気ですか? そういう際どい会話は、さっきまで起きていた狸寝入りしている私の傍でしないでください。

 

(……本当に、変な子達ですね)

 

 誰に恨みがあるのかは知りませんが、闇討ちは計画的にする様に、今夜芦戸ちゃんに教えてあげましょう。そんな事を考えていると、ふわりと見知った気配が近づいてくる。

 

 

「トガちゃん!」

 

 

 葉隠ちゃんに呼ばれて、指先がぴくりと反応する。

 

 そして、彼女の声で此方に気づいたクラスメイト達の視線に(ん?)何故か身がすくむのを感じつつ、そこに、お茶子ちゃんの気配が無い事を寂しく感じる。

 

「……」

 

 ぽやーっと、なんとか目を開けて葉隠ちゃんを見つめれば、彼女は複雑そうにぷくぅと頬をふくらませて……ふあ?

 

 頬に、ちゅっ、とキスされた。

 

 …………―――――なんで!!??

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29話 期待と不安を覚えています

 

 

「2人とも、お見舞いに行ったら面会謝絶って言われて、本当に心配したんだよ!!」

 

 ん、んんぅ……?

 

 ほっぺを押さえながら、大げさな身振り手振りで私と芦戸ちゃんを心配してくれる葉隠ちゃんに混乱する。

 

 え? 数秒前、私にした事に一切触れず、百ちゃん達とあっさり談笑しだす姿を信じられない気持ちで凝視する。

 

 

(……えっ、さっきのは幻覚ですか?)

 

 

 固まったまま、震える指先で頬に触れる。

 

 余韻がいまだ残っている気がして、驚愕が収まったかと思えば、意識しすぎて息が止まる。

 葉隠ちゃんは、百ちゃんに「二回戦進出おめでとー!」って、何事も無かった顔で祝福して、皆も気づいてなくて、芦戸ちゃんは切島くんに激励の言葉をかけて見送って……あれ?

 

 でも、確かにほっぺに、ふわっと葉隠ちゃんの唇が、触れ…………んんんんっ。

 

「……っ!!」

 

 ダメです顔が熱くて怖い顔します。

 

 どん引き必至のにやけ顔を隠さなくてはと、百ちゃんの腕の中でぐるっと体勢をかえて「被身子さん?」ぎゅーっとしがみついて「はうっ!?」胸に顔を埋めながら足はパタパタしちゃいますが、今はとてもじゃないけど落ち着けません!

 

 うぅううううっ、それでも私は、我慢できるトガヒミコなんです!! チウチウしたいとか思っちゃダメなんです!!

 

「――――すみません、私達は席を外します!!」

「ちょっと待ったあ!!」

「トガの様子もだけど、ヤオママが危ない顔してる!!」

「八百万さん! 今すぐ渡我さんを引き渡して手を上げるんだ! 決して悪い様にはしない!」

「いけないわ、アレは弁護士に養子縁組の相談をしていた時の顔よ」

 

 くぅ、こういう時に限って眠気が遠ざかるのは何故でしょう!?

 

 私が、トガヒミコのなけなしの良識と理性と常識と自分を客観視できる瞳で成り立っている上位者だから良かったものを、元の渡我被身子や()なら嬉々として欲望のまま葉隠ちゃんに襲い掛かってマウントをとってるというか。

 

(……カァイくて、気になる女の子からのキスとか、色々意識するに決まってるじゃないですかー!!)

 

 苛めですか!?

 今日は本当に、私の普通を前後左右から壊そうとするイベントばかりで最悪です!!

 

 百ちゃんの胸元をぐりぐりぐりぐりしながら、なんとか興奮を発散させようと努力する。

 

(もう、人間って面倒臭いです……!!)

 

 改めなくても厄日かもしれません。

 こんなに感情が動くと、精神的な疲労がたまりすぎて意識が飛びそうです。

 

 芦戸ちゃんに引っ張られ、尾白くんの尻尾であやされ、梅雨ちゃんが百ちゃんを言い含めている隙に、耳郎ちゃんに引き渡される。そこでギリギリ我にかえり、泣きそうな気持ちで顔をあげれば葉隠ちゃんと目があう。

 

「……あ! えっと、トガちゃん?」

「……葉隠ちゃんのえっち」

 

 恨めしく口にすれば「へっ!?」と葉隠ちゃんは赤くなり、周りがザワッ!? とする。

 

「は、葉隠さん、どういう事ですの!?」

「……ま、って!! 勇気を振り絞って頑張った結果、人生設計が狂いかけてるから、ちょっと待って!!」

「本当に何があったんだ!?」

「えっ、トガに何かしたの!? あ、だからぐずってたのか……」

 

 顔を両手で隠していると、指の隙間から葉隠ちゃんが困っているのが見えるも、自業自得ですとカチカチ鳴る歯をおさえる。

 

「……渡我、暫くこっちに避難しときな」

「……それが良いわ」

 

 そして、梅雨ちゃんと耳郎ちゃんの間に座らされる。それで、なんとか一息つこうとしたらぐわぁっと峰田くんが身を乗り出してくる。

 

「なあ!? 何されたんだよ!? えっちな事ってどう――――!?」

「お! そろそろ次の試合が始まるぞー」

 

 スパァンと、梅雨ちゃんの舌が峰田くんを弾き、瀬呂くんが私に飴玉をくれながら峰田くんを遠ざけ、ステージを指差す。

 

 あ、そうでした。

 衝撃がありすぎて、今が雄英体育祭中だった事を忘れかけていました。皆もハッとした様子で盛り上がっていた会話を「後でね!」と中断して、試合に集中しようとする。……相澤先生の教育の賜物を感じつつ、流石のヒーロー科です。

 1人だけ、ひたすらイライラしている爆豪くんが癒しにも見えてきました。

 

(……なんかもう、疲れました)

 

 予想外の事がありすぎです。

 まさかの怪我は増えるし、弟子までできるしで、今日を終わらせたい気分です。

 

「……はぁ」

 

 でも、普通科と芦戸ちゃんの教育の為に、もうちょっと頑張りましょう。

 

 ……そういえば、飯田くんと発目さんの試合は見逃しちゃったんですね。

 耳郎ちゃんの肩に頭を預けながら、少し勿体なかったと欠伸していると、梅雨ちゃんが飴の包装を破いて「あーん」と私の口に転がしてくれる。……おいしい。

 

「ん」

 

 梅雨ちゃんの指をペロッとして、飴玉を味わいながら目を閉じる。……気持ちが籠った贈り物に旨味を感じるおかげで、ただの飴玉が夢心地の甘味です。

 

「……やっぱり、教育は必要だと思うの」

「……そうだね。ウチも、葉隠みたいに人生設計が狂うのは困るし」

 

 何やら難しい話をしだす2人の間で、コロコロと飴玉を転がしながら見つめれば、プレゼント・マイクが叫び、試合が始まる。

 

 途端、駆け出した2人の拳が、火花を撒き散らしてぶつかり合う。

 

「トガ、どっちが勝つと思う?」

 

 瀬呂くんの声に「んぅ」と、少し考えて「鉄哲くんだと思います」と返事をする。それに、周りと、ついでに聞いていたのかB組の数名が反応する。

 

「そうなの!? 切島ってば負けちゃうの!?」

 

 と、ずいっと耳郎ちゃんに乗り上げる様に聞いて来る芦戸ちゃんに、この子は、と目を細める。

 

「芦戸ちゃん」

「! はい」

「サービスですよ? 自分で考える事をやめてはいけません。……あの2人の実力は同程度であり、“個性”による有利不利もありません」

「はい。……でも、その場合は互角じゃないの? トガは、切島の方が負けると思うんだよね?」

「はい。鉄哲くんは、騎馬戦で体力を温存させましたから」

「あ」

 

 目と口を丸くする芦戸ちゃんに、肩をすくめる。

 

「なので、鉄哲くんは騎馬戦で我慢させた分の鬱憤を、ここで気持ち良く発散する筈です」

「……」

 

 いまだ興奮状態のワンちゃんである、体力が有り余っている鉄哲くんと、騎馬戦で楽しく遊び回ってお疲れになった切島くん。

 

 軽く足を組んで、師匠として芦戸ちゃんの疑問にちゃんと答えてあげる。

 弟子にすると決めた以上、遊びじゃないんです。

 

 教育に手を抜いて、下手に知識と力をつけた状態で離れられて、勝手な行動をして教えを無視した挙句の大参事……なんて、筆舌に尽くしがたい程に困りますからね。

 

「…………」

 

 芦戸ちゃんの心身を、私に都合よく鍛える為なら、たとえ夢だろうと()だろうと利用します。

 大嫌いな相手と笑顔で握手する事になろうとも、芦戸ちゃんを育てる環境がおまけでついてくるなら……問題はありますけど受け入れます。

 

「……芦戸ちゃん」

「はい!」

「この試合を、目に焼き付けて学んでください。自分が同じ状況に陥った際、無様な骸を晒す事を許しません。対策も考えるんですよ」

「はい!」

 

 元気よく返事して、気合十分、とばかりにステージに集中する芦戸ちゃんを横目に「……ふあ」我慢していた欠伸を漏らす。

 ステージで戦う切島くんと鉄哲くんは、雑に拳をぶつけあっている。……こうして見ると、ヒーロー科の基準値が分かって、参考になりますね。

 

「……渡我は、この試合を見てどう思う?」

「ふあい? 頑張ってるなーって思います」

「……そうじゃなくて」

 

 耳郎ちゃんが変な顔をして、芦戸ちゃんに肘を当てながら目配せする。気づいた芦戸ちゃんが少し困った顔をして、チラチラと2人の戦いを見ながら「あ、あのさ」と、私に質問する。

 

「トガは、この試合ってどう思う?」

「なんです、芦戸ちゃんまで。……稚拙で杜撰、頭を使っていないから無駄に長引いていますね。一撃も軽いし、長引きそうな分、疲れそうだから頑張ってるなーって思います」

「……うわぁ」

「?」

 

 芦戸ちゃんが項垂れ、耳郎ちゃんが「ウチと違う……」と唇を尖らせ、梅雨ちゃんが「……シビアだわ」と、呟く。

 

「……渡我さんぐらいの実力者だと、そう見えるのか。……参考になるよ」

「オイラには、あのパンチもめちゃくちゃ痛そうなのにな……」

「っ。次の試合も、全力を尽くします。被身子さんに、情けない所は見せられません!」

「…………ッ!!!!」

「ごめん、誰か席変わって! 爆豪くんが怖いよ!」

 

 ざわざわする皆をよそに、尾白くんの尻尾の先端をわしゃわしゃしながら芦戸ちゃんを見れば、彼女は難しい顔で拳を握っている。

 

「ねえトガ、アタシも切島達みたいに、殴り合いに強くなった方がいい?」

「? 唐突に短慮な発言をしないでください」

 

 変な事を言いますね、と首を傾げれば、芦戸ちゃんがズーンと落ち込む。

 

「……ごめんなさい」

「と、渡我、流石に厳しすぎだって!」

「? まだ何もしてないです」

 

 それにしても、芦戸ちゃん也に自分に足りないものを補おうとする姿勢は好ましいですが、どうにも私、師匠として低く見積もられている様ですね。

 

 ハァ、と軽く溜息をつけば、芦戸ちゃんがビクッとする。

 

「芦戸ちゃん」

「は、はい……」

「焦らなくていいですよ」

「え……」

「私が、芦戸ちゃんを強くします。……ですので、殴り合いに強くなればいい? なんて、当たり前の事を確認しないでください。……間違っても、ソレだけで満足しないでください」

「……! はい」

 

 芦戸ちゃんが目をキラキラさせて私を見ますが、試合を見ろと見据えれば、慌ててステージに集中する。……まったく。

 

「ちょっとちょっと」

 

 ふあ? 耳郎ちゃんが、なんだか拗ねた顔でつんつんと突いてくる。

 

「……ウチと芦戸で、態度が違う」

「?」

 

 むにーっとほっぺ引っ張られる。なんなんです?

 

「……ねえヒミコちゃん」

「はふ?」

「参考までに、切島ちゃんはどんな特訓をするべきかしら?」

「? 切島くんですか、頑張ればいいと思います」

 

 尾白くんの尻尾にあしらわれながら答えると、梅雨ちゃんが「……そう」と頷く。

 

「……三奈ちゃん、お願いするわ」

「う、うん。……トガ、切島はどう特訓するといい? というか、トガならどう強くする?」

「芦戸ちゃんは、人の事より自分の脆弱さを心配してください」

 

 うーん。

 集中力の無い芦戸ちゃんに呆れて、そろそろオシオキも考えるべきかと流し目をおくる。

 

「ごめんなさい!!」

「……次はありませんよ? 切島くんなら、まずは攻防をあげる為に速さと重さを伸ばします。足腰の強さと柔軟性を鍛える為に色々したいですが、基礎が足りていないので体力づくりからです。……ちなみに、芦戸ちゃんも暫くはソレです」

「……はい!」

 

 ぴんっと背筋を伸ばして、ぐっと唇を引き結んで殴り合う2人を真剣に見つめる芦戸ちゃん。

 まったく、と肩をすくめつつ、尾白くんの尻尾を枕にする。

 

「……ヒミコちゃんは、スパルタね」

「……高校生基準じゃ充分に見えるけどね。渡我が凄すぎるんだっての」

 

 またほっぺを抓られて、ふあ、っと声がもれる。

 凄いと褒めて貰えるのは嬉しいですけど、私の強さは色々な意味でダメだと思います。

 

 まず、普通じゃないですし、私の場合は悪夢に抗った結果であり、師匠と呼べる存在もいません。あえているとすれば、それは悪夢で戦った彼ら彼女らでしょうか? とても参考になりました。

 

(私も最初は、ボッコボコにされましたからねぇ……)

 

 当初は7歳の子供だったので、圧倒的に身体能力と手足の長さが足りなかったのです。

 おかげさまで頭を砕かれるわ眼球に指を突っ込まれて脳をかき回されるわ生きたまま喰われるわと、散々でした。

 

 泣いて喚いてヤだって言っても、終わらない痛みが延々と繰り返され、逃げても臭いを辿られ血に飢えた獣に殺されてと、当時の恐怖と絶望、憎悪と屈辱が吐き気を伴って胸を焦がし、懐かしさにほっこりする。

 

「……♪」

 

 やっぱり、渡我被身子が酷い目にあっている記憶は心を穏やかにしてくれます。私は、渡我被身子や()が大嫌いなので、しょうがないんです。

 

(だから……)

 

 渡我被身子に近い癖に、私の事を好きだと、好意を隠さない()が気持ち悪い。『成長』を見せられ、根本から負けた気がして受け入れられない。

 

(……だから)

 

 そんな、歪んで壊れた私と、お友達になってくれたお茶子ちゃんは、特別なんです。

 

 そして、こんなおかしな私の隣に立ちたいと、両手を捧げて願った芦戸ちゃんが、大切になったんです。

 

「……」

 

 思考を巡らせていると、試合が終了したらしく、大音量の歓声にハッとする。

 

 A組の面々が残念そうな声をあげて、視線をステージに向ければ、予想通り鉄哲くんが立っている。

 嬉しそうな顔で、ボロボロの姿で両腕をあげて勝利を喜び、そして目があうと嬉しそうに手を振ってくれる。

 

 カァイイなぁ。

 

 手を振り返しながら目を細めて、一緒にチームを組んだ庇護対象の鉄哲くんや塩崎ちゃん、心操くんの3人も、大切にしてあげたいと思う。

 

 和んでいたら、すぐに次の試合が始まるらしく。「あ」と声がでる。

 気づけば、緑谷くんと飯田くんが戻ってきている。そして、爆豪くんがいない。

 

「…………」

 

 知らず、自分の胸をおさえる。

 私は、この状況でどんな心の動きをするのでしょう? 未知を前に、小さな期待を覚える。

 

 

『中学からちょっとした有名人!! 堅気の顔じゃねえ、ヒーロー科爆豪勝己!! 対……俺こっち応援したい!! ヒーロー科、麗日お茶子!』

 

 

 お茶子ちゃんの、試合がはじまります。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭を雑に楽しむスレ3

 

 

601:名無しのヒーロー

そろそろ第一試合が始まるな

 

602:名無しのヒーロー

今年は一年ステージの注目度が高いな

視聴率に期待度が込められている

 

603:名無しのヒーロー

第一試合から緑谷くんと心操くんの個性不明対決だしな

個性予想スレも盛り上がってる

 

604:名無しのヒーロー

渡我ちゃんの個性って判明した?

 

605:名無しのヒーロー

ちやほや具合から『魅了系』かもと意見がでるぐらいには謎

 

606:名無しのヒーロー

あの戦闘力でそれはないだろ・・・

 

607:名無しのヒーロー

考察スレは有料版がおすすめだぞ

 

608:名無しのヒーロー

いいえ、あそこは(ガチすぎるので)遠慮します

 

609:名無しのヒーロー

特定に命を削るタイプの変態スレだしね

ちなみに、そちらでも渡我ちゃんの個性はアンノウンです

 

610:名無しの特定班

なんなのあの子?

緑谷くんや心操くんと違って個性を使ってる上で謎なのがやばいです

 

611:名無しのヒーロー

障害物競走では順位予想した上で最下位に甘んじ、騎馬戦では試合終了直前に一位をつかみ取るアンノウン少女

 

【一般生徒に囲まれてご飯を食べさせて貰ってる渡我ちゃんの画像】

 

612:名無しのヒーロー

文面から読み取れる実力と視覚から得られる情報がラグるのバグですか?

 

613:名無しのヒーロー

緑谷くんと心操くんでてきた!

 

614:名無しの張り付き

やっと始まるのかw

騎馬戦からテンション上がったまんまだwwww

 

615:名無しのヒーロー

衝撃と感動がずっとおさまらん

 

616:名無しのヒーロー

つい、一年ステージに過剰な期待をしてしまう自分がいる

 

617:名無しのヒーロー

あの感動をもう一度、ってやつだな

 

618:名無しのヒーロー

流石にもう無いと分かっていても、スーパープレイを期待してしまう

 

619:名無しのヒーロー

渡我ちゃんがまた何かしてくれるって信じてる!!!!

 

620:名無しのヒーロー

歓声すごいな、音量下げたわ

 

621:名無しのヒーロー

歓声も凄いけど、プレゼント・マイクもノリノリだな!

 

622:名無しのヒーロー

おやおや?

試合開始前から舌戦が繰り広げられてますね~?

 

623:名無しの張り付き

任せろ!

 

『いいご身分だよな、お前ら』

『え……?』

『襲撃の時に、何があったか知らないけど……なんで渡我さんだけ重症なんだ?』

『! ……それは』

 

デリケートな話題ですた・・・

 

624:名無しのヒーロー

>>623 

そ、そこに触れるのは反則だろ!?

 

625:名無しのヒーロー

>>623

なるほど、精神攻撃で揺さぶろうって魂胆だな?

 

626:名無しの張り付き

 

『リカバリーガールの“個性”でも治らない大怪我を、あの人だけが負って、お前らが無事なのはおかしいだろ? ……つまり』

『……っ!!』

『お前らは、揃いも揃ってあの人だけを生贄にして、無傷で生還したんだろう!?』

『何てこと言うんだ!!』

 

はわわ・・・

 

627:名無しのヒーロー

>>626

コメントしづれぇ・・・

(実はちょっとそんな可能性も考えていた・・・)

 

628:名無しのヒーロー

>>626

この件に関しては当事者でない以上、我らも心操くんも言葉を慎むべきだが・・・

(実際、そう考えるに足る材料が揃っている)

 

629:名無しのヒーロー

1人だけ怪我の度合いがなあ・・・

明らかな非戦闘員ならともかく、渡我ちゃんスペック激高なのよね

 

630:名無しのヒーロー

とはいっても、推測だけで論ずるには際どい話題だと思う

あと緑谷くんの様子おかしくね?

 

631:名無しのヒーロー

明らかにダメっぽいですね

 

【心ここにあらずな表情で立ち尽くす緑谷くんの画像】

 

632:名無しのヒーロー

アホ面ってw

心操くんの個性か?

 

633:名無しのヒーロー

そしてその件の当事者ともいえる渡我ちゃんがこちら

 

【眠たげな表情でスチール缶を潰している渡我ちゃんの画像】

 

634:名無しのヒーロー

・・・????

 

635:名無しのヒーロー

握力どうなってんの!?

 

636:名無しのヒーロー

落ち着けw

もしかしたらアルミ缶偽装の可能性もある

 

637:名無しのヒーロー

いいえ、あれはスチール缶です

 

638:名無しのヒーロー

くそ・・・

試合が気になるのに、潰している瞬間を探してしまう自分がいる

 

639:名無しのヒーロー

あるぜ・・・!

 

【渡我ちゃんが苦もなく指先だけでスチール缶を曲げている動画】

 

640:名無しのヒーロー

ゴリラかな????

 

641:名無しのヒーロー

スチール缶って二重四重に折れるものだっけ?

 

642:名無しのヒーロー

あ、圧縮してゴミに出すなんて環境に優しいな~・・・

 

643:名無しのヒーロー

見どころが多いわ!!!!

 

644:名無しのヒーロー

心操くんの個性は『洗脳』で確定かな

 

645:名無しのヒーロー

特定スレはどこも『洗脳』で満場一致してるね

 

646:名無しのヒーロー

緑谷くん無念だろうな・・・

 

647:名無しのヒーロー

洗脳って強個性がすぎる

 

648:名無しのヒーロー

なんだこれ?

爆発っていうか、暴風?

 

649:名無しのヒーロー

緑谷くんの個性か!?

 

650:名無しのヒーロー

うわ、指折れてるじゃん

 

【緑谷くんの折れた指のアップ画像】

 

651:名無しのヒーロー

痛そう・・・

 

652:名無しのヒーロー

あー・・・自爆系の個性だったのか

そりゃ滅多に使えないわ

 

653:名無しのヒーロー

え、なに?

 

654:名無しのヒーロー

おやおや~?

 

【なにやら目と目で通じ合っている渡我ちゃんと緑谷くんの動画】

 

655:名無しのヒーロー

やめてあげてw

心操くん動揺してるじゃないw

 

【その様子を驚愕の表情で見ている心操くんの画像】

 

656:名無しのヒーロー

甘酸っぱい予感を覚えつつ、本人たちはそれどころじゃなさそう・・・

 

657:名無しのヒーロー

もしかして

心操くんの個性の条件って会話なのか?

 

658:名無しのヒーロー

あーそれっぽい

 

659:名無しのヒーロー

試合前に煽ってたのはそれか

 

660:名無しのヒーロー

緑谷くん、相変わらず地味なのに凄いな。情報分析が得意とみた

 

661:名無しのヒーロー

うわ、血がでてる

 

662:名無しのヒーロー

緑谷くんひるんでない!

 

663:名無しのヒーロー

これは・・・

心操くんも頑張ってるけど地力の差が目立つな

 

664:名無しのヒーロー

あ、つらい・・・

心操くんの叫びに、今までどんな扱いだったのか悟ってしまった

 

665:名無しのヒーロー

洗脳は・・・なあ

 

666:名無しのヒーロー

子供は想像力が豊かだから、環境によっては針の筵かもね

 

667:名無しのヒーロー

背負い投げ決まったー!!!!

 

668:名無しのヒーロー

おめでとう!

緑谷くん二回戦進出!!

 

669:名無しのヒーロー

心操くんも頑張ったな!

おつかれさま!

 

670:名無しのヒーロー

モニターに拍手しまくってる

 

671:名無しのヒーロー

勝手に背景を想像しちゃって、負けちゃったけど心操くんを応援したい気持ちが止まらない

 

672:名無しのヒーロー

心操くん、ヒーロー達に好意的に受け止められてるな

 

673:名無しのヒーロー

やっぱり、個性には良し悪しがあるけど使い手次第なんだよなあ

 

674:名無しの貼り付け

 

『……心操くんは、何でヒーローに』

『憧れちまったもんは、仕方ないだろ』

『…………!!』

 

心操くん・・・

 

675:名無しのヒーロー

強い子だな・・・

俺ならそこまでできんわ

 

676:名無しのヒーロー

普通科で、最終種目まで残って大観衆の前で敗北か・・・

 

677:名無しのヒーロー

雄英だから、負けた生徒のケアもプロ並にしてくれると信じてる・・・

 

678:名無しの張り付き

泣いてる

 

『かっこよかったぞ心操!』

『俺ら普通科の星だな!』

『障害物競走一位の奴と良い勝負してんじゃねーよ!!』

『それに、お前の憧れの人も応援してたんだぜ!』

『羨ましいぞこのやろー!』

 

もう雄英大好き・・・

 

679:名無しのヒーロー

>>678

なにこれ、あったけえ

 

680:名無しのヒーロー

>>678

普通科も良い子ばっかじゃん!!

皆でヒーローになれよぉ!!

 

681:名無しのヒーロー

ヒーロー科の定員がなあ・・・

 

682:名無しのヒーロー

雄英って、バカみたいな倍率を誇るエリート校だからな・・・

 

683:名無しのヒーロー

普通科の子たちが自然と道をあけて、渡我ちゃんが登場

 

684:名無しのヒーロー

し、心操くん、めっちゃ複雑そうな顔してる

 

685:名無しの貼り付き

あっあっ・・・

 

『……すみません。渡我さんが、ここまで引っぱりあげてくれたのに。……負けました』

『……』

『……俺、中途半端で……やっぱり、こんな“個性”がヒーローなんて、分不相応で……渡我さんにも、迷惑をかけました』

 

緑谷くんも暗い顔してる・・・

 

686:名無しのヒーロー

>>685

シンプルにつらい・・・

 

687:名無しのヒーロー

>>685

勝敗によって、明暗がここまで分かれるのが雄英の体育祭だよ・・・

 

688:名無しのヒーロー

>>685

あの、テレビで実際にマイクが音を拾ってて・・・声が震えてて・・・

 

689:名無しのヒーロー

普通科の面々が、すがる様な視線を渡我ちゃんにむけてる

 

690:名無しのヒーロー

まあ、どう考えても心操くんの憧れの人って渡我ちゃんだろうしな

 

691:名無しのヒーロー

まてまてまて!

こんな重苦しい人生の分岐路的解答は大人の先生に任せなさい!!

下手な返答したら悔恨を残すってこんなん!!

 

692:名無しの張り付き

渡我ちゃん・・・

 

『君は、ヒーローになれます』

 

693:名無しのヒーロー

>>692

・・・びびった

テレビもこの2人を映してるし、歓声も大人しくなってる

 

694:名無しの張り付き

 

『……、え』

『オールマイトにも救えない誰かを、救けられる凄いヒーローになれます!』

 

渡我ちゃん言い切ったよ・・・

 

695:名無しのヒーロー

えっ、声に欠片も迷いが無いんだけど

 

696:名無しのヒーロー

自分691だけど・・・こんな人生を左右するだろう解答を、そんな声色で言い切るとは思わなかった・・・

なんなのこの子?

 

697:名無しのヒーロー

オールマイトにも救えない誰かを・・・とか

心操くんめちゃくちゃ認められてるじゃん

 

698:名無しの張り付き

 

『……渡我、さん』

『まずは、身体を鍛えましょう』

『……ぁ』

『あと、話術ですね。北風と太陽です。緑谷くんタイプに北風は逆効果です』

『……っ』

『そして、君はもっと、この声を聞くべきです』

 

今、心操くんへの応援の声がひっきりなしにあがってる・・・

 

699:名無しのヒーロー

>>698

やばい、涙腺が壊れた・・・

 

700:名無しのヒーロー

>>698

俺にも、こんな風に言ってくれる誰かがいたら

何か変わったのかな・・・

 

701:名無しのヒーロー

>>698

感動的だが、渡我ちゃんが塀を乗り越えてけっこうな高所から着地した事に目を剥いてしまった

 

702:名無しのヒーロー

猫みたいにするっと落ちたよね・・・普通科の子たち悲鳴あげてたぞ

 

703:名無しのヒーロー

心操くんの頭を何事もなく撫でてるけど、誤魔化されねえぞ!?

 

なんだその運動神経!?

 

704:名無しのヒーロー

情緒が混乱してる・・・

 

705:名無しの張り付き

 

『聞こえますか、心操くん。……貴方は、凄い子です!』

 

706:名無しのヒーロー

>>705

テレビから聞こえる渡我ちゃんの声、優しいから泣く・・・

 

707:名無しのヒーロー

>>705

気負いなく、当たり前の事を言っている自然さが

余計に染み込むわ

 

708:名無しのヒーロー

・・・渡我ちゃんの声きくと、この子本当に学生なのか疑わしいな

落ち着きっていうか、精神年齢? いや、心の完成度的な意味で

 

709:名無しの張り付き

 

『……おれ、ぜったい、あきらめません……っ!!』

 

心操くんの涙に、渡我ちゃん動揺してるw

 

710:名無しのヒーロー

>>709

あら可愛い

 

711:名無しのヒーロー

>>709

そりゃ感極まって泣くだろ。見ている俺らも泣いてるわ

 

712:名無しのヒーロー

>>709

渡我ちゃん、心操くんの腕を引きつつステージの緑谷くんに救けを求めてるw

 

713:名無しのヒーロー

緑谷くんなら、折れた指放置で渡我ちゃん達を見守ってるよ

 

714:名無しのヒーロー

はやく治療しなさい!

若い子は無茶ばかりする・・・

 

715:名無しのヒーロー

勝者だからこそ、この光景に思うところがあるんだろ

 

716:名無しのヒーロー

なんていうか、心操くんに勝ったのが緑谷くんで良かったな

 

717:名無しのヒーロー

なんか、余韻で胸がいっぱいだ

これが第一試合とか嘘だろ・・・?

 

718:名無しのヒーロー

主に、渡我ちゃんの神対応に涙が止まらない

 

719:名無しのヒーロー

あの数分のやりとりで、彼女がA組最強って意味が分かったわ

 

720:名無しのヒーロー

空気を読んで我慢してた分をお裾分け

 

【心操くんの頭を撫でる、慈愛を感じる渡我ちゃんの画像】

 

【心操くんが泣いて、へぁ? っと動揺してる渡我ちゃんの画像】

 

【緑谷くんに頭を下げられて、腑に落ちない顔で手を振る渡我ちゃんの画像】

 

721:名無しのヒーロー

>>720

この子の表情の落差に飽きる気がしない

 

722:名無しのヒーロー

>>720

渡我ちゃんって感情がちょこちょこ顔にでるねw

 

723:名無しのヒーロー

そうそう

 

【スチール缶を潰しながら、冷めた瞳でステージを見下ろす渡我ちゃんの画像】

 

724:名無しのヒーロー

落差ぁ・・・

 

725:名無しのヒーロー

リアルに変な声でたわ

 

726:名無しのヒーロー

温度差で風邪ひくどころかグッピーがお亡くなりになっちゃう・・・・

 

727:名無しのヒーロー

そろそろ第二試合だな

 

728:名無しのヒーロー

渡我ちゃんは無事に回収された模様

 

【ポニーテール女子とピンク女子に支えられながら、眠そうに歩いている動画】

 

729:名無しのヒーロー

>>728

そういや、気づいたらいない状態だったなw

 

730:名無しのヒーロー

ポニーテールの子、めちゃくちゃ探してたもんなw

 

731:名無しのヒーロー

自然と拝んでしまう

 

732:名無しのヒーロー

尊い光景だよな・・・

 

733:名無しのヒーロー

そのままポニーテールっ子のお膝で眠りだす渡我ちゃん・・・

 

734:名無しのヒーロー

起きなさいwwww

 

735:名無しのヒーロー

君達、実は同中だったりしない?

 

【満ち足りた優しい笑みで渡我ちゃんの頭を撫でるポニーテールっ子の動画】

 

736:名無しのヒーロー

無料版スレで、それは無いと否定されている

 

737:名無しのヒーロー

仲の良さが二ヶ月そこそこじゃないですね・・・?

 

738:名無しのヒーロー

渡我ちゃんだからね

 

739:名無しのヒーロー

なんの説明にもなっていないのに、納得してしまう自分がいる・・・

 

740:名無しのヒーロー

いや、ヒーロー科には大なり小なり世話好きが集まるだろ?

そんな中に、甘やかしても大丈夫な渡我ちゃんがいたら、こうなっても不思議じゃない

 

741:名無しのヒーロー

・・・????

 

742:名無しのヒーロー

あー・・・ちょっとわかったかも

そういう角度で見れば、渡我ちゃんって安心して甘やかせる子なのか

 

743:名無しのヒーロー

どういうこと????

 

744:名無しのヒーロー

人って甘やかしていくとダメになっていく生き物だけど、渡我ちゃんはすでにA組最強の実力者かつ精神面も完成してるっぽいから、全力で構い倒しても大丈夫って事じゃね?

 

745:名無しのヒーロー

なるほど・・・?

確かに、渡我ちゃんならどれだけお世話しても大丈夫そうな気はする

 

746:名無しのヒーロー

若干の疑問は残るが・・・

騎馬戦前のアレを見ても、慣れ合いを切り捨てて自分の意志を通せる子っぽいね

 

747:名無しのヒーロー

友達の世話好きヒーローが、なにそれめっちゃ構い倒したい・・・とか言ってる

 

748:名無しのヒーロー

渡我ちゃんが過剰に甘やかされる理由の一端が分かったわ

 

749:名無しのヒーロー

女子だけじゃなく、男子もちょこちょこ渡我ちゃんに構ってるしな

 

750:名無しのヒーロー

しかもこの子、まだ実力の底が見えないんですよ

 

751:名無しのヒーロー

第二試合はじまるな

 

752:名無しのヒーロー

轟くんVS瀬呂くんか

 

753:名無しのヒーロー

瀬呂くんwwww

 

地味って、プレゼント・マイクも容赦ないな

 

754:名無しのヒーロー

そこまで言ってやるなよ・・・

逆に轟くんが目立ちすぎるともいうけどさw

 

755:名無しのヒーロー

うお速攻!?

 

756:名無しのヒーロー

・・・あらーw

 

757:名無しのヒーロー

氷の規模ぉ・・・

 

758:名無しのヒーロー

瀬呂くんの勝ちか!? と、そう思っていた刹那もありました・・・

 

759:名無しのヒーロー

轟くんやっべえ・・・

 

760:名無しのヒーロー

ちょw

 

【轟くんの個性に巻き込まれて、防護服が壊れて素顔露出したミッドナイトの画像】

 

761:名無しのヒーロー

相変わらずお美しいですねファンです!!

 

762:名無しのヒーロー

ネットのコメントも凄い事に・・・

 

763:名無しのヒーロー

色々な意味で見どころありすぎる試合になったなw

 

764:名無しのヒーロー

ミッドナイトめっちゃ慌ててるw

 

765:名無しのヒーロー

なんか観客席の方を気にしてる?

 

766:名無しのヒーロー

スタッフに予備の防護服を準備させてる、だと!?

なんで予備があるんですか!!??

 

767:名無しのヒーロー

どんまいコールwwww

 

768:名無しのヒーロー

轟くん、二回戦進出おめでとう!!

 

769:名無しのヒーロー

なんでそこまで防護服を着たがるの?

 

770:名無しのヒーロー

防護服の下もしっかりお化粧してるのに・・・

 

771:名無しのヒーロー

おまいら、ミッドナイトの素顔に執着しすぎだ落ち着けwwww

 

772:名無しのヒーロー

瀬呂くんが無事に救出されたな

 

773:名無しのヒーロー

ミッドナイトも引っ込んだし、次の試合まで時間がかかりそう

 

774:名無しのヒーロー

轟くん凄すぎて、個別スレがお祭り状態になってるw

 

775:名無しのヒーロー

すでにA組全員のスレがたってるの凄いよな・・・

 

776:名無しのヒーロー

渡我ちゃんと轟くんと爆豪くんスレが伸びまくってるな

 

777:名無しのヒーロー

第二試合、凄かったけど消化不良だから次に期待

 

778:名無しのヒーロー

上鳴くんVS塩崎ちゃん

 

779:名無しのヒーロー

第三試合はじまった!

 

780:名無しのヒーロー

ステージも無事に乾いて良かったわ

 

781:名無しのヒーロー

両者睨みあって・・・と思ったら、プレゼント・マイクw

 

782:名無しのヒーロー

ああいうガチの返答に弱いんだなw

 

783:名無しのヒーロー

塩崎ちゃんwwww

 

784:名無しのヒーロー

試合前なのに和むからやめてwwww

 

785:名無しのヒーロー

上鳴くんもナンパするんじゃありませんwwww

 

786:名無しのヒーロー

なんだこの試合wwww

 

787:名無しのヒーロー

そして瞬殺ですねwwww

 

788:名無しのヒーロー

本当に、なんなんだこの試合wwww

 

789:名無しのヒーロー

塩崎ちゃん二回戦進出おめでとう!!

 

790:名無しのヒーロー

上鳴くんwwww

 

791:名無しのヒーロー

もう流れが完璧すぎてお腹痛いwwww

 

792:名無しのヒーロー

なんだ、この愛すべきおバカはwwww

 

793:名無しのヒーロー

上鳴くんスレが一気に賑わってきたwwww

 

794:名無しのヒーロー

塩崎ちゃんも天然可愛いしで、腹筋われちゃうwwww

 

795:名無しのヒーロー

まさかの癒し回だったwwww

 

796:名無しのヒーロー

個人的に次の試合が本番だから、良い感じに肩の力が抜けたわ

 

797:名無しのヒーロー

渡我ちゃんVS芦戸ちゃん

 

798:名無しのヒーロー

やばい

楽しみすぎて過呼吸になってきたw

 

799:名無しのヒーロー

この時を待ちわびていたぜぇ!!!!

 

800:名無しのヒーロー

って、おいwwww

渡我ちゃんマジかよwwww

 

801:名無しのヒーロー

対戦相手に、おんぶされてるwwww

 

 

 





※ おまけな芦戸ちゃんのトガちゃんへの心境について。


 初期→登校初日に教室で熟睡している姿にびっくりした。
 大物なのか天然なのか分からないけど、面白そうな子だと興味をもった。
 でも、すぐに尋常じゃなく眠そうな様子に(“個性”の影響? それとも病気?)と心配していたら『“誰か”を蹴落とすのが前提のテストなんて、やる気がでる訳ない』発言にハッとした。
 良くも悪くも、その台詞に集中を乱されながら、持ち前の明るさで切り替えて9位の成績をおさめる。
 そして、最初から最後までただの一度も実力を見せず最下位を貫いた(様に見える)彼女の眠たげな横顔に、テストとはいえ、誰かを蹴落として上にいく事を良しとせず、自分が蹴落とされる側になる事を躊躇しない背中が大きく見えて……こっそりと一目置く様になる。



 テスト後→まさかの生活破綻者である事が判明して驚愕した。
 翌日も、麗日さんから詳しく話を聞いて、住んでいるアパートの立地の悪さとか、四隅の黒ずんだ塩とか、壁に貼られているお札とか、室内に一歩踏み込んだ途端に感じた悪寒や息苦しさ等々を聞いて青ざめた。
 そして、主な私物が洋服ダンスと椅子一脚しか無かったという事実に愕然とした。皆でいっぱいトガちゃんを気にかけようと、後から話を聞いたA組の面々(一部例外有り)の団結力が強くなった。



 戦闘訓練→緑谷くん達の戦いで上がっていたテンションが熱を持ったままヒヤリとした。
 個性テストでわざと最下位をとった彼女の実力は未知数で、皆でおしゃべりしながら興味深く見守っていたけど、凄すぎて言葉を失った。
 自分なら、回避不可能だろう初手の氷を葉隠さんを守りながら回避した。その後も無駄を削ぎ落とす様な迷いの無い動きで障子くんを無力化し、轟くんを騙しきった。何よりオールマイトの称賛が印象的だった。『特に、あの場で轟少年に襲い掛かるのではなく、核の部屋まで()()()()()()()事が素晴らしい! 君たちぐらいの年の子は、チャンスがあれば1人で解決したがるものだからね!』と、チームプレイを意識した動きを褒めちぎり『渡我少女のメンタルは、すでにプロ並みかもしれないね』と、感心する声に、彼女の凄さの片鱗を感じた。



 警報時→トガちゃんの眠そうな顔に、自分も含めてクラスメイト達はパニックを免れた。薄く開いた瞳が浮かべるつまらなそうな色を見て(あ、大丈夫なんだ)と落ち着いた。
 そして、片腕で抱きあげられるクラスメイト2人が羨ましかった。軽々と運ばれて人込みに逆らいながら流れに身を任せる魚の様な動きに驚き、自分たちは怒涛の人込みに押し流された。普通に足も踏まれたし、ぶつかったりして多少の怪我をした。


 USJ→何もできなかった。

 芦戸三奈は、最初から最後まで、本当にただ見ている事しかできなかった。

 大量の血が舞い上がり飛び散っている。13号を庇う様にトガちゃんが飛び出し、その細い腕が削れて血が噴き出している。
 何が、起きたのか数秒分からなくて、トガちゃんが血を撒き散らしながら、脂汗と涙を浮かべながら敵の背後に移動して、隙無く攻撃しているのを見て(え? ぁ、なんで……え!?)混乱した。
 周囲に血の匂いが溢れて、真新しい血が場違いにキラキラして、飯田くんを逃がす為に、自分達を助ける為に、痛みに耐えて動いているのだと気づいて、喉奥から音にならない悲鳴があがった。
 初めて見る、痛みを堪える表情に胸が軋んだ。―――なのに、見ている事しかできなかった。他の子達は、自分の出来る事をしていたのに、ただ立ち尽くしていた。
 そして、飯田くんが外に出て、敵がいなくなりもう大丈夫だと思っていたら、手当てもそこそこに変な形の刃物を抜いて、行ってしまう。

 手を伸ばしたけど、その背中には届かない。

 どうして、と疑問を抱きながら、皆で慌てて階下を見て、目を見開いた。

 彼女は、誰かを守るために重症のまま駆けていったのだ。(※狩りの為です)

 相澤先生がピンチだったと気づいて、更なる衝撃にえぐづいた。一瞬でも先生の事を忘れていた己にも、先生と一緒に格上の敵と渡り合うトガちゃんの凄さも相まって、現実の何もかもに打ちのめされた。
 目に見えない攻防が一秒続くごとに、脆い心がガリガリと削られていく。
 もう見たくないと目を覆いたくなる、『死』の気配が濃厚な殺し合いに、歯の根が鳴った。
 13号も、他の生徒達を助けるために待機を厳命して駆け出していった。
 その場にいた者達は、瞬きをした瞬間、彼女が死ぬ幻覚を何度も見た。実際、自分達の誰かならとっくに終わっていると、見ている誰もが肌で理解していた。

 そして、事態は更に悪く動いていく。敵がワープして、主犯格の片手が、梅雨ちゃんの顔に伸ばされた瞬間、ゾワリと悪寒がして、やめて、と声をあげた瞬間、――――また、守ってくれた。

『梅雨ちゃんに』

 声は聞こえないのに、それでも聞こえた気がした。

『触らないでください!!』

 安堵の衝撃に膝から崩れ落ちる。
 あんな怪我で、水に落ちて、武器も投げ捨てて、それでも、救けてくれた。

 暫くして、梅雨ちゃんに水から引き揚げられ、意識を失っている姿に涙が止まらなくなる。
 戦闘服はズタズタで、シャツは赤く汚れて傷口から新たな血が溢れている。その酷い有様に、駆け寄って手を伸ばし、声をかける事すらできない。
 彼女の隣に立ち、その負担を一緒に背負う事ができない己の弱さに耐えられなくて、恐怖と不安以外の感情で胸を焦げ付かせた。

 そして、気絶から目覚めた彼女は、ボロボロなのに、それでも表情を歪めながら止まらなかった。止まってくれなかった。
 もう充分だろうと、皆がそれを知っているのに、オールマイトを救ける為に飛び込んで、爆豪くんを救ける為に前に出て、飛び出していった緑谷くんも救けてみせた。

 いつも眠そうな少女は、この場の誰よりも、オールマイトや駆けつけてきた教師陣よりも、ずっとずっとヒーローだった。

 その日、芦戸三奈の揺るぎなき憧れの名は、渡我被身子になった。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭を雑に楽しむスレ4

 

 

802:名無しのヒーロー

彼女は睡眠を愛しすぎているw

 

803:名無しのヒーロー

四肢の揺れ具合からガチ寝だと分かる

 

【どれだけ揺さぶられても目を開けない渡我ちゃんの動画】

 

804:名無しのヒーロー

腹筋が痙攣してるwwww

 

805:名無しのヒーロー

かつて、ここまで対戦相手にあやされる選手がいただろうか?

 

806:名無しのヒーロー

起きて渡我ちゃんw

芦戸ちゃんが不戦勝になっちゃうw

 

807:名無しの張り付き

起きた!!!!

 

『おはよぅ、ございましゅ?』

『おはよう! トガのバカ! もう少しで失格になるところだったじゃん!』

 

808:名無しのヒーロー

そうだね挨拶は大事だね!!??

 

809:名無しのヒーロー

めっちゃ目がしょぼしょぼしてて戦えるの????

 

810:名無しのヒーロー

プレゼント・マイクも声に戸惑いを滲ませるのやめろw

笑いと驚愕の温度差で辛いんだよw

 

811:名無しのヒーロー

真面目に大丈夫か?

渡我ちゃん九割寝てない?

 

812:名無しのヒーロー

芦戸ちゃん・・・君は頑張ったよ

 

【めちゃくちゃ後ろ髪を引かれながら渡我ちゃんを引き離している動画】

 

813:名無しのヒーロー

色々な意味でダメじゃないかなw

 

814:名無しのヒーロー

まだ始まってすらいないのに・・・w

 

815:名無しの張り付き

 

『トガさん、体調が優れないなら……』

『待ってください、トガはいつだって眠そうで、これで大丈夫なんです!』

 

マジでずっと眠い子なんだね・・・

 

816:名無しのヒーロー

>>815

もう病気とか個性の影響を疑うレベルの寝汚さだな

 

817:名無しのヒーロー

待って????今何が起きてそうなった????

 

【渡我ちゃんを掴もうとした芦戸ちゃんがポーンと投げ飛ばされている動画】

 

818:名無しのヒーロー

え????いや????おま????

 

【超スローにしてようやく渡我ちゃんが芦戸ちゃんの手を掴み返しているのが分かる動画】

 

819:名無しのヒーロー

手の動きがこうでそうでああなって????

ノータイムで投げ飛ばしたって訳ですね嘘だろ分かりたくありません

 

820:名無しのヒーロー

スローじゃなけりゃ芦戸ちゃんが1人で空を飛んだように見えたな・・・w

 

821:名無しのヒーロー

さっきまで寝てたじゃん!?

 

822:名無しのヒーロー

鮮やかすぎて怖い・・・

 

【なんとか着地した芦戸ちゃんの額を手の平でトンッ! して黒目を剥かせる動画】

 

823:名無しのヒーロー

人の額をトンッとしただけで意識を飛ばすって、何?

そういう個性なの? そうだと言って?

 

824:名無しのヒーロー

指先でそっと瞼を閉じてあげる優しさ・・・の後にほっぺふにふにする謎行動

 

825:名無しのヒーロー

もう特定スレが息してないの・・・

 

826:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんが意識を取り戻したけど、プレゼント・マイクの解説もあって混乱してるな・・・

 

827:名無しのヒーロー

同情を禁じ得ない・・・

渡我ちゃんは何がしたいんだ?

 

828:名無しのヒーロー

人間が想像より脆くてびっくりしたのかな?

 

829:名無しのヒーロー

どこの魔王の感想だよwwww

 

830:名無しの張り付き

 

『えっ!? ……トガ、何したの!?』

『……芦戸ちゃんを投げ飛ばして、着地を狙って攻撃しました』

『!? う、うん! そっか、それで頭がクラクラしてるんだ!』

 

受け入れちゃうの????

 

831:名無しのヒーロー

ガチでそんな事できちゃう技量持ちなのか?

 

832:名無しのヒーロー

本当にヤバ強なのかもしれん

 

833:名無しの張り付き

 

『い、痛くない、けど、なんか。……ちゃんと立てない!?』

『……脳に、衝撃がいく様にしたので』

『え!? それ大丈夫なの!?』

『大丈夫です……じゃあ、やりなおしましょう』

『……!?』

 

脳に衝撃・・・?

 

834:名無しのヒーロー

あのトンッでそんな事してたんだ・・・????

 

835:名無しのヒーロー

やりなおしって何?

眠そうで舌ったらずキュートだけど、今そのギャップいりません

 

836:名無しのヒーロー

渡我ちゃんが本気で分からない・・・

起こさなければ試合終了だったじゃん

 

837:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんそこそこ動けるのに、渡我ちゃんが歯牙にもかけてない

 

838:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんの個性は『酸』だから、直接攻撃は控えてるみたいだけど実力差ありすぎだろ・・・

 

839:名無しのヒーロー

特定の武術じゃなくて我流っぽいな

 

840:名無しの張り付き

渡我ちゃん・・・

 

『……芦戸ちゃん、何してるんです?』

『え……? あた!? こんの……!?』

『こんなに、分かりやすい弱点があるのに』

『いっつ!? ちょ、でこピン、ばっか……ッ、いったー!?』

『ダメじゃないですか。芦戸ちゃんは、私の怪我がどこにあるか知ってるでしょう?』

『……!?』

『ちゃんと、弱点は狙わないと』

『……あ』

『勝てないよ?』

 

圧倒的高みにいらっしゃる????

 

841:名無しのヒーロー

芦戸ちゃん・・・

『狙えるわけないでしょ!!』の心意気は素晴らしいけど、もう狙っていいと思う

 

842:名無しのヒーロー

それな!!

リカバリーガールがいるから大丈夫ってそういう問題じゃないけど、芦戸ちゃんは使っても許されるしハンデにもならないと思う!!

 

843:名無しのヒーロー

絶対に嫌ってこの実力差で言いきれる芦戸ちゃん格好良い・・・!!

 

844:名無しの張り付き

????

 

『アタシは、トガの怪我に触れないで、トガに勝つ!』

『……無理ですよ』

『無理は承知! でも……アタシたちを守って負った怪我を、狙いたくない!』

『……芦戸ちゃんの勘違いです。私は、誰も守れてないです』

 

845:名無しのヒーロー

は?

渡我ちゃんマジで言ってる? 芦戸ちゃんの表情が見えてない?

 

846:名無しの張り付き

 

『だから、気にしないでください』

『―――』

『私は、ただの愚か者です』

 

アウトー!!!!

 

847:名無しのヒーロー

>>846

はい

芦戸ちゃんの地雷を的確に踏み抜きましたね今

 

848:名無しのヒーロー

そうか!

 

この子EQが低いんだ!!

 

849:名無しのヒーロー

EQ?

ごめん何それ?

 

850:名無しのヒーロー

Emotional Intelligence Quotientの略

心の知能指数っていうか、共感指数とか情動指数とかそういうの

 

851:名無しのヒーロー

へー

それが低いと何かあるの?

 

852:名無しのヒーロー

まあ、EQが低いとサイコパス・・・いや、他者に共感できにくいというか・・・

色々あるんだけど・・・渡我ちゃんのは色々ちぐはぐだとは思う

 

853:名無しのヒーロー

サイコパスって、トガちゃんはヒーロー目指してるしそれは無いだろ?

 

854:名無しのヒーロー

渡我ちゃんの善性は今更疑うべきでもないしな

 

855:名無しのヒーロー

EQの低いヒーロー候補とかたまげたなあ・・・

他者と見解の相違が大きくて大変だろうに

 

856:名無しのヒーロー

渡我ちゃんw

更に失言して芦戸ちゃん激おこになってるw

 

857:名無しの張り付き

 

『トガ、歯はちゃんと喰いしばってね! アタシ、怒ってるから』

『……芦戸ちゃん?』

『ぐーで殴る!』

『……あの』

『本気だから!』

『いえ……それは良いんですけど……何で、怒ってるんですか?』

 

これはEQ低い(確信)

 

858:名無しのヒーロー

渡我ちゃん・・・

君のEQが低くとも良い子なのは分かってるけど、このタイミングでそれはアウトすぎて顔を覆ってる

 

859:名無しのヒーロー

よし!

ぐーで殴られろ!

 

860:名無しのヒーロー

渡我ちゃん、皆で怒るという台詞に観客席を見て驚いてるw

 

【スンっと表情が消えているA組の画像】

 

【叱られそうな予感に表情を強張らせて唇をむにむにさせている動画】

 

861:名無しのヒーロー

これwwww

A組の子達の顔wwww

 

862:名無しのヒーロー

本気で怒っていらっしゃるwwww

 

863:名無しのヒーロー

良い友達に恵まれたな渡我ちゃん・・・

 

864:名無しのヒーロー

よっしゃ!!

芦戸ちゃんぶん殴れー!!

 

865:名無しのヒーロー

念入りに分からせてあげなさい!!

 

866:名無しのヒーロー

渡我ちゃん今更言い訳してもっとぉ????

 

867:名無しの張り付き

 

『私は、雄英に通うまで友達ができた事ないのです!』

『―――突然どうした!?』

 

なんなのこの子????

 

868:名無しの張り付き

雄英は早く渡我ちゃんに情操教育するべき・・・!!

 

『お茶子ちゃんが、私の初めてのお友達です』

『……ぅ』

『言葉を間違えて、誤解させてしまったかもしれません』

『……それは』

『芦戸ちゃんが、何に怒っているのか、今も分からなくてごめんなさい』

『……ん』

『そんな()()()()()()()()()()()()()()()ですが、次は間違えない様に気をつけます』

『―――……え?』

 

869:名無しのヒーロー

>>868

これはEQ低い(確定)

 

870:名無しのヒーロー

>>868

渡我ちゃん・・・友達いないって・・・ええ(どん引き)

 

871:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんの念押しに、正直に答えていく渡我ちゃん

控えめに現場が地獄です

 

872:名無しのヒーロー

地味に爆豪くんの地位が低いな・・・w

他の面々は感想は違えどクラスメイトなのに、彼だけ同級生止まりだwwww

 

873:名無しのヒーロー

そして唯一のお友達と紹介されたお茶子ちゃん、この反応は強いw

 

【A組の面々にガン見されながら、恥ずかしそうに『いや~』と照れている画像】

 

874:名無しのヒーロー

なるほど

友情を深めていた確固たる自信があるんだね

 

875:名無しのヒーロー

他の面々にもあった筈なんですけどねぇ

 

876:名無しのヒーロー

貴方達はお友達じゃないと割と直球で言われたA組の子達ぇ・・・

 

877:名無しのヒーロー

B組の子が煽ろうと立ち上がり、即座に座り直すぐらいには今のA組怖いなw

 

878:名無しのヒーロー

なんか、見ているこっちが居た堪れなくなる空気だな・・・

 

879:名無しの張り付き

あのさぁ・・・

 

『でも、皆はとっても優しいから、いつかはお友達になれたらいいなぁって、夢を見ています。……それで、芦戸ちゃんとも、お友達になりたいって……』

 

芦戸ちゃんが、パッと顔をあげて期待に瞳を輝かせるも、渡我ちゃんは軽く首をふって

 

『ごめんなさい、今のは忘れてください……』

 

これだよ????

もう暴力で解決するしかないよね????

