魔法少女リリカルなのはStrikerS~紅き英雄の行方~ (秋風)
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始まりと再会
00「終わりの始まり」


皆さんこんにちは、そしてお久しぶりです秋風です
お待たせいたしました。予告通り、6月より新連載として魔法少女リリカルなのはA's~紅き英雄の軌跡~の続編を投稿させていただきます

ペースは週1話のペースで投稿を予定しています。都合上、更新が遅れる場合もございますが、何卒ご容赦くださいませ。今回も0話ということで、少し短くはありますが、皆様とお会いするのもまた来週となります

さて、この小説は説明でもあった通り続編です
もし、前作を読んでいない場合は前作をお読みいただければ幸いです
また、この小説では評価を頂く際、一言を頂いておりますことを何卒ご容赦くださいませ

補足として、この小説は「にじふぁん」で書いていた小説を元に、0から組み直した小説ですので、「にじふぁん」で投稿していた小説内容と異なる所が多く存在することをご理解いただきたいと思います

では、大変お待たせいたしました
魔法少女リリカルなのはStrikerS~紅き英雄の行方~

はじまります



 とある所に、一人の女性がいた。どこにでもいる、普通の女性。特筆すべきは、女性が後に波乱に満ちた人生の道を歩むこと

 その女性は勉強を続けて科学者としての道を志し、その職業の道を進み続けた。来る日も来る日も研究に明けくれる日々。その結果、女性の努力は人々に認められ、いつしか天才と呼ばれるようになった。その喜びを胸に、女性は道を進む。すると、その道の途中、一人の男性と道を交えて1人の子を授かった。真紅の目に、美しい金髪を持つ我が子。男性と道を違えてからも女性はその道を我が子と行く。我が子と共に進むその道は、煌びやかでいて、女性にとって幸せな道だった。

…だが、その道は突如として崩れ去ることになった。女性が勤めていた研究所の事故。それによって失ってしまった我が子。その責任を負わされた女性の道は、煌びやかな場所から一変して荒れ果てた荒野へと変わった。その時から、女性の道は外れ始める。

 

――我が子よ、帰ってきて。

 

――我が子よ、再び私の元に…

 

 科学者としての道から、我が子を求める闇の道へと女性の進路は進んでいく。そしてその女性は我が子にまた会うため、自らの持つ知識をつぎ込み、我が子を作り出した。一度は成功したと思った。しかし、その選択は女性をさらなる狂気へと落としていく。

 

――我が子とは利き手が違う!

 

――我が子にこんな力はない…!

 

 作り上げた我が子は、別の「なにか」だった。我がことは違う利き手、我が子にはない力…それを見て女性は思った。

 

――これは違う

 

 彼女はその人生を費やして出来たそれを見て絶望する。しかし、そんな彼女が縋りつく想いで辿りついたのは「伝説の理想郷」。それに辿りつくために、娘に似た何かに徹底的にそのための材料を探させた。失敗すれば折檻する。そのことに、女性はなんの罪悪感も持たなかった。

 

――この子は我が子ではない

 

――こんなのはただの人形だ

 

 女性はそう自分に言い続け、狂い続ける。だが、そんな女性の道は多くの者たちに阻まれ、この時初めて、女性は自分の間違いに気がついた。

 

――ああ、自分はここまでなのだ

 

――叶いもしない、理想に手を伸ばした末路なのだ

 

 女性は自らの運命を呪いながら、愛する我が子の遺骸と共に奈落の底へ身を投げる。それは、自らの命を絶つことで娘の所へ行こうという最終手段。そして女性は願う。

 

――願わくは次の人生は、我が子と進む最高の道を

 

 そんな願いと共に、女性の人生は幕を降ろす

 

 

 

 

 

 

 

 

………はずであった

 

「…い…! し…ろ!」

 

(誰? ここはどこ?)

 

 女性は意識の底から呼ぶ声に反応した。その声は美しく、そして力強い物だと感じ取った。その声に反応して女性はゆっくりと目を開ける。その目に映るのは、紅い体と、強く美しい金髪をした一人の男。しかし、そんなことは女性にとって今はどうでもいい。

 

「ここはどこなの…? 私は、生きているの…?」

 

「…ああ、そうだ。お前はまだ、生きている」

 

 男の言葉に、女性は少し悔しい想いが立ちこめる。死ねなかった…と。死にそびれてしまった。愛する我が子の所に行くことは叶わなかった。

 

「今、トレーラーへ運ぶ。名前を言えるか?」

 

「…私は…」

 

――私の名は、プレシア・テスタロッサ

 

 女性の新たな物語、そしてその女性を救った男の物語は、ここから始まる。

 




お疲れさまでした。これにて0話終了となります

NEXT「二人の英雄」


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01「少女と英雄」

どうも、秋風です
とりあえず、1話目投下。感想やお気に入り、ありがとうございます

最近は就職活動のせいで更新が相変わらず週1での更新ですが、気長にお待ちください




―女性が目を覚ます少し前―

 

 とある世界のとある場所。そんな場所の荒野を、一台のトレーラーが走り抜けていた。それはかつて、この世界でレジスタンスと呼ばれた者達が乗っていたトレーラー。理想郷『ネオアルカディア』と呼ばれた物があったのはもう、今は昔の話。この世界の人類は今、絶望の中にいる。そんな絶望から救いだす者たち…人々はそれをレジスタンスと呼んでいる。現在トレーラーにいるのは運転をしているレジスタンスのリーダー『シエル』。そして…

 

「こちらゼロ・・・現在異常なし」

 

 トレーラーの上で警護する1人のレプリロイド。紅き英雄、ゼロ。ゼロが『異世界』に行ったのも、また少し前の話だ。それはおよそ1年前の話。ゼロはドクターバイルと戦い、異世界へと放り出された。そこは多くの人間が平和に暮らし、そしてレプリロイドがいない世界。そこでゼロは、一人の少女に出会う。異世界から来た者に何の疑いもなく、そして優しく受け入れる少女。そんな少女と出会い、その世界でさまざまな事件と出会いを超えて、ゼロはこの世界へと帰還したのだった。

 

「ねえゼロ?」

 

「どうした?」

 

「はやてたち、元気かしら?」

 

「さあな…だが、あいつらならきっと大丈夫だ」

 

 ゼロの肩にチョコンと、小さな妖精が座っている。それはサイバーエルフ『クロワール』。彼女もまた、ゼロと共に異世界へ行き、戦い続けたゼロの大切な相棒である。そんな彼女は、自分たちを家族として迎えてくれたはやてたちが今頃何をしているのか、気になってしょうがない。そんな会話をしていると突然トレーラーが止まり、運転席から一人の少女、レジスタンスのリーダーにして科学者であるシエルが降りてきた。

 

「ゼロ、休憩にしましょう。もうすぐ反応地点よ」

 

「了解」

 

 そう言ってゼロはトレーラーの上から降り、トレーラーの中へと入る。昼食を作るためにシエルが厨房に立っている。しかし、シエルの場合は普段そんなことをしないからか悪戦苦闘中。それを見かねたゼロは、シエルから包丁を取り上げた。

 

「シエル、食材はただ刻めばいいというわけではない」

 

「え、あ…」

 

 言いながらゼロは、シエルが切っていた材料をシエルと違い丁寧にかつ綺麗に切り刻んでいく。

 

「手は丸めてこのように包丁と平行にしろ。後は火を通す物をもっと細かくして、形を整えろ。じゃないと火が通りにくい」

 

「え、ええ…!」

 

 そんなゼロにシエルは喜びながら、ゼロから料理を教わるシエル。ほどなくして料理は完成し、食事を取る。当然ゼロは食べられないが、シエルはそのゼロと同じ席に座っていられることがこの上なく嬉しかった。最近では、こんな風に日常生活をこなしている。

 

「ゼロは異世界でたくさん料理をしたの。だから料理はゼロに任せちゃいましょうよ、シエル」

 

「そうね、お願いしちゃおうかしら」

 

「…できれば、次からは自分で頑張ってくれ」

 

 そんなクロワールやゼロの言葉に、シエルはクスクスと笑う。こんなにも、ゼロと食事をしながら楽しい時間を過ごすなど、昔では考えられなかったことだ。

 

「ゼロ、変わったわね」

 

「そうか?」

 

 確かにゼロは変わった。外見的な意味ではない。内面的に、大きく変化を見せていた。なによりも、昔より表情が和らいだ。シエルはそうゼロの変化を喜びつつ、レプリロイドの新たな可能性を感じていた。

 

「食事を終えたら出発だ。俺は警戒を続ける」

 

「ええ、お願い」

 

 ゼロは外に出て、周囲の警戒を再開した。そして、それと同時に今回の『反応』について考える。そのエネルギー反応が感知されトレーラーを走らせたシエルとゼロだが、今回二人での調査には理由があった。本来ならゼロが一人で向かえばよかったのだが、そのエネルギーはこの世界ではあり得ない非科学的なエネルギーということで、不用意に触らないためにシエルが同行する調査となったのだ。ゼロはその荒野の先を見つめる。その先に、反応のあった物があるという。

 

「ゼロ…今回のこと、どう思う?」

 

「…わからん」

 

「私達の世界で、それもシエルが解析できないような物があるとは思えない。あるとしたらやっぱり…」

 

 ゼロについて来ていたクロワールがそこまで言ったところで、ゼロがその言葉を続ける。

 

「ロストロギア…」

 

「うん、私達の世界で突然変異によって生まれたのか…それとも、異世界から流れ着いたのか」

 

 単に不明なエネルギーというなら普通の解析で済むのだが、ゼロやクロワールにとってはそれらの代物が単なるアンノウンで済まされないことになりかねないということを考慮していた。それがゼロたちの関わった異世界での知識。

 

「もし、ロストロギアだったら…」

 

「その時は破壊するしかない…あいにく、封印は出来ないからな」

 

 魔導師ではない彼がソレを封印することはできない。だが、その物体を破壊することはできるかもしれない。暴走の危険もあるが、誰かに悪用されるのも困る。そんなことを考えながら、時間は過ぎて行くのだった。

 

 

「では、ミッションを開始する。安全を確認したら転送座標を送る」

 

《わかったわ、気を付けてね、ゼロ》

 

 反応地点から少し離れた所でトレーラーが停止し、ゼロはそこから反応地点へと急ぐ。ロストロギアという物の危険性を考慮し、ゼロはシエルにトレーラーに待機してもらって行動を始めた。道には野生化したメカニロイドが数機。ゼロの敵ではない。メカニロイドもこちらには敵意が無いのか、それともゼロが恐ろしく見えるのか、向こうから手を出してくる様子はないようだ。ほどなくして反応地点へと辿りついたゼロは、周囲を見渡した。周囲一帯は変わらず荒野。だが、そこに何かの影を見つけた。倒れ込んでいる人影。ゼロはソレを見つけて駆け寄る。

 

「これは…」

 

 倒れていたのは女性だった。女性は辛そうに呼吸をしているので、一応生きているようだ。クロワールも周囲の警戒をするために上空へと飛ぶ。すると、クロワールが驚きの声を上げた。

 

「ゼ、ゼロ! ゼロ、あそこ!」

 

「どうした、クロワール」

 

「あそこを見て! あれって…!」

 

 クロワールが指差す先を見ると、そこにはガラスのポッドらしきものがあった。その中に横たわる少女。強い金髪をしたその少女に、ゼロは見覚えがあった。

 

「フェイト!」

 

 そう、かつて異世界で敵であったが和解した少女達の一人、フェイト・テスタロッサの姿がそこにはあった。ゼロは女性を安全な場所に寝かせるとすぐにそちらへと駆け寄った。ガラスを丁寧に割って取り除き、フェイトを救出する。その際、フェイトは何故か全裸。クロワールの転送機能でゼロが昔着ていたパーカーをフェイトに着せた。

 

「フェイト、フェイト…! しっかりしろ!」

 

「う、ん…」

 

 ゼロの呼び掛けに反応はするが、意識は戻らない。呼吸はしていることから、安堵するゼロとクロワール。しかし、ゼロには何か違和感があった。このフェイト、どこか前にあったフェイトよりも幼いような気がする。背も小さいし、まるで別人のようだ。

 

「ゼロ、さっきの女の人の所に戻ろう。シエルに連絡しないと」

 

「そうだな。こちらゼロ…シエル、聞こえるか?」

 

《ええ、聞こえるわゼロ。どうだった?》

 

「人間2名を発見。一人は俺と面識のある人間だ。こちらまでの安全は確保した。転送座標を送る」

 

《面識がある…? 了解したわ。未確認のエネルギー反応の方はどうかしら?》

 

 シエルに言われ、ゼロは再度周囲を見渡した。すると、女性と少女の周囲に蒼いひし形の宝石がいくつか散らばっていることを確認する。

 

「宝石を幾つか見つけた。どうやら、これが原因のようだ。現在の所、エネルギー反応があるも危険性は見られない。回収を終えてから転送を頼む」

 

《ええ、わかったわ…》

 

 ゼロはそれに危険性が無いと判断し、それらを回収。倒れていた女性のところへと戻る。すると、そこで女性が苦しそうにしていることに気がつく。

 

「おい…! しっかりしろ!」

 

 ゼロの言葉に答えるように、女性はゆっくりと目を開いた。その紫色の目と、ゼロの黒い瞳が重なる。すると、女性は静かに口を開いた。

 

「ここはどこなの…? 私は、生きているの…?」

 

「…ああ、そうだ。お前はまだ、生きている」

 

 ゼロの回答に、女性は悔しそうな表情を浮かべていた。だが、そんな場合ではない。ゼロから見ても、この女性は明らかに衰弱していることが分かった。

 

「今、トレーラーへ運ぶ。名前を言えるか?」

 

「…私は…私は、プレシア・テスタロッサ…」

 

「「!!」」

 

 女性はそう言って気絶する。その女性の名前を、ゼロとクロワールは知っていた。以前、フェイト自身がゼロに語った出自に出てきた人物の名前。フェイト・テスタロッサの母であり、そして今はこの世にいないはずの人間。それがなぜ、この世界に現れたのか…

 

《ゼロ? 転送はいつでもいいわよ?》

 

「…了解だ、転送を頼む」

 

《え、ええ、わかったわ。転送!》

 

 多くの疑問を残しながらもこうしてゼロは転送され、その荒野を後にするのだった。

 

 

 そこは美しい高原だった。そんな場所に、少女は立っていた。金髪に紅い目をした、幼い少女。少女はキョロキョロと周囲を見渡した。

 

「あれ? ここどこ?」

 

《おや? 人間の…しかも、女の子がここにいるのは珍しいね…》

 

 少女の後ろに、蒼い光が立ち上る。ソレは人の形こそしているが、少女のようにハッキリとした姿ではない。その姿を見た少女は驚きの声を上げる。

 

「お、おばけぇ!」

 

《あはは、まあ確かに…僕はもうお化け、かな? でも大丈夫、僕は君に何もしないよ》

 

「本当…?」

 

《うん、僕は人のためにいるからね》

 

 その蒼い影は頷き、座っていた少女の隣に座りこんだ。すると、安心した少女は蒼い影に質問を投げかけた。

 

「貴方のお名前は? ここで何しているの?」

 

《僕は名乗るほどの者じゃないかな。僕はここで…待っているんだ》

 

 蒼い影は優しい声で答える。少女はその透き通っているかのような優しい声に惹かれて行くような気がした。

 

「何を?」

 

《大切な人さ。そう、すごく大切な友達を。君は、どうしてここに?》

 

「…うーん、わかんない。でも、悲しい夢を見ていたと思う」

 

《夢?》

 

 蒼い影の言葉に、少女は頷き悲しそうな顔になった。

 

「うん。おかーさんがね、ずーっと、苦しそうにしている夢。それでね、おかーさんに新しい家族の女の子が出来て…でも、お母さんはその子を嫌っているみたいだった。お母さんがその子に酷いことして…私の知らないお母さんがそこにいたの」

 

《辛い夢を見たんだね…》

 

「…私がお母さんに『やめて』って言っても、私の声は届かなかった…」

 

 少女の目から、自然に涙が溢れる。やめてと、いつものお母さんに戻ってと、必死に叫んだ。何度も、何度も。だが、その声は届かなかった。泣き始めてしまった少女の頭に、ポン、と優しい掌が乗る。それは蒼い影の手。

 

《怖かったね…》

 

「うん…」

 

《人間は…いや、意志のある者は進化を続ける。でもそれが正しい道かは分からない。道を外しても、またその元の道に辿りつくことが出来る。だからこそ、人間の可能性は無限大だ》

 

「ふぇ…?」

 

 蒼い影の言葉に、少女は首を傾げる。言葉が難しくてついていけないようだ。そんな表情をしていた少女に蒼い影は苦笑する態度を見せ、再度少女が理解しやすいように、説明する。

 

《つまり、君のお母さんは怖くなってしまったけど、また優しいお母さんに戻るかもしれないってことさ》

 

「ホント!?」

 

 蒼い影の言葉に、少女は嬉しそうな顔になった。蒼い影は頷きながらその広大な草原のその先を見据えていた。

 

《人は間違いに必ず気がつく。過ぎ去った過去を振り返り、自身の過ちを悔いる…それが出来るからこそ、未来に進める。人間も、レプリロイドも、きっと…》

 

「幽霊さん?」

 

《さあ、君もそろそろ目覚める時間だ。僕はここで待つことしかできないけど、君には待ってくれている人がいる》

 

 そう言いながら蒼い影は立ち上がり、掌に握っていた光を少女の手に渡した。

 

「これ、なーに?」

 

《それは君への特別なプレゼントだ…君のお母さんの所へ…いいや、君自身の体に戻るための道標》

 

「私の、体…?」

 

《さあ行くんだ。君はまだ、ここに来ちゃいけない。もうすぐこの夢は終わるから》

 

 蒼い影の言葉と共に、少女の体はフワリと浮き始める。そんな少女を襲う異常現象。しかし、そんな現象を無視して少女は蒼い影に向けて叫び続ける。

 

「ま、待って! 幽霊さんは来ないの!?」

 

《うん、僕は留まることしかできない。まだ、彼は来ていないからね…》

 

 必死に蒼い影へと手を伸ばす少女。しかし、少女の意志を無視して少女の体は渡されたひし形の光に引っ張られ、上へ、上へと浮かび続ける。

 

「あ、ねえ!貴方名前は…!? 教えて! 貴方の名前! 私、アリシア! アリシア・テスタロッサっていうの!」

 

《…アリシア、か。良い名前だね。僕は、エックス。ここのことは、きっとアリシアは忘れるだろうけど、僕はずっと覚えているよ。バイバイ、アリシア。僕に楽しい一時をありがとう》

 

 少女、アリシアは段々と上昇して行く。そして最後に蒼い影、エックスはそれを笑顔で見送る。蒼い影だったはずの彼の表情が、アリシアにはハッキリと確認できた。その笑顔はとても優しく、それでいて強い意志を秘めた瞳だった。そんなエックスの顔に、寂しさから流れる涙を流しながらも、同じくアリシアは目一杯手を広げ、笑顔をエックスに向けた。

 

「うん! バイバイ、エックス! ありがとう! またね!」

 

「うん、またね…アリシア」

 

 こうして少女、アリシア・テスタロッサの意識はその空の中へと溶けて行くのだった。

 

 

 




というわけで、1話でした
アリシアとエックスを出すのに一応考えた結果がこんな感じでした
まあ、今後はエックスもStSで出る予定がありますので、お楽しみに

Next「変わる者、変わる世界」


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StrikerS本篇
02「変わる世界、変わる存在」


投稿遅れて申し訳ないです
どうにか2話目でございます。ちなみに、これでプロローグは完結となります
次回からは世界を移し、新たな世界での戦いがゼロを待っています

では、本編をどうぞ…!

感想、評価を常時お待ちしております


レジスタンストレーラー 医務室

 

 ゼロに運ばれた女性、プレシア・テスタロッサは静かに目を覚ました。薬品の匂いが鼻をつき、独特の匂いを感じて体を起こす。

 

「…? ここは…そうだわ、アリシア!」

 

 周囲を見渡し、最愛の我が子であるアリシアの亡骸を探す。しかし、その亡骸を入れていたカプセルが見当たらない。すると、そんな所に医務室のドアが開く。そのドアの前にいたのは紅い体に、金髪の髪をした男。

 

「目が覚めたか、プレシア・テスタロッサ」

 

「貴方は…」

 

「俺はゼロ。そして、ここは俺達レジスタンスのトレーラーだ」

 

 そう言いながら、ゼロは手にしていたお盆をテーブルの上に置く。どうやらプレシアの食事らしい。

 

「ここはいったい…いいえ、それより。私の娘、アリシアは? アリシアはどこなの!?」

 

「安心しろ、こちらに運び込んでいる。手荒なこともしていない。落ちついてくれ。俺達はお前に危害を加えるつもりもない、だが、現状の説明は聞いて欲しい」

 

「っ…そう、ね。取り乱していたわ」

 

 狂ったかのようにプレシアは愛娘であるアリシアの亡骸を求めたが、その狂気もゼロの鋭い眼光に寄って制止させられてしまう。言いながら力なくそのベッドに座るプレシア。そんなプレシアを見ながら、ゼロはプレシアに説明を始めた。

 

「まず、お前にはいくつか確認がしたい。ソレを追って現状を説明するが、構わないか?」

 

「…ええ、いいわ」

 

 プレシアは力のない声でゼロに答える。この男の質問に答えさえすれば娘に会える。そうプレシアは感じさせる姿勢だった。しかし、ゼロはそのまま説明を始める。

 

「まず、この世界はお前にとって異世界である、ということを説明しておく。お前は俺達が調査する地域で倒れていた」

 

「…異世界? どうして貴方はそれがわかるのかしら?」

 

 プレシアの疑問はもっともである。何故、自分のことをこの男は異世界から来たという認識が出来るのだろうか。確かに、次元世界は数多く存在するが、それを認識できる者が多いと言われればそうではない。次元世界よりも未開拓の世界の方が圧倒時に多い。

 

「それは、俺が異世界に行った経験があるからだ。その中で、お前が異世界から来たことを確信したのは…プレシア・テスタロッサ、俺はお前の娘であるフェイト・テスタロッサと面識がある」

 

「っ…! フェイト、ですって?」

 

「そうだ。お前の知る、フェイト・テスタロッサだ」

 

「は、はは、あはははは! あの子は私が死んでもなお、私を母と呼ぶの!? 傑作だわ!人形の癖に! アリシアの代用のくせに!」

 

 プレシアはそう言いながら高笑いをする。ゼロの隣にいたクロワールが怒鳴ろうとするが、ゼロはそれを止める。ゼロには分かっていた。彼女の口から出る言葉が、彼女の本心ではないということを。プレシアは笑い終えた後に、それを止めて小さく呟いた。

 

「本当に、馬鹿な子、なんだから…」

 

「……」

 

「私なんかに囚われず、自分の人生を進めばいいのに…なぜ、私なんかを母と呼ぶのよ…」

 

 プレシア自身、心のどこかで彼女のことを娘と認めたいと思った。しかし、ソレはできなかった。自分は彼女を傷つけすぎた。そして、自分自身に残された時間は限りなく少ない。だからこそ、冷酷者の仮面を被り、悪女を演じ続けた。そして迎えた自身の最後。あの時、自分の娘が伸ばした手を取らずに奈落の底へと落ちたつもりだった。

 

――残りの人生は貴方の物。貴女を縛るものは何もない。自由に生きなさい、フェイト

 

 最後の最後、自身が狂気の中で人形と呼び続けたフェイトにプレシアが向けた、最初で最後の母親としての愛情だった。なのに、フェイトは未だに自分を母と呼んでくれる。しかし、そんなことが果たして許されるのだろうか? プレシアの思考回路はグルグルとフェイトに対する罪悪感で埋め尽くされて行く。そんなプレシアに、ゼロは口を開く。

 

「プレシア・テスタロッサ…フェイトは言っていた。どんなに生まれ方が違えど、自分の母親はプレシア・テスタロッサなのだ、と」

 

「……フェイト」

 

「お前には、確かに拭いきれない罪がある。だが、ソレを一人で抱え込む必要はない」

 

「どういうこと?」

 

「……入ってこい、アリシア」

 

「え…?」

 

 ゼロの言葉に、プレシアは耳を疑った。しかし、次の瞬間プレシアの目に飛び込んできたのは、プレシアにとって最愛の娘であるアリシア・テスタロッサの姿だった。小さいピンク色のワンピースに身を包み、ピンクのリボンでその髪をツインテールに縛っている。そして、ニッコリと笑みを見せた。

 

「おかあさん」

 

「ア…アリシア? アリシア、なの?」

 

「うん、おかーさん、おはよう」

 

「アリシア!」

 

 プレシアは無我夢中で我が子を抱きしめる。ずっとずっと会いたかった。目を開けて欲しかった最愛の娘。それが今目の前にいる。もう離すものかと、もう離れないと、力いっぱい自分の娘を抱き締める。その眼には、喜びの涙が浮かんでいた。アリシアもまた、そんな母の様子に苦笑しながら笑顔になる。

 

「いつものおかーさんだ」

 

 そんな風に言うアリシア。そのアリシアが目覚めたのは今から30分ほど前のこと

 

「ゼロ、この人達は一体…」

 

「俺が行った異世界で出会った奴の家族だ。話では既に死んでいると聞いていたが…」

 

 トレーラーの医務室でシエルとゼロがそんな話をする。ゼロがフェイトから聞いた話では、自身が関わった事件「PT事件」と呼ばれた事件で首謀者であったプレシア・テスタロッサは虚数空間と言う場所に消えたと聞いていた。

 

「それと、これか」

 

「それがロストロギア?」

 

「ああ、聞いた話でしかないが…なんでも、願いを叶える石ということだが」

 

 そう言いながら回収したジュエルシードを手に取るゼロ。すると、寝ていたうちの1人、金髪の少女が目を覚ました。

 

「ふぁー…あれー? ここどこー?」

 

「…目が覚めたか」

 

「あれ? お兄さんとお姉さん誰?」

 

 と、首を傾げる少女。そんな少女に対し、シエルがニッコリと笑みを見せる。

 

「私はシエル。こっちはゼロよ。お名前は言える?」

 

「うん! 私はアリシア。アリシア・テスタロッサだよ!」

 

 ニッコリ笑みを見せるアリシアだが、ゼロとクロワールはますます考えることとなった。やはり、彼女は自分たちの知る人物、フェイト・テスタロッサではない。しかも、アリシアはフェイトから聞いた話で死亡していることをゼロは知っている。確か、プレシアはPT事件で彼女、アリシアを蘇らせるために事件を起こしたはず。なのに、そのアリシアが生き返っているのは何故か。すると、アリシアがジーっとゼロを見つめている。

 

「何だ?」

 

「ううん、なんでもないの…でも、お兄さんをどこかで見た気がするんだ」

 

「俺を?」

 

「うーん…違うかなぁ、お兄さんを見たんじゃなくて…そう、お兄さんと同じ目をした人を見た気がするの」

 

 そう無邪気に説明をするアリシアだが、ゼロはさっぱりわからない。すると、アリシアはようやく隣でプレシアが眠っていくことに気がつく。

 

「あ! おかーさん! おかーさん! 朝だよ!」

 

「う、うう…」

 

「おかーさん…」

 

 アリシアが揺すってプレシアを起こすが、唸るだけで反応が無い。そんな母を見ていたアリシアの表情が段々と暗くなっていく。シエルはそんなアリシアに優しく語りかける。

 

「どうしたの? アリシア?」

 

「…おかーさん、どうしたのかな?」

 

「…倒れているところをここに運んだ。体に異常はないが、少し衰弱している。そっとしておけ」

 

 ゼロの説明に頷き、離れてからアリシアは改めて母プレシアを見る。

 

「おかーさん、目が覚めたらいつものおかーさんかな?」

 

「え?」

 

「私ね、ずーっと怖い夢を見ていたの。お母さんが私に似た女の子をずーっと虐めているの。お母さんのその時の顔、すごく怖くて…いつものお母さんじゃないみたいで…」

 

 ゼロは知っている。プレシア・テスタロッサがフェイトに対して虐待を重ねてきたことを。しかし、何故死者であった彼女がそれを知っているのか。その疑問は尽きない。死者であったアリシアの蘇生。行方不明であり死亡扱いであったはずのプレシアの生存。そして、紛失したはずのロストロギア「ジュエルシード」その全てが今、自分たちの所にある。もしかしたらロストロギアであるジュエルシードの奇跡かもしれないが、ゼロにとってはどうでもいいことだった。大切なのは、この後どうするか。シエルもゼロから詳しい彼女達の経歴を知り、頭を悩ませた。というのも、ゼロから言われた通りの人間ならとてもではないが危険な人間である。キャラバンではとても受け入れてもらえそうにない。だが、シエルはそんな中で結論を出した。対話をする。彼女、プレシア・テスタロッサの本質を理解する意味で、シエルはそんなことを言いだした。これから彼女達がエリアゼロの集落で暮らすとしたら、彼女のことを知っておかなければならない。なので、フェイトと繋がりがあるゼロはプレシアとの対話に臨んだのだった。そして、現在に至る。

 

「俺から説明することはだいたいそんなところだ」

 

 時間を戻し現在。プレシアはアリシアと共にこの世界のことについて説明を受ける。機械文明が発達して生まれたレプリロイドという存在。そして、ゼロが訪れた異世界、地球での事件のこと。フェイトの今。

 

「そう…ありがとう、十分よ」

 

「お前達の今後だが、俺達が住む《エリアゼロ》と呼ばれる場所へ連れて行こうと思う。そこは多くの人間やレプリロイドが暮らしている場所だ。そこなら幾分安全だろう」

 

「何から何まで申し訳ないわね…本当にいいのかしら?」

 

「はい。もちろんです。ゼロから聞きしましたが、プレシアさんは魔導師であると共に科学者であるというお話を聞いたので、是非私にもお話を聞かせて欲しいですから」

 

 そんなシエルの言葉に、プレシアは少し驚いた表情になる。

 

「ということは…貴女も?」

 

「はい。昔はネオアルカディアと言う場所で科学者をしていましたから」

 

「そうなの…若いのに立派だわ」

 

「そ、そんな…」

 

 シエルはプレシアからの純粋な褒め言葉に恥ずかしそうに顔を紅くした。人からあまり褒められたことのないシエルとしては、そんな褒め言葉が嬉しいが、それと同時にすごく恥ずかしく思える。

 

「そ、ソレを言ったらプレシアさんだってまだまだお若いじゃないですか」

 

「何を言っているのよ。私なんてもうオバサンで…」

 

 シエルの言葉がお世辞だと思いながらプレシアがふと、鏡に映った自分の顔を見た。その鏡に映っていたのは、アリシアが死んだ年くらいに若返っている自分の姿。

 

「う、うそ…これって」

 

「どうかしました?」

 

「その、体が…若返っている…の。それに、今更だけど呼吸も全然苦しくないわ…私、結核に掛っているはずだったのに」

 

 プレシアがその現象に戸惑いを見せる。何故自分の病気の病状が消えている? 何故、自分は若返っている? そして最大の疑問点。何故、アリシアが生き返った? 様々なことを思考していると、フェイトをつき放して虚数空間へ落ちた時のことを思い出した。

 

――――願わくは次の人生では、我が子と進む最高の道を

 

 そんな願い。持っていた残りのジュエルシードが叶えたのかもしれない。すると、心配しているシエルがプレシアに声をかける。

 

「あの、プレシアさん? 大丈夫ですか? 体には異常はなかったんですけど…」

 

「あ、ああ…ごめんなさい。何でもないわ…大丈夫」

 

(神様は私にチャンスをくれたのかしら…再び、生きる上でのやり直すチャンスを)

 

 ならば、今度こそ掴まなければならない。本当の幸せを。そして願わなければならない。もう会うことはないであろうもう一人の娘の幸せを

 

「そろそろエリアゼロに戻りましょうか。未確認のエネルギー反応のことを特定できたし、すぐに…」

 

 と、シエルが立ち上がったその時だった。テーブルに置かれていたジュエルシードが突然発光し、宙に浮く。

 

「なっ…」

 

「ジュエルシードが…!?」

 

「プレシア・テスタロッサ!封印を…」

 

「も、もうやったはずよ!なのになぜ…」

 

 ソレの光景に驚くシエルと、封印をしたのにもかかわらず起動するジュエルシードに驚いてアリシアを抱くプレシア。そしてゼロは3人を庇うように前に立ちふさがる。しかし、その時だ。ゼロは懐かしい気配を感じ取った。

 

《ゼロ…》

 

「この声は…マザーエルフ!」

 

 そう、少し前にゼロを宇宙空間から助け出し、異世界に送ったマザーエルフの姿があった。オメガの姿をしたロストロギアとの戦う前、一度だけ夢の中に現れたマザーエルフが、ゼロの目の前にいる。

 

《ゼロ…》

 

「まさか、二人をこの世界に連れてきたのはお前か?」

 

《……》

 

 ゼロの質問に、マザーエルフは答えない。しかし、ゼロは言葉を続ける。

 

「なら質問を変える。マザーエルフ、お前は俺に何をさせたい」

 

《…救って》

 

「…救う? 誰をだ?」

 

《器…世界を握るであろう、王の器…時間が無い、世界の崩壊が始まっている…》

 

 マザーエルフの言葉をいまいち理解できない一同。しかし、マザーエルフはソレを気にせず言葉を続けた。しかし、彼女が言葉を告げると同時に段々とジュエルシードの光は強さを増していく。

 

《どうか、世界を頼みます…貴方だけが…世界を…!》

 

 その言葉と同時に、ジュエルシードの光が絶頂を迎える。その強い光と共に、4人は気を失うのだった。

 

 

 

 

 

 

英雄に平穏はない

 

戦いが終われば、また次の戦場が用意される

 

戦いの道にある軌跡は終わらず、英雄はそれを作るために歩き続ける

 

その物語はやがて伝説となり世界を変えて行く

 

ゼロの新たな伝説が始まる…!

 

 

プロローグ 完




というわけで、お疲れさまでした。プロローグはこれにて完結です
プレシアは容姿を20代前半に戻した設定ですが、それは何故かと言えばなのはの母である桃子や、リンディの容姿が変わらないのに、プレシアだけ老けたBB(ry、お姉さまではあまりにも不憫だなと思いまして、ジュエルシードのせいにしました。
まあ、ほら、innocentでも若い姿だし…いいかな、と
これも全部、ジュエルシードってやつの仕業なんだ…!


ではまた次回

NEXT 「異世界での再会」


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03「異世界での再会」

第3話です。遅くなって申し訳ないです

感想、評価、お待ちしております


 

「うぅ…」

 

 マザーエルフの力の発動によって気を失った一同。しばらくして、シエルは目を覚ました。目に違和感を覚えながら、目を抑えて違和感を無くし、周囲を見渡す。倒れているのは先ほど保護したプレシア・テスタロッサと、アリシア・テスタロッサ。すると、トレーラーの扉が開き、そこにゼロが現れる。

 

「ゼロ、今のは…マザーエルフは?」

 

「…さあな。だが、“やられた”としか言えん」

 

「え?」

 

「周囲を見てみろ」

 

 ゼロに言われ、シエルは周囲を確認する。すると、周囲は生い茂った林が周囲一帯に広がっていた。

 

「これって…」

 

「昔、俺が体験した『次元震動』による『時空転移』だ。今、クロワールに周囲を偵察させている。もし仮にここが地球ならば、クロワールが持つ地図で場所が特定できる」

 

 以前、行方不明だった期間について、シエルたちからどこにいたのかとゼロは聞かれたことがある。シエル達も、どこか遠い場所にいたとは思っていたが、まさか次元を超えた場所である異世界にいるとは思わなかった。最初は信じていなかったが、ゼロが冗談や嘘を言うわけもなく。ゼロはその別世界での生活について話をしたこともある。レプリロイドがいない、人間達だけが暮らす世界。そこで出会った少女のことや、その場所に来た原因のことも、シエル達はゼロから教えられている。そんなことを言っていると、扉が開いてクロワールが入ってくる。

 

「ゼロ、周囲の地形と地球のデータを合わせてみたけど、地図が一致しないわ…」

 

「と言うことは、ここは地球ではない…か」

 

 マザーエルフとジュエルシードの力によってまったく知らない世界に飛ばされてしまった一同。もし地球であるのならばはやてたちとコンタクトを取ることもできたのだが、それはできないようだ。眠っていたプレシアたちも起こし、状況を確認した。その結果、全員に異常はない。まあ、プレシアとアリシアは元々ジュエルシードの力によってある意味異常な状態だが…変わったことと言えば、力の源だったジュエルシードがすべて消えていること。マザーエルフが持ち去ったのかもしれない。

 

「これからどうしましょうか…」

 

「…とりあえず、何かの反応があるまで待機する。もし、何かあれば動けばいい」

 

 そんなことを言っていると、トレーラーの中でアラートが鳴り響いた。

 

「何々~?」

 

 警告音が鳴り響く中、アリシアが興味津津にその画面を注視する。どうやらこの音が警告音であるとは理解していないようである。

 

「未確認のエネルギー反応…! 移動している…? この速度、列車か車かしら…それに、生体反応が4つね…」

 

「生体反応…この地の住民の可能性がある。可能であるなら、接触を試みよう」

 

「そうね…」

 

 と、ゼロとシエルが考える。もし、生体反応が人間であるならば、詳しい話を聞くことが出来るかもしれない。

 

「とりあえず、近くまでトレーラーを走らせましょう。それと…ゼロ、気を付けてね」

 

「了解だ。プレシア・テスタロッサ、アリシア・テスタロッサ、お前達はシエルとトレーラーに待機していろ。何かあるまではそこなら安全のはずだ」

 

「ええ、ありがとう…」

 

「おにーちゃん、いってらっしゃーい」

 

 今取るべき行動が決まり、ゼロたちは行動を開始するのであった。

 

一方、ミッドチルダ山岳地帯 リニアレール

 

 そこはミッドチルダと呼ばれた世界の山岳地帯。いつもなら静かなその場所は、今日だけ特別騒がしかった。卵型の機械達がそのレールの上を走る列車を襲撃しており、その影響なのか列車は暴走的な速度で走り続ける。そんな列車の上に、4つの影があった。

 

「こちらスターズ3、スバル・ナカジマ! ライトニングと合流しました。このままガジェットを殲滅してレリックの回収に向かいます!」

 

『了解、気をつけてね』

 

「行こうティア!」

 

「ええ、了解。二人もしっかりついて来てね」

 

「「はい!」」

 

 そこにいたのは4人の子供たち。時空管理局機動六課スターズ3のスバル・ナカジマと、スターズ4のティアナ・ランスター、そしてライトニング3のエリオ・モンディアルとライトニング4のキャロ・ル・ルシエである。4人は配属された部隊での初任務に当たっていた。任務内容はリニアレール内にあるロストロギア『レリック』の回収。ハプニングもあったが、無事に中間地点の車両の上で4人は合流し、無人機械兵器『ガジェット・ドローン』の殲滅をしながら先へと進む。

 

「スバル!」

 

「ウィング、ローッド!」

 

 ウィングロードと呼ばれた彼女の先天系魔法により、空への道ができる。スバルはそれをローラーで走りながらガジェットに向かっていく。エリオとキャロはキャロの使役竜であるフリードで空を飛びながらそのガジェット達の殲滅を図る。

 

「うおおおおおおっ!」

 

 AMF(アンチマギリングフィールド)と呼ばれる魔法無力化領域の展開により突っ込んだスバルの攻撃力が抑えられるも、スバルはそのまま突っ込み、ガジェットを破壊する。ガッツポーズをとるスバルだが、その後ろにいたティアナが叫び声を上げた。

 

「スバル! 先行しすぎ!」

 

 本来、FA(フロントアタッカー)と呼ばれる彼女は確かに先行して攻撃する役割だが、その距離はかなり離れている。一人で無謀に突っ込むのは得策とも言えない。何より、これではチームワークが維持できなくなる。

 

「ご、ごめんティア!」

 

「エリオ、スバルの隣までよろしく。キャロ、フリードはどれくらい持つかしら?」

 

「後、持って数分です。ブーストのことも考えると…」

 

「フリードは戻せる? 貴女のブーストは充てにしたいの」

 

 ティアナは現状でベストな方法を選択しながら、先へと進んでいく。ティアナは自分たちが初任務に当たっているということを考慮しながら、そのメンバーの力量配分を考えて指示を飛ばす。それがCG(センターガード)と呼ばれた彼女の役割なのだが、そこで問題が起きる。

 

「ティア! 敵の増援が!」

 

 そう、スバル達の目の前に、空中から別のガジェットの軍勢が押し寄せる。いずれも同じ卵型のガジェット・ドローンではあるのだが、前半での合流までに使った魔力量を考えると、これ以上の戦闘は辛い。

 

「う、嘘でしょ…!? スバル! エリオ! 一旦下がって! 防衛しながら隊長たちが来るまで耐えるわよ!」

 

 指示通り、スバルとエリオが下がりながらティアナとフリードがいる位置まで戻る。こうも数が多くては、AMFの濃度は上がるばかり。そうなると、自分たちは魔法を使うことは出来ない。

 

「ティア、どうするの!?」

 

「後退して距離を取るわ。遠距離からならまだ魔法は使える…」

 

 ティアナはいきなりの援軍に驚きながらも、頭をフル回転させて今できることを考える。エリオとキャロは合流までの戦闘で魔力が減っている。しかし、それは自分とスバルにも言えることだ。加えてこの数…ザッと合わせて50はいるだろう。自分たちの隊長達が救援に来るまで耐えられるか微妙なところ。そう考えているティアナが、ハッと声を上げる。

 

「スバル! 前!」

 

 ティアナの言葉に、スバルがハッとする。すぐそこまでガジェットが迫っていた。先ほどとは違い、加速しての突進に反応が遅れた。

 

「しまっ…」

 

 ティアナは慌てて自分のデバイス、クロスミラージュを構えた。だが、今引き金を引いてもその前に突進が当たってしまう。間に合わない。ティアナがそう思ったその時だった。後ろからエネルギーが収束される音が聞こえる。そしてティアナの後ろから緑色の巨大な光弾が凄まじい速度で通り過ぎ、スバルを襲おうとしたガジェットが撃ち貫かれた。ガジェットは突如として爆散する。その余りの事態に、4人は驚いて後ろを見る。すると、その振り向いた瞬間に紅い閃光が自分たちの間を通り抜けた。

 

「はああっ! せいっ! はぁ!」

 

 その翡翠に輝く剣でガジェットを真っ二つにし、光弾を続けて発射していく。ガジェットはソレを受けて成すすべもなく爆発した。

 

「え…?」

 

『ゼロ? 聞こえる? その列車、恐らく暴走しているわ…! エネルギーの出所を見ると、先頭車両みたい…! その子たちを助けてあげて!』

 

「了解した・・・任務(ミッション)を開始する」

 

 4人の目の前に、金髪をなびかせた男が現れた。

 

 

 

――MISSION START!――

 

 紅き戦士、ゼロは4人を見てから駆け出し、その自分を襲ってくる敵をZセイバーで切り裂いていく。ゼロは4人に話を聞く必要があるため、4人に怪我があると困る。それに、こちらを襲っている機械達がマザーエルフの言っていたことに関係しているなら倒すべき敵なのかもしれないと考える。そんなゼロを見てか、その自分たちを助けた人物の行動にスバルたちは驚きの声を上げていた。

 

「すごーい…」

 

「ガジェットを、いともたやすく…」

 

「それに、すごい戦い方だ…」

 

 そう、4人から見ればゼロの戦い方は熟練された戦士の動き。それは自分たちの上司である人物たちを彷彿とさせるもの。すると、ゼロはそのまま目のも止まらぬ速さで車両を突き進んでいき、見えなくなった。ようやく我に帰ったティアナは3人に声をかけて、ゼロを追うのであった。

 

 

 

 

 一方のゼロはさらに進んで車両の中へと侵入。ガジェット、ゼロからすれば未確認のメカニロイドを破壊しながら先頭車両を目指す。放たれるエネルギー弾をシールドで防ぎ、シールドブーメランをチャージしてそのまま投げる。

 

「でああっ!」

 

 そのシールドブーメランに引き裂かれ、ガジェットたちが瞬く間に破壊され、爆発が起きる。だが、そこにゼロの侵攻を阻むものが現れる。

 

「でかいな…」

 

 それは他のガジェットとは違う、球体の形をした巨大なガジェットだ。しかし、ゼロはそんなことは関係ないと言わんばかりにZセイバーを向ける。

 

「邪魔だ」

 

 ゼロは駆け出してZセイバーで巨大な無人機に斬りかかった。しかし、真っ二つとまでは行かずに、途中で剣が止まった。どうやら装甲が硬いらしく、普通のとは違うらしい。すると、大型のガジェットは無数の砲門を光らせてゼロに向ける。

 

「くっ!」

 

『ゼロ! チェーンロッドを!』

 

「わかっている!」

 

 既にゼロと一体になっていたクロワールの咄嗟の言葉で、ゼロはZセイバーをチェーンロッドに変えると、無人機のアーム攻撃を避けてチェーンロッドを天上に向けて射出。そのままぶら下がってターザンの要領で背後へと回りこむ。その際ガジェットはすぐにゼロに向かず、天上に対してアームらしきものを展開して撤去。ゼロの逃げ道をなくした。だがゼロはその間に連続でバスターの光弾を発射して敵にぶつけた。

 

「やったか?」

 

 ゼロがガジェットを見るが、ガジェットはゆっくりとゼロの方を向く。まだ健在のようだ。

 

「ちぃっ…!」

 

 再び飛んでくる光線をシールドで防ぐと、今度はZセイバーに戻して、チャージを始める。

 

「敵のほうが早い…クロワール、俺の反応速度とチャージ速度を上げてくれ」

 

『うん、了解』

 

 ゼロがこの敵を斬るだけのパワーを出すには、チャージに時間がかかる。だが、それまでにゼロがその攻撃に当たらなければいい話だ。ついでに、クロワールの能力でチャージ時間も短縮してしまえばいい。彼女、クロワールのサポートはゼロを守ることに徹底したプログラム。彼女の力によって防御力を上げることもできるし、走る速さも早くできる。なので、その速度上昇とチャージ短縮によって、敵を斬り裂くのが容易になる。

 

「はっ!」

 

 チャージを終えたゼロは、一気に飛びあがってZセイバーを振り下ろす。その開いた天上へ飛び上がったことで得られたチャージ斬りに加える多大な重力負荷によって、強力な一撃が炸裂した。

 

「はあああああああああああっ!」

 

 ゼロはチャージした一撃がガジェットに命中する。それにより、真っ二つとなったガジェットはバチバチと音を立てて爆発を起こした。それを確認したゼロはそのZセイバーについたオイルを振って払うと、さらに奥へと向かう。

 

『ゼロ!』

 

 そこで、シエルから通信が入る。どうやらトレーラーは隣を走っているらしい。そのため、シエルの声はよく聞こえる。さらに言うなら、そのゼロの中に内蔵された通信カメラによって、シエルと、その後ろにいるプレシアたちの姿がしっかりと確認できる。どうやら、車は現在自動操縦になっているようだ。

 

『中に強いエネルギーの反応を確認! プレシアさんの話では、それもロストロギアの可能性があるわ! 気をつけて!』

 

「了解した」

 

 ゼロはシエルとの通信を切ってからシエルの言う部屋のドアを蹴破り、中へと突入した。

 

「あれは…」

 

 そこにあったのは先ほど倒した大型のガジェットと同じタイプだった。しかし、機関室の防衛プログラムらしきものを制御しているらしく、なにやらロボットのような姿をしたものが出現する。

 

「なるほど…奴を倒せば、列車も止まる」

 

『ゼロ、武器は?』

 

「リコイルロッドを頼む。行くぞ!」

 

 

――WARNING!――

 

 

 

 ゼロはトンファー状の武器、リコイルロッドを手に、チャージしながら接近する。そして迫りくるエネルギー弾回避しながら、そのロボットらしきものに向かって一気に接近した。

 

「でえぇあ!」

 

 その突貫力に定評があるリコイルロッドのチャージ攻撃がロボットにヒットする。しかし、それでも凹みができ、少し亀裂が入るだけ。

 

「…頑丈だな」

 

『ゼロ、どうするの?』

 

「どんな機械にも、弱点はある」

 

 ゼロは再びチャージしてからそのロボットと床が密接している場所へ向けてリコイルロッドを放つ。相変わらずその攻撃は亀裂を入れるくらいだ。

 

「よし…はっ!」

 

 そして今度は距離を取ってからバスターを取り出し、天上にある非常用のスプリンクラーに狙いを定め、それを撃ち抜いた。

 

「亀裂が入っているだけで十分だ」

 

 そういいながら、Zセイバーにサンダーチップを組み込んで、それを水の溢れた床へと突き立てる。その瞬間にゼロはチェーンロッドでその体を宙に浮かせて退避。すると、激しい機械のショート音が鳴り響く。ガジェットとその防衛ロボットはショートを起こして動きを停止した。どんなに強い機械兵器でも、中の回線は非常にデリケート。これだけの電撃を受けてしまえば、電子回路が焼き焦げてしまうだろう。

 

「…終わったな」

 

 

――MISSION COMPLETE!――

ミッション

100%

20

タイム

62.35   

15

エネミーカウント

100     

15

ダメージ

0      

20

リトライ

0

20

エルフ

0

10

トータル      

100

レベル        

S

コードネーム

勇者

 

[ロストロギア:レリックを手に入れた!]

