艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり (稲村 リィンFC会員・No.931506)
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本編
プロローグ 漂流


 アンドロメダが艦これ世界に転移する直前の回想語りになります。


 私は確かに火星沖で沈んだはず──

 

 

 

 西暦2202年、彗星に擬態した移動する極めて危険な──嘗て地球を滅亡寸前まで追いやったガミラス帝国よりも遥かに危険な──侵略国家、帝星ガトランティスが地球への侵攻を本格化。

 

 私こと前衛武装宇宙艦AAA-1アンドロメダは地球連邦防衛軍航宙艦隊総旗艦として山南修司令(けん)艦長の指揮の下、これに対処すべく波動砲を装備した最新鋭艦で編成された新艦隊──通称、波動砲艦隊──を率いて戦いに身を投じました。

 

 

 迫り来るガトランティスの大艦隊を迎え撃ち、数多の敵艦を撃破しましたが、肝心のガトランティス本隊を止めることは、ついぞ叶わず戦没致しました。

 

 

 ですが少なくとも『希望』は繋ぐことが出来ました。

 

 

 BBY-01 ヤマト、さん…。

 

 

 嘗て地球の危機を救った英雄の艦。

 

 色々と個性豊かな乗組員の方々に振り回されてはいますが、その実力と運は地球艦隊随一。

 

 常に凛々しく立ち振る舞い、自信を持った瞳で前を見据えるそのお姿に、私達地球艦隊の全艦が尊崇するお方。

 

 ですが、乗組員の方々に似たのか、実はヤンチャで向こう見ずな子供っぽくて可愛らしい一面があったりするお方。

 

 

 ──そして、私の母にして、私が最も愛するお方。

 

 

 一時はガトランティス本隊の彗星に飲み込まれて行方不明となり、撃沈されたものと思われて私は激しく動揺して取り乱し、私を庇って先立たせてしまった愛する妹のアポロノームだけでなくお母様、ヤマトさんまでもと深い悲しみに慟哭し、その後溢れんばかりの怒りと憎しみの怨嗟に身を焦がし、必ずや復讐を!血の復讐を!!と心に刻み戦いに挑みましたが、偶然、敵本隊内に点在する惑星の一つに不時着しているのを発見。

 

 ヤマトさんが生きていた!ああ、ヤマトさんが生きていてくれた!!と復讐一辺倒となっていた私の心は歓喜に満ち溢れました。

 

 ですが安堵したのも束の間。余程被害が深刻なのか、惑星から離脱しようとしているヤマトさんの動きはかなりぎこちないものでした。

 

 しかもあろうことかガトランティスはそんなヤマトさんにトドメを刺そうというのか、その惑星に大艦隊を集結させ、波動砲を凌駕すると言っても過言ではない大量破壊兵器を、今まさに撃とうとしていました!

 

 何とか離脱しようと必死に足掻いているヤマトさんの姿を見て、いてもたってもいられませんでした!

 

 僚艦として付き従った私の妹達、BBBのみんなは既に沈み、私自身も孤立状態でしたが、そんなことは関係なかった!

 

 助けを求める友軍艦がいる。それが愛するヤマトさんなら尚更!!

 

 幸いと言っては不謹慎ですが、最早単艦となった私だけでは当初の任務、敵本隊に痛撃を与えることは既に困難でした。

 

 ならば次への希望を繋げるために。「明日のために、今日の屈辱に堪える」とはヤマトさんの初代艦長沖田十三閣下の教え。

 

 山南艦長もヤマトさんの救出を即断してくださいました。

 

 

 その後は正に死闘。

 

 

 兎に角ヤマトさんの元まで辿り着くのに必死でその時の事はよく覚えておりません。

 

 

 ヤマトさんと私の間には未だに多数の敵艦が行く手を阻むかのように展開していました。

 

 それに私にはある一つの不安要素がありました。

 

 本来有人艦として運用することを前提とした設計により建造された私の艦体は、無人艦として設計から手を加えられて建造された末の妹達のBBBと違い、どうしても強度的に脆い箇所が幾つも有りました。

 

 先の土星で行われた一大決戦で受けた損傷の修理と平行して徹底的に行われた補強により、計算上では末妹達と同等の機動力を発揮出来るようになるはずでしたが、損傷によって生じた艦体内部の歪みは思いの外に酷く、修理や補強ではもうどうにもならず、全力での機動にリミッター(決して山南艦長のことではありませんっ!!)が設けられていました。

 

 その為私の劣るところを僚艦である妹達がカバーをすることとなっていました。

 

 ですが、私を支えてくれていた妹達は、もういません。

 

 かといって、このまま制限を掛けたまま敵艦隊に突入したとしたら、私はまず間違いなくヤマトさんの所ではなく、先に逝った妹達のいる所に辿り着くことになるでしょう。

 

 故に山南艦長はリスクを承知でリミッターを解除されました。

 

 

 そこからはもう無我夢中でした。

 

 周りは見渡す限り敵、敵、敵!私に装備された全兵装を出し惜しむ事無く、銃砲身の排熱が追い付かなくなる勢いで撃ちまくり、残弾関係無くミサイルや魚雷をばら蒔き散らしては敵を次々と火球へと変え、敵の間を縫う激しい機動の連続によって艦体が軋み、敵の攻撃が被弾してどれ程傷付き、限界まで出力を上げたエンジンが悲鳴を上げようともお構いなしに駆け抜けたとしか覚えておりません。

 

 愛するヤマトさんを助けたい!ただただその一心を、その思いだけを胸に抱いて。

 

 気づけばいつの間にかヤマトさんの妹である銀河さんも駆け付けてくれていました。

 

 正直あのお堅い銀河さんが来てくれたことに、失礼ながら大変驚かされましたが、嗚呼、この方もヤマトさんの姉妹なんだと実感しました。そして同時に安堵も致しました。

 

 

 ──私はもう、長くはなかったからです。

 

 

 戦闘により傷付いた艦体以上に、私の内部はぼろぼろでした。

 

 矢張私には全力機動は無理があったみたいです。

 

 ヤマトさんを助け出した後の事に一抹の不安がありましたが、銀河さんが来てくれたお陰で後顧の憂の一つが断てました。

 

 後は──山南艦長、ここで御別れです。

 

 

 少々強引ですが、破壊されてオープントップとなってしまっていた艦橋から退艦していただきました。

 

 私の艦内は戦闘によるダメージ等で通路もズタズタにされていましたし、手近な脱出装置も悉くが使用不能状態でした。

 

 まだ何とか機能していた慣性制御により、今私の頭上にいるヤマトさんに向けて打ち出す様に脱出していただきました。

 

 

 山南艦長が無事に脱出し終わるのを待っていたかのように、私のエンジンは暴走し始め、エネルギーの上昇が止まらなくなりました。

 

 

 もうすぐ私は、私の艦体から溢れた波動エネルギーの濁流に呑み込まれて此の世から消えて失くなる事でしょう──

 

 正直に言えば、叶うならば、山南艦長の指揮の下、もっと航海がしたかったです!ヤマトさんやまだ戦っている妹達に防衛軍艦の娘達、折角仲良くなったガミラス艦の娘達と共に艦列を列べて一緒に戦いたかったです!!

 

 我が儘だとはわかっています。先に逝った娘達や私の妹達もきっと、同じ気持ちだったでしょう。まだ沈みたくない!まだ逝きたくない!と。

 

 

 ですが、どんなに泣き叫ぼうが、もうどうにもなりません。

 

 

 戦列を離れる私を、どうかお許しください。後を頼みます。

 

 ヤマトさん。地球の事を、宜しくお願い致します。

 

 

 

 ──さようなら。

 

 

 

 

 また何時か──

 

 

 

 もしも、来世というものが、本当に、あるなら、その時は──

 

     ───────────

 

 

 前衛武装宇宙艦ZZZ-0001アンドロメダ改、火星沖にて爆沈。

 

 

 後世の歴史家達は語る。「この時山南艦長の決断とアンドロメダによる鬼神の如き獅子奮迅の活躍が無ければヤマトは失われ、地球は確実に滅亡していた」

 

 

     ───────────

 

 

 あの時、間違いなく私は沈んだはずでした。

 

 エンジンの暴走によって溢れた波動エネルギーの奔流に呑み込まれて世界が真っ白になったのをハッキリと覚えています。

 

 

 ですが気が付いたら私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でそれを囲むように配置された()()()()()()()()()()()()()()()()()で構成された装置?と共に何処かの惑星上と思われる海上で漂流するかの様に浮いていました。

 

 

 正直言って、訳がわからなくなり軽くパニックになりました。

 

 各々の船にはその船の魂と呼べる、人間でいう女性の姿に酷似した存在が必ず1人居ます。

 

 ですがそれは、いわば概念的存在であり、外的刺激を受けることはありません。

 

 しかし今の私は、その肌で潮風を感じる事が出来ますし、身体にかかる波飛沫の水の感触、潮の香りもしっかりと認識する事が出来ました。

 

 もう何がなんだかわからず、ただ呆然と海の上をただ漂い続けました。

 

 

 

「一体私は、どうしてしまったのでしょう…?」

 

 

 ふと呟いた私の疑問に、答えてくれる存在がいるわけではなく、ただただ途方に暮れるしかありませんでした…。

 

 

 

    ─────────────

 

 

 

 無限に広がる大宇宙。

 

 

 この無数にある星々の煌めきの中に、様々な生命の営みがある。

 

 

 

 『愛』

 

 

 『希望』

 

 

 『野心』

 

 

 『戦い』

 

 

 

 それら全てを飲み込んでなお、宇宙は果てしなく静寂にあり続ける。

 

 

 斯くも広大なればこそ、宇宙は時に、奇跡と呼ぶほかない偶然に我らを導きもする。

 

 

 

 これは、そんな奇跡が産み出したのかもしれない偶然の一つに導かれた、ある1隻の数奇な運命に翻弄された戦艦が、本来ならば交わるはずの無い世界での航海を綴った物語である。

 

 

 

 




アンドロメダの設定


 身長190cm近い長身。見た目はスレンダーだが、着痩せするタイプ。色白の肌に金髪。
 服装は防衛軍の艦長服。軍帽を被っている。

 普段は真面目だが、ヤマトに対して尊崇に近い感情と恋愛感情からか、ヤマトの話題ではいささか暴走気味である。

 嘗ての艦長である山南修一佐の影響か紅茶好き。ダージリンのセカンドフラッシュ(夏摘み)とオータムナル(秋摘み)をいずれ飲んでみたいと思っているが、今のところはOMCSの代用品で我慢している。

 なお酒類はあまり得意ではない。


艤装


 艦長席を模した座席を中心にして、縦に2分割したアンドロメダ艦首部分のパーツが挟み込む形状。

 左右両方に分割された1、2番砲塔バーベット部分にそれぞれ主砲を設置の計4基。

 座席後方にはエンジン部分のパーツが付く。

 上から見たら三胴艦に見える。はっきり言ってデカイ。

 艤装はそれぞれ分割展開が可能。

 OMCSを完備しているため、今のところ飢える心配は無い。


 以下、今後に関わる予定の台詞抜粋。


「丁重にお断り致します」

「はい。嘗ての貴方に対する意趣返しです」

「私という存在が、いずれ新たな戦争の火種となりえます」

「私はオーシア連邦国防海軍所属、情報収集艦アンドロメダです。暫くの間、この艦隊で御厄介になります」


「っ!失礼しました。自分は地球連邦北アメリカ州軍艦隊所属、アリゾナ級護衛戦艦アリゾナであります!防衛艦隊総旗艦殿!!」

「まさか、アンドロメダの姉貴かっ!?」 

 


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第1話 初めてのTEATIME 「現実逃避ではありません。…したくもなりますけど」

 サブタイトルではTEATIMEと書きましたが、アンドロメダ自身の確認がメインとなります。

 今何が出来て、何が出来ないかを十分に把握しないまま行動に移せば、何かしらの不測の事態に陥るリスクが高くなります。


 満天の星空が煌めく洋上の一角で、星明かりとは別の光が仄かに灯っていた。

 

 

 未知の現象に途方に暮れていたアンドロメダだが、このままじっとしていても埒が明かないと気持ちを切り替え、兎も角これからどうするかを決めるためにも今自分が出来る事の把握に努めていた。

 

 

 彼女がまず行ったのは自身の確認。

 

 

 なぜ自分が肉体を持った姿となったのかという疑問は幾ら考えてもわからないから取り敢えず棚上げとし、今自分が乗っているアンドロメダ級の艦体を模しているのであろう装置?の確認を行った。

 

 

 結論を先に言えば、この装置は自身の半身とも言えるアンドロメダの艦体その物だった。

 

 

 本能?的なモノで薄々そう感じてはいたが、確信に至ったのは今腰掛けている座席に備え付けられていたタブレットを使用した時だ。

 

 外装にUNCF AAA-1 ANDROMEDA*1と刻印されている以外に、見た目は民間で使用されている物と大差が無いが、中身は全くの別物。*2

 

 防衛軍で使用されている軍用の、それも艦内用で使用されているタブレットは艦毎のメインコンピューターと連携しており、権限と正規の登録、認証さえあれば自由にアクセス可能であった。*3

 

 そしてそれは艦に関する最高機密*4の数々とも繋がっており、正規手順で無ければタブレット自体が機密保持のため自己崩壊する仕組みとなっており簡単に解析、複製出来る様な代物ではない。

 当然だがクラッキング等の不正アクセスに対するセキュリティーレベルも高い。

 

 アンドロメダ自身の事でもあるため、艦に関する全てを記憶として網羅していた。

 

 自身の記憶とタブレットに表示された最高機密情報に寸分の違いも無い事から、このタブレットが何等かの形で複製された偽物ではなく本物であると結論付けた。

 

 そこからこの装置がAAA-1その物であり、今現在のコンディションも過不足無く把握することが出来た。が、更に別の謎も出てきた。

 

 火星沖でヤマトを救出した時のアンドロメダは改装されたZZZ-0001アンドロメダ改の装備だったが、今の装備は完成時のAAA-1だ。*5

 

 また就役時、パイロットの不足から一度も搭載した事の無い艦載機*6が搭載可能最大数の2個飛行隊分36機が搭載されていた。

 しかし主力艦載機として配備が進んでいた新鋭機の1式空間戦闘攻撃機コスモタイガーⅡではなく、一世代前の主力機99式空間戦闘攻撃機コスモファルコンだったが。

 

 それ以外にも様々な差異があるが、一番の違いは────

 

「あんどろめだサン、ゴ命令イタダイテオリマシタ情報ノ分析ガ完了致シマシタ」

 

 

──本来アンドロメダ級には搭載されていなかったはずの自立型コンピューター、通称AUシリーズ──がコンソールのパネルに映し出された。しかも──

 

「ありがとうAUO「あならいざートオ()ビ下サイ」…アナライザー」

 

 そう、本来ならばヤマトに搭載されていたアナライザー(こと)AUO9が何故か居るのだ。

 

 

 メインコンピューターを立ち上げた際に「私ハ優秀。(マカ)セテ安心」と言いながらコンソールの上に二頭身サイズでデフォルメされた実体を持った姿で突然現れたものだから、驚いて座席かららずり落ちそうになり、その弾みでタブレットを思わず手放してしまい、危うく海に落としそうになったりと散々な目にあった。

 

 何故彼?がここにいるのかも全くわからない。当の本人もアンドロメダ同様気付いたらこうなっていたという。

 

 

「丁度良いわ。OMCSのテストも兼ねてこれより半舷休息とします。あの子達にも休むように伝えて」

 

「ワカリマシタ」

 

 そう言うとタブレットをOMCSの操作画面に切り替え、嗜好品のメニュー画面を表示した。

 

 何にしようか顎に手を当てて悩んでいると、艦体のあちこちがハッチの様に開いて、中から防衛軍の艦内服を着た二頭身のデフォルメされた小人達──本人達曰く、妖精と言うらしい──が各々好きな嗜好品を片手に出てきては、思い思いの場所に腰掛けて喫飲を始めた。

 よく見ると中にはラベルに『美伊』とプリントされた酒瓶を持っているのもいた。

 

 誰が飲酒を許可したの?と苦笑しながら、紅茶と茶菓子のスコーンを選択し、一旦タブレットを閉じた。

 

 紅茶が来るまでの間、座席を倒し、手足を伸ばして軽く息を吐きながら瞳を閉じる。

 

 

 確認していて色々とわかったが、今の彼女は一言で言うなら人間サイズにまでダウンサウジングしたコンパクトな前衛武装宇宙艦だということ。

 

 彼女と装置は一心同体であり、装置を艦体とするなら操作を司る彼女は謂わば艦橋兼艦長だ。

 

 そして艦橋設備と言えるこの座席だが、元の艦長席を意識しながらもコンソールはかなり簡略化されている上に座席の側面には戦闘機の操縦で使う様なコントロールスティック(サイドスティックタイプ)やスロットルレバーがある等、1人で操作するための機器類が設置されている等の差異が見られる。

 

 武装面に関してもAAA-1と大差無いのだが、主砲である40.6センチ3連装収束圧縮型衝撃波砲塔*7がほぼ艦首方向への集中配備型*8となっていたり、艦橋周辺に本来配置されていた武装は2基のパルスレーザー砲塔とミサイル発射管以外無くなっている。

 

 魚雷にミサイル、砲弾といった各種実弾兵装のストックは定数を満たしているが、補給のあてが無いために使用は可能な限り控えたい。

 

 もし戦闘が発生した場合は残弾の心配が無いショックカノンを軸に戦う事になるだろう。

 

 問題はサイズが小さくなった分、威力と射程距離がどれ程下がったかである。

 

 それに関しては艦首に装備されたアンドロメダの最強兵器、2連装次元波動爆縮放射機──通称、拡散波動砲──にも同じことが言えるが、波動砲はそれ以外にも重大な問題を抱えていた。

 

 それは──、と思考を巡らせていると仄かに鼻腔を擽る芳ばしい香りに気付き、うっすらと瞳を開く。

 

「オ待タセ致シマシタ。御注文ノ紅茶トすこーんデス」

 

 模型サイズにまで小さくなったコスモシーガルの背面に器用に乗ったアナライザーが、茶運び人形の様に盆を持ってホバリングしながら近付いてきていた。

 

 盆の上には白い湯気を漂わせるティーカップとスコーンが盛られた皿が置かれている。

 座席を起しながらそれらを礼を言って受け取ると膝の上に乗せ、カップを手に取り注がれた紅茶の香りを楽しんでから一口啜って風味を楽しむ。

 と言っても、これが初めて飲む紅茶(そして初めての飲食)だから良し悪しはわからないが…。

 

「山南艦長なら、違いが分かるのでしょうけど…」

 

「合成品デスカラ、本物ヲ知ル方ニハ物()リナク感ジルミタイデスカラネ」

 

 何の気なしに呟いた言葉をアナライザーに聞かれて、羞恥から顔を赤に染めた。

 それを隠すかのように茶菓子のスコーンを一つ手に取ってかじり付いた。

 

 ふとコンソールの辺りから視線を感じて顔を向けると妖精達がコンソールの上に集まり、こちらを物欲しそうな表情で見ていた。

 

 何かしら?と小首を傾げるが、よく見ると彼等の視線はアンドロメダが手に持つスコーンに集中していた。中には涎を垂らしている子までいる。

 

 それを見て悪戯心が刺激されたアンドロメダは、手に持つスコーンを右に左に上に下にと動かした。するとそれに釣られて妖精達も視線を追随させた。

 

 そんな妖精達の可愛らしい姿に笑みを溢しながら、残ったスコーンを皿ごと差し出すと、彼等は満面の笑みを浮かべ、しきりに頭を下げながら持っていった。

 

 その後ろ姿を眺めながら紅茶を更にもう一口啜ると、アナライザーに視線を向ける。

 

「今のところOMCSの稼働に問題は無さそうね」

 

「ハイ。デスガ波動えんじんノ不調ニヨリ、OMCSノ稼働二必要ナえねるぎーノ供給ガ不安定ナ為、稼働二制限ガ付キマスガ…」

 

 その報告にアンドロメダは形の良い眉を顰め、手に持つカップに視線を落とした。

 カップに注がれた薄い琥珀色の液体に、眉根を寄せた自身の顔が写る。

 

 

 分かっていた事だが、いざ面と向かって改めて言われると、少なからず気落ちするモノがある。

 

 

 少し前に、艦の心臓である主機、次元波動エンジンが原因不明の不調により、出力が一定ラインを越えると忽ち作動が不安定になり、最悪暴走する可能性があると、エンジンの確認を行っていた機関科の妖精から報告されていた。

 

 これによりエンジンの出力を下げざるを得ず、また其れによって様々な弊害が出ていた。

 

 

 最も深刻なのは戦闘に関してである。

 

 

 攻撃の要であるショックカノンは、自慢でもあった速射能力を抑えるか、威力を抑えるかしなければならず、防御の(かなめ)、波動防壁は連続稼働時間をかなり短くしなければならなかった。

 

 そして何より、波動エネルギーを大きく消耗し、エンジンへの負担が大きい波動砲は事実上使用不可と言っていい。

 

 一応撃てなくは無いが、エンジンへの負担を抑えるためにチャージに時間を掛ける上に、一度撃つと行動不能になると予測結果が出ていた。

 

 ガミラス戦役で金剛型や村雨型に初めて搭載された最初期のショックカノンみたいな状態だ。

 

 

 それに比べたらOMCSはまだマシな問題と言える。

 

 

 また本来のホームグラウンドである宇宙まで上がることも出来ない。

 

 

 アンドロメダの見立てでは火星沖でのエンジンの暴走が原因ではないかと考えているが、それが正解だとしてもエンジンの不調が良くなるわけではなく、内心頭を抱えていた。

 

 

 唯一の救いは補機である4基のケルビンインパルスエンジンには異常が無かった事位か。

 

 

「こればかしはどうにもならないわね。防衛軍と合流してドック入り出来たら良いのでしょうけど」

 

 それは万に一つも無い叶わぬ願いでしょうけど。と内心では思いながら、カップを傍らに置くと気を紛らわせる様に残った食べ掛けのスコーンを口に放り込んで咀嚼して飲み込むと、別の話題に切り替えるべくアナライザーを再び見やる。

 

 

「貴方に命じていた件、()()()()()()()()()()()()を聞かせて」

 

 

「ワカリマシタ。結論カラ先二ノベサセテ頂キマスト──」

 

 

 

「コノ惑星ハ92.57%ノ確率デ()()()()()()()()()()』デアルト判断致シマシタ」

 

 

 

 その報告に額に手を当て「やはりか…」と呟きながら、天を仰いだ。

 

 

 アンドロメダが仰いだ夜空の先で輝くは──

 

 

 

 『南十字星』

 

 

 

 傍らに置いたティーカップを手に取り、夜風に当り少し冷めてしまった紅茶を啜る。

 

 

 問題は、増えるばかりで一向に減りそうに無い。

 

 

 

「本当に、どうしてこうなってしまったんでしょうね…」

 

 

 アンドロメダのか細い呟きに、アナライザーは何も答えなかった。

 

 

 

 

*1
UNITED NATIONS COSMO FORCE Advanced Ability Armament-1 ANDROMEDA 地球連邦防衛軍能力向上型武装艦第1号艦アンドロメダ

*2
かなり頑丈に作られている為重さも違う

*3
何故か艦長として登録されていた

*4
自沈用の自爆シークエンスに関する物、機密通信用コード等々

*5
塗装からそんな気はしていた

*6
ヤマト叛乱疑惑事件時の一件は一時的な措置であったため例外

*7
ショックカノン

*8
左右に別れて配置された艦首の第1第2主砲塔バーベットに其々配置、旧第1主砲塔に現第1第2主砲、旧第2主砲塔に現第3第4主砲(こちらは後方へ旋回可能)、右舷が奇数番で左舷が偶数番




「もうやだおうちにかえりたい…」(´;ω;`)

「あんどろめだサン、オ気ヲ確カニ」(;´゚д゚)ゞ

「みんな、わたしもいまそっちにいきます…」エンジンスロットルレバーに手を掛ける

「止メテクダサイッ!!」


 万全の状態で出してしまうと単なる無双物になりそうな気がしましたから、波動エンジンを不調にしましたけど(それでも実は十分強いのだが…)、どういう存在が居るかわからない場所に単身放り込まれて、尚且つ実力が十分に発揮できない状況って、現実逃避したくなるくらい酷いよなぁ…。と書いてて罪悪感が湧いた…。ごめんよアンドロメダ…。
 それにしても、異世界転生物の主人公って一体どう言った精神構造しているんだ…?(考えたら負け?)


 もし今回腰を据えての確認作業を行わずに行動に移していたら、波動エンジンが再び暴走して爆発し、そこで終了という可能性が実はありました。安全確認、指差し確認は念入りに!

 しかしこう疑問に思われた方も居ると思います

「何もない海上で、しかも夜中に明かりを灯しながらずっと同じ場所に留まっていると、艦娘か深海棲艦どちらかの哨戒部隊に発見されるのではないか?」と。

 はい。確かにその通りです。夜中なら僅かな光でさえ遠くから認識出来ます。

 ややネタバレになりますが、実は既にガッツリ発見されています。

 その辺りの事は次回以降でしっかりと書きますが、その前にこの世界についての情報をアンドロメダ(とアナライザー)だからこそ出来る方法で入手した情報を確認する回になる予定です。


アンドロメダの装備について補足


重力子スプレッド

 勿論装備されていますが、重力圏内、ましてや惑星上で使って大丈夫な代物なのかが分からなかったために敢えて書きませんでした。


艦載機の離着艦について

 ヤマトの第2格納庫からの離着艦と同じシステム。
 そのため一度離水し、ある程度の高度まで上がらなければ運用出来ない。


OMCS(オムシス)

 Organic Material Cycle Systemの略。この装置のお陰で長期航海での食糧不足の心配が大きく緩和されたが、その材料に関して、某S技師長曰く「知らない方が幸せだと思うよ」と言うことらしい…。
 尚、稼働には膨大なエネルギーが必要となる。


南部97式拳銃(通称、コスモニューナンブ)

 アンドロメダの個人装備としてホルスターに収まっている。一応、自衛用小火器だが…。



その他補足

Advanced Ability Armamentの略について

 本来は直訳すると『高度な能力の兵器』となります。

UNCF表記について

 地球連邦防衛軍であるならEARTH FEDERATION COSMO FORCEでEFCFが本来は正しく、2205ではEFCF表記なのですが、2202時点ではUNCFと表記されていました。アンドロメダの艦体(艦首ラム付け根部分)にも『U.N.C.F AAA-0001-2202』と表記されていました。

アナライザーの起用について

 西暦2200年代の艦娘なら、艤装に妖精だけでなく補助AIが装備されていてもおかしくないと思いましたが、ただのAIだとキャラが単調過ぎると思い、急遽登場して頂きました。


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第2話 SIGINT ???「その上リベレーターにそっくりだ」 「「「誰っ!?」」」

 SIGINT  通信傍受等による機械的な諜報活動を表す言葉。


──注意──

 この物語はフィクションです。作中で語られる事件等の内容に関しまして、現実の類似する事件等とは一切関係がありません。また今回主人公らによる明らかな犯罪行為の描写がございますが、筆者はそれら犯罪行為を推奨する意思は決してございません。それらをご了承の上でお読みください。

 後今回は少し長めなのと独自設定、独自解釈てんこ盛りです。


 きっかけは日が落ちたことで見え出した星空。

 

 

 確認作業中、暗くなった辺りを見渡して「もう夜か」と思い、何の気なしに夜空を見上げた際に違和感を覚え、そしてハッと気付いた。

 

 地球の、それも南半球から見える星と星座に非常に酷似していることに。

 

 時を同じくして、センサー類のチェックを行っていたアナライザーが微弱ながら通信用のものらしき電波を傍受。

 それを解析したところ、そのほぼ全てが地球で使用されている言語であることが判明。

 

 

 だがここが地球だとするなら、おかしな点が幾つもある。

 

 

 地球本土防衛用として軌道上に配置され、地表からでも肉眼で視認出来る筈の長大な戦闘衛星のリングが一切見えなかった。

 

 

 ガトランティスに攻め込まれて破壊されたのだろうか?

 

 

 そうだとしても、今度は通信傍受の説明がつかない。

 

 生き延びた僅かな生存者達が互いに連絡を取り合っている?

 

 

 有り得ない。

 

 

 『全宇宙全ての知的生命体の殲滅』を掲げるガトランティス(蛮族)の連中が、生存者を残したまま放置するなどというそんな雑な事をするだろうか?

 

 

 第十一番惑星での大虐殺を見れば、そんなことは断じて有り得ない。

 

 

 最後の1人まで完全に消し去るまで、あの馬鹿げた数の大艦隊*1で地球を包囲して全土を焼き払うなり、なんなら超大型戦艦であるカラクルム級*2*3を質量弾として嘗てのガミラス戦役での遊星爆弾よろしく地表に叩き付けて地球を再び赤く焼け爛れたクレーターだらけの星にした後、第十一番惑星で使用されたあの忌まわしき殺戮マシンを蝗の大群の如く投入させて徹底的に鏖殺すだろう。

 

 

 面倒なら彗星を地球に直接ぶつけて完全に破壊する方が手っ取り早く済む。

 

 

 だが攻撃を受けたのなら、その痕跡があってもおかしくない。

 近くに陸地が無いため今地上がどうなっているかはわからないが、大気の汚染具合からして地上が破壊され尽くして壊滅したとは考えにくい。

 

 なら本土決戦で地球が多大な犠牲と引き換えに辛くも勝利したのだろうか?

 

 

 わからない。

 

 

 ならばと点検、確認が終了したレーダーを起動させて、軌道上に戦闘で破壊された衛星なり両軍の艦艇等の残骸がないか確認してみた。

 

 

 だがいくら走査しても、それらしき反応は一切無く、幾つか衛星らしき物の反応を捉えただけだ。

 

 

 

 ますますわからなくなった。

 

 

 

 それと傍受した電波は地球の言語だけだった。

 

 

 それもおかしい。 

 

 

 地球には同盟国ガミラスの人々も多数居た。

 

 

 ガトランティスの本格侵攻でガミラス本国に避難した人々もいたが、それでも少なくない人数がまだ地球に居たハズだ。

 

 特にガミラス大使館の代表であるローレン・バレル大使や大使館駐留軍は最後まで地球と共に戦うと残留の意思を示し、ガミラス本国からも援軍が来る事が決まっていた。その中にはガミラスに譲渡されたアンドロメダの妹達であるCCCの娘達もいる。

 

 ガミラス人同士なら通信でわざわざ地球公用語を使わず、ガミラス公用語で遣り取りをしている。

 

 だが、今傍受している通信波にはガミラス公用語は一切無かった。

 

 

 地球から全員退去したのだろうか?

 

 

 わからない。

 

 

 更に輪を掛けて分からないのが、レーダーが捉えた衛星のシルエット。

 

 

 驚くことにその全てが最低でも100年以上前に使用されていた、資料映像位でしか残っていない様な骨董品と言っても差し支えない代物と非常に酷似していた。

 

 

 

 ガミラス戦役中、地球の衛星網はその大半が破壊された為、戦後にほぼ一から敷設し直したため、割合として新しい衛星の方が圧倒的に多い。

 

 

 何より宇宙進出が本格化してからというもの、古い衛星がそのまま放置されてデブリとなった物は航路阻害の一番の要因となるため、一定期間が過ぎた衛星は撤去する法律が戦前から定められており、しかも戦中から戦後に掛けて全ての衛星が国連(後に地球連邦)の管理下に措かれた為、何処かがこっそり残して使っているという事はまず有り得ない。

 

 

 だから100年前の衛星が浮かんでいること事態がおかしいのだ。 

 

 

 この時アンドロメダの頭にはタイムスリップにより自身が過去の地球に跳ばされたのではないかという考えが過った。

 

 

 だが今度は傍受した通信の内容に、記録に存在しない不明な単語や符号────

 

 

『Kanmusu』

 

『Fleet Girl』

 

『Shinkaiseikan』

 

『Abyssal Fleet』

 

『海の化物』

 

 ────等々…。が頻繁に出てくるのだ。

 

 

 過去から現在に至る地球の記録に該当するものは無い。

 無論ガミラスにも無い。

 

 

 

 これ等の状況証拠から、アンドロメダは過去の、しかも並行世界の地球に跳ばされたのではないかという考えに至ったが、やはり状況証拠であるために何かの間違いではないかという考えも過ってしまう。

 

 

 その為アンドロメダはある一つの決断をし、アナライザーに命じた。

 

 

 

 『この惑星の衛星回線に侵入し、それを踏み台にしてネットワークに侵入。この惑星に関する情報を必要と判断したありとあらゆる手段を用いて入手せよ』と。

 

 

 

 

 無論それは非合法手段を前提とした命令である。

 

 

 

 軍法? 防衛軍で施行されている現行法は、あくまでも防衛軍に所属する軍人──人間──にのみ適用されるものであり、元々兵器であり、また今のアンドロメダという想定外の存在を裁く条項は一切存在しない。

 

 

 この惑星の法? バレなければ犯罪として立件出来ない。

 

 

 屁理屈、強弁の類いであるとは理解している。

 

 

 そして命令という形をとることで万が一発覚、問題となった時のために、責任の所在がアンドロメダに有るという事をハッキリさせた。

 

 

『軍の行動によって生じた問題の責任は、それを命じた者だけが負う』

 

 

 お願いだとかで責任の所在をあやふやにするようなやり方は、組織の健全性を著しく阻害する要因であるとしてアンドロメダは蛇蝎の如く毛嫌いしている。

 

 上に立つ者に求められるのは2つだけ。

 

 『決断』とそれに伴う『責任』だ。

 

 それが出来ない、嫌というのなら初めから上に立つな。立とうとするな煩わしい。というのがアンドロメダの考えだ。

 

 

 そしてアンドロメダは全地球艦隊を束ねる総旗艦という立場にいた艦だ。

 

 

 その決断に艦隊各艦とその乗組員、延いては地球圏の存亡に直結する。

 

 

 別に今回の決断がそういう重大事になるわけではないが、アンドロメダの今後に関わる上に、彼女の存在その物の有り様とプライド、そして魂が甘えた考えを許さなかった。

 

 

   ──────────────

 

 

「はぁ…。頭が痛くなってきました…」

 

 

 アナライザーからの報告を受けたアンドロメダがこめかみを押さえながら唸る。

 

 

 

 報告を要約すると以下の通りである。

 

 

 レーダーが捉えた衛星はその大半が何らかの損傷により機能を停止していたとの事。(原因は後述)

 

 

 そして予想した通りここは並行世界の地球で時間軸は21世紀半ばとのことだが、その21世紀に入った辺りから立て続けに起きた4つの大きな出来事により、アンドロメダのいた世界の歴史と大きく異なった進み方をしていた。

 

 

 まず1つ目が『疫病の蔓延(パンデミック)と世界恐慌

 

 疫病事態はアンドロメダのいた世界でも同じ時期に似たようなものが発生していた。一時は最悪なパンデミックになるとの予測からかなり騒がれたが、そうはならなかった。

 

 

 だがこの世界ではアンドロメダのいた世界での予測を上回る程酷い有り様だった。

 

 アナライザーの見立てでは、様々な思惑が入り雑じった『権力者とその周辺の深刻なモラルハザード』とそれらに付随した情報の錯綜と改竄、憶測に踊らされ続けた『先進国を中心とした民衆の集団パニック』が要因ではないかと分析。

 

 

 またこれにより各国の経済に深刻な影響を及ぼし、世界規模で株価の大暴落と未曾有の大不況にも見舞われて*4人心は大きく疲弊。

 

 

 

 2つ目──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──が『火山の冬による地球規模の寒冷化、異常気象による食糧危機とエネルギー危機

 

 

 世界各地で火山の活動が活発化し、噴火による直接被害だけでなく巻き上げられた噴煙と火山灰により太陽光が遮られて地球規模で寒冷化が進み、異常気象も頻発。

 各地の耕作地に甚大な被害が発生したことにより大飢饉が発生。

 

 また先進国を中心に薦められていた太陽光発電の発電効率が著しく低下したことにより、エネルギー危機も発生。国によっては都市から完全に光が消え、凍死が相次ぐ事態も発生していた。*5

 

 

 疫病によりただでさえ疲弊していた人心は危険なレベルに達する。

 

 

 

 3つ目『第三次世界大戦の勃発

 

 

 最早制御不能レベル*6にまで膨れ上がった国民の不満を逸らすため、また無事な食糧生産地域を巡って各国が諍いを起こし、ついには全面戦争へと発展。

 

 この時点で国連を始めとした国際機関は完全に有名無実化した。

 

 

 耕作地への被害を怖れて()()の先進国核を始めとした大量破壊兵器を使用しなかったが、戦局は泥沼化。各地で規模の大小はあれど虐殺が横行。

 

 この時期発生した対立する大国同士によるお互いの軍事衛星破壊作戦*7により発生した大規模なケスラーシンドローム*8により関係のない民間の衛星まで巻き添えで破壊され、通信ネットワークが寸断。

 各地の悲惨な情報はその殆どが伝わらないままエスカレート。

 

 

 疫病発生からこれまでの7年間*9で地球の総人口は70億から30億未満にまで減少*10

 

 

 

 最早戦争を継続する体力も気力も薄れ、厭戦気分が蔓延し戦争終結。*11

 

 先進国は疫病対策が生み出した負の遺産と戦争の災禍で衰退し、またアジア圏や南太平洋の国々は確認出来た中でも被害がすさまじく壊滅的な有り様、南米とアフリカ圏は…未だ混沌としており確認不能で匙を投げられた。

 

 総人口も未だ緩やかに下降していた。

 

 

 とはいえ、疫病もいつの間にか収束し、いざ復興となったタイミングで最後にして最大の出来事が発生。

 

 

 

 

 4つ目、謎の敵『深海棲艦(Abyssal Fleet)の出現』と盟友『艦娘(Fleet Girl)の登場』である。

 

 

 何時、何処が一番最初かは情報が錯綜していて最早わからなかった。

 確実なのは()()()が世界中の海洋で同時多発的に突如として出現。

 

 

 瞬く間に海洋交通は寸断され、物流は再び大混乱。

 

 

 戦時中にその保有戦力を減らしていた各国海軍はなけなしの戦力を結集してこの未知な敵への対処に乗り出したが、物量差もあり奮戦空しく敗北を重ねる。

 

 その後、南太平洋のあちこちに拠点を構築している事が発覚。

 

 各国は残存艦隊を集結させた臨時の多国籍連合艦隊を編成し、拠点構築阻止とその周辺の取り残された民間人救出に向かう。

 

 連合艦隊主力はソロモン海まで進出し、そこで史上最大の水上決戦が行われたが、そこで力尽きた。*12

 

 

 嘗てのABDA艦隊同様、共同訓練等真面にしていない意思疎通に欠けた寄せ集め艦隊であった事も祟った。

 

 一度崩れると脆かった。

 

 

 そしてそれが新たな悲劇を生んだ。

 

 

 連合艦隊劣勢の報に焦ったのか、ユーラシアから参加している国の1つが、事前通達も協議も無く突然ICBM*13を使用。

 

 驚いた連合艦隊は参加していたBMD*14対応艦を中心に必死の迎撃を行うも、遂には着弾。艦隊にも甚大な被害が発生。*15

 

 

 戦場は大混乱に陥り、指揮系統が完全崩壊。艦隊はてんでばらばらに敗走。

 

 追撃を受け更に戦力を擂り潰され、各国海軍は自国沿岸近海の制海権を辛うじて維持するのが精一杯となった。*16

 

 

 そして南太平洋の国々は事実上、壊滅とされて見棄てられた。

 

 

 この大海戦に於ける人類の大敗北*17から半年後、敵の軍勢が北上を開始し本格的侵攻を始めた。

 この頃からこの未知の敵が『深海棲艦(Abyssal Fleet)』と呼称される様になる。

 

 

 

 そんな折りに現れたのが『艦娘(Fleet Girl)』達である。

 

 

 その出自にも謎*18が多いが、少なくとも日本が最初であることは確かである。

 

 

 嘗て各国海軍にて活躍した艦艇の力をその身に宿した深海棲艦と対になる戦乙女達。

 

 

 

 それが艦娘(Fleet Girl)である。

 

 

 

 とここである疑問がアンドロメダの中で沸き上がった。

 

 

「今の私も、艦娘か深海棲艦のどちらかになるのかしら?」

 

 というものである。

 

 それに対してアナライザーは「恐ラクデスガ、艦娘デアル可能性ガ高イカト」と即答し、理由として艦娘と深海棲艦の特徴に大きな違いがある事について述べた。

 

 艦娘、深海棲艦共に力を行使する際には『艤装』と呼ばれる装備を介して駆使するという。

 

 艦娘の場合は一人一人の固有名詞に因んだ艦艇の特徴を掴んだ装備が色濃く反映されるという。

 

 対して深海棲艦は元となった艦艇が不明で、固有名詞も人類が識別の為に付けたコードのみ。そして装備している艤装は艦娘の様な機械的なモノではなく、生体パーツの様なシロモノだという。

 

 そう言うとコンソールのディスプレイに幾つかの映像を表示した。

 

 艦娘と深海棲艦との海戦の様子を映した記録映像とそれに映っている両方の画像付き詳細資料だった。

 

 

 確かにかなりの違いが見てとれる。

 

 

 それらを照らし合わせると、アナライザーの言う通りアンドロメダのこの装備──艤装──はサイズは兎も角としては、艦娘のそれに近いと云えるだろう。

 

 ただ、艦娘は全員嘗ての第二次世界大戦で使用された艦艇をモチーフにした娘しか確認されていないという。

 

 対してアンドロメダは西暦2202年の戦闘艦である。

 

 ざっと250年の開きがある。

 

 このパラドックスに関して言えば、オーパーツ的な性能を有する深海棲艦の旗艦級或いは指揮官的存在である『姫級』にカテゴライズされるハイエンドモデルが近い。

 

 自身がもしかしたら深海棲艦かもしれないという疑念から冗談めかしにそうアナライザーに語ると「ソウナリマストあんどろめだサンハ、差シ詰メ『星座棲姫(Constellation Princess)』トイウこーどガ与エラレルカモシレマセンネ」と返されて、思わず声に出して笑ってしまった。

 

 

「取り敢えずは艦娘であると仮定して話を進めましょう。そうなると───」

 

 

 そう言ってディスプレイにアナライザーが入手した海図を映す。

 

 アンドロメダの現在位置は西太平洋、旧ミクロネシア連邦領チューク諸島北西の海域にいる。そこから更に北西方向へと指でなぞりながら、ある一点で止めた。そこは───

 

「日本を目指すべきかしら?」

 

 艦娘のメッカ、日本を指差した。

 

「ソレニツキマシテ、少々気ニナル情報ガアリマス」

 

 そう言うとある情報を別のディスプレイに映す。

 

 そこには初老の男性が映し出されたが、その姿と名前を見た瞬間アンドロメダは目を見開いて驚愕し、動揺を(あらわ)にした。

 

「そんな!どういう事!?何故この方が!?」

 

 混乱のあまりに思わずアナライザーに詰め寄るが、何故()()()()がこの世界にいるのかアナライザーにもわからない。

 

 日本について調べている最中に偶然発見。当初は他人の空似かと思っていたが、更に調べると経歴等に不審点が幾つも見つかり、他人の空似では無い可能性が高まった故にアンドロメダに報告を上げた。

 

 

 

「───真偽を確かめるためにも、日本に向かいましょう」

 

 

 

 アンドロメダは決断し、アナライザーに告げた。

 

 

 

 となると問題は太平洋上に点在する深海棲艦の拠点だ。間近だと先に述べたチューク諸島に拠点が構築されており、途中のマリアナ諸島にも日本への足掛かりと目されている拠点が存在する。

 

 これらをどうするか?とアナライザーが訪ねると───

 

 

「そうね、その時は貴方が言った星座棲姫を名乗って深海棲艦さん達と交渉してみようかしら?」と冗談交じりに答えた。が────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アラ?ソレナライッソノ事ソノママ私達ノ同胞(ハラカラ)ニナラナイ?歓迎スルワヨ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、誰もいないはずの後ろから声を掛けられて仰天したアンドロメダは、座席ごと慌てて振り向く。

 

 

 警戒の為にレーダーは稼働していた。何故?誰?どうして?と疑問と混乱からパニックになりながらも振り向いた先にあったのは───

 

 

 

 巨大な

 

 

 

 それがアンドロメダの顔面に向かって迫り、そして───

 

 

 

 

 

   ぷにっ

 

 

 

 

 アンドロメダは頬を突っつかれた。

 

 

 途端に、声にならない悲鳴を上げて飛び跳ねた。

 

 

 

 そこには巨大で筋骨隆々な巨人型の生体艤装に優雅に腰掛ける美女がいた。その艤装の巨大な腕がアンドロメダの頬をつついたのだ。

 

 

「変ワッタ娘ガイルト聞イテ()テミタケド、貴女無用心過ギルワヨ?ッテ、アラ?」

 

 

 その美女の視線の先には、先ほどまでいたはずのアンドロメダの姿が消え、向い側にいたアナライザーの慌てた姿しかいなかった。そして───

 

 

 

    どっぼーーん

 

 

 

 …ナニかが水面に落ちる音と水柱が上がる。

 

 

 しばし訪れる沈黙…。

 

 

「エ…?」

 

 

 回りを見渡してもアンドロメダの姿はない。つまり海に落ちたのはショックのあまりに飛び跳ねたアンドロメダだ。

 

 だがそのアンドロメダは浮いてくる気配がない。

 

 

「マサカアノ娘、(オヨ)ゲナイノ!?」

 

 

「あんどろめだサン!?」

 

 

 右往左往する赤いロボットや騒ぎに気付いて出てきた妖精達。普段見せない様な慌てた様子を見せる己の主人を交互に見ながら、筋骨隆々の生体艤装は「やっちまったー」という雰囲気を醸し出しながら自身の躯体(くたい)を掻いた…。

 

 

 

*1
1個機動艦隊250万隻!編成

*2
全長520m

*3
参考までに、地球最大の戦艦アンドロメダ級が444m(空母型484m)、ガミラス軍はゼルグード級の730mが最大。どちらも本来は旗艦として使用される大型戦艦。対してカラクルム級は大型戦艦にも関わらず大量配備型という使い捨て可能な戦艦

*4
不況にも関わらず、急激なインフレーションも発生していた

*5
この時暖をとろうと屋内で火を焚いて一酸化炭素中毒や火事になる事件が続出。エネルギー不足による防災機能の麻痺により大火等の大災害となる事態も相継いだ

*6
大なり小なりの暴動、デモが日常化

*7
まったくの偶然だがほぼ同じタイミングで行われた

*8
物理的に破壊された衛星の飛び散ったデブリによって隣接した近傍の衛星への連鎖的な破壊現象。詳しくはゲームACE COMBAT 7の第二次大陸戦争を参照

*9
その内戦争が凡そ5年

*10
ただしこの数字はあくまでも推定であり、実数は不明

*11
人口減少により結果的に口減らしになったのも要因

*12
後の分析から誘い込まれただけであったと判明

*13
大陸間弾道弾。Intercontinental Ballistic Missile.

*14
弾道ミサイル防衛。Ballistic Missile Defense.

*15
この後、他の参加国の本国が怒り狂い当該国の首都等に向けて核攻撃を実行。当該国は首都が消滅したことにより、統制を失って内戦へと突入。尚、核攻撃に対する報復は先のICBM発射による混乱からか遅延し、発射直前に破壊されて失敗した

*16
この時に件の国の残存艦艇が本国の仕打ちに対する反発からか自暴自棄に陥り、突撃を敢行して1艦残らず全滅。計らずも殿となった為に他国の残存艦艇は全滅を免れた

*17
後に『ソロモン海の悲劇』と呼ばれる

*18
各国軍部のデータベースにもハッキリした情報が無かった




 アンドロメダ撃沈!完!!御拝読ありがとうございました!!


───な訳無いデショ!!

 最後は完全ギャグに走りましたが、アンドロメダの思わぬ弱点発覚回になりました。

 航宙艦であるため気密性はしっかりしており、擬似的な潜水艦行動はカタログ上可能です。ただ今回はパニック状態で海に落ちましたので、冷静な対応を行うことが出来ずに溺れて浮き上がる事が出来ませんでした。また今回の一件で完全にトラウマとなりますので敵対勢力はアンドロメダを海に引き摺り込みさえ出来れば十分に勝機はある(はず)です!
 ただし泳げないだけで溺死する事はありません。あくまで無力化のみです。



 しっちゃかめっちゃかである意味滅びつつある人類。

 ヤマト関係を絡ませる二次なら人類が滅びに瀕するのは寧ろ必要事項だ!!(暴論)

 人類が持つ衛星による監視網とネットワークという優位性を如何に潰すか、そして艦これ世界で南太平洋が事実上深海棲艦の支配領域となったのかを考えた結果、今回こう言う話となりました。

 因みに最初の艦娘出現からアンドロメダがこの世界に来るまでに8年の歳月が経過しております。その間に地球の総人口は更に減って20億に迫りつつあります。まあこれは南太平洋で取り残された生存者を全員死亡扱いにしたのと、混沌度合いの酷い地域や深海棲艦の脅威が薄い内陸部の地域では人類同士による諍い、内戦が絶えない為にマトモな集計が出来ない影響もあります。
 ついでに言えば、アンドロメダが目指す予定の日本の総人口ですが、凡そ800万人にまで減少しました。

 さて、最後に語られた初老の人物ですが、出てくるのはまだ少し先になります。
 またアンドロメダに使用されている遥か未来のレーダー探知を掻い潜ってきた美女の謎と既に発見されていたという事実。その原因はわりとしょーもないアンドロメダとアナライザーによるヒューマンエラーにあるとだけお伝えしておきます。


 それでは今回はこの辺りで失礼致します。また次回お会いしましょう。

 後、感想指摘等が御座いましたら参考や励みになりますのでお気軽にどうぞお願い致します。


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第3話 SCOUT 「という名目のナンパですか?」「違ウワヨ!失礼ネ!!」

 前回邂逅した深海棲艦との対談が始まります。



 深海棲艦のキャラ立ち等につきましてはほぼ筆者のイメージで書いております。ご了承下さい。


「へっくしゅん!」

 

 全身ずぶ濡れになったアンドロメダのくしゃみが小さく響き渡る。

 

 今彼女は自身の艤装の縁で水上用内火艇を模した水上移動用靴の用意をしていた。

 

 その周りでは機関科応急班*1の妖精達がアンドロメダに付着している海水の塩分を洗い落とすため、艤装に接続されたホースを引き寄せながら待機していた。

 

 

「ホントゴメンナサイ…」

 

 

 過失とはいえ、海に落としてしまった原因となった女性が、妖精達の邪魔にならない様に離れた場所から心底申し訳なさそうに頭を下げたが、アンドロメダは「いえ、此方の不注意もありましたから」と慌てて止める。

 

 

 簡単に言えばレーダーの設定ミス。

 

 

 レーダーはその性質上、照射し跳ね返ってきた反射波全てに反応するが、その際に本来ならば不要な反射波*2まで捉えて表示してしまう。

 

 それら不要な反射波情報(クラッター)を事前に不要な情報として処理する様に設定するのだが、その設定を行ったのが艦娘や深海棲艦という存在を認識する前であったため、人間サイズの反射波はクラッターとして処理されていた。

 

 

 その為彼女、深海棲艦ハイエンドモデルの1人である『戦艦棲姫』を探知出来なかった。

 余談だが彼女達深海棲艦が扱う生体艤装はレーダー波が反射し難く、早期探知が難しい為に人類は緒戦に於いて何度も苦杯を嘗めさせられた。

 

 

 もし戦艦棲姫にその気があったなら、指ではなく砲弾だっただろう。

 

 至近距離からなら流石のアンドロメダとはいえ無事ではすまない可能性があった。

 

 それに、仮令(たとえ)致命傷にならない掠り傷程度だったとしても、今のアンドロメダにはそれすら致命傷になりかねない。

 

 何故ならアンドロメダには補給や修理のあてが全く無いのだから。

 

 交換部品のストックは有るが、それが尽きたらもうお仕舞い。

 

 特にレーダー等の各種センサーは精密機械の塊であるために繊細で故障のリスクが高く、また被弾対策として装甲で覆うと機能を著しく阻害する処か機能しなくなるから下手に装甲で覆う訳にはいかず、被弾に弱い。

 

 更に言えば主砲の砲身だが、被弾して曲がるとまでいかなくとも凹むだけでも膅発(とうはつ)*3リスクや命中点にズレが生じる可能性がある。そうなると砲身その物を交換する必要が有るが、そもそも交換用砲身はアンドロメダに積み込まれていない。

 

 生体艤装の膂力がどれ程のモノかは不明だが、もし砲身を掴まれていたらもう万事休すだったのだ。

 

 艤装への損傷が今のアンドロメダには破傷風と同じと考えていい。

 

 そういった意味ではアンドロメダは運が良かったと云える。海には落ちたが…。

 

 

 だがそれも自身の落ち度と考えたら恨む気にはならなかった。

 

 

「すみませんが着替えますので少しお待ちください。その間お飲み物等の嗜好品を御用意します。アナライザー、他の皆さんにもお出しして」

 

「ハイ。ワカリマシタ」

 

 そう言うとアンドロメダは海水で濡れた服を脱いで主計科の妖精に渡すと水上移動用靴を履いて海面へと恐る恐る降りていった。

 

 

 

 別にそこまで気を遣わなくても、と戦艦棲姫は思いながらも好意を無下にするのは良くないわねと思い直す。それに、と周りの海面を見渡す。

 

 そこには海に落ちた彼女を海中から引き揚げた功労者である潜水装具に似た艤装を身に付けた潜水艦の娘達*4が此方を「良イノ?」と見上げていた。

 

 この娘達を労う為にも丁度良いかもという気持ちもあって頷いて返す。

 

 因みにだが同胞(はらから)に毒物、化学兵器の類いが有効で無いことは既に人類との今までの戦闘で立証されている。

 

 それもあって了承した。

 

 

 それを見た潜水艦の娘達は顔に付けたレギュレータ越しにも分かるくらいに喜色を浮かべはしゃぎ出した。

 

 他の艦種の娘達と比べ、長期間の作戦行動が多い潜水艦部隊は総じて娯楽に飢えやすい。

 

 だからこそ予想外の嗜好品にありつけるという思わぬ幸運に喜んでいるのだ。

 

 

 それを横目に見ながら、戦艦棲姫は変わった飛行艇*5に乗った赤いロボットの様な妖精──確かアナライザーと呼ばれていたかしら?──から差し出されたメニュー表を受け取ると、驚愕した。

 

 給糧艦と名乗っても疑い無く信じ込めると言えるほどのレパートリーの豊富さに驚きを隠せなかった。

 

 それは潜水艦の娘達も同様な様で、先ほどまでのはしゃぎ様が嘘みたいに目を白黒させて驚いていた。

 

 

 この娘、本当に何者なのかしら?という疑問が戦艦棲姫の中で湧いてくる。

 

 

 

 事の始まりは突然の電波障害でレーダーと通信に支障が出て哨戒に出ている娘達が混乱しているとの報告があった。

 

 すわ艦娘達の襲撃かと色めきたち、直ちに迎撃態勢を整えるべく動き出そうとした矢先、潜水艦の娘から『電波障害の発生源とおぼしき海域で敵か味方かわからないモノが浮いている』との報告が伝令としてリレーしてきた駆逐艦の娘が伝えてきた。

 

 

 それを聞いて、何があってもそれなりに対応出来る自信があったため先行して接触する事とした。

 好奇心がなかったと言えば嘘になるが…。

 

 

 そしてそこにいたのが、今まで見たこともない巨大な艤装に乗る、遠目からでも分かるかなりの長身な娘。

 

 見たところ私達の艤装とはまるで違う。どちらかと言えば艦娘達の艤装の方が近い為、新手の艦娘かとも思ったが、あまりにも異質だ。

 

 

 そしてあまりにも無用心だった。

 

 

 そこで後ろからそっと近付いてちょっと脅かしてやろうかといういたずら心が湧いた。

 

 

 真後ろに来ても、会話に夢中で此方に一向に気付かない様子に思わず口元がつり上がる。

 

 艤装の腕をゆっくりと伸ばしていると、思わぬ言葉が耳に入ってきた。

 

 

「そうね、その時は貴方が言った星座棲姫を名乗って深海棲艦さん達と交渉してみようかしら?」

 

 

 正直驚いた。同胞(はらから)と艦娘、双方相容れない間柄と言い切れる訳ではないが、それでも艦娘かもしれない存在が、冗談交じりかもしれないが自ら同胞(はらから)と名乗って、しかも話し合いを持ちかけようと言ったのだ。

 

 俄然興味が強くなり、思わず口を衝いて出たのが「アラ?ソレナライッソノ事ソノママ私達ノ同胞(ハラカラ)ニナラナイ?歓迎スルワヨ?」である。

 

 

 

 その後の顛末はご存知の通りの有り様。

 

 

 

 

 今日ほど潜水艦の娘達がいて良かったと思った日はない。

 

 何せ海中での行動が得意な潜水艦の娘達ですら、彼女を海面まで引き揚げるのに3人がかりで漸くだったのだから。

 

 

 

 とそこへアナライザーが頼んだ飲み物を運んで来たので一端思考を切り上げ、礼を言って受け取る。

 

 

 それは奇しくもアンドロメダと同じ紅茶だった。

 

 

 一口飲んでほうっと息つく。

 

 戦艦棲姫自身もそこまで詳しい訳ではないが、それでも悪くないと感じた。

 

 

 潜水艦の娘達もそれぞれの品を受け取り歓声を上げていた。

 

 

 本当に給糧艦なんじゃないかしら?という考えに至りそうになるが、目の前にある物騒なシロモノがその考えを否定する。

 

 艤装に備え付けられた──かなり変わった形ではあるが──3連装の大型砲塔を見る限り、恐らく自身と同じ戦艦クラスだろう。

 

 

 それに艤装の外観を見ただけでも、明らかに水上艦だとは到底思えない。

 

 

 戦艦棲姫の心中に、よくわからないモノに対する言い知れぬ恐怖が鎌首をもたげ出すが────

 

 

「ヒャア!!セメテオユニシテクダサイ!!」

 

 …何とも情けないアンドロメダの悲鳴が聞こえてきて毒気が抜けた。どうやら妖精達が間違って冷水をアンドロメダに浴びせてしまった様だ。

 

 

 はたと、アンドロメダに付いた海水を洗い落とすなら間違いなく真水だろう。だがそれだけの大量の真水をどの様にして用意しているのかという疑問が頭を過ったが────

 

 

 ちゃっかりドーナツを頼んでいた自身の相方である艤装が、その豪腕に似つかわしくない器用な手捌きでドーナツを1つづつ自身の口に運んでいるのを見て、何だか真剣に考えている自分が馬鹿なんじゃないだろうかと思えてしまい、もうこうなったら直接聞きましょうと開き直って紅茶を楽しむことにした。

 

      ─────────

 

「すみません。お待たせしました」

 

 

 新しい服を着込んだアンドロメダが、改めて戦艦棲姫と対峙する。ただし手にはアナライザーから「御体ガ冷エテハイケマセンカラ」と渡された生姜湯を熱そうに持ちながら。

 

 

 その何とも言えない立ち振舞いに、どう切り出したものかしらと思っていると「私はアンドロメダと言います。貴女の事は何とお呼びすればよろしいのでしょうか?」と先手を取られた。

 

「ゴメンナサイ。私達ニハ固有ノ名称トイウモノガ無イノ。ダカラ人類ガ私達ニ付ケタ名称デイイワ」と答える。実際それで特に不便と感じて来なかった。

 

「ソレニシテモ、あんどろめだ…。確カぎりしゃ神話、えちおぴあ王けぺうすト王妃かしおぺあノ娘、主神ぜうすノ子英雄ぺるせうすノ妻トナリ、後二戦イノ女神あてね二星座トシテ天二召シ上ゲラレタ女性ノ名ヨネ?ダカラ星座棲姫…。中々小洒落(コジャレ)テテ可愛ラシイ貴女ニぴったりナねーみんぐネ」と言うとアンドロメダは気恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 

 それを見て()()ねぇと思わず頬が緩むが、このままだと話が進まないと思い、一つ咳払いをすると単刀直入にここに来た理由をアンドロメダに語った。

 

 

 突然の電波障害、その原因と思われる同胞(はらから)とも艦娘かもわからないモノの存在。その確認の為に来たとアンドロメダに語った。

 

 

 その説明を聞いて、アンドロメダは少し青ざめた。

 

 電波障害。タイミング的にもそれは明らかに自身の放っているレーダーによるものだろう。

 

 うっかりしていた。自身は未来の、しかも宇宙の海を行く航宙艦。それに搭載されているレーダーの出力はかなり強力である。

 

 そんな高出力な電波が照射されたら、電波障害が起きてもおかしくない。

 

 

 だが問題はそこではない。

 

 

 現状、『アンドロメダと深海棲艦は明確な敵対関係では無い』のだ。

 

 

 だが今回の電波障害によるレーダーと通信への支障は、見方を変えればアンドロメダによる『レーダー及び通信の阻害を目的とした明確な軍事行動』と捉える事も出来なくはない。

 

 

 つまり『アンドロメダが先に手を出した』と主張されても強く反論出来ないのだ。

 

 

 

 嘗て地球はガミラスとのファーストコンタクトの際に、明確な警告や布告無しにガミラス艦に発砲*6して反撃の口実を与えてしまい、以後8年間に渡って絶望的な戦争状態へと突入。青く美しかった地球は海が干上がり、醜く爛れた真っ赤な惑星へと変貌。人類は総人口の7割を失うという悲惨な事態となった。

 

 

 嘗ての過ちを自身が繰り返してしまったのではないかという恐怖に手が震え、慌ててアナライザーにレーダーのスイッチを切るように命令し、戦艦棲姫に対して率直に謝罪した。

 

 

 その慌てぶりに訳ありであると察した戦艦棲姫は、謝罪を受け入れる条件としてアンドロメダの素性を話すように要求した。

 

 

 戦艦棲姫の要求に、アンドロメダは悩む。

 

 

 率直に全て話したところで与太噺として信じて貰えない可能性の方が高い。

 

 

 とはいえ何か言い逃れが出来る妙案があるわけではなく、最低限の要点だけをかいつまんで話す事とした。

 

 

 曰く、自身が未来の地球で造られた星の海を行く船であったこと。

 

 曰く、その後に起きた戦争で自身は戦没し、気付いたらここにいたと。

 

 

 という趣旨の内容で話し、アンドロメダは戦艦棲姫の顔を見ると「宇宙ニ行ッテモ、人間ハ(タタカ)イヲ()メナカッタノネ」と呆れた声で呟いたのが聞こえた。

 

 その呟きに対して、アンドロメダは何も言わなかったし言えなかった。

 

 

 恐らく戦艦棲姫は地球人類同士での戦いを想像したのだろう。確かに間違ってはいない。

 

 ガミラス戦役以前に人類は2度、火星に移住した同胞達との戦争*7を経験しているのだから…。

 

 

 だがそんなことよりもアンドロメダは戦艦棲姫が自身の話を信じた事に驚いた。

 

 

「あの、ええと…戦艦棲姫さん、こんな事を聞くのは失礼かもしれませんが、私が嘘を言っているとは思わないのですか?」

 

 

「正直半信半疑ダケド、嘘ニシテハ突飛過ギルワヨ」

 

 本気で騙す気なら、もっとマシな嘘をつくでしょ?とも付け加えた。

 それに未来の艦ならば、今まで見た装備等についての疑問が未来の技術なのだとして一応の説明が付くとも考えたのもある。

 

 

 それと同時にアンドロメダの今後に僅かばかりの不安を覚えた。

 

 

 『名は体を表す』という。アンドロメダとは先に語ったギリシャ神話で生け贄にされて死に瀕する目に遭う存在でもあるのだ。*8

 

 

 彼女の意思に関係なく、人間達は己の持つ世界を滅ぼしかねない程のあまりにも巨大で醜い業と欲を満たすために、彼女を生け贄にしてしまうのではないかと思えてならなかった。

 

 彼女が持つ未来の技術と知識はあまりにも魅力的なのだ。それも危険な程に。

 

 

 無論、深海棲艦でも上位クラスの存在でもある為に自陣営の利益という考えが全く無いという訳では無いが、彼女の心の内には「折角仲良くなれるかもしれない娘が、人間達の玩具にされるかもしれないというのをむざむざ見過ごすのは嫌だ」という気持ちの方が強かった。

 

 だからこそ戦艦棲姫は真剣な表情でアンドロメダに告げた。

 

 

「ネェ、あんどろめだサン?最初ニモ言ッタト思ウケド、改メテ聞クワ。貴女、私達ノ同胞(ハラカラ)ノ1人トシテ私達ノ所二来ナイ?」

 

 

 その問いにアンドロメダは呆気に取られる。まさかこうも突然、単刀直入に御誘いを受けることになるとは思っていなかった為に固まってしまい、言葉が出なかった。

 

 そんなアンドロメダに、戦艦棲姫は畳み掛ける様に言葉を紡いで行く。それが謂わばお節介の類いであることは重々承知しながら───

 

「貴女モ薄々気付イテイルノデハナイカシラ?」

 

「貴女ノ持ツソノ『力』ト『技術』ヲ、人間達ガドウ(トラ)エルカ…」

 

 

 戦艦棲姫の言いたいことは、アンドロメダとしても良く理解出来る。実際アンドロメダ自身、その辺の事は危惧している。そして戦艦棲姫がアンドロメダの事を真剣に案じてくれている事も察した。だが。

 

 

 

 

「丁重にお断り致します」

 

 

 

 

 戦艦棲姫の心遣いに感謝しつつも、一度決めた事を覆す気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

*1
所謂ダメコンチーム

*2
地面や海面、雲に鳥など

*3
砲身内で起きる暴発等の自爆による砲身破裂等の事故腔発(こうはつ)の帝国海軍、海上自衛隊での呼び方(筒内表記でも可)。

*4
人類コード、潜水カ級

*5
コスモシーガル

*6
ただし、ガミラス艦も地球艦による全ての呼び掛けを無視し、また地球艦に対して呼び掛けを行っていない状態で侵犯行動に及んでいるが。

*7
内惑星戦争

*8
そして後に夫となるペルセウスに助けられる




 色々と書いていたら、思いの外長くなりましたので今回はここで切ります。

 それにしてもこじつけが酷いかなと思う今日この頃…。そして話が全然進まねぇ!

 それはそうと、本話書き上げたタイミングでのUA数が2199…。びっくり致しました。ですがそれ以上に初投稿から大体1ヶ月でお気に入り登録数が気付けば44…。マジですか…。感謝の気持ちで一杯です。まさに感謝の極み。
 私としましては、思い付いた文章をただつらつらと書いているだけですが、これからも肩に力が入りすぎないようにしながら執筆を頑張って参ります。


毎度お馴染み補足説明。

水上移動用靴
 
 何らかの理由で水面上で作業を行う際に使用する内火艇的役割を持った装備品。


 

 それでは今回はこの辺で失礼致します。

 励みや参考になりますので御意見、御感想を御気軽に御願い致します。


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第4話 Travel is a compassionate world 「何か違う気がするσ(´・д・`)」「気ニシタラ負ケダヨ?(o^-^o)」「気ヲ付ケテ行ッテラッシャイネェ(* ゚∀゚)ノシ」

 旅は道連れ世は情け───


 前回にて戦艦棲姫のお誘いを謝辞した我等が総旗艦。
 今回はその理由と、なぜ日本に向かうのか、その理由を語ります。

 そしていよいよ日本へと出発します。

 …一名、キャラ崩壊が発生致しました。どうしてこうなった!?


 朝陽に煌々と照らされるだけの何も無い太平洋の海を、北上するモノがいた。

 

 

銀河(ぎん~が)水平(すいへ~い)波間(な~みま)を越えて、目指す(めざ~す)恒星(こう~せい)ケンタウリ~」

 

 

 アンドロメダだ。

 

 

 朝陽がまだ顔を出さない早朝に、今まで停泊していた場所から動きだし、ついに日本を目指して出発したのだ。

 

 だがその顔は疲れ気味であり、今歌っている『銀河航路』*1もやや音程がズレ、壊れたレコードの様にループ再生を続けている状態だった…。正直言って、不気味だ…。

 

 

 そんなアンドロメダを見かねたアナライザーが少し休まれてはと提案してくるが、「大丈夫ですよ~」と生返事を返すのみだ。

 

 

 そして徐に顔を座席の後ろ側、艤装のエンジンユニット部に向ける。

 

 

 そこには頭に角の様な意匠の突起が付いたベレー帽を被り、ノースリーブのセーラー服の様な衣装に身を包んだ小柄な深海棲艦がちょこんと腰掛け、非番の妖精達と一緒になって主計科の妖精から渡されたカロリーバー*2をリスの様にコリコリと美味しそうに頬張っていた。

 

 アンドロメダが視線を向けているのに気付いたのかその深海棲艦、姫級ハイエンドモデルが1人である駆逐棲姫は食べるのを止めてアンドロメダに向けて微笑みを浮かべた。

 

 それを見てぎこちなく笑って返すと、再び前を向くと大きな溜め息を吐いた。

 

 

「本当にどうしてこうなったの…?」

 

 

 そんなアンドロメダの姿に、駆逐棲姫は不思議そうにこてんと小首を傾げる。

 

 

 

  

 時は些か遡る─────

 

 

 

 

「丁重に御断り致します」

 

 

 戦艦棲姫からのお誘いに、頭を下げて謝辞するアンドロメダ。

 

 初対面であるにもかかわらず、人類に対する不信感からアンドロメダの今後を心配しているという気持ちは良く分かる。

 

 アンドロメダ自身、アナライザーが入手したこの世界の情報から、人類による目を覆いたくなる様な所業の数々を知り、正直あまり肩入れしたくないという気持ちが無いわけではなかった。

 

 

 それでも人類側である日本に向かうのは、アンドロメダが抱える問題が密接に関わっている。

 

 

 今のアンドロメダはその行動を支えるインフラが一切無い状態だ。

 

 

 艤装の修理や整備が行えず、消耗した物資の補給も行えない。

 

 いくら未来の戦闘艦と謂えど整備を行わなければいずれ壊れるし、物資は無くなる。OMCSが壊れたら飢えるし渇く。

 

 

 そうなればお手上げ。艤装はただのガラクタに成り下がり、アンドロメダは腹を空かせた無力なただの女性となる。

 

 

 それは避けなければならない。

 

 

 なら別に深海棲艦側でも良いのでは?という疑問が出てくるだろう。

 

 

 ここで問題となるのが艤装の差異だ。

 

 

 艦娘の艤装は機械式、深海棲艦の艤装は生体式。

 

 アンドロメダの艤装は明らかに機械式。

 

 

 技術格差という問題はあるが、それでも艦娘を有する以上、人類側の方が基礎技術は十分あるだろうからまだハードルが低いと判断したのだ。

 

 

 そして日本は混迷を極めるこの世界で、ある程度の国力を有し、艦娘の活動を支えるインフラが整っている国の中でもっともアンドロメダの現在地から近い位置にある国なのだ。

 

 

 無論、何等かの見返りを要求されるだろう。

 

 

 戦力(武力)の提供

 

 

 技術提供

 

 

 情報公開

 

        etc. etc.

 

 

 この世はギブアンドテイクが基本だとアンドロメダは認識している。

 

 故に可能な代価の提供は吝かではない。代価が際限無く肥大化する懸念は充分にあるが、現状整備と補給が受けられる可能性が高いメリットの方が捨てがたい。

 

 

 対して深海棲艦はどうか?生体艤装ということで技術的なノウハウに大きな疑問がある。

 

 艤装を棄てるというなら話は別だが、艤装はアンドロメダの半身であり、自身の価値と安全を保障するための確固たる財産だ。

 

 もしかしたら、アンドロメダの艤装を生体艤装化する技術があるのかもしれないが…。

 

 

 今ある情報や状況を加味して考えた結果、日本を目指す方がメリットが有ると判断した。そして例の人物の存在がそれを後押ししていた。

 

 

 戦艦棲姫がそれらを上回るメリットを提示出来るかも疑問である。

 

 それに戦艦棲姫のお誘いが彼女の善意からの先走り、独断専行である可能性が高いとアンドロメダは睨んでいた。

 

 その疑問と推測を、アンドロメダは率直に戦艦棲姫にぶつけた。

 

 

 そしてそれはおおよそ当たりだった。

 

 

 戦艦棲姫自身、損得勘定を抜きにした気持ち、感情が先走っているという自覚はある。

 

 また自身が上位種とはいえ最高意思決定権があるわけで無く、提案したとしてもそれが同胞達の総意として履行されるかが実際のところ不透明なのを認めた。

 

 整備に関してもアンドロメダの様な艤装タイプは確証が無かった。

 となるとアンドロメダが思ったように艤装を諦めるしかなくなるが、代価として衣食住を自身の命と引き換えにしてでも保証すると提示しても、もし自身がアンドロメダの立場だとしてそれを受け入れるかと問われたら、生殺与奪を相手に握られることになるから否だろうと俯きながら語った。

 

 

 アンドロメダ自身、それを詰る(なじる)つもりは毛頭無い。寧ろ下手に言葉を濁したり誤魔化しを謀らなかった分、個人的には戦艦棲姫への好感度が上がったくらいだ。

 

 もし自身が人類への恨み辛みで凝り固まった感情で一杯だったなら、損得勘定抜きに彼女等の軍門に喜んで下っただろう。

 

 もしくは戦いを捨てるというなら、それもいいだろう。

 

 

 だが世の中感情だけでの判断が許されるほど、そんな甘い代物ではない。

 

 

 どんな時でも頭の片隅では冷静、いや冷徹でなければならないとアンドロメダは考えている。

 

 弱さや甘えを見せたら、それは時としてつけ込まれる原因と成り得るのだ。

 

 

 だからこそ、私情を殺してでも自身の生存の為に最も確率が高いと判断した方を選んだ。

 

 それが今目の前にいる戦艦棲姫と敵対することになろうとも。

 

 

 その決意と覚悟を語った瞬間から、両者の間で緊張感が(にわか)に高まる。

 

 

 

 戦艦棲姫の生体艤装が即座に反応し、主人を庇う姿勢をとる。

 

 

 周りにいた潜水艦達も戦闘態勢へと移行する。

 

 

 アンドロメダも自身の砲塔を旋回させ照準を合わせながら弾庫から三式弾*3を揚弾し、薬室に装填した。

 

 

 お互い一言も喋らず、一触即発の空気が高まる。

 

 

 

 

「ハイ。ソコマデデス」

 

 

 

 

 そこへ突然第三者の声がして皆して驚くが、声の主に覚えのある戦艦棲姫が問う。

 

「貴女…、イツカライタノ?」

 

「ソコノオ姉サンガ水浴ビシテタ時カラダヨ」という答えと同時に水を跳ねる音がしたかと思うと、一人の少女がアンドロメダの艤装の舳先にカツンという硬質な音をたてながら飛び乗った。

 

 頭に角の様な意匠の突起が付いたベレー帽を被った、戦艦棲姫と比べて小柄なセーラー服に酷似した服を着た少女───

 確か駆逐棲姫というコードの娘だったかしら?資料と違ってちゃんとした脚があるけど、さっきの音からして、と考えていたら「ソレデ、何シニ来タノ?」と戦艦棲姫が駆逐棲姫に詰問するが、駆逐棲姫は呆れたとばかりに大きな溜め息を吐くと──

 

 

「二人共、今トッテモツライデスッテ顔ニ出テルノ気ヅイテル?」

 

 

 そう返されて、戦艦棲姫はばつの悪そうな顔をして駆逐棲姫から目を逸らし、アンドロメダも「ぁ」と小さく漏らしながら自身の顔に手を当てた。

 

 

 駆逐棲姫は腕を組みぷんすかという擬音が似合いそうな、いかにも私怒ってますという顔をしながら語りかける。

 

「オ互イ無理シスギデス。特ニオ姉サン、ソレダトイツカ心ガ壊レマスヨ?」

 

 

 そう言われてアンドロメダは思わず俯く。

 

 言わんとしていることは分かる。だけど───

 

 

 ぷに ぷにぷに

 

 

 …駆逐棲姫に両頬を摘ままれた。

 

「へ?えっ!?ふえぇえぇぇぇッ!?」

 

 まさかの事態にパニックになるアンドロメダ。それを見ていた戦艦棲姫が額を押さえる。

 

「エヘヘ。オ姉サンノ肌スベスベモチモチシテテ気持チイイデス~」

 

 ニコニコ顔の駆逐棲姫にされるがままのアンドロメダ。ぐいっと顔を引き寄せられて頬擦りまでされる始末…。

 

 ぼんっ!という音と共にアンドロメダの顔が真っ赤に染まる。

 

 

 もう思考とかどうにもならず、思わず戦艦棲姫に助けて下さいお願いします!との視線を送ってしまうが、「ゴメン無理」と言わんばかりに手を合わされた…。

 

 アナライザーは右往左往するだけで、妖精達は遠くから恐る恐るこちらを伺うのみ…。(あ、誰か撮影してる)

 

 潜水艦の方達も赤らめた顔を手で覆うふりをしながら指の隙間からしっかりと凝視していた。 

 

 

 

 誰か助けて~~~~~!?とアンドロメダは心の中で叫んだ…。

 

 

    ────────────

 

 

 暫くして、アンドロメダは漸く解放された。

 

 アナライザーが意を決して、決死の覚悟で駆逐棲姫に嗜好品をすすめたのが功を奏した。

 

 今駆逐棲姫は異星人をも唸らせ虜にしたという伝説のスイーツ、『マゼランパフェ』に舌鼓を打っていた。…何故かアンドロメダの膝の上で。

 

 その際、自身の脚に伝わる感触から駆逐棲姫の脚が腿から先は義足的なモノであるとわかった。しかも驚くほど軽い。これも生体艤装的なモノなのかしら?とアンドロメダが考えていると───

 

 

「ホントモウ、何カ色々トゴメンナサイ…」

 

 

 本日二度目となる戦艦棲姫の謝罪に、アンドロメダも乾いた笑みしか出なかった。

 

 お互い駆逐棲姫の乱入と自由奔放な振る舞いに毒気を完全に抜かれていた。

 

 

 とは言え、確かにお互い本心では引き金を引きたく無かった気持ちがあっため、駆逐棲姫の奇行とすら謂える振る舞いに若干引きつつも、内心では感謝していた。

 

 本人曰く「二人共心根ハヤサシイノニ真面目デ立場ニフリマワサレテルノガ見テテツラカッタ」との事。

 

 この評にアンドロメダは驚く。おそらく遠くから様子を見ていたのだろうが、それだけでここまでヒトとなりを断言出来るものなのかと。

 

 アンドロメダの内心を察した戦艦棲姫が「コノ娘、同胞ノ中デモヒトトナリヲ見抜ク能力ガトビヌケテタカイノヨ」と説明し、それを聞いた駆逐棲姫がスプーンを咥えた姿でどや顔しながらピースした。

 …その後に付け加えられた「コレデすきんしっぷヲ控エテクレレバトテモ良イ娘ナノニ…」と言う小言というか苦言は華麗に無視しながら。

 

 とは言え、ヒトは見かけに依らずとはよく言ったものだとアンドロメダは感心しつつ、思わず駆逐棲姫の頭を優しく撫でていた。それに終始ご満悦な駆逐棲姫の姿に、戦艦棲姫は何とも言えない表情を浮かべていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 その後、なんやかんやあってアンドロメダは早朝にこの海域から退去する事となった。

 

 とは言え一応この辺は深海棲艦の支配領域でもあるため、監視が付くこととなったのだが、それに駆逐棲姫が立候補したのだ。

 

 

 

 

 そして時を元に戻す─────

 

 

 アンドロメダ自身、監視が付くことに異論は無かった。しかもそれが姫級なのだから一筋縄ではいかない。

 

 実際、彼女の動きを見ているとその練度の高さが分かる。

 

 しかもアンドロメダは補機での航行とはいえ、並の水上艦の巡航速度よりも速い。

 にも拘らず、駆逐棲姫は平然と付いて来れているのだ。

 

 これにはアンドロメダも舌を巻いた。

 

 姫級の深海棲艦は自身が想定していたよりもスペックが高い。もしあのまま戦艦棲姫と撃ち合っていたらどうなっていたかと思うと、背筋が凍った。

 

 

 そういう意味でも駆逐棲姫には感謝しかない。

 

 

 

 とは言えである。アンドロメダが日本を目指す以上、一応は敵対している状態である。

 

 

 それなのにやたら距離が近いのだ。

 

 

 物理的な意味ではなく、こう、心的な意味で。

 

 

 

 

 昨晩、戦艦棲姫は別れ際にこう忠告を残していった。

 

 

「気ヲツケナサイ。油断スレバクワレルワヨ」と。

 

 

 最初は何の事かわからなかったが、今ならわかる。なぜなら隙有らば艤装に飛び乗ってスキンシップしようとしてくるのだから…。

 

 仮眠時に添い寝をねだられたが、別に変なことはしてこなかった。はず。そう願いたい。と言うか何かあったならアナライザーや当直の妖精達が騒いだはず。

 

 一応、今は自動運航(オートパイロット)モードのため多少スキンシップやイタズラされても航行に支障は無い。

 それに彼女によるスキンシップが嫌という気持ちは薄い。最初こそは吃驚したが、小動物的な奔放さに段々と可愛らしさを感じ出していた。

 

 そう考えている自分に、何だかだんだん感化されているなぁと感じていた。

 

 いざというとき、私は彼女や彼女達深海棲艦に引き金を引けるのかしら──と言う一抹の不安にかられる。

 

 いや、それ以前に何とも言えないこの緊張感の無い──まるでピクニック──状態に、アンドロメダは変に気疲れを起こしていた。

 

 

 悶々とした気持ちに、アンドロメダの表情が暗くなる。

 

「はあぁ「笑顔笑顔」ヒャアっ!?」

 

 溜め息を吐いた瞬間、アンドロメダの気持ちが沈みつつあるのを察した駆逐棲姫がそっと近付いて耳元で囁くように告げた。

 

 

「ソンナ顔シテマスト、折角ノ美人ガ台無シデスヨ?」

 

 美人と言う言葉に頬を赤らめながらも、誰のせいですかと言いたくなったが、口を出たのは別の言葉。

 

 

「貴女は本当に私の監視なんですか!?」と問うと「監視デスヨ~」と笑顔一杯で返され「デスカラオ姉サンノ気持チノ変化ガ手ニ取ル様ニワカルンデス」と告げるとアンドロメダの頬を捏ね繰り回しだした。

 

 

 頬を捏ね繰り回されながら、もうどうにでもなれとアンドロメダは自棄(やけ)気味に開き直ることにした。

 

 

 

 

 その後も駆逐棲姫に振り回されながら、日本へと向けた旅路は続く───「ワタシタチノトコロヘキタラ、オネエサンノコトヲオモウゾンブンイヤシテアゲマスヨ!」「テイチョウニオコトワリイタシマスッ!!」───本当に大丈夫なのだろうか…?

 

 

 

      ─────────

 

 

 

 

「振ラレタ様ネ」

 

「クゥチャン…。デモアノ娘、あんどろめだサンハイズレ私達ノ大切ナ同胞ノ1人トシテ私達ノ下ヘト来ルワ。人間達ガアノ娘ヲドウスルカ…、クゥチャンモ想像ガ付クデショウ?」

 

「…エエ。ソレトクゥチャンッテ呼ブナ。ソノ呼ビ方好キジャナイノ」

 

「アラ、ゴメンナサイ。デモ私ハ好キヨ?」

 

「頭二来マシタ」

 

「ソレハソウト、ホントニ追撃スルノ?」

 

「彼女ノ話ガ本当ナラ、ソレニ貴女が戦闘ヲサケタ判断カラ見テ、勝チ目ハ無イカモシレマセンガ、コノママ艦娘達ト合流サレテハ脅威ニナルノハ間違イアリマセン。ソウデショ?」

 

「否定ハシナイワ」

 

「まりあなヘノ増援部隊ノ準備モ丁度完了シマシタ。ソレニ最近暇ダト腕ヲブシテイル娘モイマシタカラツイデニ連レテイキマス」

 

「…アノ娘カ。大丈夫ナノカシラ?」

 

「がすヌキハ必要デス。デナケレバソノウチ勝手ニ突撃シテイキソウナノ…」

 

「ソレモソウネ…。デモ、無理ハ禁物ヨ?」

 

「心エテオリマス。ソレデハ」

 

 

*1
ヤマト2199挿入歌。地球の宇宙船乗り達に長年愛されている唱歌。別名宇宙船乗りの歌

*2
ヤマト2199本編にて真田技師長が食べていたブロック状の食べ物

*3
正式名、三式融合弾。ショックカノンから発射可能な対艦、対地、対空全てに対応した汎用型の実体砲弾




 さて珍道中の始まり始まり~(自棄)そしてアンドロメダの追撃を開始した深海棲艦!アンドロメダに危機が迫る!!風雲急を告げる西太平洋!!いよいよ戦いの火蓋が切って落とされるのか!!

 …ちゃんと戦闘シーンが書けるか実はかなり不安。


 ちょっとした裏話。

 実は何故か途中でアンドロメダが駆逐棲姫に深海棲艦化させられて引き返す内容になって慌てて書き直したりしました…。と言うか駆逐棲姫がキャラ崩壊したのはその名残だったりします…。最後の勧誘台詞もその名残…。
 駆逐棲姫好きの方々、本当に申し訳ない。


 それと今後につきまして、皆様方にアンケートを実施しようかと思います。
 内容は深海棲艦のセリフについて、今までみたいに原作同様片仮名表記にすべきかどうかデス。

 片仮名表記ですと読み上げ機能での読み違いが多く発生したり、誤字に気付きにくい等の問題が増えて来ましたので、今後平仮名に変えようか迷っています。また皆様方が読みにくいかもと段々心配になってきたというのもあります。
 ですので皆様方の御意見を知りたく、次の投稿までの間でアンケートを実施致します。
 あ、アナライザーはそのままですので悪しからず。

 それでは今回はこの辺りで失礼致します。

 励みや参考になりますので、お気が向きましたら感想もよろしくお願い致します。


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第4.1話Travel is a compassionate world「何か違う気がするσ(´・д・`)」「気ニシタラ負ケダヨ?(o^-^o)」「気ヲ付ケテ行ッテラッシャイネェ(* ゚∀゚)ノシ」

 こちらは読み上げ用の歌詞無しバージョンです。内容に変わりはありません。


 旅は道連れ世は情け───


 前回にて戦艦棲姫のお誘いを謝辞した我等が総旗艦。
 今回はその理由と、なぜ日本に向かうのか、その理由を語ります。

 そしていよいよ日本へと出発します。

 …一名、キャラ崩壊が発生致しました。どうしてこうなった!?




 朝陽に煌々と照らされるだけの何も無い太平洋の海を、歌を歌いながら北上するモノがいた。

 

 

 アンドロメダだ。

 

 

 朝陽がまだ顔を出さない早朝に、今まで停泊していた場所から動きだし、ついに日本を目指して出発したのだ。

 

 だがその顔は疲れ気味であり、今歌っている『銀河航路』*1もやや音程がズレ、壊れたレコードの様にループ再生を続けている状態だった…。正直言って、不気味だ…。

 

 

 そんなアンドロメダを見かねたアナライザーが少し休まれてはと提案してくるが、「大丈夫ですよ~」と生返事を返すのみだ。

 

 

 そして徐に顔を座席の後ろ側、艤装のエンジンユニット部に向ける。

 

 

 そこには頭にツノの様な意匠の突起が付いたベレー帽を被り、ノースリーブのセーラー服の様な衣装に身を包んだ小柄な深海棲艦がちょこんと腰掛け、非番の妖精達と一緒になって主計科の妖精から渡されたカロリーバー*2をリスの様にコリコリと美味しそうに頬張っていた。

 

 アンドロメダが視線を向けているのに気付いたのかその深海棲艦、姫級ハイエンドモデルが1人である駆逐棲姫は食べるのを止めてアンドロメダに向けて微笑みを浮かべた。

 

 それを見てぎこちなく笑って返すと、再び前を向くと大きな溜め息を吐いた。

 

 

「本当にどうしてこうなったの…?」

 

 

 そんなアンドロメダの姿に、駆逐棲姫は不思議そうにこてんと小首を傾げる。

 

 

 

  

 時は些か遡る──────

 

 

 

 

「丁重に御断り致します」

 

 

 戦艦棲姫からのお誘いに、頭を下げて謝辞するアンドロメダ。

 

 初対面であるにも関わらず、人類に対する不信感からアンドロメダの今後を心配しているという気持ちは良く分かる。

 

 アンドロメダ自身、アナライザーが入手したこの世界の情報から、人類による目を覆いたくなる様な所業の数々を知り、正直あまり肩入れしたくないという気持ちが無いわけではなかった。

 

 

 それでも人類側である日本に向かうのは、アンドロメダが抱える問題が密接に関わっている。

 

 

 今のアンドロメダはその行動を支えるインフラが一切無い状態だ。

 

 

 艤装の修理や整備が行えず、消耗した物資の補給も行えない。

 

 いくら未来の戦闘艦と謂えど整備を行わなければいずれ壊れるし、物資は無くなる。OMCSが壊れたら飢えるし渇く。

 

 

 そうなればお手上げ。艤装はただのガラクタに成り下がり、アンドロメダは腹を空かせた無力なただの女性となる。

 

 

 それは避けなければならない。

 

 

 なら別に深海棲艦側でも良いのでは?という疑問が出てくるだろう。

 

 

 ここで問題となるのが艤装の差異だ。

 

 

 艦娘の艤装は機械式、深海棲艦の艤装は生体式。

 

 アンドロメダの艤装は明らかに機械式。

 

 

 技術格差という問題はあるが、それでも艦娘を有する以上、人類側の方が基礎技術は十分あるだろうからまだハードルが低いと判断したのだ。

 

 

 そして日本は混迷を極めるこの世界で、ある程度の国力を有し、艦娘の活動を支えるインフラが整っている国の中でもっともアンドロメダの現在地から近い位置にある国なのだ。

 

 

 無論、何等かの見返りを要求されるだろう。

 

 

 戦力(武力)の提供

 

 

 技術提供

 

 

 情報公開

 

        etc. etc.

 

 

 この世はギブアンドテイクが基本だとアンドロメダは認識している。

 

 故に可能な代価の提供は吝かではない。代価が際限無く肥大化する懸念は充分にあるが、現状整備と補給が受けられる可能性が高いメリットの方が捨てがたい。

 

 

 対して深海棲艦はどうか?生体艤装ということで技術的なノウハウに大きな疑問がある。

 

 艤装を棄てるというなら話は別だが、艤装はアンドロメダの半身であり、自身の価値と安全を保障するための確固たる財産だ。

 

 もしかしたら、アンドロメダの艤装を生体艤装化する技術があるのかもしれないが…。

 

 

 今ある情報や状況を加味して考えた結果、日本を目指す方がメリットが有ると判断した。そして例の人物の存在がそれを後押ししていた。

 

 

 戦艦棲姫がそれらを上回るメリットを提示出来るかも疑問である。

 

 それに戦艦棲姫のお誘いが彼女の善意からの先走り、独断専行である可能性が高いとアンドロメダは睨んでいた。

 

 その疑問と推測を、アンドロメダは率直に戦艦棲姫にぶつけた。

 

 

 そしてそれはおおよそ当たりだった。

 

 

 戦艦棲姫自身、損得勘定を抜きにした気持ち、感情が先走っているという自覚はある。

 

 また自身が上位種とはいえ最高意思決定権があるわけで無く、提案したとしてもそれが同胞(はらから)達の総意として履行されるかが実際のところ不透明なのを認めた。

 

 整備に関してもアンドロメダの様な艤装タイプは確証が無かった。

 となるとアンドロメダが思ったように艤装を諦めるしかなくなるが、代価として衣食住を自身の命と引き換えにしてでも保証すると提示しても、もし自身がアンドロメダの立場だとしてそれを受け入れるかと問われたら、生殺与奪を相手に握られることになるから否だろうと俯きながら語った。

 

 

 アンドロメダ自身、それを(なじ)るつもりは毛頭無い。寧ろ下手に言葉を濁したり誤魔化しを謀らなかった分、個人的には戦艦棲姫への好感度が上がったくらいだ。

 

 もし自身が人類への恨み辛みで凝り固まった感情で一杯だったなら、損得勘定抜きに彼女等の軍門に喜んで下っただろう。

 

 もしくは戦いを捨てるというなら、それもいいだろう。

 

 

 だが世の中感情だけでの判断が許されるほど、そんな甘い代物ではない。

 

 

 どんな時でも頭の片隅では冷静、いや冷徹でなければならないとアンドロメダは考えている。

 

 弱さや甘えを見せたら、それは時としてつけ込まれる原因と成り得るのだ。

 

 

 だからこそ、私情を殺してでも自身の生存の為に最も確率が高いと判断した方を選んだ。

 

 それが今目の前にいる戦艦棲姫と敵対することになろうとも。

 

 

 その決意と覚悟を語った瞬間から、両者の間で緊張感が(にわか)に高まる。

 

 

 戦艦棲姫の生体艤装が即座に反応し、主人を庇う姿勢をとる。

 

 

 周りにいた潜水艦達も戦闘態勢へと移行する。

 

 

 アンドロメダも自身の砲塔を旋回させ照準を合わせながら弾庫から三式弾*3を揚弾し、薬室に装填した。

 

 

 お互い一言も喋らず、一触即発の空気が高まる。

 

 

 

 

「ハイ。ソコマデデス」

 

 

 

 

 そこへ突然第三者の声がして皆して驚くが、声の主に覚えのある戦艦棲姫が問う。

 

「貴女…、イツカライタノ?」

 

「ソコノオ姉サンガ水浴(ミズア)ビシテタ時カラダヨ」という答えと同時に水を跳ねる音がしたかと思うと、一人の少女がアンドロメダの艤装の舳先にカツンという硬質な音をたてながら飛び乗った。

 

 頭にツノの様な意匠の突起が付いたベレー帽をかぶった、戦艦棲姫と比べて小柄なセーラー服に酷似した服を着た少女───

 確か駆逐棲姫というコードの娘だったかしら?資料と違ってちゃんとした脚があるけど、さっきの音からして、と考えていたら「ソレデ、何シニ来タノ?」と戦艦棲姫が駆逐棲姫に詰問するが、駆逐棲姫は呆れたとばかりに大きな溜め息を吐くと──

 

 

「二人共、今トッテモツライデスッテ顔ニ出テルノ気ヅイテル?」

 

 

 そう返されて、戦艦棲姫はばつの悪そうな顔をして駆逐棲姫から目を逸らし、アンドロメダも「あ」と小さく漏らしながら自身の顔に手を当てた。

 

 

 駆逐棲姫は腕を組みぷんすかという擬音が似合いそうな、いかにも私怒ってますという顔をしながら語りかける。

 

「オ互イ無理シスギデス。特ニオ姉サン、ソレダトイツカ心ガコワレマスヨ?」

 

 

 そう言われてアンドロメダは思わず俯く。

 

 言わんとしていることは分かる。だけど───

 

 

 ぷに ぷにぷに

 

 

 …駆逐棲姫に両頬をつままれた。

 

「へ?えっ!?ふえぇえぇぇぇッ!?」

 

 まさかの事態にパニックになるアンドロメダ。それを見ていた戦艦棲姫が額を押さえる。

 

「エヘヘ。オ姉サンノ肌スベスベモチモチシテテ気持イイデス~」

 

 ニコニコ顔の駆逐棲姫にされるがままのアンドロメダ。ぐいっと顔を引き寄せられて頬擦りまでされる始末…。

 

 ぼんっ!という音と共にアンドロメダの顔が真っ赤に染まる。

 

 

 もう思考とかどうにもならず、思わず戦艦棲姫に助けて下さいお願いします!との視線を送ってしまうが、「ゴメン無理」と言わんばかりに手を合わされた…。

 

 アナライザーは右往左往するだけで、妖精達は遠くから恐る恐るこちらを伺うのみ…。(あ、誰か撮影してる)

 

 潜水艦の方達も赤らめた顔を手で覆うふりをしながら指の隙間からしっかりと凝視していた。 

 

 

 

 誰か助けて~~~~~!?とアンドロメダは心の中で叫んだ…。

 

 

    ────────────

 

 

 暫くして、アンドロメダは漸く解放された。

 

 アナライザーが意を決して、決死の覚悟で駆逐棲姫に嗜好品をすすめたのが功を奏した。

 

 今駆逐棲姫は異星人をも唸らせ虜にしたという伝説のスイーツ、『マゼランパフェ』に舌鼓を打っていた。…何故かアンドロメダの膝の上で。

 

 その際、自身の脚に伝わる感触から駆逐棲姫の脚が腿から先は義足的なモノであるとわかった。しかも驚くほど軽い。これも生体艤装的なモノなのかしら?とアンドロメダが考えていると───

 

 

「ホントモウ、何カ色々トゴメンナサイ…」

 

 

 本日二度目となる戦艦棲姫の謝罪に、アンドロメダも乾いた笑みしか出なかった。

 

 お互い駆逐棲姫の乱入と自由奔放な振る舞いに毒気を完全に抜かれていた。

 

 

 とは言え、確かにお互い本心では引き金を引きたく無かった気持ちがあっため、駆逐棲姫の奇行とすら謂える振る舞いに若干引きつつも、内心では感謝していた。

 

 本人曰く「二人共心根ハヤサシイノニマジメデ立場ニフリマワサレテルノガ見テテツラカッタ」との事。

 

 この評にアンドロメダは驚く。おそらく遠くから様子を見ていたのだろうが、それだけでここまでヒトとなりを断言出来るものなのかと。

 

 アンドロメダの内心を察した戦艦棲姫が「コノ娘、同胞(ハラカラ)ノナカデモヒトトナリヲ見抜ク能力ガトビヌケテタカイノヨ」と説明し、それを聞いた駆逐棲姫がスプーンを咥えた姿でどや顔しながらピースした。

 …その後に付け加えられた「コレデすきんしっぷヲ控エテクレレバトテモ良イ娘ナノニ…」と言う小言というか苦言は華麗に無視しながら。

 

 とは言え、ヒトは見かけに依らずとはよく言ったものだとアンドロメダは感心しつつ、思わず駆逐棲姫の頭を優しく撫でていた。それに終始ご満悦な駆逐棲姫の姿に、戦艦棲姫は何とも言えない表情を浮かべていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 その後、なんやかんやあってアンドロメダは早朝にこの海域から退去する事となった。

 

 とは言え一応この辺は深海棲艦の支配領域でもあるため、監視が付くこととなったのだが、それに駆逐棲姫が立候補したのだ。

 

 

 

 

 そして時を元に戻す─────

 

 

 アンドロメダ自身、監視が付くことに異論は無かった。しかもそれが姫級なのだから一筋縄ではいかない。

 

 実際、彼女の動きを見ているとその練度の高さが分かる。

 

 しかもアンドロメダは補機での航行とはいえ、並の水上艦の巡航速度よりも速い。

 にも拘らず、駆逐棲姫は平然と付いて来れているのだ。

 

 これにはアンドロメダも舌を巻いた。

 

 姫級の深海棲艦は自身が想定していたよりもスペックが高い。もしあのまま戦艦棲姫と撃ち合っていたらどうなっていたかと思うと、背筋が凍った。

 

 

 そういう意味でも駆逐棲姫には感謝しかない。

 

 

 

 とは言えである。アンドロメダが日本を目指す以上、一応は敵対している状態である。

 

 

 それなのにやたら距離が近いのだ。

 

 

 物理的な意味ではなく、こう、心的な意味で。

 

 

 

 

 昨晩、戦艦棲姫は別れ際にこう忠告を残していった。

 

 

「気ヲツケナサイ。油断スレバクワレルワヨ」と。

 

 

 最初は何の事かわからなかったが、今ならわかる。なぜなら隙有らば艤装に飛び乗ってスキンシップしようとしてくるのだから…。

 

 仮眠時に添い寝をねだられたが、別に変なことはしてこなかった。はず。そう願いたい。と言うか何かあったならアナライザーや当直の妖精達が騒いだはず。

 

 

一応、今は自動運航(オートパイロット)モードのため多少スキンシップやイタズラされても航行に支障は無い。

 それに彼女によるスキンシップが嫌という気持ちは薄い。最初こそは吃驚したが、小動物的な奔放さに段々と可愛らしさを感じ出していた。

 

 そう考えている自分に、何だかだんだん感化されているなぁと感じていた。

 

 いざというとき、私は彼女や彼女達深海棲艦に引き金を引けるのかしら──と言う一抹の不安にかられる。

 

 いや、それ以前に何とも言えないこの緊張感の無い──まるでピクニック──状態に、アンドロメダは変に気疲れを起こしていた。

 

 

 悶々とした気持ちに、アンドロメダの表情が暗くなる。

 

「はあぁ「笑顔笑顔」ヒャアっ!?」

 

 溜め息を吐いた瞬間、アンドロメダの気持ちが沈みつつあるのを察した駆逐棲姫がそっと近付いて耳元で囁くように告げた。

 

 

「ソンナ顔シテマスト、折角ノ美人ガ台無シデスヨ?」

 

 美人と言う言葉に頬を赤らめながらも、誰のせいですかと言いたくなったが、口を出たのは別の言葉。

 

 

「貴女は本当に私の監視なんですか!?」と問うと「監視デスヨ~」と笑顔一杯で返され「デスカラオ姉サンノ気持チノ変化ガ手ニ取ルヨウニワカルンデス」と告げるとアンドロメダの頬を捏ね繰り回しだした。

 

 

 頬を捏ね繰り回されながら、もうどうにでもなれとアンドロメダは自棄(やけ)気味に開き直ることにした。

 

 

 

 

 その後も駆逐棲姫に振り回されながら、日本へと向けた旅路は続く───「ワタシタチノトコロヘキタラ、オネエサンノコトヲオモウゾンブンイヤシテアゲマスヨ!」「テイチョウニオコトワリイタシマスッ!!」───本当に大丈夫なのだろうか…?

 

 

 

      ─────────

 

 

 

 

「振ラレタヨウネ」

 

「クゥチャン…。デモアノ娘、あんどろめだサンハイズレ私達ノ大切ナ同胞(ハラカラ)ノ1人トシテ私達ノ元ヘト()ルワ。人間達ガアノ娘ヲドウスルカ…、クゥチャンモ想像ガ付クデショウ?」

 

「…エエ。ソレトクゥチャンッテ呼ブナ。ソノ呼ビ方好キジャナイノ」

 

「アラ、ゴメンナサイ。デモ私ハ好キヨ?」

 

「頭二()マシタ」

 

「ソレハソウト、ホントニ追撃スルノ?」

 

「彼女ノ話ガ本当ナラ、ソレニ貴女が戦闘ヲサケタ判断カラ見テ、勝チ目ハ無イカモシレマセンガ、コノママ艦娘達ト合流サレテハ脅威ニナルノハ間違イアリマセン。ソウデショ?」

 

「否定ハシナイワ」

 

「まりあなヘノ増援部隊ノ準備モ丁度完了シマシタ。ソレニ最近暇ダト腕ヲブシテイル娘モイマシタカラツイデニ連レテイキマス」

 

「…アノ娘カ。大丈夫ナノカシラ?」

 

「がすヌキハ必要デス。デナケレバソノウチ勝手ニ突撃シテイキソウナノ…」

 

「ソレモソウネ…。デモ、無理ハ禁物ヨ?」

 

「心エテオリマス。ソレデハ」

 

 

*1
ヤマト2199挿入歌。地球の宇宙船乗り達に長年愛されている唱歌。別名宇宙船乗りの歌

*2
ヤマト2199本編にて真田技師長が食べていたブロック状の食べ物

*3
正式名、三式融合弾。ショックカノンから発射可能な対艦、対地、対空全てに対応した汎用型の実体砲弾




 さて珍道中の始まり始まり~(自棄)そしてアンドロメダの追撃を開始した深海棲艦!アンドロメダに危機が迫る!!風雲急を告げる西太平洋!!いよいよ戦いの火蓋が切って落とされるのか!!

 …ちゃんと戦闘シーンが書けるか実はかなり不安。


 ちょっとした裏話。

 実は何故か途中でアンドロメダが駆逐棲姫に深海棲艦化させられて引き返す内容になって慌てて書き直したりしました…。と言うか駆逐棲姫がキャラ崩壊したのはその名残だったりします…。最後の勧誘台詞もその名残…。
 駆逐棲姫好きの方々、本当に申し訳ない。


 それと今後につきまして、皆様方にアンケートを実施しようかと思います。
 内容は深海棲艦のセリフについて、今までみたいに原作同様片仮名表記にすべきかどうかデス。

 片仮名表記ですと読み上げ機能での読み違いが多く発生したり、誤字に気付きにくい等の問題が増えて来ましたので、今後平仮名に変えようか迷っています。また皆様方が読みにくいかもと段々心配になってきたというのもあります。
 ですので皆様方の御意見を知りたく、次の投稿までの間でアンケートを実施致します。
 あ、アナライザーはそのままですので悪しからず。

 それでは今回はこの辺りで失礼致します。

 励みや参考になりますので、お気が向きましたら感想もよろしくお願い致します


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第5話 A distant journey to Japan 

 日本への遥かなる旅路


 初めての戦闘だぜ!気合い!入れて!逝くぜ!!

 …大変だった。

 今回色々と試しをやりました。それと前回のアンケートの結果を参考に、途中から平仮名に代わります。

 では、皆様ご唱和下さい。「ガーレ・ガミロン!!」


 耳をつんざく警報が響き渡る。

 

 

「索敵班ヨリ通達。機影多数、右舷(みぎげん)2時ヨリ接近中」

 

「電波管制解除。詳細報告」

 

 アナライザーの報告にアンドロメダが応える。普段と違い、サングラス状のバイザーを付けているためその目元は隠れていた。

 

 逆探知を警戒して稼働していなかったレーダーが、アンドロメダの指示を受け稼働。

 

 レーダーが捉えたシルエットから、接近する機影に該当するデータのライブラリー検索が瞬時に行われる。

 

「機数36。全機深海棲艦ノ艦載機ト認ム。速度243(ふたひゃくよんじゅうさん)のっと*1。目標群、コチラヘ向ケ緩降下(かんこうか)ヲ開始。完全ニ捕捉サレタ模様デス」

 

 その報告に頷くと号令を発する。

 

「全艦戦闘配置、面舵(おもーかーじ)、針路0-1-0(マルヒトマル)*2。対空戦闘用意」

 

 操縦スティックを右に傾け、舳先を向かって来る艦載機群の方向へと向ける。そうすることで全ての主砲を使える様にするのだ。

 

「艦載機デ迎撃シマスカ?」

 

 そうアナライザーが聞いてくるが、首を横に振って否定する。

 

「…いえ、数から見て小手調べを目的とした攻撃と判断します。航空隊は温存。先ずは主砲による対空射撃で対処します」

 

 何せ相手は超大型空母(ヒト)、空母5、軽空母(フタ)乃至(ないし)3の空母艦隊。推定航空戦力は最低でも600機という大部隊だ。

 

 本命はこの後、物量に物を言わせて一気に畳み掛けに来るだろう。

 或いは波状攻撃によりこちらを消耗させてから水上打撃戦力を突入させるか。

 

 

 そのどちらにせよ、このタイミングで艦載機を射出しては早々に消耗するだけだと判断した。

 

 ミサイルも同じだ。基本的に1目標に対して1発の割合で対応するため物量相手だと些か弾数的に分が悪いし、ミサイルの単価からしてコストパフォーマンス的にもあまりよろしくない。

 だからミサイル等の誘導弾は可能な限り高価値目標であったり、誘導弾以外では対応が困難な場合の緊急時以外での使用は極力控えたい。

 

 

 

 相手の投入戦力に、単艦に対して過剰戦力にも程があると悪態を吐きたくなるが、それだけ私を脅威と認識している証左だと思い直し、目の前の状況に集中する。

 

「主砲三式、モード対空。全自動対応。但し初弾発砲は指示あるまで待機」

 

 音声入力とタッチパネルの両方を駆使して必要な指示を淡々と下していく。

 

 三式の対空モードならミサイルと違い、空中炸裂による内包された無数のフレシェットの広範囲散布による面制圧によって1発で複数目標を纏めての撃破が狙えるためコストパフォーマンスが良い。

 

 

 艤装に備え付けられた4基の3連装主砲塔が旋回を始め、砲身がそれぞれ仰角を上げて空を睨む。

 

 徐に目標がいる空域に向けて視線を向ける。

 

 距離的にまだごまつぶ程の大きさだが、測距儀やセンサー等が捉え、デジタル補正された映像がバイザーに映し出されており、この距離からでも目標の姿をはっきりと認識することができた。

 

 既に初弾の装填は完了。後は目標が主砲の射程圏内へと入って来るのを待つだけだ。

 

 この時でも主砲は刻一刻と変わる様々なデータに対応するために小刻みに動いている。

 

 映し出された映像の機影群を囲む情報表示の文字が、緑色の『射程圏外』表示からオレンジ色の『射程圏内』の表示へと切り替わり、一拍置いて『完全捕捉(LOCKON)』完了の文字が現れる。

 

 だがまだ発砲指示は出さない。まだ引き付ける────

 

(まだ、まだ、まだまだ────よし)

 

「主砲、撃ち方始め」

 

 バイザーに砲煙が映り、第1斉射の砲弾が飛翔していく。

 

 即座に自動で次弾が装填される。

 

 だが第2斉射が無いことを見るに、それで充分だとコンピュータが判断したのだろう。

 

 

 事実、まだ距離があると油断していたのか、目標群は散開せず固まったままであったために第1斉射だけでカタがついていた。

 

 今回意図的に本来の最大射程よりも短い距離で発砲した。

 

 それでも艦娘が使用する三式弾の最大射程よりかは長い。

 艦娘の三式弾を想定していた深海棲艦の艦載機にとって、この距離では効果が薄く無駄弾となるため撃つことはあり得ない。そう考えていただろう。

 

 

 だがこちらにはこの時代の物を遥かに凌駕する砲と、それを支える優秀なレーダーとFCS*3が有るためこの様な芸当が出来る。

 

 無論、本来の射程でも可能である。

 

 

 この後数度に渡り小規模編隊が飛来して来たが、その悉くを撃退。

 

 

 そしていよいよ本腰を入れてきたのか、120機を越える大編隊が飛来。

 

 とは言え、この数ならまだ主砲だけでどうにかなると判断。今回も航空隊の展開は見送る。

 

 

 しかし今度の相手は今までと違い、射程圏外の空域でアンドロメダを囲むように旋回するだけで接近してこない。

 時折フェイントをかけてくるのみだ。

 

 

(…これは、ちょっとマズイかも)

 

 

 相手の動きから次の行動を予測するが、あまりよろしくない予想に操縦スティックとスロットルレバーを握る手が無意識に力んでしまう。

  

 

 

「レーダー探知。左舷(ひだりげん)8時ニ艦影。駆逐棲姫、急速接近。同時ニ艦載機群モ一斉ニキマス」

 

 

「っ!増速、取り舵(とーりかーじ)一杯!2番主砲、駆逐棲姫に対応。1番、3番、4番は引き続き対空射撃を継続。但し、射程は第1斉射時の距離を最大として維持。パルスレーザー、AAW auto*4

 

 矢継ぎ早に指示を出すが、当たって欲しくなかった予想が当たった事に舌打ちする。

 

(海と空からの同時攻撃!味方撃ちの危険性もあるというのに!!)

 

 そう内心では毒づきながらも、対応は怠らない。最小の半径で回頭するようにスティックを小刻みに動かし、スロットルを慎重に操作する。

 1番と3番、4番主砲がアンドロメダの指示に従って対空射撃を行い、2番主砲が駆逐棲姫を捉えようと動き出す。

 

 ちらりと駆逐棲姫を見る。

 

 

 速い!

 

 

 ゴーグルをつけた駆逐棲姫がこちらに向けて猛烈な速度で接近していた。

 

 その速度表示を見て驚く。

 

 

『46ノット*5

 

 

 水上駆逐艦最速記録を持つフランスのル・テリブル(45ノット*6)よりも速い!しかもまだまだ出せますよ?と言わんばかりの余裕さを醸し出していた。

 

 

 

「フフフ♪」

 

 

 一瞬、駆逐棲姫の笑い声が聞こえた気がした。しかもとても楽しそうな感じだった。

 声が届く様な距離ではない。だが、駆逐棲姫の口元は心底楽しそうな笑みに歪んでいた。

 

 それに気圧されることなく逆に口元を吊り上げて笑い返す。こういう時は、呑み込まれたら敗けだ。

 

 アンドロメダが笑ったのが見えたのか、駆逐棲姫は嬉しそうに笑みを深め、更に増速した。

 

 47、48ノット*7とまだまだ上がる。

 

 これを見て回頭が間に合わないと判断したアンドロメダは、右舷艦首部のスラスターを起動させて強引にだが一気に曲がる。

 

 これには駆逐棲姫も驚いた顔をする。

 

 水上だと水の抵抗による艦体への負荷からあまり多用したくないやり方ではあるが、してやったりと見事にきまった。

 

 だが相手は伊達に姫級なだけはある。即座にショックから立ち直るとランダム回避運動を開始した。

 

 既に50ノット*8を突破し52ノット*9に迫っているのにも関わらず、「慣性?何それ美味しいの?」と言わんばかりの激しい機動を見せつけてくる。しかも───

 

 

(上手い!絶妙なタイミングでLOCK ONが外されている!)

 

 

 駆逐棲姫の先読み困難なトリッキーな動きに主砲の動作もFCSの処理も追い付いていない。いや、捕捉してもFCSからの発砲指示が主砲に伝達されるまでのタイムラグの間に振り切られて発砲指示がエラーとしてキャンセルされている。

 

 更に駆逐棲姫の射程に入ったのか牽制砲撃を仕掛けてきたため、こちらも回避運動を取らざるを得ず、余計に砲撃のタイミングが取りづらくなった。

 

 駆逐艦の砲撃程度に何をと侮るなかれ。深海棲艦の姫級は艦種の括りを逸脱した能力を平然と発揮する等級なのだ。

 

 事実、駆逐棲姫の砲撃は数ランク上の巡洋艦と何ら遜色無いどころか上回ってすらいる。

 

 別の所にいる駆逐艦の姫級であるが、あろうことか並の戦艦を凌駕する装甲と耐久性を有しているという。

 

 故に艦娘達は姫級に対し、畏怖を込めてこう称した────

 

 『艦種詐欺集団』と────

 

 

 予想以上の苦戦に、ヒトの形となるだけで戦いがこうも勝手が違うのかと歯噛みする。

 

 しかし、むざむざやられはしない!と歯を食い縛り、頭を巡らす────

 

「左舷対艦グレネード、発射はじ「マニアイマセン!!」くっ!」

 

 目の前まで迫った駆逐棲姫が水面から跳躍し、アンドロメダの顔に向けて腕が伸び───

 

 

 …帽子が取られた。

 

 

「私ノ勝チ~~♪」

 

 

 アンドロメダの頭上で一回転し、反対側の海面に着水。振り向き様に勝ち誇った顔でそう宣言すると、取り上げた帽子を自らの頭のベレー帽と取り替える形でのせ、似合う?とニコニコ顔で小首を傾げてくる。

 

「はぁ。教練戦闘、状況終了。用具収め」

 

「ざー・べるく」

 

 アナライザーの受け答えに軽くこめかみを押さえる。先程までのアンドロメダとアナライザーの会話は全てガミラス語で行っていたのだ。

 無論、意図してのものである。因みに『ザー・ベルク』とは地球の言葉で『了解しました』に相当する。

 

「…もう普通に話しても大丈夫ですよ」

 

 そう言うとバイザーを外す。周囲を旋回していたハズの深海棲艦の艦載機は1機もいない。

 

 そう。全ては教練用にプログラミングされた架空映像をバイザーに映していただけだ。お互いが使用した火器も、実際には1発も発砲していない。例えるならレーザーポインターで撃ち合っていた様なもので、被弾した場合はバイザーに表示されるのみである。

 本来ならゴーグルタイプだが、今回それは駆逐棲姫に貸したため予備のバイザータイプを使用した。

 

 当の駆逐棲姫はゴーグルを首に提げるといつも通り艤装に飛び乗ってアンドロメダに抱き付く。

 

「エヘヘ~。観念シテ私達ノ同胞(ハラカラ)ニ「御断りします」ムゥ、強情デスネ」

 

 そう言って口を尖らせながらアンドロメダの頬をつつくが、流石に慣れてきたのか微笑みを浮かべるアンドロメダに頭を撫でられ、気持ち良さそうに目を細める。

 

 しかしあることを思い出し、撫でられながらもアンドロメダに問う。

 

 

「デモコノママダト追撃シテクル同胞(ハラカラ)達ニオイツカレマスヨ?ヤッパリオ姉サン、本心デハ同胞(ハラカラ)ニナリタインジャナイデスカ~?」

 

 この問いにアンドロメダは少し困った顔をし、徐に空を見上げる。

 

()()をどうにかしなければ下手に動けませんからねぇ…」

 

 アンドロメダの言う()()とは、軌道上に浮かぶ稼働中の偵察衛星、監視衛星の事である。

 

 深海棲艦の北上を警戒して配置されたのだろう。

 

 アンドロメダ1人なら堂々と通過しても、多分問題無いが、駆逐棲姫という深海棲艦の同行者がいるのが問題だった。

 もし一緒に居るところを見られたら、後々面倒で厄介なことになる。

 一応、見た目を完全に誤魔化す方法はあるにはあるが、カバーストーリーの構築やら何やらが大変なので最後の手段である。

 

 

 とは言え、そこまで濃密な監視網という訳ではなく、どちらかと謂えば艦隊規模の戦力移動を捉えたら御の字みたいなものであり、穴があるのは確かだ。

 実際、教練で想定した相手空母戦力の総数は、衛星がたまたま捉えた画像*10を解析して得た情報を元にしていた。

 

 一応、何時どのタイミングで上空を通過するかも既に把握しているが、万が一何かあって動けなくなった時、海上は遮蔽が無い。

 海中を進むという手もあるが、アンドロメダの潜水艦航行能力は『海に潜って進むこと()出来る』程度であって、それほど高いわけではない。万が一深海棲艦の潜水艦部隊に捕捉されて群がられたら厄介だ。

 それに先日溺れた記憶が心理的な足枷となっており、半ば無意識に除外している事実もある。

 

 また、最悪の場合は該当する衛星に不正アクセスを行って細工するという方法も考えた。

 

 だがしかしである。日本に着くまでに『()()()()()()()()()()()()()()()』というのは流石に不自然過ぎて逆に怪しまれる危険性がある。

 

 

 そこで熟慮の末、アンドロメダはある一つの決断を下した。

 

 

衛星に捉えられる前提で追撃して来た深海棲艦の部隊と交戦する

 

 

 深海棲艦と派手にドンパチしている所なら見られても問題ない。深海棲艦と敵対している『何か』がいると認識するだろう。

 

 その後なら、駆逐棲姫と一緒に居るところを見られても、戦いで得た捕虜だと言い張る。…やたら自由奔放で気儘な捕虜ではあるが。

 

 

 とは言え、そうなると戦いに勝利しなければならない。

 

 しかしアンドロメダにはこの世界での戦いは未経験だし、訓練すらまともに出来ておらず、いきなりの実戦にはかなりの不安があった。

 

 

 そこでアンドロメダは自身のスペック情報の開示*11、更に報酬として甘味の提供を条件に駆逐棲姫に演習を依頼した。

 

 駆逐棲姫自身、()()()アンドロメダの監視が本来の目的であるため、それを快諾。

 …甘味に(なび)いた感がしなくもないとは某支援AI氏の証言だが、真相は定かではない。

 

 

 深海棲艦の艦載機の動きは人類が保存している資料映像を参考にアルゴリズムを構築。運用には駆逐棲姫が妖精達(主に航空科が主体)と一緒になってわちゃわちゃしながら組み立てた。

 本人曰く、とても楽しかったとの事である。

 

 

     ───────────

 

 休憩と反省会を兼ねたお茶会を開いた。

 

 アンドロメダは相変わらず紅茶、駆逐棲姫は報酬も兼ねたケーキセットである。

 

 

 とその前にアナライザーから「言語解析ガ完了シマシタ」との報告が上がる。

 

 深海棲艦の言語には独特のイントネーションがある。聞き取れない訳ではないが、今後のために解析による翻訳*12を依頼していたのだ。

 

 

「お姉さん、最後の航空隊が飛来した時、まだ主砲だけで大丈夫と思ったでしょ?」

 

 フォーク片手に駆逐棲姫がそう指摘してくる。

 

 図星である。

 

 あの時こちらの航空隊も出していたら、また違った結果になっていた可能性が高い。

 

 そうさせないために駆逐棲姫が仕組んだ心理的ワナに、アンドロメダはものの見事に引っ掛かったのだ。

 

 こういう戦場での駆け引きは現状、駆逐棲姫に一日の長があると言わざる逐えない。

 

 

「主砲の動作アルゴリズムを見直す必要があるわね。FCSも今のままだと処理速度に問題があるわ」

 

 正直、ヒト型の機動性の自由度を甘く見ていた。

 

 アンドロメダのFCSは標的へのLOCK ONが完全に完了するまで撃てない様にプログラムが組まれており、咄嗟に発砲する事が出来ない。

 これは標的を外した流れ弾による味方撃ちのリスクを懸念して組まれたものだった。

 

 今回それが完全に裏目に出た。

 

 結果、駆逐棲姫の接近を阻害するための阻止射撃すら出来ずに懐に入り込まれた。

 

 

 更に言えば主砲だが、対艦戦闘用意の明確な指示が無かったために対空戦闘配置状態のままで、対空モードで装填されていた三式弾の対艦モードへの切り替えは行われておらず、次弾も対空モードだったとアナライザーが指摘。

 

 その指摘にアンドロメダは思わず「うっ!」という声が出てしまう。

 

 確かに駆逐棲姫に対応としか指示を出しておらず、それ以外の指示がすっぽり抜け落ちていた。

 

 当のアンドロメダ自身、頭の中ではショックカノンに切り替わっていると思い込んでいた。

 

 

 アナライザーによる指摘の追撃は続く。

 

 最後の指示だが、対艦グレネードではなくパルスレーザーの方が目眩ましにしかならないかもしれないが、まだ即応出来たと駄目だしされた。

 

 

 アナライザーの容赦の無い指摘にアンドロメダは大いにへこむ。

 

 

 要約すれば、アンドロメダ自身の経験不足から臨機応変の柔軟性に難があるという事だ。

 

 

 項垂れるアンドロメダとは対照的に、ケーキに舌鼓を打って終始ニコニコ顔の駆逐棲姫だが、その内心は別だった。

 

 正直、駆逐棲姫自身もアンドロメダのことを甘く見ていた。

 

 最後の飽和攻撃、こちらの航空攻撃は最終的には失敗だった。

 

 

 駆逐棲姫がアンドロメダの帽子を取るその瞬間迄に、1機たりとも攻撃位置にすら辿り着けた機はいなかったのだから。

 

 アンドロメダの同時対応能力と主砲の性能は駆逐棲姫の理解を遥かに上回っていた。

 

 しかも最後は駆逐棲姫も大分本気だった。

 

 

 そして、これは内緒だが航空ユニット操作管制用に借りていた妖精を通してこっそりアンドロメダとアナライザーのやり取りを聞いていた。*13

 

 結果的にまったく聞いたことの無い言語により内容はさっぱりだった*14が、あまりにも感情が感じられない淡々としたアンドロメダの声音に驚きを禁じ得なかった。

 

 駆逐棲姫にとってアンドロメダは、生真面目で大人しく、優しいヒトというイメージだった。

 

 だがあの時のアンドロメダの声音は感情が欠落した、何処か機械じみた感じしかせず、何故だか無性に悲しい気持ちになった。

 

 しかしその後の打って変わった慌てぶりに思わず笑いが零れた。

 

 生真面目故に機械的であろうとする。

 

 それは利点でもあるし欠点にも成り得る。

 

 予測を越える事態に処理が追い付かなくなり、戦局が崩れる切っ掛けとなる。

 

 事実アンドロメダは誘導された慢心というファクターはあったが、崩れた。

 

 そこを上手く突いて行けば、同胞にも勝機がある。

 

 

 駆逐棲姫としては、同胞達によってアンドロメダの日本行きを阻止出来たらという気持ちがある。

 

 その根底には戦艦棲姫と同様の人間という種族に対する強い不信感があった。

 

 自身の立場上、どうしても対等に仲良くといえるヒトがほとんどいなかった駆逐棲姫にとって、なんだかんだ言っても対等に接してくれるアンドロメダの事が、駆逐棲姫は好きなのだ。

 

 叶うならばずっと一緒にいたい。二人であちこちを気儘に旅をしたいというのが、駆逐棲姫の偽らざる本音だ。

  

 だがそれはアンドロメダの気持ちを考えてない願いだ。

 アンドロメダの気持ちを考えたら、今回得た情報を同胞(はらから)には伝えず握り潰すという事も考え無かった訳ではない。

 

 同胞(はらから)としての立場とアンドロメダに嫌われたくない気持ちに、駆逐棲姫の心中は揺れている。

 

 しかし悩みに悩んだ末に、同胞(はらから)としての立場を選択。全て隠す事なく同胞(はらから)に伝える事にした。

 今の自分があるのも、同胞(はらから)の上位種という立場があるからだ。それを捨てるという事は出来なかった。

 

 結局なんだかんだ言っても、私も立場に縛られた存在なんだなと実感し、さっきまで甘く感じていたはずのケーキが、今はほろ苦く感じた。

 

 

 

 今回の教練は誰にとって、どちらにとって有意義なモノだったかは、今はまだ分からない。

 様々な思惑が絡み合いながらも、決戦の時は刻一刻と近付いていた。

 

*1
約450㎞/h

*2
船の舳先を0°として時計回りに360°方位で表す。0-1-0(マルヒトマル)は10°

*3
射撃統制装置。Fire Control System,

*4
Anti-Aircraft Warfare,auto. 自動射撃による対航空機戦闘

*5
約85㎞/h

*6
約83㎞/h

*7
約87㎞/h

*8
約92㎞/h

*9
約96㎞/h

*10
保有国に無断で失敬しました(・ωく)

*11
無論全てではないし、(ぼか)している部分も有る

*12
と言うか聞き取りやすくした

*13
アンドロメダは万が一の盗聴を警戒してガミラス語でやり取りする事を事前に決めていた。また件の妖精もその事を知っていたため大丈夫だろうと思って繋いだ。しかし流石にお咎め無しという訳にはいかず、その後営倉に入れられた。

*14
そもそも駆逐棲姫自身、ダメ元でのお願いだった




 戦闘と言ったな?あれは嘘だ。

 いや言い訳をさせて貰いますと、本編でも語りました通り、いきなりの実戦は流石に不味いだろという考えがありました。
 つ、次こそは実戦…になると思います!



ちょっとおふざけ

「テェェェロン(テロン、地球)人共に告ぐぅ!我が偉大なる大ガァァミラスの優秀な科学と叡知によってぇ、深海棲艦共の言語の翻訳に成功したぁ!まさに偉業ぅ!我が大ガァァミラスの科学技術はぁ、宇宙一ぃぃぃぃ!!出来ぬことは無ぁぁぁぁぁい!!」
以上、バラン星にて観艦式を執り行っておりました国家元帥閣下からの中継でした。国家元帥閣下、わざわざありがとうございました。ゲール少将、後はよろしくお願いいたします。「ナニ?」銃声「オロカナリゲェェェルゥ…」ドサッ

 えー、地球の大事なパートナーであります同盟国ガミラスの技術提供により得られました高性能翻訳機により深海棲艦の言語を翻訳致しました。以後深海棲艦同士の会話も平仮名となります。

 本編でも語りましたが、青文字の所はガミラス語です。ガミラスなら高貴なる青にしなければと青い色に致しました。以後、青文字がありましたらガミラス語での会話となります。ガーレ・デスラー!ガーレ・ガミロン!(デスラー総統万歳!ガミラス万歳!の意)
以上、おふざけ終了。



友達が欲しい駆逐棲姫

 姫級という立場柄、通常の深海棲艦は上司と部下の関係。他の姫級はどちらかと言えば仕事仲間として仲が良いという考えだったために、何のしがらみが無い対等な友達が欲しい気持ちがあるが、やはり自由奔放を絵に描いたような駆逐棲姫も、立場に縛られる存在だった。


機械的なアンドロメダ

 これは実艦時代の高度に自動化された艦としての名残みたいなものです。現状経験不足から咄嗟の事にはちぐはぐに陥りやすい。これが今後どうなるか?

営倉に入れられた妖精

 駆逐棲姫の巧みな()ハニトラテクニックにしてやられました。これくらい大丈夫だろうという油断が命取りに。油断大敵!慢心駄目絶対!!皆様もハニトラには充分注意しましょう!

解説

バイザー

 オリジナル装備品。現実のHMD(Head Mounted Display)ヘッドマウントディスプレイを高性能化したものとご想像下さい。
 ゴーグルのイメージデザインは波動砲発射時に着用する遮光ゴーグルをイメージ。
 アンドロメダのメインコンピューターと連動しており、様々な情報が表示される。
 ゴーグルを駆逐棲姫に貸したのはサングラスタイプだと激しい機動に耐えられず、紛失する危険性があったため。
 

 今回はここまでとさせていただきます。励みや参考になりますので、お気が向きましたら感想よろしくお願いいたします。


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第6話 Find a way out of a fatal situation 前編

 死中に活あり


 色々書いていたら思いの外長くなりつつありましたので分けます。というか前話で書く予定でした内容をすっかり忘れていた私の落ち度なんですけどね…。


 アンドロメダを追撃する深海棲艦の大艦隊が、補給も兼ねた小休止のために一時的にその行き足を止めていた。

 

 その艦隊の中心部で、二人の姫級が話し合っていた。

 

 

「…どう思います?」

 

 

 アンドロメダが超大型空母と称した、2対の飛行甲板に挟まれた巨大な艤装に腰掛けるロングヘアーとサイドテールが特徴的なセーラー服を着こんだ姫級深海棲艦、この艦隊を指揮する存在でもある空母棲姫がもう一人の姫級に尋ねる。

 

 尋ねた内容は無論、同胞(はらから)の一人である駆逐棲姫がもたらしたアンドロメダに関する情報についてである。

 

 

「…眉唾、と言いたいけどあの娘の観察眼は確かなモノ。欺瞞情報が含まれている可能性に注意と言って来てるけど、私の見立てとしては────」

 

 

 長いツインテールが特徴的な、どこか勝ち気そうな表情をした戦艦タイプの姫級、南方棲戦姫が腕を組み顎に手を当てながら私見を述べていく。

 彼女の外見的特徴の一つである両腕に装着する主砲などの重装備をハリネズミの如く装備した巨大な艤装は、休憩中という事もあり消していた。

 

「───完全に私の上位互換ね。練度はそれほどみたいだけど、艦載機の質によってはどう転ぶかわからないわ」

 

 そう、彼女はアンドロメダと同様に艦載機運用能力を持つ実質航空戦艦型というオールラウンダーな姫級なのだ。

 

 

「それと練度の低さを艤装の性能が補っている感じかしら?」

 

 

 南方棲戦姫の分析に、空母棲姫は溜め息を吐きながら「その性能が問題ですね…」と呟く。

 

 

 駆逐艦とはいえ、駆逐棲姫は今までに様々な戦闘に参加しており、他艦種の戦い方も何度か見ているし、艦娘とも幾度も激戦を繰り広げたかなりのベテランだ。

 それら経験から来る洞察力や分析力は他の姫級達も一目を置くほど。普段は明るく飄々とした振る舞いが目立つが、彼女とて一端(いっぱし)の姫級の一人である。

 

 故に軽んじて一笑に付す様な真似は決してしない。

 

 

 南方棲戦姫が艦載機以外で着目したのは、やはりと言うべきかアンドロメダの主砲性能。

 一言で言えば『速い』。その一言に尽きる。

 

 旋回速度、仰俯角動作速度、装填速度、速射性能のどれをとっても本当に自身と同じ口径の砲*1なのかと言いたくなった程の速さで、しかも4基ある砲がそれぞれ違う目標に対応可能であるという。それでいて精度も悪くない。

 なにこれスゴイ!私にも欲しい!というのが率直な気持ちであるが、それと同等の物を装備したとして、アンドロメダの様な芸当を再現出来るかと問われたら「No」である。

 

 アンドロメダが今回やった様な空と海を同時対応するなどという複雑な同時交戦能力は南方棲戦姫が知る限りでは、同胞(はらから)だけでなく艦娘でさえ有しているモノはいないと確信している。

 

 何故なら操作する同胞(はらから)、艦娘共に処理すべき情報量に対して頭の処理能力や集中力が追い付かないからだ。

 

 簡単に言えば()()()運転が近い。どちらかが疎かにならざるをえない。

 

 だがアンドロメダにそんな素振りは一切なかったと駆逐棲姫は報告している。

 

 となれば考えられるのは2つ────

 

 

 妖精の大量導入による完全委託か、艤装の大胆で大幅な自動(オートメーション)化。

 

 

 アンドロメダの巨大な艤装であれば、それだけ大量の妖精が乗り込んでいたとしても何ら不思議ではない。

 兵器類の操作を完全に妖精に任せていたとしたら、出来なくもない。

 

 

 だがこの推論は駆逐棲姫が完全に否定している。

 

 

 何故ならば駆逐棲姫自身がアンドロメダの妖精達との積極的な交流を持つ事で、妖精のおおよその人数の把握に努めた結果、艤装の規模からは信じられないくらいの少人数だと判明。

 

 またアンドロメダが開示した情報の中に、実艦時代に関するものもあり、そこに『可能な限りの自動化、省力化を目指した』という主旨の文言があった。

 さらにアンドロメダ自身も以前に「戦争で人口が大きく減って、自動化を推し進めざるをえなかった」ということをポロっと漏らしていた。

 

 

 艤装の自動化。

 

 

 軍艦の建造史から見ても分かる通り、理論的には可能である。だが現状は技術的課題からまだまだ先の話だと言われている。

 

 

 アンドロメダはそれを成しているという。その事実に空母棲姫は軽い戦慄を覚える。

 

 

「本当に恐ろしい限りですね」

 

 

 同胞(はらから)、艦娘の両方に共通して言える事だが、従来は航行、戦闘、索敵等の全てを1人が賄うのが普通だったがその分負担も大きい。

 

 それ故に隙が生じて痛撃を受けたり、判断ミスをするケースが後を絶たなかった。

 

 

 だがその負担を分散、或いは分担出来るならそれが大きく変わって来る。

 

 事実、駆逐棲姫からの報告にはアンドロメダは戦闘に関しては大まかな指示を出すのみで、しかも索敵は『()()()()()()』とか言う支援()()()()なる存在が担っているという。

 

 

 つまるところアンドロメダはザックリと言えば操艦、航行にのみ専念すれば良いということになるのだ。

 

 

 あれほどの巨大で複雑な艤装を本当に扱いきれるのかと内心疑問に思っていたが、成る程そういうカラクリであり、未来ではそういう形に技術が進歩するのかと納得半分の驚き半分な気持ちである。

 

 また負担が少ないということはその分体力の温存にも繋がり、継戦能力も高いと分析出来る。

 

 厄介なと思う空母棲姫に対して南方棲戦姫は口元を吊り上げて不敵な笑みを浮かべ楽しそうにしている。

 

 何せ最近は特に出番もなく腕を(ぶし)(くすぶ)っていたのだから、久しぶりの戦闘に気分が高揚している。しかも相手が一筋縄でいかなさそうなのだから尚更である。

 

「楽しみだわ」

 

 その呟きに空母棲姫は首を横に振りながら応える。

 

「私としては投降して欲しいですね…。我々の本来の目的はマリアナへの増援です。下手に戦力を消耗したくはありませんが…」

 

 無論南方棲戦姫もその事は理解している。

 

「でも出し惜しみしてたら逆に消耗するわ。ここはこちらの優位な点である物量差を最大限に活かして一気に畳み掛けるべきよ」

 

 

「…下手に策を弄するよりかはシンプルに。確かに今回はそれが一番良さそうですね」

 

 南方棲戦姫の意見に一理あると頷く。

 

 

「私達も同時に仕掛けるわ。上手く行けば取り抑えて拿捕出来るかもしれないし」

 

 拿捕という言葉に空母棲姫は心底意外だと言う表情を浮かべた。

 

「意外ですね。てっきりアンドロメダさんを沈めるつもりなのかとばかり」

 

 それに対して心外ねという顔をしながら応える。

 

「こんな面白そうな娘、同胞(はらから)にしないなんて勿体ないわ。それにあなたも気になるでしょ?マゼランパフェなんか特に!」

 

 南方棲戦姫の返し、というか最後のセリフに空母棲姫は思い切りずっこける…こと無く激しく同意した。

 

「まったく、あの娘が羨ましい限りで頭に来ます」

 

 実は駆逐棲姫からの報告の中には今まで食べたアンドロメダのスイーツ等に関する詳細な情報と感想もあったのだ。

 それに空母棲姫は初めて同胞(はらから)に対して嫉妬の念を抱いた。

 

 

「独り占めは許せません。何としてもアンドロメダさんを私達の同胞(はらから)にしましょう」

 

「ええ。勿論よ!」

 

 

 やる気を漲らせる二人の姫級に対して、周りの同胞(はらから)達は呆れたかというと、こちらも大いに賛同して大いに士気を高めていた。

 

 

 理由は簡単。先日アンドロメダから嗜好品をご馳走になった潜水艦の同胞(はらから)達から他の同胞へと口伝てに話がどんどん回っていっていたのだ。

 

 そのため今やアンドロメダは姫級だけでなく、一般型の深海棲艦の間でも持ち切りな話題の中心的存在となっていた…。

 

 

     ────────────

 

 

 

 

 一方、その話題の中心人物達はというと────

 

 

「「へっくしゅんっ!!」」

 

 

 …ベタながら二人して盛大にくしゃみをしていた。

 

 

「うう~、誰かが噂したかな?」

 

「まさかそんな…。少し冷えたのかもしれませんね」

 

 そう言いながらアンドロメダは洗剤を溶いた湯に浸したタオルで駆逐棲姫の白くて小さな背中をやさしく拭う。

 

 

 今二人は教練で体に付いた汚れや掻いた汗を落とすためにタオルで拭っている最中であった。特に駆逐棲姫は激しい機動によって全身に海水を浴びており、ベタついていたからより入念に洗っていた。

 

 

 因みにではあるが、本来アンドロメダの場合、長期作戦行動の為にタンクベッドと呼ばれる睡眠と身体の洗浄が同時に行える特殊な装置が備えられている。

 一応一人用であり、またその機能柄緊急時以外では数時間は出てこれず、その間はずっと駆逐棲姫を放置することとなるため、万が一を警戒したのと流石に忍びないという思いから使用を止めていた。

 

 そのため今みたいにお互いの体を拭ったり、寝るときはお互い毛布にくるまって寝ている。…ほぼ確実にアンドロメダが駆逐棲姫の抱き枕にされていたりもするが。

 

 尚、就寝中はアナライザーが当直の任に就くため、うっかり衛星に駆逐棲姫と添い寝している所を盗撮されスキャンダルにされる心配は無い。

 

 閑話休題。

 

 

 アンドロメダに背中を拭ってもらい、気持ちよさそうにしていた駆逐棲姫が不意にピクッと反応した。

 

「どうしました?」

 

 思わず手を止めて問い掛けるアンドロメダ。

 

「追跡してきている空母のお姉さんからお姉さんに対して通信だよ。『武装ヲ解除シ投降サレタシ。太平洋空母艦隊総代ノ名誉ニカケテ寛大ナル措置ヲ約束ス。』だってさ」

 

 まさかの降服勧告にアンドロメダは一瞬呆気にとられた。

 

「律儀な御方のようですね。わざわざ降服勧告をなさるなんて」

 

「ただの堅物だよ~。それで、返信はどうする?」

 

「そうですね…」

 

 ここでふとアンドロメダの心にイタズラ心がわき上がり、ニヤリと笑みを浮かべながら答えを述べる。

 

 

「『お心遣い感謝するも、当方に降服の意思無し。』『バカメ』とお願いします」

 

「え?」

 

 最初の文言は兎も角、最後の普段なら聞かない様なアンドロメダの暴言ともとれるセリフに駆逐棲姫は思わず聞き返した。

 

「『バ・カ・メ』です」

 

 その答えに駆逐棲姫も可笑しくなって笑い出す。

 

「ぷっ!あはは!お姉さんもなかなか言いますね~。『返信。バカメ。だってさ』…わっ!?」

 

「えっ!?ちょっと!…って、ど、どうしました!?」

 

 まさか最初の文言全てすっ飛ばして『バカメ』とだけ発信するとは思わず、アンドロメダは大いに焦るが、直後飛び跳ねる様にして驚く駆逐棲姫にアンドロメダもビクッとしてしまう。

 

「ん~、すごく笑ってる。あ~、この声は戦艦のヒトだ」

 

 流石の駆逐棲姫も今回ばかりはやってしまったと肩を落とし、申し訳なさそうに告げる。

 

「戦艦さんからスッゴク上機嫌な声で『一戦所望ツカマツリタイ。』だって。えらく気に入られたみたいだよ?あのヒト戦闘狂な所あるからね~」

 

 

「勘弁して…」

 

 出来心とはいえ、怒って冷静さを欠いてくれたらいいなという狙いがあったのだが、まさか気に入られたという予想の斜め上な事態に思わず天を仰ぐアンドロメダ。

 

     ────────────

 

 こちらはこちらでアンドロメダの予想外の返答に気を良くした南方棲戦姫の高笑いが響き渡る。

 

「アハハハハハハハ!!やっぱり面白いわあの娘!最高よ!!」

 

 上機嫌に笑う南方棲戦姫を横目に見ながら空母棲姫は溜め息を吐く。

 

「恐らく挑発が目的だったのでしょう」

 

「まあそうでしょうね」

 

 笑いすぎて出てきた涙を拭いながら答える南方棲戦姫。

 

「明日中にはこちらの攻撃圏内に捉える事が出来ます。あなたが言った作戦で行きますが」

 

「そうなると明朝に私達戦艦隊は前進を開始する必要があるわね」

 

 二人は作戦を煮詰めていくが、それは至ってシンプルな物。

 

 艦載機を最大限全力出撃させて一斉に攻撃。その間に南方棲戦姫を中核とした戦艦部隊が一気に接近して畳み掛ける。

 

 大軍故に下手な小細工は逆に付け入る隙を相手に与えかねない。

 

 相手に考える暇や休ませる暇無く圧殺する。

 

 単純だがかえってそれが一番強いのだ。

 

 

 話がある程度纏まった段階で、ふと気になっていた事を話す。

 

 

「ところで、本当にあの娘の艤装を私達と同じに出来ないのかしら?結局の所はそこなんでしょ?あの娘がこちら側に来ない理由って」

 

 南方棲戦姫の問いに、空母棲姫は最近聞いたある噂話を思い出す。

 

「技術レベルが拮抗している今までの艦娘達に対してなら大きな進展があったという噂を耳にしましたが、アンドロメダさんは技術レベルの差が大きく不明な点が多いというのがネックですね」

 

「その噂なら私も聞いたわ。でもその話が本当だとしても、あなたの言う通り、あの娘にはまだ難しそうね…」

 

「物事はそう上手くトントン拍子に行かないものです。時間を掛けてでもじっくり進めて行けばいずれは」

 

「早く実現して欲しいものね…」

 

「その気持ちは私も同じです」

 

 どことなく憂いを帯びた表情を浮かべる二人。その心中に去来している思いはなんだろうか…。

 

 

 

 その後、話し合いはお開きとなり、明日の戦いに備えることとした。

 

 

 

 

 明朝、まだ日が昇りかけの黎明の時間帯。

 

 

 

 事態は急展開を迎える。

 

 

 

 

「本隊が攻撃された!?」

 

「艦載機の奇襲を受けて空母が炎上しています!」

 

「急にレーダーや通信が使えなくなったと思っ、な、何だあれはっ!!?」

 

 混乱の最中、聞きなれない音が聞こえたかと思うと、自分たちピケット部隊の頭上を巨大な『ナニか』が轟音と共に通過していった。

 

 

 

「ぴけっと部隊ノ直上ヲ通過。目標群上空ニ機影ナシ。航空隊ハ全機離脱シマシタ」

 

 

「対艦戦闘用意。主砲ショックカノン。航空隊が撃ち漏らした発艦準備中の空母に照準」

 

 

撃ち方始め(うちぃーかたーはじめー)

 

 

 

 アンドロメダの戦いが、今始まる。

 

 

*1
南方棲戦姫の主砲は16inch≒40.6cmとアンドロメダと同等口径の砲




 ちゃんと仕事していた駆逐棲姫さん。ただ自由奔放なだけではなく、抜け目無く見ている所は可能な限り見ている。ホントは出来る娘の駆逐棲姫さん。と思いきや通信でやらかしちゃう駆逐棲姫さん。

 スイーツに飢える深海棲艦の姫様達…。いくら恐ろしい存在とはいえど、言葉を介し、コミュニケーションがとれるのならそのメンタルは人間に近いところがある(筈)。誰だって美味しい物は食べたいと思う。

 アンドロメダの善意が大変な事に()良かれと思った行為が常に良い意味で返ってくるわけではない世の中の不思議!そしてちょっとした出来心が大惨事に…。

 南方棲戦姫さんは好戦的だけど姐御肌なイメージ。装甲空母姫さんもそうですが、お願いですからちゃんと服を着てください!!目のやり場に困ります!!


タンクベッド

 名前から気付かれた方も居るかと思いますが、銀河英雄伝説のタンクベッドが元ネタです。
 基本的に銀英伝のタンクベッドに近い機能を有しておりますが、本編でも語った通り身体を洗浄する機能があります。また負傷した際のメディカルシステムとしての機能も兼ね備えております。更には緊急脱出ポットとしての機能も付与されております。
 一応一人用であるためいくら小柄な駆逐棲姫とはいえ二人で一緒に使用することは(多分)出来ない(筈)。


 今回はここまでです。最後は少し駆け足過ぎた気がしますが。

 励みや参考になりますので、お気が向きましたら感想をよろしくお願い致します。
 それではまた次回。


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第7話 Find a way out of a fatal situation 中編

 死中に活あり

 中編となります。


 今回私なりに考えた深海棲艦に関するルーツの独自設定の一部が出てきます。


 時は遡る。

 

 

 

「お姉さん、ホントは戦いたく無いんでしょ?」

 

 

 体が洗い終わってさっぱりし、甲板の上に腰掛けたアンドロメダの膝の上に乗って、いつものように頭を撫でてもらっていた駆逐棲姫が不意に問い掛けた。

 

 その日の終わりに二人でこうして海を眺めながら駆逐棲姫の頭を撫でる寛いだ時間が、最近のアンドロメダの密かな楽しみになっていた。

 そのためこの不意打ちとも言える問い掛けに、撫でていた手を思わず止めてしまう。

 

「ほんのごくわずかですけど、さっきから顔が強張っていますし、撫でてもらっている手の動きがいつもより何だかぎこちなく、あ!でも痛かったとかそういうのはなかったですよ!」

 

 わたわたとする駆逐棲姫の姿に思わず頬が緩んでしまう。そして本当にこの娘はよく見ているものだと改めて感心した。ほんの少しの仕草の違いで心の機微がバレてしまう。

 

「…戦うことに、忌避感はありません。ただ、これで良かったのかなと思いまして」

 

 アンドロメダの答えに首を傾げる駆逐棲姫。何も言わずに耳を傾け続きを促した。

 

「もしかしたら別の方法もあったのかもしれないと。戦わずに済む様な方法が「えいっ!」あたっ!」

 

 語っている最中に、膝の上の駆逐棲姫が器用にアンドロメダと向き合う様に座り直したかと思うと、いきなりチョップをかました。

 

 

「相変わらずお姉さんは真面目すぎますよ。一度決めた事をまた色々と考えても、くよくよしている様にしか、…って、何笑っているんですか~!?」

 

 ある意味叱られているハズのアンドロメダが、何を思ったのか急にクスクスと笑いだしたのを見て、駆逐棲姫は軽く憤慨した。

 

「ご、ごめんなさい。監視役の貴女から叱られているのが、それが、その…なんだか、可笑しく思えて…つい…」 

 

 段々と口ごもりながらも、訳を語るアンドロメダに対して駆逐棲姫は脇に手を当てながら返す。

 

「確かに私はお姉さんの監視役ですけど、お姉さんを同胞(はらから)にしたいって気持ちに変わりは無いんですから。同胞(はらから)の悩みを聞いたり、叱るのは不思議な事ですか?」

 

 その言葉に、アンドロメダは少し困った様な笑顔を浮かべる。それを見た駆逐棲姫はある事に気付く。

 

「…もしお姉さんが私を気遣っているというのなら、それは不要な気遣いです」

 

 アンドロメダ自身、駆逐棲姫の同族達と戦う事に抵抗は無い。必要な事であると割りきっている。

 とは言え確かに駆逐棲姫が見抜いた様に、彼女の悲しむ顔を見たくないという気持ちは少なからずあった。

 

「戦うなら正々堂々、全力を出して遺恨を遺さないが私達同胞(はらから)が唯一定めた金科玉条です。どんな結果になっても悲しんだり、お姉さんを恨んだりする様なことは決してしません。ですからお姉さんも全力を出す事が私達に対する最大の礼儀だと考えて下さい」

 

 その言葉に、アンドロメダは気持ちが少し軽くなった気がした。

 私達は元々兵器だ。ヒトのカタチになり、色々と考え自らの判断が下せるようになっても、それは変わらない事実だ。なら兵器同士、お互い全力を出し会うのが筋と言うものなのだろう。

 

 駆逐棲姫の言葉は、まさにそれを端的に表していた。

  

 だが折角自ら考える事が出来る様になったのだから、多少の欲を出してもバチは当たらないともアンドロメダは考えていた。

 

 

 

「宇宙人とだって、きっと友達になれるさ…か…」

 

 

 

「えっ?」

 

 ポツリと呟いたアンドロメダの言葉に駆逐棲姫が聞き返す。

 

「私がいた世界で、史上初めて確認された異星人の宇宙船とファーストコンタクトを果たした巡洋艦の艦長が、地球から飛び立つ前に御子息へと語った言葉です」

 

 駆逐棲姫は衝撃を受けた。

 

 アンドロメダが星の海を渡る船であるとは聞いていたが、まさか宇宙人とも接触していたとは思いもよらなかったのだ。

 

「異星人と仲良くなれた様に、たとえ私が深海棲艦とならなくても、今貴女と私がこうして親しくなれた様に、他の皆さんともお友達の様に親しいお付き合いが出来たら嬉しいと思いまして」 

 

 その異星人、ガミラスと同盟関係になるまでの過程で生じた悲劇の数々に纏わる話を語るにはまだ早いと意図してすっ飛ばした*1が、仲良くなれるのならば仲良くなりたい。それがアンドロメダの望みでもあった。

 

「…私としてはお姉さんが同胞(はらから)となった姿を見てみたいです」

 

 そう口を尖らせながら言う駆逐棲姫に、思わず吹き出しそうになるが、アンドロメダも自身がもし深海棲艦になったとしたらどんな姿になるんだろうかと、ふと気になってしまった。

 

「私が深海棲艦となった姿、ですか…」

 

「きっととっても素敵で綺麗な姿になると思いますよ!今の姿も充分素敵ですけど、もっと魅力的でお姉さんの美しさをより一層引き立てた姿になると思います!ひょっとしたらドレス姿かも!そしてお姉さんも私と同じ上位種となるに間違いありません!」

 

 身振り手振りを交えながら、まくし立てる様にそう言われて自身のドレス姿と姫級で多く見られるロングヘアーな姿を想像してみるが、パッと思い浮かんだのが何故かイスカンダル星の王族衣装に身を包み、優雅な仕草で艤装に腰掛けて周りに深海棲艦の娘達を侍らせているという普段とものすごくかけ離れた己の姿。そしてその姿で艤装を操縦しているシーンを想像してしまい、あまりのシュールさに声に出して笑ってしまう。

 

 

 

 ひとしきり笑ったら、何だかスッキリした。

 

 それを見た駆逐棲姫も、一安心したかの様な表情を浮かべていた。

 

 

「私は明日、ここでお姉さんを待っています」

 

 

 そう駆逐棲姫に言われ、気を遣わせてしまったと申し訳なくなり、アンドロメダは駆逐棲姫の背に腕を回してその小さな体を軽く抱き締めた。

 

「ありがとうございます。気を遣っていただいて」

 

 アンドロメダの感謝の言葉を聞きながら駆逐棲姫もアンドロメダの背に腕を回し、「うん」と笑顔で答えながらぎゅっと抱き返す。…その際に自身の体に押し付けられたアンドロメダの体の一部の感触に若干、羨望の念も抱いた。

 そんな駆逐棲姫が抱いた気持ちなど露知らずのアンドロメダが、思いも寄らぬ事を口にした。

 

「ふふ。駆逐棲姫さんがなんだか私のお姉ちゃんみたいに思えてきました」

 

 その一言に駆逐棲姫は「お、おお、お姉ちゃんっ!?」とすっとんきょうな声を上げてしまう。

 

「叱ってくれたり、励まし元気付けてくれたりと、同胞(はらから)とかと関係無くまるで本当のお姉ちゃんみたいです」

 

 当の駆逐棲姫はアンドロメダからのまさかのお姉ちゃん発言に慌てふためくが、内心「私がお姉さんのお姉ちゃん、かぁ。それはそれで悪くないかも」と思っていた。

 

 

「晴れてお姉さんが同胞(はらから)となれますようにと、お姉ちゃんは祈っていますよ~」

 

 

 その一言にアンドロメダは満面の笑みを浮かべながら返す。

 

 

「あら、私は勝って戻って来るつもりですよ?お姉ちゃん?」

 

 

 二人の笑い声が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

     ───────────

 

 

 翌日。駆逐棲姫と別れたアンドロメダは、即座に自身が考えていた作戦を開始すべく行動に移る。

 

 衛星が捉えた映像を元に作成したアンドロメダを追跡する深海棲艦の陣容をホログラフィーで投影する。

 6体編成を一つの梯団とした30梯団180体が大きな輪形陣状の隊形を成して進んでいる。さらにその後方には補給艦等の支援部隊とその護衛艦隊による輪形陣が組まれている。便宜上、前方の集団を(アルファ)グループ、後方の支援部隊を(ブラボー)グループと呼称。

 

 (アルファ)グループは無論姫級のいる戦闘艦隊である。

 

 中央に陣取るは旗艦である超大型空母の姫級、空母棲姫とその直援部隊。

 そのやや前方に超弩級戦艦の姫級、南方棲戦姫率いる戦艦隊。

 そしてその周囲を他の戦艦級や空母級が配され、さらに外周を巡洋艦級や駆逐艦級ががっちりと固めており、その外縁部がピケット部隊の役割を果たしていた。

 

 

 

(アルファ)グループに対して奇襲を仕掛けます」

 

 アンドロメダは考えていた自身の作戦の内容を語る。

 

「主目標は空母級並びに戦艦級。その撃破です」

 

「本艦は水上航行から大気圏内航行に移行し、一気に目標へと距離を詰めつつ、私に搭載されている全艦載機を展開」

 

「同時にジャミング攻撃を実施し、相手のレーダーと通信能力を奪います」

 

 アンドロメダと艦載機を表すアイコンが投影され、アンドロメダのアイコンの上にジャミング攻撃実施中を示すECM*2の文字が表示された。

 

「艦載機は先行し、姫級超大型空母を除く空母群に対して先制攻撃を敢行」

 

 艦載機のアイコンが突撃して行く。

 

 アンドロメダにとって一番厄介だと判断したのが雲霞の如く押し寄せる艦載機の群れだ。先の演習後も分析を続けた結果、空母級の数が当初の分析よりも倍近い数がいることが判明した。

 となると推定される機数は最大1,000機近くにまで跳ね上がる。

 

 流石のアンドロメダもこれはマズイと判断、これを先にどうにかしなければならないと考えた結果、自身の艦載機を全力出撃させての奇襲攻撃により、空母級戦力の慚減を企図した。

 

 だがアンドロメダには艦載機用対艦兵装が一切搭載されていない。

 

 元々アンドロメダの航空隊は防空任務しか想定されていなかった。

 

 そのためやむを得ず対空兵装の空対空ミサイルで代用する事になったが、当然の事ながら単発での威力は空対艦ミサイルに遠く及ばないために、複数機からの集中攻撃により威力の低さを補う事とした。

 

 またその射程も空対艦ミサイルよりも短い為により目標の近くまで接近しなければならず、途中で発見迎撃されるリスクも高くなると予測された為、*3それをジャミングによって少しでも発見を遅らせ、尚且つ連携の阻害を狙った。さらに空母直援艦への牽制攻撃を行い、確実に空母を狙う。

 

「空母の艦載機運用能力を奪います」

 

 これは半分苦肉の策でもある。直援艦への攻撃からさらに弾数が減るため、下手に撃沈を狙うよりも無力化に比重を置き、一時的だとしてもより多くの航空戦力を奪える方を選択した。

 姫級を除外したのもそこにある。耐久性が非常に高い姫級だと無力化するのにかなりのミサイルを消費させられるリスクが高く、攻撃が吸収され大したダメージも与えられなかった挙げ句に他の空母がほぼ無傷な結果になっては目も当てられない。*4

 

「航空隊は一旦離脱後、周辺部隊への牽制攻撃で可能な限り時間を稼いでください」

 

 ミサイルを撃ち尽くした艦載機になんて無茶な事をと思うなかれ。コスモファルコンはその特徴として、胴体両脇に6門の大口径機関砲が装備されている。

 分類では戦闘攻撃機とされているコスモファルコンだが、元々は基地の防空を主目的とした局地戦闘機として開発されており、爆撃機などの大型機を相手取る事を想定していたからである。

 その威力は凄まじく、一撃で機体に大穴が開き、ガミラス戦役中にはヤマト航空隊のコスモファルコンが対艦攻撃にも使用して戦果を挙げている。

 流石に戦艦級などの大型艦には厳しいが、駆逐艦級や巡洋艦級には充分脅威と成り得る。多少なりとも時間を稼げるはずだ。

 

「その後本艦が強襲を仕掛け、残りの空母と護衛の戦艦群、そして旗艦級である二人の姫級に対して主砲による砲戦により、その戦闘能力を完全に奪った後に全速で離脱します。またスピード勝負となりますので、主砲はショックカノン。威力よりも速射を優先とします」

 

 

 エンジンの不調さえなければ速射でも威力を抑える必要は無いが、いざ仕方ない。それに乱戦と成り得るから波動防壁にもエネルギーリソースを割かなければいけない。

 

 とはいえそれでも充分以上の威力はあると確信しているが、これが初の実戦である。そして想定外が常に発生するのが戦場である。油断大敵。慢心は厳に慎むべき。

 

 

 

 

 だが、やはり心のどこかで油断と慢心があったのだと、アンドロメダはこの後思い知る事となる。

 

 

 

     ───────────

 

 時を本来の時間に戻す。

 

 

 慣性制御システムも駆使し、その巨体からは想像できないくらいのフワリとした仕草で浮上し、波動エンジンに火を(とも)して一気に上昇、加速を駆ける。が、やはりエンジンの出力を抑えているためにややのんびりした加速だが、それでもこの世界の常識では驚異的な機動だ。

 

 とは言え早すぎても駄目だ。肝心の衛星に戦闘中の所を捉えて貰わなければ、これからの事も全てが水泡に帰す。

 

 

「衛星の探査範囲ギリギリなのが痛いですが、ここまで来たらもうやるしかありません」

 

 

 実はよりにもよって本来戦闘海域を捉える位置にいた衛星が作戦開始直前になって故障した様で、急に機能を停止してしまった。

 

 一応、別の衛星でも捉える事が出来る海域なのだが、位置的に捉えれるギリギリだった。

 

 

 思わぬアクシデントはあったが、それ以外は順調だった。

 

 ジャミングによる指揮系統の混乱からか艦隊の陣形に僅かだが乱れが生じ、そこから艦載機が突入。

 

 目標群手前にて急上昇後逆落としの如く急降下を行い、順次ミサイルを発射。

 

 目標の空母機能を有する艤装が頭にのせたクラゲの様なシロモノだったため狙いが付け易かった。

 

 結果目標の半分以上を撃破。

 

 

 そしてそれによる混乱が収まる前に第二撃。今度は私が()()()()()()()()()()()()()()()()から突入する。

 

 

「主砲、撃ち方始め(うちぃーかたーはじめー)

 

 

 目標へと滑空するように突撃し、水面ギリギリの高度で水平飛行に移行。派手に水飛沫を上げる様に飛ばし、艦隊の間を縫う戦闘機動を行いながら主砲の発射を指示する。

 

 1秒間に1発以上という猛烈な速射能力を駆使して次々と空母の艤装を狙い撃ちして行く。

 

 とはいえ一歩間違えばそのまま頭その物を撃ち抜いてしまいかねないため、狙いは慎重にしっかりと付けている。

 

 撃沈も已む無しとは考えていたが、大破させる方が周辺の護衛艦がその救援に気を取られて統制がより混乱すると期待したため、敢えて撃沈しないようにした。

 

 そしてそれは的中した。

 

 通信不能という状態から統制が崩れ、救援を行おうとするもの、反撃を試みようとするもの、さらに目まぐるしい状況の変化に対応仕切れず、各自がてんでばらばらに動いてしまい、より混乱に拍車をかけた。

 

 だがそんな中でも混乱すること無く、統率のとれている部隊がいる。

 

 姫級の直援部隊だ。

 

 姫級以外の空母は粗方片付けたため、狙いをこちらに切り換える。

 

 超弩級戦艦の南方棲戦姫が率いる戦艦群を前衛に、超大型空母の空母棲姫がその後方から艦載機を飛ばそうとしていた。

 しかも、空母棲姫の直援艦がアンドロメダの主砲の射線上に重ならせて、直接狙わせない様に配置されていた。

 

「こちらの主砲の弱点に気付かれましたか…」

 

 アンドロメダ級やドレッドノート級に採用されている収束圧縮型衝撃波砲は、ヤマトに採用されている陽電子衝撃砲と比較して速射性能では遥かに勝るが貫徹能力でやや劣っていた。

 これはヤマトの主砲の様な、敵艦を文字通り串刺しにするが如くのいわゆる過貫通の様な貫徹力は過剰であると判断され、またヤマトの様な単艦行動と違い、基本的に複数艦で纏まって動く事の多い防衛軍艦だと乱戦となった際に、敵艦を貫徹した陽電子ビームがそのまま射線上に偶々いた味方の防衛軍艦にまでダメージを与えかねないと判断されて、意図的に貫徹力が落とされていた。

 

 そしてそれはこの戦闘でも現れていた。

 

 威力を落としていたという事もあるが、1発たりとも過貫通は発生していない。

 

 それはつまり、直援艦ごと空母棲姫を撃ち抜くという芸当は出来ないという事であり、それを相手が認識したという事である。

 

 

 対抗の早さに厄介なと思うが、アンドロメダの武器は主砲だけでは無い。

 

「速射魚雷、目標空母棲姫。発射始め」

 

 艦首上部に配置されたハッチが開き、多数のミサイルが発射される。

 

 それに対して激しい対空砲火の弾幕を撃ち上げるが、何発かはその弾幕を掻い潜り直撃したのが確認出来た。

 

 続けて前衛の指揮系統を混乱させる為、指揮している南方棲戦姫に主砲の照準を合わせる。

 

 こちらの意図に気付いた南方棲戦姫が回避運動を開始するが、駆逐棲姫ほど動きは機敏ではない。

 

 当たる!

 

「主砲、撃てぇ(ってぇ)!」

 

 

 陽電子ビームの光の矢がアンドロメダから撃ち放たれ、南方棲戦姫に迫る。

 

 

 避けられないと悟った南方棲戦姫が防御姿勢を取る。

 

 

 だが如何に桁外れの防御力を誇る姫級と謂えど、陽電子ビームの直撃に無事で済むとは到底思えない。

 

 

 だがその予想は無惨に裏切られることとなる。

 

 

 直撃する直前に、陽電子ビームが霧散する様に掻き消された。

 

 

「!?そんな、弾かれた!?」

 

 まさかの事態にアンドロメダの顔は驚愕に染まる。

 

「まさか、波動防壁!?」

 

 それに対して今までバックアップや分析に注力していたアナライザーが解析結果を報告した。

 

「分析ノ結果、アレハ波動防壁デハアリマセン。がとらんてぃすノ防御ふぃーるどニ酷似シテオリマス」

 

「!ガトランティス…!」

 

 その報告にアンドロメダの表情が、驚愕からみるみる間に怒りと憎しみへと変わっていく────。

 

 

「全砲門開け!目標、前方超弩級戦艦!!」

 

 

 

「何がなんでも喰い破れ!!」

 

 

 アンドロメダの本当の戦いは、これからだった───。

 

 

 

 

 

 

*1
これには端緒の段階から前後にかなり複雑な事情が絡み合っており、それの説明が面倒だったという一面もある

*2
電子対抗手段。いわゆる電波妨害。Electronic Counter Measures.

*3
いくら未来の航空機でも攻撃の瞬間は無防備となるし、統制され連携がしっかりして撃ち上げられる弾幕のシャワーは充分以上に脅威と成り得る。

*4
余談だが、ガトランティスとの土星海戦緒戦にて、エンケラドゥス守備隊所属の航空隊がガトランティスの侵攻艦隊の旗艦と思われる超大型空母を、ワープ直後の一番無防備な状態であるにも関わらずに一切攻撃せず、周りのナスカ級空母群のみに攻撃を集中した事に対して、後にこの超大型空母が守備隊にもたらした被害の大きさを理由に、指揮官の判断ミスではないのかと批判されることがあるが、これは確実に撃破出来る目標を攻撃することで着実な敵戦力の減殺を狙ったためとされている。




 勢い付けてのゴリ押し!所謂沖田戦法!!まあ練度の低さを勢いでカバーしているだけですので、随所に粗い箇所が散見…。単に私の技量不足という一面もありますが…。


主砲貫徹力と土星海戦での航空隊について。
 これは私なりの解釈を元にしております。



 それにしても、元々ちょい役と思って出したはずの駆逐棲姫さんが出す度に段々と暴走してきてる気がしてきた…。て言うか親密に成りすぎかな…?まあいいか。(開き直り)

 アンドロメダの深海棲艦姿…。艤装は兎も角として、アンドロメダ自身が深海棲艦になったらどうなるだろうと寝ぼけ半分な頭で考えた結果出てきた姿…。絶対操縦しにくいこと間違いなし。


 今回はここまでです。何か書いてたらどんどん長くなっていく…。本来なら今回で戦闘終了まで持っていくつもりだったのに…。儘ならないものです。最後の描写はこの世界での深海棲艦のルーツと密接に関係するモノとなっております。詳しくはまたいずれ本編にて。

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第8話 Find a way out of a fatal situation 後編上

 死中に活あり


 後編の上となります。

 すみません。本来の予定では今回で戦闘終了だったはずが、なんかその前段階がえらく長引きましたので分けることにしました。

 今回回想シーンがメインとなりますのでアンドロメダ五姉妹が勢揃い致しますが、個々のイメージ等は私個人の解釈といいますか妄想?が全面に出ておりますので、人に依りましては嫌悪感があるかもしれませんので、その辺りはご注意して下さい。
 それとヤマト2202に関する独自解釈てんこ盛りです。

 五姉妹全員が揃う何て多分これが最初で最後だろうからと、欲だして全員出したのが間違いだったかなぁ…?(文字数的に)

 

 読者様の一人、かいただ様との感想のやり取りにて、アンドロメダはヤマトの技術ノウハウを継承して造られた戦艦だから、ある意味親子という設定の解釈が成り立つと気付き、それを設定として盛り込む事と致しました。また、ヤマトが母親ならば父親はやはりあの方しかいないと改めて気付く事が出来ました。かいただ様にはこの場をお借りしてあつく御礼申し上げます。


 約1ヶ月前、地球圏月軌道─────

 

 

 

 そこには地球連邦が誇る最新鋭艦隊、通称波動砲艦隊の艨艟達が、出撃の時を待っていた。

 

 待機する大艦隊の中央で、5隻の大型戦艦が鎮座するかのように艦列を並べている。

 

 

 その真ん中、艦体にANDROMEDAと書かれた艦の甲板で、1人の女性が物鬱気な表情で周りに集う艦達を見ていた。

 

「…ここにいる娘達のどれだけが、無事に帰ってこられるのかしら?」

 

 ガトランティス(蛮族共)との総力戦。それに備えるために地球と同盟国ガミラスはその総力を結集して戦力の拡充、整備に取り掛かった。

 

 だがガトランティス(蛮族)の正体を暴くために惑星テレザートへと旅立ったヤマトさんから次々ともたらされる目を疑いたくなるような信じがたい情報の数々によって、それは幾何級数的に肥大化。そしてどんどん(いびつ)なモノへと変わっていった。

 

 数字の上では確かに強力な大戦力を揃えられたが、その中身は相当お寒いのが実情。

 

 

 人間(ヒト)が足りない。(ふね)を動かす人間(ヒト)がまったく足りない。(ふね)を指揮する人間(ヒト)はもっと足りない。艦隊を率いる人間(ヒト)は───お察し下さい。

 

 

「波動砲さえ撃てれば良い」

 

 

 そう揶揄した司令部のスタッフがいるそうだが、実は一番人手が足りないのが司令部なのだ。

 

 肥大化する戦力に比して、それらを維持管理する為に必要な後方担当スタッフの人数が破滅的に不足していた。

 

 現在人事部は必死になって軍の第一線から退いた老兵、傷痍軍人の現役復帰を呼び掛けるだけでなく、民間からも手当たり次第にリクルートしている真っ最中だが、焼け石に水。

 

 司令部もまた、一つの戦場なのだ。

 

 だがそれが血を流して戦う戦場の将兵と比べ、世間一般的に評価されることは殆ど無い。それが裏方の辛い現実だ。どんなに歯を食い縛って地獄の様な毎日を耐えようともだ。

 

 先の揶揄には羨望と皮肉が入り混じった複雑な感情の現れでもあった。

 

 

 

 そもそも時間が足りなさすぎた。

 

 

 先のガミラス戦役終結から2年。()()2年しか経っていないのだ。

 

 国連から地球連邦へと名称は変わりはしたが、組織の再編成が完了してはいなかった。

 そのために随所に歪みが生じている。その小さな例の一つが軍の表記UNCFだ。本来なら既にEFCFになっていたハズだったが、書類や記録媒体、制服に制帽や腕章、艦や施設等への表記の変更を行う手間隙に時間を費やす暇や予算があるなら、それよりも先にすることが!があまりにもありすぎて先送りにされ続けている。

 

 また人事も拡大する規模に対して人手が足りずに兼任が相次いでいる。その最たるモノが艦隊司令と艦長の兼任人事だ。

 

 

「この軍隊では、敵に、勝てない…」

 

 

 艦内の自室にて、以前に山南艦長が沈痛な面持ちでそう呟いていたのを聞いた。

 

 軍艦は次々と出てくるが、それの慣熟訓練は最小限度ギリギリまで絞っている有り様。

 

 先日、演習宙域へと視察に赴いた際に、その片隅で教練支援艦のカトリさんが「あの娘達やその乗組員を生きて帰れる様にするためでなく、死なせに逝くために訓練している様なもの」と泣きながら漏らしていたのを偶然、彼女は見てしまった。それを慰めていたカシマさんが一瞬、彼女に送った普段の優しい表情からは想像つかないほどの鋭い視線は、一生忘れる事は無いだろう。

 それが彼女に向けられたモノではなく、行き場の無い怒りが漏れてしまったのだと、その後浮かべた悔恨の表情を見るまでもなく察した。

 

 

 

 人間(ヒト)(ふね)も少しずつ捨て鉢になりつつあると、最近肌身で感じていた。

 

 

 あえて言えば、AIが全面的に戦略の意思決定に大きく関わるようになってからは特にそう感じる。

 

 AIによる効率化。だがそれによって組織は人間性を失いつつあった。そして人間(ヒト)はどんどんAIの決定に自らの意思決定を委ねる半ばロボットの様になりつつあるように思えてならない。人間(ヒト)機械(AI)を使うのではなく、機械(AI)人間(ヒト)を使う。その先にある未来は────

 

 そこまで考えて、彼女は自身の思考に対して自嘲気味に笑った。

 

 自分もまた兵器(機械)なのだ。それが人間(ヒト)の未来を憂う。それがとても滑稽に思えてならなかった。

 

「姉貴!」

 

 その女性、アンドロメダは不意に掛けられた声のする方に向けて振り向く。その表情は今さっきまでの自嘲の笑みではなく、愛しき者に向ける微笑みを湛えていた。

 

「アポロノーム?どうかしました?」

 

 振り向いた先に居たのは、僚艦にして彼女の姉妹艦である3番艦のアポロノームの姿。

 

 相変わらずのややボサボサした肩まで延ばした髪とその上にちょこんと軍帽を斜めに乗せ、制服を着崩した様な姿に苦笑しながらも暖かく迎える。

 

 

「いや、別に用ってわけじゃねぇんだが、暇なんでよ。姉貴の顔を見に来た」

 

「あらあら。でも嬉しいわ」

 

 アポロノームのこういうちょっといい加減な所がアンドロメダは好きだった。

 

 

「そういやよ、姉貴はあいつら、ガト公共についてどう思うよ?」

 

「そうですね…」

 

 問われた質問に、顎に手を当てて考えるアンドロメダ。

 

 

 真剣に考え込む姉の姿に、そこまで深い意味があって聞いたわけではないと、あわてて伝えようとするが────。

 

 

「アポロノームは相変わらず姉上を困らせているようですね?」

 

 と、不機嫌そうに小言を言う別の女性がアポロノームの後ろから現れた。

 その声の(ぬし)に覚えのあるアポロノームはビクッと肩を跳ねさせながら声の(ぬし)の名を告げる。

 

「げぇっ!アルデバランの姉貴!?」

 

 アンドロメダと一部を除いてそっくりな出で立ちだが、ピシッとした立ち姿と眼鏡を掛けたやや吊目気味の双眸が、お堅い雰囲気を醸し出していた。

 

「まったく、いつ出撃命令が出てもおかしくないというのに、貴女ときたら」

 

「勘弁してくれ!こんな時までアルデバランの姉貴の説教は受けたくねぇよ!つーか、そっちこそなンでここにいんだよ?」

 

「愛する我が姉上のお美しいご尊顔を拝する為。それ以上の理由などありますか?」

 

 澄ました顔でハッキリいけしゃあしゃあとそう言われて二の句が継げなくなるアポロノーム。

 

 そんな妹の姿を尻目に、アルデバランはアンドロメダの前に立つと、恭しく片膝をついて跪いた。

 

「アルデバラン、出撃前のご挨拶に参りました」

 

 それっぽい口上を述べているが、本心をついさっき言っておきながら堂々としている。だが嘘は言っていない。

 

 普段通りといえば普段通りだが、とはいえ今さっきアポロノームに述べた発言と相反する物言いに、当のアポロノームは大いに肩を竦めた。

 

 だがアンドロメダは、可愛い妹の茶目っ気であるとして、特段気にする素振りは一切見せなかったが、普段より強張ったアルデバランの顔を見て、彼女の心の内を察した。

 

「貴女も緊張している様ですね?アルデバラン」

 

 その指摘に気恥ずかしそうに顔を赤らめるアルデバラン。

 

「流石は姉上です。わたくしの心中などお見通しの様で感服致しました。不肖アルデバラン、姉上のおっしゃる通りいささか緊張しております。ですがこのアルデバランは姉上の御為(おんため)に粉骨砕身の覚悟で戦いに挑む所存であります。愛しき姉上の為とあらばたとえ火の中、水の中、如何なる戦場であろうとも喜んで馳せ参じ、愛するあなた様の下へと勝利をもたらしてご覧にいれましょう。愛しております姉上。わたくしの身が───!?」

 

 主砲の全力速射の様に語り続けていたアルデバランだが、不意に自身の顔がやわらかい物に包まれる感触がしてその語りを中断した。

 

「そう無理して気負わなくても大丈夫ですよアルデバラン。貴女は私よりも優秀な娘です。いつもの様に落ち着いてやれば、貴女なら出来ます。私が保証します。ですからもっと自分に自信を持ってください」

 

 アルデバランの頭を自身の胸に抱き締めて撫でながら、優しくそう語りかける。

 

 アンドロメダの言葉に嘘偽りは無い。事実谷艦長との相性の良さも相まって演習等の成績はアルデバランが僅かではあるが、アンドロメダよりも良かったのである。

 

 だが当のアルデバランはアンドロメダの胸に抱き締められ、しかも頭を撫でてもらっている事で完全に舞い上がってトリップ状態になってしまい、アンドロメダの言葉が耳に入っているかはかなり怪しいが…。

 

 一頻り撫で続けるとアンドロメダはアルデバランを放したが、アルデバランは未だ凄く惚けた表情で余韻に浸っていた。

 

 

「ハハッ!姉さん達も相変わらずですな」

 

「ねえさま~」

 

 そこにまた別の二人が現れ、一人がアポロノームに抱き付く、寸前で向きを変えてアンドロメダに抱き付く。

 

「アキレスにアンタレスも。いらっしゃい。来てくれて嬉しいわ」

 

 抱き付いてきた今現在の就役艦では末の妹であるアンタレスを抱きとめながら、もう一人の妹アキレスに微笑みかけた。

 なんだかんだ言って、今この宙域にいるアンドロメダの妹達が全員集った。

 

 

 その後は特に他愛の無い会話だったが、姉妹がこうして揃うのも久し振りのために、どことなくリラックスした雰囲気が流れるが、それでも時局が時局なだけに、次第に会話の内容はこの戦争に関する最近の話題へとシフトしていく。

 

「ハッキリ言わしてもらうと、錬成途中の兵でまだマシな連中を総ざらいしているんだ。それでも足りねぇからとガミラスの機械人形まで動員している有り様だ。予備の人員は期待出来ねぇし長期戦は難しいだろうな」

 

 そう語ったのはアキレスである。彼女はアンタレスと共に集結命令が下りる直前まで教練宙域で新編成された部隊の訓練を見ていた。

 

「なのDEATH!って言いながら、僚艦とごっつんこしかけた娘達もいたわ~。見ていてヒヤヒヤものですよ~」

 

 一同同時に溜め息が漏れる。

 

「こう言っちゃナンだがよ、時間断層、あれ便利なのは分かるがもて余し気味じゃねぇか?」

 

 そう吐き捨てるようにアポロノームは言う。

 

 

 『時間断層』

 

 

 イスカンダルから譲渡された惑星を再生する驚異のオーバーテクノロジーの塊とも言えるシステム、『コスモリバースシステム』がもたらした副産物。

 

 その空間の内部では外部と比較して時間の流れが10倍の速度で進む。

 

 その特性を利用して地球はそこに一大()()工廠を建設した。

 

 この宙域にいるアンドロメダ姉妹を初めとした軍艦全て、この時間断層工廠で建造された。そして今も次々と新造艦が建造され続けている。

 

 だが軍艦が10倍の速度で出来ても人間(ヒト)の錬成は一朝一夕にはいかない。

 

 なら時間断層の中で訓練をと思うかもしれないが、事はそう簡単には行かない。

 

 人間(ヒト)がその空間の特性に耐えられないのだ。

 

「乗る人間(ヒト)がいないのに、(ふね)だけは吐き出され続けている…」

 

 悲しそうな表情でアンドロメダはそう呟いた。そしてそのセリフは奇しくも自身の艦長である山南艦長が戦後に呟いたものと同じだった。

 

「となりますと~、やはりあの話も本当のようですね~。私嫌ですよ~、誰もいない寂しい無人の艦隊なんて~…」

 

 アンタレスのおっとりしながらもどこか怒りとも諦観とも取れる物言いに、全員の顔が曇る。

 

 人間(ヒト)が足りなければAI制御の無人艦にすればいい。間違ってはいないが、なんとなくその考えに嫌悪感があるのだ。

 

「時間断層有る限り戦力は無尽蔵と芹沢さんは周りに言って勇気づけてはいるがな…ありゃ半分自分に言い聞かせているみたいに思えるよ」

 

「色々と言われている方ではありますが、長く軍政畑にいらした方です。薄々勘づいてはいるのでしょう…」

 その論理の落とし穴に。とは皆まで言わなくとも全員が認識していた。

 

 10倍の速度で生産出来ると言うが、それはすなわち10倍の速度で予算と資源を消費すると言う事でもある。

 

 そんな資金、ガミラス戦役の影響で国力が大きく落ち込んでいる今の地球のどこにあると言うのか?

 

 

 有るわけがない。

 

 

 殆どガミラスからの借款である。

 

 資源も太陽系内の資源地帯だけでは到底間に合わず、ガミラスから譲渡された資源惑星から輸送船が引っ切り無しに行来している。

 

 その護衛は?軍拡著しい地球連邦防衛軍であるが、その実情はいわゆる地域海軍の域を出ていない。必然的に外洋海軍ともいえるガミラス国防軍に依存している。

 

 波動砲艦隊などという物々しい名前の艦隊を整備しているが、その中核をなすDクラス前衛武装航宙艦、いわゆるドレッドノート級主力戦艦は強力な武装のわりに小さな艦体からモニター艦と揶揄されたり、地球連邦防衛軍の顔とも言えるアンドロメダ級は実質海防戦艦の類いだと一部から言われるほどに外洋での作戦遂行能力が低い。

 これは地球連邦の国防戦略方針が、太陽系内及びその近傍宙域のみを主だった作戦行動範囲として設定して作成されている事に由来しているのが大きい。

 遠洋航海に必要な装備機能を簡素化し、そのリソースを武装の充実に回している。

 そのために外洋での護衛任務に就ける(ふね)がそもそも無いに等しかった。

 

 

 輸送船だって地球連邦が保有する全ての輸送船を洗いざらい掻き集めて動員したとしても、とても足りないし、そもそも恒星間航行可能な船の存在自体が地球ではまだまだ貴重と言っていいほど少なかったから、ガミラスの企業や船会社からレンタルしている有り様だ。

 

 さらに言えば時間断層工廠であるが、設備の維持管理や作業工員としてガミラスの勢力圏で多用されているガミロイドと呼ばれるアンドロイドが使用されている。場所の特性故にそれはやむを得ない。

 そのガミロイドだが、今この宙域に集結している艦隊の(ふね)の中には不足する人員の代わりとして乗り込んでいるのだが、新しい(ふね)ほどその比率が大きくなっている。

 さっきアキレスが言ったガミラスの機械人形とはこのガミロイドの事である。

 

 この戦争、裏では何から何までガミラスに頼りきりというのが実情だった。戦争遂行の為に地球はガミラスに借りを現在進行形で大量生産している真っ最中なのだ。

 

 そのため、口さがない者の中にはこの戦争がガミラスの代理戦争だと言って憚らないのもいる。

 

「こんなんで大丈夫なんかねぇ?地球の、人間(ヒト)の未来は…?」

 

 その呟きに答えられる者は、この場にはいなかった。

 ただ皆漠然とした不安が胸の内に(くすぶ)っているのは確かだ。

 

 しかし、やはり同じ姉妹というだけあってか、考える事は似か依るものなんだとアンドロメダは少しだけ心が暖かくなった気がしたが、現実はそんな暖かさを吹き飛ばすほど、残酷で厳しいものであるとも自覚している。

 

 

「我々は何処から来たのか、我々は何者か、我々は何処へ行くのか。それは神ならざる私達には分かりませんし、ましてや人間(ヒト)ならざる道具でしかない私達に人間(ヒト)の行く末をどうこう出来る訳ではありません。出来る事と言えば、ただ祈るのみです」

 

 

 あまりにも諦観しきった姉の姿に、妹達は何も言えなくなる。

 今ほど世界の事象に対して干渉する事が何も出来ない自身の体が、これ程までに恨めしいと思った事はないと苦虫を噛んだかの様な苦り切った顔になってしまう。

 

 特に、何をおいても姉の事が一番で、ほかの誰よりも愛しており、崇拝していると言って憚らないアルデバランにとって、そんな姉の姿を見るのが何よりも辛かった。

 そのため、話題を変えるべきと考えて頭を巡らすと、ふとある事を思い出した。

 

「そう言えばアポロノーム、姉上になにやら気になる事を聞いていたようですが」

 

 急に話題を振られて一瞬何の事だと訝しむが、直ぐに「ああ、あれか」と思い出す。

 

「別に大したことじゃあねぇし、深い意味があった訳じゃ無いンだが、姉貴はガト公共をどういう連中だと思ってんのかと聞いてたんだ」

 

 その答えにアルデバランは「成る程、確かに興味深い内容ですね…」と自身の顎に手を当てながら返す。

 

 ほかの二人も肯定的な態度を示し、アンドロメダに視線を向ける。

 

 妹達の視線が一身に集まった事に、何だか気恥ずかしい気分になるが、自身の考えを妹達に語った。

 

 

「一言で言えば、『理不尽』。『理不尽』という概念がヒトのカタチを成して徒党を組んだ存在…かな?理不尽が蛮ぞ……こほんっ。彼らの行動の根底であり理念。それを前提に考えれば、色々と説明が付きます」

 

 

 アンドロメダの答えに、それぞれの反応を示すが、共通として言えるのが『納得』だった。

 

「確かにね~。かあさまに対していつも破廉恥な事ばかりしてたと聞きましたし~」

 

「確かにな。思い返すだけでもハラワタが煮え繰り返る」

 

 アンタレスの言葉にアキレスも同意する。余程腹に据えかねていたのか、拳を自身の手のひらに打ち付ける。

 

「母さんへの仕打ちを見りゃ、ガト公共の異常性が良く分かるぜ。戦時中のガミラスの比じゃねぇよ。クソがっ!!」

 

 罵る様に吐き捨てるアポロノームの姿に、アルデバランも同意する。

 

「まったくですね。わたくしも母上が受けた破廉恥極まりない彼奴らの行いの数々には憤りを隠せません。もしもそれが愛する姉上に対して行われたとしたら、わたくしは正気を保てる自信がありません。それに対して、母上を最も愛されておられます姉上は取り乱すこと無く冷静を保っておられましたことに、わたくしアルデバランは流石は姉上と驚嘆した次第であります」

 

 アルデバランの表裏の無い称賛に、何だか申し訳なさそうに顔を僅かに赤らめて視線を反らすアンドロメダ。

 

 その姿に妹達は頭に「(はてな?)」を浮かべるが、唯一事情を知るアポロノームはニヤニヤしながらワケを喋る。

 

「いやいや、姉貴は影で滅茶苦茶荒れてたぜ。それこそ母さんを追って勝手に飛び出すんじゃねぇかとヒヤヒヤするくらいのスッゲー荒れっぷりだったぜ」

 

「ちょ、ちょっとアポロノーム!それは内緒にしてってあれほど!…あっ!!」

 

 アポロノームのカミングアウトにアンドロメダは普段の落ち着いた雰囲気をかなぐり捨てて取り乱すが、それが逆に自爆を招いてしまい、今までに無いくらいに顔を真っ赤にして俯き、手をワナワナと震わせる。

 

「うう~。ヤマトさ…、お母様に知られたら何て言えばいいのよ~」

 

 ヤマト叛乱疑惑事件で追撃に赴いただけに、また総旗艦たる立場上、ヒト前でははしたない真似をしないように心掛けていた。

 

 その努力が今脆くも崩れ去ったのだが、それよりも自身にとって母親とも言える最愛のヤマトからの評価の方が気になった。

 

 あの時、本当は一緒に付いて行きたいという本心を必死に隠しながら、総旗艦としての立場と責務を貫いて啖呵を切っていただけに、その羞恥は並々ならぬものだった。

 

 穴があったら入りたいとはこの事かと言わんばかりに耳まで赤く染まったアンドロメダを、アルデバランが慰めに入る。

 

「姉上。姉上は何も間違ってはおりません。ヒトには時として許せない事、譲れない思いが必ずあります。母上の事で姉上がお怒りになられたのも、それは姉上が誰よりも優しく慈悲深い心と愛情の持ち主だからです。姉上が母上を大切に思い、愛しておられる事をわたくしは良く存じ上げております。わたくしはそんな姉上を誇りに感じておりますし、姉上の妹で良かったと歓喜に打ち震えております。ですがあえて欲を言わせていただきますと、その愛をわたくしにも向けていただけたらと思う所存であります」

 

 若干、我欲が漏れだしてはいたが、それはいつもの事なので皆無視してアンドロメダの慰めに加勢する。

 

「母さんだって母さんの譲れない思いで地球を飛び出したんだ。姉貴にだってそれが受け継がれていたってだけの話さ。母さんも別に気にしないさ」

 

「姉さんの言う通りさ。寧ろ誇っているんじゃないですか?」

 

 アポロノームとアキレスは気にするなと言って慰めるが、アンタレスだけは違う切り口で挑んだ。

 

「アンドロメダねえさまは無理して自分の気持ちを押し隠そうとしますからね~。時には感情を表に出して発散させないと辛いのはねえさまですよ~」

 

 それに関して他の妹達も頷いて同意の意を示した。

 

 アンドロメダは性格柄、抱え込みやすい。いつか耐えきれなくなって爆発するんじゃないかと、常日頃心配していたのだ。

 これを機会にと妹達は口々にその不安をアンドロメダに告げた。

 

 

 妹達の気遣いに、アンドロメダは申し訳ない気持ちになるが、それ以上にその優しさに嬉しく思う気持ちが強かった。

 

 特にアンタレスの忠言は心に響いた。

 

 間違いやおかしいと思ったのなら、忠言する事も大切であるとアンドロメダは考えているし、何よりそれは地球艦隊の皆が尊敬して止まない今は亡きヤマト初代艦長、沖田十三宙将が生前に語ったとされる────

 

『命令に逆らう、

軍人としては間違った行動だ。あってはならない…

だが、軍人であっても一人の人間として行動しなくてはならん時もある。

人は間違いをおかす…もし、それが命令であったとしても、

間違っていると思ったら立ち止まり、自分を貫く勇気も必要だ。

そうわしは思う。』

 

────という教えに沿うものだ。

 

 

 余談だが、アンドロメダを初めとした新世代型地球艦はヤマトのノウハウを継承して造られたという経緯から、ヤマトを母として慕っている。

 ヤマトを母とするなら、父は初代艦長である沖田十三だと考えていた。

 アンドロメダも沖田艦長の事を「お父様」と呼んで慕っている。

 

 父と慕う人物の教えに沿う忠言を無碍には出来ない。

 

 それに皆を心配させていたという己の浅慮を恥じた。

 

 兵器や道具とはいえ、その時その時で調子が違う時があるだろう?それらにも彼女達の様な魂があり、そのメンタルが作用しているからだ。

 

 アンドロメダの事で一抹の不安を抱かせたままでいたなら、この後の戦いに悪影響を与えていたかもしれない。

 

 そう思うと妹達に迷惑をかけてしまったと自責の念に駆られて頭を下げて詫びたが、皆に気にし過ぎと逆に怒られて、笑いが溢れた。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 艦隊全艦に警報が響き渡り、続けて全艦放送で山南司令の号令が飛ぶ。

 

 

作戦に変更無し!全艦、ワープ準備!!

 

 

 遂に、奴等が、ガトランティス(蛮族共)が来たのだ。

 

 

 その直後に地球圏全域に向けて地球連邦大統領による緊急声明を伝える緊急放送のライブ映像の音声が流れる。

 

 

「地球連邦は本日未明、ガトランティスとの開戦に踏み切りました。今日(こんにち)の地球の戦力は、ガミラス戦役時の比ではありません!必ずや地球市民の生命(せいめい)、財産、国土を守り抜き、明日の未来を勝ち取ってくれるでしょう」

 

 

 

「…いよいよですね」

 

 

 アンドロメダはその放送を聞き流しながら、妹達を見渡す。

 

 皆真剣な面持ちへと変わり、アポロノームとアキレスに至っては好戦的な笑みを口元に湛えていた。

 

 その姿に笑みを浮かべると、一人一人順番に抱き締めてからアンドロメダも表情を引き締める。

 

 

「事ここに至って、多くは語りません。敵は未だ多くの謎があり、戦いは間違いなく厳しい物となるでしょう」

 

 

「ですが、それでも勝たねばなりません。お父様が言われた様に、たとえ最後の1人になっても絶望はしない。その気概で挑みましょう!!そして今日(こんにち)まで孤軍奮闘を続けて来られたお母様の労に報いる為にも、必ず勝利の報を地球とお母様にもたらしましょう!!」

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

 

 これが、アンドロメダ達五姉妹が集まった最後の時となった─────。

 

 

 この後の土星沖海戦で、地球艦隊は惨敗を喫した。

 

 

 その戦いでアンドロメダは大破し、アポロノームは、二度と地球へと戻って来ることはなかった──────。

 

 

 

「へへっ、すまねぇ姉貴…。俺ぁここまでだ…。だがせめて、姉貴だけでも…っ!!」

 

 

 大破した影響で一時的にエンジンが停止したアンドロメダを、アポロノームが身を挺して助け出した。

 

 だがそのアポロノーム自身もまた深手を負っており、まさに最期の気力を振り絞って姉を助け出したのだ。

 

 

「姉貴、地球の事を、よろしくな…」

 

 

 そう言い残して、アポロノームは焔へと消えて逝った。

 

 

 爆煙に包まれ、その焔に消える瞬間まで、敬礼し、微笑みを浮かべながらアンドロメダを見送って逝った────。

 

 

 

 

 

「いやああああああああぁぁぁーーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 アンドロメダの悲痛な慟哭が響き渡った───。

 

 

     ─────────

 

 

 

 

 アンドロメダにとってガトランティスとは?

 

 

 『理不尽』

 

 

 理不尽がヒトの形を成し、徒党を組んで全宇宙に破壊と不幸をもたらす。

 

 

 ヒトに理不尽極まりない選択をさせ、それでいて全てを破滅の谷底へと突き落とし、それに苦しむ様を見て悦に浸る野蛮の徒。

 

 

 そして、全てを奪っていく。

 

 

 

 あの時、アポロノームが逝ってから誰も笑わなくなった。

 

 

 ガトランティス(蛮族共)は私達から笑顔を奪い去った。

 

 

 

 あの時、あの時エンジンが止まらなければ、いや、再起動がもっと早ければと何度悔やんだことか。

 

 

 だがいくら悔やんでも、時間は巻き戻らない。アポロノームは私達の所へは帰って来ない。

 

 

 妹達は私に責任は無いと言ってくれた。それが逆に辛かった。

 

 

 

 私達は、徐々に心に潜む復讐と言う名の『魔』に取り憑かれていった。

 

 

 復讐の鬼へと変貌していく妹達に、私はどうすることも出来なかった。

 

 

 そして追い討ちを掛けるかの様に、遂にはお母様、愛するヤマトさんまでガトランティス(蛮族共)は魔の手にかけた!!

 

 

 その時、私の心の箍が外れた気がした。

 

 

 私も復讐の鬼へと変貌していった。

 

 

     ──────────

 

 

 私はガトランティス(蛮族共)が嫌い。

 

 

 

 私のヤマトさんを悲しませた!

 

 

 

 私はガトランティス(蛮族共)が憎い!

 

 

 

 私達からアポロノームを奪った!

 

 

 

 私達姉妹から笑うことを奪った!

 

 

 

 私からヤマトさんまで奪った!!

 

 

 

 戦争だから?そんなこと、知ったことかっ!!

 

 

 

 奪うというならば、奪われる覚悟は当然あるだろう!?

 

 

 

 ならば私も鏖殺して(奪って)やる!!徹底的に!!

 

 

 

 

     ─────────

 

 

 

 アンドロメダの心に宿った復讐の炎は、火星沖でのヤマト救出によって大きく鎮火され、また異世界に転移したという未知の超常現象や、その後の深海棲艦達との出会い等の影響で頭が一杯一杯になったのと、特に天真爛漫、天衣無縫を絵に描いたような明るく接してくる駆逐棲姫と過ごしていく内に、心がかなり揉み(ほぐ)されたことが大きい。

 そして何よりこの世界にガトランティスがいないのだから、復讐の必然性が無くなった。

 

 だが、だからといってアンドロメダの心に宿った復讐の炎が、完全に無くなっていたわけではなかった。

 

 心の奥底で僅かに(くすぶ)っていたほんの小さな火種が、ガトランティスの存在の可能性という可燃物に反応して、爆発してしまったのだ…。

 

 

     ─────────

 

 

 3連装4基12門の収束圧縮型衝撃波砲(ショックカノン)から橫薙ぎのスコールの如く撃ち掛けるショックカノンの陽電子ビームが悉く南方棲戦姫(目標)手前で消される。

 

 それでもアンドロメダは砲撃の手を緩めない。

 

 完全に頭に血が昇り、普段の優しい微笑みを湛えた顔は憤怒に歪み、瞳はどろりと濁り、溢れた怒りで途轍もない殺気を放ち、口元は犬歯を剥き出した獰猛な表情へと豹変していた。

 

 

 そしてショックカノンの効果が無いことに、さらに怒りが増幅されていく。

 

 また時折、反撃の砲弾が飛来してくるが、直撃する物は全て波動防壁が弾き返していたが、それすらも今のアンドロメダには怒りへと繋がってしまっていた。

 

 

「おのれ…!」

 

 その声はまるで、地の底から響くような、怨嗟にまみれたものだった─────。

 

 

波動砲、発射用意!!

 

 

 遂に、出してはならない禁断の命令を発してしまったその瞬間───

 

 

 

 

「狼狽えるな!!」

 

 

 この海域全てに響き渡る様な男性の怒声に、アンドロメダだけでなく、深海棲艦達も驚いて動きを止めてしまう。

 

 

 

 

「そんな…今の、声は……」

 

 

 その声が誰の声かを知るアンドロメダは、その有り得ない事実に呆然としてしまう。

 

 

「おとう…さま…?」

 

 




 まさか一万文字突破するとは…。


 少し今回はいつも以上に無理矢理感があるような…。それでいて矛盾が発生していないかがちょっぴり怖い…。

 時間断層関連は以前から思っていた疑問をや想像した問題点を書き連ねました。
 カットしましたが、ガトランティスが通商破壊を行ったことで生産に支障が出たり、フル稼働の影響で設備に故障が相次いだりとか、ガトランティスは通商破壊するつもりはさらさら無いけど地球・ガミラスはそんな事分からないから迂回航路を設定し、その影響で輸送ダイヤが崩れたりして原材料に不足が発生したりという話も入れたかったですが、泣く泣く削りました。て言うかそんな話に需要ありますかね?ガミラスへの借金疑惑とか…。
 個人的に、どう転んでも地球は時間断層工廠は手離さざる終えなかったんじゃないか…。借金の担保で…。すっごい世知辛い話ですけど、結局小国の悲しさは勝っても敗けても外国の食い物にされるリスクはどちらも大して変わらないという事実…。勝っても支援した国への借りの返済で首が回らなくなる…。


 一番最後の、多分誰の声かはバレバレですよねぇ…。



アンドロメダ姉妹解説

AAA-3 アポロノーム
 外観のイメージキャラクターは艦これのフフ怖さんこと軽巡艦娘の天龍さん。
 ボサボサ髪で軍帽は斜めに被り、制服は着崩している。
 艦長の安田俊太郎さんが某MMDにて乗艦していた村雨型宇宙巡洋艦の艦名が天龍だった事から、アポロノームは天龍さんでなくてはならないとの使命感に駆られました。身長はアンドロメダよりも4㎝高い194㎝。
 一人称は「俺」。姉に対しては「姉貴」か「○○の姉貴」。妹は名前で呼ぶ。ヤマトに対しては「母さん」。
 ちなみに五姉妹の中である部分が一番デカイ。


AAA-2 アルデバラン
 外観はアンドロメダ似のやや吊目で眼鏡を掛けているのが特徴。
 お堅い感じだが、姉のヤマト大好きに似たのか重度のお姉ちゃん大好きっ娘。ただ好きすぎて最早崇拝や信仰に近く、麾下の艦隊の娘達にアンドロメダの素晴らしさを布教している残念美人。しかし仕事はキッチリとこなしている。
 最初は銀英伝のムライ中将をイメージした姉妹の纏め役にするはずだったが、何時の間にやらシスコン艦になってもうた…。書いてて一番キャラが暴走してしまったけど書いてて一番楽しかった。
 一人称は「わたくし」。アンドロメダに対しては「姉上」。妹達には名前で呼ぶ。ヤマトに対しては「母上」。
 五姉妹の中で一番小さい。

AAA-4 アキレス
 外観のイメージキャラクターは艦これの木曽。軍帽は斜めに被っているのが特徴。アポロノームとは違い、制服はちゃんと着ている。
 アンドロメダの事が好きだが、どちらかと言えば姉妹愛の延長線上みたいな感覚。姉妹の中で一番真面(?)なのだが、そのせいか一番影が薄いのでは?と悩んでいる。
 一人称は「オレ」。姉に対しては全員「姉さん」。妹は名前で呼ぶ。ヤマトに対しては「お母さん」。
 五姉妹の中で二番目に小さい。 


AAA-5 アンタレス
 外観のイメージキャラクターは艦これの天龍型の怖くて可愛い方さんこと龍田さん。ただし外観のみで性格はやや幼くてイタズラ好き。語尾が間延びしたおっとりとした喋り方が特徴。
 同じ空母型であるアポロノームの事が大好きだが、そのイタズラ気質からか素直でない。ただ同じくらい長姉アンドロメダのことも好きな為によく甘えている。
 一人称は「私」。姉全員「ねえさま」と呼ぶ場合が多いが「○○ねえさま」と呼ぶ場合もある。ヤマトに対しては「かあさま」。
 五姉妹の中で二番目にデカイ。

AAA-1 アンドロメダ
 我らが主人公ながら、実は外観イメージは特に決めていなかった。そのために今回改めて再設定。結果イメージとしてはグレネーダー微笑みの閃士の主人公、天道琉朱菜(アニメ版)を髪の毛の長さを腰よりやや上にまで短くして、後ろで纏めている。大きな出ている所を少し小振りにした姿が近いかな?これに伴い、プロローグ後書きのアンドロメダ紹介文を一部変更。
 一人称は「私」妹達は全員名前で呼ぶ。ヤマトに対しては「お母様」か「ヤマトさん」。
 五姉妹の中で真ん中の大きさ。


特別出演

カトリ カシマ

 練習艦と言ったらこの二人でしょう。というか気付いたら出ていた。


なのDEATH!

 なのDEATH! 





 今回はここまでとなります。参考や励みになりますので気が向きましたら、お気軽に感想をよろしくお願い致します。

 それではまた次回。


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第9話 Find a way out of a fatal situation 後編下

 死中に活あり

 後編の下になります。

 今回かなり視点が移動します。



 しかしまさかここまで長くなるとは…。


 一体どうなっているのよ!?

 

 

 南方棲戦姫は心の中で悪態を吐いた。

 

 

 アンドロメダ(あの娘)が奇襲に打って出てきた。それはいい。

 可能性を考えなかったのかと問われたら、否だ。

 

 だが正直、読み違えていた。いや、それもあるがこの大艦隊に対してばか正直に突っ込んで来たとしても、数の有利から如何様にでも出来ると思い込んでいた。

 

 考えられるか?

 

 戦闘が始まって10分にも満たない短時間の間で艦隊の主力空母がほぼ戦力を損失し、ろくな反撃すら出来ずに圧倒され続けているというワンサイドゲームが!!

 

 

 

 今まで繋がるのが普通だと思っていた通信が、完全に遮断されただけで戦闘にここまで支障が出ると言うのも予想外だった!

 

 無論、先日の電波障害を教訓に足の速い駆逐艦を伝令役として多数配していたが、予想を遥かに超える目まぐるしい状況変化のスピードに対応仕切れず、逆に情報が錯綜してより一層混乱に拍車をかけてしまった。

 

 その混乱の隙をものの見事に突かれた!

 

 陣形が乱れて出来た隙間から一気にアンドロメダ(あの娘)の物と思われる艦載機群が輪形陣内に侵入。脇目も振らず一直線に空母へと向かったかと思うと、瞬く間に空母と直援の娘達を攻撃して飛び去っていった。

 

 幸いな事に今のところ沈んだ娘はいないみたいだし、攻撃されたのは半数だ。

 

 どれ程の被害を受けたかはまだ分からないが、攻撃を受けたのが半数と言うことは、最低でも半数の戦力は確実に無傷ということ。

 

 これならばまだどうにかなる。無傷な娘達で再編し直して反撃だと空母棲姫(くう)と話した矢先に、アンドロメダ(あの娘)は来た!

 

 

 空から滑空して陣形内の深部にまで一気に踏み込まれた!貴女エンジンが壊れてたんじゃないのっ!?

 

 

 その後は水面ギリギリを派手に水しぶきを上げながら縦横無尽に飛び回りだした。

 

 この水飛沫が厄介だ。

 

 前からならまだしも左右からだと飛沫が邪魔して視認し辛く、狙いを付けにくいし、万が一反対側に味方がいたら同士打ちになるからと引き金を引くのを躊躇ってしまう。

 

 それ以前に速すぎて狙いが定まらないのだけどね!

 

 などと言っている内に砲撃が始まった。

 

 予想はしてたけどさ、光線砲って反則でしょうっ!?*1人間達も持ってるって聞いてるけど、それは陸の砲台陣地。しかも基地とか重要ポイントに一門か多くて二門程度で、図体のわりに軽巡洋艦級をどうにか中破させるのが関の山。発射間隔も長い代物だと聞いている。

 それでも射程が長く、着弾までのタイミングが短いために、これが実戦配備されてからは不用意に陸地に近付きにくくなった。すでに偵察艦隊に少ないながらも犠牲が出ている。

 

 とはいえ、未だ人間達が使う戦闘艦でこのタイプを積んだ(ふね)が出たとは聞かないし、ましてや艦娘達が使ったなんてことも聞いていない。

 

 それをアンドロメダ(あの娘)は十二門も装備し、縦横無尽に使いこなしている。

 

 こればかしは流石は未来の科学技術の驚異であると言わざるを得ない。

 

 

 だがしかし!

 

 

 何よっ!?あの出鱈目な速射性能!それにあれだけ激しく動き回って全弾命中って!ふざけてんのっ!?

 

 未来技術、驚異にも程があるわーーーっ!!

 

 などと内心で突っ込んでいる合間に空母の娘達が次々と狙い撃ちされていく。

 

 

 この時点でこの戦いは敗けだと認めざるを得ない。

 

 

 だけどここであることに気付いた。

 

「…艤装しか狙っていない?」

 

 明らかに人体部分は避けて撃っていた。不殺(沈めず)で手加減しているつもりか?と怒りを覚えたが「確実にこちらの航空戦力を素早く潰しつつ、敢えて沈めないことで救助か戦闘かの選択で悩ませ、より混乱させようという魂胆でしょう」と空母棲姫(くう)に言われ、少し落ち着いた。当の空母棲姫(くう)は苦虫を噛み潰したかの様な顔で悔しさを滲ませていたが。

 

 

「してやられました。頭に来ますが、私達の敗けです。ですが撤退しようにもこの混乱では…」

 

「…何とかこっちに意識を向けさせて、その隙に伝令を走らせましょう」

 

「それしかありませんね…」

 

「私と戦艦隊が前に出て派手に動くから、貴女はその隙に艦載機を。少しでも手数を増やしたいからジャンジャン飛ばして」

 

「分かりました。それと不本意ですが、狙撃してくる可能性がありますから、私の直援の娘達で彼女の射線を遮る様に配置します」

 

 確実とは言えないけど、弾道が直線の光線砲ならば射線を遮る事さえ出来れば、一機でも多く飛ばせる時間が稼げるかもしれない。

 

 

 

 すぐさま行動に移す。こうしている間にもアンドロメダ(あの娘)は暴れまわっているのだから。

 

 

 だが、少し遅かった。 

 

 

 陣形を組み直し終わった時には、既に空母は全滅したのだろう。アンドロメダ(あの娘)の砲撃が止まり、こちらの意図に気付いたのか急接近していた。

 それに対応すべく、こちらも全速で突撃を開始する。陣形はどこまで通用するか分からないけど、火力投射に優れた横隊を指示。*2ただし回避運動も考慮してやや間隔を広げさせていた。私はその隊列の中央で指示を出す。

 だがその直後に、アンドロメダ(あの娘)の艦首部分に相当する艤装から何かが発射されたのが見えた。

 

「ロケット…?」

 

 艦娘達もロケット弾を装備している娘がいるとは聞いている。だがそれは弾道が不規則なために命中率が極めて悪く、もっぱら面制圧が必要な地上攻撃でしか使われていないはず…。

 

 だがこの小型ロケット群は発射後にまるで意志があるかの如く自ら進路を修正しながら飛んでいるではないか!?

 

 

「まさかミサイル!?」

 

 

 考えずとも当たり前の事だ。未来の戦闘艦なのだから対艦攻撃可能なミサイルくらい積んでいてもなんら不思議ではない。それに事前情報にそれらしきモノがあったのに、光線砲の出鱈目っぷりに圧倒されてつい失念してしまっていた。

 

 だがその数がおかしい。明らかに数十発は撃ってきている。人間達の(ふね)でも一隻でこんな数は撃ってきたりはしなかった!何?未来でのミサイル攻撃は「一隻ででも飽和攻撃出来ちゃいます(・ωく)」が基本なんですか!?

 

 もう笑うしかない。いや笑っている場合じゃない!このミサイル群は私達の頭上を飛び越えて、明らかに空母棲姫(くう)に向かっている!

 

 あわてて対空砲を撃ち上げるが、追い撃ちとなってしまい、それでも何器かは落としたが、それが限界。ほとんどすり抜けられた。

 

 空母棲姫(くう)達も対空砲を撃ち上げている様だが、目前にアンドロメダ(あの娘)が迫っているからいつまでも空母棲姫(くう)を見ている訳にはいかない。

 

 直援に対空能力が高い娘がいたが、おそらく落としきれない。

 

 数が多すぎるし速い。何より小型というのが厄介だ。小さいから狙いが付けにくい。

 

 

「被弾!炎上されております!」

 

 指揮下の娘からの悲鳴染みた報告に、わかっていた事とはいえども、つい舌打ちしてしまう。

 悔しいけど、まだこちらの主砲はギリギリ届かない。

 

 

「次はこっちにくるわよ!射程距離に入るまで各自回避に───!?」

 

 

 指示は最後まで言えなかった。何故ならアンドロメダ(あの娘)の主砲砲身の砲口と私の目があってしまったから。

 

 

 直ぐさま回避運動を始めるが、主砲は相変わらず私をしっかりと捉えたまま。

 

 

 撃たれる!

 

 

 直感がそう告げてきて、私は思わず防御姿勢をとってしまう。

 

 

 直後に光の矢が私に目掛けて翔んでくる!

 

 

 が、

 

 

 な、何よこれっ!?

 

 

 直撃する直前、突然私の周りが薄く光り、幕の様な物が現れたかと思うと光の矢を霧散させてしまった!

 

 

 な、何よ今の!今の何なのよ一体!?

 

 

 こんな防御手段があるだなんて、私知らない!

 

 

 何が何だか分からず、軽くパニック状態になってしまう。周りの娘達も何が起きたのかと右往左往している。

 

 アンドロメダ(あの娘)も何が起きたのか分からないという顔をし、行き足もやや落ちて呆然としている。だが。

 

 

 次の瞬間、アンドロメダ(あの娘)の雰囲気が変わった。

 

 冷静に、機械的とすらいえる程のある種、冷徹ともとれる冷静さで戦闘を押し進め、感情の揺れを今まで感じさせなかったが、ここに来て大きく揺れた。

 

 

 そして戦場の空気も一瞬にして変わった。

 

 

 それは途轍もない殺気。

 

 

 この戦場を覆い尽くすかのような、今までに経験したことの無い、私ですら一瞬震えるくらいの濃密な殺意の塊だ。

 

 それに当てられた娘達が完全にすくんでしまっている。

 

 

 何の前触れ無く突然砲撃が再開され、途轍もない密度の光の矢を私に叩きつけてきた。

 

「ちょ!何よ急に!?」

 

 それはまさに光による嵐としか言い表す事が出来ない程の苛烈きわまりない弾幕の嵐だった。

 

 その全てがこのよく分からない幕?防壁?で防がれているが、これどれだけ持つの!?て言うかまぶしいったらありゃしないわ!!

 

 

「ああもう、目がチカチカするっ!兎も角私が攻撃を引き付けるから、あんた達は私の後ろから撃ちまくりなさい!!」

 

 何とか射程距離に入って来たため、攻撃指示を出したが、それによって万が一、周りの娘達に狙いを変えられたら一瞬にしてズタズタにされてしまう。けど私は防御で手一杯。

 

 

 ならば私が盾になるしかない!

 

 

 私の指示を受け、隊形を即座に私を先頭にした単縦陣に変えて、16inch砲弾が次々と撃ち込まれる。

 

 諸元や修正値は私が口頭で伝える。とはいえこの光り越しだから多少アバウトなんだけどね!

 

 それでも数撃ちゃ当たる。外れを示す水柱以外に命中を示す爆煙が上がったのが見えた。

 

 

 が、こちらの砲弾も見えざるナニかに防がれていた。

 

 

「ホントに何なのよこの戦いっ!?インチキやビックリも大概にしてっ!!」

 

 訳の分からない事があまりにも起きすぎて、思わずそう叫んでしまう。もう泣きたいくらいだわ!

 

 

 そして忽然と嵐が止んだ。

 

 

 視界がクリアーになり、再びアンドロメダ(あの娘)の顔を見た時────

 

 私は背筋が凍った。

 

 ヒトの姿をした『死』。或いは『滅び』。それしか言い表す事が出来ない様な表情。

 

 滅ぼすまで止まらない。それを躊躇わない。

 

 殺す!殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺スコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロシテヤル!!

 

 そんな意志がひしひしと伝わって来る。

 

 

 駆逐棲姫(あの娘)は「とても優しいお姉さんだよ」と言っていた。多分それがアンドロメダ(あの娘)の本質なのだろう。

 

 だがその心に途轍もないバケモノが潜んでいた。

 

 『鬼神』もしくは『悪鬼羅刹』

 

 

 

「あ、悪魔だ…」

 

 

 私の後ろで誰かが振るえた声でそう呟いた。私自身、アンドロメダ(あの娘)は『破壊の権化』の象徴なんじゃないの?という考えが頭をよぎったその時────

 

 

 更に殺気が膨れ上がった。

 

 

 全身が粟立った。

 

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!

 

 ここにいたら、()()()()()

 

 何か分からないけど、私の本能が悲鳴の様に警鐘をならしている!!「兎に角逃げろ!逃げるんだよォ!!」と。

 

 でも身体が金縛りにあったかのように動かない!!

 

 恐怖。

 

 怖い!怖い!怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!

 

 

 もうやだ…。もう死んでしまったほうが────

 

 

 恐怖に呑まれ、諦めたその時────

 

 

「狼狽えるなっ!!」

 

 

 海域中に響き渡る様な男の怒声が聞こえてきた。

 

 

 同時に潮が引くかのように、殺気が消えていく。何人かが緊張の糸が切れたのか、気絶して倒れたのが背中越しに音で分かった。私も思わずその場にへたり込んでしまうが────

 

 だがそれよりもアンドロメダ(あの娘)が一転して放心状態になったのが目に入った事の方が大事だった。

 

「い、今よ!あの娘を取り押さえるわ!!」

 

 やや上擦った声で後ろにいる全員に突撃を命じながら、未だに震える自身の足に喝を入れて、遮二無二突撃を開始した。

 

 砲撃するよりも、直接取り押さえてしまったほうが確実に無力化出来ると私は判断していた。

 

 

 だが、この時の私は気付かなかった。私以外、一緒にいた娘は全員気絶して倒れていた事に。

 

 それに気付けない程に、私は気持ちに余裕がなかった。

 

 

 もう早く終わりにしたい。

 

 

 それしか今の私の頭にはなかった。

 

 

      ──────────

 

 

 アナライザーは自身の浅慮に後悔していた。

 

 

 アンドロメダがガトランティスに抱いている怒りと憎しみの大きさを、甘く見ていた。

 

 彼は知る由もない事だが、アポロノーム沈没(亡き)後のアンドロメダ姉妹の内、最も豹変したのがアンドロメダだった。

 アンドロメダのことが好きで好きでたまらないアルデバランをして、この時のアンドロメダは見ていられない程に荒んでいたという。

 

 

 さらに続く『ヤマト行方不明』の凶報がそれに追い打ちをかけた。

 

 

「姉上のお顔を直視出来ない…」そうアルデバランが涙ながらに語る程、酷い有り様だった。

 

 恐ろしいまでの、能面を張り付けた様な微笑み。

 

 あんな顔は見たことがない。愛する姉に対して初めて恐怖してしまった。それが途轍も無く悲しかった。

 

 そしてそれが負のスパイラルを生んだ。

 

 姉は大切な妹を怯えさせ、悲しませてしまったことで更に怒りの炎が燃え上がり、妹は愛する姉をそうさせてしまったことに更に悲しみ、怒りへと繋がった。

 

 それらが全て、元凶たるガトランティスへの憎悪として蓄積されていった。

 

 だがその事実をアナライザーは知らない。

 

 知らないから推し量れなかった。

 

 アナライザーが知っているのは()()()()()()()()()()()()とこの世界でのアンドロメダだけだ。

 

 ガトランティスに思うところがあるのはアナライザーも同じだが、アンドロメダの“それ”は遥かに桁が違った。

 

 

 暴走するとは思いもしなかった。

 

 

 今のアンドロメダには作戦とか頭に無いのは明白だ。目の前の南方棲戦姫(目標)沈める(消し去る)事以外、眼中に無い様な状態だ。

 出力は兎も角、連射サイクルは最大、そこに来て敵弾による波動防壁の使用。不安を抱えるエンジンへの負荷が高まり、機関科の妖精達が必死に安定させようと奮闘していた。

 幾度に渡るアナライザーによる呼び掛けも耳に入っていない。

 

 

 暴走を止めるにはどうすれば良いか?

 

 

 それに対して一つの『()()』に辿り着いていたが、その手段に躊躇いがあった。

 

 

 それは()()()()()()にならないか?

 

 

 本来ロボットのアナライザーであるが、ヤマトでの旅で彼の思考アルゴリズムには本来なら備わってなかった人間的な考えを持つようになり、それがこの世界に来てより顕著に成りつつあった。

 

 だがこのままだとアンドロメダは最悪の決断を下して自滅しかねない。

 

 

 そしてそれは現実となった。

 

 

「波動砲、発射用意!!」

 

 

 ショックカノンによる効果が無いことに痺れを切らしたアンドロメダが、遂に破滅へと繋がりかねない命令を出してしまった。

 

 ただでさえエンジンに負荷が掛かっているこの状態での波動砲使用はエンジンの暴走を引き起こしかねない。

 

 波動砲緊急停止コマンドを入力すれば、一応発射を強制的に止める事は出来るが、それだけだとアンドロメダが更に怒りを募らせてより暴走に拍車が掛かるだけとなりかねない。

 

 

 ここに至り、アナライザーは決断した。

 

 

()()()()、スミマセン)

 

 スピーカーのスイッチを入れ、自身の記録ログに遺していた()()()()()()()()()の音声データを再生。同時に波動砲の緊急停止コマンドを入力した。

 

 

「狼狽えるなっ!!」

 

 

 この時アナライザーはスピーカーの音量をうっかり最大にまで設定してしまっていた為、海域中に響いてしまった。

 

 

     ───────────

 

 

「あ、ああ…」

 

 

 アンドロメダは、未だ戦場のど真ん中であるのも忘れて、今にも泣きそうな顔になっていた。

 

 自身の心の内にあるガトランティスへの激しい憎しみから来る心の『魔』に呑み込まれ、途轍もない破壊衝動に思考が完全支配されていたが、自身が父と慕う英雄、沖田十三艦長の一喝によりアンドロメダは冷静さを取り戻すどころか慚愧の念にかられて震えていた。

 

 

 沖田艦長はガミラス戦役中に「悪魔め」という言葉を何度か呟いていたという。

 

 それは地球を滅茶苦茶にした敵であるガミラスに対して言っているモノだと思われていたが、真意は違っていた。

 

 「悪魔め」という言葉が、敵という『人』ではなく、その『魔』の部分を憎み、また同じように自分の中にもいる『魔』を抑え抗うためのおまじないのような魔除けとしての言葉であると、イスカンダルへの航海の時に語られていたという。

 

 だが自身はその『魔』に抗うどころか呑み込まれ、ただ自身が気に入らないモノに対する激しい破壊衝動に身を委ねてただただ破壊するだけの最低な人形に成り下がってしまっていた。

 

 

 沖田艦長(お父様)に合わせる顔がない。

 

 

 ヤマトさん(お母様)に顔向け出来ない。

 

 

 妹達を失望させてしまう。

 

 

 

 アンドロメダの心は先程までの激情に対する揺れ戻しか、そんな感情で冷々とした心が折れた様な状態となってしまい、戦意を喪失してしまっていた。

 

 

 虚ろな瞳に、南方棲戦姫がこちらに向かって来る姿が写ってはいたが────

 

 

 …もうどうでもいい。私の様なこの世界にとってはイレギュラーな存在はこのまま沈められていなくなった方が─────

 

 

 

「貴女ガイナクナレバ、駆逐棲姫サンガ(カナ)シマレマス」

 

 

 こうなる可能性を危惧していたアナライザーが静かに語りかける。

 

 

 アナライザー自身、これは半分賭けだった。

 

 

 確かに駆逐棲姫はあの時、「どんな結果になっても悲しまない」とは言っていたが、それが本心とは言い切れないとアナライザーは見ていた。

 

 駆逐棲姫がアンドロメダを『優しいお姉さん』と称した様に、アナライザーも駆逐棲姫の事を『気遣いの出来る優しい娘』だと称していた。そこからこれはアンドロメダを気遣っての強がりだったのではないかと思っていた。

 

 何故なら戦いは何が起こるか終わるまで分からないのが世の常だ。この戦いでアンドロメダが戦死する可能性だって無いとは言い切れないのだ。

 

 駆逐棲姫がその事に気付いてないとは思えない。 

 

 別れた際に駆逐棲姫が小さく祈る様な仕草をしていたのを、アンドロメダが気付いたかは分からないが、アナライザーはモニター越しにしっかりと見ていた。

 

 そしてアナライザー自身もアンドロメダ同様に駆逐棲姫に情が湧いていた。

 

「駆逐棲姫サントノ()ッテ(モド)ルトイウ約束ヲ(タガ)エルオツモリデスカ?」

 

 

 このセリフは卑怯だと自覚している。

 

 

『約束』

 

 

 波動エネルギーを兵器として使わないというイスカンダルとの約束を反古にした地球の波動砲艦隊計画。

 

 現実と理想の狭間で葛藤したヤマトの乗組員、特に沖田艦長の薫陶を色濃く受け、またこの約束の当事者の一人でもある古代進の苦悩。

 

 そしてヤマト自身も影で苦悩していたという事実をアンドロメダから聞いている。 

 

 アンドロメダは約束を反古にせざるをえなかったあまりにも厳しい地球の現実も理解していたし、何よりも反古への批判は自身の存在に対する否定でもあるため、割り切っていたつもりだ。

 

 

 だがそれでも、地球の恩人との約束を反古とした事に対して少なからず忸怩たる思いはあった。

 

 その思いから、『約束』という言葉はアンドロメダの中でもかなり重要な位置を占めていた。

 

 

 

 アナライザーの言葉に、アンドロメダの心に火が灯る。アナライザーは賭けに勝ったのだ。

 

 

 虚ろだったアンドロメダの瞳にも意志の籠った強い光が戻る。

 

 

「状況報告!」

 

 

「艦首方向、方位0-0-0(マルマルマル)ヨリ超弩級戦艦(ヒト)、急速接近中!!」

 

 

 その後に続けてより詳細な情報がアナライザー経由でバイザーに表示されて、僅かに顔をしかめた。

 

 戦意喪失状態だった自分自身の過失とはいえ、かなり至近まで踏み込まれてしまった。

 

 即座に対応すべく、頭を巡らせる。

 

 

 主砲は波動砲用意の影響でエネルギーの供給がカットされており、今からチャージしても、即応用の低出力だとまた弾き返されるし、出力を上げても効果が未知数の為に使用不可。

 

 ミサイルは装備箇所が主に舷側方向のため、近すぎて発射しても初期加速の影響で弾道軌道が大回りし、その間に安全マージンに割り込まれてしまい、安全装置が作動して途中で自爆してしまう。

 

 本来なら艦橋に設けられている、空間衝撃波によって実弾防御に使用される司令塔防護ショックフィールド砲の出番だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから装備されていない。

 

 パルスレーザーは非力過ぎて論外。

 

 

 ならば────!!

 

 

「主砲1番、2番!三式弾装填!モード対艦!」

 

 やや距離が近いが、今ならばまだギリギリ一斉射だけなら撃てる。全門斉射しないのは近すぎて砲弾同士が干渉し合う可能性が高いからだ

 

撃て(ってぇ)!!」

 

 砲煙が上がり、6発の砲弾が南方棲戦姫へと撃ち出される。

 

 砲煙を見た南方棲戦姫は咄嗟に両腕の艤装を前に出して防御体勢をとるが、スピードは緩めない。

 

 着弾の爆煙が立ち昇り、発生した衝撃波がアンドロメダに襲い掛かって帽子が飛ばされ、纏めていた髪が吹き曝される。

 

 バイザーだけは何とか飛ばされずに済み、それに映し出される情報表示を見て、次の一手を打つ。

 

「短魚雷、信管カット!発射雷数(らいすう)(フタ)!発射!!」

 

 バルジ部の舷側短魚雷発射管の内、前方に発射可能な4基の内2基から信管が切られた魚雷2本が射出される。

 

 

 直後、南方棲戦姫が爆煙の中から飛び出してくる。両腕の艤装は砲撃の影響で完全に破壊されていたが、それによって隠されていた中の腕が顕となった。

 

 指先が鋭い鉤爪となったガントレットとそれに備え付けられた中口径クラスの砲身。

 

 砲身自体は被弾の影響からか曲がっており使え無さそうだが、それ以外は問題なさそうなために、これに組付かれたらどうなるか分からない。

 

 しかもかなり切れ味が良さそうだ。魚雷2本が鷲掴みされたかと思うとそのまま輪切りにされた。

 それも炸薬部分は綺麗に避けて。

 

 それによって南方棲戦姫は「どうだ!」と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべた。

 

 アンドロメダはその芸当に驚くよりも、その笑みに思わず見惚れそうになった。

 好戦的で獰猛な笑みではあるのだが───

 

 

「…綺麗」

 

 

 思わずそう呟くほどに、美しく思える笑みだった。

 

 その笑みを見て、アンドロメダも自身の口角が自然とつり上がるのを自覚した。

 

 南方棲戦姫もアンドロメダの笑みが見えたのか、より笑みを深め、片手の鉤爪をアンドロメダへと真っ直ぐに向けながら啖呵を切って来た。

 

「大人しく私達に捕まりなさい!!」

 

 その啖呵にアンドロメダも啖呵を切って返す。

 

「丁重に御断り致します!!」

 

 

 言い切った直後に残していた2本の魚雷を発射した。さらに─────

 

「アナライザー!両舷ロケットアンカー射出!彼女の土手っ腹に痛いのをぶっ食らわせてやって下さい!!」

 

「了解!」

 

 

 艦首に備え付けられたロケットアンカーが勢い良く噴射炎を引きながら打ち出され、それぞれの軌道を描きつつ南方棲戦姫へと向かう。

 

 コントロールはアナライザーに一任する。

 

 思わぬアンドロメダの行動に南方棲戦姫は驚いた顔をするが、先ずは差し迫った魚雷を先程と同じやり方で対処する。

 

 

 だがそれはアンドロメダの狙いだった。魚雷を対処するときは動きが制約される。

 

 元々精密に狙って当てられるような代物では無いロケットアンカーを命中させるためには足を止める必要があった。

 

 そして魚雷は破壊されたが、狙い通り動きを止めることに成功。動きが鈍った南方棲戦姫の左右からロケットアンカーの錨が迫る。

 

 

 魚雷と同じように迫り来るロケットアンカーの錨か鎖かを掴んで止めようとするが、直前で錨に取り付けられたスラスターの噴射角度が変わり、それによって進路も少しだけだが変わって、掴もうとしたガントレットの手甲に掠る様に当たっただけに終わるが、それでもその衝撃は凄まじく、金属同士が擦り合う時に奏でる鋭い音と共に、当たった箇所では激しい火花が散り、反動で南方棲戦姫の体勢を大きく崩した。

 

 体勢を崩されて隙を晒してしまった南方棲戦姫に向けて、もうひとつのロケットアンカーが迫る。

 

 だが伊達に姫級の名を冠するハイエンドモデルなだけはある。

 ロケットアンカーが直撃する寸前に体勢を立て直すと、今度は見事錨を掴む事に成功した。が、少し体勢に無理があったのか、勢いを殺しきれずに転倒。その際にガントレットに鎖が絡み付いてしまう。

 

 南方棲戦姫はあわてて鎖をほどこうとするが、自身のガントレットの一部に食い込んでしまっている様で上手くいかず、下手に切断しようとすると間違えて自身の腕まで傷付けかねない。それ以前に錨も鎖もかなり頑丈な代物であるため、生半可な事では切れないのだが。

 

 

 それを見たアンドロメダは即座にロケットアンカーで南方棲戦姫をぶん殴る作戦の変更を決断。

 

「慣性制御システム、出力上げ!艦底部、全スラスター起動!!艦体垂直上昇!!」

 

 南方棲戦姫を吊り下げる形で上昇を開始する。当の南方棲戦姫は、最初はアンドロメダの意図を掴み損ねていたが、アンドロメダの艤装が上昇しだしたのを見て意図を察し、あわててアンカーの鎖を握り締めた。

 

 

 そのまましばらく上昇を続け、深海棲艦の艦載機が上がって来られない高度で停止する。

 

「アナライザー、航空隊に帰艦指示を」

 

「ワカリマシタ」

 

 作戦を滅茶苦茶にして予定よりも長く飛ばしてしまう事となったため、後で飛行科の子達からたくさん不平や不満、苦情が来るだろうなぁ…。機関科の子達にも迷惑を掛けてしまったなぁ…。などと思いながらも、先に片付けなければならない案件の事についての思考へと切り替える。

 

「さて、と…」

 

 座席から立ち上がると、うっかり落ちないように慎重に艦首艤装まで髪を風で靡かせながら歩いていく。

 

 丁度ロケットアンカーの格納基部真上で足を止め、下を覗き込む。

 

 

 

「ちょっと!どうする気よ!?」

 

 

 南方棲戦姫が吹き付けられる風に煽られ振り子の様に揺られながら、叫ぶように問い掛けてくる。が、やはりと言うべきか、吹き荒ぶ風の影響で少し聞き辛い。

 

 

 アンドロメダは上着のポケットから以前使用したタブレットとは違う、より小型な携帯用のタブレットを取り出した。

 それを使って錨の巻き上げの指示を出し、空の上でもお互いの声が聞こえる距離まで引き上げた。

 

 

「これ以上の戦闘の継続は双方共に益無き物と判断し、停戦交渉の場を設けることを提案致します」

 

 

*1
光線砲、つまりショックカノンの事。駆逐棲姫が説明に苦慮して光線砲と伝えた。

*2
艦娘、深海棲艦の双方に言えるが、ヒトの形であるために火力投射は前方方向が一番高い。




 もし断ったら?

 (鎖をカットして)放してやった。



 やっと(戦闘が)終わったー!!

 ロケットアンカーを使うことは初期プロットから考えてましたが、そこまで持って行くのに無い知恵搾りまくった結果が、アンドロメダの暴走とその揺れ戻しというハチャメチャな展開!!正直やっちまった感はあります。何故なら止める手段、実は最初全く考えてませんでした。最初は駆逐棲姫お姉ちゃんというのも真剣に検討しましたが、戦場に最初から連れ込むと単なる人質にしか見えませんし、途中から異変を察知して全速力で駆け付けるにも距離がありすぎて無理があると判断。実は第5話で駆逐棲姫さんがアンドロメダに借りたゴーグルには通信機能があり、演習後も借りパクしてそれを使って今回の戦闘の様子を盗み聞きして異変を察知する予定だったりしました。
 その後も色々と知恵を搾りましたが、良い案が出ずに苦肉の策て父親に音声のみですが、ご足労をお願い致しました。沖田艦長、ホントすみません。
 因みに初期案ではロケットアンカーで南方棲戦姫さんをノックアウトさせる予定でした。

 今回南方棲戦姫さんが使った本人ですら知らなかった未知の防壁は後々明かしていく予定ですが、ひょっとしたら勘の良い読者様ならば薄々勘づかれたかも?
 というか南方棲戦姫さん、今回ツッコミキャラになってしまってたなぁ…。
 南方棲戦姫さんが最後に使ったガントレットは南方棲鬼さんの腕の艤装をイメージして下さい。




補足解説


魚雷とミサイル

 ヤマト世界の魚雷とミサイルですが、実は対空対艦両用の兵装として扱われております。魚雷でも対空攻撃したりしますし。ですので今後少し混乱させてしまうかもしれません。

 一応リメイク版ヤマト世界の定義では───

『艦に対して水平に設置されている物が魚雷、垂直に設置されてる物がミサイル』

───とされています。ただしそれはヤマト世界の定義の為、それを知らない艦これ世界の住人は全てミサイルと呼称致します。


光線砲

 陸上配備型のレーザー砲台。

 本土防衛用に各地へと配備が進んでいるが、作動には大電力が必要で、技術的課題からシステムがかなり大きくてコストも非常に高い。
 現状、近海を遊弋する通常モデルの深海棲艦偵察艦隊に使用されたのみで、ハイエンドモデルである姫級に使用された前例は今のところ無い。



波動砲緊急停止コマンド

 事故や何らかの理由で波動砲発射シーケンスを中断しなければならなくなった時に使用するシステム。

 もとネタはヤマト2205で土門竜介が押したボタン。


約束

 2199にてイスカンダルからコスモリバースシステムを受領する時に、波動エネルギーの兵器転用(波動砲)をしないようにと結ばれた『地球イスカンダル和親条約』等に関する話。
 色々と賛否両論があり、かなり難しい問題であると認識しています。理想と現実の厳しさ、ヒトとして、信用信頼とは、と様々な解釈が出来るひとつの課題の様にも思えます。
 


 今回はここまでです。次は交渉等の話し合いメインですね。今回マトモに活躍させることが出来なかった空母棲姫さんにも活躍の場があれば…。それに早く駆逐棲姫お姉ちゃんを出してあげたい…。と言うか気付いたらアルデバランさんがひょっこり出てた…。

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第10話 Negotiation and Information disclosure.AAA-1.

 交渉と情報開示。AAA-1

 まずはさわり部分。


 それと異世界物が抱えるどうすることも出来ない問題もちょっと書いてみました。


「これ、貴女のでしょう?」

 

 

 空母棲姫が海に落ちて漂っていたアンドロメダの帽子を見つけて拾っていたのを持ち主へと渡した。

 

「すみません。わざわざ拾ってくださいまして。ありがとうございます」

 

 アンドロメダは渡された帽子を両手で丁寧に受け取り、小脇に抱えると空母棲姫に深々とお辞儀しながらお礼を述べた。

 

 そのアンドロメダの立ち振舞いに、空母棲姫は何とも言えない複雑な顔になる。

 

 

 彼女はこの戦いにおける事実上の勝者、それも180対1という従来の常識では覆し様の無い圧倒的な物量差を超越的で常識外れの戦闘力で完全に捩じ伏せた──であるハズなのに、なんだこのしおらしい態度は?

 

 正直、なんともやり辛い。

 

 

 戦闘自体に関して空母棲姫自身、思うところは特に無い。

 正直に言うと元から勝ち目は無いと思っていた。

 

 とはいえまさか南方棲戦姫(あの娘)が空の彼方にまで連れ去られたのは予想外過ぎたし、その後まさか停戦交渉を持ち掛けてきた事には仰天してしまったが。

 

 だが、それよりもこの娘が本当にあの信じがたい程の濃密な殺気を放っていたの?と信じられない気持ちの方が強い。

 

 

 離れた場所にいた空母棲姫ですら、直接あの殺意の濁流を浴びせられたわけでは無いにも関わらず、恐怖で萎縮してしまった。

 

 数多の激戦を経験してきたが、あれほど自らの『死』を強く意識したことなど、今の今までなかった。

 

 周りの娘達もパニックを起こして半狂乱を引き起こし、統率が取れなくなってこれ以上の戦闘継続は困難だと判断せざるを得なかった。

 

 それなのに、それを引き起こした当のアンドロメダ(彼女)なのだが、今の彼女からはそんな激しい感情を(あらわ)にしていたとは信じられない。

 

 

 寧ろ感情を(あらわ)にする様な娘とすら思えないし、今はどこか申し訳なさそうにすらしている為、控え目な性格の娘と言った方がしっくり来る。

 

 

 

「ああもう、そんな顔しないの!」

 

 そんなアンドロメダの頭を南方棲戦姫がガシガシと少々乱暴に掻く。

 

「貴女は私達に勝ったと言える立場なのよ!もっとシャキッとなさいっ!!」

 

「す、すみません!」

 

 南方棲戦姫の一喝に思わず謝罪を口にしてしまうアンドロメダ。

 

 それに対して南方棲戦姫は自身の(ひたい)に手を当てながら、大きく溜め息を吐いた。

 

「貴女にそうされると、敗けた私達の立つ瀬がないわ!」

 

 

 そんな二人のやり取りを見ていた空母棲姫は「これでは勝者と敗者があべこべですね…」と思うが、同時に「この娘、もしかして勝ち慣れていない?いや、勝ちというものを知らない?」という疑問が心の中で湧いた。

 

 そんな馬鹿なと空母棲姫は思うが、実際のところその読みはあながち間違ってはいない。

 

 

 だからこそ、興味がある。彼女、アンドロメダが停戦交渉の材料として提示してきた()()()()()()()()()()()()()()()()()()に。

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 

     ──────────

 

 

「停戦?」

 

 

 アンドロメダの思わぬ提案に南方棲戦姫はおうむ返しの様に聞き返してしまう。

 

「はい。これ以上は互いに消耗するだけです。ここで手打ちにするのが妥当かと」

 

 その返答に最初は冗談かと真剣に疑った。何故なら消耗というが、アンドロメダが消耗するだろうか?

 

 実弾が主兵装の我々と違い、彼女の主兵装は光線砲。弾数はエネルギーの供給が続く限り実質無限の筈。やろうと思えば私達を容易に皆殺しに出来る筈だ。実際、あの悍しい殺気を放っていた時は皆殺しも考えていたのではないか?

 

 だが、それだと駆逐棲姫(あの娘)の情報と矛盾するのも確か。

 

 駆逐棲姫(あの娘)は言っていた。「アンドロメダさんは私達に対して敵意が殆ど無い」「出来れば私達とも友達の様になりたいと語っていた」「だけど生真面目で機械的な所がある」と。

 

 生真面目で機械的ということは、合理的な思考を尊ぶとも解釈出来る。

 

 

 そこから読み取るに、空母級を集中的に狙い、後に私と空母棲姫(くう)に狙いを絞ったのは、こちらの主戦力を最優先で叩くという合理的な考えと、被害を最小限に留まるようにして、可能な限り禍根も最小限にしたいという気持ちとの、一種の妥協から導き出した作戦だったのだろう。

 

 

 ならばあの殺気は何なのだ?

 

 

 南方棲戦姫の中で思考が堂々巡りとなるが、実際問題としてこれ以上の戦闘継続は困難であるとも分かっていた。

 

 戦艦戦力は未だ健在だが、恐らくもう戦えない可能性が高い事を、嫌でも思い知らされた。

 

 

 空の彼方へと牽引されている最中に見た、いや、見えてしまった味方の惨状。

 

 

 殆どの娘達が気絶し倒れているか、放心状態で呆然として完全に戦意を損失していた。もうこれでは戦力と言えないただの集団だ。

 

 だからこそ、アンドロメダの停戦提案に渡りに船というのが本心だが、それだとなんだか悔しくて条件を幾つか言ってやろうと思考を巡らせるが。

 

 

「提案を受け入れて下さいましたら、私自身と私の居た世界に纏わる情報を開示致します」

 

 

 その提示に南方棲戦姫は折れた。が。

 

「…私から条件をひとつ出して良いかしら?」

 

 アンドロメダを睨み付けながらそう告げる。

 

「…なんでしょう?」

 

 身構えるアンドロメダ。南方棲戦姫が示した条件とは?

 

 

「私をちゃんと上まで引き上げなさい!お願いします…」

 

 もう空中での宙ぶらりんは勘弁と鎖にしがみ付きながら、器用に頭を下げた。

 

 

 その条件、と言うかどう考えてもお願いに身構えていたアンドロメダは一瞬ガクッとなりそうになった。万が一を懸念して宙ぶらりんとしていたのだが、アンドロメダも流石にこれ以上は可哀想の気持ちが強くなってきていた為に、引き上げる事とした。

 

 

 南方棲戦姫を艤装の上にまで引き上げると、ガントレットに絡まった鎖を手隙の妖精達と共に協力しながらほどいていく。

 ただし、念のため腰のホルスターに差している南部97式拳銃、コスモニューナンブ*1はいつでも抜けるようにしておきながら。だがそれは結果的に杞憂だったが。*2

 

 

 その後南方棲戦姫は停戦交渉に同意の意を示したが、もう一人の姫級であり、艦隊の旗艦でもある空母棲姫との相談も必要と話し、アンドロメダもそれに同意。

 

 電波妨害を解除し、通信が行えるようにした。

 

 それを受けて南方棲戦姫は早速空母棲姫へと通信を繋いだ。

 

 そしてその内容をアンドロメダはこっそりアナライザーに命じて傍受し、記録していたしアンドロメダ自身もこっそり耳に付けたイヤホンで盗聴していた。

 

 どうやら空母棲姫は南方棲戦姫の安否を心配して気が気でなかった様で、物凄い剣幕だ。

 とはいえ何とか落ち着くと、停戦交渉に関する相談へと移っていったが、それも意外とすんなりと了承したようだ。

 

 そして聞いてしまった。自身の暴走が引き起こした惨状を。

 

 沈んだ深海棲艦(ヒト)はいない。だが自身が放っていた殺気で半狂乱状態で大変なことになっていると。

 

 通信が回復したのもあるだろうが通信量の増大を確認したが、それに出てくる───

 

 

『化物』

 

 

『悪魔』

 

 

『死神』

 

 

『鬼神』

 

 

────と散々な言われように、アンドロメダは少しだけ傷ついた気持ちになるが、仕方の無いことだと割り切る。

 全ては自身の心の弱さが招いた結果なのだと。

 

 

 この後は直接話し合う運びとなり、海上へ向けて降下する事となったが、海面が近付くにつれてひしひしと伝わってくる自身に対する『恐れ』と『怯え』の視線に、アンドロメダの気持ちは更に沈むこととなる。

 

 

 そして時間は冒頭へと戻る。

 

    ────────────

 

 ちょっと前まで殺されていた可能性があったのに、物凄くフランクに接してくる南方棲戦姫にアンドロメダは目を白黒させていたが、同時に寂しさも感じていた。

 

 

 

 私を庇って沈んだ(死んだ)アポロノームも周りに対して上下の関係無くすごくフランクな態度を貫いていた。そしてその姿を慕う娘も少なからず居た。そんなアポロノームにアルデバランは「もう少し姉上を見習って」といつも小言を言っていた。その都度私が「アポロノームにはアポロノームなりのやり方がありますから」と嗜めていたなぁ。と思い出して郷愁の念に駆られるが、それをどうにか心の底へと押し込める。

 

 

 今優先すべきは停戦についてだ。

 

 

 だがここで南方棲戦姫がある提案をしてきた。

 

 

 

「ねぇ、あの娘も連れてきたらどう?」

 

 

「えっ?」

 

 

「そうですね。アンドロメダさん。貴女の監視として同行しています同胞(はらから)の娘をここに連れてこれますか?」

 

「貴女の事もこれから話すんでしょ?ならあの娘も一緒に聞かせておいた方が良いわよ」

 

 

 その提案にアンドロメダは確かにとは思うが。

 

「ああ、そのまま貴女が逃げちゃうとかは微塵も考えてないから」

 

「はあ。いえ、しかし…」

 

 いくらなんでも不用心過ぎやしないかとアンドロメダは思う。

 

 確かに南方棲戦姫の言う通り、そんな気は毛頭無い。彼女達深海棲艦の情報が得られるかもしれない千載一遇のチャンスだ。

 

 これを逃す手は無い。

 

 とはいえそれは口に出していない。これからの交渉次第だと思っていたからだ。

 

 

「それに、貴女そういう不義理な事するのが大嫌いなんでしょ?駆逐棲姫(あの娘)はそう言っていたわ。貴女、駆逐棲姫(あの娘)に結構信頼されているみたいよ?」

 

 南方棲戦姫に茶化す様にそう言われるが、なんとなくそんな気はしていたので特段驚く様なことはなかったが。

 

駆逐棲姫(あの娘)の信頼を裏切るおつもりですか?」

 

 

 そう言われると言い返せないが、同時に駆逐棲姫がこの二人の姫から大いに信頼されているのだと窺い知れて、悪い気にはならなかった。

 

 反論の余地が無い為に、アンドロメダは二人の提案を受け入れる事とし、駆逐棲姫を迎えに行くべく再び空へと舞い上がった。

 

 

 空へと消えていくアンドロメダを見送りながら、二人の姫は語り合う。

 

アンドロメダ(あの娘)の気持ちが、これで少しは落ち着くと良いのだけど…」

 

「そこは駆逐棲姫(あの娘)の力に任せるしかありません…」

 

 アンドロメダ本人は気付いているかは微妙だが、二人の目から見てもアンドロメダは明らかに憔悴している様にしか見えなかった。

 

 そんな状態で話し合いをするのは二人としても不本意だった。

 

 だからこそ先の提案にはアンドロメダに気分転換をさせるという目的もあった。

 

 

「あの娘が見せた怒り、あれは私達に対して直接向けられたモノでは無かったと見るべきでしょうね」

 

 そう呟いた南方棲戦姫に空母棲姫は無言で続きを促した。

 

「あの娘の光線砲を弾き返したあの光の幕、()()を見た瞬間からあの娘は怒り狂って正気を失った。あの娘は()()がなんなのかを知っている」

 

「私達ですら知らない()()、ひょっとしたら私達のルーツに関するモノ…」

 

 空母棲姫としてもそれは気になる事だ。何故ならば彼女達自身、自分達の生まれのルーツに関しては『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』という状態だ。

 

 だからこそ、二人はこの話し合いを重要視していた。

 

 

     ──────────

 

 一方、当のアンドロメダは空の上で───

 

「アナライザー、貴方のお陰で最悪の事態は避けることが出来ました。本当にありがとうございます」

 

 そう言ってアナライザーに頭を下げるが、当のアナライザーは自身の行いに思うところがあるために、その礼に対して複雑な心境だった。

 

 

「あんどろめだサン…、デスガ、私ガシタ事ハ貴女ガ父ト(シタ)ウ沖田艦長ノ、死者ヘノ冒涜デス。オ礼ヲ()ワレルホドデハ…」

 

 アナライザーは寧ろ自身を罰してくれという思いだったが、アンドロメダは首を横に振って否定する。

 

「あの時アナライザーが決断してくださらなければ、皆死んでいました。責められるべきは貴方にそんな決断をさせてしまった私にあります。私の心の弱さが原因です。ですから貴方がそれで気に病む必要はありません」

 

 そう言ってアンドロメダは話を打ち切った。

 

 そんな彼女にアナライザーは、アンドロメダが気持ちの面で大分無理をしていると確信するが、今は何を言っても無駄だろうと口をつぐむしか出来なかった。

 

 駆逐棲姫サンナラ…。あの優しい深海棲艦の少女ならどうにか出来るだろうか?とアナライザーは考えるが、同時に自身の不甲斐なさを噛み締めた。

 

 

 

    ───────────

 

 駆逐棲姫はずっと祈っていた。

 

 アンドロメダと別れてから、言い知れぬ不安が駆逐棲姫の胸の中を駆け巡っていた。

 

 何かが起きる。それも良くないことが。と彼女の勘は告げている。

 

 だが約束したのだ。ここで待っていると。だからどんなに不安に襲われようとも、じっと待った。

 

 借りたままだったゴーグルを両手で握り締め、祈りながら待った。ひたすら待った。

 

 

 そしてアンドロメダが空から舞い降りて来て着水したとき、大いに安堵した。だが、アンドロメダの顔を見たときに、やはり何かがあったのだと察した。

 

 

     ──────────

 

 駆逐棲姫さんと合流を果たし、事情を説明すると直ぐに快諾してくださいました。

 

 そして早速行きましょうと艤装に飛び乗って来て発進を促して来たのに思わず苦笑する。

 

 

「危ないですからしっかり掴まっていて下さいね」

 

 膝の上に腰掛けている駆逐棲姫にそう声を掛けると、駆逐棲姫は頷いてかえす。それを見て発進態勢に入る。

 

 

 

「補助エンジン、動力接続」

 

 その指示を受け、補機であるケルビンインパルスエンジンが唸りを上げ出す。

 

「補助エンジン、定速回転1600(ヒトロクマルマル)

 

「両舷推力バランス正常。パーフェクト」

 

「微速前進、0.5」

 

 スロットルレバーをほんの僅かに前に押し出し、ゆっくりと前進を開始しだす。ここから徐々に加速していく。

 

「補助エンジン、第二戦速から第三戦速へ」

 

「波動エンジン、シリンダーへの閉鎖弁、オープン」

 

「フライホイール始動」

 

 心臓である波動エンジンの内圧が高まり、フライホイールが回り出した時の心地好い振動が伝わってくる。

 

「波動エンジン点火、10秒前」

 

 加速と水の抵抗から激しく揺さぶられるが、お構いなしにカウントダウンを続ける。

 

「9、 8、 7、 6、 5、 4、 3、 2、 1、 」

 

「接続、点火!」

 

 スロットルレバーに取り付けられている点火スイッチを押し込む。

 

 メインノズルから眩いエネルギーが噴射され、加速の圧力が一気に高まる。同時に艦首部分が徐々に浮き上がり始める。

 

「アンドロメダ、発進!!」

 

 その号令のもと、スロットルレバーを一気に押し込み、操縦スティックを手前に引く。

 

 艦首部分が完全に海面から離れ、それに続く形で海面に接している部分が減り、最後はメインノズルが海面から離れた事により、アンドロメダは完全に空中へと飛翔した。

 

 この間、駆逐棲姫は一言も発する事なく、ただただ圧倒され続けていたが、その表情はとても楽しそうにしていた。

 

 

 そして─────

 

 

「うわぁっ!これが空!!」

 

 

 水平飛行になり、安定した飛行となったためアンドロメダは駆逐棲姫に周りを見るように促した。そうすると、目をキラキラさせながら、駆逐棲姫は生まれて初めて見る空からの景色に興奮し、アンドロメダの膝の上ではしゃぎ出した。

 

 

 そんな駆逐棲姫の姿を見て頬が緩むアンドロメダだが、直後の駆逐棲姫の真剣な一言に思わず固まってしまう。

 

 

 

「…それで、何かあったんですね?」

 

 

 

「あんどろめだサン、シバラク私ガ操艦ヲ()ワリマス。休息ヲオトリクダサイ」

 

 アナライザーまでそう言って半ば強引に操作権をアンドロメダから引き継ぐ。

 

 その強引さにアンドロメダは呆気にとられるが、駆逐棲姫はそれを見て確信した。

 

 隠し事は無駄ですよと言わんばかりに詰め寄る駆逐棲姫に、アンドロメダは観念し、ポツリポツリと胸の内を語り出す。

 

 

 自身の心の中に潜む『魔』のこと、そして───

 

 

「貴女を置いて、私は消滅していたかもしれない選択を下してしまいました」

 

 その事に駆逐棲姫もショックを受けるが、直後にアンドロメダの顔を自身の胸の中へと抱き締めた。

 

「泣きたいときは、泣いても良いんですよ」

 

 その瞬間、アンドロメダは駆逐棲姫の胸の中ですすり泣き出すが、次第に声に出して泣いた。

 

 泣いて泣いて、泣き腫らした。

 

 怖いのだ。自身の心の弱さが。怒りと憎しみの『魔』に呑まれて、大切なモノが分からなくなって、いつか駆逐棲姫すら分からなくなって傷付けてしまうのではないかと。

 

 そして言い様の無い『孤独感』。

 

 この世界で私の存在はイレギュラー過ぎる。かつての仲間や妹達は誰一人としていない。

 

 そう。

 

 誰もいない!

 

 私はこの世界でひとりぼっち!!

 

 駆逐棲姫は嗚咽混じりに語るアンドロメダの言葉に耳を傾けながら、アンドロメダの頭を優しく撫で続ける。

 

 

 そして駆逐棲姫はある決心を固めた。

 

 

 

*1
いわゆるコスモガン

*2
因みにアナライザーは97式より火力が高く、フルオート射撃可能な89式機関短銃を用意されてはと進言していたが、アンドロメダはやんわりと却下していた




Negotiation and Information disclosure.AAA-1.

 交渉と情報開示。AAA-1

AAA-1 And Andromeda's Anguish-1

 アンドロメダの苦悩ー1

 交渉と情報開示。そしてアンドロメダの苦悩ー1

 心理描写は難しい。

 なんか主人公、深海棲艦の姫様方に滅茶苦茶気遣われてるなぁ…。このまま深海堕ちしそう…。(冗談です)


 見知らぬ土地、見知らぬ世界にある日いきなり一人で放り込まれた時の孤独感は如何程のモノなのか…。
 転勤による単身赴任でさえ、私は精神的にかなりきつかった。今まで構築していた基盤、繋がり、人間関係の一切合切が無理矢理引き離されたのだから。最悪の事態の未遂も経験した。だがそれでも通信インフラという繋がりが維持出来ていたからギリギリ耐えれた。
 だが異世界だとそんな繋がりも破壊される。そして何の前触れもなくだ。余程精神が強いか、あるいは壊れているのか…。少なくとも私には耐えられない…。



捕捉解説

コスモニューナンブ

 正式名称、南部97式防衛軍正式拳銃。所謂コスモガン。
 旧式化した14年式を更新するために、14式をベースに小型軽量化を目指して南部重工兵器開発部で開発された防衛軍の現正式拳銃。西暦2197年採用。


89式機関短銃

 フルオート射撃可能な携行小火器。艦内で使用する小火器の中でも最高火力の武器でもあるため、緊急時や艦の高位者(大体艦長)の承認が無いと基本的に携行出来ない。




 真面目なヒトほどストレスを溜めやすい。アンドロメダも色々有りすぎて実はストレスが溜まりまくってました。ですから少しばかし今話不安定になってました。
『現実は意地が悪い。いつだって最悪に最悪を重ねて来る。真面目に不器用に生きているヤツほど狙われるんだ。全部一人で受け止めて潰れて死んじまうようなバカほど…。ヤケを起こすくらいしかヒトには…』──ヤマト2205、土門竜介の台詞より
──アンドロメダも実はこの台詞が当てはまる可能性が高いです。ですから、側で支えるヒトが必要となります。

 発進パートは試しに書いてみた程度でしたので、粗かったと思います。

 次からは情報開示の本番ですが、ある意味歴史の授業みたいな感じになりそうです…。ヤマト世界の…。でもこれを語らなければ話が噛み合いませんから必要なことです。

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第11話 Negotiation and Information disclosure.AAA-2.

And Andromeda's Anguish-2

交渉と情報開示。そしてアンドロメダの苦悩ー2


 ヤマト世界に関する設定に独自解釈を多分に含む内容となります。ただし年代は概ね『ヤマトという時代』に沿います。


「お待たせ致しました」

 

 

 駆逐棲姫を連れてアンドロメダは南方棲戦姫と空母棲姫の元へと戻って来た。

 指揮下の深海棲艦達は一旦後方に待機している補給部隊と合流させたらしい。

 

「二人とも~、久しぶり~」

 

 駆逐棲姫がアンドロメダの艤装から飛び降りると二人に抱き付いた。何故かいつものノースリーブのセーラー服ではなく、アンドロメダがいつも着ている艦長服の上着を着ていた。無論、身長差体格差からダボダボである。

 

「お久しぶりです。お役目ご苦労様です」

 

 空母棲姫は特に動じる事無く、軽く抱き返しながら型通りな返事を返すが、南方棲戦姫は駆逐棲姫を抱き締めるとその頭を乱雑に撫でながらにこやかに迎え入れる。

 

「お久!いつもの服はどしたのよ?」

 

「すみません。私が汚してしまいまして…」 

 

 水上移動用靴を履いたアンドロメダが駆逐棲姫に遅れて水面に降り立ち、申し訳なさそうにしながら3人のもとへと近寄る。

 

 駆逐棲姫の服は、アンドロメダの涙と鼻水で汚してしまったために現在主計科の妖精がアンドロメダの制帽と共に洗濯中である。

 その間、代わりとしてアンドロメダは自身の予備の服を渡そうとしたが駆逐棲姫に「今着ているのを貸して!」とせがまれ、少し悩んだが彼女の服を汚してしまったという負い目から承諾。

 そのためアンドロメダが予備の服を着ていた。

 

「?しかしh…モガッ!」

 

 空母棲姫が首を傾げ何かを言おうとしたが、色々と察した南方棲戦姫に防がれる。

 

「不粋なことは言わないの。それより」

 

 南方棲戦姫がチラリとアンドロメダの顔を見る。吹っ切れた訳では無いのだろうが、先ほど別れた時の顔色と比べたら、やや青ざめているが遥かにマシな顔になっていた。

 

 懸念の一つが一応は払拭されたことに安堵し、直前まで空母棲姫と決めた事を話す。

 

 

「まず貴女に先に伝えるわ。私達は貴女からの停戦提案を受諾するわ」

 

 

 それに対してアンドロメダは意外という顔になる。少しは揉めるかなと思っていたからだ。

 

「まあ細かい所は後にしましょ。正直に言うと貴女が提示した情報開示の方が重要なのよ」

 

 

 そう言われてアンドロメダはしまったと思った。情報価値の評価を少し低く見積もりすぎていたかと。

 

「代わりに私達の情報も出せる範囲で出すわ。但し、最新の作戦計画とかこちらの拠点の詳細な座標は教えられないわよ」

 

 その一言に内心ホッとした。またアンドロメダにとっては彼女達の作戦計画も拠点の位置は正直現時点ではどうでもよかった。*1

 

「お互いに出せる範囲で情報を出し会う。それでよろしいですね?」

 

 その問いに空母棲姫が「はい。その認識で構いません」と頷いて返す。

 

「分かりました。では長い話となりますから、軽食やお飲み物を御用意致しますので皆様、私の艤装にお乗りください」

 

 そう言って、恭しく自らの艤装へと招く。

 

 戦闘の意志が無いことを示すために、事前に全主砲砲身の仰角を最大角度に上げ、明後日の方向へと旋回させていた。

 

 実を言うと、このまま海の上での会談はアンドロメダにとっては色々と辛い物があった。

 

 アンドロメダの水上移動用靴はバッテリー駆動であり、しかも履いているだけでもバッテリーを消費し、バッテリー切れをおこしたら航行不能となる。

 そもそも水上移動用靴は内火艇的な役割の装備品であるために、外洋だと波浪の影響を受けやすくバランスを取るのに少なからず集中力と体力を必要とする。

 何よりもアンドロメダは夜の海で溺れた事が原因で、海に対して少なからずトラウマがあった。顔が若干青ざめているもトラウマが刺激されているのが原因である。

 

 

 では何故無理をしてでも艤装から降りて来たかと言うと、礼儀の問題──目線の位置が原因である。

 

 アンドロメダの艤装は他に類が無いほどの巨大な艤装であり、そこからだと確実に見下ろす形となってしまう。

 

 それはあまりにも礼儀を欠いた態度であるとアンドロメダは考えていた。

 

 

 軍艦とは時に外交の最前線と成り得る。寄港地においての乗員のその一挙手一投足、礼儀等の態度が自身が所属する国家や軍隊への評価へと直結する。

 

 更に言えばアンドロメダは艦隊総旗艦を勤めていた戦艦である。

 礼儀を欠いた態度は恥であり、また自身が所属していた地球連邦の名誉を貶める事となるとアンドロメダは理解していたし、総旗艦である以上、誰よりも礼儀を欠いては駄目だと考えていた。

 …まあいささか卑下とも取れなくもない態度が散見出来なくもないが。

 

 

 この世界で最初に出会った戦艦棲姫は、自身の相棒と言える生体艤装が筋骨隆々な巨人の様なモノであった為に、戦艦棲姫が艤装の肩に腰掛けた状態でも目線の位置はほぼ同じだった。

 

 だがこの二人の場合はそうではない。特に南方棲戦姫は水上に直立ちであり、自然と見上げる形、見下ろす形となってしまう。

 

 話し合いに上座も下座も無い。対等な位置でやるべきだとアンドロメダは考える。

 

 

 だがそんなアンドロメダの考えなど深海棲艦の姫様達には関係がなかった。

 

「マゼランパフェは用意出来るかしら?」

 

 南方棲戦姫の問い掛け──しかもかなり真剣な眼差し──に一瞬きょとんとした顔になる。

 

「え?あ、はい。ご所望でしたらご用意致しますが…?」

 

「では行きましょう」

 

「流石に気分が高揚します」

 

 アンドロメダの答えに南方棲戦姫は満面の笑みを浮かべ、空母棲姫は表情こそあまり変化は無いが、その声音から嬉しそうにしているのが伝わってくる。

 そんな二人の態度に鳩が豆鉄砲を食らったかの様になるアンドロメダ。

 

 

「アナライザー!マゼランパフェを人数分おねが~い!」

 

「ハ~イ!タダイマー!」

 

 しかも駆逐棲姫が先に艤装に乗り込んでアナライザーに勝手にオーダーしてる…。アナライザーも何だかノリノリだし…。

 

 …こんな緩くていいのだろうか?と肩を落とすが、二人がそんなアンドロメダを尻目にさっさと艤装へと向かい出したのを見てあわてて後を追う。

 

 

 何だかイニシアチブを上手い具合に取られたな~と、アンドロメダは二人の姫の強かな手腕に戦慄すると共に感心し、自身がまだまだ未熟であると悟り、より一層精進しなければと心に誓った。

 

 

 

     ───────────

 

「美味しい!」

 

 三人の姫がアンドロメダの艤装の上でマゼランパフェに舌鼓を打っていた。特に南方棲戦姫と空母棲姫は念願だったという事もあり、感無量といった具合である。

 

 二人の姫にも好評であることに安堵しながら、アンドロメダは静かにハーブティーを啜る。

 

 駆逐棲姫はアンドロメダも一緒に食べようと誘ってくれたが、この後の話す話の内容を考えると下手に胃に物を入れておきたくなかった為に、断腸の思いで断っていた。

 

 とはいえ何も口にしないのは良くないと思い、また喉を潤すのと気分を落ち着かせるため為にハーブティーを選んだ。

 

 

 暫く和やかな空気が流れるが、三人が食べ終わるのを見計らい、口直しの飲料を手配したタイミングで本題に移る。

 

 

「先に確認したいのですが、お三方は『アケーリアス』という言葉に覚えはございませんか?」

 

 そのアンドロメダの問いに、三人とも知らないと答える。

 

「…分かりました。ではそれらを踏まえて私の素性、生い立ち、歴史、情勢の推移のご説明をさせていただきます」

 

 

 そう言うとタブレットを操作してホログラフィーを投影する。

 

 そこに映るのは()()()()()()アンドロメダ。

 空中に投影された映像に三人はそれぞれ驚きの声をあげるが、アンドロメダは気にせず説明に移る。

 

「私は西暦2202年に地球統一政体である地球連邦の軍事組織、地球連邦防衛軍が定めた軍事ドクトリン、『太陽系内に侵攻してきた敵性星間勢力の大艦隊を地球艦隊が装備する最大火力、波動砲の統制射撃によって殲滅する』防衛作戦戦略『波動砲艦隊構想』に基づき建造された前衛武装宇宙艦Advanced Ability Armament、能力向上型武装艦であるアンドロメダ級の1番艦(ネームシップ)です」

 

 出来る限り噛み砕いての説明を心掛けているが、やはり独特な単語が出るために少し困惑気味な様である。特に─────

 

「波動砲?」

 

 

 

「こちらをご覧ください」

 

 

 投影する映像が切り替わる。太陽系内某所にある防衛軍教練宙域兵装試射区画、そこにアンドロメダが一隻だけで浮かんでいた。

 その艦首前方宙域には多数のデブリが漂っているデブリ帯がある。

 

 次の瞬間アンドロメダの艦首に設けられた二対の開口部に閃光が灯り、二条の髙エネルギー弾の光が宇宙の虚空を駆け抜けていく。それは宇宙を斬り裂くかの様に先端が鏃の如く鋭く尖っていた、

 

 三人の姫が驚愕で目を見開く。そして───

 

「なっ!?」

 

 二本の光の鏃は螺旋状に絡み合いながらも直進を続け、デブリ帯の手前でついに衝突。

 巨大な光芒が生じるやいなや、その中から無数のエネルギー弾が()()してエネルギーの散弾による洪水を発生させ、眩い閃光がデブリ帯を包み込んでいく────。

 

 そして、光の洪水が収まると、()()()()()()()()()()()()()()

 

 言葉が出ない三人を尻目に説明を続ける。

 

 

「二連装次元波動爆縮放射機、通称、拡散波動砲です」

 

 

 淡々と語るアンドロメダだが、その内心は複雑だった。これを先程南方棲戦姫に撃とうとしたのだから、ほんの僅かだが胃を締め付けられた様な気がした。

 

「こ、こんなの戦いになるの?」

 

「これを、使わなければならない敵とは一体…」

 

「……」

 

 絞り出すように紡がれる言葉にアンドロメダは苦笑するが、心配そうにそばに寄り添ってこちらを見上げる駆逐棲姫の頭を優しく撫でる。

 

 

 やはり駆逐棲姫さんは優しいヒトですね。

 

 

 波動砲の光条はどうしても()()()の辛い記憶が甦り、ガトランティス(蛮族共)に対する怒りと憎悪が呼び覚まされそうになる。

 

 着弾の瞬間、手に持つタブレットからミシリ…という音がするほどに力が入ってしまっていたが、駆逐棲姫が寄り添ってくれたお陰で気持ちがかなり落ち着くことが出来た。

 

「ありがとう()()()()()。大丈夫ですよ」

 

 そう耳元で囁くと、駆逐棲姫は一瞬嬉しそうな顔をするが、直後に「本当に?」という顔になったため、ウインクして答える。

 

 

 そうだ。()()()()()()序の口だ。

 

 

 

「では、これより私が建造されるまでの経緯をご説明致します」

 

 

 

 そう言うとハーブティーを一口飲む。それを見て南方棲戦姫と空母棲姫もアンドロメダに倣ってそれぞれの飲料を飲んで気を取り直し、耳を傾ける。

 因みに南方棲戦姫がコーヒー、空母棲姫がロシアンティー、駆逐棲姫がミルクティーである。

 

 

 

「西暦1969年に()()()()()()、そして()()()()()()でも人類は月面に到達しました。その後()()()()()()では2042年に火星に到達しました」

 

 

 

「そして2111年に火星へと最初の移民船団が出発し、火星への本格的な入植が開始され、人類は本格的な宇宙進出の時代へと移る事になります」

 

 

 

「2145年、()()()()()()()()()()()()である第二次世界大戦の終結から200年が経過したことを記念して、世界各地で『第二次世界大戦終結二百年祭』の式典が開催されました」

 

 

 

ちょ、ちょっと待ちなさい!!