 

880:名無しのヒーロー

野蛮で草wwww

同意するしかないwwww

 

881:名無しのヒーロー

ねえ、君なんでそこで諦めたの????後はお友達になろうって言うだけで良かったんだよ????

 

882:名無しのヒーロー

今すごい『そうじゃねえんだよ!!!!』って突撃して説教したい

 

883:名無しのヒーロー

渡我ちゃん避けるのうますぎだろ!?

一秒でもはやく分からせが見たいのに全攻撃を紙一重で躱すって何それカウンター????

 

884:名無しのヒーロー

これ、芦戸ちゃんの手に触れただけに見えるけど、すっげー無防備にされててすげえ!!!!

 

【芦戸ちゃんの五指に自分の五指を触れさせて弾く様にパリィした動画】

 

885:名無しのヒーロー

そのまま追撃するかと思えば、芦戸ちゃんの体操服掴んで投げ飛ばしてる。片手で!!

もうスローじゃないと何してるか分からん

 

886:名無しのヒーロー

渡我ちゃんが戦いの申し子すぎる・・・

 

887:名無しのヒーロー

常に眠いのは強さの反動なのか?

 

888:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんが酸を飛ばしても、チラ見もせず避けるのずるくない????

あと、ちょくちょく思い出したかの様に歯を喰いしばるの煽り????

 

889:名無しのヒーロー

A組が、この子を放っておけない真の理由が分かったかもしれない・・・

 

890:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんがポンポン片手で投げ飛ばされていく・・・

 

891:名無しのヒーロー

手首のスナップだけでJKをぶん投げてない?

 

【芦戸ちゃんの攻撃を潜り抜けてポーンと投げ飛ばしている動画】

 

892:名無しのヒーロー

そう見えますねぇ・・・

 

893:名無しのヒーロー

ところで

特定スレは渡我ちゃんの個性が分かったりした?

 

894:名無しの特定班

血迷って、個性『ゴリラ』と力説している人がいるぐらい謎です

 

895:名無しのヒーロー

森の賢者かー

絶対に違うと思うなー

真面目にやって?

 

896:名無しの特定班

そんなの分かってるんですよそれでも分んねえんですよ

煽るのやめて貰えますか報告すっぞ

 

897:名無しのヒーロー

特定班は特定できないとすぐ喧嘩売るぅ・・・

 

898:名無しのヒーロー

落ち着きたまえ

無料版で渡我ちゃんの友達面してた元同級生ズが軒並み沈黙したネタで心を豊かにしたまえ

 

899:名無しのヒーロー

笑顔になれたwwww

 

900:名無しのヒーロー

芦戸ちゃん、もう投げられるのに慣れてきてるな

そして渡我ちゃんは、なんかもうどう見ても攻撃を遠慮しててダメですね

 

901:名無しのヒーロー

きっと、何がダメなのかも分かってないんですよ、この赤ちゃん

 

902:名無しのヒーロー

マジで赤ちゃんにしか見えなくなってきた・・・

 

903:名無しのヒーロー

ああ惜しい!!

渡我ちゃん、ステージに撒き散らされてる溶解液をここぞとばかりに利用してる

 

904:名無しのヒーロー

プレゼント・マイクも言ってるけど、あの体勢が苦じゃないの凄いわ

 

905:名無しのヒーロー

絶好の機会を逃したのに、それでも諦めず追撃する姿勢は光るものがあるな!

 

906:名無しのヒーロー

芦戸ちゃん頑張れー!!

ぶん殴れー!!そしてお友達になれー!!

 

907:名無しのヒーロー

どうした?

 

【渡我ちゃんの背中を見た途端、動揺して足が止まる芦戸ちゃんの動画】

 

908:名無しのヒーロー

渡我ちゃんも不思議がってる

あと君、カウンターを狙っていたな?

 

909:名無しのヒーロー

渡我ちゃんw

同級生に背中が嫌いって言われて『えー』って顔してるw

 

910:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんも複雑な顔してるけど、何かあったのかね?

というか意図せず勢いを落としちゃって、アドレナリンが切れたみたいになってる・・・

 

911:名無しのヒーロー

解説でも言ってるけど、そこで様子見しちゃうの最高に渡我ちゃんって感じ・・・

 

912:名無しのヒーロー

マジですかイレイザーヘッド・・・

 

913:名無しの張り付き

 

『……そうだな。あの年で、心・技・体がひよっ子の水準を越えている。プロのヒーローでも、下手をすればあいつには勝てないかもな』

『……マジ?』

 

プレゼント・マイクも絶句しとる・・・

 

914:名無しのヒーロー

雄英教師からお墨付きがでたな

 

915:名無しのヒーロー

いや、でも『心』はどうかな?

 

916:名無しのヒーロー

まあ、若干の怪しさはあるが

戦闘面だけ見ればガチに強いんだよ渡我ちゃん・・・

 

917:名無しの張り付き

うーん

 

『……トガ』

『はい』

『言いたい事は、色々あるけど、まず』

『……?』

『歯を喰いしばれって、言ったのは……アタシだけどさ』

『はい?』

『試合中も、ことあるごとにずっと喰いしばるなー!!』

 

心・・・?

 

918:名無しのヒーロー

別の意味で足りないのでは?

人の心が分かってなさすぎでは?

 

919:名無しのヒーロー

渡我ちゃんさあ・・・

被害者ぶった顔してるけど、これに関して君は加害者だからね?

 

920:名無しのヒーロー

ポンポン投げられた上で無自覚に煽られる芦戸ちゃん気の毒すぎる・・・

 

921:名無しのヒーロー

は?

今何が起こった????

 

922:名無しのヒーロー

まってまってまってまって

すっげえ!!!!

 

【先程までの受け身が嘘の様に、スッと身体を沈めたかと思えば数瞬後に鋭い蹴りをいれている渡我ちゃんの動画】

 

923:名無しのヒーロー

ブラフ用の酸は全部躱しつつ動きは最小限で予備動作が読めないし速すぎるし反応できる訳ねえだろこんなの・・・!!!!

 

924:名無しのヒーロー

これはリタイアだな・・・

 

【芦戸ちゃんの両の掌から血が零れている画像】

 

925:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんは頑張ったよ・・・

 

926:名無しのヒーロー

いや何してるの!?

 

927:名無しの特定班

はあ????

それ系の個性は本人の皮膚に耐性はあるけど、一皮剥いたら自身にダメージくるやつだろ!?

 

928:名無しのヒーロー

うわ・・・

芦戸ちゃんの顔、涙でぐちゃぐちゃじゃん

 

929:名無しのヒーロー

え・・・見てるだけで痛い

いや・・・やばいって・・・自傷しながら攻撃してる様なものだろ

 

930:名無しの張り付き

きつい・・・

 

『痛くないの?』

『ッ!! ――――痛いよ!! めちゃくちゃ痛くて、痛すぎて、意識飛びそう!!』

 

ミッドナイトまだ止めないのか!?

 

931:名無しのヒーロー

・・・いや、過去の対戦記録を遡れば、止めるには少し早い

 

932:名無しの張り付き

 

『……なんで、痛いのに頑張るんですか?』

『アタシは、トガを倒したいの!!』

 

芦戸ちゃん・・・

 

933:名無しのヒーロー

やりすぎだって・・・

 

934:名無しのヒーロー

声が悲痛だし皮膚が焼けてるっぽいダメな音をマイクが拾って、さっきまでの熱気が嘘みたいに慄いてざわついてるな

 

935:名無しの張り付き

渡我ちゃん・・・

 

『どうして、そんなに私に勝ちたいんです?』

『……ッ、トガのバーカ!! 本ッ当に全然分かってない!! さっきので分かってたけど、アタシがどれだけトガに憧れてるか、知らないでしょ!?』

『……』

『ほら、その顔!! 微塵も信じてないし、分かってない!!』

『……』

『ッ!! 自分の、“個性”でも、こんなに、痛くて、きつくて、怖いのに……なんで、あの時……1人で行っちゃうのよ!!』

 

そこで芦戸ちゃんの攻撃を避けないとこが・・・!!!!

 

936:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんの拳と気持ちが、ようやく届いたな・・・

 

937:名無しのヒーロー

当たってくれたとも言うな・・・

 

938:名無しの張り付き

 

『アタシだけ、何もできなかった……!! 立ち尽くして、役立たずだった……!!』

『……』

『トガは、頑張ってたのに……! 庇って、怪我して、血だらけで、ボロボロだったのに……『きっとヤな事してきますよ』って、その通りだったけど、だからって、1人で行く事ないでしょう!?』

『……』

『……っ、ごめん』

『……』

『――――あの日、トガの力になれなくて、ごめん』

 

分かったコレ全部敵が悪い許せない・・・・

 

939:名無しのヒーロー

そうかそうか

襲撃してきた敵のせいで、未来ある女の子がトラウマ背負って泣いてるのかマジで悔い改めろ敵ン!!!!

 

940:名無しのヒーロー

だから、芦戸ちゃんは渡我ちゃんの背中を見て動揺したのか・・・

渡我ちゃんに必死に喰いついていたのは、勝ちたいってだけじゃなくて・・・

 

941:名無しのヒーロー

今度こそ一緒に戦いたい、か・・・・

 

942:名無しのヒーロー

もうモニターがぼやけて見えない・・・

音声の破壊力がやばすぎて、タオルべちょべちょだよ・・・

 

943:名無しの張り付き

 

『……トガの、隣に立ちたいっ』

『いいよ』

 

944:名無しのヒーロー

おまっ本当に渡我ちゃんはああああ!!!!

 

945:名無しの張り付き

 

『じゃあ、弱い芦戸ちゃんを、私が強くしてあげます』

『……』

『私の隣に、立っていいですよ』

『ほんと、に?』

『はい』

 

946:名無しのヒーロー

お外でシェイク飲みながら観戦している勢ですが、一緒に見ていた見知らぬ人々がほとんど撃沈しております

唐突に純度の高い青春が涙腺にきっついです情緒が溶かされています

 

947:名無しの張り付き

 

『トガ……っ』

『はい』

『あの日……アタシ達を、守ってくれてありがとう』

『……どういたしまして』

 

渡我ちゃん、少し困った顔で薄く笑ってるぅ!!!!

 

948:名無しのヒーロー

芦戸ちゃん、本当に良かった・・・!

 

949:名無しのヒーロー

そこで、私の負けでいいです、って言えるの凄いよ・・・

 

950:名無しのヒーロー

渡我ちゃん、色々あったけど二回戦進出おめでとう・・・!!

 

951:名無しのヒーロー

新スレ建ててきた!!

→【雄英体育祭を雑に楽しむスレ part2】

 

総員現スレを終わらせたらお行儀よく移動されたし!

 

952:名無しのヒーロー

>>951乙

渡我ちゃん、消えたな・・・

 

953:名無しのヒーロー

>>951乙です

 

走って行ったとかじゃなくて『消えた』という表現が的確なのも凄いよね・・・

 

954:名無しのヒーロー

ワープとかじゃないから、スロー再生したらちゃんと見えるんだけどね

 

【渡我ちゃんが、気絶した芦戸ちゃんを抱えながら駆けていく動画】

 

955:名無しのヒーロー

周りの動きが止まっていますねw

 

956:名無しのヒーロー

余韻で胸が痛い・・・

 

957:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんスレが大変な事になってる

 

958:名無しのヒーロー

渡我ちゃんスレもな・・・

 

959:名無しのヒーロー

アレでまだ学生って・・・未来が明るすぎるな

 

960:名無しのヒーロー

二回戦と三回戦があっさり味だったから、濃かった・・・

 

961:名無しのヒーロー

どっちも瞬殺でしたからね・・・w

 

962:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんすごく頑張ったよ!!

 

963:名無しのヒーロー

渡我ちゃんに関しては、今回ので完全にダメな子ってのが発覚したなw

 

964:名無しのヒーロー

アレは無いですね(真顔)

 

965:名無しのヒーロー

しかしフォローは完璧とかなんなの?

 

966:名無しのヒーロー

そういえばA組の様子はどう?

落ち込んでたりしてない?

 

967:名無しのヒーロー

・・・うーん

 

【お茶子ちゃんがクラスメイト達の質問攻めにあって居心地悪そうにしている画像】

 

968:名無しのヒーロー

あw

大丈夫そうですねw

 

969:名無しのヒーロー

さっきの試合が凄すぎたから心配だったけど

余計なお世話だったわw

 

970:名無しのヒーロー

スンって顔じゃないだけマシだなwwww

 

971:名無しの張り付き

 

『つまり、放課後に遊びに行くのは難しいと?』

『う、うん……被身子ちゃん、買い出しには自発的に付き合ってくれるけど、遊びに行くよりは家で寝てたいみたいで』

『なるほど……被身子さんの言動から察するに、夕飯の買い出しが『遊び』に含まれている可能性がありますわ』

『あ、それはあるかも! 眠いの我慢してくれるし、食材を選ぶのも楽しそうだし、荷物も重いの持ってくれるし、買い食いは……お財布と相談していつも半分こだけど、さりげなく大きい方をくれて優しいんよ!』

『……デートじゃん!!??』

『買い出しだよ!?』

 

尊い・・・

 

972:名無しのヒーロー

青い春が眩しい

 

973:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんの奮闘に良い意味で触発されてる感じはするなw

 

974:名無しのヒーロー

ちなみに、お見舞いには行きたいけど2人きりにしてあげようって我慢してるらしい

 

975:名無しのヒーロー

良い子しかいない・・・

 

976:名無しのヒーロー

次の試合は飯田くんVS発目ちゃんか

 

977:名無しのヒーロー

ステージが酸塗れだし、次の試合は少し遅れるっぽいな

 

978:名無しのヒーロー

芦戸ちゃん頑張ったもんね

 

979:名無しのヒーロー

ベストショットだと思う

 

【ぐったりした芦戸ちゃんをお姫様抱っこしている渡我ちゃんの画像】

 

980:名無しのヒーロー

これは・・・角度といい表情といい、めちゃくちゃ良いな

 

981:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんが、どれだけ渡我ちゃんに心を許しているか分かるな・・・

 

982:名無しのヒーロー

土下座シチュマニアの友人曰く、渡我ちゃんの姫抱きは相手に負担をかけないものらしく、実に王子様レベルが高いものらしい

 

983:名無しのヒーロー

突然知らない世界を垣間見せないで????

 

984:名無しのヒーロー

ごめん・・・

実は自分も意味が分からなくて、スレで呟けば詳細な情報が聞けるかなって・・・

 

985:名無しのヒーロー

分かりませんが????

 

986:名無しのヒーロー

分かるけどさw

 

987:名無しのヒーロー

負担のかからない長時間土下座講座おまけページのでしょ?

 

988:名無しのヒーロー

????

分かる奴がいる事にも理解不能な講座が存在する事にも驚愕してる

 

989:名無しのヒーロー

マジでどうしてこの流れになった?

 

990:名無しのヒーロー

世界の闇を感じる・・・

 

991:名無しのヒーロー

闇じゃないです!!

最近のMにとって土下座はノーリスクで屈辱的かつ気持ち良いってだけのプレイから派生してお姫様抱っこの適切な抱き方へと自然と流れて行った指南書があるだけです!!

 

992:名無しのヒーロー

もう黙って????

 

993:名無しのヒーロー

ただのガセなら通報して終わりだったのに・・・

 

994:名無しのヒーロー

※有料版では、気に喰わないという理由だけで通報するのはダメだし無駄です。

有志のスレ管理者が前後関係をしっかり把握して無効なら無罪だし、悪質すぎれば通報した人がレッド判定をくらいます。気を付けましょう

 

995:名無しのヒーロー

もうスレ終わりなのに・・・

 

996:名無しのヒーロー

いや、渡我ちゃんのお姫様抱っこが凄いと分かっただけでも収穫はあった

 

997:名無しのヒーロー

嘘でしょ????

 

998:名無しのヒーロー

それじゃあぼちぼちスレを移動します

 

999:名無しのヒーロー

次の試合もはじまるな

 

1000:名無しのヒーロー

みています

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30話 未知の感情があります

 

 

 お茶子ちゃんは不思議な子です。

 

 出会った初日にルームシェアを強行したかと思えば、変なところで遠慮します。

 お金も必要最低限しか受け取ってくれないし、私の手も必要以上に借りてくれません。

 

 半分眠りながら家事をしていたら、お風呂上がりのお茶子ちゃんに『被身子ちゃんは人をダメにする!』と説教(?)されたのは謎すぎる出来事でした。

 お疲れのお茶子ちゃんがお風呂に入っている間に、溜めていた洗濯物を畳んだり、用意していた夕ご飯を温め直したり、ついでに明日の朝御飯と夕御飯とデザートの下ごしらえをしていたぐらいで、割に合わない暴言です。

 家事を教えてくれたお茶子ちゃんの真似が楽しいのに、お茶子ちゃんは『当番決めたやん!』と意地悪を言います。でも、そういう一面もカァイイです。

 

 お茶子ちゃんは面白い子です。

 

 USJ事件以来、自分の弱さに悩んでいた様で、色々と考え込んだ後に『……被身子ちゃんは、どうしてそんなに強いん?』と、くっついたまま上目遣いに問いかけられて……笑ってしまいました。顔を隠す私に、お茶子ちゃんは『何で笑うんよー!?』とポカポカしますが、しょうがないと思います。

 だって、お茶子ちゃんは本当に弱いのに、あの上目遣いに射抜かれた瞬間、無条件で力になってあげたいって、そう思わせる強かさがおかしかったんです。

 

 お茶子ちゃんは普通の子です。

 

 ステージに立つお茶子ちゃんを見つめて、しみじみと実感します。

 お茶子ちゃんは普通じゃない事をしても、普通の人がワッと驚く様な事をしても、それでも普通という基準から逸脱しないのです。

 そんなお茶子ちゃんが羨ましいと、改めて思います。

 

(私も、お茶子ちゃんになれたら)

 

 ……なんて。

 そんな夢を見るぐらい、お茶子ちゃんは私にとって特別です。

 

 伏せていた視線を逸らせば、少し離れた場所に座る緑谷くんと飯田くんを見つけます。

 

「先程言っていた爆豪くん対策とは何だったんだい?」

「ん! 本当たいしたことじゃないけど……」

 

 聞こえてくるソレに、すぐに興味を失い目を閉じます。

 やっぱり、緑谷くんも飯田くんもお茶子ちゃんと仲が良いから……お茶子ちゃんを応援しているんですね。

 

(……よく、分かりません)

 

 周囲に感じるズレという名の壁を感じながら、お茶子ちゃんをチラ見する。

 

 試合という体裁をとっている以上、誰と誰が組みあってどう勝敗を決しようが、生死がかかっていないならどうでも良いです。

 私は、ここにいるクラスメイトの誰よりも、お茶子ちゃんを応援していない。むしろ……

 

(負けて欲しいです)

 

 ワッ!!

 とスタートの合図と共に駆け出すお茶子ちゃんを見て、ふぅ、と止めていた息を吐く。

 

 隣に座る梅雨ちゃんや耳郎ちゃんがチラチラ私を気にしている。どうしたのか問うのも面倒で、軽く目を伏せたまま、静かにお茶子ちゃんを見つめる。

 

 爆豪くんへ速攻をしかけるお茶子ちゃんの表情は険しく、眩しい。爆豪くんの初手、右の大振りに予想をつけて飛び込んだお茶子ちゃんはボン!! と、あえなく爆破され、たかと思いきや寸前で避けている。

 

(……へえ)

 

 ちょっと驚きました。

 お茶子ちゃんの動き、良くなっています。

 

 今のは、反応できないのが分かった上で即座に逃げに徹して、それに身体がちゃんと反応しています。そして、即座に上着を脱いでブラフの準備をしています。

 

 強くなりたいと渇望するお茶子ちゃんに付き合って、早朝と夕食後の軽い運動に付き合っていたのが功を成したのでしょうか? あの程度でアスファルトに寝そべって、悲しく虫の息だったお茶子ちゃんも、ちゃんと成長しているんですね……

 

(雄英体育祭まで実を結ばないと思いましたが……誤算でした)

 

 軽く舌打ちをしたい気分です。

 そして、まんまとお茶子ちゃんを追撃しようとしていた爆豪くんは、その上着のブラフにだまされ、背後から飛び出してきたお茶子ちゃんに虚をつかれる。しかし、反応が速い。

 そこで、お茶子ちゃんは「!!」と、無理に目的を果たそうとせず、悔しそうに後ろに倒れる様に両手でステージに受け身を取り、足で爆豪くんの腕を蹴り上げ、爆破を避ける。

 

「すごっ!? やるじゃん麗日!!」

「本当にすごいわ……お茶子ちゃん、あんなに動けたのね」

「トガ、もしかして麗日と何か特訓した!?」

「……ふぁ? 朝と夜に、軽い運動はしました」

「その怪我で!? ……あ、いや、軽い運動ならいいのかな?」

 

 悩む芦戸ちゃんを横目に、バックステップして不意打ちをいかせなかった己を責めているお茶子ちゃんを観察する。爆豪くんは、一撃を貰った事で警戒レベルを上げています。

 

 

「……一発当てたぐらいで、調子乗ってんじゃねぇぞ!!!!」

 

 

 爆豪くんの怒涛の攻めに、お茶子ちゃんも果敢に攻めようとしつつ、回り込む様に爆撃を避けます。あの動き、私の蹴りを避ける時に見せたやつです。

 

「麗日、本当に凄いんだけど!?」

「い、今のは当たったと思った!」

「……心臓に悪いわ」

 

 しかし、本当にお茶子ちゃん避けますね。

 予想ではとっくに満身創痍だったのに、嬉しくない予想外です。夜の公園でいなしていた経験をしっかり糧にしています。

 

 

「……チィッ!!」

「っ、ギリギリ、だけど……被身子ちゃんの蹴りに比べたら、まだ大丈夫!!」

「あァ!?」

「おらあああああ!!!!」

 

 

 吠えたお茶子ちゃんが、爆撃の隙間を縫う様にして「甘ぇわ!!」爆豪くんに吹っ飛ばされる、もギリギリで身を躱し不格好に受け身をとっている。

 

 

「丸顔、あの欠伸女に何を仕込まれた……!?」

「格上との、戦い方……!!」

「……上等だ!!」

 

 

 あ、爆豪くん楽しそうですね。「こっから本番だ、丸顔!!」と、最初と違って怖い顔が際立っています。お茶子ちゃんも……よく彼の動きを見て、冷静であろうと努めています。そして、立ち回りが上手です。

 

 触れようと近づき、ダメならすかさず切り替えて避ける事に集中し、目くらましにわざと突っ込み、無理はしない。想像以上に頑張るお茶子ちゃんに、だんだんとやきもきしてきます。

 

(……はやく、負けてください)

 

 目を細めて、心から期待します。

 心臓の辺りがモヤモヤして、どうしてもお茶子ちゃんを応援したいと思えない。

 

(お茶子ちゃん、負けてください……っ)

 

 そうなれと、滲む感情を押し殺します。

 

 これ以上、戦うお茶子ちゃんを見ていたら、我慢できなくなりそうだと、妙に動きづらい身体を軋ませます。むしろ、皆はどうしてお茶子ちゃんを応援するのでしょう?

 

 分かりません。

 たとえ勝てたとしても、最終的に私と当たれば負けるんです。なら、この辺りで終わった方が絶対に良いです。

 ……友達同士で戦ったら、そこで友情が終わる事もあると聞きました。

 

 だから、爆豪くんには期待しているのに、いまだお茶子ちゃんに喰いつかれている。

 

(……もし、お茶子ちゃんと戦う事になったら)

 

 本気で困ると、ここにきて焦りを覚えている。

 

 もし、もしもお茶子ちゃんと戦う事になったら……理性を保てる自信がすでに無い。

 

 爆豪くんと戦うお茶子ちゃんは素敵すぎるんです。必死で、頑張り屋で、綺麗で、痛みと焦りに歪んだ顔はカァイくて、目を離せない。

 最初から、ずっと見惚れているんです。……もっと、もっともっと、もっともっともっともっともっともっと、ひたすらに見ていたいと思うのです。ドキドキするんです。

 

(お茶子ちゃん、素敵です……)

 

 どうしようもなく、私はお茶子ちゃんに惹かれています。

 きっと私は、彼女と対峙した瞬間に、試合という体裁を忘れてしまう。お茶子ちゃんと遊びたくなってしまう。生死をかけて踊りたくなってしまう。

 

(あの悪夢の夜の様に……)

 

 血に、酔ってしまう。

 

「…………ハ、アァ」

 

 けれど、それはダメです。

 

 私は我慢できるトガヒミコだから、堪えなくてはいけない。

 ……だいたい、お茶子ちゃんと遊びたくても、お茶子ちゃんは弱いから、きっと一瞬で終わってしまう。そんな一秒にも満たない快感の為に、大切なお茶子ちゃんは失えません。

 

(だから、負けてください……!)

 

 どうか、私の前に立たないでください。

 他の誰かならいいけれど、お茶子ちゃんはダメなんです。

 

 それぐらい、私にとってお茶子ちゃんは特別なんです。

 

 

(……それに、お茶子ちゃんは普通の子だから)

 

 

 もし、せっかくの楽しい時間に、私だけが楽しんで、お茶子ちゃんがつまらなそうにしていたら……想像するだけでヤな気分になります

 

 気づけば、片手で顔をおさえている。

 頭が真っ白になりそうで、窮屈で、生き辛さをいつも以上に感じてしまう。耳に届く爆破音をBGMに、何とか気を持ち直して、目を開きます。

 

「…………」

 

 フーっと、息を吐いて顔をあげる。

 

 さて、試合はどうなったのかと様子を見ようとして……何故か、両腕に梅雨ちゃんと耳郎ちゃんがぎゅーっと抱きついています。

 

 ……?

 

 ついでに、頭に芦戸ちゃんが身を乗り出して抱きついています。どうりで柔らかくて気持ち良いと思いました。あと、前に葉隠ちゃんがいてしがみ付かれて…………え? 何ですこれ?

 

 

「落ち着いて!! 麗日は大丈夫だから、爆豪をボコボコにするのは勘弁してあげて!!」

 

 はい?

 

「ダメだって!! 子供の喧嘩に親がでる様なものだし、麗日も困るってば!!」

 

 え?

 

「お願いヒミコちゃん、辛いでしょうけど貴女なら耐えられるわ。爆豪ちゃんを許してあげて……」

 

 ん?

 

「トガちゃんダメ!! いくら爆豪くんでもそれはダメ!! お茶子ちゃんが心配でも絶対にダメー!!」

 

 ……。

 

 皆が、爆豪くんを嫌いな事しか分からないのですが????

 

 

(ええ……? どうしたらこんなに嫌われるんです?)

 

 

 あと、百ちゃんも尾白くんと席を交代して貰って、少し震える手で私の背中を撫でる意味が分かりません。

 

「被身子さん、これは真剣勝負です。麗日さんも承知の上です……!」

「…………ハイ」

 

 とりあえず、混乱を沈めて静かに頷けば、露骨にホッとした空気になる。

 

(なんで……?)

 

 相変わらず、私とそれ以外のズレが酷すぎて孤独感が凄まじいです。

 様子を見ていた男子達もあからさまに胸を撫で下ろしていて……もしかして爆豪くんって、凄く可哀想な子なんです?

 

 混乱に次ぐ混乱のおかげで落ち着きながら、気が抜けて欠伸を漏らす。

 

(そういえば、お茶子ちゃんの作戦も仕上げに近くなっていますね……)

 

 ボンボン爆破されて楽しそうです。ですが、爆豪くんの方もお茶子ちゃんの動きに慣れて先回りしている様で、どちらも決め手にかけています。

 

 とりあえず、耳郎ちゃんと梅雨ちゃんに手を離して貰えたので、自分の席に戻ろうとしている葉隠ちゃんを捕まえて、ひょいっと膝の上に乗せます。

 

「へ?」

 

 脳の瞳を調整して部分的に透明にすれば前は見えるので、葉隠ちゃんは抱き枕にぴったりです。

 

「ちょ、トガちゃん!?」

「ふあい?」

 

 何故か焦っている葉隠ちゃんに返事をしつつ、静かにしててねと「しー」と指をたてて、ステージを見つめる。

 

 肩で息をしているお茶子ちゃんは、微塵も諦めていない。 

 その瞳は真剣で、爆豪くんに勝つ為の算段を色々と考えている。

 

(……予想外に、運動が役に立ってますね)

 

 夜の運動の際に乞われるままお茶子ちゃんの相手をしていましたが……たった一週間で成果があるなんてと、葉隠ちゃんの手をふにふにする。

 

 お茶子ちゃんは、瞳に決意を込めて駆けだしていく。

 

 爆豪くんも、お茶子ちゃんに隠し玉があると勘付いて、迎撃の為に駆けている。そして、お茶子ちゃんの両手が合わさり、彼女の“個性”が解除される。

 

『流星群―!?』

『気づけよ』

 

「―――ッ!!」

 

 余計な言葉を発さず、距離をつめるお茶子ちゃんと、頭上から迫りくる影の存在に気づいて、反応が遅れる爆豪くん。

 彼がステージを削る度に、お茶子ちゃんが触れて浮かせていたコンクリート群が、満を持して降り注いでくる。お茶子ちゃんが必死に蒔いていた勝利への種が、今まさに芽吹き、実を結ぼうとしている。

 

 

「……ですが、全ての実が花開く事は無いのです」

 

 

 瞬間、爆豪くんの手から大爆発が起こり、頭上の実を吹き飛ばしていく。

 そして、彼はもうお茶子ちゃんから僅かも目を離していない。

 

 頭上のコンクリート群以上の脅威をお茶子ちゃんに感じて、すぐに左腕を支えていた右手を伸ばし、触れようと迫っていたお茶子ちゃんの手を、微かに掠めた指先から逃げる様に身を躱し、捻りあげて強引に拘束する。そして、至近距離で見つめあう。

 

 

「お前が浮いてろ!! ―――麗日!!」

「ッ!?」

 

 

 途端、力任せに自分の手の平を押し付けられ、浮いてしまうお茶子ちゃんを至近距離で爆破し、一気に距離を放す。

 お茶子ちゃんが爆破されながら必死に個性を解除するも、その勢いは殺せず、二回三回と転がって、外野へ。

 

 

『麗日さん、場外!! 二回戦進出は爆豪くん!!』

 

 

 勝敗は決しました。

 

 そして、お茶子ちゃんは何とか立ち上がろうとして、腕からガクンと力が抜けてゴッ、と顔から倒れてしまう。

 

 最後に、彼女が「……父ちゃん」と呟いたのが分かって……妙な気持ちになって、葉隠ちゃんを強く抱きしめる。

 

 お茶子ちゃんが負けた。

 負けたから、喜ばしい筈なのに、どうにも心がスカスカします。……そんな己から目を逸らし、立ち上がる緑谷くんに遅れて、葉隠ちゃんを抱いたまま席を立つ。

 

(……名前の分からない感情は、厄介です)

 

 赤い顔で小さくなっている葉隠ちゃんを私の席に座らせて、ついて来たそうな芦戸ちゃんの額を小突き、1人で歩いていく。

 

 

(…………試合前に感じた未知は未知のまま、何も分かりませんでしたね)

 

 

 そんな感想を、妙な感慨と共に受け止める。

 そして、口元を隠しながらキュッと目を細める。

 

 視線が集まるのを感じながら、私はお茶子ちゃんに会いたい気持ちを抑えきれず、だけど何を言えばいいのか分からないまま、頭の中でお茶子ちゃんへの第一声を考えながら、速足になった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31話 試合前のアドバイスです

 

 

『惜しかったですね。でも私は、お茶子ちゃんが負けてくれて嬉しいです』

 

 

(と、いうのは……違う? ですかね?)

 

 むむむ、と。

 敗北を喫したお茶子ちゃんへの台詞を考えながら、リカバリーガールの出張保健室を目指す。

 

(……こういうの、難しいです)

 

 腕を組み、視界をぐるぐるさせながら熟考する。

 煙が出そうなぐらい、こういう状況の最適な台詞が分からない。

 

 っ、何でしたっけ? 3年前の()との会話で、似て非なるシチュエーションありましたよね?

 確か、本音でも冗談でも、時と場合を考えないと大参事でダメダメ?

 

「……え、っと?」

 

 記憶の糸を探らんと、キュッと眉間に力をいれる。

 状況に応じた言動は、こういう時こそ間違えたくないのです。お茶子ちゃんに嫌われたくないし、困らせたくも無い。脳の瞳が役に立たない分野でも、普通の為に頑張ります。

 

(……んんーっ)

 

 たしか、()がアデーラちゃんを抱きあげた時に『重い』と冗談で言ったら、恐縮されて控えめにしくしく泣かれちゃったから、どれだけ良い雰囲気だろうと空気を壊す発言はダメで、ご機嫌とりが大変なのです。

 

()は、バカですね)

 

 当時は鼻で笑いましたが、確かにタイミングをしくじればどんな台詞も危険ではあると、小さく頷く。

 

(あと、は。オブラートに包んだ会話も大事、でしたっけ?)

 

 アリアンナちゃんに『貴女には、現実より夢をみせて欲しいわ』と、()のダメな発言に微笑み、そっと手を引きながら『ね?』と、優しく諫められたという。

 

(……つまり、女の子には夢も大事、でしたっけ)

 

 優しい誤魔化しや嘘も混ぜ込まないとダメ、という大人な意見でした。

 アリアンナちゃんは色々な意味でアダルトなので、()への指摘も参考になる。

 

 そして、()が話の締めとばかりに『人形ちゃんは何でも受けいれてくれるけど、もしかしてやな事もあるんですかね?』と、日々のあれこれを話しだし、聞いていた私は(あれ、これ惚気られてます?)と気づいて、()を車輪で轢いた。

 

「……」

 

 過去の()を参考にするのは大変不服ですが、良い感じに頭の中でまとまってきました。

 

 ああ言ったら怒られた、これをしたら拗ねられた、態度に出しちゃうとダメらしい、とにかく周りの女性によく叱られる()の経験を思い出しながら台詞の整理整頓。

 

『お茶子ちゃんが、爆豪くんより弱くて良かったです……!』

 

(……これは、違う気がする)

 

 喉奥で唸って、歩く速度を落としながら顎下に指をあてる。

 

 んぅ『これで、お茶子ちゃんと戦わなくて良くなりました!』や『弱いのに無理しちゃダメですよ』に『お茶子ちゃんはそんなに頑張らなくていいです』も『どうせ私が一番強いから、負けても問題ないですよ』とか、無しですかね? ……もっと夢を見せる台詞、単語、組み合わせ……

 

 眉間に力を込めつつ、お茶子ちゃんの事を考えていっぱい悩む。

 

 そういえば、相澤先生やミッドナイトと見てきた映画やアニメに、今の状況と似た様なシチュエーションはありますが、私の考える台詞は1つも無いですね?

 

(もしや、あの主人公たちが嬉々として発する、耳ざわりの良い台詞が好まれる?)

 

 ダメです。こんがらがって、更に分からなくなって、未だにお茶子ちゃんにかける言葉が見つからない。

 

「…………う˝―」

 

 お茶子ちゃんに会いたいのに、何も決まらなくて腰が引けてしまう。

 でも、すでに目的地は目の前で、少しうろうろして、意を決してドアをノックする。失敗よりも会いたい気持ちが勝ちました。

 

「……! 開いてるよ」

「し、失礼しまーす。……お茶子ちゃんいますかぁ?」

 

 顔だけをそっと覗かせると、そこにはリカバリーガールしかいない。……あれ?

 

 気合が霧散するのを感じながら、目を丸くする。

 

「あの子なら、治療を終えて出ていったよ」

「……そうですか」

 

 ホッとしつつ、もう少し猶予はある様だと力が抜ける。

 そんな私を、リカバリーガールはやれやれと言った様子で観察し、手にしていたスマホを隠す。……? 通話中ですよね?

 

「……じゃあ、控え室ですかね。ありがとうございます」

 

 お茶子ちゃんが観客席に戻っているならすれ違っている筈で、控え室にいるかもと踵を返すと「待ちな」と、リカバリーガールに止められる。……。

 

「はーい?」

「あんたが助手になる件、話がついたよ」

「……はえ?」

 

 色々な主語や説明が抜けているソレに、目を丸くする。

 いえ、話がつくの早すぎません?

 

「あんたは目立ちたくない様だし、()()()()の戦闘服と仮面も用意して貰ってる」

「……へぇ?」

「免許も発行待ちだから、それが済んだら頼んだよ」

「……」

 

 このお婆ちゃん、行動力の塊です?

 

 えーと……これは、何かしらの圧力込みで外堀を埋められてますね。

 ヤ! と言わせない強引な手段は、本来なら思う所もありますが……カァイイお婆ちゃんにしてやられるのはヤじゃない。

 

「分かりました、いいですよ」

「……素直だね?」

「はい。秘密の対価ですから」

「……」

 

 そういう事にしてあげますと、手を振る。

 ですが、これに味を占められると困ります。更なる面倒はヤなので、ちゃんと忠告する。

 

「リカバリーガールの立場もあるので、最低限の漏洩は許容します」

「……何の事だい?」

「ですが、そこから先はダメです。()()()から私の秘密が漏れたら、協力なんてしません」

「……おやおや」

 

 舌をだして、リカバリーガールの向こう側、電話の相手に釘をさしておく。

 

 それを察したリカバリーガールが肩をすくめますが、知りません。このお婆ちゃんにこきつかわれるのは良いですが、顔も知らない貴方達はヤです。

 

 あと、リカバリーガールは小気味良さそうな顔をしているので、私の態度にそこまで怒っていない様です。……大人の世界は複雑そうだなあと顔をしかめつつ「ばいばいです」手をふって退室する。

 頭の片隅で、『治療ができる』というのはやはり秘した方が良かったかと後悔するも、首を振る。

 

 そんな事よりお茶子ちゃんです。さっきの事は忘れて控え室を目指します。

 

 改めて、お茶子ちゃんへの最適な台詞をピックアップしながら歩いていると、見知らぬ大柄な影が見える。

 

 

「僕は、オールマイトじゃありません……」

 

 

 あ、緑谷くんもいたんですね。

 

 

「轟くんも、あなたじゃない」

 

 

 はい?

 控え室前の通路で、緑谷くんと燃えてるおじさんが会話しています。

 

 でも、ちょっと空気が変です。

 緑谷くんはらしくなく怒ってる感じですし。何かあったのかと足を止めると、緑谷くんと目が合う。

 

「!? と、トガさん」

「……む!?」

 

 自然と気配を消していたので、警戒されてしまう。

 緑谷くんは大げさに驚愕して、おじさんは咄嗟に片手をむけて“個性”使用一秒前、と良い反応です。

 

「君は……」

 

 とりあえず、普通を目指すものとして、挨拶と会話は大事ですからね。

 燃えてるおじさんに「こんにちは!」して、緑谷くんにも「これから轟くんと試合ですよね? 頑張ってください!」と声をかける。

 

「あ……はい」

 

 顔を強張らせていた緑谷くんが、そこでハッとして「あの!」私に声をかける。

 

「はい?」

 

 足を止めつつ、もしかして、このおじさんに絡まれて困っているのかと脳の瞳で視ま……ん? 『エンデヴァー』で『轟炎司』……轟って、もしかして、轟くんのお父さんです?

 

 

「と、トガさんは……その、トガさんなら……――――」

 

 

 なんですかね。緑谷くんが、溺れる寸前の水面から顔を出して息を吸う様な、そんな表情で私を見ています。その必死さに(あ)察してしまう。

 

(……もしかして、アドバイスですか?)

 

 今日は、それ系の質問が多いので分かってしまう。

 あと、轟くんのお父さんの前で、轟くんをボコボコにするアドバイスをしろとか……緑谷くん、カァイイ顔して凄い事を要求しますね。

 

(んー……)

 

 でも、緑谷くんは朝に轟くんに絡まれてましたし、今は子供の喧嘩に親がでてきたみたいなお父さんがいます。

 

(……普通なら、ここは緑谷くんに味方すべきですよね?)

 

 でも、どっちに恨まれるのも面倒ですし……決めました。

 

 

「緑谷くんは、勝てますよ」

 

 

 アドバイスはしつつ、足を引っ張る発言をして濁しましょう。

 

「え……」

「……何!?」

 

 おじさんも反応しますが、落ち着いて下さい。

 

「トガさん……?」

「緑谷くんも予想しているでしょうが、貴方達の試合、最初はお互いに大技で相殺になると思います」

「! ……うん」

 

 2人の性格と“個性”を考えれば、開始直前で派手にやるのは決定でしょう。

 

「その勢いを、止めなければいいんです」

「……えっ」

「思考はいりません。―――そのまま小出しで押し通せば、轟くんは絶対に隙を見せます。彼には力業が有効です」

「……え?」

 

 緑谷くんは戸惑ってますが、轟くんならそれで充分なんです。

 

(轟くん、優しいですから)

 

 クラスメイトが、自爆必至の自棄を起こしていると勘違いすれば、なんだかんだで止めようとするでしょう。その隙を見逃さなければ良いと、簡単に説明する。

 

 試合に勝つのと同時に『救ける』為に“個性”を使うとなれば、氷結の威力にも影響がでます。

 

 緑谷くんの“個性”は強力ですからね。ほんの僅かな隙でも、当たれば充分な勝機になります。

 

「緑谷くんの攻撃は、ほぼ自爆なので回数は限られ、見た目にも予測が容易く、だからこそ予想外の一回は虚をつきやすい」

「……っ」

 

 私が何を言いたいのか、声色と身振りでじわじわと察したらしく、緑谷くんが口元をおさえている。

 

「……むう」

 

 おじさんも、私の説明に納得したのか、忌々し気に唸ります。

 が、ちょっと私への威圧が凄くないですか? 申し訳ないですが、私は怖いおじさんに魅力を感じないのでやめてください。

 

「ですから、勝つのは割と簡単です。……緑谷くんが躊躇しなければ、ですけど」

 

 表面上は気遣いつつ緑谷くんを見れば、彼は難しい顔で押し黙っている。

 

(……)

 

 その表情に察するものがあって、ちょっと彼への評価を改める。

 思惑も、少しだけ修正する。

 

「っ…………トガさん」

「はい」

「…………僕は、勝ちたい」

「はい」

「…………でも、その方法は、何か違う……気が、して」

 

 うわぁ。

 

 苦悩する緑谷くんに、隣のおじさんが『何を言っているんだ、この子供は』と言いたげな顔をしていますが、私には分かりました。やっぱり緑谷くんって、けっこうえげつないです。

 でも、自覚はしていない様なので、指摘してあげましょう。

 

「緑谷くんは、試合より()()()に勝ちたいんですね」

「……え?」

「言い方を変えますね。試合の勝敗に関係無く、轟くんを負かしたいんです」

「……ッ!」

 

 気づいた様です。

 ハッと、そうだったんだ! という顔で目を見開く緑谷くんに、唇を緩める。……それがどういう意味かは、まだ気づいてない様です。

 

「そうですね。試合に勝つのは、タイミングを外さなければいけると思います。……ですが、()()()に勝ちたいなら、試合は諦めましょう」

「……っ」

「あと、これはアドバイスですが、騎馬戦の最後。あの動きができれば“個性”の無駄撃ちは減ります。ですが、今の緑谷くんだと後二回が限度です」

「……ッ!!」

「三回目は、高確率で骨折するから使っちゃダメです」

 

 騎馬戦の際、チラリと見えた彼の姿。

 

 氷煙で冷えた身体を強引に動かそうとして、足に個性を纏わせ誰よりも高く飛んだ彼から、緑色の閃光が見えた。

 轟くんや爆豪くんを退けたソレを、試合中に使えれば強いですが、今の力量じゃ無理ですね。

 

「……っ、はい」

 

 私のアドバイスをきちんと受け止める緑谷くんと、立ち去る気配のないおじさん。

 空気が重すぎるので、さっさとアドバイスを終わらせましょう。

 

「緑谷くん」

「っ、はい」

「貴方が、この体育祭で勝ちたい気持ちは、見ていたから知っています。……ですが、今の貴方の目は曇りきり、独りよがりの勝利に魅入られています」

「……」

 

 轟くんに、勝ちたい。

 試合の勝敗ではなく、彼という存在を打ちのめしたい。

 

 彼の心をへし折ってしまいたい。

 雄英体育祭での一位ではなく、たった一人の少年への勝利を望む。

 

 

(……知ってましたけど、緑谷くんって気持ち悪いですねぇ)

 

 

 面白くて微笑めば、緑谷くんは耳を赤くして、恥じ入る様に顔を伏せる。

 だけど、ぎゅっと強く握っていた拳を開いて、真面目な顔で、私との『約束』を見下ろす。

 

 その、雨に濡れた子犬の様な、不格好な有り様はカァイイと思った。

 

 

「君は、オールマイトじゃありません」

 

 

 一歩、近づく。

 ハッと顔をあげる緑谷くんと目が合う、その右手に、人差し指をトン、と落とす。

 

 

「君は弱い」

「……は、い」

「嘘を、一瞬で見抜く眼もありません」

「……はい」

「轟くんに、余計な事をして勝てる見込みも無いです」

「……は、いっ」

「彼の心に、響く弁舌すら無い」

「……っ」

「ですが、パンチの一発も当てられない程、弱くはないです」

「……!!」

 

 顔をあげる彼の瞳から、迷いが消える。

 

(……ああ)

 

 その、気持ち悪い瞳に目を細める。

 

 普通である彼が浮かべるには、異質の輝き。

 私が求めているものを放り捨て、歩んでいく先の孤独を、貴方は知らない。

 

 

「忠告をしておきます。これから緑谷くんがやろうとしている事は、ほとんどの人に理解できない、おかしな行為として映ります」

 

 

 浮かぶ感情を、ちゃんと隠して彼と向き合う。

 

 

「ですが、轟くんには伝わるでしょう。君のパンチは、泣いちゃうぐらい響くでしょう」

 

 

 彼の両肩に手をおいて「わっ!?」くるりと方向転換。

 

 

「だから、()()()()負けちゃダメですよ、男の子(ヒーロー)

 

 

 その覚悟で、轟くんを倒しちゃえと、強く背中を押した。

 

 

「――――はいッ!!!!」

 

 

 最初はたたらを踏んで、それから力強く駆けていく背中は、おぞましい。

 

 あんなに欲していた体育祭での勝利を捨てて、轟くんに負けないという、おかしな覚悟を決めた彼の思考が理解できない。

 

 ……。

 ですが、私は乗り越えました。

 

 

(緑谷くんも、轟くんのお父さんも、どちらも立ててどちらも勝たせる。……完璧ですね)

 

 

 我ながら、この展開は素晴らしい。

 緑谷くんの気持ち悪いところを後押しして大勝利です。

 

「良かったですね。轟くんは勝ちますよ」

「…………」

 

 改めて、おじさんに声をかける。

 

 これで、このおじさんも怒らないでしょうと顔を上げれば、凄まじい顔で見下ろされる。……え、どういう感情です? 

 

「……失礼する」

 

 そして、燃えているおじさんは、煮詰めた感情を押し殺す様な硬い声で、顔を逸らして去っていく。

 

(えー?)

 

 お礼ぐらい言っても良くないです?

 これで息子さんは勝ちますし、緑谷くんも試合に負けて勝負に勝つしで、万々歳なのに。

 

 

(大人でも、思春期ってあるんですかね?)

 

 

 首を傾げつつ、その背を見送るより先に控え室の前に立つ。

 なんだかんだありましたが、ある意味でお茶子ちゃんへの予行練習ができました。

 

(この勢いでいきましょう)

 

 よし! と、ノックをしようとして、それより先にカチャリと少し開いて「あ」その隙間から、お茶子ちゃんの固い顔が覗いている。――――会いたかった、のに、一目見て頭が真っ白になる。

 

「被身子ちゃん、こっち……!」

「! お茶子ちゃん」

 

 え?

 そのまま、手を引かれて室内に入る。

 

「……へ?」

 

 というか、お茶子ちゃんの目が赤くて、泣いていたのかと舌が固まってしまう。

 

 え? お茶子ちゃんが泣く? なんで? どうして?

 そ、そんなに負けるのヤだったんですか? そこまで? どうしよう? 頭が真っ白になっていると、お茶子ちゃんにぎゅっと抱きしめられる。

 

「……!!??」

「さっきの、聞こえてた」

「……????」

 

 さっき?

 え、何の事ですか? さっき何かありました?

 

 それより、お茶子ちゃんに、なにか、気の利いた事を―――ちゃんと、空気を読んだナニかを、言って、

 

「……本当に、被身子ちゃんは……もー」

「?」

「……かっこいいんやから」

 

 はえ?

 ぽそっとした呟きに、息が止まる。

 

(かっこいい?)

 

 ぐるぐると思考が空回りし、気づいたらお茶子ちゃんにぎゅっと抱きついて思考を止めていた。

 

(……?)

 

 一生懸命に考えていた台詞も、気づけば全部溶けて無くなって、お茶子ちゃんの温もりに急速にナニカが満たされて、困惑する。

 

「……えと、お茶子ちゃん」

「うん」

「会いたかった、です」

「うん……」

 

 けっきょく、こんな事しか言えなくて。

 だけど、妙な満足感に顔がにやけそうなぐらい心地良くて、気づいたら目を閉じている。

 

 

「私もだよ、被身子ちゃん」

 

 

 嬉しい返事を、聞き逃さなかった事にほっとして、幸せに意識を落とした。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32話 冷たいのは苦手です

 

 

 本日何度目かの……大歓声での目覚め。

 

 ワアアア!! と、うるさくて、目覚まし時計としては優秀かも知れない……なんてうんざり考える。

 

(眠い、です……)

 

 流石に、今日はミッドナイトの香りを至近距離で嗅ぎすぎました。

 一方的な相性の悪さとデバフに、頭の奥がくらくらします。だから、もう少しだけ寝ていたいのに、この興奮しきった歓声は厄介です。

 

 瞼が重くて指先が冷たい。夢では感じたことの無い人々の熱気というものを肌でピリピリ感じながら、お茶子ちゃんの香りにホッとする。(ああ……お茶子ちゃんに運ばれてるんですね……)揺れる感覚と触れる感触が心地良い。

 

(……雄英体育祭って、本当にお祭りなんですね)

 

 そういうものだと知っていましたが、想像以上です。

 改めなくても、A組の皆やその他の反応で薄々察してはいましたが、実際に体験すればさして興味の無かったイベントの注目度にも気づく。

 

「二人まだ、始まっとらん?」

「うら……」

「見ねば」

「目を潰されたのか!!!! 早くリカバリーガールの元へ!!」

 

 目的地についたらしく、揺れがおさまる。

 予想はしていましたが、お茶子ちゃんは緑谷くんの試合を見るのが目的の様です。

 

 あと、飯田くんの声が大きいです。今だけちょっと控えめにしてくれたら、それだけで救われる上位者がいます……

 

「行ったよ、コレはアレ、違う」

「違うのか! それはそうと悔しかったな……」

「今は悔恨より、この戦いを己の糧とすべきだ」

「うん。……絶対に見逃せない」

 

 ほんの少し、お茶子ちゃんの腕の力が強くなる。

 

「あ、ごめんね2人とも、少しずれてくれる?」

「構わん」

「勿論だとも! さ、どうぞ! ……それにしても、良く寝てるな?」

 

 んぅ? お茶子ちゃん達が三人分の椅子に無理して四人で座ろうとしています。

 ……私の事は床に転がしてくれればいいのに、優しいです。

 

 丁寧に椅子に座らされて、力の無い頭を支えられながらお茶子ちゃんの肩に乗せられる……その、一連の動きが本当の赤ちゃんにするみたいに繊細な手つきだったので、少しだけくすぐったい。

 

(……これは、よく眠れそうです)

 

 こんな環境でも、ここなら心地が良い。

 

 感謝の気持ちを胸に、今度こそ眠ろうと微睡みに身を任せて、ガシャン―――ゴウ!! ……と、突然の破壊音と寒波に襲われる。

 

「……………」

 

 更には、興奮しきった観客さん達の大歓声が鼓膜に突き刺さり、控えめに言ってイラッときました。

 

 これでも、寛容な自信はあります。

 悪夢での経験がアレすぎたので、どんな暴言もそよ風の如く受け流せる自信があります。現実で『情けない糞袋女が』とか言われても平気です。でも、睡眠の妨害だけはいただけません。

 

 音はともかく冷気が嫌すぎて、一気に目が冴えました。

 

 でも、咄嗟にギュッとして貰えたので、反撃しかけた腕が止まります。うっかり『夜空の瞳』を使う所でした。

 

「あ、被身子ちゃん、起きたんだね」 

「……ぁい」

「今ね、被身子ちゃんが言ってた通りに……あっ!? で、デクくんと轟くんの“個性”が、ぶつかってるところ」

 

 ステージで追加の音がしましたね。

 でも、そんな事より焦燥で歪むお茶子ちゃんの顔がカァイイ。

 

 肩を揺すられて、「ひ、被身子ちゃん!」ステージを見る様に促されてしまい、仕方なしに視線を向ければ、轟くんと緑谷くんが向かい合っている。……? 2人は何をし…………あ、そうですね試合をしているんでしたね。

 

(いけません……お茶子ちゃんがカァイくて忘れかけていました)

 

 睡魔とお茶子ちゃんの恐ろしさを体感しつつ「……え、と」薄れ気味の記憶を手繰り寄せる。

 

「トガくんの言う通り、とは?」

「うん……試合前に色々あって……デクくんにアドバイスしてたんよ」

 

 アドバイス?

 ……? あ、いえ。そういえば、してましたね? ……でも、私の言った事って『自壊して突撃してれば隙を見せるよ!』ぐらいの雑なものでしたし、様子を見るに緑谷くんは冷静に狂ってるから、参考になってないですよ?

 

「……ふあ」

 

 欠伸が止まらない。ダメですね。あの後、お茶子ちゃんに会えた安心感と達成感で、前後の記憶が吹き飛んでいます。

 

 流石に、一時間も経っていないだろう会話を忘れるのはダメなので、なんとか思い出そうと目を閉じ『ゴウッ!!!!』と、さっきよりも強い冷気が顔に当たる。

 

「……被身子ちゃん、デクくん大丈夫かな?」

「……そう、ですね」

 

 その声に、かろうじて冬眠しかけていた心に春の日差しが浴びせられた心地で、なんとか瞼を開ける。

 

 興奮よりも心配の色が濃いお茶子ちゃんに微笑ましくなるも、そんなに心配しなくてもいいのにと思う。

 緑谷くんは、負けないらしいので大丈夫だと、手を伸ばして頭をなでなでしてあげる。

 

「大丈夫ですよ」

 

 ちゃんと言葉でも伝えると、お茶子ちゃんは安心して「……うん」と、ステージに視線を戻す。

 

 お茶子ちゃんの横顔だけを見ていたかったけど、我慢してステージを見れば、緑谷くんが駆けている。

 片足にパチリと纏う緑色の閃光が洩れて、左手はすでに指が数本折れている。ポタポタ零れていく赤を気にしない動きに、轟くんの息があがっている。

 

「……轟くん、気圧されてますね」

「え」

 

 うっかり呟いたら、お茶子ちゃん達が反応する。

 

「本当かい!? とても、そうは見えないが……!」

「そうなん? 余裕そうに見えるけど……」

「ん、動揺しすぎて……ふぁ、ステージの大半が氷漬けになってます」

 

 ダメです、やっぱり眠いです。

 

「……そうは見えないな。緑谷が上手く避けているからではないのか?」

「違います……普段の轟くんなら、緑谷くんが逃げた先を予想して足を氷漬けにします。……アレは、緑谷くんの気迫に動揺して、冷静になれていない証拠です」

「……! なるほど」

 

 常闇くんも聞いていたんですね。

 お隣に座っているから距離が近……いえ、そんなさりげなさを装いつつ身体を離してたら腰を痛めますよ?