 

「これが原因のロストロギアだな」

 

 と、ゼロはその箱を開けて確認する。そこには紅く輝く宝石が鎮座していた。ゼロは若干そのロストロギアから出される覇気のようなものを不快に感じ、その箱を閉じる。そして、機関室の扉らしき場所をこじ開けて止まったリニアから降りた。すると、先ほどゼロが助けた少女たちが駆けて来た。

 

「無事だったか」

 

「止まりなさい!」

 

 ゼロが一歩そちらへ歩もうとすると、ツインテールの少女、ティアナがいきなりゼロに向けて銃型デバイスのクロスミラージュを突きつけた。

 

「…なんのつもりだ? 銃をつきつけられることをした覚えはないが」

 

 鋭い眼光でゼロが4人を睨みつける。はやてたちくらいの子供たち、エリオとキャロは少しびっくりしているが、ティアナはそのまま銃口を向けており、そして相方であるスバルはオロオロその場でどうすればいいか慌てている。

 

「時空管理局よ! 今すぐ[レリック]を地面に置いて、武装を解除しなさい!」

 

「…時空管理局だと?」

 

 思わずゼロはティアナに聞き返す。時空管理局。それはゼロたちにとって聞いたことのある組織の名前であった。

 

「そうよ! 一緒に来てもらうわ! 質量兵器の使用に、現在警戒態勢が敷かれている場所への介入! 聞きたいことも山ほどあるわ! さあ、早く武装を置くのよ!」

 

「ティア、やっぱり先にお礼言ったほうがいいって!」

 

 と、相棒のスバルがティアナに言うも、ティアナは銃を降ろそうとはしない。

 

「確かに助けられたことには礼を言うわ…でも、それとこれとは話は別よ」

 

「……」

 

「ゼロ、事情を説明すれば分かってくれるんじゃいないかしら」

 

 クロワールがそう言いながらゼロから出てティアナを見る。すると、クロワールの登場に一同が驚いた。

 

「え? ユニゾンデバイス!?」

 

「うーん、近いけど違うわ。私はサイバーエルフだから」

 

「サイバー、エルフ?」

 

 ティアナ以外の3人がクロワールの言葉に首を傾げていると、ようやく列車に追いついたトレーラーが止まり、シエルが降りてきた。

 

「ゼロ~!」

 

「シエル! 止まれ!」

 

 思わず、ゼロが叫ぶ。そう、既にティアナがもう一方の手で同じ2丁目のクロスミラージュをシエルに向けて構えていた。

 

「えっ…!?」

 

「ティア!」

 

 その相棒の凶行に慌ててソレを止めようとするスバル。しかし、ティアナはシエルに向けた銃を降ろさない。

 

「……あなたも、動かないで」

 

 普段のティアナなら、こんなことはしないだろう。しかし、現在の彼女は今、パニック状態であった。かろうじて意思を保っている状態で、目の前で見せられたゼロの力への恐怖心と、現状を飲みこめない状況把握不足により、それが彼女をパニックにしていた。

 

「ティア! 落ちついてってば! あの人は武装なんてしてないよ!」

 

「…お前達、時空管理局の局員のようだな」

 

 その現状を見かねたゼロは、レリックと呼ばれたロストロギアを地面に下ろし、装備一式を地面に下ろす。それを確認しても、ティアナは警戒をやめていない。

 

「は、はい…」

 

 そんな状態のティアナの代わりに、スバルがゼロの質問に頷く。ゼロは少しためらったが、その頼みを彼女にすることにした。

 

「時空管理局員に知り合いがいる。時空管理局提督兼、L級巡航艦アースラ艦長のリンディ・ハラオウン、その船に所属する執務官、クロノ・ハラオウン、その他、研修中であろう捜査官候補生の八神はやてと、その守護騎士ヴォルケンリッター、武装隊の候補生、高町なのは、執務官候補生のフェイト・テスタロッサ。このどれかに心当たりがあれば、連絡を取ってもらいたい。俺の素性については彼女たちに確認してもらえればわかるはずだ。俺は『八神ゼロ』。八神家の関係者だ」

 

 唯一、ゼロが管理局との繋がりを持つのはアースラスタッフである彼女たちだけ。一応、はやてたちは候補生。その関係者であることが証明できればこの現状を回避することはできるだろう。それを証明するためにも、ゼロはあえて『八神』の姓を使用する。しかし、はやてたちはまだ10歳。彼女達のほうが年上なので、そこにいる4人は知らない可能性がある。だが、リンディならば時空管理局員の中で提督の彼女を知っているだろう…ゼロはそう考えた。しかし、彼女達はゼロの言葉に驚いた様子。どうしたのかと思っていると、スバルが恐る恐る口を開いた。

 

「あ、あの~…」

 

「なんだ」

 

「なのは隊長たちのお知り合い…なんですか?」

 

「何?」

 

 スバルの言葉にゼロは一瞬その言葉を疑ってしまう。なのはのことを目の前の少女は知っているようだが、意味がわからない。彼女はまだ10歳であり、まだ候補生。そんな彼女が管理局で隊長などを務められるわけがない。

 

「あいつが、隊長だと?」

 

「はい…もうすぐ来ると思いますよ…あ、来た!」

 

 空から見える人の姿がそこにはあった。そんな様子にシエルが思わず「人が飛んでいる!?」なんて驚いている。そして、その影はゆっくりとスバル達の元へと降りてくる。そこに降りて来たのは一人の魔導士。白を基調とし、青や赤のデザインが入ったドレス。栗色の髪の毛をツインテールに結った姿。そして紅い宝石が印象的な杖。確かに、ゼロの記憶にある高町なのはがしていたバリアジャケットの展開状態だ。だが…

 

「誰だ?」

 

 そう、目の前にいたのは9歳の少女ではない。明らかにそれ以上の、目の前にいたスバル達よりも年上の女性だった。女性はスバル達の目の前に降りて4人の安否を確認しているため、どうやらゼロたちが見えていないようだ。

 

「スバル、みんな! 大丈夫!? AMFのせいで映像が回って来ないし、通信も出来なかったから…」

 

「はい、私達は…あ、その…なのはさん、そちらの方…お知り合いなんですか?」

 

 スバルが刺した方向をなのはと呼ばれる人物が見る。すると、なのはと呼ばれたその人物は驚きの声を上げる。

 

「ゼロ…さん?」

 

「そうだ」

 

「ゼロさん!」

 

 “なのは”とスバルたちに呼ばれた人物が、嬉しそうにゼロへと駆け寄り、ゼロを強く抱き締める。その余りの事態にスバルたちは驚く。後ろにいたシエルも、同じようにびっくりした顔になっていた。特にシエルは、あそこまで人間に好かれている様子のゼロを見るのは初めてだった。

 

「ゼロさん! ホントにゼロさんなんですね! わぁ…! 懐かしい! はやてちゃんからきっと無事だって言われたけど、本当に無事だったんですね!」

 

「まて、お前…本当に高町なのはか?」

 

 驚いて動けなかったゼロがそれを再度確認する。すると、なのははゼロから離れ、嬉しそうな満面の笑みで頷いた。

 

「はい、私もう19歳になったんですよ!」

 

「なんだと?」

 

その時、なのはの言葉でゼロはハッとする。自分の世界に帰った時、地球で過ごした時間は一年が経っていたのに、自分の世界では一ヶ月しか経っていなかったということに。そう、時差があった。ゼロの世界で12ヵ月過ごす場合、こちらの世界では10年という月日が経つことになってしまうのだ。

 

「はやてちゃんやフェイトちゃんたちもきっと喜びます!」

 

「あいつらもこの世界にいるのか?」

 

「はい! 私達、今は同じ部隊なんですよ! あ、フェイトちゃん? 今すぐこっちに来て! 急いで! 早くね! え? 何故って…うん! 色んな意味で大変なの! 緊急事態なの!」

 

フェイトと念話をしているのか、何故かフェイトをせかすなのは。そんな様子を見てため息をつきながら、ゼロは4人の子供たちの方を指差した。

 

「とりあえずなのは、アイツをなんとかしてもらえるか」

 

 ゼロが指差す方向には、未だに震えるティアナがいた。なのはは、「あ」と小さく声を上げてティアナに駆けより、そのクロスミラージュを握っていた手を自分の手で包み込む。

 

「ティアナ、大丈夫だよ。この人は味方だから」

 

「……わかり、ました。すみません」

 

「うん」

 

 そう言ってようやく落ち着きを取り戻したのか、ティアナはクロスミラージュを降ろした。

 

「すいません、ゼロさん」

 

 と、少々困った顔のなのは。スバルの話では彼女達の隊長と言うことらしいので、部下の行動に対しての謝罪らしい。まあ、ゼロはそれほど気にしてはいなかった。ゼロの実力なら、ティアナが引き金を引くよりも早く、彼女を抑えることが出来ていただろう。

 

「いや、気にするな」

 

 そんな話をしていると、ようやく銃を降ろされたシエルがゆっくりとゼロたちの方へと歩いてきた。

 

「あの、ゼロ…?」

 

「シエル、どうした」

 

「知り合い…なの?」

 

「味方だ…安心していい」

 

 ゼロの言葉に、シエルは安堵のため息を漏らした。よほど、銃を向けられていたのが怖かったようだ。

 

「えっと…」

 

「紹介する。俺の世界の仲間だ」

 

「あ、シエルと言います…一応、科学者をしています」

 

 と、シエルの自己紹介を聞いて、なのはが一瞬驚いた様子になる。彼女が、ゼロの封印を解いてゼロを目覚めさせたレジスタンスのリーダーなのか、と。なのはの想像していた印象とはちょっと違っていたのか、驚いた様子になってしまったようだ。しかし、なのはは大人の対応を見せるかのように笑みを見せる。

 

「高町なのはです。初めまして、シエルさん」

 

 にこやかな笑顔で手を出され、シエルも手を出して握手する。握手をしながら、なのはがシエルに謝罪をする。

 

「私の仲間がひどいことをしてごめんなさい」

 

「いえ、大丈夫です。こちらもしっかりとした説明をしませんでしたし…」

 

 と、謝るなのはに対して丁寧に返答するシエル。そんなシエルを見て、なのははこの少女が見た目の年齢以上の節度と行動力があることを確信する。

 

「なのは、現状を知りたいのだが…どこかで落ちついて話せる場所はないか?」

 

「それなら、私達の隊舎にまで来ていただけますか? そこならお話が出来ると思いますし」

 

 そのなのはの言葉に、ゼロは首を傾げる。隊舎、ということはどこかの部隊なのだろう。

 

「どこだそれは?」

 

「私達の所属部隊で、はやてちゃんが指揮する部隊…古代遺失物管理部 機動六課です!」

 

こうして、なのはと再会したゼロはシエルと共に機動六課へと赴くことになる。物語は、静かに動き出した。

 

 




んー…戦闘描写が相変わらず酷い(汗
増援については、次回理由がわかる……かな?

では、また

NEXT「それぞれの想い」


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04「再会とそれから」

 パソコンのモデムがぶっ壊れました…とはいっても、代用品が届いたので現在はネットを繋げています

 一向に話が進まないことに頭を抱え中ですが、考えた通りに話を作ると……一年で終わるのか、これ?

感想、意見、評価待ってます


 ゼロがなのはと再会してから少し経った頃、時空管理局執務官、現在は機動六課ライトニング分隊隊長を務めるフェイト・T・ハラオウンは焦りながらその空を飛んでいた。

 

『今すぐこっちに来て! 急いで! 早くね!』

 

「な、なのは? どうしたの? なんでそんなに急いでって…」

 

 同じく機動六課の隊長を務める自分の親友、高町なのはからの突然の緊急通信。しかし、フェイトはこれに疑問を持った。既に戦闘は終わっている。なぜ、そんなにも急ぐのか。

 

『え? 何故って…うん! 色んな意味で大変なの! 緊急事態なの!』

 

 その言葉を聞いた時、フェイトの中で若干の焦りが生まれた。声からしてなのは自身に異常はないように思える。ならば、フォワード達に何かあったのではないか? そうフェイトは予想した。自分が後見人となっているエリオやキャロにもしも何かあったのなら…? そんな考えが頭をよぎる。

 

「っ…!」

 

 頭を横に振ってその考えをうち消し、ひたすら目的地へと飛んだ。そしてようやく連絡を受けた地点まで辿りつく。フェイトはすぐに下へと降下した。そこにいたのは待機中のフォワードメンバーと、なのは。そして、別の影が2つ。

 

「あ、フェイトちゃん!」

 

「な、なのは! どうしたの!? 緊急事態って…なに、が…」

 

 そこでフェイトは言葉を止める。そのなのはの隣にいる人物に釘付けになったからだ。流れるような金髪の髪。そして燃えるような紅いボディ…見間違えるはずがない。かつて敵として戦うも、同じものを守るために強大な闇を共に乗り越え、その後自分を理解してくれた人物が目の前にいたからだ。

 

「ゼ…ロ…?」

 

「…久しぶりだな、フェイト」

 

「ゼロ!」

 

 フェイトはその再会に喜び、ゼロへと飛び込むのだった。

 

 

フェイトが駆けつける少し前

 

 

「なのは、お前にだけ話がある。少しいいか?」

 

「ふぇ? なんですか?」

 

 ゼロの言葉に首を傾げるなのは。ゼロに言われ、なのはとゼロは共にフォワード、そしてシエルと距離を取った。

 

「…なのは、PT事件という事件を覚えているか? フェイトの話では、お前が魔法に初めて関わった事件だと聞いている」

 

「え? はい、そうです。フェイトちゃんと会ったのも、魔法に出会ったのも、その事件ですけど…なんでいきなり?」

 

 ゼロからPT事件という言葉が出たことが、なのはにとっては意外だった。なのはがこの事件に関わったのはゼロが地球に来るよりも前のことである。フェイトから聞いたということで納得したが、なぜ今そんな話をする必要があるのか?

 

「……首謀者を覚えているか?」

 

  ゼロの言葉に、なのはは少し険しい表情で頷く。なのはにとって、その女性の名前は忘れることは一生ないだろう。狂気に満ちた、親友の母。後の親友に、大きな影響を与えている女性。なのはは忘れたくても忘れることなどできない。

 

「はい。フェイトちゃんのお母さん…プレシアさん」

 

「……そのプレシア・テスタロッサを今、俺達のトレーラーに保護している」

 

「…!?」

 

 ゼロの言葉に驚くなのは。それもそのはず。時の庭園での最後。プレシア・テスタロッサは自分の娘、アリシア・テスタロッサの亡骸と共に、虚数空間へと身を投げて姿を消した。虚数空間に入ったら最後、二度と出てくることはない。事実上の死亡である。そんな彼女が生きて、しかも今、ゼロ達のトレーラーにいるというのだ。驚かないわけがない。

 

「な、なんで…」

 

「理論はよくわからん。だが、プレシア・テスタロッサ、そして娘のアリシアを共に俺達のトレーラーに保護している。シエルに言って外に出ないようにはしてもらっているが…」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! アリシアちゃん!? だって、あの子は…」

 

 ゼロから受ける説明と、なのはの知る事実がまったくかみ合わない。なぜ、彼女の娘であるアリシア・テスタロッサが生きているのだろうか? アリシアの死から、フェイトは生まれた。なのに、そのアリシアが生きているというのは不自然だ。

 

「理由は知らん。が、ジュエルシードの力かもしれないと、プレシアは仮説を立てたようだ」

 

「ジュエルシードが…」

 

「だが、問題はそこではない。その死んだはずの…しかも、次元を揺るがした事件の犯人が生きていると知れば、管理局はどうすると思う?」

 

「それは…」

 

 ゼロの言葉に、なのはの言葉が詰まる。PT事件。首謀者の名前が事件の名前になるほどの事件。それほどに彼女は凶悪犯として知れ渡っている。そんな彼女を管理局が放っておくはずがない。

 

「それに、フェイトの件がある。プレシアとフェイトをすぐに会わせるわけにもいかない」

 

「そう、ですよね…」

 

 恐らく、プレシアの生存を知ればフェイトは間違いなく動揺するはずだ。プレシアの死を超え、散々辛い思いをして、今のフェイトがあることをなのはは十分に理解している。いきなり彼女に会わせるというわけにもいかないだろう。

 

「……わかりました。プレシアさんには、トレーラーの中でしばらくいてもらいたいと思います。フェイトちゃんには、落ちついてから話をします」

 

「ああ、頼む」

 

 会話を終えると、そこに一人の女性が降りてきた。金髪をツインテールに結った女性。その黒いデバイスに、ゼロは見覚えがあった。

 

「ゼ…ロ…?」

 

「久しぶりだな、フェイト」

 

 

 

 

「ゼロ、本当に久しぶり」

 

「ああ、落ちついたか?」

 

「う、うん…ごめんね」

 

 抱きついてから、しばらく泣いていたフェイトだったが、なのはに言われてからようやく正気に戻り、ゼロから離れた。それからすぐに、フェイトはなのは、フォワード、ゼロ以外にも人物がいることに気がつく。

 

「そういえば、そちらは…?」

 

「俺の世界の仲間だ」

 

「シエルと言います。初めまして」

 

 と、シエルがフェイトの前に出る。フェイトもなのは同様、少し驚いてはいたものの、ニッコリと微笑んでから

 

「あ、貴女が…私はフェイト・T・ハラオウンです。シエルさんのことは、ゼロから少し聞いています。お会いできて光栄です」

 

 と、同じように握手を交わす。それを確認してから、なのはがフォワードと呼ばれた子供たちに向き直った。

 

「じゃあ、さっそく六課に戻ろうか。フォワードのみんなはヘリでレリックの護衛をお願いね」

 

「「「「はい!」」」」

 

 4人の子供たちが回収したレリックを持って、少し離れた広場に着地しているヘリへと乗り込んでいく。そして、改めてなのははフェイトに向き直った。

 

「フェイトちゃんも、護衛頼める?」

 

「うん、了解…あれ、なのはは?」

 

「ゼロさんとシエルさんたちの誘導。トレーラーをここから道路に動かすまで手続きもいるし…」

 

 と、なのはがもっともらしい理由でフェイトをヘリの護衛へと回す。もし、ここでトレーラーの中に入り、プレシアやアリシアに会ってしまえば大変なことになる。フェイトも久しぶりに会ったゼロに対して名残惜しそうにしながらも、フェイトはフォワード達の所へと戻るのだった。そこで、ゼロが小さくため息をつく。

 

「なのは、助かった」

 

「にゃはは、じゃあ行きましょうか」

 

 こうして、ゼロ達はトレーラーの中へ足を運び、ドアを開いた。そこではプレシアとアリシアが椅子に座ってゼロ達の帰還を待っていた。ゼロの姿を確認すると、アリシアが嬉しそうに笑顔を向ける。

 

「お兄ちゃんお帰り! 終わったの?」

 

「ああ、まあな…」

 

「…何かあったのかしら? この世界がどこかわかったの?」

 

 プレシアは少しだけ後ろを気にしているゼロに首を傾げる。先ほど、人間がいるという話を聞いたことで、世界についても分かったのではと思っているプレシア。プレシアが首を傾げている所で、ゼロの後ろから人影が現れる。茶色の髪の毛をサイドテールに括った女性。歳は20歳くらいか、それより少し若いか…その女性が現地の人間だろうという考えをプレシアはしたが、そこで彼女の襟に目が行った。その着る服の襟には、時空管理局の紋章が輝いていたからだ。それを見たプレシアは咄嗟に身構えてしまう。

 

「落ちつけ、プレシア」

 

「…っ! 落ちつけるわけがないでしょう! まさか、管理局員のいる世界だなんて…」

 

 強い警戒を示し、杖を構えたプレシア。それをゼロが宥めるが、プレシアはそれほど自分のしたことについて自覚をしているらしい。自分の名前が事件になっている、などとゼロから聞いて説明中に少し凹んでいたプレシア。もう時空管理局とも関わることが無いだろうと思った矢先に時空管理局との邂逅。そして、そのプレシアの様子に驚くアリシアだが、ゼロの後ろにいた女性は一歩、ゼロの前に出た。

 

「…お久しぶりです、プレシアさん。私からすると、10年ぶりと言うべきですけど」

 

 一言、女性…なのはがそうプレシアにいう。そんななのはに首を傾げるプレシア。10年前、その時期は研究に没頭して人と会ってはいない時期のはず。ではこの女性は誰なのか? そう考えるプレシアには検討がつかない。

 

「貴方と10年前に? 私は面識がないわ」

 

「ええと…これで思いだしません?」

 

 そう言ってなのははレイジングハートを取り出し、デバイス状態へと変化させる。その紅い宝石を宿したデバイスを見て、プレシアはハッとする。かつて、フェイトとジュエルシードを奪い合い戦っていた少女のことを思い出した。

 

「貴女、まさか…」

 

「はい。ジュエルシードを巡って…あの事件に関わっていた『高町なのは』です」

 

「…どういう、こと?」

 

 プレシアの感覚では、時の庭園での出来事からそう時間は経っていない。目覚めてから半日ほど。しかし、プレシアの起こした事件は10年前に終わった物とされている。プレシアはますます混乱する。

 

「どういうことなの? 私は、あそこに落ちてから一体…」

 

「詳しいことは分かりません。でも、あれから10年という年月が経っている…ということは、事実なんです」

 

 10年。この言葉は非常に重いとプレシアは思う。当時、フェイトは9歳。そのフェイトとまったく同じ年齢だったと推測できる少女がここまでの成長を遂げている。つまり

 

「フェイトは…」

 

「はい。フェイトちゃんも、もう19歳です。今は私と同じ部隊にいます」

 

「…そう、なの」

 

 それしか言葉が出て来ないのが現状だった。プレシアが死んだとされたこの世界での10年間、フェイトはどのように過ごしてきたのか? どのような気持ちでいたのか? 正気を取り戻したプレシアにとって、それは重くのしかかる。

 

「これから、私達のいる部隊へとトレーラーを動かすことになっていて…それで、えっと…」

 

 淡々と説明していたなのはだったが、ここで少しだけためらう。言っていいものなのか? 今はまだ、フェイトと会わせたくないからここにいてくれ、と。プレシアの死を乗り越えて、フェイトの今がある。だから、パニックにさせないためにも貴女とフェイトを会わせられないなどと。それをどう説明するのか。悩むなのはに、ゼロが助け船を出した。

 

「ここはお前の知っての通り、管理局に通じている世界だ。かつてお前の起こした事件もこの世界では広く知られてしまっている。混乱を招かないためにも、コイツの部隊の隊長と相談することにする。その部隊長も俺と面識のある人物だ。信頼もできる。悪いようにはしないだろう。しばらくこのトレーラーで過ごしてもらうが…」

 

 なのはの言葉に続き、プレシアにゼロが説明を加える。少し考えるプレシアだったが、自分の立場を冷静に分析して頷いた。

 

「…わかったわ。私もまだ、フェイトと会う決心がついてないもの。もう少し、トレーラーの中でじっとしてるわ」

 

「(ゼロさん、ありがとうございます)」

 

 ゼロのフォローに感謝し、なのはが小さな声でお礼を言う。

 

「…気にするな」

 

 そう静かに言うゼロを見てなのはは嬉しそうに笑う。自分のためにフォローを入れてくれたゼロの行為が、たまらなく嬉しかった。

 

「じゃあ、出発しましょうか。レイジングハート、公道走行の申請をお願いね」

 

『了解しました、マイマスター』

 

 こうして、トレーラーはなのはの誘導で公道へと辿りつくと、ゼロ達はそのままなのはの所属する部隊までトレーラーは向かって行くのであった。

 

 

 

 

機動六課 部隊長室

 

「遅いなぁ…何してんのやろうか…」

 

 古代遺失物管理部 機動六課。その部隊長室で小さなため息が漏れた。そのため息の主はこの部隊をまとめる部隊長、八神はやての物であった。

 

「おーそーいー…なのはちゃんもフェイトちゃんも何してんねん」

 

「我が主、テスタロッサから先ほど次元漂流者を保護、と来ていました。恐らく、その手続きに時間が掛っているのでしょう。ですからどうか、その間にこの山のような書類の片づけを」

 

「あーうー…」

 

 無事に任務を終えた機動六課の初任務だったが、それの報告書の他にも沢山の書類がはやてを襲っていた。机に重なる書類の山を見て、ガクッと首を垂れるはやて。そんなはやてに声をかけた女性、リインフォースⅠ(アインス)は苦笑しながら、書類を隣の席で片づけて行く。

 

「はやてちゃん、頑張るです! リインもお手伝いするですよ!」

 

「うぅ…ありがとなリイン」

 

 はやての机にさらに小さな机が置かれており、その上には30センチほどの、リインフォースそっくりな少女が鼻を鳴らしながらはやてを応援している。彼女の名はリインフォースⅡ(ツヴァイ)。はやてとの融合が不安定になったリインフォースに代わり、はやてが作った新しいユニゾンデバイスである。そんな会話をしていると、ドアのノック音が聞こえた。

 

「どうぞ~」

 

「失礼します。ライトニング1、帰還しました」

 

 入ってきたのはフェイト・T・ハラオウン。どうやら、任務の報告に来たらしい。

 

「お疲れさんや。あれ? なのはちゃんは?」

 

「なのはは次元漂流者の人達と一緒。もう少しかかるんじゃないかな」

 

「ほえ? ヘリで一緒に来たんとちゃうの?」

 

 既に、報告で次元漂流者を保護したという話だったのだが、それならばヘリで一緒に来ればいい話だ。それなのになぜその次元漂流者となのははこの場にいないのか?

 

「うん、それが…次元漂流者の人達は乗っていたトレーラーごとコチラに転移したみたいで…公道を通ってこっちにくるよ」

 

「なるほど…って、あの山岳地帯をトレーラーで抜けるのは酷ちゃうか?」

 

「うーん、まあでも近くに公道へ抜ける道はあったみたいだし」

 

「そかそか、それで公道の通行許可証というわけか」

 

 なのはから送られてきた申請書を見てはやてが納得する。

 

「それで、ハラオウン。その次元漂流者というのはどのような者たちだ? こちらの事に納得はしてくれたのか?」

 

 アインスがそんな疑問をフェイトに投げかける。それもそのはず。この次元漂流者というのはその異常事態にパニックとなる者達が殆どで、発狂する人間も少なくはない。

 

「え? あ、ええと…うん、大丈夫。納得してくれたし、きちんとした対応だったよ?」

 

「「「?」」」

 

 フェイトの若干焦った様子に首を傾げる3人。フェイトが先ほどからはやてにゼロの名を告げず、次元漂流者として扱うのはここに来る前に遡る。それは、フェイトがヘリに乗り込む直前のこと。

 

 

 

 

「フェイトちゃん!」

 

「なのは?」

 

「あのね、ゼロさんのことをはやてちゃんたちに内緒にして?」

 

「え?」

 

 突然のなのはの言葉に驚くフェイトだったが、それをすぐに理解した。それはなのはの表情。ちょっとだけ悪戯っ子のような笑みであることから答えが導き出された。そんな様子のなのはに、フェイトは苦笑する。

 

「驚かせたいんだね」

 

「うん♪ やっぱり、再会ってのは大事だし」

 

 なのはも悪意があって驚かせるのではなく、単に感動の再会というのを用意したいのだ。はやてがこの9年間どんな想いで過ごしているのかは親友であるなのはたちも理解している。だからこそ、はやてや、その家族であるヴォルケンリッターの皆と、感動の再会をして欲しい。

 

「わかった。ゼロのことは誤魔化しておくね」

 

「よろしく、フェイトちゃん」

 

 そう言って、フェイトはヘリへと乗り込んだのだった。

 

 

 

 

「お話のわかる人達で助かるわぁ…多次元世界のことも理解済みなん?」

 

「うん。なのはが連れて来てくれるから、後で面会してあげて」

 

「了解や。到着したら教えてな~」

 

 フェイトは了解、と返事をしてから部屋を出る。おそらく、こちらにゼロ達が着くのはそうかからないだろうし、はやての書きあげる報告書もそう時間がかからない。フェイトは部屋を出てから小さくため息をついて、苦笑しながらも『はやてへの報告終了。作戦も成功』そう、なのはに向けてメッセージを送る。

 

「9年ぶりの再会…はやて、喜ぶよね、きっと」

 

 フェイトはそう呟きながら、自分も報告書を書きに作業室へと足を運ぶ。しかし、自分にも驚くような再会が待っていることを、フェイトはこの時はまだ知らないのだった。

 




…うん、メインヒロイン? がやっと登場するという遅さ

ちなみに、小説の長さはどうでしょう? 短い? 長い? 丁度いい?
一応、wordページ7~8に抑えて入るんですが

NEXT「おかえり、ただいま」


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05「おかえり、ただいま」

お知らせです
ただでさえ遅い更新ですが、さらに遅くなるかもしれません
今月中に就職活動に決着をつけたいので、正直なところ来週の日曜日に新しい話を上げる自信がありません

私事にて、大変申し訳ありませんが、なにとぞご了承くださいませ

では、最新話です


 フェイトが部隊長室を後にしてからしばらく経って、はやてはようやく報告書を書き終えた。デスクワークには慣れているはやてだが、その量は半端ではない。やっとの思いで書き終えた報告書を見て、大きくため息をついた。

 

「ほへぇ…終わった」

 

「お疲れ様です、我が主」

 

「お疲れ様です! はやてちゃん」

 

 とりあえず書き上げた報告書だが、はやての仕事はこれで終わりではない。今回の機動六課初出動の任務で保護された、次元漂流者との面会が残っているからだ。

 

「ほな、次元漂流者さんに会いに行こか」

 

「そうですね」

 

「どんな人なんでしょうね~ 多次元世界のことをすぐに理解する人達なんて初めて聞いたです!」

 

 リインフォースⅡの言葉に、はやては確かにと頷く。次元漂流者…それは、自分たちのいるミッドチルダとは“異なる世界”からの来訪者のこと。世界規模での迷子のことである。はやてもまた、この世界とは違う場所の出身であり、自分の住んでいる場所以外に世界があるなど、魔法を知る前は考えもしなかった。そもそも、他に世界があるという話をはやての世界では誰が信じるのだろうか。今まではやてが管理局員として勤めてきた中で、多次元世界のことを理解してくれる人間など数えるほどしかいない。最後まで信じてもらえず、やむなく気絶させて元の世界に送りかえしたなんて話も聞いたことがある。それにも関わらず、すんなりと多次元世界のことを理解してくれるその次元漂流者に対して、はやては驚き半分、安堵半分である。そして、その人物がどんな人物なのか、はやては興味があった。

 

「案外、以前に次元漂流者になったことがあったりしてな~」

 

「もしかしたら、そんなこともあるかもしれませんね」

 

 そんな話をしながらはやては歩いていたが、次元漂流者、という言葉ではやては小さく、「もう9年か」と呟く。魔法と出会う以前、はやては地球で異世界からの来訪者に会ったことがある。美しい金髪の髪と、燃えるような紅いボディを纏う1人の戦士。それははやてにとって、そして家族であるヴォルケンリッターにとって、大切な存在。

 

(今頃、何してんのやろ…シエルさんたちと再会して、向こうの世界の人やレプリロイド達のためにまだ戦ってるんやろうか…)

 

 願わくば、彼がもう戦わず平和に暮らしていて欲しいと思うはやて。その様子に気づいたのか、リインフォースⅠがニッコリと笑う。

 

「大丈夫ですよ我が主。ゼロならきっと、平和な世界で暮らしています」

 

「せやな、心配しててもしゃーないわ」

 

「なんのお話です?」

 

 二人の会話に首を傾げるリインフォースⅡ。彼女だけは、ヴォルケンリッターの中でゼロとの面識がない。今はいないもう1人の家族、ゼロのことを説明すると、リインフォースⅡは「あぁ~」と頷く。

 

「いつかリインも会ってみたいです。そのゼロさんという方」

 

 そんな会話をしていると、いつの間にか3人は応接室へと辿りついた。果たして、どのような人物が待っているのか。はやては若干緊張しながらも、扉の前に立った。

 

「よっしゃ、ご対面と行こか」

 

 はやてが部屋をノックすると、「はい」と可愛らしい女の子の声が帰ってきた。それを聞いて、はやてはその声がどこかで聞いたような気がすると思いながらも、部屋のドアを開いて中に入った。

 

「初めまして、この部隊を指揮する部隊長、八神はやてと……え?」

 

 部屋に第一歩を踏み出し、自己紹介をした瞬間、はやては硬直した。その目の前にいる人物に釘付けになったからだ。美しく輝く黄金の髪、黒のボディースーツと、それの上に羽織る、燃えるような紅いボディ。見間違えようがない。後から入ってきたリインフォースが声を上げるよりも先に、はやては駆け出し、その人物へと飛び付いた。

 

「ゼロ――――!」

 

「……久しぶりだな、はやて」

 

 飛びついて来たことに驚きはしたものの、それをしっかりと受け止めたゼロはそう一言、はやてに返す。ゼロとクロワールにとっては1年ぶり。はやてにとっては9年ぶりの再会。感動がないわけがない……はずであった

 

「え? え? なんで? なんでゼロが? 本物? あれ?」

 

 喜びの涙の前に、はやてを混乱が襲っていた。確か、自分は次元漂流者と会いに来たはず。なのに、ずっと自分が長年再会を待ちわびた人物に自分は抱きついている。いったい、何がどうなっているのか、はやては現状が理解できない。そんな様子を見て、ゼロが小さくため息をついた。

 

「……なのはやフェイトから、聞いていなかったのか?」

 

「ほぇ? え? え?」

 

「落ちつけ。俺達が次元漂流という形で、この世界に来たこと。聞いてなかったのか?」

 

 ゼロに言われて落ち着きを取り戻したはやては、フェイトとの会話を思い出す。フェイトはこう言っていた。“多次元世界の説明を理解している次元漂流者”これはつまり、最初から自分が次元漂流者である自覚があるということ。はやてはそこでようやく、フェイトが自分を驚かせるために名前を言わなかったことに気がついた。

 

「ふ、ふふふふふ…フェイトちゃん、後で覚えとれよ」

 

「…変わらないな、お前は」

 

「ホントホント」

 

 短く笑うゼロと笑顔のクロワールの言葉にはやては慌てて離れ、顔を真っ赤にしながらゼロ達を指差した。

 

「なっ…ゼロ達やって変わってへん! 9年経ってるのになーんも!」

 

 それもそうだな、と短く笑うゼロを見て、はやてはゼロが帰ってきたことに改めて涙を流し、笑顔を見せた。

 

「おかえり、ゼロ、クロワール」

 

「……ああ、ただいま」

 

「ただいま、はやて」

 

「あー…コホン」

 

 嬉しそうに抱きついているはやてを見て若干嫉妬心を持ったのか、ジト眼でリインフォースがゼロを見た。

 

「ゼロ、私には何もないのですか?」

 

「久しぶりだな、リインフォース…お前も、かわりないようで安心した」

 

「…ええ、貴方も同じようにおかわりなく」

 

 ようやく自分の名前を呼んでもらえたことに喜び、リインフォースⅠはニッコリと笑みを見せる。

 

「でもゼロ、どうしてこの世界に?」

 

「…それを説明する前に、紹介する仲間がいる。シエル」

 

「え? あ、え? 何?」

 

 シエルという言葉を聞いて、はやては驚いて声の主の所を見る。そこには美しい金髪と可愛らしいピンク色の服を着た少女が立っていたからだ。シエルもはやてとリインフォースの行動に驚いてフリーズしていたが、ゼロに呼ばれて正気を取り戻した。

 

「俺の世界の仲間…昔、話したことがある。シエルだ」

 

「えっと、シエルと言います。初めまして」

 

 そうお辞儀をするシエルを見て、はやては驚く。まだ、幼い少女ではないか…と。ゼロの話では、レプリロイド達を守るために戦うレジスタンスのリーダーであり、ゼロを蘇らせた存在。そして何より、人間とレプリロイドのために新たなエネルギーを開発した天才科学者であるとゼロから聞いていた。かつて夢に見た時のことから、シエルという女性は今の自分よりもっと年上の女性だと思っていた。しかし、今目の前にいるのは自分の部隊にいるフォワードメンバー、スバルやティアナたちとそう変わっていない少女だ。少し戸惑いながらも、はやてはシエルの前に立った。

 

「機動六課部隊長、八神はやて言います」

 

「部隊長補佐、リインフォースⅠだ」

 

「同じく、部隊長補佐のリインフォースⅡですよ~」

 

 そう言って互いに握手を交わすが、そこでシエルがリインフォースⅡを見て驚く。

 

「サイバー…エルフ?」

 

「なんですか? それ」

 

 聞いたことのない言葉に首を傾げているリインフォースⅡに苦笑するはやてだが、それもそのはず。リインフォースⅡのような姿のデバイスはゼロの世界ではサイバーエルフに等しい。そして、リインフォースⅡからすれば、そのサイバーエルフを知らない。互いに当然の反応である。

 

「リインはサイバーエルフというのじゃないですよ! ユニゾンデバイスです!」

 

「ゼロとクロワールは驚かへんの?」

 

「話は聞いていたからな」

 

「名前も本当にそうしたのね」

 

 はやての疑問に答えるゼロ。すると、リインフォースⅡがゼロの前に来る。

 

「貴方がゼロさんですね~。そして、貴女はクロワールさん。はやてちゃんやお姉ちゃん、それにシグナム達からも話を聞いてるですよ~。私はリインフォースⅡです! さっきも言った通り、お姉ちゃん、リインフォースⅠの後継機なのです!」

 

「そうか。なら、自己紹介は不要だな」

 

「はい~! 暇な時はいつもはやてちゃんやお姉ちゃんからゼロさんのことを「そ、それよりゼロ!」も、もが!?」

 

 リインフォースⅡが余計なことを言う前にと、慌ててはやてがリインフォースⅡの口をふさぐ。

 

「ゼロ、そろそろ説明してもらいたいんや。なして、ゼロやクロワール、シエルさんがこの世界に来たのかを」

 

「そうだな、まずは説明する。その前に、盗聴されることを想定して結界を頼む。信用しているが、出来れば他人には聞かれたくない話だ」

 

「…? そら構わんけども」

 

 ゼロの言葉に疑問を持ちながらも、はやては結界を展開する。聞かれたくない内容、果たしてそれはゼロがこの世界に来たこととどう結び付くのか。

 

「まず、この世界に来た経緯と、今までについて話そう…」

 

 ゼロは、この世界に来るまでの経緯を細かく話すことにした。まず、自分達が住む世界と、この世界の時差のこと。そして異常なエネルギー調査で出会ったテスタロッサ親子のこと。さらに、その時に押収したロストロギア『ジュエルシード』の発動。マザーエルフのことと、マザーエルフの暗示のこと……ゼロは細かく丁寧に説明をしたが、はやてやリインフォース達は驚かざるをえない。

 

「な、なんてコメント返したらええか思いつかへん…」

 