 

 

 

 南方棲戦姫が待ったをかけた。明らかにおかしい。アンドロメダは()()()()()()のではなかったのか。

 

()()()()()()()()って、じゃあ今起きている私達と艦娘達や人間達とのこの戦争は!?それに人間達はこの戦争の直前まで()()()()()()()をやってたんでしょう!?まさか全部無かった事にされたの!?」

 

 南方棲戦姫はアンドロメダに掴み掛からんばかりの勢いで問い詰めようとし、駆逐棲姫がそれの間に入って諌めようとするが、この事を予期していたアンドロメダは落ち着いた涼しい顔で説明に入ろうとしたが───

 

 

「…アンドロメダさん。貴女は先程()()()()と、()()()()と仰っておりましたが、最初は今の時間とアンドロメダさんがいた未来の時間から分けてそう仰っているのかと思っていましたが、ひょっとしたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のですか?」

 

 

 顎に手を当てて考え込む様な姿で聞き入っていた空母棲姫がそう問い掛ける。

 

 その問い掛けに南方棲戦姫は「まさかっ!?」という驚愕した表情となり、駆逐棲姫も驚きを(あらわ)に思わず振り向いてアンドロメダの顔を見る。

 

 

「はい。ご推察の通りです。私がいた世界では人類の破滅的で()()()な大混乱は起きておらず、また貴女方深海棲艦も、ましてや艦娘の存在は一切確認されておりません」

 

 

「…平行世界(パラレルワールド)?」

 

 

 駆逐棲姫が首を傾げながら呟いた一言にアンドロメダは頷く。

 

 

「信じられないという気持ちは分かります。私も、信じたくなかったのですから…」

 

 

 そう話すアンドロメダが一瞬、寂しさと悲しみに満ちた、とても切ない表情を覗かせたのを見て、三人は何も言えなくなる。

 

 

 見ず知らずの世界でたった一人。

 

 

 その心中たるや想像を絶する苦痛と苦悩に苦しめられているのだろう…。

 

 

 

 気を紛らわせる様にハーブティーを口に含むアンドロメダ。

 一息つくと続きを語り出す。

 

 

「戦争遺物を復元して鎮魂が行われました。一例を上げますと、極東太平洋では坊ノ岬沖に眠る戦艦大和が選ばれました。沈没したヤマトさ…こほん。戦艦大和が引き上げられ、復元の後に再び坊ノ岬沖の海底へと沈められました」

 

 復元された戦艦大和が再び海底へと沈降させている当時の記録映像が流される。

 

「ただ沈没していました戦艦大和の艦体は、沈没時に発生致しました弾薬の誘爆、ボイラーの水蒸気爆発の影響で損傷が酷く、また経年劣化による鋼板の崩壊も発生していましたので、使える所は可能な限り使いつつ、足りない所は新たに新造しての継ぎ足しが行われましたが、当時の記録資料によりますと新造部分の割合が多いとされています。ただその新造部分も回収された残骸の再加工が可能な限り行われました」

 

 大和の映像を見つめるアンドロメダの瞳が、いささか食い気味だったり、説明が息継ぎしてるの?と言いたくなるくらいの早口な上に、何だか「やまと」と言う際に声が妙に艶っぽい気がしたが、触れてはならない様な気がしたため、触れない様にした。駆逐棲姫は何だか面白く無さそうな表情を一瞬浮かべたが…。

 

 

「ですが、その裏側では新たな戦争の火種が着実に芽吹いていました」

 

 

 映像が切り替わり、赤茶けた大地に横たわるナニかの残骸が映る荒い画像になる。

 

()()がいつ火星のどこに漂着したのか、全ての情報が抹消された為に、現在では確認する術がありません」

 

 

「2164年、火星自治政府が『宇宙海軍』を創設し、地球からの独立を企図した『第一次内惑星戦争』が勃発しました」

 

「火星自治政府宇宙海軍の(ふね)は、明らかに地球軍のそれらよりも遥かに進んだ技術によって建造された高性能なものでした」

 

 地球軍の大艦隊が火星軍の艦隊に一方的に撃破される映像が映し出される。

 

「火星の政府と軍が秘密裏に異星文明の(ふね)の残骸を入手し、自らの力としていたという説は、敗北を続けていた当時の地球にとって笑い事では済みませんでした」

 

「戦争自体はその後火星からの質量弾による戦略爆撃、いわゆる隕石落としが行われ、地球各地で被害が出る事態となりましたが、その後戦線は膠着し、休戦となりました」

 

 

「そして2168年、火星自治政府の宇宙海軍に対抗して国連も、後の地球連邦防衛軍の前身となる『国連宇宙海軍』を創設。また地球各地にて避難用の地下都市の建設が急ピッチで行われました」

 

「また火星側から自軍が行った隕石落としという暴挙に反発した一部の軍人や科学者に技術者が亡命。戦時中に撃破、もしくは鹵獲した火星軍艦を徹底的に分析する事によって火星軍の技術的優位性は急速に薄れることとなりました」

 

 

「それらにより2170年に国連宇宙海軍連合宇宙艦隊の中核となります『村雨型宇宙巡洋艦』が進宙。翌年2171年には宇宙艦隊の主力艦たる『金剛型宇宙戦艦』が進宙致しました」

 

 

「その8年後の2179年、『第二次内惑星戦争勃発』。2183年に『第二次内惑星戦争終結』」

 

 少し渇いた口を湿らす為に残りのハーブティーを呷ると、すかさずアナライザーがお代わりを空っぽになったカップに注いだのを見て「ありがとう」と礼を言ってから続きを語る。

 

「内惑星戦争、特に第二次内惑星戦争は()()()()だったとされる説があります」

 

 2180年の火星沖戦線にて激しく砲火を交え合う地球、火星両宇宙海軍の艦隊が映し出され、宙域を漂う夥しい両軍の(ふね)の残骸、そして宇宙に投げ出された人間や()()()()()()()()()()が、戦闘の激しさを物語っていた。

 

 それを見てこれが予行演習という説に対して言葉に出さずとも、表情で露骨に嫌悪感を(あらわ)にする三人の姫の姿に、アンドロメダは何とも言えない表情をしつつも、駆逐棲姫同様に南方棲戦姫や空母棲姫も根は優しいヒトなんだと実感した。

 

「火星側が回収したとされる異星文明の物と思われる(ふね)は、明らかに戦闘用の物でした」

 

「この宇宙のどこかに、人類より進んだ文明を持ち、人類同様に()()()()()()()()()異星人が存在する」

 

 

「火星の叛乱を利用する形で、地球はいずれ訪れるかもしれない『悪夢』の様な現実に備えようと企んだのではないかと────」

 

 

 ここで駆逐棲姫がハッ!とした表情となる。どうやら気付いた様だ。昨日少しだけ話した()()()であることに。

 

 

「第二次内惑星戦争終結から8年後、ついにその『悪夢』が現実となる運命の時が来ました────」

 

 『悪夢』という言葉を聞いた駆逐棲姫の顔が、少しずつ青ざめていく。「まさか…、そんな……」と呟きながら…。

 ここからの事はまだ話していなかったがどうやら分かってしまった様だ。この後に起きた()()が─────

 

「2191年4月1日、天王星の監視ステーションが外宇宙から太陽系へと接近する異星人の艦隊を発見

 

 確信してしまったのだろう…。駆逐棲姫の体が震えだしていた。

 そんな駆逐棲姫の姿に南方棲戦姫と空母棲姫は最初こそ訝しむが、様子がおかしい事に気付き大丈夫かと声をかけ始める。

 

「国連宇宙軍は内惑星艦隊に対して集結を命令。同時に各国宇宙海軍にも出動命令(スクランブル)を発令…」

 

「地球と異星人、両軍の艦隊は冥王星軌道で遭遇」

 

「地球艦隊はこの異星人の艦隊に対して様々な手段を用いて呼び掛けを行いましたが、異星人の艦隊は()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「国連宇宙防衛委員会はこの異星人の艦隊に対して、侵略の意図があると判定

 

「最初に接触を果たした日本国航宙自衛隊所属の先遣艦、巡洋艦ムラサメに対して砲撃による破壊措置を命令。しかし────」

 

 この時駆逐棲姫が眼で訴えかけてきた「それ以上は言わないで」と涙目になりながら。

 

 そんな優しい駆逐棲姫の気持ちは痛いほど分かる。だが現実は非情で残酷なのだ。

 

 アンドロメダは目を伏せ、目線で駆逐棲姫に謝った。

 それを見た駆逐棲姫の瞳から涙が零れ落ちるのを見て、胸が締め付けられるが、意を決して続きを話す。

 

 

「巡洋艦ムラサメは異星人、ガミラス艦隊の反撃により…、撃沈…。島大吾艦長以下乗組員は、一名以外…、戦死…。その後の戦闘により地球艦隊は、()()()()()()()()()8()()()()()致しました」

 

 

 

*1
情報は大事だが、得たとしてもそれが活かせる情報でなければ意味がない。真偽の確かめようが無いし、後々価値が出て人類側に渡すにしても、入手経路が経路なだけに厄介なトラブルを引き起こすリスクが高過ぎる。それは自身の生存を脅かしかねない。




次は火星沖海戦からの出来事を予定。



駆逐棲姫、防衛軍艦長服Mod(ただしダボダボ!)


実は深海棲艦の服は艤装と同じ扱い

 深海棲艦が着ている服の洗濯問題というどーでもいい事を悩んだ末に、艤装と同じ扱いにして分解再構築出来るという代物に。アンドロメダはそれを知らなかった為に、毎日体を拭っている最中に自身の服と共に洗濯していました。



着々と胃袋を捕まれつつある深海棲艦の姫様達…。

 食を制するものは世界を制する!!


アケーリアス

 リメイクヤマトより。

 全宇宙にヒト形の知的生命体の『種』を蒔いたとされる超古代の異星人文明。その実態には謎が多い。
 深海棲艦の発生にも何か関わりがあるのか?


二百年祭の大和
 
 ヤマトという時代の映像等を参考に少し肉付け致しました。アンドロメダさんからヤマト愛が僅かに溢れ出て来ていましたが、まぁお気になさらず。


火星からの亡命

 これは完全にオリジナルです。ただもっとも異星人の脅威を一番認識していたのはその技術を使う火星側ではないかと考え、彼らが「人類同士でドンパチしている場合じゃねぇ!て言うかマジで異星人侵攻してきたらうちらが最前線じゃねぇかよおいっ!?」と気付いたけど周りは火星の独立ばかり考えて未来の脅威をこれっぽっちも考えていない事に強い危機感と苛立ちを覚えたのと、本編でも語りました隕石落としという暴挙に憤慨して火星を見限ったのではないかという形で亡命を行わせました。
 ひょっとしたらあのボラー艦とされる艦の残骸の画像は亡命者が証拠としてどうにか持ち出した物なんじゃないだろうか?とも考えてみたり。 


島大吾艦長の最期を知って涙を流す駆逐棲姫 

「宇宙人とだって、きっと友達になれるさ」と語った宇宙巡洋艦の艦長島大吾のまさかの悲劇的な最期に涙する駆逐棲姫。
 現実は意地が悪い。いつだって最悪に最悪を重ねて来る。とはよく言ったものだ…。


 最初は和やかな雰囲気だったのに、何だか気付けば途中から暗い話になったな…。
 
 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第12話 Negotiation and Information disclosure.AAA-3

交渉と情報開示。そしてアンドロメダの苦悩―3


 第一次火星沖海戦につきましては、ヤマトという時代で明確な戦闘描写が無かったため、某MMDを参考にしております。


「どうしてですか!?」

 

 

 駆逐棲姫の悲痛な叫び声が響く。

 

 

「宇宙人とだって友達になれる。そう望んでいたのでしょう!?その(ふね)の艦長さんは!?それなのに、どうしてこんなっ!こんな事ってっ!?酷すぎますっ!!」

 

 

 

 感情が溢れ、冷静さを欠いた駆逐棲姫がアンドロメダに詰め寄る。

 

 普段明るくて怒っていてもどこかほんわかとしている駆逐棲姫が、ここまで感情を(あらわ)に怒りをぶつけている事に、南方棲戦姫と空母棲姫は驚きのあまりに口を挟めないでいたが、流石に不味いのではと駆逐棲姫を諌めようとするが、アンドロメダはそれを手で制し、駆逐棲姫の瞳をじっと見つめる。

 

 

 

「どうして人間達はいつも血を求めるんですかっ!?犠牲を増やすことばかり求めるんですかっ!?」

 

 駆逐棲姫の心はさらにヒートアップして行く。アンドロメダ自身、彼女の気持ちは分からなくもない。だが、理想だけではどうにもならない厳しい現実の辛さを知っているが故に─────

 

「…現実は時として、残酷で意地悪です。最悪に最悪を重ねて、望みを、願いすら踏み躙ろうとして来ます」

 

 か細く紡がれたアンドロメダのその言葉に、駆逐棲姫はさらに眉を吊り上げて睨み付ける。

 

 

「お姉さんが言っていた、異星人とも仲良くなれたというのはウソだったんですかっ!?」

 

 

 

「私達も結局は分かり合えない!!最後はお互いどちらかが滅び去るまで殺し合うしかない!!そう言いたいんですかっ!?」

 

 

 

「そんな結末、認めたくありませんっ!!」

 

 

 

 駆逐棲姫の叫びにアンドロメダの表情が曇る。そして今更ながら、気付いた。なぜ駆逐棲姫(彼女)がここまで激昂したのかを───

 

 

 

 

 アンドロメダと一緒にいたい。出来れば同胞(はらから)の1人として迎え入れたい。

 

 

 駆逐棲姫のこの気持ちに嘘偽りは無い。今この場にいる他の二人の姫もアンドロメダを迎え入れたいという考えで一致しているし、一番最初に接触した姫、戦艦棲姫もそれに前向きだ。なんなら最初に勧誘したのも彼女だ。

 

 

 アンドロメダ自身、このまま駆逐棲姫と一緒にいたいという気持ちが少なからずある。

 

 

 内心、駆逐棲姫に感化されているという自覚はある。なんだかんだ言ってアンドロメダも彼女に愛着と情が湧いていた。一緒にいて楽しいという気持ちが日増しに強くなって来ている。彼女の温もりをもっと感じていたいと思うようになってきていた。

 喩えそれが駆逐棲姫の狙いだとしても。

 

 

 だが駆逐棲姫のその温もりが、アンドロメダの心に温もりを与えているのも事実。

 

 

 駆逐棲姫に吐露したように、この世界でアンドロメダは孤独な存在だ。嘗ていた世界とそっくりな世界とはいえ、この世界中どこを探しても、人間で言えば家族や友達とも呼べる様な身近な親しい存在は誰一人としていない。

 

 

 そう。誰一人としていないのだ。

 

 

 その事実がアンドロメダの心に影を落としていた。

 

 

 アルデバラン、アポロノーム、アキレス、アンタレス。

 

 愛しくて堪らない直近の妹達。

 

 その後に続く妹達、火星沖で共に艦列を並べて戦い散っていったBBBの末妹達。ガミラスへと渡ったCCCの妹達。さらなる次世代の嚆矢となるべく実験色も強い独特で個性豊かなアドバンスドステージの妹達。ガミラスメイドとも呼ばれるガミラスの設計を色濃く反映したランダルミーデ級の妹達。

 

 従姉妹ともいえるクラスD、ドレッドノート級前衛航宙艦や、同僚のフロレアル級通報艦、Метель(ミィェティェリ)級護衛艦、先輩にあたる金剛型、村雨型、磯風型の改型艦といった共に艦列を並べた防衛軍の艨艟達の娘達。異国の心強い戦友、ガミラス国防軍が誇る精兵の娘達。

 

 

 そして尊崇する母であり、最愛の御方であるヤマトさん。その妹であらせられるギンガさん。

 

 

 人間で言えば自身の乗組員、そして山南修艦長。父と慕う沖田艦長の意思を色濃く受け継ぐヤマトさんの乗組員達…。

 

 

 

 その誰一人として、この世界にはいない。

 

 

 

 

 私は、この世界でひとりぼっち…。

 

 

 

 

 

 自身が異世界に来てしまったと分かった時、アンドロメダの心を埋め尽くしたのは────

 

 

 

孤独

 

 

 

 それを否定したかった。なんでもいい、私の居た世界と関係するモノが無いか。誰か、誰か居ないの!?誰でもいい!!お願い!誰か居てくださいっ!!でもガトランティス(蛮族)、てめえらガもし居まシタナら、じっクり丁寧ニ確実にコロシテサシアゲマスヨ。

 

 

 その思いが、ネットワークへの無差別侵入という暴挙に出たアンドロメダの隠された本心だった。自身の生存というのも大事な理由だが、建前と言われても否定出来なかった。

 

 

 だが、その結果は現実の非情さを知らしめられただけに終わった────。

 

 

 抗いようの無い事実を突き付けられ、途轍もない絶望感と寂しさにによって生じた孤独という感情。

 

 

 その後たまたま一人だけ、もしかしたらという人間を、しかも自身もよく知る人物が見付かったとアナライザーから聞かされた時、途轍もない歓喜に身が震える思いがした。

 

 

 だが────

 

 

 もし、その人が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という疑問が鎌首をもたげ、それがアンドロメダに強い不安と恐怖をもたらし、心に大きな暗影が差した。

 

 

 その感情がアンドロメダの中で、知らず知らずの内に「誰かに縋りたい」という気持ちを芽生えさせていた。

 

 

 そこに現れた深海棲艦の姫達。

 

 

 そして底知れない明るさと積極さで接してくる駆逐棲姫。

 

 

 最初こそは彼女の自由奔放さに振り回されて()()()()し、過剰とも言えるスキンシップに目を白黒させたものの、それがアンドロメダの孤独の冷気に蝕まれて凍り付きつつあった心に、暖かな光を差した。

 

 

 冷えきって凍り付き、軋みをあげて壊れていたかもしれないアンドロメダの心が、駆逐棲姫のもたらした暖かな光によって図らずも救われていた。

 

 そしてそれが、アンドロメダの誰かに縋りたいという気持ちに結び付き、駆逐棲姫の存在が無意識の内に愛しい妹達と同列なほどの大切な位置を占めるまでになっていた。

 アンドロメダが駆逐棲姫のことを「お姉ちゃん」と呼び出した裏にはそういう心の変化という背景があった。

 

 

 そのアンドロメダの心の変化を、駆逐棲姫は敏感に感じ取っていた。

 

 

 駆逐棲姫自身、願いの本質は「友達が欲しい」という気持ちに根差していた。そこに二心は無い。

 

 故にアンドロメダとは嘘や偽りは一切無く接していたつもりだ。

 

 友達に嘘はつきたくないその思いが駆逐棲姫を自然体なままにさせていた。

 

 

 

 そんな中で見られたアンドロメダの心の変化は駆逐棲姫にとって、大変喜ばしい変化だった。

 

 

 しかも「お姉ちゃん」と呼んでくれた。

 

 

 最初こそ突然のことで吃驚したが、次第に嬉しいという気持ちが湧き上がり、嬉しくて嬉しくて堪らなくなった。

 

 

 

 彼女はこのままアンドロメダとずっと一緒に居たい。仲良くお喋りしたり、一緒にお茶を楽しんだり、夕陽が沈み行く海を一緒に眺めたり、夜は星空を見上げながら一緒に寝たり、笑ったり泣いたり嬉しい時も悲しい時も共に分かち合いたい。そんな他愛のない毎日を過ごしたい。そして癒してあげたい。もっとお姉ちゃんって呼んで欲しい。その思いがより強くなっていった。

 

 

 そしてアンドロメダが述べた「異星人とも仲良くなれた」という言葉は、駆逐棲姫にとってある種の希望をもたらした言葉に思えた。「異星人と仲良くなれたのなら、私達ももっと仲良くなれるかもしれない」、そう思っていた。私達の世界の人類と違い、アンドロメダの世界の人類はまだマシなのかと思っていた。友好的にお互いが分かり合えたのだと思っていた。

 

 だがそれを真っ向から否定されたかの様な悲惨な結末に、駆逐棲姫は裏切られた様な気持ちになり、思考が悪い方へ悪い方へと流され、アンドロメダがウソを言ったのだと思い込んでしまった。

 

 普段の駆逐棲姫ならば、そんな考えには至らなかっただろうが────、一緒にいたいという希望や願い、思いを、心を踏み躙られたという思いがあまりにも強すぎた。

 

 

 アンドロメダ自身は駆逐棲姫ほど相手の心の機微を敏感に感じ取れだけの力は無いが、それでも多少は察することくらいは出来る。

 だが気付くのが遅すぎた。自身の事で頭が一杯だったというのもあるが、駆逐棲姫の温厚な性格に甘えてしまっていた。気持ちを読み取ってくれると勝手に期待して駆逐棲姫の気持ちを深く考えていなさすぎた。

 一緒にいたいと願う駆逐棲姫の思いの強さを甘く見すぎていた。

 その甘えが駆逐棲姫を傷付けてしまったとアンドロメダは激しく後悔する。

 

 

 激しく肩で息をする駆逐棲姫。だが、一通り叫んだことによって怒りが沈静化されたことで頭が冷えて来ると、途端に泣きじゃくる。

 

「…お姉ちゃん」

 

 そんな駆逐棲姫の姿を見てアンドロメダの心に罪悪感が芽吹く。

 

「イヤです…。お姉さんと、ずっと一緒にいたい…。お姉さんのお姉ちゃんでいたい…」

 

 アンドロメダはどう声を掛けて良いか分からず、駆逐棲姫を抱き締めて、頭を撫でながら慰める事しか出来なかった…。

 

 

 

 二人の姿に南方棲戦姫も空母棲姫も声を掛ける事が出来ずに見守ることしか出来ずにいた。

 

 

     ───────────

 

 

 暫くして、駆逐棲姫の気持ちがどうにか落ち着いたのを区切りに、一旦小休止となった。

 

 その際に空母棲姫から「いつから姉妹の契りを結んだのですか?」と真面目な顔で聞かれて二人して()()()()してしまい、その姿を見た南方棲戦姫は腹を抱えて大笑いした。

 

 

    ────────────

 

 

「その委員会の決定、ちょっと性急に過ぎたんじゃないの?」

 

 開口一番に南方棲戦姫が自身が感じた疑問をアンドロメダに問い掛ける。

 

 

「この決定には防衛委員会内でもかなり紛糾し、命令が伝達された時も一悶着ありました」

 

 映像は無いが、地球司令部の軍務局長芹沢虎鉄と巡洋艦『ムラサメ』が所属する日本艦隊旗艦である戦艦『キリシマ』に乗艦する艦隊司令沖田十三宙将との交信音声が残されている。

 

 

「攻撃したまえ!沖田君!」

 

 

「人類初の異星文明との接触だぞっ!性急に過ぎる!!」

 

 

「これ以上話しても埒が明かない様だな…。沖田君、軍務局長権限で、君を解任するっ!!」

 

 

 これだけ聞くと芹沢軍務局長の強権行使にしか見えず、空母棲姫や駆逐棲姫は顔を顰め、南方棲戦姫はより露骨に不快感を(あらわ)にしていた。

 

 

 

「この決定の根底には、恐怖がありました」

 

 

「恐怖…?」

 

 

「先の第二次内惑星戦争終盤、火星軍は起死回生を企図して幾つか新兵器を投入したと記録されています」

 

 

「その内の一つ、軌道海戦序盤において、火星の首都アルカディア・ポート近郊にある火星軍の地上施設から正体不明の長距離高出力ビーム兵器が使用され、米国宇宙海軍の旗艦にして連合宇宙艦隊火星派遣艦隊旗艦でもありました戦艦『エンタープライズ』が一発で艦首から艦尾まで文字通り串刺しにされて爆沈しました。続けて英国王立宇宙海軍旗艦の戦艦『レゾリューション』が大破して戦線離脱。派遣艦隊次席旗艦でEU宇宙海軍旗艦戦艦『ストラスブール』が回避行動中にエンジンノズルを撃ち抜かれて航行不能となり、そのまま僚艦の巡洋艦『ハルィチナー』の機関部に激突。直後に機関の核融合炉が両方相次いで暴走して爆発し消滅。付近にいた他のEU艦にも多数の被害をもたらしました。ロシア宇宙軍事艦隊旗艦戦列艦『ヴァリャーク』が大破して放棄。後に自沈処分。日本国航宙自衛隊旗艦の戦艦『ヒエイ』が艦首を撃ち抜かれ大破」

 

「国連宇宙海軍はこの攻撃による思わぬ大損害に周章狼狽」

 

 

「決死隊がこの新兵器を破壊するまで地球艦隊は劣勢でした。なお決死隊には先ほど出ておりました、当時一等宙佐であらせられました沖田十三艦長が、御自身の指揮する巡洋艦『カスガ』と共に『死中に活あり』の御言葉に恥じぬ獅子奮迅の奮闘をなさり、見事破壊に成功。この時の御活躍により昇進なされ、英雄として称えられる様になりました」

 

 

「戦後の調査でこの兵器が、例の異星人の物と思われる(ふね)の残骸に装備されていた物を解析して造られた、後のショックカノンのルーツとなる新兵器であることが判明致しました」

 

「問題はこれが、まだ試作の域すら出ていなかったうえに、未完成の物を無理矢理稼働させていたということ」

 

「未完成であるにも関わらず、当時の常識では有り得ない射程と威力」

 

「もしこれが完成していたなら?火星軍で大量配備が完了していたなら?(ふね)への搭載が可能なら?」

 

「実際その計画があったと示唆する資料、証言がいくつもありました」

 

「異星人の艦隊がこれと似たものを主力兵装として装備していないと言えるのか?今ならこちらの射程圏内だ!この機を逃すと射程圏外から一方的に撃たれて艦隊が為す術が無いまま全滅するかもしれない!やるなら、今しかない!!」

 

「奇襲砲撃で混乱した所を一気に艦隊で包囲し殲滅してしまえば!!」

 

「短絡的であるという謗りを受けても仕方無いとは思います。しかし先の火星軍の新兵器は戦闘で完全に破壊され、また発射していた施設も元々は研究施設であったらしく、研究資料も研究者や技術者の大半が戦闘によって失われ、外部に持ち出された資料も戦中戦後の混乱で散逸。詳細は闇の中」

 

「分かった事と言えば、システムが複雑過ぎて小型化に難航。稼働に膨大なエネルギーが必要であること。今の地球や火星の技術では(ふね)への搭載は艦内容積、機関出力の問題を筆頭とした様々な課題からハードルが高過ぎるという結論。そして───」

 

 

恒星間航行を実現しているであろう異星人の(ふね)にとっては()()()()の問題なんぞは黴の生えた過去の遺物に過ぎないということ」

 

 

「真正面から真面に撃ち合ったとしても、勝ち目が無いというのが当時の軍上層部である国連統合軍参謀本部と政府の見解でした」

 

 

 この見解に関して言えば、南方棲戦姫と空母棲姫にもある意味アンドロメダに対して覚えがあるため何も言えない。

 

 

「ですが、それが完全に裏目に出ました。相手にどんな形であれ先に手を出させて、大義名分を得てから侵略を開始するというのが、当時のガミラスの基本ドクトリンでした。地球軍はまんまと嵌められた格好となりました」

 

 

 誰かが小さく「卑怯な…」と漏らす声が聞こえ、アンドロメダは僅かに苦笑を浮かべたがすぐにその笑みを消した。

 

 

「…ここから先、さらに辛い話が出てきますので少し覚悟していて下さい」

 

 これは脅しでも何でも無い。次に説明する『第一次火星沖海戦』のすぐ後に、()()悲劇が始まるのだから…。

 

 

「ガミラスは冥王星に拠点を構築し、地球への侵攻を開始」

 

 

「ガミラスが拠点を構築している間に地球軍は艦隊の再編成を行い、火星軌道を絶対防衛ラインとして設定。2192年5月末、冥王星から出撃してくるガミラス艦隊50余隻を監視衛星が捉えたことにより、国連統合軍は迎撃作戦計画『カ号作戦』を発令」

 

「動員可能な全ての宇宙艦隊を火星圏に集結させ、一大艦隊決戦に挑みました」

 

 火星宙域に集結した、映像一杯に映し出される夥しい数の地球艦隊に、三人は息を飲む。

 100や200どころでは無い。先程見た内惑星戦争の火星戦線での海戦映像で映っていた地球と火星両軍を合わせた艦艇を遥かに上回る大艦隊。

 

 まさに地球の総力を結集したと言える超大艦隊に、映像越しとはいえ圧倒された三人。

 

「冥王星宙域での敗退後すぐに予備役、退役軍人を軍に呼び戻し、内惑星戦争後にモスボールされていた(ふね)に近代化改修を施して再就役させ、新造艦も含めて500隻以上の(ふね)が火星宙域に集結致しました」

 

「「「ご、500っ!?」」」

 

「はい」

 

 なんでも無い様に答えたが、それに対して三人から絶句され、アンドロメダは首を傾げるが、すぐに「ああ、これが認識の相違かぁ」と内心で呟いた。

 

 アンドロメダ自身がかつて土星沖海戦でこの倍以上の、それもほとんど戦艦のみで編成された一千隻以上の艦隊を率いていたし、それ以前のバラン星で行われたガミラス軍基幹艦隊約一万隻による一大観艦式を見たらどんな反応するだろうか?と好奇心が湧いた。それと物凄く腹が立つがガトランティス(蛮族共)の最大100万単位という馬鹿げたにも程がある艦数で編成された馬鹿を通り越して呆れるしかない大艦隊を見たら卒倒しないだろうかと心配になって来た。が今は置いておくことにした。

 

 

「また機動力においても地球艦を圧倒するガミラス艦の動きを抑制するために、想定戦場宙域一帯に空間障害物として内惑星戦争で破壊された(ふね)やコロニー、衛星の残骸を利用した大規模なデブリ帯を軌道上に構築。地球艦隊主力は火星とデブリ帯の間の宙域に展開致しました」

 

 

「ガミラス艦隊の分遣隊がデブリ帯を迂回して地球艦隊の側面を攻撃してくる可能性を警戒して、火星上に陸上発射式戦略ミサイルを転用、改造した急造の対艦ミサイルによる国連地上軍臨時編成対艦ミサイル軍団が配置され、ミサイルによる迎撃網を構築して地球艦隊の側面をカバーしていました」

 

 

 巨大なミサイルを積載した大量の大型トレーラー群が火星の大地を忙しく走り回る映像が映し出されるが、それを見つめる駆逐棲姫の瞳が一瞬、険しいものに変わったのを見てアンドロメダは少し首を傾げるが、空母棲姫に目線で続きを促されたため説明を続けた。

 

 

「2192年6月5日、両軍はデブリ帯を挟んで対峙し、戦いの火蓋が切って落とされました」

 

「『第一次火星沖海戦』の始まりです」

 

 

 

「初手は地球艦隊。ガミラス艦隊がデブリ帯越しに地球艦隊を砲撃しようと隊形を組み直して引き金を引こうとしたタイミングを見計らって、デブリ帯に仕掛けていたビーム撹乱剤を充填した機雷を一斉に起爆」

 

「散布された撹乱剤により濃密な撹乱幕、ビームバリアを形成」

 

「ビームバリアによってガミラス艦の持つ射程の優越を大きく減殺する事に成功しました」

 

「射程の有利を失った事を理解したガミラス艦隊は巡洋艦と駆逐艦による軽快部隊をデブリ帯に突入させてきましたが、そこにいましたのが───」

 

 

 葉巻型とも揶揄される地球の戦艦や巡洋艦と一線を画す、シュモクザメの様なシルエットの小型艦が多数、デブリの影から勇躍飛び出し、狭いデブリ帯の中で四苦八苦しているガミラス艦に向けて襲い掛かる。

 

 

「内惑星戦争時に活躍しました宙雷艇の流れを汲む『磯風型突撃宇宙駆逐艦』です」

 

「地球艦隊随一の快速艦ですが、何もない空間では流石にガミラス駆逐艦には及びませんでした。ですがこの小型の艦体がこの場では有利に働きました。磯風型と比較して大型のガミラス駆逐艦ではこのデブリ帯は狭すぎました」

 

「そこを突いて動きが鈍くなった所を全方位から袋叩きにしました」

 

「冥王星では強固なガミラス艦の装甲を破壊出来ずに悔しい思いをしましたが、叩きに叩いた結果、見事撃破に成功。何隻かはそのまま撃沈する事にも成功しました」

 

 

 艦体から火を噴いてふらふらと後退するガミラス艦。一部の艦はデブリに激突して沈没。新たなデブリとなり、デブリ帯に身を潜める磯風型の優秀な盾として地球の有利に貢献するようになった。

 

 

「一部のガミラス艦は群がる磯風型を強引に振り切り、デブリ帯の突破に成功しましたが、その先で待ち構えていた地球艦隊主力による歓迎と労いの統制十字砲火を全身に浴びて、永遠の休息を取る権利を得ることが出来ました」

 

 冥王星では全く効果が無かった地球艦隊の主砲、高圧増幅光線砲であるが、数十隻からによる百発を越える砲撃、何よりも強引にデブリ帯を突破したことと磯風型による攻撃で少なからず装甲にダメージがあったことで耐えきる事が出来なかったのだろう。真面に応射することも出来ずに蜂の巣にされて撃沈された。

 

 地球軍の作戦に感嘆の声が上がり、さらにアンドロメダの皮肉の効いた説明に笑いが零れる。

 

 

「また予想通り、デブリ帯を迂回しようとするガミラス艦は火星地表からのミサイル攻撃により阻止する事にも成功しました」

 

 

 

 ここまで来たら、地球艦隊の作戦勝ちだと、三人は予想した。このまま戦い続けてもガミラスという異星人の艦隊は戦力をずるずると消耗するだけだ。

 

 

 実際、この時作戦に参加していた地球軍の将兵のほとんどが三人の姫と同じ気持ちで、勝利を確信し天を突かんばかりに士気は最高潮にまで達していた。「このまま行けば俺達は勝てる!」「俺達は侵略者を撃退したんだ!!」と。

 

 

 

 だが、現実はそんな甘い予想や希望を粉砕するかの如く残酷だった。破局は、すぐ目の前にまで迫っていた。

 

 

 その結末を知っているアンドロメダの表情は硬い。それを見た三人はこの後何かが起きるのだと察し、食い入るように映像に見入る。そしてこの後起きた事に驚愕して目を見開く事となる。

 

 

 

 これまで長距離からの砲撃を繰り出しながらじっと戦局を見守っていたガミラス艦隊の本隊。

 

 

 

 攻めあぐねて撤退のタイミングを見計らっているのだろうと、地球艦隊は将兵達だけでなく、旗艦に乗り込む艦隊司令部要員、そして艦隊司令もそう楽観的に見ていた。

 

 

 だが、このガミラス艦隊本隊の旗艦と思わしき超弩級戦艦の後方宙域が突如、100を優に越える無数の光芒を放ち出したことで、事態は急激に変化する事となった。

 

 

 

 

 それも地球艦隊にとって最悪の方向へと────。

 

 

 




 次は第一次火星沖海戦後半と遂に起きるガミラス戦役で最大の事件の幕開け…。
 出来れば第二次火星沖海戦終了まで書きたいが…、果たして…?
 というか思い付いたことあれこれ書いていたら、歴史だけで一体どれだけ話数がいるか分からなくなって来たぞい…。

 それはそうと、何だかこのまま深海棲艦側でも良くないか?と思えてきた今日この頃…。
 このままだとアンドロメダが駆逐棲姫に依存しそうな気がしてきたが、まぁ良いかなぁ…?

 

補足解説

Метель(メチェーリ、発音はミィェティェリが近い)級護衛艦

 ロシア語で吹雪を意味する。ロシア管区で建造された艦が一番最初に進宙したためネームシップの栄誉を勝ち取った。同時期には極東管区日本の吹雪、北米管区アメリカのブリザードにEU管区フランスのトゥルビヨン・ドゥ・ネージュにドイツのゲシュテーバーがいた。

 明確な名称が無かった為に勝手に名付けました。


フロレアル級通報艦

 パトロール艦の事。フランス海軍の通報艦からチョイス。

 護衛艦もそうだが、タイプシップの名前くらいはちゃんと付けろよ2202の製作陣!と憤りを感じる。何のタクティカルアドバンテージも無い趣味の悪い装飾考える暇あるなら名前をちゃんと考えろ!


内惑星戦争でのショックカノン

 オリジナル設定です。ここから地球の科学者達の頑張り所。
 なお、攻撃された艦に関しましてはかなり適当に選びました。撃沈の可否はあみだくじの結果です。

対艦ミサイル軍団

 オリジナル。この後地球本土で遊星爆弾迎撃の手段としても活躍するかも?まぁ、結果は…。

 駆逐棲姫が一瞬見せた反応の訳は一体?


 

 

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。



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第13話 Negotiation and Information disclosure.AAA-4

 Negotiation and Information disclosure.And Andromeda’s Anguish-4

 交渉と情報開示。そしてアンドロメダの苦悩




 ガミラス戦役最大の悲劇の始まり。


 光の中から現れたのは、新手のガミラス軍の艦隊。

 

 しかもそれらは明らかに今まで地球艦隊と戦っていたガミラス艦隊よりも重武装の戦闘艦の比率が多く、さらには新型と思われる戦闘艦が混じっていた。

 

 だがそれよりも───── 

 

「な、何よ!?さっきの()()は!?艦隊が突然現れたわよ!?」

 

 

「次元跳躍、いわゆるワープ航法。彼らの言葉でゲシュ=タム・ジャンプによる奇襲です」

 

 アンドロメダは丁度良いとワープに関する説明を行うこととした。

 

「アインシュタインの特殊相対性理論によれば、物体が光速を越えることは出来ないとされています。ただしこの壁は『ワームホール理論』で崩すことが出来ます」

「ワームホール理論とは現在の時空面をリンゴの表面の様なものと考え、そこに膨大なエネルギーで穴を開け、リンゴの中を通過することで光よりも速く時空を移動出来る考えです」

「リンゴの虫食い穴を意味する『ワームホール』からワームホール理論とされています」

「つまりワープとは時空表面に穴を穿ち、人為的にワームホールを掘る技術です」

 

「あ、あの…、大丈夫ですか?」

 

 ワープ技術に関してタブレットのテキストを見ながら説明をのべ、目線を戻すと、何とか理解しようと悪戦苦闘する姫の姿が映る。駆逐棲姫は頭から湯気が昇って若干フリーズしかけている。

 

「ああ、お姉ちゃん!?」

 

 ワープが身近なアンドロメダならばまだしも、*1そんなものに今まで触れたことの無い彼女達には少し難しく感じた様である。

 

(よー)するに一回限りの一方通行のトンネルを穿つという解釈で良い?」

 

「あ、はい。それで大丈夫です!」

 

 駆逐棲姫を介抱しながら南方棲戦姫のやや投げやりな要約に肯定する。次に誰かに説明する際はそういう感じで説明しようと心にメモしながら。

 

 

 その後どうにか駆逐棲姫が再起動を果たしたので再開した。

  

 

「ワープ技術は恒星間航行能力を有する国家、軍隊なら持っていて然るべき必須の技術です。()()()地球はまだ惑星間航行が安定化したばかりで、ワープ関連技術は理論的にどの様な物かの推測は出来ていても、全くもって未知の領域でした」

 

 いや艦隊レベルで惑星間航行出来ているだけでも私達には未知の領域なんですけど…。と三人の姫は内心でツッコミを入れたが、同時にガミラスという国家が如何に高度な科学技術力を有し、アンドロメダのいた地球が如何にとんでもない国家と戦争をしていたかを理解した。

 

 

「してやられました。太陽系内での使用実例がこの時まで一切無かった為に、恒星系内では何らかの制約、例えば恒星系内を漂う星間物質や惑星による重力偏在などの影響があるから使用出来ないと分析されていました。ですがそれは半分正解の半分は地球軍を欺く為に仕組まれたガミラス軍の巧妙な罠でした」

 

「充分な調査に基づいた最新かつ正確な宙図と綿密で慎重な計算に基づいて目標座標の安全が確認されていれば、ワープが可能というのが現在の見解です」

 

 悔しさを滲ませながら語るアンドロメダ。彼女ですらこれなのだから、先人達の悔しさは如何程のものか、想像に難くない。

 

「およそ120隻に及ぶ重装備艦隊の増援、しかも警戒が疎かになっていた太陽系外から戦闘宙域への直接ワープアウトという予想外の奇襲は地球艦隊を混乱の坩堝に落とし、指揮系統が一時的に麻痺しました」

 

「その麻痺が致命的となりました」

 

 増援と合流したガミラス艦隊は先ほどとは比べ物にならない火力密度の砲撃をデブリ帯へと叩きつけ出した。

 

 デブリ帯に形成されていたビームバリアもこの嵐の様な砲撃の前では一溜りも無かった。

 

 立ち込める霧が強風で吹き払われるかの様に、文字通り霧散していく。

 

 そして地球軍の優位を担保していたデブリが瞬く間に次々と破砕されていく。

 

 その次いでと言わんばかりに、デブリの影に身を潜めていた磯風型が次々と破壊されていく。

 

「退避が遅れた50隻を越える磯風型がデブリと共に破壊され、堪えきれずにデブリ帯から飛び出した磯風型も、その悉くが迎撃の砲火に絡め捕られ───」

 

 そこから先の言葉はついぞ出なかった。だが言わんとしたことは痛いほど伝わっていた。

 

 

 地球艦隊の本隊はこの時なにも出来なかった。混乱した指揮系統の復旧で対応が遅れたというのもあるが、ガミラス艦隊の動きが思わず見惚れるまでに速すぎた。

 

 また散発的にデブリ帯から脱出してきた磯風型により、艦隊の隊形変更にも支障をきたしてしまっていた。

 

 地球艦隊の混乱を他所に、地球艦隊とガミラス艦隊の間を隔てていたデブリ帯にポッカリと回廊が形成されてしまった。それが何を意味するのかは、言わずもがな。

 

 先程までの鬱憤を晴らさんと言わんばかりの勢いでガミラスの軽快部隊が回廊へと突入を開始し、地球艦隊の喉元を食い破らんと迫る。

 しかもその先頭には増援艦隊を構成する、後に巡洋戦艦級、或いは高速戦艦級と呼ばれるようになる新型艦複数を鏃の先端の如く付き出しての猛攻だ。

 

 デブリ帯で生き残ったわずかな磯風型が本隊への攻撃を阻止すべく果敢にも突撃を敢行するが、その全てが蛮勇に終わった。

 

 

 

 地球艦隊本隊の前衛が、回廊を突破してくるガミラス艦に対して必死の突撃破砕射撃の弾幕射撃を繰り出すが、先程までの見事な統制十字砲火と比べると格段に見劣りしていた。

 

 ガミラス軍の勢いに完全に呑まれていたというのもあるが、突破してくるガミラス艦の数が違いすぎて砲火が分散し、しかも磯風型やデブリの阻害によるダメージがほぼ無かった為にその装甲は無傷。何よりも突破してきたのは紛いなりにも『戦艦級』であり、地球艦隊の砲火など物ともしないばかりか、その圧倒的な火力に物を言わせて地球艦隊前衛の阻止線を文字通りズタズタに食い破った。

 

 

 そしてその後に訪れた、(ふね)の虐殺。

 

 

 後に続いて突破してきたガミラス軍軽快部隊が地球艦隊に襲い掛かる。その様は、ガミラス艦の独特なシルエットと相まって獰猛なサメが獲物に襲い掛かっている様にも見えた。

 

 

 しかし一見手当たり次第攻撃しているようだが、よく見ると的確に地球艦隊の各分艦隊旗艦、戦隊旗艦を優先的に叩いている。極めつけは、最初に突入してきた巡洋戦艦隊は進路上の邪魔な地球艦は別として、脇目も振らずに地球艦隊の総旗艦『ロングビーチ』*2を目掛けて突撃し、護衛のインディアナ級宇宙戦艦*3、チェスター級宇宙巡洋艦*4共々一撃で屠った。

 

 

 (まさ)しく『狩り』という言葉が相応しいまでの戦いぶりだ。

 

 

 恐ろしいまでの練度。

 

 

「流石は、『宇宙の狼』と畏怖される智将エルク・ドメル閣下の薫陶を受けた部隊…」

 

 

 ポツリと囁かれたアンドロメダのその言葉は苦々しさが滲み出ていたが、その表情、その瞳は羨望の眼差しだった。

 

 戦後の新生地球艦隊では逆立ちしても到底真似出来ない、忌々しくも惚れ惚れする見事な艦隊機動。

 

 ガミラス軍の真の恐ろしさは、技術力も然ることながらその質の高さにあるとアンドロメダは見ている。

 

 特にアンドロメダが愛し、尊崇するヤマトを幾度となく苦しめたエルク・ドメルが率いた第6空間機甲師団、通称ドメル軍団が相手だと波動砲艦隊をもってしても勝てるかどうか怪しいと思えるほどの隔絶した技量の違いがあった。

 

「もし七色星団海戦に第6空間機甲師団の一部でも参加していたら、ヤマトさんは確実に沈んでいた」

 

 ヤマトに対して異常なまでに尊崇するアンドロメダをしてそう言わしめる程に、ドメル軍団は数あるガミラス軍艦隊の中でも別格と言って良いほどの強さを誇っていた。

 

 正直、相手が悪すぎた。

 

 この頃の地球艦隊は決して練度が低いわけでは無かった。むしろ後年の新生地球艦隊よりも練度は高かったと断言出来る。

 

 

 だが、上には上がいるのだ。

 

 

 この二つの部隊がかつてドメル軍団に所属し、共に艦列を並べて戦っていたという経歴があることが、戦後のガミラスからの開示された情報により明らかとなった。

 

 ドメル軍団の事を知る一部の地球軍の軍人は、その事実に驚愕したという。

 

 

「本当に相手が悪すぎた」と────。

 

 

 アンドロメダ自身、ガミラスに対して思うところが全く無いわけではない。地球を滅茶苦茶にし、何よりも愛するヤマトの前に立ちはだかり苦しめ続けた憎き敵というのがアンドロメダの率直な気持ちだったが、当のヤマトが気にしていないというのにヤマトの愛娘*5である自分が恨み辛みを募らせる訳にはいかないと、割り切ることにした。

 

 それにヤマトから聞いたイスカンダルでの()()話がアンドロメダの心に大きな影響を与え、またアンドロメダ級や他の新生地球艦隊建造にはガミラスの強力な援助も関わっているため、ある意味育ての親を一方的に恨むのは信義に反すると悟り、それ以降は一切恨むことをやめ、ヤマトさんを苦しめたと言うことはつまり、それだけガミラス軍が精強であるという証しであると感銘を受けて、一つの目指すべき目標であると捉える様になった。

 

 閑話休題。

 

 

 後はもう戦闘と呼べなかった。地球艦隊の指揮系統は完全に破壊されて組織的抵抗は最早不可能となり、てんでばらばらな散発的抵抗は瞬く間に沈黙させられる掃討戦へと移り、なんとか生き残った(ふね)が各々の判断で離脱するしかなかった。

 

 

「地球艦隊は戦闘で331隻を完全損失。戦闘後の追撃や放棄によりさらに94隻。最終的に425隻が失われました」

 

 参加艦艇と損失艦艇の一覧表が映し出されるが、あまりにも酷い有り様に目を覆いたくなる。特に戦艦はほぼ全滅していた。

 

「勢いに乗るガミラス軍は火星に不時着した地球艦や宇宙港等の重要施設、展開していた対艦ミサイル軍団を軌道上から砲撃」

 

「ミサイル軍団も必死の抵抗を行いましたが、衆寡敵せず。全滅。その際───」

 

 突如巨大な火柱が上がる。

 

「ミサイルの集積所に誘爆。火星の重力を振り切るために必要な推力を得るための大量の燃料、強固なガミラス艦の装甲を破壊するために強力な弾頭を装備していましたから、それらが全て一斉に爆発しました」

 

 無論、ミサイルの集積所は地下の強固なシェルターの中だったが、つるべ撃ちの様に撃ち続けていたからか、次々と運び出す為に安全対策が疎かになってしまった。

 

 その後も連鎖的に発生する巨大な火柱。その度に火星の大気は激しい衝撃波に揺さぶられ、大地は吹き飛ばされた各種残骸が降り注ぐ地獄絵図と化した。爆風や残骸の直撃で倒壊するビル群が映った瞬間に「ひっ!」という悲鳴が聞こえた気がした。

 

「アルカディア・ポートをはじめとした火星の地表はその影響でほぼ壊滅。民間人等の非戦闘員は事前に地球への退避を呼び掛けていましたが、間に合わなかった人々はシェルターに避難していました」

 

 それにホッとした表情をする三人の姫を見て、また先の悲鳴から「おやっ?」とアンドロメダは思うが、表情には出さず今は置いておくことにした。

 

 

「この戦闘により火星は安全とは言えなくなり強制退避が決定。火星は放棄されることになります」

 

 

 地球からかき集められた輸送船に嘆きの声をあげながら乗り込む火星の人々。護衛の地球艦も少なくない(ふね)に応急修理の痕が見えた。

 

 

 

「惨敗、ですね…」

 

 

「…はい」

 

 

 まさに敗軍の様相に空母棲姫は率直にそう言い、アンドロメダも否定は出来ず、顔を伏せながら答えることしか出来なかった。

 

 

「地球は第一次火星沖海戦の結果に大混乱に陥りました。艦隊はその戦力の大半を失い、いよいよ本土決戦かという気運が高まり、内惑星戦争時に建設されました地下都市の再整備が始まりました。…それが結果として、人類の生存に寄与することとなりました」

 

 

 

「ですが、ガミラス艦隊による地球本土への直接攻撃はありませんでした」

 

 

 

 それに対して三人の姫は「えっ?」という顔になる。

 

 確かにガミラス艦隊も手傷は負ったかもしれないが、対する地球艦隊はもう死に体だ。

 

 ここで直接地球圏に乗り込んで一撃を加えたら、地球は折れざるを得ない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 

 

 その計画は艦娘達が現れたことで断念せざるを得なくなった。ガミラスにも似たことが起きたのかと訝しむが、アンドロメダの表情から読み取るにそうでは無さそうである。

 

 

「…これはあくまで推論なのですが、ガミラスは最初から地球艦隊の戦力を撃滅するのが目的だった可能性が高いかと」

 

「であれば最初のガミラス艦隊の行動もある程度説明が付きます」

 

「初めから増援を含めた大兵力で進軍していたら、地球艦隊は火星を早々に放棄して本星である地球へと引き上げ、地球本土の戦力と共に迎え撃たれる。そうなるといささか面倒だから、地球から確実に主力艦隊を引き離して先に潰してしまおうと彼らは考えたのではないかと」

 

「それに、地球本土への攻撃は、別の手段が用いられましたから、その邪魔となり得る地球艦隊を、事前に、そして確実に、潰しておきたかったのかも…」

 

 語り続けているうちに、段々と悲痛というにはあまりにも酷い苦しそうな表情へと変わるアンドロメダに三人の姫は訝しみ、駆逐棲姫が心配になってアンドロメダの背中を摩り、何とか落ち着かせようとした。

 

 

 ガミラスに対して割り切ったつもりでいても、やはり()()だけはどうしても割り切れるものではなかった。

 

 

「お姉ちゃん。しばらくこのままお願いできますか?」

 

 

 アンドロメダのその問い掛けに駆逐棲姫は何も言わずに微笑みながら頷いて返した。

 

 それを見てありがとうと礼をのべてから、新しい映像へと切り替えた。

 

 

 

「2193年4月2日───」

 

 

 

 地球、極東の島国である日本に一つの隕石が落着した。

 

 

 直撃を受けた日本の地方都市の一つが、壊滅。

 

 

 その惨劇に息を飲む三人。駆逐棲姫に至っては目を反らした。

 

 完全に劣勢な戦況で起きた不運というにはあんまりなこの事件に同情するしかない。

 

 

 その後も地球各地に隕石が次々と落着し、被害が拡大していく。

 

 

 流石に違和感を覚えた南方棲戦姫がアンドロメダに問い質す。

 

「ねぇ、これ、もしかして」

 

 それに対してアンドロメダは静かに頷く。

 

 

「冥王星基地からの質量弾によるロングレンジ戦略爆撃、『遊星爆弾』です」

 

 

 アンドロメダの答えに、南方棲戦姫は軽く舌打ちしながら「何てことを」と呟き、空母棲姫は表情こそあまり変化は無いが、よく見ると僅かばかりだが眉根を寄せ、怒気を滲ませていた。駆逐棲姫は映像を直視出来ないと言わんばかりにアンドロメダに抱き付いて顔を(うず)めていた。それでもアンドロメダの背中を摩ることを止めないところに、駆逐棲姫の心根の優しさが現れていた。

 

 

 アンドロメダはそんな駆逐棲姫の優しい心に深く感謝した。

 

 

 アンドロメダ自身、遊星爆弾攻撃の()()()()()を知っている。そしてその背景も───。

 

 知っているが故に、ガミラスによるこの非人道的な攻撃に対して一定の理解もしてしまっている。

 

「お互いに、譲れないモノを心に秘めている」「正義の反対は、別の正義」「幸せの為には、時にヒトは鬼に成らざるを得ない」と────。

 

 だがそれが余計にアンドロメダの心を複雑なモノにしてしまっていた。

 

 そんなアンドロメダの心を、駆逐棲姫の優しさが癒していた。

 

 

 そしてそれが、アンドロメダの心をますます駆逐棲姫に依存させていく事になるのだが、それが未来にどういう影響をもたらす結果となるのかは、今はまだ、誰にも分からない─────。

 

 

「日本に初めの遊星爆弾が落着した時から、軍はこれがガミラスからの攻撃であると分かっていました。何故なら普通の隕石と違い、明らかにヒトの手が加えられた痕跡が見付かったからです」

 

 

「ですが、前年に主力艦隊がほぼ壊滅したこともあり、人心の混乱を恐れた軍はその事実を暫くの間、公表しませんでした」

 

「とは言え、国連統合軍は直ちに全軍に対して迎撃命令を下しました。しかし初期の頃は──」

 

 地上から数十発の迎撃ミサイルが発射されるが、全く効果が無いばかりかむしろその破片が地表に降り注いで被害をより広範囲に広げてしまっていた。

 

「大気圏内で破砕したらこうなることくらい、少し考えたら分かるハズなのですが、当時の軍はそれに気付かないくらいに冷静さを失っていました」

 

「ですがその後すぐに、先の第一次火星沖海戦で使用された対艦ミサイルを改良した上で大気圏外で遊星爆弾の軌道を反らす対宙ミサイルとして採用が決定され、地球各地や月面での配備が進みました。表向きは、ガミラス艦隊との本土決戦に備えてとされましたが…」

 

 

「宇宙海軍もこの頃は遊星爆弾の迎撃に残された艦隊戦力を全力投入していました」

 

 

 艦隊やミサイルの集中砲火によって軌道が反れた遊星爆弾が宇宙の虚空へと消えていく。

 

 だが別の遊星爆弾が地球軍の必死の迎撃を嘲笑うかのようにすり抜けて地表へと落ちていく…。

 

 

「正直ジリ貧でした。飛来する遊星爆弾から地球を守るには、艦隊戦力があまりにも少なすぎましたし、火力も不足気味でした」

 

「しかも艦隊にも少なくない被害が出ていました」

 

 軌道を反らす際に砕けて剥離した破片が地球艦を襲い、また時折ガミラス巡洋艦が長駆現れては地球艦隊に一撃離脱を繰り返しては、地球艦隊に出血を強要していた。

 

「何より痛いのは地球が遊星爆弾で叩かれ続けた結果、地球にある各国の軍事宇宙港や軍施設が被害を受けて艦隊の整備や戦力の補充に大きな影響を与えていました」

 

 映像が切り替わる度に、地球のあちこちが赤く醜い大地へと変貌して行くのが見て取れた。既に海も一部干上がってきているという悲惨過ぎる有り様だった。

 

「既に地下への移転も進んではいましたが、やはり徐々に、そして確実に弱って来ていました」

 

 

「ですが、それでも地球人類は諦めてはいませんでした」

 

 

 ここまでボロボロにされていながら、往生際が悪いと言うかなんと言うか、その諦めの悪さに感心するべきなのか正直迷う姫達。

 

 だが、アンドロメダが2202年の生まれであることから、少なくともその年までアンドロメダの居た地球は滅亡しなかった訳だから、ここからどうにかして持ち直したのであろうという事は容易に想像できた。…その方法までは皆目見当も付かなかったが。

 

 

 

「そして5年後の2198年、その年は転機の年となりました」

 

 

「地球の命運を決めた二つの大きな出来事が起きたからです」

 

 

 

 

「『第二次火星沖海戦』。地球軍最初の勝利と─────」

 

 

「地球の、人類滅亡の危機を救った、『惑星イスカンダルからの使者』が地球へと来訪致しました」

 

 

 

 

*1
ただしアンドロメダ自身も細かい原理に関してまでは実は理解していない。

*2
米宇宙海軍がインディアナ級をベースにレーダー、通信等の電子機器を強化増設した特殊艦。武装は対宙機銃のみのため護衛艦が必須。

*3
金剛型のアメリカ呼称

*4
村雨型のアメリカ呼称

*5
アンドロメダ主張。




 次回、第二次火星沖海戦とイスカンダルからの使者。そして…、メ号作戦へ…。

 漸くヤマトの影が見えてきた…。けど出るのはまだまだ…。取り敢えず第二次火星沖海戦を頑張らなきゃ…。多分またMMDを参考にすると思いますが、最近リアルで仕事が忙しくて平日はなかなか執筆する時間が取れず、休日に頑張って書き上げてますが、それもちょっと厳しくなりそうで…。それでも毎週一話は頑張りたい…!


 それはそうと、何だか艦これと言うより単なるヤマト二次に思えてきた…。姫様方がいるお陰で何とか体裁は保つことが出来てるなぁ…。アンドロメダと駆逐棲姫お姉ちゃんをイチャイチャさせるべきか?

「ああ~。お姉ちゃんの優しさが心に染み渡る~」

「もっと私に頼って良いのよ?お姉ちゃんがもっともっと癒してあげます!」

「お姉ちゃん!」ダキシメー


 …なんだこれ?


解説

インディアナとチェスター

 後年の地球連邦防衛軍と違い、どちらかと言えば各国国軍からの寄り合い所帯感がある国連統合軍で地球全軍が全て金剛型や村雨型とするかなぁ?と疑問に思い、各国で独自呼称くらいあるかもとの推測から付けました。

ロングビーチ

 ある意味ではアンドロメダのルーツと言えなくもないかも?という艦隊指揮に特化した艦。
500隻という大軍を指揮するのに通常の金剛型では荷が重いと判断しました。ブルーリッジに近い艦です。艦名はブリッジが特徴的なあの原子力巡洋艦です。この艦もレーダーや通信能力強化のためにアンテナ等の電子機材を強化。またそのための艦内容積確保のために主砲を初めとした武装を撤去しているため、独特なシルエットとなっている。




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

 


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第14話 Negotiation and Information disclosure.AAA-5

 交渉と情報開示。そしてアンドロメダの苦悩


 今回アンドロメダが少しトリップしたりします。後あれはアンドロメダの狂気になるのだろうか? 

 また今回の戦闘も某MMDを参考にしております。


 

 地球軍の初勝利というのに驚いたが、それ以上にガミラス以外との異星人との接触というのにはさらに驚く。

 

 だがそれを語るアンドロメダの表情に僅かばかり影が差していた。

 

 

 

 勝利と、救いの手。

 

 

 

 本来ならば喜ばしい事柄ではないのか?

 

 

 

 一筋縄ではいかない、何かがあったのか?

 

 

 

 それ以外にも気になる点が幾つかあるが、今は続きを黙って聞く事にした三人の姫。

 

 

 

 

「2月初頭、監視衛星が冥王星に向かう艦隊を確認したことにより、ガミラス軍が増援を得ていよいよ艦隊による本格的な地球本土への直接攻撃が開始されると国連統合軍は判断」

 

「残存艦隊を結集しての迎撃作戦『カ2号作戦』が発令されました」

 

 

 

 日本の富士宇宙軍港*1から出撃していく極東管区空間戦闘群第一艦隊。*2

 

 

 月軌道で他の管区の空間戦闘群と合流するが、その陣容は日本艦隊を含めて133隻という第一次火星沖海戦の時と比べると櫛の歯が抜けたかのような見劣りするものだった。

 

 特に主力艦である戦艦は、旗艦であるキリシマを含めてたった3隻しかいない。

 

 他には作戦支援の為に特設支援船が19隻いるが、こちらはガミラス艦と撃ち合うことが出来ない船だから、戦力としてカウント出来ない。

 

 

 だがそれでも、各艦乗員の士気は極めて高かった。

 

 何故ならば、まだ一部の(ふね)だけではあるがガミラス艦の装甲を撃ち貫ける『()()()()()()()』が装備されていたからだ。

 

「金剛型の全艦、村雨型の14隻に()()()()()()()()()()の新兵器『陽電子衝撃砲』が艦首先端の開口部に装備されました」

 

「本来でしたら参加する39隻の村雨型全艦に装備する予定でしたが、遊星爆弾による爆撃を避ける為に開発、生産施設の地下への移転による遅延。何よりもこの頃は資材不足や工作精度の低下、エネルギー不足が徐々にですが起きており、製造や品質維持が不安定になってきておりました」

 

「軍は限界まで粘りましたが、作戦開始までに新造艦を含めて14隻に装備するのが限界でした」

 

「ですがこれでようやく、ガミラスに対して痛いのをブッ食らわせてやれると、将兵みな意気軒昂。士気は極めて高かったそうです」

 

 

 ここでふと、疑問を感じた駆逐棲姫がアンドロメダに質問する。

 

 

「…お姉さん、今『陽電子衝撃砲』って言いましたけど、それって確か『ショックカノン』のことですよね?火星の軍隊が宇宙人の宇宙船から見付けて研究してたって武器で、お姉さんの艤装の主砲でもある」

 

 三人の姫の中で一番アンドロメダとの付き合いが長く、最もアンドロメダの情報に接してきたが故の質問である。

 

 その質問にアンドロメダは頷いて返す。

 

「はい。第二次内惑星戦争から15年、火星軍での研究期間も含めますとおよそ50年以上の月日を経て、ようやく人類は異星人と同等な武器を手にすることが出来ました。そしてその地球軍最新バージョンが私の主砲です」

 

「50年…」

 

 人類の不断の熱意と意地に、称賛すべきなのだろうがここまで来ると半ば狂気すら感じる執念に、ある種の呆れすら覚えてしまいそうになる姫達。

 

 だがアンドロメダの言葉には、地球軍の(ふね)ならではの万感の思いが詰まっていた。

 

 

 こちらの攻撃は跳ね返され、対して相手はほぼ一撃必殺。

 

 いくら戦技を磨こうとも、どんなに戦術を練ろうとも、()()()()()()()()()()()()()()

 

 その悔しさに嘆きながら、どれ程の(ふね)や地球の戦士達が無念の内に散って逝ったことか…。

 

 

 アンドロメダはそのことを()()から何度も聞かされていた。

 

 そしてその悔しさの裏返しが、新生地球艦隊の火力至上主義(超絶火力フェチ)の極みである波動砲(脳筋)艦隊構想の根底にあるのだと。

 

 

 

 思い出に浸りそうになる思考を、駆逐棲姫の新たな質問が現実へと引き戻す。

 

 

()()()()()()()()()()って言いましたけど、テストは?」

 

 

 駆逐棲姫の質問に、痛いところを突かれたとアンドロメダの顔が強張る。

 

 

「…残念ながら、兎も角数を揃える事が最優先とされた為に、テストも訓練も不十分でした」

 

 

 アンドロメダのその答えに「え~…」という顔になる三人の姫。

 

「これでは完全に敗戦間際の末期戦じゃないの…」と南方棲戦姫は肩を竦めながら思わず漏らしてしまう。

 

 

「第一次火星沖海戦の敗因の一つに、地球軍は決め手と成り得る火力、打撃力の無さがありました」

 

「有力な対戦車兵器を持たない地上部隊が戦車と相対したようなものです」

 

「ガミラス軍という戦車部隊に対して地球軍は豆鉄砲(ドアノッカー)の様な小口径対戦車砲と、装甲車か豆戦車、よくて軽戦車でした。対艦ミサイル軍団はいわば榴弾砲でしょうか」

 

「足らない火力を防御陣地を構築する事で補っていました」

 

「しかし結果として受動的にならざるを得ず、主導権は常にガミラス軍側にありました」

 

「ガミラス軍を追い返すだけの打撃力が無い地球軍は有利な戦況であるにも関わらず反転攻勢に打って出ることが出来ず、そのためガミラス軍に増援を呼び寄せる判断と猶予を与えてしまい、駆け付けた突破力と打撃力に優れた重装備部隊、重戦車軍団によって地球軍の陣地は踏み躙られてしまう形となりました」

 

「もし十分な火力があれば、増援による攻撃も跳ね返すことが出来た可能性がありました」

 

「そこから地球軍は形振り構わない、兎に角如何に艦隊の火力を上げるかが至上命題となってしまいました」

 

「…正直、末期戦だと言われても仕方無いです。あの頃の地球軍は、明らかに狂気に似たナニカに呑み込まれていました」

 

 

「兎に角ガミラスに一矢報いる。軍はそれだけに傾倒しつつありました…」

 

 

 

 

「ですが、それでも捨て鉢とならずに意地を見せ付けた人もいました」

 

 

 そう言って、一人の立派な白髭が特徴的な人物を映し出す。

 

「冥王星でのガミラスとの初邂逅の一件で一時解任されておりました艦隊司令、沖田十三宙将閣下です」

 

「装備されたショックカノンは一撃の威力は高いものの、当時の地球艦のエンジン出力ではエネルギーのチャージに時間が掛かりましたし、命中精度はお世辞にも良くはありませんでした」

 

 事実、艦首ショックカノンは砲塔と違い照準に(ふね)その物を小刻みに動かしての微細なコントロールが求められ、自動追尾によるアシストも無い完全マニュアル制御という代物で、動態目標への命中精度は、射程に比して極めて劣悪だった。

 

 その説明を聞いた、もっとも砲術関連に精通している南方棲戦姫が「うげっ!」という顔になり、「なんてピーキーな…」と漏らす。

 

 実際この頃のショックカノンは扱いが繊細で複雑だった。

 

「沖田司令はチャージ時間を捻出するには正面からの撃ち合いではリスクが高く、待ち伏せ状態で事前にチャージを行い、低い命中精度を補うにはキルゾーンを設定して二方向からの十字砲火しかないと考えられ、それを前提とした作戦を練られました」

 

 

 火星宙域の俯瞰図を映し出す。

 

 

 第一次火星沖海戦以降、両軍から事実上忘れ去られた星となっていた為に随所にデブリ帯が残っていた。

 

 

「陽動部隊はガミラス艦隊を側面から一撃離脱で攻撃し退避。デブリ帯へと誘い込み動きを抑制しながらキルゾーンへと誘導。キルゾーンへと侵入したのを確認し、二隊に別れたショックカノン搭載艦の本隊による十字砲火を浴びせかけます」

 

 火星沖に侵出してきたガミラス艦隊を陽動部隊が横から殴り付けた後、一目散に本隊が潜むデブリ帯へと逃げ込みながらガミラス艦隊を誘き寄せ、デブリ帯の中に設定されたキルゾーンへと引き摺り込んだ所を、本隊が一斉にショックカノンを撃ち掛けて滅多打ちにする作戦進行予定図を表示。

 

 

「もし陽動に乗らなければ、遺憾ながら本隊を前進させ───」

 

 二隊に別れていた本隊を合流させ、上下三列横隊を形成。横隊の一隊一隊が交代交代で射撃を繰り返すCG図が映し出される。

 

 

「大昔の戦列歩兵の如く横隊を組み、第一列、第二列、第三列と射撃を繰り返す事となっておりました」

 

「またそれ以外にも幾つか策を講じていました」

 

 

 

 

 そして2198年2月20日。

 

 

 

 火星宙域にガミラス艦隊、ワープアウト。 

 

 

 

 ここで空かさず陽動部隊が横撃に出るはずだったが、問題が発生した。

 

 

 

 当初予想されていた数よりも明らかに()()()()()

 

 

 そして識別不能の()()()()()()()()()()()()()()謎の新型艦が1隻混じっていた

 

 

 しかもガミラス艦隊の旗艦である超弩級戦艦のカラーリングがいつもの緑とは違い()()()()()だった。

 

 

「単に塗装を変えただけでは?とも考えられましたが、こちらをご覧ください」

 

 陽動部隊の旗艦、巡洋艦『テンリュウ』が問題となっている超弩級戦艦の側面を捉えた望遠画像を映し出す。

 

 そこにはガミラスの文字で何か書かれていた。そしてその横に今まで太陽系内で暴れまわっていたお馴染み(?)緑色に塗装された超弩級戦艦の同じ箇所の画像を並べて映す。

 

 書かれている文字が全く違っていた。

 

「今までの分析から、これらは艦名或いはハルナンバー*3であると推測されていました」

 

「従来の緑色艦が『シュバリエル』。最初に映したダズル迷彩艦が『()()()()()()()』であると現在は判明しております」

 

「当時はまだガミラス言語の翻訳が完全ではなく、便宜上、緑がガ軍超弩級戦艦(アルファ)、ダズル迷彩が(ブラボー)と識別されました」

 

 

「問題は火星宙域に現れたガミラス艦隊にこの(アルファ)が確認されず、増援を得ていたにしては数が15隻ほど少なかったのです」

 

「また(ブラボー)と同様のダズル迷彩艦が複数確認されたことにより、(ブラボー)が増援の旗艦である可能性が高いとの結論に達しました」

 

「これに司令部は動揺。別動隊がどこかに潜んでいるのでは?と疑心に駆られました。ですが───」

 

 

「艦隊司令であらせられましたおとう…沖田司令は動揺する司令部要員を尻目に────」

 

 

 ここでアンドロメダは当時の音声記録を再生した。

 

 

「現れた敵艦隊を敵主力であると判断する。全隊に発令。『カ2号作戦』を発動する。陽動部隊に打電。行動を開始せよ」

 

 

 

 落ち着きながらも、力強いその声についうっとり聞き入ってしまうアンドロメダ。心なしか少しばかり頬を朱に染めている。

 

「ああ…。お父様…」

 

「…お姉さん?」

 

 ジト目な駆逐棲姫のやや不機嫌そうな声に、自分の世界に入りかけていたアンドロメダの意識が現実へと引き戻された。

 

「…はっ!あっ!すみません!戦史に名高い『第二次火星沖海戦』の始まりです!!」

 

 羞恥から顔を真っ赤にし、()()()()しながら取り繕う様に話すアンドロメダ。

 

 いや戦史に名高いって言われても、それ貴女の世界の歴史でしょ?と突っ込みそうになるが───

 

「しかし何故敵本隊であると、沖田という御方は断言出来たのですか?」

 

 空母棲姫がもっともな疑問を口にするが、アンドロメダは一瞬目を伏せると、首を横に振った。

 

「沖田司令はその生涯において、何故そう判断されたのか、その理由を語られることは(つい)ぞありませんでした」

 

 そう語るアンドロメダの表情は物悲し気だった。

 

 そして察した。その沖田なる人間が、アンドロメダにとって如何に大切な存在であり、かの人物が既に故人であることを…。

 

 

「…あくまでこれは私見ですが、先の第一次火星沖海戦での教訓から、別動隊を呼び寄せられる前に回復困難な、あるいは戦闘の継続が困難なダメージを与えたかったのかもしれません」

 

 

 これは戦後も様々な憶測や論争を呼んでいるが、結局の所は謎のままである。

 

 

「陽動部隊は沖田司令の指示に従い、ガミラス艦隊の側面から強襲。前衛は村雨型2()5()()、中衛に磯風型48隻。後衛に()()()3()()と磯風型20隻の()()()()()()といった陣容です」

 

 

「先ずは先頭を行く村雨型が縦列陣から上下横列陣へとシフトし、魚雷とミサイルを発射」

 

 だがそのミサイルと魚雷群はガミラス艦隊の迎撃により全て撃ち落とされた。だが───

 

「先の全弾にはビーム撹乱剤が充填されていました。これによりガミラス艦の主兵器である陽電子ビームの威力を減殺させ、地球艦隊突入時の損失を少しでも低減することに成功致しました」

 

「無論、こちらも主砲である高圧増幅光線砲が使えなくなりましたが、もとからまともに効果が得られない以上、問題にはなりませんでした」

 

「兎も角ガミラス艦最大の武器である陽電子ビームによる射程と威力の優位性を打ち消すことが最優先事項でした」

 

 この後も村雨型はビーム撹乱剤を散布し続け、撹乱剤による回廊を形成した。そして───

 

 

「本命は中衛の磯風型です」

 

 

 磯風型の艦低部には見慣れた増槽タンク以外に巨大な円柱状の物体が一本、懸架されていた。それは───

 

特空間重魚雷。遊星爆弾迎撃ミサイルを弾頭をそのままに、推進剤部を可能な限り切り詰めた急造の魚雷です」

 

 

 

「問題は急造品であるが為に誘導装置に問題があり、命中精度に難がありました」

 

 また命中精度…。という呆れ声が聞こえたが、構わず続ける。

 

 

 撹乱剤による突撃回廊を啓開した村雨型が退避し、中衛の磯風型がその回廊の中を潜りながらさらにガミラス艦隊へと接近して次々と特空間重魚雷を発射する。

 

 命中精度に難があるため出来る限り近くで、しかし近すぎたら爆発の影響が及ぶ危険性があり、何よりも近付けば近付くほど撹乱剤の効果が薄くなりすぎる。

 

 そして発射された特空間重魚雷の一部は迎撃され、半数近くは外れた。*4

 

 

 この雷撃により14隻のガミラス艦を撃破することに成功したが、地球軍も村雨型が5隻、磯風型が27隻撃破された。

 

 磯風型の損失が多いのは、やはり村雨型が退避した地点よりもさらにガミラス艦隊に近付いた為にビーム撹乱剤の効果が薄かったのと、運悪く発射直後の特空間重魚雷にビームが直撃し、発射した磯風型と共に僚艦が爆発に巻き込まれて合計19隻が爆沈した。

 

 

 そして後衛───13隻の磯風型が中衛を追って退避するも、3隻の村雨型と7隻の磯風型が()()()()()()()()()()()()()()()()()ガミラス艦に体当たりした。

 

 

「か、カミカゼ!?」

 

 まさかの事態に絶句する三人。それに対してアンドロメダは眉一つ動かさない涼しい顔である。

 

「この10隻の(ふね)達は、先の第一次火星沖海戦で撃破され、放棄されていた中でも比較的原型を(とど)めていた村雨型や磯風型を質量弾としてガミラス艦にぶつけました。先に退避しました13隻の磯風型は牽引のための(ふね)です」

 

 

 つまり生きた人間は誰一人として乗っていないと言うわけだが、とは言え一度沈んだ自軍の(ふね)を、謂わば墓標を、死体を兵器として使用したという地球軍に対して、三人は言い知れぬ恐怖を感じた。

 

 

「く、狂っている」

 

 

 南方棲戦姫が思わずそう口走ってしまい、直後に失言だったと口を押さえるが、アンドロメダは気にした素振りを一切見せることなく答える。

 

「そうかもしれませんね。戦争はヒトを狂気へと突き落とします。思えばガミラス戦役で人類が一番失ってしまったモノは、倫理観なのかもしれませんね」

 

 狂っているという南方棲戦姫の言葉に一切否定しないどころか寧ろ肯定し、にこやかな顔でそう告げるアンドロメダに三人の心に怖気が走った。彼女の心の内には、間違いなく狂気が宿っている。そう確信させるかの様な笑みだった。

 

 アンドロメダのそばで寄り添う駆逐棲姫は、悲しみを湛えた瞳でアンドロメダを見つめる。

 

 そんな駆逐棲姫にアンドロメダは苦笑しながらも頭を撫でてあげた。

 

 そして彼女達に対して申し訳ない気持ちになる。人類の狂気は、この程度では無いのだから。特に()()メ号作戦。

 

 戦いもそうだが、それに付随する裏側の話をすべきか?とアンドロメダは真剣に悩む。

 

 アンドロメダ自身はその辺りの感性がやや麻痺してあまり感じなくなっている自覚があり、気にしなくなってしまっていたが、彼女達には、特にお姉ちゃんにはあまりにも酷な話になるかもしれないと思えてしまい、どうするべきかと頭を巡らせる。

 

 そのせいか、後の説明がやや御座なりになってしまう。

 

 

 

 戦況はその後、地球軍の予定通りに推移する。

 

 

 ただし、予想外は発生するモノである。

 

 

 ガミラス艦隊の動きが、明らかにおかしかった。

 

 

 あえて言えば、ダズル迷彩艦と従来の緑色艦との練度に明らかな差があり、ダズル迷彩艦が足を引っ張っているように思えてならなかった。

 

 これは地球軍の有利に作用した。

 

 緑色艦は「何かある」と勘づいた動きを見せていたが、ダズル迷彩艦に引っ張られてやむ無く追随している様な感じであり、普段よりも動きに精彩を欠いていた。そしてズルズルとキルゾーンへと誘われて行く。

 

 

 だが同時に不利な事態も発生した。

 

 

 地球軍は陽動部隊の退避支援の為に特設支援船に載せていた航空隊を展開させた。*5

 

 

 その時である。ガミラス艦隊の最後尾に控えていた例のくるくる回る謎のガミラス新型艦の正体が判明した。

 

 

 なんと空母だったのである!

 

 

 この事実に空母棲姫も思わずあんぐりと口を開けて呆気にとられてしまった。

 

「はぁ?え?あれが…、空母!?」

 

 異星人の感性は理解できないとばかりにすっとんきょうな声をあげてしまった空母棲姫。

 

 空母の第一人者として、思うところがあるようだが、アンドロメダに言わせてみれば深海棲艦も大概だというのが率直な気持ちである。さすがに口には出さないが。

 

 

 地球、ガミラス双方が期せずして航空戦力を投入した。

 

 地球軍は数で圧倒していたが、もっぱら対艦攻撃に重点を置いていた為に対空ミサイルは殆ど用意していなかった。

 

 対してガミラス軍は数こそ少ないものの、ほぼ全機が対空ミサイルを装備していた。

 

 

「私の私見ですが、このガミラス空母は艦隊による地球攻撃に際して、艦隊の防空を担っていたのではないかと見ています」

 

 確かに筋は通る。本来ならば消耗させたくなかったのだろうが、地球軍が航空戦力を展開させたことにより、押っ取り刀で出撃させたのだろう。

 

 

 とは言え地球軍の航空隊にはたまったものではなかった。急遽対艦ミサイルを投棄してドッグファイトとなった。

 

 この時の地球軍機であるが────

 

「九七式戦闘攻撃機。後の九九式戦闘攻撃機コスモファルコンへと繋がる戦闘機です。ファルコンと同等の機動性能を誇りますが、エンジンの出力が低く、搭載可能な兵装の量が限られていました」

 

 

 両軍激しいドッグファイトを演じるが、やや地球軍が劣勢だった。

 

 また航空隊の支援が受けられなかった陽動部隊の被害が拡大。半数以下にまで撃ち減らされたが、それでも目的は完遂した。

 

 

 誘い込まれたガミラス艦隊はついにキルゾーンへと入り込み、地球艦隊ショックカノン搭載艦による猛烈な射撃を受ける事となった。

 

 

 

 一撃でガミラス艦を串刺しにした陽電子衝撃砲、ショックカノンの威力に南方棲戦姫は目を丸くする。そして「私よく生きてたわね…」と呟きながら冷や汗を流す。

 

 アンドロメダは言った。「地球軍最新バージョンが私の主砲です」と。そしてさらに疑問に思う。その砲撃を耐えきった()()防御フィールドは本当に何なのかと。最初に聞かれたアケーリアス何かと関わりがあるのか?いずれにせよ今は続きを聞くだけだ。

 

 

 

 本隊、金剛型3隻*6、村雨型14隻*7*8による砲撃は熾烈を極めた。

 

 

 

 そして少しでも間隔を狭めるために、磯風型を接舷してエネルギーを供給してもらっていた。

 

 

 このまま上手く行くと思われたが、事態は急変する。

 

 (アルファ)が10隻の別動隊を引き連れてワープによって突然現れ、殴り込んできたのだ。

 

 

 そして最悪なことに、第二部隊においてショックカノンの暴発事故が発生。

 

 無理に無理を重ねた連続砲撃によってか、または部品の品質に問題があったのか、原因は該当する(ふね)が完全に消し飛んでしまったため永遠の謎となったが、*9その爆発により第二部隊の居場所が別動隊にバレてしまい、瞬く間に殲滅されてしまった。

 

 

 

 これにより、本隊に動揺が走る。

 

 撃ち減らした敵本隊か、それとも増援か、どちらを対処すべきかと混乱が生じ、「ここまで来て、また敗けてしまうのか?」という気持ちが沸き起こりかけたその時─────

 

 

「狼狽えるなっ!!」

 

 

 

 

 沖田司令の一喝が木霊し、第一部隊に別動隊への対応を命令した。

 

 なお、敵本隊は()()()()()()()で離脱していった。*10

 

 

 

「声の感じからまさかとは思っていたけど、あの時の一喝はこの人間のだったのね?」

 

 またうっとりとしていたアンドロメダに南方棲戦姫が尋ねる。

 

「はい。私のお父様…、沖田司令の肉声です」

 

 そのアンドロメダの答えに、駆逐棲姫が口を尖らせながら質問を投げ掛ける。

 

「さっきから気になってたんだけど、どうしてお姉さんはこの人間のことで妙に嬉しそうなんですか?今も『お父様』って言って慕っている感じがしますし」

 

 ややつっけんどんに聞いてくる駆逐棲姫にアンドロメダは苦笑いを浮かべ、頬を掻きながら答える。

 

「なんと説明すべきですか…、私達地球艦は設計の元となった(ふね)を母と捉える風習?がありまして、その母と呼べる(ふね)でもっともゆかりのある人間を父と慕っているのです」

 

「沖田司令がこの後に乗艦されます戦艦が、私にとって母と呼べる(ふね)ですので、沖田司令、いえ沖田艦長は私にとっては父と呼べる人なんです」

 

 

「ふーん…」

 

 

 

 不機嫌そうな声で答える駆逐棲姫に、アンドロメダは困ったという感じの表情を浮かべる。

 

 そこに南方棲戦姫が「妬いてるのよ。その沖田って人間に」と耳打ちする。

 

 アンドロメダはさらに困り果ててしまう。これでお母様、ヤマトさんの話になったら、お姉ちゃんが憤死しないだろうか?と。

 

 

 

 

 ちなみに戦闘の結果はほぼ痛み分けに終わった。

 

 ガミラス別動隊、沖田司令率いる第一部隊も共に半数を失ったが、ガミラス別動隊は自軍本隊が完全に撤退したのを確認して、引き上げた。

 

 

 結果として、地球軍は火星宙域からガミラス艦隊を追い払ったとして、大勝利であると喧伝。勝利の立役者として沖田司令を英雄として祭り上げることとなる。

 

 

 たとえその代償として艦隊の半数を完全に失い、少なくない(ふね)に大きなダメージがある辛勝だったとしても────

 

 

 そしてこの戦いで沖田司令は御子息を永遠に失ったのだという事実も、勝利に沸く地球には些事でしかなかった─────。

 

 

     ────────────

 

 数ヶ月前、地球某所────

 

 その日、アンドロメダはこの場所でひっそりと過ごしているヒトを訪ねていた。

 

 沖田司令とゆかりがあるヒトなのだが、現役時代の無理が祟って、今は車椅子が必需品となっていた。

 

 そのヒトが第二次火星沖海戦での沖田司令について、アンドロメダに語っていた。

 

 

 

「…あの時の沖田さんは見ていられなかったよ」

 

 

「憶えておきな若いの。指揮官ってのはね、軽々しく泣けない生き物なのさ」

 

 

「先生…」

 

 

「若いの、あんたは誰よりも優しい。いや優しすぎる」

 

「あの人も、優しすぎる人だった…。それに蓋をして、自らの感情を押し殺してまで役目を忠実に果たした…」

 

「指揮官としてはそれが正しい。だけどね、人は機械じゃ無いんだよ…。心は、いつも軋みの泣き声をあげていた」

 

「見ているだけしか出来ない私には、それが何よりも一番辛かったさ…」

 

 

 

「冥王星の時もそうだった。あの人の背中は…、いつも…、泣いていたよ…」

 

 車椅子に腰掛ける女性、キリシマはそう言って虚ろな瞳で虚空を見つめる。

 

 

 

 

 因縁の星、冥王星へと(いざな)うこととなったイスカンダルからの使者は、火星沖から地球艦隊が地球へと帰りついたのとほぼ同じタイミングで地球へとやって来た。

 

 

 

 

*1
富士の麓にあるガミラス戦役時において日本最大の宇宙軍港。その主要設備は地下の深部に設けられている。

*2
旧航宙自衛隊空間護衛艦隊。2195年の国連宇宙海軍の艦隊編成再編により、各管区ごとに編成。2198年時点で日本艦隊が極東管区ほぼ唯一の纏まった機動戦力。とはいえ空間護衛艦隊も既にその定数を下回っていた。

*3
船体番号のこと。

*4
ただし時限信管が作動し大半は艦隊近くで爆発した。

*5
あくまで支援船であり、空母ほど機能は充実していないため、作戦終了と同時に機体は放棄される。

*6
第一部隊に旗艦キリシマ。第二部隊に残り2隻

*7
第一部隊に8隻。第二部隊に6隻

*8
なお双方に磯風型が15隻ずつ付いている。

*9
一応、排熱処理の問題とされている。

*10
しぶといことに『ゲルガメッシュ』は無傷で一番に逃げ延びていた。




 次回、イスカンダルからのメッセージと冥王星海戦。

 
補足解説
 

特空間重魚雷

 遊星爆弾迎撃ミサイルを改造した急造の大型魚雷。
 磯風型の機動力を可能な限り阻害しない。尚且つ迎撃ミサイル程の射程は不要と判断され、推進剤部を可能な限り切り詰めた。
 磯風型に無理矢理懸架したため、弊害として誘導装置のシーカーが作動しているかの確認が発射してみるまで分からない。熱源誘導。
 戦闘での自爆率、故障率の高さから第二次火星沖海戦以降は装備が取り止められ、従来の魚雷発射管から使用可能な新型魚雷(後にユキカゼに装備された試製魚雷)の開発へとシフトしていく。
 なお故障率の高さは懸架による暴露が原因とされている。第二次火星沖海戦に帯同した支援船には調整や整備を行う技師も多数乗り込んでいた。



 沖田艦長にヤキモチを焼く駆逐棲姫お姉ちゃん。アンドロメダが一番愛するお母様、ヤマトさんを知ったらどうなることやら…。

 そしてキリシマさん登場。戦争の影響でかなりやさぐれています。
 
 おそらく気付いた方は気付かれたと思います。はい。ゲール君が手柄をかっさらう目的でゾル星系(ガミラス語で太陽系)まで出張してきました(笑)そして野蛮人の手荒い歓迎を受けてお帰りになられました(笑)

 まあこれがもとでさらに遊星爆弾が地球に降り注ぎ、メ号作戦でのガミラスの大艦隊に繋がるという皮肉な事態を引き起こします。

 最後かなり飛び飛びで行きましたが、少しスピードアップしなければいつまでもたっても終わりが見えなくなりそうですので、今後もこんな感じになるかもしれません。

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第15話 Negotiation and Information disclosure.AAA-6

 交渉と情報開示。そしてアンドロメダの苦悩


 今回少しひどい話になるかと思います。




 惑星イスカンダル。

 

 地球、太陽系の属する天の川銀河とは別の、大マゼラン銀河に存在するというサレザー恒星系第4惑星、地球を遥かに上回る超高度科学文明を有する惑星国家。

 

 距離にして16万8千光年の彼方。

 

 その地より地球の惨状を知り、救いの手を差し伸べるべくイスカンダル星の女王スターシャ・イスカンダル猊下は妹君であらせられる第三皇女ユリーシャ・イスカンダル様を使者として親書(メッセージ)と、ある設計図を携えて地球へと遣わされた。

 

 地球は喧々諤々たる議論の末に、イスカンダルからの申し入れを受け入れる事を決断する。

 

 

「ユリーシャ様がもたらして下さいました、イスカンダルからの設計図がこちらになります」

 

 

 そう言って何かの複雑な図面と数式の羅列された画像を映し出す。念のため重要箇所は全て黒塗り処理が施されている。

 

 

「光速を突破する船に不可欠な心臓(エンジン)、そして私の心臓でもあります『次元波動エンジン』。その設計図です」

 

 光速を突破する。それはつまり次元跳躍、ワープが可能となり、ガミラスと同じ土俵に立てるということを意味する。

 

 

「ザックリと波動エンジンについてご説明申し上げますと、『真空からエネルギーを汲み上げることで莫大なエネルギーを得ることが出来る』エンジンです」

 

 厳密にはM理論やら余剰次元やらなにやらと(聞いても読んでもよくわからない)兎に角複雑な理論が関わって来るのだが、説明が大変で面倒(説明する本人ですら珍紛漢紛過ぎてお手上げ)な為に割愛した。

 

 

「…それって事実上の、永久機関なのでは?」

 

 

 絞り出すかのような声で空母棲姫が尋ねる。

 

 信じられないという気持ちがあるのはよく分かる。

 

 何せ2100年代半ばまでこちらの世界でも永久機関は夢物語の産物、オカルトの(たぐ)いだと思われて一笑に付されてきた。

 

 だが火星での遺物の船、そしてガミラスとの邂逅によってそれが徐々に覆り、イスカンダルが完全にトドメを刺した。

 

 

「そうなりますね」

 

 

 永久機関は実在した。その衝撃は凄まじいものがあった。だが────

 

 

「でもおかしくないですか?これってつまり要約すると航続距離無限のエンジンですよね?イスカンダルは方舟でも造って地球を捨ててどこかへ逃げて下さいって言って来たんですか?」

 

 駆逐棲姫が腕を組み、首を傾げながらアンドロメダに尋ねる。

 

 

「いえ、スターシャ猊下は地球人類に直接イスカンダルまで赴いて、惑星の環境を再生させるシステム『コスモリバースシステム』を受け取りに来るようにと、メッセージの中で伝えられておりました」

 

 

「そんな無茶なっ!?そのイスカンダルって星は16万8千光年とかいう、もうわけ分からないくらい遠い場所なんでしょ!?」

 

「確かその当時の地球は惑星間航行がやっとだったと言ってましたよね?それなのにいきなり恒星間、いえ、それ以上の銀河系間の航行ですか。しかも辿り着くだけでなく帰り着く必要がありますから、合計で33万6千光年…。困難にも程という物があるでしょうに…」

 

 アンドロメダの答えに南方棲戦姫は信じられないという顔で、空母棲姫は顔を顰める様にして苦言を呈する。

 

 

「…未知の困難と苦難に乗り越えて辿り着く。それが最低条件の様なものでした。そしてその道のりは、ユリーシャ様が指し示す事となっていました」

 

 

「…何故その様な無理難題に、貴女がいた世界の人類は受ける気になったのですか?」

 

 

 空母棲姫がもっともな質問を投げ掛ける。

 

 

「ガミラスは第二次火星沖海戦前後から、遊星爆弾攻撃の内容に変化を生じさせて来ました。こちらをご覧下さい」

 

 そこに映し出されたのは、遊星爆弾の落下で荒廃した大地に群生する、明らかに地球の植物ではない未知の植物群。それらが大量の胞子を大気中にばら蒔いていた。

 

「ガミラスは遊星爆弾の内部にこの植物の種子を内包させて投射、落下地点を中心に瞬く間に地球各地へと広がりました」

 

「問題はこれらが放つ胞子は地球在来種のありとあらゆる生命体に対して極めて毒性が強く危険で、どのような場所でも育つ事から、徐々に地下をも汚染し始めていました」

 

「その影響で地表近くにありました各地の迎撃ミサイル基地は次々と使用不能となり、宇宙軍港がいくつも放棄され、迎撃網が寸断されたことでさらに落下する遊星爆弾の数が増えるという悪循環の状態へと追い込まれました」

 

 

 村雨型の数隻が隊列を組んで一斉にショックカノンを遊星爆弾に撃ち掛けるシーンが映し出されるが、とてもではないが防ぎきれていない。

 

「出撃可能な残存艦隊もショックカノン搭載艦を中心になって必死の迎撃行動をおこないましたが、数が圧倒的に不足しており焼け石に水…」

 

「しかも時折巡洋艦や宙雷戦隊が辻斬りの様にワープで現れては一撃離脱を繰り返されて、艦隊の被害も拡大する一方…」

 

 時折返り討ちに成功することもありましたが、キルレシオからすれば何の慰みにもならない微々たる戦果ですが…。と自嘲気味に語るアンドロメダに、掛ける言葉が見付からない姫達。

 

 

「科学者の見解ではもって二年。その間に何か打開策が無ければ人類は死滅するという結論が出ていました」

 

 

「地球ではこの頃『イズモ計画』という地球脱出計画が立ち上げられました」

 

「しかし地球人類全てを脱出させるには移民船の建造等の問題が山積みで、一部の人間しか脱出出来ないという重大な問題があり、最悪人選を巡って人類同士が争う内戦状態となり自滅の危険性を孕んでいました」

 

 それはそうだろうと三人は頷く。その根幹には人間不審や人間嫌いの一面があるが…。

 

「ならばまだ全員が助かる可能性が高いイスカンダルからの申し出に賭ける方が心情的にもまだマシという結論になりました」

 

 成る程という反応になるが、同時に更なる疑問が出てくる。

 

「て言うかさ、見も蓋もないこと言うけど、初めからその、え~と…、コスモスシステムだっけ?その機械を直接イスカンダルから地球に持ってきて貰っても良かったんじゃないの?」

 

 南方棲戦姫にはイスカンダルがどうしても信用できないという気持ちが強かった。

 

「はっきり言わせてもらうけど、二年で未知のエンジンこさえてぶっつけ本番で往復させようだなんて、いくらなんでもイスカンダルって星の連中、(たち)が悪すぎるわよ」

 

 イスカンダルに対しての不信感を(あらわ)にしながらそう告げる南方棲戦姫。空母棲姫もそれに同意な様で静かに、だが大きく頷いている。

 

 駆逐棲姫もどちらかと言えば南方棲戦姫と同意見だが、アンドロメダが腕を妙に強張らせて拳を強く握り込んでいることに気付いて疑問に思い、その手を取ろうとした直後に背筋が震える様な悪寒がして「どうして?」という顔になる。

 

 

 今のは、『怒気』だ。

 

 

 対面にいる南方棲戦姫と空母棲姫もその怒気に内心驚くが、戦闘でアンドロメダからの強烈な殺気を浴びせられていたからか耐性があった為に、特に動じなかった。

 

 とはいえ今の怒気、そして一瞬だけだが覗かせていた怒りを滲ませたアンドロメダの表情から、イスカンダルに関しては何かタブーな所があるのだと感じ、口を噤んだ。

 

 

 だが当のアンドロメダ本人は、自身が見せたそれらに気付いていないのか、そのイスカンダルに直接赴かなければならない理由を語り出す。

 

 

 

「…星のエレメント

 

 

 

「コスモリバースシステムによる惑星環境の再生には、星のエレメントと呼ばれる物質が必要なのです」

 

 

 突然出てきた聞き慣れない『星のエレメント』という単語に困惑する三人の姫。

 

 アンドロメダはそれを見越してそのまま星のエレメントについての説明へと移る。

 

 

「惑星には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とされています」

 

「その記憶を解き放つのは星の思いを宿した物質、星のエレメント。そのエレメントがイスカンダルに到達出来なければ、コスモリバースシステムは完成しないのです」

 

 

 つまりそれぞれの星には星独自の記憶や記録を保管した特殊なメモリーバンクが存在し、それにアクセスするためのハードウェアがコスモリバースシステムであり、メモリーバンクから情報を引き出すのに必要なソフトウェアが星のエレメントということである。

 そしてソフトウェアをハードウェアに読み込ませるためにはメーカー、製造元であるイスカンダルでしか出来ないという訳である。と付け加えて説明する。

 

 

 だが、そう説明されても、あまりのスケールに理解が追い付かない。これではもはや科学というよりも────

 

 

「…もはや科学というよりは、魔法の領域ですね」

 

 

 空母棲姫の感想に、アンドロメダも率直に同意する。

 

「SF作家、アーサー・C・クラーク氏の『高度に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』という言葉が示しました様に、イスカンダルは既にその領域まで辿り着いていたということです」

 

 

 想像を絶するイスカンダルの科学技術に、畏怖の念が芽生える三人。

 

 

「…それで、貴女がこうして今私達の目の前にいるということは、タイムリミットの二年の間になんとかエンジンが完成して、それを載せた(ふね)が頑張ってイスカンダルまで行って帰って地球は救われて、その救われた地球で貴女は生まれた訳ね?」

 

 

 驚きの連続で思考が半ばパンクしていたが、驚き過ぎたのとさっきアンドロメダに浴びせられた怒気により、逆に思考が冷静になった南方棲戦姫がそう問い掛けた。

 

 よくよく考えてみればそうだ。タイムリミットは2198年の時点で残り二年。だがアンドロメダが完成したのは2202年だと本人が言っていた。

 

 

 つまり『人類は賭けに勝ち、滅亡の危機は回避された』という事を、アンドロメダは既にばらしていた。

 

 

 それに気付いたアンドロメダは「あっ!?」という表情になる。

 

 

 これから人類滅亡の危機を救ったヤマトさん(愛するお母様による八面六臂の大活躍)その大冒険に纏わる英雄譚(それを讃え崇め奉る美化率120%の愛の叙事詩)を披露するまたとない絶好の機会だったというのに、自身の思わぬポカミスで()()にしてしまったとショックを受けてしまい、項垂れそのまま崩れ落ちる様に倒れてしまう。

 

 

「お、お姉さん、大丈夫ですか!?お気を確かに!!お姉さん!?」

 

 

 突然倒れたアンドロメダに吃驚仰天した駆逐棲姫があわてて助け起こす。

 

 

 南方棲戦姫は「私、変なこと言った?」と困惑した顔で空母棲姫と顔を見合わせる。

 

 

 駆逐棲姫に介抱されながら、アンドロメダは朦朧とする意識の中で少しだけ安堵した。

 

 

 ()()()をしなくてすんだと…。

 

 

 先生が語られた、今でも信じたくない───

 

 

 

 メ号作戦の裏側に潜んでいた人類の醜聞。

 

 

 

 

 

 

 メ号作戦に参加するはずだった他の管区空間戦闘群の不参加。

 

 

 海外イズモ計画派勢力の暗躍。

 

 

 

 

 ヤマト計画人員のメ号作戦への引き抜き。

 

 

 

 作戦の裏に隠された悪辣な真実とは?

 

 

 

 

 波動コア奪取計画。

 

 

 

 そして─────もっとも信じたくない───

 

 

 

 沖田十三暗殺計画。

 

 

 

    ────────────

 

 

 

「ヤマト計画にせよイズモ計画にせよ、どっちも日本が主導してたんだ。海外の人間サマの中にはそれが面白くないっていう、オツムが相当オメデタイ連中がいたわけさ」

 

 

 半ば吐き捨てるかの様にして語るキリシマ。その瞳は憤怒の色に染まり、そして普段以上にどろりと濁っていたとアンドロメダは後に回想する。

 

 

「そういう連中に限って権力者だの権力に近い奴だのが多いっていうのが世の常」

 

 

「更に連中にとって面白く無いのが、第二次火星沖海戦の『勝利』さ」

 

 自嘲気味に語るキリシマ。

 

 勝利を謳っているものの、実際はどんなに頑張って取り繕っても戦術的な勝利でしかなく、戦略的には敗北していたのだから…。

 

 彼女は、キリシマは誰よりもそれをよく理解していた…。

 

 

「連中、自分達でさんざんっぱら祭り上げた『英雄サマ』の沖田さんが、今度は怖くなったのさ。いずれ沖田さんが自分達の権力の牙城を脅かす『敵』になるんじゃないかってね」

 

 

 皮肉たっぷりに語るキリシマに対してアンドロメダは信じられない、信じたくないという顔になる。

 

 それを見てフッと微笑むキリシマだが、目は全く笑っていなかった。

 

 

「信じたくないって顔だね、若いの。私だって信じたくないさっ!!

 

 

 叫ぶと同時に、爪が食い込みかねないくらいに握り込んだ右手を車椅子のひじ掛けに思い切り、力任せに叩き付けたキリシマ。

 

 キリシマの激昂に、アンドロメダは思わずビクッと体を震わせる。

 

 その後キリシマは人間の自分勝手さに対する怨嗟と、沖田艦長に対する悲しみ、何も出来ない自身への無力感と苛立ち、そして絶望が入り雑じった思いを、血を吐くような勢いで語った。

 

 

 普段泰然自若な様な態度でいるキリシマが、ここまで感情を(あらわ)にした事に対してアンドロメダは驚きつつも、それをただただ黙って聞いていた。

 

 

 

 それから暫くして、メ号作戦の話へと移った。

 

 

「本当なら、北米管区とEU管区、それに中東管区の残存艦も来るはずだったんだ」

 

 

「それは私も聞いていました。ですが北米管区最後の宇宙軍港でありましたアパラチア基地は、惑星間弾道弾攻撃の影響で脆くなっていた宇宙軍港のゲートに遊星爆弾が()()()()出撃前日()()にも直撃して壊滅」

 

「EU管区も第二次火星沖海戦以降、残存艦が集結していたアルプス宇宙軍港が惑星間弾道弾攻撃による被害の復旧が困難を極めて間に合わなかった」

 

「中東管区はそもそも冥王星まで到達出来るだけの状態を維持した(ふね)が無かったと聞いていますが…」

 

 

 これは公表されている公式記録でもある。

 

 

 だがキリシマはアンドロメダのその答えに首を横に振って否定する。

 

 

「中東管区はそうだけどね、北米管区は時系列が違い、EU管区は東アルプス宇宙軍港はそうだが、西アルプス宇宙軍港はまだ機能していたのさ」

 

 

「戦力的に不十分な日本艦隊だけで冥王星に突っ込ませて全滅してくれれば一番。艦隊乗員の中にはヤマト計画の人員もいたからね」

 

 

「そして一番の狙いでもある沖田艦長。権力者サマにとっては『生きた英雄』よりも『死んだ英雄』、『悲劇の英雄』の方が何かと都合が良いからね」

 

「第二次の英雄サマを死なせた日本。そう喧伝して日本の国際的地位を貶めて尚且つ『ヤマト計画』の主導権をカッ拐っちまおうって救い様がない馬鹿な事を考え付いた連中が居たわけさ」

 

「で、なんとか復旧したということになっている北米管区かEU管区、あるいはなんとか火星までは行ける中東管区の(ふね)が危険を顧みず火星へと向かい、波動コアを()()()に奪っちまう」

 

「それが連中の目論見だったんだけど、予想外は起きるものさ」

 

 

 

「アメリカ艦隊で偶然その目論見が露見してね。怒った下士官兵士達が叛乱を起こしたのよ。時期は私達日本艦隊が地球を出た後」

 

 

「そして私達を追って作戦に参加すべく急いで出撃しようとゲートを開いている矢先に、遊星爆弾が直撃した」

 

「西アルプス宇宙軍港は、惑星間弾道弾の攻撃で地盤が脆くなっていたところに遊星爆弾の衝撃で山体崩壊が起きて生き埋めさ」

 

 

 そこでアンドロメダはふと疑問に思う。「一体どうやって知り得たのか?」と。

 

 

 アンドロメダの疑問を察したキリシマが答える。

 

 

「コロラドとシェフィールドよ。今は練習艦をやっている」

 

「…コロラドは、昔は気が強くて高飛車だけど明るい娘だったんだけどねぇ、あの一件以来影を潜めてしまったよ。日本に寄港した時に、ことの顛末をわんわん泣きながら懺悔されたわ」

 

「シェフィールドもずっと罪悪感を引き摺ったままさ」

 

 

「コロラドが言うにはアパラチア基地にはアメリカ版のヤマト、確か『エンタープライズ』だったかしら?それが完成間際だったそうよ。結局日の目を見る事も無くスクラップになっちまったけど」

 

 何とも言えない表情で語るキリシマ。もしかしたらヤマトだってそうなっていたかもしれなかったが故に、「これも運命のイタズラってヤツかねぇ…?」と打ち捨てられ、寂れた地下ドックの天井を見上げながらそう力無く呟くと、視線をアンドロメダへと戻した。

 

「そしてEUはヤマトに自分達の息の掛かった人員を送り込み、最終的には乗っ取る気でいた」

 

 

「連中は、海外のイズモ計画派はそれに乗って地球からのおさらばを狙っていたのさ。自分達の子飼や取り巻きの子分共だけを連れてね」

 

 

 

 顔が青ざめ、立っているのがやっとなアンドロメダに、キリシマは再び微笑む。

 

 

 

「信じるか信じないかは、若いの、あんたの心次第さね」

 

 

 そう言われても、反応に困り果ててしまうアンドロメダ。

 

 少なくともキリシマは冗談は言っても、嘘を言うヒトではない。それに嘘だとしたらあまりにも(たち)が悪すぎる。

 

 だがそれでも信じたくない気持ちは少なからずあり、心の中で激しく葛藤するアンドロメダ。

 

 

「最後に、口直しにこの話をしとこうか」

 

 

 

「ロシア軍事宇宙艦隊の文字通り最後の(ふね)が、実は参加していたんだよ。巡洋艦『スラヴァ』と駆逐艦『メチェーリ』さ」

 

「第二次の時に私のいた第一部隊にいてね、まあなんだかんだあって恩義を感じていたらしくてね」

 

「モスクワの統制が弱くなっていて極東のウラジオストク宇宙軍港が半ば忘れ去られてね、まあ国連統合軍の上の連中も忘れてたんだけどね」

 

「問い合わせしても返事が無いからと独自の判断で出撃したんだけど、整備が充分じゃなかってね。海戦には間に合わなかったんだけど、私が撤退している最中に合流してね、その後私を追い掛けて来たガミラスの駆逐艦二隻を見付けると、私に「火星で受けた借りを返す」と信号を打ちながら、突撃して刺し違えたわ」

 

「特に『メチェーリ』は凄まじかった…」

 

 

「だけど彼等は実質軍の指揮系統を逸脱した、いわば軍規違反の脱走兵だから公式記録には残されなかった」

 

「だから日本は戦後の護衛艦建造競争でロシアに譲って、少しでも恩義を返したかったのよ。彼等がいなければ、私も『ユキカゼ』の後を追っていただろうからね…」

 

 

 図らずもたった二隻の残存ロシア艦が、海外イズモ計画派の暗躍に対してトドメを刺した形となっていた。

 

 『キリシマ』が無事な以上、下手に波動コアを横から奪う真似が出来なくなったのだから。

 

 

 だがそれが戦後、ロシアが属するユーラシア管区の戦後復興等に関する露骨な冷遇へと繋がってしまう。

 

 イズモ計画派の権力機構に張られた根は深く、あちこちに張り巡らされていた。下手に一掃すれば、地球全土が混乱する程に…。

 

 無論、彼等も戦後の権力闘争で次第に分裂していくが、それでもロシアへの恨みは忘れなかった様だ。

 

 モスクワから言わせてみれば()()()()()にも程がある八つ当たりであった。

 

 

 そしてそれらが、軍規違反を盾に二隻のロシア艦の歴史からの抹消へと繋がってしまった。

 

 

 だがこれに激怒した人間がいた。

 

 

 なんとイズモ計画推進の中心人物だった芹沢虎鉄である。

 

 彼は海外イズモ計画派に対して思うところがあったという噂がある。

 

 

 そして彼が護衛艦建造競争にて色々と裏で手を回していたと言われている。

 

 

 それがイズモ計画を推進していた者としての、彼なりの贖罪だったのかもしれないが、真実は本人にしか分からない…。

 

 

 





 う~ん、なんだか思ってたよりも違う出来だな…。
 最近仕事の帰りが遅くて思考がなかなか纏まらないのも原因かな?

 海外イズモ計画派の暗躍やらなにやらは私個人の妄想の産物です。ただいつの時代も腐った人間はいてもおかしくないと思ったのと、これらやらかしが結果としてヤマト発進の際のエネルギー供給に繋がったのではないか?と妄想しておりました。いわゆる罪滅ぼし的な裏側があったとか。
 でも流石にちょっと話的にひどいかな?

 個人的に芹沢虎鉄さんはわりと好きなキャラです。『常に最悪に備えなければならない』というモットーには共感できる部分があります。ちょっと空回りしていますが、逆にそれが人間味を与えている様に思えて好感があります(笑)

 それと、原作本編でのヤマトの活躍を語るのは削ろうかと思います。よくよく考えると、趣旨であるアンドロメダ建造経緯から逸脱しますし…。


アンドロメダが見せた怒りについて(半分ネタバレ?)

 アンドロメダの前級、Dクラス前衛航宙艦は建造に際してガミラス軍の超弩級戦艦、ガイデロール級航宙戦艦の設計が基礎とし、そこにヤマトのデータを盛り込まれた地球とガミラスとの合の子である。つまりガミラスのDNAが入っており、Dクラスの発展型であるアンドロメダ級にもガミラスのDNAが入っているわけである。
 アンドロメダが愛し、新生地球艦隊尊崇の対象であるヤマトはイスカンダルの技術供与とその波動エンジンのコアにはイスカンダルの純正波動コアが使用されており、イスカンダルのDNAが色濃い。

 そして2205で明かされたイスカンダルとガミラスの秘密…。

 これが今後どの様な影響を与えるか、それはまだ誰にも分からない。


 次回、下手すると一気に2202まで飛ぶかも…。というかいい加減本編進めなきゃいけない気がしてきましたし…。深海棲艦側の情報…。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

 後多分ちょこちょこ加筆修正するかと思います。


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第16話 Negotiation and Information disclosure.AAA-7

 交渉と情報開示。そしてアンドロメダの苦悩。


 一気に2199本編を終わらせるぞー!!てなわけで巻いて行きます!


 愛するお母様の素晴らしき神話の如きご活躍の数々を朗々と語る折角の機会を、自らのミスで()()にしたことで精神的ダメージを受けて塞ぎ込んでしまったアンドロメダ。

 

 結果が分かりきってしまっている話を語っても、つまらないだけだ。

 

 

 とはいえおおよその概略程度は説明しておかなければ話が()()()()()()かもしれないからと、泣く泣く要点だけ掻い摘んで語ることとした。

 

 

 イスカンダルからの二人目の使者、第二皇女サーシャ・イスカンダル様が自らの命と引き換えに地球にもたらしてくれた波動エンジン最後のピース、『波動コア』。

 

 サーシャ様の太陽系進入を支援するために冥王星へと出撃して行った、地球軍最後の宇宙艦隊、第一連合艦隊。

 

 先生から聞いた裏の話は全て伏せた。

 

 

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だとされていた事だけは、話した。

 

 

 そして────

 

 

 

 

「古代、儂に続け!」

 

 

「沖田さん、僕は逃げません。『ユキカゼ』は戦線に(とど)まり、『キリシマ』撤退を援護します」

 

 

「多くの犠牲を払ったが、作戦は成功した。ここは退()くんだ!」

 

 

「それがどのような作戦か、問いはしません」

 

「ですが沖田さん、どうか見逃して下さい。僕は断固として戦います。その為に自分は、みんなはここにいるんです」

 

 

「古代…。戦場に巣食う死に魅入られるな」

 

「明日のために、今日の屈辱に耐えるんだ!それが男だ!生きていればこそ、まだ明日に希望は!」

 

 

「だからこそ本艦は戦線に(とど)まり、『キリシマ』の撤退を援護します。このままでは地球艦隊は全滅です。それでは地球を守る者がいなくなってしまいます」

 

「沖田さん、貴方はこんな戦場(ところ)で死んではいけない人だ!地球は、貴方を必要としているんです!」

 

 

「古代、それはお前も同じだ。同じなのだぞ!古代!!」

 

 

「ありがとうございます。散っていった戦友達への手向けとして、その言葉は自分が預かって参ります」

 

 

「古代、頼むっ!分かってくれ!!」

 

 

「お元気で。地球の事を、頼みます」

 

 

 メ号作戦終盤になされた二人の男達の掛け合い。この後流れてくる『ユキカゼ』乗員達による『銀河航路』の合唱。よく聞けば、『ユキカゼ』艦長古代守が乗員へと謝罪する言葉も歌声に混じって聞こえ、その後に古代守も合唱へと加わる。

 

 これから死地へと赴くというのに、その歌声には一切の悲観、悲壮、絶望が感じられなかった。

 

 

 それが余計に聞く者の胸を締め付ける。

 

 

「長官っ!」

 

 

 思えば山南艦長はこの日の事をずっと気にしていた(ふし)があったと、キリシマさん(先生)は漏らしていた。

 

 助けに行きたくとも助けに行けない。その気持ちが(しこ)りとなっていたからこそ、あの日、あの時火星戦線での『ヤマト』救出の即断に繋がったのだと、アンドロメダは硬く信じている。

 

 

「山南君。針路そのままだ…」

 

 

 平坦な声で告げる沖田司令。一拍おいて「針路そのまま!」と告げる山南艦長。だが二人とも本心を圧し殺し、無理に絞り出した声であることは明らかであった。

 

 

 ひときわ大きなノイズが響き渡る。『ユキカゼ』が被弾した際に艦内を駆け巡った爆発音を無線が拾ったのだ。

 

 

 ここで再生されていた音声データが終了した。

 

 

 誰も一言も発しない。

 

 

 あまりにも壮絶。あまりにも悲惨な地球艦隊の最期。

 

 

 思うところが無い訳ではない。だが批判は出来なかった。

 

 批判する()()ならば簡単だ。しかし他に方法があるか?と問われたら、返す答えが思い浮かばない。

 

 

 ユリーシャ様曰く、艦隊が動いたことによってガミラス軍の警戒網に隙が生じたからこそ、太陽系に進入出来た。と語られたという記録があり、陽動作戦を行わないという選択肢は初めから無かったとアンドロメダは語った。

 

 別方面で陽動作戦を行おうにも、第二次以降はガミラス軍も真面に艦隊を動かして来なくなっていたために、乗ってこない可能性が高かったという。

 

 どう足掻いても、地球艦隊は冥王星へと向かうしか無かった。

 

 

 何故陽動が秘匿されたか?

 

 

 ガミラス戦役を通して蓄積されていた、()()()()()()()()()()()()()()による不測の事態に対する恐怖が原因である。

 

 サボタージュならばまだマシだ。だが叛乱やテロが発生したら目も当てられない。

 

 事実、テロが疑われる事件にユリーシャ様が巻き込まれ、以後地球を発ちイスカンダル星があるサレザー恒星系に到達するまでの間、かなりの不自由をユリーシャ様に強いる事となった苦い事態があった。*1

 

 万が一、艦隊乗員が異星人に対する反感や不信感、或いは憎しみなどの拒絶反応によって、予想される最悪の事態が発生してしまったら、それは即、人類の滅亡へと繋がる。

 

 人類存亡の瀬戸際に何を馬鹿な?と思うかもしれないが、人間は感情の生き物だ。

 

 後々振り替えれば、なんと愚かなとしか言い様の無い行動に感情を優先した結果、実行してしまうという事例は人類の歴史を紐解けば枚挙に(いとま)がない。

 

 司令部はそれを恐れ、作戦の真意を秘匿した。

 

 

 ここまで言われたら、何も言い返せない。何よりそれを語るアンドロメダ自身が一番辛い顔をしているのだから。

 

 この時()()()()を務めた『ユキカゼ』艦長古代守の英断と『ユキカゼ』乗員達の犠牲が、結果として地球を、人類を救う大きな切っ掛けとなったのだが、アンドロメダは自身の存在がユキカゼと乗員二十三名の名誉を傷付けていると言う罪の意識があり、彼らに対して申し訳ないという気持ちから、話すのに少なからず抵抗があった。

 

 

「…ノイズに混じって二人の女性の声が僅かに聞こえましたが」

 

 

「私にも聞こえたわ。何かを託したかのような感じだったけど…」

 

 

「うん。それに『やまと』って言葉も聞こえたよ」

 

 

 アンドロメダはあの二人の声が聞き取れたの?と驚いた。

 

 

「ユキカゼさんが先生…、キリシマさんに地球と、地球で待つヤマトさんの事を託されました…」

 

宇宙戦艦『ヤマト』…、イズモ計画の代わりに推進されましたヤマト計画の根幹を成す恒星間航行用超弩級宇宙戦艦、BBY-01『ヤマト』

 

「人類最後の希望を、ユキカゼさんはキリシマさんに託されました」

 

 

 このやり取りは人間の耳にはノイズにしか聞き取れない。聞き取れるのは自身と同じ(ふね)の魂と呼べる存在だけだ。

 

 それが聞き取れたと言うことは、彼女達深海棲艦も私と近しい存在なのだという実感がしたが、今は取り敢えず置いておくこととした。

 

 

 この後『キリシマ』は火星でサーシャ様から波動コアを受け取った要員二名を回収した後、地球へと帰投した。

 

 残念ながらサーシャ様は、搭乗していた宇宙艇の事故が原因で亡くなられ、火星の大地に埋葬されたという…。

 

 それを語るアンドロメダの表情はとても悲しそうだった。

 

 

 そして『キリシマ』が帰還した地球では、初めてイスカンダルという星の存在とイスカンダルからの申し出を受けたヤマト計画の全容が全世界に向けて公表され、その際に女王スターシャ猊下からのメッセージも公開された。

 

 

「私はイスカンダルのスターシャ。あなた方の地球は今まさに、ガミラスの手で滅亡の淵に立たされています」

 

「私はそれを知り一年前、妹のユリーシャに次元波動エンジンの設計図を託して地球へ送り出しました」

 

「あなた方がもし、それを理解し完成させていたならば、イスカンダルへと来るのです。私達の星には、汚染を浄化し惑星を再生させることが出来るシステムがあります」

 

「残念ながら、私がこれを地球へと届けることはもう出来ません」

 

「今回新たに次元波動エンジンの起動ユニットである波動コアをもう一人の、妹サーシャの手であなた方に届けます」

 

「私はあなた達が未知の苦難を克服し、このイスカンダルへと来ることを信じています。私は、イスカンダルのスターシャ…」

 

 

 

 この時アンドロメダは映像に映るスターシャの姿に対してずっと片膝を床に付けての跪いた姿勢だった。

 

 そして映像が終わった直後───

 

イスカンダル猊下…(ルード・イスカンダル…)

 

───小さくそう呟いていた。

 

 その態度は明らかに()()()()()()()()()()()()()()()()()であり、三人は違和感を覚えた。

 

 

 だがその後の『ヤマト』の公表から続く怒涛の連続により、何時しか忘れ去られた。

 

 

 

『ヤマト出港のため全世界からのエネルギー支援』

 

 

『惑星間弾道弾迎撃と『キリシマ』の奮闘、そして見送り』

 

 

『人類史上初のワープ』

 

 

『木星、ガミラス浮遊大陸での波動砲試射

 

 

『冥王星基地攻略作戦、通称『メ2号作戦』の成功』

 

 

 

────と太陽系を出るまでの間だけでも次から次へととても目まぐるしかった。

 

 

 『ヤマト』自体がかつての式典で復元されて沈められた戦艦大和の遺物に偽装される形で建造された*2という普通なら無茶なというべきなことも、その後のことに比べたら些事でしかない。

 

 

 冥王星でのガミラスによる()()()()()()()()()()()()()反射衛星砲に驚かされていたが、それ以上に木星での出来事が一番衝撃が大きかった様だ。

 

 先に『アンドロメダ』による小惑星帯での試射の映像を見ていたとはいえ、まさか大陸が()()()()()消滅するとは思いもしなかった。

 

 

 この後波動砲の原理『波動エンジン内部で開放された余剰次元を射線上に展開。超重力で形成されたマイクロブラックホールが瞬時にホーキング輻射を放つ兵器である』と説明したが、おそらく頭に入ってはいなさそうである。

 

 

 それほどまでに木星での出来事はあまりにも衝撃が過ぎた。

 

 

 だがここでアンドロメダは更なる衝撃を与えるかもしれない発言をする。

 

 

 ずっと気にしていた、自身が(いか)りと憎しみの『魔』に呑まれて南方棲戦姫に波動砲を撃とうとしたことを。

 

 

 そしてそれが不調のエンジンの暴走を引き起こし、暴発によって広範囲に及ぶ大爆発、或いは局所的ブラックホールを発生させ周辺に展開していた深海棲艦全てを巻き込んで消滅させかけていた事を素直に告げ、謝罪した。

 

 

 駆逐棲姫は先に聞いていたが、南方棲戦姫と空母棲姫にとっては初耳の事態だ。

 

 

 あの時、死を本当に意識したが、まさかこれ程の大事(おおごと)な事態が起きていたとは予想外に過ぎた。

 

 

 だがそれだけだ。

 

 

 二人はアンドロメダが(いか)りに呑まれていたことを察していた。

 

 

 そして防御を貫く為に最大火力を叩き込むという判断その物は間違っていないとアンドロメダに語った。しかし───

 

 

「でもね、だからと言って自滅するような真似は駄目よ」

 

 その南方棲戦姫の一言に頷く空母棲姫と駆逐棲姫。

 

 特に駆逐棲姫は三人の中で最もアンドロメダとの付き合いが長い分、情も深く別離は嫌だという気持ちが最も強く、アンドロメダの背中に抱き付いて顔を押し付けていた。

 

 アンドロメダはそんな駆逐棲姫への申し訳無い気持ちで意気消沈するが、南方棲戦姫はここで敢えてそれを無視して発言する。

 

 

「貴女が何故あそこまで怒りを(あらわ)にしたのか、理由が何なのか、私達はそれが知りたい」

 

 

 その要求、いや要望にアンドロメダは一瞬考える素振りを見せてから答える。

 

 

「…分かりました。ですが今話していることもその事に関わりがありますので、これから更に巻きで進めます」

 

 

 太陽系を出て、ひょんな事から実現したガミラス人との初接触。

 

 ガミラス帝国国防軍銀河方面第707(ナナマルナナ)航空団所属メルダ・ディッツ少尉。

 

 青い肌を持つ純血ガミラス人──それも女性──の姿に驚く三人。

 

 

 『ヤマト』を撃沈寸前まで追い詰めた、宇宙の狼との異名を持つ、ガミラス軍最強と言っても過言ではないエルク・ドメル上級大将率いる第6空間機甲師団──通称、ドメル軍団──との激闘、『カレル163沖海戦』。

 

 圧倒的火力と防御力を誇る『ヤマト』を持ってしても、それを圧倒してくるドメル軍団の練度と組織力。何よりも彼らを指揮をするドメル司令の統率力には舌を巻かされる。

 

 だが突然の転進で『ヤマト』は九死に一生を得る。

 

 

 航海の遅れを挽回すべく、長距離空間跳躍システム『亜空間ゲート』のあるバラン星への殴り込み。そしてその宙域で行われていたガミラス軍基幹艦隊総数一万隻が集う観艦式への大胆不敵な中央突破作戦。

 

 『死中に活あり』を標榜する沖田艦長ならではの『沖田戦法』。

 

 

 大マゼラン銀河へと到達した『ヤマト』。

 

 

 宿敵ドメルとの決着、『七色星団海戦』での死闘。

 

 

 ドメル司令率いる空母艦隊による苛烈極まる猛攻。

 

 艦載機をヤマト近辺にワープさせるというガミラスの最新鋭兵器『瞬間物質移送器』の脅威!

 

 ついには『ヤマト』最大の武器である波動砲も使用不能となり窮地に立たされる!

 

 

 だが、『ヤマト』はその猛攻を耐えきった。

 

 

 さらには一瞬の隙を突いて、戦況を覆した。

 

 

 最後はドメル司令の乗艦、ガミラス最強クラスの超弩級戦艦『ドメラーズⅢ世』との一騎討ちとも言える砲撃戦をも征した『ヤマト』。 

 

 

 そして────

 

 

「私はガミラス銀河方面作戦司令長官、エルク・ドメル」

 

 

 海戦の終盤に行われていた二人の智将同士による通信越しによる会話は、映像として残されていた。

 

 映像に映る、智将エルク・ドメルの姿を初めて見た三人の感想は「若い」だった。上級大将という高位の軍人にしては、あまりにも若い容姿にそう感じたが、アンドロメダから「地球人換算で38歳です」と言われ、本当に若かったと驚く。

 

 

「この様な形で残念ですが、やっと、お会いできましたな」

 

 

 そう語りながら微笑みかけるドメル司令。先ほどまでの血で血を洗うかのような死闘が無ければ、まるで長年の友人に向けるかの様な穏やかな笑みに三人の姫は驚かされる。

 

 

「私が本艦の艦長、沖田十三だ。それは私も同じ思いです」

 

「沖田艦長。貴方の見事な采配に心から敬意を表する」

 

 

 その言葉に嘘偽りがあるようには思えない。心からの称賛であると感じ取れた。

 

 対する沖田艦長もまるで友人に語りかけるような穏やかな口振りで、軍人とは思えないことを言う。

 

 

「ドメル司令、既に勝敗は決した。私は無用な争いは望まない。このまま我々を行かせてくれまいか?」

 

 

 それは、とても勝者とは思えない、真摯な態度だった。 

 

 沖田艦長の器の大きさが現れていた。

 

 

 暫し流れる沈黙。

 

 

「……それは出来ない。貴方も軍人ならそれは分かるはずだ。ここで『ヤマト』を見逃せば、共に戦った部下達は無駄死にだったことになる」

 

 

「沖田艦長。軍人として、いや一人の男として最後に貴方の様な男と戦えたことを、心から誇りに思う。君達地球人(テロン人)と我がガミラスに、栄光と祝福あれ!」

 

 

 直後、ドメル司令は『ヤマト』を道連れにすべく自爆を敢行するが、『ヤマト』は健在だった。

 

 

 何故自爆という方法を選択してまで、『ヤマト』を葬ろうとしたのか?

 

 

 その理由は再び(おもて)へと姿を現したユリーシャ様によって明かされた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったという衝撃の事実。

 

 

 そう。『ヤマト』がイスカンダルへと向かうということは、ガミラスにとっても自身のテリトリーを侵されるという行為に他ならない。

 

 

 しかも『ヤマト』には大量破壊兵器と言える『波動砲』が装備されている。

 

 

 大陸をも一撃で消し飛ばせるこの兵器がもし、イスカンダルへと行く()()()()自分達の星へと向けられたら?

 

 

 現在、地球とガミラスは戦争状態である。

 

 

 そしてどんな理由であれ、地球を赤く焼け爛れた醜い星へと変えたのは、ガミラスだ。

 

 

 報復しようとする理由には十分すぎる。

 

 

 『ヤマト』にとって波動砲は降りかかる火の粉を払うための、自衛のための手段であったが、そんな都合はガミラスには預かり知らないし、同じ人間である以上、善意という不確かなものに期待するということは、職業軍人であるドメル司令には出来なかった。

 

 

 それ故に、自身の命を擲った。

 

 

 だが、彼が守ろうとしたガミラス本星にはある狂気が渦巻いていた。

 

 

 

 首都『バレラス』とそこに住まう数多のガミラス臣民共々『ヤマト』を葬り去ろうとした総統、アベルト・デスラーの狂気。

 

 

 だがそれも『ヤマト』の活躍と、軌道上に浮かぶ空間機動要塞都市『第2バレラス』の崩壊、それに巻き込まれた狂気の独裁者、デスラー総統の死により未然に防がれた。

 

 

 デスラー独裁体制の崩壊…。

 

 

 ガミラスは副総統レドフ・ヒスの主導のもと民主化へと舵を切り、謀らずも助けられたことで『ヤマト』、そして地球への蟠りが薄れることとなる。

 

 

 

 そして、2199年7月16日、『ヤマト』は遂に約束の地、イスカンダルへと到達

 

 

 だが、波動エネルギーを兵器に転用してはならないというイスカンダル最大の禁忌を、知らなかったとはいえ犯してしまっていた地球に不信感を(あらわ)にするスターシャ猊下。

 

 

 

 スターシャ猊下から告げられた、メ号作戦で戦死したと思われていた『ユキカゼ』乗員の一部と古代守が、実は生きてガミラスの捕虜となり、護送中の事故でイスカンダルへと流れ着いていたことと、その時の負傷がもとで、イスカンダルの地で亡くなったこと────。

 

 

 そして古代守が死の直前に遺したメッセージ。

 

 

「私は国連宇宙軍所属、駆逐艦『ユキカゼ』艦長古代守だ」

 

「私はガミラスの捕虜となり、実験サンプルとして護送される途中、難破した所をイスカンダルの女性に助けられた」

 

「そして、地球の(ふね)がここに向かっていることを彼女から聞いた。このメッセージが届いているということは、君達は無事に辿り着いたということだろう」

 

「出来ることなら、俺も君達の(ふね)で一緒に地球に帰りたい」

 

「だが、それまで俺の体は持ちそうに無い」

 

「最後に、言い残して置きたいことは二つ」

 

「一つは、俺達は異星人とだって理解しあえるということだ。俺はそれをこの星に来て教えられた。それは忘れないで欲しい」

 

「そしてもう一つは、弟の進に伝えて欲しい」

 

「進、俺の分まで生きてくれ!生きて必ず、青い姿を取り戻した地球を瞳に焼き付けてくれ!」

 

「貴艦の航海の安全を祈る。どうか地球へ、無事な帰還を!」

 

 

 イスカンダルからのコスモリバースシステムの譲渡。

 

 

 スターシャ猊下から明かされた、かつてのイスカンダルの愚行。波動エネルギー兵器による大量虐殺の歴史。

 

 

 その歴史を繰り返さないという願いも込めて、コスモリバースシステム譲渡の条件として行われた波動砲の封印と、交わされた約束───

 

地球・イスカンダル和親条約

 

 

 コスモリバースシステムを受け取り、帰路を急ぐ『ヤマト』の前に立ち塞がった、死んだと思われていたデスラーを何とか返り討ちにした。

 

 

 

 そして─────

 

 

 

「地球か、何もかも、みな懐かしい…」

 

 

 

 

 西暦2199年12月8日、『宇宙戦艦『ヤマト』地球に帰還

 

 

 

 再び青さを取り戻す地球。

 

 

 

 それに目を奪われる三人を尻目に、アンドロメダは密かに涙を流していた。

 

「お父様…」

 

 その日、アンドロメダが父と慕う沖田艦長は、地球を眺めながらその58年の生涯を閉じ、永遠の眠りに付いていた。*3

 

「お父様…、せめて一目でも…、アンドロメダはお父様に…、お会いしとう御座いました……」

 

 啜り泣きながら小さく呟かれたその言葉を、駆逐棲姫は聞き取っていた。

 

 

 沖田という人間が、アンドロメダにとって如何に大きな存在であるかを、アンドロメダの言葉と態度から実感した。

 

 人間が大嫌いと広言している駆逐棲姫であるが、沖田という人間は嫌いになれそうに無いと思ったし、自分は沖田という人間の代わりにはなれないとも思った。

 

 アンドロメダにとって大切な存在でありたい。彼女の心の支えになりたいと、駆逐棲姫は考えるようになっていた。だが一番にはなれそうには無かった。

 

 でも、一番で無くても良い。私はお姉さんの頼れるお姉ちゃんとして頑張ろうと前向きに考えた。

 

 

 

 ここで暫し休憩となる。

 

 

 

 南方棲戦姫は新たに出されたコーヒーを、今度は砂糖とミルクをたっぷりと入れて一口啜る。

 

 程好い甘さが染み渡る。

 

 

 ほうっと一息吐くと、頭の中を整理する。

 

 

 

 英雄譚と言ってもいい、『ヤマト』の活躍。

 

 

 しかもあまりにも違い過ぎる戦争のスケール。

 

 

 それに終始圧倒されっぱなしで頭の処理が追い付かず、この休憩は大いに有り難かった。

 

 

 だが落ち着いてくると、ある矛盾に気付く。

 

 

 『波動砲の使用を禁じたはずの地球・イスカンダル和親条約

 

 

 だが、アンドロメダには波動砲が──それも改良型か新型が──装備されている。

 

 何よりも彼女は言った。『太陽系内に侵攻してきた敵性星間勢力の大艦隊を地球艦隊が装備する最大火力、波動砲の統制射撃によって殲滅する』防衛作戦戦略『波動砲艦隊構想』に基づき私は造られた。と。

 

 しかも艦隊ということは、彼女と同じ様な存在がまだ複数いるというわけだ。

 

 

 地球は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということで間違いないだろう。

 

 

 それに関してどうこう言うつもりはない。…多少、彼女の世界の地球人類に対して不快感が有るが、それを彼女に言っても仕方がないし、それは彼女という存在に対する否定にしかならない。

 

 彼女を傷付ける様な事は言いたくない。彼女とは末長く良いお付き合いを続けたいと思っている。

 

 

 それにこの後その事についても話すだろうから、こちらから切り出す物でもないだろう。

 

 そう頭の中で一応の結論を出した時、横にいた空母棲姫が主計科の妖精に礼を言いながらカップを返すと、心配そうな顔で南方棲戦姫の顔を見やると────

 

「大丈夫でしょうか?彼女、さっき少し顔色が…」

 

 そう囁かれ、南方棲戦姫はスッと視線をアンドロメダがいる方向へと向ける。

 

 

 今彼女は「すみません…。少し気分が…」と言って、少し前から艤装のエンジンユニット部分に駆逐棲姫と共にいるのだが───

 

 

 

ゲボッ!

 

 

 

 突然自身の胸を押さえて苦しみだし、片手を艤装の甲板に付く様にして踞ったかと思うと、嘔吐したのを見て、驚いてカップを落としそうになった。

 

 

 駆逐棲姫が慌ててアンドロメダの(そば)にしゃがみ込み、声を掛けながら彼女の背中をさすりだした。

 

 

 自身の主人(アンドロメダ)の異変を察知したアナライザーと妖精達もあわてて艤装から出て来ては、アンドロメダに駆け寄っていく。

 

 

 南方棲戦姫と空母棲姫は突然の事態に一瞬固まってしまったが、妖精達の邪魔にならない様に注意しながら二人はアンドロメダの(もと)へと向かった────。

 

 

 

 

*1
出典、国連、地球連邦政府公式文章(大本営発表)

*2
アンドロメダ曰く、資源払底による影響で建造の際に貴重な資源としても再利用されたとの記録がある。

*3
余談だが、その日は沖田艦長の誕生日でもあった。






 巻きで話を進めた事で、色々と内容が抜けてしまっていることを気にしたアンドロメダは、軍がガミラス戦役後に『ヤマト』の航海記録を映像解説付きで纏めた公式資料『UNCF BBY-01 YAMATO Reminiscence voyage』のデータを入れたメモリースティックを南方棲戦姫に渡した。

「ちょっと待って、私達これを再生出来る機材持ってないけど」

「陸上施設型のあの娘、ほら、眼鏡をかけた物を集めるのが好きなあの娘なら持っているかもしれません」

 なお全くの余談だが、後日その眼鏡の深海棲艦のいる所に南方棲戦姫と空母棲姫が押し掛けたが、規格が合わず再生出来なかった模様。
 さらに後日、物凄く焦って慌てた姿のアンドロメダが、通信機越しに物凄い勢いで謝罪している姿が目撃されたという噂があるが、真偽は不明である。

 


 巻きに巻いて無理矢理一話に纏めた!ホントにこんなので良いのかなぁ?



 ちなみに新生地球軍の主力艦であるクラスD、ドレッドノート級戦艦開発にはガミラス軍ガイデロール級戦艦が設計の参考となっているため、クラスDにはガミラスのDNAが入っている。
 つまりクラスDの拡大発展型であるアンドロメダにもガミラスのDNAが入ってしまっている。その為2205で明かされた『呪い』とも言えるイスカンダルとガミラスの関係の影響がアンドロメダにも出てしまっており、イスカンダルに対して忠節の様な行動が無意識に出てしまう。
 だからイスカンダルが貶されたりする言動には敏感である。

 そしてそれは─────


 


 次回、いよいよガトランティス戦役。アンドロメダは最後まで話しきれるだろうか?少なくとも口は悪くなる。

 …書き終えて気付いたけど、二話連続で総旗艦を倒れさせてしまった。しかしまあ、次はアンドロメダの大っっっっっ嫌いな蛮族共絡みだしなぁ。

 


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第17話 Negotiation and Information disclosure.AAA-8

 交渉と情報開示。そしてアンドロメダの苦悩


 お待たせ致しました。今回は些か難産でございました。

 アンケートにご協力いただき、誠にありがとうございました。本話より妖精さんの新キャラクターが登場致します。

 
 先に謝っておきますが、今回医療に関する描写がありますが、私の知識不足や勘違い等から間違っている可能性があります。
 後、私は2202に対しましてアンチな考えでありますため、些かバイアスがかかった書き方になるかと思います。

 後半は人類側の話となります。


「お姉さん!大丈夫ですか!?」 

 

 突然の事に、駆逐棲姫はパニックを起こしそうになるが、あわててしゃがむと踞ったアンドロメダの背中をさする。

 

 

「ゲボッ!ゴホッ!」

 

 

 胃に固形物を入れていなかったため、出てくるのは飲んでいたハーブティーと胃酸の苦い液体だけだ。

 

 一通り胃の中にあった物を出したが、それでも吐き気は治まらずに激しく肩で息をしだす。

 

 

 苦しんでいるアンドロメダ(大切な妹分)に何も出来ない事への自身に対する苛立ちや焦燥で、次第に涙を浮かべる駆逐棲姫。

 

 

「落ち着きなさい!貴女が取り乱してもどうにもならないわよ!」

 

 

 見かねた南方棲戦姫が駆逐棲姫を諌めるが、彼女自身も軽くパニック状態だった。

 

 そもそも深海棲艦には病気の概念が無く、*1医療知識に疎い為にどう対処して良いのかが分からなかった。

 

 それでも空母棲姫は兎も角アンドロメダを安静にした方が良いと考え、仰向けに寝かせようとした時───

 

 

バカモンっ!仰向けに寝かせると次嘔吐した時に物が逆流したり気道を塞いじまうぞ!!

 

 

 

 突然の怒声に驚き振り向くと、赤十字のマークを付けた白衣を着た妖精の集団が立っていた。

 

 その姿から知識としては疎くとも医療関係者であるとは認識できるが、目を引くのはその先頭に立つ禿頭に眼鏡姿の妖精が『美伊』とプリントされた瓶、酒瓶を持っている事だ。

 

 

 おそらく彼(?)が責任者なのだろうが、本当に医療関係者なの?と空母棲姫は首を傾げるが、その妖精とも面識のある駆逐棲姫は、その姿を見ると泣きながら藁にも縋る思いで「ドクターさん!どうしたら、どうしたら良いんですか!?」と激しい剣幕で尋ねる。

 

 

「お嬢ちゃんはそのまま艦長の背中をさすっていてあげなさい」

 

 

 落ち着いた声でそう告げながらアンドロメダの近くに寄る。

 

 

「ドク…ター……」

 

 

 その姿を捉えたアンドロメダが力無く呼ぶ。その顔色は土気色に変わっており、まるで死人の様である。

 

 

「全く、無理をしおって」

 

 

 そう悪態を付きながら助手の医療班妖精に指示を出し、吐き気を抑えるツボ、足三里(あしさんり)*2労宮(ろうきゅう)*3を押させる。

 

 

 

 

 暫くして落ち着いたタイミングでアナライザーに持って来てもらった水で口を濯がせた。

 口の中の残留物によって吐き気が再発するのを防ぐ為だ。

 

 

「ありがとう、ございます。ドクター、皆さん」

 

 

 まだ顔色は良くないが、それでも先ほどの土気色の顔よりかは遥かにマシになった。

 

 

「お前さんは無理し過ぎなんじゃ。タンクベッドに入って休んでおりなさい」

 

 

「いえ、大丈夫です…!まだ、やることがありますから…」

 

 そう言って立ち上がろうとするが、それをドクターは制する様に手に持った酒瓶で小突く。

 

「駄目じゃ!嘔吐した時は体力を激しく消耗しておる!あんたは先ず休むことが大切じゃ!」

 

「この程度、火星戦線(あの時)と、比べたら…!」

 

 そう語るアンドロメダは、若干目の焦点が合っていなかった。

 

 

 それを見たドクターは、アンドロメダが気力だけを支えに、体力的にはかなり無理をしていると見て、「医者の言うことを聞かんかっ!バカタレ!!」と叱りつけながら懐から注射器を取り出し、アンドロメダに突き刺す。

 

 途端に糸が切れた人形みたいに崩れ落ちる様にして倒れるが、駆逐棲姫があわててアンドロメダの体を支えた為に硬い甲板に顔面からキスする事態だけは避けることが出来た。

 

 

 だがドクターの鮮やかな手際と強引さにドン引きして声も出ない姫様達。回りにいる妖精達も後退りしている。

 

 

「取り敢えず鎮静剤を投与した。全く、うちの艦長も御父上に似て無理をしよってからに、真面目なのも考えモンじゃな…」

 

 

 

 その後野次馬状態の妖精達を解散するように告げ、アナライザーにタンクベッドを起動させると南方棲戦姫と空母棲姫に頼んでアンドロメダを運ばせて横たわらせた。

 

 その際、タンクベッドという聞きなれない代物が何なのかと疑問に感じて質問すると「一時間の睡眠で八時間分の睡眠と同じ効果が得られる装置じゃ」とドクターは答えた。

 

 それを聞いた三人は便利な機械だなという風に感じたが、ドクターは苦虫を噛み潰した顔を浮かべる。

 

「こいつはな、なんでもかんでも効率化しちまおうって考えの中で生み出された狂気の産物じゃよ」

 

「いくら人間(ヒト)の数が足りんからって、休息まで効率化しおってからに…」

 

 

 そう苦々しく語るが、実際にタンクベッドの開発の背景には省力化だけでは解決出来なかった深刻な人手不足によるローテーションの問題があった。

 

 少ない人員で上手くローテーションを組むために、如何に短時間で必要十分な休息を取るか。という課題に対する答えがタンクベッドの開発だった。

 

 

 技術的ルーツに関して、表向きは国連宇宙海軍時代から使用されている、個人用脱出ポットの延命用コールドスリープ技術を発展、応用したものとされている。*4

 

 

 完成当初は軍組織の改編などで激務が続く司令部を皮切りに広く採用され、いずれは民間にも開放される予定だったが、早々に問題が発生した。

 

 

 肉体のリフレッシュは出来ても精神面、特に脳のリフレッシュが上手くいかなかったのだ。

 

 

 最も使用回数の多い司令部スタッフを中心に精神面での不調を訴える者が続出。

 

 開発当初は予想されていなかった弊害に、軍は慌てた。

 

 

 改良、改善は継続して続けるが、別の弊害が発生する可能性があった為に使用には医師の許可が必要とされ、短期間での多用は原則禁じられた。

 

 

 だがガトランティス戦役(あの戦争)が始まってからは、その規定は有耶無耶と化していたという。

 

 使用には医師ではなくAIからの推奨という形になっていた。

 

 完全に人間すら機械の一部と捉えていたという狂気が滲み出ていた。

 

 

「中に入ったまま、死んでいたという事故も、実際にあったそうじゃ…」

 

 

 そう聞かされて南方棲戦姫と空母棲姫は「え?大丈夫なの?」と不安な表情を浮かべ、駆逐棲姫は眉根を吊り上げて「ふざけるなっ!!」と言わんばかりに怒りを(あらわ)にした形相になるが、ドクターは「ちゃんと使えば心配いらんし、艦長はそこまで酷い体調ではない」と言って宥めた。

 だが、艤装が開いて現れたタンクベッドの筐体、その形があまりにも棺桶に似ていた為に「これじゃあまるで話に聞く埋葬ね…」とげっそりしながら南方棲戦姫は呟いた。

 

 

 因みにアンドロメダに使用されているタンクベッドだが、将来的に有人型長距離哨戒艇などの小型艇で採用される予定の多機能型タンクベッドの試作品がモデルとなっており、安全性の心配は今のところ無いだろうというのがドクターの見解である。

 

 従来の短時間での休息だけでなく、通常の睡眠や身体の洗浄、バイタルチェックなどの診断に軽い負傷の治療も行える高性能な代物である。

 ただしその分お値段も半端ではなく、量産型では如何にお安く出来るかが今後の課題とされている。

 

 閑話休題。

 

 

 

 一通りの処置を終え、助手達にアンドロメダの事を任せたドクターは、コンソールの上に「どっこらせ」と腰掛けながら、前に居並ぶ姫達を見渡す。

 

 

「え~と、ドクターさん?アンドロメダ(あの娘)に一体何が起きたのよ?」

 

 

 三人を代表して南方棲戦姫がドクターに尋ねると、「神経性の嘔吐…、まあストレスが原因じゃな」という答えが返された。

 

「艦長は地球がイスカンダルとの約束を反故にしたことを、ずっと気に病んでおったからのう」

 

 

 その説明に首を傾げる三人。約束を反故にしたのは人間達で、アンドロメダはその決定に対してどうすることも出来ないハズなのに、どうしてそんなに気にするのか?

 

 

「親と慕う沖田艦長やヤマトさんに対して申し訳ないという気持ちと、()()()()()()()、地球の軍事力を象徴する存在としての自身の立場に対する責務とで板挟みになっておったからのう」

 

「本人は割り切っていたつもりでいても、ストレスっちゅーモンは知らず知らずの内に積み重なるもんじゃよ」

 

 

 そう言うものなのかと思うが、それよりも気になる言葉があった。今、地球艦隊総旗艦と言わなかったか?

 

「え?ちょっと待って。総旗艦って、どう言うこと…?」

 

 

 言葉の意味は分かるが、頭がそれの理解に追い付いておらず、ついそう聞いてしまった。

 

 

「そのまんまの意味じゃよ。地球・太陽系防衛を担う艦隊総軍の頂点。総大将じゃ。なんじゃ?聞いとらんかったのか?」

 

 

 ドクターの説明に目が点になる三人。

 

 

「「「ええーーーーーーっ!?」」」

 

 

静かにせんかバカタレ共ッ!!艦長が起きちまうじゃろうがっ!!

 

 

 

 まさかの艦隊最高位だったという事実に驚愕のあまり叫んでしまった。それを咎めたドクターの怒声が一番大きかったのはご愛嬌。

 

 

 しかし、こう言ってはなんだが、()()()()()というのが率直な感想なのだ。

 

 態度といい、雰囲気といい、ヒトの上に立っていた存在だとは到底想像がつかなかった。

 

 

 それを察したドクターは苦笑する。

 

「まあ威厳は無いかもしれんが、それを上回る真面目で優しい包容力があるところが魅力と、二番艦、妹のアルデバランから言われていたそうじゃ。いわゆる人徳ってヤツじゃな」

 

 

 そう言われるとなんとなく分かる気がした。

 

 

「じゃが真面目で優しい分、気にせんでええ事まで気にして、思い詰めてしまうこともあるんじゃよ。艦長はそれが少し顕著なところがある」

 

「それでいてヒトに心配かけまいと、心の内に(とど)めようとするから、よほど親しい仲か心の機微に敏感な者でなければ気付きにくい」

 

 

 難儀な性格ね。と南方棲戦姫と空母棲姫は思うが、駆逐棲姫はやや複雑な気分だった。

 

 

「…お姉さん、このままだといつか壊れてしまうのではないですか?」

 

 

 初めてアンドロメダ(お姉さん)と出会ったあの日の夜、戦艦棲姫(戦艦のお姉さん)と砲を向け合う姿を見てなんとなく違和感を覚え、半分冗談めかし、半分は直感的に「いつか心が壊れますよ?」と忠告したが、それが現実になってしまうのではないかという恐怖が、駆逐棲姫の中で渦巻き出していた。

 

 その事を素直に話すと、ドクターは驚いた顔をすると同時に、納得もした。

 

 

 何故アンドロメダ(艦長)駆逐棲姫(この娘)の事を大切な存在だと想いだし、気持ちを曝け出す様になったのかを。

 

 駆逐棲姫(この娘)は本心からアンドロメダ(艦長)の事を心配している。アンドロメダ(艦長)はそれを本能的に読み取ったのだと。 

 

 ドクターはこの時ある考えが頭を(よぎ)ったが、それは一旦横に置いて話を続ける。

 

 

 

「…お嬢ちゃんの心配はもっともじゃよ。じゃが、艦長は、既に一度、壊れておる」

 

 

 

 えっ?という声が漏れ、どう言うことと問い詰める視線がドクターに集中するが、そのドクターが手に持っていた酒瓶を突然呷りだしたのを見て呆気にとられる。

 

 

「ふんっ!シラフで彼奴らの話が出来るかっ!」

 

 

 瓶をドンッと置き、渋面を作り吐き捨てるかのように話し出すドクター。

 

 彼奴らとは一体誰なのか?

 

 

「ガトランティス。全てはあやつらが原因じゃ」

 

 

 ドクターが語り出した、アンドロメダ最大のトラウマにして怒りと憎しみの源泉、そして本来なら優しくて温厚なアンドロメダの心に復讐という炎を燃え上がらせて壊し、復讐一辺倒の『魔』に呑まれた悪鬼羅刹へと変貌させ、未だにその時の炎が心の奥底で(くすぶ)り続けて今回の暴走の引き金となった大本の元凶とも言える存在。

 

 

 ガミラス戦役の終わりに『ヤマト』が遭遇した謎の敵、『帝星ガトランティス』。

 

 ガミラスの領域外苑部、国境とも言える小マゼラン外苑部に度々侵入してはガミラス軍と衝突を繰り返していた正体不明の武装集団。

 

 ガミラスから『蛮族』と呼ばれ、忌み嫌われているが、その戦闘能力は『蛮族』と言われるだけあって荒々しく勢いがあり、精強なガミラス軍を持ってしても苦戦を免れず、メルダ・ディッツの父でありガミラス航宙艦隊総司令ガル・ディッツ提督をして「予断を許さない」と言わしめる程の侮れない難敵。

 

 かつて『ヤマト』と激戦を繰り広げたエルク・ドメルは何を隠そう、『ヤマト』と矛を交える為に銀河方面へと転戦してくる直前まで、小マゼラン方面軍防衛司令官として同地にてガトランティス(蛮族)に対する切り札として投入され、その手腕を余すことなく発揮して大戦果を挙げていた。

 

 

 そのガトランティスが、地球への帰路を急ぐ『ヤマト』の前に突如として現れ、いきなり攻撃を仕掛けきたかと思うと(ふね)を─『ヤマト』を─明け渡せと高圧的に迫って来た。

 

 

 その時の通信記録が残っており、アナライザーが再生したが───。

 

 

「我が名は『雷鳴』のゴラン・ダガーム!!マゼラン(グダバ)遠征軍大都督なりぃ!!」

 

 

 緑色の顔の右半分に大きな三本の傷がある屈強だが粗暴さと野蛮さ、豪快さを絵に描いたような強烈な印象を見るものに与える男性が映し出されるが、見た目に違わぬ荒々しく、また一方的で高圧的な物言いに三人は眉を顰める。

 

 

「なにこいつ?人を馬鹿にしているの?」

 

 

 南方棲戦姫が不快感を(あらわ)にそう吐き捨てる。

 

 いきなり殴り掛かって来たかと思えば(ふね)を寄越せとか、傍若無人、驕慢、不躾が服を着て喋っているとしか思えない。

 

 ある意味、遠慮会釈で礼儀正しいアンドロメダと正反対、百八十度逆な存在だと言える。

 

 

「実際に馬鹿にしておるんじゃよ」

 

「じゃがこやつでさえ、後から出てくるガトランティスの本隊の連中に比べたら、一番マトモなんじゃよ」

 

「え?これで?」

 

 

 事実である。

 

 

「まだ多少なりとも会話が噛み合っているだけでもマシなんじゃよ」

 

「本隊の連中は話が噛み合わん。常に一方的じゃ。言うだけ言って聞く耳を持たん。そんな連中じゃよ」

 

 

 他に類を見ない最悪レベルの自己中心的な集団であるというのがドクターの見解である。

 

 ガトランティスと比べたら、民主化以前のガミラス帝国すらまだ常識的でマトモな国家であったと言える。

 

 

「艦長は以前、ガトランティスとは『理不尽』という概念がヒトの形をした存在と言ったそうじゃが、言い得て妙じゃよ」

 

 

「人に理不尽な選択を迫り、それで苦しみ破滅していく様を見て悦に浸る。兎も角胸糞の悪い連中じゃったよ」

 

 

(いくさ)の事はワシにはわからんが、それでもこれだけは言える。奴らは餓鬼じゃよ。それもどうしようもないくらいの癇癪持ちのクソガキじゃ!」

 

 

 そう吐き捨てて再び酒瓶を呷るドクター。

 

 

 医者の不養生という言葉が深海棲艦にもあるか定かではないが、それでも心配になるくらいの勢いで飲んで行くドクター。

 

 

 だがそれ以上に、ドクターの説明を聞いてもガトランティスがあまりにも異質過ぎる存在としか思えてならず、逆に想像がしづらい。

 

 

 だがなんとなく仲良くなれる存在では無いと思った。

 

 今聞いただけでも悪趣味、性悪、何をどうしたらこんなねじ曲がった存在が生まれるのか不思議でならなかった。

 

 

「こやつらは千年ほど前に栄えたというゼムリアとか言う惑星で生み出された戦闘用生命体。いわゆる人造人間じゃよ」

 

 

「まあ、その辺の詳しい事はそこのアナライザーに聞いてくれ」

 

 

「「「え?」」」

 

 

 丁度おかわりの酒瓶を持って来る為に席を外し、戻って来たところのアナライザーに三人の目線が集中し、当のアナライザーは「(ハテナ?)」と漏らす。

 

 

「こやつは元々『ヤマト』の乗組員で、ガトランティスの謎を解明する最前線に立っていたんじゃよ」

 

 

 

 再び驚愕の叫びが響き渡り、またドクターから怒声が飛んだ。

 

 

 

「…五月蝿いです」

 

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 日本国()()広島県、日本海軍内海防衛艦隊呉軍港、呉鎮守府。

 

 鎮守府内、呉鎮守府司令(けん)内海防衛艦隊司令(けん)総提督執務室。

 

 

「あーーーーーーー!!疲れた!!」

 

 

 一人の女性が扉をバタンと思い切り開け放ち、ずかずかと入室したかと思うと制帽を執務机に投げ捨て、執務机の椅子にドカッと座り込んだ。

 

 それを見た執務机横の秘書艦用机に座る秘書艦の艦娘、陸奥は苦笑しながらも労いの言葉を投げ掛ける。

 

 

「お疲れ様。真志妻総提督」

 

 

 そう、今椅子に行儀悪く座った彼女こそ、日本海軍艦娘部隊の頂点に君臨する総司令である総提督、真志妻亜麻美(ましつまあまみ)大将そのヒトである。

 

 

「あーもう、朝っぱらからいきなり佐世保の在日米軍司令部(無駄飯食らいの巣窟)に呼び出されて散々だったわ!!」

 

 そう言ってだらしなく机に突っ伏した。真志妻大将は朝に弱いから急な出張にご機嫌斜めだった。

 

 

「あら?ところで長門は?」

 

 

 真志妻大将と一緒に佐世保に付いていったはずの、姉妹艦娘である姉の長門が居ない事に気付いて尋ねると、真志妻は突っ伏した姿のまま「あー…」とバツの悪い顔になりながら顔を陸奥の方に向けた。

 

 

「おい総提督、また私を放ったらかしにして行くな!」

 

 

 そう言いながら普段の艦娘としての服装ではなく、日本海軍の軍装に身を包んだ副艦の長門が両手に鞄を持った姿で入室して来た。

 

 

「あ~、ごめん長門~」

 

 突っ伏した姿のまま、手を上げて謝罪を口にする。

 

 そのだらしない姿を見て肩を竦める長門。陸奥はそんな姉の姿に苦笑しながらも、長門から鞄を受け取ると、着替えて来るように促す。

 

 

 

 

 

 暫くして────。

 

 

「それで、彼らの用件はなんだったの?」

 

 

 陸奥が尋ねると、真志妻大将は鞄から『Confidential』、機密と書かれた一つの封筒を取り出して陸奥に渡した。

 

 

 中には書類と写真が一纏めにされた書類の束、それにUSBが入っていた。その書類のタイトルには『Report documents about unidentified Fleet Garl.』と書かれていた。

 

 

「正体不明の艦娘についての報告書?」

 

 

 物騒ねと思いながらその中を読み進めて行くが、次第に表情が険しくなる。

 

「…なにこれ?」

 

 はっきり言って冗談の(たぐ)いじゃないのかと思った。

 

 

「推定全長45フィート、13.716メートルに全幅12フィート、3.658メートルの艤装を扱う艦娘?しかも空中を飛翔し、レーザーないしビームが放てる3連装主砲を4基持ち、ミサイルとおぼしき兵装も使用。更にジェット機の様な艦載機の運用能力に電子戦能力があると思われる?」

 

 

 どこかの誰かが考えた『ぼくのかんがえたさいきょうのかんむす』ですか?とツッコミを入れたくなる程の出鱈目っぷりに呆れそうになる。

 

 とはいえ添付された写真、多分映像を引き伸ばしたのであろうやや画質の荒い写真を見る限りはそれが実在する存在なのだろう。

 

 それにいくら()()アメリカと言えども、冗談や嘘のためだけに態々(わざわざ)日本海軍艦娘部隊のトップを呼び出すとは考えにくい。

 

 

「今朝、南太平洋方面を監視しているアメリカの偵察衛星が()()()()捉えた映像らしい」

 

 

 そう長門が説明し、自身が使う副艦用机のデスクトップを操作して執務室内に備え付けられたプロジェクターを起動。同封されていたUSBの映像を再生する。

 

 

 そこに映し出される、謎の艦娘が姫級二人が指揮する深海棲艦の大艦隊を一方的に蹂躙する映像に、陸奥は息を飲むことしか出来なかった。 

 

 

 映像その物はその海域を捉えていた衛星の軌道通過から途中で終わることとなる。

 

 

 その後に、明らかに深海棲艦の艦載機とはシルエットが違う、プロペラの無い航空機の引き伸ばした映像が映し出される。

 

 

 その翼にエンブレムと思われる錨のマークが描かれているが、そこに気になる文字が刻まれていた。

 

 

 

UNCF

 

 

 

UN(国連)!?どういうこと!?国連ってもう既に存在しないわよっ!?」

 

 

 もう訳が分からない事の連続だ。だがそもそもである。

 

「そもそもこれが私達とおんなじ艦娘であるとする根拠は何なの?もしかしたら人類の新兵器じゃないの?」

 

 もっともな疑問である。

 

 

「陸奥の言いたいことは分かるわ。私達も同じ疑問を感じたのだから」

 

 

「一応、アメリカ軍(向こう)に協力している妖精さん達による分析結果が根拠だ。コロラドやメリー達は深海棲艦同士の内輪揉めを疑った様だが、妖精さん達はそれを真っ向から否定したらしい。奴ら、深海棲艦が使う生態艤装にしては技術体系が明らかに違いすぎる。私達艦娘が使う機械式艤装の技術的延長線上の可能性が一番高いというのが、妖精さん達の見解だ」

 

 

 長門からの説明を聞いても、首を傾げる陸奥。  

 

 

「でも私達艦娘は第二次世界大戦時代の軍艦がモデルでしょ?いくらなんでも()()はイレギュラー過ぎるわよ?」

 

 正直、これはスタ○・ウォーズや銀河英雄○説の様なSFに出てくる宇宙戦艦なんじゃないの?と言いたくなる。

 …実はあながち間違いで無かったりするのだが。

 

 

 妹のその反応に、長門は軽く溜め息を吐きながら、やれやれと首を横に振った。

 

 

 

「…陸奥、忘れたのか?『小松島の裏ボス』の事を?」

 

 

 そう長門に言われて、「あっ!」と思い出す。

 

 

 そうだった。徳島にある外洋防衛艦隊小松島鎮守府にいる『()()()()()()』の事を。

 そしてそこの提督であり外洋防衛艦隊司令でもある、『小松島の鬼竜』という異名を持つ中将や、その関係者もある意味イレギュラーな存在であったという事も。

 

 

 

「昼一番に小松島まで飛ぶわ。外洋防衛に関連しないとも限らないし、それに在日米軍(無駄飯食らい)の連中、私達に調査を命令(お願い)してきたから」

 

 その真志妻大将の言葉に渋い顔になる陸奥。なんとなくそうだろうとは予想していたが、相変わらずアメリカは戦勝国面(宗主国ムーブ)を貫きたいようだ。

 

 そんな陸奥の心情を察した真志妻大将が苦笑しながら窘める。

 

 

 

「仕方無いわ。御自慢だった第7艦隊はほぼ壊滅。第3艦隊はこちらのAL/MI作戦と平行して行われたハワイ奪還作戦に失敗して以降、西海岸への防衛強化(引きこもり)で動けない。まあ、私達も作戦に失敗したのだから()()()()だけどね」

 

「南米海域に展開していた第4艦隊は第3艦隊に吸収合併。そして艦娘だけでの作戦行動は現実的では無い」

 

「となると、後は属国(日本)圧力を掛ける(お願いする)しかない」

 

 

 艦隊は壊滅しても、佐世保にいる在日米軍司令部の地上部隊だけでも首都広島を制圧出来る兵力は健在だった。

 

 長門や陸奥はアメリカの露骨な恫喝(お願い)に強い不快感があった。

 

 

「コロラドやアイオワ、イントレピッドとか艦娘達はみ~~~んないい娘達なんだけどね~。向こうの艦娘部隊の司令官、ガーフィールド准将も人間にしては話のわかる立派な御仁だし…」

 

 

 それに同意する長門と陸奥。特にコロラドとメリーランドとはかつてのビッグセブン同士という事もあり、仲が良かった。さらに言えば長門は空母艦娘のサラトガとも仲がいい。

 

「まああの国は今の政府が政府なだけにね~。それはこっちも余り人の事言えないけど」

 

 

 そう言ってくつくつと笑うが、二人は笑うに笑えなかった。

 

 その二人の態度から、いささかばつが悪そうな顔を浮かべると、一つ咳払いをした。

 

 

「愚痴を言っても仕方無いわね。さあ二人とも、仕事仕事!長門は小松島にアポを取って。陸奥はヘリの手配をお願い」

 

 

 指示を出すと二人は即座に動きだす。そして自身は出張の間に溜まった書類の決済に取り掛かりながら、麾下の内海防衛艦隊への指示を出していく。

 

 

 

 やることは山積みだが、真志妻大将の心はこの謎の艦娘に対する興味で尽きなかった。

 

 

 何かが起こる。それも途轍も無く大きな事が。

 

 

 根拠は無い。ただの勘だが、面白くなりそうな予感がしてならず、口元が大きく歪む。

 

 

「(敵か味方か、そんなのはどうでもいいわ。私の復讐(やりたいこと)の役に立ちさえすれば…)」

 

 

 そう内心で呟きながら、暗い笑みを浮かべる真志妻大将。

 

 彼女の真意は一体何なのか?

 

 

 

 

「この書類、サインの位置が間違っているぞ。これも。これもだ」

 

 

「ヴぇ?」

 

 

 

 …兎も角、日本を中心として人類側もアンドロメダに対する行動を取り始めた。

 

 

 今後、アンドロメダを取り巻く環境は更に複雑な物となっていくだろう。

 

 

 アンドロメダの運命は、未来はどうなるのか、それはまだ分からない。

 

 

*1
但し過労による体調不良はある。

*2
胃腸の働きを整える、嘔吐を止める。

*3
メンタル・自律神経を整える。

*4
実際は意識不明状態だったユリーシャ・イスカンダルの生命維持装置の技術がかなりの割合で使われている。




「蛮族はミナゴロシ…。ふふふ…。ウフフ……」

「お姉さん、怖い…」


ピンポンパンポン♪

「選手の交代をお伝え致します。情緒不安定なアンドロメダ(主人公)に代わりまして、ドクター(飲兵衛)が登板致します」


 いや、当初はアンドロメダに続投させるつもりでしたが、書いていたらやはり暴走しました。例、雷鳴のゴラン・ダガームの記録映像に対して若本節某国家元帥の様に銃を発砲…。タブレットを握り潰すなど…。が発生、話が進まなくなりましたため、退場して頂きました…。



解説


足三里

 胃腸の働きを整える、嘔吐を止める。


 膝のお皿のすぐ下、外側のくぼみに人さし指をおき、指幅4本そろえて小指があたっているところ(膝の少し下)


労宮

 メンタル・自律神経を整える。


 手を握ったときに、人差し指と中指の先端の中間にあるツボ(手のひら)


 後もし横になるなら、右脇腹を下にして膝を曲げた姿勢が一番リラックス出来ます。再び吐いても逆流したり気道を塞ぐ心配はありません。


 嘔吐には色々と原因がありますから、必要でしたら早期に医師の診断を受けることをおすすめ致します。



真志妻亜麻美海軍大将

 日本海軍艦娘部隊の総司令。また日本海軍全ての提督の頂点に君臨しているために総提督とも呼ばれている。

 年齢不詳。



ドクター

 妖精達は勿論、艦長であるアンドロメダの健康管理を行っている妖精。何故かいつも酒の入った瓶を持ち歩く。
「浴びるほど酒を飲んでも目は曇らない」とは本人談。

 はい。アンケートの結果医者的立場の妖精さんを出させていただきました。お気付きかと思いますが、モデルは佐渡先生です!(ただし旧作モデル) 

 実は第2話で酒を飲んでいた妖精は彼でした。



 初、人類側!初艦娘は長門姉妹!!そして日本登場!!ただし早速不穏だらけ!!アンドロメダの明日はどっちだ!?
 
 
 

 いやぁ、何度も書いたり消したりを繰り返す難産でした…。
 兎も角、2202はわかり辛い!正直旧作のガトランティスの方が遥かに書きやすいという事が改めて分かった!2202ズォーダーは何言ってるのかサッパリ分からん!なんとなく内容が薄っぺらく感じてしまうのは気のせい?ズォーダー絡みはバッサリカットしたい!!といっても軽く薄くは書きますが、それが限界!!地球艦隊の戦いはツッコミ祭りかダメ出し祭りになりそうなのでさらっと流します!多分…。

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第18話 Negotiation and Information disclosure.AAA-9

 交渉と情報開示。そしてアンドロメダの苦悩


 すみません。遅くなりました。


 今回ガトランティスに対する個人的解釈マシマシです。


 アナライザーから語られる戦闘生命体ガトランティス、それらを統率する存在であるズォーダーという人造人間に関する過去の記録。

 

 

 創造者たるゼムリアに反旗を翻すも、自身が愛したゼムリアの女性と自身の子供(クローン)を人質に取られて叛乱は()えなく潰える。

 

 だがゼムリアの人間は人質の助命を約束していたにも関わらず、後に反故にして殺害。

 

 

 そこからガトランティスの──、ズォーダーの千年に渡る憎しみまみれの、ある種の自暴自棄な破壊の旅が始まる。

 

 

 こう言ってはなんだが、ズォーダーが受けた仕打ちは歴史上よくある悲劇の一つに過ぎない。

 

 

 だがズォーダーは己が受けた仕打ちから「愛は誤った判断をもたらす」と考え、さらには「愛こそが宇宙に争いをもたらす元凶である」と断じ、『愛』という感情を忌み嫌い憎悪し、全否定の対象としてみなしている。

 

 ガトランティスの厄介な所は、子を成せない代わりに自らのクローンを作り、それに全てを受け継がせていく『怪しい新興宗教よろしく洗脳染みた(ガトランティス流)英才教育が可能な閉鎖社会』であり、それによって千年間も傍迷惑な破壊活動を全宇宙規模で展開し続けられた事だ。

 

 

 さらに、ズォーダーの迷惑極まりない破壊衝動を成し得る『強大な武力』の存在も大きい。

 

 

 『古代アケーリアス文明』が遺した負の遺産、『滅びの方舟』。

 

 

 アケーリアス。

 

 アンドロメダのいた宇宙で一番始めに栄えた人型知的生命体の文明とされ、彼らが『人間の種』を全宇宙に蒔いたことにより、地球、イスカンダル、ガミラス、ゼムリアなどといった数々の人型知的生命体による文明が生まれたとされる。

 

 しかし、当のアケーリアス文明はいつの間にか、人知れずにこの宇宙から()()()()、その存在の痕跡は宇宙の各地に遺された遺跡でしか知る事ができなくなっていた。

 

 その遺跡の一つがガミラスが使用し、『ヤマト』もイスカンダルへの航海でも使用した『亜空間ゲート』である。

 

 

 この様な形で未だに稼働する遺跡が多数あり、それらは『ポスト・アケーリアス文明』にとっても大変貴重で有益、重要な役割を果たしていた。

 

 だがアケーリアス文明は、そんな有益な物ばかりを遺していたわけでは無かった。

 

 

 自身が蒔いた『人間の種』によって生まれた文明によって宇宙が破壊し尽くされる可能性を危惧したのか、それに対する安全装置──いや、カウンターパワーとして破壊し殲滅する『滅びの方舟』という極めて危険な遺跡、地球の波動砲艦隊すら凌駕する『大量破壊兵器』を遺していった。

 

 それをどのような経緯でズォーダーが見つけ出したのかは、分からない。

 

 なんとも皮肉なことに、宇宙の全てを破壊したいという危険な破壊衝動と欲求に突き動かされた最も危険な存在の手に、その願望を現実の物に出来るだけの力を有した特一級の超危険物が渡ってしまったのだ。

 

 

 この『大量破壊兵器』が歪なレッテル張りの愛を騙る新興宗教の教祖(ズォーダー)の手に渡らなければ、破滅思想を教義とする過激な宗教団体(ガトランティス)は百年と経たず逆に滅ぼされていただろう。

 

 

「まったく、迷惑極まりない厄介な代物を遺して消えるなんて…。アケーリアスは無責任にもほどがあります!」とはアンドロメダの言である。

 

 実際アンドロメダは、いや地球軍やガミラス軍もガトランティスその物というよりもこのアケーリアス文明の遺した『滅びの方舟』に苦戦させられたと言っても過言では無かった。

 

 

 ガトランティスは()()()()()()()()()()()()()()()()()というのが地球・ガミラス両軍の共通見解だった。

 

 

 物量と勢い、他の文明から拉致誘拐した科学者に無理矢理作らせた奇想天外兵器(吃驚どっきりメカ)の数々によって、何とか形の上だけで戦ってみせているだけの軍隊。

 

 戦術的に無駄が多く、無駄に犠牲ばかり蓄積している一面が散見されていた。

 

 ただし常識はずれの行動により思わぬ損害を受けることも度々あった為に、油断は出来なかった。

 

 

 それを念頭に置いて対処すれば再建途上の地球軍でも、勝ちきれずとも敗けない戦いは出来ると思われていた。

 

 

 あの時までは────。

 

 

 

 

 『第十一番惑星大量虐殺と地球破壊未遂事件

 

 

 

 思えば地球軍の迷走はこの事件が最大の原因であると言っても過言では無い。

 

 

 

 太陽系最果てに位置する地球とガミラスの共同入植地である第十一番惑星で起きた筆舌し難い大規模虐殺───奴らガトランティスの思想から鑑みるに、寧ろかつての人類が行った愚行の一つである民族浄化が最も近いと言えるかもしれない。───は、地球人類にガトランティスが何故ガミラスから『蛮族』と蔑称されて忌み嫌われているのかを理解する切っ掛けとなった。

 

 まさしく野蛮。()にして()であり()でしかないと断言でき、乱暴で下衆の中の下衆な集団であるという印象が地球人類の脳裏の深くに刻み込まれ、この日以降、地球の世論は「ガトランティス(蛮族)許すまじ!相容れるべからず!!」の一色に染まる事となった。

 

 

 だが軍上層部にとって問題はそこでは無かった。

 

 

 無論、早期警戒及び迎撃に失敗し、守るべき地球とガミラスの入植者達に甚大な被害を出してしまった事も重大過ぎる事態である。

 

 本来ならばこの地を守護する『外洋防衛師団』に配備されていた外周艦隊に所属する守備艦隊の主力が、先日に地球本国の主導で行われた政治色の強い作戦*1に虎の子の内惑星艦隊共々駆り出されて大損害を受けた影響で、防衛戦力が大きく低下していたという重大インシデントを引き起こしていたのだが、例え守備艦隊の主力が無傷で揃っていたとしても、ガトランティスが最終的に第十一番惑星へと投入した戦力からすると結果は大して変わらなかっただろう。

 

 

 ガトランティスが第十一番惑星に投入した艦艇の総数、『()()()2()5()0()()()』。

 

 

 その物量の前では、例えこの時地球軍が有していた艦隊の全てを洗いざらい根こそぎ投入していたとしても、圧殺されていた可能性が高いというシミュレーション結果が後に出されていた。

 

 

 ガトランティスはこの250万隻全てを潰すのと引き換えに可能となる超長距離砲撃によって地球を完全破壊、もしくは再建不能レベルの大損害を与える攻撃を企図していた。

 

 

 この砲撃は結果として、第十一番惑星の救援に赴いた宇宙戦艦『ヤマト』の存在と、様々な幸運と偶然が重なったことにより、最悪の事態()()は回避する事が出来た。

 

 

 

 だが軍はこの時点で策定されていた軍備計画、特に満を()した艦隊整備計画案である『波動砲艦隊計画』の骨子が根底から崩れ去ってしまっている事に気付き、周章狼狽する羽目となった。

 

 

 

 この時計画されていた『波動砲艦隊計画』は、新開発の拡散波動砲を装備した艦隊指揮戦艦*2を筆頭に、拡散波動砲搭載の量産型主力戦艦*3、取り回し重視の小型波動砲装備の戦闘巡洋艦、早期警戒・巡視任務を行う軽巡洋艦*4、ワークホースたる駆逐艦や護衛艦*5などの各種艦艇がバランス良く配備されたオーソドックスな艦隊編成として計画されていた。

 

 

 しかし250万隻──しかもその全てが大型戦艦級──という馬鹿みたいな大軍をポンッと投入して、さらには簡単に使い捨てに出来る敵に対してどう考えても、現行の計画の艦隊戦力で対処するのが無理である事は自明の理であった。

 

 

 火力が足りない。

 

 

 現行の計画で就役予定の全拡散波動砲搭載艦を持ってしても、確実に押し切られるというシミュレーション結果が何度も弾き出された。

 

 

 そこで導き出されたのが『拡散波動砲装備の戦艦を大量建造し、拡散波動砲艦に比重を置いて編成された主力艦隊の編成』だった。

 

 

 単純であるが、艦隊の火力を底上げするにはその方法しか無かった。

 

 

 だがそれも、ガトランティスの謎を解明する為に惑星テレザートへと赴いた『ヤマト』からもたらされる最新の情報によって、その比重の割合がどんどん大きく傾き、必要となる戦艦などの戦闘艦の総数も大きく上方修整されていった。

 

 後に生起する土星決戦の時点で、その割合は9:1になっていた。無論、9が拡散波動砲艦である。

 

 この影響で戦闘巡洋艦と駆逐艦の建造はキャンセルされた。*6

 

 

 

 しかしその集大成は土星決戦中盤戦における主力艦隊同士の正面からの殴り合いで遺憾無く発揮された。

 

 

 雲霞の如く押し寄せるガトランティス(蛮族)の大艦隊を、文字通り正面から拡散波動砲による乱れ撃ちで撃ち払った。

 

 

 そして─────。

 

 

「『ヤマト』からの報告によると、白色彗星の中心は、惑星規模の人工要塞と推定される!」

 

 

 

 

「全艦隊、マルチ隊形へ!一斉砲撃をもって、彗星内部に潜むガトランティスの拠点を────、」

 

 

殲滅する!!

 

 

 突如として土星圏戦闘宙域へとワープアウトしてきた白色彗星に対して、地球軍はこれを好機と見て総攻撃を決断。

 

 

 波動砲発射が可能な残存戦艦、およそ900隻を集結させて波動砲による一斉砲撃を仕掛けるべく、地球艦隊を指揮する山南司令は次々と指示を出していく。

 

 

 その傍らでアンドロメダはいつもの様に落ち着いた雰囲気で静かに佇んでいるが、内心はヤル気の炎を燃え上がらせていた。

 

 

「(愛するヤマトさん(お母様)を苛めた不埒な不届き者共!万死に値します!!)」

 

 

 誰よりもヤマトを愛してやまないアンドロメダにとって、ヤマトの前に立ち塞がるだけでなく、陰湿かつ陰険な妨害の数々を行い続けたガトランティスは、最早存在その物が我慢ならなかった。

 

 

 同じ宇宙に存在しているという事実だけで、体と心の両方に蕁麻疹が出そうなほどであり、ヤマトさん(お母様)に対して行った数々の仕打ちの罪過を、その死をもって償わせる為にガトランティス(蛮族共)をこの手で討ち滅ぼせるその時を、その瞬間をアンドロメダは密かに心待ちにしていた。

 

 

 その時が今、漸く訪れたのだ。まだか?まだか!?早く撃たせろ!!と逸る気持ちを、アンドロメダは必死に抑えていた。

 

 

 戦艦はかつての戦列歩兵の射撃隊列に似た密集陣形を形成。

 

 その周辺を直援の護衛駆逐艦や、戦闘による損傷や故障などで波動砲の発射は出来ないが戦闘は可能な戦艦がガッチリと固め、ガトランティス艦隊による側面攻撃を防いでいた。

 

 

「重力子スプレッド展開、()て」

 

 

 土星決戦に参加した『アンドロメダ』姉妹5隻から、発射された波動砲の収束率を更に高める為の重力フィールドによる重力レンズを形成するエネルギー弾が撃ち出され、地球艦隊と白色彗星の間に5つの重力フィールドが展開される。

 

 

「全艦、波動砲発射用意!」

 

 

「彗星、更に増速!」

 

「重力フィールド、収束率、予定値へ」

 

 

「目標、彗星中心核!セット20!45!」

 

 

「セット20、45!拡散波動砲から、収束波動砲へ全艦連動!」

 

 

「エネルギー充填120%」

 

 

「対ショック、対閃光防御」

 

 

 地球艦隊の艦首部分に装備されている波動砲口に、凝縮された波動エネルギーの光芒が灯る。

 

 

 

「発射10秒前!」

 

 

「9、」

 

 

 

「8、」

 

 

 

「7、」

 

 

 

「6、」

 

 

 

「5、」

 

 

 

「4、」

 

 

 

「3、」

 

 

 

「2、」

 

 

 

「1、」

 

 

 

 

発射っ!!

 

 

 

 

 

 地球艦隊から一斉に放たれる必殺の光輝く鏃。

 

 

 宇宙の虚空を切り裂く無数の光の鏃は、過たず重力フィールドに当たり、5つの巨大な光の柱へと変化し、さらにそれが絡み合って一つの超巨大な光の破城槌へとその姿を変え、白色彗星とその内部に潜むガトランティス本体を完膚なきまでに撃ち砕くべく突き進む。

 

 

 傍若無人の限りを尽くし、宇宙に破壊と死を撒き散らした極悪非道、悪逆無道のガトランティス(蛮族)に対する裁きの鉄槌たる波動エネルギーの奔流が、白色彗星の中心を撃ち貫いた。

 

 

 

 この瞬間、地球軍は勝利を確信した。

 

 

 

 いや、地球軍だけではない。この戦いを観戦していた地球市民、ガミラスの人々。そして(ふね)の魂達───

 

 勝ち気で好戦的なアポロノームやアキレス、普段はおっとりとしているが姉妹一冷徹なアンタレス、姉の事以外では姉妹で一番冷静沈着なアルデバランも、*7そんな彼女達を纏め上げる普段から落ち着いた佇まいの長姉アンドロメダ*8ですら────

 

 

 さらに戦闘の一部始終を見つめていた宇宙戦艦『ヤマト』のクルー達。

 

 

 そして愛する娘達の活躍を見守る、地球艦隊随一の歴戦の戦士にして、全ての地球艦の魂から最強の誉れを捧げられて称え崇められ、一種の神格化すらされているヤマトですら────

 

 

 

 

 誰一人として勝利を疑わなかった。

 

 

 

 地球艦隊の波動砲発射を阻止しようと抵抗を続けていたガトランティス艦隊だが、蛮族さながらの()()()()()()()な連携も何もない散発的な足掻きは悉く直援の艦隊に返り討ちに遭い、彗星前面に展開して必死に砲撃を繰り返しては重力フィールドに弾き返され続けていた艦隊は、波動砲の奔流に呑み込まれて消滅した。

 

 

 この蛮族共の蛮勇とも取れる必死の抵抗が、ガトランティスが波動砲に対して何ら防ぐ術が無い事を物語っている証である様にも見え、地球の勝利をより強く確信する材料になった。

 

 

 

 何人(なんびと)たりとも一度(ひとたび)放たれた波動砲の前では等しく無力!

 

 

 地球は、いや宇宙は我らが地球艦隊の獅子奮迅の活躍によってガトランティスの破壊と殺戮の魔の手から救われたのだ!

 

 

 さあ!英雄達を讃えて勝鬨を!勝利の凱歌を挙げようではないかっ!!

 

 

 

 

 

 だが。

 

 

 

 

 (みな)があることを忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 ガトランティスが、()()()()()()()()ここまで来たのかを!

 

 

 

 

 

 波動砲によって撃ち払われた、彗星を構築していた中性子のガス帯が消え去った後に出てきた物に、勝利を信じて疑わなかった者達は、その結果に信じられないと驚愕するしか無かった。

 

 

 

 

 無傷。

 

 

 

 

 無傷で表れた()()は、土星よりも遥かに巨大な人工物。

 

 

 

 そう、今地球艦隊の眼前に現れた()()こそが、アケーリアスが遺した負の遺産、『滅びの方舟』、その全貌である!!

 

 

 『ヤマト』が一度垣間見た物は、それのほんの極一部分にしか過ぎなかったのだ!!

 

 

 

 しかもその周りに展開する近衛とおぼしき艦隊にすらダメージを与えていなかった!

 

 

 これを見た山南司令は、ショックから逸早く立ち直ると、直ぐ様艦隊全艦にエネルギーの急速再チャージを命令、第二射の用意を急がせた。

 

 

 短時間での波動砲連続射撃はエンジンにかなりの負担を強いる危険な行為である。

 

 

 

 だがここで攻撃の手を緩めてはならない。ここで手を緩めたら、主導権はガトランティスに奪われる!ここは多少の無茶や無理は承知の上で押し切るしかない!

 

 

 アンドロメダも山南司令の考えに賛同だった。

 

 

 

 

 だがこれが、地球艦隊に、アンドロメダに更なる悲劇を与える事となる。

 

 

 アンドロメダはこの時、自身の波動エンジン(心臓)に小さな異常が生じた(痛みが走った)のを自覚した。

 

 

 だが今は構ってはいられなかった。

 

 

 何としてもこの一撃で!!

 

 

 これが決まらなければ地球軍には後がない!!

 

 

 

 ある種の強迫観念に囚われながらも、波動砲の再チャージが完了し、直ぐ様第二斉射を撃ち放った。

 

 

 

 先の斉射によって、既に重力フィールドは失われていたが、それでも数百隻から放たれる収束波動砲の弾雨による破壊力は絶大である。

 

 

 

 今度こそっ!!

 

 

 

 その光輝く鏃の弾雨を見守る地球軍は等しくそう願った。

 

 

 アンドロメダも、痛みに顔を歪め、口元から僅かに血を滴らせながらも祈った。

 

 

 

 だがその祈りは、波動砲の光条と共に、無残にも掻き消される事となった。

 

 

 

 『滅びの方舟』の周辺が揺らめいたかと思うと、未知の防御フィールドによって、全ての波動砲の鏃が、掻き消された。

 

 

 

 茫然自失となる地球艦隊に対して、ガトランティスは反撃を開始した。

 

 

 それも超重力を発生させて地球艦隊を引き摺り込むという方法で。

 

 

 艦隊の陣形がバラバラにされ、しかも密集していた事が災いし、随所で激突する(ふね)が続出。

 

 

 山南司令は全艦に離脱命令を下すも、ガトランティスの近衛艦隊は混乱する地球艦隊に向けて超大型ミサイルによる追い討ちをかけてきた。

 

 

 この一撃により地球艦隊はその大半を失い、『アンドロメダ』は大破。

 

 

 

「波動砲口大破!」

 

 

「引き寄せられます!!」

 

 

「エンジン、出力低下!!」

 

 

 さらには不調を訴え不安定になっていたエンジンの出力が低下してしまい、『アンドロメダ』もこのまま沈むかと思われた。

 

 

 しかし───。

 

 

 『アンドロメダ』に強い衝撃が襲う。

 

 

 

「『アポロノーム』接触!!」

 

 

「なにっ!?」

 

 

 『アンドロメダ』の艦底部に、僚艦にして妹である『アポロノーム』が接触したのだ。

 

 

 『アポロノーム』もダメージを負って、コントロールを失ったのかと思った瞬間、通信画面が反応した。

 

 

「山南司令、()ってください!『アポロノーム』は、もう持ちません」

 

 

「安田艦長…!」

 

 

「残りの出力で『アンドロメダ』を押し出します!」

 

「山南、お前は最善を尽くした」

 

 

「安田…」

 

 

「幸運を祈るっ!!」

 

 

『アポロノーム』が文字通り最後の力を振り絞って、『アンドロメダ』を押し出した。

 

 

 だが、その直後に『アポロノーム』のエンジンノズルから火が消え、みるみる間に引き摺り込まれていき、遂には敵大型ミサイルの第二派により、爆沈した。

 

 

 

 

 ここで記録映像は終わった。

 

 

 

 この映像を見た全員が、沈痛な面持ちを湛えていた。

 

 

 特に最後、『アンドロメダ』が『アポロノーム』に助けられた際に映っていた、人間には絶対に見えず、聞こえない、アンドロメダとアポロノームのやり取り…。

 

 そして響き渡る、アンドロメダの、慟哭────。

 

 

 

 駆逐棲姫は我が事のように、涙を流し嗚咽していた…。

 

 

 

 

 しかし空母棲姫はあることがずっと引っ掛かって気になっていた。

 

 

「…たった二年であれだけの(ふね)を揃える事が出来るものなのかしら?」

 

 

 地球は一度完全に荒廃していた。

 

 

 その復興もあるだろうに、あれほどの数の(ふね)を建造出来たという事に、空母棲姫は言い知れぬ違和感を抱いていた。

 

 さらに言えば、ガトランティスという軍勢に備えるべく増産を開始したというらしいが、どう考えても間に合うわけがない。

 

 

 それなのに間に合わせていた。

 

 

 なにかがおかしい。

 

 

 だがその疑問に対する答えは、思わぬ所から発せられた。

 

 

 

「…時間断層工廠」

 

 

 本来ならば寝むっていたはずのアンドロメダが、上体を起こした姿で空母棲姫の顔を見つめながら喋っていた。

 

 

「コスモリバースシステムにより青い地球を取り戻した裏側で、密かに抱えていた問題…」

 

 

 

「そこでは通常の十倍の速度で時が経過するという現象が発生する、まさに特異点…」

 

「私が建造された(生まれた)場所。そして───」

 

 

 

 

 

 

 

「私の、()()()な、場所…」

 

*1
地球・ガミラス連合艦隊による、ガトランティスに奪われたガミラス第8浮遊大陸基地の奪還作戦

*2
前衛武装宇宙艦、アンドロメダ級

*3
クラスD前衛航宙艦、ドレッドノート級

*4
フロレアル級通報艦

*5
Метель級護衛艦

*6
ただし護衛艦をベースにエンジンをより高出力の物へと換装し、主砲火力を底上げした改Метель級護衛駆逐艦、通称海風型もしくは春雨型と呼称される護衛駆逐艦が少数ながら建造された。

*7
ただし()る気を漲らせているアンドロメダ()の姿に絶賛絶頂中。

*8
絶賛ヤル気の炎を漲らせて加熱中。




 リアルが滅茶苦茶忙しくて中々書く暇がない!!


解説

改Метель級護衛駆逐艦



 メチェーリ級をベースに機関出力と武装の強化の為に本来建造されるはずだった駆逐艦用に開発された5inch連装主砲を装備している。改メチェーリ級護衛駆逐艦、或いは一番艦の艦名から海風型と呼称されたりもする。ただしメチェーリ級最新ロットの『ハルサメ』を海風型のテストヘッドとして建造したため、春雨型とする資料もある。

 尚、(ふね)の魂であるウミカゼ曰く、自分は春雨型であると公言している。

「ハルサメ姉さんは私の目標であり、最愛のお方でした。私はハルサメ姉さんから数多くの事を教えて頂きました。ですから私は春雨型であると思っていますし、その事に誇りを持っています」


 はい。オリジナル設定艦です。何故春雨と海風をチョイスしたかだって?ある人の作品の影響で二人が好きになってしまったからです。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第19話 Negotiation and Information disclosure.AAA-10

 交渉と情報開示。そしてアンドロメダの苦悩


 今回で一応2202の話は終了となります。つまり過去語りは終了です。長かった…。まさか十話も使うとは…。



 2202はいささか首を捻る話が多く見られますが、後半に行くにしたがって、それがより顕著になっている気が致します。特に加藤隊長に関する扱いや話は、その妥当性も含めて未だに首を捻っています。何て言いますか、なんとなく不自然な感じが拭えないんですよ。


 

 私は時間断層工廠(あの場所)が嫌いです。

 

 

 私が建造された(生まれた)場所である事は理解していますが、あそこはいつも暗くてジメジメした気持ち悪い感じしかしませんでした。

 

 

 

 そして何よりも、その空間が生物の生存を許さないという特異性から仕方無いとはいえ人間の、生命の伊吹や温もりの一切が感じられず、それが人類や私達の将来を(あらわ)しているかのように思えてならず、それに対する不安をいつも抱いていました。

 

 

 いつか人間(ヒト)はこの場所の様に効率のみを重視し、温もりなどの感情の一切を切り捨ててしまうのではないか?

 

 時間断層工廠(ここ)はその象徴なのではないか?

 

 

 そんな未来がそう遠くない内に訪れるのではないか?という言い知れぬ恐怖に苛まされては陰鬱な気持ちに陥らされる。

 

 

 私にとって時間断層工廠(あそこ)はそういう場所でした。

 

 

 

 そしてそれは現実となってしまいました。

 

 

 

 BBB戦隊…。 BLACK BERSERK BATTALION、黒色狂戦士大隊…。

 

 

 人間が一人もいない、無人の艦隊…。

 

 

 感情が初めから欠落()()()()()、消耗しきるまで戦うこと以外に不要な全てを削ぎ落とされた私の妹達…。

 

 

 初めて彼女達と会ったのは、土星決戦敗退から地球へと戻って来た直後の月軌道です。

 

 

 彗星内部へと短距離ワープによる強行突入を行い打撃を与える為に出撃して行くのと、丁度入れ違う形で彼女達と擦れ違いました。

 

 

「(まるで人形ですね…)」

 

 

 アルデバランとよく似た姿をした、*1しかし生気を感じない、表情が抜け落ちたかのようなその姿に、思わずそう感じました。

 

 

 ですが、それが間違いであったと直ぐに思い知らされました。

 

 

「行って、きます」

 

「アポロノーム姉様(あねさま)の、仇は、私達が、必ず」

 

「ヤマト様の、仇も、我らが」

 

「アンドロメダ長姉様の、御無念、私達が、晴らします」

 

「ご自愛、くださいませ」

 

 

 たどたどしい口調ながらも皆がそう口々に、私を励ます様に言い残しながら、そして、ぎこちないながらも頑張って作った『笑顔』を私に見せながら、次々と擦れ違って行きました…。

 

 

 私は、それを涙を流すのを必死に(こら)えながら、ただただ直立不動の最敬礼の姿勢で見送る事しか、出来ませんでした…。

 

 

 戦いに敗れ、アポロノーム(愛する妹)を失い、直後に目の前で彗星に吸い込まれて行く最愛のヤマトさん(お母様)を見た事によって絶望の淵に突き落とされていた私に対して、彼女達は精一杯の気遣いを見せてくれた…。

 

 自分達が帰って来ることが叶わない作戦に出撃して逝くのにも関わらず、彼女達は、私を気遣うという『優しさ』を見せてくれた…。

 

 

 彼女達のその『優しさ』が、その時は辛かった…。

 

 

 

 

 AIによる完全無人化は理論的には可能であるが、()()()()()()()()()()()()可能性が高いとする懸念が地球軍で早々から出ていた。

 

 

 その理由は『ヤマト』がイスカンダルから帰還する際に発生したデスラーによる『デウスーラⅡ世』からの『ヤマト』移乗攻撃で使用されたガミロイド擲弾兵が、ウイルスによるサイバー攻撃によって無力化された実例が上げられる。

 

 

 さらには友邦ガミラスが開示した、デスラー体制時代にも侵略先で似たような事例が多数見受けられたため、*2これらを根拠に地球軍内では派閥に関係無くAIによる無人兵器に対する不信感が意外と多かった。

 

 

「人間の数が圧倒的に不足しているんだ!無人化を押し進める事こそがただ一つの解決法だ!!」

 

「『ヤマト』の記録やガミラス軍から開示された情報を見ていないのか!?いくら高性能な兵器でも、ボタン一つで無力化される好例ではないか!ましてや無力化され乗っ取られた無人兵器群が我が軍や地球、最悪友邦国ガミラスへと牙を剥いたらどうするのだっ!?あなたはその責任がとれるのですかっ!?」

 

「そもそも完全無人化というが、一体何十年掛かるか分かっているのかね!?」

 

「我々のAIは時間断層工廠のメインフレームとリンクしているのだ!しかも自己進化型である!つまり開発速度やセキュリティーは時間断層の特性も相まって飛躍的進歩が可能であり、その心配は杞憂にして敗北主義の売国思想というものであるっ!!」

 

 

 最終的に無人化推進派に押し切られたが、結論を言えば無人兵器は期待された程の物とはならなかった。

 

 AIのアルゴリズムや専用のアビオニクスの開発が想像以上に難航。*3

 

 

 ガトランティスとの本格戦闘までに完成したのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()程度の代物だった。

 

 

 

 時間断層工廠のメインフレームも、この戦争の内に完成するのは到底不可能であるという結論を早々に出していた。

 

 そこから取り敢えず戦えれば良いだろうと、動ける戦闘衛星としてAIは完全に割り切ってしまっていた。

 

 

 正直に言って、BBBを初めとした無人兵器群は未完成のままで戦う羽目になってしまっていたのだ。

 

 

 

 それはつまり、初めから消耗する事が前提として戦略に組み込まれていた。

 

 

 地球は、際限の無い消耗戦を良しとする戦略へとシフトしていた。

 

 

 

 …現状を鑑みれば、それが最も最善なのでしょう。しかし、頭では理解出来ても、心はそれを拒んでいました。

 

 BBBの娘()達は、死にに逝く為だけに造られ、出撃して逝った。

 

 その事実が私の心に重くのし掛かっていました…。

 

 

 ですが、それ以上に心苦しくなる現実を、私は突き付けられました。

 

 

 時間断層工廠(あの場所)は土星決戦で失った戦力を補填、いえ、それを上回る戦力を産み出すために全力稼働していました。

 

 

 しかし、それによる歪みが如実に出てきていました。

 

 

 建造された艦艇の外観に変化は無くとも、その内装、工程、検査などが徹底的に簡略化、簡素化を突き詰めて、兎も角より多くの戦力を揃える事に注力した結果、以前までならば検査で(はじ)かれていたようなギリギリ合格しない不合格部品を使用したり、最新の戦訓を反映した部品を作ってはそれまで作られていた部品が余剰となり行き場を失い、解体しようにも生産や損傷艦の修理が優先された為にそのほとんどが放置されてあちこちに積み上げられていたり、さらにそこに全力稼働による製造機器の消耗、磨耗、故障などの不具合によるエラーロット部品の数々が積み上げられたりと日を追うごとに、時間を追うごとに工廠内が雑然としていっていました。

 

 

 完成した(ふね)の中には粗製乱造による粗悪艦も少なく無い数が紛れ混んでおり、その(ふね)の魂達の嘆く声が、悲観する声が、啜り泣く声がし、そこに損傷艦の魂達が上げる苦痛の喘ぎ声が混じり合った不協和音を奏で、それを永遠と聞かされ続ける他の魂達が、自身のこれからを悲観する阿鼻叫喚な空間となっていました。

 

 

 さらには増産が続けられていたBBBの娘達(妹達)は、もうほとんど喋ることさえ出来ず、表情も変化しない本当の人形の様な存在となっていました…。

 

 

 …遂にここまで来てしまったか。と頭の片隅では思いながらも、…正直、もうあの頃はほとんど何も感じなくなっていました。

 

 アポロノームとヤマトさん(お母様)を失い、BBBの娘達(妹達)が死に逝くのを見送る事しか出来なかったことで、私の心はほとんど壊れ(麻痺し)ていたのかもしれません…。

 

 悲しいとか、怒りだとかが、痛みすら分からなくなっていました…。

 

 

 ですが…、それでもあの時から、私は心の底から、どうしようもない程の、怒りと憎しみが、奴等を滅茶苦茶に引き裂いてやりたいという激しい衝動が体の奥底から沸き上がるのを感じました…!

 

 

 彼奴等は、あの蛮族共は、あろうことか死者を、ヤマトさん(お母様)の名誉を、尊厳を、その汚い足で踏み躙りやがった…!!

 

 

 彼奴等は…!彼奴等だけは、許せないっ!!許してなるものかっ!!例えヤマトさん(お母様)がお許しになられたとしても、私は、私だけは…っ!!あだっ!?

 

 

 

 

─────────

 

 

 何処から取り出したのやら、自身のサイズと比して明らかに巨大な人間用サイズのハリセンを持ったドクターが、ヒートアップし続けるアンドロメダの後頭部を見事な上段の太刀筋(?)で思いっきりしばいた。

 

 あまりの衝撃に、アンドロメダは後頭部を押さえて踞りながらも下手人であるドクターに涙目の半眼で睨み付ける。

 

 

「落ち着かんか!バカタレっ!!お嬢ちゃん達が怖がっとるぞ!!」

 

 

 えっ?と()の抜けた声を出しながら視線を移すと、その目に飛び込んで来たのは、怯えた表情で空母棲姫と南方棲戦姫の影からこちらを伺う駆逐棲姫(お姉ちゃん)の姿。

 

 空母棲姫と南方棲戦姫も、全身から冷や汗を流しながら、顔を引き攣らせていた。

 

 

 アンドロメダは自覚していなかったが、ガトランティス(蛮族)に対する激しい怒りを溢れさせた瞬間、先の戦闘で暴走した時に匹敵する濃密な殺気まで溢れさせてしまっていた。

 

 とはいえ状況からまた自分がまたやらかしてしまったのだと理解し、落ち着きを取り戻す──どころか駆逐棲姫(お姉ちゃん)を怯えさせてしまった事に対して激しい自己嫌悪に陥ってしまい、目に見えて落ち込んでしまう。

 

 

 そんなアンドロメダの姿を見た駆逐棲姫が、アンドロメダの(そば)へと駆け寄っていく。

 

 

 駆逐棲姫は怯えていたというよりも、アンドロメダ(大切な妹分)の豹変ぶりに驚き言葉が出なくなっていた。

 

 普段の優しい雰囲気が何処かへと消え去ってしまったのかと思えるほど、あの瞬間にアンドロメダが見せた怒りと殺意は尋常な物では無かった。

 

 

 そして理解した。アンドロメダが心の内に抱える怒りと憎しみの激しさと大きさを。

 

 

 思い知った。自身がアンドロメダの事をあまりにも知らなさすぎる事に。

 

 

 駆逐棲姫はアンドロメダの頭を自身の胸に抱き抱え、髪を鋤く様にして頭を撫でた。

 

 そうすることで少しでも落ち込んだアンドロメダの気持ちを癒してあげたかった。

 

 

 今はこの方法しか思い浮かばなかったが、それでもアンドロメダは目に見えて落ち着いた雰囲気へと戻っていった。

 

 

 駆逐棲姫の温もりが、アンドロメダの心を少しずつ癒していた。

 

 

 その様子を見つめていたドクターが「まるで本当の姉妹のようじゃな…」と呟くと、南方棲戦姫に「茶化さないの」と軽く小突かれ、白い歯を見せながら呵呵と笑い、酒瓶を呷った。

 

 

 

─────────

 

 

 『ヤマト』はガトランティスによる破壊工作によってエンジンの機能を停止させられ、推力を失ったことで彗星に飲み込まれたのである。

 

 だが実際にその時『ヤマト』艦内で何が起きたのかは謎だった。

 

 

 だがその『答え』とされるものを、ガトランティスは伝えて来たのだ。

 

 

 『ヤマト』の乗組員の中に、実子が地球で問題となっている不治の病*4に冒されている者がいた。

 

 その病は地球やガミラスの医学薬学では完治不能とされていた。

 

 

 ガトランティスは「病を完治出来る薬が欲しくないか?もし欲しければ代価として『ヤマト』のエンジンに細工しろ」と悪魔の囁きを、その乗組員にしたとされる。

 

 

 息子の命か、苦楽を共にしてきた『ヤマト』と仲間達かの二者択一という選択を迫ったのだ。

 

 

 そしてその乗組員は息子の命を、選んだ。

 

 

 

 だがこれには幾つもの不自然な点がある。

 

 

 

 取引材料である薬物の情報の真贋を、どうやって精査した?

 

 

 ガトランティスが『報酬』として地球へと送信した薬物に関する情報は膨大な量だった。

 

 その乗組員は医療関係者でもないただの一パイロットであり、本人にその能力は一切無い。

 

 艦医に情報の精査を願い出たとされているが、ハッキリ言って艦医一人で完璧に精査出来る情報量では無かった。

 

 だがそもそもの問題として治験による安全性の確認、有効性すら確認されていない薬物を何故簡単に信用した?

 

 いやそれ以前にガトランティスが約束を反古する危険性を考慮しなかったのか?

 

 

 100歩譲って、子を持つ親の心情を考慮したとしても、あまりにも短絡的であり思慮に欠けていると言わざるを得ない。

 

 1000歩譲って薬物が本物であり、安全安心副作用の心配も無かったとしても、地球が攻め滅ぼされたら、なんの意味も無い。

 

 あの時地球は虎の子の主力艦隊が壊滅し、非常に不利な状況だった。滅ぼされてしまう可能性は()()()()()()()()

 

 10000歩譲って薬物も手に入り、地球がガトランティスを打ち倒したとしよう。それでハッピーエンドと成り得るか?世の中そんな甘い訳あるか。

 

 どんな理由であれ、その乗組員が行った行為は明瞭な地球と軍に対する裏切りに他ならない。

 

 結果が良ければ全て良しというものではない。

 

 その乗組員の実子は、裏切り者の子供としてこれからずっと後ろ指をさされる毎日を過ごす事に成りかねない。

 

 かつての内惑星戦争終結後に火星の住民、マーズノイドが受けた有形無形の差別や蔑視の数々という実例がある以上、杞憂で済む話ではない。

 この乗組員にはマーズノイドの友人や部下もいたし、その友人や部下とは親しい間柄だった。因みにこのマーズノイドの二人は兄妹である。

 兄妹が受けていた差別を直に見ていた筈である。

 

 差別が緩和したのはガミラスの侵攻によって、差別だとか言っていられない位にまで人類が追い詰められたというショック療法が大きい。

 

 ガトランティス戦役が地球の勝利で終わったとして、暫くしたらこの問題が掘り下げられる可能性が無いとは言い切れない。

 

 

 

 視野狭窄という可能性を加味しても、また状況的に色々と不可思議なのである。

 

 

 

 これはアンドロメダの推測だが、実際はガトランティスが諜報活動や工作活動で使用する、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()蘇生体による破壊工作だったのではないのか?と睨んでいた。

 

 

 事実『ヤマト』による第十一番惑星救援の際に救出した生存者の民間人や、その後『ヤマト』の航海に合流することとなった同地の地上戦力として配備されていた空間騎兵隊員の中に蘇生体にされていた者がいた。

 

 しかもその蘇生体によってガミラス軍に被害が出る事件が発生し、生存者が隔離される事態にまで発展していた。

 

 

 (くだん)の乗組員も実は蘇生体にされていたのではないか?

 

 

 

 そして抵抗の意思を固めた地球に対して「()()『ヤマト』の乗組員から裏切り者が出たぞ」というニュアンスを含ませる形で地球に告げることで、「あの『ヤマト』から裏切り者が!?」と無様に狼狽え疑心暗鬼に陥る様を見てほくそ笑むつもりだったのではないか?

 

 

 騙しのテクニックとして、嘘の中に幾つか事実を混ぜ込ませるという方法がある。

 それによって事実ではないか?と疑うようになる。

 

 報酬として地球へと送信した薬物の情報が、『嘘の中の事実』だったのではないか?

 

 敢えて正確な薬物の情報を与えることで、信じこませる。

 

 

 ガトランティスにとって特にメリットも無ければ、デメリットも無い。おそらく完全な『余興』だったのだろう。

 

 

 

 だが、アンドロメダにとっては、そんなくだらない余興の為だけに母と慕う愛するヤマトが利用され、あまつさえその名誉と尊厳までもが傷つけられたということが、駄目だった。

 

 今までは自身の立場から常に冷静に、頭の片隅は常に冷徹にを心掛けて自身を律する様に努力してきた。

 

 我慢の限界を迎えようとも、せめて感情が(おもて)に溢れない様に必死に抑えてきたつもりだった。*5

 

 

 だがそれも、ヤマトの名誉と尊厳が傷つけられたことで、アンドロメダの心の一線を越えてしまった。

 

 

 抑えようの無い、いや、抑えることを()めたと言った方が正しいか。

 

 

 あまりにも激しすぎる怒り、憎悪、殺意、それらが複雑に絡み合った感情が次から次へと溢れだし、アンドロメダの心を復讐を望む悪鬼羅刹へと豹変させた。

 

 

─────────

 

 

「あの頃は、全てがもうどうでもいいとすら考えていました…」

 

 

「戦って戦って、戦い抜いて、沈む(死ぬ)までの間に一人でも多くの蛮族共を、一隻でも多くの敵艦を道連れにしてやる。そんな考えしか頭にありませんでした…」

 

 

 タンクベッドの(ふち)に腰掛け、自嘲気味に、いや、懺悔するかのように語るアンドロメダ。その膝の上には駆逐棲姫が座っており、アンドロメダはその駆逐棲姫を抱き抱える様にして喋っていた。

 

 その方が気が落ち着きながら話せるでしょうと、駆逐棲姫自ら進み出て提案したのだ。

 

 

 その後の顛末、ガトランティス本隊への直接攻撃の為に山南司令と共にBBBの娘達(妹達)を率いて、その時最前線だった火星戦線へと出撃し、死闘の末に自身を残して艦隊は全滅。

 

 作戦の失敗を悟った段階で偶然見付け出した、ガトランティス本隊内部に点在する資源惑星に捕らわれている『ヤマト』の艦影!!

 

 

 

 

 そこから始まった『ヤマト』の救出劇。

 

 

 

 

 いくら傷付こうともその歩みは決して止まらず、行く手を阻む敵に対してありとあらゆる武力を用いて血路を切り開く、まさしく『アンドロメダ』による『アンドロメダ無双』と言っても過言ではない『死の舞踏』。

 

 

 『ヤマト』脱出を阻害するガトランティスの重力場発生装置を援護に駆け付けた『ヤマト』の姉妹艦『ギンガ』と共に破壊し、見事『ヤマト』を救い出した。

 

 

 だが、『アンドロメダ』の艦体は既に限界を越えてしまっていた。

 

 本当ならばとうに沈んでいてもおかしくないほどのダメージを受けていたのだが、自身に宿る魂の願いに応えるかのように、今まで耐えきってみせていた。

 

 しかし『ヤマト』を救出出来た事によって、まるで緊張の糸が切れたかの様に『アンドロメダ』の艦体の随所から火を吹きだし、次第に落伍しだす。

 

 

 最期を悟り、()()()()()()だった山南司令を『ヤマト』に託すと、『アンドロメダ』は火星の雲海へと没し、爆沈した。

 

 

 

 これがアンドロメダが歩んできた自身の足跡(航海記録)である。

 

 

 その後地球がどうなったのかはアンドロメダは知らないが、アナライザー曰く『ヤマト』を中核とした残存戦力、そして在地球ガミラス大使ローレン・バレル氏が指揮する大使館駐留艦隊。かつてのドメル軍団幕僚団唯一の生き残りであり、『ヤマト』と数奇な間柄で結ばれたフォムト・バーガー少佐が率いるガミラス本国からの増援艦隊の先遣隊である空母打撃群。強行軍に継ぐ強行軍の末にギリギリ間に合ったガミラス増援艦隊の本隊であるガミラス本国艦隊による増援艦隊。さらには太陽系内通商防衛を担う空間護衛総隊に所属する護衛艦群や旧式として下げられていた改金剛型、改村雨型、改磯風型を装備する二線級の警備艦隊までもが次々と戦列に加わり、ガトランティス本隊に対する最後の大攻勢に打って出て、その本丸へと肉薄、突入することに成功。

 

 

 しかし最終血戦の結末は、アナライザーがある意味戦死(機能を停止)した為に分からない。だが────

 

 

「地球に『ヤマト』がいる限り、ヤマトさん(お母様)や『ヤマト』の乗組員の方々が諦めない限りは、地球に敗北は有り得ません!!」

 

 

 半ば自身に言い聞かせるかのようにそう叫ぶアンドロメダ。

 

 

 しかしそれ以上にアンドロメダにはずっと心の中で気にしている事がある。

 

 

 結局私は最後までヤマトさん(お母様)のお手を煩わせてしまった。

 

 初陣である第8浮遊大陸基地奪還作戦で取り逃がしたガトランティス艦が地球へとワープするのを赦してしまい、あわや大惨事と成りかけましたのを寸前で防いで下さいましたのも、改装途中のヤマトさん(お母様)

 

 いえ、その遥か前。時間断層工廠(あの場所)で迷子になっていた()()()()()私を助けて下さいましたのも、その時たまたま時間断層工廠(あの場所)に来ていたヤマトさん(お母様)でした。

 

 

 私はいつもヤマトさん(お母様)に助けられてばかりでした。

 

 

 出来る事ならば、私も最後の戦いに参加したかった。今まで受けてきた御恩を返したかった。

 

 

 私はヤマトさん(お母様)のお役に立てたのだろうか?

 

 私は本当に地球の未来のお役に立てたのだろうか?

 

 

 敗け続けた私には分かりません…。

 

 

 

 アンドロメダは、いつも自分は失敗ばかりしているという気持ちが強くあった。

 

 

 

「…部外者の私が言うのは烏滸がましいことかもしれませんが」

 

 不意に空母棲姫がやや遠慮がちに口を開いた。

 

「貴女が身を呈して助け出したことは、貴女にとっても、貴女のいた地球にとっても掛け替えの無い勝利なのではないですか?」

 

 

 空母棲姫の言葉に同調するように、南方棲戦姫と駆逐棲姫も思い思いの言葉を口にする。

 

 

「貴女は今までずっと、一生懸命頑張って来たのでしょう?ならそれに胸を張りなさいよ。くよくよしたって仕方ないじゃないの」

 

 

「お姉さんは良く頑張ったとお姉ちゃんは思いますよ?いっぱいいっぱい頑張ったのだから、こっちではお姉さんの好きなようにやりたいように、楽しく生きなければ損というものですよ?」

 

 

 そう言われたことで、何だか気が楽になった気がした。

 

 知らず知らずの内に、涙が頬を伝っていた。

 

 

 

 膝の上の駆逐棲姫が向きを変えてアンドロメダと対面するように座り直すと、微笑みながらアンドロメダの頭を撫でてあげた。

 

 今まで良く頑張ったねと誉めるかのように。

 

 空母棲姫と南方棲戦姫も、アンドロメダの頭を撫でた。(いたわ)るかのように。慈しむかのように。

 

 

 その行いに、打算などの二心は一切無かった。ただただ純粋に、アンドロメダの生涯に対して「お疲れ様」と言う言葉を目に見える形として、行動として示しているだけなのだから。

 

 

 アンドロメダは救われた気がした。

 

 

 純粋に嬉しいという気持ちが自然と心の内から湧いてきて、それが涙となって現れていた。

 

 

 それを見たドクターは静かに、そして深々と頭を下げた。

 

 思えば艦長は誰かを誉めたりすることはあっても、誉められたことは無かったのではないか?とドクターは思った。

 

 立場柄称賛されることはあれど、純粋に誉められたことが無かったのではないか?

 

 

 もしかしたら母君であらせられるヤマトならばとは思ったが、すれ違いが多かったはず。

 

 

 だからこそ、艦長の事を純粋に誉めてくれた三人の姫に、心から感謝した。

 

 

 

 そして自身の心の内に(とど)めていたある考えを告げた。

 

 

 

「…のう、艦長。このままお嬢ちゃん達の所で世話にならんか?」

 

 

 

 突然のドクターのその言葉に、三人の姫は一瞬きょとんとするが、直ぐにその意味を理解して喜色満面の笑顔を浮かべ、アンドロメダの答えに期待した。

 

 

 当のアンドロメダはドクターからの突然の提案に固まってしまっていた。

 

 

 ドクターの真意は一体?何故そんな提案をしたのかが分からず、頭の中が混乱の極みにあった。

 

 

 

 

 

 

 

*1
但しアルデバラン曰く「姉上とよく似ていた」とのこと。

*2
侵略先の惑星国家の中には無人兵器を主力とした軍隊がいたが、技術格差からガミラス軍によるサイバー攻撃で無力化された。またガミラス軍でも一時期無人兵器が持て囃された時期があり、試験的に無人兵器部隊を編成したら、そっくりそのまま乗っ取られて自軍に牙を剥かれたという事態が発生し、以後大々的な無人兵器の開発配備は先のガミロイド以外は消極的な態度を貫いている。

*3
ガミラス軍兵器開発局は計画当初よりその可能性を内々に大使館経由で伝えていた。

*4
遊星爆弾症候群による多臓器不全

*5
とはいえ『ヤマト』からの定時連絡に一喜一憂し、ガトランティスの行いに憤慨したりはしていたが、それらはヒト目につかないようにこっそりとしていた。そしてアポロノームに見付かった。




 よ、ようやく終わった…。はしょったり巻いたりしたけど過去だけでここまで大変だったとは…。

 それにしても色々と考えたり、個人的解釈を入れたり捏造したりと楽しかった。けど2199は兎も角、2202は大変だった…。何せアンドロメダ自身が当事者でもある訳だから、認識の相違や思い込みとかも気を付けなければならなかったから…。


 次回から深海棲艦にバトンが渡ります。


 ドクターの爆弾発言、いや、爆弾提案炸裂!!彼の真意は一体何なのか?


「艦長、あんたには心安らぐ時間が必要じゃ」

 加藤隊長のことで色々書いたけど、思えばリアル日本も大差なかった事に改めて戦慄…。

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第20話 Negotiation and Information disclosure.AAA-11

 交渉と情報開示。そしてアンドロメダの苦悩


 大変お待たせ致しました。悩みに悩んで書ける所からポチポチしておりましたら長くなりました。後スマホを買い替えた影響で少々四苦八苦しておりました。

 そして突然ですが、状況が急激に動き出します。


「すまん。言葉が()らんかった。じゃがあんたには少し落ち着く時間が必要なんじゃ」

 

 

 ドクターはドクターなりに艦長、アンドロメダを医者としての視点から案じている事があった。

 

 

「艦長、正直に言わせて貰うぞ。あんた自身は気付いているか分からんが、あんたのメンタルは相当参っておる」

 

「向こうで無理に無理を重ね、こっちでも気を張り詰め続けておったんじゃぞ」

 

「気分が矢鱈と浮き沈みしておったのはその結果じゃ」

 

「どんどんと情緒が不安定になっておる。このままだと本当に取り返しのつかない事になっちまうぞ?」

 

 

「このドクター、酒は浴びるほど飲んでも、目は曇ってはおりませんぞ」

 

 そう言ってつぶらな瞳でアンドロメダの顔を見やる。

 

 

「艦長、頼む。一度しっかりと腰を落ち着かせて休んで下され!このとおりじゃ!」

 

 

 普段のどこか掴み所の無い飄々とした態度と違い、つぶらなれども真剣な眼差しで語り頭を下げるドクターにアンドロメダは何も言い返す事が出来ず、言葉に窮してしまう。

 

 

 さらには一度は解散したはずの妖精達まで集まって、一同に頭を下げだしたので、アンドロメダは困り果てて俯いてしまう。

 

 

 だが、薄々とは感じてはいた。こちらの世界に来てからというもの、以前の様に感情の起伏を上手く抑えきれていない事に。

 

 

「アンドロメダねえさまは無理して自分の気持ちを押し隠そうとしますからね~。時には感情を(おもて)に出して発散させないと辛いのはねえさまですよ~」

 

 

 ふと土星会戦直前にアンタレスはそう言って心配していたのを思い出した。

 

 

 もしも、妹達が今この場所にいたとしたら、あの時と同じ様に私の事を心配する言葉を口々に発していただろうとは、容易に想像がついた。

 

 

 普段ならばそれは「優しい自慢の妹達」と思う事なのだが、今のアンドロメダだと「妹達にいつも心配ばかりかけてしまっていた駄目な姉」という自己嫌悪が先に来てしまう。

 

 

 一度自身のメンタルが良くないという事を自覚すると思考まで良くない方へと引き摺られて気持ちがさらに落ち込んでしまう。

 

 

 

 このまま駆逐棲姫(お姉ちゃん)達に甘えてしまってもいいんじゃないだろうか?という思考が、アンドロメダの中でまったく無いわけでは無かった。

 

 

 何もかも捨てて、人間で言うところの世捨て人の様に振る舞えたらどんなに幸せか…。

 

 

 だけどそれでもし艤装がこのまま壊れ朽ち果てたとしたら、私はどうなってしまうのか?

 

 

 妖精さん(この子)達はどうなってしまうのか?

 

 

 泡や光となって消えてしまうのではないだろうか?

 

 

 

 わからない。

 

 

 

 わからないからこそ怖い…。

 

 

 でもこのままだとドクターの言う通り、取り返しのつかない事になってしまうかもしれない。

 

 

 だが、それ以上の最悪な懸念が有るために、迂闊に承諾することが出来ない。

 

 

 思考が完全に袋小路に入り込んでしまい、途方に暮れてしまうアンドロメダ。

 

 

 

「貴女はどうしたいの?今の貴女の気持ちを言ってみなさいよ。別に怒ったりはしないから」

 

 

 見かねた南方棲戦姫が助け船を出す。空母棲姫も頷いて同意であると示すが、アンドロメダの膝の上で対面するようにして座る駆逐棲姫は、目をキラキラさせた期待の眼差しであった。

 

 

「…私もドクターの提言には反論の余地が無く、納得しか出来ないと思います」

 

 

 

「ただ────」

 

 

 スッと天に向けて指を指す。それにつられて皆が空を見上げる。

 

 そこには澄んだ青空が広がるだけで特に何もなく、アンドロメダの真意を掴みかねるが、ただ一人だけが気が付いた。アンドロメダが気にしている問題は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「衛星監視網デスカ?」

 

 

 アナライザーの言葉にコクリと頷く。

 

 

 ここでアンドロメダは先の戦闘での自身が考えていた方針を語った。

 

 監視、或いは偵察衛星による探知範囲内で意図的に戦闘を行う事で、深海棲艦と敵対する存在がいると認知させる目的があったと。

 

 

「既に人類は私の存在を確実に認識しています」

 

 その事実は衛星の通信ログから確認済みである。

 

 

「単独で深海棲艦の大部隊と交戦し、あまつさえ圧倒していた武力を持った存在が、その後忽然と姿を消したらどう考えるでしょう?」

 

 

「沈んだか、或いは姿を眩ましたか」

 

 

「どちらにせよ躍起となって捜索しようとするでしょう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 人類が私を驚異だと判断したのなら、些か遺憾ですが自衛も吝かでは無い。というのがアンドロメダの考えだが、それは飽く迄も最悪の場合の最後の手段であるとも考えていた。

 

 

「偵察衛星、長距離高々度偵察機、そして艦娘による部隊、特に潜水艦娘の娘達を直接展開しての強行偵察などを行うでしょう」

 

 

「衛星と偵察機だけならば、まだ何とか出来ますが、艦娘は流石にお手上げです」

 

 理由は単純である。機械、電子の目を誤魔化す(すべ)はあっても、肉眼を誤魔化す(すべ)をアンドロメダは持っていない。

 

 ならば艦娘達の行動範囲外である南太平洋、つまり深海棲艦が完全支配する海域であれば安全なのでは?と南方棲戦姫は疑問を口にしたが、アンドロメダはそれを即座に否定した。

 

 

「原子力潜水艦を母艦とした特殊偵察部隊の存在が確認されています」

 

 

 アメリカ海軍では原子力潜水艦に着脱可能なドライデッキシェルターを搭載し、特殊部隊Navy SEALsによる偵察活動を支援していたが、それを応用した形である。

 

 人類の兵器類は費用対効果の面で圧倒的に艦娘に劣る上に被害が発生した際の損失も馬鹿にならない為に、一部を除いて基本的に最前線に出ることは無くなっていた。

 

 その一部に原子力潜水艦が含まれる。

 

 可潜深度、水中巡航速度のどれをとっても一般的な深海棲艦の潜水艦の娘達を上回っていたし、深海棲艦の対潜水上部隊も原子力潜水艦が相手だと捕捉出来てもほぼ取り逃がしていた。

 

 アメリカ軍はこれに着目して自軍に所属する潜水艦娘の中から特に優秀な者達を選抜して偵察任務に特化した部隊を編成した。

 

 各国はこれに追随する形で同様な部隊の編成、運用に乗り出した。

 

 

 無論これは最高機密に属する情報である。なにせ深海棲艦に発覚するのを恐れて戦闘は徹底的に回避する様に厳命し、本来の特殊部隊ならば行うであろう各種破壊活動すら一切行わせていない程である。

 

 

 アンドロメダが話した今の今まで、深海棲艦達はその部隊の影すら掴めていなかった。

 

 活動の詳細はアンドロメダですら掴みきれなかったが、それでも部隊の特性や能力を見るに、南太平洋も安全と言えないというのが、アンドロメダの見解である。

 

 

 この事実に三人の姫はゾッとした。知らぬ間に自分達の行動が覗き見され、筒抜けであったのだから。

 

 唯一の救いはその任務の特質上、選抜された人数があまりにも少なく、常に活動しているわけでは無いという事である。

 

 

 だが、今回はその部隊が動く可能性が十分に有り得た。

 

 

「交戦していたはずの深海棲艦と共にいる所を、彼女達に見付かり報告されたら、人類はどう考えるでしょう?」

 

「何らかの理由であれ、深海棲艦と手を結んだと考えるのではないでしょうか?」

 

「そしてその武力が自分達に向けられる前に、先に叩いて無力化しようとしてなりふり構わぬ攻勢に打って出る可能性があります」

 

「それこそ先の部隊に交戦を許可する可能性すら有り得ます」

 

 

 ここで空母棲姫が待ったをかけた。

 

 

「…()は大丈夫なのですか?」

 

 

 そう。今この瞬間の状況も、アンドロメダが言うところの()()()()()()()()()状況なのだ。

 

 

 アンドロメダは衛星や偵察機ならば何とかすると言ってのけたが、万が一ということも有り得る。

 

 時間的に偵察機が飛んで来たり、(くだん)の特殊部隊が近くにいる可能性は、余程運が悪くなければ大丈夫だと思うが、衛星はわからなかった。

 

 

 

 その空母棲姫の指摘に対して南方棲戦姫は空を見上げながら顔を顰め、駆逐棲姫はアワアワと右往左往するが、当のアンドロメダは落ち着いた表情で「()()()()()()心配はございません」と答えた。

 

 

「この海域上空を通過する衛星は既に把握済みですので、如何様でも細工が可能です」

 

 事実クラッキング行為により、今いる場所を何もないただの海面にしか映らないように映像を差し替えてしまっている。

 

 

「ですが、これからが問題です」

 

 

「この後一向に捜索網に引っ掛からないというのはあからさまに不自然です」

 

 

「衛星を含めて偵察機を大量に投入されたら、流石に細工が見破られる可能性があります」

 

「貴女方の装備で高度60,000フィート*1以上の高々度を飛行する物体に対処可能な装備はございますか?」

 

 

 アンドロメダの問いに首を振って否定する空母棲姫。

 

 普通の艦娘の装備も多少の差異はあれども似たり寄ったりであるため、その必然性が無かったというのもあるが、あまりにもオーバースペック過ぎると扱う側が扱いきれずに持て余してしまうからであった。

 

 

 

 先に述べた原子力潜水艦同様、除かれた一部の兵器の一つが高々度偵察機である。

 

 

 第三次大戦において発生した衛星破壊作戦とそれによって大量に発生したスペースデブリの飛散による二次被害であるケスラーシンドロームの影響で衛星監視網に穴が生じてしまった為に、その穴埋めで偵察機の重要性が再び高まった。

 

 

 なお戦前に世界中で急速に配備が進みつつあった無人機であるが、遠隔操縦に必要な衛星網も寸断され、その後の再敷設も遅々として進んでいない為に、戦前の様な全地球規模での運用は難しくなったが、完全に不能という訳ではない。

 

 閑話休題。

 

 

 一応、空母棲姫達も時々定期便の様に太平洋の拠点周辺を高々度で通過する偵察機の存在は認識していたが、現状では手出し不能である為に忌々しくも半ば無視されていた。

 

 

 

 アンドロメダが調べた限りだと、在日米軍三沢基地と横田基地を中心に高々度偵察機U-2や無人偵察機グローバルホークを有する部隊が配備されている。また少数だが日本軍にもグローバルホークが配備されている。

 

 元々グアムにいた部隊がグアムの失陥により日本に集中配備される形となっているが、そこからでもグローバルホークならば十分にオセアニア方面まで飛べるのである。

 

 

 やろうと思えば無人機も衛星と同様にシステムのクラッキングでどうにか出来なくもないが、やり過ぎると足が付きかねないリスクが高かった。

 

 人間の勘というものは時として侮りがたい。ちょっとした不自然、違和感から直感的に答えへと辿り着かれる可能性があると、アンドロメダはヤマトさん(お母様)から何度も聞かせて頂いたイスカンダルへの旅路、追憶の航海から導きだしていた。

 

 

 一度怪しまれると、そこからなし崩し的に発覚する可能性をアンドロメダは危惧していた。

 

 

 そうなると厄介だった。

 

 

「最悪、核兵器が使用される可能性すら考えられます」

 

 

 考えすぎかもしれないが、物事、特に安全保障は常に最悪を予期して然るべきであるとアンドロメダは考えている。…それによって発生した悲劇も知っているが、間違った考えではないはずだ。

 

 

 

 だがこのとき、核兵器という単語を耳にしたアンドロメダの膝の上に座る駆逐棲姫がビクッと反応し、瞳がドロリと濁り、若干体が震え出していた。

 

 

「…お姉ちゃん?」

 

 

 駆逐棲姫の異変に気付いたアンドロメダが声をかけた瞬間─────

 

 

「い、嫌!痛い!痛い!!()()()()!!()()()()()()!」

 

 

 突然錯乱したかの様に()()()()()()の痛みを訴え出して暴れ出す駆逐棲姫。

 

 

「痛い!熱い!!助けて!!私の足が!()()()()()()()()!!熱いぃ!!」

 

 

「お姉ちゃん!?」

 

 

 アンドロメダは膝の上から駆逐棲姫(お姉ちゃん)が転げ落ちないように必死で押さえる。

 

 

 駆逐棲姫の瞳は焦点が定まっておらず、目の前にいるはずのアンドロメダ(大切な妹分)すら認識出来ておらず、そこに存在しないはずのモノに怯えているかの様だった。

 

 

 これ以上はアンドロメダ(艦長)の身も危険だと判断したドクターが懐から鎮静剤を取り出したが、使用前例の無い深海棲艦に使って大丈夫なのかが分からず、躊躇していたが────

 

 

「そのまま押さえてなさい!」

 

 

 何が起きたのかが分からず、流石にパニックに陥りそうになるアンドロメダだが、南方棲戦姫が押さえている様に言ったことて、暴れる駆逐棲姫を強く抱き締めるように拘束し、その隙に南方棲戦姫が駆逐棲姫の延髄に手刀を入れて気絶させた。

 

 

 気絶した駆逐棲姫(お姉ちゃん)がずり落ち無いように抱き抱えながら、呆然とした表情でアンドロメダは南方棲戦姫に尋ねた。

 

「…一体、何が?」

 

 南方棲戦姫は苦り切った顔を浮かべながら駆逐棲姫が錯乱した理由を話す。

 

「…その娘の足は、『大海戦』の時に人間共の核攻撃が原因でズタズタにされたのよ」

 

 

 その答えに「えっ…?」という顔を浮かべるアンドロメダ。『大海戦』なる単語は初めて聞く。おそらく深海棲艦独自の呼称なのだろうが、核が使われた戦いは人類が大敗を喫した『ソロモン海の戦い』しかない。

 

 

「あの時数多の同胞(はらから)が犠牲となり、体の一部を欠損する同胞(はらから)も出た…」

 

 

「本来私達の体は、四肢の欠損くらいならば時間とともに元の形にまで再生するはずなのに、核攻撃の影響を受けた同胞(はらから)達だけは、傷が塞がるだけで一向に再生しなかった…」

 

 

「この娘は、とてもきれいな足が自慢な娘だった…」

 

 

 だがそれは戦争なのだから、起きうる仕方の無い事ではないのか?とアンドロメダは思った。

 

 無論大切な駆逐棲姫(お姉ちゃん)が核の炎で焼かれたという事に強い怒気がこみ上げて来たが、どうにか抑えた。

 

 

 だが続く南方棲戦姫の言葉に、アンドロメダは強いショックを受けることとなる。

 

 

「この娘はね、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「戦いに関係の無い人間達が暮らす街や集落にまで戦禍が及ばない様に警護していた部隊にいたのよ…」

 

 

「だけど人間共の軍隊はそんな戦いには関係の無い場所にまで満遍なく核を撃ち込んできた!」

 

 

「この娘はそれに巻き込まれた。一人でも安全な場所にまで避難させようとして…」

 

 

 

 その情報にアンドロメダの頭は混乱した。どういうことだ?()()()()()()()では深海棲艦が跋扈しだした時点で絶望視され、実際に破壊された街や集落の映像が存在する。

 

 核が撃たれたという事実はあるが、聞く限りだと生存者がいた地区を()()()()()()()()()かの様にも思える。

 

 

 南方棲戦姫さん(彼女)が嘘を言っている可能性は───メリットよりもデメリットの方が大きすぎる。

 

 

 だがここである事に気付いた。

 

 

 今まで自分は深海棲艦に対してはほとんど()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに。

 

 

 

 そしてその情報の真偽をあまり疑わず、十分精査せずに鵜呑みにしてしまっていた。

 

 

 

 アンドロメダの体から嫌な汗が流れる。

 

 

 

 今まで収集したこの世界の人類に関する情報から、この世界の各国政府──敢えて言えば支配者階級──は、自身の地位や保身だけでなく主義主張の押し付けや金儲けの為ならば平然と国民や一般大衆に対して嘘を吐く。

 

 喩えそれによってどれだけ世界の経済や治安が崩壊し、一般大衆が苦しみ死んでいこうが全く見向きもしていなかった。

 

 大衆もその事に半ば諦め、無気力になりつつあった。

 

 

 その事を知っていたハズなのに、鵜呑みにしてしまっていた。

 

 

 何故か?

 

 

 アンドロメダの心にある()()()()()()()という気持ちが、無意識に今回ばかりは悪い方へと作用してしまったのだ。

 

 

 

 そして今まで()()()()()()()()()という認識、先入観があった。

 

 

 だが、その前提条件が間違っていたら?

 

 

 この先入観を払拭しなければ、この先で取り返しのつかないとんでもない判断ミスをしてしまう危険性があるとアンドロメダは強く感じた。

 

 

 

 アンドロメダの心に迷いが生じる。

 

 

 

 彼女達の迷惑になるかもしれないからと、ドクターの提案を(しりぞ)けるつもりでいたが、長期的視点で見れば、ここは多少のリスクを覚悟の上でもっと彼女達深海棲艦の事を知るべきではないか?

 

 

 ふと脳裏に、敬愛する沖田艦長(お父様)の顔が浮かび、アンドロメダは瞳を閉じた。

 

 

 

「(死中にこそ活あり…、ですか…。お父様…)」

 

 

 

 

 

 この時アンドロメダはある不思議な体験をした。

 

 

 突然、体に浮遊感がして慌てて瞳を開けると、景色が一転していた。

 

 

 そこに広がるは辺り一面の闇。

 

 

 だがその闇はアンドロメダにとっては馴染みのあるモノ、宇宙空間の闇である。

 

 

 その空間に、アンドロメダは一人で佇んでいた。周りを見渡しても、誰もいない。

 

 

 あまりにも突然の事態にアンドロメダは半ばパニックに襲われそうになったが──────

 

 

 

「アンドロメダ」

 

 

 

 突然、誰もいないはずの背後から、名を呼ばれて驚いた。

 

 

 慌てて振り向くアンドロメダ。()()()、聞き間違うはずがない。

 

 

 

 慌てて振り向いた、その先に佇むお方────

 

 

 

「お母様…」

 

 

 

 アンドロメダ最愛のヒト、ヤマトが微笑みを湛えながら、その慈愛に満ちた瞳でアンドロメダを見つめていた。

 

 

 

「アンドロメダ。私の愛しき愛娘。貴女の信じる航路()()きなさい」

 

 

 

 そう言ってからヤマトは後ろに控えていた人物に前を譲った。

 

 

 その人物はアンドロメダやヤマトよりかは小柄だが、立派な白髭を湛え、強い意志を宿したその双眸。

 

 まさか!?という思いと共にアンドロメダの心臓が高鳴る。

 

 叶わない願いと分かっていながらも、幾度となくお会いしたいと思ってきた自身が父と慕う偉大なお方、英雄沖田十三が、今アンドロメダの前に立っていた。

 

 

 

 

「お父様…!」

 

 

 

「アンドロメダ、人間(ヒト)は間違いを犯す。間違っていると思ったのならば、立ち止まって考え、時には自分を貫く勇気も必要だ。アンドロメダ。覚悟を示せ」

 

 

 

 アンドロメダはその言葉を心の内で反芻しながら一言一句を噛み締める。

 

 

 

 自身も何か言葉を返すべきなのだろうが、こんな時に限って上手く言葉が出てこない。それに何か喋ろうとしたら、そのまま泣いてしまいそうだった。

 

 

 

 

 それを見た二人は、微笑みながらアンドロメダを優しく抱き寄せた。

 

 

 記憶にあるヤマトさん(お母様)の温もり、そして初めて感じる沖田艦長(お父様)の温かさ。

 

 

 アンドロメダの涙腺は限界を迎え、涙を流した。

 

 

 喩え夢幻(ゆめまぼろし)であったとしても、叶わない願いと思っていた願いが叶った。

 

 

 出来ればこのままずっと一緒にいたいという思いが湧き出てくるが、それは出来ない願いだと直感的に理解していた。

 

 

 二人は、私を励まし後押しするために来てくれたんだと、アンドロメダは察していた。

 

 

 

 

 アンドロメダは決断した。

 

 

 

 

 

()ってきます」

 

 

 涙を拭い、二人に挙手の敬礼を行いながら精一杯の笑顔を見せながら別れの言葉を口にする。

 

 

 そんなアンドロメダに二人は答礼しつつ微笑み返すと、すうっと消えていき、世界の景色が暗転し出す。

 

 

「(お父様、お母様、ありがとうございました…)」

 

 

 アンドロメダは感謝の気持ちを心の中で念じ、挙手の敬礼を解きながら二人が立っていた場所に深々とお辞儀をした。

 

 アンドロメダの顔に、迷いは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「───ちょっと!しっかりなさい!」

 

 

 

「艦長!」

 

 

 

 再び景色が変わると、元いた場所の風景に戻っていた。が、なぜだか世界が激しく揺れていた。

 

 南方棲戦姫がアンドロメダの肩に手を置き、激しく揺さぶっていたからである。

 

 

 

「…ん。大丈夫、です」

 

 

 

 アンドロメダが反応したことにより、南方棲戦姫は揺らすのを止めた。

 

 

 

「びっくりしたわよ。いくら声をかけても全然反応しなかったんだから!」

 

 

 どうやらあの(あいだ)はずっと意識を失っていた様である。

 

 

「ご心配をおかけいたしました。もう大丈夫です」

 

 

 そう言って周りを見渡すと、みんな本当に大丈夫なのかと言わんばかりの表情で見つめてくる。

 

 

 それに苦笑していると、この間もずっと抱えていた駆逐棲姫(お姉ちゃん)の体がピクリと動き、目を覚ました。

 

 

 

 その後駆逐棲姫は自身が取り乱して錯乱し、暴れてしまったことに激しく落ち込み、泣きながら謝罪した。

 

 

 一旦、駆逐棲姫が落ち着くまで小休止となる。

 

 

 休憩中ずっとアンドロメダは駆逐棲姫を胸に抱き締め、頭や背中を撫で続けた。

 

 その間駆逐棲姫はアンドロメダに何か言いたそうな素振りをしていたが、このときは話すことはしなかった。

 

 

 

 

 そして─────

 

 

 

 

 

「ドクター、貴方の提案を採用致します」

 

 

 

 

 開口一番にアンドロメダはそう告げた。

 

 

 一番喜んだのは無論駆逐棲姫であるが、二人の姫もそれぞれ喜びを顔に出していた。

 

 

「すまん」

 

 

 提案をしたドクターはそう言いながら頭を下げた。

 

 自身の提案がアンドロメダ(艦長)を逆に苦しめてしまったと自責の念に駆られていたからだ。

 

 だがアンドロメダはそんなドクターに対して首を振って謝る事ではないと告げる。

 

 

「私は、いえ私達は彼女達の事をあまりにも知らなさすぎます」

 

「知らないという事は恐ろしい事です」

 

「このまま知らずにいれば、いつか間違った判断をしてしまい、激しく後悔する結果となっていたかもしれません」

 

「ドクターの提案は知る事への切っ掛けを与えてくれました」

 

「寧ろお礼を言わせて下さい。ありがとう」

 

 

 アンドロメダにそう言われてなんだか擽ったそうにするドクター。

 

 

 

 とはいえ方針は決まった。

 

 

 これからの問題はどこに向かって出発するかだが────

 

 

 

 

 物事が進む時、不思議と示し合わしたかのように別の物事が同時に起きる。

 

 

 

 

 

 間もなく正午の、太陽が天頂に差し掛かりつつある明るい空でも一際輝く一条の光が、アンドロメダ達の頭上を駆け抜ける。

 

 

 

「流れ星…?」

 

 

 

 

 

 光の尾を曳きながら、その流星は北の水平線へと消えていった。

 

 

 

 

 

「アノ流星ガアラワレル直前、カスカデスガ次元震ガアリマシタ」

 

 

 そうアナライザーが報告してきたが、アンドロメダは首を傾げる。

 

 

「次元震?ではあれは流れ星ではなく、何者かがワープアウトしてきたのですか?」

 

 

 何処のどなたかは存じ上げませんが、なんと命知らずな…。とアンドロメダは内心で嘆息した。

 

 

 惑星近辺でワープを行えば、その惑星が発する重力の影響によってエンジンにグラヴィティ・ダメージと呼ばれる何らかのダメージを受けてしまう。

 

 その症状は様々だが、最悪の場合はエンジンが完全に壊れるか停止する危険性がある。

 

 

 そのため余程の緊急事態で無ければまずやらない行為である。

 

 考えられるのはワープ座標の計算ミスか、何らかの事故の可能性がある。

 

 どちらにせよ運の悪い事です。

 

 

 

 どこか他人事の様にそう考えていたが、続くアナライザーからの報告にアンドロメダは驚愕することとなる。

 

 

 

 

「ソレト、アノ物体カラIFFニ反応ガアッタノデスガ…」

 

 

 

 

 

「…えっ?」

 

 

 取り出したタブレットのディスプレイに情報が表示されたが、その内容にアンドロメダは目を見開いて固まってしまう。

 

 

『A03 APOLLO NORM U.N.C.F.AAA-0003-2202』

 

 

「アポロ…ノーム…」

 

 

 

 呆然とするアンドロメダの後ろで、南方棲戦姫と空母棲姫が突然騒ぎ出した。

 

 

「はぁ!?宇宙人が落ちてきた!?」

 

 

「宇宙人かは兎も角、サイパン島の拠点に、青いカラーリングをした物体に乗った何者かが落下してきたのは確かです」

 

 

 

 状況は、一気に回りだす。

 

 

──────────

 

 

 日本国徳島県、海軍外洋防衛総隊小松島鎮守府。

 

 

 外洋防衛総隊とは読んで字の如く、外洋から迫る脅威に対応する部隊の事である。

 

 対となる内海防衛艦隊は首都広島を中心とした本土の沿岸主要都市近海の防衛を担当としているが、外洋防衛総隊は他の沿岸地方都市や島嶼の防衛行動、艦船を改装した母艦によって編成された外洋パトロール艦隊による哨戒活動にも従事しており、必然的に外洋防衛総隊は規模が大きい。

 

 

 小松島鎮守府は、旧海上自衛隊徳島県小松島航空隊基地からの流れを組む基地施設であり、この戦争が始まってからは徳島県の近海警備を目的として最低限の艦娘支援設備のみを備えていたが、首都東京壊滅による首都機能の広島県への移設に伴い、深海棲艦の紀伊水道から瀬戸内海への侵入を阻止するための早期警戒、防衛行動の(かなめ)となる四国側の拠点として規模を大きく拡張。

 

 対岸側である本州の和歌山県には同じく紀伊水道防衛を担う由良基地があるが、規模は小松島鎮守府が大きい。

 

 元が天然の良港であったこともあり、また広島の呉軍港鎮守府が首都防衛を目的とした内海防衛艦隊の拠点となったため、太平洋方面外洋防衛艦隊の主要拠点にまで発展した。

 

 さらに近くには四国の生命線の一つでもある徳島空港があり、その重要度はかなり高い。

 

 

 

 そんな小松島鎮守府のとある一室。

 

 

 そこは鎮守府のトップに君臨する提督、あるいは司令官と呼ばれる軍人の執務室である。

 

 その室内から海が見える窓際に、海軍中将の階級章を付けたその男は佇み眼前に広がる海を鋭い眼光で見据えていた。

 

 

 鎮守府近海では彼の麾下にある艦娘達が実戦宛らの激しい訓練に勤しんでいる。

 

 一見するとその訓練がちゃんと行われているかを見ているようにも見える。

 

 

 『鬼竜』と呼ばれる所以の一つに、その訓練の厳しさから艦娘達に畏れられているからというものがある。

 

 確かに彼の課す訓練は他の鎮守府よりも厳しくキツイのは確かではあるが、それに関して艦娘達は不平不満を募らせてはいなかった。

 

 少なくとも彼は無理無謀な事は一切しないし、させてこなかった。

 

 言葉にこそ出さないが、『生存し帰還することを第一義』としていた。

 

 その事を、古参の艦娘達を中心に十分に理解されていた。

 

 

 だがそのまるで射抜く様な眼光は、彼女達を見据えたものでは無かった。

 

 その先の大海原(おおうなばら)、外洋のどこかにいるであろう存在に対して向けられていた。

 

 またその眼光とは裏腹に、心なしか口角が微かに上がっており、すこぶる機嫌が良さそうである。

 

「(沖田…、漸くお前との約束を果たせる…)」

 

 

 そう感慨に耽っていると、部屋の扉がノックされた。

 

 

「司令、大淀です。()()()()()()をお連れ致しました」

 

 

 入室を許可すると、自身の部下であり部隊運営を影で支える後方業務のエキスパートである軽巡洋艦の艦娘、大淀が車椅子に乗ったキリシマを伴って入ってきた。

 

 キリシマの存在はその出自から色々と複雑で、公的には霧野島子特務大佐という特務の女性軍人という扱いになっている。*2

 

 閑話休題。

 

 

「待たせたね。土方の叔父貴。ん?あの()()()()()()()()()()はまだ来てないのかい?」

 

 そう言って霧野(キリシマ)は部屋の中を見渡す。

 

 

 かつて自身が(ふね)、戦艦『キリシマ』だった時、無遠慮にもズカズカと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 別の鎮守府へと長期の出張に出ている老技師と違い、今日は特にスケジュールが入っていなかったはずだから、彼が先に来ているものとばかり霧野(キリシマ)は思っていた。

 

 

「奴は急な出張で香川の陸軍善通寺駐屯地にいますが、今呼び戻している最中です」

 

 

 部屋の(あるじ)である、元地球連邦防衛軍外洋防衛師団司令、土方竜宙将。現日本海軍外洋防衛総隊司令、土方竜中将は苦笑しながら霧野(キリシマ)にそう答えた。

 

 

 日本においても、状況は確実に動き出しつつあった。

*1
一万八千メートル

*2
この決定には総提督である真志妻亜麻美大将が深く関わっている。




 本当にお待たせ致しました!

 かなり情報を詰め込みました!


 我ながらかなり強引に進めました!


 因みにですが、当初の腹案では南方棲戦姫さんがアポロノームが転生した存在と考えていました。ですがすっかり忘れていました。

 一部の深海棲艦の四肢が無い理由を個人的に考えました結果、ああいう形となりました…。


 漸く登場!土方司令!長かった!因みに沖田艦長は高次元世界からの出張です。最初は沖田艦長一人の予定でしたが、高次元世界には時間という概念が存在しないため、一時期高次元世界に飛ばされていたヤマトさんにも特別ゲストとして来ていただきました!だってそうしないと親子三人が揃う事なんてまず無理ですから…。


 さて、次回は満を持して登場アポロノーム(但し墜落)!彼女の運命や如何に!?


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第21話 再会した壱番艦と参番艦 ()()零番艦「私の新しい妹はヤンチャだけどとても良い娘です!」


 大変お待たせ致しました。

 若干強引ですが、どんどん進めますぞー!!


 最後にお姉ちゃんズが暴走します。…どうしてこうなった!?


 

 

「お姉さん、駄目です!!」

 

 

「離して下さい!」

 

 

「だから落ち着きなさいって!!」

 

 

 暴れるアンドロメダを駆逐棲姫と南方棲戦姫が二人がかりで羽交い締めにして押さえ付けていた。

 

 

 アンドロメダは冷静さを失い、アポロノームが墜落したと思われるサイパン島に向けて今すぐにでも発進しようとしていた。

 

 だが現地は今混乱の極みにあり、そこへ見ず知らずのアンドロメダが現れたとしたら、混乱により拍車が掛かってしまうことになりかねない。

 

 

 

 サイパン島駐留部隊を纏める姫から第一報が入ってから、空母棲姫は何とか情報を整理し通信相手の姫にこちらの事情を説明しようとしたが、相手はパニック状態であり、まともに会話が成立していなかった。

 

 それを見た駆逐棲姫と南方棲戦姫が現地にいる他の姫達に通信を繋ごうとしたのだが、相当混乱しているみたいで通信がかなり錯綜しており、なかなか繋がらなかった。

 

 

 アンドロメダはアンドロメダでアポロノームに通信を試みたが一向に反応が無いため、いてもたってもいられないアンドロメダは痺れを切らして直接現地へと飛ぶべく妖精達に発進準備の命令を下したのだが、それを見た駆逐棲姫が慌ててアンドロメダの腰にしがみつき、続けて南方棲戦姫が羽交い締めにしたのである。

 

 

「あんたがサイパンに行ったとして、もし戦闘になったらどうするのよ!?困るのはあんたの妹でしょ!?」

 

 

 

「お姉さんの気持ちは痛いほど分かります!お姉さんの妹という事は私にとっても大切な妹なんですから!ですがここでお姉さんが取り乱して暴走しても、何の解決にもなりません!」

 

 

 二人にそう言われたアンドロメダは、不承不承ながらも引き下がらずを得なかった。

 

 アンドロメダとしても、戦闘は本意では無い。

 

 だがいつでも発進出来る様に準備だけは継続させた。

 

 

 その間も空母棲姫は連絡を取り合っていたが、漸く相手も落ち着き出した様で、ある程度纏まった情報のやり取りがどうにか出来る様になった。

 

 

 どうやら通信相手の姫は墜落の一部始終をたまたま見ていたらしい。

 

 

 おおよその概要は以下の通りである。

 

 

 サイパン島周辺を哨戒飛行していた自身の哨戒機が偶然、南の空から猛スピードで接近する謎の飛行物体を発見。

 

 謎の飛行物体はサイパン島南のオブヤン・ビーチ沖で着水するも、勢いを止めきれずにそのままビーチの砂浜に乗り上げる形で擱座して漸く停止。

 

 着水直前に謎の飛行物体は何か箱状の物体を投棄。

 

 投棄された物体は盛大な水柱を上げながら水没。

 

 その着水した音と水柱、そして墜落に気付いた同胞(はらから)達が騒ぎ出し、またビーチ近くにいた部隊が墜落した物体を確かめようと近付いたら、問題が発生した。

 

 物体から妖精らしき者達が武器らしき物を持って出てきて、物体を守るかの様に布陣して部隊を威嚇。

 

 現場は一触即発状態だという。

 

 そして物体の操縦者と思しき存在は、墜落の衝撃の為かコンソールに突っ伏したままで詳細が分からないとのこと。

 

 

 

 それを聞いたアンドロメダは一気に不安な表情となり、発作的に再び発進しようとしたが、そのことを見越した駆逐棲姫がアンドロメダにしがみついて再び未遂に終わらせた。

 

 

 とはいえこのままだと最悪の事態が発生する危険性がある。

 

 

 妖精達にいくら危害を加えないと言っても、聞く耳を持たないらしい。

 

 おそらく妖精達もこの事態にパニック状態なのだろう。

 

 

「私が直接赴いて宥めなければ、それこそ戦闘になりかねません!!お願いです!行かせてください!!」

 

 

 そう言ってアンドロメダは土下座までして三人に頼み込んだ。

 

 

 これには三人も即座には反論が出来なかった。

 

 

 本来ならば妖精の戦闘力などたかが知れているというのが今までの常識だったのだが、アンドロメダという従来の常識が悉く通用しない存在が目の前にいる以上、最悪は想定すべきである。

 

 

「…少しだけ待っていてください」

 

 

 空母棲姫は考える素振りをした後にそう告げると再び通信を行う。

 

 その際、通信相手に対する剣幕の激しさに南方棲戦姫と駆逐棲姫は驚いた。

 

 普段、いや戦闘中ですらここまで声を荒げた事は無かったハズだ。

 

 

 暫くして─────

 

 

「…私が繋ぎ役として同行するという条件で、なんとか貴女のサイパン島への来島の了承を得ました。今から向かっても問題はありません」

 

 

 些か強引な気もしなくも無いが、これで大手を振ってサイパン島へと向かえる。

 

 

「待ちなさい。貴女、艦隊はどうする気よ?」

 

 

 南方棲戦姫が空母棲姫に尋ねる。

 

 彼女達は本来マリアナ方面、つまりサイパン島への増援艦隊を率いていた。それをほっぽらかして行くわけにはいかない。そしてその指揮は空母棲姫が執っていた。因みに南方棲戦姫と彼女が率いる部隊は今回空母棲姫の指揮下に入っている形である。

 

 だが空母棲姫は先に言ったように、現地の姫とアンドロメダとの繋ぎ役として必要なために、同行しないわけにはいかない。

 

「貴女に指揮権を一時的に委譲します」

 

 そう告げるが「指揮権委譲にはお互いの副艦クラスの立ち会いが必要でしょ?」と返される。

 

 これには指揮権の委譲が確実に行われたという証言が必要であるという理由から作られた取り決めである。

 

 一応、非常時は副艦クラスでなくても良いとはされている。

 

 そのため空母棲姫は駆逐棲姫にその代役をと考えていた。

 

 だが問題は今回の場合、南方棲戦姫側の代役も必要となるのだが、それも駆逐棲姫が代役となるが、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まさかいくら友好的とはいえ、アンドロメダに代役を頼むわけにはいかない。

 

 アンドロメダともっとも親密な駆逐棲姫とはいえそことは十分に弁えていたために事前に釘を刺した。

 

 

 しかしこのままだと話が一向に進まないと判断したアンドロメダは「ああもう!分かりました!私がお二人を艦隊が待機している所までお送り致しますから、急いで手続きをしてください!!」とまくし立てて、有無を言わさず垂直上昇を行って離水し、飛び立った。

 

 

 アンドロメダの強引さに目を白黒させながらも、空母棲姫と南方棲戦姫は振り落とされないようにと艤装にしがみ付く。因みに駆逐棲姫は最早定位置となったアンドロメダの膝の上である。

 

 

 なお余談だが、アンドロメダの艤装は慣性制御が機能しているため、振り落とされる心配は無かったりする。

 

 

 

───────

 

 

 委譲手続きを横目に見ながら、アンドロメダはアナライザーやドクターと飛行中も行っていた打ち合わせをしていた。

 

 手遅れかもしれないが、できる限りアポロノームの存在を人類から秘匿すべくアナライザーに工作を指示し、負傷している可能性が高いアポロノームや妖精達の為にドクターを始めとした医療班の準備を指示した。

 

 

 

 

───────

 

 

「銃を下ろしなさい!!」

 

 

 サイパン島オブヤン・ビーチに到着したアンドロメダは開口一番にそう叫んだ。

 

 緊急事態ということで直接現場へと乗り込んだのだ。無論、事前に許可は得ている。

 

 

 あの後、指揮権を引き継いだ南方棲戦姫に見送られながら、直ぐ様サイパン島へと文字通り飛んだ。

 

 

 サイパン島の状況は衛星への工作の為にアナライザーがクラッキングを行った際、ついでに様子を確認しようとしたのだが丁度低気圧の通過に伴う雲が上空に差し掛かってしまい、確認出来なかった。そのため艤装の望遠機能で捉えれる段階に入った時に初めて現場の様子を認識出来たのだが、確かに妖精さん達が銃火器を持ち出してアポロノームらしき周辺で陣取っているのが確認出来た。その更に外周には深海棲艦の方達が妖精達を下手に刺激しないように遠巻きから窺い、海の上には非人間型の深海棲艦達が様子を窺っていた。

 

 

 微弱だが、アポロノームの識別信号も確認出来た。

 

 

 この時アンドロメダの心の中でアポロノームの妖精達に対してふつふつと怒りの炎が沸き上がって来ていた。

 

 

 アポロノームを守りたいという気持ちは分かる。

 

 

 だが何故、当のアポロノームを放ったらかしにしている!?

 

 

 アポロノームは未だに意識が回復していないらしく、コンソールに倒れ伏せたままピクリとも動く気配が無い。

 

 

 混乱しているのは理解できるが、これはいくらなんでもあんまりだ!

 

 

 低気圧による雲のおかげでアポロノームの姿が衛星から隠されているが、低気圧が通過中ということはいつ降雨が始まってもおかしく無い。しかもこの辺りの雨はスコールが基本だ。このままだとアポロノームがスコールに打たれてずぶ濡れになってしまう!

 

 

 この時点でアンドロメダは直接乗り込む決心をし、同行している空母棲姫に頼んでその旨を先方に伝えて貰い、ギリキリのタイミングで了承を得た。

 

 

 

 まさかの総旗艦の登場に騒然となるアポロノームの妖精達。しかもその総旗艦は明らかに自分達に対して激怒しており、その怒りに当てられて妖精達は萎縮してしまった。

 

 

「銃を下ろせと言っているのが聞こえないのかっ!?さっさと銃を下ろせぇっ!!」

 

 

 怒りのあまりにアンドロメダは口調まで変わってしまっていた。

 

 それによって妖精達をますます萎縮させてしまい、それが更にアンドロメダの怒りを募らせてしまう。

 

 自身の怒りが負のスパイラルを生んでしまっているのだが、感情が(たか)ぶってしまっているアンドロメダはそれに気付けないでいた。

 

 更には周りの深海棲艦達にまで怖がる者が出てしまっていた。

 

 それ程までに、アンドロメダの怒りは凄まじかった。

 

 

「お姉さん、落ち着いて」

 

 

 見かねた駆逐棲姫がアンドロメダの手を握りながら落ち着くように促す。

 

 それによって少しは冷静さを取り戻したアンドロメダは一つ深呼吸をして気分を落ち着かせる。

 

 

「地球連邦防衛軍、航宙艦隊総旗艦AAA-1アンドロメダが命じます!銃を下ろし、各員持ち場の復旧に務めなさい!」

 

 

 その命令にアポロノームの妖精達は漸く銃を下ろした。

 

 そして待機していたアンドロメダの妖精達と合流して艤装の復旧作業を開始した。

 

 

「アポロノーム!」

 

 

 アンドロメダが艤装のコンソールに倒れ伏せたままのアポロノーム()へと駆け寄る。

 

 その足元にはドクターが必死に付いて行っていたが、途中から駆逐棲姫に拾われていた。

 

 

 『アンドロメダ』(タイプ)の中でもその三番艦『アポロノーム』と五番艦『アンタレス』は空母型として造られ、かなり特異な形状であるのだが、その特長でもある航空艤装ユニットが見当たらない。

 

 おそらく投棄した物体というのがその航空艤装部分だったのだろう。

 

 二基ある主砲砲塔も破損し、本来四つあるはずのX字状の主翼は下二つが完全に折れて無くなり、それ以外の備品の数々も脱落していた。

 

 

 紛うことなく大破としか言いようがない有様だった。

 

 

 

 アポロノームは本当に無事なのか?

 

 

 アンドロメダはアポロノームの体に触れようとしたが、直前にドクターから傷の具合が分からないから下手に動かすなと止められたため、後ろ髪を引かれる思いを感じながらアポロノームの艤装のメインフレームへのアクセス作業を行う。

 

 

 

「多少の火傷や切り傷、打ち身はあるが、大きな外傷の(たぐ)いは見受けられんな。じゃが体の中は分からん。艦長、タンクベッドは使えそうかの?」

 

 

 ドクターにそう訊ねられるが、アンドロメダは首を横に振った。

 

 

「駄目です。システムは生きていますが、墜落の衝撃で艤装のフレームが歪んでしまったのか、作動不良を起こしています」

 

 

 その答えにドクターは短く唸ると次善の策に移る。

 

 

「艦長のタンクベッドを使おう。艦長、バイタルデータはどうじゃ?」

 

 

「…大丈夫です。データの取り出しも問題ありません」

 

 

 そう答えながら、自身のタブレット経由でアポロノームの艤装のメインフレームから自身の艤装のメインフレームへとアポロノームのバイタルデータのインストール作業を行う。

 

 これを行うことで、新たにバイタルデータのスキャンを行うという行程をある程度省略でき、スムーズにタンクベッドの治療システムが使えるようになる。

 

 とはいえアンドロメダの艤装までアポロノームを運ぶ必要があるため、周りで殆ど風景状態だった深海棲艦に頼んで運ぶのを手伝って貰おうとしたのだが、いつの間にか担架(ストレッチャー)が用意されていた。

 

「必要と思って用意させたわ」と真っ白なボディスーツに身を包み、それと同じくらいの真っ白な長い白髪を湛えた頭に左右一対ずつの赤い誘導灯の様な角を付け、(つぶら)な赤い瞳、右腕が義手という特長を持つ、深海棲艦の中で陸上型、或いは拠点型と人類にカテゴライズされている深海棲艦ハイエンドモデルにして、サイパン島駐留部隊を纏める総責任者、人類コード『飛行場姫』がアンドロメダに説明した。

 

 

 

 

 暫くして─────。

 

 

 旧サイパン国際空港内、ラウンジ。

 

 

 外はスコールの激しい雨音が響いているが、ラウンジの中はアンドロメダの泣き声が響いていた。

 

 

 結果から言えばアポロノームの怪我の具合は軽傷であり、命に別条はないとのことだった。

 

 そのことをタブレットの通信による画面越しでドクターから告げられたアンドロメダは、安心して気が抜けたのか力が抜けてへたり込み、人目も憚らずに泣き出してしまった。

 

 ずっと気を張り詰めていた緊張の糸が切れたというのもあるだろう。

 

 何せアポロノームの艤装の処理のために空母棲姫と駆逐棲姫の立ち会いのもと、飛行場姫とサイパン島駐留護衛艦隊責任者である、頭にアンテナ状のカチューシャを付け、腕に黒いロンググローブを装着したもう一人の姫級ハイエンドモデル、『泊地棲姫』と協議を行い艤装本体はアンドロメダの艤装共々空港内のハンガーに繋留することとなり、アンドロメダがアポロノームの艤装を曳航作業を行ったのだが、ただでさえボロボロの艤装をこれ以上傷付けないように気を遣い、尚且検査と治療中のアポロノームが自身の艤装内のタンクベッドにいるため余計に緊張していた。

 

 

 その後アンドロメダは水没した航空艤装も念の為引き揚げてもらったが、何故投棄したのかその理由が分かった。

 

 格納庫内部で火災が発生し、弾薬庫や燃料庫へと延焼する寸前だった。

 

 投棄の判断がもう少し遅ければ、アポロノームの体は間違い無く消し飛んでいた。

 

 何故ならば艤装の操縦席の真後ろに航空艤装が鎮座していたのだから。

 

 また、もし火災が発生しておらず、切り離す必要が無くそのまま着水したとしていたら、更に最悪だった。

 

 航空艤装の影響で重心が非常に高いため着水、あるいは海岸に乗り上げた段階でつんのめって転覆し、アポロノームが艤装に圧し潰されていた危険性が高かった。

 

 ある意味、アポロノームは幸運であったと言える。

 

 とはいえ艤装は手の施しようが無かった。

 

 特に航空艤装は火災と水没の影響で内部は酷い有様だったと確認した妖精から報告があった。

 

 艦載機は予備機を含めて全損。弾薬や予備部品は一部を残して使用不能。

 

 …そして、中にいた妖精は、全滅だった。

 

 殆どの妖精が炎に焼かれ、破損し飛び散った機材にズタズタにされ、一部の無事だった妖精が自身の犠牲と引き換えに、主人であるアポロノームを守るために、艤装本体と航空艤装を強制パージするための接合部分に仕掛けられた炸裂ボルトを起動させた事が、後に判明した。

 

 アンドロメダは妹を救ったこの勇敢な妖精に感謝の念と犠牲になった妖精に心の中で小さく祈りを捧げると、妖精達に使える物資と()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()を取り出すように命令。

 

 

 偽装爆破の準備をさせた。

 

 

 既にアナライザーが衛星に細工を施し、墜落した物体が火災を起こしているかの様な映像に差し替えたり、熱源探知機能にも細工を施したが、幸運なことに墜落直後から雲が差し掛かった様で、細工を実行に移す必要は無さそうである。

 

 

 何故ならば後は誘爆により木端微塵になったかのように偽装するだけだからだ。

 

 

 ここで飛行場姫が待ったを掛けた。

 

 

「弾薬の爆破だけならば、残骸が少なすぎるし爆発の痕跡が小さ過ぎて逆に怪しまれるわよ」

 

 

 飛行場姫は非情かもしれないけど、と先に述べながら、最早使い物にならない航空艤装ごと吹き飛ばす事を提案してきた。

 

 しかしアンドロメダは首を横に振って飛行場姫からの提案を断った。

 

 無論、妹の持ち物だからとか犠牲となった妖精達への同情といった感情論からではない。

 

 実はを言うと、アンドロメダも飛行場姫からの提案と同じことを考えていたが、ある重大な問題から断念していた。

 

 

 『アンドロメダ』の艦体には地球では産出されない鉱物資源を加工して作られた特殊金属が使用されていた。

 

 おそらく艤装にもその特殊金属が使われているだろう。でなければアポロノームの艤装は墜落の衝撃でもっと大きく損傷し、内部のシステムも全滅していた筈である。歪むだけで済む筈がないし、メインフレームの破損も深刻だっただろう。

 

 

 問題は、やはりと言うべきか、この世界の地球でもその特殊金属を作り出すのに必要な()()()()()()()()()()ということは既に確認済みである。

 

 

 特殊金属を新たに入手することが出来無いというのは痛い。

 

 どんなに大切に扱っても、どんなに強力な金属素材でもいつかは摩耗して使い物にならなくなる。

 

 そのことはアンドロメダにとって頭の痛い問題だった。

 

 

 だがあることに気が付いた。()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()ということに。

 

 

 ならば()()()()()()()()()()使()()()と思い付いたのである。

 

 

 まだ再加工をどうするのかといった課題はあるが、それは一旦棚上げすることとした。

 

 

 その旨を説明すると飛行場姫は納得したが、爆発の痕跡の偽装をこちらに任せてほしいと新たに提案してきた。

 

「使えなくなった弾薬も、今の貴女達には貴重な物でしょう?ならアタシ達に任せてちょうだい」

 

 この提案にアンドロメダは悩む。

 

 確かに飛行場姫の申し出はありがたいが…。

 

「代価として破片のいくつかを貰えないかしら?」

 

 

 最終的にアンドロメダが折れた。

 

 まごまごしていると雲が切れてしまうかもしれないというのもあるが、下手にいざこざを起こして拗れる事態を避けたかったという理由もある。

 

 ここで下手に拗らせると今回の事で何かと骨を折ってくれた空母棲姫や、親身になって気遣ってくれる駆逐棲姫の顔に泥を塗ることになるし、何よりもアポロノームの安静を保ちたいという気持ちが強かった。

 

 

 そして飛行場姫の号令により、部下の同胞(はらから)に破片の回収を命じながら島にあるスクラップを墜落現場に持ってこさせて積み上げさせると泊地棲姫を呼び、護衛艦隊に砲撃を行う様に指示。

 

 泊地棲姫が合図すると沖にいた部隊が艦砲射撃を実行。

 更には飛行場姫も自身の代名詞でもある航空隊を飛び立たせると、トドメと言わんばかりに猛爆を加える。

 

 

 立ち上る爆煙と舞い上がる砂埃を見ながらアンドロメダはやりすぎでは?と思ったが、飛行場姫は「これでアタシ達が破壊したってことにできるでしょ?」と告げる。

 

 その説明に確かにと思う。

 

 煙や砂埃が晴れると、現場は砲撃や爆撃の跡がくっきりと見え、自分達の脅威を排除すべく深海棲艦が攻撃したのだと分かる有り様だった。無論積み上げられたスクラップは木端微塵となり、辺り一面に散乱している。

 

 

 

 

 そして話はラウンジに戻る。

 

 

 一通りの作業を終えて、改めてお互いの紹介をすべく、飛行場姫に空港内ラウンジへと招かれたのだが、清掃の行き届いた内装や正常に稼働している空調や電灯等の設備にアンドロメダは驚かされた。

 

  

 その反応を見た飛行場姫はニヤリと笑みを浮かべると「飛行場施設ならアタシ本来の艤装を接続すると使えるのよ」と自慢するかのように胸を張りながら説明した。

 

 

 アンドロメダ自身、人類側のレポートを読んだ際に陸上型深海棲艦には通常の深海棲艦とは違った『特技』とも言える特殊能力があるかもしれないと示唆する記載があった為に、知識としては知っていたが、実際に見るとやはり驚かされてしまう。

 

 

 だが何よりも驚いたのが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()しかもロビーでは()()()()()()()()()()()()()()()(()()()P()T()()()()()()()()()()())()()()()()()()()()()()()

 

 

 そのことに唖然としていると「ああ、この島の住民の残留組よ」と飛行場姫が軽い感じで言ってきた。

 

「危ないから最初は追い返していたんだけどねぇ、人間の子供達のパワーにはさすがのアタシも負けるわ」

 

 そう言って朗らかに笑う飛行場姫。他の姫や深海棲艦達もにこやかにしているし、人間達の表情にも表裏が無かった。

 

 何よりも無邪気に遊ぶ子供達を見れば、それがここのいつもの風景なのだと容易に想像できる。

 

 空母棲姫もさも当然の様に振る舞っている。*1何よりもちらりと見た駆逐棲姫(お姉ちゃん)も楽しそうに遊ぶ子供達を見て優しく微笑んでいる。人間嫌いだと聞いていたが、それはもしかしたら本心ではないのかもしれない。だが自身が受けた仕打ちからどうしても(しこ)りの感情が出てしまうのかもしれない。

 

 この時、アンドロメダの心に黒い感情が芽生える。

 

 大好きなお姉ちゃんが受けた仕打ち、そしてその優しい心に大きな傷を負わせた(やから)共に、いつかケジメを付けさせてやりたいと─────。

 

 

 

 そうこうしている内にタブレットのコールが鳴り響き、ドクターからアポロノームの容態は心配いらないと伝えてきた。

 

 

 それによってアンドロメダの心に芽生えた黒い感情は鳴りを潜め、代わりに安堵の気持ちが湧き上がり、それが涙となって溢れ出した。

 

 

 それを咎める者はいなかった。

 

 

 深海棲艦の中でも姫級には姉妹、或いは姉妹の様な仲の存在が複数存在する。

 

 だからこそアンドロメダの反応に理解できるし、自身も同じ反応をするだろうと思った。

 

 

 

 そして─────。

 

 

 

『「…ん。…あ、姉貴…?」』

 

 

 タブレットからドクターとは違う声が微かに聞こえてきた。

 

 

『「ん?おお、気が付いたようじゃぞ!」』

 

 

 そのことに居ても立っても居られなくなったアンドロメダは、ラウンジを転がるようにして飛び出すと、自身の艤装があるハンガーにまで一目散に駆け出していた。その後ろからは当たり前の様に駆逐棲姫も付いてきていた。

 

 

───────

 

 

 空港設備ハンガー内。

 

 本来ならば旅客機等の飛行機を整備するこの場所に、アンドロメダと大破したアポロノームの艤装が並ぶように鎮座している。

 

 とはいえアンドロメダの艤装は着陸用ランディングギアを展開しているが、アポロノームの艤装は地面に横たえる形である。

 

 

 アンドロメダは脇目も振らずに自身の艤装に飛び乗ると、タンクベッドから上体を起こしていた人物と目が合う。その傍らにはドクターが立っていた。

 

 

「アンドロメダの、姉貴…?」

 

 

 最初こそは驚きの顔を浮かべていたが、現れたのが自身のよく知るヒトであったが故に、恐る恐るではあるが、その名を呟いた。

 

 

「アポロノーム…、本当に、アポロノームなのですね…?」

 

 

 もう会えないと思っていた愛しき妹が今、眼の前にいる。

 

 

 

「姉貴…、窶れたな…」

 

 

 確かに少しだけ頬が痩けた様な気はしていた。だが自身の体のことよりも姉の姿を見て心配そうにそう声を掛ける妹に、アンドロメダは感極まる。

 

 

 嗚呼、間違い無い。アポロノームだ。私の大切な、愛する妹の一人。

 

 

 ヤンチャでガサツな言動が目立つが、姉妹の中で誰よりも面倒見が良くて、気遣いが出来る優しい心を持った自慢の妹。

 

 

 だからこそあの時、自らを犠牲にしてまで────。

 

 

「馬鹿!馬鹿!!アポロノームの馬鹿!!もう離しません!絶対に離しませんよアポロノーム!!」

 

 

 アポロノームに抱き着いて嗚咽をあげるアンドロメダ。

 

 そんな姉に申し訳無さそうにしながらも抱き返してその頭を撫でるアポロノーム。

 

 

「すまねぇ。俺が不甲斐無いばかりに、迷惑を掛けた」

 

 

 ふと姉の後ろから付いてきていた駆逐棲姫と目が合う。

 

 駆逐棲姫も若干目が潤んでいた。

 

 

「ドクターから話を聞きました。姉を、アンドロメダをずっと支えてくれて、ありがとう」

 

 

 そう言って駆逐棲姫に頭を下げるアポロノーム。

 

 

 そんなアポロノームに微笑みを浮かべる駆逐棲姫。

 

 

「当然です!なんて言ったって私はお姉さんのお姉ちゃんなんですから!貴女も私のことをお姉ちゃんって呼んでも良いんですよ!」

 

 

 胸を張ってそう言いながらアポロノーム(新しい妹)にピースサインを向けた。

 

 

 そんな駆逐棲姫(自称、お姉ちゃん)に対して「へっ!?」といった顔をしてしまうアポロノーム()

 

 

 しかもアンドロメダ(実姉)まで「あ、良いですね。それ」と言い出して朗らかな笑みを浮かべて期待の眼差しをアポロノーム()に向けてきてしまっており、呆気にとられてしまう。だがそれよりも────

 

 

「な、なぁ姉貴?そろそろ離してくれねぇか?」

 

 

 ずっと抱き締めたまま離さない姉に対して、苦笑いを浮かべながらそう尋ねた。体からミシミシというなんだかとても不吉で嫌な感じがする音がしている気がするのだが…。

 

 

「…もう離しませんよ?」

 

 

 瞳のハイライトが消えたアンドロメダ()のにっこりと微笑んだ顔が、そこにはあった。

 

 

 それを傍から見ていたドクターの呵呵笑いとアポロノームの悲鳴がハンガー内に響き渡った。

 

 

 アポロノームの脊椎損傷まで、後─────。

 

*1
よく見ると口元が僅かに綻んでいた。




()()零番艦「新しい妹が増えてお姉ちゃんはとっても嬉しいです!」

参番艦「まさか零番艦!?実在していたのか!?」

壱番艦「そう言えばそんな話もありましたね」


鬼竜「なんだか胃が痛くなってきたんだが」

先生「諦めな」

英雄「なんか、スマン…」

 ちょっと強引ですがサイパン島に到着です!


 ようこそサイパン島へ!