 

「……それに、轟くんの攻撃、さっきから過剰で余分で無駄が多いのです。緑谷くんが怖くて必要以上に力を込めています」

「……そう、なんだ」

「……た、確かに、先程から精彩を欠いている様に見える!」

「……むぅ」

 

 真剣な顔でステージを見る3人を見習おうとして、欠伸が洩れる。

 

 やっぱり、お茶子ちゃんの時より面白くないですね。

 というより、勝敗がどうでも良すぎて興味が持てないのです。ひたすら攻めの姿勢で自壊していく緑谷くんに、すでに涼しい顔が崩れかけている轟くん。

 肉体的にボロボロな人と、精神的にオロオロな人。……どちらが試合相手でも、特に困りません。というか、寒いのがヤなので早く終わって欲しいです。

 

 そんな風に、ただ眺めていれば、バキッ!! と、緑谷くんの左手首が折れる。

 

 脚も、そろそろ限界が近いらしく、ギリギリ折れない程度の“個性”を込めて、距離を詰めようとしている。その、痛みを通り越して限界すら忘れたバーサーカーな突撃に、轟くんが怖がっている。

 

(すごく、可哀想です……)

 

 心から轟くんに同情します。

 

 あんなに気持ち悪い緑谷くんに執着されるなんて……整った表情の裏で、幼子の様に怯えているのが見てとれる。

 常軌を逸した自己を省みない勢いと一途さに、理解と不理解が同時に押し寄せて……とっくに心が逃げたがっている。

 

(轟くんは、突っかかる相手を間違えましたね……)

 

 どんな理由があったにせよ、温厚な彼の心に火をつけた。

 

 負けられない、負けたくない、なんてものを通り越して、()()()()負けない、なんて業火に育てあげた時点で、彼を侮りすぎていたと微笑ましい。

 

 すでに、勝敗がどう転ぼうと結果が手に取る様に分かり「……んぅ?」気づいたら、ぽふっと常闇くんにぶつかってしまう。

 

「あ、ごめんなさい」

「……キニシナイデ」

 

 片言だけど、常闇くんは優しいね。

 

 女の子に慣れていないのか、ガチガチの常闇くんの肩から頭をあげる。そうしていたら、気づいたお茶子ちゃんに「おいで」と抱き寄せられる。うれしい。

 

 

「なん、なんだよ、お前は……!!」

「!? ――――づぅうう!!!!」

 

 

 あ。

 

 轟くんの、苛立ちと恐怖が混じった声が響くと同時に、氷結の攻撃が緑谷くんに襲いかかり、一瞬ステージが見えなくなるほどの派手な衝撃と破壊音に歓声が湧き上がる。

 

 咄嗟に足で弾き飛ばしたから緑谷くんは無事ですが、……今のは両足が折れていても不思議じゃなかったので、運が良かったですね。

 もくもくと余韻の煙が舞い上がり、ステージ上の氷がパラパラと砕かれていく。

 

 

(……轟くん、今の攻撃は本気でしたね)

 

 下手したら、緑谷くんが死んでいてもおかしくない鋭い攻撃でした。

 

 それを、緑谷くんも察しているのでしょう。息を荒らげて、相手の動揺を確信しながら轟くんを観察している。ここまできて余所見は一度も無く、歓声やプレゼント・マイクの声ですら届いているか怪しい。

 

 轟くんは、その一心すぎる瞳に、寒さ以外の理由で身体を震わせている。

 

「…………」

 

 にしても、へったくそですね。

 ハアァ、と呆れが混じったため息をつくと、お茶子ちゃんが気にして「ね」と、顔を寄せてくる。

 

「デクくん、何か間違えてる……?」

「……んぇ?」

 

 どういう質問かと首を傾げるも、お茶子ちゃんの視線は真剣で、つい、思っている事を口にする。

 

「そう、ですね。……へたくそだなって思います」

「へたくそ?」

 

 お茶子ちゃんの顔が近くて、カァイイと思いながら頷く。

 

「緑谷くんは、“個性”を常時発動型のバフじゃなくて必殺技みたいに考えてるんです」

 

 とても非効率で、おかしくて、不自然で、だからこそ見ていて安心する。

 どこか普通じゃないのに、普通の枠組みにいる事を許されている男の子。興味深くて、面白い子だと観察していたけど……あんなに気持ち悪いと鏡を見ている様で辛くなる。

 

「……常時、発動型?」

「んっと、お茶子ちゃんは触れるだけで“個性”がかかります。だから、常時発動しているって意味で常時発動型です。鉄哲くんや切島くんだって、びっくりしたらハリネズミが丸くなるみたいに一瞬で硬くなります。ちょっと息んだり力むぐらいの感覚です。……なのに、緑谷くんはわざわざ『使うぞ!!』って必殺技を出すみたいに意気込むんです」

「……だから、へたくそ、なのかい?」

「はい。勿体ないですよねぇ、少し意識を変えれば面白い事がいっぱいできる“個性”なのに」

 

 欠伸を漏らして、目を細める。

 お茶子ちゃんと飯田くんが考え込んでいるのを横目に、ボロボロの緑谷くんの様子を感慨なく見下ろす。……リカバリーガール、怒りそうですね。

 

 いえ、約束した右手は無傷ですけど。なんで、左手ばかり使ってるんです?

 

 ……まさか、ここにきて『約束』にこだわってるんですか?

 

「何故だい? それを分かっているなら、どうして緑谷くんに指摘しなかったんだい!?」

「ふあい?」

 

 思考に割り込む様に、飯田くんが顔を寄せてくる。

 

「……うん。どうして、それをデクくんに教えてあげなかったの?」

 

 お茶子ちゃんにも、真面目な顔で問われてしまう。

 

「……それは」

 

 その方が興味深くて、観察し甲斐があったからです。

 と、正直に言うとダメですよね? ……なら、もう1つの理由を言いましょう。

 

「緑谷くんには、今の内に痛い目を見て欲しいからです」

 

 っと、話している間に、轟くんが観客席にいるお父さんを見つけて、ハッとすると同時に表情を歪め、ギリギリで立ち直りました。

 緑谷くんの進行方向を予測して細かい氷を時間差で生みだし、退けようとした緑谷くんの左腕が、とうとう二の腕までダメになります。

 

「ッ!? デクくん……」

「くっ! どうしてだい? 緑谷くんと喧嘩でもしたのかい!?」

「……」

 

 飯田くん声が大きいです。周りもびっくりしています。

 常闇くんの視線も、気づかわしそうですし、少しだけうんざりしつつ口を開く。

 

「そうじゃないです」

「え……?」

「痛い思いをしたら、少しは自分の事を省みてくれるかなって、期待したんです」

「……それは、どういう意味だい?」

 

 3人は、意味が分からないとばかりに困惑している。……あと、さりげなく周りが聞いてるのにも気づいていますが、まあいいです。

 

「緑谷くんは、憧れで身を滅ぼしてしまう子です」

「え……?」

「まさか!? 彼は尊敬できる友人だ!!」

「……」

「何かずれてませんか? いえ、それは否定しませんが……」

 

 面倒臭さを覚えつつ、普通になる為には慣れておくべき些事だと思い直す。

 

「緑谷くんの善性は、少しばかり行き過ぎているんです」

「……え」

「このままだと緑谷くん、自分が餓死寸前でも笑いながら子供にパンを差し出して、飢え死にしちゃいます」

 

 例えの話をしながら、彼のおかしさにいまだ気づいていないお茶子ちゃんと飯田くん、そして騎馬戦でチームを組んだ常闇くんにも良い機会ですと説明する。

 

 仲が良いからこそ、その異常な精神性を知っておかないと、ある日いきなり急変した様に見えるかもしれません。それはちょっと可哀想です。

 

「緑谷くんは、ちぐはぐです」

 

 今も、壊れた左腕を、更に犠牲にしようとしています。

 

「弱いのに強くて、貧弱なのに強靭で、飢えているのに満ちている。……紙一重なんです」

 

 そのせいで、頭が良くて優しいのに、残酷になっていく己に気づけない。

 

(例えれば、釣った魚に餌をあげない人。それに思い至れない子供)

 

 彼は鈍感で、愚直で、前だけを見すぎている。後ろで彼を案じて泣いている人がいても、気づかず置いて行ってしまう。

 A組の中で、普通なのに普通じゃ無い、お茶子ちゃんに似ている様で違う男の子。

 

「彼は、このままヒーローになっちゃいけない子です」

「……」

「……トガくんは、それを……案じていたんだね」

「はい。だから、死なない程度に痛い目を見れば、少しは立ち止まって己を見つめ直してくれるかなー……なんて、期待したんですけど」

 

 無理だろうなと、分かっていたから指摘しなかった。

 

 ステージ上で、更なるぶつかり合いが起こっている。砕かれる氷の隙間から、緑谷くんが痛みに顔を歪ませ、その異常な瞳を轟くんにギラギラ向けている。

 

「やっぱり、ダメみたいですね」

 

 口元を隠して、笑う。

 

 勝負に負けても、試合に勝てるからいいかと思いましたが……迷いの無い緑谷くんの揺るがない心が、自らを省みない立ち回りが……轟くんの繊細な心には残酷すぎます。

 

 その在り方は、強烈で刺激的すぎる。

 

 半信半疑、というより疑い九割だった2人が、ハッとした表情で緑谷くんを見ている。

 気づけばお茶子ちゃんも飯田くんも常闇くんも、それ以外の人が見入っている。

 

 緑谷出久という歪んだ原石の、その在り方に圧倒されている。

 

 一瞬だけ冷静になれた轟くんも、その視線に負けて、怖がって、全力で“個性”を使っている。でも、彼はひるまないどころか、轟くんの動揺に隙を見いだせないかと考えながら前進している。

 

 戦うたびに壊れていく自身をそのままに、痛みという警告に従う事もせず、ただひたすらに勝利を求めてひた走る子供。

 初めて出会うだろう、際立って異常な強敵に、呼吸が乱れている。轟くんの視線は度々、観客席にいる父親の姿を探し、安堵と憤怒で表情を歪ませる。

 

 

「どこ、見てるんだ……!!」

 

 

 それに、とうとう緑谷くんが口を出す。

 

 

「震えてるよ、轟くん」

「……!?」

「“個性”だって、身体機能の一つだ。君自身、冷気に耐えられる限度があるんだろう……!?」

 

 

 痛みに震える声は、轟くんに動揺を与えている。彼の足が、一歩下がる。

 

 

「で、それって。左側の熱を使えば、解決出来るもんなんじゃないのか……?」

 

 

 緑谷くん、容赦ないですね。

 

 中途半端な君を負かしたいんじゃないって、そういう意図がビンビン伝わってきます。ですが、話を聞いていたお茶子ちゃん以外は、困惑しています。

 

 

「……皆、本気でやってる。勝って……目標に近づく為に……っ、一番になる為に!! 半分の力で勝つ!?」

 

 

 緑谷くんが、血だらけでボロボロの左腕を豪快に振る。

 

 

「まだ僕は、君に傷一つつけられちゃいないぞ!!!!」

 

 

 その叫びの怖さを知るのは、私とお茶子ちゃんと、そして――――

 

 

()()で、かかって来い!!!!」

 

 

 彼のお父さんでしょうね。

 

 

「おまえは……っ!?」

「んぬ゛っ!!」

 

 

 バキバキの左腕を、おもいっきり降りかぶり、衝撃でステージの大半の氷が砕けて、それが轟くんに降り注いでいく。

 

 ああ、もう左腕は持ち上げる事すらできませんね。

 使える部位が本当に無くなり、これで、右手を使うしかないわけですが……

 

 

「…………」

 

 

 緑谷くんの動きが止まる。試合中、一度も轟くんから視線を逸らさなかった彼が、顔をあげる。

 まるで、そうするのが自然な様に、私を探して、目が合う。

 

 その、底知れないまっすぐな瞳と見つめあう。

 

「……」

 

 だから私は……約束の小指をたてる。

 目を細めて、口を動かす。

 

 

「 さあ、君はどうします? 」

 

 

 その右手に乗せた、たわいない『約束』を握りつぶしますか? そう、彼に問う。

 

 緑谷くんは、数秒だけそんな私を見て「……ああ」じわじわと目を見張っていく。

 

 それから「……そうか、そういう事だったんだ……!」何かに気づいた様に、パチ、パチパチ! と、全身から閃光を走らせる。

 

 

「……()()に、100%じゃ、ダメなんだ」

 

 

 緑谷くんは、私を見上げながら、ぶつぶつと言っている。

 

 そして、いまだ無傷の右手を、うっすらと開いてから優しく握りしめる。

 

 

「渡我さんは……最初から、教えてくれていた」

 

 

 え?

 

 

「握り潰すな、って。……つまり、力を抜けって、ヒントをくれていた」

 

 

 ……そういう意図は、確かに込めましたけど……変な捉え方してませんか?

 

 緑谷くんが、謎の自己解釈でナニカの答えを得たらしい。

 ダメになった左腕をそのままに、ゆっくりと全身に“個性”を発動し、閃光がパチパチとはじけていく。

 

 その間、轟くんは緑谷くんを警戒……というより、もう心で負けているといいますか。

 

 あの迫力を目前に、降参しないだけ強いというレベルで、毛を逆立てた猫の様に彼の一挙一動を注視している。

 

(……本当に、可哀想です)

 

 後で優しくしてあげましょう。

 

 

「緑谷、そんな状態で……何が、できるってんだ」

「……君は、あの日の渡我さんを知らない」

 

 

 はい?

 

 

「幸い、って言っていいのかな。……僕たちは、見ていたんだ。渡我さんを……片腕だけで、立ち向かう姿を、その戦い方を、全部見ていたんだ」

 

 

 壊れた左腕からも閃光がほとばしり、彼は吠える。

 

 

「人を守る事を諦めない、気高いヒーローの背中を!!!!」

 

 

 待って????

 そんなの見せた覚え無いですよ????

 

 困惑していると、お茶子ちゃんに泣きそうな顔で抱きしめられる。え? ……飯田くんはズーンと落ち込んでいるし、常闇くんは何とも言えない顔で暗めに腕を組んでいる。……えぇ?

 

 

「何で、そこまで……!?」

()()()()()()……!!」

 

 

 瞬間、ぶつかり合いが生じて氷が弾かれるも、その右腕には傷一つ無い。

 

 自壊せず、轟くんの攻撃を跳ねのけた事に、歓声やプレゼント・マイクも大いに盛り上がっている。

 焦る轟くんが更に氷を生みだすも、威力の落ちた氷結は緑谷くんの拳で簡単に砕けてしまう。

 

 

「全力で! やってんだ皆!! 君の境遇も君の()()も、僕なんかに、計り知れるもんじゃない……でも!!」

 

 

 バキッ!! と、緑谷くんの右足がとうとうあらぬ方向に折れる。

 

 お茶子ちゃんの悲鳴を聞きながら、まあ、いきなり一点集中から全身に、なんて上手くいくわけないですよね。と納得する。

 彼はぐらりとよろけて、しかし右手を足代わりに、無理矢理に体勢を立て直す。

 

 

「ッうう˝ぁ!!?? ぜん、りょくも出さないで、一番になって、完全否定なんて―――フザけるなって今は思ってる!!」

「……う、るせぇ!!」

「僕は勝つ!! 君を越えてっ!!」

「……ッ」

 

 ダンッ!! と、緑谷くんが動く。

 

 折れていない左足だけで飛んで、そして、踏ん張れない身体で、初めて、轟くんと距離を詰める。その拳は、私と約束をした右手は、そのまま。

 

 

「…………あ?」

 

 

 トン、と。

 

 轟くんの胸を叩く。

 

 

「……?」

 

 

 それは、そよ風ほどの威力も無い。友達を叱る様な柔い一撃。

 最大のチャンスを無駄にする、轟くんの心臓にだけ届く、淡い衝撃。

 

 

「君の、力じゃないか……っ!!」

 

 

 ああ、ほんとうに。

 

(……緑谷くんって、気持ち悪いです)

 

 唖然とした表情の轟くんが、その一撃の意味を「――――……ぁ」言葉を、理解して―――くしゃりと顔を歪ませる。

 至近距離にある、緑谷くんと見つめあい、その半身から業火が噴き上がる。

 

 それが、合図になる。

 

 

「!!」

 

 

 緑谷くんは片足だけで無様に距離をとり、威力を出す為に腰を捻り右腕を振りかぶる。

 

 轟くんは氷と炎を操り、泣き笑いの表情で、打たれた胸をおさえながら力を振るう。

 

 

「……緑谷、お前、おかしいよ……っ!!」

「……」

 

 

 そして、2人は“個性”を迸らせる。

 

 

「……でも……ありがとう」

「……どう、いたしまして!!」

 

 

 もう、言葉はいらないと、彼らは激突する。

 

 咄嗟にお茶子ちゃんを引き寄せると、ドゴオオ!! と、爆発かと疑う程の激しい余波が観客席にまでとどき、ステージが見えなくなる。

 

 そして煙が晴れたら、予想通り。片足を失って踏ん張れない緑谷くんは……あっさりと場外に弾き飛ばされ転がっている。

 

 けれど、手痛い一撃は与えたらしく、轟くんは腹を押さえて蹲っている。

 

 

「……ぁ。デクくん、負けたん?」

「はい」

「……でも、負けてないんだよね?」

「はい。緑谷くんは、()()()()負けませんでした」

 

 お茶子ちゃんは「そっかぁ……」と、初めて見る、どんな感情を込めているのか分からない表情で目を伏せる。

 

 その、大人びた横顔に息を呑んでいると、ミッドナイトの声が響き渡る。

 

 

『緑谷くん……場外!! 轟くん――――……三回戦進出!!』

 

 

 そうして、少しの波乱があった二回戦はほどよく平和に幕を下ろすのでした。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33話 面倒な事ばかり起こります

 

 

 由々しき事態、というには大げさですが……面倒な事になっています。

 

 深刻に欠伸をしながら(どうしましょう……?)難題が多すぎてうんざりします。

 お茶子ちゃんに手を引かれ、梅雨ちゃんに背を押されているこの状況、転ぶ事は無いでしょうと億劫に目を閉じる。

 

 あの後、緑谷くんと轟くんの試合が終わり、救護班の人達が現れました。

 

 ロボットが彼らに近づいて、診断した途端にアラーム音。救護班の人達は顔色を変えて2人に駆け寄り、鬼気迫る様子で声を張り上げながら2人を運んでいきました。

 その尋常ではない様子に観客席の空気も変わり、それにお茶子ちゃん達も不安を覚えたみたいです。

 

 青ざめた顔で『お見舞いに行こう!』と、私の手を引いて立ち上がりました。

 

 飯田くんも『当然だ!!』と、強張った顔で立ち上がります。……これが強制イベントというものかと、なすすべもなく引きずられました。

 

「……2人とも、大丈夫かしら?」

「だ、だだだ大丈夫に決まってんだろぉ!!??」

 

 心配そうな梅雨ちゃんと、不安が爆発している峰田くんもいます。

 

 2人は襲撃の時に緑谷くんと共闘したそうで、その時の絆もあって私達より先に腰をあげていました。……そう考えると、特に何も考えずお見舞いに行くという行為は大事なのでしょうか? 

 

(……でも、お見舞いってただの自己満足ですよね? 邪魔になるだけですよね?)

 

 疑問を覚えるも、お茶子ちゃん達が迷わず行動するという事は、コレは『普通』寄りの迷惑行為なのかもしれません。もしくは、実は迷惑行為じゃない? ダメです難易度が高すぎます。

 あと、近くに座っていた塩崎ちゃんと目があい、引き止めたそうにしていたのも気になります。

 

(……とりあえず、誰かが入院したらお見舞いに行ってみましょう)

 

 その時の相手の様子を見るまで、この思考は保留です。未来の知り合いの入院を期待しつつ、それはそれとして……堪えきれない欠伸が洩れる。

 目の前に、重要度の高い悩みが立ちふさがっているので、そろそろ目を背けるのも限界です。

 

(……薄々、おかしいと違和感はありました)

 

 危うい所で、緑谷くんに助けられましたね。

 

 試合の最中、私の戦い方がどうこうと叫んでいたアレです。

 そこから気づきを得て、改めて思い返せば、芦戸ちゃんの様子もおかしかったんです。そこから連鎖する様に、細かく思い当たる節がありました。

 

 緑谷くんと芦戸ちゃんだけの勘違いならともかく、それを聞いた直後のお茶子ちゃん達の反応に、なんて事だと愕然としました。

 

 

(……恐らく、襲撃事件のインパクトが強すぎて、クラスメイト達は謎の勘違いをしています)

 

 

 ソレは、私の苦手分野から発生している思い込みで、だからこそ発見が遅れました。

 雲を掴む様にとらえどころがない。『普通』の心理から生まれる勘違い。

 

(……ヤです、面倒臭いです)

 

 それは、知らぬ間にクラスメイト達に浸透していたらしく、いまや周知の事実になりかけている。

 

(……私が、気高いヒーロー?)

 

 ゾッとします。

 なので、気づきが遅くてギリギリであろうとも、手遅れになる前に気づけて良かったです。

 

 この件は早めに、かなり強引にでも絶対に解いておかなくてはいけません。身勝手な偶像を押しつけられるのはごめんです。

 

 私は『普通』が良いのです。その為にも、次の試合どれだけヒールぶれるかで決まるので、やっぱりお見舞いに割く時間、は――――…………うん?

 

(血の臭い)

 

 くん、と。顔をあげて鼻を鳴らします。

 甘くて冷たい、死に誘われている香りだと思考を切り替えます。

 

(……これ、轟くんです。この濁り具合は、内臓が破裂してますね)

 

 分析しながら、咄嗟に口元を隠す。

 目を細めて……マジですかと、予想外の事態に口角が上がる。

 

(……緑谷くんの攻撃、かろうじて氷の壁で二重にガードしてましたよね?)

 

 なのに、この損傷です?

 私の想像以上に、緑谷くんの“個性”は凶悪だと、認識を改める。

 

 異常です。ただ一つの気づきを得ただけで、破壊力が上がりすぎている。

 見ていた限り、“個性”のコントロールも安定していなかったのに、未完成でコレなら、不自然が過ぎる。

 

「被身子ちゃん?」

「……」

 

 おもしろくて、足が止まりかけたせいか、お茶子ちゃんが不安そうな顔をする。

 

「……ぁ」

 

 それで我に返ります。

 咄嗟に、轟くんの血の臭いがすると口を開きかけ、でも、お茶子ちゃんは優しいから、変に心配してしまうかもと口ごもって目を逸らします。

 

(……ど、どう言えばいいんでしょう?)

 

 こういう時、気づいた事を教えるのか、教えないのか、誤魔化すのか、知らぬ存ぜぬで押し通すのか、それ以外の行動か、最適解が謎すぎる。

 

(……『普通』なら、咄嗟にどんな選択をするのか、切実に知りたいです……っ)

 

 どれだけ考えても、どこかで噛み合わなくなるのが分かっているから困ります。

 それでも、何か言わなくてはと、舌に音を乗せようとした時「いい加減にしろ!!」と、出張保健室の方から怒鳴り声がします。

 

 

「そこをどけ、オールマイト!!」

「ちょ、待って!? 本当にもう少しだけ待ってくれ!! 今から彼女を探してくるから保健室に入らず待機していてくれ!!」

「ッ!? どこまでふざけるつもりだ貴様は!? 焦凍の容態はどうなっている!?」

「だ、だから――――来たね!!??」

 

 

 はえ?

 

 燃えてるおじさん……じゃなくて、エンデヴァーとオールマイトが騒いでいると思ったら、こっちに気づいたオールマイトと目があう。

 

「渡我少女!! リカバリーガールが君をご指名だ!!」

「……はい?」

 

 ええと、なるほど?

 

 オールマイトの大げさな動作に首を傾げるも、リカバリーガールの意図をなんとなく察してお茶子ちゃんの手を離し、後ろで支えてくれる梅雨ちゃんにも「いってきますね」声をかけて、離れる。

 

「ひ、被身子ちゃん?」

「……大丈夫?」

 

 2人の声に頷いて足を進める。それにぞろぞろとついて来ようとする皆を、オールマイトが慌てて遮る。

 

「すまないが、今は渡我少女以外立ち入り禁止だ!!」

 

 ……。

 つまり、それぐらい轟くんがやばいって事ですね。

 

(……リカバリーガールとしても、この対応は苦肉の策と見ました)

 

 まあ、これから病院に運んで手術だと後遺症が残りかねないですし、場合によっては死んじゃいます。この件に関しては色々な大人の事情が絡み合って、大変そうだなぁと欠伸を飲み込む。

 

(……緑谷くんを応援した私にも、ほんのり責任はありますし)

 

 軽いフォローはしましょう。

 

 この臭いの感じだと、轟くんの肋骨あたりが内臓に突き刺さって。お腹の中に血を溜めています。少し急いだ方がよさそうです。

 オールマイトの脇を通り抜けようとすると、父親として当事者なのに蚊帳の外なエンデヴァーが激怒しています。……当然ですね。

 

「ふざけるなよ、オールマイト……!! 焦凍は俺の息子だぞ!?」

「い、いや、だからね!? 後でちゃんと説明するから、頼むから落ち着いてくれ!!」

「貴様……こんな時までいい加減にしろ!! 説明責任すら果たせんのか!? 何故、ドクターヘリの要請すら保留してこんな子供、に――――」

 

 邪魔です、とは流石に言いません。

 

「…………」

 

 相手は現役ヒーローであり、先輩みたいなものですからね。軽く視線をあげて、その瞳を見据えます。

 静かに、入り口を塞ぐ2人に声をかける。

 

 

「通してください」

 

 

 月前の湖に、小石を投げ込む程度の威圧。

 

 これから私が行使するは狩人の秘儀であり、明らかに“個性”の枠組みから外れているのです。

 約束したとはいえ、お婆ちゃんにこの神秘を明かすのは特別で。だからこそ緊張もあります。

 

 なので、余計な事に思考を割かせないでください。

 

「「……ッ!?」」

 

 ゆっくりと道を空けてくれる2人に会釈して、保健室に入る。

 

 エンデヴァーの方に更にいちゃもんをつけられるかと思いましたが、意外と素直に引いてくれて助かりました。

 

 後ろ手にちゃんと鍵を閉めて、ふぅー……と一息。

 

(……さて。『聖歌の鐘』を現実で使うのは初めてですが……手ごたえは変わらないと信じてますよ)

 

 それじゃあとベッドに近づくと、リカバリーガールがそれを拒む様に硬い表情で立っている。

 

「……あんた、年寄りを脅かすもんじゃないよ」

「はい?」

 

 何を言っているんですか? 首を傾げると睨まれる。

 

 え、怒ってます……? 年寄りの癇癪ですか? お婆ちゃん血圧大丈夫です?

 

「……ハァ。それで、あんたならどうにかできるんだろう?」

 

 簡潔に急かされました。

 

 空気を読まないソレが、なんだか楽しくて、頬を緩めながら締め切られたカーテンを見つめます。

 

「はい、できます。でも、なんで知ってるんです?」

 

 とても濃い、血の香りがする。

 

「……分かるさ。だてに年はくってないよ。……あんたは、あの子の指を正常に治してみせた。それに関して謙遜するでも誇るでもなく、不備が無いか興味すら示さなかった」

「……?」

「つまり、指を生やす以上の事を、低リスクで正確にできると暴露している様なもんさね」

 

 んん? なるほど、です?

 ……つまり、もうちょっとそれっぽいリアクションをとればいいって事ですね?

 

「だから、オールマイトに頼んで、私を探そうとしたんですね」

「……この件は、下手に表沙汰にしたくないからね。あんたに賭けてからでも遅く無いと診断したのさ。……あちらの御仁のおかげで、少々大げさになっちまったがね」

 

 ふむ?

 リカバリーガールは、轟くんもですが、緑谷くんの心配もしているみたいです。……確かに、これで轟くんに何かあれば、加害者である緑谷くんに注目が集まり、“個性”への興味が溢れるでしょうが……彼には何かあるのでしょうか?

 

 私の知らない事情もあって、色々複雑化している現状に、しかし興味を失う。まあいいかと、治療の準備をする。

 

「それで? 治療行為は見せてくれるのかい?」

「はい。リカバリーガールの助手になるって約束しましたから」

 

 改めて、閉まっているカーテンをシャッと開く。

 そこには、麻酔が効いて顔色の悪い緑谷くんと轟くんが、別々のベッドで寝ている。

 

「わあ、酸塗れだったベッドが新品になっています! すごいですねぇ!」

「渡我! あんたはもっと別の事に興味を向けな!」

 

 あ痛っ!? え、怒られました。

 

 でも、ベッドが新しくなってるのは気になりますと、叩かれた腕をさする。改めて、2人の様子を見つめて……ふむ。

 

「じゃあ、やりますね」

 

 緑谷くんもですが、轟くんの方に比重を置かないとですね。

 

(……予定通り『聖歌の鐘』でいいですね)

 

 緑谷くんは、自業自得に骨があちこち粉砕して、普通に手術すると長時間の大手術になりそうです。轟くんは、お腹の一撃がやばすぎて、複数の血管と臓器が壊死しています。肋骨が下半分折れて胃やら肺やらしっちゃかめっちゃか刺さってます。……この場にいるのがリカバリーガールじゃ無かったら、終わってましたね。

 

 改めて、リカバリーガールに見える様に、手の平から『聖歌の鐘』を生み出します。

 

「それは……?」

「ちょっとした、“個性”の応用です」

 

 ちなみに、これは形だけの代物です。

 

 本当は無くてもいいんですけど、何も持っていない自分から鐘の音が響き渡るのは、普通にヤだったので、疑似『聖歌の鐘』を、“個性”で生み出しました。

 

 百ちゃんの真似です。まあ、百ちゃんのと違って数分でドロドロになりますけど。

 

 さて、集中です。

 治しすぎない様に、2人まとめて不自然にならない程度に、丁度良い具合に、治す。

 

 ――――頭上に掲げ、鐘を鳴らす。

 

 音色が響き渡り、目に見える形で薄い光の膜が私たちを包み込む。

 

 

「……――――!!?? ぎぐ、あ……ッ、あああ゛ああアァ!!??」

「がっ!!?? あ、ぎ? ぅ……ぐ、ぅううううぅ、があァ!!??」

 

 

 緑谷くんと轟くんが同時に悲鳴をあげますが、仕様です。

 無視して、もう一度行使すれば今度は獣の如き苦悶の叫び声があがります。でも、これは治っている証拠だから続行です。

 

「!? 何が起こっているんだい、大丈夫なんだろうね!?」

「はい、治療の副産物です」

「本当だろうね!? 説明をおし!!」

「あ、痛い、痛いですってば! ……リカバリーガールだって、調子良くなってるでしょう?」

「……!? ……腰の、痛みが」

 

 はい、驚いているリカバリーガールを横目に、もういいですねと鐘をドロドロに戻す。

 

 そうしたら「焦凍ぉ!?」「デクくん!?」「ヒミコちゃん!!」「渡我さん!?」と、複数の声とドアが開いた音がしつつ……あれ? 足が、ふらつく?

 

「あんた達!? ここは今、立ち入り禁止だよ!!」

「……?」

 

 リカバリーガールの声を聞きながら、意識がぼうっとしています。

 

 初めて感じる状態異常に興味津々で、ふらつく感覚に慣れようと意識を集中する。

 その状態を分析しつつ、しかし危機感は覚えない。これは、どういう状態かよく考えなくてはと、ぼやける視界を擦る。……あ、そうだ。説明しなきゃ。

 

「……んぅ。リカバリーガールには、言いましたよね?」

「!? 何をだい?」

「……だからぁ、私の“個性”は『変身』で、だからこそ、元の『設計図』がしっかりしてるって話ですよぉ」

 

 ちゃんと聞いていてと、頬が膨らむ。

 妙な気だるさと、何故か増えている室内の気配に敵意が無い事を確認して、とにかく、最低限の説明は……しないと、です。

 

「……私の行使する『癒し』は、だからこそ、怪我によっては下手な治療より激痛を起こします」

「……続けておくれ」

「ふぁい。……その人の『設計図』通りに、元の形に戻ろうとするからです。無理矢理にでも、そこに大事な臓器が在ろうと、異物も骨も、最短距離で治ろうと、時間を戻す様に治ります」

 

 続けながら、足に力が入らずベッドを支えにする。

 リカバリーガールが慌てて支えてくれるも、お婆ちゃんに体重はかけられない。

 

「バラバラの骨も……破れた内臓も、壊死した細胞も、戻ろうとして……結果、怪我によっては、より深く肉を抉り神経を傷つけるという訳です」

「…………」

 

 だるい……

 でも、この睡魔は、いつもと、違います。

 

「……でも、ちゃんと治ります。……死にたいぐらい、痛くても……ショック死しても、治ります。……だって、そういう、もの、ですから……」

 

 言いながら、なんか、無理です。

 

 これは、もしかして血が足りないのかと、瞼が閉じて―――――声。

 

 

 

 

 

 

「ごめんねぇ、言うのが遅かったけど『聖歌の鐘』に関しては、無制限に使えるのがバレたら良くないみたいだから、使用する度におもしろ……じゃなくて、具合が悪くなる仕様にしときましたぁ。眠いかもですけど、次の試合も頑張ってね~♡」

 

 

 

 

 

 

 はぁ……?

 

 あまりの内容に『ガバッ!!』と、勢いをつけて覚醒する。

 

 ……――――おまっ、()ふざけるなそういうのは事前に言いなさい!!

 今日に関しては二度も機会があったでしょう!? あーもう!! これだからトガヒミコは報連相すらまともにできないッ!!

 

「……ん、ぐぐぐぅ!!」

 

 怒りを必死に飲み込むも、内容が内容だけに胃の辺りがムカムカする。

 ほんとうにあいつ殺したい。

 

 数秒ほど意識も途切れていたらしく、ぶつけたらしい鼻がヒリヒリ痛い。

 リカバリーガールだけじゃ支えきれなかったらしく、目の前に駆け寄ってきたのだろう、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんに撫でられている。その後ろには心配そうな飯田くんと峰田くんもいる。

 

「被身子ちゃん……大丈夫?」

「おちゃこ、ちゃん」

「ヒミコちゃん、無理に起きないで」

「つゆちゃん」

 

 にくきゅうが、鼻をそっと撫でて、梅雨ちゃんに背を撫でられる感触に癒される。

 ほとほと()への殺意が溢れそうだったからこそ、お茶子ちゃんのなでなでと、梅雨ちゃんのよしよしが格別で、元気がでてくる。……それはそれとして。

 

「……なにか、たべもの、あります?」

 

 主に()のせいで、身体がだるくてしんどいです。

 

「え?」

「……ちょっと……血が、物理的に減りまして……補充したいんです」

 

 頭がぼうっとします。『聖歌の鐘』の行使に、私の血をつかっているみたいです。

 いえ、すぐに()から頂くので、本当なら秒で回復できますが……

 

 基本、暗黙の了解で不干渉を貫いている()が、殺し合いスレスレの横やりを入れるぐらいです。

 

(……この件は、きちんと話を聞かないと判断はできませんが、信憑性はそれなりにありそうです)

 

 なので、失った血に関してはそのままにしておきましょう。

 ですが、それはそれとして後で絶対にぶちのめします。

 

「ま、待ってね、今ならのど飴あるから! あと売店で何か買ってくるよ!!」

「トガさん、オレンジジュースもどうぞ!!」

「ヒミコちゃん……サプリは大丈夫?」

「と、トガ、お前、いくら何でも……自分の身を削ってまで何やってんだよぉ!?」

「――――」

 

 あれ? 後ろの方に塩崎ちゃんもいる。

 

 意外な人物の姿に目を丸くしていると、リカバリーガールが出張保健室のドアを閉めながら、オールマイトに怒っている。

 

「……誰もいれるなって、言った筈だがね?」

「す、すみません!! じ、尋常じゃない叫び声に、私も動揺してしまって……」

「……ハァ。あんた達、この件はここだけの話だよ。後で念書を書かせるからね。エンデヴァー、あんたもだよ」

「……。分かっています」

 

 お茶子ちゃんと梅雨ちゃんに支えられながら立ち上がり、ベッドで眠る2人を見る。……ふむ。

 

(顔色も良いし、ダメな血の臭いも消えましたね……)

 

 緑谷くんの酷使した左腕と折れていた右足もくっついています。これならリカバリーガールが治したって言っても誰も疑わないでしょう。轟くんの内臓と肋骨も治せたし……んー、疲れました。

 

 顔をあげるのを億劫がっていると、何かを熟考していた塩崎ちゃんが近づいてきて、そっと手を握られる。

 

「渡我さん、私に何かできる事はありませんか?」

 

 ……!

 おどろきました。

 

 その顔を見て、気づきます。

 彼女の閉じている瞳が、開きかけている。

 

(……こっち方面の才能があったんですね、塩崎ちゃん)

 

 私の秘儀の行使を感じて、何かの気づきを得たのでしょうか?

 彼女の声は怖いぐらい真摯で、誠実すぎて、妙な胸騒ぎがします。なんとなくアデーラちゃんを思い出したからこその、予感です。

 

 近い内に、塩崎ちゃんは啓蒙を得るかもしれない。

 

「……大丈夫です。それより、塩崎ちゃんはどうしたんです? 怪我でもしたんですか?」

「いいえ。次の試合が始まりますので、お迎えに参りました」

「「あ」」

 

 お茶子ちゃんたちの声が重なる。

 

 ……なるほど。緑谷くんが心配過ぎて、本当に次の試合が私と塩崎ちゃんって忘れていたんですね。当たり前に連れて来た事に対して、反省モードに入っています。

 

「ありがとうございます。……ふあぁ」

「……渡我さん、具合はどうですか?」

「んぅ、平気ですよ。少しふらついてますが、問題なく動けます」

「……そう、ですか」

 

 胸を痛めている様で、どうにも熱い瞳で私を見つめる塩崎ちゃんの様子に、少し困ります。

 

 やっぱりこれ、アデーラちゃん反応です。

 夜が明けた後も、信仰心がいきすぎてとにかく身を捧げようとしていた頃の彼女にそっくりです。

 

(……いえ。違いますね。ここはヤーナムでは無いですし、一緒にするのはどちらにも失礼です)

 

 ここは現実であり、人が壊れるのが前提の悪夢ではない。それに、塩崎ちゃんは雄英に通えるぐらいの逸材です。

 この程度なら、放置しても大丈夫でしょうと見ない振りをする。

 

(……それに、今はそれ以上の問題がありますし)

 

 こうして、緑谷くんと轟くんを治した後の皆の反応を見て、瞳や、表情を改めて観察して、察しました。謎の勘違いに拍車をかけてしまった、と……!

 

「……っ」

 

 だからこそ、都合は悪いですが、丁度良いので塩崎ちゃんを生贄にします。

 

(……次の試合相手である彼女を心身共にボロボロにして、私のイメージを戻します)

 

 皆の誤解をとく為に、普通科に入る為に、塩崎ちゃんは庇護対象なので胸は痛みますが、犠牲になって貰います。

 

 そんな計画を立てている隙に、リカバリーガールにお菓子と造血剤、皆からサプリにのど飴にオレンジジュースを飲まされます。ごった煮すぎです。

 

 そして、塩崎ちゃんに丁寧に抱き上げられます。

 

「それでは、参りましょう渡我さん」

「…………。1人で歩けますよ?」

 

 あと、お顔が近いです。

 

「いいえ、これぐらいはさせてください」

「…………」

 

 優しく微笑まれてしまい、その慈愛が込められた瞳に「……ありがとうございます」これからの事を思うと、少しやり辛いです。

 

(……まあ、やるんですけど)

 

 部屋を出る際、本当に念書を書かせようと準備しているリカバリーガールをチラと見て、まあこれなら秘密は守られるかと期待する。……我ながら、警戒心の無い事をしましたね?

 

「渡我さん」

「ふあい?」

「……次の試合、私の全てを以って渡我さんに挑戦します」

「? はい」

「……どうか、私を見定めてください」

 

 うん?

 キリッと前を向く塩崎ちゃんの表情は凛々しく、緑谷くんレベルの謎の意気込みと覚悟を感じる。

 

(……あれ? これはまさか、塩崎ちゃんも謎の勘違いを発生させています?)

 

 予想外すぎて動揺する。

 ……いえ、次の試合で嫌でも勘違いは是正されるでしょうし、今ぐらいはいいかと、気まずさを飲み込む。

 

 

『さあ、次の試合は――――って、またかよ!? 渡我被身子!! 今回も対戦相手に運ばれて悠々自適にご登場だぁ!!』

 

 

 うるさいですね。

 

 通路を抜けると眩しい青空が瞼越しに眼球を刺激し、歓声とプレゼント・マイクの声がダイレクトに鼓膜に突き刺さります。

 塩崎ちゃんの腕の中で、短い安息が終わってしまうと嘆きの溜息を零します。

 

(……さて)

 

 それじゃあ、イメージ回復の為に頑張りましょう。

 

 切り替えて目を開くと、目があった塩崎ちゃんに慈しむ様に微笑まれた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

34話 個性は人の形をしています

 

 

 考える事は多々あれど、目的を忘れてはいけません。

 

 何やら企んでいる気配が濃厚な()を筆頭に、教え導く事になった芦戸ちゃんとの今後の事とか、目の前にいる塩崎ちゃんの素質の事とか、リカバリーガールの裏で暗躍してる誰かさん達の気配とか、本当に色々ありますが、今は横にポイッとするのです。

 

 私は、憧れの普通科に通う為にここまできたのです。目指すは、ヒーロー科からの一時離脱です。

 追加するなら、いつの間にか発生している謎の勘違いも終わらせて、楽しい学園生活を送りたいです。

 

 

(だからこそ、この試合でアピールします)

 

 

 ヒーローとは何か? 敵とはどういうものか? 不本意ながら、生徒指導の子供向けアニメのおかげで大衆向けは理解できています。

 

(敵とは、最後にヒーローに倒されて退場するものです)

 

 芦戸ちゃんの時もそれを狙っていたのに……途中で変な空気になって諦めました。

 でも、塩崎ちゃんなら大丈夫でしょう?

 

 この場で、塩崎ちゃんをいたぶってボロボロにして返り討ちにあえば、普通科への道が開ける筈です。

 

(……私は諦めません)

 

 ふぅ、と息を吐く。トガヒミコは不本意ながら、投げ出さない事と諦めない事に関しては悪夢で鍛えられています。拒否権の無い周回とか、あと少しだったのに即死とか、ちょっと気を抜いたらリンチとか……理不尽に怒る気力すら念入りに打ちのめされたので、精神的にタフなのも強みです。

 

 だからこそ、色々な問題を後回しで目の前に集中できます。

 

 チラ、と私を見つめる塩崎ちゃんを観察すれば、彼女は「……!」私の視線に緊張を滲ませて、されど大きな壁を喜ぶ様に笑う。

 

「……! 渡我さん、胸をお借りします」

「……はい」

 

 声に込められる熱情に、相変わらずの温度差を感じます。

 

 そこは睨むところでは? 薄く浮かぶ笑みに疑問を抱きつつ、私は塩崎ちゃんの事をあんまり知らないと思い出す。

 

(そういえば、今日初めて話しました)

 

 気づけば庇護対象として見ていたので忘れていました。……だから、予想と違う反応をされて虚をつかれたのでしょう。

 

(……やり辛いです)

 

 つい、口元を隠して、苦く緩む口元を隠す。

 少しだけ、彼女に笑い返すのも有りかもしれ……いえダメです。気持ち悪くて悪魔で怖い、人を不快にさせる笑みを晒しては、またうるさく言われちゃいます。普通から遠ざかるし、お茶子ちゃんも見ています。

 

(……塩崎ちゃんに嫌われるのは、別にいいですけど)

 

 お茶子ちゃんから嫌いって言われるのは、ちょっとヤだなぁと目を伏せる。

 つい、関係ないところでやる気を失いかけて、乗り気になれない自身に気づいてしまう。

 

(……塩崎ちゃん、良い子なんですよねぇ)

 

 本来なら、手心を加えて一撃で終わらせてあげたくなるほどには、情も湧いている。

 

 でも、それはダメだと何度目かの溜息を飲み込む。それらを誤魔化して塩崎ちゃんに小さく手を振れば、彼女は不思議そうに、けれど控えめに手を振り返してくれる。…………余計にやり辛くなりました。

 

 

『おいおい……試合前に和んでて大丈夫かぁ!? 今回の体育祭随一のトリックスター、なんかギプスが増えてるけど大丈夫!? ヒーロー科、渡我被身子!! 対、真面目が服着てる系実力派女子、対戦相手にさえ慈悲深き乙女!! ヒーロー科、塩崎茨!! 両者並び立つ!!』

 

 

 ……気乗りしない心を、強引に切り替えます。

 あと、関係ないけどプレゼント・マイクから、塩崎ちゃんへの紹介のやり直しというご機嫌窺いの気配があります。何かあったんです?

 

 

『START!!』

 

 

 ザワリ。勢いのある試合開始の声と同時に、塩崎ちゃんの空気が変わる。

 

 彼女の笑顔がスッと消えて、感情を抑える様に静かな表情を向けられる。そして、一斉に頭上のツルが蠢き、ズゾゾ、と。囲い込む様に迫ってくる。

 

「……ふあ」

 

 まあ、初手はそうきますよね。

 

 気が抜けて欠伸を漏らしながら、タイミングを見て一歩前に。ツルの動きを俯瞰する。

 

(んー……)

 

 この一歩にかける修正、速さ、伝達、調整、それらをぼーっと見つめて、触れる寸前で避ける。うん、速くて複雑ですけど、立ち位置に気をつければ大丈夫ですね。

 

「はい、大体分かりました」

「……!」

 

 轟くんほどではないですが、塩崎ちゃんも“個性”を扱うのが上手いですね。

 

 細部まで操らんと努力している跡が見えます。普段から“個性”をつかって練習しているのでしょう。……しかし、これはまた、脳を使いそうな“個性”です。

 

(だから、ですかね……?)

 

 信仰のある頭が良い人って、啓蒙と相性が良いのかもしれません。

 

 秘儀の行使に違和感を覚えて、閉じた瞼が震えるほどの逸材ですからね。……信仰心のある、脳を使い慣れた人だからこそ気づくのかもしれません。

 

(……塩崎ちゃんに、自覚があるかは分かりませんが)

 

 彼女は、私の秘儀が“個性”ではないと勘付いている可能性がある。……もしくは、いずれ気づける下地をもっている。

 

(……厄介です。選択を間違えれば、私の擬態が見抜かれるかもしれません)

 

 普通を目指す私にとって、普通でないと嗅ぎ取られるのは、この身がすでに人でないと暴かれるのは、とても困ります。

 

(……やはり、今の内に手を打っておきましょう)

 

 少しばかり積極的に、彼女を傷つける事を決める。

 そう考えている間も、ひたすらに私を追い、うねり、広がり、此方を拘束しようと追いかけてくるツルの群れを、脳の瞳を経由して躱していく。

 

 ステージ下にも潜り込んでいますが、微かな音でバレバレだって、後で教えてあげましょう。

 

 ローリングして避けつつ、ツルの移動ルートから狙いも分かるので、閉じ込められそうになればツルとツルをわざと絡ませ、はじき、ねじらせ、隙間をつくります。

 

「……くっ!!」

 

 ぎゅう、と。

 祈る様に手を合わせる塩崎ちゃんをチラ見して、ステージに張り巡らされていくツルの範囲を把握しながらステップを刻む。

 

 

『渡我ぁ!! 縦横無尽に迫りくるツルの群れを間一髪で躱し続ける!! その無駄のない動きは背中に目が―――ついててもおかしいだろその動きぃ!? ちょ、欠伸したぞおい!? 目を擦ったまま避けれちゃダメでしょ!?』

『……渡我は、恐らく目が良いんだろう』

『目ぇ!?』

『感覚が鋭すぎるというのもあるが……相手の微かな動きから攻撃を先読みする能力が抜群に優れている。……ジャンケンでもしたら、大抵の相手に連戦連勝できるだろうな』

 

 

 褒められました。

 ちょっとウキウキしますが、調子に乗ると加減を忘れるから我慢です。

 

 それに、私を捕まえられない焦りでツルの操作が一部雑になっています。下手に自爆されても困るので、この辺りでしかけちゃいましょう。

 

(塩崎ちゃん、棒立ちは愚かですよ)

 

 もっと動かないと、簡単に狙い撃ちできてしまう。

 

「……よ、っと」

 

 あえて、身を低くしてギリギリで避ければ、強引に追いかけてくるツルが、ガリッ!! とステージを削ってくれる。そこから生まれる石を靴先で蹴り上げて拾い、塩崎ちゃんに投石する。

 

「……ァ!?」

 

 良い声。

 

 塩崎ちゃんの、油断しきった悲鳴にゾクッとする。その衝撃で、くねりと一部緩んだツル地帯から早々に抜け出し、ポタリ、血を流す彼女を見つめる。

 

「……ぅ」

 

 頬から顎にかけて、ツウ、と零れていく赤が見える。ゾクゾクして、苦悶の声も合わさって耳に心地良い。

 

(……敵も、たまにはいいですね)

 

 グッときます。

 

 彼女は頬をおさえながら、油断ならない瞳で私を見ている。さあ、どんなカァイイ事を言うのかなと、どんな台詞にも敵っぽい嫌味を返そうとワクワク待機。

 

「……ッ、なぜ、ですか? 渡我さん」

「……?」

 

 声の響きに、怒りより戸惑いを感じて、返事が遅れる。

 

「……渡我さん、なら……今ので私の気絶を狙えた筈です!」

「……」

 

 はい?

 

「やはり、貴女は優しすぎます! この行為が、貴女の慈悲深さからきているのは理解しますが、どうか手心無く、本気でお願いします!!」

「……」

 

 待って?

 

 え、何言ってるのこの子? とち狂ってるんですか?

 

「…………」

 

 絶句してしまう。敵っぽい事を言いたかったのに、素で言葉に詰まるじゃないですか。目は丸くなるし、表情の選択にも困ります。

 

(天然ちゃんですか?)

 

 よろけそうになりました。

 芦戸ちゃんといい塩崎ちゃんといい、私は対戦相手に恵まれない……!

 

 これは、大幅に予定変更です。

 

 

「……今の台詞、後悔しないでくださいね」

「! ありがとうございます」

 

 

 今のやり取りで、オチがみえました。

 

 この子はどれだけボコボコにしても、謎解釈でへんてこな事を言いだします。最悪、そんな塩崎ちゃんの天然発言で勘違いモードが延長したら最悪です。

 

(……。しょうがありません。もう少し、体力を削っておきたかったですが)

 

 手痛い反撃を覚悟しましょう。

 

 本来の予定では、塩崎ちゃんを遠距離からじわじわ削って、卑怯とか、真面目にやれとか、獲物をいたぶっているのかとか、そういう感想を観客に抱かせた上で、更に盛り上げるつもりでした。ですが、悠長な事をして塩崎ちゃんに発言を許す方が危険です。

 

 ……そうとなれば。……よし。

 

「塩崎ちゃん、攻撃はしないから近づきます」

「? はい、分かりました」

 

 すたすたと、両手を広げて無防備に近づくと、本当に警戒を解かれる。ツルもへにょっとする。

 

(……嘘でしょう?)

 

 害意はないと示したとはいえ、この素直さはゾッとする。

 これが光属性、もしくはヒーロー科なのかと、どん引きしながら手を伸ばすと、不思議そうに見つめられる。

 

(……いえ、そこで私の手を振り払うぐらいはしましょうよ)

 

 色々と言いたい事はありますが、今だけは都合が良いので黙ります。背伸びすれば「どうされました?」素直に身をかがめてくれるのに更に呆れつつ、ペロッと。

 

「―――」

 

 彼女の、顎下から頬の傷口まで。血をすくうように舌を這わせる。

 

 

『えっ!? ちょ、はっ!? 何してんのぉー!? きゃー!?』

『やかましい……野太い悲鳴をあげるな』

 

 

 外野がうるさいですが、今は気になりません。……だって。

 

 

(……おいしい)

 

 

 舌を刺激する鉄の味に、我を忘れそうになります。

 

 好きです、たまらないのです。もう少し―――もっと、たくさん、味わって……ああ、ダメです。

 

 傷口に、舌をねじ込みたい衝動を誤魔化して、彼女の血で濡れた手の平すら舐めたい衝動を堪え、唾液で彼女の傷口を塞ぎながら、そっと離れる。

 

 

「……と、がさん?」

「ごちそうさまでした」

 

 

 口元をおさえて見つめあう。久しぶりの好物の味で、緩みそうな顔を隠しつつ、しっかりと堪能しています。

 

「……いま、のは」

「はい。これが、私の“個性”の条件です」

「……え?」

 

 頬をおさえて、ポカンとしている塩崎ちゃんと、妙にうるさい歓声とかプレゼント・マイクの声を無視して、味の反芻をしながら塩崎ちゃんに背を向けて離れる。

 そして、最初の位置に戻ったあたりで、口元から手を離し、振り返る。

 

 

「私の“個性”は『変身』です。条件は、他者の血液を摂取すること。つまり、今の私は――――」

 

 

 とろりと。

 視点が高くなり、彼女と目線を合わせながら、ザワリと()()()()()を蠢かせる。

 

 

「貴女になれる」

「!?」

 

 

 塩崎ちゃんの瞳に、塩崎ちゃんになった私が映っている。

 それを見つめながら、“個性”を意識して動かす。さあ、自分の“個性”で叩きのめされてください。

 

 

「……これ、は!?」

「今度は、塩崎ちゃんが躍る番ですよ」

「ッ、まさか、変身先の“個性”を使えるのですか……!?」

 

 

 返事はせず、試運転です。

 

 横目に、微笑む()()()()()()()()()()と目を合わせる。細かい使い方は、彼女が教えてくれる。

 

 ……改めて、“個性”って、本当に不思議です。

 障子くんに変身した時も思いましたが、“個性”によっては、使い方を教えるどころか、拒否しようとする人もいます。……まあ、その時は叩き伏せて完全に乗っ取りますが。協力的な方が楽です。その点では、塩崎ちゃんも障子くんも、良い人です。あの時の障子くんは、不覚をとった己を責めつつ、轟くんを気遣って、邪魔もしなければ協力もしませんでした。

 

 それはそうと……

 

(お顔が、近いです)

 

 あの、“個性”の塩崎ちゃん、目の前の塩崎ちゃんよりフレンドリーです?

 誰にも見えないから良いですけど、後ろから抱きしめられています。懐いているというか……気を許されています?