「半分以上、ありえないとしか返せません」

 

「リ、リインにはさっぱりです~…」

 

 当然の反応か、とゼロは呟きながらゼロは言葉を続ける。

 

「だが、現に俺がここにいることがその証拠だ」

 

「せやな…マザーエルフってのが私とゼロを巡り合わせたってことなんやろうか?」

 

「そうなのかもれしれないな」

 

 うーむ、とはやては考える。これからゼロ達をどうすべきか、頭を悩ませる所である。次元犯罪者として名を知られているプレシア・テスタロッサと、その娘のアリシア。本局が知ればまず間違いなくプレシアは逮捕されるし、アリシアはロストロギアの影響とはいえ、死者から蘇った存在として調査が入る。下手をすれば、アリシアは実験動物扱いされる可能性だってあるだろう。ゼロの話ではプレシアは現在正常で、話が出来る人物だと聞いている。プレシアについては自分で話してみなければわからないことがあるが、一番の問題はゼロ達だ。シエルはともかく、ゼロは人間ではなくレプリロイド。その存在が明るみに出ることだけははやてとしても避けたい。9年前、リンディからゼロをない物として扱うようにしていた理由を聞き、はやてもどうにかしてゼロの存在を管理局から隠せないかと考える。そして、ゼロ達の言っていたマザーエルフの言葉も気になる。世界の崩壊という不吉な言葉。

 

「ゼロたちは、これからどないするつもりや?」

 

「それについては…シエル」

 

 ゼロの言葉に、ええ、と頷いてからシエルがはやてを見る。

 

「私達をこの世界に連れてきたのは間違いなく、マザーエルフです。でも、そのマザーエルフを追うにしても、彼女が今この世界にいるとも言いきれません。それに、彼女の言っていた世界の崩壊…私の考えではもしかしたら、この世界か私達の世界、またはその双方が崩壊する可能性を彼女は考えているのかもしれません」

 

「つまり、そのためにゼロと貴女はマザーエルフによってこの世界に呼ばれる必要があったと?」

 

「その通りです。この世界と私達の世界を繋がれているのにも何かわけがある気もします。今後、私達の力が必要だからこそ、1年前いえ、この世界では9年前、マザーエルフはゼロを救い、地球と言う場所へ送りこんだ。異世界という場所をゼロが知るために。ゼロの話では偶然にも、と言っていたらしいですけど、彼女がジュエルシードを発動させる所を見て、もしかしたら彼女はこの世界を知っていたのではないかと考えたんです」

 

 リインフォースの言葉に頷くシエルを見て、はやては“すごい”と驚いていた。自分より年下の少女がいくつもの疑問に対してすぐに自分の考えをまとめ、推理している。それらは全て説得力のある説明。はやては、彼女が伊達に修羅場を潜っていないと再認識させられる。

 

「奴の手のひらで踊らされているというわけか」

 

「…ええ、でもそこまでするほど、マザーエルフは何かを危惧していると思うわ」

 

 母なる妖精、そう謳われた彼女が危惧する世界の崩壊。はやてはそれを聞き、この部隊の設立の理由が結び合わさるような気がする。

 

(もしかしたら…カリムの言うとった“アレ”はそういうこと? だからゼロが…)

 

「どうした、はやて」

 

 ずっと考え込んでいるはやてを見て、ゼロが声をかける。そのはやての表情は少し暗いようにも思える。まるで、何かを我慢しているかのように

 

「えっと…その…」

 

 その様子に、ゼロは小さくため息をついてシエルを見る。シエルもまた、この状況で自分達が何をするべきなのがベストかを分かっているようだ。はやての様子を見て自分に頷くシエル。彼女もまた、はやてが切り出せない言葉を分かっているようだった。

 

「はやて、お前達が望むなら…俺達は機動六課に協力する」

 

「「「!」」」

 

「お前のことだ。俺達を案じて何か策を練ろうとしていたのだろう?」

 

「ゼロ…でも!」

 

 はやてが素直にゼロへ協力を頼めなかったのには、彼女の性格が関係している。はやては単純に、身内に対してとことん甘い。争いが終わり、剣を降ろすことが出来た世界にいたゼロに、はやては再び剣を取らせたくなどなかった。はやてがそれを断ろうとした時、それよりも先にゼロが口を開く。

 

「はやて、これはこの世界だけの問題ではない。マザーエルフが俺達をここに呼んだということは、俺達の世界にも何か関係のあることが起こるのかもしれない。それを阻止するには、俺達の力も必要になるはずだ」

 

「ゼロ…」

 

 はやてにも分かっている。マザーエルフが何故ミッドチルダにゼロ達を送りこんだのか? 理由は簡単だ。ゼロがマザーエルフの選ぶ最強の“戦士”だから。ゼロと言う戦士にしかできないことが起こることを想定して、マザーエルフはゼロ達を此方へ呼び寄せた。だからこそ、ゼロがここにいることは正しいと言える。はやては小さくため息をついた。

 

「まったく、ゼロには敵わへんなぁ…そこまで言われたら断れへんよ」

 

「俺達の処遇についてはお前に任せる」

 

「うん、必ずなんとかするから任しとき」

 

 こうして、ゼロははやて達機動六課へと協力をすることとなるのだった。

 

 

 

 

「素晴らしいっ…!」

 

 とある場所で、そんな声が響きわたった。その声を出した主は紫色の髪に、白衣を身に纏った男。その男の前には、ゼロがガジェットと戦う姿が映し出されていた。その様子を不思議そうに女性が見る。

 

「どうしかいたしましたか? ドクター」

 

「ご覧よウーノ! 私、ジェイル・スカリエッティの開発したガジェットをいともたやすくこなごなにする彼を!」

 

 男の名はジェイル・スカリエッティ。次元犯罪者として名をとどろかす科学者の男である。男は自分が作ったと言っているガジェットがゼロに破壊されるのを楽しそうに眺めていた。

 

「ドクター…? この男が何か?」

 

「この男はAMF下にも関わらずこれほどの力を振るっているんだ。Fの残滓、不屈のエースオブエース…今回取るべきデータはそれだけだったはずなのに、想像以上だ」

 

 スカリエッティは興奮してその映像を見る。その眼はまるで子供が新しいおもちゃを見つけた時のような目にも見える。しかし同時に、どこかなつかしむような顔でゼロを見ている。

 

「ふふふ、彼の詳しいデータが欲しいところだ…まさか、とは思うが彼は…ふふふふふ、ウーノ、彼のデータを出来るだけ採取してくれたまえ」

 

「…承知しました、直ちにデータを探してみます」

 

 無邪気にはしゃぎながら映像を見るスカリエッティに一言言ってから女性は立ち去る。しかし、それを気にせず、スカリエッティはその映像に夢中になって見続ける。

 

 

「まさかとは思うが…私の記憶の片隅にある、彼の作品かな? Dr.ワイリー」

 

 誰もいなくなった場所で、スカリエッティは静かに呟くのだった




 ゼロが優しすぎる…こんなゼロでいいのだろうか

Next「ゼロの実力」


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06「ゼロ達の役割」

活動報告で5月に投稿するといったな?

あ れ は 嘘 だ

…はいすみません。お久しぶりです。約1年ぶりの投稿になります。というのもですね、最終面接でほぼ勝ち確だったのに向こうの都合で落とされるとは思ってもみませんでした。はい

まあ、そんな私のことはともかくまたちまちまと話を書いて行きますよ。前作と違ってほぼなにもない状態からの再構築が辛いですが頑張ります

…頑張ります、と言っておいてなんですがもうこの小説と私の存在忘れてる人大半じゃねーのっていうのが正直な感想です

あ。あと近日中にタイトル変えます。なんか、自分の中でもすっきりしてないので

では、お楽しみください


 機動六課 応接室

 

 一通り、話を終えたゼロとシエル、そしてはやて達。そこへ、来訪者が現れた。

 

「失礼します、主。ここにいると高町達から聞いたのですが…」

 

 そこに現れたのははやての守護騎士である烈火の将シグナム。その後ろには同じく鉄槌の騎士ヴィータ、湖の騎士シャマル、盾の守護獣ザフィーラの3人と1匹。早い話が八神家のメンバーであった。

 

「なっ…お前は…!」

 

「ぜ、ゼロ!?」

 

「なんで!?」

 

「……」

 

 シグナム、シャマル、ヴィータは思わず驚きの声を上げた。ザフィーラも声を出していなくとも、その表情には驚いた様子が伺える。それもそのはず。10年前に消息を絶った家族と等しき人物が目の前にいるのだ。そんな様子の彼女達に、ゼロは僅かに笑みを見せる。

 

「久しぶりだな。元気だったか」

 

「まさか、なのはの言っていた次元漂流者って」

 

「俺達のことだ」

 

 その言葉に、開いた口が塞がらない4人。それもそのはず。彼女達もまた、なのはのサプライズ作戦にまんまと嵌っていたからだ。それを察したのか、はやてが「やっぱり」と苦笑する。

 

「みんなも、なのはちゃんに騙された口やな?」

 

「私は、高町の保護した次元漂流者がかなり腕の立つ剣士、と聞きまして」

 

「あたしは、はやてと次元漂流者が話しこんでるって聞いて心配になったから」

 

「私はヴィータちゃんと一緒にいたので…」

 

「私もです」

 

 それぞれ、というより主にシグナムとヴィータが騙されたのだろうとはやては思いながら、「大体合ってるから困るわ」とこのことについてはなのはにしてやられたと思うはやて。すると、そのテーブルに座っていた横で、シエルがザフィーラを見て目を丸くしていた。

 

「ねぇ、ゼロ」

 

「どうした、シエル」

 

「今、あの犬…喋ったわよね?」

 

 シエルの言葉に、ここでゼロ以外の次元漂流者の存在にシグナム達は気づく。ゼロと同じく金髪で、桃色の可愛らしい服を着た少女の存在に。無論、彼女達もシエルのことは覚えていた。

 

「主、そのゼロの横にいる方は…」

 

「え? ああ、えっと…こちらはシエルさん。ゼロと一緒にこの世界にやってきたんよ」

 

「えっと、シエルです。その、初めまして」

 

 そう言って立ち上がり、ペコリと頭を下げるシエル。かつて夢で見たことのある容姿そのままであることに少し驚きながらも、シグナム達も自己紹介をすることにした。もっとも、初めて魔法的要素である、ザフィーラ(犬が喋るという現象)にシエルが釘付けではあったが。

 

「夜天の守護騎士、烈火の将シグナムだ。貴女のことはゼロから聞いている」

 

「同じく夜天の守護騎士、鉄槌のヴィータだ。よろしくな」

 

「私も同じく夜天の守護騎士、湖の騎士シャマルよ。ここでは医師もしているわ」

 

「夜天の守護獣、ザフィーラ……言っておくが、狼だ」

 

 ザフィーラの最後の言葉に苦笑するはやてたち。なんにせよ、これで八神家一同はまたゼロとの再会を果たすことが出来たのである。それを確認すると、はやてが「さて」と立ちあがった。

 

「じゃあリインフォース、私はちょーっと、なのはちゃんとフェイトちゃんに『お話』をしてくるから、二人を部屋に案内して上げてな~。ゼロ、また明日♪」

 

「え? あの、我が主? ……了解しました」

 

 そのはやての表情を見て、リインフォースは今のはやてを見て何かを察したらしく、最早止めることは不可能だと理解してはやてを送りだす。

 

「はやてはどうかしたのか?」

 

「…いえ、お気になさらず。むしろ、気にしたら負けかと」

 

「ですぅ」

 

「「?」」

 

 リインフォースたちの言葉に首を傾げる二人だが、リインフォースはこれ以上話題を続けてはならないと判断し、二人を部屋に案内することにした。余談だが、この日の夕方になのはとフェイトの部屋から人知れず悲鳴が上がり、翌日はやてがとてもいい笑顔で出てきたのは別の話である。

 

 

 

 

翌日 機動六課ロビー

 

 

 機動六課のメンバーは朝、全員に部隊長であるはやてから集合が掛った。というのも、この機動六課で新たに「民間協力者」が加わるということで、それの顔合わせをするのだという。機動六課のメンバーが集まり、整列している中で、フォワードメンバーの1人であるティアナ・ランスターは、その部隊長の行動に首を傾げていた。

 

(民間協力者、十中八九あの男と、女の子よね…)

 

 この部隊に配属され、初出撃だった昨日の任務。それは無事に終えることができたが、それは突如現れた次元漂流者達の手助けがあってこそである。本来、1つだけと言われていたはずのレリックが2つあったことは想定外であり、増援として送られたガジェット達も想定外だった。しかし、一番の想定外はその鬼神の如き力を自分たちに見せつけた男の存在。同期であり、同じ分隊に所属する自分の友人、スバル・ナカジマ、別分隊のエリオ・モンディアルや、キャロ・ル・ルシエはただただその目の前の存在に驚くだけであったが、ティアナだけは違った。

 

(あのでたらめな強さ、あの男は一体何者なの…?)

 

 そう、ゼロの力に畏怖の念を抱いていた。アレだけの戦闘力を見せつけられては、自分などまるで役立たずではないかとティアナは感じていたのである。ティアナがそんなことを考えていると、3人の人物がロビーに入ってくる。1人は機動六課部隊長である八神はやて。そして後の2人はティアナの予想した通り、美しい金髪の髪をした男女の姿。そう、ゼロとシエルである。ただ、ゼロは昨日のような戦闘用のボディスーツではなく、かつてはやてがゼロのために地球で買った私服を着ている。

 

「みんな集まっとるな。今日皆に集まってもらったのは外部協力者がこの部隊に来てくれはったからや。では、自己紹介を」

 

「本日より、外部協力者と言う形でこの部隊に配属になる。八神ゼロだ。よろしく頼む」

 

「お、お、同じく、シエルです。よろしくお願いします」

 

 2人の挨拶に拍手が起こる。ゼロは特にプレッシャーを感じてはいないが、シエルは大勢の前に出ることに若干緊張をしているらしい。拍手が小さくなったのを確認し、はやてが再び口を開いた。

 

「ゼロはフォワードと同じく前線での戦力として、シエルさんはゼロのサポートとしてロングアーチへ配属されます。二人のことは以上。それと、今日のスケジュールでは…」

 

 2人の紹介の後、数分の朝礼が行われ、後に一同が解散して勤務に入る。それぞれが機動六課へと協力することになりはしたが、機動六課に所属する職員達の2人への視線は歓迎というような視線ではなかった。むしろ、物珍しそうな目の方が多い。何しろ、次元漂流者として保護された1人が八神の姓を名乗っているのだから当然である。しかし、それはゼロにとっては特に気にする点でもない。ゼロが気にするのは他の点である。

「はやて、俺が前線に出るのは構わないが…質量兵器の使用はどう話をつけるつもりだ?」

 

 そう、ゼロの気にしている点はゼロが使う武器のこと。『Zセイバー』や『バスターショット』を中心とした武器はこの世界では全て『質量兵器』という扱いがされる。ゼロの知る所によれば、管理局が使う武器には『質量兵器』は存在しない上、使用が禁止とまでされている。しかし、ゼロは真逆の存在。魔力を持つ者ではない上、質量兵器しか持っていない。むしろ、ゼロ自身が質量兵器であると言われても過言ではないだろう。

 

「その辺は私がなんとかするから、気にせんでええよ?」

 

「……そうか。それと、シエルの配属のロングアーチというのは?」

 

「ロングアーチは私の務める後方支援隊。索敵や超長距離射撃時のサイティングサポート、人員輸送とかの後方業務全般を担当するんよ」

 

「なるほど、シエルには適任だな」

 

 実際、シエルはレジスタンスではサポート役に徹してきている。彼女ほどその役が合う人間はいないだろう。シエルは既に空き部屋を用意され、そこにトレーラーの資材を運ぶための指示を出すことになっているのでもうこの場にはいない。ちなみに、トレーラーの中にいたプレシアとアリシアはミットチルダのド田舎にある街へと身を潜めている。というのも、これは昨夜のうちにはやての手回しによって行ったこと。この手際の良さには流石のゼロも驚かされたが、これでフェイトとばったり会ってしまうということは回避された。

 

「で、ゼロのことやけども…」

 

「八神部隊長、ゼロさん、お待たせしました」

 

 はやてが言いかけた所で、そこになのはが現れた。その後ろには、先日ゼロが助けた少女達の姿もある。それぞれがそれぞれ、どう思っているのか。ゼロの事を見ている。ゼロからすれば、それは今に始まったことではないので気にしてはいないが、1人だけ気になる少女がいた。オレンジ髪の、自分に銃を突きつけた少女だ。彼女は物珍しいという眼ではなく、まるで睨みつけるかのようにゼロを見ているような気がした。

 

「…ゼロだ。よろしく頼む」

 

「私はクロワール。ゼロをサポートするサイバーエルフ……うーん、リインフォース達と同じと思って。どうぞよろしく」

 

「ほら、挨拶は?」

 

 なのはに促され、ゼロたちを見ていた4人は慌てて敬礼をする。様子からして、未だに前日の戦闘が強く印象に残っているのであろう。少々、怯えている様子もある。

 

「スターズ3のスバル・ナカジマです! よろしくお願いします!」

 

「…スターズ4、ティアナ・ランスターです」

 

「ライトニング3、エリオ・モンディアルであります!」

 

「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエであります!」

 

 それぞれが改めて敬礼し、ゼロへ自己紹介する。ゼロは4人を改めて見る。スバルやティアナに関してはシエルと同い年くらい、エリオとキャロに至っては幼き日のはやてたちと同じぐらいだろうという予測がつく。ゼロから見ればまだまだ未熟な戦士たちだ。

 

「俺は外部協力者であって、局員ではないから敬礼は不要だ。それと、八神の姓を使っているが、はやての親族ではないから、そう固くなる必要もない」

 

「あの、じゃあなんで部隊長と同じファミリーネームなんですか?」

 

 スバルが疑問の声を漏らす。その疑問については、この機動六課にいるメンバー一同が感じる当然の疑問だろう。ゼロが答えようとすると、それを遮るようにはやてがスバルの前に出る。

 

「ゼロはこの世界の出身でも、私やなのは隊長の世界の出身ではないんよ。でも、私達が地球にいた時に地球へ次元漂流者として来て、私と出会って、しばらく私達と生活をしてたんよ。だから、八神の姓を使っている。わかったスバル?」

 

 ゼロの代わりに、はやてがそう説明を加える。色々と省いている部分もあるが、おおむねそんな感じである。なのはははやてが割って入ったことからゼロの事を詳しく追及されることを拒んでいると察し、手を叩く。

 

「ほら、ゼロさんのことはこれくらいでいいね。みんなは今日も訓練だよ。朝練の続きをするから外に集合!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 なのはの言葉に素直に返事をして素直に走っていく一同。その様子を送り届けて、はやては小さくため息をついた。

 

「なのはちゃん、ゼロに関してあの子たちが聞いてきたらお願いね? 私も言葉には気をつけるから」

 

「うん、もちろん」

 

「…? 何の話だ」

 

「ゼロ自身のことや…外部にゼロが、ううん、ゼロそのものがバレるのを防ぎたいんよ」

 

 ゼロはレプリロイドという存在であり、人間ではない。なので、はやては次元漂流者の数の欄には1名という報告で報告書を提出した。それはゼロと言う存在を明るみにしないためである。もし地上本部になどバレたりしたら大変なことになる。それは、ゼロ自身も望むところではない。

 

「お前達には、苦労をかける」

 

「今に始まったことやあらへんよ。気にせんとき」

 

「…感謝する」

 

「さて、それでゼロのことやけども、なのはちゃんが来た理由はわかっとる?」

 

 ゼロはああ、と短く頷きなのはを見る。どうやら、先ほどの訓練に付き合うことになるようだ。実際、前線のフォワードメンバーと共同戦線を張ると言うことは、訓練も共にする必要があるのである。

 

「ゼロさんには、私と同じ教導官という立場にいて欲しいと思います」

 

「なるほど……だが、俺の戦い方が参考になるかはわからんぞ」

 

 管理局の戦闘において、その第一目的は対犯罪者を殺さずに捕縛、制圧することにある。そのため相手を殺すような戦い方はどの士官学校でも教わらない。非殺傷設定というものが存在するのもそのためであり、相手を殺すようなことを前提としない闘い方が基本的なスタンスになる。しかし、ゼロはその真逆。相手がレプリロイドであることもあり、ゼロは敵とみなした相手を全力で破壊しにいくもので、相手をいかに効率的かつ迅速に破壊できるかを念頭に置いた戦い方をしている。そのため、ゼロが新人である彼女たちを教導するのはミスマッチなのである。

 

「そんなことありませんよ。相手はガジェット…機械が大半です。なら、ゼロさんの闘い方も参考になると思うんです」

 

「……そういうことか」

 

「じゃあ、訓練場に行きましょうか!」

 

 なのはの言葉に頷き、ゼロはなのはと共に訓練所へと向かうのだった。

 

 

 

機動六課 訓練スペース

 

 

 機動六課の外には訓練スペースが存在する。これは基礎設計をシャリオ・フィニーノ、内容監修をなのはが行った特別訓練施設であり、海上に張り出す形で設置されている。市街地から森林まで様々な状況を再現する事ができ、デバイスにシミュレータ用の細工を施す事でAMFも再現可能となっていることで対AMF戦訓練も実施可能になっているという。現在はその訓練スペースにて、新人であるスバル達が訓練を行っている最中である。

 

「ここまでの技術は俺達の世界にはない」

 

「驚きよね」

 

 訓練スペースへ訪れたゼロ、そしてクロワールの両名はそのシミュレータの存在に驚きを隠せない。その驚きを見てか、なのはもソレに満足そうにしている。

 

「皆には今、ガジェットを敵として想定した訓練をしてもらっています」

 

「ガジェット……あの丸いメカニロイドか」

 

 二人の視線の先には、廃都のビル群の間でガジェットと訓練を繰り広げる4人の新人たちの姿である。それぞれが4人でチームとして動いている姿。単独での潜入、ゲリラを行ってきたゼロにとってその光景は何とも珍しい光景だ。遠い記憶でエックスと共に戦っていた記憶もあるが、それも断片的にしか覚えていない。

 

「あの子たちにとって、昨日がこの部隊での初実戦でした。どうですか? ゼロさんから見てあの子たちは」

 

「さあな…他人を評価することなどしたことがないからわからん」

 

「それじゃあ教官になった意味がないわよ。ゼロ…」

 

 ゼロの言葉にため息をつくクロワールだが、ゼロは「だが」と言葉を付け加える。

 

「今後の評価、というのはなのは…お前の技量次第だ。しばらくしてから、また同じ質問をした時に答えられるようにしておく」

 

「ゼロさん……にゃはは、大きなハードルですね」

 

 なのははそんなゼロの言葉に苦笑する。要するに、「今は評価できないが、今後のなのは次第で評価は変わるだろう」と、ゼロは言いたいのだろう。そんな話をしているといつの間にかフォワードメンバーたちがなのはの出現させたガジェットを全て行動不能にしていた。

 

「さて、じゃああの子たちが上がってきたらゼロさんに戦いのお手本として、ガジェットと「その必要はないぞ、高町」へ?」

 

 訓練の見本をゼロに見せてもらおうと思っていたなのはだったが、その言葉はとある人物の言葉によって遮られる。振り向くと、そこには騎士甲冑を着こみ、愛機「レヴァンティン」を持つシグナムの姿があった。

 

「ゼロの相手は、私がやる」

 

 シグナムはそう言って不敵に笑みを零すのだった。

 




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07「再戦、烈火の将」

どうもこんにちは、秋風です

5月になったので、本格的に連載再開です。ただし、次の話の構想が2つ別れているのでどっちにしようか悩み中のため、来週か、その次位になりそうです

…戦闘描写は相変わらず辛い


07「紅き破壊神VS烈火の将」

 

機動六課 訓練スペース

 

「お前と戦うのは10年前…あの模擬戦以来か」

 

「ああ。あの時使っていのは木刀…だが、今回は違う」

 

 機動六課の訓練スペース。そのフィールドは平地。訓練を見せるつもりが、急遽二人の決闘が始まったのである。戦闘用区域とされた場所から離れた場所に観戦場が設けられ、そこにはなのはと新人達の他、フェイト、ヴィータがいる。当初、なのはは二人の戦いは訓練見学としては刺激が強すぎると反対してシグナムを止めたのだが、「新人たちには刺激も必要だ」と言って聞かず、ゼロも「雑魚と戦うよりもよほどいい」とやや乗り気である。挙句、後ろについて来ていたヴィータも「諦めろ」と首を振り、フェイトに至っては「シグナムずるい…」と、羨ましそうに二人を見ている。このため、なのはもどうとでもなれと諦めたのである。

 

「闘う前にゼロ、お前に渡しておくものがある。受け取れ」

 

「…?」

 

 シグナムはそう言って、手に持っていた袋を開けてソレをゼロに投げてよこした。ゼロが受け取ったのは、かつてこちらの世界でロストロギア「コピーウェポン」と戦った時に落としたヘルメット。ぴかぴかに磨かれたソレは、最早新品同様であった。

 

「これは…」

 

「主がお前に渡してくれ、とな。素材はなるべく近い物を使っているらしい」

 

「…感謝する」

 

「礼なら主に。きっと喜んでくれるだろう」

 

 そう言いながらシグナムはレヴァンティンの柄に手をかけて抜刀の構えを取った。ゼロも受け取ったヘルメットを被り、Zセイバーを抜刀して構えを取った。

 

「ああ…やっとだ、やっとお前と戦える。これをどれだけ待ちわびたか。行くぞゼロ。手加減は不要だ」

 

「……無論だ。全力で戦わせてもらう」

 

「夜天の書が守護騎士、ヴォルケンリッターの将シグナム! いざ参る!」

 

「……いくぞ」

 

 互いにその言葉と共に地面を蹴り、シグナムはレヴァンティンを抜いてゼロへ。ゼロもZセイバーを振るってシグナムへ。お互いにその刃を振り下ろした。その瞬間に凄まじい衝撃音が鳴り響く。Zセイバーの刃はビーム兵装であり、本来ならシグナムの持つレヴァンティンのような物質兵器などは容易く切り裂くことが出来る。しかし、シグナムの持つレヴァンティンはただの剣ではなくデバイス。レヴァンティン自身がゼロの兵装を理解し、魔力をいつもより多く纏っていることで、このお互いの拮抗が生まれていた。

 

「はあっ!」

 

「っ…!?」

 

 しばらく続いた鍔迫り合いだったが、シグナムはそれを拒否。片足を軽く浮かせ、地に着いた足を軸にして回転。回転後に両手でレヴァンティンを持ってゼロへ一閃する。回転を加えて威力を上げたシグナムの一撃。ゼロはそれに対して避けることをせず、Zセイバーで再び対抗する。いつもなら腕1本でZセイバーを扱うゼロだが、その一撃は片手で支えられるものではなく弾かれてしまう。それを直感的に不味いと感じたゼロは地面を蹴って距離を取り、バスターショットを構えてトリガーを引く

 

「この程度!」

 

「チィ…!」

 

 連射されたバスターの弾丸はシグナムによっていとも容易く打ち落とされる。さらに、それを終えたシグナムは空中へと飛ぶ。しかし、その飛ぶという行為はすぐに停止させた。

 

「行くぞゼロ、この一撃…受けてみろ。レヴァンティンっ!」

 

「…!」

 

『ロードカートリッジ』

 

 ガシャン、と音を立ててレヴァンティンがカートリッジを装填する。それと同時にレヴァンティンに炎が灯り、シグナムがゼロめがけて急降下する。

 

「紫電、一閃!」

 

「……!」

 

 炎を纏ったレヴァンティンとZセイバーがぶつかると同時に、激しい爆発が巻き起こる。それによってお互いに吹き飛ばされ、ゼロは回転しながら地面に着地する。一方のシグナムも、反動で空中へと押し戻された。

 

「やるなゼロ…しかし今の一撃を受け止めるとは…」

 

「ちょっとした小細工だ」

 

 そう言ってゼロは立ちあがりながら、Zセイバーを拾いあげて見せる。すると、その翡翠の刀身は黄色く光を放ち、バチバチと音を立てていた。ソレを見たシグナムは自分の一撃を止めたられた理由を理解したのか、短く笑う。

 

「なるほど…私の“炎熱”に対して有効な属性武器を使ったのか」

 

「雷の属性付与。上手くいくとは思わなかったがな」

 

 そう、カートリッジを使ったシグナムの一撃を受け止めたのはなにも、純粋にゼロだけの力と言うわけではない。もちろんゼロ内部に宿るクロワールのサポートもあってこそだが、それだけではまだパワー負けしてしまう。ならば、とゼロが付けたのは3種類存在する属性チップのうちの1つ、雷のパワーを宿したチップ。ゼロの世界においてはそれぞれ属性攻撃をする際、雷⇒炎⇒氷⇒雷という三すくみが存在する。ゼロがネオアルカディア四天王と互角以上の戦いを繰り広げてきたのも、ファントムを除いた彼ら四天王に対して有効な属性をぶつけていたことで助けられた部分も大きい。しかし、世界が違うが故に、この三すくみはこの世界でも成立しているのかという疑念がゼロの中にもあった。結果としては相手の攻撃の属性に対してその攻撃を軽減させるだけの効力はあったらしい。

 

「さて、仕切り直しと行こうかゼロ」

 

「ああ…そうだな」

 

 互いに持つ刃を構え直し、ゼロは地面を蹴って空中へ跳び、Zセイバーを振りあげる。シグナムも空中からの制御をやめて重力に任せて降下し剣を振り下ろすのだった。

 

 

「何、コレ…」

 

 ティアナが最初に漏らした言葉がそれだった。自分達の上司であるシグナム。その名は烈火の将として管理局内では広く知られているが、その実力を見るのは初めてである。その実力は歴戦の勇士といっても過言ではないほど。それにティアナは納得が出来た。しかし、片やゼロの実力もそれに拮抗するか、それ以上の力を持っているように見える。ガジェットを圧倒していたところを見るに強いのは理解していたが、これほどとは思わなかった。

 

「やっぱりゼロさん強いねぇ」

 

「うん。昔の私たちじゃ歯が立たなかったもん」

 

「えっ…お二人もゼロさんと戦ったことあるんですか?」

 

 なのは、フェイトの言葉に驚いたようにスバルが声を上げた。

 

「そうだよ。10年も前の話だけどねー…私とフェイト隊長、それに2人を加えた4人でゼロさんに挑んだけど結果は惨敗。私とフェイト隊長は気絶させられちゃったし」

 

「ちなみに、シグナムも10年前に1度模擬戦やってんぞ」

 

 なのはが苦笑している横で、ヴィータは二人の戦いを見ながらそう呟く。全員の視線がヴィータに集中したことに気がついたか、そのまま言葉を続ける。

 

「うちらがゼロと会って間もないころにな。互いに木刀でやり合った」

 

「結果はどうだったんですか?」

 

 ヴィータの言葉に、キャロがその結果を聞く。キャロだけではなく、その場にいる全員が気になる内容とも言えるだろう。

 

「結果は引き分けだ」

 

「引き分け…?」

 

「二人にはまだまだ余裕があったんだが木刀が先に折れた」

 

 ヴィータの言葉に、開いた口が塞がらないスバル、ティアナ、エリオ、キャロ。一方のなのはたちはあの人達ならありえるかも、と苦笑している。

 

「ただ、あの時点ではゼロの方が間違いなく強かったと思う」

 

「どういうこと? ヴィータ」

 

「だって、引き分けなんですよね」

 

 フェイト、エリオの言葉にヴィータは小さくため息を吐く。なにも、二人の質問が馬鹿らしい、というわけではない。この後のリアクションに対応するのが面倒だと思っているからだ。

 

「ゼロはシグナムの攻撃をその場から動かず、動くのは片足で重心を動かすだけ。シグナムの振り下ろした木刀を全部捌いて反撃してた」

 

 そのヴィータの言葉に、その場にいた数人が「えー!?」と声を上げた。ヴィータもソレを予想していたらしく、ため息を吐いて「うるせぇ」と一蹴するだけであった。

 

「なにソレ凄い」

 

「あの人、何者なんですか」

 

 スバルが驚いている中、ティアナがそんな風にヴィータへと問い掛ける。

 

「何者もなにも、アイツは…レ「ちょ、ヴィータちゃん!?」お、おい何するんだ」

 

 レプリロイド、という言葉が出る前になのはがそのヴィータの口を塞ぐ。その様子に驚くスバルたちだったが、なのはは乾いた笑いでその場をやり過ごす。そんな光景を見て、ティアナは彼女達が何か隠しているのではないかと考える。

 

(やっぱり、あの人には何かあるの…? でも、隠すようなこと…? いったい、何が)

 

 ティアナはなのはたちから視線を外し、再びシグナムとゼロの戦いが映るモニターへと視線を戻した。そこでは両者がかなりズタボロで戦っている様子が映し出されていた。

 

(……これだけ強い“人達”を保有する機動六課。その目的ってなんなの? それに、私はどうしてこの部隊にいるんだろう)

 

 睨むかのように、ティアナはそのモニターを見続けるのであった。

 

 

 

 

 戻って戦闘区域。その場は最初こそ平地であったのにもかかわらず、いつの間にか荒野と化していた。シグナムの炎熱によって焼かれて焦げた大地。ゼロのZセイバーのチャージによって砕かれた地面や、えぐれた地面。それらを行った両者もボロボロであった。

 

「ふ、ふふふ…流石はゼロだ。心が躍る!」

 

「強くなったものだ…」

 

 笑みを浮かべるシグナム。それは強者と戦えることに対する喜び。ここまで来ると戦闘マニアというよりも戦闘中毒者(バトルジャンキー)と呼んだ方が正しいかもしれない。そして、その強さを見せるシグナムに対してゼロも素直に彼女の実力を称賛していた。10年前は四天王と互角の実力と思っていたが、今ではそれ以上の実力を持っているようにも思える。しかし、ゼロは戦いながらシグナムにある違和感を感じ取っていた。だが、それに対してシグナムはなにも言ってこない。ならば、ゼロも何も言わない。彼女が「全力で」と言ったならば、それに答えるまでである。

 

「お互いボロボロだな…恐らく、次が最後の一手か」

 

「……そのようだ」

 

 シグナムは手持ちの最後の撃てる数発のカートリッジを見つめ、それをレヴァンティンへと込める。一方のゼロも手に握るZセイバーをチャージして力を込めた。

 

「行くぞ…! ゼロ!」

 

「こちらも行くぞ、シグナム…!」

 

 両者が駆け出し、その己の刃をぶつける。その力はもはや疲弊も重なりほぼ互角である。ここからは両者がどう仕掛けるかで勝負が決まってくる。

 

「レヴァンティン!」

 

『ロードカートリッジ!』

 

「紫電…!」

 

「させるか…!」

 

 先に仕掛けたシグナムに対して、言いながらゼロがZセイバーに籠るチャージを解放し、チャージ斬りを放った。この0距離からの必殺技はゼロも読んでいた。ゼロもそのまま強引にレヴァンティンを斬ろうとしたが、ソレは失敗に終わる。突然シグナムの持っていたレヴァンティンの刀身が崩れたのだ。

 

「なにっ…!?」

 

「…かかったな、ゼロ」

 

 刀身が崩れ、目標を失ったチャージは地面をえぐり取る。刀身が崩れたからにはシグナムを捉えると思っていたゼロだったが、その刃が崩れると同時に身を引き、そのレヴァンティンを振るう。そう、彼女が発動させたのは“紫電”ではなかった。

 

「飛龍、一閃!」

 

 鞭のようにしなりながら宙を舞うレヴァンティンの連結刃。それはゼロを絡め取る。ソレを確認したシグナムは力任せにレヴァンティンを振りあげ、ゼロはその反動で空高く放り投げられる。本来の飛龍一閃はその連結刃となったレヴァンティンを振り下ろす技なのだが、今回はそうではない。そう、このゼロを空中へと吹き飛ばすことこそ、シグナムの真の狙い。

 

「決めるぞレヴァンティン!」

 

『了解。ロードカートリッジ』

 

 そのレヴァンティンの声と共に、レヴァンティンが鞘と重なり1つになる。生まれるのは弓。それこそシグナムの持つ炎の魔剣レヴァンティン第三の姿。本来ベルカの騎士が不得意とする「遠距離」を制するための一撃必殺の攻撃を達成するための形態であり、鞘と一体化して形成される。シグナムが魔力で生成した矢を作りだし、標準を空中で無防備となったゼロへ狙いを定める。

 

「駆けよ、隼!」

 

『Sturm Fa l ke!』

 

 レヴァンティンの声と共にシグナムの矢が飛んでいく。「シュツルムファルケン」の名を与えられたこの射撃は、発動・発射には多大な隙を生じるものの、到達速度・破壊力の2点においてはシグナム保有の攻撃魔法の中でも最大級の性能を誇っている。ゼロを空中に飛ばしたのも、このスキをカバーするためのものである。その矢はゼロが避ける間もなく爆発。ソレを見て、シグナムは渾身の一撃を与えたと確信する。

 

「やったか…?」

 

『手ごたえはあったと思いますが…』

 

 しかし次の瞬間爆発の煙から何かが飛びだし、地面へと着地する。それは紅き身体と、金色の髪をなびかせる存在。紛れもない、ゼロであった。ソレを見てシグナムは驚きを隠せなかった。有に数十メートル空中へと投げ出され、姿勢制御もままならない状態でシュツルムファルケンを受けたと言うのに、どうして無事なのか。その一瞬の考えが、シグナムの隙を生んだ。Zセイバーを構えたゼロが地面を蹴り、一気にシグナムへと距離を詰めて突っ込み、その刃を振り下ろす。

 

「はああっ!」

 

「しまっ…!」

 

 周囲に衝撃が走り、砂埃が立ち上る。しばらくは砂埃で見えなかった周囲。その視界が晴れたその場には、倒れるシグナムの姿があった。そして、そのすぐ横には、Zセイバーが突き刺さり、そのシグナムの上に乗る形でゼロがいた。

 

「俺の勝ちだ」

 

「ああ……そして、私の敗北だ」

 

 ゼロは静かに自らの勝利を、そしてシグナムも静かに自らの敗北を宣言するのだった。

 

 




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08「信頼」

やあ (´・ω・`)
ようこそ、バーボンハウス、エリアゼロ支店へ。
このエネルゲン水晶はサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。

うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、この小説を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しいそう思って、この小説を作ったんだ。

じゃあ、注文を聞こうか。


…はい、というわけでお久しぶりです。2ヶ月間病院のベッドの上だったもので、小説放置でした。本当にごめんなさい。
急性膵炎とは長い付き合いですが、ここまで来るともうね…横浜の大学病院に入院して手術を行い、なんとか危機を脱しました。
話も書いているうちにコレはなんか違う、これもなんか違う、とこの8話は何度か書きなおししている上にフェイトの話をすっとばすことにしました。まあ、そもそもこの小説を覚えていてくれるユーザーが果たして何人いるのかという不安で胸がいっぱいですが…(汗

更新ペースは相変わらず亀ですが、頭の中の構想は大方固まってるので頑張りたいと思います。ちなみに、今回はシグナム戦後のafterみたいなもんなので、ちょっと短いです

ではどうぞ


 

ゼロとシグナムの模擬戦はゼロの勝利で終わった。言うまでもなくシステムはゼロとシグナムの戦いで不調となりその日の訓練はそこまでとなった。その後はやてにゼロとシグナムが怒られたのは言うまでもないだろう。さて、それから次の日、ゼロはトレーラーの中でシエルに整備をしてもらっていた。

 

「左腕のダメージがかなり大きいわ。セルヴォがいればもっと早く終わるんだけど…」

 

「いない奴の事を言っても仕方がないことだ。シエル、別に急ぐ必要はない」

 

「…そもそも、ゼロがあんな無茶しなければシエルもこんな手間かけずに済んだと思うの」

 

 シエルとゼロの会話に若干不機嫌そうにクロワールが声を上げた。彼女もまた調整用のカプセルの中で回復している最中であり、退屈そうにそのカプセルの中を漂っている。

 

「空中で制御が効かない以上、ああするしかなかった」

 

「それでもシグナムの放った矢を逸らしてその反動で地面まで急降下なんて普通考えないわよ。やっぱり無茶苦茶だわ…そのせいで、サポートしてた私にまで影響が出てるし」

 

「無茶をしないと勝てない相手だった…ということだ」

 

 シグナムの実力はすでにかなりの物。分野にもよるかもしれないが、同じ近接戦闘をする相手として考えれば間違いなくゼロと同じレベルにまで達している。下手をすれば、かつてのネオアルカディア四天王などあしらえる程に。そんなことを考えていると、そのトレーラーの扉が開く。はやての権限において、このトレーラーにはいることが許されているのは機動六課でも各部隊の隊長と副隊長、そしてその補佐に当たるリインフォース姉妹、そしてシャマルとザフィーラだけである。ゼロがそちらへ視線を向けると、そこにはシグナムがいた。

 

「我が主から“調整中”…と聞いて、様子を見に来た。大丈夫か?」

 

「今のところは問題ない。腕は動く」

 

「そうか……私が本気で挑んでそれくらいの損傷というのも、流石だな」

 

「…その件だがシグナム。お前が本気と言った以上、お前は俺に本気で挑んだのだろうが…どこか違和感があった。ソレは何故だ?」

 

 ゼロの言葉に、シグナムは苦笑する。ああ、なるほど…と。まるでゼロが気づいているのは当然だったかのように。

 

「気付いたのか」

 

「1年前と比べて魔力量が低かった。最後の一撃も、逸らせたのは威力が低かったからだ」

 

「本気で挑んだことに偽りはない…が、魔力に関しては本気を出さなかったのではなく、出せなかったのだ」

 

「どういうことだ?」

 

 ゼロの言葉に、シグナムは説明をする。この機動六課にいる隊長、そして副隊長の面々には各自リミッターが付けられており、部隊で保有できる戦力ギリギリになるように設定がされている。そのため、各自の魔力量やランクが落ちてしまっていることを説明した。ゼロもその説明を聞いて、シグナムに対する違和感を理解した。

 

「なるほどな」

 

「部隊解散の時にはリミッターは外れる。その時には今度こそ何にも縛られない真剣勝負をやりたいものだ」

 

 そのシグナムの表情はまるで遠足に行くのを楽しみにしているような子供の様な笑みで、普段のシグナムとはまた違う一面であった。ゼロもシグナムの言葉に頷き、短く笑う。

 

「そうだな。その時を楽しみにしておこう」

 

「では、私は業務に戻る…ああ、それと。暇があれば少し主の相手をしてやってくれ」

 

「…?」

 

「最近はリインフォースと、リィンと共にずっと働き詰めでな。あのままでは過労で倒れてしまうかもしれないとシャマルも心配していた」

 

「……考えておこう」

 

 そのゼロの言葉を聞いた後、シグナムは満足そうにトレーラーを後にするのだった。

 

 

*

 

 

機動六課 部隊長室

 

 

 部隊長室のオフィス。そこでは部屋の主であるはやて、そしてリインフォース、リィンが仕事をする場所である。そんな部屋ではやては1枚の書類に目を通していた。

 

「うーん…やっぱり無理があるんやろうか」

 

「我が主…? いかがなさいましたか?」

 

「ゼロのことや…やっぱり、いくらなんでも誤魔化すのにも限界があるんよ…」

 

 がっくりと項垂れるはやて。その理由は機動六課内でのゼロに関する扱いについてだ。はやてと同じ性を名乗る次元漂流者であり、あきらかにカタギとは思えないその姿。ただそれだけならいいのだが、問題はそのゼロの実力についてだ。先日のシグナムとの模擬戦でゼロが夜天の書の守護騎士、烈火の将シグナムを倒したという話はすでに広まっており、それだけの実力を持っているゼロを機動六課の局員たちが本当に何者なのかと思っている。機動六課内だけでならまだいいのだが、これがこの部隊より「外」に漏れるのがはやては怖いのである。

 

「どうしてゼロさんのことを本局にお話できないのですか? はやてちゃん」

 

「……ゼロの場合、次元漂流者として扱ってもらえない可能性があるんだ、リィン」

 

「どうしてです?」

 