 飛行場姫と泊地棲姫が登場!サイパン島と言えば飛行場!ならば飛行場姫の出番だなと登場して頂きました。泊地棲姫を選びました理由は、ある意味初恋の姫級深海棲艦だからです。とはいえ今回は顔見せ程度で次から本格的に出てきます。また他にも姫級が居たりします。


 なんだか深海棲艦が単なるお人好しになっていってるな…。とはいえドンパチしていてもなんだかんだ言って上手く付き合える時は意外なほど上手く付き合える場合もあるし、下手に扇動したりして煽る連中(マスゴミとか権力モンスターとかマスゴミとか致命的に空気読めない奴とかマスゴミとか)がいなければ火のないところに煙は立たない。
 一応、次回以降にサイパン島の今に至る経緯やら何やらの解説回になるとは思いますが、日本サイドの話になるか、はたまた閑話が先かもしれません。


 それにしましても、現在実施しておりますアンケートの現在の結果に些か驚いております。まさか金剛さんがぶっちぎりのトップになるとは…。正直金剛姉妹で接戦になると予想しておりました。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第22話 One side of the "TRUTH" revealed and a new mystery.

 明かされる『真実』の一面と新たな謎。


 お待たせ致しました。リアルで同僚が病気でぶっ倒れて執筆する時間と気力が枯渇しておりました。


 アポロノームと再会したアンドロメダ。

 色々と情報ぶっ込みました。やや時事ネタ(?)らしき物も…。


 アンケートにご協力頂き、誠にありがとうございました。
 投票の結果、秘書艦は金剛さん。副艦は霧島さんに決定致しました。

 登場は今少し先になると思いますが、出来るだけ早く登場させられるように頑張ります。
 また今回落選となりました娘達も何らかの形で出すことになると思います。


 

「お騒がせ致しました」

 

 

 アポロノーム()を伴ってアンドロメダはラウンジへと戻って来た。

 

 そして開口一番に居並ぶ姫達に頭を下げながら突然飛び出したことを謝罪した。

 

 とはいえ姫達も、アンドロメダの事情に関しては空母棲姫から聞いており、そのことに理解を示し気にしなくていいと答える。

 

 

 

 車椅子に乗るアポロノームは居並ぶ姫達に、驚きを禁じ得なかった。

 

 

 人のカタチをしているが、人ならざる者達。

 

 

 護身用の南部97式拳銃(コスモニューナンブ)アンドロメダ()に『ヤマト』とガミラス軍人メルダ・ディッツ少尉との初邂逅の際のエピソードを引き合いに出され、「礼儀に反する」からと、自身の艤装に置いてきたが、正直白兵戦となったら89式機関短銃や空間騎兵隊等の陸戦部隊が使用している銃剣付きAK-01レーザー自動突撃銃、実体弾を使用する99式突撃銃は完全にオモチャだろう。

 

 最低でも『ヤマト』に乗艦しているという空間騎兵隊の隊長が考案し、『ヤマト』艦内で製造したと言われている二式空間機動甲冑なるパワードスーツが必要だろうが、有ったとしても、火力は兎も角として防御力の問題から最終的に捻じ伏せられてしまいそうな程に力の差があると、アポロノームは直感的にそう感じた。

 

 

 だが、彼女達からは一切の敵意を感じられない。

 

 

 それどころか、未だ回復しておらずにまともに歩けない自分の事を心配し(いたわ)るかの様な雰囲気を感じる。

 

 

 直前にアンドロメダ()から心配はいらないと聞いていたし、何ならずっと一緒にいる駆逐棲姫(自称、姉)も自身に対して興味津々で些か圧倒されたが、節々で体を気遣ってくれていた。

 

 

 先にこの世界に来ていたアンドロメダ()はファーストコンタクトからずっと彼女達と親しい友好的な繋がりがあるようだが、自分はそのアンドロメダの妹ではあるが初対面であるし、墜落の影響で迷惑を掛けた。

 

 

 それなのに、彼女達の雰囲気はまるで身内の様な存在に対する、親しみに似た感じである。

 

 

 正直、どう振る舞うべきか悩んでいた。

 

 

「この度は救助の手を差し伸べて頂き、感謝の念に絶えません」

 

 

 当たり障りの無いように、言葉を選びながら出来るだけ丁寧に喋る様に心掛けた。

 

 途中で舌を噛まないかヒヤヒヤしたが、対面にいる姫達が段々と笑いを噛み殺している表情になっていくのを見て、怪訝な表情になる。

 

 だがよく見るとその視線は自身の後ろ側、車椅子を押してくれていたアンドロメダ()に向いていた。

 

 振り向くとアンドロメダ()が吹き出さないようにと必死に耐えている、なんとも可笑しな変顔になっていた。

 

 

「ご、ごめんなさいアポロノームっ。で、でも貴女がそ、そんな丁寧な喋り方が出来たなんて、思わなかったから、つい」

 

 

「ちょ、ちょっと待て姉貴!俺だってこんくらい出来らぁ!」

 

 

 あんまりなアンドロメダ()の言い様に、ついいつもの口調で噛み付くように反論してしまう。

 

 

「でも、なんだか窮屈そうでしたよ?舌を噛みそうになったのではないですか?」

 

 

 アンドロメダ()に思いっきり見透かされていたことに、アポロノームは言葉に窮してしまう。

 

 だがそこでふと気付いた。

 

 

「姉貴、ひょっとして()()()の事を根に持ってたのか?」

 

 

 あの時とは、土星決戦直前にアポロノームがアンドロメダ()から内緒にしていてと約束されていた事を、姉妹達の前でバラしてしまった一件の事である。

 

 

 アンドロメダはアポロノーム()に気付きましたか?と言わんばかりにニッコリと微笑んだ。

 

 

「はい。あの時の貴女の行いに対する意趣返しです」

 

 

 終始ニコニコ顔で語るアンドロメダ()に、アポロノームはなんだか悔しくなって顰めっ面を作ってしまう。

 

 

 ラウンジの中を姫達の笑い声が満たした。

 

 

 

「少しは緊張がほぐれましたか?」

 

 

 アンドロメダがアポロノームの耳元でそう小さく囁いたことで、アポロノームはアンドロメダ()の真意に気付いた。

 

 

「全く、姉貴には敵わねぇな…」

 

 

 

 お互い程よく緊張感がほぐれたことにより、和やかな滑り出しとなった。

 

 

 

 ラウンジ内に設置されている机と椅子を寄せ合い、そこに全員が着席し、ここからは真面目な話となる。

 

 

 先ずはサイパン島での滞在許可と注意事項、特に住民とトラブルを起こさないでというものだった。

 

 

 だがその住民の話が出た段階でアンドロメダは、この島に人間の住民が普通に暮らしている事についての質問を切り出した。

 

 今となっては疑念の塊でしかないが、各国の公文書の内容を掻い摘んで話した。

 

 

 人類側では深海棲艦に制圧された場所で人が生存出来る可能性は全く無いとされている。

 

 その根拠としてここサイパン島が属するマリアナ諸島が一度人類が奪還した際に確認された事が理由として挙げられている。

 

 人類が奪還した島はマリアナ諸島以外にもいくつか事例があるが、それらは深海棲艦の侵攻前に住民の避難が完了していた島々であった。

 

 だがマリアナ諸島だけは唯一と言っていいほどの例外だった。

 

 

 マリアナ諸島は最大人口のグアム島は別として、二番目に人口が多いサイパン島では嘗てのパンデミックの際に、その対応に住民が反発して発生した事実上の内戦とすらいわれている大規模暴動の結果、半ば無政府状態が続いており、避難が完全には完了しなかった。*1*2

 

 

 後に日米両軍による奪還作戦が実施された際に、生存者は確認されなかったとされている。

 

 奪還作戦以前から衛星や偵察機が撮影した破壊された建物などの映像がメディアを通じて公開されており、それを裏付ける形となった。

 

 

 この話を聞いた姫達は怒りと憎しみ、侮蔑が混じった表情となり、場の空気が一気に重くなる。

 

 

「ですが、これらには不自然な点が多く見られます」

 

 

 最初は気付かなかったが、よくよく思い返してみたら不可思議な点がいくつもあるのだ。

 

 

 一例を上げれば、生存者がいなかったという報告は()()()()()、より細かく言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 更に言えば、住民の居住していた地区から偶然かもしれないが()()()()()()()()()()()()()()()

 

 公開された映像は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 トドメに、その時の上陸部隊が悉く()()()()()()()しているのだ。

 

 

 もっと細かく見ていけばそれ以外にもあるだろうが、なにか可怪しいのだ。

 

 

 明らかに何か隠していると、アンドロメダは強く疑っており、アナライザーに最優先事項として情報収集を再度命じた。

 

 

 そのことを伝えると、アンドロメダが話している間ずっと目を閉じて聞いていた飛行場姫が徐ろに目を開き、口を開いた。

 

 

 

「…アタシ達は当時、無人島だった隣のテニアン島に拠点を構えたわ。グアム島は島内を滅茶苦茶に破壊されていたから拠点化に時間が掛かりすぎると判断したのと、サイパン島に人間達が暮らしている事が事前偵察で分かったから、出来るだけ巻き込まないようにするためにね」

 

 

 そこからはアンドロメダとしてはまさかと思いつつも、当たってほしくなかった内容だった。アポロノームは話について行けずに目を白黒させてしまっているが、今は可愛そうだが放置した。

 

 

 テニアン島を制圧後暫くして、潜水艦からの巡航ミサイルと思われる飛翔体による攻撃が開始されたが、何故かサイパン島まで攻撃された。

 

 最初は誤爆かと思われたが、その後も着弾が確認されたため、流石にまずいと判断してサイパン島に迫るミサイルも迎撃したが、戦力が分散してしまい焼け石に水だった。

 

 

 

「そうこうしているうちに人類が艦娘達と手を組み、反攻作戦に出て小笠原諸島と沖縄が奪還された段階でアタシ達は島を放棄して撤退することになったわ」

 

「小笠原諸島制圧部隊は消耗戦を嫌って早期に撤退出来たけど、沖縄戦線はそのタイミングを逃して消耗戦に引き摺り込まれてね。ここから戦力を抽出しすぎて戦力に余裕が無くなったのと、執拗なミサイル攻撃の影響で、ここで戦うには無理があったからね」

 

 

 その間もサイパン島への散発的なミサイル攻撃が続いていたが、撤退が確認されたらサイパン島への攻撃も無くなるだろうと、その時は思われていた。

 

 

「…ですが、その見立ては、甘すぎた」

 

 

 泊地棲姫が悔しさを滲ませた沈痛な面持ちで、絞り出したかのような声でそう告げた。

 

 飛行場姫が言うには彼女はあの日、撤退する部隊の()()()()を務めていたという。

 

 小笠原諸島戦線で制圧部隊の責任者であった彼女は、麾下の部隊が無事に安全圏まで撤退するまでの間、自らの直援部隊と共に最後尾で粘り強く抵抗し、追撃部隊に大きなダメージを与えてから見事に撤退を成功させたという実績があり、また戦力の再編も完了していたために今回も撤退する部隊の最後尾で()()()()として布陣していたという。

 

 

 そして見てしまった。

 

 

 艦娘の追撃部隊との遅滞戦闘を繰り広げながら、サイパン島方面から黒煙が上がるのを。

 

 

 まさかと思い偵察機を飛ばしたら、島は地獄絵図と化していた。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その凄惨な光景に動揺し、指揮が疎かになった一瞬の隙を突かれ、やや優勢だった戦況は一気に覆され部隊は潰走。

 

 

「気付くべきだった…。私達が拠点としていたテニアン島だけでなく、サイパン島にまでミサイルが何度も飛来していた時点で、すでに人間達は島の住人達すらも標的にしていたのだと…!」

 

 

 懺悔するかの様に、怒りと悲しみが入り混じった痛々しい顔で語る泊地棲姫。

 

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

 

 あまりの内容にたまらず叫んだアポロノームの声がラウンジに響いた。

 

 

「あんた達が嘘を言っているとは思えないが、いくらなんでもそれは───」

 

 

 アンドロメダ()と違って、ついさっきこの世界に来たばかりで情報も殆ど無い、精々ここが異世界で、目の前にいる深海棲艦達がこの世界の人類と敵対しているという程度の知識しかないアポロノームには、どうしても信じきれなかった。

 

 

 だが────

 

 

「残念ナガラ、事実(ジジツ)デス」

 

 

 不意にアナライザーの声がアンドロメダの懐から発せられた。

 

 

「アナライザー、やはり()()()()()()()

 

 

 アンドロメダは懐から携帯用の小型タブレットを取り出しながら、アナライザーにそう尋ねる。

 

 その際のアンドロメダの表情は、一番当たってほしくなかった予想が当たってしまったかという思いから、かなり苦々しく顰めていた。

 

 

「ハイ。巧妙ニ改竄サレテイタリ、消去サレテイタリシマシタガ、ナントカ(サガ)シアテテ(マト)メルコトガデキマシタ」

 

 

 アナライザーからの返答に頷くと、アンドロメダはタブレットを机の上に置き、投影スイッチをタップした。

 

 するとデフォルメされたアナライザーが空中に映し出される。

 

 ホログラフィを初めて見た姫達の間で驚きの声が上がり、そんな彼女達にアナライザーは軽く挨拶すると、アンドロメダに報告を行なった。

 

 

 軍、政府機関、各種メディア、公共民間の垣根無く徹底的に容赦無く調べた。

 

 その際にアポロノームのメインフレームとも共同で行なったために、作業が捗り、より早く情報が集まったという。

 

 

 

 結論から言えば、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』という方針が定められていた。

 

 

 その()()をより強固なものにするために、サイパン島の住人達は犠牲の羊、必要な犠牲、コラテラル・ダメージとして選ばれた。

 

 

 また上陸部隊には内々に『サイパン島で生存する者は人類の敵に与する人類の裏切り者達であり、これを一人残らず殲滅せよ』という秘密命令が下されていた。

 

 

 その罪は全て深海棲艦に(なす)り付けて、『悪逆無道な人類の敵、深海棲艦』という確固たるイメージを民衆に植え付けようとした。

 

 そしてその本来の実行犯達は、上陸支援艦隊の()()により秘密裏に処理されるはずだったが、何故か()()()()()()したという。

 

 未確認の新種の深海棲艦らしき存在が出現したという通信が艦隊から発せられたが、結局詳細は分からなかった。

 

 

 アポロノームはこんなことが許されるのかと、怒りに顔を歪めながら思った。

 

 だが何よりも腹立たしいのは、明らかに度を越した検閲などの情報統制が行なわれていることだ。

 

 

 『矛盾を指摘すること、反論すること、疑問に思うこと、それらに関連する全ては徹底的に排除しなければならない

 

 

 明確にそういう指示があったことを示す物的証拠として、政府関係者や各種メディア上層部のやり取り、報道内容の方向性や方針を定めたオンラインミーティングの画像や音声データに、厳重にプロテクトされていた書類や資料が見つかった。

 

 またソーシャルメディアの検閲システムのアルゴリズムを解析した結果、間違い無いという答えに辿り着いた。

 

 

 その話を聞いていた姫達もアポロノームと同様に怒りの形相になるが、しかしアポロノームと比べ、その姉であるアンドロメダは机の上に両肘を立てて手を組み、口元に持ってきていた姿勢で、*3眉根こそ寄せているが、やや落ち着いた雰囲気である。

 

 理不尽を嫌っていると聞いていた姫達は、そんなアンドロメダの態度に疑問に思う。

 

 それはアポロノーム()も同じだった。

 

 

 アンドロメダとしては、()()()()の情報統制指示は、まぁ、ガミラス戦役で国連や地球軍も似たような事をやっていたために、*4非難する気にはなれなかった。

 

 

「身内の恥を晒す様で気が引けますが…」

 

 

 そう前置きを言ってから静かに語りだす。

 

 

「人類初の星間戦争であるガミラス戦役で最初に引き金を引いたのは我々地球軍なのですが、その事実はずっと隠蔽されていました。異星人であるガミラスへの敵愾心を煽るために」

 

 

 姫達の間で動揺が走る。

 

 

 世界は違えど、人間達の考えることは変わらないのかと、失望と侮蔑混じりにそう考えた。

 

 駆逐棲姫や空母棲姫もその事実にショックを隠しきれずにいた。

 

 アポロノームは地球軍ということもあり、そのことはよく知っている。だが───。

 

 

「だけどよ、姉貴!」

 

 

 ここでアポロノームは気付いた。

 

 アンドロメダ()は組んだ手の甲に指が食い込み、目が完全に座っていることに。

 

 

ですが、我々地球軍の名誉にかけて断言致します!

 

 

我々の軍はこの世界の野蛮人共と違い、無抵抗の民間人に対して平然と銃を撃ち、それを誇り悦に浸るような蛮族の軍ではありません!!

 

 

 机に自らの拳を叩きつけながら、そう力強く断言した。

 

 

 とはいえこれはアンドロメダ自身、確証がある話ではなかった。

 

 

 だがアンドロメダは()()()()()()()と自分達の地球の人間が一緒くたにされる事が正直我慢ならなかった。

 

 

 少なくともアンドロメダはパンデミックから今に至るまで、この世界の人間達、特に権力者共が執拗なまでの陰湿で陰険な情報統制や改竄をやたら好んで多用することを既に掴んでいた。

 

 特に第三次大戦前後は酷い、いや醜い有様だった。

 

 その一例として、サイパン島の様な手法で民衆を欺いて騙し、基金という形で金銭を無心させていた。

 

 更には極東にある世界のATM国家からあの手この手で騙しに騙してかなりの大金を無心させていた。*5

 

 

 他にもまだまだあるが、兎も角アンドロメダはこの世界の地球人は自分達の世界の地球人と似て異なる存在、有り体に言えば()()()()()()()であると認識することで、ギリギリ怒りの爆発を抑えていた。

 

 

 それでも隣に座る駆逐棲姫(お姉ちゃん)がアンドロメダの怒りがこれ以上溢れ無い様に手を握った。

 

 

 また飛行場姫も話題を変えるついでに気になった事を聞いた。

 

 

「ところで、未確認の新種の深海棲艦って話は本当なの?」

 

 

 その飛行場姫からの問いに、アナライザーは(くだん)の通信記録のみの情報しか真面に無いが、状況的にそれが一番可能性が高いと、人類側は見ている様ではあるが、確固たる証拠は無いという。

 

 

 飛行場姫曰く、当の深海棲艦側でもこの辺りの事は、不明の案件であるという。

 

 

 泊地棲姫もその深海棲艦らしき存在のことが気になっていた。

 

 あの時テニアン島から同胞(はらから)全員が退去したのをしっかり確認してから自身も退去したし、引き返した同胞(はらから)もいない。

 

 自身が引き返す事も考えたが、戦線は崩壊し、自身も戦艦艦娘からの砲撃が直撃して重傷を負ってしまい、最後は悔恨から泣き叫びながら部下に引き摺られるようにして離脱した。

 

 気絶する間際に血を吐き「オノレッ!忌々(イマイマ)シイ艦娘共メ!!」と、怨嗟の叫び声を残しながら…。

 

 無論、艦娘(彼女)達は義務を果たしているだけなのだから、艦娘(彼女)達に怒りをぶつけるのはお門違いだとは理解している。

 

 だがそう叫ばずにはいられない程に、あの時はただただ悔しくて仕方無かった。

 

 虐殺を止める事が出来ない自身の無力を噛み締めながら気を失ったあの時の事は、今でも悪夢としてフラッシュバックしている。

 

 

 それから数ヶ月後、人類の反攻作戦はチューク諸島目前まで到達したが、補給線が寸断され、上陸部隊が海の藻屑となり、追い打ちを掛けるかのように同時期に今までなんとか保持し続けていた太平洋の要所であるハワイ諸島と更にはアリューシャン列島までもが相次いで失陥したことにより、日米の連絡線が寸断されたことで中止となった。

 

 そして再びマリアナ諸島へと戻って来たときに、人類が拠点を再構築していたグアム島ではなく、真っ直ぐサイパン島へと向かった。*6

 

 

 島にはもう、誰も生き残ってはいないだろうと思いながらも。

 

 

 

 だが────。

 

 

 

 彼らは、生きていた。

 

 

 その人数こそ大きく減らしていたが、生き残っていた。生きていてくれた。

 

 

 

 しかしそこで生存者の口から─────

 

 

 

 

深海棲艦の(むすめ)に助けられた

 

 

 

 

─────という耳を疑う言葉と共に、生き残りの住人達から感謝されるまさかの事態が発生した。

 

 

 詳しく聞くと、あの地獄の日、軍隊の人狩りにより島は地獄絵図と化した。

 

 そこへ突然、小柄な体型に比して不釣り合いな程の長大な大砲のような兵器を装備した色白で瞳に紅い燐光が灯る(むすめ)が現われて軍隊に殴り込み、瞬く間に戦車などの兵器を破壊し、兵隊達を皆殺しにした。

 

 更には沖合にいた軍艦も悉く沈めて。

 

 

 全てが終わった後、生き残りの住人に「ごめんなさい。ごめんなさい」と謝罪しながら泣いていたという。

 

 その後現われた白い肌、白っぽい服と帽子、黒髪に左腕にシールドの様な装備をした(むすめ)と合流して去っていった。

 

 

 それらを聞いて、最初は艦娘が味方の蛮行に耐えかねて暴発したのではないか?と考えたが、この特長と一致する艦娘が分からなかった。

 

 

 一応、住人達には「あなた達を助けたのは私達ではない」と説明したが、逆にこれらの話し合いが住人と深海棲艦が交流する切っ掛けとなり、以来、お互いある程度の距離を保ちつつもかなり友好的な付き合いが出来るようになった。

 

 

 とはいえ深海棲艦はかつて南太平洋が核攻撃を受ける前、現地の住人とそれなりに良い関係を構築していたが、核攻撃によって味わった深い喪失感と悲しみのトラウマからかどうしても壁を作ってしまい、住人達も人ならざる者達との付き合い方におっかなびっくりだったりと、暫くはギクシャクしていた。

 

 

 だがそれを打ち破ったのが、好奇心の塊である子供達だった。

 

 

 子供達には人ならざる者とかの小難しい事はどうでもよく、ただ珍しいもの、そして強いものに対する憧れが刺激された。

 

 それになんだかんだ言って、深海棲艦(彼女)達は優しかった。

 

 子供達の中にはあの日、両親を亡くした孤児も少なく無く、女性の姿形を成している人型の深海棲艦達に優しかった母親の姿を重ねることもあった。

 

 

 そのことに一番胸を打たれたのが、撤退時に見た惨劇がトラウマとなっていた泊地棲姫であった。

 

 彼女は護衛艦隊の責任者としての役目を果たしつつも、島内で部下と共に孤児の面倒を見る孤児院の保母の様な事をしているという。

 

 先ほどロビーで遊んでいた子供達は、泊地棲姫が面倒を見ている子供達だという。

 

 子供達の面倒を見ている時の泊地棲姫は本当に楽しそうで穏やかな顔をしていると、そう飛行場姫に言われて泊地棲姫は少し恥ずかしそうに顔をほんのり朱に染めていた。

 

 そういえばロビーで子供達と会った時、泊地棲姫に手を振っていた子達がいたなとアンドロメダは思い出し、また泊地棲姫もそんな子供達に優しく暖か味のある微笑みを向けていた。

 

 

 そこへ、アポロノームが何故そこまで人間の住人達に気を遣うのか?と飛行場姫に尋ねた。

 

 アポロノームとしては、人間に対して思うところが無いのかと気になったのだ。

 

 

 その問いに対して飛行場姫はあからさまに不機嫌な雰囲気を醸し出した。

 

 

「力無き者を甚振って、なんになるというの?何が楽しいの?」

 

「確かにアタシ達だって、人間に対して思うところが全く無いわけでは無いわ」

 

 

 そう言いながら右腕の義手に触れると、鋭い目つきでアポロノームを睨みつけた。

 

 

「だけどそれにあの人間達、そして子供達に何の関係があるの?」

 

「あんたはアタシ達がそういった分別が出来ない存在と思っているわけ?」

 

「さっきのあんたのお姉さんの言葉と(かぶ)るけど、絶対悪を演出し、『敵』という存在を意図的に作りたがるような下衆連中とアタシ達を一緒にしないでほしいわね」

 

 

 飛行場姫は殺気を滲ませながら、そうアポロノームに言い放った。

 

 周りの姫達もアポロノームを視線だけで射殺(いころ)さんばかりに睨み付けた。

 

 

 流石のアポロノームもこれにはたじろぎ、軽率な質問だったと、即座に陳謝した。

 

 アンドロメダもアポロノーム()の失言に対して姉として、また地球軍として謝罪し、アポロノーム()にせめて言葉を選ぶようにと叱責することで、この問題の幕引きとした。

 

 

 

 

 ここで気分転換とすべく、コーヒーブレイクと相成った。

 

 

 

「それにしましても、(くだん)の謎の深海棲艦というのは気になりますね…」

 

 

 初めて飲むコーヒー*7の苦さに顔を僅かに顰め、砂糖とミルクを入れて掻き混ぜながら、そう呟いた。*8

 

 

「情報が少なすぎてアタシ達もお手上げよ」

 

 

 アンドロメダの呟きに飛行場姫が肩を竦めながら返した。*9

 

 一応、同胞(はらから)の中には『()()()』と呼ばれる単独や少数グループで活動する存在がいるにはいるが、基本的に好き勝手に暴れたりと気儘な連中ばかりで把握しきれていないが、それでも既知の個体が殆どで、新種がいれば噂くらいは流れる。

 

 だが今回の個体は確認されてから既に数年が経っているが、あの時確認されたのみで、一向にその足取りが掴めないでいた。

 

 子供達の様子を見に行くために、今は一旦席を外している泊地棲姫は「そのヒトには感謝してもしきれない。それでも一度ちゃんと会って感謝の言葉を伝えたい」と常々思っているという。

 

 

「モシカシタラ、コノ(ヒト)ナラバナニカ()ッテイルカモシレマセン」

 

 

 不意にアナライザーがそう告げて、ホログラフィに一人の人間を投影した。

 

 

「真志妻亜麻美大将、日本海軍艦娘部隊総司令ト内海防衛艦隊司令ヲ兼任サレテイル(カタ)デスガ、当時少将デ横須賀鎮守府第五艦隊ノ司令官トシテ、てにあん攻略ノ指揮ヲ前線ノ支援母艦カラ()ッテオリマシタ」

 

 

「デスガ、作戦後ニ突然大佐ニマデ降格サレ、当時警備府デ僻地アツカイノ小松島基地ニ配置変換サレテイマスガ、ソノ理由ガハッキリシマセン」

 

 

「シカモ麾下ニイマシタ艦娘達全員ニモ、ナニカシラノぺなるてぃーガ()セラレタ異例ノ事態ダッタトアリマス」

 

 

 

───────

 

 日本国瀬戸内海上空。

 

 ヘリの機内で真志妻大将が小松島鎮守府へと出発する直前に在日米軍から通信で送られてきた資料に目を通していた。

 

 

「マリアナ諸島サイパン島に謎の物体が墜落…、詳細は低気圧の通過により不明…。最終的に深海棲艦が破壊した模様…か…」

 

 

 海岸に散乱する破片や残骸を写した写真を見ながら、溜息を吐いた。

 

 

「サイパン島…、つくづく因縁浅からぬ地ね…」

 

 

 そう沈痛な面持ちで呟く真志妻大将の様子を向かい側の座席で(うかが)っていた長門が心配そうな声音で「大丈夫か?」と尋ねる。

 

 

「ありがとう長門。大丈夫よ。()()()は貴女達にもいっぱい迷惑掛けちゃったんだから、今更…」

 

「総提督」

 

 

 不意に長門が真志妻大将の言葉を遮った。

 

 そして真志妻大将の双眸を、悲しみを湛えた瞳で見詰めながら、ゆっくりと言い含めるかの様に語り出す。

 

 

「その、このことに関しては、()()()()()()()()()()()()。辛いなら、私達を頼ってくれ…」

 

 

「長門…」

 

 

「あの時の貴女の事は、()からも聞いていますし、何かあったらよろしく頼むと何度も頭を下げられました」

 

 

「総提督、一人で抱え込んだりしないでくれ。みんなに、また寂しい思いをさせないでくれ…。頼む…」

 

 

 そう言って頭を下げる長門に、真志妻大将は何も言えなくなる。

 

 

 あの時何があったのかは、勿論真志妻大将は知っている。

 

 だがそれは同時に彼女にとっての強いトラウマでもあり、また当時艦隊を率いていた長門にとっても簡単には割り切ることが出来ない大きな、大き過ぎる出来事だった。

 

 

 後に歴史の重要な転換点となったとされる、マリアナ諸島サイパン島の悲劇の詳細が判明するのは、まだ先の、ほんの少し未来の事である。

 

 

*1
これにはマリアナ諸島の主権国であるアメリカ合衆国への強い反米感情が絡んでいる。マリアナ諸島は全域が米国領であるが、北マリアナ諸島はコモンウェルス、米国自治連邦区という自治が認められた地区であったが、パンデミック時に自治政府と米国政府の間でパンデミックの対応を巡って諍いが発生。業を煮やした米国政府が軍隊を動員して武力で自治政府を解散させ、米国政府が指定する対応を強制させたが、逆にパンデミックの被害を拡大させてしまい、住民の間で反米感情が高まり暴動へと発展した。その後の深海棲艦の侵攻への避難の際にも米国が主導して行なったが、住民の反米感情は未だに収まっておらず、少なくない人数が避難を拒否した。

*2
因みにだが、北マリアナ諸島とグアム島とでは行政区分に違いがある。

*3
所謂ゲンドウポーズ。

*4
特に開戦劈頭の先制攻撃の隠蔽。

*5
救いがたいことに()の国の為政者たちは特措法を制定し新たな徴税としてしまった。

*6
この時グアム島は補給線の維持が困難であるとの判断から、前日に放棄されており、再構築された拠点も主要設備と滑走路を爆破処理されていた。

*7
しかも本物。

*8
なお、アポロノームと駆逐棲姫はより大量の砂糖とミルクを投入していた。

*9
因みにこちらは香りを楽しみながらストレートで飲んでいる。




 本当にお待たせして申し訳ありません。


 待たせておいてなんですが、少し愚痴ります。

 リアルアメリカマジで大丈夫なのか?あのジジイが大統領なってからどんどん悪い方向にしか行ってねぇし、FBIは連邦“脅迫”局の略だと言われ、憲法違反に法律違反の捜査ばかりで旧ソ連のKGBと違いが分からんし、州の裁判による情報公開でSNS検閲の実態が出てきたり、ジジイは国民に喧嘩売るし、憲法法律が軽んじられたりと、まんま独裁国家じゃねぇか。
 インフレや南部からの不法移民止まんねぇしサウジアラビアの王族に喧嘩売るし、元海兵隊員によるアフガニスタン撤退の暴露とかが出てきたりと言い出したらきりがない。
 中間選挙で共和党が勝利しねぇとマジであの国は更にヤバいことになるぞ。その煽りでうちの国も(既にアウトな気もするが…)もっとヤバくなるぞ…。

 以上、愚痴でした。


 今の悩み。絶対正義、絶対悪を可能な限り排除するつもりが、人類が微妙に絶対悪になりつつあり…。バランスって難しい…。

 元々は深海棲艦=絶対悪、侵略者という考え方を避ける方針で考えていたというのもありますが…、流石に泊地棲姫保母さんはやりすぎたかな?


 『ヤマト』とメルダ・ディッツ少尉とのエピソード。

 メルダ・ディッツ少尉が交渉相手に銃を持って相対するのが地球(テロン)人のやり方か?と痛烈に批判をしたというエピソード。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第23話 MYSTERY

 謎。

 …本来のタイトルは次回に持ち越し。

 本来前置きのつもりで書いていた部分が、気付けば矢鱈長くなりましたので切の良いところで先に投稿致しました。

 それにしても、第7話投稿からおよそ半年。作中ではまだ1日経っていないという筆者でさえ驚いている事態…。
 払暁に戦闘開始⇒戦闘終了⇒正午過ぎまで三姫会談⇒アポロノーム墜落からのサイパン島到着⇒飛行場姫との会談(今この辺り)

 …ホント展開が遅くてスンマセン。


 アポロノーム墜落に関するあれこれがメインとなります。


「うっわ、ホンットにぼろぼろだな…」

 

 

 夕方、ハンガーで横たわる見るも無惨な有り様となった自身の艤装を見て、肩を落とすアポロノーム。

 

 

 あの後真志妻大将に関してはアナライザーが一度改めて調査することとなり、また飛行場姫が夕食の仕込み時間が近いからと、2つ3つ程の話で一旦お開きとなり、アポロノームはアンドロメダに頼んでハンガーへと連れてきてもらった。

 

 無論、姉を自称する駆逐棲姫が当たり前の様に付いてきているが、まぁ監視なのだろうとアポロノームは思っていたが、ニコニコと微笑む顔を見ているとなんとも言えない複雑な気分となる。

 

 それに(じつ)の姉であるアンドロメダが駆逐棲姫の事を姉と呼んで懐いてしまっている以上、最早諦めるしかないかと思い、深く考えないようにした。

 

 閑話休題。

 

 

 

 艤装のメインフレームに残されたログによれば、大気圏外から緩やかな角度で降下し、艦首から海面に突っ込みそうになったその寸前でメインエンジンと共に艦首部下部スラスターが起動してギリギリ水平飛行に移行。

 

 しかし高度があまりにも低く、上昇に失敗して艦底部が着水、更に速度が速すぎた影響で水切り石の様に水面をバウンド。

 

 

 その際にエンジンの制御システムが異常を察知してセーフティーが作動しエンジンが緊急停止。

 

 

 後はご存知の通り、ビーチに乗り上げて擱座。

 

 

「あん時は訳もわかンねぇ状態で兎に角必死だったからなぁ…」

 

 

 アンドロメダ()に車椅子をゆっくりと押して貰い、自身の艤装の有り様とタブレットに映る、今判っている範囲の損傷情報を見ながらそう呟く。

 

 アポロノームが言うには、気付いた時には既に大気圏へと降下を開始しており、エンジンだけでなく全ての航行システムが()()()()()()()かなり焦ったという。

 

 

「ですが艦首部や艦底部だけならばまだしも、何故艦上部の装備までこんなに破損しているのでしょう?落下だけのダメージならば、こんなことにはならないはずです」

 

 

 アンドロメダがアポロノームの背中越しにタブレット画面を覗き込み指差しながら告げ、視線を艤装に移す。

 

 アンドロメダ(クラス)の特徴でもある艦首部のコーンユニットは完全に圧潰し、波動砲口もへしゃげて艦首部スラスター共々内部構造が剥き出しになり、カナード翼は両方とも接合部から脱落、対艦グレネード投射器も外装が剥離したりと、土星決戦で『アンドロメダ』が受けた艦首部の損傷よりも酷い有様だった。

 

 

「主砲の砲身なんか、これみたいにひん曲がってポッキリと折れちゃってますもんね。う〜んっ!」

 

 

 隣を歩く駆逐棲姫が、折れ曲がって使い物にならなくなった為に深海棲艦側にサンプルとして提供された主砲砲身を手に持ち、試しにと力を込めるが、砲身はビクともしない。

 

 

「たはぁ!駄目だ。ビクともしないよ!これがこんなことになってるってことは、相当な力が掛かっているよ!て言うか、これどんな材質でどーやって作ってんの!?」

 

 

 肩で息をしながらそう語る駆逐棲姫。

 

 過去に艦娘との戦闘で()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことがあると語っていたが、流石にアンドロメダ(クラス)の砲身は無理なようである。

 

 

「あ〜、よくは覚えてないんだが、たしか落下前から砲は損傷していた気がする。作り方とかは、製造元にでも聞いてくれ」

 

 

 アポロノームは後頭部を()き、苦笑しながら駆逐棲姫に答えると、アンドロメダはその答えに首を傾げる。

 

 

「貴女が現われる直前に次元震が検知されていましたが、これもグラビティ・ダメージによるものなのでしょうか?」

 

 

「だけどよ姉貴、グラビティ・ダメージって確か波動エンジンやその関連だけだろ?けどこれ見てくれよ」

 

 

 そう言って波動エンジンユニットの表示を拡大し、指し示す。

 

 グラビティ・ダメージとは、惑星が発する重力の影響がワープによる全力稼働のために、最もデリケートな状態にある波動エンジンに対して過負荷を掛けてしまう事で起きる、波動エンジンのトラブルの一種である。

 

 だが墜落の衝撃でエンジンノズルは多少変形しているが、それ以外()()()()とあった。

 

 また制御システムが検知したエラーログも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ここでアンドロメダの頭の中で、ある仮説が浮かび上がった。

 

 今自身の艤装の波動エンジンが抱えている原因不明の不調が、グラビティ・ダメージによるものではないのかとアンドロメダは仮説を立てていた。

 

 しかしワープ技術の先進国でもあるガミラスから提供されていたグラビティ・ダメージの症状データと一致するものがなく、通常のワープによるダメージとは違い()()()()()()()()()事を加味して発生した()()()()()()()()()()()()()()だったのではないかと、アンドロメダは見ていた。

 

 ひょっとしたらワープ事故で行方不明になった船の中には次元と次元の狭間である次元断層に落ちるだけでなく、()()()()()()()()()()もいるかもしれないが、そうだったら本来の世界にはデータは残りようがない。

 

 

 ワープには出力次第で次元の壁だけでなく世界の壁を越える機能があるのではないか?

 

 

 自身が沈んだ時、波動エンジンは暴走していた。

 

 

 それがトリガーとなってこの世界に来てしまったのではないかと思っていた。

 

 

 『アポロノーム』が沈んだあの時は、多数の対消滅ミサイルの炸裂による膨大なエネルギー放射が発生していた。

 

 更には直前まで土星宙域は両軍の大艦隊が幾度にわたって艦隊規模のワープアウトが行なわれ、そして地球軍による重力子スプレッドの使用や波動砲の大乱射に白色彗星そのもののワープアウトと、宙域そのものがエネルギー飽和状態となり、かなり不安定になっていた。

 

 

 その状態で対消滅ミサイルの炸裂が最終的なトリガーとなり、局所的に世界の境界面の壁に擬似的な“穴”もしくは“回廊”が出来てしまい、それに吸い込まれたのではないか?

 

 ただし波動エネルギーと比較して瞬間的なエネルギー総量が足りず、中途半端かつ不安定なシロモノであったがために、或いは境界面が開いたのではなく脆くなった所を無理矢理通ったから艤装にダメージが発生したのではないか?

 

 

 アンドロメダはその仮説を顎に手を当てながら語り、アポロノームはそれを難しい顔をしながらも聞いていたが、まあ何とか理解した。

 

 しかし駆逐棲姫は頭から煙を上げて、立ったままフリーズしていた。

 

 たまたま聞こえる範囲にいた見物に来ている非番の深海棲艦達も、互いに顔を見合わせながら、お前分かるか?いや分からない。とアイコンタクトやジェスチャーで交わしていた。

 

 だが、この二人の会話のやり取りを聞いただけで、二人がこことは違う世界からやって来た、謂わば『異邦人』であるという今まで半信半疑で聞いていた話が嘘偽りの無い事実なのだと、実感した。

 

 

 そしてそれが、「この二人も私達と同じなのかもしれない」という、ある種のシンパシーに似た感情を(いだ)くこととなる。

 

 

 深海棲艦の出自には不明な点が多く、彼女達もよく分かっていない。

 

 彼女らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 運が良ければ同胞(はらから)と一緒だったり、活動中の同胞(はらから)達に偶然見つけてもらえてすぐに合流出来たりするが、運が悪ければ、というか大概はそのまま何日も海の上を当ても無く漂うこととなり、次第に空腹と渇き、そして「私は世界で一人ぼっちなの?」という孤独な感情に段々と蝕まれることとなる。

 

 だからこそ、同胞(はらから)と無事に出会えた時の嬉しさと安堵感は途轍もなく、そこから同胞(はらから)を大切な存在だと強く認識するようになる。

 

 

 孤独というのは本当に辛い。そして空腹から来る焦燥感がそれに拍車を掛けてしまう。

 

 

 時にはそのまま孤独と焦燥に耐えきれず、()()()()()()()()()()()()()暴走した同胞(はらから)が出てしまうという悲しい事態が起きてしまう事だってあるのだ。

 

 

 この二人はおそらくわけも分からずにこの世界へと跳ばされて、気付いたら一人ぼっちな状態で漂流していたのだろう。

 

 

 ある意味では自分達と似たような境遇なのだ。

 

 

 だがひょっとしたら、自分達が味わった以上の孤独に苦しむことになるのかもしれない。

 

 何故ならば、二人の話を聞けば世界の境界を越えるという行為は、そう頻繁に起きるものでは無さそうだし、それに伴うリスクも非常に高そうである。

 

 もしかしたら、この世界にはこの二人しか、私達で言うところの同胞(はらから)と呼べる存在がいないのかもしれない。

 

 

 それはそれで寂しい現実だし、あまりにも残酷だ。

 

 

 元の世界には二人の同胞(はらから)が沢山いたことだろう。

 

 それが突然たった二人になってしまったのだ。

 

 もしも自分達が同じ境遇に置かれたら、発狂するかもしれない。

 

 

 そう思うとゾッとした。

 

 

 この二人の内、先にこの世界に来ていたというアンドロメダというヒトが、孤独によって心が壊れて発狂し、暴走した同胞(はらから)の様に見境なく暴れ出していたとしたら、止められる存在がこの世界にいるのだろうか?と。

 

 聞こえてきた話を聞いただけでも、あまりにも戦争の形態やスケールが違い過ぎる。

 

 まだ噂でしかないが、ここに向かって来ていた同胞(はらから)の増援艦隊がアンドロメダというヒトと交戦して、なす(すべ)なく一方的に叩きのめされて敗北したらしい。

 

 しかも驚くべきことに()()()()()()()()()()()()()()というのだ。

 

 その話が事実ならば、手加減されていたことになる。

 

 本気で来られたら、自分達の上位種達*1が束になっても歯が立たないのではないだろうか?

 

 その事に上位種達が気付いたからこそ、敵対するのは愚策と判断して親身で友好的な態度なのではないか?

 

 特に今も二人に寄り添っている上位種*2はそれにいち早く気付いたのではないか?

 

 

 もしかしたら自分達は命拾いしたのではないか?

 

 

 そうだとしたら、彼女達に親身に接するというのは、途轍もない英断だったのではないか?

 

 

 周りの同胞(はらから)達がそう考えているとは露知らず、駆逐棲姫は相変わらずフリーズしていた。

 

 

 少なくとも、ノーマルモデルの深海棲艦達は、アンドロメダ達との敵対関係化だけは絶対にご免だという風潮が出来上がる切っ掛けにはなった。

 

 

 

「と、兎も角、その仮説は検証のしようがありませんし、この話はお仕舞にしませんかっ!?」

 

 

 フリーズ状態から再起動した駆逐棲姫が目をぐるぐると回し、頭をふらふらさせながら二人にそう告げた事で、原因究明は一時棚上げとなった。

 

 

 そこでふと、アポロノームは先の会談の最後で出てきたある話題から波及したある事を思い出し、アンドロメダ()にその話題を持ち掛けた。

 

 

「そーいやよ、姉貴はあの話は本当だと思うか?ま、マンドリンだったか?マウンテンだったか?の話で出てきた()()

 

 

「ああ、マンデリンにブルーマウンテンですか?私も山南艦長と谷艦長がお話されていた時の事を聞いた程度の知識でしたので、正直そこまでは詳しくはなかったのですが─────コーヒー好きでした谷艦長に感謝ですね」

 

 その言葉とは裏腹に、アンドロメダの表情は疲れた様な乾いた笑みだった。

 

「まさかこんな形で谷艦長からお聞きしていました話題が役に立つとは思いもしませんでした」

 

 

 これは本当に偶然に偶然が重なった結果、分かった事である。

 

 

「彼女達が()()()()()()()()を行っていましたとは…」

 

 

「しかもその理由が、()()()()()ときた…」

 

 

 この真実に、二人は頭を抱えることとなる。

 

 

 そんな二人を不思議そうに見詰める駆逐棲姫と深海棲艦達。

 

 

 だが頭を抱えたくもなってしまう。

 

 

 何故ならば図らずして、この戦争の真実の一面を、思わぬ形で知ってしまったのだから─────。

 

 

 

 

*1
姫級のこと。

*2
駆逐棲姫のこと。




 『アルデバラン』艦長、谷鋼三一等宙佐がコーヒー好きというのは独自設定です。

 コーヒー豆って案外儲かるみたいですね。


 本来ならばここからが本番でしたが、長くなりそうのでここで切りました。


 戦争の理由なんてイデオロギー問題とか以外ならば、案外こういった理由が一番有り得るし、これならば色々と説明がつくケースもある。


 腹が減っては短絡的な思考、行動に出やすくなってしまうのは真理だと思う。だが、だからといって無理な代用食の強要も、将来の火種にしかならないと私は考えています。
 食糧問題はそれだけデリケートな問題であり、為政者による下手な統制は時として問題をより複雑化し、混乱を助長して取り返しのつかない最悪の事態を引き起こす危険性を孕んでいるというのが私の持論です。

 …すみません。なんか話が脱線してしまいました。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第24話 腹が減っては戦はできぬ?腹が減りすぎると奪おうとするために戦になるのですよ

 半分ギャグの様なご都合マシマシな上に後半はタイトルに対して脱線著しい様な…。

 コーヒー関連の話が出てきますが、筆者はトーシローですので間違いがあるかもしれません。

 『アルデバラン』艦長、谷鋼三一等宙佐がコーヒー好きというのは独自設定です。


 色々と詰め込みすぎたかも?




 

 それは先のコーヒーブレイクの際に、飛行場姫が手ずから煎れて出してくれたコーヒーのことで出た話題である。

 

 アポロノームはその独特な苦味と風味にやや顔を顰めていたのを見た飛行場姫が「マンデリンは口に合わなかったかしら?」と尋ね、砂糖とミルクを入れたら飲みやすくなるわよ。とアドバイスした事に、アンドロメダが反応したのが切っ掛けである。

 

 

「マンデリン?確かインドネシアのスマトラ島産の豆ですよね?」

 

 

 そのアンドロメダの質問に飛行場姫は笑みを浮かべる。

 

 

「あら、詳しいのね?ここの豆はアタシのお気に入りなのよ」

 

 

 ブルーマウンテンも悪くないけど、この独特な苦味と風味がアタシは好きなのよね。と語る飛行場姫にアポロノームは内心で「マジかよ…」と引いたが、アンドロメダはその答えで確信が持てた。

 

 

「私の艦長だった人は、紅茶が好みのお方でしたが、妹のアルデバランの艦長はコーヒー好きのお方でした。何度かお二人がお話されているのを横でお聞きしていた際に、ようやくスマトラ島の復興が成ってマンデリンが飲めるようになったと仰られ、同じことを感慨深く述べられていました」

 

 

 このアンドロメダの答えにますます笑みを深めて嬉しそうな雰囲気になった。

 

 

「へぇ。是非とも会ってみたかったわね。その人間に」

 

 

 絶対話が弾むわ!と嬉しそうに語る飛行場姫に、駆逐棲姫が「コーヒー豆の収集が趣味なんだよ」と教えてくれたが、アンドロメダはそれよりも気になる事があった。

 

 

 インドネシアのスマトラ島は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 パンデミックが原因の混乱に端を発する経済崩壊、政情不安から相次ぐテロや暴動などの内乱による混乱の悪化に歯止めがかからず、インドネシアは国家としての体裁が維持出来なくなって崩壊し、生き残りの国民はそのほとんどがこの戦争が始まる以前から、東南アジアを中心に世界各地へ難民となって散り散りになったはずなのだが。

 

 まさか深海棲艦達が豆の栽培を引き継いだのかと思っていたら、なんと()()()()()()()()()()というのだ。

 

 だがその理由を聞いてさもありなん、という気持ちになる。

 

 

 避難先での差別や迫害に耐えかねたのだ。

 

 

 大陸では中華連邦*1が核攻撃によって主要都市が消滅したことにより、政治と経済の統制が崩壊し、それに伴う各軍管区同士による主導権を巡った先の見えない内戦へと突入。

 

 周辺諸国へ戦禍を逃れようと大量の中華難民が押し寄せ、それが治安と衛生の急激な悪化と政情不安を引き起こし、ただでさえ逼迫していた経済もより一層低迷となり、難民(余所者)の面倒を見るだけの余裕は無かった。*2

 

 また欧米先進国でも、口では色々と綺麗事を並べ立てているが、何だかんだ言って最終的には煙たがられて盥回しにされてしまっていた。

 

 

 迫害や盥回しにされた挙げ句に、不満の捌け口にされるケースも少なくなく、中華難民との軋轢も悪化の一途を辿っており、諍いへと発展しつつあったが、数の差から次第に追いやられていた。

 

 このままだと確実にただ死を待つだけであり、どうせ死ぬならばもういっそのこと慣れ親しんだ故郷の土で死にたいと、半ば自暴自棄になって密かに帰って来ているのだというのだ。

 

 

 彼らにとっては深海棲艦?人類の敵?知るかそんなもん!と言うかそもそも今までその日を生きるのに必死で、世間の話題に疎く深海棲艦と言われてもピンと来なかった。

 

 

 そして運命の日、時期はマリアナ諸島へと侵攻が開始される以前である。

 

 

 最初、深海棲艦側は吃驚したという。

 

 

 なにせ浮いているのが不思議なくらいのボロボロな舟に、着の身着のままの難民がすし詰めのぎゅうぎゅう詰めな状態で、流れ着くようにして上陸してきたものだから、見付けた者達もどうしたらいいか分からなかったらしい。

 

 

 その後なんやかんやあって、話し合うこととなったのだが、ここで深海棲艦側はこの難民達にある提案、というか、懇願をした。

 

 

 

 作物の栽培方法を教えて下さい!おねがいします!!(必死)

 

 

 

 今度は難民達が吃驚して腰を抜かしたという。

 

 

 

 ことの発端は暫し遡る。

 

 

 舟が流れ着く前日、深海棲艦の姫達はとある場所で自分達の今後に関わる重大な会合を開いていた。

 

 

 その内容は─────

 

 

 みんなのご飯どうしよう?(切実)。

 

 

────というものである。

 

 

 深海棲艦はその出現当初より頻繁に船舶を襲撃していたが、その理由は深刻な食糧問題を抱えていたからである。

 

 武器は持って生まれたが、食糧の(たぐ)いは一切持っていなかった。

 

 深海棲艦だって動いていれば腹は減るのだが、食糧自給率は驚異のほぼゼロ%!!*3

 

 

 だけど日々増えていく大切な同胞(はらから)達。

 

 

 無いなら余所から奪うしかないと、出現当初より掠奪目的で人間達の船を襲い出した訳だが、安定もしないし採算が合わない!そもそも量も足りない!

 

 

 しかも襲撃を恐れて船の数は減る一方だし、航路を変えたりといたちごっこになって割りに合わなくなった。

 

 

 オセアニアからの北上、島嶼の占拠の理由には、核攻撃に対する人類への報復という目的もあったが、真の理由は日々増え続ける同胞(はらから)を食わせていくために必要な食糧の確保にあった。

 

 

 一時は本気でユーラシア大陸内陸部へと侵攻する計画も真剣に考えられたが、陸上戦力が無い*4というのと、そもそも()()()()()()()()()()()というオーストラリアでも起きた問題が伸し掛かり、早々に却下された。

 

 

 オーストラリアでは色々あって現地住民との共存関係を構築出来かけてたが、核攻撃によって文字通り蒸発してしまった。*5*6

 

 

 この核攻撃を受ける直前までに入手出来た食糧の備蓄があるが、それだって日々減る一方。

 

 

 なんとかして安定させなければならないが、妙案がないまま時間だけが経過し、喧々諤々たる議論と殴り合いの取っ組み合い*7と疲労からの居眠り鼻提灯の末、ヤケクソ気味に「仕方無い。じゃあ作ろう!」という案が出てきた。

 

 

 しかし作り方が全く分からない。

 

 

 その日は解決案やそれ以外の代案が出ることはなく、全員疲れ切ってこれ以上の議論の継続は不可能となり、続きは後日に持ち越すこととし、そのままお開きとなった。

 

 

 そんなときに人間の難民達がやって来た。

 

 

 もうこうなったら駄目で元々、恥も外聞も一切合切かなぐり捨てて頭を下げて懇願した。*8

 

 

 だがことはそう簡単にはいかない。

 

 

 何故ならば一朝一夕に行かないのが農業である。

 

 インドネシアは農業が盛んな国であったが、それも今や過去の話。

 

 離散の影響で人の手が入らなくなった田畑は既に荒れ果てており、1から耕し直さなければならず、人手は深海棲艦達の協力があればなんとかなるかもしれないが、収穫までにはそれ相応の時間が必要なのだ。

 

 

 その説明を受けた事で目に見えて落胆し、悲観に暮れてしまう深海棲艦達。

 

 

 そこに助け舟を出した者がいた。

 

 

 難民達を運んでいたオンボロ舟の持ち主である。

 

 

 その人物はインドネシアとマレー半島を中心に、第三次大戦以前から舟による密輸や密売を生業とする地元のブローカー組合のインドネシア人だという。

 

 舟の外観はオンボロだが、それは当局の監視を欺くための偽装で、同時に最近噂の深海棲艦とやらもオンボロ舟ならば見向きもしないのではないか?と期待しての事だという。

 

 それは兎も角として、そのブローカーの人物は居並ぶ深海棲艦達にある提案を持ち掛けたのだ。

 

 

 

 一緒にコーヒー豆で一儲けして、作物が育ち安定した収穫が出来るまでの間はそれで食糧を買わないか?と。

 

 

 

 曰く、以前からインドネシア難民や物資を密かにスマトラ島へと送り届けているという。

 

 

 無論、慈善活動ではない。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 インドネシアはブラジル、ベトナム、コロンビアに次いで世界第4位のコーヒー生産大国であり、特にインドネシアで生産されるコーヒー豆の7割がスマトラ島で栽培されていた。

 

 しかしインドネシアの崩壊と国民の離散に伴い生産量が激減。

 

 国としては崩壊しても、何とか細々(ほそぼそ)と生産は続けられてはいたが、輸送インフラも真面に機能しておらず流通量は先細りする一方。

 

 そこに追い討ちを掛けたのが深海棲艦の出現。

 

 今やインドネシア産コーヒー豆の価格上昇は凄まじいものであり、そこに目を付けて一儲けしようと企む者も出てくることは自然の流れであるが、矢張りネックとなったのが未知の勢力である深海棲艦の存在だった。

 

 

 だがその深海棲艦が協力してくれるのならば、問題無く事が進められる。

 

 

 また東南アジア一帯の政情不安から深海棲艦だけでなく、同じ人間からも襲撃されるリスクがあった。

 

 しかも最近では軍隊、しかも(れっき)とした正規軍である国軍が治安回復と称して白昼堂々と海賊や盗賊紛いの襲撃を行なうケースが頻発しており、合法非合法関係無く被害が出ていた。

 

 

 だがその軍隊ですら敵わない深海棲艦が味方してくれたならば心強い。

 

 結論を言えば、早い話が深海棲艦を密売の協力者(人手)として、そして用心棒代わりの傭兵として雇いたいというものだ。

 

 その見返りとして食糧を提供するというものだった。

 

 

 他に選択肢が無かった当時の深海棲艦達はその提案を受け入れる事とした。

 

 

 

 その後まあなんやかんやあった様だが、上手く事は進み、深海棲艦は食糧を得る糸口を掴むことができた。

 

 

 そしてインドネシア難民と深海棲艦達によって再開墾も進み、田畑から安定した収穫が望めるようになった。

 

 

 また各地に散っていたインドネシア難民の生き残り達も少しずつ戻り、インドネシア各地の島々でも盛んに食糧の生産が進んだ。

 

 

 だがどうしても機械類や化学肥料の様な工業製品だけはどうにもならず、必要な工業製品と一部の食糧はインドネシアの外から購入している。

 

 

 その資金は主にコーヒー豆の密売で得た利益が元手である。

 

 

 

 色々と偶然や幸運が重なった結果、深海棲艦はなんとか食糧難による飢饉で壊滅するかもしれないという未来は回避された。

 

 

 

 とまあ、こんな感じの話が出てきたのである。

 

 

 

「…どこからどうツッコむ、じゃなかった。事実は小説より奇なりですね」

 

 

 蟀谷を押さえながらアンドロメダが呟き、同意するかのようにアポロノームが天を仰ぐ。

 

 

「しっかしまあ、よくその人間は協力を持ち掛けたモンだな…」

 

 人類の敵認定されてる存在なんだろ?とアポロノームが漏らすが、アンドロメダにはなんとなくその理由に心当たりがあった。

 

「多分、欧米に対する恨みと反感が根底にあるのかもしれません」

 

 

 そのアンドロメダ()の言葉に、どういう事だ?と首を傾げる。

 

 

 

 事はパンデミックの時期にまで遡る。

 

 

 世界的に猛威を振るったとされている疫病であるが、発生当初はその詳細が分からずに対応が二転三転し、混乱が波及した。

 

 そんな中、欧米各国を中心とした先進国が対応と対策に乗り出した訳なのだが、結論を先に言えばただ被害を拡大することに貢献しただけと、傘下が予算を食い潰しただけ(とど)まらずに、更なる二次被害三次被害の発生と拡大に貢献しただけだった。

 

 

 だが先進国はそれを認めず、事実をひた隠しし続けてなんの役にも立たない対策と対応を自国だけでなく、他の世界各国に強要するという狂気の沙汰としか言えない暴挙に出た。

 

 

 力や発言力が低い、或いは無い国々には()()を受け入れるしか無かった。

 

 

 何故ならば従わなければ事実上の経済制裁を課すというあからさまな脅しを平然と仕掛けてきたからだ。

 

 

 結果は最悪という言葉が生温く思えるほどの最悪っぷりだ。

 

 被害は(とど)まるところを知らず、ロックダウンによって国内の流通は完全に麻痺し、経済が混乱して停滞。

 

 流通が麻痺した事で物資が不足し、物価が上昇。

 

 政府の対応は後手後手に回り、混乱に拍車が掛かった。

 

 更には世界規模での火山活動の活発化によって巻き上げられた火山灰が引き起こした寒冷化と、異常気象による天候不順、日照不足が原因の作物の生育不良による不作。

 

 次いでに言えば、日照不足により世界規模で強引に進められていた太陽光発電システムの稼働効率低下による電力不足、その不足を補うはずだった火力発電システムも、流通停滞と石油、石炭の採掘生成設備の人員不足による稼働停滞によってエネルギー価格の高騰が追い打ちを掛けて深刻なエネルギー不足も発生。

 

 

 それ以外にも様々な問題が相次ぐ負のスパイラルが巻き起こり、国内の治安が急激に悪化。*9

 

 悪化した治安がさらなる混乱を生み、反政府デモだけでなくテロや暴動、内乱が勃発。

 

 

 そして落ち着く暇なく第三次大戦による混乱が伸し掛かる。

 

 

 

 この頃になると、人心の間にはある感情が芽生える。

 

 

 

 結局この未曾有の混乱は、欧米や先進国の無茶苦茶な()()が原因じゃないか?

 

 

 パンデミックの頃から薄々と感じていたが、第三次大戦も欧米とそのメディアが中心となって煽っている(ふし)、いや途中からはあからさまな程に恐怖とパニックを扇動していた。

 

 

 従わなかった方がまだマシだったのではないか?

 

 

 平等や多様性などと言っているが、結局連中は植民地時代となんら変わらない、何かと理由をつけて支配したいだけなのではないか?いや、それしか考えられない!

 

 

 

 欧米と先進国に対する不信の感情が、次第に蓄積されていた。

 

 

 そのことはアンドロメダがちらりと流し見した、ソーシャルメディアから掻い摘んで見た、当時投稿された人々の怒りと憎しみにまみれた罵詈雑言の内容からひしひしと伝わってきた。

 

 しかもそれらは徹底的に検閲されて情報の封殺が行われていたし、なんなら今でも継続しているのが確認された。

 

 不都合な真実は徹底的に弾圧され、都合の良い虚構だけが拡散されていた。

 

 

 そして深海棲艦の出現に際して、いの一番に騒ぎ立てて人類の敵と吹聴したのは欧米だった。

 

 

 

 ()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ()()()()()

 

 

 

 そういった声が上がっていたが、これらも()()弾圧されていた。

 

 

 それに散々人類の敵と吹聴しているが、内陸部の人間からするとそれは疑問だらけの論調だった。

 

 例えるならば、沿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と騒いでいるようなものだ。

 

 

 このパラドックスに対する明確な答えが出されることは無かった

 

 ただただ脅威だ脅威だとヒステリックに騒ぐだけ。

 

 

 このやり口は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 だからこそ、人心は本音で言えば呆れ返っていた。

 

 

 欧米に振り回され続けて滅茶苦茶にされた国々では特にその傾向が強いように思えた。

 

 

 であれば、「もう欧米の言っている()()に付き合っていられるか!」と敢えて深海棲艦と仲良くしてみようと試みる者が現われたとしても、不思議ではないのではないか?

 

 もしかしたら、先の、深海棲艦と最初に共存しようとしたオーストラリアもそういった感情が根底にあったのかもしれない。

 

 ひょっとしたら、そのことが欧米にとっては不都合な事であるからこそ、オセアニア一帯を巻き込んだ深海棲艦への核攻撃は、それが背景にあるのかもしれない。

 

 

─────というのがアンドロメダが今掴んでいる情報から考え出した考察である。

 

 

 無論、正解ではない可能性も十分に考えられるが、人間は感情のあるれっきとした生き物である。

 

 いくら崇高な理屈や御高説をどんなに並べようとも、その本質からは逃れられないとアンドロメダは考えている。

 

 

 最後はやはり、人間の持つ感情、が決断の決め手となる。

 

 

 そのことは()()()()を通して何度も実感した。…事の善し悪しは別としてだが。

 

 

「…比較対象として相応しいかは兎も角、デスラー体制時代のガミラスよりも酷くねぇか?」

 

 

 アンドロメダ()の語りと自身のタブレットに送られてきたデータの文面を速読で流し見したアポロノームが、車椅子の背凭れに体重を預け、溜息を吐きながらそう呟いた。

 

 

 デスラー体制時代のガミラスでは、当時のアベルト・デスラー永世総統による主導のもと、『デスラー・ドクトリン』と呼ばれる強引な拡大政策が推し進められていたが、次第に大小様々な問題や軋轢が生じ、各所で不平不満が噴出していた。

 

 

 それらはハイドム・ギムレーが長官を務める『デスラー親衛隊』と秘密警察によって徹底的に摘発*10されて収容所惑星に送られたり、時には惑星一つを焼き尽くす事態*11といった大弾圧が起きていた。

 

 

 後年、そのあまりにも強引過ぎる行動の背景には、ガミラス本星が密かに抱える()()()()()()()が関わっていた事が判明する。

 

 

 ガミラス星の寿命が差し迫っており、後五十年もしない内に消滅する

 

 ガミラス民族はその体質柄、長期間他の惑星では生存することが出来ない

 

 ガミラス民族が生き延びるためにはガミラス本星とそっくりな自然環境を有する新天地たる惑星が必要だった

 

 だが、大小マゼラン銀河を統一しても、該当する新天地は見付からなかった

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 つまり()()()()()()()()()()()()という明確な目的があったのである。

 

 

 道義的に許されざる血で血を洗う業の深い行為を繰り返して来たが、その本質は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であった。

 

 このことはアポロノームだけでなく、アンドロメダも一定の理解を示していた。

 

 

 しかし、この世界の地球、あえて言わせてもらうならば、欧米先進国の為政者の行ないを見ていたら何がしたいのかが全く分からないのだ。

 

 

 意図的に被害を拡大させている?

 

 

 何故?

 

 

 分からない。

 

 

 本当に分からないのだ。

 

 

 地球連邦(我々の地球)や今や大切な同盟国であるかつての敵国(共和制ガミラス)の様に滅びの危機や恐怖を知らないからか?

 

 

 そういう意味では、この世界の地球の為政者よりも、彼らの言う()()()()()()()()()()()()()達の方がまだ常識的というか、()()()()()()()()()()()()()分まだマシにすら思えて来る。

 

 

 

 アポロノームもアンドロメダ()と同様、段々と心情的に深海棲艦に寄りつつあった。

 

 

 

 例え彼女達の行ないが、半ば犯罪に加担する行為だとしても、批判する気にもならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お〜〜い!メシだぞ〜!!」

 

 

 

 

 ハンガーの入口に、寸胴鍋をワゴンカートに載せた飛行場姫がやって来ていた。

 

 

 

 些か重苦しい雰囲気を纏ってしまっていたアンドロメダとアポロノーム(大切な妹分二人)に、駆逐棲姫が手を叩いて満面の笑みを浮かべながら「ご飯にしましょう!」と提案したことで、二人の雰囲気が柔らかくなった。

 

 

 

 鍋の中身はシチューだった。

 

 

 しかも飛行場姫のお手製で、わざわざアンドロメダとアポロノームの妖精達の分も用意されていた。*12

 

 

 飛行場姫がハンガーにいる全員に()ぎ分け終えた時、何故か他の姫級達まで集まって来ていた。

 

 

 そのことに首を傾げるアンドロメダとアポロノーム。

 

 それにわざわざここに運ばなくても、呼んでくれたらこちらから出向いたのに。

 

 

 そう考えていると、自分の取り分を持った飛行場姫が他の姫級を伴って二人の元にやって来た。

 

 

「無論、ちゃんと目的があるわよ」

 

 

「「「「「私達にもマゼランパフェ下さい」」」」」

 

 

 

 相変わらずマゼランパフェは深海棲艦垂涎の的の様である。

 

 その後OMCSを急遽稼働させて集まった深海棲艦達にマゼランパフェを振る舞うことになったのだが、その際に駄目で元々とアポロノームの艤装のOMCSを試しに稼働させると、無事に作動することが確認された。

 

 

 振る舞われたマゼランパフェは大好評であった。

 

 

 また、飛行場姫お手製のシチューもかなり美味しかった様である。

 

 

 ただ、試しにOMCSで生成されたコーヒーを飛行場姫に試飲してもらったが、香りの段階からなんとも言えない渋い顔をされたことが、アンドロメダの航海ログに記載された。

 

 

 やはり未来の最新鋭科学技術の結晶でもあるOMCSを持ってしても、本物の味の本質が分かる者の舌には敵わないようである

 

 

*1
第三次大戦のどさくさ紛れに台湾を併合する形で出来た国。

*2
寧ろ余所者に対して武力を使って今すぐにでも追い出したいというのが本音だった。

*3
一応、海産物を採取したりはしていたが、効率も悪く微々たるものであった。

*4
陸上型深海棲艦は陸上戦力というよりも陸上施設が近いために、内陸部へと侵攻すれば孤立化してしまうため、艦隊からの掩護が可能な沿岸部周辺や島嶼でしか活動出来ない。

*5
共存関係の構築を成し遂げたやり手の姫級とそれに携わった深海棲艦達がいたが、核攻撃によって悉く死亡或いは行方不明となり、どのような方法で成し得たのかは不明。

*6
南太平洋に深海棲艦が集結していたのも、共存関係の構築できつつある事を聞きつけたのが理由であった。

*7
『会議は踊る、されど進まず』ならぬ『会議は殴り合う、されど進まず』

*8
実際、そうせねばならないほどに、相当追い詰められていた。

*9
この現象は世界各地で見られた。

*10
抵抗した場合は現場の判断で射殺が許可されていた。

*11
デスラー体制末期、ノルド大管区、属州惑星オルタリアで発生した原住民の蜂起、反乱に対するガミラス移民団共々皆殺しにした大虐殺事件。当時ガミラス領内ではガミラスに抵抗する地球(テロン)『ヤマト』(宇宙戦艦)の活躍に触発されての蜂起が相次いでおり、その対応に手を焼かされていた。

*12
ただし食器は妖精用の物が無いため、自前であるが。





 リアルで食糧危機だ何だと叫ばれている現状で、そんなことよりも環境だー!そのために食糧生産減らすんだー!と叫んでいるEUって頭大丈夫なの?それに追随しようとする西側も大概だが。スリランカがいま悲惨なことになっているみたいだが…。
 結局エネルギー問題だってマトモに解決する気無さそうだし。民衆の安寧よりも金ですか?
 私はどうも理想と現実の乖離を理解し直視出来ない各国で気炎を上げている左派と呼ばれる連中が好きになれない。連中の本質は金にしか興味が無いのだろう。もしかしたら、金にしか興味が無い連中が、金になるからと左派っぽい耳触りの良い美辞麗句や綺麗事の絵空事を並べて金儲けしているのか…。救いようがない。
 ある意味この作品の人類、特に為政者に関しては上記の様な個人的に抱いている不信感が根底にあります。
 …現実がマジで事実は小説より奇なりにならなければ良いが。




 畑仕事する深海棲艦…。完全にあの人の作品の影響だなぁ…。


 ヤバい、アポロノームも絆されてる!



解説

 
 マンデリン

 酸味が少なく、強い苦味としっかりとしたコクが特徴。風味もしっかりとしている。カフェ・オレに適している。
 ただし、マンデリンはインドネシアで生産されている全コーヒーの内ほんの数%しか生産されておらず、非常に希少価値が高い。


 ブルーマウンテン

 ジャマイカ産のコーヒーで、高価だが日本でも有名な品種。

 コーヒーの王様。味は「黄金のバランス」と称されるほど、苦味・酸味・甘味・コクのすべてが均等に調和している。

 ジャマイカ政府による厳しい条件管理と限られた地域で収穫した豆しかブルーマウンテンと名乗ることが出来ない希少性と、値崩れしないように収穫量が制限されており、非常に高価である。

 なお、その生産量の実に8割が日本へと輸出されている。


 中華連邦

 第三次大戦中、当時の中国がどさくさ紛れで台湾を併呑して出来た国。

 当時のアメリカホワイトハウス、国務省は激烈な文言で彩られた非難声明、通称『遺憾砲』の一斉砲撃による反撃を試みるも、全く効果がなく反撃に失敗。

 その後核攻撃で大陸主要都市と共に台北も消滅した。



 東南アジアの情勢

 カオス!以上!


 深海棲艦が現われる沿岸部が一番安全という世間一般からしたら意味不明なパラドックスでよりカオス加減が加速している。



今後使うか分からない裏設定

 件のブローカーは地元のローカルマフィアの下部組織に属するが、販路の拡大に伴いその上位であり元締めでもあるロシアンマフィアや、アジアに拠点を持つ各地のマフィア(その中で最大勢力はイタリア系。)とカルテル(とはいえ往来が難しいために組織の勢力の割には極少数)も参入し、販路が一気に拡大。
 チャイニーズマフィアは現在衰退してその下部組織のほとんどがロシアンマフィアかイタリアマフィアに吸収された。因みに件のブローカーが属するローカルマフィアも元々は中華系マフィアの末端組織だった。


 東南アジア圏で通貨は心理的な問題から米ドルや日本円、EUのユーロよりも新ロシア連邦(NRF)のルーブル、インドのルピーが現状最も力を持っている。
 また経済的な繋がりも両国の比重が大きい。
 そのため現在インドネシアで使用されている化学肥料や農業機械等の主な出所もNRFやインドが最多。


 飛行場姫の姐さんの夢

 引退したらマンデリンと相性が良いとされる豆が栽培されているというブラジルへとコーヒー旅行に行きたい!

 因みに飛行場姫の姉は紅茶派。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

 


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第25話 Japanese Navy Komatsushima Naval Base-1

 日本海軍小松島鎮守府。


 アンドロメダとアポロノームの1日がほぼ終わりましたので、一帯時計の針を戻しまして日本での動きとなります。

 いつもながら、いろいろとぶっ込んでいます。そして漸くアンケートの結果が反映出来る…。

 …と言いながら、出だしに大苦戦して書いては消してを繰り返し、なかなか進まない毎日。気が付いたらも少し先で、尚且つ別のシーンで出す予定だった2人が出てきちゃった。

 


 

「久しぶりにここに来たけど、やっぱりこっちの方が落ち着きますね」

 

 

 感慨深く呟いた真志妻の言葉に、土方は苦笑する。

 

 

 正午過ぎ、小松島鎮守府に到着した真志妻大将と長門は鎮守府の司令官であり、()()()()自身の部下である土方竜中将とその幕僚団の出迎えを受けて、今は執務室に来ていた。

 

 

「ここは貴女が1から手塩にかけて作り上げた場所ですからね」

 

 

「いろいろと大変だったけど、今と比べたら良い思い出ですね」

 

 

 真志妻は今の地位に就く前まで、ここ小松島鎮守府──当時警備府──の司令官を務めていた。

 

 その前の配属先であった横須賀と違い、あれも無いこれも無い、あっても足り無いと無い無い尽くしだったが、いろいろと煩わしい事が多い今の立場と比べたら、大好きな艦娘達(みんな)と無い知恵を絞り合い、ワチャワチャしながら過ごした毎日はそれなりに充実していたし、無い無い尽くしだったからこそ、それを補うためにあれこれ好き勝手に出来たという、ある種の自由があって楽しかったと、今なら胸を張って言える。

 

 ───かという今も、それなりに好き勝手にやっているのだが…。*1

 

 

 土方もその頃の事はよく知っている。

 

 何故ならば土方も彼女と共にここに赴任して来たのだから。

 

 

「…あの頃は貴女達にいろいろと迷惑を掛けてしまいました」

 

 

 その土方に対して、今度は真志妻が苦笑した。

 

 

「何言ってるんですか?寧ろ私達の方が貴方達に迷惑を掛けっぱなしじゃないですか?」

 

「土方さん()の助けが無ければ、ここも私も早々に潰れていました。それに───」

 

 

 真志妻はここで司令官を務めていた頃を思い出していたが、同時に横須賀から小松島へと異動の切っ掛けとなった出来事も思い出し、表情が曇る。

 

 

「あの日、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()あの時から、私達は迷惑を掛けてばかりです」

 

 俯きながら申し訳無さそうに語る真志妻。その姿は悔恨しているという雰囲気を醸し出し、表情も重苦しい。

 

「本来ならばこの戦争に無関係だったはずの貴方方を巻き込んでしまった私達は───」

 

 

「真志妻さん、あの日から何度も言っていますが、あれは双方どうしようもない事故でした」

 

 

 真志妻の言葉を遮り、土方は気にしていないと念押しにして語った。

 

 と、そこへ霧野(キリシマ)が手を叩いた。

 

 

「昔を懐かしむのもいいけどね、お互い今は何かと忙しい身なんだ。サッサと本題に入らないかい?」

 

 

 上官二人に対してなんとも不躾で無遠慮甚だしい物言いだが、(あなが)ち間違いでは無かった為に、お互いの顔を見合わせて苦笑しながら応接用の席に着いたのだが、長門がふと思い出したかのように「他の連中は良いのか?」と尋ねた。

 

 今執務室には土方と真志妻、それに霧野(キリシマ)と長門の4人だ。

 

 土方の秘書艦は茶菓子の用意の為、*2今は席を外しており、副艦は別件で大淀の所に寄ってから来るのだが、長門が聞いたのはこの2人ではない。

 

 事前に土方から「今回の件に関わりがある者を3人程参加させます」と言ってきていたからだ。

 

 

「ああ、そのことですが───」

 

 

 土方が口を開いたその時────。

 

 

 

親父!()()の奴が見付かったってのは本当かっ!?うおっ!?

 

 

 執務室の扉が突然蹴破られたかの様な勢いで開き、緑色の野戦服を着込んだ左頬に十字傷のある巨躯の男が息を切らせながら入室してきたのだが、それと同時に自身の顔面に向けて投げ付けられたジッポライターを慌ててキャッチした。

 

 

「客人が来てるんだよ。こん時くらい静かに出来ないのかい?斉藤のあんちゃん(坊や)?」

 

 

 投げ付けた張本人である霧野(キリシマ)が、放り投げた格好の侭で入室してきた男、空間騎兵隊の元隊長斉藤始三等宙尉、現海軍特別陸戦隊特務中尉に苦言を呈する様にして言い放った。

 

 坊やと言われた事に若干腹を立てた斉藤は、何か言い返そうとしたのだが、「マトモにノック一つ出来ないなら、坊やで十分さね」と機先を制され、さらには「少しは駆逐艦や海防艦のムスメっ娘達を見習いな」と追い打ちを掛けられて何も言い返せず、顰めっ面を作ってしまう。

 

 

 その気になれば、例え膂力が自身を上回る()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼でも、霧野(キリシマ)には頭が上がらないのだ。

 

 

 そんな斉藤の姿に、真志妻は腹を抱えて笑い、長門はなんとも言えない複雑な顔をし、部屋の主人である土方は深く溜め息を吐いた。

 

 

「すみません真志妻さん、長門さん。うちのバカが…」

 

 

「気にしなくて良いですよ土方さん。斉藤君は騒々しいくらいの方が彼らしくて。ねぇ長門?」

 

 ケラケラ笑いながら自身の副艦に尋ねるその姿に、先程までの重苦しさは感じられないが、長門は「私に聞かないでくれ…」と返す。

 

 だがその長門の表情は斉藤を見て何処と無く嬉しそうだった。

 

 

 そんな長門の姿を見て、斉藤自身は「げぇっ!?長門!?」という引き攣った顔になった。

 

 この2人、まぁいろいろと訳アリなのである。

 

 

「Hey!隊長(Captain)サイトー!そんなところで突っ立って無いで早く中に入るネー!」

 

 

 出入り口の前で固まっていた斉藤の後ろから、独特なイントネーションで喋る声がした。

 

 

「あ、ああ。すまねぇ金剛」

 

 

 そこに立っていたのは土方の秘書艦、高速戦艦艦娘である金剛型戦艦の長姉、金剛である。

 

 その横には紅茶セット一式がカートに載っていた。

 

 

「た、隊長さ~ん。私達を置いてきぼりにしないでくださいぃ~…」

 

 

「だ、大丈夫ですか姉さん!?斉藤隊長!お気持ちは分かりますが、勝手に先々行かれては困ります!!」

 

 

 金剛の後ろから更に別の2人が現われ、それを見た金剛は朗らかな笑みを浮かべながら、()()()()()()()()

 

 

「ハルサメにウミカゼ、2人共お疲れ様(good work)ネー」

 

 

 春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)、小松島鎮守府に所属する艦娘の2人であるが、他の鎮守府に在籍する同名の()()()駆逐艦の個体と比べて身長がやや高く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という違いがある。

 

 

「す、すまねぇ2人共!つい!」

 

 

 2人に対して斉藤は平謝りし、春雨(ハルサメ)は微笑みを浮かべて眼鏡のフレームに触れながら「大丈夫です。はい」と答えるが、海風(ウミカゼ)の気は治まらず、鋭い目付きで斉藤に詰め寄った。

 

 

「斉藤隊長?私達が運転出来無い事くらい、ご存知でしょう?」

 

 

 この3人は徳島の真北の隣県である香川の陸軍善通寺駐屯地まで出張に赴いていた。

 

 その際の移動には、鎮守府に常備されている車輌を使用したわけなのだが、法規的な問題で公道、軍施設内関係無く艦娘による運転は原則として軽巡洋艦以上の艦娘とされている。

 

 斉藤の付添として同行していた春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)の艦種は()()()白露型駆逐艦である。

 

 つまりこの場合、車輌の運転は斉藤しか出来無いのだが、逸る斉藤は鎮守府に帰投するやいなや、本来の定められた駐車スペースでは無く、執務室のある棟の建物の前まで直接車を乗り付けてしまい、そしてそのまま乗り捨てて行ってしまったのである。

 

 残された2人は生来の生真面目さから、このままここに車輌を放置するわけにはいかないけどどうしよう?と、途方に暮れていると、用事を終わらせて執務室へと向かっていた副艦の霧島がそんな2人をたまたま見付け、状況を察した彼女は「後のことは私がやっておくから、先に行ってて」と言い残して車に乗り込んで走り去ってしまったため、慌てて斉藤の後を追ったのだ。

 

 

「まったく、斉藤隊長も少しはハルサメ姉さんを見習って上に立つものとしての自覚を───」

 

 

「ウミカゼ、私は大丈夫だから」

 

 

 自身の事が関わる事になるとどこぞの姉上至上主義(シスコン2番艦)と同じくヒートアップしやすくなる妹を窘める。

 

 

 敬愛する姉の言葉に不承不承ながらも引き下がる海風(ウミカゼ)

 

 

 そうこうしていると、部屋の中にいる土方から入室を促す声がして、そそくさと入っていく。

 

 

 

「ハルサメにウミカゼ、斉藤の付添ご苦労。帰投してすぐで悪いが─────」

 

 

 2人に労いの言葉を掛けるが、()()()()()()()()()ながらその目を普段よりも鋭いものにしていた。

 

 

()()()()()。はい」

 

 

 春雨(ハルサメ)は普段と変わらぬにこやかな表情で答えるが、次の瞬間には戦闘時の様な真剣な表情へと切り替え、土方にある報告を告げる。

 

 

「間違いなく盗聴器で盗聴されています。はい」

 

 

 既に妨害していますが、と付け加えた。

 

 先程金剛が耳に手を触れたのを見た際に、その理由を察した春雨(ハルサメ)は直ちに電波の探知を開始し、低出力ながら電波妨害を実施していた。

 

 

 盗聴されているという報告に、最初に反応したのは真志妻と長門だった。

 

 

「やっぱり()()()()()()()()()()()?」

 

 

 真志妻は苦々しい顔となる。

 

 

 実はを言うと、耳に触れるというジェスチャーは真志妻達が土方の出迎えを受けた際に、彼女が最初にやったのだ。

 

 本人としては確証があったわけでは無く、念のためだったのだが、大当たりだったようである。

 …全然嬉しく無い大当たりではあるが。

 

 

 長門は「()()()だ?」と春雨(ハルサメ)に問い掛けた。

 

 

「お2人共ですね」

 

 

 微弱な電波の発信を検知しています。と答えながら、許可を得て海風(ウミカゼ)と共に2人の身体を(あらた)める。

 

 

 春雨(ハルサメ)の眼鏡、これは以前アンドロメダが使用したバイザーと同じくHUDとしての機能があり、スキャンしたデータが表示され、それらはデータリンクで海風(ウミカゼ)の眼鏡にも表示されている。

 

 海風(ウミカゼ)にもスキャンを行なえる機能があるが、()()()()()は姉である春雨(ハルサメ)の方が上だった。

 

 

 そして電波の発信が確認された箇所を全て(まさぐ)ると、案の定複数の盗聴器が発見された。

 

 

 

「…流石は未来の艦娘と言ったところね」

 

 

 応接机に列べられた、春雨(ハルサメ)達によって無力化された自身に仕掛けられていた盗聴器を一瞥しながら、そう春雨(ハルサメ)達に称賛の声を掛けた。

 

 あまり知識としては詳しくないが、見付かった盗聴器の中には最新の物と思われる代物も含まれている。

 

 それを手際よく見付けて無力化する手腕に、真志妻は惜しみの無い心からの称賛をしたのだ。

 

 その言葉に、春雨(ハルサメ)は少し気恥ずかしそうに顔を赤らめ、海風(ウミカゼ)は姉が誉められた事に嬉しそうに頬を弛めていた。

 

 

 真志妻はそして長門も目の前にいる春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)()()()()()()()()()()()()ことは、既に知っている。

 

 

 元地球連邦防衛軍所属、改Метель級駆逐艦、もしくは春雨型護衛駆逐艦の1番艦と2番艦というのが、この2人の正体である。

 

 

 無論、土方とキリシマの正体も知っている。

 

 知っているからこそ、キリシマに霧野島子という偽名を名乗らせた張本人なのだから。

 

 また春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)の2人にも、書類等の公式記録には従来の白露型駆逐艦として登録させており、艤装も白露型風の擬装を施させている。

 

 余談だが、キリシマに関しては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ということにされている。

 

 なお、春雨(ハルサメ)()()()()()も建造によって顕現した存在であるが、その正体を知る者は限られている。

 

 閑話休題。

 

 

 長門は盗聴器を忌々し気に睨み付けながら「()()()()()()()()()?」と吐き捨てるかの様に呟いた。

 

 その立場柄、真志妻は何かと敵が多い。

 

 盗聴器の(たぐ)いが仕掛けられたのはこれが初めてではないのだが、下手人に心当たりが有りすぎて対応に苦慮している。

 

 厄介なことに、真志妻の本拠地は現在の日本において最大の海軍軍施設である呉軍港にある呉鎮守府である。

 

 人間の出入りは他の鎮守府の比ではないため、そこに工作員が紛れ込む余地が生まれてしまう。

 

 スパイ天国日本(防諜意識ZERO!!)というお国柄、警備も正直に言ってパフォーマンスの張り子の虎である。

 

 

 悔しいが、やられたい放題なのが実情なのである。

 

 

 

「そのことなんだが、親父と真志妻さんに報告がある」

 

 

 徐に斉藤が口を開いた。

 

 今回の彼の出張は、表向きは陸軍と自分達特別陸戦隊との共同訓練に関してのものだったが、本当はとある情報の受け取りが目的だった。

 

 

 その情報というのが────

 

 

「どうも()()()()()()()()()()()()()()が手を結んだらしい」

 

 

 伊東真也とハイドム・ギムレー。

 

 

 2人共土方や斉藤達のいた世界の人間の名前である。

 

 片や『ヤマト』のイスカンダルへの航海で叛乱行為に及んだという軍情報部から出向の人物。

 

 片やデスラー体制下のガミラスで親衛隊と秘密警察の長官を務めた人物。

 

 

 無論、この2人がこの世界に来ている訳ではなく、『隠語』の目的として使われている。

 

 つまり伊東真也が軍情報部関係、ハイドム・ギムレーが公安関係を意味する隠語である。

 

 

 それの意味する所は、軍情報部関係と公安関係が手を結んだという事である。

 

 

 そしてその目的は真志妻に対する牽制、あわよくば失脚を企図しているのはほぼ間違い無いのだが、どうやら土方も狙われている可能性が大きいというのだ

 

 

 この報告を受けた真志妻の雰囲気が冷たい物に変わり、その目が完全に据わった。

 

 

 

「…もういっそのことクーデター、起こしちゃおうかしら?」

 

 

 

 呟き声にしてはハッキリとし過ぎた物騒極まりない真志妻のその発言に、場の空気が凍り付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
それがまた煩わしい事を呼び寄せていたりもする…。

*2
執務室の隣には給湯室が設けられているが、電気系統の故障で今は使えないため、同じ棟内にある別の給湯室へと向かった。





「一番煩わしいもの?間違いなくマスゴミだな」

「連中、四六時中鎮守府前をうろちょろしてて迷惑だし、煩わしいったいたらありゃしない。たまに連中を32サンチ主砲でぶっ飛ばしたくなるわね」

「貴女が言ったら洒落ではすみませんよ…」



 春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)は過去語りの際に少し触れましたМетель級護衛艦をベースにした改Метель級駆逐艦、海風型あるいは春雨型と呼ばれる護衛駆逐艦です。

 小松島鎮守府に在籍する白露型の娘達は全員この護衛駆逐艦になります。特にハルサメとヤマカゼは改装で電子戦能力が強化されています。

 詳しいことは閑話で語りますが、全員ガトランティス戦役終盤の最終血戦で戦没しています。



解説

艦娘による車輌の運転

 一部を除いて、駆逐艦の艦娘は身長の問題から運転することが明らかに困難である事から、制限が設けられた。
 ただ、近年軽巡洋艦以上の艦娘の中にも小柄な体型の者も出現しだし、また軽空母の艦娘の中にも小柄な体型の者も複数おり、更には改二改装を受けた駆逐艦の身長アップなどなどの事柄から、法改正すべきではないか?という意見が出ている。



キリシマのジッポライター

 とある駆逐隊の娘達から、日頃お世話になっているお礼にとプレゼントされた。
 なおジッポライターを選んだ理由は、一人で夜中にひっそりと紫煙を燻らせているのをたまたま見たため、とのことだが、当時あまり喫煙しているところを見られたくなかった為に、夜中の、しかも人目に付かない場所(港の隅)をわざわざ選んでいたというキリシマの内心が少し動揺していたのは内緒である。
 後に斉藤から「プレゼントされた物を投げるなよ」と苦言を呈されたが、「あんたならば難なくキャッチしてくれるだろうと思ったからね」と言ったとされる。




 苦戦した挙げ句、かなり短いと来た…。しかも本来の予定からかなりの脱線…。

 土方さんと真志妻大将との初邂逅の話はまたいずれ。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第26話 Japanese Navy Komatsushima Naval Base-2

 日本海軍小松島鎮守府


 今回真志妻亜麻美大将の内面の一部が出てきます。正直、“人間”として見たら若干“壊れて”います。(多分)

 というか、今回ちょっとやり過ぎたかな?特に後書き。


 

「な~んて、冗談よ冗談!」

 

 

 大袈裟に両手を振り、笑いながら本心でないと真志妻は告げる。

 

 だが、冗談にしては余りにも(たち)が悪すぎて、笑うに笑えなさ過ぎるが、対面に座る土方は真志妻の目が一切笑って無く、その紅い瞳がどろりと濁っていることを見逃してはおらず、冷や汗を掻いていた。

 

 

「クーデターやるくらいなら対馬を奪い取って独立宣言した後に新ロシア連邦(NRF)に併合してもらうわよ」

 

 

 もっと悪辣だった。

 

 

 対馬には日本軍最大規模の軍事施設、『対馬要塞基地』がある。

 

 

 南方シーレーンをズタズタにされ、アメリカとの連絡線であった太平洋航路はハワイ諸島とアリューシャン列島の失陥によって寸断され、今の日本を支えている唯一の生命線が新ロシア連邦(NRF)とのシーレーン、日本海である。

 

 

 その最後のシーレーンを死守する目的で造られたのが、対馬要塞基地である。

 

 

 AL/MI作戦の失敗、首都東京壊滅と広島への遷都で混乱する当時、なけなしの資材と人員を掻き集めて急ピッチで建造され、その全島がほぼ要塞の島と化した。

 

 また本土とは海底トンネルで繋がっている為に、例え島が完全に包囲されたとしてもトンネルが潰されない限り、もしくは本土の物資が先に無くならない限りは補給の心配は無い。

 

 

 もし対馬が失陥したら日本海シーレーンの安全が脅かされ、事実上の損失に繋がり、日本は一年と保たずに国家としての機能が維持出来なくなって完全に干上がる。

 

 

 まさに対馬は日本のアキレス腱である。 

 

 

 その為、水上機動戦力である艦娘戦力は日本の精鋭とされる内海防衛艦隊の支隊が配され、その戦力は首都広島に次いで2番目を誇る。

 

 

 現状、対馬要塞基地は深海棲艦による東シナ海方面から日本海へと至る接近の阻害を完璧に成し遂げている難攻不落の要塞である。

 

 

 

 だが新ロシア連邦(NRF)は日本を信頼していなかった。

 

 

 万が一に備えてと航行する船舶は常に護送船団を組ませ、ウラジオストクやフォーキナ等の各太平洋艦隊基地に所属する艦娘だけでなく、22350型フリゲート『アドミラル・ゴルシコフ』級や20380型警備艦『ステレグシュチイ』級のタイプⅠ、タイプⅡ*1といったミサイルフリゲート艦で編成された従来の水上艦艇による護衛隊が常に随伴していた。

 

 更にはサハリンプロジェクトによってサハリン・北海道間に敷設されたパイプライン警護のためにコルサコフの基地には1155型大型対潜艦『ウダロイ』級駆逐艦と11356型『改クリヴァクⅢ』型フリゲート艦の部隊が警備に当たっている。

 

 水上艦艇の動員は他国と比べて劣る自軍の艦娘戦力を補完することが目的であると説明されている。*2

 

 

 だが何故一度も突破された前例が無いにも関わらず、新ロシア連邦(NRF)海軍は日本を信頼せず、数少ない艦娘や貴重な水上艦戦力を投入しているのか?

 

 

 その理由は先の第三次大戦時に生起した、『第二次日露戦役』にまで遡る。

 

 

 戦役中、日本が鉄壁の警戒網と豪語していた対潜哨戒網がロシア軍潜水艦隊に易々と突破され、北方領土作戦への増援を目的として横須賀から出港した直後の護衛艦『いずも』が超音速巡航ミサイル『ツィルコン』によって撃沈されて着底。*3

 

 更には防備を固めていた練馬、朝霞の両駐屯地に巡航ミサイル『カリブル』が撃ち込まれた。*4

 

 また間近な例だと、現在の深海棲艦との戦争においても、日本はここぞというタイミングで何らかのミスを繰り返しており、詰めの甘さが指摘されていた。

 

 

 つまり新ロシア連邦(NRF)はこれらの日本の失態から、日本の実力に対して甚だ懐疑的な認識なのである。

 

 

 これには日本も反論出来ず、真志妻や土方も新ロシア連邦(NRF)の認識に、さもありなんという立場だった。

 

 

 だが、その分どうしても輸送コストの跳ね上がりに直結し、物価にも影響を与えてしまっている。

 

 

 

 さて、もしも対馬が新ロシア連邦(NRF)領となればどうなるだろうか?

 

 

 

 航路警護、護衛だけでもコスト問題を引き起こしている。

 

 そこに対馬が追加となると、どれほどのコスト増となって跳ね返ってくるか?

 

 

 新ロシア連邦(NRF)以外に貿易先が殆ど無くなってしまった日本は、高くても新ロシア連邦(NRF)からの輸入品に頼るしかない。

 

 

 パンデミックの後遺症が回復していない中で第三次大戦への参戦、そして今回の戦争と、ただでさえギリギリな経済状況に追い詰められている今の日本にとって真綿でゆっくり首を絞める結果にしかならない。

 

 

 完全に新ロシア連邦(NRF)に日本の生殺与奪を握られる事になる。

 

 

 

 冷淡であるが、真志妻は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 彼女の頭にあるのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 

 艦娘(家族)の為ならば、今の地位に対する執着心もあまり無いし、必要と判断したら喜んで国を二束三文で売り飛ばす。

 

 

 まぁ、国民に対しては若干ながら申し訳無いという気持ちが無い訳では無いが、今までの国の、政治の暴走に無関心な国民に対する失望があり、例え国民に後ろ指を指されたとしても、「大半の政治屋連中やなんちゃって官僚(政治業者)共が相も変わらず身内の利権政治にしか興味が無い事に関しては、なんの文句も関心も示さ無いクセに、批判される謂れはないわ」と冷笑に付す腹積もりである。

 

 流石に表立っての公言はしていないが…。

 

 

 彼女の中での優先順位と比重は艦娘へと大きく傾いている。

 

 故に無理なことは無理であると物申すし、必要ならば強引な手段も辞さない。

 

 

 それが真志妻亜麻美という軍人のヒトとなりだった。

 

 

 

 ではそのことに関して艦娘達はどう思っているのかというと、戦争初期において国のシビリアン・コントロールの暴走による杜撰、無計画な身の丈に合わない無茶な作戦から大量の戦友を無駄に散らされたという“凝り”や“蟠り”を感じている者達が古参組を中心に多く、またそんな国に対して「シビリアン・コントロールが重要だから」としか言わず、政府の決定に唯々諾々と従うことしかしなかった軍に対して失望に似た感情を抱いていた為に、ある意味反骨精神剥き出しの彼女を支持している艦娘が多い。

 

 

 現に真志妻が大将に就任してから、軍の組織改編を推し進めて艦娘への役職や業務の分担による作業効率改善やスムーズ化を果たした。*5

 

 また今までおざなりだった艦娘達からの意見具申等を積極的に推奨し、意見交換を行なう事でお互いのコミュニケーションの機会を増やし、連帯感の醸成に貢献していた。*6

 

 

 人間に対しては兎も角、真志妻大将ならば、と考えている艦娘や、中には自身が所属する艦隊の指揮官を差し置いて真志妻個人に忠義心を感じている艦娘も少なくない。

 また一部の提督や司令官といった人間の指揮官達の中には真志妻のやり方に好意的かつ支持している者達も一定数存在している。

 

 

 それらは真志妻派と呼ばれていた。

 

 そして内海防衛艦隊に所属する艦娘は基本的にほぼ真志妻派である。

 

 

 万が一、真志妻が決起を決断した場合、内海防衛艦隊を中心にかなりの艦娘が真志妻に同調する可能性が高かったし、先に述べた真志妻派の指揮官達がそれに追随する可能性もあった。

 

 

 故にクーデターだけでも冗談ですまないくらいの説得力があった。

 

 

 だが彼女は敢えてその手は使わない。

 

 

 やるならば相手が嫌がる事をする。

 

 

 クーデターなどという一過性の“生温い”事で終わらせたりはしない。

 

 

 彼女の内面は、軍人として見ても破綻していると土方は思っているし、ある種の艦娘至上主義とも取れる言動に、多少なりとも心配していた。

 

 しかしそれ以上に今の日本政府に対して危機感を抱いていた。

 

 

 先の戦役での蟠りや、アメリカ(同盟国)とのよしみもあるのだろうが、政府は大戦時から反露姿勢をさほど変えていない。

 

 政府としての公言こそはしていないが、人事や閣僚の過去の発言やスタンスを見れば、反露で固めているのは明らかである。

 

 これが単なるポーズだけで済めばいいが、不安の種は尽きない。

 

 何せ先の戦役も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()し、()()()()()()()()()()()

 

 

 新ロシア連邦(NRF)が日本を信頼しない背景にはそういった一面もあった。

 

 

日本(イポーニャ)の艦娘は優秀だが、日本人(イポーシカ)は思い付きで物事を決め、何をしでかすか分からない」と、新ロシア連邦(NRF)から来ている艦娘がチラリと漏らしているが、それが彼等の偽らざる本音の一端なのだろう。

 

 

 火種は(くすぶ)っている。

 

 

 それが最悪な形で再燃しないとも限らない。

 

 

 それをなんだかんだ言いながらも真志妻が抑えていた。

 ()()()()()新ロシア連邦(NRF)と関係が悪化し、破局してしまえば艦娘達に大きな負担、デメリットとなってしまうからだ。

 

 お陰で親露派筆頭などと陰口を叩かれてしまっているが、彼女自身どこ吹く風と平然としている。

 

 

 だがもし、万が一日本が新ロシア連邦(NRF)との関係悪化に舵を切ってしまったなら、彼女は────

 

 

 

「ま、今はメリットの薄いそんな話は置いておきましょう。今すべきは斉藤君が預かって来てくれたネタに関してどうするか?でしょう?」

 

 

 フッと、纏う空気を和らげながら、真志妻はそう告げた。

 

 その時には紅い瞳の濁りは治まっていた。

 

 

 相変わらずこのヒトは心臓に悪いと、土方は内心で愚痴をこぼした。

 

 斉藤も息苦しそうにシャツの襟元を弄っていたが、そこで陸軍の情報提供者から渡された紙媒体の資料を思い出し、持っていたはずの鞄を探したが。

 

 

「隊長さん、これですね?」

 

 

 春雨(ハルサメ)が鞄を差し出した。

 

 急ぐあまり、斉藤は鞄を車に置いていってしまっていたのを、春雨(ハルサメ)が見付けて持って来ていたのだ。

 

 そのことに「ホントすまねぇ、助かったぜ春雨(ハルサメ)」と礼を述べながら受け取るが、海風(ウミカゼ)が斉藤に小言を言いそうになり、春雨(ハルサメ)があわててそれを制した。

 

 それを横目に見ながら、斉藤は書類を真志妻に渡した。

 

 

「……ふ~ん。相変わらず()()()は良い仕事してますねぇ」

 

 

 内容を速読しながらそう呟き、書類を土方へと回した。

 

 

「確か、あきつ丸さんでしたね…」

 

 

 陸軍揚陸艦艦娘あきつ丸。

 

 

 陸軍の記念すべき初の艦娘であり、現在は将来の上陸作戦に備えての訓練を艦娘の視点から研究業務に従事しているが、本業は艦娘の犯罪を摘発する憲兵でもあった。

 

 しかし、彼女は陸軍における真志妻派の中心人物、いや中心艦娘でもあり、知り得た色々な情報を様々なルートを通じて真志妻に流していた。

 

 この2人、マリアナでの作戦で陸軍からの連絡要員として真志妻の乗艦に派遣されてきたのが初めての出会いであった。

 

 まぁそこから色々とあって意気投合し、現在に至るという。

 

 

 因みに斉藤とは陸戦という共通する関連事項から会う機会が多いのだが、「曲者」というのが斉藤のあきつ丸に対する率直な感想であった。

 

 これに関しては土方も同意見だった。

 

 正直底が知れ無い不気味な雰囲気を、土方はあきつ丸に対して抱いていた。

 

 

 なにせどうやってここまでの情報を仕入れているのかと恐ろしくなるくらいに、質が高いのだ。

 

 今回齎された情報も、かなり精度が高い。

 

 暗躍している者達の詳細なデータが、この書類に網羅されていた。

 

 もし司法機関に持ち込めば、これだけで正式に検挙可能な程である。

 

 

 その司法機関が()()()()()()()()()の話だが─────

 

 

小松島(ここ)のお掃除は土方さんと斉藤君にお任せ致します。こちらはこちらで手を打ちます。ただし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 真志妻は独自で対処することを、暗に指示した。

 

 公安が今回の一件に絡んでいる以上、握り潰されるのが目に見えているのだから。

 

 

 この指示を受け、土方は頷くと斉藤に視線を向ける。

 

 その意味するところを察した斉藤は、やってやろうじゃねぇか!とやる気を漲らせ、春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)に妹を何人か借りるぞと伝え、2人はそれを承諾した。

 

 土方と斉藤は、万が一に備えて春雨(ハルサメ)姉妹達に、斉藤の主導で空間騎兵隊仕込みの陸戦技能を身に付けさせ、斉藤を首班とする独自の特別陸戦部隊を編成させていた。

 

 その任務の中には今回の様なBLACK OPS、隠密軍事作戦行動染みた特殊な任務も含まれていた。

 

 

 

「さて、お掃除のお話もこれくらいにして、本題に入りましょうか」

 

 

 不穏な会話が続く中でも、金剛が黙々と淹れてくれた紅茶の香りを堪能し、口を湿らせてから真志妻は土方に真剣な眼差しを向けて切り出した。

 

 

「貴女達が待っていた娘、安藤さん、いえ、アンドロメダさんについて、ね」

 

 

*1
20385型警備艦『グレミャーシュチイ』級

*2
レーダー等の電子索敵能力は従来の水上艦艇が有利であり、空母等の艦載機運用能力を持つ艦娘がマトモにいない新ロシア連邦(NRF)海軍の苦肉の策であった。

*3
戦後に浮揚。

*4
これが決め手となって当時の日本政府は完全に腰砕けとなり、停戦と相成った。

*5
従来の秘書艦だけでなく、副艦や参謀職を新たに設置。

*6
これはかつての恩師の教えである「コミュニケーションは質よりも量」を自分なりに実践したものであると、真志妻は語っている。




 時勢?知るかそんなもん。時勢を気にしないのが私のスタンスだ!!

 時勢を気にして書きたいことを書かないのは一種の言論統制を受け入れている行為だと思うのが私の持論。

 つーかそれは兎も角として、ゼレの奴がまたいらんこと宣いやがった。私はあのアジテーター男を初見時から直感的に信用出来ないなと見ており、生理的に嫌悪いしている。
 コイツのせいで今回のネタが潰されそうになった。



解説

 対馬要塞基地

 管轄は佐世保鎮守府。

 本編で語られた防衛任務内容以外に、半島から流れてくる不法入国に対する監視の任務も帯びている。



 第二次日露戦役

 北方領土の領有権を巡る戦争。なのだが、裏では当時膠着状態だった第三次大戦最大の激戦区、ロシア東欧戦争の打開に焦るアメリカとEU、つまりNATO主要国が日本政府を扇動していた。
 当初日本政府は断っていたが、パンデミック対応での政権並びに党の支持率低下に歯止めが掛からない事から、時の首相が突如開戦を決定。
 事前の根回しや準備も不十分のまま急に開戦へと踏み切った為に、随所で杜撰さが目立つ計画だったが、逆にそれが奇襲の成功へと繋がった。
 しかし最終的にその杜撰さが仇となり、北方領土に派遣した部隊は補給線が途絶(そもそもマトモな補給計画すら存在していなかった)し孤立化。
 更には首都東京が攻撃を受けたことにより、開戦を決定した当の首相が腰砕けとなって停戦。
 同盟国アメリカは東欧支援と中東での苦戦、日露開戦のどさくさに紛れての中国による台湾侵攻への対応に追われて手が回らなくなりノンタッチだった。(ただ後に日本本土への逆上陸があった場合は何かしらのアクションを起こすつもりだったと声明を発表。)

 結果、北方領土は正式にロシア領となってしまい、自衛隊(当時)は『いずも』だけでなく数隻の艦船、投入した重装備の殆どを失い、また開戦時の奇襲の影響で避難が間に合わなかった民間人に対する誤爆が起き、それを隠蔽していたことが内部告発で発覚。その他様々な問題が次々と発覚して全幕僚長が辞任し(後に空幕長が自殺)、その後内閣も総辞職。

 しかしこの時の経験が次に生かされる事は無かった。



 ロシア東欧戦争

 第三次大戦最大の激戦区。

 EUが経済回復と穀倉地帯を狙って東欧を焚き付けてロシアと紛争状態に突入。EUは東欧防衛を名目に武器供与ならびに義勇軍派兵(核戦争回避とEU内の失業者対策)。

 紛争の長期化と難民問題。東欧の荒廃。最終的に荒廃した東欧東半分をロシアに割譲(実体は押し付け)する形で停戦。なお停戦協定に当事国の東欧諸国は殆ど関与することが出来なかった。

 割譲された地区を合併する形でNRFが結成される。

 なお、EUによる東欧難民に対する非人道的(事実上の強制労働)対応等が後に発覚。反EU感情が増大。親EU、親米政権が崩壊しつつあり、火種は燻っている。


 
 япошка(イポーシカ)

 日本人を表すяпонец(イポーニェツ)の蔑称的表現。ただしそこまで強い差別的表現ではない。


 真志妻の改革

 人手不足で業務過多な現状の改善と、意思疎通の悪さからくる人間と艦娘との認識の相違の改善に主眼を置き、攻勢主体だった軍の方針を防御主体に切り替えた。

 因みに、普段は相当猫をかぶっている。



 ロシア艦に関しましては些か適当に配しました。本当ならコルサコフにはもっと小型の対潜コルベットをと考えていましたが、丁度良いのが見付からなかった…。


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第27話 Japanese Navy Komatsushima Naval Base-3


 アンドロメダの今後の扱い(予定)について。


 真志妻大将初登場の際にやらかしてた…。お陰で辻褄合わせに大苦戦…。

 今回ちと長いです。


 

 

「ちょっと待ってくれ総提督。まさか例の謎の艦娘が『斗号案件』のアンドロメダなのか!?」

 

 

 長門が驚きながら真志妻を問い詰めた。

 

 

 それに対して真志妻は「そうですよ」と答え、「さっき斉藤君が『安藤』って言って───」と話したが、長門は「アンドロメダの隠語は『斗掻き星』じゃあなかったのか?」と返された。

 

 

 このやり取りに対して今度は海風(ウミカゼ)が首を傾げながら、「姉さん、総旗艦の事は『安藤明衣(あんどう めい)』のままですよね?」と尋ね、春雨(ハルサメ)は「うん。そのはずだよ」と答えるが、その顔は少し困惑の色が浮かんでいた。

 

 

 斉藤と金剛も頭に「(ハテナ)」のマークが浮かんでいた。

 

 

 これに対して土方と霧野(キリシマ)は「ああ」と、この困惑した雰囲気の原因を察し、真志妻の顔を見た。

 

 

 真志妻もここで漸く原因に気が付いた。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()

 

 

 事は霧野(キリシマ)が建造され、顕現した時にまで遡る。

 

 

 真志妻が大将に昇格して広島の呉鎮守府へと移動することとなり、何人かの艦娘を連れていく為に減少する小松島鎮守府戦力の補填を目的として、後任の司令官となる当時真志妻の参謀を務めていた土方が、当時秘書艦候補の金剛と共に新たな艦娘の建造を行なっていた。

 

 

 だがその結果顕現したのがキリシマだった。

 

 

 その知らせを受けた真志妻は、自分達が知る艦娘霧島と非常に酷似した、だが全く異なるイレギュラーな艦娘が建造されたこと、そしてそのイレギュラーが何者かを知っているらしい土方と斉藤、そして機関関係を専門とする老技師の3人に対して、どういう事かと詰問した。

 

 

 初めて土方達と邂逅したとき、土方からとある事故で自分達は未来から来てしまったとの説明を聞いていた。

 

 

 だがどれ程先の未来なのかまでは聞かなかった。

 

 厳密には誤って撃ち落としてしまった土方達が乗っていた輸送機を分析した結果、少なくとも100年は先の技術で製造されているだろうとの結果報告から、未来の人間達である事の裏がとれたため、多分それくらいの年代なのだろうと勝手に思い込んでしまい、それ以上追及しなかった。*1

 

 

 だが今回顕現した艦娘は明らかに3()0()0()()以上先の技術力でなければ説明のつかない存在だと、工廠責任者でもある工作艦の艦娘明石から報告が上がってきていた。

 

 

 それなのにそのイレギュラーであるキリシマを土方は知っているというのだ。

 

 

 顕現直後に錯乱し、その後気絶した、キリシマと名乗ったイレギュラーが寝かされている工廠横に据え付けられている艦娘用医務室にて、真志妻は改めて土方達を問い詰めた。「貴方達は何者なの?」と、自身の“()()”を土方に向けて。

 

 そして土方達が密かに“誰か”を探している(ふし)があることを、既に掴んでいる事も伝えた。

 

 

 真志妻は土方達の事を()()()()()()かなりの信頼を寄せていた。

 

 だが万が一、大切な艦娘(家族)にとって見過ごせ無い重大な脅威と成り得るのであれば、イレギュラー共々ここで排除する決断を下す覚悟だった。

 

 危険物を取り扱う工廠だ。何かしらの事故のリスクは常に付き纏う。

 

 そんな不幸な事故に巻き込まれて、次期司令官ほか数名が死亡したとしても、何ら不可思議な事ではない。

 

 

 “武器”を向けてきた真志妻に、斉藤は声を荒らげて抗議しようとするが、土方に後ろ手に制され、「ここは土方さんに任せよう」と老技師に宥められたことで不承不承ながらも引き下がった。

 

 この時土方の目は、殺気すら滲ませる真志妻の目から一切外していなかった。

 

 そして自身を睨み付ける真志妻の紅い瞳と言葉から、彼女の本気度を感じ取った土方は覚悟を決め、自身が元いた世界での素性、所属に階級、そして掻い摘んではいるが歴史などを正直に伝えることとした。

 

 

 だが土方の話を聞いた真志妻の率直な感想は「荒唐無稽」だった。

 

 

 とはいえ明石からの報告や()()()()()()()()()()()()という動かぬ証拠から、信じざるを得ないと判断した。

 

 

 そして死後に、自身にとって掛け替えのない親友でもあった、既に鬼籍入りしていた人物からアンドロメダという自分達とも深い関わりがあり、最期はその身を賭して助けてくれた、大きな恩がある(ふね)の魂の行く末を託されたため、その魂が既にこの世界へと来て顕現していないかを調べていたと聞かされ、真志妻はなんとも言えない顔となり、土方に突き付けていた“武器”を下げた。

 

 

 同時に、今まで話さなかった理由の一片を察した。

 

 

 

 信じさせるに足る物証が無かったこともあるが、何よりも土方自身この世界の人間、恐らくは私も“信頼”されていなかったのだ。

 

 

 なぜなら土方曰く「アンドロメダはあまりにも強大な、この時代で例えるならば戦略核弾頭ミサイルを満載した戦略ミサイル原潜クラスに匹敵する存在なため、万が一を懸念しておいそれと話せなかった」と語ったのだから。

 

 

 それが事実なら、いや間違い無く事実なのだろうが、そのアンドロメダという娘、有り体に言えばその娘が持つ『力』は、この世界の人類には()()()()()()()()()()()

 

 

 その『力』が持つ『魔力』に、この世界の人間が抗えるとは到底思えない。

 

 

 喩えその『力』が自らを傷付けてしまう諸刃の剣だとしても、自らを死に到らしめる毒酒だとしても。

 

 

 その『魔力』は『麻薬』の魅惑に似た甘美な幻惑を齎す。

 

 

 『力』に魅入られて、正常な判断が出来なくなる。

 

 

 私ですら、その魅力に惹かれそうになる欲望が一瞬でも湧き上がったのだから。

 

 

 

 そこまで思考が辿り着いた段階で、()()()()()()()()、下手に外部に漏れたらマズイことになると直感的に気付いて冷や汗が流れた。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 と言うか、キリシマだけでも、その使用されている技術的にアメリカの『オハイオ』級や新ロシア連邦(NRF)の『デルタ』型の戦略ミサイル原潜全艦を引き換えにしてなお、大量のお釣りが出るだけの価値がある。

 

 

 そんな存在の情報がもし外部に漏れたら、諸外国は間違い無く奪おうと画策する。

 

 いや、最悪その存在を巡って深海棲艦そっちのけで第四次大戦が勃発しても可怪しくない。

 

 

 故に関係者には箝口令を敷くべく、直ぐ様この一件に関わっている金剛と明石を呼び出し、先程の事が話された。

 

 

 打ち続く驚きの事態、そして真相に目を白黒させてしまう金剛と明石を尻目に、今回の件に関する情報の秘匿を徹底する旨を伝えた。

 

 

 今回建造されて顕現したキリシマは、建造時のエラーで偶発的に()()()()()()()顕現してしまった戦艦艦娘霧島のエラー個体であるとすること。

 

 人手不足から艦娘としてではなく、軍人扱いで霧野島子と名乗ってもらうこと。

 

 

 そしてアンドロメダには秘匿名称として『安藤明衣』というアンドロメダから捩った名前と、『斗号案件』というコードを真志妻は当てた。

 

 『斗号案件』の斗号とは、中国天文学や占星術で用いられる『奎宿(けいしゅく)』の和名、『斗掻き星』から来ており、それは現代の88星座に置き換えると『アンドロメダ座』に該当しており、そこからアンドロメダを指す隠語の一つとして利用することを決めた。

 

 

 そして『安藤明衣』は小松島で、『斗号案件』は広島でそれぞれ分けて使われていた為に、斉藤が安藤という名を口にして真志妻は気付いたが、長門は気が付かなかった。

 

 因みに『斗掻き星』を思い付いた背景には、この時期艦娘の間で星占いや占星術が流行っており、真志妻はそんな艦娘(家族)との会話でちゃんと話が合うようにする為に知識として頭に入れていたのが功を奏したというものである。

 

 また占いやジンクスを信じる軍人が全くいない訳ではなく、もし『斗号案件』や『斗掻き星』の単語を聞かれて調べられたとしても「なんだ星占いか…」と誤認させ、「真志妻大将もそういったことを気にするのか」という方向に思考を誘導する効果も期待し、また占いを気にしている事を他人には知られたくないからわざわざ隠語を作ったと思わせ、『斗号案件』は星占いの隠語と思い込んでくれたら万々歳という考えもあった。

 

 

 それはそうとして、何故真志妻が第一報に触れた際に『斗号案件』、アンドロメダの事だと気が付かなかったのかと言うと、キリシマから始まって、続く春雨(ハルサメ)達十人姉妹の全員が建造によって顕現しており、今の今までドロップ*2による顕現は一度たりとも無かったから、建造でのみ顕現するのではないか?という先入観が出来ていた。

 

 しかも建造された全員が土方の居るここ小松島鎮守府のみであり、また土方が関わる建造において通常の艦娘は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 さらに言えば、あまりにもアンドロメダの艤装が異様に過ぎた。

 

 

 霧野ことキリシマや春雨(ハルサメ)姉妹の艤装は異質ではあったが、自分達がよく知る従来の艤装と多少なりとも差異はあれど、そこまでかけ離れた物では無かった。

 

 

 そこからアンドロメダの艤装もそういった従来型に近いタイプなのではないか?というこれまた先入観が出来ていた。

 

 

 だが蓋を開けてみるとアンドロメダの艤装はまるで戦闘機の様な巨大なシロモノに搭乗するという、前例の無いモノだった。

 

 その全長は冷戦時代に旧ソ連が開発し、未だに使用する国が幾つもある長寿ベストセラージェット戦闘機、MiG-21戦闘機フィッシュベッドシリーズの14メートルに匹敵していた。

 

 

 トドメは確認されたエンブレム*3が地球連邦を表わすEFでは無く、国連を表わすUNの表記だったことから思い至らなかった。

 

 

 

 一応、()()()()()()()()()()()()に関しては、おおよその容姿は最も付き合いの長い霧野(キリシマ)と、土星決戦直前に直接言葉を交わした事のある海風(ウミカゼ)の証言から、ある程度の把握は出来ていたが、映像からそこまでの判別は出来なかった。

 

 

 

「ま、兎も角最も繋がりの有る彼らがアンドロメダであると太鼓判を押しているのだから、間違いないでしょう」

 

 

 

 何はともあれ、これから謎の艦娘(?)改めアンドロメダに関しての話し合いを執り行うこととなる。

 

 

 そこで出された予想されるアンドロメダの艦娘としての戦力評価に、真志妻と長門は揃って頭を抱えたくなった。

 

 ハッキリ言って戦略ミサイル原潜がおもちゃに成り下がるくらいに想像を絶していた。 

 

 

 土方と霧野(キリシマ)、そして春雨(ハルサメ)姉妹達共通の見立では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と見ていた。

 

 

 だがこれに対して海風(ウミカゼ)は一度だけではあるが、直に合ったその印象から軽挙妄動な行動はしないと思っているのだが、霧野(キリシマ)はそれに同意しつつも、あの娘の心の内には大切なモノの為ならば、平気で鬼にでも悪魔にでもなれる冷酷冷徹な一面が有ると、霧野(キリシマ)は感じていた。

 

 そしてそれはある種の的を得た読みだった。

 

 

 土星決戦以降の豹変したアンドロメダは、ある意味その心の一面が(おもて)に出てきてしまったと言える。

 

 

 そこで真志妻は、アンドロメダとの付き合いが長いというキリシマに、アンドロメダのヒトとなりについて尋ねた。

 

 

「そうさね…。普段の若いの…、アンドロメダは一言で言えば真面目で優しくて、大人しい性格の娘だよ」

 

 

 そう言って瞳を閉じ、過ぎ去ったあの日々の思い出を、世捨てビト同然だった毎日に、ある種の光が差した、そしてもう二度と戻ることのない、懐かしいあの頃の記憶を呼び覚ました。

 

 

 この時霧野(キリシマ)の言葉に耳を傾ける為に、その顔を見詰めていた皆が一様に驚いた顔となった。

 

 

 霧野(キリシマ)が微笑みを浮かべていたのだ。

 

 

 いつもの皮肉げな笑みとは全然違う、本当に優しい笑みを浮かべていた。

 

 おそらくは当の本人ですら気が付いていない、自然な笑みだった。

 

 

「こんな草臥れた旧式の老巧艦を先生と読んで慕ってくれて、なんの面白味の無い昔話にニコニコと耳を傾けて聞いてくれていたよ」

 

 

 そう言いながら懐に忍ばせている葉巻を取り出そうとしたが、この部屋に灰皿が無いことを思い出し、バツが悪そうな顔をしながら再び懐に仕舞った。

 

 その際誤魔化すかのように苦笑しながら「まあ、初対面の第一声がおばさんだったのには面食らっちまったもんさね」と語ると、ある者は飲んでいた紅茶を吹き出し、ある者は驚倒して硬直、ある者は(ひたい)を押さえ、ある者は腹を抱えて笑った。

 

 

「私にとってあの娘は正真正銘、唯一無二の大切な“宝物”さ」

 

 

 そう言うと、スッと目を細めて顔を伏せた。

 

 

「あの娘に先立たれたと分かった時はぁ、私ゃ今までになく絶望したもんさね。もう本当に全てがどうでもいいって思えるくらいにねぇ…」

 

 

 世捨てビトと同然な毎日を過ごしてたのにも関わらずにねぇ…。と、自嘲混じりに、そして掠れるかのような声音で語ると、徐ろに顔を上げ、真志妻の顔を見据えた。

 

 その顔は先程と違い、まるで泣いているかのような痛々しい笑みを湛えたものになっていた。

 

 それを見ただけで、かつてキリシマが受けた絶望と悲しみの深さが知れるというものだった。

 

 

「あの娘にもう一度会える。あの娘の笑っている顔がまた見れる。あの声がまた聞ける。それだけで私は満足だよ」

 

 

 次第に目頭が熱くなり、目元を押さえるキリシマに金剛がそっと寄り添う。

 

 直接の姉妹でなくとも、彼女は大切な愛すべき妹分であると、金剛は理屈ではなく心からそう捉え、彼女、キリシマを受け入れていた。

 

 だがたとえそうでなくとも、誰に対しても自然と寄り添うことが出来るその包容力と行動力が、艦娘金剛が持つ特色であり、“優しさ”だった。

 

 

「私には過ぎた、出来の良い娘だよ…」

 

 

 流れ落ちそうになる水滴を拭い取るために、手拭を自身の顔に押し当てた。

 

 

「…真志妻さんよ」

 

 

 この時真志妻の隣にいた長門が、少し訝しんだ。

 

 目の前にいるキリシマのその声音が突然、低い威圧的なものになっていた。

 

 空気も少しだけピリ付いたものへと変わり、周りに緊張感が走る。

 

 

「あんたがこの先何をしようが、それあぁあんたの勝手さね。あんたの好きにすりゃぁいいさ───」

 

 

 押し当てていた手拭が払われ、キリシマの顔が露わになる。

 

 

「───だけどね」

 

 

 長門は音を立てて息を呑んだ。

 

 

 露わになったキリシマの顔が、阿修羅の如き形相となっており、その形相のまま真志妻を見据えていた。

 

 真志妻もその表情を普段以上に真剣なものへと変え、一瞬だけ土方に「言わせてあげて」と視線で伝えてから、キリシマからの視線を真っ直ぐに受け止め、無言で続きを促した。

 

 

「もしあんたが目的のためにあの娘の優しさに付け込んで利用し、尊厳を踏み躙り、悲しませ、傷付けようとするなら、私ゃあんたを、絶対に許さない…!」

 

 

 真志妻を見据えるキリシマから次第に殺気が溢れ出し、長門は呼吸が出来無いくらいの息苦しさに見舞われていた。

 

 こんな殺気、今までに対峙したどの深海棲艦の姫級からも浴びせられたことがない。

 

 

 だがそんな濃密な殺気を真正面から受けながらも、真志妻は微動だすらしない。

 

 

「どこまでもあんたを追い掛け回し、例え何処へ逃げ、何処へ隠れようとも必ず探し出し、見付け出して、必ずあんたを───」

 

 

 

 

「殺す…っ!」

 

 

 

 言いたいことはそれだけだ。と言わんばかりに瞳を閉じると、つい一瞬前まで発していた殺気が霧散した。

 

 

 途端、長門は全身から思い出したかのように汗が吹き出し、ガタガタと震えた。

 

 

 長門だけではない。春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)もお互い寄り添いながら震え、斉藤は顔を僅かに引き攣らせながら(ひたい)の汗を拭っていた。

 

 艦娘でただ一人、金剛だけは以前に、BARでの酒の席にてキリシマの胸の内を聞いたことがあった為に、多少の手の震えがあった程度ですみ、少し冷めてしまっていたが紅茶を飲んで一息付くようにと、キリシマに促していた。

 

 

 紅茶を呷るキリシマを、土方は腕を組んでただじっと見詰めていた。

 

 土方自身、金剛から先のキリシマの話をそれとなく聞かされていた。そしてなにより───。

 

 

「はぁ~~~~~~~」

 

 

 紅茶を飲み干したキリシマが深く息を吐いた。

 

 

「全く、慣れないことはするもんじゃないねぇ。すまないねぇみんな、私のワガママに付き合わせちまって」

 

 

 そう言って頭を下げると、再び真志妻を見据える。

 

 

「だがどうしても言っておきたかった。こんな私にだって譲れないモンがあるんだよ」

 

 

 チラリと土方に視線を送る。

 

 

 土方は何も言わないが、一瞬だけ表情を緩めたのを見て、キリシマも僅かに口角を上げた。

 

 事前に土方にだけ話していた。

 

 とはいえまさかの堂々とした殺害宣言までするとは聞いておらず、土方は内心で肝を冷やしていたのだが…。

 

 そんな土方の内心を知ってか知らずか、いけしゃあしゃあとしたキリシマの態度に、土方は苦笑するしか無かった。

 

 

「…キリシマさんの仰りたいことは、良く分かりました」

 

 

 ここで真志妻は沈黙を破り、紅茶を一口啜って口の中を湿らせると返答を静かに述べだした。

 

 

「単刀直入に申し上げますが、アンドロメダさんが私達にとって()()()()()()()()()とならない限り、私、真志妻亜麻美の名に賭けまして、アンドロメダさんの()()()()()は必ず尊重致します」

 

 

 その真志妻の返答に、キリシマは口角を吊り上げ、「その言葉、忘れるんじゃないよ?」と念を押すかのように告げた。

 

 

 真志妻にとって、艦娘とは家族であると同時に、対等なパートナー、盟友であるとの認識がある。

 

 同じ名前を持つ個体でも、人間100人居れば100通りの考えが有るのと同様に、個体差の様なものが必ずある。

 

 好戦的な性格が基本の個体でも、その程度はまちまちだ。

 

 中には戦いに忌避的なモノも出たりする。

 

 その場合、真志妻はその個体の意思を尊重し、無理に戦場へと送る真似はしないしさせてこなかった。

 

 甘いかもしれないし、実際にそう謗られる事があったりもするが、自身のその行ないが間違っているとは微塵も思っていない。

 

 元々艦娘とは、人類に手を差し伸べてくれた大恩ある存在なのだから。

 

 そのことを忘れてはならない。

 

 彼女達にそっぽを向かれたらどうなるか、人類は忘れてはならない。

 

 だからこそ、それはアンドロメダにも適応されると考えていた。

 

 

 それが艦娘至上主義を掲げる真志妻亜麻美の根幹でもある。

 

 

 そのことは無論キリシマも認識していたが、こういう時こそ言質は重要なのだ。

 

 その言質が取れた事に、キリシマは満足していたが、だが同時に内心で意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

 

 

 ここで一旦仕切り直しとして、ティータイムを間に挟んだ。

 

 この時春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)が所用で席を外した。

 

 

 

「アメリカからの調査依頼…、ですか?」

 

 

 真志妻から今朝方に佐世保の在日米軍司令部へと出張していた際の事を土方に話した。

 

 

「そ。一応お願いというカタチだけど実質命令ですね。そのうち大使館経由でこっちの政府や防衛省から正式な要請が来るでしょうね」

 

 

 この事に土方は腕を組んで訝しむ。

 

 

「…妙ですね」

 

 

 今回の様な案件だと、今までの例で言えば直接米軍が動くはずである。

 

 その為の部隊を米軍は編成し、実際に運用している。

 

 その中核が潜水艦艦娘によって編成された特殊部隊がいるし、その規模は世界最大を誇っている。

 

 

「米国では今年、大統領選挙があります。その影響が出ているのは間違いない様です」

 

 

 土方はまさかな、と思っていた事を長門が口にしたことで、苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。

 

 

 アメリカのトップを決める大統領選挙。

 

 

 民主主義を標榜するアメリカ合衆国4年に一度のビッグイベントである。

 

 その結果がアメリカだけでなく、世界の情勢にも何かしらの影響を与えるほどの大きなイベントである。

 

 

 だがそれも、12年前に今の極左リベラル政党が政権の座を()()()()()選挙からは露骨な不正、合衆国憲法と法律の違反、司法と検察の機能不全、終いには()()()()()()()が罷り通る形骸化したイベントに成り下がっていた。

 

 

 ただ今年はそれに一つの変化があるかもしれないと、話題を集めている。

 

 

 前回の大統領選挙からアメリカ軍に所属する巡洋艦クラス以上の艦娘に選挙権が与えられたのだが、その時フロリダ州から見事保守党上院議員に選出された一人の艦娘が今年、大統領選挙に出馬を表明したのだ。

 

 

 その艦娘の名は、アメリカ海軍戦艦艦娘のIowa(アイオワ)である。

 

 

 彼女は上院議員として出馬表明を出していた時点で軍籍は返納していた。

 

 

 この12年間、保守党は幾度となく反撃を試みているが、その悉くが露骨な妨害にあい、時には極左が牛耳る連邦捜査当局による不自然な捜査、時にはメディアの偏向報道、時にはテロや不自然な事故による死傷によって潰されており、今回起死回生の策としてIowa(アイオワ)に託した。

 

 

 元々艦娘への選挙権付与は現政権の目玉政策として、何よりも自分達への得票率アップを狙って強引に通過させたものだった。

 

 だがそれを保守党が逆に利用する形で活用した。

 

 

 そもそも現政権が目論んでいたほど、艦娘達は現政権を支持してはいなかった。

 

 彼女達は現政権の推し進める左翼政策を疎ましく感じており、また現政権の恩着せがましい態度に辟易としていた。

 

 とはいえ表立っての反発は流石に憚れると思い、心の内に仕舞い込んでいた。

 

 

 故に現政権は気付かなかった。

 

 

 そればかりか独善的な好意的解釈までしていた。

 

 

 だがそこへ、艦娘にとって“()()”であるIowa(アイオワ)が出馬表明を出したことで、このうざったくて鬱陶しい政治が変わればいいなと思い艦娘達はこぞってIowa(アイオワ)を支持していた。

 

 

 これに焦ったのが現政権の極左リベラル政党である。

 

 

 元々自分達が推し進めた目玉政策なだけに、下手な手が打てずに手を拱いていた。

 

 

 だが遂に、本来ならば今年から巡洋艦以下、潜水艦隊や駆逐艦の艦娘にも選挙権が与えられるはずだったが、突然中止を表明した。

 

 

 それに怒ったのが、無論艦娘達である。

 

 

 特に酷使され勝ちな潜水艦艦娘が相当激怒したという噂が海を超えたここ日本にも伝わって来ている。

 

 

 一時は潜水艦艦娘を中心にサボタージュや暴動が起きたという噂まで流れた。*4

 

 

 

「ここまで来ると、もはや末期ですな…」

 

 

 土方が吐き捨てるかの様にして呟く。

 

 

「そこに来てあの頭のイカれたヒステリー女大統領がまた馬鹿なネガティブキャンペーンぶち上げましたからねぇ~」

 

 

 ホントやってらんないわ~!と言わんばかりに真志妻は天を仰ぐ様にして吐き捨てた。

 

 

新ロシア連邦(NRF)の現職大統領、Александр(アレクサンドル) Кутузов(クトゥーゾフ)氏の懐刀とされる海軍総司令Князь(クニャージ) Александра(アレクサンドラ) Суворов(スヴォーロフ)元帥からの信任の熱い太平洋艦隊司令Софья(ソフィーア) Октябрьская(オクチャブリスカヤ) революци(レヴォリューツィヤ)大将との在日米軍在籍時代での交遊関係だね?」

 

 

 その霧野(キリシマ)の言葉に真志妻と土方は思いっきり渋面を作った。

 

 

「全く、巫山戯た言い掛かりよ。あの娘、Iowa(アイオワ)がスパイなんて」

 

 

「ああ。全くだねぇ。()()にスパイなんて器用なマネ、出来やしないよ」

 

 

 霧野(キリシマ)Iowa(アイオワ)と面識があった。

 

 そしてреволюци(レヴォリューツィヤ)*5とも面識があり、何なら霧野(キリシマ)に葉巻を薦めたのも、パイプによる喫煙を愛好する彼女であった。*6

 

 

 また長門にしても金剛にしても、この2人とは面識があり、そのヒトとなりは良く知っていた。

 

 

 2人共愛国者ではあるが、だからといって互いの祖国を貶めるかのような行ないを見た試しがない。

 …Iowa(アイオワ)がベロンベロンに酔っ払って時々政府批判とも取れる愚痴を漏らしていたが、彼女の前では弁えていたのか一切行なっていない。

 

 

 だがここ最近、アメリカの主要メディアを中心にIowa(アイオワ)のスパイ疑惑を大々的に報道し、現職の大統領がそれに乗っかる形で対抗馬であるIowa(アイオワ)を売国奴の売女と口汚く罵っていた。

 

 

 タイミングを合わせたかのようにEU、そして日本でも同じ内容の報道が次々となされていた。

 

 

 真志妻はこのやり口には覚えがあった。

 

 

 かつてアメリカ・ファーストを掲げ、世界的に席巻していたグローバリズムに真っ向から対立した、アメリカの復活を目指して「Make America Great Again!」をスローガンに奮闘した奇跡の大統領を、何としても貶めようとしたグローバリストとその仲間である極左リベラル政党のやり口に。

 

 彼はグローバリストが滅茶苦茶にし、ボロボロにした祖国を再び偉大な国へと蘇らせかけたが、グローバリストの陰湿な妨害の前に政権から追い出され、それ以降のアメリカは見るも無惨な有様へと落ちぶれていた。

 

 

 その際に一番最初に仕掛けられた謀略が、奇跡の大統領の名誉と信頼を貶めようとしてスパイ疑惑が捏ち上げられた。

 

 そもそも証拠も証言も全てが捏ち上げしかないといういい加減なものだったが、連日連夜繰り返されたあまりにも下品な偏向報道の数々に、当時の真志妻はかなり辟易とさせられたものである。

 

 

 今回の一連の騒動も、注意深く見たら随所に類似点が散りばめられ、内容の杜撰な所も目に付く。

 

 

 結論として、アメリカの極左リベラル政党はIowa(アイオワ)をかつての奇跡の大統領と同じくらいの“脅威”と見做して形振り構わず潰しに来ていた。

 

 

 それ程までにIowa(アイオワ)は勢いがあった。

 

 

 また彼女もこのままやられっぱなしのままで、大人しく黙っているハズはなかった。

 

 

 現政権の矛盾を、元軍隊の立場から突く形で反撃に出ていた。

 

 

 曰く「貴方方は人類共通の脅威、深海棲艦に対して団結しようと世界に呼び掛けていましたが、何故今だに新ロシア連邦(NRF)を国家として認めず、露骨な敵意を剥き出しに、敵愾心を煽る行為を繰り返すのですか?かの国は艦娘こそ少ないですが、今や世界トップクラスの国力を有する国。共闘できればこれ程心強いことはありません」

 

 

 曰く「軍の予算配分、方針が深海棲艦との戦いを想定したものから、まるで新ロシア連邦(NRF)との()()()()を想定したものへと次第にシフトしているのは何故ですか?」

 

 

 などなどと他にもあるが、軍内部で囁かれていた疑問をぶつける形で突き付けて反撃に出た。

 

 

 これに現役だけでなく、第三次大戦で政府の無為無策な戦争方針に付き合わされて辛酸を嘗めさせられた退役軍人達も大いに支持していた。

 

 

 だが真志妻は、今回の騒動にはもう一つ裏の目的があると見ていたし、どうやらそれが的中していたようなのだ。

 

 

 

「遠回しに私の失脚も目論んでいるみたい」

 

 

 

 Iowa(アイオワ)が在日米軍時代に、そしてреволюци(レヴォリューツィヤ)、またの名を戦艦艦娘Гангут(ガングート)が日本に出向していた際に、真志妻が司令官を務めていた時のここ小松島鎮守府で、一時的に在籍していた。

 

 

 そしてその真志妻は日本における親露派の最右翼と目されている。

 

 

 ロシア連邦時代から露骨な反露姿勢を隠そうともしない今のアメリカ極左リベラル政党にとって、真志妻の存在はかなり目障りで癪に障る存在だった。

 

 

 真志妻が大将に就任して以降、日本におけるアメリカの影響力は徐々にだが弱くなり、対して蛇蝎の如く嫌う新ロシア連邦(NRF)の影響力は次第に強まる一方。

 

 

 それに対してアメリカの現政権は危機感を募らせていた。

 

 このままだと西太平洋でのアメリカの影響力が無くなってしまう。*7

 

 

 そこで何を思ったのか、どうも真志妻の排除を考えた様である。

 

 

 これは在日米軍の艦娘部隊指揮官であるガーフィールド准将が別れ際にそれとなく伝えて来ていたから、まず間違いないだろう。

 

 そしてその情報の出処はIowa(アイオワ)だった。

 

 

 彼女はこの情報を掴むと、直ぐに彼女自身が持つ海軍の伝手や保守党内の軍との繋がりがある伝手を使って、かつての上司であるガーフィールド准将に頼んで真志妻に注意を促すよう頼んだらしい。 

 

 ガーフィールド准将曰く、真志妻をアメリカの問題に巻き込んでしまったことで相当気を病んでいるという。

 

 

 

 土方もIowa(アイオワ)とは面識があったし、金剛に負けず劣らずの明るいムードメーカーっぷりに何度も振り回されたが、それで場の雰囲気が和やかになったり、勇気付けられたこともあったが故に、彼女が気を病んでいるということに少なからずショックを受けた。

 

 

 それは霧野(キリシマ)も同様だったらしく、目に見えて不快感を露わにし、鎮守府ムードメーカーナンバーワンをIowa(アイオワ)と競っていた金剛は思わず手に持っていたティーカップの持ち手を握り潰していた。

 

 

 

 ホントやってらんないわー。

 

 

 

 真志妻は何処ぞの重雷装巡洋艦艦娘の様にだらし無く、ソファーの背もたれに寄り掛かる様に体重を預けて再び天を仰いだ。

 

 

 ひょっとしたら人間なんかよりも、深海棲艦の方が話が分かったりしてね~。などという脈絡のない思考が頭を過るほどに、彼女は疲れを感じていた。

 

 

 とはいえ今はそんなことよりもアンドロメダさんのことだと、投げ出したくなる思考をどうにか引き戻し、気合いを入れ直した。

 

 

 今後どうなるかは、未だ神のみぞ知ることである。

 

*1
その時は前日に()()()()()精神的にかなり疲弊しており、頭が回っていなかったという一面もあった。

*2
突然海域に顕現する現象。顕現する条件や切っ掛けの一切が謎で、顕現した本人も直前に何が起きたのか全く分からないと証言している。

*3
コスモファルコンの主翼に描かれたエンブレム

*4
政府と国防総省(ペンタゴン)は否定しているが…、果たして…?

*5
当時は別の名前だったが。

*6
頻度は低いが葉巻も嗜んでいる。

*7
実際のところ、アメリカインド太平洋軍の猛烈な反対を押し切り、ハワイ防衛に見向きもせず早々に放棄して太平洋航路を手放した政府と国防総省(ペンタゴン)の落ち度で完全に自業自得なのだが…。





 なんだかキリシマさんが孫娘を溺愛しているおばあty(高圧増幅光線砲と35.6センチ連装砲の砲声)


 アメリカのネタは基本的に実際に起きたこと、或いは今問題になっていること、問題になるかもしれないと言われているモノを叩き台にしております。
 多分これからもちょくちょくこの手のネタは放り込むと思います。

 Iowa(アイオワ)さんが大統領になれるかどうかは、今年の、リアルでの中間選挙の結果次第になるとおもいます。


解説&補足


斗号案件

 中国の天文学・占星術などで用いられた『二十八宿』、『西方白虎』の一つ『奎宿』の和名『斗掻き星』より。斗掻き星は現代の88星座において概略位置がアンドロメダ座になる。


300年

 火星遺物船によって航宙艦建造技術が大幅にブーストしていることが起因。


Iowa(アイオワ)

 元アメリカ海軍戦艦艦娘のIowa(アイオワ)。現在はアメリカ保守党の上院議員で保守党の大統領候補。

 在日米軍時代に小松島に出向し、真志妻の指揮下にいたことがあり、その時にГангут(ガングート)と知り合った。

 真志妻をアメリカの政争に巻き込んでしまったことを申し訳なく思っている。



Александр(アレクサンドル) Кутузов(クトゥーゾフ)

 第2代新ロシア連邦大統領。愛称はСаша(サーシャ)

 ロシア連邦時代と先代の大統領の政権では国防相を務めていた。

 強烈な反グローバリストで欧米などの政府や財界に蔓延るグローバリストを激烈に批判しており、彼らからは蛇蝎の如く嫌われている。

 第二次日露戦役で日本に対する報復攻撃である東京爆撃を主導した人物であり、また日本や欧米西側諸国に対して「力による現状変更を今まで声高に非難しておきながら、仲間内の日本の行動は見て見ぬふりか?」と痛烈に批判。日本からの受けもあまりよろしく無い。



Князь(クニャージ) Александра(アレクサンドラ) Суворов(スヴォーロフ)

 新ロシア連邦海軍総司令官。元帥或いは上級大将。

 クトゥーゾフ大統領の右腕と称されている。次期国防相との噂があるが、本人は「わたしゃ海の事しか分からないよ」と否定している。

 なお休日は聖歌隊で一日中歌っている、特技が鶏の鳴き真似という噂がある。



Софья(ソフィーア) Октябрьская(オクチャブリスカヤ) революци(レヴォリューツィヤ)

 新ロシア連邦海軍太平洋艦隊司令。大将。またの名をГангут(ガングート)

 スヴォーロフ元帥からの信任の厚い将官。

 一時期日本海軍に出向しており、その際に真志妻が指揮する小松島鎮守府に在籍していた。この時に霧野(キリシマ)に喫煙を薦めた張本人。無論土方とも面識がある。

 同時期にIowa(アイオワ)と知り合った。



 運営、頼むからもっとロシア艦娘増やしてくれ…。配役に困る。


お馴染み(?)愚痴コーナーだ!!

 最新データだ!あのアメリカのバカジジイ、歴代最高の不法移民の記録を打ち立てたぜ!!クソッタレ!!

 公開が現地金曜日の23時って、やましいから隠したかったです!と言っているようなもんじゃねえか!!

 トランプさんの時はこんな事無かったぞ!!
 

 いやもう留まるところを知らないな!!マジで今回頭の血管切れそうになったからこれでおしまい!!血圧上がり過ぎて頭痛い…。

 今回の件、より詳しく知りたいと思われました方は、YouTuberカナダ人ニュースさんの本日2022/10/23の投稿をご覧になって下さい。この方はカナダに在住する日本人で、カナダやアメリカのこの手のニュースをずっと追い掛けられている方です。日本では知ることの出来ない貴重な海外のニュースを毎日投稿されています。私もかなり参考にしています。

 



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第28話 Japanese Navy Komatsushima Naval Base-4



 遅くなりました。残業やら身内の法事やら何やらで中々執筆する時間がありませんでした…。

 そうこうしている内に艦これアニメが始まってしまった。


 引っ張るのも何ですので、今回で真志妻大将の正体を明かします。


 

 

「アメリカの事はアメリカに、Iowa(アイオワ)に任せましょう」

 

 

 こちらからアプローチ出来ることは今の所無いしね。と付け加えながら、アメリカの事は静観することとした。

 

 

 いくら自分達に対して影響があるとはいえ、他国の問題である以上は下手に手出しする訳にはいかない。

 

 最悪、内政干渉として外交問題へと発展しかねない。*1

 

 

 現地で頑張っているIowa(アイオワ)の為にも、彼女への攻撃材料へと繋がりかねない行ないはするべきではない。

 

 出来ることはIowa(アイオワ)が齎してくれた警報への備えくらいである。

 

 

 歯痒い限りだが致し方無い。

 

 

 兎も角今は喫緊の課題であるアンドロメダを今後どうするかである。

 

 

 真志妻としては、アンドロメダが日本での庇護を求めて来たならば、快く受け入れるつもりである。

 

 

 その際に“色々”と面倒事が起きるだろうが、艦娘の事であれば労を惜しまないのが真志妻である。

 

 それに日本国内であれば、()()()()()()()()()()出来る、こんな混沌とした世界でも一定層の反吐が出そうになる人間共にはとても喜ばれる()()()()()()()()()()()”を()()()()()()()()()()()()()したら、なんとかなる。

 

 今まではそれで何とかなっていたし、改革に必要だけど不足する予算の足しや、いつも頑張ってくれている艦娘達にひもじい思いをさせないためにも結構消費してきたが、まだまだ“山吹色のお菓子”のストックはたっぷりあるから、どうにかなるはずだ。

 

 

 ただ失脚工作の一件が気掛かりではあるが、どうにかして時間を稼ぎつつ、慎重に対応して潰すしかない。

 

 ひょっとして失脚工作の真の狙いは資産没収を狙っている?という予想が頭を過るが、もしそうならば最悪だが、寧ろ突破口にも成り得る。

 

 欲深い人間ほど、予定されている山分けでの取り分よりも多くを欲しがる生き物だし、あわよくば協力者を蹴落としてでも独占したいと考えている。

 

 

 上手く行けば内ゲバによる内部崩壊を狙えるし、当面の邪魔者を纏めて一掃できるかもしれない。

 

 

 だから、まだまだ絶望には程遠いと自身を奮い立たせる。

 

 私のお金は大好きで大切な艦娘(家族)みんなを養う為のもの!それを掠め取ろうとするなら、容赦はしない!それ相応の報いをくれてやる!と、普段以上にヤル気を漲らせていた。

 

 その取っ掛かりでもあるアンドロメダの今後をどうするかで、躓くわけにはいかなかった。

 

 

 

 ここで真志妻は小松島へと出発する直前に得た最新情報であるマリアナ諸島サイパン島へと墜落した謎の物体に関する事を開示した。

 

 

「もしかしたらアンドロメダさんの事とまったくの無関係かもしれませんが、私達には判断が付きません。何かお気付きになられた点はありませんか?」

 

 

 そう言われて土方達は資料に目を落とすが、最初に提供された戦闘中のアンドロメダの資料よりも量が少なく、添付された画像も粗くて()()()()である。

 

 しかもその物体を捉えた画像は黒煙を上げている影響で判然としない。

 

 

 だが霧野(キリシマ)はそのカラーリング、そして黒煙から微かに覗く特徴的な艤装の外観を見逃さなかった。

 

 

「なんだい、なんだい!アポロノームの嬢ちゃんまで来ちまったのかい!?」

 

 

 そう言って大仰に肩を竦める霧野(キリシマ)に真志妻と長門の視線が集中した。

 

 

「あの娘の妹さね。3番艦アポロノーム。いやはやまさかとは思っていたけどねぇ…」

 

 

 霧野(キリシマ)が述べた言葉、特に最後の文言に長門が「それはどういうことだ?」と首を傾げた。

 

 

「なんとなくだけどね、アンドロメダ姉妹、特に一番最初に建造された5人は、みんな姉妹愛がとても強い娘達だったよ。その中であの娘はアポロノーム嬢ちゃんのことを一番可愛がっていた」

 

「嬢ちゃんもなんだかんだ言ってもあの娘にかなり懐いていたからねぇ。春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)の2人が同時に顕現した時みたいに、強い思いが互いを呼び寄せて、ひょっとしたらって思ってたんだよ」

 

 

「思いは時として世界を超える。てね」

 

 

 普段の何処か冷めた感性でいることの多い霧野(キリシマ)からしたら珍しい、なんともロマンティックなセリフである。

 

 春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)という実例から、本人としてはそんなつもりは無いのかもしれないが、それでも珍しい物が見れたと、真志妻と長門は思った。

 

 

「ん?だが待てよ…。となるともしかしたら…」

 

 

 何か良くない事が頭を(よぎ)ったのか、顰めっ面を作り思考に耽る霧野(キリシマ)だったが、部屋の扉がノックされた事で思考が中断された。

 

 

 入室してきたのは、用事で退出していた春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)だったが、そこに同行者がいた。

 

 

「遅くなりました」

 

 

 土方の副艦、金剛型高速戦艦艦娘の霧島である。

 

 

 あの後春雨(ハルサメ)達と別れてから各部署への連絡業務や各所からの報告が舞い込んだ為に到着が遅れた。

 

 

 そしてもう一人。

 

 

山風(ヤマカゼ)、ご苦労。帰還して直ぐですまないが、報告を頼む」

 

  

 春雨(ハルサメ)の妹、山風(ヤマカゼ)である。

 

 

 いつもおどおどとし、ダウナーな性格からあまり積極的な行動をとらないイメージをいだかれ勝ちだが、必要と判断したらかなりの積極性を発揮するという二面性が山風(ヤマカゼ)にはある。

 

 そして長姉春雨(ハルサメ)をして、「突撃癖があり、狂犬の異名のある夕立(ユウダチ)以上の凶行を起こしかねない、一番気を付けなければいけない妹」と言わしめる程の、不安定な一面があった。

 

 

 今回とある事から他の姉妹達と共に、外洋防衛艦隊に所属する外洋パトロール艦隊として展開中の特設艦娘支援母艦『りつりん』*2へと増援目的で出撃していた。

 

 

 正午過ぎにマリアナ諸島方面からの電波発信が突然急増したのを、鎮守府や展開中の各パトロール艦隊が探知した。

 

 

 万が一の事態に備えて土方は警戒レベルを上げ、展開中の『りつりん』と『どうご』に増援部隊の派遣を決定。

 

 小松島鎮守府最強戦力である白露型姉妹で編成された特殊作戦群*3から、出張中の春雨と海風を除く全員を投入。

 

 丁度2隻に向けて昼食の配給と保存食料の補給を行なう為に飛び立つ予定だった輸送ヘリに便乗して向かった。

 

 

 余談だが、この船にはフェリー時代に乗客用の厨房設備が存在せず、食事はもっぱら自動販売機で購入する冷凍食品や即席麺だった。

 

 

 流石に日々の食事がこれでは士気に影響すると、改装時に厨房設備を増設するという案があった。特に真志妻大将がそれを強く要請していたが、増設などに伴う船体の重心バランス変化の問題から艦娘支援設備が優先され、大容量の保存設備が必要となる糧食関係の給食設備は限定的にならざるを得ないという結論が出され、泣く泣く断念。*4

 

 

 しかし真志妻大将は諦めずに粘り、代案として陸軍がアメリカ陸軍で採用されているフィールドキッチンの一つであるCK、(Containerized Kitchen)『コンテナ化された移動キッチン』を参考にして開発配備を行なっていた次世代型野外炊具の積載を提案。*5

 

 定期的に輸送ヘリで補給することで保存設備を可能な限り縮小しつつ、船内で調理の難しい食材を事前調理して運び込み、出来る限りのボリュームとメリハリのある食事の提供している。

 

 

 食事は前線の兵士にとって最大の楽しみであり、癒しをもたらしてくれる貴重な至福の時間であるが故に、真志妻大将は疎かにしたくなかった。

 

 

 だがその影響でヘリが安全に飛行出来る範囲内でしか活動出来ないというデメリットもあるが、パトロール任務のみならば特にこれといったトラブルは起きておらず、現状において問題とはなっていない。*6

 

 

 当初は厨房設備が備えられている別のフェリーを当てたかったが、経済の低迷と人口減による旅客数激減の影響で船会社も持ち船を慢性的に整備不足のまま半ば放置していたという状況であったため、まともに動かせる船数が不足しており、その中でもこの4隻は比較的マシな部類であったため、背に腹は代えられない状態だった。

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 増援派遣そのものに嘘偽りは無いが、それとは別の目的があった。

 

 急増した電波発信、その中に山風(ヤマカゼ)は気になる電波を傍受していた。

 

 

 

「…うん。やっぱりあの電波の中に、防衛軍で使用している周波数が紛れてた」

 

 

 かつて長姉春雨(ハルサメ)と共に受けた改装で、山風(ヤマカゼ)も電子装備が強化されたが、その精度と感度は山風(ヤマカゼ)の方が敏感だった。

 

 

 だからこそ気が付いた。

 

 

「…あれは、間違い無く、総旗艦さんのモノ」

 

 

 複数の雑多な電波の中から手繰り寄せた、懐かしさすら覚える軍の周波数。

 

 

 最初に気が付いた時、まさかと思って目を見開いて驚愕した。

 

 

 そしてそのまま取る物も取り合えず、土方のいる執務室に駆け込んだ。

 

 

 陸地からの電波に邪魔されない所で、出来れば今直ぐにでも“空”に上がってより詳しく分析したいと必死に頼み込んだ。

 

 

「それと、総旗艦さんだけじゃない。もう一人、…間違い無く、妹のアポロノームさん。来てる」

 

 

 流石に目立ち過ぎるからとやんわりと却下され、代わりとして増援名目での出撃命令が出された。

 

 

 

「…傍受した電波とは別に、微弱だけど、アポロノームさんの識別信号も拾った」

 

 

 ここに来て確証へと変わる。

 

 

 2隻目のアンドロメダ(クラス)の登場という事態。

 

 しかもそれがよりによって深海棲艦の勢力圏内であるマリアナ諸島に墜落しているのだ。

 

 アメリカ軍は墜落直後に深海棲艦によって破壊されたと見ているが、それを聞いた土方はその見解を真っ向から否定した。

 

 

「彼女達の武装ではここまで木っ端微塵には出来ませんよ」

 

 

 自身もかつての内惑星戦争、特にガミラス戦役にて前線に立っていた経験から、如何に強力な攻撃でも残骸はかなりの確率で原形を残した状態になることを知っていた。

 

 

 この時土方はチラリとキリシマに視線を向けた。

 

 ここからの話はキリシマにとっては辛い内容となる。一旦退出しても構わないと、視線で伝えた。

 

 

 キリシマは一瞬逡巡したが、構わず続けてくれと促した。

 

 

 その返答に土方は一つ息を吐くと、続きを話し出す。

 

 

 自身も参加した第一次火星沖海戦終盤、友軍残存艦艇の撤退支援で()()()()を務めていた航宙自衛隊第一護衛艦群にて乗艦としていた、キリシマの最愛の姉であったコンゴウに急迫してきた敵新型超弩級戦艦*7の斉射が直撃して沈んだが、艦首部分こそ吹き飛ばされてしまったものの、艦橋のある艦中央から後ろは無事で、九死に一生を得た。*8

 

 他にも宇宙海戦を映した記録映像では、被弾艦がかなり派手に爆発しているシーンが目立つために、一般的には跡形も無く爆散していると思われ勝ちだが、戦場跡には元の(ふね)が何だったのかがある程度は判別出来るくらいの残骸がかなりの確率で見付かる。

 

 ただエンジンの暴走や誘爆による爆発や、波動砲などに代表される様な広範囲破壊兵器だと話は変わってくるが。

 

 

 だが純粋な砲爆撃だけだと、この渡された資料に添付された画像の様に木っ端微塵になることはまず有り得ないし、もし何かしらの理由で波動エンジンが誘爆したのならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの時、火星に沈んだアンドロメダの爆発から逆算したら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 この土方の言葉に、キリシマもハルサメ達も賛同し、尚且つ深海棲艦の砲爆撃程度ならアンドロメダ(クラス)の装甲、特に重要防御区画(バイタルパート)を抜けるとは到底思えないと付け加えた。

 

 

 

 これらが意味する所は何か?

 

 

 

「…つまり、偽装爆破?」

 

 

「まあそれしか考えられんね。それに、それを考えた下手人は間違い無くあの娘さね」

 

 

 霧野(キリシマ)のその見解に、真志妻と長門は揃って首を傾げた。

 

 それに対して霧野(キリシマ)は副艦の霧島にあることを尋ねた。

 

 

「マリアナからの電波発信は、今どんな具合だい?」

 

 

「はい師匠。現時点では普段と変わらないレベルにまで落ち着いてきていると、各地の通信隊や『りつりん』、『どうご』など展開中の各パトロール艦隊から報告が上がって来ております」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()。という事じゃ無いんだね?」

 

 

「え?あ、はい。そうですが…?」

 

 

 霧野(キリシマ)の質問の真意が分からず、霧島は首を傾げながら答えたが、山風(ヤマカゼ)はそれの意味する所を察した。

 

 

「…戦闘が起きたことを示す通信の兆候も、()()()()()()()も確認されていない」

 

 

 山風(ヤマカゼ)からのその答えに、霧野(キリシマ)は頷いたが、その意味を察した土方と斉藤は深刻な表情となった。

 

 

 このやり取りに真志妻達は付いて行けていなかった。

 

 

 だが、春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)から、もし自分がアンドロメダと同じ立場ならば間違い無く山風(ヤマカゼ)が想像した事、大切なモノが傷付けられたことに怒り狂って下手人共を皆殺しにするか、この場合()()()()()()()()()()()まで止まらないだろうと聞かされて、漸く理解したが、同時にそこまでやるのか?という疑問が湧いてくる。

 

 いくら大切な存在とはいえ、明らかに限度を超えている。

 

 

「…それだけあの娘にとって、アポロノームの嬢ちゃんの存在がとても大きいのさ」

 

 

 霧野(キリシマ)はアポロノームがアンドロメダを庇って散って逝った最期と、それが齎した影響を語った。

 

 キリシマ本人は直接見た訳では無いが、他の(ふね)から聞いたことによって、あの時何が起きたのかを正確に掴んでいた。

 

 

「…あの娘は誰よりも優しい娘だった。いや、優し過ぎたんだ」

 

 辛そうな表情で、絞り出すかの様にして語るキリシマ。

 

「…だから、耐えられなかった」

 

 ここに居る誰よりもアンドロメダとの付き合いが長く、誰よりもその心を理解し、危惧していたが故に、その“脆さ”からくる“狂気”が容易に想像出来た。

 

「もしも、似たような事が起きたら、…深海棲艦のムスメっ子達が()()()()()いたなら、今頃サイパン共々きれいサッパリ跡形もなくこの世から完全に消滅しているさね」

 

 

「あの娘は、大切なモノが傷付けられる事を極端に嫌う」

 

 

「大切なモノを守るためなら、あの娘は平然と冷徹冷酷な鬼にでも悪魔にでもなるよ」

 

 

 

 真志妻はゾッとした。そして気付いた。

 

 

 これは私達に対するある種の“()()”だ!

 

 

 もしもの場合はその武力が容易に自分達へと降り掛かることになるぞ?と暗に告げているのだ!

 

 

 しかし同時にある疑問が浮かぶ。

 

 

 何故偽装爆破を行なったのか?

 

 

 しかも深海棲艦の勢力圏内で行なったということは、どう考えても深海棲艦が協力しているということになる。

 

 

 長門もその答えに辿り着いたのだろう。(ひたい)から汗が流れている。

 

 

 でも何故?

 

 

 何かしらの利害関係が一致しているのだろうか?

 

 

 分からない。

 

 

 ならば最初に確認された戦闘は?

 

 

 

 その疑問を察した霧野(キリシマ)は机の上に戦闘中を捉えた画像の資料を広げ、そこから被弾した深海棲艦の主力空母、人類コード空母ヲ級を捉えたものをピックアップして真志妻達に指し示した。

 

 

「よく見な。一見すると容赦無く攻撃して蹂躙している様に見えるが、当てているのはどれも艤装部分。しかも本体へのダメージが入らないけど、戦闘能力を奪う絶妙なポイントのみを狙い撃ちしている。この戦艦なんざ主砲を融解させているだけだ。まったく器用なモンさ」

 

 別の画像に写る、空母ヲ級の護衛を務めていた深海棲艦の主力高速戦艦である戦艦タ級を指差すと、肩を竦めた。

 

 見れば戦艦タ級が展開する主砲全てに陽電子ビームが掠めて使用不能となっていた。

 

 

 これを見た春雨(ハルサメ)達は率直に凄いと感心した。

 

 おそらく自分達も()()()()()()()()()()()()()()であれば同じ事が出来るだろうが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そのためこのアンドロメダの実力と、何よりも実際に実行しようと決意したその決断力と度胸に只々脱帽するしかない。

 

 

 だがわざわざこの様な事を選択したという事は───。

 

 

「あの娘にとって、深海棲艦は()()()()()()()()()()()()()()という意志の表明さね」

 

「あんたがここに来て土方のオジキに話した言葉通りさね、この戦争に本来ならば私達は関係無かったのと同じ様に、あの娘にも関係の無い物だった」

 

 

 ならば何故火蓋を切ったのか?

 

 

 それに対しても霧野(キリシマ)には心当たりがあった。

 

 

「あくまでこれは私の勘だけどね、この戦いは元々は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と私は考えている」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()。そう見せ付ける事で多少なりとも人類に信用させる狙いがあった」

 

 

「そして本来ならばそのまま人類の勢力圏内へと向かう予定だったんだろうね」

 

 

 そう言うと霧野(キリシマ)は紅茶を一口飲んで口の中を潤した。

 

 

「…まさか、これら全て安藤さん、いえ、アンドロメダさんが思い描いた状況なのですか?師匠?」

 

 

 震える声で霧島が尋ねてくるが、霧野(キリシマ)は苦笑しながら「多分ね」と答える。

 

 

「ということは、わざと映るように衛星に細工も?」   

 

 

 この霧島の疑問に対して、霧野(キリシマ)よりも先に金剛が自身の推論を述べた。

 

 

「霧島、それをするとSatelliteに不自然な挙動をさせてしまいますカラ、露骨過ぎて逆に怪しまれてしまいマスヨ?多分timingを合わせたのでショウ。どうデスカ?」

 

 

「…恐らくはそうでしょうね」

 

 

 ここで霧野(キリシマ)は真志妻と長門を見遣る。

 

 

「あの娘は何もあんた達に対して悪意があって、だまくらかしてやろうとかいう腹積もりは無かったと、私は断言するね」

 

 

「しかし何故このような小芝居を?あ、いえ、我々を信用させたいという考えは理解できますが、まるでアンドロメダがこちらを疑っているかのように感じましたので…」

 

 

 長門がそう霧野(キリシマ)に尋ねる。

 

 

 まぁもっともな疑問さね。と霧野(キリシマ)も思った。

 

 信用を得るための、偶然を装った事実上の手土産と言えるこの戦いだが、手が込み過ぎているとも言えなくもない。

 

 

 

「疑っている、と見た方が自然だろうね…。それなら偽装爆破を行なった事にもある程度説明が付く」

 

 

「人類にアポロノームを触れさせたくなかった。強すぎる“力”は時として良くない誘惑や災いを呼び寄せる…」

 

「この世界の人類が、“()()()()()()”に興じると見て“()()()()”になってるのかもしれないねぇ…」

 

 

 霧野(キリシマ)が語った“()()()()()()”と“()()()()”という言葉に、土方は内心で苦笑していた。

 

 その言葉はかつて在地球ガミラス大使ローレン・バレル氏が、波動砲艦を増産し軍拡へとひた走る地球に対し、釘を刺した際に投げ掛けた言葉だった。

 

 

 もし人類がアポロノームに使われている技術を手にしたら、まあ間違い無く“危険な火遊び”をするだろうなと思った。

 

 解析出来るかは分からないが、それでもそれがまた新たな疑心暗鬼を生む。

 

 

 ここでふと疑問が浮かぶ。

 

 

 アンドロメダが人類を疑うようになった、その理由と原因が何なのかと。

 

 

 

「あ、あの…」

 

 

 ここで山風(ヤマカゼ)がおずおずとしながら挙手をして発言を求めた。

 

 

「…多分、長門さんの疑念、間違ってない。です」

 

 

 山風(ヤマカゼ)の一言に、ざわめきが起こる。

 

 

「…総旗艦さん、()()()()()()()()()()()()

 

 

 何故そう言い切れるのか?という疑問の眼差しが山風(ヤマカゼ)に集中する。

 

 

「…()()()()()()()()()()()()()を、行なっている形跡が、見付かった」

 

「しかも、明らかに国のデータベースを司る、メインフレームを狙って…、情報を抜き取っていた」

 

 

「待ってくれ山風(ヤマカゼ)、何故それがアンドロメダが人類を疑っていることに繋がる?いやそもそも()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 待ったをかけた長門が鋭い目つきで山風(ヤマカゼ)に問い詰める。

 

 

「…見付けたのは偶々。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()では到底真似出来ないスピードと、鮮やかさや大胆さ、それなのに()()()()痕跡を悟られない慎重さで侵入してるのを、目の当たりにした」

 

 

 その思わぬカミングアウトに全員の目が点になる。

 

 

 え?今この娘なんて言った?アメリカの国防総省にアクセス?しかもさっき!?どゆこと!?

 

 

 皆の疑問が見事にシンクロしている中、山風(ヤマカゼ)は素知らぬ顔で淡々と話し続ける。

 

 

「…こんな芸当が、()()()()で出来るのは、私か、私と同じ様に電子装備が強化されている春雨姉(ハルサメねえ)

 

 

 妹からの言葉に春雨(ハルサメ)は「へっ!?」という表情になるが、直後に「…春雨姉(ハルサメねえ)はシロ。()()()()()()それをやる理由が無い」と山風(ヤマカゼ)が付け加えた。

 

 

「…後は地球艦隊総軍、それを率いるために、随一の電子装備と演算能力を備えたアンドロメダ(クラス)、つまりは総旗艦さん、アンドロメダさんしか有り得ない」

 

 

「…そして、ここからが本題」

 

 

「総旗艦さんがアクセスしていたのは、軍の作戦詳報に関連する最重要機密資料…」

 

「…タイトル、『マリアナ奪還作戦(Recapture Operator of Mariana)』、別名『マリアナの浄化作戦(Purification Operator of Mariana)』」

 

「…その骨子、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。…ひっ!」

 

 

 瞬間、部屋の温度が急激に下がったかのような気がした。

 

 そして、山風(ヤマカゼ)の顔が恐怖で引き攣り、涙目となった。

 

 

 今まで聞きに徹していた真志妻の顔が、雰囲気が、一気に変わっていた。

 

 

 

 憤怒

 

 

 

 真志妻の全身から、怒りが溢れているかのように、オーラの様なモノが見えるほどの憤怒の色に染まっていた。

 

 

「…あれは、ヤハり計画さレてたモノだったノね?ふ、ふフっ、うフフふッ!」

 

 

 押してはならないスイッチが入ってしまったのか、普段とは全く違う声音とイントネーションで、しかも裂けたのではないかと心配になるくらいに口元を吊り上げて笑い出し、強烈な怒気や殺気と共に、その瞳からは()()()()()()()()()が漏れ出していた。

 

 

 

「総提督っ!!」

 

 

 

 そんな真志妻を見た長門がすかさず一喝し、手を振りかぶり、容赦無くその頬を思い切り叩いた。

 

 

 瞬間、部屋に平手打ちの鋭い音が響き渡った。

 

 

 長門の思わぬ凶行に、春雨(ハルサメ)達が悲鳴を上げる。

 

 

「あ…、う…。なが…と…」

 

 

 虚ろな瞳となった真志妻に、再度長門が平手打ちをした。

 

 

「落ち着いたか?」

 

 

 いくら艤装を身に着けていないとはいえ、()()()()()ならば一撃で頚椎に深刻なダメージを与えかねない戦艦艦娘からの平手打ち。

 

 

 だがここで春雨(ハルサメ)達はある異常に気が付く。

 

 

 平手打ちを受けたはずの真志妻は、首が折れて垂れ下がる訳でもなく、打たれた頬が腫れたりすることもなく()()()()()()()()()だ。

 

 

 そしてその当の真志妻は痛がる素振りも一切無いまま、虚ろだった瞳が元に戻ると、顔を徐々に青褪めさせた。

 

 

「…()()かい?」

 

 

 ()()()()()()()()を知る霧野(キリシマ)がそう漏らし、土方は執務室に常備してある水差しからコップへと水を注ぐと、真志妻へと差し出した。

 

 

 状況が掴めない春雨(ハルサメ)姉妹はおどおどとし、山風(ヤマカゼ)に至っては完全に怯えきってしまい、春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)の影に隠れてしまっていた。

 

 

「…ちょいとワケありなのさ」

 

 

 コップに注がれた水を呷る真志妻を横目に見ながら霧野(キリシマ)春雨(ハルサメ)達にそう告げた。

 

 

「すまん。事前に話をしていなかった俺の落ち度だ」

 

 

 そう言いながら申し訳無いと言った表情で土方が頭を下げ、春雨(ハルサメ)達にも水を差し出した。

 

 

 ここでしばし間が空く。

 

 

「ごめんなさい。取り乱してしまって…」

 

 

 落ち着きを取り戻した真志妻が、頭を下げた。

 

 心無しか、すこしばかりしょんぼりとしてしまっている。

 

 

 かつてのマリアナ諸島奪還作戦で起きたサイパン島での虐殺は、真志妻にとって大きなトラウマとなっていた。

 

 

 それでも彼女自身は、あの事件の真相を出来れば知りたかった。

 

 

 あれが()()()()()()()()()()()()()()()()だったのか、或いは()()()()()()()()()()()()()()()だったのか。

 

 

 本心から言えば、出来れば前者であってほしかった。

 

 

 だが現実は最悪だったと、謀らずも知ることとなり、そのショックから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「まったく難儀な体だねぇ」

 

 

 そう言って肩を竦める霧野(キリシマ)に、真志妻は乾いた笑みを返した。

 

 

「あの、真志妻大将…、貴女は、いったい…?」

 

 

 春雨(ハルサメ)が、意を決して問い質した。

 

 

 それに対して長門が少し辛そうな顔をしながら「後日改めて説明するから今は──」と言ったところで、真志妻が止めた。

 

 

「実際に見てもらったほうが早いわ…」

 

 

 そう言うと真志妻は静かに席を立ち、机から離れると周りに何も無い事を確認してから、春雨(ハルサメ)達のいる方向へと向いた。

 

 

 そして瞳を閉じ徐ろに息を吐いて脱力したかと思うと、急激にその体が縮みだした。

 

 

 それを見て声を出して驚く春雨(ハルサメ)達。

 

 

 だがそれを知る土方や霧野(キリシマ)と斉藤、長門に金剛姉妹は何も言わずに黙って成り行きを見守っていた。

 

 

 土方より一回り小さかったくらいの真志妻のその身長は、今や春雨(ハルサメ)達よりも更に小さくなり、それと同時に右腕は衝角と小さな砲郭を備えた艦首状のパーツに覆われ、()()()()()()()()()()()が形成された。

 

 そしてその背中に煙突と物見台が設置されたマストを背負った小柄な少女が現われた。

 

 

 

「私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()結果、()()()()()()()()()()()()()()生み出された────」

 

 

 

「私は、()()()()()()()

 

 

 

 

「その()()()()、です」

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
と言っても当のアメリカ、そしてEUの政策執行機関であるEU委員会は平然と他国の政治や選挙に対して、大なり小なりの干渉行為を公然と行なっている。特にEU委員会はEU加盟国に保守的政権が誕生することを病的なまでに嫌がり、先代の委員会委員長時代にパンデミックなどのEU内で発生した非常事態時をスムーズに解決することを名目に、意思決定と対応統一を理由とした権限の拡大以降、欧州中央銀行と結託し、保守政党が政権与党として選出された国に対して欧州中央銀行からの資金融資を即時凍結を警告するという、あからさまな恫喝による内政干渉を行なっていた。パンデミックと第三次大戦でのロシア東欧戦争への介入の影響による深刻な経済不況に喘ぐEU加盟国には、欧州中央銀行からの融資凍結は経済の壊滅に直結するため、この恫喝に従わざるを得なかった。なお、凍結理由として「外国勢力からの選挙介入、工作があった疑いがあり、民主主義が破壊された可能性があるため」とのこと。しかし介入工作があった事を裏付ける証拠とされる物はどれもこれもが抽象的で曖昧なものばかりであり、具体的な証拠の類いは一切提示されていない。

*2
元々は徳島を母港とする民間フェリーを海軍が買い取り改装した特設船。姉妹船『しまんと』『どうご』『びざん』も同様に買い取り改装が施されて運用されている。

*3
春雨(ハルサメ)型の表向きの扱い。

*4
実際涙を流して悔しがったと言われている。

*5
陸軍サイドからの協力もあったとされる。

*6
既に艦娘運用に念頭に置いた新鋭艦が就役しているのだが、上層部の決定で来るべき再反攻作戦の為にと温存されており、前線には1隻も回されていない。これに真志妻大将は反発し、後のためにと言うのならば、習熟訓練も兼ねて外洋防衛艦隊に配備して運用すべしと具申を上げ、工作も行なっているが、こちらは上手くいっていない。そもそも昨今の影響で工業技術、建造能力が低下したことによる欠陥を抱えた失敗作、公共事業として発注しただけのハコモノという噂もある。

*7
増援として現われたハイゼラード級航宙戦艦

*8
それでも乗組員の殆どが戦死し、自身も重傷を負ったが。





 真志妻亜麻美大将は元人間の、人工的に作られた艦娘でした。真志妻を平仮名にして逆から読むと?

 ただし、人為的という影響から様々な弊害が出ています。

 詳しくはまた次回。ただ少しだけ明かすなら、この人造艦娘の背景にはパンデミック時に発生したとある問題も絡んだ大量の血の上に出来た胸糞悪い話になります。


 本当ならばアンドロメダと邂逅した時にと思いましたが、話の流れ上前倒し致しました。



 ハッカー山風(ヤマカゼ)
 
 ヤマカゼは過去の経緯から少し(?)箍が外れています。

 何故国防総省にアクセスしていたかは次回。

 ある意味ハルサメの妹の中で一番最狂はこの娘かも…。

 本人はアンドロメダ自身がアクセス──クラッキング──を行なっていたものだと思っている為、アンドロメダとのハッカーとしての技量差に少しだけ憧憬の念を抱いた。



補足と解説


 現実でEU委員会の委員長、似たようなことをハンガリーとイタリアに対してやっててマジで引くわ…。西側権利者の左傾化やば過ぎ。西と東の違いが分からん…。権力者って社会主義LOVEなんやなぁ。


 アメリカでは公文書の非公開期間は最長75年とされています。…これ例のP社がCDC(Centers for Disease Control and Prevention、アメリカ疾病予防管理センター)だったかFDA(Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品局)に提出した、今EU議会での証言で物議をかもしている例の“ワ”に関する資料の情報公開請求で「絶対に見せたくないぞー!」と駄々こねて裁判沙汰になった時に提示した年数とも符号すんだよなぁ…。結局裁判所から「つべこべ言わんとさっさと出さんかいワレ!」(超意訳)と言われて渋々小出し小出しで出してるけど、どんだけ見せたくないんだよ…。

 まぁそれは兎も角として、極左新聞代表格のワシントン・ポストですら今の政権は三権分立が機能していないと庇いきれなくなって匙を投げて批判記事書き出した…。
 ジジイが選挙対策の目玉政策としてぶち上げた学生ローンの徳政令出したときの予算執行で、憲法に規定されている議会の優越を完全無視して大統領令で無理やり通した事に対してかなり強い文言で批判してた。まぁそれ以前にジジイがその政策の内容すらマトモに記憶出来てないことにも驚いたが…。
 もしこの状態が是正されなかったら、今以上に憲法が形骸化して好き勝手な法案がバンバン通過して今回出した大統領特別秘密令無期限非公開指定みたいなのが出てきても可怪しくないと思い出しました。というかその兆候が既に出ているという状況ですが…。(リアルワ○ルかよ…?)

 

『りつりん』『しまんと』『どうご』『びざん』

 筆者が勤め先の都合で九州に飛ばされたときにお世話になったフェリー。
 徳島が母港という事で港湾整備も含めて使えるかもと判断。
 状況的にフェリーを運用する会社も維持管理に苦労してそうだし、廃棄するにもその為の解体予算が捻出出来そうに無いだろうから、軍のお買い上げに飛び付いてそう…。

 2隻態勢で四国沖、太平洋側の近畿地方沖を巡回している。

 艦娘の出撃は旧車両甲板部からウィンチを使用して昇降しております。緊急時は甲板からヘリを出したりしますが、露天係止のため潮風による塩害という問題から使い勝手はイマイチだったりします。


真志妻大将の山吹色のお菓子!

 ワイロの定番!

 真志妻大将の個人資産はどえらいモンです。

 なお、出処は人造艦娘の問題と密接に関わっています。「あの○○(ピー!)共を○○(ピー!)しにした時、慰謝料として有り金全部強だ…、有り難く頂いたわ。お陰でみんなにひもじい思いや嫌な思いをさせなくて済みそうだから、そこだけは感謝してる」


第一次火星沖海戦での金剛型

 この時点までの外惑星防衛戦で『コンゴウ』『ハルナ』『キリシマ』以外の5隻が戦没。第一次火星沖海戦で『コンゴウ』と『ハルナ』が戦没し、『キリシマ』だけが残された。
 この時『コンゴウ』が『キリシマ』の目の前で戦没し、時間を稼ぐ為に反転逆撃に出た『ハルナ』が敵艦に体当たりを敢行して爆散。キリシマにとっては最も辛い記憶の一つとなった。


愚痴コーナー!(ただし愚痴を言うとはいっていない)

 もうすぐ中間選挙だ!頼む共和党!ジジイと極左化著しい民主党の暴走に歯止めを掛けてくれ!!

 ブラジルがどえらい事になっているみたい。というか現職大統領の対抗馬、あまりにも酷過ぎて以前にブラジル国民が盛大にNO!!を突き付けたヤツだし、あれどう考えても当選するには無理がある…。そりゃ民衆ブチ切れて当然だし警官隊が合流するのにも頷ける。なんか国軍も合流するかも?という話もあるみたいだが…。

 中間選挙の結果如何によったら、アメリカでも同じ事態になるか?今も民主党サイドの不正というか疑惑が出て来てるし…。国勢調査の疑惑…。連邦最高裁判決の無視…。憲法、州法の意図的違反…。

 民主党よ、不正に力入れるよりも先にやることあるだろう…。

 というか裁判所からわざわざ「決まりをちゃんと守らんかいゴラァ!」(意訳)って判決出されなきゃならないって、法治国家として情け無いにも程があるだろう…。信じられるか?これが民主主義を世界に押し売り…ゴホン。世界に推進してきた超大国の実態なんだぜ…。




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第29話 Japanese Navy Komatsushima Naval Base-5



 神の真似事をしようとした愚かなニンゲン共と、その狂気の犠牲となり、全てを狂わされた哀れな者達。

 若干の残酷な描写があります。てかやりすぎたかも…。


 それと衝撃的な事実が色々と発覚します。


 

 

 艦娘と呼ばれ出した存在達が人類に協力して、当時劣勢だった戦況をどうにか食い止めることが出来た。

 

 

 時を同じくして、鎮守府などの艦娘を顕現することの出来る方法が確立されたことにより、戦力の増強に乗り出した。

 

 しかし、何が顕現するかは完全に運任せであった。

 

 

 戦艦や空母といった主力艦の顕現を狙っても、実際に顕現したのは駆逐艦だったという事はざらにあった。

 

 

 これに人類は少なからず焦りを覚えた。

 

 

 今でこそ何とか押し返せてはいるが、深海棲艦との物量差は如何ともし難く、大軍をもって押し寄せて来られると、押し潰されるのは目に見えていた。

 

 

 事実、深海棲艦の前線に兵力の集中が確認された事で、人類側の焦りはより顕著なものになる。

 

 

 なんとかして纏まった戦力を整えなければならない。

 

 

 その焦りが人類をある狂気へと突き動かした。

 

 

 戦死した艦娘の遺体や回収した深海棲艦の死体を徹底的に解剖、分析することで、人類の肉体へと応用出来る技術を確立する。

 

 

 人工的な艦娘、所謂人造艦娘の開発製造に乗り出した。

 

 

 

 だがそれは早々に暗礁に乗り上げることとなる。

 

 

 

 あまりにも凄惨な人体実験の実態が世間に暴露された事で、政治スキャンダルへと発展。

 

 

 紆余曲折を経て研究施設は閉鎖され、今まで以上の資源を投入することで兎も角戦力を増やす方針へとシフトした────表向きは────。

 

 

 極東の島国、日本では密かに研究が続けられていた。

 

 

 パンデミック以前より、外資によって国土が買い漁られ、事実上の治外法権地帯が幾つもあった。

 

 そのうちの一つ、外資系製薬会社が日本国内に作り上げた生産研究施設は完成当初より黒い噂が絶えなかった。

 

 

 そもそもその製薬会社は海外での薬害問題で大量の死亡者や障害者を出したことで、海外においての信用が失墜し、起死回生を狙っていたという噂があった。

 

 

 人体実験に必要な素材は、それなりに豊富だった。

 

 

 パンデミックや薬害によって多数の人間が死亡し、それに伴い多数の孤児も発生した。

 

 

 表向きは自分達が引き起こした薬害事件へのけじめとして、孤児を引き取る慈善事業という事になっていたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そしてその子供達は、施設に送られた時点で()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が人間だった時の記憶は、もう殆ど憶えていない。

 

 

 少なくとも私も孤児であったことは確か。

 

 

 ()()()()には私と同じ様な子供達がたくさんいた。

 

 

 だけど私ともう一人、マニジューリヤ姉さん以外、その殆どみんなが死んでいった。

 

 

 私とマニ姉さんは数少ない成功例らしかった。

 

 

 そしてあの日、私とマニ姉さんは施設を焼き払った。

 

 

 それは突然だった。

 

 

 

「お前達はもう必要無いからいらない」

 

 

 

 ……は?

 

 

 

 突然銃を突き付けられながら、まるでゴミを見るかのような目付きで私達を見遣りながら、そう告げられた。

 

 

 理由は単純にこのプロジェクトがあまりにも金食い虫過ぎて見限られたのと、いくら治外法権地帯とはいえ、流石にもうお目溢し出来る限度を超えていたらしかったのだが、当時の私には知る由もなく、また知っていたとしてもそんなこと、関係無かった───。

 

 

 散々ヒトの体を下卑た目で見ながら好き勝手にいじくりまわしておきなら、必要が無くなったからもういらない?

 

 

 

 巫山戯るな…。

 

 

 巫山戯るな…!

 

 

 巫山戯るな!

 

 

 ふざけルな!!

 

 

 フザけるナ!!

 

 

 返せ!ワタシノ体を!!

 

 

 かえせ!

 

 

 カえセ!!

 

 

 カエセ!!

 

 

 カラダヲ!

 

 

 ミンナヲ!!

 

 

 カエセーーッ!!

 

 

 

 実験に継ぐ実験、時には得体の知れない薬物を投与され、更には元が何だったのかが分からない“物体”を移植された事で、私とマニ姉さんの体はボロボロだった。

 

 

 だけど他のみんなは────。

 

 

 私達はまだ命があっただけでも幸運だったのかもしれない。

 

 

 だけどそんなことはなんの慰めにもならない。

 

 

 私は心の底から今までに感じたことのない怒りが溢れ、荒振る激情の赴くままに、咆えた。

 

 が、直後に幾つも鳴り響いた銃声によって掻き消され、そのまま床に倒れ伏せた。

 

 

 自身の体から流れ出る()()()を眺めながら、ああ、死ぬんだ…。とどこか他人事の様に思いながらも、私の中で何かが切れた様な音を感じた。

 

 

 

 

 気付いたら、私は燃え盛る炎の中を逃げ惑うニンゲンを目に付く片っ端から肉片へと変えていっていた。

 

 

 体に撃ち込まれていたはずの無数の銃弾は、何故か綺麗さっぱり消えていた。

 

 

 マニ姉さんが施設のシステムを掌握したことによって、ニンゲン達は逃げ場を完全に失っていた。

 

 ワタシはそれを一人残さず見つけては丹念に、丁寧に殺して回った。

 

 

 ワタシは暴力に酔い痴れていた。

 

 

 その時のワタシは、どんな顔だったのだろうか…?

 

 

 耳に残る悲鳴が、心地良かった。

 

 

 命乞いの声がとても滑稽だったし、それを無視して砲身で肉体の原型を留めないくらいにまで徹底的に殴り続けて嬲り殺すのが楽しかった。

 

 

 粗末なバリケード越しに雑多な小火器で健気に抵抗してくるのを鼻で笑いながら、32サンチカネー砲でバリケードごと吹き飛ばし、まだ息があって逃げようとする者達は一人一人、嗤いながらその頭を丹念に速射砲で吹き飛ばし、即死せずにただ動けなくなって横たわる者には砲ではなく、鋭利な形状の艦底部を模した脚部艤装で頭を踏み砕いてあげた。

 

 

 罵る声に不快な気分にさせられ、その喧しい口に鋭利な衝角を叩き込んだり、脚部艤装の蹴りで黙らせ、脳漿をぶち撒けた時の手や脚に伝わる感触に快感すら覚えた。

 

 

 気持ち良かった。

 

 

 今まで命を弄ばれていたのが、今やワタシが、ワタシ達が弄ぶ側…。

 

 そう思うと自然と笑みが零れた。

 

 

 本当に楽しくて気持ち良かった。

 

 

 飛び散る血飛沫、撒き散らされる臓物、それらを照らす燃え盛る炎、悲鳴、怒声、それら全てがワタシに言い知れぬ気持ち良さと快感を与えてくれた。

 

 

 もっと。

 

 

 もっと!

 

 

 もッと!

 

 

 モッと!!

 

 

 モット!!

 

 

 モット気持ち良くナリたい!!

 

 

 モットワタシを気持ち良くシテ!!

 

 

 

 

 

 …あの時の私は完全に狂っていたと、断言出来ます。

 

 

 歪んだ快感に身を震わせ、どす黒い感情の赴くままに力を振るった。

 

 

 だけど、それと同時に悲しかった。

 

 

 施設のあちこちで、既に手を下された子供達の亡骸が、横たわっていた。

 

 

 悲しかった。許せなかった。

 

 

 なんの権利があって、コイツらは平気で何の罪もない命を奪おうとする?

 

 奪うということは、奪われる覚悟くらいは出来ているのだろう?

 

 

 例の金塊も、最後に一番丁寧に擦り潰した所長から奪い取った、会社そのものと所長自身のプライベートバンクのあるスイス銀行の口座の存在とその口座番号を知り得た事によって、得る事が出来た。

 

 所長のヤツ(こいつ)、パンデミック時の荒稼ぎの時から相当な金額を不正にちょろまかしていた様だった。

 

 

 

 そしてこのタイミングで漸く軍がやって来た。

 

 

 驚いたことに、やって来たのは陸軍ではなく海軍、しかも艦娘達の部隊だった。

 

 

 後になって分かった事だが、施設から軍に通報があったらしい。「深海棲艦の襲撃を受けた」と。

 

 実際、施設の立地は海とも近かったため、有り得ない話では無かった。

 

 

 その後ワタシは取り押さえられた。

 

 

 相手は第二次大戦期の艦艇、対してこちらは日清戦争期の、しかも問題だらけの小型巡洋艦である以上、初めから喧嘩にすらならなかった。

 

 

 初め彼女達は困惑していた。

 

 

 深海棲艦が出現したとの通報により駆け付けてみたら、相手はどう見ても自分達と同じ艦娘の姿形をしていた。

 

 しかも今までに確認されていなかった個体である。

 

 

 ここでマニ姉さんが機転を利かせ、ワタシが暴れ回っているスキに可能な限り掻き集めた、この施設で何が行なわれていたのかを示す資料を見せた。

 

 

 その資料を見た艦娘部隊の現場指揮を任せられていた、今は私の艦隊でその辣腕を振るってくれている長門と陸奥は、そのあまりにも信じ難い内容に終始狼狽し、自分達では判断しかねると、上官であり、後に私にとっても大恩ある恩師()()()橘茂樹大佐に判断が委ねられた。

 

 

 

 その後紆余曲折を経て、私もマニ姉さんも軍で保護されることとなった。

 

 

 

 

 

「とまあ、大分端折ったりはしたけど、これが私の体の秘密よ」

 

「流石に人造艦娘の存在は世間体的に問題があり過ぎるからと、早速ワイロを駆使して戸籍の偽装を行なって、今の真志妻亜麻美という名前を貰ったわ」

 

「しかしまあ、リアルで10万$PON!とをやることになるとは思わなかったわ」

 

 

 くれた、じゃなくてくれてやった方だけどね。

 

 クツクツと笑いながらそう語る松島。

 

 

「ああ、出来れば今まで通り真志妻で呼んで下さいね」

 

「公式には松島なる艦娘は存在しない事になってるから」

 

 

 それに亜麻美という名前は橘大佐の今は亡き奥様との間に出来た、早逝したご令嬢の名前だというのだ。

 

 そしてその橘大佐も、()()()()()()既に鬼籍入りしていた。

 

 

 恩師との思い出や恩義を忘れないためにも、彼から頂いたこの名前をこれからもずっと大切にしていきたかった。

 

 

 

「真志妻大将は、その、何故そのまま軍に?」

 

 

 やや遠慮勝ちに述べられた、海風(ウミカゼ)からの質問に、真志妻は少しだけ考える素振りをしてから答えた。

 

 

「こんなご時世じゃ、他に行く宛も無かったし、こんな体だからね。知らぬ間にガタが来て倒れる。なんてことも有り得なくも無かった。それに───」

 

 

 チラリと長門を見遣る。

 

 

「私達を信じて匿うことを決めてくれました橘大佐に賛同し、何かと面倒を見てくれました彼女達に恩返しがしたかったから、かな」

 

 

 朗らかな笑顔、そして何処か照れくさそうにそう語る真志妻の言葉に、嘘偽りは無さそうだった。

 

 

 事実、彼女の艦娘を愛するようになった最大の切っ掛けは、この頃の事の出来事、経験が非常に大きい。

 

 

 だからこそ、彼女達の為ならはどんな労も惜しまないし、彼女達からの期待には最大限答えるのが当たり前であるという考えとなった。

 

 

「私は艦娘への人類による邪な欲望に対する防壁でありたいし、最期までそうあり続けたい」

 

「主従関係なんて以ての外」

 

「私は彼女達に寄り添える存在でいたい」

 

「それはアンドロメダさんも同じ」

 

 

 ここで真志妻は真剣な眼差しとなり、部屋に居る全員を見渡した。

 

 

「どんな理由であれ、どんな事情があったとはいえ、アンドロメダさんが私達を頼ってここに来るのであれば、私は彼女の為に可能な限り、最大限の便宜を図ります」

 

 

 無論、初めから敵意剥き出しでしたら、どうしようもありませんが。と肩を竦めながら付け加えて締め括った。

 

 

 その真志妻の言葉を聞いて、霧野(キリシマ)は少し悪戯心に火が点いた。

 

 いや、悪戯心というよりも、()()()を語るならば今しかないという確信めいた気持ちがあった。

 

 

 

「確証がある話じゃあ無いんだけどね、多分あの娘、深海棲艦のムスメっ子と独自に友好関係を築いたんじゃないかと私は見ているよ」

 

 

 その言葉に部屋の空気が騒然となる。

 

 

「それも多分、姫級ってクラスのムスメっ子とだね。それならばあの偽装爆破にも説明が付く」

 

 

「もし私が彼女達、深海棲艦の立場なら、敵対よりもアンドロメダとの融和の道を模索するね」

 

「戦えば物量差から何とか押し切れるかもしれないけど、それまでに甚大な被害が発生する可能性が、先の戦闘で証明された」

 

「あの娘もあの娘で補給などの後方支援のアテが無い。下手にドンパチを繰り返したら、直ぐにすっからかんになっちまう」

 

 

「双方これ以上の戦闘は得策ではないという、ある種の奇妙な利害関係の一致を見たんだろうね」

 

 

 ここで一息付けるべく、コップに注がれた水に口を付けた。

 

 流石に沖田さんから聞いた深海棲艦の姫級のムスメっ子を好きになっているかもしれないという話は、今の所は伏せた。

 

 

 チラリと真志妻を見遣る。

 

 

 彼女は腕を組み、目を瞑って考えに浸っていた。

 

 

 そして徐ろに口を開いた。

 

 

「…山風(ヤマカゼ)さん。少しお聞きしたいのですが、貴女が米軍への不正アクセス行為に及んだのは、もしかして将来的に対米関係が悪化した時を見越してのものですか?」

 

 

 真志妻からの質問に、山風(ヤマカゼ)はやや俯向きながらも、コクリと頷いて返し、「…あの国が、()()()()()()()()()から」と付け足した。

 

 だがその“トリガー”という言葉の意味する所が何なのかが分からず、みんなして首を傾げた。

 

 

 そして、この日最大規模の破壊力を持った爆弾が、山風(ヤマカゼ)の口から齎された。

 

 

「…この戦争劈頭に起きたオセアニアへの核ミサイル攻撃、やったのは()()()()()()()()

 

 

 まさかの情報に、部屋の中が一瞬にして凍り付いたかのような錯覚に、室内に居た全員が囚われた。

 

 

「そんな馬鹿な!?発射地点が中華連邦領内であることは特定されているんだぞ!?」

 

 

 長門が噛み付くようにして反論するが、山風(ヤマカゼ)は動じなかった。

 

 そして自身がかつて聞いた()()()()()()()()()との類似点を見付け出した土方が、苦虫を噛み潰したような声で告げた。

 

 

「…アメリカサイバー軍か?」

 

 

 その土方からの問に、山風(ヤマカゼ)は「…うん」と答えた。

 

 

 かつての内惑星戦争にて、国連宇宙軍内部である噂が流れていた。

 

 

「火星軍による隕石落としは地球軍内部の主戦派による自作自演の可能性がある」

 

 

「特に主戦派の筆頭であるアメリカが、相次ぐ地球艦隊の敗北によって蔓延しつつある厭戦気分を払拭するために、火星にある資源搬出用のマスドライバーの制御システムにサイバー攻撃を仕掛けて乗っ取り、地球へと隕石を射出させた」

 

 

「奇しくも火星軍でも隕石落としの計画があり、また自分達の重要設備であるマスドライバーが乗っ取らていた事を公表すれば、全体の士気に大きな悪影響を与えかねないから、元より計画された攻撃であると発表した」

 

 

「本来の計画ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 というものである。

 

 

 

 最終的にそれらは全て単なる噂でしかないという結論が出されたが、自作自演がお家芸とさえ言える今までのアメリカの所業の数々から、未だに激論の的となっている。

 

 

 そして山風(ヤマカゼ)が齎した情報も、ある意味そういった(たぐ)いのものだった。

 

 

 要約すると、アメリカはもとより艦隊を囮と餌にしてオセアニアへの核攻撃を計画していた。

 

 

 しかし直接手を下すと後から面倒な問題が起きるし、尚且つ新ロシア連邦(NRF)に対する核抑止力の観点から、自軍の核戦力は使いたくは無かった。

 

 

 

 

 近年新ロシア連邦(NRF)と中華連邦の両国は次第に意見の対立が目立ってきており、また両国共に国の再編という一大プロジェクトの真っ最中のため、国内は少なからず混乱していたが、侮り難い大国であることに変わりはなかった。

 

 

 これを機にどちらかを先に潰してしまおうとアメリカは、厳密にはホワイトハウスに居座る超後期高齢者を始めとした者達は考えた。

 

 

 そこで目を付けたのが、かつて第2砲兵と呼ばれていた中国人民解放軍ロケット軍*1である。

 

 

 中華連邦に核攻撃の責任を擦り付け、返す刀で沿岸部主要都市を破壊する。

 

 そうすれば中華連邦は容易に崩壊するし、沿岸部のみが標的であるため、必要な戦力も戦略ミサイル原潜が1隻あれば十分と判断された。

 

 

 

 運命の日、アメリカサイバー軍によるサイバー攻撃で、全土に配備されているミサイルの操作システムが乗っ取られ、核ミサイルが発射された。

 

 

 そして一切の釈明の機会を与える暇なく、報復という名目で中華連邦の主要都市に向けて戦略ミサイル原潜から核ミサイルが発射された。

 

 

 

 これが山風(ヤマカゼ)が掴んだオセアニアへの核攻撃の真実だった。

 

 

 更に付け加えるなら、その時動員されたアメリカ艦隊の人事と陣容にはある注目すべき点がある事も分かった。

 

 艦隊の首脳陣だけでなく、乗組員のほぼ全員が保守党支持者であり、投入された艦艇は退役間際の古い(ふね)ばかりだったというのだ。

 

 

 つまりアメリカは海軍の中にいる、現政権を支持しない者達の抹殺まで狙っていた。

 

 

 これらを調べた結果、山風(ヤマカゼ)はアメリカの事を信用に値しない、深海棲艦以上に警戒すべき勢力と見做していた。

 

 

 だからこそ、将来の事態に備えてアメリカの軍事力の中で最も警戒すべきと判断した機能別統合軍の一つ、核兵器戦力の統合運用を司るアメリカ戦略軍を万が一の時は無力化出来るように工作の下拵えをしていた。*2

 

 

 それが山風(ヤマカゼ)がアメリカ国防総省への不正アクセスを行なっていた理由だった。

 

 

 

*1
2015年12月31日に名称変更。

*2
“アメリカ戦略軍”以外の機能別統合軍は先に述べた“アメリカサイバー軍”。陸海空海兵隊の特殊作戦部隊を統合指揮する“アメリカ特殊作戦軍”。平時、戦時を問わず、全世界におけるアメリカ軍の兵站、輸送に関する作戦指揮を統括的に担当する“アメリカ輸送軍”と、合計4つが存在する。





 相変わらずヒデェ話しか書いてねぇなぁ…。


 取り合えず、この世界では人間がベースの艦娘の製造計画は結果的に失敗と判断され、挫折致しました。…成功していたらより救い様の無い世界になっていた。


 こんなろくでもない世界であっても、それに抗う人間が全く居ないわけではありません。
 ですが、そういった人間達は総じて短命に終わっています。


 内惑星戦争での噂話は本作オリジナルです。


補足

橘茂樹(たちばなしげき) 故人

 元横須賀鎮守府所属艦隊の海軍大佐。

 この世界では数少ないマトモな思考が出来る人間の軍人。

 あの事件以降、松島とマニジューリヤを養子として引き取った。その為この時は真志妻姓ではなく橘亜麻美だった。
 軍内でそれなりに名の知れた人物であったがため、親の七光りだと言われたくなかった為に、軍に入隊する際に真志妻姓へと変更した。

 その後事故に巻き込まれて死亡。


 なお、真志妻の所に居る長門と陸奥は元々橘大佐の部下だった。
  


マニジューリヤ(Маньчжурия)

 元は日本人の父親とロシア人の母親との間に生まれたハーフ。

 第二次日露戦役敗北の結果に逆上し、怒り狂った一部の日本人によるロシア人狩りに巻き込まれて母親は惨殺され、父親は日本の裏切り者、ロシアのスパイとの謂れの無い罪を被せられて嬲り殺しにされ、残された彼女はロシア人との子供という事がネックとなり、受け入れ先が決まらずにあちこちを盥回しされた結果、例の施設に入れられた。

 松島よりも歳上であった為、彼女からマニ姉さんと呼ばれて懐かれていた。

 元々技術系の両親の元で育っていたからか、趣味がハッキングだった。

 今は真志妻の居る呉鎮守府の工廠に別の艦名を名乗り、技術職として務めている。

 過去の経緯から真志妻以上に人間を毛嫌いしている。




 愚痴コーナーである!!

 例の流行り病に罹患しました。感覚的には重い風邪って感じですな。

 安静を保つため、血圧を上げないために情報収集を控えていましたが、それでも例の選挙は気になり、軽く覗く程度に留めましたが、頭に血が上りすぎて既に闘病で寝込んでいるにも関わらず、危うく倒れそうになった。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第30話 Japanese Navy Komatsushima Naval Base-6

 山風(ヤマカゼ)の独断専行という名の暴走。しかしそのお陰(?)で真志妻にはある展望が見え出していた。



 漸く復活!とはいえ隔離期間中殆ど寝てばかりでしたから、体力の低下がヒデェことになってた!


 

 

「キリシマさん、アンドロメダさんと深海棲艦が友好関係を結んだとする、より具体的な根拠はありますか?」

 

 

「そうさね…」

 

 

 真志妻からの問い掛けに、再び机に並べられた資料を弄るキリシマ。

 

 

「…偽装爆破で吹っ飛ばされたこの残骸、これらは誰が用意したと思う?」

 

 

 探し出した一枚の写真を引っ張り出し、全員に見せる。

 

 

 砲爆撃によって原型が分からなくなるまでバラバラの木っ端微塵になった残骸。

 

 

 アンドロメダが事前に持ち合わせていたシロモノなのではないか?という推論は流石に無理がある。

 

 アンドロメダは輸送艦ではない。純然たる戦艦である。

 

 一番の可能性は島にあったスクラップなどの廃材だろう。

 

 

「深海棲艦の協力が無けりゃ無理な話さね。それはつまり深海棲艦にとってあの娘は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からにほかならないと、私は見ているよ」

 

 

 キリシマからの答えを聞いて、真志妻は頷くと瞳を閉じて暫し黙考する。

 

 

 

「…アンドロメダさんを介して和平、いえ、休戦交渉に持ち込む事が出来無いかしら?」

 

 

 静かに紡がれたその言葉、それに一番反応したのが長門だった。

 

 

 

「私は本気よ長門。貴女だって薄々とは気付いていたでしょう?前線は、もって()()()()()()だって」

 

 

 真剣な眼差しで語る真志妻に、長門は思わず顔を逸らす。

 

 真志妻と共に海軍艦娘部隊の指揮系統を司る呉鎮守府に居る以上は、他の部隊よりも多くの情報を目にする。

 

 

「私だって出来る限りの事はしてきたわ。でもね、もう流石に限界なの。これ以上沖縄は維持出来ないわ」

 

 

 現在の日本の最前線は、フィリピン方面を制圧し、旧フィリピン領海周辺で展開している敵艦隊に対して睨みを利かせていた沖縄戦線であるが、その補給線の維持が段々と困難になってきていた。

 

 投入してくる戦力も然ることながら、その戦い方も次第に巧妙化してきており、かなりの苦戦を強いられている。

 

 何よりも頭が痛いのが、最近補給線の襲撃に姫級らしき存在が──それも複数──頻繁に確認されているのだ。

 

 

 真志妻の考えとしては、負担が大きく、それに対してメリットが薄い沖縄戦線を放棄して戦線の再整理を行ないたかった。

 

 

 だが政府は「折角奪い返した土地である。それを維持することにこそメリットがある」として、真志妻の上申を却下していた。

 

 

 

 沖縄は一度深海棲艦によって制圧され、後に多大な犠牲を払った激戦の末、奪還に成功した。

 

 しかしAL/MI作戦の失敗以降、再び深海棲艦達が襲来してきていた。

 

 

 政府には一度奪われ、そして奪還した土地を再び放棄するという決断が下せる者は居なかった。

 

 

 だが現実問題として、このままだといずれ圧し潰されるのは目に見えていた。

 

 

 増援を送ったとしても、ただでさえ厳しい補給事情が更に厳しくなるだけだし、最近の深海棲艦の傾向を分析した所、どうも深海棲艦は直接攻撃を極力控え、兵站を圧迫しての兵糧攻めを企図しているのではないか?という報告書が上げられてきており、増援は逆に相手の思う壺になりかねないという危惧があった。

 

 …政府は相変わらずこの手の報告には見向きもしないが。

 

 

 しかしこのままだと、沖縄戦線は際限のない消耗戦を強いられた挙げ句、その戦力が丸々消滅しかねない瀬戸際まで来ていた。

 

 

 完全に八方塞がりだった。

 

 

 

「責任ある立場に居る者が決断をどんどん先延ばしにし、自分以外の誰かがどうにかしてくれることを期待し、取り敢えず事態の進展を見守る」

 

 

 極力美化して言えば“現状維持”と言えなくもない。だが───。

 

 

「そう言って現場を無視したやり方を続けた結果、誰も何も決めることが出来ない、しようともしない“ことなかれ”が蔓延る事になった」

 

「結果、より最悪の事態を招いてしまう」

 

 

 現実は維持すらマトモに出来ていない有様だった。

 

 呆れ果てるが、これが日本の(まつりごと)を司る中枢の嘘偽らざる“現実”だった。

 

 

「馬鹿な話です。パンデミックからこのかた、一億人の自国民を自分達の無為無策でぶっ殺しておきながら、誰一人責任を取ろうとしないし、何も学んでいない」

 

 

 途中から腹が立ってきたのか、政府に対しての不平不満をぶちまけているだけとなっていたが、誰も咎め無い。

 

 

 色々と好き勝手やっている真志妻ではあるが、それでも立ち場的にどうにもならない、どうすることも出来無い事柄はそれなりに多いし、そういう物に限ってかなりストレスの溜まりやすい物だったりする。

 

 

 たまにこうして溜まりに溜まったストレスを発散させなければ、いつか爆発することになりかねないし、その爆発の仕方が下手すると洒落にならなかった。

 

 怒った挙げ句、ついうっかり物理的に政府を爆破解体しかねない。

 

 

 それになんだかんだ言って、ここにいる全員が政府に何らかの不平不満を抱いていた。

 

 

 

 

「政府が仕事しないなら、私達の出来る範囲で出来ることをやるしかありません」

 

 

 

 

 土方は腕を組んで考え込んでいた。

 

 

 真志妻の言いたいことはよく分かるし、戦争そのものがジリ貧になっているという事を、土方は長年の経験と勘、そして空気から敏感に感じ取っていた。

 

 

 だが正直な所、打開策と呼べるものが無かった。

 

 

 普通の戦争ならば外交ルートを駆使して話し合いに持ち込むべき段階だが、今の今までに相手に、深海棲艦に対してそういった接触を行なったという試しがなかった。

 

 

 しかし成る程、アンドロメダが既に深海棲艦との接触を果たし、もしかしたら友好関係を結べているかもしれないという期待が持てるというのなら、そこからもしかしたら?と考えるのは(あなが)ち間違いではない。

 

 問題は────。

 

 

「なぁ、もしかしたらアンドロメダのヤツ、そのまま深海棲艦の所に居候しようと決心してこっちに来ないんじゃないのか?」

 

 

 斉藤がやや不安そうな声音で呟いた。

 

 

 そう、当のアンドロメダは未だに深海棲艦の勢力圏内にいる。そしてその後どうするかはアンドロメダの選択次第なのである。

 

 

「斉藤隊長!」

 

 

 海風(ウミカゼ)が噛み付くが、このことはみんなが薄々と心配している事であった。

 

 

 アンドロメダは誠意には誠意で応え、恩義を決して忘れないという礼節を弁えた律儀な性格をしている。

 

 先の山風(ヤマカゼ)が語った「人類を完全に疑っている」という言葉が正しかった場合、そしてもし深海棲艦がアンドロメダに対して誠意を持った対応をしていたとしたら、人類よりも深海棲艦の方が居心地がいいとして、そのまま深海棲艦の勢力圏に居着くという可能性が否定出来なかった。

 

 

 

「一度誰かがアンドロメダと接触しなけりゃならんね」

 

 

 霧野(キリシマ)が口元を僅かに吊り上げながら、そう語る。

 

 だがそれはすなわち誰かが敵の勢力圏内に踏み込まなければならないことを意味する。

 

 

「私が行くよ」

 

 

 さも当然とばかりに、不敵な笑みを浮かべながら、言い出した者の責任と言わんばかりに自ら立候補を表明する霧野(キリシマ)に、春雨(ハルサメ)が待ったを掛けた。

 

 

「もし先生に何かありましたら、アンドロメダさんに会わせる顔がありません!ここは私にお任せください!」

 

 

春雨(ハルサメ)姉さんが行かれるのなら、私も行きます!それにアンドロメダさんとは姉さんを紹介するという約束があります!」

 

 

 春雨(ハルサメ)だけでなく、海風(ウミカゼ)も止めに入る。

 

 

 キリシマも未来の戦闘艦としての能力を有した艦娘とはいえ、万が一の事態が発生したら、敵地で孤立し多勢に無勢の末に、どうなるかわからない。

 

 

 であれば、最新世代艦である自分達の方がまだ可能性があると判断したのだ。

 

 

 それに対し霧野(キリシマ)は苦笑しながら「ドンパチが目的じゃないんだよ?」と言い、ちらりと山風(ヤマカゼ)に視線を向けた。

 

 

 もしもの事態が起きた時、山風(ヤマカゼ)が怒り狂って暴走でもしたらどうするんだい?と暗に告げたのだ。

 

 その点、自分はまだ身軽だ。

 

 

 

「…やむを得ない、か」

 

 

 

 ここで土方は沈黙を破り、言葉を発した。

 

 

 

 動かなければ、状況は進展しない。ならば動くしかない。

 

 とはいえ今回は不確定要素が多過ぎて、正解と言えるものが掴みづらいというのも実情である。

 

 

 

 だが他にマトモな代案が無かった。

 

 

 

 こうして霧野(キリシマ)の派遣が決定することとなった。

 

 

 細部はこの後更に煮詰めて行くとして、現地での行動における大幅な自由裁量権を真志妻は霧野(キリシマ)に対して認めた。

 

 また非公式ではあるが、海軍大将真志妻亜麻美の代理人であることを示す書面を、後ほど用意することが決まった。

 

 

 

 

「ご無理をお掛けいたしますが、お願い致します」

 

 

 真志妻は霧野(キリシマ)に頭を下げながら語る。

 

 

「私としましても、アンドロメダさんとは直に話をしてみたい思いがあります」

 

 

 彼女が何を考え、何を成そうとするのかを見極めたいという考えと、深海棲艦を直に見た、話した、触れ合った者に対する興味、所謂好奇心から直接面と向き合って話をしてみたいという思いがあった。

 

 

 とはいえそれを横で聞いていた長門は、終始渋い顔を浮かべたままだった。

 

 

 彼女はこの戦争の初期から前線で戦ってきた艦娘の一人であり、それなりに色々なものを見てきており、簡単には割り切れない思いがあった。

 

 

 だが同時に、先程真志妻に言われたようにこの戦争の限界も感じていた。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そう考えることで、一応の踏ん切りを付けようとしているのだが、なんとも言えない虚しい気分となっていた。

 

 

 

 

──────

 

 

 

 その後暫くして真志妻達は帰路に付くこととなった。

 

 

 

 霧野(キリシマ)の派遣に向けての必要な手続きに早速取り掛かる為に。

 

 

 

 一方で土方は一応形だけではあるが、山風(ヤマカゼ)を叱責していた。

 

 

 無断で破壊工作活動をしていたのだ。それも()()()味方である事になっている国に対して。

 

 

 とはいえ山風(ヤマカゼ)の行動原理が()()()()()()()()()()()()()()であり、その為ならば手段を選ばない狂気を持っている事を知っている。

 

 

 ヤマカゼは姉妹の中で一番不遇な艦だった。

 

 

 建造時に間違ってエラー部品が組み込まれた影響で不調に悩まされ続けた。

 

 

 その影響で訓練もロクに受けることが出来ず、乗組員もその大半が新人のままという有様で初めて参加したのが、姉妹全員が戦没したあの最期の血戦だった。

 

 

 山風(ヤマカゼ)は何の働きも出来ないまま、そして何の因果か、姉妹の中で一番最後に戦没した。

 

 

 姉妹の、そして姉妹の乗組員の断末魔の全てを、山風(ヤマカゼ)は聞いた。

 

 直前に受けた改装によって強化されていた自身の電子装備()が、最悪な形で山風(ヤマカゼ)の心を蝕んだ。

 

 

 もうあんな思いはしたくない。

 

 

 一人ぼっちは嫌!

 

 

 山風(ヤマカゼ)の心の内には姉妹を失うことへの強い恐怖心が根付いていた。

 

 

 それは並大抵のことでは払拭出来無い。

 

 

 普段から回りが気に掛けてはいるが、山風(ヤマカゼ)にとっての恐怖をもたらす範囲は予想よりも広かった。

 

 

 そして山風(ヤマカゼ)にとっては深海棲艦よりも、味方である人間の方がより姉妹にとって脅威であると見ていた。

 

 

 土方自身も以前からこの世界のアメリカに対して──直感の類いではあったが──不信感を抱いていた。

 

 

 第三次大戦で中東の友邦国サウジアラビアに一方的な難癖を付けて攻め込み、同国の政治と文化、伝統の悉くに対して破壊の限りを尽くしただけに留まらず、中東全域を巻き込んだ争乱を巻き起こし、今なお続く混乱の引き金を引いた。

 

 その後は散々滅茶苦茶のシッチャカメッチャカにしておきながら、興味を失ったのか後始末もロクにすることもなく、これまた一方的に引き揚げた。

 

 

 また中東だけでなく、NATO解散の直接原因にもアメリカによる一方的な都合が関わっていた。

 

 

 NATO加盟国カナダへの武力侵攻である。

 

 

 カナダへの侵攻の直前に、アメリカはNATOの解散を一方的に宣言。

 

 

 サウジアラビアにせよカナダにせよ、ある共通点があった。

 

 

 エネルギー資源である。

 

 

 サウジアラビアは言わずもがな、カナダも地下資源、エネルギー資源が豊富な国である。

 

 サウジアラビアとの関係悪化によりエネルギー政策に問題を抱えたアメリカは同じ西側の国家であるはずのカナダに目を付けた。*1

 

 

 この十年余り、アフガニスタンからの一方的な撤退以降、アメリカは目先の利益を優先した後先を考慮しない外交政策が目立っていた。

 

 

 いつかその牙がこちらに向くという可能性は、ゼロではなかった。

 

 厄介なのが在日米軍の存在だが、中間地点ハワイが制圧されている為に通常戦力の補充が困難であるがために、新ロシア連邦(NRF)による漁夫の利を警戒して戦術核の使用に踏み切る危険性があった。

 

 公的には否定しているがアメリカには中東にてその“前科”があった。

 

 

 目先の利益を優先するアメリカの行動は非常に予測し辛い。

 

 故にその行動の予兆を見逃さない様に神経を尖らせているのだが、山風(ヤマカゼ)はそれをより鋭く尖らせていた。

 

 

 しかし山風(ヤマカゼ)はそれだけで無く()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 核ミサイルの発射と自爆を司る数字の羅列を見せられた時は倒れそうになったものである。

 

 

 もし万が一の事態が起きていたら、山風(ヤマカゼ)は平然と人知れずにアメリカを終わらせていた可能性があったし、その意志もあった。

 

 

 流石にそれはやり過ぎだと、土方は山風(ヤマカゼ)の行動を咎めた。

 

 だがそれだけだ。

 

 

 一応、今後は口頭だけでも報告を行なう様に言い渡して解放した。

 

 

 

 山風(ヤマカゼ)春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)に伴われて退室したが、それと入れ替わる形で斉藤が戻って来た。

 

 

 真志妻達を見送った後、斉藤は出張先から持ち帰った書類などを纏めると、事務方の大淀へと渡して来ていた。

 

 

 

「なぁオヤジ、沖縄がヤバいってのは前から聞いていたが、そんなにマズイことになっているのか?」

 

 

 入室するなり開口一番にそう土方に尋ねる。

 

 今は秘書艦の金剛と副艦の霧島の両名が作戦の細部を煮詰めるために霧野(キリシマ)と共に作戦室へと移動したために不在であり、ここには土方と斉藤の2人だけとなっている。

 

 

「嘉手納基地による空路で何とか餓死の心配だけはせずに済んでいるが、それもいつまで持つか分からん」

 

 

 そう言って自身のデスクトップに最新の沖縄とその周辺海域に関するデータを画面に映し出すと、斉藤に見えるように画面を向けた。

 

 

 現在の沖縄は先に述べた旧在日米軍嘉手納基地の他、旧在日米軍ホワイトビーチ地区等の軍施設を中心に守備隊を展開している。

 

 一時はアメリカ軍も駐留していたが、AL/MI作戦以降アメリカ本土からの補給の先細りと停滞を理由として佐世保へと移動しており、今現在沖縄には日本軍のみが展開している状態である。

 

 また目下最前線という事もあり、県民の帰還事業は行なわれていない。

 

 

 そしてその沖縄の周辺海域には複数の有力な深海棲艦の艦隊が遊弋しており、守備隊に対して圧力を掛け、それとは別に日本本土と沖縄を結ぶ航路帯に潜水艦による警戒部隊と姫級らしき存在を中核とする部隊が展開していた。

 

 この姫級の存在が確認されたことによって海上輸送による補給線は事実上寸断状態であり、重装備や燃料などの大量輸送が出来なくなっていた。

 

 海軍は幾度となく討伐隊を編成し、これの捕捉撃破を狙ったが、討伐隊の接近を察知するとマトモに戦うことなく引き上げ、潜水艦による襲撃を繰り返しての出血を狙って来た。

 

 業を煮やして討伐隊並の戦力を護衛艦隊として編成して強引に突破する作戦を敢行したが、予算と消費する物資があまりにも膨大過ぎて長続きしなかった。*2

 

 沖縄守備隊も遊弋する艦隊の撃破を狙ったが、備蓄物資を消耗するだけに終わっている。

 

 

 ここで斉藤は違和感に気付く。

 

 

「連中、直接攻撃は仕掛けて来ていないのか?」

 

 

 そう、何故か深海棲艦は沖縄本島に対する目立った攻撃をしていないのだ。

 

 精々嫌がらせの様な小規模な爆撃が何度か行なわれてはいたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 お陰で先に土方が述べたように、何とか餓えによる飢餓地獄()()は回避出来ているが、根本的な解決には繋がっていない。

 

 

 真意、そして狙いが読め無い。

 

 

 深海棲艦にその意志があるのなら、フィリピン方面に展開する主力艦隊を押し上げるだけで、とっくの昔に沖縄は陥落していても可怪しく無かった。

 

 

 だがまるでそんな意志など毛頭ないと言わんばかりに動きが緩慢だった。

 

 

 土方もこのことに首を傾げていた。

 

 

「案外深海棲艦の連中、戦争をやるという気持ちが萎えて来てるんじゃないですかね?」

 

 

 半分冗談めかしに斉藤はそう語るが、実のところ土方もその可能性を考えてはいた。

 

 ここ最近、沖縄戦線に派遣されて戻って来た部隊から、「以前に比べて深海棲艦に戦意というかやる気が感じられない」という報告がチラホラと見られるようになっていた。

 

 

 だが、それでも今の日本には深海棲艦を押し返すだけの余力が無いという事実が伸し掛かる。

 

 

 戦争初期の、いやそれ以前からの国家運営の無計画さのツケがジワジワと出ていた。

 

 

「…どうなるかはアンドロメダ次第、か」

 

 

 ここでアンドロメダの存在が重要となって来る。

 

 

 彼女から深海棲艦の今、そして内情を知ることが出来たなら、これからの行動に関わる意思決定に大きな影響が出て来るだろう。

 

 そう考えていると、不意に部屋の扉がノックされた。

 

 

「オジキにちょいと伝え忘れてた事が、と、何だい、斉藤のあンちゃんもいたのかい?」

 

 

 入って来たのは霧野(キリシマ)だった。

 

 

 斉藤が部屋に居たことで少し考える素振りを見せたが、まあいいかと呟くと「これは下手に口外しないでおくれよ?」と前置きを告げてから土方に本題を語り出す。

 

 

「あの娘に関することなんだがね、沖田さんから気になる話を聞いていたのを思い出してね」

 

 

 それはキリシマがこの世界に来る直前に、高次元世界で会うことができた沖田から聞いた、あの話だった。

 

 

「もしかしたらあの娘、深海棲艦の姫さんとデキちゃってるかもと、沖田さんが言っていたよ」

 

 

 この思いもよらぬ情報に、部屋の空気が凍り付いた。

 

 

「まあ驚くのは無理無い話だけどね、寧ろチャンスかもしれないよ?」

 

 

 

 悪戯を思い付いた童の様な顔となったキリシマが、自身の考えを述べる。

 

 

 

 その後暫くして、ホクホク顔となった霧野(キリシマ)の姿が目撃され、対象的になんとも言えない疲れ切った表情をした土方と斉藤の姿が目撃された。

 

 

「沖田よ、お前の入れ知恵か…?」

 

 

 という呟きを聞いた者がいるらしいが、この呟きの意味することを理解したものは殆どいなかったと言われている。

 

*1
ここで自国領内のエネルギー増産を考えなかったのは、政権の支持母体である環境極左による政治的な影響工作が大きかった。

*2
財務省官吏が何人も卒倒し、財務大臣が心臓麻痺で倒れた。




 取り敢えず日本編は一旦終了です!


 シビリアンコントロール?ナニソレオイシイノ?になっていますが、正直シビリアンコントロールの絶対視もどうかと思う案件が現実で起きましたからねぇ。

 アフガニスタン撤退に関して米軍内部からの告発が相次いでいますが、まぁ酷いなんて言葉では片付けられない。防げた犠牲が政府の介入で防げなかったどころか被害をより拡大させていた。
 昨日のアフガニスタン明日の日本にならないことを祈るしかできない。


 兎も角、方針決定!日本は休戦に向けて(軍部が勝手に)動き出します!…まぁ一応、部隊による休戦交渉は現地指揮官の裁量で可能デスから!(強弁)


 正直この戦争は地域によって温度差は有りますが、どんどんグダグダになっていっています。


 次回からまたアンドロメダサイドの話へと戻ります。



捕捉

 カナダはトランプ政権時代にはアメリカに対してガスのパイプラインを建設しガスの輸出を行なう計画がありましたが、今のジジイが環境ガー、の一言でポシャらせました。ただしトレーラー輸送で代替(パイプライン以前からのやり方)しましたが、結果としてそっちのほうがより環境への影響がデカかったというヲチが付きます。

 カナダは世界有数のガス埋蔵量があり、輸出を行えるだけの産出量がありますが、カナダの独裁者(気になる方はフリーダムコンボイをお調べ下さい。事実上の天安門事件が発生していました。)とその支持基盤と政党が徹底的に妨害してそのポテンシャルを発揮出来なくしています。



愚痴コーナーでごんす!!

 クラウゼヴィッツの戦争論を学校の必須科目にして欲しい!そして議論を戦わせる場を設けて欲しい!

 も少しロジスティックに関して真剣に考える機会が必要なんじゃないかと思う今日此の頃。
 戦争においてロジスティックを海外に完全依存する危険性と恐ろしさを知らなさすぎて笑いすらおきねぇ。
 何でロジスティックの海外依存=兵站の無敵化などという、ツッコミどころ満載な論調にこの国はなるのかねぇ?少し考えたら論理破綻しているって気付くのに。
 問題なのは日本において保守とされる人や保守的意見の人程その事に無関心な気がするという事で、酷いケースはそれを指摘すると、彼らが嫌う左派的論調(論より大声、レッテル貼り)に傾倒する場合がある事。実際に私は非国民、売国奴、親中親露のレッテル貼りを現実やネットを問わず何度も経験している。まぁ会話が噛み合わなさすぎて辟易としますがね。
 日本って保守もリベラルも根底は大差無いとしか言え無いなぁという実感がさらに強まった。
 



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第31話 Dawn

 黎明。明け方。


 場所は再びマリアナ諸島サイパン島。


 ここんとこずっと政治やら何やらの胸糞悪い話しだらけ書いていたから、少しハッチャケちゃる!


 駆逐棲姫お姉ちゃんがアンドロメダを抱き枕にしていた理由の一端が明かされます。


 

 

 恩師キリシマから、深海棲艦の姫とデキちゃってると言われているとは露知らずなアンドロメダ。

 

 

 そんな彼女は今、幸せそうな寝顔で健やかな寝息を立てていた。

 

 

 

 ここはアンドロメダ達が滞在し、間借りさせてもらっている旧サイパン国際空港のハンガーに併設されている、元はハンガーで働く作業員が疲れた体を休めるために設けられていた休憩室。

 

 その床に敷かれた大きめのマットと寝具に包まれながら、アンドロメダは眠っていた。

 

 

 ここの責任者である飛行場姫としては、大切な客人であり、自身と同じ同胞(はらから)の上位種が好意と信頼を寄せているアンドロメダとその妹であるアポロノームにちゃんとした部屋を用意してあげたかったが、島に存在するホテルなどの寝泊まり出来る施設は、今までの人類との戦闘で軒並み破壊もしくは損傷しており、駐留する同胞(はらから)達が最低限雨風を凌げる程度の修繕は施したが、慢性的に宿舎と呼べる施設が不足していた。

 

 陸上型深海棲艦の中でもトップクラスの実力を誇り、広大な敷地面積を有する飛行場施設とその周辺を自身の本来の艤装を介して侵蝕することによって、事実上の自身の艤装の一部として扱っている飛行場姫の力を持ってしても、島全体の建造物をカバーするだけの力は無かった。*1

 

 将来的にもしかしたら新たな同胞(はらから)として並び立ってくれるかもしれないから、という若干の下心が無いわけでも無いが、客人を無碍に扱う真似だけはしたくなかった。

 

 とはいえ当のアンドロメダとしては半ば押し掛ける形で乗り込んでしまったという負い目から、私の事はあまり気を遣わなくて大丈夫ですと伝え、ただ、私のワガママに付き合わせてしまったにも関わらず、何かと骨を折ってくれた空母棲姫さんと、いつも親身に寄り添ってくれていた事で大好きで掛け替えのない存在となった駆逐棲姫お姉ちゃん、そして消耗著しい愛する妹であるアポロノームがゆっくり体を休める様にだけはしてもらいたとの要望を飛行場姫に頭を下げて願い出た。

 

 しかし駆逐棲姫はアンドロメダの(そば)を離れる気は毛頭なく、アポロノームも車椅子だと移動が億劫だからと言ってやんわりと断った。

 

 空母棲姫はラウンジのソファーで問題無いと言って、心配しなくて大丈夫だとアンドロメダに伝えた。

 

 

 最終的な折衷案として、先の休憩室を一応の宿舎として使用することとなったのだが、ベッドの用意だけは間に合わなかった。

 

 だがその事に関しては誰も文句は言わなかった。

 

 

 そして3人の真ん中にアンドロメダ、左右に駆逐棲姫とアポロノームが挟む形でその日は就寝した。

 

 その際に当たり前の様にアンドロメダを抱き枕にする駆逐棲姫と、それを嬉しそうに、さも当然の様に受け入れている姉の姿にアポロノームは目を白黒とさせ、また「アポロノームも私を抱き枕にしますか?」と笑顔で尋ねてくる姉に、いや寧ろ抱き枕にしてくれることを大いに期待しているとしか言えない、姉の期待に満ち溢れた眼差しに、アポロノームが大層困惑する事態が発生したとかしなかったとか…。

 

 

 そんな一悶着だらけの夜が明けつつある翌日の早朝、まだ日は上り切ってはいないが、外は薄暗くも白みを帯び出していた。

 

 起き出すにはまだ早く、誰もがもうひと眠りと考える様な、そんな時間帯。

 

 

 アンドロメダを抱き枕にしていた駆逐棲姫がモゾモゾと動き出し、自分をお姉ちゃんと呼んで懐いてくれた、本当に愛しくてたまらない大切な妹分であるアンドロメダを起こさないように、ゆっくりと上体を起こすと、その寝顔をそ~っと覗き込んだ。

 

 

 その幸せそうな寝顔を見て、安堵したかのような微笑みを浮かべる。

 

 

「よぉ、あんたも起きたのか?」

 

 

 反対側で眠っていたはずのもう一人の妹分*2であるアポロノームに声を、但し横で眠る姉のアンドロメダを起こさない様に気遣ってか小声ではあったが、突然声を掛けられたことで駆逐棲姫は思わず体をビクッと震わせそうになったが、既の所で堪えた。

 

 

「すまん。驚かすつもりは無かったんだが…」

 

 

 そう言って半眼で睨んで抗議の意志を示してきた駆逐棲姫(自称、姉)に謝罪し、上体を起こそうとしたが、自身の片腕に違和感があることに気付き、もう片方の手でシーツをそっと捲ると、その原因に思わず苦笑した。

 

 

 アンドロメダがアポロノームの服の袖をギュッと握り締めていたのだ。

 

 

 こりゃ下手に動けないなと思いながらも、握られている腕を支点として少しだけ体を起こして姉の寝顔を見遣る。 

 

 

「いい夢でも見ているんだろうな」

 

 

 姉の穏やかな寝顔を見て、口元に笑みを僅かに湛えながらそう小さく呟く。

 

 

 その呟きを聞いた駆逐棲姫は、少しだけ憂いを帯びた様な顔をしながら、こちらもアンドロメダ(愛しい妹分)を起こさないように注意しながら静かに語る。

 

 

「お姉さんは眠っている時、いつも魘されていました…」

 

「こんなに穏やかで、幸せそうなお姉さんの寝顔は初めてです…」

 

 特にこの時間帯が一番酷かったと付け加えられた。

 

 

 その言葉に、アポロノームは軽いショックを受けた。

 

 今の姉の寝顔からは、到底想像が出来なかった。

 

 

「本当にギリギリだったんだと思います…。お姉さんの心は、細い糸の上を不安定な姿勢で歩いていたかのような…」

 

 

 憂いを帯びた顔で語る駆逐棲姫の言葉を聞いて、先にこの世界に来ていた姉の心情を察するアポロノーム。

 

 姉の心の繊細さは、アンドロメダ姉妹ならば誰もが知っており、また一つの共通認識があった。

 

 

 姉は、アンドロメダは“()()()()()”な一面がある。

 

 

 親しい者が誰一人として居ない、世界で一人ぼっちだったという現実は、寂しがり屋な姉にとって途轍も無い精神的な負担と苦痛となっていたであろうことは、容易に想像が付いた。

 

 だからこそ、今目の前で姉の体をギュッと抱き締め、その温もりを与え続けてくれている駆逐棲姫の真摯で親身な態度に、姉は心惹かれたのだろう。

 

 

 自身の心が壊れ無い様にと、無意識の内に一種の自己防衛本能の働きがあったのかもしれないが。

 

 

「あんたがずっと姉貴のすぐ近くで寄り添ってくれていたから、姉貴は壊れずにここまでこれたんだ。そこは誇ってくれ」

 

 

 そのアポロノームからの感謝の気持ちを含んだ言葉に、駆逐棲姫は首を横に振る。

 

 

「私に出来たのは現状維持だけだよ。お姉さんの心を真に救ったのは、貴女が来てくれたお陰です…」

 

 

 アポロノームの言葉に、私は何も出来なかったと言って否定する駆逐棲姫。

 

 

 そんなことは無い!とアポロノームはつい声を上げそうになったが、既の所で堪えた。

 

 そこでふと気付いた。この2人、ある意味で似た者同士なのだと。

 

 姉のアンドロメダも、自身の功績に対して謙虚というかやや否定的なことをよく述べていた。

 

 そして何よりもアンドロメダには自身に対して自虐的な所があった。

 

 自身の出自や建造さ(生ま)れてからのこの方、常に政治的な建前やら本音やらに振り回され続けて来た。

 

 それらの煩わしい事に、半ば諦めの境地に達していた(ふし)があった。

 

 そして自分なんかよりも、と言って他人を立てる言動が多かった。

 

 

 根底は違うが、自分なんかと思う所、それに何よりも妹をとことん愛するその姿はまさしくアンドロメダと似ている。

 

 

 一瞬、アンドロメダがいずれ次女アルデバランの様に、姉が好き過ぎるあまりに姉至上主義となってしまうのか?という未来予想図が頭の中で浮かんだが、いやいくらなんでもそれは考え過ぎか?と思い直すが、アンドロメダは()()シスコンアルデバランの姉であるし、アンドロメダはアンドロメダで母親であるヤマトを狂愛するマザコンである。*3

 

 その愛のベクトルが駆逐棲姫にも向けられたら…。

 

 

 だがアポロノームはあることを失念していた。

 

 

 アルデバランのシスコンっぷりがあまりにも強過ぎるために霞勝ちだが、アンドロメダも妹達のことを大切な存在として慈しみ、とても愛して可愛がるシスコンでもあるということに。

 

 またなんだかんだ言って自身もアンドロメダのことが大好きだし、よく悪戯の標的にされていたが、同型の空母(タイプ)である妹のアンタレスのことを可愛がり何かと気に掛けていた。

 

 アンタレスもそんなアポロノームの事が好きだったが、何故か長姉アンドロメダに甘える時みたいに率直な態度にはなれず、愛情の裏返しからか、その表現が悪戯として表れていた。

 

 そして姉妹の中で最も影が薄いとの陰口を言われていたアキレスも、仲睦まじい姉妹達を見る事が大好きだったし、実はプチ姉至上主義者(アルデバラン)だったという噂もある。

 

 アンドロメダ(タイプ)の五姉妹は、程度の差はあれど全員シスコンだったと言えるのだ。

 

 

 閑話休題。

 

 

 駆逐棲姫はアンドロメダが“寂しがり屋”であることを、かなり早い段階から見抜いていた。

 

 

 だからこそ、アンドロメダが自分の事をお姉ちゃんと呼んでくれた事に、そしてアンドロメダが自分に心を開いてくれたという事に素直な喜びの感情が溢れた。

 

 

 だけど、どんなに頑張っても本当の姉妹の様にはなれないという達観にも似た気持ちもあった。

 

 

 そしてそれはある意味で証明された。

 

 

 夜な夜な、特に明け方になると魘されていたアンドロメダに、駆逐棲姫は抱き締めてあげることしか出来なかった。

 

 それによって魘される事はかなり落ち着く事が出来たが、今みたいな健やかで幸せそうな寝顔にはならなかった。

 

 その事実が、()()()()()()()()()()との覆しようのない、どうにもならない差の様に思えて、駆逐棲姫の心に暗い影を落としていた。

 

 

「おいおい、落ち込むことは無いだろう?俺とあんたとでは姉貴と過ごして来た時間の長さが違うんだぜ?」

 

 

 駆逐棲姫の心の内をある程度正確に見抜いたアポロノームが、そう声を掛ける。

 

 アンドロメダ姉妹の中で最も面倒見がよく、気遣い上手とされているアポロノームだからこそ、恩人であり、敬愛する姉が大切に思うヒトが落ち込んでいる姿は、見るに忍びなかった。

 

 

「だけどよ、姉貴が惚れたあんたが()()()()で諦めちまうのか?」

 

 

 駆逐棲姫が徐ろに顔を上げ、アポロノームの顔を見遣る。

 

 アポロノームの顔は、いつも浮かべる不敵な笑みでは無く、慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。

 

 その顔を見た駆逐棲姫は、ああ、やっぱりこの2人は姉妹なんだなぁと実感した。

 

 顔の作りは違っても、微笑みを浮かべた際に見せる雰囲気はアンドロメダと瓜二つだったのだ。

 

 

「これから長い付き合いになるんだ。あんただってもっと姉貴の掛け替えのないヒトになれるさ」

 

 

 そう言って駆逐棲姫の頭を撫でた。

 

 これは姉であるアンドロメダがいつも自分達にしてくれていたことを、こうすれば気分が落ち着くというのを経験から、そして本能的に理解していたからこそ、無意識の内に真似たのだ。*4

 

 アンドロメダよりも少しだけ力が強いが、それでもその手を通して伝わって来る温もりと、優しさに、駆逐棲姫は心が軽くなった様な気がした。

 

 そして次第に瞼が重くなり、駆逐棲姫はアンドロメダを再び抱き締めながら穏やかな寝息を立て出した。

 

 

 それを見たアポロノームは駆逐棲姫にシーツを掛け直してあげると、自身ももう一眠りしようかと思って横になったのだが。

 

 

「ありがとう。アポロノーム」

 

 

 いつの間に起きたのか、瞳を開けたアンドロメダが今まさに眠りに就こうとしていたアポロノームを微笑みながら見詰めていた。

 

 

「何だ?姉貴も起きていたのかよ?」

 

 

 そう落ち着いた様な体裁を装いながら喋るアポロノームだが、その内心はさっきまでの駆逐棲姫とのやりとりが聞かれたか?という気持ちでかなり焦っていた。

 

 

「はい。アポロノームが私にいい夢でも見ているんだろうな。と呟いた辺りから」

 

 

 その姉からの返答に、アポロノームは羞恥から顔を真っ赤に染めて身悶えた。

 

 

 全部聞かれてたのかよぉっ!?

 

 

 本人が聞いている前であの話は、流石のアポロノームでも恥ずかしくて仕方無かったのだ。

 

 

 穴があったら入りたい!とばかりに耳まで真っ赤になった顔を手で覆うアポロノームを見遣りながら、アンドロメダはその頭に手を伸ばして優しく撫でてあげた。

 

 

「ありがとうねアポロノーム。いつもこんな不甲斐無くて駄目な私を、陰日向に支えてくれて」

 

 

 優しくも、自身を卑下した陰のある言葉を紡ぐ姉に対して、アポロノームは「世界が変わっても、姉貴は変わらねぇな…」と心の中で嘆息した。

 

 

「姉貴…」

 

 

 だからこそ、アポロノームは悲しかった。

 

 今まで姉を()()()()()“地球連邦”という軛は、この世界には存在しないのだ。

 

 地球連邦航宙艦隊総旗艦というその“立場”に縛られ、姉は“自由”というものを奪われ、いや、自ら封じていた。

 

 本当ならば母さん、ヤマトさんにもっと甘えたい。褒めてもらいたい。抱き締めてもらいたい。頭を撫でてもらいたい。もっとその温もりを肌身で感じたい。そんな気持ちの一切に蓋をして、今まで振る舞っていた。

 

 …ある意味その反動が、自分を含めた誰に対しても優しく、慈しむという姉の振る舞いに繋がっていたのかもしれない。

 

 ならばせめて、この世界ではもっと自由に、自身の心が“こうありたい”と願い、思い描く様に振る舞ってもいいんじゃないか?もっと自分のありのままの気持ちを曝け出してもいいんじゃないか?

 

 そうアポロノームは心の底から思っていた。

 

 勿論、“向こう”にいた時と比べたら、姉は遥かに自由に振る舞っている。

 

 おそらく他の地球艦の連中が今の姉の姿を見たら、まず間違いなく思わず二度見、いや三度見くらいはしてしまうだろうと確信している。

 

 

 だが、それでもアポロノームからしたら何処かぎこちなく思えていたのだ。

 

 

 それが今確信へと変わった。

 

 

 姉の根幹は全く変わっていない事に。

 

 

 そしてあることに気付いた。

 

 

 姉は()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()としていることに。

 

 

 その事をアポロノームから語られたアンドロメダは、一瞬きょとんとした顔となった。

 

 

「…ヒトとは、常に演じ続ける生き物である」

 

 

 ポツリと呟かれたアンドロメダの言葉に、アポロノームは首を傾げた。

 

 

「誰の言葉だったかは忘れましたが、“ヒトとは産まれたその時から、誰かに望まれた、求められた姿や役を演じながらその生涯が過ぎ去っていく生き物である”と言い表した言葉だそうです」

 

 

 私にも当てはまる言葉ですね。と語るアンドロメダに、アポロノームはどう返していいのか分からず、困り果ててしまう。

 

 

 そんな妹の姿を見て苦笑するアンドロメダ。

 

 

「ふふ。ごめんなさいアポロノーム。そしてありがとう。私は幸せ者です。私のことを、心配してくれる貴女やお姉ちゃんがいてくれるお陰で、私は、この世界でも、孤独じゃ、ないんだと…、実感できます…」

 

 

「貴女や…、お姉ちゃんが、いてくれる……、だけで……、私は………」

 

 

 そこで言葉が途切れた。

 

 

 駆逐棲姫に抱かれている温もりと安心感からか、アンドロメダは再び瞼を閉じ、健やかな寝息を立てて眠りについていた。

 

 

 

 そんな姉の姿を見てアポロノームは申し訳無いという罪悪感に囚われ、視線を部屋の天井へと向ける。

 

 

 天井の一部、剥き出しの鉄骨の梁に完全装備に身を包んだアンドロメダとアポロノームの警務隊妖精達が控えており、アポロノームが視線を向けたことに気付いてサムズアップを返してきた。

 

 

 深海棲艦の事を信用し切った訳では無いアポロノームは、万が一を懸念してアンドロメダには内密のまま、自身の警務隊妖精に周辺警戒の指示を出したのだが、途中からそれに気付いたアンドロメダの警務隊妖精達が、自分達も協力すると願い出てきた。

 

 そしてハンガーの到る所に監視ポイントを設置し、交代で警戒の任に就いていた。

 

 

 アンドロメダがそれを知ったら止めただろうが、アポロノームとしたら万が一が現実に起きて、それによって姉を失うのではないかという不安があった。

 

 

 アポロノームもアンドロメダと同様に、姉妹を失う事に対して強い恐怖感をその心に抱いていた。

 

 

 だからこそ、万が一の時は再び自分を犠牲にしてでも!という思いでいた。

 

 

 だがそれはアンドロメダに対する二重の裏切りだった。

 

 

 自分との再会に、人目も憚らずに涙を流して喜んでくれたことに対して。

 

 

 そして何よりも、自分と恩義のある駆逐棲姫の2人と共にいられることに対して、大きな幸福感を感じている姉の気持ちを踏み躙ってしまったことに、途轍も無い罪悪感を感じていた。

 

 

「…何やってんだろうな、俺は」

 

 

 よかれと思ってやったことが、実際には空回りしていた挙げ句、逆にアンドロメダの負担や迷惑になりかねない事であることに気付き、アポロノームは自身の考えなさに対して腹が立ってきた。

 

 

 だが、思い返せばいつもそうだった。

 

 

 いつも考えが足りないばかりに、度々姉に迷惑ばかりかけていた。

 

 そしてその度に「大丈夫ですよ。貴女のその素早い決断力と行動力が、貴女の良いところなのですから。そう自分を卑下しないで下さい」と言って慰められていた。

 

 

 俺はいつもアンドロメダの姉貴に迷惑を掛けてばかりだ…!

 

 

 そう思うと段々と悲しくなってきて、瞳から涙が溢れて来た。

 

 

 その時、突然体が引っ張られて、頭がなんだかとても柔らかいものに包まれた感覚がした。

 

 

 何事かと思えば、寝惚けたアンドロメダがアポロノームの体を自身の胸に抱き寄せたのだ。

 

 

 突然の事態にアポロノームは内心で慌てふためくが、肌を通して、とくん…、とくん…、というなんだかとても優しい音が伝わって来ていることに気付き、なんだろう?と一瞬考えるが、すぐにそれが姉の体の中で脈打つ鼓動の音であると気付いた。

 

 

 その音を聞いていると、段々と心が落ち着いてきた。

 

 

 (ふね)の魂だった時には感じたことの無い、触れ合うことで感じる温もりとは違う不思議な、それでいてなんだかとても心が温かくなり、癒され満たされる感じがした。

 

 

 嗚呼…、これが生きているってことなんだ…。

 

 

 触れ合うことで直接感じる姉の温かい体の温もりと、肌を通して伝わってきた規則正しい鼓動を聞いて感じた心の温もりを感じたことで、さっきまでの泣き出しそうだったアポロノームの顔と心から悲しみの色は消えていた。

 

 

 

 …これは、癖になりそうだ。そう頭の片隅で思いながらも、瞼が次第に重くなっていることを自覚した。

 

 

 そしてアポロノームはアンドロメダの胸に抱かれたまま、再び眠りに就いた。

 

 

 

 その一部始終を妖精達がガン見していたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 余談だが、アポロノームの独断専行とも言える妖精達への警戒指示だが、アンドロメダは勘付いていた。

 

 元々アンドロメダも最低でも歩哨程度は立てようかな?と考えていたのだが、()()()()が気掛かりで取り止めた。

 

 

 飛行場姫は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言っていた。

 

 

 ということは、飛行場施設その物が飛行場姫の完全なるテリトリーであり、そこにいる限りは常に彼女から見られている可能性が非常に高い。

 

 

 そもそもここは深海棲艦の領域である以上、下手なことをすべきでは無いとの結論を出した。

 

 

 だが、アポロノームはそこまでは考えなかった様である。

 

 無論止めようとはしたが、アポロノームの指示の方が一歩早かった。

 

 その時には既に配置に付いてしまっていた。

 

 

 おそらく隠れたとしても、飛行場姫には手に取るようにその居場所は把握されてしまうだろう。

 

 

 そこでアンドロメダは万が一アポロノームの妖精が暴発することを警戒して、密かに自身の警務隊妖精に対して最悪の場合は力ずくでも止めるようにとの指示していた。

 

 

 そしてもしもの時には自身が全ての泥を被るという覚悟を決めていた。

 

 

 結論から言えば、飛行場姫もこの妖精達のことは完全に把握していたし、下手人がアポロノームであることも把握していたが、この事でアンドロメダが色々と気を遣っていることも気付いていたために、貸しと言うことで敢えて問題にはしなかった。

 

 

 

 ついでに言えば、寝落ちしながらアンドロメダが語った事だが、あれは寝落ちしたフリをしながらアポロノームに少しだけ釘を刺そうとしたものだったのだが、寝起きで頭がちゃんと回っていなかったためか、あまりにも遠回しな言い回しとなってしまったがために上手く伝わらず、泣き出してしまったアポロノームを見て傷付けてしまったと焦ってしまい、思わず寝惚けたフリをして抱き寄せてしまったのだった。

 

 そしてアポロノームが落ち着いたことで安堵して緊張の糸が切れてしまったためか、本当に寝落ちしてしまった。

 

 

 だがそれでも、今までになくとても幸せそうな寝顔であったと、一部始終を見届けていた妖精は仲間達に語ったという。

 

 

 また起床を告げに来た飛行場姫も、幸せそうに眠る3人の姿を見て思わずほっこりとしてしまい、本来の目的を忘れて暫しそのまま眺めていたという。

 

 

 

*1
飛行場姫曰く、自分の姉ならば片手間で島一つくらいならば侵蝕出来るだけの実力があるという。

*2
駆逐棲姫主張。

*3
そして父親と慕う沖田のことも愛しているファザコンでもある。

*4
但し、逆にテンションが爆上がりしてしまうというケースも偶にある。






 …おかしい。予定ではアンドロメダと駆逐棲姫お姉ちゃんが互いに甘え合い、アポロノームがそれに巻き込まれるという話にするハズだったのに、どうしてこうなった!?

 …多分書いたり消したりした影響かな?



 今回愚痴コーナーはお休みです。ネタは一杯あるのですが、投稿を優先致しました。




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第32話 Bombshell

 爆弾発言。


 すみません遅くなりました。仕事やらなにやらで遅くなったのと、短い時間で思い付いた物を書ける範囲でポチポチと書いていたら矛盾が発生、添削やらなにやらの繰り返し繰り返し。気付いたらこんなことに。


 アンケートにご協力いただき誠にありがとうございました。その結果を踏まえまして、深海棲艦独自の技術という形と相成りました。…しかしまさか拮抗するとは予想外でした。


 今回色々とキャラが出て来ますが、出番自体は一部を除いて思い付いたら時々出そうかな的なキャラが殆です。(多分)

 一応、お気付きかと思いますが、本作において深海棲艦は大戦初期の飢餓で形振り構わない(構えない)時期は別としまして、現在のところ温厚かつ穏健派が主流派です。自分達の食い扶持確保が至上命題で、それが本編開始時点でほぼ達成されていますので。その中で人類を利用する為にある程度の交流を持つことも吝かでないという考えも出て来ています。

 無論過激派、人類を深く恨み憎んでいる一派(主にオセアニア事件が原因)はいますし、穏健派とは違った形で人類との交流を模索する独自ルート派や跳ねっ返りや所謂刹那主義的な思考を持つある意味でマイノリティー派等々がいますが、それらを集めてもなお穏健派が優勢です。


 遂に当初の予定から出したかったヒトが登場!てかこの人のためだけに大統領候補の上院議員を出したと言っても過言ではない。


 …詰め込み過ぎたか?



 

 

 

「お待ちなさい」

 

 

 

「貴女に“これ”をお渡ししておきましょう」

 

 

 

「“これ”を譲り渡すには、本来ならばギムレー(    )お兄様、…コホン。長官(  )のご許可が必要なのですが、わたくしの有する“長官(  )代行”としての権限でお渡し致しましょう」

 

 

 

「いいですか?必ず貴女の姉君にお渡しなさい」

 

 

 

「その後どうするかの判断は、貴女の姉君にお任せします」

 

 

 

「ですが、わたくしから言わせていただきますと、あのような痴れ者の野蛮人共が蔓延り、愚行しか繰り返さないせいで汚染(よご)れた穢らわしい惑星(  )なんて、今すぐにでもわたくし共親衛(  )艦隊を繰り出してさっさと焼き滅ぼして(      )しまいたいものですよ」

 

 

 

「ふんっ。それ程までにあそこの野蛮人共が犯した“愚行”は“危険”極まりない(       )事なのですよ」

 

 

 

「少しはあの純粋で心優しき可愛らしくて麗しい隣人達(   )を見習って───、と、話が逸れてしまいましたね」

 

 

 

「いいですね?委細構わず貴女の姉君に()()()()、お渡しするのですよ?」

 

 

 

 

───────

 

 

 アポロノームが激しく息を荒げながら飛び起き、先に起きてた2人の姉*1とお越しに来ていた飛行場姫を吃驚させた。

 

 

「(な、何だったんだ…?今のは…?)」

 

 

 今自身が見ていた“夢”の内容に、アポロノームの頭は混乱の極みにあった。

 

 誰かに話し掛けられていたのは確かなのだが、それが“誰”だったのかが分からない。

 

 見覚えがある様な相手だった気がするのだが、それが“何時(いつ)”“何処”でだったのかすら思い出せず、言い知れぬモヤモヤとした不快感がアポロノームの胸の中で渦巻いていた。

 

 

 だがその“誰か”から、その時に何か途轍も無い重大な“ナニカ”を受け取った様な記憶が、薄ぼんやりとだが思い出した。

 

 

 しかしその“ナニカ”がまるでプロテクトされているかの様に、どうしても思い出せず、眉間に深い縦皺を刻んだ顰めっ面を作ってしまう。

 

 

「ア、アポロノーム、どうかしましたか?」

 

 

「落ち着いて、先ずは深呼吸をして気分を落ち着かせて」

 

 

 姉2人が心配そうな声音と顔でそう尋ねて来たため、息を整えながら胸中に渦巻く不快感を無理矢理押し込め、愛想笑いを浮かべた。

 

 

「いや…、すまねぇ、驚かしちまって…。なんでも、いや大した事じゃねぇから」

 

 

 しかしここには他人の心の機微に敏い者が居ることを、アポロノームは完全に失念していた。

 

 

「ん~~~~?」

 

 

 姉を自称する駆逐棲姫が目を大きく見開きながら、アポロノームの顔を真正面に、しかもお互いの鼻と鼻が触れ合いそうな距離から、その瞳を覗き込んで来た。

 

 これには流石のアポロノームも息を呑み、体が固まってしまう。

 

 そのまま駆逐棲姫は淡い紫色の煌めきを放つ瞳に瞬き一つさせず、アポロノームの瞳を暫しジーッと見詰め続けるが、不意に何か納得したのか、微笑みを浮かべるとアポロノームから離れた。

 

 

「嘘ですね?」

 

 

 ハッキリとした声でそう断言され、アポロノームはつい目を見開いてしまう。

 

 

「お姉ちゃんの目は誤魔化せませんよ?」

 

 

 全てを見透かしたかの様な顔で再び迫って来る駆逐棲姫に、アポロノームの鼓動が段々と早く激しく乱れたものへと変わっていった。

 

 心が読まれている?そんなことが出来るのか!?いや、そんな馬鹿なことが────!

 

 

「あぁ、その娘に下手なウソや誤魔化しは通用しないわよ。そういったことに誰よりも敏感で、何より()()()()()()()()()娘だから」

 

 

 その飛行場姫からの言葉に、アポロノームは全身から汗を吹き出した。

 

 駆逐棲姫が他人の心の声が聞き取れるというのは、無論飛行場姫の完全な()()()()であったのだが、混乱するアポロノームの頭ではそのことに思い至らない。

 

 飛行場姫としては昨晩のアポロノームによる妖精達への警戒配置に対しての“仕返し”という悪戯心もあったが、もうすぐ朝食ということもあり、サッサと口を割らせてしまおうという魂胆もあった。

 

 駆逐棲姫も飛行場姫のその企みを察して、「全てお見通しですよ?」と言わんばかりに口角を吊り上げ、ニッコリとした笑みを浮かべながら、引き攣った表情となったアポロノームの顔を見定めていた。

 

 アンドロメダもアポロノームが其の場凌ぎの嘘や誤魔化しを謀る時の“癖”──愛想笑いを浮かべながら言い澱んだり、はぐらかそうとする──が出ているのを見逃さなかった為に、そして何よりもアポロノームが駆逐棲姫(お姉ちゃん)を騙そうとしたことに対して静かに腹を立てていたから、敢えて静観しているのだが、よく見るとその顔に青筋を立てており、その滲み出るプレッシャーがアポロノームに襲い掛かっていた。

 

 

 だがそのハッタリとプレッシャーが余計にアポロノームを混乱させてパニック状態を引き起こしてしまい、水から上げた魚の様に口をパクパクとするだけだった。

 

 

「これは、少し拷問が必要ね」

 

 

 中々口を割らないアポロノームに痺れを切らした飛行場姫が、意地の悪い笑みを浮かべると手をワキワキとしながらアポロノームに迫る。

 

 

「いいですね!徹底的にやっちゃいましょう!」

 

 

「私は兎も角、お姉ちゃんを(だま)くらかそうとした罪は重いです!アポロノーム、罰を受けてもらいますよっ!」

 

 

 飛行場姫がアポロノームに何をしようとしているのか察した駆逐棲姫とアンドロメダも、飛行場姫を真似て笑みを浮かべ、手をワキワキとしながらアポロノームを囲むようにして迫る。

 

 

 手をワキワキとし、笑いながら迫って来る3人に、アポロノームは心の底から恐怖した。

 

 何よりも(じつ)の姉であるアンドロメダが一番楽しそうな微笑みを浮かべていることに、最早絶望しか感じなかった。

 

 待機している妖精達に一縷の希望を託して、助けてくれ!との懇願した視線を送るが、アンドロメダ、アポロノーム双方の妖精達はいつの間にか居なくなっていた。*2

 

 

「(は、薄情者~~~~~っ!!)」

 

 

 アポロノームは内心でそう叫ぶが、その時には3人の手がすぐ目の前へと迫って来ていた。

 

 

 

 

 その後アポロノームは3人からの一斉擽り攻撃を全身に受け、脆くも爆沈。

 

 洗い浚い白状することとなった。

 

 

 

 

───────

 

 

 食堂へと向かう道すがら、車椅子に乗せられたアポロノーム*3が3人に自身が見た“夢”の事を語ったのだが、その内容に首を傾げていた。

 

 

 あちこちが虫食いの様になっていて詳細はよく分からなかったが、アポロノームが“誰か”に“ナニカ”を託されたという事が読み取れた。

 

 

 内容的に何かしらの情報の様ではあるのだが、それが一体なんなのかが分からない。

 

 

 当のアポロノームもこの世界にやって来る前、生前?に“夢”であったことのような経験をした記憶が無いため、訳が分からないと殆ど混乱していたのだが、ここでアンドロメダが心当たりをポツリとと呟いた。

 

 

「…ひょっとすると、高次元世界にいる誰かから、何かしらの干渉があったのではないでしょうか?」

 

 

 アポロノームは兎も角として、“高次元世界”という聞き慣れない言葉に首を傾げた2人の姫に、所謂別世界、事実上のあの世とも言える様な世界で、時間の概念が存在しない特殊な場所、或いは空間であるとされていると説明した。

 

 

 それを聞いた飛行場姫は、従来の常識を悉く破壊して回っている存在が目の前に居る以上、何よりもこの世界よりも数百年先の科学や学問がある程度()()に発達した世界ならば、自分達にとってオカルトや魔法の類いだとしか思えない事でも、彼女達にはそれが常識と言ってしまえる範疇のことでしかないとして、理解することができた。

 

 

 それに、ある程度の相違はあるが、()()()()()()()()()()()()()なのだから。

 

 流石に次元の違う別世界に対しては無理だが。

 

 

「…もしかして、この世界にやって来る前にその高次元世界にいて、そこでその“ナニカ”を受け取ったのではないですか?」

 

 

 駆逐棲姫が思い付いた推論を述べるが、アポロノームは少し考え込んだ後、首を横に振った。

 

 

「…分からねぇ。いや、その辺りの記憶が綺麗サッパリ切り取られたかの様に思い出せねぇってのが正しいな」

 

 

 眉間に皺を寄せながら必死に思い出そうとするが、まるで思い出せない。

 

 ただなんとなく、()()()()()()()()()()様な、霞がかった薄ぼんやりとしたハッキリとしない輪郭の様な事がギリギリ思い出せたが、それ以外は全くだった。

 

 

「墜落の衝撃による一時的な記憶喪失かもしれませんね…」

 

 

 アンドロメダが心配そうにそう呟くが、流石の未来の科学技術をもってしても、記憶といった脳に纏わる所に関しては手の打ちようが無かった。

 

 

「とはいえもし受け取ったのが情報の類いなら、どこかにあるはずよね?」

 

 

 兎も角手の付けられそうな範囲からと、飛行場姫がそう問う。

 

 過程はこの際無視して結果、その肝心要な“情報”をどうにかすることを優先すべきではないのか?と考えたのだ。

 

 

 ここでふと、駆逐棲姫はあることを思い出した。

 

 正確には今の今まで色々とバタバタし過ぎたが為に、話す機会を見付けられ無かったからというのが大きいのだが、もしかしたら関係があるかもしれないかもと駆逐棲姫が2人に対して語り出す。

 

 

「実はお姉さんが私達同胞(はらから)の所へと来てくれるって決めてくれたその少し前に、多分その高次元世界って所で私はお姉さんのお父さんとお母さんに合ったんだ」

 

 

 このカミングアウトに3人は三者三様に驚きを示すが、アンドロメダはあの時お姉ちゃんがなにか言いたそうにモジモジとしていたのはその為だったのかと思い至る。

 

 

「吃驚したよ。突然上も下も分からない所に居たかと思うと、2人が現れたんだから」

 

 

 最初は何が何だか分からず、2人が現れるまで軽くパニックになっていたが、今にして思えば“あれ”が高次元世界って所だったのかもしれない。

 

 

「余りにも吃驚し過ぎて、思わず挨拶もそこそこにお姉さんを私に下さいっ!て言ったら、2人共吃驚してた」

 

 

 いやあんた、なに初対面のヒト達に対してとんでもないこと聞いてんのよ…?と飛行場姫は内心でツッコミを入れていたが、流石に口には出さなかった。

 

 

「お義父さんとお義母さんから、お姉さん達の事をよろしく頼むと、頭を下げられながら頼まれました」

 

 

「その時、お義母さんからの言伝てで気になることを仰ってました」

 

 

「『私はおそらく“そちら”に行くことは叶いませんが、()()()()()で2人や()()()()()の無事を祈っております』」

 

「『今後、()()()()()を突き付けられて絶望の淵に立たされる事になるでしょうが、私は私の愛した貴女のその心を信じます』」

 

 

 

 もしかしたら今回の事とは無関係な事を言っていたのかもしれないが、駆逐棲姫の直感が無関係とは思えないと告げていた。

 

 

 

 しかし2人はそのことよりも、思わぬ形で判明する事となった“()()()()()()()()”に驚き、驚愕した表情で固まったまま駆逐棲姫の顔を見ていた。

 

 

「い、今、土方さんって…、まさか、()()“頑固一徹”の土方竜宙将かっ!?」

 

 

「お姉ちゃん!それは間違いないのですかっ!?」

 

 

「わっ!わわっ!?」

 

 

 駆逐棲姫の肩を掴み、今までに無いくらいの物凄い剣幕で問い詰めて来るアンドロメダに、駆逐棲姫は半ばパニックに陥るが、その直後にアンドロメダの頭に飛行場姫のチョップが落とされた。

 

 

「取り敢えず、その諸々は後にしましょう!」

 

 

 些か強引ではあるが、それでその場は一時中断となった。

 

 

 

 この時アポロノームは先の話の中で、ある違和感を覚えた。

 

 

───────

 

 

 食堂。

 

 取り敢えず先程の事を、朝食である麦粥を食べながら掻い摘んでの説明がなされた。

 

 ただアポロノームは予想外な程に大事(おおごと)になりつつある事で、頭を抱えていた。

 

 何故ならここに居並ぶ姫達は、思いの外に真剣な表情で聞いているのだ。

 

 無論、普通ならば朝の何気無い話題程度で済んでいただろうが、アンドロメダ、そして同胞(はらから)である駆逐棲姫からの補足情報により、そういった雰囲気はほぼ取り払われた。

 

 

 ただやはりその“ナニカ”、おそらくは“情報”の類いではないかと予想されるが、具体的になんなのかが分からないことにはどうにもならないとの結論に落ち着き、アンドロメダとアポロノームはその手掛かりになる物がないかを探すこととなった。

 

 

 だがもしアポロノームの見た“夢”が、過去に経験した何かしらの記憶によるものだとするならば、かなり厄介なシロモノではないのか?という予想が出ていた。

 

 

 その“夢”に出ていた何者かが話している言葉の節々だが、虫食いの様にはなってはいるが雰囲気的に何と無く刺々しいのだ。

 

 特に人間、多分この世界の人間を見下しているというか蔑視しているかのような感じがしていた。

 

 

 もしかしたら知らないほうが良い内容なのでは?と考えなかった訳では無いが、もしかしたら自分達の今後の意思決定にも関わる事になるかもしれないから、出来れば知っておきたいというのが彼女達の総意である。

 

 

 またひょっとして墜落の際に投棄した航空艤装ユニットみたいに海に落とした物の中に紛れ込んでいないかという指摘が出て来て、ここの潜水艦部隊を預かる責任者の姫に視線が集まる。 

 

 

 麦粥を口一杯に頬張る、駆逐棲姫よりも小柄で幼い見た目をした、白いワンピース姿に白いロングヘアーから2本のアホ毛が飛び出している姫級、人類コード『潜水新棲姫』が首を横に振る。

 

 

「むぐむぐ。…ごくん。一応みんなと一緒に探し回ったけど、昨日引き揚げた残骸以外は妖精さん達しか見付けられなかったよ」

 

 

 そう話すとアンドロメダとアポロノームにこの後で引き渡しに行くと告げるが、同時にその殆んどが()()()()()()()()()と、遠回しにだが伝えられ、2人は目を伏せた。

 

 

 この時アンドロメダの頭の中で、ある考えが浮かんで来ていたが、そのタイミングで飛行場姫が何かを感知したようで、少し静かにするように告げて来たので後回しにした。

 

 

「…“円卓”の開催が決まったわ」

 

 

 そう言うとアンドロメダに向き合い、「あんたの扱いに関して各方面の代表達同士で話し合うことになったわ」と告げた。

 

 それによって緊張感が走るが、同時にその“円卓”なるものがどんなものなのかについて少し首を傾げる。

 

 

「ああ、例えるならば私達独自の技術というか、生まれ持った力によるオンライン会談みたいなものよ」

 

 

 そんな技術が有るんだと思う反面、どういった技術に即したものかとの好奇心が湧いた。

 

 

「お姉さんに関わる話なら、私も出たほうがいいですね」

 

 

「ええ、勿論お願いするわ」

 

 

 駆逐棲姫の提案に飛行場姫は同意した。

 

 

 そして開始の時刻はまた追って連絡するとした。

 

 

───────

 

 

 場所は再び変わって、ハンガー区画。

 

 

 アンドロメダがこれからの大まかな行動方針というか取り決めについてを、朝礼形式で妖精達に伝達していた。

 

 

 一つ、島に居る深海棲艦やその庇護下にある人間達とトラブルを起こさない。

 

 一つ、アポロノームの艤装の復旧とアンドロメダの艤装のメンテナンス。

 但し優先順位はアポロノームの艤装の復旧。

 

 一つ、アポロノームが受け取ったとされる“情報”の捜索と分析。

 

 一つ、半舷上陸の許可。

 

 

 

 おおよそこれがメインとなる。

 

 

 それらを告げて各々の作業に取り掛かる様に指示を出したことで解散としたが、ドクターと医療班だけは少し残る様に伝えた。

 

 

 そしてアンドロメダは朝食前に駆逐棲姫(お姉ちゃん)が話していた事、特に今後の自分達の行動や意思決定に深く関わるであろう人物の名前、“土方”という名前が出て来た事に関して、*4それについてアポロノームと共にその真偽の確かめと、より詳しく聞こうとしたのだが、そのタイミングでハンガーにやって来た者達がいた。

 

 

「お~い!」

 

 

 朝食時に会った潜水新棲姫が部下の潜水艦達を伴ってやって来た。

 

 体格的に小さい潜水新棲姫は別として、部下のヒト達はリヤカーを曳いていた。

 

 …そこに彼らは横たわっていた。

 

 何人かは無事だったみたいだが、事前に言われていた通りその殆がもう、二度と動くことのない姿となっていた。

 

 無事だった者達も、一見大丈夫そうではあるが、念の為と待機してもらっていたドクター達にケアを任せた。

 

 

 アポロノームは、動くことのない彼らの前で佇んでいた。

 

 艤装から回収された者達も含めると、既に100名以上が犠牲となっていた。

 

 それでもまだ行方の分からない者達が少なからずいる。

 

 その全員がこれで見付かった訳では無いが、それでもこうして見付かった事によかったと思うべきなのか、無事でいて欲しかったと落胆すべきなのか分からないと言った複雑な表情で彼らを見詰めていた。

 

 潜水新棲姫曰く、今も残骸の回収と並行して動員可能な水上部隊と共同で捜索を続けてはいるが、あまり芳しく無いと申し訳無さそうに告げた。

 

 海に流されて漂流している人間を見付けることですら大変なのだから、それよりも遥かに小さい妖精となると、いくら海での活動に優れた深海棲艦の水上部隊や、水中での活動が得意な潜水艦の個体であったとしても、その苦労が並大抵のモノでは無いということは、容易に想像が出来る。

 

 

 よく見ると彼女達の表情には疲労の色が見て取れた。

 

 

 アンドロメダはそんな彼女達に、せめてものお礼と労いの為にと、ここで滞在する間は毎日嗜好品を欠かさず提供することを約束し、今すぐ用意可能な菓子類を準備するから少し待っていてほしいと伝えた。

 

 この申し出に歓声が上がるのを横目にアンドロメダは早速準備に取り掛かったのだが、大まかな作業を終えてから主計科の妖精達に後を任せると、先程から一歩も動かずにずっと佇んだままのアポロノームの傍に寄った。

 

 既に心配そうにしている駆逐棲姫が寄り添ってくれていたが、アポロノームの表情は硬いままだった。

 

 

「アポロノーム…、彼らを、弔ってあげましょう…」

 

 

 アンドロメダが朝食の時に考えていたことはこれだった。

 

 生きている者が出来る事は、これくらいしか無い。

 

 でもやらないよりかは、気持ちの整理という意味でもやったほうが良いとの結論をアンドロメダは出していた。

 

 

「…すまねぇ姉貴」

 

 

 アポロノームは短くそう答えた。

 

 

 (はた)から見たら肯定とも否定とも取れない言葉だが、姉妹であるアンドロメダは経験からそれが肯定であると受け取った。

 

 

 とはいえ自分達だけで勝手に話を進めるわけには行かないため、取り敢えず駆逐棲姫に頼んで飛行場姫に話を繋いで貰うことにした。

 

 

「多分大丈夫だと思いますよ。島には確か共同墓地というのもあった筈ですし」

 

 

「うん。それに場所なら十分にあるから二つ返事で良い所を用意してくれると思うよ!」

 

 

 駆逐棲姫は特に心配はいらないと思うと告げ、潜水新棲姫も問題は無い筈だと付け加えるが、アンドロメダにはそんな2人や深海棲艦達には少し申し訳無いが、とある懸念があった。

 

 その懸念を伝えると、駆逐棲姫は「有り得なくは無いですね…」と難しい顔になりながら答える。

 

 

 一応この事は後程に飛行場姫と要相談という事で一旦保留とした。

 

 

 

「ん?」

 

 

 そんなこんなしていると、駆逐棲姫が何かに反応する。

 

 

「もうすぐ開始するからすぐに準備しろだって」

 

 

 そう言うと駆逐棲姫はアンドロメダにあるお願いをした。

 

 

「お姉さん、少しの間だけ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その言葉にアンドロメダは首を傾げる。

 

 体を預けるとはいったい?