 

「……」

 

 いえ、今は試合中です。

 戸惑いますが、おかげでツルの細かい動かし方が分かりました。改めて、五本単位で絡ませて強度をあげます。それを、大きく振り回して即席鞭の連打です。これは、当たったら皮膚を裂いて痛いですよ。

 

「ッ!! すでに、扱い方を心得ているなんて」

 

 はい。“個性”の塩崎ちゃんが教えてくれましたから、とは言いません。

 

 ビタン!! バチン!! と、ステージを派手に叩く鞭の音を聞きながら、逃げる塩崎ちゃんを観察する。……うん。このぐらいの力加減なら大怪我にまでなりませんね。

 転がる様に、鞭を避ける塩崎ちゃんを見守りながら、目を細める。

 

「……」

 

 にしても、“個性”の塩崎ちゃん、ステージを逃げ回る己の本体を見つめて、良い鍛錬になりますね、みたいな満足げな顔で祈っているの、控えめに怖いです。自分に厳しすぎでは?

 

 塩崎ちゃんが必死に迎撃しようとしますが、鞭にしたツルと、ただのツルでは威力が違います。

 掠めれば弾かれ、派手な音がしたかと思えばツル同士が絡まり合い頭皮が痛み、焦ってツルを切り離している。

 同じ強度の鞭を作ろうとしても、最初にステージに張り巡らせたツルが邪魔になって、それが己のものか私のものかで判断が遅れ、処理がおいつかずもたついている。

 

(……範囲を広げられるからこそ、一度処理がバグると混乱しちゃいますよね)

 

 軽く同情しつつ、これは反撃されるまで時間がかかりそうだと、“個性”の塩崎ちゃんを横目に、余ったツルを蠢かせて椅子を作る事にする。

 

「……!?」

 

 驚愕の視線を感じつつ、集中します。

 

 今の塩崎ちゃん相手なら、座っていても問題ないと判断して、ツルを編み込み巻き込んで強弱と弾力をつけて……できました! おしゃれなキャンプチェアの完成です。

 

 

『―――マジでぇ!? 変身先の“個性”を使えるだけでも反則臭ぇのに、即席の椅子まで作ってコントロールも完璧ってか!? 末恐ろしいにも程があるだろ!!』

 

 

 うん、良い感じの座り心地です。

 のびーっと椅子に座りながら、塩崎ちゃんをべしべししていると、己のあまりのヒールっぷりに満足します。

 

(やっぱり、渡我被身子って根が敵なんですよね)

 

 軽く足を組んで、くあっと欠伸をしながら目を擦る。……血が足りないのもあって、眠いです。

 

 “個性”の塩崎ちゃんは、当たり前に私の傍に控えていて…………あの、本体の背中に鞭が掠めて、派手な音してますよ? 凄く痛そうだけどいいんですか? もしかして塩崎ちゃんって、私の事あんまり嫌いじゃないです?

 

 少しそわそわしつつ、塩崎ちゃんの“個性”を束ねて鞭から手の形にする。……細かいのは疲れるので、想像しやすい形に固めてからコントロールする方が私にあってますね。

 

「……!!」

 

 頑張って対処しようとしている塩崎ちゃんは……動揺しすぎて防戦一方ですね。

 

 良い感じに体操服も裂けて、露わになった肌に血が滲み、白い肌に痛々しい青痣が目立ちだしています。……目の保養ですね。

 

 そんな姿にこそキュンとしちゃうから、私という存在は度し難いのです。……でも、ボロボロの女の子って、すっっごくカァイイんですよねぇ……癒されます。

 

 

「……ッ、渡我さん!!」

「? ふぁい」

「その椅子は、私にも作れるでしょうか!?」

「……」

 

 

 ……また、何か言い出しましたよこの子。……試合中に気にする事です?

 

 

「私は……己の“個性”に、創造の可能性を見出しておりませんでした!!」

「……」

 

 

 だから、何を言ってるんです?

 

 今べっちべっちに叩いてるのを、息も絶え絶えにしのいでいる状態ですよね? どう考えても、今発する台詞じゃないですよね?

 

「他にも、くっ! 作れるのでしょうか!? どの様に編み込んだ、ァ……のでしょうか!? どうか、未熟な私にも、んッ、ご指導のほど、お願いします!!」

「……あの、落ち着いてください」

「いいえ! とても落ち着いていられません!! ああ―――今日という日の出逢いに感謝を!! 私は、人生の師を見つけました!!」

 

 ……。

 私は、本当に対戦相手に恵まれない……

 

 ここは、自分の“個性”を好き勝手に使われて怒りを覚え、私という強大な敵を倒してヒーローとして成長すべきシチュエーションでしょう?

 

 うんざりして、だけどこういう予想外は少しだけ面白く感じて(いっぱい嫌われると思ったのに……)なんとなく口元を覆う。

 

「……えと、椅子を作るのは、今の塩崎ちゃんには難しいと思います」

「……! それでは、私の努力次第でしょうか?」

「……ですね。塩崎ちゃんの“個性”の伸び次第です。……んー」

 

 少し考えて、チラと“個性”の塩崎ちゃんを見れば、彼女の両手が私の手を包み込み、己のステータスを開示する。

 

 ……ゲームみたいですけど、そういう風に数値化して見えるのだからしょうがない。……えーと? 血質はまだまだ。神秘はほんのり伸びてますね。この年でこれなら及第点ですが、どちらかというと技術を伸ばしている感じですか。……少し勿体ない育ち方ですね。

 

「……そうですね。もう少し“個性”を練習したら、簡単な椅子ならできそうです。今度、一緒に作りましょう」

「はい……!!」

 

 感動で目を潤ませるのはいいですが、試合を忘れないで?

 

 この会話の間にも攻めを緩めていません。だから、笑ってないで真面目に逃げてください。一方的なボコボコは狙っていたけど、このシチュエーションだと違うんです。

 

 というか、何がそんなに嬉しいんです? この“個性”は水と日の光さえあれば無尽蔵に生えるみたいですが、それで家具でも作って売るつもりです?

 

 

「……時間切れですね」

 

 

 そうこうしている内に、エネルギー切れです。

 あの程度の血ではこの短時間が限界です。せめてもの嫌がらせだと、彼女のツルの棘を蕾に変えて、ポンッと白い薔薇を咲かす。

 

「あ」

 

 最後ぐらい、彼女を怒らせるつもりで花の香りを撒き散らす。

 

 これで、自分の“個性”をおもちゃにされたと気づいて「――――渡我さん!!」……なんで嬉しそうな声ぇ?

 

 

「私は……花を咲かせる事も、できるのですか?」

 

 

 は?

 

「いや、それはできるでしょう……」

 

 この天然さん、もう試合をする気ないのでは? 何で目がうるうるしてるんですか?

 

「……“個性”は自然の花と仕組みが違います。ツルを伸ばすのと勝手は違いますが、ベースが植物なら、花が咲いてもおかしくないでしょう?」

 

 精神的な疲労を感じて、気づけば変身が解けてしまった。

 

 別れ際に「っ!?」“個性”の塩崎ちゃんにキスをされて、ちょっとだけ動揺。……頬をおさえつつの咳払い。

 

 ……やっぱり私、塩崎ちゃんに嫌われてないみたいですね。

 

 ボロボロと、私から伸びていたツルは力を失い、薔薇の花弁と一緒にステージにばらまかれる。

 最終的に、それらが霧の様に消えると同時に、座っていた椅子も消える。その直前にのんびりと立ち上がり、伸びをする。

 

「……まあ、私のと違って、塩崎ちゃんが作った椅子は残りますし、これから頑張ってください」

「はい!」

「……あと、塩崎ちゃんはお堅いです。もっと気安く話しかけてくれないとヤです」

 

 つい、嫌われていないならと調子に乗って要求してみれば、彼女は目を丸くして数秒ほど言葉に詰まる。

 

 

「……――――奮励努力いたします!!」

 

 

 ……ダメっぽい。

 あ、でも塩崎ちゃんは真面目だから、後々にこのお願いは効いてきますかね?

 

 さて。変な空気にはなりましたが、まだ軌道修正はできるでしょう。試合を再開しようと、塩崎ちゃんを見つめる。

 

 

「さて、それでは―――」

「はい! 私の負けです!」

「―――……ん?」

 

 

 んん?

 

 目を見開いて、固まる。

 

 

「参りました。これ以上なく、実力差を突きつけられました。本来なら、それでも挑みたくはありますが……先の約束を強引にとりつけた手前、そこまで恥知らずにもなれません」

 

 ……。

 

「渡我さん、ご指導ご鞭撻のほど―――…………いえ」

 

 塩崎ちゃんは、そこで頬をほんのり赤らめる。そして、少しだけ恥じ入る様に瞳を伏せて、はにかむ様に微笑む。

 

 

「……私の様な、いえ……私と、戦ってくださり……くれて、ありがとうございます! ……今後とも、よろしくお願いします!」

 

 

 ぅ、カァイイ……!

 でも、ちょっと憎らしい! でもカァイイ! ダメです、心が混乱しています。

 

 

「……こんな感じで、大丈夫でしょうか?」

 

 

 窺う様に、ほんのり不安そうな彼女にギュンッとしつつ、なんていうか、泣きたい気分。

 世界って、思い通りにならないなー、脳の瞳が仕事しないなーと、うんざり気味に「良いと思います」と頷くと、ミッドナイトが身悶えしながら、満たされた様に鞭をふるう。

 

 

『塩崎さん、降参!! 渡我さん――――三回戦進出!!』

 

 

 ……切実に、ここで負けておきたかったです。

 

 そしたら、どれだけ悪行が目立とうと爆豪くんのおかげで薄れたでしょうに。

 現実の難易度の高さに打ちのめされていると、私よりずっとボロボロの塩崎ちゃんが「失礼します」当たり前に私を抱き上げる。

 

 ……いえ、もういいです。

 

 私は思考を放棄します。もぞもぞと塩崎ちゃんの首に腕を回して、その胸に顔を埋めました。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭を雑に楽しむスレ5

 

 

1:名無しのヒーロー

ここは雄英体育祭を雑に楽しみ、そして推しをみつけるスレのpart2です。

 

念の為、前スレ【雄英体育祭を雑に楽しむスレ】が終わってから書き込む様にお願いします

 

2:名無しのヒーロー

>>1乙

前スレで早くも推しがみつかりました!

 

3:名無しのヒーロー

>>1乙です

他スレは流れが速すぎるからだらだら語るのに助かります

 

4:名無しのヒーロー

>>1乙

前スレで突然社会のダークマターが広がったけどまあまあ平和だし引き続き利用します

 

5:名無しのヒーロー

土下座講座はな・・・

流し見しただけでもレベルが高すぎて怖かったわ

 

6:名無しのヒーロー

>>5

お前、買ったのか・・・?

 

7:名無しのヒーロー

流れぶったぎって次の試合は飯田くんVS発目ちゃん

 

8:名無しのヒーロー

ステージ直った?

前試合がやばかったから余韻がアレだけど、次も期待してしまう

 

9:名無しのヒーロー

両者でてきたけど・・・これアウトでは?

 

10:名無しのヒーロー

アウトだねー

ヒーロー科がサポートアイテムフル装備は許可が必要

 

彼は騎馬戦の時に何も身に着けてなかったし、申請はしてない筈

 

11:名無しのヒーロー

ミッドナイトも注意してるな

 

12:名無しのヒーロー

今年の一年は何かしらやらかすなw

 

13:名無しのヒーロー

真面目そうな子だし何か理由があるのかも?

 

14:名無しのヒーロー

ええ・・・w

 

【飯田くんが熱い主張をしている動画】

 

15:名無しのヒーロー

内容はともかく、この流れは絶対ミッドナイト大好きじゃんw

 

16:名無しのヒーロー

案の定だよwwww

 

17:名無しのヒーロー

オーケー出す基準がもう最高にミッドナイトだわw

 

18:名無しのヒーロー

次も波乱が起こりそうだとわくわくする!

 

19:名無しのヒーロー

なんかもう、始まる前から両者の温度差で(あ・・・)って察するものがあるんだがw

これ騙されてるよね?

 

20:名無しのヒーロー

裏しかないだろこれw

ヒーローが騙されやすいのはダメだよ飯田くん!

 

21:名無しのヒーロー

飯田くんの熱演もどこ吹く風だしなwこの発目ちゃん何しでかす気だ?

 

22:名無しのヒーロー

試合始まった!

 

と思ったら放送が乗っ取られてるwwww

 

23:名無しのヒーロー

これwwww

プレゼンテーションだwwww

 

24:名無しのヒーロー

くっそwwww

商魂たくましいってレベルじゃねーよwwww

 

25:名無しのヒーロー

飯田くん利用されちゃってるwwww弄ばれちゃってるwwww

 

26:名無しのヒーロー

今年のサポート科面白い子がいるなwwww

 

27:名無しのヒーロー

はい

 

【飯田くんのサポートアイテム有無の比較動画】

 

28:名無しのヒーロー

おお、けっこう変わってる

こういうの見ると、やっぱりヒーローにはサポートアイテムが必要なんだって実感するな

 

29:名無しのヒーロー

発目ちゃんが装備してるのも面白いな

 

30:名無しのヒーロー

こういう意欲的な子はいいね! 別の意味で将来有望だしうちに来てほしい!

 

31:名無しのヒーロー

飯田くんは・・・どんまいwwww

 

32:名無しのヒーロー

発目ちゃんスレたったわw

彼女の作品について語りたい人カムだってよw →【サポート科少女の作品にマジレスするスレ】

 

33:名無しのヒーロー

>>32

まったくしょうがないなw

 

34:名無しのヒーロー

>>32

無駄にスレ消費する前に場所かえようかw

 

35:名無しのヒーロー

この子のメンタル鋼か・・・!?

 

自己作品アピールを躊躇しない前のめりな姿勢めちゃくちゃ見習いたい!

 

36:名無しのヒーロー

皆、もっと可哀想な飯田くんの事も気にかけてやれよ・・・w

 

37:名無しのヒーロー

いや・・・w

あそこまで綺麗に騙されると、何を言っても煽りと捉えられそうでw

 

38:名無しのヒーロー

若干というか割と自業自得でもあるんだよなw

 

・・・もっと人を疑おう?

 

39:名無しのヒーロー

飯田くん渾身の叫びwwww

 

40:名無しのヒーロー

騙したなああああって、むしろ試合終了まで気づかない君が凄いよwwww

 

41:名無しの張り付き

wwww

 

『すみません。あなた利用させてもらいました』

『嫌いだぁあ君――――!!』

 

42:名無しのヒーロー

ばっかwwww

オチまで素晴らしすぎて鼻に炭酸がはいっただろwwww

 

43:名無しのヒーロー

これwwww実は飯田くんも自己アピールできまくってんのが笑いを誘うwwww

 

44:名無しのヒーロー

強制win-winなんだよなあwwww

 

45:名無しのヒーロー

発目ちゃんスレめちゃくちゃ伸びてるわwwww

 

46:名無しのヒーロー

次は常闇くんVS八百万ちゃんの試合だけど、笑いがおさまらないwwww

 

47:名無しのヒーロー

息つく間をくれw

ひーひー言ってるのに、すぐに次がくるんだもんなあ・・・

 

48:名無しのヒーロー

雄英って容赦なくサクサク進行するよなw

 

49:名無しのヒーロー

時間が押してるのかもねw

 

50:名無しのヒーロー

八百万ちゃん可愛い! 全力で推せるわ!

 

51:名無しのヒーロー

さっきのは例外として、この二人の試合も楽しみ!

 

52:名無しのヒーロー

試合開始!

 

からの何があった???? 目が痛いんだが????

 

53:名無しのヒーロー

※手遅れかもだけど、眩しいのがダメな人は注意。フリじゃなくて本当に目に刺さる

フィルターかけたけど、それでも個性によっては眩しいから、ダメだと思ったらこの試合だけ目視は諦めよう

 

【試合開始と同時に閃光弾が連続で炸裂した動画】

 

54:名無しのヒーロー

>>53助かります

サングラスした・・・

 

55:名無しのヒーロー

>>53ありがとう!

八百万ちゃん凄いな・・・短時間でこんなの作れるんだ

 

56:名無しのヒーロー

八百万ちゃんの個性は『創造』で確定したっぽい?

 

57:名無しのヒーロー

常闇くんは操作型の個性か・・・攻守ともにバランスが優れてる

 

58:名無しのヒーロー

ちゃんと見たいけど・・・不意打ち閃光が無理すぎる

 

59:名無しのヒーロー

目に痛すぎて頭痛してきたわ。これちゃんと効果あるの?

 

60:名無しのヒーロー

あるっぽいね

光った後は目に見えて常闇くんの個性が弱ってる。

 

61:名無しのヒーロー

まさに一進一退って感じの戦いで、手に汗握ってる

 

62:名無しのヒーロー

こういうの見たかったんだよ!

 

63:名無しのヒーロー

直視できないけど、もしかして攻撃が当たった?

 

64:名無しのヒーロー

八百万ちゃんが手の平から長棒を出して、常闇くんの肩に当たったな

 

65:名無しのヒーロー

ガードが間に合わないって事は、実際にこの光は有効なのか・・・そっか

つまり最後までピカピカか。

 

66:名無しのヒーロー

見たいのに見れない!!

 

67:名無しのヒーロー

常闇くんもよく避けてるし、隙あらば反撃しようと立ち回ってるな

 

68:名無しのヒーロー

これは・・・均衡が崩れたら一気に決着がつきそうだな

 

69:名無しのヒーロー

お互いに有効打が無い様にも見えるな

 

70:名無しのヒーロー

常闇くんも負けじと攻めるな!

 

71:名無しのヒーロー

おお! 弾き飛ばされながら閃光弾はうまいな

 

72:名無しのヒーロー

お互いに頑張ってせめぎ合ってるから、一つのミスで崩れ落ちそうなのドキドキする・・・!

 

73:名無しのヒーロー

八百万ちゃんの長棒がまた当たったな

 

74:名無しのヒーロー

前のは転がってるし、わざわざ新しいの造る必要あった?

 

75:名無しのヒーロー

手の平からぐあーってでてくるの、格好良くて羨ましい

 

76:名無しのヒーロー

え、常闇くんダウン? 足にきてた?

 

77:名無しのヒーロー

違うっぽい、イレイザーヘッドいわく即効性の睡眠薬だろうって言ってる

 

78:名無しのヒーロー

睡眠薬って・・・渡我ちゃん対策か?

 

79:名無しのヒーロー

いやに強力だけど大丈夫かそれ?

 

80:名無しのヒーロー

事前に使用許可はとってたのか

準備万端じゃん

 

81:名無しのヒーロー

マジで渡我ちゃん対策に思えてきた・・・

 

82:名無しのヒーロー

常闇くんかっけー!!

 

83:名無しの張り付き

 

『……見事、だ。……審判、俺の負け、です』

 

勝者への称賛だけでなく、自ら敗北を認める少年・・・

 

84:名無しのヒーロー

マジで格好良いのだが・・・?

 

85:名無しのヒーロー

良い試合だった! 両者お疲れ様!

 

86:名無しのヒーロー

八百万ちゃんも疲労困憊って感じだね

 

87:名無しのヒーロー

・・・そうか?

 

【お辞儀をしたかと思えば見事なスタートダッシュでその場から走り出す動画】

 

88:名無しのヒーロー

なんか急に元気になったな?

 

89:名無しのヒーロー

渡我ちゃんと芦戸ちゃんいたー!!

 

【通路脇の壁に寄りかかり、手を繋ぎながら目を丸くしている渡我ちゃんと苦笑している芦戸ちゃんの画像】

 

90:名無しのヒーロー

常闇くんは男子高生とは思えない可愛い寝顔

 

【常闇くんが運ばれていく動画】

 

91:名無しのヒーロー

あら可愛い。目力ある子だけど、寝てると幼いな

 

92:名無しのヒーロー

こちらも可愛いの暴力・・・

 

【八百万ちゃんに抱っこされている渡我ちゃんと、その横で慌てている芦戸ちゃんの画像】

 

93:名無しのヒーロー

だめだ・・・芦戸ちゃんと渡我ちゃんが同じ画面にいると涙がにじんでくる

 

94:名無しのヒーロー

わかる・・・ちょっとしんみりしてしまう

良かったねって気持ちと、残念だったねって気持ちで胸が熱くなる・・・

 

95:名無しのヒーロー

あっちは俺らの余韻とか知らんとばかりに仲良しだけどなw

 

96:名無しのヒーロー

これが、若さゆえの切り替えの早さ・・・!?

 

97:名無しのヒーロー

八百万ちゃんの嬉しそうなお顔よ

 

98:名無しのヒーロー

友達いない発言で心配だったけど、杞憂みたいでホッとしてる

 

99:名無しのヒーロー

アレは・・・マジで空気読めなさすぎて胃がキュッとした

 

100:名無しのヒーロー

渡我ちゃんはEQ低い疑惑(確定)があるから・・・

 

101:名無しのヒーロー

どっちだよwwww

 

102:名無しのヒーロー

やっぱり渡我ちゃんは話題性があるね。画面にでてきただけでスレの加速が違うわ

 

103:名無しのヒーロー

逆に注目しない方がおかしいレベルで目を惹く子だしね

 

104:名無しの張り付き

本当にな・・・

 

『……あ! えっと、トガちゃん?』

『……葉隠ちゃんのえっち』

 

少し目を離したらこういうイベントが起こる子だよ。目を離す方が勿体ない(ガン見)

 

105:名無しのヒーロー

>>104

待て!! 前後関係をはっきり描写しろください話はそこからだ!!

 

106:名無しのヒーロー

>>104

葉隠ちゃんって透明の子だよな!? いったい何があってそんな会話が発生したのか詳細を教えてくれ期待と好奇心で死にそうだ・・・!!!!

 

107:名無しのヒーロー

>>104

え? JKが透明なJKにえっちな事されたの????

 

108:名無しの張り付き

 

『は、葉隠さん、どういう事ですの!?』

『……ま、って!! 勇気を振り絞って頑張った結果、人生設計が狂いかけてるから、ちょっと待って!!』

『本当に何があったんだ!?』

『えっ、トガに何かしたの!? あ、だからぐずってたのか……』

 

前後に関してはこっちも全力で知りたいが透明だから詳細が分からないんだちくしょう・・・!!

 

109:名無しのヒーロー

>>108

どこから突っ込めばいいんだよwwww

 

110:名無しのヒーロー

>>108

人生設計が狂いそうてwwww

 

111:名無しのヒーロー

>>108

お腹痛いwwww

 

112:名無しのヒーロー

>>108

何気に八百万ちゃんも面白い動きしてるしで、ガチでずっと見てたいわwwww

 

113:名無しのヒーロー

>>108

次の試合の事とか忘れるわこんなんwwww

 

114:名無しのヒーロー

この目を惹いて離せなくなるカリスマ、やはり渡我ちゃんにはナンバーワンの素質が・・・!?

 

115:名無しのヒーロー

お前は何を言ってるんだ?

 

116:名無しのヒーロー

カリスマwwww

 

117:名無しのヒーロー

似て非なる母性じみたものだと思う・・・

例えるなら水辺の近くでよちよちしている三歳児を見ている様なそういう気持ち

 

118:名無しのヒーロー

保護しろ!!!!

 

119:名無しのヒーロー

>>117

ひえってした・・・

そうか、そういうところがA組の過保護に繋がったのかもな

 

120:名無しのヒーロー

でも、渡我ちゃんがクラス最強なんでしょう?

 

121:名無しのヒーロー

・・・そうでした

 

122:名無しのヒーロー

もう次の試合か、やはり早いわ

 

123:名無しのヒーロー

鉄哲くんVS切島くんだな

 

124:名無しのヒーロー

へえ、個性も似てるし勝敗の予測が難しいやつじゃん

 

125:名無しの張り付き

ところがどっこい

 

『トガ、どっちが勝つと思う?』

『鉄哲くんだと思います』

 

126:名無しのヒーロー

え、即答・・・?

 

127:名無しのヒーロー

試合がはじまったばかりなのに、欠片も迷いがないのがまた・・・

 

128:名無しの張り付き

クラスメイトもギョッとしてる

 

『そうなの!? 切島ってば負けちゃうの!?』

『芦戸ちゃん』

『! はい』

『サービスですよ? 自分で考える事をやめてはいけません。……あの2人の実力は同程度であり、“個性”による有利不利もありません』

『はい。……でも、その場合は互角じゃないの? トガは、切島の方が負けると思うんだよね?』

『はい。鉄哲くんは、騎馬戦で体力を温存させましたから』

『あ』

 

129:名無しのヒーロー

俺も今ギョッとしたよ・・・

 

130:名無しのヒーロー

ひえ・・・騎馬戦の時から仲間の体力にまで気を遣ってたの?

 

131:名無しのヒーロー

体力を温存させた、ってはっきり言ってるし・・・嘘やはったりにしては自己顕示欲を感じないんだよな・・・

 

132:名無しの張り付き

 

『なので、鉄哲くんは騎馬戦で我慢させた分の鬱憤を、ここで気持ち良く発散する筈です』

 

そう言えちゃう渡我ちゃんがかっけーよ・・・

 

133:名無しのヒーロー

ギャップが鋭利すぎる・・・

 

【渡我ちゃんが軽く足を組んで、芦戸ちゃんにチラと視線を向けている画像】

 

134:名無しのヒーロー

お前さっきまでゆるっゆるの寝顔さらしてたやん!!

 

135:名無しのヒーロー

うわあ・・・つまりこれ、騎手の差で勝敗が分かれたってこと?

 

136:名無しのヒーロー

爆豪くんも気づいたみたいで、凄い顔で渡我ちゃん睨んでる・・・

 

137:名無しのヒーロー

これは爆豪くんを責められない・・・

 

138:名無しのヒーロー

ほぼ全員が目の前の勝利を掴もうと頑張っていた中、一人だけ次を見据えてチームの事も考えてたのかあそっかあ・・・

 

139:名無しのヒーロー

騎馬戦でもずっとねむねむだったやん!!!!

 

140:名無しのヒーロー

試合が始まって数分たつけど、鉄哲くんがめちゃくちゃ元気に動いているのがまた・・・

 

141:名無しのヒーロー

周りで聞いてた他の子や、B組の子達までめっちゃ考え込んでる

 

渡我ちゃんは欠伸してる

 

142:名無しの張り付き

wwww

 

『……渡我は、この試合を見てどう思う?』

『ふあい? 頑張ってるなーって思います』

『……そうじゃなくて』

 

耳の子が複雑そうな顔をして芦戸ちゃんにジェスチャー。それに芦戸ちゃんが頷いて、戸惑いつつ同じ事を聞くと・・・

 

『なんです、芦戸ちゃんまで。……稚拙で杜撰、頭を使っていないから無駄に長引いていますね。一撃も軽いし、長引きそうな分、疲れそうだから頑張ってるなーって思います』

 

 

143:名無しのヒーロー

『(稚拙で杜撰、頭を使っていないから無駄に長引いていますね。一撃も軽いし、長引きそうな分)頑張ってるなーって思います』

 

舐めとんのかwwww

 

144:名無しのヒーロー

カッコ内の情報が多すぎるでしょ!? 耳の子が可哀想!!

 

145:名無しのヒーロー

渡我ちゃんwwww君ってそういうところシビアなんだねwwww

 

146:名無しの張り付き

 

『ねえトガ、アタシも切島達みたいに、殴り合いに強くなった方がいい?』

『? 唐突に短慮な発言をしないでください』

 

ばっさりwwww

 

147:名無しのヒーロー

くっそwwww

試合も暑苦しくて面白いのに、こっちも気になるじゃんか!!

 

148:名無しのヒーロー

いうてこの流れだと渡我ちゃんの予想通りになるだろうなって・・・

 

149:名無しの張り付き

 

『私が、芦戸ちゃんを強くします。……ですので、殴り合いに強くなればいい? なんて、当たり前の事を確認しないでください。……間違っても、ソレだけで満足しないでください』

『……! はい』

 

もしかして師弟関係を結んでる・・・?

 

150:名無しのヒーロー

は? 君達まさかなの?

あの熱い試合の後で『お友達!!』になったと思ったら、まさかの師弟になってたの????

 

151:名無しのヒーロー

ええ・・・そこは友達だろ!?(どん引き)

 

152:名無しの張り付き

 

『参考までに、切島ちゃんはどんな特訓をするべきかしら?』

『? 切島くんですか、頑張ればいいと思います』

 

蛙っぽい子が、そこで『……三奈ちゃん、お願いするわ』と芦戸ちゃんにパス。芦戸ちゃんも気になるのか頷いている。

 

『う、うん。……トガ、切島はどう特訓するといい? というか、トガならどう強くする?』

『芦戸ちゃんは、人の事より自分の脆弱さを心配してください』

『ごめんなさい!!』

『……次はありませんよ? 切島くんなら、まずは攻防をあげる為に速さと重さを伸ばします。足腰の強さと柔軟性を鍛える為に色々したいですが、基礎がたりないので体力づくりからです。……ちなみに、芦戸ちゃんも暫くはソレです』

『……はい!』

 

弟子確定でした・・・

 

153:名無しのヒーロー

これは・・・まごうことなき師弟関係ですね

 

154:名無しのヒーロー

あの流れで、どうして・・・?

 

155:名無しのヒーロー

お友達じゃない? そんな事があっていいのか?

 

156:名無しのヒーロー

ま、まあ・・・ある意味お友達より深い関係かもしれないから(震え声)

 

157:名無しのヒーロー

試合終了!

結果は渡我ちゃんの予想通りっていうか、仲良しか!

 

【大きく手を振る鉄哲くんと、小さく手を振り返す渡我ちゃんの動画】

 

158:名無しのヒーロー

渡我ちゃん、目元がほんのり柔らかい

そして鉄哲くんおめでとう! 切島くんも根性振り絞って頑張ったな! お疲れ様!

 

159:名無しのヒーロー

渡我ちゃんってあんまり笑わないよな

 

160:名無しのヒーロー

え、笑ってるだろ? よく口元隠してるし、その時に笑ってると思ってた

 

161:名無しのヒーロー

あー・・・そこ違和感なんだよな

渡我ちゃんって人前で抱っこされるのは全然気にしないのに、なんで笑顔だけ隠すんだろ?

 

162:名無しのヒーロー

まさか・・・笑うともてすぎて面倒とか?

 

163:名無しのヒーロー

は? 笑い飛ばそうと思ったけど、渡我ちゃんならありえると思って嫉妬の念にかられた

 

164:名無しのヒーロー

ありえそうなのがまたwwww

透明な子にえっちな事されるぐらいだしなwwww

 

165:名無しのヒーロー

シッ! 人生設計が狂っちゃった子をからかっちゃ可哀想でしょ!

 

166:名無しのヒーロー

wwww

もう次の試合がはじまるぞ

 

167:名無しのヒーロー

爆豪くんVS麗日ちゃんか・・・

 

168:名無しのヒーロー

爆豪くんは言うに及ばずだが、麗日ちゃんは渡我ちゃんのはじめてのお友達か

 

169:名無しのヒーロー

なんか、見るの怖いな

 

170:名無しのヒーロー

気持ちはわかる・・・

 

171:名無しのヒーロー

渡我ちゃんへの敵愾心バリバリの爆豪くんと、クラスの中で唯一のお友達である麗日ちゃんの試合

 

172:名無しのヒーロー

なんか胃が痛くなってきた

 

173:名無しのヒーロー

ああ・・・試合はじまってしまう

 

174:名無しのヒーロー

速攻、からの反撃、と思いきや回避成功!?

 

175:名無しのヒーロー

うおお、麗日ちゃんアレよけたんだ!?

 

ブラフもうめぇ!!

 

176:名無しのヒーロー

何気に回避と攻撃を同時に行使して爆豪くんの腕を蹴り上げるのテクニカル!

 

177:名無しのヒーロー

びっくりした

比べるものじゃないけど、渡我ちゃん以外の試合では見れないと思っていた動きだわ

 

178:名無しの張り付き

 

『……チィッ!!』

『っ、ギリギリ、だけど……被身子ちゃんの蹴りに比べたら、まだ大丈夫!!』

『あァ!?』

『おらああああ!!!!』

 

これ、渡我ちゃんが指導してたっぽい?

 

179:名無しのヒーロー

マジかよ・・・

 

180:名無しのヒーロー

はー・・・こうまで周りと動きが違うと、渡我ちゃんって指導者としても凄いのかってびっくりする

 

181:名無しの張り付き

 

『丸顔、あの欠伸女に何を仕込まれた……!?』

『格上との、戦い方……!!』

『……上等だ!!』

 

爆豪くんが不穏な笑顔を見せておる・・・

 

182:名無しのヒーロー

たのしそうだなぁ・・・

 

183:名無しのヒーロー

もう、ボガンボガン爆発しすぎだよ

 

184:名無しのヒーロー

でもちゃんと回避成功してる麗日ちゃん

 

185:名無しのヒーロー

この動きもすげぇ・・・

 

【爆豪くんの攻撃範囲にあえて身を晒して、攻撃のタイミングを速めた上でローリング回避した動画】

 

186:名無しのヒーロー

動きは渡我ちゃんより遅いけど、それでもすげぇよ!!

 

187:名無しのヒーロー

この麗日ちゃん、攻撃される直前でも目を閉じないんだな・・・

 

188:名無しのヒーロー

渡我ちゃんとどんな特訓したんだよ!?

 

189:名無しの張り付き

あの、なんか渡我ちゃんがやばい・・・

 

【クラスの女子達に必死で抑え込まれている渡我ちゃんの動画】

 

190:名無しのヒーロー

なにしてんの????

 

191:名無しのヒーロー

無料スレにいる現場民が、試合開始してから渡我ちゃんがピリピリしてるとか書き込んではいたけど・・・

 

192:名無しのヒーロー

麗日ちゃんが心配なのか?

 

193:名無しのヒーロー

正直、現場にいない民には分からんけど、複数のスレで渡我ちゃんが気になって試合に集中できないのがいるらしい

 

194:名無しのヒーロー

現場民です・・・

言語化し辛いのですが事実です。渡我ちゃんが気になるというか、機嫌が悪そうなのが落ち着かなくて、貧乏ゆすりが止まりません。今すぐにでもご機嫌窺いに行きたいけど恐れ多いみたいな謎の焦燥感が止まらなくて、今すぐ渡我ちゃんには落ち着いて欲しい・・・

 

195:名無しのヒーロー

ええ・・・?

 

196:名無しのヒーロー

お前たちは何を言ってるんだ????

 

197:名無しのヒーロー

現場民その2です

 

【渡我ちゃんがきょとんとしながら、己に纏わりつくクラスメイト達を見ている動画】

 

198:名無しのヒーロー

>>197

おお!

先程まで感じていた圧迫感が消えて、とてもすっきりしました!

 

199:名無しのヒーロー

渡我ちゃんは気圧系の個性なのか?

 

200:名無しのヒーロー

どうだろ? 特定スレは息してる?

 

201:名無しの特定班

だまってろください

こっちは遊びじゃねえんでございます

気圧系の可能性は若干だけあるとご報告いたします

 

202:名無しのヒーロー

あ、はい

 

そっとしておこう・・・

 

203:名無しのヒーロー

なんかごめんな・・・

 

204:名無しのヒーロー

特定班がここまで追い詰められるの久しぶりだな

 

205:名無しのヒーロー

オールマイトだけじゃないんだね

 

206:名無しのヒーロー

でも本当に何だったんだろうな?

塩崎ちゃんとか祈ったまま固まってるし

 

【軽く青ざめながら渡我ちゃんに祈りを捧げている塩崎ちゃんの画像】

 

207:名無しのヒーロー

現場民にしか分からん感覚は何とも言えんな・・・

 

208:名無しのヒーロー

別に嫌な感じではないんだけどね・・・

 

209:名無しのヒーロー

ダイビングが趣味の俺、クジラを前にした時みたいな圧倒的で静かな迫力と雄大さでした

 

210:名無しのヒーロー

分からんw

でも、ヒーロー達が若干ざわめいてるから、何かはありそうだよね

 

211:名無しのヒーロー

現場民その3です

試合が気になるけど、渡我ちゃんにビビッて集中できません。俺はしょぼい感知系の個性なんだけど、あの子から滲む雰囲気が見た目にそぐわないっていうか、変な感じを受けました

 

212:名無しのヒーロー

現場民その4です

その3が言う通りというか、それはダイビングさんが言う様に圧倒的に大きくて本能に訴えるナニカがありました。よく分からない感動を覚えています

 

213:名無しのヒーロー

俺・・・あの存在感に悪意とか殺意が混ざったらショック死する自信ある

 

214:名無しのヒーロー

わけわからん

 

215:名無しのヒーロー

煮詰まった時は専用スレを作ってそこに移動しような?

もしくは渡我ちゃんスレに行こう。今もこの話題でめちゃくちゃ賑わってるぞ

 

216:名無しのヒーロー

けっこう移動したっぽいな

 

217:名無しのヒーロー

試合の方は佳境に入った感があるな

 

218:名無しのヒーロー

空の岩々、気づいた時に鳥肌がたったわ

 

麗日ちゃんやるなあってワクワクしたしもしかしたらもしかするかも!

 

219:名無しの張り付き

凄く今更だけど渡我ちゃんを抑え込んだ女子ズの主張

 

『落ち着いて!! 麗日は大丈夫だから、爆豪をボコボコにするのは勘弁してあげて!!』

『ダメだって!! 子供の喧嘩に親がでる様なものだし、麗日も困るってば!!』

『お願いヒミコちゃん、辛いでしょうけど貴女なら耐えられるわ。爆豪ちゃんを許してあげて……』

『トガちゃんダメ!! いくら爆豪くんでもそれはダメ!! お茶子ちゃんが心配でも絶対にダメー!!』

『被身子さん、これは真剣勝負です。麗日さんも承知の上です……!』

 

220:名無しのヒーロー

爆豪くんの扱いwwww

 

221:名無しのヒーロー

これ、爆豪くんが聞いたらぶちぎれ案件ですねwwww

 

222:名無しのヒーロー

予想はついてたけど、やっぱり麗日ちゃんが心配だったんだねwwww

 

223:名無しのヒーロー

A組の神対応が無かったら今も渡我ちゃんイライラしてたんだろうなwwww

 

224:名無しのヒーロー

現在は、えっちな事をしたと評判の透明な子をお膝に乗せて観戦してるっぽい

 

【渡我ちゃんが葉隠ちゃんを抱っこして座っている動画】

 

225:名無しのヒーロー

えっちな事してるのかと邪推するだろ・・・!?

 

226:名無しのヒーロー

見えないけど手をにぎにぎしている気がする!!

 

227:名無しのヒーロー

幻覚が見えているのか?

 

228:名無しのヒーロー

おおおお!!

きたきたきたきた!!

 

229:名無しのヒーロー

流星群とは言い得て妙だな!!

 

230:名無しのヒーロー

爆豪くん一撃で!? あの量を爆破しちゃうの!?

 

231:名無しのヒーロー

やべえ!!一気に試合が動いたな!!

 

232:名無しのヒーロー

うっわ

無重力状態で爆破の威力は止められないわぁ・・・

 

233:名無しのヒーロー

麗日ちゃん、場外負けか・・・

 

234:名無しのヒーロー

2人共頑張ったな!

特に爆豪くんは増長や油断をしたらそこで形勢逆転の難しい試合だった!

 

235:名無しのヒーロー

うえ・・・現場民ですが、また圧迫感が・・・

 

236:名無しのヒーロー

さっきよりマシとはいえ、思わず姿勢をただしてしまう・・・

 

237:名無しのヒーロー

渡我ちゃんが立ち上がって口元隠してる。麗日ちゃんに会いにいくっぽい

 

238:名無しのヒーロー

やっぱりこの気配は渡我ちゃんで間違いないわ

 

それと、隣に座ってるおっさんが渡我ちゃんを見て祈ってるのなんなの?

 

239:名無しのヒーロー

うーん・・・

現場にいない民には、友人への励ましの言葉が思い浮かばず悩んでいる様にしか見えん。渡我ちゃん意外と表情筋が仕事してるし

 

240:名無しのヒーロー

周りも渡我ちゃんを目で追ってる

 

241:名無しのヒーロー

色々な理由で視線を集めちゃう子だよなぁ

 

242:名無しのヒーロー

まあ優勝候補だし

 

243:名無しのヒーロー

でも渡我ちゃん、しれっと怪我が増えてるよね?

 

【渡我ちゃんの左腕に追加されたギプスのアップ画像】

 

244:名無しのヒーロー

・・・芦戸ちゃんを運んでた時に酸に焼かれちゃったんだろうな

 

245:名無しのヒーロー

こんなボロボロなのに、優勝候補なのが凄いよな

 

246:名無しのヒーロー

いまだ個性も謎だしな

 

247:名無しのヒーロー

次の試合は轟くんVS緑谷くんか

 

248:名無しのヒーロー

緑谷くん遅れてるな? 相手が相手だし敵前逃亡か?

 

249:名無しのヒーロー

あ、今来たわ。ステージに走ってきてる

 

250:名無しのヒーロー

さあて、次はどんな試合になるのかな?

 

 

 





※ おまけな13号のトガちゃんへの心境について


 初期→登校初日に病院に運ばれた子がいると聞いて驚いた。何も無ければ良いと心配していたが、検査の結果で個性事故による昏睡状態と診断され、雄英教師一同が不幸な事故に戦慄した。同僚であり先輩でもあるミッドナイトがかなり気に病んでいるのも心配で、新しい一年の一日目というには不穏すぎる出来事に、その日の事は記憶に焼き付いた。


 二ヶ月後→いまだ目覚めないトガちゃんを心配していたところ、校長に代理でお見舞いに行くことを頼まれ、これ幸いと引き受けて様子をミッドナイトに報告する事にした。
 担任になる筈だったイレイザーヘッドがお見舞いに行っていたが、彼女の両親がえらくピリピリしているのを気にして、刺激しない為に女性である13号に白羽の矢がたった形である。
 初めて見たトガちゃんの寝顔は、たくさんの管に繋がれてどうにも痛々しく見えた。


 三ヵ月後→ひたすら気に病むミッドナイトを見かねて、自分のヒーロー服を防護服に改造してはどうかと提案した。これなら、中身が見えないのでミッドナイトだとばれないし、親御さんも誤魔化せるかもしれない。その事にミッドナイトはとても喜んで、嬉々として改造依頼をだした。
 ミッドナイトは個性事故が認められてしまい、なんの罰もなく、理解ある同僚達にも気遣われ、行き場のない鬱屈した感情を抱いて罪の意識にさいなまれていたが、この様子なら少しは気持ちの整理をつけられそうだとホッとした。


 五ヵ月後→変わらずお見舞いに行っていたが、ミッドナイトも自分の正体を隠してお見舞いに行ける事で表向きには調子を取り戻していた。後はトガちゃんが目覚めるだけだと、いつ目が覚めてもおかしくないと診断する医師の言葉を信じて見守っていた。
 不意に、五ヵ月以上眠り続けているのに、彼女の肌の色艶から髪の長さに至るまで変わっていない事実に気づく。不思議に思い確認したところ、トガちゃんの個性の影響だろうと言われて驚いた。実際の体重を聞いた時は心底からゾッとした。
 当たり前の事だが、彼女は重病人なのだと、穏やかな寝顔に安心してどこかで忘れていたことにショックを受けた。



 十ヵ月後→とうとう目が覚めたと連絡がきて、我が事の様に喜んだ。
 職員室にも活気が走り、テンション高くミッドナイトと喜びを分かち合った。その日のうちに飲みにいって何度も乾杯して、気持ち良く泥酔して地獄の朝を迎えた。
 留年にはなるが四月に復学できると聞いて、来年は他の生徒達と同じように導いて、うっかり贔屓しない様にお互いに気をつけようと、トガちゃんとの出逢いを楽しみにしていた。



 USJ→血の華が咲き、待ち望んでいたあの子を僕が傷つけた

 久しぶりの一方的な再会。密かな喜びを噛みしめ、年下のクラスメイト達と仲良くしている様子にホッとした。
 眠そうな顔をチラチラ見つめつつ、本格的に授業を開始しようとした時に事件は起きて、事態は急変した。
 生徒達を避難させようと立ち回るもどうにも後手に回ってしまう。人に向ける事は極力避けたいが致し方なしと敵に個性を使用して―――ぐいっと背を押された。え? と、思いもよらない衝撃に振り向いたら、パッと彼女の左腕から血が噴き出した。

 かばわれた?

 ―――目を見開き、わなないた。左腕の半分以下がチリになり、吐き気がこみ上げ、敵の声に激怒し、噎せ返る血の香りに酩酊感を覚え、一瞬だけ赤が青に見えて、敵を前にして愚かな事に、思考が止まった。

 情けないぐらい動揺して、動き出す彼女を止める事もできなかった。

 気づけば、トガちゃんが包帯で傷口を縛るのを、震えながら見つめていた。
 何をしているんだと己を叱咤するも衝撃が強すぎた。そして気がつけば、その背はマントを翻しながら駆け出していた。
 追いかけ、それを止めたくても、今ここでそんな愚を犯しては散らばった生徒達の誰かが欠けてしまう。
 今更になって動き出した頭の中で冷酷な優先順位を立て、残された生徒たちに固まる様に指示をだし別方向に駆け出していく。……そんな、彼女に背を向けるしかない己の唇を噛み切った。

 そして次に彼女を見た時、その身は筆舌しがたい暴力に曝されてボロボロだった。

 己の未熟で生徒に庇われ、傷つけ、足をひっぱり、止める事もできず、手助けする事も叶わず、ありがとうも、ごめんなさいも、かける言葉さえ二度とかけられないかもしれない状況に、暗い感情が止まらず、涙で溺れかけた。

 気づけば同僚達に励まされ、治療され、カウンセリングまで受けていた。ああ、酷く無意味に時をつかってしまったと、一睡もしないままお見舞いに行くも、間が悪く彼女の寝顔しか見られず言葉は交わせない。それでも生きていてくれたと、ジッと彼女の寝顔を見続けた。あの頃に戻った様だと立ち尽くしているとミッドナイトに見つかり、すぐに帰宅を促されるも断り続けていたら校長も来て、説得されてしまう。重い足を引きずって帰宅した。



 その後→まさかの退院と登校に愕然とした。慌てて会いに行こうとしたが止められてしまい、会いに行っても双方の為にならないとリカバリーガールにも接近禁止令を出されてしまう。
 そこでようやく、己はあの日から冷静になれていないのだと気づいた。彼女にかける言葉すら持ち合わせていないのに、会ってどうするつもりだとイレイザーヘッドにも厳しく言われて、身を引くしかなかった。


 雄英体育祭→トガちゃんの一挙一動を食い入る様に見つめている。一時期のミッドナイトよりやばいと前後左右に同僚たちがいて、トガちゃん関連の時だけ視野が狭まるのを気にかけられている。悪意無きA組の台詞(トガちゃんの怪我関連)に、突発的な自傷をしかけては必死で止められている。……実は、上位者を傷つけた事による軽度な呪いが纏わりついている。若干正気を失っているが、残滓の様なものなので数ヶ月でおさまる安心仕様である。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭を雑に楽しむスレ6

 

 

251:名無しのヒーロー

一年トップ(現時点)の戦いがはじまる・・・!

 

252:名無しのヒーロー

この2人の個性ならめちゃくちゃど派手なの見れそう!

 

253:名無しのヒーロー

ちなみにトップは緑谷くんの方ね

障害物競走一位かつ騎馬戦二位チームで轟くんより成績が上だから

 

254:名無しのヒーロー

地味で目立たないと思いきやがっつり活躍してるじゃん

 

255:名無しのヒーロー

現トップ3に渡我ちゃんがいないのはどう考えても(渡我ちゃんが)おかしい・・・

 

256:名無しのヒーロー

嬉々として最下位を狙う子だからしょうがないねw

 

257:名無しのヒーロー

なのに現トップの緑谷くんより目立ってるんだよなーw

緑谷くんは専用スレで地味とかナードとかカツアゲにあいそうとかダメだしされながら応援されてるw

 

258:名無しのヒーロー

あw特殊な愛され方されるパターンか・・・w

それ系って将来的におばちゃん人気が高くなる傾向にあるよなw

 

259:名無しのヒーロー

よっしゃあ!!!! 観客席に渡我ちゃん戻って来た!!!!

 

【お茶子ちゃんにお姫様抱っこされて、首元に顔を埋めている渡我ちゃんの画像】

 

260:名無しのヒーロー

落ち着けw

そして渡我ちゃんはJKとして色々ダメじゃないかな?

 

261:名無しのヒーロー

ぐっすりすぎる・・・w

心なしか寝顔が今日イチ安らかで・・・寝ていて欲しいけど起きんかいw

 

262:名無しのヒーロー

雄英体育祭でここまで安眠する強者がいるの本当に面白いw

 

263:名無しのヒーロー

三人分の椅子に仲良く四人で座ってるw

 

【常闇くんと飯田くんが隣の人に頭を下げて、女子二人を間にいれている画像】

 

264:名無しのヒーロー

可愛いが過ぎるだろ!!??

こんなの尊さに目が潰れるわ!!!!

 

265:名無しのヒーロー

そんなにか?

他スレもだが、この光景に過剰反応する非リア民多すぎじゃね?

 

266:名無しのヒーロー

おいやめろ

別に俺はボッチじゃなかったし・・・(震え声)

 

267:名無しのヒーロー

はいはいスレちかつ危険な話題はここまでなw

 

268:名無しのヒーロー

くっそwwwwほのぼのしてたら試合開始しうおおおお!!!!

いきなりど派手じゃん!!!!

 

269:名無しのヒーロー

うっはwこういうの見たかったw

 

【試合開始直後に緑谷くんと轟くんの個性同士がぶつかりあった動画】

 

270:名無しのヒーロー

すげえwwww

 

271:名無しのヒーロー

あの規模の氷を一瞬で生み出す轟くんも、それを砕いちゃう緑谷くんも凄すぎる・・・!

日本の未来は安泰だ・・・!

 

272:名無しのヒーロー

ぶつかりあいの余波でひんやりした空気が流れてくるw

どっちも威力でかすぎてテンションくそあがるw

 

273:名無しのヒーロー

え、痛そう・・・

 

【緑谷くんの指が折れて変色している画像】

 

274:名無しのヒーロー

は・・・?

分かってたけど、そこまで身を削る個性なんだな・・・

 

275:名無しのヒーロー

一瞬でテンションが下がりました・・・

緑谷くんは、この怪我でも止まらないのか・・・ガッツあるな

 

276:名無しのヒーロー

緑谷くんの指、もう四本折れてるんだが・・・?

 

277:名無しのヒーロー

特攻してるからな・・・

轟くんも接近させまいと攻撃しまくるしかない

 

278:名無しのヒーロー

自壊しながら突撃って・・・ただの自爆じゃね?

 

279:名無しのヒーロー

短期決戦を狙ってる? にしては違和感あるな

 

【底知れない瞳でまっすぐ轟くんを見据えている緑谷くんの画像】

 

280:名無しのヒーロー

ひぇ・・・覚悟ガン決まりな目ですね・・・

 

281:名無しのヒーロー

本気度のレベルが違う・・・学生の発する色じゃない

 

282:名無しのヒーロー

ガチすぎて血沸き肉踊らないです・・・

 

283:名無しのヒーロー

試合の域を超えてるだろ?

 

284:名無しのヒーロー

轟くんもビビッてるな・・・

表情が強張って目がうろうろしてる

 

285:名無しのヒーロー

いや・・・こんなの大人でも怖いから

 

286:名無しのヒーロー

何かしらの強烈な目的意識は感じる、けど・・・

わからん!!!!

 

287:名無しのヒーロー

うっわwwww轟くんめっちゃガッツ見せてるwwww

俺なら速攻土下座して許しを乞うわあwwww緑谷くんヤバいwwww

 

・・・実力があっても地味で花がないとか下に見てマジすんませんでした

 

288:名無しのヒーロー

なんなの?

オールマイトといい渡我ちゃんといい襲撃事件に緑谷くんも追加で今年は波乱しか起こらないの?

 

289:名無しのヒーロー

・・・無理

 

【緑谷くんの左手が全体的に腫れあがりどす黒く変色している画像】

 

290:名無しのヒーロー

おええ・・・共感系の個性なんで幻痛がやばい・・・

緑谷くんの精神性は、すでに学生レベルじゃない・・・

 

291:名無しのヒーロー

>>290お大事に

人によっては気絶もんの痛みなのに・・・一切止まる気配がない

 

292:名無しのヒーロー

一緒に見てる家族も言葉を失ってる

自分も狂気を感じてる・・

 

293:名無しのヒーロー

うーん

動きに微塵も迷いがないし自暴自棄でないのは確かだがそれ以上が分からん

 

294:名無しのヒーロー

この怪我じゃ次の試合は無理だろ?

 

295:名無しのヒーロー

あ、もしかしてとっくに試合を捨ててる?

 

296:名無しのヒーロー

は? 雄英体育祭だぞ? 全国放送のビックイベントで・・・そんな選択するか?

 

297:名無しのヒーロー

いや渡我ちゃん・・・は流石に例外すぎるなぁ

 

298:名無しのヒーロー

どこのスレも速度がおちてる

俺も目が離せない・・・

 

299:名無しのヒーロー

轟くんの心も強いな

 

300:名無しの張り付き

攻防の際どさに変な汗でた・・・

 

『なん、なんだよ、お前は……!!』

『!? ――――づぅうう!!!!』

 

【一瞬、ステージが見えなくなるほどの氷を生み出す轟くんと、それをど派手に蹴り砕く緑谷くんの動画】

 

301:名無しのヒーロー

すっご・・・!!

緑谷くん今のを退けるのか・・・下手したら足がもってかれたぞ

 

302:名無しのヒーロー

ああくそ歓声がうるさい!!

渡我ちゃんが何を言ってるのか分からん・・・彼女の評が聞きたいんだよ!!

 

303:名無しのヒーロー

>>302落ち着けw正確でなくていいなら無料スレで見かけたけど誘導する?

 

304:名無しのヒーロー

>>303ありがとう・・・気持ちだけ受けとる

あっちは台詞を捏造する害悪が多すぎるから苦手なんだ・・・

 

305:名無しのヒーロ

>>304慧眼だな

褒美にめっちゃ省略して教えてあげよう

 

無料スレの現地組曰く、渡我ちゃんは緑谷くんを異常でやばい子で個性の使い方がへたくそでそれを指摘すらしてあげない意地悪な女とのことだw

 

306:名無しのヒーロー

うーんwwww

余計なお世話と内容に舌打ちしちゃったwwww表出ろ手前ぇwwww

 

307:名無しのヒーロー

いいじゃん共有しようぜwwwwやっぱ有料版が最高だって分かち合おうwwww

 

現地の貴重な情報源ポジの癖に事実を歪めるのやめろ渡我ちゃんはそんな事言わない!!!!

 

308:名無しのヒーロー

お前らどっちも渡我ちゃんの厄介ファンじゃねえかwwww

 

309:名無しのヒーロー

皆の者よ落ち着けwwww

無料スレに関しては渡我ちゃんアンチが騒いでるだけだから流したまえwwww

 

310:名無しのヒーロー

そうだぞ! アンチはウイルス仕込んで心操くんと芦戸ちゃん戦を百万回見直す罰にしようぜ!

 

311:名無しのヒーロー

何度でも言うけどおちつけよマジでwwww

 

アンチに良識や常識は無いんだから真に受けて心を乱すなwwww

 

312:名無しのヒーロー

ごめん・・・落ち着いた!!!!