 デスクの上で可愛らしく首を傾げるリィン。そんなリィンにリィンフォースは小さくため息を吐く。

 

「ゼロはレプリロイド…元の世界での扱いは我々デバイスと同じだ」

 

 そう、これについて10年前にリンディも悩んでいた問題だ。はやても今、まったく同じ問題に直面している。ゼロは人間ではなくレプリロイドであり、これはこの世界で言う所のロボットなのである。故に、次元漂流者として扱われない可能性があり、それどころか解析されてゼロを量産する、などと本局の上層部が言いかねない。それほどに時空管理局は人手不足なのである。10年前の場合ゼロは地球に滞在していることもあり、リンディはそのゼロの存在をアースラスタッフとその関係者だけに留めさせた。これはリンディの持つ部隊の統率能力、アースラスタッフ達との間にある信頼の高さ故に出来たこと。しかし、一方のはやてが置かれている立場はリンディの時とはほぼ真逆だ。まず、ゼロが管理世界にいるという点、そしてはやてが部隊指揮をすることが初めてであるという点があげられる。そして部隊の規模故に情報の漏洩する可能性があるということ…はやては機動六課を設立する際は各部隊の上層部を身内で固めているが、それ以外はそういうわけではない。現にティアナのようにはゼロの存在についても疑っている者もいる。そして、一番考えたくないのが、自分や隊長メンバーたちがあまり知らぬ局員の中にスパイがいる場合である。

 

「ゼロの存在を隠し通すのは、やはり無理がありますね…」

 

「リンディさんの時みたくうまくいかないんは私が未熟だからや…なにか、いい方法は…」

 

 そんなことを話していると、ドアをノックする音が鳴り響く。はやてが「どうぞ」と促すと、そこにはバスケットを手に持ったゼロと、ポッドを持つクロワールの姿があった。

 

「ゼロ? どないしたん、こんな所に」

 

「差し入れを持ってきた…シグナムがはやて達の無理を心配していたからな」

 

 そう言ってゼロが応接用のテーブルにバスケットを置き、バスケットを開いた。そこには幾つかのサンドウィッチとポッドとティーカップが置かれていた。そのサンドウィッチはホットサンドウィッチらしく、香ばしい匂いがはやてたちの鼻を刺激する。そして、それを見て一番に飛んできたのはリィンだった。

 

「うわぁ! すごくおいしそうです!」

 

「ゼロの作った料理だもの。味は保証出来るわよ」

 

「ゼロが?」

 

「……厨房の人間は夕食の準備に忙しそうだったからな。場所と材料を借りた」

 

 そう言いながら紅茶を入れるゼロ。はやてにとってこの光景は懐かしく、故に笑みが零れた。昔ははやてがリハビリに帰ってきて疲れた時にゼロが軽い軽食を作ったり、紅茶を入れたりしてくれていた。ゼロの世界の人間が見れば驚くようなことだが、それを仕込んだのは何を隠そうはやて自身である。はやても自分たちのために差し入れしてくれたというのが嬉しく、仕事の資料を置いてその応接用のソファに腰掛けてサンドウィッチを手にとって食べる。それに釣られるようにリインフォースとリィンも食べるが、その反応は様々だった。

 

「うん、腕は落ちとらんね♪」

 

「おいしいですぅ~♪」

 

「…女性として、負けた気がします」

 

 はやては自分が教えた技術が衰えていないことに満足そうで、リィンは純粋にその食事が美味しいことに驚き、リインフォースは自分ではここまで作れないと若干落ち込んでいるようであった。

 

「ここ1年、ゼロは炊事班のレプリロイドに料理を教えたりしていたから当然だわ」

 

「私はそんな貴方が想像できないんですが…そうなんですか?」

 

「やることが他になかったからな」

 

 リインフォースの言葉に答えるゼロ。エリアゼロに平和が戻ってからというもの、ゼロを始めとする戦闘型レプリロイドが行う任務と言えば哨戒任務やバグを起こしたメカニロイドの掃討くらいで、特にゼロの様な強力な戦闘力を持っているレプリロイドが必要となる場面は無くなっていたのである。なので、ハッキリ言ってゼロはエリアゼロには不要と言っても過言ではなかった。そこでクロワールが提案したのがゼロの八神家での生活を活かしたことを仕事にするというもの。もっとも、これはクロワールが地球の料理を食べたいという思惑があって起きたのが発端ではあるが。

 

「じゃあ、私も1つ…」

 

「お前はさっき散々『味見』をしただろう。いい加減にしておけ」

 

「ケチ」

 

「あはは…クロワール、また食べすぎたん?」

 

 ゼロとクロワールの会話を察するに、相当な数を食べているのだろう。過去、ゼロが料理を作る時に味見をするのはクロワールの役目なのだが、食べ過ぎて料理が無くなって作りなおした、などと言う記憶ははやてにとって懐かしいものだ。二人の会話に苦笑しながら食事を進めていると、はやての前にゼロが封筒を置く。

 

「差し入れの他に1つ…はやて、これを」

 

「ふぇ? なんなん、これ」

 

 ゼロが渡した封筒から出てきたのは何枚かの紙が束になったものが2つ。1つは読めない文字で書かれているが、もう1つはゼロが手書きで書きなおしたものらしく日本語の表記で書かれている。表紙には『武器の改装案』と書かれていた。

 

「俺の使うZセイバーやバスターについて悩んでいただろう。シエルが考えた改装案だ」

 

「改装案……拝見するで」

 

 サンドウィッチをつまみながら、ゼロから渡された改装案を見るはやては驚いた。そこに書かれていたのはこの世界の技術とゼロの世界の技術を混ぜ合わせて作り上げられた設計図であった。例えばゼロのエネルギーを変換して武器に変えるZセイバーやシールドブーメランなどはカートリッジシステムを柄に内蔵し、ゼロのエネルギーと魔力を混ぜ合わせることであたかも『魔力刃』を作り出すものに改造する。反応には実際魔力が宿っているのでそれが質量兵器とは気づかれにくいようにするなど、その設計図は技術部門に関して素人のはやてでもその考えた人間の技量の高さを分からせるものだった。

 

「シエルさんって、やっぱすごい子やな…」

 

「魔力を発生させるのもゼロのエネルギー変換を魔力反応とプログラムに誤認させる…ですか。これなら確かに魔力がなくてもカートリッジに込められた魔力を発動させられるというわけですね……私達の世界の技術だけでは難しいですが、これなら」

 

 はやてと途中から改装案を見ていたリインフォースはそのシエルの改装案について驚きを隠せない。これを書いた人間が自分より年下だというのだから驚きもするだろう。

 

「ただ、この案には『協力者』が必要になる」

 

「というと?」

 

「シエルはこの世界に来て日が浅い。故に、この世界での技術力を把握していない…出来ればはやてが信頼できる部下で、技術系に詳しい人間の協力を仰ぎたいということらしい」

 

 はやてはそのゼロの言葉にどう答えようか悩む。確かに、ゼロの言うとおりシエルはこの世界の技術を把握しつつあるもそれが完全と言うわけではない。実際、文字の翻訳などは全てゼロが行っているのはこの改装案を見れば明らかだ。だが、これを見せるということはその人間にゼロがレプリロイドであるということをばらすことになる。

 

「お前の心配はかつてリンディが言っていた俺(レプリロイド)という存在がこの世界に広まることだろう。遅かれ早かれ、部隊内には知れ渡る。もし、最悪本局の人間が動くようなら俺達は別行動でお前達をサポートするつもりだ。あまり気にするな」

 

「ゼロ…」

 

「お前の創った部隊だろう。俺はお前を信じている…お前も自分の部下を信じてやれ」

 

 言われて、はやては嬉しくなると同時に顔が熱くなるのを感じて思わずその渡されていた改装案の紙束でその顔を隠す。はやてを信頼しているからこそ、ゼロはその全てをはやてに任せている。はやてはそれが嬉しくもあるが、同時にそんなことを平然と言うゼロに恥ずかしくなる。はやても19歳の乙女であり、10年前にゼロの事が好きになってからずっと想い続けていればこういう反応にもなるだろう。そして反面でコレが面白くないと思うのがリインフォースだ。彼女も同じくゼロに好意を寄せているので、自分の主に笑顔が戻っているのは嬉しいが、ゼロの言葉を聞いてその心中は複雑だったりする。そんな二人を見て何かを察し、クスクスと笑うクロワールは楽しそうである。

 

「二人とも、ライバルは多いわねぇ…」

 

「「…!」」

 

 クロワールはそう笑いながら紅茶を楽しそうに飲むのだった。

 

 

 

 

「初めまして。ロングアーチ所属のシャリオ・フィニーノといいます」

 

「は、初めまして…シエルです」

 

「ゼロだ」

 

 翌日、1人の機動六課隊員がトレーラーに招かれた。彼女の名はシャリオ・フィニーノ。機動六課ではロングアーチ所属のメカニックである。はやての部下であり、同時に通常業務ではフェイトの補佐を務める彼女が今回はやての紹介する技術者であった。

 

「お話は既に部隊長から聞いています。事の重大さも分かっているので、もちろんゼロさんのことも他言しません…ただ、その代わり」

 

 そう言いながら、シャリオはシエルの手をガッシリと握る。その眼はどこか輝いているようにも見えた。

 

「管理局が把握していない、科学文明が進んだ世界の技術…! 是非、私に教えてください!」

 

「え、あの…」

 

「私、ゼロさんが『ロボット』だって知ってから、ゼロさんたちの世界の技術の高さに改めて驚かされているんです!」

 

 興奮でシエルの言葉がまったく耳に届いていない様子のシャリオ。そんなシャリオを見て、クロワールが不安そうにゼロに耳打ちする。

 

「…大丈夫なのかしら、この人」

 

「はやてが信頼している部下だ。俺達も信じるしかない」

 

 そうゼロが言うも、シャリオの暴走ははやてがやってくるまで止まることはなかったらしい。

 

 

 




Next「機動六課出張任務(前篇)」


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海鳴篇
09「機動六課出張任務(前篇)」


沢山の方から「待ってました」という声を頂き、非常に嬉しく思います。そして嬉しさ余って亀が一瞬だけトランザムして連続投稿……これ、モチベーション持つのだろうか(汗
実は、今回の海鳴編は一番長いです。多分5話分くらいいくんじゃないかな…ホテルアグスタはいつになるのやら…

仕事で忙しかったり、Fategoで遊んでて忙しかったり、カードゲームで遊んでて忙しかったりしますが、とりあえず完結目指して頑張ります

後、おこがましくはありますが、感想と評価、お待ちしております…先ほど感想欄でも「待ってました」という声が多くあり、ありがたく思いましたが、それと同時に話の感想もらえてねぇ…とorz状態になってました
評価に関しても一言が必要なのでアレなのですが、よろしければ頂けると作者の執筆スピードが1.3倍~1.5倍ほど上がります。
これからもこんな作者と、この作品をよろしくお願いいたします


「出張任務?」

 

「せや、今日早朝に来てもらったのにはそれの説明をしようかと思うてな」

 

 早朝に呼びだされたゼロは訓練場には行かずにはやてのいる部隊長室を訪れていた。しかし、その部隊長室にいるはやての恰好はいつもの機動六課の服装ではなく私服であり、その机の下には旅行用の鞄らしきものが置かれている。はやての話では、この世界ではない管理外世界で感知されたロストロギアの回収が今回の任務内容となるらしい。

 

「何故機動六課にその依頼がくる?」

 

「聖王教会…この部隊の立ち上げに協力してくれた人直々の依頼なんよ。そもそも、その管理外世界は地球。私達機動六課の面々は地球出身の人も多いからって理由もあるんやけど…なにより、聖王教会の人も多忙ってことで…」

 

 つまりは厄介事を押しつけられたということである。はやての性格上、その依頼も断るに断れなかったのだろう。そう何となく察したゼロは小さくため息をつく。

 

「それで、その出張任務に出る人間は誰が行く?」

 

「私と、リィンフォースとリィン、スターズ、ライトニング。後シャマルとザフィーラ…それに、ゼロとシエルさんも付いて来てもらおうかと」

 

 ほぼ、機動六課の主力メンバーたちである。そんな主力メンバーがこの世界で欠けてしまった場合、もしレリックが発見されればどうなるかわかったものではない。

 

「俺はこの世界に残ろう」

 

「へ? なして?」

 

「機動六課が機能しなくなる。もし、その任務中にレリックが発見されたりしたらどうするつもりだ」

 

「そこは大丈夫。グリフィス君に指揮を任せているし、陸士108部隊が請け負ってくれる。それに、転送ポートも地球の方は手続きの要らない場所にあるから」

 

 よほど、地球にゼロを連れていきたいのだろう。ゼロの不安要素についてははやても既に同じことを考えているらしく対策済みのようだ。

 

「わかった…シエルにも伝えておく。出立の時間は?」

 

「今から2時間後の9時。あと、今回の任務には『あの人たち』も連れて行くから」

 

「何故だ?」

 

 あの人、とはやてが言うとゼロもその表情を変えた。何故、このタイミングではやての言うあの人を連れてくる必要があるのか。

 

「今回の任務は半分は任務やけど、もう半分は休暇みたいなもんなんよ。だから、フェイトちゃんにも決着つけさせたいやろ? 向こうにはリンディさんたちもおるんよ」

 

「……なるほど、そういうことか。了解した」

 

 こうして、ゼロは部隊長室を後にするのだった。

 

 

機動六課前 トレーラー

 

 

「地球?」

 

「そうだ。この世界でいうのなら『管理外世界』という場所に相当する…俺が、最初に『送られた』世界だ」

 

 ゼロの武器改良に没頭するシエルにゼロはそう説明する。そう、ゼロがラグナロクでバイルを打倒して宇宙に放り出された後、それを見守っていたマザーエルフによって飛ばされた世界。それが地球。はやてと出会い、ヴォルケンリッターと出会い、そしてなのはやフェイト…数多くの人間達と触れ合った世界でもあった。

 

「お前もここの所ずっと研究漬けになっている。気分転換になるだろう」

 

「でも、今研究がかなりいいところまで…」

 

「そう言ってもう2日も寝てないじゃない、シエル。いい加減休まなきゃ」

 

 ここ数日、シエルは碌な休みを取っていない。というのも、ゼロがこの世界で動きやすいようにするためにシエルはそのゼロの持つ武器の改装に没頭していた。ゼロのため、ということで協力者も得てやたら気合の入っているシエル。休めと言っても聞かないシエルに困っていたゼロとクロワールにとっては今回のはやてから言われた出張任務についてはいい口実だった。

 

「それに、地球にはたくさん美味しいものがあるし、見る所もいっぱいあるわ! エリアゼロのためにもなると思うの!」

 

「…美味しい物についてはお前が食べたいだけだろう」

 

「そ、そんなことないわよ? 甘い物だって頭の回転率を上げるんだから! 特に翠屋のケーキは…」

 

 以下、クロワールの地球の美味しい食べ物談が続き、シエルもそんなクロワールを見て苦笑し、出張任務に行くことを了承する。ちなみに、このクロワールが食事をするということについてはシエルでも何故彼女が食事を出来るのかという理由は分かっていない。エネルゲン水晶の代わりとなるものが人間と同じ食事というのは他のサイバーエルフにはないもので、クロワールだけが食事で人間の食事を食べることが出来る。仮説としてはマザーエルフの与えた能力によってクロワールの機構が変化したのではないかということだがそれも確証があるわけではない。当の本人が問題ないようなのでいいのだが

 

「では、準備をしておけ。2時間後に出る」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

 

 

 

 

第97管理外世界 銀河系第3惑星『地球』

 

 地球は、「地」という字・概念と「球」という字・概念でそれを表現している。英語やラテン語など他の言語でも多くは「大地」を表す語が当てられている。太陽系の惑星のひとつであり、その形はほぼ回転楕円体で、赤道の半径は6378kmほど。極半径は6357km。太陽からの平均距離は1億4960万kmである。惑星についての説明はさておき、その星ははやて、なのはにとっては生まれ故郷であり、フェイトにとってもその星は自分の故郷である。そして、ゼロが初めて訪れた自分のいた星以外の惑星でもあった。

 

「太陽が1つ…」

 

「綺麗な緑…」

 

 しかし、驚きを隠せないのがその地球に始めて訪れたフォワードメンバーの4人、そしてシエルである。場所は今回の地球にいる協力者が保有する別荘で、その別荘の前から近くの街を一望できる崖でその面々が驚いていた。現在は到着直後と言うことで小休憩が取られており、はやてと、ヴォルケンリッターは別ルートで「ある人」たちと共に2つ目の転送ゲートを利用しているため、その場にいる地球出身者はなのはとフェイトのみである。ゼロは荷物を降ろしていることでシエルの近くにおらず、シエルもその世界との時差ボケを直すためにその風通りのいい場所をフォワード達と眺めている。

 

「すごい…」

 

 そんなシエルにとって、地球の景色は衝撃的だった。見える街の整備された建物や家、道路。そして自分の周りにある、機械制御に頼らなくても自立する木々や花々。さらにその街に隣接して見える青い海…自分の住む星と似ているが、その『雰囲気』におもわず圧倒された。いつか、自分達のエリアゼロもこんなふうになるだろうかと。そんな様子のシエルに、近くにいたフェイトがクスリと笑って声をかける。

 

「どうかな、シエル。海鳴市は」

 

「はい…びっくりです。ミッドチルダとはまた違う雰囲気がありますね」

 

 実は、フェイトとシエルは結構仲がいい。元々人間との会話に慣れていないシエルを最初に助けたのがフェイトで、シエルも良く助けてもらっているため会話することが多い。一方のフェイトもシエルには話してはいないが、シエルと自分が似たような存在ということで、少しシンパシーを感じているのだ。

 

「気に入ってもらえて良かった。エリオやキャロも喜んでいるみたいだし」

 

 そんなことを話していると、紅いスポーツカーが猛スピードで走ってきて機動六課メンバー達の前に止まった。

 

「あ、あれは…」

 

「なのは! フェイト!」

 

「「アリサ(ちゃん)!」」

 

 金髪のショートカットの女性がその車から降りてきた。その女性は車の扉を閉めるとなのは、そしてフェイトの2人へと駆け寄った。

 

「久しぶりね、2人とも!」

 

「うん! アリサちゃん久しぶり~!」

 

「元気そうだね」

 

 そう再会を懐かしむ3人だったが、そんな時間はそう長くは続かなかった。次の瞬間、アリサの視線の先にある人物が目に映ったからだ。言わずもがな、ゼロである。その次の瞬間、脱兎のごとく駆け出したアリサが高いジャンプをして某特撮バッタヒーローのように飛び蹴りをゼロめがけて撃ち放つ。その表情は心なしか、怒っているようにも見える。

 

「ゼ~ロ~!」

 

「…!」

 

 が、しかし、当のゼロはその様子を見ておらず、反射的にその殺気に反応してその足を受け止めて受け流した。その結果、アリサは宙を舞って近くの茂みへと突っ込むのだった。

 

「きゃあ!?」

 

「……アリサか?」

 

 その茂みに突っ込んだ人物を見て、ようやくゼロがその人物が誰か理解してその茂みに突っ込んだアリサを引き起こす。

 

「他に誰がいんのよ…というか、何するのよ、痛いじゃない」

 

「それはお前が蹴ってきたからだ。それと、いきなり何をする」

 

「10年前に突然私やすずかの前からいなくなって、そのセリフはないんじゃないの?」

 

 理不尽だ…と、なのはとフェイト他、フォワードメンバーは突っ込みを入れるが、決して口には出さなかった。それに、アリサが本当にゼロのことを怒って蹴りを入れに行くなんてことをしないのはなのはやフェイトにはよくわかっている。彼女なりにゼロとの再会喜んでの行動だったのだろうと推測する。魔力を持たないアリサ、そしてすずかはゼロとの別れはあまりにも突然だった。特に、すずかの場合ははやて並みにショックを受けてしばらくは立ち直れなかった。それについての一撃という意味でアリサは蹴りを入れに行ったのだろう。結果として、それは当たることはなかったが

 

「……久しぶりね、元気そうじゃない。それに、やっぱり生きていたのね」

 

「おかげさまでな」

 

「すずかに後でちゃんと謝っときなさい。アンタが居なくなってずっとショックだったんだから」

 

「……ああ」

 

 何故、ショックを受けていたのかはわかっていないゼロだが、ちゃんとした別れを言わなかったことについては悪いと思っているので、謝罪は必要だと判断するゼロ。それを見たアリサは「よろしい」と満足そうに笑みを浮かべて立ちあがった。

 

「ええと、アリサ。そろそろみんなにアリサの紹介したいんだけど」

 

「そうね。悪かったわ」

 

「こちらは今回の遠征任務協力者で、別荘を貸してくれる…」

 

「アリサ・バニングスよ。なのはとフェイトの幼馴染でもあるわ。よろしくね」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

 フォワードが元気よくアリサの挨拶に返し、フォワードメンバーはなのはの指示で自分達の持ってきている荷物や任務で使う資材を運び始める。手伝おうとするゼロだったが、そこで携帯電話が鳴る。着信元ははやてである。

 

「もしもし」

 

『あ、ゼロ? アリサちゃんそっち着いた?』

 

「ああ、先ほど。今はフォワードが資材や荷物を別荘に入れている」

 

『後の指示はなのはちゃんに任せてるからアリサちゃんと一緒にシエルさんも連れてすずかちゃんの家に来てくれへん?』

 

「了解した」

 

 そう言って電話を切るゼロはアリサにはやてに言われたことを伝える。アリサは了承して車の出す準備を始めた。それを確認したゼロはシエルに声をかける。

 

「シエル、これからアリサの車を使って移動する」

 

「ええ、わかったわ」

 

「ゼロ、準備出来たわよ。で、貴方がシエルさん?」

 

「あ、はい! シエルです」

 

 そう挨拶するシエル。そんなシエルにアリサは「貴女がねぇ…」と、なにやらシエルをじっくりと眺めている。

 

「あの、何か…」

 

「あ、ごめんね…なんというか、ゼロから話を聞いていたから、私達より年上かと」

 

「そのことは後で話す。行くぞ」

 

 こうして、ゼロ達はその場を後にするのだった。

 

 

 

 

月村邸

 

「ゼロさん!」

 

 すずかの家に到着するやいなや、ゼロに紫色の髪の女性が飛び込んできた。思わず抱きとめるゼロ。その抱きついてきた女性が嗚咽を漏らしているのが分かった。

 

「すずか、か?」

 

「ゼロさん…! ゼロさん…!」

 

 突然のことに驚くゼロだが、それ以上に驚いていたのがシエルである。ゼロに抱きつき、泣きながらもその再会を喜ぶかのように笑顔を見せる女性。そんな様子を見ていると、横にいたクロワールがシエルのことを呼ぶ。

 

「シエル、シエル?」

 

「あ、クロワール…どうしたの?」

 

「大丈夫? ボーっとしてたけど」

 

「え、ええ…ちょっとびっくりしただけ」

 

「まあ、そうよね。すずかはゼロのこと好きだからあの反応は当然よね」

 

 クロワールの言葉に、シエルの胸がどこかチクリと痛んだ。どうしてだろう、と首を傾げているシエルにそれを理解したクロワールは苦笑する。

 

「シエルもやっぱり科学者だけど『女の子』なのね。ちょっと安心したわ」

 

「…え?」

 

「なんでもないわ♪」

 

 そうクロワールは悪戯に笑みを見せるのだった。

 

 

 

 

 

「ゼロとシエルお姉ちゃんだー!」

 

「久しぶりね」

 

「ああ、そうだな…アリシア、プレシア」

 

 すずかの事が落ちついた後、すずかははやてたちと共にアリサの別荘へ向かった。すずかは少し名残惜しそうだったが、ゼロの「また後で会おう」と言う言葉に嬉しそうにしていたのは言わずとも分かる話である。さて、その月村邸の一室にゼロとシエルはいた。はやてが連れてきたある人達…つまり、プレシア、そしてアリシアと再会していた。今回2人を連れてきたのには理由がある。そろそろ、フェイトとプレシア達を会わせようというものであった。何故ここに2人を呼んだのかというと、この世界にフェイトの義母であるリンディ・ハラオウンがいるからだ。はやてがプレシアたちについて極秘でリンディに報告すると、是非1度会いたいということである。最初ははやても困惑したが、リンディが「管理局員としてではなく、フェイトの母親として会いたい」ということを言ってはやても了承した。プレシアも現在のフェイトの母をしているリンディと会う必要はあると考えていたためプレシアはアリシアと共に地球に来ることを了承したのだ。

 

「プレシアさん、大丈夫ですか?」

 

「……大丈夫、といえば嘘になるわね。ちょっと緊張しているわ。リンディ・ハラオウンに何を言われるか…ってね」

 

 一度捨ててしまった娘に会いたい…そう考えていたプレシア。だが、今のフェイトの母はプレシアではなくリンディである。リンディからすれば、今更どの面を下げて会いに来たのか、という心境かもしれない。

 

「リンディ・ハラオウンはそんな人間ではないと思うがな」

 

「管理局員のリンディ・ハラオウンはそうかもしれないわね…でも、母親のリンディ・ハラオウンはまた別なのよ」

 

 同じ母親と言う立場だからこそ、プレシアも自分が逆の立場だったら…と考えてしまうのだろう。そんなことを考えていると、扉が開きメイドが扉の前に立っていた。

 

「プレシア様。リンディ・ハラオウン様がお着きになりました…」

 

「ありがとう、今行くわ」

 

 そう言ってプレシアはメイドの後に続き、ゼロもその後に続くのだった。

 




NEXT「機動六課出張任務(前篇Ⅱ)」


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10「機動六課出張任務(前篇Ⅱ)」

セルヴォ「秋風! トランザムは使うなよ?」

秋風「了解! トランザム!」

というわけで、まさかの3連続投稿です。頭の中でアイディアが浮いているうちに固めたかったので頑張ってみました。亀がトランザムしても、大したスピードにはなりませんが(汗

今日は検査があるので更新は流石に難しいかもしれないです
では、どうぞ


月村邸 応接室

 

 月村家自慢の応接室。一流の家具が並び、そのテーブルの上にはこれまた一流のメイドが入れた紅茶と茶菓子が並ぶ。そのテーブルを挟み、2人の人物が対面していた。1人はかつて犯罪者として名を刻んだ女性、プレシア・テスタロッサ。片や、管理局の人間であるリンディ・ハラオウンであった。彼女達の間にあるのは1つの事件と1人の少女。その問題に向き合うために2人は10年ぶりに再会した。しかし、その2人は一言も喋らずにお互い顔を見合わせているだけである。

 

「……」

 

「……」

 

 どれだけ時間が経っただろうか。月村家のメイドであるファリン・K・エーアリヒカイトは沈黙が続く部屋でそう思った。紅茶を入れていたファリンはその後何か言われた時の対処のために部屋に残っているのだが、その重苦しい空気は彼女にとっては非常に辛いものである。思わず、隣にいたもう1人のメイドであり、自分の姉であるノエル・K・エーアリヒカイトを見るが、その姉は静かに目を瞑って自分が必要になるのを待っているようだ。仕方なく、もう1人の当事者にファリンは目を向ける。もう1人の当事者である男、ゼロである。ゼロはファリンの視線に気がつき頷くと、その沈黙を破るように口を開く。

 

「いつまで互いに黙っているつもりだ?」

 

「……そうね。少し、どう会話を始めればいいか考えていたわ」

 

 リンディがそう言って再びプレシアを見る。ただ、相変わらずそのプレシアの表情は固い。何を言われるのか…といった表情だ。

 

「……見違えてしまったわ。10年前のあの時の貴女とは思えないほどに。久しぶりですね、プレシア・テスタロッサさん」

 

「そうね、久しぶり…かしら。リンディ・ハラオウンさん」

 

 見違えた、というリンディの言葉にウソはない。彼女のその容姿はリンディが対峙した10年前とは思えないほど若々しい。そして容姿だけではなくその雰囲気も別人なのではないかと考えるほどだった。リンディはすでにプレシアの生存の他にアリシアの蘇生についても話を聞いている。

 

(人は変わる、というけれど彼女の場合は『戻った』という方が正しいのかもしれないわ)

 

 リンディはプレシアの経歴はすでに10年前に調べ終えていた。「アレクトロ社」と呼ばれる会社の上層部からの無理難題の重圧。そしてそれによって起きてしまった悲しい事故…その時に最愛の娘を失い、狂い始めてしまったことも。だが、その狂ってしまう原因となった娘が蘇生した今、彼女が狂っている様子はない。

 

「…あの時の貴女のままなら、とてもではないけどフェイトには会わせられないと思っていたわ。でも、今の貴女なら、会わせても何も問題がないと思う」

 

「随分とあっさり言ってくれるわね……どう返していいかわからないじゃないの」

 

「『母親』が『娘』に会うのに、誰かの許可はいるのかしら?」

 

 母親…そのリンディの言葉に、プレシアは顔を伏せた。その表情は暗く、沈んでいた。

 

「母親…ね。会いたいとは思っているけど、私は心のどこかで会っていいのかと疑問を感じているわ…知っているでしょう? 私があの娘(フェイト)に何をしたかを。それに、今のフェイトの母親は貴女だわ、リンディ・ハラオウン」

 

「……」

 

 プレシアがフェイトにしたこと。それは10年前に行っていた虐待のことだ。ジュエルシードを求め、その命令を忠実に守るフェイト。そのフェイトからはその命令を遂行することで愛を受けようとしているのがフェイトから感じ取れた。しかし、プレシアはそれを根本から否定し、虐待を続けていた。きっと、フェイトにとってはトラウマになっているだろう。幸せに生活している今のフェイトだからこそ、今フェイトがプレシアと会えばフェイトは壊れてしまうのではないか…そう思っている。

 

「確かに、貴女の言うとおり…貴女のしたことは許されることじゃない。……でもね、それでも、あの子の母親はプレシアさん…貴女なの。あの子は確かに私のことを「母」と呼んでくれるけど…でも、貴女のことを私以上に母親だと思っているはず」

 

「そんなこと…!」

 

「でなきゃ、T(テスタロッサ)をとっくに捨てているわ」

 

「…!」

 

 フェイト・T・ハラオウン。そう、フェイトはハラオウン家の養子となる時、そのテスタロッサという名を捨てなかった。フェイトなりに、母であるプレシアと決別したくなかったからかもしれない。

 

「あの子ね、5月27日には必ずこっちに帰ってくるの」

 

「5月27日…?」

 

「貴女が、虚数空間に落ちたあの日…公式では、貴女が死んだ日よ」

 

「…!」

 

「あの子、自分の初任給で何をしたと思う? 貴女のお墓をこっちに作ったの…そしてそのお墓の前で、何があったのか、どんな事件を受けて、どんな人と出会ったのかを話しているわ」

 

 プレシアはリンディの言葉を聞いて絶句する。フェイトは未だに自分のことを母だと思っていてくれるのか、と。そして、同時にわからなくなる。自分は会って何を言えばいいのか、と。自分の娘であるはずなのに、どんな言葉を会った時にかければいいのかが分からない。そう考えていると、リンディが静かにプレシアに語りかける。

 

「ねぇ、貴女は誰かしら?」

 

「私は…私は、プレシア・テスタロッサ」

 

「それが答え。フェイトにとっても、私達にとっても…貴女はプレシア・テスタロッサ。アリシア・テスタロッサの母であり、そして…次女、フェイト・テスタロッサの母親なの」

 

「……!」

 

 簡単なことでしょう? そう語りかけるリンディの言葉に、プレシアの目から涙が溢れた。リンディの言葉は、プレシアにとっては彼女の心の闇を晴らすのに十分なものだった。リンディもプレシアをフェイトの母として赦し、フェイトのためにもプレシアとフェイトを会わせたいと思うが故にでた言葉だった。

 

「でも、あの子は許してくれるかしら…会ってくれるかしら…」

 

 いくら自分が会いたいと願っても、いくら自分がフェイトを娘だと思いなおしても、フェイト自身が自分に会った時拒絶しないだろうか? そうプレシアが思う。しかし、そんなプレシアの言葉にリンディはにっこりと笑みを見せる。

 

「大丈夫、フェイトは優しい子よ? それは貴女が一番分かっているはずだわ」

 

「リンディさん…」

 

「ほら、涙を拭いて? 行きましょうか」

 

「え、行くってどこへ…」

 

「フェイトに会いに…よ」

 

 そう言ってリンディがプレシアの手を取り立ち上がる。

 

「それじゃあゼロ、プレシアさんを借りるわ。はやてちゃんにもそう伝えておいて」

 

「了解したが…どこへ行くつもりだ? フェイトをここに呼んだ方がいいと思うが」

 

「そうなんだけど、今日はフェイトの場所が分かるからいいのよ」

 

 そうウィンクするリンディ。その部屋に置かれた時計には5月27日と示されていた。

 

 

 

 

海鳴市 海鳴霊園

 

 

「久しぶり、母さん、それにアリシア姉さん。今日は任務でこっちに戻ってきたんだけど、はやてから許可をもらって抜けてきちゃった」

 

 海鳴にある霊園。そこにフェイトの姿があった。今日は5月27日…フェイトにとっては忘れられない日。故に、少しだけ無理を言ってフェイトはここに来ていた。

 

「本当はエリオやキャロも連れて来たかったんだけど、二人までサボらせるわけにはいかなかったから、私1人なの。そうだ、聞いて? 新しくはやてが作った部隊、機動六課ができて、なのはやはやてたちとも同じ部隊なんだ…でね、10年前に突然別れちゃったゼロとまた会えたの。私、思わず抱きついちゃって…それで…」

 

 フェイトの声が、静かに霊園に響き渡る。この時間帯には人はおらず、その霊園にいるのはフェイトだけ。故にフェイトは周囲の目を気にせずにその返答のない墓石に言葉を投げ続ける。それは機動六課が始まってからの仕事の日々、ゼロたちとの日常を楽しそうに話す。まるで、そこにプレシアがいるかのように。自分はこんなにも幸せだとプレシアに言うように。

 

「あ、そうだ。今日はお土産があるの。なのはの実家、翠屋のケーキ。前にケーキを渡した時は母さん、食べてくれなかったけど…今日は、食べて欲しいかな」

 

 帰ってくるはずのない問いかけをするフェイト。その墓石から返答が返ってくるわけないのが分かっているが、それでも返答を期待してしまう。そんな自分におかしくなってクスリと笑うフェイトはチラリと時計に目をやった。時間を見ればもうその場で30分以上1人喋っていたことに気がつく。

 

「そろそろ戻らないと、なのはたちに迷惑かかっちゃう…じゃあ母さん、それにアリシア姉さん。また来るね…そうだ、今度はゼロも連れてくるよ。あ、あとケーキ、食べてね?」

 

 そう言ってその場から立ち去ろうとするフェイト。だが、それは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、必ず食べるわ……フェイト」

 

 

 

 

 

 

「え…?」

 

 帰ってくるはずのない返答が、フェイトの動きを止めた。だが、その返答は当然ながら墓石からなどではない。声はフェイトの背後から聞こえていた。その声に釣られてフェイトは思わず後ろを振り返る。

 

「そんな…なんで……」

 

 そして、その振り返ったフェイトの視線の先には1人の女性が立っている。紫色の服とロングスカートのその女性。その女性はフェイトにとって特別で、忘れられない人物。その名は…

 

「プレシア、母さん…?」

 

「……フェイト」

 

 誰かが悪戯で変身魔法でも使っているのかと考えてしまう。しかし、そのプレシアの後ろには義母であるリンディ・ハラオウンの姿もある。リンディがこんな悪質ないたずらをするわけがない…ということは、と。1つの結論がフェイトの中で導き出された。

 

「ほん、もの…?」

 

「……フェイト、あ、あのね…?」

 

 プレシアが何かを言おうとするが、それよりも前にフェイトの身体が動いていた。フェイトは勢いよく駆け出しプレシアに抱きついていた。

 

「フェ、フェイト…?」

 

「母さん…! 母さん…! プレシア母さん…! う、うああああああああっ!」

 

 大粒の涙を流し、顔をクシャクシャにして泣き叫ぶフェイト。化粧が涙で落ちようが、鼻水が垂れてしまおうが知ったことではなかった。フェイトはプレシアを離すまいと強く強くプレシアを抱きしめた。

 

「フェイト、ごめんね…ごめんね…!」

 

 そしてプレシアも同じようにフェイトを強く抱きしめる。もう離すまいと…そしてそんなプレシアの瞳からも涙が流れ落ち、二人はその霊園で泣き続けた。その10年越しの再会を喜びながら…

 

 

 

 

同時刻 海鳴市 バニングス家保有の別荘

 

「そっか、ちゃんとフェイトちゃんに会いに行ったんか」

 

「ああ。後で合流することになるだろう…リンディもいるから問題は起きないはずだ」

 

「せやな…そう信じるとしますか」

 

 一方、ゼロはリンディたちと別れた後、バニングス家の保有する別荘へと戻ってきていた。当然ながらシエル、アリシアも共にいる状態である。もっとも、シエルは別荘の外で遊んでいるアリシアの面倒を見ている状態だが。

 

「任務の進み具合はどうだ?」

 

「うん、サーチャーは撒いたから、後はそれに引っかかってくれるのを待つだけやね」

 

 そう言いながら夕食の準備をするはやてとゼロ。その後ろには大量の食材があった。人数はゼロを除き、機動六課の面々にアリサとすずか。それに後から来るハラオウン一家であるが、その人数の倍の食材があるのはスバルとエリオが原因と言うのは言うまでもないだろう。

 

「久しぶりに料理するから腕が鳴るでぇ…この間のゼロの料理食べて久しぶりに料理したくなったわ」

 

「…張り切るのはいいが、怪我はしてくれるなよ」

 

「そんなドジっ娘じゃあらへんよ」

 

 そう笑いながら野菜を切るはやて。夕食は鉄板焼きなので基本野菜を切るだけなのだが、久々の料理なので張り切っているように見える。すると、そこへアリサとすずかがやってきた。

 

「ゼロ、ここは私達が請け負うわ。さっきからアリシアちゃんがゼロのことを探してるの」

 

「…そうか。ならこの場は任せる」

 

 アリサの言葉にあっさりと外へ出ていくゼロ。それを確認したアリサははやてに顔を向ける。

 

「で? ゼロとなんか進展したの?」

 

「…っ!?」

 

 アリサの言葉と共に、勢いよく包丁を振り降ろしてしまうはやて。危うく指が真っ二つになる所である。

 

「ア、アリサちゃん!? 何を言うとるん!?」

 

「いや、アンタがゼロの事好きなのはすずかと同じくバレバレだから。隠そうたって無駄よ?」

 

「ア、アリサちゃん…!」

 

 横にいたすずかまでも顔を真っ赤にして慌てているが、アリサはそれを気にせず言葉を続ける。

 

「で? 10年越しに会った想い人に何かした?」

 

「いや、えっと…だ…」

 

「だ?」

 

「抱きついた…」

 

「それで?」

 

「…それだけ」

 

 はやてが恥ずかしそうにいう。そんな彼女の手元の野菜は鉄板焼き用のはずなのにみじん切りになっている。そしてそんな様子のはやてにアリサは呆れたように声を上げた。

 

「それだけぇ!? すずかといいアンタと言い奥手ねぇ…キスの1つくらいしなさいよ」

 

「キ、キスって…」

 

「ゼロさんに…キス…」

 

 顔を真っ赤にする2人に呆れた様子でため息をつくアリサ。そんなアリサの方に、ふわりと何かが着地する。言わずもがな、クロワールである。

 

「普通の人間なら効果的だけど、ゼロだとどうなのかしらね…それ」

 

「あらクロワール」

 

「楽しそうな話が聞こえてきたから飛んできたわ」

 

「丁度よかった。貴女に聞きたかったのよ。あのシエルっていう子はゼロの何?」

 

 アリサの言葉に少し考えるクロワール。仲間、といえばそれまでではないかと思うが、どこか違う。クロワールは少しして、回答を出した。

 

「うーん…少なくとも、シエルが恋心を抱いているのかと聞かれれば微妙な所かしら?」

 

「どうして? それはゼロがレプリロイドだから…とか?」

 

 人間とロボットが恋をする…SFではよくあるような内容かもしれないが、それが実際ある場合はどうなのかと考えるアリサだったが、クロワールが首を横に振る。

 

「別に、レプリロイドに人間が想いを寄せることも、その逆も別に私達の世界じゃありえない話じゃないわよ? 実際、そういう人達がいたもの」

 

 クロワールが思い出すのはかつてゼロが戦った戦士、クラフト。そしてエリアゼロにいるジャーナリストのネージュだ。互いに二人は人間とレプリロイドという枠を超えて惹かれあっていた。もっとも、その互いの恋は実ることなく終わってしまったわけだが。

 

「じゃあ、どうしてシエルさんが恋心を抱いているか微妙なの?」

 

「シエルの場合、ゼロには好意を寄せるというより頼りにしているっていうか、依存しているって言うか…恋とはまた別の何かだと思うの。シエルの周りにはそういうことを教える人はいなかったし」

 

 科学者として生まれ、コピーエックスを作ることを強いられたシエル。その後はレジスタンスのリーダーとしてレプリロイド達を連れて抵抗運動を続けていた。そしてその後は争いをなくすために新エネルギーの開発に没頭…とてもではないが、普通の女の子が歩むような人生ではない。シエルの場合その恋と言うものを知る環境がなさすぎたといった方が正しいかもしれない。

 

「でも、さっきすずかがゼロに抱きついた時シエル、ちょっと驚いてたし…その信頼が恋心になってくれるかもしれないわね」

 

 楽しみだわ、と嬉しそうに笑うクロワール。クロワールとしてはシエルを応援したいと思っているのだろう。そんな話を聞いたアリサはため息を吐く。

 

「難儀ね…ゼロの場合ライバルが多い上に何よりそういう感情について疎いんじゃない?」

 

「そうねぇ。はやてにすずか、シエル…それに、アインスだってそうでしょ? それに、なのはやフェイトももしかしたら…」

 

「それだけ聞くとただの女たらしね」

 

「本人が無自覚なのがなお性質悪いわよね」

 

 そう言ってアリサとクロワールが顔を見合わせる。そんな様子のアリサに、すずかはふと疑問を漏らす。

 

「アリサちゃんは違うの?」

 

「あたし? うーん、確かに昔、ちょっとだけドキっとしたことはあったけど…はやてやすずかたちみたいにゼロにときめくようなイベントがなかったからなぁ…」

 

「じゃ、そんなイベントがあればアリサもゼロに?」

 

「どうかしらね」

 

 そうアリサが笑う。そんな感じで彼女達のガールズトークが続き、時は過ぎていく。この後、夕食の準備が進まずにフォワードたちが帰ってくるまでに準備が間に合わなかったのは言うまでもないだろう。

 




自分で書いてて思ったことを一言

シリアスとほのぼのパートの落差激しすぎぃ!

NEXT「機動六課出張任務(中編)」


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11「機動六課出張任務(中篇)」

とある方の評価コメントより
『 日間おめでとうございます。』

( ゚д゚) ・・・
 
(つд⊂)ゴシゴシ

日間ランキング 
3位 魔法少女リリカルなのはStrikerS~紅き英雄の行方~

 
(;゚д゚) ・・・
 
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
  _, ._
(;゚ Д゚) …!?