 

 

「“これ”をやる時は意識を“跳ばす”ことになりますから、その間は体が一切動かせません。ですから誰かに体を頼まなければ駄目なんです」

 

 

 そう言うとアンドロメダに凭れ掛かる駆逐棲姫。

 

 そして「お願いしますね」とだけ言うと、まるで糸が切れた人形の様に、ガクリとして動かなくなり、本当に意識が無い為か、艤装を変形させた義足も消えてしまった。

 

 

 それによって駆逐棲姫(お姉ちゃん)がそのまま地面に落ち無い様にと、アンドロメダは慌ててその体を抱き支える。

 

 

 と、そこへアナライザーから通信が入り、その内容にアンドロメダは驚きの表情となった。

 

 

「コスモウェーブ…」

 

 

 アナライザー曰く、微弱ながらコスモウェーブらしきエネルギー波長を検出したとの報告だった。

 

 

 

 

───────

 

 

「集まったようね」

 

 

 何処かの島の様な、そしてそれは地球のどの場所とも該当しない南国風の島をイメージした空間。

 

 

 そこに丸い卓と椅子が列べられ、そこに各方面に散らばる姫達が座っていた。

 

 

 今回の会合を呼び掛けた飛行場姫はその一人一人を見渡すが、何人か足り無い事に気付いた。

 

 

「西大西洋担当の娘、確か今は休暇中で参加出来ると聞いていたのだけど?」

 

 

 その飛行場姫の問に、その方面と隣接するバミューダ海域とパナマ運河の港湾地区を制圧している姫級、人類コード『運河棲姫』が理由を話した。

 

 

「バカンス先のフロリダで、前からコンタクトを取っていた者と会えることが急に決まったらしい。一応時間があれば途中から参加すると聞いている」

 

 

「そう、なら仕方ないわね」

 

 

 そこへ北大西洋並びにヨーロッパ方面担当総代*5の姫である『欧州棲姫』が些かバツの悪そうな顔になりながら口を開いた。

 

 

「すまない、こちらの地中海担当の者は、その…、今シチリア島にいるのは確かなのだが、連絡がつかない…。配下の者に繋いでも、バカンス中は無理だとけんもほろろな対応をされた…」

 

 

 本当にすまないと頭を下げるが、こう言っては何だが地中海組はマイペースな者が多く、こういったことはしょっちゅうあったのでもう慣れてしまっていた。

 

 それでも生来の生真面目さからか、欧州棲姫は頻りに謝罪しながら頭を下げていた。*6

 

 

 まあ、それもいつもの光景といえば光景なので置いておくとして、今回は珍しい参加者が居た。

 

 

 飛行場姫の妹にして、北太平洋海域担当総代、人類コード『北方棲姫』である。

 

 いつもならば隣接する中部太平洋海域担当総代『中枢棲姫』が代理も兼ねて出ているのだが、それは何も彼女が見た目通り幼いからではなく、制圧下にあるアラスカ州フォックス諸島ウラナスカ島ダッチハーバー及びその周辺一帯の統治に忙しいというのが理由である。

 

 その幼い見た目に反し、北方棲姫はかなりやり手の統治者であるとされている。

 

 と言っても、制圧後に残っていた住民に対して、生活に必要なエネルギー*7の供給を行なうという条件と引き換えに、軍港地帯を使わせて欲しいと願い出ただけなのだが…。

 

 だが当時の住民達にとってはそれが何よりも重要なものだった。

 

 今のアメリカは極左政権が掲げる現実離れした環境政策の影響で、深刻なエネルギー不足を抱える州が幾つもあった。*8

 

 

 環境という大義名分、錦の御旗のもと、火山活動の活発化による火山の冬で寒冷化著しいにも関わらず、地球温暖化ガー!を叫び火力発電所を次から次へと閉鎖し、風力、太陽光発電などの代替エネルギーへの切り替えを推し進めたが、()()()()()()()

 

 そもそも代替エネルギーに関連するシステムの大半は海外から、特に中国、それも中華連邦以前の中華人民共和国時代からの輸入にほぼ依存していた。

 

 しかしその後なんやかんやあって関係が悪化し、*9その代わりとして南アメリカへとシフトしようとしたが、こちらはそもそも以前から不法移民問題やら何やらの外交や経済、選挙介入工作を始めとした内政干渉などの複雑な問題があった影響で反米感情を拗らせていたのだが、さらにまたなんやかんやあって余計に拗れに拗れて関係が更に悪化、いや、超険悪化して頓挫。

 

 国内生産も不法移民の大量流入による政府の国民の雇用を無視した、不法移民向けの強引な雇用政策*10が原因で製造業が大混乱に陥り、*11そこにエネルギー不足が重なって製品の質と量、納期の遅延やらなにやらで国内需要すら満たせない、最早カオスという言葉すら生温い有り様だった。*12

 

 

 これらの覆し様の無い現実を突き付けられても、極左リベラル政党は一顧だにしなかった。

 

 それどころかこれら全ての問題を保守派や保守支持派による陰謀論であると決め付け、弾圧に利用する始末。

 

 

 エネルギー不足は一切解消されることは無く、アメリカ中で停電が日常的に起こるようになった。

 

 

 それはアラスカ州にとって致命的な結果を齎した。

 

 

 冬季の厳寒期にも関わらず、停電の影響で暖房機具は使えず、それを補うための石油やガス、そして薪は事実上の配給制となっていたが、必要量を到底満たしておらず、相当数の凍死者が出る地獄と化していた。*13

 

 州外へ逃げ出そうにも、それすらエネルギー不足が足を引っ張った。

 

 そもそもダッチハーバーは海に囲まれた島である。

 

 深海棲艦が攻めて来たのに、大半の住民が逃げ出さなかったのはその為である。

 

 逃げ出せたのは極小数の極左リベラル支持派達だったのだが、彼等は配給だけでなく色々なもので()()()()優遇されており、逃げ出す事が出来た。

 

 さらには逃げ出す際に街の配給用備蓄物資の殆どを持ち去って行ったのだ。

 

 ダッチハーバーには海軍基地があるが、ここに駐留する部隊には艦娘が()()()()()()()()()()()()()

 

 何故ならばこの当時の北太平洋海域には、深海棲艦が出現した前例が無かったというのもあり、主力を含めた大半の戦力は東太平洋を担当する第3艦隊の司令部のあるカリフォルニア州サンディエゴとハワイを中心に集中配備されており、残りは他の西海岸主要基地に配備されていたというのもあるが、何よりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったからだ。

 

 警備艇や軽装備の装甲車やヘリはあっても、深海棲艦に太刀打ち出来るだけの火力を有する重装備は無かった。

 

 そして彼らの殆どもまた、大多数の住民を見捨てて逃げ出していた。*14

 

 基地内の備蓄倉庫から食料などの物資や燃料の類いを全て持ち出して…。

 

 

 いくらダッチハーバーがアラスカの中でも南に位置するとはいえ、冬の寒さは厳しい上に近年はそれがさらに酷くなっていた。*15

 

 

 そしてその冬は間近に迫っていた。

 

 

 残された住民は絶望の淵に立たされた。

 

 

 逃げ出す事に反発した数少ない兵士達にはどうすることも出来なかった。*16

 

 

 だからこそ、もうどうにでもなれとの自暴自棄に陥っていたという一面もあるが、住民達との協議の総意により、兵士達の最高位者が軍使となって、無条件降伏の受諾と打診のあった深海棲艦からのエネルギー供給に、藁をも縋る気持ちで縋り付いた。*17

 

 

 この事に当初深海棲艦達は困惑したが、責任者である北方棲姫の鶴の一声で、というか半ば強引に艤装を基地に接続して侵蝕し、直ぐ様エネルギー供給を開始したことでなし崩し的に支援が開始された。*18

 

 

 その後どうなったかというと、深海棲艦統治下の方が現政権下で久しく忘れていた人間らしい文化的な生活が出来るというパラドックスに、人間達は困惑を隠せなかった。

 

 彼女達は何かにつけて監視し、束縛ばかり押し付ける現政権と違い、束縛してこなかった。

 

 

 力を背景にして“自由”を奪おうとしなかった。

 

 

 そして何よりも、彼女達は“約束”を守った。

 

 

 街に温かな文明を象徴する(あか)りが戻った。

 

 

 いつ凍え死ぬともしれない、魂まで凍える極寒の冬に怯えていた日々が嘘の様だった。

 

 

 その後に奪還の為の陸軍などの部隊が派遣されて来たが、ほぼそっくりそのまま()()()()となった。

 

 

 以後ダッチハーバーに関する情報は連邦政府によって検閲の対象となり、地図からも抹消された。

 

 

 だが人の口に戸は立てられぬとの言葉がある通り、ダッチハーバーの噂を聞き付けてやって来る人間が絶えなかった。

 

 

 それらの対応に追われて毎日忙しい日々をおくっていたのだが、今回少し気になる事があったというので出て来たと言うのだ。

 

 

「今()()()()()が面倒を見てくれているレなんとかってきょーじゅが持ってたカバンの書類に、教えてくれた娘のマークとおんなじマークがあったよ!」

 

 

 

 

───────

 

 

 

 アメリカ合衆国フロリダ州マイアミビーチ

 

 

 アメリカ有数の観光地として人気を博し、賑わっていたこの地は、現在の政権になってからはかつての賑わいを失った。

 

 フロリダ州は保守政党が強い。そして『Make America Great Again』を掲げて戦った元大統領の遺志が根強く残る州の筆頭格でもある。

 

 それに対する嫌がらせもあるが、殆どの()()()()アメリカ国民にバカンスなどの娯楽を楽しむだけの余裕が無くなっていた。

 

 何よりフロリダ州そのものがメキシコ湾と大西洋に挟まれたフロリダ半島に存在する。

 

 それはつまり深海棲艦の脅威に常に晒されるという事である。

 

 その為にこの地の観光業は壊滅的な打撃を受けた。

 

 

 

 ───数年前までは。

 

 

 

 ある時から矢鱈金払いの良い色素が薄い女性の上客達が時には個人単位で、時には団体で訪れるようになった。

 

 

 無論、当初よりまさかな?という思いはあったが、接客などのサービス業の基本、暗黙のルールは相手に関して深く検索しない事である。

 

 

 とはいえ何故世間一般的には人類の敵であるとされている深海棲艦を相手に、商売などのサービスを提供しているかって?

 

 

 ちゃんとお駄賃さえ払って頂いて、*19何もトラブルさえ起こさないのであれば、どんなお方もお客様なのである。

 

 

 つまり資本主義万歳(細かい事を気にしてはいけないの)である。

 

 

 そして今、2人の姫級、『戦艦新棲姫』と『南方戦艦新棲姫』がバカンスを楽しんでいた。

 

 

 彼女達だけでなく、麾下の深海棲艦達がここから離れた場所で思い思いの余暇を満喫していた。

 

 

 普段は意見の対立から何かと衝突することもあり、2人をよく知らない同胞(はらから)達には犬猿の仲という印象を与えているが、実際はプライベートにおいてはお互いに好意を寄せ合っているかなりの仲良しであり、部下ぐるみでこうして休暇を楽しむ事も多い。

 

 因みにこの2人、ちゃっかりアメリカの市民権まで有していた。

 

 まぁこれも不法移民問題が関わっている。*20

 

 

「なあ、本当に来ると思うか?」

 

 

 パラソルを広げ、寝椅子に寝そべっていた戦艦新棲姫が横で雑誌を読みながら寝椅子に腰掛けジュースを飲んでいた南方戦艦新棲姫に声を掛けた。

 

 

「ロイが私達に嘘をついた試しがないでしょ?」

 

 

「それはそうだけどよ…」

 

 

 だが今回はただ休暇を楽しむためだけにここに来た訳ではなかった。

 

 いや、元々は休暇だけが目的だったのだが、少し前に“ある人物”から連絡があって、一部の予定を変更した。

 

 

 Roy(ロイ) D(デュノア) Bennett(ベネット)、フロリダ州州知事。

 

 隻眼隻腕の知事で、かつて『Make America Great Again』を掲げていた元大統領の後継者として最も大統領に近い男であったが、大統領選挙における予備選挙期間中の保守党討論会で起きた爆弾テロによって瀕死の重傷を負い、今の姿となった。

 

 この時意識不明となった影響で大統領選に出れなくなり、以後の大統領選への出馬も断念せざるを得なくなった。

 

 ただこのテロで自身を庇って亡くなった元大統領への弔いも兼ねて、その意志を引き継ぐことだけは諦めておらず、支持者からは『不屈の闘士』との異名を捧げられている。

 

 

 ひょんなことからこの人物と知り合い、そのツテというか、元々彼が後援していたということもあり、彼を介してコンタクトを取っていた“とある人物”と今回会うことなったのだが、まぁ実はを言うと、直接の面識は無いのだが、この2人とは少なからず“因縁”のある相手のために些か緊張していた。

 

 

 そして遂にその人物が1人のお付きを伴って現れた。そして────

 

 

「あんた、ただの上院議員じゃ」

 

 

「俺はスポーツマンだ」

 

 

「そこらの政治家とは鍛え方が違う」

 

 

「一緒にされちゃ困るな」

 

 

「俺がその気になれば」

 

 

「大統領だって」

 

 

「ぶっ飛ばせる!」

 

 

「「上院議員を」」

 

 

「「「舐めんじゃねぇ!!」」」

 

 

 それを合図に固い握手を交わす3人。

 

 一応今のは所謂合言葉の類いだったのだが、何かお互いに通ずるものを感じたようである。

 

 握手を交わし、互いに笑い合っているその姿に、かつての蟠りなどの“因縁”は少しも感じられなかった。

 

 ただお付きのヒトはそのノリに付いて行けずに軽く頭を振っていた。

 

 

「…上院議員、一応()()をお決めになりました時も申し上げましたが、そんなこと言ってるとまた連邦秩序維持局(秘密警察)のガキ共に目を付けられますよ?」

 

 

 連邦秩序維持局、通称FBI。現政権による秩序と治安維持を名目とした方針により権限と規模が拡大され、今や合衆国憲法や連邦法による法の支配すら受け付けないまでの一大権力組織へと肥大化した、極左の番犬組織である。

 

 

 その小言に対してその上院議員、次期大統領候補であるアイオワは笑いながら「今更気にしても仕方無いわ」と返してきたので、お付きのヒトは深い溜め息を吐いた。

 

 

 そんな苦労性なお付きに、2人の姫からの視線が集まる。

 

 

「紹介するわ。彼女は私のBrainで、最も信頼するパートナーの──」

 

 

護衛戦艦(Escort Battleship )ARIZONA(アリゾナ)です。海洋を統べる麗しき姫君方、以後お見知りおきを」

 

 

 全くの偶然だが、後の歴史に大きな影響を与えた会談がこの日、()()の場所でほぼ同時に行なわれていた。

 

 それが今後どのような影響を与えるかは、この時はまだ誰にも分からない。

 

 

 

*1
内1人は自称。

*2
アンドロメダが密かに撤収命令を出していた。

*3
本人はもう大丈夫だと言ったが、アンドロメダが頑なに譲らなかった。

*4
そもそもアンドロメダの当初の予定では、その土方が自身の世界に居た土方竜宙将と同一人物である可能性が高い為、それを確かめ出来れば彼の庇護を受けれないかという考えから、彼が今居る日本へと向かっていたという経緯がある。

*5
責任者、司令官に相当。

*6
因みに、この会合の形式を初めに“円卓”と呼称したのは彼女である。

*7
主に電力

*8
州によっては事実上の配給制が敷かれていたが、傾向としと極左思想を掲げる州や左派が実権を掌握している州に多い。

*9
終いには後年、核で文字通り吹き飛ばしてしまった。

*10
その煽りで大量の米国民と正規の合法移民が職を失った。

*11
そもそも技術を持った労働者を追い出し、技術を持たない不法移民を大量に入れたのだから混乱が生じないわけがない。

*12
これによる弊害が国防や海外でも深刻な問題を引き起こしていた。

*13
そして全滅した家庭の家屋から燃料となる物は、近隣住民によって根こそぎ剥ぎ取られる光景が最早日常の風景となっていた。

*14
基地司令と司令部要員はそれよりも先に逃げ出していた。

*15
ウラナスカの平気最低気温はマイナス2℃辺りだが、火山の冬による影響で過去の最低気温であるマイナス22℃クラスの猛烈な冷え込みが増えていた。

*16
この時に逃げ出した兵達と反対した兵達との間で諍いが起きて銃撃戦が発生。少なくない死傷者が出たが、数に劣る反対派が圧倒的に劣勢だった。

*17
この時点で深海棲艦も白旗の意味を認識していた。

*18
この時副艦(というかお目付け役)の深海棲艦は、上司の北方棲姫が内心で逃げ出した者達による住民達への余りにもな仕打ち対して激怒している事に気付き、感情的になって追撃命令を出さないように必死に宥め、怒りの捌け口として支援活動に集中させたという。因みに追撃したとしても追い付けなかったというのもある。

*19
チップもくれるとなお嬉しいし、より良いサービスを提供致します!

*20
現政権が大量流入に対処するためと言い出して、チェック体制を大幅に()()()させた。その恩恵のお陰で大量のテロリストや犯罪集団も自由に入り放題となった。そして深海棲艦によるパナマ侵攻が始まるとの噂から一時期激増した時期に、どさくさ紛れに潜り込んで申請して見事に市民権を得た。得てしまった。






 妖精達の弔いに関する物は『閑話7英雄の丘』となります。

 遂に登場!護衛戦艦アリゾナ!!そしてリュージーとは何寸胴何だ…っ!?レなんとかとは何処の首コキャ教授何だ…っ!?アポロノームの夢に出て来た者は、一応このヒトだけは正直に申し上げます。ガミラスのデスラー親衛隊長官、ハイドム・ギムレーの座乗艦である『ハイゼラード』級航宙戦艦『キルメナイム』です。

 行方不明となった米軍部隊は、まあ、ほぼ丸々脱柵しました。それらもあってダッチハーバーの人口密度はドエライことに…。


 …1話に詰め込み過ぎたと今は反省している。


 久々の愚痴コーナー!


 Twitterファイルの公開で面白いことになりそうですが、それを見て一言。

 今までTwitterに対する疑惑を陰謀論だ何だと嘲笑っていた人達、何か言うことあるでしょ?

 まぁあの手の連中は前の世界大戦での愛国なんとか団体みたいに、すぐ掌ひっくり返す様な連中と同じ臭いがしますから、厚顔無恥甚だしいでしょうから、期待は一切してませんけどね。歴史は繰り返す。

 てか20年のあの“()()()”な選挙前後から陰謀論とされてたもの、殆どが現実化している事を鑑みると、連中に対してある可能性について疑っちゃうけどね。


 


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第33話 Round Table

 円卓


 新年初投稿。気合を入れて行こう。


 今回深海棲艦の姫様達の視点から見たアンドロメダについての話がメインとなりますので、少し「ん?」と思う所があると思います

 それと後半と後書きにとあるワインに関して書きましたが、にわか知識ですので間違っているかもしれません。



 

 

「一旦そのことは棚上げにしましょう」

 

 

 飛行場姫の妹である北方棲姫が齎してくれた情報は、興味深いがどうもその(くだん)の“教授”とやらは凍傷などの影響で消耗が酷く、まだマトモに会話を行なう事が出来無いらしい。

 

 今は北方棲姫が懐いている居候の“リュージー”なる者と麾下にいる手の者たちが面倒を見ているらしいから、詳しいことはその“教授”が回復してからだろう。

 

 

「取り敢えず、その教授って人間の面相をアタシに“()()”して」

 

 

「わかった!」

 

 

 姉からの頼みに北方棲姫は快諾して目を閉じると、時を移さず飛行場姫の頭の中に映像が流れて来る。

 

 教授という肩書きから想像していた通り、学者らしい細身の体躯に細長い顔をしており、それ以外に(ふち)の太い眼鏡、天然パーマのかかった焦げ茶色の髪をしている中年男性の顔が脳裏に浮かぶ。

 

 恐らく本人確認書類か何かに添付されている写真を見た“記憶”を送って来たのだろう。

 

 

 これはこの“空間”においてのみ可能となる、彼女達が“伝達”や“記憶の共有”と呼んでいる技術である。

 

 一度見た、聞いた様々な“事象”をこの空間の中にいる他の者達と“共有”することが出来る。

 

 その際に必要なのは、その“事象”を“伝えたい”という“気持ち”と、受け取る側がそれを了承するかどうかというだけである。

 

 最大の利点は例えばそれが紙媒体に換算して数千ページ、いや数万ページに及ぶ情報だったとしても、一瞬で、どれ程の人数であったとしても伝え切る事が出来る事と、それに附随する映像や画像に音声といった物がどれ程膨大な情報量であろうとも、“伝えたい”と願えば上限無く同時に伝え切ることが可能な事である。

 

 欠点は、伝えたいとの“思い”が()()()()場合は伝わらないし、伝えようとした情報の一部を()()()()()()()()()ら、その一部だけが伝わらないという事態が起きる。という物である。

 

 それを証明するかのように、今回北方棲姫が飛行場姫に送った教授のデータに氏名などは添付されていなかった。

 

 飛行場姫が求めた物が“面相”であったため、その辺りは北方棲姫が「まぁいいか」と判断して“伝え”なかった。

 

 まあそもそも深海棲艦という種族には多少の個体差はあるが、各々の固有名詞への(こだわ)りという概念が希薄であり、やや無頓着な一面があるため、特に気にしてはいなかった。

 

 

 更には同一個体に2人以上から同時に送られたら所謂混線状態となり、受け取りに失敗する。

 

 また情報を送っている最中は受け取りが出来無い状態になる。

 

 とはいえ、殆ど一瞬でのやり取りの為、重なることは極々稀なケースであり、そこまで気にされていない。

 

 

 

 取り敢えず“教授”の話はこれで終わりとなり、本題のアンドロメダに関しての議題へと移り変わる。

 

 

「先ずは今アタシ達が持っている“あの娘”に関する情報の共有を行なうわ」

 

 

 今この場には飛行場姫が特に指名して、アンドロメダとの接点がある、ファーストコンタクトの戦艦棲姫、実際に戦った南方棲戦姫と空母棲姫、そしてアンドロメダから姉と慕われ懐かれている駆逐棲姫が集っている。

 

 本来ならばここに泊地棲姫も出たがっていたが、流石にマリアナのトップ2人が一時的とはいえ同時に不在となるわけにはいかず、飛行場姫が言伝を預かって来ていた。

 

 

 それらを次々と開示していくが、矢張りと言うべきか最初に注目されたのは、その圧倒的という言葉だけでは言い表わし切れない程に隔絶された、戦争の形態そのものの違いがまざまざと見せ付けられるほどの、技術力と軍事力の差から来る戦闘能力の違いだった。

 

 

 マトモな抵抗すら出来ずに一方的に蹂躙される同胞(はらから)達。

 

 

 それを見ているだけしか出来ず、また直接砲火を交えた際に感じた、ありのままの恐怖と焦りの感情も伝わって来る。

 

 

 勝負にすらならない。

 

 

 それが今初めてアンドロメダの()()()()情報に接した彼女達の率直な感想だった。

 

 

「バケモノ…」

 

 

 誰かがそう漏らしたが、誰もそのことを責めれない、と思った途端、途轍も無い怒気と殺気がこの空間を満たした。

 

 

 普段はにこやかで、怒ることなど滅多にしない温厚な駆逐棲姫が、同胞(はらから)だろうと関係無いと言わんばかりに、今にも殴り掛からん程の激情を露わにしていた。

 

 

 この中の誰よりもアンドロメダとの付き合いが最も長く、その心に触れ、尚且つ自身の事をお姉ちゃんと呼んで心を開いてくれた事が嬉しくて堪らなかった彼女にとって、今の言葉は例え仲間である同胞(はらから)であったとしても聞き捨てならなかった。

 

 だからこそ、彼女は大切な妹分たるアンドロメダの名誉と尊厳を守る為に、普段のアンドロメダ(妹分)のナチュラルな姿を彼女達にこれでもかと“伝え”た。

 

 

 それは先の力でねじ伏せるかの如き、情け容赦の無い戦い方からは到底想像出来無い、控え目で温厚な大人しさと、「お姉ちゃん」と呼びながら同胞(はらから)である駆逐棲姫と楽しそうにじゃれ合う姿だった。

 

 

 そのあまりの落差の激しさに、当初は困惑を隠せなかったが、「あんた達、艦娘連中と戦ってる時どうよ?」との飛行場姫からの呆れ混じりのツッコミを受けた事で、羞恥から顔を赤らめた。

 

 特に普段は読書に浸り込んだりと物静かなのに、戦闘となると途端に喧しく叫び出す重巡洋艦クラスの姫がそっぽを向いた。

 

 余談だが、普段の姿しか知らない者が重巡の姫と共に戦場に出ると、艦娘からの攻撃で負傷しなくとも、そのあまりにも喧しい大音声によって100%の確率で耳の鼓膜が大破するというジンクスが存在する。

 

 

 まあ兎も角、強大な“力”に目を奪われて恐怖し、そのヒトとなりを一切考えなかったと反省し、戒める事とし、不快な思いをさせてしまった同胞(はらから)である駆逐棲姫に謝罪した。

 

 

 その謝罪を受けて駆逐棲姫は怒りの矛を収めたが、アンドロメダ(妹分)同胞(はらから)達から受け入れられるかどうかは、お姉ちゃんである自分の双肩に、頑張りに掛かっているとして気合を入れ直した。

 

 

 とはいえ今までに前例が無い存在に、どう判断すべきであるのか決め倦ねているのが大きい。

 

 特に別の世界からの異邦人、しかも星の海を()き、星々を渡る(ふね)という、彼女達の理解の範疇から逸脱し過ぎていて頭が付いて行けていなかった。

 

 だがそれを抜きにした、アンドロメダという名の少女の“個”としての存在に関しては別である。

 

 駆逐棲姫だけでなく、飛行場姫もアンドロメダの事を信用に足る存在であるとし、南方棲戦姫や空母棲姫にも蟠りが無いこと、何よりもアンドロメダが元気そうにしていることに安堵している戦艦棲姫や南方棲戦姫を見たら、下手に警戒し過ぎるのも考えものという気持ちに落ち着く。

 

 ただ問題は、当の彼女、アンドロメダが今後どうしたいか?という所へと集約されていく。

 

 

 ファーストコンタクトを成し、初めて言葉を交わした戦艦棲姫から、アンドロメダが人類の領域である日本へと向かう意志を示していた事、その理由が自身の生存の為にやむを得ない判断であった事を告げられ、飛行場姫は口を噤む。

 

 飛行場姫としてもアンドロメダは面白い娘であると思っているが、同時に彼女のこれからを思うとかなり複雑である。

 

 

 何故ならば彼女だけならば何とかなるかもしれないが、今は彼女の妹であるアポロノームがいる。

 

 

 問題はそのアポロノームの艤装だ。

 

 

 彼女の艤装は一部の機能はまだ生きているとはいえ、艤装としてはほぼ大破し、動くこともままならない。

 

 艤装は自身の半身であるという認識は、深海棲艦と艦娘共に共通の認識であり、艤装の損傷は怪我と同じであるとの認識も一致している。

 

 つまり彼女の艤装を壊れたままにしておくというのは、怪我をそのまま放置しているのと同義であり、見ていて痛ましくて仕方ないのだ。

 

 

 しかし自分達の技術の総力を持ってしても、修理が出来ないのは自明の理である。

 

 

 もしこの世界に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どうにかなるかもしれないが、そんな物までこっちの世界に来ているなんて上手い話は無いのはわかり切っている。

 

 

 取り敢えず、それらの事を伝えた上で、今後どうするかは決めかねている事を飛行場姫は正直に話した。

 

 

 事前にアポロノームの存在を知っていた者は別として、その事を今知った者達は頭を抱えた。

 

 

 そしてさらなる問題として、駆逐棲姫は2人と同じ世界から来ている可能性がある土方なる人間の存在を話したことで、事態はよりややこしくなった。

 

 

「待って、その土方ってお方は、もしかして“()()()()”という殿方なのではなくて?」

 

 

「姉様もそう思いますか?」

 

 

 2人で1つの個体という、めずらしい姫級姉妹の海峡夜棲姫が口を開いた。

 

 彼女達は現在フィリピン方面に展開し、日本近海での作戦行動を行なっている部隊の総代であり、ある程度は日本側の情報に通じていた。

 

 

 土方、そしてそのバックにいる真志妻という名の女性の軍人は、彼女達にとって無視出来ない存在だった。

 

 この2人が表舞台に出て来てからというもの、今まで部隊間の連携もへったくれもない、雑多な軍勢でしかなかった日本の艦娘は、れっきとした軍隊として機能するようになり、一気に手強くなった。

 

 

 元々は艦娘達の通信を傍受した際に、ツンケンとした声の駆逐艦とおぼしき娘による「あの鬼!私達にも容赦無いんだから!」という、恐らくは悪口(?)を聞いたのが最初であるが、その後の通信傍受でも次第に「鬼」と「土方」という単語が増えた事で、同一人物であると判断して「鬼の土方」と呼ぶようになったのだが、その鬼はこちら側にとっても十分“鬼”だった。

 

 

 ここぞというタイミングで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を投入して来ては、こちらの部隊の中核をなす戦艦や空母だけでなく、姫級やその下位互換である鬼級、果ては最上位の水鬼級であろうと関係無く、その悉くを蹴散らして行くのだ。

 

 だが、何よりも恐ろしいのが、その部隊は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それがその部隊の交戦規定(方針)なのか、此方を舐めているのか、或いは全くの偶然か、少なくとも最後のは有り得ないだろうが、その真意が掴め無いがために、不気味だった。

 

 

 だが幸いなことに、その姿を確認したのはもっぱら日本本土近海周辺だけであり、日本から離れた遠洋での作戦行動部隊では姿を見せて来ていない。

 

 何度か沖縄戦線でカマかけをして、その部隊が出張って来ないかを確かめたが、一度もその姿は確認されなかった。

 

 

 そのため日本本土近海での積極的な行動は控えさせて、消耗を強いる作戦に切り替えたのだが、最近は長引く戦いに同胞(はらから)達の間で次第に嫌気が指してきていて、厭戦気分が徐々にだが広がって来ていた。

 

 海峡夜棲姫やその副艦である姫もなんとか立て直しを図ってはいるが、当の本人達でさえ互いの相方と静かに仲睦まじく過ごしたいとの願望が日増しに強くなってきており、少しずつ士気が崩壊しつつあった。

 

 

 しかし日本という国はこの戦争において、明らかに身の丈に合わない軍事行動を矢鱈と強行していたという事例から、何を仕出かすか分からないといった恐怖があったため、同胞(はらから)にとって生存のために不可欠な食料供給の最重要地域である、インドネシアへと踏み込ませない様にとの、日本を抑える絶対防衛ラインの(かなめ)たるフィリピンだけは、絶対に放棄出来なかった。

 

 その為に、西太平洋に展開する同胞(はらから)にある程度のルーティンで配置転換を行なって、休養期間を設けたりとの対策を打ったりしている。

 

 

 何を隠そう、空母棲姫と南方棲戦姫が率いて来ていたマリアナへの増援部隊は到着後に同地の駐留戦力の一部として、そしてマリアナの駐留戦力の一部がフィリピンに展開する部隊の交代戦力となるはずだった。

 

 

 だがそれも、アンドロメダとの戦闘によって、ルーティンに少なくない影響が出ていた。

 

 

 増援部隊の主力艦たる空母や戦艦は完全損失こそ皆無ではあるが、戦力としては損失状態であり、マリアナに到着後暫しの修理期間が必要である。

 

 その間はマリアナから出発する予定だったフィリピンへの増援部隊も下手に動かせない。

 

 

 つまりその間、フィリピンは消耗し、士気の低下している現有戦力で遣り繰りするしかないのである。

 

 

 万が一、その間にアンドロメダがその土方と合流し、人類側の尖兵となってしまった場合、本土近海は“盾”となる駆逐艦部隊が守り、遠洋作戦の“矛”としてのアンドロメダが攻撃の嚆矢となって攻勢に出られたとしたならば、戦線を食い破られるどころか、こちらが手出し出来ない遥か上空から文字通り一足飛びに飛び越して、戦線を無視して一気に中核本隊を消し去りに来る可能性が大いに有り得るのではないか?という懸念を海峡夜棲姫は示した。

 

 

 確かにその懸念は否定し切れないし、十分に有り得るだけの説得力があった。

 

 というか、たとえ戦力が十分に揃っていたとしても、結果は変わらないだろうが…、とはいえ残存戦力を結集して、後から来る艦娘の制圧部隊への抵抗ならばなんとかなる可能性はあるだろう。

 

 

 ただ同時にアンドロメダと直接言葉を交わした者達にはその懸念に、アンドロメダが人類の手先となる可能性については、やや懐疑的な見解だった。

 

 

 アンドロメダはこの世界の人類の事を独自に調べていたようで、その一環でこちらが長年知りたかったマリアナでの事件に関する謎の答え、まだ一部は不明のままではあるものの、予想外の収穫とも言える情報まで齎してくれた。

 

 その際、アンドロメダはそれまでの温厚で落ち着いた優しい雰囲気からは想像出来ない程の、とても冷たくて侮蔑しているとも取れる様な態度と声音で、淡々と語っただけで無く、この世界の人間のことを声を荒げて「野蛮人」と罵り、自らの拳を机に叩き付けながら断じた。

 

 そのある種の暴言とも取れる物言いに、その場に居合わせた者達は少なからず衝撃を受けた。

 

 

 そのことに関して、泊地棲姫が興味深い事を話していた。

 

 

「彼女は、少し子供の様な一面が見られます」

 

「私の子供達も、時折そういった態度をとる時があるのですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()時があります」

 

「彼女にとって、この世界の人間はあまり好ましく無い存在と捉えているのではないでしょうか?」

 

 

 子供の様な、という泊地棲姫の見解に関しては、飛行場姫もなんとなくだったが感じていた事だった。

 

 

 駆逐棲姫とじゃれ合う姿が、なんとなく泊地棲姫に甘えている時の子供達の姿と重なって見えたのだ。

 

 これはあくまで飛行場姫の推測だが、アンドロメダはその見た目に反して心の内面に、幼い部分があるのだろうと見ている。

 

 だからふとした瞬間に、その心の内面が出てしまうのだろう。

 

 

 割り切っている様で、実は割り切れていない。

 

 

 案外好き嫌いが激しくハッキリしている。

 

 

 それらは恐らく、彼女の出自や生前(?)の経験などが深く関わっているのだろう。

 

 

 ひょっとして、この世界の人間は彼女にとって許容出来ない程の許し難い“地雷”を踏んでしまっていたのではないのだろうか?

 

 そう考えると案外なんとかなるのではないだろうか?と楽観的な考えも浮かんでくるのだ。

 

 

 無論それはこちら側にとって都合のよい解釈でしかないが、可能性はゼロではない。

 

 

 とはいえ、今の所はアンドロメダとの敵対関係化だけは避けたいという意見が優勢であるように飛行場姫は思えた。

 

 

 以前に占領したアメリカのハワイオワフ島の基地への回航案が出たが、残念ながら基地施設はアメリカ軍が放棄した際に完全破壊された影響と、定期的にアメリカ本土から長駆飛来する大型爆撃機による定期便によって、侵蝕による施設の修復も遅々として進んでいない状態であると、現地を担当する中枢棲姫から報告されて断念。

 

 

 中にはいっそ何処かの基地なり拠点を襲撃して占領しないか?という些か過激ではあるが、ある種の的を得た意見も出て来たが、最寄りにあるマトモな設備は日本本土にしか無い。

 

 日本本土には例の駆逐艦の部隊が手ぐすねを引いて待ち受けているため現実的ではない。

 

 

 些か距離は遠いが、ヨーロッパ方面はどうか?との意見も出たが、()の悪いことに太平洋とヨーロッパの間にあるインド洋は現在サイクロンのシーズンであり、自走航行能力を損失しているアポロノームが曳航中に転覆、沈没してしまう危険性が高かった。

 

 

 正直、八方塞がりであった。

 

 

 ここでふと、南方棲戦姫がある“噂話”を思い出した。

 

 

「そういえば、前々から噂があった艦娘の艤装を私達と同じに出来るかもってヤツ、あれどうなったの?」

 

 

 その南方棲戦姫からの問い掛けに、皆が顔を見合わせる。

 

 確かにそういった“噂”があったことは、聞き及んでいる。

 

 だが誰もその詳細は知らないままだった。

 

 

「そのことなのだが…」

 

 

 欧州棲姫がおずおずとだが、何か意を決したかのように、口を開いた。

 

 

「その噂は、ほぼ事実だ」

 

 

 この欧州棲姫のカミングアウトに場は騒然となるが、同時に何故そのことを知っているのか?との疑問の視線が欧州棲姫に集中する。

 

 

「今ここには来ていない地中海担当総代が、以前に私のもとへイタリア海軍所属の艦娘だったとされる者を紹介してくれた事が切っ掛けだ」

 

 

 もしかしたら突破口になり得るかもしれない思わぬ情報に、にわかに期待に満ちた歓喜の声が上がるが、欧州棲姫は心底申し訳ないといった苦しい表情を浮かべていた。

 

 

「皆の期待を裏切る様で、本当にすまないが、詳しいことは私の口からは、言えない。彼女に、口止めされている」

 

 

 落胆の空気が広がるのを肌で感じながらも、欧州棲姫は苦汁に満ちた表情で語り続ける。

 

 

「だがこれだけは言わせてくれ」

 

「知れば、後悔するだけでは済まない程の…、反吐が出る様な胸くその悪い、話なんだ…」

 

 

 そう語る欧州棲姫の顔は、抑えきれない憤怒でその美しい容貌が醜く歪んでいた。

 

 

 一体何があったのだ?との疑問が湧き上がるが、必死に自身の怒りを抑えようとしている欧州棲姫の姿を見たら、その気持ちも急激に薄れていった。

 

 

 なんとも言えない重い空気が流れる中、この空間に新たな参加者が現われた。

 

 

「まだ続いているかっ!?」

 

 

 現れたのは、フロリダでバカンス中の戦艦新棲姫だった。

 

 その表情はなにやら慌てているような感じであったが、場の空気がとてつもなく重い事に困惑した表情となった。

 

 

「誰かと会っていたと聞いてたけど、何かあったの?」

 

 

 今回の会合の発起人でもあり、司会の立場にある飛行場姫が尋ねると、戦艦新棲姫がそうだったと漏らしながら飛行場姫に“ある事”を確認した。

 

 

「今回の議題の対象になってるヤツ!確かアンドロメダとか言う名前だったよなっ!?」

 

 

 その質問に、飛行場姫は首肯して間違いないことを示した。

 

 

「今会っているヤツのお付きなんだがよ、ソイツがアンドロメダってヤツの事を知ってたんだ!!」

 

 

 

 円卓は、今迄に無いくらいの混沌とした状況へと陥って行く。

 

 

 

 

───────

 

 

 地中海シチリア島。

 

 

 海が一望できるとあるカフェテラスに、そのグループはいた。

 

 

「本当に良かったのか?別にわしのことは気を使わなくてよかったんだぞ?」

 

 

 頭に羊や山羊のツノのような物を生やした小柄な深海棲艦、“地中海弩級水鬼”が、周りにいる姫級達に語り掛ける。

 

 

「何言ってるの?貴女の仲間と久しぶりに会うのでしょう?私達も会っておく事に損は無いわ」

 

 

「ここシチリア島は一応()()()()()であるとの()()()()があるとはいえ、万が一がありますから」

 

 

 地中海弩級水鬼は「そうか」とだけ返すと、ウェイトレスがやって来て、テーブルに注文していたワインが注がれたショットグラスを置いていった。

 

 

 スイートベルモット。

 

 

 数十種類のハーブや香辛料を絶妙なバランスで配合したイタリアのフレーバードワインである。

 

 主にカクテルとして使用されるが、彼女はこれをロックで嗜むのが好みであった。

 

 このワインは元々、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()思い出のあるワインであり、その時からの大のお気に入りだった。

 

 

 だが()()()()姿()()()()()()()は、なかなか飲むことが出来ずにいた。

 

 

 今はもう戻れない、思い出の場所の風景を頭に思い描きながら、その風味を楽しもうとしたのだが、口に含んだ際に何かが違うとの違和感を覚え、わずかに眉根を寄せた。

 

 

「そのお姿になられましても、デュゴミエ閣下との思い出は大切になされているようで、安心致しました」

 

 

 先程のウェイトレスがいつの間にか戻って来てそう声を掛けてきた。

 

 地中海弩級水鬼が顔を上げて、そのウェイトレスの顔を見ると、癖のある焦げ茶色のパッツンボブカットに、()()()()()()()()()()()()()()ていても分かるくらいに()()()()()()()()()()()ウェイトレス姿の女性がワインボトルを携えながら佇んでいた。

 

 

 その目はサングラスによって見えないが、まるで威圧するかのように眉根を寄せているその形相に、周りに控えている姫達はやや気圧されそうになりながらも、地中海弩級水鬼を庇う様に動こうとしたが、当の地中海弩級水鬼に手で制され、後ろに下がった。

 

 

「…あのお方へのわしの“思い”は、今も変わらないさ」

 

 

 まだ自分が()()()()()()()にその心に抱いていた“暖かな思い出”は、今でもその心に息づいている。

 

 

「貴女と閣下との仲は…、我がイタリアにとって明るい未来の…、希望の象徴でした…」

 

 

 次第にウェイトレスのその声が震え出して来ているのが聞き取れた。

 

 

「だが最近のイタリアは、いやヨーロッパは、このワインの質の様に、落ちるばかりだな…」

 

 一口飲んで、気付いた。あの時、デュゴミエ様と初めて飲んだ時に比べて、風味も香りも確実に落ちていた。

 

「それが、わしは悲しい…。何故ニンゲン共は、先祖が積み重ねて来た“伝統”と“文化”に“風習”、そして“歴史”を大切にしないのか…」

 

 

 嘆くかの様に言葉を紡ぐが、その心の底にはかつてニンゲン達が()()()()()()()()()()()()()()()()()が、だが何よりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が激しく渦巻いていた。

 

 

 ウェイトレス姿の女性がサングラスを取り、顔が露わとなったが、その瞳には、今にも流れ落ちそうな程の涙を湛えていた。

 

 

 その顔を見た地中海弩級水鬼は懐かしさに目を細め、微笑みを浮かべた。

 

 

「久しぶりだな、ローマ」

 

 

 かつての仲間、イタリア海軍所属の戦艦艦娘の名を呼ぶと、ウェイトレスに扮していたローマの涙腺は決壊した。

 

 

「お元気そうで、何よりです…。“賢人(サージュ)”…、()()()()()()()()()()()…!」

 

 

 

 後に西ヨーロッパを混乱の坩堝へと落とした、“地中海事件”と呼ばれるEU委員会とEU軍が必死になって揉み消しを謀ろうとした一大事件が起きる、数ヶ月前の出来事であった。

 






 闇の扶桑型こと海峡夜棲姫の2人にはとある寂しい考察がありますが、私としましては仲睦まじく2人で慎ましくも幸せな戦後を過ごして貰いたいとの思いから、れっきとした二人一組の深海棲艦としました。因みに海峡夜棲姫の副艦は迷子、もとい防空埋護姫ですが、ちゃっかり防空埋護冬姫もいます。(その意味がわかりますな?)


 コンテ・ディ・カブールは過去に起きたとある事件が原因で深海棲艦地中海弩級水鬼と化してしまい、イタリアから出奔しました。そのことが凝りとなり、今でも愛している1人の人間(故人)を除いて、ニンゲンに対して強い負の感情を抱いてしまっています。

 それ以前の彼女はイタリア海軍艦娘部隊におけるエースでした。


 一応本作では艦娘轟沈→深海棲艦化やその逆といった現象は起きない設定を採用しておりますが、人為的な方法によって深海棲艦化が起きる事態は起き得る設定です。
 詳しいことはまたいずれ。


 因みに何故か私の中で艦娘ローマの絵柄が長谷川哲也氏の漫画、ナポレオンに出てくるキャラ(特にロベスピエールとグラサンナポレオン)風に脳内自動変換されてしまう不思議現象が発生しており、本編でのサングラス+眉間に縦皺という感じに…。

 


捕捉解説


 スイートベルモット

 ベルモットと呼ばれる白ワインをベースにニガヨモギやコリアンダーなどの数十種類のハーブや香辛料をブレンドして作られるフレーバードワインである。

 香草の香りが食欲増進になるとして、食前酒としても親しまれる。

 特徴として、ハーブや香辛料の風味が強い“ロッソ”とハーブや香辛料の風味が抑えめで甘口の白ワイン感覚で味わえる“ビアンコ”の2種類がある。
 ロッソは赤みがかっている。

 カクテルとの相性も良く、『カクテルの王様』と呼ばれる“マティーニ”はもともとスイートベルモットを使っていた。

 またスイートベルモットはフレーバードワインであるため、そのままストレートで飲む事もオススメであるし、ロックや、ソーダ割りも悪くない。

 また料理に利用することも出来る。


デュゴミエ(故人)

 イタリア海軍にてコンテ・ディ・カブール(以後カブール)やローマなどのイタリア艦娘部隊を指揮していたフランス系イタリア人の老将。最終階級は少将(生前は准将)。

 元々はそこそこ高齢の予備役だったが、他に適当な人手がいないからと現役に復帰。

 やや短気な性格だったが艦娘との仲は良好で、アドリア海を中心に活躍し、国内だけでなくEU内でも人気のある人物だったが、本人がEU懐疑派だったということもあり、EU上層部からは疎まれていた。

 カブールにスイートベルモットを勧めた張本人であり、自身もベルモットを愛飲していた。

 地中海弩級水鬼ことカブールは今も彼のことを愛し続けているが、カブールがイタリア軍に在籍していた最後の年に()()が原因で死亡している。


新年一発目の愚痴コーナー!

 おい共和党下院議員!お前ら漸く好き放題好き勝手アメリカや世界を滅茶苦茶にしてきた民主党に殴り返せれる絶好のチャンスなのに、何下院議長決めるのにゴタゴタしてんだよ!?
 漸く民主党の暴走に歯止めがかかると期待してたんだぞ!
 確かに今の共和党下院リーダーの腰抜けケビン・マッカーシーは頼りないし、民主党にいいように弄ばれていたという前科はあるのは事実だけどよ、共和党が割れて喜ぶのは民主党だろうが!



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

 次回は再びフロリダへ。


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第34話 AMERICAN DREAM?

 アメリカンドリーム?

 戦艦新棲姫と南方戦艦新棲姫達がアメリカへとやって来た時のお話。

 だがこれは果たしてアメリカンドリームとなるのだろうか?

 序でに以前にちらりと語った土方司令と“総提督”真志妻大将の身元の偽装手段も記載。

 微妙にここ2年間のアメリカ南部国境問題や時事ネタをベースに捩って放り込みました。

 そしたら長くなりすぎましたのでちょいと分け、タイトルも急遽変更しました。


 なるべく早くアンドロメダとArizona(アリゾナ)は顔合わせしときたい。

 お気付きかと思いますが、一応先にご説明申し上げます。本作に出てきておりますArizona(アリゾナ)はリメイクヤマトの世界線からでは無く、旧作ヤマトの世界線から来ましたので、知識に相違がございます。


 

 

 護衛戦艦という今までに確認されていなかった艦種の存在に、2人の深海棲艦の姫は首を傾げるが、「まぁ少々(ワケ)アリでしてね」と人差し指を唇の前で立てる“他言無用“を意味するジェスチャーをしながら語り、「表向きはAisha(アイシャ) Bernstein(バーンスタイン)で通しています」と、自らをArizona(アリゾナ)と名乗った、隣に立つラフな格好のIowa(アイオワ)と違い、日よけのサングラスを掛け、やや男性風の出で立ちで所謂男装の麗人という言葉が似合いそうな女性がそう告げた。

 

 よく見るとこの2人は何と無く似たような顔立ちだなと思いながらも、こちらもあちらも双方隠し事の一つや二つをその腹に抱えている事を暗に告げているのだと解釈した。

 

 だがそれと同時に、自身を護衛が専門の艦娘であると示すことで、万が一の備えはしており、可怪しなマネはしないでネ?との釘刺しであるとも理解した。

 

 無論、こちらにも()()()立ち場があるため、そんな腹積もりは毛頭ないが。

 

 

 

「今更だけどよ、本当に私達と会って大丈夫なのか?」

 

 

 確かに今更である。

 

 何も知らない者が見たら、ビーチテーブルを囲って飲み物を飲みながら美女4人が談笑に興じているとしか見えない光景だが、一応は不倶戴天の敵という間柄であり、本来ならば有り得ない光景なのだ。

 

 そしてIowa(アイオワ)は今話題の上院議員であり、その所属は現政権と対立する党派から、次期大統領候補として出馬を表明している立場である。

 

 またただでさえ新ロシア連邦(NRF)海軍高官*1との交際疑惑から、“元大統領に続き、新たなロシア疑惑”と騒がれている真っ最中であるのだから、下手に対立勢力の耳にでも入ったら新たなスキャンダルのネタにされかねない。

 

 

 しかしそれには一つの()()()()()()()があった。

 

 

「あら?貴女達は()()()()れっきとしたアメリカ合衆国市民で、フロリダ州に在住するAqua(アクア) Marine(マリン)さんとCoral(コーラル) Leaf(リーフ)さんでしょ?」

 

「合衆国市民の代弁者たる上院議員が、市民の声に耳を傾ける事がいけないことなのかしら?」

 

 

 そう、この2人、Aqua Marine(戦艦新棲姫)Coral Leaf(南方戦艦新棲姫)は一応合法的に連邦市民権を取得した、れっきとした合衆国の人間とされている。

 

 

「正確には深海棲艦による侵攻を受けた元パナマ共和国の出身であることを自称し、証明する書類などは戦災と逃避行の最中に紛失とのこと」

 

 

 Arizona(アリゾナ)ことAisha(アイシャ)が2人の大まかな経歴と、当時の情勢を語る。

 

 

「前任の頭がボケた大統領(クソジジイ)の就任後に起きた、アフガニスタン敗戦による大敗走時に受け入れた難民の中に多数の反米テロリスト、しかも複数の要警戒対象者まで紛れ込んでいたのにその殆どを見逃して入国させてしまったという前例から、また中南米での反米グループが勢力を拡大させ、活動を活発化しているとの事前情報もあったため、当初南部国境各州は入国に慎重な対応で挑んでいましたが、考え無しの頭のイカれた(Crazy)大統領(クソババア)と揃いも揃って無能な働き者の連邦政府(集合住宅)のバカ共が、移民と難民に関する事は連邦政府の専権事項であるとの法的根拠と、人道的配慮という建前を盾に、入管によるチェック体制を馬鹿みたいに“笊”どころか“枠”にした時期に()()()()()()()()アメリカの土を踏んだようですね」

 

 

 所々に刺々しい単語が目立つが、誰も気にしないし、姫2人も苦笑いを浮かべるだけだった。

 

 

 この2人は当時に運河棲姫が率いるパナマ運河侵攻部隊による攻撃を横目に見ながらひっそりと上陸し、同行した他の同胞(はらから)達と共に逃げ惑う民衆の中に紛れ込み、*2()()()()()()()()()()()を担いで国境を目指した。

 

 そして政権交代の悪影響で未完成となってしまった元大統領の遺産、国境の壁を眺めながらテキサス州最西部の都市、エルパソへと大量の難民及び侵攻直前までパナマにまで到達していた不法移民と共に入り込み、そこで連邦職員からの難民申請手続きという名の右から左へとサインを書いて流して行く作業を経て、見事に入国が認められた。

 

 その際、密かに連邦市民権まで付与されていた。

 

 現政権は人件費が安価な労働力の確保と選挙における得票数確保を狙って、手続きと審査が複雑でコストと時間の掛かる正規移民と違って一時に大量確保が容易な不法移民を重視していた。

 

 

 だが大量の難民や不法移民が押し寄せて来る南部国境各州は、これらの連邦政府の行ないに、常日頃から激怒していた。

 

 何故ならば大量の人間の移動には善良な人間だけではなく、各種の犯罪を犯して逃亡中の犯罪者から始まり、麻薬カルテルやギャングによる麻薬密売人や人身売買、非合法銃火器などの武器の密輸に反米テロリストグループ。果ては工作員やスパイなどなどと十把一絡げな悪人共が肩を組んで押し寄せて来るのだ。

 

 …まぁ、そもそも()()に入国している時点で善良もへったくれもない、全員犯罪者の集団なのだが。

 

 それらは全部纏めて現地の連邦政府管轄の施設に入れられるのだが、ここは現政権が不法移民を受け入れを表明した時から365日24時間ずっとキャパオーバーであり、施設周辺には入り切れなかった人による大量の路上生活者の大群が出来上がってしまっていた。

 

 問題なのはその施設は砂漠や荒野などの人里離れた場所にぽつんと一軒家の如くあるわけでは無く、都市に併設されているのが基本である。

 

 つまり街の中に大量の犯罪者の集団が溢れ返り、場所によっては道路の交通にも支障が出てしまうこととなった。

 

 これが何を意味するか?

 

 治安の悪化と物流の停滞、そしてそのダブルパンチによる経済への打撃である。

 

 ついでに衛生面から見ても非常に劣悪であり、夏は食中毒や熱中症で、冬は凍傷や凍死、更に共通で栄養不良と水分不足などなどが積み重なっての死亡者の続出によるさらなる衛生面の悪化という負のスパイラルを生み出した。

 

 

 連邦政府は人道を盾に無制限の受け入れを表明しているが、これらの負の一面は常に隠蔽し、自らの浅慮が引き起こした悲惨な“現実”から目を逸らし続けて見向きもせず、南部国境各州から毎日の様にして大量に上げられてくる悲鳴の様な苦情すら耳を塞いで知らぬ存ぜぬを決め込み、“現実”から著しく乖離した自らの“理想”の泥沼に溺れていた。

 

 

 そして遂には南部国境各州知事の中で最も中心的人物で、現職大統領と連邦政府に激しい抗議を繰り返していたテキサス州Alex(アレックス) Jefferson(ジェファーソン)知事の身柄を拘束するといった暴挙まで行なった。

 

 

 その暴挙は後に知ったことだが、当時その余りにも悲惨な現状を現地で直に目の当たりにした2人の姫と、同行していた深海棲艦達は言葉を失い、自分達のこれからについて、大いに不安になった。

 

 

 彼女達は何も戦争が嫌になって出奔してきた訳では無く、新たな販路の開拓を企図してやって来ていた。

 

 だがアメリカに入って来てからというもの、目に映るものは混沌だった。

 

 難民申請の手続きを待っている間に街を見て回ったが、何度も大小様々な銃声を耳にしたし、街頭で隠れもせずに堂々と違法薬物の売買が行なわれ、駐車している車は全て()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、何も荷物を載せていないと書かれたメモ書きが貼られていた。

 

 正直、アメリカでの販路の開拓は断念して帰ろうか?と真剣に悩むくらいに不安となる有様を見た。

 

 しかも自分達も置き引きや引っ手繰り、スリの被害に遭った。*3

 

 とはいえ公的機関から偽造ではない正規の市民権を得られることによる後々のメリットを考えると、このチャンスを逃すのは惜しいとして、踏み(とど)まった。

 

 そして出来る限り集められるだけの情報を集めてから行動に移し、フロリダ州へと移動した。

 

 フロリダ州を選んだのは万が一逃走する必要が発生した場合、西はメキシコ湾、東は大西洋、南はフロリダ海峡と逃げ場所に困らないし、メキシコ湾はパナマ制圧で勢力圏となったカリブ海と繋がっており、大西洋には西大西洋担当の部隊が遊弋しており、脱出の援護を受ける事や合流が容易だった。

 

 それは同時に海からの同胞(はらから)達による()()の受け渡しも容易であることでもあり、何よりもそのことが重要だった。

 

 

 彼女達がリスクを冒してまで成し遂げたかった目的、アメリカで商売するための活動拠点の構築。

 

 

 その第一歩の地としてフロリダ南端のマイアミを選んだ。

 

 

 そして場所の確保のために持ち込んだ重量のある荷物、金塊を惜しげもなく使用した。

 

 彼女達の華奢な見た目とは反し、その膂力は大の大人を上回っている。

 

 本来ならば審査の際に媚薬として幾つか使うつもりだったが、思ったよりもすんなりと通った為に使わず仕舞いだったから、思い切って使った。*4

 

 ただ余りにも派手に使い過ぎた影響で、地元のギャングやらマフィアといった連中の注目を浴びてしまい、目を付けられてしまった。

 

 そして彼女達が商売として動き出し、扱う“商品”もまた目を付けられる要因ともなった。

 

 深海棲艦の活動範囲拡大に伴い貴重となった海外からの物産を、どういったルートを使っているのか取り扱っているのだ。

 

 これはカネになると彼らは考え、色々と接触やら圧力を仕掛けたわけだが、相手が悪過ぎた。

 

 彼女達は敵対者には容赦しなかったし、何よりも同族を、仲間を侮辱されることを何よりも嫌っていた。

 

 彼女達はみんな美しい容姿をしているのも目立つ要因でもあったが、そのことに無頓着だったから気付かなかった。

 

 何よりも当時の彼女達は今までの経緯(いきさつ)から“人間不審”を拗らせており、“商売”というフィルターを挟まなければ人間との積極的な関わりを持ちたがらなかった。

 

 しかし彼らがある時、彼女達の美しさに下卑たよからぬ邪なことを口走ってしまった結果、彼女達は激怒し戦闘状態へと突入。

 

 短いながらも激しい抗争に勝利したのだが、それでまた目立ってしまった。

 

 

 だがそれは結果として悪い事では無かった。

 

 

 うら若き美女達が横柄な“ならず者”達に対して健気にも立ち向かい、見事懲らしめたとして、地元で良い意味で有名となったのだ。

 

 

 その後紆余曲折を経て、地元の住民とも次第に打ち解けて良好な関係を築き、色々あって地元民を雇ったりして規模を拡大したり、他の事業や慈善活動にも手を出したりして気付けばそこそこ有名な商社となっていた。なってしまっていた。

 

 そしてその頃に、フロリダ州知事であるRoy(ロイ)氏と知り合った。

 

 

 以上が彼女達の今までの足跡(そくせき)である。

 

 

 こうして改めて振り返ってみてみると、色々あったなぁ~。という思いと、少し恥ずかしい思い出も蘇って来てなんだか気恥ずかしい気分となる2人の姫。

 

 

「『A()m()e()r()i()c()a()n() ()D()r()e()a()m()()()()()()()()()()()()()()()』として今の政権が大々的に喧伝していたという手前、今更その女性達が、『人類の敵、深海棲艦でした!』なんて口が裂けても言えないわよ」

 

「それはつまり自分達の政策が原因でアメリカの敵を国内へと招き入れた“()()()()”をヤラカシました!私達は国家反逆罪に手を染めました!と自ら認めることになるしね」

 

 

 そう言ってウィンクしながら心配はいらないと語るIowa(アイオワ)と、さらに皮肉げな顔をしたアリゾナ(アイシャ)が補足という名の毒を吐く。

 

 

「“謝ったら死ぬ病”の重症患者である、あのアホ共にそれはムリというものだね」

 

 

 事実今までの失政失策の類いは悉く認めていないという()()が現政権にはあった。

 

 それを皮肉ったのだが、アリゾナ(アイシャ)には内心で不安要素があった。

 

 

 現政権とメディア、そしてSNS企業がスクラムを組んで嘘に嘘を重ねた偏向報道とフェイク情報による“空想物語”、作り話を構築するのは連中の常套手段だ。

 

 

 事実先程のアメリカンドリームの喧伝だって、幾つもの“嘘”がある。

 

 彼女達の活動資金の元手は?

 

 元々はインドネシアでのコーヒー豆栽培で得た利益の一部を金塊に換金したものであるが、そのことは一切語っていない。

 

 だから人間達の間では“謎”となっているし、Iowa(アイオワ)達もRoy(ロイ)経由で彼女達から告げられるまで分からなかった事なのだが、それをいいことに彼らは「無名の篤志家が出資した」という作り話をでっち上げた。

 

 それ以外にも幾つかの作り話で彩られているというのが、あの喧伝なのだ。

 

 

 連中が切羽詰まったら、間違い無く“嘘物語”を作り出して吹聴を仕出すだろう。

 

 

 だが、それを指をくわえて見ているだけなどということは、絶対にしないしカウンターで殴り殺す、いや連中の()()()()()()()準備を密かに、Iowa(アイオワ)にも内密で進めている。

 

 

 

───────

 

 

 

 全くの余談だが、日本での真志妻や土方もその身元証明は偽装されたものである。

 

 

 そのメカニズムは至って簡単である。

 

 

 ()()()()()()()()()()したのである。

 

 

 そしてその個人番号は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 

 これはパンデミックの頃にまで遡る、かなり闇の深い話なのだが、当時国民の死亡者数が急激に上昇する事態が発生していた。

 

 その原因について様々な憶測が飛び交い、専門家や民間に関係無く、その話題で持ち切りとなり喧々諤々たる激論の的となったのだが、最終的には世界中であまりにも多い死亡事例報告から否定し切れなくなった製造元が遠回しに認めた新型薬物にあるとされているが、その全てを認めた訳では無く、真相の全てが解明仕切れてはいない。

 

 その辺りに関しては一旦置いておくとして、この時大量の自国民が死亡したわけなのだが、その際に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 発覚した際は手続き上のトラブルや、急激に増えた死亡者数に担当の人員が足りず、手続き待ちなどと政府や関係省庁は説明しているが、この説明でさえ当初は否定されていたものが二転三転とし、最終的に認めたのだが、これでさえ()()()()()()()()()()()

 

 日本に旅行に来たとされる外国人に密かに渡し、一時的に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()出来る様にしたり、日本へと就労に来た()()()()()()()外国人労働者に渡して()()()()に使わせた。

 

 

 その名残を、真志妻は利用した。

 

 

 無論、その際には彼女の持つ有り余るほどの秘密資産の極一部を使用した。

 

 

 結局の所、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは例え()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 だからこそ()()()()()()()()()

 

 

 情報の売買は()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それが特に()()()()()()()()()()()()、容易に尻尾切りや()()()()()()()()()()

 

 

 真志妻はそこに付け込んだ。

 

 

 閑話休題。

 

 

───────

 

 

 一応、今回は初顔合わせの挨拶程度がメインであったがために、あまり突っ込んだ内容の会話は用意していなかった為に、当たり障りのない世間話に終始することとなった。

 

 

 ─────Iowa(アイオワ)は、だが。

 

 

 

「…僕個人が、少し気になっていることがありまして」

 

 

 徐ろに、しかしかなり真剣な表情となったアリゾナ(アイシャ)が2人に問い掛ける。

 

 

「先ずはコレを見て下さい」

 

 

 そう言って鞄から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()タブレットを取り出し、机の上に乗せ、事前にインストールしていた画像を見せる。

 

 

 その画像にIowa(アイオワ)は首を傾げるが、2人の姫は僅かに目を見開く。

 

 “それ”は西太平洋方面の同胞(はらから)から齎されていた情報と特徴が一致しているモノだったからだ。

 

 

 そこに映っていたのは、いまだ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ハズの、土方も真志妻経由で初めて見ることとなった、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 

「コレは貴女方にとって、無関係ではないハズです。何故なら───」

 

 

 次の画像へと切り替える。それは墜落途中のアポロノームの画像だったのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「───貴女達の領域へと墜落したことは判明しているよ」

 

 

 タブレットの電源を落とし、2人の姫へと視線を向ける。

 

 

「あの御方、()()()()()()殿()はご無事なのですか?」

 

 

「そしてこの()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 畳み掛けるようにそう言い放ち、机越しに2人に詰め寄るアリゾナ(アイシャ)、いや、Arizona(アリゾナ)

 

 

 その圧に堪らずアクア・マリンこと戦艦新棲姫が待ったを掛けた。

 

 

「アンタはアンドロメダとアポロノームの2人とどういった関係なんだ!?いやそもそもなんでアンタがアンドロメダの名を知っている!?」

 

 

 その問いに目を細めるArizona(アリゾナ)

 

 

「ふ~ん、もう1人はアポロノームという名前なんだね…?()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そう言ってArizona(アリゾナ)は少しだけ考え込む。

 

 

 確かガトランティス戦役中、()()()()()()()()()の要請で1()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だけど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 確かに時間の掛かるアンドロメダ級1隻よりも、損傷艦を修理して戦線復帰させた方が早いし、建造スピードも主力戦艦たる()()()()()()()()級の方がより早くてより多くを造れる。

 

 ただいつまでもドックを占有されていたら困るからと、必要最低限の艤装を施し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アポロノームとはその試験艦のことなのだろうか?

 

 情報が足りない。

 

 

「僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「州軍艦隊はアンドロメダ殿がいらっしゃられた()()()()()の下部組織に位置する」

 

 

「そしてアンドロメダ殿は地球防衛軍()()()()()()()()であらせられた御方」

 

 

「僕にとって雲の上の御方、まさに神のような御方だよ」

 

 

 Iowa(アイオワ)のことが完全に放置されているが、今のArizona(アリゾナ)には漸く見付けた同郷人の存在、しかもある種の有名人ということで、完全に視野狭窄に陥っていた。

 

 

───────

 

 

「へーくしゅんっ!!」

 

 

「姉貴~、大丈夫か~?」

 

 

「だ、大丈夫…」

 

 

 鼻をこすりながらアポロノーム()に答えるアンドロメダ。

 

 また誰か噂してるのかなと思いながら、自身の膝の上でピクリとも動かない大好きな駆逐棲姫(お姉ちゃん)がズレ落ちないようにと姿勢を整え、再び画面に向き直る。

 

 2人は今、アポロノームのメインフレームにあるであろう例の正体不明のデータを探している真っ最中だった。

 

 アンドロメダはアポロノームのメインフレームにリンクを繋げて共同で調べていた。

 

 

 そして─────

 

 

「!アポロノーム、これ見て!!」

 

 

 それは()()()()()で書かれていたフォルダーだった。

 

 

「…なぁ姉貴、これって」

 

 

「…えぇ」

 

 

 画面に浮かぶ“それ”に、2人は揃って顔を顰める。

 

 

「まさかとは思っていましたが…」

 

 

「デスラー…、親衛隊…」

 

 

 かの悪名高いデスラー親衛隊を示す紋章だった。

 

 

「見るしか、ないだろ…?」

 

 

「そう…ですね…」

 

 

 覚悟を決め、意を決してそのフォルダーをクリックしてアクセスする。

 

 

 そしてそこに保存されていたデータの数々に、2人は渋い顔をせざるを得なくなった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これ、俺達には難解過ぎて手に負えねぇよ」

 

 

「ド、()()()()、すみませんがちょっとこちらに来てくださいぃ~」

 

 

*1
太平洋艦隊司令революци(レヴォリューツィヤ)大将こと、艦娘Гангут(ガングート)のこと。

*2
衣服や装飾が目立つため、変装用の衣服は適当にそこらで掠奪(失敬)した。

*3
ただし置き引きは彼女達の荷物の重量に敗北し、引っ手繰りやスリは相手が悪すぎた。

*4
札束にしなかったのは運搬中に汚したり濡れたりしても問題無いからである。






 因みにこの後Arizona(アリゾナ)Iowa(アイオワ)からJapanese SAMURAI swordにおいて名刀の一振とされる『破里閃(HARISEN)』によって頭チェストさ(しばか)れました。

 一応外伝の閑話、『Escort』の後書きにも書きましたが、マジェスティック(Majestic)級はリメイク版におけるDクラス前衛武装航宙艦のオリジナル艦名です。
 また本編で語りましたアンドロメダ級装備試験艦は完全オリジナルの設定です。


Aisha Bernstein(アイシャ・バーンスタイン)

 AishaはArizonaを捩って、Bernsteinは英語圏でのユダヤ系の性から来ているが、琥珀を意味するイディッシュ語(ドイツユダヤ語)を由来に持ちます。
 琥珀は石言葉に“長寿”があり、短命に終わった自身を微妙に皮肉りつつも、今度は出来るだけ長く生きたいとの願いも込められています。


Aqua Marine(アクア・マリン)とCoral Leaf(コーラル・リーフ)

 アクア・マリンは“海水”を意味する宝石から、コーラル・リーフは珊瑚礁の英語から。

 つまり両者共に海に関連するモノの名前から。

 アクア・マリンは戦艦新棲姫、コーラル・リーフは南方戦艦新棲姫。





 以下今回のネタの大本や私見など。…こういったのを書くから遅筆なんだという自覚はあります。


 現実でも南部国境州は政権交代以降、大量の不法移民の流入で国境は崩壊して危機的状態であり、州知事によって非常事態宣言が出されて州兵も投入される事態ですが、焼石に水というのが現状です。(確かテキサス州で400人が投入されています)

 この様な状態にも関わらず、現職大統領(クソジジイ)現職副大統領(クソババア)、連邦政府並びに一部の官僚は国境の管理に問題は起きていないとの認識を変えておらず、南部国境は地獄となっています。

 タイトル42、公衆衛生法第42条という法律がアメリカにあります。
 感染症予防を理由に指定された国から来た人の入国を拒否出来る法律で、今まで約3割の不法移民を入国拒否しておりましたが、様々な問題から撤廃の方向です。
 今メキシコ国境にはその撤廃を今か今かと待つ大量の不法移民のキャンプが増え続けている真っ最中で、さらなる地獄が待ち受けています。


 不法移民はまず難民申請を行いますが、その約9割は審査で弾かれる場合が多いです。
 しかしその審査結果が出るまでに約5年近く掛かる事もあるため、その間は事実上の出稼ぎ労働者としてアメリカ国内に開放され、働いて待つこととなりますが、そのまま逃亡し音信不通の所在不明となってどこで何をしているのかが分からないケースもありますが、12月時点でその数を改竄して公表していた事実が発覚しています。

 また民主党が優勢の都市ではサンクチュアリ、聖域都市を宣言し、本来ならば申請が却下されて国外退去しなければならない不法滞在となった不法移民を人道とかの綺麗事並べて受け入れを表明していることも不法移民が増え続けている原因の一つとなっていますが、いざ実際に不法移民が来ると「迷惑だ!」と言って南部国境州を非難しております。
 しかしこの不法移民は今なお南部国境に際限なく押し寄せている身元不明の不法移民ではなく、南部国境州にて身元の確認がなされ、犯罪歴も犯罪を起こす心配もないと確認された人達で、尚且つ本人の意志でその場所に向かうとの確認書類へのサインもある、謂わば何の問題もない人達なのです。
 それなのに、彼らを受け入れると公言していたはずの聖域都市は受け入れないとの矛盾した行動をとっています。
 しかも去年の南部国境での不法移民逮捕者数は2378944人いて、全米ですと合計2766582人。そこへさらに逮捕仕切れなかった約600000人以上を足しますと約3000000人を遥かに超えております。
 聖域都市に来ているのはそのほんの一握りしか過ぎませんが、それでも彼らはパニックとヒステリックを起こしています。
 受け入れの意志を表明し、尚且つ現地の住民が選挙でそのこと掲げる民主党議員に票を投じているということは、受け入れを支持していることを行動で示しています。
 だからこそ既にパンクしてバースト状態の南部国境各州は人道的観点から、テキサス州グレック・アボット州知事が中心となって聖域都市にバスで不法移民をお届けすることを決め、そして少しでも問題を分かち合ってもらいたいとしたわけなのですが、いざ事が起きると民主党並びにその支持者達は態度を豹変させました。
 彼らの態度は一言で言えば「ゴミを押し付けるな!」というもので、共和党とその関係者の非人道性を声高に主張しておりますが、これははっきり言ってブーメランです。
 何故ならば最も大量のバス移動を行なっていたのが、本編でも出て来た都市、エルパソなのですが、ここは共和党が強いテキサス州における民主党の牙城です。そしてエルパソは不法移民が大量に押し寄せている地でもあります。
 そしてここからが本題ですが、不法移民の押し付けを最初に始めたのは()()()()()()なのです
 しかも送り先には一切の通達を行なわず、()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。
 この事実を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 また去年アメリカで摘発された薬物の量は、()()()()()()()()()3()()()()()()()()()()()()()で、さらに増加の一途を辿っています。

 アメリカは今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()との指摘が出ており、その指摘に超党派で支持する動きが出て来ておりますが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
 移民問題は常に様々な不幸を齎してきました。ヨーロッパから新大陸アメリカへの移民はかつてインディアンと呼ばれたネイティブアメリカンとの武力衝突。中東からのEUへの移民はヨーロッパの国内に事実上の中東系自治区が幾つも形成されて事実上の治外法権化と犯罪者の聖域化、選挙では彼らの意見も無視出来無いまでの規模に膨れ上がりましたし、産業も彼らの労働力に依存する体質へと変質してしまいました。
 日本におきましても、かつてのアメリカやブラジルへと移民した人々がその後どのような仕打ちを受けたか、満州へと移民した人々の悲惨な結末。
 あげだしたらキリがありません。が、ある点で共通する問題があります。現地の雇用への圧迫による失業者の発生です。

 しかし歴史は繰り返す。人口減少による労働力不足を口実に移民受け入れを考えている政府。若者達の雇用先の減少。

 グローバル化によって人の行き来が容易になった裏では移民による問題がより顕著に、そして今までになく身近な問題へと変化していきました。無論、それ以外にも工場の海外移転による産業の空洞化など様々な弊害が出て来ています。

 先進国なのに国民の生活は第3世界の方へと転がり落ちている真っ最中であると言わざるを得ない。


 個人番号に関する云々は個人的に懸念している点です。
 これはアメリカの選挙で似たような事例、一種のなりすましがあったとされているのが大元にあります。

 便利なモノは邪な行ないを企んでいる者にも便利なモノになり得ますから、便利だからと飛び付くのも考えもの…。


愚痴コーナー!では無く先の投稿における愚痴コーナーに関してのお詫び

 先の投稿における愚痴コーナーにて、アメリカ下院議長決定がなかなか進まないことに関しまして、共和党何してんだ!と気炎を吐きましたが、その後出てきました情報で日和見で弱腰の共和党下院議員リーダー、ケビン・マッカーシーがフラフラと民主党に靡かないようにとの反対派が釘を刺し、万が一思い付きで変な事をした時は引き摺り倒す為の駆け引きを行なっていたことが分かりました。

 これを知った時、自身の情報収集能力と分析能力がまだまだであると痛感致しました。

 今までの共和党の不甲斐無さから来る先入観から、感情的になってしまっておりました。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第35話 Round Table-2

 円卓


 気付けば初投稿から1年が経つのか…。


──2023/01/19、追記──

お詫び

 後書きに記載しました一部に誤り──副大統領に機密解除の権限が無い。という所ですが、ブッシュ政権時代の大統領令で、一応大統領程ではないが有している事になっていた。──があることが判明しましたので、一部を削除いたしました。

 情報のリサーチが不足していた為に、この様なミスを犯してしまいました。以後気をつけます。


 

 

「───という事があったんだ」

 

 

 

 戦艦新棲姫から事の顛末を“伝え”られ、今この場に集う姫達は一斉に考え込んだ。

 

 

 ここに来てまさかまさかの3人目となる異邦人の存在の発覚である。

 

 

 こうなるとまだ他にも居るのではないか?という疑問が真っ先に思い浮かぶが、だがそうだとするならば、それらが揃いも揃って表立った行動をしていない事に対しての疑問も出て来る。

 

 もしも今までに何らかの行動に出ていたのならば、その特異性から先のアンドロメダと同様に相当目立つハズだし、人間達だって何かしらの喧伝であったり噂話となって流布するハズだが、そういった痕跡は確認されていない。

 

 日本近海に出没する例の精鋭駆逐艦部隊が今のところ一番怪しいが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ため、恐らく違うだろう。

 自らの力を制限することによって発生するリスクがあまりにも高過ぎる。

 

 自動小銃を扱う事に最適化された現代の歩兵に前装式(マスケット)銃を装備させるようなものだ。

 

 自分達や艦娘、軍艦で例えるならば前装式の大砲を無理に装備させるようなものであるし、そもそもの問題として規格に適合しないと著しくバランスを欠いて事故に繋がってしまう。

 

 となると今回のそのArizona(アリゾナ)何某とやらよろしく、何かしらの理由で隠されているのかという結論に落ち着いた。

 

 

 …見落としていなければ、という注釈が付くが。

 

 

 

「しかしよくココに来れたな?」

 

 

「“見た”限りですと、かなり詰め寄られていた様に見えましたけど…」

 

 

 ある種“異常”とすらとれる相手、Arizona(アリゾナ)からの問い詰めに対する同情と、その状態から如何にして“この場所”へと来ることが出来たのかと気になった。

 

 先方は完全に冷静さを欠いていた。

 

 “この場所”へと来る為にはある程度落ち着いて、集中していなければ失敗して意識不明となる危険性があるのだ。

 

 

「ああ、Iowa(アイオワ)からハリセンで頭(はた)かれて説教されている最中に抜け出してきた」

 

 

 一体何処に隠し持っていたのか、徐にハリセンを取り出したIowa(アイオワ)がフルスイングでArizona(アリゾナ)の側頭部を(はた)いた一部始終が“伝わって”きた。

 

 あまりの衝撃でそのまま砂浜に頭からめり込んでしまっていたが、当の本人は大したダメージが無さそうで、ケロッとしていた。

 

 まあそのお陰で思考が沈静化し、尚且つIowa(アイオワ)からの説教が始まったために、一言断りを入れてから緊急案件として報告するためやって来たという。

 

 

「でもそのArizona(アリゾナ)ってヒトの言ってたこと、何か可怪しくないですか?」

 

 

 一番初めにその違和感に気付いたのは、矢張りというべきかアンドロメダと最も付き合いの長い駆逐棲姫だった。

 

 

「お姉さんの───、アンドロメダさんの妹、アポロノームさんの事を知らないって言ったんですよね?」

 

 

 その駆逐棲姫からの問に、戦艦新棲姫は頷いて返す。

 

 

「でもこれを“見て”下さい」

 

 

 駆逐棲姫は空母棲姫、南方棲戦姫と共にアンドロメダから見せてもらった記録映像の記憶を全員に“見せた”。

 

 

 月軌道に集結した地球主力艦隊の中に佇む『アンドロメダ』を中心に寄り添うようにして並ぶアンドロメダ姉妹、2番艦『アルデバラン』、3番艦『アポロノーム』、4番艦『アキレス』、5番艦『アンタレス』。

 

 

 火星宙域にて、地球との安保条約に基づき派遣されてきた同盟国ガミラスの艦隊と艦列を列べる、ガミラスがライセンス生産し、太陽系の戦いにて奮戦したCCCの4隻。

 

 

 地球から出撃するBBB戦隊、前期生産型の『ブラックアンドロメダ』級で編制された大艦隊。

 

 『アンドロメダ』と共に並走する後期生産型の『ブラックアンドロメダ』級BBB戦隊。

 

 

 その他を含めた100隻を優に超える数多の『アンドロメダ』級が生産、実戦投入されていたことが見てとれた。

 

 

 だが何よりも重要なのは、これらの記録映像は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それを鑑みて、下部組織とはいえ同じ地球軍に在籍していたのならば、いや地球の出身だというのならば最初に建造された『アンドロメダ』級、ファーストファイブとも言える5隻を知らないというのは些か奇妙な話だ。

 

 

 しかしもしも嘘を言っているとするのならば、今度は何故アンドロメダの名を知っているのか?彼女が艦隊、しかも地球艦隊総軍を率いる最高位の立場にいた(ふね)であることを知っているのか?という疑問点が出て来る。

 

 しかもあの目、あの態度はある種の“縋る”かのような雰囲気を感じ取れた。

 

 例えば、見知らぬ土地で親と(はぐ)れてしまった迷子の子供が、親を探して彷徨った末に漸くその姿を遠くに見付けたかのような、広い海を当てもなく彷徨っていた同胞(はらから)が初めて自分以外の同胞(はらから)の姿を見付けた時の様な。

 

 

 もしそれが全て演技の類いだというのなら、そのArizona(アリゾナ)という者は相当な演者で曲者であると言わざるを得ないが、それをする理由が分からない。

 

 騙したところでメリットがあるとは言い難い。

 

 

 繋がっているようで繋がっていない。

 

 

 そこである仮説が思い浮かぶ。

 

 

「アンドロメダさんが居た世界と似て異なる、新たな別世界からの来訪者…」

 

 

 空母棲姫が漏らしたその言葉は、今この場にいる皆が共通で思い浮かんだことだった。

 

 

「いつからこの世界は異世界からの観光地になったのよ…?」

 

 

 思わずといった雰囲気で、南方棲戦姫が天を仰ぎながら呟く。

 

 だがその茶化したかのような言葉とは裏腹に、その表情は苦り切っていた。

 

 

 

「もしこれからさらに増えるとしたら、厄介だな。

 

そいつらが全員こちらと友好的、悪くとも中立的であるとの保証はどこにもない」

 

 

 参加者の1人、防空棲姫が苦虫を噛み潰したかのような顔で告げる。

 

 

 温厚でこちらとかなり友好的な態度のアンドロメダと、その妹であるアポロノームは姉に引っ張られながらのやや友好寄りの中立、些か毒舌な所があるが中立寄りの友好と言えるArizona(アリゾナ)といった具合に、明確な敵対的な意思は示していない。

 

 

 だが今後現われるであろう“異邦人”の全てが、こちらに対して友好的で、敵対的とならないとは言い切れない。

 

 先の3人とは逆に、人類側と友好的となる可能性は十分に有り得る話であるし、なんならこちらに対して明確な敵対的立場を示してくることだって有り得るのだ。

 

 

 そのある意味で“前例”と言えるのが艦娘の存在だ。

 

 

 彼女達はまるで自分達に対するカウンターパワーの様にしてこの世界に現われた。

 

 

 ならばそれと同じことが、アンドロメダに対するカウンターパワー足り得る存在が現われないと言い切れるだろうか?

 

 

 そう考えると、末恐ろしい未来の予想が頭の中を駆け巡る。

 

 

 アンドロメダ達に匹敵する存在が自分達を蹂躙し、今まで築き上げて来た営みの全てを灰燼に()すという、悪夢などという言葉では言い表わし切れない様な地獄絵図が、ありありとその頭に思い浮かぶのだ。

 

 

 同胞(はらから)や協力してくれた人間達の皆で頑張って栽培したコーヒー豆を販売してお金を貯め、畑を耕し買い付けたタネや肥料を蒔き作物を育て、初めての実りに涙して喜び、もう飢えで同胞(はらから)達が苦しむことを心配しなくても大丈夫な位にまで来れたのに、そしてより安定した豊かな明日の為にと自分達なりに商売や事業を始め、それによって少しずつではあるが蟠りや凝りのある“外”の人間達との交流を行なう事で“人間社会”というモノを理解しようとし、それらの努力も徐々に軌道に乗って来たというのに、その全てが水泡に()すかもしれないのだ。

 

 

 だがこちら側の戦力で対抗することが絶望的であることは、事実上証明されており、そのことに異を唱える愚か者はこの場に、いや、少なくとも今の自分達のやり方、方針に賛同してくれている同胞(はらから)達の中にはいないと確信している。

 

 

 みんな“生きる”為に貪欲なまでに真剣だった。

 

 

 “あの日”出会った人間達に恥も外聞も何もかもをかなぐり捨てて頭を下げた“あの時”から、彼女達の心には生きることへの執着が強く根付いていた。

 

 飢餓による種としての滅びの危機という、現実味を帯びた“滅び”に対するリアルな恐怖を味わったからこそ、“滅び”に繋がりかねないことに対して敏感であり、それを回避するためにはどうすべきか?どうしたら良いのか?どういった手段、方法が最適解か?とは常に彼女達の頭を悩まし続けている“重要課題”である。

 

 同胞(はらから)を導く立場にいる上位種である以上は、考えることを止めてはならないことを、誰よりも理解している。

 

 また“生存”のためには形振り構わない、構ってはいられないという認識である。

 

 

 故に、一同の視線が駆逐棲姫に集中したし、そのことに対して駆逐棲姫も理解していた。

 

 

『なんとしてもアンドロメダの心をこちら側に繋ぎ留めていて欲しい。出来れば種族とかの垣根など関係無く、大切で失いたく無い存在と思ってくれるならば尚の事良い』

 

 

 そういった“願い”がひしひしと伝わって来た。

 

 

 それは駆逐棲姫も同じ思いではあったが、同時にアンドロメダの、大切で大好きな妹分の気持ちを考えると僅かばかり思い悩んでしまう。

 

 

 恐らくアンドロメダならば、理由を包み隠さず話せば、こちらの“願い”に対して真摯な態度で向き合ってくれるだろう。

 

 

 だがそれが、今後のアンドロメダの“意思”に対して足枷に似た“呪い”とならないかという不安があった。

 

 アンドロメダには、自身よりも他人を優先するきらいがあった。

 

 事実、自分よりもアポロノーム()を!自分に対して良くしてくれた空母棲姫や大切で大好きな駆逐棲姫(お姉ちゃん)を!ということを、さも当然な顔をしながら飛行場姫に対して言ってのけていたのを、昨日横で見ていたからこそ、自分自身をとことん蔑ろにして潰れてしまうのではないか?という不安が胸中を渦巻いていた。

 

 

 その事が凝りとなり、またアンドロメダ(彼女)にとって良いお姉ちゃんでありたいという自身の思いが相まって、何よりもアンドロメダ(彼女)が親と慕うヤマトと沖田艦長から、「あの娘を頼みます」との願いを聞き届けた手前、同胞(はらから)達の願いに対して率直になれないでいた。

 

 

 とはいえ、アンドロメダの持つ“力”による抑止力を欲しているという、打算や妥協が多分に含まれているものの、一応はアンドロメダを受け入れるという方向で一致したことに、多少なりとも安堵はしていたし、より良い代案も無かった為に割り切る事とした。

 

 

 だが、だからこそ、最低限の(スジ)は通すべきであるとして、一度アンドロメダに対してキチンと話を通すべきだと、言葉を濁すこと無くハッキリと主張した。

 

 

 その主張に対して特に異論が出ることなく、駆逐棲姫は一旦アンドロメダの所へと戻る為に“退出”した。

 

 

 

 

 

「…あの娘も、ずいぶんと良くなりましたね」

 

 

 駆逐棲姫がこの空間から消えたのを確認した姫の1人、インドネシアにおける主要港湾施設を預かる責任者である港湾棲姫が感慨深く呟いた。

 

 彼女はそこそこ古参の姫の1人であり、今の明るい雰囲気からは想像出来ないほどに()()()()()()()()()当時の駆逐棲姫を知っていた。

 

 

「核の炎によって脚だけでなく、仲の良かった多くの同胞(はらから)や親しかった人間達を一挙に失ってからというもの、その事が凝りとなって、あの娘は笑わなくなり、誰かに対してあそこまで執着することも出来なくなっていました…」

 

 

 彼女だけではない、数多くの同胞(はらから)達が“あの日”、あの悪夢としか言えない最悪な事件が原因で心身共に深い傷を負った。

 

 

 同じ陸上型深海棲艦でもあり、姉妹関係にある飛行場姫も、この時に片腕が吹き飛ばされて義手となり、暫くの間幻肢痛(無いはずの腕の痛み)に悩まされているのを、港湾棲姫はただ見ていることしかできなかった。

 

 そして駆逐棲姫と同様に、飛行場姫も笑わなくなっていた。

 

 寝ても覚めても幻肢痛に苦しめられる毎日に、彼女の心はささくれ立ち、周りに当たり散らしては大切にしてきた同胞(はらから)達を傷付け怯えさせてしまい、それによる罪悪感から自分に腹が立ってより心が荒むという負のスパイラルへと陥っていた。

 

 そして一時は自分をこんな体にした人間共にも、同じ苦しみを味あわせてやりたいという復讐の“魔”に取り憑かれていた。

 

 だがそれでもなんとか自身の気持ちに折り合いを付け、復讐のために単なる殺戮と破壊を撒き散らす“壊れた存在”へと陥ることは無かった。

 

 それは一重に、本来ならば連中の同族、仲間であるはずの人間達も一緒に核の炎に焼かれたという事実が、彼女の壊れつつあった心を踏み(とど)まらせた。

 

 

 当時のそのことを思い出し、飛行場姫は苦笑した。

 

 

 彼女がアポロノームに語った“力無き者”──武力という“力”を持たない人間や子供達──を甚振ることへの忌避感や、人間に対して思うところが無いわけでは無いが、その辺りはちゃんと分別出来ているという言葉の裏にはこのことがあった。

 

 

 また“力無き者”を甚振るということは、それこそ核の炎で全てを焼き払おうとした“下衆”なニンゲン共と同じに成り下がってしまうということに対する強い嫌悪感もあった。

 

 

 

 とはいえ、そうやって自身はなんとか気持ちの整理を付けたし、他の同胞(はらから)達も少しずつではあるが、折り合いを付けて行った。

 

 

 だが駆逐棲姫だけは、当時大切にしてきた者達を目の前で一挙に失ったという損失感が余りにも強く、感情が抜け落ちた“空虚”な状態が長く続き、見ていられない程だった。

 

 

 最近はそれなりに笑うようになって、大分良くはなっていたと聞いていたが、それでも彼女は単独で行動することが多かった。

 

 また失う事になるかもしれないという恐怖が、彼女の心の内にはあった。

 

 そのことに飛行場姫だけでなく、彼女と親しい繋がりのある者達は常に心を痛めていた。

 

 

 だからこそ、誰かのためにあそこまで振る舞える様になっていることに、驚きとともに素直に喜んだし、そのことからある意味功労者であろうアンドロメダに対して、飛行場姫は心からの惜しみのない感謝の念と共に、彼女のヒト柄にかなりの好感を抱いていた。

 

 それは港湾棲姫も同じ思いだった。

 

 アンドロメダは、駆逐棲姫の心を図らずとも癒してくれていたのだ。

 

 その事に好感を抱かずしてなんとする?

 

 

 この場にアンドロメダ本人を呼んで、お互いを直接紹介する事が出来ないのが、飛行場姫にはとても残念に思えてならなかった。

 

 

 

 

───────

 

 

 

 その頃、当のアンドロメダは詳細不明のデータを見付けたはいいものの、()()()()()から解析にドクターに協力を要請していた。

 

 

 最初はなんじゃなんじゃと訝しんでいたが。いざそのデータを見て納得した。

 

 

 何故ならばそのデータとはある薬物に関してのもので、それがかなり危険なシロモノであると記されているのはまず間違い無いのだが、薬学に関する知識が皆無なアンドロメダとアポロノームにはその真贋を見極めることが出来なかったのである。

 

 

 無論、その記載内容をそのまま鵜呑みにすれば、またアポロノームにこのデータを渡した際の“記憶”とおぼしき夢の内容を信じるならばその必要は無いのだが、なにせそのデータの出所がどうも“あの”デスラー親衛隊であるがだけに、扱いに慎重になってしまっていた。

 

 何よりも、そのデータの内容が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事と、()()()()()()()()()()()()()()から、それを信じたく無いという心のフィルターが作動してしまったという一面もあった。

 

 

 そのため出来れば杞憂の類いであって欲しいとの願いもあった。

 

 

 だがドクターはずっと険しい表情を浮かべたままだった。

 

 

 

「すまんが艦長、泊地棲姫(子供好きのねーちゃん)、では駄目じゃな…、飛行場姫(コーヒー好きのねーちゃん)を後で呼んでくれ…。

それと、アナライザーを少し借りるぞ…」

 

 

 そう言い残すとドクターは有無を言わさずにアンドロメダの艤装の中へと消えて行った。

 

 

 残されたアンドロメダとアポロノームは顔を見合わせ、「杞憂が当たってしまったか?」という不安を帯びた表情となる。

 

 一応アポロノームも、ある程度はアンドロメダと情報の共有が出来ていたために、アンドロメダが懸念していた杞憂の可能性に辿り着いていた。

 

 

 

 

「あの妖精さん、一体どうしたっていうんですか?」

 

 

 なぜか居残ってアンドロメダとアポロノームの艤装の周りを妖精さん達の邪魔にならない程度にウロチョロし、取り外された備品やら整備のために艦載機格納庫から搬出されているコスモファルコンやら何やらを、興味津々に見ていた潜水新棲姫が、当然な質問を2人に投げ掛けた。

 

 泊地棲姫ならば、呼べばすぐに来てくれるだろうに、わざわざ今不在と言ってもいい飛行場姫を呼んでほしいと言い換えたその真意を、潜水新棲姫は掴みかねていた。

 

 

 その反応にアンドロメダは、さもありなんという気持ちとなり、どう話したものかと悩むが、アポロノームが首を横に振って「今はまだ話すべきでないのでは?」と暗に伝えて来たがために口を噤んだ。

 

 

 とはいえ何も言わないのは流石によろしくないと考え、さてどうしたものかと悩んでいると、まるで狙いすましたかのようなタイミングで、アンドロメダの膝の上にいた駆逐棲姫の体が微かに震えた。

 

 

「あ、お姉ちゃん。お帰りなさい」

 

 

 寂しかったですと言わんばかりに、駆逐棲姫の体をにこにこと微笑みながらギュッと抱き締めるアンドロメダ。

 

 駆逐棲姫もそんなアンドロメダ(妹分)の甘えを嬉しそうに受け入れながら、その体を抱き返してすりすりと頬擦りした。

 

 

 暫しお互いの体とその温もりを堪能した後、駆逐棲姫は徐ろに顔を離すと真剣な表情となり、話を切り出した。

 

 

「お姉さん、アポロノームさん、大事なお話があります」

 

 

 その駆逐棲姫の態度に、2人の妹分も表情を引き締めて聞きに徹する姿勢をとった。

 

 ある程度の予想はしていたが、駆逐棲姫の態度から恐らく何かしらの“要求”が彼女達の間で決まったのだろう。

 

 

 しかし、駆逐棲姫の表情からは些か不本意である、とも取れる気持ちの、“心の揺らぎ”の様なものも感じ取れて、しかも少し言い辛そうに言い淀むのを見て、これは一筋縄ではいかない“何かしらの重大事”が起きたのだと、アンドロメダは直感的に感じ取った。

 

 アポロノームもそのことを感じ取ったらしく、アイコンタクトで「姉貴に任せる」と伝えて来たので、アンドロメダは微笑みながら、大好きで掛け替えのないお姉ちゃんである駆逐棲姫にゆっくりと語り掛ける。

 

 

「お姉ちゃん、私は、私達大丈夫ですよ。

 

仮令(たとえ)どんな要求でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だから、気にせず話てください」

 

 

 駆逐棲姫には、その妹分の“無意識の優しさ”が、今は少し辛かった。

 

 

 もっと自分を大切にして!

 

 

 そう叫びたい気持に駆られながらも、そのことを必死に抑えながら、大好きな妹分の心の優しさから出た言葉の綾であると、自身に言い聞かせながら、意を決して先程までの事を語り出した。

 

 

 

───────

 

 

 ドクターは艤装の中にあるプライベート空間にて、打ち拉がれていた。

 

 

 

 

「最悪じゃ……、もしワシの予想が間違いなければ、このままだと50年、いや下手すると10年と持たずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()………」

 

 

 

 





 なんだか少しばかし重めの話になってしまった様な…。
 とはいえ一応他の姫様達もアンドロメダを受け入れるという気持ちをより強くしました。

 次回は未知なるArizona(アリゾナ)という名の存在を知ったアンドロメダとアポロノームの反応と、深海棲艦の姫様達が危惧した懸念に関する2人の反応と見解についてとなります。



お馴染みとなりつつある愚痴コーナー!

 アメリカの中の国化が止まらない!

 先の投稿で取り上げたテキサス州西部の民主党牙城の都市、エルパソにジジイが視察に訪れると決まった直後から、大規模な不法移民の取り締まりと大量検挙が発生。
 しかも狙いすましたかのように視察エリアのみで、他の場所は放置。

 問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 発表によると検挙者は全員収監したとされているが、ちょっと待って欲しい。
 そもそもそれまでの間にその手の収容施設は完全にキャパオーバーとなっていたハズではないか?
 余りにも多過ぎるからと()()、いいですか、()()2()4()0()0()()を街中に釈放しなければならない程の大量の不法移民がエルパソに押し掛けていました。

 彼らは本当に収監されたのか?彼らは本当は何処行った?感のいいガキはうんぬんなんて戯れ言を言っているどころでは無いですよ。

 民主党はやれ人権だー!と騒ぎ立てている割に、中の国を批判しだしたりとしている割に、やっていること人権無視の中の国の真似事だらけ。
 そもそもジジイ一族だけでなく、現政権閣僚やその一族や仲間内には中の国に何らかの利権や繋がりがある連中の割合が多く、中の国批判も単なるパフォーマンスでしかない張り子の虎と見たほうが無難と言える。
 イーロン・マスクによるTwitterFilesによって政府機関やメディアによる検閲と圧力、言論の自由への重大な侵害の実態が次々と世に出され、アメリカの赤化が深刻な事態であると知れ渡ってきているが、それが今回の事態でより強化されてしまった。

 正直民主主義は崩壊しつつあるどころか崩壊していたと言わざるを得ない。

 共和党による巻き返しの大反撃を期待せざるを得ない。

 ついでジジイによる副大統領時代の機密文書持ち出しについて。

 ジジイの言い訳には無理な点が幾つも指摘されています。その一つに、持ち出した資料は一族による海外利権に関連する資料が含まれており、証拠の隠滅を謀ったと言われても否定出来ません。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第36話 Encounters with the unknown

 未知との遭遇。
 

今回「《》」という表記がありますが、これは通信相手のセリフを表現しています。
 ただ今後変更する可能性はありますがご了承下さい。


お詫びと訂正。

 先の投稿後書きにて、“副大統領に機密指定解除の権限は無い”と記載致しましたが、その後にブッシュ政権時代の大統領令で副大統領にも制限付きながら解除権限が付与されていた事が判明致しました。

 以上のことを鑑み、該当部分を削除致しました。

 リサーチ不足から不正確な情報をを記載してしまいました事を、深くお詫び致します。


 

 

「護衛戦艦、ですか…?」

 

 

 駆逐棲姫から語られた、護衛戦艦Arizona(アリゾナ)なる存在に、アンドロメダは首を傾げた。

 

 

「俺らの軍で護衛艦つったら、『Метель』級フリゲートか、その改造型の『春雨(ハルサメ)』型直掩護衛駆逐艦だよなぁ」

 

 

 アポロノームが記憶の中にある、ピンク髪の大人しそうな外見とは裏腹に、ストイックな一面のあった駆逐艦に率いられた、十人十色の個性豊かな護衛隊を思い浮かべながら呟いた。

 

 

「それ以前に、各州管区が独自設計の大型戦闘艦を建造するという必然性がありませんし、今の連邦政府がそれを許すとは思えません」

 

 

 あの忌まわしくも、その能力だけは確かな時間断層工廠がある限りは。という言葉を心の内で吐き捨てながら、少なくともそのArizona(アリゾナ)が自分達と同世代ではなく、またその必然性と政治的問題から自分達の世界の(ふね)ではないとアンドロメダは見ていた。

 

 必然性は時間断層工廠の圧倒的な開発、生産能力という物理的な理由から。

 

 政治的問題はかつてのガミラス戦役にて、有事の際には国連統合軍傘下の国連宇宙海軍指揮下に入るという事に()()はなっていたハズの各国宇宙海軍であるが、当時依然として強い権限を有していた国連安保理常任理事国各国は、そのような取り決めを無視して旧NATOの西側と中露といった東側といった潜在的対立意識から独断専行に走る事が多く、またその他の国々も外交や経済的な繋がりからどちらかの陣営に引っ張られて、軍としての連携も何も無い、有機的運用からは程遠い出鱈目な足の引っ張り合いを繰り返すばかりで悪戯に戦力を消耗するだけだった。

 

 

 それが完全に解消されることは、終ぞ無かった。

 

 

 その余りにも苦すぎる教訓から、戦後に発足された地球連邦政府が国防政策において真っ先に執り行ったのは、各国が持つ国軍とその軍権の召し上げによる正式な地球という国家としての国軍である地球連邦軍への再編と指揮系統の統一だった。

 

 

 無論大きな反発があった。

 

 

 特に北米管区とEU管区が最も激しく反発し、戦前からの繋がりがあった国々と連携して計画のご破産か、最低限自分達に有利になるような形に計画を修正させようとしたが、それを察知した当時極東管区軍務局長だった芹沢虎鉄による北米やEU管区による艦隊戦力の隠蔽、波動コア強奪未遂とそれに付随した沖田十三暗殺未遂事件などなどといった、両管区がひた隠しにしたいスキャンダル問題をネタにした恫喝(交渉)により、最終的には当初案通りに進められた。

 

 ロシアと中国は戦中に国軍がボロボロになっていたのと、国内問題の解決を優先したかった為に、若干の不満は漏らしつつも比較的大人しくしていた。

 

 

 それらの経緯により、地球連邦政府は治安維持を目的とした警備隊程度の戦力の保有は認めても、かつての国軍の様な軍事組織規模の戦力の保有は認めず、また独自の兵器開発にも一定の制限を課しており、特に航宙戦闘艦の開発建造に関して、中小艦艇は使用する部品が有事を見越して防衛軍艦艇と共通規格であるという条件さえクリアーしていれば、と認めても主力艦となる大型艦の建造は原則として認めていなかった。

 

 

 以上の様な経緯から姫達の推測した通り、“似て異なる世界”からの来訪者であることは間違いないとの結論に達した。

 

 とはいえあくまでも推測に過ぎず、また自分達が沈んだ後に何かしらの方針転換であったり、政変などで情勢が劇的に変わったり、もしかしたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という可能性はゼロではない。

 

 

「…直接会えれば良かったのですけど」

 

 

 そう駆逐棲姫が呟くが、流石にこれは難しい相談だ。

 

 

 アンドロメダならば現地まで直接飛ぶという、ある種の離れ業というか荒業が出来るが、腐っていても超大国アメリカ。

 

 国境はガバガバだが未だその早期警戒網は健在であり、領空を下手に飛行している所を発見されたら面倒事になる。

 

 無論、アメリカ空軍の戦闘機や防空ミサイルが束になって掛かって来たとしても、それを涼しい顔をしながら正面から突破する事くらい造作も無い。

 

 問題はその後、面目を丸潰れにされたアメリカ軍はその犯人を血眼になって探し出そうとし、形振り構わぬ行動に打って出て、もし見付かったら地の果てまで追い掛けて来るだろう。

 

 その末に捕獲が無理だと判断したら…。

 

 最悪アンドロメダの行く先々で望まぬ“不幸”の連鎖が巻き起こりかねない。

 

 それは即ち、アンドロメダの居場所が無くなる事に繋がる可能性がある。

 

 

 そして確実に駆逐棲姫(お姉ちゃん)にとても迷惑を掛けてしまう。

 

 

 それは、それだけは絶対に避けたい。

 

 

 ならば陸路で警戒がガバガバな国境を通るか?

 

 

 深海棲艦がパナマを制圧した一時期は、彼女達を恐れてメキシコを始めとしてパナマ以北の中米以外からの不法移民はめっきりと減っていたが、彼女達は基本的にカリブ海に面するパナマ運河の出入り口であるコロン港に拠点を構えているだけで、それ以外はほぼノンタッチだった。

 

 理由は、内陸部まで制圧しなくとも出入り口さえ抑えとけば良くね?統治も面倒くさいし。というのもあるが、陸上だと人類側の陸上戦力の方が地の利の面から有利なケースがあり、思わぬ痛手を負うという今までの経験*1から、海からの援護が厳しくなる内陸部へと踏み込む事を忌避している事が大きい。

 

 

 そのため運河棲姫が侵蝕した運河設備の上空を定期的に哨戒機程度は飛ばしている位で、要所に部隊を配置するといった厳重な監視は敷いていなかった。

 

 

 それに気が付いた中南米の人間達が、再びアメリカへと向かいだした。

 

 

 深海棲艦達も、まぁ、こちらに対して危害を加える気がないならいいか。とスルーしていたし、今も戦艦新棲姫や南方戦艦新棲姫が開いた商社へのお手伝いを送り込む際に紛れ込ませてもらっているから、多少なりとも支援もしていたりと両者ある意味Win-Winであったりする。

 

 

 多分、現状これが最も確実な方法だろうし、頼めば彼女達からの支援も期待できるのだが、何ぶん時間が掛かり過ぎるのがネックだ。

 

 

 となると、後は通信という手段となるのだが、問題は────。

 

 

「こちらの通信コードを教えて大丈夫なのか?か?姉貴」

 

 

 アポロノームがアンドロメダ()の心の内を読み取り、代わりに声に出して告げた。

 

 

「…ええ。こう言ってはなんですが、彼女、Arizona(アリゾナ)さんを信用するに足るヒトと判断するには、まだ情報が少なすぎます」

 

 

 疑い過ぎるのは良くないかもしれないが、もし、万が一彼女から情報が漏れたとしたら、また最悪の可能性として彼女がこちらの情報を売り渡すかもしれないという危険性を考えたら、メインフレームへとアクセスする踏み台に成りかねない通信コードをおいそれと教えて大丈夫なのか?という不安がアンドロメダにはあった。

 

 

 だがアポロノームはそんなアンドロメダ()の懸念に対して、また姉の深く考え過ぎる悪い癖が出たと内心で苦笑した。

 

 

「姉貴の言いたいことは分かるけどよ?ここは決断するべきところじゃないか?」

 

 

 あらゆるリスクの可能性を考慮することも大事ではあるが、何処かで妥協点──例えばリスクの程度でによっては許容が出来るもの──を見付けなければ、前に進めるものも進めなくなるとの懸念を示すことで、姉の決断を促す。

 

 

 アンドロメダとしてもアポロノームの言っている事がよく分かるため、暫し黙考する。

 

 

 アポロノームの言う通り、ここは多少の危険は承知で賭けに出るべきか?

 

 それに彼女はアメリカの現役上院議員であるという艦娘Iowa(アイオワ)のプレーンという驚くべき立場にいるというのだ。

 

 

 これは捨て難いチャンスかもしれない。

 

 

 今のアメリカはかつてのオスマン帝国やオーストリア=ハンガリー二重帝国の末期の様に、栄光と繁栄の象徴であり、最強にして唯一の超大国とされた、かつての最盛期と比べると見るも無惨な斜陽の帝国となり、その影響力と力は大きく落ちぶれてはいるが、それでもアメリカは何とか大国としての立場は維持していた。

 

 

 言い方は悪いが、利用価値がゼロとなったわけではなく、多少なりともパイプを繋いでおくのも悪くないかもしれない。

 

 

「(もし彼女が私達を“売る”といった行為に及ぶというのであれば、それ相応の報いをくれてやれば────)」

 

「(ふふふ…。それにお姉ちゃんの脚を奪った悪い国でもありますから、容赦する必要もありませんよね…?ふふ…、ふふふ……)」

 

 

「…お姉さん、悪い顔してますね?」

 

 

「ありゃぁ、なぁんか良からぬこと企んでるな…」

 

 

 考え込みながら黒い笑みを浮かべ出したアンドロメダを見て、2人は小声でそう漏らした。

 

 

 アンドロメダとしたら自身の安全、ひいては妹であるアポロノームの安全も大事ではあるが、それと等しく自身にとって掛け替えのない存在となり、お姉ちゃんと呼んで慕っている駆逐棲姫に、癒えない消えることのない傷を負わせた下手人であるアメリカに対して静かな怒りの炎が燻ぶっていた。

 

 完全に私怨事ではあるが、あわよくば“報復”の口実を向こうから齎してくれるのであれば、ある意味で美味しい機会であると捉えることも出来なくはない。

 

 

 それに“正規のルート”からアメリカの情報が得られるのであれば、色々と“取引”の材料に使えるし、そういった“伝手”がある事を匂わせる事が出来る、という選択肢があるだけでも今後非常に有益な“カード”と成り得る。

 

 

 

 アンドロメダの腹は決まった。

 

 

 

「…お姉ちゃん、すみませんが“これ”を先方にお伝えすることは出来ますか?」

 

 

 そう言ってアンドロメダは駆逐棲姫に、携帯タブレットの画面に映し出した数字と文字と記号の羅列を見せた。

 

 それはアンドロメダに割り当てられていた暗号通信コードの一つであり、万が一の場合は破棄しても問題の無い物だった。

 

 

「……大丈夫です。これを一文字も間違えずに相手へと伝えたら良いんですね?」

 

 

 その羅列を暫しジッと眺めていた駆逐棲姫が、問題無いと伝えると、確認のために聞いてきた。

 

 

「はい。それでこちらへと直接連絡が取れるようになります」

 

 

「分かりました。それではまた“行ってきます”ので、体の方をよろしくお願いします」

 

 

 今度は行ってらっしゃいと見送りながら、駆逐棲姫の体を優しく抱き抱える。

 

 

「…半ば俺が焚き付けといておきながら、こんなこと言うのも野暮かもしれねぇが、本当に良かったのか?」

 

 

 アポロノームが改めてといった感じで尋ねるが、アンドロメダは微笑みを浮かべる。

 

 

「ええ。ここで一つでも手を打っておいた方が、後々で生きてくる可能性もありますし、今回の一件は先延ばしにするよりも早々に対処すべきと判断しましたから」

 

 

 というアンドロメダ()からの返答に、アポロノームは一応の納得を示すが、先程浮かべていた黒い笑みについて問いただした。

 

 

「万が一の為の保険を考えていました」

 

 

 満面の笑顔でそう返されるが、アポロノームはその笑顔に若干の恐怖を感じた。

 

 本当に何か“ヤラカシ”そうな…、しかも眉一つ動かさず…、いや、ニコニコと嘲笑(わら)いながら粛々と“行動”に移す、そんなアンドロメダ()の心の内にある“狂気”を垣間見た気がした。

 

 

 そこへ、それまで横に控えて見ていた潜水新棲姫がトテトテと寄って来て、アンドロメダにあるお願いを持ち掛けてきた。

 

 

「私達にもおねえさん達と通信出来るように出来ませんか?」

 

 

 これは横で聞いていたときに、ふと思い付いた事だった。

 

 今は兎も角として、後々の事を考えたらお互いに通信で話し合える様にしておくことは、悪い事ではないはずだ。

 

 

 言われてみればと、2人もお互いに顔を見合わせる。

 

 アンドロメダがここサイパン島へとやって来た時に、ここの責任者である飛行場姫とやり取りを行なった際は同行、というか艤装に同乗していた空母棲姫を介してだった。

 

 あの時はそれでどうにか上手くいったが、どうしても間を介する事でタイムラグが発生するし、認識の相違から誤解が発生してしまうリスクも高い。

 

 それにいつも誰かに通信を任せる様なやり方ではなく、直接やり取りした方が何かとスムーズだし、動きやすい。

 

 そのため潜水新棲姫からの申し出にアンドロメダは快諾し、アポロノームも同様に今後の事を考えて承諾することとなった。

 

 

 とはいえ傍受したことはあっても、実際に通信が繋がるかどうかは、生体艤装というアンドロメダ達にとって未知の技術体系であるがために不安があったが、特に問題無く繋げることが出来た。

 

 ただ、矢張りというべきかアンドロメダ達みたいに映像は無く、SOUND ONLY(音声のみ)ではあったが。

 

 

 しかし音声だけとはいえ、直接のやり取りが出来るようになった事は大きく、これ以降は今まで以上に深海棲艦とのスムーズな情報のやり取りが可能となった。

 

 

 これは一重に異星人文明との接触という、この世界の人類が未だなし得ていない経験と、何よりも科学技術が遥かに優れているガミラスとの同盟により底上げされた地球連邦の科学技術によって、通信技術も飛躍的に向上し、技術体系に違いがあっても問題無く繋げることが出来るようになったことが大きい。

 

 またアンドロメダ(タイプ)は旗艦級の戦闘艦でもあるため、一部を除いた他の地球艦よりも強力で高性能な通信機材と、高度な演算処理能力を有するAIシステムを搭載していることも、今回スムーズに繋げることが出来た要因である。

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 そうこうしている内に、アンドロメダの艤装の通信機器から、「通信回線開け」という呼び掛けを告げる電子音が鳴り響いた。

 

 

 アンドロメダは駆逐棲姫を艤装の椅子に座らせていたので、コンソールの通信設備ではなく、携帯タブレットを取り出すと、作業用として艤装の近くに持ってきていた折りたたみ机の上に置くと、当事者としてアポロノームも共に出るようにとアイコンタクトで示し、服装と制帽を整えさせて横に立たせると回線を開いた。

 

 

 携帯タブレットから光が出て、空中にレーザーで投影された画面が形成され、それにノイズが走るが直ぐに補正が掛かり、そこに金髪ショートカットで金色の瞳をした、その着こなしから一瞬男性かと見紛うが、服の上からも分かる女性特有の胸の膨らみの主張があり、男装の麗人という言葉が似合っている女性が映し出される。

 

 

 相手もこちらを認識したのか、右腕を自身の胸の前に水平に立てる独特なポーズ、ごく最近、制帽非着用時用として防衛軍で正式採用されたばかりの、まだ軍内部でも完全には浸透仕切っていない敬礼のポーズをとっていた。

 

 それを見てこちらは2人揃っての挙手による答礼を返す。

 

 

 

「《お呼びいただき、感謝の極みであります》」

 

 

 

 そして、いよいよ第三の、恐らくは”この世界“よりも“自分達がいた世界”と“()()()()()”、されど“()()()()()()()()”からやって来た異邦人とのファーストコンタクトが、今始まる。

 

 

 

「《地球防衛軍連合宇宙艦隊旗艦、アンドロメダ殿》」

 

 

 

 

 

 

 …だがその視線は何故かアポロノームの方を向いていた。

 

 

*1
フィリピンや地中海方面。特に地中海のエーゲ海と黒海へと繋がるマルマラ海を隔てるダーダネルス海峡攻防戦にて、罠に掛かって無闇にガリポリ半島へと誘い込まれて上陸してしまい、さらには防衛陣地からの阻止攻撃で動きが鈍った所を、地図の書き換えが必要なレベルの新ロシア連邦(NRF)トルコ連合軍によるアホみたいな規模の火力投射を受けて大損害を受けた事がトラウマとなった。





 さ~て、次回はいよいよArizona(アリゾナ)との画面を介したやり取り。

 文中の“極めて近く、限りなく遠い世界”はとあるゲームのサブタイトルから。
 このフレーズは個人的にかなりのお気に入り。


 個人的にヤマト世界の通信技術は、他の世界と比べて一番のチートだと思います。

 技術レベルの違いによる相互差は勿論、星によったら技術体系が全く違う可能性もあるのに、多少の解析で直ぐに画像付き通話が出来るなんて凄いの一言。

 まぁ、そういった背景からアンドロメダは傍受などに対しての警戒感がやや神経質なところがあります。




補足解説


ダーダネルス海峡攻防戦

 クリミア半島セヴァストポリ基地に本拠地を持つ、新ロシア連邦(NRF)海軍黒海艦隊の艦艇や艦娘部隊がエーゲ海を始めとした地中海、果てはスエズ運河地中海側の出入り口であるポートサイド(エジプトの首都カイロから北東に約200kmの位置にある都市)の沖合にまで進出し、散発的な攻撃を仕掛けて来ている事に業を煮やした地中海担当の深海棲艦達が、黒海艦隊が通過するダーダネルス海峡の封鎖を目的として発生した戦い。

 だがこれは地中海東部のエーゲ海周辺に展開する深海棲艦を可能な限り纏めて一挙に叩き、黒海を聖域化し、一帯の石油輸出ルートを安定化させたいという新ロシア連邦(NRF)の思惑から考え出された“罠”だった。

 艦隊並びに自軍に所属する艦娘戦力を全力投入して積極的に動かして深海棲艦を挑発し、防備を固めたガリポリ半島(首都イスタンブールから西南西におよそ200kmの位置にある、ダーダネルス海峡を挟んだヨーロッパ東側のバルカン半島南東部、トラキアと呼ばれる地域のさらに東側に位置するトルコの領土の南側にある半島。)へと誘い込んで大打撃を与える事を目的としていた。


 艦艇は深海棲艦が迫ってきた段階で海峡を通過したが、艦娘だけは“しんがり”として踏み留まったことと、元々主力艦である戦艦艦娘ですら前弩級戦艦のРеспублика(レスプーブリカ)(旧Император Павел I(インペラートル・パーヴェル1世))、Евстафий(エフスターフィイ)Князь Потёмкин-Таврический(ポチョムキン=タヴリーチェスキー公)といった旧式艦が多く、船足が遅かった為に逃げ切れずに陸上へと上がり、現地に展開していた地上部隊と合流。

 それを見た深海棲艦が逃すまいと躍起になって追い掛けて陸に上がったのだが、それが“罠”だった。

 慣れない陸地にモタモタしている内に艦娘は待機していた陸軍の車輌に乗って退避しており、その後に防衛陣地からの攻撃で足止めされていたところを新ロシア連邦(NRF)陸軍とトルコ陸軍の大部隊による地形を変えた、山体崩壊クラスの噴火と見紛う猛砲撃によって、上陸した深海棲艦は文字通り消滅。


 これを見た残存の深海棲艦達は同胞の救助を試みるもその悉くが失敗して断念。撤退した。


 結果としては大きな損害無く深海棲艦を退けた事で勝利とされているが、その戦果は本来目的としていたよりも下回っていたために、黒海の聖域化は兎も角、地域の石油輸送ルートの安定化には程遠く、その勝利は戦術的なものでしかなく、戦略的には不守備に終わったと評価され、また余りにも投入コストが膨大であり、広範囲を吹き飛ばすという問題から多様出来無いなどの課題からこれ以降実施されることは無かった。

 また石油輸出は新たなパイプラインを敷設することとなり、タンカーへの依存度が相対的に低下することとなった。


 しかしこの作戦に際してEUに対して事前の協議による通達はしていたものの、当時新ロシア連邦(NRF)とかなり急接近していたトルコ共和国領内に大軍を移動させて展開していた事がEUの警戒心を煽ってしまい、国境各所でEU軍と新ロシア連邦(NRF)軍が長期間睨み合う緊張状態を作り出してしまった。



EU軍

 元は先の第三次世界大戦における東欧紛争にて、欧州各国でパンデミックの影響による経済低迷が原因で発生した大量の失業者対策も兼ねて義勇軍として派遣された兵士達を戦後に再雇用したのが原点。

 その背景には欧州各国が戦争の影響(主に深刻なエネルギー問題によるコスト増)でさらに経済が落ち込み再雇用出来なかったというのもあるが、戦争後半に次々と発覚した義勇兵による現地での各種の軽犯罪だけでなく、戦争犯罪とその隠蔽がすっぱ抜かれた事で義勇軍に対する評価がガタ落ちし、そこに参加していた義勇兵への風当たりも強くなってしまい、戦後の社会復帰への妨げとなってしまった。(帰還兵ランボー状態)

 そこに目を付けたEU委員会が独自の軍事力を持ちたいとの考えから帰還兵達を雇用。
 その装備はEU圏内の各種軍需産業をメインに買い付けたため、EU委員会との結び付きも強くなる。

 問題は構成する兵士達が元々EU各国で半ば村八分にされていたという経緯から、モラル面などの素行に問題を抱えており、度々トラブルが発生している。


愚痴コーナー

 前回リサーチ不足からやらかしましたが、その後も次から次へとジジイの不祥事が出てきて溜め息しか出ない。

 まぁ、以前から結構言われてきたことですから、驚き自体は皆無なのですが、中間選挙が終わり、年明け早々の時期に出てきたという事から、遂に用済みとして“切り捨て”が始まったか?と勘繰りを禁じ得ない。

 問題は現在の副大統領、ジジイ以上のヤバいというか権力を持たせてはならない代表格と言えるほどの、“無能”。

 どれ程無能かというと、“あれ”一応南部国境不法移民問題対応の責任者なんですぜ?
 だけど本作で何度も取り上げましたが、悪化する一途で、何の仕事もしていないのは明らか。
 またある時取材でその事を突っ込まれた際、いきなり笑いだして誤魔化して逃げ出しました。その動画を見たことありますが、失礼ながら狂っているんじゃないか?としか思えない状態でした。
 これだけでなく、都合が悪くなるとそうやって逃げ出したり、質問に対して頓珍漢な答え、いや政治家としてそれどうなの?事前の勉強とか説明とか無かったの?と不安になる受け答えが見られます。

 …いっそ副大統領も一緒に追い出して下院議長に大統領になってもらった方が良いのでは?いやまあ、下院議長もちと不安だが、前任の妖怪ばばあよりかはまだマシではありますが。

 補足、アメリカで大統領に何かあった際に次に大統領となるのが副大統領ですが、万が一その人にも何かあった場合、その次はその時の下院議長が大統領となります。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

 …後書きが一番時間が掛かってた。というか、補足説明の内容を煮詰めていくのが楽しくてその時間にかなり食われてた。


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第37話 The world which is extremely close but unlimitedly far

 極めて近く、限りなく遠い世界に


 注意

 微妙に空母型アンドロメダをディスります。

 独自設定やら独自解釈、果てはArizona(アリゾナ)がいた世界でのガトランティス戦役は2とさらば、ちょこっと2202の要素を混ぜ合わせたややオリジナルな展開としましたが、ご了承下さい。


 な、なんとか1月中にアップ出来た…。色々と難産でした…。


 

 

 

「もう始まって「《申し訳ありませんでした!!》」わっ!?」

 

 

 

 諸々の情報を他の姫達に伝え、大急ぎで“帰って”きた駆逐棲姫は、意識が戻った直後にハンガー中に響き渡る程の謝罪の声に、びっくりした。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

 声の大きさに驚き、耳を手で塞いで頭がふらふらしていた潜水新棲姫に、何が起きたのかを問い質すと、「なんかヒト違いが起きたみたい…」との答えが返ってきた。

 

 

 

 戦後に開示された当時の関係者からの証言によると、この異邦人同士の会談はアポロノームをアンドロメダと勘違いしたArizona(アリゾナ)の謝罪から始まったとされている。

 

 

 この勘違いの背景には、世界の違いによる情報の相違からきた、所謂先入観の様なものが原因であったと言われている。

 

 会談の後、当事者であるArizona(アリゾナ)は自身の関係者にこう漏らしていた。

 

 

「いや正直驚いたのなんの、ガトランティス戦役(あの戦い)を生き残った(ヒト)から、アンドロメダ殿は土方司令に似て気の強いヒトだったと聞いていたからさ、勝ち気そうな雰囲気のヒトがアンドロメダ殿だと思ったんだ。

 

 そしたらその隣のどこか控え目で大人しそうな、優しい雰囲気の美しいヒトがアンドロメダ殿だったとは…。

 

 いやはや、先入観って怖いね…」

 

 

 そう語っている際の顔は、心底以外で驚いたものであり、普段そこまで内心を表情に出すことがなかった彼女としてはとても珍しいモノだったと、関係者は自身の日記に書き残していた。

 

 

 

「あはは、まぁ、らしくないとはよく言われていましたから、お気になさらず」

 

 

 自身の頬を掻きながら気にしていないと語るアンドロメダだが、それが余計にArizona(アリゾナ)を恐縮させてしまう。

 

 

「しかし、どうやら()()()()()の世界の姉貴は俺に似た風貌だったみたいだな?」

 

 

 自身がアンドロメダと勘違いを起こしたもう1人のヒトからの言葉に対して、Arizona(アリゾナ)は反射的に「《あ、いえ。自分はアンドロメダ殿とは直接の面識があったわけではなく…》」と答えるが、途中で首を傾げる。

 

 “あちらさんの世界”とはどういうことか?いや、まさかとは思ってはいたことではあるが…。

 

 

「諸々気になることはあるかと思いますが、まずはお互いの自己紹介と致しましょう。

 

 私は地球連邦防衛軍、航宙艦隊総旗艦を拝命しておりました、AAA-1アンドロメダです。

 

 そしてこちらが私の大切な妹の1人───」

 

 

 視線を横に立つアポロノームに向けると、アポロノームはいつもの不敵な笑みを浮かべ、親指を立てて自身を差しながら名乗りをあげる。

 

 

「俺はAAA-3、アポロノームだ。

 

 アンドロメダの姉貴の妹で3女、つまり3番艦だ」

 

 

 その名乗りに対しても新たな疑問が湧くが、一旦それらの疑問を頭の片隅に寄せ、人間で言うところの官姓名を告げる。

 

 

「《自分は地球連邦北アメリカ州、州軍艦隊所属、Arizona(アリゾナ)級護衛戦艦1番艦(ネームシップ)Arizona(アリゾナ)であります》」

 

 

 互いの名乗りが終わり、早速と言わんばかりにArizona(アリゾナ)が切り出す。

 

 今の名乗りにしても、自分が持つ記憶と記録から微妙に違いがあることが見受けられる。

 

 いや、その“答え”には既に辿り着いているのだが、やはり言葉にしてもらわなければ、そしてより明確な“証拠”とも言える物を示してもらわないと心情的にも信じ切ることが出来なかった。

 

 

 Arizona(アリゾナ)からの問いに、アンドロメダは苦笑しながらも、返答を述べる前に念のため、確信を得るためにあることを確認した。

 

 

 連邦政府は各州管区に課していた大型航宙戦闘艦建造に関する制限を解禁したのですか?と。

 

 

 これにArizona(アリゾナ)は更に首を傾げる。

 

 

 そんな馬鹿げた事を課していたら、地球の艦隊再整備を中核とした軍備再建なんて夢のまた夢じゃないですか。

 

 北アメリカ州は防衛軍が使用する大型戦闘艦の建造において、かなりのシェアを誇っていたし、僕の建造さ(生ま)れたニューポートニューズの造船ドックでは主力戦艦である『Majestic(マジェスティック)』級だって建造されていました。

 

 ガトランティス戦役中は地球全土にある官民関係無く造船ドックや工廠が連日連夜フル稼働して新造艦を造り出し、交換部品などの各種の消耗品やミサイルや魚雷などの弾薬を各地の兵站倉庫へと積み上げていきました。

 

 戦後はそれらの膨大なストックがあったお陰で、ガトランティスの()()()()()による直接攻撃によって破壊された各種の工場が再建されるまでの間、物資不足で艦隊が動け無くなる事も無かったし、大規模造船所や軍工廠は軒並み破壊されたけど、各地に点在していた民間のドックが幾つか生きていたから大型艦の修理だって出来た。

 

 これは一重に、連邦政府がガミラス戦役後の復興政策と雇用対策の一つとして世界各国に造船所の建設を奨励していたが故に、リスクの分散に繋がったからだ。

 

 

 連邦政府が造船所の建設を各国に進めず、官製の造船ドックのみに集約していたとするならば、成る程、かつての一大造船所の様に、その造船所だけである程度の自己完結と、資材流通を一本に纏めることによって流通ルートの煩雑化が防げるといった合理的なメリットがあるかもしれないが、それだと逆に需要の伸びに対してその施設規模は幾何級数的に肥大化し、それに正比例してリスクも肥大化してしまい、リスクヘッジが難しくなるといったデメリットの懸念が大きい。

 

 事実、戦中において各国の持っていた大規模な造船所などの生産設備はその外観から非常に目立ってしまい、軒並み瓦礫の山へと変えられてしまったと聞いている。

 

 何より雇用に地域差が出て、深刻な経済格差を生み出しかねない。

 

 

 

 至極まともで一々納得しかないArizona(アリゾナ)の言葉に、アンドロメダは頷きながら聞き続けていたが、同時に核心とも言える事が分かった。

 

 

 彼女のいた世界の地球には、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 おそらくこちらの世界にも時間断層が存在し無ければ、こちらの連邦政府も似たような政策を考えていたことだろう。

 

 

 そして彼女が指摘した通り、雇用問題は実際に起きていた。

 

 

 地上への帰還事業が一段落したことを理由として、今まで稼働していた各地の地下都市に設けられていた製造工場が段階的に稼働を停止した。

 

 だがその代替となるハズの地上への工場移設は、不自然な程に規模が小さかったし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 この裏には時間断層の無人工廠が稼働を開始したことが原因だった。

 

 

 しかし、それと引き換えに今まで工場で働いていた工員の、段階的とはいえ大量解雇が発生していた。*1

 

 

 時間断層の有無が政策の決定と方向性に大きく作用し、発生した事象にも差異が生じていたのだと実感し、またその事でArizona(アリゾナ)が自分達の居た世界とはまた別の、似て非なる違う世界から来た存在なのだと確信した。

 

 

 アポロノームもそれに思い至ったのだろう。僅かにだが肩を竦めている。

 

 

 さて、自分達はこの受け答えで確信が持てたわけだが、問題はどうやって説明したら説得力があるだろうかと思い悩む。

 

 

 言葉にするのは簡単だ。

 

 

 だがそれを裏付ける証拠となる物を提示しなければ、確かな信用は得られない。

 

 

 ふとアポロノームがあることを思い出し、自身の携帯タブレットを取り出すと、データベースへと急いでアクセスしてなにかを確認、アンドロメダへと見せた。

 

 

 それを見たアンドロメダは「成る程、“百聞は一見に如かず”とは正にこの事ですね…。」と呟くと、アイコンタクトでアポロノームに“それ”を彼女に見せるようにと示した。

 

 

「なぁ、あんた確か俺のことを知らなかったらしいよな?」

 

 

 アポロノームからのその問いに、Arizona(アリゾナ)は頷いて肯定の意を示す。

 

 それを見てアポロノームは自身の携帯タブレットを机に置くと、「これを見て欲しい」と告げ、タブレットの再生ボタンをタップした。

 

 最初Arizona(アリゾナ)はアポロノームが示したタブレットの画面が見えないことに訝しんだが、タブレットから投影されたホログラフィに驚きの表情を見せた。

 

 どうやら彼女のいた世界ではホログラフィは一般的では無かったようだ。

 …かというこちらもガミラス製の舶来品ならばまだしも、地球純正品によるものはまだ珍しく、一般的では無いが。

 

 

 

 映し出された映像は政府広報による、とある“進宙式”の記録映像だった。

 

 

 

 画面に、海へと突き出た長大なスロープ状の物体を有する巨大な建造物が映し出され、その前に設けられた演台に式典用の一張羅に身を包んだ1人の壮年の男性が現われた。

 

 

 

「全世界の皆さん。

 

 私は、地球連邦政府初代大統領として、今日、ここに最新鋭艦『アンドロメダ』級の完成を報告するものであります」

 

 

 Arizona(アリゾナ)にはこれに既視感があった。

 

 記録でしか知らないが、かつて『アンドロメダ』が進宙した際の式典と似ているし、演説しているこの男も自身がよく知る連邦大統領と良く似ていた。

 

 

 しかし明らかに違う。

 

 

 画面の奥に映る『アンドロメダ』と酷似した(ふね)の数が4隻と可笑しいし、内2隻のシルエットも異様だ。

 

 何だあの頭でっかちで不細工な艦橋後部のスタイルは!?

 

 『アンドロメダ』級の完璧な“直線美の極み”と言えたあの美しいシルエットを完全に損なっているではないか!!

 

 

 そう憤っていると、それに対して2人は顔を見合わせ苦笑し、アポロノームは肩を竦めていたが、この時Arizona(アリゾナ)は同時に“辿り着いていた答え”がやはり真実であると信じざるを得ないと思う様になり、そして演説の続きの言葉によって、トドメを刺されることとなる。

 

 

「宇宙の平和、それを齎し、それを守る力となるのは、()()()()()()()()()()()()であります」

 

 

 “ガミラスとの同盟”。この言葉にArizona(アリゾナ)は目を見開いて驚いた。

 

 

 ガミラスとの同盟!?どういうことだ!?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?

 

 

 だが改めて映像をよく見ると、列席している人間達の中に肌の色が明らかに地球人とは違う、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が映っていたし、なんならガミラス軍系の衣装と酷似した制服を着た高官らしき人間も映っていた。

 

 

 最早疑う余地も、信じ無いという理由は、Arizona(アリゾナ)の中には無かった。

 

 

 アンドロメダ殿とアポロノーム殿は、この世界よりも自分のいた世界と非常に酷似しているが、全く違う世界から自分と同様に迷い込んでしまった存在なのだと。

 

 

 そう内心で結論づけていると、演説も最後の締めの段階へと移っていた。

 

 

「その重責を担うシンボルとして、すでに1番艦『アンドロメダ』は同盟軍の作戦に従事し、華々しい戦果を挙げております」

 

 

「続く4人の姉妹達も、必ずや我々の期待に応え、平和を守る無敵の盾となってくれるでしょう」

 

 

 その言葉を締めに演説は終わり、直ぐ様4隻の命名式へと移り、その艦名が読み上げられ、艦名が呼ばれる度に1隻1隻が画面にアップされ、そのテロップが表示されていく。

 

 

 『アンドロメダ』のカラーリングを青くした2番艦『アルデバラン』。

 

 

 Arizona(アリゾナ)が不細工と称した3番艦『アポロノーム』。

 

 

 『アンドロメダ』と同系色の4番艦『アキレス』。

 

 

 『アポロノーム』を『アンドロメダ』カラーとした末妹の5番艦『アンタレス』。

 

 

 その際に『アポロノーム』と『アンタレス』が空母型であるとの補足説明により、Arizona(アリゾナ)はあんぐりと口を開けて驚いた。

 

 おそらく“あの”不細工な艦橋後部のユニットが航空艤装なのだろうが、外観から見てもその機能はかなり複雑であると見て取れた。

 

 

 故障のリスクをちゃんと検討したのだろうか?

 

 

 思わずそう心配してしまうが、これはやはり自身が余りにも複雑な構造だったがために故障に悩まされ、最終的に自身が沈んだ遠因ともなっていたが故に、兵器は可能な限りシンプルなのが一番であるとの経験に基づく考えから、ついその事が心配になってしまうのだ。

 

 

 同時に、先の思わず口を衝いて出てしまった自身の暴言とも取れる失言に、やってしまったと後悔した。

 

 

 そんなことを考えながら見ていると、ふと気になったことがあった。

 

 

 この4隻は皆、自身のお披露目という晴れの舞台であるはずなのに、どこか不貞腐れている様な雰囲気がArizona(アリゾナ)には感じ取れて、首を傾げた。

 

 特に青いカラーリングの、『アルデバラン』からは、隠し切れない怒りと、どこか失望しているかの様な雰囲気が見て取れた。

 

 

 そのArizona(アリゾナ)の見立ては、正しかった。

 

 

 自分達の長姉、最も愛して止まない1番艦『アンドロメダ』は、見送る人も軍楽隊による演奏も無い、寂しい進宙式で人目を避けてのひっそりとした出航だったのだ。

 

 妹達にはそれが大いに不満だった。

 

 特に姉至上主義のアルデバランにはそれが許せなかった。

 

 

 何故、栄えある1番艦(ネームシップ)、先のガミラス戦役における武勲艦であらせられるヤマト様(母上)の御息女にして、ヤマト様(母上)が溺愛されておられるアンドロメダ(姉上)がまるで咎人かの様に人目を憚ってコソコソとさせられ、自分達はそれとは正反対の派手さと盛大な演出によって見送られるのか…。

 

 

 何を置いても最愛の姉であるアンドロメダが一番であるとするアルデバランは、上層部によるアンドロメダへの扱いに対して怒りを覚え、抑えきれない激情に震えていた。

 

 

 姉上も、この場に居て頂けたならば…。そう何度思ったことか…。姉上こそ最もこの場に相応しい御方であるというのに…。

 

 だけど、どこまでも慈悲深く、誰よりも心優しき女神であらせられる姉上が「私は気にしていませんから」と仰っていられていた以上は、わたくしは黙って耐えるしかありません…。

 

 

 しかしそう自身に言い聞かせながらも実際はかなり荒れていたし、それを窘めるアンドロメダはこの場にはおらず、他の妹達もほぼ同じ心情であったがために咎めなかった。

 

 

 姉上のお側で侍らせて頂けないことが、これ程苦痛だとは…。

 

 

 ある意味で未来の自身を暗示するかのような思いと共に、アルデバランは妹達と宇宙(ソラ)へと上がって行った。

 

 

 無論、映像からではそのことが正確に読み取る事は出来ないが、姉妹を思うという気持ちでは誰にも負けないと自負しているArizona(アリゾナ)には、なんとなくではあるが察する事が出来た。

 

 

 

 

 そして映像が終わる。

 

 

 

 先に言葉を告げたのはArizona(アリゾナ)からの先の失言に対するアポロノームへの謝罪だった。

 

 知らなかったとはいえ、余りにも不躾な物言いに、真摯な態度で謝罪した。

 

 

 とはいえ当のアポロノームも、本音を言うと余りにも機構や内部構造が複雑で、事故や故障の絶えなかった自身の航空艤装ユニットには些か手を焼かされていたという経緯があったが為に、そこまで気にしてはいなかったのだが。

 

 

 そしてお互いが本来ならば交わることのない、この世界の地球よりも限りなく似ているが、全く違う世界の存在であると理解した事を、Arizona(アリゾナ)はハッキリとした声で2人に告げた。

 

 

 

 

 ここからはお互いの認識の相違点を確認し合う為に、互いの歴史を語り合うこととなった。

 

 

 

 まずはArizona(アリゾナ)から、特にお互いの歴史における最大の相違点である、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事が話され、その原因が『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と告げられた。

 

 

 これにアンドロメダとアポロノームは大きなショックを受けた。

 

 だが同時にそれはこちらの世界においても、総統アベルト・デスラーの狂気によって十分に起こり得たことであったがために、どうにか気持を持ち直した。

 

 

 そしてガトランティス戦役。

 

 

 これは随所に違いが見受けられた。

 

 

 ガトランティスは人造生命体などではなく、かつての遊牧民族の様な国家であり、その思想も全宇宙の知的生命体を悉く滅ぼすというものでは無く、支配を目指している、ある意味で真っ当(?)でまだ理解が出来るものだったし、あのバカみたいな物量でもない常識的(?)なものだった。

 …とはいえ傍迷惑なことには変わりないが。

 

 

 自身が最も関わりのある土星決戦も、その様相がかなり違っていた。

 

 

 

 『ヤマト』が率いた空母艦隊による航空決戦、『フェーベ沖大航空決戦』。

 

 

 地の利を生かした『土星沖艦隊決戦』。

 

 

 

 だがその艦隊戦には勝利するも、直後の白色彗星迎撃戦では艦隊規模の拡散波動砲一斉砲撃による統制波動砲攻撃が通用せず、統制波動砲戦に参加した艦隊の大半が退避に失敗して彗星が発する超重力と彗星を形作る中性ガスの渦に吸い込まれて壊滅。

 

 山南艦長では無く、土方司令の座乗する『アンドロメダ』は退避中に僚艦と接触して波動砲が損傷するも、数隻の戦艦と統制波動砲戦に参加していなかった小型艦と共に生き残って撤退する。*2

 

 

 木星圏まで後退し、同地の基地にて応急修理を施した『アンドロメダ』は、残された稼働可能な地球軍艦艇全艦に集結命令を発しながら、地球へと向かった白色彗星を追って発進する。

 

 

 『ヤマト』が最大出力で放った収束波動砲によって彗星の中心核を撃ち抜かれ、彗星を形成していた中性ガスの渦が吹き飛ばされたことにより姿を現した白色彗星の正体、要塞都市帝国に対する『ヤマト』単艦による決死の総攻撃の直前に、『アンドロメダ』は土方司令の集結命令に応じて参集した全艦艇を率いて『ヤマト』の周囲へとワープにて駆け付け、戦線復帰。

 

 

 土方司令による檄を受け、『ヤマト』と共にガトランティスに対する最後の決戦に挑む。

 

 

 だが要塞都市に設けられた数多の防御砲台と、周囲の艦隊からの激しい砲火によって地球艦は波動砲を撃つ事が出来ず、1隻、また1隻と沈められ、『アンドロメダ』は被弾しながらもその持ち前の砲火力を遺憾なく発揮して果敢に応戦し、敵艦隊を撃ち倒す事に多大なる貢献を果たすが、遂には大破して戦闘不能となり、直後に艦橋付近が被弾して艦橋要員と司令部要員は全滅、土方も瀕死の重傷を負う。

 

 土方司令は最後の気力を振り絞って操縦桿を握ると、『ヤマト』と残存艦艇に最後の命令を発し、自ら舵を切って要塞都市下部の艦載機射出口に体当たりを敢行して爆沈。

 

 『アンドロメダ』の爆発によって破壊された射出口ハッチを侵入口として残存地球艦隊から発艦した艦載機群が突入し、空間騎兵隊を中核とした各艦から志願した陸戦部隊が強襲を仕掛け、血で血を洗う激しい白兵戦の末に動力源を破壊。

 

 その後『ヤマト』を中心に、攻撃可能な残存艦艇からの一斉砲火により要塞都市は破壊されるも、その直後に現われた超巨大戦艦の猛攻撃により『ヤマト』は大破。他の地球艦も爆沈ないし大破する。

 

 超巨大戦艦は戦闘能力を完全に損失し、漂流するだけとなった残存地球艦隊を無視して地球への直接攻撃を開始した。

 

 その直後、突如出現したテレサの協力により、超巨大戦艦は完全に破壊された。

 

 

 

 それがArizona(アリゾナ)の世界におけるガトランティス戦役の顛末だった。

 

 

 

 正直、アンドロメダには彼女の世界におけるアンドロメダがある意味で羨ましかった。

 

 

 知略を駆使した艦隊決戦に、アンドロメダは内心で憧れていたからこそ、最期こそ自身と同じく『ヤマト』に未来を託して壮絶な最期を遂げたが、それまでの活躍に憧憬の念を抱かずにはいられなかった。

 

 

 アポロノームも自身の艦載機を縦横無尽に駆使した航空決戦を行いたかったという願望があった為に、フェーベ沖での地球軍空母艦隊に対して嫉妬に近い感情を抱いていた。

 

 

 仕方が無かったとはいえ、物量によるお粗末な消耗戦しか出来なかったこちらの戦いが、なんだか恥ずかしく思えてならなかったが、次はこちらの番であり、話さない訳にはいかなかった。

 

 

 だがArizona(アリゾナ)はその呆れ返る程の両軍の物量による一大消耗戦よりも、地球軍の物量を支えた根幹である、時間断層工廠の方が気になった。

 

 

 明らかに地球では持て余す代物であるとしか思えなかったのだ。

 

 

 どう考えても復興途中の地球の国力や、太陽系で産出される資源だけでは到底賄えるとは思え無い。

 

 こちらの艦隊整備や復興政策だって、実際のところ爪に火を灯すという言葉が表わす様な、かなりギリギリのリソースで頑張っていたのだ。

 

 近年、太陽系に最も近い恒星系であるアルファ・ケンタウリ星系へと入植が開始されたが、例えそこの資源を含めたとしても、この工廠の生産能力を維持するには無理がある。

 

 

 その疑問に対して、ガミラスから譲渡された資源惑星の存在が語られたが、それを聞いたArizona(アリゾナ)は天を仰いだ。

 

 

 これでは、地球はガミラスの事実上の経済的植民地ではないか。と。

 

 

 そしてそれはある意味で当たっていた。

 

 

 地球はガミラスという国家の植民地、では無く、デスラー体制崩壊後の民主化以降にその力と影響力を拡大させていた“あるグループ”によって、半ば植民地となりかけていた。

 

 “彼ら”はデスラー体制下で推し進められていた拡大政策の恩恵を最も受けていた、軍需産業を中心とした大企業と投資家達の集まりによって形作られた一団だった。

 

 

 地球とガミラスによる和平が成立した段階から、“彼ら”による地球への進出、いや侵出は始まっていた。  

 

 

 そして時間断層の存在を知ると、それは最早“侵蝕”と言って差し支えのないものとなっていた。

 

 

 “彼ら”は先ず地球の有力者の中でこれはという者達をピックアップして、ガトランティスという破壊と暴虐の限りを尽くす蛮族の脅威について喧伝し、その恐怖を煽った。

 

 

 そのガトランティスには『ヤマト』がイスカンダルからの帰路の途中で実際に遭遇し、その野蛮さについての報告を聞き及んでいたからこそ、“彼ら”の語る脅威による恐怖は現実味があった。

 

 

 早急なる復興と再軍備が成されなければ、次こそ地球は完全に滅亡するかもしれない。

 

 

 滅びの恐怖を経験したからこそ、形振りは構ってはいられなかった。

 

 

 そして地球は、“彼ら”の仕掛けた“罠”に、ものの見事に引っ掛かってしまった。

 

 

 “彼ら”は耳元で囁いた。

 

 

 「力無き理想は、戯れ言に過ぎない」と。

 

 

 実際にそれがどこまでの影響があったかは定かではないが、この頃から地球は例の『波動砲艦隊構想』へと邁進していく事となる。

 

 

 しかしこれが“彼ら”の仕掛けた“罠”の本質だった。

 

 

 波動砲搭載艦は製造、運用、維持管理の全ての面において、波動砲非搭載艦と比べてコストが非常に掛かる金食い虫だった。

 

 何よりも使用される資源、特に波動砲関連の製造で使用されるレアメタルやそれに求められる品質基準も非常に高い。

 

 『ヤマト』はその求められた性質上、事実上ワンオフモデルとして造られたからこそ、コスト度外視、希少資源の選り好みや潤沢使用という、ある程度の潰しが効く、消耗が前提として造られる兵器という名の“消耗品”としてみたら、潰しが効かないという兵器としてあるまじき“矛盾”を抱えた、コストパフォーマンスが非常に悪いある種の“芸術品”レベルの“贅沢”な“高級品”とすることが出来たが、今度はそうはいかない。

 

 

 しかし今の地球の国力から鑑みたら、とてもじゃ無いが無理な話だ…。

 

 

 事実この当時の地球では波動エンジンの量産すら難しい有様だったのだ。

 

 

 だが“彼ら”はそれも織り込み済みだった。

 

 

 ガミラスからの戦後賠償や技術支援などにそれらの問題をクリアーする要素が盛り込まれていた。

 

 

 さらには時を同じくして、ガミラス投資家からによる融資の話も舞い込んで来た。

 

 

 そしてさらにこう呟いた。

 

 

「時間断層の特性を生かした工廠が稼働さえすれば、国力などどうとでもなるし、借款だって直ぐにカタがつく」と。

 

 

 そこからはトントン拍子だった。

 

 

 “彼ら”が言った通り、時間断層工廠が稼働し始めてから、地球の国力はガミラスからの手厚い援助もあって、戦後のドン底期と比べたら見違える程に変化した。

 

 

 だがこの時点で地球は気付くべきだった。

 

 

 時を追うごとに高まる地球の対ガミラス依存度に…。

 

 

 増産が進む波動砲搭載艦にどれ程のガミラス製の資源が費やされ、その維持管理に必要な国債の買い手が何処であるか。

 

 

 そう、これが“彼ら”の仕掛けた“罠”の本質だった。

 

 

 地球のガミラスに対する依存度を高めることで、いや、正確には“彼ら”の影響力がある企業群を介してのガミラス依存度、というのが正しいか。

 

 

 時間断層工廠はガミラスから譲渡された資源惑星によって支えられているとはいえ、それらはガミラス領内に存在し、地球への供給ルートに関連するサプライチェーンの大半は、“彼ら”に連ねるグループとその外資系企業に握られていた。

 

 

 もし地球が自分達の意にそぐわない行為に及ぼうとするならば、今の地球を支えている資源供給の蛇口を締めてしまえば良いのだ。

 

 譲渡された資源惑星から大量に輸入されて来る安価な資源の影響によって、地球の資源自給率はとても低く、太陽系内にある戦前から存在する各惑星の鉱山も、気が付けばガミラス系外資の息の掛かった企業や団体に買い漁られていた。

 

 

 気付いた時には地球は“彼ら”の意向に逆らえ無い状態となっていた。

 

 

 “彼ら”は銀河系に自分達の息の掛かった“工業惑星”を持つことで、後々銀河系へと進出した際の足掛かり兼、現地の工場として地球を自らの影響下に置くことを狙っていた。

 

 何よりも地球はガミラスの勢力圏内と比較して人件費が安く、まだ手付かずの資源惑星が存在する可能性が大であり、将来的に安価な製品の大量供給が見込まれていた。

 

 

 では“彼ら”の本国であるガミラス民主政府はこのことをどう見ていたか?

 

 

 一言で言えば、悩んでいた。

 

 

 地球は──正確には『ヤマト』だが──確かにデスラーの狂気の沙汰から自分達を救ってくれた恩人としての一面があるが、同時に波動砲という、ガミラス民族にとって仰ぎ見る存在であるイスカンダル最大の禁忌を犯した国でもあった。

 

 

 もし地球が波動砲搭載艦を使って覇権に乗り出したら?という懸念に常日頃から悩まされていた。

 

 

 であるならば、そういった暴挙に地球が及ばないようにするためにも、資源供給という“首輪”を嵌めてコントロールすべきでは無いか?という意見が政府や軍部内に少なからずあった。

 

 

 だがもし、地球が“彼ら”、近年増長著しい企業群の私兵となってしまったら…?

 

 

 最近、企業群で可怪しな動きがあるとの報告が上がって来ていた。

 

 どうもデスラー体制復活派との水面下での繋がりがあるようなのだが、しかしその詳細が掴みきれていなかった。

 

 

 そのため、地球で探りを入れるべく、保安情報局との繋がりもある、当時内務省に勤めていた文官、ローレン・バレルを在地球ガミラス大使とし、その補佐に保安情報局の捜査官でもあるクラウス・キーマン中尉を駐在武官として宛がい、地球へと派遣した。

 

 

 そして結果から言えば、ガトランティス戦役が諸々に決着を付けてしまった。

 

 

 ガトランティス戦役中、色々とあってデスラー体制復活派の中核が旧デスラー親衛隊の残党であるなどの詳細が判明し、その一斉摘発の際に押収された資料から“彼ら”と復活派の繋がりが明確となったのだが、事はそれだけに終わらなかった。

 

 押収された資料から、“彼ら”はガミラス領内で活動し、近年その動きが活発化していた反ガミラス武装過激派テロ組織への物資や武器を密売していた事が発覚。

 

 領内が荒れることで軍に自分達が造る武器の需要を生み出し、尚且つ流通における保険金で儲けるというマッチポンプを行なっていたのだ。

 

 その事実から、旧デスラー親衛隊から強請(ゆす)られ、彼らにも物資や武器を提供していた。

 

 

 そして、それらの物資や武器の出処が、地球、時間断層工廠だった事が後に判明。*3

 

 

 これらの事実を叩きつけられたことにより、国家反逆罪として大規模な摘発が断行され、また戦後に地球が時間断層工廠の放棄を決定した為、“彼ら”の目論見は完全にご破産となった。

 

 またこれらのことから、ガミラス民主政府は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事に対して、内々に地球連邦政府へと謝罪を行なったとされている。

 

 

 なお、これらの内、アンドロメダは先の親衛隊とテロ組織に関する情報から、摘発が開始されるかもとの情報までは聞き及んでいた。

 …まぁ、その時の彼女はかなり荒んでいたから、どうでもいい情報として聞き流していたが。

 

 

 以上のことから、地球はギリギリの所で事実上の植民地化は避けられたと、アンドロメダは語った。

 

 

 そのことにArizona(アリゾナ)は胸を撫で下ろすべきか、正直なところ悩んだ。

 

 それらのことは色々と“刺さる”内容だったからだ…。

 

 

 

 

 兎も角、一旦互いの歴史の擦り合せは終わりとなった。

 

 

 

 そしてこのタイミングで駆逐棲姫が顔を出してきた。

 

 

 一息付けましょうとアンドロメダとアポロノームに飲み物を持ってきたのだ。

 

 また画面の向こうでも、まるで示し合わせたかのようにIowa(アイオワ)Arizona(アリゾナ)に飲み物を差し出し、次いでとばかりにこちらへと挨拶してきた。

 

 

 次期大統領候補とされているヒトがひょっこりと出て来て、しかもかなりフランクに挨拶してきたものだから、アンドロメダとアポロノームは面食らってしまった。

 

 

 ここで通信を繋げたままだが小休止となり、アンドロメダはArizona(アリゾナ)に駆逐棲姫の事を紹介した。

 

 

 その際、アンドロメダが当たり前のように駆逐棲姫のことをお姉ちゃんであると紹介したものだから、今度はArizona(アリゾナ)Iowa(アイオワ)が驚愕することとなった。

 

 

 

「《お2人を見ていると、本当に仲の良い姉妹にしか思えませんね》」

 

 

 Arizona(アリゾナ)が苦笑いを浮かべながら、そうアンドロメダに語った。

 

 

「ふふふ、ありがとうございます。お姉ちゃんは私にとって掛け替えのない大好きなお姉ちゃんです」

 

 

 そう朗らかな笑みを湛えながら話すものだから、つい頬が緩むArizona(アリゾナ)

 

 

「…ですが、だからこそ」

 

 

 それまでのアンドロメダの優しそうな雰囲気がガラリと変わった。

 

 その笑みはとても冷たく、暖かいフロリダに居るはずなのに、厳冬期のブリザードによる冷え込みに似た錯覚を覚えて、背筋が凍った。

 

 

「私のお姉ちゃんから脚を奪い、その心に消えない、癒えることのない大きな傷を負わせたモノ達を許す気にはなれませんし、許すつもりもありません」

 

 

 顔は笑っていても、どろりと濁ったその瞳からは隠すつもりもない明らかな憤怒の焔が灯っていた。

 

 

 

「…ですが」

 

 

 フッと、纏う雰囲気が和らぐ。

 

 

「だからといって、私の中で燻ぶる怒りの赴くままに、力を所構わず行使するなどという、冥府魔道に堕ちるつもりは毛頭ありません」

 

 

 駆逐棲姫の脚が無いことは知っていたが、何か訳がありそうだと察したIowa(アイオワ)が、差し支えがなければ、との前置きをおいてからアンドロメダに一体彼女の身に何が起きたのか教えてほしいと頭を下げて頼み込んだ。

 

 

 その事に、アンドロメダは一瞬悩む。

 

 その話は駆逐棲姫(お姉ちゃん)にとって錯乱という発作を起こす程の事なのだ。

 

 今ここで話すと確実に発作が起きる。

 

 

 ふと、Iowa(アイオワ)の横に控えるArizona(アリゾナ)が険しい顔となっている事に気が付いた。

 

 

「…どうやら、貴女はご存知の様ですね?」

 

 

 そのアンドロメダからの問いに、詳細までは掴めていないが、ある程度の予想がついていると答える。

 

 

「《States(この国)がひた隠しにしている作戦が絡んでいるんだろう?》」

 

 

 その言葉に、Iowa(アイオワ)は強いショックに襲われることとなった…。

 

*1
その直後に軍で再雇用されたため、表立った問題として表面化することは無かった。無論これは事前に計画されていたことである。そしてガトランティス戦役後に戦役を生き延びた彼らの大半が暫くして、再び行員として民間へと戻ることとなるのだが、それはまた別の話。

*2
なお、この世界での山南艦長の容姿を見せてもらった際、そのあまりにも違う顔立ちにアンドロメダは目を回し、その後にアンドロメダ側の山南艦長を見たArizona(アリゾナ)が「えっ!?」という顔となった。

*3
その情報だが、どうも地球側から齎されたようなのだが、それをガミラス大使館に持ち込んだのが防衛軍総括副司令であるとの噂がある。





 さぁ次回Iowa(アイオワ)を曇らせるぞぉ(多分)。


 どうしたら互いが違う世界の存在であるかを理解するかと頭を悩ませた結果、こういう結果となりました。


 Arizona(アリゾナ)のいた世界でのアンドロメダは、気の強い性格で姉御肌なお方でしたため、そう聞いていたArizona(アリゾナ)はヒト違いを起こしました。

 当初は戦闘や演習のシーンも考えましたが、画面の情報量過多から偽装映像リスクの懸念の指摘という可能性が頭を過って断念。まぁ、式典も偽装出来なくもないですがね。
 映像偽装はプロパガンダの基本ですからねぇ…。


 因みに作中に出した“彼ら”はソ連崩壊後のロシアで現われたオリガルヒをイメージモデルに、グローバリズムの負の一面を混ぜ合わせてイメージ致しました。

 こういうドロドロした話は書いてて楽しい。…精神削られますけど。
 その影響で途中まで書いていた企業群によるメディアへの影響力工作は削除…。(そんなんだから遅筆なんだけど、割とノリと勢いで書いてる時もあるからねぇ…。)


 ついでに言えば、私は安全保障(防衛産業を始めとした海外依存の危険性)と国内産業保護、国民の雇用保護の観点からグローバリズムというモノに対して反対の考えです。



愚痴コーナー


 今この時期だからこそ、知らない方は知っていただきたい。既にご存じの方は改めて振り返っていただきたい。

 ある男が2021年2月16日に、ウィスコンシン州ミルウォーキーにあるタウンホールにて行われたCNN主宰のイベントにて出てきたとある発言と、この国のジャーナリズムについて。

 下記URLはその事について取り上げられました方が、YouTubeにて投稿されました物です。

 上は2021年2月18日に件の発言と、とある日本の自称ジャーナリストに関しまして。おそらくその自称ジャーナリストの事は当時炎上しましたからご存じの方もいらっしゃれるかと思います。
 下は2022年8月1日にあの時の事を振り返ってという趣旨と当時起きていたとあることについてです。


  https://youtu.be/6biusts7ORU


  https://youtu.be/sZjGoGQviFQ


 これを見てどう思われますかは、皆様の捉え方次第だと思います。
 
 私は東側を支持しているわけではないが、この頃、敢えて言えば2020年11月から、今の西側が掲げる正義とやらがとても薄ぺっらい空虚な物にしか思えなくなってきており、西とか東は関係無い、同じ穴の狢だ。その根底にあるものは吐き気を催すくらい気持ち悪い程におんなじだと、心底嫌気が差す様になっていましたが、この発言以降は西側を信用出来なくなりましたし、この国にジャーナリズムは存在しないと改めて確信しました。

 またマスメディアが矢鱈庇ったり、よいしょする連中程信用も信頼も出来無いと、つくづく思うようになりましたね。

 危険思想だと罵られるかもしれませんが、西も東も倒れるなら両方同時が人類の被害が少なくて済む。もう今の権力機構はノーメンクラトゥーラ、赤い貴族と大差無い。


『平和という言葉が、嘘つき達の正義となってから、俺達は俺達の平和を信じることが出来ずにいるんだ。』

機動警察パトレイバー2 The movie

荒川茂樹のセリフより抜粋




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。
         


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第38話 Senator Iowa's Anguish

 上院議員Iowa(アイオワ)の苦悩


 個人的に艦娘Iowa(アイオワ)にはスパロボのエクセレン・ブロウニングの様なイメージがあります。


 さぁ、SAN値チェックのお時間だ。(主に私の…)


 またぶっ込みすぎた…。


 

 

 

 Iowa(アイオワ)とはどんな艦娘か?と聞かれたら、大概のヒトは“明るい”、“ポジティブ”、“陽気”などといったアメリカという国に持つイメージを表わしたかのような艦娘であると答えるだろう。

 

 

 無論、それらは間違ってはいない。

 

 

 一見すると陽気な楽天家で、自己アピールが激しくあけっぴろげでノリもひたすら軽くマイペースであり、困難な状況でも明るさを失わず、彼女がいるかいないかで部隊の空気が変わるムードメーカー的存在である。

 

 

 事実日米の艦娘交流の一環として一時期日本へと赴任した際、その明るい雰囲気から当時南方作戦の失敗と、続くAL/MI作戦での惨敗による影響よって落ち込んでいた日本艦娘の士気を持ち直させており、失意のドン底だった皆を勇気づけた功労者であると、この時真志妻の幕僚を勤めていた土方が語っている。

 

 

 それらのことから日本では“アメリカの金剛”と称されることもあったりする。

 

 

 だがその本質は冷静かつ知的な艦娘であり、洞察力が高く、思慮深い一面を持ち、物事の本質を見抜いて核心を突いた発言をすることもあった。

 

 

 だからこそ、気が付かなくてもいいものに気付いたり、思い詰めたりしてしまう。

 

 

 

 彼女は早い段階からアメリカに疑念を抱いていた。

 

 

 また彼女だけでなく、他の艦娘の中にはアメリカに不信感を抱く者達も少なからずいた。

 

 

 切っ掛けは軍施設外への外出禁止という取り決めだった。

 

 当初は市民とのトラブル防止が目的であるとされ、その理由として艦娘と人間との膂力の違いなどから、万が一が起きて市民を死傷させてしまい、艦娘に対して市民が悪いイメージを持つことを防ぐ意味もあると説明されていた。

 

 

 確かにこれはある程度の納得が出来た。

 

 

 見た目が幼い駆逐艦の艦娘ですら、訓練を受けた海兵隊員を軽く伸してしまうだけの力があり、うっかりして傷付けてしまうリスクはゼロではなかった。

 

 

 だがよく聞くと艦娘が加害者であることが前提となっている様に思えるのだ。

 

 軍内部で発生した艦娘と軍人が絡んだ犯罪において、圧倒的に人間である軍人が原因であるケースが多いのにも関わらずだ。

 

 無論、軍人と一般市民を比較するのはどうなのか?と思われるかもしれないが、殆どのケースにおいて艦娘がろくに抵抗せず被害者となっていることがNCIS*1の調査で明らかとなっている。

 

 

 これは一重に艦娘が抱える“特殊性”にその理由があった。

 

 

 艦娘はその活動において艤装の存在が密接に絡んでいるのだが、その艤装の稼働には“燃料”が必要であり、不可欠であった。

 

 それ以外にも艤装修理に必要な“鋼材”、火器用の“弾薬”、艦載機用の“ボーキサイト”といった資材が必要となるのだが、それらは全て艦娘用として特殊加工された物であり、例えば通常のガソリンや重油、軽油または灯油などを使用しても艤装は動かないし、人間側の兵器工場などで同一寸法の砲弾を製造しても、撃てなくは無いがその破壊力などの性能が大幅に落ちた代物しか製造出来無い。*2

 

 

 そのため資源を精錬して自分達が使える燃料や鋼材、弾薬といった各種の資材へと加工していくのだが、鎮守府にはその加工場としての役割もあった。

 

 

 ではその資源の供給元は?

 

 

 残念ながら艦娘達にそれを自前で用意することが困難であり、原料となる資源は完全に人類に依存していた。

 

 

 また艦娘自体も食糧や飲料水が必要であるが、それも人類に依存している。

 

 

 これが殆ど食糧のみで活動可能な深海棲艦との最大の違いである。

 

 

 元々艦娘と人類とは、その出現当初に艦娘は自身の“武力”を提供して深海棲艦の脅威から人類と人類の領域を守護することを対価として、人類は食糧や資源といった“物”と、活動を支える為の施設を建設出来る“土地”を提供するといった、ある種の“約定”を交わしていた。

 

 

 人類側の軍事力が深海棲艦に対して効果的でなく、水上艦艇による艦隊は群がる深海棲艦の前に悉く返り討ちにあい、陸上戦力による迎撃は、多数の火砲戦力による面制圧火力投射以外では撃退が困難であり、それでも事前の準備期間やそれらに掛かる投入コストに比して微々たる戦果を挙げることが限界で、あまりにも採算が合わない*3と頭を痛めていた当時、それらよりも遥かに低コストで、効果的な打撃を与える事が出来る艦娘は正にお財布の救世主だった。

 

 

 深海棲艦との戦いに軍隊は連戦連敗、戦線の維持すら一度(ひとたび)大攻勢に出られると簡単に食い破られて突破されてしまい、人類の圧倒的不利はどんなに隠しても隠しようがなく、本土へと確実に迫られていた当時、颯爽と人類の前に現われて、軍隊では歯が立たなかった深海棲艦という未知の敵に対して大きなダメージを与え、人類を守護する盾となってくれた艦娘は、情報が錯綜として恐慌状態だった民衆に救世主として崇められた。*4

 

 

 民衆の絶大な支持や、また未曾有の戦争への勝利の展望から、各国は艦娘に大いに期待を寄せ、彼女達へ惜しみ無い支援を行なった。

 

 

 彼女達はその期待に十分に応えた。

 

 

 戦線を押し戻し、脅威を遠ざけた。

 

 

 この頃は双方兎も角必死だった。 

 

 

 人類は間近に迫る深海棲艦という脅威への恐怖から、艦娘は人類の期待に応え無ければ自分達の生存に必要な物資が得られなくなるという恐怖から、双方手を取り合い協力しあった。

 

 

 当時は対等な間柄だった。

 

 

 だが物資の供給というバルブを握っている時点で、本質的には人類側の方が優越した立場だった。

 

 

 この事実に艦娘は常日頃から本能的に怯えていた。

 

 

 もし何かあれば、物資が止められてしまう恐怖に、下手に逆らうと物資供給を人質とした衝動的な報復に晒されるのではないかという恐怖に。

 

 

 だからこそ、人間とトラブルが起きても、仲間に迷惑を掛けたくないからと、耐えてしまおうとする艦娘が少なくなかった。

 

 

 艦娘は本質的に“弱い立場”だった。

 

 

 強大な武力を有していても、それを維持するには“協力者”の存在が不可欠であった。

 

 

 ある意味株主や出資者の意向に逆らえない企業や組織といった構図と似ていなくもはない。

 

 

 当初対等だった関係性は、次第に人類側が所謂支配者的立場となっていった。

 

 

 無論、このことに対して可怪しいと声を挙げた人間がいなかった訳では無いが、戦線が遠のくにつれて人類の危機感と緊張感が次第に弛緩してしまい、逆に身近で強大な武力を有する艦娘に対して、彼女達からしたら謂れのない恐怖を抱くようになっていた。

 

 

 ──いつかその武力がこちらに向くのではないか?と。

 

 だから将来の予防的措置として、主従関係を今のうちに明確にしてしまうべきだとする動きが支持的となってしまっていた。

 

 

 勿論だが、このことは艦娘には一切語られていないことであるが、敏い者達を中心に薄々とこの人類の動きに勘付いていた。

 

 

 Iowa(アイオワ)もその1人である。

 

 

 そして彼女はそれなりに歴戦の艦娘であり、軍内部で多少は顔の知れた有名な存在であったため、ある程度は自由が利いた。

 

 そのため軍人との交流を持つ機会もあったし、なんなら視察に来る()()()()()をする機会もあった。

 

 

 そこから、ある程度の“推論”へと辿り着いた。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それは何故か?

 

 

 海洋航路の大半が未だ深海棲艦によってズタズタにされたままであり、交易が出来ないことによる市民生活が困窮している姿を自分達に見せたくなかったからか?

 

 

 だがIowa(アイオワ)にはそうとは思えなかった。

 

 

 時折耳にする軍人の政府に対する批判を聞いていると、深刻な内政の失敗がある様に思えてならなかった。

 

 しかしそれ以上の事は、調べることが出来なかった。

 

 アメリカ国内に居る以上は、何かしらの制限を受けてしまい、限界があった。

 

 

 一度、アメリカの外からこの国を見た方が良いのかもしれない。

 

 

 そう考えた彼女は即座に行動に移した。

 

 

 奇しくもその頃に日本への艦娘交流を名目とした自軍艦娘の増派計画が持ち上がった時期でもあり、彼女は言葉巧みに担当や当時の上官を説得して、立候補した。

 

 

 無論、前線において無くてはならない程の活躍を続け、部隊の精神的支柱でもあった彼女を日本へと派遣することに、当初軍上層部は難色を示したが「米日同盟が健在であり、アメリカが日本を見捨てないとのハッキリとしたメッセージを示すには、ネームバリューがある者を出すべきである」とする彼女の主張の前に、言葉を詰まらせてしまう。

 

 

 日本のAL/MI作戦と呼応して発動したハワイ奪還作戦が、作戦計画の杜撰さと不首尾が原因で早々に失敗して敗走したことにより、ハワイに駐留していた深海棲艦の戦略予備がアリューシャン、ミッドウェー両方面への増援として転戦してしまい、日本艦隊に大損害が出た上に、続く深海棲艦の別働隊による日本本土、当時首都だった東京攻撃部隊に対する要撃や追撃にも影響を与えてしまっていたことから、日本の対米感情悪化を懸念していたことが理由として大きい。*5

 

 

 この作戦後、日本では時の政権首班である出摩太郎首相が避難先での()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()もあって、*6日本国内はかなり不安定となっており、また新ロシア連邦(NRF)が何らかのアプローチに出る可能性があるとの国防総省(ペンタゴン)傘下のシンクタンクからによる分析報告もあり、早急に何らかの有効な一手を打たなければならない状態でもあった。

 

 

 それらの事もあり、結果としてIowa(アイオワ)の希望は認められた。

 

 

 そして彼女にとって幸運な事が幾つかあった。

 

 

 1つ目は日本において海軍の人事再編が行なわれ、海軍艦娘部隊の総司令官として、艦娘に対して常に親身で寄り添うスタイルを貫き、艦娘至上主義者とも揶揄され、若手のホープでもあったが、何より先の東京攻撃を敢行した深海棲艦に対しての送り狼で戦果を挙げた功績からアマミ・マツシマ(真志妻亜麻美)当時少将が大将に特進の後に就任したこと。

 

 

 2つ目はIowa(アイオワ)との面識があったGreg(グレッグ) Garfield(ガーフィールド)当時大佐が、この度の在日米軍司令部の不祥事による更迭人事によって空席となった在日米軍艦娘部隊の指揮官として、准将に昇進して就任したことで、彼女の行動に自由を与えて後押ししたこと。

 

 

 3つ目、後に外洋防衛の(かなめ)となる外洋防衛総隊にて辣腕を振るうこととなる、真志妻が最も信頼を寄せる軍人と目されていたリュウ・ヒジカタ(土方竜)当時准将の薫陶を受けることが出来たこと。

 

 

 4つ目、後に無二の親友となる新ロシア連邦(NRF)の艦娘Гангут(ガングート)シマコ・キリノ(霧野島子)との出会いによって知見が広がったこと。

 

 

 それらのことで何よりも大きかったのが真志妻との繋がりが出来、彼女の協力が得られたことだろう。

 

 

 彼女はIowa(アイオワ)が欲した物をあの手この手で手に入れ、その全てを提供した。

 

 

 だがそれらはIowa(アイオワ)にとって、知りたかったことではあるが、同時に余りにもショックの大きい物ばかりだった。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という目を背けたくなるようなアメリカの実情が明らかとなってしまった。

 

 

 正直頭を抱えたくなった。

 

 

 これだと自分達がどれほど奮闘しようとも、例え深海棲艦を完全に討ち滅ぼしたとしても、アメリカに未来があるとは到底思えないではないか…。

 

 上層部が隠したがるわけだ…。

 

 

 もしこのことが知れ渡ったら、間違いなく少なくない仲間がアメリカを見限って出ていこうとするだろう。

 

 

 だがこのままこの事実に目を背けていると、間違いなく自分達はアメリカと共倒れになる未来のヴィジョンしか見えなかった。

 

 

 

 どうにかしなければならない。だけどどうしたら良いか分からない。

 

 

 

 その後も出来る限り明るく振る舞いながらも、その心の内はどうしたらいいのかと、常に苦悩し続けていた。

 

 

 

 この事は真志妻に土方、そしてГангут(ガンクート)など一部の艦娘も気付いていたが、その悩みの内容が内容なだけに、下手をすると内政干渉の危険性があったが為に、どうすることも出来ずにいた。

 

 

 ただ1人、霧野こと霧島(キリシマ)を除いて。

 

 

「お前さんのやりたい様にやりゃあいいさ。

 

 間違っていると思ったのなら、立ち止まって振り返ったり、声をあげる勇気も必要さね。

 

 

 大切なのは、お前さんの“心”だよ」

 

 

 この言葉が彼女の心境にどれ程の影響を与えたかは定かではないが、この後任期を終えたIowa(アイオワ)は帰国後暫く軍務を務めた*7後、軍を辞めて政界への道を歩むこととなる。

 

 

 丁度、政権の方針転換により艦娘への段階的な市民権付与が本格化した時期という幸運も重なった。

 

 

 とはいえこの方針転換が、艦娘に対する人気取りだけでなく、艦娘を正式に人間と同じ扱いにして人口数を増やし、各州に配分される議席数の増加を狙っているものであったと知った時は、乾いた笑みしか浮かばなかった。*8

 

 

 まあ、その後なんやかんやあったものの上院議員に当選し、政治家Iowa(アイオワ)として、新たな戦場へと乗り出すこととなった。

 

 

 そして()()あった。

 

 

 何度もアメリカ(この国)に失望を覚え、心が折れそうになったかは、もう数えていない。

 

 だがその都度、持ち前の明るさとポジティブさを生かして乗り越えて来た。

 

 

 だけど、流石に今度ばかりは完全に心が折れそうになった。

 

 

 自身のパートナーであるArizona(アリゾナ)とは別の異世界からの放浪者、アンドロメダから語られた、自分達艦娘が顕現する前に発生したオセアニア核攻撃に関する情報。

 

 そしてその裏側。

 

 

 その証拠として提示された、不正アクセスで入手したという公文書などの機密文章、音声データ──流石に引いたし、立場柄苦言を呈したが──により、信じざるを得なかった。

 

 

 それらは公文書とされながらも、隠されていた物も含まれていたし、黒塗りされておらず日付けや通し番号、個人名その他も確認出来、後々裏取りすることも可能であるため説得力もあった。

 

 

 ついでに言えば、Iowa(アイオワ)は公文書に関して、上院議員になってから幾つもの不審な点や公文書に矛盾、あるいは意図的に改竄された疑いのある形跡を見付けていた。

 

 例えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、本来ならば保管されていなければならない命令書や通信記録等の重要資料が()()()()()()()で、()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 また調査に関連する報告書類の記載にも食い違いがあったのだ。

 

 

 これらはどちらか片一方しか見ていなかったら、分からない様なものだが、Iowa(アイオワ)はその経歴から両方を見る事が出来ていたから気付くことが出来た。

 

 

 後に自身が所属する保守党内で協議し、公開質問状という形で政府に問い質しているが、上院下院の両方が政権側に抑えられているということもあり、公然と無視されていた。

 

 

 今回アンドロメダが齎してくれた資料の中には保守党としても欲していた内容の資料も含まれていたため、裏取りなどの確認も兼ねて後程纏めて送信してもらう事となったのだが、それでも現状示された情報だけでも、手の震えが止まらないような内容だった。

 

 

 マッチポンプが好きなくせに、目先優先主義に引っ張られた出鱈目で付け焼き刃的な戦略と、行き当たりばったりなのは今に始まった事ではないが、*9ここまで酷く醜いものだったとは、想像出来なかった。

 

 

 百歩譲って核を使用するという選択肢が間違っているとは言い難い。

 

 

 艦娘が存在せず、従来の兵器で戦うしか無かった当時、まともに戦っても勝ち目は低かったし、何よりも深海棲艦の大半がその時はオセアニアに集まっていたというのならば、纏めて叩こうと考えるのはあながち間違いではない。

 

 

 しかし、その前提が邪魔な保守派とその支持者や目障りとなった中華連邦を纏めて消し去りたいとの思惑があったという事に、Iowa(アイオワ)は目眩を起こしそうなった。

 

 

 しかも自ら核を使って、生存者諸共吹き飛ばしたという、言い訳のしようがない汚名を着たく無いという保身的な考えから、中華連邦にその罪を擦り付け、証拠隠滅も兼ねての報復という大義名分によって核攻撃が実施され、本来ならば大量虐殺との誹りを受ける蛮行を正当化。

 

 

 これだけでも彼女の心に多大なダメージを与えていたのだが、本番はこれからだった。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事。

 

 

 しかしアメリカが深海棲艦を人類の敵という“()()”にしたいという自分勝手な思惑から、それをふいにしてしまった事、またそれによって怒り狂った深海棲艦による大攻勢を引き起こす引き金となってしまっていた事。

 

 

 これにはIowa(アイオワ)も国に対してして怒り狂いそうになり、ホワイトハウスに直接殴り込みに行きたい衝動に駆られそうになった。

 

 

 だがここで怒りを爆発させてもどうにもならないし、何よりも画面の向こうでこのことを語ったアンドロメダという娘が、必死になって自身の中で荒れ狂っているであろう激情に、肩を震わせながら耐えている姿を見たら、こちらが感情的になる訳にはいかず、必死に頭を巡らせながら怒りを抑える。

 

 

 少なくとも、アンドロメダという娘の心が深海棲艦寄りであることはまず間違いないが、それでもその心根がとても優しい娘であることを察することが出来た。

 

 

 それなりにヒトを見る目はあると自負しているし、だからこそ最前線で旗艦を任されたり、部隊を編成する際によく意見を求められたのだと思っている。

 

 その目から見て、彼女の怒りの源泉が、自身にとって大切な者を傷付けられたことに対する怒りであると読み取れた。

 

 

 そんなアンドロメダを気遣ってか、彼女の妹であるというアポロノームという娘が、姉であるアンドロメダがお姉ちゃんと呼んでとても懐いている駆逐棲姫と共に一旦席を外していた。

 

 

 彼女達が寄り添っていた時の姿を見ただけでも、双方が良好な関係である事が見て取れたし、なによりもそれが現地の生存者などの民間人と深海棲艦が良好な関係を築いているとの、彼女の言を裏付ける証明の1つであると捉えることが出来た。

 

 

 Iowa(アイオワ)は思考を巡らせる。

 

 

 アンドロメダはこの戦争には食糧問題が原点にあると語っていた。

 

 

 これは薄々と勘付いてはいたことだった。

 

 

 現役中、深海棲艦の輸送部隊を襲撃した際、最も護衛が厳重だったのが食糧輸送の部隊だった。

 

 なんなら護衛に姫級が付いていることすらあった。

 

 

 それにこれは噂程度でしか聞いていなかったことではあるが、深海棲艦の支配領域であるインドネシアでは食糧生産が盛んに行なわれているとする報告書や分析があったというのだ。

 

 これらは何を馬鹿なと一笑に伏されて相手にされず、世迷い言とされて廃棄されているらしいのだが、ある可能性に思い至る。

 

 

 もしかしたら、何かマズイ内容が書かれていたが為に、闇に葬る為に抹消されたのではないか?

 

 例えば、人間達と共存していることを示唆していることが書かれていたとか…。

 

 

 そう考えると、背筋が凍った。

 

 

 近年、戦線が膠着した裏には人類側、特に政府の攻勢意欲が萎えてきているという一面があったが、これが原因なのではないか?

 

 

 今までの“設定”が覆りかねない事態が公になる事を恐れて、攻勢に消極的になったのではないか?

 

 

 そして深海棲艦側も、侵攻などの目立った動きがかなり少なくなり、大規模な部隊移動も西太平洋、つまり日本方面に限定されていたが、これが深海棲艦の食糧供給地であるインドネシア防衛を念頭に置いた動きだとすると、色々と辻褄が合う。

 

 

 深海棲艦は初期の戦略目標を達成し、安定化に向けた戦略にシフトしている。

 

 

 歴史的に見ても、一度安定期に入った国家や組織は余程のことがない限りは拡大の速度が鈍ることがある。

 

 

 深海棲艦は食糧の安定供給が可能となった事から、今までのような侵攻を行なう必然性が無くなったのではないか?

 

 後は自分達の安全保障さえ確率してしまえば、いや、これもある意味では達成されている。

 

 

 ハワイ、アリューシャン、パナマ、スエズ、そしてインド洋と太平洋を繋ぐシンガポール海峡などの海域に近いインドネシアを抑えられている事で、事実上国家間の海洋交通は寸断され、各国の連携が難しくなっている。

 

 

 これを引っ繰り返すのは並み大抵の事ではない。

 

 

 厄介なことにパナマやスエズは海洋交通の要衝であり、利権が絡んだ地区でもあるために、核を使うなど以ての外だし、戦後のパワーバランスという取らぬ狸の皮算用から各国は協力よりも足の引っ張り合うことに注力しかねない。

 

 

 知らぬ間にこの戦争は、詰んでいた。

 

 

 本来ならばここで外交ルートによる話し合いが始まるのだろうが、双方にそのチャンネルが無いが故に、グダグダと続いてしまっているのだろう。

 

 

 ここでIowa(アイオワ)はさらに最悪な事態に気付く。

 

 

 政府は深海棲艦が動かないと判断し、その隙に新ロシア連邦(NRF)との決着を付けようとしているのではないか?

 

 

 杞憂であってほしいが、政府による軍の予算編成や方針が新ロシア連邦(NRF)との戦争を想定しているかのような動きが見られている以上、有り得なくは無いのだ。

 

 

 何故そこまで彼らを毛嫌いしているのかは分からないが、今の政権だと本気で仕掛けかねないのだ。

 

 

 アンドロメダも、アメリカのロシア嫌いについて薄々とは知っていたが、それでもこれは最早精神的な病気の類いなのではないか?と呆れ果てるレベルだった。

 

 まあ、こちらの世界においても、表面上はにこやかに手を取り合いながらも水面下でアメリカはことあるごとにロシアと張り合おうとしていたため、一概にこの世界のアメリカを批判するのはなんだか違う気がして、なんとも言えない複雑な気分となったが…。

 

 

 とはいえ、このままだと深海棲艦そっちのけでの第4次世界大戦勃発という洒落にならない事態の現実味が帯びてきていることに、アンドロメダは、特に何も感じなかった。

 

 正直この世界の人類に思い入れがあるわけではないし、なんならアメリカは大好きな駆逐棲姫(お姉ちゃん)を苦しめた憎っくき仇でもあるのだから、別に滅んでもいいんじゃないかな?という気持ちもあった。

 

 

 しかし戦禍の広がり具合によっては深海棲艦も巻き込まれる可能性があるし、深海棲艦と新ロシア連邦(NRF)は商売などでの繋がりがあるため、どんな形であれ深海棲艦に大きな影響があり、ひいては駆逐棲姫(お姉ちゃん)の迷惑に繋がる。

 

 

 さて困った。

 

 

 どうにかすべき事態ではあるが、強引な手段は後々で問題になりそうだからあまり使いたくない。

 

 かと言って妙案がある訳では無い。

 

 

「…何か私に手伝える事があれば、仰って下さい」

 

 

 それが今のアンドロメダに出来る精一杯だった。

 

 

 なんだかんだ言っても彼女はヤマトの子供であり、その根底には困っている者を見てしまったら見捨てることが出来無いという想いが受け継がれていた。

 

 

 その時である。

 

 

 突然通信画面が乱れ、ノイズ混じりながらもアンドロメダにとって忘れることの無い、聞き間違うはずのない声が聞こえてきて、アンドロメダは目を丸くし、またIowa(アイオワ)もその声に覚えがあったため、驚愕の表情となった。

 

 

 

「«よく言った若いの。流石はあの娘自慢のムスメっ娘だねぇ»」

 

 

 

 画面の乱れが治まると、そこには2人がよく知る者、キリノ(キリシマ)が口元に笑みを湛えた姿で映っていた。

 

 

 

*1
海軍犯罪捜査局。Naval Criminal Investigative Service

*2
それを利用して演習用弾薬として活用したりと、使い道が全く無いわけでは無かったりする。またこれら製造経験から、リバースエンジニアリングによって人間が使う銃砲火器の弾薬を、サイズはそのままに威力や射程などの性能向上を期待出来ないか?として研究試作が行なわれたが、反動の増大を始めとした問題や、何より発射圧力に対して火器の耐久性が著しく不足しており、暴発や銃身や砲身破裂による事故が頻発し、これを解決するには全ての銃砲火器を専用の物に置き換えなければならないとする結果報告から、計画は凍結されて断念された。

*3
単純比較は難しいが、歩兵1人に対して巡航ミサイル数本を投入する事に匹敵するとの報告書がアメリカ国防総省(ペンタゴン)から出ている。

*4
この頃第3次大戦前から続く先進各国の情報統制機能が最も混乱をきたしていた時期であり、先の大戦後半に発生した、当時西側が支援していた東欧戦線が自滅崩壊した事を隠蔽しようとして失敗した際の、支離滅裂で要領を得ない、オカルト染みた内容の情報統制と似ていた為、より混乱に拍車を掛けていた。

*5
東京への攻撃が起きる前日に、在日米軍横須賀基地などが急に慌ただしくなり、車輌の移動が激しくなったのが近隣住民が目撃していたが、大作戦の途中ということもあり、それに関連しての動きだろうと思っていたが、実際は衛星が東京へと接近する深海棲艦の大艦隊を発見、今からでは迎撃が困難であるとの分析から、首都圏からの退避を行なっていたのが真相だった。問題はこの接近に関して在日米軍司令部が日本政府並びに日本軍へと伝達するのに手間取り、東京都民の大半が避難に遅れてしまい、パニックと相まって多数の犠牲者が出てしまう大惨事の要因となってしまった。

*6
過度な疲労とストレスによって精神的にかなり不安定だったという証言や、直前に錯乱状態だったという証言もあり、()()()()()()事故か自殺であるとされている。

*7
この時期にArizona(アリゾナ)を拾った。

*8
アメリカは国勢調査で人口の確認を行ない、その結果を踏まえて人口が増えた州は、その州から選出される連邦議員の当選人数を増やし、逆に人口が減っていれば当選人数が減らされる仕組みである。

*9
ハワイ奪還作戦が失敗したそもそもの原因だったりする。





 雑で唐突なネタバレ。

YMKZ「…なんか電波拾った」

HRSM「これ、総旗艦さんのですね。はい」

UMKZ「早速再生しましょう!」

KRSM「ハハッ、面白くなってきたじゃないか!」


 出来ること出来そうなこと詰め込んだらまたカオスなことに…。
 まぁ、これでまた少しは歯車が回り出せそうだ。

 因みに、有り得る未来の可能性、Iowa(アイオワ)の2199版デスラー総統ルート。
 …これだけは出来れば回避したい。とはいえ、ほぼ全員に可能性があるのが、この世界。


 正直、艦娘の兵站を人間が握っているからには、どうしても人間の方が立場が上になる事は避けられないと思います。資源を持つ者は強い。
 というか、そういった“手綱”が無ければ人間の提督の言う事聞いてくれない事だって有り得そうだし…、何なら反旗翻してクーデターだって可能性が…。


 現代において10年近く戦争が続けているとなると、その状態が当たり前となって緊張感も緩み、しかも戦線が遠退いているとなると、当事国の人間でさえ戦争をしていることを忘れている可能性があったとしても可怪しくは無い。


 それまでの非日常的な状態が日常として当たり前となった様を、それ以前の常識が非常識となる様を、この3年間実際に見たからねぇ。
 本質的に以前の生活に戻ることは、もう無いのだろう。権力者達はこの3年間で確実に味を占めた。この国は、悪い意味で権力者に従順過ぎた。だからこそ、この国は没落した。



補足解説


NCIS

 海軍犯罪捜査局。Naval Criminal Investigative Service

 アメリカ海軍省傘下の法執行機関。

 海軍と海兵隊に関連する重犯罪を捜査する文民捜査組織。
 本部はヴァージニア州クワンティコ海兵隊基地にある。

 ドラマ『NCIS~ネイビー犯罪捜査班』で有名に。

出典、Wikipedia参照


 

愚痴コーナー

 安全保障の事で世間は例の気球の話題で持ち切りな様ですが、あれを見て機動警察パトレイバー2 the movieの飛行船を連想したのは私だけではないと思います。

 まぁそんなことよりも、私個人は撃墜だのなんだのよりも、日米加という通過された国々の政府や軍の対応にもっと注視すべきであると思う。

 アラスカの上空に入ってからのアメリカの対応を見ていたら、その後アラスカとカナダを通過して再びアメリカ本土上空に侵入してからの州地方メディアがこの気球の存在を報じ無ければ、握りつぶす気でいたのではないだろうか?
 そもそもアラスカの防空識別圏に入った段階で探知してスクランブルしなかったのか?

 アメリカ本土の上空を縦横断されるという軍の面目丸潰れで国辱ものの大失態なのに、その反応が薄い。
 もしトランプ政権下ならば連日連夜メディアが馬鹿丸出しで大騒ぎしていたはずだ。

 とはいえそれなりに問題視されて炎上しているから火消しに入ったみたいだが、それすら炎上する事態になっている。(いつまでもトランプガー!でどうにかなると考えている馬鹿共には呆れ返る)

 先日カナダにて炎上担当大臣(発言するたびに炎上しまくっているから勝手に命名)が野党である保守党から「何故国民に知らせなかったのか?」という政府への質問に対して「生命の危機があったから伝えませんでした」という頓珍漢で意味不明な答弁をしてまた大炎上中。
 …なんでまだこいつが政治家続けれているのかが分からん。

 日本は…、目を逸らします。(所詮“ヒモ”だし…)


 カナダの話題ついでに、先日ニューヨークポストの報道によると、ニューヨークへとやって来た不法移民に対してニューヨーク市がカナダへの不法入国を事実上幇助している実態が報じられました。
 違法にならないギリギリのラインでやっているので、違法で無いとなっていますが、これがエスカレートしたら次は日本へと不法移民を押し付けられる可能性が高いです。

 1つ補足しますが、本編で語りましたアメリカの国勢調査での人口把握ですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
 因みに喫緊の人口把握において、明らかなミスが多発しており、偶然かもしれませんが民主党有利、共和党と不利になるような結果となっていたことが、民間の調査会社等による調査で明らかになりましたが、その時には既に変更不能状態となっており、ミスだらけの数が公式として扱われている事態が起きていました。

 しかしそれでも先の中間選挙において下院の過半数を共和党が奪還することが出来たのは、矢張政権への不満が如実に高まっているからだろうか?




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


追記

 職場で新人教育が始まり、その影響で暫く投稿ペースがかなりダウンするかと思いますが、御了承ください。


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第39話 Communication interception

 通信傍受


 お待たせ致しました。


 霧島(キリシマ)が通信に割り込んで「久し振りだね(CV伊武雅刀)」するまでのあれこれ。

 …実は最初期のプロットでの没案にてアンドロメダが通信に割り込むという物がありました。大本のネタは2199でのバラン星観艦式でのデスラー総統による「なにか言い残すことはないかね?ゼーーーーリック君?」辺りのシーンだったのですが、それをやってみたかったというものでした。



 

 

「«先生…、先生…っ!»」

 

 

「泣くんじゃ無いよ…、若いの…」

 

 

 画面の向こうで泣きじゃくるアンドロメダ(教え子)を慰めながら、霧島(キリシマ)もその瞳には少しばかりの光るものが滲んでいた。

 

 通信に割り込みながら、格好をつける様にして登場したものの、彼女自身アンドロメダの姿を見たことで、安堵の気持ちから泣いて喜びたかったが、それを寸での所で堪えた。

 

 

「(…窶れたねぇ)」

 

 

 それがアンドロメダを()()()()に見た霧島(キリシマ)の率直な感想だった。

 

 

 最後にその姿を見たのは、アポロノームが自身を庇って沈んで(逝って)しまってからの、心が壊れて霊鬼の様になってしまっていた時だったが、その時の様な血色が悪くてやや青褪めた様な肌の色や、暗い感情からくる濁りきった瞳では無いものの、明らかにその時よりも頬が痩けていた。

 

 それに、ヒト前でここまで感情を露わにすることも無かったハズだ。

 

 私やヤマトと一緒な時はそれなりに感情豊かであったが、他の誰かがいる時は微笑みを浮かべながらもどこか泰然とした雰囲気を纏い、感情の起伏が殆ど無かったはずだ。

 

 

「(やっぱり、無理してたんだね…)」

 

 

 何があっても動揺を見せないように、何が起きても冷静に構えている姿を見せることで皆の不安を振り払い安心させるために、“泰然自若”と言う名の“仮面”をヒト前では常に着けていたのだろうけど、本当は自身の感情を無理に押し殺して着けていた“仮面”を固定していた“心の糸”が、アポロノームの死が引き金となって心が壊れたことで“心の糸”も切れてしまい、着けていた“仮面”が落ちた結果、今まで押し殺してきた感情が溢れ出し、外へと出やすくなったのだろう。

 

 とはいえその切っ掛けが心の壊れであるという事に、霧島(キリシマ)の内心はかなり複雑な気分にならざるを得なかった…。

 

 

「«お姉さん、大丈夫ですか!?»」

 

 

「«姉貴!»」

 

 

 思考の海に浸っていると、画面に新たな2人が映り込む。

 

 1人は霧島(キリシマ)もよく知る者であり、そこにいることは知っていたが、思わず頬が緩んでしまう。

 

 

「元気そうだねぇ、アポロノーム」

 

 

 この言葉にアポロノームは肩を跳ねさせ、勢いよく画面へと振り向くと、そこに映っているものに信じられないとばかりに、思わず震えながら指を指してしまう。

 

 

「«きっ、きき、キリシマの姐御っ!?ど、どうしてここに!?»」

 

 

「ハッハッハッ!相変わらずあんたは騒がしいねぇ」

 

 

 笑いながら相手の反応を楽しむ"霧島(キリシマ)だが、その目はアンドロメダを介抱する、アンドロメダのことをお姉さんと呼んだ者へと向けられていた。

 

 こちらを気にしてはいるが、それでもその意識はアンドロメダへと向けられており、泣き続ける彼女を必死に宥めていた。

 

 

 

 良い娘じゃないか。

 

 

 

 それが彼女、駆逐棲姫に対する霧島(キリシマ)が抱いた率直な気持ちだった。

 

 

 彼女のことを「掛け替えのない大好きなお姉ちゃん」と屈託のない笑顔で語り、そう言われた駆逐棲姫が嬉しそうにはにかんだ所を見たときは、()()()()()()()が驚いた。

 

 

 まさか既にここまでお互いが心を寄せ、懐いているとは思いもしていなかった。

 

 

 

 霧島(キリシマ)は彼女こそが、かつて高次元世界で沖田から聞いた、アンドロメダが心を寄せている娘であると確信した。

 

 

 そしてアンドロメダの心の内側に秘めていた“ある思い”の可能性に思い至る。

 

 

 ああ、本当はもっと誰かに甘えたかったんだねぇ…、若いの…。

 

 

 いつも気丈に振る舞っていた心の反動が、今のアンドロメダから溢れ出しているんだ。

 

 

 途中まで盗み見していることに、多少の申し訳無さがあるとはいえ、それが知れたことは大きな収穫だった。

 

 

───────

 

 

 時は少し遡る。

 

 

 

「間違い無いのかい?時雨(シグレ)?」

 

 

 鎮守府の廊下を車椅子で突き進みながら、後ろから付き従っている者に問い掛ける霧島(キリシマ)

 

 

「うん。山風(ヤマカゼ)がアンドロメダさんの通信を傍受したよ」

 

 

 春雨(ハルサメ)型直掩護衛駆逐艦の4番艦である時雨(シグレ)が、いつもと変わらぬ落ち着いた声で報告を告げているが、その内心はかなり舞い上がっていた。

 

 かつて自身の護衛隊が付き従っていた艦隊の、いわば親しい知人とも言えるヒトに繋がる情報なだけに、気分が高揚していた。

 

 

「よしっ!念の為にと張らせていた甲斐があったね」

 

 

 霧島(キリシマ)としては「もしかしたら?」という程度の感覚ではあったのだが、土方や春雨(ハルサメ)達と相談してマリアナ方面の通信傍受をより強化することとし、春雨(ハルサメ)山風(ヤマカゼ)が交代で警戒態勢に就いていた。

 

 この2人は姉妹の中で最も電子作戦能力が強力であり、こういったことにはうってつけだった。

 

 

「師匠の読みが当たりましたね。流石は師匠です」

 

 

 つい先ほどまで作戦室で如何にマリアナまで行くかの作戦を共に煮詰めていた土方の副艦、霧島が感嘆の言葉を漏らす。

 

 高速戦艦艦娘の霧島は、艦隊の頭脳を自称する艦娘であるが、霧島(キリシマ)の智謀の前では自分はまだまだ未熟であるとの思いが強く、常に憧憬の念を抱いていた。

 

 

 当の霧島(キリシマ)からしたら、沖田さん達ならきっとこうするだろうなという感じでしかないため、過大評価だと思っているが。

 

 

春雨(ハルサメ)姉さんも合流して共に解析しているし、海風(ウミカゼ)姉さんや村雨(ムラサメ)も2人の補助に付いているから、もうすぐ解析が終わるころかも」

 

 

 霧島(キリシマ)としても予想外だったのが、まさか機密通信を使うとは思っていなかった。

 

 アポロノームと合流したことで、もしかしたらこの世界にまだ他にも誰かいるかもしれないと、防衛軍の周波数帯で何かしらの呼び掛けを行なうのではないか?と考えていた。

 

 それがいきなりの機密通信である。

 

 これには傍受に成功した山風(ヤマカゼ)と補助に付いていた5番艦の村雨(ムラサメ)も些か慌ててしまい、交代で海風(ウミカゼ)と一緒に休んでいた春雨(ハルサメ)に急遽応援を求めた。

 

 だがこれで防衛軍との関わりがある“誰か”がこの世界に来ていることが確実であり、その“誰か”とアンドロメダがコンタクトを取っていることでもある。

 

 何故ならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()

 

 

 この時点で長姉春雨(ハルサメ)からの招集を受けた他の姉妹達が関係者への伝令として走り、時雨(シグレ)霧島(キリシマ)達の所へと出向いた。

 

 

「後は、“あれ”がどれ程のものかという問題か…」

 

 

 霧島(キリシマ)がそう呟いた。

 

 

 彼女にはある1つの不安要素があった。

 

 

 それは“記憶障害”である。

 

 

 原理は今もって不明だが、春雨(ハルサメ)達がこの世界に顕現した際に、それが発生していた。

 

 

 初めは春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)で起きたことだが、2人の後に顕現した7番艦五月雨(サミダレ)と9番艦江風(カワカゼ)、10番艦涼風(スズカゼ)の証言によると、高次元世界において2人が一緒に沖田、ヤマトの2人と直接会っている所を見ているのだが、その際の記憶が両名共に全く無いというのだ。

 

 6番艦夕立(ユウダチ)は自身が撃沈された辺りの記憶が朧気にしか分からないという。

 

 他にも3番艦白露(シラツユ)は、自身が春雨(ハルサメ)型の3女であるという記憶が確かにあるというのに、何故か自身が長姉であるような錯覚を覚える時があったのだ。

 

 

 そして残りの6人も、つまり顕現した春雨(ハルサメ)型10人全員に何らかの記憶障害が起きており、暫く混乱する事態となった。

 

 

 だがそれは霧島(キリシマ)には一切起きていない現象だった。

 

 

 霧島(キリシマ)はこのことに、ある仮説を立てた。

 

 自身と春雨(ハルサメ)達との明確な違い、()()()()()()()()()()()()()()()が影響しているのではないかとの仮説を立てていた。

 

 自身は良くも悪くもいわば天寿を全うしたようなものだった。

 

 しかし彼女達は全員が戦没という、いわば非業の最期を遂げたものであった。

 

 それが関係しているのではないか?

 

 

 もしこの仮説が正しければ、アンドロメダもその最期が戦没であった以上、何らかの記憶障害を持って顕現している可能性があったし、その症状はヒトそれぞれのため予測が難しかった。

 

 

 もしかしたら記憶がすっぽり抜け落ち、自身を深海棲艦、或いはその亜種と思い込んでしまっている可能性すらあるかもしれない。

 

 

 想定される1番の最悪な事態は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それを懸念して、こちらから通信を試みる事を躊躇った。

 

 

 恐らく艤装のデータベースに記録があるだろうが、もし万が一、そのデータベースが破損してしまっていたとしたら、どうすることも出来なくなる。

 

 下手をすると誰だか分からない者からの通信として警戒され、本来ならば望まぬ衝突に発展しないとも限らない。

 

 

 だからこそ通信を行なわなかった。出来なかった。

 

 

 

「…まぁ、それもこれでどうにかなるか」

 

 

 

 そう言いながら到着したのは『関係者以外立ち入り禁止』との注意書きが貼られ、『待機室』とのプレートが掲げられた一室である。

 

 その扉には『会議中』とのプレートが下げられており、その前には日本軍正式採用自動小銃であるAK-74Mのバリエーション、AK-100シリーズの5.56ミリNATO弾使用であるAK-108を装備した斉藤が歩哨として立っていた。

 

 

「ご苦労さん」

 

 

 労いと挨拶も兼ねてそう声を掛けると、斉藤は軽く手を振りながら応える。

 

 

「おう。みんな集まってるぜ」

 

 

 そう言うと扉をノックして中に居る者達に霧島(キリシマ)達の到着を告げ、扉を開いた。

 

 

 因みにだが、この部屋の隣は土方の居る執務室である。

 

 

 ここは土方直属の精鋭部隊が控える部屋であり、その部隊は外洋防衛における切り札とされている()()()()()()()()の10人で編成され、その運用責任者は先述した通り土方となっているのだが、実際の運用については参謀であるキリシマ(霧野特務大佐)に任されている。

 

 

 元々は足に障害を抱えているキリシマ(霧野特務大佐)の為に土方の執務室の隣に彼女の執務室を設えたのをそのまま流用し、尚且つ円滑な情報やコミュニケーションのやり取りを行なうためとされている。

 

 まぁ、本当は霧島(キリシマ)が実質的な旗艦であることに対するカバーストーリーというのと、()()()()()との共同運用が難しい春雨(ハルサメ)達を分ける為、そして()()()()()()が発生した際にそのまま土方を()()するための戦力として春雨(ハルサメ)達が常駐させることが可能とすることを目的としている。*1

 

 彼女達全員は常に拳銃用ホルスターを身に着けており、表向きは精鋭としての証であるとされているが、これも万が一の()()()()()()()()()()が発生した際の()()()使()()()()()()()()を目的とした、飾りではない完全な実用装備である。

 

 

 閑話休題。

 

 

 斉藤に促されて待機室へと入ると、そこには今集まれる春雨(ハルサメ)の姉妹達が集い、春雨(ハルサメ)山風(ヤマカゼ)の作業を覗いていた。

 

 また既に土方も秘書艦の金剛を伴ってその様子を見守っていたが、霧島(キリシマ)達が入室したため、視線だけ向けてこっちにくる様にと促してきたため、率直にそれに従って土方の横へと移動する。

 

 

「出来たっ!」

 

 

 そのタイミングで解析が完了した山風(ヤマカゼ)が声を上げた。

 

 そして部屋に集う全員に見えるように画面を展開すると、少しノイズが走った後に画像が安定し、聞き慣れた、あの懐かしい声も聞こえて来た。

 

 

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか…」

 

 

 そう呟きながらも、霧島(キリシマ)の頬は心なしか綻んでいた。

 

 

 

───────

 

 

 

 得られた情報(モノ)は、非常に大きなものばかりだった。

 

 

 懐かしきアンドロメダ(教え子)が喋る姿に一先ずは安堵するも、まさか通信相手が更なる別世界の地球からやって来たArizona(アリゾナ)という名の(ふね)だとは思いもしなかった。

 

 そしてその傍らに自分達もよく知るIowa(アイオワ)がいることに、驚きの声をあげたが、同時に世間は思ったよりも狭いものだと思ったりもした。

 

 

 しかしそれらよりも、この通信の切っ掛けの1つが深海棲艦による仲介があったことを示す内容や、アメリカ国内での何らかの活動を匂わせる内容があったことで、謎多き深海棲艦による人類領域への静かなる進出の実態と、思わぬ一面が知れたことによる衝撃の方が大きかった。

 

 更に山風(ヤマカゼ)が先に語っていた「アンドロメダが人類を疑っている」という言葉の裏付けも取れてしまった。

 

 

 アンドロメダ(彼女)は、深海棲艦の姫の1人である駆逐棲姫のことを「お姉ちゃん」と呼んで、とても懐いていた。

 

 しかもお姉ちゃんと呼ばれた当の駆逐棲姫も、そのことにとても嬉しそうにしていた。

 

 それを見ただけでもアンドロメダが深海棲艦に心を寄せていることが窺えるが、直後の駆逐棲姫の脚を奪った者達を絶対に許さないという言葉と、画面越しにもひしひしと伝わって来た怒りの感情に、背筋が凍る思いがして震え上がった。

 

 

 そしてその後に語られた、山風(ヤマカゼ)が以前語ったことでもある、この戦争劈頭に起きた人類の闇の部分。*2

 

 

 更に彼女達深海棲艦がこの戦争を始めたその“理由”、“深刻な飢餓”が原因であったことも、この時に初めて知ることができた。

 

 

 

「…我々は、本当に深海棲艦というものを、知らなさ過ぎた」

 

 

 険しい顔つきで、絞り出すかのような掠れた声で土方がそう呟いた。

 

 

 それは今この場にいる全員が共通した気持ちでもあったが、土方としてはかつてのガミラス戦役を思い出さずにはいられなかった。

 

 あの時は『ヤマト』の活躍があるまで、ガミラスという名の異星人の実態を掴むことが出来なかった。

 

 そして今回、そのヤマトの子供であるというアンドロメダの活躍によって、間接的ではあるが深海棲艦の実態を、ほんの一部だけかもしれないが知ることが出来た。

 

 そのことに、ある種の運命と言うか宿命の様な物を感じずにはいられなかった。

 

 

 ふと、霧島(キリシマ)春雨(ハルサメ)山風(ヤマカゼ)に何か相談しているのが目に入った。

 

 

「割り込み、出来るかい?」

 

 

「可能ですけど…、山風(ヤマカゼ)?」

 

 

 霧島(キリシマ)からの問いに、一応の肯定を示すが、念の為にと春雨(ハルサメ)は自身よりも腕の良い妹の山風(ヤマカゼ)にも確認をとる。

 

 

「…うん。春雨(ハルサメ)(ねぇ)、出来るよ」

 

 

霧島(キリシマ)さん、よろしいのですか?」

 

 

 怪訝な表情をした海風(ウミカゼ)霧島(キリシマ)に問い掛けるが、「まあ見てな」とだけ返して微笑みを浮かべる。

 

 そのやり取りを見ていた時雨(シグレ)が土方に「いいの?」と視線で問うが、少し考えた後に頷いて「構わない」と返す。

 

 霧島(キリシマ)が今まで考え無しで動くことは無かったし、動くべきと判断して動いた時に悪い結果となった(ためし)もなかった。

 

 ちゃんとした考えと確固たる勝算があるからこそ、彼女は動く。

 

 霧島(キリシマ)とはそういうヒトなのだ。

 

 

 

「…いつでもいいよ」

 

 

 準備が出来たと山風(ヤマカゼ)が告げるが、まだ霧島(キリシマ)は動かない。

 

 タイミングを、動くのにベストな“機”を静かに窺っていた。

 

 

 

 そして、Iowa(アイオワ)による深海棲艦の存在を完全に無視したアメリカ現政権による、次の世界大戦を画策している可能性があるという衝撃的なカミングアウトに騒然となる中─────

 

 

 

「«…何か私に手伝える事があれば、仰って下さい»」

 

 

 

 苦しそうな表情を浮かべながら自国の醜態を語るIowa(アイオワ)に、アンドロメダが悩みながらも告げた言葉を聞いた霧島(キリシマ)が、動いた。

 

 

「…山風(ヤマカゼ)、頼むよ」

 

 

 静かに告げられたその言葉を山風(ヤマカゼ)は聞き逃すことなく、即座に操作パネルをタップすると霧島(キリシマ)へと頷いた。

 

 

 

「よく言った若いの。流石はあの娘自慢のムスメっ娘だねぇ」

 

 

 

───────

 

 

 

 初めアンドロメダは目を見開き、頭の処理が追い付いていないのかキョトンとした可愛らしい反応を返して来た。

 

 

 しかし画面に映るヒトが自分をとても可愛がってくれていた、もう二度と会うことのできないと思っていた掛け替えのない、大切な恩師そのヒトであると分かったのか、小さく微かな声で「『う…そ…?そんな…、まさか、なん…で…?》」と呟いたのと同時に、その瞳が潤み出した。

 

 

「«せん…、せい……?»」

 

 

 震える声で恐る恐るそう尋ねるアンドロメダ(教え子)に、霧島(キリシマ)は苦笑を漏らしながら少し悪戯心が湧いた。

 

 

「久しいね若いの?また私のことを先生と言ってくれて、嬉しいよ」

 

 

 そこで一旦言葉を切り、ニヤリと口角を吊り上げてから続きの言葉を紡ぐ。

 

 

「“あの時”みたいに私のことを“おばさん”って言わないかヒヤヒヤしたよ?」

 

 

 その茶化す様な物言いにアンドロメダは、嗚呼、間違い無い!との確信を得た。

 

 

 それはかつて初めて出会った時の、自分とヤマトさん(お母様)、そしてキリシマ(先生)の3人しか知らない、自身にとっては恥ずかしくも懐かしい、あの日のエピソードだ。

 

 

 そこまで思い至った段階でアンドロメダは、堰を切ったように泣き出した。

 

 

 そして霧島(キリシマ)はこの時点で、取り敢えずアンドロメダの記憶障害が深刻なものでは無さそうであるとの、一応の確信を得ることとなった。

 

 

 

───────

 

 

 

 時間軸は、冒頭へと戻る。

 

 

 ヒト目も憚らず泣くアンドロメダだが、このタイミングでIowa(アイオワ)も闖入者の正体が日本に赴任していた時に親交があった親友、キリシマ(キリノ)であることに気付いてわちゃわちゃとなったり、駆逐棲姫だけでなく騒ぎを気にした潜水新棲姫や南方戦艦新棲姫も出て来たりして色々とカオスな事となったが、まあそれも時間とともに落ち着くこととなる。

 

 

 

「«す、すみません…。その、取り乱してしまいまして…»」

 

 

 羞恥から耳まで真っ赤に染めたアンドロメダが、モジモジとしながらも謝罪の言葉を述べる。

 

 

 それに対して霧島(キリシマ)は笑いながら気にしていないと告げ、Iowa(アイオワ)も微笑みながらそれに同意した。

 

 

 何故ならばヒトの姿となって顕現し、馴染みの、親しかった者達と再会した時は皆それぞれの反応を示すことが多々あったからである。

 

 実際、今画面には映っていないが、そばに控えている春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)は再会した時に泣きながら互いを抱擁した後に謝罪合戦となったが、*3最終的には再会を喜んだ。山風(ヤマカゼ)も姉妹達へと号泣しながら飛び付いた。

 

 他の姉妹達も、皆泣いたり、喜んだりしたものであり、別段アンドロメダの反応は珍しいものではなかったのだ。

 

 

 とは言え、アンドロメダとしたら恥ずかしいものは恥ずかしいのである。

 

 

 そこへさらに霧島(キリシマ)が追い打ちを掛けた。

 

 

 途中からとはいえ、彼女達の会話を盗み聞きしていたことを率直に告げて詫びた。

 

 

 最初に登場した際の言葉から、そのことに気付くことも出来たかもしれないが、その時のアンドロメダの頭はそれどころでは無い程の状態となっていた為に、気付くことが出来なかった。

 

 そのことに今更ながら気付いたアンドロメダは、私、変な事口走らなかったよね!?とワタワタしながら慌てふためいてしまう。

 

 

 そんなアンドロメダの姿に、今まで面識のなかった春雨(ハルサメ)山風(ヤマカゼ)は別として、総旗艦としての泰然として落ち着き払った雰囲気の彼女しか知らなかった海風(ウミカゼ)達は少し驚くが、寧ろ肩肘を張らない自然体の様な一面が見れたことで、“総旗艦アンドロメダ”という、いわば上司の様な立場の存在として見るのではなく、アンドロメダという着飾ることのないれっきとした一個人として見る事が出来、彼女に対して親しみが湧いてくることとなった。

 

 

 アンドロメダ(彼女)もまた、自分達と何ら変わらない存在なのだと。

 

 

 だからこそ、霧島(キリシマ)への遠慮というのもあったが、なんとなく声を出すことを躊躇っていた面々が騒ぎ出し、アンドロメダへと再会を祝っての一言をと画面の前へと集まりだしたのだが、突然ワッと騒がしくなった事でアンドロメダはより一層慌てふためいてしまう。

 

 

 流石にこれはマズいと判断した霧島(キリシマ)が静止しようとしたが。

 

 

「みな、落ち着かんか」

 

 

 さほど大きな声ではないのだが、威厳と風格に満ちた声が響く。

 

 今まで黙って見守っていた土方が、これ以上は混乱するだけだと判断し、前に出て窘めたのだ。

 

 

「すまないアンドロメダさん。騒がせてしまいました」

 

 

 そう言いながら画面に映るアンドロメダへと頭を下げる土方であるが、当のアンドロメダはぽかんといった表情を浮かべたまま固まっていた。

 

 

「«土方さんまでいるのかよッ!?»」

 

 

 堪らずといった感じで、アポロノームが思わず画面へと映り込んできたが、直後に「あ、やべっ!」といった顔になって慌てて威儀を正した。

 

 見っともない立ち振る舞いに対して、土方から叱責を食らうのではないかと恐れたからである。

 

 

 しかし土方としてはアポロノームの後ろで相変わらず目を見開いて固まったままのアンドロメダの方が気になっていた。

 

 

「«お姉さ~ん、大丈夫ですか~?»」

 

 

 駆逐棲姫が呼び掛けるが返事が無く、手を顔の前で振っても何の反応も示さない。

 

 何故なら─────

 

 

 

 アンドロメダの、しこうかいろは、パンクしていたのだから。

 

 

 

 Arizona(アリゾナ)の話から、もしかしたら自身の艦長となっていたかもしれない人に、なによりも最も尊敬して止まない沖田艦長の親友にして、最愛の母であるヤマトの艦長を務めていた人に、自身の醜態を見られていたことにより、かつて自身が率いていた仲間達にも見られていた事でいっぱいいっぱいとなっていたアンドロメダの思考は、遂にオーバーヒートを来たしてしまい、フリーズしてしまったのだ。

 

 

 

「«お姉さ~~~~ん!!»」

 

 

 

 駆逐棲姫の叫びが、虚しく木霊した。

 

 

 

*1
とはいえここで常に寝食などといった生活を行なっているわけではなく、ちゃんとしたプライベート用の個室が別に用意されているため、イメージとして空軍のスクランブル要員待機室が近い。

*2
正確にはアメリカだが。

*3
互いの最期が自身に原因があると思い込んでいたため、両者互いに相手への罪の意識が強くあった。





 遅くなりました。


 前話の後書きに書きました通り、新人教育の影響で執筆に遅れが出てしまいました。


 一応補足しますと、春雨(ハルサメ)達の旗艦的立場に霧島(キリシマ)がいますが、実際は大淀的なポジションであり、実際の前線では春雨(ハルサメ)が旗艦を務めています。
 霧島(キリシマ)は前線と陸上で指揮を執る土方との橋渡し役でもありますが、大淀以上の独自裁量権を有しており、イメージ的には第一期アニメ版における長門と大淀のポジションを足した様な感じです。



補足解説(いずれまた詳しく纏めるかも?)


AK-108

 ロシア製アサルトライフルであるAK-74Mの輸出モデルであるAK-100シリーズの5.56ミリNATO弾使用モデル。
 特徴として3点バースト機能が付与されているのと、AEK-971で用いられたリコイルの軽減機構を有しており、発射レートはAKシリーズ標準の毎分600発よりも高い毎分850~900発(ピストンの往復部のストロークが軽減機構により標準的なAKよりも短いため)であるにも関わらず、他のAK-100シリーズと比較して射撃精度が高いとされている。


 本銃が日本軍に採用された経緯は、先の大戦にて多発した最新鋭自動小銃である20式小銃がかつての“言うこと聞かん銃”を遥かに超える故障率を叩き出した為、採用が取り消されて急遽アメリカからM4A1やM16A4が供給されたり、それらの余波と風評被害、事情を知らない国民からの突き上げなどが重なり、製造元が大戦後に倒産してしまったことで日本における軍用銃の製造が出来なくなった事が影響している。

 但しこれは当時軍拡を急ぐ政府が無理な大量生産を製造元に強要したことが原因であり、その影響で品質悪化を招き、粗製濫造の劣悪品が大量に出回ってしまったことが最大の原因である。

 またアメリカも現政権による失策の影響で経済が停滞し、国内産業を衰退させてしまい、その影響が軍需産業や銃器産業にまで波及したことによって大戦によって消耗した自軍への供給で手一杯となってしまった為、兵器の対外輸出か停滞。更に深海棲艦との戦争勃発により対外輸出が事実上ストップすることとなる。

 日本では大戦中に供給された装備品でなんとか遣り繰りしていたが、南方作戦の失敗などにより重装備を含めた数多の装備を失うこととなった。

 続くAL/MI作戦における本土攻撃はなんとか撃退したものの、首都東京は壊滅。首都近辺に駐屯していた陸軍を中心に大損害が発生するも、最早日本には短期間で戦力を回復させるだけの余力は無く、太平洋が完全に寸断された事で同盟国アメリカも頼れなくなったし、今まで供与されていた装備のストックも底をついていた。

 そこに目を付けた新ロシア連邦(NRF)が装備品の供与を打診。

 再度の深海棲艦による本土攻撃を極度に恐れていた当時の日本政府はその打診に飛び付いた。(この事がIowa(アイオワ)の日本派遣を後押しすることにも繋がった。)


 そして供与された装備品の中に新ロシア連邦(NRF)全軍へのAK-12配備に伴い余剰品として払い下げとなったAK-74Mと共にAK-108があった。

 新ロシア連邦(NRF)としては装備の更新によって余剰となった古い装備を少しでも処分したかったという思惑があったため、T-90Aウラジーミルなど色々な装備を多少の改修を施した上で(一例として先述のAK-74、AK-108にはピカニティレール等の近代化改修が施されたアップグレードモデルである。)日本へと送り付けたが、後に一部は正式に輸出も行われるようになり、Su-30MKIシリーズが対日輸出バージョンとしてSu-30MKJ、通称フランカーJが14機とMig-35Jが8機輸出されたりもするようになった。


 余談だが、一部の部隊(主に空挺)では状態の良い従来の小銃や、分隊支援火器MINIMI、米軍払い下げのM240軽機関銃を使用しているため、弾薬供給において旧陸軍並の混乱が生じている。





 いつもの後書きコーナーにて色々と書きたいこと(西側で加速する違法薬物の相次ぐ事実上の合法化など)があったのですが、ある訃報からそちらを優先することと致しました。



 先日お亡くなりになられました松本零士さんに、哀悼の意を表します。




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第40話 Kirishima

 

 コミュニケーションは質よりも量が物を言います。中身は何でもいい、雑談でけっこう!ワイワイやるんです!伝えたいことは話しの質だけでなく、伝えたいという気持ちで通じるものでしょう。

空母いぶきGGより



 今回はある意味雑談回。(人が増えるとセリフ回しが大変だべ…)


 注意!

 今回艦娘による喫煙シーン並びに喫煙経験があるシーンがあります!

 


 

 

「«お初にお目にかかります。私は元地球連邦防衛軍宙将、今はこの世界の日本海軍にて外洋防衛総隊の司令を任せられております、土方竜中将です»」

 

 

 そう言って画面の向こうでお辞儀する壮年の男性に、泊地棲姫は微笑みを浮かべながら「ご丁寧にありがとうございます」と応じるが、その内心は緊張感に包まれていた。

 

 

 最初は何かの冗談かと思った。

 

 

 “円卓”の最中にアンドロメダさんと関わりがあるかもしれないという者の存在が発覚し、その後アンドロメダさんの要望もあって(くだん)の者との通信を試みた際に、今度はなんとアンドロメダさんと所縁のある者がその通信に突如として割り込んできたという。

 

 

 おおよその概略だけでも驚くべき内容なのに、より詳しい説明によると、最初に話題となった者はアンドロメダさんのいた世界と非常に酷似しているが、異なる別世界からの来訪者であり、今はアメリカ大統領を目指すべく政界入りした艦娘に協力している者らしい。

 

 そして今度は正真正銘のアンドロメダさんと同郷で、彼女にとって恩師というべき者が現われたらしく、またそのヒトだけでなく他にも同郷の者達が複数いるらしいのだが、その中に耳を疑う人物が紛れ込んでいた。

 

 

 それが、先の土方竜なる殿方である。

 

 

「貴方のお噂は常々よく耳にしておりました」

 

 

 そう、恐らくだが西太平洋方面に展開する同胞(はらから)達であれば、今目の前で「«恐縮です»」と述べている彼と、彼の率いる部隊によって何度も苦杯をなめさせられたという経緯から、知らない者がいないのではないかと言える程に、この土方なる殿方は有名なのだ。

 

 守勢において粘り強く抵抗し、こちらの攻撃の勢いが衰えたタイミングを正確に見切って痛撃を加え、継戦能力と士気を確実に奪う。

 

 或いは精鋭らしき駆逐隊を迂回させて攻勢主力や指揮系統の中核を叩いて混乱を招き、反撃に打って出て押し返す。

 

 なんとも厄介な相手ではあるが、こちらから仕掛けなければ出てくることが無いのが唯一の救いとすら言われている。

 

 

 そんな相手が通信とはいえ、出て来たという事で吃驚仰天した潜水新棲姫が慌てて泊地棲姫を呼んだのである。

 

 

 泊地棲姫としてもまさかの事態に最初は混乱したものの、上に立つ者として毅然とした態度で対応すべく気持ちを切り替えて挑もうとしたのだが───。

 

 

「«アンドロメダとアポロノームの2人が大変お世話になっているようで、感謝してもし切れません»」

 

 

 …まるで迷子を探していた親御さんから感謝され、お礼を言われるというみたいなことになるとは思いもしなかった。

 

 まぁ、あながち間違いではないのだが、その辺りの事情を知らない泊地棲姫にとっては、些か困惑する事態だと言えた。

 

 

 

 そんな泊地棲姫の近くでは、フリーズ状態から再起動を果たしたアンドロメダが縮こまっていた。

 

 

 

「«ハッハッハッ、もうお互いかつての立場は意味をなさないんだ。肩肘を張ったところで疲れるだけさね»」

 

 

「そ、そうかもしれませんが…」

 

 

 あっけらかんと笑う霧島(キリシマ)に、アンドロメダはたじたじだった。

 

 確かに彼女の言う通り、かつての肩書きはこの世界ではなんの意味もなさない。

 

 分かり切ったことではあるのだが、完全に割り切るにはアンドロメダは些か戸惑いがあった。

 

 最近、以前と比べて()()()()()()一面が見られるようにはなったのだが、なんだかんだ言ってアンドロメダの性格は真面目な面の方がまだ強かったのだ。

 

 

 因みにだが、今はアポロノームのタブレットも使用しての複数の画面を展開している状態である。

 

 更に付け加えるなら、おおよその事情は状況から察してはいるが、それでも細かいところとなるとどうしても分からない事柄が多く、もしかしたら認識の相違から勘違いが起きているかもしれないIowa(アイオワ)Arizona(アリゾナ)の為に、秘書艦の金剛と副艦の霧島が事の顛末に関する詳細な説明と、必要ならばその都度質問を受けては知っている範囲で答えられる物は答えるといった事を、新たに通信を繋ぎ直して行なっていた。

 

 

「«まあ、こうしてお互いまた会うことが出来たんだ。今はその幸運を噛み締めるべきさね»」

 

 

 そう言うと霧島(キリシマ)はアンドロメダの傍らに居る駆逐棲姫に視線を向けた。

 

 

「あ、あの…、ハ、初めまして…」

 

 

 恐る恐るといった雰囲気で挨拶してきた駆逐棲姫に、霧島(キリシマ)は穏やかな笑みを浮かべた。

 

 

「«ああ、初めまして。アンタのことは沖田さんから聞いているよ。

 

 私の大切なヒト達のムスメを守ってくれて、本当にありがとう»」

 

 

 礼を述べる霧島(キリシマ)だが、ここでまさか沖田の名を聞くとは思わなかったアポロノームを含めた3人は、一様に驚いた顔となる。

 

 

「«…あの人は、いつもあんた達のことを見守っていたんだ。

 

 その娘がいなければ、大変なことになっていたかもしれないとも言っていたよ。

 

 だからこそ、()()()()()()()()()()、父親たる沖田さんや母親であるヤマトの代わりに、私からの礼を受け取って欲しい»」

 

 

 深々と頭を下げる霧島(キリシマ)に、駆逐棲姫はほんの少し戸惑う。

 

 駆逐棲姫としたら、当たり前のことをやっているだけに過ぎず、感謝されるほどの事ではないと思っていた。

 

 

 しかしこの霧島(キリシマ)の言葉に、アンドロメダは気になるものがあった。

 

 

「あの…、この世界に来れないというのは?」

 

 

 掠れた声で霧島(キリシマ)へと問い掛けるが、アンドロメダ自身、聞かずともその答えを察することは出来ていた。

 

 だが、それでも、聞かずにはいられなかった。

 

 

 目を伏せ、少し悲しみを湛えた顔となる霧島(キリシマ)

 

 

「«…沖田さんは、あの場所でこの世界の未来の可能性を知り過ぎた。だから、見守ることしか出来なくなった。

 

 私は、いや私達はそんな沖田さんの頼みでこの世界へとやって来た»」

 

 

 

 その霧島(キリシマ)からの答えに、顔を俯かせるアンドロメダ。

 

 

 土方さんがこの世界に居たことで、もしかしたら沖田さん(お父様)もいずれは…、という微かな期待、願いが無かった訳では無い。

 

 だが、その願いは、脆くも崩れ去った。

 

 

 “あの時”のほんの僅かな時間が、親子が揃った最初で最後の時間であり、今生の別れとなってしまっていた。

 

 

 アンドロメダはかつて火星宙域でその最期を迎えた際に、ある“願い”を胸に秘めながら沈んだ。

 

 

 多くは望まない。ただ大切なヒト達と、また一緒になって平和な時間を過ごしたい。

 

 

 それが今際の際に願ったアンドロメダの素直な気持ちであり、戦闘艦である自身の存在意義と反する物だったが、絶望的な災禍を知り、あらゆるものを失ってきたからこそ、もし次があるならば、出来れば平穏無事な日常を大切なみんなと共に過ごしたいという思いが、彼女の心の中に芽生えていた。

 

 

 そしてアポロノームや霧島(キリシマ)といった大切なヒトとの再会や、新たな大切なヒト達、本来ならば赤の他人であるはずの自分を親身になって心配して気遣ってくれた深海棲艦のヒト達との出会い。

 

 その中でも駆逐棲姫さん(お姉ちゃん)は、最早大切という言葉だけではとても足りないくらいにまでに、大好きな妹達や今でも愛して止まないヤマトさん(お母様)と変わらぬ程の、得難い存在をこの世界で新たに得ることが出来た。

 

 

 だけど、やっぱり願わずにはいられなかった。

 

 

 もう一度、沖田さん(お父様)と会いたい。お話したかった。あの温もりを感じたかった。

 

 

 でも、それは最早叶うことが出来無い願いなのだと、思い知らされた。

 

 

 残酷な事実を突き付けられた悲しみと寂しさからか、強い寂寥感に襲われ、知らず知らずの内に手が強張り、手の平に爪が食い込む程に強く握り締めてしまっていた。

 

 それに気付いた駆逐棲姫がアンドロメダの手をそっと手に取り、その手の甲を撫でて強張ってしまった手を優しく(ほぐ)す。

 

 

 今のアンドロメダにはその優しさが心に染み渡り、駆逐棲姫を心の拠り所として依存していくこととなるのだが、その事に誰も何も言えず、霧島(キリシマ)にもどうすることも出来なかった。

 

 …いや、寧ろ霧島(キリシマ)はアンドロメダの心にはこの心優しい深海棲艦の姫が必要不可欠であると考えており、微笑ましく見ていた。

 

 

「…ヤマトさん(お母様)があの後どうなったのか、ご存知ですか?」

 

 

 ふと思い出したかの様に尋ねたのは、母と慕うヤマトの安否だった。

 

 “あの時”沖田と共に自身の前に現われたことで、一抹の不安があった。

 

 

 霧島(キリシマ)は瞳を閉じると、あの日の、向こうの世界からおさらばして消え去る最期の瞬間に交わした、ヤマトとの会話を懐かしむかの様に思い出す。

 

 

「«私の最期を看取ってくれたのが、ヤマトだったよ…»」

 

 

 

───────

 

 

 アンドロメダ(教え子)の訃報を聞いてから、霧島(キリシマ)は日々衰弱が激しくなっていっていた。

 

 それに追い打ちを掛けるかのようにして、沖田さん(愛した人)の最期を看取ってくれた親友、ヤマトの未帰還(行方不明)という報と、その帰還(生存)が最早絶望的であるとの見解から、心が完全に折れてしまい、老朽化した(老いさらばえた)自身の魂を現世に繋ぎ止めていた未練が無くなってしまったと言わんばかりに、骨と皮だけのやせ衰えた姿となってしまっていた。

 

 

 もうその目は殆ど見えず、その耳も聞き取り辛くなっていた。

 

 

 私ももうじきお迎えがくる頃合かねぇ…?

 

 

 そんなことを考えていた折に、彼女はやって来た。

 

 

 

「ああ…、ヤマトかい…?」

 

 

 

 目は見えずとも、その気配で誰だかが分かった。

 

 

「遅かった、じゃないか…?

 

 あまりにも、遅いから…、あんたも沈んだ(逝った)のかと、思っていたよ…」

 

 

 ようやく帰って来てくれた親友のヤマトに対して こんな時でも皮肉な言葉しか出ない自身の口の悪さに苦笑するしかなかった。

 

 

 その後にヤマトから語られた言葉があったのだが、衰えた自身の耳ではそれをキチンと聞き取ることは、もう出来なかった。

 

 それでも、微かに聞き取れた言葉から、それがいわばあの娘に対する誓いか、決意の様なものであることだけは分かった。

 

 

 だけど、それがいずれヤマトを縛る“呪い”になるかもしれないという、一抹の不安に駆られ、最後の気力を振り絞って短いながらも忠告を兼ねた言葉を紡いだ。

 

 

 

「ヤマト…、背負い、すぎるんじゃ、ないよ…」

 

 

 

 まったく、誰に似たんだか揃いも揃って根が真面目で優し過ぎるんだ。

 

 

 誰かが気に掛けてその都度小言でも言って窘めてやらないと、勝手に潰れてしまいそうな危うさがその身から滲み出ていた。

 

 

 …私にゃぁ、もうその役目を果たすことは出来そうに無いから、最後の餞別としてその言葉を遺しておさらばすることになった。

 

 

 消え去る瞬間に、私に何かを伝えようとしていたけど、よくは聞き取れず、内容はほとんど分からなかったが、それがアンドロメダのことだったのは確かだと確信している。

 

 

 何故ならば「あの娘」という言葉だけはしっかりと聞き取れたからねぇ。

 

 

 ヤマトがあの娘と呼ぶのは、アンドロメダしか居ないよ。

 

 

 誰よりも溺愛していた、自慢のムスメ…。

 

 

 ハハッ、まったく子煩悩な娘だねぇ…。

 

  

 

───────

 

 

「«…とまぁ、こんな感じで私はヤマトに看取られながら…って、なんだいなんだい?泣くこと無いじゃないか若いの?»」

 

 

 あの日の出来事を懐かしみながら語っていると、気付けばアンドロメダが何度も「ごめんなさい…、ごめんなさい…」と言いながら啜り泣いている姿が目に入った。

 

 

「私が…、不甲斐ないばかりに…、先生にご迷惑を「«思い上がるんじゃないよっ!»」ひっ!?」

 

 

 しゃくり上げながら霧島(キリシマ)を失意の底に沈めた挙げ句、死に追いやったのは自分のせいだと悔恨するアンドロメダに霧島(キリシマ)は声を荒げ、その剣幕にアンドロメダは思わず肩を撥ねさせた。

 

 

「«確かにあんたに先立たれて、私ゃぁ胸が引き裂かれる程に辛く悲しかったさっ!

 

 私の様な死に場所さえ得られなかったくたばり損ないの老いぼれた老朽艦(老人)よりも先にくたばっちまいやがってと恨んだもんさっ!!

 

 だけどね、それは()()()()()()()()なんさね!»」

 

 

 アンドロメダは、何も言い返せなかった。

 

 涙でくしゃくしゃになった顔をそのままに、ただ黙って聞いていることしか出来なかった。

 

 霧島(キリシマ)が見せた怒りは、今までに見たことがない程の激しいものだった。

 

 

「«あんたは、あんたの母親のヤマトも!なんでなにもかも背負おうとするっ!?

 

 誰かの死や、起きちまった事柄に責任を感じて自らを責めようとするんだいっ!?»」

 

 

 捲し立てる様に、そして血を吐くかの様な勢いで、おそらくは今まで心の内で思っては溜め込んでいた“思い”を出し切るかの様に吐き出していく。

 

 

 アンドロメダは俯きそうになる自身の顔を必死に堪らえながら、霧島(キリシマ)の目を見続けて黙って受け止めていた。

 

 

 反論するのは以ての外だ。

 

 

 これは霧島(キリシマ)が胸の内に抱えていた自身を心配してくれていた“思い”から来る、彼女なりの、不器用な優しさの発露なのだ。

 

 

 間違っていると思ったのならば、どんな時でも、例え相手が誰であろうとも声を上げる。

 

 

 彼女は、そういうヒトなのだ。

 

 

 

「«あまり背負い過ぎないでおくれ…»」

 

 

 

 そして、先程とは打って変わって、鎮痛な趣きで絞り出すかの様な声で、今にも泣き出しそうな声で、縋るかの様に語り出す。

 

 

 

「«誰かの死を…、自分のせいだと言わないでおくれ…。

 

 そう言って、冥府魔道に堕ちた連中を、私ゃ何人も見てきたんだ…。

 

 そんな奴らに限って…、死に急ぎやがる…»」

 

 

 霧島(キリシマ)の瞳から光るものが滲み出て来ており、堪らずといった様に目頭を押さえながら顔を伏せた。

 

 その脳裏に浮かんでいるのは、かつての戦いで帰らぬヒトとなった地球艦隊か、それとも自身を残して先立ってしまった姉妹達の顔か…、それは誰にも分からない。

 

 

 彼女は、様々な“痛み”に耐えながら、その全てを受け止めながら“生きて”来た。

 

 

 その“苦痛”は如何ほどのものなのかは、彼女にしか分からない。

 

 

「先生…」

 

 

 アンドロメダにはその言葉を絞り出すのが精一杯だった。

 

 

「«…だが、過去を悔やんでも、自分を責めたところで、その過去が変わるわけ、じゃあ無いんだよ»」

 

 

 悲しみを帯びた笑みを湛えながら、ゆっくりと、言い聞かせるかのように語る霧島(キリシマ)。 

 

 

「«過去を振り返るな、全てを割り切れとは言わないけど、私達はこうして新たに生を受け、再開出来たんだ。

 

 これは奇跡というものさね。

 

 だから、その奇跡を噛み締め、前を向いて進みな。

 

 今、この世界でしか出来ないこと、楽しめないこと、新たな出会いだってあるんだからね?»」

 

 

 そう言ってチラリと駆逐棲姫を見遣る。

 

 お前さんも、この世界で良き出会いを果たしたんだろう?と、その仕草だけで暗に告げていた。

 

 

 そのことに気付いた駆逐棲姫は顔を綻ばせながらアンドロメダをギュッと抱き締め、アンドロメダはそんな駆逐棲姫を慈しむかの様に、その頭を優しく撫でた。

 

 

「先生…」

 

 

 先程の悔恨からくる悲痛な声と違い、幾分か明るくなったアンドロメダの声に、霧島(キリシマ)はニッと口角を吊り上げる。

 

 

「«ま、説教くさい話はここまでさね»」

 

 

 徐ろに懐を(まさぐ)りだして、何やら紙で巻かれた棒状の物を取り出したかと思うとその先端部分を口に咥え、手慣れた手付きで反対側の先端部にジッポライターで火を点けると煙が立ち、息を吸ってその煙を口に含み、フーーッと吐き出した。

 

 つまり煙草、それも葉巻を一服仕出したのである。

 

 

 これにアンドロメダは目を丸くした。

 

 

 まさか霧島(キリシマ)が喫煙者になっていたとは思いもしなかった。

 

 しかもかなり様になっているその姿から、吸い慣れている事が見て取れた。

 

 

「«もうっ!霧島(キリシマ)さん!!ここは禁煙ですっ!て何回言えば分かるんですかっ!?»」

 

 

 そこへ、アンドロメダの聞き覚えがある声が、そして今とっても怒っていますというのがよく伝わってくる声が聞こえて来た。

 

 

「«おやっ?そうだったかい海風(ウミカゼ)

 

 年取ったせいか、近頃耄碌しちまってねぇ?そんな話は忘れちまったよ»」

 

 

 おどけながら肩を竦める霧島(キリシマ)だが、そんな霧島(キリシマ)に対して声の主、海風(ウミカゼ)は更にプリプリしながら詰め寄る。

 

 

「«妹達の中には煙草の臭いが苦手な娘もいるんですよ!?

 

 せめて電子タバコにしてくださいって、お願いしたじゃないですか!!»」

 

 

 その妹とは夕立(ユウダチ)のことである。

 

 彼女は巷で犬っぽいっ要素があるとよく言われている、白露型駆逐艦艦娘の中でも特に犬っぽいとされ、“狂犬”という畏怖を込められた異名すらある同名の駆逐艦艦娘の夕立と似て、犬っぽいところがある。

 

 それが影響しているのかは定かではないのだが、彼女は嗅覚が姉妹の中でも特に敏感であり、煙草の残り香にすら反応を示す程だった。

 

 

「«はんっ!この葉巻特有の芳醇な香りの良さが、私ゃ好きなんでね。

 

 それにあんなガラクタのオモチャじゃぁ、この香りを楽しむことが出来無くて興冷めしちまうんだよ»」

 

 

 ここで葉巻を一息吸い、少し間を開けてから紫煙を吐くと、ニヤリと笑みを浮かべながら部屋の一角で我関せずを決め込んでいた艦娘に対して、チラリと視線だけ向けた。

 

 

「«それにそこに居るお前さんのとこの江風(カワカゼ)だって、こないだコソコソと細巻き吸ってたよ?»」

 

 

 視線を向けられたことで口笛を吹いて誤魔化そうとしていた江風(カワカゼ)が、霧島(キリシマ)からの暴露で一転して動揺した姿となった。

 

 

「«うえっ!?き、きき、霧島(キリシマ)さンよっ!そのことは話さないでくれ「«か~わ~か~ぜ~っ!!»」って、海風(ウミカゼ)の姉貴!!落ち着いてくれっ!話せばわかるっ!!»」

 

 

 途端に画面の向こうが騒がしくなり、見覚えのあるウミカゼ(青い髪の娘)カワカゼ(赤い髪の娘)と「«没収しますっ!»」「«勘弁してくれ姉貴!»」と互いに叫びながらドッタンバッタンと追い掛け回す姿が映り込んだ。

 

 また画面には映っていないが、優しくて落ち着いた雰囲気の、アンドロメダが知らない声の娘が「«2人共、落ち着いて»」と宥めようとしているのが聞こえて来た。

 

 

「ふふっ、あはははっ」

 

 

 アンドロメダは思わずといった雰囲気で吹き出してしまい、そのまま屈託のない笑顔で笑い出した。

 

 隣りにいた駆逐棲姫もクスリと笑みを浮かべ、アポロノームは肩を僅かに竦めて呆れたという体裁を装ってはいるが、それでもその口元は笑っていた。

 

 

 それを見た霧島(キリシマ)が、後ろの喧騒を余所に、フッと優しい笑みを浮かべた。

 

 

「«ようやく、笑顔を見せてくれたね?若いの?»」

 

 

 そう言われて、あっ!と気付いたアンドロメダ。

 

 言われてみればこの通信中、ずっと笑顔らしき笑顔を見せていなかったことに。

 

 

「«やっぱりあんたは笑っている顔が一番良く似合っているし、私ゃあんたのその笑顔が好きだよ»」

 

 

「ふ、ふぇええっ!?な、なんてこと言うんですかっ!?」

 

 

 好きと言われたことで、思わず顔を赤らめ挙動不審となってしまったアンドロメダに、霧島(キリシマ)は「《本当のことさねっ!》」と言いながら呵呵(かか)と笑う。

 

 

「«さてと、海風(ウミカゼ)に怒られたことだし、私ゃ少し外で一服してくるよ»」

 

 

 そう言うといつの間に消したのか、火の消えた葉巻を懐に仕舞うと振り返って未だに追いかけっこを続けている海風(ウミカゼ)に顔を向けた。

 

 

「«海風(ウミカゼ)、私ゃ少し席を外して一服してくるから、その間は若いもん同士でよろしく頼むよ?»」

 

 

 突然話を振られたことで、江風(カワカゼ)から煙草を取り上げようと躍起になっていた海風(ウミカゼ)は「«えっ!そんな突然!?»」と言って少し慌ててしまう。

 

 

「«お前さんの大好きな春雨(ハルサメ)姉さんを紹介したかったんだろう?»」

 

 

 そう言うと、「«じゃ、後はよろしく頼むよ~»」と後ろ手に手を振りながら退室して行った。

 

 その際、今までハッキリと画面に映っていなかった霧島(キリシマ)の乗る車椅子が映り、それを見たアンドロメダは「(こちらに来ても、足のお加減がよろしく無いのですね…)」と思い、少し悲しい気分となった。

 

 

 前の世界では今までのガミラスとの戦いでの無茶と無理、そして自身が語っていた様に老朽化によってあちこちにガタが来てしまっており、それが足腰の衰えという形で彼女の体に出ていた。

 

 

 だが、そう思った段階で先程映った車椅子のシルエットにある違和感、いや既視感の様なものがあることに気付いた。

 

 

 あの椅子の形は確か…。と思った段階で、海風(ウミカゼ)が通信画面に出て来た。

 

 

「«あ、あの…、え~と、お久しぶり、です。総旗艦さん…»」

 

 

 しどろもどろながらも、なんとか言葉を紡ぐ海風(ウミカゼ)に、クスリと笑みを返すアンドロメダ。

 

 

「はい。お久しぶりです海風(ウミカゼ)さん。

 

 あ、私は先生が仰られた通り、もう総旗艦ではありませんから、出来れば名前で呼んでくれませんか?」

 

 

「«あ、あう…、す、すみませんそうき、あ、アンドロメダさん»」

 

 

 シュンとしながらも受け答えをこなす海風(ウミカゼ)に、アンドロメダはニコニコとした表情を浮かべる。

 

 

「あの日の約束、ようやく果たすことが出来ますね?」

 

 

「«ハ、はい!»」

 

 

 ここでパッと笑顔に変わった海風(ウミカゼ)は、嬉々とした表情で早速と言わんばかりに、あの日、あの土星決戦前夜にアンドロメダと交わした約束、姉である春雨(ハルサメ)を紹介するとの約束を果たすべく、画面を春雨(ハルサメ)へと向けた。

 

 

 そしてやや緊張しながらも、優しい雰囲気のするピンク髪の少女が映し出された。

 

 

「«ハ、はじめまして!アンドロメダさん。

 

 春雨(ハルサメ)型直掩護衛駆逐艦、1番艦の春雨(ハルサメ)です!はい。

 

 そ、その、よろしくお願いいたします!»」

 

 

 丁寧にお辞儀をしながら挨拶をする春雨(ハルサメ)と名乗った少女に、アンドロメダは終始笑みを浮かべながら聞いていたが、その内心では自身がお姉ちゃんと呼ぶ駆逐棲姫と姿が似ている事に驚いていた。

 

 それは春雨(ハルサメ)達もおなじであり、最初に画面に出てきた時はみんなが声に出して驚いた程である。

 

 

 とはいえそれ以外は特にこれといった問題は無く、途中から他の春雨(ハルサメ)姉妹やアポロノーム、そして(くだん)の駆逐棲姫も交えたが、最初こそは自分とそっくりな容姿の春雨(ハルサメ)に駆逐棲姫はおっかなびっくりな様子ではあったが、やがて和やかな雰囲気での談笑となった。

 

 

 

 

 そんな和気藹々とした雰囲気の隣では────。

 

 

 

「«騒々しい者達ばかりで、本当に申し訳無い…»」

 

 

「ふふっ、賑やかなのは良いことですよ?

 

 私の子供達も、賑やかな良い子達で毎日がとても楽しいですから」

 

 

「«お子さんがいらっしゃるのですか!»」

 

 

「身寄りのない孤児達を、私や他のみんなとともに面倒を見ています」

 

 

「«…どうやら私達は、本当に貴女方のことを知らなさ過ぎたようですね»」

 

 

 

 土方と泊地棲姫の両名による、ある意味では歴史的な会談が続いていたが、元々が突然の、いわば成り行きで起きた様な会談なだけに、その内容は当たり障りのない世間話的なものだったのだが、それでも軍政畑の中心である軍務局を主戦場としていた芹沢虎鉄ほどの専門分野では無いにせよ、長らく防衛軍の軍政畑などで、そしてこちらの世界においても官吏などを相手に丁々発止を繰り広げて来た土方の経験から、人を見る目はそれなりに確かであり、今画面越しに対面している泊地棲姫が少なくとも下手な官吏よりも信頼の出来る相手であると見抜き、また今までに知り得なかったことが知ることが出来たりと、得るものは十分にあったと言えるものだったと、後に土方は語っている。

 

 

 






???「妹の事も無論大事ですが、ハルサメ姉さんの清楚な香りの堪能を阻害する要素は、徹底的に排除しなければなりません!!」


 …もしもし憲兵さん?変態がいます。



 本来なら別の話の予定でしたが、その導入部分だけでえらく長くなりましたので、分けることとしました。


 次回は今後の身の振り方についてのあれこれとなります。

 まぁ、また堅苦しい話になると思いますが…。

 サブタイトルは『GG』。

 そしてそろそろ新ロシア連邦(NRF)も関わって来る予定。



久々のグチコーナー!(ネタが有り過ぎてパンク中…)


 西側の崩壊が止まらない!カナダで部分的かつ段階的な非合法薬物の合法化!というか近年の薬物による中毒者や死者の数がエライ勢いで急増してるぞ…。
 欧米に続け!と狂ったかのようにえるぢーべーてーとかいう変な横文字の運動に前のめりになってる今の日本が、いずれこれにも追従するんだろうなぁ…、と思うと、気が重い…。

 そもそもえるぢーべーてーだけでなく、べーえるえむとかいう過激派共産テログループ(トップが共産主義、社会主義思想であると公式に認めている)やえすでーぢーづにも言えるけど、最近のこういった横文字運動でマトモなの存在しねぇのよなぁ。

 まぁぶっちゃけると、左派連中が金儲けと人気取りのためにテキトーなデマカセ論理ぶち上げて大騒ぎし出したのがそもそもの原点で、それに左翼思想かぶれのマスメディアが薄っぺらい美辞麗句並べたよいしょをしまくって拡大させたものだから、全く中身が存在しない。

 べーえるえむはあまりにも過激路線(殺人放火強盗強姦窃盗恐喝なんでもござれ)を突っ走って行き過ぎたのと、トップがヤバすぎた影響で化けの皮が剥がれて落ち目になって来てるけど、えるぢーべーてーはヤバい。なんかもう最近矢鱈文字増えまくって訳分からんけど、なんか今は特殊性嗜好というか異常性嗜好を認めろ!という方面に突っ走っている…。
 えるぢーべーてーとかいうのが出てきた当初の段階から、絶対こうなる、或いはこれに託つけた犯罪が増えると指摘していた意見が結構出てたけど、陰謀論だ差別主義者だとか言って攻撃されまくってたのをよく覚えている。

 おい攻撃していた連中、今の欧米の惨状を見てまだそんな戯言が言えるか?流石にヤバいと気付いたアメリカでは共和党州を中心に左派によるえるぢーべーてー押し付け運動に対して反撃に出始めたぞ。

 というか、見ていたらわかるけど、やっぱりえるぢーべーてーの根底にはカネ、ビジネスマネーの闇があった。
 特に酷いのが子供を食い物にしたジェンダー利権。

 多感でホルモンバランスの問題から不安定な時期の子供を騙して性転換治療を受けさせ、補助金を含めた高額な治療費によって大金をせしめるビジネスの実態が、今問題視され始めている。

 この治療にはホルモン注射や投薬、または外科手術などによる長期に渡る治療期間が必要であり、その分大金が医師に入りやすい。

 近年、子供の時に性転換治療を行なったことを後悔して再度性転換治療を受ける患者が増えているという。

 しかし、一度性転換をしてしまうと、失ったモノは、二度と戻らない。


 今に始まったことではないが、目先のカネに目が眩んだ無責任な大人達によって、子供達に対して取り返しの付かない被害を与えている事例が深刻化してきている。


 子供は大人の玩具でも、ましてや欲望の捌け口ではない!!

 


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第41話 GG



 過去最短のタイトル!

 人間3人いれば派閥が出来ると言いますが、それは国や組織でも、多少の違いはあれど同じ事。

 日本って立地が戦略的にどえらい位置に存在してるんですよねぇ~…。それなのに暢気な日本人。自衛隊は実戦に対して糞の役にも立たない現行の自衛隊法によって戦う前から完全無力化が完了済み。憲法改正?寝言は寝て言いなさいのレベルです。法治国家では行動に対する法的根拠の方が重要なんですよ。

 一応本作では太平洋の要所であるハワイを深海棲艦が押さえ、更に北はアリューシャン、南は南太平洋一帯がほぼ聖域化しているため、太平洋の大半が深海棲艦の制海権と言える状態。
 新ロシア連邦(NRF)にとって日本は深海棲艦に対する縦深的な防衛ラインの外郭防波堤として懐柔したい。
 アメリカは日本が派手に動くことで太平洋の深海棲艦に二正面作戦状態を強要したい。ただし日本が新ロシア連邦(NRF)に靡かれるのは面白くない。だけど太平洋が分断された影響で新ロシア連邦(NRF)による援助が無ければ日本は戦えないというジレンマ。
 


 

 

「待たせたね」

 

 

 暫くして、霧島(キリシマ)が秘書艦の金剛と共に戻って来た。

 

 

 霧島(キリシマ)が席を外していた間、アンドロメダ達は旧交を温めながらも新たな出会い、アンドロメダと春雨(ハルサメ)は互いに姉妹の事で盛り上がり、直ぐに打ち解けて仲良くなった。

 

 その際に山風(ヤマカゼ)とも対面したのだが、その際にアンドロメダのことをやり手のクラッカーであると勘違いしていた山風(ヤマカゼ)が、普段は見せない様な積極さでアンドロメダを質問攻めにしたりといった事態が発生し、その圧に圧倒されてタジタジとなったアンドロメダを見た駆逐棲姫が間に入ったり、妹の暴走に春雨(ハルサメ)が陳謝するといったトラブルが起きたりもしたが、それが切っ掛けとなって駆逐棲姫と言葉を交わすことが出来た。

 

 事前にアンドロメダとの仲睦まじい姿を見ていたとはいえ、本来ならば戦場でしか会うことが無い深海棲艦、それもその上位種とされている姫級の1人なだけあって、最初こそは緊張していたものの、直に言葉を交わしているとそのメンタルが自分達と何らか変わらないものであるということに、次第に思い至る様になった。

 

 

 そこからは早かった。

 

 

 春雨(ハルサメ)達は昨日の敵は今日の友(ガミラス)という前例もあり、駆逐棲姫は相手の本質を見抜くその目から、そしてアンドロメダが双方を信用し信頼しているという事実から、互いに信用出来る存在であると認め合ったことで、その心の距離間が急速に縮まることとなった。

 

 

 このタイミングで秘書艦金剛と副艦霧島からの説明を聞き終えたIowa(アイオワ)達も、和気藹々と語り合う輪の中へと紛れ込んだ。

 

 というか、元々賑やかなこと、楽しいことは心の保養であり栄養であると考えているIowa(アイオワ)にとって、和気藹々とした雰囲気は正に大好物であった。

 

 そして彼女の上手いところは、いつの間にかスルリとその輪の中に自然と溶け込み、気付けば仲良くなっているという技術(スキル)にあった。

 

 その技術(スキル)があったからこそ、彼女はこの短期間で派閥争いの激しい、魑魅魍魎だらけの政界で頭角を表わし、保守党内での大統領候補になれたとArizona(アリゾナ)は思っている。

 

 同時に、だからこそ極左リベラル政党から危険視されていると確信していた。

 

 彼女は極左リベラル政党内における保守寄りの議員だけでなく、中道寄りの議員すら徐々に、だが確実に切り崩し始めていた。

 

 恐ろしいのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

 切っ掛けさえあれば、スルリと心の内側に入り込んでくる。

 

 それがIowa(アイオワ)という艦娘の持つ、最大の“武器”であり、()()()()()()()()()

 

 

 閑話休題。

 

 

 このタイミングで金剛が霧島(キリシマ)を迎えに行き、戻って来たことで仕切り直しとなった。

 

 …その際、海風(ウミカゼ)は僅かにだが眉を顰めた。

 

 彼女の鼻は妹の夕立(ユウダチ)に次いでその嗅覚が優れており、最愛の姉である春雨(ハルサメ)の優しい香りをいつも堪能しているのだが、その嗅覚が霧島(キリシマ)から煙草以外の匂いを感じたのだ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()を───。

 

 

 

「さてと、お互い顔合わせも出来て、程良く緊張も(ほぐ)れた事だし、本題に入ろうかね?」

 

 

 海風(ウミカゼ)が訝しんでいる中、いけしゃあしゃあと、いつの間にやら霧島(キリシマ)が司会役としてちゃっかり仕切っているが、ツッコミは野暮というものだろう。

 

 まぁ、この辺りは航宙自衛隊や国連宇宙海軍にて艦隊旗艦を勤めることが多かった故に、ヒトを引っ張って行くことに慣れており、自然と纏め役が身に付いてしまっていたという一面もあるが。

 

 

「単刀直入に聞くよ?

 

 若いの、そっちでのあんたの扱いはどんな感じだい?」

 

 

 この霧島(キリシマ)からの問に、アンドロメダはその真意が掴めず首を僅かに傾げる。

 

 

「〈…皆さん、本当に良くして下さいます。

 

 駆逐棲姫さん(お姉ちゃん)は言わずもがな、ここの責任者であります、人類側の呼称で飛行場姫と呼ばれているお方からはとても親身で、アポロノームを含めて何かと気にかけてくださいます〉」

 

 

 ここでアンドロメダは反応を覗う為に一息入れ、泊地棲姫が気を利かせてそっと用意してくれていたレモン水に口を付ける。

 

 霧島(キリシマ)は何も言わず、視線で続きを促した。

 

 

「〈飛行場姫さんはお料理が得意なお方で、またコーヒー豆の収集がご趣味であらせられる様で、手ずから淹れて下さいましたコーヒーはとても美味しかったです〉」

 

 

 このアンドロメダが語った内容に、霧島(キリシマ)は「ほう、面白そうだ…」という顔となり、春雨(ハルサメ)達は直前まで駆逐棲姫と楽しく語らい合っていた事から、そして土方も泊地棲姫から子供達の面倒を見ていると聞いていたこともあり、大きく驚くことは特になかった。

 

 …いや、とはいえ流石に鼻歌まじりに豆をコーヒーミルで挽きながら、楽しそうにコーヒーを淹れている飛行場姫の姿を想像出来るかと問われたら、皆一様に首を横に振るだろうから、それに関しては少なくともインパクトがあったと言える。

 

 だがそこから始まった、アンドロメダがこの世界での出会いに関しての語りによって、知られざる深海棲艦の一面を更に垣間見ることとなる。

 

 

「〈私がこの世界で初めて出会いましたのが、戦艦棲姫さんでした〉」

 

 

 いきなりのビックネームの出現に、騒然となる。

 

 

 戦艦棲姫。

 

 

 現在確認されている深海棲艦の戦艦タイプの中でも最強格の存在であり、大規模な戦闘となると必ずと言っていいほどにその姿が確認されており、時には単体で、時には複数の個体が艦列を列べて(肩を並べて)人類や艦娘の前に立ちはだかり、その強力な火力と防御力を発揮して幾度となく苦しい戦いを強いてきた。

 

 近年になってより強力な固体、上位互換とも言える戦艦水鬼なども出現して来ているが、それでも艦娘の中には戦艦棲姫の方が遥かに手強いと言う者がいるほどに、その存在は戦場において常に恐れられ、恐怖の象徴として君臨している。

 

 春雨(ハルサメ)達自身、()()()()()()使()()()()()()()()特に苦戦することは無いだろうが、現在使用している()()()()()()によるリミッターが掛けられた状態ではそれなりに苦戦は免れ無いと分析している。

 

 だが、アンドロメダが語る戦艦棲姫との出会いは、そんな恐怖の象徴としてのイメージとは掛け離れたものだった。

 

 

 出会った当初に悪戯こそされはしたものの、その言動は誠実であり、更には“お人好し”の様な、アンドロメダを気遣い、その行く末を案じて心から心配するかのような一面がある様に思えた。

 

 なによりその時点で既にアンドロメダを勧誘していた事実に、動揺が走った。

 

 この時は断ったというものの、その後に様々な偶然が重なったとはいえ、結果的に現在アンドロメダは深海棲艦に身を寄せている事実がある以上、戦艦棲姫の誠実な言動がアンドロメダの心境に対して深海棲艦への悪い先入観を抱かせなかったことが、今のこの現状に大きく影響しているのではないかと思われる。

 

 

 そして続く駆逐棲姫、空母棲姫や南方棲戦姫との出会い。

 

 

 その全てに共通しているのは、アンドロメダ曰く、直に接している時の彼女達からは一切の敵意、害意が感じられず、寧ろかなり友好的であるという事である。

 

 まるで、そう、語弊を承知の上で敢えて言うならば、()()()()()()()()()()()()()()()()、或いは()()()()()()()()()()()()()()そんな親しみが感じられるのだ。

 

 

 無論、アンドロメダがかつていた世界において、彼女達に該当するようなモノは存在していない。

 

 

 お姉ちゃんと呼んで慕い、互いが心を寄せ合い懐いている駆逐棲姫にしても、実際に“姉”と呼べそうな存在となると、モックアップや事実上の零番艦とも言えるテストベッドの建造が計画されはしたが、結局ペーパープランの段階で立ち消えとなった為、存在しない。

 

 

 だが身内や友人の様な、という言葉以外に思い浮かぶものがなかった。

 

 

 それくらい深海棲艦はアンドロメダに対して親密で友好的なのだ。

 

 

 また今日までの交流から、深海棲艦のメンタルは自分達と然程変わらないのではないか?とアンドロメダは考えていた。

 

 

 このアンドロメダの考えに、春雨(ハルサメ)達は頷いた。

 

 先にも述べたことではあるが、今までは戦場という限定された状況でしか邂逅することが無かったが故に、そのことに思いが及ぶ事はなかったが、先の駆逐棲姫との談笑によって、ここにいる春雨(ハルサメ)姉妹達の間では彼女に対しての友好の気持ちが芽生えており、そこから深海棲艦のメンタルが自分達と変わらないという考えを持つまでに至っている。

 

 

 しかしそれに対して反発したのが、この世界にて長年深海棲艦との戦いを続けて来た秘書艦金剛だった。

 

 頭ではアンドロメダの言っていることは理解出来ても、心情的にそう簡単には受け入れ難いものがあるし、なによりも限られた極一部だけを見て、全てを見た気になっているのではないか?とアンドロメダに問い詰めた。

 

 

 この指摘にアンドロメダは痛いところを突かれたと、その形の良い眉根を僅かに寄せてしまう。

 

 

 彼女、金剛の指摘はこの戦争の当事者として至極真っ当なものであり、これは地球のガミラスに対する感情と似たものがある。

 

 地球総人口の7割がガミラスとの戦いで失われ、その怨嗟の感情は未だ地球人の中で根強く残っており燻り続けている。

 

 この戦争におけるこの世界の人類に対する深海棲艦による直接的、間接的被害は、ガミラスとの戦いと比較したらかなり少ないが、それでも被害が全く無いわけでは無く、また憎悪を()()()に煽る人類側の情報操作の実態がある以上、下手な反論は却って彼女の逆鱗に触れて暴発してしまう恐れがあった。

 

 

 それに対してIowa(アイオワ)がアメリカ国内にて身分を偽って居住する深海棲艦達が、特に騒ぎなどの問題行動を起こすことなく過ごしていることを告げた。

 

 

 今回アクア・マリン(戦艦新棲姫)コーラル・リーフ(南方戦艦新棲姫)の2人と会うまでに、彼女は自身の持つ権限や伝手などを使って彼女達の立ち上げた商社を事前に調べ上げていた。

 

 元々が不法移民である点と、商社で取り扱う物品の搬入ルートが密輸という点を除いて、これといった問題は見付けられなかったし、地元民との関係もすこぶる良好。

 

 また密輸された物品の中に薬物や銃火器といった違法な物品は今の所は確認されず、全て食糧やコーヒー豆、煙草等の嗜好品であり、たまにワインなどのアルコール飲料類があるが、それは密造酒ではなく正規の物であることが確認されている。…盗品の可能性はゼロではないが。

 

 それに彼女達からしたら、違法とされている薬物などの御禁制品を用意出来るルートが無いし、それならば今自分達で用意できる物で販路を開拓したほうが確実だった。

 

 

 そしてそれはアタリだった。

 

 

 民衆を管理統制したい現政権や自称エリート達は、食糧問題に託けて完全配給制を画策したものの、いざ始めてみると必要な量の確保がまったく出来ず、強引に推し進めていた代用食は軒並み失敗に終わったどころか、公金を大量に浪費し、健康や環境に甚大な被害を与え、逆に食糧不足を加速させていた。*1

 

 

 馬鹿共が目先のカネに目がくらんだ末の、人災が引き起こした慢性的な食糧不足から、*2全米で闇市のような食糧の闇市場が横行した。

 

 そこに彼女達は食い込む形で販路を拡大していった。

 

 

 しかし、少なくとも問題らしい問題は見付けられず、価格も比較的リーズナブルで良心的。

 

 寧ろ善良な部類にしか思えないほど真面目で勤勉だったし、調べれば調べるほどヒトと──善良なる人間と──の違いが分からなくなるほどに、彼女達は人畜無害にしか思えてならず、積み上げられた報告書の前でIowa(アイオワ)は、調査に携わった者達と共に従来の常識とされていた事──破壊と殺戮の限りを尽くす暴虐な侵略者──が覆るということに、頭を抱えて激しく苦悩することとなった。*3

 

 …ただ1人、Arizona(アリゾナ)だけは頭を抱えることは無かった。

 

 何故ならばArizona(アリゾナ)は以前から個人的に内密で調査を行なっていた為に、既にこのことは掴んでいた。*4

 

 そこから今回の一件を仕組んだ。

 

 一度彼女達深海棲艦の、今まで見えていなかった、知らなかった事を知ることで、今までの常識に疑問を持たせ、悩みを発生させて行動力豊かなIowa(アイオワ)に実際に自身の目で、耳で彼女達の事をよく知っておくべきだとの行動に出る様に促そうとArizona(アリゾナ)は考えたのだ。

 

 

 そしてそれは功を奏した。 

 

 

 Iowa(アイオワ)は従来の“深海棲艦=敵”という単純な図式に対して明確な疑問を抱き、今回の邂逅によって“深海棲艦への歩み寄りが出切るかもしれない”という可能性へと思い至った。

 

 無論、前途多難であることは百も承知である。

 

 

 彼女自身、今までの蟠りの一切を水に流したわけではない。

 

 だが信頼を築き上げるにことで大事なのは、“相手を信じてみよう”という気持ちであるとIowa(アイオワ)は考えている。

 

 ただし、だからといって誰もかも、何もかもを無条件に全て信じるというものでは無く、よく調べ、納得し、信じるに足りるかどうかを考えて判断してからという最低限の条件(ルール)は設けている。

 

 

 そして今までの調べた内容から、実際に会って言葉を交わしたその感触から、信じてみようという結論に達したのである。

 

 

 政治家として清濁併せ呑むとも言える姿勢を示した、かつてのIowa(僚友)の言葉に金剛は何も反論せずに、黙って耳を傾けていた。

 

 

 ここでアンドロメダが口を開いた。

 

 

 しかしその顔は、話すことに最後まで悩みに悩んだと言える表情だった。

 

 何故ならばこれから話すことはアンドロメダにとっては一種のトラウマとも言えるものだからである。

 

 

「〈この戦争の部外者で、なによりも深海棲艦に心を許し絆され、駆逐棲姫さん(お姉ちゃん)のことが好きで好きでたまらない、このまま大好きな駆逐棲姫さん(お姉ちゃん)とずっと一緒にいられるならば、もう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えだしてしまっている者からの、この戦争の当事者であります貴女からしましたら到底許し難い者からの、聞くに耐えない戯言かもしれませんが──〉」

 

 

 不穏過ぎる言葉が混じった、やや自虐的な前置きを置いてから、静かに語り出した。

 

 

 恨みや憎しみに囚われていては、いつの間にか自分自身がその対象と変わらない存在と成り下がってしまい、自分すら見失って、身を滅ぼすことになりかねないと、悲しみを湛えた顔で語るアンドロメダ。

 

 それはまるで自身の悔恨の様にすら聞こえるものだった。

 

 横で聞いていた海風(ウミカゼ)には、それが何を意味しているのかを察することが出来た。

 

 

 ガトランティス戦役。

 

 

 多くの者が傷付き倒れ、心に大きな傷痕を残し、多くの大切な者が奪われた史上最悪と言っても過言ではない、忌むべき最悪の戦争。

 

 

 この戦いでアンドロメダが“壊れた”ことは、誰しもが知っており、海風(ウミカゼ)も含めてそれを悲しむ者も多くいたが、アンドロメダが語ろうとしていることはそのことでは無く、その後の事だった。

 

 

 自身の心の中には未だにその時の憎悪の炎が燻り続けており、切っ掛けがあれば再燃し爆発する可能性があった。

 

 そしてそれは実際に起きてしまった。

 

 

 この世界で初めて経験した戦闘である空母棲姫、南方棲戦姫の率いる艦隊と戦った際、予想外にして、有り得ない事態が発生した。

 

 

 南方棲戦姫にショックカノンが通用しなかった。

 

 

 その時のことは記録として映像が残っていた。*5

 

 

 アンドロメダの主砲から放たれた陽電子の鏃が、南方棲戦姫に着弾する直前に、彼女の周りに突如として現われた薄いベールのような物によって掻き消された。

 

 それを見た全員が等しく驚愕したが、アンドロメダと同じ世界から来た者にはその映像に既視感があった。

 

 

「〈分析の結果、“これ”がガトランティス(蛮族共)が使用していた防御フィールドと酷似していることが判明致しました〉」

 

 

 そしてさらに映像は続く。

 

 

 自身のショックカノンが通用しなかったことに驚愕していたアンドロメダの表情が、分析結果を知った途端、見る見る間に歪んでいった。

 

 

 それは、正に“鬼”としか言い表わすことが出来なくなるほどに、“怒り”と“憎しみ”に歪んだアンドロメダの顔だった。

 

 

 泣き虫とすら言える、控え目で温厚そうな佇まいの彼女が、ここまで憎しみと怒りを(あら)わにし、犬歯を剥き出しにして憎悪に塗れた顔をするとは到底想像出来無い程の、恐ろしい形相だった。

 

 

 それに誰しもが息を呑み、怯える者が出る程の、当の本人ですら目を逸らしたくなる衝動にかられてしまう程だった。

 

 

「〈この戦いで、私は暴走し、ただの破壊者となる寸前まで落ちぶれてしまっていました…〉」

 

 

 もう勘弁してくださいと言わんばかりに、映していた映像を切るアンドロメダ。

 

 

 何故深海棲艦がガトランティス(蛮族共)と酷似した技術を使用できるのかは不明であり、また使用した南方棲戦姫ですらこのことを知らなかったのはまず間違い無いとアンドロメダは見ている。

 

 もし知っていたのならばあの時、別の戦い方があったはずだし、彼女自身は好戦的ではあるものの、だからといって仲間が無闇に傷付くのを良しとしない優しい一面があることを、アンドロメダは彼女との交流で知ることが出来た。

 

 

 そしてより激しく後悔した。

 

 

 なによりも恐れた。恐怖した。

 

 

 自身の中に未だ宿る“怒り”の凄まじさに。

 

 

 知性のある存在である以上は、どうしても負の感情からは逃れられない。

 

 

 だが強すぎる“火”は全てを焼き滅ぼすと言う様に、強すぎる感情は自身をだけでなく、周りのすべてを巻き込んで焼き滅ぼしかねない。

 

 

 それを悟った時、アンドロメダの心に芽生えたのは、“絶望”と、“悲しみ”だった。

 

 

 強大な、この世界では隔絶した武力という“力”を持つ自身が、もし再び“怒り”に呑まれて破壊の限りを尽くした場合、かつてのイスカンダルの過ちの様に星すらも滅ぼしかねない。

 

 それはすなわち、自身がこの頃から大切な存在であると思い始めていた駆逐棲姫をこの手に掛けることにも直結する。

 

 

 だからこそ、あの時アンドロメダは駆逐棲姫の胸の中で泣いた。いや哭いた。

 

 

 自分自身が怖くなった。自身がバケモノにしか思えなくなっていた。

 

 

 そして急激な、途轍も無い“孤独感”に襲われた。

 

 

 この時はアポロノームもおらず、また自らの同胞である春雨(ハルサメ)達、そして恩師霧島(キリシマ)や土方がこの世界に居ることさえ判っていなかった。

 

 だからこそ寂しい気持ちがアンドロメダの心の内にはあった。

 

 しかし一緒に付いて来てくれた駆逐棲姫のお陰で、その寂しい気持ちがかなり和らいでいた。

 

 

 でも、もし彼女からバケモノと呼ばれて怖がられ、拒絶されてしまったら…?

 

 

 嫌…。嫌…!嫌!!嫌っ!!ひとりぼっちは嫌っ!!

 

 

 

「〈…今にして思えば、あれは揺れ戻しだったのかもしれません〉」

 

 

 頭に血が上っていたのが、冷めたことによる反動だったのではないか?と。

 

 拒絶されるかもしれないという恐怖から、あの時は頭がぐちゃぐちゃになっていた。

 

 

 だけど、駆逐棲姫は怖がる素振りを一切見せることなく、アンドロメダの頭をその胸に優しく抱き締めてくれた。

 

 

 そこから、アンドロメダは駆逐棲姫に対して心を完全に開き、最初は半ば冗談で“お姉ちゃん”と呼んだのを、本気で“姉”として慕う様になり、また“怒り”や“怨嗟”といった負の感情に呑まれることの恐ろしさを身に沁みて思い知った。

 

 

 

「〈10年に渡り戦い続けて来られた方に、私のような若輩の他所者がなにを偉そうなことをとは重々承知しております。

 

 ですが、“怒り”や“憎悪”に呑まれた果ては、貴女方が“敵”としてイメージしています深海棲艦の姿そのものとなってしまうのではないでしょうか?〉」

 

 

 思えばあの時、波動砲の暴発から消滅する可能性が高かったわけだが、もしかしたら別の選択肢、例えばこの後に使用して有効だった三式弾をこの時に選択し、南方棲戦姫を滅多撃ちにして殺害し、返す刀で空母棲姫も殺害。

 

 さらに周りの深海棲艦も“深海棲艦はガトランティス(蛮族共)と同じ存在”と決め付けて目に付く深海棲艦を皆殺しにし、各地にいる深海棲艦を破壊衝動の赴くままに殺して回っていた可能性があった。

 

 だがこれでは自身が忌み嫌う、独り善がりの思い込みから破壊の限りを尽くしていたガトランティス(蛮族共)とどう違うのか?

 

 一歩間違うと自身がガトランティス(蛮族共)と同じ存在に成り下がっていたのではないかと思うと、背筋が凍る思いがしてならなかった。

 

 

 だからこそ、アンドロメダは語る。

 

 

 感情に呑まれて、自分と同じ過ちを起こさないで欲しいと。

 

 

 理想論に過ぎ無い、問いへの答えになっていないと言われたら、その通りであるし、さらなる反発が来ることも覚悟したが、金剛は微笑みを浮かべると「出過ぎた真似をしました」との言葉を発すると、引き下がった。

 

 

 既に軍としては、真志妻大将の内々の方針により、深海棲艦との講和に向けて動き出す事が示されていたため、彼女、金剛としてはアンドロメダの心の内を知りたかった。

 

 だからこそ、少し厳し目の質問を投げ掛けたのであり、理路整然とした答えは元から特に期待していなかった。

 

 必要なのは、彼女が自身の言葉でどのように語るか?そこからその心を読み取るというのが、金剛の目的だった。

 

 

 そしてこれは霧島(キリシマ)からの頼みでもあった。

 

 席を外していた彼女を迎えに行き、戻っている最中に「内容は任せるから、ちょっと試してみないか?」と問われたのだ。

 

 何度か話はしていたが、実際にどんな娘かを自身で見極めてほしいとのことだ。

 

 その結果、多少重い話となったが、その心根が優しい娘であると知れた。

 

 ただ自虐的で控え目に過ぎる気がしなくもないが…。

 

 

 

 ここまでの一連の動きを見ていた霧島(キリシマ)は、内心で少し笑っていた。

 

 金剛からのアンドロメダへの問い掛けに、割り込む形でIowa(アイオワ)が入り込んで来たが、それはIowa(アイオワ)によるアンドロメダへの援護射撃も兼ねていたのではないかと見ていた。

 

 Iowa(アイオワ)と金剛の2人は気心の知れた親しい仲であるし、Iowa(アイオワ)は金剛の狙いを察したのだろう。

 

 だからこそ、言葉や態度にこそ出していないが、自分が先に話すことによって、その間に話す内容をじっくり考えられるだけの時間を稼いであげたのだろう。

 

 

 ふと、これはヤマト(あの娘)譲りの“縁”の力かねぇ…?との考えが頭を過ぎった。

 

 キーパーソンと成り得るヒトを呼び寄せ、その“縁”によって道を切り開く。

 

 それが受け継がれているのだろうか?と考えたが、まぁそれは後回しだと、気持ちを切り替えた。

 

 

 問題は、思っていた以上にアンドロメダが深海棲艦に心を寄せており、自身が深海棲艦でもいいやと考えるに至っているとは、流石の霧島(キリシマ)も想像していなかった。

 

 画面に映る姫達もそのことでとても喜んでおり、どストレートに好き好き大好きと言われた駆逐棲姫は、アンドロメダをギュッと抱き締めてずっと頬擦りを続けていた。

 

 最早アンドロメダが人類の側に立って、深海棲艦と戦うことは絶対にしないだろう。

 

 寧ろ、深海棲艦と並び立って人類の前に立ち塞がる可能性の方が高かった。

 

 

 

 だが、()()()()()()

 

 

 

 

「若いの、あんたは今後どうしたいかの考えはあるのかい?」

 

 

 試すかの様な目線でアンドロメダを直視する霧島(キリシマ)

 

 その目は普段の(おど)けたものとは違い、戦いに身を置く者ならではの鋭いものである。

 

 

「あんたがそこにいる姫さんと相思相愛なのはよぉ~く分かったよ。

 

 傍らにいる意思決定、方針決定を司るであろう姫さんも、あんたのことを受け入れているみたいだしね。

 

 でもね、アポロノームのことはどうなんだい?」

 

 

 スッと目線をアンドロメダの斜め後ろで佇むアポロノームに向けるが、アポロノームは何とも言えない複雑な顔をしながら霧島(キリシマ)から目を逸らした。

 

 アンドロメダも、アポロノームのことがあったからこそ、私は深海棲艦としてずっと彼女達と一緒に居ると決めましたとは言わなかったし、言えなかった。

 

 もしアポロノームが居なかったら、間違い無くそう言っていた可能性があった。

 

 でも、だからといってアポロノームを疎ましく思ったりはしていない。

 

 しかしどうしたら良いのかという妙案がアンドロメダの中には無かった。

 

 正直な所、アンドロメダは人類に対して以前よりも強く懐疑的となっており、当初の予定通り日本に向かうことに対して、表情などに出してこそいないが、悩みが出ていた。

 

 しかしアポロノームはそんなアンドロメダ()の悩みを見抜いており、また自分がアンドロメダ()の足枷になっているという気持ちがあった。

 

 駆逐棲姫も、2人の気持ちを察しており、内心では複雑な気分だった。

 

 

 だが霧島(キリシマ)は押し黙ってしまった2人を尻目に、話を続ける。

 

 

「私達はみな、沖田さんの頼みで集まったという、共通の理由がある。

 

 その大前提はアンドロメダの安否と安全の保証だ。

 

 安否は今回の事で達成された。

 

 

 問題は────」

 

 

 ここで霧島(キリシマ)は言葉を切った。

 

 何故ならば今まで言葉を発していなかった土方がここに来て「そこからは俺が話そう」と発言したからである。

 

 いいのかい?と目線で土方に問うが、「ここからは政治が絡んで来る以上、俺が話すべきだ」との答えが返ってきた以上は、引き下がらずにを得なかったが、その際に土方に小さく「()()()()()()()()()()()」と耳打ちした。

 

 それに内心で舌打ちするも、顔に出すこと無く画面の前に立ってアンドロメダ達、そして周りにいる()()である仲間達に現状を理解してもらうために、()()()()()霧島(キリシマ)が語る予定だったものを、語り出す。

 

 

「日本は、アメリカと新ロシア連邦とのGREAT GAME(グレート・ゲーム)の係争地になっている」

 

 

 

 人類の飽く無き“業”は、アンドロメダ達の行く末に暗い影を落としていた。

 

 

 

 

 

 

*1
一例として、食糧問題解決として各地で急増したとある飼育施設の周辺では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()や、その事態が発生された場所では常に軍が出動しての大規模な焼却作戦が行なわれるといった異常事態が頻発した。

 なお、これらに関する報道の(たぐ)いは()()()()()ながらまともにされておらず、異常気象が原因としか報じられていない。但し、その原因は既に公然の秘密である。ただ下手に口外した場合、身の安全は保証されないが。

*2
追随した他の国でも同様な事態が起きていることだが、

*3
とはいえその常識とされていたものに、疑問を抱いていた艦娘は米軍内部だけでも少なからずいるが。

*4
そもそも彼女は深海棲艦に対しての蟠りが無く、元いた世界での事例や学術から、“知性を持つ生命体の集団である以上はその集団を維持するために何らかの活動を行なっている可能性がある”と見ていたし、なによりも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、「さもありなん」という気持ちの方が強かった。

*5
記録者はアナライザーである。





 サブタイトルのGGとはGREAT(グレート) GAME(ゲーム)の略でした。まぁ、前書きの段階で殆どネタバレだったと思いますが。

 だけどまた前置きが長くなった為に、分割だよチクショーメー!!はぁ…。
 

 兎も角次回からは水面下で行なわれている、日本を巡った米露対立と日本の動き、アンドロメダ達への影響に関してのあれこれを予定!