言い訳すると、他スレも二人の試合に魅入って失速してて、余計なコメが目に入りやすくなってた

 

313:名無しのヒーロー

まあ・・・それはあるわなw

特定スレですら反応が薄くなってるし

 

314:名無しのヒーロー

緑谷くんの個性がオールマイトに似てる! って騒いでたのにな

 

315:名無しの張り付き

 

『どこ、見てるんだ……!!』

『……!』

『震えてるよ、轟くん』

『……!?』

『“個性”だって、身体機能の一つだ。君自身、冷気に耐えられる限度があるんだろう……!?』

『……っ』

『で、それって。左側の熱を使えば、解決出来るもんなんじゃないのか……?』

 

はい・・・緑谷くんの言動に専用スレ民が緑谷『さん』と頭を下げだしました

 

316:名無しのヒーロー

だろうな・・・

俺も成績に反して地味だなーって小馬鹿にしてごめんなさい怒らないでって土下座したいもん・・・

 

317:名無しのヒーロー

テレビ越しでもゾワッとしてる・・・迫力がやばいもん

 

318:名無しのヒーロー

轟くんにあえて全力を出させようとしてるのがいっちゃん怖いんだよ・・・

どんな精神状態なの? 理解できなくてテレビから距離とったわ

 

319:名無しのヒーロー

・・・

 

『……皆、本気でやってる。勝って……目標に近づく為に……っ、一番になる為に!! 半分の力で勝つ!? まだ僕は、君に傷一つつけられちゃいないぞ!!!!』

『……ッ』

()()で、かかって来い!!!!』

 

【青紫を通り越してどす黒い左腕を豪快に振ってステージの氷を砕く映像】

 

320:名無しのヒーロー

両手で顔を覆ってたのに指の隙間から見てしまう・・・涙で画面が滲んでるけど目を逸らせない

 

321:名無しのヒーロー

理解できない・・・緑谷くんは何がしたいんだ?

 

322:名無しのヒーロー

ああああ・・・轟くんから目を離さなかった緑谷くんが顔をあげたと思ったら・・・渡我ちゃんと見つめあってるぅぅぅぅ

 

【渡我ちゃんが起きて、淡く唇を緩めながら緑谷くんにそっと小指たてている画像】

 

323:名無しのヒーロー

え? まって渡我ちゃんとどういう関係なんだよそして渡我ちゃん何て言ってるんだ!?

張り付いてる人はやくして!!!!

 

324:名無しの張り付き

おまたせ!!!!

 

『 さあ、君はどうします? 』

 

って、声は出さずに緑谷くんに伝えてるみたいでまってまってなんかえもいんですけど!!??

 

325:名無しのヒーロー

>>324流石だありがとう!!

ちょっとまて意味が分からないけど興奮してきた!!

 

326:名無しのヒーロー

>>324本当にありがとう!!!!

くっっっっそ!!!!どういう意味か分からないのにドキドキするんですけど!!??

 

327:名無しの張り付き

これは緑谷くんの独り言!!

 

『……そうか、そういう事だったんだ……! ……()()に、100%じゃ、ダメなんだ』

 

『渡我さんは……最初から、教えてくれていた。握り潰すな、って。……つまり、力を抜けって、ヒントをくれていた』

 

328:名無しのヒーロー

うん・・・????

 

329:名無しの張り付き

はわわ・・・w

 

『緑谷、そんな状態で……何が、できるってんだ』

『……君は、あの日の渡我さんを知らない』

『……?』

『幸い、って言っていいのかな。……僕たちは、見ていたんだ。渡我さんを……片腕だけで、立ち向かう姿を、その戦い方を、全部見ていたんだ』

『……っ』

『人を守る事を諦めない、気高いヒーローの背中を!!!!』

 

330:名無しのヒーロー

変な邪推をして申し訳ありませんでした・・・!!!!

(え? 色々と突っ込みたいけど渡我ちゃん片腕だけで敵と戦ったの????)

 

331:名無しのヒーロー

そっか

憧れちゃったんだな・・・

(待って新情報が濃すぎる渡我ちゃん何したの????そしてここまで緑谷くんが覚悟決まってるのって渡我ちゃんが原因では????)

 

332:名無しのヒーロー

>>331 シッ!! 不確定要素な予想を広めるのはやめよう!!

下手な材料を与えると、アンチが嬉々として緑谷くんを教唆したのは渡我ちゃんとか言いだすぞ!!

 

333:名無しの張り付き

 

『何で、そこまで……!?』

()()()()()()……!!』

『全力で! やってんだ皆!! 君の境遇も君の()()も、僕なんかに、計り知れるもんじゃない……でも!!』

『……っ』

『ッうう゛ぁ!!?? ぜん、りょくも出さないで、一番になって、完全否定なんて―――フザけるなって今は思ってる!!』

『……う、るせぇ!!』

『僕は勝つ!! 君を越えてっ!!』

『……ッ』

 

眩しい・・・

 

334:名無しのヒーロー

なんか・・・もう

緑谷くんも轟くんも必死なんだって・・・胸がヒリヒリする

 

335:名無しのヒーロー

熱くて、走り出したい気持ちになった・・・久しぶりだなこんな気持ち

 

336:名無しの張り付き

嘘だろ? せっかくの初撃だぞ? 足も折れたんだぞ?

 

『…………あ?』

『君の、力じゃないか……っ!!』

 

【至近距離で見つめあう、泣きそうな顔の男子高校生二人の顔】

 

337:名無しのヒーロー

チャンスを得て全力で殴るのかと思いきや・・・この試合で一度も出した事のない最少の一撃って・・・

 

緑谷くんの目的、分かったかも・・・

 

338:名無しのヒーロー

ありえない・・・

最大で最高のチャンスを激励につかうなんて・・・

 

339:名無しのヒーロー

緑谷くんの勝利条件は『コレ』だったんだな・・・

 

340:名無しの張り付き

 

『……緑谷、お前、おかしいよ……っ!!』

『……』

『……でも……ありがとう』

『……どう、いたしまして!!』

 

熱いもので胸がいっぱいだよ・・・

 

341:名無しのヒーロー

二人とも・・・

 

342:名無しのヒーロー

次が、最後の一撃か

 

343:名無しのヒーロー

って、なんで大爆発!? そこは相打ちの流れだろ!?

 

344:名無しのヒーロー

煙で何も見えねえ・・・!!!!

観客席も飛ばされかけてる人いる!!!!

 

345:名無しの張り付き

 

『何今の……おまえのクラス何なの……』

『散々冷やされた空気が瞬間的に熱され膨張したんだ』

 

解説助かります・・・

 

346:名無しのヒーロー

勝負はどうなったんだ!?

 

347:名無しのヒーロー

あ・・・

 

348:名無しのヒーロー

・・・まあ、そうだよな

 

349:名無しのヒーロー

緑谷くん、場外・・・

 

350:名無しのヒーロー

あの足じゃ・・・踏ん張れないもんな

 

351:名無しのヒーロー

轟くんも・・・かなり痛いの貰ったみたいだけど

 

352:名無しのヒーロー

全力、出し切ったんだな・・・

 

353:名無しのヒーロー

本当にすごい試合だった・・・!!

 

緑谷くんも轟くんもお疲れ様!!

 

354:名無しのヒーロー

なんか・・・見ているだけで発破かけられた気分だわ

 

355:名無しのヒーロー

熱い試合だった・・・

 

356:名無しのヒーロー

最後の炎も凄かった・・・

 

357:名無しのヒーロー

眼球が釘付けになる様な試合だった

 

358:名無しの張り付き

観客席の渡我ちゃんと麗日ちゃん・・・

 

『……ぁ。デクくん、負けたん?』

『はい』

『……でも、負けてないんだよね?』

『はい。緑谷くんは、()()()()負けませんでした』

 

渡我ちゃんがそう言ってくれるだけで、緑谷くんは救われるよ・・・

 

359:名無しのヒーロー

う・・・勝敗がはっきりして明暗分かれるこの場で『負けても負けてない』って・・・なんか響くわ

 

360:名無しのヒーロー

さっきまで(でも負けたんだよな・・・)って思っていた自分を殴りました

 

361:名無しのヒーロー

緑谷くんの無茶すぎる行動には一貫性があって

轟くんに全力を出させたあの瞬間、緑谷くんは『勝った』んだと思う

 

362:名無しのヒーロー

難しい話は分からないけど感動してる

 

やっぱり雄英体育祭は最高だ・・・!

 

363:名無しのヒーロー

2人は大丈夫なのか?

ミッドナイトも慌ててるし、担架と一緒に医療スタッフも怖い顔で駆けつけてる

 

364:名無しのヒーロー

2人の事は心配だけど雄英スタッフに任せよう!!

過度に不安になって情報欲しさに電話とか絶対にやめろよ!? 迷惑だからな!! 俺は心配性の奥さんを止めるので精一杯だ!!wお願い止まって!!

 

365:名無しのヒーロー

奥さんwwww末永く爆発しつつ説得頑張れよw

 

366:名無しのヒーロー

おっと渡我ちゃんがお見舞い組に連れて行かれたっぽい

 

【麗日ちゃんに腕を引かれて流されるがまま歩いていく渡我ちゃんの動画】

 

367:名無しのヒーロー

え・・・ステージがボロボロだから補修時間はあると思うけど

 

麗日ちゃん達の様子を見るに、次が渡我ちゃんの試合だって忘れてる?

 

368:名無しのヒーロー

まあ・・・そういうのが抜けるぐらいには凄い試合だったからな

 

369:名無しのヒーロー

渡我ちゃんは・・・下手したら相手に不戦勝をプレゼントしちゃう子だぞ?

 

370:名無しのヒーロー

まあwその不安は分かるけど塩崎ちゃんが迎えに行ったから大丈夫だろ

 

【お見舞い組の後を静かに追っていく塩崎ちゃんの動画】

 

371:名無しのヒーロー

良かった・・・! 対戦相手によっては当たり前に不戦勝をあげちゃう子だから

塩崎ちゃんが良い子で本当に良かった・・・!

 

372:名無しのヒーロー

まあなw他スレでもその不安があるみたいで安堵のコメで溢れてるw

特定スレも緑谷くんの個性が結局アンノウンで、渡我ちゃんこそはって気合入れてるw

 

373:名無しのヒーロー

緑谷くんは不明のままか・・・

オールマイトに似てるって事は特定し辛いって事でもあるし・・・残念だけどしょうがないな

 

374:名無しのヒーロー

いい加減、オールマイトの個性が何なのか知りたいぜ・・・

 

375:名無しのヒーロー

長年ナンバーワンヒーローしてるのに謎のままって凄いよな

 

376:名無しのヒーロー

ステージの補修が終わるぞ! 流石セメントス仕事が速いw

 

377:名無しのヒーロー

やっと次の試合が始まるな!

 

378:名無しのヒーロー

待ちに待ってたぜ・・・! 渡我ちゃんVS塩崎ちゃん!!

 

379:名無しのヒーロー

どんな試合になるのかと興奮が止められん!!

 

380:名無しのヒーロー

楽しみすぎるしさっきの試合の興奮もあって気づいたらエラ呼吸してたわwビビるw

 

381:名無しのヒーロー

気をつけろバカw

それ系の個性うっかり死因上位は洒落にならんw

 

382:名無しのヒーロー

2人は別クラスなのに騎馬戦で組んだのか

改めても、ほぼ初対面の子とチームを組もうとする渡我ちゃんはおかしい

 

383:名無しのヒーロー

プロの評価は高いぞ

ほぼ初見の相手と組んで一位をもぎとるのは才能があるってさ

 

384:名無しのヒーロー

蓋を開けると全員しっかり役割があって体力も温存してたしな・・・

心操くんも個性が判明した今だから対処できるが、あの時点で渡我ちゃんチームに戦いを挑んだら即詰みだった

 

385:名無しのヒーロー

添え物だと思っていた心操くんが完全に攻撃型だったのがな・・・w

 

386:名無しのヒーロー

そう考えるとめちゃくちゃバランス良いチームだったんだな

攻撃型も防御型もいるし遠距離への対処もできるし何よりオールラウンダーな渡我ちゃんがいた

 

387:名無しのヒーロー

ちょ、選手入場したと思ったらw

 

388:名無しのヒーロー

渡我ちゃんwwww

 

389:名無しのヒーロー

君はまたwwww

対戦相手に抱っこされるのかwwww

 

390:名無しのヒーロー

塩崎ちゃんも静々と丁寧に運んでいるのが笑いを誘うw

 

391:名無しのヒーロー

プレゼント・マイクも突っ込むよこれはwwww

 

392:名無しのヒーロー

塩崎ちゃんが降ろそうとするとむずがるの最高に赤ちゃんwwww

 

393:名無しのヒーロー

これは・・・塩崎ちゃんも優しく微笑むしかないわ

 

【渡我ちゃんに小さく手を振って微笑む塩崎ちゃんの動画】

 

394:名無しのヒーロー

かわええ・・・クールビューティで真面目でお堅い女の子というイメージが崩れた

 

395:名無しのヒーロー

渡我ちゃん欠伸しすぎw

塩崎ちゃんはこっそり深呼吸して気を落ち着けてるのに・・・w

 

396:名無しのヒーロー

これから戦うのに緊張感皆無かw

 

397:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんの時もそうだったけど、次の試合も大丈夫か!?w

 

398:名無しのヒーロー

はじまった!!!!

 

399:名無しのヒーロー

待ってたぜ!!あと塩崎ちゃんの真顔にドキッとした

 

【渡我ちゃんに向けていた笑顔を消して真剣な表情になる塩崎ちゃんの動画】

 

400:名無しのヒーロー

やっぱ美人さんだ

そしてツルの範囲広すぎ・・・これ拘束されたら一気に不利になるな

 

401:名無しのヒーロー

上下左右に伸びて死角なしに見える

これこっそりステージ下にまで伸びてるな・・・

 

402:名無しのヒーロー

不意打ちの用意もしてるってわけか

 

403:名無しのヒーロー

これは、避けるのが得意な渡我ちゃんでも厳しいと思う

 

404:名無しの張り付き

わあ・・・

 

【渡我ちゃんが囲い込むツルの群れを紙一重で躱していく動画】

 

渡我ちゃん・・・身体柔らかいな・・・

 

405:名無しのヒーロー

渡我ちゃんでも厳しい・・・

そう思っていた時期が俺にもありました・・・・

 

406:名無しのヒーロー

待って? 今のどうやって避けたのか分からないよ????

 

407:名無しのヒーロー

うーんとね!

ツルに足首が捕まる直前に眼前のツルを弾いて連鎖する形で足元のツルごと絡めて空いた隙間を通り抜けたんだよ!

 

408:名無しのヒーロー

解説に納得して余計にわからなくなったぞ????

 

普通に避けろよ!!省エネって感じで高レベルな動きして混乱を巻き起こす!!渡我ちゃんそういうところだぞ!?

 

409:名無しのヒーロー

・・・つまりあの無数に蠢くツルのどれをどう弾けば絡まるのか瞬時に解を出して実行したというわけかー

 

410:名無しのヒーロー

嘘だろ渡我ちゃん・・・

欠伸しながらひょいひょい避けてるけどもしかして君は予知系の個性なのか?

 

411:名無しの特定班

いいえ、その可能性は薄いです

彼女はきちんと『見て』から対処していると検証班の一人が証明しています

 

412:名無しのヒーロー

あ、特定班さんチッス

さっきまで緑谷くんの個性が分からなくてお嬢様言葉で罵り合ってたけど頭は大丈夫ですか?

 

413:名無しのヒーロー

そんなだから特定スレは魔境呼ばわりされるんですよ?

 

414:名無しのヒーロー

は?特定スレってそういうのなの?(好奇心で見てみようと思ったが、入る為のパスが激ムズ暗号問題だったんで諦めた脆弱民の疑問)

 

415:名無しのヒーロー

頑張って解こう!ちなみに三日ごとに代わるから気をつけろ!

 

ちな特定スレはその趣旨故に言葉の殴り合いになりやすく、諸々の回避の為にお嬢様言葉かゴリラ語か丁寧語で書きこむことがルールになっている

違反した場合は72時間の利用ができなくなる有料板特殊該当スレの一つだ

 

416:名無しの特定班

補足するとゴリラ語はモールス信号でお願いします

 

全く意味のないウホウホは荒らしとして報告するのでお気をつけください

 

417:名無しのヒーロー

その事前情報を聞いてどうして書き込みにいくと思うんだ・・・?

 

418:名無しの張り付き

流れぶった切って解説ありがとうございます!!

 

『……渡我は、恐らく目が良いんだろう』

『目ぇ!?』

『感覚が鋭すぎるというのもあるが……相手の微かな動きから攻撃を先読みする能力が抜群に優れている。……ジャンケンでもしたら、大抵の相手に連戦連勝できるだろうな』

 

419:名無しの特定班

やはり渡我さんは予知系ではないですね・・・

担任であるイレイザー・ヘッドなら渡我さんの『個性』を知っているでしょうし、それを踏まえた上で先の発言とくれば、彼女の予知めいた動きと『個性』は別にあると予想できます

 

420:名無しのヒーロー

ほほう・・・つまりこれは予知じゃなく素の感知能力ってことか!

 

渡我ちゃんは本当に人類かな????

 

421:名無しのヒーロー

個性じゃないって嘘だろ・・・

こんなの目が良いってレベルじゃないと思います・・・!

 

422:名無しのヒーロー

塩崎ちゃん初ダメージ!

 

【渡我ちゃんが靴先で蹴り上げた石を塩崎ちゃんに投石した動画】

 

423:名無しのヒーロー

ついでとばかりに攻撃してる動きが格好良すぎて見惚れた

 

424:名無しのヒーロー

分かる・・・! 渡我ちゃんの動きって気づいたら魅入っちゃうよな

しなやかな体の動かし方が野生の動物を見ている気分にさせるというか・・・

 

425:名無しのヒーロー

おい・・・渡我ちゃんの投石技術が地味にやばいぞ・・・

 

【指先だけの投石で飛距離と速度を出して塩崎ちゃんの頬が裂けた動画】

 

426:名無しのヒーロー

・・・指だけで投げてませんか?

 

427:名無しのヒーロー

へー・・・ただ指でぺいってするぐらいの雑さでこの威力なんだー・・・

 

428:名無しのヒーロー

やだ・・・渡我ちゃんマジハイスペック・・・

芦戸ちゃん戦でも思ったけど動きがすでにプロ・・・

 

429:名無しの張り付き

塩崎ちゃん・・・

 

『……ッ、なぜ、ですか? 渡我さん』

『……?』

『……渡我さん、なら……今ので私の気絶を狙えた筈です!』

『……』

 

430:名無しのヒーロー

確かに・・・あの投石技術なら目とか狙えばほぼ動きを止められたな

 

431:名無しのヒーロー

いやー・・・渡我ちゃんは狙わないだろ

芦戸ちゃんの時も怪我をさせまいと投げ技に徹してたからな・・・

 

432:名無しの張り付き

 

『やはり、貴女は優しすぎます! この行為が、貴女の慈悲深さからきているのは理解しますが、どうか手心無く、本気でお願いします!!』

『……』

 

渡我ちゃん相手にここまで言えるの格好良い・・・

 

433:名無しのヒーロー

渡我ちゃん戸惑ってるな・・・w

 

434:名無しのヒーロー

顔が(うーん……?)って感じで唇むにむにしてるの可愛いなw

 

435:名無しのヒーロー

本当に顔にでやすい子だわw

 

436:名無しの張り付き

おお・・・!?

 

『……今の台詞、後悔しないでくださいね』

『! ありがとうございます』

 

437:名無しのヒーロー

これは・・・本気が見れるのか!?

 

438:名無しの張り付き

 

『塩崎ちゃん、攻撃はしないから近づきます』

『? はい、わかりました』

 

まさかの無警戒に渡我ちゃんが(え? 本当に?)みたいな顔になってる・・・w

 

439:名無しのヒーロー

塩崎ちゃんw

攻撃『は』しないって事は、他の事はするって言ってる様なものなのに・・・w

 

440:名無しのヒーロー

何するんだろうってA組も見逃すまいと前のめりになってるの可愛いなw

 

441:名無しの張り付き

渡我ちゃん困ってるw

 

442:名無しのヒーロー

そりゃあ対戦相手にここまで許されたら逆にやり辛いだろw

渡我ちゃんの身長が足りないからって屈まれて(えー?)って戸惑うお顔が絶妙に可愛いwwww

 

443:名無しのヒーロー

塩崎ちゃんけっこう長身だしってええええ!!??

 

444:名無しのヒーロー

ちゅー!!?? いやまって変な声でたっていうかちゅーしてるぞ!!??

観客席から黄色い声があがってる!!??

 

445:名無しのヒーロー

キッス!!?? え、おま、渡我ちゃんなにしてんの????

実はそういうご関係だったの????

 

446:名無しのヒーロー

え????

 

全国放送ですよ????

 

447:名無しのヒーロー

舐めてるー!!??女の子同士でほっぺちゅーでめっちゃ赤い舌見えちゃってるー!!??

 

こんな尊い光景をただで見ちゃっていいのかどこに振り込めばいい!!??

 

448:名無しのヒーロー

信号が青でも停止したままの車が多いの絶対無関係じゃないだろwwwww

 

449:名無しのヒーロー

念入りに血を舐めとってる仕草がえっちなんですが!!??

 

【塩崎ちゃんの頬を固定し、赤い舌で顎下から頬までの血を舐めとる渡我ちゃんの動画】

 

450:名無しのヒーロー

おおおお落ち着け冷静になれ余計な叫びは無料版で消費するんだ無料スレよこういう時はありがとう!!!!

 

451:名無しのヒーロー

突然のチューは心臓に悪い・・・!!

原稿用紙とペンを取り出して気づいたらネームができていた・・・!!

 

452:名無しのヒーロー

自重しろwwww三部買いますwwww

 

453:名無しのヒーロー

ああ、なるほど

個性に必要だったのか・・・って、個性????

(お願いします!!!!渡我ちゃんと芦戸ちゃんの絡みも見たいんです!!!!)

 

454:名無しのヒーロー

マジで????渡我ちゃんの個性ってそうなの????

(やめろ生ものは規制が厳しいから有料板R18にある『鮮度一番』の最新スレで続きを話そう!!!!この話はここまで!!!!)

 

455:名無しの張り付き

渡我ちゃんの個性・・・!!!!

 

『私の“個性”は『変身』です。条件は、他者の血液を摂取すること。つまり、今の私は――――貴女になれる』

 

とろって感じに輪郭が崩れたと思いきや渡我ちゃんが塩崎ちゃんになった・・・!!!!

 

456:名無しの特定班

はあ???? 変身???? ・・・ちょっ変身????

ホ、ホウホウホ、ウウホウホ、ホウホウホ・・・????

 

457:名無しのヒーロー

いや人語でしゃべってもろて

 

458:名無しのヒーロー

ゴリラ語って案外ゴリラってないんだな・・・

 

459:名無しのヒーロー

もっとゴリライズしてると思ったわ

 

460:名無しの特定班

失礼しましたわ・・・彼女の個性に動揺してしまいましたの

 

だって不自然ですわ!! あの無数の光弾に氷煙を生み出した熱源に加速じみた移動に身体能力・・・!!『変身』では説明がつかない事が多々ありますのにこれはどういう事ですの!?

 

461:名無しのヒーロー

ええ・・・ゴリラからヒステリー気味なお嬢様へジョブチェンジやめろ

 

462:名無しのヒーロー

渡我ちゃんの底が見えないなぁ・・・

 

463:名無しの特定班

何サラッと塩崎さんの個性を使ってますの???? まさか変身先の個性が当たり前につかえますの???

そんなん応用が利くってレベルじゃねえぞですわ!!??

 

464:名無しのヒーロー

擬態するならちゃんとしてもろて・・・

 

465:名無しのヒーロー

いや使えるっていうか・・・

 

これ、オリジナルの塩崎ちゃんより使いこなしてないか?

 

466:名無しのヒーロー

へえ、ツルを絡めて鞭に・・・????

 

467:名無しのヒーロー

明らかに動きが鈍った塩崎ちゃんをガンガン追い詰めてる・・・

塩崎ちゃんな渡我ちゃんは欠伸してる・・・

 

468:名無しのヒーロー

もう完全に立場が逆転してる・・・

 

469:名無しのヒーロー

痛そう・・・塩崎ちゃんの体操服が裂けて血が滲んでるじゃん

 

470:名無しのヒーロー

渡我ちゃんがツルを絡み合わせて『手』にして、ぐーぱーしだしたんだけど・・・????

 

471:名無しのヒーロー

嘘でしょ渡我ちゃん・・・

『拳』での叩きつけでステージが揺れてんじゃん・・・

 

472:名無しの特定班

はあ????

渡我様マジですの????まさか貴女『変身』先の個性を本人以上に引きだして尚且つステータスとか素っ破抜いていますの????

 

473:名無しのヒーロー

わあ・・・俺もこういうの持ってるぅ・・・(絶句)

 

【塩崎ちゃんの姿をした渡我ちゃんがキャンプチェアを作った動画】

 

474:名無しのヒーロー

ねむねむな塩崎ちゃんも可愛いなぁ・・・

 

475:名無しのヒーロー

攻撃の合間に椅子を作ってうとうとしてるんだけど????

 

476:名無しのヒーロー

やだ・・・女王様じゃん

 

【塩崎ちゃん(渡我ちゃん)が足を組みながら気だるげにツルの鞭やら手をしならせている画像】

 

477:名無しのヒーロー

こんなの心が折れるよ・・・

 

478:名無しの張り付き

・・・w

 

『……ッ、渡我さん!!』

『? ふぁい』

『その椅子は、私にも作れるでしょうか!?』

『……』

 

そうですね普通は折れますね・・・w

 

479:名無しのヒーロー

メンタル強ッ!!?? 雄英ガールはこれだから押せるんだ!!!!

 

480:名無しのヒーロー

・・・流れ変わったな。変身した塩崎ちゃんの(え……?)って言いたげなお顔よ・・・w

 

481:名無しのヒーロー

いっきに愛嬌がでて・・・美人なのもあってキュンとした

 

482:名無しの張り付き

 

『私は……己の“個性”に、創造の可能性を見出しておりませんでした!!』

『……』

『他にも、くっ! 作れるのでしょうか!? どの様に編み込んだ、ァ……のでしょうか!? どうか、未熟な私にも、んッ、ご指導のほど、お願いします!!』

『……あの、落ち着いてください』

 

渡我ちゃんにw落ち着けw言われてるwwww

 

483:名無しのヒーロー

塩崎ちゃんwwww

 

484:名無しのヒーロー

鞭でびったんびったんされて追い詰められてる途中で元気やなw

 

485:名無しのヒーロー

この(何言ってんです……?)みたいに言いたげな顔がめっちゃ渡我ちゃんw

 

486:名無しの張り付き

wwww

 

『いいえ! とても落ち着いていられません!! ああ――――今日という日の出逢いに感謝を!! 私は、人生の師をみつけました!!』

『……』

 

この虚空を見る目がwwww塩崎ちゃんのお顔なのwwwwめっちゃ面白いwwww

 

487:名無しのヒーロー

お腹が痛いwwww

 

488:名無しのヒーロー

下手なコントより面白いわこれw

 

489:名無しの張り付き

ちなみに裏の芦戸ちゃんw

 

『トガがんばれー!!』

『芦戸さん気合入ってますわね! 私も精一杯応援しますわ!』

 

『うわ! うわわ! アタシのししょーすっごい! ねえねえアタシのトガすごくない!?』

『凄いよ!? でもトガちゃんは芦戸ちゃんのじゃないからね!?』

 

『トガー!? なんでもお口にいれちゃダメでしょー!?』

『突っ込むところそこ!?』

 

『トガはアタシのししょーですけど!!??』

『そろそろ落ち着いて三奈ちゃん……』

 

『ねえ麗日、トガって塩崎、さんの申し出受けると思う?』

『え? ……んー、被身子ちゃんだしなぁ』

『どっちの意味!?』

『……同じチームになってくれた優しい子でも、今日出会ったばかりの子を弟子にはしないと思う』

『! だ、だよね』

『でも……』

『え?』

『……被身子ちゃん、押しに弱いんよね』

『―――そうだよ!? だからアタシのししょーになってるんじゃん!!』

 

芦戸ちゃんとA組女子が可愛いw

 

490:名無しのヒーロー

芦戸ちゃんwwww

 

491:名無しのヒーロー

渡我ちゃんが活躍する度に目キラキラさせてたからね・・・w

 

【芦戸ちゃんが分厚い包帯で覆われた両手をぶんぶんしながらステージを見ている動画】

 

492:名無しのヒーロー

もう渡我ちゃん大好きじゃんwwww

 

493:名無しの張り付き

和んだw と思ったら・・・

 

『……えと、椅子を作るのは、今の塩崎ちゃんには難しいと思います』

『……! それでは、私の努力次第でしょうか?』

『……ですね。塩崎ちゃんの“個性”の伸び次第です。……んー……そうですね。もう少し“個性”を練習したら、簡単な椅子ならできそうです。今度、一緒に作りましょう』

『はい……!!』

 

やっぱり、変身先のステータスが分かってる感じだよねこれ・・・

 

494:名無しの特定班

その可能性が高いですわね

彼女の赤ちゃんすぎる言動を信じるならば、渡我様は変身先の個性を相手より使いこなすだけでなく、それ以上に相手の個人情報を素っ破抜けてしまう反則過ぎる『個性』の持ち主だと考えられます

 

495:名無しのヒーロー

最強すぎる・・・

 

496:名無しのヒーロー

マジで強すぎるだろ・・・ここまで万能なのは滅多にないよ

 

497:名無しのヒーロー

さ、流石に渡我ちゃんのブラフでしょ? そう思い込ませてるだけじゃないの・・・?

 

498:名無しの特定班

変身が解けましたわ・・・

どうやら摂取した血の量によって変身時間が決まる様ですわね

そして最後に演出を忘れない遊び心も満載な懐の広さ・・・彼女がヒーローを目指してくれている現状に心からの安堵を覚えますわ

 

499:名無しの張り付き

これは・・・

 

『――――渡我さん!! 私は……花を咲かせる事も、できるのですか?』

『いや、それはできるでしょう……』

『……っ』

『……“個性”は自然の花と仕組みが違います。ツルを伸ばすのと勝手は違いますが、ベースが植物なら、花が咲いてもおかしくないでしょう?』

 

やべえ・・・本当に『個性』を本人以上に理解してる

 

500:名無しのヒーロー

もう学生の域を超えてるだろ・・・?

 

501:名無しのヒーロー

それでも、渡我ちゃんは子供だ・・・敵墜ちしてもおかしくない才能だけど・・・恐ろしくもいまだ発展途上なんだ

 

502:名無しのヒーロー

この子は・・・本当に雄英だけに任せて大丈夫か?

 

503:名無しの張り付き

 

『……まあ、私のと違って、塩崎ちゃんが作った椅子は残りますし、これから頑張ってください』

『はい!』

『……あと、塩崎ちゃんはお堅いです。もっと気安く話しかけてくれないとヤです』

『……――――奮励努力いたします!!』

 

そこで(ダメっぽい?)って顔にでちゃうこの子の未来に期待と不安を覚える・・・

 

504:名無しのヒーロー

・・・他スレでも言われてるけど、逆説的にこんな強い子が大怪我するぐらい襲撃の件はやばかった訳で・・・主犯の逃亡を許してる時点で疑惑はあったけど、敵連合ってめちゃくちゃやばい組織なのでは・・・?

 

505:名無しのヒーロー

オールマイトがいなかったら・・・全滅もおかしくなかった訳か

 

506:名無しの張り付き

塩崎ちゃん・・・wwww

 

『さて、それでは―――』

『はい! 私の負けです!』

『―――……ん?』

 

やる気だしたら即座にふられてる渡我ちゃん最高に可愛いwwww

 

507:名無しのヒーロー

塩崎ちゃんwwww気づいてwwww

マジで予想外の事態ですって顔で渡我ちゃんが困惑してるからwwwwスレの淀んだ空気もどっかいったからwwww

 

508:名無しのヒーロー

シリアスなんて無かった・・・wwww

怖い敵組織の対策はプロヒーローと警察に任せれば大丈夫なんやwwww

 

509:名無しのヒーロー

俺はプロの渡我ちゃんファン!!

今までの彼女の言動を振り返ってピンときたぜ!!

 

渡我ちゃん・・・この試合わざと負ける気だったな?

 

510:名無しのヒーロー

は? いやいや流石にそれ、は・・・渡我ちゃんだしなあ????

 

511:名無しのヒーロー

渡我ちゃんファンの俺はひたすら渡我ちゃんの画像や動画を引っこ抜いて渡我ちゃんヒストリーを手掛けていた!! そして気づいたんだ・・・渡我ちゃんの性格なら表彰台に立ちたくないだろう、と!!

 

512:名無しのヒーロー

なんて説得力だ・・・!!

でもお前はもう少し自重しろJKのヒストリーを手掛けようとするな

 

513:名無しのヒーロー

あ・・・wだから渡我ちゃん唖然としてるのかw

 

514:名無しの張り付き

塩崎ちゃん天然可愛いwwww

 

『参りました。これ以上なく、実力差を突きつけられました。本来なら、それでも挑みたくはありますが……先の約束を強引にとりつけた手前、そこまで恥知らずにもなれません』

『……』

『渡我さん、ご指導ご鞭撻のほど―――…………いえ』

『……』

『……私の様な、いえ……私と、戦ってくださり……くれて、ありがとうございます! ……今後とも、よろしくお願いします!』

『……』

 

渡我ちゃんの遠い目に気づいて・・・wwww

 

515:名無しのヒーロー

これはwwww

 

516:名無しのヒーロー

ある意味塩崎ちゃんの大勝利なのでは????

今日一のダメージ受けてる気がするwwwwお顔がちょっとしおしおってしてるwwww

 

517:名無しの張り付き

可愛いわこの2人wwww

 

『……こんな感じで、大丈夫でしょうか?』

『……良いと思います』

 

渡我ちゃんがもう完全に負けたって顔してるwwww

 

518:名無しのヒーロー

そして嬉しそうな塩崎ちゃんに抱っこされてるwwww

 

519:名無しのヒーロー

なんでwwwwボロボロの敗者にほぼ無傷の勝者が労わられてるんですかwwww

 

520:名無しのヒーロー

渡我ちゃんだからとしか・・・w

 

521:名無しのヒーロー

もうずっと寝てても許されるだろ・・・w

いざという時に眠気に負けて試合が見られないよりマシだよ・・・w

 

522:名無しのヒーロー

話ぶった切るけど、渡我ちゃんこれから大丈夫か?

無料スレで血を飲んで欲しいとかいう書き込みが増えてるんだよ・・・

 

523:名無しのヒーロー

あー・・・

そっか渡我ちゃんって角度を変えれば個性メンタルヘルスの才能まであるのか

 

524:名無しのヒーロー

自分のステータスを抜かれるのは複雑だけど、血を飲んで貰うだけで的確な指導をして貰えると思えば・・・ありだわ

 

525:名無しのヒーロー

塩崎ちゃんの固定観念をあの短時間で壊せる実績もあるしな・・・

 

526:名無しのヒーロー

すごいよな・・・オールマイト並に渡我ちゃんはやれる事が多すぎる

 

527:名無しのヒーロー

いや、万能性なら下手したらオールマイトより上かもしれん・・・

 

オールマイトは最高で最強のヒーローだけど、いくら彼がナチュラルボーンヒーローで平和の象徴だとしても、個性の暴走に関しては力でおさえつける以外の選択肢がほとんど無い。でも渡我ちゃんなら『血』さえあれば希少で特異な個性を使い放題だ・・・

 

528:名無しのヒーロー

オールマイト程のヒーローでも向き不向きがあるからな・・・

 

そのカリスマで世界中のヒーローに声をかけて協力して貰えるにしても、事件の最中に協力を仰ぐのは物理的にも距離的にも無茶だ・・・

 

529:名無しのヒーロー

けれど渡我ちゃんなら何とでもできてしまう・・・彼女はいまだ実力の底すら見せていない

もしかしたらな可能性を無数に秘めているかもしれない。仮に今は無くても未来に生み出せるかもしれない

 

530:名無しのヒーロー

なんか・・・塩崎ちゃんの首にすがりついて寝てる渡我ちゃんに注目と期待が収束していくの・・・複雑だな

 

531:名無しのヒーロー

本人は目立つの嫌いっぽいからな・・・

わざと最下位をとったりして逆に目立つのもEQが低いせいだし・・・可哀想だな

 

532:名無しのヒーロー

色々気になるが・・・次の試合は飯田くんVS八百万ちゃんだ

 

もう両者ステージに向かっているし切り替えよう。これ以上はスレちだ

 

533:名無しのヒーロー

え・・・飯田くん試合でるの? 棄権すると思ってた

 

534:名無しのヒーロー

なんで? 飯田くんに何か問題あったか? そういう感じはなかったけど

 

535:名無しのヒーロー

>>534いや・・・飯田くんてインゲニウムの弟さんだろ?

十分ぐらい前に救急車で運ばれてくインゲニウム見ちゃったから・・・とっくに連絡が入ってると思ったんだ

 

536:名無しのヒーロー

は????

いやまて・・・お前どこいる????

 

537:名無しのヒーロー

>>536保須だけど・・・荒らしじゃないぞ?

俺インゲニウムのファンだし、それで飯田くんの事知ってたから見間違いでもないと思う

 

538:名無しのヒーロー

あー・・・じゃあマジかもしれん

 

俺は無線とか聞こえちゃう個性で・・・今そこに『ヒーロー殺し』が出たって警察さん達が慌ただしくなってる・・・つまり俺は今から出頭しなくちゃだよクソが!!!!周波数関係の民間協力何度目だよこんだけしても聞こえるとか勘弁してくれ!!!!

 

539:名無しのヒーロー

は・・・???? え???? お疲れ様です????

 

540:名無しのヒーロー

・・・ガチだこれ

 

541:名無しのヒーロー

ああああ試合が終わってるなんで!!??

 

情報漁って少し目を離しただけなのに!!??

 

542:名無しのヒーロー

試合自体がすぐに終わったからな

飯田くんが八百万ちゃんを警戒して準備させる間を与えなかった感じ。騎馬戦で見せた技をつかって一気に場外に押し出した

 

543:名無しのヒーロー

お、おう。飯田くんおめでとう! 八百万ちゃんは相性が悪かったな!

でも・・・

 

544:名無しのヒーロー

飯田くんは速攻に強いな! 八百万ちゃんも残念だった!

・・・うん

 

545:名無しのヒーロー

ダメだこっちが気になる

この情報・・・もうネットに出はじめてるよな?

 

546:名無しのヒーロー

あー・・・拡散スピードもじわじわ上がってる

 

547:名無しのヒーロー

確定情報は出てないけど・・・飯田くんは家族だからそろそろ連絡がいくと思う

 

548:名無しのヒーロー

不謹慎かもだが、それじゃあ次の試合はどうなるんだ?

 

549:名無しのヒーロー

まあ・・・大人達の配慮とインゲニウムの容態次第だろうな

 

550:名無しのヒーロー

マジかぁ・・・

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

35話 戦う前から負けています

 

 

 ……起きました。

 

 なんでしょう? 体内に毒ではない何かが入ってくる感覚が続くので目覚めましたが、寝足りないです。

 チラと見れば点滴がされています。…………これのせいかぁと睡眠への未練で欠伸をする。

 

「……はぁ」

 

 眠いです。塩崎ちゃんの腕の中でふて寝した事までは覚えていますが……そうです、今日はまだ終わってません。

 

(…………次は、轟くんですね)

 

 心の底からうんざりしますが、轟くんが相手なら少し気楽です。

 ある意味で負けるのに一番適している相手とも言えます。気を持ち直して身を起こしながら、此処が出張保健室であり隣のベッドが空な事を確認して伸びをする。

 

「……ふう」

 

 このまま二度寝したいですが、ここでさぼったら今日の努力が水泡に帰してしまいます。それは許容できないと頬をぺちぺちしていると「起きたのかい?」カーテンが引かれて、リカバリーガールが顔を覗かせる。

 

「……ふぁい、おはようございます」

「はい、おはよう」

 

 わざとらしく「良く寝てたね」と、通話中のスマホを白衣にいれるリカバリーガール。……え、寝起きからカロリー高い光景です。

 

「眠気以外の症状はあるかい?」

「……ないです」

「タフな子だねぇ」

 

 リカバリーガールが苦笑して、慣れた手つきで腕の針を抜いて処置してくれる。それから、分かりやすく白衣を指差して、唇に指をあてるお婆ちゃん。……はい、発言には気をつけろって事ですね。

 

(……今更ですが、お婆ちゃんの立ち位置が謎ですね)

 

 スパイっぽい事をしてるのに、こうも露骨では困ります。

 

 通話相手に反抗心があるのは分かりますが、それを私に示す必要あります? その真意がわかりません。

 

(……トガヒミコに、深い考察を期待してはいけません)

 

 悲しくも、まず『普通』が分からない問題が壁になります。

 我が事ながら大人の心理戦に思考停止しそうで、リカバリーガールを辟易しながら見つめる。大体、リカバリーガールもリカバリーガールです。

 そんな『信じて貰えなくても私はあんたの側だよ』っぽいアピールより、お茶子ちゃんみたいに寝起きの私をなでなですればいいのに! …………いや子供ですか私は?

 

(本当に、寝起きはダメですね……っ)

 

 我に返るのがもう一秒遅かったら、欲望のままお婆ちゃんを抱っこするところでした。

 間一髪、セクハラで訴えられるところだったと視線を泳がせながらベッドから這い出る。

 

(……ねむいけど、我慢です)

 

 今日はミッドナイトの香りを嗅ぎすぎて、意図しない熟睡に襲われる可能性が極めて高い。

 今夜は諸々の話し合いで()と顔を合わせるのが確定なのに、これ以上は見たくもない。……軽く頭を振って、気を紛らわせようと隣のベッドを見る。

 

「緑谷くんと轟くんは大丈夫です?」

 

 まあ、動けるのは知っていますが2人同時の回復は久しぶりなので、治しすぎていないか心配です。

 

「……。あの子たちならとっくに出て行ったよ。あんたの試合を見たがっていたからね」

「そうですか。塩崎ちゃんは?」

「治療が終わってすぐに出て行ったよ。くれぐれもあんたをよろしくと何度も頭を下げてきてね。……随分と慕われたねぇ」

 

 からかう、というより優しさが上回った表情に、ちょっと困る。……どんな顔をするのが正解なのか分かりません。

 

「? なんだい、その煮え切らないって顔は」

「…………いえ」

「もしかして、あの子を弟子にする気がないのかい?」

「…………はい」

 

 意味深に「ふむ」と思案しだすリカバリーガール。その顔から眼を逸らして唇をおさえる。…………うん、やっぱり弟子とか無理です。

 

 現実問題、塩崎ちゃんは悪夢と相性が良すぎる。

 下手をしたら、悪夢に招いた時点で啓蒙を得るかもしれない。

 

(……。瞳が開いてしまえば……日常生活に支障がでます)

 

 当初の私みたいに視界が狂うでしょうし、そうなれば気も狂うでしょう。

 

 自分の意志で閉じる事もできない脳の瞳なんて、ただ人格を壊すだけです。下手をしなくても精神崩壊を幾度となく繰り返して正気の上限は削られる。

 

(……塩崎ちゃん、真面目ですし)

 

 クラスメイトや親しい人間が()()()()()()()……その結果、どんな行動をとるか。

 その経過と結末を想像するだけで面倒臭い。うちのクラスだと芦戸ちゃんと青山くんが悪夢と相性が悪くて理想なんです、が……――――うん? 今、何か閃きというか、思考に引っ掛かりを覚えました。

 

(……待ってください)

 

 今更すぎる違和感。

 じわりと目を見開いていく。

 

(……()が、芦戸ちゃんを悪夢に招くの、性急すぎましたよね?)

 

 トガヒミコらしいといえばらしいですが、少し強引すぎた。……あの時は予想外の事態で勢いに負けましたが、思い返せば不自然です。

 

 あまりに準備が良すぎますし、空間を作るだけならともかくあのきちんと設計された日本家屋や竹林を短時間で作るなんて、杜撰な()には絶対に無理です……! アレは、どう考えても前々から準備されたものです。

 

(……ッ、やられた! まさかとは思いますが。元から誰かを招くつもりだった!?)

 

 悪だくみをするのが己なだけあって、こういう時に根拠なく直感が働くのは便利だ。

 そして、すぐさま自分自身の動機にたどり着いて、ひくりと頬がひきつる。

 

(……まさか、私を直接視ると怒られるから、協力者を仕立てて近況が知りたかった、とか?)

 

 そんな身勝手すぎる理由で、洒落にならない事をやらかすのが……トガヒミコだ。

 

 だって()なら、私に優しくしてくれるクラスメイトたちをもっと見たいと思っても不思議ではない。そんな淡い動機で現実に侵食して世界に干渉できるのも()だ。

 

 もしそうなら、素で能天気かつ善性でポジティブ、天然で悪夢への耐性が高い芦戸ちゃんや青山くんが事前に目を付けられていてもおかしくはない。

 

 この2人のどちらか、あるいは両方が()の目になっていたら、気づける自信がない。

 

 

 

 

 ――――「あ、やばいです。人形ちゃん、私にばれちゃいましたぁ」

 

 

 

 

 ……は????

 

 どっかで、バカが人形ちゃんに泣きつく声が聞こえました。……落ち着きましょう。ビキキッと青筋が浮かんでいますが、私は冷静です。自殺を試みるのは後です。

 

(本当に、トガヒミコは油断できない……!!)

 

 危うく、クラスメイトが()に利用されるところだった……!

 最大の敵が己とか酷すぎて言葉にならない……!

 

 もしも今日、芦戸ちゃんと試合をしていなかったら、その頑張りが無かったら、弟子にしていなかったら、真面目に()()()()いた。

 

 現時点で、私の嗅覚に引っかからないレベルで臭いに慣らされていたと理解したからこそ、自分への殺意が抑えきれない。

 

 ……今夜の話し合いは、色々な意味で血の雨だと歪む唇をおさえていると「……渡我」……え?

 

 リカバリーガールが、青ざめている。

 

(―――あ)

 

 しかも、かなり距離をとられている。

 つまり、とても怖がられている。「…………寝起きは、機嫌が悪いタイプかい」と、入れたてのお茶を持ったまま、小さい身体を更に小さくしている。わ、私は何てことを……!?

 

「! だ、大丈夫です、ごめんなさい! お茶いただきます!」

「…………そうかい」

 

 お、お婆ちゃんを怖がらせてしまいました……っ。

 

 焦りを覚えながら、怖がらせない距離を保ってリカバリーガールからお茶を受け取り、毒入りだろうと飲む覚悟で口に含み、無害をアピールする。

 ……あ、美味しいです。独特の爽やかな香りと甘みがあって、香草茶ってやつでしょうか? 昂った気持ちが落ち着きます。

 

「……。落ち着いたかい」

「はい! ありがとうございます!」

 

 感情を切り替えて思考も制限して、己への殺意はいつもの事だとお婆ちゃんに下手に出る。……なんとか、怯えさせたお詫びをしなくてはと、コホンと咳払い。

 

「……驚かせてごめんなさい。何か、私に聞きたい事とかありますか?」

 

 今なら何にでも答えます。

 

 そういうつもりで言葉にすると、リカバリーガールは驚いた顔をして「……律義な子だね」と、理解を示して笑ってくれる。

 

「……そうだね」

 

 リカバリーガールは暫し考えて、チラッと白衣の中にしまった通話中のスマホを意識し、肩をすくめる。

 

「逆にあんた、何ができないんだい?」

「……」

 

 へえ。

 制限があるとはいえ、最初の質問がそれかと目を丸くして、おかしくて唇を隠す。

 

「そうですね。……私は、できない事から数えた方が、きっと早いです」

「……つまり、死者すら蘇生できると、そう言いたいのかい?」

 

 ん?

 

 え、いえ……そこまでは言ってません、よね? 会話というか思考が飛びすぎでは?

 

 もしやリカバリーガール、私への評価が高すぎてトガヒミコがバカな事を忘れてますか? ええと、死者の蘇生は……()()な意味でできはしますけど……うーん?

 

 リカバリーガールのポケットの事はおいといて……まあいいです。

 

「そうですね。腐敗はしていても、蘇らせる事はできます」

 

 生前とは変わり果てた()として、ですが。

 

「……デメリットは、多少の貧血かい?」

「はい。破格だと思いますか?」

「……いや……まさか、()()()にデメリットがあるのかい? 破格すぎる“個性”にはそれ相応の欠点があるものさね、つまり……っ」

 

 詰めていきますねぇ。

 真剣な顔のお婆ちゃんを通して情報を抜き取られるのは良いですが、下手な勘違いは事故の元ですし……でも、そこは勝手に頑張れって感じだし、なにより眠くなってきました……

 

「……あの子の、両の指を生やした時」

「ふぁい? 芦戸ちゃんです?」

「……あの時、鐘は使わなかったね?」

 

 うん? リカバリーガールが心持ち体を寄せてくる。

 

「……はい、そこまでする必要がありませんでしたから」

「私に教える気は、あるかい?」

 

 ぐいぐいきますね。

 

「……ありますよ。指を切って私の血を飲ませたんです」

「……血?」

 

 なんとなく、明かすところはとことん明かした方が良いと判断して苦笑する唇を隠す。

 

 リカバリーガール越しの誰かさん達に、私の情報を開示して後は勝手に動いて貰う方が拘束されない予感がするのです。それに、ある程度の異端は『普通』の為に知られておいた方が良い。

 

「……血」

 

 と、リカバリーガールが考え込みながらてきぱき動き出す。

 

「つまり、血を飲ませただけで指が根元ごと生えた。……それに偽りはないかい?」

「無いです。私の血は色々と特別なんです」

 

 リカバリーガールは「そうかい……」と頷いて、チューブと空の注射器を取り出す。

 

「採取するよ。いいかい? いいね?」

 

 待って?

 

 お婆ちゃん行動が早すぎです。

 しかもちょっと強引です。

 

「……あの、いいですけど。遺伝子レベルで擬態してるから無駄ですよ? 普通の血がとれるだけです」

「そうかい。なら擬態をやめな」

 

 え『擬態』という晒したカードに疑問をもたないんです?

 

「……あの、落ち着いてください。いえ本当に、それはやめといた方がいいです」

 

 高確率で狂うんですってば……! にじり寄ってくるリカバリーガールをどうどうしつつ、さっきまでの怯えは演技なのではと疑って、いやこれ恐ろしく切り替えが早いだけですと女性の怖さを体感する。

 

 どうしようかと思案していると、気配。―――パッと彼女からチューブや注射器を取り上げて机に置いて、そそっと離れる。

 リカバリーガールが「渡我?」と、不思議そうにした辺りでバァン!!!! とドアが乱暴に開けられる。

 

「!? 何事だい」

「……チィッ!!!!」

 

 はい、そこにいたのは爆豪くんでした。

 

 彼の気配は分かりやすいです。ツンツンした髪と目つきの悪さが特徴的な彼は、派手な舌打ちをして私を睨みます。

 

「起きてんじゃねぇか……!!」

「? はい、さっき起きました」

 

 ジロジロ見られるので、どうしたのかと爆豪くんを見返すと、彼はフンっと鼻を鳴らして「……面貸せ」と一言。背中を向ける。

 

「? いいですよ」

 

 珍しい、というか初めての事に好奇心が疼く。

 それに、ちょうどリカバリーガールから逃げたかったのでナイスタイミングです。不満そうなリカバリーガールにごめんねぇと手を合わせて、彼の背中を追って出張保健室を出る。

 

 

「…………」

 

 

 爆豪くんは無言。

 静かな通路に足音を響かせ、イライラした様子で私の歩みに速度を落としている。

 

 不気味なほど口を閉ざし、いつもの様に暴言を吐く気配はない。

 

(やっぱり、爆豪くんは賢いというか野生の勘がしっかりしてますね)

 

 彼の視線は至るところで感じていた。

 観察され分析されるのを許容していただけあって、他のクラスメイト達よりずっと私の事を理解しています。

 

(爆豪くん、センスありますね)

 

 意図してかは分かりませんが、彼は私を敵視しながら敵対しない様に立ち回っている。

 

 私への当たりは悪いですが、絶対的な衝突だけは避けている。今も、わざと速度を落としているのに文句を飲み込んで舌打ちですませている。

 

(野性的なのに理性的……獣じみている癖にどこまでも人間)

 

 だから面白い。

 彼を観察するのが楽しくて、ついつい初めての接触に猫ちゃん味を感じて微笑ましい。

 

「ねえ、どこまで行くんです?」

「…………ステージ」

 

 はい? 意外な答えに目を丸くする。

 

 この短いやりとりだけでストレスが溜まるのか、人を殺しそうな視線で射抜かれるも、その反応を楽しむにはちょっと意味が分かりません。

 

「ステージ、ですか? ……もしかして、轟くんに頼まれたんです?」

「はあア゛ッ!!??」

 

 はい、違いますよね。

 ならどうしてです? 私だって困惑しています。

 

「……私の次の試合相手は、轟くんですよ?」

 

 首を傾げながら確認すると、爆豪くんは一瞬真顔になって、歩く速度を落としながら不機嫌に鼻を鳴らす。

 

「…………半分野郎は棄権した」

「え?」

 

 棄権って……何を言ってるんです?

 だって、轟くんはちゃんと治したのに……いえ、まさか?

 

「――――」

 

 轟くんの怪我の度合いは、ばっちりスタッフさん達に目撃されている。

 

 そのうえでリカバリーガールの“個性”に相手の体力が必要な事は知られているでしょうし、試合後の轟くんへの治療となると……回復上限を把握されて、私の存在を隠す為に棄権させられている可能性は、あります。

 

「……」

 

 ……これは、予想していませんでした。

 ヤな予感がして足が止まりそうになる。

 

「……爆豪くん」

「んだよ」

 

 ぶっきらぼうに睨まれる。

 

「……轟くんが、棄権したのは分かりました。でも早すぎませんか?」

「……」

 

 嘘や冗談であって欲しいと、苦し紛れの確認をする。

 

「……私の次が、百ちゃんと飯田くんの試合です。十中八九、飯田くんが勝ちます。……百ちゃんを瞬殺した筈です」

 

 爆豪くんの視線が鋭くなる。

 

「その後が、爆豪くんと鉄哲くんで……爆豪くんが勝ちます」

「ハッ!! たりめーだ!!」

「……そして、次が私と轟くんで……轟くんが棄権したなら……その次が、爆豪くんと飯田くんの試合です」

 

 足を止めると、爆豪くんも止まる。

 

「飯田くんが相手なら、いくら爆豪くんでも……もっと時間がかかる筈です」

「…………眼鏡も棄権した」

 

 ッ。

 今、絶対に聞きたくなかった台詞に、頬がひきつる。

 

 あの飯田くんが棄権? 真面目でやる気に満ちていたのに、どうして……と疑問は湧くもそれ以上の問題に目を見開く。

 アレ? じゃあ、もしこのまま爆豪くんについて行ったら……それは――――

 

 

「逃がすかよ」

 

 

 あ、パシッと手首を握られて、反応に困っている隙にぐいぐい引っ張られて、あっ、あっ。

 

「は、離してください!」

 

 ダメですっ、反撃や抵抗をするには動機が弱いです。怪我をさせかねなくて力を込められない。

 

「ヤです!」

「踏ん張んじゃねぇ!!」

 

 ムリです、ちょっと。

 待って、ヤですって!