 なんか、気がついたら日間ランキングにこの小説がランクインしててビビりました。しかも、今(9月1日)でこそ14位とか入ってますが、ちょっと前に見た時に3位とかの位置にいてすげービビりました。どういう基準でランキングが設定されてるのかは知りませんが、こういうの見るととてもやる気が湧いてきます。ありがとうございます…そして、これからもがんばります
 実は今回からリメイクではなく完全新規で話を作っているので更新は私のアイディア次第で変わってしまうことをご了承ください。
この出張任務編はしばらく続きます。ではどうぞ

感想、評価、超待ってます


 はやてたちがガールズトークで盛り上がってしまったことで夕食の準備にはだいぶ時間がかかってしまったが、ゼロが戻ってきたことで話が中断して準備が再開することで夕食の時間にはなんとか間に合い、夕食会が始まった。夕食会といっても基本的に食材を焼いて食べるだけの鉄板焼きなのできっちりとした食事会というわけではない。なので必然的に肉の取り合いなども発生する賑やかな食事会となっていた。機動六課のメンバーに加え、現地協力者であるアリサとすずか、それにハラオウン家なども参加することで賑やかさはより一層大きなものであった。しかし、その中で1人、その賑やかさに反して暗い表情で食事をする人物が1人だけ存在した。1人だけ食事の輪から外れ、不機嫌そうな表情でもくもくと口に肉を運んでいる。そんな様子を見ていたゼロがその者の近くにより、腰を降ろす。

 

「…どうした、アルフ」

 

「ゼロ…」

 

 そう、それはフェイトの使い魔であるアルフだった。ここにきてからというもの、あまり元気がなく、面識のあるエリオやキャロにもその様子を心配されてしまった。ただ、そのアルフの様子と、アルフの視線の先にある物を見て、ゼロもその原因を理解する。

 

「プレシアのことか」

 

「…まあね」

 

 そのアルフの視線の先にいるのは主であるフェイトと、その母プレシア、そしてフェイトにとっては姉に当たるアリシアの姿であった。その3人は楽しそうに食事をしており、その姿は仲の良い親子と言う風に見えるに違いない。ちなみに、プレシアとアリシアのことについては当然ながらティアナを筆頭とするフォワードメンバーから誰なのか、という疑問なども上がっていた。エリオに至ってはアリシアの姿を見て驚いて何かを察している様子であったが、はやてと、リンディたちからプレシア達に対する追及と口外を禁止されているため彼女達も追及は出来ずに事が済んだ。それはさておき、その楽しそうに食事をするフェイトの姿にますますアルフは元気をなくし、その頭に付いた耳は垂れている始末である。

 

「だってさゼロ…フェイトはあの鬼婆に酷い仕打ちをされたんだよ? 挙句、最後はフェイトの手を取らず、虚数空間に消えたんだ…なのに、なんで今更現れたんだい?」

 

「さあな…俺にもそれはわからない」

 

「そもそも、なんでフェイトはあんなに楽しそうなのさ…!」

 

 そう、アルフの疑問であり、アルフが苦しむ理由がそこであった。10年前、アルフはフェイトが散々痛い思いと悲しい思いをしたことを強く覚えている。フェイトの使い魔であるが故に、そのフェイトの感情を共有していたアルフにとってプレシアは仇と言っても過言ではなかった。しかし、その感情を共有する元であったフェイトが今はあんなにも笑顔でプレシアと会話をしている上、その彼女から楽しい、嬉しいという10年前とは真逆の感情がアルフの中に流れ込んでくるのである。本来であれば出会いがしらにでも殴るかその喉へ噛みついてやろうかとも思っていたアルフだが、フェイトがそれを望んでいるわけがないのは感情を共有していなくても分かることで、それを理解せずに行動を起こすほどアルフも愚かではない。故にアルフはどうすればいいのかとずっと考えてしまうのだ。

 

「フェイトの今の心情は…俺にも分からん。だが、フェイトは過去を受け止め、プレシアの行った過ちを赦し、今を受け入れている」

 

「だから、私もあの鬼婆を許せっていうのかい?」

 

「そうは言っていない…ただ、お前がそう頑固にプレシアを否定しても無意味だ。許せとは言わん…だが、プレシアを理解しようと歩み寄ることはできるはずだ。」

 

 理解して歩み寄ること…それはかつてエリアゼロでゼロとキャラバンの人間達が行ったことでもあった。一方的に忌み嫌うだけでは何の解決にもならない。互いの存在を理解して、その溝を埋めようということができることをゼロは知っている。

 

「歩み寄る努力ってことかい? じゃあもし、それでも駄目だと思った時は?」

 

「その牙で噛み千切ってやればいい」

 

「ブッ…」

 

 ゼロの言葉に覆わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになるアルフ。流石のアルフもそれは極論過ぎないかと思うが、その前にゼロが言葉を続ける。

 

「歩み寄るということは、相手のことを知るということ。お前が今のプレシアを知り、昔と変わらぬ、フェイトを傷つけるだけの存在だと判断するのなら…そうしたほうがフェイトのためになる」

 

 つまり、ゼロはアルフがそんなことをするような事態になるとは微塵にも思っていないということだとアルフは理解する。今のプレシアはフェイトに害をなす存在ではない。だからそんなに警戒するな…ゼロなりの、アルフへの注意だったのかもしれない。それを理解したアルフは思わず苦笑してしまう。

 

「アンタからそんな言葉が出るなんて思ってもなかった。なるほど、確かに10年前のあの女は知っているけど、今のあの女のことをアタシは何も知らないや…アンタの言うことを信じて、しばらくは様子を見てやるかね」

「ミッドチルダではあの2人は目立つからしばらくは地球のハラオウン家に滞在することになっている…プレシアを知る機会はいくらでもあるだろう」

 

「…それ、初耳だよ?」

 

「先ほど決まったことだ。俺も先ほど知った」

 

 リンディとはやての相談の結果、次元犯罪者として名を刻んでいる人物が公式で死んでいるとはいえ、本人が管理世界にいるのはさすがにまずいのでは、というリンディの話で、プレシアたちは地球に残ることが決まっている。なので、もしゼロの話がなければアルフは今後ストレスで悩まされることになっていたかもしれない。そんな会話をしている二人の元に、エリオ、そしてキャロが駆け寄ってきた。

 

「アルフ、お肉焼けたよ」

 

「一緒に食べよ!」

 

「ん、そうだね。色々スッキリしたし、食べるよ!」

 

 そう言って立ちあがるアルフ。その元気になった様子のアルフに喜ぶエリオ、そしてキャロ。アルフはその場を離れる前にゼロへと顔を向ける。

 

「ありがとね、ゼロ。ちょっと頑張ってみるよ」

 

「…ああ」

 

 こうして、アルフが鉄板の方へ走っていくのを見届けるゼロ。そんな様子を見ていたフェイトがプレシア達との会話を打ち切り、こっそりとゼロの傍へと近寄る。

 

「ありがと、ゼロ」

 

「…礼を言われる程の事じゃない」

 

「ううん、そんなことないよ。アルフのこと少し心配だったから…」

 

 フェイトも、アルフのことはプレシアと再会したあと気にかけていた。10年前にフェイトとアルフがプレシアから受けた仕打ちは深い心の傷として残っている。今でこそフェイトはそれを過去のことと水に流しているが、アルフとしてはフェイトのことを誰よりも大切に思っている故に誰よりもプレシアを怨んでいたといっても過言ではない。

 

「後は、お前次第だ」

 

「うん」

 

 ゼロの言葉に、フェイトは嬉しそうに笑うのだった。

 

 

 

 

「じゃあ、これからスーパー銭湯に向かいます。みんな、お風呂の準備をするように」

 

「スーパー…」

 

「銭湯?」

 

 食事を終えて片付けが済んだ頃。はやてがそうメンバーに促した。といっても、フォワードの4人には『銭湯』と言う言葉は聞き慣れない言葉で、4人とも首を傾げて頭にクエスチョンマークを付けている。そんな疑問からか、スバルが近くにいたゼロに声をかけた。

 

「あの、ゼロさん。銭湯…って?」

 

「日本の公衆浴場の一種…機動六課にもある大浴場と同じものという解釈でいい」

 

「へー」

 

 感心するスバルを横目にゼロははやてに後の片付けは自分に任せ、銭湯へ行ってくるようにと促した。はやてもそれに頷き、用意したワゴンにメンバーを乗せて別荘を出発する。これは、フォワードから何故ゼロが残るのか? というような疑問を出させないためでもある。結果的に残るのはゼロとクロワール、ザフィーラで、ゼロはレプリロイド故に、クロワールはサイバーエルフ故に人前に出られないため、そしてザフィーラは本部でロストロギアの反応を警戒ということで残ることになった。片づけを終えたゼロが何気なくその椅子に腰を降ろしていると、ザフィーラが近寄ってくる。

 

「すまないな、ゼロ」

 

「いや、別に問題はない。それよりザフィーラ。お前は行かなくて良かったのか」

 

「全員がここを離れるわけにもいくまい。それに、人型になると俺は目立つからな」

 

 特に耳が、と付け足すザフィーラ。確かに、筋肉質な身体で、その頭に狼の耳がある人物が銭湯にいればそれは嫌でも目立つだろう。もし他の人間がその場にいれば笑っていただろうが、ゼロはそうか、とだけ答える。そんな様子のゼロに、ザフィーラは相変わらずだと短く笑う。

 

「時にゼロ…以前シグナムと戦った時の傷は癒えたのか」

 

「パーツは交換済みだ。戦闘にも支障はない…何故だ?」

 

「なに、俺も一手拳を交えたくなっただけのこと……シグナムとの戦いを見て、俺もお前と戦ってみたくなった。当然、ロストロギアの反応が出ればそこで中断する。どうだ?」

 

「……いいだろう」

 

 ザフィーラとしてもこのままジッとしているのが退屈だったのだろう。ゼロも何もしていないよりはましであると判断してそのザフィーラの申し出を受けて立ちあがる。場所は開けた広場のような場所。そこにザフィーラが結界を張ることで被害が出ないようにする。

 

「準備はいいか?」

 

「ああ」

 

 ゼロはZセイバーを抜刀し、ザフィーラは人型へと姿を変えてかつてはやてがデザインした騎士甲冑に身を包む。そしてその睨みあう両者の丁度真ん中にクロワールが浮遊し、ゆっくりと右腕を上げる。どうやら、審判をするらしい。

 

「じゃあ、二人ともいいわね? 試合、開始!」

 

 言葉と共にクロワールの右腕が振り下ろされる。クロワールの右腕が振り下ろされたほぼ同じタイミングで二人が飛びだし、ゼロはZセイバーを振りおろし、ザフィーラはそのZセイバーへ拳を突き出す。その同じタイミングで放たれた攻撃がぶつかり衝撃音が鳴り響く。

 

「せいっ…!」

 

「っ…!」

 

 ぶつかった直後、すぐに拳を収めたザフィーラは体制を変えてゼロめがけて蹴りを放つ。接近戦はゼロの得意分野ではあるが、近すぎてZセイバーを振りまわせない。ゼロはそのZセイバーの刃を消してそのエネルギーを腕に蓄積することでザフィーラの攻撃を防御する。蹴りを受けて吹き飛び、着地するゼロだが、その防御のおかげでダメージはほぼ受けていない。

 

「やるな…シグナムとの戦いでもそうだったが、その腕は昔と変わらない」

 

「お前もな。Zセイバーの刃を叩きに来るとは思わなかったぞ」

 

「俺は盾の守護獣…防御においては自信がある。あまり舐めてもらっては困るぞ、ゼロ」

 

「ならば、これはどうだ!」

 

 そう言ってゼロが左手にバスターを構え、トリガーを引く。それもただのバスターショットではなく、バスターショットの他にチャージされた弾丸のおまけつきだ。ザフィーラがその弾丸を弾き飛ばし、チャージされたバスターを避けて攻撃に転じようとするがその目の前にいたはずのゼロがいない。

 

「ぬっ…!」

 

「隙を見せたな」

 

 ゼロはザフィーラがチャージショットを避けた瞬間視界を外したのを見計らってその資格に飛び込み、接近していた。そしてゼロはその右腕をゼロナックルへと換装し、エネルギーを解放した右腕をザフィーラへと突き出す。

 

「はあっ…!」

 

「ぐっ…」

 

 ゼロの放った拳がザフィーラのわき腹にヒットして吹き飛ばされる。地面にバウンドした後どうにか着地するザフィーラ。その痛みに苦悶の表情を浮かべるも、その表情の後に口元をニヤリと釣り上げてゼロを見る。

 

「っ…! まさか、カウンターを入れてくるとは」

 

「言ったはずだ。盾の守護獣を舐めてもらっては困ると」

 

 その拳を放ったはずの右腕。ゼロはその右肩を抑えていた。ザフィーラはゼロに殴り飛ばされるその瞬間に左足を上げて回転し、左足でゼロの右肩へと蹴りを放つことでゼロの攻撃の威力を殺していた。

 

「今度はこちらから行かせてもらおう…縛れ、『鋼の軛』!」

 

 詠唱と共にザフィーラがその両腕の拳を地面に叩きつける。それによってベルカ式の魔法陣が現れ、幾重にも柱が出現してゼロを襲う。

 

「ちぃっ…!」

 

 かつて、闇の書の防衛プログラムの動きを止めたことを覚えているゼロも、鋼の軛をくらうのは不味いと感じてバック転をしながら距離を取る。しかし、それは叶わなかった。そのゼロへと向かってくる鋼の軛とは別の支柱がゼロの真後ろに出現して行く手を阻んでいたのだ。

 

「…!」

 

「でえええぇぇぇぇい!」

 

 そして、ゼロが後ろに出現した鋼の軛に気を取られてしまった一瞬の隙を付いてザフィーラがその右腕に魔力を乗せ、突貫してその拳を突き出した。隙をつかれたゼロはシールドブーメランなどを展開する暇もなく、とっさに腕をクロスさせてその拳を防ぐが、その魔力の乗せられた拳に耐えられるわけもなく、その攻撃をまともに食らう。そして、そのゼロの真後ろにあった支柱が砕けてゼロも吹き飛ばされた。

 

「ぐっ…やるな…!」

 

「まさか、今の一撃を耐えきるとは…流石だな、ゼロ」

 

 なんとか着地するゼロだが、かなりのダメージを受けてしまう。シグナムの紫電一閃などの威力以上のザフィーラの魔力を乗せた純粋なパワー。その一撃をなんとか耐えたゼロは立ちあがって再び構えを取るゼロ。その様子を見たザフィーラは短く笑う。

 

「なるほど、シグナムの気持ちが分かった気がする。お前と闘うのは心底楽しい。盾の守護獣本来の役目は主の盾となり、主を守ること。シグナムのように敵を切り裂く剣ではない…が、お前と闘うとそれすら忘れてしまいそうになる」

 

 そういって再び構えを取るザフィーラ。ゼロもZセイバーとゼロナックルを構える。そして、同時にその地を蹴って互いの相手へと向かって行く…が、それは叶わなかった。突如、その二人の間に何かが撃ち込まれて爆発を起こす。二人はそれを防御してその打ちこまれた方向を見た。

 

「随分と楽しそうなことをしているなぁ…見学だけのつもりだったが、思わず攻撃しちまったぜ。俺も仲間に入れてくれよ」

 

「……何者だ?」

 

 そうゼロは自分たちの試合を邪魔した相手に語りかける。爆煙で未だその姿は見えず、そのゼロの問いに笑い声が鳴り響く。

 

「ハッハッハッハッ! おいおい、ゼロ…まさか、この俺を忘れちまったのか? この『俺』を」

 

「…何?」

 

 次第に晴れる煙から現れた声の主。そこに現れるのは1人の人物。黒いスーツの上に頭、胸部、足を紫色のアーマーで覆っている。そしてその声からするに男のようだが、その顔はすっぽりとヘルメットの様なものが覆っているため顔を見ることはできない。そして、その男のもっとも特徴的なのはその肩に装備された巨大なキャノンとミサイルランチャーだ。それを見て、ゼロはその男が人間でないということを理解する。

 

「レプリロイドだと…?」

 

「おいおいおい、まさか本当に覚えていないってのか…? 散々、お前やエックスと戦ったはずだ」

 

「俺やエックスと戦った…?」

 

 ゼロの世界において、エックスが戦っていたのはもはや百年前以上にも遡る。ましてや、ゼロとも戦ったことがあるということはゼロが封印される前の話である。そうゼロが思った瞬間、ゼロの脳裏にフラッシュバックが起きる。自分とエックスの前に幾度となく、その目の前の男は立ちはだかって戦いを挑んできた。敗れても再び自分たちの前に姿を現し、エックスを倒さんと自分達に向かってきたのをゼロは思いだす。

 

「貴様は…」

 

「ようやく思い出したのか? この……VAVAを!」

 

 男、VAVAはそう言って笑うのだった。




登場したVAVAはロックマンエックス3登場のMK-II仕様です

NEXT「機動六課出張任務(後篇Ⅰ)」


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12「機動六課出張任務(後篇Ⅰ)」

ノリと勢いでVAVAを出した結果がこれ(更新遅れ)だよ!
VAVAの性格とか口調とか結構考えて書いてみましたがこれどうなんだろうなぁ…(汗
イレハンやりなおしてみたり、コミックボンボンのロックマンX探しに行ったりしてみましたが、気がついたら色々混ざってしまった気がしてならない…
VAVAに関しては今後も登場予定です

ではどうぞ
感想、評価をお待ちしております


ゼロ達がVAVAと邂逅する少し前…

海鳴市 スーパー銭湯

 

「シエルはゼロのことってどう思ってるの?」

 

「え…」

 

 スーパー銭湯の湯に浸かっていた機動六課の面々。その中に一緒にいるシエルが、アリサにそんな質問を投げかけられた。突然のことだったので混乱するシエルだったが、横にいるフェイトがその間に割って入る。

 

「ちょっとアリサ…? いきなり何聞いてるの…」

 

「いや、普通に気になるから聞いたのよ。フェイトだって気になるんじゃない?」

 

「えっと、それは…まあ」

 

 アリサの言葉に何とも歯切れの悪いフェイト。アリサはフェイトを押しのけ、シエルに問い掛ける。

 

「で、実際どうなの? アイツのことやっぱり好きだったりする?」

 

「ゼロを…ですか? え、えっと…」

 

 アリサの言葉に顔を赤くするシエルだが、アリサはずいずいとシエルに迫る。が、そこではやてたちが慌てて上がり始める。どうやら、ロストロギアの発見にこぎつけたらしい。アリサやすずか、シエルは戦力にならないため上がらなくていいとはやてが言う所を見て、自分たちは必要ないと理解したアリサはなんともつまらないという表情でため息を吐く。

 

「もう…せっかく皆の気持ちを代弁して聞いたのに」

 

「え…」

 

「ゼロのことが好きなら頑張んないと取られちゃうわよ?」

 

「そう、なんですか…?」

 

 アリサから聞かされる突然の内容に驚くシエルだが、そのはやてやすずかがゼロに好意を持っているのは何となく理解できていた。それは彼女達のゼロに対する態度を見れば明らかだと言えるだろう。

 

「そうよ。あの子たちは10年もゼロの事を想い続けていたんだから」

 

「……」

 

「クロワールが言ってたわ。貴女は恋ってものがどんなものか理解できてないって」

 

「そんなこと…」

 

 アリサの言葉に思わずそんな言葉が出てしまうが、シエルは考えてしまう。果たして本当に自分は恋とは何か理解できているのか…と。

 

「じゃあ、シエルにとってゼロってどんな存在なの?」

 

「それは…大切な仲間、ですけど」

 

「…そう」

 

 アリサはやれやれと言った様子で、そのシエルの隣に座る。その表情は少し呆れているようにシエルには見えた。

 

「まどろっこしいこと嫌いだからハッキリ言うわ。すずかはゼロのことが好きよ。もちろんそれはLikeじゃなくてLoveの方。もちろん、はやてもね…もし、ゼロがあの子たちの想いを受け止めたとして…貴女はそれでいいの?」

 

「それは…」

 

 アリサの問いにシエルは解答が出せなかった。それがゼロの意思なら…と、そう言えばいいだけの話のはずなのに、その言葉がシエルの口からは出なかった。もし、ただゼロを仲間だと思っているだけなら自分には関係のないことのはずだ。そんな様子にアリサはため息を吐く。

 

「貴女のことはゼロやクロワールから聞いているわよ。レジスタンスのリーダー、新エネルギーの開発者…そして、ゼロの親友のコピーを作りだした科学者だって」

 

「……」

 

「そりゃ他人に恋する余裕なんてなかったでしょうけど…今は、違うんじゃない?」

 

「え?」

 

「貴女のいる世界にレプリロイドたちの脅威はない。エネルギーに困ることも減った。貴女はそろそろ、普通の女の子に戻ってもいいと思うわ」

 

 アリサの言葉に、シエルはただ首を傾げる。彼女は一体何を言っているのか…と。そんな様子のシエルを見てアリサは苦笑し、言葉を続ける。

 

「ずーっと、世界のために、仲間のためにって自分のこといつも後回しにしてなかった? そういうところなのはたちにそっくり」

 

「なのはさんたちに…?」

 

「そう、あの子たち少し前まで管理局の仕事だので自分のことを後回しにしてばっかり。仕事、仕事じゃ…まともに男なんて寄ってきやしないわよ。はやてだけは、ゼロのことを想ってるからそうでもないかもしれないけど」

 

 そう笑うアリサの言葉に、確かにその通りだ…とシエルは思わず思ってしまった。自分は彼女の言うとおり、いつも自分のことなど後回しにしていた。自分のことを気にしたことなんて、今までなかったかもしれないとシエルは思う。

 

「最近はようやく余裕がある感じだけど、あんなんじゃ結婚なんてできるのやら…まあ、そんなことはさておき、シエル。貴女はもう少し自分のことを優先にしてみなさい?」

 

「自分を優先…」

 

「そう、それをする意味がわかれば、私の言っていることも理解できるんじゃない?」

 

 アリサはそういって「先に上がるわね」と言って湯から出て脱衣所に向かって行った。残されたシエルはただただ、アリサに言われたことを繰り返して考えるだけであった。このあと、シエルがはやてからゼロが謎のレプリロイドと戦っているという話を聞かされるのはしばらくした後の話である。

 

 

場所と時間を戻し、バニングス家の別荘

 

「VAVA…だと?」

 

「その様子では俺の事を本当に覚えていないらしいな…つまらん」

 

 そう言いながらVAVAはその周囲を見渡す。まるで何かを探しているようだ。しかし、それもほんの数秒。VAVAはそれをやめてゼロ達へと向き直る。

 

「あの男が“俺と似た存在がいる”と言うから来てみれば…まさか、エックスではなくゼロとは…それに、この周囲を見る限りエックスはいない」

 

(エックスが死んでいることを知らない? …ということは、このVAVAというレプリロイドは俺と同じように『ネオアルカディア創設以前の時代に開発された』レプリロイド、と言うことになる。それにしても…)

 

「VAVAといったな。レプリロイドであるお前が何故この世界にいる?」

 

「さあな。俺を直したあの男は俺を『伝説の地の遺物』と呼んでいたが…詳しいことは俺の知ったことではない」

 

 VAVAの言葉に謎はますます深まるばかりである。伝説の地の遺物とはなんのことか。そもそも、このVAVAというレプリロイドを修理した男は誰なのか。そう考えているゼロだったが、そんなゼロをよそにVAVAがゆっくりと戦闘態勢をとる。それに気がついたゼロも手に持っていたZセイバーを抜刀して構えを取る。

 

「さて、話はもういいだろう。俺達は戦うためにのみ生まれた疑似生命体(レプリロイド)…これ以上の語らいに意味などない」

 

「……そのようだ。記憶はなくしているが、身体がお前を覚えている。貴様は倒すべきイレギュラーだと」

 ゼロの言葉にVAVAは小さく笑う。その表情は相変わらず見えないが、VAVAは確かに笑っていた。

 

「面白い。貴様を潰すことで、この世界に俺の名を刻んでやる! このVAVAの名を!」

 

 その言葉と共に、VAVAが肩に装備しているキャノンを発射する。ゼロはそれを避けると一気にVAVAへと接近してZセイバーを振り下ろす。しかし、その攻撃は紙一重で避けられてしまう。

 

「どうしたゼロ、止まって見えるぞ!」

 

「…!」

 

 言葉と共に放たれたVAVAの蹴りを、咄嗟に受け止めるゼロ。そこで、VAVAのヘルメットの奥に見える紅い瞳が光る。その受け止めた足からキャノンが飛び出し、そこからエネルギーが充填される。それを見たゼロは咄嗟にその場を飛びのいた。

 

「遅い!」

 

「ちぃっ…!」

 

 発射された爆撃に対してシールドブーメランを展開してその攻撃を防ぐゼロ。そんなゼロを見たVAVAが「ほぅ」と少し驚いた様子を見せる。

 

「そんな武器まで持っていたとはな…なら、これはどうだ!」

 

 言葉と共に今度は肩のミサイルが発射される。シールドブーメランからバスターに切り替えたゼロはそれを撃ち落とすが、その隙をついてVAVAがさらに肩のキャノン砲を発射する。だが、ゼロはそれを回避するとそのままZセイバーに切り替えてVAVAへと接近してZセイバーを振り下ろす。

 

「馬鹿が! そんな攻撃…!」

 

「甘い…!」

 

 それを避けようとしたVAVAだが、そのゼロの斬撃はVAVAを狙ったものではなかった。ゼロはそのVAVAの手前の地面へとZセイバーを振りおろしていたのである。それによって地面が爆発して大量の砂埃が宙を舞い、VAVAを包み込む。

 

「目くらましか…! だがその程度で…」

 

「せあああああっ!」

 

 周囲をセンサーで探っていたVAVAの一瞬の隙を狙ってゼロが地面に向けてZセイバーを下に突き出しつつ落下攻撃、墜盤撃を放つ。それに気づいて回避するVAVAだが、その地面に突き刺した衝撃で抉れて吹き飛んだ地面の塊がVAVAに激突して吹き飛ばされた。

 

「こざかしい真似を…!」

 

「……」

 

 ノックバックの反動を利用して距離を取るVAVA。一方のゼロはそのまま間髪を入れずにそのままVAVAを追撃するためZセイバーを握ってVAVAへと接近する。体制を起こしてすぐの状態を狙った一撃はゼロの狙い道理にVAVAへとヒットする。が、その一撃は攻撃にギリギリの所で反応していたVAVAは身体を引くことで直撃を免れる。

 

「浅いか…」

 

「流石は特A級イレギュラーハンター…あの時と腕は変わっちゃいないようだな。もっと楽しみたかったが…面倒な連中がこっちに来ている。今日はここまでだ」

 

 そう言って肩のキャノンを発射するVAVA。その一撃は結界にぶつかると、その部分に歪みが生じ、やがて消えてしまった。

 

「何…!?」

 

「魔力を抑えるAMFという代物を含んだ特殊弾。この程度の結界なら破壊するのもわけはない…ゼロ、次は確実に貴様を破壊する」

 

 その言葉と共に転送装置を使ったのか、VAVAの姿は消えてしまった。

 

「ちっ…クロワール、反応を追えるか」

 

「やってみたけど…駄目、今のレプリロイドの反応が消えたわ。短時間ですぐに消えたとなると…」

 

「別世界に何らかの方法で逃げたか…」

 

「そうみたいね…」

 

 

 

 

 

第一管理世界ミッドチルダ 某所

 

VAVAは転移後、転送装置を降りたVAVAの前には1人の白衣を着た男が立っていた。紫色の髪に、白衣の男…その名はジェイル・スカリエッティである。彼はにこやかに笑みをVAVAへ向ける。

 

「やあ、お帰りVAVA。彼との戦闘はどうだったかな? 君に取りつけた強化アーマーについても是非感想を聞きたいところだ」

 

「……」

 

その男の問いに、VAVAは答えない。そのVAVAの様子にスカリエッティは笑う。その様子はまるで無邪気な子供のようであった。

 

「まあいい。君のおかげで彼のいい戦闘データが取れたよ」

 

「契約は果たした。テメェが俺に付けた“首輪”を外してもらおう」

 

 首輪…その言葉に、スカリエッティはニヤリと笑い、空中にディスプレイを開くとなにやらボタンを操作する。すると、そのスカリエッティの手に小型のチップのような物が現れた。

 

「ふふふ、約束は守るよ。私も。だが、2つ目だ…私のお願いに答えてもらいたい」

 

「首輪を外しておいてそんな戯言をほざくか…」

 

 そう言って肩のキャノンをスカリエッティに向けるVAVA。しかし、スカリエッティはまったく動じていない。

 

「まあ、そう言わないでくれ。君にとっても悪い話じゃない…もし、頼みを聞いてくれるなら君を“元の世界に返す”ことを約束するよ」

 

「何…?」

 

「君には元の世界でやることがあるんだろう? 起動して間もないころ君は確かにそう言っていた。倒すべき相手がいると」

 

 スカリエッティの言葉にVAVAは黙ってその構えていたキャノンを元に戻す。それほど、スカリエッティの言葉はVAVAにとって魅力的だった。

 

「本当に出来るんだろうな。そんなことが」

 

「無論だよ。君を拾った私が言うんだ…間違いはない。それにコレはこの前のように脅しではなく、取引…報酬を違えるつもりはないよ」

 

「いいだろう、お前の遊びにしばらく付き合ってやる。俺は何をすればいい」

 

「何、少ししたらとある場所で暴れてもらう、ただそれだけさ…それまではゆっくりしていてくれたまえ。前報酬と言ってはなんだが、君の武装のパワーアップをしておくよ」

 

「……」

 

 要件を聞いたVAVAはそのままどこかに去っていく。それを見届けたスカリエッティはニヤリとまた表情を歪ませた。

 

「彼のおかげで随分と私の欲しい情報が集まった。私の記憶の未来…ククク」

 

「失礼しますドクター…」

 

 そこへ、薄い紫色の髪をした女性、スカリエッティの秘書を務める女性、ウーノが現れた。

 

「やあウーノ。どうかしたかい?」

 

「そろそろ評議会との定例会時刻となりましたのでお知らせに」

「ああ、すぐにいこう」

 

 そう言って上機嫌に返事を返すスカリエッティに対し、ウーノは不安そうに問いかけた。

 

「ドクター、あの者を野放しにしてよろしいのですか?」

 

「ん? ああ、構わないよ。彼の記憶データから必要なデータはもらっている。それに、彼は私達の計画には興味がないようだからね」

 

「しかし、あれほどの力を持つ者を放置するのは…トーレやチンクを半壊にまで追い込んだ実力者です。やはり“首輪”を外すのはいかがな物かと思います」

 

 首輪。それはスカリエッティの持っていたチップのことだ。これは回路を破壊する装置の様な物であった。そして、ウーノが危惧するのはVAVAの持つ戦闘力の高さ。それが自分達に向けられた時の被害は尋常ではない。しかし、それに対してスカリエッティはやはり笑みを崩してはいなかった。

 

「それに関しても問題ないさ…そう、問題はない。何もね…それに、彼には大いに感謝している。まさか、老人達が見つけた『あの地』の破片に彼が眠っているとは思わなかった。ふふふ、ふはははははは!」

 

 スカリエッティはそう満足そうに笑う声がその場に響き渡っていた。

 

 




Mk-2アーマー仕様とはいったが、Dr.ドップラー製とは言ってない(迫真)

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13「機動六課出張任務(後篇Ⅱ)」

11月中に投稿すると言ったな。あれは嘘だ

…はい、すみません。リアルが忙しくて手が回りませんでした
HDDのデータが飛んだことでやる気がガクッと下がってしまった故の現状でございますが、なんとか1話だけ完成したので投稿させてもらいました
今後の予定としては次は12月中ごろにでもと思っています
仕事
冬コミ
モンハン
ダークソウルⅡ
Fatego
こんだけやることがあると小説も書けないってもんですわ(おぃ
ちなみに、モンハンは絶賛フレ募集中です。是非一緒にモンハンしましょう。かなり弱いですが(汗

というわけで、今回もどうぞ


 無事にロストロギアを確保した機動六課だったが、VAVAという襲撃者についての報告を受けたはやては万が一を考えて海鳴に一日泊るという結論を出した。その夜、部屋の一室でゼロはシエルにその襲撃者について聞くことにした。

 

「VAVA…そう名乗っていたのね?」

 

「ああ、間違いない。シエル、何か知っているのか?」

 

「ええ、エックスに関する資料を見ていた時に出てきたのを覚えているわ。詳細についても、水没した図書館のデータの中にあったはず…これね」

 

 そう言ってシエルは小型の端末から資料を引っ張り出して空中へと表示する。そこには確かにゼロと戦った襲撃者、VAVAの姿は映し出されていた。

 

「製造されたのはネオアルカディア創設以前の話…エックスやゼロが英雄と呼ばれる前の時代にいたそうよ。エックスとゼロはイレギュラーハンターとして活動していたけど、VAVAも元はイレギュラーハンターだった」

 

「元は…?」

 

「電子頭脳回路に異常があり、イレギュラー以上の残忍さを持っていたらしいわ。部隊でも問題を起こすことが多く、拘束されたらしいの。その後どういう経緯かは書かれていないけどその施設を脱走…何度もエックスの前に現れて戦った敵らしいわ…でも、その後の消息については書かれていないわね」

 

 そう改めてデータを見せられたゼロは遠い記憶の中で確かにVAVAに挑んだ記憶があった。しかも、その結果は敗北だった気がするとゼロは思う。

 

「VAVAは自分を修理した男が自分を『伝説の地の遺物』と呼んでいたらしい。これに心当たりはあるか?」

 

「伝説の地…? いいえ、それには心当たりがないわ」

 

「そうか…」

 

「……」

 

 そう答えたゼロからシエルは目を逸らしつつも、チラリと横目でゼロを見つめていた。アリサと話をしてからというもの、変にゼロのことを意識してしまう。自分にとってゼロは大切な仲間…だけのはずなのだが、どうしてこんなことになったのか。

 

「…? どうかしたか、シエル」

 

「え? う、ううん…なんでもないわ。なんでもないの…少し、疲れたみたい」

 

「…疲れているならもう休め。慣れない環境と日ごろの無茶で疲れが出たんだろう」

 

 そう言って部屋を出ようとするゼロだが、そこでシエルがゼロを呼びとめる。

 

「あの…ゼロ…」

 

「なんだ?」

 

「……ううん、なんでもない。おやすみなさい」

 

「…ああ」

 

 ゼロが部屋から出ていくのを見送って、シエルはベッドの上に倒れ込む。銭湯でアリサと話をして以来、ゼロの顔をまともに見ることが出来ない。いったい自分はどうしてしまったのだろうか? そうシエルは考える。

 

「シエル」

 

「…? クロワール」

 

 ベッドに顔を埋めていたシエルが声を聞いて顔を上げた。そこにはクロワールが宙に浮いている。

 

「どうしたの? 調子悪そうだけど…」

 

「ううん、平気よ。さっきも言ったけど疲れただけ」

 

「…ふーん、その割にはゼロのことを直視できてなかったわね」

 

 クロワールの言葉にシエルはドキリと顔を紅くして伏せてしまう。その様子を見てクロワールはカラカラと笑っていた。

 

「知っているわ。アリサから話は聞いたから…ゼロの事、ちょっと意識しているのね」

 

「…わからないの」

 

 わからない。そう口にしたのはいつ以来だろうかとシエルは思う。天才科学者である女性のクローンであったシエルの分からないことなどまったくと言っていいほどなかった。それなのに、今はこの自分の状態が分からないでいる。そんな様子を見て、クロワールは笑っていた。

 

「私、どうしちゃったのかしら…」

 

「シエルはきっと、変わってきているんだと思うわ」

 

「…え?」

 

「私がそうであるように…」

 

 シエルの疑念に、クロワールは静かに答える。変わろうとしている、とはどういうことなのかとシエルが思うと、クロワールは言葉を続けた。

 

「私はサイバーエルフ…レプリロイドのために生まれ、そしてレプリロイドのために死ぬ存在…けどね、最近、自分の中で私という存在は変わり始めている」

 

「変わり始める?」

 

「人間の食事をエネルギーに変換すること、ゼロに意見すること、こんなこと、以前の私では考えられないことだった。私はゼロのために生まれ、そして死ぬ存在…そう思っていた。でも、今は違うの…今の生活が永遠に続けばいい、平和な時間をずっと皆と一緒にいたい、そう思うの……でも、こんな考えはサイバーエルフとしては失格よね」

 

「クロワール…」

 

 そう言って笑うクロワールの言葉に、シエルはどう返していいかわからない。そんな様子を見たクロワールは「だからね」と、言いながらシエルの肩に乗る。

 

「シエルも、変わり始めているんだと思う。平和な今が、きっとシエルを良くしてくれる」

 

「……変わる。私が」

 

 シエルはクロワールの言葉を聞いて、銭湯でアリサに言われたことを思い出した。

 

――貴女はそろそろ、普通の女の子に戻ってもいいと思うわ

 

「変われるかしら? 私も」

 

「うん、きっと。一緒に頑張りましょうシエル」

 

「……そうね、頑張ってみる」

 

 そう言ってシエルは優しくクロワールを撫でるのだった。

 

 

 

 

深夜0時過ぎ

 

 

「……」

 

 ゼロは機動六課の面々を休ませ、1人警戒を続けていた。場所は別荘の屋根の上である。というのも、またいつ襲撃が起きるかは分からない。シエルにはクロワールがついているし、機動六課の面々もそう簡単にやられる心配はしていないが、それでも万が一のことがあるということで警戒を続けていた。

 

「……?」

 

 しかし、そんなゼロの耳に何か音が聞こえる。何かを打ち抜く音と、銃声…ゼロは不審に思い、その屋根を飛び降りると軽快な足取りでその音の元へと向かって行く。ゼロはZセイバーに手をかけながらその音の元を見た。そこにいたのは橙色の髪をツインテールに結った機動六課のフォワードメンバー、ティアナ・ランスターの姿だった。彼女はクロスミラージュを手に、その的へと幾重にも魔力弾をぶつけていた。それを見たゼロはそのZセイバーを鞘に納めてティアナに話しかける。

 

「こんな夜中に、何をしている」

 

「っ…!? 八神……さん」

 

「…ゼロでいい。質問に答えろ、こんな夜中に何をしている」

 

 ティアナは見つかってしまったと言わんばかりの表情でゼロを見ている。さらに、ゼロのその言葉に逃げられないと勘弁したティアナは口を開く。

 

「…自主練習です」

 

「なのはから、今日はこれ以上無理をせず休むように言われていたはずだ」

 

「……」

 

 ゼロの言葉に、ティアナは答えない。それはゼロの言うとおりだからである。無事にロストロギアを確保したフォワードメンバーを見てなのはは今日これ以上の訓練などをせず、身体を休めることをフォワードメンバーに促していた。ゼロもそれは聞いていたし、フォワード全員がそのなのはの言葉に返事をしていたはずである。しかし、ティアナはこうしてその言葉を無視して自主練をしていた。

 

「お前を見つけたのが俺ではなく別の誰かだったら、命令違反になるのは分かっていたはずだ。それとも、なのはたちが見ているはずがないとでも思っていたのか?」

 

「それは…」

 

「何を焦る? ティアナ・ランスター」

 

「!!」

 

 ゼロの言葉に、目を見開いてゼロを見るティアナ。ゼロはそれに気にせず言葉を続けた。

 

「命令を無視してまでの自主練習。よほどお前が何かに焦っていると見える…違うか?」

 

「……」

 

 ティアナが焦る原因の1つが目の前にいるゼロ本人なのだが、そんなことをゼロが知るはずもない。ゼロはため息を吐くとティアナに背を向けた。

 

「…自主練習は好きにしろ。俺はお前の上司ではないし、お前に何か言う資格はない」

 

 そう言ってきた道を戻ろうとするゼロに驚くティアナ。そんなゼロに対して、ティアナはどうして、という疑問が生まれる。

 

「なのはさんに、報告しないんですか…?」

 

「言ったはずだ。俺はお前の上司でも、管理局員でもない俺に口出しする資格はない…だが、これだけは言わせてもらおう。無理をして、なのはの信頼を裏切るな」

 

 そう言ってゼロは別荘に戻って言った。その場に取り残されたティアナはその手にあったクロスミラージュを強く握りしめる。

 

「無理をしてでも、強くならなきゃいけないのよ…最初から強い貴方に、私の気持ちなんかわからないわよ…!」

 

 そのティアナの声は、誰にも聞かれることなく夜風にかき消されるのだった。

 

 

 

 

「……見ていたのか、ヴィータ」

 

「…ん、まあな。アイツはアタシの部下だしさ」

 

 別荘に戻る道中、ゼロがそう静かに呟いた。その空からはグラーフアイゼンを手にしたヴィータが上から下りてくる。もっとも、服装はバリアジャケットではなくヴィータの好きな兎がプリントされたパジャマだが。

 

「…なのはに報告するのか?」

 

「しねーよ。お前がしないって言ってるのに」

 

「俺にはその義務がないだけだ」

 

「身内を嘘つきに出来るかっての」

 

 そうため息を吐くヴィータはグラーフアイゼンを待機状態に戻してゼロと歩き始める。

 

「なのははこのことを知っているのか?」

 

「いや、知らない。ティアナの自主練知ってるのはアタシと…相棒のスバルだろうな」

 

「その様子からするに、アイツが焦っている理由を知っているのか?」

 

「…まあな、すげー胸糞悪い話だよ」

 

 そう言って別荘に戻る道を歩きながらヴィータがティアナについてゼロに教えた。彼女は生まれてから既に両親はなく、家族は兄であるティーダ・ランスターだけであった。そして、ティーダは管理局員であり、ティアナにとっては憧れの存在…ティアナにとって全てといっても過言ではないだろう。だが、そのティーダは任務中に次元犯罪者の凶弾に倒れ、帰らぬ人となったのだ。それだけなら、まだ話は簡単だった…だが、その兄の葬儀でティアナは兄の上司からとんでもない言葉を聞かされた。

 

「ティアナの兄の上官がこう言ったんだとよ『次元犯罪者を逃し、命を落とすなど、とんだ無能だ』ってな…」

 

「……」

 

「アイツはきっと、証明したいんだ…自分の兄貴の魔法は無能なんかじゃないって。だからずっと隠れてでも強くなろうと努力してる」

 

「どういうことだ?」

 

 何故、ティアナの自主訓練が兄、ティーダ・ランスターが無能でないという証明に繋がるのか? ゼロの疑問に、ヴィータは頭をかきながらため息を吐く。

 

「アイツの今の戦術や戦闘スタイルなんかはさ、全部兄であるティーダ・ランスターの物なんだ。武器も同じく銃だったし」

 

「…アイツが努力を重ねているのは理解したが、それはアイツの焦りとどう繋がる?」

 

「んー…私の考えなんだけどさ、アイツ多分周りに嫉妬してるんだと思うんだ。それに気がついてて、そんな自分が嫌で多分焦ってる」

 

「嫉妬…?」

 

 ゼロにはいまいちピンと来ない感情だった。ヴィータもそれを察したらしく、苦笑する。

 

「ゼロにはなさそうだもんな、そういうの。アイツはさ、多分部隊の中で自分が一番下だとか思ってんだ。実際、経歴や才能だけを見ちまえば否定はできないんだけどさ…」

 

 ヴィータの話では相棒であるスバルは陸士学校を首席で卒業しているという。ティアナも同じく主席なのだが、実戦で役に立つ実技についてはスバルの方が若干上。さらにエリオやキャロはまだ幼くも普通の魔導士にはない才能がある。

 

「んで、極めつけは多分ゼロ、お前への嫉妬だよ」

 

「俺への嫉妬?」

 

「ただでさえ実力差が隊長陣とフォワードで差があるのに、お前の実力見ちまったら自分の実力について疑っちまうよ…あれだけ訓練してるのに、自分は成長してないんじゃないかってな」

 シグナムの戦いのとき、その戦いをフォワードメンバーの中でただ1人、畏怖したような眼差しでティアナがゼロを見ていたのをヴィータは気がついていた。

 

「…お前から見て、ティアナはどう思う」

 

「4人ともあんまり変わらない…まだまだ、甘い部分もある。ただ、ティアナは確かに4人の中では成長が遅いのは確かだと思う」

 

「それ故にあの焦り、か」

 

 才能はあると思うけどな…と、ヴィータはどこか心配そうな様子で呟いていた。だが、そこまで分かっているならば…とゼロの中に当然の疑問が生まれていた。

 

「だが、そこまで分かっているなら何故伝えない?」

 

「言っても多分聞いてくれない…少なくとも、今のティアナは」

 

「……」

 

 沈んだ表情をするヴィータ。それを理解しているのにも、何か理由があるんだろうと思うゼロだったが、ゼロはこれ以上ヴィータに何も聞かなかった。そんな話をしているうちに別荘に戻ってきたゼロとヴィータ。ヴィータは少し眠そうに目をこすりながら階段を上がる。

 