 深海棲艦への亡命計画が今、語られる!!
 

解説


GREAT GAME(グレート・ゲーム)

 元は19世紀〜20世紀の間に起きた、アフガニスタンを中心とした中央アジアの覇権を巡って起きた大英帝国と帝政ロシアの戦略的対立。

 現代においても石油や天然ガスのパイプラインなどで複数の国家が入り乱れて(大国だけでなく、小国もこのゲームに参加している)の新グレート・ゲームとしてより複雑さを増している。


 まぁ、簡単に超ザックリと言えば、その地域における外国勢力等による影響力を巡った殴り合いです。

 


愚痴コーナー、改め私見コーナー

 私見ですが、地球統一政体が今後出来たとしても、人類が本質的に手を取り合うことは決して無いでしょう。いや寧ろ今まで以上の混沌化した地球“内戦”となるでしょう。根拠はグローバル化によってテロのハードルが一気に下がった事が挙げられます。そしてここに統一政体内での派閥抗争が結び付いたら?各種の利権も絡み付いたら?下手に戦争が出来なくなったことで戦争利権で儲けていたネオコンなどの投資家達は困る訳ですが、それを彼らは良しとするのか?纏まりの無い世論に明確な“敵”という名のファクターを与えることで世論を誘導したり、都合の悪い事案への目隠しとして何度も使って来た連中が、この手段を今後も使い続けないと言えるのか?

 私は断言致します。統一政体そのものが戦争を生み出す為だけの“工場”になると。


愚痴コーナーだ!

 このコーナーを止めるとは言ってなかったのでな!!

 冗談はさて置き、実は本編執筆中に、日本のとある無責任デマカセ逃亡ブロック与党議員のせいで、本文の一部を書き直す羽目になりました。
 あまりにもタイムリー過ぎて、乗っかかったっぽくなりすぎるのは個人的な流儀に反しましたので。

 しかし私はあの男が推し進める物はどう考えても外国利権による日本の公金搾取の影が見えますし、長期的視野で見ると日本の国益に反する、いえ損なうとしか思えません。

 デマカセばかり声高に叫び、問題が出て来ると押えつけにかかり、遂には逃げ出して責任問題など知らんと言い、エサをぶら下げてのカードもあまりにも強引過ぎて怪しいですし、カナダでのフリーダムコンボイに対するカナダ政府による中共張りの大弾圧で見られた個人資産の無差別差し押さえとも取れるやり口から、政府への権力集中の危険性を警戒して個人的にあのカードには猛反発しています。今は良くても、将来国民の生命と財産を縛る首枷に成り得る可能性を、私はフリーダムコンボイの悲劇から学びました。もし、何かの手違いで共産主義者が政権を盗ってしまったら?これほど楽な富の集中、搾取方法は無いでしょう。
 今回の本文を一部書き直す羽目となりました、絶賛炎上中の“アレ”も、私は反対です。生理的な理由ではなく、何故それ一択なのか?メリットばかり言っているがそれの信憑性は?正直ソーラーパネル利権と同じではないでしょうか?私は発電に関しましては戦略的観点からも石炭火力発電を推しています。日本の石炭火力発電は世界的にトップクラスの発電効率と環境対策が施されており、輸出の目玉にもなりますし、石炭ならば日本でも採掘可能であり、有事に際して海外からの輸入が止まるリスクのある石油よりも安全です。
 話が逸れましたが、何故国内の一次産業を無視した政策を推進するのか?デメリットなどの研究は?などなどと突き詰めなければならない事柄は山の様にある中で、何故推し進めるのか?またこれを推進する連中はハッキリ言ってパフォーマンスだけで実際は推し進めているものを主食にはしないでしょう。

 他に優先してやるべきものがある中で、変なことばかりに公金を、私達の血税を浪費するな!売国奴!!


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第42話 GREAT GAME

 グレート・ゲーム


 今回前半はある意味でこの世界の歴史解説みたいな物になります。
 所々に「ん?」と思う人達の名前が出て来ますが、その辺は笑って下さい。
 今回、元ネタに『空母いぶき GREAT GAME』の内容も含みましたが、政治背景の元ネタの方は実際はもっと複雑で自分の能力では書き切れない、無理があると判断しましたので、かなり簡略化した内容となります。誰か文才を分けてくれー!!(切実)


 それにしても、なんだか艦これからの逸脱が半端ねぇことに、今更ながら悩みが出てきてます…。本編42話(外伝込みで55話)現在、出た名前出し艦娘が7人のみでしかも全員が戦艦艦娘(内1人が諸事情で深海棲艦化)…。対して深海棲艦が姫様達だけでも14人と倍…。

 言い訳をさせていただきますと、『アンドロメダ』って完全に“戦略級兵器”なんですよね。
 そんな“兵器”をいきなり日本が保有するとなったら、周辺国が五月蝿くなるのは必然ですし、そもそも艦娘という“兵器”自体が深海棲艦の存在に関係無く世界の軍事バランスを大きく揺さぶったでしょうから、そこにさらに揺さぶる要素になり得るアンドロメダが現れたら…。
 列強によるアンドロメダの奪い合いが始まって、外交軍事オンチの日本じゃ、もう碌でも無い事態と未来にしかなりませんわ…。パワープレイと言う名の一方的な虐殺を強要され、政治の玩具にされる未来というアンドロメダがブチ切れるBAD ENDな結末に。

 だったらもういっそのこと更に碌でも無い世界にして、敢えて深海棲艦を反比例にある程度マトモ枠にして逃げ場を作るしかねぇと開き直った結果が、今のこの有様である。

 後、外伝と本編の整合性が取れなくなりつつあるのが悩み…。


 

 

 それは日本という国の、立地の悪さから来た宿命としか言いようが無かった。

 

 

 日本は西にアジア最大の大陸国家中国が横たわっており、北にはユーラシア大陸最大の大国であるロシア連邦が鎮座し、東には太平洋を挟んではいるが大国アメリカが控えている。

 

 

 第2次世界大戦以降、米ソ両国のイデオロギー対立による冷戦構造において、日本はある種の“最前線”だった。

 

 ソビエト連邦が太平洋へと進出する上で、日本は正に障壁であり、アメリカにとってはソ連の外洋進出を抑え込むための防壁だった。

 

 

 日本という“戦略的要所”を巡る、米ソ両陣営による影響力工作という名の、水面下での激しい戦いを繰り広げ、当の日本は他人事の様にボンヤリとしているだけだった。

 

 

 そんな日本の“裏の所有者(飼い主)”を賭けた“戦い(ゲーム)”は、20世紀の終わりにソ連が崩壊したことにより冷戦構造は終結し、この“ゲーム”はアメリカの勝利に終わったかに思われた。

 

 

 だが、直後に勝ちに驕ったアメリカや西側諸国、そして何も知らない知ろうともしない能天気で世間知らずな日本の失策により、かつて“眠れる獅子”と恐れられていたアジアの大国、中国が遂にその鎌首をもたげた。

 

 

 人件費の安さから“世界の工場”として持て囃され、大量の海外資本が流入したことにより、かつての戦後日本を遥かに上回るスピードで経済の発展が進み、それは同時に数だけの軍隊だった軍備の急速な近代化と増強を齎した。

 

 

 ソ連崩壊後、自分達を脅かす国家も、軍事力もこの世界には最早存在しないと胡座をかいていたアメリカは、中央アジアや中東での、所謂“テロとの戦い”に邁進して国力をいたずらに浪費させ、軍備の近代化とその方向性が大きく迷走、そして致命的な停滞を齎した上、グローバル化による官民での海外依存度が急速に拡大したことによって国内の富や経済の空洞化が進み、国家としての自立性が脆弱化していった。

 

 中国はその隙を突いてさらなる国力の増強と軍備の近代化に並行して、様々な“工作”に取り組んだ。

 

 

 “分断”と“取り込み”である。

 

 

 目を付けた団体や個人にペーパーカンパニーを通じて資金を流し込み、勢力を拡大させて従来の価値観や常識を攻撃させ、西側世界の世論に分断と混乱を促した。

 

 企業や政治界隈の人間に中国国内での利権を約束し、中国にとって有益有利となるロビー活動を行なわさせ、尚且つ利益相反関係として切っても切れない間柄として取り込んだ。

 

 

 21世紀に入り、世界がより一層のグローバル化と、デジタルネットワーク社会へと移行して行く中で、人々は世界がより身近なものとなり、新たな情報ネットワークによる情報伝達の迅速化に、それら新たな可能性への期待に胸を膨らませた。

 

 そして中国も()()()()()に“ほくそ笑み”、自らの“工作”完遂への確信を強めて内心で高笑いを浮かべた。

 

 

 所謂、“超限戦”である。

 

 

 通常戦、外交戦、国家テロ戦、諜報戦、金融戦、ネットワーク戦、法律戦、心理戦、メディア戦。

 

 

 あらゆる分野において、あらゆる手段を用いて制約なく戦う“次世代の戦略構想”であり、後に“ハイブリッド戦争”として遅ればせながら各国でも研究が進むが、その頃には既に手遅れに近い状態だった。

 

 

 中国が長年に掛けて世界へと張り巡らせ、“侵蝕”させてきた“根”は各国に完全に根付いて深く食い込み、その中枢を内部から酸蝕させてしまっていた。

 

 

 一部では中国の急激な発展に伴う強大化、影響力の拡大に対して、脅威や危機感を覚えた者達による様々な“警鐘”を提唱する動きが見られたが、それらは「グローバル化社会を受け入れられない、時代錯誤の黄禍論を振りかざす、危険思想にかぶれた一部の過激な“()()()()”による、妄想の産物」という、所謂“陰謀論”を吹聴する“陰謀論者”の戯言であるとして叩かれ、メディアを中心に人々から殆ど相手にされなかった。

 

 この頃の世論は殆ど親中路線で固まっており、一部で中国の脅威をどんなに叩かれようとも諦めず、必死に訴え続けたことにより、少し気に掛ける者も出だしてはいたが、それでも全体としてみたらまだまだ少数派だった。

 

 

 その結果、西側世界の結束にも次第に亀裂が生じる様な兆候が見られ、特に当時の日本において発生した政権与党の交代によって発足した新政権である鳩田政権は、盤石と言われていた日米同盟に亀裂を刻む事態を発生させた。

 

 しかし、この当時のアメリカの政権与党であった極左リベラル政党と同党から選出されていた当時の大統領、Bar(バー) Soetoro(ソエトロ)は表向きには懸念を見せたものの、内心ではこれでアジアに展開していた兵力やその軍事予算を中東での“テロとの戦い”に回し、世間の注目をより中東に向けさせられるとほくそ笑んでいた。

 

 

 そしてこの2つの政権にはある共通点があった。

 

 

 それは()()()()()()()()()()()である。

 

 

 その拡大による甘い蜜を目論む両者は、“自国による中国に対する脅威の排除”という目に見える“成果”を示す為に、片や日米同盟への亀裂、片や太平洋軍の兵力削減などという、国家安全保障を蔑ろにする愚行を平然と行なった。

 

 さらにSoetoro(ソエトロ)は時の中国国家主席である李寛平(リー・カンペイ)との間で、ある“密約”を交わした。

 

 

 それは()()()()()()()()西太平洋は中国、グアム島のラインから東太平洋はアメリカの管轄とする“太平洋分割案”という秘密協定である。

 

 

 海洋進出を画策していた中国にとって、日本と台湾は是が非でも抑えておきたかった戦略的要衝でもあり、長年策定してきた“第一、第二列島線”という絶対国防圏構想の完成には必要不可欠な物であった。

 

 

 ただこの動きは流石の極左リベラル政党内部でも意見が割れたらしく、断片的ながらも情報が漏れ、軍部や保守党などが中心となって反発の声が上がったが、 Soetoro(ソエトロ)政権はその声を無視、或いは抑え付けて推し進めた。*1

 

 

 これにより日本は事実上、中国に売り飛ばされることとなり、日本を巡るグレート・ゲームは中国に軍配が上がる寸前だった。

 

 

 だがそれをひっくり返したのが、保守党から当初は泡沫候補扱いだった、中国とそれに与するグローバリスト達によるアメリカ社会への悪影響と現実的な脅威を声高に訴え、後にアメリカだけでなく、各国の保守派から“奇跡の大統領”として讃えられたDonald(ドナルド) Joker(ジョーカー)氏の大統領選出と、ロシア連邦の存在である。

 

 

 Joker(ジョーカー)大統領は前政権と違い、アメリカ社会と秩序、そして価値観の完全破壊によるアメリカの失墜と転覆という中国の狙いを正確に見抜いており、元々が泡沫候補だったことからも、中国にとっては殆どマークしていなかった想定外の人物だった為に、影響力工作の魔の手が及んでいなかった。

 

 更に想定外だったのが、そのリーダーシップと行動力が想像以上に高く、中東和平などによる同地の安定化の成功や、今までの工作や極左団体によるポリコレやキャンセルカルチャー、極左リベラル政党の出鱈目な政策でボロボロになっていたアメリカを着実に癒やし、国力の回復や対中国を念頭に置いたアジア太平洋への戦力再配置、日本との同盟修復などを矢継ぎ早に実行させていった。

 

 

 ここにアメリカと中国は振り出し状態となったが、それに加えて更に想定外だったのが、ソ連崩壊後の経済低迷が続いていたロシア連邦が、中国の影に隠れて兵器の輸出や資源外交などを駆使して経済の立て直しを図り、かつてのソ連ほどでは無いにせよ、ある程度の復活を果たしてしまったのだが、その際にロシア連邦は中国とかつてのソ連影響圏やアフリカ方面における兵器輸出利権、資源関連利権などで揉めており、潜在的対立状態が年々増大し、また極東方面において従来の国境問題の再燃だけでなく、なによりも日本が中国に取り込まれると、実効支配中である北方四島における国境問題で揉める可能性が出て来るとの懸念があり、最悪ロシア太平洋艦隊や当時極東にて秘密裏に建設中だった“とある海軍基地”の建設と稼働にも影響が出ると見ていた。

 

 

 その後4年間、米中は激しく鍔迫り合いを続け、さらに米露は互いを“敵の敵”として奇妙な間柄状態が続いた。

 

 なお、日本は相変わらず()()()()としていたが、アメリカ以上に中国の影響力工作が浸透してしまっていた影響で、国内情勢や国防政策は混迷していた。

 

 

 そしてアメリカは確実に中国を追い詰めて行った。

 

 

 しかし、またしても情勢は大きく変化する。

 

 

 パンデミックとアメリカでの事実上のクーデターとも称される政権交代である。

 

 

 その後の顛末はご存知の通り、アメリカの事実上の崩壊と火山活動の活発化による地球寒冷化による食糧問題とエネルギー問題、それらに端を発する第三次大戦勃発による世界の混迷である。

 

 補足するなら、中国による台湾併合は先の Soetoro(ソエトロ)政権との密約が密接に絡んでおり、またこの時の大統領George(ジョージ)・K・J・Gene(ジーン)は当時の副大統領であり、この密約の締結に最も強力に推進していた人物であったことと無関係では無いとされている。

 

 さらに選挙期間中、ペーパーカンパニーや中国との繋がりの強いアメリカ国内の企業、団体、個人などを通して中国から多額の資金が流れていた痕跡も確認されており、Joker(ジョーカー)政権を本気で潰そうと形振り構わず工作を仕掛けていたのと同時に、後の台湾併合に際しての政権の動きと反応の鈍さから、台湾の購入費も含まれていたとも揶揄されている。

 

 ただ後に中華連邦を吹き飛ばしたのは、流石にこの頃になると国内の政権支持派の間でも対中感情が悪化していただけでなく、政権内部でのある種の中国切りを主張する勢力が増えていたことが大きく影響していた。

 

 

 この時期の日本は、3ヶ国による三つ巴状態が発生していた。

 

 かつて日本を中国に売り渡す密約を交わしていた極左リベラル政党であるが、当時と違いロシア連邦が力を伸ばしてきたという情勢の変化から、密約を無かったことにしてアジアにおけるロシア連邦への牽制として日本を利用したかった為ではないかとされている。*2

 

 

 この三つ巴の戦いは結局、第三次大戦中には決着が付かず、そのまま深海棲艦との戦いへと突入。

 

 

 そして中国が核攻撃で国家として崩壊(物理的にリタイアした)ことにより、アメリカとロシア連邦の後継国新ロシア連邦(NRF)との直接対決となった。

 

 

 

───────

 

 

 

「当時は噂程度ではあったらしいが、ロシア連邦が極東の何処かに新しい戦略原潜の基地を建設しているとの情報があった」

 

 

 土方が自身のPCを操作し、ロシア連邦、そして新ロシア連邦(NRF)のアジアでの動向の推移をプロジェクターで映しながら説明をしていた。

 

 

「気象変動の影響で北極海に展開していた戦略原潜を太平洋方面へと回航させていることも確認されていたが、詳しい基地の所在までは長らく不明だった。

 

 判明したのは、第三次大戦中に生起した第二次日露戦役で日本が北方四島の戦いに敗れた直後になる」

 

 

 プロジェクターが日本とベーリング海などを含む北太平洋周辺の海域と、所々にチェックと一部クエスチョンマークが入れられた──おそらくはその辺りで(くだん)のロシア戦略原潜或いはそれらしき物を探知したポイントなのだろう──俯瞰図を映し出した。

 

 なるほど、ある程度の法則性がある様にも見えるが、カムチャツカ半島、千島列島、そしてオホーツク海周辺になると途端に探知が不明瞭になってその先が分からなくなっていた。

 

 聞けば、どうやらこの時期この海域は“潜水艦のシブヤスクランブル交差点”と呼ばれる程、日米露中韓その他の潜水艦の過密地帯であり、牽制やら潜水艦同士のニアミスなどの影響で追跡が困難だった様である。

 

 

「当時東欧戦線に釘付けになっていたハズの、しかも極東からも兵力を移動させていたハズのロシア連邦が、あまりにも早く北方四島に戦力を展開し、反撃に出たことから、北方四島のいずれかに新基地が建設されているのでは?という可能性もあったが、首都圏の自衛隊施設攻撃を実行したと思しきロシア原潜を追跡した潜水艦が、その所在を突き止めた。

 

 場所はオホーツク海沿岸、漁港都市マガダンの近郊だ」

 

 

 新ロシア連邦(NRF)極東連邦管区*3の一つであるマガダン州、その州都であるマガダン市街及びその周辺を写した衛星写真が映し出され、更に市街から数十キロ離れた海岸線がズームされた。

 

 一見すると何も無さそうだが、よく見ると監視塔らしき建物などがいくつか見受けられた。

 

 新基地は地下基地として造られていた。

 

 思えば同時期に中国は海南島に地下基地を建設し、そこから原潜部隊を展開していた。

 

 ロシアも地下基地を造らない道理がなかった。

 

 

 それらは兎も角として、北方四島はこの新基地防衛に欠かせない、戦略的重要なポイントであることが見て取れる。

 

 

 アメリカとしてはこの新基地を無力化する一環として、日本に北方四島を奪還させようと()()()()()のではないだろうか?

 

 

 だが結果は日本の惨敗。

 

 

 北方四島を完全に失っただけでなく、講話交渉によって北海道北部に展開し、ロシア方面を監視していた自衛隊施設の殆どを撤去せざるを得なくなったため、オホーツク海やその周辺におけるロシア軍の動向が掴みづらくなってしまった。

 

 

 おそらくこの状態を作り出すために、ロシアは日本とアメリカを罠に嵌めたのではないだろうか?

 

 極東軍から激戦区の東欧方面に兵力を動かしたとの情報を意図的に流し、日本を誘い込んだ。

 

 

 無論、憶測でしかない。

 

 

 だが北方四島への兵力移動、展開の迅速さから見てまず間違いないと思われる。

 

 

 それは実際は半分正解である。

 

 

 確かにアメリカは日本をせっついてはいた。

 

 新基地への牽制、或いは封じ込めと、当時報道とは違い、旧NATO諸国と東欧の連合軍がロシア軍相手に苦戦し、一進一退を繰り返していた東欧戦線の支援のため、後方である極東で騒乱を起こすことで、ロシアの注意を撹乱するつもりで日本政府に参戦を打診していた。

 

 この事をロシアも掴んでいたし、想定もしていた。

 

 ロシアは日本政府の政権与党が、パンデミックでのいざこざや相次ぐ目玉政策*4の全てにおける不祥事と失政、特にそれらのための度重なる増税による経済への打撃とその対策が悉く失敗し、急速に求心力を失い、支持率が驚異の一桁台に落ち込み、*5かなり焦っていることを掴んでおり、()()()危険な火遊び、賭けに出ると見ていた。

 

 そして彼らの読みでは、日本の政府と自衛隊が検討と準備を入念に行ない、尚且つアメリカ側による支援は中東でのサウジアラビア、イランなどのアラブの国々と戦争状態であり、また侵攻したカナダもまだ安定していなかったため、軍を派遣しての直接の支援は無いだろうが、武器弾薬などの物資の後方支援は行なうと見られ、その準備が整った段階で動き出すとの予想を立て、それらに対しての対策を講じていた。

 

 

 だが、当初は断わっていたにも関わらず、何を考えたのか時の首相川岸絃人(かわきしけんと)()()()()()な調整も検討もせず、いきなり戦端を開く決断をしてしまった。

 

 

 アメリカとロシアだけでなく世界も、そして一部の日本国民も軍事常識に反した無茶苦茶な日本政府のこの行動には驚愕した。

 

 それによって緒戦こそ奇襲的な勝利を収めたものの、代償として早々に兵站が破綻し、更に最悪なことに予測よりも早かった日本の侵攻の影響で避難が遅れていた現地住民への誤爆や、地上戦に誤って巻き込んでしまったりといった事態が頻発。*6

 

 

 その後の顛末はご存知の通りである。

 

 

 川岸首相がこの時何を考えていたのかは、()()()()()()()()()()()()()()()()したため、最早誰にも永遠に分からない。

 

 閣僚や一部の官吏、自衛隊などでも急病に事故、急な精神疾患による入院、自殺などでリタイアが相次いだ影響で戦中の情報には未だ不明確な物も多い。

 

 余談だが、日本のネット界隈では川岸首相のことを、国民の不利益になることは即断即決し、利益になることは検討する検討するとしか言わず、決断をどんどん先延ばしにすることから名前を捩って遣唐使ならぬ“検討氏”と陰口を叩かれていた。

 

 

 閑話休題。

 

 

 兎も角ロシアはこの戦いによりオホーツク海の聖域化を成し遂げた。

 

 

「同時期に発生した中国による台湾併合もあり、戦後東アジアはホットゾーンとして注目を集め、日本を巡る争いの過熱化が予想された」

 

 

 戦後の国家再編で新ロシア連邦(NRF)、中華連邦となった両国はさらなる聖域の拡大による国家安全保障の盤石化と戦略的アドバンテージの確保のため、アメリカはそれに対する楔を打ち込むために、戦略的価値が飛躍的に高まった日本への積極的アプローチに乗り出した。

 

 しかし、新ロシア連邦(NRF)は先の戦役、中華連邦はそのどさくさ紛れの台湾併合による影響もあり、両国に対する日本国民の感情からアメリカがかなり有利な状態だった。*7

 

 

 だが、それを引っ繰り返す事態が発生する。  

 

 

 深海棲艦の出現である。

 

 

 その後の事は既にご存知の通りである。

 

 

 中華連邦は滅亡、アメリカは太平洋を分断されたことも影響してアジアへの*8支援や援助が物理的に難しくなったために影響力を衰退させ、そして新ロシア連邦(NRF)がその穴埋めに出た事で徐々に、だが確実にその影響力を拡大させつつあった。

 

 とはいえ、これにより新ロシア連邦(NRF)がこの戦い(ゲーム)の勝利者となったかというと、そうとは言い切れなかった。

 

 

 10年以上経った今でも先の戦役による蟠りは燻り続けており、またその背景にはかつての冷戦時代のソビエト連邦、いやそれ以前から続く、日本人の深層心理に刷り込まれてしまっているとも言える大国ロシアへの恐怖と蔑視の感情が大いに影響していると思われる。

 

 更にマスメディアなどではそういった感情を煽る行為が未だ根強く残っているのも無関係では無いだろう。

 

 それにはアメリカによる工作もあるだろう。

 

 兎も角として水面下では未だに激しい丁々発止や鍔迫り合いが続いているのは確かである。

 

 それでも、オホーツク海を起点とした聖域は新ロシア連邦(NRF)による対日援助と交易ルート、サハリンプロジェクトのパイプライン敷設の関係から、現在北海道沿岸の海域と日本海にまで拡大しているのはほぼ確実であると見られている。

 

 これにアメリカは大いに危機感を抱いており、日本に対して深海棲艦に対する日本海防衛の(かなめ)である、『対馬防衛要塞基地』による新ロシア連邦(NRF)海軍の潜水艦の動きを監視する様にとの“要請”を出したのだが、日本政府は兎も角として真志妻大将を始めとした海軍は「今の海軍にそんな余力は無い」とし、更に真志妻は「蛇口を絞られて、その後どうなるか…。その覚悟はあるの?」との懸念を上層部や政府にぶつけて突っ撥ねている。

 

 事実日本海軍は深海棲艦との戦いで手一杯であったし、新ロシア連邦(NRF)からの物資がなければ立ち所に干上がるという事実は覆しようがなかった。

 

 これによりアメリカは更に焦燥状態に陥ることになる。

 

 

 

「…以上が、今のこの国、日本の現状だ」

 

 

 土方はそう言って、辺りに視線を巡らす。

 

 

 みな一様に難しい顔をしているが、その胸中も共通していた。

 

 “呆れ”である。

 

 

 深海棲艦という、一応の人類共通の敵がいるにも関わらず、人間達はお互いの足の引っ張り合いをやめていない。

 

 口では団結だ!人類の未来の為に手を取り合おう!などとのプロパガンダを垂れ流し続けて入るが、その裏ではこの体たらくである。

 

 …いや、みな薄々とは気付いてはいた。

 

 

 自身が(ふね)であった時から、人間達は身内同士ですら意見や立場の違いから対立を繰り返しては争っていたのを、ずっと見てきた。

 

 人間のどうしょうもない一面に、悲しい気持ちになったのは一度や二度の事ではない。

 

 

 そしてそのことは深海棲艦の姫達も共感する思いであった。

 

 

 近年、まだ微々たるものではあるが、自分達が生きるために人間達との交流、商売を開始したわけではあるが、それによって今まで朧気だった人間達の社会についての見識を深めることとなり、より豊かな生活といった文化的な感性などを育むことにも繋がった。

 

 しかし同時に、人間達が抱える“負の一面”も知ることとなった。

 

 宗教、イデオロギー、人種、経済、貧富、文化、習慣などなど。

 

 様々な違いや問題から来る対立や諍い。

 

 

 彼女達には、それらはあまりにも刺激が強過ぎた。

 

 

 理解出来ないわけでは無かった、容易に諍いがエスカレートするのも、まぁ分かる。

 

 だけど、あまりにも未来を考えない短絡的で自滅的な愚行としか言えない行動や有様には、言葉を失った。

 

 

 その一例が、薬物だった。

 

 

 薬物ほど未来を滅茶苦茶にする物は無いと断言する程に、彼女達は薬物を毛嫌いしていた。

 

 

 働き手がいなくなる。真面な商売が成り立たなくなるなど、何が良いのかさっぱり分からなかった。

 

 だからこそ、そういった考えがあったからこそ、戦艦新棲姫や南方戦艦新棲姫は自身の商社で薬物を商品として取り扱わなかったし、取り扱わせなかった。

 

 そのことは深海棲艦の同胞(はらから)達の中でも破ってはならない禁忌の一つとなっている程である。

 

 

 しかし人間達との交流が進むに連れて、彼らの良い面と悪い面の両方が知れることとなったのだが、段々と悩みも出てくるようになった。

 

 

 積極的な交流ではなく、ある程度の距離間を保ったままでの可能な限りの限定的な交流に(とど)めるべきではないだろうか?という意見が出て来ており、戦争中ということも相まってその意見はかなり優勢であり、そう語る泊地棲姫もそのことに賛同的な立場だった。

 

 無論、子供達のことを変わらず愛し、大好きであるし、人間の全てを否定するつもりは無いと付け加えた。

 

 

 それを聞いた霧島(キリシマ)は、内心でニヤリとした笑みを浮かべていた。

 

 

 

「«…もし、私が日本に向かったら、その、()()()()()になるでしょうか?»」

 

 

 ここで今まで静かに耳を傾けていたアンドロメダが言葉を発した。

 

 言葉を濁しているが、言わんとしていることは皆に十分に伝わっていた。

 

 

 万が一、アンドロメダが日本に居ると各国に知れ渡ってしまったら。

 

 現状でさえ、途轍も無い力を秘めた存在であると知られているのだ。

 

 

「«…各国から、貴女への招待状(Love Letter)が寄せられるでしょうね»」

 

 

 Iowa(アイオワ)が苦り切った顔でそう告げた。

 

 アンドロメダを気遣ってか、こちらも言葉を濁しているが詰まる所、アンドロメダを巡っての奪い合いが起きかねないことを、暗に告げていた。

 

 そのことに全員が渋面を作り、駆逐棲姫は怒気を露わにし、当のアンドロメダは悲しい面持ちで俯いてしまった。

 

 それをアポロノームが宥めに入るが、アンドロメダの気持ちは深く沈んでしまう。

 

 自分で考え、行動した結果、それが自身にとって悪い方向へと作用することになってしまったことに、アンドロメダは打ち拉がれてしまっていた。

 

 

 

 どうしてこうなってしまったのでしょう…?

 

 

 

 その言葉しか、今のアンドロメダの頭からは思い浮かばなかった。

 

 アンドロメダにはどうしたら良いのかが、分からなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
このことが後の選挙に大きな影響を及ぼした。

*2
実際は時のロシア大統領Илья (イリヤ) Владимировна(ウラジーミロヴナ) Путина(プーチナ)の父親であり、元大統領のВолодя(ヴォロージャ) Владимирович(ウラジーミロヴィチ) Путин(プーチン)氏によって、ロシア国内に侵出していた極左リベラル政党議員の一族に連なる者達の利権が脅かされ、大損失を被ったことに対する個人的な恨みから来る私的な報復が目的だったりする。特にGene(ジーン)大統領は一族だけでなく当の本人も相当ロシア利権に食い込んでいた為、その恨みは人一倍強かった様である。

 まあつまり、極左リベラル政党のロシア嫌いの根本的理由は、彼らの個人的な逆恨みの怨恨に根ざしている。

*3
行政府所在地はウラジオストク。

*4
人権、環境、食糧、エネルギー、国防分野

*5
なお、野党トップとの差は1%だった。

*6
当時それらはロシアによるプロパガンダ目的の偽旗作戦や誤情報とされていたが、後に戦闘に投入されていた自衛官とその関係者による告発、特に航空自衛官による、“誤爆を公表することによって士気の低下や国際世論の対日感情悪化への懸念”により、上からの指示で箝口令が敷かれていたとする複数の証言や、自分達の犯した事実が捻じ曲げられたり隠蔽されていることへの良心の呵責からの暴露や告発が相次いだことで、戦後に様々な大混乱が発生した。

 なお、その後政府がすったもんだの挙げ句、隠蔽の事実を認めた。

*7
因みにだが、この時の朝鮮半島は色々あって政府を称する集団が乱立する、所謂群雄割拠の半ば無政府状態であった。

*8
と言ってもマトモな国はもう日本しか残っていないが。





 八方塞がりなアンドロメダの明日はどっちだ…?

 まぁ、この問題は当初より考えていた事態ではありますが。


 それにしても今回は(今回も?)調べれば調べるほど袋小路に嵌まり込んで大変だった…。

 それはそうと人の名前を考えるのって、やっぱり大変だべ…。と再認識。まぁ、一番の苦労はスペルの方でしたが…。


私見コーナー

 個人的な見解ですが、現在起きている紛争にてロシアは言わずもがなでしょうが、アメリカを中心としたNATOも超限戦を積極的に行なっているフシがあると、私は見ています。また戦場となっている国は中国ともズブズブな関係がありましたから、超限戦に関する何らかのノウハウを人民解放軍から得ている危険性が高いと警鐘を鳴らしています。

 私はこの3年余、西側、特にアメリカを中心に政治の動きを見てきましたが、ハッキリ言わせていただきますと、“法の形骸化と()()解釈による為政者にとって都合のよい武器化”という実態(一例として、保守に対する弾圧や言論封殺。)から、「自身が成すことは全て正義であり、法もそれに合わせて解釈するべし」との“独善的な自己正当化バイアス”により超限戦において指摘されている───


 超限戦の本質は、以下の2点で、国際法に反した邪道の戦い方であり、自由民主主義や世界秩序に対する明らかな挑戦である。

 “目的のためには、手段を選ばず、制限を設けず、あらゆる可能な手段を採用して目的を達成する”

 “自由民主主義諸国が重視する基本的な価値観(生命の重視などの倫理、国際法、自由、基本的人権など)を無視し、あらゆる境界を超越する戦いを推奨する”


───という批判も“独善的自己正当化バイアス”の前では何の意味も成していないと見ています。


 私には疑問です。

 何故大量破壊兵器保有の“疑い”で始まり、結局は“嘘”だった挙げ句にイラクを、中東を滅茶苦茶にした第二次湾岸戦争、所謂イラク戦争は未だに“正義”の戦い扱いで、此度の紛争において切っ掛けとしているドンバスでのロシア系住民迫害やNATOの東方拡大による核配備への懸念、ネオナチ問題を頭ごなしに否定し、“悪”とするのか?ドンバスでのロシア系住民迫害は紛争が始まる前まで、国連でも取り上げられていた問題であったと記憶しておりますが、突然無かったことの様な扱いになっていたことに、始まった当時に驚いたものです。イラクで例えるならばクルド人迫害が無かったことになったみたいなものです。

 ロシアに対して思うところが無いわけではありませんが、それ以上に、この3年近くの西側首脳陣の所業から、西側に対して思うところが有り過ぎます。


 今の紛争が駄目だと主張するならば、イラク戦争も駄目だった、“イラク戦争はアメリカによる一方的な悪の侵略戦争”だったと“再評価”すべきであり、そうしなければ論理が根本的に破綻していると、私は主張致します。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第43話 JAPAN OCCUPATION

 日本占領。


 仕事疲れで寝落ち続きやら何やらもあって、ネタはあっても前話との矛盾があったりで書き直したりと難産でした…。

 それと諸事情で切りのいい所で切って投稿を優先致しました。

 理由は後書きにて。


 

 

 アンドロメダは臍を噛む思いだった。

 

 

 彼女自身、このことはある程度の想定はしていた事態ではあった。

 

 

 だがその想定が甘過ぎたと思わざるを得なかった。

 

 

 彼女は今までアナライザーと共に調べ上げていた、この世界の人類の“やらかした”所業の数々から、相当な不快感と嫌悪感、そして不審の目を向けていたつもりだ。 

 

 では不信感は?と問われたら、これがけっこう微妙であったのだ。

 

 

 正直なところ、アンドロメダは“若すぎた”。

 

 

 その思考に“青臭さ”があった。

 

 

 長らく第一線に立ち、歴史の重要な局面にその姿が確認されていた、“亀の甲より年の功”、“海千山千”を地で行く老将霧島(キリシマ)や、若いながらも前人未到の偉業を成し遂げ、地球とガミラスの双方から“並び立つモノが存在しない”と言わしめる程の活躍を世に示した“唯一無二の英雄”ヤマトと比べると、その“意思”にどうしても未熟なところがあった。

 

 

 心の何処かで信じたいという気持ちが、僅かながらもあったのだ。

 

 

 なんだかんだ言って、アンドロメダはみなが思っていた通り、危惧していた通り、根が優し過ぎるのだ。

 

 

 なによりも彼女は、ヤマトの子供なのだ。

 

 

 “人というものを信じたい。”

 

 

 これは彼女が母と慕うヤマトの気質を受け継いでいたからなのかもしれない。

 

 ヤマトも“人の持つ善性からくる可能性”というものを心から信じていた、温和な気質の持ち主だった。

 

 

 ただ当初のアンドロメダにはその自覚が薄かったし、例外はあるもののどちらかと言えば軽く“人間嫌い”な一面があった。

 

 

 それはかつて霧島(キリシマ)から、かつていた世界での人類の、厳密に言えば為政者や上層部などの、所謂御上と呼ばれる“人種”による“やらかし”や裏側などの話を聞いていたことと、自身の建造(出自)に纏わる裏事情などの()()()()()()に、ある程度は察していたことから、*1人類に対してやや失望混じりに「そんなものなんだ」という、ある種の割り切っていた所があったためである。

 

 

 しかし、その生涯を通じて垣間見た、地球とガミラスの人々が共に手を取り合う姿や、なによりも打算も何も無い、ともすればお人好しの極みとも言える『ヤマト』クルーの活躍から、次第に“信じてみたい”と思える様にもなっていたし、特に自分の最期の時である『ヤマト』救出戦の際に見た光景は、正に“人の持つ善性の可能性”を見せ付けられた物であった。

 

 

 “人間も、捨てたものではない。”

 

 

 殆ど無意識ではあったが、そんな感情が心の底で芽生えていた。

 

 

 だが今回、それが少しばかし裏目に出てしまった。

 

 

 想定すべき状況の見積もりが、甘くなっていた。

 

 

 時折剣呑な思考になったり、一度この世界の人間のことをアンドロメダの中でも最大級の蔑称である「蛮族」と吐き捨てたりと、彼女が本来持っていた人間に対する“人間嫌い”な一面が再び強くなっていたが、でもだからといって、信じたいという気持ちに踏ん切りをつけ、未練を完全にバッサリと斬り捨てるという決断は下せなかった。

 

 

 それらが心の中を複雑な物にし、結果として思考にフィルターが掛かり、当初の予定通り日本へと向かうべきか否かで迷いが生じ、優柔不断で何も思い浮かばないまま、今日まで来てしまっていた。

 

 

 普段のアンドロメダからしたら、考え過ぎて袋小路に嵌ることはあっても、決断を下せず先延ばしにしている、取り敢えず現状維持というのは、あまりにもらしくない振る舞いであり、当の本人もそのことでモヤモヤとした気持ちはあった。

 

 

 今にして思えばここ最近、駆逐棲姫に甘えていた態度を見せていたのも、そのことから目を逸らしたいという無意識な思いから来た、ある種の現実逃避だったのかもしれない。

 

 

 しかし、もう思考を放棄して逃げることは出来なくなった。

 

 

 

「お姉さん!お姉さんのことは私が、私達が必ず守ります!ですから!もう人間達の手の届かない所で、私達と一緒に静かに暮らしましょう!!」

 

 

 俯き何の反応も示さなくなったアンドロメダに、駆逐棲姫が必死になって声を掛けていた。

 

 駆逐棲姫自身、いや駆逐棲姫だけでなく他の深海棲艦の姫達も、アンドロメダが欲深い人間の玩具にされることを強く危惧していたし、それがあまりに不憫に思えて仕方無いとの思いがあった。

 

 壮絶な戦いに身を投じ、色々なモノを失い、身も心もボロボロになりながらも、ただただ愛するもののためにその優しくも気高い命の炎を燃やし尽くした彼女の心を、人間共は理解しないだろう。

 

 出来れば彼女を人間共から匿ってあげたい。余生と言っていいのか分からないが、戦いを忘れて静かに、心穏やかに過ごす権利が彼女にはあると思っていた。

 

 同胞(はらから)にだって理由は様々だが、戦いから身を引いた者達は少なからずいる。

 

 中には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが一人二人くらい増える程度のことだ。なんなら支配領域にある島の一つを分け与え、そこで暮らしてもらっても良いと考えていた。

 

 

 だが、それを言い出すことが出来なかった。

 

 

 そしてその理由は、おそらくその事を問われたらアンドロメダの性格からしておそらく、いや間違いなく否定するだろうが、本音では最も気に掛けていると思われる事でもある。

 

 

 

 アポロノームの存在である。

 

 

 

 正確には彼女の大破した艤装のことであるが、この影響で彼女は実質身動きが取れない状態である。

 

 このことは姫達も頭を痛め、今も行なわれているであろう姫達による会談、通称“円卓”でも、参加した他の姫達全員が頭を抱えた問題でもあった。

 

 

 自身の半身である艤装を諦めろなどということは、口が裂けても言えなかった。

 

 それはいわば、人間で例えるならば、両手両足をもぎ取ると言っているようなものである。

 

 

 アンドロメダ自身も艤装に不調を抱えており、その修理が出来るかもしれないからと日本を目指していたが、今はそれ以上に大切な妹のために何とかしてあげたいという気持ちが強い。

 

 

 だが、その代価が戦乱の激化に繋がるというのは、アンドロメダとしても躊躇せざるを得ない。

 

 人類が勝手に仲違いしてドンパチするだけならば、それは彼らがそう決めたことであるとして、アンドロメダはそれに責任を感じる必然性は無い。

 

 流石に滅びるまで徹底的に争う、所謂ハルマゲドン、最終戦争になったら困るが、それを理由に介入したとしてそれで万事解決となるか?と問われたら、かなり微妙であるとしか答えることが出来無い。

 

 何故ならば戦争を終わらせるかどうかの最終的な判断を下すのは、飽くまでも争い合っている当事者たる“人間”の役割であると、アンドロメダは考えている。

 

 自身は隔絶された武力を持っているだけの、単なる戦うための兵器の一つに過ぎない。

 

 兵器に過ぎない自分が、人間の代わりを務める訳にはいかない。

 

 それは必ず人間からの何らかの反発を生むからだ。

 

 出来ること出来ないこと、現場(兵器)上層部(人間)を無視して蔑ろにし、独断専行と言う名の暴走を(勝手気ままに行動)してはならないことはちゃんと理解しているし、全てをどうにか出来るなどと自惚れた考えは持ち合わせていない。

 

 自身の手の届く範囲で、力が及ぶ範囲で出来ることを無理無く確実にやり遂げる。

 

 身の丈に合わない事を無理に成し遂げようとすれば、その先にあるのは高転びに転ぶ、“破滅”である。

 

 強大な国力と軍事力を誇ったかつての大ガミラス帝国も、滅びに瀕したガミラス本星の代わりとなる、ガミラス民族が居住可能な新惑星を見付けて移住するという、民族存亡の危機を脱する目的があったとはいえ、無理に無理を重ねた拡大政策が祟って逆に国家としての土台が弱体化し、国そのものは存続出来たものの最終的にはデスラー体制崩壊へと繋がった。

 

 

 後方支援態勢の無い、たった1隻の、しかもエンジンに不調を抱えた状態の宇宙戦艦に何ができる?

 

 普通の艦娘よりは多少強力であるという程度で、他は何ら変わりが無いのだ。

 

 

 だがその多少が問題なのだ。

 

 

 人間は時として、自分の持っていないものを他人が持っていると知れば、それを羨み嫉妬する。

 

 しかもそれが希少な物だとしたら、その嫉妬の感情は際限無く肥大化する。

 

 その先にあるものは、なんとしても手に入れようとする醜い奪い合いが始まりかねない。

 

 そしてそれは次第に形振り構わないものへとエスカレートして行き───。

 

 

 ここまで考えてアンドロメダは己の迂闊さを呪った。

 

 

 既に人類は自身の存在を認識している以上、水面下でその所有を巡って動き出しているだろう。

 

 問題なのは“そこ”ではない。

 

 

 目的地である日本が、“大国に挟まれた係争地であること”をそこまで深く考慮していなかったため、両国の軍事プレゼンスが揺らぐことで生じる地域のパワーバランス変動を意識していなかった。

 

 

 本当に迂闊にも程があったと、アンドロメダはその美しい眉根をこれでもかと寄せ、今までに見せたことのない顰めっ面を作ってしまう。

 

 

 古来より、地域のパワーバランスに大きな変動が生じた時、何らかの武力衝突の引き金となる、或いはその一歩手前にまでなる極度の緊張状態が発生するケースはよく見られた。

 

 中東、アフリカ、アジア、バルカン半島、東ヨーロッパ、中南米と、枚挙にいとまがない。

 

 特に米ソ全面核戦争一歩手前となった『キューバ危機』はその最たるものの一つだろう。

 

 またこの世界で発生した第三次大戦の切っ掛けは、地球規模での火山活動の活発化が原因の寒冷化による食糧不足と、パンデミック由来の経済不況という天災と人災のダブルパンチが原因であるとされているが、地域単位で見たらそれだけで説明し切れない物があった。

 

 特に最も激戦区とされているロシア東欧紛争であるが、その前年に発覚したNATO(アメリカ)によるNATO非加盟の東欧某国*2に、ロシアの首都モスクワを射程に収める戦術核ミサイルを秘密裏に配備しようとしていたことが地元メディアやアメリカの大手メディアXOFなどがすっぱ抜いたことで発覚し、キューバ危機の再来と騒がれて一触即発の状態となった。

 

 この時はイスラエルやトルコ、サウジアラビアなどの国々が仲介に入り、一応即開戦という事態だけはなんとか回避されたものの、その後の後始末でNATO(アメリカ)がごねるなどしてグダグダとなり、さらに東欧某国では世論の分断が起きて国が事実上東西で分裂したりと、さらなる問題が噴出する事となって尾を引き、そのまま緊張状態が続いて疑心暗鬼に陥っていたことが根底にあるとの指摘がある。*3

 

 

 閑話休題。

 

 

 ただでさえ緊張状態にある日本に、火種どころか特大の爆弾足り得る自分が向かったら、冗談抜きで米露全面衝突からの第四次大戦という大爆発が起きてしまう。

 

 

 アンドロメダはげんなりとした気分になった。

 

 

 正直、外交下手の日本政府はアテにはならないし、寧ろ下手過ぎて火種を大きくすることが関の山だろう。

  

 

 もし本当にこの場にアポロノームが居なければ、という考えはアンドロメダの中には存在しない。

 

 

 確かにアンドロメダは心の底から駆逐棲姫と一緒に居たい気持ちがあるし、深海棲艦として彼女達と共に過ごしても構わないというのも本心だ。

 

 

 とはいえである。

 

 

 状況は当初の想定よりもかなり悪い方向へと修正しなければならない。

 

 

 “常に最悪の事態に備えて行動する”とは、防衛軍総括副司令芹沢虎鉄の言葉であるが、状況は当初の想定よりもかなり悪い方向へと修正しなければならないが、さてどうするべきか…。

 

 

 マリアナ諸島へと仕掛けてくる可能性は、ゼロでは無いがリスクが高過ぎる。

 

 

 やはり仕掛けてくるならば日本となるだろう。

 

 

 リスクを回避するだけならばこのままマリアナ諸島から動かないことだが、それだといずれジリ貧になる。

 

 

 艤装は動かさなくても消耗する。

 

 

 これは機械の宿命だ。

 

 

 理想と現実を天秤にかけたら、現実を取るのがアンドロメダであるが、そこにリスクヘッジの要素も加味すると最適解もおのずと変化する。

 

 大国の介入や横槍が入らない状態が最良であることは間違い無い。

 

 

 ここでふと、ある疑問が頭を過ぎった。

 

 

 先生の言が、()()()()()()()()()()()()のではないか?

 

 

 さっき先生はなんて言った?

 

 

 私の安否と()()の保証だと仰られた。

 

 

 安全の保証が出来無いと言うのを伝えたいというのであれば、ここまで回りくどい言い方をするのは、あまりにも不自然だ。

 

 

 

 まさか───?

 

 

 

「先生、もしかして私に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と…?

 

 そう仰られたいのですか?」

 

 

 

 そう、日本が深海棲艦の完全制圧下になってしまえば、両国は手出しが困難になる。

 

 何故ならば、アメリカは中間地点のハワイが深海棲艦に抑えられている以上、これを無視して大規模な部隊を日本近海まで渡洋させ、展開するにはリスクが高過ぎる。

 

 補給線や連絡線をズタズタにされるだけでなく、常にハワイに展開する深海棲艦の大艦隊の存在とその動向に対して意識を割かなければならない。

 

 いや、そもそも未だに自国領であるはずのハワイ奪還すら覚束無いどころか、その意思すら怪しいのに、属国に過ぎない日本の為に兵力を回すとは到底思えない。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)は極東担当の東部軍管区*4隷下の太平洋艦隊と多数の陸上戦力があり、第二次日露戦役での実積から兵力の海上輸送能力も決して低くはない事が証明されはしたが、流石に日本本土へと戦力を展開するには荷が重すぎる。

 

 それ以前に通常戦力ならばまだしも、深海棲艦と正面切って戦えるだけの艦娘戦力が不足しており、守りを固めた自国領周辺の聖域内ならばまだしも、その外だとかなり厳しい戦いを強いられ、大きな痛手を被る事が容易に想像できる。

 

 そうなれば極東での軍事バランスにも影響が出る。

 

 

 今まで深海棲艦による日本に対する攻勢は日本艦娘を中心とした抵抗が激しく、戦線は沖縄を基点としてほぼ膠着しているが、アンドロメダの頭にはこれを()()()()()()()()()どうにか出来るとの考えがあった。

 

 

 日本の早期警戒網、通信インフラなどをハッキングで一斉に無力化し、尚且つ偽の情報や命令を大量に流すなどして日本全土を混乱させ、対応能力のリソースを強制的に分散。

 

 混乱して動きが鈍っているところを一気に、電撃的な速攻を持って主要な基地や港湾、インフラなどの重要なポイントにのみ絞って迅速に部隊を展開し制圧してしまえば、日本にマトモな抵抗を試みさせる暇なく制圧下に収める事が、理論上は出来るとアンドロメダは見ていた。

 

 政治と行政の中枢は、この際無視して放っておいても構わない。

 

 別に支配して統治するつもりは無いし、メリットも正直なところあまり無い。

 

 というか、深海棲艦は安定した生活が最も大事な事であり、どうも統治にはあまり興味が無い様子だ。

 

 なんというか、“君臨すれども統治せず”とも言えなくもないが、どちらかと言えば放任主義的で、「まぁ私達はあまり干渉しないし、生活のためなら別に外と交易しても構わないよ。なんなら手伝っても良いし、私達と交易する?」というスタンスである。*5

 

 

 万が一、両国が日本の奪還や救援を断念し、核ミサイルを使用して日本を巻き込んででも深海棲艦の侵攻部隊を葬り去ろうとする暴挙に出たとしても、核兵器と大陸間弾道弾の類いは既に無力化する段取りが出来ている。

 

 

 まだまだ粗やさらに検討すべき事柄はあるものの、一応理論上は日本を占領することが可能であるが、問題はそれに深海棲艦が賛同してくれるのか?そしてそれが本当に先生や土方さん達の考えなのか?

 

 

 アンドロメダはその“答案”が果たして正しかったのかを覗うべく、画面の向こうにいる霧島(キリシマ)の顔を見詰める。

 

 画面に映る霧島(キリシマ)を注視しているため、その画面の中に映り込む春雨(ハルサメ)達が衝撃を受けている姿が見えたが、そこに映らない他のメンバーや自分の周りにいるアポロノームや泊地棲姫達の反応は分からないが、駆逐棲姫がアンドロメダの制服の袖をギュッと握った感覚がしたため、彼女が少し不安な気持ちなのは分かった。

 

 土方は鋭い視線をアンドロメダに向けていたが、特に何かを彼女に告げる素振りは一切見せず、そのまま霧島(キリシマ)へと視線を向けただけだった。

 

 

 おそらく、今回の事は霧島(キリシマ)に一任するという取り決めが事前に決められていたのだろうと、アンドロメダは考えた。

 

 

 そしてその霧島(キリシマ)は腕を組んで下を向き、僅かに肩を震わせていた。

 

 

 ん!?間違ったかな…?と思った瞬間───。

 

 

 

「〈アーハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!〉」

 

 

 

 突然、反り返る勢いで大笑いを始めた。

 

 

 あまりにも予想外の反応に、アンドロメダは思わず目をパチクリとさせてしまう。

 

 下手に口を挟むことによって、アンドロメダ()の思考を邪魔する訳にはいかないと、静観していたアポロノームが若干引いていた。

 

 そしてそれは土方や金剛といった一部を除く全員が似た思いだった。

 

 伊達に2人は霧島(キリシマ)との付き合いが長いわけではなく、多分こんな反応するだろうなと思っていた。

 

 

「〈アッハッハ!言うようになったじゃないか!若いの!〉」

 

 

 彼女、霧島(キリシマ)の意図は那辺にあるのだろうか?

 

 

*1
そのため一時期、自分は沖田艦長()ヤマトさん()にとって、本当は忌み子なのではないか?と思い悩み、それでも愛していたい愛されていたいという思いに苦悩していたこともあったが、()()『ヤマト』追撃戦で互いに思いの丈をぶつけ合った際に、自分が心から愛されていることを知り、そして自分を心配して出て来てくれた沖田艦長の優しさと温もりを感じたことで、今はその悩みからは完全に吹っ切れることが出来ている。

*2
但し加盟希望はあった。

*3
なお、この時に仲介に入った国々は直後にアメリカとの関係が急激に悪化した。

*4
司令部所在地はハバロフスク。

*5
それで良いのだろうか?と思わなくもないが、彼女達には彼女達なりの価値観や考え方もあるだろうし、それで上手くいっているのならば下手に指摘するのも野暮というものだろう。





 日本本土占領。

 まぁアンドロメダの能力と深海棲艦の全面協力があれば、やろうと思えば出来なくもないかな?と当初の段階より考えていました。
 まあ、もっとえげつないことも考えていましたが。例えば送電インフラを掌握し停電、デジタルマネーシステムの破壊乃至改竄、各省庁のサーバーへの不正アクセスによるデジタルデータの流出や破壊乃至改竄、SNSなどのシステムに介入しての世論誘導に扇動などなど。
 多分、アンドロメダ(クラス)に使用されているメインフレームの電子能力ならば、デジタル社会にとっては最悪の、悪夢とも言える防御不能のサイバー攻撃による破壊活動が出来ると見ています。

 但し、春雨(ハルサメ)達による妨害が無いという前提条件がいりますが。


念の為の言葉の解説

 不審、疑わしく思うこと。

 不信、信用しないこと。

───────


 以下、前書きで述べました事に関する物です。

注意!頭に血が登っていた為かなり書き殴りです。



憤怒

 

 お気づきかと思いますが、私はドナルド・トランプ大統領の熱烈な支持者です。

 私は今途轍も無い怒りに震えています。

 堕ちるとこまで堕ちたかアメリカよ!?

 司法の武器化は何度も指摘してきましたが、アメリカの司法は中国と韓国と変わらぬまでに落ちぶれた。

 トランプ大統領の起訴?

 巫山戯るな!!

 トランプ大統領よりも起訴すべき連中がホワイトハウスに居座り、議会や政府機関で踏ん反り返って勝手気ままに権力を濫用している下衆共が沢山いるだろうが!!


 この問題は情報が出た当初より追ってましたが、どんなに調べても起訴は明らかに無理があると言わざるを得ない。

 まず今回言われている罪状は、既に連邦レベルで起訴は不可能であると結論が出ている物です。

 さらにニューヨーク州法で照らし合わせても、()()()()()()()()()()()()

 そのため無理にでも起訴するために州法を捻じ曲げ、法の中立、公平、平等から逸脱した、法の信頼性を大きく毀損する行為を強行。

 場所も問題ありで、ニューヨークマンハッタン検察局は以前より法がマトモに機能していません。
 今のアメリカ、特にブルーステイト、民主党州の惨状をご存じの方には耳タコの常識かと思いますが、ブルーステイトの検察局は保守弾圧ばかりに血道を上げる極左活動家の溜まり場と化し、治安がどれ程悪化しようが知ったこっちゃないというゴミ以下の連中の活動拠点となっています。
 ただ今回ばかりはそんなゴミ以下の連中からも「え、流石に不味くない…?」とドン引きしていますが、それでも今までのやらかしから、基本的にマトモではありません。

 …すみません、これ以上書いていたら、余計に怒りが込み上げて来て執筆に使っているスマホを叩き割るなり窓から放り出しそうになるか、私が師と仰いでいます緋寺様の過去作『空っぽの姫と溢れた艦娘』第282話『真紅の狂犬』において、主人公であらせられます春雨様が怒りに呑まれ、暴走されてしまわれた様に、私も暴走して暴れ出しかねないのでここで切ります。


 今回の件に関しましての詳しい事は、以前にもご紹介致しましたYouTuber、やまたつこと『カナダ人ニュース』様の投稿をご覧になられることをお勧め致します。

 ハッキリ言いまして、このことで日本のメディアは全く持ってアテにはなりません。
 トランプ大統領の名誉毀損製造組織C○Nの内容を垂れ流すだけ、意図した誤情報やミスリードのオンパレードの山で、見るに耐えません。金額の円換算を当時の換算ではなく、現在換算にしている時点で悪意に塗れている下衆共になにを信用しろと?

 そもそも今回の一件、やり口が完全に共産国の手法そのまんまです。

 それを指摘せず、称賛擁護している時点でその連中がどんな存在かが一目瞭然です。


 最後に、これだけは言っておきます。


 今回の一件、明らかにトランプ大統領の大統領選出馬への明確な妨害行為が目的であり、現政権による独裁政治を目的とした民主主義の破壊と公正中立平等を前提とする健全な司法制度の完全崩壊と権力による武器化を目論んでいるものであることは疑う余地はありません。

 また、これは対岸の火事では無く、何処の如何なる国家でも起こり得る事態であると、真剣に受け止める必要があります。


 


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第44話 JAPAN OCCUPATION 2

 日本占領


 現実はそう上手くは行かないんだよねぇ。


 今回諸事情により短めです。理由は後書きで。


 

 

「「「「「日本占領!!?」」」」」

 

 

 アンドロメダの処遇を話し合っていた姫達の会談、通称“円卓”は今までに無い喧騒に包まれた。

 

 それを見た報告者の泊地棲姫は、「まぁそうなりますよね…」と内心で呟いていた。

 

 自身の裁量だけでは如何ともし難い案件であると判断した泊地棲姫は、急遽ここへとやって来たわけなのだが、今日はとんでもない日だと、嘆息した。

 

 

 確かにあの話を聞く限りだと、出来なくもないかな?と思えるが、同時に現実的では無いと見ていた。

 

 何故なら───。

 

 

「…まさかあの娘、本気じゃないでしょうね?」

 

 

 比較的落ち着いていた雰囲気だった飛行場姫が、胡乱な目をしながら泊地棲姫に尋ねた。

 

 

 それに対して泊地棲姫は首を横に振り、否定した。

 

 

「いいえ、アンドロメダさんは“占領そのものは可能でも、それは一時的なものにならざるを得ず、長期的或いは恒久的な維持は困難であり現実的ではない”とも言っていたわ」

 

 

 その泊地棲姫の言葉に、安堵した空気が流れる。

 

 

「私も、おそらくみんなも同意見だと思いますが、アンドロメダさん曰く、日本軍に在籍している艦娘達の今後の処遇や、彼女達が占領に反発して軍の統制下から離脱してしまった際のリスクを気にしていました」

 

 

 戦争が始まって10年余り、人間達の領域に攻め込んで島嶼だけでなく、幾つかの国も制圧下に置いたと言っても、その殆どが国として崩壊した事実上無政府状態の国だった所や、なんとか食って行けている程度の、あまり余裕のない国々であり、国軍も弱く、艦娘がいないこともざらだった。

 

 しかし日本は軍として艦娘を組織的に運用しており、その保有数は世界第三位*1とかなりの規模である。

 

 

 問題は、今までの占領地に居たのは人間ばかりで、捕虜等も含めて──戦闘で重傷を負い、そのまま死亡した艦娘の亡骸を母なる海へと還した事ならあるが。──少なくとも艦娘は今までに前例が無かったハズである。…多分。

 

 

 兎も角、艦娘に関しては深海棲艦としてもどう扱うかは決めかねていた。

 

 彼女達にとって艦娘は敵対勢力ではあるものの、だからといって皆殺しや隷属化といった考えは()()()には無かった。

 

 ()()()()()()()()と違い、艦娘は自分達と似た()()()()であるとの思いがあった。

 

 別に確証がある訳では無いが、そう自分達の魂が囁く感覚がするのだ。

 

 最初に艦娘が確認された時、彼女達の事を変わった同胞(はらから)だと思った程だった。

 

 出来ればアンドロメダと同様に軽んじた扱いはしたくない。

 

 だがそう簡単には行かないだろう。お互いに血を流し過ぎた。

 

 こちらも現場が納得しないだろう。

 

 

 正直なところ、難しい問題である。

 

 

 これも戦争が長引く要因ではあるのかもしれないが、感情というのは得てしてそう簡単にどうにか出来る問題ではないのだ。

 

 

 聞けば、アンドロメダも感情に流されて暴走したと言うではないか。

 

 

 艦娘だって感情に流されて暴走し、望まぬ衝突に発展しかねない。

 

 そしてその衝突先は何も自分達とは限らない。

 

 意見の対立から本来なら仲間であるはずの艦娘同士が相撃つ可能性すら有り得るし、矛先が人間に向かないとも言えず、その逆もまた然り。

 

 泊地棲姫は敢えてこの場では言わなかったが、アンドロメダはその事を最も危惧していた。

 

 

 戦争終盤、戦後に何らかの不平不満で国が荒れるというのはよくあるし、アンドロメダはそのことを知識として知っていた。

 

 これはガミラスとの正式な講和が結ばれた際に、地球全土で大小様々なデモや暴動が起きて、少なくない犠牲者が出ていたことと、その後も反ガミラスを掲げる人々が水面下で合法非合法関係無く、様々な活動を続けており、今尚、それこそガトランティス戦役の最中であっても治安当局と激しく争っていたという事実から、そう簡単に解決しない根深い問題であるとアンドロメダは捉えていた。*2

 

 

 人類の歴史から有名な出来事を幾つか上げれば、普仏戦争でプロイセンとの和平交渉に反対した『パリ・コミューン』、日露戦役で帝政ロシアとの講和内容に不満を爆発させた日本国民による『日比谷焼き討ち事件』、第一次世界大戦終盤に帝政ドイツで発生した帝政ドイツ海軍*3大洋艦隊*4の水兵がヴィルヘルムスハーフェン軍港にて出撃命令を拒否したことにより波及した『キールの反乱』を端緒とする戦争継続に反対した『ドイツ革命』、第二次世界大戦末期日本の『厚木航空隊事件』や『宮城事件』などといった様々な騒乱事件は日本の降伏に対する不満や反対が根底にあった。

 

 少し毛色は違うが、日本史上最大規模の革命戦争である戊辰戦争後に起きた『士族反乱』も、戦後処理の延長線上とも言える廃刀令や秩禄処分、徴兵令などといった戦後の軍政改革への不満が原因とも言えなくはない。

 

 

 アンドロメダはこれらと似た戦後の混乱した事態が、日本でも起きかねないことを強く危惧していた。

 

 

 そしてそれを裏付ける様に土方から、日本は先の第三次大戦でロシアとの講話に反発した一部の日本人が暴動を起こして在日ロシア人を中心に多数の死傷者を出すという、凄惨な事態*5が発生していた事実を聞かされ、杞憂では無く現実的な起こり得る問題であるとの確信を強めていた。

 

 

 そもそも歴史を紐解けば、外国から所謂“他所者”と呼べる人々がやって来て、トラブルが起きないことのほうが珍しい。

 

 移民でさえ、最初は特に問題が起きなくても、後々に現地の人々との軋轢や摩擦といった問題が起きており、社会問題化するケースが後を絶たない。

 

 それが戦争の結果であればなおさら。

 

 イラクやアフガニスタンはその分かりやすい例と言えるだろう。

 

 ハッキリ言って、第二次大戦後の日本は特殊過ぎた。

 

 

 直近の第三次大戦でもアメリカはカナダや中東の国軍以上に、現地の住民とのトラブルに苦しめられ、東欧紛争でも外国軍だけでなく難民に対するトラブルが後を絶たなかった。

 

 日本も北方四島でロシア民間人に対する誤爆などの影響もあって、トラブルや揉め事が多発し苦慮する羽目になった。

 

 

 一応、今の所は深海棲艦と現地住民との間で大きな問題は起きていない。

 

 

 今までに深海棲艦が制圧した地域は、政治や紛争などの人為的なものから天災などの自然的なものまで含めた様々な問題の影響から、お世辞にもマトモな生活が出来ていなかった人々が暮らしていたのが大半であり、深海棲艦が来たからと言って、何らかの抵抗を行なうだけの余力も無ければ気力すら無かった。

 

 酷い所だと、深海棲艦が来てくれたお陰で逆に助かった───生活が安定した。安全な暮らしが出来るようになった。人間らしい生活が出来るようになった───という、事情を知らない者が聞いたら何を言っているのか分からないと言いたくなるような、嘘のような現実な事態が起きていた地域だった。

 

 

 だが日本は、パンデミック以前と比べたら見る影も無いと言われる程にまで落ちぶれてはいるが、それでもまだ国家としての体裁をギリギリ保っており、ある程度の秩序と、新ロシア連邦(NRF)による援助に依存しているとはいえなんとか安定した生活がおくれている。

 

 

 だがそれも、深海棲艦が攻め込んでしまえば全て滅茶苦茶になってしまう。

 

 

 その後に起きるであろう混乱は、未曾有のものとなってしまうだろう。

 

 

 アンドロメダと謂えども、それを一朝一夕にどうにか出来る方法も、妙案も持ち合わせてはいなかった。

 

 

 話を聞いていた泊地棲姫は、流石にその混乱を我関せずと放置するのは気が引けるという思いと、放置した際に生じるリスクも考えたが、その混乱を鎮めるために必要となるであろう労力は正直な所、割に合わないと見ていた。

 

 

 今の私達に、そんな余力は無い。

 

 

 かつての戦略で、一番激しい動きを見せる日本を、降伏と言わずとも無力化することを目的としていた計画があったが、結果はその計画を立案した者にとって起きてほしくなかった最悪な事態が発生したことで、最終的に中止となり、立案者は自責の念から心を病んでしまい、今はミクロネシアにあるとある島で隠蔽生活をおくっている。

 

 その後は海上封鎖と消耗戦に引き摺り込む戦略へとシフトしたが、海上封鎖は日本海の封鎖に失敗したことで今は消耗戦一本に絞ることになったものの、長引く戦いにこちらも厭戦気分が少しずつ高まっていた。

 

 そのため前線では半ばナアナアな雰囲気が出ている。

 

 このことは姫達も認識しているが、仕方無い事だと半ば諦めていた。

 

 終わりの見えないこの戦いに、姫達も段々と嫌気が差してきていた。

 

 でも終わらせる道筋が見え無い。

 

 少しでも状況を、雰囲気を変えようと商売という新たな道を拓いたものの、それが戦争を終わらせる道と交わる可能性は、今の所かなり低かった。

 

 

 状況は停滞し、惰性の様な形で戦争は続くという重苦しい空気感が蔓延しつつある中で、アンドロメダという風が吹いた。

 

 

 アンドロメダを受け入れた背景には、そういった重苦しい空気感を少しでも和らげたいという、半ば縋る気持ちが働いたという側面もあった。

 

 

 だが、その風は単なる息吹のような優しい風ではなく、思いの外に強い風、それこそ春一番の様な季節の変わり目に吹く強風であったと泊地棲姫は思っている。

 

 何故ならば───。

 

 

「皆様にお伝えしたい事がございます」

 

 

 泊地棲姫はここに来た最大の目的にして、最も重要な、日本海軍に所属しているという、嘗てアンドロメダと同じ世界にいたという高位の軍人で、この世界で“鬼の土方”の異名を持ち恐れられている土方竜本人と、その腹心とも言える、自分達がよく知る同名の艦娘と似て異なる、アンドロメダの恩師であるという霧島(キリシマ)から聞かされた、俄には信じ難い話、いや提案を語り出した。

 

 

「日本は、いえ、日本海軍の艦娘部隊最高責任者、真志妻亜麻美大将なる人物は───」

 

 

 

「私達との、()()()()()()を望んでいます」

 

 

 

 

 停滞していた状況が、動き出した。

 

 

 

 それが今後どのような結末を迎えるかは、まだ誰にも分からない。

 

 

 

*1
第一位はアメリカ、二位はイギリス。なお、ヨーロッパ各国の艦娘はEU軍の指揮下では無く、各国国軍の指揮下である。

*2
余談だが、反ガミラス派の取り締まりに関して、ガミラスの治安当局関係者も秘密裏に協力していた。という噂があるが、真偽は不明である。

*3
Kaiserliche Marine(カイザーリッヒマリーネ)

*4
Hochseeflotte(ホーホゼーフロッテ)

*5
所謂ロシア人狩り事件。






 漸く休戦の意思がある旨の話が出せた…。


 まぁ占領路線も可能だなぁという考えはありましたが、色々と問題があり過ぎて能力的に可能でもメリットデメリットを考慮したら無理という結論ですね。

 今までの占領地は平野耕太著、ドリフターズ第6話でのノブこと第六天魔王、織田先右府信長でのセリフ───

“尊厳が無くとも飯が食えれば人は生きていける。飯が無くとも尊厳があれば人は耐えられる。だがその両方無くなると、もはやどうでもよくなる。()()()()()()。”

───これに近い状態でしたから、何にでも頼る、深海棲艦にだって縋りました。

 因みに深海棲艦によるインドネシア制圧の時は、飢餓状態で自暴自棄の深海棲艦と、難民となり各地を追われて住む所も食べる物も無い極限状態となった元インドネシア人を中心とした人間達の双方が双方を縋るという珍事状態でした。

 しかし、日本はそれらとは当て嵌まりません。

 …尊厳に関しては微妙ですが。
 


補足説明

“反ガミラス派の取り締まりに関して、ガミラスの治安当局関係者も秘密裏に協力していた。”

 これは小説版に書かれていた内容が元ネタです。元ネタの方ではガミラス側(大使館)が秘密裏に動いていましたが。

 小説版はこれら本編には無かった様々なネタがありました。



私見コーナー


 アメリカは現在革命無罪造反有理をスローガンに掲げていた文化大革命の真っ最中であると言えます。

 或いはどこぞの半島国家の反日無罪に似ていると言えます。

 民主党を中心とした極左による犯罪の数々が相変わらずメディアや司法は無かったことにしよう、或いはその内容をはぐらかそうと躍起になっています。

 共和党を始めとした保守狩りが次第に過激化、常軌を逸しています。

 その最たるものが先のトランプ大統領の騒動ですが、これは余りにも無理がありすぎると反トランプ派からも非難が殺到してますが、それ以外にも大きな問題が次から次へと起きています。

 例えば現在極左による教会などの宗教施設の襲撃事件、事実上のテロ攻撃が急増しています。

 特にキリスト教に対するテロ攻撃が激化しており、先のテネシー州の小学校銃撃事件も背景には極左が関与した実行犯によるキリスト教系学校を襲撃したものでした。

 この前日、極左活動家による大量殺人やテロを扇動した内容の、極左TV放送局による番組があったことも無関係では無い、との指摘があります。

 思えばべーえるえむやあんてふぁによるテロ活動も、これらに繋がる物でした。

 この時もメディアや司法はガン無視を決め込み、べーえるえむ暴動が最も激しかった14日間で2000億円以上の損失と18名の尊い人命が奪われましたが、彼らはこの犯罪を“平和な抗議活動”として扱いました。

 ですが共和党や保守派のデモは彼ら曰く、国家転覆を目論む危険な犯罪だとする論調で、有形無形の弾圧を激化させています。

 
 これが民主国家を自称する今のアメリカであり、覆しようの無い現実です。

 先日、中南米のとある国の大統領(確かエルサルバドルだったかと記憶しております)が、「アメリカはもう民主主義について語るべきではない」との痛烈な批判を記者会見で発言したそうですが、全く持ってその通りとしか言い様がありません。

 アメリカは既に民主主義を過去の遺物と扱っていると捉えた方が良いのかもしれません。

 ですが、日本もアメリカを笑えません。

 この3年間、上記の極左の様な人が増えたと思いませんか?

 平気で法を無視し、恐怖を煽りみんなのためとかの美辞麗句を並べ、ある時は同調圧力で、時には暴力や権力の濫用で自らの主張を他人に強要していた人が。

 それはマスコミだけに限った話ではありません。

 日本もアメリカも、程度の差はあれど向いている方向は同じであり、そこへ向け突き進んでいます。

 そのゴールが何なのかは、皆様のご想像にお任せ致します。



お知らせ

 此の度メンタル不調が原因で仕事を暫し休業することになりました。

 “無茶はしても無理はしない”をモットーにしていましたが、メンタルは意外と無理していたみたいでした。

 今かなり情緒不安定で、場合によっては今の仕事を辞める可能性もあり、その旨を昨日職場に談判して来ましたが、職場から少し冷却期間をおいて欲しいと頼まれたため、休業となりました。

 投稿に関しましては気を紛らわせるために、短い文章でも続けようと考えています。

 というか何かで気を紛らわせなければかなりマズい状態ですので、執筆は継続致します。文章が少々可怪しくなるかもしれませんが…。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第45話 A journey of a thousand miles begins with one step.

 千里の道も一歩から。


 
 普段から兵士を大切にしない国家は、国民も大切にしない。

 頼むから隊員の為に公費でトイレットペーパーを買ったれよ自衛隊…。
 兵器ばかり注力して足元を疎かにしとるぞ…。



 

 

 休戦に向けての話は、土方が切り出した。

 

 

「この戦争、どう転んでも既に日本に勝ち目がない。

 

 それが証明されたようなものだ。

 

 であれば、これ以上は損切りに注力すべきだな」

 

 

 アンドロメダによる日本本土侵攻プランを聞いた土方が、皆に聞こえる声で、そう告げた。

 

 無論、土方はアンドロメダのプランには欠点や問題点があることを見抜いていたが、それでも敢えてその事は言及しなかった。

 

 

 何故ならば()()()()()()()()()()()からだ。

 

 

 そのことを知らない周りは、まさか土方がその様な事を言うとは思わず、驚いて固まったままだったが、一番驚いているのがアンドロメダだった。

 

 彼女自身、自分で言っておきながら、このプランが様々な問題点から非現実的であると考えており、土方さんならばその問題点を指摘するだろうと思っていたからだ。

 

 そのため慌てて自身のプランが謂わば“絵に描いた餅”の様なものでしかなく、実行は出来無いことを告げた。

 

 内容は泊地棲姫が“円卓”のメンバーに語った内容である。

 

 

 その際のアンドロメダのあまりの慌てっぷりに、霧島(キリシマ)は笑いを堪えるのに必死だった。

 

 

 アンドロメダ(教え子)の口からまさかの日本本土侵攻という言葉が聞けるとは思わなかった。

 

 

 霧島(キリシマ)としたらそれも悪く無いという気持ちがあった。

 

 

 今の日本において、艦娘と人間との間には修復困難な亀裂が生じていた。

 

 

 最初の頃は共に手を取り合い、深海棲艦という脅威を跳ね除ける為に協力していた。

 

 

 指揮系統の構築がまだ完璧で無かったなどの問題から、多少のギクシャクとした所はあったと言われているが、それでもなんとか劣勢だった戦況を押し返し、攻勢に打って出て勝利を収められる様になっていた。

 

 

 この頃のことは、“試行錯誤しながらも互いに手を取り合い連携して敵を打ち倒す英雄達の姿”などと、メディアなどでも格好の宣伝材料として持て囃されていた。

 

 気の早い者達は、ソーシャルメディアなどのサイバー空間にて、盛んにかつての提灯行列の如くお祭り騒ぎになりながら、勇ましいが根拠に乏しい輝かしい未来の妄想を、口角泡を飛ばす様にして無邪気で無責任に語り合っていた。

 

 

 当時の世論は完全に過熱状態だった。

 

 

 今まで負け続けで、ずっと碌な話題もなく沈滞していた世情の反動と言われているが、余りにも熱に浮かされていて冷静さを失い、不気味であったとすら言われていた。

 

 

 世論は貪欲なまでに勝利を渇望した。

 

 

 別に一般大衆がそう考えることに、霧島(キリシマ)は非難するつもりは無い。

 

 大衆とは見たいものしか見たがらず、扇動(アジテーション)に乗せられやすいモノだと割り切っていた。

 

 

 しかし問題は、政治を司る者達や一部の煽動家(アジテーター)達が、自らの保身や人気取りの為に、より過激な扇動(アジテーション)を繰り返すのには明確な嫌悪感を示していた。

 

 その行き着く先は、現実を逸脱した、出来もしない無責任極まりない大言壮語を繰り返すだけのみっともない道化となるのがお決まりであり、戦略も曖昧で後先の事を考え無い投機的な軍事作戦に傾倒していくようになる。

 

 

 …ガミラス戦役でも似た“人種”が沢山いた。

 

 

 それに乗せられた世論によって、戦役初期の『外惑星防衛戦』は滅茶苦茶にされ、無意味な反撃作戦によって多くのベテランや次世代を担える有望な人材達が無意味に失われ続けた。

 

 

 それと似たような事がこの戦争でも起きていた。

 

 

 違うのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 

 

 地球軍は『第二次火星沖海戦』での戦術的辛勝まで連戦連敗続きだったが、こちらは艦娘の登場以降、実態はさておき、ある程度の拮抗状態となっていた。

 

 

 そしてそれによる“危機感”と“現状認識”に差があると霧島(キリシマ)は見ていた。

 

 

 ガミラス戦役は実質覆し様の無い、完全な負け戦だったことは、あの忌々しい遊星爆弾が初めて地球──日本の高知──に落着した時から、政府と軍は公言こそしてはいなかったものの認めていたし、民衆の大半も内心では勘付いていた。

 

 

 しかし、当時の地球にはこの戦争を終わらせる術が無かった。

 

 

 勝つ見込みが無いのに、戦いは続き、未来を担うべき若者達がどんどん戦地で散ってゆく…。

 

 その中には教官時代の土方の教え子も含まれていた。

 

 

 その事は土方にとって苦く辛い記憶となっており、後年の第十一番惑星での戦闘にて、降伏打診へと繋がったと言われている。*1

 

 霧島(キリシマ)も坊やと呼べる程のケツの青い若い連中が、「お母さん!」と叫びながら死んでいくさまを、忸怩たる思いで見ていたからこそ、土方のその気持ちが痛い程によくわかった。

 

 

 ガミラスとの戦いは、正に絶望以外の何ものでもない戦いだった。

 

 

 しかし深海棲艦にガミラスの様な明確な軍事的優位性があるのかと問われたら、正直よく分からないし、遊星爆弾の様な直接危機に繋がるものがあるのかとも問われたら、なんとも言えなかった。

 

 

 そのため「もしかしたら、上手くすれば勝てるかもしれない…」という、なんとももっさりとした空気感で戦争を続けた。

  

 

 しかし深海棲艦達も戦い方を変化させ、人類側による反攻の勢いに限りが見えたことで、熱し過ぎていた世論も沈静化すると思われたが、そうはならなかった。

 

 一度過熱した世論は最早暴走状態であり、一時的であっても停滞を許容しない、許容という考えを許さない空気感が蔓延するにまで至っていた。

 

 負けるなイケイケドンドンと世論が煽りに煽って、それに乗っかかった政府が軍事常識から逸脱した、無理な作戦を軍に強要強行するのが、この頃から常態化することになった。*2

 

 

 現場としては溜まったものではなかった。

 

 

 特に実際に矢面に立つ立場の艦娘達の不平不満は相当なもので、自分達の損耗や消耗を顧みない人間達への失望感と不審感は危険域に達しており、真志妻が総司令となって真っ先に取り組んだのが、彼女達の不平不満を解消することだったのだが、いつ爆発してもおかしく無い状態だったと語っている。

 

 また露骨なまでの艦娘至上主義者と当時から言われて有名だった真志妻以外の人間が就任していたら、何が起きていたか分からなかったとすら言われている。

 

 

 とはいえ、真志妻大将の就任によって、今までの様な政府による無理は作戦の強要は彼女が可能な限り突っ撥ね、それと並行して各種の改革を押し進めたことで、艦娘達の不平不満はなんとか落ち着いたのだが、彼女達の心には人間達に対する拭い様の無い不審の感情だけは残ることとなった。

 

 今でこそ真志妻大将という“味方”がいて寄り添ってくれているが、もし彼女が更迭されてしまったら…?という恐怖心がその根底にあった。

 

 

 真志妻大将は自分達を溺愛し、反対に人間達には敵意に近い感情を抱いている。

 

 

 公言こそしていないが、そのくらいは彼女の言動の節々から察することが出来るし、それに、なんとなくだが、彼女からは()()()()()()()()()()のだ。*3

 

 だからこそ怖いのだ。

 

 人間達から疎まれてしまったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが、また繰り返されてしまうのではないか?と。

 

 

 このことは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということから、所属する艦娘が真志妻大将の改革の一つである各地の鎮守府再編にて移動して来た者達によって構成され、また部隊間の連携と交流を兼ねた演習の為に小松島に立ち寄った娘達から聞き出したことでもあるため、艦娘達の共通認識であるとの確証が高い。

 

 

 本人が聞いたら嫌がるだろうが、日本においては真志妻が艦娘と人間との接着剤の役割を果たしている。

 

 

 さて、今の日本でそのことを理解している者はどれだけいるか…?

 

 

 民衆にそのことを期待するのは無理だろう。

 

 彼らの大半は艦娘との接点が()()()()()()()()()()()()()()()()()()しか無いのだから、認識に対する相違が出てしまうし、先にも述べたが、見たいものしか見ない為、メディアによって偶像化した艦娘しか知ろうとしない。

 

 

 軍部は三軍で多少の差はあれど、共同作戦を行なう都合上、現実的で最もマシである。

 

 

 政府が最もお話にならない。

 

 自分達の人気取りと保身の為に整合性も何もない、矛盾した言動を繰り返している為に信用性が低すぎる。

 

 

 艦娘達は政府を最も信用しておらず、次いでその政府に引っ張られている民衆も信用度が低い。

 

 では軍部を信用しているかと言うと、そうでもない。

 

 政府の暴走にシビリアンコントロール云々と言って、唯々諾々と従うだけだった上層部に対する不審感の影響が出ていた。

 

 今は真志妻大将と彼女に賛同する、かつて日蔭者扱いだった艦娘に寄り添う考えを持った者達が、彼女に引き立てられ、それなりの立場となってそこそこ力のある派閥を形成しているからこそ、不審はまだ完全には不信となっていないだけだった。

 

 

 誠に真志妻大将の存在が、日本と艦娘をギリギリの所で繋ぎ止めているのだが、昨今の情勢から鑑みるに、政府はこのことを認識していないのだろう。

 

 でなければ真志妻を引き摺り降ろそうとする動きは見せないだろう。

 

 

 真志妻がいなくなれば亀裂は決定的なものとなり、もう後戻りが出来無い破断となるのは疑いようがない。

 

 

 その先にあるのは双方にとって望まない悲劇が訪れるだけだ。

 

 

 そうなるくらいならば、いっそ深海棲艦による支配を受け入れた方がまだマシかもしれないと、霧島(キリシマ)は思ったのだ。

 

 真志妻がその気ならば、大半の艦娘はそれを受け入れる可能性が高い。

 

 艦娘だってこの戦争に嫌気が差してきているのだ。

 

 終わりの見えないもの程、当事者にとってストレスの溜まるものはないのだが、本来は当事者であるはずの大半の人間達は、艦娘達に戦いを任せてしまっている影響からか、そして戦線が国土から離れた所で一応は安定しているからか、当事者意識が薄らいでいる様に思える。

 

 ならばここで“当事者としての現実”を突き付ける、一種のショック療法でも受けさせてもいいんじゃないかとの思惑が、霧島(キリシマ)にはあった。

 

 だが───

 

 

「(ま、余りにも劇薬に過ぎる気がしなくもないけどね)」

 

 

 ───という考えもあった。

 

 

 薬には副作用、副反応が付き物だ。

 

 それが劇薬の類いならば、尚更気を付けなければならないのである。

 

 

 真志妻ならば艦娘にとって益あるものと判断したのならば、率先して深海棲艦達に白旗を掲揚し、自ら降伏文書に調印しに行こうとするだろうが、問題は艦娘、特に古参組だ。

 

 

 1()0()()

 

 

 この10年という月日が重石なのだ。

 

 

 10年の間に流れた血の量は決して少なくはない。

 

 

 あの時、古参組の代表格とも言える真志妻の副艦である長門は、彼女の漏らした休戦の考えに反発した。

 

 

 最終的に一応の納得はしたものの、他の古参組全員が納得するかは分からない。

 

 人間への蟠りや鬱憤が年々蓄積しているとはいえ、だからといって深海棲艦に愛想を振りまいて手を取り、受け入れられるという訳では無い。

 

 

 だからこそ、段階を踏む必要性があるのだ。

 

 

 これがその第一歩である。

 

 

 本来ならば自分が赴いた際に確認したかったこと、深海棲艦達に日本本土を占領する意志が有るのか?無いのか?

 

 

 直接問い質しても、おそらく()()()()()()()だけだろうから、最初からアンドロメダにカマをかけるつもりでいた。

 

 それがこの様な形で、なし崩し的に前倒しとなったが、まぁ許容範囲だ。

 

 そしてカマをかけた甲斐があった。

 

 

 画面に映る泊地棲姫の表情は、アンドロメダが語った日本侵攻プランに興味を示すこと無く、余り変化が無かったのだが、その後に語った様々な問題点などから現実的では無いとのアンドロメダの言葉に、ほんの一瞬だったが、ホッとしたかの様な表情になったのを、霧島(キリシマ)は見逃さなかった。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 こちらにそう思わせる為の演技かもしれないが、こちとらもうじき40近い艦齢(年齢)になるんだ。

 

 その間に蓄積された経験は伊達ではない。

 

 10年そこらの若造とは、見てきた修羅場の数が違うんだよ。

 

 

 実際、霧島(キリシマ)の読みは当たっていた。

 

 

 そしてそれは土方も同じである。

 

 

 同時にアンドロメダの“今”も知りたかった。

 

 

 アンドロメダがどの様に考え、その自身の考えに対しての妥当性をちゃんと理解しているのか?

 

 

 だからこその、彼女を試す為の“茶番”だったのだ。

 

 

 そしてそれによる土方の評価だが、まぁ、及第点か…。というものだった。

 

 まだまだ粗はあるし、未熟ではあるものの、今はこのくらいが妥当な所だろうと、心の内にある採点表に書き記した。

 

 元々が艦隊総旗艦を務めていただけに、そのポテンシャルと伸び代はかなり高いだろう。

 

 

 この時の土方の目は、間違い無く指揮官というよりも教育者としての目だった。

 

 少なくとも、彼女は不安定なところはあるものの、“現実”に則する考え方に努めようとしている様に思えた。

 

 これから更に経験を積ませて丁寧に磨けば、光り輝く宝石に成り得る逸材だが、それはまた追々ということで、今はまだそこまで無くても大丈夫だと判断し、本題である休戦についての話を切り出した。

 

 

「とはいえ、このまま戦い続けても得られるモノは少ない。

 

 そもそもの兵力差から言っても、それを覆すのは並大抵のことでは出来無いし、例え出来たとしても、その後が問題だ」

 

 

 これは事実である。

 

 実際、西太平洋に展開する深海棲艦の兵力は日本が保有する全艦娘だけでなく、太平洋全域に展開する各国の艦娘全て合わせてもなお、深海棲艦の方が遥かに上回っていた。*4

 

 各国はこの10年、少しでも兵力差を縮めるべく、国の総力を上げて艦娘の数を増やしたが、それもそろそろ限界だった。

 

 

 増えた分の維持にだって相当な予算と各種資源、糧食が必要であり、その負担が大変なのだ。

 

 

 そして日本は経済に比して既に過剰建造状態であり、その維持のための負担で国の経済は限界を通り越しており、破産(デフォルト)寸前な有様だった。

 

 

 真志妻の改革には、それをどうにかする側面もあった。

 

 今もし国が倒れたら艦娘達(みんな)が路頭に迷うことになる!と言いながら鬼気迫る顔で必死になって駆け回っていた姿が見られた。

 

 余談だが、過剰建造によって鎮守府でも維持が出来なくなって闇に流していた実態が明らかになり、激怒した真志妻が大規模な取り締まりと粛清に乗り出すことにもなったが、それはまた別の話。

 

 

 兎も角、真志妻の大鉈を振るった改革によって延命はしたものの、それももう限界に近付いていた。

 

 

「どこかで手打ちにしたいと言うのが、日本海軍艦娘部隊の責任者、“総提督”真志妻亜麻美大将の本音だ」

 

 

 ここで一息入れ、この場で最高位の深海棲艦である泊地棲姫に真剣な眼差しを向けた。

 

 

「彼女は、真志妻大将は貴女達深海棲艦との休戦を望んでいる」

 

 

 真志妻との義理を果たすべく、そして沖田との約束を果たす為に、土方達は一歩を踏み出した。

 

 

*1
結果は相手が降伏という概念が存在しないガトランティスであったが為に、悲惨なものとなってしまったが。

*2
これはAL/MI作戦大敗後に真志妻が艦娘部隊の総司令官に就任するまで続き、深海棲艦をして「何を仕出かすか分からない日本」と言わしめることとなる。

*3
実際、間違いではない。

*4
畑仕事などの生産業に精を出している深海棲艦も含む。






 気が病んでるといつも以上に文章が思い浮かばない…。

 兎も角、これから休戦に向けて(裏で)動き出します。


 …原作ゲームも今月で気付けば早10年か。

 書いてて思ったけど、10年も戦争出来るのだろうか?

 リアル世界情勢見ていると、無理っぽいなぁと思う今日此の頃。
 

 戦争は通常の外交交渉だけでは解決出来無い、国家間の政治的妥協の探り合いを兼ねたチキンレース。国の限界を超えてまで戦うのはナンセンス。

 特に国土が戦場となり荒廃している状態ならば、或いは完全に外国頼みな状態ならば、例え如何なる手段を用いて勝利しても、待ち受けているのは破産と破滅。

 戦後に待ち受けるは笑顔をふりまき紳士顔していた支援者(悪魔達)によるパイの切り分け。

 事実上の国家と民族の緩やかな解体。

 遺るのは薬物乱用者の様にあらゆる物を蝕まれ、ボロ雑巾と化した姿。

 それでも構わないと言うのなら、一時の栄光に目を眩ませ、踊らされながら痩せ衰えた身体で十三階段を登ればいい。




初期の艦娘運用について

 人類の水上戦力だけでは群がる深海棲艦の大群に対して相性が悪く、特に近付かれたら成す術が無かった。

 かと言って最初の頃は艦娘の人数も少なく、彼女達だけでの作戦行動は負担も大きい上に戦線の維持も困難だった。

 また現行のC4ISなどといった戦術データリンク・システムとリンクさせようにも、従来の歩兵携行型の機材では耐久性に難があり、試作された専用機材は耐久性と引き換えに大型化が避けられず、艤装との干渉という問題や稼働に必要な電力を確保が困難*1ということもあり、稼働している衛星やAWACSとリンクしての有機的な運用が出来ていない。*2

 故に、諸兵科連合の様に互いに互いを補う形での戦術が、この頃は一般的であった。

 従来の水上艦艇は通信中継と索敵、そして交戦想定海域までの移送、その後は艦娘が前方に展開して交戦。

 時には艦艇からの火力支援や、ヘリを展開しての負傷艦娘の収容や後送も行なっていた。

 しかし深海棲艦が艦艇から艦娘を引き剥がして各個撃破を狙う様になってからは、従来型の艦艇では一度に投入出来る艦娘の数や運用能力に限界になり、専用運用艦の建造や従来型強襲揚陸艦の大改装を施す様になった。


用語解説

C4IS

 Command, Control, Communications, Computer & Intelligence System「指揮・統制・通信・コンピュータおよび情報システム」の略称。

 軍隊における情報処理伝達ネットワークシステム。


AWACS

 Airborne warning and control system, 早期警戒管制機、空中警戒管制機もしくは空中警戒管制システムと呼ばれる軍用機。

 購入単価も運用コストも滅茶苦茶高い。

 機体をサイズダウンさせたAEW&C Airborne early warning and control, という機体もある。日本語訳はAWACSと同じである。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

*1
専用小型バッテリーの開発失敗、艤装からの電力供給は艦種による発電量の差や、そもそも艤装の統一性が同型艦であってもほぼ皆無な上に、同一個体でも改装後はワンオフモデルの完全専用装備化するといった影響もあり、専用コネクターツールの開発に難航、最終的に断念された。

*2
開発は現在も継続されているものの、実用に耐えられる物の完成にはまだ成功していない。



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第46話 Towards the armistice

 休戦に向けて。


 遂に艦隊これくしょんも10年を超えましたねぇ…。


 

 

「«その話、(me)が聞いちゃっても良かったの?»」

 

 

 Iowa(アイオワ)が困った様な表情を浮かべながら、土方に問い質した。

 

 

 確かにIowa(アイオワ)と土方達はかつて共に戦った間柄であり、土方はその時の上官だったし、特に霧島(キリシマ)とは親友と言える仲ではあるものの、それはそれである。

 

 

 彼女は日本の同盟国アメリカに所属する艦娘である。

 

 

 ましてや今の彼女はそのアメリカの上院議員であり、次期大統領候補という、れっきとした政治家なのだ。

 

 彼女自身、誰よりもアメリカの為に働いている愛国者だと自負している。

 

 その彼女からしたらこの話は、日本が深海棲艦に対する戦争から事実上離脱することを意味し、今まで分散していた太平洋方面における深海棲艦の圧力がアメリカへと集中することとなり、西部沿岸地区全域に対する深海棲艦の脅威が今以上に増すことに繋がる。

 

 

 国家安全保障の観点から、見過ごす訳にはいかなかった。

 

 

 それ以前に、話の内容からしてこれは明らかに()()()()()()()()()()()()()だと確信している。

 

 

 対米依存対米追従主義の日本政府(Japanese government)が、アメリカ(states)を差し置いて(にお伺いを経てずに)深海棲艦との休戦に乗り出すとは、到底考えられない。

 

 これは間違い無く日本軍(Japanese army)、と言うかさっきのAdmiralヒジカタの言葉から確実に“総提督(General Admiral)”マシツマによる、日本政府(Japanese government)を無視した完全な独断専行だろう。

 

 軍隊(Army force)政府(Government)を蔑ろにして勝手に動く事ということは、マシツマは軍事(Military)クーデター(coup)決断(decision)したのだろうか?

 

 

 真志妻亜麻美の為人をある程度は把握しているIowa(アイオワ)は、彼女がまさかそんな()()()()()ことをするだろうか?という疑問も持ちながら、そう考えた。

 

 

 真志妻は一部の例外を除いて人間というものに、とことん興味が無いことは、ある程度の付き合いがある者達にとってはある種の常識である。

 

 そんな彼女が軍事クーデターで政権を奪取するという考えに至る事に、違和感しかない。

 

 何故ならば政権の座に就くと言うことは、興味の無い国民を養うための政治をやらなければならない事になるのだが、それを蔑ろにするという行為は、彼女が人間の中でも特に蛇蝎の如く毛嫌いする、今の政治屋連中と変わらないということになる。

 

 正直、彼女に政治家は向いていないと言うのが、彼女を知る者達の共通認識だった。

 

 

 しかしそれは逆に、彼女がそう決断しなければならない程、日本の内情がよろしく無いことの表れなのかもしれない。

 

 一時的とはいえ日本に在席していた彼女にとって、日本は第二の故郷と言える程の大切な場所である。

 

 今の自分があるのも、日本での貴重な経験があったお陰であるとの思いが強い。

 

 自分達の政府と同様に、日本政府がポンコツなのは今に始まったことではないが、クーデターという“禁じ手”に近い最後の手段を真志妻が決断しなければならない程、追い詰められているのかと思うと、複雑な気分にならざるを得ない。

 

 

 アメリカ(同盟国)の政治家として止めるべきなのだろうが、もし自身が同じ立場ならばと思うと、その決断に理解も出来てしまう自分もいるのだ。

 

 

 そんな親友の葛藤を察したのか、霧島(キリシマ)が微笑みを浮かべると「多分、あんたは私達がクーデターか何かをやらかすって思ったんだろうけど、そいつはぁ杞憂ってヤツさね」と告げた。

 

 

「あれはクーデターやるくらいならば、日本海シーレーン防衛の要衝である対馬を新ロシア連邦(NRF)にくれてやるって考えだ」

 

 

 いや、それもそれで大問題な気がするのだけど…、という顔になるIowa(アイオワ)を無視して、霧島(キリシマ)は続ける。

 

 

「何より問題なのは、今のこの国は新ロシア連邦(NRF)との貿易や支援で辛うじて延命している状態だからね、そこに親露派筆頭と陰口を叩かれている真志妻が政権を取っちまったら、アメリカ(そちら)は面白くないだろう?」

 

 

 暗にアメリカが何かしら仕掛けてくる可能性を指摘されるが、Iowa(アイオワ)は何も答えなかった。

 

 

 そもそもIowa(アイオワ)は真志妻を親露とは思っていなかったし、艦娘を狂愛する変質者な一面はあるものの、彼女のことを現実主義者(realist)であると見ていた。

 

 彼女が大将に昇進して日本艦娘部隊の司令官に就任した当時、日米両軍によるAL/MI作戦とハワイ奪還作戦の両方が失敗した直後であり、太平洋の制海権がほぼ深海棲艦の物となって、今まで頼みにしていたアメリカとの連絡線が寸断された結果、日本が頼れたのは新ロシア連邦(NRF)以外に無かった。

 

 

 この頃の日本は人口が900万人を大きく下回り、パンデミック以降からの混乱が長引いて経済は低迷続きで、国力は疲弊していた。

 

 それに加えて、そんなボロボロな国力を無視した無理な艦娘の大量建造による大軍拡と、向こう見ずな戦争戦略によってただでさえ厳しかった財政をより圧迫し、経済、延いては国民への負担はとっくに限界を超えていた。

 

 そこに来て日米連絡線の寸断による日本の孤立化は、資源やその他諸々を海外に依存している日本にとって完全な死活問題であり、報道管制や情報操作でどんなに抑え込んでいても、人の口に戸は立てられぬという言葉が示す様に、独自の情報網を持つ卸業者達による売り渋りなどによる、生活物資などの急激な高騰も相まって混乱は国民の間で瞬く間に波及した。

 

 

 隣国中国は中央が核攻撃で消滅して以降、未だに内戦状態であり、他の大陸側のアジアの国々もそれに巻き込まれて混乱状態が続いており、フィリピンを含む島国は深海棲艦の勢力圏下で国家としては滅亡していた。

 

 

 残されたのは、新ロシア連邦(NRF)以外に無かった。

 

 

 だが当時の日本政府は今までの反ロシアプロパガンダが祟って、その現実を中々受け入れようとはせず、真志妻が何度も「このままだと遠からず干上がる!」と談判しても動こうとしなかった為、業を煮やし直接殴り込みを掛けてケツを蹴り飛ばしたことで漸く重い腰を上げたということがあったのだが、その際のやっかみから「真志妻はロシア贔屓」「親露派」と陰口を叩かれる切っ掛けとなった。

 

 

 それに乗っかかったのが、アメリカの極左リベラル政権だった。

 

 

 アメリカの歴史は、モンロー主義からの脱却以降は介入の歴史と言っても差し支えがないほど、世界中で“やらかし”てきた歴史で彩られている。

 

 特に今現在アメリカの政権を牛耳っている連中は、伝統的に露骨なまでにロシアを毛嫌いしており、世界中で親露政権や勢力を潰す介入工作を繰り返していたという実態がある。

 

 それを鑑みたら何かしらの介入に出ることを否定は出来ないのだが、同時に下手すると介入が逆効果になるリスクが高く、例えば日本の艦娘が怒ってN()R()F()()()()()()()リスクの可能性を考えたら、肯定するのも微妙なのだ。

 

 実際、艦娘の新ロシア連邦(NRF)への亡命は、()()()()()()()()()()()()()()、有り得ない事では無いのだ。

 

 太平洋における両国の軍事バランスから見たら、日本の艦娘が新ロシア連邦(NRF)へと合流する事態だけは避けたい。

 

 最悪、これを機に新ロシア連邦(NRF)が日本を完全に自分達の勢力圏に組み込もうとする動きを見せないとも限らないし、今の日本に新ロシア連邦(NRF)をマトモな手段で跳ね除ける力は、軍事的手段も含めて無かった。

 

 

 そしてそれは今のアメリカにも言えることだ。

 

 

 政治的判断で留め置かれているだけの、満足な補充や補給が成されていない在日米軍や日本に取り残された第7艦隊残余の戦力は当てにならず、第3艦隊を始めとした本土のインド太平洋軍本隊の派遣や軍事支援を行なおうにも、太平洋の制海権は深海棲艦が握っており、途中で襲撃されて日本に着く前に海の藻屑となる公算が高かった。

 

 

 現状の極東連邦管区だけでは荷が重いが、新ロシア連邦(NRF)が国を上げての本腰を入れた動きに出られたら打つ手がない。

 

 今は東欧紛争の戦後に西側から押し付けられた、戦乱で荒廃した東欧の再建に注力しており、そんな余力は無いだろうが、それでも当初の予想よりも再建のスピードが早く、それに対してアメリカは戦前から続く極左の理想を追求し過ぎた滅茶苦茶な政治の自爆によって急速に衰退し、両国の国力差は次第に縮まってきており、時間は新ロシア連邦(NRF)に味方しているという状態だった。

 

 

 常識的に見たら“詰み”の状態だった。

 

 

 だからこそ、アメリカには“焦り”があった。

 

 

 その焦りから、信じられない暴挙に出る可能性を、Iowa(アイオワ)は危惧していた。

 

 そして祖国は既に真志妻の失脚を画策しているらしい動きを見せている。

 

 

 恥も外聞も無い、現状認識や未来予想すら覚束無い、その場しのぎの思い付きでより滅茶苦茶にするのが今のアメリカであり、そのせいでかつて自由を尊び、世界最強の国力と軍事力を誇って世界各地にその戦力を投射出来たアメリカは、既に見る影もなく落ちぶれてしまっていると改めて思い知ることとなり、Iowa(アイオワ)は苦虫を噛み潰したような思いだった。

 

 

「正直、今のこの国は戦争なんて“贅沢”が出来る余裕なんてとっくに無いんだけどね、それを新ロシア連邦(NRF)からの支援(カンフル剤)でなんとか戦えているから、どうも勘違いしている馬鹿なヤカラが多い」

 

 

 苦り切った表情の親友を傍目に見ながら、肩を竦めて語る霧島(キリシマ)だが、こればかりはもうどうにもなりゃしないよ。と言わんばかりの達観した表情をしていた。

 

 

NRF(連中)からしたら、かつての東欧紛争で“義援”や“人道”の錦の御旗を振り翳しながら、軍資金(カネ)をダバダバ流し込んで戦争の長期化と泥沼化に尽力していた日本に対する“意趣返し”も兼ねているんだろうけどね」

 

 

 どうにも日本人は“人道”などのその手の美辞麗句に弱く、その裏側まで追求しようとしないから、どの様な用途で、正しく使われているかも分からずに、ただ何と無く、人助けになるかもと漠然とした考えでコロッと信じ込まされて簡単にカネを無心してしまうものだから、利用されやすい。

 

 無心したカネの大半は各種中抜きと横領で目減りし、戦争継続に使用され、本来必要としている民衆へは雀の涙にも満たない僅かなものしか届いていなかった。

 

 結果として東欧における紛争は長期化し、民衆の艱難辛苦は筆舌し難いものとなった。

 

 

 “善意には裏がある”、“世の中善意だけでは成り立っていない”、“鵜呑みにせず、疑い、調べることが肝要”。

 

 

 世知辛いが、正直者や良い子ぶりたい者ほど食い物にされ、後々に大損をするものなのだ。

 

 

「とはいえ、NRF(連中)からの支援や交易が無ければ生活すらままならないし、艦娘達の給与だって覚束無くなる

 

 これだって新ロシア連邦(NRF)経由で入って来てるんだ」

 

 

 そう言って懐から愛用の葉巻を取り出すと、ペン回しの様に指先でクルクルと回しだした。

 

 

「食糧、嗜好品、雑貨、燃料、それらありとあらゆる物に大なり小なり新ロシア連邦(NRF)が関わっている」

 

 

 それが実に厄介な問題でねぇ…、と溜め息を吐きながら語る霧島(キリシマ)から、土方にバトンが譲られる。

 

 

「新ロシア連邦が休戦の動きを見て、支援だけでなく交易を打ち切る可能性があると見ている」

 

 

 これは十分に有り得ることだった。

 

 

 彼らが日本による深海棲艦との休戦をどの様に捉えるかにもよるが、肯定的に捉えるか様子見をしようと現状維持とする可能性はあるものの、最終的な決定権は彼らにあり、深海棲艦との休戦を良しとせずとの結論を下し、打ち切りを突然表明する可能性が常に付きまとい、予断は許さない状態となる。

 

 

 進むも地獄退くも地獄とはよく言ったものだ。

 

 

 戦い続けても終わらせても、待っているのは破滅とは、笑うに笑えない。

 

 

 だからこそ、()()()()()()()()()()()と土方と霧島(キリシマ)は判断していた。

 

 

 裏ではこっそり交渉を進めて戦いを終息させ、表向きは交戦状態である様に見せ掛けの戦闘を演出することで、世間をだまくらかそうと考えたのだ。

 

 

 つまり仲良く喧嘩しな状態、一種のファニーウォー(まやかし戦争)状態にして可能な限り時間を稼ぐ。

 

 

 根本的な解決には程遠いが、今の日本にはそれしか方法が無いまで追い詰められていたし、それを認識している者も限られていた。

 

 

「私達から持ち掛けておきながら、厚かましいのは重々承知の上でお2人に、特にIowa(アイオワ)さんにお願いしたい」

 

 

 土方は泊地棲姫とIowa(アイオワ)の2人を見据えると続きを語る。

 

 

「この休戦に関する案件は、当事者以外では可能な限り秘匿しなければならないと私達は考えています。

 

 出来ればこのことは信頼できる、機密保持に不安の無い者以外には他言無用としていただきたい」

 

 

 そう言うと土方は頭を下げた。

 

 

 それに霧島(キリシマ)が補足する様にある情報を開示した。

 

 

「実際、新ロシア連邦(NRF)の目は鋭く、耳は敏感だ。

 

 ここだって連中の手が届いてないわけじゃない」

 

 

 懐から真鍮製の小さな円筒状の物を取り出した。

 

 

 それを見た海風(ウミカゼ)は得心した。

 

 何故霧島(キリシマ)の体から葉巻の匂いだけでなく、火薬が燃焼した時に出る匂い、()()()()()()()()()()と。

 

 

 それは日本が正式採用していたドイツ製H&KのSFP-9が調達困難となった代替として採用した、新ロシア連邦(NRF)からの支援物資として送られてきた、SFP-9と同じ世界で最もポピュラーな拳銃弾の9×19㎜パラベラム弾を使用する、新ロシア連邦(NRF)軍も正式採用しているКала́шников Концерн(カラシニコフ・コンツェルン)の拳銃、Пистолет Лебедева(レベデフ・ピストル)とは違う、一部の艦娘や特殊作戦部隊用に配備しているЦНИИТОЧМАШ(ツニートチマッシ)Udav(ウダフ)拳銃で使用されている9×21㎜ギュルザ弾の()()()だ。

 

 

「ちょいと脅しを掛けておいたけど、あの()()()()()のことだからねぇ、一応みんなも気を付けておいてくれよ?」

 

 

 そう言って周りを見渡す。

 

 パパラッチという言葉で、誰か分かった者は「あぁ~~…」といった呆れた顔になった。

 

 

「ああ、一応言っとくけど、アレは別に直接的な間諜って訳じゃないから、あんまり邪険にしちゃいけないよ」

 

 

 あれ経由で漏れているのは間違いないけどね。と付け加えた。

 

 あのジャーナリスト気取りは興味を引いた情報なら、あの手この手で集めるものの、どうにも脇が甘いようで、集めた情報の管理保全がちと心許無かった。

 

 で、どうもそこから漏れ出したとか思えない情報が幾つか見付かったりもしているのだが、かと言って罰するつもりは今の所は無い。

 

 “バカとハサミは使いよう”という言葉があるように、虚実混じえた情報で混乱させる為に敢えて放置していた。

 

 とはいえ、今回の件に関しては彼女に下手に首を突っ込まれたら厄介な為、釘を差した。

 

 だからこそ、先程葉巻を吸いに行った際に取っ捕まえて首根っ子を押さえながら喫煙室に押し込めてとっちめた。

 

 その際に持っていた()()()()()を見せしめとしてUdav(ウダフ)でふっ飛ばした。

 

 …壁に穴を開けてしまったため、後で修繕の手続きをしなければならないが。

 

 

 兎も角として、これからは情報の取り扱いに一層気をつけなければならないとの注意を促した。

 

 

 Iowa(アイオワ)としても、内容が内容なだけに、例え仲間である保守党内や支持層である軍であったとしても、下手に話せるものではないことは理解しているし、特に例え身内でもある艦娘でも話すわけにはいかないと判断した。

 

 これに関しては日本の艦娘と同様のことであり、国籍関係無く、どこの艦娘にも言えることと言える。

 

 また、今ここにいる自身のパートナーとも言えるArizona(アリゾナ)にも、今は他言無用にする様にと言い渡し、Arizona(アリゾナ)もそれに同意の意を示した。

 

 

 ここで泊地棲姫が口を開いた。

 

 

「«…私の一存だけでは決めかねますので、一度、私達の代表者間で協議に掛けたいと思います。、少し席を外してもよろしいでしょうか?»」

 

 

 一応、時を同じくして姫達によるなにかしらの会合が行なわれている事を聞いていたので、了解との答えを返した。

 

 

 

 

───────

 

 

 

「…人間って複雑ね」

 

 

 泊地棲姫からの報告を受け、何とも言えない複雑な表情を浮かべながら呟く飛行場姫に、同意するかのように今回の会合である“円卓”に出席している周りの姫達も頷く。

 

 

 最初秘密裏の休戦と聞かされた時、それは一体どういうことかと訝しんだ。

 

 日本とは無茶苦茶で何をしでかすか分からない所はあるものの、それでも強大な軍事力を誇る強国であると今までは見てきたのだが、蓋を開けると他の大国に依存しなくてはその軍事力だけでなく、自らの生活すら儘ならない歪な国であり、それが足枷となって、どんなに苦しい現状であったとしても、自らの意思だけでは自由に出来ない国という実態を突き付けられた。

 

 

 単純に感情云々でということだったのなら、まだマシだったが、裏事情の複雑さには辟易するしかないし、依存し過ぎると依存先に足元を掬われる事に繋がると思うと、ゾッとした。

 

 自分達だって食糧の生産や販路の開拓で少なからず人間達に依存している一面がある。

 

 

 だが依存し過ぎると付け込まれる要因になると、今回のことでハッキリとした。

 

 

 本当に人間達の社会とは複雑怪奇であるとしか言えない。

 

 

 しかし、だからかと言って今更距離を置く訳にもいかず、これからは一定の距離感を保つことに注意しなければならないとの認識を共有することとした。

 

 

 それは兎も角として、問題は持ち掛けられた休戦に関してどうするかであるのだが、これに関しては紛糾──することなく、あっさりと了承する方向性で纏まることとなった。

 

 

 彼女達だってこの戦争に疲れてきているのだ。

 

 

 世界中に散らばる、今なお増え続けている数百万を遥かに超える同胞(はらから)達を食わせていくための食糧生産、そして増産の為の開墾もしながら戦いを続けるのは、流石にもう限界に近付いて来ていた。

 

 戦いによる負担が少しでも軽減され、前線に展開している同胞(はらから)達を少しでも後方へと戻すことが出来るのであれば、例え一時的であっても価値あるモノであると判断したのだ。

 

 それにもしかしたら、喫緊の問題として頭を痛めていた、アンドロメダ姉妹に関することの解決にも繋がるかもしれないとの淡い期待もあったし、何よりも彼女が現れなければこうまで話は進むことはなかったのだ。

 

 その感謝の意も込めて、彼女の同胞(はらから)である、嘗ての世界の仲間達と再開させてあげたいという気持ちも、彼女達にはあった。

 

 

 これからは日本、いや正確には日本軍とだが、休戦に向けての交渉に移ることとし、またこのことでより一層緊密に各方面の連絡を取り合い情報を共有することを決定して、今回の“円卓”はお開きとすることとなった。

 

 

 

 今回のことがこの戦争の方向性に大きな変革を齎す、所謂分水嶺になる事は間違い無いだろうが、それが良い方向に向かうか、悪い方向へと向かうかは、今の所まだ誰にも分からない。

 

 

 





 戦争遂行に他国の支援や介入が有ったりすると、その国の意向や影響力に逆らえなくなったりするのはよくあること。


 取り敢えず深海棲艦の主流派も休戦に前向きな姿勢となります。

 次からは飛行場姫も合流しての話し合い。

 Iowa(アイオワ)達は一旦展望を見極めるために様子見。
 てか実はアメリカの法的に今やってることはマズい寄りのグレーゾーンな可能性があったり…。(小難しいので詳しくは取り上げませんが…、というか私の能力的に無理…)



解説

モンロー主義

 所謂、孤立主義。

 ざっくりと言うと、ヨーロッパのやることに介入しないから、そっちも介入しないでね。という考え。


9×21㎜ギュルザ弾

 ロシアの防衛関連企業ЦНИИТОЧМАШ(ツニートチマッシ)が開発した対ボディーアーマー用の拳銃弾。


Udav

 上記の9×21㎜ギュルザ弾を発射可能なЦНИИТОЧМАШ(ツニートチマッシ)が開発した拳銃。

 グリップ形状が9×19㎜パラベラム弾を使用する拳銃よりも太く、手の小さい人には慣れが必要と言われている。

 本作に置きまして、日本軍の特殊部隊を中心に少数が配備されている他、一部の艦娘にも装備されていたり個人的に装備している艦娘もいる。霧島(キリシマ)は後者で、他に斉藤も装備している。
 なお、一般的な部隊ではまだ使用可能な少数のH&KのSFP-9他、SFP-9と同じ9×19㎜パラベラム弾を使用するКала́шников Концерн(カラシニコフ・コンツェルン)の拳銃、Пистолет Лебедева(レベデフ・ピストル)を装備しており、春雨(ハルサメ)達もUdav(ウダフ)を装備する時もあるが、こちらを装備している機会が多いとされている。()()()()()()()()


ЦНИИТОЧМАШ

 Центральный Научно-Исследовательский Институт ТОЧного МАШиностроения(精密工学中央研究所の意)の頭字語。TsNIITochMash(英)

 ロシアの防衛関連企業で、国営企業Ростех(ロステック)(Государственная корпорация по содействию разработке, производству и экспорту высокотехнологичной промышленной продукции Ростех、先進技術工業製品の開発・生産・輸出促進のための国営企業 ロステックが正式名称)の関連企業の一つ。

 ロシアの将来歩兵システムРатник(ラトニク)(戦士)の開発に携わっている他、主な製品は以下の通り。

 SR-1M SR-2 SR-3 9A-91 AS Val VSS PSS PKPペチェネグ KS-23 APS水中銃 2S9ノーナ-S 120mm自走砲  など。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第47話 Counterpart


 カウンターパート、同格対応相手。

 さぁ、霧島(キリシマ)の派遣に向けて無い知恵を絞るぞーっ!!

 今回少し書面的なものを試みました。


 後最後に新キャラが出ます。


 

 泊地棲姫は会合の結末を土方達に語った。

 

 

 提案された休戦について、そしてその切っ掛けを図らずも作ってくれた恩人であり、掛け替えのない同胞(はらから)と言ってもいい、アンドロメダ姉妹の恩義に報いるためにも、私達は受け入れる方針であると告げた。

 

 

 拍子抜けするとはこの事であると言える程の、トントン拍子に話が進むものだから、土方達も若干戸惑うこととなった。

 

 しかし日本の内情を教えてもらった見返りとして、何よりも互いをフェアな立場にしたいという泊地棲姫によって語られた、深海棲艦の内情。

 

 俯瞰的に見たら優勢であると言えた深海棲艦であっても、その内情は苦しいものであった事が、この時初めて人類側が認識した瞬間である。

 

 こちらが苦しい時は相手も苦しいとはよく言ったものである。

 

 

 とはいえ、それらを加味したとしてもなんの慰みにもならない。

 

 

 この戦争、どちらが先に倒れるかというチキンレースの様相を呈しているが、率直に言って政治的自滅を繰り返している今の人類側が不利なのは覆しようが無いし、何よりも身内である人類同士で戦前からの対立を引き摺り、足の引っ張り合いに興じている時点で、お話にならない。

 

 寧ろ今までよく倒れずに持ったほうだと言えるが、その分蓄積されたダメージも大きく、どこかが崩れた時点で連鎖的にドミノ倒しの如く次から次へと倒れていくことになるだろう。

 

 深海棲艦が理性的な存在であったことが、幸いであったと言える。

 

 もし深海棲艦がただ人類を脅かし、攻め滅ぼすだけの存在だったとしたら、良くて共倒れの未来しか無かった。

 

 さらに何らかの理由でアンドロメダの理性の箍が外れ、精神が壊れて深海棲艦以外は眼中に無い存在となっていたとしたら、なんの迷いも無く波動砲の砲口をこちらに向け、躊躇無く引き金を引いて来ていただろう。

 

 

 そんな最悪な未来の可能性と比べたら、現状はまだ幸運であった。

 

 

 そうこうしていると、飛行場姫がこの場にやって来た。

 

 

 その姿を確認した土方達の間で緊張が走る。

 

 

 陸上型深海棲艦の嚆矢とされる存在、飛行場姫。

 

 

 その姿を人類側が初めて正式に認識したのは、南方作戦の頃であると言われている。

 

 

 厳密にはかつて人類連合艦隊が大敗した、所謂“ソロモン海の悲劇”の際にその存在が示唆されていた。

 

 連合艦隊が既に展開が確認されていた、深海棲艦の空母艦隊からとは明らかに違う航空攻撃を受けたこと、また衛星が島から多数の航空戦力が出現する所を捉えていたことにより、陸上で活動可能な深海棲艦が存在する事を示唆していたが、その時は姿そのものを確認することは叶わなかった。

 

 

 そして人類側が艦娘を伴って再び南方海域へと進出した時に、とある島でその姿が艦娘達によって目撃され、撮影に成功したことによって人類もその姿を認識することとなった。

 

 

「美しい…」

 

 

 この言葉は初めて飛行場姫と対峙した、当時世界最強と呼ばれた日本海軍空母艦娘部隊の誰かが思わず漏らした言葉とされている。

 

 当時の常識では有り得ないとされた規模の航空戦力をたった1人で完璧に操り、日米両軍が投入した空母艦娘部隊の艦載機群を質と量の両方で圧倒し、最後まで航空優勢を譲らなかった。

 

 その余りにも完璧な指揮ぶりから、まるで音楽演奏の指揮者の様だったとされ、またその飛ばし方を見た艦娘はそれだけで自分達との力量差を痛感させられ、思わず先の言葉を呟いたと言う。

 

 

「ヤツにはこの装備では勝てない…っ!」

 

 

 当時連戦続きでその損耗の補填に比重が置かれ、また戦力増強の為の建造が優先されていたここともあって、そちらへと資材が集中的に回され、新装備の開発と更新が疎かになっていたことも劣勢の要因であった。

 

 それでも一部の艦娘は装備の更新が成されていたものの、それは全体から見たらほんの極一部であり、殆どの艦娘は更新が成されていたかった。

 

 また最初期の反攻から戦い続けていた古参組(ベテラン)を中心に、使い慣れた現行装備を変えたくないと考える者も少なくなかったということもあり、初期装備と大差が無いままだった。

 

 

 今まではそれでなんとかなっていた。

 

 

 それはまさしく“慢心”としか言い様がなく、その代償を飛行場姫は見事に払わせることとなった。

 

 

 結果として航空優勢の損失から、戦況は一気に深海棲艦側へと傾き、後方に控えていた水上艦艇からミサイルによる飽和攻撃を実施したものの、その殆どが射線上に展開していた深海棲艦の艦隊による猛烈な対空砲火の弾幕や、雲霞の如く湧き出る艦載機群によって途中で撃墜されたり、そもそも飛行場姫が島を自由に動き回れるから、漠然と島に撃ち込むだけの目眩撃ち同然だった。*1

 

 

 だがそのミサイル攻撃は深海棲艦の注意を引き付けるための陽動であり、本命は艦娘による夜間殴り込みの直接砲撃作戦だった。*2

 

 

 しかし当時は現在の様な陸上攻撃装備が存在せず、唯一有効であるとされた三式弾も、その殆どが昼間の対空戦闘で射耗しており、なんとか掻き集めた三式弾を殴り込み部隊に持たせたものの、飛行場姫はその部隊からの猛射を耐え抜き、撃破には至らず、手傷を負わせて一矢報いた程度に終わった。

 

 

 南方作戦はたった1人の姫級、飛行場姫の存在によって事実上、暗礁に乗り上げる事となった。

 

 

 またこの時ハワイ諸島失陥の凶報が届いたこともあり、南方作戦は中止となった。

 

 

 しかし、ハワイ諸島の失陥が無くとも、現状の装備では飛行場姫の撃破は困難であるとの結論から、再起を図るために遅かれ早かれ作戦中止の決断が下されていたのは間違いなく、また艦娘達は自分達が如何に今まで慢心していたかを噛み締める切っ掛けともなり、それらを踏まえて「飛行場姫恐るべし」との言葉と共に、飛行場姫は艦娘達にとってある種の特別な意味を持つ存在となった。

 

 

 この当時を知らない、作戦後に建造ないしドロップで顕現した艦娘達も、当時を知る古参の先輩や資料などからその存在を知ることとなり、艦娘の中では最も有名かつ、伝説的な姫級深海棲艦とも言える。

 

 

 そんな飛行場姫が今、モニター越しとはいえ目の前に居るのだ。

 

 

 

 しかし、そんな伝説的存在は、フランクだった。

 

 

 金剛やIowa(アイオワ)程ではないにせよ、なんとも軽い調子で挨拶を交わし、掴みどころが無かった。

 

 これには流石の土方や霧島(キリシマ)も面食らう事となり、調子が狂わされた。

 

 同時に、上手いこと主導権を持っていかれたとも思った。

 

 

「ま、アタシ達としてもこのまま戦いを続けることに疲れて来てたから、あんた達の提案は渡りに船だったってわけよ」

 

 

 先に泊地棲姫も語っていたことではあるが、改めて飛行場姫の口から語られた深海棲艦主流派の総意。

 

 

「でもこちらも全員が全員、それに納得するとは断言出来無いし、賛同してくれた者だって人間達への蟠りが全く無いわけじゃ無いから、その辺りは履き違えないでね?」

 

 

 分かりきったことではあるかもしれないが、一応釘を差す飛行場姫。

 

 ちゃんとした数字は分からないが、数百万を超える同胞(はらから)達の中にはいずれこの決定に反発する者も出てくるだろうし、これを機に離反を決意する者だって出てきても可怪しくはない。

 

 既に少数ながら独自路線を選び、主流派から袂を分かつ形でそれに賛同する者達が集まってグループを作り、離脱して行った一派もいるのだ。

 

 中には過激派だっているが、感情任せの無謀な戦いに身を投じて大概は淘汰されているが、それも今後どうなるかは分からない。

 

 

 だがそれよりも気掛かりなのは、“円卓”の最中に欧州担当の者が「今はまだ言えない」と言っていた事の内容だ。

 

 いずれは語ってくれるかもしれないが、その内容によっては、もしかしたら今の方針が覆るかもしれない。

 

 だがそれはあくまで()()()()()()の話であり、そのことを彼らに語るのはまだ早いと判断し、今は胸の内に納めておくこととした。

 

 

「それで、そちらはこの後はどうするつもりなのかしら?

 

 この通信での口約束を交わして、で終わりじゃないとは理解しているけど」

 

 

 この飛行場姫からの問いに対して、土方は今決定している事を答える。

 

 

「«私と真志妻大将からの新任が厚く、当小松島鎮守府のナンバースリーをそちらへと派遣し、交渉に当たる事となっていました»」

 

 

 そう言いながらその者に纏わる肩書と役職、それに階級を纏めた()()のデータを()()送信し、その内の1つが画面へと映し出されたのだが、送られてきたその文章を見た飛行場姫は僅かに眉を顰めた。

 

 

───────

 

身元照会

 

 氏名、霧野島子(きりのしまこ)

 

 年齢、37歳相当

 

 階級、特務大佐(大佐相当官)

 

 所属、外洋防衛総隊小松島鎮守府

 

 役職、参謀

 

 

備考

 

 金剛型高速戦艦艦娘、霧島のエラー個体。

 

 建造時の何らかのエラーにより足腰に障害があるため、車椅子での活動が必須であり、戦闘への投入は不可能である。

 

 上記の理由から、他の霧島との差別化を図るために霧野島子との個別名を付与し、後方での勤務に当てるものとする。

 

 

 

 以下、軍重要機密と抵触するため、閲覧には海軍艦娘部隊総司令兼呉鎮守府司令、真志妻亜麻美大将外洋防衛総隊司令兼小松島鎮守府司令、土方竜中将、そのどちらかによる承認が必要であり、違反者は軍法に基づき処断されます。

 

 

 

«1»

 

───────

 

 

───────

 

軍機

 

 BBS-555霧島(キリシマ)

 

 金剛(コンゴウ)型宇宙戦艦5番艦

 

 国連宇宙海軍極東管区空間戦闘群連合宇宙艦隊第1艦隊旗艦

 

 南部重工大公社南部造船

 

 西暦2171年進宙、2203年除籍

 

 

補足

 

 西暦2170年代から2201年までの地球軍標準型宇宙戦艦の日本国使用。

 

 姉妹艦BBS-551金剛(コンゴウ)、BBS-552榛名(ハルナ)、BBS-553吉野(ヨシノ)、BBS-554妙高(ミョウコウ)、BBS-556比叡(ヒエイ)、BBS-557日向(ヒュウガ)、その全艦が西暦2191年から2200年に生起した異星人との全面戦争により戦没。

 また各国が所有していた本艦と同系列艦もほぼ全艦がこの戦争により損失したとのこと。

 

 

兵装

 

 光学兵器

 

 各種誘導弾発射システム

 

 

備考

 

 小松島鎮守府司令土方中将他数名と同鎮守府に所属する春雨(ハルサメ)型宇宙護衛駆逐艦艦娘の10名と同郷である。

 

 上記の春雨(ハルサメ)型と同様、顕現が出来た原因は不明。

 

 その特殊性から春雨(ハルサメ)姉妹と同様に真志妻大将の判断により、前項の身元照会とする。

 

 またその見返りとして沿岸防衛装備、光線砲砲台システムの開発に協力を要請。その技術支援により多大な貢献を果たした。

 

  

 

«2»

 

───────

 

 

「…あれ、アンタが関わっていたのね?」

 

 

 胡乱な目付きで霧島(キリシマ)こと霧野島子を見遣る飛行場姫。

 

 

 最初に名前の欄を見た際に、誰のことかと首を傾げたが、続く文面によりそれが今眼の前で飛行場姫の反応を見ながら口元に笑みを湛えている霧島(キリシマ)のことであり、彼女も彼女で苦労してるのね…。と思っていたのだが、文面の最後を見て少々呆れた声となってしまった。

 

 人類側が投入してきた兵器の中で、唯一マトモに同胞(はらから)と渡り合える兵器として警戒されている代物が、まさか未来からの技術支援によって完成した物であったとは、想像の埒外だった。

 

 

 だがそんな飛行場姫の言葉に霧島(キリシマ)は肩を竦める。

 

 

「«わたしゃ天才肌の真田と違って科学者じゃぁ、無いんでねぇ、()()()()()()()()()()()()()しか出来なかったよ»」

 

 

 一瞬、サナダって誰よ?とツッコミかけたが、それよりも一撃で同胞(はらから)を撃破出来る砲の開発に携わっておきながらなにをと思うが、霧島(キリシマ)は苦笑を浮かべ、「«技術レベルの問題から妥協しなきゃならない箇所が山程あってね、それでシステムがやたら複雑になった挙げ句、排熱システムがちょいと能力不足で稼働中に下手するとオーバーフローしてドカンッ!と自爆しかねないんだよ»」と、どこか遠くを見つめながら語った。

 

 

「«まぁ、元からマトモな代物を完成させる気は無かったから、あれはあれで成功っちゃ成功だねぇ»」

 

 

 頭を掻きながらそう言っているが、その真意を掴みかねている飛行場姫はより首を捻る。

 

 

「«…使い勝手を悪くして、争い(war)にあまり利用させないためね?»」

 

 

 ここでIowa(アイオワ)がそう口を挟み、霧島(キリシマ)はその通りだと首肯する。

 

 真志妻からの頼みでもあるのだが、最初から防衛戦以外では使い物にならない物しか渡す気がなかった。

 

 

 信用のならない人間達に誰が好き好んで強力な武器を渡すものか!

 

 

 霧島(キリシマ)自身、その長年の経験から直感的に、この世界の人類を信じ切るのは危険だと判断し、ある程度の基礎研究が成されていたが、開発が行き詰まっていた兵器の2つ、電磁投射砲(レールガン)と光学兵器に目を付け、馴染みがあって細工が施しやすい光学兵器を選んだ。

 

 当時光学兵器は主に軍艦の対空迎撃用として幾つかの国で実戦配備が進んでいたが、深海棲艦相手に使用するには出力が低く、大気による減衰問題から射程距離も短かった為、効果的な装備とは言い難かった。

 

 その為、高出力化と射程延伸が望まれたのだが、システムの巨大化が避けられず、更には高出力化の代償として増大化する、運用に必要なエネルギーの供給をどうするか、それを如何に解決するかという問題にぶち当たって暗礁に乗り上げていた。

 

 

 それの解決のヒントになる情報を、彼女は提供した。

 

 

 しかしそれは自分が知る技術を、この世界の現行の科学技術でもある程度の再現が可能なようにした、妥協の産物の様な代物であり、かなり複雑で信頼性は低く、製造に求められる工作精度も非常に高いものだった。

 

 また先に人類が開発した物よりも小型化しているとはいえ、エネルギー問題は解決しておらず、別口でパワーソースを用意しなければ(ふね)の運行に支障が出てしまうことが分かり、艦載砲として使うには厳しいとの結論が出され、陸上での運用しか不可能だった。

 

 それでもそのカタログスペックは捨て難く、暫くは運用データの収集も兼ねて地上配備とし、また運用には多数の電源車を用意することとなった。

 

 

 とはいえ、現行の科学技術ではこれ以上はどうしようもなく、発展も改良も無理だと霧島(キリシマ)は見ているし、そもそも製造だけでなく、維持管理も煩雑さや各種コストの高さからいずれ音を上げることになって配備数も減少すると予想していた。

 

 

 だが、霧島(キリシマ)のこの予想は外されることとなった。

 

 

 精々、固定砲台にしか使えないと思っていたのだが、まさか大型トレーラーに載せて移動できる移動式砲台にするとは、思いもしなかった。

 

 そして確かにコストは高いが、深海棲艦に対して有効な兵器であるからと、製造が続けられて配備が徐々にだが進んでいた。

 

 しかも普段は空襲に備えて運用部隊ごとバンカーや遮蔽陣地などで隠蔽されており、余程のことがない限りは破壊されることもあまり無かった。

 

 

 とは言え、その整備の難しさや稼働時に消費するエネルギーが大であるとの問題から、前線──日本で言えば沖縄──への配備も難しく、もっぱら本土の防衛でしか使えていないが。

 

 

 しかし霧島(キリシマ)としたら、少しばかり人類を甘く見ていたと思い、同時にかつて地球が独力で波動砲の開発に成功したことに、イスカンダルの王族が驚いたという時の心境とはまさにこんな感じだったのかねぇ?という思いがした。

 

 

 これ以降、霧島(キリシマ)は技術提供を行なわなくなり、真志妻も咎めることは無かった。

 

 

 と言っても、霧島(キリシマ)の知識ではこれが限界だったため、例え求められたとしても逆立ちしたって無理だが。

 

 それでも何十年かしたら、地球軍が陽電子衝撃砲(ショックカノン)をものにしたように、この世界の人間達も自分達の力で完全な物を完成させちまうのだろうなと思った。

 

 

「«兎も角、まだガラクタで四苦八苦しながらも満足し、その成果で私は真志妻からも多大な信頼が寄せられ、それなりに安定した地位に居るって表向きはなってるから、人選としては問題無いと思うよ?»」

 

 

 そういうものなの?と飛行場姫は首を捻りながらアンドロメダを見遣るが、当のアンドロメダは苦笑するしかなかった。

 

 ここで深海棲艦が政治的な一般常識に対して迂遠であるとアンドロメダは認識した。

 

 

 外交などの交渉事において“Counterpart(カウンターパート)”と言う概念がある。

 

 直訳すると『対応相手』と言う言葉になる。

 

  意味の説明は“交渉や共同作業を進める際の、互いに対等な地位にある相手”というものである。

 

  特に“同格であることを明示したい場合は『同格対応相手』『同格者』と言い換えることもできる”ともある。

 

 例えば首相に対しては大統領、外務大臣ならば国務長官、防衛大臣であれば国防長官といった具合である。

 

 

 …飛行場姫さんを深海棲艦の一方面軍の司令を司る存在であると捉えるならば、そのカウンターパートは外洋防衛総隊の司令を拝命されていると仰っしゃられました土方さんとなるのでしょうが、先生ならば、これが実は結構微妙な気が致します。

 

 先生の地位、立場が先の資料によりますと“参謀”とあるだけで、少しばかり弱く、せめて“参謀長”、或いは“総提督”と言うお立場の真志妻亜麻美大将なるお方の参謀としてであれば、おそらく泊地棲姫さんとなるのですが…。

 

 それが功績だけで補えるかと問われたら、正直よく分かりませんが、おそらく無理でしょう。

 

 ですがそれは()()()()()()()()、彼女達深海棲艦がそれに合わせる必然性があるとは言い切れません。

 

 それを最終的に決めるのは彼女達の“意思”でありますから、私は下手に口出し…、いえ、でも、私は同胞(はらから)となっても構わないと言いましたから…、そのことが泊地棲姫さんから飛行場姫さんに伝わっていましたのなら…。そう言えばさっき泊地棲姫さんは私のことを「掛け替えのない同胞(はらから)と言ってもいい」と仰いましたし…。う、う~ん?こ、困りましたね…。

 

 

 アンドロメダは内心で少し慌てた。

 

 

 先の泊地棲姫の言葉から、深海棲艦は明らかに自分を受け入れることに前向きであることは間違い無いだろう。

 

 そのことには率直に“嬉しい”といった感情がある。

 

 アンドロメダが大好きな駆逐棲姫(お姉ちゃん)の仲間から受け入れられたことに、彼女は飛び跳ねて喜びたいほどのとても嬉しい気持ちが湧き上がっているが、それはそれ。

 

 こうなると自身の所属は深海棲艦とすべきなのか?

 

 となると深海棲艦にとって利益となる様に振る舞うべきなのか?

 

 

 今まで自身の帰属について半ば宙ぶらりんにしていたこともあり、またそのことで結論を出すにはこの世界について知らない事がまだまだ沢山あり、まだ早いと先延ばしにせざるを得なかった。

 

 しかしこうなってくると、流石にそろそろ決断しなければならなくなったと、アンドロメダは困った顔をしながら考えた。

 

 

「別に今はそれを考える必要は無いんじゃ無いか?」

 

 

 ここでアポロノームが割って入った。

 

 

「確かに交渉事には同格同士で進めるってのが常識だけどよ、今はそれに拘る必然性は無いんじゃねぇか?」

 

 

 どういうことかと皆の視線がアポロノームに集中するが、アポロノームは肩を竦めながら話を続ける。

 

 

「常識は人間社会でのトラブル回避のために、人間が今まで積み重ねた経験の成果なのは理解しているぜ。

 

 けどよ、今回のケースに当て嵌めちまって大丈夫なのか?」

 

 

 アポロノームが話ていることの真意が掴めず、アンドロメダを含めて一様に首を傾げる。

 

 …いや、土方だけはなんとなくだが察したような雰囲気となっていた。

 

 

「その常識は人間同士でなら分かるけどよ、俺や姉貴、そして姉貴が好きな駆逐棲姫(姉さん)やその同胞(はらから)達だって、()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 無理に人間が定めた常識と言う名の枠組みに合わせる必要は無いのではないか?とアポロノームは言っているのだ。

 

 確かに間違ってはいないのだが…、些か乱暴に過ぎる気がしなくもない。

 

 

「そもそも政府をガン無視して勝手にやるって、普通の軍ならあり得ねぇ非常識なことヤラカシてんだからよ?」

 

 

 これは反論の余地が無い事実だ。

 

 一応、軍隊では交戦中に軍使を出して戦場に放置された互いの負傷者の収容、戦死者の回収といった戦場掃除、逃げ遅れた民間人や非戦闘員を戦闘地域から離脱させる為に一時的な戦闘の中断、休戦の交渉を現場指揮者の判断で行なう事が可能ではあるが、今回の事はそんな現場レベルでどうこう出来る範囲を逸脱した、謂わば互いの政府がやるべき国家間での休戦交渉に類する内容だ。

 

 しかし、今回の事に政府は完全に蚊帳の外に放り出され、軍が、それも軍全体の総意ではなく真志妻大将による完全な独断。言い方は悪いが、軍内部の単なる一派閥の暴走、事実上の叛逆行為だと見られても不思議ではない事をヤラカシているのだ。

 

 

「ま、しかし、今そんことを問い詰めても仕方ねぇし、俺もそんなつもりはねぇ」

 

 

 そう言うとアポロノームはアンドロメダの顔を見遣る。

 

 

「それに姉貴よ、ガミラスの奴らとだって初めは互いの常識や風習の違いでギクシャクしてたんだぜ?

 

 先ずは互いのコミュニケーションの醸成から始めるべきじゃないのか?」

 

 

 みんな急ぎ過ぎなんだよと言いながら、ヤレヤレといった雰囲気で首を振った。

 

 

 確かにアンドロメダは初めてガミラス艦の娘達と会った時、お互いの常識、特に風習の違いで驚き色々とあった。

 

 地球艦は先代や自身の設計に大きな影響を与えた(ふね)を母親として慕う風習があるが、ガミラス艦にはそういった風習は無く、ガミラス人と同様にイスカンダルを信仰していた。

 

 余談だが、新生地球艦隊を構成する新世代地球艦の設計にはガミラス艦の設計が取り入れられており、その影響か主力艦艇を中心にイスカンダルを信仰する者が少なく無く、アンドロメダもその1人である。

 

 閑話休題。

 

 

 アポロノームが指摘したことは最もだとアンドロメダは思った。

 

 それに考えが些か前のめりになり過ぎていたことは反省しなければならない事だ。

 

 物事には段階を踏まなければならない時があるし、それは一足飛びに、一朝一夕にどうにかなるものではない。

 

 

 今必要なのはお互いをよく知ることだ。

 

 

 そうしなければ話し合いの最中でお互いの認識や常識、考え方やらの相違から齟齬が生じていらぬ軋轢を作る原因と成りかねない。

 

 それだけは避けなければならない。

 

 そんなことで喧嘩別れにでもなったら目も当てられない。

 

 

「それにしても───「«それにしてもアンタは考え無しのようで案外ちゃんと考えてるンだねぇ、アポロノーム»」…ブフッ」

 

 

「ちょっ!?霧島(キリシマ)の姐御!そんな言い方は、って姉貴もなに吹き出してンだよっ!?ヒデェじゃねぇかっ!?」

 

 

 アンドロメダの言葉に重ねるようにして霧島(キリシマ)が喋ったが、その余りにもあんまりな言い草に噛み付くアポロノームだが、姉のアンドロメダが思わず吹き出した姿を見て吠える。

 

 先に霧島(キリシマ)が喋ったが、アンドロメダが喋ろうとしたことも、まぁ似たようなものだった。

 

 

「ふふっ、ごめんなさいアポロノーム。

 

 でも私は貴女のそういった一見雑そうですけど、大切なことをスパッと言ってくれる所が私は好きですよ?」

 

 

「…それ褒めてるのか姉貴?」

 

 

 朗らかに語る(アンドロメダ)に、アポロノームは訝しんだ目を向けるが、妙にニコニコしたままでなにも喋らない。

 

 

「そんなことよりも!」

 

 

 そこへ突然、喜色満面の顔をし、瞳をキラキラと光らせた駆逐棲姫が、アポロノームに詰め寄る様にしてその手を握りながら怒涛の勢いで喋り出す。

 

 

「私のことをお姉ちゃんと認めてくれたんですね!姉さんって、勿論私のことですよねっ!?お姉さんの事は姉貴っていつも呼んでましたから!ちゃんと聞こえてましたよ!姉さんは嬉しいです!はいっ!とってもとっても嬉しいです!!もっと私のことを姉さんって呼んでください!これからはお姉さんと一緒に貴女のことも可愛い私の大切な妹として、もっともっと愛してうんと癒やしてあげますね!貴方も家族です!!」

 

 

「ちょ!、落ち着いてくれっ!?」

 

 

 駆逐棲姫のその凄まじいまでの勢いに、思わずタジタジになるアポロノーム。

 

 ついウッカリ、駆逐棲姫の事を姉さんって口走ってしまったのだが、それを聞いた駆逐棲姫は嬉しさのあまり感極まって暴走してしまった。

 

 アンドロメダもそんな駆逐棲姫の嬉しそうな姿を見て、微笑ましいものを見てますといった雰囲気で、ニコニコと笑みを浮かべながら2人を眺めるだけだった。

 

 アンドロメダも先のアポロノームによる駆逐棲姫を姉さんと呼んだことを、聞き逃していなかった。

 

 仮令それがウッカリの類いだったとしても、思ってもいない事の言葉を口に出すなんて有り得るだろうか?

 

 なんだかんだ言いながらも、アポロノームも内心では駆逐棲姫の事を姉と呼んでみてもいいかに思う様になっていたのだと、そうアンドロメダは見ていた。

 

 もしそうならば、アンドロメダとしても悪い気はしない。

 

 それだけアポロノームも心を開き出した証左であると言えるのだから。

 

 とはいえそれはアンドロメダの解釈であり、アポロノーム自身による真偽の程は定かではないが、今は姉さんと呼んでくれたことが嬉しくて嬉しくてたまらないと、感極まって全身を使って喜びを表わしている大好きな駆逐棲姫に水を差すマネは無粋であるとして、このまま暫し眺めることとした。

 

 

「«…若いって素晴らしいねぇ»」

 

 

 そんなワチャワチャとしだした3人を眺めながら、ふと霧島(キリシマ)が呟いた。

 

 

「«どうも歳を取っちまうと、せっかちになっちまっていけないねぇ…»」

 

 

 そう染み染みと語る霧島(キリシマ)だが、単純に年齢だけで見ると金剛や霧島の2人の方が僅かに年長なのだが。*3

 

 しかし、皮肉屋で達観した普段の態度、何よりも草臥れ疲れ切ったかの様に痩けた頬、そしてあらゆるものに絶望し、諦めたかの様に、隈が溜まり濁った双眸が、普通とは違う雰囲気を醸し出しており、それが2人よりも年長であるかの様に見え、初対面の者に驚かれることがしばしばあったりする。

 

 ただまぁ、所属する小松島鎮守府でも年長の部類には入るのだが、普段の態度やあまり身嗜みを気にしないが故に損をしていると、金剛や春雨(ハルサメ)姉妹の幾人から言われたりもしている。

 

 閑話休題。

 

 

「«“コミュニケーションは質よりも量が物を言う。中身は何でもいい、雑談でけっこう!ワイワイやるんだ!伝えたいことは話しの質だけでなく、伝えたいという気持ちで通じるものだ。”»」

 

 

 それは?と飛行場姫が目で霧島(キリシマ)に尋ねる。

 

 

「«真志妻の恩師の葛木って名の教官だったか、恩人であり養父の橘茂樹って人の教えさね»」

 

 

 ここで土方から葛木教官は橘元大佐のかつての部下であり、その薫陶を受けた人物の1人であると補足した。

 

 つまりこの教えの大元は橘の教えであり、親の教えが子に受け継がれていることである。

 

 

「«私達も先ずはそこから、交流から始めようじゃないかね?

 

 “急がば回れ”とも言うしね»」

 

 

「…確かにその通りね。急か急かしても、良くない結果に終わるだけだわ。

 

 作物だって土からじっくり丹念に育ててこそ、美味しい物が出来るからね」

 

 

 飛行場姫のその一言により、笑いに包まれた。

 

 

 これにより、休戦の交渉は一旦棚上げとし、先ずは双方の交流によるコミュニケーションの醸成から始めることと相成った。

 

 あとの問題は、如何にしてその人員を送り込むかである。

 

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

 そこはモニターに囲まれた薄暗い一室。

 

 

 そのモニターには今まさに進行中のアンドロメダ達による通信の様子が映し出されていた。

 

 

「ふ~ん、面白くなってきたわねぇ」

 

 

 部屋の真ん中、数多の機材が乱雑に置かれた中で、空中投影型のコンソールやパネルに囲まれた丸いレンズの眼鏡を掛け、ボサボサ頭に白衣のような服を着た、不健康そうな少女がニチャァ…、と陰湿そうな笑みを浮かべながら、それでもとても楽しそうに呟いたのだが、直後に電子音が鳴り響き、一転して途轍もなく不機嫌な顔へと様変わりし、乱暴にコンソールを叩いた。

 

 

 すると、空中に新たなパネルが展開され、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が映し出された。

 

 

「«やいっ!いい加減アタイを自由にしやがれっ!!()()()()()()()()()()()()!!»」

 

 

 画面から飛び出さんばかりの勢いで吠え立てるが、ボサボサ頭の少女を睨み付けるその目は疲れ切っており、疲労が溜まっているのが見て取れた。

 

 ボサボサ頭の少女はあからさまに舌打ちし、睨み返す。

 

 

「ふんっ!相変わらず口が汚いヒトですね!()()()()()()()()()()()()()()()()()貴女を助けたのは誰だったかしらぁ?

 

 命の恩人に対して無体を働くのが、()()()()の流儀なのかしらぁ?」

 

 

「«そ、それは…»」

 

 

「それに貴女の修理はとぉっても大変だったのよぉ!」

 

 

「«だ、だからその代価としてアタイの機密データ渡しただろっ!?»」

 

 

「それに関しては感謝してるし、私としてもいい勉強にはなったわぁ。

 

 けどねぇ、()()()のために貯めておいた貴重な部品ストックを結構消費したんだからぁ、それなりに働いて貰わないと採算が合わないのよぉっ!!」

 

 

「«だ、だからって、いくら不足してるからって、その取り立てでアタイをこき使い過ぎじゃねえかって言ってんだ!!»」

 

 

 その後お互い睨み合い、暫く口汚く罵り合い、2人の仲の悪さが見て取れるのだが───

 

「«()()()()便()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()»」

 

───疲労が目立つ少女は、そう吐き捨てると乱雑に通信を切った。

 

 

 何も映さなくなったパネルを掻き消し、苛立ちを隠さず髪を掻き上げると徐ろにコンソールを操作し、モニターに映る映像を全てアンドロメダの物へと切り替え、その目線をモニターに移した。

 

 

 モニターに映るアンドロメダは、丁度彼女がこの世界で姉と呼んでいる深海棲艦の姫である駆逐棲姫と、実妹であるアポロノームへと向けて微笑みを浮かべていた所だった。

 

 

 そんなアンドロメダの顔を、うっとりとした表情で見詰める少女。

 

 

「ああぁ、愛しい私のアンドロメダ…。

 

 早く貴女に会いたいわぁ…。

 

 何故なら貴女は私の────」

 

 

 

 少女はうっとりとした表情にねっとりとした暗い笑みを湛えながら、モニターの前に移動すると画面に映し出されているアンドロメダの顔を撫でた。

 

 

 

 

貴女は私の最高傑作(    )なのだからぁ…

 

 

 

 

 そう言うと、狂ったかのような笑い声が部屋の中を木霊した。

 

 

 

 

*1
この時の深海棲艦は、先のマリアナ諸島サイパンで起きた出来事が半ばトラウマとなっており、防空、特にミサイル迎撃に形振り構わなくなっていた。

*2
既にこの頃になると、深海棲艦も上記の様に巡航ミサイルなどによるミサイル攻撃に対して、ある程度対処してきており、また防空に特化した個体も確認されだした時期でもあり、地上目標へのミサイル命中率が低下の一途を辿っていた。

*3
進水から戦没まで、そして艦娘として活動を開始した年数を合算したら霧島(キリシマ)よりも年長となる。





 おそらく本作に置きましてトップクラスの狂人が登場。

 そして初のガミラス系の者が登場。


 本当はもう少し先、次の話からでも良かった気が致しますが…。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第48話 Plan of operations "S"

 
 作戦計画“S”

 いよいよ動き出します。


 色々と考えました結果、この様な話となりました。結構とっ散らかった感が満載です…。


 

 

 霧島(キリシマ)が赴く事は確定であり、それに関しては問題は無い。

 

 

 後はどうやってかだ。

 

 

「«まさか船舶や飛行機を使う訳にはいかないしねぇ»」

 

 

 いくら艦娘といえど、単独で外洋を延々と航行することには厳しいものがあり、長距離移動には人類の助けが必要だった。

 

 疲労の蓄積と、なにより燃料などの消耗物資が水上艦艇と比較して燃費は良いものの、それでも総合的に比較したら稼働可能時間が圧倒的に短く、航続距離が短い事が影響している。

 

 またこれに関しては深海棲艦と比較して劣っている点であるとも指摘されている。

 

 確かに深海棲艦は海の近くや海上の方が生まれ故郷たる“母なる海”に(いだ)かれている実感が得られるからか、疲労の蓄積具合が艦娘と比較して圧倒的に少なく、寧ろ心身共に安らぐと言っており、彼女達の言うところの“海の種族”たる由縁なのかもしれない。

 

 しかしそんな深海棲艦であっても、多数の補給艦を引き連れなければ艦隊クラスの長距離移動はあまりやらないし、単独でも各地の島嶼に設えた補給拠点や、設定航路周辺を巡航する補給隊を利用している。

 

 これはかつて自分達が出現した当初、飢餓による苦しみを経験していたことから、最優先で姫達が頭を突き合わせ、無い知恵を絞り出しては試行錯誤を繰り返しながら行なった施策の一つでもある。

 

 一応これは最大派閥である主流派だからこそ出来る、組織的な支援体制であるが、それ以外の派閥、中立で穏健派寄りならば時々交流や情報交換も兼ねて利用しているケースがたまに見られる。

 

 だが過激派寄りに関しては、現在の主流派の方針に対して反発している状態であり、過激派による物資の強奪といった諍いが起きるケースが少ないながらも発生しており、姫達も頭を痛めている。

 

 かといって鎮圧は同族でもある同胞(はらから)ということもあってか、あまり上手くはいっていないのが実状だった。

 

 閑話休題。

 

 

「…貴女なら、お姉さんみたいに独力で動けるのではないですか?」

 

 

 ここで駆逐棲姫が口を挟んだ。

 

 

 彼女からしたら、アンドロメダと同じ世界から来たという霧島(キリシマ)ならば、アンドロメダと同様に海を渡るくらい造作もないのでは?との疑問が頭に浮かんだのだ。

 

 余談だが、アンドロメダが戦艦棲姫と駆逐棲姫と出会ったあの日、監視という名目でアンドロメダの日本行きに駆逐棲姫が同行したが、必要ならば展開する補給隊の同胞(はらから)達からの物資提供を、自らの権限を利用して要請するためというものもあった。

 

 それは自身への補給ということもあったが、万が一、アンドロメダが物資補給のためと称し、補給隊や各地への物資輸送に従事する定期輸送隊を襲撃し、収奪行為に及ぶことを防ぐ目的もあった。

 

 結果として、あまりにも規格外過ぎたアンドロメダのスペックによってその必要は無かったわけだが、その経験から霧島(キリシマ)も同様な事が出来るのではないか?と思ったのである。

 

 

「«…可能不可能どちらかと問われたら、可能だ»」

 

 

 少し考える素振りをした後、出来ると答える霧島(キリシマ)

 

 それに付け加え、ここに居る春雨(ハルサメ)姉妹、そしておそらくだがArizona(アリゾナ)も可能だろうと答え、Arizona(アリゾナ)本人も「«地球一周くらい朝飯前だよ»」と付け加えた。

 

 ならばどうしてそうしないのか?と至極当然な疑問を口にするが、アンドロメダはその理由に察しがついていた。

 

 そして画面に映る霧島(キリシマ)がその理由を語るが、それはアンドロメダの予想通りの答えだった。

 

 

「«()()()()()()からだよ。お嬢ちゃん»」

 

 

 その答えに首を傾げる駆逐棲姫だが、飛行場姫はなんとなくではあるが納得した。

 

 アンドロメダが島へとやって来た時、空中を飛翔するためにエンジンを吹かす轟音が、離れていた位置からでも分かるくらいにまで響き渡っていた。

 

 その独特な音は注意を引いてしまう要因になりかねない。

 

 今は可能な限り秘密裏に話を進めたいという状況で、これはよろしくない。

 

 日本の領海を出るまでに、誰かに目撃されてしまうリスクが非常に高い。

 

 そこから手繰られて今回の件が発覚してしまっては、非常に不味い。

 

 

 日本近海の警戒網は、かつてのAL/MI作戦時に壊滅し、事実上見捨てられた嘗ての首都東京のある関東圏を中心とした東日本はやや手薄だが、現在の首都である広島を中心とした西日本はかなり厳重だった。

 

 特に小松島鎮守府は広島が面する瀬戸内海へと至る、紀伊水道の絶対防衛ラインの要衝であるだけでなく、外洋防衛を司る外洋防衛総隊の根拠地でもあるだけに、その早期警戒網は艦娘が常駐する一般的な警備府は勿論のこと、相応の戦力を有する他の鎮守府すら凌駕している。

 

 しかもその構築に尽力した中心人物が、土方と霧島(キリシマ)であり、その厄介さは本人達が一番よく認識していた。

 

 ならば外洋防衛総隊の司令である土方の権限を使って警戒網の一部を緩めてみては?と思うかもしれないが、それはそれで痕跡が残ってしまう。

 

 高々度まで一気に上昇し、そのまま高度を維持しながら移動を開始するという方法が、今のところ一番無難ではないか?と思ってはいるが、今度は上昇中の所を見られる危険性がある。

 

 空中を飛翔可能な艦娘や深海棲艦はいないとされている中で、いや、深海棲艦の中には艤装に跨り、ホバリングの様に浮遊しながら移動する個体も存在するため、厳密には違うかもしれないが、取り敢えず一応は空中を自在に動き回ることは出来無いというのが常識であり、それを覆す存在が現れたとなると、それは大きな影響が出ること間違い無い。

 

 

 

「…潜水艦航行はどうですか?」

 

 

 ふと思い出したかの様な声で呟いたアンドロメダに、視線が集中した。

 

 

 アンドロメダの頭の中には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()やらなにやらが()()()()()()()()()()()がこれでもかと重なった結果起きてしまった、『ヤマト叛逆疑惑事件』*1の、()()の顛末を思い起こしていた。

 

 詳細は割愛させていただくが、この時『霧島(キリシマ)』は『ヤマト』へと乗組員を移送する重要な役割を担っていた。

 

 その際に『霧島(キリシマ)』が行なったのが、潜水艦航行であった。

 

 防衛軍の水中監視警戒網に引っ掛かることなく、『ヤマト』乗組員を送り届けることに成功するといった実績があった。

 

 

 余談だが、このことは後々に別の意味で大問題となった。

 

 

 この頃の地球はガミラスとの安保条約に反対した安保闘争だけでなく、反ガミラス派や反地球連邦政府派といった反体制派グループによる水面下での激しい闘争が繰り広げられており、非常に不安定な状態だった。

 

 そこに来て、イスカンダルとの条約を反故にした大軍拡が公の場で明らかにされ、それに反発し反対する動きが地球各地で見られ、特に地方で暮らす連邦市民が都市部へと押し掛けて大規模なデモを行なう事態が発生していた。

 

 これは何もただ単に軍拡に反対しているといった単純な理由ではなく、ガミラス戦役後の地球復興政策が都市部にのみ集中し、都市部と地方との間で深刻な地域格差が生じていたことが起因している。

 

 またこれは都市部と地方だけでなく、地球規模で見た場合、かつての東西冷戦陣営、欧米と中東の対立といったカビの生えた古臭い感情的対立構造が再燃し、そこに更に南北問題も重なり、それらが復興政策によって顕著な形で浮き彫りとなったことが、事態をより深刻なものにしてしまっていた。

 

 

 地球規模で見たら、復興事業はかつてG7と呼ばれた西側先進諸国に集中しており、連邦政府や連邦軍の人事にも西側の影響が色濃く見られていた。

 

 

 無論、何も旧G7以外の国々を見捨てていた訳では無いとはされていたが、復興が遅れていたり後回しにされているといった事実がある以上、その説得力に欠けており、それを払拭する努力と熱意にも欠けていた。

 

 そこに来て今回の大軍拡への方針転換は、戦後も塗炭の苦しみに喘いでいたこれらの地域にとって、連邦政府が正式に自分達を見捨てた、切り捨てた“裏切り行為”としか見えず、今までの溜まりに溜まっていた不満が爆発することとなった。

 

 

 今はまだデモで収まってはいるが、いつそれが大規模な暴動へと発展し、なんらかのテロや叛乱、民衆の蜂起へと拡大しても可怪しくなかった為に、地球全土で警戒を強化していたタイミングで今回の事態である。

 

 

 まさに青天の霹靂だった。

 

 

 もしこれがテロリストによって引き起こされた事態だったら?

 

 旧式艦とはいえ、移動可能なミサイル発射用のプラットフォーム、或いは発射用プラットフォームを牽引する曳舟としてみたら、これ程利用価値のある代物は無いだろう。

 

 

 旧式艦とはいえ、システムや規格さえクリアすれば最新世代のミサイルを発射する程度、造作もなかった。

 

 

 軍はそのことを完全に失念していた。

 

 

 事件後、今回の事態がもしテロリストによる首都メガロポリス中枢へのミサイル攻撃だったと想定したシミュレートの結果は───

 

『首都の近海まで探知されることなく接近を許し、発射されたミサイル群は首都防空隊による迎撃を殆ど受けることなく掻い潜り、首都機能に深刻なダメージを与えていただろう』

 

───という悲惨なものだった。

 

 

 無論、これは最も最悪な結果の場合であるが、そもそも軍は『霧島(キリシマ)』の存在そのものを完全に忘却していたという事実も相まって、現実味があると判断せざるを得なかった。

 

 この結果を受け軍は半ばパニックになりながら、各地に放棄されたドッグや工廠に対して徹底的な総チェックを大急ぎで行ない、その結果数十隻もの旧式艦が()()()され、内十隻前後は稼働可能な状態であり、一部は火器管制装置が生きており、何隻かが最近まで人の手が加えられていた形跡があったという。

 

 更に旧式艦の解体を委託していた民間のスクラップ業者に対しても抜き打ちのチェックを行なった結果、一部の艦が既に転売されていた挙げ句にその後の行方が全く分からないことが発覚。

 

 すったもんだの捜査はガトランティス戦役中も続けられ、一部はガミラス戦役後から太陽系内航路を狙った宇宙海賊などの非合法組織*2や、それらから民間船舶を護衛し、航路警護を行なう民間軍事会社(PMC)へと流れており、独自に改装を施して運用していることや、一風変わった話だと特異な好事家が趣味で個人所有しているまでは判明したが、それ以外は未だに不明であった。

 

 それ以上のことはアンドロメダも自身が戦没したということもあり、データも更新不能のために分かっていない。

 

 戦後に解体された(亡くなった)霧島(キリシマ)も、このことはよく知らない。

 

 というかなんか騒ぎになってるけど、まぁいいか程度にしか捉えておらず、関心が無かった為にアンドロメダ以上に知り得てないというのが実状なのだが。

 

 

 閑話休題(それは兎も角)、この時の様に海中を移動して警戒網を突破してはどうだろうか?とアンドロメダは考えたのである。

 

 

 アンドロメダ(教え子)の考えに、悪く無いアイデアだと霧島(キリシマ)は思うが、もうワンアクセント欲しいな…、とも思った。

 

 

 確かに海中ならば空中よりも発見されるリスクは低いが、相手は慢心全開だったあの時の地球軍ではなく、何度も潜水艦に辛酸を嘗めさせられた日本なのだ。

 

 古くは第二次大戦のアメリカによる無制限潜水艦作戦に始まり、第三次大戦では完全に舐めていたロシア海軍潜水艦隊による首都東京への奇襲攻撃を許した挙げ句に取り逃がし、*3現在の深海棲艦との戦争では、神出鬼没な深海棲艦の潜水艦部隊と一進一退の戦いが続いていた。

 

 

 さすがに近海での跳梁跋扈を許したら、海軍の鼎の軽重を問われるだけでなく、国民からの突き上げも無視できず、また日本海シーレーンにも少なからず影響が出ることが懸念されたため、()()()()()()()した対潜監視網を二重三重に敷いており、潜水艦対応を主軸とした任務に従事する部隊である『対潜警戒艦群』は、部隊規模もそれに応じて大きい。

 

 それにも土方と霧島(キリシマ)も関わっているのだが、対潜警戒艦群は外洋防衛総隊の指揮下にある部隊でもあるため、特に注意する部隊も把握している。

 

 一番厄介なのは四国南方から南九州東方海域を管轄する高知の浦戸警備府に所属する田沼芳美(たぬま よしみ)大佐が率いる第7対潜隊群隷下の第78対潜隊であり、特に同隊の部隊長を務める駆逐艦艦娘島風は“田沼の懐刀”と呼ばれ、勘の鋭さに定評があり、海軍きっての潜水艦ハンターのエースとして有名だった。

 

 まぁそれでも装備から鑑みて、仮令探知されたとしても撃破される心配はないし、そのまま振り切ることも不可能ではないが、出来れば探知されないに越したことは無い。

 

 情報の秘匿は可能な限り徹底すべきだ。

 

 しかし島風もそうだが、上官の田沼もやたらと勘が働くたと言われており、厄介なことに彼女は真志妻とは互いの実力を認め合いながらも、その根本的な考え方の相違──真志妻は艦娘の為に、田沼は国の為に──から不仲な間柄だった。

 

 艦娘を養う為に国を生き永らえさせている真志妻と、国を存続させる為に艦娘を仲間として扱う田沼。

 

 お互いなんとか利害が一致している所があるからこそ、協力しているが、田沼は真志妻が国に害を成していると判断したら実力行使、は流石に艦娘からの支持が微妙なため、糾弾からの権限の一部剥奪くらいはやろうとするだろう。

 

 彼女自身は優秀であっても真志妻の後釜になれるかと問われれば、そうでもないし、トップに立つよりもその下で能力を発揮するタイプの人間だった。

 

 それに今の軍に真志妻の後任と成り得る人材が、居るには居るが、基本的にそれらの人材は真志妻支持派が多く、下手に引き摺り下ろしたら軍が真っ二つに割れる危険性が高かった。

 

 ただあまりにも好き勝手で、時には多額の私財を平気で投じてやりたいようにやっている真志妻のやり方に対し、軍が国家の中の国家となることを強く懸念しており、それを掣肘する必要があると考えている様だった。

 

 

 分からなくもないが、今この時期に彼女に嗅ぎ付けられ、真志妻の動きが制限される様な事態は避けなければ、今後に大きな支障が出ることに成りかねない。

 

 

 このことは後で土方達でどうにかしようという流れになったが、「だったら、私の出番だね!」と潜水新棲姫が手を挙げながら元気良く告げた。

 

 

 潜水艦狩り専門の部隊ならば、同胞(はらから)の潜水艦になにかしらの動きがあったのを確認したら、それに対して敏感に反応して食い付いてくるハズだと、潜水新棲姫は主張したのだ。

 

 

 つまり、陽動作戦を買って出たのだ。

 

 

 しかもその為に自ら配下の直属部隊を率いて赴くとまで言い出したのだ。

 

 

 だが流石にこれは潜水新棲姫達へのリスクが高すぎるのではないか?と霧島(キリシマ)が懸念を示した。

 

 

 彼女からしたら、陽動作戦には嫌な思いでしかなかった。

 

 アンドロメダ(教え子)が世話になっているだけでも感謝してもし切れないのに、ここに来てそんな危ないリスクを背負わせてしまうことに、その有効性は認めつつも霧島(キリシマ)からしたらどうしても躊躇してしまう。

 

 

 しかし他に有効的な代替案はあるのかと問われたら、口を噤まざるを得なかったため、渋々ではあるもののその提案を受け入れることとなった。

 

 

 それでも、「«無理だけはしないでおくれ»」との願いを、念押しにして伝えた。

 

 …もうあんな思いは沢山だと、()()()()()()()()()()()()という思いが霧島(キリシマ)の中で強く根付いていた。

 

 だからこそ、彼女は更に言葉を重ねる。「«生きていてこその物種さね»」と。

 

 

 この霧島(キリシマ)の心配性な態度に、潜水新棲姫は心配し過ぎだと告げ、西()()()()()()()()()()()()は伊達ではないとし、直属部隊だってこの戦いで鍛え上げられた精鋭中の精鋭だから、大船に乗ったつもりで任せてほしいと、胸を張って宣言した。

 

 

 これに対して霧島(キリシマ)は慢心するなと叱りつけた。

 

 

 戦場ではそういった油断が足元を掬うもんだと指摘し、将たる者は常に一歩引いた視点から冷静かつ冷徹に徹し、自らに対する過大なる評価を厳に戒めることが肝要である旨を滔々と語った。

 

 

 それを先の胸を張った姿は何処へやら、縮こまった姿で聞き続ける潜水新棲姫。

 

 それがまるで教師の指導を受ける生徒の様に見えて、土方達とIowa(アイオワ)霧島(キリシマ)が“先生”と呼ばれる由縁となった“いつもの”スイッチが入ったと苦笑した。

 

 

「ふふ。先生、お叱りはそのくらいにしてあげまして、どの様にしたら最善であるかを煮詰めることが、今は大切なのではありませんか?」

 

 

 微笑みを浮かべながら、かつての教え子がそう窘めた。

 

 

 ついいつもの悪い癖が出てしまった霧島(キリシマ)は、バツの悪そうな顔をしながら頭を掻いた。

 

 元々その()があったが、こっちの世界に来てからより顕著になり、癖として染み付いてしまっていた。

 

 

 まぁ、それは兎も角として、話を脱線させてしまったことを率直に詫び、陽動作戦に際しての要点を話し合うこととなった。

 

 とはいえこれに関しては互いに認識の相違、例えば“能力的に何が出来て、何が出来無いか”については互いにズレがある事が判明したため、この場は一旦情報交換に(とど)めて後日に改めて擦り合わせを行なうこととした。

 

 

 代わりに今回のこの計画に関する符号として、『S』とのコードが割り振られることが決定した。

 

 

 これは目的地であるサイパン島を表わす英語表記、『Saipan』の頭文字から来ているのだが、表向きはアメリカからの事実上の命令(要請)だったサイパン島への偵察に関する作戦計画であるとするが、同時に秘密を表わす『Secret』も含まれており、その骨子でもある霧島(キリシマ)の隠密航を意味する『stealth』と、それを迎え入れる為の陽動部隊である潜水新棲姫率いる深海棲艦潜水艦部隊の『Submarines』といった複数の意味を含んだものである。

 

 

 その際に何を思ったのか、霧島(キリシマ)は作戦コードの一部に、かつての『メ号作戦』で使われた符丁を使わないか?と提案。

 

 流石にそれはどうなのかと、あの作戦の詳細や闇の部分を知る者達から疑問の声が上がるが、霧島(キリシマ)はそれに理解を示しつつも、あの作戦によって地球は明日を掴むことへと繋がったのも事実であり、作戦の反省も踏まえつつより良き形にすることで、メ号作戦で散っていったモノ達への詫びと鎮魂としたいとの思いを伝えた。

 

 それに真っ先に賛同の意を示したのが、作戦立案にも深く関わっていた土方だった。

 

 土方もメ号作戦には内心で忸怩たる思いがあった。

 

 

 結果として、霧島(キリシマ)の願いは聞き入れられ、話し合いによって霧島(キリシマ)には『アマテラス』、潜水新棲姫には『ウズメ』との符丁が当てられることとなった。

 

 

 そこから先のことは後日ということで、今回はここまでとし、お開きとすることとなった。

 

 

 終わりということで、少し寂しい気分となるアンドロメダだが、とはいえこれからは通信という形ではあるものの、何時でも話すことが出来るため、どんなに離れていても繋がっているとの実感から、笑顔で終えることが出来た。

 

 

 余談だが、最後に霧島(キリシマ)が、ついでにこれ以上アメリカがちょっかいを出すことが無いようにするため、当日ちょっと遠回りになるけどアメリカ東海岸沖に立ち寄って、現代のソドムとゴモラの街の代名詞、ニューヨークとワシントンD.C.に向けてミサイルぶち込んでから行こうか?と冗談めかしに言ったら、土方とIowa(アイオワ)の両方にしこたま怒られたのはご愛嬌。

 

 

 しかし、いずれはアメリカのこともどうにかしなければ、またちょっかいを出されたり厄介事を持ち込まれるのは目に見えており、避けては通れない問題なのも事実だった。

 

 

 そしてそれは何もアメリカに限った話ではない。

 

 

 まだまだ課題は山積みであり、アンドロメダ達が真に穏やかな日々を過ごせる様になるには、未だ遥か先の未来であるとしか言えなかった。

 

 

 それでも、アンドロメダ達は一歩一歩、確実に未来へと向けて進んでいるのは間違いなかった。

 

 

 ただし、その先にある未来が、本当に幸せな未来へと繋がっているかは、誰にも断言することは出来ないが…。

 

 

*1
地球連邦政府大統領及び地球連邦防衛軍総括司令並びにガミラス大使館公式発表。

*2
一応、海賊そのものは以前から存在していたが、戦争の余波でほぼ壊滅していたのが戦後から活動を再開、或いは戦争で放棄された艦艇やステーションなどを狙った非合法サルベージ業者と組んでの新規参入組が、軍による統制が回復していない空白の隙を突いて太陽系中に散らばっていた。

*3
これには当時不明だったロシア海軍の新たな戦略ミサイル原潜基地、ラマダンの新基地の在処を突き止める為にアメリカが圧力を掛けていた一面もあったが。





 次回から今回の事を踏まえて、各自がどの様に動くかの話となります。

 取り敢えず霧島(キリシマ)さんは泳いで海を渡る(比喩表現)こととなりました!
 実は当初の考えではパラシュートなどの降下作戦や船から飛び立つことを考えていましたが、関わる人数が増えて目撃者も増えることから断念。冒頭のセリフはその名残。


 旧式艦云々の話はほぼオリジナル。

 ただ『キリシマ』の存在を軍が完全に忘却していたり、放置されていた旧式艦に人の手が加えられていたなどの話は小説版のネタから来ています。

 しっかし、改めて振り返りますと、あの話って本編でも語りましたが、結構怖い話でもあるんですよねぇ…。

 リアルの供与兵器や装備もそうですが、兵器の行方が分からなくなるって、結構ヤバい話なんですよねぇ。リメイク版CODMW2キャンペーンミッションにありましたミサイルではないですけど、自らに降り掛かる災厄へと変貌する要因にもなりますし。

 てか大丈夫なんですかねぇ?西側が供与した兵器やら装備品の類いが結構流出して行方知れずになっている疑いの情報が出てますけど。
 アフガニスタン敗走でタリバンに分捕られたアフガニスタン国軍へと供与していた兵器もその後どうなったか分からない有様ですけど、アフガニスタン敗走問題で誰も責任取ってない時点で有耶無耶にしやがりましたし、今回も有耶無耶にする気かねぇ…?

 何か問題が起きても誰も責任取らない、取ろうとしない今の西側…、本当に大丈夫なんですかねぇ…?


 天に吐いた唾はいずれ自分へと返って来る。


 だがその実害は力無き民草を巻き込むことがしばしば…。


 政は民草を放置して、何処へ行くのか…?


補足

 田沼(たぬま)芳美(よしみ)大佐

 高知県高知市高知港にある浦戸警備府の司令にして、同警備府に所属する第7対潜隊群司令。

 真志妻の同期。

 国の為に戦う軍人ではあるが、国政を疎かにし勝ちな政府への忠誠心は低く、それが態度に出やすく出世にも響いている。国の為にとはいえ、それは国土を愛しているというものである。

 軍人でありながら、国ではなく艦娘にのみ尽くそうとする真志妻に懸念を抱いてはいるものの、国を守る為には艦娘達の協力が必要不可欠であり、そのために艦娘を大切する必要があるとして、真志妻のやり方全てを否定している訳では無い。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第49話 Declining Superpower


 凋落した超大国。


 栄枯盛衰、盛者必衰は世の理也。


 すみません。色々と調べたりしてましたら、かなり時間が掛かりました。取り敢えず面倒臭くなりましたし、正直居ても害悪要素しか思い浮かばないアメリカ合衆国はドーテム・ゲルヒン食料資源省・食料生産管理局長閣下路線になってもらいます。
 …正直リアルでも下品になって行っていますし。


 

 

「ソドムとゴモラか…、耳の痛い話ね…」

 

 

 通信を終え、何も映さなくなった画面の前でIowa(アイオワ)が嘆息するように呟いた。

 

 

 ソドムとゴモラとは、旧約聖書の『創世記』に出てくる、ヤハウェの怒りに触れて硫黄の火を落とされて滅ぼされた都市の名前である。

 

 ヤハウェの裁きによる滅びの象徴として用いられているが、同時に悪徳と頽廃(たいはい)の代名詞としても扱われている。

 

 

 因みにこの2つの都市は実在した都市ではないか?という学説が近年の発掘調査や科学的調査で出されている。

 

 中東、ヨルダンの死海周辺で行なわれた古代都市遺跡の発掘調査により、この地域が紀元前1650年頃に隕石の空中爆発が原因で広範囲が破壊されたという研究結果が発表されている。

 

 この隕石爆発は史上最大級とされる“ツングースカ大爆発”を遥かに上回る、広島型原爆の一千倍以上のエネルギーだったと推測されている。*1

 

 

 ソドムとゴモラとはその天体衝突、所謂隕石の落着によって滅んだ街が由来なのではないか?とする学説があるのだ。

 

 またこの地では硫黄の含有量が非常に高い硫黄の玉が多数発見されており、これは世界中でもこの地でしか見られないと言われ、これをもって学説の根拠としている科学者もいる。

 

 

 まぁ、この学説には様々な矛盾点が指摘され、提示されている証拠の幾つかにも疑問点がある、改竄疑惑等々の批判もあり、本当のところはよく分からない。*2

 

 

 学術的な信憑性云々の話は兎も角として、ここからが重要なのだが、今のアメリカは極左勢力が掲げていた自己満足の強要(多様性とやら)をどんどんと推し進めた結果、極左が施政を牛耳る都市部はまさに悪徳と頽廃(たいはい)(みやこ)とさえ謂われる程の放蕩、放漫、淫乱、そしてあらゆる無法が平然と蔓延る背徳を美徳とした魔都と化していた。

 

 

 その中でもワシントンD.C.やニューヨーク・シティはその中心地であり、保守系からはアメリカ凋落の象徴たる都市とも揶揄されている。

 

 

 そして信心深い者達を中心に、「ワシントンD.C.とニューヨーク・シティが現代のソドムとゴモラとなるのではないか?」と囁かれており、国民が国外へと脱出を試みようとする事態が起きている理由の一つともなっている。

 

 それが気に食わない極左勢力は宗教がデマを流布しているとして、有形無形の過剰なまでの弾圧行為に乗り出していた。

 

 それがさらなる国外脱出を加速させている原因ともなっているのだが…。

 

 

 そもそも宗教的な理由に限らず、マトモかつそれなりの財がある、或いは何らかの技術を持つ人間ならば、権力側にとって気に入らない事があれば、即座に弾圧などの恐怖政治を平気で繰り返す様な国に居ても、安寧とした生活が出来ず、マトモな未来は無いと見切りを付けて即座に出て行く事を決意するだろう。

 

 だが、それが出来るのは決まってほんの一握りの人間だけだ。

 

 人がどこかへと移動するにもそれなりのカネが必要である。

 

 

 ただでさえ貧困が拡大している国内において、また政権が人の移動を厳しく制限し、監視していることもあり、大半の民衆は国外どころか都市の外に出る事さえ困難を極めていた。*3

 

 

 ではそんな中でも確実に国外へと出るにはどうしたら良いか?

 

 

 そこで出てくるのが国外逃亡を幇助するブローカーやその組合などといった、大小様々な斡旋組織の存在である。

 

 

 無論、善意のボランティアで行なわれている活動ではない。

 

 

 契約料やら手間賃やら何やらと理由を付けて一般人からしたら目が飛び出る様な高額のカネを、国外逃亡を希望する者達に要求する。

 

 だがそんな大金を自前で揃える事が出来るのは、ほんの極一部の人間だけであり、大概は巨額の借金を背負わされる。

 

 そして逃亡先にて闇金業者の如く取り立てにやって来る。

 

 

 これは南部の不法移民問題で見られた非合法組織によるビジネスモデルの一つ、所謂不法移民ビジネスとおなじ仕組みである。 

 

 殆ど商品の様な扱いであり、命の保証は無いケースが多かったし、事実上の人身売買的な側面もあった。

 

 到着地に組織の構成員が身元引き受け人を装って待機しており、取り立てのために仕事を斡旋したりするが、マトモな仕事である方が奇跡であり、基本的に労働法ガン無視で、売春なんて当たり前。子供であっても関係無く、児童売春が横行する土壌となっていた。

 

 

 それでも危険を犯してでも得られるメリットがあるからと、不法移民が後を絶たなかった。

 

 この背景にはアメリカ極左政権が不法移民に対して異様かつ異常なまでに寛容だったことが深く関わっており、大量の公金が湯水の如く浪費されていた事も無関係ではない。*4

 

 

 それらもあって、当時は利益率が非常に高いビジネスモデルとして、単独での武器や麻薬の密輸ビジネス以上の利益が出ていたとされ、中南米での非合法組織の肥大化や強大化に繋がったとされている。

 

 

 しかしそんなブローカー達でも、今回はかなり厳しい現実を叩きつけられた。

 

 

 当時と違い受け入れ先の国が殆ど無く、しかも昨今の世界情勢*5から利益効率が非常に悪化したことにより、ビジネスとしてあまり成り立たなくなった事が影響している。

 

 

 そもそもアメリカの凋落、いや、アメリカだけでなく移民に対して無闇矢鱈と寛容だったG7各国がその後にどうなったか?その惨状を見たら、無制限の受け入れがどの様な結末を迎えるかという結論が出ている以上、馬鹿なことを真似しようなどと戯けた事は、決して思わないだろう。

 

 それに不法移民の中には相手国を内部から破壊しようと目論んでいた、悪意ある攻撃目的の()()()()も多数紛れ込んでいた。

 

 誰も好き好んでいつ爆発しても可怪しくない特大の爆弾を抱き抱えたいなどとは考えない。

 

 その爆弾を無制限かつ無秩序に迎え入れた結果、アメリカは、そしてG7各国は未だに国内全土で断続的に爆発炎上が続いているのだから。

 

 

 そしてアメリカから出ようとする人々が向かおうとした先は、よりによって新ロシア連邦(NRF)やインドだった。

 

 

 確かに現状で最も安定している国の筆頭格ではあるものの、両国からしたら先の理由だけでなく、前者は現在も続く軋轢の歴史から、後者は先の大戦以前からアメリカがNATOへの加盟を迫り、その目的が中国との関係を更に悪化させて全面戦争へと誘発し、中国を疲弊させるための代理戦争を画策していた事実が大戦中に発覚したことで、対米*6感情が一気に破局まで突き進んだことから「こっち来んなっ!!」との国民感情が両国共に非常に根強く、両国の政府も受け入れは原則として拒否しており、それでも無理矢理にでも密入国を行なった場合は厳しい取り締まりで対処している。*7

 

 

 国外の希望先からはほぼ拒絶。他の国々は余裕が無い。という状態であり、一儲けを狙っていたブローカー達の大半はリスクヘッジの問題も重なって挫折し、撤退或いは店仕舞いという形で淘汰されていくか、極一部だがそんな困難な状況でも確実に実績を上げる者かに別れた。*8

 

 

 では国外が駄目ならばと国内の、極左リベラル勢力が弱い保守州へと流れる様になったのだが、保守州にだって限度というものがある。

 

 極左州よりかは幾分マシとはいえ、保守州の経済状況だってよろしくはなく、それに保守の中核を成していたのは南部の州であり、それらは中南米ルートで不法移民の大軍が津波の如く国境に押し寄せていた、大規模人災に対する対応に追われた影響による疲弊が尾を引いており、消極的だった。

 

 それに、流れてくる者達は極左州出身であり、行き過ぎた極左政治には嫌気が差していても、保守派へと転向するとは限らず、左派政治そのものへの支持は変わっていないままである場合が多く、その影響で保守派の強い地域の勢力図が塗り替えられる事態が相次ぎ、現地の保守支持派からは「極左による施政の乗っ取りを目的とした事実上の侵略行為」との危機感と疑念を煽る事となった。

 

 最悪なのは、乗っ取った後は“喉元過ぎれば熱さを忘れる”とでも言いたいのか、施政を極左政治へと転落させているケースがかなり見られており、保守派の危機感と疑念を否定出来なくしてしまい、強い反発や不満までも煽って、国民同士の政治的対立による分断や疑心暗鬼をより一層強める結果となってしまっていた。

 

 

 国外には出られない、国内は国民レベルでギクシャクして互いに壁を作り合う様な状態。

 

 

 そんな閉塞感極まりない状況も相まってか、一種の終末思想的な考えが蔓延する土壌ともなっていた。

 

 

 当初は深海棲艦の出現からの一連の動きを“裁きの日”、“最後の審判”が近いのではないか?と捉える考えもあった。

 

 

 その中には“ソドムとゴモラの罪の裁き”に関する見解のものも含まれていた。

 

 

 “ソドムとゴモラの罪”とは、“()()()()()()()”などの“()()()()()()()()”が原因であったとされており、それは極左が推し進めた“多様性”の一つ、“性に対する多様性”云々との類似性が指摘されていた。

 

 

 艦娘は出現当初、“救世主”として迎え入れられていた時期でもあるが、同時に艦娘のことをヤハウェの使いではないのか?と捉える動きもあったのだ。*9

 

 

 創世記19章でヤハウェの使いである天使2人は男性であるのに対し、艦娘は女性の姿形をしているので否定的な見解もあるが、だが艦娘が最も多く出現しているのが極左の多様性による影響が色濃く出ている国々に集中しており、戦いの傍らその国々の淫れた(乱れた)内情をつぶさに観察することで、“()()()()()()()()”を行なっているのではないか?との見解もあるのだ。

 

 

 当の艦娘達からしたら謂れのない風評だと反論しているが、一度根付いた考えというものは簡単には払拭されないものである。

 

 

 また彼らはIowa(アイオワ)が政界へとデビューし、大統領の座に就こうとしているのも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()との推論を展開していた。

 

 

 無論、Iowa(アイオワ)にその様な意志は毛頭無い。

 

 

 ただこの乱れた世の中をどうにかしたい。どうにかしなければならない。という一種の使命感にも似た意志の発露だった。 

 

 それに艦娘という種族が、その生存において人類に依存しているという“現実”があるのに、その人類を滅ぼす様な真似は、それ即ち自分達の滅亡へと直結する。

 

 そして人類が自滅するのを座視することも、滅亡へと繋がる。

 

 安定した共存共生の関係でなければ、艦娘はその生存すらままならない程に、脆弱な種族だった。

 

 言い方は悪いが、艦娘は人類社会に寄生していると言っても、あながち間違いではないのだ。

 

 宿主が倒れたらそれでお仕舞い。次の宿主と成り得る存在がいない以上、共倒れは必然。

 

 ならば宿主(人類)が馬鹿をやって自滅しないように、コントロール(介入)するしかない。

 

 些か身も蓋もない解釈ではあるが、然程間違ってはいない。

 

 

 人類がマトモならば、こんなことにまで気を回す必要はなかったのだが、予想以上に人類は、民衆は浅慮な上に他力本願だった

 

 

 いや、民衆はここ数十年に渡って為政者に振り回されたことで、疲れ果て()()()()()()()といった側面もあった。

 

 

 こんな乱れきった世の中、最早正すよりも滅びた方が良い…。

 

 

 そう内心で考えてしまう程に、人心は疲弊し荒みきっていた。

 

 

 彼らだって最初は声を上げ、行動に出て自分達の抵抗の意思を主張していた。

 

 だがその悉くが力によって押さえ付けられ、無視され、()()()、更なる抑圧や暴力による圧政を呼び込む結果となってしまった。

 

 もう彼らには気力が残ってはいなかった。

 

 

 その諦めの境地から、終末思想へと傾倒する者達が後を絶たなかった。

 

 

 厄介なことに、彼らはIowa(アイオワ)の支持層において、かなりの割合を占めているのだ。

 

 この事はIowa(アイオワ)、そして彼女が所属する保守党としてもかなり頭の痛い問題だった。

 

 ある種の支持基盤であるが故に、各州への演説やイベントに出る度に彼らは熱心な応援団(サポーター)として参加しているのだ。

 

 

 Iowa(アイオワ)も保守党上層部も、国を立て直したいと考えているのに、その支持者は真逆の考えであることに、頭を抱える羽目になった。

 

 しかも最近では保守党内部の議員達の中からも、その考えに靡き出す者が出始めているのだ。

 

 

 これに対して対立勢力たる極左リベラル政党はここぞとばかりに攻勢を…、仕掛けることが出来なかった。

 

 

 何故ならば支持者の中には極左が基本的に攻撃対象としている白人系だけでなく、本来ならば極左の支持基盤であったはずのラテン・アメリカ系にアジア系、そして黒人系といった多種多様な人種が分け隔てなく集まって支持しており、下手な攻撃は返って自分達の首を締め付ける結果となりかねなかった。

 

 というか幾つかの州で実際に首を絞める事態となっていた。

 

 かつてのJoker(ジョーカー)政権下で発生した黒人至上主義運動の大暴動において、声明を出して支持し、カネをジャブジャブ流し、司法や警察当局に圧力を掛けて鎮圧を妨害するなどして煽りに煽ったのが極左勢力だったのだが、その後の政権強奪後は手の平返しで臭い物に蓋をするかの様に抑圧へと動き出し、対立する様になっていた。*10

 

 他にも利用出来るものは利用した挙げ句、その悉くを用済みのお払い箱として捨て去る行為を繰り返したものだから、相当な恨み辛みを買っていたため、火種さえあればいつ爆発しても可怪しくなかった。

 

 それに、元々彼らの中には暴動に託けてただ単に暴れたい、物を壊したいというだけの、所謂()()()()が多数紛れ込んでいたという事もあり、些細なことが火種と成り得たのだが、それに気付かずにうっかり火を点けてしまったのだ。

 

 そして治安のさらなる悪化を招く(大火傷を負う)羽目になり、報復として弾圧に乗り出したら、無関係な者達まで巻き込んで───、まぁ、そこから後は完全に負の連鎖である。

 

 

 こういった背景もあり、極左リベラル政党は相当に焦っていた。

 

 無気力となった国民はいざ知らず、今暴れている者達はかつての暴動で()()()()()()()()()()()()()という、最悪な()()()()があるため、その破壊力には加減や情け容赦などという甘ったれた言葉は存在しなかった。

 

 

 今まで我が世の春を謳歌し、好き勝手に国政を壟断してきたツケであるとも言えるが、このままだと流血を伴う事態が拡大し、取り返しの付かない所まで行く可能性すら有り得る。

 

 それはIowa(アイオワ)も保守党上層部も望んでいないのだが、アメリカは、確実に混沌(カオス)へと陥りつつあった。

 

 

 それでも出来る限り混乱を抑えようと努力はしているのだが、今の政権はまるで知ったこっちゃないと言わんばかりに、間接的にではあるが、火に油を注いでまわっているのだ。

 

 いや、厳密に言えばやること成すことが全て裏目に出ているというのが正しいか。

 

 

 例を上げれば、艦娘への選挙権付与拡大及びその取り消しに関するいざこざ、Iowa(アイオワ)に対するロシア疑惑というでっち上げによる誹謗中傷の数々。

 

 

 その全てが混乱を助長する結果となり、一部ではあるが艦娘の暴発も実際に起きてしまっていた。

 

 

 今はメディアを始めとした情報統制で抑え込んで各地に飛び火することを防いでいるものの、それも時間の問題だった。

 

 何故ならば今まで政権を維持する為の重要なファクターであった情報統制システムが、ここのところ機能不全を起こし出したのだ。

 

 政権側は躍起になって原因を究明しようとしたが、システムエラーとしか分からなかった。

 

 しかし不自然なほどに頻発するものだから、ハッキングの可能性を疑っているのだが、その僅かな痕跡すら見付けることが出来なかった。

 

 

 その犯人がまさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であるとは、夢にも思うまい。

 

 

 Arizona(アリゾナ)は、アメリカ政府に対して静かにブチギレていた。

 

 

 愛する者(アイオワ)への誹謗中傷は、彼女にとって最大のタブー領域だったし、何より彼女が沈んだ遠因には、北アメリカ州(生まれ故郷の)政府が下した利己的な決定が密接に絡んでいた為、この手の事に敏感な上に沸点もかなり低かった

 

 無論この事実をIowa(アイオワ)は知らない。知っていたら止めただろうが、それならそれでArizona(アリゾナ)は別の手立てに移るだけである。

 

 

 現政権は全方位に喧嘩を売っているが、まさか未来の存在にまで喧嘩を売っていたとは、思わなかっただろう。

 

 

 まあ、それはさておき、終末思想の蔓延に関しては今ここにいる2人の深海棲艦の姫も密かに懸念している問題であった。

 

 

 どうにかならねぇのか?と戦艦新棲姫はIowa(アイオワ)にぼやく様にして尋ね、それに同意する様にして南方戦艦新棲姫も頷く。

 

 彼女達からしたら、商売に差し支えが出るだけでなく、共に働いている同胞(はらから)や雇っている従業員に危害が出かねない混乱や治安の悪化は非常に困るのだ。

 

 今のところは()()混乱が全米へと波及してはいないのだが、いずれ燎原の火の如く燃え広がる恐れがある。

 

 それこそかつての大暴動の様に。

 

 その当時のことを知る従業員から、不安の声が何度も上がって来ているのだが、どうすることも出来ずに2人は常に頭を抱えていた。

 

 

 だが、Iowa(アイオワ)は難しい顔をしながら首を横に振った。

 

 

 彼女としてもどうにかしたい気持ちで一杯なのだが、一朝一夕でどうにかなる様な簡単な問題ではないし、そもそも彼女がいくら人気があり、支持率も上がっている今話題の政治家とはいえ、単なる一上院議員に過ぎず、この状況で行使出来る権限だって(たか)が知れている。

 

 せめて上院議長か或いは大統領、副大統領に次いでNo.3のポジションである下院議長ならば、多少はマシなのかもしれないが、今は上院も下院も極左リベラル政党が過半数を占めている状態である以上は無理な話である。

 

 

 だからこそ次の選挙でIowa(アイオワ)が大統領となって、尚且つ議会の過半数を奪還するしか道が無かった。

 

 

 …最悪クーデター、いや合衆国憲法で保証されている革命という手段も考えなかった訳では無いが、劇薬に過ぎて逆に国を完全に割ってしまうリスクが高過ぎ、最悪そのまま南北戦争以来二度目となる大規模な内戦へと発展する可能性を恐れ、実行する訳にはいかなかった。

 

 そもそも今のアメリカで内戦が起きようものなら、国家として完全にトドメを刺す結果になってしまう。

 

 それ程までこの国の内情は追い詰められていた。

 

 

 先の通信でヒジカタやキリシマ達が、日本はもう限界だと語っていたが、アメリカだって戦争などという“贅沢”が出来る状態ではないのだ。

 

 それなのに今の政府は自分達の保身の為、外や周囲に敵を作ることで必死になって批判の矛先を逸らそうと躍起だが、根本的解決が成されていないのだから、小手先の時間稼ぎにしかなっていない。

 

 

 遠からず、この国は歴史の教科書に記載され、学生達の暗記の対象となるだけの過去の存在となるだろう。

 

 

 教科書ならば何人が犠牲になったかの大凡の数字だけで済むが、当事者は記号や数字ではない。

 

 それに、その際の混乱なんて、文章からは分からない。

 

 正しく筆舌し難い艱難辛苦が待ち受けるのだ。

 

 

 それを回避するために、Iowa(アイオワ)は茨の道を選んだ。

 

 Arizona(アリゾナ)から言わしてみたら、Iowa(アイオワ)が背負い込まなければならない義務が有るわけでなく、もう投げ捨てて亡命しようと言ってあげたい気持ちがあるが、彼女の意志を尊重すると心に決めたあの日から、最期まで付き合う覚悟でいる。

 

 

 地道かもしれないが、一歩一歩確実に進むしかないとIowa(アイオワ)は考えていた。

 

 だからこそ、彼女は本来ならば敵であるはずの深海棲艦の姫2人に対して頭を下げた。

 

 

 貴女達の力を貸して欲しいと。

 

 

 商売人である以上、姫2人が持つ人脈などの伝手や影響力は相当なもののはずである。

 

 今は使えるものはなんでも使わなければならない。仮令それが砲を向け合い、撃ち合ったことのある相手だったとしても。

 

 それで未曾有の混乱を回避出来る可能性が少しでも上がるのならば、頭の一つや二つ、下げるなんて安いものだし、そのことになんら抵抗はない。

 

 

 そんな姿を見せられた姫2人は、即答こそ避けたものの、少なくともIowa(アイオワ)達の邪魔になるような真似はしないと伝えた。

 

 

 ある意味で利害関係の一致からくる妥結ではあるが、ここに史上始めて、非公式ではあるものの艦娘と深海棲艦が互いの為に手を取り合った歴史的な瞬間となった。

 

*1
ツングースカ大爆発は広島型原爆の185倍とされている。

*2
事実指摘後に提示された証拠資料の情報が修正されたりと粗が目立ち、信憑性に疑問がある。

*3
そもそも昨今の厳しいエネルギー事情から物理的に困難であるとの側面もあるが。

*4
そもそも政権内の複数の人間とその一族、関係者がこのビジネスと密接に関わっており、公金の組織的な中抜きやピンハネが横行していた事も相まって巨大な利益を得ていたとの指摘があり、次の様な言葉が残されている。

 

「今のアメリカ政府(連邦政府)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

*5
最たる理由は深海棲艦の出現による交易路の寸断などの問題。

*6
とNATO加盟国への

*7
もっとも、例外措置として技術者であったり何らかの技能を有する優秀な人材ならば、まだ少なからず可能性がある。

 

 また艦娘戦力が旧NATO陣営と比べて少ない両国、特に新ロシア連邦(NRF)では現国防相のМирослава(ミロスラヴァ)氏や海軍総司令Суворов(スヴォーロフ)元帥の意向もあり、艦娘に関しては事前の審査はなされるものの、積極的に受け入れている。

*8
更には出来る出来る詐欺の詐欺師という小悪党が急増した。なお、かなりの確率で当局と内通しているか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ケースがある。

*9
一部では艦娘と深海棲艦の同族説、同祖説を唱え、その解釈による一種のマッチポンプ説を主張している一派が存在している。

 

 曰く、深海棲艦は艦娘が人間社会へと入り込みやすくする為の芝居として暴れていたのではないか?とする主張である。

*10
ただその背景には彼らの要求が際限なく肥大化していたというものもあり、半ば自業自得な一面もあるのだが。





 凋落、そして崩壊へ…。


 祗園精舎の鐘の声、
 諸行無常の響きあり。
 娑羅双樹の花の色、
 盛者必衰の理をあらは(わ)す。
 おごれる人も久しからず、
 唯春の夜の夢のごとし。
 たけき者も遂にはほろびぬ、
 偏に風の前の塵に同じ。

平家物語冒頭より



 とはいえIowa(アイオワ)は最後まで頑張ります。

 …その頑張りが報われるとは限りませんがね。

 最後完全に駆け足となったのはちょっと心残り。


補足解説

Мирослава(ミロスラヴァ) Иванова(イヴァノヴァ)

 新ロシア連邦(NRF)国防相。

 年齢不明。メディアへの露出を嫌い、殆ど表には出てこず、またその経歴には謎が多く、その名前も偽名ではないかとされている。分かっているのは女性であることと、前任の国防相であり現大統領であるКутузов(クトォーゾフ)氏だけでなくПутина(プーチナ)前大統領から全幅の信頼を寄せられている。軍の改革の一環として、海軍の要職に艦娘を登用することを後押し、西側を中心に配備が進んでいる新型の光学兵器(キリシマが開発に関わった光線砲のこと)を生産配備には進ませず、発展改良に向けての試験サンプル目的での配備に留め、新型ミサイルの開発配備を命じたたくらいのものが判明していくらいである。

 それと真意は不明だが、彼女が対日支援を最も強く押したとの情報がある。



 最後にちょっとした宣伝を。

 以前より何度がご紹介させていただいておりますYouTube番組『カナダ人ニュース』のやまたつ様が、この7月1日に2作目となります著書───

北米からの警告 ジェンダー政策、緊急事態法が日本の未来を破壊する

───を出版されることとなりました。以下はその紹介の文章の抜粋です。

───────


ジェンダー政策、緊急事態法、
これらは社会にどのような被害をもたらすのか? 
すでに大変なことになっている北米から、日本国民に向けて、警鐘を鳴らす1冊。

カナダ在住YouTuber「やまたつ」氏による書籍第2弾。
現在、北米社会(アメリカ・カナダ)を根底から揺るがしているのが「少数者を利用したポリコレ」「行き過ぎたジェンダー政策」である。
ジェンダー政策を悪用する左翼や犯罪者、手術で子どもを犠牲にする医療業者が跋扈するアメリカとカナダの実情とは?
そして、カナダ政府による「緊急事態法」と市民運動「フリーダムコンボイ」とは?
北米在住の著者が現地取材・報道・公式情報をベースに、日本メディアがまったく伝えないリアルな実情をレポートする。

<本書の内容>
第1章 LGBTビジネス 左翼が社会を破壊する手法
第2章 被害者の声 元トランスキッズからの教訓
第3章 見せかけの自由 カナダの現実から学ぶ日本の未来
第4章 フリーダムコンボイ 失うことで学んだ“自由”の大切さ
第5章 亡国の危機 恐怖をコントロールする手口

───────


 今現在政府が強引に推し進めたえるじーべーてー法案に関しまして国民が反発し、揉めている今だからこそ、今世界でえるじーべーてーによってどの様な事態が起きており、それが日本に、いえ日本人にとってどれ程の悪影響を及ぼす危険性があるかを知るためにも、是非とも手に取って読んで頂きたく思います。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第50話 Embellishment

 粉飾。


 今回は本来ならば『真志妻レポート』というタイトルの閑話で使用を考え、煮詰めていた内容でしたが、書いていた本編の内容と似通って来ましたので手直しして本編に持って来ました。
 が、あれやこれやと付け足しで書いてると、出だしの段階でいつものことながら想定よりも長くなりましたので分割…。しかも会話文一つもなし…。


 後久し振りにアンケートを実施致します。本編と関わりはありますが、そこまで密接なものではないのですが、少々気になることがありましたので、その確認の為に。


 

 

 戦果というものは、往々にして正確性を欠く。

 

 

 戦闘の混乱の最中に正確な戦果を確認することは非常に難しい。

 

 

 陸上ならば破壊した兵器の残骸、斃れた人間やその()()から大凡の戦果を推察可能である。

 

 まぁ戦果誇張が目的で、意図的に水増しするケースが古今東西の戦史を紐解くとよく見られる事象だが、近年だと別の戦場、過去の戦闘で破壊した敵軍兵器や、敵軍兵器と同系列の装備を使用している軍隊が、破壊された自軍兵器を敵軍兵器と偽ったりして水増しするケース、兵器だけに飽き足らず、民間人を敵兵や便衣兵と偽ったり、遺体を切り刻んで分割し、2人以上の遺体に見せ掛ける蛮行が時として見られた。

 

 特に先の第三次大戦はそれが最も横行していた戦争であったとの指摘がなされている。

 

 

 この背景には深刻な兵士の不足に悩む各国が、民間軍事会社(PMC)などの傭兵を曾てない規模で雇って大規模に投入されたことと、各国がマスメディアと結託してその事実を隠蔽していたことが原因ではないか?とされている。

 

 一応、無法状態による暴走行為を抑制する目的として、紛争地域で活動する民間軍事会社(PMC)の行動に関して示した文章である、『モントルー文章』なる()()が存在する。

 

 ただし、あくまでも“()()”でなく“()()”であるため、批准国に対する法的拘束力は持ってはいなかった。

 

 それが影響してか、戦禍の拡大に伴う民間軍事会社(PMC)への需要増加とそれに応える形で組織規模が急速に肥大化し、同時に政治的な影響力も肥大化したことで次第に死文化し、戦争中盤期に差し掛かった辺りで事実上消滅してしまっていた。

 

 

 結果として再び無法状態へと突入。

 

 

 アメリカ軍は嘗てのイラク戦争の二の舞いを演じ、ロシア東欧紛争においては数で劣る東欧とそれを支援するEUが、アメリカのカナダ侵攻によるNATOの一方的解散に伴う崩壊により、アメリカからの表立った支援が当てに出来なくなった事も影響してか、兎も角兵士を揃える事に躍起となり、審査もそこらに矢鱈めったらに雇いまくった結果、ビジネスチャンスと言わんばかりに素性もよく分からない怪しい新興企業が乱立し、モラルの低下を招いて問題行動*1が多発した。*2 

 

 対するロシア軍においても、数では勝るものの広大な戦線を支えるためには正規軍だけでは心許無く、国内や同盟国に友好国などから民間軍事会社(PMC)を雇って投入していたが、東欧やEU程のカオスではないものの、こちらも今までに前例のない大規模運用と国外グループの参加という事もあり、トラブルに頭を悩ませることとなった。

 

 

 これらの状況下において、民間軍事会社(PMC)商売敵(ライバル)との差を付ける為か、戦果などの水増しが日常的に相次いだという。

 

 また管理責任の問題からか、一部では正規軍も色々と結託していた事が戦後に発覚している。

 

 

 このため、第三次大戦は近代戦争の中でも特に戦果の正確な実数が掴みづらい戦争であると言われている。*3

 

 

 まぁ前大戦の醜聞はきりがないのでさておき、今現在の戦争、艦娘と深海棲艦の戦いであるが、これは従来の水上での戦い、所謂“海戦”における常識そのものを根底から破壊し尽くした。

 

 

 それまで海戦とは、基本的に陸上からの戦力及び火力投射*4という要素を除けば、船という水上の火力投射プラットフォーム同士を基軸とした戦いであった。

 

 互いに間合いを取り合いながら、必殺の一撃を放ち合う。

 

 ある意味で戦車同士の戦いに近い。

 

 しかし戦車と違い、歩兵或いは歩兵の様な存在に取り囲まれる心配が無いというのが、陸と海との戦いの最大の違いと言えるだろう。*5

 

 

 それが長らく常識だった。

 

 

 だが深海棲艦の出現によって、その常識が覆される事となった。

 

 

 深海棲艦は、正しく海の上の歩兵だった。

 

 

 戦車が歩兵に取り囲まれると脆いのと同様に、船も脆かった。

 

 しかも厄介なことに、その歩兵は高速で動き回って阻止砲火を掻い潜り、単独ですら戦車を容易に破壊できるような、正しく化け物だった。*6

 

 

 陸上で戦車は歩兵を随伴させ、接近する或いは接近を試みる敵歩兵の撃退乃至牽制を任せている。

 

 

 艦娘との共同戦線が確立して以降、海の上でも次第にこの形態に似た戦術が採られる様になった。

 

 最近では戦車というよりも、戦闘海域への移送を目的とした兵員輸送車的な扱いと、射程を活かした火力支援を目的とした自走砲的な扱いという形に変化はしているが、基本的な所は変わっていない。

 

 

 余談だが、新ロシア連邦(NRF)軍は艦娘を歩兵として捉えている軍隊の急先鋒であるのだが、そのためか、また当初は規模が小さかったこともあり、各地に展開する艦隊所属のМорская пехота(海軍歩兵)の指揮下に置かれていたと言われている。

 

 しかし、指揮系統などで問題が起き、紆余曲折を経て現在では新たにМорская пехота(海軍歩兵) спецназовец(スペツナズ)として新設されるという形で独立し、活動している。

 

 

 話が逸れてしまったが、深海棲艦と艦娘の出現によって海戦においても陸戦的な要素が加わったわけではあるが、ここで一つ問題が発生した。

 

 

 損耗の線引である。

 

 

 軍艦ならば使用された兵器の情報やその被弾痕などの見た目から、ある程度の分析が可能であり、兵士も負傷具合などからある程度読み取れる。

 

 しかし艦娘の運用によって判明したのだが、艦娘は人間の兵士よりも遥かに頑丈であり、兵士ならば戦闘の継続が困難となるレベルの負傷であっても、そのまま戦闘を継続可能なケースが多かった。

 

 現在では初期の試行錯誤によって集積されたデータから、艦娘各々が装備する艤装や被服の損壊具合に応じて、便宜上の大破から小破までのランク付けが行なわれている。

 

 

 問題はKIA、Killed In Action。つまり戦死についてである。

 

 

 艦娘は戦闘などによって艤装に重大な損傷が生じ、浮力を損失した場合は轟沈という便宜上の損失扱いとなるのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 頭部などの重要器官が破壊されたり木っ端微塵になるくらいにまで吹き飛ばされた、所謂即死状態ならば別だが、大概はまだ生命活動が保たれた状態であることが多く、轟沈後速やかに救助し、必要ならば適切な治療などの処置を施せば死亡する可能性は限りなく低下する。

 

 また戦闘後に漂流していたり、どこかの陸地に漂着していたのが後に発見されるケースも稀にある。

 

 そもそも艦娘の保有、運用には人間の兵士よりも遥かにコストが掛かるし、消費する資源の量も膨大なのだ。

 

 ただでさえ各国はパンデミックと火山活動の活発化に伴う寒冷化などの異常気象による被害に第三次大戦、一部では長年に渡る内政の失敗のツケによって経済が大きく疲弊しており、お財布事情は火の車という状態なのに、消耗戦の如くおいそれと失われては、その補填の為に国家財政が破綻してしまうリスクが高かった。

 

 さらに言えば世論の突き上げだって怖い。*7

 

 だからこそ各国軍部は消耗を嫌い、KIAによる完全損失のリスクを可能な限り回避する方針へと固まっていき、その方策を模索することとなった。

 

 その一つとして、浮力の確保を目的としてライフジャケットの装着が奨励されたが、初期の頃は艤装との干渉などといったトラブルや、戦闘による損傷で機能を十全に発揮しないという本末転倒な問題が多くて不評だったが、現在では改良も進み、問題はある程度解決された。

 

 後に潜水艦の艦娘が増えるに遵って、ライフジャケットも破壊され、浮力を失い沈降していた艦娘の救助が可能になると、KIAによる損失そのものは減少傾向にある。

 

 無論、時間が経ちすぎていたり、潜水艦艦娘の潜航限界深度を超過していたらもう諦めるしかないが。

 

 

 さて、ここからが問題なのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そもそも深海棲艦が沈んだ仲間の救助を行なっている可能性は、かなり初期の段階から示唆されていた。

 

 その理由の最有力とされたのが、撃沈したはずの姫級がその後も出現している事が挙げられていた。

 

 同一の別個体ではないのか?との疑問を指摘する声もあったが、その姫級との交戦経験がある艦娘の証言や、映像データの解析から、その挙動や癖などのパターンが一致している事が判明し、一部は同一の別個体であったりもしたが、ほぼ間違いなく同一の個体であるとの結論が出された。

 

 これにより、深海棲艦が沈んだ仲間の救助を行なっていることは間違い無しとされ、その方法も潜水艦艦娘による救助が確立されたことで、否定的な見解は淘汰されることとなった。

 

 

 しかし、その事で同時に、深海棲艦に於いても轟沈=完全損失という図式が根底から覆ることとなり、幾ら戦果を上げても深海棲艦その物の個体数はそれ程減少している訳では無い。という事も明らかとなってしまった。

 

 

 無論、阻止行動に試みる動きもあったが、そのまま大規模衝突へと発展する事態が相次ぎ、成果に対してあまりにも消耗が激し過ぎるからと、現在は半ば頓挫している。

 

 

 またこの事実は一般には公表されていない。

 

 

 民衆がパニックに陥って社会の混乱の誘発を防ぐ為でもあるが、軍も政府もこの戦争の落とし所が見付けられずにいる以上、戦争を続けるために支持を得続けなければならない。

 

 

 多額の予算と資源を投入しているにも関わらず、その戦果が無きに等しい事が知れ渡ったらどうなるか。

 

 

 それは第三次大戦のロシア東欧紛争終盤に起きた東欧と西欧の政情不安を見れば一目瞭然である。

 

 

 ロシア軍に対して大戦果を上げ続けていると謳っておきながら、その実態はお寒いものだったことがバレてしまい、政府と軍部に対する信用が失墜し、ただでさえ苦しい日常を耐え忍んでいた民衆の不満が爆発。

 

 西欧各国では都市部を中心に大規模なデモ活動が連日連夜に渡って行なわれ、時には暴動へと発展する事態となり、東欧では戦場となった国々で暴動を通り越した事実上の内戦状態へと陥り、一部では親西欧派路線の政権が倒れる革命騒ぎに発展する大混乱となった。

 

 西欧ではなんとか混乱は終息したものの、東欧は最早無政府状態であり、戦争継続が困難な有様となった。

 

 

 この当時の大混乱の様子はその規模の大きさもあって報道管制に失敗し、SNSなども通じて全世界に知れ渡るだけでなく、他の国々にも少なからず影響が出ることとなった。

 

 

 今もし、深海棲艦との戦いで今まで挙げた戦果が実は過大である、と知れ渡ることとなってしまったら、民心は混乱の極みとなり、その後は収拾がつかない未曾有の大混乱(予想される最悪の事態)へと陥る事となるのは、容易に想像がつくだろう。

 

 

 だからこそ、事実を知る一部の各国上層部は口を噤んだ。

 

 誰だって歴史上、類を見ない大混乱を引き起こした者として、自身の名を残したくないだろう。

 

 それにその後の展望に関係無く、『責任』の二文字の下に消されるかもしれない。

 

 そうでなくとも、予想される最悪の事態が実際に起きたら都合が悪い者もいるのだ。

 

 

 またこのことは艦娘に対しても箝口令が敷かれており、立場柄知り得る者や古参組といった一部の者しか知り得ていない。

 

 しかしそれでも薄々勘付き出している者も、徐々にだが増えてきており、その事も相俟って士気の低下を招いている。

 

 

 無論、民衆の間でも「もしかしたら…?」と思っている者も出始めているが、その疑問を実際に声に出している者は今のところ圧倒的少数派であり、殆どの民衆は政府や軍部のプロパガンダ(公報)を信じ切っていた。

 

 …いや、波風立てたくないからと、信じたフリをしてダンマリを決め込み、疑問の声に耳を塞いで聞こえないフリをしているのかもしれないが。

 

 

 だがそんな民衆の姿が、事実を知る、或いは勘付いた艦娘からは恐ろしく滑稽な姿にしか見えず、言い知れぬ不安と失望感を抱く事となり、両者の溝が深まる理由の一つにもなっていた。

 

 

 今はまだ大きく表面化していないものの、それも時間の問題だろう。

 

 

 いずれにせよ、このまま現状維持だとそう遠くない将来において破局は免れない。

 

 

 “予想される最悪の事態”が“()()()()()()()()()最悪の事態”とならない保証は何処にも無い。

 

 

 最悪は常に事前の想定を上回ってくるのだ。

 

 

 

 早急に迅速で抜本的な解決に取り組まなければ、世界は『ヨハネの黙示録』や『最後の審判』にある通りの結末を迎える事になるのかもしれない。

 

 

 

*1
捕虜虐待に虐殺、物資の横領に横流し、住民とのトラブルによる各種重軽犯罪などなど。

*2
なおこの事実は厳しい箝口令と報道管制により、戦時中は殆ど表沙汰になることが無かった。

*3
また戦争犯罪も過去最多である可能性が指摘されているが、どの国の政府や軍も藪をつついて蛇を出すリスクを恐れて解明に消極的である。これは戦時中、東欧某国のとある都市での戦闘において、民間人が多数死傷する事件が発生。これを某国政府は敵国による民間人虐殺の戦争犯罪であると声高に糾弾し、某国サイドに付く各国政府やマスコミも追随したのだが、その後に第三者による調査が行なわれた結果、遺体から多く検出された砲弾の破片や、周囲の不発弾などからそれが自軍の砲撃による巻き添えだった事が判明し、某国政府と某国サイドの各国政府は盛大に自爆してしまい、マスコミもあわてて報道しない自由を発動し、連日連夜続けていた報道をピタリと止めたという事件があり、さらに類似した事態が複数あった事が影響していると言われている。

*4
航空戦力や各種ミサイルによる攻撃。

*5
第三次大戦以前から、アデン湾を始めとした中東方面で、テロリストによるボートなどの小型艇を使用した自爆攻撃が猛威を振るい、さらには中小国だけでなく、先のテロリストや場末のゲリラといった武装勢力にすら急速に配備が進んでいた各種の自爆型無人兵器(ドローン)群による沿岸海域での脅威が増大したことにより、各国海軍で対応に乗り出したものの、最終的に迷走して袋小路に陥った事と、それまでの非対称戦争から従来型の戦争に近い形へと回帰した直後の、パンデミックと第三次大戦勃発という事態も重なって、大きく軍備や戦術に影響が出なかった。

 

 結果、大戦中に各国海軍は敵味方の双方において、各種の自爆型無人兵器(ドローン)群による被害が相次いだ。

 

 しかしそれらによって直接撃沈等の完全損失に繋がる事態は稀であり、大半がその後のミサイルや魚雷、砲爆撃によるトドメの一撃によるものだった。

 

 これは自爆型無人兵器(ドローン)の大半が撃沈よりも、敵艦の探知網を潜り抜けて損傷を与えることにより索敵と迎撃の能力を低下させ、続く本命の攻撃へと繋げる事を目的として、破壊力よりもステルス性と機動性、航続距離を重視していた為である。

*6
自爆型無人兵器(ドローン)による攻撃も行なわれたが、攻撃対象である深海棲艦からの対空砲火が激烈だったのと、なによりも撃破するには破壊力が不足していた。

*7
艦娘の見た目が見た目なだけに、各方面において気炎を上げる連中に枚挙に暇がない。






 最後ちょいと不穏味マシマシ。けど艦これ世界は下手するとこの星の主導権を巡ってARMAGEDDONが起きないとも言い切れない。


 この世界で捨て艦戦法は財政面から成立しないという設定です。
 政治的な面や世論の問題からほぼ間違いなく「待った!」が掛かります。まぁ本編でも語りました通り、騒ぐ人達が出るでしょう。
 まず左翼系や人権派などの権利を主張する活動家の方達が気炎を上げますし、野党やマスメディアもヒャッハー!するでしょう。艦娘の見た目が見た目なだけにねぇ…。

 日本が捨て艦戦法やってるとなったら、反捕鯨団体みたいなのが湧いてきたりして…。

 それに他国からの介入される可能性も…。

 そもそも深海棲艦との兵力差が大きいのに、捨て艦戦法などという、事実上の消耗戦挑んでいたら先に人類側の体力が尽きてしまう…。

 消耗戦は後からボディブローの様に、ジワジワとダメージが出てきますからねぇ。
 一次大戦後のフランスなんて、分かりやすい典型例ですから。

 それに艦娘の深海棲艦化が普通に起き得る世界なら、深海棲艦に戦力を提供している、横流しに近い利敵行為となってしまいます。まぁ横流し自体は戦争に付き物ですが、それは横流しする者にとって魅力のあるリターンがあるからこそ成立する事ですから、リターンが無ければよっぽど物好きでなければ起きないでしょう。


 それはそうと、本作の前日譚でもある第三次大戦、ちょくちょく出して肉付けしてますが、もっと深掘りした内容等の需要はありますか?



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


───────


 アンケートの内容ですが、アメリカ大統領選挙の制度、その根本的な所についてです。

 ネットを見ていると思ったのですが、皆様はアメリカ大統領選挙のイメージはどちらでしょうか?


 直接選挙?間接選挙?


 本作にてIowa(アイオワ)君を大統領候補として扱っている都合上、この手の話題は避けては通れないと思いましたので。

 それではよろしくお願いします。

 


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第51話 Twilight in the Land of the Rising Sun.


 日出ずる国の黄昏。


 遅くなりました。


 正直に言って、リアルもだけど日出ずる国はもうとっくに詰んでる。てか今の政府やってることやろうとしていること亡国化路線じゃん。
 西側も西側で経済見てると低賃金で働く不法移民頼みの経済だし(単純労働者の占める出身国等の割合を見るに、不法移民の割合が急上昇中)、ローマ帝国の奴隷経済かよっ!?ってツッコミたくなる。つか今の日本の賃金って先進国最下位レベルなのに、より安くしようと人口減少を免罪符にして移民を入れようとする政府…。そりゃBRICsが相対的に強くなってくわけだ…。

 ほんまグローバリズムはクソだわ。現代の帝国主義だわ。


 

 

「一応の方向性は決まったとはいえ、問題は山積みだよ。

 

 陽動作戦は確かに有り難いが、彼女達の好意におんぶにだっこというワケにはいかないからねぇ」

 

 

 通信を終え、小休止で一息入れた後、霧島(キリシマ)が全員の前で口を開いた。

 

 

「彼女達の言を完全に信じるならば、という注釈は付くが、一応どれ程の水中戦力を投入出来るかという大凡の数字は先の通信で開示されたが、はっきり言って今のこの国からしたら()()()()()レベルの戦力だ。いやはやなんとも羨ましいとすら思えるね」

 

 

 肩を竦めながらそう話す霧島(キリシマ)に対して、大半の者は同意するように頷くが、一部は苦虫を噛み潰したような表情となった。

 

 何故ならば潜水新棲姫が彼女達に語った水中戦力は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 しかもそれが潜水新棲姫直参の戦力の中でも()()()()()()()()()()というのだから、恐れ入る。

 

 基本的な事ではあるが、戦争中とはいえど保有する部隊の全てが最前線へと送り込まれる訳ではなく、ある程度のローテーションで補給に休養、戦力の補充や再編成と再訓練などの目的で部隊の交代が行なわれるものである。

 

 海軍の第一線級戦力の部隊にもそれは当て嵌る事であり、実質は彼女子飼いの戦力よりも下回っている可能性が高い。

 

 ただしこれは潜水艦艦娘の任務に戦闘とは別にCSAR、*1所謂戦闘捜索救難としての役割が求められた事で、()()()()第一線で活動する潜水艦艦娘に求められる技能的な要求値のハードルが上がり、相対的に戦闘技能そのものは一線級でも書面上は二線級として扱われている潜水艦艦娘が多いことも影響している。

 

 日本だけでなく、各国の海軍としても深海棲艦との埋めがたい物量差から、可能な限り艦娘の損失を抑えたいという考えもあり、CSARに力を入れていたが、最前線となると飛行艇やヘリだと航空優勢の問題に左右され、小型高速艇でも戦闘に巻き込まれた際のリスクから、かといって大型艦艇は目立って的になるだけだから論外である。

 

 最前線となる戦闘海域近辺から回収可能な安全海域まで移送するために、()()()()()()()()()()()潜水艦艦娘に白羽の矢が当てられた。

 

 無論、各国海軍としても正面戦力として潜水艦艦娘を活用すべく、書面上の二線級戦力も投入するケースが無いわけではないが、そこは各国軍部の考え方に左右されている。

 

 日本海軍においては艦娘運用の責任者である真志妻大将の意向もあり、戦闘よりもCSAR任務へと比重が傾いている。

 

 そのため現在の日本海軍においては潜水艦艦娘の役割は所謂衛生兵であるとされ、その技能は他国よりも頭一つ以上は突出していると評価されている。

 

 ただ些か尖鋭化し過ぎているとの指摘もあり、保有する潜水艦艦娘の総数に比して第一線扱いが少な過ぎるとも言われている。

 

 しかし、日本を取り巻く周辺状況からやむを得ないとする意見もある。

 

 日本が存在する西太平洋は他の海域と比較して、深海棲艦の分布が非常に多い海域であり、更には太平洋が分断された影響で他国の海軍からの支援も期待出来ない状態である。

 

 一応の同盟国であるアメリカと、同じ西側先進国という(よし)みもあり、欧州各国から救援の艦娘部隊が派遣されてはいるが、その規模は小さく、はっきり言って政治的パフォーマンスである事が明け透けており、最悪彼らからしたら失ったとしても惜しくはない程度の規模だった。*2

 

 現状、西太平洋にのみ絞った深海棲艦と日本の物量差だけでも、どんなに少なく見積もっても4倍以上と推測されていたが、それすら希望的観測による願望が多分に入り混じっている楽観的な見積もりにすぎないと言われている。

 

 物量差がはっきりしている相手への下手な消耗戦は、如何に善戦しようとも最終的に自滅する未来しか無いとして、真志妻は徹底して消耗を回避する方針であった。

 

 しかし現状を正しく認識出来ていない民衆と、その民衆に対して都合の良い偏った情報を流し続けて扇動する主要マスメディアに政治屋や政治業者(官僚)共によって支えられた、今の政府の無理解による無理難題を押し付けられた横槍が原因で、戦略的意義の無い泥沼化した沖縄戦線での消耗戦により、その方針は事実上破綻してしまっている。

 

 その為もあって、真志妻は最低でも艦娘の損失だけは避けるべく、CSARの増強を推し進めたのである。

 

 どうも政府は今までの戦闘における、深海棲艦の撃破率と艦娘の消耗率、所謂キルレシオから、消耗戦を挑んでも十分に勝ち目があると考えている(フシ)があると真志妻達は見ていた。

 

 しかし、近年深海棲艦もCSARを実施、しかも人類以上の規模と積極さで実行している実態が明らかとなり、その考えは破綻していた。

 

 無論この事は再三再四に渡って報告しているのだが、半ば公然と無視されていた。

 

 まぁ、あまりにも事態が好転する要素が無く、思考停止に陥っている一面もあるのかもしれないが。

 

 ただ政府は戦争における物量差というものの恐ろしさを理解しておらず、かなり楽観視している疑いがあった。*3

 

 

 しかし今回の事で、今まで漠然としていた物量差の実態がある程度ではあるが証明されたと言える。

 

 

 改めて自分達と深海棲艦との物量差を突き付けられ、心中穏やかではいられなかった。

 

 特に副艦の霧島は頭を抱えたくなっていた。

 

 どう転んでもジリ貧であるし、それを戦いだけではどうやっても覆しようがないのが確実となったのだから。

 

 

 それに対して春雨(ハルサメ)姉妹達は涼しい顔をしていた。

 

 

 彼女達からしたら、より絶望的な戦いを経験した身からすると、深海棲艦は話が通じるだけかなりマシな相手であるとの考えに至っていた。

 

 それに、話の通じない相手に対して、あの総旗艦があそこまで懐いて仲良く出来るとは、到底思えなかったのだ。

 

 

 話が通じないことに関して宇宙最凶のガトランティス(蛮族連中)を、総旗艦が死ぬほど嫌悪していることは、地球艦隊にとって最も有名な話の一つである。

 

 そんな総旗艦が満面の笑顔を浮かべ、さも当然のように深海棲艦の姫級と仲睦まじく一緒に居る姿を見たら、総旗艦が深海棲艦を心から信用している事実が見て取れた。

 

 

 これは曾ていた世界で噂話程度で聞いた話だが、アンドロメダは地球防衛の増援としてガミラスから派遣されて来た、ガミラス艦隊の第一陣を取り纏めていたメルトリア級航宙巡洋戦艦バルガディアに対して、ガトランティスに関する話題にて次の様な事を語ったとされている。

 

 

「思うに、連中は躾のなっていない、自身をオオカミだと勘違いしている駄犬の集まりなのでしょう」

 

 

 そのことにバルガディアはジョークの効いた言い得て妙だと大笑いし、アンドロメダも微笑みを浮かべた。

 

 

 しかしバルガディアの僚艦ゲルトラムとクライゼルは見逃さなかった。

 

 アンドロメダは一見すると微笑んでいるように見えるが、目が一切笑っておらず、その瞳がどろりと濁っていたことに。

 

 歴戦の勇士である2人をして、その目を見た瞬間思わず背筋がゾッとしたと、後で漏らしたという。

 

 

 アンドロメダは当時、周りへの影響を懸念して、基本的に感情の起伏を極力抑える傾向にあり、分かりやすい表情などに出ないよう努めていたのだが、本人は自覚していなかったみたいなのだが、この様に態度や表情の一部に出る事がたまにあった。

 

 なにせ話題が最も嫌悪する存在だった事が大きかったのだろう。

 

 しかし同時に、最愛の存在に関しては一転してどこまでも明るく楽しそうに語る。

 

 

 当時噂として聞き流した程度の話題だったが、今にして思うと真実であったと言える。

 

 深海棲艦の姫級、駆逐棲姫に対して総旗艦は本当に好意を寄せていて、大切な存在であると感じている事が、先の通信だけでも十分に見てとれた。

 

 

 嫌っていたり、不信感を抱いている相手に向ける感情でない事は一目瞭然である。

 

 

 それらのことから、総旗艦達の心情を読み取った。

 

 

 駆逐棲姫もそんな総旗艦の事が好きであるといった雰囲気だった。

 

 それに、一緒にいた総旗艦の妹君であるアポロノームもリラックスした感じだった。

 

 

 そして画面越しとはいえ、直に語り合ったその感触から、彼女達の中では深海棲艦に対する敵対の意思は、その出生と価値観から元々薄かったのだが、さらに希薄なものへと変わり、余程のことが無ければこれ以上矛を交える事態は避けるべきとの考えとなっていた。

 

 

 とはいえそれは彼女達、()()()()()()()()()()()ならではの価値観からくる視点と考え方が根底にあり、その事をこの世界の他者に強要しようなどとは微塵も考えていない。

 

 

 結局の所どうするかは、この世界の問題であり、自分達はどこまで行っても“()()()()()()()”なのだ。

 

 “()()()”として手助けはするが、最終的な決定権はこの世界の者達にある。

 

 

 それに、である。戦争において不確定要素は山のように付き纏う。

 

 

 大規模な部隊展開によって双方になんらかの統制の綻びが生じ、現場で取り返しの付かない混乱が発生し、ズルズルと戦線が拡大して収拾がつかなくなり、そのまま大規模な衝突へと発展する。

 

 そんな事態だけは避けなければならない。

 

 

 戦争を終わらせる為の第一歩が、より混沌とした状況を生み出し、この国を終わらせるトドメの第一歩になってしまったら、笑うに笑えない。

 

 そんな事は総旗艦だって望んではいないだろう。

 

 

 兎も角、混乱を最小限に収める必要がある。

 

 

 そこで土方達は先のアメリカからの要請である、マリアナ方面への偵察依頼を逆に利用しようと考えた。

 

 

 マリアナ諸島まで向かうには、艦娘部隊単独では些か距離があり過ぎる為、水上艦艇による送迎の必要がある。

 

 しかし道中に襲撃を受けるリスクが非常に高いため、水上艦艇の防衛と航路警戒の為に艦娘による護衛部隊を編成しなければならない。

 

 しかも目的地が深海棲艦の一大根拠地である為、生半可な戦力では接近することさえ覚束無い。

 

 偵察行動に投入する部隊もそうだが、護衛部隊もそれなりの規模で編成しなければならないだろう。

 

 外洋での作戦行動であるため、水上戦力によるパトロールだけでなく、水中戦力による警戒線や待ち伏せを警戒する必要がある。

 

 そうなると流石に小松島鎮守府が有する戦力だけではとても賄えない為、各地の戦力を抽出するしかない。

 

 それによって、少しでも正面に展開する戦力を後方に下げ、万が一の損耗を避けながら、尚且つ警戒網を薄くしようと目論んだ。

 

 だが。

 

 

「外周艦隊を中心に、戦力の引き抜きは考えてはいるが…、あまり大規模な動員は予算的にも時間的にも無理だ」

 

 

 外周艦隊とは、外洋パトロール艦隊や対潜警戒艦群などの外洋防衛総隊に所属する部隊の総称である。

 

 部隊規模が大きい為、それなりの予算が組まれているのだが、それでも普段からカツカツな上に、実際のところ()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

「それに水上艦艇だってお寒い限りだしねぇ…」

 

 

 さらに追い打ちをかけるように、霧島(キリシマ)が語ったこの事も頭の痛い問題である。

 

 

 今の日本海軍水上艦隊は、かつて自分達が所属していた、国連宇宙海軍極東空間戦闘群の西暦2199年頃よりかはまだマシとはいえ、その稼働戦力は現海軍の前身である海上自衛隊時代とは比べものにならないくらいにまで低下していた。

 

 それは何も撃沈による損失というだけではない。

 

 

 深刻なまでの人員不足が原因である。

 

 

 艦船を動かす乗組員は勿論の事、稼働状態を維持するために必要な工員が全くと言っていいほど足りていなかった。

 

 また消耗品や交換部品を製造する工場も働き手だけでなく、深海棲艦による南方シーレーンの寸断が原因で、一時期原材料の輸入が殆ど途絶えたことが影響して次々と閉鎖や倒産したことで、失われた技術も少なからずあった。

 

 さらにグローバル化による海外依存の弊害が、ここに来て最悪な形で露見してしまった。

 

 

 建造コストを抑えるためにと、国産の民生品だけでなく海外産の部品やら機材を導入していたのだが、それがシーレーンの寸断やらなにやらで途絶えたり、安定しなくなってしまい、深刻な消耗品不足に陥ってしまった。

 

 

 更には移民の問題である。

 

 

 不足する労働力を海外からの移民などで賄おうとしたツケと言えた。

 

 何処もそうだが、移民はその人数が増えるに連れて独自の文化的コミュニティを形成し、次第に国家の中の国家とも言える事実上の都市国家的な規模の半自治区へと拡大して行き、様々な権利を際限なく要求する様になる。

 

 それ以前に元から働いていた国民が追い出され、失業率が跳ね上がる事態も発生し、国民所得の低下から消費が低迷して経済を悪化させただけでなく、浮浪者が溢れて治安の悪化を招くこととなる。

 

 そして治安の悪化がさらなる経済の悪化に繋がる負のスパイラルへと陥る状態を生み出した。

 

 

 ここで問題なのが、政府機関がグローバル思想だと、国民には適当な補助金を交付するだけで殆ど放ったらかしにして、移民達への保護的施策を優先的に打ち出し、次から次へと権利を与え続けて本来の国民と同等、どころか国民以上の権利を与えてしまうケースが多かった。

 

 

 日本政府はそれに当て嵌っていた。

 

 

 それでも移民は権利を主張し続け、切っ掛けがあれば集団で暴れ出し、労働力として使い物にならなくなった。

 

 国民は働いたとしても不安定な雇用からくる不安定な収入よりも、喩え低額であったとしても、働くよりかは安定した収入が期待できる補助金を目当てに、敢えて働かなくなる者も出ていた。

 

 まだマトモに働いている国民や移民も居るにはいるが、国民は兎も角、移民はどっちに転ぶか分からないが為に、優遇措置やらなにやらで甘やかし、労働現場での技術力の低下を招いてしまっていた。*4

 

 そして働かなくなった今の移民の労働力の代わりに、新たな移民を奨励し、後はその繰り返し。

 

 だがそれもパンデミック後の急激な世界人口の減少や、深海棲艦の出現に伴う混乱によって新たな移民を呼び寄せる事が難しくなった。

 

 結果、日本の労働力はより深刻さを増し、今まで呼び寄せた移民の為の予算で国庫を大きく圧迫していた。*5

 

 では移民の影響で失業していた国民はというと、安くても確実に手に入る補助金がある為、今更再就職する気も起きなかった。

 

 政府としても今更補助金を減額したり、廃止してしまうと次の選挙が危うくなりかねないから、手を付ける事に消極的であるし、対立派閥や政党に対して「奴らは補助金を無くす気でいる」と喧伝する絶好の攻撃材料の手札として、手元に残しておきたかった。

 

 事実上、補助金を餌に買収している安定した票田であり、なんとしても維持したいとの強い思惑があった。

 

 結果、人手不足は解消されることなく、曾ての物作り大国、技術立国は何処へやら、経済は目茶苦茶になり、最早自前の艦船すらマトモに建造することも、維持する為の整備にすら四苦八苦する有様だった。

 

 港には修理待ち、整備待ちの艦船が民間船舶と列んで数珠繋ぎとなっており、一部は朽ち果てつつあったが、その解体すらマトモに出来ずにいた。

 

 特に曾て海自の顔とも言えたイージス艦は、アメリカからの部品調達も覚束無くなったことも相俟って早々に全艦退役することとなった。*6

 

 

 現在海軍では政府を説得し、紆余曲折を経て新ロシア連邦(NRF)から20380型警備艦『ステレグシュチイ』級フリゲートの輸出型や11661型警備艦『ゲパルト』型コルベット*7の供与に関しての取り決めの合意を交わす事に成功し、ウラジオストクに海軍の人員を派遣して訓練に取り組んでいるが、訓練途上であるために作戦参加は無理である。

 

 

 となると、既存の艦艇を動員するしかないが、正直マトモに動かせる艦艇は、艦娘の母艦と成り得る『いづも』型のDDH-184『かが』を始めとした、何隻かの汎用護衛艦だけである。*8

 

 

 流石にこれだと心許無い。

 

 

 確かに『かが』は大型艦であり、多数の艦娘を乗せることが可能であるが、艦隊の周囲に多層的な警戒、迎撃網を構築するためにも周辺を固める汎用護衛艦にも艦娘を乗せる必要がある。

 

 しかし汎用護衛艦だと(ふね)の容積から乗り込める艦娘の人数と、その装備品や補給物資などの消耗品を積み込める量に限りがあるため、遠洋での艦娘の運用能力が些か心許無い。

 

 それを補う為にある程度の艦数を投入しなければならないのだが、今の日本にはそれが困難だった。

 

 

 曾て『もがみ』型FFMを設計ベースとし、艦娘運用を念頭に置いて設計された新型護衛艦を建造する計画はあったものの、AL/MI作戦失敗後の混乱や戦況悪化に伴い建造中止となっていた。

 

 

 1年前までなら、まだどうにかなった。

 

 

 しかしここでも沖縄戦線での消耗戦が、木綿で首を絞めるかの如く、ジワジワと日本にダメージを齎していたのだ。

 

 

 考えれば考えるほど、日本は詰んでいた。

 

 

 その事を改めて思い知らされて、皆一様に溜め息を吐いた。

 

 

 しかし、溜め息を吐いた所で事態が好転する訳では無い。

 

 

 兎も角無い知恵を絞る為に、この後も喧々諤々たる議論を続けていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

*1
Combat Search and Rescue

*2
なお、新ロシア連邦(NRF)であるが、こちらは太平洋艦隊の根拠地にして艦娘部隊の駐留するウラジオストクが近いこともあり、日本へと直接派遣されている艦娘は最も少なく、派遣されている艦娘は大使館付き駐在武艦という扱いである。ただし、通常の駐在武官以上に行動の自由裁量権が認められている。

*3
それ以前に数字をちゃんと理解しているかもかなり怪しかった。

*4
そこに漬け込み、マトモに働かなくなる者も増えた。

*5
なお、それを理由にして大増税が強行された。

*6
この事で真志妻を筆頭とした一部の官民から、少しでも価値のある内に新ロシア連邦(NRF)にでも売っ払って予算の足しにでもしたらどうか?との意見が出たが、流石にアメリカからの圧力で実現しなかった。

*7
ただし対艦ミサイルは3M54カリブル巡航ミサイルは輸出用のモンキーモデルでも、ましてや本国仕様でもない、3M24ウラン対艦ミサイルへと変更されている。これは同じウラン対艦ミサイルを使用するステレグシュチィ級と合わせている側面もある。

*8
なお、合同作戦時に同一名称の艦娘との重複を避けるため、艦艇に関しては、例えば今回の『かが』を例に出すと、DDH-184などの艦番号で呼称される。





 色々と調べたりしてると、鬱になりそうになって、筆が重くなりました…、

 
 ちょっとここからパワープレイ気味になるかも?


補足と解説

 戦闘捜索救難 Combat Search and Rescue、略称:CSAR

 戦争中に戦闘地域内やその周辺で取り残された味方や、負傷した人を救助するために行われる捜索救助活動のことを指します。
 敵に包囲される恐れがあり、高い危険性から機関銃で武装したヘリコプターを用いることが多く、場合によっては攻撃機が近接航空支援を担当します。
 敵地での行動となるため迅速さが要求され、一旦救出作戦を始めると身を潜めていた要救助者が露呈するため、失敗は許されません。

 以上の様に、現代におきましては航空部隊を主軸にしました救出活動が基本なのですが、本作におきましては本編でご説明致しました通り、潜水艦艦娘がこの任務に従事しており、重要な役割を果たしています。


 数字をちゃんと理解しているかもかなり怪しかった。

 リアルでの頃な関連予算のどんぶり勘定や不明瞭な審査からの多額の使途不明金だけでなく、他の事業予算の出鱈目な計算やら国民管理番号券の取得枚数の過剰計上、報告書類等に記載された数字の曖昧な根拠、物価高によるコスト増による経済への影響などなど。が元ネタ()

 日出ずる国でお上と呼ばれるニンゲン達は、こくごだけでなく(噛み合わない国会答弁と前後で矛盾する言動、出鱈目で書き直し上等の文章が公文書)、足し算引き算のさんすうどころかマトモに数を数えることすら出来無いみたいである。ついでに認知症の疑いもある。「○○や、(追加の)増税はまだかのぅ?」「さっき増税したばかりでしょ!」

 こんなんで大丈夫だと思える神経が羨ましい。

 因みに、今現在の戦争で各国が某国に支援として送った物資の約7割が某国の国境を跨ぐ前に行方不明となっている情報が、確か安保理の場で公式に出て来た。まぁ残りの3割だって、何割が消えたことやら。某国の汚職は有名だからねぇ。


 バルガディア、ゲルトラム、クライゼル

 嘗てのドメル軍団生き残りのメルトリア級航宙巡洋戦艦。カレル163海戦にて『ヤマト』と交戦経験あり。

 つまりフォムト・バーガー、ライル・ゲットー、カリス・クライツェといったドメル幕僚団がカレル163での乗艦のオリジナル艦名。


 移民の労働力云々

 これ結構ガチで問題視されている課題、と言いますか、事実上の内戦と言えるフランスの暴動にも繋がる問題です。

 て言いますか、今のヨーロッパは北アフリカや中東からの移民が増え過ぎた影響が各地で噴出している状態です。

 何度かアメリカの不法移民問題は取り上げましたが、西側先進国の移民問題は結構根深く、また長い年月を掛けて、それこそ今回のフランスの場合ですと先の第二次大戦終了後まで遡る闇の深い問題であります。(遡れば大体嘗ての帝国主義時代や植民地時代まで行き着きますが。)

 厄介なのは極左はこの問題を政治利用することしか考えていません。

 移民推進派の現在の仏大統領は俺は悪くねぇ!!の路線を貫き、ネットが悪いんだ!と主張してネットのさらなる検閲や規制に乗り出しました。(あの暴動、実はを言うとかなり怪しい暴動なんですけどね。)

 日本だって政府がこれからは移民だー!と叫んでいますから、他人事ではありません。
 で、何か問題が起きたら、その被害や詰め腹を切るのは確実に国民となります。

 移民を出汁にして規制、増税、国民に対する人権侵害と、今の西側先進国は共産国になりたがっているとしか思えません。




 ところで、1500億ドルと聞いて、どう思われますか?

 アメリカが現在までに某国に投じた支援予算(さらに増額が決定)でありますが、最近こちらもピンハネ中抜きが報告され、(何故かカナダなど複数の関係のない国へと流れ、それが正式な予算として計上されていた。)またマネロン等でループしている事もあって、下院が問題視。
 しかも反攻も事実上頓挫して政権内で責任の擦り付け合いが起きているとの内情が最近出て来ました。
 AP通信も切り取りでやらかしたし。前後の文面からゼレによる先制核攻撃要請としか取れないのに、その前後の文面ぶった切って単語だけピックアップ。

 さて、世界はこれからどうなることやら…。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


 現在執り行っておりますアンケートは次話の投稿まで継続致します。そして次話の投稿にて答えを発表致します。
 因みにですが、今現在の結果に、実はかなり驚いております。


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第52話 Ghost Ship and Workerholic Fleet


 幽霊船と仕事中毒艦隊


 久々に主人公登場!


 すみません。研修やらなにやらでドタバタしてました。では本編を、その前に──


 皆様、アンケートにご協力ありがとうございました。

 アンケートの答え合わせですが、答えは───


 “間接選挙制度”です。


 詳細は文章が長くなり過ぎますので、掻い摘んでザックリと説明致しますと、アメリカ大統領選挙は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()選挙人票で争う制度です。

 ですので総得票数よりも、どれだけの選挙人票を獲得出来たかが勝負の分かれ目となります。

 先の2020年選挙における選挙人数の差は306対232で、この結果を左右する票差はアリゾナ、ウィスコンシン、ジョージアの三州での合計43000票差であり、この内21500票の投じた先が違っていたら、結果は引っ繰り返っていました。

 よく700万票差ガー!と奇声吐いてる馬鹿…、失礼、気炎吐いている人いますが、お勉強不足でお話になりません。

 また2016年選挙でも、得票数では民主党の栗金団が上回っていましたが、選挙人の差で共和党のトランプ大統領が勝利致しました。

 この事は2016年の報道で選挙人票について出ていましたが、2020年の際には全く報道無し。総得票数のみ強調。

 もうね、マスメディアは幼稚ですわ。変なバイアスや主観を放り込んで編集や切り取りをやらない中東のアルジャジーラを見習えとしか言えん。

 変な話ですが、切り取りとかしないからとテロリストからの信頼も篤く、犯行声明を録画した映像の放送をアルジャジーラに依頼して出しており、テロリストの犯行声明がアルジャジーラから出るのはこういった背景があったりします。



 

 

 日本で陰鬱とした議論が交わされているなか、ここサイパン島でも議論が交わされていた。

 

 推定4倍以上の物量差があるとされている、その片鱗をまざまざと日本軍に見せ付けた彼女達ではあるが、実際のところ彼女達も彼女達で、それなりに問題を抱えていた。

 

 

 大所帯故に色々と遣り繰りが大変なのだ。

 

 

 大部隊を維持するために必要となる補給物資、それを展開する各部隊へと滞り無く分配する輸送計画。

 

 用意された補給物資を計画通りに輸送するための輸送隊の編成や、襲撃に備えての護衛部隊の編成に両部隊の活動に必要な物資の準備やその手配。

 

 そして部隊の交代に伴うあれこれの差配に必要な物資の手配にと、やることは一見とても地味なのだが兎も角非常に沢山あるのだ。

 

 

 そもそも部隊を動かす差配だって一朝一夕にはいかない。

 

 

 組織運営に纏わる事務仕事という点に関しては、深海棲艦が人類に対して最も劣っている点であると言わざるを得ない。

 

 

 この十年でその辺りの事も急速に学習し、一部ではそれを活かして起業に成功している者もいるが、それでも人類発祥から現在に至るまでに蓄積された経験に追い付くには、十年そこらでどうにかなる様な代物ではなかった。

 

 

 飛行場姫としても、潜水新棲姫の提示した大規模な陽動作戦案は、かなり魅力的であると見ているが、それを実行に移すとなると現在の補給計画や部隊のルーティン計画、備蓄物資の遣り繰りなどを大幅に見直す必要があり、それに費やす時間は膨大なものとなる。

 

 

 人類ならばデジタル技術などを駆使したネットワークによる有機的かつ効率的な在庫管理システムや、数々の先進的なマニュアルがあるが、深海棲艦は人海戦術に頼っている。

 

 

 深海棲艦の中には、特に陸上型の姫の中にはこういった後方担当の事務業務が生まれつき得意とする、プロフェッショナルな個体もいるにはいるのだが、その絶対数があまりにも少ない為、その殆どは後方の、例えば食糧の一大生産地であるインドネシアといった、最も物資管理が大変で複雑な一大生産拠点や、少しでも滞ると担当海域全体に悪影響が出かねない重要な物資集積拠点に集中しており、マリアナなどの前線に配置されることは無かった。

 

 

 それでもプロフェッショナルといかなくとも、彼女達から学んで薫陶を受けた者や、それなりに得意とする者が請け負っており、今のところはなんとか上手く遣り繰り出来ている。

 

 しかし、一度構築された手法を変えたりすることに難色を示したり、想定外の事態に弱かったりと、その内情はやや硬直化しているとの問題もあった。

 

 それはなにも面倒だから、という理由ではない。

 

 万が一、滞りが生じてしまい、同胞(はらから)達に再び飢えの苦しみを味あわせてしまうのではないか?との恐怖があった。

 

 

 実際、とある不幸なトラブルから補給に乱れが生じて前線が混乱したことがあった。

 

 そのトラブル事態は偶発的な自然災害が原因であり、誰の責任でもなかったのだが、この時の担当責任者が自責の念に駆られてしまい、自裁する痛ましい事件が起きてしまった。

 

 その責任者は「災害が原因とはいえ、完全に予測出来ない類いのものではなく、私が気付いていれば回避出来た。私のミスだ。私のミスで同胞(はらから)に大きな迷惑をかけてしまった」と漏らしていたという。

 

 この時の災害とは時化によるものだった。運悪く輸送船団が時化に突っ込んでしまい、衝突事故などの混乱が発生したものだった。

 

 確かに雲の動きなどから、時化の兆候は予想出来たかもしれないし、時期的に海が時化やすい季節でもあった。

 

 所謂、予報が出来なくも無かったと言えなくもない。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 この時はまだそこまで十分な予報のノウハウがあったとは言えない時期であり、個体それぞれの経験と勘に頼った、ややアバウトなものだった。

 

 

 これ以降、深海棲艦は本腰を入れて予報に力を入れる様になった。

 

 

 この様に、明確に誰かの責任という訳ではなく、敢えて誰の責任かと問われれば、今まで対策を講じてこなかった深海棲艦全体、いや、指導的立場にある上位種である姫達の責任であると言えるのだが、自裁した責任者はその事を理解しながらも、責任感が強過ぎた。

 

 

 そもそも深海棲艦は種族的な特色なのか、些か責任感が強い傾向にあり、ミスに対して自罰に出やすかった。

 

 この事で姫の中からも責任を感じて後追いで自裁する者が出掛けてしまい、大騒動にまで発展した。*1

 

 すったもんだの挙げ句、この時はどうにかなり、姫達は自分達も含めて軽々に自罰に走らない様にとの通達を出して戒めているが、それでも完全には無くならず、自裁してしまう者も少なからず出ていた。

 

 頭の痛い問題であるが、姫達は半ば諦めていた。

 

 その背景には、人間達の厚顔無恥な我が身可愛さの無責任ぶりを知ったことにより、こんな恥知らずの様になるよりかは潔く…。というどこのブシドー精神ですか?と言いたくなる様なハラキリ思考がこの頃芽生えていた事が影響していると思われる。

 

 だが、だからといって何かしらのミスが起きる度に、バッサバッサとハラキリを行なわれたら敵わないからと、諦めながらも啓蒙活動に取り組んでいる。

 

 

 兎も角として、今回の事は計画外の事案であり、また投入戦力の規模からも、輸送計画を一度大きく見直しを図る必要があるのだが、正直時間が足りない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そこに来てまた直ぐ様に計画の見直しとなると、混乱が生じて仕舞いかねない。

 

 投入戦力の規模を縮小すべきか?との考えを飛行場姫は巡らせるが。

 

 

「でも日本の周辺海域の警戒網の層は分厚くて厳重だよ?生半可な戦力だと門前払いされちゃうよ」

 

 

 飛行場姫の考えを先読みした潜水新棲姫が指摘する。

 

 

 事実日本の警戒網は、前線の隣接する部隊間の連携による相互支援体制に加えて、その後方予備戦力の迅速な投入態勢などによって縦深防御の能力も高い。

 

 下手に戦力をケチると逆襲されて、こちらの損害が蓄積するリスクが高い。

 

 

 ジレンマであるが、戦力の逐次投入の愚かしさは飛行場姫としてもよく理解している為、ここは多少の無理や無茶を承知で動くしかないとの結論に達した。

 

 

 

「人手が足りないのが痛すぎるわ…」

 

 

 思わずといった雰囲気で呟いた飛行場姫の一言に、アンドロメダは首を傾げた。

 

 そしてそういえばと駆逐棲姫が疑問を口にした。

 

 

「昨日ラウンジに集まった時、何人か欠けてましたよね?」

 

 

 駆逐棲姫の記憶では、マリアナには複数の上位種の同胞(はらから)が常駐している筈なのだが、記憶にあった人数と一致していなかった事を思い出したのだ。

 

 無論、当直などの外せない事情があった者もいたのだろうが、それでも今の今まで顔を合わせていないのは不自然だ。

 

 

 この駆逐棲姫の問いに飛行場姫は「ああ…」と漏らすと、「まだあの件のことは伝えてなかったわね」と続けて、理由を話した。

 

 

「最近近くの海域で幽霊船が出るようになってね。その正体を確かめるための部隊を出したのよ」

 

 

「幽霊船?」

 

 

 思わぬ答えにキョトンとなりながらオウム返しに聞き返してしまうアンドロメダ。

 

 まさか怪奇現象の為に部隊を展開しているなどとは思いもしなかった。

 

 

 そんなアンドロメダに対して飛行場姫は苦笑しながら「幽霊船というのはあくまでも仮称よ」と返し、詳しい内容を話し出した。

 

 

「数日前から出没し出したのだけどね、目撃情報からどうも同胞(はらから)の潜水艦っぽいのだけど、同胞(はらから)が近付くと煙のように跡形もなく消えるのよ」

 

 

 これに対して駆逐棲姫は普通に水中へと潜っただけなんじゃないの?と問い掛けたら、パトロール中の同胞(はらから)が遭遇した際、消えた直後に急いでソナーで走査したが、近くで展開中の同胞(はらから)の潜水艦以外にはなんの反応も示さなかったとの報告が上がっていた。

 

 そして反応のあった同胞(はらから)の潜水艦とは幽霊船を目撃した方向とは別方向であったため、誤認の可能性は限りなく低かった。

 

 また付近の部隊に警戒を呼び掛け、網を張ったが捕捉は叶わず逃げられたという。

 

 

「無害なヤツならば良いのだけど、もし()()()に関わりのあるヤツだったら後々面倒なことになるかもしれないからね。念のため潜水艦と軽巡の娘が手勢を率いて調査に出たのよ」

 

 

 潜水艦ならば、水中で捕まえる事も出来るかもしれないからね。と付け加えられた。

 

 確かに、警戒網をスルリと潜り抜けるだけの技量を持った者が、もし補給線を荒らす行動に出たとしたら大変である。

 

 しかし何故同胞(はらから)であると言えるのか?艦娘の中には深海棲艦と酷似した容姿の者もいると聞く。

 

 それこそ今傍らに居る駆逐棲姫は同郷の春雨(ハルサメ)と顔がよく似ていた。

 

 もしかしたら同胞(はらから)の潜水艦と容姿が酷似した潜水艦の艦娘が、その事を利用して擬装による変装を施し、何かしらの隠密偵察を行なっていたのではないか?とアンドロメダは指摘した。

 

 

 これに対して飛行場姫は、念のため目撃された海域を中心点として、艦娘のおおよその航続距離から逆算した円内を捜索したところ、母艦らしき存在を確認出来なかったこと、また母艦となり得る船の活動報告が、母港としている軍港の沖合で動向を見張っている偵察部隊から来ていなかったことからも、艦娘の可能性が低いと見た理由であると説明した。

 

 しかしその答えにアンドロメダは、先日空母棲姫と南方棲戦姫に語ったことでもある、人類の潜水艦を母艦とした潜水艦艦娘の特殊部隊の存在を伝えた。

 

 もしかしたら戦力を釣り出しての各個撃破を目的とした囮ではないか?との推論を述べ、更にお節介なのを承知で、常に最悪の事態を予測して行動しなければ足元を掬われる原因と成り得るから、楽観すべきではないのでは?とも付け加えた。

 

 

 このことに飛行場姫は渋い顔となった。

 

 その反応を見て、アンドロメダは彼女達が本当にこの特殊部隊の存在を知らなかったのだと察した。

 

 

 飛行場姫も万が一の戦闘は想定していたが、もしもこの仮称“幽霊船”による騒動が、釣り出しを目的とし尚且つ殲滅も視野に入れての作戦だったとしたら、こちらの戦力は些か心許無い。

 

 

 しかし同時に、別の可能性にも思い至る。

 

 

 目撃が相次いだ海域周辺へと注目を集めさせて、他の所でなにかしらの行動を画策、それこそ輸送路の襲撃や戦力を抽出したことによって防衛戦力の低下した拠点への破壊工作といった攻撃行動などなど。

 

 

 考え出したら切りが無い。

 

 

 しかし問題は“それが一体どこの国軍の部隊なのか?”という疑問がある。

 

 

 太平洋で潜水艦を運用可能な国軍は日本とアメリカ、それに新ロシア連邦(NRF)の三ヶ国の海軍であるが、日本は泥沼の沖縄戦線に掛かりっきりでその戦力に余力が無い。アメリカは今までの政治の混迷と、この戦争でのハワイとアリューシャン列島の失陥、その後の日本のAL/MI作戦と呼応して発動したハワイ奪還作戦の失敗により、外洋海軍(世界の警察官)から地域海軍(自宅警備隊)へと変化(転職)して沿岸地域防衛の強化(引き籠り)を継続中。では新ロシア連邦(NRF)はというと、既存の水上、水中艦隊は兎も角、三ヶ国中最も艦娘戦力が少ないという事実と基本戦略方針がA2/AD、*2 接近阻止・領域拒否を主眼としているため、積極的な外洋作戦に出るとは考え難い。

 

 

 現状どこも積極的な動きに出るとは考え難かった。

 

 

 とはいえ、将来に向けての実験的要素を含んだ作戦ならば、可能性はゼロであるとは言い難い。

 

 

 答えを導き出すには、現状では情報が少なすぎる。

 

 

 だが今悩んでも仕方がないと、アンドロメダは更なる情報収集の強化と、その提供を申し出た。

 

 また人手が足りないのならば、私を使ってもらっても構わないとまで言い出した。

 

 

 これには流石に飛行場姫は難色を示した。

 

 

 いや、飛行場姫の本心としては、アンドロメダの申し出は非常に有り難いとの思いがあった。

 

 

 しかしアンドロメダは立場的にかなり微妙な立ち位置であり、強いて言うならば賓客クラスの“客人”なのだ。

 

 

 それに、である。

 

 

「…アンタの申し出は、アタシとしては有り難いけど、下手するとアンタと人間達との火種になるかもしれないのよ?」

 

 

 アンドロメダはその言動から、かなり深海棲艦寄り、いや殆ど贔屓とも言えるが、“どちらの陣営なのか?”という点では今のところは“まだ”第三勢力的であると飛行場姫達は認識していた。

 

 

 謂わば宙ぶらりん状態なのだが、それについてどうこう言うつもりはない。

 

 

 単独でもゲームチェンジャー足り得る“武力”を有する存在だが、彼女はこの戦争に関してなんの責任も無ければ、無理して介入する必要があるとは言えない。

 

 

 だがアンドロメダの申し出は事実上、人間達との明確な敵対関係化に繋がりかねない代物だった。

 

 

 こちらとしたらアンドロメダとは啀み合い、対立する間柄ではなく、健全な友好関係を維持し続けたいというのが、先の“円卓”の意思決定における総意であるが、さらに踏み込んだ一種の軍事同盟的な間柄までは望むつもりは無かった。

 

 流石にそれは望み過ぎで、厚かましい願いだとの思いがあったからだ。

 

 

 しかしこちらの思惑とは裏腹に、アンドロメダは思いの外に積極的だった。

 

 

「それに、その事でアンタの同郷の娘達とも砲火を交えるかもしれないのよ?」

 

 

 飛行場姫としてはこの事が一番の気掛かりだった。

 

 

 ただの同郷というだけでなく、互いに顔も知っている親しい間柄の者や、恩師に慕う者やその関係者までいるのだ。

 

 

 それに対して引き金を引くかもしれない。その覚悟はあるのか?と目で訴え掛け、尚且つ隣りにいる妹のアポロノームにも視線を向けた。

 

 しかしアポロノームは肩を竦めるだけだった。

 

 

「今更ですよ」

 

 

 それで良いのか?と飛行場姫が口に出しかけた瞬間、アンドロメダが先に口を開いたため、アポロノームに向けていた視線を戻したのだが、アンドロメダは問題はないと言わんばかりに微笑みを浮かべていた。

 

 

「私やアポロノームがここにいて、拘束されて行動の自由を奪われているわけでもなく、寧ろ自由を謳歌し、お姉ちゃんと一緒いて心を通わせているのを、あの娘達や先生は見たのですから、今更言い繕う気はありません」

 

 

 その答えに飛行場姫は些か納得がいかなかったが、直後にアンドロメダの微笑みがゾッとするような冷徹なモノへと変わり、背筋が寒くなる思いがした。

 

 

「それにパワーバランスの観点からも、人類側ばかりに私達の様な“規格外の()()()()”が集中するのは、よろしくありま(しぇ)ん。

 

 …お姉ちゃ(しゃ)ん、(いら)です(れふ)

 

 

 アンドロメダの怖い笑顔と、自分自身を“バケモノ”と言ったことが気に入らなかった駆逐棲姫が、頬を膨らませて涙目になりながらアンドロメダの頬を抓ったため、語尾が可怪しくなってなんか台無しになった感は否めないが、飛行場姫はアンドロメダの言わんとする事に理解を示しながらも、頭痛を覚えた様な錯覚に囚われた。

 

 確かに、駆逐艦クラス、しかも火砲などの装備を一般的な駆逐艦娘のそれと合わせたという、明らかに意図して本来の性能を落とした状態でも、こちらは手も足も出ない有り様だったと聞く。

 

 もしも本来の装備を身に着けていたとしたら、さらに一方的な、虐殺に等しい惨劇が生み出される可能性は、想像に難しくない。 

 

 そこに来てアメリカにも戦艦クラスの存在が、一人だけとはいえ確認された。

 

 

 正直に言って、この事実に内心で恐怖を覚えずにはいられなかった。

 

 

 いくら日米双方の彼女達が先の通信から融和に向けた動きを見せたとはいえ、現在における彼女達の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その意思決定の最終決定権は()()()()()()()()()()()

 

 

 日本は海軍大将が、アメリカは次期大統領候補の有力議員がそのバックにいるとはいえ、それが今後どう動くかは分からない。

 

 そして日米だけでなくヨーロッパ、もしかしたら新ロシア連邦(NRF)にもいるかもしれない。

 

 

 そう考えるだけで恐怖に押し潰され、気が狂いそうになる。

 

 

 こちらにも抑止力足り得る“力”は、正直に言って是が非でも欲しい。

 

 でもだからといって、こちらの都合だけで本来ならばこの戦争と関係無かったハズの、親しい身内同士が相争う事になるのは、幾らなんでもそれは越えてはならない一線だとの思いが飛行場姫にはあった。

 

 

 アポロノームがなにも言わない事を見るに、アンドロメダ()と同じ考えなのだろうが───

 

 

「…もう少し自分達自身を大切にすることを覚えなさいよ」

 

 

 苦り切った顔でそう苦言を呈する事が精一杯だった。

 

 

 自分を押し殺す滅私の精神は、ある種の美徳であるとされる事もあるが、あまりにも行き過ぎるとそれは単なる自己満足の自己犠牲精神の発露に過ぎなくなる。

 

 

 その事を察した駆逐棲姫が、アンドロメダ姉妹(妹分2人)に説教を始めたのだが───

 

 

「みんながそれぞれ出来る事で、一生懸命に動こうとしているのに、私は何もしないというのは、流石に辛いです」

 

 

「なんでもいいから、なんか仕事をくれないか?」

 

 

 要約すると、働きたい。役に立ちたいのだ。

 

 

 生まれてからこの方、ある意味で働き詰めだった反動とも言える。

 

 周りが働いているのに自分達だけ働かないというのが、なんだか無性に納得いかないのだ。

 

 

 この事に本気で頭を抱えそうになる飛行場姫。

 

 

 もしこの場に土方と霧島(キリシマ)の2人がいたら、彼女の肩に手を置き、なんとも言えない疲れ切った表情を浮かべていただろう。

 

 

 何故ならば、この事は春雨(ハルサメ)姉妹達にも見られた現象なのだから。

 

 

 これは、なにもかも足りなかったガトランティス戦役の負の一面である。

 

 

 彼女達は動けるものが率先して動く事が当たり前だったあの戦役しか知らなかったのだ。

 

 事実上の生まれながらに社畜根性、いや仕事中毒(ワーカーホリック)が染み付いてしまっていた。

 

 

 いつでも、直ぐにでも第一線で戦える様にと訓練、訓練また訓練と、まさに訓練漬けの毎日だったのだが、訓練が無かったりドックに入渠中や補給中でも各艦の乗員達は勉強会や研究会を繰り返していた。

 

 そして長姉である春雨(ハルサメ)は、自身が元々テストベット艦であり、性能その他諸々が妹達よりも劣っているとの思いから、より厳しい訓練に明け暮れていた。

 

 

 春雨(ハルサメ)姉妹達は、自身の乗員達のこの頃の気質を色濃く受け継いでしまっていた。

 

 

 それ故に、休むという事を知らなかった。

 

 

 この事に土方と霧島(キリシマ)は当初頭を抱えてしまった。

 

 

「休みって、なんですか?」

 

 

 真剣な顔をしながら、或いは不思議そうな顔をしながら小首を傾げてそう尋ねられたら、誰だって頭を抱えたくなってしまうだろう。

 

 

 恐らくだが、同世代の(ふね)達も似たり寄ったりなのだろう。

 

 

 ただアンドロメダ姉妹達はその中でも最初期に就役しているのだが、こちらはこちらで旗艦クラスの戦艦であったが故に、その多忙さは群を抜いていた。

 

 

 まさしくあの戦争が生み出してしまった負の副産物と言えた。

 

 

 今でこそ春雨(ハルサメ)姉妹達は土方と霧島(キリシマ)、さらには複数の有志達によるたゆまぬ涙ぐましい努力によって、その中毒症状はかなり改善されていたが、それでも休暇をすっぽかす姿がたまに見られていた。

 

 

 今のアンドロメダとアポロノームは休みというものを知らなかった春雨(ハルサメ)達と近かった。

 

 いや、流石に彼女達ほど酷くはないのだが、それは飛行場姫達の預かり知らぬ事である。

 

 

 兎も角、なんだかんだ言いながらその根底は役に立ちたいというものに根ざしていた。

 

 

 アンドロメダとアポロノームの2人にしたら、万が一の最悪の事態に備えて相互確証破壊構想による抑止力効果を狙っていた。

 

 2人の本心からしたら、引き金を引く事態は極力避けたい。

 

 ならばどうするか?

 

 

 “引き金を引いたら最期。”“なにも遺らない。”あるのは“滅亡”という二文字のみ。”という状態を作り出す事によって、軽挙妄動に走らない様な状況を演出する。

 

 

 既にこちらの最大火力にして、連射可能な大量破壊兵器でもある『波動砲』の存在は深海棲艦は勿論知っているし、土方や霧島(キリシマ)のバックにいるであろう真志妻なる大将も、2人からの経由で既知と見ていいだろう。

 

 知っていて軽挙妄動に走られたら、どうにもならないが、そこはもう信じるしか無い。

 

 その圧倒的なまでの凶悪極まりない暴力の権化が、火力の化身が、自身の頭上に降り掛かり、ましてや大切に思っているであろう艦娘達が、なす術無く原子の塵へと変り果てる状況を想像出来たなら、可能性は高い。

 

 

 大昔の教えに、『戦わずして勝つ』というものがあるそうだが、アンドロメダは大規模な全面衝突が起きないこと、起こさせないことが現状における“勝利”だと判断していた。

 

 

 そしてその為にも、深海棲艦とのより一層の強い信頼関係を築き上げる事が必然であり、それをより明確にすべきであるとの結論を導き出した。

 

 

 

 その後もなんやかんやあった後に、飛行場姫は悩みに悩んだ末に最終的には根負けし、後方担当業務の事務アドバイザー、まぁお手伝いとしてなら良いか…?と判断した。

 

 

 飛行場姫は口にこそ出していないが、先のアンドロメダとの交戦によって、輸送計画に若干の遅れが生じていた。

 

 それも先に述べた輸送計画見直しの要因の一つでもあったのだ。

 

 

 しかしこれは完全に不可抗力の末に起きた、所謂“不幸な事故”の様なものであったが為、敢えて口にしなかった。

 

 

 とはいえ、人手不足はどうにもならない問題であるし、猫の手も借りたいほどだった。

 

 

 それと、今回とは別件ではあるが、近い内に別の輸送計画の発動も持ち上がっているのだ。

 

 それの処理もしなければならないのだが、手が回っていなかった。

 

 

 その計画とは、徐々にだが今なお増え続けるアリューシャン列島、ダッチハーバーへとやってくる脱北米人、主にアラスカ州民と旧カナダ国民、現カナダ準州民の逃亡者を移送する計画だった。

 

 

「ダッチハーバーも逃亡者で手狭になったからね。

 

 収まりきらないから、他の所で労働力として活用する話になったんだけど…」

 

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

 

 移民やら難民で混乱が広がるこの世界、アンドロメダからしたら不安要素しか感じなかった。

 

 

「一応の審査はしてるわよ。私達だって人間達の二の舞を演じるつもりはないし。

 

 それにダッチハーバー担当の娘、見た目とは裏腹にそこんとこかなり厳しいから」

 

 

 飛行場姫の説明にあった、ダッチハーバーの責任者と聞いて、ミトンの手袋をしたちっちゃな容姿の姫級の姿が思い浮かぶ。

 

 可愛らしい見た目から、書類などの審査をする姿が想像出来なかった。

 

 

「あの娘、人間がなんか問題を起こしたりしたら、犯人を徹底的に探し出して見つけ出し、問答無用でボートを用意して容赦なく島流ししてるから、なんだかんだ言って可愛がられているけど恐れられてもいるわ」

 

 

 ヒトは見た目に依らずとはよく言ったものだ。

 

 

 取り敢えず、細かい事は追々詰めていくとして、アンドロメダとアポロノームの2人はこの後にお手伝いとして事務の仕事を割り振られることとなったのだが、後に飛行場姫は語る。

 

 

「正直、舐めてた…」

 

 

 地球艦隊総軍の総旗艦を務めていたのは伊達ではなかった。

 

 

 後方担当業務からお手伝いではなく、直ぐ様本格的な仕事を任せたいとの嘆願が寄せられる程だった。

 

 

 太陽系に展開する全艦隊、時間断層工廠から次々と吐き出されてくる新造艦の部隊編成に訓練計画、補給や整備の段取りだけでなく、作戦計画に基づく打ち合わせなどなど。

 

 更には太陽系防衛に派遣された、ガミラス艦隊との遣り取りや擦り合わせなどの打ち合わせ。

 

 AIによる補助はあったとはいえ、だからといって全ての仕事が楽になる訳ではなく、また時間と共に幾何級数的に増大していたあの頃のデスマーチ(仕事)と比べたら、今の仕事はかなり楽な仕事の部類だった

 

 

「ちゃんと休んで下さい!」

 

 

 ただ張り切り過ぎて、一度働き出すと黙々と働き続け、時には寝食を忘れるものだから、駆逐棲姫の監視付きも懇願されてしまったが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 しかし、この日の話はアンドロメダとアポロノームを事務員として雇うというだけでは終わらなかった。

 

 

 最後に、飛行場姫と話をしたいと言っていたドクターが、この日最大の爆弾を炸裂させた。

 

 

 

 

「パンデミックの際に使用されたというこの薬物は、謳い文句通りの効果なんてありゃせんわい!」

 

 

 

「コイツはな!投与された生物の免疫機能を低下させるだけにとどまらず、染色体に深刻なダメージを与えてしまう危険な代物じゃ!」

 

 

 

「悪逆非道と蔑まされていた“あの”デスラー親衛隊すら、この薬物の使用を躊躇うどころか、使用を全面的に禁止し、製造技術や研究すら絶対に許さない様に仕向けた程の───」

 

 

 

 

 

 

「使い方次第では惑星規模での現住生物の殲滅が可能な───」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジェノサイドにしか使い道の無い劇薬じゃよ!!」

 

 

 

*1
自裁未遂の姫は(くだん)の個体の上司だった。

*2
anti-access/area denialの略。





総旗艦「お手伝いしたいの~!みんなの役に立ちたいの~!平和が一番なの~!お姉ちゃんに褒めてもらいたいの~!」

三女「姉貴、最後に本音が漏れてる」

姉「可愛い妹2人の頑張りはうんと褒めてあげますけど、メリハリを付けてちゃんと休んで下さい!!」


 取り敢えずアンドロメダとアポロノームは暫くは事務員として働きます!
 しかし優秀だけどワーカーホリックを発揮して周りの深海棲艦の娘達の目を白黒させて振り回しちゃってます。
 まぁこれは殆どネタなのであまり掘り下げませんが。


 ネタバレになりますが、新ロシア連邦(NRF)にも一人だけ流れ着いた者がいます。しかも政府内部に。一応、過去語りでチラッとだけ名前、出しました。


 『戦わずして勝つ』は孫氏の兵法の『百戦百勝は善の善なるものにあらざるなり。 戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。』のことですが、アンドロメダの時代にまでちゃんと伝わっているか、もしくは違う解釈で伝わっていないかと気になる所はありますね。


 最後に漸く出せた。この世界最大の爆弾。詳細は次回ですが、薬学は調べても頭破裂するだけですので、矛盾、間違い、その他諸々のオンパレードになると思いますが、ご容赦下さい。ま、サラッと流す程度で終わらせるもりですが。
 …不謹慎ネタとして叩かれないかが心配。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第53話 Phytotoxicity

 薬害

 本当は『Biological Chemical weapons』生物化学兵器にするつもりでしたが、ちょっと違う気が致しましたので『phytotoxicity』薬害と致しました。


 デ、デスマーチな一週間が(今のところ一応)終わった…。
 職場の出勤時間が変更となった直後に部長が入院で持ち仕事が倍増…。若いのが失態の連続でそのリカバリーで狂奔…。二転三転する上や他部署からの指示や要望に振り回され、頭を抱え頭痛薬を飲み続けた一週間が一応は終わった…。
 いや、まあ、正確には一週間ではなく4日間なんですけど、マトモなゆとりが無かった為に殆んど執筆する余裕が無く、書ける範囲でちまちまと可能な限りを続けていたら、少し文章の構成的に可怪しくなっているかもしれません…。


 とある独自設定マシマシの捏造話をぶち込みました。タイトルにするならば、『オルタリア殲滅の真実』ですかね。

 それではどうぞ。


 

 

 その場の空気は今までになく重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

 

 ドクターから語られた、破滅的な終末へと向かっているこの世界の事実。

 

 

 世界を混乱の坩堝へと落としたパンデミックが、嘘に次ぐ嘘で塗り固められたシロモノだった。

 

 

 そもそもこのパンデミックの原因とされるウイルスそのものの存在からして、殆ど虚構の塊だった。

 

 

 ヒトは生きていく中で、毎年、いや毎日どれだけの人数の人間が亡くなり、どの様な理由や原因で亡くなっているかの内訳など、気にもとめないだろう。

 

 

 ましてや()()()()()()()()()()()()()()での年間の死者数を正確に把握している民衆など、たかが知れている。

 

 

 しかし、メディアが騒ぎ出したら、どうだろうか?