 

 私は轟くんに上手に負ける方法は考えていましたが、爆豪くんと戦う気は一切なかったんです! ヤです私も棄権するんですと踏ん張るも「おらあッ!!」ちょ、お腹に腕を回され持ち上げああああ!?

 

「暴れん、じゃねぇッ!!」

「ヤー!?」

 

 ジタバタするも意味をなさない。やっぱり彼は正確に私を知っている。

 

 ここまで反撃できないギリギリをついてくるとは思わなかった! 過剰防衛にならない力加減は絶妙で、ここで手刀や関節技を選択できないストレスにジタバタするしかない。

 

 って、気づいたらもう通路が終わるんですけど!?

 ギョッとして爆豪くんのほっぺをぐいーっと押す。

 

「ヤー!!」

「……ッ!? この……クソ力、出してんじゃねぇ!!!!」

 

 怒鳴る声に抵抗するも、爆豪くんは微塵も速度を落としてくれない。

 

 ドスドスと不機嫌に、けれど力加減はギリギリ優しくてやっぱり反撃できない……! 気づいたら通路を越えて青空に目が焼かれそうになり、望まない歓声を浴びる。

 

 

『――――ようやく選手入場!! 最後の最後まで対戦相手に運ばれるたぁいい度胸だぜトリックスター!! さァ、いよいよラスト!! 雄英1年の頂点がここで決まる!!』

 

 

 予想していない、最低の形ではじまる決勝戦。

 

 最初から、出るつもりが無かった舞台に、こんな形で運ばれるなんてと自身の敗北を自覚する。

 ……普通科への道が、まだ残っていたのに……ッ。

 

 

『決勝戦!! 渡我VS爆豪の試合が始まるん、だけど…………この絵面やばくね?』

 

 

 私は、爆豪くんを見くびっていました。

 まさか、こんな形で今日という日の努力を全部台無しにされるとは、思ってもいませんでした。

 

「…………ッ」

 

 完敗です。

 そして、だからこその感情を覚えます。……滅多なことでは怒らない自信がありましたけど、ここまでされたら反応しない方が失礼でしょう。

 

(……丹念に、磨り潰します)

 

 ゆっくりと、決意を込めて爆豪くんを見上げれば、彼は「ッ!!」ブルリと全身を震わせて、凶悪な顔で嬉しそうに笑った。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36話 決勝戦です

 

 

 ふわり、薄く感じる月の残滓で我にかえる。

 

「――――」

 

 あ、ダメです。これいったん落ち着かないと手元が狂うやつです。

 舌を噛み、湧きあがる爆豪くんへの感情を血の味で誤魔化して気を静める。

 

(……そうです。感情で動くとろくな事になりません)

 

 落ち着きましょうと、唾液で薄まった血を嚥下する。

 過去の、勝利より敗北の死体を重ねた渡我被身子を思い出せば、頭も冷える。

 

「……チッ!!」

「……」

 

 そんな、頑張って感情を飲み込んでいる私に、爆豪くんが心無い反応をします。

 

「……もしかして、わざと私を怒らせようとしてます?」

「……」

 

 呆れを滲ませて声をかけると、白けた顔で無視されてしまう。

 意外と子供っぽい反応しますね。……爆豪くんなりに私の本気を引き出したいのでしょうが、お互い破滅するだけなので我慢してください。

 

 爆豪くんは、不満そうに私を抱えたまま睨んでいる。

 

 感じ悪くガンを飛ばしている様に見えますが、今も脳を働かせているのでしょう。鋭い瞳が私を観察し、急所を探っている。

 

 爆豪くんは、本気で私に勝とうとしている。

 

(……悪夢で、早死にするタイプです)

 

 もし、彼がヤーナムに招かれていたら、怒り狂いながら脱出の為に町を駆け抜け、そうと知らずに破滅するでしょう。

 渡我被身子の様に、異常を受け入れ理解を放棄し狂気を受け流すには、ストイックすぎて無理そうです。いずれ甘い餌に喰いつき、狂気を理解し、瞳を得て、まっとうに抗い、手遅れになる。

 

「……」

 

 そんな事をぼーっと考えて、爆豪くんと見つめあう。

 数秒で『なにガンくれとんだ!?』と反応がくると思ったのに、爆豪くんは意外な事にマジマジと私の瞳を見返している。

 

(ん?)

 

 その視線に、正確には瞳に映る『像』で気づく。

 

(え……? まさか爆豪くん、私の事を人間じゃなく大型の獣として見てるんです?)

 

 突然何を、と自分でも思いますが、突如脳の瞳が見せた光景に唖然とする。彼の瞳に映る私は、ドラゴンの幼体だったんです。

 

 ……もしや貴方、女の子を抱っこしている気すら無い?

 爬虫類を横抱きしているつもりで、だから意識してないんです?

 

 私は、男の子とこんなに見つめあうのは初めてなのに、爆豪くんは私を人類扱いしていないとか大正解ですがイラッとします。

 

 ……今すぐ殴りたいですが、試合はまだ始まっていません。

 

 現在、ミッドナイトがリカバリーガールに連絡をいれて私の試合が可能かどうか確認しています。

 爆豪くんに連れてこられた際のやりとりが問題になったらしく、あえて校医に確認をして許可をとるというポーズが大事なんでしょう。観客も焦らされて期待が高まっていますし、雄英は演出にも余念がない様です。

 

 しょうがないので、その間も爆豪くんと見つめあう。

 

 彼は、私が逃げない様にがっしりと拘束していて、お腹に回された腕が窮屈で熱い。うんざり気分で四肢をぷらぷらさせる。

 

『―――オーケーでたわよ!!』

 

 と、ミッドナイトが声を上げて鞭を振るえば、途端にワアアアアッ!! と観客が興奮して歓声が上がる。

 

 その感情の高ぶりに、やっぱり演出って大事なんだなぁと勉強になり、爆豪くんの腕をぺちぺちする。

 降ろしてと言外に伝えると、彼は疑惑たっぷり胡散臭そうに目を細めてくる。

 

「……」

 

 まだ、私が逃げると疑っているらしい。不信からの苛立ちを腕越しに感じて……そういえば、ちゃんと言ってませんね。

 

「爆豪くん」

「……あ?」

「今から磨り潰しますけど、大丈夫です?」

「――……ハッ!!」

 

 ぶんっ、と爆豪くんは片腕で私を放り投げる。

 

 浮遊感は数秒、滑る様に着地して振り返れば、歯を剥き出しにした凶悪犯顔負けの楽しそうな笑み。

 

(……あ、これ下手な事したら恨まれるやつです)

 

 直感で、不誠実な事したら更なる面倒が降りそそぐと察した。……手を抜くにしても気を遣うべきだと、今後の学園生活の為に意識する。

 

 

『よっしゃあ!! 無事お許しも出た事だし、待ちに待った決勝戦を再開するぜぇ!!!!』

 

 

 プレゼント・マイクの声が響き渡り、爆豪くんが本格的に構える。

 

 時間も押しているのか、前口上は簡潔にプレゼント・マイクの気合の入った声に皮膚がピリピリする。

 私は自然体のまま、手の平を後ろに向ける爆豪くんを見つめる。

 

 

『―――START!!!!』

 

 

 爆音。

 

 試合開始と同時の轟音に目を細める。激しい爆発をバックに飛び出す爆豪くんの――その硬い手の平が眼前に翳され、指の隙間からお互いの目があう。

 

(……ふーん?)

 

 初手で、私の目を潰すと決めている動きだった。

 

 私が察して、あえて対処しない事に気づいた彼は「!!」苛立つ、かと思いきや楽しくて楽しくてしょうがないとばかりの顔で、ボゥン!! と、頭ごと吹き飛ばしかねない衝撃と閃光を発し、その威力に目とおでこがジュッと炙られる。

 

「……っ」

 

 視界を、激痛と光で潰され、周りには副次的な煙幕が広がっているようだ。

 

 

『まぶしッ!? 煙幕かと思いきや、今のは八百万が使ってた閃光弾レベルにピカったよな!?』

『……やりすぎだ』

 

 

 ええ、本当です。

 コレ、私じゃなければ失明もありえましたよ?

 

 追撃に気づいて首を曲げる。ジッ! と頬のガーゼを掠める拳が空気の流れをつくり、見えなくても像を浮かばせる。ボン! ボン! ボンボン! 当たらない事に苛立ち手数を増やして攻撃を続けるも、爆豪くん自身も煙幕で私を見失っている。

 

「クソが……ッ!!」

 

 スタミナ切れを狙ってか、休む間を与えまいと爆豪くんはとにかく攻め込んでくる。

 ですが、焦っているのか靴音を立てすぎている。

 

「……チッ!!!!」

 

 本人もそれが分かっているのか、苛立ちと舌打ちを己自身に向けながら煙をかき分け、拳を、蹴りを、爆発を、私に当てようとするも……爆破する寸前に匂いがするから、全然脅威じゃないんですよね。

 

(……爆豪くんの“個性”って、隠密に向かなすぎです)

 

 音もそうですが、匂いが残ってしまうのは減点です。

 

 ボウン!! と苛立ちで爆破の調整を失敗している。あえて気配を消せば、爆豪くんが本格的に私を見失い、歯ぎしりしながら自らが生んだ煙幕を吹き飛ばす。

 

「……」

 

 煙幕が晴れるも、私の視界は暗いまま。

 試してみましたが、目はズキズキして開けられません。触るとぬるっとしたので血が出ています。

 

「……背中に目でもついてんのか!?」

「まさか、でもよく視えてますよ」

 

 あと、背中じゃなくて脳にです。とは言いません。

 

『ッ、渡我さん!?』

「あ、大丈夫です」

 

 煙幕が消え、間近で私の顔を見たミッドナイトがギョッとするのを感じて片手をあげる。

 

「ヒリヒリしますが、このまま放置しても視力が下がる怪我じゃないです」

『……!』

「だから、大丈夫です」

『……ッ、分かりました! ――――でも、危険だと思ったら即座に割って入るわよ!』

「はい」

 

 頷きつつ、少し場違いな不満を覚える。

 ……ミッドナイトって、私には気を遣いすぎなんですよね。それが少し面白くなくてモヤモヤする。

 

 

「余所見してんじゃねえ!!」

 

 

 と、空気を読まない爆破を避けつつ、爆豪くんの言動にムッとする。

 

「ちょっとぐらい、いいじゃないですかー!」

 

 掬い上げる様に顎を狙う掌底を弾き、下がるのでは無く進む事で次点の目測をずらし爆豪くんの背後に滑り込み、バッ! と即座に反応し振り返られ、片手が私の顔を掴まんと迫ってくる。

 

(反応速度は、良いですね……)

 

 首を逸らして躱し、後ろ足をあげて底ゴムの側面を爆豪くんの手首に当てて、捻る。

 ボボン!! と爆破は拡散されて、手首から体勢を崩して顔で着地しそうになり、焦った顔で爆破を起こし体勢を立て直す。

 

 

『……担任の相澤さん』

『……なんだ?』

『おたくの生徒さん、本当に見えてないんだよね?』

『……見えてないよ。何かしらの手段で視界を補完できているだけだ。……それができるから、爆豪の攻撃をあえて避けなかったんだろう』

『……クレイジーすぎだろ』

『……思惑はあるんだろうが、渡我はそういう問題児だ』

 

 

 ん、何か相澤先生の声が怒ってます?

 

 爆豪くんの攻撃をいなしつつ、首を傾げてしまう。ですが私に心当たりがないので、恐らく爆豪くんに向けての怒りでしょう。

 軽い同情心を抱きつつ、容赦はしません。

 

「ねえ、爆豪くん」

「あ゛?」

「爆豪くんの動き、はっきり言って雑です」

「……―――は?」

 

 カチン、としていますが。まだまだ溜飲は下がりません。

 今のうちに言えることは言っておきましょう。爆豪くんが私の話を聞く気になってるの、手の平が痛んで休ませたいからでしょうし。

 

「工夫を感じられません。フェイントも分かりやすいし意地の悪さも足りません」

「……ッ!?」

「あと、もっと肘と膝を意識して使った方が良いです。全身が使えてません」

「――ぐ、がッ……ブッ潰す!!!!」

 

 血管ブチギレそうな低い声に、ちょっとすっきりする。

 

「更にダメだしすると、音と匂いで狙いがバレバレです」

「あ゛……!?」

「機敏に動けるだけじゃ、私にはいつまでも当たりません」

 

 ガ、ギグ、ギリリ……!! と屈辱すぎて歯ぎしりしながら威嚇してくる爆豪くんの顔、見えないけど凄いんだろうなとほっこりする。

 

 そして、改めて視えてしまう。

 いつもの彼なら、同級生にこんな事言われて『何様だテメェ!!!!』とぶち切れるところを、意外なほど大人しく聞いている理由が、心底から私を人間として見ていないからだと。

 

 彼のトガヒミコのイメージを、脳の瞳が受け取る。

 彼の脳には、人類という下等生物をヤレヤレと爪先で転がすドラゴンの幼体っぽいのがいる。……つまり、そういう事です。

 

 ……失礼すぎません????

 

「――俺じゃあ、力不足だって言いたいのかよ!?」

「? 力だけじゃなくて、ほぼ全体的に足りないです」

「んっだとコラ!!?? 骨付き肉ねじ込むぞ!!!!」

 

 骨付き肉!?

 

「人を虚仮にすんのも大概にしろ!!」

 

 どの口が言ってます!?

 

 爆豪くんが全身で怒っていますが、筋肉の動きが膝と肘を意識してるので、助言を聞く気はあるみたいです。素直といえば素直ですけど、年頃の女の子をドラゴン扱いする人なんて知りません!

 

 

『……意外と仲良いのね』

『……まあ、悪くはないだろうな』

 

 

 外野がうるさいですが、そろそろ仕切り直しです。

 爆豪くんの手の平も、少しは落ち着いたでしょう。ようやく息も整ってきたのか、ギロリと注意深く私を睨んでいる。

 

 

『初撃で目を潰したり、大技を控えた爆発のタイミングだったり……渡我をしっかり研究してるよ。戦う度にセンスが光ってくなアイツは』

『ホゥホゥ』

『……だが、渡我には足りていない。……爆豪の反応速度も凄いが、渡我はその上を行く。……対峙する方は堪ったものじゃない』

 

 

 私に分からないけど、きっと恐らくちょっとは爆豪くんのプライドをゴリゴリできた気がするから、もう良いでしょう。

 爆豪くんも、私を倒す決定打が無いと気づいているでしょうしね。

 

「純粋な忠告ですけど、爆豪くんは自分に何ができないか知った方が良いですよ」

 

 一歩、私から近づく。

 それだけで彼の緊張は高まり、ハリネズミの様に警戒する。

 

「現に今、私を攻めあぐねているでしょう?」

「……ッ」

「そういう相手への対処法は、不足を補おうとする視点から見つかるんです」

 

 ゴリ、と。

 彼のプライドが磨り潰される音が聞こえた気がする。それに気を良くしてゆっくりと歩んでいく。

 

「……言いたい事は、それだけかよ」

「ですね。これ以上のお塩は、受け取り拒否されそうです」

 

 ギチリと歯噛みして、爆豪くんが追い詰められながらも笑う気配。おや? と思っていると大きくバックステップして腰を低く構える。

 

「……俺が取んのは、完膚なきまでの一位だ!!」

 

 お互い、次が最後の一撃になると知っている。

 

「デクより上に行かねえと意味ねえんだよ……!!」

 

 だからこそ、出し惜しみ無い本気の一撃がくると分かったからこそ、私は口元を隠す。分かっているなら邪魔しない訳が無い。

 

「ねえ」

 

 今にも、爆発しそうな爆豪くんに、唇を隠したまま笑う。

 

「もしも、常勝のヒーローがいるとして」

 

 一瞬でも、動きが鈍る戯言を問いかける。

 

 

「それ、裸の王様と何が違うんです?」

 

 

 ……ボン!!!!

 

 爆豪くんの表情は見えませんが、飛び出すタイミングをずらせたので満足です。

 勢いよく飛び出し、爆破を利用し錐揉み回転しながら突撃。まさに人間ミサイルだと感心する。―――ですが、タイミングがずれた事で容易く崩せると、狙いを絞って、跳ぶ。

 

 爆音が上がる。

 

 耳に痛いほどの爆発と衝撃を、両の靴底を使い跳ねのける。特大の爆撃を砲台である手の平ごと弾きあげ、向きを逸らし、力を逆利用して膨大な爆発が自分に降り注ぐ前に頭上へと逃がしてしまう。

 ボォン!!!! と激しく打ち上げられる爆発に、パリィの手応えを感じる。……代償として、お気に入りの靴がダメになってしまった。

 

 

『麗日戦で見せた、特大火力に勢いと回転を加えまさに人間榴弾!! 防戦一方だった渡我は果たして――――』

 

 

 コンクリートが焼ける独特の臭いに、唇が吊りあがる。

 

 

『無傷、かよ……!!』

 

 

 不気味に、悪魔的に、歯を見せて笑ってしまうのを、俯く事で誤魔化すも……ステージにうつ伏せになっている爆豪くんには見られている。

 

 

「……殺されるかと、思いました」

 

 

 ああ、ダメです。

 これ以上は、本当に楽しくなってしまいます。月の香りを誤魔化して『加速』し、爆豪くんの背後にまわって背中に乗り上げる。

 

「―――ッ!!??」

 

 大技の後で動けない背中に体重をかける。まずは手首からまとめてぎゅっとして、五指も手の平を合わせる様にぎゅっとして、暴れて蹴ろうとする靴を避けて、着地しながら両足首もぎゅっ…………よし!

 

「何しやがる!?」

「縛りました」

 

 吠えるも、いまだ動けないのだろう爆豪くんの肩をポンポンしてあげる。

 

「ッ、縄なんて、隠しもってやがったのか……!?」

「いえ、私が巻いていた包帯を使ってます」

「……はあァ!? 汚ねぇもん使ってんじゃねえ!!」

「失礼ですね! 保健室で替えたばっかりの新品です!」

 

 デリカシーの無い、四肢が縛られてびちびち跳ねる爆豪くんにムッとして、ぷりぷりしながら彼から離れる。

 

「―――……ッ!!」

「改めて、残念でしたね爆豪くん」

 

 そう言って彼を見下ろせば、爆豪くんの顔がこれ以上なく悔しそうに歪んだ気がする。まだ見えませんが、そう感じています。

 今やまな板の上の鯉状態、包帯で縛られろくな反撃もできない爆豪くんは、どの角度から見ても負けている。

 

 つまり、主観的にも客観的にも、爆豪くんですら認めるしかないぐらい、私の勝ちです。

 

 ……ああ、この瞬間を待っていました。口元を隠しながら元気よく手をあげる。

 

 

「降参します」

 

 

 ミッドナイトに向き直り、宣言する。

 

「――――……は????」

 

 爆豪くんは無視して、何故か『え』と硬直しているミッドナイトに「参りました、私の負けです」と、しっかり伝えます。

 

(……思えば、今日は散々な一日でした)

 

 ですが、そんな長い一日もようやく終わります。

 色々ありましたが、最後は少しだけ楽しかったので痛み分けにしましょう。

 

 歯には歯を、目には目を。そして立ちたくない場所には――――立ちたくない場所を。

 

 

「爆豪くん、優勝おめでとうございます」

 

 

 さあ、表彰台が君を待ってますよ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37話 表彰式と体育祭の終わりです

 

 

 ポン! ポン!

 

 ピクッと、空に上がる花火の音に身体が揺れて覚醒する。

 

「……ふあっ!」

 

 変な声が出ちゃいました。……べつに、銃と間違えた訳じゃないです。過去に数えきれないほど狙撃されたせいで、つい目が冴えちゃうんです。

 

(ん、暗い)

 

 あれ、目を開けているのに光を感じない。

 そっと指先で目元を撫でると、ごわついた包帯の感触。……よくよく意識すれば、お腹と足の包帯も巻き直され、靴もスリッパになっている。

 

 

『それではこれより!! 表彰式に移ります!』

 

 

 え、表彰式?

 

 ちょっと状況が分かりません。

 ミッドナイトの声に顔を向けると「……起きたのか」と、別方向から轟くんの声。困惑しながら返事がわりに手を振ると、小さく振り返してくれる。……どうやら私は、表彰台の上で寝ていたらしい。椅子に座らされて薄いシーツに包まれている。

 

 

「ん゛ん゛――――――!!」

 

 

 ……。

 そして、あえてスルーしてましたが、起きた時から騒音がすごいです。

 

 声からして爆豪くんです(だから無視してました)。さっきから、こっちを見ろやと言わんばかりの自己主張の激しさですが、貴方が目を潰した事をお忘れですか? 見れませんって。

 

 ひたすらガッチャガッチャと拘束具を揺すり、ウガウガと力の限り唸っています。口にも拘束具が嵌められて、まさに鎖に繋がれた獣の有様です。

 

(……なのに、どうして人としての理性を感じるんです?)

 

 そこまで怒っているなら、理性も爆発させれば良いのに。みみっちくもしっかりと理性を残している。その人間性の強さは、呆れを通り越して感心すらしてしまう。

 

(……試合の後も、突然自傷しますし)

 

 彼に関しては本当に意味が分かりません。

 選手宣誓の通りに優勝できたのに『ふざけんなよ!! こんな、こんなの――――』って、声を震わせながら怒鳴ってきました。そのまま、ボン!! って自分の両手を焼きながら包帯を燃やし、その手で私の襟首を掴もうと『爆豪くん!!』する前に、ミッドナイトにハンカチを顔面に叩きつけられ秒で鎮圧されました。

 事前に、布に“個性”の香りを纏わせていたらしく、私への余波は少なかったです。

 

 何がしたいのかと困惑しましたが、私の意趣返しが痛いところに刺さったのは確実なので、そこにはホッとしました。

 

(ざまあみろ、です。自分がやられてヤな事は、人にやったらダメなんです)

 

 なんて、口にするのは寝ているからやめました。

 

 今日の私は、頑張ったんです。

 普通科に通いたくて、普通を味わいたくて、色々と手をつくしたんです。

 トレードに適していた心操くんをサポートして、最終種目まで残した時点で負けるつもりだったのに……不運にも対戦相手に恵まれませんでした。

 それでも、どうにかしようとしていたのに、突然の暴挙で決勝戦への出場を余儀なくされました。……流石に、決勝戦で戦える生徒が普通科行きは無理です。……ええ、全てを台無しにされたお礼にしては、優しい悪意でしょう?

 

 爆豪くんの悔しがる顔が、この目で見られなくて残念です。

 

 その後は、手当てをするからと担架に乗せられて……そこから意識が無いですね。

 

 

「ん゛~!!!! ン゛――――!!!!」

 

 

 はい、状況の把握が完了しました。

 

 10分そこそこしか眠れていないと欠伸をこぼすと、全身から怒気を発する爆豪くんが何か言いたそうにしています。……試合後も変わらないタフネスは凄いですが、遊びの延長はお断りさせてください。

 

『3位には轟くんと、もう1人飯田くんがいるんだけど。ちょっとお家の事情で早退になっちゃったのでご了承下さいな』

 

 早退かぁ……口に出しちゃダメでしょうけど、羨ましいです。

 

『メダル授与よ!! 今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!』

 

 ん、上空からの存在感。

 その手強さを理解した途端、自然と椅子の陰に隠れる様に気配を消し……って、間違えました。……やっぱり、寝起きはしなくて良い事をしちゃいます。

 

 

「私が! メダルを持って来『我らがヒーロー、オールマイトォ!!!!』……」

 

 

 やっぱりオールマイトでした。……この寝ぼけ癖、早めに直さないと変な事故を起こしそうです。

 

「轟少年、おめでとう」

「……はい」

「棄権は残念だったが、顔が以前と全然違うね」

 

 何となく気配を消したまま、椅子にもたれて欠伸をする。

 

「……緑谷戦でキッカケをもらいました。……あなたが奴を気にかけるのも、少し分かった気がします」

「……」

「俺も、あなたのようなヒーローになりたかった。……でも、清算しなきゃならないモノが、まだある」

「……深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる」

 

 グッ、とオールマイトが轟くんにハグしているのを感じながら、轟くんも悩みがあるんですねと不思議な心地になる。

 轟くんは優しい。戦闘訓練の後は少し警戒されましたが、授業前には冷たい手を額に当ててくれるし、教科書が落ちたら拾ってくれる。先生に当てられたら冷気でさりげなく起こしてくれるし、寝坊して跳ねている寝癖も簡易ドライヤーで直してくれる。……優しい轟くんには、いつか恩返しをしたいです。

 

「渡我少女――アレ、どこ!?」

『え!? もしかして落ちたの!?』

 

 って、いけません。

 気配を消したままだったと椅子の陰から出ます。

 

「ごめんなさい、ここです」

 

 上手な言い訳が思いつかず「……オールマイトが降ってきた時、つい気配を消しちゃいました」と正直に答えてオールマイトに近づいていく。

 

「う、うん! 相変わらず気配の消し方が凄いね!! 改めて渡我少女、おめでとう」

「ありがとうございます」

 

 頭を下げてメダルを受け取る。

 オールマイトが持ち上げた腕に合わせたからか、感心した様に褒められる。

 

「……もしかして、見えているのかい?」

「いいえ、見えません。でもよく視えます」

 

 オールマイトは戯れに左手でパーをつくるので、後だしのグーで負ける。その後も手の動きに合わせて全部負けてあげると、意味深な沈黙をかけられる。

 

「……渡我少女、爆豪少年に優勝を譲ったのはどうしてだい?」

「?」

 

 それ、この場で聞く事です?

 疑問を覚えるも、ミッドナイトは止めようとしない。ならいいのかと素直に答える事にする。

 

「意趣返しです」

「……ほう」

 

 つまり、ただの仕返しだと暴露します。

 途端、爆豪くんの方から刺すような視線と唸った声が降ってくる。

 

「……爆豪少年に、何かされたのかい?」

「はい。棄権するつもりだったのに、決勝戦まで運ばれました」

「……」

「いくら私でも、あの場で棄権するのは空気が読めてないって分かります」

「……」

「だから、仕返しの為に頑張りました! これに懲りたら、爆豪くんはもっと人に優しくするべきです!」

「……」

 

 恨みたっぷりに感情を込めると、オールマイトが「……そっちかー」と、まるで斜め上な回答をされた、みたいな反応をする。

 

「……だから、降参したんだね?」

「はい! 爆豪くんだって、立ちたくない舞台に立てばいいんです!」

 

 あと、普通科の事を横においても、こんな未成熟な子供達に交じって優勝とか、恥ずかしくてできる訳ないでしょう?

 

 “個性”というナイフを持った、力量だけで言ったら幼児を相手に一対一で戦う仕組みにも抵抗があるのに、この戦力差で決勝戦に立たされた屈辱に、久しぶりにカチンときました。

 恥ずかしくて、悪意の一つや二つ返しても罰は当たらないと思います。

 

 なのに、何故かオールマイトは多大な同情心を込めて爆豪くんを見つめている。……うん?

 

 ……もしかして、何かダメでした?

 

「えと……立ちたくない場所に、立たされたんだから、立ちたくない場所に立たせても、お相子ですよね?」

「……そうだね。そういう見方も、あるかな?」

「……もしかして、過剰な仕返しでした?」

 

 不安になってミッドナイトの方を見ると、彼女は『そうね』と、防護服を大げさに動かして親指をたて、力強く頷いた。

 

『ちゃんと考えて行動していたなんて偉いわ! 後で花丸をあげる!』

 

 褒められました!

 良かった、やりすぎてはいなかったみたいです。

 

「褒めていいんだ!? ……よーし! 渡我少女、おめでとーう!!」

「きゃー♪」

『勢い!! ……あら』

 

 

 はッ!?

 

 と、突然すぎるたかいたかいに歓声をあげてしまう。……違うんです、急に勢いよく持ち上げられて楽しくなってしまったんです。勢いもあったから本能を刺激されてしまったんです。慌てて口元を隠してオールマイトを睨む。

 

「お……おろしてください!」

「……」

「きゃー♪」

 

 まって!? やめてオールマイト、味をしめないで!?

 ミッドナイトもちょっとやりたそうにソワソワしないで……! 轟くんもこっそり立候補するのやめて!? …………さ、最低です。

 

 絶対に、気持ち悪い顔で笑いました。尖った歯も見られました……!

 

 口元を抑えながら蹲ってプルプルしていると、ミッドナイトに優しく抱き寄せられる。……防護服越しでも抱っこが嬉しいのずるいです。

 

「さて、爆豪少年!! ……っと、こりゃあんまりだ」

 

 ガポッ、と爆豪くんの口枷が外されるのを感じながら、ミッドナイトに正面から抱きつく。

 ミッドナイトは表彰台に登っていないから、防護服の頭を抱きしめる様にくっつく。

 

「伏線回収、見事だったな」

「こんな1番、何の価値もねぇ! 俺にも、世間にも認められねぇゴミ以下のクソだ!」

「うむ! 相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない」

 

 ミッドナイトがよしよしって頭を撫でてくれます。……もっとわしゃわしゃしていいんですよ?

 

「受け取っとけよ! “傷”として! 忘れぬよう!」

「要らねっつってんだろが!! おい、トガァ!!」

 

 ふあ!?

 エ、なんです?

 

「最初の攻撃、なんで避けなかった!?」

「はい?」

 

 いえ、そこ? というか、なんで私に話かけるんです? さっさとメダル授与されて終わりましょうよ。そう思うのに、オールマイトはメダルを持ったまま私たちを見守っているので、しょうがなく口を開く。

 

「……爆豪くんが、私の目を潰したそうだったので、当たってあげました」

 

 渋々とミッドナイトから離れて、指先で包帯をトンッと叩きながら答えれば、シン、と妙な沈黙。

 

「―――ハアア゛!!??」

 

 そして、それを切り裂くキレ声。もうどうしろって言うんです? オールマイトも「顔すげぇ」って言ってます。

 

「ワケを言えワケをトガてめぇ!!」

「……えー? だって、当たってあげないと爆豪くん、目を潰せば勝てるかもって希望にすがりついて、視野と行動が狭まるでしょう?」

「――――ッ!?」

 

 それは、少し可哀想です。

 爆豪くんは諦めが悪くてタフネスですから、的外れの可能性にすがって試合が長引くのもヤでしたし、怪我が増えてもつまらない。

 

 だから、早々に思惑ごと目を潰させてあげた。

 

「ちょっとしたサービスです。時間短縮になったでしょう?」

「―――……ク、ソがッ!!!!」

 

 ギリリ、と底冷えする様な、どす黒い何かを感じさせる声。

 

 どこかで「……うわ」とか「……えぐ」とか聞こえてきました。相当に怖い顔をしているんですね。色々な感情で憤死しそうな彼の様子に血圧が大丈夫か心配になる。

 

「……ッ、常勝の王!!」

「はい?」

「試合中に、常勝の王は裸の王様だとか抜かしてただろ!? オールマイトはどうなんだ!?」

 

 はい?

 

 ……それ、どういう質問です? いえ、辛うじて意図は分かるんですけど、真面目に聞いてるんですか?

 

「……もしかして、爆豪くんは今の私より目が悪いんです?」

「ああ゛!?」

「まさか貴方、オールマイトが()()()()()に見えてるんです?」

「――――」

 

 常勝の王なんて、肥え太らされてお肉になる前の、誰かにとって大切な家畜でしかないでしょう?

 

 どうにも、オールマイトを特殊なフィルターで見ている人が多いですね。どう見ても、どの角度から注視しても、その笑顔に、その背中に、その在り方に、べったりと張り付く敗北の血痕が悪臭交じりで纏わりついている。

 

 そう在ろうと決めて、そう在らねばならないと走り、そう成れてしまった時点で、彼は相応の代償を支払わされている。……つまり、常勝どころか誰よりも負け続けているヒーローでしょうに。

 

「……負けた経験の無い“常勝”なんて、ただ強いだけです」

「――――」

「爆豪くんはまず、野生を知らないといけませんね」

 

 しょうがないなぁと、自分の首にかかったメダルを指先で撫でる。

 その仕草で察したオールマイトが「渡我少女!」と、優しく手を差し出してくれるので、大きな手を借りて爆豪くんの前に着地。

 

「……ッ」

 

 たくさんの感情が煮えたぎる様な、濁った視線を感じる。

 

「本当は、これ以上お塩はあげたくないけど……爆豪くんが“常勝”になると困るから、あげます」

 

 観察対象としては優秀なんですから、その程度で立ち止まらないでください。

 

 そっと、自分の首にかかっているメダルを外して、腕を伸ばして彼の首にかける。

 

「――――」

 

 爆豪くんは、呆気にとられたのか身じろぎ一つしなかった。

 目を見開いてメダルを凝視しているのを感じる。

 

「爆豪少年」

 

 それを見たオールマイトは、呆然としている爆豪くんの拘束をバキッと壊して「次は、君の番だ」と、1位のメダルを差し出している。

 

「……チッ!」

 

 それに、爆豪くんは舌打ちをしたかと思えば、消毒液と血の臭いが混ざった包帯に覆われた手で優勝メダルを奪い取り、首を絞める様な勢いで私の首にかける。

 

 

「――――次は勝つ!! もう二度と、舐めた真似はさせねェ!!」

 

 

 ……なんか、急に元気になりましたね。

 彼の声はどこかガサガサしているけど、強い想いが込められている。

 

(……冷静になると、なんで私たち、メダル交換してるんでしょう?)

 

 謎の疑問を抱きますが、まあ爆豪くんの心が安定したならいいでしょう。

 

「改めて爆豪くん、優勝おめでとうございます」

 

 今なら大丈夫だろうと伝えると、ケッ! と、つまらなそうな反応をされる。……んー。

 

「ちなみに爆豪くん」

「……んだよ」

「弱いと、勝ち方も選べないんですよ?」

「……あ゛?」

 

 カチーンときている感じにホッとする。良かった、空元気じゃなさそうです。

 殴りかかってくる爆豪くんの両手首を片手で抑え込めば、瞬間的に頭突きしようとする頭も掴んで「グギギ、グガァ!?」ぐらぐらする様によしよしする。

 そうして戯れていると、肩がポン! と力強く握られる。

 

 

「――――さァ!! 今回は彼らだった!! しかし皆さん!」

 

 

 え? この場所に引き留める様に、オールマイトは私の肩を離さない。

 

 

「この場の誰にも、()()に立つ可能性があった!! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに先へと昇っていくその姿!!」

 

 

 待って? 降りたいんですけど? 爆豪くんの視線が痛いです。噛みつかれそうです!

 

 

「次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!」

 

 

 ちょ、オールマイトの力が強いです、押し付けるみたいに爆豪くんとくっつけないでください! ……って、爆豪くんから流れてくる私のイメージが失礼すぎません!?

 

 

「てな感じで最後に一言!! 皆さんご唱和下さい!!」

 

 

 何です、この『保護した小鳥を狩って得意げに飼い主に献上するバカ猫』とか『卵の殻がついたバカドラゴン』とか『猿の手(バカ)』とかその他諸々に失礼なイメージは!? 流石に叩きますよ!?

 

 

「せーの、おつかれさまでした!!!!」

 

 

 ……って、プルスウルトラじゃないんです?

 

『そこはプルスウルトラでしょ!! オールマイト!!』

「ああいや……疲れたろうなと思って……」

 

 ……はい。オールマイトの天然で、爆豪くんの顎が助かりました。良かったね、うっかり砕くところでした。

 

 最後は、1位の台に2人で立つなんて謎な事になりましたが、ようやく体育祭が終わりました。……改めて、長すぎる1日だったと気が滅入ります。

 

 というか……色々な不幸はありましたが、この場に立ってしまった己に恥じ入るばかりです。

 

(……こんなの、恥を知らない大人が無双した様なものです)

 

 むり。とても居た堪れません。きつすぎます……!

 

 ()なら嬉々として優勝していると分かるからこそ、それに近しい結果になってしまった現状に胸がえぐられます。衝動に任せて表彰台から飛び降り、ミッドナイトに抱きつく。

 

『え、渡我さん?』

「……ッ!!」

 

 ぅあー!!

 これが、己の黒歴史を自覚する者が苛まれるという、心の痛苦かと耳まで赤いのを自覚する。

 

 少しだけ『普通』への共感ができたのは嬉しいけど、それ以上に辛すぎてぐりぐりとミッドナイトに甘える。

 

 背中にまわるミッドナイトの手を感じながら、羞恥から逃げる様に目を閉じた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38話 お揃いは好きです

 

 

 お祭りの終わりを喜び、余韻に浸るには少し早かったらしいです。

 

 ……まさかのラスボスは、お婆ちゃんでした。

 

「さ、治療するよ」

 

 声は笑っていますが、纏う空気がとても怖いです。

 見えなくても、怒っている事が分かります。

 

(私、何かしましたかね……?)

 

 心当たりはありません。ですが、謎に怒っている女性に理由を尋ねるなど、更なる地雷を踏み抜く様なものです。

 

(本当に、今日は厄日すぎて切ないです)

 

 数分前は、ミッドナイトに幸せに甘えていたのに……途中でリカバリーガールから保健室へのお呼び出しがありました。ミッドナイト曰く『今すぐ出頭しなさい! ですって』との事。

 出頭、という言葉選びの不穏さにさぼりを検討していると、ミッドナイトはふふっ、と笑って『怒られてきなさい』と、私の両目に巻かれた包帯を撫でました。

 

(……怒られるのは、ヤですけど)

 

 その撫で方にドキッとして、ついその気になってしまいました。

 

 心なしか張り切って、出張保健室の方ではなく校舎にあるいつもの保健室を目指して中に入ると『来たね』と、何やらやばめのオーラを纏ったリカバリーガールが待ち構えていました。

 

 そこで冷静になりました。

 

「……リカバリーガール?」

「なんだい?」

「……手に持ってるのは、なんですか?」

「目ざといね。これはあんたの為に特急便で取り寄せた消毒液だよ」

 

 ……消毒液?

 

「ちなみに、これは腹部と両脚の傷にぶっかける予定だよ」

 

 すごく怒ってます? 無臭かつ粘度を帯びた液体をタプタプ揺らして、リカバリーガールは腕まくりしています。

 

「……両目に、じゃないんですね」

「そこまで鬼じゃないよ」

 

 うん?

 

「でも、試合中に包帯を外せるぐらいだし、腹と足なら平気だろう?」

 

 んん? 絶妙に会話のキャッチボールができていませんね……?

 

「ほら、そこに座りなさい」

「……はい」

 

 本能的に逃亡したくなりますが、こういうのは受け入れなくてはダメなんです。たとえ心当たりが皆無で八つ当たりの可能性が高くとも、今だけは逆らってはいけません。

 

 いつかの()が『怒れる女性には気がすむまで付き合いましょう』と項垂れ『私達には意味不明でも、正当な理由がありそうなら受け入れた方が得です』遠い目をして『許して貰うまでの過程が大事なんです』疲弊し『女の人はめっちゃ根にもちます……』バカみたいに庭で正座していました。

 

「……お手柔らかに、お願いします」

 

 先にやらかしている自分がいると、状況の悪化を防げてそこだけは助かります。

 

「殊勝だね。感心したよ、覚悟はいいね」

 

 治療するんですよね????

 

 取りつく島があるのかすら分かりませんが、身を捧げます。

 リカバリーガールは早速とばかりに私の体操服を捲り、包帯やガーゼ類を外して消毒液を言葉通りにぶっかけました。

 ……まあ、取り寄せたとはいえ、そこま―――『ジュッ!!』って音がしましたよ今。

 

 傷口に触れた瞬間、焼ける様な激痛とねっとり濡れた感触が走りました。しかもジュワジュワ煙がでている音がします。

 

「……あの、これ」

「痛いかい?」

「……はい」

「それは良かったよ」

 

 どこも? 良くない? ですよね?

 

 嬉しそうな声を出すのはおかしいです。

 

「他に感想はあるかい?」

「……え、焼け爛れている感覚がしていますが、実際はそうじゃないですね。……神経に悪さしてますかコレ?」

「……流石だね。当然、生徒に害のあるものは使わないよ。これは困った患者用に知人が作った特別製でね。しっかり殺菌もできるしお肌も荒れない、自然治癒も促進される一品だよ」

 

 拷問用ですか?

 

 実に、長年の努力と根気と意欲、暗い情熱と執念を感じます……痛みも、段階ごとに押し寄せて飽きさせない最低仕様です。

 

「……痛みは我慢できますが、体操服までびしょ濡れになるのはヤです」

「こっちで洗濯しとくよ」

「……ありがとうございます」

「本当は頭からぶっかけたいけど、目の粘膜はダメだからね」

 

 リカバリーガールのお怒りの底が見えません。……けど処置はしっかりしてくれます。

 

(……でも、少し不自然です)

 

 お婆ちゃんにしては陰湿すぎるというか、ギリギリ体罰にならない際どさを攻めすぎています。……もしかして、裏があります?

 

「……」

 

 考え込むと、その思考を邪魔する様に消毒液をかけられます。

 

 ッ、まるで、というか。まんま芦戸ちゃんの『酸』で溶かされているみたいだと顔をしかめて―――「あ」気づいた。その瞬間、ノック音。

 

「……来たね。入りなさい」

「え?」

 

 私、消毒液でびしょびしょなんですけど?

 一般的に、人前に出ちゃダメな格好だと思うんですけど?

 

「失礼しまーす!」

 

 って、芦戸ちゃんです。

 あ、はい。……察しました。

 

「トガ、大丈夫?」

 

 保健室に入ってくるなり、声は控えめに心配そうに近づいてくる芦戸ちゃん。

 改めなくても、タイミングが良すぎます。

 

(……この消毒液、リカバリーガールはあえて『知人』が作ったと紹介しました)

 

 つまり、もしもコレが欲しいなら、お婆ちゃんに渡りをつけて貰う必要がある訳で……実際に、それが早いのでしょう。

 

「……芦戸ちゃん」

「なに?」

「はやく、強くなってね」

「え、うん!!」

 

 突然すぎる訴えに、芦戸ちゃんは困惑しながらも頷きます。……本当にお願いします。

 

 芦戸ちゃんには意味不明でしょうけど、リカバリーガールに搦め手を使われているんです。

 この消毒液、どうしたって芦戸ちゃんに有益すぎるんです。

 

(……非殺傷なのも、芦戸ちゃんに向いています)

 

 補助アイテムとして便利すぎです。

 ちょっと傷をつけてぶっかければ、それだけで相手は勘違いして色々な事が捗るでしょう。……リカバリーガールも、今のやり取りで私が搦め手に指をかけた事に気づき、満足げです。

 

(……しばらくは、芦戸ちゃん絡みでこの手段ばかりとられそうです)

 

 今も、こっそり私の体操服のポケットに連絡先を書いているのだろう用紙をいれてきます。……今日中に連絡した方が良さそうですね。

 

(……やっぱり、大人は侮れません)

 

 うんざりしますが、得られるアイテムは有用なので許しましょう。

 

「それで、芦戸ちゃんはどうして保健室に?」

「あ……! 両手の事を、リカバリーガールにちゃんと聞いて来いって言われて。あと、トガの着替えも持って行けって、ここで着替えた方が合理的だからって」

 

 ……なるほど。

 相変わらずです。そして、芦戸ちゃんはとっても鈍いです。

 

「芦戸ちゃん……本当に、はやく強くなってね?」

「なんで二度も言うの!?」

 

 そりゃ、言いたくもなりますよ。

 

 つまり、私もその話し合いに参加しろって遠回しに指示されています。……制服まで持ってこられたら、自然に逃げられません。

 

(……弟子ができるって、思った以上に面倒です)

 

 ですが、放り出すとローレンスさんの二の舞ですからね。大事に育てましょう。

 

 周りが、与しやすい芦戸ちゃんから私をコントロールしようとしても、私は寛容なので許します。八つ当たりで芦戸ちゃんが死にかけるぐらいです。

 

「……本当に合理的な男だね」

 

 リカバリーガールもやれやれと言った感じです。……まあ、放課後に改めて話をするより、帰りのHRまでの時間に済ませるのが時間の節約になりますしね。

 

「……座っていなさい」

「は、はい!」

 

 気づけば、お腹と足の処置は終わっています。そしてリカバリーガールは立ち上がり、保健室のドアにしっかりと鍵をかけます。ついでに、さりげなさを装ってスマホの電源を切り、机の上に置いています。

 

「……先に言っておくよ。あんたの手は、これ以上悪化する事もなければ自然治癒する事もない」

「っ、はい」

 

 うん? そりゃそうでしょう。 

 

「……包帯を外すよ」

「……はい」

 

 まさか、話し合いってソレですか?

 

 もっと、私関連の話を進めると思っていたので拍子抜けです。……自意識過剰でしたかね?

 でも、芦戸ちゃんの両手は轟くんや緑谷くん並に酷かったから、説明は必要かもですが……はて?

 

 芦戸ちゃんは、落ち着き無さそうに私にくっついてくる。

 

 静かな保健室に、しゅるしゅると包帯が解かれる音が響いて、この心の準備をさせる様な間は必要なのかと不思議に思う。

 

「――――」

 

 そして、やけにゆっくりと解きおわると、芦戸ちゃんの片手が露わになる。

 それを見降ろして、芦戸ちゃんは分かっていただろうに、受け入れがたそうに息を呑んでいる。

 

「……これが、これからあんたが一生付き合っていく手だよ」

「――……はい」

「芦戸ちゃん?」

 

 その強張った声に、首を傾げる。

 芦戸ちゃんの両手はちゃんと治したのに、酷いショックを受けています。

 

「……っ、トガ」

「はい」

「……アタシの、手が……えっと」

「はい?」

「っ―――少し……ううん、かなり、どくとくに、なったから……」

 

 何が言いたいんです?

 よく分からなくて、不具合でもあったのかと触れようとすると、ビクリと怖がる様に逃げてしまう。

 

「ッ、えっと……ちょっと――じゃなくて、だいぶ、グロい事になってる、っていうか……」

「はい?」

 

 今度こそはと捕まえようとすると、身体ごと押し付けるように両手が逃がされる。

 まるで抱きつかれる様に、気づけば向かい合って胸部がくっつく体勢に(やわらかい……っ)ちょっと動揺しつつ、首筋に芦戸ちゃんの吐息がかかる。

 

「……っ」

 

 いや、というか夢で見ましたし、触ったでしょう?

 まだ説明はしていませんが、まさか本当に()()()()だと認識してます?

 

 今後の、というか今夜の説明は長くなりそうだと今から頭が痛いです。

 

 というか、あの程度でグロとか、死肉に内臓、血が噴き出る断面とか、そういうの見た事ないんです? 正直、面倒臭くなってきました。

 

 これ以上何かを言われる前に、芦戸ちゃんの身体を引き寄せ「ひゃ!?」膝の上に座らせて、強引に指と指を絡める。

 

「っ!? と、とが」

「……バカですね」

「―――」

 

 夢の時と同じようにからかえば、芦戸ちゃんが息を呑む。

 

「……渡我。年頃の子に、この傷跡は酷なんだよ」

「そうですか?」

「……まあ、本来ならもっと深刻な話を、保護者も交えてする筈だったがね」

「でしょう?」

 

 本当に何を問題にしているのかと、芦戸ちゃんの緊張を宥める様に背中を撫でる。

 

 ですが、わざわざこんな場を設けたって事は、きちんと事実を伝えておけという事でしょうか? ……んー。

 

「芦戸ちゃん」

「は、はい!」

「本当はですね、あの時に芦戸ちゃんの両手は溶けて無くなってました」

「……え」

「でも、それは困るから。私の―――とっておきで治しました」

 

 口は滑らせません。

 リカバリーガールがまた暴走しないか意識して、お婆ちゃんの好奇心をこれ以上刺激させない様に言葉は選びます。

 

「十の指は溶けきって、肉と骨の残骸がシーツにへばりついて、芦戸ちゃんの血と酸が混ざり合ってドロドロして、掃除が大変そうでした」

「ぅ……」

 

 にぎにぎと、独特の感触を楽しみながら芦戸ちゃんの手を引き寄せて、その新鮮なケロイドの感触に嬉しくなる。

 

「それでも、血の臭いは甘かったです。リカバリーガールはヒーロー生命までは救えないって、私に任せてくれました」

「――――」

「だから、芦戸ちゃんの指を生やして、不自然じゃない程度に形を整えて機能も治しました」

「……っ」

「少し引きつるけど、ちゃんと動くでしょう?」

「………」

「無茶な動きをしても、以前より皮膚も破れたりしません。個性をつかっても支障はないし、むしろ機能性は良くなったと思います」

 

 そう伝えると、何故か口元をおさえて吐き気をこらえる様に背中を震わせてしまう。……その仕草が初心でカァイイと微笑ましく、いつもの様に唇を隠そうとして……まあ、この2人になら晒しておくかと、笑う。

 

「……ッ」

 

 芦戸ちゃんの手に、じんわりと汗が滲む感触。

 うん、ちゃんと汗腺も仕事をしています。やっぱり見た目以外は元通りです。

 

「と、トガ……」

「はい」

 

 自分の手の状態より、私への恐怖心が勝った声にゾクリとします。……弟子を苛めるのは、楽しいですね。

 

 ニィッと笑うと、芦戸ちゃんが引きつる様に背筋を伸ばして、極度の緊張に手足を震わせながら、意を決した様に私の手を握る。ぎゅう、と。

 

 

「――――……っ、あ、ありがとう!」

 

 

 ……。

 

「あ、アタシ、頭が良くないから混乱してるけど……迷惑かけてごめん!!」

 

 ……ああ。

 

「手も、治してくれて、ありがとう!!」

 

 ……そう、ですか。

 そうなんですね。

 

 芦戸ちゃんは、この本能を刺激する笑顔を見せても……逃げないんですね。

 

「……ん」

 

 それじゃあ、しょうがないです。

 

 まっすぐにお礼を言われるのは慣れていなくて、だらしなく緩みそうな頬に力をいれて、むずむずする唇を隠す。

 

「――……ッ!! あ、ええと、トガって治療もできるの!?」

「……はい、できます。でも、ナイショにしてください」

「う、うん!! ナイショにする!!」

 

 芦戸ちゃんは、元気ですね。

 気づけば、頭を撫でられています。

 

「……ちなみに渡我」

「なんです、リカバリーガール?」

「……あんた、その気になればこの子の手、綺麗にできるんだろう?」

「え!?」

「できますけど、やりませんよ?」

「え゛!?」

 

 ガバッと芦戸ちゃんが反応しますが、気にせずリカバリーガールの方に顔を向けます。

 ついでに、まさかリカバリーガールに治す当てがあるのかと、芦戸ちゃんを強く引き寄せる。

 

「ち、ちょっ!? そ、れは情熱的っていうか……!?」

「……」

 

 リカバリーガールが(この子はもう手遅れかもね……)な視線を芦戸ちゃんに向けるのが分かりました。

 

「……あんたの性格なら、将来的に綺麗にしてあげると思ったんだがね」

「芦戸ちゃんじゃなければ、そうしていました」

 

 普通は、肌がきれいな方が良いらしいですし、私だって女の子なのでその気持ちはわかります。でも。

 

 

「芦戸ちゃんは、私の弟子になりました」

 

 

 どうせ、もうこの子は『普通のヒーロー』になれません。

 

「……つまり?」

「なら、私の()()って、印をつけても良いでしょう?」

「へ!?」

 

 芦戸ちゃんが変な声を出しますが、今はリカバリーガールです。

 こればかりは、いくらリカバリーガールに言われてもダメです。

 

 手が溶けたのは事故であり、それを治したのは私です。……なら、ちょっとぐらい私の好みを反映しても良いでしょう?

 

 芦戸三奈は、不幸にも()に目をつけられ悪夢に招かれました。

 既に、自覚の有無に関係なく悪夢の関係者なんです。

 

 私の隣に立ちたいと願ったのは、芦戸ちゃんです。

 

 なら、放してあげる理由は無くて。

 自分の()()には、名前を刻むのです。

 

 

「―――芦戸ちゃんは、芦戸ちゃんのものです。でもこの両手は、私が治したんですから、私のです」

 

 

 ギチリ、芦戸ちゃんの手を強く握る。彼女は、痛みに反応しながらも抵抗しない。

 

「……あんた、かなり重いね」

「? 体重は軽いですよ」

「……はあァ。馬に蹴られる趣味はないし、この話はここまでだね」

「……馬?」

 

 なんでお馬さん?

 芦戸ちゃんも、見えないけどなんか気づいたら重いです。声にならない声をあげてぎゅーっと抱きつかれています。

 

「……と、トガの……ばか!!」

「え?」

 

 上擦った声で罵倒され、少し動揺します。

 

「……も、もしかして、芦戸ちゃんは手を綺麗にしたいんですか?」

「……っ、バーカ!!」

 

 更なる罵倒!?

 弟子が酷いとオロオロしていると、芦戸ちゃんの手が背中に食い込む。

 

「……アタシの手、100人中100人の人が、見たらギョッとすると思う!」

「私は好きです」

「……っ、アタシは、トガが何を考えているのか、全然分からない!」

「そうですか?」

 

 芦戸ちゃんの、小さくなった歪な爪が、かろうじて背中をひっかく。

 ドロドロになった傷物の両手は、以前と変わらぬ握力を感じさせる。

 

「……アタシは、これからずっと、この手で生きていくんだ」

 

 芦戸ちゃんの気持ちが、私には分からない。

 どんな思考で、どんな感情を飲み込めずに苦しんでいるのか、微塵も共感できない。

 

「……っ、この手で顔を洗って、ご飯を食べて、着替えて、勉強して……アタシの身体なのに、トガのものになった手で、ヒーローになるんだ」

「……」

「やっぱり、わかんない。トガがどうしてそうするのか、きっとこれからも理解できない。でも――――」

 

 芦戸ちゃんが、ゆっくりと顔をあげる。

 

 お互いに分からないまま、きっと分かり合えないまま、包帯越しに見つめあう。そのまま、その手が優しく私の頬を挟む。

 

 きっと、芦戸ちゃんからしか与えられない、独特の感触が愛おしくて喉が鳴る。

 

 

「――――アタシが、トガの隣に立ちたいって気持ちは、そんな事で揺らいだりしない!」

 

 

 額と額が触れる。

 強いのに、優しい感触でスリッと擦り付けられると、彼女の角があたってくすぐったい。

 

 良い匂いがして、今の芦戸ちゃんがどんな顔をしているのか見たくて、少しだけ包帯が煩わしい。

 

「―――うん!! リカバリーガールも、心配してくれてありがとうございます!!」

「……いいんだね? あんたが目指している背中は、ちょっとどころじゃなく歪んでるよ」

 

 今だけ、不自然に視力を回復したくなりますが、我慢です。

 

「それは、なんとなく知ってたから大丈夫です! ……たぶん、クラスの皆も気づいてると思います!」

「……そうかい」

 

 安堵した様にも聞こえる声で、リカバリーガールは何かを納得したらしい。

 芦戸ちゃんは、気持ちを落ち着ける様に深呼吸して、改めて私の頬を優しく挟んでくれる。

 

「トガ、ううん、ししょー! これからよろしくね!」

「? はい。今日の選択が一生の後悔になろうと、泣き喚いて自死を望もうと、ずっとずっと大切にするから安心してください」

「……ウ、ウン! オテヤワラカニネ!」

 

 どうして、そこで震えるんです?