「んじゃ、ゼロ…お休み。お前もあんまり無理すんなよ?」

 

「…無論だ。はやてに釘をさされている」

 

「ははは、なら安心だな」

 

 そう言って部屋に戻るヴィータを見送った後、ゼロは警戒を続けるのだった。

 




Next「機動六課出張任務(後篇Ⅲ)」


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StirkerS本編②
14「ホテル・アグスタ」(前編)


お久しぶりです。遊戯王の方も投稿していたことからこっちの復帰に時間がかかりました。申し訳ありません……とはいっても、この小説を覚えている人はもうさすがにほとんどいないでしょう(汗

ゆっくり、投稿していくつもりです

ちなみに、本来なら先週末に投稿する予定だったのですが、ちょっと色々とあって遅れてしまいました。それについて、活動報告に記載しております
一応、タイトルとURLをば

小説投稿延期 コミケ参戦決定
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=116605&uid=25417

こちらに詳細を載せておりますので、ここでの説明は省かせて頂きます
これからも時間があるときにちょくちょく投稿する予定です
宜しくお願いいたします


 VAVAの襲撃から一夜明け、機動六課はその異常の無さを確認して警戒を解除。第一世界ミッドチルダへと帰還することとなった。とはいったものの、帰還するのはあくまで機動六課のメンバーとゼロたちのみであり、プレシア、アリシアの二人は海鳴に残ることになっている。そしてここで1人、自分もミッドチルダへ行くといったのが言わずもがなすずかであった。しかし、彼女も大学生という学生の身分である以上別世界などで過ごせばその今いる大学の単位などに影響が出てしまう。故にアリサにそれを止められてしまった。ただ、アリサもすずかの気持ちを理解しているのでたまに海鳴へと戻って来るという約束をゼロとしたことでこの問題は解決となった。そしてそれから月日は流れ、久々に機動六課が出動することになった。場所はホテル・アグスタと呼ばれる場所で行われる骨董品のオークション。任務内容はその警護である。出撃しているのはスターズ、ライトニングの両陣営、そしてロングアーチであるはやて、そしてゼロである。現在ははやてがフォワードの面々に今日の任務内容を伝えている最中だ。

 

「それで、今日向かう先はここ、ホテル・アグスタ」

 

「骨董美術品オークションの会場警備と人員警護。それが、今日のお仕事ね」

 

「取引許可の出ているロストロギアがいくつも出品されるので、その反応をレリックと誤認したガシェットが出てきちゃう可能性が高い、とのことで、私たちが警備に呼ばれたです!」

 

 つまり、今回の任務はかなりの確率で戦闘が予想される、ということだ。それを理解してか、フォワードの顔にも緊張の色が伺える。

 

「この手の大型オークションだと、密輸取引の隠れ蓑にもなったりするし、油断は禁物だよ。」

 

「現場には昨日から、シグナム副隊長、ヴィータ副隊長、数名の隊員が張ってくれている」

 

「私たちは中の警備をするから、フォワードは副隊長達と連携して警護に当たってね」

 

「「「「はい!」」」」

 

 元気のよいフォワードの返事を聞いて満足するなのはとフェイト。すると、キャロがそのシャマルの足元にある箱に目を向けた。

 

「シャマル先生、その箱……なんですか?」

 

「ああこれ? 隊長たちと、ゼロのお仕事着よ」

 

「「「「?」」」」

 

 シャマルは意味ありげに笑うが、その言葉にフォワードは首を傾げるばかりであった。

 

 

 

 

ホテル・アグスタ

 

「……何故、俺までこのような格好を?」

 

「ええやん、すごく似合ってるもん」

 

 ホテル・アグスタのパーティ会場。そこにゼロはいた。現在ははやてと共にそのホテルの中を巡回しているが、その2人の格好はいつもと一風変わっていた。はやてはその髪の毛をまとめ上げ、薄紫色のドレスに身を包み、ゼロはタキシードをその身に纏っていた。会場内で怪しまれないように、ということでゼロもいつものスーツではなくタキシードを着ているのだが、ゼロの容姿と今のはやての姿は別の意味で目立っていた。行き交う人々が二人へつい視線を向けてしまう。それほど、今の二人は魅力的と言えるだろう。

 

「えへへ、なんか恋人どうしみたいやね」

 

「そういうのはよくわからん……」

 

 そう言いながらゼロと腕を組んで歩くはやて。ゼロと2人で巡回警備を担当する、ということではやては非常に上機嫌である。立場上、仕事の忙しさの違いで一緒にいる時間が前よりも格段に減ってしまったことでゼロといられる時間を嬉しく思っており、訓練場で一緒にいるなのはに対して少し嫉妬してしまうくらいである。そんな様子にタキシードの下でおもしろそうに見守るクロワール……彼女も空気を読んでかそのタキシードのポケットで静かに二人を見守っている。だが、2人が会場を出て廊下を歩きだしてからそのクロワールの視線が鋭くなる。ゼロも同じく同様だ。今二人が歩いているのはホテルの廊下……そこには2人以外誰もいない。しかし、ゼロはその腰に装着しているホルスターのバスターショットへと手をかけた。

 

「ゼロ……?」

 

「誰だ? “先程”から俺を見てくるのは」

 

 ゼロの突然の行動に驚くはやてだが、はやてもゼロがこのような場所で冗談などをいうはずがないのを知っている。はやては瞬時にシュベルトクロイツを手に周囲を警戒する。すると、その廊下の曲がり角から1人の男性が姿を現した。緑色の髪に、白いスーツを来た男の姿。それを見てはやてが驚きの声を上げる。

 

「ロッサ!?」

 

「……知り合いか?」

 

「やあはやて、久しぶりだね。とりえず、その隣の紳士を落ち着かせてもらえるかい?」

 

 ロッサ、と呼ばれた男はそういってはやてに声を掛ける。はやてもゼロに大丈夫だから安心していいと促し、ゼロもそれに従う形でその手にかけていたバスターをホルスターの中へと戻した。

 

「それで、この男は?」

 

「ヴェロッサ・アコース査察官。私が昔から色々とお世話になってるんよ」

 

「初めまして、ヴェロッサ・アコースです。気軽にロッサと呼んでくれると嬉しいね」

 

「……ゼロだ。こっちにいるのはクロワール」

 

 そう言って握手をするゼロだが、やはりその警戒は終わっていないらしく、すぐにその握手をやめてしまう。

 

「俺を監視して、何をしようとしていた?」

 

「……ロッサ?」

 

「あー…その、あれだよはやて。誤解しないでくれ? カリムから機動六課に次元漂流者が来たって聞いてね。しかも、昔はやてから聞いた凄腕のロボットの剣士っていうじゃないか……これは是非観察して「……後で、カリムとシャッハに連絡したるわ」おいおい!?」

 

 どうも二人のやりとりを見ている限り、はやてが信頼を置いているらしいと判断したゼロは小さくため息を吐きながら警戒するのをやめた。一応敵ではないらしいので戦うこともないだろう、と判断したのだ。

 

「先程は失礼したね……まあ、見ていた理由は単純に妹分の隣にいる男がどんなやつか知りたかったのさ」

 

「次からそういう行動は気を付けるんだな。危うくバスターで撃つところだった」

 

「ああ、気を付けるよ」

 

 ロッサの言葉に全く反省していないな、という印象を受けながらゼロははやてとロッサが会話しているのを見守ることにした。はやてもロッサと楽しそうに話しているところを見るに、彼女が信頼しているというのがよくわかる。彼女も管理局で働き始めた当初はあまりいい目で見られることが無かったが、このように信頼のおける人間が10年で増えた、ということをゼロは実感する。しばらく会話をしていた二人だったが、突如ホテル内が謎の振動で揺れた。その揺れは単なる地震ではない。それと同時に何か所かで爆発音も鳴り響いているのが理解できた。

 

「「「!!」」」

 

 ことが起きてからは早かった。はやてがすぐに通信回線を開き、指示を飛ばし始める。ロッサは審査員の安全の確保のために会場の中へと戻っていった。

 

「ゼロ、ここから離れた場所にガジェットが確認された。今、シグナムたちが迎撃に向かってる。なのはちゃんとフェイトちゃんはホテルでの爆発の方へ行ってくれた」

 

「そうか……はやて、ガジェットの量は?」

 

「そこまで多くないみたいやけど……なして?」

 

 はやての言葉にしばし考えたゼロだったが、時間もないのですぐに自分の意見をはやてに伝える。

 

「少数で正面からの襲撃というのはおかしい。敵もこちらが待ち構えているのは承知のはずだ……ガジェットも機械であって自然発生したものではない。もし、ガジェットを向かわせたことに警備の人間が気を取られたら、オークションの商品はどうなる?」

 

「まさか、囮?」

 

「断定はできない。だが、そう考えるのが妥当だろう……俺は、オークションの品の場所に行く。たしか、地下の駐車場から搬入されるんだったな?」

 

 そう言いながらゼロはタキシードを脱ぎ捨て、いつもの戦闘用のスーツを身に纏ってヘルメットを装着した。

 

「ミッションを開始する。何かあったら連絡を頼む」

 

「……」

 

「はやて?」

 

「あ、うん……なあゼロ? 私、何か嫌な予感がするんよ。だから、気を付けて」

 

 はやてはこの敵の侵攻にたいしてゼロの言葉を受けて不安を感じていた。まるで、敵がゼロを1人に仕向けるかのようにしている。そんな風な印象をはやては受けていた。そんなはやての言葉に、ゼロは頷いた。

 

「わかった、何かあったら連絡を入れる……はやて、指揮は頼んだぞ」

 

「うん、任せて」

 

 はやての言葉を聞き、走り出すゼロ。はやてもそれを見送るとすぐに空中へディスプレイを展開してロングアーチとしての仕事を開始した。すでに補助としてシャーリーやグリフィス、そしてシエルが動いていた。

 

「ゼロ、気を付けてな……」

 

はやてはもう一度、そう呟くのだった。

 

 

 

 

 ゼロはそのホテルの廊下を走り続けていた。地下駐車場までは最悪なことにゼロが走り出した地点とは真逆の場所にある。

 

「ゼロ、ガジェットの反応がホテルの中にまで……」

 

「わかっている」

 

 どこからかの奇襲。まるでゼロを待ち伏せていたかのように廊下の窓から、天井からガジェットが出現する。ゼロはZセイバーを構え、そのガジェットたちを斬り伏せていく。ゼロにとって脅威でもないガジェットたち……しかし、そのホテル入口のロビーに差し掛かった時、強烈な殺気をゼロは感じ取る。思わず身構えるゼロだが、何も出てこない。その代りに聞こえてくるのはピアノの音色。ロビーに設置されたグランドピアノの音である。その奏でられる旋律は美しくも、明らかに現状では場違いである。ガジェットも襲ってこないその場所で奏でられるピアノ……ゼロはそのピアノへと視線を向ける。そのピアノの席に座り、ピアノを奏でているのは紫色のアーマーを身に纏い、肩には巨大な砲を装備した1体のレプリロイドの姿だった。

 

「お前は……」

 

「ピアノ……というものらしいな。音の組み合わせしだいで【芸術】と呼び、賞賛する。だが芸術という観念は絶対的多数の中にしか自分を見出せない者の戯言に過ぎず、己に絶対の自信を持つものはそんな戯言に惑わされることはない……特に、俺達のようなレプリロイドにはな。そうだろう? ゼロ」

 

「VAVA……」

 

 ピアノの椅子に座っていた男、VAVAがそう言いながら立ち上がり、ゼロを見据えていた。ゼロは手に持っていたZセイバーを握り直し、VAVAを見据える。記憶になくともこのVAVAというレプリロイドの実力は間違いなくトップクラスだ。恐らく、自分が今まで闘ってきた中でもオメガに次いで強いともいえる。

 

「この仕事を完遂させれば、雇い主から元の世界に帰すという話をもらった……その暁には今度こそ、エックスを俺が倒す……お前の首を手土産にな」

 

「……」

 

 おそらく、VAVAの中での時間はかつてエックス、そしてゼロがイレギュラーハンターである時代から進んでいないのだろう。故に、エックスが最早この世にはいないこともVAVAは知らない。だが、その事実を告げることはなく、ゼロはZセイバーをVAVAに向ける。

 

「やってみろ、できるならな」

 

「ククク、行くぞゼロォ!」

 

 その言葉と共にVAVAがゼロへと肩のキャノンを向けて発射する。その砲撃を回避し、ゼロは左手でバスターを構えて連射。それに反応したVAVAはその場を飛び退き、空中からゼロめがけてキャノンを放つ。しかし、ゼロはそれを更に回避して一気にVAVAとの距離を詰めてZセイバーを振り下ろした。

 

「セアッ!」

 

「チィッ……これでも食らえ!」

 

 その一撃がVAVAにヒットするとともに、VAVAの腕がゼロめがけて飛んできた。突然の事に反応できなかったゼロはその一撃を受けて吹き飛び、またしても距離が空く。

 

「今のは……」

 

『ゼロ! VAVAの腕、あれ、ロケットパンチだったわ……!』

 

 そのクロワールの言葉を聞いてゼロはVAVAへと視線を向ける。そのVAVAの腕が片方その中を浮いており、ゆっくりとその腕の持ち主であるVAVAの腕へと収まった。

 

「こいつを受けた途端、反射的にその身を引いてダメージを軽減したか。まあ、そのおかげでお前のセイバーの一撃もそこまでは食らわなかったが……ククク、面白い」

 

「……」

 

「どんどん行くぞゼロ! この程度じゃあ、終わらないよなぁ!」

 

「チッ……」

 

 そのまままた飛び込んでくるVAVAとそれに反応して駆け出すゼロがぶつかり合う。Zセイバーを振るうゼロと、その攻撃を避けながら腕のバルカンを、ロケットパンチを、肩のキャノンを乱射するVAVA。そのお互いの攻撃はホテルのロビーを見る影もない爆心地のような姿へと変えていく。そして、その猛攻に次第にゼロが押され始めた。

 

「チィッ……!」

 

「どうしたゼロォ! やっぱりお前弱くなったなぁ!?」

 

「セアッ!」

 

 チャージされたZセイバーが振り下ろされるも、VAVAはそれを避け、ゼロへと間合いを詰める。そして、その一瞬の隙をVAVAは見逃さなかった。そのVAVAの右腕が、ゼロにピッタリとくっついていた。

 

「っ……!」

 

「“ゴールデンライト”、こいつは効くぜぇ? ゼロ」

 

 そのVAVAの言葉と共に発射されるロケットパンチ。それを受けたゼロはその衝撃でホテルの外へと放り出された。

 

 

ホテル・アグスタ 外

 

「ティアナ! この馬鹿! 味方撃ってどうすんだ!」

 

 ゼロがVAVAと闘っていたその頃、そんなヴィータの怒号が響き渡った。侵攻してくるガジェット破壊のために防衛に当たっていたフォワードメンバー、そして副隊長であるヴィータとシグナム、そしてその補佐としてシャマルやザフィーラ、リインフォースだったが、そのガジェット迎撃の際に無理な迎撃をしたため、相棒であるスバルへフレンドリーファイアをしそうになってしまったのである。寸でのところでヴィータがそれを防いだからよかったものの、それが当たればどうなっていたことか……

 

「ふ、副隊長、これはその、こういう作戦で……」

 

「何が作戦だ! 直撃コースだったぞ! もういい、二人とも……」

 

 すっこんでいろ、ヴィータがそう怒鳴ろうとするも、その言葉は続くことが無かった。その防衛していたはずのホテルの入り口で爆発が起き、突如ガラスが割れて何かが吹き飛ばされてきたからである。ほとんどのガジェットを殲滅し、油断していた一同は突然の事態に驚く。その吹き飛ばされてきたのは真紅のアーマーを纏う戦士、ゼロであった。その体はバチバチと電流が走って音を立てており、ゼロを知る者たちは驚きを隠せない。

 

「ゼロ!? 大丈夫ですか!?」

 

「離れていろ、リインフォース。それと、すぐにこの周辺にいる人間を退避させろ」

 

「退避って、いったい何が……っ!?」

 

 何とか立ち上がり、肩を押さえているゼロの言葉に、シャマルがそのゼロが吹き飛ばされてきた方へと視線を向ける。そこにいたのは1体のレプリロイド。

 

「あれは確か……」

 

「海鳴でゼロと闘った……」

 

「ほぅ? 俺の事は知られているらしいな。だがどけ、貴様らに興味はない」

 

 いいながらゆっくりとその姿を見せるVAVAを見据えるシャマルとリインフォース。そして、獣形態だったザフィーラも人型形態へと変化し、構えを取った。ゼロの実力を知っているからこそ、ヴォルケンリッターたちはそのVAVAの強さを瞬時に理解した。負傷しているゼロを守るように空中にいたシグナムが、ヴィータが、地上にいたシャマルが、ザフィーラが、リインフォースが立ち塞がる。

 

「ククク、ほう? 俺とやるつもりか……? やめておけ、無駄だ」

 

 VAVAから発せられる凄まじい殺気が周囲を支配する。その光景に実戦に慣れていないフォワードのメンバーたちは震えていた。実戦で戦ってきたのはその目的を遂行しようとするガジェットたち、すなわち機械。だが、VAVAのように明確な殺意を放つ存在と相対するのはフォワードたちにとっては初めての事。

 

「う、うわあああああっ!!」

 

「ティアナよせ!」

 

 その恐怖を一番近くで感じ取っていたティアナがその手にあったクロスミラージュを構えた。ヴィータの叫びもむなしく、ティアナはそのトリガーを引いてしまった。そこから発射される弾丸。しかし、その弾丸をVAVAは避けることなく受け、爆発が起きる。しかし、VAVAには焦げ跡が付いた程度で損傷した様子はない。

 

「……人間ってのは本当に弱い生き物だな、なあおい?」

 

「あ、ああ……」

 

 その一撃、ティアナは恐怖に駆り立てられたとはいえ、決して手を抜いた一撃ではなかった。しかし、それを受けたVAVAは全く効いていない。VAVAは肩のキャノンをティアナへと向ける。

 

「攻撃してきたってことは、やり返される覚悟があってのことだよなぁ? 人間」

 

「ひっ……」

 

「逃げろティアナ!」

 

「あばよ」

 

 いつの間にかチャージされていたVAVAのキャノン。この瞬間、ヴォルケンリッターもVAVAへ向けて動きだすが、距離があるせいで間に合わない。ティアナはそのVAVAの殺気で動くことが出来ず、その場にへたり込んでしまっている。それ故に悟る、自分はここまでだ、自分は死ぬのだ、そう覚悟した。そして発射されるキャノン、その攻撃が当たる直前、そのティアナの前に何かが飛び出し、爆発が起きた。

 

「え……?」

 

「……無事か」

 

 死を覚悟し、目を瞑っていたティアナがゆっくりとその目を開けた。晴れる煙と共にティアナの前に立つ1人の人物がいた。真紅のアーマーに黒いボディ、そして美しい金髪の長い髪。それは、ヴォルケンリッターの後ろにいたはずの男

 

「ゼロ、さん……」

 

 ティアナの前には、自身の左腕を消失してもなお、ティアナを守るように立つゼロの姿があった。

 




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15「ホテル・アグスタ」(後編)

お久しぶりです。
最後の投稿は去年の6月……1年以上も開けてしまいました
申し訳ありません……待っている人なんているのか、と不安になりますが

遊戯王の小説の方ばかり書いていたことや、仕事の忙しさが増したせいで投稿が出来ませんでしたが、ようやく1つ書き終えたので投稿しようと思います。小説そのものも久しぶりだったので色々と不安要素がありますが、リハビリ感覚で書いているのでどうかご容赦くださいませ……
まあ、覚えている人ももういないとは思いますが、これからもひっそりと、たまーに更新して、最終回まで持っていけたらな、と思っています。
今度映画もあることですしね

最近はFate/Grand oderとロックマンゼロをクロスさせようかなんて妄想もしてますが……まあ、まずは目先の小説が先ですな

それでは、どうぞ


「ゼロ、さん……」

 

 目の前にいる戦士、ゼロの姿にティアナは驚きを隠せなかった。散々自分は不信の目を向けてゼロを避け、勝手にその強さを嫉妬していた。それなのにもかかわらず、ゼロはそんな自分を庇いVAVAの砲弾を受け止めていた。しかし、驚くべきはそこだけではない……今のゼロの姿に、ティアナとその場にいたフォワードメンバーであるスバル、エリオ、キャロも驚かざるを得ない状況だった。VAVAからの砲弾を防いだゆえに吹き飛んだ左腕。そこからは機械のコードが垂れ下がり、そのコードの先端がバチバチと音を立てる。また、ゼロの身体そのものもスパークを起こし、まるで身体が悲鳴を上げているようにも感じる。

 

「その、身体は……」

 

「……事情は後で話す。今は目の前に集中しろ」

 

 そういいながら残った右腕でZセイバーを構え直すゼロ。その先にある煙の中からゆっくりとVAVAが出現する。ティアナもその目の前にいる敵に恐怖しながら、その手にあったクロスミラージュを構え直す。しかし、そんな光景を見たVAVAは1つため息を吐くとその肩に装備された砲塔を下ろす。

 

「つまらん」

 

「……何?」

 

「つまらんといったんだ。ゼロ……貴様、いつからそんなに弱くなった?」

 

 VAVAは言いながらゼロを見るが、そこに先程まで剥き出しとなり、ティアナも恐怖していた殺気は微塵にもなくなっていた。むしろ、侮蔑や哀れみすら感じる。

 

「気が変わった……今回は“見逃してやる”。お前を殺してから、エックスを殺しに行くとしよう……どうやらクライアントの目的も果たせたようだしな。ゼロ、次に会う時はお前が死ぬ時だ」

 

 その言葉とともに、VAVAはその姿を消した。おそらく、転送装置のようなものを使ったのだろう。そのVAVAが消えた直後、ゼロがその場で膝をついた。どうやら相当な無理をしていたらしい。

 

「ゼロ!」

 

 その様子を目にしたリインフォースがすぐにゼロへと駆け寄った。その目には薄っすらと涙が浮かんでおり、今にも泣きだしそうだった。しかし、新人メンバーたちを前に泣くことはできず、必死にこらえているのだろう。倒れそうなゼロを支え、慌てた様子でゼロを見るリインフォース。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「……今のところは大丈夫だ。クロワールが俺の稼働補助をしている。俺のことはいい、この現場の指揮は部隊長補佐のお前の仕事だ」

 

「そ、そうでした……ヴィータ! 将! 周囲警戒を! シャマルとザフィーラはゼロをヘリの方へ! フォワードメンバーは集合を!」

 

 リインフォースの言葉にヴォルケンリッターたちが動き、ゼロはシャマルたちに釣れられて待機するヘリの方へと連れて行かれた。フォワードはそんなゼロを見つつ、リインフォースの元へと集まった。

 

「スターズ、ライトニングは裏手の周辺の警備を任せる」

 

『了か「ただし」……?』

 

「“今見たこと”に関しての他言は一切許さないということを覚えておけ。これは部隊長でも同じことを言うだろう」

 

 そのリインフォースの言葉に驚く4人。その声にはどこか怒気のようなものが籠っているようにも感じられる。というよりも、どこか表情は険しい。そんなリインフォースの剣幕にライトニング両名は頷くしかなかった……しかし、スターズ両名は納得がいっていない。その中でもスバルは特に気になっていたようで、耐えられずリインフォースを見た。

 

「部隊長補佐! あの、ゼロさんのあの腕、あの体はいったい……」

 

「……ゼロのことについては一切、他の局員のいる場所ではするな。それについての説明は後で部隊長にしてもらう」

 

「あの、どうしてそこまで……」

 

 エリオはそこまで言うが、リインフォースに睨まれて「すみません」と食い下がる。そんな様子を見てか、リインフォースは小さくため息を吐いた。

 

「すまないエリオ……ゼロのことは管理局に知られてはまずい存在なんだ」

 

「管理局に、ですか?」

 

「そうだ。他の何者でもない、我々の部隊を除く者達に知られてはならない。理由を知れば理解もできるだろう……以上だ」

 

 こうして、フォワードメンバーたちはホテルの裏手へと移動していく。ただ、スターズの二人は納得がいかないような表情であった。

 

 

 

 

「曹長。急いで頂戴! ゼロの体がどこまで持つか私たちにはわからないの!」

 

「わかってますよシャマルさん! にしたって、ゼロの旦那の体はどうなってんです、そりゃ!?」

 

「理由は後よ! あと、ゼロの事は他の人には言わないでね。説明はきっと部隊長がしてくれるはず」

 

 ヘリに乗り込んだシャマルはゼロをヘリの座席に寝かせてヴァイス・グランセニックに急いで六課に戻るようにと指示を飛ばす。ヴァイスもゼロの事は気になってはいるようだが、事情を説明できないことを察してか操縦に専念している。そんな風に焦っているシャマルに対して、ゼロは掠れる声でシャマルを落ち着かせていた。

 

「……シャマル、慌てるな。クロワールが欠損部分の補助をしている。それに、駆動系統に損害は出ていないから、死ぬようなことはない」

 

「ゼロ……ごめんなさい。私たちがいながら、また貴方に負担をかけてしまったわ」

 

「気にすることはない。この程度、設備があればすぐに治る。それに、VAVAは強かった……それこそ、以前話したネオアルカディア四天王……いや、コピーエックスにも匹敵するだろう。俺も少し、戦いの勘が鈍っていたのかもしれん」

 

 そうゼロが言うも、シャマル、そしてザフィーラは憤りに震えていた。そんな強敵達すら、ゼロは今まで退け、レジスタンスを導いてきた。今回の戦いでのゼロの負傷は明らかに自分たちの落ち度。もし、自分たちがあの場に居なければ、苦戦こそするかもしれないが、負けることはなかったかもしれない。ティアナを庇うとともに、ゼロはその防御力を底上げして後ろにいたヴォルケンリッターたちも守っていた事実を知っているだけに、シャマル達は悔しかった。シールド全体の耐久力が下がり、ゼロの左腕が吹き飛ぶ形となったことに関しても、本来ティアナは自分たちの部下で、ティアナを守るのも、そして止めるのも自分たちが行うべきだったはずだ。しかし、ヴォルケンリッター全員すらもそのVAVAの放つ凄まじい殺気に一瞬戦慄していた。故に、あの場での新人であるティアナが恐怖に駆られて起こした行動は、人間として正しい反応だったと言えるだろう。

 

「それに、武器に関してもZセイバーやシールド、バスターも全て“魔力カートリッジ”を取り入れた試作品だった。ガジェットには通用するが、レプリロイド相手には無理があったらしい。あれ以上クロワールに出力を上げさせていれば、武装が壊れていた」

 

 そう、VAVAが言った「ゼロが弱くなった」という理由はそのゼロの武装にあった。シエルが新しく開発したゼロの武装。シャーリーと共同開発した魔力が発生したデバイスに“見せかけるため”にカートリッジシステムを組み込んだ試作品の武装でゼロは戦っていた。長年愛用している武器ではない上、耐久性がいつもに比べて低いことから、加減した攻撃しかできないことでVAVAにはダメージが通らず、VAVAもゼロが弱くなったと錯覚を起こしていたのだ。

 

「シャマル先生! ザフィーラの旦那! ゼロの旦那! 六課が見えてきましたよ!」

 

 ヴァイスの声に、シャマルが顔をあげて前を見る。ヘリポートの付近にはすでにシエルが運転してきたであろうトレーラーとシエル、そしてシャーリーの姿があった。ヘリが着陸すると、すぐにゼロはトレーラーへと運ばれ、修理が開始される。シャマルはここまで運んできてくれたヴァイスにゼロについての説明と他言無用であることを伝え、はやてへと連絡を取った。

 

「はやてちゃん、シャマルです」

 

『シャマル!? ゼロは!? ゼロは大丈夫なん!?』

 

「六課へと帰還してレジスタンストレーラーへ運びました。シエルさんとシャーリーが修理を開始しています。損傷は左腕とそれを支える間接パーツ、及び骨格パーツの破損です」

 

 通信越しのはやての声は酷く震えていた。若干、涙声で喋っているようにシャマルは感じ、はやてが相当我慢しているのがわかった。その横では、リインフォースがはやてを落ち着かせている様子が確認できる。

 

「ゼロの腕も、スペアパーツとこちらの世界の素材で何とかなるとの事です。ですからはやてちゃん、はやてちゃんは部隊長としての指示をしっかりとしてください」

 

『シャマル……』

 

「それと、はやてちゃんたちにゼロから伝言があります。“心配しなくていい、仕事を終えたお前たちを六課で待つ”と」

 

『……ゼロ』

 

 シャマルが預かったゼロの伝言を聞いて、はやての目に光が灯る。すると、はやては気合をいれてなのかその両頬を両手で叩き、気合を入れ直していた。

 

『よっし! ゼロがそう言ってくれたならやるしかあらへんな!』

 

「はい。頑張ってくださいはやてちゃん」

 

 そう言ってシャマルは通信を切って修理中のゼロを見た。シエルとシャーリーが修理をする傍ら、メンテナンス用の培養槽からクロワールが出てシャマルの所へと飛んでくる。液体の中にいたからか、ボタボタとその水を垂らしていた。

 

「シャマル、タオルを取ってくれる?」

 

「ええ、わかったわ……って、クロワール。貴女はもう大丈夫なの?」

 

「攻撃を受けた衝撃でさっきまで頭がグワングワンしてたけど、今はもう大丈夫。とりあえず、エネルゲン水晶でエネルギーだけは回復できたから活動に支障はないわ。それよりシャマル。お願いがあるんだけど、クラールヴィントに収録されたVAVAの映像を見せて」

 

「え? ええ、いいわよ」

 

 シャマルから受け取ったタオルで体を拭きながら、ゼロとVAVAが映った映像を見るクロワール。その表情は真剣そのものである。普段のクロワールなら考えられないと思ったのはシャマルだけの秘密である。

 

「何か、気になることがあるの?」

 

 シャマルの問いに、クロワールは頷きながら映像を止めてVAVAを指さした。

 

「ええ。今回、VAVAと戦った時に思ったの。前に戦った時よりも受けた攻撃がとんでもなく重くて強力だって。それに、ロケットパンチなんて海鳴で戦った時にはなかったはず」

 

「誰かが改造を施したってこと?」

 

「恐らくジェイル・スカリエッティだとは思うわ……でも、おかしいと思わない?」

 

「え?」

 

 おかしい、とは何がおかしいのだろうか。クロワールの言葉にシャマルは首を傾げた。

 

「VAVAの残忍性と戦闘力は知っての通りだし、何よりVAVAの目的は元の世界に戻ること。目的が果たされたらスカリエッティはVAVAにとって用済みのはず……なのに、VAVAは洗脳された様子がない。言い方は悪いけどレプリロイドの洗脳って実は結構簡単なのよ?」

 

 実際、クロワールは把握していないが、過去にゼロが対峙した敵ではダークエルフの影響を受けて複数のレプリロイドがエルピスに洗脳されてゼロが戦ったことがある。ほかにも、ドクターバイルが従えていたバイルナンバーズももとはネオアルカディアに仕えるレプリロイドたちだったが、改造によってバイルの忠実な部下として洗脳され、残忍な性格に変貌していた。さらに言えば復活したコピーエックスことコピーエックスMk-2も盲目的にバイルのいうことを信用しており、あれも一種の洗脳だったのかもしれない。

 

「つまり、どうしてスカリエッティがVAVAを洗脳して自分の駒にしていないのかということが気になるのね?」

 

「ええ、その通り。レプリロイドがいないこの世界でVAVAを修理したとなれば間違いなく天才でしょうね。下手をすればVAVAの構造を理解してコピーまでされかねない。だというのに、何故スカリエッティは洗脳を施して手駒にしないのかしら。VAVAの言い方だとVAVAとスカリエッティは対等の立場のように語っていたわ」

 

 それがクロワールには理解できなかった。もし、戦力的が欲しいテロリストなら機能が停止している状態から改造を施し、自分に忠実な部下にすればいい。VAVAのように構造に欠陥があり、残忍な性格であるならなおさらの事だ。下手をすれば逆らわれて殺されかねない。だというのに、VAVAは改造まで施されてパワーアップしている。

 

「それについては、一度はやてちゃんたちが戻ってきてから考える必要がありそうね」

 

「ええ、そうね。今は、ゼロの回復を待ちましょう」

 

 こうして、機動六課の任務は終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

「ご苦労だったねVAVA。君と、ゼストたちのお蔭で私の欲しい物が手に入ったよ」

 

「フン……貴様の欲しかったものなど興味がない。どうせ、ロストロギアだろう」

 

「その通りさ。とても、重要なね……」

 

 そこはスカリエッティのアジト。その研究室らしき場所でスカリエッティ、そしてVAVAが立っていた。

 

「さて、と。これで君との契約は完了だね。望み通り、君を元の世界へ返そう」

 

「その件だが、まだ待たせてもらう。この世界でやることができたからな」

 

「ほう? 君が言っていたあのゼロというレプリロイドのことかい?」

 

 VAVAの言葉に、どこか意味ありげに笑うスカリエッティ。その笑みはそうなるだろうと予測していたものが当たったというような笑みだった。

「そうだ。奴を粉々に破壊し、元の世界でエックスを倒してこそ、俺は完全なる勝利を手にすることが出来る」

 

「なるほどね……」

 

 そう拳を握りスカリエッティに語るVAVA。だが、スカリエッティはこう言い放った。

 

「残念だがVAVA……君はもう、“必要ない(・・・・)”」

 

「なん……ガアッ!?」

 

 瞬間、VAVAの体を何かが貫いた。完全なる不意打ち。本来ならその熱源でセンサーが反応したはずだった。いや、正確には反応していたが、その速度が速すぎて避けることが出来なかったのだ。その攻撃を受けてその場に倒れるVAVAはスパークを起こし、起き上がることが出来ない。それを見てスカリエッティは笑っていた。

 

「ご苦労だったね、VAVA。君の役割は終わった……つまりは用済みだ」

 

「な、に……?」

 

「何故君のようなレプリロイドを洗脳せず、首輪まで外して自由にさせていたのか。それは君というサンプルケースを観察するためだったのさ。君の全力の戦闘データは洗脳しては手に入らないからね。なにより、報酬をぶら下げればやる気も出るだろう? 機動六課にいるもう一人のレプリロイドと戦わせることで君を通し、彼というレプリロイドを理解することもできた。そして、完成させることが出来た(・・・・・・・・・・・)

 

 コツ、コツ、とそのVAVAの後ろから足音がする。それはおそらくVAVAに不意打ちをした者の足音だろう。暗がりから光が当たるところへと姿を現した。その姿を見て、VAVAは驚きの声を上げる。

 

「き、貴様は……! 馬鹿な!」

 

「博士、止めを刺しますか?」

 

「必要ないよ。さっきの一撃は致命傷だ……時期に彼は止まるだろう」

 その声の主の問いにスカリエッティは手で静止させてVAVAを見る。

 

「君にはとても感謝している。何より、君というよりも……君の記憶(・・)にだがね。なにぶん、私の記憶(・・・・)だけでは不安定だった」

 

「ぐ、まさか、てめぇ……!」

 

「その通り。君のメモリーを見るためには君を起動する必要があった。そして、何より今日のオークションで手に入れたものは……()を起動させるためのパーツだったのさ。ありがとうVAVA、君はいい道化だったよ……だが、君はもう幕引きだ。あの世で彼を待つといい」

 

 その言葉を聞いて怒りがこみ上げたVAVAは最後の力を振り絞って肩に着いたキャノンの銃口をスカリエッティへと向ける。しかし、それと同時に再びVAVAを貫いたソレが発射され爆発を起こすことでキャノンは使い物にならなくなった。

 

「くそ、が……」

 

「危険を感知したため無力化しました、博士」

 

「ご苦労。君はもう下がっていいよ。コレの処分はガジェットにやらせる」

 

「はい」

 

 スカリエッティの言葉に頷き、声の主はスカリエッティと共にその場を立ち去って行った。意識が薄れていく中、その二人を見ながらVAVAは声を振り絞っていた。

 

「またしても、またしても俺の邪魔をするのか……おのれ、オノレ、おの、れ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……エックス(・・・・)!!!」

 




NEXT 16「力を求めた者」

今回でスカリエッティの正体に気が付いた人が結構いそう……


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16「機動六課の夜」(前編)

新年、あけましておめでとうございます(遅い

前回の投稿はえーっと……7月、という、半年空いてしまいました
本当に申し訳ない
小説の殴り書きみたいなことは家でチラホラやってはいるものの、どうにもモチベーションが上がらず、ぐだぐだしていたら時間が過ぎていました。
ソシャゲの周回はグダグダしながらもやるくせにね
前に言っていた、ゼロがカルデアに召喚されて一緒に人理修復する小説を書こうか悩み中。とはいっても、まだなーんも固まってないので、そちらは投稿するかも怪しいです(汗
Fate/Grand order知らない人にはなんのこっちゃとなりそうですが、要するに別小説書いちゃおうかなとか思ってるわけです

さて、今回は機動六課の夜ということで新規描き下ろしです
なのは、スバル、ティアナたちはどうなっていくのか……それぞれを前編、後編に分けました
それと、随分間が空いているので色々おかしいところもあるかもしれませんが、その都度ご指摘いただければ幸いです

毎度のことならが遅い更新になりますが、本年度もよろしくお願いいたします

あ、後、相変わらず感想、評価の方お待ちしております


機動六課 シエルの研究室

 

「……」

 

「ゼロ! 目が覚めたのね。よかった」

シエル……」

 

 ホテル・アグスタでの戦いから数時間後。無事にゼロの修復が完了してからしばらくした頃、ゼロはシエルが与えられた研究室にて目を覚ました。欠損した左腕は元通り回復しており、ゼロはその眠っていたベッドから降りる。

 

「どうかしら、どこか調子の悪いところはある?」

 

「いや、大丈夫だ。左腕も随分と馴染む……この世界の素材を使ったとは思えないな」

 

 修復前までは意識のあったゼロはシエルとシャーリーから説明でこの世界の素材を使って修復を試みると話していた。そんなゼロの言葉に、シエルはいいえ、と首を振った。

 

「それ、スペアじゃないの。貴方のオリジナルの腕よ」

 

「何?」

 

「なのはさんがね、現場検証の時に秘密裏に回収してここまで届けてくれたわ」

 

 そう、そのもとに戻った腕はVAVAとの戦闘で吹き飛ばされた左腕であった。元々、VAVAの攻撃によって吹き飛ばされただけであって粉微塵になったわけではない。ゼロの痕跡を残さないためになのは、そしてフェイトが秘密裏に調査してゼロの腕を発見したのだ。

 

「よく、他の局員に発見されなかったな」

 

「それが、無限書庫、だったかしら? そこにいる司書長さんが立ち入って、調査の手助けをしたらしいわ。その際、調査時は魔力が邪魔をするということで、他の局員さんをどけてもらったんですって。そのスキになのはさんたちが探したって聞いたわ」

 

「無限書庫の司書長?」

 

 それは、ゼロが聞いたことのある場所であった。かつて、1人仲間となった魔導師の少年がそこに勤務することになったということを聞いていたが……

 

「名前は確かユーノさん、だったかしら。ゼロによろしく伝えて欲しいとなのはさんから伝言を預かっていたけど……」

 

「ユーノ……そうか、アイツが今の司書長か」

 

「その人も知り合い?」

 

「ああ、9年前に知り合った。なのはのパートナーだ」

 

 彼こそが、なのはが魔法少女となるきっかけになった少年。ゼロも闇の書事件のあと交流があり、自分の世界に帰る手がかりやリインフォースの改善の手がかりを探すべく何度かそこに足を運んだことがある。その時は働きすぎで死んだ眼をしていたのが印象的だった。

 

「今度、礼を言いに行く。それと、シエル……フォワードに俺のことがバレてしまった」

 

「そう。もしかしたら、一緒に戦えなくなるかもしれないのね」

 

 それは、はやてたちと協力する際にゼロが提言したこと。もし、自分の正体がバレて管理局に広まることでゼロ達が身柄を拘束されるようなことになる場合、その時は機動六課を離れて独自の調査をし、協力するというもの。はやての立ち上げた部隊だからこそ、信用はできているがそれも絶対ではない。ゼロというレプリロイドの存在を明るみにしたくないからこそ、必要な行動である。

 

「フォワードメンバーといえば……ティアナさん、大丈夫かしら」

 

「ティアナ? あいつに何かあったのか?」

 

 VAVAとの戦いのとき、一番近くでVAVAの殺気を浴びて錯乱し、クロスミラージュを向けてしまったティアナ。ゼロが庇わなければ死んでいたであろう彼女を、ゼロが見たのは庇ったのが最後だ。もしかしたら、怪我をしていたのかもしれないと、ゼロは考える。

 

「ううん、ゼロのお陰で怪我はないし、フレンドリーファイアのことは、ヴィータさんが注意をする程度だったんだけど……似ているのよ、ティアナさん。あの時のエルピスに……ベビーエルフに唆され、力を求めて彷徨っていたあの時に」

 

「エルピスに……」

 

 ゼロにとって、その男の名は忘れられないだろう。親友のボディを打ち砕き、ダークエルフこと、マザーエルフを封印から解き放った人物なのだから。だが、シエルとしてはレジスタンスを奮い立たせ、自分たちを生き延びさせるために戦ってくれた大切な仲間でもあった。彼は確かに大きな失敗をした……しかし、それでも彼は自分たちの大切な仲間だった。だからこそ、彼にレジスタンベースに帰って来てもらうためにゼロに捜索を頼んだのだ。

 

「……私、ティアナさんと話してみるわ」

 

「何故、お前が? 心配なのはわかるが、これはなのはたちが解決するべき問題だ」

 

「確かにそうかもしれない。でも、やっぱり放っておけないの……このままだと、取り返しのつかないことになりそうな気がして。それに、彼女……実は結構優しかったりするのよ? 私やゼロに疑いの目を向けてはいても、私が困っていたら助けてくれた。それはほんの些細な事で、彼女にとってはなんでもないかもしれないけど……でも、嬉しかったわ」

 

シエルにとって、人間はとても遠い存在だ。レジスタンスとして戦っていた頃、人間はシエル1人であり、エリアゼロに住み始めてからも人との交流もあまりなかった。ネージュたちが親切に食事へ誘ったり、休日を利用して散策に誘ったりなどということもあったが、それでもまだ関わり合いは少ない。そんな彼女が最初に関わりを持った人間たちがフォワードメンバーの子どもたちである。年齢も近く、話しやすい彼女たちとは少しずつだが、距離が縮まっていた。そんな中でティアナも、シエルに対しては疑念こそあるが、別に交流が無いわけではない。主に相方のスバルに引っ張られて食事をすることがある。そこでティアナがシエルにした些細な手助けも、他愛のない世間話も、シエルにとっては新鮮であり、楽しい一幕でもあった。例え疑いを持とうとも、ティアナは自分と話をしてくれる。故に、話を打ち明ければわかってくれるだろうし、何より今のティアナを助けたいと思ったのだ。

 

「それに、エルピスのときのような事は二度と起こしたくないの」

 

「……わかった。お前がそこまで言うなら、お前のしたい通りにすればいい」

 

「ええ、頑張ってみるわ」

 

 そう言って、シエルは研究室を後に、ティアナの元へと向かうのであった。

 

 

 

 

機動六課食堂

 

 

 シエルが研究室を出た後、ゼロもクロワールを探しに機動六課内を歩き始めた。時刻は9時過ぎ。機動六課の業務も終了しているため、人はいないはずである。しかし、そんな食堂で声が聞こえ、ゼロはその声の方へと足を向けた。

 

「ゼロ、大丈夫やろうか……」

 

「大丈夫よ。シエルが見ているんだもの」

 

「そうだよはやて、今は待つしか無いよ」

 

「だからとりあえず、ご飯食べないと。はやてちゃんが倒れたら元も子もないよ?」

 

 そこにいたのははやて、クロワール、フェイト、なのはであった。食事を終えたのであろうクロワール、フェイト、なのは。しかし、そのはやての前にあるプレートの料理は手付かずであった。ゼロを1人で送り出したという責任が酷くのしかかっているのだろう。はやては一向に食事をする気配がない。そんな光景を見たゼロは一つ小さくため息を吐いてそこへ近寄った。