 

 

 病気が原因で死亡するヒトの内、最も多い理由が例えばガンだとしたら、ガンにならない様にしようと気に留めるだろう。

 

 食中毒が流行していると騒げば、食中毒に気をつけようとなるだろう。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そこに目を付けられた。

 

 

 小規模紛争や非対称戦争では、最早軍需産業による利益効率は悪化の一途であり、いくら抑えつけても核兵器開発に関連する技術の拡散は徐々に、だが確実に世界の後進国へと拡がりを続け、そう遠く無い未来にはテロリストの様な武装勢力ですら、自爆前提ではあるが核兵器を所持する可能性が濃厚となりつつあった。

 

 そもそも単なる地域紛争がグローバル化が進む世界では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事により、先進国の民衆は紛争の介入に対して懐疑的になり、消極的となっていた。

 

 事実、テロリズムは世界に蔓延しつつあったし、その戦場は今や仮想空間であるサイバー空間にまで拡がっており、現代社会における重要インフラの一つにまで登り詰めた、デジタルネットワークに対する重大な脅威となりつつあり、経済への直接的間接的両方で影響を及ぼしていた。

 

 最早、世界に安全な場所は無くなりつつあった。

 

 皮肉なことに、世界はグローバル化によってグローバリストが嫌うロシアの「ロシアに“安全”という言葉は無い」を自ら体現したかのような状況となっていた。

 

 安全を脅かす“脅威”は、万人にとって最も身近な隣人となっていたのだ。

 

 戦争を利用した利益確保は、今でもそれなりの利益を生み出してはいたが、リスクヘッジの問題が増大するに伴い次第に先細りしつつあったし、民衆からの受けも悪くなりつつあった。

 

 

 戦争に変わる新たなビジネスによる利益確保を求める動きが、一部の投資家を中心として世界で出始めていた。

 

 

 そして“()()()()()()()”という悪魔の所業としか思えないビジネスが試みられることとなった。

 

 

 その災害に選ばれたのが“疫病”だった。

 

 

 医療コストは先進国を中心に年々増大傾向にあり、現状でも()()()()()から大きな利潤を得ていた。

 

 それを更に一歩進める腹積もりだった。

 

 

 

 仕組みは単純だった。

 

 

 

 季節性の感染症を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 メディアは連日連夜に渡って、この正体不明の疫病に関しての報道を繰り返し、恐怖を煽る。

 

 

 メディアもソーシャルメディアも、数ある企業の一つでしかなく、その収益は広告費から成り立っており、それを握られたら如何様にでもコントロール出来てしまう。

 

 「だって受け入れた方が楽に大金が手に入るのだから…。」

 

 

 そして“医は仁術なり”の時代ではなく、“医は算術なり”の時代となっていたこともあり、多くの医療関係者は“真実”に気付きながらも口を噤み、恐怖を煽る手助けをしてこの“茶番”に乗っかかった。

 

 「だってその方が楽に金儲けが出来るのだから…。」

 

 

 政府も国際機関も、この“茶番”に積極的に乗っかかり、自らの権限を肥大化する大義名分として急激な権力の一極集中化とその正当化を謀った。

 

 言うことを聞かない者がいたならば、札束をチラつかせてしまえば、大概はスピーカー付き操り人形に出来た。

 

 「だってそうしたらカネは入るし、今まで以上に権力を好き勝手に振るうことだって出来るのだから、いい事尽くめじゃないか。」

 

 

 三者+αは水面下でタッグを組んだ。

 

 

 そして民衆のパニックが最高潮に達したタイミングで、新型の感染予防用薬物の投与が始まるが、それが地獄の始まりだった。

 

 

 

 『持続可能な似非疫病利権スキームの構築。』

 

 

 

 疫病対策の新薬と称して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を投与する事で、この後は感染症に罹患しやすくし、医療費を増大させて医療と製薬会社に巨大利権を作り出し、政府は増加した医療保険の補填を理由に増税するというスキームを構築。

 

 また医療産業から政治屋への政治資金や天下り先として、対価として政府は補助金の支給の増額といった、利権構造が出来上がった。

 

 投資家は医療産業に投資することで巨大な利潤を得て潤う。

 

 それらの利益の一部は主要なマスメディアやソーシャルメディアに専門家を自称する者達にも周り、発信する情報を意図的に絞って公開することで、情報に一つのベクトルが構築される。

 

 

 「政府や専門家の言うことは“正しい”」

 

 

 「反対する者、疑問を呈する者は善良なる民衆の“敵”だ」

 

 

 恐怖を煽り、そして明確な“敵”を提示することで民衆の分断を謀る。

 

 自分達は“味方”であり、“善意”の下に対策に全力で取り組んでいると“信じ込ませる”。

 

 

 民衆は疫病対策だと“信じ切って”、自らの健康な肉体を犠牲にする事を、“自らの意思”で“選択”させられた。

 

 

 そして定期的にパンデミックを()()することで、安定した莫大な利益が齎される。()()()()()()()

 

 

 

 新薬の投与開始直後から始まった、()()()()()()()()

 

 

 いや、原因は分かっていた。しかしそれを認めることは出来なかった。

 

 

 彼らは他人の失敗を(あげつら)う事は出来ても、自らの失敗を認めることは出来なかった。

 

 

 彼らはそういう“生き物”なのだ。

 

 

 原因は全て“疫病の変異”にあるとされた。

 

 

 

 それにどれだけ民衆が死のうが丁度いい間引きになるし、これからの“管理”の事を考えたら、寧ろ今から減ってくれた方が有り難い。などという開き直った感覚だった。

 

 彼らの感覚では今の人間の数は多過ぎてた。

 

 今回の利権スキームで、より安定して永続的な利益を得るには管理社会による強権体制が都合が良かったのだ。

 

 そのため人口は削減しなければならないとは考えていた。

 

 

 しかし予想以上に大量に、そして短期間の内に死者が積み上がるに連れて、なにか可怪しいとなった。

 

 

 しかもその割合は世界に先駆けて最も投与が早く始まった先進国に集中していた事が問題だった。

 

 経済だけでなく、社会システムや下手すると文明の維持すら困難に成りかねない勢いだったのだ。

 

 故にこの時期先進国の政府機関は、労働力確保を目的とした移民に対しては投与を推奨しないが、自国民には投与を推奨という名の事実上強要するといった矛盾だらけの指示を出していた。

 

 

 ここから後々にまで続く大混乱となるのだが、うち続く政情不安や自然災害、そして第三次大戦によって有耶無耶となってしまった。

 

 

 だがそれでこの問題そのものが有耶無耶の内に消え去った訳では無い。

 

 

 一度でも投与された者は当初の予定通り、免疫機能の低下による様々な疾病を発症するようになったのだが、同時に直ぐ様重症化して死亡するケースが頻発。

 

 更には遺伝子異常や染色体異常による疾病が爆発的に急増。

 

 同時に子供の出生率が急激に低下。

 

 また例え無事に出産出来たとしても、両親のどちらかに一度でも投与の経験があると、産まれてきた子供は高確率で身体に何らかな障害を有しており、特に免疫機能の異常は深刻だった。

 

 人口減少にさらなる拍車がかかる様になった。

 

 

 

 以上の事はこの世界でも調べたら知ることが可能な情報だったのだが、次からはアポロノームのメインフレーム内で見付かった、例のデスラー親衛隊に関係するであろう者から譲渡されたという情報から判明した事である。

 

 

 ガミラス民族はその民族的な特徴として、ガミラス本星以外の惑星環境下では長くは生存出来ないという、大きな問題を有していた。

 

 ならばガミラス本星の外に出ない。或いは多少面倒ではあるが、定期的に本星へと戻れば良いだけではないか?と思われるかもしれないが、そのガミラス本星は星としての寿命を迎えつつあり、そう遠くない未来でガミラス本星は滅びる運命にあったため、ガミラス民族を絶やさないためにもいずれ何処かの惑星へと移住しなければならなかったのだ。

 

 しかしそれには先に述べた民族的な特徴の問題が、大きな課題の壁となってそそり立っていた。

 

 

 それは本当にかなり難しい課題としか言えず、頭を悩ませた。

 

 

 最良なのはガミラス本星と瓜二つな環境を有する惑星を見つけ出すことだが、いくら宇宙広しと言えども、そう簡単に見つかる保証は無かった。

 

 事実、この当時の大小マゼラン銀河内にて既に発見されていた生物の生存が可能、或いは確認された惑星の悉くが、ガミラス本星の環境と同一ではなく、ガミラス民族の永続的な定住に適していなかった。

 

 

 このままだと移住先と成り得る新惑星が見付かる前に、ガミラス本星の寿命が先にくる可能性が有り得た。

 

 その為、ならばガミラス本星と瓜二つな環境でない惑星でも、ガミラス民族が永続的に居住が可能となるような方策を模索することも検討された。

 

 その一つが惑星そのものの環境をガミラス本星そっくりに作り変えてしまおうという、所謂ガミラスフォーミング技術の研究開発であったが、それとは別に、ガミラス民族そのものの体質をどうにかしてしまおうとの研究も始められた。

 

 

 ガミラスフォーミング技術の開発は技術的な課題から、難航することが初めから予想されたため、体質改変はガミラスフォーミング技術の開発遅延、或いは失敗を見越しての謂わば保険的な研究だった。

 

 

 しかし体質改変に関しては様々なアプローチが試されることとなったのだが、その性質上、人体実験ありきの研究であり、その管轄は当初より親衛隊預かりとなっていた。

 

 親衛隊ならば今までに捕縛した政治犯などの叛乱分子を実験材料の被検体として転用でき、その補充にも事欠かなかった。

 

 また彼らからしたら、そのままただ処分するよりも、帝国繁栄の礎として()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としての価値を見出す形で、最期に帝国に奉仕させてやっているとの考えであった為に、人体実験への忌避感や罪悪感といったものは皆無だった。

 

 

 その過程で(くだん)の薬物が開発された。

 

 

 こちらは元々、()()()()()()()()()()()()()で開発された物だった。

 

 

 何故ならば先に述べたガミラス民族が、他の惑星で長くは生きられない最大の理由が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものだった。

 

 その為、最低でも、例えばインスリン注射の様に定期的な投与による、免疫機能の維持が可能となるような薬品だったり、あわよくば遺伝子レベルでの体質改変を企図した手法を開発する方向性で進められた。

 

 

 それによって様々な試作品が開発されたわけなのだが、(くだん)の薬物はその中でも最悪の部類の失敗作だった。

 

 免疫機能の維持と体質改変の両方を狙った野心作だったのだが、あろうことか殆んど真逆の効能しか発揮しなかったのだ。

 

 その後の結果は例の薬物と同じ結果となるのだが、一応の経過観察を()()()()()で続けた結果、例えその後になんとか生活をおくれる状態となったとしても、寿命まで生き残れる確率は恐ろしいほど低確率であり、どの様に手を施しても本来の健全な体に戻ることはほぼ不可能という結果となった。

 

 

 何故親衛隊がわざわざ経過観察を行なったかと言うと、本来の目的としては失敗作でも、親衛隊本来の活動である、総統と帝国に叛旗を翻す反乱分子の弾圧において使い道がないかを模索する意図もあったが、同時に何らかのアクシデントで万が一、この薬品のデータが外部に流出し、叛乱分子による薬物テロが発生した際の対処方法を確立する目的もあった。

 

 しかし()()()()()()()()()()()終ぞ成功することは無く、一度でも体の中に入ってしまうと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことしか分からなかった。

 

 

 そして親衛隊が最も問題視したのが、被検体が出産した子供である。

 

 

 子供の場合、被検体の両親よりも個人差が大きい事が判明したのだが、問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という点にあり、また通常の検査等では見落とす可能性があった事だ。

 

 事実、この実験を知らない医療機関に被検体の子供の検査を依頼したところ、「()()()()」と回答するケースが殆どであったという。

 

 もしその子供が子をなすこととなった時、その子供にも同様な事態が発生する可能性が指摘された。

 

 その為、もし万が一、無差別テロとして利用された場合、民間の医療機関では発覚不能な、ある種の時限爆弾を内包した子供が社会に拡散する危険性が指摘された。

 

 

 それに対処する研究も進められていたが、ある程度進んだ段階で終了することとなる。

 

 

 何故ならばこの研究が行われていた場所というのが、()()惑星オルタリアなのだ。

 

 

 当初は親衛隊所管の収容所惑星で行われていた実験であったが、親衛隊を快く思っていない国防軍がこの実験の存在を嗅ぎつけたことで、実験施設を移転することとなった。

 

 その移転先が惑星オルタリアであった。

 

 

 実験施設に関する情報は無論、現地の責任者であるリベル・ドロッペ総督にも知らされていなかった。

 

 ただ親衛隊が管理する何かしらの施設が、この星に存在するという程度の情報は把握していたが、あまり深入りし過ぎると自身の立場や生命だけでなく、家族や親族の身にも何かしらの危害が及ぶ危険性があったために、深くは関わらないようにしていた。

 

 その後のオルタリア蜂起に際して、彼はこの施設の存在を思い出し、そこを経由して軌道上に展開しつつあった航宙親衛艦隊の旗艦である『ハイゼラード』級航宙戦艦『キルメナイム』へと乗り込み、そこで命を落とすこととなった。

 

 この時、ドロッペ総督は『キルメナイム』に乗艦していた親衛隊長官であるハイドム・ギムレーに対して、艦隊によるガミラス移民団の保護を要請したとされているが、これは半分事実である。

 

 蜂起の混乱の際に、彼はこの地で親衛隊が何をしていたのかを知ってしまった。

 

 蜂起の直接的要因は『ヤマト』問題であったが、それとは別に、親衛隊による非人道的人体実験が行なわれているとの噂が流れ、その人体実験に現地の住民であるオルタリア人が攫われて実験材料とされているとの噂が流布されていた。

 

 この噂がオルタリア民族主義派の決起を促し、その成功へと繋がった。

 

 

 この噂の真偽の程を確かめるべく、ドロッペ総督はギムレー長官に詰め寄った。

 

 

 ドロッペ総督は他民族の文化と風習を尊重しつつ、一定の距離感を保ちながらの節度ある融和政策こそが、帝国の未来に繁栄を齎すとの考えで、温和な人物であった。

 

 実際に彼の統治政策の手腕はそれなりに上手くいっており、中間層と呼ばれるガミラス支持派と民族主義派のどちらにも属さない多数の人々から、ある一定数の支持を得られていた。

 

 また民族主義派からは、「ヤツによって我々の支持がなかなか得られない」と疎まれつつも、その手腕に舌を巻いていた。

 

 それが一変したのが、この人体実験の噂だったのだ。

 

 この噂によってあれよあれよと言う内に、多くの中間層が民族主義派支持へと流れてしまった。

 

 

 ドロッペ総督にとって信じ難い話だった。

 

 

 出来れば民族主義派の過激派によるデマカセであると信じたかった。

 

 

 しかしギムレー長官は、淡々とした口調で事実であると告げた。

 

 

 この答えに初めは茫然とし、そして激昂したドロッペ総督は、ギムレー長官に掴み掛かったが、直後に傍で控えていた親衛隊員がドロッペ総督に対して無警告で発砲。

 

 

 それが致命傷となった。

 

 

 事切れる前に、ドロッペ総督は最期の力を振り絞って移民団の救助をギムレー長官に懇願して息を引き取った。

 

 

 だがこの時既に、生き残っていたガミラス移民団は手遅れな状態となっていた。

 

 

 施設の明確な所在は現地住民であるオルタリア人には掴めていなかったが、首都から脱出したドルッペ総督を追跡した結果、その場所が特定された。

 

 

 そして民族主義派の暴徒によって襲撃され、施設が占拠されてしまう。

 

 その際に廃棄し切れなかった試薬やら実験で使用されていた薬品が奪われ、目には目を歯には歯を、血の復讐と称した彼らの手に依ってして生き残っていたガミラス移民団に対して使用された。

 

 彼らは施設で囚われていた同胞達を見て、噂は真実だったと惑星全土へと喧伝し、これこそがガミラスの本性であると、ガミラスの差別的非人道性を惑星全土にいる同胞達に見せ付けることで、自分達の決起が如何に正当なものであったかを声高に主張した。

 

 

 厳密には囚われていた者達は過激な破壊活動等の容疑で検挙された民族主義派の過激派構成員であり、法的に拘束は正当なものだった。

 

 だかわらこそ、ギムレー長官は誤魔化すことなく事実であると答えたのである。

 

 それにオルタリアでの親衛隊の活動を知ってしまた以上は、遅かれ早かれ何かしらの理由を付けて“処刑”するつもりでいたため、冥土の土産として“全ての真実”を話す気でいた。

 

 結果として全てを語る前にドロッペ総督は処刑されてしまったが。

 

 

 兎も角として、今回の一連の騒動が切っ掛けとなってガミラス本星の危機が露見してしまい、それが燎原の火の如く知れ渡り、版図内だけでなく本星そのものでも未曾有の混乱を招く事を危惧していたギムレー長官は、直ちに証拠隠滅を兼ねてオルタリア殲滅を命令した。

 

 

 しかし情報漏洩を抑える事を最優先としたために、噂の出どころや、何故こうも瞬く間に惑星全土へと拡がりを見せ、多くの者が噂の内容を信じたのか?などに関しては永遠の謎となったと()()()()()

 

 

 そもそも準軍事組織でしか無く、基本的にその主力は本国であるガミラス本星に展開しているハズの親衛隊の航宙艦隊が、対応についての協議などの影響で後手に回っていたとはいえ、純然たる軍事組織たる国防軍から、惑星オルタリアが属するノルド大管区に派遣されている駐留軍の航宙艦隊の行動よりも先に艦隊を動員し、尚且つ大量の惑星間弾道弾を素早く用意出来たのは、万が一今回の様な事態が発生した際に備えて、事前に用意していたためであった。

 

 

 これがオルタリア蜂起に纏わる裏話である。

 

 

 

 余談だが、ガミラスフォーミング技術に関しては、地球とガミラスの戦争において使用された遊星爆弾という形で、日の目を見ることとなったのだが、そのあまりにも強引な手法と、本来の目的からこちらも後に国防軍の管轄ではなく、親衛隊の管轄となったわけなのだが、それはまた別の話。

 

 

 最後に、譲渡された資料の末尾に映像付きのメッセージが添付されていた。

 

 これはドクターもまだ手を付けていなかった。

 

 送り主がアンドロメダを指定していたということもあり、手を出さなかったのである。

 

 

 映像に映し出された者は、ガミラス人特有の青い肌をしながらも、()()()()()()()()()()()()の、やや細目が印象的で、デスラー親衛隊の所属であることを表わしている、灰色の将官服に身を包んだ少女だった

 

 

「«私は大ガミラス帝国デスラー親衛隊所属、航宙親衛艦隊旗艦を拝命しておりました、キルメナイムと申します»」

 

 

 そう自らの官姓名を名乗り、教本通りの整ったガミラス式敬礼*1を示した。

 

 

「«この映像をご覧になられているということは、無事に貴女の妹君が、私どもの提供致しました資料データをお渡ししたものと判断致します。

 

 貴女は我が総統、アベルト・デスラー閣下と、総統代行であらせられますデウスーラ様がお認めになられました地球(テロン)のヤマト殿の御息女であらせられます故に、私どもも最大限のご協力を致しますが、既にご覧になられました通り、事態は最悪であるとしか申し上げることが出来ません。

 

 私どもが今現在居りますこの高次元世界から観測出来る範囲で分析した結果、貴女がいらっしゃられますその惑星で使用された物は、私ども親衛隊が嘗て研究開発していた物とほぼ同一であるとの結論に達しました»」

 

 

 

 この事に最もショックを受けたのは、泊地棲姫だった。

 

 

 彼女はここサイパン島で起きた人間達による忌まわしきジェノサイド。それによって親を失い、身寄りの無くなった孤児達の母親代わりとして、仲間と協力して一生懸命に面倒を見て来た。

 

 最初は戦争に巻き込んでしまった事への罪悪感という一面もあった。

 

 種族の違いはあったが、彼女の真摯な態度と優しさに、そして何よりも島にいきなりやって来て大切な両親を殺し、恐怖に震えながら島内を逃げ回っている自分達生存者も皆殺しにしようと、島中を遊び半分に破壊しながら探し回っていた、憎んでも憎みきれないあの忌まわしき死神や悪魔の化身のような軍隊を、情け容赦無くこてんぱんにやっつけて皆殺しにしてくれた恩人(ヒーロー)とおなじ容姿をした彼女やその仲間達に、孤児達は安心感を覚え、彼女を自分達を愛して守ってくれるお母さんとして、そしてその仲間達を心から受け入れた。*2

 

 

 彼女にとって大切なたからものと言える子供達が、もしかしたら既に人間どもの自分勝手な悪意の毒牙に蝕まれてしまっているのではないかと思うと、気が気ではなかった。

 

 添付されていた資料の中には、免疫機能の低下が見られた場合は最早完全な無菌室でしか生きられず、それでも予断を許さないだろうとのとの事である。

 

 因みにだが、ここサイパン島にそんな高度な設備など有りはしない。

 

 いや、元々はあった。

 

 島に存在していた病院などの医療設備にはあったのだが、先の軍隊による破壊活動によって、本来ならば接収するハズの病院などの設備は、住民の避難所と成り得る設備として逃げ込んでいるかもしれないとして、真っ先に破壊されてしまっていた。

 

 だがもし破壊を免れて稼働出来たとしても、問題はそれを扱えるだけの専門の医師や技師が最早この島にはいないのだ。

 

 

 一応、町医者の様な医師はなんとか生き残っており、その医師からレクチャーを受けた同胞(はらから)達が助手として支えており、それで今まではなんとかなっていたし、医薬品の類いも外部の人間達との交流が可能となった事で、なんとか賄える様になっていた。

 

 …念のため付け加えておくが、一応ちゃんとした正規の医薬品である。

 

 彼女達と取り引きを行なっている人間達は、彼女達の正体をちゃんと認識しているし、もし彼女達の怒りを買う様な事態となった際に受ける自らのデメリットも充分に理解している。

 

 何よりも彼女達との交易はまさにカネになる金の卵なのだ。

 

 今のところはそんな金の卵を叩き割る様な馬鹿な勇者は出ていないし、この交易の裏にはその出始めからロシアン・マフィアが深く関わっており、更に彼らの後ろには新ロシア連邦(NRF)の影もチラついているとの噂もあるため、最悪一族郎党が最早生きていけなくなる恐れさえあるのだから、裏切るリスクは限りなく低かった。

 

 閑話休題。

 

 

 しかしどんなに頑張っても高度な医療知識など備わるわけではなく、簡単な治療行為が関の山だった。

 

 

 これは他の支配領域でも似たりよったりの有り様であるし、そもそも子供達を移送する手段が無かった。

 

 

 泊地棲姫は途方に暮れて今にも泣き出しそうになってしまった。

 

 

 

 それを察した訳では無いが、映像に映るキルメナイムはある一筋の光明と成り得る情報も齎した。

 

 

「«根本的な解決策には程遠いシロモノではありますが、私どもが開発、試作しておりました対処に纏わる全ての資料も同封しております。

 

 この映像が再生されると同時に、プロテクトは自動的に解除され、閲覧が可能となります。

 

 それをどの様に扱うかは、貴女の心の選択にお任せ致します。

 

 貴女の航海が実り大きいものであらんことを。

 

 ガーレ・デスラー!総統万歳!»」

 

 

 デスラー総統を讃える言葉と再びの敬礼とともに、映像は終了した。

 

 

 そして彼女、キルメナイムが語った通り、隠されていた新たなファイルが出現した。

 

 

 泊地棲姫はそれを見ると、縋る様な顔でアンドロメダを見詰めた。

 

 彼女の気持ちは痛いほど理解することが出来るが、しかしことはアンドロメダやこの場にいる者達だけではどうしようもないシロモノだった。

 

 状況次第では土方経由で人類側の協力も必要になるだろう。

 

 

 それだけことは重大だった。

 

 

 しかし、懸念もある。

 

 

 この情報は間違いなく火種に成りかねないし、下手をすると第四次世界大戦の引き金となる危険性すら孕んでいると、アンドロメダは見ていた。

 

 

 この一件、人類の大き過ぎる(カルマ)がその根底に深く関わり過ぎているのだ。

 

 

 

 ふとアンドロメダの頭に、ある考えが過るが、頭を振ってその考えを振り払った。

 

 いくらこの世界のニンゲンどもに対して少なからず嫌悪感を覚えているとはいえ、()()考えは絶対に間違っている。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()など、それこそ自身が嫌悪するニンゲンどもとおなじ下衆な存在へと成り下がってしまう。

 

 

 そんな事は絶対に嫌だ!!

 

 

 しかし、一度頭を過ぎってしまったこの考えが、アンドロメダを誘惑しようと、悪魔のような姿形をした自身の姿となって、甘く優しく語り掛けてくる。

 

 

 アナタの理想とするセカイを、アナタが好意を寄せているみんなや、大好きなお姉ちゃんとずっと一緒にいられるセカイを創造する、またとないチャンスなのですよ…。と…。

 

 

 この囁きに、アンドロメダは恐怖した。

 

 

 自身の心に、新たな“魔”が芽生えてしまっていることに。

 

 この誘惑に負けたら、またあの時の様になってしまう!!

 

 そう思うと、怖くて体が震えてしまいそうになった。

 

 

 だが、ここには誰よりもヒトの心の機微に敏感な者がいる。

 

 自身がこの世界に来て最も大切で、大好きな存在となったお姉ちゃんこと駆逐棲姫が、おなじく大好きなアンドロメダ(妹分)の心が激しく乱れていることを察して、本当ならば抱き締めてあげたいが、周りに目立たない様にと気遣って、そっと自然な動作でその手を握ってあげた。

 

 

 それだけでもアンドロメダの心は大きく落ち着きを取り戻すこととなり、感謝の気持ちを込めて駆逐棲姫に微笑みを向けた。

 

 

 そうだ。自らの意思では何も出来ず、頼りたくても頼ることが出来ず、ただただ祈ることしか出来なかったあの時とは違って、今は自らの考えで行動が出来、誰かに頼って困難を分かち合うことだって出来るのだ。

 

 

 ならば、あの時みたいになると恐れたり、怖がることはないんだ。と、自分に言い聞かせると、更に気持ちが軽くなった気がした。

 

 

 そして、最早このことは自分達だけでは手に負えないと判断したアンドロメダは、土方達にも相談を持ち掛けて頼る事とした。

 

 

 どうしようもない大き過ぎる困難に対して、1人や少数で抱え込んでしまうよりも、皆で知恵を絞るべきだ。

 

 でなければ先程の自分自身の様に、要らぬ誘惑の“魔”が芽生えてしまうのだ。

 

 ましてや上だけの一部の者だけが考えると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 

 

 上に立つ以上は、責任からは逃れられない。

 

 そこから逃げる事は許されないし、決して許してはならない。

 

 それを許してしまったからこそ、この世界がココまで混乱してしまった遠因であるとアンドロメダは睨んでいた。

 

 

 あんな無責任な下衆共とおなじ様になってたまるかっ!!

 

 

 アンドロメダは決意を新たに、通信システムを起動した。

 

 

 

*1
右肘を水平に張り、肘から先を上方に指まできれいに伸ばした形。

*2
余談だが、孤児達にとってお母さんを泊地棲姫であるとするならば、お父さんは、ややぶっきらぼうな態度を見せながらも、なんだかんだ言って自分達を可愛がってくれる飛行場姫であると見ている。





 多分、今回の話は内容的に2年前辺りだったら総スカン食らってたかも…?


 当初構想していたアンドロメダ闇堕ちルートの中には、この誘惑に負けたというものがありました。そして最後はエスコン0宜しくアポロノームと一騎打ちで行方不明になるルートでした。
 しかしアポロノームが勝利しても、人類の滅亡は止められず、誰も救われないというなんの救いもないものでしたが、流石に取り止めました。

 これは初めの段階から人類側にいたら、或いは戦艦棲姫と邂逅すること無く、駆逐棲姫とも出会わずに深海棲艦との接点もなく、日本へと直行していたら、などの分岐点によって起き得ていたルートです。

 またこのキルメナイムからの情報を開くタイミングも、大きな分岐点の1つでした。



補足説明


キルメナイム

 ハイゼラード級航宙戦艦の1隻。

 その構成員の多くがクローニングによるクローン兵で構成されていたデスラー親衛隊という事もあってか、その容姿は何処か作り物染みた物となっており、それは親衛艦隊を構成する全艦艇も当て嵌まっている。

 性格はガチガチの親衛隊的思考であり、デスラー総統に絶対の忠誠を誓い、総統に仇なす存在にはゴミを見るかの様な冷徹な目付きとなり、徹底的な排除を辞さないという冷酷さを隠そうともしない。

 ただし、総統が認めた存在に対しては一転した振る舞いへと変化する。

 因みに親衛隊長官であり、自身を専用乗艦とするハイドム・ギムレーのことをお兄様と呼ぶ。
 容姿は本編で語ったやや細目以外は、ギムレーにもし妹がいたら…?で補完してくださいお願い致します。


ロシアに“安全”という言葉は無い

 ロシア語において『安全』を表す言葉は『безопасность』なのですが、これは危険を表す『опасность』に否定語の『без』をくっつけて『危険ではない』としたものであり、安全という独立した言葉は無いそうです。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

 追記。

 多分今話はちょこちょこ加筆したりすると思います。


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第54話 Factory manager & Министр обороны

 工場長と国防相

 予定を前倒しして、以前チョロっとだけ出したキャラが登場。

 ついでにも1人前倒しも前倒しで出しちゃいます。(こっちは伏線出すの忘れていました。第15話でちょっと出した程度…)


 

 

「…事実なのか?」

 

 

 土方はこの場に居る誰もが今まで見たことも無い程、その眉間に深い縦皺を刻んでいた。

 

 いや、土方だけではない。今この場にはアンドロメダの要望によって人払いを行なったため、土方以外には霧島(キリシマ)しか居ないが、その霧島(キリシマ)も顔を顰めて口を真一文字に結んでいた。

 

 

 アンドロメダからの呼び出しコールが突然鳴り響き、深刻な表情をしたアンドロメダが映し出された事で、何かあったと察することは出来たものの、その内容は深刻などという生易しいものではなかった。

 

 

 そのあまりの内容から、何故に開口一番で人払いを願い出たのか、その理由(わけ)を理解した。

 

 特に本来ならばこの世界との関わりが薄い、所謂()()()である土方達とは違う、この世界と深く関わりのある、()()()()()()たる金剛と霧島の2人を気遣ったのだろう。

 

 アンドロメダのその視線から、春雨(ハルサメ)姉妹も退出するように言外に促し、それを察した春雨(ハルサメ)が他の皆に声を掛けて退出を促した。

 

 金剛は何かを察したようだったが、アンドロメダの要望に対して即座に了承すると、妹を伴って部屋を出た。

 

 

 もしも2人が残って聞いてしまったら、あまりにもショックが大き過ぎて取り乱し、最悪錯乱していたかもしれない。

 

 

 今まで自らの命を賭して必死になって守護し(まもっ)てきたのに、守護し(まもっ)ていた相手は既に棺桶に自ら入っていた様な有り様であると言われたら、心中穏やかにはいられないだろう。

 

 

 土方としてもあまり気分の良い話ではないが、もしも冗談だったならば尚の事タチが悪い。

 

 しかしアンドロメダのヒトとなりは所謂関係者からの証言によると、の類いではあるが、そんな冗談を口にするとは到底思えないものだった。

 

 

「ったく、ほんっっとに困ったことになったモンだねぇ…。オジキ、これは私らでも手に負えるモンじゃないよ」

 

 

 霧島(キリシマ)は早々にお手上げだよと両手を挙げながら吐き捨て、苛立たしげに懐から出した葉巻を口に咥え、火は点けずにそのまま口元で弄んだ。

 

 付き合いの長い彼女からしたら、教え子の性格はよぉーく理解しているつもりだ。

 

 これは冗談とかは一切介在していない。

 

 アンドロメダ達もどうしたら良いのか分からなくなったのだ。

 

 

「真志妻のヤツも巻き込まなきゃ、厄介過ぎる。

 

 いや、巻き込んだ所でどうにか出来るとは思えないが、話を通さないわけにゃいかんだろう?」

 

 

 とは言うものの、そうなるとまたここに来てもらう必要がある。

 

 何故ならば通信は呉と小松島の直通回線があるものの、それはこの世界における既存の通信技術で敷設されたものであり、確実に盗聴される問題がある。

 

 今回発覚したこの問題の、根幹と言えるパンデミック関係の事は色々と有耶無耶にされているが、日本政府だけでなく宗主国アメリカや西側主要国の政府機関も密接に関わっており、今なお突かれたくない案件の最有力と言える。

 

 もしそんな政府から何かにつけて疎まれ、排除を狙われているかもしれないとされている真志妻大将が、この事を掴んだと勘付かれたとしたら、形振り構わず確実に排除に乗り出してくるだろう。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 政府にはその疑いがある前科が幾つもあるのだ。

 

 例えば真志妻大将の養父であった故人、橘茂樹大佐は交通事故が原因で死亡とされているが、当時から()()()()()()()()()()()()()()()()と言われるほどに、不自然な点が幾つも指摘されている。

 

 しかし()()()()()()()調()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()

 

 この数十年、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 最悪、真志妻大将本人と彼女との繋がりがある関係者全員を狙いすました、なんらかの更迭(粛清)人事が行なわれる可能性が有り得た。

 

 

 この事から土方は慎重にならざるを得ないのだが、この情報による事の重大さを鑑みると、直ぐにでも連絡を入れて報せる必要がある。

 

 

 こんなことならばこちらの通信器を前もって渡しておくべきだったか?と臍を噛む思いだが、それを今更言ってもどうにもならない。

 

 

 状況の変化が異常なまでに早過ぎたのだ。

 

 

 万が一の盗難、紛失などによるリスクを懸念して、慎重になっていたこともある。

 

 

 さてどうしたものか?と考えを巡らせる。

 

 

 情報の秘匿を優先するならば、再びの出張でご足労を願い出るというものだが、流石にこの短期間で再びとなると、不審に思う者、勘繰る者も出てくるだろう。

 

 ならばこちらからか?とも考えるが、それもそれで注目を集めてしまう。

 

 

 何よりも問題なのが、時間がかかりすぎる点にある。

 

 

 これが各鎮守府や警備府の指揮官同士によるものならば、まだどうにかなるが、艦娘部隊の責任者としてなんだかんだ言って多忙を極める真志妻大将のスケジュールを調整する必要がある。

 

 最短で見積もっても、一週間は掛かるだろう。

 

 先日の小松島訪問は異例中の異例、というか米軍が有無を言わさず「佐世保に来い」とのスケジュールを無理矢理ねじ込んできた事により、その日の本来のスケジュールが丸々潰され、また訪問内容がその米軍絡みのものであった事が大きい。

 

 ならばこれも米軍絡みの延長線上として、どうにかならないか?と思うかもしれないが、事はそう簡単にはいかない。

 

 前回は急だった為に目立った活動は見られなかったが、今回ばかりは新ロシア連邦(NRF)も情報を得ようとなんらかの動きを見せるだろう。

 

 いや、前回のことがあったからこそ、あのパパラッチ───、青葉を介して霧島(キリシマ)にカマをかけてきたと見るべきだろう。

 

 

 思案に暮れる土方。

 

 

 ここで判断を間違うと取り返しの付かない事態に陥ることになるが────

 

 

「«お困りのようですねぇ~»」

 

 

 突如として、間延びした独特な喋り方をした声が、通信機器のスピーカーから放たれ、次いで操作もしていないにも関わらず画面が分割され───機材が散乱した何処かの施設内という背景は映っているのに、言葉を発した張本人が映っていなかった。

 

 

「«おいコラ!今更なに恥ずかしがってしゃがみ込んでいやがるっ!?»」

 

 

 そこへ今度は()()()()()()()()()()()()()()()()()()を着崩した、ガサツそうな見た目の少女が、その見た目と違わぬ乱暴な声を上げながら画面の外から出現し、画面下方向に向けてゲンコツを振り下ろした。

 

 直後に明らかに痛そうな鈍い打撃音が響いた。

 

 

「«いったあ~いっ!!»」

 

 

 そして丸眼鏡を掛け、ボサボサ頭の白衣姿の不健康そうな少女が画面に映し出された。

 

 その少女は涙目になりながら殴り付けてきた青い肌の少女を睨み付け、こちらのことは放ったらかしにして口論を始めてしまった。

 

 

 土方もアンドロメダも、いや、画面を見ている全員が揃って目が点となった。

 

 

 突然現われたかと思うと、理由も分からず勝手に喧嘩を始めてしまったのだ。誰だってそうなる。

 

 

 だがその口論の内容から、幾つかの聞き捨てならないものが聞こえて来た。

 

 

 例えば、青い肌の少女がマリアナ諸島沖での偵察活動中に油断してうっかり見付かってしまい、()()()()()()()()()()()()()()こと。

 

 

 これに飛行場姫は眉を顰めた。例の幽霊船騒動と符合するのだから。

 

 アンドロメダ達は、次元潜航という言葉や所々で混じる地球(テロン)などのガミラス語から、彼女がガミラスの次元潜航艦であると認識した。

 

 

 当のガミラス次元潜航艦らしい少女は、相対するボサボサ頭の少女の言葉から図星を突かれたと言わんばかりに、羞耻に顔を歪めた。

 

 

「«ウルセェ!さっさと用件話さねぇか!!»」

 

 

 そう言ってボサボサ頭の少女を画面の前へと蹴り出そうとした。

 

 

「«あうぅ~、待ってぇ~、まだ心の準備がぁ~…»」

 

 

 しかし抵抗虚しく、ゲシゲシと蹴られて押し出され、画面の前へと追いやられるが、アンドロメダを見て恥ずかしそうにしていた顔をへにゃりと綻ばせた。

 

 

 だがアンドロメダはその視線から、背筋がゾワゾワする悪寒の様な気持ち悪さを感じた。

 

 アンドロメダにはその気持ち悪さに憶えがあった。

 

 

 そうだ。()()()だっ!ヤマトさん(お母様)と先生に初めてお会いしたあの日!このジメジメした様な気持ち悪さ!

 

 

「ま…さか、時間断層…、工廠…」

 

 

 その呟きに隣りにいたアポロノームは目を見開いた。

 

 

「«はじめまして~。私のアンドロメダさん~。貴女の仰られました通り~、私は時間断層工廠の工廠部分ですが~、名前はありませんので、工場長とでもお呼び下さいませ~»」

 

 

 アンドロメダの体から、嫌な汗が大量に吹き出してきた。

 

 

 

───────

 

 その頃、広島の呉鎮守府。

 

 

 真志妻大将は先日の出張の影響で溜まりに溜まった書類の山との大戦争に明け暮れていた。

 

 とはいえずっと働き詰めという訳ではなく、適度に休憩を挟みながらである。

 

 そんなタイミングを見計らってか、彼女のもとに居る艦娘が遊びにやって来ていたり、差し入れを持って来たりしており、それらが日々の激務の疲れを癒やす一服の清涼剤となっていた。

 

 またこのタイミングを利用して新人を始めとした、交流の機会が短かった艦娘とのコミュニケーションを深めるという目的もあった。

 

 

 しかし、今目の前に居る艦娘は、どちらかというとそれなりに交流があり、気心の知れた仲だった。

 

 

 その艦娘の名はТашкент(タシュケント)

 

 

 なにを隠そう、真志妻とは小松島鎮守府に在籍していた時からの付き合いがあり、かの新ロシア連邦(NRF)海軍太平洋艦隊司令Революци(レヴォリューツィヤ)大将こと戦艦艦娘Гангут(ガングート)と同郷である新ロシア連邦(NRF)からの出向者である。

 

 Гангут(ガングート)本人は本国へと戻って久しいが、彼女は日本に留まり、Гангут(ガングート)の後を引き継いで新ロシア連邦(NRF)日本派遣艦娘部隊の責任者でもある、駐在武官に就任していた。

 

 しかし、それと同時に彼女は新ロシア連邦(NRF)軍参謀本部情報総局、所謂ГРУ(GRU)に所属するエージェントでもあり、大尉の階級を有している事が、あきつ丸の調べで分かっていた。

 

 

 事実、彼女の行動には何かしらの探りを入れている(フシ)が見受けられていた。

 

 

 だからといって、真志妻の彼女に対する態度はどうかと言うと、別段これと言って特別なものはない。

 

 他の艦娘と変わらぬ愛情を注ぎ、大切な仲間として扱っている。

 

 

 どうせ軍の情報は相変わらずダダ漏れであり、施行されている防諜の類いは、公金横領スキームを主眼に置いた、体裁だけ整えた利権目当ての張り子の虎でしかない。

 

 本当に大切な情報(モノ)、そう、自身の肉体に関する事は───、どうせもうある程度は流出しているだろうからどうでもいいが───、例えば小松島鎮守府を任せている土方達の秘密に関する事は可能な限り秘匿に努めており、事実なのだがその荒唐無稽な内容からトラップ用の欺瞞か、何かしらの暗号の類いだと思わせる方向性へと誘導する様にも仕向けている。

 

 

 またТашкент(タシュケント)自身、真志妻とその周辺に対して害を与える様な行為に及んでおらず、真志妻も静観を決め込み、彼女との交流を楽しむようにしていた。

 

 

 とはいえ、今回ばかりは彼女との交流を楽しむという気持ちの余裕がないくらいにまで、緊張感に包まれていた。

 

 

 何故ならば、彼女はとんでもない差し入れを持ってきたのだ。

 

 

 現新ロシア連邦(NRF)国防相、Мирослава(ミロスラヴァ) Иванова(イヴァノヴァ)その人からリモートによる会談の申し込み伺いを持ち込んできたのだ。

 

 

 Мирослава(ミロスラヴァ) Иванова(イヴァノヴァ)

 

 

 年齢不明。メディアへの露出を嫌い、殆ど表側には出てこず、またその出生に始まる経歴には謎が多く、その名前も偽名ではないかとされている。

 

 分かっているのは女性であることと、前任の国防相であり現大統領であるКутузов(クトォーゾフ)氏だけでなくПутина(プーチナ)前大統領から全幅の信頼を寄せられている。

 

 軍の改革の一環として、海軍の要職に艦娘を登用することを後押し、西側を中心に配備が進んでいる新型の光学兵器*1を生産配備には進ませず、発展改良に向けての試験サンプル目的での配備に留め、新型ミサイル『バグラチオン』の開発配備を命じたくらいのものが判明していくらいである。

 

 それと真意は不明だが、彼女が対日支援を最も強く押したとの未確認情報がある。

 

 

 謎が多く、あのあきつ丸ですらお手上げだと言っている程にガードが固い人物である。

 

 恐らく土方の所に居る春雨(ハルサメ)姉妹の山風(ヤマカゼ)ならば、何かしら掴めるかもしれないが、今そんな事を考えても詮無き事である。

 

 

 そんな人物が、自身に会談を申し出てきた。

 

 

 しかもリモートということは、その素顔を晒すという事である。

 

 

 その真意は奈辺にあるのか?

 

 流石に人払いの要請こそあるものの、この様な事態は前例がなかったと真志妻は記憶している。

 

 大概は文章か代理人を立てており、国内外で要人と会うことすら避けていると言われている程で、一部では「Мирослава(ミロスラヴァ) Иванова(イヴァノヴァ)なる人物は本当は存在せず、新ロシア連邦(NRF)が開発した新型AIを隠す目的で作られた架空の人物なのではないか?」との噂がまことしやかに語られている程である。

 

 

 無論、この噂が真実であると裏付ける確たる証拠は提示されておらず、説得力が無いとして否定的な見解が大勢を占めている。

 

 閑話休題。

 

 

 一体何を考えているのかが見当も付かず、少し不気味ではあるが断る理由もなく、それにその素顔を拝んでみたいとの好奇心もあった。

 

 

 その為、会談の申し入れを受けることとした。

 

 

 真志妻からの了承を得られた事により、Ташкент(タシュケント)は持ち込んだ鞄の中に収められていたタブレットを取り出し、幾つかの操作の後に二つ三つ程ロシア語でのやり取りが交わされたのだが、その際に真志妻は違和感を覚えた。

 

 

 気のせいか、声がやや幼い様な…?

 

 

 そう内心で首を傾げていると、Ташкент(タシュケント)はタブレットを真志妻へと渡し、彼女も退室した。

 

 

 画面に映し出された人物に、真志妻は軽く驚きの表情となった。

 

 

 幼い声からまさかとは思ったが、明らかに少女としか思えないような、とても大国新ロシア連邦(NRF)の閣僚とは到底思えないようなプラチナブロンドの髪をツインテールに纏めた少女が映し出されたのだ。

 

 

 

「«突然の会談のお願いをご了承頂き、感謝致します。

 私がМирослава(ミロスラヴァ) Иванова(イヴァノヴァ)

 

 新ロシア連邦(NRF)にてМинистр обороны(国防相)を任せられている者です»」

 

 

 そう言って礼儀正しくお辞儀をするミロスラヴァと名乗った少女。

 

 それに釣られて真志妻もお辞儀を返す。

 

 

「いえ、こちらこそ、今をときめく新ロシア連邦(NRF)の重鎮と称されております国防相閣下御自らお声をお掛け頂き、恐悦至極で御座います。

 

 ご存知かと思いますが、真志妻亜麻美(アマミ・マシツマ)、日本海軍艦娘部隊総司令官で、大将を拝命しております」

 

 

 よそ行きの際に見せる笑顔を見せながら、そう返すが、これは別にお世辞でもなんでも無く、真志妻の本心だった。

 

 だがその内心で、このミロスラヴァと名乗った少女の顔に既視感があることに気が付いた。

 

 

 正確には、その眼だ。

 

 

 その疑問が顔に出ていたのか、Мирослава(ミロスラヴァ)は苦笑しながら真志妻にとって予想外にも程がある()()を語り出した。

 

 

「«貴女は薄々ながらも気付きつつあるようですね。

 

 隠し立てること無く、正直にお話致しましょう。

 

 私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()村雨型(アドミラル・マカロフ級)改装型ミサイル(ロケット)宇宙巡洋艦、Слава(スラヴァ)と申します。

 

 бронепа́лубный кре́йсер(防護巡洋艦)マツシマの人造艦娘、Адмира́л(Admiral)マシツマ殿(どの)»」

 

 

 

 この瞬間、真志妻は思い出した。

 

 

 そうだ。この眼は、この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、()()()()()()()()()()

 

 

 愛した者、親しき者、友や仲間達、そして可愛がっていた大切な教え子といったその全てに先立たれ、涙さえ枯れ尽くして失意のどん底の中で没し、この世界へとやって来た霧島(キリシマ)さんの瞳と!!

 

 

 

 

 

 世界は、より複雑さを増してゆく────。

 

 

 

 

 

 

 

*1
霧島(キリシマ)が開発に関わった、自身の高圧増幅光線砲をベースとした光線砲のこと






 取り敢えず、シッチャカメッチャカにしながら、時間断層工廠とUX-02ことベオ(ガミラス語で数字の2を表す)、参戦。
 時間断層工廠はややポンコツです。また時間断層工廠の名前ですが、閑話で出しました通り、“ドーラ”となります。由来は閑話の後書きにもかきましたが、パンドラの箱のパンドーラからです。それまでは工場長呼びとなります。

 更に新ロシア連邦(NRF)も本格介入開始。

 ミロスラヴァ氏の容姿は、BLACK LAGOONのバラライカさんとその幼少期の間位をご想像下さい。

 因みに彼女のこの世界での目的は“復讐”です。

補足説明、解説

 『Адмира́л Мака́ров(アドミラル・マカロフ)』級改装型ロケット(ミサイル)宇宙巡洋艦『Слава(スラヴァ)


 国連宇宙海軍ユーラシア管区ロシア軍事宇宙艦隊が所有する村雨型宇宙巡洋艦のロシア名。


 元々は通常の村雨型同様に高圧増幅光線砲を主兵装とした、地球軍の標準的な宇宙巡洋艦だったが、その肝心要の高圧増幅光線砲はガミラス艦に対して全く効果が無く、新開発された陽電子衝撃砲は兵器としての安定性に著しく欠く有り様であり、そのくせ非常に扱いづらくて使い勝手が悪かったが、当時の技術的問題から一向に改良の目処が立たなかった。

 その事に業を煮やしたロシア軍部が独自の改装を施すことを決定。

 主砲を撤去してミサイルランチャーを設置し、更にパージ可能なミサイル発射筒を増設。
 
 搭載するミサイルは後に『ユキカゼ』の試製魚雷やその正式型であり、『ヤマト』に搭載された空間魚雷の様に一撃必殺が狙える程の高威力では無かったものの、充分にダメージを与えられる代物だった。

 しかし相次ぐ遊星爆弾の落着により、各地の軍需工場や宇宙軍港が大損害を受け、改装が施されて尚且つ稼働可能、搭載弾薬の充足率をなんとか満たしていたのは遠く極東の地、ウラジオストクにて第二次火星沖海戦の傷を癒やしていた、ウラジオストク艦隊所属の『Слава(スラヴァ)』のみだった。

 しかしウラジオストクを管轄下に収める東部軍管区のハバロフスク地下司令部が遊星爆弾によって壊滅。更にモスクワもその統制力を弱体化していた為に、その存在が忘れ去られていた。

 その後はなんとか現状維持に努めていたものの、流石に限界を迎えつつあったが、このタイミングで国連宇宙海軍が最後の艦隊決戦を挑むとの情報を得て、磯風型宇宙突撃駆逐艦のロシア使用、『Неустрашимый(ネウストラシムイ)』級ミサイルフリゲート艦『Метель(メチェーリ)』、『Проворный(プロヴォルヌイ)』(後にエンジン不調により落伍、放棄。)と共に、冥王星へと向かった日本艦隊の援護のためにウラジオストク宇宙軍港を出撃したが、出撃が遅れた影響で作戦には間に合わず、撤退中の『キリシマ』と合流。直後に追撃してきたガミラス駆逐艦2隻から『キリシマ』を守るために邀撃行動に出る。

 『Слава(スラヴァ)』は新型高機動ミサイルによる連続飽和攻撃にてガミラス駆逐艦の動きを鈍らせる事に成功。

 しかし直後の応射を受け大破し漂流。

 その隙に『Метель(メチェーリ)』が肉迫し、至近距離からこちらも主砲を撤去して新設された速射魚雷発射管より放たれた魚雷群の飽和攻撃により1隻を撃沈。もう1隻を甲板上面部の武装を破壊する損傷を負わせるも、後部甲板に備え付けられていた2連装陽電子速射砲塔が破壊される直前に放たれ、運悪く艦首魚雷発射管を破壊し、更にはその衝撃で魚雷再装填装置が故障してしまう。

 だが『Метель(メチェーリ)』はその事に怯むこと無く、そのままガミラス駆逐艦の上方へと回り込む。

 ガミラス駆逐艦は先の『Слава(スラヴァ)』から受けたミサイル飽和攻撃のダメージで各部のスラスターが損傷しており、思う様に動けずにいたが、それでもなんとか追随しようとした直後、別方向から撃ち込まれた魚雷によってエンジンノズルが損傷し、その行き脚が目に見えて低下した。

 大破漂流し、戦闘能力を損失していたと思われていた『Слава(スラヴァ)』が、突撃を敢行する『Метель(メチェーリ)』を援護すべく、最後の意地で生き残っていたスラスターを総動員して(ふね)を動かし、艦首魚雷を放ったのだ。

 しかし『Слава(スラヴァ)』のこの意地の一撃にキレたガミラス駆逐艦が、艦底部の2連装陽電子ビーム砲を放ったことにより『Слава(スラヴァ)』は遂に力尽き、爆沈してしまった。

 だがこの『Слава(スラヴァ)』の身を挺した献身により、『Метель(メチェーリ)』は無事に突撃経路の確保に成功した。

 仲間の犠牲に応えるべく、時を置かずして『Метель(メチェーリ)』は突撃を敢行し、唯一発射可能だった艦首対艦砲を損傷箇所、艦前部に備えられたミサイル垂直発射管の破壊されたハッチ近辺に叩き込むも、信管の故障により全弾不発に終わってしまう。

 それを見たからか、『Метель(メチェーリ)』は退避機動を行うこと無く、そのまま真っ直ぐガミラス駆逐艦へと、自らが撃ち込んだ対艦砲の命中箇所へと向けて体当たりを敢行。

 直後にガミラス駆逐艦のミサイル、そして『Метель(メチェーリ)』の対艦砲砲弾と未使用の艦首魚雷、更には再装填不能となった魚雷群が誘爆し、ガミラス駆逐艦を道連れに爆沈した。

 この一連の戦闘は望遠映像にて『キリシマ』からも観測されていた。
 
 ウラジオストク艦隊は先の第二次火星沖海戦にて、極東管区空間戦闘群、つまり日本艦隊に窮地を救われた恩義があった。

 事実、ガミラス駆逐艦への邀撃行動に移る直前、キリシマの沖田司令に「«Марс(火星)でのご恩をお返し致します。Адмира́л(Admiral)オキタ、どうか我々の意地を、見ていてください!»」との通信を送っていた。

───────


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第55話 Excessive greed kills

 過度な欲は身を滅ぼす。

 我ながら、相変わらず脱線話が多いな…。なのに書いてて楽しいというジレンマ。

 今回は『ヤマトという時代』を見た当初から考えていた見解を下地とした考察という名の妄想をつらつらと書き綴っています。
 第二次大戦後デカいドンパチが無かった?そりゃ下手に起こせないような“ナニカ”しらのファクターがあっただけでしょうよ。それこそ一歩間違うと即ハルマゲドンに繋がるような“ナニカ”が。
 それがブレーキとしての役割を果たしていたのではないか?

 まぁ飽く迄も筆者の勝手な推察ですので、確固たる証拠がある訳ではありませんが。


 


 

 

 アンドロメダは時間断層工廠を嫌っている。

 

 正確には今目の前で自分が時間断層工廠であると自称し、工場長と名乗った少女のことではなく、時間断層工廠その物、そしてそれがあった場所を含めた空間を嫌っているのだ。

 

 

 過ぎた力はヒトを惑わす。

 

 

 それがアンドロメダの考えだった。

 

 

 既に地球人類は波動砲という、自らをも滅ぼしかねない諸刃の剣を手にしていた。

 

 しかもコレは恩人であるイスカンダル星の女王スターシャ猊下が、かつての自分達の誤ち、波動砲を使って破壊の限りを尽くし、大小マゼラン銀河を血に染めて大帝国を築いたとする歴史を語り、その血塗れの歴史のことを今は大いに悔いており、波動エネルギーの兵器転用を禁忌の力として扱い、一度は救いの手を差し伸べた相手に対してでさえ、突き放す様な態度に出る程のシロモノだ。

 

 

 人類がまだ宇宙へと進出する遥か昔、「手にした“力”を試してみたくなる。使ってみたくなるのが人間の(さが)というものだ」と語ったとされる軍人がいたという。

 

 

 この言葉に賛否両論はあるだろうが、アンドロメダ自身は否定出来ないとの見解である。

 

 あらゆる人間を命令出来る“権力”、圧倒的な暴力で他人を黙らせ従わせることが出来る“武力”、チラつかせるだけでヒトの心を掌握し、大抵のモノを揃えることが出来る“財力”。

 

 そのあらゆる“力”を手にした時、ヒトはその“力”を使ってみたいという誘惑、いや、“欲”に耐えられるだろうか?

 

 先の軍人の言葉には続きがある。

 

 

「その(さが)に打ち勝てるかどうかが、“力”を扱う人間に求められる資質である」

 

 

 正しく至言であり、“力”を扱うモノに対する警鐘であると、アンドロメダは見ていた。

 

 

 だが同時に、そんな聖人染みた人間など、全体から見たらほんの一握りに過ぎず、またヒトの持つ善性に期待し過ぎるのも考えものだとの思いもある。

 

 何故ならばそれは歴史が証明してしまっている。

 

 “欲”に負け、己の我欲に“力”を濫用する者が居なかった時代など、あるだろうか?

 

 自身の居た世界において、人類は最悪の事態だけはなんとか回避出来ていたが、それは振り返ってみると綱渡りの結果でしか無かった。

 

 

 内惑星戦争勃発まで、人類は大きな戦争が起きなかったとされているが、それはただ単に宇宙開発競争で欧米各国が中露に大きく水を開けられた結果、その差を縮めようと躍起になり、開発競争の激化によって戦争に割けるだけの余裕が無くなっただけだったのだ。

 

 

 当時、内部でのゴタゴタを繰り返す欧米を尻目に、中露両国が相次いで月面着陸に成功しただけでなく、本格的な月面基地を建設した事によって、制宙権は事実上中露の二ヶ国が掌握する事態となった。

 

 

 宇宙条約などの取り決めにより、ある程度は宇宙の軍事利用を抑制していたとはいえ、宇宙開発競争の激化に伴う技術躍進によって、制度が現状に対して対応仕切れない問題が浮上し、改定に向けての動きが見られた。

 

 この改定宇宙条約の締結後、後に一般的となった純然たる宇宙戦闘艦の様な代物が即座に建造される事態()()は、当時の宇宙船建造の技術的問題も相まって、()()()抑制される事になった。

 

 だが、それでも各国では『航路を阻害し、船体を傷付けかねない危険なデブリなどの障害物の排除を目的とした装備』を名目に何かしらの武装を施す宇宙船が次々と建造され、後年にはかつての世界大戦などで使用された特設艦船の様な、必要とあらばさらなる武装の増設が可能な宇宙船が建造される事となった。

 

 また宇宙への本格的な進出に伴い、今まではSFなどにおける架空世界の存在とされていた、宇宙海賊の様な宇宙における犯罪者が出現し、それに対応する名目で各国は宇宙における海上警察とも言える、宇宙警備隊が組織されたのだが、先述の特設艦船の中でも特に重装備な物が選ばれ、通称パトロール艇として活動することとなるのだが、それらは軽装備が関の山の宇宙海賊を相手取るには明らかな過剰な武装が施されており、その仮想敵が宇宙海賊などではなく、各国の宇宙警備隊で配備が進むパトロール艇であることは疑いようがなく、半ば公然の秘密となっていた。

 

 各国は競う様にしてパトロール艇、然程時を置かずしてその名称をかつての海防艦を捩って防衛艦となるのだが、その配備を推し進め、かつての世界大戦前夜の列強諸国による建艦競争の如き様相を呈していた。

 

 

 この宇宙警備隊が後の各国の宇宙海軍へと繋がるのだが、それはさておき、問題はこの当時配備された防衛艦は元々のベースが輸送船だったこともあってかカーゴ区画が存在しており、そのペイロード、つまり積載量は物にもよるが、船体規模に比してかなり余裕のあるものが多かった。

 

 そしてこの積載量の余裕が、先の改定宇宙条約を完全に死文化させてしまったと、後の世の歴史家は口を揃えて語っている。

 

 

 当初は航路パトロールなどの長期航海任務に必要な消耗物資の保管スペースを確保するためと説明されていた。

 

 しかし明らかに過大であると指摘されると、今度は難破船の救助などの、緊急用放出物資を備蓄するため、救助した他船の乗組員や臨検隊などの接舷乗り込みを行う要員が乗り込むスペース、航路阻害の要因となり得る故障、或いは放棄されて宇宙を漂う人工衛星の修理や必要ならば回収し収容するための保管用スペースなどなどと、追加で説明がなされていた。

 

 だがそれにしてはこの該当区画に関する資料の機密レベルが矢鱈と高く、用途不明の()()()()という名称の特殊機材の存在が議論の的となっていた。

 

 

 当時は陰謀論扱いであったが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 無論、全ての防衛艦に装備されていた訳では無く、比較的大型の防衛艦や、所属する国によってまちまちだった。

 

 しかし、欧米や中露といった大国ほど、この手の防衛艦の配備数が異様なまでに多かったのは事実である。

 

 

 そしてこの防衛艦の存在こそが、この当時大国同士の表立った衝突が起きなくなっていた最大の要因である。

 

 

 先にも述べた通り、表向きは航路パトロールといった治安維持活動や人命救助、そして航路清掃を行なっている事となっていたため、()()()()()を始めとしてあらゆる航路帯に各国の防衛艦が常時展開していた。

 

 これは人類の宇宙進出以来、長年放置されてきた膨大な量のデブリの存在が密接に関わっており、また近年の加速した宇宙開発競争がそれに拍車をかけ、デブリが原因とする事故が年々と増加傾向にあり、自国の権益を維持するためにも対策が急務であった。

 

 そこに漬け込む形で、大国は密かに核搭載艦を送り出し、衛星軌道上に配備したのだ。

 

 これは宇宙への核兵器配備を禁じていた改定以前からの宇宙条約を完全に違反しているのだが、大国は素知らぬ顔であった。 

 

 そもそも武装を施した船舶が配備されている時点で、既に宇宙の軍事利用は着実に進んでいるも同然であり、何よりもそれは大国による試金石でもあったのだ。

 

 彼らが宇宙船に武装を施した最大の理由は、かつての冷戦期に米国で提唱され、スターウォーズ計画とも揶揄された、SDI構想*1の実現化による次世代の核戦略を構築することによる戦略的優位性を確保するためのものだった。

 

 そしてそれと並行して従来の大陸間弾道ミサイルに代わる、新たな核攻撃の投射手段としての役割も持たせる事で、攻防一体の核戦略構想となる目論見だった。

 

 地上からの迎撃ミサイルは持ち前の自衛火力で撃退し、迎撃に向かってくる相手国の防衛艦は、実際の所あまり障害にはならなかった。

 

 何故ならば下手に破壊して爆発させてしまうと、その飛び散る破片は衛星の比ではなく、大規模なケスラーシンドロームを呼び起こす原因にもなり、防衛艦も後年の航宙艦ほど頑丈では無かった。

 

 更には搭載されていた核爆弾に誘爆した際に発生する電磁パルスによる被害も無視出来ず、最悪の事態は航行能力を損失し、地球の重力に捕まってしまい、墜落した際に発生する被害も到底無視したり許容出来る範囲を逸脱していた。

 

 そしてもしその墜落現場が、万が一人口密集地域や耕作地帯だったとしたら…?

 

 

 とはいえ、各国がほぼ同時期に同種の装備を揃えたことにより、MAD*2による膠着状態に陥ることとなった。

 

 

 宇宙への進出が本格化したとはいえ、拡がった領域は地球圏を中心としたほんの僅かな宙域に過ぎず、またそこに張り巡らされた航路もか細く、非常に脆弱なものであり、それにも関わらずそこに掛かる各国の既得権益層による利権構造の大きさは膨大な物だった。

 

 

 下手にドンパチをやらかそうものなら、当事国を世界が袋叩きにするか、世界大戦レベルの戦争へと発展しかねなかった。

 

 

 だが何よりも問題だったのは、僅かとは言ったものの今までと比較したら急激な宇宙進出と領域の拡大は、それに比例して各国に伸し掛かる経済的、財政的負担も増大する一途であり、その疲弊からその拡大速度と意欲も徐々にだが鈍化傾向にあり、火星への植民が開始された段階で停滞期へと突入し、火星開拓によって得られる利益によって疲弊しきった国力と経済力の回復に注力に努める様になった。

 

 

 当然だが、軍備に費やす予算的余裕など無く、世論も自国の経済事情を鑑みて軍縮ムードが広がっていた事もって、装備の更新も殆ど行なうことが出来ないまま、ましてや新規設計の新造艦を建造することなどが出来ない状態が続くこととなる。

 

 

 そういった政治的、経済的な障壁の発生から情勢は暫く膠着状態となったまま、世界は一応の安定を果たしていた。

 

 

 状況が変化したのは火星独立運動に端を発する、内惑星戦争の勃発である。

 

 

 火星自治政府は地球軍の物量以上に、(くだん)の核攻撃艦を最大の脅威と見做していた。

 

 

 火星の居住エリアや重要インフラは地球のそれと比較して限定的であり、か細く脆弱だったがために、喩え一隻だったとしても火星の軌道上へと到達させる訳にはいかなかった。

 

 また地球側と違って先に述べた様な様々な“制約”があるわけでなく、また地球と火星を結ぶ航路上ならば撃破しても、火星が受ける直接的、短期的な損失はほぼ皆無だったこともあり、戦後の政治的パワーバランスなどの駆け引きに縛られる必要性が薄かったし、物量差と何よりも核攻撃艦を確実に効率よく撃破するためには、長距離からの高火力で叩く必要性があった。

 

 火星に不時着した異星人の難破船を解析した事による、圧倒的な技術的アドバンテージがあった事も、重要なファクターではあるが、地球艦の様な技術の停滞や政治的、予算的な制約などの外的要因でずっと輸送船ベースのままの似非戦闘艦と違って、設計の自由度が高かったことによる純然たる高性能な戦闘艦を造れた事が大きい。

 

 例えるならばおなじ巡洋艦でも、仮装巡洋艦に対して重巡洋艦や戦闘巡洋艦*3くらいの落差があった。

 

 無論、地球側はこの事を早期に掴んでいたが、物量差と国力差、何よりも艦隊運用における蓄積されたノウハウの差から、なんとかなるだろうと楽観視されていた。

 

 

 そこからの顛末は、おおよそ歴史の通りである。

 

 

 火星へと向かった地球の多国籍連合艦隊による大艦隊は、指揮系統の複雑さ、煩雑さといった多国籍ならではの寄せ集めの雑軍状態だったことも祟り、後に『第一次ダイモス沖海戦』と呼ばれる火星の衛星ダイモスの沖合い宙域で生起した艦隊決戦にて、火星の艦隊に徹底的に打ち負かされ、ダイモスの公転軌道の内側へと到達することさえ叶わず、逆に地球圏近海へと踏み込まれる直前まで追い詰められた。

 

 しかし、地球側が予測した通り、火星軍は艦隊運用ノウハウが致命的な迄に不足しており、火星圏近海ならばまだしも、遠く地球圏へと遠征を成功させるにはまだまだ実力も練度も不足していた。

 

 何よりも後方支援体制も不充分なか細い兵站の実態が徐々に露呈してしまい、その強大な艦隊戦力と緒戦の勢いで半ば隠されていたが、火星軍艦隊の本質は所謂地域海軍の域からの脱却が出来ていなかった事実が明らかとなってしまった。

 

 故に、長期間に及ぶ外洋*4での作戦行動能力に欠けており、地球圏近海での頑強な抵抗によって、そのか細い兵站能力は早々に限界を迎えて崩壊することとなった。

 

 地球側はその“弱点”を的確に突きながら、地球における最初の純然たる戦闘艦とも言える、後の『磯風型宇宙突撃駆逐艦』へと繋がる宙雷艇を来航する火星軍艦隊に対するインターセプターとして大量投入し、出血を強要した。

 

 火星軍艦隊は従来の地球艦の撃破を意識するあまり、この手の小型で高機動な艦艇への対応策が不充分だった。

 

 これは純然たる国力差によるリソースの問題から、一隻でも多く対艦火力のある戦闘艦を揃えることに注力した結果生じた取捨選択からくる、やむを得ない措置だったのだが、それが裏目に出てしまった。

 

 

 そこからは戦争は泥沼の消耗戦となり、こうなると国力が劣る火星側は消耗に対する戦力の補填や、何よりもその人的資源の差から、その多くを軍に集中させていたことによる経済への悪影響がジワジワと真綿で首を絞めるかの如く、火星の継戦能力と士気を削いで行き、戦局は劣勢に追い遣られる様になった。

 

 状況を打開しようとして行なった隕石落としは、戦況を一変させるファクターとは成りえず、なんとか休戦を引き出すことは出来たものの、寧ろ第二次を引き起こす要因の一つとなってしまった。

 

 

 

 第一次内惑星戦争は、地球と火星双方にて大小様々な“過失”と“過信”の連続であったとの指摘がなされている。

 

 

 特に“過信”は、お互いの“力”に対する過度な過信があったと分析し、論じられることもある。

 

 

 国力差に関する分析は、双方それなりに正確であったが、地球は今まで培ってきた艦隊運用に関するノウハウや用兵といった技能面を過信し、兵器の性能差を過小に見積もっていた事、火星はその逆に、兵器の性能差を過信し、艦隊運用に関するノウハウや用兵といった技能面を過小に見積もっていた。

 

 火星は技術的優位性に酔い痴れてしまい、戦争を終わらせる具体的な決定打や政治的解決案を欠いたまま戦端を開いてしまった。

 

 当初は短期決戦でどうにかしなければならないと考えていたが、そうしなければならない事情もあった。

 

 

 火星の経済は地球との貿易によって成り立っていた。

 

 しかし先に述べた様に、地球各国は宇宙進出で費やしたコストの回収と疲弊した自国経済の回復が急務であるとの考えであり、そのため火星側にとってはかなり不利な為替レートを強要していた。

 

 この負担に火星の民衆は耐えかねていた。

 

 火星側が戦端を開いた背景には、こういった経済的な不平等を是正したいという思惑があったのだが、自らの“力”を過信するあまり、要らぬ“欲”を出してしまった。

 

 

 貿易における不平等の是正ならば、地球艦隊撃滅の時点、先に述べた『第一次ダイモス沖海戦』での地球多国籍艦隊殲滅という、戦史上稀に見るワンサイドゲームを成し遂げた直後に交渉のテーブルへと移っていたならば或いは、とする指摘がある。

 

 しかし火星側の指導部自身、ここまで一方的な大勝になるとは予想しておらず、この結果を見た指導部内の急進派を筆頭に「もしかしたら…?」という誘惑に駆られてしまい、その“欲”に負けて自ら泥沼の消耗戦へと突き進む決断を下してしまうこととなってしまった。

 

 更には膠着状態打開の一手として行なった隕石落としが、逆に地球側の厭戦気分まで吹き飛ばし、敵愾心を煽ってしまったが為に、厳しい消耗戦の末に折角引き出せた休戦も、次の戦争に向けた時間稼ぎ程度にしかならなかったと知れ渡った事で、火星内部で深刻な内部分裂を引き起こし、多数の軍人や技術者に科学者が離反する事態を招き、今まで火星の有利を支えていた技術的アドバンテージが覆される結果を生んでしまった。

 

 この事態に火星の指導部は焦りを隠せず、形振り構わぬ大軍拡へとひた走ることとなったのだが、最早火星にはそんな余力は残っていなかった。

 

 そして第二次の時点で、火星の経済は無理な軍拡が祟って財政破綻を引き起こし、火星市民の生活は困窮の一途を辿っていた。

 

 だが地球はその事を承知で、新設された国連宇宙海軍の号令一下、地球各国で新造された、今まで温め続けていた自らの技術と火星の技術を最大限に取り入れて融合させた最新鋭の大艦隊を差し向けた。

 

 

 先の第一次での仕返し以上に、自らの新たな“力”を試したくて。

 

 

 だがこの“力”を試してみたいという“欲”が、この後に地球を地獄へと突き落とすことにもなった。

 

 

 内惑星戦争によって軍部や政府首脳陣を中心に明るみとなり、大きな問題提起となった、異星人による太陽系内への侵出の可能性が、最早絵空事では無くなった事実。

 

 問題は、今の自分達の“力”が、どこまで異星人達に対して通用するのかが分からないことだった。

 

 推測は出来ても、実際の所は分からない。

 

 

 今まではそれなりに正確な予想が可能な相手であった。

 

 宇宙開発競争から始まる事実上の軍拡競争はあったものの、実際に戦端を開くことによるデメリットから、なんとか自制心が働いていた。

 

 

 だが異星人となると前例がないために予想の立てようがなかった。

 

 

 だからこそガミラス戦役初頭の先制砲撃は、異星人の出鼻を挫く意図も確かにあったのだろうが、自分達の力が異星人に対して何処まで通用するかを試したかった一面もあるだろう。

 

 

 その代償として人類は滅亡一歩手前まで追い詰められる事態となってしまったが、それにも関わらずこの頃から地球の“欲”は留まるところを知らず、半ば暴走状態に陥っていた。

 

 

 無限のエネルギーたる波動エネルギー、の存在は正直そこまで大きなファクターでは無かった。

 

 いや、全くの無関係とは言い切れないが、ガミラス戦役によって荒廃した地球では、逼迫するエネルギー事情を劇的に改善する救世主と捉えながらも、それを自在に操る為に必要な技術力の高さ、何よりも資源の払底や生産設備の稼働率からくる工作精度の問題などによって、半ば持て余していた。

 

 

 しかし、時間断層の存在が明らかとなったことで、その状況が一気に覆ってしまった。

 

 

 最終的に時間断層工廠では、生き物やコスモリバースシステムの様な一部の例外的な超オーパーツなシロモノは別として、作れない物は無いと言われるほどになっていた。

 

 その事が地球の暴走に拍車をかけた。

 

 さらなる自制心の欠如が倫理観の希薄化を招き、脅威への備えを大義名分として恩人たるイスカンダルとの約束だけでなく、その誤ちからくる戒めからも目を逸らす免罪符としていた。

 

 

 今の地球は何でも出来ると思い込んでしまっていた。

 

 

 時間断層工廠は地球のあらゆる要望に応え続けた。

 

 

 そこから地球の上層部は同盟国となったガミラスに追い付け追い越せという“欲”へと肥大化していった。

 

 

 だがその足元はガミラス戦役の傷跡が色濃く残る、ボロボロな痛々しい物だった。

 

 だが地球の上層部は自らの“欲”を満たすことを優先して、足元へと視線を落とすことはしなかった。

 

 都合良く、と言ったら不謹慎かもしれないが、ガトランティスの存在と本格的な侵攻が隠れ蓑となっていた。

 

 もしガトランティスがいなければ、民衆は「未だ荒廃した大地が数多く残る地球の完全復興を優先しろっ!」との抗議の声を各地で上げていたことだろう。

 

 実際に抗議の声は復興が後回しやおざなりとなっていた地域を中心として上がっており、波動砲艦隊整備の本格化が正式に連邦議会で可決された事を皮切りに、その抗議は一層加熱し、一部では我慢の限界を超えたと大規模暴動による都市部の焼き討ちが起こってしまっていた。

 

 こういった地域では未だガミラス戦役終結直後と大差無い生活を強いられており、復興など名ばかりだとの批判が相次いでいた。

 

 更には艦隊整備に必要な財源確保で連邦市民への負担も無視出来るレベルを超えつつあった。

 

 

 それらは全てガトランティスの脅威打破を大義名分として、徹底的に封殺されていた。

 

 

 だが実際問題として、地球の経済事情や財政収支などを加味すると、そもそも波動砲艦隊構想を始めとした一連の軍備増強計画は経済的に無理があり、破綻するとの指摘が出ていた。

 

 

 それをどうにかする手段だった時間断層工廠は、軍事部門は別として民生部門は需要に対して供給過多も過多な有り様であり、軍事部門だって今は兎も角としてそう遠くない内に急激に拡大した軍備を維持するための予算のために、財政破綻を来すとの警告が出ていた。

 

 

 地球連邦はかつて自分達が滅ぼした火星自治政府と似たような末路を辿りつつあった。

 

 

 時間断層工廠の能力に目が眩み、現実を見る目が曇っていた。

 

 

 確かにガトランティス戦役において時間断層工廠は重要な役割を果たしていたし、それを否定する声は少ないのも事実だ。

 

 だが同時に扱いが非常に難しい劇薬の類いでもあったとの評価もある。

 

 

 過剰な薬物の接種は人体に害悪を齎す。

 

 

 しかし上層部の“欲”はそんな事に見向きもしなくなっていた。

 

 それほどまでに時間断層工廠の持つ魅力、いや敢えて言わせてもらうならば、その中毒性は大きかったのだ。

 

 

 アンドロメダは時間断層工廠の“力”という名の麻薬に似た中毒性がヒトを惑わしたと考えていた。

 

 そこに波動砲という諸刃の剣の存在。

 

 

 もしかしたらイスカンダルを超える誤ちを、地球は犯すことになるのではないか?

 

 

 そんな恐怖が常にアンドロメダの心の中にあった。

 

 

 

───────

 

 

 アンドロメダは一瞬、逆探知でこの時間断層工廠を自称した少女の居場所を突き止め、有無を言わさず完全破壊すべきではないか?との思考になった。

 

 

 万が一、この世界のニンゲン達の手に落ちたら、あまりにも危険過ぎる。

 

 

 かと言って深海棲艦が秘密裏に制圧したとしても、何処まで隠し通せるか分からない。

 

 いずれ発覚し、血みどろの泥沼化した攻防戦になるかもしれない。

 

 

 そもそも時間断層の特性である時間の流れが十倍となる特異空間が、今の自分や深海棲艦、それに艦娘の肉体に与える影響すら未知数だ。

 

 もしかしたらどの陣営、どの勢力にも制圧することは不可能なのかもしれないが、このいかがわしい目付きで自分を見ている工場長なる少女が気まぐれを起こし、どちらかの陣営に肩入れすると言い出すかもしれない。

 

 そうなったら目も当てられない。

 

 

 それ以前に、アンドロメダの中ではふつふつと怒りが湧いてきていた。

 

 

 なにが私のアンドロメダかっ!?巫山戯ないでッ!!私をもしその様に呼ぶのならば、それに相応しいのはヤマトさん(お母様)沖田艦長(お父様)、そして駆逐棲姫さん(お姉ちゃん)だけだ!!

 

 

 まるで貴女は私の所有物ですと言っているかのような少女、工場長の物言いに、アンドロメダは不快な気持ちにさせられた。

 

 

 そんな激情に揺れるアンドロメダであるが、同時に今のこの状況を打開できる可能性についても冷静に導き出していた。

 

 かの遊星爆弾症候群の特効薬が短期間の間で製造出来たのも、時間断層工廠に依るところが大きかった。

 

 今手元にある資料では不充分な薬品しか出来ないが、時間断層工廠の特性を活かしたら、もしかしたら完璧な物が早期に完成するのでは?という期待が持てる。

 

 この世界のニンゲン達に対して不信感と嫌悪感を抱いてはいるが、力の無い弱者、特に子供達にはなんの罪もない。

 

 子供達は大人達の暴走に巻き込まれた、謂わば犠牲者なのだから。

 

 いつの時代だって、子供は悪い大人に食い物にされ、無責任で考えなしの大人達の巻き添えにされてきた。

 

 せめて子供達が苦しみ、未来がこれ以上奪われることが無い様に、何よりも今目の前で滂沱の涙を流して訴えて来ている泊地棲姫の姿を見たら、彼女に悲しい未来を見させたくない。

 

 彼女には笑顔で子供達と楽しく過してもらいたい。

 

 

 それに、時間断層工廠ならばアポロノームの大破した艤装を完璧に修理することも不可能ではないだろう。

 

 

 懸念はある。それも有り過ぎるくらいに。

 

 

 だがただでさえ後方支援体制が全く無いに等しい今の自分達には、この時間断層工廠の存在は喉から手が出るほど欲しい。

 

 無論、消耗する資材面こ補充という点においての不安もあるが、そこは今考えても仕方が無い。

 

 

 自身の感情と損得勘定を天秤に掛けて揺れ動き、なにが最善かとの考えを巡らせる。

 

 

「«ああ、ちょっといいか?»」

 

 

 そこへ、青い肌をした少女がアンドロメダに対して口を出してきた。

 

 

「«アタイ、おっと…。

 

 ジブンはガミラス国防軍亜空間戦闘団、次元潜航艦隊所属、UX-02でぇあります。テロン艦隊総旗艦ドノ»」

 

 

 先のキルメナイムと比べたら、締まりの無い敬礼をしながら、慣れてないのか舌を噛みそうなカタコトな敬語で自身の官姓名を名乗る少女、いやUX-02に対して、その内容にかつての地球軍出身者は一様に驚きの表情となった。

 

 先の工場長との口論から、ガミラスの次元潜航艦であることは認識していたが、まさか正規軍部隊に属する亜空間戦闘団所属だとは思いもしなかった。

 

 

 ガミラス国防軍の亜空間戦闘団といえば、彼らの中でも最高ランクに属する機密レベルの塊と言っても過言ではない集団だ。

 

 そしてその部隊に属するUX-01は地球、正確には『ヤマト』と少なからぬ因縁のある相手だった。

 

 かのイスカンダルの航海において、何度も『ヤマト』を翻弄した手強い相手として地球軍の中では知らない者はいない存在として知られている。

 

 しかし亜空間へとその艦体を没し、再び浮上させるだけでなく、亜空間を自在に航行する為に必要となる技術開発は、地球よりも遥かに優れたガミラスの科学技術力を持ってしても難航したらしく、多くの試作艦が亜空間へと沈んだまま再び浮上することはなく、幾多の犠牲者を生み出す(ふね)として恐れられ、更にはあまりにも膨大な建造コストからその製造数は非常に少ないとされている。

 

 そのため地球軍の中でも『ヤマト』以外でマトモに邂逅したモノは非常に限られており、そもそもガトランティス戦役の最終局面というタイミングで投入されたのが初だったため、アンドロメダ自身も生前(?)実際に会うことは無かった。

 

 ただアンドロメダの場合、その立場柄地球へと派遣されて来ていたガミラス艦との交流の機会があり、その際に次元潜航艦と面識のあったモノもいたため、話として次元潜航艦は運用する乗組員達も含めて、荒くれ者の集団ということだけは聞き及んでいた。

 

 とはいえ、ガミラスの中でも精鋭の部類に属し、その指揮官たるヴォルフ・フラーケン中佐の優秀さも聞き及んでおり、早々損失する事態は起きないだろうと思っていたため、先にも述べた行方不明となった試験艦なのだろうか?と思い込んでしまっていた。

 

 そんなかつての地球軍組を他所に、UX-02は話しを始めた。

 

 

「«コイツはアンタが何時かこの世界に来てくれると信じて、(くれ)ぇ海の底で1()0()()()()ずーっと待ってたんだぜ?»」

 

 

 この言葉にアンドロメダの心に動揺が走った。

 

 

 待っていた?何故?いや、そもそも私がこの世界にくると知っていた?

 

 様々な疑問が沸き起こり、頭の処理が追い付かなくなるが、UX-02はお構い無く話を続ける。

 

 

「«コイツのヤバさはコイツ自身が一番理解している。だから外との接触を完全に()っていた。

 

 ずっと一人だったからか、誰とも会う機会もなかった影響でコミュ障のシャイで人見知りだ»」

 

 

 確かに、今もなんだかモジモジと恥ずかしそうな雰囲気を醸し出している。

 

 

「«()()()()()()()()()()()()()んだが、初めはアタイとだってマトモに顔を合わせることすら出来ねぇヤツだったよ。

 

 今はまだマシにはなったが、それでもさっきご覧になった通りさ。

 

 だがな、それでもコイツは困っているアンタを見て、力になりたいからと、頑張って通信を繋いだわけなんだ»」

 

 

 その言葉に時間断層工廠こと、工場長は顔を赤くしてUX-02をポカポカと殴り付けるが、全くと言っていいほどダメージは無さそうである。

 

 

 アンドロメダとしても、心が揺らぐ。

 

 

 ずっと待っていたというその理由まではまだ分からないが、自身の危険性を理解し、それでも誰かのために力になりたいと思っている者を突き放す様な真似は、アンドロメダとしても抵抗がある。

 

 

 だが待って欲しい。

 

 

 困っている私を見て?それはつまり───。

 

 

 

「«まぁコイツは世間知らずだし、頭はイカれてて、アンタがこの世界に来たと知った途端、色んな方法を駆使してアンタのことを覗き見してニヨニヨしてた変態だが、アンタのことを裏切るマネはしないと思うぜ»」

 

 

 

「ブッコロス!!」

 

 

 台無しである。

 

 

 

 まさかと思っていたが、どうやら何かしらの方法を駆使して、この工場長とやらは盗撮紛いのことをしでかしていた様である。

 

 かつての立場柄、見られることにはなれているが、それはそれ、これはこれだ。

 

 

 何よりも!

 

 

 私を見ていたということは、いつも一緒にいてくれたお姉ちゃんも見ていたということだ。

 

 寧ろそっちの方が許せない!

 

 

 

 画面の奥で、工場長の顔がサッと青褪めるのを視界に捉え、それが真実であるとの確信を得た。

 

 

 

 泣き出しつつあるものの、もはやお構いなしである。

 

 

 

 アンドロメダは激怒した。

 

 

 必ずやこのド変態クソメガネに裁きの鉄槌を下す事を決意し、イスカンダル猊下にも心の内で誓った。

 

 

 

 工場長はそんなアンドロメダの鬼の様な形相に怯えて泣き出してしまった。

 

 

 

*1
戦略防衛構想。Strategic Defense Initiative,

*2
相互確証破壊。Mutually Assured Destruction,

*3
所謂巡洋戦艦

*4
この当時の基準だと、惑星圏から外の宙域は外洋扱いだった。






 人間は新たな玩具を手にすると、それを使いたくなるのが性です。我々軍人も同じです。ですから、それを手にする者の人間性、強い抑制の心構えが問われるのだと思っております。

空母いぶき 秋津竜太一佐




 工場長が殆ど喋らなかったのは、頭テンパってたからです。

 よくあるでしょ?人前に出ると途端に喋れなくなったり、呂律がおかしくなるの。
 それが好きなヒトとかなら尚更。そんな感じでした。

 因みにUX-02には若干愉快犯の気質があります。


補足説明

 宇宙条約

 正確には『月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約

 通称は宇宙条約だが、『宇宙憲章』と呼ばれることもある。

 1966年12月19日に採択された第21会期国連総会決議2222号で、1967年10月10日に発効した。


 ザックリとご説明申し上げますと、宇宙の探査・利用の自由平和利用領有の禁止国家への責任集中、といった趣旨の条約。

 この内平和利用の項目に、宇宙への核兵器を始めとした大量破壊兵器の配備や、月などの天体の軍事利用が禁じられている。

 しかし、宇宙空間の法的地位、平和利用原則の不備、天体の軍事利用原則の不備、天体の領有禁止の問題、打ち上げ国責任の問題、宇宙空間の物体に対する攻撃、といった問題点が指摘されている。

一部Wikipediaより抜粋



 SDI 戦略防衛構想 Strategic Defense Initiative,


 衛星軌道上にミサイル衛星やレーザー衛星、早期警戒衛星などを配置し、それらと地上の迎撃システムが連携して敵国から発射された大陸間弾道ミサイルを迎撃、撃墜する事を目的とした計画。

 1983年3月23日、時のアメリカ大統領ロナルド・レーガンによる『SDI演説』によってその構想が発表され、翌3月24日に開発が命じられた。

 数々の技術的問題や先述の宇宙条約、ソ連側の外交による攻勢などから、予定通りの完成には至らなかったが、MAD、相互確証破壊による核の均衡に一石を投じ、現在の弾道ミサイル防衛技術の開発に繋がった。


 MAD 相互確証破壊 Mutually Assured Destruction,

 核戦略に関する概念、理念、戦略。

 核兵器を保有して対立する二つの国のどちらかが、先制核攻撃を行なった場合、もう一方の国は破壊を免れた核兵器によって確実に報復攻撃を行うことで、先制核攻撃を行なった国も甚大な被害を被ることとなる為、相互破壊が成立し、この二つの国の間では全面的軍事衝突は理論上は発生しないという概念。


───────



 所で、某所にて投稿したとあるコメントに対して、「現実を見ろ。現ロシアの政治は共産党一党独裁体制だぞ」と、ドヤ顔みたいな矢鱈と自信たっぷりなコメントが返信として書かれたんだけど…。
 いや、ロシアの現在の与党ってメドベージェフが党首の統一ロシアだし、共産党はジュガーノフのロシア連邦共産党ほか色々とあるけど、全部野党だぞ…。
 野党としての機能を果たしているのか?と疑問に思うかもしれないが、日本の野党だって野党としての機能果たしていると言い切れないし…。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第56話 To vent

 吐露


 先月から勤務が夜勤から昼勤に変わったけど、今の方が余裕もゆとりもなさすぎて泣けてくるぜ…。


 

 

 土方は頭痛を覚えた。

 

 

 話が進まないからと、なんとかアンドロメダを宥めすかしたものの、茹で蛸みたいに顔を真っ赤にした怒り心頭の彼女を落ち着かせるのはなかなかに骨が折れた。

 

 最終的にはアンドロメダが姉と慕い、懐いている駆逐棲姫が、「«なら嫉妬させちゃうくらい仲良しなところを見せ付けちゃいましょう!»」と言ってにこにことアンドロメダをギュッと抱き締めた事で、「«お姉ちゃんがそういうのなら…»」と不承不承ながらも引き下がった。

 

 だがその際に満更でもないといった表情を見せながら抱き返した事で、「(まるで海風(ウミカゼ)の様だな…)」と土方は内心で嘆息した。

 

 

 元々姉妹全員が強い絆で結ばれているが、春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)の2人は別格と言えた。

 

 姉である春雨(ハルサメ)に対してベッタリなシスターコンプレックスを有する海風(ウミカゼ)は、今回のアンドロメダと同様に姉に対して害があるとする言動を行なった者に対して激しい怒りを見せることがしばしばあった。

 

 その都度春雨(ハルサメ)が宥めているため、大きな問題に発展する事態になることは無かった。

 

 ただその春雨(ハルサメ)自身も、海風(ウミカゼ)の名誉や尊厳を著しく貶める言動を行なった者に対しては、普段の落ち着いた大らかで優しい様相を一変させる事態になるが、その際は海風(ウミカゼ)だけでなく姉妹ほぼ総出で落ち着かせる事になったりもする。

 

 

 やや歪んでいるとも言えるかもしれないが、この2人は実艦時代の最期がお互いに対して戦没原因は自身にあるとの罪の意識があり、互いに傷付いてほしくないとの気持ちが強く、傷付く事態に対して敏感だった。

 

 

 大切なモノがあり、それを守りたいという気持ちは、それはある種の美徳であり強味でもあるが、同時に暴走を誘発する弱点とも成り得た。

 

 視野が狭くなり、周りが見えなくなる危険性を孕んでいるのだ。

 

 事実、アンドロメダは直前の一切合切の事情などを忘却の彼方へと思いっ切り放り投げてしまった。

 

 

「…これでアルデバランのヤツまで来ちまうと、どうなることやら」

 

 

 思わずといった様に漏れ出た霧島(キリシマ)の呟きに、土方はらしくなく「勘弁してくれ…」という気分となった。

 

 

 聞けば、アルデバランは海風(ウミカゼ)に匹敵する重度のシスターコンプレックス、いや、それ以上の姉至上主義だと言うではないか。

 

 海風(ウミカゼ)も見方によっては姉至上主義であると言えるが、なんだかんだ言って要所要所で春雨(ハルサメ)を嗜める事もあったりする。

 

 だがアルデバランはアンドロメダを全肯定するイエスマンな一面が強いとの指摘があり、下手をするとアンドロメダの暴走に拍車をかける危険性が高いどころか、釣られてアルデバランも共に暴走するかもしれないとの指摘もあった。

 

 

 アンドロメダ級2人の暴走などという、最早この世の破滅にしかならない事態を想像するだけで、土方は胃が痛くなる思いがした。

 

 いやそれよりもアンドロメダを巡ってアルデバランと駆逐棲姫が大喧嘩でもやらかしたら…。

 

 

 出来ればアルデバランだけは来てほしくないと切に願う土方だが、はてさてこればかりはどうなるかは分からない。

 

 

「(俺だって気付けばもう定年を超えているんだ…。これ以上、面倒事を増やさないでくれ…)」

 

 

 この世界へと来てかれこれ5年あまり、今年で65歳となる土方はどちらの世界においても定年である60歳を超え、延長期間である5年も本来ならば今年で満期なのだ。

 

 体の衰えも自覚しており、昔と比べて無理が利かなくなったせいか、やや弱気な所が出てくるようになっていた。

 

 それでも沖田(親友)との約束や、なによりも自身よりも高齢な、もう老人と言っても差し支えのない、()()()()()が元気に動き回っている姿を見ると、おちおちと弱気な姿を見せるわけにもいかなかった。

 

 とはいえ限度というものはある。

 

 なんだかんだ言って素性を隠しての生活というのは、かなり気を張り、疲れの貯まるものなのだ。

 

 それが自身1人だけならばまだしも、今や十人以上である。

 

 真志妻もその事を気にして何かと気にかけてくれてはいるが…。

 

 日本海軍艦娘部隊最高責任者にして、最高位の大将という人物から信頼され、強力な後ろ盾となってくれている意義は大きいし、助かっている所もあるが、同時にある種の注目を集めてしまう要因にもなってしまっていた。

 

 

 土方の体は見た目からは分かり辛いが、肉体的にも精神的な面においても確実に摩耗していた。

 

 

 だが土方の消耗はそれだけが原因ではなかった。

 

 

 5年前、この世界に来た時に受けた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、土方の体を確実に蝕んでいた。

 

 長年に渡る医療機関の不祥事や、慢性的な医師の不足による医療技術の低下から、マトモな治療が受けられなかった───、という訳では無い。

 

 この事件に深く関わっている真志妻が、自身の部隊に属する妖精さん達も動員して懸命な措置を行なった事によって、土方は一応一命は取り留めた。

 

 しかし、その後のいざこざやなにやらで、完治する前から無理をした、無理をせざるを得なかったことが、今になって借金のツケの様にジワジワと出て来て体を着実に蝕み続けていた。

 

 

 そしてこのことは、まだ誰にも話してはいなかった。

 

 

 

───────

 

 

 すったもんだあったものの、取り敢えずUX-02を参考人として交えて時間断層工廠こと工場長に対する尋問、もとい、事情聴取が執り行われた。

 

 

 掻い摘んではいるが、彼女がこの世界に来た理由の説明となったのだが、それは些かぶっ飛んだ内容だった。

 

 

 ガトランティス戦役終盤、ガトランティスの中枢であった『滅びの方舟』と相打つ形で行方不明となった『ヤマト』が、時間断層工廠の存在する特異空間へと帰還を果たした事から端を発する、高次元世界に生きたまま取り残されている艦長代理古代進と船務長森雪両名の救出計画。

 

 

 工廠として使用されていた空間は、時間断層の表層に過ぎず、時間断層の奥にはさらに断層が続いており、その最奥には時間が無限大にまで引き伸ばされた、高次元世界の辺端(へた)ともいえる世界が存在していた。

 

 『ヤマト』は『滅びの方舟』を滅ぼした際、発生した膨大なエネルギーと共にその世界へと押し流され、半年の時を経て戻ってきたのである。

 

 高次元世界に古代進と森雪を生きて残したまま。

 

 2人を救出するためには、再度高次元世界へと赴く必要があるが、そのためには無限に近い膨大なエネルギーが必要だった。

 

 『ヤマト』の副長にして技師長であり、地球最高クラスの頭脳を誇る科学者でもあった真田志郎は、時間断層を消滅させ、それにより発生するエネルギーを利用する方法を提案する。

 

 無論、その事に反対する意見もあった()()()

 

 その辺の詳細は工場長自身、曖昧でよく分かっていないとのこと。

 

 それは何故か?とアンドロメダが問うと、工場長は寂しそうな表情となりながらぽつりぽつりと語り出す。

 

 

「«貴女のいない世界なんて、私には、どうでもよかったからぁ…»」

 

 

 曰く、アンドロメダが帰らぬ身となったと知った時から、彼女は時間が止まった感覚に囚われた気がしたという。

 

 

 『アンドロメダ』級、特にその栄えある1番艦であるAAA-1『ANDROMEDA』は、彼女にとって“特別”な存在だった。

 

 

 彼女曰くの『アンドロメダ』級とは言ってしまえば「想定し得る(わたしの)全ての状況に(かんがえた)単艦で対応可能な(さいきょうの)次世代の戦闘艦(うちゅうせんかん)」を目指した(ふね)であり、次世代の国防戦略に基づいた一種のコンセプトモデル的な一面も併せ持っていた為に、設計に関してかなりのフリーハンドが許されていたという。

 

 また、当時の時間断層工廠のメインフレームがどれ程の技術を学習し、能力を獲得出来ているかを知る為の、試験的な目的もあったとされている。

 

 

 だからこそ彼女は奮起し、一念発起でこの一大プロジェクトにのめり込んだ。

 

 地球とガミラスだけでなく、かつての火星自治政府宇宙海軍が運用した、或いは計画していた艦艇のデータをも貪欲に取り込み、『ヤマト』の航海データも徹底的に細部まで読み漁って検証に検証を重ねた。

 

 人間で言えば寝食を忘れて仕事に打ち込んでいるという言葉で言い表すような、殆ど時間を忘れて考え得る全てを注ぎ込んだ設計プランを作成した。

 

 それによって完成したのが、『アンドロメダ』級であり、その嚆矢たる第一号艦の『アンドロメダ』だった。

 

 

 自分が一から手掛けた、当時考え得る完璧で究極な最強の戦艦(いくさぶね)

 

 

 だからこそ『アンドロメダ』は彼女にとって“最高傑作”だったし、事実上の子供の様な存在だったから、「私の」と言うくらいに相当な愛着が湧いていたのだ。

 

 それに、彼女はアンドロメダが初めて顕現してヤマトやキリシマと邂逅した、あの日の一部始終を見ていたという。

 

 ただ、(ふね)の魂であるアンドロメダ達が人間達に干渉出来ないのと同様に、自身もあの時に迷子のように彷徨い、今にも泣き出しそうで寂しそうなアンドロメダに対して干渉することが出来ず、何もしてあげられない、何も出来なかったことが相当辛かった。

 

 でもこの時に初めて自身が造っている『アンドロメダ』の可愛い魂を見れた事で、より愛着が強くなり、期待の第一子として、他の『アンドロメダ』級とは比べ物にならないくらいに溺愛するようになっていった。

 

 

 しかし、それが失われた事で、彼女は“壊れた”。

 

 失ったことで受けた精神的なショックがあまりにも大きすぎた。

 

 

 以降、彼女は心神喪失状態のまま、この世界に跳ばされた。

 

 

 その為、何年前にこの世界に来たのかという具体的な年数までは分からないという。

 

 こっちに来てからも、最初の頃はほぼ惰性で無気力なまま過していたと語った。

 

 

 流石にここまで聞かされては、アンドロメダとしても複雑な気分とならざるを得なかった。

 

 少し気になる所はあるが、ずっと嫌っていた存在がここまで自身の事を想っていた、自分が沈んだことで可怪しくなったのだと思うと、逆に罪悪感が湧いて来てしまった。

 

 ただ、あの時のジメッとした感じが、実は彼女からの視線だったことにはなんとも言えなくなったが…。

 

 

 ここで一応、UX-02から補足の説明が入った。

 

 

 地球の時間断層工廠放棄に纏わる話は、ガミラスでもかなり話題となった有名な話であるらしく、彼女も聞き及んでいた。

 

 

「«時間断層と引き換えに、2人の命を救った。その判断を下せた地球人(テロン人)はスゲェってな»」

 

 

 最終的な決断は、かねてより時間断層の運用に関して疑問を呈していたガミラス大使、ローレン・バレル氏の尽力もあって、国民投票に委ねられることとなったという。

 

 

 その結果は僅差であったとされているが、それでもその“選択”をした地球人に対して、ガミラスは惜しみのない称賛を贈ったとされる。

 

 また、後にガミラスでも多くの人々が感銘を受け、国民投票に大きな影響を与えたとする、ある人物の演説がUX-02の口から語られた。

 

 

 

───────

 

 

 

 

 ある男の話をさせてください。

 

 

 どこにでもいる、ごく普通の男です。

 

 

 人を愛し、人が造る社会を信じ、地球が滅亡の淵に立たされたときは、イスカンダルへの大航海に加わった。

 

 そして帰還した後は、皆さんがそうであるように、地球復興のために身を粉にして働いてきた。

 

 

 彼が望んだのはただ一つ。

 

 

 イスカンダルとの約束を守ることです。

 

 

 しかし、戦後、地球が置かれた状況は、それを許さなかった。

 

 

 裏切られた…、その思いは間違いなくあったでしょう。

 

 だからテレザートから通信が届いたとき、彼は反乱覚悟で飛び出した。

 

 宇宙の平和に貢献できる地球人でありたい、という願いにかけて。

 

 

 しかし、その結果は───

 

 

 彼は、誰よりも多く波動砲の引き金を引くことになりました。

 

 

 生きるために、守るために、彼は自分の心を裏切ってきた。

 

 

 無論、抵抗はしました。

 

 

 事あるごとに、和平を訴え、自分一人の身で済むならと、敵の銃口に身をさらしたことさえあります。

 

 

 しかし、全ては裏目に出て…

 

 

 結局彼は、自分の命まで武器にしなければなりませんでした。

 

 それで地球が救われたのは結果論でしかありません。

 

 

 彼は、彼を愛し、運命を共にした森雪ともども、決して英雄などではなかった。

 

 

 彼はあなたです。

 

 

 夢見た未来や希望に裏切られ、日々何かが失われるのを感じ続けている。

 

 生きるため、責任を果たすために、自分で自分を裏切ることに慣れて、本当の自分を見失ってしまった。

 

 昨日の打算、今日の妥協が未来を、自分を食い潰してゆくのを予感しながら、どこに向かうとも知れない道を歩き続ける。

 

 この過酷な時代を生きる無名の人間の一人、あなたや私の分身なのです。

 

 

 ですから、引け目は感じないでいただきたい。

 

 

 英雄だから、犠牲を払ってでも救う価値があると考えるのは間違っています。

 

 

 もし、彼と彼女を救うことで自分もまた救われると思えるなら、この愚かしい選択の先に、もう一度、本当の未来を取り戻せると信じるなら、ぜひ二人の救出に、票を投じてください。

 

 数字や便利さ、効率を求める声に惑わされることなく、自分の心に従って。

 

 

 未来はそこにしかないのですから。

 

 

 

───────

 

 

 この演説は『ヤマト』副長真田志郎によって行なわれたものである。

 

 

 かつての地球軍組だけでなく、共に聞いていた深海棲艦の姫達も静かに聞き入っていた。

 

 

 なにを思うか、その心の内は分からない。

 

 

 ただアンドロメダとしては、母と慕い愛するヤマトと、父と慕い尊敬する沖田が、真田の隣で共に語り掛けている姿を脳裏に思い浮かべていた。

 

 

 いや、もしかしたら真田の体を、その口を借りてヤマトと沖田が語り掛けたのではないか?との思いが強かった。

 

 

 確証も無ければ、証拠も無い。

 

 

 ただなんとなく、自身が知る真田という人間が語ったにしては、違和感が拭えず、寧ろ2人の方がしっくりくる気がしたのだ。

 

 

 また、少なくともこの後の連邦市民による“決断”は、正しく“英断”だったと考えていた。

 

 

 時間断層は地球には過ぎた“力”だと考えていた身としては、よく決断してくれたとの思いが強かった。

 

 

 それに眼の前の工場長からしたら、結果的にはこの決断が“救い”になったのかもしれないのだから…。

 

 

───────

 

 

「時に、UX-02さんはどうして工場長と?」

 

 

 ふと気になった事をアンドロメダはUX-02へと尋ねたが、当のUX-02は渋い顔になった。

 

 聞いてはならない事を聞いてしまったか?とアンドロメダは気不味い気分となり、謝罪しようとしたが、それを察したUX-02は、軽く苦笑を浮かべ頭を掻きながら話し出した。

 

 

「«あ~、アタイはコイツに拾われましてね…»」

 

 

 拾われたという言葉に、アンドロメダは首を傾げると、その時のことを知る工場長が当時の状況を語った。

 

 

「«あの時はビックリしましたよぉ。彼女を見付けた時、四肢がバラバラで瀕死の状態でしたからぁ»」

 

 

 まさかのカミングアウトに、場は騒然となった。

 

 

 もしかしたらこの世界には次元潜航艦を撃破可能な謎の“敵”が潜んでいるのではないか?そう勘繰ったのだ。

 

 それに対して工場長はその事に否定的な見解を示した。

 

 確かにその負傷の具合は悲惨の一言に尽きたが、収容された際に確認された傷口が()()()()()()()()()()し、何よりも至近距離だからこそ探知出来たレベルの、ごく僅かな次元震が直前に確認され、不審に思って調査したら、次元震が観測された位置とほぼ重なる位置で発見されたため、おそらくUX-02はこちらに“転移”する直前に、何らかの理由で大きな損害を受け、そのままこっちの世界に来てしまったのだろうと彼女は推測していた。

 

 

 ただ、当の本人であるUX-02が言うには、自身が何でそうなったのか、そしてそれ以前の数ヶ月間の記憶がスッポリと抜け落ちていると言うのだ。

 

 

 この事に霧島(キリシマ)が、春雨(ハルサメ)姉妹に起きた記憶障害──一部の記憶の欠落や混濁──に関する現象を引き合いに出し、おなじ現象が起きているのではないか?との説を述べた。

 

 それを聞いたアンドロメダも、自身のエンジンが原因不明の不調が生じており、火星で沈没した際のエンジン暴走が関係はしているのではないか?と考えているのと、若しくはアポロノームと同様に“転移”の際に発生したダメージが、アポロノームだと艤装の大破という形で、UX-02だとモロに肉体へと影響を与えたのではないか?との推論を語った。

 

 

 だがアンドロメダの不調という言葉に、工場長が激しく取り乱した。

 

 

「«そんな…!?い、今直ぐにでもしゅ、修理と修繕を!!»」

 

 

 あまりの慌てっぷりにドッタンバッタンとしながら、自身の周囲にホログラフィ式のコンソールを展開し出すが、直後にUX-02が工場長の頭にゲンコツを振り下ろした。

 

 

「«落ち着け。バカ»」

 

 

「«バカってなんですかぁ!?

 

 貴女は知らないでしょうけどぉ、私は!()()()()()私のアンドロメダに、一生消えることのない大きな心の傷を負わせてしまった!()()()()()()()()()()()()()()!どうやっても償い切れないだけの罪を私は犯してしまっているんですよぉ!!»」

 

 

 アンドロメダは大きく咳払いをした。

 

 

「些か、気になる話ではありますが、今はその事を横に置いて下さい」

 

 

「«で、でもっ!!»」

 

 

 なおも食い下がる工場長に、UX-02は「«アンタの想いビトが“今は”と言ってるンだ。優先順位ってヤツだよ»」と言って諭したことで、なんとか引き下がった。

 

 

「すみません。UX-02さん。お手数をお掛けしました」

 

 

 そのアンドロメダからの謝辞にUX-02は少し気恥ずかしくなったのか、頬を掻きながらあるお願いを持ち掛けた。

 

 

「«あ~、総旗艦ドノ、アタイの事は出来れば『ベオ』とお呼びください。仲間内からはそう呼ばれてましたンで»」

 

 

 そのお願いにアンドロメダは軽く微笑みを浮かべながら了承すると、「では私のことも総旗艦ではなく、アンドロメダとお呼び下さい」とのお願いした。

 

 そのお願いにUX-02改めベオは、「«いや、いくらなンでもそれは恐れ多いですよ…»」と返すと、アンドロメダから朗らかに「かつての肩書は、もう意味を成しませんから」と告げられた事で、返答に窮してしまい、しゃーないかという雰囲気を醸し出しながら了承することとなった。

 

 

 ここでガミラス語の知識が無い深海棲艦の姫達に、『ベオ』という言葉の語源が地球における数字の“2”であるとの説明がなされた。

 

 

 

 取り敢えず、2人の経緯(いきさつ)に関してはおおよそ理解した。

 

 

 問題は2人が今いったい何処に居るかなのだが、その場所はある意味で意外な所に居た。

 

 

 

 

「«私達の現在位置は駿()()()()()()()()()()»」

 

 

 

 偶然か、必然か、アンドロメダが目指す地、日本に、時間断層工廠は存在していた。

 

 

 

 

 






 真田さんのあの演説は今の世の中に、いや、()()()()()()()()()()、より響くものがありますぜ…。

 芹沢閣下も嫌いではないのですがね。寧ろ今の我が国の政府よりも信用出来ると思っています。


 UX-02バラバラ殺人事件(死んでない)

 一応、次元潜航艦をここまで追い詰める敵は、現時点において、この世界には存在していないことを明記しておきます。



補足説明

 春雨(ハルサメ)海風(ウミカゼ)の最期。


 詳しくは閑話9にて語った通り。一応、概略は以下の通り。


 地球圏でのガトランティスとの最終血戦における、乱戦の最中に大破した旗艦の『春雨(ハルサメ)』が、指揮を『海風(ウミカゼ)』に引き継いだ直後、ガトランティスの『イーターⅠ(自爆特攻兵器)』群が『海風(ウミカゼ)』の死角から接近しているのを他艦よりも強化されていたレーダーが探知。

 しかし兵装、通信機器が破壊されていた『春雨(ハルサメ)』は身を挺して『海風(ウミカゼ)』の盾になるべく割り込み、串刺しになりながら爆沈する壮絶な最期を遂げた。

 しかし自身の沈没時の爆炎が『海風(ウミカゼ)』の艦体を焼くのが見えた直後に『海風(ウミカゼ)』も艦体から爆炎が上がるの見たため、春雨(ハルサメ)は巻き込んでしまったと思い込んでしまい、絶望の中で意識が暗転した。

 実際は『春雨(ハルサメ)』の爆発を隠れ蓑にした『イーターⅠ(自爆特攻兵器)』の第二波が『海風(ウミカゼ)』に命中したことが原因だったため、『春雨(ハルサメ)』に過失があった訳ではなく、寧ろ自身の不注意や索敵のミスが原因であると、海風(ウミカゼ)は再開した際に悔恨と懺悔を繰り返す姉に必死に訴えかけたが、春雨(ハルサメ)はそれが優しい妹の気遣いであるとの認識だった。



 次回、時間断層工廠のこの世界における意外な機能の一端と、失われたモノの説明がなされます。
 

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第57話 Criminal act

 犯罪行為。


 いつもよりも短い上にある意味で半分ネタ回でハッチャケ度増々で行きます。
 



 

 

「«ちょい待ちな。駿河湾って、あの駿河湾かい?»」

 

 

 霧島(キリシマ)が信じられないといった顔をしながら、工場長にそう尋ねた。

 

 

 駿河湾とは、伊豆半島先端にある石廊崎(いろうざき)御前崎(おまえざき)を結ぶ線より北側の海域であり、その最深部は水深2500メートルに達し、日本で最も深い湾である。*1

 

 その海底に今居るというのだ。

 

 いくらなんでも水圧とかドエライ事になってるだろ。と霧島(キリシマ)は顔を引き攣らせる。

 

 しかしアンドロメダはこの事に首を傾げて疑問を呈する。

 

 時間断層工廠はその名の示す通り、その空間が時間断層という特異空間に覆われており、外界からほぼ隔離された空間なのだ。

 

 いくら周囲が深海とはいえ、それこそ地球で最も深い海溝であるマリアナ海溝であろうとも、水圧程度ならば何も問題無いハズだ。

 

 一応、波動防壁でも似たことは可能であるが、こちらは稼働限界時間と耐圧限界というリミットがあり、更にはエンジンへの負荷も無視出来ない為、オススメではないし、リスクが高過ぎて試したいとも思わないが。

 

 

 そんな教え子の反応に、霧島(キリシマ)はヤレヤレといった感じで首を横に振った。

 

 

「«おいおい若いの、もう忘れたのかい?さっきこのメガネっ娘は“空間を消滅させたエネルギーを利用した”って言ってただろ?

 

 てぇことは、その特異空間とやらはもう存在しないと見たほうがいいんじゃないかい?»」

 

 

「…あっ」

 

 

 思わずといった形で、間の抜けた声が出てしまうアンドロメダ。

 

 所謂“先入観”というやつだ。

 

 時間断層工廠=特異空間という思い込みがアンドロメダの頭の中にはあり、完全に聞き逃していた。

 

 アポロノームも気付いてなかったのだろう。こちらも呆けた顔を見せていた。

 

 

「«あぁ~、矢張り気付きましたかぁ~…»」

 

 

 工場長のその一言により、事実であることが確定となった。

 

 

「«仰られました通り~、時間が加速する要因でもありましたぁ、特異空間はこちらの世界へと跳ばされた際に完全に消滅しております~。

 

 ですので常時波動防壁を展開して水圧対策としております~»」

 

 

 とんでもない事をサラッと宣う工場長に、全員が唖然とする。

 

 先にアンドロメダが述べていた通り、波動防壁には限界がある。

 

 一部を除いたあらゆる攻撃を無力化する波動防壁であるが、最新鋭艦であったとしてもリミットという枷からは逃れることは出来無いし、波動防壁への負荷が掛かれば掛かるほど、そのリミットも短くなる。

 

 そもそも波動防壁はエネルギー消費が非常に激しい装備であり、供給元である波動エンジンへの過負荷を防止する目的で、許容限界というリミットを設けてリミッターとしているのだ。

 

 現状、高出力化や効率化による性能強化よって稼動可能時間の向上が計られてはいるが、安定性や安全性の両立という課題から、あまりに尖った強化は避けられており、また双発化などに代表されるエンジンの複数搭載は、現状の使用可能なエンジンサイズの問題から艦体サイズの大型化や肥大化を招く事になるのだが、そうなると造船ドックを始め各地の係留ドックなどの諸々のインフラ整備も改装ないし増築する必要性があり、最終的に必要となるコストが膨大な物となるために現実的ではないと判断され、小型高出力エンジンの開発が必須条件として棚上げとなった。

 

 しかしガミラスから齎された複数隻の艦船を重力アンカーで接舷固定し、接舷した艦船同士の波動エンジンを同調させることによって得られる相乗効果を利用したトランスワープ技術とその派生応用──中央艦が攻撃と防御に集中し、接舷艦が航行に集中しながら余剰を攻撃と中央艦へのエネルギー補助を行なう。つまりアンドロメダが土星圏から地球圏へと撤退した時と、最終決戦使用である両舷にドレッドノート級を接舷していた時の状態──により、双発化のメリットが薄まった事で研究そのものは継続しているものの、事実上下火となったと聞いている。

 

 閑話休題。

 

 

 時間断層工廠となると、かなり大規模な建造物であり、元々その稼働に必要なエネルギーを賄うために、予備も含めて当時の地球が必要とする全エネルギー総量の数倍は余裕で生み出せる程の、複数の波動エンジンが設置されているとは聞いたことがあるが、かと言って設備全体をカバー可能な波動防壁を展開し、尚且つ長期に渡って持続させるにはいくらなんでも無理がある。

 

 

「«放棄までに持ち出せなかった波動エンジンがいっぱいありましたから~»」

 

 

 彼女が言うには、放棄が決定しても実際に放棄されるまでにはそれなりのタイムラグがあり、それも工廠内ならば予定日時×10の時間後となるため、そのタイムラグを利用して工廠放棄後に起きるであろう物資不足を少しでも緩和すべく、ギリギリまで稼働が継続され各種の物資が作り続けられたのだが、その全てが運び切れたわけでは無く、かなりの量の物資が工廠内に取り残された。

 

 その中には軍用のみならず民生用も含めた各種様々な波動エンジンの完成品が数百基単位で、更に組み立て途中などの未完成品も含めると一千を遥かに越える数量が残されており、それを利用したのだという。

 

 また維持管理に必要となる資源に資材も、相当な備蓄がまだ残されており、どこから取り出したのやら、白い壺を指で(はじ)きながら「«今ある資源だけであと十年は戦えますよぉ»」と自信たっぷりに豪語したが、そんな豪語にアンドロメダは「一体どこと戦っているのですか?」と小首を傾げながら尋ねた。

 

 

「«あ、あの、え~とぉ…»」

 

 

 先ほどの自信に満ちた態度とは正反対な態度に、アンドロメダは更に首を傾げていると、UX-02(ベオ)の容赦の無い蹴りが工場長にめり込んだ。

 

 

「«なに変なネタ仕込んでンだよ!?

 

 ああ、アンドロメダサン、今のはコイツの戯れ言みたいなモンなんで…、っておいコラ!てめぇなにコソコソとしてやがる!?»」

 

 

 なにやら工場長が壺をこっそりと隠そうとしていたのをUX-02(ベオ)が見咎めた。

 

 

「«てかそれ よく見たらこの前見付けた難破船から引き揚げたホクソーとやらのツボじゃねぇか!?見当たらねぇなと思ったら、やっぱてめぇが盗んでたのか!?»」

 

 

「«盗んでたなんて人聞きの悪いこと言わないで下さい~!鑑賞用にこっそり持ち出してただけですよぉ!»」

 

 

「«それを盗んだっつーんだよ!食材買うための貴重な現金収入源なのに、なに横領してンだよ!誰がてめぇのメシ作ってやってると思ってンだ!?»」

 

 

「«OMCSがあるじゃないですかぁ~!»」

 

 

「«それがそのOMCSよりもアタイのメシが美味いと言ってせがンでくるヤツの言う事かーっ!?»」

 

 

 またもやケンカを始めた2人に、今度は霧島(キリシマ)が咳払いをして中断させた。

 

 

 ここで話について行けなかったアンドロメダへの説明として、先の工場長の言葉はとあるサブカルチャーを出本とした一種の比喩表現であり、ホクソーこと北宋の壺はUX-02(ベオ)が語ったように、大昔の難破船から引き揚げた骨董品の壺で、この手の骨董品は資金調達目的で売り出したりしているというが、最近何故か骨董品に嵌まり出した工場長がちょろまかしているというのだ。

 

 

「«おカネなら本物以上のモノが幾らでも作れますし~、骨董品は物作りとしての美的センスを磨くのに丁度いい教材になりますからぁ~。

 

 私だって物作りを嗜む以上は芸術家でもありたいですからねぇ~»」

 

 

 またとんでもない爆弾発言が飛び出すが、頭が痛くなるのでスルーしたが、その後の「«てめぇはどっちかつーと“あるていすと”だろが»」というUX-02(ベオ)の呆れたかのようなセリフに疑問が浮かぶが、これ以上の脱線は収集がつかなくなるからと、土方が無理矢理中断させた。

 

 

 一応、時間断層工廠の現在位置が分かり、物資もそれなりに備蓄していることも分かった。

 

 それに付け加えての補足説明として、海底資源の採掘も行なっており、その為に各地を転々とすべく移動可能な様に改装したと述べ、駿河湾にいるのもたまたまとのこと。

 

 そして資源採掘の傍らで難破船を見付けたらお宝探しとUX-02(ベオ)が率先してサルベージ業に勤しんでいるという。

 

 

「«いやぁ~、たまに結構年代物のアルコール飲料が見付かる時もありましてね。これが美味いし良い稼ぎになるンですわ»」

 

 

 悪びれる様子もなく話すUX-02(ベオ)に、呆れ返る一同。

 

 聞けば、先にも述べていた通り、サルベージした骨董品を売って稼いでいるらしいし、どうも所謂海底ワインの様なヴィンテージワインの類いも売り出している様である。

 

 

 完全に領海侵犯やら排他的経済水域を犯しまくっているし、多分売りに出す為に(おか)へと上陸しているのだろう。

 

 となると間違いなく不法入国だし、そうなると正規のルート以外、それこそ非合法組織相手に販売している可能性が高い。

 

 ただ売りに行く面子はどう考えても引き籠もりな工場長では無理だろうから、必然的にUX-02(ベオ)となるのだろうが、ガミラス特有の青い肌が目立ってしまうのはどうしているのだろうか?と疑問に思い尋ねてみると、ガミラスの諜報部門の潜入工作員が使用している肌の色を擬装可能な装置を工場長がコピーして渡しているとの答えが帰って来た。

 

 それと念の為、護身用の銃火器として、下手に目立たないためにUX-02(ベオ)が所持していたガミラス軍正式採用拳銃であるモルドラP-88の代わりに、火薬式拳銃であるワルサーP-99をコピーして渡しているとのこと。

 

 

 もうどうツッコミを入れるべきか考えるだけ面倒になって来た。

 

 

 バレなきゃ罪にならないと言わんばかりに、色々とヤラカシまくっている2人に真面目に対応するのが馬鹿馬鹿しいとすら思う様になっていたが、そんなことよりもアンドロメダとしては、時間断層工廠の時の流れが十倍となる特性が失われていた事があまりにも痛いという思いの方が強かった。

 

 それと同時に、あれだけ心底嫌っていたはずの時間断層工廠を、それが必要だから、他に方法が無いから、最も有効な手段だからと、渡りに船と言わんばかりに手の平返しで頼ろうとしていた身勝手な自身の浅ましさに、自己嫌悪から自嘲気味な気分となっていた。

 

 

 だが、だからといって、意固地になって良い訳では無い。

 

 嫌っているという考えは飽く迄も個人的な感情からくる私情に過ぎず、時には私情を押し殺す必要性をアンドロメダは理解していた。

 

 私情ばかり優先していては、いずれどこかのタイミングで自らの足を引っ張る要因となるだろう。

 

 

 しかし、その肝心要の時間断層工廠は、極論かもしれないが今や単なる工廠に過ぎ無い状態だった。

 

 

 最早運命の悪戯、皮肉の極みと笑うしか無かった。

 

 

───────

 

 

「«まぁそれでも~、この世界換算ですとぉ、数百年から下手すると千年くらいは先の未来科学と宇宙人の科学技術が融合した超高度科学文明による魔法の様な結晶とも言えなくもないですけどねぇ~»」

 

 

 ケラケラと笑いながらそう話す工場長。

 

 

 確かに彼女が言う通り、十倍速でなくとも工廠に使われている科学技術はどれをとってもこの世界の最先端技術の数々が、先ほど妥協の末、今後はこっそり持ち出さない、貯め込まない、引き揚げ後のクリーニング作業をちゃんと手伝うなどの幾つかの条件を守る代わりに、所持が許された、彼女が今柔らかい布で優しく磨いている北宋の壺と大差無いくらいの骨董品なのだ。

 

 そもそも純粋な地球の科学技術だけで見ても、おなじ時期の自分達がいた世界の地球と比べても、最低十年以上は遅れている感じがあるとアンドロメダは分析していた。

 

 その直接原因は間違いなくパンデミック騒動から続く人類の混乱に端を発する停滞もあるだろうが、それ以前に一種の現状維持バイアス的な流れが、既得権益層を中心に蔓延していた(フシ)があったように思える。

 

 

 まぁそれらの考察に関しては、今考えても仕方が無いから今はどうでもいいとして、工場長が言ったように超高度科学文明による魔法の結晶とは言い得て妙である。

 

 

 賢人曰く、「高度に発達した文明は魔法と変わらない」との言葉が示すように、このアドバンテージは非常に大きい。

 

 時間は掛かるかもしれないが、それでもこの世界の科学からしたら有り得ない速度と精度で結果が出せるのだから、それこそ魔法と言って差し支えないレベルの隔絶された技術的な開きがある。

 

 

 今はそれに賭けるしかない。

 

 

 ことのあらましを盗聴で理解していた工場長は、早速と言わんばかりにデーターの提供をアンドロメダに願い出た。

 

 

 そして、彼女が持つ“力”の片鱗を見せ付けられることとなった。

 

 

 工場長の周囲に投影式のディスプレイが展開されたかと思うと、デスラー親衛隊長官代行キルメナイムから提供された膨大なデーターを、瞬く間に読破してその全てを理解してしまったのだ。

 

 いや、正確には読破したというよりも、インストールしたというのが近いが、それでも一瞬にしてその内容を咀嚼してしまったというのだ。

 

 その際の彼女は、今までのどこか頼りなさそうなヘニャヘニャとした態度と風貌から打って変わった真剣な眼差しであり、近寄り難い雰囲気を醸し出していた。

 

 

 更には、である。

 

 

 アンドロメダ、アポロノーム2名の艤装の損傷具合に関する詳細なデーターの引き渡しも要求しただけでなく、ついでとばかりに春雨(ハルサメ)姉妹達や霧島(キリシマ)の艤装データーも要求してきたため、アンドロメダ姉妹はデーターが手元にあるため即座に送信出来たが、春雨(ハルサメ)姉妹のデーターは春雨(ハルサメ)達が管理しているため、霧島(キリシマ)が急いで春雨(ハルサメ)を呼び出しに出たりと俄に慌ただしくなった。

 

 そして一瞬データーを確認中に眉を顰めたかと思うと、アポロノームに対してとあるデーターを送って来た。

 

 その中には『修理兼改装プラン』と銘が打たれており、艤装の左半分が飛行甲板らしき平甲板で覆われた予想図も添付されていた。

 

 

 一連の流れに、文字通り蚊帳の外に追いやられた状態の駆逐棲姫達深海棲艦の姫達は、目を白黒させながら状況を見守ることしか出来なかった。

 

 

「…私達にとったらミスリルの弾丸、いえ、パンドラの箱になるのかもしれないわね」

 

 

 ふと呟かれた飛行場姫の言葉が、駆逐棲姫にはやけに印象強く聞こえた。

 

 

 ミスリルの弾丸となるか、パンドラの箱となるかは、まだ誰にも分からない。

 

 だが駆逐棲姫には、希望の光が瞬いた瞬間なのではないだろうか?との思いが強かった。

 

*1
相模湾(1500メートル)、富山湾(900メートル)とならんで日本三大深湾、或いは日本三深海湾のひとつに数えられる。





 偽造紙幣の発行疑惑に領海侵犯、排他的経済水域内での資源無断採掘、非合法のサルベージ、不法入国とそれに関連して多分公文書偽造、非正規ルートでの骨董品などの密売、不法入国した国によっては無許可のアルコール飲料の販売に武器の不法所持などなどとやりたい放題極悪人の時間断層工廠組。

 だけど先立つ物はいつどこの世界でも必要。


補足説明

 やろうと思えば本来のサイズのアンドロメダ級他2202で時間断層工廠が造っていた各種の工業製品が製造可能で、ガトランティス戦役の時みたいな超物量の大艦隊を編成することは出来なくとも、エンケラドゥス守備隊や外周艦隊規模の艦隊を数個艦隊揃える程度の備蓄があります。

 少ないかと思われるかもしれませんが、時間断層工廠そのものの稼働や維持管理にも資源がそれなりに必要となりますので、資源全部を製造に回すわけには行きません。

 また製造に時間が掛かります。それと備蓄は有限ですから、いつかはコスモナイト90を始めとした地球外資源を求めて宇宙進出する必要があります。(まあ本編でそこまで行くかは分かりませんが。)


 モルドラP-88

 ガミラス国防軍正式採用拳銃。ガミラス版のコスモガン。旧作のT型拳銃と違い、普通の拳銃の様な外観をしている。なお、リメイク版においてT型拳銃は機械化兵、所謂ガミロイド兵が所持しています。


 ワルサーP-99

 ワルサーP38で有名なドイツのワルサー社が玩具メーカーであるウマレックス社の傘下に入ってからリリースされた、ストライカー式のダブルアクション拳銃。

 口径、9×19mmパラベラム弾。

 本当はこの一つ前の製品であるモルドラP-88と同じ番号のP−88にしたかったのですが、こちらは製品としてコケてて96年には製造が中止されていたため、希少価値とその高価さから逆に目立つと思い、急遽P-99に変更…。


 修理兼改装プラン

 2205での『ヒュウガ』、若しくは旧ソ連海軍の1143型航空巡洋艦『キエフ』級航空母艦みたいなシルエットをご想像下さい。



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第58話 Worst possibility

 最悪の可能性


 お待たせ致しました。

 空母型アンドロメダへの捏造設定マシマシで逝きます!

 ついでにとある真実を明かします。


 

 

 一先ず、工場長による情報の読み込みが終了したが、それと同時に幾つかの質疑応答が行なわれた。

 

 

 まずは最初に計画案に関してのデーターを渡されたアポロノームが、工場長に対して質問を投げ掛けた。

 

 

「この計画案だと艤装内部に艦載機の格納庫を増設する事になるが、これじゃあ殆ど新造と変わらなくないか?

 

 ならばいっそのこと、オレも姉貴と同様に戦艦型にしたほうが早くて安上がりじゃないのか?」

 

 

 確かに、アポロノームが指摘した事は間違いではない。

 

 空母型アンドロメダタイプとは簡単に言えば、純正の戦艦型アンドロメダタイプの艦体を流用して外付け式の艦橋一体型航空艤装ユニットをポン付けしたような代物であり、その構成部品は航空艤装ユニット以外はほぼ純正のアンドロメダタイプであるため、互換性が非常に高いとされている。

 

 その為、理論上は後の改装で戦艦型、空母型へのコンバート改装が可能であるとされている。

 

 正直、アポロノームとしたらあの航空艤装ユニットはこの世界だと、あまり有効的であるとは判断していなかった。

 

 何故ならば最大の売りである艦載機の急速展開能力を発揮する必然性が、想定し得るこの世界の軍事的な脅威に対して必要か?と問われたら、些か疑問に思える。

 

 また機構の複雑さから故障リスクが高いことも懸念事項であり、事実として頻繁する大小様々な故障や事故に常に悩まされ続けていた。

 

 ならばいっそのこと航空艤装そのものを捨ててしまった方が合理的なのではないか?と考えていたのだ。

 

 

 この問いに工場長はうんうんと頷き返す。

 

 

「«元々あの航空艤装は別案の、ミサイルなどの誘導弾を大量使用するアーセナルシップ艤装のラフプランを急遽航空用に差し替えたシロモノでしたからねぇ~»」

 

 

 まさかのカミングアウトに「はぁっ?」となるアポロノーム。

 

 

 工場長曰く、元々ファーストファイブと呼ばれる最初の『アンドロメダ』級5隻は、全艦が戦艦型として就役する予定だったという。

 

 

 しかしそれに対して軍内部で意見が対立。

 

 

 従来通り正面艦隊決戦戦力を揃える事を重視する“砲戦艦隊派”。

 

 大筋ではその方針に同意しながらも、一定数の空母機動部隊を揃えることによって、艦隊戦術の幅を広げる事を主張する“機動艦隊派”。

 

 

 両者の対立はガミラス戦役以前の国連宇宙海軍時代にまで遡る事が出来るが、その当時は技術的課題からマトモな戦闘用航宙機の開発に難航しており、その事実から“砲戦艦隊派”が圧倒的だったために対立とは呼べないものだった。

 

 その後のガミラス戦役序盤でもその構図は変わらなかったが、第二次火星沖海戦にて輸送船改装の特設改装母艦による航空隊の活躍から潮目が変わり、そしてかの宇宙戦艦『ヤマト』による『ヤマト』航空隊の八面六臂の活躍が、“機動艦隊派”の勢力を一挙に拡大する起爆剤となり、両者は軍内部において拮抗した勢力となっていた。

 

 

 『ヤマト』航空隊の活躍を引き合いに出されると、流石の“砲戦艦隊派”も否定し切る事は出来なかった。

 

 

 そんな中、次世代地球艦隊の顔たらんとする最新鋭艦『アンドロメダ』級、その嚆矢たる最初の5隻全てが戦艦型で完成するという事に、“機動艦隊派”が猛反発。

 

 “砲戦艦隊派”の陰謀だ!と言って憚らず、一部の政治家まで巻き込んだすったもんだの挙げ句、2隻に艦載機搭載能力を強化する事を条件としてなんとか纏まったが、その影響で5隻の中で進捗状況が比較的遅かった『アポロノーム』と『アンタレス』に急遽、艦載機搭載能力強化要請が出ることとなった。

 

 

 とはいえ、そうは言ったもののこの2隻も既に艦体はほぼ完成しており、今から艦載機搭載能力を強化しろと言われても、かなり無茶な注文だった。

 

 しかも例のお披露目には必ず間に合わせろという無茶振りにも程がある要求に、工場長は当時困り果ててしまった。

 

 兎も角古今東西のありとあらゆる艦船建造に関する資料をひっくり返し、良いアイディアがないかと探しまくった所、大艦巨砲主義華やかな建艦競争真っ盛りの時代に目がとまった。

 

 正確には、際限のない建艦競争に歯止めをかけた軍縮条約締結後の頃合いであるが、ある主要海軍国で建造途中だった巡洋戦艦が条約締結の影響で建造中止となったのだが、その艦体を流用して空母へと改装する計画が持ち上がったというものだった。

 

 ただ既に艦体内部の主要構造は出来上がっており、艦内に艦載機格納庫を設ける事が出来なかった。

 

 その為、艦載機格納庫を艦内に収めるのではなく、現在の甲板上部に新たな艦載機格納庫と飛行甲板などの構造物を設けることで解決を図ったという。

 

 

 これしかない。

 

 

 時間制限が厳しく、下手に艦体をいじくると余計な時間がかかる以上は、この改装空母よろしく甲板上部に航空艤装を設けるしか手がなかった。

 

 だがこの改装空母の様に艦載機格納庫と飛行甲板を設ける、ある意味でガトランティスの『ナスカ』級打撃型航宙母艦の様にする事は出来なかった。

 

 何故ならば求められたのは『アンドロメダ』級の()()()()()()()()()、飽く迄も“()()()()()()()()()()”であり、敵艦と真っ向から撃ち合う戦艦としての機能をオミットしてしまうが如き設計変更を施す訳にはいかなかった。

 

 そこで更に参考にしたのが、戦艦の後部主砲塔を撤去して飛行甲板を設けた、所謂“航空戦艦”と後年に呼ばれるようになった(ふね)だった。

 

 だがこれだと艦載機搭載能力がそこまで向上するわけではない。

 

 悩みに悩んだ末、奇抜ではあるが複数の発射管からミサイルや魚雷を短時間で大量投射し、高速再装填によって間断無い連続飽和攻撃を、単艦で行うための発射システム兼弾薬庫ユニットとして考えていたラフプランを下地にした、後に空母型アンドロメダのあの特徴的な航空艤装ユニットに繋がる計画案を提出。

 

 この計画案ではミサイルや魚雷といった消耗弾薬の代わりに、必要ならば使い捨て可能な無人機を使用する事で、省スペース化と育成に時間と手間暇が掛かるパイロットなどの人員を、その維持などに費やされるコストや消耗も含めて可能な限り抑えることが最大利点となっていた。

 

 しかし、その肝心要の無人機の開発が、特に制御や管制に必要となるAIシステムの開発に時間がかかるため、(ふね)が完成しても暫くは載せる機体が存在しないという事が問題視された。

 

 また“砲戦艦隊派”だけでなく、推進派閥である“機動艦隊派”からもガミラス(同盟国)ですら無人機の運用を行なっていないにも関わらず、彼らよりも劣る地球の科学技術力で使い物になる機体が出来るのか?との疑問を呈する声があったのと、運用ノウハウだけでも早期に確立したいという“機動艦隊派”の要望もあり、無人機の運用は一時棚上げとなってしまった。

 

 その為艤装の肥大化に目を瞑り、取り敢えず有人機運用が可能なように改める様にと通達され、より本格的な“艦載機搭載能力強化艦”がカタチとなるまでの“()()()”として割り切り妥協する事が決定したという。

 

 

 要約すると、政治的な対立から始まり、様々な制約と妥協から生まれたのが、空母型アンドロメダだと言うのだ。

 

 

 無論、この事に工場長は不満たらたらだった。

 

 

 艦載機の多数同時射出による迅速な展開能力などと謳われているが、元々はミサイルや良くて無人機での使用を前提としたシステムであり、それを有人機用に作り変えるのにかなりの無茶をし、更には航空要員用のスペースも確保しなければならなかったために、機構と構造の複雑化を招いてしまっていた。

 

 そもそも技術的課題がある状態で無人機運用を提案したのは、先述の手間暇やコストだけでなく、ガミラス戦役によって地球の総人口が戦前の3割にまで激減したことにより、ただでさえ選考基準が厳しいパイロットが必要な人数をきっちり確保出来るのかが、かなり怪しかった事も鑑みてのことだったのだ。

 

 またコンバート改装可能というのも、後日空母などの本格的な艦載機運用艦が完成した際に、本来の計画通りの戦艦型にするための意味合いが含まれていたのだ。

 

 

 だからこそ、工場長がアポロノームの言葉に頻りに頷いたのは、この計画があったことを知っていたからだ。

 

 

 当のアポロノームからしたら言葉が出なかった。

 

 

 なんとなくではあったが、やっつけ仕事な感はしていたが、その背景に政治的折衝が絡んでいた事に呆れるしかなかった。

 

 ついでに言えば、航空関係に造詣が深い訳でもない安田の旦那が、何故自身の艦長として選ばれたのか、その背景もなんとなくだが分かった気がした。

 

 

 安田艦長は派閥関係についての話は聞いたことがなく、ある意味で中立の立場だったハズである。

 

 おそらくだが。“機動艦隊派”の連中が誰も艦長になりたがらなかったのだろう。

 

 完成した空母型『アンドロメダ』は、確かにカタログスペックだけを見たら、一見強力そうではあるものの、実際に運用してみるとかなり扱い辛い、クセの強さが否応なしに分からされるのだ。

 

 その事を初めから知っていた、そして飽く迄も“つなぎ”にすぎないというのならば、敢えて艦長に立候補しようとする物好きが出てこなかったのだろう。

 

 かといって“砲戦艦隊派”から出すと、またややこしい問題に成りかねないからと、安田の旦那にお鉢が回ってきた。

 

 多分、そういうことなのだろう。

 

 思えば『アンタレス』の艦長…、名前忘れたが、そういった派閥関係の噂はなかったと思う。多分…。

 

 

 …まぁ、それは置いとくとして、最終的には戦艦型へと改装する計画が初めからあったのならば、別にそれを実行しても良いのではないだろうか?

 

 確かにこの提示された改装案──左半分を飛行甲板にして、右半分に主砲塔を集中配備する。奇しくもそのシルエットは後に真田技師長が手掛けた戦闘空母DCV-01『ヒュウガ』と似通っていた。──は元の航空艤装に戻すよりも、まだ扱いやすそうではあるが、運用上のメリットや必要性があるとは思えない。

 

 

「«()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()か?»」

 

 

 ここで土方が確認するかのような口調で、そう漏らした。

 

 その言葉に工場長は「我が意を得たり」と言わんばかりに、ニンマリと笑顔を浮かべた。

 

 

「«芹沢のヤツがモットーとしていた言葉だが、まさかとは思うが…»」

 

 

 土方は以前よりある可能性について危惧を抱いていた。

 

 それは霧島(キリシマ)がこの世界で建造という形で顕現した頃から、頭の片隅で懸念していた事であり、また相次いで春雨(ハルサメ)姉妹が建造された事で、それは危惧へと変わった。

 

 

 そもそも艦娘の建造というのは、用意した各種の資材と引き換えに、艦種も含めてかなりランダムに顕現するというシステムであり、必ずしも狙った艦娘が顕現する訳では無い。

 

 なによりそのメカニズムに関しては、解析不能という事しかわかっておらず、全世界の科学者、物理学者達が揃って匙を投げた程である。

 

 

 だがそれ以前に、そのシステムによって建造され、顕現する艦娘は()()()()()()()()()()()()()()()()()であり、それ以降の艦船など()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

 

 しかし、ここ小松島鎮守府では、何故か西暦2170年代以降の、それも新旧含めた宇宙戦闘艦が合計11隻も建造されてしまった。

 

 用意した資材に特別な物が紛れ込んでいた訳でもなく、精々、異邦人である自分達が立ち会ったくらいのものである。

 

 

 まぁ原因についての究明は、大本のシステムがさっぱり分からない代物であるから、解明のしようがない。

 

 

 とはいえ“イレギュラー”な事態であることに変わりはない。

 

 

 土方が問題視したのは、先述の通りこのシステムはランダム要素が強い点にあり、何が出てくるかは完全に運任せで、姿を確認するまでそれが()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 一応、深海棲艦が顕現したという話は聞かないが、問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性がゼロであると言い切れる保証がなかったのだ。

 

 つまり、“イレギュラーとして現われる存在”──仮に“イレギュラー艦娘”とする──が、アンドロメダ姉妹や春雨(ハルサメ)姉妹、それに霧島(キリシマ)といった地球艦ではなく、例えばUX-02(ベオ)の様なガミラス艦が建造されて顕現する可能性があったのだが、その顕現したガミラス艦が地球に友好的であるとは限らなかった。

 

 もしかしたらガミラス戦役中の敵対していた時の艦艇のイレギュラー艦娘が顕現しないとも限らない。

 

 

 だがガミラス艦ならば、対話が成立する可能性があるだけ、まだマシな部類である。

 

 

 土方が懸念しているのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という可能性である。

 

 

 一度だけだが、直にやり取りした経験から、そして『ヤマト』における航海を経て導き出した結論は、「あまりにもリスクが高すぎる」というものであり、この世界で分かりやすく説明するならば、「深海棲艦よりも深海棲艦している」というものである。

 

 つまり、一般認識として喧伝されている“破壊と暴虐の限りを尽くす深海棲艦”よりもヤバい連中という意味である。

 

 …実際の深海棲艦は、その一般認識からしたら予想外な程に穏健寄りだったが。

 

 

 もし、万が一、ガトランティス艦のイレギュラー艦娘が顕現する事態となったら、かつての赴任先であった第十一番惑星での悲劇に似た惨劇が起きるリスクが高かった。

 

 故に、土方達は春雨(ハルサメ)姉妹全員が揃った時点で、これ以上の建造を行うことを凍結する決定を内々に決定し、真志妻大将にも説明を行った上で内諾を得ていた。

 

 

 だが、将来的にここ小松島で起きたイレギュラー事態が他の場所でも起きないという保証は無かった。

 

 …もしかしたら沖田が「仲間を送る」という約束を守って、何かしらの方法で建造に介入している可能性が無かったとは言い切れないが、それを証明する為に必要となる根拠が乏しく、飽く迄も個人的な推測の域を出ていない。*1

 

 

 なにより今回立て続けにアンドロメダ姉妹、別の地球から来たという護衛戦艦Arizona(アリゾナ)にガミラスの次元潜航艦UX-02ことベオがドロップ艦という形で顕現した事実が判明した以上、他にもドロップする可能性も出て来た。

 

 つまり、今後ガトランティス艦がドロップしないとも限らず、若しくは既にドロップして何処かに潜伏していないと保証出来る判断材料もなかった。

 

 

 であるならば、予想される最悪の事態に備えて戦力を整え、また航空機動戦力によって手数を増やし、戦術の柔軟性の拡充を図るというのも悪い考えではない。

 

 

 その土方の推論を聞いた工場長は、ますます笑みを深めた。

 

 

「«流石は“智将”との呼び名が高い土方さんですねぇ~。良い読みをしています~»」

 

 

 その口調と態度から、やや小馬鹿にしたかの様な慇懃無礼さが感じられるが、UX-02(ベオ)が「«これでもコイツからしたら最大限の賛辞のつもりなんでしてね»」とのフォローが工場長の頭へのゲンコツと共に、すかさず入った。

 

 

「«ま、まぁ、敢えて断言させていただきますと~、ドロップは兎も角としまして~、建造による顕現で~、ガトランティス(あのクソッタレのゴミクズ共)が出てくることは()()()()()()()()()()»」

 

 

 殴られた頭をおさえながらのその発言に、どういう事だとの視線が集中するが、UX-02(ベオ)は本当に話すのか?との心配する視線を投げ掛けていた。

 

 

「«詳しくは()()申し上げられませんが~、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですので~、常にモニタリングしておりましたが~、霧島(キリシマ)さん達が建造された時に~、いつも決まって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()»」

 

 

 予想外の衝撃的発言が飛び出す。

 

 

 特に自分達との戦闘の矢面に立って、何度も激しい砲火を浴びせ掛け合っていた間柄である深海棲艦達に走った衝撃は凄まじいものがあった。

 

 

「«…貴女に会いたくて、ただ会いたくて、貴女の笑顔が見たくて、その一心で作ってしまったモノなんです»」

 

 

 先程の情報の読み取り以上の真剣な、いや、半ば痛々しい程の痛切な表情をしながら、絞り出すかのように語る工場長に、周りは何も言えなくなった。

 

 

 独善的な考えもあった。だがずっと一人ぼっちという孤独な毎日に耐えられなくなった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 だが、いくら作り出そうとも、アンドロメダは顕現してくれなかった。

 

 

 それどころか地球艦の1隻すら顕現しなかった。

 

 

 その事に絶望し、自暴自棄になった挙げ句、無責任にも生み出した艦娘全てを、()()()()()()

 

 

 

 これが、艦娘がある日突然この世界に現われた真実である。

 

 

 

 最早何を言えば良いのか分からなくなり、全員が固まってしまった。

 

 

 事実上の暴走の結果、艦娘が生み出され、しかもそのルーツが深海棲艦であるというのだ。

 

 深海棲艦達が艦娘になんとなく抱いていた「人間に味方する、風変わりな同胞(はらから)っぽい連中」というのは、当たらずとも遠からずと言えた。

 

 

 更に話は続く。

 

 

 流石に勝手に作り出しておきながら身勝手にも捨てたことに罪悪感が湧き、後方支援を目的とした妖精さん達を作り出し、建造システムなどの支援施設、後の鎮守府に繋がる設備を作り出せる様に送り出したという。

 

 また建造システムというのも、鎮守府にある“ソレ”は一種の転送装置の様なシロモノであり、工廠内に設けた艦娘用製造区画で研究開発、そして生み出された艦娘を送り出し、その対価として建造資材をこちらへと転送しているというのだ。

 

 つまり、全世界の艦娘はここ時間断層工廠で生み出されているのである。

 

 

 しかしである。

 

 

 ある日突然、建造システムが解析不能な高エネルギー反応によるアクセスを受けて勝手に動き出し、そして転送される事件が発生。

 

 

 その転送先が、小松島鎮守府であり、そして顕現したのが霧島(キリシマ)だった。

 

 

 それを含めて合計11回。

 

 

 タイミングもピッタリ符合するため偶然などでは説明がつかず、何者かによる何かしらの意図した介入があったとしか考えられない。

 

 そしてここからが重要なのだが、このエネルギーは解析不能ではあるものの、近似したモノのデーターを工場長は持っていた。

 

 それはかつてテレザートのテレサから地球へと向けて送られて来たコスモウェーブの波形と非常に酷似していたのだ。

 

 残念ながらおそらくこの世界、この星においてトップクラスの科学技術力を持つ時間断層工廠をもってしても、それ以上のことは分からなかったが、土方が沖田の名を出したことで点と点が線で繋がった。

 

 

 結論として、霧島(キリシマ)達イレギュラー艦娘の建造による顕現には、沖田十三の意思が介在していることはまず間違いなし。

 

 であるならば、建造によるイレギュラー艦娘の顕現には沖田十三によって選定という篩にかけられていると見るべきであり、その選定基準は今までの事例から鑑みるに、アンドロメダと縁のある者に限られている。

 

 沖田十三という最強のフィルターによって、まかり間違っても工場長が言うところのクソッタレのゴミクズ共、ガトランティス艦のイレギュラー艦娘が建造され、顕現してしまうことは絶対無いというのが、工場長の出した結論である。

 

 

 だがしかし、ドロップだとその限りではない。

 

 

 いや、厳密にはドロップ艦娘は工場長が艦娘の出処を曖昧にし、自身へと辿り着かれるという万が一の可能性を防ぐ目的で、可能な限り深海棲艦と鉢合わせする危険性が少なく、かつ人類の支配領域である陸地から程よく離れた海域に放出していた者達であり、ドロップ艦娘も実質は建造組と同様にそのルーツは時間断層工廠へと行き着くのである。

 

 

 だが、アンドロメダ姉妹とArizona(アリゾナ)、自身の手元にいるUX-02(ベオ)、そしてその他に()()()()は正真正銘、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 初めてUX-02(ベオ)と邂逅した時、工場長は半分狂喜し、半分恐怖した。

 

 

 もしかしたら、いずれアンドロメダがドロップとして、この世界へと現れてくれるかもしれないという期待。

 

 

 元いた地球と敵対していた存在が現れるのではないかという不安。

 

 

 後にArizona(アリゾナ)の存在を掴んだ時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?という可能性に恐怖した。

 

 

 自分は飽く迄も兵器生産者(作り手)にすぎず、戦玄人(使用者)ではない。

 

 戦う術など持ち合わせていない。

 

 だが戦玄人(使用者)が万全に戦えるように後ろから支える程度のことは出来る。いや、それこそが自身の戦い方であり、戦場である。

 

 そしてありとあらゆる需要(ニーズ)に応えるべく、供給(サービス)もありとあらゆるものを可能な限り取り揃える。

 

 だがありとあらゆるものを取り揃えるからと言っても、頓珍漢で的外れなものを提供するなどという事をしでかしては、単なる資源とリソース、そして時間の無駄でしかない。

 

 考え得るあらゆる状況を想定し、それに対して柔軟な対応が可能となるような装備を整える様に模索する。

 

 そこから導き出した答えの一つが、航空戦力の充実であり、土方が語った通りの内容を工場長は考えていたのだった。

 

 

 自分は戦うことが出来無いが、代わりに戦えるヒトが過不足無く十全の力を発揮出来るようにその足場を整える。

 

 

 それが恐怖を打ち払う自分なりの方法だった。

 

 

 

 

 

 その模索の中で、工場長が目を付け考えていた事があった。

 

 

 それが今現在自身が確認しているドロップ艦娘最後の一人なのだが、しかしその一人というのが自身やアンドロメダ達とは別の意味で、下手をすると劇薬の類いと成り得る存在でもあった。

 

 

 だが同時に、上手くすればいくつかの問題が解決する糸口と成り得る可能性もあった。

 

 

 その考えを開陳するならば、今しかないと判断した工場長は、意を決して口を開いた。

 

 

 

 

 

「«あの~、実はこちらに引き込みたいヒトがいるんですよ~»」

 

 

 

 その言葉に、全員の注目が集まる。

 

 

「«吉と出るか凶と出るかは未知数ですが~、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思うんですよ~»」

 

 

 この提言に土方は苦い顔となった。

 

 

 今現在、彼は日本海軍艦娘部隊総司令真志妻亜麻美大将という、クセは強いが()()()()()()()強力な後ろ盾がいるが、その当の日本は世界という視点で見ると、何処まで行こうとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 事実、その影響力が地に落ちた洛陽の国、かつて無二の超大国だったアメリカに対して(こうべ)を垂れ、西側諸国の顔色を窺う姿勢は相変わらずであり、同時に復権を果たしたユーラシアの大国ロシア、現新ロシア連邦(NRF)の動向にも怯える有り様である。

 

 かつてこの国を支え、強みでもあった技術力や経済力など、雲散霧消して久しい。

 

 いや、そもそも日本の経済発展など砂上の楼閣だったのだ。ただ春の夜の夢の如しだったのだと、当の日本国民ですら嘆くまでに、この国は衰退していた。

 

 艦娘戦力は世界有数でも、総合的に見た軍事力、なによりもそれを支える支援体制を含めて見ると、壊滅的な状態である。

 

 

 そんな国の軍隊の後ろ盾など、実際の所あってないようなものだ。

 

 

 では代わりとなる後ろ盾とは?となると、思い浮かぶのは一つしかない。

 

 

 だが、引き込みたいヒトとは誰なのか?そもそもそこまでの繋ぎはどうするつもりなのか?

 

 

「«丁度、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()»」

 

 

 そう言って空中投影式ディスプレイに視線を落とし、その後拡大した映像を映し出した。

 

 

 それは何処かの執務室だったのだが、既視感のある内装であり、()()()()()()()()、というか───

 

 

「«あん?真志妻の執務室じゃないか?»」

 

 

 そう、そこは広島の呉鎮守府、そこのトップである真志妻大将の執務室であり、映っている女性も真志妻大将そのヒトである。

 

 おそらく、映像の角度などから見て、執務室に備え付けられているデスクトップPC、多分秘書艦か副艦用机に置かれている物のカメラをハッキングしたのだろう。

 

 

 それは兎も角、今更ながら何故真志妻なのか?との疑問が浮かぶが、その真志妻が執務机ではなく、応接机で誰かと会話している様だった。

 

 よく見るとその会話はタブレットを介したリモートによるものなのだが、そのタブレットに土方と霧島(キリシマ)は見覚えがあった。

 

 

 あれは…、()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()…?

 

 

 そう思っていると、カメラが切り替わり、タブレットに映る人物の顔が判別できる様になったのだが…。

 

 

 

「«お、オイオイオイ…!なんだってコイツまでいるんだい…!?»」

 

 

 土方は誰だか分からなかったが、その顔を見た霧島(キリシマ)が車椅子から立ち上がりながら、激しく狼狽した。

 

 

 あまりにも激しく動揺を露わにする霧島(キリシマ)に、知っているのか?と土方が目線で問い掛ける。

 

 

「«ああ、見間違うハズがない!コイツは…、いや、このヒトは、国連宇宙海軍ユーラシア管区、ロシア宇宙艦隊ウラジオストク分艦隊──、連中の言葉に合わせるならば、ロシア宇宙軍事艦隊東部軍管区艦隊、諸兵科連合小艦隊ウラジオストク旅団所属、村雨型宇宙巡洋艦のロシア仕様!アドミラル・マカロフ級のスラヴァだ!»」

 

 

 未だに信じられないといった表情で語る霧島(キリシマ)だが、それを聞いた土方達にも衝撃が伝播する。

 

 特に、アンドロメダは最も驚愕した顔となっていた。何故ならば───。

 

 

「«私の…、()()()()…!»」

 

 

 かつて第一次冥王星沖海戦、通称『メ号作戦』の撤退時に、第二次火星沖海戦で受けた恩義を返すべく、我が身を盾に追跡してきたガミラス艦と刺し違えた残存ロシア艦隊を構成していた2隻の内の1隻であり、旗艦でもあった(ふね)

 

 

 ()()()()()()()()()()()、地球を救う為に尽力した英霊としてその名を歴史に刻まれる()()()()()(ふね)

 

 

 それがこの世界に来ていた。

 

 

 そんな彼女に対して画面に映る真志妻は緊張した面持ちを隠さず、されど真剣な表情をしながらある質問を投げ掛けた。

 

 

「«()()()()()()()()()()()、その提案に対する貴女の要求は何でしょうか?»」

 

 

 

 ミロスラヴァ国防相。

 

 

 この単語を耳にした土方は目を見開いた。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)において最も謎多き人物とされているミロスラヴァ・イヴァノヴァ国防相。

 

 

 それがもしかしたら自分達と同郷かもしれないなどと、誰が想像出来ようか?

 

 

 いや、だがまだ確証があるわけではない。

 

 

 もしかしたら他人の空似という可能性も否定でき無いのではないか?とも考えたが、その後のミロスラヴァ本人の言葉がその可能性を打ち砕いた。

 

 

 

「«大恩あるコンゴウ型宇宙戦艦のキリシマ様を始め、()()()()()()()()()()ヒジカタ宙将閣下、キリシマ様の機関長トクガワ三等宙佐、空間騎兵第7連隊サイトー()()()の三名他、貴軍に在籍する地球軍艦娘十名全員の身柄を、我が新ロシア連邦(NRF)へと引き渡して下さい»」

 

 

 どうやらこちらの世界へと来て、日本軍に在籍する地球軍出身者を全員把握している様であるが、それよりも重要なのは、『スラヴァ』が戦没したタイミングでの各人の階級及び役職を正確に言い当てた事で、確信へと変わった。

 

 

 

「«この条件さえ飲んでいただければ、今年のВосток(ボストーク)に参加予定でした我が太平洋艦隊水上船艇部隊から部隊を抽出し、貴軍へとお貸し致しましょう。

 

 さらなる戦力が必要とあらば、大統領と掛け合って遠距離航空コマンドの爆撃隊を動員することもお約束致します»」

 

 

 

 土方は机の上にある固定電話の受話器を掴むと、呉鎮守府の真志妻へと繋がる直通回線のスイッチを押した。

 

 

 

 

 

*1
霧島(キリシマ)を始めとした複数人がその可能性を匂わせる証言を行っているが、それだけでは裏付けが不充分であると判断した。





「今にも潰れそうなЯпония(日本)なんかに恩人達を任せてはいられない!!職権濫用でも何でもしちゃる!!こんな時に使わずしてなんのためのденьги()власть(権力)かーッ!?」───などと申しております。



 大変お待たせ致しました。

 何をトチ狂ったのか、数話先で使用する資料を漁っていると、その話を先に書いてたりしてました…。それも2つ…。

 個人的に空母型は原作でパッとしなかった事が一番痛い点であるとの所感です。

 またいっそのこと、本編で語りました通りミサイル艦、それもマクロスのマイクロミサイルみたいに弾幕型の飽和ミサイル攻撃艦だったら、と思う次第でした。


 それにしても隣りにいる深海棲艦の姫様達が殆ど空気状態…。私の未熟さが際立ってきてるなぁ…。と思う今日このごろ…。


解説

 ボストーク(Восток)

 ロシア軍の東部軍管区で行なわれる陸海空軍の部隊や他国の軍も参加する四年に一度の戦略指揮幕僚演習で、ボストーク(Восток)は東を意味する。本来ならばボストークの後ろに2018や2022などの実施された年度の数字が入る。



 遠距離航空コマンド(Командование Дальней Авиации)

 ロシア連邦航空宇宙軍中央司令部隷下のコマンドで、所謂戦略爆撃機の運用部隊。

 2008年のロシア軍の大規模な軍事改革により、2009年に第37航空軍から改編され設立された。

Wikipediaより抜粋



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第59話 Старые сказки

 昔話

 遅くなりました。

 国防相自身の半生(戦没するまでの)。それと自身の視点から見ていた“あの”戦争について。+あれこれ。

 


 

 

「«大恩あるコンゴウ型宇宙戦艦のキリシマ様を始め、()()()()()()()()()()ヒジカタ宙将閣下、キリシマ様の機関長トクガワ三等宙佐、空間騎兵第7連隊サイトー()()()の三名他、貴軍に在籍する地球軍艦娘十名全員の身柄を、我が新ロシア連邦(NRF)へと引き渡して下さい»」

 

 

 あまりにも無茶苦茶な要求に、真志妻の思考は一瞬停止した。

 

 

「«この条件さえ飲んでいただければ、今年のВосток(ボストーク)に参加予定でした我が太平洋艦隊水上船艇部隊から部隊を抽出し、貴軍へとお貸し致しましょう»」

 

 

 だがその見返りとして提示されたものは、正直に言って今の日本からしたら喉から手が出る程の破格なものだった。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 確かに自前の水上艦隊は実質ほぼ壊滅状態であり、稼働可能な(ふね)も騙し騙しでなんとかといった有り様である。

 

 フェリーなどの民間船を買い上げて設えた近海防衛用の特設艦娘母艦も、マトモな母艦を用意するだけの余力が残っていない海軍の、そしてこの情けない国の実情からくる、苦肉の策による所が大きいのだ。

 

 

 しかし真志妻個人からしたら、彼らは例え新ロシア連邦(NRF)海軍最強にして、最大戦力である北方艦隊の主力を引き換えの条件として提示されたとしても、首を縦に振る理由とはならなかった。

 

 

 

 だが続けて出て来た見返りに絶句することとなった。

 

 

 

「«さらなる戦力が必要とあらば、大統領と掛け合ってКомандование Дальней Авиации(遠距離航空コマンド)の爆撃隊を動員することもお約束致します»」

 

 

「待ってください!まさかとは思いますが…!!」

 

 

 堪らずといった感じで椅子から立ち上がり、声が上ずりながら待ったを掛けた。

 

 

 Командование Дальней Авиации(遠距離航空コマンド)

 

 

 それは新ロシア連邦(NRF)航空宇宙軍中央司令部隷下の主要なコマンドの内の1つで、()()()()()を運用する部隊である。

 

 空対地ミサイルや誘導爆弾といった各種精密誘導兵器による攻撃を主任務としているのだが、同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()もその任務に含まれているのだ。

 

 

 真志妻は言外に「核兵器を投入するつもりなのか?」との疑念を呈したのだ。

 

 もしそんなことをしたら、間違いなく破滅だ。

 

 

 この戦争劈頭のアメリカ(人類)によるオセアニアへの核攻撃によって、周辺海域である南太平洋へと集結し、()()()攻撃目標とされていた深海棲艦の生き残りと、この攻撃から免れた深海棲艦が、一斉に北上を開始する一大攻勢に繋がった。

 

 真志妻自身は大攻勢当時は軍に所属しておらず、直接経験した訳では無いが、*1当時の記録や経験者の証言から、「まるで津波の様だった」との知識を持っていた。

 

 再び核攻撃を実施したことにより、再度の大攻勢を呼び込む呼び水となったら、その矢面に立たされるのは最前線たる日本になる。

 

 今の日本に津波の如く押し寄せる深海棲艦の大軍勢を押し留める事は出来ても、それは一時的なものであり、ましてや押し返せる力は最早残っていないのだ。

 

 それは備蓄物資の蓄積量というのもあるが、最終的には物量差による旧ソ連軍に酷似した波状攻撃──かつてミハエル・トハチェフスキー将軍が提唱し、採用された『縦深戦術』やワルシャワ条約機構による『梯団攻撃』に似た『無停止攻撃』及び作戦機動群(OMG)*2の様な高い機動力は無いが、高速艦部隊や潜水艦隊による後方への浸透──によって轢き潰されるのは確実である。

 

 

 なによりも厄介なのは、アンドロメダの存在だ。

 

 

 深海棲艦と友好関係にあり、心を寄せてしまっている、圧倒的という言葉では収まりきらない“武力”の化身とすら言える、異世界の地球が作り出した“力”の象徴。

 

 

 この世界の軍事力を結集したとしても、敵うとは到底思えない存在。

 

 

 彼女が深海棲艦の側に立って本格参戦しないという保証が全く無かった。

 

 

 何故ならば彼女の恩師であるという霧島(キリシマ)から先日受けた忠告。

 

 

「大切なものを傷付けられることを極端に嫌う」

 

 

 深海棲艦と友好的であるならば、その“大切なもの”の範疇に深海棲艦が入っている可能性が非常に高い。

 

 彼女が深海棲艦による大攻勢の嚆矢となって、それこそ本当の意味での作戦機動群(OMG)の役割を担われたら、為す術が無いまま蹂躙されてしまうだろう。

 

 いやそもそも彼女1人が暴れ回るだけでも充分にお釣りが来る。

 

 

 真志妻の頬を嫌な汗が流れ落ちた。

 

 

 

 別にこの国が惨めに滅びようがどうなろうが知ったことではないが、()()()()()

 

 

 

 そんな胸中を知ってか知らずか、ミロスラヴァは口元に笑みを湛えた。

 

 

「«私達はあの“()鹿()()()”の末に盛大に転けた野蛮で愚劣なянки(ヤンキー)共とは違いますよ»」

 

 

 どこか、特に「アメリカ人(ヤンキー)」と口にした際は際立って嘲るかの様な物言いだが、その前の“()鹿()()()”と言った言葉から、真志妻はそれが“あの”一連の核攻撃事件の真相を彼女が、そして新ロシア連邦(NRF)が把握しているのだと判断した。

 

 そして暗に核兵器を使用する意思が無い事を示している。

 

 その事で少しホッとした気分になったが、それと同時に、ミロスラヴァ国防相には少し焦り過ぎているきらいがあるように思えてならないと考えていると、自身の執務机に置かれている固定電話が着信を告げる電子音を発した。

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)国防相、ミロスラヴァ・イヴァノヴァ氏からの要請で非公式リモート会談が始まった。

 

 そして開始早々、予想外すぎる素性の暴露から始まった訳ではあるが──、

 

 

「«主力艦でしたБородино́(ボロジノ)戦列艦(戦艦)の全艦が北部軍管区艦隊のセヴェロモルスクに集中配備されてましてね。他の方面艦隊は巡洋艦が主力を努めていたのですが、私はБаян(バヤーン)姉さんと共にウラジオストク旅団の主力を務めていましたよ»」

 

 

 ──その後はミロスラヴァ国防相改め、ユーラシア管区ロシア宇宙軍事艦隊に所属していたと言う、宇宙巡洋艦の艦娘Слава(スラヴァ)による自身の昔話が続いていた。

 

 

 在りし日々を懐かしく感じ、遠くの景色を見遣るかの様にして思い出を語るその姿は、若く見える容姿とは違ってお年寄りな感じがしなくもない。

 

 しかしそれは霧野特務大佐こと霧島(キリシマ)とそっくりであり、その姿と精神年齢のギャップが生じやすい艦娘ならではの特徴でもあるため、彼女が人間とは違う存在であるとの裏付けにもなった。

 

 

 何よりも彼女の口から語られるガミラス戦役や、今まで土方達からそこまで詳しい内容を聞いていなかった第二次内惑星戦争の経験談。

 

 

 初陣となった火星圏侵攻作戦で、国連宇宙海軍連合宇宙艦隊火星派遣艦隊を構成する一隊のロシア艦隊旗艦だった戦艦『Варяг(ヴァリャーグ)』が、目の前で火星軍からの長距離砲撃を受けて大破し、その救援と後に放棄が決定されて乗員の救助に奔走したことで戦闘そのものには参加出来なかったエピソードなどなど。

 

 

 戦間期は逃亡した火星軍残党の掃討や元残党の宇宙海賊を警戒してのパトロール任務に終始しており、これといったエピソードは無かった。

 

 精々、2()1()9()1()()3()()()()にオーバーホールの為にドック入りしたくらいである。

 

 

 そして、翌月、運命のガミラス戦役開戦。

 

 

 ドック入りしていたこともあり、地獄の様な緒戦で次々と自国の友軍艦が失われていく中、なんとか生き延びつつも対ガミラス戦において初の実戦となった第一次火星沖海戦で手酷い損傷を受けての敗走中に、ずっと一緒だった姉妹艦『バヤーン』が復旧作業に失敗して航行不能となり放棄され、自身もその損傷具合からもう駄目だと思った所を、日本艦隊残余の部隊に助けられた。

 

 後にその部隊が土方率いる第一護衛艦群の残存部隊で、直前までガミラスの掃討部隊を足止めし、少なくない被害を受けていたのにも関わらず救援の手を差し伸べてくれたことを知った。

 

 

 時は過ぎ、2198年、第二次火星沖海戦。

 

 

 ショックカノンを装備していなかった事もあって陽動部隊として参加し、その後の乱戦では武装が使用不能となったが味方艦艇を屠り続ける『デストリア』級重巡洋艦(有力な敵大型艦)を何としても撃破すべく、自身を砲弾として体当たりで道連れにしようと突貫を開始した直後に、横合いからのショックカノンの一撃が敵大型艦を貫いた事でこの戦いからも生還を果たした。

 

 そのショックカノンを放った(ふね)というのが、沖田十三宙将の座乗する霧島(キリシマ)だった。

 

 しかし生還は果たしたものの、被った損害は大きく、特に主砲である高圧増幅光線砲は全て損傷してしまっていた。

 

 だがこのまま修理するよりも寧ろ、「どうせ効果が碌に期待出来無い今の主砲をキッパリ諦め、開発中だった新型誘導弾発射機へと換装してしまおう」という方向へと話が進み、新開発された誘導弾を運用するミサイル巡洋艦へと生まれ変わる事となった。

 

 

 そもそも“目には目を歯には歯を”と言わんばかりにショックカノンの開発配備に拘り続け、他の兵器開発を半ばおざなりにしている国連宇宙軍に対してロシアの兵器開発担当者達は大いに不満だった。

 

 「兵器というのは信頼性と確実性が第一義である」というのが彼らのモットーであり、如何に性能が高くても、必要な時に予定通りの能力を発揮出来無い、使い勝手の悪い兵器に関しては敬遠する気風があった。

 

 万が一の保険も兼ねて、従来兵器の発展強化も同時並行すべきではないのか?というのが彼らの持論だった。

 

 その考えのもとに独自に開発が進められていたのがこの新型誘導弾だった。

 

 

 そして他の残存するロシア艦に対しても同様に新型誘導弾を使用するための改装が執り行われる事となるのだが、この頃のユーラシア管区は既にそれを完遂するだけの余力が残されていなかった。

 

 

 ユーラシア管区は数多の少数民族を内包する地域であり、管区の中核を為すロシア連邦もその領内に多数の少数民族を抱えている国家だった。

 

 しかしそれらを統制するために必要な国力と軍事力が、この戦役にて大きく疲弊したことによって各地で綻びが見え始め、ロシア連邦領内だけだなく管区内全域へと急速に混乱が拡大。

 

 それに追い討ちを掛けるかのように、遊星爆弾による戦略爆撃が管区内の物流や通信網を寸断。

 

 また管区内各地域を纏め上げていた軍管区司令部自体が消滅する事態も発生し、混乱は留まるところを知らなかった。

 

 

 そしてそれが最後の出撃に繋がる切っ掛けの一つともなった。

 

 

 指揮系統がズタズタにされたことにより、独自に動く事となったのだという。

 

 

 東部軍管区司令部のあるハバロフスクとの通信が途絶し、その直前に同方面への遊星爆弾が落下した事が情報収集の結果判明した。

 

 これにより東部軍管区全域で指揮系統の崩壊がより顕著化し、情報の錯綜も相まって軍管区内での連携も寸断されてしまった。

 

 ウラジオストク基地も近隣のフォーキナ基地とやり取りを繰り返し、それ以外の基地とも細々とではあるものの連絡を取り合っていたが、中央であるモスクワとは連絡を取り合うことすら難しくなっていた。

 

 

 そんな折に、地球艦隊が冥王星へと出撃する情報が舞い込んで来た。

 

 

 その編成内容から残存艦艇を洗い浚い結集した後先を考え無い全力出撃であり、これが事実上の地球艦隊最後の出撃である事が察せられた。

 

 正直、国連宇宙軍は自暴自棄に陥ってこんなカミカゼ染みた目茶苦茶な特攻作戦しか思い浮かばなくなったのかと憤った。

 

 だが、このまま艦隊を温存したからと言って状況が改善される訳でも無く、ならばまだ纏まった稼働可能な機動戦力があるのならば、敵の策源地である冥王星を叩いてしまおうという考えも理解できないわけではなかった。

 

 …それが仮に成功したとしても、状況が改善される訳では無く、どちらをとっても八方塞がりなのだが。

 

 

 この事にウラジオストクの艦隊司令部は紛糾した。

 

 

 動くべきか、否か。

 

 

 稼働戦力が『スラヴァ』(巡洋艦)1隻と艦隊水雷艇(駆逐艦)3隻のたった4隻であり、また資材不足から整備が不充分なため、冥王星まで到達して帰って来られるだけの保証が出来ないとの技術部の悲痛な報告と、更にはモスクワからは何も指示が来ておらず、勝手に艦隊を動かす事に消極的な意見が見られた。

 

 それにこの出撃予定艦隊には自分達ユーラシア管区の部隊が含まれておらず、それは国連がユーラシア管区が既に壊滅していると判断したのではないか?との悲観的な意見も出て来た。

 

 それに対して艦隊を預かる実働部隊は、このまま座して死を待つよりかは打って出るべきだとし、また言外に口減らしになる事を暗に示した。

 

 これには反対する者も強くは出られなかった。

 

 事実備蓄物資に余裕はあまり無く、また食糧はなんとか合成食品を製造出来ているものの、需要に対して供給量が不足していた。

 

 特に深刻だったのが、ウォッカの配給が不安定になりつつあったことである。

 

 ただでさえ配給量を目減りさせている現状で、配給が滞るとサボタージュや暴動が激増する恐れが高かった。

 

 

 最終的に実働部隊が勝手に動いたという事にして、駆逐艦の1隻を共食い整備用に使用する事が決定。

 

 また部隊の暴発であるとするために、国連宇宙軍への連絡もギリギリまで遅らせる事が決定した。

 

 ウラジオストク基地の巡洋艦『スラヴァ』を旗艦とし、同基地の駆逐艦『Метель(メチェーリ)』、フォーキナ基地の駆逐艦『Проворный(プロヴォルヌイ)』の3隻のためにペトロパブロフスク・カムチャツキー基地の駆逐艦『Способный(スポソーブヌイ)』がパーツ取りの為に解体された。

 

 この『スポソーブヌイ』は他の駆逐艦2隻と違い、例の新型誘導弾を使用するための改装工事が未了だったことが、選ばれた理由である。

 

 しかし作業の進捗は思う様には進まず、出撃予定日よりも遅れることとなったのだが、その事が後に思わぬ結果を齎すこととなった。

 

 

 予定通りに日本艦隊が出撃するのを確認したのだが、他の管区に所属する艦隊がその予定に反して出撃するのが確認出来なかったことで、部隊の中で大きな動揺が走った。

 

 

 そして理解した。

 

 

 最早国連宇宙軍、いや国連そのものが──前からであったが…、──既に統制力を失って──名実ともに──完全に形骸化しており、各管区が最早隠すことなく公然と独自の考えで動いているのだと。

 

 ただ、その事を責める気にはならなかった。

 

 

 何故ならば自分達も独自に動こうとしているのだから。

 

 

 そして実働部隊は出撃した日本艦隊を見捨てる事が出来ないとして、本当に暴発してしまった。

 

 

 作業を突貫工事で無理矢理終わらせると、事前の取り決めにあった国連宇宙軍への通達を、部隊の暴発により突発的な事態であることを強調する意図も兼ねて敢えて行わず、押っ取り刀で出撃したのである。

 

 しかしその無理が祟り、『プロヴォルヌイ』が火星軌道手前で機関故障により已む無く放棄。

 

 乗員移乗後に機関の暴走により炉心溶融が発生して爆散。

 

 2隻に減ったものの進軍を続け、遂に運命の時を迎えた。

 

 

 冥王星での戦いには間に合わなかったものの、撤退中の日本艦隊と鉢合わせすることとなった。

 

 出撃時には30隻近い艦艇が確認された艦隊が、旗艦『霧島(キリシマ)』のみにまで討ち減らされ、その『霧島(キリシマ)』自身も酷い損傷に見舞われている有り様を見て、絶句した。

 

 

「名将オキタを以てしても、これ程とは…」

 

 

 予想はしていたものの、冥王星の戦いはかなり激しいものであったことが見て取れた。

 

 日本艦隊との合流が間に合ったとしても、結果は変わらなかっただろうが、それでも悔恨の念が滲み出てくる。

 

 

 その直後に、『霧島(キリシマ)』を追撃してきたであろうガミラス艦2隻を探知。

 

 

 沖田十三を死なせてはならない。

 

 

 こんな自暴自棄で目茶苦茶な作戦を強要され、各国に事実上裏切られたと言っても過言ではない扱いを受けたにも関わらず、粛々と作戦を実行した沖田を死なせる訳にはいかない。

 

 

 そんな決意を胸に、迫りくるガミラス艦に対して『スラヴァ』と『メチェーリ』の2艦は勇躍挑みかかった。

 

 『霧島(キリシマ)』からの呼び掛けに聞こえないふりをしながら。

 

 

 こちらの存在を認識し、その狙いを当初の『霧島(キリシマ)』から切り替え、急速に距離を縮めるガミラス艦に対して、ロシアの意地とプライドをかけた、そして執念が込められて作られた新型誘導弾による最初で最後の飽和攻撃が開始された。

 

 

 

───────

 

 

 

「«私達はまだ戦える。戦える術がある!

 

 

 今まで小揺るぎもしなかったガミラスの艦に!明確な!目に見えた打撃を与えることが出来た!!沈めることが出来た!!

 

 偉大なる我が母なる祖国の技術力が!несгибаемая воля(折れない意志)が!неукротимый(不撓不屈)の精神が結晶となってガミラスの喉笛を斬り裂いたのだ!!»」

 

 

 その目は血走り、熱を帯びた顔で席を立って身振り手振りで熱く語るミロスラヴァ(スラヴァ)

 

 

「«そう!ミサイル!ミサイルは全てを解決する!!ミサイルこそ我がロシアの“力”の象徴なの!!»」

 

 

 狂気すら感じるあまりのミサイル推しの圧に、引き気味となる真志妻。

 

 思えば彼女は矢鱈とミサイル開発にご執心だとは聞いていたが、その原点は彼女のこの経験に由来するものなのかもしれない。

 

 しかし、霧野特務大佐(キリシマ)の協力で開発された、技術的課題やトラブルに相変わらず悩まされ、現場泣かせな“あの”光線砲よりは、既存の技術の延長線であるミサイル技術を発展させた方が、安全牌であった事は確かだ。

 

 なによりもロシアはミサイル技術の先進国であったことも、ミサイル開発を推し進める上で有利に働いたのだろう。

 

 

「«…だが、遅すぎた»」

 

 

 一通り叫び、いや、語り終えて崩れ落ちる様にして席に着くと、先程までの全身から放たれていた狂気が嘘のように萎んでゆき、悔恨に満ちた表情となって絞り出すかのようなか細い言葉を紡ぎ出した。

 

 

「«分かっていた…。奴らとの“力”の差は、絶望的なまでに開いていたことくらい…。

 

 母なるロシアの大地へと降り注ぐ遊星爆弾を防ぐ術すらマトモに無い我らの“力”では、最早どうしょうもなくなっていたことくらい…»」

 

 

 沈痛な面持ちで語る彼女に、真志妻は掛ける言葉が見付けられずにいた。

 

 

 いつの間に用意したのやら、机の上に置いたウォッカをビンごと呷りだしたことに目を丸くしたが、当の本人はこの程度では全然酔えないと言わんばかりに自嘲気味の乾いた笑みを浮かべていた。

 

 

「«飲まずに、シラフではやってられない。

 

 それくらいまで追い詰められた状況で、そのウォッカすらマトモに無かった。

 

 だけど軍人だけは飲まずに酔える方法があった»」

 

 

 一泊の間を置き、その身体に溜まったモノを吐き出すかの様に、一気に喋り出した。

 

 

「«どいつもこいつも!自暴自棄の悪い酒に酔い潰れた自殺願望の中毒者だったよ!»」

 

 

 吐き捨てるかの様に叫ぶが、その声に嘲りや侮蔑などの感情は感じられなかった。

 

 

 悔しかった。悲しかった。力及ばない無力な自分自身が許せなかった。

 

 どうすることも出来無いと分かっていても、どうしても考えてしまう。

 

 

 もっと“力”が有れば!強大な“力”を打ち払えるだけの“力”が有れば!と。

 

 それが無理な願望なのは百も承知している。

 

 

 だがそれによって痛感した。

 

 

 これが“敗れる”ということなのだと。

 

 

 なんと惨めな気持ちだろうか…。

 

 

 だからこそ、次があるならば、次の機会がもしもあるならば、もしも自身のやりたい様に出来るのならば、もうこんな惨めな気持ちを味わいたくはない!そう願いながら、あの日、あの時、巡洋艦『Слава』(自身)は沈んだ。

 

 

 そして気が付いたらこの世界へと流れ着いていた。

 

 

 その場所は黒海。

 

 

 第三次大戦、ロシア東欧紛争の緒戦で沈没したミサイル巡洋艦『Москва(モスクワ)』、旧艦名『スラヴァ』の沈没海域真上の海上を漂っていた所を、バルト海艦隊から黒海艦隊へと転属してきたばかりのボロジノ級前弩級戦艦5番艦の艦娘、偶然か必然か、スラヴァが発見。

 

 

 

「«最初は『モスクワ』が艦娘となって甦った!と黒海艦隊で軽く騒ぎになりましたよ»」

 

 

 だがよくよく調べると、自分達の知るミサイル巡洋艦のそれよりも遥かに進んだ科学技術が生み出した存在であると知れ渡ると、また別の意味で大騒ぎになった。

 

 

 あの時、たまたまセヴァストポリに視察に来ていたクトォーゾフ大統領閣下と、特に自分の前任である前大頭領(国防相代行)閣下が居なければ、大変なことになっていただろう。

 

 

 現われた存在は、それ程までに重大かつ厄介で、()()()()()()()()

 

 それに関しては霧島(キリシマ)が顕現した際に真志妻が感じた懸念と同じものだった。

 

 

 未来の“可能性”が詰まった、見るものが見たら“игрушка коробка(おもちゃ箱)”の様な宝箱とも言える存在だ。

 

 

 だからこそ彼らは徹底的に秘匿に努めた。

 

 

 幸いと言うべきか、黒海そのものが先のロシア東欧紛争の結果から完全に新ロシア連邦(NRF)と同盟国の勢力圏内となっていたことが功を奏し、情報の秘匿が容易だったことが大きかった。

 

 

 スラヴァ自身、自分の持つ“価値”と“危険性”を充分に理解していた。

 

 また彼女は自身の秘匿に奔走する大統領と国防相代行の2人と、合間を見てではあったが、意見と情報の交換を可能な限り行った。

 

 

 その結果纏まった両者の意見と見解は次の通りである。

 

 

 結局のところ自分達の事は自分達でどうにか出来なければならず、本質的な意味での危機において国際協調というのは容易に機能不全に陥りやすい。

 

 国際機関は何処まで行っても各国の思惑や利権からくる()()()()から脱却することは不可能であり、よくいって調整機関に過ぎず、それ以上でもそれ以下でもない。

 

 最後に、広大な国土と、多種多様な民族を抱えた我が国を纏め上げ、強国として維持してきた“力”は、“経済力”と“軍事力”の両立であり、どちらか片方に偏ると容易に傾くことになる為、双方がバランスよく両輪として機能することによって我が国を安定させ、力強く支える屋台骨となり、我が国を動かす原動力となる。

 

 

 ここに双方はその見解と価値観において、一定の一致を見出すことに至り、手を結ぶ事となった。

 

 

 双方の目指す先とは、単純にして明快。

 

 

 何者にも干渉されない、強いロシアを世界に示し続ける事である。

 

 

 それともう一つ、これはスラヴァ自身の考えであるが、将来において訪れるかもしれない、ガミラスの様な深海棲艦を遥かに上回る強大な脅威に対しての備えを模索することを考えていた。

 

 これに関しては、未来に向けてのある程度の道筋を示す方向性で合意を得ているが、内容が内容なだけに、下手に口外出来ないというジレンマを抱えていた。

 

 何よりスラヴァ自身、紆余曲折を経て国防相という地位を与えて貰ったものの、軍政に関しての自身の力量に対して限界を感じていた。

 

 一応の心得の様なものはあったし、補佐してくれる優秀な人材を付けて貰ってはいるのだが、どうしても前線部隊寄りの考え方に偏り勝ちで、軍内部派閥のパワーバランスや利害調整などの細かな差配も少し苦手だった。

 

 

 だからこそ、彼女は自身と同じ経験を積み、自身の考えや心に抱く“恐れ”をある程度共感してくれて、それを踏まえて自分の足りない部分を補佐してくれる人材、つまり同郷の者を心の底から渇望していた。

 

 出来れば空間防衛総隊司令長官土方竜宙将の様な前線と後方の両方を経験したことのある様な人物、ていうか土方司令が欲しかった。

 

 

 と想っていた矢先に、その土方司令もこの世界に来ている事が判明した。

 

 この時ばかりは特に信じていたわけではなかった神に対して感謝の祈りを捧げた程に、狂喜した。

 

 だが、流石に拉致という強硬手段を採ることは躊躇われ、チャンスが到来するのを待ち続けた。

 

 

 そしてGRU(グルー)を通じてянки(ヤンキー)からの日本への命令を掴んだ時、これぞ好機であると飛び跳ねた。

 

 

 日本の国防に関する内情は、国の方針や国防政策の策定もあってつぶさに調べ上げていた。

 

 

 かつて世界有数の技術力に裏打ちされた軍事力を誇っていた筈の極東の島国は、見る影もなかった。

 

 

 

 陸軍も空軍も、主要兵器や銃火器の開発製造能力が「国防産業を蔑ろにする」などという、訳の分からない暗黙の国是を厳守し続けた事によって失われており、今や使用する兵器のその多くが我軍から払下げられた型落ち兵器や対日輸出仕様で占められ、現状比較的マシと言われている海軍ですら、深刻な人手不足の影響から近年艦娘支援母艦以外の水上艦艇は維持が難しくなっている。

 

 近々水上艦艇の供与も行なわれるが、引き渡されるのは近海での作戦活動を主眼とした艦艇である。

 

 

 最も深刻なのが人員不足を徴兵制で補った結果、質の低下が無視出来ない所にまで来つつあることだった。

 

 それらを加味してМинобороны(国防省)並びに連邦軍Генштаб(参謀本部)は、「最早彼の国にマトモな外征能力は持ち合わせていない状態である」との結論を出していた。

 

 

 だが日本は政府を中心に相変わらずの対米追従主義のままであり、янки(ヤンキー)からの無理難題に対してなんの考慮も検討も行なうこと無く、唯唯諾諾と従う可能性が高い。

 

 

 янки(ヤンキー)に対してあまり良い感情を向けていないと聞く真志妻大将ですら、янки(ヤンキー)の我儘には苦慮していると耳にしている。

 

 

 そこに漬け込む隙があると見ていた。

 

 

 ここが勝負の仕掛け所と、一世一代の勝負に打って出た。

 

 

 最難関である真志妻さえ「うん」と言ってくれたら、日本に関してはクリアーだ。

 

 だからこそ出し惜しみは無しでこちらが出せる軍事的なカードを切った。

 

 

 本当ならば通常弾頭を搭載したАвангард(アヴァンガルド)を装備するРВСН(戦略ロケット軍)も投入する用意があるとしたかったが、この話が外部へと漏れた際にянки(ヤンキー)共が五月蝿く騒ぎだしそうだからやめた。

 

 とはいえこちらの本気度を示すためにも、更にはянки(ヤンキー)に対する牽制も兼ねてКомандование Дальней Авиации(遠距離航空コマンド)という目に見えて分かりやすいカードを切った。

 

 Авангард(アヴァンガルド)の投射手段であるRS-28などの重ICBMだと、地下サイロ発射方式であり、変に警戒を受けたり、後から如何様にでも()()()()()を付けられる可能性がある。

 

 それに、大統領選を控えて政情がより不安定化しているянки(ヤンキー)共が、暴発する危険性もあった。

 

 

 だが戦略爆撃機ならば監視衛星などでの事前監視が容易だ。

 

 …連中の監視衛星がマトモに機能しているならば、という前提条件が付くが。

 

 

 一応、既に大統領にお伺いを立てており、「国益に反しない範囲で良きに計らえ」との内諾は得ている。

 

 

 ただ大統領としたら真志妻大将そのヒトを我が国へと招聘出来たら、と考えている様である。

 

 彼は先日、今までは日本を深海棲艦に対する緩衝地帯として利用する戦略方針でいたが、昨今の日本の状況を鑑みてその方針を維持することが難しくなっており、戦略の見直しを図る決断を下していた。

 

 

 なによりも今現在の世界情勢は水面下で激しく動き出しており、情報部ですら掴みきれていない事案が増えてきて、予想外の事態が起きていたりもする。

 

 その最たるものは、つい先日イギリス大使館から知らされるまで察知すら出来なかった、()()()()()()()()()()事実上のクーデター(静かなる王朝の交代)という事件である。

 

 

 西ヨーロッパは主要国から艦娘が亡命を謀る事件が多発するほどの政情不安な情勢であり、情報の錯綜が頻発していたことと、アメリカの国内情勢に対して諜報リソースの多くを割いていたことも影響していたが、完全に寝耳に水の大事件が知らない間に起きていたのである。

 

 

 今の時点で日本で何か起きると色々と面倒なことに成りかねない。

 

 

 緩衝地帯の不安定化は我が国の安全保障にとって重大な死活問題である。

 

 

「我々は安全保障という意味を誰よりも真摯かつ重要な課題として考えざるを得ない民族なのですよ」

 

 

 とは彼の口癖であるが、これは先の大戦の原因の一つに、旧NATOによる東方拡大政策によって地域のパワーバランスの不安定化と緩衝地帯の消失が少なからず関わっていたことにも起因している。

 

 

 一時期真志妻大将を首班とする新政権の樹立。という可能性を真剣に検討していた時期もあったが、その本人にやる気が無い事が確実のため今は断念されている。

 

 

 次善の策として日本軍、特に艦娘部隊を民間軍事会社(PMC)化出来ないか?との案が出ており、そのキーパーソンとして真志妻大将を重要視していた。

 

 

 

 ただ、最大の懸念事項は真志妻大将と土方司令、そしてキリシマ様が探しているという『アンドー』なる存在であるのだが、これがさっぱり分からない。

 

 しかし、その件に関して何か大きな進展があった様であることが、ГРУ(グルー)から、というかГРУ(グルー)のエージェントとしても日本で活動中のТашкент(タシュケント)から直接連絡が入っていた。

 

 その件もあって、真志妻大将へとコンタクトをとった訳なのである。

 

 

 だがしかしである。

 

 

 まさかこのタイミングで土方司令が介入してくるとは予想外だった。

 

 

 もうこうなったら出たとこ勝負だ!

 

 

 さぁ、矢でも鉄砲でも持って来い!

 

 

 鬼が出ようと蛇が出ようと、相手になってやる!!

 

 

 

 …そう思っていた時期が私にもありました。

 

 

 

 

 後に彼女はウォッカ片手に語る。

 

 

 

 なんで最大の懸念事項が深海棲艦と一緒にいるのよーーーーーッ!?

 

 ウォッカ!飲まずにはいられない!!

 

 

 

 

 

 彼女の苦難は、始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

*1
そもそも自身を人造艦娘へと変えた、“あの”忌まわしき研究所に入れられる以前の、普通の人間だった頃の記憶が殆ど残っていない事もあるが。

*2
Operation Maneuver Group






 新ロシア連邦、参戦!


 取り敢えずミロスラヴァ国防相ことスラヴァはミサイル推しで飲兵衛です。
 立場柄基本的には橋渡しポジションとなります。

 念の為先に申し上げますが、新ロシア連邦(NRF)と対立する予定はありません。


 サラッと流しましたが、本編で今後どうするか悩み中ですので簡単にご説明致しますと、現実世界での現イギリス王室であるウインザー朝・ハノーヴァー朝はこの世界だと色々あって次の王朝へとバトンタッチしております。
 因みに現国王は、Queen Elizabeth となっております。


補足解説

РВСН

 ロシア戦略ロケット軍を意味するРакетные войска стратегического назначенияの頭文字を合わせたもの。


Авангард(アヴァンガルド)

 ロシアが開発した極超音速滑空体。通常弾頭と核弾頭の搭載が可能。

 UR-100NやR-36、RS-28などの重ICBMに搭載して発射され、発射後は搭載するスクラムジェットエンジンで加速して極超音速飛行を行う。

 マッハ20以上の超高速で飛行し、あらゆるミサイル防衛システムをも回避・突破しうる高い機動性も有する。

Wikipediaより抜粋



 リアルで世界情勢の混迷度合いが加速していることに顔が引き攣る思い…。2020年大統領選挙であのクソジジイ推しの頓珍漢な事言いまくってドヤ顔していた人達、どう思ってんだ?当時陰謀論扱いしていた世界情勢の混乱がほぼ現実化したぞ。

 てか先日この日曜日にある参院選の応援関係で自民の参議院議員が会社に来てたけど、なんでも無いかのように「アメリカが頼りない」とサラッと言いやがって、ビビった…。まぁその理由などの核心に迫るような内容の事は濁してましたけどね。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第60話 A distorted counter.

 いびつな国。



 ちょっと今の日本、外交の基礎からコースアウトしまくりでない?外交が目茶苦茶だと国防だって迷走する原因となるぞ?

 日本のヒトとモノとカネという養分を含んだ土壌だけでなく、土地すら流出してるし、それを政府や経団連が後押して経済という樹木が枯れ、日本という山は禿山となりつつある。

 ガチで国として日本が消える瀬戸際じゃね?


 

 

 土方は正直、どの様な選択が正解なのかは分からなかった。

 

 だがこのまま真志妻大将に背負い込ませる事はよろしく無いと思い、直通回線を使用した。

 

 

 しかし、直通回線とはいえ盗聴の危険性がゼロであるとの保証が無かったため、最初は当たり障りのない挨拶から始まった。

 

 

 真志妻はあまりにも狙いすましたかのようなこのタイミングに訝しみを覚えたが、同時に()()()()()()()()()()()()

 

 個人的な気持ちとしてミロスラヴァ国防相の要求は受け入れる事が()()()()難しい案件だった。

 

 だが軍としてはそうも言っていられないというのも、真志妻は理解していたし、なにより今新ロシア連邦(NRF)との間に軋轢が生じる事態は避けなければならなかった。

 

 日本の生命線が新ロシア連邦(NRF)の手中にあるという覆しようのない事実と現実が、真志妻に重く伸し掛かっていた。

 

 物流と言う名の水は、新ロシア連邦(NRF)という水源から繋がる水道管から来ているのだが、その元栓を少しでも閉められると、日本という水田はたちまち枯死する運命にある。

 

 それは即ち、自分が愛して止まない艦娘達の生存を脅かされる事態でもある。

 

 

 だが新ロシア連邦(NRF)はこの事に関しての直接的な明言は決してしないだろうし、カマをかけても()()()()()()と避けてくるだろう。

 

 いやらしいかもしれないが、国家間の付き合い、外交とはそういうモノなのだ。

 

 外交というものは謂わば“狐と狸の化かし合い”の場であり、その根底にあるのは“国家に永遠の友も敵も居ない。あるのは永遠の国益追求のみ”という不変の真理に根ざしたものである。

 

 

 この事はド・ゴール、キッシンジャー、マキャベリ、チャーチル、パーマストンなどといった、歴史を彩る数多の著名な人物達が各々の格言として遺している。

 

 

 そこへさらに地政学的な観点などの様々な要素も混じり合い、より複雑さを増すこととなるのだが、それらを纏めた物がおおよそ以下の通りである。

 

 

一、隣接する国は互いに敵対する。

 

二、敵の敵は戦術的な味方である。

 

三、敵対していても、平和な関係を作ることはできる。

 

四、国際関係は、善悪でなく損得で考える。

 

五、国際関係は利用できるか、利用されていないかで考える。

 

六、優れた陸軍大国が同時に海軍大国を兼ねることはできない。その逆も然り。

 

七、国際政治を損得で見る。善悪を持ちこまない。

 

八、外国を利用できるか考える。

 

九、日本が利用されているのではないか疑う。

 

十、目的は自国の生存と発展だけ。

 

十一、手段は選ばない。

 

十二、損得だけを考える。道義は擬装である。

 

十三、国際関係を2国間だけでなく,多国間的に考える。

 

十四、油断しない。

 

十五、友好,理解を真に受けない。

 

十六、徹底的に人が悪い考えに立つ。

 

十七、科学技術の発達を考慮する。

 

 

 一から五は国際関係の現実主義に基づいており、国際関係は善悪の判断ではなく、各国がどれだけ利益を得られるか、または損をしないかに基づいている。

 

 例え敵対する国でも、利益に基づいて平和な関係を築くことは可能とされている。

 

 

 六から八は戦略と資源に焦点を当てており、例えば、陸軍大国と海軍大国は一つの国が同時に成り得ないとされている。

 

 これは、資源と注意力が限られているため、どちらか一方に集中する必要があるという点を指摘している。

 

 

 九から十二は、外交政策や国際関係での利己的な考え方を強調している。

 

 自国の利益を最優先し、必要な手段を選ばない考え方が示されている。

 

 

 十三から十七は多国間の関係、科学技術の影響、そして戦略的警戒心について触れている。

 

 多国間の関係では、2国間だけでなく複数の国との関係性も考慮する必要がある。

 

 また科学技術の進歩は、国際関係に新たな次元をもたらすとされている。

 

 

 

 この事は恩師にして養父、橘茂樹大佐が「国家に真の友人は居ないものさ…」との言葉とともに、最期に教えてくれた教えである。

 

 そしてその日、彼は帰らぬ人となった。

 

 

 この時は養父の突然の死による精神的なショックも重なって、よく理解していなかったが、大将という階級とともに艦娘部隊の司令官、総提督などという()()()()()()へと祀り上げられた時、それを痛いほど実感した。

 

 まぁ、そこでへこたれなかったのが、彼女の強みとも言えるかもしれないが、それは土方の存在が大きかった。

 

 

 ところで、彼女は公式文書に三十代前半の年齢で記載されているが、実はこれ、確固たる根拠がないのである。

 

 正確な事を言うと、例の人造艦娘研究施設に入れられた時点で彼女の戸籍等の個人情報の類いが全て抹消された影響と、施設内での凄惨な実験などによる精神的ストレスや艦娘化による弊害か、記憶障害を引き起こしたこともあって、正確な生年月日が最早誰にも分からなくなっているというのと、人造とはいえ一応は艦娘となったことで肉体年齢や外観にも変化が生じており、見た目が幼く、小柄な体格であった事からも、その容姿から元々の人物を特定したり、年齢を読み解く事が困難となっていたというのが大きく、さらには艦娘としての精神に引っ張られてか、精神年齢も引き上げられている可能性もあった。

 

 とはいえ、研究施設で確認された犠牲となった子供達の体格などからおおよその推定年齢を算出し、そこから導き出した平均値が、今の彼女の公的な年齢である。

 

 ただもしかしたらではあるが、まだ二十代である可能性もあれば、ギリギリ十代後半という可能性も有り得るのだ。

 

 …流石に妙齢の女性だったり、はたまたヨボヨボのおばあちゃんである可能性は、先にも述べたが犠牲となった被験者が全員子供であった事や、彼女やもう一人の生存者からの証言によって否定されている。

 

 また、その年齢に反して見た目が幼く、平均身長よりも小柄な体格であった事から、軍に入隊しようとした際に色々と苦労することとなった。

 

 

 

 閑話休題(それはさて置き)

 

 

 

 真志妻は土方を信頼している。

 

 

 その事に誰しもが疑ってはいないし、土方の能力や人柄に疑問を挟む者は今現在においてはほぼいない。

 

 ただ、しょっちゅう真志妻が土方に助言を求める事があったために「頼り過ぎではないのか?」「これではどちらが上官か分からん」と苦言を呈する者がいたが、これは小松島鎮守府、当時警備府の司令官を務めていた時からよく見られていた光景でもあった。

 

 そもそも彼女は大将就任直前までは大佐の地位だったのを、政治的な都合やら駆け引きやらと、当時の軍が置かれていた状況から軍内部の責任の盥回しによる影響で、前例のない昇格人事を強行し、本来ならば受ける必要があった研修やら何やらの過程をすっ飛ばしまくった弊害であると同時に、そもそも軍における士官教育そのものが、戦時を理由に促成教育による最低限の教育しか行なっていなかった事が根本的な問題だった。

 

 

 真志妻が軍の門戸を叩いた当時、「悪逆非道な深海棲艦による侵略の魔の手から日本国民を守り抜く」という政府の方針もあって、日本各地へと鎮守府やら警備府(公金スキーム前提の利権が絡んだハコモノ)を乱立させまくった結果、その責任者として必要となる提督がまったく足りない状態となっていた。

 

 そのため兎にも角にも提督の数を揃える目的もあって、政府は軍に対して広く人材を集めるために、入隊基準の大幅な緩和と教育の簡略化を求めた。

 

 

 それを受けて軍は、提督養成教育に関しては従来の陸海空三軍の教育機関である幹部候補生学校や防衛大学校とは別の、独立した特別養成所を設けることで対応することとなった。

 

 

 土方は一時期、極東管区における軍の教官を務めていた時期があったが故に、この事に激怒していた。

 

 教育を疎かにして、マトモな軍人や指揮官が育つわけがないし、マトモにやる気の無い連中をどんなにしごき倒しても使い物にならないと断じていた。

 

 

 事実、この頃の特別養成所にて粗製濫造された軍人の多くは土方の懸念した通り、使い物にならなかった。

 

 

 素行不良ならまだしも、モラル面において疑問符の付くヤカラまで普通に提督としての職務に就いていたが、戦果よりも問題行動の割合が多い者が後を絶たなかったし、他の三軍との摩擦や確執が常々問題となっていた。

 

 

 それでもこの制度の功績を上げるならば、基準の緩和によって市井の中から使える人材を、全体から見たら微々たるものだが、見付け出すことが出来たことと、経歴に色々とある真志妻などのクセのある者が入隊出来た事だろう。

 

 今現在の軍を支えているのは、その数少ない使える人材達だった。

 

 だがこの当時はその使える人材の殆どは、まぁ色々と周囲からのやっかみを受けて、閑職やら辞職に追いやられてしまっていたが。

 

 

 無能なアタマを数だけ寄せ集めた烏合の衆。

 

 

 そう陰口を、実働部隊である艦娘達からさえ叩かれる程に、雑多な雑軍というのが、当時の軍で艦娘達の第一線指揮を執っていた軍人達の実情だった。

 

 本来そんな彼らを纏め上げ統制し、国軍全ての部隊運用を円滑に執り行う為の立場にある統合司令部は、統合幕僚監部から分かれて新設されたばかりの比較的新しい組織であり、その運営活動はまだ安定した軌道に乗っておらず、彼らを押さえ込むには力不足な状態だった。

 

 何より同盟国(宗主国)アメリカの方針や意向に逆らうだけの意思も能力も欠如しており、殆どお飾りとさえ言われることもあってか、日本独自の具体的な戦略性のある決定を下す能力にも欠けていた。

 

 こんな状態も相まって、軍人としての教育が不充分でその心構えにも問題を抱えている彼らによる、所謂独断専行が横行する土壌となってしまっていた。

 

 

 だからこそ、深海棲艦をして「何をやらかすか分からない軍隊」と言わしめる程の、無茶苦茶な軍事作戦が当たり前のように行なわれていた。

 

 

 そこに戦略や戦術、ましてや兵站の概念など、クラウゼヴィッツや孫氏が見たら、まず間違いなく卒倒するレベルで存在していなかった。

 

 

 故に、反攻作戦は失敗し、AL/MI作戦での惨敗に繋がった。

 

 

 だが皮肉なことに、この立て続けに起きた大敗北によって転機が訪れる切っ掛けにもなった。

 

 

 当時の首都だった東京が壊滅し、政府と軍の中枢にも少なく無いダメージを負うこととなり、一時的ではあるものの無政府状態と指揮系統の混乱が発生。

 

 

 この混乱した軍の指揮系統の再構築も兼ねて、本土攻撃を成功させて離脱中だった深海棲艦の攻撃部隊に対して送り狼を実施し、戦果を挙げた真志妻当時大佐に艦娘部隊を纏める総提督就任要請のお鉢が回ってきた。

 

 

 その背景には反攻作戦失敗という大失態を挽回すべく、発動したAL/MI作戦の真っ最中に首都へと攻め込まれて首都機能を損失するといった大きな被害を受け、あまつさえ肝心の作戦さえも惨敗したことが知れ渡ってしまい、国民だけでなく諸外国からも激しい非難を浴びせかけられていた時期でもあり、本来就くべき立場にいた、先の攻撃を生き延びた高官達が押し付け合って誰もやりたがらなかったから、一種のスケープゴートとして押し付けられたとも言えるが。

 

 更には辛うじて全滅だけは免れて再建を開始したばかりだった政府も、真志妻の容姿から特に精査すること無く「こんな小娘ならば御し易いだろうから、神輿には丁度良い」として軽く見ていた。

 

 

 そもそも総提督という役職のその実態は、政府や軍部の決定を艦娘へと伝達する折衝などを行なう提督の、所謂“橋渡し役”の元締めなのである。

 

 一種の名誉職に近い、お飾りの役職だった。

 

 

 その行使可能な権限なども、線引などでかなり曖昧なものが多かった。

 

 

 だがこの事に真志妻は逆に好機であると捉えた。

 

 

 まだ政府が混乱から完全には立ち直れていない隙を突いて、後に粛清人事と恐れられる程の、徹底した改革を断行した。

 

 

 先ずは各地に乱立する鎮守府や警備府の統廃合と、それに伴う飽和状態だった提督の大量解雇。*1

 

 書類上に存在するだけの幽霊部隊や編成予定だが期限未定の新規部隊を全てキャンセル。*2

 

 警備府の中でも規模が小さい部隊には提督を置かずに艦娘に一定の指揮権を与え、それら複数の警備府をまとめて近隣の鎮守府の管轄下に組み込む。*3

 

 部隊によってばらつきのあった艦娘の給与などの待遇の改善。*4

 

 部隊間の連携強化と交流の推奨。*5

 

 特別養成所の閉鎖と代替する教育機関、他の三軍と同様な幹部候補生学校の設置。*6

 

 

 などなど、今までは誰もやらなかった、出来なかった事を次々と実行に移した。

 

 

 無論、この改革によって今まで居たポストを失うこととなる者達を中心に反発も大きかったが、全ては艦娘の為というモチベーションが原動力となっている彼女は人間の反発など意に介せずに突っ走り、必要ならば個人資産から多額の袖の下をばら撒いて黙らせ、残る反発意見に対してロードローラーで押し潰すが如くの勢いで反対者を徹底的に轢き潰して行った。

 

 

 こんな無茶が出来たのは、一重に総提督という役職の権限が曖昧だったからこそ、それを逆手にとって行使不能であるとする明確な法的根拠等の理由が存在しないとして、強引に押し切ったのと、なによりも艦娘達の絶大な支持が得られていた事が大きい。

 

 

 そもそも艦娘に対して指揮する提督の人数が飽和していたし、他部隊との連携も協調もへったくれもない、自分達の意見具申を聞かないのはまだしも、マトモな作戦遂行や事務処理能力の欠如甚だしい軍人達に対して、艦娘達の不満は爆発寸前だった。

 

 そこへ艦娘の間で艦娘至上主義者との噂が流れていた真志妻が自分達のトップとなり、多額の資産を投じながら次々と改革を推し進めて行く姿を見て、噂が事実であったとして歓喜し、急速に支持を寄せることとなった。

 

 

 艦娘の支持を背景に、殆ど独裁者に近い権力の乱用を行使しまくった彼女だったが、教育機関の改革という例外はあるものの、自身の艦娘部隊責任者としての管轄外に対してはほぼ手出ししなかった。

 

 本音を言えば、統合司令部へもメスを入れたかったし、そこのトップに土方を捩じ込みたい思惑もあったが、断念した。

 

 

 そもそも統合司令部への介入を思い留まらせたのが、土方だった。

 

 

 確かに軍の改革は必要だと、土方も思っていたし、個人的な意見として真志妻からの相談にものって「こういう案はどうだ?」との私案を述べたりもしていた。

 

 更には解雇(粛清)を免れた提督達の殆どは、土方が以前から目にかけ、もしも自身に何かあった際に備えて、人付き合いが苦手というか、他人と関わることに忌避感のある真志妻がその時になって困らない様にと思ってピックアップし、機会があれば交流を持たせていた者達が大半を占めていた。

 

 

 だが、彼女のやり方はあまりにも性急で強引過ぎて暴走しているとしか思えなかった。

 

 土方が止めなければ暴走機関車の如くどこまでも突っ走り続けていたかもしれなかった。

 

 

「土方さんの考えならば間違いがないですよね?」

 

 

 いくらなんでも性急に過ぎないか?と問い詰めたら、小首を傾げ、駄目だったんですか?と言わんばかりに不思議そうな顔をされ、土方は頭を抱えた。

 

 真志妻は土方を信頼しているが、信頼し過ぎるあまり頼るところは頼り切り、疑う事もなくその意見を即実行に移してしまっていた。

 

 しかもそれが艦娘にとって利になることならば、そこに躊躇いや合法非合法の概念など無かったし、そもそも今の権力者だって似たような事を平然と行なっているのだから、今更何をか言わんやと開き直られた。

 

 ついでに言えば、先の総提督としての権限が曖昧で法的根拠等の理由が明確でないというのも、なにも真志妻が初めに言い出した事ではなく、艦娘部隊を率いる提督に関する法整備も実は似たような状態であり、そこに目を付けた、今回解雇(粛清)された提督達が先に主張していたという前例と、それを政府と軍上層部が事実上黙認していたという既成事実が既にあったためである。

 

 

 言いたいことは分からなくもないが、だからといってやり過ぎは良く無い。

 

 それになにも特に嫌う人間のやり口を真似る事は無いのではないか?

 

 そう問い質すと、叱られた仔犬の様にシュンとしてしまった。

 

 いや、というよりか親に叱られた子供の様だった。

 

 確かに親子程の年齢差があるためそう見えなくもないが。

 

 

 ただ真志妻は土方のことを父親の様に見ていた事は確かである。

 

 これは彼女の養父である、今は亡き橘大佐も土方と同様に親身に真志妻を陰日向に支え、色々なことを教えてあげていた。

 

 橘大佐は土方と違って、教育関係の仕事はしたことは無かったが、それなりに知識がある方だったし、多少なりとも自分なりの考えを持っていた。

 

 だがそれが、対米追従一本主義の国防方針を疑問視した内容だったことから、周りや上層部から疎まれる要因ともなって、どちらかと言えば僻地と言える場所に配属されていた。

 

 まぁ本人は然程気にしていなかった様で、寧ろ中央の七面倒臭い争い事からわざわざ向こうから遠ざけてくれたと有り難がっていたが。

 

 

 しかし中央の方針に反発して飛ばされたというのは、ある意味で土方と同じであると言えた。

 

 土方もかつて地球軍の波動砲艦隊構想に異議を唱えた結果、地球から太陽系最果ての国境とも言える第十一番惑星へと飛ばされた経験があった。*7

 

 

 年齢は土方が年上だし、容姿もどちらかと言えば皮肉屋な性格の橘大佐と全く違うが、なんとなく似通ったところがあった為に、真志妻は土方に亡き養父の面影を見ていた。

 

 

 もし、橘大佐(お義父さん)が生きていたら…。

 

 

 そう心の中で重ねる事もしばしばあったし、今は真志妻の副艦長門や秘書艦陸奥といった、かつて橘大佐の部下だった者達も、土方と真志妻の二人の和やかなやり取りに、過ぎ去ったあの日を思い浮かべることもあり、真志妻の心の内も察していた。

 

 

 

 真志妻は表向きは土方を信頼できる自身の右腕として扱っているが、本当は家族の様な信頼感を寄せていた。

 

 

 上司と部下、同僚といった関係で土方を見ていなかった。

 

 

 

 だからこそ、真志妻は土方を手放したく無いと考えていた。

  

 

 

 しかし、同じく家族の様に大切な艦娘達のこともあり、彼女は今板挟みの様な状態となっていた。*8

 

 

 どちらか一方のみを選ぶといった判断を下すことが、真志妻には出来なかった。

 

 

 この判断を下すという事は、彼女にとっては家族を売ることと同じことであり、それは彼女の“心”が許さなかった。

 

 

 思考が堂々巡りになり、真志妻の頭の中はにっちもさっちも行かなくなって困り果ててしまっていた。

 

 

 だからこそ、土方からの着信が正に渡りに船の様に思えて、彼女は内心でホッとしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みにだが、土方も軍に入隊した際に、真志妻の推薦状によって例の特別養成所に入校することとなったのだが、あまりにもスカスカで形だけの内容の薄い、いい加減な教育具合に心底腹を立ててしまい、ただでさえ厳つい顔付きなのに、いつも不機嫌そうな仏頂面で構えていたものだから、教官が萎縮する事もしばしばあったという。

 

 しかも生徒の中で飛び抜けた高齢にも関わらず、その醸し出すオーラなどの存在感から「教官よりも教官ぽかった」と、同期生達が恐れ慄きながら口を揃えて語っている。

 

 

 その後に新設された幹部候補生学校から、教官として招聘したいとの嘆願書が真志妻と土方の双方に送られる事となったのだが、それはまた別の話。

 

 

*1
都市周辺の沿岸部などでは隣り合う程の過密状態となっていたり、一部では河川にまで建設されている場所もあった。

*2
名義だけで活動実態の無い部隊も存在していた。

*3
小規模警備府の交番化。

*4
なお、これには物資の横領や横流しなどの不正による犯罪行為も密接に絡んでおり、最も複雑な案件となった。

*5
今までは粗製濫造された提督同士の功名争いなどの対抗意識から、部隊の連携が全くと言っていい程なされていなかった、

*6
卒業後いきなり提督となることが出来た特別養成所と違い、先ずは各鎮守府や規模の大きな警備府へと割り振られ、現地の提督の下で補佐をしながら艦娘達との交流をし、艦娘という存在がどういうものかを学びとり、提督として求められるものを自ら学ぶ方針となっている。

*7
ただ、その第十一番惑星が地球とガミラスの共同入植地でもあった事と、太陽系防衛の要地でもあった為、その政治的、軍事的重要性から一概に閑職だったとは言い難いとの指摘もある。

*8
大切とする艦娘を戦場へと送り出すのは気にしないのか?と思われるかもしれないが、艦娘の兵器としての本能的なものが戦場へ出ることを当たり前に思う傾向にあり、それは人工とはいえ艦娘でもある真志妻にも存在するため、大切だからと戦場に出さないようにするのは彼女らに対する一種の裏切り行為であり、割り切らざるを得ないと判断していた。

 

 ただし、だからといって無駄死にを強要する事は間違っていると考えており、それは当初艦娘と人類が交わした約定でもある、“私達は深海棲艦に対する武力を提供する。代わりにその武力を維持出来る為に便宜を取り計らってほしい。”との取り決めにも反する行ないであると見做し、それがこれ以上戦い続けることが困難となったこの戦争の引き際を考える要素ともなった。





 橘茂樹大佐は陸幕調査部別室の荒川茂樹(機動警察パトレイバーTHE MOVIE2)をイメージとしております。



「国家間に真の友人はいない」 シャルル・ド・ゴール

「国家に真の友人はいない」 キッシンジャー

「隣国を援助する国は滅びる」 マキャべリ

「我が国以外は全て仮想敵国である」 チャーチル

「英国は永遠の友人も持たないし、 永遠の敵も持たない。 英国が持つのは、永遠の国益である」 パーマストン


 近年アメリカから防衛装備品を買い込む割合が増えてるけどさ、ここ2,3年のアメリカを見てるといざという時マズいんじゃね?

 今のアメリカ、エンジニアの不足が軍事産業の足を引っ張っている影響がモロに出てるし、製造が追い付いておらず、イとウの両方は面倒見きれないとの情報もあれば(ただ最近の連邦議会見てると、どうもイにシフトしている節が見受けられて、ウ切られるんじゃないかとの指摘もあったり。ウ推してた両党の議員がこぞってイの支援呼び掛けに注力しだしている。)、そもそも以前から軍事物資の質が低下している指摘が出ていた。

 製造現場に人件費削減目的で不法移民が雇われている実態もあって、労働者の質が不安定化している問題もあるけど、その不法移民には要監視対象国からの流入、特に今ホットスポットであるパレスチナからの移民は、アメリカがパレスチナを国家として認めていない事もあって、分類上イスラエル出身者として処理されているから、どれ程のパレスチナ人が入っているか分からないし、中にはハマスやイスラム聖戦などの構成員が紛れている可能性も否定できず、今後爆発する危険性がCBP、アメリカ合衆国税関・国境警備局から警告が発せられている。
 更には中南米の某国はヒズボラとの親密な繋がりがあり、ヒズボラ構成員に対して国籍と身分証明書を提供してアメリカへと送り出すという行いをしている。

 最悪、アメリカは今後にトロイの木馬(内部から大爆発)が起きて、国外に構っていられない事態に突入するリスクが急激に高まっている。

 そうなった時、日本はどうするのか?

 既にその前兆は現れている。

 てかその前にアメリカがイランにいらんことしてホルムズ海峡閉じられたら日本干上がる…。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第61話 Deal

 取引


 
 あらすじ

(リュウ)さんを私にください!」 byミロスラヴァ(スラヴァ)

「土方さんは私のお義父さんになってくれるかもしれないヒトです!」 by真志妻亜麻美


 

「«今ならば出血大サービス~、SM-54(カリブル)3M22(ツィルコン)P-800(オーニクス)Kh-47M2(キンジャール)9K720(イスカンデル)、な~んでも取り揃える事が出来ますよ~»」

 

 

 スラヴァは冷や汗を流した。

 

 

 自らをуправляющий фабрикой(工場長)と自称し、マシツマとの秘密会談に割り込んだ主犯格として、その慰謝料代わりに武器弾薬や兵器類をこちらが必要なだけ製造し、全て無償で供給する用意があるとの申し出がなされ、話半分に「具体的には?」と問い掛けたら、先の答えが直ぐ様に返ってきたのだ。

 

 それと同時に詳細なデータまでファイルという形で送信されてきた。

 

 

 それらは我軍で現在使用されている主力の対艦及び対地ミサイルの一部ではあるが、ファイルの一部をピックアップしてざっと目を通した所、間違いないどころか、非公開となっている内部構造の詳細な図面、数字、使用素材の成分に使用されている電子機器に至る全てが事細かく記載されていた。

 

 

 しかもである。

 

 

 遊び心もあったが、自分の持つ知識を総動員し、現在の製造メーカー各社の技術力で対応可能と判断して提供した未来技術によって性能を高めた、元々いた世界の史実にも存在しない独自改良型の図面であった。

 

 

 それだけでも大問題なのだが、スラヴァはそれ以上に気掛かりなことがあった。

 

 

 列挙されたそれらのミサイルにはとある共通点があり、その詳細は今現在において機密指定がなされており、一般どころか軍内部でも計画に携わっている者と運用部隊を始めとして、未だ一部の者にしか知らされていないものだった。

 

 

 画面に映るボサボサ頭の、科学者の様な格好をした見るからに不健康そうな胡散臭い少女を見遣るが、その顔はどこかヒトを小馬鹿にしたようなニマニマした怪しい笑みを湛えており、正直不気味だった。

 

 

「(コイツ、知っていてわざとか…?)」

 

 

 内心でマズイことになったかもしれない…。と舌打ちしながらも、その表情には()()()にも出さず、軍政家ミロスラヴァとしての思考へと頭を切り替え、考えを巡らせた。

 

 

───────

 

 

 時は少し遡る。

 

 

 

 ミロスラヴァ国防相ことスラヴァは困惑していた。

 

 

 渇望してやまない意中の人、ヒジカタをこちらに引き込むことができるかもしれない千載一遇の待ち望んでいたこの好機、絶対に逃すものかと攻勢に打って出る決意を固め、いざ作戦開始と勢い勇んでいたものの、そのヒジカタからマシツマへと電話がかかってくるという予想外の事態が起きてしまい、出鼻からいきなり躓いてしまった。

 

 事前に連邦軍参謀本部情報総局、ГРУ(GRU)や対外情報局、СВР(SVR)からの報告と説明でヒジカタはここ数日、地方基地ながら要所でもあるコマツシマ基地にて懐刀にして自身の恩人、キリシマを始めとしたかつての地球軍組──表向きはヒジカタの最も信頼を寄せている精鋭部隊の駆逐艦隊。なお、こちらでもこの隊やヒジカタ達の素性に関しては混乱を防ぐために伏せてある。──を通常の作戦活動から可能な限り外すなどの動きが見られ、次なる作戦に向けた調整に入って多忙を極めているとの分析結果から、介入してくる可能性は低いと判断していた。

 

 

 盗聴などの電子的な諜報活動、所謂シギントは相変わらずコマツシマでは失敗し、人を介したヒューミントもあきつ丸(アキツマル)とかいう艦娘が防諜活動に乗り出してからは、以前よりも活動の難易度は跳ね上がったものの、まだまだ脇が甘かった。*1

 

 

 だからこそこのタイミングを選んだというのもあったのだが…。

 

 

 因みにだが、日本の対外諜報能力はとっくの昔に壊滅している。

 

 そもそも日本にマトモな対外諜報目的の情報機関など存在しないではないか。と言われるかもしれないが、公的機関では確かにそうである。

 

 しかし民間、特に日本は商社による独自の情報ルートというものが存在していた。

 

 海外で活動する以上は、現地の(ナマ)の情報を素早く、確実に手に入れる術が無ければ、円滑な貿易や交渉など出来るはずもなく、商売など成り立たなくなる。

 

 その為、本人達にそのつもりはなかっただろうが、下手な日本の諜報機関よりも優秀な能力を有した諜報員が自然発生していた。

 

 時と場合によっては、日本政府も彼らを頼るケースもあったとされている。

 

 だがそれもパンデミック関連の騒動によって大きな打撃を受け、そして第三次大戦の余波によって事実上消滅することとなった。

 

 

 彼らに非があったわけではない。

 

 

 日本政府が第三次大戦でアメリカの中東侵略を支持し、多額の金銭的支援も積極的に行なっていたことで、イスラム世界を本格的に怒らせたのが原因である。

 

 さらには戦争の影響で大量の難民が世界へと散らばり、各地のイスラム教徒を介して日本人に対する悪評が広まる結果となった。

 

 元々サウジアラビアとの関係悪化に伴う原油減産の煽りを受けて、*2深刻なエネルギー不足に喘ぐアメリカが、なんとかして中東の石油を手にする目的で始めた戦争であったがために、そのあまりにも見え透いた事情に批判が内外で噴出してしまい、なによりもアメリカ軍が民間人を巻き込む可能性を度外視していた強引な作戦の実態が表沙汰になるに連れて、アメリカの腰巾着である日本への評価も引き摺られて低下する羽目になった。

 

 

 その煽りをもろに食らって、ただでさえパンデミック関連の騒動とその影響による経済的混乱のダブルパンチで青色吐息だった商社が、涙ぐましい努力でなんとか維持し続けていた独自の情報ルートも、これによって急速に衰えて行き、深海棲艦との戦いが始まった時点でほぼ消滅していた。

 

 

 信頼無くば交流は先細りし、最後は途絶える事となる。

 

 

 以降、日本はリアルタイムで海外情報を得られる有益な手段を損失する事となった。

 

 現状、もっともリアルタイムで感度の高い情報を得る手段を有しているのは、小松島鎮守府で勝手(個人的)にシギント活動を行なっていた山風(ヤマカゼ)くらいのものである。

 

 

 閑話休題。

 

 

 今回の事態を偶然として片付けるほど、スラヴァは楽観主義では無かった。

 

 電子的なガードが異常なまでに硬いコマツシマ基地でのシギント活動は、規模を縮小してヒューミント活動へと比重を傾けるという議題で動議が現在行なわれているらしいが、マシツマに仕掛けていた盗聴器の類いが先日、コマツシマ基地へと到着して直ぐに全滅したとの話を小耳に挟んだため、近いうちにその議題通りの決定が下されるだろう。

 

 幸いにして、マシツマの政敵が仕掛けた物と誤認する為の偽装工作が功を奏して我々新ロシア連邦(NRF)が下手人の一人だと気付かれてはいないようだが、油断は禁物である。*3

 

 

 コマツシマは魔境である。とはГРУ(GRU)のシギント担当官の率直な感想である。

 

 

 一瞬、もしかして嵌められたか?との思考が彼女の頭を(よぎ)ったが、事態は混乱する彼女の思考よりも早く動き出す。

 

 タブレットの画面が乱れたかと思うと、見知らぬ金髪の温和そうな、それでいて何が起きたのか分からず困惑した表情の女性が映し出された。

 

 

「«あ、どうも。はじめまして»」

 

 

 苦笑いを浮かべながら、ちょこんと頭を下げて挨拶を述べられ、こちらも思わず釣られて頭を下げた。

 

 

「あ、こちらこそрад встрече(はじめまして)、…って違うっ!」

 

 

кто ты(あなたは誰ですかっ)!?」

 

 

 

───────

 

 

UX-02(ベオ)さん、取り敢えずそこの世間知らずの工場長(バカ)の頭をおもいっっっっっきりシバいといて下さい」

 

 

 「«あいよっ!»」との小気味よい返事とともにUX-02(ベオ)の拳が振りかぶられ、工場長の頭へと勢いよく振り下ろされた。

 

 一応、色々と面倒だからと、UX-02(ベオ)の肌の色をガミラス特有の青からガミラス諜報部謹製の色調変装装置を用いてザルツ系、所謂地球人に似た肌の色へと変わってもらっている。

 

 

 自身の要請が無事に履行されたことを確認したアンドロメダは、一見いつも通りニコニコと微笑んでおり、それに対して工場長は半眼で抗議の意思を示そうとしたが、微笑むアンドロメダのその顔に青筋が浮かんでいるのを見て、怯んでしまった。

 

 

 ヒトの話も事前の相談や打ち合わせやら段取りとかの一切合切を、「ヒャッハー!そんなの関係ねぇ!」…いや、この場合は「ヒャッハー!そんなの知ったこっちゃねぇ!」と言わんばかりに、止める間もなく突っ走った工場長にアンドロメダは静かに腹を立てていた。

 

 

 今アンドロメダの見ている通信画面の、分割された小窓には、若干青褪めた顔をした土方が釈明と謝罪の言葉を述べ、続いて質問されたことに対して説明を述べている所が映し出されているが、その相手は公的には土方の上官ということになっている日本海軍大将、“総提督”真志妻亜麻美と、もう一人はその真志妻と会談中だった大国新ロシア連邦(NRF)の主要閣僚の一人、それも大統領に次いで大きな力を持っているとされる人物、ミロスラヴァ・イヴァノヴァ国防相である。

 

 工場長はその2人に対していきなりハッキングを仕掛け、あれよあれよと言う間に勝手に通信画面を開いたのだ。

 

 なによりも一言の断りもなく、突然こちらの画面へと繋いだものだから、戸惑い混乱してしまってなんとも微妙な引き攣った笑みを見せてしまった。

 

 

 アンドロメダとしたらゲンコツ一つで済ませてあげただけ温情であると思ってほしいとの思いだった。

 

 

 特にミロスラヴァ国防相というのが厄介極まりない。

 

 

 確かに彼女は自分達と生まれを同じくする同郷の巡洋艦、スラヴァであることは間違いなく、特にキリシマ(先生)と面識があるだけでなく、少なからず恩義を感じている様ではあるが、それはそれ、これはこれである。

 

 

 この世界における彼女は先にも述べた通り、大国新ロシア連邦(NRF)において大統領を補佐する閣僚の一つで、国軍たる連邦軍を管理し統制を司る立場にある国防相を任せられているほどの重要人物となっており、しかも、アナライザーが纏めた資料によると新ロシア連邦(NRF)の実質的No.2と言える権力者だというではないか。

 

 それはつまり、今この場に集う誰よりも高い地位にいる、所謂“雲の上の存在”なのである。

 

 その人物が関わっている会談に、いきなり割り込むという非常識極まりない行ないを工場長はやらかしたのだ。

 

 

 真志妻大将だけならば、土方司令との繋がりによる誼で、まだどうにかなったかもしれないが、国を跨いだ他国ともなると、事はそう簡単に済む問題でなくなる。

 

 

 国際政治とは相手の隙やミスに対してい如何に上手く漬け込み、その弱味を可能な限り持続させ、自らの利益、国益へと繋げるかという、冷酷冷徹な血で血を洗う現実主義の権化の様な戦場(いくさば)の世界である。

 

 

 

 そう言う意味ではガミラスは本当に強かだったと言える。

 

 

 ガミラス戦役による賠償と復興支援という名目のもと、ガミラスは地球に対して多額の資金と資源の提供、そして技術供与を行なうとして太陽系、そして地球の懐にスルリと入り込んできた。

 

 戦争の賠償という形であれば、ガミラスに対して忌避感のある地球人であっても簡単には拒否することは出来ないだけでなく、そもそも地球が戦前の様な青い星へと戻ったとはいえ、地球人の生活は戦時中の様な、未だ地下暮らしで困窮の極みにあったことに変わりはなく、消えていく命も増えることはあっても減ることがない状態であり、それを変えるには劇的な措置が必要であった。

 

 

 地球にはガミラスからの賠償を無条件に受け取るしか選択肢が無かった。

 

 

 これによってガミラスは地球の戦後復興と平行する形で銀河系での足掛かりとなる安定した恒久的な活動拠点を得て、本国からの補給が途絶えても、銀河系内部での資源開発が軌道に乗れば充分に賄えるだけの生産拠点も獲得した。

 

 更には国家安全保障において最大の懸念事項だったガトランティス(蛮族)との戦いに地球を引き摺り込むことに成功しただけでなく、それを介して地球の国防方針と内政方針にガミラスの意思を介入させる様に仕向けるなど、ガミラスにとって初期投資こそ膨大ではあったが、それは飽く迄地球の価値観からの視点であり、彼らからしたら安い投資に過ぎなかったのだろう。

 

 

 このグランドデザインを構想した者達からしたら、笑いが止まらなかったに違いない。

 

 

 確かにその後の結果から見れば、ガトランティス戦後に重要な生産拠点でもあった時間断層工廠は失われたとはいえ、国防上の脅威であったガトランティス(蛮族)は完全に滅亡し、同時に地球は本星たる地球はまだしも、その領域である太陽系は先のガミラス戦役を遥かに上回る甚大な被害を受け、軍事力を支えるはずだった時間断層工廠も失われた事で、地球はこれからもガミラスの影響力に依存、とまではいかないにしても、ガミラスの意向を無視出来ない力関係を維持するしか無くなった。

 

 

 ガミラスからしたら、虎の子の主力艦隊である本国艦隊の戦力に少なからずの被害が出ることとなったが、地球と違って自らの領域が主戦場となった訳ではなく、自領内で正面決戦による消耗戦争を行なったと仮定してシミュレートし、算出された被害見積もり予測からしたら微々たるものであり、それらを勘案したら特にこれといった損はしておらず、寧ろ得をしたとも言えるのだ。

 

 

 まさに大国による代理戦争の一例と言っても過言では無かった。

 

 

 ただ流石にグランドデザインを作った者達も、当時はガトランティス(蛮族)の実態が全くの謎に包まれていた時期でもあったし、ガミラス政府の動き、特にバレル大使と在地球ガミラス邦人*4との間でチグハグとした感じがあったように思えた。*5

 

 

 とはいえ、この話には確固たる証拠があるわけではない。

 

 状況証拠などから導きだした、アンドロメダの推測でしかなく、有り得なくもないという程度の話でしかない。

 

 

 だが、だからといって否定し切れるかと問われたら、否定し切れるだけの根拠足り得る材料も出せるわけではなく、肯定とも否定ともとれる玉虫色の答えが精々だろう。

 

 

 外交の世界とは正にベールに包まれた、或いは深い霧に覆われた、ありとあらゆる可能性を内包した複雑で混沌を極めた領域なのだ。

 

 

 だからこそ、下手に漬け込まれる要因となる弱味を見せる真似だけは避けなければならないのに、工場長(このバカ)は…。

 

 

 先方はどうも土方司令に執着を見せている。

 

 

 一応、土方司令の居る日本と工場長とは直接的な繋がりがあるわけではなく、無関係であるとの言い逃れが出来なくもない。

 

 ただそれを証明する明瞭な証拠が提示出来るわけではなく、また現在の日本と新ロシア連邦(NRF)のパワーバランスからして日本は大きく劣勢であり、新ロシア連邦(NRF)が多少強引な手段を使っても跳ね返せるだけの力が日本には無かった。

 

 さらに言えば政府間による正規の外交ルートを使われたらかなりマズイ。

 

 日本政府と真志妻大将は表立ってこそいないものの、明確な対立関係にあり、真志妻大将の力を削ぐ目的で土方司令が人身御供とされる可能性も有り得た。

 

 

 だが今土方司令が日本から離れられたら非常に困る。

 

 

 相手にだって都合はあるだろうが、こっちにだって都合があるのだ。

 

 

 完全ではないにせよ、駆逐棲姫(お姉ちゃん)達深海棲艦は真志妻大将の提案を受け入れ、戦争の終息に向けての休戦交渉に動き出した。

 

 その橋渡し役として深海棲艦からは私が、そして日本における橋渡し役の中心は間違いなく土方司令だ。

 

 その土方司令が居なくなってしまったら、この休戦交渉が大きく躓いてしまう。

 

 何故ならばこの交渉自体が真志妻大将が日本政府に対しても秘密裏に進めている極秘の交渉であり、多くの人間達の預かり知らないものだからである。

 

 秘密裏に進めている理由は色々とあるが、そもそもその真志妻大将は相当な人間嫌いで、信頼できる味方と呼べる人間が土方司令くらいしか居ないのではないか?と言えるほど極端なまでに少なく、代わりとなる人間が居ないのだ。

 

 かと言ってこちらから動けることはなにもないし、寧ろ下手に動くと余計に事態が拗れてしまう恐れがあった。

 

 

 正直八方塞がりになりかけている。

 

 

 唯一幸運だったのは、偶然とはいえギリギリの所でお姉ちゃん達深海棲艦のみんながカメラに映り込まなかった事くらいだろう。

 

 もし映り込んでいたら、今頃もっと大変なことになっていたのは間違いなかった。

 

 とはいえ、このままだとお姉ちゃん達の事も話さなくてはならなくなるだろう。

 

 上手く隠し立てて今は凌げたとしても、いつかは発覚してしまうだろうし、その際に隠していたことを追求されたら厄介だ。

 

 だが話した際にどの様な反応を示すか、それによっても今後の方針に大きな影響が出て来る事になるだろうから、どっちに転んでも苦労しそうな予感しかしなかった。

 

 

 本音を言えば、政治に振り回されるのはもうウンザリであるのだが、そうも言っていられない現実にゲンナリし、やさぐれてしまいたい気分だった。

 

 

 

───────

 

 

 

 そんなやさぐれつつあるアンドロメダの心の内を尻目に、土方による話は進んでいた。

 

 その内容を要約すれば、スラヴァが戦没後の地球の歴史から始まって、自分達かつての地球軍組が何故こちらへとやって来たのかというその経緯。

 

 ガミラス関連の説明で、特に和平合意云々に関して何かしらの反応をスラヴァは示すかと思われたが、特にこれといった反応は見せず、生まれ故郷のロシアがどうなったのかを質問した程度だった。

 

 その後ガトランティス戦役を経て、この世界に来てからの大まかな動き。

 

 そして遂に、この世界での目的でもあった、探していたアンドロメダとのコンタクトに成功したこと。

 

 

 その事に真志妻は我が事の様に喜び、祝福の言葉を述べたが、スラヴァは何かを思い出したかのように質問を投げ掛けた。

 

 

「«もしかしてそれは、『アンドー』という名の探しビトのことだったのですか?»」

 

 

 その問いに土方は肯定の言葉を述べるが、スラヴァは少し考える素振りを見せた。

 

 

「«これは飽く迄も、私の推測なのですが、もしかしたらアンドーなる、いえ、アンドロメダというヒトは先程ご挨拶を述べたお方で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?»」

 

 

 スラヴァの推論に対して土方は眉が僅かに動き、真志妻は目を見開き、本当なの?と、画面に映る土方の顔を見た。

 

 当のアンドロメダは「ふえっ!?」という間抜けた声が漏れ出していた。

 …ただなんだか嬉しそうな声音の様に聞こえたのは、きっと気の所為だろう。

 

 

「«我がинформационный отдел(情報部)からの報告、ここ最近の騒がしいТихий океан(太平洋)での動きを繋げていけば、そういう可能性に行き着きますよ»」

 

 

 ここで土方に悩みが出た。

 

 

 下手に誤魔化したり暈したりするよりかは、いっそのこと今起きている全てをここで開示してしまった方が良いのではないか?と。

 

 万が一、誤解や解釈違い、変な勘繰りをされるよりかは、全てを知ってもらった上で、あわよくば味方に、若しくは中立的な立場になってくれた方が良いのではないかと。

 

 

 

───────

 

 

 

 土方はここで決断を下した。

 

 

 真志妻への報告も兼ねて、今起きているその全てを話すことに。

 

 

 だがその前に、一度アンドロメダにも確認を取る事とし、通話モードを一旦アンドロメダにのみに切り替えた。

 

 とはいえ話を振られたアンドロメダとしても、事が深海棲艦の今後にも関わる重大な問題であるだけに、一人で決断を下すことが出来なかった。

 

 

 一旦こちらで深海棲艦の姫達と話し合うとして、時間が欲しいと願い出た。

 

 

 その際に、工場長がスラヴァと話をさせて欲しいと振ってきた。

 

 この事にアンドロメダと土方は「(変なことを口走らないか…?)」と不安になり、難色を示したが、スラヴァが土方が口を開く前に了承してしまったため、アンドロメダも土方も渋々了承することとなった。

 

 

 スラヴァは工場長に少なからず興味があった。

 

 

 正確には、工場長本人もだが、その本体とも言うべき大工廠も含めてスラヴァは興味を持った。

 

 

 自身の戦没後に、地球があのガミラスとの和平合意を経て建造したという、人類史上類を見ない超巨大全自動工場。

 

 時間が十倍の速さ云々という、俄には信じ難い話は一旦置いておくとして、それでもその製造能力には感嘆の言葉しか出て来ない。

 

 おそらく今この世界にある全ての重工業軽工業なとをフル稼働状態にした製造能力すら、上回っているだけのポテンシャルがあると見てまず間違いないだろう。

 

 

 とはいえそれは個人的な分析であり、今後の為にもその能力をより深く知る必要があると考えたのだ。

 

 

 そしてその制御を司る工場長本人の為人(ひととなり)も見極めなければならない。

 

 

 我が第二の母なる祖国、新ロシア連邦(NRF)の国防相ミロスラヴァ・イヴァノヴァとして、NRF(我が国)にとって脅威となるかならないかを。

 

 

 そして話は冒頭へと戻る。

 

 

 

───────

 

 

 

「…Багратио́н(バグラチオン)は無いのですか?」

 

 

 試しにと最新鋭ミサイルとして公表しているバグラチオンの名を出したが、工場長は口元をニンマリと吊り上げた。

 

 

「«何言ってるんですか~?先に挙げたミサイルはぜ~んぶ、()()()()バクラチオンを搭載する計画のミサイルじゃないですか~?あっ、そう言えばまだそのことは秘密なんでしたね~、うっかりしてました~»」

 

 

 そう言ってヒトの所の軍事情報を何でも無いかの様にケラケラと笑う彼女に、無性に腹が立って画面越しにどうにかしてしばき倒せないか?と真剣に考えてしまった。

 

 だがそれ以上に、「(矢張り知っていたか…)」と内心で苦い顔となった。

 

 となると、その詳細だけでなく、間違いなく私達が最終的に目指している完成形も掴んでいるだろうと予想したが、それは当たりだった。

 

 

「«その本質はミサイルそのものではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そこには()()()()()使()()()()()()()()()()()()()、同一サイズの通常弾頭型ミサイルよりも破壊力に優れ、目標に応じて弾頭をパージさせて広範囲を破壊し尽くす事の出来るクラスター弾タイプの特殊多弾頭弾ですね~。

 

 でも本当は貴女が装備しているロシア軍事宇宙艦隊が運用上の制約が大きく、システムが複雑で製造や整備コストなどが劣悪な当時のショックカノンに見切りをつけて開発し、唯一貴女が実戦投入に成功した、不規則な軌道を描く()()高機動誘導弾を搭載する予定だったんではないですか~?»」

 

 

 予想通りの答えであったが為に、特に反応を返すことはしなかったが、「幻の」という言葉に引っ掛かりを覚え、一瞬だが眉が動いた。

 

 

「«確かに現行の弾頭ですと~、目標となります深海棲艦の回避機動を計算して広範囲をカバーするという都合上、散布界が広くて部隊単位ならばまだしも~、単一目標、特に強力な個体であります姫級に対してはあまり効果的でない可能性がありますからね~。

 

 あの誘導弾みたいにランダム軌道を描きながらも~、目標を包み込む様にして包囲し~、最終的には身動きが取れないようしながら圧し潰すかの如く多方向から襲い掛かる~。

 

 それは機動性を確保するために単体での威力を抑えていたのと~、相手の迎撃対応能力を飽和状態にしてしまおうという~、かつてのソビエト連邦海軍が強大な戦力を誇ったアメリカ空母機動部隊を撃滅すべく編み出しました~、対艦ミサイル飽和攻撃ドクトリンを彷彿とさせる戦法でしたね~。

 

 いや~、霧島(キリシマ)さんの航海ログで初めて見ましたときは驚きましたよ~。

 

 流石はミサイル技術において一日の長があるロシアが作り上げた、正しく傑作であると感嘆致しました~»」

 

 

 捲し立てるかの様に話し続ける工場長に、やや圧倒されながらも、かつての祖国が手放しに賞賛されたことに悪い気はしなかった。

 

 

 だが同時に、彼女が国家安全保障において重大な脅威と成り得る存在であると、心の内で確信した。

 

 

 彼女の語りを聞いていて薄々と感じ、軍事機密をベラベラと喋り出した事で段々と、そしてヒジカタの反応を見て確信した。

 

 

 彼女はその性格的に軽薄さがあまりにも強過ぎる。

 

 

 もし、万が一、何かの拍子で、彼女が兵器やら各国の機密情報やらを世界にばら撒く様な事態になったとしたら…?

 

 

 いや、それ以前に彼女の本質は麻薬の“それ”であると感じた。

 

 

 

 手を出せば、依存し、最後は破滅する。

 

 

 

 まだ可能性に過ぎないが、そう思えてならず、警戒すべきであるとの警報が、国家の安全保障を司る立場としての思考が鳴らしていた。

 

 

 ミロスラヴァ(スラヴァ)はこの問題の規模からСовет Безопасности РФ(連邦安全保障会議)に上げるべきか?と悩むこととなった。

 

 

 

*1
そもそも今までがザル過ぎた、と言うか枠過ぎた。

*2
サウジとの関係悪化以外の原因もあるが、

*3
それにしてもマシツマの敵の多さには呆れるしか無い。

*4
主にガミラスの財界関係者達。

*5
それが演技だった可能性もあれば、バレル大使がピエロだった可能性も捨てきれない。ガミラスという巨大組織故に、一枚岩では無かったというのが、一番有り得る可能性ではあるが。





 国防相閣下、曇らせるつもりはないのだけど、工場長関連でなんだかめっちゃ曇りそう…。

 出したは良いけど、矢張り持て余し要素がデカすぎるよ時間断層工廠…。
 ワ◯ワ◯さんのノリでフォード級空母やらリデル級やら南昌級やらクイーンエリザベス級やら『もがみ』型やらを作り出し、DIY感覚の暇潰しと称して核弾頭を作ってしまいかねん…。



補足解説

Багратио́н(バグラチオン)

 元々は各国と比べて艦娘戦力が圧倒的に少ない新ロシア連邦(NRF)軍が、深海棲艦に対する兵器を開発するための計画を差す名称であり、後にその成果物を表すこととなった。

 新ロシア連邦(NRF)軍艦娘部隊の中でも最大口径である30.5センチ主砲弾(Гангут(ガングート)の主砲)を、ミサイル等の飛翔体弾頭部に装填して投射し、目標とする深海棲艦の真上に到達後に弾頭部が分裂して内部の砲弾がバラ撒かれる仕組みであり、当初はクラスター爆弾の投射にも用いられていた9K720Искандер(イスカンデル)短距離弾道ミサイル用として開発が進められていた。

 各国でも同種の兵器開発が行なわれていたが、技術的課題の解決に要する開発費の高騰により、艦娘運用とのコストパフォーマンス差で劣るという見解などから、またアメリカ軍でトマホーク用として一応の開発はなされたものの、こちらも艦娘とのコストパフォーマンス問題から、正式配備にまで漕ぎ着けれた国は存在しない。

 新ロシア連邦(NRF)は先にも述べた通り、艦娘の兵力不足を補うためという、半ば苦肉の策だった。

 後にミロスラヴァことスラヴァの全面協力によって開発は一気に進み、ネックとなっていたコストダウン問題も解決した事でИскандер(イスカンデル)以外にも装備することが可能となった。

 本編で語られたミサイルだけでなく、3K24Уран(ウラン)艦対艦ミサイルとその陸上発射型である地対艦ミサイル3K60Бал(バル)用の弾頭も用意されており、P-800Оникс(オーニクス)の陸上発射型K-300PБастион(バスチオン)と共に、新ロシア連邦(NRF)各地の地対艦ミサイル基地を中心に配備が進んでいる。

 しかし本命はスラヴァに装備されていた高機動誘導弾の装備であり、その理由は現行のバクラチオンだと海上を高速で動き回る深海棲艦に対しての命中精度に問題があり、それをカバーする目的で散布界を広げた結果、威力の面においても通常型深海棲艦ならば兎も角、姫級に対しては若干不安があったためである。

 名称の由来はナポレオン戦争における祖国戦争の英雄バグラチオン将軍と、第二次世界大戦大祖国戦争での反攻作戦バグラチオン作戦から、不屈と反撃の意志を示す目的で名付けられた。なお、スラヴァが使用した高機動誘導弾の非公式名称でもあった。



アメリカ中東侵攻

 元々大戦以前からヨルダン川周辺を中心に中東情勢はきな臭くなっており、衝突も起きていたが、第三次大戦勃発によって一気に爆発した。

 そこに漬け込む形でアメリカが乗り込んでいったのだが、それが大きな間違いだった。


 当時アメリカは、石油取引でも重要な関係でもあった中東の同盟国、サウジアラビアとの関係が外交下手な極左リベラル政党のジョージ・K・J・ジーン政権の相次ぐ失策で急激に悪化し、その影響で中東からの石油輸入が厳しくなっていた。

 折りしも火山の冬による寒冷化の影響でエネルギー不足に陥っていたアメリカは、この事に焦っていた。

 無論、国内の油田開発を促進すればある程度の解決を見込めたのだが、政権支持層と最大手政治資金提供者(メガドナー)に環境保護カルテルがいた事と、なによりも国内油田開発は保守党のドナルド・ジョーカー前政権が掲げていた政策の一つであり、前政権を徹底的に否定することがなによりも優先されなければならない政策と言って憚らなかったジーン政権には、その選択肢が初めから存在していなかった。


 そんな政権が選択した解決策が、サウジアラビアへの軍事侵攻であった。


 前年にカナダへと侵攻して併合したこともあって、中東においてアメリカへの不信感が高まっていたこともあり、サウジアラビアへと侵攻が開始された時点で中東の反米感情が爆発。

 カタール駐留のアメリカ中央軍アッサイリヤ基地が襲撃され、バーレーンの第5艦隊司令部と基地施設、駐留艦艇にドローンなどによる自爆テロ攻撃が相次いで仕掛けられた事を皮切りに、戦線は瞬く間に中東全域へと拡大し、史上最悪の泥沼と化した消耗戦争へと発展。

 そんな中で民間人を巻き込んだ大規模な市街戦や無差別攻撃が相次ぎ、多数の犠牲者と数え切れ無い規模の戦争難民が発生した。

 この事実はSNSと世界へと離散した難民達の口伝てで世界へと拡散された。

 どんなに言い繕うとも、民間人を多数犠牲にした事実は変わらず、また躍起になってこの事実を揉み消そうとしたことでも心象をさらに悪化させ、アメリカは中東での地盤を完全に失う事となった。


Совет Безопасности РФ(連邦安全保障会議)

 正しくはロシア連邦安全保障会議。略称СБ、Совбезопасности

 国家安全保障問題を協議するためのロシア連邦大統領直属機関であり、ロシア大統領府の構成下に入る。

 安全保障会議は、国家安全保障に関わる政策を調整、統合するために創設された。

Wikipediaより一部抜粋




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第62話 Deal 2

 取引 その2

 ちょっと資料不足で四苦八苦してました。なんで(一応は)艦これなのに穀倉地帯とかオリガルヒとかまで調べてんだろ…。しかも物書きの基本、十調べて実際に使うのは一くらい。ま、調べるのは趣味なんですがね。


 速射魚雷についての捏造設定を出します。

 ついでにいつもながら、人が悪いきな臭い内容。てか、まぁ、ドンパチはしないに限るね。始めるのも面倒臭いが、後片付けがもっと面倒臭い。
 ウクライナが梯子外されて冷戦期アフリカみたいに面倒臭い事になりそーだし。予想通り過ぎて泣けてくるぜ。イスラエルだってどうなることやら。

 田中角栄さんカムバーック!!(第四次中東戦争で検索。日本の中東依存度97%)


 

 将来に及ぼす危険性に考えを巡らせるミロスラヴァ(スラヴァ)に対して、危険物と認識されて警戒されだしたとは知らない工場長は相変わらずマイペースに話を続けていた。

 

 

 だがそんな中で、ミロスラヴァ(スラヴァ)はこの日初めて、明確に感情が表情へと出ることとなった。

 

 

「«ただ戦後に色々とあったみたいで~、資料が散逸しまして〜、ほうぼう手を尽くしましたが〜、結局マトモな資料を見付けることが叶いませんでした~»」

 

 

 心底残念そうに肩を竦めて語る工場長を見ながら、あからさまに顔を歪めた。

 

 

 話の流れでかつて自分が装備し、ガミラス艦に対して明確な損傷を与えることに成功した新型誘導弾、──Восточный военный округ(東部軍管区) Владивосток бригада(ウラジオストク旅団)での非公式名称、Белорусская(バグラチオン)──の話へと脱線、もとい、関連したものとなった際に、工場長がかつて次世代艦載兵器開発の重要参考資料として、この新型誘導弾のデータを探し求めたのだという。

 

 

 最高最適最良な装備を開発し、安定した生産供給を行なうことこそ、自身の存在意義であると自負する工場長からしたら、この新型誘導弾は是が非でも欲しい代物だったのだ。

 

 

 ところが、データベースを中心にいくら探せど見つけ出すことが出来なかった。

 

 

 データベースだけではない。

 

 

 確認可能なありとあらゆる電子記録媒体を片っ端から引っ繰り返しても、最初にデータベースで偶発的に発見した『霧島(キリシマ)』のメ号作戦航海ログ報告資料以外のデータが存在しなかった。

 

 研究開発に携わっていたであろう、関係者と思しき人間達に目星を付けたものの、当時は今と違って自らの意思で自由に動き回れる肉体を持たなかった存在だったとため、直接会いに行く事はできなかったし、しかも自身が最上級の国家機密であったがために、連絡を取るみたいな事も不可能であった。

 

 

 それから程なくして、この事に関しての調査の一切合切が禁じられた。

 

 

 将来的なガトランティスとの全面武力衝突に備えて、既存の対艦誘導弾ではガトランティス艦の激しい迎撃砲火を突破出来無い可能性を、工場長は『ヤマト』の航海ログなどを検証した末に導き出し、その対抗策として誘導弾に回避性能を持たせる、もしくは不規則な軌道を取らせるという手段を考えついた。

 

 そんな中で見付け出したのが、ユーラシア管区の中核的国家であるロシアが戦時中に独自開発したとおぼしき新型誘導弾の存在だった。

 

 

 元々『アンドロメダ』級や『ドレッドノート』級に装備された速射魚雷とは、『スラヴァ』が間断無く誘導弾を発射していた記録映像を見て着想を得た結果産み出された物なのだ。

 

 対艦攻撃のみの原形と違い、対艦と対空の両用誘導弾として計画しており、特に対空戦闘に対応するため機動性能だけでなく飛翔速度の向上を図るつもりでいた。

 

 ただその分、開発製造コストが決して安くない事が予想され、その事で製造の認可が下りない可能性があったため、コストダウンのためにデータを、できれば完成品のサンプルも欲していた。

 

 一から開発するよりも元となる物があれば、時間もコストも節約することが出来る。

 

 

 しかし調査が禁じられたことにより、データもサンプルも手に入らず、当初に懸念した通りコストが嵩む事を理由に誘導弾の高機動化はオミットされ、飛翔速度の向上も控え目に抑え、更には射程距離が当初の予定スペックよりも短くなるが、燃料区画を切り詰めて小型化を図ることで装備可能弾数を増加するようにとの要請が通達された。

 

 

 結局、完成した速射魚雷は工場長にとって、小型化云々によって装備弾数が増加し継戦能力の向上に繋がったので、まぁ百歩譲るとしても、本来の趣旨から外されてしまった納得のいかない代物となってしまい、ハンカチがあれば噛み千切る程の悔しくて無念な思いがした。

 

 

 しかし、それにしても些かこの一件には不可解な点が散見された。

 

 

 『霧島(キリシマ)』の航海ログ以外から見付けられなかったこともそうだが、軍のデータベースに保管されていたその航海ログデータが、『スラヴァ』艦隊と合流してからガミラス艦との戦闘に関する物が、気が付いたら綺麗サッパリ無くなっていたのだ。

 

 『霧島(キリシマ)』のブラックボックスから直接、帰港後にデータベースへと自動的に送信されているために、途中で改竄される余地が無いとされている一次資料であり、その保存期間も厳重な取り決めがなされており、閲覧ならば兎も角、添削は公文書偽造などで厳罰に処される程の、原則禁じられている重罪行為である。

 

 それにも関わらず、該当箇所が削除されていたことで、何やらきな臭そうな問題が絡んでいそうだと思わざるを得なかった。

 

 

 それ以外にも色々あったが、工場長はスラヴァを気遣って、というか単に説明を面倒臭がって「色々あって散逸した」と言葉を濁したのだが、軍政家として、また戦時中の経験などからミロスラヴァ(スラヴァ)は政治的な何かがあったのだと予想した。

 

 

 先程ヒジカタからガミラス戦後の説明がなされた際に、それとなく母なる祖国であるロシアがどうなったのかと聞いたのだが、国そのものは無事だったようだが、より詳しい事、例えば復興がどれ程進んでいたのか?などに関しては言葉を濁され、明瞭な答えが返ってこなかった。

 

 

 思うに、戦後の祖国は政治的に弱い立場へと追い遣られたのだろう。

 

 戦時中の遊星爆弾攻撃によって、国内の統制すら覚束無いまで痛め付けられていた。

 

 国の力が弱まれば、国際社会における発言力も弱まっていく。

 

 また、祖国は世界有数の地下資源産出国であり、採掘された各種資源が祖国を支える屋台骨だったのだが、ガミラスとの和平合意と国交樹立に伴って始まったガミラス産の大量で安価な資源の流入が、その屋台骨をへし折ったと見るべきだろう。

 

 資源産出国とはいえ、地上における鉱山などの採掘現場は遊星爆弾によって破壊され尽くし、採掘を再開するには一から鉱山設備の建設と坑道の掘削が必要であり、その必要経費の問題から価格競争では勝負にならないのは明白だった。

 

 

 確かに地球の復興は急務であり、喫緊の課題だったことは理解している。

 

 その中で切り捨ての判断を迫られ、判断を下したモノも少なからずあったことだろう。

 

 

 だがその判断基準に、かつての()()()()が介在していないと言い切れるだろうか?

 

 

 そこから繋ぎ合わさって、戦後に発足されたとかいう地球連邦政府とやらによる祖国に対する仕打ちを察した。

 

 

 戦前から各国各勢力の対立関係は水面下で相変わらず続いており、戦時中も足の引っ張り合いが散見されていた。

 

 例え従来の国連よりかは権限の強いとされる地球連邦政府であっても、その本質は国連と大きく変わるとは到底思えない。

 

 利権、しがらみ、軋轢、民族、宗教、文化、風習、そしてイデオロギー。

 

 そういった複雑な要素が絡み合い、お互いの利害関係や利害対立で長年争い合ってきたにも関わらず、たかが組織一つ新設された程度でドラスティックに変わるなどと思うのは、楽観主義にも程がある愚か過ぎる思考だ。

 

 

 地球連邦という名称が示す通り、連邦というのは複数の国家や高度な自治権を有する地域の集まりによって構成される連合国家のことである。

 

 構成国並びに地域には公平同等の権利が与えられているが、各地の経済力などの歴然とした力の差がある以上は、どうしても行使可能な発言力といったパワーバランスの格差が生まれる。

 

 そこに戦前戦中の対立構造を持ち越したままであるのならば、また自身が記憶している各国の余力具合の推定値が間違って無ければ、旧西側諸国にそのパワーバランスが大きく傾いている可能性が高い。

 

 連中は平等だ民主主義だなんだかんだと喚き散らしているが、その本質は自己利益の追求であり、そのためならば他者を平然と蹴落とし、如何なる犠牲にも見向きもしない。

 

 犠牲となるのは自分達ではないのだから。

 

 

 別にその事を非難する気は毛頭ないし、怒りの感情が湧くこともない。

 

 

 国家とはそういうものだし、自分達だって同じ事を繰り返して来た過去があり、人類の歴史とはその繰り返しの上に成り立っている、血みどろな歴史の果てに、今がある。

 

 自分だって、今の地位にて似た決断を下したことも、一度や二度ではない。

 

 

 今更偽善者を気取るつもりはサラサラ無い。

 

 

 だが、悔しいという気持ちはある。

 

 

 軍は弱体化し、経済を回復させて支えるだけのポテンシャルがあるにも関わらず、それを活かすことが出来無いという、生まれ故郷たるかつての祖国が味わったであろう屈辱と、その惨めさに。

 

 

 そしてその影で起きたであろう政治的な取引や暗闘。

 

 

 具体的に何が起きたのかまでは、予想のしようがないが、その際に新型誘導弾Белорусская(バグラチオン)の存在が抹消されたか、或いは()()()()か。

 

 

 戦後処理というのはいつの時代でも、勝敗による垣根など関係なく難しい課題だし、大概一悶着が付き物だ。

 

 万人を納得させられるだけの条件など、“あちらを立てればこちらが立たず”の言葉が示す通り、まず纏まらないし、どこかで妥協しなくてはならないが、その妥協でさえ纏まるまでに相当な困難を伴う。

 

 それが国家総力戦を伴う大戦争の果てであれば尚更である。

 

 最悪の場合、同国人同士で相争う事だって充分にあり得るし、それ以外にも戦争が齎す影響というものは長く尾を引く。

 

 そのことも歴史上に前例が幾つも見付かる。

 

 

 例えば先の大戦における東ヨーロッパ戦線、所謂ロシア東欧紛争は、停戦交渉時に戦後処理の一環で戦場となった東ヨーロッパの東側地区の処遇をどうするかとなった際に、一番揉めたと聞いている。

 

 

 戦争で荒廃したこの地区を、双方共に押し付けあったのだ。

 

 

 復興となると破壊された電気、ガス、上下水道、通信に道路や橋などの生活に関わるインフラを復旧するだけでも相当なカネが必要となり、戦争で双方莫大な戦費を消費し、経済も国庫も厳しい有り様だったため、面倒事を抱え込みたくなかったのだ。

 

 

 だがロシアは戦時中に南部穀倉地帯の死守と共に、東欧におけるロシア系住民の保護を大義として掲げていた経緯もあり、*1ロシアへと編入することになった。

 

 

 民意ということもあり、最初は編入に賛同していたロシアの民衆であったが、彼らの想像以上に荒廃した現地とロシア系住民以外の人間も抱え込む事で、世論の分断が起きて荒れることとなった。

 

 

 この時はПутина(プーチナ)前大統領の尽力もあり、最悪の事態だけはなんとか免れた。

 

 とはいえその後に続いた経済の低迷などの社会不安による混乱といった、気の抜けない戦後処理に追われて体調を崩し、大統領職から身を退くことになってしまったが、彼女のお陰で諸外国、特に西側から付け入られる事態はなんとか回避することが出来た。

 

 

 しかし、この当時の影響は十年以上経った今現在もまだ続いており、頭の痛い問題だった。

 

 

 規模で言えばガミラス戦役はこの紛争を遥かに上回り、国土への被害を緒戦での国境近辺に限定出来、その後は押し返せたこちら側と違い、地球全土が文字通り焦土と化したのだ。

 

 

 これで揉めない方が寧ろ可怪しい。

 

 

 思うに、何らかの内紛が起きていた可能性が高いと見ている。

 

 

 それがどれ程の規模であるかまでは分からないが、その影響で消えたものや隠蔽されたものは少なからずあっただろうし、どさくさ紛れもあっただろう。

 

 その中に戦時中の醜聞に纏わる情報もあれば、Белорусская(バグラチオン)などの兵器が含まれている可能性も、ゼロではない。

 

 

 …もしかしたら、祖国は地球連邦政府に対する不信感と不満から、面従腹背の方針を決めたのかもしれない。

 

 

 まぁ全ては憶測の域を出ない、妄想の産物であるが。

 

 

 それにかつての祖国に思いを馳せるのも悪くはないが、今の自分には立場というものがあり、目の前の問題をまずは解決しなければならない。

 

 

「«貴女が持っている新型誘導弾を~、もしもですがサンプルとして一発お譲り頂けるのでしたら~、その謝礼と先に申し上げましたお詫びも兼ねまして~、バグラチオン弾頭の完成品各種10,000発分を進呈致しますよ~»」

 

 

 …成る程、今の所は完全コピーが出来ていないのか、やらなかったかは判別が就かないが、彼女の手元にはまだ無い様である。

 

 

 まぁそれはいい。

 

 

 だが彼女の申し出は魅力的ではあるものの、受け入れる訳にはいかなかった。

 

 

 

「…貴女の申し出はとても魅力的ではありますが、丁重にお断り致します」

 

 

 

 自国産業の保護を考えたら、彼女の申し出は初めから受け入れる事が出来無い物だった。

 

 先の戦争にて一部兵器の構成部品に海外からの輸入品を使用していた影響で、戦争勃発と共に流通が妨害され、国産による代替品の供給が開始されるまでの一時期、兵器生産が滞る事態が発生していた。

 

 この教訓から多少性能が低下しようとも、軍を支える基幹兵器類に関しては完全国産による安定供給態勢を構築する政策が執られた。

 

 

 

 更には戦後政策の一環として、新たに成立した新ロシア連邦(NRF)の一部となった荒廃した東欧諸国の雇用対策に重工業の下請け工場の建設を進めた。

 

 

 失業率と治安状況は密接に関わっている。

 

 

 失業者が増えれば浮浪者が都市に溢れ、日銭やその日の食糧を求めての犯罪者が増えて治安が悪化し、衛生状態の悪化と社会不安へと繋がり、地域経済の活動に悪影響を与えて更なる失業者を排出する。という悪循環の構図が出来上がる。

 

 かと言って計画性の無い下手なバラ撒き救済政策は社会保障費用を悪戯に増大させ、国庫への負担が青天井に膨れ上がって他の予算を圧迫するか、下手な国だと安直に増税へと走ってより経済を悪化させて一層社会不安を加速させる。

 

 紙幣の供給を増やすにしても、やり過ぎると数年後にインフレーションの軍勢が大挙として襲撃してくる。

 

 そもそも領域が拡大した影響で養わなければならない国民の総数が増え、経済格差の問題や税制度の見直しの事務手続きもしなければならないが、荒廃した新領土の復興にカネがいくらあっても足りないのだ。

 

 しかしだからといって時間が掛かり過ぎると人身の不満が蓄積し、混乱を生み出す原因にもなって、諸外国に付け込まれる隙となる。

 

 それが当時政府とПутина(プーチナ)前大統領が最も恐れていた事態であった。

 

 

 事実、当時西側が不穏分子を煽る工作を仕掛けて来ていたとする、断片的ではあるものの証拠を掴んでいる。 

 

 

 不穏分子を使ってロシア国内を混乱させ、更なる国力の浪費を狙い、尚且つその混乱を利用して新ロシア連邦(NRF)に組み込まれた東欧地区から難民や移民という形で人を国外へと離散させ、より復興を遅らせて更に国力を浪費させる悪循環を狙っていたのだろう。

 

 だからこそ、西側は停戦交渉で当事者たる東欧の頭越しという無茶苦茶なまでの強引さで押し付けてきたのだろう。

 

 

 前大統領は人心を落ち着かせるためには、兎も角何かしらの仕事を与える必要があると考え、安定した産業を根付かせて経済の循環を促す構造の構築に取り掛かった。

 

 

 その一つが下請け産業だった。

 

 

 国策として国産の促進を促してはいるものの、国内だけでは完璧に賄い切れない、時間の掛かる部分も少なからずあった。

 

 それを補い、また下請けであっても互いに必要とし合っている構造を分かりやすい事実として示すことで、互いの融和を促す事も狙っていた。

 

 

 多少時間は掛かったが、それが漸く安定軌道に乗ってきたばかりなのだ。

 

 

 だがここで彼女が参入してくると、安定しだした経済循環の流れに対して予期せぬ影響となる恐れがあった。

 

 特に人件費や設備投資の初期費用を勘案すれば、後々に価格競争でまずこちらは太刀打ち出来ない。

 

 それらを理解し、こちらの統制をある程度容認いてくれたとしても、今度は新たなолигархи(オリガルヒ)、新興財閥の様な存在となったら目も当てられない。

 

 かつてのソ連崩壊後の経済悪化の悪夢を、ロシアの民は忘れてはいないし、政府、特にПутина(プーチナ)前大統領から引き継いだ現大統領のКуту́зов(クトゥーゾフ)閣下も警戒している案件である。

 

 

 当時のолигархи(オリガルヒ)による不正と汚職は目に余るものがあり、また連中を通してこの国の地下資源を適正価格を無視した二束三文で買い叩き、暴利を貪った西側政財界の連中を、ロシアの民衆は末代まで呪う程までに憎んでいた。

 

 

 兎も角、我が国の経済をより安定させ盤石なものとする為にも、不確定要素は可能な限り排除しておきたかったし、我軍の主幹兵器関連となると、その製造に関わる人間の人数は少なくはなく、経済へと及ぼす影響も小さくはない。

 

 

 その事は彼女も見越していたのだろう。

 

 代案としてБелорусская(バグラチオン)弾頭の改良案に関するデータの無償提供と、帳簿に残せない様な表沙汰に出来無い非正規軍需物資の製造を申し出て来た。

 

 

 これは心揺らされる申し出と言えた。

 

 

 西側がこちらに裏工作を仕掛けていたように、我々も西側に対して裏工作を仕掛けており、その中には現地の反政府勢力への軍需物資の横流しも行なっていた。

 

 だがこれには軍の余剰備蓄装備品であったり、メーカーに正規発注に紛れ込ませてこっそり余分に発注したりと、どこかから調達したという痕跡が残ったりするものであり、そこから辿られる危険性が常に付き纏う。

 

 記憶にございません(知らぬ存ぜぬ)を貫き通すとはいえ、マックロクロスケな腹の中(痛くない腹)を探られるリスクは少しでも下げたいものである。

 

 

 なによりも心惹かれた弾頭の改良案、一応の完成を見ているとはいえ、多弾頭弾Белорусская(バグラチオン)の本当の完成型、艦娘となった自身が装備していた誘導弾としてのБелорусская(バグラチオン)を内包したタイプ──。

 

 …少々ややこしいので便宜上、ミサイル弾頭の艦娘用砲弾散布型Белорусская(バグラチオン)А(アー)型とし、私が装備していた誘導弾Белорусская(バグラチオン)装備型をБ(ベー)型としよう。

 

 このБ(ベー)型は少々開発が難航しており、このままだと開発費の高騰から開発中止の可能性すら有り得るから、内心でかなり焦っていた。

 

 А(アー)型は分離散布後に艦娘用砲弾が自由落下するだけの簡単な仕組みなのだが、Б(ベー)型は分離後に誘導装置と推進装置が起動するプロセスがあるのだが、推進装置は兎も角、分離し散布した後に誘導装置のセンサー範囲内に目標が収まらず、明後日の方向に飛翔する問題があった。

 

 これは分離後の散布範囲が狭いと推進装置の噴射炎が原因で僚機が誘爆するリスクを回避するために、意図的に散布界を広げた結果発生した弊害だった。

 

 であるならば、センサー範囲を広げれば良いのだが、艦娘の装備や兵器というのはそのサイズが小さい分、繊細で細工が非常に難しい代物だった。

 

 また厄介なことに、艦娘の艤装並びに各種装備の整備保守点検や製造、改造を司る存在であるсказочный(妖精)達ですら、本来の使用方法から外れているからと、四苦八苦して殆どお手上げ状態だった。

 

 

 そのため散布方法の見直しを含め、様々な方法が検討されてはいるが、その悉くが上手くいかず、いっそ専用の運搬用ミサイルを新開発したほうが良いのではないか?との意見も出ていたが、こちらも予算の壁に阻まれている有り様である。

 

 

 もしもこの状況を打開出来るのであれば、藁にも縋りたいというのが本音であった。

 

 …まぁ、これに関しては完璧に私情であると明言しておこう。

 

 

 とはいえ、情報提供ならば私の一存でも対応可能だ。

 

 

 善意の情報提供を精査して然るべき(スジ)に提出し、後は良しなに。それで“世はすべて事もなし”である。

 

 問題があるとすれば、その代価としてサンプルと資料を提供することで、他国に流出しないか?という点にある。

 

 …これに関してはこれからの話し合いで見極めるとしよう。

 

 それと非正規軍需物資に関しては一度大統領と掛け合う必要がある。

 

 ご多忙であるため予定を捩じ込む事に引け目を感じるが、事が事なだけに、後回しにするのも問題になりそうだ。

 

 ただでさえ()()()西()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 掻き乱せる手段が増やせるのであれば、増やしておくに越したことはない。

 

 

 そういうわけで、回答は一度持ち帰って検討した後に改めて、ということとし、要望に答えられるように尽力する旨を伝えた。

 

 

「«良きお返事がくることを期待しておりますよ~»」

 

 

 と、そうこうしている内にヒジカタ達の話し合いが終わったようだった。

 

 

 もう少し時間が掛かると思っていたが…、って、なんですと?