 

 後悔はしていないけど、今後を考えてガクガクする芦戸ちゃんの手を握りながら不思議に思う。

 

 まあ、何はともあれ言葉にするのは大事なんだと、言霊の強さを改めて実感します。

 芦戸ちゃんともう少しだけ仲良くなれた気がして、この時間を作ってくれた相澤先生やリカバリーガールにちょっとだけ感謝する。

 

「……芦戸ちゃん」

「う、うん!」

 

 もう二度と、まともな夢を見られない彼女は、どんなヒーローになるのでしょう?

 

「貴女は、私が強くします」

「……うん! アタシは、トガの隣に立てるヒーローになる!」

 

 少しだけ楽しみになりながら、笑う。

 

 とりあえず……お揃いの革手袋はつけて貰おうと、ワクワクしながら頬ずりをした。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39話 三大欲求です

 

 

「おつかれっつうことで、明日明後日は休校だ」

 

 

 相澤先生の言葉に、机の下で静かに拳を握ります。

 ぐぅ、と。達成感にも似た感情がこみあがってきます。

 

 

(……雄英体育祭は、本当に終わったんですね)

 

 

 ああ、涙がこみ上げてきそうです。

 上位者に成って泣いたことはないですが、今なら少し泣けそうです。

 

(……ラスボスはお婆ちゃんですし、次は裏ボスかと身構えてました)

 

 今日という理不尽を考えればおかしくないと、本気で警戒してました。

 解放された喜びに目頭をそっとおさえ、包帯の感触に邪魔される。それでもようやく日常が戻ってきたと頬が緩みます。

 

 改めて、相澤先生のお言葉を念入りに反芻して、本当の本当に雄英体育祭は終わったのだと噛みしめます。

 

(雄英体育祭……来年は絶対にさぼります)

 

 もう二度と参加しない。

 潰れろこんなイベント。学校にも近寄りません。

 

 

「プロからの指名等をこっちでまとめて休み明けに発表する。ドキドキしながらしっかり休んでおけ」

 

 

 本日の成果が散々すぎたんです。得たものは意図していなかった芦戸ちゃんの両手って……嬉しいけど疲労感が半端ない……はい? 指名?

 

(なんですそれ?)

 

 軽く首を傾げつつ……まあいいです。

 休み明けに答えが分かるなら放置しましょう。今は戦利品のことを考えて心を落ち着けるんです。

 ……そうです。今日からいつでも芦戸ちゃんの両手を好きにできるんです。握ったり頬ずりしたり頭に乗せたり齧ったりしても良いんです。

 

(人の身体に、自分のものがあるって良いですね)

 

 淡くも支配欲と独占欲が刺激されます。

 普段はお揃いの革手袋で隠してもらい、気が向いたら愛でるんです。

 

 芦戸ちゃんが嫌がろうと拒絶はさせません。せっかくだからお風呂で洗ってもらうのもいいですね!

 

「? 被身子さん、ご機嫌ですわね」

 

 っと。

 いけません。気づけばHRが終わっていました。相澤先生も早々に教室から去っています。

 

「す、少しだけ」

 

 百ちゃんは浮かれすぎている私を「そうですか」と優しい声で受け入れて、くすぐる様に頭を撫でてくれます。

 

「んぅ」

 

 その感触が嬉しくて、喉を鳴らして頭を押し付けると両手でくしくしされます。あー、その触り方好きです。

 

「被身子さん、今日はお疲れ様でした」

「ん、百ちゃんも、お疲れ様です」

 

 百ちゃんは優しいです。いつもよりくすぐったく撫でてくれるのが心地よくて、はふぅと百ちゃんの指を堪能していると「被身子ちゃん、おまたせ!」と、お茶子ちゃんも来てくれる。……あぁ、癒されます。日常最高です。

 

「まったりしているわね」

「今日は頑張ったもんね!」

「いつもより起きてたし」

「ふやけてるなぁ」

「保健室に寄る?」

「ううん、今日は大丈夫ってリカバリーガールが言ってた!」

「……芦戸、怪我酷いの?」

「ん、見た目だけね。動かすのに支障はないよ」

 

 ……。

 目を開けても閉じても、何も見えない。

 

「あー腹減った」

「ナッツあるけど食う?」

「指名かー」

「休み明けか……期待薄だけど気になるな」

「トガの靴はどうする?」

「ご安心を! すでに同じ物を用意しております!」

「ヤオママ、流石……」

「じゃあ、スリッパは返さなさいと!」

 

 ……。

 賑やかなクラスメイト達の様子に、けれど顔が見られない現状に、焦れてしまう。

 ほんの少しの物足りなさが、こんなにも飢えを起こすことを知って、困惑して、気づいてしまう。

 

(……見えないの、ヤです)

 

 彼らの挙動は分かりますが、どんな表情をしているのか分からない。

 予想はできても己の主観を信じられない。顔にだけ靄がかかってみえる。……爆豪くんなら分かりやすいのに。

 

「……」

 

 この、賑やかなクラスの光景をちゃんと見たいと包帯に爪をたてそうになる。

 

「さあ渡我さん、靴を履きましょう」

「……あれ? もう寝てる?」

 

 不本意ですが、()の気持ちが分かってしまう。

 少しだけ、怒りのやりどころを見失い、つまらない気持ちを抱く。

 

(……別に、見えなくても支障はないですが)

 

 芦戸ちゃんや、青山くんを毒牙にかけようとした浅慮は許しませんが、2人の視覚を借りたくなる気持ちは、分かりました。

 

(……私なんかに、構ってくれる優しい人達なんて……後にも先にも今だけの可能性があります)

 

 希少すぎて、眺めたくもなるでしょう。

 

 ……()を挽肉にする予定が狂いました。むずむずと、胸の奥が疼いて落ち着きません。

 

 なまじ手段があるからこそ、手を伸ばしてしまう愚かさは論外ですし我慢の足りなさも極刑ものですが……ほんの少し情状酌量の余地があります。

 

(……今夜は、一発ですませてあげます)

 

 賑やかな皆の声だけでは、満たされない飢えがある。

 それは共感するから、次からはクラスメイトと私に迷惑をかけない手段を講じろと。()に忠告する。

 

 

 

 

 

 

「……はぁい、ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 しょんぼりした()の声に舌打ちをこらえて、百ちゃんのなでなでを堪能する。

 

「……?」

「どうしたの耳郎ちゃん?」

「あ、いや……ごめん。たぶん、気のせい」

 

 それにしても百ちゃんがテクニシャンです。

 最初の頃はへたくそだったのに、すごいです。

 

 指先で耳の後ろをこちょこちょされるの気持ち良いです、くすぐったくて唇がむずむずして隙間からふふふって息が漏れちゃいます。

 

「百ちゃんダメよ」

「……何がでしょう?」

「ダメだぞ」

「……私は冷静です。ええ、私は冷静なんです」

 

 そうですよねぇ、心地よくても心を乱してはダメですよねぇ。

 百ちゃんの指先の熱に乱れを感じつつ、己にも言い聞かせる。感情に任せて()と殺し合いをしては、また寝て過ごすことになります。それは惜しいです。まだこのクラスで過ごしていたいんです。

 

「ヒミコちゃん、本格的に寝てしまうわ」

「あ、ダメだよ被身子ちゃん、家で寝よう!」

「麗日、ししょーをよろしく!」

「うん! 被身子ちゃん、一緒に帰ろう」

 

 ――――っ。

 

 あ、そうですね。

 当たり前の台詞に、何故かびっくりしました。

 

「……っ」

 

 お茶子ちゃんは、おかしなことなんて言ってません。

 ですが、不意打ちの様にお茶子ちゃんの台詞が衝撃でした。

 

『一緒に帰ろう』

 

 それは、疲弊していた心に新鮮なものとして響きます

 

 痛くはないけれど、胸の奥が甘く刺激される。

 並んで帰れるという現状に言語化しづらい感覚を覚える。

 

「被身子ちゃん?」

「……っ、帰ります」

 

 動揺を悟られたくなくて、耳が熱いけれど包帯で誤魔化せるだろうと、軽く頭を振って立ち上がる。

 

(……疲れすぎたせいです)

 

 情緒不安定だと、溜息を吐く。……雄英体育祭という異常が終わったから、日常の甘さが際立ちすぎるだけ。

 

「トガちゃん、またね!」

「また学校で」

「さようなら!」

「途中で寝るなよー」

「よし! その脱ぎたてスリッパはおいらが返しといてやるよ!」

「「「「ダメ(だぞ)(よ)」」」」

「なんでだよ!?」

 

 なんだか、歯がうずうずします。それを片手で隠しながら、手を振る。

 

「ばいばい、です」

 

 普段、当たり前につかっている台詞に照れが混じるなんて、今日の私はやっぱりおかしいです。

 色々と、未熟で若い力に当てられたのかもしれません。

 

 

「あ……あの!!」

 

 

 え?

 

 その時、ずっと緊張して微動だにしなかった緑谷くんが、意を決した様に声をあげます。

 松葉杖を不器用につかって立ち上がり、きっとボロボロなのだろう姿で教室を出ようとしている私に、ぎくしゃくと小さく手を振ってくれる。

 

 

「ま、またね!! ひ、ひひっひひひ()()()さん!!!!」

 

 

 あ。

 

 そうです、罰ゲーム。

 

「―――!」

 

 とてもびっくりしました。

 律義な緑谷くんの、わざわざ2人きりじゃなくこの場を選ぶ潔さと覚悟に当てられて、動きも止まりました。

 

 その、羞恥が致死量でガチガチに緊張した穴に埋まりたそうな様子に、小さな救いを覚えてしまう。

 今日の失敗の数々が小さい事に感じて、それが不思議だと瞳が疼く。

 

 緑谷くん、すごいなぁ。

 

「……はい!」

 

 頑張っている男の子って、元気をくれるんですね。

 唇を隠しながら、弾む気持ちをおさえて緑谷くんに手を振ります。

 

 

「またね! ()()くん!」

 

 

 嬉しくて、うきうきします。

 待っていてくれたお茶子ちゃんの手をとり、足取りが軽くなりました。

 

「え? ……ええええ!?」

 

 と、教室を出て少しした辺りで、お茶子ちゃんが声をあげます。

 

「ひ、被身子ちゃん、待って!?」

「はい?」

 

 教室と私を交互に見てあわあわしています。……やっぱり顔が見たいです。

 

「い、いつなん!? いつの間にデクくんと名前で呼び合う仲になったん!?」

「? さっきです」

「電撃すぎひん!!??」

 

 なにがです?

 様子がおかしいお茶子ちゃんに首を傾げていると、はた、と動きを止めてお茶子ちゃんが考え込む。

 

「……あの、ね? 被身子ちゃんは、デクくんのことどう思ってる?」

「優しい狂人さん」

「え?」

「ヒーローだけじゃなくて、お医者さんとか誰かを救う系のお仕事はやめた方がいいと思います」

「どういう評価なの!? え、じゃあ私は……?」

「……大好きです」

「私も!! 大好き!!」

 

 ぎゅーっ!! とされました!

 その感触と言葉に歯がかちかちします。

 

「――――いや!? そうだけどそうじゃなくて!? ……うぐぐ!!」

 

 今度は悩みだすお茶子ちゃんと戯れていたら、いつの間にか靴箱を通り過ぎ、後はいつも通りです。

 

 タクシーを待つ間に今日の晩御飯のことを相談して、降ろしてもらう場所を決めながら帰路につきます。

 

 今日は直帰です。そして帰宅したらすぐにお風呂を沸かして、制服を脱いで少しだけまったりタイム。リカバリーガールにはその時に連絡して、明日は登校しろと言われました。……お婆ちゃんは鬼です。

 

 同情するお茶子ちゃんに慰めてもらい、そのままお風呂に入りました。

 湯船で背中から抱っこされるのが好きです。夕飯は前日に冷凍しておいた焼きおにぎりです。じゃこと紫蘇と梅とゴマをたっぷり混ぜ混ぜしたそれを、インスタントのすまし汁と一緒にいただきます。

 昨日、お茶子ちゃんがよだれを零しながら我慢していただけあって、とても美味しかったです。公園での特訓はお休みにして、お茶子ちゃんが先にベッドに入り、個性防止用の手袋をつけて眠そうに「おいで」と、私を招いてくれます。

 

 満たされて、抱き着いて、贅沢すぎる時間。

 

 心地よさに身をまかせて、眠気に逆らわず目を閉じ―――――そして。

 

 

 

 

 

 助走をつけてぶん殴ります。

 

 

「へぶ!!??」

 

 ()が間抜けな声をあげて吹っ飛びます。

 

 夢で現実の傷は反映されず、視界は良好です。

 あと、()もあえての素手とは思わなかったらしく、反応が遅れてまともに喰らいました。頭をガゴン!! と、家具にぶつけて痛みに悶えている隙に、すぽっ! と。兜を被せます。

 

「え!? な、何するんで……片目の鉄兜?」

 

 はい。ほとんどバケツな兜をぺたぺた確認し、()が呆然としています。

 一応、本当に反省する気はあったらしく、いつものテーブルに食べ物は一切載っていません。

 

「罰として一ヵ月外さないでください」

「……え!? そ、そういう方向性ですか!?」

「今回は本当に怒っているので、精神攻撃です」

「……ぅぐ」

 

 項垂れるバケツ頭を無視して、静かな部屋を見回します。……人形ちゃんも、あの子もいないですね。

 

「……それで? 芦戸ちゃんはもう来ている様なので、手短にお願いします」

「……そ、そうですね。それなら、しょうがないですね」

「まず、体育祭の時にほざいていた、アデーラちゃんとアリアンナちゃん。2人との関係を吐いてください」

「……愛人?」

 

 ????

 意味が分からなすぎてぶっ飛ばしました。内臓攻撃のノリでバケツ頭を殴ったので音が反響します。

 

「いったーいです!! えっ!? 一発だけって言いましたよね!?」

「芦戸ちゃんと青山くんの件がです! ……それで? 愛人ってなんですか? 人形ちゃんいながら何してんですか? 浮気とか最低です本体を削ります」

「待って!? ちょっ本気で待ってください!! 人形ちゃん公認ですし本当は結婚したいけど重婚はまだトガが怒るから卒業まで待って下さいってお願いしてるだけです!!」

「……はぁ?」

「こ、恋人ですけど、私にはすでに人形ちゃん(配偶者)がいるから、名称が愛人に変わってるだけで痛い痛い痛い!!!!」

 

 本当に何してるの????

 

「え? 理解ができません。私が卒業しても重婚とか許しません」

「そこをなんとかお願いします!!」

「ダメです」

「と、トガ達は同一人物ですよ!? 私がしでかしたことはトガがしたことです!! 責任はとるべきです!!」

「ぶっ殺しますね。開き直るのも最低ですし私はそんな節操の無いことしません」

「ほんとうに?」

 

 スッ、と。

 ()が、声色まで変えて顔を寄せてくる。隙間から金色の瞳が覗いている。

 

「……なんです?」

「考えてもみてください。トガ達は元人間だから、三大欲求がそのまま続いています。上位者として不完全です。故にこそ完成しています」

「……」

「睡眠欲は、現実と悪夢に分かれている関係で私が1でトガが9です」

「……」

「ですが、食欲は私が9でトガが1。性欲に至っても私が9でトガが1ですよ? ……睡眠欲にあれだけ翻弄されている私が、性欲9の私を責められますか?」

 

 ……。

 つまり、それが相談であり本題ですか。

 

「という訳で、自重できる頻度をあげる為に性欲を5対5にしましょう!」

「そこは確約して自重しきってください!」

「ソレができると思っているなら、頭がお花畑すぎです!」

「……ぐっ!?」

「あと、食欲は7対3にしましょう! 最近、小食すぎてクラスメイトに心配かけてますよね?」

「んぐ」

 

 ここぞとばかりに畳みかけられます。

 

「あと、睡眠に関しては……すでにねむねむキャラが定着してますので、8対2ですね」

「はあ!? ……それ、私だけ変化が大きいです!」

「いーえ! 今までそれで良かっただけです! 弟子もできたんだから明日から現実の私も頑張ってください!」

 

 わ、()の癖に……!

 今まで、睡眠欲以外を負担させていた事実に拒否しづらいです。

 

「っ、分かりました。でも性欲は……せめて7対3にしませんか?」

 

 今でもけっこうドキドキするから、抵抗があります。

 

「ダメです」

「……」

「トガは、自分のことばかりです。性欲9の私に付き合っていた人形ちゃんやアデーラちゃんやアリアンナちゃんや2人のヨセフカちゃんが可哀想だと思わないんですか?」

「待て」

 

 今さらっと増やしましたよね?

 

「性欲9は、それだけ大変なんです……」

「……」

 

 遠い目をしている片目に動揺します。……今更、もしかして人間的な欲求を押し付けすぎていた気もして、嫌いですが気まずくなってしまう。

 

「……わ、かりました」

「ありがとうございます。良かったです。最近は少女ちゃんにも手を出しかねなくて危なかったんです」

「は????」

 

 あ、だめです無理です脳が理解を拒みました。

 ふざけるな鳥肌たつぐらいどん引きです。意味が分からなすぎて死にたいです。

 

「……っ」

 

 どうして、自分自身と対話するだけでこうも疲労と眩暈を覚えるのかとしんどいです。

 

「……話し合い、終わりましょう。まだまだ爆弾はありそうですが、今聞いたら破滅します」

「……は、はーい! ええと、三大欲求に関しては急に反映したらトガがヤでしょうし、徐々に馴染ませていきましょう!」

「……配慮する()が気持ち悪いですが、それでお願いします」

 

 それなら、心身が変化においつけそうです。

 

「……じゃあ、芦戸ちゃんのところに行きます。もう随分と待たせてますし」

 

 全身に伸し掛かる疲労を覚えながら、芦戸ちゃんに会いに行こうとして「あ」と、()が思い出した様にバケツ頭を揺らす。

 

「そうでした。13号先生に気をつけてください」

「……はい?」

 

 まさかの名前に、足がとまる。

 

「気をつけろって、何をです?」

「13号先生の“個性”は、()()()()()()()()()

「……は?」

 

 意味を理解する前に、本能で脳の瞳ごしに()を見つめる。

 その左腕、その奥底の幼体に真新しい傷がついている。……ッ。

 

「今でこそ当たり前ですが、“ブラックホール”は、宇宙にあります」

「……」

「天敵は、ミッドナイトだけじゃありません」

「……」

「普通を望むなら、敵に回さない様に立ち回ってください」

「……」

 

 何も言えない私に、()は静かな瞳を向けている。

 

 片目だけでも、ゾッとするほどの真顔だと分かります。私は「わかりました……」頷き、背を向ける。

 

 情報量が多すぎて整理がおいつきませんが、最初に浮かんだのは――――

 

 

(……あの時、左腕じゃなく心臓をチリにされていたら)

 

 

 ()()()()()()()()

 そんなことで、その破滅的な思考が私らしくないと哂う。

 

 ほんとうに、最近の目まぐるしい日常に……変わっていく己を感じている。

 ザリ、と。床を踏んでいた靴が気づけば砂を踏んでいる。

 

「……」

 

 天を仰げば、醜い月に目を細める。

 

 ざあざあと、少し冷えた夜風に揺れる笹の音が心地良く、静かな騒音に掻き消えない「……え?」という声。私に気づいた芦戸ちゃんが、驚いた顔で振り返る。

 

 病衣姿のままの“個性”を失ってピンクじゃない彼女が目を見開いている。

 

 

「……トガ?」

「こんばんは、芦戸ちゃん。月がおぞましくてごめんね」

 

 

 目を見開く彼女に微笑んで、鞘から抜いた刃を走らせた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40話 前途は多難そうです

  

  

 芦戸ちゃんの血は芳しく、滑らかで濃厚な舌触りを想像させる。

 

 ごきゅりと喉が勝手に嚥下して、湧き上がる渇望を自分の血で誤魔化す。彼女の血はきっと美味しいぜったい美味しいチウチウしたいと、負傷した芦戸ちゃんを出張保健室に運びながらボタボタと涎をこぼし、唸りながら我慢した記憶は新しい。

 

(……とても、拷問みたいな時間でした)

 

 辛かった。

 胸を掻き毟って心臓を潰したいぐらい苦しかった。

 

 芦戸ちゃんが、ショック状態で意識を失っていたのも悪くて、酸に覆われて血の香りが濁っていなければ、我慢できずその肌に歯をたてていた。

 自分の顔が溶けるのもお構いなしに、意識のないクラスメイトに覆いかぶさり、酸で覆われた皮膚をプチッと喰い破り、チウチウと……えっちな事をするところでした。

 

(……そういうのは、しかるべき関係になって許されてからです……!)

 

 チウチウは、私にとっても刺激が強いんです。

 

 ただでさえ、性欲と食欲が同時に満たされるドラッグじみた快感です。止まれる自信もないのに、意識の無い相手に一方的とかダメすぎます。チウチウだけでも犯罪なのに、更に罪を重ねてしまいます。

 塩崎ちゃんの時もチウチウにならない様、ちょっと舌で掬うぐらいで我慢したんです。あそこで血の味にクラクラして唇を奪わなかった私をもっと褒めて欲しいです。

 ほんとうは、もっといっぱ……っ、いえ、自重しましょう。私はクールなトガヒミコです。我慢のできる当たり前で『普通』な私になるんです。

 

「……ト、ガ?」

 

 でも、悪夢の『普通』は違うのです。

 

 ここに、現実の法はありません。私達がこの世界の主であり、そんな私を望んだのは芦戸ちゃんです。この子を好きにして良い条件が揃っています、けど。

 

 

(……ッ。リカバリーガールの、呼び出しさえなければ)

 

 

 ギチリ、と。奥歯を噛みしめます。泣いちゃいそうな焦燥感です。

 

 今すぐにでも、芦戸ちゃんをチウチウしたい。彼女の首に口付け、その味を堪能したい。脳の瞳を開く事なく壊してあげたい。

 

 芦戸ちゃんの軽い頭を抱きしめながら、女の子の遊びをしましょう。

 

 四肢を丁寧に裏返しましょう。胴体を開いて内臓を彩りましょう。血管を噴水に、皮膚は受け皿に、骨を研磨し、小骨は楽器に、油で艶を、余った部位は摘まみ食い。たった一夜の肉の花を咲かせましょう。

 

 月光に照らされる“貴女という名の花”は、カラカラと揺れてきっと綺麗です。

 

 

(……でも、それは今度です)

 

 

 お婆ちゃんに、どれだけ時間をとられるか分からない以上、芦戸ちゃんの様子を見に行けないからダメです。

 

 これは夢であり夢ではないと、自覚と同時に芦戸ちゃんが壊れたら困ります。芦戸ちゃんは強い子ですが、死を受け入れられるかどうかは別問題です。

 

(……芦戸ちゃんの、内側に触りたかったです)

 

 熱さを、ぬめりを、匂いを、味を、感じたかったけど、切り替えます。

 だから、別のショック体験で夢を自覚させようと、私は彼女の衣類を切り裂きます。

 

 はらり、はらりと。

 芦戸ちゃんが反応する隙を与えず、呆ける彼女の病衣()()が、また一枚落ちていく。

 

「……?」

 

 芦戸ちゃんは、まだ気づいていません。

 

 走る刃の軌跡に、彼女は目を見開くばかりで身じろぎしません。

 すでに病衣は布切れになり、地面に散らばっている。その下は全裸であり、皮が剥かれる果実よりも瑞々しい姿を晒している。

 

(……っ)

 

 ツン、と鼻の奥が痛くなってきました。

 

 ……じつは、この病衣の下が全裸だと、忘れていました。

 これ、今更ですが私、芦戸ちゃん生け花計画で、生々しさに耐えられるでしょうか?

 

(……やっぱり女の子って、一人一人で違うんですね)

 

 形とか色とか丸みとか匂いとか……いろいろ。チラチラ見ながら歯がかちかちします。

 

 考えてみれば、私は()と違って、そういう経験がないんです。……こういうのを、耳年増や童貞っていうんですかね?

 

 

「ん? ――――は、え゛!? ひゃああああ!!??」

 

 

 あ、ようやく気づきました。

 

 己の状態に遅れて気づいた芦戸ちゃんが、しゃがみこんで悲鳴をあげます。……あまりに反応が遅いですが、おかげでじっくり見れました。

 

「スース―すると思ったら!? トガ、見ないであっち向いてて!!」

「……み、見てないですよ?」

「嘘つきめっちゃ見てたじゃんトガのえっち!!」

 

 ぐ……っ。や、やはり女の人は視線に敏感です。

 

 背中まで色っぽく赤らめ、身体を隠そうと頑張って逆に無防備にさらけだす姿にゾクゾク……い、いえ! ここはクラスメイトとして着ているコートを肩にかけるべきですね!

 

「……どうぞ」

「あ、ありがと…………むー」

 

 じと目で睨まれますが、涙目なので迫力は皆無です。……わざとですか? うっかりもう一度剥きたくなるからやめてください。

 

「……それで? どうしてアタシは裸にされたの?」

「……ぅ」

 

 ぐいーっと。

 ほっぺをぐりぐりされて怒られます。……けど、腰がひけた上目遣いはキュンとするからやめてくださいっ。せめてもう少し離れてください、このアングル破壊力すごいです。

 

「……え、えっと、芦戸ちゃんを、驚かせるためです」

「えっ、そんな理由? じゃあこれ、悪戯だったの?」

「……はい」

「えー……トガからされる、初めての悪戯がこれって」

 

 芦戸ちゃんは嘆きながら肩をすくめて「もう!」と、顔を赤らめたまま頬を膨らませます。カァイイ。

 

(……? というか、改めて視ると、個性のない芦戸ちゃんって皮膚が薄いですね)

 

 てっきり赤くなっても気づけず、赤面症が治せないのだと思いましたが……『酸』耐性の皮膚が悪夢では反映されず、そのせいで薄いんですね。

 

 試しにと、彼女の頬をちょんっと突くと「ひょわ!?」とびっくりされる。

 

「な、なに!? なになになに!?」

「……」

 

 え、カァイイ。……じゃなくて過敏ですね。

 

 身体をぎゅーと固めて、困惑した上目遣いに苛めたくなります。でも、このままでは話がすすみません。

 

「……とりあえず芦戸ちゃん、家に入りましょう」

「え? でも……誰かいる気配はないけど、不法侵入にならない?」

 

 おずおずと、芦戸ちゃんが私の服を摘まもうとして、分厚い包帯が邪魔だと気づいて腕に腕を絡めてくる。……警戒心は大丈夫? 私の理性は据え膳で火がついたままだし、貴女さっき私に剥かれたんですよ?

 

「……っ、大丈夫です。……今日から、私と芦戸ちゃんの別荘になるただの日本家屋です」

「はい? えっ、どういう事!?」

 

 驚愕して更にぎゅーっとくっついている芦戸ちゃんの感触に「っ」何かダメになりそうで、逃げる様に縁側から室内にあがりこもうとすると「ちょちょちょ!!」全身でくっつかれる。

 

「な、なんですか!?」

「トガ、流石に靴は脱ごう? 土足はダメだって!」

「……」

 

 正論でした。

 ……1人で慌ててバカみたいですね。

 

 此処のお掃除は、恐らく人形ちゃんかアデーラちゃんがしてくれると思いますが、あえて汚すのはいけません。無言で足をひっこめて、もそもそとブーツを脱ぎます。芦戸ちゃんは裸足だから、足の汚れを気にしています。……んー。

 

「待っててください」

 

 そんな芦戸ちゃんを見かねて室内に入り、各部屋を軽く見て回り、お目当てのタオルを見つけます。それを洗面台で濡らして、ついでに芦戸ちゃん用だろう衣類も両手に抱える。

 

「お待たせしました」

「あ、ありがとう」

 

 芦戸ちゃんが、ホッとした顔でタオルを受け取り、縁側に腰かけて足を拭いています。……こういうところで、育ちの良さってでるんですね。私達とは大違いです。

 

「お、おじゃましまーす」

 

 そろそろと、芦戸ちゃんは縁側から廊下に足を踏み入れ、スーッと障子を開いて、畳が敷かれた部屋に目を丸くしている。

 

「わー……旅館みたい」

 

 真新しい畳の香りに反応しながら、慣れない環境に警戒心を思い出したのか、またピタリとくっついてくる。

 

「……ねえ、トガ」

「はい」

「……これ。ただの夢じゃないよね?」

 

 え? まさかの理解力に目を丸くする。

 

 ……もしや、当時7歳の渡我被身子を基準にしていましたが、高校生なら話し合えば夢の異常を理解できるのでしょうか? 渡我被身子は、同じ夢を一ヵ月見続けてから『あれ?』ってなりました。

 

「そうです」

「……やっぱりかー!」

 

 しなだれる様に、芦戸ちゃんが体重を預けてくる。

 あの、額もぐりぐり鎖骨に押し付けるのダメです近いですシャンプーの匂いにドギマギするんです……!

 

「……この夢、トガが見せてるの?」

「っ、はい。芦戸ちゃんは、私が招きました」

「……だよねー」

「今夜から、ここで芦戸ちゃんを強くします」

「……ん、色々聞きたい事はあるけど、よろしくお願いします」

 

 ほ、本当に話が早いです……もしかして、『普通』だからでしょうか? 芦戸ちゃんはすでに現状を受け入れています。

 

「……トガが、いつも眠いのはこの夢のせい?」

「原因といえばそうですが、元凶は別ですね」

「そっか」

 

 頷きつつ、好奇心に負けて小動物みたいに室内を見回しています……このまま、この家を探索してもいいですが。

 

「……芦戸ちゃん、まずは着替えましょう」

「あ、そうだった!」

 

 流石に、裸にコートというのは……自業自得ですが刺激が強いです。

 

「これ、シャツとズボンです。あとコートとサスペンダーと下着―――」

「わあ!?」

「へぶっ?」

 

 え……?

 

「す、すぐ着替えるから、待っててね!! ……どこにも行かないでね!!」

 

 ち、ちょっと待って? 今、両手で拒絶された意味が分からないんですが?

 

 下着を見せた途端に焦って、服をとって隣の部屋に駆け込む一連の流れが全部分かりません。

 

(……え、どういう心理でそうなるんです?)

 

 もしや、下着の柄や形を知られるのがヤってこと? 女の子同士で? 私が持って来たんですよ? 好感度が足りなかった? ムリですダメですわかりません。女心がむずかしすぎます。

 

「…………」

 

 あと……静けさと相まって日本家屋の壁の薄さが致命的です。芦戸ちゃんが着替えている音がよく聞こえます。……芦戸ちゃんが今、下着をつけてるなーとか、私のコートをぎゅっとしてるなーとか分かるから凄く困ります。お茶子ちゃんの着替えをチラ見するのとは違うドギマギといいますか、妙に覗きたくなるから本当に困ります。

 

「お、おまたせ!」

「……っ、はい」

「この服、トガが着てるのと同じだね?」

「そうですね。お揃いみたいです」

「あ、コート返すね。ありがとう」

「……? はい」

 

 実際、芦戸ちゃんが袖を通した衣装は、悪夢の普段着と同じです。……この気遣いは人形ちゃんでしょう。ちょっと複雑ですがありがとうございます。

 

(……それはそうと、なんでコートがこっそり交換されてるんです?)

 

 芦戸ちゃん、素知らぬ顔してるけど気づいてますよね? これ、気づかない振りをするのが正解ですか? ……難易度高いです。

 

「似合ってる?」

「カァイイです!」

 

 ポーズをとる芦戸ちゃんに、疑問を放り出して称賛します。実際、こういう格好の芦戸ちゃんは新鮮でカァイイです。

 巻いただけだった包帯も外して、お揃いの手袋をしているのも最高です。さっそく芦戸ちゃんの手を引いてにぎにぎします。

 

「トガ、くすぐったい」

「ダメって言っても、聞きません」

 

 私のですし。

 指を絡めて引き寄せ、頬に当てると芦戸ちゃんの顔が赤くなる。……やっぱり、皮膚が薄すぎますね。

 

「……まずは、回避を中心に教えた方が良いですね。あ、ほっぺをむにーってしてください」

「えっ? うん」

「んふ♪」

 

 これは癒されます。

 

「次、頭をたくさん撫でてください!」

「……夢の中でもあか……んんっ。トガはトガだね」

 

 ? よく分かりませんが、優しく撫でられて和みます。

 あー……疲れてささくれた心が癒されます。……こういうのも、いいですね。

 

「……ふはぁ、ありがとうございます。……じゃあ、訓練しますか」

「え?」

「芦戸ちゃん的には、この世界の説明とか、私の正体とか、聞きたい事はいっぱいあるでしょうが……」

 

 どうにも、それは今日じゃないみたいです。

 

「明日はリカバリーガールに呼ばれてるので、詳しく説明できないんです」

「そうなの?」

「はい。うっかり芦戸ちゃんが狂ってもフォローできないから、今日は普通に訓練しましょう」

「……ん゛?」

 

 もにっと、芦戸ちゃんの指がほっぺを伸ばしてきます。

 そして「え?」と眉を寄せて、己を落ち着ける様にすーはーと深呼吸し「……待って? ここってそんな危険なの?」と顔を青くします。……何をいまさら。

 

「危険ですよ。だから、この家を囲ってる竹林には入らないでね」

「そこからダメなの!? ……ち、ちなみに、入ったらどうなるの?」

「狂います」

「……やだー怖いじゃんバカー!! せつめいをようきゅーします!」

「んぶぅ? ……そうでふね。芦戸ちゃんは『ヤーナムの悪夢』って知ってます?」

 

 ほっぺ、触るの気にいったんです?

 めっちゃもちもちされます。でも優しいです。

 

「? そりゃ知ってるよ。すっごい有名な都市伝説だし。これのせいで夢系の“個性”が差別されたり、自殺者がでて社会問題に…………ん?」

 

 じわり、と。芦戸ちゃんの両手に緊張がこもります。

 

「……ほ、他の都市伝説と、一線を画してる『ヤーナムの悪夢』?」

「はい」

「実際に、あるって言われてる……回避不能で、絶対死ぬ系の、友達と話してるだけで先生に怒られちゃう……何百年も昔からあって、実際にどこかの島や都市が消えたっていう『ヤーナムの悪夢』?」

「はい」

「……ここが?」

「はい」

 

 すぅー……と。

 芦戸ちゃんが急に静かな表情になったかと思えば『無理!!』とばかりにぶわっと泣きだす一歩手前の顔になります。……え? 怖いのダメでした?

 

「う、うう嘘でしょ!?」

「ほんとうです」

「分かってる!! トガにそんな嘘つける訳ない!!」

「落ち着いてくだ……え、それどういう意味です?」

「怖いどうしよすっごくこわい!! トガ、絶対に手を放さないでね!? 一族郎党呪われて死んじゃうんでしょ!?」

「あの、大丈夫ですから……分かりました簡単な概要を説明します」

 

 待って、その抱きつき方は柔らかすぎて吐息に興奮するからやめてください! 鼻血がうっかり青いと洒落にならないんです!

 

「ま、まず、『ヤーナムの悪夢』は、被害者を悪夢から食べるタイプの都市伝説です」

「……う、うん!」

「そして『ヤーナムの悪夢』には、本体にあたる核。……強い敵がいます」

「……っ、うん」

「ある日、私は……事故で『ヤーナムの悪夢』の被害者に“変身”してしまい、そこで不正アクセスが成功しちゃった形で『ヤーナムの悪夢』に呪われました」

「……展開が早い!? っていうか巻き込まれてる!?」

「そこから色々あって、頑張った私は呪いの核を倒し『ヤーナムの悪夢』は平和な夢になりました。……ハッピーエンド」

「……おお? ……おおおお!?」

 

 かなり雑に端折りましたが……芦戸ちゃんはこのざっくりで何かを納得したらしく、目がキラキラしています。……この子、大丈夫ですか?

 

「分かってると思いますが、ナイショですよ?」

「え、皆にも?」

「はい。ダメです」

「そっか……」

 

 まあ、吹聴されて大きな問題になるとは思いませんが、秘密は守られる方が良いですからね。

 

「というわけで、この場所は私がいる限り安心です」

「うん!」

 

 完全に理解した! という顔でまったく分かっていない芦戸ちゃんが、だんだん愛しくなってきました。……これが、バカな子ほどカァイイ現象ですか。

 

「……明日から、芦戸ちゃんはこの夢だけをみます。此処ならどんなにボロボロになろうと現実の肉体に反映されません」

「すごっ!?」

「なので、今日はそれを証明するつもりで芦戸ちゃんを鍛えます。―――ちなみに、芦戸ちゃんは自分の死と向き合える子ですか? ダメなら生け花にします」

「……うん?」

 

 芦戸ちゃんが『ちょっと何を聞かれているか分からないな?』って顔をします。説明不足でしたかね?

 

「いえ、やっぱりはじめてだし、死ぬのは怖いと思うんです」

「うん?」

「なので、首だけを生かして死を実感すれば、健全に死生観が壊れて精神的にも強くなります」

「……え、っと? や、やだなーもうー! 冗談にしてもきつすぎるって!」

「え?」

「え?」

 

 首を傾げます。すれ違いがあるらしく、芦戸ちゃんの顔色から考えて「あ」と目を伏せます。

 

「……もしかして、優しすぎてダメでしたか?」

「―――そ、そうだ!! 初日だし色々考えるよりまずはお試しって事で、麗日にしてる特訓をアタシにもお願いします!!」

 

 んむ? ……なるほど、本人希望ですし、まどろっこしいですがまずは赤ちゃんのハイハイから、という事ですね。

 

「分かりました。では、児戯からはじめましょう」

「お願いします!! …………っ、今、人生を左右する難局を乗り越えた気がする!!」

「? じゃあ、蹴り技を主体でいくので、頑張って回避してください。あ、スタミナ管理に気をつけてね」

「え? 待って、まさか今か―――!?」

 

 襟首をそうっと握った瞬間にぶん投げます。……いや、開始の合図をわざわざしてくれる敵なんて、現実にそういませんよ?

 

 一応、室内で暴れるのはダメなので縁側から外に投げ飛ばすと、流石にコツを掴んでいるらしく空中で身を捻り、不格好に着地します。

 

「ッ! 靴は、履いちゃダメって事ね!?」

「うん? 靴を履くのを待ってくれる、優しい敵がいたらいいね」

「―――実戦形式じゃん!! よーし、やるぞー!!」

 

 気合も充分です。地面の感触を確認しながら、芦戸ちゃんの目はキラキラしています。

 

 まあ、お茶子ちゃんと同じで良いなら私も慣れてますし、肩の力も抜けます。

 私も裸足のまま庭に降りて、自然体で芦戸ちゃんに「おいで」と手招きします。

 

 

「っ、よろしくお願いします!! ……あーもう、かっこいいなー!!」

 

 

 待ちきれないと飛び込んでくる弟子を、まずはサマーソルトキックで歓迎してあげる。

 

 ……うん。あのね? 対人慣れしてないとはいえ、まっすぐに突っ込んだらダメですおバカ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

41話 癒しの内臓攻撃です

 

 

 今更ですが、お婆ちゃんは容赦が無いです。

 

 休日の午前中に呼び出すとか、慈悲が無さすぎでびっくりです。

 

 

「お客さん、着きましたよ」

「……ありがとうございます」

 

 タクシーの運転手さん(いつもの担当の人じゃない、はじめましての玄人)に起こされ、お礼を言いながら出ようとしたら「あ、自分は今日からお客さんの担当になったんで、お帰りをお待ちしてますよ」と朗らかな笑顔で言ってくれます。

 

「……えと、時間がかかるかもです」

「そうですか? じゃあ午前中まで駐車場で待ってますから、それ以上かかりそうなら連絡ください。会社を通すのも面倒だと思うんで、こちらに」

 

 ……名刺を受け取りつつ、その距離感が上手いなぁと感心します。……なんだかんだ、こういう人がお近づきになろうとするのも雄英体育祭が原因なんでしょう。再度「ありがとうございます」とお礼を言って、雄英の門をくぐります。

 

(……今朝から、周りがちょっと騒がしくなりました)

 

 さっきのタクシーさん以外にも、お茶子ちゃんには内緒ですが、アパート付近に不自然な気配が増えています。今のところ害意はないのですが、近いうちに挨拶に来るんだろうなぁって面倒臭いです。

 

 いえ、そんな未来の事より今です。午後でも良くなかったですか?

 

(……思考停止で、了承した私も悪いですけど)

 

 欠伸を漏らしながら瞼を擦ろうとして、包帯が取れていない事を思い出す。

 

 今度からは、もうちょっと考えて交渉しましょう。お茶子ちゃんと早くお風呂に入りたくて、二つ返事で承諾した私も悪いといえば悪いです……

 

「…………くふあ」

 

 あー、ダメです。全身に睡魔が纏わりついています。

 

(……食欲は、少し増えましたが、睡眠に変わりがありません)

 

 反映していく順番に殺意を抱きつつ、悪夢で芦戸ちゃんを苛めぬいて癒されたとはいえ、やっぱり休日に登校するのはストレスです。

 目を覆う包帯にカリカリと爪をたてながら、無人の廊下を歩きます。

 

「……」

 

 人気のない校舎の、普段とは違う側面に物珍しさを覚えてきょろりと首をまわします。

 そういえば、最近はいつも誰かが一緒にいてくれるから、今は人肌が足りなくて物足りません。

 

(……ヒーローを目指そうとする子達は、やっぱり優しいです。私にも構ってくれます)

 

 私も、そんな皆をもっと観察して参考にしなくてはとやる気がでます。

 

 でも最近は、心地よさに負けてそんな皆に甘えすぎかもしれません。

 特にお茶子ちゃんに負担をかけてるかもです。今朝だって、お茶子ちゃんは当たり前に私に付き添おうと制服に着替えるからびっくりしました。焦って止めつつ、ちゃんと休んで欲しくて込み入った話になりそうだと嘘もついて説得しました。

 

(お茶子ちゃん、優しすぎます)

 

 最近も、私のせいで眠りが浅いのに起きるたびに抱きしめてくれます。背中を向けても抱き寄せてくれます。今朝も、タクシーに乗り込むまで心配してくれたお茶子ちゃんの事を考えると、頬の緩みが止まりません。それを指先で隠しながら、特殊素材だろう保健室のドアをノックします。

 

 確か、ノックは三回でしたっけ?

 

 用件が何かは知りませんが、早く終わらせてお茶子ちゃんに会いたいと、返事を待たずにドアを開けて……うん?

 

 

「おはよう、渡我。急に呼び出してすまなかったね」

「やあ! おはよう渡我さん!」

「お、おはよう……!」

 

 

 珍しい組み合わせに、包帯の下で目が疼きました。

 

「……おはようございます、リカバリーガール。根津校長。オー……っと。はじめましての人」

 

 あぶなっ……トラップです? 骨っぽい方のオールマイトに口が滑りかけました。

 私は何も勘付いていない普通の女子高生です。それ相応の振る舞いをしなくてはいけません。

 

「「「…………」」」

 

 三者三様の意味深な沈黙は無視して、招かれるままにリカバリーガールが引いてくれた椅子に座ります。

 

「お茶は昨日と同じで良いかい?」

「大丈夫です」

 

 さて、いきなり本題に入るつもりでしたが、この面子では何をどう対処しようと面倒な話題にしかならないと諦めました。もうお茶を楽しむ事にします。お茶子ちゃんに焦がれながら頑張ります。

 

「改めて渡我さん! よく来てくれたのさ!」

 

 根津校長が、いそいそとお茶菓子も差し出してくれます。歓迎モードに警戒心を強めつつ、悪意は感じません。

 

(……面倒事はヤですが、丁度良いと言えば丁度良いですね)

 

 ここで恩を売っておけばこちらの話がしやすいです。思考しながら、お茶菓子の羊羹を添えられた匙でいただきます。……! これは、しっとりした食感と繊細な味わいです。

 

「……見えてないのに、本当に凄いね」

 

 これお土産にできないですかね? お茶子ちゃんにも食べて貰いたいです。

 

「ん、視覚がなくても、なんとかなりますから」

 

 オールマイトに顔を向けながら、タッパーをもってくれば良かったと持ち帰り方法を模索します。

 

「……気に入ったなら、残りは持ってお帰り」

「え?」

「気に入って貰えて何よりさ!」

「え?」

 

 ……待ってください、なんで私が考えてる事が分かったんです? やはり、雄英の人たちは油断できないです。でも羊羹は喜んでいただきます。

 

「……ありがとうございます。それで、話ってなんです?」

 

 ゆっくり話を聞こうと思いましたが、早くお茶子ちゃんに羊羹をあげたいです。甘いの喜んでくれるでしょうか? あと、頑張ったら羊羹が更に増えたりしませんか?

 

「……そうだね。本題に入らせて貰うよ」

 

 リカバリーガールの声が少しだけ笑っています。そのまま入り口の鍵を閉めて、自分のスマホを取り出して電源を切り、私にもそうする様に促します。逆らう理由も無いのでその通りにすると、何やらさっきから言葉少ななオールマイトがもじもじしています。

 

「実は、渡我さんにお願いがあるのさ!」

「本来なら、こちらから出向くのが礼儀だけど、理由が理由でそういう訳にもいかなくてね」

「? はあ」

「…………あの、やっぱり、渡我少女に無理を強いるのは「八木くんは黙ってるのさ」「腹をくくりな」……はい」

 

 オールマイト弱っ。

 何やら頭があがらない様子に首を傾げつつ、前振りはいいからと話の続きを促せば「実は……」と、更に回りくどくごちゃごちゃ言われましたが……まとめると、オールマイトの診察をして、できるなら治療をして欲しい、との事でした。……え? 普通にヤです。

 

 

「…………」

 

 

 っていうか、普通のJKはそんな事できないので、そういう意味でもヤですね。

 

 なんで私が? お好きに最高峰の医療を受ければ良いのでは? 瞬間的に断ろうと思いましたが、なんとなく、それは悪手な気がします。

 

(……んー。この勘は無視したら、後からもっと面倒になる奴です)

 

 腕を組んで、考え込む私に向けられる視線には気づかない振りをします。でも……診断結果によっては……なら……んーっ。

 

「……何が嫌なのか、聞いてもいいかい?」

「……ここだけの話にしてくれるなら」

「勿論さ! 誓って、ここでの話を外に出す事はないのさ!」

「……そうですか」

 

 立場が上の人達に下手にでられる居心地悪さを覚えつつ、目元の包帯をカリカリと引っ掻く。

 

「……単純に、面倒臭いです」

「見れば分かるよ」

「……あと、どうして私に? という疑問もあります」

「それは、申し訳ないが。渡我さんの色よい返事が聞けないと迂闊に話せないのさ!」

「……あー。腹の探り合いは面倒です。もう言っちゃいますけど、オールマイトならいくらでも最優の医療が受けられるでしょう?」

「! ……やはり、気づいていたんだね」

 

 頷きながら、苛立ちを振り払うようにお茶を飲みます。

 

「リカバリーガールが、良かれと思って口を滑らせた事に関して怒るつもりはありません。でも、オールマイトの診断と治療って、ただの学生に頼む事じゃないです」

「……あんた、自分の事に関しては視野狭窄に陥ってないかい?」

 

 はい? 呆れた声のリカバリーガールに首を傾げると、彼女が歩みよってくる。

 

「渡我」

「……なんです?」

「お願いできないかい?」

「……ぐ」

 

 そっと手を握られてしまう。そのしわしわなお婆ちゃんの手に心がぐらついてしまう。

 

「渡我さん、僕からもお願いするのさ!」

「…………ヤ、でも、オールマイトが、ほら、乗り気じゃないみたいですし」

「え!? ……あ、いや、それは」

「「……」」

 

 ほら、オールマイトもあの調子ですしって、2人の無言の圧力に負けて「どうかよろしくお願いします!!!!」突然立ち上がって頭を下げてきました。……あぁ、もう。

 

 ここまで流れがつくられてしまえば、一学生が意地を張るのも限界です。

 

 いや、張れるといえば張れますが、お婆ちゃんのお願いっていうのが卑怯なんですよ。

 本気で騙して利用を企んでいるなら私も抵抗しますが、そういうのじゃなくて、むしろ己の力不足を嘆きながら学生に手を借りる無力感や罪悪感や悲壮感込みで覚悟決まってるんですよ。

 私に、いつもみたいに接しながら、これだけは通さなくてはと焦りも視えて、これは突っぱねれば土下座されかねません。

 

「……分かり、ました。オールマイト、上を脱いでください」

「渡我少女……! よろしくお願いします!!」

「……渡我、ありがとう」

 

 お婆ちゃんのホッと緩んだ声に、後悔はしなさそうだと唇を隠します。

 

「……渡我さん、本当にありがとう。そして申し訳ない。協力を求めておきながら説明できない不誠実をお詫びするのさ」

「いえ全然大丈夫です。むしろ説明しないでください。絶対にいらないです」

「安心するのさ! 後日きちんと話せる範囲で開示するのさ!」

「話聞いてます????」

 

 どうして? そんな回れ右したくなる発言をするんです? いえ、一度やると言った手前、どんな話を聞いてもやりますけど。

 

「席を外した方が良いかい?」

「……別にいいです。でも、秘密は守ってください」

「勿論さ! これに関しては誰にも悟られない様に最大限に動くつもりだよ!」

 

 あ……その発言に、やっぱりリカバリーガールってそういう立ち位置なんですね、と気づきます。

 

 根津校長のあえてだろう発言に「はあ」と気づかない振りをします。……お婆ちゃんはつまり、分かりやすい蝙蝠スパイであり、ただの連絡役なんですね。

 “お互い”にソレを知りながら、知らない振りをして、両者から庇護されているトラップカード。

 

(……露骨ですねぇ)

 

 でも、それぐらいが丁度良いのかもしれません。

 雄英って敵が多いみたいですし、戦闘力の無い回復役のお婆ちゃんがゲームのノリで狙われたら大変です。お婆ちゃんにはスパイとしての価値もあると喰いついたら、そこからどちらにも存在を気づかれる仕組み。

 

「渡我少女……下は脱がなくて良いよね?」

「大丈夫です、座ってください」

 

 大人の世界って大変そうです。

 

 でも秘密は甘くて、だからこそ群がられてしまう。

 きっと今日の件だって、最初から秘匿を期待するのがバカなんです。約束に期待はなく、ここから私の異常が知れ渡ったとしても、やることは変わりません。

 

「じゃあ、触りますね」

 

 信頼は無くとも、信頼させておくに越したことはありません。

 

 依頼はきちんとこなしますと、オールマイトのガリガリの胸板に触れます。いつもは閉ざしている脳の瞳も開いて、診断するつもりで肉体を視…………うわっ。

 

「……オールマイト、ちょっと血を貰います」

「痛い!?」

 

 ピッ、と。爪先で頬を傷つけ、その血を指で掬って舐めます。…………苦い。

 

 血に刻まれた情報から得られる異常と狂気に、愕然とします。思わず、オールマイトの肩を慰める様に撫でます。

 

「オールマイト」

「は、はい」

「……もうこれ、死んだ方が楽じゃないです?」

「なんて事言うの!?」

 

 あ、吐血した。

 ゴハッ!! と、何故かショックだったらしく吐血するオールマイトの血を皮膚でも吸収しながら、体内の医療器具の位置を視つめながら、口元を覆う。

 

「……これ治すの『聖歌の鐘』二回分で、私もかなり治っちゃいます。流石に言い訳が面倒でヤですね」

 

 嘆いて、けれど、もうしょーがないと。諦めます。

 

「と、渡我少女?」

「オールマイト……ちょっと内臓をえぐりますが、我慢してください」

「えっ!!?? ちょ、待って何するつも、ぐはー!!??」

 

 何って、ただの内臓攻撃です。

 

 グジュリ、と。右手が心臓をえぐる様に体内に侵入します。

 

 

「――――え?」

「…………は?」

 

 

 見学者が驚いてます。でも、しょうがないんです。

 

 オールマイトの体内には医療器具? もしくは機器? があちこちにあって再生に邪魔なんです。軽くオールマイトの額を小突いて脳を揺らし、そこを意識した瞬間に指から突き入れました。……久しぶりですが、身体が覚えているのでスムーズに内臓をえぐれます。

 

 血が噴きでますけど、その血もかなり濁ってダメな臭いがしてるので、出しちゃった方が良いでしょう。

 

「――――ッ!? ――――――が、ぁ、え? ……ァ????」

 

 むわりと、立ち込める血と香りが全身にまぶされていきます。

 手の平に感じる、熱くてぬるついた内臓の感触や手応えに懐かしさを覚えながら、オールマイトの治療を阻害する、さっきまでオールマイトを助けていただろうそれらを丁寧に取り除き、引き抜きます。「ぐ、ギャ!?」再度ブシャッ!! と勢いよく出血しますが、致死量になる前に『聖歌の鐘』を出して、行使します。

 

 鐘の音は、二回。

 金色の光が、リカバリーガールと根津校長にも効果を及ぼし、己の回復量だけを減らします。

 

 

「? あ、ガ……!? と、ァ……しょう、じょ?」

「シー、ですよ。血の塊が喉に詰まってむせちゃいます」

 

 自分が治りすぎない様に苦心しながら、オールマイトの骨で指を切って私の血を混ぜます。これで回復を促進しながら、個性因子の方を、こうして。……ん、こんなもんですね。

 

 

「「――――――」」

 

 

 後ろで、リカバリーガールと根津校長が固まってます。……リカバリーガールは顎が外れそうだし、根津校長はお髭がぴんぴん毛がブワァしてカァイイです。……もしかして、2人にはショッキングな光景でしたかね? でも、1分もかからないので我慢してください。

 

 

「はい、おしまいです。オールマイト、意識ははっきりしてますか?」

「え? あ、ああ……凄く痛かったけど、生きてるよね、私?」

 

 

 げほっと、口の端から血を流して、オールマイトがぺたぺた自分の身体を触っています。

 

「殺してないから生きてます。内臓はできたてなので、最初はゼリー飲料で慣らし……って、本職がいるんです。リカバリーガールに諸々の諸注意をうけてください」

「え? ……ッ、まさか、いや、確かに体内に重さが戻ってるし、へこまない!?」

 

 驚いてわたわた動き出すオールマイトを横目に、大きく息を吐きます。あー……血が減りました。

 くらくらしますが、覚悟していたので意識が遠のくだけですね。

 

「……こ、これは、予想以上なのさ」

「……喜ばしいけど。部屋も、あたし達も血まみれだよ」

「……口の堅い業者に頼むから、大丈夫なのさ」

 

 あ、そうですそうです。

 欠伸をしながら、リカバリーガールに顔を向ける。

 

「お願いがあります」

「……っ、なんだい?」

「芦戸ちゃんと早朝訓練したいんですけど、雄英の施設って借りられます?」

 

 今日の目的である質問に、リカバリーガールが「は?」ときょとんとする。ついでに抜き取ったものを渡します。そしたら、根津校長がずいっと割り込んでくる。

 

「おっと! そういう話なら僕に任せるのさ! ……そうだね。大抵の施設は2年3年がすでに利用しているし、そういう事なら1年生が気軽に利用できる施設を建てておくのさ! 明日までに間に合わせれば良いかな?」

「……明日は寝ます。寝させてください。貧血なので明後日から使います」

「分かったのさ! じゃあ、校舎から離れた場所に体育館程度の施設を用意しておくのさ! あ、1年のヒーロー科全員に使用許可を出してもいいかな?」

「……“個性”を使える場所が欲しかっただけなので、問題ないです」

「ありがとう! なら早速用意するのさ!」

 

 スケールすごいですね……

 ある意味、ここに根津校長がいたのは話が早くて助かりました。……じゃあ帰りましょう。

 

「待ちな! 制服は用意しておくから羊羹を取るんじゃないよ。その羊羹も新しいのにおし!!」

「え?」

「……うっかりでも外に出るんじゃないよ? 即座に通報されて面倒な事になるよ」

「あ」

 

 そうでした。鼻先からぼたりと落ちる血の感触に、自分が血まみれだと思い出しました。

 

「……タクシーが待ってますが、これじゃあ乗れませんね」

「! それは僕が声をかけておくから、気にしないでいいのさ」

「……今日は、当番の教師に送らせるから安心おし」

「あ、それは助かります」

 

 話していたら、何やら唖然、とした様子で「え? え?」と大きくなったり戻ったりしていたオールマイトが、ごくり、と喉を鳴らして私を見る。

 

「……個性の、活動時間が……伸びてる?」

「「!?」」

 

 何やらギョッとしている3人に、何か問題があるのかと首を傾げながら説明する。

 

「ダメでしたか? 個性因子が風前の灯火でしたので、身体を治すついでに効率化しただけです。その影響で“個性”の寿命は少し伸びたかもですが、いずれ消えるのに変わりはありませんよ?」

「……ッ、渡我少女、いや」

「はい」

「――――渡我先生!! どうもありがとうございました!!」

 

 うん? 急に勢いよく頭を下げられました。……いえ、感謝の気持ちは嬉しいですが、私にも得はあったので気にしないで欲しいです。オールマイトの血、しっかりストックできました。……こういう“個性”だったんですねぇ。

 

「……それで? 効率化って何をしたんだい?」

「え、言葉での説明が難しいです。内臓を戻すついでにそこも最適化したから調子が良い、みたいな……?」

 

 ほとんど感覚でやっているので、詳しい説明はちょっと難しいです。

 だいたい、トガヒミコは()()()()()()()という点においては本能的に秀でているのです。当たり前にできる事への説明を求められても困ります。……あと、さっきから欠伸がとまりません。

 

「……ベッドで、と思ったけど、血の臭いが濃すぎるね」

「……八木くんが、想像以上に完治したのは喜ばしいけど、凄まじい治療法なのさ」

「……知ってはいましたが、渡我少女の人体に対する理解度は突き抜けています」

 

 さすさすと自分の上半身を撫でながら、残したままの古傷に余計に戦慄しているらしいオールマイト。……私からしたら、貴方の方がやばいですけどね。

 

 こんな身体になりながら人助けって……実はオールマイトって、私と同じぐらいの異常者だったんですね。

 それが分かって、そんな彼が世間で認められている事実に、うれしくなる。

 

 がんばろうって、未来に小さな希望がもてました。

 

 

(まあ、それはそれとして……オールマイトはもうダメですね)

 

 

 その事実を知れたことも、幸運だったのかもしれません。

 平和の象徴という、実に都合の良い彼がいなくなる事は、私にも無視できません。

 

 この後の事をつらつらと考えながら、我慢できずにベッドにぼふっ! と倒れ込んで、慌てる大人達を気にする余裕もなく、意識を手放しました。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

42話 どうやら苦手な事みたいです

 

 

 せっかくの連休を、ほとんど寝て過ごしました。

 

 ぽけーっと保健室の天井を見上げて、今日から学校だとしんどくなります。

 眠気を纏いながら視線を動かし、違和感の元である点滴を見つけて喉奥で唸る。

 

(……最低な目覚ましです)

 

 身体に良いものであろうと、体内に勝手に侵入されるのは好ましくない。

 これなら、面倒でも口から摂取した方が良いです。身を起こして、少しでも眠気を飛ばそうと首を振る。

 

(……学校、ヤです)

 

 だって、お茶子ちゃんと遊べてない。

 本当なら、ちょっと奮発してカフェでご飯しようねって計画していたからこそ、苛立ちと我慢できない気持ちが溢れて歯がカチカチする。

 

(お茶子ちゃん分が、足りません……)

 

 そのせいで、テンションだだ下がりです。

 久しぶりの一人寝も落ち着かなくて、寝起きのイライラが止まりません。シーツと枕もぐっちゃぐっちゃに乱れて、眠りながらくっつくものを探していただろう寝跡はちょっと恥ずかしい。

 

「起きたんだね。おはよう、渡我」

「…………おはようございます、リカバリーガール」

 

 椅子を降りる音。近づいてくる軽いスリッパの音。カーテンがシャッと開いて、リカバリーガールが穏やかに挨拶してくる。

 

「よくは……眠れなかった様だね」

 

 苦笑には気づかない振りをして『とって!』と、無言で腕を差し出すと、リカバリーガールは「おやおや」と、楽し気に点滴の針をとってくれる。……この短い保健室入院で、私が点滴の感覚を嫌がり、そのせいで目覚まし代わりになっていると理解しての悪びれない態度に、ちょっと毒気が抜けていく。

 

「……今、何時です?」

「早朝の5時40分だよ」

「分かりました。準備します」

「例の朝練かい?」

「はい、芦戸ちゃんには連絡、いれてます」

「……連絡、ねぇ」

 

 呆れるリカバリーガールには答えず、ベッド横から使い捨ての歯ブラシと洗顔をとり、洗面台にむかう。

 昨日は、芦戸ちゃんへの連絡をリカバリーガールに頼んだのですが、その際に『朝6時に学校』とだけいれてもらいました。……詳しくは悪夢で説明したので問題ないです。

 

「洗顔していいですか?」

「……傷は塞がってるんだね?」

「はい」

「ならいいよ。終わったら包帯を巻き直すから、使用済みはそっちのゴミ箱」

「はぁい」

「ちなみに、自己診断が正確だからって、油断するんじゃないよ」

「ふぁい」

 

 言われた通りに両目を覆う包帯を外してゴミ箱にポイします。冷たい水で顔を洗えば意識も少しはっきりして、渡されたタオルで顔を拭けばさっきまでのイライラも薄れていく。

 その後は、リカバリーガールに保湿対策だと色々塗られて、包帯を巻かれている内にゼリーを飲んで朝御飯もとりました。 

 

「ごちそうさまです」

「もっと食べなさい」

「ヤです」

 

 昨日は三食大盛りだったから本当にいらないです。……あの時は、真面目に保健室入院を後悔しました。

 オールマイトの治療後、私の不自然な回復の言い訳として、リカバリーガールが休日返上で治療をしたと嘘をつく事になりました。

 だから保健室への強制入院を推奨されて、お茶子ちゃんに会えなくてふて寝していたら、何故か根津校長がお仕事を保健室に持ってきて、少し目が覚めたらひたすら教育について語られました。

 

 ……思い出すだけでも、辛い時間でした。

 

 耳にタコができそうなぐらい、指導者の暴走はダメだと訴えられました。……そんなに、芦戸ちゃんへの訓練内容はダメでした? ちゃんと優しくすると訴えたら、リカバリーガールにも絶対にやめな!! と怒られました。

 

 しょうがないので、芦戸ちゃんの訓練は普通以下になったと悪夢で報告したら、芦戸ちゃんは根津校長とリカバリーガールに感謝の叫びをあげるしで……おかしいですね?