 

「はやて」

 

「っ……!? ゼロ……ゼロ!」

 

「すまない、心配をかけた……」

 

 目に涙を溜めて抱きつくはやてを受け止めて、優しく頭を撫でるゼロ。その姿は普段のゼロではあまり考えられない行動だが、その無我夢中で抱きついてくるはやてに対してはこうするのが一番だとゼロは考えていた。はやてがしばらく泣き続けて泣きつかれたのか、結局は食事を取らずに眠ってしまい、フェイトがシグナムを呼んではやてを部屋へと連れて宿舎へと戻っていった。クロワールもそれに付いていったため、その場にいるのはゼロと、そしてなのはの2人である。2人は食堂が閉まっていることから、食器の後片付けをしていた。

 

「ありがとうございます、ゼロさん。手伝ってもらって……」

 

「気にするな。お前達とユーノのお陰で腕の修復が早く終わった……礼を言うのはこちらの方だ」

 

 そう言いながら皿を洗うゼロになのははにゃはは、と苦笑する。こんなゼロを見たのはあの事件が終わってからのもの。なのははそこに少しだけ懐かしさを感じていた。

 

「それを言ったら、ゼロさんはティアナを守ってくれたじゃないですか」

 

「……一応、俺も教導補佐だ。教え子を守るのは当然だ、とヴィータが言っていた」

 

「今日のティアナのフレンドリーファイアも、敵に向けた発砲も、本当はもっと怒るべきだと思っています。じゃないと、またティアナは無理をしちゃうから……」

 

「……その右腕が、お前の無理の結果だからか」

 

「っ……!?」

 

 ゼロの言葉に、なのはは驚いた様子でゼロを見た。ただ、ゼロはそんな視線に目もくれず、皿を洗っている様子を見てなのはは察した。ゼロはとっくにその自分の『無理』に気がついていたのだと。

 

「どうして……」

 

「訓練の時、普段の生活でお前はどこか右半身を庇っているように見えていた。それに、袖の下の傷を少し前に見かけた。」

 

「にゃはは……やっぱり、ゼロさんには隠し事ができないなぁ……」

 

 かつて、魔法がなくなることを恐れていたあの頃、それをゼロに看破されたことを思い出す。あの時も二人きり、夜が遅い時間だったと。食器を洗い終えた2人は再び食堂の席に座った。なのはが今度は自分から聞いて欲しいから、とゼロに話を持ちかけたのだ。ゼロも特に問題はないと了承することにした。

 

 

 

 

 なのはから語られたのはゼロが自分の世界に帰ってから2年後のこと。管理局で働き始め、なのはも、フェイトも、はやてもそれぞれの道を歩き始めてしばらくしたころのことだ。なのははとある任務で瀕死の重症を負った。原因は過労状態での無理な魔法行使……自分の身体と、リンカーコアはすでに限界だったのだ。厳しいリハビリに耐え、Sランクまで戻ったなのはだが、その後遺症は今も彼女を苦しめていた。故になのはは自分の部下であるフォワードメンバーたちには自分と同じようなことにはなってほしくなかった。

 

「お前が基礎訓練をフォワードに重ねさせるのはそれが起因か……」

 

「はい。みんなには、私みたいになって欲しくはないんです……だから……」

 

 誰にも怪我をしてほしくない。壊れてほしくない……故に、その身体の強度をあげるための徹底した訓練を新人たちに課してきた。だからこそ、今回のスバル、そしてティアナのコンビネーションプレーによるフレンドリーファイアはある意味、なのははショックだった。自分の教えていない戦術、戦闘をしている。それは自分の教導が意味を成していないということだ。そんな沈んだ表情のなのはを見て、ゼロは小さくため息を吐いた。

 

「お前は相変わらず不器用なやつだ」

 

「ほぇ?」

 

「お前はその真意を一度でもフォワードに話したのか? いや、していないだろう。してあればスターズはあんな行動には出なかったはずだ」

 

「……」

 

 ゼロの言葉に、なのはは俯いてしまった。そのとおりだ、と。もしこのまま自分がその真意を話さなければ、今後スターズは自分の教導とは別に無茶な訓練をし始めるかもしれない。それどころか、ライトニングの2人も同じような行動を取り始めてしまうかもしれない。そんな不安が、なのはの中で生まれ始めていた。もっとも、すでにスターズの2人が無茶な訓練をしているのだが、それをなのはは知らない。

 

「打ち明けることが怖いか。お前自身の過去を……今のお前は、あの時(・・・)と同じ、迷っている眼をしているぞ」

 

「……そうですね。心のどこかで、あの子達に失望されるんじゃないか、信用されなくなるんじゃないかって、ここ最近ずっと考えていたんです。にゃはは……相変わらず、悪い方向にばかり考えちゃいます」

 

 高町なのはという人物は管理局において『エース・オブ・エース』という称号を持つ若くして管理局を支える存在だ。故に、なのはの過去の失態というのは管理局がイメージを悪くしないようにと公開していないため、なのはの経歴には事件を次々に解決した輝かしいものしか掲載がされていない。故に、真実をフォワードの面々が知った時、自分は失望されるのでは、信用されなくなるのではないか、となのはは不安と恐怖を抱いていたのだ。特に、教導官の立場にいるなのはが教え子から信用されなくなるというのは致命的だ。それによってフォワードメンバーがなのはの言葉に耳を貸さなくなり、また無茶な戦闘をして怪我でもしたら、それこそなのはの二の舞いとなるか、下手をすれば命を落とすかもしれない。だが、今のままでもいつかはまた無茶をするはずだ。しかし、過去を話さなくてもこのままではまた無茶をするかも知れない。そんな不安がなのはの頭をぐるぐると回っていた。

 

「お前の気持ちもわかるが……もう少し、信用してやれ。少なくとも、お前の過去を知ってアイツらが失望したり、信用しなくなったりするようなことはないはずだ」

 

 ゼロはそう静かに暗い表情だったなのはにそう告げる。少なくとも、ゼロから見たフォワードメンバーというのまだ子供だからこそ純粋になのはやフェイトたちを信用しているし、目標として頑張っている。そんな彼女たちがなのはの過去を聞いて失望したり信用しなくなったりというのは考えられなかった。

 

「そう、ですよね。ゼロさんに言われると本当にそう思えてきます。みんな、話をしたら理解してくれるでしょうか。私の教導に対する想い……私がみんなにしてきた、教導の意味」

 

「話してみろ……そうしなければ、そのお前の不安からは永遠に抜け出せない」

 

「……はい。ありがとうございます、ゼロさん。あの、その、ゼロさん」

 

「なんだ?」

 

「ちょっとだけその、私も抱きついてみていいですか? はやてちゃんみたいに」

 

 なのははそう顔を真っ赤にしながらそんなお願いをしていた。エース・オブ・エースといっても、19歳。まだほんの少しだけ、誰かに甘えたい部分が残っていた。先ほどはやてがゼロに抱きついたのを見て、自分も少しやってみたくなったのだろう。そのなのはの表情を見て、これは断ればまた落ち込むだろうというのを過去、似たようなことをするはやてから学んでいたゼロは、一つ小さくため息を吐き『好きにしろ』と言って立ち上がる。

 

「し、失礼します……ふぁ」

 

 ゼロに抱きついたなのははそんな声を出してギュッと力を込める。レプリロイドの身体の素材から少し固い部分もあるのは仕方がないが、それでもなのははまるで父の士郎や母の桃子に抱きついているのと同じ感覚を覚え、懐かしさを感じていた。ゼロもゼロで、はやてにいつもやっているように優しく頭を撫でていた。

 

「ご、ごめんなさいゼロさん、変なこと頼んじゃって……」

 

「別に構わない……お前も、いままでよく頑張った」

 

「……ふぇ?」

 

 突然ゼロにそんなことを言われ、思わずゼロに抱きついたまま固まってしまうなのは。だが、ゼロは気にせず言葉を続けた。

 

「お前のことだ。きっとここ最近無理をしていたのだろう。悩みを打ち明けられず、ずっとそれでもどうにかしようと、一人で頑張っていた」

 

「っ……! は、い! 私、頑張っていました……! でも、うまくいかなくて、どうしようって……」

 

 まるで懺悔をするように、なのははゼロの胸元で涙を流して呟いた。基礎訓練を重ね、新人たちが壊れないようにとメニューを組み、指導をしてもいざ実践するとその指導とは違う戦い方までされてしまう。きっと自分の指導の仕方が悪いのだ。ならばもっと頑張らなければ……と、なのはは無理をし続けていた。ヴィータやフェイト、はやては気がついて声をかけるも、なのはは「なんでもない」「大丈夫」と弱い自分を見せないようにしてきていた。故に、ゼロにそう励まされたのがなのはにとってはまるで救われたかのように思えてしまうのだ。

 

「俺だけじゃない。はやても、フェイトも、ヴィータ達も、お前の味方だ。お前は一人じゃない……ソレを忘れるな」

 

「……は、い!」

 

 ゼロはそう言って、その涙を流すなのはが泣き止むまで、ずっと慰めてやるのだった。

 

 

 

 

 

 

「ゼロさん。本当にありがとうございました……それと、おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ。また明日、訓練場で」

 

 それからしばらくして、なのははようやく泣き止んだのでゼロが離れて寝るように促す。なのはは少し名残惜しそうにしながらも頷き、食堂を後に自分の部屋を目指す。

 

「……ゼロさん」

 

 自室に戻りながら歩くなのはは、そう静かにゼロの名を呼ぶ。自分のことを理解してくれたゼロは、いつしかなのはの中でとても大きな存在になっていた。幼き頃迷い、怯えていた自分に道を示し、そして今日もまた、弱い自分のことを受け止めてくれた。初めて出会ったときには互いに敵同士だったが、今では大切な仲間であり、友達であり、そして……なのはが唯一、己の弱さを打ち明けられる相手。

 

「ああ、そっか……」

 

 なのははそこで理解する。理解してしまう。この自分の中にあるゼロに対して生まれた感情は何か。どうしてこんなにもゼロの顔が頭に浮かぶのか。どうして、自分が親友たちにすら秘密にしていた不安を打ち明けられるのか、そして、こんなにも、あの時抱きしめられた感覚が名残惜しいのか……決して口にはしないが、ソレを理解したなのはは笑みをこぼす。

 

「頑張ってみちゃおうかな……はやてちゃん達に負けないように」

 

 誰もいない機動六課の廊下で、なのはは静かにそう呟くのだった。

 

 

 

 

「……さて」

 

 食堂でなのはを見送ったゼロは、なのはの方はコレでひとまず大丈夫だろうと確信をし、視線をその反対側へと移した。

 

「出てこい。そこにいるのはわかっている」

 

「……」

 

 ゼロの言葉とともに、そこに1人の人影が現れる。それは、フォワードメンバーの1人であり、なのはを最も尊敬するスバル・ナカジマの姿だった。

 

ゼロの夜は、まだ終わらない




……なんか、なのはがチョロインみたいになってしまった
着々と増えていくシエルのライバル……どうなるのか、次回もお楽しみに


NEXT「機動六課の夜」(後編)


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17「機動六課の夜」(後編)

メリークリスマス!!!(やけくそ)
皆さんお久しぶりです。秋風です
更新が約1年ぶりという……しかも、クリスマスまでもう時間もないという
遅くなって本当に申し訳ありませんでした

まあ、この小説を見てくれている方が未だにいるかも怪しいですが、時間はかかると思いますが、完結までは持っていくので気長に待っていただければ幸いです。
これからも、宜しくお願いいたします。引き続き、感想、評価、ご意見もお待ちしております。

最後に、もしこの小説のリメイク前、にじふぁんでの小説データで持っているというかたがいらっしゃいましたらご一報をお願いします。データを無くしたため、そのデータが欲しくて探しております……(汗

今回はスバル&ティアナの回になります。では、17話をどうぞ



 なのはが立ち去ったあとの機動六課の食堂。そこに二人の人物がいた。一人は先程までなのはと話していたゼロ。そして、もう一人はスターズ3のスバル・ナカジマである。スバルはやや驚いたような様子でゼロの前に現れた。

 

「あの、どうして……」

 

「人の視線や気配はこの静かな食堂では目立ちやすい……それと、お前の髪がチラチラと見えていた」

 

 歴戦の戦士であるゼロだからこそ、その人の視線や気配を察知できるのだが、そのなのはとゼロの様子を気になって思わず顔を出してしまっていたところをしっかりと見られてしまった故にバレていたスバル。そんなスバルにゼロは言葉を続けた。

 

「それで、俺に何の用だ。俺に聞きたいことがあってわざわざ就寝時間が過ぎた時にやってきたんだろう?」

 

「……はい。ゼロさんに、聞きたいことがあってきました」

 

 ゼロの問いに、スバルは頷いてゼロを見る。ゼロは近くの席に座るように促して座り、スバルもソレに釣られるように席についた。

 

「聞きたいことは、大方俺の体についてか」

 

「は、はい……」

 

 なんとも気まずそうに、スバルは頷いて答える。ティアナを庇った時に吹き飛んだ腕から垂れていたコードや、体のところどころに走っていたスパーク。そして、吹き飛んだはずのうでは既にゼロの腕についている。これで普通の人間というのは無理があった。

 

「俺はレプリロイドだ。高度なAIを搭載したロボット……といえばわかりやすいか。予測していただろうが、人間ではない……少なくとも、お前のように人間の体である部分は有していないぞ、スバル」

 

「っ……!」

 

 ゼロの言葉に、スバルの顔が強張った。ゼロがロボットであるということについての驚きではない。否、ゼロがロボットという事実にも十分驚いたが、それ以上にゼロの最後の言葉の部分にスバルは驚いているように見えた。これではまるで、スバルもゼロと同様に人間ではないとゼロが知っているような言い方だった。

 

「ど、どうして……」

 

「お前から微かに聞こえる機械の駆動音だ。最初は体の四肢が義手義足であるかとも思ったが、ソレにしては動きが“あまりにも自然すぎる”。しかし、俺と同じようなレプリロイドだとしても、人間と同じように食事をし、戦闘訓練などでも汗を掻いているのはロボットとしては逆に不自然だ。故にお前は人間の体を持ちながら体の各所に機械を搭載していると考えた」

 

「……はい。ゼロさんの言うとおりです。私は……いえ、“私も”、普通の人間とは別の……『戦闘機人』と呼ばれている存在です」

 

 ゼロの予測に、スバルは頷き、静かに自身のことを打ち明けるのだった。

 

 

 

 

 ゼロがスバルから聞かされたのは、自分と姉が戦闘機人であることと、この世界に存在する戦闘機人という存在について。人体に身体能力を強化するための機械部品をインプラントし、人の身体と機械を融合させ、常人を超える能力を得たサイボーグの総称であること。天賦の才や地道な訓練に頼る「魔導師」とは異なり、誕生に人為的な力を介在させることで安定した数の武力を揃えられる技術であるが、倫理的な面に大問題を抱えており、現在、ミッドチルダの法律では違法とされる技術でもあるのだという。鋼の骨格と人工筋肉を持ち、遺伝子調整やリンカーコアに干渉するプログラムユニットの埋め込みにより高い戦闘力を持つのだから、確かにスバルがゼロを自身と同じような存在なのではと思うのも無理はないだろう。そして、スバルはそんな自分の出生には謎が多くあり、故にゼロも同じ戦闘機人ならソレについてなにか情報を得られるのではないかと思ったのである。

 

「なるほど、それでお前は俺を戦闘機人だと思った、と」

 

「……はい」

 

 一通り話を聞いてから、ゼロはそうスバルに問いかけた。スバルもそのゼロの言葉に頷いてゼロを見ている。スバルにとってゼロは最初こそ自分たちの任務でフォワードメンバー全員を助けてくれた恩人であり、この機動六課に協力してくれている仲間だという認識だった。しかし、ホテルアグスタでの戦いでゼロの姿を見た時、スバルは直感的にゼロが自分たちと同じ戦闘機人なのではないだろうかと思い込んだ。故に、スバルはゼロのことをもっと知りたいと思い、ゼロにこうして話をすることにしたのである。しかし、ゼロは戦闘機人ではなく、すべてを機械で構成するレプリロイドという存在。人の形をしていながらも、人ではないゼロの存在はスバルに大きな衝撃を与えていた。

 

「確かに、俺(レプリロイド)とお前(戦闘機人)は似てはいるが……まったく違う存在だ。残念だが、お前の出生についてはわかるような情報はないだろう」

 

「そう、ですよね……すみませんでした」

 

「……それで? 他に何が聞きたい」

 

「っ……!」

 

 ゼロがそうスバルに問いかけた瞬間、スバルの表情が強張った。スバルが本当に聞きたいこと……それは、自分の出生についての情報など二の次。ゼロに聞きたいのはまた違うことだった。

 

「ど、どうして……」

 

「かつて、何度か似たような目をしたやつを見てきた。迷ったり、思い悩んだり、苦しんでいる、そんなやつの目を」

 

 かつて、なのはが自身の今後について悩んでいた頃や、フェイトが自分の出生で思い悩んでいたときの目。スバルの目はゼロからすれば同じように見えていた。それは、かつて戦った戦士、クラフトも似た目をしていたからこそ、ゼロはそれを理解できたのだろう。その鋭い眼差しに、スバルは嘘をつくことは出来ないと観念したのか、静かにゼロに問う。

 

「ゼロさんから見て、私は、戦闘機人は、人間に見えるでしょうか……」

 

「……」

 

 いつも明るく笑顔を絶やさないスバルからは考えられないほど落ち込んだ表情で、ゼロに問いかける。彼女の悩み……それは、自分がまっとうな人間ではない、普通の人間とは違う形で生まれて生きていることについてだった。自分の事情について知っている者たちは自分を人間として扱ってくれている。ある者は自分を家族として、ある者は自分を友人として、自分に接してくれている。それは、とても嬉しいことだ……だが、その気持ちの裏で「自分は本当に彼らと共にいることは正しいのか」と思ってしまう。自分は人間ではなく戦闘機人……“人間”ではないのだ。もし、自分のことを今後知る人が増え、自分のことを知った人間から自分が拒絶されたら、怯えられたらと思うと、震えが止まらなくなる……故に、自分と似た存在、否、自分と同じように人ではないゼロから見て、自分はどう映るのか、それを聞いてみたかったのだ。

 

「……俺から見ても、お前は人間には見えない。当然だ、お前は戦闘機人なのだから」

 

「っ……!」

 

「だが、お前が人間でありたいと願うなら。お前は人間であり続けられるはずだ」

 

「……え?」

 

 ゼロの否定する言葉に、一瞬辛そうに顔を歪めたスバルだったが、そのゼロが続けた言葉に、スバルは思わず声を漏らす。

 

「お前が戦闘機人であることは覆しようのない事実。人間にはなれないが、それでも“機械”ではなく“人”として生きることをお前が願い、望むのならば、お前は人であり続けられるはずだ」

 

 それは、ゼロ自身が同じようにしているからこそ出た言葉。ゼロとスバルは少しだけ似ていた。かつて、自身の肉体と精神を分けられ、精神を写し身の体に入れられたゼロ。それによってまがい物であるとまで言われていた。しかし、友は言った。「心はまぎれもなく本物」だと。故に、その言葉を信じて自身をゼロだという。たとえ、自分の体が写し身の体だとしても、自身をゼロであることを望み、ゼロでありたいと願った。だからこそ、ゼロはゼロでいられるのだ。かつて、フェイトに言ったときと同じように、ゼロはスバルにそう話す。

 

「戦闘機人、と呼ばれている以上、戦闘機械になることも、人になることも可能だろう。たとえ他人からなんと言われようとも、お前が人間であり続けようと思うのならばお前は人間でいられる。大切なのは、お前がそう願い続ける心だ。スバル・ナカジマ」

 

 自身が望み続けるのならば人間でいられる。ゼロの言葉に、スバルの目からは自然と大粒の涙がボトンとテーブルの床に落ちていた。

 

「あ、れ……? なんで、涙が……す、すみません! ちょっと待っていてください!」

 

 そう言ってTシャツの袖でその涙を拭うが、一向にその涙が枯れる気配がない。そんな様子を見て、ゼロは一つ小さなため息を吐いて立ち上がると、持っていたハンカチでその涙を拭ってやる。

 

「あっ……」

 

「……今までよく頑張った」

 

 よく頑張った、とは、スバルが今まで思い悩んでいたことを誰にも打ち明けていないという予測故に出た一言だった。そのスバルの悩みの深さはゼロにはわからない。しかし、いつも笑顔でいるスバルが涙を流して泣いているのだから、その悩みの深さは相当なものだったのだろう。我慢ができなくなったスバルは思わずゼロに抱きつき、声を出して泣き始めた。ゼロもそれを振り払わず、先程はやてとなのはへしたように抱きとめ、スバルが泣き止むまで優しく頭をなで続けて慰めるのであった。

 

 

 

 

 ゼロがスバルと話をしている丁度同時刻。

 

「シューット!」

 

 スバルの相棒であり、スターズ4であるティアナは食事を終えて、一人で猛特訓をしていた。出現させたスフィアを撃ち落とす簡単なもの。しかし、その撃ち落とす明確な射撃、そして一撃で落とす威力、それを何時間も行えば当然無理も生じるのだが……

 

「もっと……まだ足りない……!」

 

 身体に負担をかけてしまうその特訓を何時間も繰り返すティアナには、今日のような失敗をもう二度としないために、と訓練に励む。しかし、その脳裏にはあのVAVAの顔が映っていた。あの恐怖の対象でしかない男を忘れようと、がむしゃらに特訓を重ねる。もちろん、そんな無理な訓練は許可されているわけが無く、隊長であるなのははティアナの特訓は知らない

 

「あ……」

 しかし、その無理が祟ったのか、突然目まいが起き、ティアナはその場に倒れこんでしまった。

 

(あたしは凡人なんだから、強くならなきゃ……もっと……もっと……!)

 ティアナの意識は、闇の中へと溶けていくのだった。

 

 

 それからしばらくして、ティアナは再び意識を覚醒させた。そこには、予想外の人物の顔が映り込んでいた。

 

「……あ、れ? 私……」

 

「あ、ティアナさん。目が覚めました? 良かった……」

 

「え……シエル、さん?」

 

 意識を覚醒させたティアナの目に飛び込んできたのは、自分が疑念を抱いている少女、シエルだった。彼女が自分を上から覗き込むように見ていることに驚く。自分は今まで一体何をしていたのか、と。自分は確か、今日の戦闘でのミスを隊長、副隊長に叱られ、その後そのミスの悔しさから自主練をしていたはずだ。だというのに、どうして自分はシエルに膝枕をされているのか……と

 

「そこの林の中で倒れていたの。それで、このベンチまで運んできたんですけど、うなされていたみたいだったから……クロスミラージュさんが私を呼んでくれなかったら、きっとそこで寝たままだったと思うわ」

 

 そう言いながらニッコリと笑みを見せるシエル。そんなシエルにティアナはなんと言っていいかわからず、頭を抑えながら体を起こした。すると、シエルはそんなティアナにスポーツドリンクを差し出した。

 

「どうぞ。ちょっと、ぬるくなったかもしれませんけど……」

 

「あ、ありがとう……」

 

 お礼を言ってスポーツドリンクを受け取り、ティアナはそれを口にする。ぬるくなった、と言っていたがそんなことはなく、程よく冷えたスポーツドリンクが体の中に染みていくのがわかった。スポーツドリンクを飲み終え、ティアナは改めてシエルへ疑問を問うことにした。

 

「……でも、どうして貴女がここに?」

 

「少し散歩していたのと、ティアナさんとお話がしたかったから」

 

「私と?」

 

 ええ、とシエルは頷くも、そんなシエルにティアナは疑問を抱く。自分はゼロと、そしてシエルに対しては不信感を抱いている。ソレはおそらく、シエル自身も理解していることだろう。だというのに、そんな自分と話がしたい、というのはいったいどういうつもりなのか。

 

「今日の戦闘での失敗のことで、すごく自分を責めているみたいだったから」

 

「……」

 

 シエルの言葉に、ティアナの表情は険しくなった。なぜ、この人がそのことで自分のところに来たのかと。今日の自分のミスショットについて彼女は全く関係ないし、心配されるのも余計なお世話だ。そうシエルに言おうとしたティアナだが、それは叶わなかった。

 

「ティアナさんのお兄さんこと、ヴィータさんから聞いたわ。それに、実力がついてないと言って、毎晩なのはさんたちに黙って自主練習をしていることも」

 

「んなっ……!?」

 

 シエルの言葉に、目を見開くティアナ。まさか、夜に禁止されていたはずの自主練習のことが副隊長であるヴィータにバレていたとは。シエルが自分の事情について知ったということに怒りを覚えたが、その内緒にしていた自主練習がバレていることに驚いてそんな怒りの感情はどこかへと行ってしまっていた。

 

「みんなに近づくために、強くなろうとすることはとても立派だと思う。でも、そんな風に体を痛めつけてまで訓練をすることは……きっと、お兄さんも望んでいないと思うの」

 

「っ……! うるさいっ! 貴女に何がわかるっていうのよ!」

 

「確かに、私は貴女のことを深く理解しているわけじゃないわ……でも」

 

「だったらほっといてよ! 貴女には関係ないじゃない! 私は強くならないといけないの! 凡人の私にできるのは、練習の量を増やして実力を上げることしかないんだから!」

 

 関係ない……ティアナにとって、シエルは仲間と認識しているわけではない。敵なのではないかという疑念すらある。そんな彼女に、自分のことは関係ないだろう、と、ティアナは立ち上がってそう言葉をぶつける。しかし、シエル引こうとはしない。

 

「確かに、関係ないかもしれない。でも、貴女のその気持ちはとてもよくわかる」

 

「なんっ……」

 

「私もかつて、大切な人を失ってしまったことがあるから」

 

「っ……!?」

 

 シエルの言葉に、ティアナは思わず息を呑む。驚くティアナにシエルはかつて自分が自分たちの世界でレジスタンスとして活動していたことを告げた。そして、とある者を甦らせるために、『二人』の人物を失ってしまったことも

 

「私の目の前で、彼らは死んでしまった。その時、私は思ったわ……私に、もっと力があったならって……」

 

「……」

 

「でも、私はレジスタンスのみんなやゼロのように戦う才能はないし、技術もない……無理に力を得ても、それは所詮付け焼刃……すぐにほころびが出てしまう」

 

 何度、シエルは自分の無力さを嘆いたかはわからない。自分の間違いに気が付き、不当な廃棄処分を言い渡されたレプリロイドたちを連れてネオ・アルカディアを出た。でも、そんな自分たちをネオ・アルカディアが見逃すはずもなく、何人もの仲間が殺されてしまった。そんな時思った。自分に戦う力があれば、みんなを守れるのに……と。しかし、シエルは所詮人間の少女。とても戦うことはできなかった。故に、彼女は別の道を取ることにした。

 

「だから、私は自分にだけできる精一杯をしようって決めたの。他人を真似ることはできない……ならせめて、私が得意とする『科学の力』で、みんなを助けたいと思った」

 

「自分にできる、精一杯……」

 

 その結果、彼女はシステマ・シエルを生み出し、エリアゼロで再び人間とレプリロイドが共存できる場所を作ることが出来た。戦うことが出来ない彼女だからこそできた選択と言えるだろう。

 

「私にもあった、自分にだけできる精一杯……だから、きっと、ティアナさんにもあるはず。貴女にだけできる精一杯が」

 

「あたしにだけできる、精一杯……」

 

「ティアナさんは、確かに戦う力がみんなより劣っているかもしれない……でも、その代わりにきっと、ティアナさんにしかできない、精一杯できることがあるはず。そして何より、貴女は一人じゃない……スバルさんたちも、きっと貴女だけが強くなることなんて望んでいないと思うわ」

 

 シエルの言葉に、ティアナはその視線を落として自分のデバイス、クロスミラージュを見つめていた。そんなティアナの手を、シエルが優しく包み込む。そんな彼女の優しさに触れてか、ティアナは冷静になり改めて、今までの自分の事を振り返った。他のフォワードメンバーやゼロに嫉妬して、一人で無茶な訓練を続けてきたことを。確かに個人の能力を上げることは間違っていない。凡人である自分が他のメンバーたちに追いつくために……しかし、自分一人の能力を上げるだけでは意味が無い。今の自分は一人で戦っているわけでも、スバルと二人で戦っているわけでもない。スバルはもちろん、それにエリオやキャロと、そしてなのはやヴィータ、フェイトやシグナム、そしてゼロと共に戦っているのだ。確かに、このメンバーの中では自分は火力不足だが、自分が必要なのはそこではない。センターガードとしてより正確に、より早く敵を打ち抜くための判断力と、チームを指示するための視野の広さが必要になる。それは、自分のしてきた今までの訓練ではまったく伸びていないことだった。しかし、ティアナはそれこそ自分にできる精一杯であることを理解する。そして、もう一つ理解する……自分が今までどれだけ愚かなことをしていたのかと。

 

「……シエルさん、ありがとうございます」

 

「ティアナさん?」

 

「シエルさんの言うとおりです。あたし、どうかしていた……みんながいるのに、みんな、一緒に戦う仲間なのに、勝手に嫉妬して、自分だけ強くなろうとして……無茶をしてスバルを危ない目に合せて……私がすべきことは、あたしが出来ることは、それだけじゃないのに」

 

 そう言いながら、ティアナは今までの自分を振り返って悔しそうに自分のデバイスであるクロスミラージュを握る。

 

「あたし、ゼロさんにも嫉妬していたんです」

 

「ゼロに?」

 

「ゼロさんと初めて会った時、スバルたちはただその力に驚いていました。でも……あたしはただただ『“怖かった”』。あの人が見せる、その圧倒的な力が。でも、同時にそんな力を持っているゼロさんを羨ましく思ってしまっていました」

 

 ゼロとの出会いで、自分の力不足であることを更に抱くこととなったのは間違いない。圧倒的なその力に恐怖し、そして嫉妬して、いつしか、自分以外のメンバー全員に自分は劣る凡人だと思うようになってしまった。

 

「冷静に考えてみれば、馬鹿みたいですね……あたしって。失敗のことを気にして、倒れるまで訓練をするなんて」

 

 先程シエルが言ったとおり、得意でない所を無理に伸ばしてもそれはただの付け焼刃。熟練、熟知した力こそ、誰よりも勝る力になる。自分も輝いてはいないものがある。例えばの話だが、相対して輝きを放つ上司のなのはは、その10年という年月をかけて極めたからこそ得た輝きなのだ。

 

「そんなことはないわ。それに、力を求めるのは誰もが考えることよ……でも、力を求めすぎるあまり、暴走してしまうのも、それもまた間違いなの」

 

「シエルさん……?」

 

「……昔、私たちの仲間にいたわ。力を求めるあまり、狂ってしまった人が。その人は、私とゼロがいたレジスタンスの司令官だった。当時の私達にとって、とても心強い仲間だった」

 

 かつて、ゼロが自らを囮として自分たちを逃した後のことをシエルは思い出す。自分たち以外のレジスタンス。そんな彼らと合流した時は、ゼロがいなくなったこともあってとてつもない喜びと安心を得たのを覚えている。その別のレジスタンスにいた男に司令官を任せることにした。その男の名はエルピス。ゼロと再び合流するまでの間、自分や他のレジスタンスのメンバーを支えてくれた大切な仲間だった。

 

「でも彼はある時1つの失敗をした……急ぎ過ぎて、取り返しのつかない、大きな失敗を」

 

「……一体、何を」

 

「“正義の一撃作戦”……そう名付けられた作戦で、作戦に参加した彼以外のメンバーが、全員戦死してしまったの」

 

「っ……!?」

 

 その時のことを、シエルは今も後悔していた。あの時、自分がもっとはやくシステマ・シエルを完成させていたら、もし、あの時無理にでもゼロに頼んでエルピスを取り押さえてでも作戦を中止にできていたら……彼が作戦を失敗することもなかっただろうし、彼が狂ってしまうこともなかったのかもしれない。

 

「その1つの失敗から彼は狂ってしまった。力を求め、人間を抹殺することで彼は英雄になろうとしたの」

 

「そんな……」

 

――力が欲しい……力が欲しいよ……力を手に入れ……ネオ・アルカディアを、人間を滅ぼし……今度こそ……英雄になってやるんだ―――!

 

 あの時の狂気に満ちたエルピスの声を、そして顔をシエルは今でも忘れない。結果として、ゼロの親友であるエックスのボディを砕いてダークエルフという力を得たものの、最終的にはゼロによってその野望は打ち砕かれた。

 

「彼が失敗によって狂ってしまったあの時の目……さっきのティアナさんととてもよく似ていたの」

 

「……!」

 

「だから、もしかしたらティアナさんがその失敗を悔いてもっと無茶をして、今度はスバルさんたちすら巻き込んで、大きな失敗をしてしまうんじゃないかって、私は思ったわ。だから、私はどうしても無茶な訓練をしていた貴女を止めたかったの」

 

「シエルさん……」

 

 そんな風に語るシエルの笑顔は、儚く、そして寂しげだったとティアナは思った。そんなことを思っていたティアナを、シエルは優しく抱きしめる。

 

「あっ……」

 

「だから、どうか……今日の失敗をずっと責めて抱えこまないで。もし、私たちを信頼してもらえるときが来たら……その時は遠慮なく、私たちにも相談してね」

 

「……シエルさん。ありがとう、ございます」

 

 抱きしめられたティアナはそう静かにシエルに抱きしめ返す。その頬には、一筋の涙が零れ落ちるのだった。

 

 

 

 

翌日

 

「早朝から失礼します、なのはさん」

 

「ティアナ? どうしたの?」

 

 朝練が始まるだいぶ前。いつもならティアナがスバルと一緒に自主練習をしている時間。しかし、今日はその朝練をせず、なのはが部屋から出るのをずっと待っていた。そんなティアナに首を傾げるなのはだが、そんななのはに構わず、ティアナは思いっきりなのはに向かって頭を下げた。

 

「すみませんでした!」

 

 突然の謝罪に驚くなのはだが、そんななのはにティアナは今まで自分が無断で訓練をしていたことを話した。なのはが教えていた教導に背いた訓練をして、教えられた戦い方を無視した技術すら覚えて戦いに取り入れようとしたことを……しかし、それを聞いたなのははティアナを咎めるようなことはしなかった。むしろ逆に、なのはもティアナに謝罪をした。かつての自分と似たような事態になっていたのにも関わらず、それに気が付くことが出来ずに放置していたこと、自分の教導の意味を、言葉で言わずに理解できると勝手に思っていたことを……そして

 

「みんなに少しだけ、昔の私のことを知って欲しいんだ」

 

 ティアナにだけではなく、スバルと、そしてエリオとキャロにもなのはは自分の過去の事を語った。そして、その無茶から起きた代償と、それ故に掲げる自分の教導の意味を。今日の朝練は体を動かさずに終わってしまったものの、フォワードメンバーたちが少しだけ成長したのは確かなことだろう。

 

 

 

 

 そんな朝練の後に行われた午前中の訓練。その訓練場でフォワードメンバーを見守るゼロの横には、珍しくシエルの姿がそこにあった。昨日ゼロと話をしたなのは、そしてスバルはもちろんのこと、ティアナの動きも数日前に比べ格段によくなっていた。

 

「珍しいな、シエル。お前がここに来るのは」

 

「ええ、ちょっとね。あれからティアナさんたちがどんな様子なのか気になって」

 

「……フォワードメンバーの動き、とくにティアナの動きが良くなった。いったい、何の話をしたんだ?」

 

「……ふふっ、そこは女の子同士の秘密よ」

 

 そう笑みを見せるシエルに、ゼロは「フッ」と短く笑い視線を訓練するメンバーに向き直る。

 

「そうか、なら何も言うまい」

 

 そんなゼロに苦笑しつつも、シエルも同じように視線を訓練するフォワードメンバーに戻し、訓練する彼らを見守るのだった。

 




NEXT 18「機動六課とゼロたちの休日」

なのはの魔王回フラグの回避回でした。本当は、ゼロVS魔王なのはもやってもよかったんですけどね……そっちだともっとまとめきれそうになかったので、リメイク前同様にやめました
現在、ロックマンゼロ×FGOの小説を書いている途中です。ただ、設定上ゼロが英霊として召喚されるか、それともこの小説同様に母の妖精さんによって別世界に飛ばされる設定にするか悩み中です
もしよろしければ、そちらのご意見もいただければ幸いです

ではではノシ


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18「機動六課とゼロたちの休日」(前編)

あけましておめでとうございます。秋風です

昨年はほとんど更新できませんでしたが、今年こそは、今年こそは完結まで持っていければと思う所存でございますので、どうぞよろしくお願いいたします(汗
今回は皆さんへお年玉ということで……3時頃書き始め、完成したので投稿しました(-∀-`; )

先日投稿してから、評価にて「読みみくかった」と0話の時点で1点の評価を頂いたのですが、この小説、他の読者の方も読みにくいと思っている方は多いのでしょうか……? 
だとしたら、書き方を変えないといけないかな?と思っております
同じく投稿している遊戯王小説と違う形で書いている自覚はあるのですが、やはり○○視点とかの方がわかりやすいんですかね?
ただ、ゼロとかが地の文章で喋ったりするのはやっぱり違和感があるので、一応このまま小説を続けていく予定です。それでも読みにくいというご意見が増えた場合はまた検討しようと思うので、宜しくお願いいたします

さて、今回は機動六課休暇編です。今回もまた前編からになってしまいました。やはり再編して文字を増やすとこうなるんだなぁ、と。
ではでは、どうぞ……!