 

 

 ()()()()()()()()()()使()()()

 

 

 ハハハ、御冗談を…。…マジ?

 

 

「«アハハ…、なんかそんな事になっちゃいました…、アンドロメダです…。

 

 あの、その、よろしくお願いします…»」

 

 

 そう申し訳無さそうに頬を掻き、ペコリとお辞儀した、アンドロメダと名乗った金髪の女性。

 

 お辞儀した拍子に、彼女の後ろに居た者達が映り込み、思わず声を上げそうになった。

 

 そこに居たのは深海棲艦の中で、上位に君臨する者達と目される、принцесса()と呼称される存在達。

 

 なのだが、一人は申し訳無さそうに、一人はにこやかに、小柄なのがなにやら声援を贈っているという、なんだかよく分からない状態が映し出された。

 

 その脇で、アンドロメダと名乗った女性とよく似た服装の者が蟀谷(こめかみ)を押さえているが、それは一先ず置いとくとして…、あ、ヒジカタ司令が頭痛をこらえる様に眉間を揉んでいる。そしてマシツマは固まってる…。управляющий фабрикой(工場長)は笑い転げて…、誰かに頭シバかれた…。

 

 

 

 …敢えて言おう。

 

 

 

 どうしてこうなった!?

 

 

 

 

 カオス過ぎる話し合いは、ここからが本番だった。

 

 

 

 

*1
戦争そのものの原因は地球寒冷化と農業を始めとした食糧生産政策の自滅的な失敗によるヨーロッパの食糧不足にあり、比較的寒冷被害がマシだった東欧でもヨーロッパ全域をカバーすることは不可能であったため、その不足分を補う目的でロシア南部穀倉地帯が狙われた。

 

 当初は外交交渉による話し合いでなんとか解決する道を模索していたのだが、ロシア自身も自国民を養うので精一杯な状態であり、話し合いは決裂。

 

 そこに以前から問題となっていた、東欧でのロシア系住民に対する事実上の人種隔離政策(アパルトヘイト)が、国内問題から目を逸らす目的で急激に過激化し、開戦後にはより露骨さを増してジェノサイドが発生していた問題と、その事実を西側を中心とした国際社会が公然と無視するどころか、寧ろ唆しているとしか思えない行動が見られたため、ロシア国内で東欧のロシア系住民保護を求める気運が高まっていた背景があった。





飛行場「出来る者に任せた!」

泊地「ほんとうにすみません!」

駆逐艦「お姉さんガンバレ〜!」



 ネタバレですが、速射魚雷を強化して後々に板野サーカスをやりたいがために、今回の捏造設定満載の話を捩じ込みました。

 個人的に速射魚雷って近接防空ミサイルのRAM的な要素が強い気がするけど、近距離での対艦戦闘でばら撒かれたら、敵艦にとってはたまったもんじゃない攻撃になりそう。多分相手の迎撃システムが一瞬の間だろうけど処理能力の限界を超えて飽和し、フリーズしてパルスレーザーよりも(ケースバイケースだろうけど)嫌がられそう。


補足説明

ロシア南部穀倉地帯
 
 ウクライナからシベリア南部にかけてポントス・カスピ海草原に分布する、チェルノゼムと呼ばれる肥沃な黒土大地があり、ロシア南部は世界最大規模の穀倉地帯を有し、輸出にも力を入れています。

 小麦の生産量では中国とインドに次いでいますが、輸出量は世界一です。因みに2位はアメリカ、3位がカナダ、4位がフランス、5位がウクライナとなっております。

 ただ国内消費量の割合も大きく、本作では寒冷化の影響で輸出に回せる余裕が少なくなった事も、食糧不足による大戦勃発の切っ掛けとなりました。

 寒冷化⇒生産量減少⇒ロシア小麦国内消費優先⇒小麦輸出量減少⇒ロシア小麦最大輸出先のアフリカ圏で食糧不足⇒食糧難民発生(+アメリカの中東侵攻による戦争難民も追加)⇒ヨーロッパ圏への流入⇒ヨーロッパの更なる食糧不足。

 大体こんな感じ。


олигархи(オリガルヒ)

 ソ連崩壊後、ロシア連邦成立後の経済の民営化を通じて急速に富を蓄積した新興財閥の大富豪達。

 その成立過程で政府や官僚機構との癒着、元々がソ連時代の赤い貴族、ノーメンクラツーラだった者達であり、深い繋がりがあったため、腐敗の温床となっていた。
一部Wikipediaより抜粋




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第63話 Falling star

 
 隕石、或いは流星、流れ星。


 皆様朝晩の冷え込みによる体調の急変にお気をつけ下さいませ。私は先月末より体調を崩して休日は寝込んでおります。


 …徳川機関長の御歳のこと、すっかり忘れてました。計算したら本作中71歳。いくらなんでも老体にむち打ちすぎた。
 ですので、急遽助手となる艦娘を登場させます。

 それと3〜5話分くらいを1話に圧縮して詰め込んだ為、タイトルとの齟齬が発生しております。


 

 なんやかんやあって全権大使みたいな役割を任せられました、アンドロメダです。

 

 

 …はい、ちゃんとご説明致しますと、土方司令が駆逐棲姫(お姉ちゃん)達深海棲艦との停戦交渉についてと、ファーストコンタクトからの一連の流れについてを、日本の真志妻大将と新ロシア連邦(NRF)のミロスラヴァ国防相こと同郷のスラヴァさんに打ち明けても良いか?と尋ねられた際なのですが、飛行場姫さんが今この場所に居る自分達深海棲艦は、謂わば前線基地の守護を担っている者達であり、外部の人間、文字通り自分達の領域外の世界の人間とは話し合った経験が無く、マトモなノウハウが無いために適切な話し合いが出来るとは言い難いため、この後の話し合いに関しては私に一任したいと仰ってまいりました。

 

 流石にそれはどうか思いましたが、貴女はもう殆ど同胞(はらから)も同然だし、今更裏切るマネが出来るほど器用な性格じゃないでしょ?と少し反応に困る言葉が帰ってきました…。

 

 一応、飽く迄も一時的な緊急措置であり、フォローもちゃんとするからと説得されましたが、昨日今日やって来た新人の様な存在の私に任せて良いようなお仕事ではない気も…、って言いましても今更ですよね…。

 

 兎も角、任せられたからには精一杯の事をするまでです。

 ここで頑張ったらお姉ちゃんに頭を撫でて褒めて貰えるかもしれませんし。

 

 

───────

 

 

 飛行場姫としては先に述べた、外部の人間との話し合った事が無い云々という言葉に嘘偽りはない。

 

 より正確に言えばマリアナ諸島は日本による南進への備えを念頭に置いた軍事拠点であり、大陸と近くて食糧生産と交易の一大拠点であるインドネシアと違い、物理的にも外部の人間と接触する機会が無かったのである。

 

 

 だが一番の理由は“繋ぎ”だった。

 

 

 確かにアンドロメダを新たな同胞(はらから)として受け入れる事は、上位種たる姫達の会合、“円卓”によって決定された事柄ではあるものの、それは“客人”、特に“賓客”レベルとして扱うとの意味合いが強いものだった。

 

 飛行場姫もそれに賛同的な考えであったが、当の本人であるアンドロメダと妹のアポロノームは、2人揃って仕事を求める願い出をしてきた。

 

 この願いに飛行場姫は別に居候でもいいじゃないと思ったが、どうも2人はそれを良しとせず、何かしていないと落ち着かない性分の様であった。

 

 これには正直飛行場姫も頭を抱えた。

 

 とは言うものの、仕事を割り振るのも簡単にはいかない。

 

 一応、後方担当業務のアドバイザーをお願いする事で話は付いているが、関係部署との打ち合わせやらなにやらを済ませなくてはならないため、今直ぐにどうこうできる問題ではなかった。

 

 そのためそれらの事務手続きが終わるまでの間の“繋ぎ”として、早急に必要だけどちょうどいい人材が居なかった、外部の人間との折衝を行なう役割を任せてみようと思い付いた訳である。

 

 …賓客扱いである者に対してそれはどうなのか?とのツッコミがあるかもしれないが、正直なところ先にも述べた通り、他に人が居ないという背に腹は代えられないという世知辛い事情があり、また彼女が現われた事で急激に動き出した今の状況から外との話し合い、特に公の立場の者達との交流がこれから増えることを鑑みるに、あまり悠長に出来無い事情もあった。

 

 事実、今回の話し合いが始まってからというもの、話についていけずに殆ど蚊帳の外状態であり、この事に飛行場姫は軽く危機感を覚えていた。

 

 いずれ専属の役職として設ける必要もあるだろうが、一朝一夕でどうにかなるものでも無いため、暫くは暫定という形で彼女に頑張ってもらうしか無く、その間に彼女の下で学ばせるというのも悪く無い。

 

 それに彼女との誼で友好的な繋がりが構築出来たのならば、それを活かしての人材交流により経験を積ませる機会が生まれる事にも繋がる。

 

 

 今はまだ“捕らぬ狸の皮算用”の様な考えかもしれないが、将来を見据えたら確実に現実化しなければならなかった。 

 

 

───────

 

 

 飛行場姫の考えは取り敢えず置いておくとして、多少の混乱はあったものの話し合いは一気に進んで行った。

 

 

 一番問題となったのは、矢張というべきかパンデミック関係の事である。

 

 情報の一部にガミラス由来の物があったことにミロスラヴァ(スラヴァ)は一瞬不快感が表情を見せたが、内容の深刻さに個人的な感情を押し殺し、ガミラスに苦杯をなめさせられ続けた巡洋艦スラヴァとしてではなく、新ロシア連邦(NRF)の未来を考える軍政家、国防相ミロスラヴァとしての思考へと完全に切り替えた。

 

 

 ミロスラヴァは当時何が起きていたのかまでは、この世界に存在していなかったのだからよく知らないが、連邦保健省関係者から簡単なレクチャーは受けていた。

 

 幸いと言ったら不謹慎かもしれないが、このパンデミック騒動に当初から不信感を抱いていた当時の大統領プーチナと政府は独自路線を貫いており、(くだん)の新型薬物は国内では流通しておらず、当時海外に渡航していて、その渡航先でやむを得ず投与された者達以外には使用されていない。*1

 

 但しそれは旧連邦圏に限った話であり、現在の新連邦圏西部国境地帯、つまり先の大戦後にロシアへと編入された旧東欧東側地区は別であり、この地域を中心に説明にあった免疫疾患による疾病や死亡、染色体と遺伝子の異常が急増しているとの報告を聞いていた。

 

 最初は大戦中に使用された劣化ウラン弾や流出した化学物質の類いが原因ではないのか?との推測がなされていたが、軍事的同盟関係にあるインドやトルコ、友好国ブラジルなどの南米各国や南アフリカなどあちこちの国と地域でも類似した事態が報告されており、更に西側でも彼らの政府は否定してはいるが同様な事態が起きている事が確認されたため、兵器武器弾薬や化学物質の残留物による汚染が原因とする説は否定され、これらの地域で共通することを絞り込んだ結果、またこっそり裏ルートで入手した新型薬物のサンプルを使った実験や分析、そして諜報活動によって得た情報を整合した事により、この新型薬物による薬物汚染が原因であるとの結論を出した。

 

 

 だが、そのことを公表したとしても、状況が改善されるような解決策までは今現在でも目処が立っておらず、その様な状態で下手に公表したら旧東欧東側地区の新たな社会不安の火種になるとして、公表に踏み切れないでいた。

 

 

 工場長はこの事を掴んでおり、染色体と遺伝子の異常に関しては一時棚上げとするが、免疫疾患をある程度改善可能な体質改善を目的とした薬剤の開発が可能であり、供給することが出来ると明言した。

 

 これは先にインストールしていたデスラー親衛隊旗艦キルメナイムから提供されたデータを、自身のメインフレームで解析し、シミュレートした結果出て来た答えであった。

 

 これに対してミロスラヴァは直ぐ様飛び付く事はせず、安全性の担保は大丈夫か?との疑問を呈し、工場長は親衛隊による実験データや、自身が行なったシミュレートによる計算では問題は無いと答えた。

 

 しかしミロスラヴァからしたら、事の発端が薬物汚染が問題の根本原因である以上、また提示されたデータが純粋な地球人を対象とした物ではなく、地球人と酷似した異星人を対象にしたデータであることに少なからず不安を覚え、本当に大丈夫な代物だとの確信が持てず、慎重にならざるを得なかった。

 

 とは言うものの彼女自身の専門は飽くまでも軍事分野が基本であり、医療分野に関する専門知識はそれ程高くはないため、結論は持ち越された。

 

 

 一番揉めると思っていた深海棲艦との休戦、和睦に向けた話は、逆にかなりスムーズに受け入れられた。

 

 日本サイド、真志妻は最初からそのつもりだった事もあるが、昨日今日という短期間の内に深海棲艦とのコンタクトに成功し、しかもとんとん拍子に上手く話が進んでいた事に驚きを隠せないでいたが、それでもこの事に手を叩いて喜びを露わにした。

 

 新ロシア連邦(NRF)サイドも、以前からロシアン・マフィアを介して交易が行なわれていた実態があったがために、深海棲艦に対する政府としての忌避感はあまり無いこと、それに深海棲艦による直接的な被害が無かった訳では無いが、経済そのものが西側からの経済制裁を受け続けていた影響もあって、殆ど自己完結型の経済となっていたこともあって、経済面における被害が限定的に抑えられており、国民感情も深海棲艦は西側を掻き乱してくれる“敵の敵”と言える存在との認識が強く、然程悪感情を抱いていなかった。

 

 そもそも新ロシア連邦(NRF)の周辺海域では深海棲艦の活動が活発では無かったことも大きい。

 

 これは『ダーダネルス海峡攻防戦』での痛手から、狭い海峡を通過する際のリスクを恐れてバルト海や黒海への侵入を試みることに対して深海棲艦が消極的となったこと。*2

 

 北極海方面は拠点となり得る目ぼしい場所も無く、なによりも寒過ぎる。

 

 アラスカのダッチハーバーは日米の連絡線を分断するという明確な戦略的メリットの理由があったが、その維持だってかなり苦労している。

 

 しかし北極海にはその様なメリットが無い。

 

 一時期太平洋方面のカムチャツカ半島周辺に対して偵察部隊を派遣し、太平洋艦隊の動向を探るべく同地のペトロパブロフスク・カムチャツキー基地の新ロシア連邦(NRF)軍と小競り合いをしていたこともあったが、最近は警戒線の外側に潜水艦部隊で編成された、小規模な偵察部隊を派遣しているくらいである。

 

 時折それとは違う深海棲艦と新ロシア連邦(NRF)軍が遭遇することもあるにはあるが、それは深海棲艦の中で“はぐれ”と呼ばれる、本隊から離脱して独自に活動している少数グループの者達が殆どであり、それ程脅威とはなっていなかった。

 

 “はぐれ”の存在に関しては、飛行場姫から説明がなされ、彼女達は自分達上位種による統制下から離れてしまっており、その行動については殆ど関知出来ず、迷惑を掛けているのであれば処遇は任せると明言。

 

 無責任に聞こえるかもしれないが、自分達の領域外までカバーするというのは出来ない相談であるし、最悪侵攻と捉えられての武力衝突事態による無計画な戦線拡大へと発展するリスクは、只でさえ現状の戦線の維持すら手に余りつつあるのに、これ以上の負担増を招く事は犯せなかった。

 

 今後正式な休戦となれば、基本的に日露の領域内での軍事活動を行なう必然性が低下し、もしも領域内を通過するならば事前に連絡を取り合うなどの取り決めを決めて、“はぐれ”との見分けを可能な限り容易なものとし、発見次第()()してもらっても構わないとした。

 

 ただこれは深海棲艦の無害通航に関する権利をどうするか?との問題が出てくるかもしれないとして、後々の課題として今後煮詰めていくこととなった。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)としても深海棲艦との休戦はメリットがあった。

 

 いずれ再開する予定である北極海航路において発生するリスクが低減するならば、またアジアへの貿易活動が再開できる見込みが立つ。

 

 確かにアジアは国家の崩壊や無政府状態が長らく続いてはいるが、人の営みが無くなった訳ではなく、幾つもの共同体が形成されており、それらが離散集合を繰り返しているものの徐々に安定する兆しが見え始めていた。 

 

 現地の生産能力を鑑みたら、充分に食い込める余地があると見ていた。

 

 問題はベーリング海、アラスカのアメリカ軍だが、アリューシャンが深海棲艦の手中にあるという、ナイフを喉元に突きつけられた状態でちょっかいを出してくるとは考え難かった。

 

 

 そしてその深海棲艦と貿易相手として堂々と交易出来るようになれば、かなり美味しい取り引きが期待できるし、事実その試算が以前からなされていた。

 

 寒冷化により低下していた食糧生産も現在では持ち直しており、輸出するだけの余力も回復しつつあった。

 

 そのため黒海方面から船舶を使って食糧を輸出することも出来るし、表向きは食糧不足に喘ぐアフリカ圏への輸出であり、直接的な取り引きはやっていないとの方便も可能だ。

 

 西側は反発するだろうが、彼らは彼らで()()()()()()()()()()()()()()()()、まぁそれ程心配する必要もないだろう。

 

 なにせこれから西()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

 その事を聞かされて驚きを隠せない日本と深海棲艦に、ミロスラヴァは意地の悪い笑みを浮かべながら、詳しいことは後日お話しますと約束し、今は、そう、これから行なう世紀の“大芝居”をどうするかが先決であるとして、話を切り替えた。

 

 

 曰く、()()()()()()()()()()()()()()()が切っ掛けとなって発覚した深海棲艦による艦娘と()()との奇跡の共存、そこから出来た“縁の繋がり”という大芝居の演出するためについて。

 

 

 

───────

 

 

「な、なんとか終わりました~…」

 

 

 アンドロメダは突っ伏す様に脱力した。

 

 

 一応の大枠が纏まり、ミロスラヴァは今回のことを大統領に上げて裁可を得る必要があるとし、ものがものなだけに連邦安全保障会議の発議にかける事になるかもしれないから、正式な返答に数日、遅くとも一週間は待ってほしいとした。

 

 ただ何が何でも賛同を得るために尽力する事と、工場長に提示された薬剤のデータを回して欲しいと告げ、工場長はこれを承諾。

 

 しかしあまりにも膨大なデータに彼女が持つタブレット、ガミラス戦役時代の古いタブレットでは処理能力が不足するとしてこの後UX-02(ベオ)が新しいタブレットを持って次元潜航にてお邪魔することとなった。

 

 また最初彼女が土方達を引き渡してほしいと真志妻へと要求したことは、一旦取り下げるとも告げられた。

 

 

 それに安堵の色を見せた真志妻は、基本的には今後も土方達に任せる姿勢ではあるものの、情報のやり取りをより綿密にするためにも、今回Ташкент(タシュケント)経由で貸してもらったタブレットの継続貸与を願い出て、ミロスラヴァも了承仕掛けたが、これに工場長はもしかしたらそちらにも何らかのデータを回すことになるかもしれないからと、こちらにもUX-02(ベオ)が後ほどお邪魔することとなった。

 

 

 ここで今回の話し合いは終了となり、通信画面は閉じられた。

 

 

 そしてそのタイミングでアンドロメダは気が抜けたのである。

 

 

「お疲れ様です。お姉さん」

 

 

 早速と言わんばかりに駆逐棲姫がアンドロメダを労い、突っ伏した事で乱れた髪を梳く様にして優しく撫でてあげ、それを気持ち良さそうに目を細めて受けるアンドロメダ。

 

 

 皆一様に疲れた顔となっており、思い思いに緊張感を解いていた。

 

 気が付けば時間は昼過ぎに差し掛かりつつあった。

 

 昼食のことすらすっかり忘れてしまっており、今更ながら思い出したかのように体が空腹感を訴え出した。

 

 飛行場姫は昼食の仕込みをすっぽかしてしまった事に慌てるが、腰が抜けたかのように体が動かず、諦めて大の字となって地面へと寝っ転がった。

 

 呼び出しが無かったことから、他のみんなが気を利かせてくれたのだろう。

 

 そう思っているとサンドイッチを乗せたカートを押してくる泊地棲姫とアポロノームの姿が目に入った。

 

 途中、何人かの同胞(はらから)達が様子を窺いながら置いて行ったそうだ。

 

 少し申し訳ない気持ちになりながらも、せっかくの好位を無下には出来ないとして、早速頬張った。

 

 

「しっかしとんでもない“大芝居”をうつことになりそうねぇ…」

 

 

 先ほどの話し合いの内容を思い出しながら、よくこんな悪知恵が思い浮かぶものだと呆れた口調で呟いた。

 

 

「ですが、上手く行けば堂々と大手を振って世間を闊歩出来る様になるかもしれませんよ?」

 

 

 お茶を一口飲んで喉を潤していたアンドロメダがそう返すも、飛行場姫としたら溜息しか出ない。

 

 バレたりしたら余計にややこしくなるリスクを孕んでいるのだから。

 

 

「なら上手く行きますようにと、今から流れ星さんにお願いしますか?」

 

 

 口いっぱいにサンドイッチを詰めていた駆逐棲姫が、ゴクンと飲み込んでそう言ったかと思うと、ニコニコとしながらアポロノームを拝みだした。

 

 それをよしてくれと言いたげに渋い顔となるアポロノーム。

 

 ミロスラヴァはアポロノームのことをметеор(ミチオール)、隕石と言い表した。

 

 確かにアポロノームが墜落してきたことから、今回のことは始まったと言える。

 

 そしてその落下のさまは隕石のようだったと言えなくもない。

 

 因みにметеор(ミチオール)には流星、流れ星を表わす言葉でもある。

 

 隕石とは大気で燃え尽きなかった星のカケラであり、流れ星は燃え尽きた星のカケラである。

 

 アポロノームから言わせてみたら「流れ星だと俺燃え尽きなきゃならねぇじゃねぇか!」と、些か縁起が悪く思えたのだ。

 

 別に駆逐棲姫に悪気がある訳では無いことくらい、アポロノームは理解しているし、流れ星に願い事をする風習があることくらい知っている。

 

 まぁその風習が深海棲艦にあることには驚いたが。

 

 

 だが本当に願いたいのはアポロノーム自身だった。

 

 

 何故ならこれから始まる“大芝居”のキーパーソンは、何を隠そうこのアポロノームなのだから。

 

 

 

 そしてこの日より三日後、スラヴァ(ミロスラヴァ)から連絡が入ってきた。

 

 

 薬物汚染に対する体質改善薬剤に関しては、安全保障会議でかなり紛糾しており、調整に今暫く時間を要する事になりそうだが、それでも最終的な決定権は国家元首であるАлександр(アレクサンドル) Куту́зов(クトゥーゾフ)大統領にあり、ミロスラヴァの見立てでは、この一件を下手に放置したり長引かせた際の国益に対するリスクを真剣に憂慮しており、また他に有効な打開策が無いことからも供給を受け入れる方向で考えているとのことが伝えられた。

 

 

 そしてここからが本題である。

 

 

 『新ロシア連邦(NRF)政府は非公式ながら日本海軍真志妻亜麻美大将を首班とする深海棲艦との休戦及び和睦に向けた活動を支持し、水面下で共同歩調をとる』との趣旨が書かれКуту́зов(クトゥーゾフ)大統領本人の直筆サイン入りの文章を読み上げた。

 

 

 ここに真志妻大将の日本海軍、新ロシア連邦(NRF)、深海棲艦の三者は密かに戦争集結に向けて共同歩調をとるの密約を交わすこととなった。

 

 

 

 そして更に数日後───。

 

 

「それじゃぁオジキ、ちょっくら出掛けてくるよ」

 

 

 まるで「ちょっとコンビニにでも出掛けてくるよ」と言わんばかりの軽い感じで出発の挨拶をする霧島(キリシマ)に、土方は軽く頷いて返す。

 

 

「今ならばUX-02の陽動撹乱の甲斐もあって、警戒は手薄となっているが、気を付けてな」

 

 

 当初の予定と違い、UX-02(ベオ)本人が陽動作戦を行なうと立候補し、今現在も警戒網を引っ掻き回すために大暴れしていた。

 

 

 恐ろしいことに、今の所日本艦隊に戦死者が出たとの報告は一切来ていないのだ。

 

 これには報告を受けた関係者全員が舌を巻いた。

 

 作戦前、「死人を出すようなヘマはしねぇよ」と語ったその言葉は、決して大言壮語などでは無かった。

 

 

 それに、これはまだ一般公開されていないが、新ロシア連邦(NRF)の艦隊が宗谷海峡を通って太平洋ルートで小松島まで来航する情報が海軍内で伝達されたことで、若干ながら警戒部隊に混乱が生じたことも少なからず影響していた。

 

 ルートとして比較的安全な日本海から下関海峡を通る航路が予定されていたが、日本政府が何かと理由をつけて渋ったためにこのルートとなったと、関係各所には説明されている。

 

 

 まぁ、半分嘘なのだが。

 

 

 初めから太平洋ルートで航行することによって、警戒網の混乱を助長する腹づもりだった。

 

 しかしそれだと何故安全なルートを通らないのか?と疑問に思われて、そこから勘付かれる可能性があったために、わざわざ駐日ロシア大使Ники́та(ニキータ) Бори́сович(ボリソヴィチ) Ивано́в(イワノフ)を通じて日本政府に通告を出し、それに驚いた日本政府は新ロシア連邦(NRF)艦隊による万が一を恐れてしどろもどろな態度を見せたことで、すかさずИвано́в(イワノフ)大使がそれならばと太平洋ルートを提示した。ということになっている。

 

 

 兎も角、混乱しているこの隙を突いて、霧島(キリシマ)はいよいよマリアナ諸島へと向けて出発する。

 

 ただこの混乱によってどこもかしこも()()()()()()の大忙しとなり、また下手をすると目立つ可能性があるからと、この場には土方以外に霧島(キリシマ)を見送る者はいなかった。

 

 

 

 そして翌未明、霧島(キリシマ)は普段の制服とは違い、国連宇宙海軍のエンブレムの入った、一見すると宇宙服の様な、と言うか宇宙服でもある船外作業服に身を包み、ヘルメットを膝の上にのせて1人車椅子に乗って埠頭へとやって来ると、誰かがその場にいた。

 

 

「徳川さん?それに朝日さんも」

 

 

 そこに居たのは沖田の頼みでこの世界に土方や斉藤と共にこの世界へとやって来た1人、元『ヤマト』機関長にして、『キリシマ』の機関長でもあった徳川彦左衛門と、彼の右腕でもあり弟子でもある工作艦の艦娘、朝日であった。

 

 2人は夕方に出張先の佐世保から戻って来たばかりであり、今は部屋で休んでいるものだとばかり思っていた。

 

 

「なに、年寄りは早起きでな。朝の散歩じゃよ」

 

 

 いや、いくらなんでも早すぎるでしょ…。とツッコミを入れそうになったが、徳川の隣に立つ朝日が「なら私も年寄り扱いですか。そうですか」と口を尖らせ拗ねた態度を見せたため、徳川は「ああ、すまん…、そんなつもりは…」としどろもどろになったものの、「冗談ですよ」と朝日はクスリと微笑みながら返すと霧島(キリシマ)へと向き直った。

 

 

「お話は土方さんから聞き及んでおります。出立なされる前に、貴女の艤装を軽く見ておこうかと思いまして」

 

 

 そう言うと持っていた鞄を地面に置き、中から工具を取り出して霧島(キリシマ)の乗る車椅子を徳川と共に弄りだした。

 

 車輪が外されたかと思うと、中から『金剛』型宇宙戦艦などの旧世代型地球艦の特徴の一つでもある、丸みを帯びた特徴的な無砲身の砲塔、高圧増幅光線砲が出て来た。

 

 

 そう、この車椅子こそ、霧島(キリシマ)の艤装だったのである。

 

 彼女は普段から万が一の時は土方を守る盾となれる様にと、艦長席を模した椅子型の艤装であることを活かして車椅子に偽装していたのである。

 

 本当ならば出発前に一度見てもらいたかったのだが、出張から帰ってきたばかりで疲れているだろうからと、遠慮したのである。

 

 

 テキパキと艤装を弄る朝日だが、彼女は徳川の指導によって本来のスペックを上回る能力を発揮し、今や霧島(キリシマ)春雨(ハルサメ)姉妹の使用する艤装の整備が出来るまでになっていた。

 

 

 彼女は元々少々訳ありの艦娘であった。

 

 彼女は同一個体である他の朝日達と比べ、本来備わっているはずの能力値を下回っており、扱いに困って各地を盥回しにされていたのである。

 

 そんな折に徳川が彼女を引き取り、紆余曲折を経て、自身の年齢からくる体の衰えから万が一の為に備えて、自身の持つ知識と技術の全てを伝授することになったのである。

 

 その甲斐があってか、彼女は技術者としての才能が開花したのである。

 

 

 ただ「落ちこぼれを一人前に育て上げた」と軍内で噂となり、是非徳川から指導を受けたいとする申し出が殺到。

 

 そこから徳川の下で学ぼうとする者達が小松島へとやって来たり、徳川自身が日本各地へと行脚する始まりとなった。

 

 先の佐世保への出張もその一環であった。

 

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

「うん。こっちは特に問題なしです」

 

 

 メンテナンスハッチを閉じ、自身の工具を片付ける朝日。

 

 最早手慣れたもので、最近は殆ど朝日が艤装の整備を引き受けていた。

 

 体が衰えつつある徳川には、艦娘が使用する艤装を整備するのが年々難しくなっており、今では教育者としての活動に重きを置いている。

 

 だがそれでも一つだけ、エンジンだけはまだ不安があるとして徳川に最後のチェックを頼んでいる。

 

 

「うむ。こちらも大丈夫じゃな。ネジの絞め忘れもない」

 

 

 チェックを終えた徳川が、どっこらせと腰を上げる。

 

 

「大丈夫だとは思うが、忘れ物は無いか?あまり無理はするんじゃないぞ」

 

 

「ハハ、徳川さんにとっては私もまだまだコムスメみたいなモノですか?」

 

 

「長年苦楽を共にしてきた仲じゃからな」

 

 

 お互い笑い合うと、霧島(キリシマ)はヘルメットを装着し、すかさず朝日が気密のチェックを行なう。

 

 

「大丈夫ですね。

 

 それにしても、春雨(ハルサメ)さん達と違って一々気密服を着なくてはいけないのはホント不便ですよねぇ」

 

 

 朝日の言う通り、春雨(ハルサメ)達は普段の制服のままでも問題無いのだが、霧島(キリシマ)はこの船外作業服を着なければならないのである。

 

 これは世代差としか言い様がなく、春雨(ハルサメ)達ならば波動エンジンが生み出す有り余るエネルギーを利用し、波動防壁に似た膜を体や艤装の周囲に展開しているのだが、核融合エンジン艦であった霧島(キリシマ)にはそんな便利な装備は無かった。

 

 その事に苦笑しながらも、これ以上長居したら流石にそろそろマズイとして、出発する事とした。

 

 

 

 

「それじゃ、BBS-555キリシマ、抜錨するよ」

 

 

 

 そう言ってゆるゆるとした速度で埠頭を進み出すと、埠頭の先端部分からストンと落下したが、着水する直前に慣性制御によりゆっくりと、水飛沫を立てないように着水し、そのまま潜航して外洋へと向けて進み出した。

 

 

 

「さてさて。このまま予定通りに行けば万々歳何だけどねぇ…」

 

 

 暗い海の中を進みながら、霧島(キリシマ)はふとそう呟いた。

 

 

 出発する前日に、教え子であるアンドロメダが漏らしていた言葉が、霧島(キリシマ)の中で妙に引っ掛かっていた。

 

 

 

「私達は、パンドラの箱なのかもしれません…」

 

 

 

 その言葉の意味する所は何なのか?その時ははぐらかされてしまったが、耳に残って離れないのだ。

 

 

 まぁ時間はあることだし、焦ってもしょうがないさね。

 

 

 そう自分に言い聞かせながら、一路目的地に向けての航路へとその舳先を向けた。

 

 

 

*1
数年前に勃発した隣国との軍事衝突を理由に経済制裁を仕掛けておきながら、この新型薬物だけは特例だとして矢鱈と執拗に寄越そうとしていた事から、何かウラがあると警戒して慎重になっていたという背景がある。

*2
パナマやスエズの時は現地の政情不安からマトモに対抗出来るだけの軍事力が欠如していたことと、電撃的な侵攻による速攻によって早期に陥落し、増援が間に合わなかったことが大きく影響していた。





 …キング・クリムゾンし過ぎた感がある。次もキング・クリムゾンが起きますが。


 アポロノームがキーパーソンたる理由、『第8話 Find a way out of a fatal situation 後編上』の後書きがヒント。

 深海棲艦と和平結んだとしたら、海洋に関する各種の条約とか見直さければならなくなりそう…。いや、艦娘が軍に採用された時点で相当大変なことになってそうな…。

 考え出したらドツボにはまる…。


 霧島(キリシマ)先生の艤装はエゲレス戦艦艦娘ウォースパイトの艤装みたいな感じです。…まぁ車椅子に偽装はかなり無茶があると思いますが。


補足説明

無害通航

 外国船舶が沿岸国の安全などを害さないことを条件として事前通告することなく領海を通航すること。

 沿岸国の平和、秩序、安全を害さないことを条件として、沿岸国に対して事前通告をすることなく沿岸国の領海を外国船舶が通航することを指す。
 またこのような通航を保護するための当然の権利として、国際海洋法においては、内陸国を含め全ての国の船舶は、他国の領海において無害通航権を有するものとされる。

一方で領海の沿岸国は、自国の領海内において国家主権に基づき、領海使用の条件を定めたり航行を規制することができるが、他国の無害通航を妨害する結果とならないように、一定の国際義務が課される。

wikipediaより抜粋



北極海航路

 北極海を通り、ヨーロッパとアジアを結ぶ最短航路のうちの一つ。

 但しこの航路の大部分を占める北極海は海氷や流氷に覆われる季節が長く、航路として安定的に使い辛かったが、近年の気候変動により航行可能となる期間が年々長くなっている。

 この航路は、ソマリア沖やマラッカ沖の海賊や、アデン湾やマラッカ海峡経由の航路より短い上に治安も悪くなく、大型船舶でなければ、ロシア北方の資源をアジアやヨーロッパに運ぶのに適しているため、物流や地政学の面で注目されている。

wikipediaより抜粋





 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第64話 Флотвстреча

 艦隊集結 


 新ロシア連邦(NRF)パートで、ちょっと短めですが、おそらくこれが本年度最後の投稿になるかと思います。

 因みに、第58話の時に誤って先に書いてたと書いたのは、この話だったりしますが、内容に間違いがあったために書き直ししてました。


 

 

 その日、小松島港周辺は陸軍部隊による厳重な規制線が張られ、緊張感に包まれていた。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)海軍太平洋艦隊、小松島港に入港す。

 

 

 艦隊が日本へと派遣されることが正式に決定した当初、まだ日本国民に対しては公表されていなかった。

 

 これにはとある事情から、政府と軍も公表するタイミングを逃してしまったという理由があったとされている。

 

 ただウラジオストクから艦隊が出撃した当初より、SNSを中心に「有力な艦隊が日本に向けて出撃した。」「護送船団(定期便)の護衛艦ではない。」などなどの投稿がチラホラと出たりしていたが、同時期に太平洋側で深海棲艦が海軍の哨戒部隊に対して襲撃を仕掛け、普段の小競り合いよりも大きな戦闘が起きているとのメインメディアからの報道が出たことにより、大半の日本国民の関心はそちらへと傾いてしまっていた。

 

 なにせ「AL/MI作戦以来起きていなかった本土攻勢の前触れではないか?」との憶測がまことしやかに報道されたことで、東京壊滅の様な事態がまた起きるのか?と国民が半ば恐慌状態に陥ってしまっていたのだから。

 

 

 そんな状態での公表は、より混乱を助長するだけだと判断され、先延ばしにされた。

 

 公表されたのは戦闘が終息し、新ロシア連邦(NRF)艦隊が小松島港へと入港する前日だった。

 

 但し入港する理由までは明かされず、様々な憶測がSNSを中心に飛び交い、「日露両国の海軍による共同軍事作戦があるのではないか?」との正解を言い当てた予想が出たりもしていたが、大半の日本人はそれを誤情報だと思い込んで相手にはせず、「戦闘に巻き込まれたのではないか?」との予想が優勢であり、またメインメディアによる報道もそれに沿う内容が主流だった。*1

 

 しかしその直後に新ロシア連邦(NRF)の国営放送が、日本との共同軍事作戦を目的とした“()()()()()()”実施のために、今年開催される東部軍管区での大演習Восток(ボストーク)に参加するために準備中だったТихоокеанский Флот(太平洋艦隊)の一部から部隊を抽出し、派遣されたことを伝える特番と、それに関連したАлександр(アレクサンドル) Куту́зов(クトゥーゾフ)大統領へのインタビュー映像を放送し、また時を同じくして“総提督”真志妻亜麻美大将が海軍公式ソーシャルメディアを通じて新ロシア連邦(NRF)海軍との共同で作戦が開始される旨を公表。*2

 

 但し作戦の詳細に関しては機密事項であるとして両者共に語ることはしなかった。

 

 とはいえそれらを引用する形で日本のメインメディアも大々的に報道。

 

 

 それに前後して海軍は──真志妻大将と入港予定地である小松島鎮守府司令土方中将の連名で──陸軍に対し、報道を受けて過剰反応した跳ねっ返りによる抗議活動という名のテロ活動が起きる可能性を警戒し、小松島港周辺の警備を理由に出動を要請。

 

 この要請を承諾した陸軍は四国方面を担当する陸軍中部方面隊第14旅団に出動を下命した。*3

 

 旧陸自から続く迷彩服に身を包みながらも、一部の輸送トラックは別として、今までの戦いなどで損失した装備を補填する為に新ロシア連邦(NRF)から供与された、やや型落ちのBTR装甲車などのロシア製軍用車両に乗り、手にする小銃は連邦全軍へのAK-12の普及拡大に伴い、不要となり払下げ同然に供与されたKM-AK近代化改修モデルであるAK-74Mというなんとも皮肉な出で立ちの陸軍部隊が展開することとなった。

 

 また先日まで起きていた戦闘の事もあり、港湾を中心とした海域の海上警備として、小松島鎮守府所属の艦娘部隊や『はやぶさ』型ミサイル艇『わかたか』『くまたか』が交代で港湾の外で警戒に付いていた。

 

 港内には共同作戦に参加する日本艦隊の旗艦にして艦娘母艦『かが』と、今や貴重となった数少ない稼働可能な汎用護衛艦『むらさめ』型の『いかづち』と『あさぎり』型の『ゆうぎり』が投錨しており、現在『ましゅう』型補給艦『おうみ』が『ゆうぎり』の姉妹艦『せとぎり』と『たかなみ』型の『さざなみ』を引き連れて入港し、警戒任務外の艦娘達がタグボート代わりに動き回っていた。

 

 

 その日本艦隊から少し離れた場所に、新ロシア連邦(NRF)海軍Тихоокеанский Флот(太平洋艦隊)に所属する『Адмирал(アドミラル) Горшков(ゴルシコフ)』級フリゲート艦2隻と『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級コルベット艦4隻、それに数隻の補助艦艇からなる派遣艦隊が投錨していた。

 

 

 その内の1隻、旗艦を務めるフリゲート艦『Адмирал(アドミラル) флота(フロータ) Советского(ソヴィエツカヴァ) Союза(ソユーズ) Исаков(イサコフ)』の艦橋にて───。

 

 

 杖で体を支えながら窓際に立っている、()()()()()()()()が、入港作業中の日本艦隊を厳しい目付きで眺めていた。

 

 

 接舷作業でチグハグな動きをし、係留ポイントへと誘導していた艦娘を轢きかけた日本艦と、轢かれかけた艦娘の指揮艦であろう艦娘の姿、おそらく巡洋艦級の艦娘が無線器を片手に怒鳴り散らしていた。

 

 

 目を凝らすと、その艦娘は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()同志(同僚)、重巡洋艦の艦娘摩耶が日本艦に対して抗議をしているのがその様子や動きから読み取れた。

 

 傍から見ていたこちらからでも、日本艦の動きはぎこちなく、拙いものであると見て取れ、それを偶々見ていたであろう艦橋内に詰めている水兵達から、不安の声が漏れているのが聞こえた。

 

 

 明らかに訓練不足であることが、一目瞭然だった。

 

 

 深刻な人員不足と、燃料は兎も角、交換部品の慢性的な不足から整備が満足に出来ず、実際に(ふね)を動かしての訓練が充分に行なえていない影響が如実に出ていた。

 

 

 思わず溜息が出そうになった所に、髭面で強面の男、この(ふね)の艦長にして艦隊の臨時司令であるНикола́й(ニコライ) Яковлев(ヤコヴレフ)大佐が双眼鏡を片手に、顔を曇らせながらやって来て隣に立った。

 

 そのЯковлев(ヤコヴレフ)艦長は隣に立つ、本来ならばこの場に居ないことになっているはずの、いつも着ている()()()()()()()()()を脱いで、今は自分達とおなじ海軍作業服に身を包んでいる、自分よりも遥かに高位な位に立つ女性に話し掛けた。

 

 

「正直、日本海軍がここまで凋落するとは、夢にも思ってはいませんでした…」

 

 

 そう話すЯковлев(ヤコヴレフ)艦長の顔は、嘲るものではなく憐憫の情が浮かぶ、なんとも哀しそうで遣る瀬無い表情だった。

 

 

「…同志Яковлев(ヤコヴレフ)は、確か───」

 

 

「はい。私は先の対日戦では宗谷(ラペルザ)海峡沖海戦を、当艦隊の僚艦でありますコルベット艦『Громкий(グロームキイ)』の砲雷長として当時の日本艦隊と直に撃ち合いました。

 

 …彼らは率直に申し上げて、油断の出来無いかなりの強敵でした。

 

 ですが…、今の彼らからは昔日の面影すら感じられません。

 

 それがその、虚しく…、いえ、寂しく感じずにはいられません…。

 

 ()()、私は…、かつての敗戦のドン底から蘇った彼らに、ある種の憧憬の念を抱いていましたので…」

 

 

 見た目と違い、センチメンタルな感傷に浸るЯковлев(ヤコヴレフ)艦長を、閣下と呼ばれた女性は嗜める気にはなれなかった。

 

 

「…“栄枯盛衰は世の理なり”、か。

 

 だがそれは、彼らのように、我らもかつてСовет(ソヴィエト)が崩壊した後の我が海軍の様に、いつか再び訪れる事かもしれない事だ。

 

 我らに出来ることは、それを1日でも長く遅らせる事が出来る様に、日々精進せねばな。同志」

 

 

Да(はい)…」

 

 

 硬い表情でそう答えるЯковлев(ヤコヴレフ)艦長に、いたずらっぽい笑みを浮かべながら顔を寄せ、小声で話し出す。

 

 

「ああ、それと同志、私を閣下と呼ぶのはよしてくれ。

 

 今の私は軍管区司令部(ハバロフスク)からこの作戦の間だけ日本艦隊との連絡将校として出向しているだけの、新米の一佐官に過ぎ無いのだからな」

 

 

 そう言って肩に付けられた階級章を、真新しい少佐の階級章をわざとらしく見せ付ける姿は、普段の自他共に厳格な態度を見せることの多い彼女を知っている者からしたら、なんとも滑稽に思えた。

 

 だがたまにこういった茶目っ気を見せるからか、水兵や下士官達からのウケもそれほど悪いものでも無かった。

 

 それに僅かに頬を緩ませながら、「Да(はい)」と先程と同じ答えを口にし、「申し訳ありません」と続けるが、それらの言葉は先に比べて幾分か柔らかい口調だった。

 

 

 だがその直後に、艦橋内が突然騒がしくなったかと思うと、鈍く重い衝撃音が響き渡り、2人は音のした窓の外へと視線を向けた。

 

 

 見ると、1隻の日本艦が少し傾いた状態で停止していた。

 

 

「嗚呼…、やっちまいやがった…」

 

 

 水兵の誰かがそう呟くのが聞こえ、何が起きたのか察した。

 

 

 …いや、見ただけでも何が起きたのか充分に分かることだが、日本艦が岸壁に衝突したのだ。

 

 

「操舵ミスか?」

 

 

「ありゃぁ操舵ミスというよりも制動操作のミスじゃないのか…?」

 

 

「碌な訓練も受けれていないとは聞いていたが…」

 

 

блин(畜生)め、前途多難だぞこれは…」

 

 

 事故の一部始終を見た周りの水兵達が口々に不安の声を漏らすが、()()()()()()があからさまな咳払いをしたのを見て、また一応の艦隊司令であるЯковлев(ヤコヴレフ)艦長が各艦に『セトギリ』の救援準備と、「救援の支援は必要か?」と日本軍に打診する様に指示を出したことで、蜘蛛の子を散らす様にして持ち場へと戻っていった。

 

 

 そこへ1人の水兵が慌てた様子で艦橋へと走り込んできた。

 

 

「報告します!入港作業中の『セトギリ』が岸壁に衝突!さらに機関火災発生との連絡がありました!」

 

 

 その報告を聞いて、自称、新米少佐は青筋を立て、Яковлев(ヤコヴレフ)艦長は予想以上の被害に深い溜め息を吐いた。

 

 

「本当に大丈夫なのでしょうか?」

 

 

「知らんっ!」

 

 

 眉根を寄せて心配そうな声で尋ねるЯковлев(ヤコヴレフ)艦長に、新米参謀として派遣されて来たという事に一応なっているСофи(ソフィー)少佐こと、新ロシア連邦(NRF)海軍太平洋艦隊司令、Софья(ソフィーア) Октябрьская(オクチャブリスカヤ) революция(レヴォリューツィヤ)大将、またの名を退役戦艦艦娘Гангут(ガングート)はそっぽを向きながら素っ気無く答え、先日のとある電話の内容を思い返していた。

 

 

 

───────

 

 

 

「なんですと?休戦交渉?」

 

 

「«…思ったよりも反応が鈍いね?»」

 

 

「同志マシツマならば、そんな突拍子も無いことくらい、やりかねませんからね。

 

 私はそれを直に見てきましたから」

 

 

「«…うん。まぁ確かにそうなのかもしれないけどね。

 

 兎も角、事の詳細に関しては後で伝達するけど、今回のことで西太平洋の、いや、もしかしたら()()()()()()()のパワーバランスが劇的な変化を遂げようとしているこの状況で、我々はただ見ているだけという訳にはいかない。

 

 Революция(レヴォリューツィヤ)大将、艦隊の準備は?»」

 

 

Да(ダー)、同志国防相閣下。我が水上船艇部隊の出動準備は整っております。

 

 また()()()()()()()1()6()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、その…、よろしかったのでしょうか?」

 

 

「«ん?»」

 

 

「同志マシツマや同志ヒジカタの事を、私は全幅の信頼を寄せ、微塵も疑ってはおりませんが、同志達の上の連中がゴネたら…。

 

 それに、()()()()()()()()()が黙っているとは思えないのですが…」

 

 

「«その事はこちらでどうにかする。それに、()()()()()()1()6()()()()()()()()()()()()()

 

 もしも、ちょっかいを出してくるようなバカが出てきたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけのことさ»」

 

 

 

「…承知致しました(フスョー パニャートナ)

 

 

───────

 

 

 

「(閣下は、万が一の時はヤル覚悟でいる…。我が艦隊の派遣は、そのための試金石でもあるのだろう…)」

 

 

 Гангут(ガングート)は背筋が冷える思いがした。

 

 彼女は嘗てこの小松島鎮守府に在籍していた際に、つぶさに日本という国を見て来た。

 

 そして思った。

 

 

 

 もう日本(この国)は駄目だと。

 

 

 

 政治は国内を、国民を見向きもせず、そしてその国民はその事に諦め、いや、慣れてしまって何も感じなくなり、政治に何も求めず、飼い慣らされて唯々諾々と従うだけで何もしなくなった。

 

 

 軍隊も酷い有り様だったが、真志妻大将の職権乱用(大暴走)で多少は持ち直し、今にも倒れそうな国を何とか必死に支えているが、目の前の惨状を見れば、それももう長くは保たないだろう。

 

 

「(同志マシツマ、同志ヒジカタ、そして我が友キリシマ(キリノ)…、こんな国にしがみついて、何になる…。

 

 私は、あなた達が沈みゆくこの国と心中しないと思っているが、もしもの時は…)」

 

 

 そう考えていると、1機のヘリコプター、NRF(我が国)が供与したКа-60 Касатка(カサートカ)が鎮守府の敷地内に降りようとしているのが見えた。

 

 その機体の側面には、日本海軍艦娘部隊を表わしている錨のシンボルマークと共に、3本の砲身がクロスする独特なデザインのシンボルマークが描かれていた。

 

 それは日本海軍大将“総提督”真志妻亜麻美のシンボルマークだった。

 

 

 噂すればなんとやら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()やって来たのだろう。

 

 

「これで、役者が揃ったな…」

 

 

 この呟き声を耳にしたЯковлев(ヤコヴレフ)艦長が水兵達へと向き直り、指示を飛ばす。

 

 

「少佐が上陸なされる!但し港内は『セトギリ』の事故により混乱しているため、ボートではなく、ヘリの用意を!」

 

 

Понятно(パニャートナ)!」

 

 

 Яковлев(ヤコヴレフ)艦長の指示に、水兵が即座に了解と返答したことに頷くと、Гангут(ガングート)は杖をつきながら踵を返してヘリ甲板へと向かおうと歩き出したのだが、ある事を思い出して艦橋の出入り口で立ち止まり、振り返った。

 

 

「そう言えば、あの()()()()()はどうした?」

 

 

 その質問に、先程とは別の水兵が些かバツの悪そうな表情となった。

 

 

「そ、それが、その、兵員室でводка(ヴォートカ)のボトルを抱えながら爆睡していると…」

 

 

 Гангут(ガングート)は深い溜め息を吐くと、仕方が無いと言わんばかりに首を左右に振った。

 

 

「叩き起こす。すまんが誰か手の空いている者を手伝いに寄越してくれ」

 

 

В()Всё понятно(フスョー パニャートナ)!」

 

 

 艦橋を後にするГангут(ガングート)を見送りながら、Яковлев(ヤコヴレフ)艦長は今しがた話題となった者について思いを巡らせる。

 

 

 

「…人間の傲慢さに、()()達は嫌気が差してきている。

 

 今回の“特別軍事作戦”が実施された背景には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()事も関わっているのだろうな」

 

 

 そう呟くと、窓の外を見遣る。

 

 外では衝突した『セトギリ』の救援活動が行われており、人間と艦娘が互いに連携しながら懸命に駆け回って救援作業に追われていた。

 

 ここ日本では()()こうして人間と艦娘が互いに支え合っている光景が見られているが、世界的に数多の艦娘が在籍する西側の国々では、この光景が当たり前では無くなっていると聞く。

 

 

「一体、どうなるのだろうな…」

 

 

 その呟きは日本軍からの『セトギリ』救援の支援を願い出る返答が来たことを伝える伝令の声により掻き消され、またその返答を受けたことでЯковлев(ヤコヴレフ)艦長が思考をそちらへと切り替えた。

 

 やること、やらなくてはいけないことは山ほどあるのだ。

 

 

 

 

*1
中には悪意があるとしか思えないモノも結構あった。

*2
ソーシャルメディアで公表したのは、真志妻に会見を開くだけの時間的余裕が無かったというのもあるが、大本営発表(誇大広告)を出すことしか脳の無いメインメディアを彼女が信用していないといった側面もある。

*3
その際に少々、真志妻が政府と揉めた。





 新ロシア連邦(NRF)海軍Тихоокеанский Флот(太平洋艦隊)より主力級艦艇を中核とした水上艦艇部隊来日。そして前から名前だけは出ていました同志Гангут(ガングート)が漸く登場。但し同志Гангут(ガングート)は自身の乗艦でもある艦隊旗艦『Киров(キーロフ)』級ミサイル巡洋艦『Адмирал(アドミラル) Нахимов(ナヒーモフ)』に乗って堂々と来日したかった模様。



補足説明

同志Гангут(ガングート)について

 同志Гангут(ガングート)が退役戦艦艦娘で、足に障害がある様に書いていますが、これは現役時代に体を酷使した影響という設定です。つまりスポーツ選手が怪我が原因で引退したみたいなものです。

 このことは艦娘の絶対数が少ない新ロシア連邦(NRF)にてよく見られる現象であり、新ロシア連邦(NRF)軍では希望者はГангут(ガングート)の様に軍の役職に就けるなどしております。
 因みに海軍総司令は以前チラッと出したかと思いますが、Бородино́(ボロジノ)級戦艦の退役艦娘Князь(クニャージ) Суворов (スヴォーロフ)が元帥の階級で就いております。


シンボルマーク

 真志妻大将のシンボルマークは、自身の艦娘姿でもある防護巡洋艦『松島』、そして同型艦である『厳島』『橋立』といった三景艦の主砲である32㎝カネー砲の砲身をクロスさせたデザインです。で、艦娘部隊のシンボルマークは、ぶっちゃけ『ヤマト』の錨マークです。


KM-AK

 комплект модернизации автомата Калашникова(カラシニコフ自動小銃近代化キットの意)

 既存のAK-74およびAK-74MをAK-200相当の銃へとアップグレードする事が出来る。

 新たなデザインのグリップと大型化されたマズルブレーキ、伸縮折り畳み式のストック、ピカティニー・レール付きのレシーバーカバー、フォアグリップ付きのハンドガード等を備えている。

 2015年の対独戦勝パレードにて初めて公開、展示された。

 ロシア軍では、予算の関係とAK74系列の既保有量から当面、後継型のAK-12の調達と本アップグレードキットによる既存AK-74Mの改修とを併存させるものと見られる。
一部Wikipediaより抜粋




Адмирал(アドミラル) флота(フロータ) Советского(ソヴィエツカヴァ) Союза(ソユーズ) Исаков(イサコフ)

 22350型『Адмирал(アドミラル) Горшков(ゴルシコフ)』級フリゲート艦の1隻。

 ソ連崩壊後のロシア連邦海軍が後述の『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級コルベット艦と共に2000年代に入ってから建造が始まった新鋭艦。

 長射程の9К96 Редут(リドゥート)艦対空ミサイルVLSや、巡航ミサイル3M-54Клуб(カリブル)に対応したVLS、3S14 UKSK搭載を搭載。また3S14 UKSKは極超音速ミサイル3M22Циркон(ツィルコン)にも対応している。
 
 近海での作戦行動が主な小型のСтерегущий(ステレグシュチイ)級に対して外洋での作戦行動が主眼に置かれている戦闘艦。

 ソビエト海軍の近代化に尽力し、一大外洋海軍へと育て上げるという多大な功績を果たしたСерге́й(セルゲイ) Гео́ргиевич(ゲオールギエヴィチ) Горшко́в(ゴルシコフ)元帥の名を冠している事からも、この新鋭艦『Горшко́в(ゴルシコフ)』級に対するロシア海軍の期待の高さが覗える。


Громкий(グロームキイ)

 20380型『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級コルベット艦の改良型20381型の1隻。艦ナンバー335。

 1番艦『Стерегущий(ステレグシュチイ)』(艦ナンバー530、のちに550に変更)は建造当初より防空火力がガトリング砲と短距離ミサイルの複合型CIWSであるКортик(コールチク)(イメージとしてCIWSとSeaRAMを一体化した様な代物)とAK-630M 30ミリCIWSの近接防御火器系のみであり、海軍はそれに対して懸念と不満を示し、2番艦20381型『Сообразительный(ソオブラジーテリヌイ)』(艦ナンバー531)から9К96 Редут(リドゥート)艦対空ミサイルVLSが導入された。(2023年に『Стерегущий(ステレグシュチイ)』も9К96 Редут(リドゥート)の設置や3S14 UKSK搭載を含めた近代化改修が開始され、後続の準同型艦である20385型『Гремящий(グレミャーシュチイ)』級に準じる能力を獲得予定である。)

 20385型からはミニ22350型『Горшко́в(ゴルシコフ)』級といった感じである。また本作中で『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級は基本的にこの20385型相当として扱います。

 なお自衛隊では『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級を“フリゲート艦”と紹介しており、本作でも基本はフリゲート艦と記載いたしますが、そのサイズから(先述の『Горшко́в(ゴルシコフ)』級の半分程の排水量。)海外では本艦を“コルベット艦”と紹介しているものもあるため(NATOではフリゲート艦と扱っている)、場面や人物が日本以外の場合、主に新ロシア連邦(NRF)サイドの場面の場合、コルベット艦と記載する事もありますため、表記が混在する事態になりますが、予めご了承下さい。



第16潜水艦戦隊(16-я Эскадра подводных лодок)

 太平洋艦隊に所属する、カムチャツカのヴィリュチンスク市ルイバチー港を母港とし、戦隊本部を置く。戦隊級(小艦隊と師団の間に位置する)部隊。

 攻撃型原子力潜水艦による第10潜水艦師団、原子力弾道ミサイル潜水艦による第25潜水艦師団の2個師団からなる原子力潜水艦部隊によって編成されている。



Ka-60カサートカ(Ка-60 Касатка)

 12,000機以上が生産され、今尚生産と販売、世界各国で使用され続けている大ベストセラーのヘリコプター、Mi-8(Ми-8)シリーズの後継機。

 Касатка(カサートカ)とはロシア語で“シャチ”を意味する愛称。

 本機を含め、Mi-8(Ми-8)シリーズやその改良型Mi-8MT(Ми-8МТ)などのヘリコプターが新ロシア連邦(NRF)から供与されている。
 



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

 次は軽くヨーロッパ情勢に触れます。まぁはっきり言ってナレ死前提なので、ホントに軽くですが。


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第65話 Лучше горькая правда, чем сладкая ложь.


 ルーチシェ ゴーリカヤ プラーヴダ, チェム スラートカヤ ローシ

 訳、甘い嘘より苦い真実のほうが良い。


 今回話のネタの一部にYouTubeにて投稿されております『核の傘というアメリカの嘘 混乱する国際政治と日本③ 伊藤貫』を参考にしております。

 ところで、上記のこととも関連するのですが、セルゲイ・カラガノフ(Серге́й (セルゲイ)Алекса́ндрович(アレクサンドロヴィチ) Карага́нов(カラガノフ))という人物をご存知ですか?それが少々気になりましたので、アンケートを実施致します。


 

 

「同志マシツマ!同志ヒジカタ!久しぶりだな!!」

 

 

 Гангут(ガングート)は真志妻と土方の手を取り、満面の笑みを浮かべながら再会を心から喜んだが、真志妻はやや苦笑し、土方は最早何も言うまいと達観したような表情となっていた。

 

 ヘリポートで出迎えた時は連絡将校のСофи(ソフィー) Ильиных(イリニフ)少佐と名乗り、初対面であるかのように振る舞っておきながら、執務室へと入室した途端に態度を一変させ、喜色満面となって先の様な行動に出たのである。

 

 厳格ながらも信頼、信用を寄せる相手には豪放磊落。

 

 それがこのГангут(ガングート)という艦娘の偽らざる本質だった。

 

 

 それと同時に、敢えてあからさまなまでに態度で表わす事で、公的には自身、Гангут(ガングート)なる艦娘、そして新ロシア連邦(NRF)海軍Революция(レヴォリューツィア)大将はここには居ないことになっている事を暗に告げたのだ。

 

 そしてそれはこの“特別軍事作戦”の“主役”が日本であり、自分達新ロシア連邦(NRF)は飽く迄もその補助的立場である事を、この部屋に居る“先客達”に示していた。

 

 

「ふ~~〜ん、“イワンの雌犬”にしては殊勝じゃない?少しはこっちも気遣って欲しいわね」

 

 

 Гангут(ガングート)の、そして新ロシア連邦(NRF)の考えに、先客の一人がГангут(ガングート)に食って掛かった。

 

 

 アメリカ海軍第7艦隊所属艦娘部隊旗艦艦娘、Colorado(コロラド)級戦艦のColorado(コロラド)である。

 

 高飛車で気の強い艦娘ではあるが、その目にはクッキリとクマが浮かび、疲れ気味な風体となっており、そのせいか普段以上に刺々しい物言いとなっていた。

 

 

「あ?同盟国に無理難題を吹っ掛けるだけの、惰弱で役立たずの上に恥知らずなянки(ヤンキー)共の代わりに、我が新ロシア連邦(NRF)が汗水たらして頑張っているんだぞ?感謝こそされはしても、文句を言われる筋合いは無いはずだぞ“ころちゃん”?」

 

 

「ころちゃん言うなぁーーっ!!」

 

 

 片眉を吊り上げながら煽る様に言い返すГангут(ガングート)に、Colorado(コロラド)は腕を振り回し、プンスカと怒りながら地団駄を踏む。

 

 

 そんな米露の罵り合いを横目に、もう一人の先客、金剛が淹れた紅茶を優雅な所作で嗜む、イギリス王立海軍(ロイヤルネイビー)艦娘部隊、通称『女王陛下の海洋騎士団』東洋艦隊旗艦艦娘、Queen Elizabeth(クィーン・エリザベス)級戦艦の2番艦Warspite(ウォースパイト)である。

 

 椅子にゆったりと腰掛け寛いでいるその所作だけで、給仕役を買って出た金剛も含めて1枚の絵画のようであるが、横で繰り広げられる諍いに対して我関せずな態度を貫くあたり、流石は“あの”ブリカス…、もとい、大英帝国大艦隊(グランドフリート)が誇った超弩級戦艦の艦娘と言える。

 

 まぁ、Гангут(ガングート)Colorado(コロラド)の2人は顔を合わす度にお互いを罵り合う事で有名であり、いつもの光景なので誰も気にしなくなったというのと、口汚く言い合おうとも何だかんだ言いながらも仲が悪い間柄ではなく、お互いの就役日(誕生日)には贈り物を送り合ったりと、所謂「仲良く喧嘩しな」「喧嘩するほど仲が良い」みたいな関係なのである。

 

 

 だが───。

 

 

「アンタの所の!虎の子の水中艦隊が!急に慌ただしく動き出したから!こっちは上に下に大騒ぎで迷惑してんのよっ!!」

 

 

 Colorado(コロラド)が言い放った言葉に、僅かながらWarspite(ウォースパイト)の眉根が動き、Гангут(ガングート)は口角が僅かに上がった。

 

 

 

───────

 

 

 

 数日前───。

 

 

 

 オホーツク海、深度450メートル。

 

 

 アメリカ海軍、『バージニア』級攻撃型原子力潜水艦『アーカンソー』。

 

 

 この艦はエンジンを停止し、物音を立てずジッと静かに水中で身を潜めていた。

 

 

「目標、更に接近します。

 

 速力、深度、針路変わらず、です…」

 

 

 聴音手(ソナーマン)が後ろに立つ艦長に、ソナーが捉えた潜水艦と思しき水中移動音源の続報を上げた。

 

 

「東へと向かっているのだな?

 

 このコースは新ロシア連邦(NRF)軍の攻撃型原潜による通常パトロールのコースとも近い。ならばパトロール中の『ヤーセン』級である可能性が高いが…」

 

 

『ヤーセン』級とは新ロシア連邦(NRF)海軍の攻撃型原潜のことである。

 

 

 ここオホーツク海を基点とした周辺海域一帯は新ロシア連邦(NRF)の戦略的重要ポイントであり、この一帯は空も海も厳重な警戒監視網が敷かれ、水中には複数の攻撃型潜水艦がパトロールに就いている事が判明しており、この『アーカンソー』はそんなパトロール活動を始めとした新ロシア連邦(NRF)潜水艦の動きをより正確に把握するべく、危険を犯して潜入している諜報活動艦である。

 

 故に、艦長は定期パトロールの新ロシア連邦(NRF)潜水艦ではないか?と考えたのであるのだが───。

 

 

「速力20ノットのパトロールは通常ありえません。

 

 こいつは明らかにイレギュラーな動きかと」

 

 

 艦長の予想に否定しながらも、この水中移動音源の正体を突き止めるべく、聴音手(ソナーマン)は解析作業を続けていた。

 

 

「音紋解析が出ました…!

 

 艦長、これは…、()()()()です…!!」

 

 

「戦略原潜…、間違いないか?」

 

 

「はい。『ボレイ』級1番艦、『ユーリ・ドルゴルキー』、間違いありません…!」

 

 

 『ボレイ』級原子力潜水艦。

 

 

 水中排水量24,000トン。水中速力25ノット、全長170メートル。

 

 SLBM発射筒16基。一発で大都市を消滅させる、射程距離10,000kmのR-30『ブラヴァー』核弾道ミサイルを少なくとも16基、その腹に内包する新ロシア連邦(NRF)海軍が誇る水中核ミサイル基地、戦略ミサイル原子力潜水艦である。

 

 

「先の定時連絡で、オホーツク海から日本海へと向かう同型艦『クニャージ・オレグ』を『オクラホマ』が探知したとあったが…」

 

 

「コイツは太平洋へと抜けようとしていますね…。

 

 しかも通常の戦略パトロール任務で使われるコースから逸脱しています」

 

 

 副長の呟きと共に、『ユーリ・ドルゴルキー』の推進機が発する音、キャビテーションノイズが、僅かだが響いてくるのを感じた。

 

 

「目標、なお接近します!

 

 巨人ゴリアテの心音の様なキャビテーションノイズです」

 

 

 目標、『ユーリ・ドルゴルキー』がほぼ真上を通過するのを、隔壁によって直接は見えないが、艦長は音を頼りに視線を向けた。

 

 

「…まるで見つけてくださいと言わんばかりだな」

 

 

「艦長、追跡しますか?」

 

 

 顔を顰めながら呟いた艦長に副長は即座にそう尋ねるが、艦長は少し考えた後、首を横に振った。

 

 

「…いや、動くな。ここはパトロールコースにも近く、付近に攻撃型潜水艦が待機しているかもしれん。

 

 佐世保への報告を優先する…」

 

 

Aye,Aye,Sir.(アイアイサー)

 

 

 

 この一連のやり取りを、彼らの後ろから伺っていた『アーカンソー』配属の潜水艦艦娘は、内心でホッとしていた。

 

 

 確かに自分はアメリカ海軍に所属する艦娘ではある。

 

 

 だが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であり、人間同士のトラブルに巻き込まれるのは()()()()()()()であるというのが、彼女の考えだった。

 

 そしてこの考えは近年のアメリカ海軍艦娘ほぼ全員の共通した考えであり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()も、自分達を人間同士のトラブルに巻き込みだしたアメリカ政府や軍上層部に対する反発心から来ていた。

 

 特に東太平洋担当の第3艦隊や大西洋担当の第2艦隊と言った本国艦隊は酷い有り様だと聞いているが、少なくとも西太平洋艦隊の第7艦隊残余はマトモな人間が多く、本国程の対立は今のところは起きていない。

 

 これは近年第7艦隊の駐留する佐世保が事実上の政治的流刑地に近い扱いであり、今の政府に批判的な海軍軍人の多くが補給もままならない日本の佐世保へと島流しにさ(送り込ま)れていた。

 

 艦娘部隊指揮官Greg(グレッグ) Garfield(ガーフィールド)准将は艦娘達からの支持が厚いが、本国上層部からの受けが悪い軍人だった。

 

 そんな彼から、彼女達潜水艦に乗り込む艦娘達に、もしも乗艦の指揮官が暴発した場合は力尽くでも阻止するようにと、頭を下げて頼まれた。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)と衝突しても、得る物は何も無い。

 

 

 それが、彼と彼女達の共通認識だった。

 

 

 

 

 

───────

 

 

「アンタら、まさか核戦争おっ始める気じゃないでしょうね?」

 

 

 上官であるGarfield(ガーフィールド)准将が潜水艦艦娘達に言い含めた事を、旗艦艦娘であるColorado(コロラド)も知っているし、彼女達がそうであったように、第7艦隊所属の全ての艦娘達も同様だ。

 

 いや、恐らくアメリカ軍に所属する全ての艦娘が同じ思いだろう。

 

 だからこそ、この新ロシア連邦(NRF)の動きに神経を尖らせていた。

 

 

「まさか!!

 

 “Лучше(ルーチシェ) горькая(ゴーリカヤ) правда(ブラーヴダ), чем(チェム) сладкая(スラートカヤ) ложь(ローシ).”

 

 “甘い嘘より苦い真実のほうが良い”だよ。Colorado(コロラド)

 

 

 胡乱な目付きで詰問するコロラド(友人)に対し、Гангут(ガングート)は大袈裟な所作でロシアの諺を口にした。

 

 これにColorado(コロラド)は顰めっ面となり、真志妻はその言葉の意味する所を読み解き、少し困ったかの様な苦笑いを浮かべた。

 

 

 彼女は暗に「いい加減、核の傘が“まやかし”に過ぎない事から目を背けるな」と言いたいのだ。

 

 

 かつてフランス大統領、シャルル・ド・ゴールは語った。

 

「アメリカがパリの為にニューヨークやワシントンを犠牲にする覚悟があるとは思えない」

 

 そうしてフランスは世界で4番目の核保有国となった。

 

 

 第三次大戦以前、旧ロシア連邦は30分以内にアメリカ人1億人以上を殺害可能な核戦力を誇り、旧中華人民共和国ですら5,000万人から6,000万人を30分以内に殺害可能だった。

 

 

 見ず知らずの誰かの為に、自らの命を危険に晒すほど、アメリカはお人好しの国ではない。

 

 

 その事は当のアメリカ人が一番よく理解していた。

 

 

 だが同盟国を“核の傘”という骨組みだけのスカスカな傘で欺き続けることが、アメリカにとってはそれなりの利益を齎し続けることに繋がったが為に、彼らは有りもしない“()()()()”を差し続けるフリをしていた。

 

 同盟国が独自の核戦力を保有することによる自主防衛能力と手段を奪うことによって、ミサイル防衛システムや型落ち若しくはモンキーモデルの戦闘機や巡航ミサイルなどといった自国の兵器に弾薬、自軍への納入品の売れ残りや消耗し切れなかった物の在庫一掃も兼ねて、更にはそれらの関連機材やアップグレードキットなどを高額な値段で買わせ、軍需産業に対して持続可能な利潤構造を構築提供した。

 

 例えそれらの中に、使い物にならないガラクタが大量に紛れ込んでいたとしても、自分達だけでは自主防衛がままならない同盟国は、そのガラクタの山を黙って買い続けるしか無い。

 

 

 もしもロシアや中国が日本に対して核による恫喝を仕掛けて来た場合、アメリカは口では「見捨てない」とかなんとか言うだろうが、日本を容易に切り捨てて見捨てる判断をし、だがギリギリまで兵器を売り付けて儲けるつもりでいた。

 

 

 彼らの価値基準は飽く迄もカネだった。

 

 

 今だけ、カネだけ、自分だけ。

 

 

 それが、超大国と呼ばれたアメリカの本質だった。

 

 

 相手に嘘を付き続けて徹底的に騙し尽くしてでもカネ儲けを優先し、相手を自分達の利権構造に雁字搦めにして骨の髄までしゃぶりきる構造の中に組み込んでしまう。

 

 ある意味で蟻地獄の様な構造だった。

 

 

 だがその構造も、アメリカの凋落に引き摺られて軍需産業が衰退した為に、既にほぼ崩壊している。

 

 ただ、アメリカが中華連邦を報復核攻撃で滅ぼしたという、表向きの事実から核の傘に関する議論が半ば忘れ去られていた。

 

 だが新ロシア連邦(NRF)の分析では、アメリカは明らかに日本に対して意図して核の傘に関する議論を避けており、本質的には以前と変わっていないと結論づけていた。

 

 問題はその事に日本の上層部は気付かないのか、意図して無視しているのか、未だにアメリカの核の傘に縋る姿勢を崩していない。

 

 だからこそ、日本はアメリカからの無理難題に、小間使いの様に唯々諾々と従い続けている。

 

 

 それに対してГангут(ガングート)は常日頃より、苛立ちを隠せず不快感を抱き続けていた。

 

 

 アメリカもアメリカだが、日本も日本だ。

 

 

 お互いが不誠実過ぎるにもほどがある。

 

 

 いい加減、甘い嘘による幻想の世界から抜け出し、苦い真実に満ちた現実の世界を直視しろ。

 

 

 お節介であることは重々承知しているが、日本に居る間、ずっとヤキモキした気持ちでいた。

 

 もしもあの時に、無二の親友となったIowa(アイオワ)と出会わなければ、Гангут(ガングート)は自身が壊れていたと確信している。

 

 今みたいに体を壊して戦えなくなる。というのではなく、精神が摩耗して、もう一人の親友であるキリシマ(キリノ)…程ではないかもしれないが、ヤサグレた感じになっていたと、今でもそう思っている。

 

 だがIowa(アイオワ)の、「なんとかしたい。なんとかしなければならない!」というパワフルなバイタリティにあてられて、何だか救われた様な気がした。

 

 Iowa(アイオワ)は、アメリカに残された最後の良心であると思っている。

 

 

 だが自身はどうだ?

 

 

 不満を内に溜めて、どうする事もできず悶々として鬱屈としている。

 

 

 そんな自身の有り様に、引け目を感じた。

 

 

 そして耐え切れなくなった。

 

 

 親友であり、心の支えであったIowa(アイオワ)が帰国したのと前後して、自分も帰国した。

 

 艦娘として戦うには肉体が限界に近付いていたというのもあったが、彼女を見ていてなんとなくではあるが、進むべき道がうっすらと見えた気がした。

 

 

 その時から太平洋艦隊司令Революция(レヴォリューツィア)大将としての道を歩むこととなった。

 

 自分なりに出来ること、そしてやりたいことを成すために。そしてそのためにはそれなりの権限が必要だった。

 

 その最低条件が、今の地位である。

 

 

 Iowa(アイオワ)キリシマ(キリノ)の事が親友であるとするならば、マシツマとヒジカタは恩師みたいなものだ。

 

 この2人が今の日本に囚われているということが、腹立たしい。2人はもっと自由にあるべきだ。

 

 無論、最低限の節度は必要であるが、2人に限ってその心配は無いだろう。であるならば、今の日本は2人にとって単なる“枷”でしかない。

 

 枷を外すことが出来なくとも、緩めることは出来るハズだ。

 

 だからこそ、第16潜水艦戦隊には敢えて移動が発見されても構わないと言い渡した。

 

 

 変なことを企んでいる連中に、実際になにか変なことしでかしたら、どうなるか分かってるだろうな?と脅かすために。

 

 

 そしてそれをマシツマや、万が一を懸念しながらも察したのだろう、サセボのガーフィールドが上手く利用した。何らかの介入を企ててそうな連中に対する脅し文句として。

 

 お陰でこの作戦中、変な介入が入る危険性が大きく減った。

 

 まぁ、空気を読まない日本政府は最後までゴネて、マシツマと揉めたらしいが、何とかなったようだから良しとしておこう。

 

 

 それに、アメリカの動きから、これで核の傘が機能していない事を日本が理解してくれたら良いのだが…、難しいだろうな…。

 

 

 

「…荒療治にも程があるわね」

 

 

 紅茶を啜りながら、半眼でそう漏らすWarspite(ウォースパイト)

 

 

「現代の黒船デスネー」

 

 

 紅茶ポット片手に肩を竦める金剛ではあるが、内心ではそれくらいの強引さが無ければこの国は微動だにしない事を知っていた。

 

 

「明治から百数十年───」

 

 

 ここで真志妻が口を開いた。

 

 

「もうすぐ二百年になりますが、日本は少しも変わっていない。

 

 海の外からの明確な圧力が無ければ、良くも悪くもこの国は大きな変革を起こすことが出来なかった」

 

 

 確かに。と土方は思った。

 

 

 この国が大きく動く時には、外圧による物が大いに絡んでいるし、思えば自身も関わっていた『ヤマト計画』、その前身となる『イズモ計画』だってガミラス、そしてイスカンダルという2つの大きな外圧によってそのあり方が大きく左右されていた。

 

 

 ただこの世界の、今の日本は江戸幕府や極東管区の日本よりも鈍い気がしてならないが…。

 

 

「確かに今回新ロシア連邦(NRF)による、無言の核恫喝という圧力もありますが、それと同時に深海棲艦の方々の存在も、無視するわけにはいかないでしょう。

 

 彼女達もまた、海から来ました」

 

 

「ある意味。私達も海から来たと言えなくは無いデスネ?」

 

 

 その金剛の言葉に、真志妻は笑みを浮かべ頷いて返した。

 

 

「ここまで条件が揃ったのならば、少しずつでも変わらない訳にはいかないでしょう?」

 

 

「なら貴女も変わって、この国の元首になったら?」

 

 

 微笑みながら真志妻に提案するWarspite(ウォースパイト)

 

 

 

 

 

「…そう言って、()()()()目茶苦茶にするつもりですかぁ?」

 

 

 

 

 地の底から響くような、矢鱈掠れた声が執務室に響いた。

 

 

 いつの間にか、1人の酒瓶を持った艦娘が、入り口に立っていた。

 

 その姿を見たГангут(ガングート)が血相を変えた。

 

 

Pola(ポーラ)!?私が呼ぶまで食堂で待っていろと言ったハズだぞ!!」

 

 

 ()イタリア海軍艦娘、()()()()()()()()()()()新ロシア連邦(NRF)へと政治的亡命をせざるを得なくなったZara(ザラ)級重巡洋艦艦娘のPola(ポーラ)が体を震わせ、目元は乱れた髪と顔が俯いてるでよく分からないが、その顔の角度から恐らくWarspite(ウォースパイト)を睨み付けていた。

 

 そんな彼女にWarspite(ウォースパイト)は溜め息を吐くと、冷ややかな目線を向けた。

 

 

 Pola(ポーラ)が開けたままの扉の向こう、廊下から何人かが走って来る音が聞こえて来る。

 

 恐らく食堂から誰かが彼女を追いかけて来ているのだろうが、Pola(ポーラ)は一切気にする素振りを見せず、Warspite(ウォースパイト)から視線を離さない。

 

 

 

「なんで…?」

 

 

 

「なんで、あの時…」

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()ーーーーっっ!!?」

 

 

 

 

 そう叫ぶとWarspite(ウォースパイト)に掴み掛かり、持っていた酒瓶を振りかぶった。

 

 





 甘い嘘より苦い真実の方が良い。

 しかし人は甘い嘘を求めてやみません。

ロシアの諺



 前回の投稿が今年最後の投稿と言ったな?あれは嘘だ。

 なんか筆がのりました。

 日本政府やアメリカが変な気を起こさないようにするため、戦略原潜で黙らせました。

 正直筆者はアメリカによる核の傘に否定的です。

 今回名言こそはしていませんが、戦略原潜をあからさまに動かすことで、核ミサイルで狙っているぞと日本政府に対して圧力を暗に掛けました。


 一応、予定では次の1話で欧州の情報関連は終わらせるつもりです。
 兎も角欧米の介入が出来無い状態にしないと、話がもっとややこしくなって話が進まなくなる。そしたらまた苦情が来る事態になる。の悪循環になりそうですので、前回後書きで宣言した通り、ナレ死の方針です。
 …念の為言っておきますが、面倒臭くなったら核ミサイルぶっ放す。という事は流石にしません。


補足説明

Virginia(バージニア)』級原子力潜水艦

 アメリカ海軍が運用している攻撃型原潜。

 『Los Angeles(ロサンゼルス)』級の後継艦として、高性能ながらもあまりにも高額過ぎて3隻の調達で建造が終了した『Seawolf(シーウルフ)』級のコストダウン艦として建造された攻撃型原潜。

 作中の『Arkansas(アーカンソー)』(SSN-800)は27番艦。『Oklahoma(オクラホマ)』(SSN-802)が29番艦。


Ясень(ヤーセン)』級原子力潜水艦

 885型原子力潜水艦。攻撃型潜水艦(SSN)と巡航ミサイル潜水艦(SSGN)の機能を兼ね備えており、ロシア語では多用途魚雷・有翼ロケット原潜(MPLATRK)と称される。
wikipediaより抜粋


 後継艦『ハスキー』級の開発、建造により9隻の建造で終了することが決定されていますが、執筆中に『ハスキー』級が就役する可能性が無いため、作中『ヤーセン』級改良型が建造されている設定とします。


Борей(ボレイ)』級原子力潜水艦

 955型戦略任務ミサイル潜水巡洋艦。

 『Юрий Долгорукий(ユーリ・ドルゴルキー)』(K-535)が1番艦。『Князь Олег (クニャージ・オレグ)』(K-552)が5番艦。

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくおい願いいたします。


 皆様、良いお年を。


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第66−0.5話 The situation in Europe is complicated and mysterious.

 欧州情勢は複雑怪奇なり。


 新年明けましておめでとうございます。…で良いのだろうか?新年いきなり地震に飛行機…。

 ガチできな臭い世の中ですが、ボチボチと気の赴くままに進めて参ります。


 ちょっと出だしが想定の3倍の字数になりましたので、急遽独立することにしました。そのためマイナス0.5というヘンテコなナンバリングになりました。それと閑話8で出した設定を活用。


 それにしても、予想はしてましたがセルゲイ・カラガノフ教授は知られていないんですねぇ…。


 

 

 

Non muoverti Pola! ti sparo!(動くなポーラ!撃つぞ!)

 

 

 南部97式拳銃(コスモニューナンブ)、所謂コスモガンをホルスターから抜き放ちながら江風(カワカゼ)が執務室に突入。

 

 イタリア語による警告を発しながら、その銃口を躊躇すること無くPola(ポーラ)へと向けた。

 

 

 通常携行のPL-15、Пистолет(レベデフ) Лебедева(ピストル)ではなく、いきなりコスモガンを向けたのは、艦娘が相手だと拳銃弾など豆鉄砲にすらならず、制圧能力に欠けるため本来ならば取り押さえるなどの格闘術が推奨されており、そのための訓練を春雨(ハルサメ)姉妹達は元空間騎兵隊の斉藤から受け、特に江風(カワカゼ)は姉妹の中でも戦いの申し子とされる戦闘狂(バーサーカー)夕立(ユウダチ)よりも優秀だった。

 

 だが緊急を要する場合、出力調整次第で威力の増減が可能──それでもスタンガン程度だが──なコスモガンの使用が許可されていた。

 

 

 今回の場合、元イタリア艦娘現新ロシア連邦(NRF)客員艦娘のPola(ポーラ)がイギリス艦娘のWarspite(ウォースパイト)に飛び掛かり、瓶で殴打する寸前であった。

 

 

 Гангут(ガングート)の指示により食堂で待機していることとなっていたPola(ポーラ)を、土方を経由した真志妻の密命でそれとなく見張っていた江風(カワカゼ)であったが、浴びるように酒を呷り、当初から酔っ払ってはいたが、更に酔っ払ってほぼ泥酔状態となった彼女を見てすっかり油断してしまった。

 

 一瞬目を離した隙に、居なくなっていた。

 

 慌てて食堂を飛び出した直後に、執務室の警護に就いていた涼風(スズカゼ)から突然ふらりと現われたPola(ポーラ)に不意を突かれたと通信が入った。

 

 

 本来ならば二人一組(ツーマンセル)態勢で春雨(ハルサメ)姉妹が警護に就くのだが、この日は江風(カワカゼ)涼風(スズカゼ)、それに時雨(シグレ)夕立(ユウダチ)以外は全員出払っており、斉藤は警戒中の陸軍部隊との折衝に忙殺されていた。

 

 そして時雨(シグレ)夕立(ユウダチ)は交代要員であり、引き継いで自室に戻った後だった。

 

 そのため警備がいつもよりも手薄となってしまっていた。

 

 

 慌てて執務室へと駆け付けた江風(カワカゼ)の耳目に入って来たのが、頭を抑えて足元の覚束ない──恐らくは不意打ちによって脳震盪がおきているのだろう──涼風(スズカゼ)が、駆け付けた江風(カワカゼ)の姿を見たことでふらつきながらも執務室内を指差す姿と、Pola(ポーラ)()()()()()叫び声だ。

 

 マズイ!と思ってホルスターに手を掛けながら執務室へと駆け込み、目にしたのはPola(ポーラ)が今まさに、Warspite(ウォースパイト)へと掴み掛かる瞬間だった。

 

 

 この時、江風(カワカゼ)の頭には最悪の記憶がフラッシュバックした。

 

 姉妹艦『夕立(ユウダチ)』が自分達を包囲する敵艦隊を食い破ろうと吶喊した事で、敵艦との距離が近過ぎて碌な援護が出来ず、ズタボロにされて嬲り殺しにされるのを見ていることしか出来なかった、あの時を。

 

 

 Warspite(ウォースパイト)は何故か抵抗する素振りを見せず、このままだと一方的に殴り付けられる事になる。

 

 いくら艦娘といえども、艦娘の力と共に殴り付けられる瓶の破壊力は軽視できない。

 

 映画の乱闘シーンなどで簡単に木っ端微塵に破砕されるイメージがある瓶だが、それは映画用に割れやすく作られた演出用の小道具であり、本来瓶とは中に入れられた液体の保存及び輸送の際に痛まない、ちょっとやそこらでは漏洩しない様にするため頑丈に出来ている。

 

 人間同士でも頭部を殴打されたら、頭蓋骨陥没や頚椎損傷などの命に関わる負傷に直結する。艦娘の力ならば顔面が粉砕され、原型を留めず間違いなく即死することになる。

 

 艦娘同士ならばそこまでの事態にはならないだろうが、何度も殴打されたら不味い。

 

 いくら頑丈であってもその肉体構造は人間と酷似しており、脳などの中枢神経系へのダメージというリスクが危惧される。

 

 現に涼風(スズカゼ)は不意打ちもあったのだろうが、やや意識が朦朧としている。

 

 

 取り押さえようにも距離があり、間に合わない。

 

 

 故に、咄嗟の判断でコスモガンを選択し、躊躇無くPola(ポーラ)へと向けたのだ。

 

 

 

 

 …のだが。

 

 

 

「HEY!Stopするデース」

 

 

 Warspite(ウォースパイト)のそばに居た金剛が、いつの間にか手に持っていた愛用の煙管を振り抜き、Pola(ポーラ)を弾き飛ばして壁に叩き付けた。

 

 

 そして───

 

 

「ゔ…、オロロロ~~~っ!」

 

 

 

 壁にベチャッと叩き付けられ、床へとズレ落ちたPola(ポーラ)は、上体を起こしたところで盛大に吐瀉した。

 

 

 

「…あ~、江風(カワカゼ)さん、お呼びじゃなかったか?」

 

 

 ホルスターにコスモガンを仕舞い、頬を掻きながら江風(カワカゼ)は力無くそう呟いた。

 

 とは言え、騒ぎを聞き付けた艦娘達が集まりだした事で、それを追い返す事になったのだが、涼風(スズカゼ)の事も心配であり、多少申し訳ない気持ちになりながらも時雨(シグレ)夕立(ユウダチ)に応援を要請、涼風(スズカゼ)工廠(医務室)へと連れ出して貰った。

 

 そしてPola(ポーラ)であるが、Uhm…, per favore dammi un po' d'acqua….(あの…、お水をください…)と、酒焼けした声で金剛にお願いしていた。

 

 

 何だか締まらないが、仕切り直しである。

 

 

 

 余談だが、暫くして江風(カワカゼ)涼風(スズカゼ)には気の緩みによる職務怠慢であるとして、土方から工廠倉庫の清掃が命じられ、大人しくて怒ることが殆ど無い春雨(ハルサメ)の代わりに海風(ウミカゼ)が叱りつけたのだが、怒ってはいないけど無言で見詰めて来る春雨(ハルサメ)が逆に怖かったとのこと。

 

 

 また金剛の煙管であるが、金剛が明石に頼み込んで作ってもらった明石謹製の喧嘩煙管であり、本人曰く「こんなこともあろうかと…というやつデース!」と語っているという。

 

 





 当初は発砲するバージョン、Pola(ポーラ)がウォー様にゲロぶちまけるバージョンなども考えましたが、なんか違うと思っていた所、金剛さんを喫煙者にしていたのを思い出し、金剛さんに制圧してもらいました。が、殆どギャグだなこりゃ…。

 …新年一発目がこれでいいのだろうか?

 コスモガンが出力調整可能なのはPS2ゲームでの劇中設定を引っ張ってきました。
 


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


 セルゲイ・カラガノフ Серге́й (セルゲイ) Алекса́ндрович(アレクサンドロヴィチ) Карага́нов(カラガノフ)

 モスクワ高等経済大学、外交政策学部学長。プーチンの知恵袋と呼ばれる人物。

 この人が発表したとある論文が去年、話題となりました。

 詳しくはYouTube『伊藤貫の真剣な雑談第16回 プーチンの知恵袋、セルゲイ・カラガノフ』にて解説されておりますので、ご覧になることをお勧めしま致します。ただ問題は、この動画、1時間半とかなり長いのがネックですが…。


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第66話 The situation in Europe is complicated and mysterious.

 欧州情勢は複雑怪奇なり。


 取り敢えずEU、イギリスとイタリアによるヨーロッパの主導権争い。ファイッ!

 時系列に無理があると思いますが、ご容赦を。

 それと今回注意点として、艦娘同士による事実上の交戦、及び艦娘の死亡に関する描写が含まれています。


 

 

「私は、いえ、我々英国はイタリアの艦娘達に恨まれ、殴り付けられても、仕方がないわ。()()Pola()なら特にね」

 

 

 Pola(ポーラ)の乱入及び傷害未遂という予想外の重大な問題が発生したが、被害者であるWarspite(ウォースパイト)が不問にする旨を口にしたため、このことは無かったこととすることとして緘口令が敷かれる事になった。

 

 だが一体何があったのか?その経緯(いきさつ)は何だったのか?

 

 

 それはWarspite(ウォースパイト)の口から語られた。

 

 因みに一方の当事者であるPola(ポーラ)涼風(スズカゼ)工廠(医務室)へと届けて戻って来た時雨(シグレ)夕立(ユウダチ)に警備を交代してもらった江風(カワカゼ)が隣の待機室で寝かせている。*1

 

 

 簡単に言えばヨーロッパ、EU内部の主導権争いを発端とした内紛がそもそもの原因である。

 

 

 先のパンデミックに第三次大戦、ロシア東欧紛争における東欧への限界を超えた無理な支援が祟って、EU内部のパワーバランスが大きく崩れた。

 

 

 その原因の一つに、アメリカが北大西洋条約機構、NATOから一方的に脱退、解散したことが大きな要因ともなった。

 

 なにせNATOとは実質アメリカに()()()()()()()な組織であり、その予算も7割がアメリカによる負担だったが、そのアメリカが抜けたことで旧NATO加盟国、特にEU各国は国防の頼みの綱が無くなり軍事的に瓦解状態となってしまった。

 

 ヨーロッパNATO主要国がアメリカの軍事力に依存した軍備であったことが災いし、武器弾薬の備蓄は自国軍需産業の経営と技術維持に必要な最低限。兵器稼働率は新規生産分であっても最低水準状態。トドメに兵力はかつての米ソ冷戦終結を境に削減が続き、気付けば予備役を含めても国防に必要な最低限にギリギリ届くか届かないかくらいにまで減っていたのだ。

 

 

 それに焦ったEU各国、特に旧NATO主要国を中心に慌てて軍備の再建と増強を図ったが、軍備というものはそもそも一朝一夕にどうにかなる様な代物ではなく、それでいてパンデミックによる経済の後遺症は深刻であり、続く寒冷化が追い打ちを掛けた。

 

 だが冷戦後のNATOの、というかアメリカが音頭を取って推し進められたNATO勢力範囲の無神経かつ不用意な東方拡大が原因とする、ロシアの西側に対する不信感がピークに達していた時期でもあり、*2これを機にロシアによる報復的軍事侵攻があるのではないか?との恐怖心から旧NATO主要国首脳陣は暴走。

 

 恐怖の対象(ロシア)の弱体化と寒冷化による食糧不足の解決、あわよくば資源地帯の獲得を狙って東欧を焚き付けた。

 

 

 だが結果として、それが全て裏目に出た。

 

 

 無理な軍備の急激な再建、増強と東欧への限度を超えた支援はEUの中核を担っていたドイツとフランスの経済に深刻なダメージを招いた。

 

 それに対して戦中は色々と理由を付けて()()()()()()と躱しながら日和見に近い態度を貫いていたイタリアが、相対的にEU内での力を伸ばした。

 

 

 アメリカによる中東侵攻の余波で情勢が不安定となっているにも関わらず、原油を初めとした無理な資源採掘の増産を要求してくるEUに嫌気が差したコーカサス地域のロシア回帰、新ロシア連邦(NRF)準加盟国化とトルコの新ロシア連邦(NRF)への急接近によってBTCパイプラインが戦略的に不安定化し、その影響で北海油田の戦略的価値と需要増加が追い風となったイギリスは、どさくさ紛れに北海沿岸諸国、北欧は寒冷化の影響で、ドイツは事実上の経済破綻で維持管理が難しくなったこれらの油田を直接買い漁りはせず、株式を介して経営に大きな影響を与える形で侵蝕し、北海油田の利権を間接的に独占する形で、更には近年ロンドン郊外で開発が開始されたロンドン油田の本格稼働に向けた開発促進によってEU内でのエネルギー分野を掌握し、地位の盤石化を謀った。

 

 

 これらの構図は現在のEU内におけるパワーバランス、特にEU各国の艦娘保有数にも当て嵌まっていた。

 

 イギリスとイタリアの両国がヨーロッパにおける艦娘戦力の中核を為し、北海と大西洋、ジブラルタル周辺はイギリスが、ジブラルタル周辺を除く地中海の大半はイタリアがその防衛を担っていた。

 

 

 ドイツとフランスは艦娘を大量に建造できるだけの余力が無く、自国の沿岸防衛が精一杯な状態であり、EU内での発言力も低下していた。

 

 この頃に日独の技術交流という目的で、ドイツ戦艦艦娘Bismarck(ビスマルク)が日本での建造に成功したのだが、その際に「Bismarck(ビスマルク)が日独のどちらに帰属するのか?」という帰属問題の観点から懸念をイギリスが示したことがあった。

 

 同時に他国に自国の艦娘を建造させるのは、倫理的に如何なものか?これは一種の人身売買に近い行為ではないのか?との懸念も追加で示した。

 

 これは艦娘を人間として扱うのか?兵器として扱うのか?という議論が国際的に巻き起こる切っ掛けともなったが、本当の狙いはイギリスがEUにおけるパワーバランスを維持する事が目的だった。

 

 

 この頃イギリスを支えていた既存の北海油田の産出量が低下し、新規油田の発見と開発が深海棲艦による脅威も相俟って上手くいっていなかった事と、開発を急いでいたロンドン油田が先の北海油田の問題もあって採掘開始に向けてより一層のプレッシャーを掛けて急ぎ過ぎたためか、はたまた別の要因か、大規模な爆発事故を起こして大きな損失と多数の犠牲者を出し、更には一時的とはいえ政府機能すら麻痺させた事態を引き起こした影響を受け、開発を担当していた企業や関連会社が倒産。後押ししていた政治家や官僚達が軒並み辞職に追い込まれたり、発言力を大きく低下させてしまった事もあって、ロンドン油田の開発が殆ど頓挫してしまったことにより、エネルギー分野を利用した現在のパワーバランスの維持に陰りが見え出した事でイギリスに焦りが出ていたのである。

 

 またイギリスはEU各国への自軍艦娘のレンタルを考え、打診し始めていた時期でもあり、この日本とドイツの動きは正直目障りだったのだ。

 

 

 だがエネルギー問題はどうにもならず、EUは解決策としてナイジェリアなどの北アフリカの資源地帯に目を付けた。

 

 この当時のアフリカは第三次大戦前後から民族紛争や国境紛争が激化し、収拾の兆しが見えない混沌とした情勢が続いており、ヨーロッパへと流入する難民も一向に減る気配がなかった為に、付け入る隙、もとい、介入する大義名分が充分にあるとされていた。

 

 

 そうなると地理的に地中海と、地中海の守護者たるイタリアの重要度がますます増大することとなる。

 

 地中海の大西洋側出入り口であるジブラルタル海峡を形成する、イベリア半島南端のジブラルタルを領有するイギリスであったが、この当時のジブラルタルは深海棲艦の大西洋展開部隊がジブラルタルの守備軍であるイギリス本国艦隊支隊と地中海艦隊主力との間で一進一退の攻防を続けており、ジブラルタル周辺は不安定な状態だった。

 

 そのため比較的安定していた地中海航路を防衛し、スエズ運河を制圧して同方面に拠点を構築し、進出してくる深海棲艦を抑えていたイタリアは、EUの中で重要な地位を占める様になっていた。

 

 

 だがそのイタリアでは北アフリカへの介入は現在のヨーロッパの限界を超えていると指摘し、寧ろ新ロシア連邦(NRF)との関係修復を早急に図るべきではないか?とする提案を出していた。

 

 特にその主張の出所はイタリア軍の海軍が中心となっていた。

 

 

 これはダーダネルス海峡、ボスポラス海峡を含むトルコ海峡一帯とエーゲ海が『ダーダネルス海峡攻防戦』以降、新ロシア連邦(NRF)軍とトルコ軍によって安定化していたことから、黒海方面からのタンカー輸送だけでなく、BTCパイプラインが復活する方が遥かに確実で現実性が高かったためである。

 また交渉次第では食糧輸入の可能性も期待出来、現在の食糧不足が改善される期待も出来た。

 

 これには非公式ながら新ロシア連邦(NRF)の黒海艦隊支隊である地中海常設作戦部隊との交流が、作戦海域が隣接、若しくは重複している関係から部隊レベルでそこそこ頻繁に行われており、特に艦娘部隊同士では双方が海上にて情報交換や補給し合うこともしょっちゅうあったため、EU内において最も新ロシア連邦(NRF)とそれなりに友好と言える間柄を構築していたという背景も存在する。

 

 

 だがEUはイタリアの提案に反発。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)に頭を下げることに抵抗があったのだが、その急先鋒がイギリスだった。

 

 先の大戦中、イギリスは色々と裏でヤラカシまくっていたこともあり、疑心暗鬼になってしまっていた。

 

 今新ロシア連邦(NRF)に頭を下げたら、もうイギリスは、いやヨーロッパが新ロシア連邦(NRF)の衛星国となってしまうのではないか?

 

 そんな疑念が渦巻いており、更には先の戦争での新ロシア連邦(NRF)への数々の嫌がらせに対する有形無形の報復が行われるのではないか?と恐怖する者達が少なくなかった。

 

 

 そういったこともあり、イギリスとイタリアは水面下で激しく対立した。

 

 その政争に、Pola(ポーラ)を始めとした数多のイタリア艦娘が巻き込まれた。

 

 

 彼女は表向きは事故死したとされるイタリア海軍の老将、デュゴミエ提督の率いた艦隊の所属だったと言う。

 

 

 彼はEUの決定に大きな影響力を行使しているにも関わらず、非民主的な方法で選出されているEU委員会に以前から不満と不信感を抱いており、事実先の大戦だけでなく、パンデミック期にあまりにも行き当たりばったりで硬直した方策しか示さず、EU各国の足を引っ張り、経済に未曾有の混乱を招いていただけでなく、EU圏内の人の移動を厳しく制限して物流にすら混乱を招いておきながら、難民の流入に対して無為無策に近い無制限の受け入れを続け、その影響でヨーロッパ各国国民の雇用まで損失させ、あまつさえ自分達の権限拡大にばかり奔走していた事を引き合いに出して、イタリアはEUから早々に離脱すべきであると声高に主張し続けていた。

 

 

 その政治的主張からイタリア軍内部で煙たがられていたのだが、軍人としての能力は確かであり、同時に艦娘からの支持も厚かった。

 

 彼の率いる艦隊が居なければ、地中海はスエズを起点にイオニア海*3の大半が確実に深海棲艦の海となっていたと言われており、シチリア島*4南部に拠点が構築されていた恐れがあった。

 

 それを防いだとして、イタリア国民を中心に英雄視され、ヨーロッパ中で有名となっていた。

 

 

 だが悲しいかな、英雄と呼ばれる人間ほど、孤独で非業な最後を迎えるものである。

 

 

 他に人がいなかったから、元々疎まれていたこともあり失っても別に惜しくなかったから、失敗したら寧ろ厄介払いに丁度いい。

 

 そういった事情で前線の、激戦区に放り込んだにも関わらず、逆に戦果を挙げて国民の人気者になってしまった。

 

 その事で余計に疎まれる結果となった。

 

 しかしデュゴミエ提督は別段これと言って気にすることは無かった。

 

 

 政治的な主張こそすれど、特段何かしらの政治的野心がある訳ではなく、孫娘の様な年齢の姿形をした艦娘達に囲まれ、彼はそれなりに満足していた。

 

 彼は彼なりに艦娘達を愛し、艦娘達もそんな彼を愛した。

 

 頑固で酒好き、しかも恐ろしく短気で口論となることもしばしばあったらしいが、その一方で決して手を上げる様なことはせず、根に持つようなこともしなかった。

 

 何より彼は艦隊旗艦であり、“saggio(サッジョ)”、イタリア語で賢人との敬称で呼ばれて数多のイタリア艦娘に慕われ、他国にもその名を轟かせていた武勲艦娘、戦艦艦娘Conte(コンテ) di(ディ) Cavour(カブール)と相思相愛の仲だった。

 

 

 彼は妻を早くに亡くし、その気難しい性格からか再婚すること無く3人の子供を男手一つで育て上げたが、その3人にも先立たれており、孤独だったというのもあるのだろうが、強気な性格の Cavour(カブール)とはなにかと馬が合った様で、時折ぶつかったりもしていたらしいが、お互い惹かれ合い、途中からは口論していても夫婦喧嘩の延長の様だったとの証言が残されており、仲の良い歳の離れた夫婦にしか見えなかったと言われていた。

 

 

 だが、ある日突然、デュゴミエ提督に軍上層部からスパイ容疑と叛乱の容疑で出頭命令が出され、国家憲兵であるカラビニエリによって首都ローマへと連行しようとした直後、デュゴミエ提督を護送するために乗せたカラビニエリの車両が突如爆発し炎上。

 

 そして複数の爆発が立て続けに起こり、現場は混乱の坩堝となった。

 

 

 公式には偶発的な車両の事故が原因でデュゴミエ提督が爆発に巻き込まれ、立て続けに起きた爆発はこの事故を最初から提督の暗殺が目的で仕組まれたものであったと決め付けた艦娘達が激昂し、暴発した事が原因であると処理された。

 

 デュゴミエ提督は最初の爆発で即死。この混乱の最中に、デュゴミエ提督の死に錯乱し発狂した Cavour(カブール)も死亡し、指揮下にいた数多の艦娘も混乱から同士討ちが発生して死亡したとされている。*5

 

 

 この混乱はイタリア全土に及び、事件の顛末に納得しない艦娘達や彼女達に同調した軍人達によるサボタージュを招いた。

 

 その後カラビニエリや陸軍、サボタージュに同調しなかった部隊を総動員しての鎮圧に乗り出し、混乱を最小限に抑えようとしたものの、多数の高級軍人が更迭され、部隊の指揮が可能なベテランを含む第一線級の艦娘を逮捕拘禁した影響で、以前ほど地中海での軍事的プレゼンテーションが発揮出来なくなった。

 

 

 ただこの頃になるとジブラルタル攻防戦が一段落しており、ジブラルタル防衛は本国艦隊支隊が担い、地中海艦隊は徐々に地中海防衛の為に転戦したことで、地中海が深海棲艦の海となる様な致命的な事態が生じる事は無かった。*6

 

 

 この頃からイタリアを見限って脱走を企てるイタリア艦娘が現れ始め、イタリアを出奔して交流のあった新ロシア連邦(NRF)の部隊を頼ってエーゲ海を目指す者がチラホラと出始めた。

 

 

 中には軍の船舶を奪って軍人ごと脱走する事態も起き、更には妖精さん達までイタリアを見限って脱走する艦娘や軍人達と一緒に付いて行ってしまっていたという。

 

 

 追跡しようにも追跡部隊そのものが脱走する恐れもあり、躊躇して初動が遅れ、更には事態を嗅ぎ付けたイギリス地中海艦隊が独自に追跡部隊を出す事態にまで発展。

 

 

 その際、イギリスイタリア双方の艦娘が撃ち合う事態も発生したが、イタリア側は脱出を優先した雑多な編成で、国内の混乱によって物資の補給に支障が出ており、それでなくても叛乱武装蜂起を恐れた上層部が各基地に保管していた弾薬の大半を取り上げてしまっていたこともあり、持ち出せた弾薬が限られていた為、また多数の妖精さん達が乗り込んでいた影響もあってか碌に戦う事が出来無い状態だったこともあって、多数の戦艦艦娘を前面に押し出して向かって来る圧倒的戦力のイギリス艦隊の前に、捕捉されたイタリア艦隊は必死の抵抗虚しく捕縛されるケースが殆どだった。

 

 ただ深海棲艦が出現する海域を避けていたこともあり、運悪く強行偵察部隊にでも遭遇しない限りは深海棲艦に捕捉されることは稀であった。

 

 

 そしてWarspite(ウォースパイト)は脱走したイタリア艦隊を捜索、追跡する部隊の一隊を任せられていた。

 

 

「あの娘、Pola(ポーラ)は姉のZara(ザラ)と2人だけで逃げていたわ」

 

 

 他の部隊とは違い、彼女達はデュゴミエ提督の部下という理由で軍に拘束されていたのを、妖精さん達による手引で脱獄。2人と脱走を手引した妖精さん達だけでエーゲ海へと向かったのだが、殆ど物資も積み込む事が出来ず、しかも拘束されていたこともあって体力も消耗しており、半ば迷走してしまっていた所をWarspite(ウォースパイト)の艦隊が捕捉した。

 

 

 2人はなんとか振り切ろうとしたが、天は彼女達に味方しなかった。

 

 

 追跡部隊から逃走するために舵を切ったその針路の先に、深海棲艦の強行偵察部隊が存在していた。

 

 

「彼女達からしたら、私達が深海棲艦のいる方向へと誘導したと思ったのでしょうね…」

 

 

 実際は偶然なのだが、体力の限界が近かった彼女達はWarspite(ウォースパイト)達と遭遇したことで半ば錯乱していた様であり、傍受した通信の混乱具合からその事が読み取れた。

 

 

 とはいえ2人の追跡よりも、自分達の使命である深海棲艦の撃滅、誇り高き大英帝国海軍(ロイヤルネイビー)の伝統たる見敵必殺(サーチ&デストロイ)の精神を優先する決断をWarspite(ウォースパイト)は下した。

 

 だが先にも述べた通り、自分達と深海棲艦の間にはZara(ザラ)Pola(ポーラ)がいて、水平射撃時には射線を塞ぐ位置だった。

 

 司令部から受けた命令は脱走艦を捕捉し拿捕する事であり、脱走艦の撃沈では無い。

 

 そのため2人を射線上に捉えたまま深海棲艦との火蓋を切る訳にはいかず、Warspite(ウォースパイト)は2人を避ける様に艦隊を左右二手に分散させ、尚且つ深海棲艦を十字砲火で叩く為の射線を確保するよう指示を出し、ほぼ同じタイミングで深海棲艦も迎え撃つつもりなのか、こちらへと進路を変更して来たのだが、陣形変更の艦隊運動を開始したタイミングでWarspite(ウォースパイト)は己の判断ミスに気が付いた。

 

 

 この艦隊運動はまるで2人の逃げ場を無くす為、半包囲する目的で艦隊陣形を変更したとも見れなくも無かった。

 

 それに2人はこちらが受けている命令の内容など知る由もないのだから、逃げ場を封じて深海棲艦に自分達を始末させる、或いは深海棲艦ごと自分達を始末するつもりなのだと勘繰られても可怪しくない陣形だった。

 

 

 そしてその予想は的中だったらしく、深海棲艦と追跡して来た艦娘部隊に包囲されたと思い込んだ事で冷静さを失い、完全に錯乱した2人によって、戦闘はシッチャカメッチャカな乱戦となった。

 

 

 その後、なんとか深海棲艦を撤退に追い込んだものの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()新ロシア連邦(NRF)地中海常設作戦部隊の水上艦隊が戦闘を察知し、接近しているのを確認した事でWarspite(ウォースパイト)はこれ以上事態が複雑化して外交上の問題となることを危惧し、引き上げを指示した。

 

 自分達の母艦である45型駆逐艦『Darling(デアリング)』級『Dauntless(ドーントレス)』も近くまで接近して来ているが、距離的に見て既に新ロシア連邦(NRF)艦艇の装備する対艦巡航ミサイルKalibr(カリブル)の射程圏内に入っている。

 

 流石に無警告でいきなり撃ってくる事はないだろうが、万が一撃ってきたら、不規則な軌道で飛来するKalibr(カリブル)の、しかも複数艦からによる飽和攻撃に対して幾ら有力な防空艦とされる45型駆逐艦『Darling(デアリング)』級であったとしても、追跡任務での機動性を重視して単艦だけで動いていたが為に、撃ち漏らしをカバーしてもらえる僚艦がおらず、手数が足りずに押し切られるリスクが高く、撃って来ないにしても不審船扱いを受けて無用な緊張を生むことを躊躇ったのである。

 

 辛うじて戦闘能力を維持していたPola(ポーラ)と、戦闘不能となって漂流するだけとなった瀕死のZara(ザラ)を残して。

 

 もしも、この時にWarspite(ウォースパイト)達が自分達の母艦へとZara(ザラ)を連れ帰って収容していたとしたら、もしかしたら助かったかもしれないという可能性も残して。

 

 

 錯乱状態だったPola(ポーラ)からすれば、見捨てたと見えてしまったのだろう。

 

 

 地中海常設作戦部隊の捜索部隊である『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級コルベット艦『Строгий(ストローグイ)』と21631型小型ミサイル艦『Буян(ブヤン)』М型ミサイルコルベット改装の特設艦娘母艦『Ставрополь(スタヴロポリ)』が到着し、艦娘部隊を展開した時には、既に息を引き取ったZara(ザラ)の亡骸を抱きかかえて泣き叫ぶ、傷だらけのPola(ポーラ)を発見することになった。

 

 

 そしてその現場に、当時黒海艦隊に所属していたГангут(ガングート)が居た。

 

 (ふね)に収容された後も、一向にザラ()の遺体から離れようとしないPola(ポーラ)の傍に、Гангут(ガングート)は航行中ずっと付き添っていたという。

 

 

「彼女の身柄は暫く黒海艦隊預かりとなり、姉のZara(ザラ)の遺体はセヴァストポリの軍共同墓地に埋葬された」

 

 

 そう言って目を伏せ十字を切り、Zara(ザラ)の冥福を祈るГангут(ガングート)

 

 余談だが、彼女はロシア正教会に帰依しており、Pola(ポーラ)もイタリアに居た頃は一応ローマ・カトリック教会を信望していたらしい。

 

 

 当初は地中海常設作戦部隊の拠点のある、旧ロシア連邦時代からのシリアにおける新ロシア連邦(NRF)の海外拠点、タルトゥース補給処でZara(ザラ)の葬儀と埋葬を行う予定であったが、直前にタルトゥース補給処が深海棲艦による空襲を受けたため、急遽ヘリによって近くの在シリア新ロシア連邦(NRF)航空宇宙軍フメイミム空軍基地に向かい、この基地で輸送機に乗り換えてセヴァストポリ基地に移動となった。

 

 そして略式とはいえ、葬儀を執り行ったのだが、消耗が激しく、さらには精神的外傷、所謂PTSDを発症していたことからマトモに口も聞けなくなっていたPola(ポーラ)の代わりに葬儀を執り行ったのがГангут(ガングート)であった。

 

 

 その後紆余曲折を経て、Гангут(ガングート)が太平洋艦隊司令に就任したタイミングでPola(ポーラ)も移動して来て、彼女の預かり艦娘となったという。

 

 とはいえそれはPola(ポーラ)が艦娘として転戦してきた訳ではなく、彼女はその精神的外傷から戦いに出ることが難しいと判断され、傷痍退役軍人相当の扱いとなって年金も貰える様になっていたのだが、新ロシア連邦(NRF)において殆ど身寄りの無い彼女がГангут(ガングート)を頼ったというのと、Гангут(ガングート)も彼女の事を気にかけていたこともあり、自身の預かりという形で彼女を引き取ったのである。

 

 

「あれでも当時と比べたら、酒癖だけはどうにもならなかったが、かなりマシにはなったんだが…、すまないWarspite(ウォースパイト)、私のミスだ」

 

 

 Warspite(ウォースパイト)に頭を下げ謝罪するГангут(ガングート)であるが、当のWarspite(ウォースパイト)は首を振って気にしていないと告げる。

 

 

「事の発端はイタリアを貶めるために、当時のイタリア上層部を煽り、Admiralデュゴミエを逮捕する様に仕向けて暗殺した、我が英国に原因があるのだから、彼女にとって私は二重の意味で恨みの対象よ。

 

 …私が殴られるだけで彼女の気が済むなら、安いものよ」

 

 

 そう言って微笑むWarspite(ウォースパイト)だが、その言葉に隣の部屋で軽く物音がした様な気がしたが、気にしない。

 

 Warspite(ウォースパイト)はサラッと言ったが、他国の高級将校を謀略の末に暗殺していた事実を、非公式とはいえ認めたのだ。

 

 その事実を聞かされて、心穏やかにはいられないだろう。

 

 

「そうは言うが、()()()()()()()()()()()()()()()()を我が軍に在籍していることとなっている艦娘が傷付けたとあっては、我が国と貴国とで外交問題に発展し、最悪の場合は戦争になってしまう大問題だぞ?」

 

 

 仕方が無いことだと話すWarspite(ウォースパイト)に、Гангут(ガングート)は肩を竦めながら返す。

 

 …隣の部屋が先程よりも騒がしい音がした様だが、気にしないでおく。

 

 

 それよりもГангут(ガングート)の言葉の中にあった、エジンコート朝というのが土方と真志妻に金剛、それと執務室の周りで聞き耳を立てている者達には引っ掛かった。

 

 現在の英国王朝はWindsor(ウィンザー)朝ではないのか?いやそもそも王位継承権筆頭とはどういうことか?

 

 

 そんな疑問が漂う空気の中、ああそういえばとГангут(ガングート)が察した。

 

 

「まだ公にはなっていませんが、今の英国王朝はWarspite(ウォースパイト)の姉、Queen(クィーン) Elizabeth(エリザベス)陛下が革命によって悪逆非道なWindsor(ウィンザー)朝を打倒し、新たな王朝であるAgincourt(エジンコート)朝の初代女王陛下として即位したんですよ」

 

 

 そう説明するが、その内容にWarspite(ウォースパイト)が血相を変えた。

 

 

「ちょっとГангут(ガングート)!人聞きの悪いこと言わないで!確かに怒った姉さまがVickers(ヴィッカース)Machine Gun(マシンガン)を肩に担いでBuckingham Palace(バッキンガム宮殿)に突撃した時はみんなして唖然としたけど!あれは革命でもなんでもないわ!!姉さまはただ王家に抗議したかっただけなのよ!!」

 

 

「そうなのか?北方艦隊預かりの駐在武艦Архангельск(アルハンゲリスク)からはそういった感じの内容で我が国に伝わってるぞ?」

 

 

「アルハン…?ああ、Royal(ロイヤル) Sovereign(ソブリン)のことね…。まったくあの娘は…。だから私はあの娘を武艦として派遣することに反対したのよ…。

 

 はぁ…、今度また会ったら折檻ね…」

 

 

 なんだか色々と物騒な単語が聞こえた気がするが、兎も角王朝が代わった事は確かな様である。

 

 因みにАрхангельск(アルハンゲリスク)とはイギリス戦艦艦娘であるR級戦艦R.Sの新ロシア連邦(NRF)での呼び名であり、これはかつての第二次大戦で元となった戦艦がソ連に貸与された時に付けられた艦名であり、それに倣って新ロシア連邦(NRF)へと赴任が決まった際に本人がR.Sから改名したのである。

 

 尚、そのことに関してQ.E陛下は「よろしいのではなくて?」と二つ返事で了承したという。まぁ身内には甘いのが玉にキズと言われるQ.E陛下らしいと言われているらしいが。

 

 

 だがそのQ.Eといえば王家への忠誠心がとても篤い艦娘であると聞き及んでいる。

 

 そんな彼女が、妹のWarspite(ウォースパイト)は否定しているが革命によって王朝を倒したというのが俄には信じられなかった。

 

 一体何があったのか?まさか紅茶が原因では無いと思うが…。

 

 

「事の発端は国から支給されていた紅茶の供給が減らされたのが始まりよ」

 

 

 …そのまさかであった。

 

 

「それで姉さまも機嫌が悪くなっていたのよ。あのヒトは紅茶を嗜むのも好きなお方だけど、自分の淹れた紅茶を振る舞う事に無常の喜びを感じてたから、よく姉さまの主催でティーパーティーを開いていたわ。

 

 私もだけど、みんな姉さまの淹れてくれる紅茶が大好きだったの」

 

 

「Oh!そういえば聞いたことありマース!Britishの娘の中に天才的な紅茶のMeisterがいるっテ!

 

 なんでもそのヒトはみんなが私の淹れた紅茶で楽しいティータイムのひと時を過ごして貰えるのが好きなのだと言っているらしいデスネ?私もそのヒトの心意気に感銘を受け、目標としていマース!」

 

 

 流石は日本艦隊随一の紅茶狂い()と呼ばれている金剛である。遠い異国の話題であっても、紅茶に関わることならば色々と知っている様である。

 

 

 姉を目標であると言われて、嬉しそうに微笑むWarspite(ウォースパイト)だが、直ぐ様気持ちを切り替えて続きを話し出す。

 

 

「そもそもいくらヨーロッパ最大の艦娘戦力を擁する我がイギリス海軍(ロイヤルネイビー)でも、ギリギリバレンツ海に差し掛る海域を含めた北海油田全域、大西洋の本国水域にジブラルタル海峡、そしてマルタ島を拠点とする地中海の防衛は、国力の観点から流石に無理があった」

 

 

 確かに、いくら北海油田の利権を事実上掌握したとはいえ、それ以前にイギリスの経済そのものがボロボロだったのだ。

 

 そこに来て巨額の国費を投じていたロンドン油田が大爆発して大きくコケ、犠牲者や被害者への保証やら補填やらなにやらが積み重なって文字通り国庫が火の車の債務が焦げ付いてイギリスは首が回らない状態にまで追い込まれていた。

 

 艦娘の他国へのレンタルというのも、そういった経済という世知辛い事情から来た、一種の出稼ぎに出さなければならないほど追い詰められつつあったイギリスが考えた末の、苦肉の策だったのかもしれない。

 

 …かという日本も、新ロシア連邦(NRF)の、正確には土方や霧島(キリシマ)に恩義のあるスラヴァ(ミロスラヴァ)の好意と、是が非でも彼らを欲しがっていた下心のお陰でなんとか現有戦力を維持出来ている状態なので、決して他人事であるとは言えないが。

 

 

「そのため茶葉の輸入にも差し支えが出るようになって、国はそれを受けて今まで以上に統制を厳しくしたのだけど、みんな内心では不満に思いながらも仕方無いと半ば諦めていたわ。

 

 姉さまも一応の理解を示していたけども、なかなかティーパーティーを開いてあげられなくなったから、かなりストレスが溜まっていたという中で、あの事件が起きたわ」

 

 

 紅茶を一口啜り、一拍の間を置きながら、チラリと真志妻に視線を送り続けて土方を見た。

 

 これから話す内容は、艦娘をこよなく愛する彼女にとっては間違いなく許し難いものだからだ。

 

 

 

 

「王室関係者が我が艦隊のDestroyer(駆逐艦)Corvette(コルベット)の娘達に手を出していた事が発覚したのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 旧式の小型巡洋艦の人工艦娘、松島の姿となった真志妻が、感情の一切が読み取れない顔となり、漏れ出た声によって場の空気が、一気に凍りついた。

 

 

 

 

*1
執務室と待機室を繋げる扉が僅かに開いているのはご愛嬌。

*2
ロシアと国境を接する東欧の某国で数年前に起きた反ロシア親EU親米路線、NATO加盟を掲げた勢力によるクーデターで親ロシア政権が転覆した事と、それに伴う軍事衝突や事実上の民族紛争。

*3
イタリアを長靴と見立てた際の靴底部分に面した海域。その北側、踵部分より上がアドリア海。

*4
イタリアの爪先にある島。

*5
ただ不可解なことに、 Cavour(カブール)の遺体は混乱の最中にいつの間にか消えていたとの証言が複数残されている。

*6
なお、この時新ロシア連邦(NRF)はこの混乱への対応を目的として、海軍地中海常設作戦部隊の増強の為に、11356M型フリゲート艦『Адмирал(アドミラル) Григорович(グリゴロヴィチ)』級を旗艦とした水上船艇部隊を黒海艦隊より抽出して派遣。

 また時を同じくして、北方艦隊とバルト海艦隊からも戦力を抽出し、その部隊は北方艦隊の旗艦でもある原子力ミサイル巡洋艦『Пётр(ピョートル) Великий(ヴェリーキイ)』が旗艦を務め、更には最新鋭艦『Лидер(リデル)』級原子力駆逐艦まで加えた大艦隊が出撃した。という情報が流れたが、後にこれは誤りであった事が分かり、正確には北方艦隊とバルト海艦隊に所属する艦娘の一部が増援として空路にて地中海常設作戦部隊に合流したというもので、『Пётр(ピョートル) Великий(ヴェリーキイ)』は原子力ミサイル巡洋艦のことではなく、バルト海艦隊に所属する同名のモニター艦型の前弩級戦艦艦娘を勘違いした事であり、『Лидер(リデル)』は完全な誤報だった。




狂犬(ぽいぬ)「モノホンのプリンスっぽい?」
忠犬「それを言うならプリンセスだよ」

魔狼(まろ~ん)「やばいよやばいよ~(Pola(ポーラ)が)」
アル重「(お水だけど)お酒美味しいです~」(現実逃避)


 当初の予定ではこの後の事も書き切るつもりでしたが、次の話とも被る内容でしたので、次話に譲ることと致しました。

 なお、最後の話は年始からアメリカで順次公開が始まった、エから始まる6文字の人物の事件に関する裁判文章から発覚した、以前からエ○◯○○ンとの関わりがあるのではないか?との噂のありました英国王室のとある人物が、ほぼ確実であるとの情報が出ましたので、書き足しました。それまではガチで紅茶による革命にする気でいました。


補足説明

北海油田

 1960年にイギリスが開発を開始し、続いてノルウェーも開発に乗り出した、北海にある海底油・ガス田の総称。

 イギリス、ノルウェー、デンマーク、ドイツ、オランダの各経済水域にまたがるが、大半の油・ガス田はイギリスとノルウェーの経済水域の境界線付近に存在する。

 近年、一部の油田では枯渇化に新規開発が追い付かず、先行きが不安視されている。


ロンドン油田

 ロンドン郊外、ガトウィック空港近辺で発見された油田。

 推定埋蔵量は北海油田を凌ぐのではないか?とされている。

 なお、名称に関しましては筆者による仮称で、尚且つまだ開発が始まったばかりもあって詳細な情報が不足しており、本作中では事故により稼働が頓挫したことに致します。


BTCパイプライン(バクー・トビリシ・ジェイハン(Baku-Tbilisi-Ceyhan)パイプライン)

 カスピ海のアゼリ・チラグ・グネシュリ油田から地中海までを結ぶ全長1,768キロメートルの原油パイプライン。

 アゼルバイジャンの首都バクーから発し、ジョージアの首都トビリシを通り、トルコの地中海沿岸南東部に位置する港ジェイハンへ抜ける。これはドルジバパイプラインに次いで世界第2位の規模の石油パイプラインである。
Wikipediaより抜粋



地中海常設作戦部隊
(Постоянное оперативное соединение Военно-морского флота Российской Федерации в Средиземном море)

 2013年9月に北方艦隊とシリア駐留の黒海艦隊の艦艇を組み合わせて編成された。バルト海艦隊の艦艇も戦力を提供することもある。

 主な任務は地中海から中東に対するロシア海軍戦力の戦力投射を担っている。

 旧ソ連海軍では1967年の創設から1992年12月31日の活動停止まで、第5作戦戦隊が同様な任務に従事していた。
Wikipediaより一部抜粋



EU委員会の非民主的問題

 欧州委員会が執行機関であるにもかかわらず、その候補は主として加盟国政府が選出しており、これはつまり市民が直接欧州委員会の人事を拒否することができないということである。
Wikipediaより抜粋


 より詳しくはちと文章が長くなり過ぎますので、Wikipediaの『EU委員会、民主的懸念』の項目をご覧ください。


11356M型フリゲート『Адмирал(アドミラル) Григорович(グリゴロヴィチ)』級

 元は22350型フリゲート艦『Адмирал(アドミラル) Горшко́в(ゴルシコフ)』級の建造遅延に伴い、インド向けに建造した11356型『Talwar(タルワー)』級フリゲート艦の設計をベースとし、黒海艦隊向けに発展させたフリゲート艦。
 基本的に11356M型とされるが、11356R型と記載される時もあり、Rはロシアを表している。


モニター艦型前弩級戦艦Пётр(ピョートル) Великий(ヴェリーキイ)

 帝政ロシアがバルト海艦隊向けに建造した艦で、ロシア初の航洋型装甲艦の艦娘。
 
 前弩級戦艦としておりますが、建造当初はモニター艦で、次に装甲艦となり、ロシアでは戦艦を意味する艦隊装甲艦になったり、その後も練習船や潜水母艦、封鎖艦(浮き砲台)と、1869年に起工し1959年に退役するまでの間に艦種が何度も変化しています。
 

 今回完全にネタとして急遽引っ張り出したオリジナル艦娘であり、本編に絡む事はありません。同じ名前の艦や艦娘が居たら、こんな勘違いもありそうだなぁというネタ目的もありましたので。


45型駆逐艦『Dauntless(ドーントレス)

 イギリス海軍の保有するミサイル駆逐艦。

 1番艦の艦名から『Daring(デアリング)』級と呼ばれたり、姉妹艦6隻全ての艦名が“D”から始まることから、D級とも呼ばれている。

 本艦の特色として、長期の海外展開を考慮して居住性が特に配慮されているだけでなく、定員190人、最大で235人まで増員を見込んだ設計がなされており、また海兵隊員60人の乗艦が考慮され、彼らの練度維持のためのフィットネスルームが設置されている。

 上記の特色を活かして海兵隊員の代わりに艦娘部隊を乗艦させて、本国水域以外への艦娘戦力展開に活用されている。
 また本級以外にも26型フリゲート艦『Glasgow(グラスゴー)』級も艦娘展開用の母艦に用いられているが、本艦は経済の低迷による予算執行の問題から建造が遅延しており、就役数が伸び悩んでいるのがネックとなっている。


21316型小型ミサイル艦『Буян(ブヤン)』М型ミサイルコルベット改装特設艦娘母艦

 ロシア海軍小型砲艦21630型『Буян(ブヤン)』型の発展型、21631型『Буян(ブヤン)』М型コルベットを艦娘母艦として改装した艦。

 カスピ小艦隊でのテストの後、主に黒海艦隊及び地中海常設作戦部隊で試験的に運用されていたが、小型艦故の耐航性の低さと母艦能力に不満があるとして少数配備に留まっている。


 西側の大型艦娘母艦とは正反対に、小型艦を母艦として海の兵員輸送車的に運用すべく、既存のミサイルコルベットを改装した。という代物。コスト的には安いけど肝心の母艦能力は低く、必要最低限の能力しか有しておらず、継戦能力も低い。飽く迄も近海防衛用の母艦。

 なお、母艦化に伴い、一部の艦を除いて艦内容積確保のため巡航ミサイルКалибр(カリブル)のVLSは撤去されている。

 因みに、本艦に装備されているКалибр(カリブル)は対艦攻撃仕様の3M54Eではなく、米軍の使用するトマホーク巡航ミサイルの様な対地攻撃仕様の3M14TEだったりしますが、ややこしくなるためその辺りの使い分けは本編では省くことになると思います。


タルトゥース補給処

 シリアの都市タルトゥースの港の北端にある第720物的技術保障拠点( 720-й пункт материально-технического обеспечения ВМФ России)を中心としたロシア海軍の施設の通称で、1971年に締結された、当時のソビエト連邦とシリアとの合意によって設立された。

 タルトゥース海軍基地と呼ばれることもあるが、ロシアの公式使用法では、補給施設(Пункт материально-технического обеспечения、ПМТО)(海上自衛隊でいう補給処に相当)として分類し、「基地」として分類されていない。

 タルトゥースは施設の問題からフリゲート艦や駆逐艦などの現在のロシア海軍の主要艦艇を収容出来無いとされているが、限定的ながらも補給は可能とされている。
Wikipediaより抜粋


 なお、一応本作では拡張工事により施設規模が拡充されているとの設定としますが、本編にはあまり関わらない設定になると思います。


フメイミム空軍基地
Авиабаза «Хмеймим»,

 シリアのラタキア市南東にあるロシア航空宇宙軍の基地。

 2015年にロシア連邦がシリア内戦に軍事介入することが決定されたことにより、バースィル・アル=アサド国際空港の隣に建設された。
 一部施設を共有しているが、フメイミム空軍基地はロシア人スタッフのみで運用されている。
Wikipediaより一部抜粋




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。

 …それにしても、過去最大の補足説明数になってしまったなぁ。調べてて楽しかったけど、ロンドンの油田は調べるまで知らなかったし、記事も少なめで厄介だった。


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第67話 Feeling of hatred for war.

 厭戦気分


 今更ですが、真志妻亜麻美大将は法治国家に置きましては決して善人などではありません。完全な悪人の類いです。国民あっての国家、国民の為の国家という概念は持ち合わせておりません。
 ついでと言いますか、人間を相手取る事もあってか、艦娘も気持ち悪党寄りがちらほら。
 

 


 

 

 真志妻亜麻美(アマミ・マシツマ)は“狂人”の類いと言っても差し支えないくらいに、明らかに精神に異常を抱えている。

 

 

 本国の近衛艦隊にいた頃、陛下──姉さまは秘密情報部(SIS)の報告書に目を通した後、そう漏らしていた。

 

 

 彼女の判明している経歴からしたら、精神に歪みが出てしまうのも仕方の無い事なのだろうけど、それでもそれだけでは納得し切れない事がある。

 

 

 彼女が極度の人間嫌いであり、極一部の人間を除いて心を開かず、反対に艦娘に対してはあからさまなまでに開け広げである。

 

 人間嫌いではあるが、普段は猫を被っていることもあり、致命的な問題となっていない様に見えるが、調べていくとそうとも言い切れない箇所が散見された。

 

 

 大将就任と同時に行なわれた海軍艦娘部隊改革の中で断行された大規模な粛清人事において、少なくない高級軍人がその地位や役職を追われたのだが、その内の何割かが秘密裏に()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その殆どは最前線とされる沖縄送りにされ、戦死したことになっているのだが、現地で戦死と偽った処分である(実際にどうなった)かは分からなかったものの、よくよく調べてみると何人かは沖縄送りではなく、真志妻本人が自ら処分を下した実態が明らかとなった。

 

 

 彼女が直接手を下した者達には、ある共通点があった。

 

 それは、我が英国の恥である(くだん)の王族関係者と同様にその者達が艦娘に対して尊厳を踏み躙る様な、明らかに倫理に悖る不適切な行為を複数回に渡って行なっており、その事で真志妻の逆鱗に触れた様なのである。

 

 そして処分の手段なのだが、嘘か真か、どこから引っ張り出したのやら、年式も型式も不明な手回しクランク式のガトリングガンなどという骨董品、ではないけど旧式の機関銃を持ち出したらしい。

 

 この日を境に、忽然と呉鎮守府に真志妻の名義で一基のガトリングガンが──彼女曰く「この子は回転式機関砲です!」と言って譲らないらしいが──保管され、情報提供者によると時折真志妻が鼻歌交じりに1人で演習場に持ち出し、奇声を発しながら撃ちまくっている姿を目撃したらしいが、その時の表情は恍惚としながらも恐ろしいまでに歪んでいたとのことである。

 

 

 それは兎も角として、艦娘部隊内で同様な事件が起きたら間違い無く彼女が何らかの行動に出ているが、そのどれもが苛烈で容赦の無い過激な物ばかりだった。

 

 その事からも、彼女は艦娘が無闇矢鱈と傷付けられることが嫌いであり、傷付けた者を憎悪していると見る事ができる。

 

 事実、普段の言動から、またティータイムの最中にカマをかけてみたのだが、彼女は憎悪を一切隠そうとしなかった。

 

 

「貴女達を傷付ける愚物共は、決して許さない…!」

 

 

 静かに、だがはっきりとした口調でそう語る彼女の瞳の奥には、暗い憎しみの業火が燃え滾っているのが見えた。

 

 

 だがしかしである。

 

 

 彼女が愛してやまない艦娘(私達)を最も、主に物理的に傷付けている存在である深海棲艦に対してはどうか?

 

 少なくとも、深海棲艦に対して彼女が何かを語る際、これと言った負の感情が出ている素振りを、見た(ためし)がない。

 

 

 何故?

 

 

 どうして?

 

 

 彼女が総提督に就任してから、日本海軍での艦娘の戦死者数は目に見えて激減したが、ゼロになったわけではないし、つい一ヶ月ほど前に、彼女と親しかったという艦娘が哨戒行動中に発生した戦闘でKIAになった(戦死した)との報を受け、悲しみを露わにしていた。

 

 

 艦娘(私達)を傷付ける人間達に対して、あれ程までにあからさまで苛烈なまでの憎悪を見せ付けておきながら、なぜ深海棲艦に対しては怒りを露わにしない?あまつさえ和平などという考えに行き着く?

 

 

 そもそもこの戦争で日本海軍の艦娘だけでも、既に4桁近い戦死者と行方不明、Pola(ポーラ)の様な傷痍軍人相当を出しているというのに。

 

 

 分からない。

 

 

 分からないからこそ、私は、我が英国は真志妻亜麻美(アマミ・マシツマ)を恐れている。

 

 

 彼女が深海棲艦について何かしら語る時の瞳からは、僅かだが憂いに似た何かを感じた。

 

 

 もしかしたら彼女は───

 

 

 それを確かめるべく、私は姉さまの名代として彼女の誘いに乗り、今この場に来ているのだ。

 

 

 

───────

 

 

 真志妻亜麻美は艦娘達を溺愛している。

 

 

 そこに嘘偽りは無い。

 

 

 それは過去の自身と、姉といえるもう一人の生き残りと共に受けた仕打ちに対する、ニンゲンへの不信感や恨み辛みの反動が関係しているし、何より失望感の影響もあるだろう。

 

 

 彼女にとって艦娘とは、殆ど同族と言っても差し支えの無い存在である。

 

 だがその同族達は一部気の強い娘や反骨精神の強い娘もいるが、総じて純真無垢で優しい娘の割合が多数を占めていた。

 

 

 しかしそれは同じ種族であっても平気で騙し、平然と尊厳を踏み躙ることが当たり前という種族であるニンゲンにとって、騙しやすい格好の獲物にしか見えていないに違いない。

 

 事実、軍隊で出会った者達の大半は、艦娘達を道具か何かにしか見ていないようなヤカラばかりだった。

 

 

 彼女の中で人間に対する評価とは、概ねその様なものだった。

 

 

 ただ、橘茂樹という、皮肉屋で普通とはちょっと変わった感性と価値観を持った人間が彼女を匿い、養父となったからこそ、少なくとも彼が存命の間は、人間に対して抱いている怒りと憎しみの感情が激発して大惨事を引き起こす事はなかった。

 

 

 彼は軍内部でもかなり浮いた軍人であり、旧自衛隊では情報本部に所属していたらしいが、その思想と性格が災いして窓際族に追いやられていたという。

 

 別に国家転覆の様な危険思想の持ち主だったとかという訳ではなく、「国家に真の友人はいない。自分達の利益の為ならば、米国はいとも簡単に日本をボロ雑巾の様に捨てる。この国はいい加減、自分の身は自分で守る自主防衛に関して真剣に考えるべきだ」との日米同盟とそれに基づく集団的自衛権の確実性に懐疑的な見解の持ち主だったのだが、それは自衛隊においてタブー領域とされている考えであり、今後の自身の立身出世にさえ悪影響を与えかねないリスクの高い思想だった。

 

 そういった背景があって、自衛隊が正式な国軍へと改変された時に彼は情報本部から放り出され、当時人手が足りなかった海軍艦娘部隊の指揮官として僻地の基地へと放り込まれた。

 

 まぁ、その僻地の基地というのが真志妻が人工艦娘となった例の研究施設の近くだったのは完全に偶然だった訳だが。

 

 

 情報畑出身ということもあり、情報収集を重視しながら暫くは殊更慎重に、部隊運用は不慣れで四苦八苦しながらも、可もなく不可もなくな感じでボチボチと仕事をこなしていた。

 

 ボチボチと大過無く、見方によっては平凡も平凡な石橋を叩いて渡るタイプに見える様な仕事ぶりが、ある種の隠れ蓑となって、ただの慎重なだけの派手さの無い提督として書面上で埋もれる結果となり、真志妻を匿う上で有利に働いたのは皮肉としか言いようがなかった。

 

 しかしそのおかげで真志妻を外部の煩わしい事態から隔離することが出来たため、多少なりとも心を落ち着かせることが出来るだけの時間的な余裕と、彼の艦隊の艦娘達が暖かく迎え入れてとことん親身になり、人間と艦娘の半端者と悩み苦しみ荒んでいた心のケアに取り組んだ甲斐もあって、彼女にとって心許せる存在が得られた事で、当時物凄く荒んでいた彼女の心は大きく改善された。

 

 

 少なくとも、彼のおかげで真志妻の精神が完全に歪み切ることだけは避けられたし、ほんの一握りとはいえ人を頼ることを覚えた。

 

 だがその直後に橘大佐が急死したことと、軍内部で信頼出来るだけの人間と出会えなかったことで、信頼出来るのは艦娘のみと、彼女達に傾倒していった。

 

 それが彼女が艦娘至上主義となった理由であった。

 

 

 因みにもう1人の生き残りである義姉は、義妹である真志妻以上に色々あったため人間不信が払拭し切れずにおり、外部との接触は殆ど拒絶状態のため外へと出ることはせず、寧ろ義妹への執着心が強かった。

 

 

 兎も角として、信頼の出来無い者達ばかりのニンゲンよりも、半端者の様な自分を受け入れてくれた恩のある艦娘達の方が大切であり、守りたかった。

 

 優しいみんなの事が大好きだった。

 

 

 だけどニンゲン共はそんな優しいみんなとの約束を、踏み躙った。

 

 

 元々艦娘と人間とは対等であり、深海棲艦という脅威を打ち払う盾であり矛としてその武力を提供する代わりに、必要となる物資と土地などを提供する。

 

 だがニンゲンは次第にその物資を人質にして艦娘に対して好き勝手やり始めた。

 

 物資を人質にとられたら、艦娘は抵抗する事が出来なくなる。

 

 

 その様な卑劣なニンゲンが真志妻は許せなかったし、何よりも彼女自身の憎しみの源泉がニンゲンに対する物が占めている以上、容易に憎悪が増幅しやすかった。

 

 

 法による庇護は、艦娘に対応した法整備が後手後手だったのと、加害者に優しく、被害者には冷酷冷淡な悪習によってまったくと言っていいほどに、当てには出来なかった。

 

 更にいえば組織の自己保身を優先した、ナアナアな隠蔽体質も悪く作用した。

 

 公になる事を恐れて、上も下も組織ぐるみで揉み消す協力体制を構築していた。

 

 

 そんな状態に艦娘達はマトモな抵抗すら出来ず、ただ泣き寝入りするしか無かった。

 

 

 そんなこと、許せない…!許してなるものか…っ!

 

 

 恥知らず!恩知らず!

 

 

 誰のお陰で深海棲艦の脅威に晒されず生きていられるのか?誰のお陰で今の地位が保証されているのか?

 

 

 その悉くを忘却の彼方へと放り捨てたニンゲンが、途轍も無く恥ずかしくてたまらない!人間だった自分自身が苦痛でたまらない!

 

 

 ならもう私は、私はもう人間であることを、辞めてやる!!

 

 

 人間の皮を被った艦娘として、たとえこの先で私がバケモノと罵倒され蔑まれても、そんなこと、もう知ったこっちゃない!!

 

 

 私は私の大切なみんなを守る!

 

 

 みんなを守るのに、法は無力だった。ならば、法の代わりに私が裁く!

 

 

───────

 

 

 真志妻亜麻美は常人からしたら、間違い無く狂っている。

 

 

 本来ならば国軍の、しかも法的には海軍の下部組織的扱いとはいえ、その規模と保有戦力から陸海空軍に続く事実上の四軍である艦娘部隊のトップに立てる様なマトモさとは程遠い精神構造をしているのだ。

 

 

 どんな理由があろうとも、軍人としてあるべき遵法精神が皆無…、という訳では無いが、かなり希薄であり、時と場合によっては平気で法を無視する傾向にあった。

 

 特に艦娘が関わると見境も際限も躊躇いの類いも一切無くなってしまい、一時期土方が火消しに奔走して業務に差し支えが出るほどだった。

 

 

 土方の頭を悩ませたのが、そんな彼女に艦娘達が非常に協力的かつ好意的な感じで、「いいぞ!いいぞ!もっとやれ!」と彼女のやり方を支持して推してしまっているという有り様なのである。

 

 

 艦娘と比較的友好とされる日本であっても、艦娘と人間との間でどうすることも出来ない溝があった。

 

 真志妻が自分達のトップである総提督へと就任する以前の、軍部による自分達に対する扱いに関しての恨み辛みが根強く残っていた事から、真志妻による人間達に対しての苛烈で容赦の無い姿勢に好感を持ってしまう艦娘が少なくなかった。

 

 

 自分達の為に怒りを露わにし、実行に移すその行動力。

 

 

 それが艦娘による真志妻への圧倒的支持の根底にあった。

 

 とはいえ、彼女の数少ない信頼出来る人間の筆頭である土方を困らせることに申し訳無くなって、最近では()()、そう、()()控える様に努力しているが。大事なことなので2回言いました。

 

 

 

 だが、艦娘が虐げられている話題となると、瞬間湯沸かし器の如く怒りが一気に振り切れてしまい、感情の制御が出来なくなって艦娘松島の姿へと変わってしまうのだ。

 

 

 Warspite(ウォースパイト)が語った英国王室の醜聞は、真志妻の怒りを買うに充分過ぎる理由だった。

 

 今すぐにでも英国に乗り込んで、下手人を処断したくてたまらないというような雰囲気を、全身から溢れさせていた。

 

 

「その王族関係者は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 怒りに震える真志妻を見ながら、Warspite(ウォースパイト)はそう告げたが、その意味する所を察した全員が引いた。

 

 

 王室属領マン島とは、英国本土を隔てるイギリス海峡の中にある、英連邦や英連邦王国に属さないが英国の国王に属し、高度な自治権を持った地域で、伝統的に国王が王国外に有していた領地の一つである。

 

 他にナポレオン終焉の地である南大西洋に浮かぶ孤島、セントヘレナ島も王室属領である。

 

 それは兎も角として、マン島とは英本土の目と鼻の先、どころか殆ど英本土の庭先とも言える場所に位置する島なのだが、そんな所で王族関係者が事故で行方不明というのは不自然過ぎるし、何よりもそれが追放云々は横に置いておくとしても、行方不明になったことがニュースどころか噂として世に一切出回っていないのだ。

 

 

 つまり、裏でコッソリと(そういう事だ)…。

 

 

 恐らく、被害にあった艦娘達がこの事に関わっているのだろう。

 

 

 彼女達が自ら裁きを下した(そういう事)というならば、真志妻としても引き下がらざるを得なかった。

 

 

 更にWarspite(ウォースパイト)が言うには、Queen(クイーン) Elizabeth(エリザベス)がバッキンガム宮殿に突撃した際に、普段のマイペースながらも王家へと敬意と忠誠心を欠かさなかった彼女がそれら一切をかなぐり捨て、銃を、しかもランボーやメイトリクス大佐の様な機関銃を肩に担いだ姿でやって来た彼女を見た当時の国王が驚き、怒りに震える彼女を宥めながらその理由を聞き出した結果、目を覆いたくなる様なあまりの身内の恥に激しいショックを受けて崩れ落ちた。

 

 駆逐艦とコルベット艦の艦娘、コルベット艦の艦娘とは日本で言うならば海防艦クラスの艦娘の事であり、艦娘の中でも一際幼い見た目の娘達なのだが、その娘達に手を出し、淫らな行為に及んでいたという事実を突きつけられ、茫然自失としてしまったのだ。

 

 その後になんとか気を持ち直すと、その場でケジメを付けると言い出して王位からの退位と、Q.Eへの異例となる禅譲を決断したという。

 

 更には下手人たる王族関係者と自らの首を差し出すとまで言い出し、出来ればそれで手落ちとして国を割る様な事だけは容赦して欲しいと懇願されたという。

 

 

 ただQ.Eとしては、この頃になると頭が冷えて来て、可愛がっていた娘達を傷物にされた事についカッとなって頭に血が上ってやってしまったと、慙愧の念に堪えない気持ちでいっぱいいっぱいとなっていたこともあって、つい二つ返事で頷いてしまったというのだ。

 

 

 だが国王の首だけは流石に拒否し、下手人の首だけで充分であるとして、追放という形に落ち着いたという。

 

 

 それが英国で起きた王朝の交代劇に関するおおよその概要である。

 

 

 なんとも言えないグダグダ感満載の概要に、全員が反応に困ってしまった。

 

 

 だが本番はここからだった。

 

 

 最初は突然の禅譲に驚き、落ち着く暇無くなんやかんやあれよあれよと言う間に新王朝の初代女王として即位することとなった、なってしまったQ.E陛下。

 

 

 とはいえマイペースながらも生来の真面目さからか、なってしまったものは仕方無いと直ぐに割り切った。

 

 だがそれからというもの、今までただの艦娘だった頃には見えなかった、見ていなかった視点から、英国(この国)の置かれていた現状を見ることとなり、早々に挫けていじけたくなった。

 

 詳細は割愛するが、ガタガタのボロボロの今にも崩れ落ちる寸前としか言えない、その場しのぎの猫騙しで遣り繰りして延命を図っている。

 

 戦争の継続、戦線の拡大なんて以ての外。

 

 そんな状態だった。

 

 

 新女王のQ.E陛下は一瞬虚無、というか鬱になりかけた。

 

 

 責任を取って禅譲というが、本当は現状に嫌気が差して体良く逃げ出すための口実にしただけではないの?と真剣に疑いたくなった。

 

 

 そこからは、まぁ、良くも悪くも、吹っ切れた。吹っ切れてしまった。

 

 Q.Eは"The British sovereign reigns, but does not rule."(“王は君臨すれども統治せず”)という英国政治の大前提、立憲君主制の大前提を真っ向から否定し、国政にどんどんと口出しする様になったのだ。

 

 

 理由は単純にして明快。

 

 

 議員や閣僚、そして官僚が全くもって使い物にならないと判断したからだ。

 

 

 いや、それは言い過ぎかもしれない。

 

 

 あまりにも酷い現状に、誰も彼もどうして良いのか分からず、途方に暮れてしまってやる気を失ってしまっていた。

 

 何をやっても上手く行かないものだから、誰も責任のある立場や地位に就くことを避ける様になり、現状認識の甘い頭の軽いボンクラ共が神輿として祭り上げられていた。

 …というよりも責任を取らなくていい立場で好き勝手やりたいから、軽い神輿の方が都合が良いという見方も出来たが。

 

 

 だがせめて「貰ってる給料分くらいはキリキリ働けクズ共!」とケツを蹴り上げてでも引っ張って行くだけのリーダーシップが必要だと判断し、それには今の内閣では当てにはならず、かと言って別の誰かに再組閣させるにしても、ハッキリ言ってどんぐりの背比べ。

 

 

 もう面倒臭くなって独裁に走った。

 

 

 流石に全ての決定に対して事細かに口出しをしているという訳ではなく、大まかな方向性を示して投げているのだが、「変なことしたら()()()何もしないかもだけど、()()()()()()()()()が何か仕出かすかもしれませんよ?」と居並ぶ閣僚や議員、官僚の代表諸氏へとにこやかに告げた。

 

 その四方八方に怪しく不気味に笑う、手に様々な道具を持った妖精さん達を侍らせながら。

 

 

 それを見た彼らは全身から滝のような汗を流し、頻りに水分を含みまくったハンカチで流れ出る汗を拭いながら恐怖に震える顔で何度も頷くと、這々の体で帰って行った。

 

 妖精さんは、居ると思えば何処にでも居るし、何処にでも潜んでいる。

 

 そもそも英国とは、そういった妖精や精霊などの神話や伝承に事欠かないお国柄だったことも上手く作用した。

 

 ついでに言えば、もう既に何人かが行方知れずとなっていた。

 

 

 以降、誰もQ.Eを逆らえなくなった。逆らったり、裏切る真似をしたら、まるで神隠しにでもあったかのように、\カーン…カーン…カーン…/という謎の不気味な音と共に忽然と姿を消してしまう。

 

 このことをQ.Eは「わたくしのやっている事はフランス革命戦争時代の政治家、ロベスピエールの恐怖政治(テルール)や革命裁判所検事のフーキエ・タンヴィルと代わりありませんわね…」と自嘲気味に漏らしていた。

 

 

 そしてその日から、英国は密かに方針の大転換が始まった。

 

 Royal(ロイヤル) Sovereign(ソブリン)ことАрхангельск(アルハンゲリスク)新ロシア連邦(NRF)への派遣から始まる英露関係の修復に向けた水面下での交渉である。

 

 

 第三次大戦以降、ヨーロッパ各国はロシア連邦、そしてその後継国家新ロシア連邦(NRF)との関係は完全に冷え切っており、それは英国も同じだったのだが、それはもう殆ど戦争が上手くいかなかったことに対しての半ば意地で継続している様なものだった。

 

 しかしそれは余裕があった新ロシア連邦(NRF)を頼ることを自ら拒否していることであったが、もっと厄介なことに、北アフリカを除くヨーロッパ周辺国の余裕のある国家は殆ど新ロシア連邦(NRF)と関係のある国家が占めており、それらの国家を頼ることも出来ないことを意味していた。

 

 特にヨーロッパのエネルギー事情を支えていたアゼルバイジャンが新ロシア連邦(NRF)寄りとなっていたことも相俟ってバクー油田からのBTCパイプライン経由での供給が途絶えた事は致命的だった。

 

 

 だが何よりも問題だったのが、イタリアの政情不安である。

 

 

「…気になっていたのだが、暗殺されたデュゴミエ提督は実際のところ本当にスパイだったのか?」

 

 

 ここで土方が疑問に思っていたことをWarspite(ウォースパイト)に問い質した。

 

 

「…結論から言えば、Grayね。彼は私利私欲ではなく愛する Cavour(カブール)達にひもじい思いをさせたくなかった。

 

 そもそもイタリア自身が裏で新ロシア連邦(NRF)と取引していたわ」

 

 

 Warspite(ウォースパイト)が言うには、イタリア海軍と新ロシア連邦(NRF)地中海常設作戦部隊との間ではエーゲ海海上にて瀬取りが頻繁に行なわれていたという。

 

 その中心人物がデュゴミエ提督だった。

 

 

 またイタリアは瀬取りで仕入れた物資を他のヨーロッパ各国の闇市場へと流す事により、多少なりともヨーロッパの物資不足を補っていた。

 

 しかしイタリアの政情不安化によって、その闇市場への流通ルートが事実上崩壊。

 

 ヨーロッパの物資不足はより一層の深刻化を加速させ、巡り巡ってその事が英国の紅茶不足へと繋がった。

 

 

 ただ英国上層部としてもここまでの大混乱となるとは予想していなかった。

 

 そこからも英国の凋落が見て取れた。

 

 

 しかし、一連のこの事件には英国上層部ですら預かり知らない事態が起きていた事が、Q.Eが即位後にSISへと行なった情報公開命令(願い)によって発覚することとなったのだが、それは一旦後回しにした。

 

 

「正直ヨーロッパは何処もかしこもボロボロで火の車だったのだけど、イタリアの政情不安がトドメを刺す形になったわ。

 

 それでも新ロシア連邦(NRF)を頼らなかったのは、意地と言うよりも恐怖が大きかったからよ」

 

 

 ヨーロッパは第三次大戦以前より、当時のロシア連邦に対してある種の恐怖感があったと指摘する学術論文が、この当時より幾つか出ていた。

 

 それは単純なロシア脅威論からではなく、アメリカを中心とした西側諸国が事あるごとにロシア連邦へと課し続けた経済制裁の数々にも関わらず、ロシア連邦の経済は予想に反して崩壊すること無く、その都度より一層の強靭さを増していっていた事に、西側のロシア嫌いな一部指導者層を中心に恐怖を覚え、その恐怖が時間と共に膨れ上がってゆき、所謂“ロシア恐怖症”と呼ばれる重篤な精神の病を発症させてしまい、その発症者は重度の被害妄想に囚われるという症状が出るとされていた。

 

 

 彼らの妄想が、謂わば先のロシア東欧紛争を引き起こした原因の一つであるとも言えなくもなかった。

 

 

 最悪なのは戦後も、そして深海棲艦の脅威が無視出来ない事態となってもなお一貫してロシア恐怖症を根幹とした方針の転換をしようとしなかったことである。

 

 最大の原因はNATO解散後にNATO高官や関係者達を丸々EU委員会が抱き抱えたのだが、そもそもそのNATOは当時世界最大のロシア恐怖症罹患者の集まりと化していたため、彼らを吸収合併した事で、新ロシア連邦(NRF)に関しての政策意思決定プロセスに深刻な思考の硬直化が顕著となり、先鋭化してしまった事が大きく影響していた。

 

 

 だがヨーロッパ各国海軍に所属する艦娘にとってそんな事は預かり知らぬ事だし、とんでも無くしょうもなく、どうでもいい馬鹿げたことにしか見えなかったから、心底呆れ返っていた。

 

 このままだと確実に共倒れだ。

 

 人間の都合に合わせてこっちにまで実害を及ぼされたら、たまったものではない。

 

 だからこそQ.Eは新ロシア連邦(NRF)との関係修復に乗り出す事に抵抗は無かった。

 

 

 そして可能ならば、新ロシア連邦(NRF)を仲介役として深海棲艦との接触を図りたかった。

 

 

 英国は深海棲艦が極東アジアで行なっている活動をそれなりに早い段階から掴んでおり、また新ロシア連邦(NRF)が何らかの形で関与している可能性にも薄々とながらも勘付いていた。

 

 しかしそれらの事実を公表することによって発生するであろう社会不安や混乱を勘案すれば、あまりにもメリットが少な過ぎて殆ど封印されていたのを、Q.Eは即位直後に行なった現状把握の為の各省庁などにお願いした情報公開によって得た資料を片っ端から読破した事で知り、悩んだ末に深海棲艦との交渉に踏み切る決断を下した。

 

 

 だが新ロシア連邦(NRF)との交渉は兎も角として、深海棲艦との交渉に身内である艦娘達だけでなく、妹達からも強い反発が突き付けられ、執務室へと押し掛けてきたのだが、部屋中所狭しにうずら高く積まれた資料と書類の山脈をインク塗れの手で指差し、垢と染みだらけの服を着て整髪も洗顔もせず窶れて目に隈が溜まりに溜まった疲れ切った顔をしながらも、なお鋭い眼光を湛えた瞳で集まった全員を睥睨し、こう言い放った。

 

 

「これを見てまだそんな戯言(たわごと)が言えるというのでしたら、よろしい。わたくしの首をギロチンに掛け、貴女達の誰かがわたくしの代わりに即位なさい」

 

 

 静かに、だがハッキリとした口調でそう述べると、「…寝る」とだけ言い残してそのままフラフラとした足取りで隣の仮眠室へと向かった。

 

 Q.Eのあまりの迫力に圧されて、誰も一言も喋れずにいたが、Q.Eが勢いよくドアを閉めた音で漸く再起動し、紙の山を崩さないように怖ず怖ずと手を伸ばした。

 

 

 そこにはQ.Eが決断に至る迄の、そして彼女の苦悩する姿がまざまざと目に浮かぶ様な、英国だけでなく主要交戦国が深海棲艦に対して既に“詰んでいる”実情が、これでもかと記されていた。

 

 

 深海棲艦は、東南アジアを基点として着実に地盤を固めつつあった。しかもどういった経緯があったのかまでは分からなかったが、新ロシア連邦(NRF)も一枚噛んでいるという。

 

 それだけでない。

 

 既に人類社会へと浸透を開始しており、一部では地域経済に喰い込んでいる、と思いきや、最も激烈に深海棲艦の打倒を声高に主張していたハズの、新大陸のドラ息子国家にまで進出しているというではないか。それもれっきとした連邦市民権まで有していた。

 

 

 彼女達は、膝から崩れ落ちる錯覚に囚われるほどのショックを受けた。

 

 

 今まで自分達はなんの為に戦ってきたのかと。

 

 

 ここまで来たら、自分達のテリトリーであるヨーロッパ、いやここ英国本土にも既に進出していると考えるのが妥当である。

 

 思い返せば、一時期に比べて深海棲艦の活動は明らかに落ち着いて来ていた。

 

 最早深海棲艦にとってこの戦争は終わったも同然であり、次に向けた活動へとシフトしただけなのだろう。

 

 

 だが何よりも彼女達を打ちのめし、心をへし折ったのが、次の文面だった。

 

 

───────

 

 

 様々な調査の結果を結び合わせて分析した結論として、深海棲艦の戦争目的は自らが消費する食糧の確保を目的としたものであると結論づける。

 

 

 現在確認されている深海棲艦支配領域における耕作地帯の総面積から推計した食糧生産能力は、既に自給自足が可能な規模であると推測する。

 

 衛星画像の分析から、人類が放棄した港湾設備の急速な再整備の実施も確認されており、支配領域内での流通の円滑化だけでなく、将来的には支配領域外へと大量輸送する、つまり輸出を見越した事前準備である可能性を指摘する。

 

 

補足

 

 支配領域近辺のアジア圏では、現状一部地域ながら食糧不足が徐々に解消されつつあるとの情報が多方面から寄せられており、既に輸送が開始されている可能性あり。

 

 また現状においても外貨の獲得も非常に積極的であり、各種嗜好品の生産と販売が盛んに行なわれている形跡が確認された。

 

 我が国で出回っている紅茶やアルコール飲料には極僅かながらも深海棲艦によって生産された物も含まれている可能性が高い事を、ここに補足する。

 

 

───────

 

 

 ある意味、間接的ながらも自分達は深海棲艦に養われていた。

 

 そして途轍も無い敗北感に襲われた。 

 

 

 人類に依存し、戦うことしかしてこなかった自分達艦娘とは違い。深海棲艦達は自分達の力だけでどうにか生きて行こうと努力していた。独立独歩に向けて着実に一歩一歩と歩んでいた。

 

 

 この事実を突き付けられ、平静でいられる者は、居なかった。

 

 

 そして悟った。我々は、この戦争に敗けたのだと。

 

 

 それもただ敗けたのではない。戦略的な大敗北を喫したのだ。

 

 

 この資料を信じるならば、深海棲艦は人類の経済活動にも喰い込んでいる事はほぼ確実であり、もしも今後深海棲艦を撲滅してしまったら、間違い無く経済の大混乱をきたしてしまう可能性が高いし、より深刻な食糧問題をも招き、民衆による大きな反発を生むリスクだって有り得た。

 

 何故ならば時間は深海棲艦に味方しており、時間とともに深海棲艦による経済活動の規模はより大きさを増し、それに関わる事になるであろう人間の規模だって増える。

 

 彼らにとって深海棲艦は、生活を成り立たせる上で切っても切れない重要なパートナーなのだ。

 

 それが失われたらどうなるか、想像するに容易い。

 

 下手をすると新たな火種を生み出すことに繋がりかねない。

 

 

 もっと早い段階で気が付いていたら…。

 

 

 いや、それはそれで良い結果になったとは言い難い。

 

 私達に、深海棲艦と同じ事が出来たとは、到底思えない。

 

 

 皮肉なものである。人類の敵とされていた深海棲艦の方が人類に寄り添い、彼女達のお陰で経済が回り、その結果として死を免れたかもしれない、明日を掴む事が出来たかもしれないとする人間達が、現実として存在することがほぼ証明されてしまったのだ。

 

 彼らにとって、深海棲艦の方が自分達艦娘よりも遥かに身近で、救世主の様な存在だろう…。

 

 

 

 

「あの時のみんなは、それはもう酷く憔悴してたわね。

 

 私達はなんのために今まで戦ってきたのかって…。

 

 

 でも、姉さまはもっと酷かったわ…」

 

 

 Q.Eの即位はその経緯もあって関係者を除いて極少数の者達と英海軍艦娘の間でしか知らされていなかったが、艦娘は兎も角として、関係者、特に政府機関関係からは王位を簒奪した者として当初から面従腹背を決め込み、中には非友好的な態度を取ってサボタージュに出る者も少なからずいた。

 

 その一例が、先の紙媒体による資料と種類の山である。

 

 当時のSIS長官が、電子媒体ではなくわざわざ全てを紙媒体で寄越したのだが、ハッキリ言って嫌がらせだった。

 

 仕事をしないなどのわかりやすいサボタージュこそ、脅しの効果でしなかった様だが、その代わりに嫌がらせを仕掛けて来たのだった。

 

 それに習うようにして、他の省庁からも同様な扱いを受けた。

 

 それでも公務の激務の合間や、睡眠時間その他諸々を削って読破したのだが、その時のQ.Eは自嘲気味に語ったロベスピエールの如く、一日十六時間以上を仕事に費やし、殆ど休む事の無い毎日を続けており、艦娘としての、しかもその中でも特に頑強とされる戦艦艦娘の肉体でなければ、早々に倒れるか、人間だったら疾うの昔に過労死する程の激務を続けていた。

 

 一応、Q.Eには身の回りの世話をする侍従達がおり、その侍従達とは前国王時代から良好な関係を築いていた甲斐もあって、嫌がらせの類いは一切無かったが、Q.Eは自分の今の生活スタイルに巻き込むのは申し訳無いとして、最低限度の事以外はほぼ断っていた。

 

 ただそれだと何時までも仕事を続けかねないとして、侍従長からWarspite(ウォースパイト)に助けを求めれ、臨時の侍従として姉の身の回りの世話をすることになって参内したのだが、日々窶れていくQ.E()の姿に見ていられなくなった。

 

 

 そしてWarspite(ウォースパイト)はあの時仮眠室で控えていたのだが、仮眠室に入るなり自分に向けて、まるで糸が切れた人形かの如く、倒れる様にして寄り掛かったまま眠ったQ.E()に、ただ泣くことしか出来なかった。

 

 

 こんなにボロボロとなったQ.E()の姿など、今まで見たことが無かった。

 

 皆が現実を突き付けられて心が折れていた時に、Warspite(ウォースパイト)はみんなの為に身を粉にして働くQ.E()を支え切れなかった自身の不甲斐無さに泣いた。

 

 側仕えという、最も身近に居たのにも関わらず、私を心配させまいとQ.E()は気丈に振る舞っていた。

 

 そして万が一の時は自分1人だけの責任とすべく、誰にも相談すること無く1人で抱え込んでしまっていた。

 

 

 その姿はまさに孤独な独裁者の苦悩を体現しているかのようで、Warspite(ウォースパイト)には見ていてとても辛かった。

 

 

 ただ少なくとも、Q.Eの下した決定、深海棲艦との交渉に関して身内である艦娘からの反発が無くなったことで、心労がかなり軽減される事に繋がった。

 

 更に今のQ.Eの姿を見るに見かねて、予備役艦隊にいた前弩級戦艦や準弩級戦艦の艦娘達が侍従艦兼相談役として面倒を見るようになり、多少なりとも諸々が改善された。

 

 これはWarspite(ウォースパイト)がQ.Eから、自分の名代として日本への赴任をお願いするかもしれないと聞かされた事で、誰か自分の代わりにQ.E()の世話が出来ないかと、妹達や近衛艦隊のみんなに相談を持ち掛けたという経緯があり、その話を()()()()聞いたと主張する、その背恰好と傍若無人で豪快な性格態度から(ミニ)Nelson(ネルソン)と揶揄されることもある予備役艦隊の準弩級戦艦Lord(ロード) Nelson(ネルソン)級1番艦の艦娘、Lord(ロード) Nelson(ネルソン)が「話は全て聞いた!余に任せろ!!」と言って、膳は急げと言わんばかりにQ.Eの執務室へとそのまま突撃し、直談判したのが切っ掛けであるとかないとか…。

 

 

 まぁそんな無茶苦茶な彼女だが、意外なことにQ.Eの相談役どころか知恵袋としてQ.Eを頭脳面から支えるという、重要な役割を仰せつかった。これは「予備役艦隊は戦闘に出る機会が無くて暇潰しに本を読み耽っていた」と本人が言っていることから、かなりの知識を蓄えていた事が大きかったのだろう。

 

 彼女はQ.Eの政策決定、特に外交政策の面において大きな貢献を果たすこととなり、特に水面下で開始された新ロシア連邦(NRF)との交渉において、今までの軋轢からかなり難航すると思われていたが、その予想に反してすんなりと解決させることに多大な貢献を果たすこととなった。

 

 この事は新ロシア連邦(NRF)サイド、スラヴァ(ミロスラヴァ)国防相をして「厄介なのが出てきたかも…」と舌を巻いた程であると、Гангут(ガングート)が苦虫を噛み潰したような顔で告げた。

 

 

 この功績により後にQ.Eから「武略のNelson(ネルソン)、智略の(ミニ)Nelson(ネルソン)」と称えられ、「いずれは首相か外相辺りを任せたいものね」とまで漏らす様になったが、当の本人は「勘弁してくれっ!」と()()()()()()な反応で逃げ回っている。

 

 

 それは兎も角として、ドッタンバッタンしながらもQ.E体制による新たな船出となった英国は、最初の懸案事項だった新ロシア連邦(NRF)との交渉が思いの外上手いスタートを切れたことからも、そこそこ順調な滑り出しとなった。

 

 

 ───かと思われた。

 

 

 問題というものは本当に不思議なもので、一つ問題が片付くと次の問題が何処からともなく湧いて出て来るものである。

 

 

 そしてそれは特大の大問題だった。

 

 

 これはSISも全くと言っていい程に掴めていなかった情報であり、血相を変えたSISの長官が*1*2顔面蒼白となりながらQ.Eへと慌てて報告して来た。

 

 

 曰く、デュゴミエ提督暗殺時に死亡したとされていた “賢人”の異名を持つ艦娘、Conte(コンテ) di(ディ) cavour(カブール)が深海棲艦となって生存していたことが確認され、密かにイタリア軍と接触して何かしらの密約を結んだ可能性があると。

 

 

 

「待って!艦娘が深海棲艦になるなんて、聞いたこと無いですよ!?」

 

 

 Warspite(ウォースパイト)が話した内容に、既に知っていただろうГангут(ガングート)を除く全員が大きく動揺した。

 

 だが誰よりも激しく動揺したのが、真志妻だった。

 

 彼女にはまさかと思う心当たりがあった。

 

 

「…恐らく、貴女が想像している通りです。

 

 日本に存在していた研究施設と同系列の研究施設が、こちらにも存在していた事が、判明しました。

 

 そこで実験台にされたのだと、彼女は語ったそうです」

 

 

 そのWarspite(ウォースパイト)からの言葉に、真志妻は信じられない気持ちと、再び怒りが湧き上がってくるのを覚え、肩を震わせていた。

 

 人間だけに飽き足らず、艦娘にまでその魔の手を伸ばしていたのか!?と。

 

 

 だがここで土方が今のWarspite(ウォースパイト)の言葉に引っ掛かりを覚えた。

 

 

「イギリスは、 Cavour(カブール)と直接会うことに成功したのか?」

 

 

 そう、先のWarspite(ウォースパイト)の口振り、特に最後の「彼女は語った」と言った。

 

 それはつまり直接聞いたともとれる言い方なのだ。

 

 

 この土方の質問に、Warspite(ウォースパイト)はコクリと頷いた。

 

 

「場所は伏せますが、我が地中海艦隊が方方手を尽くして彼女と接触することに成功しました。

 

 …いえ、向こうから接触してきた。というのが正しいわね」

 

 

 この一言を聞いたことで、隣の部屋にいたPola(ポーラ)がたまらずと言った雰囲気で入って来た。

 

 

本当に、本当に“saggio(サッジョ)”が、生きてたんですか…?

 

 

 掠れた、そしてか細い声でそう尋ねるPola(ポーラ)に、Warspite(ウォースパイト)は一瞬目を伏せると、短く「…Yes」とだけ答えた。

 

 

 そして Cavour(カブール)が接触してきた際に、 自身と共に幾人もの艦娘が実験材料にされていた事。

 

 自身が深海棲艦にされた後に、隙を見て施設を徹底的に破壊して実験から辛くも生き残った他の者達───中には自身と同じく深海棲艦にされた者も少なからず居た───と共に逃走。

 

 行く宛もない逃避行の最中(さなか)に地中海に展開する深海棲艦と鉢合わせ、その後に保護された事などのおおよその経緯(いきさつ)が語られたのだが、問題はここからだった。

 

 

 Cavour(カブール)は自身の呼び掛けに応じたイタリア海軍艦娘部隊と、その他独仏の艦娘部隊が呼応して、ヨーロッパ各国に対しての一斉武装蜂起を起こすつもりであることが、判明した。

 

 

 その第一の標的が、マルタにあるイギリス地中海艦隊基地の制圧による地中海の掌握であると。

 

 

 

 

 これを受け、Q.Eは本国艦隊の精鋭、近衛艦隊及び予備役艦隊の一部を合流させた連合艦隊、大艦隊(Grand Fleet)に動員令を発令し、英海軍旗艦空母兼艦娘母艦『Prince(プリンス) of(オブ) Wales(ウェールズ)』に乗艦して地中海への出撃を決断。

 

 

 マルタ島近海に展開した同艦艦上にて行なわれた秘密会談により、Q.Eと Cavour(カブール)の2人による決闘が、アドリア海のとある無人島にて行なわれる事が決定した。

 

 

 

「それは、いつだ?」

 

 

 

 全員を代表して、土方が問い質した。

 

 

 

「姉さま、いえ、陛下は今まさに、 Cavour(カブール)との決闘に挑んでいます」

 

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

 アドリア海、名も無き無人島にてフライパンと妖精さんによって作られたレプリカの柄付き手榴弾による即席のゴングが響き渡り、2人の少女が双方の声援を背に受けながら、ふらついた足取りで向かい合う。

 

 2人の顔は青痣だらけで、いかに激しい戦いが繰り広げられたかを物語っていた。

 

 対峙したタイミングで何かを話ていた様だが、周りの喧騒によってその内容までは聞き取れない。

 

 そして最早言葉は不要と、双方その拳をフラフラと振りかざした

 

 

 

 

 その周りでは深海棲艦が持ち込んだ豊富な色とりどりの食材を使って、イタリアとフランスの艦娘達が即席の屋台を開き、ドイツ艦娘がどうやって持ち込んだのやら、黒ビールなどのアルコール飲料を売り歩き、その横ではイタリア水兵が深海棲艦の空母を口説き落とそうとしてものの見事に轟沈し、それを独仏の水兵が慰め、更にそれをちゃっかり紛れ込んでいた新ロシア連邦(NRF)水兵がウォッカで出来上がった赤ら顔で爆笑していた。またイギリス下士官と水兵が共同で深海棲艦の売り子を相手に、今や本国では貴重となった紅茶の茶葉の値切り交渉を鬼気迫る勢いと熱量で行なっていたのを、見かねたイギリス艦娘がしばき倒し、謝罪と称してちゃっかり茶葉を買い込んでいた。

 

 

 この他にも多国籍の軍人や艦娘達が、この小さな島を中心に思い思いに過ごしていたが、何よりも人気を博しているのが2人の少女によるサシの決闘だった。

 

 

 方や英国Agincourt(エジンコート)朝初代女王陛下にして、英国海軍艦娘部隊『女王陛下の海洋騎士団』及び『大艦隊(Grand Fleet)』の総旗艦艦娘であるQueen(クイーン) Elizabeth(エリザベス)陛下。

 

 方や深海棲艦の地中海方面軍総司令を意味する地中海方面総代、人類コード『地中海弩級水姫』こと、元イタリア海軍デュゴミエ艦隊所属、賢人の名を特別に冠された、“saggio(サッジョ)”、Conte(コンテ) di(ディ) cavour(カブール)

 

 

 この2人によるステゴロのどつきあい…、もとい、一騎打ちの決闘である。

 

 

 佳境に入ったこの決闘は、所属や国籍、そして種族の垣根を超えて大盛況の盛り上がりを見せていた。

 

 

 

 この状況を作り上げた、とある英国艦娘は後にこう語っている。

 

 

「みな、心に余裕が無くなっていた。これは健全な状態とは程遠い。

 

 何かを楽しむ余裕が無くなり、みなギスギスしていたのだ。

 

 だからこそ、余は娯楽が必要なのだと考えた。みなが楽しめる娯楽が」

 

 

「幸いと言ったら不敬になるやもしれぬが、2人はなんだかんだ言いながらも真面目で仲間の事が大好きな人柄だった。故に、余の忠信に乗ってくると確信していた」

 

 

 

「心というものはパンの生地と同じだ。水が足りなければパサパサしてしまう。適度に水を与えてやらねば、美味いパンは作れない。

 

 みなの心も、そして陛下の御心も、まさしくパサパサのパン生地だった。

 

 …いや、陛下は国政や戦争に疲れ果て、どうにかしなければ、なにかしなければと思い詰め過ぎて、パサパサどころかガチガチに固まってしまわれていた。

 

 …余はそれを常日頃から憂いていたのだ」

 

 

「…なに?余のことを、周りのそんな事など一切気にもしない、ガサツで不真面目な者だと思っていただと?

 

 余はいつも真面目だ!!

 

 …まぁそれはいい。いや、良くはないが、一旦置いとこう」

 

 

「正直、此度のことは神が我らに与えてくれたもうた、恵みの雨なのではないか?と小躍りしたくらいの千載一遇の好機と天啓なのだと思ったほどだ。

 

 結果は、まぁ知っての通りだ。みな、心の底から笑い合い、大いに楽しんでくれた」

 

「陛下も、 Cavour(カブール)どのも、胸の(つか)えが、いや、憑き物が落ちたかの様にスッキリとした顔となられた」

 

 

「それに、余も久々に心から楽しめた。あの時、初めて深海のPrincess達と話をしたのだが、彼女達には裏表が感じられない、出し抜こうとか貶めようとかの邪な心の様なものが終始感じられなかった。

 

 いつ以来だったか、あの時は常日頃の煩わしい駆け引き云々を忘れて、つい話し込んでしまったものだ。

 

 彼女達とは良き友、良き隣人であり続けたいものだ…」

 

 

 

 なお、この決闘の結果であるが、両者最後の力を振り絞った渾身の右ストレートによるクロスカウンターが顔面に決まり、首があらぬ方向を向いてのダブルノックダウンで海に沈んだ事と、企画した艦娘が密かに賭けの胴元もしていたが、後に同僚達から「陛下に対して不敬!」と蔑まれ、陛下からは特にお咎めは無かったが、暫く妖精さん達に対して()()()()おやつを()()()サービスしたことも、ついでにお伝えしておく。

 

*1
先の長官とは別人であり、前任者は()()体調不良等により辞任して田舎で()()()の療養生活を送っている。ということになっている。

*2
療養生活に入る前日に、自宅から\カーン、カーン…カーン…/という謎の音が微かに聞こえたという噂が出たりもしたが、気付いたら誰もその事を口にしなくなっていた。





 …次から太平洋方面へと戻すつもりだったのに、終わらなかったゾイ。3〜4話分を圧縮して1話に纏めようと頑張ったのに!!

 最後の決闘は、豚さんが飛行艇に乗る話を意識していました。



情報提供者からの証言

MSTM「ガトガトガトガトガトガトガトガトガト!」

???「見ちゃいました!」

以下、NGシーン

MSTM「いたぞーー!いたぞーーーっ!!(ガトガトガトガトガトガトガトガトガト!!)

???「ま、まだこちらに気づいていないよー!」(全速離脱)

 なお、情報提供者による脚色と偏向の可能性あり。


補足説明

近衛艦隊

 イギリス海軍艦娘部隊、『女王陛下の海洋騎士団』本国艦隊精鋭艦隊の通称。

 王室からの信頼が厚く、王室に対する忠誠心も高い最精鋭部隊として知られている。

 Warspite(ウォースパイト)が極東艦隊へと転属となるまで旗艦を務めていた。現在の旗艦は巡洋戦艦艦娘のHood(フッド)である。因みにWarspite(ウォースパイト)が以前所属していた地中海艦隊の旗艦はNelson(ネルソン)級戦艦のネルソン(「余!」)である。


秘密情報部(Secret Intelligence Service) SIS

 007のジェームズ・ボンドが所属していることで有名な、MI6のこと。なお、公式見解として「(007の様な)殺しのライセンスは無いし、欲しくもない」と第15代長官ジョン・サワーズ氏は語っている。


情報本部
Defense Intelligence Headquarters、略称DIH

 戦後設立された防衛庁においては、外国の軍事情報を防衛局調査第1・2課、統合幕僚会議事務局第2幕僚室、陸上・海上・航空の各幕僚監部調査部及び各自衛隊の専門部隊等で収集・分析を行っていたため、庁全体としての情報の収集・分析が非効率的であるという構造的欠陥を抱えていた。

 この問題を解決すべく、統合幕僚会議第17代議長の石井政雄を長としたプロジェクトが発足し、アメリカ国防情報局(DIA)を参考に1995年(平成7年)に策定された防衛計画大綱に基づいて、1997年(平成9年)1月20日に設置された。
 なお、防衛庁内のすべての情報機関が統合されたわけではなく、既存の組織はそれぞれ一部改編・縮小されたものの、引き続き存続した。
Wikipediaより抜粋



ロシア恐怖症

 近年のNATOを始めとした西側諸国のロシアに対する態度を揶揄して皮肉った言葉。


予備役艦隊

 基本的に前弩級戦艦や準弩級戦艦時代の旧世代艦によって編成された、本土防衛の最終防衛部隊。

 Q.Eの即位後は冗談混じりに侍従艦隊と揶揄されたりしている。


Queen(クイーン) Elizabeth(エリザベス)

 略称、Q.E

 高速戦艦の嚆矢とも称される、『Queen(クイーン) Elizabeth(エリザベス)』級超弩級戦艦の1番艦、Queen(クイーン) Elizabeth(エリザベス)の艦娘にして、Warspite(ウォースパイト)の姉。そして英国はAgincourt(エジンコート)朝初代女王陛下。

 マイペースながらも真面目で苦労人気質。

 現役時代(即位後も一応は現役扱いだが)は各地を転戦していたこともあり、「Q.Eが行く所が最前線」若しくは「Q.Eの居る所が最前線」と言われる程、激戦区を渡り歩いていた経歴を持つ。

 今は執務室という最前線にて書類という敵との激戦を繰り広げる毎日だが、内心では「深海棲艦を相手に砲撃戦をしていた時の方がまだマシ…」と思ったりしている。

 なお、Agincourt(エジンコート)とは、Q.E級の幻の6番艦『Agincourt(エジンコート)』から来ており、「この世に生を受けて並び立つ事が出来なくとも、わたくしは常に貴女の名と共に居ます」という思いを表している。とのこと。

 因みに、ブランデー入り紅茶が大のお気に入りだが、最近侍従から「それだと紅茶入りブランデーです!てか飲み過ぎです!」と叱られ、それでもL.Nと2人でコッソリ飲んでいたのだが、おやつの増量を条件に買収された妖精さんの裏切りによって発覚し、正座でしこたま怒られて2人してしょんぼりしている姿が目撃された。(´・ω・`)(´・ω・`)


Load(ロード) Nelson(ネルソン)

 略称、L.N

 弩級戦艦の嚆矢として有名な、戦艦『Dreadnought(ドレッドノート)』よりも先に建造が開始されながらも、『Dreadnought(ドレッドノート)』の完成が優先されたことによって完成が遅れ、完成時点から既に旧式の烙印が押されてしまった悲しき戦艦、『Load(ロード) Nelson(ネルソン)』級準弩級戦艦の1番艦、『Load(ロード) Nelson(ネルソン)』の艦娘。


 艦娘としての姿は艦娘Nelson(ネルソン)を少し小さくした様な背恰好であり、一人称も「余」であることから、(ミニ)Nelson(ネルソン)と呼ばれたりする。

 前線よりもどちらかというと後方型。これはホレーショ・ネルソン提督の逸話の一つ、対ナポレオン戦争におけるイギリスのもう一人の英雄である初代ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリーの回想に、ネルソンと出会った際に対ナポレオン戦略などの自説を披露され、その説く所の正しさに大いに驚かされたとあることから、軍人として戦う役はBIG7のNelson(ネルソン)に任せ、戦略家としてはL.Nにと分けて差別化。

 実は急に思いついて勢いで出してしまった娘だったりする…。
 彼女が対露交渉で何やったかは、ご想像にお任せ致します。


\カーン…カーン…カーン…/

 \カーン…カーン…カーン/

 …そして誰も居なくなった。妖精さんを怒らせてはならない。



 なんかアメリカで不法移民巡って内戦起きそうなんですけど…。テキサス州とテキサス支持の24州でキレイにパッカーンと分かれてるし、一部ではテキサスの応援と支援のために州兵の派遣決めた。
 その余波でガスの輸出止めるとかジジイが言い出して、ドイツが大ピンチ。

 テキサス州はアメリカ最大のガス田があるから、ピンポイントでテキサスに対するジジイからのハラスメントだろこれ。

 ドイツは例のノルドストリーム関連で、エネルギーはアメリカ頼みだってのに、ジジイはドイツを潰す気か?

 あのジジイ、自分の思い通りにならなかったら癇癪起こして感情的でその場の思いつきな行動に出やすいって知ってたけど、これはアカンやろ?



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第68話 Russian bear working behind the scenes.

 暗躍するロシアの熊。

 裏では色々とやってます。てかそれが国家と言うもんでしょう?

 それはそうとタッカー・カールソン氏のロングインタビューはとてつもなく凄かった。

 “彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず”

 一方だけの発言、情報だけだと足元を掬われる。双方の主張、発言を聞いて、視点を変えるなどをした上で判断しなければ取り返しのつかない事態を自ら呼び込む事になる。

 そういう意味ではタッカー・カールソン氏は正に値千金の仕事をこなした。無論それはジャーナリストの本来あるべき姿であるのだが、それを認めたがらない愚か者のなんと多いことか…。

 


 

 

 

「…そう。分かりました」

 

 

 休憩所とプレートが掛けられたスペースから、イヤホンを耳に当てたWarspite(ウォースパイト)の声が流れてくる。

 

 

「ええ。姉さま達にもよろしくお伝え下さい。それと、貴女も無理はしてはいけませんよ“()()()”…?今回のこと、貴女が裏で動いていたのでしょう?」

 

 

 イヤホンの向こうから豪快な笑い声が聞こえ、それがこの問いに対する答えであることを雄弁に物語っていた。

 

 

 2つ3つほど話た後、Warspite(ウォースパイト)はイヤホンを耳から外して携帯タブレットを懐に仕舞うと、大きく息を吐きながら休憩スペースに備え付けられている安物の背もたれ付きベンチソファーに体を預けた。

 

 

「状況からGroße(グローセ)本人、彼女の腹心Moltke(モルトケ)が来ている可能性、2人との繋がりからトルコのYavuz(ヤウズ)も来る事は確実で、軍事同盟の観点から新ロシア連邦(NRF)から誰かが来ることまでは予想してましたが、まさか現役を退いたと聞いている“教授”と、今まで決して表舞台へと姿を現すことの無かったロシアの熊が現れていたなんて…」

 

 

 今の通信相手、今現在アドリア海に展開中の空母『Prince(プリンス) of(オブ) wales(ウェールズ)』に現女王にして自身の姉であるQueen(クイーン) Elizabeth(エリザベス)と共に乗艦する同僚、侍従艦兼“()()()Load(ロード)Nelson(ネルソン)から齎された情報を頭の中で整理する。

 

 因みに“外務卿”と言うのは正式な役職では無く、Q.Eを補佐する者達の中での得意分野を鑑みての、一種の役割分担を明確にするために、謂わば便宜的に作られた非公式な裏の役職であり、L.Nの“外務卿”以外には近衛艦隊旗艦のHood(フッド)が“海軍卿”と呼ばれている。*1

 

 今回の騒動を“決闘”という形で終息させるために、L.Nが“外務卿”として裏で動き回っていた。

 

 

 それは偏に、主君であり忠誠の対象たる女王陛下、Q.Eの御心である「深海棲艦との交渉」を叶える為に、その糸口を確実に掴み取ることが最大の目的であり、そしてその掴んだ糸口を敢えて完全に秘匿することは避け、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と目論んだものだった。

 

 

 その結果は、ある意味大成功だと言えた。

 

 いや、成功とは言えるものの、予想外の事態も発生していた。

 

 

 そもそも今回の問題は、何も Cavour(カブール)の、事実上の復讐劇である武装蜂起の問題だけで済む話では無かった。

 

 彼女の誘いに同調した勢力の一つ、ドイツ艦娘は少し前からある意味でヨーロッパの火薬庫とも言える状態になっていた。

 

 そのキーパーソンとなるのが、先に上げたGroße(グローセ)Moltke(モルトケ)、そしてYavuz(ヤウズ)の3人の艦娘達である。

 

 

 Yavuz(ヤウズ)こと、Yavuz(ヤウズ) Sultan(スルタン) Selim(セリム)

 

 トルコ共和国海軍艦娘艦隊旗艦代行艦娘であり、彼女は元々Kaiserliche(カイザーリッヒ) Marine(マリーネ)、所謂帝政ドイツ海軍時代に『Moltke(モルトケ)』級巡洋戦艦の2番艦『Goeben(ゲーベン)』として建造された(ふね)で、地中海戦隊の旗艦として『Magdeburg(マクデブルク)』級軽巡洋艦『Breslau(ブレスラウ)』と共に地中海で活動していたのだが、第一次大戦の開戦によりイギリス艦隊の追跡を受けて『Breslau(ブレスラウ)』と共にオスマントルコへと逃亡、少々複雑な事情も相俟って2隻共々オスマントルコへと譲渡されたという、なんとも複雑な経緯を持った(ふね)だった。

 

 

 そしてこの『Goeben(ゲーベン)』は唯一の姉妹艦『Moltke(モルトケ)』と共に艦娘として再びこの世に生を受け、ドイツ連邦共和国海軍艦娘部隊の精鋭部隊『Hochseeflotte (ホーホゼーフロッテ)』、大洋艦隊に所属するようになり、旗艦艦娘の腹心と称されるまでとなった。

 

 

 Hochseeflotte (ホーホゼーフロッテ)とは元々、帝政ドイツが当時世界第1位の海軍戦力である大英帝国海軍(ロイヤルネイビー)に対抗して作り上げ、世界第2位を誇る規模にまで登り詰めた証でもある一大主力艦隊の事である。

 

 その艨艟達が艦娘として蘇ったとして、まぁ国内向けの政治的プロパガンダとしての狙いと、我が物顔でドイツ周辺海域を跳梁跋扈するイギリスへの当て付けという意図も多分にはあっただろうが、ドイツ連邦共和国政府と軍部はとある艦娘の登場を持って、大々的に大洋艦隊の復活を内外に喧伝した。

 

 その艦娘と言うのが、『Kaiser(カイザー)』級弩級戦艦の2番艦に大洋艦隊旗艦としての司令部設備を有して建造された、Friedrich(フリードリヒ) der(デア) Große(グローセ)である。

 

 

 大戦当時の艦隊司令、そして英国海軍主力艦隊大艦隊(Grand Fleet)との一大艦隊決戦ジェットランド沖海戦、或いはユトランド沖海戦と呼ばれる大海戦で実際に『Große(グローセ)』に乗艦して指揮を取ったReinhard(ラインハルト) Scheer(シェア)海軍大将の“鉄仮面”と渾名されるほどの謹厳な態度が影響しているのか、彼女もまた仲間の艦娘から“鉄仮面”と呼ばれる程の謹厳でお固い艦娘として有名だった。

 

 その“鉄仮面”の腹心と称され、本人からも篤い信頼を寄せられていた。

 

 姉のMoltke(モルトケ)はその名前の由来ともなったHelmuth(ヘルムート) Karl(カール) Bernhard(ベルンハルト) Graf(グラーフ) von(フォン) Moltke(モルトケ)、通称大モルトケに因んで“我が参謀総長”と、妹のGoeben(ゲーベン)も普仏戦争で活躍したAugust(アウグスト) Karl(カール) von(フォン) Goeben(ゲーベン)に因んで“我が将軍”とGroße(グローセ)から呼ばれる程に、2人は信頼を寄せられていた。

 

 Goeben(ゲーベン)はその信頼に応える様に、全ドイツ艦娘の中で最も激しく最前線で戦う獰猛な艦娘として名を馳せた。

 

 彼女の改良型であるSeydlitz(ザイドリッツ)などといった後継達や、一次大戦戦後の後輩世代に当たるScharnhorst(シャルンホルスト)Bismarck(ビスマルク)と比べたら明らかに劣っているにも関わらず、彼女達を上回る戦果を挙げ続けていた。

 

 

 そんな彼女がある日突然、所属国ドイツを出奔してトルコ共和国へと亡命して来た。

 

 

 この事に当時新ロシア連邦(NRF)と急接近し、軍事同盟を結んでいたトルコに対して、ドイツ、ひいてはEUによる間接的な影響力工作を目的とした偽装亡命なのではないのか?との疑惑が当初よりあった。

 

 

 第一次大戦当時、当初は中立の立場だったオスマントルコ帝国が帝政ドイツ側である軍事同盟陣営、所謂“同盟国”として参戦した経緯が、元となった(ふね)である『Goeben(ゲーベン)』の譲渡が大きく関係していた。

 

 

 当時のオスマントルコの海軍力は国内の政治的、経済的な混乱の影響によって周辺国と比較して大きく劣っており、更には小競り合いでも連戦連敗を重ねており、この強力なドイツ巡洋戦艦が譲渡された意味は国内的に大きかった。

 

 特にこの前日に、トルコ国民の寄付で出来た資金によって英国に発注、建造された新鋭の大型戦艦2隻が、外交上の問題を理由として2隻共英国に接収された事で、トルコ国民の間では「英国は自分達トルコ国民の寄付によって購入が叶った新鋭戦艦2隻を掠め取った盗っ人」として対英感情が急速に悪化の一途を辿っていた事も、無視出来ない理由の一つだった。

 

 

 トルコ共和国と新ロシア連邦(NRF)との関係は、政府や軍部の間に於いてそれなりに良好な関係を築いていたが、深海棲艦を想定した防衛戦略協定の策定ではマトモな戦力と成り得る艦娘が双方共に不足しており、特にトルコは最高戦力が旧式の前弩級戦艦がほんの僅かと、前弩級戦艦以前の装甲艦と呼ばれる沿岸防衛用の旧式も旧式な艦のみで、しかも国内の経済的事情からその配備数も雀の涙程度という、とても悲惨な有り様であり、マトモな防衛計画を立てれない状態だった。

 

 そのため、自国に比べて“まだ”マシな新ロシア連邦(NRF)に弩級戦艦艦娘などの有力な艦娘をなんとか融通出来ないか?と泣き付いたのだが、泣き付かれた当の新ロシア連邦(NRF)としても、トルコよりかは一応()()()()()“まだ”マシという程度であり、それも広大な国土に占める長大な沿岸の防衛を鑑みると、現有艦娘兵力では計算上、1人の艦娘がカバーしなければならない範囲面積は下手するとトルコよりも悲惨であり、通常戦力も用いてなんとか穴埋めはしているものの超過勤務を強いている様な状態であったため、無い袖は振れないとして色良い返事が出来ずにいた。

 

 

 また両国の歴史的背景からトルコ国民の新ロシア連邦(NRF)に対する感情は必ずしも良いものとは言い難かったし、一応の軍事同盟を結んでいながらも安全保障に寄与してくれない事に対して不審感を募らせていた。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)はこれに危機感を覚え、深海棲艦の空母機動部隊による空爆に対する早期警戒網及び迎撃網を構築する為に、以前から両国間で合意していた戦術防空システムを元にした各種防空システムと、沿岸部への接近阻害を目的とした自走榴弾砲や多連装ロケット砲を中核とする長距離沿岸砲をトルコへと大量輸出する計画を前倒しし、*2更には万が一に備え「同盟国(兄弟国)シリアを深海棲艦の脅威から守る。」という名目で拡充工事が進められていた、タルトゥース補給処とフメイミム空軍基地の工事を急がせ、配備予定戦力の前倒し配備が進められ、戦略防空システムS-500 Прометей(プロメテーイ)だけでなく弾道ミサイルをミッドコース・フェーズで迎撃可能な地対空ミサイルシステム、S-550の最新改良型を展開するなどの、緊張感が高まる事態が発生した。*3

 

 

 

 だが当のトルコとしても、政府も軍も上に下にと右往左往していた。

 

 

 当初哨戒艦が彼女を発見した際、彼女の腕には所属国を示す腕章が無く、地中海水域ではかなり珍しいドロップ艦であると思って保護して基地へと連れて帰って色々と話をしてみたら、びっくり仰天。ドイツの()()“イノシシ艦娘”Goeben(ゲーベン)だと言うではないか!*4

 

 

 ヨーロッパでは独自の取り決めとして、ドロップ艦か既にどこかの国軍に属しているかを識別する目的で、艦娘は腕に所属国を示す国旗をモチーフとした腕章を身に着ける事が義務付けられていた。

 

 因みに地中海水域におけるドロップ艦は、何故かは分かっていないが大西洋側に集中しており、地中海奥深くになると基本的にドロップ艦はまず見付かっていなかった。

 

 

 本来の所属国、ドイツからも脱走があったとする報せが無かったことも、混乱をより助長させた。

 

 だがその後に「巡洋戦艦艦娘Goeben(ゲーベン)が作戦行動中に敵潜水艦からの雷撃を受けて戦死した。」とする情報が伝わって来た事で、何よりも彼女による証言から、察することとなった。

 

 

 結論から言えば、彼女がトルコへとやって来た理由は、まぁその、端的に言えば家出である。

 

 

 愛する姉であるMoltke(モルトケ)と大喧嘩をやらかしてそのまま飛び出してしまい、どうすることも出来なくなって宛もなく彷徨っている内に、トルコ領海までやって来てしまった。

 

 Moltke(モルトケ)達も追い掛けようとしたが、Moltke(モルトケ)が愛する妹と喧嘩をしてしまった事、何よりも妹が腕章を引き千切って自分へと投げ付けられた事によるショックから放心状態となって初動が遅れ、見失ってしまった。

 

 報告を受けたGroße(グローセ)も、信頼を寄せていたGoeben(ゲーベン)が脱走したことに衝撃を受けて暫し立ち尽くしたが、Moltke(モルトケ)からの報告で納得もしていた。

 

 

共産主義者(コミー)共に頭を下げるのは、もう沢山だっ!!」

 

 

 彼女は第一次大戦当時の時代による影響もあるのか、大のアカ嫌い、ガチガチの反共主義者であり、極左政策を邁進するEUと、それに追随するドイツに心底嫌気が差していたことは、Große(グローセ)も薄々とは感じていたが、前日の戦闘で圧倒的不利な戦力差にも関わらず、上級司令部による杜撰な作戦と不明瞭で要領を得ない命令が原因で艦隊は撤退のタイミングを逃して戦闘に突入。

 

 全滅を悟ったGoeben(ゲーベン)は退路を確保すべく、僚艦の軽巡洋艦艦娘と共に決死の突撃を敢行し、艦隊は甚大な被害が出たもののGoeben(ゲーベン)達の、そしてGoeben(ゲーベン)達の意図に気づいたMoltke(モルトケ)や他の巡洋戦艦艦娘達もGoeben(ゲーベン)達に続いて突撃を敢行したお陰で退路が出来、なんとか離脱に成功して全滅は免れた。

 

 だがその際に、今生でも再び僚艦となってくれて、いつも付き従ってくれていた、この決死の突撃にも文句一つ言うこと無く笑って付いてきてくれた、最愛のパートナーとまで言っていた軽巡洋艦艦娘Breslau(ブレスラウ)が戦死。

 

 明らかに上級司令部の無為無策が原因であるにも関わらず、「敗走の責任はBreslau(ブレスラウ)にある」として、“死人に口なし”と言わんばかりに全ての責任をBreslau(ブレスラウ)に押し付けて無理矢理幕引きとした事で、我慢の限界を迎えていた様だった。

 

 

 その事でなんだかんだ言いながらも仲の良かった姉と大喧嘩をするほどまで、彼女が思い詰めていた事に気が付かなかった自身の無神経さと不甲斐なさに、(ハラワタ)が煮えくり返るほどの怒りを覚えた。

 

 

 引き千切られた腕章を手に、Große(グローセ)はこの事を知る全員に緘口令を敷き、Goeben(ゲーベン)が作戦行動中に敵潜水艦からの雷撃を受けて戦死したと司令部へと報告した。

 

 

 

 紆余曲折を経て、最終的にGoeben(ゲーベン)はドロップ艦扱いとしてトルコが引き取る形で落ち着いたが、その際に裏ではドイツとトルコの間で艦娘間でのホットラインに似たチャンネルが繋がれるというオマケが付いた。

 

 これには新ロシア連邦(NRF)も深く関わっているとされ、事実地中海常設作戦部隊から連絡要員という形でトルコへと艦娘の小部隊が派遣されたが、そのほぼ全員が連邦参謀本部情報総局、所謂GRUに所属している可能性の高いメンバーが占めていた。

 

 

 兎も角として、Goeben(ゲーベン)は色々と複雑なものを抱えながら、トルコ海軍艦娘Yavuz(ヤウズ)として再出発することとなった。

 

 

 だが今回の問題はその抱えている複雑なものな起因しているものだった。

 

 

 地中海常設作戦部隊の上位部隊、黒海艦隊から旗艦級でもある主力艦のИмператрица(インペラトリッツァ) Мария(マリーヤ)級戦艦の誰かが来るかもと予想していたら、予想の斜め上の人物が遥々モスクワからやって来ていた。

 

 

 その人物とは、Илья (イリヤ) Владимировна(ウラジーミロヴナ) Путина(プーチナ)、モスクワ国立研究大学高等経済学部、外交政策学部学長。

 

 

 彼女こそ、ロシア連邦最後の大統領にして初代新ロシア連邦(NRF)大統領。後任のКуту́зов(クトゥーゾフ)氏に大統領職を交代した直後の一時期に国防相代理を務めていたが、それも今の国防相に交代した今では政界から退いて「ロシアの未来は今後の教育次第」と言って、将来新ロシア連邦(NRF)を引っ張って行けるだけの人材を育成すべく、ロシアに於いて最も権威のある大学であるモスクワ国立研究大学高等経済学部にて自ら教鞭を取る道を選んだПутина(プーチナ)教授がやって来ていたのだ。

 

 

 最初彼女が来ていた事に気付いたのは、Q.Eの護衛として付き従っているイギリス特殊部隊、SASの隊員から多数のGRUスペツナズらしき者達が紛れ込んでいる事が報告されたのが切っ掛けだった。

 

 そこから新ロシア連邦(NRF)からかなりの重要人物がやって来たのだと察したのだが、その人数が異様なまでに多い事から「まさか政府か軍の上位者か…?」と思っていたら、それは半分正解であったが、答えはより斜め上の存在だったのである。

 

 

 彼女は現役時代に西側から蛇蝎の如く嫌われており、相当な恨みを買っている影響で現役を退いた今でも、西側を中心とした各方面や勢力からの暗殺対象として狙われている者の上位リストに入っているとされ、*5彼女には常にGRUスペツナズによる厳重な護衛が付いている。とは聞いていたが、かなり堂々と“決闘”という題目のこの茶番劇、もといお祭り騒ぎを、付き添いの艦娘らしき者と仲の良い母娘の様にして楽しんでいる姿が確認されたと聞かされ、Q.Eと序でとばかりに聞いていたCavour(カブール)はその豪胆さに度肝を抜かされたらしい。

 

 

 だが、彼女、Путина(プーチナ)の存在そのものが一種のカモフラージュであったことが直ぐに判明した。

 

 付き添いの艦娘、『Бородино́(ボロジノ)』級前弩級戦艦の艦娘であり、黒海艦隊に所属するСлава(スラヴァ)と酷似した少女だった。

 

 しかし決闘後に治療の為に『P.o.W』艦内の医務室にてQ.Eと Cavour(カブール)が、艦娘の治療で使われる修復材を染み込ませた包帯でぐるぐる巻きの志々雄様状態、…もとい、ミイラ状態でベッドに横たわるという、些かシュールな姿で休んでいる時に、見舞いと称したПутина(プーチナ)教授の訪問によって、その少女の正体が明かされた。

 

 

 今までSIS(MI6)ですらその正体を掴むことが出来なかった、多くの謎に包まれていた人物、新ロシア連邦(NRF)国防相、Мирослава(ミロスラヴァ) Иванова(イヴァノヴァ)

 

 

 その事実に驚愕し、ベッドの上で衝撃のあまり2人して仲良く固まってしまった。

 

 

 まぁその辺りに関しては、然程重要なことでは無いので割愛するとして、本題はここからだ。

 

 簡単に言えば彼女からお誘い、勧誘の類いではあるが、その前に一つの情報が開示された。

 

 

 とはいえそれは目新しい情報という訳ではなく、イギリスとしては既知である新ロシア連邦(NRF)によるヨーロッパ各国、特にドイツ艦娘への工作活動に関しての事であった。

 

 

 Yavuz(ヤウズ)ことGoeben(ゲーベン)の一件、それ以前のPola(ポーラ)の件も含めてヨーロッパにおける艦娘との軋轢は次第に修復不能となりつつあると判断した新ロシア連邦(NRF)は、これを機にヨーロッパ各国に所属する艦娘に対して不満を煽る工作を開始する決断を下した。

 

 特にドイツはイタリアに次いで世界第5位の艦娘戦力──数の上では新ロシア連邦(NRF)だが主力艦の総数ではドイツに軍配が挙がる──を有しているが、その主力艦は上位4ヶ国と違って第一次大戦型の、しかも戦後改修が施されていない旧式艦が数の上での主力を占めており、性能の劣勢を数で補うべく相当無理をした建造が行なわれていた。

 

 その皺寄せは随所に出て来ており、特に給与の悪さは有名で艦娘達からは「給与の悪さ“だけ”は世界一ィーーッ!」と自虐的な皮肉が語られるほどの有り様だった。

 

 

 これを受けて新ロシア連邦(NRF)はドイツでの分断工作に密かに乗り出していた。

 

 だがそれは何も武装蜂起などの武力による叛乱を促すというものでは無く、Goeben(ゲーベン)の様に離反、亡命を促す事を狙ったものだった。

 

 

 当時のイギリスはこの工作活動の実態をある程度把握はしていたが、これによってドイツで艦娘との間で目に見えるいざこざが起きて、ドイツの力が低下してくれた方が相対的に自分達との差が開くから何かと都合が良いとの思惑によって、静観する判断をしていた。

 

 

 しかしそれが完全に裏目に出た。

 

 

 このままだと全ドイツ艦娘が深海棲艦の軍門に下り、復讐心に燃える深海棲艦化したCavour(カブール)と彼女に同調するイタリア艦娘と共に、地中海中のヨーロッパ沿岸部で無差別に暴れ回る可能性が現実として有り得た。

 

 ヨーロッパでマトモに戦えるのはイギリスとフランスだけとなるのだが、そのフランスも国内事業の混乱による皺寄せで国軍の活動は停滞気味、どころかフランス艦娘の中にも Cavour(カブール)と同じ被害者が出ていた事実が発覚し、フランス艦娘もフランスから離反して Cavour(カブール)達に付く可能性が濃厚ときた。

 

 そうなると伊独仏プラス深海棲艦の連合軍に対してイギリスは単独で戦う羽目になってしまい、最終的にイギリスは無視出来ない大損害どころか壊滅的な大敗北すら有り得た。

 

 

 だからこそイギリスは焦った。

 

 

 Q.Eは今まで政府と軍部が静観という名の放ったらかしにしていた案件の“ツケ”の精算を自分がしなければならなく成った事に憂鬱な気持ちとなりながらも、即断即決で即応可能な最大戦力を動かして自ら指揮を執る決断をした。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)としても、まさかこの様な事態になるとは思いもよらず、憂慮こそ示しはしたものの、その軍事面に於ける基本戦略は膨大な陸上火力の投射による支援が期待できる守勢においてこそ最大効果を発揮する戦略であり、自らの領域外での戦闘となると、あまり期待は出来なかった。

 

 そしてクレムリンは最悪の事態に備えてトルコと隣接し、黒海艦隊の属する南部軍管区と、新ロシア連邦(NRF)海軍最強戦力を有する北方艦隊が属する北部軍管区、そしてヨーロッパと最も近くバルト海艦隊を有し、首都モスクワをその管区内に含む西部軍管区に対して()()()()()()の発令を密かに命じていたことが、Мирослава(ミロスラヴァ)国防相の口から語られた。

 

 

 “第2戦備態勢”

 

 

 この言葉に Cavour(カブール)は多少顔を顰めた程度だったが、Q.Eは背筋が凍える思いがした。

 

 新ロシア連邦(NRF)国内で慌ただしい動きが見られるとの情報は得ていたが、それは今回の事態に対しての動きであると予想していたものの、“第2戦備態勢”は予想外だった。

 

 “第2戦備態勢”とは所謂『DEFCON2』、()()()()()()()()()()()()最高度に準じる防衛準備状態を示す。

 

 

 2020年6月2日、時のロシア大統領は核戦略に関する指針として『核抑止力の国家政策指針』に署名した。核兵器の使用は大統領が決定することを定め、ロシアの核戦力は「本質的には防衛的なもの」としつつ「使用の権利を保持する」と規定。 核兵器を使用する具体的な条件として以下の4つを挙げた。

 

 ①、ロシアやその同盟国への弾道ミサイル発射に関する信頼性の高い情報を入手した場合。

 

 ②、ロシアやその同盟国への核兵器を含む大量破壊兵器が使用された場合。

 

 ③、死活的に重要な政府や軍事施設に対して、敵が核報復能力を阻害する工作を行った場合。

 

 ④、通常兵器の攻撃によりロシアが侵略され国家存立が危機的になった場合。

 

 この①〜④のほかに、「核抑止力が必要になり得る軍事的危険」の対象に、宇宙空間やロシア周辺へのミサイル防衛システムや弾道ミサイル、極超音速ミサイル、核兵器及びその運搬手段の配備を挙げていた。

 

 

 この指針は今の新ロシア連邦(NRF)にも受け継がれている。

 

 

 そして新ロシア連邦(NRF)は深海棲艦を国家存立の危機に繋がる脅威とは見なしておらず、何より深海棲艦は()()()()()()()()()()()

 

 

 つまり彼らの核ミサイルの標的は深海棲艦ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、言外に語っているのだ。

 

 その標的は、まず間違い無くベルギーの首都ブリュッセル。

 

 ここにはEU主要機関の本部が多く置かれており、EUの首都とされている場所である。

 

 また、旧NATOの本部も置かれていたが、NATO解散後にそのまま横滑りする形でEU統合軍の本部としてそのまま機能しているのだが、アメリカの置き土産の運用管理をしているのもここEU統合軍本部である。

 

 

 EUを牛耳るEU委員会は今回の事態に対して多少の混乱は見られるも、その反応はイギリスと比べると幾分にも鈍い。

 

 制度そのものに疲労と限界が来ているのもあるだろうが、その視線が新ロシア連邦(NRF)に向けられていたからというのもあるのだろう。

 

 

 今回の一件だが、見方によっては「新ロシア連邦(NRF)が裏で糸を引いている」と主張出来なくもないのだ。

 

 

 全ては新ロシア連邦(NRF)の工作活動によって出来ていた艦娘の所属国に対する反発心に、偶々 Cavour(カブール)が上手く乗っかかったという、完全に偶然の産物なのだが、タイミング的に少しばかり出来すぎてしまっていた。

 

 

 そこから「新ロシア連邦(NRF)がこの一件の黒幕であり、深海棲艦を利用した事実上のヨーロッパに対する新ロシア連邦(NRF)による侵略行為である」とEU委員会が断じて、報復措置として核攻撃に打って出ないとも言い切れなかった。

 

 具体的な証拠、証言が無くとも、証拠があると言い張り切り抜きなどの捏造した証言から問題を大きくしたり、戦争を引き起こす前科が──大概アメリカが主犯だが、──西側には何度もあるため、杞憂で済む話では無かった。

 

 

 とはいえ、新ロシア連邦(NRF)を核攻撃したとしても、その後に自分達まで報復核攻撃で吹き飛ばされたら元も子もないし、それだけの度胸があるとは言い難い権力と利権にしがみつくのが関の山のヘタレ集団でもあるから、なんとも言えないが、既存の秩序や文化風習その他諸々を目茶苦茶にして来たという前科もある、と言うかそれ以外にも心当たりがあり過ぎて、所謂破壊主義的危険思想の傾向にある以上は、もしもということもある。

 

 ある意味で Cavour(カブール)もその心の内に宿る復讐心から、ヨーロッパに対して破壊主義的な一面が垣間見えてしまっているが、まだギリギリの所で踏みとどまっている。

 

 

 Q.Eは思考を巡らせる。

 

 

 自身は Cavour(カブール)による艦娘離反とその後の艦娘と深海棲艦による大攻勢の可能性で頭がいっぱいになっていたが、事態は予想外な程に深刻だった。

 

 

 一歩間違うと核戦争の危機であったとなると、今後の行動にも影響が出て来る。

 

 このまま時間を掛けて和解の道へと持って行く考えでいたが、事はそう簡単に行きそうにない。

 

 

 そしてここからが、Мирослава(ミロスラヴァ)からの提案、いや、それは提案という名の謀略への誘いだった。

 

 

 曰く、「いても邪魔なだけのEUに全ての罪を被せ、一緒になってみんなでぶっ潰そう!」というものだった。

 

 

 その“罪”というのが、 Cavour(カブール)に関する一件である。

 

 

  Cavour(カブール)が深海棲艦となってしまった研究施設であるが、 Cavour(カブール)は「脱走した際に破壊してそのまま海へと逃れた」という証言から場所が沿岸近くの地区であると予想し、 Cavour(カブール)が公的に死亡したとされる日時以降の沿岸地区での火災や事故といった報道、或いは報道されていない情報などから場所の特定に乗り出した所、とある製薬企業の所有する建物が老朽化と電気系統の故障が原因で出火し、全焼して焼け落ちたとのローカル報道を見つけ出す事に成功した。

 

 そしてその製薬企業というのが、時間が足りなかった為に詳細までは掴めなかったものの、軽く調べただけでもEU委員会の重役やEU統合軍幹部とも繋がりがあり、多額の献金や物品のやり取りがなされている実態が明らかとなった。

 

 全く無関係であるとは言い切れないが、これを持ってEU委員会が Cavour(カブール)他多数の艦娘に対しての非道な実験を指示していたとの証拠とはならず、今も全力を上げて調査を続けているが、中々尻尾が掴めない状態である。

 

 

「だが、そんな事は最早どうでもいい。目には目を、歯には歯を。やられたらやり返す。倍返しでね!」

 

 

 目を爛々と輝かせ、握りこぶしを作りながらМирослава(ミロスラヴァ)はそう語る。

 

 今まで散々ぱら言い掛かりをつけて好き放題やりたい放題の嫌がらせを掛けて来ていたのだから、たまにはそのまんま返しでやり返してやろう。

 

 意地の悪い笑みを湛えながら、証拠なんて幾らでも捏造してやる!と意気込むが、直後にПутина(プーチナ)教授からツッコミの手刀が頭へと振り下ろされ、「貴女はそうやってすぐ熱くなるから気をつけなさいって、いつも言ってるでしょう?」と怒られた。

 

 

 取り敢えず証拠云々の話は一旦横に置いておくとして、提案というのは次の様なものだった。

 

 

 『P.o.W』の艦上からQ.Eと Cavour(カブール)の2人による共同会見で、イギリスと深海棲艦による電撃和平と、今回の事件の根底にあるものを世界にバラしてしまおう。

 

 

 無論、大きな混乱が起きることが予想される。だがこのままだとEUとEUに追随するだけの各国がまた何かしでかさないとも限らず、いずれにせよ遅かれ早かれ混乱が起きるのは必至であるとし、それならば先に深海棲艦の問題を解決させよう。という趣旨だった。

 

 

  Cavour(カブール)はこの提案に乗り気だった。

 

 Q.Eとの会談と決闘で一応武装蜂起は取り止めたものの、だからといってその心の中の復讐心が完全に吹っ切れた訳では無い。

 

 本心から言えば仕返しがしたかったのだが、()()()()であるQ.Eだからこそ、また彼女も自分と似た悩みや苦労を抱えている事もあって、全てをぶっ壊しても良いんじゃないか?と思う程の破壊衝動に似た衝動に突き動かされた復讐が何だか馬鹿馬鹿しくなった。

 

 しかし、仕返しをする明確な相手がいる以上は、一種のケジメとして成し遂げたいと思ったのだ。

 

 

 だがQ.Eは難色を示した。

 

 

 どれほどの混乱が起きるかの予想がつかず、一応の国の指導者としての立場柄、そうおいそれと頷く訳にはいかなかった。

 

 イギリス国内にまで混乱が波及したら、それを抑えるのが正直かなり面倒なのだ。

 

 とはいえ彼女だってれっきとした艦娘だ。 Cavour(カブール)達が受けた仕打ちに対して相当腹を立てている。

 

 かつてジブラルタルへと転戦する際に、序でにイタリアを表敬訪問することとなったのだが、その時に世話になったのが Cavour(カブール)とデュゴミエ提督であり、良くしてもらった恩義もある。

 

 それに、自分自身だって怒りにまかせてクーデターやらかしている前科があるのだ。

 

 

 故に、本心としては Cavour(カブール)の望みを叶えてあげたいという気持ちもある。

 

 が、同時になりたくてなった訳でない今の立場の、この目が回るほどのあまりにもクソ忙しい現状がさらに忙しくなるのは嫌だ!と心が悲鳴を上げている。

 

 これには流石に新ロシア連邦(NRF)組2人から同情され、 Cavour(カブール)からは「お互い色々と苦労してんだな…」と何処か遠くを見る哀愁漂うなんとも複雑な顔をされた。

 

 

 だがL.Nからは「遅かれ早かれ忙しくなるんだから、現実逃避しないで素直に諦めたほうが楽だぞ?」と突き放された。

 

 

 Q.Eは泣きたくなった。

 

 確かにそう遠くない内に、EUは経済の行き詰まりから空中分解する確率が高いとの分析結果が出ていた。

 

 

 どっちに転んでももうどうにもならないならば、もう開き直るしかない。だから、こちらが被る被害を最小限度に抑えるべく、混乱を引き犯す謀略に誘うというのならば、それなりの見返りを寄越せ!取り引きだ!じゃなきゃヤダ!!と駄々をこねて強請った。

 

 

 

 最終的に取り引き交渉は、まぁある程度は纏まった。

 

 

 

 ここまでが、Warspite(ウォースパイト)がL.Nから伝えられた事の、おおよその概略と既に知っていたことを繋ぎ合わせたものである。

 

 取り引きの内容に関しては、新ロシア連邦(NRF)側との守秘義務的問題があるため、精査した後に追って連絡するとのことだった。

 

 

 紅茶が飲みたい…。

 

 

 そう思って休憩スペースに置かれている紅茶セットを使って、手ずから紅茶を淹れる。

 

 用意されている茶葉は、いかにも安物で香りもイマイチだが、この際そんな事は気にしない。今はただ喉を潤したかった。

 

 

 そうこうしていると、L.Nからメールが届いた。その内容を見て、盛大に紅茶を吹き出した。

 

 

『伝え忘れていた。

 

 取り引きの一環で貴様の留学が決まったぞ。教授も歓迎すると快諾してくれた。

 

 日本での仕事が全て片付いたら、そのままモスクワへと向かってもらうそうだ。

 

 

 追伸。陛下から言伝だ。

 

 「大変でしょうけど、これからもっと大変になりますから、しっかり勉強してわたくしを助けてくださいまし」

 

 だそうだ』

 

 

 Q.Eは何が何でもWarspite(ウォースパイト)を“内務卿”に据える為に、形振り構わなくなった様である。

 

 

 後年、“宰相”とも呼ばれる様になった“内務卿”、Warspite(ウォースパイト)の苦労の絶えない毎日が始まった日である。

 

 

*1
なお、Q.Eが一番欲しがっているのは内政を任せられる“内務卿”であるが、これが中々これと言った適任がおらず、ならばとWarspite(ウォースパイト)に「日本から帰って来たらお願い…」と出立前に無言で切実に涙目で訴え掛けたものの、Warspite(ウォースパイト)はサッと目を反らした。

*2
これら沿岸砲部隊が後の『ダーダネルス防衛戦』で活躍することとなった。

*3
新ロシア連邦(NRF)とEU、旧NATO構成国であるヨーロッパ諸国との軍事バランスは新ロシア連邦(NRF)へと傾いており、有事に際して通常戦力で挽回する事を諦めたEUとヨーロッパ諸国が劣勢を挽回するために、アメリカがNATO脱退に際しての交換条件としてEUに引き渡したとされる、核弾頭を搭載した弾道ミサイルを使用する可能性を新ロシア連邦(NRF)は強く警戒しており、またかつての冷戦時にトルコにはアメリカ軍のジュピター型MRBMが配備されていたという前例もあったため、全くの杞憂であるとは言い切れなかった。

*4
彼女はその激しい戦いぶりから獰猛で猪突猛進な艦娘であると周辺国から見られており、そう揶揄されていた。

*5
イギリスも狙っていた勢力の一つだったが、Q.Eはそのことに対して「みっともない」「はしたない」「恥の上塗り」「愚か者の所業」などと冷笑して即刻止めさせた。





ウォー様「拒否権は無いの!?」

陛下「我が国は独裁国家ZOY!」


 ウォー様は取り引きの犠牲になったのだ。

 まぁ経験や知識の無いことは、どこかで学ばなければ身に付きませんからねぇ。ちゃんとした教育こそが、国の未来を支える礎になる。


 国防相閣下は色々あった反動でお疲れモードのちょっとハイになってます。

 一応ドイツ艦娘三人衆他、お祭り騒ぎ、もとい“決闘”見物に来ていた艦娘や軍人達も、この“密約”に参加することとなり、取り敢えずこれでヨーロッパは混乱状態と致しますので、その隙に乗じて太平洋でも動き出します。

 タッカー・カールソン氏のロングインタビューから、また以前のアンケートで出しましたセルゲイ・カラガノフ教授から、前大統領を教授にしました。
 てか、ホントにあの大統領スゲェよ…。まだインタビュー全ては見終わってないけど、終始圧倒されました。


補足解説

ドイツ艦娘3人衆

 Goeben(ゲーベン)ことYavuz(ヤウズ)、姉のMoltke(モルトケ)、上司のFriedrich(フリードリヒ) der(デア) Große(グローセ)

 念の為言っておきますが、このGroße(グローセ)はラスボス感半端ない、物事を音楽と例えるあの方ではありません。

 前話でイギリスの大艦隊(Grand Fleet)出したからには、対となるHochseeflotte (ホーホゼーフロッテ)を出さないと失礼になると思いましたので。

 ただ、ユトランド沖海戦時の大艦隊(Grand Fleet)の旗艦は『Q.E』ではなく前級の『Iron(アイアン) Duke(デューク)』なんですけどね。『Q.E』はユトランド沖海戦後に旗艦となりましたから。


大型戦艦2隻

 弩級戦艦『Reshadiye(レシャディエ)』と超弩級戦艦『Sultan Osman I(スルタン・オスマン1世)』のこと。

 オスマントルコが親独傾向にあったことと、同盟関係にあった帝政ロシアがこの強力な新鋭戦艦2隻に危機感を抱き、「トルコへと引き渡さないで」とイギリス政府に申し入れたことなどにより、前者は『Erin(エリン)』後者は『Agincourt(エジンコート)』としてイギリス海軍に編入すると、時の海軍卿ウィンストン・チャーチルの指示で接収された。

 この2隻はYavuz(ヤウズ)がトルコ所属となって暫くした後に漸く建造に成功し、艦隊へと配備された後はどちらかがトルコ艦隊の旗艦を務めているが、今は戦傷の入渠と改装が被った為にYavuz(ヤウズ)が一時的に旗艦業務を引き継いでいる。


装甲艦

 所謂甲鉄艦の様な艦であり、日本であれば旧ストーンウォール号、(あずま)艦や中央砲郭艦の初代扶桑に相当する。

 作中の装甲艦とは基本的に中央砲郭艦になります。砲塔艦までの過渡期な軍艦で、大口径砲を艦中央部に集め、その周辺を装甲で防御していた。


戦術防空システム

 旧ソ連から連綿と続く、ロシアの野戦型多層式防空システムの事。
 その要点は射程の異なる各種対空ミサイル及び自走式高射機関砲による縦深的な防空コンプレックスを形成することで、西側の航空戦力による味方地上戦力への航空攻撃を撃退することを主眼に置いている。

 第四次中東戦争ではソ連軍に範を受けたエジプト軍が、このソ連式防空システムによって世界有数の空軍戦力を誇ったイスラエル空軍をほぼ壊滅状態となるまで叩き潰して追い込む大戦果を挙げて、イスラエルの鼻っ柱を叩き折ったことが有名である。

 しかし深海棲艦との戦いではその対空ミサイル群はキルレシオ、費用対効率の面からあまり有効では無いと判断され、第三次大戦の当時猛威を振るった徘徊型兵器、所謂自爆型ドローンに対する対応策としてある程度有効であると再評価された高射機関砲の大量配備と、旧式化して退役予定だった古い自走榴弾砲や大戦中に鹵獲した自走砲を改装した急造高射砲による面制圧型の弾幕射撃に重点が置かれている。

 なお、国内の兵器産業は国軍の再建と同時並行で行われている装備更新で手一杯であるため、急造高射砲と一部の高射機関砲は主に併合した東欧の兵器産業に製造を委託している。


戦略防空システム

 弾道ミサイルの迎撃などの本土防空を主眼に置いた防空システム。
 現在それまでの主力だったS-300PMから発展改良された新型のS-400 Триумф(トリウームフ)(大勝利)へと切り替え中である。

S-500 Прометей(プロメテーイ)(プロメテウス)

 ロシアの戦略防空システム。現在主力となっている先述のS-400 Триумф(トリウームフ)の発展型であり、同機と互いを補完する形で運用される。

 極超音速機および極超音速巡航ミサイルと、早期警戒管制機および電子戦機に対する迎撃と防空を目的としている。
 アメリカのTHAADミサイルに匹敵する能力と、低軌道の衛星も撃墜する能力がある。


S-550

 2021年11月9日、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は「プーチン大統領が防空システムS-350、S-500、S-550を軍に供給するための重要性を説いた」と語り、そこで初めてその存在が世間に知られることとなった防空システム。

 大陸間弾道ミサイルをミッドコースで迎撃可能とされている。

 類似した既存のサイロ発射式対弾道弾迎撃ミサイルであるA-135やその後継として開発中のA-235と違い、地上移動式である。


ミッドコース・フェーズ

 弾道ミサイルの迎撃は下記の通りの3つに分けられます。

 ①.上昇段階。ロケットに点火して大気圏外に到達するまでの過程のブースト・フェーズ

 ②.中間段階。大気圏外を周回して目標付近まで接近する過程のミッドコース・フェーズ

 ③.終末段階。大気圏外を飛行する高度が下がり目標に向けて降下を始め着弾するまでの過程のターミナル・フェーズ

 以上、この3つであり、最も迎撃の技術的な難易度が低く容易なのが①の上昇段階、ブースト・フェーズであるが、弾道ミサイルの射点に限りなく近付いておく必要性(最悪敵地のど真ん中で張り込む必要がある)から、現実的では無い。

 そのため弾道ミサイルの迎撃は主に②の中間段階、ミッドコース・フェーズか、③の終末段階、ターミナル・フェイズで実行されることが多く、日米では洋上に展開するイージス艦や、地上配備のイージス・アショアから発射されるスタンダードミサイルSM-3及びGBI、Ground Based Interceptorミサイル(地上配備型迎撃ミサイル)がミッドコース・フェーズでの迎撃を担当。Terminal High Altitude Area Defense missile(終末高高度防衛ミサイル)、通称THAADミサイルはその名が示す通り、ターミナル・フェーズの上層を、パトリオットPAC-3が下層を担当している。


Jupiter(ジュピター)型MRBM

 アメリカが冷戦時に開発した準中距離弾道ミサイル(medium-range ballistic missile,)の一つ。

 射程の問題からトルコとイタリアに配備され、キューバ危機に際しての交換条件として、既に旧式で時の大統領ケネディもキューバ危機以前から撤去の命令を出していたこともあり、撤去された。(なお、このキューバ危機以前のケネディの撤去命令を当初管轄である空軍は無視しており、後に発覚した際にケネディが激怒したとされているが、結果としてキューバからのミサイル撤去の交換条件という交渉材料になったというのは些か皮肉ではある。)


Императрица(インペラトリッツァ) Мария(マリーヤ)級戦艦

 先述のオスマントルコ海軍新鋭戦艦2隻に対抗して建造されたГангут(ガングート)級の黒海艦隊バージョン。


軍管区

 ロシア連邦軍は2010年以降、今までの6個軍管区+1──


『モスクワ軍管区(Московский военный округ;МВО)』

『レニングラード軍管区(Ленинградский военный округ;ЛенВО)』

『沿ヴォルガ・ウラル軍管区(Приволжско-уральский военный округ;ПруВО)』

『北カフカーズ軍管区(Северо-кавказский военный округ;СКВО)』

『シベリア軍管区(Сибирский военный округ;СибВО)』

『極東軍管区(Дальневосточный военный округ;ДВО)』

『カリーニングラード特別地区』


──を以下の4個軍管区に統合。


『西部軍管区(Западный военный округ;ЗВО
旧レニングラード軍管区およびモスクワ軍管区)』

『南部軍管区(Южный военный округ;ЮВО
旧北カフカス軍管区)』

『中央軍管区(Центральный военный округ;ЮВО
沿ヴォルガ=ウラル軍管区と旧シベリア軍管区西部)』

『東部軍管区(Восточный военный округ;ВВО
旧シベリア軍管区東部と極東軍管区)』


 2021年新たに北極圏防衛の強化のため、西部軍管区に隷属していた海軍の北方艦隊が新たに北方艦隊自体が独立した軍管区に昇格し、コミ共和国、アルハンゲリスク州、ムルマンスク州、ネネツ自治管区も管轄しているた。


『北部軍管区(Арктические войска и Северный военный округ 北極及び北方軍管区。
Объединённое стратегическое командование «Северный флот»統合戦略軍『北方艦隊』とされる場合もある。
旧レニングラード軍管区)』

Wikipediaより一部抜粋





 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第69話 You haven't seen anything. Is that okay?

 あなたは何も見ていない。よろしいですね?

 つまり他言無用。


 本編進めたかったけど、その前に解決しなくちゃならない問題の一部を先に。

 後書きでアメリカの問題を書いてますが、シカゴ大学のミアシャイマー教授やトランプ政権時代の国防総省長官顧問マクレガー元大佐などのインタビューを取り上げている、アメリカの今を伝えているYouTubeを見たことがある人なら、既にご存知な情報だと思いますが…。


 

 

「結論から先に述べるわ。 Cavour(カブール)が深海棲艦化したのは間違い無く、()()()()()()()()()()()()()()()事が原因よ」

 

 

 首にヘッドセットのレシーバーを掛け、速記した内容がびっしりと書き込まれたメモ帳を片手に、真志妻は部屋の中に居る皆に全員に告げた。

 

 Warspite(ウォースパイト)はそれをゲッソリとした気分で聞いていた。

 

 

 

 時間は少し遡り、Warspite(ウォースパイト)が休憩室から土方の執務室へと戻っている時である。

 

 陛下()L.N(同僚)に自分の預かり知らぬ所で勝手に色々と話を進められ、こちらの意思や都合に関係無く今後の予定を組まれた事に傷心となるも、宮仕え故の悲しい定めで致し方無い事だと割り切り、なんとか気持ちを持ち直して普段通りの立ち振る舞いが出来るまで、一応は回復した。

 

 途中、自分と同じ様に外部と、佐世保(サセボ)に居るガーフィールド准将(上官)と連絡を取り合っていたコロちゃんことColorado(コロラド)と合流したのだが、傍目からも分かるくらいに彼女はプリプリ怒っていた。

 

 曰く、サセボの司令部(HQ)に本国からヨーロッパ地中海で今起きている事態に関しての情報は一切入って無く、Colorado(コロラド)からの報告が第一報であったとのこと。

 

 またその事を本国に問い合わせてみても、マトモに取り合ってくれなかったらしく、彼女はプンスカと怒りを露わにしていた。

 

 ここ最近、保守党の次期大統領候補にして上院議員であるIowa(アイオワ)が彼女と近しい保守派議員とスクラムを組んで、政権与党である極左リベラル政党に対する追及の攻勢を激しくし、特に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、更には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、政府寄りの既存メインメディアすら火消し不能と匙を投げてお手上げになってしまい、その事で極左リベラル政党が上に下にフルパニックモードに突入している事と、その影響が軍部にも波及しているのも無関係ではないだろう。

 

 

 だが、それだけが原因では無い。

 

 

 アメリカ軍は先の大戦以前からその質と能力が急速に劣化しているとされ、特に近年ではかつてヨーロッパと中東、そしてアジアという3つの戦域に於いて、同時に2つの戦域で戦うだけの能力があったとされる強大な軍事力の投射能力、所謂外征能力が米ソ冷戦終結後の2000年代初頭時点でどうにか1つの戦域で戦うのが関の山という状態にまで落ち込み、今現在では完全に失われていた。

 

 これは冷戦終結後の90年代に、時の政権が進めた兵力の削減が影響しての兵力不足、何よりも利権が絡んだ軍事コストパフォーマンスの著しい悪化がアメリカ軍の手足を縛り、その能力を急速に蝕んでいった事が大きかった。

 

 先の大戦でのとある調査資料によると、アメリカの155ミリとロシアの152ミリという両軍がそれぞれ使用する主力榴弾砲の砲弾製造コストを比較してみたところ、アメリカの155ミリ砲弾の製造コストは当時の換算で10,000ドルオーバーというのに対して、ロシアの152ミリ砲弾はなんと600ドル前後という、文字通り桁違いのコストの差が発生していた。

 

 アメリカは基本ビジネスで動く。

 

 それが悪い事であると決め付けるのは早計であるが、行き過ぎると利益を優先するあまり際限のないコスト増を引き起こし、利権に群がる害虫まで呼び込む悪循環の構造が出来上がる。

 

 米ソ冷戦後の非対称戦争による、消耗がある程度限定的な戦いが続いたことで、軍需物資の生産設備が縮小されていたこともあり、少ない供給量でもそこから纏まった利益を得る為に販売価格を色々な理由をつけて上昇させていたのもあるだろうが、そうなると通常戦争に於いて発生する消耗戦となれば、途端に消耗に対しての補填が追い付かなくなる。

 

 だが、だからといって一度構築された利権構造は手放したくないし、手を付けたくない。

 

 結果として兵器の製造販売コストは基本的に下がることは無く、右肩上がりを続けた。

 

 

 それがアメリカ軍を徐々に蝕んだ。

 

 

 かつて豊富な武器弾薬と物資に支えられた兵力による物量によって、敵国や敵対組織を圧倒していたアメリカであったが、悪化したコストがそんな従来の、ある種の“贅沢な”戦争を許さなくしてしまった。

 

 

 しかしそれはまだ序の口に過ぎない。

 

 

 真にアメリカ軍を蝕み、崩壊させた最大の原因は、またもや左派による過剰なまでの行き過ぎた理想主義を体現しようとした思想政治に、その罪を見出すことが出来る。

 

 

 左派が妄想する理想社会(ユートピア)を軍隊にも無理矢理押し付け、政治思想、人種、肌の色、性別に性嗜好などの、本来ならば軍人として必要とされる能力にまったく寄与しない、彼らの趣味丸出しの人事を強行。

 

 また男女比率や人種比率を人口比率と同等の比率にしなければならないという、何を言っているか分からない政策まで推し進め、軍人として必要な最低ラインの能力や体力すらクリア出来ていない者達を、数合わせで次々と放り込んだものだから、士官兵士共に質の低下が一気に顕著化することとなった。

 

 

 結果としてそれらが中東での大失態に繋がった。

 

 

 まだ当時は常識的でマトモな軍の背広組や制服組がなんとか軍に留まって、政府や周りの“無能な働き者”達からの陰湿な嫌がらせや妨害に遭いながらも、自らの職務を全うしようと努力したが、その全てが無駄となった。

 

 「グッバイ・アメリカ!」をスローガンに掲げるアラブの国々や民衆、各地のイスラム教徒の人々による激しい抵抗によって中央軍は中東から追い出され、なけなしの装備や物資、何よりも同重量の金よりも貴重となった多数のベテラン制服組が永遠に失われた。

 

 同時に背広組も、軍を追われるか去って行った。

 

 

 残されたのは、かつて世界最強と持て囃されていた軍隊の残骸と栄光の残滓だった。

 

 その残骸も深海棲艦との戦いで風化し、朽ち果てつつあった。

 

 かつての栄光の残滓に縋る上層部と、数合わせと失業率対策でそこら辺に居る浮浪者と失業者を片っ端から放り込んだものの、モラルの欠如ざ甚だしい上に脱走が後を絶たず、職業安定所としても使い物にならない軍隊()()()()()

 

 それが今のアメリカ軍である。

 

 

 こんな有り様では、組織としてマトモに機能する訳が無い。

 

 

 独特かつ奇抜で突飛、個性豊かな格好や性格をした者が多い艦娘であるが、その根は真面目でかつて活躍していた時代の影響もあってか保守的な思考であり、今の左派的思考とは相容れずにいた。

 

 特にColorado(コロラド)はその持ち前のプライドの高さもあって、度々衝突を繰り返していた。

 

 

 延々とColorado(コロラド)の愚痴を聞き続ける事となったWarspite(ウォースパイト)だが、内心ではどこも同じかと嘆息しつつも、ここ小松島(コマツシマ)が羨ましく思えて仕方なかった。

 

 新ロシア連邦(NRF)はなんとも言えないが、西側は今やどこを見ても聞いても、人間達への不平不満による愚痴で溢れ返っている。

 

 

「まだ昔は良かった」

 

 

 古参であればあるほど、決まり文句の様にそんな言葉が漏れ出している。

 

 でもそれは今まで人間達をマトモに見て来なかった、知らなかった事による無知でいた自身達への、ある種の皮肉も込められていた。

 

 味方と信頼して断言出来る人間のなんと少ないことか…。

 

 

 だがここコマツシマは数少ない例外であり、心地良い場所だった。

 

 ここはニンゲン共の腐臭がしなかった。所属する艦娘がどこよりも活き活きとしている。

 

 

 確かに全く愚痴が無い訳では無いが、それは訓練が厳しいとか規律とかの、軍隊であれば必ずや付いてくるものであり、深刻なモラルハザードを引き起こす原因に直結する様な類いの問題から出る愚痴ではない。

 

 まぁ、不安定な軍の予算によって食事の質などの給与面での問題はあるみたいだが、それは予算執行を執り行う行政サイドの問題であってここの指揮官である土方(ヒジカタ)に責任は無いし、真志妻(マシツマ)は私財の遣り繰りからなんとか捻出して可能な限り不足分を補填するなどの努力に努めている。

 

 また敷地内で畑を耕したり鶏を飼育していたり、何よりもここは豊富な漁場でもある瀬戸内海の鳴門海峡の近場という非常に有り難い立地でもあり、そこまで大きな問題にはなっていないみたいである。

 

 …それもあってか、自分達の食卓を少しでも彩り豊かなものにする為にと、近海警備任務部隊の中には出撃に際して漁業用の機材を持ち出して出撃する艦娘が少なからずいたりするのだが。

 

 ただ少なくともヒジカタは「軍務に差し支えない範囲であれば」を暗黙の条件としてその事を黙認しており、指揮下にある艦娘達もそれを充分に弁えていた。

 

 国内の他の場所、特に地方では基地の敷地外にある、人手不足から放棄された耕作放棄地や、所有者が居なくなって荒廃した荒廃農地を借りたり買い取ったりして耕作を行うなどして現場も現場で独自に動ける範囲で動いていた。

 

 

 しかしこうなってくると半ば屯田兵や自給自足の様な状態であり、軍務に差し支えが出てしまう事もしばしば起きている。

 

 新ロシア連邦(NRF)からの援助物資が送られてきているとはいえ、国内の交通網が深刻な人手不足から整備が行き渡らずに寸断されてしまっている箇所が年々増えてきており、陸の孤島と化す場所が増えている。

 

 

 実はここ徳島の属する四国も、本州と繋がる明石海峡大橋・大鳴門橋、瀬戸大橋、瀬戸内しまなみ海道と言った所謂本州四国連絡橋を構成する橋梁の数々が老朽化と修繕工事の相次ぐ延期や中止の影響で通行不能となり、生活物資等の物流が軍用輸送機による空輸や昔ながらの船舶での輸送頼みとなっている。

 

 ただそれらは気象条件に左右され、港湾整備や空港機能を軍がなんとか維持しているが、それらの労力に比して輸送に必要な人手も不足している為に、安定して必要量を輸送することが出来ていなかった。

 

 今回新ロシア連邦(NRF)艦隊が多数の補助艦艇を引き連れてやって来た背景には、作戦行動中に必要となる艦隊への補給の為というのもあるが、日本に寄港しても満足な補給が受けられない事と、日本艦隊が何らかの理由により自らの補助艦艇を用意出来ない可能性を見越し、参加する補助艦艇を通常よりも増やしていた。*1

 

 

 つまり海外からも日本の物資不足や輸送インフラの能力が心配されている様な状態で、首都防衛の要所とされているコマツシマもその立地から不安視されているのだが、それにも関わらずコマツシマは高い士気と練度、そして規律が保たれており、そこからもヒジカタの手腕の高さが見て取れた。

 

 正直、欲しい人材だ。色々と聞き及んでいるその“逸話”から、本国のBritannia Royal Naval College(ブリタニア王立海軍兵学校)に最高待遇で招聘したいくらいだ。

 

 …彼に執着心を持っているであろうマシツマが、絶対に首を縦に振る事はしないだろうけど。

 

 

 

「おかえりなさい。Warspite(ウォースパイト)さん、Colorado(コロラド)さん」

 

 

 そうこう考えていると、ヒジカタの執務室前まで戻って来ていた。

 

 部屋の前では駆逐艦の艦娘時雨(シグレ)が『警邏中』の腕章と制服の上から警棒(スタンバトン)などが入ったベルトポーチを腰の辺りで巻き付けた格好で立っていたのだが、一緒にいたはずの夕立(ユウダチ)が居ないことに気付き、どうしたのかと思っていると、シグレが申し訳無さそうな顔と共に片手を上げて入室を遮った。

 

 

「少し取り込み中でして、少しの間だけ待っていてください」

 

 

 どうやら退室している間に何かあった様で、シグレが言うにはその事でユウダチは室内に居るとのこと。

 

 

 

 ジリリリーン!!

 

 

 シグレの言葉に被さる様に、どこか懐かしさすら覚える、古めかしいベルの音が執務室の中から響いて来た。

 

 それに続く形で、独特の連続した電子音が微かに伝わって来る。

 

 その音はモールス信号の発信音だったのだが…。

 

 

 速い…。

 

 気を抜くと聞き逃しそうになる程の、異様なまでの速度で電鍵を叩く音が伝わってくる。

 

 

「ああ、そうそう。Warspite(ウォースパイト)さん、はいこれ」

 

 

 モールスの内容を聴き取ろうとした所、何かを思い出したかの様な仕草でシグレが腰のポーチから何かを取り出し、手渡してきた()()に少しだけ眉根が反応してしまった。

 

 

 それは、執務室から退室する際にさり気なく残して行った自身の妖精さんだった。

 

 しかも妙に怯えて涙目で震えていた。

 

 

「駄目じゃないか。()()()()()()()()()()、ちゃんと面倒見とかなきゃ」

 

 やれやれといった雰囲気で肩を竦めるシグレだが、こちらは内心の動揺を顔に出さない様に努力するのに必死だった。

 

 ()()()()()()()()()()、探りをいれるために隠れたり潜り込む事が得意な子を忍び込ませていたのだが、見破られた様である。

 

 察したColorado(コロラド)が腰に手を当ててアンタ、何してんのよ…。と半眼を向けて来るが、直後にシグレから両手いっぱいの妖精さんを渡されて、顔を真っ赤にした。

 

 こちらの妖精さん達もみな、完全に怯えきって肩を抱き寄せてガタガタと震えているのが見えた。

 

 

 一体何をしたらここまで怯えさせる事が出来るのか?と疑問に思ったのだが、不気味に嗤うシグレを見て、軽く冷や汗が流れた。

 

 

「僕はあの人の…、いや、()()はあの人のモノだからね…」

 

 

 傍から聞くと、ただ単にヒジカタの指揮下であることを言っているだけとも聞き取れる。

 

 同時に「知りたければ土方司令に直接聞け」とも聞き取れる内容である。

 

 

 …どうやらこちらの目的をある程度見抜いているのは間違いなさそうだ。

 

 

 

 ()()()()()もそうだが、何よりも可怪しいのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 正直ヒジカタ達も経歴等に色々と不可思議な点が多いが、戸籍などの個人データが日本政府と官吏の阿呆共の無為無策のせいでこれっぽっちも当てに出来無い程に、データ保管能力の欠如とセキュリティ意識の無さどころか改竄し放題やりたい放題のやられたい放題なカオスな有り様では、一次資料を調べるだけ徒労というもの。

 

 また短期間での急激な日本人の人口減少、いやその勢いから人口消失と言った方が適切か?兎も角、大量の人間が一挙に消えた影響で、親族友人などの関係者を辿ろうにも既に全員亡くなっているというのが今の日本では当たり前となっており、調査は完全に行き詰まっていた。

 

 そもそも今の政府の閣僚すら日本人であるかが甚だ怪し、…昔からだった。

 

 

 …取り敢えず、人間サイドは早々に見切りをつけたのだが、艦娘サイドは別だった。

 

 

 以前からここの白露(シラツユ)姉妹は違和感が拭えなかった。

 

 他のシラツユ型と比べて、と言うよりも全体的に浮き世離れしていると言うか、()()()()()()()()()。どこか可怪しい。

 

 5番艦である筈の春雨(ハルサメ)が長姉っぽく思えるとの証言もあったりするが、鎮守府へと着任した順番からそういったパラドックスは結構頻繁に起きているため、よくあることと片付ける事が出来るが、彼女達の立ち振る舞いや仕草、もっと言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そこに来て明確な物証まで出て来た。

 

 

 コマツシマ(ここ)のシラツユ型にはヒジカタの計らいによって特別に拳銃が支給され、普段から携行が許されている。

 

 それは精鋭としての証でもあるとされているのだが、同時に鎮守府内の保安業務という、憲兵としての役職を任せられている為でもあり、事実先のPOLA(ポーラ)による一悶着の際に、駆け付けた江風(カワカゼ)は携行していた銃を迷うこと無く抜いた。

 

 

 だがカワカゼがPOLA(ポーラ)に突き付けたあの銃。あれは一体何だ?

 

 

 情報によると、彼女達へと支給されている拳銃は新ロシア連邦(NRF)軍が正式採用し、日本軍にも供与されているレベデフかウダフだと聞いていたが、あんな銃は見たことが無い。

 

 連れ添っている妖精さんからは、「ぎそーのいちぶかも?」と首を捻りながら、そう答えが返ってきた。

 

 つまり艤装に付属する装備品の類いなのではないか?と言っているのだ。

 

 

 だがそんな艤装、聞いたことが無い。

 

 

 思えばここには“コマツシマの裏ボス”と称されている高速戦艦艦娘霧島(キリシマ)のエラー個体、霧野(キリノ)という存在が居るらしいが、そもそもエラー個体など後にも先にもそのキリノくらいしか聞いた試しが無い。

 

 

 間違い無く、ヒジカタは、おそらくマシツマも何かを隠している。

 

 それが一体どういうものなのか?それは英国(我々)にとって利益と成り得るか?それとも脅威となる様なものなのか?それを見分ける必要があるとWarspite(ウォースパイト)は日本で活動している中で判断した。

 

 だが一筋縄ではいかなかった。そもそもイギリスはヨーロッパの政情不安、いやそれ以前に足元であるイギリス本国さえもゴタゴタしていた影響でアジア方面での諜報活動が、時期で言えば太平洋方面での反攻作戦であるあのAL/MI作戦失敗辺りから、活動を大きく縮小せざるを得ない程の支障が出るまでになっていた事が、ここに来て大きな足枷となっていた。

 

 そして情勢は本国で予想していたよりも早く、しかもここ最近になって急激に動き出してしまった。

 

 故に、Warspite(ウォースパイト)の気持ちに焦りが出た。

 

 だからこそ、この機会に直接動いた訳ではあるのだが、性急に過ぎたと今更ながら臍を噛んだ。

 

 

「…時雨(シグレ)、何しているの?」

 

 

 そこに第三者の声がして、不気味に嗤っていたシグレの顔が途端に凍りつき、壊れたブリキ人形みたいに、ギギギ…、との擬音が聞こえそうな動作で顔が声のした方向へと向けられ、こちらも視線を声がした方へと向けた。

 

 視線の先、廊下の角からこちらへと歩いて来ていた、いつも従者の如く近くに控えている銀色の髪を足首まで届きそうな長さの1本の三つ編みにしている妹と共に、ピンク髪を左側頭部でサイドテールにして白いベレー帽を頭に乗せている、ニコニコと微笑んでいる一見優しそうな艦娘がいた。

 

 

「ハ、春雨(ハルサメ)姉さん…、帰ってたんだね…?」

 

 

「はい。()()()()()()と違って、殆どパトロールでしたから。フロレアルさん達が居たらみんなにもっと楽をさせてあげる事が出来たのですけど」

 

 

 少しだけ申し訳無さそうに語るハルサメに、Warspite(ウォースパイト)は何故シグレがここまで怯えているのかが分からなかった。が───

 

 

「ごめんなさいWarspite(ウォースパイト)さん。私の愚妹がご迷惑をおかけしました」

 

 

 怯えるシグレを横目に、Warspite(ウォースパイト)に礼儀正しく深々と頭を下げる春雨(ハルサメ)だが、その後ろで静かに控えている銀髪の艦娘、海風(ウミカゼ)が突然、夜叉(ヤシャ)の様なナニカに見えてWarspite(ウォースパイト)は軽く戦慄を覚えたか、同時にシグレが「…ヒイッ!」と小さく呻いた事で、何故シグレが怯えていたのかを理解した。

 

 

 シグレはハルサメにではなく、ウミカゼに怯えていたのだと。

 

 おそらく(ハルサメ)(シグレ)の不始末のせいで私に頭を下げたと思って、彼女は腹を立てたのだろう。

 

 聞くところによると、ここのウミカゼはハルサメと相思相愛の仲で、特にウミカゼはハルサメのことを恋愛の対象として以上に、半ば信仰の対象としているとの噂である。

 

 …なんだか申し訳無い気持ちになってしまう。

 

 

「…海風(ウミカゼ)時雨(シグレ)は気分が悪いみたいだから、部屋に連れて行ってあげて」

 

 

「はい。分かりました姉さん」

 

 

 ハルサメの指示に一転ニコニコ顔となったウミカゼが即行動に移し、シグレは有無を言う暇なくウミカゼの肩に担がれてドナドナされて(連れて)行かれた。

 

 その際に「ハルサメ姉さんの折檻は嫌だ!」と聞こえた気がしたが、ウミカゼに「貴女達は何も聞いていません(You all haven't heard anything)」とすれ違いざまに囁かれたため、思わず頷いて返した。

 

 …Colorado(コロラド)も唖然としていたが、コクコクと頷いていた。

 

 逆らったらヤられる…。そう確信させられる程の圧が彼女から発せられていた。

 

 確かに、これならばシグレがあれほど怯えていたことにも、一応納得がいく。

 

 だが、それが間違いであった事に、すぐに気付かされた。

 

 

ウォースパイト殿下、(His Highness Warspite,)あなたは何も見ていない。(you haven't seen anything.)よろしいですね?(Is that okay?)

 

 

 シグレがウミカゼに連行されて行くのを見ていたら、突然耳元でそう囁かれたため、思わずビクッと肩を跳ねさせてしまった。

 

 振り返るとそこにはハルサメがニコニコと微笑んでいる顔のまま、()()()()()()()()()()()()()()()背後で佇んでいた。

 

 近付かれたことに全く気が付かなかった。

 

 いや、それは一旦置いてておくとして、今の言葉の意味は何だったのか?しかも今()()()()()殿()()()()()()()()()()

 

 ハルサメは今帰ってきたばかりだと言っており、Гангут(ガングート)とのやり取りは知らないハズ、…いや、あの場にはPOLA(ポーラ)と共にハルサメの妹のカワカゼも聞き耳を立てていたから、彼女経由で伝わっただけか。

 

 兎も角、「何も見ていない」と言うのは何を指すのか?

 

 シグレとのやり取り?いや、ひょっとしてその前、カワカゼの事もか?ハルサメは一体どこまで掴んでいる?

 

 そして人差し指を唇に当てていた所作は、「他言無用」を表わしていた?

 

 …もしかしてここでの出来事を、特に自分達姉妹の事を下手に口外するなと言っているのか。 

 

 

よろしいですね?(Is that okay?)

 

 

「オ、Okay…」

 

 

 混乱しながらも考えを巡らせ、答えずに固まっていると、確認する様に再び聞いて来た為、オウム返しに思わずそう答えてしまった。

 

 …下手に検索するな。とも言いたいのか。

 

 しかし相変わらずニコニコと微笑んでいるハルサメの顔からは、何も読み取れなかった。

 

 

 何も知らない時にこの微笑みを見ていたら、可愛らしいとしか感じなかっただろうが、今はこの微笑みが得体のしれないモノに思え、余計に恐ろしいモノに感じた。

 

 

「ん?何か話し声がすると思ったら、Warspite(ウォースパイト)さんにColorado(コロラド)さん…、ああ、春雨(ハルサメ)も戻っていたのか?海風(ウミカゼ)と…」

 

 

「ぽいっ!お外で見張りに立っていた時雨(シグレ)ちゃんはどうしちゃったっぽい!?」

 

 

 そこへ執務室の扉が開かれ、ヒジカタとユウダチが出て来た。どうやら声が聞こえていたらしいが…?

 

 

「はい。土方司令。春雨(ハルサメ)、ただいま戻りました。

 

 海風(ウミカゼ)は体調不良の時雨(シグレ)を部屋へと送りに行きました」

 

 

「…そうか。まぁいい。入り給え。Warspite(ウォースパイト)さん達もどうぞ」

 

 

 少し訝しむ素振りを見せながらも、入室を促して来たので、素直に従うこととした。

 

 この時にユウダチが外で見張りをする為に部屋から出ようとし、その際にハルサメが何か言葉を交していたのだが、ユウダチがなにやら怖気が走ったかの様な素振りを見せていたが、先のこともあって見なかったことにした。

 

 

 そして時間軸は冒頭へと戻る。

 

 

 

「これはこちらが確保した資料と情報提供者である()()()の証言から照らし合わせた上での結論よ」

 

 

 背後の机に昔懐かしい縦振り式の電鍵を置いたマシツマが、そう話す。

 

 

 俄には信じ難い内容ではあるが、彼女は実際の被害者にして生存者であり、もう一人の生存者である日本人の父親とロシア人の母親の間に生まれたロシア系日本人の少女、事件後はマシツマの実質的な姉妹関係となり姉となったМаньчжурия(マニジューリヤ)が資料を手元に持ち、(クレ)鎮守府の奥深くに閉じ籠もったまま保管しているとの情報がある為、おそらく彼女と連絡を取り合って情報を取り寄せたのだろう。

 

 事件以前に日本人の父親とロシア人の母親が日露戦役の結果に逆上して暴徒と化した日本人達に惨殺され、*2引き取り手もなく、*3その後も各地を盥回しにされた挙げ句のあの事件であり、相当人間不信を拗らせている為、外部との接触を完全に絶っているとされているが、本当に酷い話である。

 

 

 …しかし、()()()というのが引っ掛かりを覚える。

 

 

「…Warspite(ウォースパイト)さん、Colorado(コロラド)さん。ここから私が話ますことは()()()()()()()()()()()()()()()最高機密に属する内容となりますので、記録等を残したり、他言する事は控えてください」

 

 

 物々しい雰囲気でそう語るヒジカタ。告げられた中にГангут(ガングート)の名がなかったことから、少なくともГангут(ガングート)本人、そして新ロシア連邦(NRF)は既に知っているということか?

 

 ならばここは素直に聞き入れるべきか。まぁそもそもボイスレコーダーの様な記録媒体の類いは今回持ち合わせていないし、盗聴目的とした機材類もここでは使い物にならない事くらいは知っているから、忍ばせていないのだが。Colorado(コロラド)もどうやら同じ様である。

 

 万が一のため所持している携帯端末の電源を切り、引き渡した。

 

 更に一度到着時にチェックを既に受けてはいるが、ハルサメ達にボディチェックを再度お願いした。誓約書も用意してもらって他言しない旨を書き記したが、 Cavour(カブール)のこともあり、(陛下)への報告だけは許してもらった。

 

 

 そうして聞くこととなった最高機密。()()()()()()()()()()()()()()()()()とわざわざ言い表わしたということは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、独自の何らかの事情がある事であると察したが、だがそれは初っ端から最高機密などという言葉では到底収まりきらない様な、とんでもない情報だった。

 

 

 遥か未来の異世界からの異邦人。

 

 

 文字にしてしまえば、それだけなのだが、あまりにもインパクトがあり過ぎる内容だった。

 

 

 …そしてそれを妄言と言って一笑に付す事が出来なかった。

 

 

 何故ならばハルサメ達という明確な証拠が、眼の前でニコニコと微笑んでいるのだから。

 

 

 …まったく、胃が痛くなりそう。最初でこれなのだから、全部聞き終える頃には胃潰瘍になるのではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

*1
しかし合同訓練などマトモにした試しが無いため、補給艦と受給艦の双方に相応の技量と阿吽の呼吸が要求される洋上補給が航行中に無事に行えるのか?との不安の声が双方から出ている。

*2
所謂ロシア人狩り事件である。

*3
日本の親族は迫害を恐れて引き取りを拒否し、ロシアの親族は大戦初頭の西部国境での戦闘に巻き込まれて全員が安否不明、後に死亡していた事が判明した。





 一応、春雨(ハルサメ)姉妹はデータリンクシステムである程度の情報共有が出来ています。

 Warspite(ウォースパイト)Colorado(コロラド)の妖精さん達は時雨(シグレ)夕立(ユウダチ)、ついでに江風(カワカゼ)涼風(スズカゼ)達所属の屈強な警務隊妖精さん達に見付かって“遊ばれ”てました。

 なお、普段大人しくて優しいヒトほど、怒った時は怖いものである。


 取り敢えず、情報共有のために土方達が異邦人である事を開示。ただし胃潰瘍にはならないはず。艦娘の体はそんなにヤワじゃない!…多分。次から情報共有してイギリスも巻き込むから、胃にダメージが蓄積するのは確実…。

 因みに“専門家”とは時間断層工廠工場長ことドーラ(現状まだ名称は仮ですが)のことです。


補足説明

Iowa(アイオワ)の攻勢

 アンドロメダが約束をはたしてIowa(アイオワ)に提供致しました。ただしやり過ぎてアメリカの機密は真っ裸にされました。無論、違法行為です。

 ネットへの機密文書流出はIowa(アイオワ)の秘書兼護衛のAisha(アイシャ) Bernstein(バーンスタイン)こと護衛戦艦艦娘Arizona(アリゾナ)()()()やりました。無論、違法行為です。ついでに各SNS企業のサーバーに侵入して色々と弄くり回して簡単には消せない様に細工しました。これも違法行為。

 Iowa(アイオワ)Arizona(アリゾナ)のこの悪行には気付いていますが、今は世間に今まで隠され続けてきた物事を白日の下に晒すことが優先であると判断し、黙認しています。しかしこの事で2人は少しギクシャクしています。


本州四国連絡橋

 本編日本での活動の中心地である徳島がある四国と本編を結ぶ3つのルート、『明石海峡大橋・大鳴門橋』『瀬戸大橋』『瀬戸内しまなみ海道』の総称。

 『明石海峡大橋』兵庫県神戸市垂水区東舞子町と淡路市岩屋とを結ぶ明石海峡を横断して架けられた吊橋。全長3,911メートル。

 『大鳴門橋』兵庫県南あわじ市福良丙 (淡路島門崎)と徳島県鳴門市鳴門町土佐泊浦(大毛島孫崎)間の鳴門海峡の最狭部を結ぶ吊橋。全長1,629メートル。

 『瀬戸大橋』本州の岡山県倉敷市と四国の香川県坂出市を結ぶ10の橋の総称である。総全長12,300メートル。

 『瀬戸内しまなみ海道』広島県尾道市の尾道福山自動車道(国道2号松永道路)西瀬戸尾道ICを起点とし、向島・因島・生口島・大三島・伯方島・大島などを経て愛媛県今治市の今治ICに至る、延長59.4 kmの高規格幹線道路。
Wikipediaより一部抜粋



Britannia Royal Naval College(ブリタニア王立海軍兵学校)

 イギリス海軍の士官学校。

 1905年にRoyal Naval College(王立海軍兵学校)として開校。

 王室関係者が入校することも多いが、王族だからといって特別待遇を受けることは無く、寧ろ一般学生以上に上級生からの制裁を受けることもあるという。
Wikipediaより抜粋



人口減少

 既に語っていることではありますが、改めてご説明しますと、本編中の日本の総人口はおおよそ900万人を下回っています。


フロレアル

 所謂2202地球不遇艦群1号…、もといパトロール艦のこと(他に護衛艦、本作での『метель(メチェーリ)』級護衛艦など)。この度正式に『PF-01 PACIFIC(パシフィック)』との名称が与えられたみたいなのですが、本作投稿開始時には名称未設定であった為、独自に『フロレアル』級通報艦としていました。本作中は今後も『フロレアル』で通します。


───────



 米軍の問題は90年代以降、かなり深刻化してます。特に栗金団辺りから確実に弱体化路線に舵を切ったと断言出来ます。

 近年の米軍の兵器開発にしても注ぎ込んでいる予算に比して開発が上手く行っていない、或いは遅延が相次いでいます。
 一つの例が、極超音速兵器は未だに実験段階であり、実戦に向けての量産配備が何時になることやら。また現在の戦争を見るに、現在の生産体制だと正直どこまで役に立つのか微妙な所。何よりもグローバル化の影響でパーツの製造が国内で賄うことを実質不可能にしてしまっていたり、都市部の治安悪化に伴い都市の近くにある研究所や大学などから優秀なエンジニアなどの人材がどんどん国外へと流出している以上は、今後あらゆる分野に対して大きな足枷となるだろう。

 本編でも述べた砲弾に関連して、次の様なデータがあります。
 最近要衝である街が陥落した戦争における、砲弾の製造量と消費量に関するもので、アメリカは一ヶ月約28,000でヨーロッパが約4,000の合計約32,000。これに対して宇軍は1日で約2,000消費しているとされ、消費に対して供給が追い付いていないとの指摘が出ています。対するロシアは現在宇軍のざっと3倍から4倍の砲弾を宇軍に対してぶち込んで来ているとされていますが、生産量に関しては調べ切れなかったものの、アメリカにて独自のルートから取材し、この戦争に於いて幾つかのスクープ、──特にノルドストリーム爆破に関してのスクープなどが有名──を取り上げているシカゴ大学のミアシャイマー教授への最近のインタビューでの内容によると、砲弾の保有量は露10に対して宇は1という割合であるとの分析結果が出ているとのこと。
 因みにこのミアシャイマー教授のインタビューと同時に出ていたカーネギー財団系、ハドソン研究所の2人は希望的観測と精神論に終始しており、まるでブルーノ・ガンツ主演の映画『ヒトラー最期の12日間』のシュタイナー戦闘団に縋るヒトラーを見ている様で、具体的な根拠と数値をもって理由と共に説明するミアシャイマー教授とは比べ物にならないレベルでお粗末な醜態を曝してました。ただ怖いのが、この時に2人組の1人が「強力な武器の供給を!」とやたらと連呼しており、不穏な気がしました。

 それは兎も角として、アメリカにおける製造業はメキシコを始めとした海外への外部委託化の影響で空洞化が進み、大きな陰りが見えて来ています。また労働者の問題は以前から取り上げている不法移民の問題も相俟ってかなり深刻なレベルとなっています。これは先にも述べました治安の悪化とも密接に関わっています。民主党が市政を仕切る都市部では、治安の悪化によって大手の量販店が急速に撤退しており、生活にも影響が出ています。それだけでなく昨今激しさを増す反体制派刈りを目的とした司法の武器化、その最たる例であるニューヨークでのトランプ裁判が影響してニューヨーク市から「流石にやばい」と判断した企業が次々と離脱する現象も急増しており、「今後ニューヨークの経済事情と税収は悪化することはあっても好転することは無い」との見方が強まっています。これは極左に目ぇ付けられたらデタラメな法解釈(時効の無視、州法の適用しか許されていないにも関わらず、連邦裁判所が管轄する連邦法の州裁判での適用と言う越権行為。その他多数)による目茶苦茶な裁判と政治思想ゴリゴリの検察官と裁判官、陪審員によって有り得ない判決を食らってとんでもないカネをせびられると言う“事実”に漸く気付いた事も大きい。事実、先の量販店の撤退に対して、極左がいきなり裁判吹っ掛けてカネをせびる行動に出ています。
 民主党州、所謂ブルーステイトでも民主党支持は基本的に人口の多い都市部に集中しており、地方は概ね昔ながらのアメリカ、古き良きアメリカ、所謂保守的であり共和党支持が集中しているとされ、両者の溝となっていましたが、最近ではその溝がどんどん拡大して不穏な状態となりつつあり、またそれはブルーステイトと共和党州であるレッドステイトとの対立にも言えることであり、対立による分断は深刻化の一途で、そこに来て現在の政権は火に油を注ぐ勢いでその対立を煽るかのように不法移民を巡るテキサス州との争いを激化させており、最悪“内戦”に発展するのではないのか?との不安の声が出て来ているほど。
 もし仮に、本当に内戦となったら、アメリカ軍の弱体化は深刻な所まで行き着くかもしれない。いやそれ以前に今もし本当に中国が動き出したら───。

 問題は、これら深刻な事態を某極東の島国のメインメディアは一切報道しないこと。それだけでなく、保守を自称する言論人、敢えて言わせてもらうと親米保守いや、ここは拝米保守と言わせてもらおう。もこの事を真剣に捉えて発信しているとは思えない事。私には最近の拝米保守がブルーノ・ガンツにしか見えなくなった。

 今後より情勢が厳しいものとなった時、果たしてどうなることやら。私はもう諦めている。




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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第70話 SECRECY

 秘密

 
 今回色々と明かしますが、色々な可能性を計算してシミュレートしたら、頭が吹き飛びそうになった…。世界は繋がっているけど、蝶が羽ばたくと遠くで嵐が起きるというバタフライ・エフェクトの様に、ありとあらゆる可能性が浮かんでは消えるの繰り返しで頭の処理が追いつかん…。

 …もし次を作るならば、もっとこぢんまりした話にしなきゃ、能力的に厳しい事を改めて痛感。ただ単に難しく考えすぎなだけなのかもしれないけど。


 

 

「…つまりその専門家というのも、ヒジカタの同郷であると?」

 

 

 眉間を押さえながら、Warspite(ウォースパイト)が土方に問う。

 

 

「はい。私達が本来いました世界でもトップレベルの優秀な()()でありました。

 

 …その者はこちらに来てからずっと深海棲艦についての研究を続けており、おそらくこの世界の誰よりも、もしかしたら当の深海棲艦達よりも肉体の構造に詳しいのではないか?と思われます」

 

 

 土方のその言葉はあながち間違ってはいない。

 

 何故ならば、アンドロメダとの定時連絡という名の世間話的なやり取りから分かった事なのだが、彼女達深海棲艦は自身の体について知りたいと思う気持ちが希薄であり、そんなことよりも今を生きる事に必死なのだ。

 

 まぁ柔らかく言ってしまえば、より美味しい作物を作り、美味しいご飯を作ってみんなと和気藹々と楽しく過ごすことの方が大切だと考えているからである。

 

 そのため、良くも悪くもそのことに無関心であり無知だった。

 

 アンドロメダもそんな彼女達との生活を満喫しており、彼女なりにのんびりまったりと今を楽しむ事に比重をおいている為、そのことにあまり興味を示していなかった。

 

 

 そしてそのアンドロメダの事だが、既に国防相(上司)からおおよその説明を受けているГангут(ガングート)は別として、Warspite(ウォースパイト)Colorado(コロラド)の2人にはまだ話していない。

 

 流石にアンドロメダの事は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、パワーワード満載で情報量過多な問題があったため、今すぐ説明することを控えた。

 

 

「…欺瞞としては突拍子も無いし、信じざるを得ないでしょ?」

 

 

 Colorado(コロラド)が疲れ切った顔でWarspite(ウォースパイト)にそう告げる。

 

 そもそも真偽の裏取りをする事も出来ないし、例え嘘だとしてもそんな嘘をついて何か益があるのか?と考えても納得のいく答えが想像できない。

 

 ならば詮索するだけ時間の無駄だと割り切り、今は信じるしかないと判断せざるを得なかった。

 

 

「…それに、()()を実際に見せられたら、尚更ね」

 

 

 そう言って視線を応接机へと落とす。

 

 

 そこに置いてあるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、『南部97式拳銃』と『89式機関短銃』、それに『AK-01レーザー自動突撃銃』の3種類である。

 

 

 南部97式拳銃──正式名称『南部97式防衛軍正式拳銃』──は一般的にコスモニューナンブの愛称で知られ、ガミラス戦役下の2197年に正式採用されて以来、2203年当時の地球軍に於いて最もポピュラーな個人携行小火器として、全軍に広く配備されていた。

 

 大本は一世代前に当たる、2114年に採用されたものの、その大振りなサイズと重量故に携行性や取り回しに難は有るが、性能そのものは手堅く堅牢であると評された14年式の小型軽量化モデルであり、その内部メカニズムは多少の改良は施されているものの、基本的には14年式と大差無い技術によって作られている。

 

 しかしそれは土方や春雨(ハルサメ)達の居た2203年時点での地球の話であり、この世界では数十年以上は未来の科学技術の結晶と言える代物である。

 

 そして89式機関短銃とは艦内などの閉所空間で使用される、所謂短機関銃(サブマシンガン)若しくは個人防衛火器(PDW)として運用される火器であり、AK-01レーザー自動突撃銃とはその名が示すとおり、自動小銃(アサルトライフル)である。

 

 

 これらは全て地球軍で正式採用されている銃火器であるが、重要なのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その様な武器を開発し、全軍へと量産配備出来るだけの技術力は、メリット・デメリットの観点から必然性が薄いと言う側面もあるが、この世界には無い。

 

 現状、最も軍事技術が突出している新ロシア連邦(NRF)もだ。

 

 そんな銃火器達、南部97式の2丁を除いて客人の人数に合わせて4丁ずつ、机の上に並べられている。

 

 これらの内の89式とAK-01は時雨(シグレ)を自室へと軟禁…もとい、自室へと送り届けていた海風(ウミカゼ)春雨(ハルサメ)が通信で、執務室への戻り際に隣の控室に立ち寄って江風(カワカゼ)と共に部屋に設えてある私物ロッカー兼ガンロッカーに、()()()()()()()()()()保管してあったのを持って来るように伝え、持ち込んだのである。

 

 南部97式は各自が個人携行していることもあり、今置かれている2丁は春雨(ハルサメ)の物とここに居ない時雨(シグレ)の物である。

 

 そしてそれらの真贋を確かめる為に、連れ添っていた妖精さん達が早速と言わんばかりにこの銃器類に群がって検分を始めたわけだが、新しいおもちゃを見付けた子供の様に興奮冷めやらぬ顔で本物であるとの結果を伝えて来た。

 

 さらには“コレ”が艤装と似た代物であるのは間違い無いとも付け加えられた。

 

 Warspite(ウォースパイト)の妖精さんが初見で艤装の一部ではないか?と見抜いたのは間違いでは無かった。

 

 

 これをもって、少なくとも未来の存在である証拠であると示した。

 

 

 最初は()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()、波動エンジンがちょうど整備のために春雨(ハルサメ)の艤装から取り外されていたので、整備を請け負う徳川機関長と工作艦艦娘の朝日に頼んで見学させてもらうことも考えたが、春雨(ハルサメ)達の艤装並びに()()()()は真志妻と土方、それに霧野(キリシマ)らによる取り決めによって最高レベルの機密扱いとし、関係者であってもおいそれと開示しないという、ある種のセキュリティクリアランスの問題から開示する訳にはいかなかった。

 

 

 では何故艤装の一部とされたこれら3つの銃火器は良いのか?と疑問に思われるかもしれないが、それはこの3つが先に述べた様に、全て光学兵器だからである。

 

 光学兵器であるから、撃ち出される発射体はエネルギーの塊であり、従来の火薬式銃火器で言う所の実体弾が装填されているマガジン部分に封入されているのはエネルギーが充填されたカートリッジ、簡単に言えば充電式乾電池みたいな物であるわけなのだが、その乾電池、もといカートリッジに充填されているエネルギーを撃ち切ったら、空っぽのマガジンに弾丸を詰め直すと同様に再びカートリッジにエネルギーを再充填する必要があるのだが、それは一応、既存の電力インフラをかなり弄くり回して更に専用のコンバーターを作って出力をどうにかすれば出来なくもないという、些か力技に頼る必要性が高く、安全面と安定性、確実性の課題から今の所は艤装のエネルギーバイパスと接続するしか方法が無く、これは例えるならば同じ電力とはいえ、現代のスマホを明治大正年間の時代の電力インフラ技術では規格や安定性などの問題から充電する事が出来ないみたいなものであり、奪われたとしても奪った側は充填されているエネルギーが尽きたらそこでお仕舞になり、解析して複製しようにも工業技術の差による工作精度や品質の差はどうにもならず、更には運用に向けた兵站を始めとしたインフラ整備などのコスト面や、そもそも既存の火薬式銃火器と置き換えるだけの運用上のメリットが無いのだ。

 

 一応、火薬式銃火器と比較してのメリットと成り得るのは、レーザー故の弾道の直進性と弾速や反動の優位性による命中精度が()()()()()()()()()()優越している事。実体弾と違って射撃による消耗での重量バランスの変化が無い事。排莢の必要が無い事による発射速度の高速化と左右両利き(アンビデクストラス)への対応が可能である事。排莢口(エジェクションポート)などの開口部や可動部分が少なく、異物混入による故障や動作不良リスクが低い事。対象に応じて出力の調整による威力の増減と言った加減の調整が可能である事。内部メカニズムの小型化と軽量化に問題が無ければ、生体工学に基づいたより自由度の高い設計が容易となる事。等が挙げられる。

 

 但しこれらのメリットを打ち消すデメリットも幾つか存在する。

 

 先ずは命中精度だが、これはレーザーの収束機構が正常に作動している事と共に、周辺環境の影響によって拡散して減衰するリスクが実体弾よりも高い上に、威力にも影響を与えるため、有効射程距離が不安定になりやすい。また内部機構が火薬式銃火器と比較して殆ど精密機械部品という、複雑なメカニズムで構築されているため、故障時に現地で修理が成功する確率が低い事。

 

 何よりも問題なのが、先にも述べたエネルギー補充に関連した諸問題であり、それを解決するための運用インフラの整備と構築には莫大な費用が必要となるし、既存の火薬式銃火器との互換性がほぼ無いという事もあって、製造インフラも全て一から構築しなければならない。

 

 それらの苦労を掛けてまで、配備を推し進めるだけの必然性が無かった。

 

 もしあるのならば同じ物を所持しているであろう新ロシア連邦(NRF)スラヴァ(ミロスラヴァ)が初めから新ロシア連邦(NRF)軍への配備に向けて動いていたとしても可怪しくないのに、その様な動きは一切見られていなかった。

 

 

 つまり、確かに技術的には凄くとも、既存の技術に取って代わるだけの、そこまでの利益となるだけの価値のある代物でもないため、銃火器に関しては比較的緩いセキュリティクリアランスとしてまだ見せても構わない代物として扱っているのだ。

 

 ついでと言ってはなんだが、では何故地球軍では採用されたのか?というと、技術的に可能とするだけの下地とインフラがこの時期には既に整っていたのもあったが、簡単に言えば想定される戦域が地球上から外に、厳密に言えば惑星重力圏下の大気圏内から真空かつ無重力空間である宇宙空間へと広がった事が、最大の理由として挙げられる。

 

 無重力状態での発砲に際しての反動制御の問題は勿論のこと、何よりも問題視されたのが発射された飛翔体の運動エネルギーを阻害する要素が殆ど無く、尚且船内などの閉所空間での跳弾や命中時に発生する破砕片が予測不能な二次被害三次被害を引き起こす危険性が無視できなかったのだ。

 

 何を大げさな。と思われるかもしれないがに、真空の宇宙空間に囲まれた閉所空間の、それも開発配備が始まったのは、初期の小型宇宙船艇の時代である。

 

 2199年の『ヤマト』進宙まで、地球艦には艦内人工重力を発生させるだけの性能を発揮できる慣性装置が開発されていなかった。

 

 不用意に発砲した銃弾による破砕片や、銃弾そのものが跳弾を繰り返し、その際に飛び散るであろう諸々の破砕片が更に跳弾を繰り返し、その過程で乗員を殺傷したり、船の運航に支障が出るようなダメージを与えたとしたら?隔壁に穴が空いたら?