 

 首を傾げつつ、体操服に着替え終えて「お世話になりました」リュックを背負い、リカバリーガールに挨拶をして保健室を出る。

 

「渡我! ちゃんと昼休みと放課後も来るんだよ!」

「……勿論です」

「忘れてたね?」

「……だ、大丈夫です! 芦戸ちゃんが待ってるので、失礼します」

 

 そそくさとその場を離れて、靴を履いて校舎の外に出る。

 雨が降っていますが、体操服なので気にせず根津校長に説明された道順を進んでいくと、ほどなく強大なドーム状の建物の存在と、見知った気配、が…………へ????

 

 気づいて、『加速』して()()に飛びつきます。

 

 

「わ、被身子ちゃん!?」

「え、トガ!? って、濡れてる!? 傘さそうよ!!」

 

 

 お茶子ちゃんがいる! 体操服で、ついでに芦戸ちゃんもいて、傘をさしている。ぐりぐりと額をおしつける。

 

「なんで、お茶子ちゃんがいるんですか!?」

 

 顔をあげるも、包帯が邪魔でお茶子ちゃんの表情が見えない。

 芦戸ちゃんは呼びだしたから当然だけど、まさかお茶子ちゃんに一時間も早く会えるなんて!

 

「三奈ちゃんと朝練するって聞いて、来ちゃった!」

「……なるほど! 芦戸ちゃん、偉いです! ナイスです!」

 

 嬉しくて、お茶子ちゃんの腕の中で身をよじって、肺いっぱいにお茶子ちゃんの香りをかいで、感情のまま体を擦りつける。

 

「ちょ、トガ、濡れた身体で……」

「いいっていいって」

「……お茶子ちゃん、お休み、お出かけ行けなくてごめんね?」

「治療ならしょうがないよ! でも、凄いね! 目と左腕はしょうがないけど、ほとんど包帯がとれてる!」

「……えーと、リカバリーガールが、がんばったので」

「……そっかー」

 

 お茶子ちゃん分が急速に満たされて、テンションがあがっていきます。

 緩んだ顔をお茶子ちゃんの肩に隠していると、服の裾を引っ張られます。

 

「……むー」

 

 芦戸ちゃんがほっぺ膨らませていますが、今は忙しいので待ってください。後で訓練してあげますから。

 

「あ、それでね? 三奈ちゃんとも、本当にここが新しい訓練施設でいいのかなって話してて……」

「ふあい! 根津校長が建ててくれました!」

「ブルジョワや!!」

「やっぱり、雄英は規模がおかしい」

 

 お茶子ちゃんの感触にうとうとしながら、今更にお茶子ちゃんが私のせいで濡れていく事に気づいて、慌てて離れながら顔を向けます。

 

「あと、引率の先生もつけるって言ってました!」

「え、どこに―――」

「おはよう」

「「うわあ!!??」」

 

 驚いたお茶子ちゃんと芦戸ちゃんが、前後から抱きついてきます。

 

「んむ、おはようございます、相澤先生」

 

 雨に濡れない場所で、寝袋に包まれている先生は、気だるそうに目をしぱしぱさせている。

 

「……せ、先生!?」

「びっくりしたー!! 軒下だから濡れてないけど、せめて中で寝ようよ!?」

「必要ない。それで渡我。“個性”の訓練はするのか?」

「? しません。暫くは芦戸ちゃんの体力づくりがメインです」

「分かった」

 

 返事する相澤先生の横を、2人をひっつけたまま通り過ぎていく。

 

「ええ!? ねえねえトガ、“個性”の練習はしないの!?」

「しません」

 

 鍵のかかっていない戸を開けると、真新しい建物特有の匂いがします。

 芦戸ちゃんは、悪夢に“個性”が無いのを気にしているのか、それともひたすらボコられてばかりで鬱憤が溜まっているのか、露骨に残念がります。

 そんなやる気だけはある姿に、落ち着いてと手を伸ばして頭を撫でます。

 

「……“個性”を使用するにも体力とスタミナを消費します。芦戸ちゃんはその辺りがまだまだ未完成なので、下地を固めてからです」

「……ん、分かった」

 

 納得したのか、手の平にぐりぐり頭を擦りつけてくる芦戸ちゃん。その感触を楽しみながら、室内の様子を確認すると、無駄に広いし色々と凝った作りをしています。これは、色々できそうで「ひ、被身子ちゃん!」と、お茶子ちゃんに遠慮がちに手を握られる。

 

「なぁに?」

「……私もね、あの」

「はい?」

「……一緒に、教えて貰っていい?」

 

 カァイイ……!!

 遠慮がちな仕草と、きっと上目遣いだろう体勢にキュンとして、手を握りかえします。

 

「いいですよ。芦戸ちゃんのついでになっちゃいますけど……」

「やったー!! ありがとう被身子ちゃん!!」

 

 手をぶんぶん振るお茶子ちゃんは心が広くて、芦戸ちゃんのおまけ扱いでも怒らないんだと安堵します。

 

(……カァイイなぁ)

 

 このまま、いつまでも和みたくなりますが……相澤先生が寝袋のまま隅に転がるのを感じて「……じゃあ」と、芦戸ちゃんの体操服の襟を握る。

 

「ァ……!?」

「準備運動から、しようね」

 

 察して、すぐに抵抗しようとするも、まだまだ遅い芦戸ちゃんをぶん投げて、特訓開始です。

 

 

 

 

 

 ―――――1時間後

 

 

 

 

 

 うん、初日はこんなものでしょう。

 軽い準備運動の後に、ちょっときつめの筋トレをして、休憩は5分。身体が温まったのを確認して芦戸ちゃんと戦闘訓練をしました。参加したそうだったお茶子ちゃんも同時に相手をして、ほどよく追い詰めて圧倒して踏みにじって、身体と心をボコボコにして朝練を終える。

 

「2人とも……本当に体力ないですね」

 

 メインで鍛えている芦戸ちゃんは床に溶けそうになり、サブのお茶子ちゃんは今日も地面とお友達になっている。呼吸もままならないというか、ひたすら肩で息して返事をする気力もなさそうです。

 私も2人と同じぐらい動いてるのに、か弱すぎて心配になります。

 

「2人とも、シャワー浴びますよ。あと、ちゃんと栄養補給もしてくださいね? 持ってきてないなら買ってきます」

 

 しょうがないので、2人を抱き上げて肩にもたれさせる。

 ……っ。瞬間、匂いが強くなり、汗でじっとりした体操服越しの熱くて柔らかいお肉の感触に喉が鳴りそうになる。

 

「……ッ」

 

 いけない飢えを覚えるも、遅刻させる訳にはいかないと平静を装って立ち止まりかけた足を動かします。

 見かねたのか、相澤先生が「ほれ」と3人分のゼリーをくれた。……やさしい!

 

「……授業開始まで時間はあるが、遅刻するなよ」

「「…………」」

「はぁい。芦戸ちゃん、お茶子ちゃん、無視はダメですよ?」

 

 軟弱な2人に注意をしながら、女子更衣室に入っていく。

 シャワー室は更衣室経由で行けるので、ベンチに座らせて着替えを準備します、が。……流石に、2人の服を脱がす訳にはいかないと少し考え「……先に入ってますね」一人で汗を流す事にします。

 

 両目を覆う包帯は、見た目の火傷跡がもう少し治るまではと言われてつけているだけなので、さっさと包帯を外して服を脱ぎ捨てる様にリュックに押し込み、熱いシャワーを浴びる。

 

「うー……!」

 

 シャワーで、なんとか湧き上がる欲情を流そうとしますが、満たされない飢えは消えてくれず、前髪をくしゃりと握る。

 

(……歯が、ウズウズします)

 

 性欲って、こんなでしたっけ? ……解消方法が謎すぎて困惑していると、ようやく再起動した2人が「……うあー」とか「……きつ」とぼやきながら、死にそうな顔で裸体を晒してシャワー室に入ってきて、あまりの光景にギョッとする。

 

 

「お、お先に失礼します!!」

 

 

 目に毒すぎると、極力見ない様に気を付けて急いで離れる。――――だ、大丈夫ですよね? ちょっと欲情してチウチウしたくなったのばれてないですよね!?

 移動しながら適当に身体をふき、荷物から制服と替えの下着を取り出して着替えながら包帯も巻いていく。

 

(……やばいです、目に焼き付きました)

 

 そしたら、視界が遮られた事で余計にさきほどの光景が際立ってしまう。

 

「……っ」

 

 何度も反芻してしまう己の理性の弱さに、謎に2人への罪悪感を募らせながら項垂れる。

 今の私は、性欲がダメすぎです。……まさか、年下の同級生を意識するなんてと、鼻の奥が興奮で痛くて、目をぎゅっと瞑りながらさっきの光景を追い出そうと努力する。

 

(……芦戸ちゃん、本当はああいう色なん―――煩悩退散!!!!)

 

 性欲を()への怒りに変換しながら、なんとか落ち着こうと、訓練場の外に出て、フーッと息を整えていると「渡我」寝袋を背負った相澤先生に声をかけられる。

 

「……はい?」

「校長に聞いているだろうが、この施設の利用には教師の引率が必要だ」

「あ、はい」

「明日も利用するのか?」

「はい。特別な事情が無い限り、毎日使います」

「……分かった。明日はB組の担任が引率する」

 

 B組? たしか、ブラドキング、でしたね。『操血』は、ちょっと試したい事があるので、気にはなってました。

 

「……ほぼ確実に、ブラドキングは自クラスの生徒に声をかけて、明日から施設が賑やかになると思うが、問題ないか?」

「? ないです。利用したい人が好きに利用すればいいと思います」

「……そうか」

 

 はて? 相澤先生の目元が少し和らいだのに首を傾げる。というか、どうしてそんな確認をしてくるのか考えようとして「被身子ちゃん!」お茶子ちゃんです!

 

「遅れてごめん!」

「トガ、良かった、いたー!」

 

 復活したお茶子ちゃんと芦戸ちゃんが、足をふらふらさせながら駆け寄って来ます。

 

「……話は以上だ」

「はーい」

「あ、先生、ゼリーありがとうございました!!」

「生き返りました!!」

「……明日からは各自で準備しろ」

「「はい!!」」

 

 元気の良い2人と一緒に先生を見送り、芦戸ちゃんにチョコを貰って3人で急いで食べながら教室に向かう。そしたら、いつもより賑やかな声が響いてきます。

 

 

「―――超声かけられたよ来る途中!!」

「私も、ジロジロ見られて何か恥ずかしかった!」

「俺も!」

「俺なんか、小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

「ドンマイ」

 

 

 楽しそうに盛り上がってますね。

 

「なあ、緑谷はどうだった?」

「…………ウン」

「ブフッ!! ネットに、強面の奴らが緑谷に頭下げて、満員電車の席を譲ってるって!!」

「……あーね?」

「……ドンマイ!」

 

 へえ、雄英体育祭って本当にいろんな人に見られてたんですね。

 私は、根津校長にお茶子ちゃんとのタクシー送迎を勧められているので、関係なさそうです。

 

「あ、トガちゃん達おはよー! 今日はギリギリだね」

「おはよう! ……あー、ちょっとね?」

「お、おはよう……あはは」

「んー? なんか怪しいなー……髪も湿ってるし、3人で何してたの?」

 

 葉隠ちゃんに腕を組まれて、その柔らかい感触に集中しながら「雄英の新しい施設で、朝の特訓をしてました」と伝える。

 それに、芦戸ちゃんとお茶子ちゃんが「「あっ!?」」と慌てるのを感じて、首を傾げる前に「新しい施設で朝の特訓!?」と、葉隠ちゃんが声をあげる。

 

「えっ!!??」

「なんだと……?」

「おいおい、聞き捨てならねぇな……」

「抜け駆けか!?」

「はあああああ!!??」

「ずるいー!!」

「詳しく、説明してくれますわよね?」

「ケロ、そういうの、よくないと思うわ」

「具体的に何したんだ!?」

「なあなあ、それ俺らも参加していいやつ?」

 

 え? なに? さっきまでの和気藹々はどうしたんです?

 

 びっくりしていると「おはよう」と先生が入ってきて、全員がシュバッ!! と(私は百ちゃんと轟くんに運ばれて)急いで席につく。…………なんだったんです、さっきの?

 

 

「相澤先生、包帯とれたのね、良かったわ」

「婆さんの処置が大ゲサなんだよ。んなもんより、先に報告がある。今朝から雄英一年専用の訓練施設が開放された」

 

 ザワッと、クラス全員が反応します。

 

「ちなみにここから徒歩でいける。教師の引率が必ずつく特殊施設で、事前の申請は必要だが一年なら()()()利用可能だ。……ちなみに渡我、使い心地はどうだった?」

「ふあ? ……特に問題は無いですし、今のところ不便も感じてません」

「だ、そうだ」

 

 ううん? 私の返答に、またクラス全員がザワザワと反応して、芦戸ちゃんとお茶子ちゃんはちょっと気まずそうに笑いあっている。

 

「じゃ、この話はここまで。……今日の“ヒーロー情報学”はちょっと特別だぞ」

 

 質問したそうな皆の口をギロリと遮り、相澤先生がさくさく話を進行していく。それに、皆がちょっと面白くなさそうな顔をして、珍しく不満を溜めていく。

 

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

「「「「胸ふくらむヤツきたあああああ!!!!!」」」」

 

 

 あれー????

 一気に不満が解消されましたね????

 

 

「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2,3年から……」

 

 あ、はい。興味ないです。

 

「つまり、今回来た“指名”は将来性に対する“興味”に近い。卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある」

「大人は勝手だ!」

 

 本当ですよねぇ。

 

「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」

「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」

 

 先生が集計結果を出したみたいですが、包帯で見えないです。

 まあ、見る気もないですがクラスの皆が凄くざわついたので、面白い事になっていそうですね。

 

 ……そういえば、ノートどうやってとりましょう?

 

 

「……例年はもっとバラけるんだが、一人に注目が偏った」

 

 

 へえ。……やっぱり轟くんですかね?

 包帯を指先でカリカリしていると、妙に視線が集まって首をかしげる。

 

「…………デスヨネー」

「見る目ないよねプロ」

「爆豪とか、仮でも1位なのにな」

「表彰台で拘束される奴とかビビるもんな……」

「喧嘩売っとんのかテメェら!!!!」

「ぼ、僕の名前がある!?」

「わあああ!」

「うむ」

 

 頬杖をついて反応を聞いていると、百ちゃんが「被身子さん!」と、興奮した様子で振り返る。

 

「結果の予想、できていますか!?」

「? いいえ。ですが皆の反応から、轟くんが注目を集めている気がします」

「……は?」

「まあ! では、一番注目を浴びているのが被身子さんだったら、どうします?」

 

 私? それは。

 

「――――ヤですねぇ」

 

 ごめん、百ちゃん。

 ソレは()()じゃないから、冗談でもノってあげられないと声が低くなってしまう。

 

 っと、いけない。声に感情まで乗ってしまいました。

 

「……っ、嫌です、か?」

「はい、私は『普通』がいいです。……一番とか、困っちゃいます」

「……で、では。……もし、被身子さんが、仮にですけど、一番だったら、どうします?」

 

 ……えぇ? 百ちゃん、今日は意地悪な日なんです?

 もしかして、さっきの態度が悪かったのかもと反省しつつ、口元を隠して「そうですねぇ」と、答える。

 

「……『普通』になるまで、()ちなくちゃですね」

 

 幸い、トガヒミコにとってソレは、息をする様に容易い事です。

 

 ……まあ、間違っても私に興味が集まる事はないですから、杞憂ですけどね。

 

 

「せ、先生!! それ消して今すぐ消して!!」

「よォし!! 特に理由は無ぇけど、この話題はここまでにしよう!!」

「やべぇよ……やべぇよ……」

「来年、どうすんのコレ?」

「あ……だから、いつも」

「シッ!!」

 

 

 何故か、素直に相澤先生が集計結果を消すのを感じながら、急に落ち込む百ちゃんの頭を撫でます。

 ……このまま()()から逸脱しないで、このクラスに埋没していたいと、改めて願いながら。

 

「……えー、これを踏まえ、指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」

 

 うん? ……え、なにそれ?

 

「おまえらは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった」

 

 ……なるほど?

 

「それでヒーロー名か!!」

「俄然楽しみになってきたァ!!」

「まァ、仮ではあるが、適当なもんは―――」

『付けたら地獄を見ちゃうよ!!』

 

 この声は……!

 ピクッと、背筋がのびる。

 

『この時の名が、世に認知されそのまま、プロ名になってる人多いからね!!』

「ミッドナイ……また防護服かよ!!!!」

 

 わぁいミッドナイトです!

 

「まァ、そういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん」

 

 ついそわそわしてしまいますが、百ちゃんに手を握って貰えて、落ち着きます。

 

「将来、自分がどうなるのか、名をつけることでイメージが固まりそこに近づいてく。それが『名は体を表す』ってことだ。“オールマイト”とかな」

 

 ふぅん? そういうものなんですね。

 

 百ちゃんの手をにぎにぎしながら、どうにも皆のテンションについていけませんが、ちゃんと考えないとダメな事は分かりました。

 

 名づけ、名づけかぁ……

 むぅ、私という『ヒーロー』が、誰かに呼ばれるだろう、名前。

 

 

(……そんなの、考えた事も無かったです)

 

 

 名前、そういえば、名前といえば……

 

 ()()()に、名前はあるのでしょうか……?

 

 

『お父様』

 

 

 無邪気な、幼い笑顔を思い出して、慌てて首を振る。

 

 いまだ消化できない事を意識しても、しょうがないです。

 ……でも、もしも、あるのなら、()とお人形ちゃんは、どんな名前をつけたのでしょう?

 

「……」

 

 そして私なら、どういう名前をつけるのでしょう?

 ……っ、いえ、今は、こう在りたいと願う己の『ヒーロー』に、どんな名前をつければいいのか、で。

 

(…………????)

 

 あれ? あまりにも思い浮かばなくて、頬に爪がくいこんだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

43話 ヒーローとしての名前です

 

 

 コードネーム。

 

 ヒーローとして呼ばれる、私の()()

 こう在りたいと願い、目指す、理想の形。

 

(……?)

 

 それを考える事に、私は謎の抵抗感と苦手意識を感じている。

 

 ジリジリと、嫌悪にも似た衝動が胃からせりあがってきて、どうにも()と向き合っている様な、殺意にも似た激情に自傷しそうになる。

 はて? 片手で顔を隠しながら、何がそんなにも不愉快なのか考えます。

 

(……私という『ヒーロー』の、名前?)

 

 それを考えるのがトリガーらしく、酷い苛立つきに襲われます。

 

 どうにも、自覚というより抜け落ちたナニカがあるらしく、変なもやもやを宥めながら深呼吸。……ヤな事は少しでも原因を考えて、マシにしないといけません。大丈夫、私ならできます。

 どうして、名前をつけようとするだけで、こんなにも気持ち悪くて、ヤなのか、ちゃんと考えます。

 

 そして(――あ)気づいて、息が止まる。

 

(そうです、私は、私の事が世界で一番大嫌いなんです……!!)

 

 そんな普通に擬態しているだけの私が、そう在りたいと願う『ヒーロー』へ、祈りと願いの形でもある名前をつけるって………はあ? 無理です。

 

 せっかくの()()に、()()が混ざってしまう。

 

 バカなんじゃないですか?

 

 気持ち悪い。

 おぞましすぎてキれそうです。

 

 気分は最低で、()を前にするレベルに不快指数が上がっています。

 

(……ムリです、イライラします)

 

 醜悪な表情を両手で隠しながら、ギリギリの理性で冷静になろうと両目を圧迫する。

 

 とにかく、溢れる感情を血と一緒に飲み込んで、いつもより真剣に気配を殺します。

 感情が漏れない様に舌を噛みしめ、口内を血でいっぱいにしながら怒りが静まるまでひたすら耐え忍びます。

 

 ……だいじょうぶ。

 皆は、私の異常は気づいていません……

 

 咄嗟に気配をずらして掻き消したから、こういう時だけ、上位者で良かったと思います。

 

 少しだけ落ち着いて、そうっと確認すれば皆はヒーロー名に夢中だし、相澤先生は寝ていて、ミッドナイトもわくわくと皆を見守っています。ホッとして、両手を外して顔をあげる。

 

 しかし、問題は何も解決していません。

 

(……本当に、どうしましょう?)

 

 ここまで途方にくれるのも久しぶりです。

 

 でも、ヤです。絶対ヤです。

 無理です無理。

 理屈じゃないんです、なんかキライなんです、バカだと思うんです。

 

 私に、名前はいらない……っ。

 でも、名前があるのが『普通』なら……やらないと……

 

 

『じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!』

 

 

 ……あ、発表形式なんですね。

 

 項垂れながら、いつもの様に切り替えます。……ヤな事は、今までにもいっぱいあったから、我慢しましょう。……私は、我慢できるトガヒミコです。

 ……こうなったら、皆の名前を参考にしましょう。

 

 そうです、ヒーロー名だと思うからダメなんです。……第二の名前だと思って、蔑称をつけましょう。

 

 自分の感情を抑え込んでいると、早速とばかりに青山くんが立ち上がり、教卓まで自信満々に歩いていく。

 

「行くよ! 輝きヒーロー“I can not stop twinkling.”」

「「「「短文!!」」」」

 

 ……そういうのも、ありなんですね。

 

『そこはIを取ってCan'tに省略した方が呼びやすい』

「それねマドモアゼル☆」

 

 呼びやすさ……そういうのも大事なんですね。

 

「じゃあ次アタシね! エイリアンクイーン!!」

『2!! 血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!!』

「えー!? でも、今だと手がすごくエイリアンって感じで「芦戸ちゃん」―――すみません! 他の考えます!」

 

 キリッとしながら自分の席に戻る芦戸ちゃんに、先生の言う事はちゃんと聞こうねって後で言っておきます。

 

「……じゃあ次、私いいかしら」

「梅雨ちゃん!!」

「小学生の時から決めてたの。フロッピー」

『カワイイ!! 親しみやすくて良いわ!!』

 

 へえ、カァイイと親しみやすいんですね。

 

「んじゃ俺!! 烈怒頼雄斗(レッドライオット)!!」

『『赤の狂騒』! 漢気ヒーロー“紅頼雄斗(クリムゾンライオット)”リスペクトね!』

「そっス! だいぶ古いけど俺の目指すヒーロー像は“紅”そのものなんス」

「フフ……憧れの名を背負うってからには、相応の重圧がついてまわるわよ」

「覚悟の上っス!!」

 

 憧れ……とは少し違うけど、ミッドナイトは好きですね。

 

 うーん。思ったよりも名前というのは、難しく考えるものじゃ、ない?

 ……重くても軽くても、短文でも面白くてもカァイくてもいいんですね。

 

 『ヒーロー名』につけるんじゃなければ、参考になるのに……

 

「イヤホン=ジャック」

「テンタコル」

「セロファン」

「テ……テイルマン」

「かぶった。シュガーマン!」

「ピンキー!!」

 

 考えている間に、どんどん発表されていきます。うぅ……

 

「チャージズマ!!」

「インビジブルガール!!」

『良いじゃん良いよ!! さァどんどん行きましょー!!』

 

 ミッドナイト、楽しそうでカァイイなー……

 

「クリエティ。この名に恥じぬ行いを」

『クリエイティブ!!』

「焦凍」

『名前!? いいの!?』

「ああ」

「ツクヨミ」

『夜の神様!』

「グレープジュース!!」

『ポップ&キッチュ!!』

「……」

『うん!!』

 

 待って口田くん、口に出してくれないと今の私には伝わりません!!

 ミッドナイトも『うん!!』じゃなくてちゃんと言って!? 参考は1つでも多く欲しいのです!!

 

「爆殺王」

『そういうのはやめた方がいいわね』

 

 ……え、ダメな名前とかあるんですか?

 爆豪くんのは何がダメなの? 急に難易度あげないでください。

 

「考えてありました。ウラビティ!」

『シャレてる』

 

 お茶子ちゃん、カァイイ……!

 

『思ったよりずっとスムーズ! 残ってるのは再考の爆豪くんと……飯田くん、緑谷くん。そして、渡我さんね。…………んんっ! 何か分からない事があったら、遠慮なく先生に相談していいのよ?』

 

 ミッドナイト、優しい……!

 ジーンとしながら、オロオロしている百ちゃんの視線も感じながら、ひたすらに頭を悩ませる。

 

(……いっそ『anyone』とかにすれば、いいですかね?)

 

 それなら、ギリギリ嫌悪にも耐えられる、気がします。ヒーロー名と思えませんし!

 もう、それにしようかと、強張る指先でペンを握って…………けれど、止まってしまう。

 

「……」

『あなたも名前ね』

 

 っ、飯田くんもつけ終わってます。…………私は。

 唇を噛んでいると、緑谷くんが立ち上がる。

 

 

「えぇ緑谷、いいのかそれェ!?」

 

 

 ……?

 

「うん、今まで好きじゃなかった」

 

 好きじゃ、ない……?

 

「けど、ある人に“意味”を変えられて……僕にはけっこう衝撃で……嬉しかったんだ」

 

 ……あ。

 

 

「デク、これが僕のヒーロー名です」

 

 

 包帯の下で、目を見開く。

 

 ――――でも『デク』って……『頑張れ!!』って感じで、なんか好きだ私。

 

(……彼の価値観が変わった瞬間を、私は知っています)

 

 好きじゃないけど、意味は変わる…………それなら、私にもあります。

 

 気づいたら、指が動いている。

 

 私の最初の願い。

 普通になりたい、皆と同じがいいという渇望。

 

 それは、いつしか普通になれない誰かを、普通にしてあげたいという、夢になりました。

 

 そういう風に救けられたかったから、そういうヒーローになろうと思いました。

 

 そして、それを目指しているから、お友達ができました。

 元気で、頑張りやの弟子ができました。

 

 こうして、クラスの皆と夢の様な時間を過ごしています。

 

(……そして、トガヒミコが変わるきっかけをくれたのは()()です)

 

 ソレは、醜悪で不衛生でした。

 ソレは、唐突で暴力的でした。

 ソレは、最低で最悪でした。

 ソレは、災難で災厄でした。

 ソレは、しんどくて苦しくて、痛くて悲しくて、辛くて救われなくて。何度もだまされて裏切られて、出会う人々は壊れていくのが前提で…………だから、トガヒミコは普通になれました。

 

 自分の生まれながらの異常を、知りました。

 

 いつまでも、幸せに巡っていたかったけれど、行き止まりに辿りつきました。

 名残惜しさに停滞を望みながら、目覚めを拒絶しました。

 

 一つの世界が、終わりました。

 一つの世界を、終わらせました。

 

 皆の前に出て、名前を見せると……教室内が悪い意味でザワつきました。

 

 

「……出久くんのおかげで、決まりました!」

 

 

 もう、ソレは“意味”を失いました。……だからこそ。

 

 

「夢みるヒーロー、“ナイトメア”です」

 

 

 終わった()()を、私の名前として続けましょう。

 

『……ダメよ!!』

「どうしてですか?」

『……『夢』は、世間に避けられる不吉の意味をもつわ。それだけでもヤバイのに、『悪夢』なんて名前は場所によっては禁忌扱い、容赦なく排斥される可能性がある!!』

「知っています。……でも、いいんです。これが、私の名前です」

『―――』

 

 捻りも何もない、けれど誰も名乗れなかったヒーロー名。

 

 ヤーナムの悪夢が続いたせいで、世界で最も忌み嫌われ、恐れられる名前を、私につけるなら抵抗感も薄れます。

 

「……私にとっての悪夢は、とっくに()()がかわっていました」

 

 悪夢を終わらせた私だからこそ、知っています。

 

「……だから、これでいいです」

 

 もう名ばかりのヤーナムの夢が、かけがえのない()()である事を、身をもって知るのは私だけです。

 

 

「私は、誰かの()()()()()()()()ヒーローになります」

 

 

 私が終わらせたことにより、夢という単語も、“夢個性”に対する差別も、いずれ消えていくでしょう。

 

 それなら、それを早める為のスケープゴートになりましょう。……とっくに終わった悪夢に、差別が続くのもおかしいですしね。……それに。

 

 ちょっと照れながら、ミッドナイトに背伸びして、こっそり囁く。

 

 

「“ミッドナイト”と、“ナイトメア”……『ナイト』がおんなじで、お揃いですね!」

 

 

 好きなヒーローと名前が似ている。それだけで、もう少しだけ好きになる。

 

 それだけ伝えたくて、速足で席に戻ろうとしたらふわっと足が浮いて、あれ?

 

 

『卒業したらうちに来なさい!』

 

 

 キュッ、と。

 防護服ごしに抱擁されました。……おお! 抱っこされてます!

 

 

「ミッナイ先生!! その場合アタシもくっついていきますからね!?」

「お待ちください!! 被身子さんはうちの子です!!」

「ちがうわ」

「トガちゃん独占反対!!」

「いいい家にお持ち帰りとかそそそういうピンクなやつなのか!?」

「落ち着け」

 

 うれしい、けど……

 ミッドナイト……ちかいと、ねむいです。

 

「あ!? 渡我、まだ授業中だから!!」

『あら?』

「……おでこ冷やすか?」

「轟さん、お願いします!」

 

 カクン、と。

 

 意識を失い、冷たさで目覚める隙間。――――『まあ、いいんじゃないですか?』頬杖をついて、満更でもなく笑う()と目があった。

 

 …………やっぱり、糞袋女にすれば良かったです。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

44話 何も無かったと思います

 

 

 ヒーロー名が決まったのはいいですが、次の問題は職場体験ですね。

 

 早朝から考えるだけで面倒というか、行きたい場所が皆無というか、大抵の大人と相性が悪いのでヤな予感しかしません。

 

「……ふあぁ」

 

 でも、あと1日は包帯を巻いたままでいいですし、考えなくてもいいでしょう。お茶子ちゃんの腕に心地良く身を預けながら欠伸します。

 

「被身子ちゃんは、おかかと梅干しどっちがいい?」

「……どっちも、おいしいです」

「あ、でも酸っぱい方が起きる?」

「……んぅ、普通です。辛くても、あんまり目、覚めないです」

「そういえばそうだね」

 

 そんな話をしながら、傘が奏でる子守唄にウトウトしながら真新しい訓練施設に足を踏み入れます。

 途端、昨日とは違うざわつきと人の多さに(うわぁ……)と、呆れを覚えます。B組がいるとは聞いていましたが、A組もほぼ勢揃いじゃないですか。

 

「あ、トガー!!」

 

 足が止まっていると、手を振って駆けてくる芦戸ちゃんが飛びつくように抱きついてきます。

 

「おはよー!!」

 

 待って胸が当たってドギマギしてちょっと目が覚めました。

 

「……お、はようございます。はやいですね」

「待ちきれなかった!」

 

 にひっと笑っているのだろうご機嫌な芦戸ちゃんの頭を撫でると、癖っ毛が指先に心地よい。

 お茶子ちゃんが慌てて「三奈ちゃん気合はいってるね! 急いで着替えてくるね!」と、更衣室に引っ張られます。

 

「急がなくて大丈夫ー」

 

 笑って見送ってくれる芦戸ちゃんを背に更衣室に入れば、こっちはこっちで少なくない人の気配。……ヒーロー科の女子って数が少ないのに、暇なんです? こんな早朝から自主的に特訓とか元気いっぱいですか。

 

「あ、2人とも、おはよー!」

「おはようございます」

「……おはよ」

「おはよー!」

「おはよう、ございます」

 

 元気な葉隠ちゃん、ピシッとしている百ちゃん、眠そうな耳郎ちゃんに2人で挨拶します。……本当に元気ですね? 梅雨の湿気や体育祭後の気だるさとは無縁そうなヒーローの卵たちに、羨ましさを覚えます。

 光属性の眩しさを感じながらもそもそと着替えていたら、待ちきれないお茶子ちゃんに着替えを手伝って貰えました。

 

「んー……」

 

 さて、そろそろちゃんと起きましょう。

 

 頬を軽くペチペチします。まとわりつく眠気はしょうがないですが、これからは芦戸ちゃんを鍛えるこの日々が日常になるのです。

 

 だから、早く慣れなくてはと、すぅと息を整えます。

 

 

 

 

 ――――そして、予定とはあっさりと崩れてダメになるものだと、最初の一歩で気付かされました。

 

 

 

 

 今の私は、少しだけ怒っています。

 

 芦戸ちゃんの、ちゃんと視ればすぐに分かる考えなしな行動に呆れてもいます。

 眼の前には、ソレを指摘されて涙目で正座している芦戸ちゃん。さっきの笑顔は消えて温度差が激しいです。その横ではオロオロしているお茶子ちゃん。何故か遠巻きにこっちを見ているA組とB組の人たち。

 

 

「……私は少し、芦戸ちゃんに優しすぎましたかね?」

 

 

 まさかの裏切りです。

 たかが特訓2日目で、芦戸ちゃんがやらかすとは思っていませんでした。私の声色にも苛立ちがまじります。

 

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っ!!」

「ひ、被身子ちゃん! 三奈ちゃんも悪気はなかったというか、ちょっと頑張りすぎちゃっただけで……許してあげて!」

「フー。そうですね、お茶子ちゃんのお願いは聞いてあげたいですが、私も師として弟子の教育に手は抜けないです」

「…………あ、はい」

 

 私が怒りを静めないと分かると、すごすご引いてくれるお茶子ちゃんに、すがる様な目を向けている芦戸ちゃん。

 ……まったく、まさか早々に若さという未熟さの洗礼を受けるとは思っていませんでした。

 わざと、少し威圧しながら近づくと、芦戸ちゃんの肩が大げさにはねます。

 

「気持ちが焦ったのは察します。元気が有り余っているのも、根拠なく自分の身体を信じていた事も、理解はできます」

「……ひゃいぃ」

「ですが、勝手に自主練するとか、バカなんですか?」

 

 強調しますがバカです。私はいつだってギリギリを狙って鍛えているのに、自分の身体を知らないにも程があります。

 元気とやる気があるのはいいですが、明らかなオーバーワークです。

 

「私はちゃんと、暫くは体作りだといいましたよね? 体を苛める許可はだしてません」

「……っ!!」

 

 ジワリ、と。もう少しだけ圧力をかけて包帯越しに見つめる。

 

「膝にダメージが溜まっています、今日は走るのも禁止です」

「ご、ごめんなさい……」

 

 プルプルしている芦戸ちゃんの額をそっと握って、じわりと力をこめます。

 

「……いいですか? 仮にですが、こんな考えなしの生活を続けた場合、芦戸ちゃんの膝は2年でダメになります。そんな事もわからない癖に、自覚すらできない癖に、衝動に任せて肉体に負荷をかけるとか、遠回りな自傷行為です」

 

「……ご、ごめんなさ、昨日の夕方に、走っちゃいましたぁ」

「おバカ」

「ほんとうに、ごべんなざいぃ……っ!!」

 

 ……まったく。しょうがない弟子ですね。

 

 皆の前で子供みたいにべそをかいてプルプル震えているのは情けなくて可愛いですが、二度とこんなことがないようにもう少しだけ怒ります。……決して、ゾクゾクしているわけではありません。ここで力関係をしっかり刻みつけたいだけです。

 

 ほら、B組の担任であるブラドキングも、近くに来つつ、私の言っていることが間違ってないので気まずそうに様子見に徹しています、つまり大丈夫って事です。先生が何も言わないから間違ってないのです。

 

「……勘違いしないでください。私は芦戸ちゃんに何があろうと、絶対に見捨てないし手放しません」

「……ッ、とがぁ」

「芦戸ちゃんは、私の弟子ですからね」

 

 少しの飴を与えつつ、心の鞭を握りなおします。

 

「―――ですが、予定にない療養期間なんて芦戸ちゃんも辛いでしょう?」

「えぅ……!?」

 

 ゆらりと、私は怒ったら怖いんですよ? と月の香りを薄く纏います。

 

「必要になったら、私が優しく壊してあげます」

「ぅ、あ……っ」

 

 ゆっくりと、甘く、耳元で囁く。

 

「だから、次に勝手したら……生け花です」

「――――ほんっとうにごめんなさいそれダメぜったい怖いやつだからゆるしてやめてー!!!!」

 

 ガバーっとすがりつかれて、体操服に涙と鼻水の感触。

 

「…………ハァ」

 

 もう恥も外聞もなく謝りたおす姿に、おしまいの溜息をこぼします。……これ以上は芦戸ちゃんの心がもちそうにないですし「……もう、ヤっちゃだめですよ」と、許してあげる。

 

 

「……え、怖い。泣きそう」

「泣いてるぞ」

「……鍛えりゃいいってもんじゃないんだな、負荷もちゃんと意識しないと」

「被身子ちゃん、優しいけど甘くないから……」

「……麗日さんも、あんな風に怒られたことがあるんですの?」

「ううん。……ただ『力の無いヒーローに意味あるんです?』とか『そんなに弱くて、ナニが守れるの?』って、不思議そうに尋ねられるだけ」

「――きっつ!!??」

「麗日にも、そんなに厳しいんだ……」

「ケロ……でも、言っている事は間違ってないわ」

 

 ちょっとお茶子ちゃんたちが騒がしいですね。

 気になりますが、今はぐしゅぐしゅ泣いている芦戸ちゃんをよしよしするのに忙しいです。

 

「……まあ、罰として暫くは筋トレだけです」

「うわあああん……!!!!」

「自業自得です。というわけで、ちょっと暇になったので、暫くはお茶子ちゃんを重点的に鍛えますね!」

「え、本当!? やった!!」

 

 ぴょんっと喜ぶお茶子ちゃんに嬉しくなるも「あ」と首を傾げる。

 

「……でも、他の人と特訓する予定があるなら後でいいですよ?」

「ううん! そんな予定はないから是非お願いします!!」

「被身子さん!!」

 

 と、急に百ちゃんが前に出てビシッと手をあげます。

 

「私、八百万百を!! どうかよろしくおねがいします!! 私の事も鍛えていただけませんか!?」

「立候補した!?」

「え、ずるい!!!!」

「トガちゃん、私もー!!」

「あの、ウチも……お願いしたいんだけど」

「ケロ。私もお願いしたいわ……迷惑じゃなければ」

「……へ? 皆のスケジュールに問題がないなら、いいですよ」

 

 なぜ私にお願いするのか分かりませんが、昨日の芦戸ちゃんとお茶子ちゃんとの訓練を思い出すに、大した手間にもならないので頷きます。

 むしろ、変に時間があるとチウチウ欲に襲われるので助かります。

 

 

「芦戸ちゃんの罰に期限は定めていませんし、いつでも大丈夫です!」

「やーだー!! 皆ずーるーいー!!」

 

 

 うるさい芦戸ちゃんには足に負担のかからない筋トレの完遂を命じて、途中から更に名乗りをあげてくるA組の子達とも一緒に特訓することにします。

 

 まあ、初日だし多人数ならまとめて蹴散らすのがいいでしょうと、立候補した全員に「おいで」と誘いをかけて、立ち回ります。

 

 

「まって!? ちょっソレはあふンッ!?」

「うっそだろなにその動き!? 消えてぶへえ!?」

「あー!? なるほどこりゃ当たらねえわああ――――!!」

「切島がふっとばされたって俺もかー!!!!」

「クッソがああああ!!??」

「無・理☆」

「渡我ー!! 俺も混ぜろー!!」

「今日も胸をお借りします!!」

「おいB組も来たぞ!?」

「かわれ―――へぶう!!??」

「きゃー!?」

「ごほっ!!??」

「待って、さっきまでいなかっブハッ!?」

「ケロ!!??」

「えええええええ!?」

「……ぐおおおお!?」

 

 

 うーん。弱い。

 

 全員、あえてスタミナ切れを狙う様に立ち回りましたが、想像以上にすぐにダメになって地面とお友達になっています。

 それでも立ち上がろうとする精神力はすごいですが、肉体がついていけてません。予想外に体力と持久力がなさすぎますね。

 

 

「……皆さん、そんなに弱くて大丈夫です?」

 

 

 ぐはっ!? と複数人が変な声をだします。でも、皆の脆弱さが心から心配です。複数人と戦うのが苦手な私ですら余裕って、どういうことです?

 

「ごめんねぇ……明日は、もうちょっと手加減してあげますね」

「ぐっ!! ……胸と体が痛ぇ!! 」

「……嘘みたいだろ? コレ、親切心故の発言なんだぜ?」

「クソガァァ……ッ!!!!」

 

 暫くは起きれないでしょうけど、負けん気が強い数名から睨まれました。

 

「トガ、あたしも……」

「芦戸ちゃんはダメ。勝手な事したんだから、罰としてもっと焦れてください」

「もう勝手しないー!! 絶対しないー!!」

「ダメ」

「うぐぐぐぐっ」

 

 悔し涙を流すのを感じつつ、そういえば途中参戦してきた鉄哲くんと塩崎ちゃんだけは回収しないとダメですよね? よいしょっとぐったりして肩で息する汗だく2人を抱き上げます。

 ええと……あっちですね。

 

「すみません、B組のクラス委員長さんですよね? お2人をお返しします」

「……えっ!? うん。わざわざありがとう」

 

 B組のクラス委員長さんだという女性の気配を探り、鉄哲くんと塩崎ちゃんをお返します。

 

「ま、まて……俺は、まだ……」

「ダメです」

「わ、私も……」

「ダメですってば」

 

 立ち上がろうとする2人の額をぺちっとして、やれやれと壁にもたれさせてあげる。

 

「……あー、2人ともヘロヘロじゃん。……えっと、渡我さん、だよね?」

「はい」

「包帯越しでも分かるって凄いね! 改めて、私は拳藤一佳。一佳でいいよ」

「分かりました、一佳ちゃん。私はトガヒミコです、好きな様に呼んでください」

「じゃあヒミコで! ……あのさ、ほぼ初対面で図々しいんだけど」

「はい?」

「私()()も、ヒミコの訓練相手に立候補していい?」

 

 ……ん、たち?

 

「私だけじゃ喧嘩になりそうだから、B組の希望者だけでも! お願い! ……さっきのA組みたいなのでいいからさ、ダメ?」

「んー……?」

 

 ちょっと、人見知りが発動しそうですが、周りの気配を探っても、まだ自己紹介もしたことのないB組の面々が期待しているのは感じます。

 個人的に、一佳ちゃんみたいなタイプには好感を抱きますし……まあいいでしょう。

 

「いいですよ、暇ですし」

「ありがとう!」

 

 軽く頷くと、一佳ちゃんは嬉しそうな声で「じゃあ皆! ヒミコに相手して欲しい希望者は準備して3分後ね! あ、当然“個性”の使用は無しだから!」と、わくわくした様子で屈伸しています。その様子を見守っていると、隣に大きな気配が近づいてきます。 

 

「……すまない、トガ。よろしく頼む」

「あ、大丈夫です。ブラドキングも引率してくれてありがとうございます」

 

 あと、今度血をくれません? と言いたいのはぐっと我慢します。

 近くに来たブラドキングの、“個性”故の血の濃厚さを鼻腔に感じながら、うずうずする衝動をごまかします。

 

 まあ、なんだかんだB組さんと交流が持てるのは良い事ですし、そういう意味では一佳ちゃんに感謝ですね。……後ろで芦戸ちゃんがひたすら歯ぎしりしてますが、もうちょっと悔やませたいので放置です。

 

 さて、それじゃあ。

 

 

「一佳ちゃんたちはA組の皆より弱いから、優しく撫でてあげますね」

 

 

 だから、遠慮なくぶつかってきてねと、安心させる様に「おいで」と招きます。

 

「―――……あっちの子が言ってたのは聞こえてたけど、すっごいナチュラルに煽るわね? ……物間がいなくて良かったわ!!」

「ふあい?」

「―――上等!!!!」

 

 

 ふむ? 重い拳を軽く受け止めながら、一佳ちゃんをぽいっと投げます。

 この調子なら、今日も朝の時間は平和に終わりそうです。

 

 

 

 

 

 ――――ふあぁ、と。

 

 あ、なんか気づいたら昼休みです。

 

 

 ダメですね……眠気で記憶がかなり飛んでます。

 ええと、朝練の後は、B組さんと少し仲良くなって、後は普通でしたよね? ……欠伸を噛み殺し、軽く目元を擦ります。

 今日は、休み時間の度に芦戸ちゃんが背中に張り付いて許しを乞うてくるぐらいで、特に変わった事のない素晴らしき普通の日です。

 

 今は、流石に芦戸ちゃんが引き剥がされて向こうでご飯食べてます。そして、お茶子ちゃんが本題だとばかりに、緊張を誤魔化しながら自然を装って口を開きます。

 

「……そ、それで! 職場体験なんだけどね? 被身子ちゃんはできればクラスの誰かと一緒のところがね? いいと思うの!!」

「……そんなところ、ありますかね?」

「そりゃたくさ……ううん!! どうかなー!? もしかしたら、あるんじゃないかなー!? 明日には包帯取っちゃうんだし、今の内に決めとこう!?」

 

 はて? なぜ包帯をとることが今の内になるのかと首をかしげつつ、お茶子ちゃんが言うならそうなんでしょう。

 

「……と言っても、私に指名があると思えませんし、学校側が用意した事務所になりそうで……あ、確かにそれなら誰かと一緒に行けそうですね」

「……ウン、ソウダネー」

 

 お茶子ちゃん、挙動不審ちゃんです?

 

「……ちなみに、被身子ちゃんの希望ってある?」

「無いです」

「無いんだ!?」

「はい。“個性”を使って、その事務所のヒーローになればどうとでもなりますし、なんでもいいです」

 

 2人で握ったおにぎりを食べながら、魔法瓶にいれていたお味噌汁で喉を潤す。

 

「……被身子ちゃんって、器用万能だよね」

「ありがとうございます」

 

 普通が分からないという、全てを台無しにするマイナス点を隠しながら、素知らぬ風で頷きます。

 

 本当は、職場体験はお茶子ちゃんと一緒のところがいいけど、そこまで甘えられませんしね。

 

「…………渡我」

「はい?」

 

 

 と、どことなくソワっとした空気を纏って、食堂に行くのを遅らせていた轟くんが声をかけてきます。

 

「…………どこでもいいなら、来るか?」

「? どちらに」

「…………エンデヴァーヒーロー事務所」

 

 はて? どこかで聞いたよう……って、ああ、体育祭の時に会った、轟くんのお父さんのヒーロー名ですね。

 

「……ふむ?」

 

 少し考えて、よくよく考えなくても丁度良い気がしますね。

 

「じゃあ、そうします」

「ええ!? そんな簡単に決めちゃっていいの!?」

「はい、轟くんが一緒なら心強いですし」

 

 優しい轟くんなら、職場体験で普通から外れた行動をしても、助けてくれそうですし。

 

「……分かった。体験先の紙はこっちで出しとく」

「あ、わざわざありがとうございます!」

「……良い。借りは、ちゃんと返していく」

 

 はい? 借り?

 

 え、なんかありましたっけ? 少し冷めたお味噌汁を、お茶子ちゃんの分まで温めてくれる轟くんに首を傾げてしまう。

 

「……絶対返す」

「え、はい」

 

 そんなに強調されても、轟くんに貸したものとかありましたっけ?

 何も思い出せずに困っていると、今度は憮然としつつ落ち込んだ空気を纏って、轟くんが教室を出ていきます。

 

「? どうしたんですかね」

「……うん。今のはちょっと、轟くんが気の毒かなぁ」

 

 えっ? 熱々のお味噌汁をじっくりと味わいながら、お茶子ちゃんがしみじみとした様子で私の頭を撫でました。

 

 ……どういう事なんです????

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。