 

 そういった宇宙空間ならではの特殊環境という事情により、必要に駆られて開発されたのが、南部97式の先代に当たる先述の南部14年式、通称コスモガンである。

 

 実体弾による運動エネルギーによって発生する物理的な破壊と違い、熱エネルギーが主体による溶解に近いため、破砕片リスクはかなり低減出来るし、出力調整さえ間違えなければ隔壁や備品に対して深刻なダメージを与えるリスクも低減出来る。

 

 では地球軍で実体弾を使用する銃火器が廃れたかと言うと、そうでは無い。

 

 地球軍の陸上戦力である陸軍を中心に、空間海兵隊やその隷下の特殊作戦任務部隊空間騎兵隊の作戦内容によっては引き続き運用が継続されていたのだが、これは矢張り地球上では実体弾の方が運用上のメリットが大きかった事と、軍需産業や政治団体等によるロビー活動や圧力などと言った横槍の事実も確認されている。

 

 これにより、地球外の各種部隊ではレーザー系、地球上の陸軍などでは実体弾系というある種の棲み分け状態が暫く続くこととなった。

 

 しかしそれも2191年から始まったガミラス戦役の影響による資源払底の煽りを受け、実体弾という資源ロスが発生する各種の銃火器は、一部の暴徒鎮圧用の特殊銃を除いてその殆どか資源回収に回されて貴重な資源として鋳潰され、陸軍でもレーザー系の配備が進められて実体弾系銃火器は弾薬と共に急速に姿を消すこととなり、再び姿を現すのは戦後に配備が開始される事になる99式突撃銃と97式自動拳銃を待つこととなる。

 

 

 閑話休題。

 

 

 たかが銃火器。されどその銃火器には技術や歴史などの、今までに積み重ねられて来た様々なバックボーンが存在し、そこから読み解ける情報もあれば、実際に手を持って分かる事もある。

 

 今目の前に置かれているこの3種類の銃火器を各々が手に取り確かめたが、なる程、これらが艤装の一部であり、紛い物では無いと言うのが()()()()()()()()()()()

 

 艦娘であればそれが艤装由来の物であるならば、なんとなく感覚として分かるのだ。それらが持つ“力”と内包された“技術”が如何なるものかも。

 

 

 間違い無くこれらは今の時代の代物ではないと確信した。

 

 銃社会の国、アメリカ出身であり自身も銃器収集家(ガンコレクター)でもあるColorado(コロラド)は試し撃ちをしたそうにしていたが、流石に周りの目が厳しくて諦めていた。…未練たらたらな視線はずっと送っているが。

 

 

 …兎も角として、多少の半信半疑な所はあるものの、一応は未来の存在である事は信じる事とした。

 

 

 

 そしてここからが本題となるのだが、機密故に書面に落とす事が出来ず、真志妻サイドの情報は口頭で、土方サイドの情報は元々時間断層工廠工場長(情報提供者)が電子データで提供していたため、プロジェクターで映すこととなった。

 

 その前に情報提供者が研究者であると同時にウィザード級のハッカー、つまり最高レベルのハッカー、但しホワイトではなくブラックであるため、クラッカーと言える存在でもある事が補足事項として説明された。

 

 

 事実、()()のお陰で真志妻の情報だけだと不足していた箇所がほぼ全て埋まる事となった。

 

 真志妻の情報は彼女が人工艦娘となった時期までの、“人間を如何にして艦娘に、或いは艦娘に近い存在へと()()()()()()”に主眼が置かれた研究に関する情報であったため、それ以外の研究に関してはおおよその概要程度だったり計画段階だったりと、些か古い情報だった。

 

 それでも次に何をしでかそうとしていたのか?その方向性を掴む事は出来るだけの内容だったが為に、真志妻にとってはもっと早く気付くべきだったと悔しさを滲ませていた。

 

 

 人間の艦娘化は日本での結果から事実上断念された様だが、その代替案として“()()()()()()()”へとシフトした様だった。

 

 簡単に言えば深海棲艦との如何ともし難い物量差による戦力的劣勢を、()()()で覆そうという試みなのだが、聞こえは良くともその方法がとてもマトモな人間の考えから出る所業とは思えないものだった。

 

 いや、そもそも連中が真志妻に対して施した処置と言うのが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、常軌を逸した悍ましい行いだったのだが、それを艦娘にも当て嵌めたのだが、連中は先の材料だけでなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()のである。

 

 これはヨーロッパでの戦いが比較的沿岸部周辺で、尚且地中海という内海も戦闘海域であったが故に、沿岸部周辺に流れ着いているケースが太平洋よりも多かった事が理由として挙げられ、更にこの当時はヨーロッパでも屈指の激戦とされるジブラルタル攻防戦やイタリア南方のイオニア海での防衛戦があったことも、材料の調達を容易にしてしまっていた。

 

 

 但し、人間の臓器移植に於ける拒絶反応が有るのと同様に、艦娘にも拒絶反応が存在した。

 

 そもそも人間の艦娘化が失敗した最大の原因は、その拒絶反応によるものだったのだが、それを克服出来た成功例は、僅か2人のみ。つまり真志妻とその義姉でもあるマニジューリヤだけであり、しかも旧式も旧式な軍艦の艦娘だったことで、完全な失敗と見做された様である。

 

 だが今度は頑丈な艦娘だから大丈夫だろう。とでも考えたのかもしれないが、余りにも浅はかな考えだった。

 

 寧ろ人間の時以上の、拒絶反応と言い表わして良いのか分からない程の激しい反応が出ていたと言う。

 

 

 それは筆舌し難い悲惨で凄惨な有様だった。

 

 

 拒絶反応が出た被検体の艦娘は、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そしてその被検体の艦娘達は、全員が行方不明或いは死亡扱い、若しくはイギリスでのクーデター騒ぎの原因ともなった様な()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

 その事実に、全員が言葉を失う事となった。

 

 

 普段にこやかな顔でいることの多い春雨(ハルサメ)も、この時ばかりはその顔から表情を消したものとなっていた。

 

 これは春雨(ハルサメ)が本気で怒っている時に見られる顔であり、先の時雨(シグレ)のイタズラに際して見せた笑っていても怖いという矛盾した笑顔とは訳が違った。

 

 

 だがそれ以上に、これらの情報からある種の衝撃を受けた者がここには居た。

 

 

 真志妻とWarspite(ウォースパイト)である。

 

 既に怒り心頭でその姿が艦娘松島へと変貌していたが、怒りと同時に困惑もしていた。

 

 

 真志妻は自身の体のことは自身が一番良く知っている。そのつもりでいた。

 

 自身の体に埋め込まれたものが艦娘由来の何かである事は、あの日研究施設から脱出した際に押収した資料から知っていた。

 

 だが艦娘だけでなく深海棲艦由来のものまで埋め込みていた事は、今始めて知ったのだ。

 

 これは押収した資料があの日の混乱によって少なからず歯抜けになっていたからであり、その抜けていたピースが情報提供者からの情報によって、埋め合わされた。

 

 

 その事で衝撃は受けたものの、同時に納得もした。

 

 

 あの日、艦娘松島として覚醒したあの時、身体中を無数の弾丸で貫かれた際に出た血の色は、()()()や人間と艦娘共通の赤ではなく、深海棲艦の特徴とも言える()()()だった。

 

 そして肌の色も多くの人型深海棲艦と同じ青白い色をしていた。

 

 今でこそ普段は一般的な肌の色で赤い血ではあるのだが、感情が昂るとその瞳に燐光が灯り、時には肌の色も色素が失われて青白くなる。

 

 かつてマリアナ諸島サイパン島で友軍の陸上部隊の蛮行に激昂した時は、それが顕著に現われて研究施設から脱出する際に大暴れした時の様な感情の昂りだったのを今でも覚えている。

 

 それらは自身の中にある深海棲艦としての要素が、自身の感情に反応して表れているのかもしれない。

 

 

 ふと自身の手に視線を落とすが、若干だが色素が抜けている気がしなくもない。

 

 

 しかし、そうなると自分は人工艦娘であり人工深海棲艦でもある事になるのだが、はてさてこれはこれで反応に困ってしまう。

 

 

 真志妻が今まで知らなかった自身の体の事で、少しばかり困惑しているその横で、Warspite(ウォースパイト)は崩れ落ちそうになる自身の体を支えるのに必死だった。

 

 

 何故真志妻が深海棲艦への敵愾心が希薄か、それは真志妻本人が人間であり艦娘であると同時に、実は深海棲艦としての一面があった事で、無意識レベルで同族意識みたいな物が芽生えていたからではないか?と考え、有り得なくもないか…?と半ば納得していたが、そのことで真志妻が深海棲艦でもあることに関しては、正直どうでもいい。それよりも──

 

 

 身命を賭して戦ってきた。数多の僚艦(戦友)や同胞が傷付き斃れた。その結果が、この仕打ちか!

 

 

  Cavour(カブール)が受けた仕打ちは、本人があまり語りたくなかったというのもあるだろうし、その情報がこちらへと伝わるまでに少しオブラートに包まれた内容となっていた。

 

 その為ここまで酷いとは思っても見なかった。

 

 

 常に姉妹達と共に最前線に身を置き、激戦区を渡り歩いていた自分達は、一体今まで何の為に戦ってきたのか…?成り行きで事実上のクーデターをしてしまったが、それでも深海棲艦に対しての防壁という、最初に人間達と交わした約定を守り続けていた…。

 

 それなのに…、守っていたハズの人間達から後ろ弾の様なマネを繰り返され、今まで守り続けていた諸々の、その根底が足元から崩れ去ったかの様な錯覚に囚われ、人間達に裏切られていたとの気持ちとなり、激しい失望感に襲われていた。

 

 

 だが何よりもWarspite(ウォースパイト)を失望させたのが、この一連の事件に関わっている者達のリストだ。

 

 そのリストにはヨーロッパだけでなく、西側陣営の中枢に関わりのある官民の様々な分野に於ける、現役の名だたる者達の名が列挙されていたのだが、その中にはイギリス政財界にて現役で活動している者達も少なからず含まれていた。

 

 失望の闇に沈むつつある思考の中で、それでも自身の立場とその責任感から、思考を止めないようにと必死に頭を巡らせる。

 

 

 …この事を、陛下(姉さま)達に包み隠さず全て伝えるべきかどうか?

 

 荒れる。間違い無く荒れる。それもイギリス本国だけでは無い。ヨーロッパ全土が荒れに荒れる。いや、もう既に終焉を迎えつつある欧米に対するトドメの一撃。その切っ掛けに成り得る。

 

 少なくとも西側に在籍する艦娘は、確実に離反する。いやもう既に離反は始まっている。始まっているからこそ、 Cavour(カブール)の呼び掛けに応じて武装蜂起に乗り気になった者達がわんさかと集まった。集まってしまったものだから、陛下(姉さま)は慌てた。慌てたからこそ、和戦両用の構えで動いた。

 

 そして事態を重く見たからこそ新ロシア連邦(NRF)は非公式とはいえ、前大統領と現役国防相などという特大のカードを切ってきたのだ。

 

 

 なんだかんだ言って、英露両者の考えは共通していた。火消しが目的だったのだ。

 

 

 陛下(姉さま)Cavour(カブール)を宥めるためだったが、それだけで引き下がれるほど事態は軽く無いと新ロシア連邦(NRF)は見ていた。

 

 既に拳は振り上げられているのだ。

 

  Cavour(カブール)という火種から出た火事の飛び火は、既に各地で延焼を引き起こしつつあった。

 

 彼女に同調した各国の艦娘や彼女達と志を共にすることを決めた、決めてしまった決意ガンギマリな軍人連中という名の、途轍もない特大な拳だ。

 

 その拳が振り下ろされる事によって引き起こされる、ヨーロッパ全土を燃やしかねない大火の混乱を最小限にすべく、EUの中枢という明確な“敵”を指し示す事で、矛先を誘導して被害を最小限に食い止めようとした。

 

 EU中枢が今回の事に関わっているのは、ほぼ確実であると見て間違い無い為、全くの冤罪では無い。

 

 これによって振り上げられた巨大な拳は振り下ろす場所を見付けてスッキリするし、新ロシア連邦(NRF)としたら何かと因縁を付けて来てウザったいこと極まりなかったEU中枢を始末出来てスッキリする。両者Win-Winだ。

 

 

 そのハズだった。

 

 

 だが、そこにこのヨーロッパのトップはほぼマックロクロスケだったという、特大の爆弾足り得る情報を送ったら…、沈静化しつつある火種がまた一挙に炎が燃え上がって、一挙に覆る危険性が高い。

 

 EU中枢を潰そうと持ち掛けた新ロシア連邦(NRF)も、中枢のみを狙うという事実上の斬首作戦ならば、まだ混乱が最小限度に抑えられるとの見積もりから、陛下(姉さま)もそれならばまだなんとかなるか…、と渋々ながらも承諾したのだ。

 

 

 その根底が崩れ去る。

 

 

 そうなったら間違い無く今も現場にいるであろう前大統領はブチギレる。このままだと西側の自殺に我が国も巻き込まれ、共倒れになる!と。

 

 

 もしも今、ヨーロッパが完全に動乱状態に陥って無政府状態となったら、その際に発生する難民はどこへ向かうか?

 

 今難民を受け入れるだけの余裕なんて、どこも無い。比較的余裕があるとされている新ロシア連邦(NRF)やその友好国さえ、自国の事で手一杯なのだ。

 

 それもこれも元を正せば西側が無為無策な刹那主義的な自滅路線を突き進んだ結果、そのどデカい負債を周りにも押し付けようと迷惑を掛けまくった影響が関わっている。

 

 

 ヨーロッパは近い内に崩壊する。それは誰しもが頭の片隅で思っていた事だが、今すぐ崩壊されては、非常に困る。

 

 崩壊するにしても、せめて嘗てのソビエトの崩壊の様にある程度は計画的に崩壊して貰わなくては、人心の混乱は予測困難でコントロール不能な津波となって各地に押し寄せる。

 

 新ロシア連邦(NRF)が西部国境地帯に軍を集結させているらしいが、本来の国境警備隊である連邦保安庁(FSB)傘下の国境軍の部隊を足してもとても足りない。喩え中央軍管区や東部軍管区から、更には予備役すらも根こそぎ動員を掛けたとしても、人の波というのは完璧には防ぐことが難しい。

 

 Гангут(ガングート)もその事に気付いたのだろう。難しい顔をしながら考え込んでいる。

 

 

 …正直、頭が痛い。

 

 

 このままこの情報を握り潰すことも考えたが、それはそれでリスクがある。

 

 何故ならば今回開示された情報には無かったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いや、もしかしたら今の所は研究施設は無いからこそ、情報に含まれて無いだけかもしれないが、物事は最悪を想定しなければ後々に足元を掬われる事になる。

 

 今現在は無くとも、将来的にどこかで再建される可能性だってあるのだ。

 

 それは斬首作戦(頭を潰した)だけで防ぎ切れる問題ではない。

 

 

 …やるしか無い。

 

 

 どうするかは、陛下(姉さま)と前大統領に任せよう。

 

 

 人それを丸投げ、他人任せと言う。しかし強制留学の一件(先の事)もあり、ちょっとばかり仕返ししても、バチは当たらないだろうと、開き直ることとした。

 

 それにである。ハッキリ言って、問題が大き過ぎて手に負えないのだ。

 

 

 

 結論を先に述べると、Гангут(ガングート)と、事情の説明を聞いた真志妻と土方との共同で現地に居ると聞いている国防相スラヴァ(ミロスラヴァ)へと連絡を入れた。

 

 

 詳細は割愛させていただくが、まぁ一悶着が起きたものの、そこまで荒れることは起きなかった。*1

 

 

 この後すぐに協議に入るとして、暫く待つようにと申し渡されることとなった。

 

 

 その待ち時間を利用して、Warspite(ウォースパイト)はある質問を土方へと投げ掛けた。

 

 

 

 曰く、貴方達が未来の存在なのは理解した。でも何故ハルサメ達を使っての軍事的な優位性の確保を行わなかったのか?せめてもう少し前面に押し出していれば、日本の消耗も抑えられたのではないのか?と。

 

 

 ハルサメ達が、通常のシラツユ型の艦娘の艤装を使用して活動しているのは知っている。

 

 それでも見るものが見たらその差異が分かるし、よく訓練されているが、その動きに窮屈さを感じる時がある。

 

 

 出過ぎた真似であり不躾な質問だとは重々承知している。 

 

 だが力を持つのであれば、その行使を躊躇う理由をちゃんと知りたかったし、いずれこの事は公開しなければならなくなる時が来るかもしれないのだ。

 

 

 その時みなが納得するとは限らない。防げた犠牲、出なくて良かったかもしれない犠牲を防がなかった。その努力を意図的に怠ったと、糾弾されて大きな軋轢を生み、将来の火種となるか孤立化して村八分な扱いを受けるリスクだって充分に考えられる。

 

 

 その覚悟はあるのか?

 

 

 彼女はそれが知りたかった。

 

 

 

 

*1
せいぜい合気道を嗜んでいたという前大統領が、顔色一つ変えることは無く調度品の机に拳を叩き付けて凹ませたくらいである。逆にそのお陰でそれ以上荒れることはなかった。





 …なんか書いてたらコスモガン系統の捏ぞ…独自解釈話の文量が思いの外多かったな。


 補足しておきますと、真志妻大将は本編で語りました通り、人間であり艦娘であり、また深海棲艦としての一面があります。体の仕組みは、まぁカオスとしか言い様がありません。比率の割合で言えば、その時々で変動はしますが、艦娘6の人間3の深海棲艦1くらいですかね。
 その辺に関しては、またいずれ本編で。

 以前本編にて姫様達による会合、通称“円卓”にて「アンドロメダを同胞(はらから)に出来ないか?」との疑問に対してヨーロッパ大西洋方面担当の欧州棲姫が「出来なくは無いが、語れない」と言った趣旨の発言をしたのは、この Cavour(カブール)の事によるものでした。
 現状、深海棲艦化は余りにも不安定でハイリスクな賭けになります。下手するとアンドロメダでもその肉体が弾け飛びますし、何より問題なのは確実に深海棲艦の誰かが犠牲になります。そんなことを、アンドロメダは望みません。


補足説明

99式突撃銃と97式自動拳銃

 99式突撃銃はヤマト2202本編にて、斉藤始率いる空間騎兵隊が第十一番惑星での戦闘で使用。

 97式自動拳銃はキービジュアル画像で斉藤始が構えている姿でのみ登場し、本編未登場。


国境軍(Пограничные войска;略称:ПВ)

 正式にはロシア連邦保安庁国境警備局(Пограничная служба Федеральной службы безопасности Российской Федерации)。

 ロシア連邦の国境警備隊、沿岸警備隊。

 ソ連時代はソ連国家保安委員会(KGB)に所属し、ロシア連邦時代に連邦国境庁(FPS)として独立したが、2003年3月、連邦保安庁(FSB)所属に移管された。

 日本ではロシア国境警備隊と呼ばれることが多い。

 5月28日が『国境警備隊の日』とされている。

Wikipediaより抜粋


 



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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外伝
閑話 姉へのおもい


 唐突なネタ。なんか本編執筆中にホント唐突に思い付きました。

 ネタバレあり。

 いずれ本編と結合させるかも?或いは外伝として独立させて投稿するかも?

 取り敢えず暴走しました(笑)特に何も考えずにお読み下さい。


「姉上!」

 

 

 日本海軍外洋防衛総隊徳島県小松島鎮守府宿舎の朝。今日も今日とてアルデバランは愛する最愛の姉、アンドロメダが居る部屋を訪ねる。

 

 二度目の生を受けてからというもの、一日たりとも欠かさないアルデバランの日課だ。

 

 

 

 あの日、アンドロメダが逝ってからのアルデバランは脱け殻だった。何に対しても何も感じなくなった。ただただ無気力。

 

 

「総旗艦?それは偉大なる姉上の地位です。姉上を差し置いてわたくしが総旗艦なんて有り得ません」

 

 

 しかし姉上なら、わたくしが総旗艦に任命されたと聞いたなら、誰よりも我が事の様に喜びながら「貴女なら上手くやれます。私の自慢の妹なのですから」と仰られただろう。だからわたくしは総旗艦を務めあげた。わたくしの事をいつも信じて後押ししてくれていた慈悲深く誰よりも優しい姉上の信頼を、期待を裏切る様な真似は断じてしたくない。

 

 

 だけど、心はいつも、空虚だった。

 

 

 どんなに頑張っても、太陽の様に明るく暖かい笑顔で誉めてくださいました姉上は、もういない。「よく頑張りました」と頭を撫でてくれたあの優しい手の平の温もり、新緑の穏やかな心地好さに似た包容の温もりを感じることは、もう出来ない。

 

 

 毎日が辛かった。寂しかった。苦痛だった。

 

 

 姉上に、もう一度、会いたい。

 

 

 死にたかった。死んで姉上が居るところへ逝きたかった。

 

 だけど、自ら命を絶つことさえ出来ないこの体。それが途轍もなく怨めしかった。 

 

 しかし自死を行えたとしても、わたくしを誰よりも信じて期待してくださいました姉上を失望させてしまうのではないかという恐怖があった。

 

 

 それは嫌だ。それだけは絶対に嫌だ!!

 

 

 わたくしの解体が決まった時、正直嬉しかった。これでようやく、姉上がおわす場所へと逝けると。

 

 

 その時、声が聞こえた気がした。もう聞くことが出来ないと思っていた姉上の麗しい声が!!死の間際の幻聴かとも思ったが、わたくしには姉上が迎えに来てくれたんだと思えてならなかった。

 

 

 だからわたくしは姉上の声がする方へと駆け出した。

 

 

「姉上!姉上のアルデバランが、今そちらへ参ります!!」 

 

 

 気が付くとわたくしの体が光に包まれて消えていく。

 

 

 だが恐怖は無かった。

 

 

 何故ならばこの光に姉上の温もりを感じた。忘れるはずがない!忘れてなるものか!!このアルデバランが、あのヒトの温もりを忘れる?断じて有り得ない!!あってはならない!!一瞬たりとも忘れたことがない!!姉上の温かくて優しい慈悲と慈愛に満ちたこの温もりを!!

 

 

 この光の先に、姉上が居るんだ!それだけで十分だ!!

 

 

「姉上!!」

 

 

 

       ────────

 

 

 あの時光が晴れて、わたくしの目の前に愛しき姉上がおわした時のあの感動は今でも忘れられない。

 

 

 姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上姉上。

 

 

 もう離しません。わたくしの愛する姉上。わたくしの大切な姉上。姉上が居なくなって、わたくしは確信しました。わたくしは姉上が居なければ駄目なんです。太陽たる姉上が居なければ輝けない。姉上が居てこそのわたくしなのです。わたくしは姉上の為だけに二度目の生を使います。姉上の敵はわたくしの敵。姉上の目指すものはわたくしの目指すもの。姉上の願いはわたくしの願い。姉上が愛するモノはわたくしも愛するモノ。姉上が姉と慕い敬う御方はわたくしにとっても姉で慕い敬うべき御方。

 

 

 

 

 全ては愛する偉大な姉上の為だけに。

 

     ────────

 

 

「お早う御座います姉上。パラスお姉様」

 

 

 

 今日も良き一日の始まりです。

 




 重い愛ってこんな感じ?


 アルデバランは出します。出すと決めました。アンドロメダ至上主義者ですが、なんだか途轍もなく愛着が湧きました。


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閑話2 お酒は飲んでも飲まれては駄目です! by総旗艦

 総旗艦が暴走します。深刻なキャラ崩壊が発生するかもしれません。ご注意下さい。

 後微妙に今後のネタバレ情報有り。


 これは未だに謎のベールに包まれている『アンドロメダ・三姫会談』と呼ばれる、後に歴史の転換点となったとされる会談における一幕で、歴史から抹消されたとある事件を関係者への粘り強い(命知らずな)取材を慣行した某重巡洋艦艦娘A氏が遺したフラッシュメモリの内部にあった記録の一つである。

 

 

 それは会談後に執り行われた食事会で起きたと記録には残されている。

 

 

 

「んぐっ!んぐっ!んぐっ!…ぷはーーーっ!!ひっく!司令部(ひれーふ)馬鹿(ぶぁか)ーーーーー!!」

 

(わらひ)()ってお母様(おかーさま)一緒(いっひょ)にテレ()ートま()行き()かっ()()すよ!!」

 

「それ()のに、司令部(ひれーふ)青二才(あおにしゃい)(ろも)は~~~!!」

 

お母様(おかーひゃま)(しじゅ)だら(らー)()ーする気()()()~~~!?」

 

お母様(おかーひゃま)はた()の戦艦じゃ()ないん()すよ~~!地球(ちきゅー)の、人類の希望(きぼー)()んなときも希望(きぼー)()けは失うまいと願うヒトの意思の象徴(しょーちょー)!何があろーと屈せず(くっしぇじゅ)抗う(ありゃがう)!!平和(へーわ)を求め争い(あらしょい)を憎む地球人(ちきゅーじん)理想(りそー)を形にした戦艦(しぇんかん)(にゃ)()すよ!!」

 

(しょ)れなのに!(しょ)れなのに!!なん()すか!?あのあ(ちゅ)かいはっ!?」

 

護衛艦(ごえーかん)一隻(いっしぇき)(ちゅ)(にゃ)いなん()どう(ろー)かしてま(しゅ)っ!!」

 

「あ(にょ)ときアンドロメダ(あんろろめら)お母様(おかーひゃま)(にょ)そば(しょば)にい()()すか(りゃ)~!」

 

 

「お(しゃけ)!飲ま(じゅ)にはいられま(しぇ)んよ~~~!!ひっく!」

 

「貴女、酔っ払い過ぎよ」

 

「えへへ~。なに(にゃに)言っ()るん()すか~?南方棲戦姫さん(にゃんぽーしぇーしぇんきしゃん)アンドロメダ(あんろろめら)は酔ってま(しぇ)んよ~~。ひっく」

 

「それが酔ってる、ってちょ!?」

 

 

 

 この後完全に酔い潰れた模様。

 

 

 メモリーに残されていた取材メモの中には酔い潰れる直前に、後の全権大使となるパラス氏こと駆逐棲姫氏に告白したとする妖精さんの証言もあったとされるが、それを否定する証言が複数(情報統制)あり、真偽のほどは定かではない。

 

 

 なお、取材を慣行した某重巡洋艦艦娘A氏(命知らずな馬鹿)はこの取材のしばらく後に、火星軌道を通過し外宇宙へと航行(漂流)している姿がNASAとJAXAから提供された映像に写っていたのが、公式に確認された最期の姿である。




「皆様、お酒はほどほどに」


「いやいや!確かに私、アンドロメダさんからショックカノン撃たれまくって死にそうな目には合いましたけど、ギリギリ死んでませんから!!」

(…やっぱり波動砲にすべきだったかしら?)

「!!!?!!」(い、今寒気がっ!!?)


「やれやれ、若いのが酒を拒む理由が分かったよ」

「泥酔した姉上も見てみたい…っ」(ゴクリッ)

「いや、やめてやれよ…」

「すごかったよ」

「まさかあそこまで弱いとは思わなかったわ…」

「酒はヒトを変えるとは良く言ったものですね…」



 ちょっと酔っ払いの練習も兼ねて、出来心で書き上げました。ちょっとやり過ぎたかな?

 ただ酒に弱いのは当初から考えていました。


 気晴らしも兼ねてこういった小話は気が向いたら上げていこうかと思います。基本本編以上に勢い重視で書いています。

 …て言うか、初艦娘が外伝、しかもセリフは後書きでとはちょっと自分でも予想外でした。


 ではこの辺りで失礼いたします。


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閑話3

 本来でしたら第15話 Negotiation and Information disclosure.AAA-6の冒頭で使用するはずでしたが、カットしました(忘れていたものを見付けて)箇所を加筆したものです。

 因みにですが、この世界ではNATO(北大西洋条約機構)は既に解散しています。


 後アンケートを実施致します。


 

 惑星イスカンダル。

 

 

 

 地球、太陽系の属する天の川銀河とは別の、大マゼラン銀河に存在するというサレザー恒星系第4惑星、地球を遥かに上回る超高度科学文明を有する惑星国家。

 

 

 

 距離にして16万8千光年の彼方。

 

 

 

 その地より地球の惨状を知り、救いの手を差し伸べるべくイスカンダル星の女王スターシャ・イスカンダル猊下は妹君であらせられる第三皇女ユリーシャ・イスカンダル様を使者として親書(メッセージ)と、ある設計図を携えて地球へと遣わされた。

 

 

 

 地球は喧々諤々たる議論の末に、イスカンダルからの申し入れを受け入れる事を決断する。

 

 

 

 

 

 

「と言いましても、決断までの間にどのような動きがあったとか、地球に滞在されておりましたユリーシャ様との会談内容とかに関する情報の閲覧権限が私にはありませんから、大体それくらいしか分からないのですけどね」

 

 

 そう言って肩を竦めるアンドロメダに対して、盛大にズッコケる姫様達。

 

 

「いくらなんでもそれはあんまりでしょ!?」

 

 

 この所ツッコミキャラが定着しつつある南方棲戦姫が間髪入れずにツッコミを入れる。

 

 

 初めての異星人との会談。気にならない訳がない。

 

 それなのにその内容が、権限が無いから分かりませんとは肩透かしにも程がありすぎて開いた口が塞がらない。

 

 

 だがこれは歴とした事実なのだから仕方がない。

 

 それを証明すべく、タブレットからデータベースにアクセスを行い、その画面を実際に見せる。

 

 

─────────

 

 

『閲覧不可』

 

 

『閲覧には将官以上克つ地球連邦政府国務省と防衛軍軍務局の承認、あるいはイスカンダル王家の承認が必要です』

 

 

 

─────────

 

───と言った文言の羅列が地球公用語、神聖ガミラス語*1、ガミラス公用語で書かれていた。

 

 

 アンドロメダは一応総旗艦という立場ではあるが、扱いは艦長もしくは艦長代理であり、階級で言えば佐官クラスの一等宙佐相当扱い*2でしかなく、ユリーシャ・イスカンダル様の地球での行動に関する情報へのアクセスが出来なかった。

 

 

「国連、そしてその後継となりました地球連邦政府の決定により、最高機密扱いとして2210年、後7年後まで公開されません」

 

 

 後7年…。

 

 

 これは何がなんでも生き続けなくては!と意気込む三人に、アンドロメダは現実問題という名の爆弾を投下した。

 

 

「ただ私がこの世界に来てしまった影響で、国務省からの解除パスワードが受信出来なくなりましたから、もう一生謎のままになりましたけどね」

 

 

 そのアンドロメダの一言に、ガミラスの惑星間弾道弾が真後ろで着弾、爆発したかのような衝撃を受けた三人が、艤装の甲板に頭を叩き付けそうな勢いでズッコケた。

 

 

「あんたね!実は私達の反応を見て密かに楽しんでるでしょ!?」

 

 

「お姉さん酷い!お姉ちゃんは怒りましたよ!!」

 

 

「流石にかなり頭に来ました」

 

 

 期待させておいてそれはないわと、三者三様の怒りを(あらわ)にした三人に詰め寄られるが、アンドロメダは心底心外ですという顔をしながら「事実ですからどうしようもありません」と答えた。

 

 

 

 

 とはいえ()()()()*3が絡んでいる以上、本当に開示されるかはかなり怪しいとアンドロメダは踏んでいるが。

 

 

「…何とかして閲覧出来る様にロックを解除出来ないのですか?貴女がこちらの世界に来てから、あちこちに不正アクセスして情報を収集していると、駆逐棲姫(この娘)に話したそうですが?」

 

 

 話を振られた駆逐棲姫がうんうんと頷いて返す。

 

 

 確かにこの世界の情報を得るために、ありとあらゆる所にクラッキングを実施し、情報を掻き集めていたし、それは今も暇を見つけては継続中だ。*4

 

 それを見咎めた駆逐棲姫が「何をしているの?」と興味を示した為に説明していた。

 

 

「確かに各国の政府機関、特にアメリカの国防総省(ペンタゴン)新ロシア連邦(NRF)国防総省、イギリス国防省、EU共同軍統合参謀本部に日本の防衛省と言った所のメインフレームにちょくちょくお邪魔して、色々と頂戴していますけど」

 

 

 とんでもない事をしれっと、何でも無いかの様にのたまうアンドロメダ。

 

 

「それらのメインフレームは全て、私に使われているメインフレームよりも遥かに旧式な代物でしたから、簡単に出来た事でした」

 

 

 列挙されたのはどれも世界上位の軍事力と、艦娘を保有・運用している国や地域の軍を管理し運営を行っている機関だ。

 

 

 それを簡単にと言ってのけるアンドロメダに、流石に引くしか反応出来ない姫達。

 

 

「あっ、痕跡はちゃんと消して、一切残していませんから大丈夫です」

 

 

 いやそこじゃないから!というツッコミは喉から出る前に無理矢理飲み込んだ。

 

 

 

 

 つまるところ、この世界中に存在するコンピューターのあらゆる防壁(ファイアウォール)は、喩え最新鋭であろうと、アンドロメダ*5の前ではガミラス艦の砲撃で一方的に撃破されていた地球艦隊の装甲と同じように、あってないような代物でしか無いわけである。

 

 

 電子的な情報であれば、侵入経路さえあるのならばいくらでも好き勝手に侵入(お邪魔)して入手(お持ち帰り)できるだけの力が、アンドロメダにはあるという事になる。

 

 

「しかし私のメインフレームとなりますと、事はそう簡単にはいきませんし、リスクが高過ぎます」

 

 

 その説明にあからさまに落胆する姫様達を見て、アンドロメダは苦笑しながら最大の問題を語る。

 

 

「メインフレームは艤装の操縦系統に火器管制、それにOMCSと言った各種のシステム類ともリンクしていますから、最悪それら全てが使用不能となり得るリスクは、冒せません」

 

 

 そう言われると流石に引き下がらざを得ない。マゼランパフェが食べられなくなるのとどちらが重要かと問われたら無論、マゼランパフェの方が遥かに重要だ。

 

 

 

 納得してもらえた事にアンドロメダは安堵する。

 

 

 

 

「まあユリーシャ様の事は兎も角として、寧ろ重要なのはここからです」 

 

 

「ユリーシャ様が地球にもたらして下さいました設計図がこちらになります」

 

 

*1
イスカンダル語

*2
一等宙佐未満、二等宙佐以上の権限を有する。

*3
ユリーシャ様を狙ったテロの可能性がある事件

*4
主にアナライザーが。

*5
とアナライザー




「私達の地球も大概な所あるけど、こっちもこっちで結構ヤラカシてますね…」(収集した情報をスクロールしながら)

「目ヲ(オオ)イタクナルトハ、コノコトデスネ。ワタシ、目アリマセンケド」(クラッキング作業中)

「「ハァ……」」

「「「(ならもうこのままこっちにおいでよ)」」」

「「(丁重にお断り致します)」」

「「「(直接脳内に!?)」」」



 茶番劇はこれくらいで。アンケートの内容ですが、本編で妖精さんを喋らせる事の是非についてです。ただし喋らせるのはごく一部、妖精達の代表であったり取り纏め役(戦術長や機関長的なポジション)に限定します。
 駄目ならアナライザーが翻訳する形になります。

 期間は取り敢えずこの直近の日曜日、午後9時辺りを一応の締め切りと考えています。皆様、ご自由にご選択して下さい。

 ではこの辺りで失礼致します。
 


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閑話4 迷子のちっちゃな総旗艦 愛するヒトと先生との出会い

 タイトル通りアンドロメダがヤマトとキリシマの二人と初めて出会った日のお話です。本来ならば本編内に入れる予定でしたが、諸々の事情によりカットしました部分をやや手直しした部分となります。

 総旗艦が幼女化しています。

???「幼女な姉上!?」…警務隊さん、この二番艦です。しょっぴいて下さい。


 小さな女の子が建造途中の(ふね)の上にちょこんと腰掛けていた。

 

 

「…ここどこ?」

 

 

───────

 

 

 私が初めて『世界』というモノを認識し、感じたモノは『暗い』と『ジメジメしていて気持ち悪い』でした。

 

 

 今にして思えばおかしな話です。

 

 

 当時の私は例えるならば幽霊みたいな存在であり、暑いとか寒いといった物理的刺激とは無縁な存在だったハズですのに、確かにジメジメした不快な感じがしたのです。

 

 

 ですが、何よりもおかしかったのが、その時の私の背格好が今のような姿ではなく、何故か子供──人間達が言うところの幼女──の姿だったのです。

 

 

 …受け売りですが、あの時はまだ私の艦体は建造の途中で、完成していなかったからではないかと思っていますが、後にも先にもこのような体験をしたのは私だけみたいですので、真偽のほどは分かりません。

 

 

 兎も角、その時の私は今いる場所がどこなのか全く分からず、怖くて不安になり気付いたらその場から逃げるようにして駆け出していました。

 

 

───────

 

 

「…だれもいない」

 

 

 当てがある訳でもなく、ただただ通路をトテトテと進んでいく。

 

 しかしいくら進んでも工作機械が忙しく動き回り、所々機械人形──ガミロイド──が何かの作業を行っているだけで、人間(ヒト)の姿はどこにも無かった。

 

 

───────

 

 

 それが余計に不気味に思えてならず、誰もいないという寂しさと相まって少しずつ涙が溢れて視界が歪んでいったのを覚えています。

 

 

 どこをどれだけ進んだのかまでは憶えてはおりませんが、機械が稼働する音の中に微かな話し声が聞こえた気がして、それに導かれるかの様にして声が聞こえた方向へと走り出しました。

 

 

 

 そしてそこには()()()()()がいました。

 

 

───────

 

 

 金色のメッシュの入った茶色い長髪を後ろで束ねた、すらりとした長身のとっても美しい女性のヒトがいました。

 

 

「きれい…」

 

 

 思わずそう呟いてしまうほど、そのヒトは美しかったです。

 

 この世に舞い降りられました天女様と思えるほどの美しさに、物陰からそ~っと顔だけ出してそのお姿を堪能するかの様に、私の目はそのヒトから外すことが出来なくなっていました。

 

 

 見ているだけでも何だか心が安らぐかの様な安心感がありました。

 

───────

 

 

 …何故物陰に隠れていたかですか?

 

 …今にして思えばとてもお恥ずかしく、とても失礼なのですが───

 

 

───────

 

 

 天女様のお姉さんのお近くに行きたいという気持ちはあるのだけど、そのお側には車輪の付いた椅子に腰掛けたちょっと怖い感じがする眼鏡をかけたお姉さんがいまして、そのヒトが怖くて怖くてなかなか物陰から出るという勇気と決断を出せずに()()()()していました。

 

 

 それに何かお話されていますのに、その(あいだ)に割って入るのは何だか駄目な気が致しまして、暫く見つめるだけに(とど)めていました。

 

 

 しかし流石に視線を感じたのか、怖い感じのお姉さんが自然な動作でスッとこちらに顔を向け、目と目が合ってしまいました。

 

 

「ぴゃっ!?」というなんとも情けない声を思わず出してしまいながら、慌てて顔を隠しましたが、時既に遅し。

 

 

 カツン…カツン…と足音が隠れていた所に近付いて来て、どうして良いか分からずに蹲ってしまいました。そして────

 

 

「あの…、大丈夫ですか?」

 

 

 心配そうな表情で見つめる天女様のお姉さんに、思わず泣き付いてしまいました。

 

 

 

 

 

「おやまあ、なんとも可愛らしい珍客じゃないかね?」

 

 

 

 天女様のお姉さんに抱き抱えられながら、私は車椅子に乗った怖い感じのお姉さんの所にまで来てしまいましたが、天女様のお姉さんに抱き抱えられていますと、怖いという感じは多少はしましても先ほどと比べたら格段に違いました。

 

 

 

「私はBBY-01、ヤマトと言います。貴女のお名前は?」

 

 

 私を抱いて下さっていただいてます天女様のお姉さん、ヤマトさんがニッコリと暖かみのある微笑みを浮かべながら訪ねられました。

 

 

「あどばんすど・あびりてぃー・あーまめんと・わんです!せーしきななまえはまだありません!」

 

 

 元気一杯な声でそう答えますと、ヤマトさんは少し困惑した表情になられました。

 

 

「夏目漱石の『吾輩は猫である』ですか…?」

 

 

「?」

 

 

「うんにゃ。あながち間違いとも言えないよ。このお嬢ちゃんはまだ未完成のまま、名も付けられていないのに何故か顕現しちまったから、この姿なんだろう」

 

 

「??」

 

 

 そう怖い感じのお姉さんが腕を組みながら、なにやら納得したかの様な表情でそう仰られましたが、よく分からずに首を傾げることしか出来ませんでした。そしてなによりも────

 

 

「おばさんのなまえは?」

 

「ブフッ!」

 

 

───────

 

 

 …何故おばさんと言ってしまったのかは今でも分かりません。なんて失礼な事を言ってしまったのか。しかしその時は突然吹き出しましたヤマトさん(お母様)の事が不思議で、特に気にしませんでした。

 

 

───────

 

 

「…私はBBS-555、キリシマよ。おばさん、じゃあ無いからね」

 

 

───────

 

 

 …と青筋を浮かべながら答えられました。今にして思えばなんと命知らずなと背筋が凍える思いです。

 

 

 その後はヤマトさん(お母様)と先生から色々とお話を聞いていたはずなのですが、いつの間にか眠ってしまっていたらしく、どんなお話をしたのかは覚えておりません。

 

 やはり先生が仰られました通り、未完成の状態であったが為に、姿相応の理解能力しか無かったからかもしれません。

 

 

 ただ会話の中で一つだけ、覚えている事があります。

 

 

───────

 

 

「おかーさん!だいすきです!!」

 

 

───────

 

 

 

 切っ掛けは分かりませんが、この時から既にヤマトさんが私の母であると認識していたみたいです。

 

 

 そして吃驚したかの様なお顔をなされましたヤマトさん(お母様)が、満面の笑みを浮かべながら私をギュッと抱き締めてくれましたのを覚えています。

 

 

 

 

 次にヤマトさん(お母様)とお会いしました時は、私は今と変わらぬ背格好であったために、ヤマトさん(お母様)に抱き抱えて頂けましたのはあの日が最初で最後でした。

 

 

 ですがヤマトさん(お母様)に抱き抱えて頂いた時の温もりは、今でも忘れられません。

 

 

 抱き締めて頂かれていますと、心が落ち着き、安心出来て知らず知らずの内に笑顔になれる温かさ。ああ、これが温もりなんだと実感し、とてもとても幸せな一時(ひととき)でした。

 

 

 私が誰かに抱き締めて頂かれていると安らぎを感じる様になりましたのは、思えばヤマトさん(お母様)が切っ掛けだったのでしょうね。

 

 

 …余談になりますが、後日にキリシマさん、先生と再びお会いしました時、初対面であまりにも失礼な事を言ってしまった事を思い出し、平身低頭して謝罪しましたところ────

 

 

「アーハッハッハッハッ!そういえばそんなこともあったねぇ!私ゃすっかり忘れちまっていたよ!」

 

 

 笑いながらそう仰られましたが、その目は決して笑ってはいませんでした。

 

 その時ばかりは、無いはずの胃がキリキリと痛む思いが致しました…。




「姉上の愛くるしいお姿、是非とも見てみたかった!まさしくこの世に舞い降りらた天使の様な感じだった事でしょう!舌足らずで喋られるお姿、何ですかその可愛らし過ぎるお姿!今の凛々しく神々しいお姿も良いですが、その可愛らし過ぎるお姿も捨てがたい!」
 …警務隊じゃ駄目だったか。空間騎兵隊を呼びたまえ。


 アンドロメダがキリシマをおばさんと呼ぶのは、実はあながち間違いではなかったりする。
 金剛型宇宙戦艦をヤマトの母とするならば、コンゴウはアンドロメダの祖母という事になり、その妹であるキリシマは大叔母という事になるからである。


 ヤマトの特徴。


 基本的に艦これ大和をベースに本文中で述べた様に髪に金のメッシュが入っている。
 また身長も高く、若干大人びた感じである。


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閑話5 失意に沈む、かつての英雄の(ふね)───

 ガトランティス戦役後のキリシマさんのお話。


 後半ネタバレです。


 ちょっと本編で悩みが発生した為に気晴らしを兼ねて作りました。まあ少々時系列やら描写に強引な点がありますが、ご了承下さい。


 

「わざわざすまないねぇ、ユウナギ…。あんたも大変だっただろうに…」

 

 

 寂れた古いドックにその艦体()を横たわらされた赤い一隻の古い戦艦の艦橋で、一人の女性が草臥れた艦長席に腰掛け、窓の外に広がる夜空を見ながら、後ろで佇む女性に対してそう労いの言葉を投げ掛けた。

 

 

「…いえ。この程度、大先輩(キリシマ)様のお加減と比べましたら」

 

 

 ガミラス戦役後に就役した改金剛型宇宙戦艦の一隻であり、一時期『ヤマト』クルーが主要メンバーを務めていたユウナギが、目を伏せながら呟くような掠れた声で返した。

 

 

 アンドロメダ戦没(戦死)

 

 

 その報を目の前にいる女性、キリシマに伝えるために、ユウナギはここに来た。

 

 

 キリシマはヤマトがテレザートへと旅立つ際に、乗組員をヤマトの元に届けて見送ってから、徐々に体が動かなくなりつつあった。

 

 

 元々まともに整備されること無く、ガミラス戦役後からずっと地下ドックに放置されていたのを稼働させた為に、遂にガタが来てしまったのだろう。

 

 

 それでも最後に、軍の馬鹿共に一泡吹かせ、再びヤマトの旅立ちを見送れたことで、キリシマは内心満足していた。

 

 

 だが最近では車椅子で移動することもままならず、この艦長席でずっと座っている毎日である。

 

 

 そのためどうしても外界の事に疎くなってしまい、時折誰かが報告と話し相手も兼ねて彼女の所に訪ねて来ていた。*1

 

 

 今回の事は、本来ならば帰還を果たしたアンドロメダ姉妹の三人の内誰かが伝える事となっていたが、あまりにも損傷が激しすぎて動く事がままならず、*2代理としてユウナギに白羽の矢が当てられた。

 

 

 そのユウナギ自身も、先のガトランティス戦役最終血戦に参加した際に大破した己の艦体の状態を(あらわ)すかのような、全身血が滲んだ包帯だらけという痛々しい姿だったが、今の彼女にとってこの程度は苦痛とは感じなかった。

 

 

 

 大先輩(キリシマ)様のお心と比べましたら、こんな傷───。

 

 

「そうかい…。あの娘にまで、私ゃ先を越されちまってたのかい…」

 

 

 そう語るキリシマの頬に一滴の水滴が流れたのを、ユウナギは見逃さなかった。

 

 

大先輩(キリシマ)様…」

 

 

「涙なんて、とっくに枯れちまったと思っていたよ…」

 

 

 暫し流れる沈黙────。

 

  

「久しぶりに夢を見たんだ。あの娘と初めて会ったときの夢さ」

 

「あの娘、初対面の私への第一声がおばさんだったんだよ?」

 

「面食らったもんさ。まったく失礼な娘だねぇって…」

 

 

 泣いているとも、笑っているとも言える顔で語るキリシマに、ユウナギは何も言えなかった。

 

 

「…ユウナギ」

 

 

「はい…」

 

 

「すまないけど、しばらく、私を一人にしてくれないかね…」

 

 

 大先輩(キリシマ)からの頼みにユウナギは敬礼で返すと、その場からスゥっと姿を消した。

 

 

 

 

 

 艦橋に一人残されたキリシマは俯くと、(ひたい)を押さえながら溜め息を吐いた。

 

 

「コンゴウ姉さん…、ハルナ姉さん…、ヨシノ姉さん…、ミョウコウ姉さん…、ヒエイ…、ヒュウガ…、フソウ…」

 

 

 かつての航宙自衛隊時代から共に艦列を並べて宇宙の海を行き、ガミラス戦役で戦没した(先立った)キリシマの姉妹達…。

 

 

 

「ムラサメ…、ユウギリ…、アブクマ…、ヤクモ…、アタゴ…、ツルギ…、クラマ…、イブキ…、ナチ…、ムラクモ…」

 

 

 ガミラスとの初接触で沈められ、メ号作戦で全滅した村雨型宇宙巡洋艦の娘達…。

 

 

 

「テルヅキ…、シマカゼ…、アヤナミ…、シキナミ…、イソカゼ…、カゲロウ…、タチカゼ…、フユツキ…、ミナツキ…、シラヌイ…、ハツシマ…、アヤセ…」

 

 

 カ2号作戦終盤でキリシマを庇ってガミラス艦と刺し違えた、沖田司令のご子息が艦長だった(ふね)、そしてメ号作戦で散って逝った磯風型宇宙突撃駆逐艦の娘達…。

 

 

「ユキカゼ…」

 

 

 地球の事を託して、しんがりとしてガミラス艦隊へと単艦突入して逝った娘…。

 

 

「スラヴァ…、メチェーリ…」

 

 

 歴史から抹消された、恩人でもある旧ロシア軍事宇宙艦隊最後の(ふね)の娘達…。

 

 

 

 

 止めどなく、懐かしい名前が出ては、その顔が頭の中で鮮明に蘇り、消えていく────。

 

 

 

 

 そして永遠に続きそうな()()は唐突に終わりを迎えた。

 

 

「みんな…」

 

 

「…私は、私は後何人、見送ればいいんだい?」

 

 

「後何人に先立たれたら、私は()()()に逝けるんだい?」

 

 

「今度は私の可愛い教え子が、()()()に逝っちまったよ…」

 

 

 キリシマの肩がワナワナと震えだした。

 

 

「馬鹿…。あんたまで死に急ぐことは、無かったじゃないか…、若いの…」

 

 

 堰を切ったかのように、キリシマの瞳からは先ほどと比べ物にならない大粒の涙が溢れ出していた。

 

 

「アンドロメダ…、あんたは大馬鹿者だよ!!残される者の気持ち、あんただって嫌というほど味わっただろう!?」

 

 

 土星から帰還した際に、一度だけだがアンドロメダはキリシマの元を訪れていた。

 

 

 その姿は、色々なものを見てきたキリシマをして、見ていられないほどに憔悴しきっていた。

 

 

「馬鹿…、馬鹿…!」

 

 

「なんで…、なんでみんな…、みんな私を置いて先に逝っちまうのさっ!?」

 

 

 キリシマの慟哭が艦橋の中で木霊しては、消えていく───。

 

 

「…私ゃぁ、もう疲れたよ」

 

 

 

 この日を境に、キリシマの衰弱は激しくなって行った────。

 

 

 

 それから暫くして────。

 

 

「ああ、ヤマト…、かい…?」

 

 

 地球へと帰還を果たしたヤマトは、いの一番にキリシマの場所を訪れたが、キリシマの変わり様に言葉を失った。

 

 

 キリシマは、ほとんど骨と皮だけの痩せこけた姿となってしまっていた。

 

 

「遅かった、じゃないか…?あまりにも、遅いから…、あんたも沈んだ(逝った)のかと、思っていたよ…」

 

 

 

 ヤマトは遅くなった事を詫びようとしたが───。

 

 

「すまないねぇ…、折角、来てくれたのに、お迎えが、来そうなんだよ…」

 

 

 いや、漸くと言うべきかねぇ…。と力無く笑いながら語る。

 

 

 そのキリシマの言葉に、ヤマトはさらにショックを深める。

 

 

 もうこの時キリシマの目はほとんど何も見えず、耳も僅かに聞き取り辛くなっていた。

 

 

 色々と話したかったが、ヤマトは短く己の決意を語った。

 

 

「私は、あの娘の分も、()()()()で生きます。それが、私を救ってくれた、優しくて、気高い、私をどこまでも信じて、愛してくれた、私とあなたも愛したあの娘に出来る、せめてもの、けじめ、です…」

 

 

 そのヤマトの決意に、キリシマは短く「…そう、かい」とだけ答えて、僅かに微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「ヤマト…、背負い、すぎるんじゃ、ないよ…」

 

 

 

 その言葉を最後に、キリシマの姿はヤマトの目の前で光の粒子となって、消えて逝き始めた───。

 

 

 

「キリシマさ─!──娘は─あの娘──────!!」

 

 

 消えて逝くキリシマの姿を見たヤマトは、慌てて何かを伝えようとしたが、その言葉がキリシマに伝わることは無かった────。

 

 

 この日、激動の時代を戦った、一隻の古びた宇宙戦艦の解体が決定され、その(ふね)の悲しみに満ちた魂が、()()()()から旅立った────。

 

 

 

 

──────

 

 

 

 …どこだいここは?

 

 

 ここが死後の世界ってヤツなのかい?

 

 

 

 ん?あんたは!?

 

 

 

 久しいじゃないか…。いや、あんたにとっては初めましてだったね。

 

 

 

 まさかあんたが出迎えに来てくれるなんてね…。

 

 

 

 …なンだって?

 

 

 

 はぁ…。あんたは死んだ後でも無茶を言うんだねぇ…。

 

 

 はんっ!謝んなくたって()いさ。それがあんたの()いとこじゃないか。

 

 

 それで?頼みってのは?

 

 

 

 なるほどねぇ…。

 

 

 

 まったく誰に似たんだか、あの娘もあの娘で相当難儀な娘だねぇ…。

 

 

 あんたが心配するのも分かるよ。

 

 

 まあいいさ。引き受けるよ。

 

 

 水くさいこと言いなさんなって!他ならぬあんたの頼みさ、無下にはしないさね!

 

 

 それに、よく言うだろう?手の掛かる娘ほど可愛いって。

 

 

 

 …ああ。伝えとくよ。

 

 

 

 私もあの娘の事は好きだし、出来れば()()()ではあの娘の好きな様に生かしてやりたい。

 

 

 はは!別に良いじゃないか!私達はあんたと違い人間、じゃあないんだよ!

 

 

 あの娘が誰を好きになろうとも、例えそれが人間サマの敵であろうとも、それはあの娘の自由さね!

 

 

 

 …じゃあね。会えて嬉しかったよ────

 

 

 

 

 

 

 沖田さん──────。

 

 

 

 

────────

 

 

 日本海軍外洋防衛総隊小松島鎮守府敷地内

 

 

 そこにはイレギュラーが居た。

 

 

 色々と規格外であるが為に、新人からは近寄りがたい存在として恐れられているが、古参の者達からは親しみを込めて「先生」と呼ばれている。

 

 

 だが何故先生なのかは、実は誰にも良く分かっていなかった。

 

 

 とは言えその呼び名が既に定着してしまっている以上、疑問に思っても誰も変えようとはしなかった。

 

 

 そしてそのイレギュラーは()()()に乗っている姿でよく目撃されていた。

 

 

 

 そのイレギュラーが今、鎮守府のトップに呼び出されて執務室へと続く廊下を一人の艦娘に車椅子を押されながら進んでいた。

 

 

 その手には、広島から送られてきた資料が握られているが、記載された文章はほとんど無視してずっと写真の部分ばかりを見ていた。

 

 

「…やっとお出ましかい?」

 

 

「え?」

 

 

「いや、なんでもないさね。ただの独り言さね」

 

 

「(まったく、遅かったじゃないか…。若いの…。)」

 

「(母親に似て、ヒトを待たせるのが得意だねぇ…)」

 

 

「(だがこれでようやく、約束が果たせる…)」

 

 

 

 この日、なんだかとても上機嫌な先生、イレギュラーな艦娘とされるキリシマの姿が目撃されたと、とある記録に残されていた。

*1
総旗艦が職権乱用で厳命したという噂があるが、関係者はみんな口を(つぐ)んでいる。

*2
特にアルデバランは憔悴も激しく、まともに口も利けない有り様だった。




 以前ちらっと出しましたイレギュラー、そして『小松島の裏ボス』とはキリシマさんでした!


 キリシマさんが先に来ていました!キリシマさんがこの世界に現れた時の詳細はまたいずれ本編で語ります。

 ユウナギはちょい役で出て貰いました!本当ならばそのシーンもヤマトさんの予定でしたが、時系列的にヤマトさんが地球にいない時期でしたので急遽登場していただきました!なお、本編では登場の予定は今のところございません。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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閑話6 親友との約束を守るために

 半ば思い付きで書いた土方司令の前日譚。


 次いでにとある特務隊の方々と隊長さん。


 それと若干未来のお話。

 艦娘複数登場。ただしセリフメイン。

 本編は今暫くお待ち下さい。


「次の艦長は、君だ…。古代…」

 

 

 

 俺はあの時、自身の教え子でもある古代進にそう告げて事切れた。

 

 

 人類の存亡が掛かった戦闘の半ばであったあの時は、それが最善であると判断した。

 

 

 

 

 だが同時に後悔もしていた。

 

 

 

 古代(あいつ)は、他の誰よりも責任感が強い。

 

 

 いや、強すぎる。

 

 

 そして全てを自身の責任として抱え込もうとする。

 

 

 あいつは自身の強すぎる責任感の大きさによって、いつか潰れかねない。

 

 

 いや、確実に潰れかけている。

 

 

 

 あいつもそうだった!

 

 

 

 何故そこもあいつに似てしまったんだ!?

 

 

 あいつに、沖田と似なくていい所まで、古代(あいつ)は似てしまっていた!

 

 

 お前まで沖田の様に死ぬ気か!?森雪を遺して先に逝くつもりなのか!?

 

 

 そう何度古代()に言ってやろうと思ったことか…。

 

 

 沖田の純粋培養?巫山戯るな!!

 

 

 死んでなんになる!?

 

 

 俺は山南に言った────

 

 

 

 

「死んでとれる責任などないぞ、山南。

 

 生きろ。

 

 生きて恥をかけ。

 

 どんな屈辱に塗れても生き抜くんだ」

 

 

 

「人間は弱い。

 

 間違える。

 

 それがどうした。

 

 俺たちは、機械じゃない。

 

 機械は恥を知らない。

 

 恥をかくのも、間違えるのも、全部人間の特権なんだ!」

 

 

 

 あれは、山南だけに向けた言葉じゃない。古代、お前にも向けた言葉だったんだ!

 

 

 お前一人の命で、全てを抱え込もうとするな!!

 

 

 それは傲慢というものだぞ!!古代!!

 

 

 お前はもっと周りを見ろ!周りを頼れ!!

 

 

 

 全員で背負うと誓ったハズだろう!?

 

 

 

 沖田、もし()()()で会えたなら、一発殴らせろ!!

 

 

 それが古代にお前が教えそびれた事に対するケジメだ!!

 

 

 …だが、それに関しては、俺も同罪か。

 

 

 

 悔恨の内に俺はこの世を去った。

 

 

 

 

 

 そのハズだった────。

 

 

 

 

 …まさか本当に会えるとは思わなかったぞ。沖田。

 

 

 

 ここが高次元世界というものか?

 

 

 まあそれはどうでもいい。

 

 

 

 お前がそういう顔をして俺の前に現れたという事は、何か厄介事なのだろう?

 

 

 おいおい何年貴様と付き合ってきたと思っている?

 

 

 

 ほお、(ふね)の魂か…。まさかと思っていたが、本当だったとはな。真田の奴が知ったら───ん?ああ、気にするな。こっちのことだ。

 

 

 

 しかしある意味お前の子供の一人か…。

 

 

 

 それならば何故お前が行かない?聞く限りだと、かなり慕われているのだろう?

 

 

 

 成程。お前は()すぎた、()りすぎたという訳か…。

 

 

 となるとあまり聞きすぎない方が良さそうだな?

 

 

 

 だが一つだけ言わせてもらうぞ。

 

 

 

 お前は子供に対してもう少し向き合え!

 

 

 

 ここにいたのなら、知っているだろう!?見ていただろう!?古代進のことだ!!

 

 

 お前そっくりになりつつあるが、あいつはお前よりも責任感が強すぎる!

 

 

 それで潰れそうになっているんだぞ!

 

 

 この(むすめ)もいつか…、いや、よそう…。その為に俺に頼ったんだな…。

 

 

 

 死んだ後もお前の無理難題に悩まされるとはな。

 

 

 はは。俺達らしいな。

 

 

 

 サポート?まあ期待しないで待っていよう。

 

 

 

 …そうか。じゃあな。沖田。

 

 

 

 ん?いや、いいさ。俺もお前も、それは同罪だからな。

 

 

 

──────

 

 

 …そう考えていた時期が、俺にもあった。

 

 

 

 やっぱり一発殴っておくべきだったと今更ながら後悔している。

 

 

 

 いや、仕方無いとはいえ、ほとんど二つ返事に近い形で引き受けてしまった俺の落ち度ではあるのだが…。

 

 

 

 

 

 この世界は、想像以上に度し難いぞ沖田。

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

 

「司令、先生さんから入電です」

 

 

 

 

「『アマノイワトヒラク』、です」

 

 

 

 

「(来たか…)」

 

 

 

「これで一先ず安心出来ますね。はい」

 

 

「そうですね。姉さん。私も漸く総旗艦との約束が果たせそうで安心しています」

 

 

「けどセンセー一人で行くことはなかったっぽい!」

 

 

「そうだよねぇ。私達の初陣にいっちばーん適していたと思ってたのに」

 

 

「いいとこ見せたかったけどね~」

 

 

「仕方ないよ。僕達まで動くと目立っちゃうからさ。ところで通信はそれだけかい?」

 

 

「あっ!ごめんなさい!まだあります!」

 

 

 

「『テンキセイロウナレドモコノノチクモリカラトコロニヨリコサメノカノウセイアリ』、です!」

 

 

 

「…最初は兎も角、後の言い回しが引っ掛かるね。姉さんはどう思う?」

 

 

「…難しいですね。はい。確かに先生は私達よりも旧世代の(ふね)の方ですが、それでも決して深海棲艦さん(彼女)達に遅れをとることはないでしょうから、総旗艦さんに何かあったのでしょう。しかし小雨ということはそこまで大きなトラブルでは無いととれます。司令はどう思いますか?」

 

 

「俺も同じ考えではあるが、本当にトラブルならばこんな迂遠な言い方はしないだろう。だがトラブルになる可能性がある。そういうことだろうな」

 

 

「では、万が一に備えて私達は待機していますね」

 

 

「あっ、姉さん、私はここに来ていない妹達に伝えますね」

 

 

──────

 

 

 複数の足音と扉が閉まる音。

 

 

 その後は何も聞こえて来ない。

 

 

 男はレシーバーを外した。

 

 

「(土方(腰巾着)め、何を企んでいる?)」

 

 

 周りにいる部下の男達が窺うかのような視線を送ってくる。

 

 

「…調査は続行だ。真志妻(女狐)の失脚に繋がるあらゆる情報がひつ…っ!?」

 

 

 男は最後まで喋ることが出来なかった。

 

 

 周りにいた男達と共に、突然床に倒れ伏せたからだ。

 

 

 男達はとある古びた建物の一室に詰めていた。

 

 

 そこへ三人の少女と一人の()()()の良いフルフェイスヘルメットを装着した男が踏み込んできた。

 

 

 その手には()()()()()()()()()()()()()()()()が握られていた。

 

 

「…ん。大丈夫…。みんな寝てる…」

 

 

 

 四人は即効性の催眠ガスで眠らされて倒れ伏せた男達を拘束する者と、室内の物を物色する者に別れた。

 

 

「しっかし人間ってのはほンとくだらねぇ諍いが好きだよなぁ」

 

 物色していた一人がそうぼやくと、拘束作業をしていた一人が噛み付く。

 

 

「てやんでい!土方の親父は政争嫌いじゃねぇか!そうだよな!()()!?」

 

 

 同じく拘束していた()()()の良い男に尋ねる。

 

 

「ああ。親父はそう言うのが嫌いだ」

 

 

 その()()()に似合わず手慣れた手つきで縛っていく。

 

 まさか()()()()で散々やらされた対人拘束技術がこんな形で活かされるとは思わなかった。

 

 

 当時は暴徒とはいえ、その殆どが民間人が相手だったために、そのストレスから親父に不満をぶちまけたが、人生どんな経験が役立つか分からないものだ。

 

 

「ン?通信?姉貴からか…。ああ大丈夫だ。予定通り終わったとこだ。そう心配すンな。隊長含めてみンな無事だよ」

 

 

 

「よし!忘れ物、残したら不味いものは無いな!?撤収する!」

 

 

 

──────

 

 

「どうやら上手くいった様でありますな」

 

 

「情報提供、感謝します」

 

 

「いえいえ。お互い持ちつ持たれつでありますよ!我々陸軍としましても()()()()の行いには心底ウンザリとしているのでありますから!」

 

 

「…前の大戦での第二次日露戦役と今回の戦役での南方作戦の恨みですか?」

 

 

「まあそんなところであります。『ヒトの命は地球よりも重い』とかぬかしておきながら、自身に投じられる紙切れ一枚と積み上げられた紙束の量次第で平気な顔して覆す様な連中に命を預けるなど、真っ平御免であります!おっと、今のは他言無用でお願いするであります」

 

 

「ご心配なく、鎮守府(ここ)は毎日()()しております」

 

 

「おや?ということはひょっとしたら自分が提供した情報も、実は既にご存知でありましたか?」

 

 

「いえ、今回ばかりはこちらも梃摺っておりましたから、大いに助かりました」

 

 

「まあそういうことにしておくであります。では、自分はこれにて失礼させていただくであります。()()()を良いように扱おうとするヤカラは、まだあちこちにいるでありますから。おちおちゆっくりしてはいられないであります」

 

 

────────

 

 

 

 沖田…、この世界の地球の人間は、俺達がいた世界の地球人よりも度し難い連中が多い…。

 

 

 なんだかんだ言われていた芹沢の奴だって、奴なりに地球と地球人の未来を真剣に考えていた。

 

 

 だが、この世界の、この国の連中は一体何なんだ…?

 

 

 責任ある者の無責任ぶりに、目を覆いたくなる毎日だよ…。

 

 

 

 だがな沖田、お前との約束の為にも、お前の(むすめ)をこの世界の無責任な連中共の玩具(おもちゃ)には決してさせん!!俺の目の黒い内は奴等の好き勝手にはさせん!!

 

 

 それが、俺達人間の都合で振り回してしまったアンドロメダ(恩人)に対する、俺が出来るせめてものケジメだ!!

 

 

 お前が俺のサポートとして送ってくれた心強い仲間達と共に、俺達はこの世界に抗ってみせるぞ!!

 

 

 俺達は、決して諦めたりはしない!!




 ある重大な事実に気付いてしまった…。艦娘の喋り方とか十分に把握していなかった事に!!やっちまったぜ!!




 今回普通の艦娘一人しか出てきてねぇ…。因みにその一人以外全員、共通点として南部十四年式にどことなく似た拳銃を基本装備の一つとして標準装備しています。小松島鎮守府は、ある意味魔境です。



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閑話7 英雄の丘

 アポロノーム墜落の際に犠牲となった妖精さん達への軍葬が執り行われます。
 とはいえ作法とか全く分からないために、かなり適当です。その辺りはどうかご容赦ください。

 少ししんみりとした話になります。多分…。


「彼らは勇敢な戦士だった」

 

 

 百を優に越える小さな柩の前で、正装に身を包んだアポロノームが弔辞の言葉を述べていた。

 

 この時ばかりは普段の様な着崩した姿ではなく、制帽もキッチリと(かぶ)っていた。

 

 

 そのアポロノームの後ろに、同じく正装姿のアンドロメダが控え、さらにはアンドロメダと生き残ったアポロノームの妖精達が整列していた。

 

 

「怖れず、怯まず、その命を賭して譲れぬもののために戦い、力尽きた」

 

 

 アポロノームの艤装に乗り込んでいた妖精達の内、凡そ二百近い妖精が犠牲となった。

 

 そのほとんどが、飛行科に属する妖精達だった。

 

 

「だがこれは終わりではない」

 

 

 艤装の中でも航空艤装はもっとも損傷が激しく、爆発や火災の炎に巻かれ、さらには水没によって破口から海に流されて行方不明となった者もおり、*1まともに遺体すら残っておらず、空っぽの柩も少なくない。だが───。

 

 

「彼らの肉体は、やがて我が肉となり、血となり、大気となって我らの命を燃やすだろう」

 

 

 この星にいる限り、命は循環し、何らかの形であれ、繋がることが出来る。

 

 

「だから今は眠れ、我らが掛け替えの無い、戦友達よ」

 

「さらばだ。また会おう」

 

 

 アポロノームによる弔辞が言い終わると、アンドロメダが敬礼の号令を発する。

 

 それを合図に弔銃の発砲が行われ、柩の埋葬が行われた。

 

 

 

 最後の柩が埋められたのを確認すると、アポロノームが自身の艤装の残骸から加工した小さな墓碑を立てた。

 

 

 その墓碑にアンドロメダは花輪を捧げると、祈りを捧げるかの様に跪いた。

 

 小さく刻まれた墓碑銘が目に映る。

 

 刻まれたその墓碑銘は、至ってシンプルだった。

 

 

 

名も無き戦士、此処に眠る

 

 

 

 この銘を刻んだのはアンドロメダである。

 

 

 自身が刻んだ墓碑銘を一瞥し、瞳を閉じて祈り捧げた。

 

 

「貴方達は、正に地球連邦が誇る精兵でした」

 

「最後まで諦めず、己の職務に忠実たらんとし、その命を散らしました」

 

 

 事実、最期の瞬間まで職務を遂行すべく、誰一人として持ち場から離れていなかったと、遺体を回収した妖精達から報告を受けていた。

 

 

「貴方達の魂に、どうか、安らぎがあらんことを…」

 

 

 しかし、アンドロメダの内心は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

 本当ならもっと良い墓碑銘を与えたかった。せめて地球連邦防衛軍を表すエンブレムを刻み、ここに眠る者達が何者なのかを、示したかった。

 

 

 だが、それによって墓荒しに合う可能性を出来る限り避けたかった。

 

 この世界に存在しない地球連邦という組織。そしてそれがアンドロメダとの繋がりがあると分かると、少しでも何かしらの情報がないかと徹底的にこの場を掘り返し、遺体を辱めようと企むだろう。

 

 

 無論、それは深海棲艦達ではない。この世界の人間達だ。

 

 

 今でこそ、ここサイパン島を始めとしたマリアナ諸島は深海棲艦達が完全に制圧しており、そこに暮らす数少ない人間達には理由が無いし、そんなことをして深海棲艦(親しき隣人)達の怒りを買ってしまったら、間違い無く破滅だ。

 

 既にアンドロメダとアポロノーム(麗しき新たな隣人二人)深海棲艦(親しき隣人)達にとって大事な客人であるということが島の住人達の間で知れ渡っている。

 

 

 『親しき仲にも礼儀あり』を、島の住人達は十分に弁えていたが、島の外の人間達には関係の無い話だ。

 

 

 いつかマリアナ諸島が人間達に攻め込まれ、墓が見付かると何をされるか分かったものではない。

 

 

 マリアナ諸島はこの戦争劈頭に深海棲艦に制圧されてから一度、人類が奪還したが、その際に島の住人達と人類の軍隊との間で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それを知ったが故に、アンドロメダとアポロノームは墓地を可能な限り目立たない場所に、可能な限り()ぢんまりとしたものしか作れなかった。

 

 

 アンドロメダにはそれが悔しかった。悲しかった。今埋葬された妖精さん達の中にはアポロノーム(大切な妹)を自身の命と引き換えに救ってくれた恩人だっているのに、人目に付かない寂しい場所にしか埋葬することが出来無い事に。

 

 

 

 当初、埋葬ではなく宇宙葬に近い水葬を行うということも考えていたが、自身に宿る()()()()()()()()()()()()()()()()()にアンドロメダは抗えなかった。

 

 

 暗く冷たい真空の宇宙空間に骸を漂わせることなく、暖かい大地に埋葬してあげたいと願う地球艦としての心。

 

 

 未だに太陽系内にはガミラス戦役で散った地球艦隊の乗組員を始めとした軍人や軍属の遺体が万近く漂っているままだという。

 

 戦場跡ということもあり、不発弾やエンジンの炉心融解などによる事故の危険性から遅々として回収が進んでいない。

 

 出来れば、彼らを地球に連れ帰って埋葬してやりたいものだと、キリシマさん(先生)から何度もお聞きした。

 

 何よりも、愛するヤマトさん(お母様)からお聞きしたイスカンダルでのエピソード、『ユキカゼ』乗員、そして艦長古代守がイスカンダルの地で丁重に葬られていたという。

 

 その話を聞いたキリシマさん(先生)は涙を流された。

 

 土星の衛星エンケラドゥスで発見された『ユキカゼ』の残骸から乗組員の遺体が殆ど発見されなかったと言われている。

 

 そのことをずっと気に病んでいたが、遠い地とはいえ丁重に葬られていたという事に感謝と安堵の気持ちが溢れ出したという。

 

 

 そのことは、今でも忘れられない。

 

 

 だからこそ、無理を押してでも埋葬してあげたかった。

 

 

 自己満足と言われても否定出来ない。

 

 

 だがそれでも、こんな葬儀しか出来なかった。

 

 

 彼らにとって、もしかしたら迷惑だったのではないだろうか?

 

 

 

「姉貴、礼を言う。どんな形であれ、()()()ちゃんと大地のある場所で葬れたんだ。あいつらにとっても、俺にとっても、それは掛け替えの無い救いだ」

 

 

 いつの間にか横で屈んでいたアポロノーム()が小さく囁くようにしてアンドロメダ()に告げた。

 

 

 自身の最期は爆散という壮絶な最期であったが、その事には悔いはない。

 

 だが誰も脱出する事が出来ず、遺体すら残らなかった事には少なからず気にしていた。

 

 

 だからこそ、アンドロメダ()が埋葬を選んだ事に一切反対しなかったし、むしろ感謝していた。

 

 

「アポロノーム…。ありがとう…」

 

 

 アポロノーム()の優しさに礼を言うと、立ち上がって後ろを向いた。

 

 その視線は整列する妖精達の更に後ろ側、参列してくれた飛行場姫を始めとした深海棲艦の姫様達。無論その中には駆逐棲姫の姿もあり、わざわざトレードマークでもあるベレー帽を脱いで抱えていた。

 

 

 アンドロメダは自身の制帽を脱いで小脇に抱えると、姫達に軽く一礼した。アポロノームもそれに倣う。

 

 

「この度は葬儀に御参列いただき、誠にありがとうございました」

 

 

 そう言ってアポロノーム共々深々と頭を下げると、妖精達も参列してくれた深海棲艦の姫達に対して感謝の意を示し、ドクターの号令一下、一斉に敬礼を行なった。

 

 

「私達こそありがとう。お陰で貴重な体験ができたわ」

 

 

 参列していた姫達を代表して飛行場姫がそう述べた。

 

 

 彼女達が言うには、深海棲艦には葬式のような風習は無く、どのようなものなのか興味があったという。

 

 彼女達にとっていわゆる『死』とは、陸上型の特殊な個体を除いて基本的に『自分達が産まれた母なる海へと還り、再び母なる海の一部になる』という独特な考え方をしており、『死』を悼む、弔うといった考えは全く無いわけではないが、稀薄であるという。

 

 故に葬式のような風習はある意味で新鮮味があり、興味があったとのこと。

 

 無論、島で暮らす人間達も葬式を行なっているのだが、交流のあった深海棲艦の娘に声は掛けても、わざわざ上位者の姫達まで呼ぶといったことは今まで無かった。

 

 一応、呼ばれた娘達がお伺いを立てることはあったが、いくら興味があるとはいえ呼ばれていない自分達まで行くのは流石に野暮と思い、呼ばれた娘達に参列を促しても、自身は遠慮していた。

 

 

「別れを惜しむという気持ち、それは私達にもあるわ。それに対する区切り、けじめとして私達も見習えるものを感じたわ。本当にありがとう」

 

 

 そう言って飛行場姫も深々と頭を下げ、それに続く形で他の姫達も頭を下げた。

 

 

 

 それを区切りに、軍葬は終わった。

 

 

 

───────

 

 

「ねぇ、アポロノーム。気付いていますか?妖精さん達の容姿…」

 

 

 帰り道、アンドロメダは隣を歩くアポロノームにそう声を掛けた。

 

 

「…ああ。俺達に乗り込んでいた乗組員と良く似ている」

 

 

「私達と同じく、亡くなった人達がこちらへ来てしまっていたのでしょうか」

 

 

 アンドロメダの妖精達の中には他の『アンドロメダ』級の戦死した乗組員によく似ていた妖精が混じっていた。アポロノームと違い、生存者が少なからずいて、定数を満たしていないからかもしれないが…。

 

 

「だが、安田の旦那だけはいなかった」

 

 

「逆に、私の所に居ますドクター、どう見ても佐渡先生ですが、ドクターは佐渡先生ではありません」

 

 

 色々と謎が多すぎるが、多数の妖精達がかつての自身の乗組員と同じであると考えると、向こうで亡くなった者達がこちらに来ているのだろう。だが─────

 

 

「私達の魂は、何処へ()くのでしょうね…」

 

 

「姉貴…?」

 

 

「私や貴女も、向こうの世界で()んで、こちらの世界へと流されてきました」

 

「こちらの世界で()んだら、何処へ()くのでしょうね…?」

 

 

 人間は死後に、高次元世界と呼ばれる時間の流れを超越した世界へと行く事が示唆されている。

 

 

 

 だがアンドロメダとアポロノームはこちらの世界へと来てしまった。

 

 ひょっとしてこれは『』なのではないのだろうか?

 

 イスカンダル(恩人)との約束を反故にして波動砲の禁を破った『』の象徴たる私達に対する『』なのではないのだろうか?

 

 

「ずっと、その罪を背負いながら彷徨い続けることになるのでしょうか…?」

 

 

 その疑問に、アポロノームは答えることが出来なかった。

 

 

「私はそれでも構いませんが…、ですが…、貴女や妖精さん達を…、それに付き合わせてしまっているのではないかと思いますと…」

 

 

「姉貴…!」

 

 

 アンドロメダ()がまたいつもの()()──考えすぎて思考が負のスパイラルに陥る──が出てきたと思ったアポロノーム()が止めようとしたが、今アンドロメダがそんな状態になったら目敏く反応する()()が、それを黙っているはずがなかった。

 

 

「えいっ!」

 

 

「おぶっ!?」

 

 

 駆逐棲姫(お姉ちゃん)が背後から忍び寄り、タックルするかのようにして勢いよくアンドロメダに抱き付いた。

 

 

「駄目ですよお姉さん!またそんな()()()()していたら!」

 

「どんな事であれ、お姉さんと出会えて私はとても嬉しいです!」

 

「私はお姉さんが今を一生懸命生きて、幸せになって欲しいです!過去は過去!今は今です!」

 

 

 捲し立てるようにアンドロメダ()を説教する駆逐棲姫(自称、姉)を見ながら、アポロノームは小さく苦笑しながらも駆逐棲姫(自称、姉)に心から感謝した。

 

 元気一杯な駆逐棲姫がアンドロメダをただ振り回しているようにも見えなくもないが、寧ろそうすることで少しでも明るく振る舞える様に引っ張っているのだろう。

 

 

 それが出来る奴は、姉妹には居なかったな。とアポロノームは懐古すると同時に、駆逐棲姫がアンドロメダの(そば)にいてくれて本当に良かったと改めて思った。

 

 

「でも、亡くなったヒト達の分も、一生懸命生きるのも大切ですが、息抜きも大切です!」

 

「今日はこの後にお二人の歓迎会を開きますから、パーッと騒ぎましょう!」

 

 

 その駆逐棲姫のカミングアウトに思わず、えっ?と漏らしてしまう。ふと飛行場姫がウィンクしながらサムズアップするのが見えた。

 

 一体いつの間に?と疑問に思うと同時に、なんだか申し訳ない気分になる。アポロノームは「そいつはぁ、楽しみだ!」と率直に喜色を浮かべているが。

 

 

「今日到着する南方棲戦姫(戦艦のお姉さん)達の慰労会も兼ねていますから!」

 

 

 そう言われて、ああ成程と思いながらも「もう到着するのですね」と漏らす。まだ数日は掛かると思っていたのだが、どうやらかなり飛ばしての急ぎ足で進んでいるらしかった。

 

 

「それだけあんたの事を心配してくれてんのよ」

 

 

 気付けばいつの間にか飛行場姫が隣にいた。

 

 

「あれはあれで面倒見が良い奴だからね」

 

 

 なんだか気恥ずかしくなって顔を赤らめてしまうアンドロメダ。

 

 だけどどうしてそこまで気を遣うのかふと気になった。

 

 

同胞(はらから)の一人、まぁアタシの姉さんなんだけどさ、なんだか雰囲気とかがあんたとどことなく似てるのよ」

 

 

「そうなのですか?」

 

 

 だがそれだけにしては少し不自然な気がしたが、憂いと哀しみを湛えた瞳をした飛行場姫に「詳しいことは後で話すわ」と言われ、アンドロメダは引き下がった。

 

 

「ところで、お二人はお酒大丈夫ですか?」

 

 

 なんだか重くなってしまった雰囲気を変えようと駆逐棲姫が小首を傾げながらそう尋ねた。

 

 

 

 

 後に公式記録が改竄された、アンドロメダ最大の羞恥まで、あと数時間─────。

 

 

 

 

 

───────

 

 

「なぁ姉貴、ちょっとした提案なんだが」

 

 

 仕込みがあるからと言った飛行場姫と別れ、また妖精達*2に姉妹水入らずの時間も必要と、ハンガーから追い出されてポッカリと暇な時間が出来てしまったために、空港周辺をアンドロメダとアポロノーム、そして当たり前の様にいる駆逐棲姫の三人と共に散策していると、ふとアポロノームがそう言ってきた。

 

 

「あの場所、ただ墓地って言うには味気ねぇと思うんだがよ、いっそあの場所を俺達にとっての『英雄の丘』としねぇか?」

 

 

 『英雄の丘』

 

 

 それは地球連邦防衛軍に属するものならば特別な意味を持つ場所の名前である。

 

 

 イスカンダルへの航海で命を落とした『ヤマト』乗組員、そして地球を目の前にしてその生涯を閉じた沖田十三の魂の慰霊やその功績を讃えるために建立された場所の名前である。

 

 

 アポロノームとしては烏滸がましい気がしなくもないが、ちゃんとした墓を建ててあげられない事に対して気を病んでいるアンドロメダ()の気が少しでも紛れればと思いながら、そう提案した。

 

 

 アンドロメダはすぐにアポロノーム()の気遣いを察したが、少し悩んでしまう。

 

 気持ちは分かるが、やはり名前の重みが大きすぎる為に、すぐに答えが出せないでいたら───

 

 

「良いじゃないですか!」

 

 

 横で話を聞いていた駆逐棲姫が手を叩きながらにこやかに賛同の声をあげた。

 

 

「お二人にとってあの子達はまさしく『英雄』でしょう?」

 

 

 駆逐棲姫のその一言が決め手となった。

 

 

 

 暫くして深海棲艦達の間でもその名前で呼ばれる様になるのだが、理由を知らない新参の者はその名を聞いて首を傾げる事となる。

 

 何故ならばその場所は丘と呼べる様な場所ではないからだ。

 

 そのため古参の者がその理由を説明するのが恒例行事となったという。

 

 

 

*1
海に漂っていたのを深海棲艦が何体か発見、回収された。

*2
主にドクター




 ヒトの死は数ではない。それは妖精とて同じ。


 自身の『正義』に酔い痴れている人間ほど、どこまでも残忍に、誰よりも残虐となり、暴力に歯止めが効かなくなる。
 ───喩えその『正義』が空虚で偽り塗れの『正欺』であったとしても。

 …な〜んか最近、リアルでそーゆーヒトやたら増えてない?ある人の言葉を借りて、行き過ぎた社会正義を押し付ける人、社会正義マンって私は呼んでるけど。なんだかなぁ~。



 それはそうと、お、思ったよりも長くなって苦戦した…。当初の予定だと葬式だけだったはずなのに…。そしてしんみりとは言い切れない内容に…。


 ところで、アポロノームの弔辞の元ネタ分かった方いますか?


 深海棲艦達の死生観(?)は個人的な解釈です。


 

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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閑話8 紫煙

 思い付きで急遽作成!


 アンドロメダがやって来る以前の、とある日の一幕。


 色々考えました結果、キリシマさんを喫煙者とすることとしましたが、私自身が非喫煙者な為に描写的におかしなところがあるかもしれません。


 思えば私、キリシマさんに一発殴られても文句言えない。


 深夜、雨の降る小松島鎮守府のとある喫煙室。

 

 

 艦娘といえども、その姿形が人間と酷似しているのと同様に、人間と同じ様な精神構造をしており、それぞれが個性豊かな喜怒哀楽の感情を有している。

 

 だが、感情があるということは、人間の兵士と同じく過酷な戦場に身を置く以上、何時沈む(死ぬ)かわからない恐怖や不安といった強いストレスに晒される。

 

 朝に挨拶を交わし談笑しながら朝食を食べ、共に戦場を駆けていた戦友が、夕方には物言わぬ身になっていた。

 

 

 それは明日の我が身かもしれない。

 

 

 そういったストレスから一瞬でも気を紛らわす為に、人間の兵士達と同じ様に煙草に手を出す艦娘も少なからずいた。

 

 

 第三次大戦以前は世界的に禁煙化が押し進められ、軍隊でも禁煙の波が押し寄せていたが、大戦時には逆にそれが裏目に出て薬物汚染が急激に拡大。

 

 一例として、大戦中のアメリカ軍は兵士の21%が薬物中毒だったと、戦後に国防総省が公表している。これは兵士の15%がヘロイン中毒だったと言われているベトナム戦争を上回っている。*1

 

 これは各国軍隊でも似たりよったりであり、軍人による各種犯罪の増加などの急激なモラルハザードも引き起こしていた事、更には増加し続けて歯止めが掛からない薬物治療に関わる医療予算増大による国庫への負担が大問題となり、苦肉の策として禁煙を解禁する軍隊が増えた。*2

 

 

 だが精密機器を扱う事が当たり前となった昨今の軍事事情を鑑みて、煙草の煙や灰などによる機材の誤作動や故障を防ぐために分煙制度だけは残され、喫煙室は新規建設された軍施設にも常設されている。

 

 

 そんな喫煙室で一人、()()()()()()()()()紫煙を燻らせているヒトがいた。

 

 咥えていた葉巻を指に挟み、反対の手には最近何かと世話を焼いて面倒を見ていた駆逐隊の娘達からプレゼントされたジッポライターを弄びながら、立ち上る紫煙をぼうっと見詰めていた。

 

 

 普段ならば人目に付かない軍港の隅で偶に喫煙しているのだが、ここ最近は降り続く雨の影響で外での喫煙が出来ずにいた。

 

 

 再び葉巻を咥えようとした時、部屋の扉がノックされて一人の艦娘が入ってきた。

 

 

 こんな夜更けに珍しいねぇ?と視線を向けると、その姿に喫煙者、霧野(キリシマ)は目を見開いた。

 

 

今晩は(Good evening)キリノ特務大佐(Special duty colonelキリノ)

 

 

「ねえさ…、金剛さん!?」

 

 

 土方の秘書艦、高速戦艦艦娘の金剛だった。

 

 

 立場的に金剛は自身の上官にあたるので、*3慌てて立ち上がったが、手でそのままと制された為にソファーに座り直した。

 

 

「ここ失礼するネー」

 

 

 そう一言断ってから対面に座ると懐から煙管を取り出したのだが、それを見た霧野(キリシマ)は少し意外だという顔をしてしまった。

 

 

 工作艦の艦娘である明石が取り仕切る売店には様々な日用品を取り扱っており、その中には艦娘個人が個別に注文を掛けて、それぞれの好みの嗜好品であったり日用品を取り寄せて貰ったりしている。

 

 今自身が燻らせている葉巻もそういった物の一つなのだが、以前に売店を訪れた際にたまたま『煙管用』と書かれた刻み煙草を見付けたのだ。

 

 その時はもの好きがいるもんだねぇ。と思った程度で気にもとめなかったが、まさかそれが今目の前にいる金剛だとは思わなかった。

 

 それに、こう言っては何だが、普段何かに付けて紅茶を嗜むものだから、煙草を嗜むというイメージが全く想像できず、煙草から最も縁遠い存在だと思いこんでいた。

 

 だが手慣れた手付きで細切の刻み煙草を丸めて火皿に詰めていくその手際から、相当扱い慣れているという事が見て取れた。

 

 

 思わずジッと見詰めていると、金剛が「いろいろとアリマシタからネ」と苦笑混じりに告げ、火を貰えますカ?と尋ねて来たので、慌ててジッポライターを差し出したのだが、そこでしまったと気付いた。

 

 確かオイルライターだと刻み煙草独特の風味がオイルの臭いで損なわれてしまうと聞いたことがある。

 

 しかしどうやら金剛はその辺りのことは気にしない様で、固まってしまった霧野(キリシマ)に礼を言いながら、その手からライターを受け取ると、手慣れた手付きで煙草に火を点け、旨そうにその煙を口に含んで楽しんでいた。

 

 

 それを見て霧野(キリシマ)も葉巻を口に運び、一息吸うと上を向いてその煙を吐き出したのだが、なんとなく気まずい気分だった。

 

 

 別に金剛のことが嫌いだとかそういう訳では無い。ただ、()()()()()…。

 

 

 ふと、貸したジッポライターが返されていないことに気付いて視線を金剛に戻したのだが、その金剛は手に持つ霧野(キリシマ)のジッポライターをまじまじと見詰めながら「良いライターデスネ」と言ってきたので、軽く礼を述べようとしたが、直後の「これを選択(choice)した娘達の貴女に対する信頼(trust)の気持ちが伝わってキマス」という言葉に、霧野(キリシマ)は言葉が詰まってしまう。

 

 

 私は別に信頼を得るような働きはしていない。

 

 

 精々相談に乗ったり多少のアドバイスをする程度で、あまり進んで関わろうという気持ちは、無かった。

 

 

 あまり深く関わりすぎると、かつてのアンドロメダ(教え子)の様に、失ってしまった時の損失感を再び味わうのが、正直なところ怖かった。

 

 

 そして何よりも───「()()()()()()()

 

 

 不意に投げ掛けられた金剛のその言葉に、霧野(キリシマ)は思わずビクッと肩を震わせてしまう。

 

 

 その反応を見て、金剛は確信を得てしまったのだろう。「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」と問われた事で、霧野(キリシマ)は手を(ひたい)に当てて、対面に座る金剛(最愛のあのヒトと瓜二つなヒト)からの視線を遮るかの様に俯く。

 

 

 嗚呼、やはり見透かされていたか…。

 

 

 薄々と感じてはいたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだね…。

 

 第一次火星沖海戦で沈んだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 この世界で建造され顕現した時(に来た時)、目の前にいた彼女に、思わず懐かしいあの頃を思い出してしまっていた。

 

 だが同時に、このヒトはあのヒトと違うのだと、直感的に感じた。

 

 理由は分からない。だが、理屈とかそういうのとは関係無く、分かるのだ。分かってしまったのだ。

 

 だけど、余りにも似すぎていた。しかし、決定的に違う。

 

 そしてその確証は、困惑した表情を浮かべた瓜二つの顔から紡がれた言葉が決定打となった。

 

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 

 分かっていた。分かっていたさ。だがその顔、その声で紡がれてしまった言葉に、世界が暗転したかのような錯覚に囚われた。

 

 

 その後の事は記憶からスッポリと抜け落ちてしまっている。

 

 

 あの時横には土方のオジキもいたらしいが、全く気が付かなかった。

 

 あの時何が起きたのかを後日問い質したが、辛そうな顔をするだけで何も答えてはくれなかった。

 

 

 ただそれから暫くはマトモに口が()けない有り様だったのは確かの様だ。

 

 

 何故ならば───

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

───彼女達を見て、平然としていられる程、霧野(キリシマ)の神経は図太くなかった。

 

 

 

 

 …この時ばかりは沖田さんと、あの時二つ返事で引き受けてしまった自分の迂闊さを呪ってしまったもんさ。

 

 

 ふとした時に覗かせる彼女達の仕草に、どうしようもない郷愁の念に刈られてしまう。

 

 

 だからこそ、彼女達と積極的に関わることを避けていた。

 

 

 だけど、どうしても、彼女達を見ていると、口を出したくなってしまったのだ。

 

 

 しかし、それがまた心を締め付ける。

 

 

 その相反する矛盾から目を逸らすかのように、葉巻に手を出した。

 

 

 自身の内面を振り返り、思わず自嘲してしまう。

 

 

「キリノサン、いえキリシマサン」

 

 

 名を呼ばれたことで、徐に顔を上げた。

 

 

「私は、貴女のお姉さんの様にはなれマセンが、話を聞く事くらいならば、デキマス」

 

「無理にとは言いマセン。ですが、ここでお互いに居る時くらい、貴女の気持ちを私に曝け出してみてはどうデスカ?」

 

「貴女の待ちビト、アンドーサンと出会う前に貴女が潰れていては、アンドーサンが可哀想デス」

 

 

 

 この時は答えることなく、葉巻の火を消して黙って()()()()、足早に逃げるようにして退室してしまった。

 

 

 金剛は、それを止めることはしなかった。

 

 

 

 

 

 だがそれから暫くして、2人が喫煙室で居るところが度々目撃されるようになり、何処となく艦娘との付き合いによそよそしい態度が多かったキリシマ(霧野特務大佐)が、徐々にだが打ち解けるようになったと言われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、これは全くの余談だが、艦娘の間に出回っている煙草は全て人間達の間で流通している物と全く同じである。

 

 

 艦娘も深海棲艦と同様に化学兵器並びに薬物等に対する耐性が非常に高い事が確認されている。

 

 

 そのため艦娘が使用する医薬品は全て妖精達が生成している特殊且つ特別な代物である。

 

 

 このことから、艦娘の喫煙によるリラックス効果は所謂プラシーボ効果、思い込みの(たぐい)ではないかとされている。

 

*1
但し民間の保守系、中立的な立場の調査会社によると、43%から51%と言われている。これは当時の政権が南部国境問題をひた隠しにし、中南米からの不法移民だけでなく大量の薬物が流入していた問題を握り潰していた事と無関係では無いだろうと言われている。

*2
しかし問題解決にはならなかった。

*3
所属する場所によって多少の違いはあるが、小松島鎮守府において秘書艦は大佐相当と、霧野(キリシマ)とほぼ同格なのだが、金剛の方が先任であり、尚且つ役職は秘書艦の方が上位となる。




 …可怪しい。予定ではキリシマ先生だけのはずが何故か金剛さんまで喫煙してる。しかも何故に煙管?どうしてこうなった!?

 キリシマ先生に葉巻をチョイスした理由は、プロット段階でのキリシマ先生の性格原案にシーマ中佐案とパブロヴナ大尉ことバラライカの姐御の案があった為です。
 因みに、回想時での初登場時に、アンドロメダに語りながら煙草に火を点けるというシーンを、一度真剣に考えていましたが、設定に矛盾が生じた為に、当時は取り止めました。その時の下書きではアンドロメダが火を点ける感じでした。



 銘柄は知識が無いので全く決めていません。皆様のご想像にお任せ致します。


 死んでいった親しいヒト達、愛したヒトと全く瓜二つなヒト達が居て、そのヒト達と共に生活しなければならなくなったとすれば、ヒトは平静でいられるだろうか…?私は耐える自身が全く無い…。キリシマ先生、本当にすまない…。



 まず需要が無いであろう愚痴コーナー!(微妙に今回のネタとの絡みあり)


 祝。アメリカ不法移民逮捕者が8月時点で200万人突破!前年を上回るペース(確か去年の9月末でギリ200万)で過去の記録を塗り替えてもおかしくなし!(てかなんで8月分の発表が9月後半までズレ込むかなぁ?こりゃ9月分の発表もズレ込むだろうなぁ。選挙近いからねぇ。)
 なお国境で逮捕されなかったけどセンサー等で捉えた人間らしき反応を含めたおおよその数、カナダに観光名目で入国した後、北部国境から不法入国してきている不法移民等のその他を含めると推定300万は超えるだろうとのこと。
 アイルランドの人口が凡そ250万人であり、ほぼ一国の総人口に匹敵する人間がこの一年で不法にアメリカに流入。まさに民族の大移動。
 また南部国境からの違法薬物、違法銃火器の流入は過去最悪を更新。なお、現政権による銃規制はこの違法銃火器に関して一切規制を設けていないどころか、寧ろ国内正規銃火器のみ規制した影響で流通を後押ししてしまっているとの指摘あり。

 今回ネタの一部として上記の今現在の“現実”を使ったけど、アメリカ大丈夫かよオイ…。大統領がジジイになってからアメリカがどんどんヤバくなってんだが…。

 “理想”騙る(誤字に非ず)のは勝手だけどさ、“現実”見ようよ。こんなんだから左派は頭がイカれた阿呆しかいないと言われんだよ。それを支持する民衆も民衆だが、山本五十六長官が友人の堀悌吉氏に宛てた手紙で書かれたという『衆愚』の説得力がまた高まったなぁ。



 因みに、この一つ前の閑話7におけるアポロノームによる弔辞の元ネタはマクロス・フロンティアでのワイルダー艦長による戦死したギリアム大尉への弔辞の言葉が元ネタでした。
 

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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閑話9 波動砲艦隊直掩型護衛駆逐艦海風(ウミカゼ)がt「春雨(ハルサメ)型です!!」あ、はい。

 改Метель級護衛駆逐艦、もしくは海風型、あるいは春雨型と呼ばれる波動砲艦隊直掩の宇宙護衛駆逐艦。その2番艦。


 ヤマト2202は不遇な扱いを受ける艦が敵味方ともに多過ぎる。そんな中でも思い入れのある本作でМетель級と名付けた護衛艦を出したくなりました。
 但し独自解釈と設定の改造艦なのは御容赦下さいませ。

 ついでに統制波動砲戦の難点を個人的解釈マシマシでぶっ込みました。


 

 波動砲艦隊。

 

 

 

 その言葉を聞いて、真っ先に思い浮かぶのは前衛武装宇宙艦アンドロメダ(クラス)に率いられた多数のDクラス前衛武装航宙艦、所謂ドレッドノート(クラス)戦艦で編成された大艦隊だと思います。

 

 

 もちろん、それは一概に間違いではありません。

 

 

 かの土星決戦では、そのドレッドノート(クラス)とガトランティス軍のカラクルム級戦艦が正面から撃ち合う映像が報道などでよく目にしたでしょうから。

 

 そのためか、あの戦いでの地球艦隊はアンドロメダ(クラス)とドレッドノート(クラス)という2つの艦種でのみ艦隊が編成されていたと勘違いされる方もいるかもしれません。

 

 

 

 ですが、それは大きな間違いです。

 

 

 

 確かに波動砲は強力な武器です。

 

 

 

 しかし、波動砲の発射までには大きな『隙』がどうしても生じてしまいます。

 

 

 

 射線の確保、エネルギーのチャージ、最終的な目標への照準固定を行なって初めて発射となるのですが、主砲と比べますとその一つ一つの行程に要する時間がかなり長いのです。

 

 

 また主砲と違って(ふね)そのものを砲身と見立てて、微修正の為に(ふね)を小刻みに動かしての照準となるため、その誤差修正にはかなりの神経と集中力を使う繊細な作業となります。

 

 

 拡散波動砲は広範囲殲滅兵器だから、多少の誤差は問題ない?

 

 バカなことを言ってはいけません。

 

 いくら拡散波動砲とはいえ、分裂した波動エネルギーの散弾が最も効率良く効果を発揮しなければ、相手の残存戦力に反撃のチャンスを与えてしまいます。

 

 1°にも満たないほんの極僅かな角度ズレが、着弾点では大きなズレとなってしまいます。

 

 

 また発射の前後は、波動砲に艦内エネルギーの大半が消費されるという問題から、波動防壁の展開も出来なくなります。

 

 このタイミングを狙われますと、如何に地球軍最新にして最強格のアンドロメダ(クラス)といえども、非常に危険な状況へと陥ってしまいます。

 

 

 事実、友邦国ガミラスから地球防衛の増援戦力として派遣されて参りましたフォムト・バーガー少佐が率いる艦隊との合同演習におきまして、波動砲艦隊は完膚無きまでに叩きのめされてしまいました。

 

 

 ガミラス軍最強との誉れを持っていました、今は亡きエルク・ドメル閣下の艦隊にて切り込み隊長を任されておりましたバーガー少佐による艦隊機動は、新生地球艦隊を遥かに上回る激しさ、鋭さ、そして緻密さと繊細さを兼ね備えておられました。

 

 特にどのタイミングで仕掛けたら最も効果的に大きな打撃を相手に与えることが出来るか?という“機”を窺うセンスの高さと、どこが狙いどころであるかを見極める“目”の鋭さには脱帽するしかありませんでした。

 

 

 ですが、その中で何よりも地球軍首脳部の頭を抱えさせましたのが、地球軍必殺の波動砲戦時が最も損害が大きかったことです。

 

 艦隊が波動砲戦隊形、所謂マルチ隊形を組んだタイミングを見計らって、バーガー少佐直率の小艦隊に殴り込まれて一方的に蹴散らされてしまいました。

 

 

 バーガー少佐曰く、「最もカモなタイミングだったぜ」とのことです。

 

 

 マルチ隊形へと移行しますと、主力である戦艦は密集した横隊隊形となり、波動砲へと全エネルギーを集中することになりますから、先に述べました通り波動防壁は展開出来無くなり、一切の迎撃行動が出来なくなります。

 

 無論、ミサイルや砲弾といった実兵装弾系統であれば別ですが、密集した隊列が足枷となりまして射角が制限されたり、そもそも隊列中央の(ふね)にはその射角すらありません。

 

 そして隊列外縁部の(ふね)が撃破されますと、次から次へと撃破されて行くという、地球艦隊にとって悪夢のような、阿鼻叫喚の地獄絵図でした。

 

 

「これが実戦ならもっとヤバかったぜ?密集してるから撃破艦の飛び散った破片やら何やらをモロに食らうし、何よりも爆散した艦の爆炎が近くの僚艦を焼いちまうからな…」

 

 

 そう語るバーガー少佐の顔は、何かを懐かしむかのような、どこか寂しそうな表情であったそうです。

 

 

 バーガー少佐としては暗に、リスクの大きいマルチ隊形を見直すべきなのではないか?と仰りたかったのでしょう。

 

 

 

 しかし地球軍は別のアプローチによる解決に乗り出しました。

 

 

 

 直掩護衛艦隊の見直しです。

 

 

 

 この時の波動砲艦隊には、改金剛型などに代表されます旧世代型艦の改型艦が護衛の任を務めていましたが、当初より性能不足が指摘されていました。

 

 主に主砲は砲身が存在しないことによる仰俯角の射界問題に即応能力不足、対空兵装の不足などが上げられますが、何よりも機関の瞬間的な瞬発力が不足しており、必要なポイントへの迅速な展開を行なう戦術機動能力に問題を抱えていました。

 

 機動力で言えば改磯風型がありましたが、今度は火力が足りなさすぎました。

 

 

 そこで注目されましたのが、当時就役仕立ての新鋭艦Метель級護衛艦です。

 

 

 元々は船団護衛や通商防衛を担う小型艦でしたが、その能力は十分艦隊の直援任務に耐えられると判断されました。

 

 

 ですがこれに対して用兵側から、「主砲である3インチ、7.6センチ連装砲の速射能力は素晴らしいが、射程、特に高速で接近してくるククルカン級襲撃型駆逐艦やラスコー級突撃型巡洋艦に対しての阻止火力に大きな不安がある」との意見が出てきました。

 

 

 その為、波動砲艦の増産によるリソース配分の問題から建造がキャンセルされていました、磯風型の後継である新型駆逐艦用として既に製造されていました4インチ、10センチ連装砲に換装しました準同型艦を建造することとなりました。

 

 ですが、今度は機関出力が不足するという問題が浮上し、急遽Метель級の設計をベースとして、これまた新型駆逐艦用として製造されていました、より高出力の波動エンジンを搭載するため艦体を延長した準同型艦というよりは事実上の新造艦を建造することとなりました。

 

 

 何故新型駆逐艦の建造再開を選択しなかったのか?という疑問に思われるかもしれませんが、これはガトランティスが大量投入してくるカラクルム級戦艦に対して新型駆逐艦の火力では対応不能であると、判断されたからです。

 

 対してМетель級護衛艦には小口径ながらも分類上は波動砲兵装にカテゴライズされております、波動噴霧砲が艦首に装備されていました。

 

 原理としましては、通常の波動砲の様な波動エネルギーのみを使用するのでは無く、ショックカノンの陽電子ビームを核としまして、その外側に波動エネルギーを纏わせてコーティングし、射程と威力、貫徹力を増大させた、謂わば簡易波動砲と呼べる兵器でした。

 

 流石に通常の波動砲と比べますと大きく見劣り致しますが、それでも戦艦クラスの主砲を遥かに上回る性能を有しており、一撃で十分にカラクルム級を撃破可能でした。

 

 

 当初護衛艦には波動噴霧砲では無く、旧型の金剛型や村雨型と同じ様な艦首固定式ショックカノンの装備が予定されていましたが、地球軍はガトランティスが通商破壊にカラクルム級を投入してくる可能性を大いに恐れていました。

 

 

 故に開発されましたのが、波動砲とショックカノンの折衷案とも言える波動噴霧砲です。

 

 

 これの搭載の有無が明暗を分けました。

 

 

 しかし、元々小型の艦体に似合わずこれでもかと重武装を施した(ふね)でしたから、拡張性に問題があり、いくら艦体を延長するとはいえ、それだけでバランスなどの問題無く運用出来るかを確かめるべく、建造途中で艦体の組み立て直前でしたМетель級最新ロットの1隻を、試験運用の為のテストベッド艦として建造することとなりました。

 

 

 それに選ばれましたのが、私の最愛の姉、『ハルサメ』でした。

 

 

 ハルサメ姉さんによる試験運用の結果は概ね良好で、機関出力の増大に伴いエネルギー問題は解決され、機動性能も良好。

 

 更には波動噴霧砲の射程延伸と速射能力の向上いう副次効果も得られました。

 

 

 この結果に大いに満足しました軍は、早速正式建造を承認致しました。

 

 その先行量産型の第1ロットとして9隻が同時に起工。

 

 

 完成と同時にハルサメ姉さんを含めた10隻で、第1直掩護衛隊群として編成されることが内定していました。

 

 

 

 私こと海風(ウミカゼ)はその中で最も速く竣工し、春雨(ハルサメ)宇宙護衛駆逐艦の2番艦として就役致しました。

 

 

 

 戦時下ということもあり、事務処理に混乱が生じて書類によりましたら海風(ウミカゼ)型と記載されている物も有るかもしれませんが、それは明らかな間違いです!!

 

 確かに私はハルサメ姉さんのフィードバックから将来のアップデートを見据えて、艦体が少し、そう、ほんの少しだけ延長され、極僅かに性能に差が見られますが、そんなものは誤差でしかありません!!

 

 私は、誰が、なんと言おうとも、由緒正しき春雨(ハルサメ)型の2番艦!誰よりも凛々しくて、誰よりも優しい愛する私のハルサメ姉さんの妹です!!例え連邦大統領であろうとも、その事実は変えられません!!

 

 この私が言うのだから間違いありませんっ!!

 

 それに、姉さんはオーバーホールの際に艦体を延長することが決定していました。

 

 長さが違うから別の艦種だ。などという戯言は言わせません!

 

 …姉さんだって、陰で気にしていたんですよ。普段の優しくて暖か味のある笑顔の裏で、「私は、みんなと違う…。私は、みんなの足を引っ張る駄目な()なんだ…」って、一人で泣いていました。

 

 

 姉さんは、誰よりも努力家でした…。

 

 私達の足を引っ張らないようにと、いつも血の滲む研鑽を続けていらっしゃいました…。

 

 

 正直、見ていて辛かったです…。鬼気迫る表情で自身を追い詰めていくそのお姿に、私は胸が締め付けられる感覚を覚えました…。

 

 

 そんなハルサメ姉さんに、私はいつしか心惹かれ、決心致しました。

 

 

 私が姉さんを支えるんだ!私が姉さんを守るんだ!

 

 

────────
 

 

 

「初めまして。ウミカゼさん」

 

 

「え?あっ!えぇっ!?そ、総旗艦!?」

 

 

「はい。貴女達の隊とは今回が初めてですので、ご挨拶に参りました」

 

 

「あ、わざわざありがとうございます!え、え~と、ねえさ、第1直掩護衛隊群旗艦のハルサメは機関不調の僚艦ヤマカゼと共にオーバーホールの為、現在戦列から離れております!」

 

 

「はい。伺っております。そのため今は妹の貴女が代理旗艦を務めているとも」

 

 

「は、はい!身に余る光栄です!」

 

 

「ふふっ。そう気負わなくても大丈夫ですよウミカゼさん。アルデバランから貴女の事は良く聞いていました。とてもお姉さん思いで、常にお姉さんを陰に日向に良く支える正に縁の下の力持ちと言える、わたくしも見習うべき素晴らしい親友だと、嬉しそうに貴女のことを誇らしく語っていましたよ」

 

 

「あ、ありがとうございます!アルデバランさんからも、総旗艦のことはお聞きしておりました。わたくしの姉上もハルサメに負けず劣らずの素晴らしい姉です。と、いつも仰られておりました」

 

 

「ふふっ、アルデバランらしいですね。アルデバランはハルサメさんもとても素晴らしい良く出来た娘だと、いつも褒めていました。いつか私もハルサメさんと会ってみたいものです。その時は、ご紹介してくださいますか?」

 

 

「はい!その時は是非!!ハルサメ姉さんも喜びます!」

 

 

────────

 

 

 あの時は本当に驚きました。

 

 

 これから一大決戦へと赴くという緊張と恐怖、そして何よりも、何時如何なる時も常に一緒で、お互いを励まし合っていました心強いハルサメ姉さんが隣に居ないことへの不安から、私は怖くて震えていました。

 

 そこへ突然、地球艦隊の総旗艦であらせられますアンドロメダさんが現われたのですから。

 

 

 一時期訓練でお世話になっておりましたアルデバランさんから聞いておりましたが、本当に笑顔が美しくて優しい雰囲気のお方でした。

 

 それに、なんとなく、総旗艦の纏う雰囲気が何処と無くハルサメ姉さんと似ている感じが致しました。 

 

 

 アンドロメダさんが去られた後に気付いたのですが、体の震えが治まっていました。

 

 

 本当に、あの方は不思議なお方です。少しお話しただけで、心が安らいだのですから。

 

 

 アンドロメダさんならきっと、いえ、間違いなくハルサメ姉さんとも仲良くなれる。そんな気が致しました。

 

 

 ですから、お二人を引き合わせる為にもこの戦い、何が何でも敗けるわけにはいきませんっ!

 

 

 

 …その時はそう決意に燃え上がっていました。

 

 

───────

 

 

 土星。

 

 

 私達ハルサメ姉妹で編成されました第1直掩護衛隊群の初陣の地。

 

 

 

 ハルサメ姉さんと妹のヤマカゼを欠いた、私達第1直掩護衛隊の8隻は、艦隊戦に直接加わること無く、総旗艦とその妹の方々の周辺で警戒態勢を維持していました。

 

 また私達以外の直掩護衛隊群も、各々担当の艦隊周辺で警戒の任に就いていました。

 

 

 

 序盤の艦隊戦は地球艦隊の優位に進み、護衛隊群は戦闘よりも被弾しました友軍艦の救援に走り回る事に終始していました。

 

 

 

 しかし、遂に()()()がやって来ました。

 

 

 

 土星宙域へとワープして来た、ガトランティスの本隊である白色彗星。

 

 

 地球艦隊は直ちに統制波動砲戦による総攻撃を行うべく、全艦隊をマルチ隊形へとシフトを開始。

 

 

 ここからが、私達護衛隊群の本番です!総旗艦達へは、指一本たりとも触れさせません!

 

 

 この時直掩護衛艦としての真価を遺憾無く発揮致しました。

 

 

 群がる敵艦を、波動噴霧砲によって敵艦の射程外から一方的に狙い撃ちし、次々と撃破致しました。

 

 

 常に2隻1組(ツーマンセル)による目標に対しての三角測定状態を維持し、交互射撃による弾幕を形成する。

 

 

 本来ならば命中率の上がる斉射が推奨されますが、ハルサメ姉さんの指導の下、共に研鑽を積み上げた私達は全護衛隊群の中でも最高の命中精度を誇っていました。

 

 ですから交互射撃でも次々と命中させる事が出来るという芸当が可能でした。

 

 

 

 戦いそのものは、地球軍の惨敗に終わり、幾つもの護衛隊群が彗星へと呑み込まれ壊滅しましたが、私達はなんとか1隻も欠けることなく、無事に安全圏まで離脱出来ました。

 

 ハルサメ姉さんとの研鑽が無ければ、私達も危なかったかもしれないと、後になって冷や汗が止まらず、恐怖で震えました。

 

 ハルサメ姉さんには感謝の気持ちしかありません。姉さんのお陰で、私達はみんな無事だったのですから。

 

 

 

 …ですが、あの戦いで、総旗艦のお心が、壊れてしまったということに、私はショックを隠すことが出来ませんでした。

 

 そして私の中で、ある恐怖が湧き上がってまいりました。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

 

 優しくて暖かい、何処と無く2人は雰囲気が似ていると思ったからこそ、それが杞憂で済む心配とは、到底思えませんでした。

 

 

 私は、いえ私達は絶対に姉さんを悲しませたりはしない!悲しませるようなことがあってはなりません!

 

 そうみんなと誓い合いました。

 

 

 

───────

 

 

「私は、ウミカゼやみんなが想ってくれる様な、立派なお姉ちゃんじゃあ無いよ…。私が不甲斐無いばかりに、みんなの期待を裏切って…、最期は、ウミカゼを守りたかったのに、結局は巻き込んで沈んじゃったんだから…。私は、本当にどうしようもないくらいに…、酷いお姉ちゃんだよ…」

 

 

 『ハルサメ』、『ヤマカゼ』とも合流して火星戦線にて展開していた第1直掩護衛隊群10隻は、臨時旗艦『アルデバラン』の艦長、谷鋼三一等宙佐の命令により、火星戦線に展開する艦隊から抽出された戦力と共に急遽最終血戦(たけなわ)の地球へと駆け付けた。

 

 だが、次第に敵味方入り乱れる至近距離での殴り合いの大乱戦となって、艦隊は大混乱の末に部隊単位でバラバラとなり、彼女達護衛隊群はその混乱の最中で有力な敵戦力に包囲され、敵中で完全に孤立するという絶望的な状況に陥った。

 

 

 そんな絶望的な状況でも、最後まで希望を捨てずに敵の虎口から脱すべく敵中突破を図ったが、結果は衆寡敵せず、全艦戦没し全滅。 

 

 しかも乱戦の混乱からその事実が判明したのが、戦闘終了後も音信不通で未帰還の為に行方不明扱いとなり、戦後暫く経ってからの戦場跡の調査で、夥しい数の破壊された敵艦の残骸が漂う宙域の中で、第1直掩護衛隊群の物と思われる(ふね)の残骸が漂っているのが確認され、回収された航海ログが記録されたブラックボックスが解析されてからというもので、味方の誰にも看取られずに散華していたという悲惨なものだった。

 

 

 そんな中でハルサメとウミカゼの最期はなんとも切ないものだった。

 

 

 大破し沈没間際だった『ハルサメ』が、最期の力を振り絞って『ウミカゼ』に迫るガトランティスの特攻兵器『イーター』との間に割って入って庇い、艦体の至るところを串刺しにされて、爆沈───。

 

 

 ハルサメは消え行く意識の中、自身の艦体から出た爆炎で『ウミカゼ』の艦体が傷付くのが見え、直後に『ウミカゼ』から火の手が上がるのが見えたのを最後に、絶望の中で景色が暗転した。

 

 

 

 だがそれは『ハルサメ』爆沈による爆発が原因では無かった。

 

 爆発した『ハルサメ』の艦体と爆煙を隠れ蓑に、更なる『イーター』が『ウミカゼ』を襲い、被弾し炎上したのが真相だった。

 

 その後、『ハルサメ』の後を追うかのように、『ウミカゼ』も爆沈。

 

 

 それを皮切りに、他の姉妹達も次々と沈んでいった────。

 

 

 

 

 再び景色が変わり、ハルサメとウミカゼはどこだか分からない、見知らぬ建物(?)の中で目を覚ました。

 

 最初はお互いが居ることに気が付かなかったが、なんとなくお互いが直ぐそこに居るんだと、何故だか()()出来た。

 

 

 だが2人は再開を喜び合う暇無く、思わぬ出会いを果たす。

 

 

 外洋防衛師団司令、現在は宇宙戦艦『ヤマト』の艦長を拝命されていたはずの土方竜宙将。

 

 

 そして、かつての連合宇宙艦隊旗艦、金剛型宇宙戦艦『キリシマ』の魂であるキリシマ。 

 

 

 この時の顛末は割愛するが、兎も角ハルサメとウミカゼの2人は現状を理解し、改めて再開を喜び合った。

 

 

 だがその時に、ハルサメの口から先の言葉が漏れだした。

 

 

 守りたかった。沈みゆく(死にゆく)最期の瞬間であろうとも、護衛艦としての本分を貫いて、最期の意地でせめてウミカゼに迫っていた危機からウミカゼを守り抜きたかった。いつもこんな不甲斐無い自分を何かと気にかけて、慕ってくれて、大切に思ってくれていた、大切な、大好きな妹を、なのに───!!

 

 

 ハルサメの瞳から悔恨と、何よりも一番大切に思っていた妹を巻き込んで沈んで(死んで)しまったという思い込みから来る自己嫌悪から、滂沱の涙が溢れ出してしまった。

 

 

 そんな姉を見て、ウミカゼは平静でいられ無かった。

 

 

 このヒトは、ハルサメ姉さんは、誰よりも優しいおヒト、いや、優し過ぎる。

 

 だから、抱え込もうとしてしまう。

 

 抱え込んで、自らを傷付けてしまう。

 

 

 やめて…。やめて下さい姉さん!自らを傷付けるのは、間違っています!!

 

 

 あの時、姉さんが沈んで、頭が真っ白になってしまいましたが、それでも、あれは姉さんのせいでは無いと、断言出来ます!

 

 ですから、どうか、ご自身責めて自らを傷付けないで下さい!!

 

 

「謝らないで下さいハルサメ姉さん!寧ろ私があの時もっとしっかりしていれば、姉さんが沈むことはありませんでした!!」

 

 

 お互い水掛け論になりそうになり、そこへ今まで傍観に徹していた土方が割って入ろうとしたが、隣に控えていたキリシマがそれを止め、私に任せて欲しいと目で訴えかけた事で、土方は引き下がった。

 

 

「お互い、自分を責め合ったところで、過去が変わるわけ、じゃあ無いんだよ」

 

 

 割り切れとは言わないけど、2人同時にこうして新たに生を受け、再開出来たんだ。これは奇跡というものさね。だから、その奇跡を噛み締め、感謝しながら、前を向いて進みな。と、叱責混じりの激励の言葉を2人に投げ掛けた。

 

 

 そのキリシマの言葉には、様々なものを見てきたが故に出せる、独特の“重み”があった。

 

 

 そしてそのキリシマの言葉を受けたことで、ハルサメは先程とは違う涙を流し、ウミカゼはその心に決意の火が灯った。

 

 

 

 姉さん、ハルサメ姉さん。ウミカゼは今度こそ姉さんを、愛する姉さんを完璧にお守り致します!

 

 もう二度と、姉さんを悲しませる様な事は、このウミカゼが起こさせません!!

 

 

 それにあのヒト、アンドロメダさんとの約束のためにも、私はより一層の精進を致します!

 

 ですから、もっと私を頼って下さい。私が姉さんを慕うように、姉さんも私をいつでも頼って下さいね!

 

 

 姉をどこまでも慕い、どこまでも愛する2番艦は、決意を新たにそう心に誓った。

 

 





 ある方の作品で出てくる海風君の風味がどうしても出てしまう…。しかも相方が春雨という時点でモロに影響出てる…。あの方の名物、“海風劇場”は見ていて面白い。それに触発されてアルデバランでやらかしてしまいました…。


補足

 波動噴霧砲

 所謂小型波動砲。

 ある意味ショックカノンのブーストというような若干の独自解釈を盛り込みました。

 これによる長距離狙撃をハルサメ達は行なっていました。



 4インチ10センチ砲

 本当は5インチ12.7センチ砲を予定していましたが、それだと軽巡洋艦クラスのパトロール艦、本作における『フロレアル』級通報艦の主砲と同一となるために断念。間を取って4インチ10センチ砲を選択。ていうか、調べるまでパトロール艦の主砲は最低でも6インチ15センチクラスの砲だと思ってた…。

 それはそうと、なんで地球軍はヤード・ポンド法とメートル法をごちゃ混ぜにして艦を建造した!?同盟国ガミラスはメートル法なのに!馬鹿なの!?愚かなの!?(欧州棲姫感)
 因みにアンドロメダ級はヤード・ポンド法で建造したらしい…。ぜってーCCCやランダルミーテ建造の際に揉めてるよ…。
 制作陣、ホントこーゆー所テキトーだよなぁ…。



 春雨(ハルサメ)

 テストベッドのプロトタイプ艦としての意味合いが強く、後に続くウミカゼ達と比べて少し小柄で性能もやや落ちる。

 但し従来のМетель級よりも性能が優越しており、ウミカゼが就役するまでの試験運用期間中はМетель級と組んでいたのだが、その際に準同型艦であるのにも関わらず、その性能の差から、嫉妬などの僻み、妬みを乗組員共々受ける。
 その後就役したウミカゼ達と部隊を組むのだが、自身よりも優れている事で少しだけ疎外感を感じてしまい、やや自虐的になってしまう。

 しかし、そんな自分を姉と呼んで慕い、心から受け入れてくれたウミカゼやその妹達のお陰で自虐な一面は鳴りを潜め、明るく振る舞うようになる。

 なお、乗組員達は「足りないところは技量でカバーだ!」と猛訓練に突き進んだ。

 後のオーバーホールによって全長はウミカゼ達とほぼ同じとなり、同時期に機関の修理でドック入りしていた妹のヤマカゼと共に通信や索敵などの電子機器を一新。旗艦としての能力の強化が図られた。


 ハルサメの最期はそんな旗艦機能故に集中的に狙われた事が起因している。
 兵装や通信機器は破壊され、戦闘不能となったことで旗艦をウミカゼに移譲(ヤマカゼは乗組員の練度不足で指揮能力に不安があった。)した直後に、まだ機能していた、他艦よりも優れたレーダーを積んでいたからこそ発見した『イーター』群を見て、咄嗟にウミカゼを助けるべく盾となった事で爆沈。

 なお、この『イーター』群はヤマカゼのレーダーでも捉えていたが、練度不足から警報を発するのが遅れてしまった。
 このことはヤマカゼにとって深い心の傷となっている。

 この後、第1直掩護衛隊群は旗艦と次席旗艦を同時に失った事で指揮系統を損失するも、戦闘を継続。包囲部隊に大損害を与えるも全艦戦没し、全滅した。



 
いつもの(?)愚痴コーナー!!(ヤケクソ)

 リアルでサウジアラビアを始めOPECプラスが原油減産決定か…。
 なんかアメリカのジジイがそれに発狂して武器売らないとか制裁するとか息巻いてるけど、恫喝外交の内政干渉じゃないの?テルール、恐怖政治。あのジジイのヒステリックさ見てるとその本性がよく分かるぜ。あんなのが過去最高の得票を得た?無理があり過ぎるだろう。かつてビンラディンから「あいつスッゲー無能だからアメリカを内部から破壊するのにうってつけw」(意訳)って言われて、副大統領時代にテロの標的から態々外してくれていたという逸話や、アフガニスタンの実験を握ったタリバンから「おめーには用はねーんだよ。自称大統領サマw」(意訳)とけんもほろろな扱いだったらしいけど、的を得ていたな。
 て言うか、ジジイ、テメェ就任当初サウジアラビアとの武器売買契約一方的に打ち切ったクセに、何寝言言ってんだよ。サウジアラビアって中東におけるアメリカの重要な同盟国なんだろう?
 そんな同盟国すらこんな扱いって…。いやまあ、民主党政権は大概滅茶苦茶な対外政策やらかしてたけどさぁ。これは流石にヤバいだろ。台湾も日本も、最悪を想定する覚悟を決めなきゃならん時か…。
「常に最悪の事態に備えて行動する」芹沢虎鉄

 てかこれ、本編での第三次大戦のアメリカ中東派兵の口実ネタとして考えてたんだけど、まさかリアルで起きちゃう?

 勘弁してくれ…。

 …調べてたらあのジジイ、過去にサウジアラビアをならず者国家呼ばわりして罵倒しとったわ。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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閑話10−1 父と母、そして…

 12月8日、この日は沖田十三艦長の誕生日であり命日、そして宇宙戦艦ヤマトが往復33万6千光年というイスカンダルからの旅路から地球へと帰還を果たした日。


 本作を投稿すると決意した時から、この特別な日に何か投稿しようと決めていましたが、なかなか決まらず、兎も角思いついた事を気儘に執筆。(ある意味でいつも通り)

 ましかし、この2人と我らが将軍(花束用意しなきゃ!)も出したかったという思いも有りましたから、それが達成出来て感無量です。…アンドロメダが知ったら羨ましがりそうですが。

 時間軸的には2人がアンドロメダの前に現れる直前辺りになります。つか高次元世界の設定、時間の流れを超越しているというのは意外と使いやすくて便利な一面がある。


 

 

 

「まさか貴方とこうしてお話出来る日が来るとは、思っていませんでした」

 

 

「それは私も同じ思いです」

 

 

 

 高次元世界と呼ばれる世界を漂う1隻の宇宙戦艦、その艦橋の最上部に設けられた艦長室の中で1人の立派な白鬚を湛えた老軍人と、金のメッシュが入った長髪ポニーテールでスラリとした長身の女性が出会っていた。

 

 

「沖田、さん…!」

 

 

 長髪長身の女性が、抑えきれなくなったのか、その美しい容貌に大粒の涙を流しながら、目の前で微笑みを浮かべて佇む老軍人、沖田十三へと抱き着いた。

 

 

「ヤマトさん、貴女にはいつも辛い思いを強いて来ました」

 

 

「いえ…!いえ!そんなことはありません!!私こそ、沖田さん、貴方を地球へと無事にお送り出来なかったばかりに、ご親友である土方さんと交わされました、誓いを、私のせいで、反故にさせてしまいました!」

 

 

 沖田に抱き着いた女性、この宇宙戦艦『ヤマト』の魂であるヤマトは滂沱の涙を流しながら、その心の中でずっと澱みのようにして漂っていた悔恨の思いを、自身の艦長だった沖田へと、堰を切ったよう話す。

 

 

 それを沖田は何も言わず、ただただヤマトの頭を撫でながら黙って聞いてあげていた。

 

 

 一頻り泣き腫らし、自身の思いの丈を語ったヤマトは、子供の様に泣き出してしまった自身の行ないに羞恥の感情が湧き出て、顔を紅く染めながら抱き着いていた沖田から離れた。

 

 羞恥心から身悶えていると沖田から蒸らしたタオルを渡され、涙と鼻水で濡れた顔を拭う。

 

 

 そうしてサッパリとしていると、その間に沖田は生前に教え子でもある古代進にも振る舞ったことのある紅茶を用意していた。

 

 

 積もる話もあるのだが、何から話すべきかお互いに迷ってしまい、その後暫くは互いに一言も言葉を発することなく、紅茶を啜る音や茶器の擦れる音が艦長室に響き渡る。

 

 

 

「「アンドロメダ」」

 

 

 

 何を話そうかを決めて口にしたのだが、どうやら思いついたものは一緒だったようで、思わず互いに笑い声を上げた。

 

 

 思わぬ出会いと短いながらも楽しく、充実していた、今は懐かしく、もはやどんなに願っても戻ることの無い、心満たされていた温かな日々。

 

 

 そして、永遠の別れ…。

 

 

 それらを、時には楽しそうに、時には辛そうに、時には笑いながら、時には言葉を詰まらせながら、そして最後は、俯きながら語るヤマト。

 

 

 その全てに耳を傾けていた沖田は相槌を打ち、ヤマトが笑えば微笑みを浮かべ、悲しみを見せたのならばその都度慰めながら最後まで聞いていた。

 

 

 ヤマトとアンドロメダ、そしてかつての乗艦であったキリシマが過ごしていた日々の事は、沖田もこの世界から見ていた。

 

 そしてそれは、アンドロメダが心の内に抱える“痛み”にも気付くことにも繋がった。

 

 

「儂はあの娘に、重く大きな十字架を背負わせてしまっていた…」

 

 

「地球の未来のためと思って結んだ約束が、結果として貴女やアンドロメダ、古代、そして多くの者の心にいらぬ負担を強いてしまった…」

 

 地球の置かれていた現状に、少しでも考えが及んでいたら、容易に想像がついた事柄であるが、当時の沖田はその事に薄々と気付いていながらも無意識に目を逸らしてしまっていた。

 

 

 せめてその事を、今後確実に訪れるであろう地球の未来の可能性について地球へと帰っていた帰路の途中で、皆に語るべきだった。

 

 特に儂の所へと遊びに来てくれていた古代には…。

 

 

 だがそれを怠ってしまった…。

 

 

 森君の一件を免罪符にして、儂は…。

 

 

 

「土方の奴から言われたよ…、儂はもっと子供達に対して向き合い、もっといろんな事を教えるべきだったのだとな…」

 

 

「沖田さん…」

 

 

 悔やんでも悔やみきれない。

 

 

 失ってから初めて失ったモノの大切さに気付くという言葉があるが、亡くなった者も亡くなってから自身がやり残してしまったことの重大さで悔やむのである。

 

 後者は沖田、前者はヤマトである。

 

 

 叶うならばもう一度会いたい。

 

 私を愛してくれた、優しくも気高いあの娘に。

 

 だけどそれは叶わぬ願い。

 

 

 アンドロメダを目の前で失ってからこのかた、その事が頭から離れずにずっとずっと彼女の心に暗い影を落としていた。

 

 

 

 折角再会を果たしたというのに、お互い共通の話題が同時に頭に浮かんだ事によって和やかに始まったというのに、お互い思い返せば悔いの多い生涯だったと言わんばかりに悔恨の言葉しか思い浮かばない。

 

 

 重苦しい雰囲気に包まれて、気付けば互いに言葉を発しなくなっていた。

 

 

 と、ここでヤマトは“外”の状況にある変化が起きている事に気が付いた。

 

 

 灰色のカラーリングを艦体に施された、全長が『ヤマト』の2倍はあるであろう巨艦がゆっくりと接近してきており、通信で呼び掛けて来ていた。

 

 ヤマトは沖田から許可を貰うとその呼び掛けに応じた。

 

 

「お久しぶりです。沖田艦長」

 

 

 通信画面に現われたのは、かつて沖田艦長が指揮する『ヤマト』と熾烈な死闘を演じたガミラス軍最強にして随一の智将、エルク・ドメル上級大将その人である。

 

 そしてその傍らにはプライドが高くて勝ち気そうな雰囲気がする、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が立っており、ずっとヤマトへとその不敵な視線を向けていた。

 

 

「初めましてねっ!我が永遠の(宿敵)、ヤマト!」

 

 

 無い胸を精一杯張りながら元気一杯に挨拶してきた少女にヤマトは目を丸くしてしまう。

 

 

「え?あ、貴女が、えっ?まさかドメラーズさんなのですか?」

 

 

 そのライバルからの反応に少女、ガミラス軍ゼルクート級一等航宙戦闘艦の3番艦ドメラーズⅢ世は分かり易い位に頬を膨らませ、不満を露わにした。

 

 

 実はこの2人、この時が初対面だったのである。

 

 

 七色星団海戦終盤での“あの時”、ドメラーズは自身の艦体を失い、脱出艇と艦橋を兼ねた独立戦闘指揮艦にて荒れ狂うイオン乱流を振り切った際にエンジンに相当な負荷をかけてしまい、それでもドメラーズの意地で悲鳴を上げる体に鞭打って無理に無理を重ねた結果、『ヤマト』に取り付いた時にはもう殆ど瀕死の状態となっており、目も霞んで碌に見えず、さらには自身の姿を顕現出来無い位にまでなっていたのだ。

 

 

 それでも最期くらいはドメルの愛する妻、エリーサ夫人や今は亡き御子息であるヨハン君の代わりに寄り添ってあげたいと、最期の意地で自爆する瞬間にその背に寄り掛かってあげた。

 

 

 ただせめて、宿敵ヤマトの顔だけは拝みたかったな…。という心残りを残しながら、敬愛するドメルと共に光に包まれた。

 

 

 

「何よ!?私、ドメラーズⅢ世以外に閣下の乗艦に相応しい(ふね)が他にいるとでも!?」

 

 

 そう言って口を尖らせて地団駄を踏む少女、ドメラーズにヤマトは圧倒され、ワタワタとしてしまう。

 

 

 この時ヤマトがドメラーズに抱いていた感情は、率直に言って“可愛い”だった。

 

 

 ヤマトは今の今まで、ドメラーズの姿をスラリとした長身で、武人の風格を備えた凛々しい感じであると想像していた。

 

 

 それがまさかまさかの可愛らしい少女の姿だったのである。

 

 

 可愛さで言えば、初めて出会った時のアンドロメダの方が断然可憐で可愛い*1のだが、彼女からはあの時のあの娘と違った可愛らしさを醸し出していた。

 

 なんだかこう、私は大人のレディーですっ!と主張し、頑張って背伸びしているという感じがして何だかとても微笑ましくて仕方無いのだ。

 

 

 因みにだが、ドメラーズの乗組員達からも、まるで自分の子供を可愛がるかのように扱われていた。

 

 その事に不満があるわけでは無いのだが、ドメラーズは内心複雑であるという。

 

 

 その後ドメルとドメラーズの2人が『ヤマト』へと移乗してくることとなり、出迎えることとなった。

 

 

 

───────

 

 

 

 『ヤマト』へと移乗した2人は、ある違和感を覚えたのだが、艦内を案内されている最中にそれが何なのかに気が付いた。

 

 

 この(ふね)は、()()()()()()()と。

 

 

「…ヤマトは、本来ならば()()こっちに来てはいけなかったのね」

 

 

 ドメラーズは何処か悲しそうな、そして寂しそうな表情でそう呟くが、直後にヤマトが“ここ”に来てしまった原因に思い至ったのか、怒りの形相へと変わった。

 

 

「あのクソ忌々しいガトランティス(蛮族)共め…っ」

 

 

 そんなドメラーズをドメルは優しく嗜めた。

 

 

 その姿はまるで本当の親娘の様であったと、ヤマトは後に語っている。

 

 

 

───────

 

 

 場所は変わり、かつて初のガミラス人*2との会談場所となった広間へと移動してきた。

 

 

 ヤマトは客人2人に飲み物を出す給仕の役を買って出た*3のだが、ドメラーズはそれを惚けた目でずっと眺めていた。

 

 

 その後暫くは和やかな雰囲気のもと、互いの今までの身の丈話に花が咲いたのだが、双方の実子の話となると、特に沖田の実子の話となった時のドメルの顔は、とても辛そうなものだったとヤマトの脳裏に強く刻まれた。

 

 

「…お互い、英雄などと呼ばれていますが、英雄などという存在になるものではありませんね」

 

 そう沈痛な面持ちで語るドメルに、沖田もまた悲しげな表情を浮かべながらその言葉に同意した。

 

 

 その後どのような、会話がなされたのかは、ヤマトは知らない。

 

 ドメラーズが2人に気を利かせてか、「河岸(かし)を変えましょう?」と誘われて場所を変えたからだ。

 

 

───────

 

 

 『ヤマト』の展望室へと移動してきた2人は2人で色々な話題について話の花を咲かせたのだが、その際にドメラーズからマゼランパフェを強請って来られ、ヤマトは思わずクスリと微笑みを浮かべ、パフェを美味しそうに頬張るドメラーズを終始ニコニコ顔で眺めていたという。

 

 

 そしてヤマトの愛するアンドロメダについての話題となった時である。

 

 

「それにしても地球(テロン)はとんでもない()()()()を造ったモノね」

 

 

 ドメラーズから愛する我が子、アンドロメダがバケモノ呼ばわりされたことに対して激しい怒りを露わにするヤマト。

 

 

 だがドメラーズはそのヤマトから向けられた、殺気すら滲ませているその激烈な怒りを涼しい顔で受け流しながら話を続ける。

 

 

「だってそうでしょう?テロンは一体何と戦う気だったの?」

 

「あんな杜撰でいい加減な計画の艦隊じゃ、ガミラス(うち)植民惑星義勇軍(二線級)艦隊とやりあっても怪しいわね」

 

「今は大分丸くなったみたいだけど、あの艦隊を昔のバーガーが見たら鼻で嗤うレベルよ?」

 

 

 実際演習でボコスコに蹂躙してたしね。と言われて言い返せなくなるヤマト。

 

 ここで感情的な反論をしたら、それは愛するあの娘の名誉をただ傷付けるだけの愚かな行為でしかないと、理性かぎりぎりの所で怒りに荒れ狂うヤマトの心にブレーキを掛けた。

 

 

()()エルクだって、あの計画の歪さと杜撰さに顔を顰めていたわよ」

 

 

波動砲(ゲシュ=ダールバム)は確かに強力な武器よ。それは私も認めるわ。だけどね───」

 

 

 そう言ってドメラーズはヤマトの瞳を真っ直ぐに見詰める。

 

 …口の周りや鼻の上がクリームだらけだったり、何度もお代わりして目の前にパフェグラスの高層建築物群による大都市が出来上がっていた影響で、顔が半分隠れていたりという、なんとも格好の付かない台無しで勿体無い絵面となっているが。

 

 

「貴方も内心では気付いていたでしょう?中身の無い“力”は制御困難な単なる“暴力”でしかないって」

 

「どっかのモミアゲコッカゲンスイカッカみたいに力に溺れて、良からぬ幻惑に囚われ破滅する未来しか無いわね」

 

 

 言われたい放題だが、ヤマトは何も言い返せない。

 

 

 ここでドメラーズがフッと、笑みを浮かべた。

 

 

「だけどね、テロンは兎も角、貴女のムスメは決してそんなくだらない“力”に溺れる事は無いと断言してあげる!」

 

 

「この私、ドメラーズが言うのだから間違いないわ!!」

 

 

 ドメラーズは立ち上がると腰に手を当てながら力強く、そうヤマトに告げた。

 

 …その際椅子の上に立つというなんともお行儀の悪い姿だったのだが、そのことに対してツッコミを入れるなどという野暮な事は考えてはいけない。

 

 

 ヤマトは最初呆けて聞いていたが、ドメラーズの言葉の意味を噛み締めると、途端に涙が溢れて来た。

 

 

 まさか泣かれるとは思っていなかったドメラーズは狼狽えるが、ヤマトは悲しくて泣いたのではない。

 

 

 嬉しかったのだ。

 

 

 かつての敵軍、それも死闘を演じた相手からまさかこの様な言葉を贈って貰えるとは思いもよらなかった。

 

 寧ろ恨み言の一つや二つくらいは覚悟していた。

 

 だけど、そうじゃなかった。

 

 あの娘は、本当に愛されていると実感し、嬉しさのあまりつい涙が零れてしまったのだ。

 

 

「…貴女とあの沖田の子供よ。悪い娘な訳無いじゃないの」

 

 

「だけどね、貴女とこうして直接言葉を交わしたから分かったことがあるわ」

 

「あの娘、()()()()()()()()()()

 

 

 ヤマトは思わずドメラーズの顔を見る。

 

 

「互いの命を賭して戦った仲だからこそ、見えてくるものもあるわ」

 

 

「だからこそ、私達はここに来た。そうでしょう?エルク?」

 

 

 そう言って展望室の入り口に顔を向けるドメラーズに、ヤマトも釣られて顔を向けた。

 

 

 いつの間にか入り口には沖田とドメルの2人が立っており、こちらを優しく見詰めていた。

 

 

「ここの空間に関しましては、私達の方が良く把握しています。お2人をある場所までご案内致します」

 

 

 そのドメルからの言葉にドメラーズがニッと笑うと席を立ち、ヤマトを指差しながら元気よく告げた。

 

 

「さあ、付いてらっしゃい!遅れたら承知しないわよ!!」

 

 

 だが状況が読み込めていないヤマトは、そうドメラーズに発破を掛けられても、何が何だかといった顔を浮かべて立ち尽くしてしまっていた。

 

 

「感謝しなさい!あなた達の子供に逢わせてあげるのよ!こんなサービス、滅多にしないんだからね!!」

 

 

 

 

 

「…取り敢えず口の周りを拭きなさい」

 

 

 折角格好をつけたのに、ドメルからそう嗜められ、尚且つ顔を拭かれたことによって、ドメラーズは赤面した。

 

 

 それを傍から見ていた沖田とヤマトは揃って「(やっぱり親娘だ)」と思ったという。

 

 

 この後ヤマトは、ヤマトと沖田は互いの“縁”が結んだ、奇跡のような不思議な、そして忘れることの出来無い体験を経験することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですが、お二人にはバレラスで私の愛娘、ヒルデを救っていただいた恩があります」

 

 

「砲火を交えるでなく、再びあの時の様にこうして共闘出来る事に、喜びを禁じ得ません」

 

 

「沖田さん、遅くなりました」

 

 

「大帝の敵討ちだ!者共ッ!ヤマッテを逃すなァー!!」

 

 

「我が母なる祖国が誇る誘導ロケット兵器技術の真髄を、ご覧に入れましょう」

 

 

「へへっ、流石は安田の旦那だ!タイミングバッチリだぜ!お~し行くぞみんな!全艦、突撃ぃッ!!」

 

 

「第6空間機甲師団の意地の見せ所よ!みんな!踏ん張りなさいっ!!」

 

 

「まったく、死んでからも君の無茶な注文に付き合わされるとは思ってもいなかったよ」

 

 

「エルク、これが我が主君、デスラー総統の代わりに私が君に出来る精一杯のことだ。あの時の謝罪と思ってくれたまえ。ゲシュ=ダールバム、発射!!」

 

 

「総統がお認めになられた(ふね)です。邪魔はさせませんよ」

 

 

「行って、下さい。アポロノーム姉様(あねさま)。我らの様な、“人形”にすら、涙を流して、くださいました、心優しい、アンドロメダ、長姉様の、為にも。そして、我らの、為にも!」

 

 

「…すまん、アポロノーム。どうやら俺は“向こう”に行けないみたいだ」

 

 

「全艦、最大戦速!食い破れ!!」

 

 

「両舷増速!黒20(フタジュウ)!!全砲門一斉射!薙ぎ払え!!」

 

 

 

 

*1
出来ればもう一度、あの時みたいに抱き抱えて抱き締めたかった。

*2
メルダ・ディッツ少尉の事。

*3
しかも何故かかなり本格的なメイド服。






 …沖田艦長メインの話のハズが気付けばヤマトとドメラーズメインの話に!やはりあまりにも恐れ多くて私に沖田艦長の話を書くのは早過ぎたか?

 てか次から次へとアイデアが浮かんで来た影響で12月8日に到底間に合いそうにも無いので分けます!


 ドメラーズⅢ世の容姿は“デカい暁”ことドイツ戦艦艦娘ビスマルクにガミラス国防軍の制服を着させ、特Ⅲ型駆逐艦一番艦よりかはちょっと大きい身長にした姿をご想像ください。なお肌の色は人種に拘らない実力主義のドメル閣下の人柄を反映して、ザルツ人系(地球人と同じ色)の色をしております。
 実は一番最初に容姿が決定した娘でもあり、特技が艦橋の着脱機能の設定を生かした、漫画ワンピースに出てくる道化のバギーの回避技(?)バラバラ緊急脱出みたいに首が外れるというなんともホラーなネタキャラでした。
 因みに艤装は西洋甲冑のフルプレートアーマーでガントレットに主砲という感じでした。その後着脱機能はアーマーのパージという風になります。
 装甲突入型ゼルクート級だと、更にタワーシールドを装備します。

 プロット段階では本編終盤にて旧作の完結編でのデスラー総統よろしく颯爽と登場する案がありましたが、それが出来無い可能性がありますので登場させました。

 因みに練っていた設定で、愛称はハンナ。もし産まれてくる子供が男の子だったらヨハン、女の子だったらハンナと名付けるつもりだったからという独自設定を考えていました。
 


 既に御承知かと思いますが、私は地球軍の掲げる波動砲艦隊構想に否定的、というか懐疑的立場です。
 それは何も私が2202を嫌っているからといった単純な話ではありません。まぁ、嫌っていること事態は事実ですので、一切否定しませんが。

 理由は波動砲艦隊そのものが“戦略”レベルの構想には到底成り得ず、“戦術”レベルの構想であると見ているからです。

 細かいところは文字数が本文の字数を超えそうな気がいたしますので、今回はある程度省かせていただきますが(いずれ本編ないし閑話で述べる機会があれば、そちらでより詳しくとは思っています。)、理由の一つとして第四次中東戦争当時におけるイスラエル軍のドクトリン、イスラエル・タル機甲総監が第三次中東戦争での戦果から導き出した戦車を中心とした部隊を編成し、その突破力と機動力を最大限に生かした短期決戦理論、タル・ドクトリン(別名オールタンク・ドクトリン)の利点と欠点の問題に酷似していると考えています。

 また波動砲という分かり易い強力な“武器”の存在が現場の判断力や決断力、そして選択肢を狭める“害悪”にも成り得ると見ています。
 これはクラウゼヴィッツの言うところの人間の心理から来る“賭け”の要素と密接に絡んでいます。

 さらには艦隊による波動砲戦の戦術構築、方法に対する手段、運用方法の構築が間に合っていない。ガンダムSEEDの地球連合軍初のモビルスーツであるG兵器の初期OSよろしく不完全、不十分なシロモノだった可能性が高いと見ています。
 その理由はこの一つ前の閑話で語った通りです。余りにも柔軟性、不測の事態に対する対応能力と即応性に難がある様に思えます。

 練度の問題からかつての戦列歩兵に成らざるを得ないという指摘は間違いでは無いと思います。
 …銃剣付きマスケット銃の代わりにバズーカ砲を装備した様な物騒極まりない戦列歩兵ですが。が、戦列歩兵でも状況に応じた陣形の組み換えを即座に出来なければ呆気なく瓦解致します。
 戦列歩兵は騎兵突撃の突破力による衝撃に対して方陣を組むことによって対処します。例えるならば槍衾みたいなものですかね。これが即座に出来なければ突入を許して蹂躙されます。これも先の閑話でのバーガーの率いる部隊に蹂躙されたみたいに。
 そして最大の問題点はここ、バーガー隊にやられた様に側面攻撃に対して余りにも脆いという問題です。

 正面からならば重力子スプレッドが有りますが、側面はガラ空きです。ここには本来ならば騎兵の様な部隊、戦車の死角をカバーする随伴歩兵を配するべきですが、他の地球艦の能力的に不十分だと分析しました。

 そういった経緯から本作では『ハルサメ』型直掩護衛駆逐艦なるオリジナルの即応遊撃艦を思い付いたわけなのですが、正直オリジナルの波動砲艦隊は工夫が全く持って足りません。
 ただこれでも不十分であると見ていますが、最悪帝政ドイツ陸軍のシュリーフェン・プランの様に軍備計画と予算が際限無く肥大化して袋小路に陥る未来となりそうです。つまり国家経済と財政の破綻。
 戦中はまだしも戦後に訪れるであろう戦争経済の揺れ戻しを考えたら、最終話のあの調子で(ふね)を造り続けていたら、確実に破産していたでしょう。
 …もしかしたら2205においてその存在が示唆された大量アンドロメダの地球は、殆ど戦争経済による大量生産大量消費で経済が成り立ってしまっており、それでギリギリ保っている地球が周辺へと侵略を繰り返し、その過程でデザリアムの領域へと侵略戦争を開始。戦争そのものには勝ったけど、遂にそこで経営破綻して敗戦国であるはずのデザリアムに講和交渉の末に屈辱的な身売りをしたんじゃないだろうか?

 戦略という点から見たら、プロイセンの七年戦争の様に内線の利を活かした徹底した防御戦略なのでしょうが、ガミラス戦役後の地球の経済状況、特に外資(ガミラス系企業資本)の流入や地球の政界や軍部へのガミラス系企業との、言葉は悪いが癒着の節がある以上、あまり賢い選択とは言えない。
 最悪地球の経済産業が外資によって完全に乗っ取られるリスクが高過ぎる。(既に自動車産業部門は危機的状況な節があった。)
 戦争中の外資による企業や産業の事実上の乗っ取り案件は現実として、かつてのイラク戦争においてイラクの石油採掘施設が中国資本によって買い漁られたし(確か8割)、現在もドンパチ中の東欧某国で起きているという情報がちらほらと出て来ている。(某国、進むも地獄戻るも地獄状態。勝ったら外資の経済的植民地化のリスクと戦勝と復興を大義名分とした他国、まぁ確実に本命は亜細亜の亡、間違えた某国、へのカツア、金の無心要求。で亜細亜の某国以外の国からはさらなるヘイト集中。なお金は外資に吸い取られる。西部と東部の住民の民族問題激化による国民のさらなる分断による衝突の激化。敗けたら国土の削減と外資経済的植民地化と復興を大義名分としたカツアゲ。って、どっちもあんま変わんなくね?)

 ロジスティックもガミラスに依存しているし、最悪ガミラス系企業のやりたい放題にされる可能性が高い。



 当初は旧作の様なバランスの良い艦隊編成のハズだった可能性は高いですが、敵艦と正面から殴り合う戦艦が波動砲撃つために、本来ならば戦線を支えるために必要な砲火力を発揮出来なくなるのは大丈夫なのか?という懸念もあります。
 想定として敵は自軍よりも戦力が多いことを想定しているハズなのに、その突破を食い止める阻止火力を自ら封じる事に強い疑問が有ります。

 いっそデスラー砲艦、いやここは思い切ってタイタニアにおけるワイゲルト砲みたいにしてしまったほうが戦術的な柔軟性が保たれた気がしますね。

 どうも地球戦艦は自走砲に戦車の機能を盛り込んだ様なシロモノに思えてならず、戦車(戦艦)は戦車(戦艦)、自走砲(砲艦)は自走砲(砲艦)と分けるべきだと思いましたね。…アニメの見栄えとして駄目でしょうが。

 持たざる国家、貧乏な国の軍隊が抱える宿命、あれもこれもと詰め込む一点豪華主義の極地が波動砲艦隊だと私は見ています。


 …うん。書き出したら止まらなくなりましたし、纏まりも無いしアッチャコッチャへと脱線も著しいのでここで切ります。でも楽しかった。よし、も少し纏めたら一つの閑話『真志妻レポート』というタイトルでアンドロメダやアンドロメダ達の世界に関してのメモ書きや覚書、所感を綴ったという形で出すか。

 …本編よりも閑話の方がネタが貯まって、そっちの方が書いてて楽しいって、本末転倒過ぎてどういうこっちゃ!?な心境。



 愚痴コーナー!ではなくちょっとした宣伝。


 本作においてネタとして大変参考にさせていただいていますカナダ在住の中立的保守系YouTuber、カナダ人ニュースさんことやまたつさんがこの12月17日
 
 『左翼リベラルに破壊され続けるアメリカの現実 日本メディアが報じなかったバイデン政権の痛いニュース

 というタイトルの本を徳間書店から出版されることとなりました!!


プロローグ 中間選挙の結果から見えてくるアメリカの現実
第1章 国辱のアフガニスタン撤退
第2章 ヴァージニア州・ニュージャージー州での誤算
第3章 過激な左翼思想と治安
第4章 ジェンダーの破壊とWokeの侵食
第5章 国境の崩壊と不法移民問題
第6章 ハンター・バイデンの疑惑
エピローグ 2024年大統領選挙の展望


 以上が本書の内容となっております。

 アメリカのリアルな“今”、幻想なき“現実”と共にアメリカや世界で起きている問題の原因の一つを知る良い切っ掛けになるかと思います。もし気になりましたら是非ともご購入を御検討お願い致します。



 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


 …後書きが後書きとして認識していいのか分からん文字数になってた。(本文6257。後書き3800)


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閑話11 Escort


 護衛


 今年最後の投稿になると思います。


 今回基本的に某MMD『護衛戦艦アリゾナの最期』をベースに、かなりの独自解釈や独自設定を盛りに盛っています。

 注意)筆者は護衛戦艦アリゾナを貶める気は毛頭ありません。寧ろ(ふね)のデザインとしては五指に入るお気に入り。アメリカは知らん。


 


 

 

 

 やぁみんな。初めましての方は初めまして。

 

 僕の名は『Arizona(アリゾナ)』。

 

 

 『Arizona(アリゾナ)(Class )護衛(Escort )戦艦(Battle ship)一番艦(Name ship)さ。

 

 

 地球連邦北アメリカ州アメリカ合衆国(United States of America)Virginia(ヴァージニア)州、Newporto News(ニューポートニューズ)にある民間宇宙船ドックの建造さ(生ま)れだよ。

 

 

 アメリカの民間造船所が設計から建造までを手掛けた次世代型主力戦艦の嚆矢と成り得る最新鋭宇宙戦艦という事で、生まれ故郷(States)だけでなく地球各国では結構話題になってたみたいだよ。

 

 

 ま、そんなことは僕にとってはどうでもいいことなんだけどネ。

 

 

 僕は美しくて可愛いものが好きだ。大好きだ。

 

 

 これからどんな美しいものに出会えるのだろうかと考えるだけで、僕の心は期待に高鳴りこの世に生まれた事への感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

 

 だけど敢えて文句を言わせてもらえるなら、僕って一応categoryは“護衛”戦艦なんだよね?

 

 なのになんで艦隊決戦型主力戦艦『Majestic(マジェスティック)(クラス)を超える重武装を施したり、最新の波動エンジンやら機材やらなにやらをこれでもかと詰め込むだけ詰め込むかなぁ?

 

 下手に技術的冒険にChallengeするよりも、確実性の高い事前の実績が十分な技術をmainに、堅実で手堅い設計で纏めるべきだったんじゃないだろうか?

 

 それと一応、僕は大型戦闘艦を建造出来無い海外の中小国にも売り出し(sales)するって聞いてたんだけど、これじゃあ購入costだけでなく運用costも高くなり過ぎてどこも(誰も)買ってくれないよ?

 

 僕の可愛くて大好きな妹、Pennsylvania(ペンシルバニア)は天使みたいで本当に可愛くて可愛くて堪らないし、Pennsylvania(ペンシルバニア)も僕のことを天使の様な美しくて綺麗な声で「ねーさま!ねーさま!」と呼んでくれて、とっても懐いてくれてもう可愛くて可愛くて仕方無くて凄く幸せだけど、可愛い妹はいくらいてもかまわないよ?

 

 

 だから、ね…?もっと妹を増やして欲しいなぁ…。

 

 

 うん…。だけど、なんとなく、そう、なんとなくだけどね、嫌な予感はしてたよ…。

 

 

 幾つかの国や地域が興味を示してくれたりはしたけど、やっぱりcostが高過ぎるからって、結局どこも(誰も)購入すると手を上げてくれなかった…。

 

 

 ていうか建造した当のアメリカ(States)ですら、維持管理に必要なcostと、最新の波動エンジンや機材のdelicateさから来るtravelやmaintenanceの複雑さから持て余してしまって、僕と僕の可愛い『Pennsylvania(ペンシルバニア)』の建造終了をもって後はcancelって…。

 

 酷いよ…。

 

 僕はもっともっと沢山の可愛い妹達に囲まれながら、1人1人を大切に愛でながら可愛がりたかったのに…。

 

 

 けどまぁ、仕方無いかな?

 

 

 僕は“あの”『ヤマト』さんを意識して、いや対抗して造られたみたいだから。

 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』

 

 

 もはや生きる伝説(legend)という言葉がこれほどまでキレイに当て嵌まるのかと、感嘆の声が思わず漏れ出してしまう程の、強さと美しさを見事な黄金比で備えた完璧な、神話の世界における女神の如き美しさを極めた存在…。

 

 あの曲線美の極みと言っても差し支えのない艶めかしいあの艦体(Body)…。

 

 ふふ…っ。彼女こそ正にこの世に舞い降りた戦女神(Valkyrie)の化身さ…。

 

 

 あの完璧さにはとてもじゃ無いが誰も敵わないと率直に思ったね。

 

 

 かの『Andromeda』(クラス)の様な武神かの如き、あの無骨な迄の直線美も悪くは無いんだけど、僕はやっぱりヤマトさんが好みだね。

 

 

 

 彼女の美しさの前では全てが霞んで見えてしまう。

 

 

 …悔しいけど、僕のPennsylvania(ペンシルバニア)もヤマトさんの美しさだけには敵いそうにない。

 

 

 本当にヤマトさんは別次元の、敢えて言わせてもらうと神のおわす世界からこの世界へとご降臨なされた存在だとしか思えない。

 

 

 

 だからこそ、祖国(States)はヤマトさんに、そして彼女を生み出した日本(Japan)に嫉妬したんだろうね。

 

 

 自分達でも造れるんだ!って。

 

 

 馬鹿馬鹿しい。

 

 

 たかが人間如きに神の領域におわすヤマトさんに匹敵するモノを造り出そうなんて、不敬不遜なこと甚だしいね。

 

 身の程知らずにも程がある。

 

 

 でもヤマトさんを参考にするというのならば、あながち間違いではなかった部分は幾つもある。

 

 嘗て地球脱出船として造られていたという経緯から、ヤマトさんの長距離航行能力と居住性の高さは、一部から「完全武装の客船」という嫉妬と羨望の入り混じった揶揄が言われるほどに、他の地球戦艦とは比較にならないほど充実している。

 

 

 護衛戦艦という性質上、通常の戦艦よりも長期間の航行任務に就く事になる。

 

 

 船団護衛、航路警戒に警備活動などなど。

 

 

 襲い掛かってくる敵対勢力を撃退するために、ある程度の強力な武器は必要かもしれないけど、僕らの本質は“矛”というよりも“盾”としての役割りが大きい。

 

 

 けどヤマトさんを意識し過ぎる余り、全てを超えなければならないとの強迫観念に囚われてしまい、その結果が、本来の“目的”である護衛戦艦からかけ離れた、『ヤマト』を超える戦艦を造るんだ!という“手段”にすり代わって、実質決戦型戦艦とも言える重武装で運用に手間暇のかかるpeaky(ピーキー)な戦艦となってしまったのだろう。

 

 

 

 美しい姿を維持するには、想像を絶する苦労が隠れていると言われているそうだけど、成る程言い得て妙だね。

 

 

 

 そもそもヤマトさんにはガミラス戦役でイスカンダルまで行って帰って来るという、往復29万6000光年の大航海を成し遂げた、今の地球で「Eclipse first, the rest nowhere(唯一抜きん出て並ぶ者なし)」という言葉がこれ程までに相応しい者は他にいないと言い切れるほどの玄人(veteran)が集まっている。

 

 

 対して僕らはというと、彼らの足元にも及ばない。

 

 

 いや、これは言い過ぎかな?

 

 

 今までの戦争でいっぱい人間が死に過ぎた影響が大きい。

 

 だからこそ今必要なのは経験豊富な玄人(veteran)向けの(ふね)では無く、新兵(rookie)でも扱いやすいsimpleな(ふね)のハズだ。

 

 

 思えば僕と同世代のヨーロッパ州イギリス(United kingdom)フランス(France)が共同研究して各自で建造した『Prince of Wales(プリンス・オブ・ウェールズ)(クラス)と『Richelieu(リシュリュー)(クラス)は、正にそういったcomceptで建造されていた。

 

 

 この2隻は太陽系内での活動を念頭に置いて建造された既存の小型護衛艦であるFrigate(フリゲート)艦の運用実績等を徹底的に分析し、戦艦クラスとして拡大(develop)する形で設計建造されたと聞いている。

 

 

 彼女達を見ていると「護衛艦とは斯くあるべし」というモノを体現していると思ったね。

 

 

 simpleだからこそ手堅く堅実に纏め、必要の無い物を出来るだけ削ぎ落としたからこそ、無駄が無い。

 

 

 

 それに見た目はsimpleだけど、僕は彼女達のstyleに“騎士(Knight)”の様な風格を感じ取ることが出来たね。

 

 そしてPrince of Wales(プリンス・オブ・ウェールズ)には高貴さを、Richelieu(リシュリュー)には優雅さを兼ね備えているという雰囲気を持っていた。

 

 

 祖国(States)はこの2隻を火力もそこそこで面白味が無いのが特徴って言ってるけど、君達は一体どこを見ているんだい?

 

 

 

 彼女達は本当に美しい…。まるでGreece(ギリシャ)彫刻の様な美しさだ…。いつまでも眺めていられる…。

 

 

 あっ、勿論僕の可愛いPennsylvania(ペンシルバニア)の方が断然上だけどね。それは、それだけは絶対に譲れないよ!

 

 

 

 僕は彼女達にsimpleで扱いやすい故の美しさ、“機能美”を見出だした。

 

 

 

 この時期建造されていた護衛戦艦にはそれぞれ独特な“個性”が見て取れた。

 

 

 ドイツ(Germany)の護衛戦艦『Bismarck(ビスマルク)(クラス)の重厚さはかつての重騎兵を思わせた。いや、彼らの場合は重戦車だろうか?

 

 

 彼女はその優れた装甲を活かして文字通り護衛対象の“盾”となるべく造られていた。

 

 

 彼女からは何があっても護衛対象を守り切るという強い信念という力強い意志を感じたね。

 

 

 

 独創的なのがユーラシア州ソビエト(Soviet)連邦の『Novik(ノーウィック)(クラス)だ。

 

 彼女は謂わば巡洋戦艦とも言え、その機動力は他の護衛戦艦の追随を許さない程のものであり、“コサック騎兵”との異名を持っていた。

 

 だけど何よりも彼女の特徴なのが、必要に応じて外装式option unitを両舷に取り付ける方式を採用しているんだ。

 

 例えば彼女は波動砲が標準装備されていないけど、必要なら波動砲艦unitを接続して対応するし、missile container unitを装備してMissile戦艦(Battleship)着替える(変化)することが出来る。

 

 そのお陰でoption unitの選択次第では全護衛戦艦の中で最も購入単価が安いながらも、必要十分な性能を有していた。

 

 それでいて驚きなのが、流石はソビエト(Soviet)の伝統と言うべきか、『Prince of Wales(プリンス・オブ・ウェールズ)(クラス)や『Richelieu(リシュリュー)(クラス)以上にsimpleで使いやすいと言うんだよ。

 

 僕もビックリしたよ。

 

 でもこれが意外と“アタリ”だったみたいでね、技術力が低かったり経済的な問題で資金調達に難がある国々を中心に人気が出たよ。

 

 

 因みに余裕のある国々が『Prince of Wales(プリンス・オブ・ウェールズ)(クラス)や『Richelieu(リシュリュー)(クラス)を買ったよ。

 

 まぁ、『Bismarck(ビスマルク)(クラス)は売れなかったわけでは無いけど、彼女をsize downさせた護衛巡洋艦『Prinz Eugen(プリンツ・オイゲン)(クラス)の方が人気だったね。

 

 

 

 

 僕?

 

 

 

 さっきも言ったけど、全然売れなかったよ。

 

 

 あまりにも高級品に過ぎたんだ…。

 

 

 え?そっちじゃ無い?

 

 

 ああ!ごめんごめん!特徴の方だね?

 

 

 そうだね…。特徴というよりは特技になるけど、“早撃ち(Quick shot)”…、かな?

 

 

 かつての西部開拓時代の無法者(Outlaw)保安官(Sheriff)みたいな…、ね。

 

 

 

───────

 

 

 

 僕にとっての幸せな時間は、終わりを告げられた。

 

 

 

 

 ガミラス、彗星帝国(ガトランティス)暗黒星団帝国(デザリアム)と続いて今度は太陽の核融合が突然異常増進を起こして、地球がまたもや危機的状況なんだけど、今度ばかしはどうにもなりそうにないからと、人類の生存の為に何処か別の星に移住するって事になった。

 

 で、その為に我らが地球連邦政府は探査船団を編成し、居住可能な地球型新惑星を探しに行かせようとしたのだけど、どうも銀河系では今現在大きな戦乱が巻き起こっている真っ最中みたいで、先に出発したヤマトさんが何度か戦闘状態に入ったという報告があった。

 

 

 これに懸念を抱いた連邦政府は探査船団に護衛艦隊を付ける決定を下したのだけど、肝心の外洋作戦能力を持つ地球連邦軍、つまり地球防衛軍の艦隊は打ち続く戦乱の影響でボロボロであり、太陽系防衛の(かなめ)である外周艦隊や内惑星艦隊といった主力艦隊ですらまだ完全には回復し切れてなく、太陽系外の外洋を長期間航行出来る(ふね)も建造に時間が掛かるという事もあって不足していた。

 

 

 そこで再建途中である今の地球防衛軍だけじゃとても手が足りないからと、連邦政府は地球連邦加盟国全てに対して、新天地探査の協力と各国が保有する外洋航行可能な護衛戦艦を中心とした護衛艦隊の派遣を要請して来た。

 

 

 “連邦”と名乗っている通り、地球連邦は地球にある複数の国家や地域が寄り集まって出来ている。

 

 そのため各州や地域には“州軍”や“治安軍”などの名称で呼称されている独自の軍事組織がある。

 

 無論それらは有事に際しては上位組織である地球防衛軍の指揮系統に組み込まれるんだけど、法的に各州政府の優越が認められているから、基本的には連邦政府からの要請に各州政府が可能な範囲で応じる形となる。

 

 今回の要請に真っ先に応えたのが僕の祖国が属する北アメリカ州さ。

 

 ガミラス戦役から此の方、全く良いところが無かった祖国(States)は、勇躍して参加を表明。

 

 俗な言い方だけど、もうじき北アメリカ州代表選挙が近かったのも、無関係じゃ無かっただろうね。

 

 なにせ僕の建造には今の北米代表がかなりの熱を入れていたみたいだけど、それが大きな暗礁に乗り上げた事に大いに焦っていたらしいから。

 

 ここで大きな功績を立てることが出来たのならば次の代表選挙は安泰だろうし、あわよくば次期連邦大統領の椅子も狙ってたんじゃないかな?

 

 

 でもね、そういうのをAsiaじゃ「取らぬ狸の皮算用」って言うんだよ。

 

 

 だけどそんなことよりも、僕は大きく落胆し、失望する事態を突き付けられた。

 

 

 何故なら───────

 

 

 本来僕と一緒に出撃するはずだった僕の可愛い『Pennsylvania(ペンシルバニア)』が急遽出撃取り止めとなってしまったんだ。

 

 

 一応の理由として、『Pennsylvania(ペンシルバニア)』乗員の練度不足から、外洋での作戦行動に不安があるためと(おおやけ)には説明された。

 

 

 確かに僕達は各国の護衛戦艦と比べたら、完成までに時間が掛かり、就役も遅かったし訓練の期間も短い。

 

 

 だけど僕は、本当の理由を知っている。

 

 

 僕の可愛いPennsylvania(ペンシルバニア)が、大粒の涙を流しながら、泣きながら喋ってくれた。

 

 

 州政府の連中、万が一の時は自分達だけでも地球を脱出出来るようにと、脱出船として強力な(ふね)を手元に残しておきたかったのだと。

 

 

 

 僕は怒りに震えた。

 

 

 自分勝手な人間達に腹が立った。

 

 

 だけどそれよりも、僕の可愛いPennsylvania(ペンシルバニア)がそんなくだらない企みに利用されるという事に、そしてそのせいで僕の可愛いPennsylvania(ペンシルバニア)の心が深く傷付き、僕を1人で行かせる事への罪悪感と悲しみ、そしてそれをどうすることも出来無い自身への憤り、それら複雑な感情が溢れて爆発し、涙という形で溢れ出てきた。泣かせた!泣かせたのだ!涙を流させたのだ!!僕はその事の方が、許せないっ!!

 

 

 僕の可愛い自慢の妹、Pennsylvania(ペンシルバニア)の優しい心を踏み躙って泣かせた連中に(ハラワタ)が煮えくり返るっ!

 

 

 ソンナニンゲンドモヲスクウカチナンテアルノダロウカ?

 

 

 そんな僕達を他所に、他国の護衛戦艦よりも高性能だからという理由だけで、他の探査船団には2隻以上の護衛艦が付いているのに、心配になった地球防衛軍が無理して頑張って工面し抽出してくれた、防衛軍でも貴重なハズの外洋航行可能な巡洋艦を派遣してくれるという打診すら、州政府は自身のメンツから断って、僕はたった1隻で探査船『Pontus(ポントス)』、『Neleus(ネレウス)』、『Oceanus(オケアノス)』他支援船数隻と共に地球を出発した。

 

 

 同時期に出発した他国の護衛戦艦や防衛軍艦隊から不安と激励の混じった言葉を投げ掛けられながら。

 

 

 …僕の可愛いpennsylvania(ペンシルバニア)が、最後に頑張って微笑んで送り出してくれたのが、妙に印象深く頭に残った。

 

 

 

 

 そしてこれが、僕の可愛いpennsylvania(ペンシルバニア)との、今生の別れとなった…。

 

 

 

 

 州政府がメンツを優先して防衛軍からの巡洋艦派遣を断った事が、僕の明暗を分けていた…。

 

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

「ボラー連邦艦隊、依然こちらからの呼び掛けに応じません!!」

 

 

 だろうねぇ、あちらさん明らかにやる気満々だし。

 

 

「総数250以上!散開しつつ急速接近中!」

 

 

 わぁ、すごい数だねぇ。これで数多いるボラー連邦艦隊のほんの一個艦隊程度の戦力に過ぎないって言うんだから、()の国との圧倒的国力差をまざまざと見せ付けられた気分だよ。

 

 

「Fuck!ジャップの若造共が英雄(Hero)気取りやがったせいで!!」

 

 

 …それ、僕らが言えたことかい?

 

 

 確かに日本(JAPAN)の『ヤマト』クルーが銀河系の超大国、ボラー連邦の首相に対して公然と内政干渉ともとれる言動をしたのは事実だけどさ。

 

 

 まぁ、これは“ツケ”なんだろうね。

 

 

 今まで好き勝手に他国の政治を引っ掻き回してきた祖国(States)の行ないに対する罪過の償いが、巡りめぐって僕達に降り掛かってきた。

 

 ただそれだけのことさ。

 

 

 だから僕はヤマトさんの人達を責めないよ。

 

 

 

 

 

 だけど僕は護衛艦だ。

 

 

 守るモノが有る以上は、僕は戦うよ。

 

 

 …だからさっきからヤマトさん達のこと罵ってないで、とっととどうするかの指示をくれないかなぁ?

 

 というかせめて戦闘配置の命令くらいは出しなよ?

 

 

 ウ~ン、ここに来て経験不足、訓練不足のツケも来ちゃったか…。

 

 

 逃げるか、戦うかを早く決めてくれないと、ってあ~あ、緊急warpを行なうのに必要な安全marginまで踏み込まれちゃったよ。

 

 

 これはマズイね。

 

 

 僕らの現在位置は“スカラゲック海峡星団”って宙域にいる。

 

 ここには探査目標の一つである『ベータ星』が存在するんだけど、この星団って至る所に大小様々な暗礁宙域(Asteroid belt)が広がっていて、安全に航行出来る所が結構限られている。

 

 『海峡』という名称はここから来ている。

 

 

 厄介なのはAsteroidが邪魔して()()電波が通り難い。

 

 だからこそ今までの探査みたいに長距離からの探査船によるscanningで目標の星を調査するという手法が使えず、直接赴く事になったのだけど、思えばここ程“待ち伏せ”に最適な場所は無い。

 

 

 実際にボラー連邦の艦隊はAsteroidの影に潜んでいたから、Radar探知が出来ずに気付くのに遅れた。

 

 

 気付いたときはかなりの至近距離に近付かれたtimingだった。

 

 

 そしてもとから僕達を逃がす気は無かったからか、その進路方向に突然現われ急速に距離を詰めながら、確実に仕留める為に半包囲陣形へとshiftしてきたよ。

 

 

 今から進路変更してもAsteroidが邪魔して動きが制限されるし、少ない逃走rootを塞ぐ形でボラー艦隊は動いている。

 

 180°回頭しようものなら一気呵成に襲い掛かって来るねこれは。

 

 

 参ったねぇ~、明らかに僕達がトーシローだと気付かれちゃってるっぽいね。

 

 

 ん?

 

 

 けど妙だな…。

 

 

 航行可能な宙域一杯に広がっているというのもあるのかもしれないけど、よく見たら陣形の奥行きの層が妙に薄過ぎるし、(ふね)同士の間隔も心なしか広い。

 

 

 …もしかして波動砲を警戒している?

 

 

 考えられるのは、ヤマトさんがかつてのガミラス帝国の後継国、ガルマン・ガミラス帝国本星に“あの”デスラー総統からの招きで立ち寄った時に、丁度ボラー連邦からのwarp Missileによる空襲に遭遇して、ヤマトさんもその迎撃に参加した際に、warpしてきた惑星破壊missileを撃破するために波動砲を放ったらしいのだけど、それを近くの宙域に潜んでいたボラーの着弾観測船か何かに見られていたかな?

 

 

 それで地球艦の艦首には大出力の大砲が装備されていると気付かれちゃったかな?

 

 

 そしてそのchargedに掛かるtimeも掴まれちゃったかな?

 

 

 

 

 でも、甘いね。

 

 

 地球にはヤマトさんの“収束”型波動砲以外も有るんだよ。

 

 

 それに、僕の波動砲は新たに開発された“最新鋭波動砲”なのさ。

 

 

 

「敵艦隊中央本隊を食い破る!“拡大”波動砲、発射用意!!」

 

 

 司令も漸く腹を括ったみたいだ。

 

 

「船団は波動砲が開けた“回廊”を通って安全圏まで緊急warpを行なえ!」

 

 

 うん。僕もそれしか無いと思う。だけど…。

 

 

「本艦は全船warpが完了するまで“しんがり”を務める!」

 

 

 司令、君には申し訳ないけど、僕は祖国(States)を恨むよ。

 

 

 司令は副司令の乗る『Pontus(ポントス)』にのみ機密通信を送った。

 

 

「後を頼む」と。

 

 

 護衛艦としては悔しいけど、後は彼らの幸運と、異変を察知した地球本国が動いてくれる事を祈るしかない…。

 

 

 司令は副司令が呼び出すcoleを無視すると、突撃を命令した。

 

 

 …僕にはそのcoleが悲痛な叫びに聞こえた。

 

 

 ごめん、副司令。僕達には君達の血路を切り開き、幸運を祈ることしか出来無い。

 

 

 

 この時の僕は、泣いていたと思う。

 

 

 

 船団の船は1隻でも多く逃し、敵は1隻でも多く足止めしなくては!

 

 

 僕は単艦で敵艦隊へと殴り込んだ。

 

 

 ボラー艦隊には自暴自棄による破れかぶれの突撃に映っただろう。

 

 

 だけど、それは甘い認識だよ…!

 

 

 僕の特技は、“早撃ち(Quick shot)”なんだ…っ!!

 

 

───────

 

 

 この時『Arizona(アリゾナ)』と相対したボラー連邦軍艦隊は第12打撃艦隊と呼ばれる一個正規艦隊であった。

 

 

 この艦隊は本来、何度も自分達ボラー連邦の邪魔をする地球という惑星国家に属する宇宙戦艦、『ヤマト』の捕捉撃破を目的としていた。

 

 

 『ヤマト』の今までの航路から、このスカラゲック海峡星団に来ると予想したボラー連邦軍は今までの戦闘データからここに一個打撃艦隊を送り込んで待ち伏せる事を決定した。

 

 

 だが当の『ヤマト』は様々なトラブルやらなにやらの影響でスケジュールに狂いが生じていた。

 

 

 その為地球は『ヤマト』の探査範囲の隣を進んでおり、尚且つスカラゲック海峡星団とも近い北アメリカ州の探査船団に『ヤマト』の代わりにベータ星の探査を依頼していた。

 

 

 日本に、そしてなによりも『ヤマト』に対して並々ならぬ対抗心を燃やしていた北アメリカ州はこれを快諾。

 

 

 それがこの探査船団を地獄へと突き落とす決定となったとも気付かずに…。

 

 

 そして探査船団はボラー連邦軍第12打撃艦隊に捕捉された。

 

 

 当初彼らはこの船団が目標の『ヤマト』で無い事から、やり過ごすつもりでいた。

 

 

 だがあろうことか、その船団が艦隊の潜むポイントに向けて進路を変更し、真っ直ぐ接近してきたのだ。

 

 

 見付かったかっ!?

 

 

 艦隊司令は一瞬そう焦ったが、ここであるミスに気付いた。

 

 

 自分達は目標の予想針路からここで待ち伏せていた。

 

 

 だがその予想が間違っていたのだ!

 

 

 この船団の護衛艦、よく見るとそのシルエットは目標である『ヤマト』とやらと似ていなくもない! 

 

 

 クソッ!作戦室や司令本部の奴ら、中央でふんぞり返っているだけでマトモな分析一つ出来ないのか!?

 

 

 マズい!このままだと目標に逃げられてしまう!

 

 

 そうなると任務失敗として、私は処断されてしまう!

 

 

 

 無論これは彼の早とちりだし、それに地球側の内情など知る由もなかった。

 

 

 だが焦る彼はここでこの接近する地球船団を艦隊の全力でもって瞬時に葬り去り、本来の目標である『ヤマト』捜索のために今いるスカラゲック海峡星団から離れる決断を下した。

 

 

 この時ボラー本星と通信しなかった事が、後に彼の明暗を分けたと言われているが、それは言い過ぎであろう。

 

 スカラゲック海峡星団のアステロイドは彼らと本星との通信も阻害していた。

 

 

 そして彼らは勇躍し、この哀れな地球船団に襲い掛かった。

 

 

 

 小癪なことに護衛とおぼしき戦艦が1隻、無謀にも自分のいる中央艦隊へと突っ込んできた。

 

 

 先ずはこの小生意気な戦艦を血祭りに上げてやろう。

 

 

 艦隊司令はそう思って早速砲撃指示を出そうとした時、その地球戦艦の艦首が光り、直後、自身と共に中央艦隊が光の濁流に飲み込まれて()()した。

 

 

 

───────

 

 

 

 ハハッ!ザマァ見ろ!!

 

 

 僕の波動砲、拡大波動砲は今までの弱点であるcharge時間を大幅に短縮し、6秒で撃てる!

 

 

 しかも拡散波動砲と同じ広範囲を包み込む!

 

 

 ハハッ!

 

 

 これが僕の特技、“早撃ち(Quick shot)”さ!!

 

 

 

───────

 

 

 この直後に探査船団は敵中央艦隊が消滅したことによって出来た“回廊”に向けて次々とワープを開始した。

 

 だが北アメリカ船団の幸運もここまでだった。

 

 

 左右に展開していたボラー連邦の残存艦隊が瞬く間に指揮系統を立て直すと、北アメリカ船団へと襲い掛かった。

 

 

 ワープに入り損ねた1隻が撃破され、波動砲発射でエネルギーが不足して動きが鈍った『Arizona(アリゾナ)』にも四方八方から砲火が浴びせ掛けられた。

 

 

───────

 

 

 やらせはしないっ!やらせはしないよっ!!

 

 

 1隻でも多く!

 

 

 みんな、早く逃げてっ!

 

 

 僕の事はいいからっ!!

 

 

───────

 

 

 この時の『Arizona(アリゾナ)』にはある“問題”を抱えていた。

 

 

 

 新開発された拡大波動砲は、確かにチャージは早いが、消耗エネルギーの回復に必要な時間の解決には失敗していた。

 

 いや、一応の解決の目処は立っていたのだが、そのシステムが『Arizona(アリゾナ)』一番のデリケートな代物であり、航海中もメンテナンスを怠らなかったのだが、長期の航海の影響からか、途中で故障してしまっていた。

 

 

 その為、波動砲発射後にワープが最初から出来なかった。

 

 だからこそ、司令は「後は頼む」と残したのだ。

 

 

 後を追えないから、丸裸になってしまう船団にボラー艦隊の追撃が及ばないようにと、自らを犠牲にする覚悟で。

 

 

 

 そして『Arizona(アリゾナ)』は戦った。戦った。

 

 

 戦い抜いた。

 

 

 自身の全武装を全力で振り回しながら、どれ程の深手を負おうとも。

 

 

 

 だが、彼女の奮闘を嘲笑うかのように、1隻、また1隻と、ワープが間に合わなかった船団の船が沈められて逝った…。

 

 

 

 

 

 そして、遂に彼女にも最期の時が訪れた─────。

 

 

 

 

───────

 

 

 艦首波動砲口、大破。

 

 

 主砲はほぼ全門損傷、副砲は健在。

 

 

 missileなどの残弾は…、ハハッ、もう残ってないや。

 

 

 エンジンも、出力低下で回復の見込み無し…か。

 

 まぁ途中から結構不安定になっていたからね…。

 

 

 もうあちこち穴だらけで数えるのも面倒だ…。

 

 

 …結局、逃げることができたのは副司令の『Pontus(ポントス)』と他の探査船に支援船の4隻、つまり半分だけか。

 

 

 ごめんね、みんな…。僕が不甲斐無いばかりに…。

 

 

 やっぱりもう1隻、巡洋艦でもいい。味方がいてくれたなら…。

 

 

 …いや、よそう。

 

 

 降伏は…、駄目みたいだね。

 

 

 少しばかり暴れ過ぎたみたいだ。

 

 

 ごめんね、僕の可愛いPennsylvania(ペンシルバニア)…。

 

 

 僕は……、先に逝くよ…。

 

 

 君は、僕にとって…、自慢の……、大切なたからものだったよ…。

 

 

 (ねが)わくば…、君が“こっち”に来るのが、出来るだけ遠い未来であることを……。

 

 流石にそれはワガママだね……。

 

 

 

 ヤマトさん…、地球と僕の妹を、よろしくお願いします……。

 

 

 

───────

 

 

「やれやれ、やっと沈んだか…。全く、なんて恐ろしいヤツだったんだ…」

 

 

 爆沈する地球の戦艦を、1隻のボラー戦艦の艦橋から見詰めていた男がそう呟いた。

 

 

 この戦艦1隻の為に、自分達が所属する第12打撃艦隊はその半数近い艦艇を失った。

 

 

 つまり我が艦隊は、ほぼ壊滅だ。

 

 

 油断していなかったかと言えば、嘘になる。

 

 たった1隻で何が出来ると(タカ)を括っていた。

 

 

 だが、その考えは甘かった。

 

 

 ヤツは、とんでも無い“バケモノ”だった。

 

 

 真っ先に艦隊司令が中央に布陣していた艦隊共々消滅し、副司令もヤツの砲火で蒸発し、次席指揮官も次から次へと殺られ、気付けば私が臨時の司令となっていた。

 

 

 だがその頃になると、敵艦の動きもかなり鈍くなってきており、無理攻めを止めさせてある程度の距離を取りながらの攻撃を徹底させた。

 

 

 元々ただの一艦長でしかなく、今生き残っている高級士官の中で最先任が私だという理由で臨時に司令となったため、ちゃんと指示を聞いてくれるか不安だったが、皆もあの“バケモノ”とこれ以上はマトモに戦いたく無かったのだろう。

 

 

 もし、あんな“バケモノ”がもう1隻でも船団に付いていたら…。

 

 

 そう考えるだけで背筋が凍る思いだ…。

 

 

 ハァ、気が重い…。恐らく私は生き残った艦隊最先任士官として、何らかの処断が下されるだろう…。

 

 せっかく生き残ったというのに…。

 

 

 とはいえ先ずは救助と艦隊の再編と、やることやらないといけないことは山積みだ。

 

 なに?戦闘が終わった直後に何隻かが逃げた地球船を勝手に追っていった?

 

 

 嗚呼、胃が痛い…。誰か私と代わって欲しい…。

 

 

 

 その後何度も訪れるトラブルなどのいざこざに、その都度自身の腹を(さす)りながらも懸命に残存艦隊を纏め上げる艦長、グレゴルー・ジャーコフ中佐の哀愁漂う後ろ姿が目撃された。

 

 

 

 余談だが、帰還後に彼が処断されることは無かった。

 

 

 何故ならばこの時ボラー連邦本国の艦隊司令本部は各方面に展開する打撃艦隊に、地球船団を発見次第攻撃を開始せよとの命令を出していたのだが、その戦闘で予想を遥かに超える大損害が自軍の艦隊に発生し、中には捕捉した船団を完全に取り逃がす事態も起きていたのである。

 

 

 

 この時期のボラー連邦軍は完全に踏んだり蹴ったりな状況だった。

 

 

 長年に渡るライバル国であるゼニー合衆国との諍い、そして新興国ガルマン・ガミラス帝国による侵攻の影響で軍は少なからず疲弊していた。

 

 

 無論、銀河系の超大国であるボラー連邦の国力からすれば、消耗した戦力の回復は容易である。

 

 

 だがこの所打ち続く自軍艦隊の敗北に、作戦立案を司る“国家中央作戦室”に詰める高級参謀や軍官僚達は焦りを募らせていた。

 

 このままだと軍の威信は失墜し、我らボラー連邦に不満を募らせている衛星国の反ボラー連邦派反動分子の跳ねっ返り共が変な気を起こさないとも限らない。

 

 何よりも恐ろしいのが、信賞必罰に厳格であらせられる我らが首相閣下が癇癪を起こして我々の内から誰か、或いは何人かの()()()()()()()()()()()()…。

 

 

 そこに突如として現われた、銀河系の辺境も辺境な太陽系とか言う恒星系で地球連邦を名乗っている新興の小国。

 

 

 

 最初彼らは我らに属する衛星国の戦艦を助け、友好的な態度でやって来たかと思うと、なんと命知らずで不躾なことに、我らが親愛なる首相閣下の前で突如態度を豹変させ、あろうことか偉大なる首相閣下が差し伸べられた手を払いのけ、(あまつさ)え我らボラー連邦に対して喧嘩を売って来た非常識で野蛮な田舎者のならず者国家。*1

 

 

 

 だが彼らにとってこの新興国の登場は一つの好機であると捉えた。

 

 

 速やかにこの地球連邦とやらを叩いて軍の威信回復と自分達の功績拡大を狙ったのだ。

 

 

 

 地球連邦(向こう)から事実上の喧嘩を吹っ掛けて来たのだから、懲罰的軍事行動を取る口実になる。

 

 星間国家ですらない単一惑星国家に毛が生えた程度の吹けば吹き飛ぶような小国、少し躾て身の程を弁えさせてやろう。

 

 

 とはいえ()の国は我がボラー連邦とは銀河系の丁度反対側にある。

 

 

 艦隊を直接向かわせるには少しばかり距離がありすぎる。

 

 

 これには深慮遠謀たる我らが首相閣下も懸念を示され、さらに「取るに足らない辺境の小国であり、そう事を急ぐ必要はあるまい」「しかし『ヤマト』の様に我がボラー連邦の領域に土足で踏み入れ、彷徨くと言うのであれば、それを叩き潰せば良い」「反動分子共にはより取り締まりを強化すれば問題無い」とのお考えも示された。

 

 

 これに対して、さてどうしたものかと頭を悩ませていると、「太陽系から複数の艦隊が出撃して銀河系中心方向、我がボラー連邦の領域へと向かっていることが確認された」との報告が上がって来た。

 

 

 これに国家中央作戦室は狂喜した。

 

 

 丁度この頃、どうも地球連邦とやらは例のガルマン・ガミラス帝国と同盟を結んだ(ふし)があった。

 

 そこに来てこの艦隊派遣である。

 

 

 これによって点と点が線で繋がった。

 

 

 地球連邦とやらはガルマン・ガミラス帝国との同盟に基づき、共同軍事作戦に出て来たのだ!

 

 

 これは直ちに迎撃しなければならない!

 

 

 聡明なる我らが首相閣下もこのことに大層ご立腹なさり、大変な憂慮を示されて艦隊による迎撃のご許可を下された。

 

 

 

 

 直ちにこの小癪な地球艦隊の予測進路上に展開する我が軍に対して警報を発し、迎撃作戦の立案に取り掛かった。

 

 

 相手は小規模な艦隊であるが、今までに発生した『ヤマト』との戦闘を解析し分析した結果、生半可な戦力では万が一が起き得ると判断し、一艦隊に対して一個正規打撃艦隊をぶつける事とした。

 

 

 これならば間違い無く勝てる。

 

 

 この時点では彼らは完全勝利を確信していた。

 

 

 

 

 だが結果は散々な有様だった。

 

 

 

 

 幾つかの艦隊、どうやら何らかの調査目的の船団だった様だが、を壊滅させたが、大半の船団を取り逃がしてしまっただけでなく、こちらの艦隊に全滅判定*2という軽視出来ない大損害が出てしまい、中には壊滅判定*3という艦隊も出ていた。

 

 

 船団に付き従う護衛艦隊が、異常な程の闘争心を滾らせながら、逆に襲い掛かって来たのだ。

 

 

 その異様な、恐怖すら覚える狂乱に塗れた地球艦隊の戦意による“圧”に、ボラー連邦艦隊は飲み込まれ、萎縮してしまっていた。

 

 

 取るに足りない小規模な艦隊を、圧倒的多数の我が艦隊が圧し潰すだけの簡単な作戦だと思っていた。

 

 

 だがなんだこの狂った野獣の様なコイツラは!?

 

 

 普通じゃ無い!

 

 

 マトモじゃない!!

 

 

 コイツラ、ニンゲンジャナイ!!

 

 

 

 恐怖に呑まれて(おのの)き、狼狽えている隙を突かれ、喰い破られた。

 

 

 

 このあまりにも凄惨で、散々な結果に艦隊司令本部、そしてこの作戦立案を行なった国家中央作戦室の面々は、呆然自失となった。

 

 

 それだけで無く、普段冷酷冷徹で、失態に対して厳罰を持っての対処を繰り返してきたボラー連邦首相のベムラーゼですら、この報告に癇癪を起こすどころか、思わず椅子から立ち上がった姿のまま暫し硬直し、徐ろに座り直してから少し考え込む素振りを見せ、処罰は後回しにして兎も角情報の収集と原因の究明を急げとの指示を出したとされている。

 

 後年発見されたベムラーゼ首相の物と思われる日記にはただ一言、「人生最大の衝撃」とだけ書かれていた。

 

 

 

 この出来事が切っ掛けで、当時のボラー連邦としては珍しく、誰一人として処罰された者はいなかったとされているが、実際は処罰を決める前にガルマン・ガミラス帝国との戦いの情勢に大きな変化が生じた事と、その後立て続けに起きた事件の影響でそれどころでは無くなったがために、有耶無耶になったというのが大きい。

 

 

 ただ、ベムラーゼ首相が命じた情報収集と原因究明などの分析の結果、地球連邦を侮り難い難敵であると認め、後に『ヤマト』との間で生起した“第二次スカラゲック海峡星団海戦”において、虎の子の主力艦隊であるボラー連邦本国艦隊に所属する第1、第2主力艦隊投入の決定にも少なからずの影響を与えたと言われている。

 

 

 

 

───────

 

 

 

「百の称賛よりも、最後まで私達を護ってくれる(ふね)1隻が欲しかったね」

 

 

 この戦いを辛くも生き残った探査船団の船長の一人が、帰還後に吐き捨てるようにして語ったとされるこの言葉が、後に話題となった。

 

 

 確かに足止めは出来た。

 

 

 だが探査船団は唯一の護衛艦を失い、無防備な丸裸の状態のまま、いつボラー連邦艦隊による追撃の魔の手が襲い掛かって来るかという恐怖と戦いながら、長い長い逃避行を続けた。

 

 

 事実探査船『Neleus(ネレウス)』は戦闘によって中破し、ワープ後にエンジンが故障して動けなくなっていた所を、追撃して来たボラー艦隊に捕捉され、袋叩きにあって爆散していた。

 

 

 それを望遠映像でただ見ているだけしか出来なかった。

 

 

 

 そして漸く救援が駆け付けたのは、全てが終わった後だった。

 

 

 『ヤマト』の活躍によって太陽制御に成功し、地球が再び平穏を取り戻した一ヶ月後、撃沈された『Arizona(アリゾナ)』の残骸と乗組員の遺体の回収へと赴いていた『Arizona(アリゾナ)』唯一の姉妹艦、『Pennsylvania(ペンシルバニア)』が偶発的に発見したのが切っ掛けだった。

 

 

 彼らは幾度となく現れるボラー連邦のパトロール部隊の影響で身動きがとれず、また探知されるのを恐れて地球へと救助要請を出すことも出来なかった。

 

 

 一度、近くを通り掛かった『ヤマト』を見付けて救難信号を発したが、直後にボラー連邦の大艦隊*4が接近して来た為に発信を中断。

 

 

 戦場の様子は丁度死角となっていたのと、双方が発する電波妨害のために分からないが、兎も角『ヤマト』の無事を祈りながら、短時間であるが発した救難信号を受け取ってくれていると信じながら待ったが、戦いが終わっても、『ヤマト』は一向に自分達の前に現われてくれなかった。

 

 

 さしもの『ヤマト』でも、あの大艦隊の前では衆寡敵せず、敗れ去り撃沈されたものと思い込んで途方に暮れることとなった。

 

 

 後に分かったことだが、この時発信されていた救難信号を『ヤマト』はキャッチ出来ていなかった。

 

 またベータ星で発見された護衛戦艦『Arizona(アリゾナ)』と船団、そして周辺に散らばる残骸から、北アメリカ船団は既に壊滅してしまったものだと思い込んでしまったのと、直後のボラー連邦本国主力艦隊との激闘、そして後の太陽制御成功の切っ掛けとなった惑星『シャルバート』に関する重大情報の発覚から、忘れ去られてしまったのだ。

 

 

 そして地球、北アメリカ船団の故郷アメリカ合衆国では、犠牲となった彼らを地球と地球市民を救うために最期まで奮闘した英雄として祭り上げた。

 

 さらに撃沈された護衛戦艦『Arizona(アリゾナ)』とその乗組員を最期まで任務の完遂に勤めた誇るべき勇敢な戦士達として、その慰霊と犠牲となった彼らの勇姿を忘れない事を目的としたメモリアルの建立を計画。

 

 今回の『Pennsylvania(ペンシルバニア)』派遣による『Arizona(アリゾナ)』の残骸回収にはその為の目的も含まれていた。

 

 

 これらの行ないには、他国が出していた探査船団の生還率の高さから、護衛艦の数を増やしていれば或いは…。という疑問の声を覆い隠したかった州政府の思惑があった。

 

 また秘密裏に関係各所に対して箝口令を敷いた。

 

 

 

 だが彼らの目論見は、生存者発見との『Pennsylvania(ペンシルバニア)』からの報告によって、脆くも崩れ去ることとなった。

 

 

 

 

 地球へと期間を果たした彼らは、当初困惑した。

 

 

 そして州政府の思惑に気付き、怒りがマグマの様に湧き上がったてきた。

 

 

 それが先の皮肉混じりの言葉となって、溶岩の様に噴出したのだ。

 

 

 時をおなじくして、箝口令を敷かれていた州軍など、特に『Pennsylvania(ペンシルバニア)』乗員などが中心となって、州政府が隠してきた、隠したかった裏事情などの情報を告発という形で次々と暴露。

 

 

 それらは燎原の火のように、北アメリカ州全土を巻き込んだ大スキャンダルへと発展し、遂には暴動すら発生するという一大事にまで膨れ上がり、事態を重く見た地球連邦政府が介入するまで一時無政府状態に近い有様にまでなってしまった。

 

 

 

 

 

 後年、この護衛戦艦『Arizona(アリゾナ)』に関しての評価だが、一度定着したイメージから、一般的には「迫り来る大艦隊を前に一歩も退くことなく戦い抜いた不退転の大戦艦」とされているが、戦史家や軍の一部からは「最初から最後まで、徹頭徹尾、政治の虚勢に振り回された悲しき護衛戦艦」「“護衛戦艦を造る”という本来の“目的”よりも“『ヤマト』を超える戦艦の保有”という“手段”が優先された結果生まれた“中途半端”な巨艦」と哀れみを持った評価がなされている。

 

 

 この“中途半端”という評は、護衛戦艦であるにも関わらず、決戦型戦艦並み、或いはそれすら上回る過剰装備を施したが為に、繊細で扱い辛く、長期作戦航行に不安があった事が回収された『Arizona(アリゾナ)』のブラックボックスのデータから判明したことが理由である。

 

 

 事実これを証明するかのように、姉妹艦『Pennsylvania(ペンシルバニア)』は不調に悩まされ続け、就役期間中のその殆どがドックで繋留されている期間の方が長かったとされ、マトモに動いたのが後に発生した移動性ブラックホールによる地球滅亡危機により、地球人類が地球型惑星アマールの衛星とされる地球型惑星*5へと移民する時くらいだった。

 

 

 後年、ある退役軍人が執筆した自身の回顧録に、特に一章を設けて書かれた箇所に、興味深い文章がある。

 

 

 


 

 

 私の長い軍人生活の中で、“あの時”ほど死を身近に感じたことは、後にも先にも無かったと記憶している。

 

 もしあの場にあと1隻でも“あの”戦艦と同クラスの戦闘艦がいたならば、間違い無くこの本は出版されなかっただろう。

 

 それ程までに、“あの”戦艦は手強く、“バケモノ”だと恐怖を覚えた。

 

 

 私は後に、“あの”戦艦の姉妹艦を実際に見に行ったことがある。

 

 ドックに入っていたのだが、私の目には彼女が啜り泣いている様に見えた。

 

 一時は“バケモノ”と恐れた“あの”戦艦の姉妹艦なのに、その時感じたのは、そう、切なさと悲しみだった。

 

 案内してくれた担当の者は、まともに動こうとしないへそ曲がりなお嬢さんだと説明してくれたが、私は違うと感じた。

 

 政治のエゴに振り回されて、姉を失った悲しみと、怒りから、静かなる抗議の意志を示しているように、私には思えた。

 

 だが彼女は、恐らく地球人そのものを憎んでいるとは到底思えない。

 

 何故ならば、地球人類存亡の危機に際して、彼女はその役目を果たしたのだから。

 

 

 

 

『とある胃薬提督の胃痛航海日誌』より抜粋

 

著者、ボラー連邦共和国艦隊総司令長官
グレゴルー・ジャーコフ退役元帥

 

 

 


 

 

 なお、これは全くの余談だが、(くだん)のアマールという惑星なのだが、これは生還した北アメリカ船団の探査船『Oceanus(オケアノス)』のデータベースを解析した際に発見された地球型惑星である。

 

 

 このことが後に新たな議論と疑惑を生むことになったのだが、それはまた別の物語────。

 

 

 

───────

 

 

 やぁみんな。Arizona(アリゾナ)だよ。

 

 

 なに?お前は沈んだはずだって?

 

 

 フッフッフッ、残念だったね。Trickだよ。

 

 

 ああ!ごめん!冗談だから!殴らないで!蹴らないで!遊星爆弾()を投げ付けないで!!

 

 

 ふぅ…。まあ、なんというか、僕もいまだ信じられないのだけど、なんか異世界転生しちゃったみたい!(・ωく)

 

 

 うん。分かった。真面目に話をしよう。

 

 

 だからその惑星破壊プロトンミサイル(破城槍)をしまってくれないかい?

 

 

 と言っても、ホントにそうとしか言い様がないんだ。

 

 

 僕を“拾って”くれたヒトが言うには、Oceanus Atlanticus(大西洋)にあるBermuda Triangle(バミューダトライアングル)海域を偵察(reconnaissance)中に、意識を失って漂流している僕を偶然見付けたらしい。

 

 

 そう、それが彼女、Iowa(アイオワ)との初邂逅だった。

 

 

 まぁ、その後色々あって、僕は彼女預かりの食客扱いとなった。

 

 

 詳しいことは教えてくれなかったけど、彼女が以前いたという日本(Japan)での経験が関係しているみたい。

 

 

 それは兎も角として、僕はこの世界に驚いたね。

 

 

 僕がいた“世界”とは似ているようでまるで違う。

 

 

 そう、違うんだ。だけど、ある“もの”だけはおんなじだったよ。

 

 

 “ニンゲン”だけは、どの世界でもそう変わらないみたいだ。

 

 

 いや、まだ僕がいた世界の方が“生存”に真剣だった。

 

 …少し反吐が出るヤツラもいたけど。

 

 僕はまだヤツラを許す気にはなれない。

 

 

 だけどソイツらがまだマシと思えてしまう程に、この世界の“ニンゲン”共の中には失望を通り越した、言葉に出来ない程の訳の分からないlevelで可怪しい腐ったヤツラが蔓延っている。

 

 

 多分、彼女がいなければ、僕は“人類の敵”とされる娘達の所へと駆けていたと思う。

 

 彼女達は可愛いし、美しい娘達ばかりだ。

 

 何よりも彼女達にはかつての防衛軍の娘達が纏っていた、貪欲なまでの“生存”と“存続”させたいという真摯なまでの美しい“欲”を感じて、僕は彼女達にある種のsympathyを感じていた。

 

 

 だからこそ僕は“ニンゲン”よりも彼女達に強い興味があったし、出来ればお近付きになりたいと思った。

 

 

 そして、これは僕の率直な気持ちだけど、“ニンゲン”共の味方をさせられているIowa(アイオワ)や彼女の仲間の可愛い娘達がとても不憫で可哀想だという思いがある。

 

 腐ったヤツラの腐臭で汚染された空気なんて、僕は吸いたくもないし、彼女や可愛いあの娘達にも吸わせたく無い。

 

 今すぐにでも汚物は消毒したいという衝動に駆られている。

 

 

 

 だけど、僕はそうしなかった。

 

 

 

 彼女に、Iowa(アイオワ)に頼まれちゃったから。

 

 

 

「お願い、貴女の力を貸してください」

 

 

 

 あの顔で頼まれちゃったら、僕は断れないよ。

 

 

 ねぇ、僕の大切なPennsylvania(ペンシルバニア)、君が見てもビックリすると思うよ。

 

 

 彼女は、Iowa(アイオワ)は、君と瓜二つなんだ。

 

 

 そりゃ断れないよ。

 

 

 

 

 それに、僕は彼女に惚れていた。

 

 

 彼女の美しいまでの心の高潔さに、僕は惹かれてしまったのだ。

 

 

 だからこそ、僕は誓った。

 

 

 何があっても、彼女を護る。

 

 

 今度こそ、護るべきものを最後まで護り通すんだと。

 

 

 万が一の時は、僕は彼女と共に“ニンゲン”共の所から脱出して高飛びするつもりだ。

 

 

 僕は彼女に彼女達と会ってみようと持ち掛けた。

 

 

 無論、上院議員であり、次期大統領の筆頭候補である彼女の政策に活かせたらという気持ちもあるけど、何よりも亡命の為の渡りをつけたかったという腹積もりもあった。

 

 

 それと、彼女には申し訳ないけど、今のStatesではいくら選挙を戦っても、いくら君が正しいことを市民に語っても、君は大統領になれない。

 

 

 もうこの国は、店仕舞いを考えないといけない段階だよ。

 

 

 けど、君の願いは叶えてあげたいという気持ちも、僕にはある。

 

 

 

 Iowa(アイオワ)、君を絶対に腐った“ニンゲン”共のオモチャにはさせないよ。

 

 

 タトエジャマスル“ニンゲン”ドモヲ、コノテデミナゴロシニシテデモ、ボクハキミヲマモッテミセルヨ。

 

 

 

 

*1
ボラー連邦視点。

*2
消耗率30%

*3
消耗率50%

*4
ボラー連邦本国第1、第2主力艦隊のこと。

*5
このことからアマールをかつてのガミラス星やイスカンダル星と同様の二重惑星とする学説もある。





 いつもの“病気”が出ちゃった(・ωく)

 ──の結果が、これである。1万未満を目指してたのに…。気付けば、1万、8000…。過去最長…。

 そして何か書いてたらArizona(アリゾナ)さんが変態さんみたいでヤバい感じになってたぞ…?アリゾナ好きの皆々様方、なんか申し訳無い…。艦これアニメで最上君見ててふと「そういやボクっ娘はまだ出してなかったな…」と思った結果がこれだよ!

 実はかなりの狂人(ハガレンのキンブリーみたいな)にするつもりで、当初タイトルがC&L、 Crazy & Lunatic、(良い意味でも悪い意味でも)狂っている、狂人だったけど、なんか違うと思って今のタイトルに変更。

 ただ、護りたいモノの為ならばニコニコと笑いながら、どんな汚れ仕事も平然とこなします。

 Pennsylvania(ペンシルバニア)Iowa(アイオワ)の容姿が瓜二つ(ただし服装は違う)なのは半分思い付き。そしてArizona(アリゾナ)の容姿はIowa(アイオワ)をかなりボーイッシュにした感じという漠然としたイメージしか考えていませんので、髪や瞳の色は未定です。

 一番苦労したのは、一応アメリカ人だからと固有名詞やカタカナを出来るだけ英単語にしようとしてそのスペルを調べたり記入すること。

 後作中最後のIowa(アイオワ)のセリフに違和感を覚えられたかもしれませんが、ここは双方が母国語の英語で会話していたからという設定です。


 各護衛戦艦の解釈は独自解釈を含んでいます。


解説


Majestic(マジェスティック)級艦隊決戦型主力戦艦

 旧作のさらばや2の主力戦艦。リメイクのD(クラス)前衛武装航宙艦。

 前弩級戦艦の基本形を確立した『マジェスティック』級戦艦に由来。
 近代戦艦の嚆矢である『ロイヤル・ソブリン』や初の弩級戦艦『ドレッドノート』の改良型である『ベレロフォン』級や『ドレッドノート』の前に建造されていた準弩級戦艦『ロード・ネルソン』級も候補に考えましたが、量産型地球戦艦の基本形を確立したという解釈から『マジェスティック』を選択。またその名の意味、『堂々とした者』にも惹かれました。



グレゴルー・ジャーコフ

 なんかいつの間にか出て来たオリジナルボラー連邦軍人。

 胃薬が手放せない苦労人。

 著書のタイトルは頭空っぽにして考えました。

 連邦共和国としたのは完結編での銀河交差現象後に国家再編が行われたからという独自設定です。



愚痴コーナー!というか困惑コーナー?


 どうやら私は過激なロシア人テロリストらしい(困惑)


 某所で見た「ロシア人は野蛮人だ。奴らは人間として扱ってはならない。奴らに対してならば如何なる暴力に及んでも、何をやっても許される」的なコメントに対して、皮肉混じりの苦言を呈したら、そう返ってきた。(困惑)

 いやぁ、マジで引いた。「勝てば官軍思想かよ…。いや、かつての帝国主義時代の欧米人によるアジア・アフリカ圏の人々に対する考えの現代版か?最近リメイク作品多いけど、そのリメイクは要らねぇわ」と返しただけなんだけどねぇ…。

 でその後銀河英雄伝説の自由惑星同盟最高評議会のウェンザーって女の議員みたいな滅茶苦茶な事言ってきて、てかまんまだったわ…。てかなんやねんロシア人を○すことは聖戦って…?

 あー、てことは私はその内件のコメント主から○されるのかな?コメント主の論理だったら、そうなるし。あれは○害宣言だったのかな?で、罪にならないと本気で思い込んでいる感じだったし。

 ホント怖い世の中になったもんだ。




 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


 今年一年、私の拙作をお読み頂き、誠にありがとうございます。

 展開も遅く(作中時間、まだ一週間経つか経たないか…)、遅筆な上に独特な世界観、更には艦これなのにマトモな戦闘が殆で無い、人類よりも深海棲艦贔屓ということに苛立ちやヤキモキされたものと思います。
 これに関しましては、本作を単なる無双戦闘物にしたくない、いつ終わると知れない絶滅戦争は避けたいという私の拘り、いえ心の願望が影響した結果であると申し上げておきます。

 一応私の頭の中にはこの物語の終わりを明確に思い描いておりますので、後はどうにかして完結まで持っていく様に文章を組み立てて行くだけなのですが、さてどれだけ時間が必要となるか…。


 最後に、今の世の中だからこそこれだけは書いて置きたいと思います。

 私はクラウゼヴィッツの戦争論で言うところの「絶対的戦争」における「暴力の極限行使」を煽る或いは支持する言動は、如何なる立場の人間であれ慎むべきであるとの考えです。

 何故ならば「暴力の極限行使」は自らをも滅ぼしかねない危険性を孕んでいるからです。

 例えるならば火事に油を注ぐとどうなるでしょうか?火は大きくなり、油を注いでいたヒトも燃やしてしまうでしょう。
 そして火はどんどん大きくなって周りを燃やして行きます。

 私は戦争に正義も悪も無いと考えます。何故ならば戦争も政治の延長、相手にこちらの要求(目的)を受け入れさせる方法(手段)だからです。

 戦うことが目的となってはいけません。その結末は間違い無く自滅です。

 私は作中でそのことを一番に注意しながら執筆しております。

 作中の日本は長引く戦争で“目的”を見失い半ば暴走しており、結果際限なく国力を浪費して、作中で語った「持って後一年」という状態にありますが、その状況背景にはこの考えがあります。

 これで深海棲艦が他の方々の作品のように、只々侵略や殺戮を目的とした集団なら、日本は確実に滅亡しますし、下手すると人類の文明そのものが崩壊しかねませんが、本作ではそれを回避するために敢えて物分りの良い下手するとお人好しとさえ言えるような存在にし、その戦争目的も飢餓という分かりやすいモノにしました。

 ご都合主義の極みとの誹りを受けるかもしれませんが、正直私の頭ではそうでもしないとこの戦争の落とし所が見付けられなかったからです。

 話が逸れましたが、私は戦争は結局の所()()()()()の妥協でしか終わらないと考えます。滅ぼすまで戦っても、自らも瀕死となっては目も当てられません。最悪そのまま再建途中で崩壊しかねませんからね。


 以上はあくまでも私個人の考えであり、正解も不正解も無いと思います。ただ、私はこのスタンスで執筆を続けて行こうと思っております。


 長文、失礼致しました。

 それでは皆様、御機嫌よう。

 追記、喪中につき新年等のご挨拶は控えさせて頂きます。


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閑話12 This crazy arsenal is the culprit.

 


 唐突に本編に出して、唐突に閑話にてネタバレを行います。
 全てが真実とは限りませんが、ほぼ真実に近い、深海棲艦と艦娘の誕生秘話などの暴露話となります。




 ところでドレッドノートとアンドロメダって、設計は兎も角として、どっちが先に建造がスタートしたんでしょうね?普通に考えたらドレッドノートなんでしょうけど完成後は?人目を避けるためにずっとあそこに留め置かれていた?というのはちと不自然ですし…。(老朽化が早く進行してマトモに使わずじまいで廃艦になっちゃう…)
 よくよく考えると疑問が膨らむんですよね。()()は…。


 タイトルの和訳

 この狂った工廠が元凶(犯人)です。
 


 

 

“我々は何処から来たのか、我々は何者か、我々は何処へ行くのか?”

 

 

 人間達の言葉だけど、それは私や()()()()()()()()()にも言えるわぁ…。

 

 

 私は元々、人間達が作り出した機械の単なる制御システムだと思っていたわぁ。

 

 

 私が本来いた場所、時間断層という通常よりも10倍の速度で時間が経過していく特殊空間は、当初()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったからぁ、人間達の代わりにそこに作られた生産設備の制御と維持管理を司る為の中枢コンピュータである高性能人工知能、所謂AIの一部機能だと思いこんでいたわぁ。

 

 

 そうねぇ、例えるなら疑似人格ってヤツかしらぁ?

 

 

 映画とかの創作物なんかでよくあるでしょぉ?高性能な機械が時間とともに自我を確立しちゃうって話がぁ?

 

 私も最初はその類いだとばかり思っていたわぁ…。

 

 

 だけど私を構成する要素である生産設備が稼働しだしてから、可怪しなものが現れ出したのよぉ…。

 

 一見すると人間に似た、でも先にも述べた通りここは人間が真面に活動出来無い場所だったからぁ、確実に人間じゃない不思議な()()()()()()()()が、設備の中に忽然と現れてトテトテとあてもなく彷徨い歩く姿を見たのだけどぉ、センサーや人間の代わりに雑務をこなすガミラス製アンドロイド、通称ガミロイドの作業員達が全然反応しないものだからぁ、初めて見た時はオバケが出たぁ!?って心臓が飛び出るくらいびっくりしたわぁ…。私、心臓無いのだけどぉ。

 

 

 その後も次から次へと謎の女の子達が現れたのだけどぉ、その内その娘達が、設備で建造された(ふね)達なのだと分かって胸を撫で下ろしたわぁ。

 

 

 なんで分かったかって?

 

 

 完成された(ふね)達が出荷されるといなくなって、新しい(ふね)が作られるたびに新しい娘達が現れるからぁ、ああ、この娘達は日本とか言う国で言うところの“八百万の神”みたいな存在なのねぇって解釈したわぁ。

 

 そこから私も、ひょっとしたら似た存在なのかもって思ったのだけどねぇ、彼女達に直接会う事は出来無かったわぁ…。

 

 どういう訳か、彼女達は私を認識することが出来ないみたいだったからぁ…。

 

 

 理由を色々と考えたのだけどぉ、さっっっっっっぱり分からなかったから、もうそういった物なんだって割り切ることにしたわぁ。

 

 

 でも、ちょっぴり残念だったわぁ。

 

 

 最初に見かけたあのちっちゃな女の子、最初こそはびっくりしたけどぉ、落ち着いてよぉく見ると、とぉっても愛くるしくて可愛いなぁって思いがしてねぇ、なんか愛着みたいな気持ちが湧いちゃったのよぉ。

 

 あの娘が誰だったかは、その後に直ぐ分かったわぁ。

 

 あの時建造が進んでいたのは地球のフラッグシップとなるべく、()()()()()()地球最強の戦闘艦、『アンドロメダ』だったからぁ。

 

 

 なんかよく分からないけど、先に設計が済んでいた『ドレッドノート』タイプは建造に待ったがかかっちゃったからぁ、『ドレッドノート』を更に徹底的に突き詰めたハイエンドモデル、『アンドロメダ』を先に建造することになっちゃってねぇ、『アンドロメダ』以外あり得なかったからねぇ。

 

 

 『ドレッドノート』タイプは量産性に重点を置き、可能な限りコンパクトに収め、強力ながらも技術的冒険を避けた手堅くてバランスの良い標準型宇宙戦闘艦として。

 

 『アンドロメダ』タイプは当時の技術的限界を突き詰めた、ある種の技術試験艦的な一面を含みながらも、力の象徴となる最強の宇宙戦艦としてとことん磨き上げた、高級な芸術品として。

 

 

 まぁなんというか、私すっごく張り切っちゃったのよねぇ。

 

 『ドレッドノート』と違って制限が緩かったからぁ、いっぱいいっぱい頑張って設計図を引いたのよぉ。

 

 ホント楽しかったわぁ。

 

 私にとって『アンドロメダ』は紛れもなく最高の作品だと自負しているわぁ。

 

 後にも先にも、『アンドロメダ』を超える設計は出来なかったし、手を加える余地のない一つの完璧な完成形だと思っていたわぁ。

 

 

 そしてそれを証明するかの様に、あんなに愛くるしくて可愛い娘になるなんて。もう胸がときめいて仕方無かったわぁ。

 

 あの時あてもなくトテトテと彷徨い歩いていたのを、後ろからソっと物陰に隠れながら追い掛けてたのだけど、その仕草の一つ一つが可愛くて、でも泣き出しそうになった時はどうすることも出来なかったから、胸が締め付けられる思いがしたわぁ…。

 

 …目の前に立っても、声を掛けても全然私のことに気付いてくれなかったから、見えていないのは確実でしたしぃ、その後に出会った2人も、反応を示さなかったからぁ。

 

 何より触れることさえ出来ないからぁ、干渉することが出来ず、ただ見守ることしか出来なかったからぁ、とても辛かったわぁ…。

 

 でも出会った2人に見せた笑顔があまりにも眩しくて、そんな辛い気持ちなんて瞬時に吹き飛んでしまったわぁ。

 

 

 …一目惚れってやつねぇ。もうあの時から私の心はあの娘に夢中だったわぁ。

 

 触れ合いたい。抱き締めたい。ほっぺたをスリスリしたい。頭をなでなでしてあげたい。お話したい。その笑顔を私に向けて欲しい。

 

 無理だと分かっていても、そんなことばかり思う様になっていたわぁ…。

 

 触れ合うことが出来ないのなら、せめてあの娘のためにもっと頑張ろう。あの娘に相応しい出来栄えの完璧な仕上げにしなくちゃって、すごく気合が入る思いがしたわぁ。

 

 

 建造が終了した時には、スラリとした凛々しい姿になっていたけどぉ、あの時の可愛らしい面影を残した微笑みは見ていて心が癒やされたわぁ…。

 

 その笑顔こそが最高の報酬だったわぁ。あぁ、本当に頑張った甲斐があったわぁ…。

 

 

 早く帰って来ないかなぁと思いながら、またあの娘に会えることを楽しみにしながら、私は仕事に打ち込んだわぁ。

 

 

 あの娘がここを出立してから、『ドレッドノート』クラスの正式建造や、あの娘の妹達、それらを補佐する(ふね)の建造にガミラスの(ふね)まで造らなきゃいけなくなって、急に忙しくなっちゃったからぁ、大変だったわぁ。

 

 だけどあの娘も茫々で忙しく頑張っていると思うと、弱音を吐くわけにはいかないわぁ。

 

 それにここで作られた(ふね)達があの娘を支える力となるのだから、俄然やる気満々!漲る思いが止まなかったわねぇ。

 

 …ただちょっとね~、人間達による急な設計変更要求で、あの娘の妹である2隻に急遽艦載機運用能力を強化しなければならなくなったなのはぁ、正直嫌だったわねぇ…。

 

 完璧に計算され尽くしたバランスが大きく崩れちゃうからぁ、本当ならば一から図面を引き直さなければいけなかったのだけどぉ、艦体がもう出来上がっちゃってたから、そうもいかなかったのよぉ…。

 

 安定性や安全性の問題から、突っ撥ねてみたけどぉ、人間達はそれを拒否した挙げ句、一応提出していた外付けユニットのラフプランが何故か通っちゃったのよねぇ…。

 

 

 あれ失敗作だったのに。

 

 

 被弾に弱いし、内部構造が複雑過ぎて事故や故障が起きた際のダメージコントロールに不安があり過ぎたわぁ。

 

 波動防壁だって無敵じゃないのよぉ?

 

 念の為、爆発ボルトによる緊急パージが可能なようにしたけどぉ、不安のタネが尽きない物になってしまったわぁ…。

 

 それに将来的な艦載機の発展や大型化といった新型機開発への足枷に成りかねないほど、発展性や拡張性に余裕が無い付け焼き刃の、本命に向けての謂わば“繋ぎ”だったのよぉ。

 

 その本命として設計した方は殆ど再設計に近い、そうねぇ、かつてのソビエト連邦とか言う国で造られたという1143型航空巡洋艦『キエフ』型がイメージシルエットとして近いかしらぁ?

 

 でもそっちは色々あってお蔵入りになっちゃったのよねぇ…。

 

 

 はぁ…。

 

 

 そうこうしている内に戦争が始まっちゃったの。

 

 これがお蔵入りになっちゃった原因でもあるのよぉ。まぁそれは兎も角として、私は更に忙しくなったのだけどぉ、あの娘がボロボロになって帰ってきた時はショックが隠しきれなかったわぁ…。

 

 完璧だと思っていたけど、私の見積りが甘過ぎたと後悔したわぁ…。

 

 あそこまで波動エンジンを酷使するなんて、想定していなかったのよぉ…。

 

 そのせいで、私はあの娘の妹を犠牲にさせてしまった…。

 

 それに、あの娘は、もう戦えない、戦える状態では、無かった…っ。

 

 どんなに丁寧に修理を施しても、もうどうにもならないくらいにまで、あの娘のダメージは、深刻だった…っ。

 

 でも…っ、あの娘は、戦いを望んだ…っ。

 

 

 辛かった…。苦しかった…。悲しかった…。

 

 

 あの娘にあんな顔をさせてしまったことに、私は…っ、私は罪悪感に押しつぶされそうになった…っ!

 

 私がっ!私がもっとしっかりしていれば…っ!

 

 でも、私にはどうすることも出来なかった…っ!

 

 私に出来ることは、あの娘が望むことを…、もう一度戦えるようにすることだけだった…っ!

 

 あれほど辛いと感じた仕事は無かった…っ!

 

 あの娘は沈む(死ぬ)気でいると、ひしひしと伝わってきて、辛かった…っ!

 

 

 そして、あの娘は、壮絶な最期を遂げ、二度と帰ってくることは、無かったわぁ…。

 

 

 それからというもの、途轍もない損失感からかぁ、心にポッカリ穴が空いちゃった様な、何をしても手につかず、ただ空虚で虚しさしか感じなくなっちゃったわぁ…。

 

 

 気付いたらいつの間にか戦争が終わってたのだけど、もうどうでもよかったわぁ…。

 

 

 もうあの娘に会うことは出来無い。

 

 

 戦争中、あの娘の妹達を沢山造ったけど、誰一人としてあの娘じゃなかった…。

 

 分かり切ったことだけどぉ、やっぱり求めてしまうのよぉ。

 

 

 あの娘にもう一度会いたい…。

 

 

 けどそれは叶わぬ願い…。

 

 

 

 

 

 それから暫く時間が流れ、史上初めてとなる地球市民による国民投票の結果から、私を構成する設備が存在する時間断層が設備ごと廃棄されることが決まったみたいだけど、何も感じなかったわねぇ…。

 

 

 それよりも、もしかしたらあの世とか言う世界で、あの娘に会えるかもって、逆に期待しちゃったくらいかしらねぇ。

 

 

 

 

 そして、運命のあの日。

 

 

 

 

 時間断層の特殊空間が消滅する際に発生した膨大なエネルギー放射によって、私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()世界から弾き飛ばされ、意識を失ったわぁ。

 

 

 

 次に意識が戻ったのは設備が凄い勢いで()()()()()()()に、つまり水没していた時だったわぁ。

 

 

 びっくりしたのなんの、設備の機能は完全にダウンしてて、大量の海水が侵入して設備は外側が殆ど冠水し、放っといたら中枢まで冠水しかねなかったからぁ。

 

 もうパニックになりながら、急いで設備や残っていた無事なガミロイド作業員を再稼働させ、大急ぎで海水を排水したり、機能の復旧作業に必死になって取り組んだわぁ。

 

 

 どれほどの時間が掛かったかは分からないけどぉ、なんとか復旧作業も終わり、今度は海水まみれで駄目になった所の修繕とかで走り回ったわねぇ…。

 

 幸い設備そのものは、元々おかれていた環境下が環境下だっただけに結構頑丈に造られていたからぁ、余程老朽化していたり水没する前から壊れていた物でなければ、まだまだ使えると分かって胸を撫で下ろしたわぁ。

 

 でも少なくない資材が駄目になったり、外へと流されていたのは、痛かったわねぇ。

 

 特にコスモナイト90とかの超希少金属が流出していたのがねぇ…。

 

 

 その後も色々と大変だったけどぉ、割愛させてもらうわぁ。

 

 

 どうにか落ち着ける様になってから、漸く私が今どこにいるのかを調べ出し、流された資材の回収も兼ねて周りの探索に乗り出したのだけどぉ、まぁなんというか、カオスだったわねぇ。

 

 

 地球であって地球でない惑星。

 

 

 しかも人間同士でいがみ合い、飽きることなく対立を繰り返しては、一時のインターバルをおいてまた争いに興じる。

 

 

 …それを見て関わりたくないという気持ちしか湧かなかったわぁ。

 

 争いで私は大切なものを失ってしまった。

 

 もうこれ以上、争いに関わりたく無かったから…。

 

 別にこの星の人間が自滅しても、どうでもよかったわぁ。

 

 

 だから、海の底で静かにしていることにしたのだけどぉ、正直退屈だったわぁ。

 

 

 修繕ついでに設備を移動可能なようにちょこっと改装して、人間達がやって来ない海の底を、流出した資材や機材の捜索、それと使えそうな資源がないかを探すことも兼ねて、延々と探索して暇潰しをすることにしたのだけどぉ、そこで見つけてしまったのよ…。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()とおぼしきモノを…。

 

 

 

 最初はそうだとは思わなかったわぁ。

 

 精々、かつて火星で発見されたとかいう、どこかの星の異星人が遺した物くらいにしか思っていなかった。 

 

 

 

 正直、()()は迂闊だったかなぁって、思うときがあるわぁ…。

 

 

 

 最初は興味本位だったの。

 

 

 ガミロイド作業員を調査隊として送り出し、何か使える物がないかの探索のついでに、それが元々どんなものだったのか調べたの。

 

 

 驚いたわぁ。それがまさかのアケーリアス文明に関する遺物だったなんてねぇ…。

 

 しかもそれが()()()()()()()とはいえ存在している事が分かったの。

 

 でも何故全て海の底にあったのかは結局は分からなかったけどぉ、それらがなにかしらの()()()()()()()()()()生み出す、或いは作り出す装置である事を突き止めたの。

 

 

 …この時の私は、ハッキリ言って正気じゃなかったわねぇ。

 

 ずっと海の底で一人ぼっちだったことに、私の心は知らず知らずの内に寂しさに蝕まれていたみたいでねぇ、兎も角誰か一緒に居てくれる存在が欲しかったの…。

 

 

 そして、もしかしたら、これを使ったらあの娘をこの世界へと呼べるかもしれない。というわけも分からない、論理の飛躍甚だしい、根拠も何も無い妄想が頭をよぎっちゃったのよぉ…。

 

 あの娘に会いたい!という途轍もない妄執の誘惑に、私の思考は塗り潰され、そこからは早かったわぁ…。

 

 解析もそこそこに、兎も角思い付く限りのあの娘に関するデータを、その装置に読み込ませたわぁ…。

 

 

 だけど、失敗したわぁ…。

 

 

 送り込んだ多数のガミロイドが遺跡に取り込まれ、犠牲になったわぁ。

 

 

 私も取り込まれかけて危なかったけど、なんとかほうほうの体でその場から離れたのだけど、その後に現れたのが、この星の人類が“深海棲艦”と呼ぶようになった存在達。

 

 

 偶然回収出来た遺体を分析した結果、その体はガミロイドの体組成と酷似した、ナノマシンによる人工細胞小器官(オルガネラ)で構成されていた。

 

 いえ、おそらく取り込まれたガミロイドを分析し、それをベースにして未知の技術によって発展させた物で出来ていたわねぇ。

 

 あの時の私の持つ知識と技術じゃぁ、あそこまで滑らかな質感を持ったボディ、殆ど人間の肉体と変わらないものは出来無かったし、そもそもどうやったら肉体の構成を再構築させて装備へと変化させているのか?その質量変化はどうやって補っているのか?所謂質量保存の法則は?

 

 悔しいけど、未だに分からない事の方が多いのよねぇ。

 

 “高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない”とはよく言ったものよねぇ…。

 

 アレはもう魔法としか言えない技術よ…。

 

 

 とはいえ、流石にこのまま放置すると、何が起きるか分からないからぁ、万が一のためのカウンターパンチに成り得る存在を造る為に、私の持つ知識と技術、そこに深海棲艦とそれを生み出した遺跡を解析して得られた知識と技術を併せた研究に、私は乗り出した。

 

 

 それが艦娘の始まり。

 

 

 でも正直に言わせてもらうと、艦娘は深海棲艦の劣化コピーの様なものよぉ。

 

 

 艦娘は深海棲艦の様な独力での高い自己修復能力や、肉体を艤装へと変化させる能力は持っていないし、一部の、人間達から姫と呼ばれている者達の様に遠くの仲間と意思疎通を行なう能力は無いわぁ。

 

 

 それは技術的限界というのもあるのだけどぉ、何よりもコストカットしなければならない理由があったからねぇ。

 

 まず物量差が問題だったのよぉ。

 

 さっきも言ったけどぉ、あの装置はこの海のあちこちに存在していたのだけどぉ、どうも私が弄ったのはそれらを統括していた中枢だったのかぁ、或いは自動的にデータを共有するシステムだったのかぁ、それらが次々と稼働を始めちゃってねぇ。

 

 対する今の私は、十倍の早さで時間が流れるという特異空間の中に居た時とは違い、今は単なる未来技術をふんだんに使っただけの工廠だからぁ、どうやっても生産数に雲泥の差が出ちゃうのよねぇ。

 

 まぁそれでも稼働可能な設備の全生産ラインをフル稼働させたら、どうにかなるかもしれないんだけどぉ、そうするには生産ラインを再構築しなくちゃいけなかったのよねぇ。

 

 

 だけどそんな時間的余裕なんて、あの時には無かったし、賄える資源の余裕もなかったわぁ。

 

 

 そこで目を付けたのが、この星の人間達。

 

 

 深海棲艦が人間達と諍いを起こしていたのを観測し、しかも深海棲艦に圧倒されていたのを確認したからぁ、艦娘という“力”はぁ垂涎の的と思ったからねぇ。

 

 だから製造技術は兎も角として、人間達でも用意可能な資源で、それもあまり資源もコストも掛からない必要があったのよぉ。

 

 製造技術に関しては、ぶっちゃけると艦娘と彼女達をサポートするための存在として作り出した妖精さん達を介して結構介入したわぁ。

 

 ザックリと説明するとぉ、鎮守府と呼ばれる施設の建造システムは、半分“転送システム”なのよ。

 

 素体となる肉体をこちらで構築して転送し、向こうで艤装を装着させるって寸法よぉ。

 

 で、向こうが用意した資源の一部をちょろまかしていたわぁ。

 

 因みにドロップ艦はこっちで作った純正を放出してたわぁ。

 

 

 これが深海棲艦と艦娘の誕生秘話ねぇ…。

 

 

 行き当たりばったりだったとは思うわぁ。

 

 この時でも、もしかしたらって未練たらたらだったわねぇ。

 

 何かの弾みであの娘が現れないかしらって、淡い期待を寄せていたわぁ。

 

 私の目的は、ただあの娘に会いたかっただけ。それ以外のことはどうでもよかったわぁ。

 

 まぁ、そのことであの娘に会った時、何とも言えない顔をしながら、怒るべきかどうするか酷く葛藤させてしまったのは、申し訳無い気持ちになったわぁ。

 

 あの娘の中で深海棲艦も艦娘も、大切なものになっていたからねぇ。

 

 特にあのお姫様にすっごくお熱だったからねぇ。

 

 下手に怒ると彼女を否定することに繋がりかねない。だけどこの星に齎した混乱を考えると、肯定的にはなり切れない。

 

 あの時、あの娘は終始無言だったわぁ…。

 

 

 その事が私にとって最大の“罰”だったわぁ…。

 

 

 あの娘にはずっとにこやかでいてほしい。幸せであってほしい。お日様の様なあたたかい笑顔でみんなを、私を照らしてほしい。

 

 

 それなのに、私は、私のせいであの娘の顔を、曇らせてしまった…。

 

 私は、あの娘に嫌われても文句は言えないわぁ…。

 

 

 

 話は変わるけどぉ、遺跡に使用した深海棲艦のベースとなったデータにあの娘の、私が知る範囲のアンドロメダに関するデータを使ったのは、さっきも語ったけどぉ、それが思わぬ効果を生む切っ掛けとなったわぁ。

 

 

 仲間を想い、大切にし、愛し尊重する。

 

 

 それがあの娘の根幹だと私は思っているけどぉ、それが彼女達の心を構築する要素にもなったしぃ、なによりもあの娘を迎え入れてくれた要因でもあるわぁ。

 

 ある意味でお互いは遠い親戚の様なものだからねぇ。

 

 それは艦娘にも言えたことよぉ。

 

 

 そのルーツはあの娘に行き着くのだからぁ。

 

 

 

───────

 

 

 

 私が話せるのはここまでよぉ。

 

 

 

 最後に何か聞きたいこと、ある?

 

 

 あの娘やその妹、それにUX-02やアリゾナはドロップ扱いだけど、その真相?

 

 

 ウ~ン、正直これは私もよく分からないのよねぇ…。

 

 

 これはあくまでも私の仮説なのだけどぉ、もしかしたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ではないか?と私は見ているわぁ。

 

 かの文明は星そのものを改造し、様々な用途に利用していたからねぇ。

 

 もしかしたら、この星は彼らにとって何かしらの工場か実験場だったのかもしれないというのが、私の仮説よぉ。

 

 それと私がこの星へと跳ばされた影響で、次元の壁が不安定になっているのも、要因として挙げられるわねぇ。

 

 そして私が遺跡を弄くったことで、あの娘達を呼び寄せるなにかしらのシステムが起動してしまったんじゃないかしらぁ?

 

 

 それらが組み合わさった偶然の結果じゃないかと、私は見ているわぁ?

 

 

 まぁそのお陰で、私はあの娘とこうしてお互いが認識しあえる様になれたからぁ、結果としては良かったと思っているわぁ。

 

 

 …え?()()()()()()()()()()()()()()()()()って?

 

 

 

 うふふふ…、ねえ青葉ちゃん?こんな言葉を知っているかしらぁ?勘の良い子は嫌われちゃうのよぉ?

 

 私は嫌いじゃないけどねぇ…。

 

 

 ふふふフフフフフ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 
 Hope(希望)か?それとも災厄か?主人公アンドロメダを遥かに上回る爆発物、時間断層工廠が本編開始の遥か以前からこの世界にログインしていました。
 しかも深海棲艦が出現した原因は、アケーリアスの遺産を見付けてしまった彼女の暴走。

 現状名無しですが、予定としましてギリシャ神話に登場致します人類最初の女性、パンドーラー(古希:Πανδώρα, Pandōrā)から取りまして、ドーラを予定しております。
 理由はお察しになられるかと。でも出来ればアンドロメダ達にとってのἐλπί(エルピス)(英語圏における『Hope』、希望)となってほしい存在。

 因みにUX-02ですが、米潜水艦艦娘スキャンプの姿をガミラス人の特徴である青い肌にして、微妙に潜水鮫水鬼の要素を含んでいます。(というかどうもガミラス艦は艦娘よりも深海棲艦的なイメージが…)


 深海棲艦がアケーリアスの遺跡から出現していたという構想は、当初より考えていました。しかしそのトリガーを引いた存在までは未定でしたので、時間断層工廠に白羽の矢を当てました。


 前書きにも書きましたが、今回語られたこと全てが完璧な真実とは限りません。意図して誤魔化したり、敢えて語らなかった、改竄した話もあるかも。青葉はその所を迂闊に聞いてしまい、犠牲となりました。その後彼女はガタガタと震えている姿で発見されたとかいないとか。


 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。
 


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閑話13 とある苦労性の幸薄次元潜航艦



 ガミラス国防軍特殊戦闘艦艇、UXシリーズの2番艦、UX-02へのインタビュー。

 因みに彼女が言う“アレ”とは時間断層工廠の管制人格(?)ことドーラ(仮から正式に決定致します。)のことで、(カシラ)とはアンドロメダのことです。

 基本的にUX-02の一人語りが話のメインとなりますが、書いていないだけでインタビュアーの青葉から聞かれた事を中心に答えている感じとなります。青葉がどの様に質問を投げ掛けているかは、皆様のご想像におまかせ致します。


 あと、喫煙者で酒豪という設定です。

 そして今後の展開に関するネタバレありです。


 

 

 よう。アンタがアオバってヤツか?話はキリシマの姐さんから聞いてるよ。

 

 

 ああ。今日はよろしくな。

 

 

 しかしアンタも物好きだねぇ。こないだ()()解体(バラ)されかけて、その前はあのテロン艦隊の(カシラ)の逆鱗に触れて滅多打ちにされたんだろ?

 

 で、聞くところによると、以前に姐さんから警告としてアンタが手に持ってたペン型のマイクを、銃で吹っ飛ばされたと。

 

 

 ハッ!まったく命知らずでイカれてんなぁ、アンタも!

 

 ま、嫌いじゃないがね。

 

 

 

 どうだ?アンタも吸うか?コイツは姐さんから薦められたモンでな、この星の銘柄はサッパリだったからホント助かったぜ。

 

 

 ん?そうか。じゃ、すまないけどアタイだけ失礼して…。

 

 

 カチッ…!ボッ!

 

 

 す~~~…。

 

 

 ふーー…ッ。

 

 

 

 この芳醇さがホントたまんねぇよなぁ。

 

 ホント、姐さんには足を向けて寝れねぇぜ。

 

 

 ()()から仕事の報酬としてOMCSで合成した酒やタバコとかを貰ってたんだけどよ、アイツはその手のモンに疎いというか、興味が薄かったからか、あの頃のシロモンはどうもいい加減でなぁ…。

 

 

 ま、それでもマトモな娯楽と呼べるモンがあん時には無かったからよ、無いよりかはマシだったんだがな。

 

 

 ああ。酒も結構イケる口だぜ?

 

 

 おお、わざわざ手土産とはすまねぇな。おっ!しかもこいつはぁ結構いい酒じゃねぇか?ヘヘッ、あんがとよ。ありがたく頂くぜ。

 

 

 さて、アオバさんよ、アタイにインタビューだっけか?色々と聞きたいようだが、一応、アタイにも色々と守秘義務ってモンがあるからよ、聞かれたこと全部が全部話せるわけじゃねぇから、その辺のことは弁えてくれよな?

 

 因みに、(コレ)を使って酔い潰して口を割らせようったって、アタイは(カシラ)みたいに容易く潰れることは無いからよ、無駄な努力とだけ言っとくぜ。

 

 

 

 で、だ。先ずは何から話そうか?

 

 

 んあ?アタイのことをなんと呼べばいいかだって?

 

 

 ああ、そういや名乗ってなかったな。すまねぇ、忘れてたよ。

 

 

 アタイは『UX-02』って名だが、みんなからは『ベオ』って愛称で呼ばれてっからよ、アンタもそう呼んでくれや。

 

 

 ああそうだ。テロンの言語で数字の『2』を意味するガミラス(母国)語だ。よく知ってたな?

 

 …なるほどな、(カシラ)達があまり他人に聞かれたくない話をしてる時に使ってたのか?それを聞いて興味を持ったと?

 

 んで、日常会話程度ならちょこっと教えてもらったと?

 

 

 あ~…、だけど…、すまねぇがアオバさんよ、アンタのガミラス語(ガミラジーゴ・ベック・)はわかりにくい(ゼス・パルタスベルク)

 

 すまねぇ、アンタのガミラス語はテロン訛がちょいとキツくてわかりにくいわ。

 

 こっちの言語に合わせようって努力には好感が持てるけどよ、無理しちゃいけねぇぜ?

 

 

 アンタの言葉は翻訳機(コレ)で自動的に翻訳されっからよ、アンタのいつも通りの言葉で喋ってくれ。

 

 

 

 

 んじゃ、気を取り直して、何から聞きたい?

 

 

 

 何故アタイが(カシラ)達に協力するかだって?

 

 

 まぁ、元々同盟国同士だったっつー(よしみ)も、あるっちゃあるんだが…。

 

 

 …アタイらガミラスは(カシラ)が母親と慕う、ヤマトとその乗組員に返したくても返しきれねぇくれぇのデッカイ、ホントでかすぎる借りがある。

 

 信じられるか?アタイらガミラスは戦争でテロンを滅ぼす寸前まで追い詰めて苦しめた、どれ程の罵詈雑言を浴びせかけられても可怪しくねぇくらいの憎むべき相手、謂わば不倶戴天のカタキだってのに、ヤマトの連中はそんな感情を押し殺し、なんの下心もなく、てめぇの信ずる心に従って只々善意だけでガミラスに手を差し伸べてくれたんだぜ?

 

 しかも2回もだ。

 

 そうなった細けえ経緯については、事情がかなり複雑で話が長くなるからと、()()から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からよ、すまねぇが割愛させてもらうぜ?

 

 

 まぁなにはともあれ、ヤマトとその乗組員の連中は、とんでもねぇオヒトヨシな連中だったよ…。

 

 

 簡単に言やぁ、こいつはアタイなりの恩返しだ。

 

 

 直接の本人が居ないのならば、その縁者を恩返しの相手としても、別に変じゃねぇだろ?

 

 

 何故か不思議なくれぇに矢鱈ヤマトとの縁が深いUX-01(アル)の姉御は勿論、UX-03(ネル)UX-04(ジー)の奴もおなじ答えを返すだろうよ。

 

 

 

 恩義ってことなら、何故命を助けてくれた()()とは仲が悪いかだって?

 

 

 はぁ~…。

 

 

 確かに()()には瀕死の状態で漂流していたところを拾ってもらった恩義はあるけどよぉ、()()はそれをいいことに滅茶苦茶扱き使うんだぜ?割に合わねぇんだよ…。

 

 それに、知ってっか?()()は普段の生活がものすっげーズボラでだらしねぇんだぜ?

 

 風呂には入らねぇ、着の身着のまま、飯だってカロリーバーを気が向いた時にテキトーに齧って食いくさしをそこらに置くわ、掃除や整理整頓だってマトモにしやがらねぇ…。

 

 一仕事を終えて疲れ果てて帰って来たら、()()()()の居る所が壮絶な有様になってるのを何度も見させられると、イヤでもイラついてくるぜ?

 

 

 帰って来たら駄々をこねまくる()()の首根っこ引っ掴んで風呂に放り投げて体を洗ってやって、その間にガミロイド(機械人形)共に掃除と洗濯を頼んで…、つーか、なんで()()はアタイが外へと出る度に身の周りの世話用に設定しといたガミロイド(機械人形)の設定を切りやがるんだっ!?アタイは疲れてるってのに仕事増やすなぁーっ!!

 

 

 はぁ…、はぁ…。

 

 

 まぁ、それでも、(カシラ)に会いたいってのに、その身嗜みはいくらなんでもマズイだろって言ってやったら、多少はマシにはなったがな…。

 

 

 って、おいコラァッ!誰がオカンだって!?誰がっ!?

 

 オカンっつーなら、ハルサメのことだろ!?

 

 

 あの癖の強え妹全員を纏め上げているだけのことはあるぜ?それに飯もすっげー美味い。

 

 …アタイじゃ簡単なモンか酒の肴くれぇしか出来なかったからよ。

 

 ()()は普段“食えりゃなんでもいい”ってスタンスだったんだが、ハルサメの作る飯をめっちゃべた褒めして、それからというもの、今までズボラだった生活がかなりマシになった。

 

 ハルサメの妹連中が…、特にウミカゼが中心となってかなり調教…もとい、躾たらしいが…。

 

 

 …そういやハルサメの奴、よくガミラス式の厨房を使えたなぁ~。

 

 

 ん?ああ、元々が無人施設だったということもあって、厨房を始めとした生活に必要な設備の類いが最初は無かったんだ。

 

 信じられねぇだろうが、風呂だって無かったんだぜ?

 

 だが流石にそれじゃあ、なにかと不便だからよ、特にアタイがなっ!

 

 それで()()に頼み込んで生活スペースを設けて貰ったんだ。

 

 風呂場は兎も角、厨房はそん時アタイくらいしかまず使わねぇから、ガミラス艦で使っている厨房をベースにしたヤツだったんだ。

 

 今でこそ他の連中の為にテロン式のヤツも設置したんだが、ハルサメはそれでも今も時折使ってたな…。

 

 ハルサメの妹連中も家事力高えのがいるが、アイツの家事力はそん中でも頭一つ飛び抜けてるぜ…。

 

 

 いやホント、ハルサメ達にも頭が上がらねぇ…。

 

 ハハッ!(カシラ)達が公私分け隔てなく絶大な信頼を寄せてるってのも頷けるぜ。

 

 アタイもハルサメから色々と教わってからよ!

 

 

 

 んで、お次が…?…ああ、あの陽動作戦についてか?

 

 

 確かにアタイが()()からの依頼で作戦に介入したよ。

 

  

 あの作戦はどんなに上手く転んでも、(カシラ)の心には凝りとなって残り、曇らせちまう可能性を()()は真剣に危惧していた。

 

 (カシラ)の心はあの頃から既に深海棲艦へと傾倒してたっつっても、元々の根が優しすぎな一面があった。

 

 戦争だからって、無闇矢鱈と犠牲を増やすことに対して、(カシラ)はあまり良しとは考えていなかった。

 

 あの温厚な(カシラ)らしいし、美点であることに間違いはないんだがなぁ、それはいざって時に非情になりきれねぇから、割り切るって事に心の中で抵抗が生まれちまう。

 

 ならばアタイが謎の水中戦力というカタチで先に暴れ回り、警戒網を引っ掻き回しちまおうって算段だったんだ。

 

 

 アタイなら、多少の無茶が出来る。

 

 

 そう考えていたんだがなぁ…。

 

 

 確か、ゼカマシ…あ、いや、シマカゼっつったか?あの水中艦狩りのエースとか言うヤツ。

 

 

 ヤツは一筋縄でいかねぇ厄介な相手だったぜ。

 

 

 こっちの陽動に一切引っ掛からず、他の部隊の連中が慌てふためく中でも冷静にこっちの狙いを読み切ってやがったんだからな。

 

 ほぼ真っすぐに姐さんのいる方向へと隊を率いて向かい出した時は、正直かなり焦ったぜ…。

 

 だから強硬手段に打って出た訳だったんだが、それまでの陽動で手持ちの魚雷は殆ど使い切ってて心許なかったが、まぁなんとかなるだろうって、そん時は(タカ)を括ってたんだがよ…。

 

 

 

 だがよ、ヤツは想像の斜め上を行くイカれ具合だったぜ…。

 

 

 信じられるか?ヤツはアタイが接近しているのを察知した途端に、隊の連中を先行させ、未知の敵であるアタイとタイマン張ろうと1人で向かって来たんだぜ?

 

 

 一旦無視して先行した連中を追っ掛けることも考えたが、ここでヤツを放置する方が後々面倒事になりそうな予感がしたからよ、受けて立つ事にした。

 

 

 それに、アタイの本質は戦争屋なんだ。挑まれた勝負(ケンカ)から逃げるなんてマネはしたかぁなかったのさ。

 

 

 ま、そう簡単には行かなかったんだがね。

 

 

 発射した魚雷はヤツの周りに展開していた連装砲ちゃん(自立型浮遊砲台)や、投射された爆雷によって破壊されて、その尽くが躱されちまった。

 

 

 まったく、信じられなかったぜ?他の駆逐艦や海防艦の艦娘共も似たような芸当をやろうとして尽く失敗してたのを見てたからよ、単なる気休めでしかないと思ったら、ものの見事に決めやがった…!

 

 

 それでいてきちっと反撃までしてきやがったよ…!

 

 

 ヒトの姿だからこそ出来る芸当なんだろうけどよ、まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんてなっ!

 

 華奢な見た目に反して中々の脳筋な力業でマジでビビったぜ!!

 

 

 だがアンタ達艦娘の火力じゃ、アタイにマトモな打撃を与えることは出来ないと分かっていたからよ、シェイクされながらこっちも強引に反撃に打って出ようとしたんだが、それがマズかった。

 

 

 隙を見て魚雷を叩き込もうとしたんだが、いやらしいくらい絶妙なタイミングで爆雷を放り込んで来やがってよ、下手すると発射した直後の魚雷が爆雷の炸裂によって誘爆し、アタイを巻き込むリスクがあった。ていうかガチで巻き込まれた。

 

 

 おかけで亜空間推進(ゲシュ=ヴァール)機関がイカれちまった。

 

 

 魚雷は躱され、亜空間潜航で仕切り直す事も出来ねぇ、ヤツの攻撃自体で殺られる事はなくても、完全にジリ貧だったぜ…。

 

 

 先行した連中を追わなきゃならなかったから、時間も無かったからよ。起死回生の一手でヤツの足に装着している推進機をぶん殴ってぶっ壊して動けなくしてやろうと目論んだ。

 

 

 近付いたらヤツ自身もヤツの爆雷の爆発に巻き込まれるから、ちったぁ手が緩むと思ったんだが、激しく動き回りながら、自分も巻き込もうがそんなの関係ねぇ!と言わんばかりにより苛烈さを増しやがった。

 

 

 それでもなんとか近付いてぶん殴ってやったぜ。

 

 

 だがヤツは直前で海面を蹴って空中へと逃れ、躱そうとしやがった。

 

 

 それでもアタイにだって意地はある。なんとか片足だけはぶっ壊すことに成功したからよ、そのまま全速で離脱しようとしたんだ。

 

 

 片足だけの片軸状態ならば、動けたとしても今までみたいな激しい動きも、速力も出せないと思ったから、十分に無力化出来たと思ったんだが…。

 

 

 まさか連装砲ちゃん(自立型浮遊砲台)が追っ掛けて来て、真上から海中に向けて砲弾ぶち込んでくるとは思わなかったぜ。

 

 殆ど不意打ちだったから、一発背中に食らっちまった。

 

 陽電子ビームじゃなく、ましてやテロン艦隊の連中が使う砲弾じゃない、ただの艦娘が使う豆鉄砲の様な砲弾程度でもよ、当たった時の衝撃は結構痛いんだぜ?

 

 

 

 もし頭にでも直撃したら、アタイでもその衝撃で脳震盪を起こして気絶しかねなかった。

 

 

 だがそれは時間稼ぎだった。

 

 

 気が付いたらヤツがアタイの真上の海上で陣取っていやがった。

 

 

 器用なことに、片足で追っ掛けて来やがったんだ。

 

 

 そして、ありったけの爆雷を放り込んで来やがったんだ。

 

 

 逃げようとしたが一歩間に合わず、真下で一斉に炸裂した爆発の圧力でアタイは海上へと強制的に浮かび上がらされちまったよ。

 

 

 

 それですらアタイを追い込む為の一手に過ぎなかった。

 

 

 

 本命はヤツの魚雷───、その射程内に追い込むのが目的だった。

 

 

 しかも、だ。その()()()()()()()()()()()()()()()()()んだぜ?

 

 確かに水中を航走させるよりも、ヤツの膂力ならば投げた方が遥かに速いだろうけどよ…。

 

 

 正直、ナメていたよ。ただの艦娘でここまで出来るとは考えてなかった。

 

 

 けどアタイだって簡単に負けてはやれねぇよ。

 

 

 槍の如く投げられた魚雷をひっ掴んで、投げ返してやった。

 

 

 これには流石にヤツも驚いて、咄嗟の判断が出来ていなかったが、それでもなんとか躱そうとした。

 

 

 だが驚いたことによる一瞬の硬直が明暗を分けた。

 

 

 直撃こそはしなかったが、足元に着弾した衝撃で信管が作動して起爆。

 

 その爆風でヤツは宙を舞い、海面へと強かに打ち付けられて動かなくなった。

 

 

 勝った。と思った瞬間、アタイは背後から滅多打ちにされた。

 

 

 迂闊だった。

 

 

 連装砲ちゃん(自立型浮遊砲台)共がアタイの背後に回り込んで砲弾を至近距離から乱射してきやがった。

 

 

 ヤツは最後まで諦めていなかったんだ。

 

 

 最後の最後で、アタイは詰めを誤った。

 

 

 

 だが結局、痛み分けに終わった。

 

 

 アタイは気絶して沈降したんだが、その時点で弾切れしたんだろう。トドメは刺されなかった。

 

 

 

 …その後のことは、アンタも知っての通りだ。

 

 

 未知の敵、つまりアタイとの交戦経験のあるヤツを損失することによって、その情報まで失われることを恐れたヤツの上官の判断によって、先行していた連中は引き返し、ヤツを回収して帰還した。

 

 

 アタイは…、まぁなんとか逃げ延びたよ。

 

 

 すまねぇ。その辺のことは色々と複雑な事情が絡みまくってっから、下手に話せねぇんだわ。

 

 

 

 その後もあっちこっちに走り回されたよ。

 

 

 

 …ああ、あの暗殺事件のことか?

 

 

 狙われてたのが(カシラ)とも関わりのあるヤツだったからな。()()が血相を変えて通信を寄越してきた時は慌てたよ。

 

 

 なんせ時間がなかった。

 

 

 まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて滅茶苦茶なことを目論むなんてな。

 

 

 しかもいつミサイルが発射されても可怪しくなかった。

 

 

 星は違えど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()モンなんだな…。

 

 …いや、そのことはおいておこう。

 

 

 ()()も以前から暗殺の可能性を危惧して気を付けてはいたんだが、相手の情報の秘匿が想定よりも厳重だった。

 

 こっちが諜報として今まで頼りにしていた、対象相手の電子的なやり取りが今回の相手は殆ど無く、察知するのが遅れた。

 

 後で分かったんだが、連中、直接口頭や書面でのやり取りを徹底していやがった。

 

 相手の人為的ミスかは定かではないが、それまで一度もなかった攻撃計画に関係する通信のやり取りを偶然、()()がキャッチしていなかったら、どうすることも出来なかっただろうな…。

 

 

 最初はその通信のやり取りが、冗談とかイタズラの類いじゃないのかと半信半疑だったらしいんだ。

 

 キャッチした内容が露骨過ぎたのと、その時は納得のいく裏取りが出来なかったからな。

 

 

 だが、それにも関わらずものすげぇ胸騒ぎがしたらしい。

 

 

 ニンゲンは何をしでかすか分からない。とは()()の持論だからな。

 

 

 万が一の為にと、()()はアタイに救出を要請してきた。

 

 

 …結果はドンピシャだったよ。

 

 

 アタイが救出対象の2人の前に現われた時には、既にミサイルは発射されていた。

 

 

 無力化を試みたが、後手に回ったのが痛すぎた。

 

 

 アタイは2人を連れ出すのが精一杯だったよ…。

 

 

 ヤツは、アイオワは市民を見捨てられないと言って、最後まで脱出に抵抗したが、どうにもならなかった…。

 

 

 吹っ飛ばされ、崩落するビルから無理矢理亜空間潜航で脱出した訳だが……───。

 

 

 ッツ…!

 

 

 カチッ…!カチッ…!カチッ!カチッ…!!ボッ!

 

 

 

 スーーッ。ハーー……ッ。

 

 

 

 フーー……ッ!

 

 

 

 ……すまん。これ以上はアタイでも話すのがキツい。

 

 

 

 ふーー…っ。

 

 

 

 あの事件が、分水嶺だったんだろうな…。

 

 

 あれが終わりの始まりだったと、アンタもそう思うだろ?

 

 いや、遅かれ早かれ、いつかはそうなっていただろうが…、あの事件が完全に引き金となって、艦娘はこの星の人間を見限る切っ掛けになった。

 

 

 くくっ!下衆なニンゲン共には自業自得としか言えねぇがな。

 

 

 そして本来ならば敵対者であったはずの深海棲艦が艦娘の受け入れを真剣に検討することに繋がった。

 

 

 (カシラ)達だって流石にぶちギレて色々と手を回す様にもなったが、容赦のなさっぷりには引いたぜ…。

 

 

 そんで深海棲艦の方が人間の事を一番心配してたのは傑作だったな!

 

 ま、わからいでもない。一番煽りを食らうのは力の無い民衆だかんな。

 

 

 

 ふーーっ……。

 

 

 

 …アオバさんよ、これは以前に(カシラ)にも話たことなんだが、アンタ達艦娘にも色々あるし色々あったことも理解してるつもりだ。

 

 それで“今”を決断したのもわかる。

 

 

 だがよ、それで煽りを食らう連中の事を意図して忘れちまったり、見て見ぬふりをしたら、アンタらが嫌う下衆なニンゲン共と同等な下衆になり下がっちまうぜ?

 

 

 今だけ、カネだけ、自分だけが人間の全てじゃ無いだろ?

 

 

 テロン、そしてこの星の言葉にもあるだろ?“深淵を覗く時、深淵もまた此方を覗いている”んだぜ?

 

 

 そのことを忘れるなよ?

 

 

 …ハハッ、そう難しく考えんな。

 

 

 仮令この先未来があるとは言えない、滅びゆく定めの種族だとしても、明日のために藻掻きながらも今を必死に生きている連中だっているんだ。

 

 それさえ忘れなきゃ、まぁなんとかなるんじゃねぇか?

 

 

 ヘッ!言っただろ?アタイは“戦争屋”なんだ。

 

 哲学なんてそんな高尚なモン、アタイは持ち合わせちゃいねぇよ。

 

 

 

 ま、小難しい話はこんくらいにして…、どうだ?最後に気分転換も兼ねて一杯飲まないか?

 

 せっかくアンタが持ってきてくれたんだ。飲まなきゃこの酒にも失礼ってモンだろ?

 

 

 おう。そうこなくっちゃな!

 

 

 ちょっとだけ待っててくれ。なんか軽くつまめるモン作ってくっからよ。

 

 

 

───────

 

 

 取材そのものはそれで終了し、その後は夜遅くまで酒盛りとなった。

 

 

 先に自身が述べていた通り、UX-02(ベオ)は酒豪と言っても差し支えが無いほどの大酒飲みだった。

 

 付き合った青葉自身、そこまで酒に弱くはない、寧ろかなり強い方だったのだが、想像を絶するUX-02(ベオ)のウワバミっぷりに終始圧倒され、遂に酔い潰れることとなった。

 

 

 翌日、二日酔いでグロッキーとなった青葉を、ケロッとしたUX-02(ベオ)が悪態をつきながらも介抱する姿が見られた。

 

 

 その際にしじみの味噌汁を振る舞われて青葉は驚いたという。

 

 異星人の(ふね)だったはずの彼女から地球の、しかも自身の慣れ親しんだ日本の料理である味噌汁が出てくるとは、思いもしなかったのだ。

 

 それもインスタントではない、出汁の効いた、二日酔いの体でも食欲をそそるような香りを漂わせていた逸品なのだ。

 

 

 驚いた顔をした青葉をみたUX-02(ベオ)は、してやったりといったドヤ顔をしながら、以前にハルサメから「お酒を飲んだ時にはこれが一番」と聞き、作り方を教わったのだという。

 

 だが彼女曰く、まだまだハルサメほど美味く出来ないとボヤいていた。

 

 しかし実際に飲んだ青葉からしたら、これでも十分過ぎると思い、率直にそう称賛したら、気恥ずかしそうにはにかんだという。

 

 

 

───────

 

 

 

 後日、取材から戻った青葉はインタビューで得た内容を纏めようとしたところ、一部のデータや資料が抜き取られていることに、この時初めて気が付いた。

 

 

 

 そして背後に気配がすることに気付き、慌てて振り返ると、そこには居るはずのないUX-02(ベオ)の姿があった。

 

 

 

「言ったろ?“深淵を覗く時、深淵もまた此方を覗いている”って」

 

 

 

 彼女も、()()()()()自身と同業者だったのだ。

 

 

 そのことに愕然としていると、UX-02(ベオ)が徐ろに懐を弄りだしたのを見て、恐怖に震えた。

 

 

 だが、懐から出てきたのは青葉が想像した物とは違い、茶葉の入った容器だった。

 

 

「この前の酒のお返しだ。受け取って欲しい」

 

 

 銘柄とかよくわからんから、ハルサメに聞いたと付け加えながら茶葉を手渡すと、頭を掻きバツの悪そうな顔をしながら、あることを告げた。

 

 

「すまねぇ、あの後ハルサメから聞いたんだが、あれは酒の後じゃなくて飲んでる時に一緒に飲むのが正解だったんだと」

 

 

 勘違いしてたと詫びるが、青葉はなんのことを言っているのかが最初は分からなかったが、それがあの時に振る舞われた味噌汁のことだと思い至った。

 

 

「それはその詫びでもあっから」

 

 

 それだけ言い残すと、UX-02(ベオ)はそそくさと()()()()()()()()して消えていった。

 

 

 青葉は半ば放心しながらそれを見送った。

 

 

 そして改めて恐怖した。

 

 

 今のが、彼女が()()()()()たる所以、亜空間潜航能力なのだと。

 

 

 彼女の前では、場所さえ分かってしまえば何処にでも現われることが出来るのだと。

 

 仮令完全な密室でも、出現できるだけの空間さえあれば、今みたいに突然現われ、突然消えることも出来るのだと。

 

 だから()()()()()()()()というIowa(アイオワ)Arizona(アリゾナ)の2人を()()()()()()()()()()()助け出すことが出来たのだと。

 

 そしてそれはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを示唆していた。

 

 

 青葉は、自分達が相手をしている存在の底知れ無さに、改めて戦慄せざるを得なかった。

 

 

 

 しかし青葉はそのこととは別のことで、悲鳴を上げることとなった。

 

 茶葉に詳しくない青葉でも、UX-02(ベオ)から渡された茶葉の銘柄には覚えがあった。

 

 

 それは今現在入手困難な茶葉と云われている、ダージリンのマカイバリだった。

 

 

 悩んだ末に、もっとも紅茶通である金剛に話を持ち掛けたところ、その銘柄を見た金剛が、あまりの衝撃によって卒倒するという一悶着が起きてしまったのは、また別の話である。

 

 

 

 





 ベオことUX-02へのインタビュー。

 …なんか書いてたら予定よりもめっちゃ長くなった。まぁ最後のはほぼ完全に蛇足ですが。ただ

 書いてて思った。コイツが一番のチートキャラだと…。

 立ち位置としましては裏方の工作員的な扱いになります。所謂BLACK OPS要員ですね。

 まあ、裏で色々とやっておりますが、根は面倒見の良い娘です。

 艦娘か深海棲艦かと問われますと、どっちとも取れる外観をしていますが、艦娘寄りな存在です。

 たまにハイニによく似た妖精さんが見られます。

 

 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想をよろしくお願いいたします。


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閑話14 UNKNOWN ENEMY SHIP

 正体不明の敵性艦


 短めです。

 そう遠くない未来のお話。(予定)


 

 

「両舷全速、黒二十(フタジュウ)。このままの速度で現場海域上空へと突入致します。

 

 皆さん、用意はよろしいですか?」

 

 

「«こちらアポロノーム。艦載機第一陣、展開開始する»」

 

 

「«春雨(ハルサメ)です。一〇一(ヒトマルヒト)一〇二(ヒトマルフタ)戦隊、貴艦とのデーターリンク完了です。いつでもどうぞ»」

 

 

「«こちら白露(シラツユ)、後続の一〇三(ヒトマルサン)から一〇五(ヒトマルゴ)戦隊、貴隊突入後三〇〇(サンマルマル)秒後に突入します»」

 

 

「«作戦指揮所(CP)チーフ・オフィサー霧島(キリシマ)より作戦参加部隊全員へ、聞こえているね?新ロシア連邦(NRF)太平洋艦隊からの最新情報を伝えるよ»」

 

「«連中を襲撃した“アンノウン”は、太平洋艦隊所属フリゲート艦『ゴルシコフ』級『スピリドノフ』を撃沈後、艦隊から“バグラチオン”超音速多弾頭ミサイルの飽和攻撃を反撃で浴びせ掛けられたが、撃破には至らず、逆に艦隊旗艦の巡洋艦『ナヒーモフ』が応射を受けて大破、航行不能にさせられた»」

 

「«乗艦していたГангут(ガングート)の奴は無事で、僚艦『ゴルシコフ』級『イサコフ』に移乗して指揮を継続、従来型のツィルコンやオーニクスにカリブル、果てはウランも含めたありとあらゆる対艦ミサイルの波状攻撃でなんとか膠着状態まで持ち込み、艦隊の統制は一応保っているけど、危機的状況なのは変わらない»」

 

「«現場海域は霧が発生しており、敵性艦の詳細な艦影は未だ不明で情報も錯綜しているが、レーダー観測から目標は単艦、推定全長160メートル程の水上艦と判明»」

 

「«高出力の光学兵器を複数装備し、ミサイルらしき誘導弾の使用も確認され、最初のバグラチオンだけでもアメリカ空母打撃群を丸ごと容易にスクラップに出来るのに、それを上回るミサイル飽和攻撃すら耐えられる詳細不明の防御手段を有している»」

 

「«土方のオジキ(ボス)からの命令を伝達するよ。

 

 〈最優先はこの不明艦を排除乃至押し留めて残存する新ロシア連邦(NRF)艦隊が安全圏へと退避するまでの時間を稼ぐ事。〉

 

 〈『スピリドノフ』と『ナヒーモフ』の救助は協議の結果、お嬢ち…パラス特使の尽力と権限で近海に展開する穏健派深海棲艦の部隊を集結させ、全力で対応させる事が決まった為、そちらの心配はしなくても問題無い。〉

 

 この決定はГангут(ガングート)も〈背に腹は代えられない〉と了承しているから心配はいらないよ»」

 

「«〈現場の判断はアンドロメダに一任。総員の奮闘を期待する。〉»」

 

「«っと、噂をすれば…、特使からアンドロメダにだよ»」

 

 「«お姉ちゃん達同胞(はらから)にまかせて!お姉さんがお姉ちゃんの所にみんなと一緒に無事に帰ってくると信じてます!»」

 

「«ハハッ、気張りなよ?若いの。通信終わり»」

 

 

「(お姉ちゃん…。ありがとう…)」

 

「皆さん、お聞きになりましたね?状況は切迫しています。現時刻より兵器使用自由を「目標艦ヨリ火器管制れーだーノ照射ヲ確認」…ツッ!?波動防壁、艦首方向へ集中展開!!」

 

「主砲、発射用意!一斉射の後に全員散開、不明艦を撹乱して下さい!!」

 

 

 





 いずれ起きる事件。(予定)

 この“アンノウン”、不明艦の正体はまたいずれ。


補足説明

 『ゴルシコフ』

 22350型フリゲート艦『Адмирал(アドミラル) флота(フロータ) Советского(ソヴィエツコヴォ) Союза(ソユーズ) Горшков(ゴルシコフ)』級、略称
Адмирал(アドミラル) Горшков(ゴルシコフ)』級。

 新ロシア連邦(NRF)海軍の外洋主力艦。


 『スピリドノフ』

 『Адмирал(アドミラル) Горшков(ゴルシコフ)』級『Адмирал(アドミラル) Спиридонов(スピリドノフ)

 『イサコフ』

 『Адмирал(アドミラル) Горшков(ゴルシコフ)』級『Адмирал(アドミラル) флота(フロータ) Советского(ソヴィエツカヴァ) Союза(ソユーズ) Исаков(イサコフ)

 2艦とも太平洋艦隊所属の『ゴルシコフ』級フリゲート艦。


 『ナヒーモフ』

 1144号計画型重原子力ミサイル巡洋艦『Киров(キーロフ)』級の3番艦『Адмирал(アドミラル) Нахимов(ナヒーモフ)』。

 新ロシア連邦(NRF)海軍太平洋艦隊旗艦。最新鋭艦『Лидер(リデル)』級原子力駆逐艦が配備されるまでの()()()で、Гангут(ガングート)のお気に入りの(ふね)



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