 ホテル・アグスタでの事件を経ていくらかの日が流れた。機動六課では変わらぬ日常が流れてはいるものの、今日も訓練に勤しむフォワードメンバーはゼロの言葉で気持ちを改めたなのはの教導から確実に力を付けていた。そして、現在はというと……

 

「リボルバー……シューット!!」

 

「甘い」

 

『シールドブーメラン展開』

 

 訓練場にてスバルの声が響く。その訓練場にいるのはフォワードメンバー、そして機動六課に協力しているゼロの姿だった。

 

「クロスファイア……シューット!」

 

「……!」

 

 スバルからの一撃を避けて距離を取ったゼロだが、そこへティアナの魔力弾が降り注ぐ。しかし、ゼロはこれもシールドブーメランからバスターショットへと武器を切り替えることでトリガーを引いて相殺する。しかし、フォワードメンバーの攻撃は終わらない。

 

「でりゃああああっ!」

 

「きゅくー!」

 

 背後から迫るのはエリオ。更にそのエリオの背後からキャロのフリードの火球が飛んできていた。その火球を避けながらもZセイバーでエリオの一撃を受け止めるゼロ。しかし、その瞬間に鍔迫り合いをしていたストラーダとエリオのパワーが上がっていく。

 

(……キャロのブーストか。ならば)

 

「クロワール」

 

『エネルギー充填率78%、いけるよ!』

 

「はあっ!」

 

「うわっ!?」

 

 鍔迫り合いの状態からゼロはZセイバーにエネルギーをチャージし、そのまま力づくでエリオを跳ね除け、Zセイバーを地面へと叩きつける。その衝撃波で吹き飛ばされるエリオ。その一撃の結果砂埃が周囲に舞い上がる。それを警戒して距離を取ったゼロだが、その距離を取った先めがけ、猛スピードでスバルが迫る。

 

「一撃必倒っ! ディバイン、バスタァァァァ!!!!」

 

「っ……!」

 

 魔力を圧縮直射することで放たれるスバルの必殺技。その圧倒的な砲撃魔法が零距離でゼロへと放たれることで爆発が起きる。その様子を見ていたティアナ、エリオ、キャロがその一撃を決めたと思う……しかし

 

「……やるようになったな、スバル」

 

 煙が晴れたそこには、バチバチとシールドブーメランをオーバーヒートさせながらスバルのディバインバスターを防ぎきり、さらに追撃していたのであろうスバルの拳を、もう片方のZの刻印が宿るゼロナックルでゼロが受け止めている姿であった。

 

『はーい、終了~!』

 

 そうゼロが不敵に笑っている所で、訓練場になのはの声が響き渡った。

 

「もうちょっとだったのにぃ! というか、ゼロ兄ぃはなんでアレを防げちゃうの!」

 

「……昔、お前と同じように近距離での攻撃と、短い射程での強力な砲撃を使ってくる男と戦ったことがあったからな。対策方法はいくらか考えていた」

 

「むぅー……ずるい」

 

 その場に不満げにへたり込むスバルに対し、かつて戦った強敵の事を話しながらゼロはへたり込むスバルへ手を差し伸べる。その手を嬉しそうにとって立ち上がるスバルは、なのはの集合の声に反応して集合場所へと走って行った。ちなみに、ゼロを兄と呼ぶのはこの前の一件からゼロを慕うようになった故である。集合するフォワードメンバーの前に、なのはとフェイト、そしてヴィータが並んでいた。そんな様子をゼロは後ろから見守る形で立つ。

 

「実はね、今日の訓練と最後のゼロさんとの模擬戦……皆のデバイスに掛けてあるリミッターを外すかの実力テストだったんだけど……」

 

「「「「ええぇ!?」」」」

 

 なのはの言葉に驚くフォワードメンバー一同。今日の訓練はともかく、ゼロとの模擬戦では結局ゼロへ一撃をいれることもなく終わってしまったのだ。不安になる一同を余所に、なのはは隣に立つフェイトを見る。

 

「フェイト隊長、どうだったかな?」

 

「合格!」

 

「はやっ!?」

 

 即決で合格を出すフェイトに思わずティアナがツッコミを入れてしまうも、そこをスルーして、なのははフォワードの後ろに立つゼロへと視線を移す。

 

「ゼロさんはどうでしたか?」

 

「……未だ課題はあるが、ひとまずは合格といったところだな」

 

「「「「やったぁ!」」」」

 

 ゼロの方を向いていたフォワードメンバーはゼロの言葉に両手を上げて喜んでいた。そんな光景をニコニコと見守るなのはとフェイトだが、その隣ではヴィータが小さくため息を吐いていた。

 

「というかな、お前ら……合格と言えるほどの動きが出来ていなかったら基礎を最初から叩き込んでいたとこだぞ」

 

「あ、あははは……」

 

 喜ぶのを止めて乾いた笑いで頭を掻くスバル。まあ、あの事件以来、成長していなかったら確かにそれこそなのはたちが今まで何を教えてきたのかという話になってしまうのだから当然と言えよう。ヴィータも口ではそういっているものの、内心部下の成長には喜んでいる。

 

「じゃあ、今日はその記念……っていうことで、1日お休み! 街に遊びに行っておいで!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 なのはの休暇宣言に嬉しそうに返事を返すフォワードメンバー。ティアナなどは昔ならば休日でも訓練をしようとするだろうが、今はそんな様子は全くない。朝の訓練を終了して解散すると、4人は嬉しいからか、一目散に隊舎の方へと走って行った。

 

「じゃあ、私たちも戻ろうか。はやてちゃんが今日は私たちも休みでいいって言ってくれているし」

 

「そうだね。ゼロとヴィータも戻ろう」

 

「ああ、そうだな」

 

「おう」

 

 と、残っていた4人も同じように機動六課の隊舎へと向けて歩いていく。そんな中で、なのはは嬉しそうにしていた。

 

「なのは、嬉しそうだね」

 

「うん。4人ともどんどん強くなってくれているからね」

 

 生徒が強くなっているのは教導官としてはこの上なく喜びが大きいだろう。今まで、短期間で生徒を持って教導を行うことはあったものの、今回長期で生徒を受け持つというのはなのはにとって初めての事。そんな自分の教え子たちが成長してくれるのはたまらなく嬉しいのだ。このように、機動六課では平和な時間が流れていくのであった。

 

 

 

 

 場所と時間を変えて機動六課の隊舎にある食堂。食堂では朝食をとる六課の局員たちが多くいる。そんな中で、フォワードメンバーである4人はそれにシエルとクロワールを交えて食事をしていた。最近ではシエルとも仲が深まり、スバルやティアナがシエルを食事に誘うことが多くなった。

 

「そういえば、シエル。貴女今日、何か予定はあるの?」

 

「いいえ、特には……」

 

「なら、アタシたちと街に行こうよ!」

 

 食事をしながら、スバルとティアナがシエルを街に誘う。3人とも年齢が近いということと、ティアナの一件があってか、ティアナが積極的にシエルと話すようになってからスバルもシエルとよく喋ったりするようになった。シエルとしては、まだ少しだけ戸惑いを見せるところもあるが。現に、どうすればいいのか、とゼロをチラリと見ている。

 

「行って来い。いつも言っているが、研究のし過ぎは体に毒だ」

 

「え、ええ……じゃあ、スバル、ティアナ。よろしくね」

 

 そう笑みを見せるシエルに頷くスバルとティアナ。そんな光景を見てシエルが少しずつ人間に慣れてくれれば、と思うゼロ。そんなゼロの隣になのはがコーヒーを持って座ってきた。

 

「ゼロさん、ゼロさんも今日はお休みですよね?」

 

「ああ、そうらしい」

 

「なら、よかったら私と街に行きませんか? 買い物に付き合って欲しくて」

 

 ニコニコと笑いながら街へ行くことを誘うなのは。俗にいう、デートというやつである。そんななのはの誘いに、構わないと返答をしようとしたゼロだが、そこへ待ったをかけるが如く、なのはの肩を力強く握る者がいた。言わずもがな、はやてである。

 

「なーのーはーちゃーん? なーんで、ゼロを誘っているんやろーか? この前はフェイトちゃんと街へ行くいうてへんかったかぁ?」

 

「えー? そうだったかなぁ?」

 

「あ、ゼロ、よかったら街に一緒に行かない?」

 

「ゼロ、よければ私と街へ行きませんか……?」

 

 バチバチと笑顔で火花を散らしていたなのはとはやてを出し抜き、今度はフェイトとリインフォースがゼロを街へ行かないかと誘う。しかしまあ、そんな2人をなのはとはやてが見逃すはずもなく。

 

「リインフォースぅ? 主の私を差し置いて何をしているんやろうなぁ?」

 

「ぴぃ!?」

 

「フェイトちゃーん? それはちょーっとずるいんじゃないかなぁ?」

 

「えー? だって、なのはははやてとのお話で忙しいみたいだから」

 

 はやての静かな怒りにビクリと怯えるリインフォースアインスと、なのはやはやてと同じくニコニコと笑みを見せたまま闘志を燃やすフェイト。カオス極まってきたこの食堂で、勘のいい職員たちはすでに食堂から退避していた。フォワード一同とシエル、そしてクロワールは一番近くにいたためか、3人の笑顔の威圧感に怯えて動けなくなっていたりする。

 

「全員で行けばいいだろう。何を言い争っている?」

 

 ここで、その4人の目当ての人物からの鶴の一声が上がる。ゼロからしてみれば4人が街に行きたいことは分かるが、なぜ自分を誘っているのかが分からない。なので、行くのならば全員で街に繰り出せば問題ないだろうという結論を出していた。

 

((違う、そういうことじゃないです(よ)、ゼロさん(兄ぃ))

 

 ティアナとスバルが心の中で同時にツッコミを入れるも、3人はゼロの言葉にその威圧感を潜めてにっこりと笑う。

 

「せやな、みんなで行けば問題あらへんよな」

 

「そうだね、じゃあ、私は車をチェックしてくるね」

 

「私も、出かける服を決めないと」

 

「あう、あぅ、ゼロ、助かりました……」

 

 どうやら、彼女たちなりに休戦ということになったらしい。3人の威圧感と、主を出し抜こうとしたことで罪悪感があったのか、弱っていたリインフォースがそういいながらゼロの隣でため息を吐くのであった。

 

 

 

 

機動六課 隊舎前

 

「……」

 

 いつもの戦闘スーツではなくはやてから昔買ってもらった服に身を包み、その美しい金髪の髪の毛を束ねてポニーテールのようにしたゼロはその隊舎の前に立っていた。そこへ、4人の女性が現れる。

 

「ゼロ、お待たせ」

 

「……ああ」

 

 そこに現れたのは街へ出かけることを約束したはやて、なのは、フェイト、リインフォースの4名。いつもの機動六課の服ではなく、出かけるために用意している私服。ホテル・アグスタで着ていたドレスとはまた違うが、彼女たちの魅力を引き出すには十分と言えるだろう。

 

「えへへ、どや、似合う?」

 

「ああ、似合っているぞ……4人ともな」

 

 出かける前に、クロワールにとりあえず4人の私服は褒めてあげること、と言われているゼロはそう4人の服を褒める。

 

「そ、そか、そう言ってくれると、なんや、恥ずかしいなぁ……えへへ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「ありがとう、ゼロ……あっ、私、車持ってくるね!」

 

「あぅあぅ……」

 

 4人ともゼロの言葉に喜び、顔を赤くする。ゼロとしてはなぜ喜んでいるのかあまりわかってはいないが、似合っていると思っているのもまた事実なのである。しばらくしてフェイトが車を運転して隊舎の前に止める。助手席にゼロが座り、なのは、はやて、リインフォースの3人がその後ろの座席へと座り、車が発進する。

 

「それで? 街に行って、何をするんだ?」

 

「うーん、私は自分の部屋の雑貨を見ようかと思うんよ。忙しすぎてロクに整頓できとらんし」

 

「私は、主たちについていくだけで十分です。強いて言えば、少し本が見たいです」

 

「私は、新しい服が見たいです。後、気になっている本のシリーズがあって」

 

「私も、服が見たい……かな。あと、母さんとアリシア姉さんに今度戻る

ときに持っていくお土産を見ておこうと思って」

 

 4人とも意見はバラバラだが、共に買い物である。ゼロはそうか、と頷き了解する。しかし、そんなゼロに運転席のフェイトが首を傾げる。

 

「ゼロは?」

 

「俺は特にない。欲しい物があるわけでもないし、金も持ってはいないからな」

 

「ああ、そういえば渡しとらんかったわ……ほい、ゼロ」

 

 そう言って後ろの席からはやてがゼロへとカードを渡す。ミッドチルダの文字で書かれてはいるが、クレジットカードらしい。実を言えば、今までの協力者としての任務やフォワードの訓練を見る分などを考えればかなりの収入がゼロにはあった。しかし、レプリロイドであるゼロは食事をする必要はないし、服を買ったりすることもない。なので、たまる一方だったお金をはやては今回渡すことにしたのである。

 

「これは?」

 

「今までのお給料分。たっぷりあるで。だから、気にせず気になる物があったら買うてな」

 

「……考えておこう」

 

 そう言ってゼロは渡されたカードを懐にしまうのだった。こうして、フォワードメンバーと、隊長メンバー、そしてゼロの休日はスタートするのであった。

 

 

 

 

とある場所

 

 

 そこは、クラナガンにある薄暗い用水路だった。そんな用水路を小さな少女が歩いていた。あまりにも似つかわしくない光景だが、それについて指摘する物は誰一人としていない。ボロボロの布を体に身に付け、重たい荷物を引きずるように歩いていた。

 

「ママ……どこ……?」

 

 少女は小さく呟きながらその用水路を彷徨っていく。すると、その彼女に巻き付いていた鎖の一部が外れ、少女が引きずっていた箱が用水路に流れる水へと落ち、流され消えて行った。

 

 

少女と、英雄が出会うのは、もう少しした後の事である……

 




波乱のゼロ争奪戦でした。次回はクラナガンにてゼロたちの休暇と、幼女の出会いを書こうと思います。そして、あの男も動き出します……その時ゼロは?
本当は、すずかもここにぶち込む予定でした(汗

NEXT 19「機動六課とゼロたちの休日」(中編)or(後編)


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19「機動六課とゼロたちの休日」(後編)

お久しぶりです。お待たせしました、後篇です
とはいっても、後編だからと言って終わるとは言ってないという
半年ぶりの更新なので、覚えている人は皆無だとは思いますが、ぼちぼち進めていきたいと思います

最終的に完結には持っていく予定なので、気長にお待ちくださいませ
では、どうぞ

感想、評価、お待ちしております


 管理第一世界ミッドチルダ首都『クラナガン』

 

 ミッドチルダにおいて最も人がいるこのクラナガンは、時空管理局の運営に大きな影響を持つ場所であり、また、ミッドチルダ式魔法の発祥の地でもある。当然ながらこの世界の人間の多くがここに住んでおり、賑わいを見せている場所でもある。そんなクラナガンに存在する数あるショッピングモールの1つ。そのショッピングモールにて、宅配サービスを行っている場所を目指してゼロたちは歩いていた。

 

「少し、買いすぎてもうたなぁ」

 

「はい。我が主……私も、少し調子に乗りました」

 

「にゃはは、確かに」

 

「日頃、買い物はあまりしないからね」

 

 はやて、リインフォース、なのは、フェイトの4人は全員がそういいながら自身たちが持つ大量の買い物袋を見つめていた。ただ、荷物はそれだけではない。

 

「あの、ゼロ。やはり私の荷物は私が持ちます」

 

「構わん。俺は特に買い物はしていないからな」

 

 リインフォースの言葉にそう答えながら歩くゼロ。そう、そのはやてたちの横を歩くゼロもまた4つの紙袋を持って歩いているがそれはゼロの買い物ではない。4人の買った洋服や日用品の山なのである。肩に乗るクロワール曰く、ゼロの責任なので、ゼロに持ってもらえと促したのが事の発端だが、そもそも何故ゼロが責任を取るということになっているのかというと……

 

『ゼロ、これどないやろ?』

 

『ああ、よく似合っているぞ、はやて』

 

『ゼ、ゼロ、このようなのは、私には派手ではないですか?』

 

『お前の髪によく似合う色だ。リインフォース。別におかしいところはない』

 

『ゼロさん、これどうですかね?』

 

『服は似合うが、色に少し違和感がある。その同じデザインで白はどうだ? なのは』

 

『ゼロ、これどう?』

 

『紅か、少し派手だが、俺も似たようなものだからな。フェイトの金髪なら違和感はない』

 

 とまあ、はやてたちが購入する服は軒並みゼロが褒めたり、勧めたりした結果で全部買うことになったのである。恋は盲目というが、4人の行動にはさすがのクロワールも若干ながら引いていた。ゼロからすると、問われたから素直に感想を述べているだけである。

 

「でも、こんなに遊んだのは久しぶりだね」

 

「うん。みんなでまとめて休みなんてなかなか取れなかったからね」

 

 先日、海鳴に帰ったときはあくまでも任務としてなので、正式な休みとは言い難いだろう。ゼロは最近ではシエルだけではなく、はやてたちも過労で倒れてしまわないか心配になっていることろである。

 

「ゼロはよかったの? 買い物」

 

「構わん。俺は人間と違って衣服や生活にこだわりを持ったことはない」

 

「とはいっても、それ、少しほつれとるやろ? 10年前のものやもん、流石にボロをゼロに着させるのは……」

 

 ゼロの今纏っている洋服は10年前に海鳴市のデパートではやてが購入した衣類なのである。ゼロの腕のボディスーツなどを隠す関係上、ゼロが持っている服は全てが長袖なのだが、それらもはやてが丁寧に保管していたとはいえ10年前の代物。クロワールが保存していた衣服については1年間しか経っていないので問題はないが、それでもずっと同じものを着るわけにもいかない。あくまでも、ゼロがレプリロイドとばれないようにするためのカモフラージュだが、これでは違和感を覚える人間も増える可能性がある。

 

「じゃあ、次はゼロさんの洋服を買おうか」

 

「なのは、それいい案だね。そうしよう」

 

「おい、俺は別にこのままで……」

 

「ダメですよ、ゼロ。人として振舞わなければならないのですから」

 

「そういうこと。ほな、宅配センターまで急ごうか♪」

 

 こうして多数決によりゼロの意見は却下され、宅配センターに自分の荷物を預けたはやてたちは、ゼロを連れて衣服コーナーへと再び来た道を戻り始めるのであった。

 

「……!」

 

「ゼロ? どうしたの?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 4人がどのような服をゼロに着せるかと盛り上がって歩く中、その後ろでゼロはなにやら視線を感じてショッピングモールの上の階へと視線を向ける。しかし、そこには誰もいた様子が無い。

 

「気のせい、か?」

 

 ゼロの探知能力と言えば、かつてアリアとロッテが監視していたのすら看破するほどのレプリロイドとして高い能力を秘めている。一瞬の違和感、一瞬の視線、ゼロが周囲を見渡すも、周りにいるのは買い物客の人間ばかりで、怪しい人影というものは確認ができなかった。

 

「ゼロ? 何か、感じ取った?」

 

「……わからん。が、クロワール、探査は怠るな。もし、VAVAがいるとすれば」

 

「わかったわ。大惨事になりかねないもの」

 

 クロワールもゼロの戦士としての勘というものを信じている。長い付き合いがあるパートナーだからこそ、クロワールはゼロの勘を信じてはやてたちには内密に、探査機能を稼働させる。

 

「ゼロ? クロワール? こっちやでー」

 

「……ああ、今行く」

 

「はいはーい」

 

 立ち止まっていたゼロを呼ぶはやて。その彼女たちの笑顔を見て、今この休日が彼女たちにとって楽しいということを理解しているゼロ、そしてクロワールはできるだけ彼女たちが少しでも長くこの休日を楽しめるようにと平静を装い、はやてたちの後を追うのだった。

 

 

 そんなゼロたちが立ち去った場所から遥か離れた場所。そこには蒼い衣服を着た青年が立っていた。

 

「なるほど、“あの範囲”は彼の探知範囲というわけか……記憶で知っていても、彼を知っているわけではないから、改めて彼には驚かされる」

 

 青年はそう言いながら米粒ほど小さく映るゼロたちを見つめていた。4人の美女に囲まれながらも、そこを歩くゼロの姿を見る青年。見えているのか、それとも見えていないのかは本人にしかわからないが、青年は小さく呟いた。

 

「“彼の記憶の僕”が知っている彼とはずいぶん違うようだ……でも、僕と“ボク”が知る彼であることは間違いないらしい……おや? お迎えかな」

 

「……うん」

 

「ルールーがわざわざ迎えに来てやったんだぞ! ありがたく思え!」

 

 その青年の後ろには、いつの間にか紫色の髪の少女と、赤い髪の小さな少女がいた。

 

「うん、ありがとうルーテシア。それにアギト。僕の要件は済んだよ」

 

「もう、いいの?」

 

「たまたま見かけたから、見ておきたかっただけだよ。それで、何かあったかい?」

 

 青年の言葉に、ルーテシアと呼ばれた少女は頷いた。

 

「ドクターから、マテリアル?っていうのが逃げたって……あと、レリックが、2つ。クアットロが、一度合流するって」

 

「そうか。じゃあ行かないとね。お姉様たちは気が短い」

 

 そう言って遠くのゼロたちから視線を外してルーテシアたちに向き直る青年。そんな青年を馬鹿にするように、アギトと呼ばれた少女が悪態をつく。

 

「ケッ! なんで部下のオメーがあの野郎から連絡受けてねーんだよ」

 

「僕の任務は君たちの護衛だからね。レリックは管轄外さ」

 

「“監視”の間違いだろうが」

 

「さあ、どうかな?」

 

「……行こう、“エックス(・・・・)”」

 

 そのルーテシアの言葉と共に、3人はその場所から消え去ってしまうのだった。

 

 

 

 

「いやぁ、買ったなぁ」

 

「にゃはは、さっきと同じこと言っているよ、はやてちゃん」

 

 ショッピングモールのカフェにて、ゼロの服を買い終えた一同はそこに腰を下ろしていた。結果だけを言えば、ゼロの衣服は彼女たちが買った数には及ばないものの、多くの衣服をゼロは購入し、再度宅配センターへと足を運ぶことになった。原因はそのゼロのビジュアルに目を惹かれた店員たちと、そしてはやてたちがゼロを着せ替え人形のようにしてしまったこともあり、似合う物は手当たり次第買うこととなったのである。もっとも、それだけ買っても彼の功績から、彼の給料がすっからかんになるようなことはないわけだが。

 

「買い物もすませてもうたし、後はぐるっと回ってから、少し早いけど隊舎に戻ろうか」

 

「そうだねはやて。一応、駐車料金は問題ないけど、4人より早めには戻らないとね」

 

「わかりました、我が主」

 

「了解、はやてちゃん」

 

「ああ、そうだな」

 

 はやての提案に了解してカフェを後にしようとする一同。しかし、そこでフェイトへ緊急通信のアラートがバルディッシュより知らされる。通信相手はライトニングの2人、つまりエリオとキャロである。内容はマンホールから出てきた少女を保護したこと、そしてその少女の足にはレリックが入ったケースが巻き付いていたという驚きの事実であった。

 

「休暇はここまでみたいやね」

 

「そうだね、残念……でも」

 

「うん、仕事の時間だね」

 

「主、ご指示を」

 

 少し短い休日ではあったものの、4人からすれば充実した休日だっただろう。やる気に満ち溢れた彼女たちの表情に、はやてたちが本当に仕事好きなのだとゼロとクロワールは内心でため息を吐きつつも、ゼロはクロワールと一体化してはやてに指示を仰ぐ。

 

「はやて、俺はどうする」

 

「地図はクロワールに転送したから、先行してリインフォースと一緒にフォワードメンバーと合流してもらってええ? なのはちゃんたちは私と空から迎撃をする」

 

「了解した。目標地点へ移動する」

 

「了解しました、我が主」

 

 そう言ってゼロはダッシュを使ってそのショッピングモールから離れる。それを追うリインフォースだが、しかし、そんなゼロたちを見送るはやての表情には不安があった。

 

「はやてちゃん? どうしたの?」

 

「ふぇ!? う、ううん、平気やよ」

 

「嘘ばっかり。顔に出てるよ、はやてちゃん」

 

「ゼロが心配なのはわかるけど、はやても無理しちゃだめだよ」

 

「あはは……二人は誤魔化せへんかぁ」

 

 どうやら、はやての不安は親友二人には隠せていないようである。ゼロの背中を見たとき、ホテルアグスタではやてから離れて出撃した光景がダブってしまうのだ。そんなはやてに、なのはとフェイトはニッコリと笑みを見せる。

 

「大丈夫だよ、はやてちゃん。前にゼロさんが言ってたじゃない。『信じろ』って」

 

「ゼロは強いよ。VAVAにだって、もう負けないよ」

 

「……せやな、信じなあかんよね」

 

 はやては二人の言葉に頷いてバリアジャケットを身に纏うと、空へと飛び立ちながらロングアーチとして指示を機動六課に出し始めるのだった。

 

 

 

 

ミッドチルダ クラナガン合流地点

 

「待たせたな」

 

「あ、ゼロ兄ぃ、それにリインフォース部隊長補佐!」

 

 フォワードが集合していた場所に到着するゼロとリインフォース。そこにはすでにシャマルとヴァイスがヘリで到着しており、シャマルがボロボロの布を纏った金髪の幼い少女を抱きかかえていた。そして、その傍らにはレリックが収められているであろう箱が置かれている。

 

「レリックの封印は終わったわ。この子の怪我は軽い物なんだけど……」

 

「……シャマル。これを」

 

 そう言ってゼロは買ったばかりのパーカーをクロワールに転送させ、それを少女へと被せる。

 

「後は頼む。俺はレリックを追う……クロワール」

 

『OK! 反応は地下水路の先のようね。詳しいマップもさっき貰ったわ』

 

「じゃあ、私たちもお供します!」

 

「……そうだな、だが、もしVAVAが出てくるような事態になった場合、お前たちは即座に撤退しろ。リインフォースを含めて、だ」

 

 ゼロの言葉に、4人、そしてリインフォースはしっかりと頷いた。ゼロの事を把握し、理解している以上、自分たちが戦いの場では役に立たないということ、ゼロの力が大きすぎて、自分たちは邪魔になるということを理解していた。そして、VAVAがゼロと同じく巨大な力を持っていることも、フォワードメンバーは理解していた。

 

「撤退する場合は俺が殿を務める。余計な加勢を考えず、全力で撤退することを考えろ。レリックは二の次でいい」

 

 そう言ってゼロは地下水路への入口へ梯子を使わずに飛び降りていく。それに続き、リインフォースが。そしてフォワードがその梯子を使って下へと降りて行った。地下水路ではすでにガジェットが無数に出現しており、ゼロたちを敵と認識して攻撃を開始する。フォーメーションはゼロとリインフォースが前へ、そしてその後ろをフォワードのスバルとエリオが続き、最後尾にティアナとキャロが続く。狭い通路を駆け抜ける一同だが、一番前のゼロがガジェットを攻撃をする前にほとんどをバスターショットで打ち抜くか、接近したガジェットをZセイバーで一刀両断しているので、フォワードメンバーに仕事がほとんどない。

 

「ゼロ兄ぃ、やっぱすごいねー」

 

「そりゃ、ゼロさんの世界にいた敵に比べたら可愛いもんなんでしょうね。ゼロさんやシエルの世界って、いったいどんなレプリロイドやメカニロイドがいるのかしら」

 

 スバルの言葉に、ティアナも同意を示しながら撃ち漏らしや残骸を破壊していく。ゼロがレプリロイド、ということについてフォワードはもう既に知っているが、その中でもシエルとの会話で興味本位にどのようなレプリロイドがいるのかという話題になり、シエルが多くのレプリロイドのことについて説明をした。そのため、ティアナたちは写真などを見せてもらい、いかにゼロが一人で多くの敵を倒してきたのか、ゼロがどうしてあそこまで強いのかを知ることとなった。

 

「シエルさんの話だと、戦闘型は動物や昆虫を元にしたものが多いって聞きました。」

 

「ド、ドラゴンとかはいないのかなぁ……ね、フリード」

 

「きゅくぅ」

 

 エリオとキャロもそんなシエルの話には驚き、実際に見て見たいと子供心を躍らせていたりする。そんなキャロの言葉に、「さすがにドラゴンは……」と苦笑する3人だが、ゼロはその会話を聞いて遠い記憶……かつて、イレギュラーハンターだったころに格闘技を極め、自分やエックスにも拮抗する力を持ったドラゴン型のレプリロイドがいたような気がすると思い出す。が、今は関係ないことだ、とゼロは目の前の戦いに再び集中する。

 

『ゼロ、前の方に生体反応と魔力反応! 戦っているみたいね』

 

「どうやら、連絡に合った陸士部隊の増援か」

 

 そのゼロの視線の先には、ガジェットに囲まれつつもその拳や蹴りでガジェットに対抗する一人の少女の姿が見えた。藍色の流れるような髪を揺らし、その手にスバルと同じリボルバーナックル、そしてスケートブレードを装備した女性。ゼロはそのまま地面を蹴って跳躍し、少女へ襲い掛かるガジェットを粉砕する。

 

「え……?」

 

「無事か?」

 

「は、はい。貴方は……」

 

 少女の言葉にゼロが名乗ろうとするも、その後ろから雄叫びと共にガジェットを粉砕するスバルが猛スピードでゼロたちへと接近し、そのままその少女へと抱き着いた。

 

「ギン姉ぇ!」

 

「スバル!? ということは、機動六課の方々ですか?」

 

「そうだ。ギンガ・ナカジマ陸曹。久しぶりだな」

 

「リインフォースさん! お久しぶりです! それに、ティアナさんも!」

 

 そう敬礼をするギンガ・ナカジマ。どうやらリインフォースやティアナとは顔見知りらしく、ガジェットを一掃して合流した安心から笑顔を見せていた。

 

「紹介します、ゼロ。陸士108部隊の捜査官、ギンガ・ナカジマ陸曹です。ギンガ。彼は八神ゼロ……機動六課の協力者だ。それと、こっちはエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエだ」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

「……ゼロだ」

 

 敬礼をするエリオ、そしてキャロ。さらに、その二人に続いて自己紹介をするゼロ。そんな挨拶を受けたギンガだが、ギンガはゼロを不思議そうに見ていた。

 

「俺がどうかしたか?」

 

「あ、いえ……スバルからお話は聞いていましたから。八神二等陸佐のご家族の方、と。それと……」

 

 と、言いながら何やら気まずそうにスバルを見るギンガ。それを見てリインフォースは察したのか、ギロリとスバルを睨む。

 

「スバル、お前まさか」

 

「あ、あはは……す、すみません、つい……その、ゼロさんのことを」

 

「馬鹿スバル! あんたねぇ!」

 

「ご、ごめんなひゃぁい!」

 

 リインフォースの言葉に、相方であるティアナもスバルが何をしたのか察したのだろう。そのスバルの頬を力いっぱい引っ張っていた。ゼロたちの事情を知り、スバルの事情も知っているティアナはスバルのことを一概に責めることはできないでいるものの、そのスバルの行動によって他の人間がゼロの秘密を知ればどうなるか。はやてやシエルが今までしていたことが全て台無しである。

 

「落ち着け、ティアナ。済んだことを怒っても状況は変わらん。それに、一般回線での会話ではないだろう?」

 

「はい。私とスバル、そして私たちを診てくれているマリエル・アテンザ主任しか知らない秘匿回線です。作った方が作った方なので、おそらく盗聴の心配はありません」

 

 頬を抓られているスバルに変わり、ギンガがそう答える。その言葉に、ゼロは頷き、再びZセイバーを抜刀し、反応地点のある先の道を見る。

 

「……そうか。なら、その話は後だ。先へ進むぞ……ギンガ・ナカジマ。お前はスバルたちと同じように付いて来い」

 

「わ、わかりました! あ、えっと……私の事も、“ギンガ”で構いません」

 

「了解した。サポートを頼むぞ、ギンガ」

 

「……! は、はい!」

 

 ゼロの言葉に、どこか照れたようにギンガは敬礼し、それと共に一同は先程のフォーメーションにギンガを加えて水路を辿りながら目的地を目指すのだった。

 

 

 

 

クラナガン 水路 反応地点

 

 

「反応はこのあたりか」

 

「フォワードメンバー、そしてギンガは捜索を頼む。付近の警戒は私たちがしよう」

 

『了解!』

 

 リインフォースの言葉に敬礼し、捜索を開始するスバルたち。反応があると言っても、正確な場所が映し出されるわけではない。故に、この広い空間でケースに入ったレリックを探さなければならない。しかし、そのレリックの入ったケースは見慣れたものである。ゼロも警戒しながら探していると、キャロが声を上げる。

 

「ありましたー!」

 

「……!」

 

 レリックの発見に安堵する一同だが、ゼロだけは違った。キャロが上げた声と同時にゼロが地面を蹴り、Zセイバーを抜刀してキャロへ迫る。

 

「え……キャア!?」

 

 そして勢いよくキャロのバリアジャケットの襟首を引っ張り、その場を下がらせるゼロはそのもう片方の腕でZセイバーを振るう。そこで鳴り響く金属音。ゼロのZセイバーは黒い拳から突き出された鋭い爪のようなものを防いでいたのだ。全身が黒く、紫色のマフラーをした何か。まるで全身が鎧となっているかのようなその相手に対し、ゼロはキャロの襟首を握っていた手を放して素早く蹴りを放つ。それをもろに受けた相手は吹き飛ばされながらも、距離を取るように地面へと着地した。

 

「……(蹴りを放った瞬間に体を引っ込めて威力を殺したか)」

 

 そう、蹴りを放った本人であるゼロはまったくの手ごたえを感じていなかった。どう見ても人間ではないその相手は、ゼロからすればレプリロイドを相手としているのに近い感覚がある。そして、その何かの近くにあった柱から、一人の少女が顔を出した。紫色の長い髪をした少女。恐らくエリオやキャロたちと同い年であろう。その少女は不安そうにその何かが受けた怪我の部分を見る。

 

「ガリュー、大丈夫?」

 

「……新手か」

 

「やいテメェ! ガリューになんてことしやがる!」

 

 そして、その少女の横には紅い髪をツインテールにし、背中にはまるで悪魔の羽のようなものを生やした少女がゼロを指さし、何やら文句を言っている。少女、とはいっても、その大きさはクロワールやリインフォースⅡと変わらない大きさである。その大きさからゼロはその少女がユニゾンデバイスであることを理解する。

 

「ユニゾンデバイス……」

 

「お前たち、何者だ?」

 

「答えるわけねーだろバーカ!」

 

 ゼロの隣に並んだリインフォースの問いに、あっかんベー、として見せるユニゾンデバイスらしき少女。それをされたリインフォースの額に青筋が浮かび、ブラッティダガーを出現させる。

 

「ならば、答えられるようにしてやろうか」

 

『ちょ、ちょっと、リインフォース、落ち着いて。相手は子供じゃないの』

 

 そうクロワールがリインフォースを落ち着かせているのも束の間。水が流れる音に混ざって別の音が聞こえていた。その音を感知したゼロは、素早くリインフォースの前に出た。

 

「リインフォース! キャロを連れて後ろへ飛べ!」

 

「っ……! はい!」

 

 その言葉にリインフォースは素早くキャロを抱きかかえて後ろへ下がる。そんな間にも聞こえてくる音。それは、ゼロがバスターショットでチャージするときと同じ音。否、それよりも何倍も大きな音だった。

 

「クロワール!」

 

『わかってる! エネルギー最大展開!』

 

 その言葉と共に、シールドブーメランを展開するゼロ。その展開とほぼ同時に、エネルギー弾が発射され、ゼロへと直撃して爆発を起こした。

 

「ゼロ兄ぃ!」

 

「「ゼロさん!」」

 

 その様子を遠くで見ていたスバルとティアナ、そしてエリオが悲鳴を上げる。しかし、流石はゼロというべきか。その暗闇から発射されていたエネルギー弾を防ぎきり、その場に立って未だ健在であった。

 

「今のチャージショットは……」

 

『VAVAのものとは、違っていたわね。スカリエッティが改造でもしたのかしら』

 

 冷静に受けた攻撃を分析し、おそらくはまたVAVAが来たのではないか、と予測するクロワール。そしてクロワールの報告にゼロもその攻撃に警戒を示し、Zセイバーを再び抜刀して構えを取った。紫色の髪の少女たちの後ろからコツリ、コツリと歩いてくる音が聞こえ、やがてその襲撃犯の全貌が水路に設置された照明に照らされた。

 

「お前は……」

 

『VAVAじゃ、ない? 違うレプリロイド!?』

 

「……やあ、こんにちは。今のチャージショットを防がれるとは、驚いたよ。いや、流石、というべきなんだろうね」

 

 そこに現れたのは蒼い装甲を身に纏い、その右腕に巨大な砲門を装備した男である。明らかにティアナたちのような人間ではない。ましてや、スバルのような戦闘機人とはまたかけ離れているだろう。ゼロのような、レプリロイドと見て取れるのはクロワールから見れば明らかだった。しかし、ゼロの中でサポートをしているクロワールだからこそ気が付いた。ゼロが、顔に出してはいないものの、少なからずその目の前の男に対して驚いていることに。

 

「何者だ……! お前も、ゼロやVAVAと同じレプリロイドか……!?」

 

「そうだね。まずは名乗るとしよう。僕の名前は……エックスだ」

 

 リインフォースの問いに、男、エックスは静かに名乗るのだった。

 




ギンガ、そしてとうとうエックスが登場。このエックスは果たして……?

NEXT「X」


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20「X」

こんにちは、秋風です
今回は結構早めに続きが投稿できました。出来ればこれくらいのペースで投稿できればいいなぁとか思ったり

今後も感想、評価お待ちしております
ロックマンゼロ×FGOについてはまた近いうちに活動報告にて試作品を呼んでいただく読者の方を募集予定です
では、20話です。どうぞ!


『エックスって……あれが!?』

 

「馬鹿な、そんなはずが……」

 

 ゼロたちの前に現れた蒼い装甲を身に纏った『エックス』と名乗るレプリロイド。そのレプリロイドの名前を、クロワール、そしてリインフォースは容姿こそ知らないものの、その名前を知っている。ゼロの世界に置いて、人間の理想郷であるネオ・アルカディアを作り上げた本物の英雄。9年前、ゼロの話を聞いたリインフォースはエックスがどのようなレプリロイドかを知っている。かつてはゼロと肩を並べて戦い、そしてダークエルフをその体に封印してサイバーエルフとなってしまった。そして、その肉体は砕かれ、そのサイバーエルフとしての存在も、今はもうないことも……故に、目の前にいる者がエックスと名乗るのには、無理がある。

 

「あまり驚いてはくれないんだね。ゼロ」

 

「俺の知っているエックスはもういない。何より……お前はエックスとは違い過ぎだ」

 

 ゼロが驚いている様子が無いことに「ふむ」と首を傾げるエックスと名乗るレプリロイド。違いすぎる、という言葉に、エックスと名乗るレプリロイドはゼロに問う。

 

「君の知るエックスとはどう違うんだい?」

 

「……エックスは戦場では決して油断をするような男ではない。お前のように、余裕ぶって出てくるような真似はしない。何より、今の不意打ちで撃ったバスター……弱すぎる。例え記憶を失っても、俺の体は覚えている……“エックスはもっと強かった”」

 

 かつて忘却の研究所で封印され、百年という月日を眠った故に多くの記憶を失ったゼロ。しかし、その魂に染みついた戦いの記憶。それだけはゼロの中に無意識に残っていた。かつては共に肩を並べ、戦ったからこそ知っている。エックスの実力を

 

「そして何より……エックスの瞳は翠色だ。紅と翠のオッドアイではない」

 

「なるほど流石はA級イレギュラーハンター……伊達に元々の僕と共にシグマは倒してはいないか。いや、この場合は“経験”かな。その通り。僕“達”は『エックス』ではない」

 

「……僕達? どういう意味だ」

 

「そのままの意味さ……久しぶりだネ、ゼロ。こうしテ、君とマタ会えルとハ思ってモみなかったヨ」

 

 突然、そのエックスの喋り方……この場合は声の重さと言えるだろうか。それが変わっていた。ゼロ自身の記憶を辿る限り、その目の前にいるレプリロイドの声はかつてのエックスと似ている。だが、今の言葉は、かつてゼロが聞いたことのある声。そして、その緑と赤のオッドアイは両目とも赤に染まっていた。その瞳に、ゼロは覚えがあった。

 

「お前……コピーエックスか」

 

「コピーエックス……!? ネオ・アルカディアを統治し、レプリロイドを不当処分していたという、あのコピーエックスですか!? ゼロ!」

 

 コピーエックス。かつてエックスがダークエルフを封印するために失踪したことから天才科学者シエルが作り上げたエックスのコピーである。見た目はエックスをモデルとしている為エックスとは瓜二つだが、その性格は全くと言っていいほど違う。レプリロイドにとって異質であった『悩む』という思考回路を持たず、高慢で独善的。そして自らを『英雄』と言い切る。挙句の果てにはゼロに『弱い』と言われて激昴するなど、幼稚な部分が見られていた。ゼロがネオ・アルカディアに混乱を起こすべく一度は打倒したものの、ドクターバイルによってコピーエックスMk-2として復活。しかし、バイルの改造によって罠を仕掛けられており、「シャイニング・トランスフォーム」の作動がスイッチとなり、爆散して死んだはずである。

 

「やれやれ、酷イ言われようダ。ボクは人間たちノためヲ思っテ行っタ事サ。道具の整理をスルのに何ノ問題があるのやラ……」

 

「外道め……レプリロイドも人間と同じ、思考し、意志を持って生きている。そんな者たちを殺してきたお前こそが本当のイレギュラーだろうに!」

 

『シエルが作ったっていうのが信じられないくらい酷い奴ね。どこで間違ったのかしら』

 

 かつては自身を道具と呼んだリインフォースだが、今でこそ、自身はユニゾンデバイスという1つの存在であることを認識しているが故に、そうコピーエックスに声を上げる。そして、ついでにクロワールが煽るような言葉をいうと、コピーエックスの表情が変わって怒りを露わになってバスターを構えようとする。しかし、それはコピーエックス自身の左腕によって押さえつけられた。

 

「コピーエックス。気持ちは分かるけど、“まだ駄目だ”。まったく、君を出すのはこれだから嫌だったんだ。引っ込んでいなよ。ふざけルな! ボクがゼロを…………ふぅ、わるかったねゼロ。だけどどうやら、さっきよりは驚いてくれたようだ」

 

 怒りを露わにしていた表情は消え、目も先程の赤と翠色の目に戻っていた。

 

「……ますます、お前がエックスではないという確信が持てたがな」

 

「その通り。僕達はエックスでありエックスじゃないもの。この体は彼……コピーエックスのものが“4割”ほど使われている。残りの6割はもう知っていると思うけど、僕の生みの親であるジェイル・スカリエッティの作品。伝説の地の遺物から発見された物を基盤に作り上げられたものだ」

 

 偽エックスの言葉に驚く一同。だがその言葉に驚く一方で、1つの仮説がゼロの中に生まれていた。

 

「伝説の地……それは、俺達の世界の事を言っているのか」

 

「その通り。元々の僕や、君たちがいた世界がこの世界では何て呼ばれているか知っているかい? 名前は『伝説の地“アルハザード”』というんだ」

 

「!」

 

「はは、どうやらこれには驚いてくれたみたいだね」

 

 そう愉快そうに笑う声に、ゼロは答えない。しかし、驚くのは当たり前だ。アルハザードとは、かつては「PT事件」を起こしたプレシアが目指した、失われた秘術が数多に存在すると言われている世界の事だ。だというのに、それがゼロたちの世界の事とは誰が思うだろうか。だが、そこからゼロには新たな疑問が生まれていた。

 

「コピーエックスが元であるというのなら、何故お前は俺がイレギュラーハンターだったことを知っている? シエルの話では、コピーエックスはエックスの事は熱心に調べていたらしいが、俺の事はエックスの仲間だった程度の認識しかない。シグマ……その名は、俺も思い出したが、それこそ妖精戦争よりも前のイレギュラーの名前だ」

 

「それは簡単な話だよ。僕の記憶の大本はVAVAの記録のエックスを参考に作り出された人格だからだ」

 

「なんだと……」

 

「『エックス』という個人になるために、今まで彼がどんな歴史を歩んできたのかを知る必要がある。彼の記憶を元に、僕という人格が生み出された。コピーエックスでは問題があると判断したらしい……まあ、彼のせいか、完全に彼の性格がコピーできているわけじゃないけどね。彼も、僕を追い出そうと隙あらば顔を出す」

 

 納得だ、とリインフォースはその話を聞いて思う。たった今、数度言葉を交わしただけではあるものの、コピーエックスはまるで子供のようだった。あれでは制御は難しい。故に、コピーエックスに代わる新たな人格が必要だったのだ。まるで、かつてのオメガとゼロの関係のように。もっとも、オメガがゼロのボディに入る代わりに、ゼロは別のコピーボディに移されたが。

 

 

結論を言えば、彼はエックスでもコピーエックスでもない、第3の偽エックスということになる。

 

「お前の目的は何だ。もし、レリックが狙いだというのなら、こんなに長々と喋ったりしないだろう」

 

「さすがはゼロ。その通りだ。まあ、レリックは確かに必要だけどそれはあくまでもオマケ。僕の今の任務は彼女たちを守ることだ。けどもう一つ。ドクターから受けた命令があってね……ゼロ、こちら側に来ないかい?」

 

『「「「「「「なっ!?」」」」」」』

 

 偽エックスがそういって手を差し伸べたことに、クロワール達が驚きの声を上げた。

 

「君はレプリロイドだろう? 僕達と来れば、君の失った記憶を更に甦らせることができるだろう。なにより、君の力……人間たちの手に置いておくのはあまりにも惜しい」

 

しかし、ゼロの答えは決まっている。

 

「断る」

 

「……だろうね」

 

「お前がエックスの記憶を持っているというのならば……俺がこう答えるのもわかっていただろう」

 

「その通り。初めから期待なんてしちゃいない。ここまで話したんだ……口封じの意味でも、君たちには死んでもらうよ」

 

 その言葉と共に、偽エックスが右腕を変形させてエックスバスターを出現させる。さらにはかつてコピーエックスが戦闘形態として使用していたアーマーが展開された。

 

「先程は手加減したけど、今度は容赦しない。君を倒しテ、ボク達ガ、今度こソ英雄二なるンだ!」

 

「全員下がれ! どうやら、撤退は奴を倒さなければ難しそうだ。クロワール、最初から全力で行くぞ」

 

『ええ、わかったわ! 行きましょう!』

 

 そう言ってゼロはZセイバーを抜刀して翡翠に輝く剣を出現させる。クロワールも同じくゼロの中でゼロの力を引き出すために力を解放した。そして、それを合図にしてか、ゼロが地面を蹴って走り始める。それを見て偽エックスはバスターをチャージと通常の2パターンを使い分けてゼロへ撃ち放った。

 

「はあああああああああああっ!!!」

 

 しかし、そのエネルギー弾をゼロはやすやすと避け、接近して偽エックスへ一撃を入れるべくZセイバーを振り下ろす。しかし、それは偽エックスのバスターによって防がれてしまう。

 

「チッ……」

 

「流石はゼロだ。僕の攻撃をこうも易々と」

 

「何度も言ったはずだ。エックスはもっと強かった。お前程度では足元にも及ばない」

 

「そうか。ならここからは君に任せるよ……いイだロウ! これハどうダ!!!」

 

 その言葉と共に偽エックスが左腕を突き出す。それは瞬時にバスターへと変形し、チャージが施されていた。そしてゼロ目掛けてバスターが発射されてゼロに直撃。ゼロはそのまま吹き飛ばされてしまう。

 

「ゼロ!」

 

「ゼロ兄ぃ!」

 

「「「「ゼロさん!」」」」

 

 リインフォース、そしてフォワードやギンガが悲鳴を上げる。そのエネルギー弾は先程不意打ちで離れていた威力以上のものであると、地面を抉っていることで威力を物語っていた。

 

「……」

 

「流石はゼロ。咄嗟にZセイバーを盾にしてアレを防ぐとは」

 

 吹き飛ばされて壁に激突した衝撃で舞った埃が晴れると、そこには未だ健在で立つゼロの姿があった。しかし、咄嗟にZセイバーで防いだせいもあってか、その刃がボロボロになってしまっていた。エックスよりは弱い、とゼロはいうものの、決して弱いというわけではないのだ。ゼロは素早く立ち上がると、再びZセイバーを構えて偽エックスと相対する。

 

「けど、次はどうだい! クラエ!」

 

 今度は両手のバスターから発射されたエネルギー弾がゼロを襲う。しかし、そのバスターは避けることはできるものの、後ろにフォワードメンバーたちがいることで避けることが出来ない。

 

「チィッ……!」

 

 おそらくシールドでは防ぐことが出来ない。そう判断したゼロはクロワールが能力をフルに使って修復したZセイバーでチャージショットを叩き斬った。しかし、そのチャージショットを叩き斬ったのも束の間。偽エックスはその羽を生かした高速のダッシュから、ゼロへと急接近。かつてコピーエックスがゼロとの戦いで使っていた『ノヴァストライク』を発動し、ゼロの腹部へとバスターをゼロ距離で叩き込んだ。

 

「がっ……」

 

 その衝撃で吹き飛ばされ、またしても水路の柱に叩きつけられるゼロ。辛うじてクロワールが防御系スキルで防御をしたことで大事には至らなかったものの、その体からはスパークが起き、ゼロの体を流れるオイルが頭や傷口から垂れていた。

 

「この程度かイ? ゼロ。ボクの攻撃ニ防戦一方ジャなイか」

 

「……」

 

 愉快そうに笑うコピーエックスの言葉に、ゼロは答えず立ち上がる。ゼロが反撃を行わないのではない、行えないのだ。ゼロが戦う位置は常にリインフォースやフォワード、そしてギンガが立っているため、無理な反撃をした場合流れ弾が彼女たちに当たってしまう恐れがある。もしも、レリックに当たってしまえば、大惨事は免れず下手をすればここにいる全員が死ぬ可能性がある。コピーエックスは分からないが、偽エックスの方はそれを計算した戦い方をしている印象をゼロは受けていた。戦っているのはコピーエックスのようだが、その今の戦いを操っているのはもう一人の偽エックスのほうなのだ。

 

「……やはり、俺の知るエックスとはえらく違う戦い方だ。奴は真正面から戦うタイプ。お前のように策を考えて戦うタイプではない」

 

「何も、VAVAからは僕の記録ばかりを見たわけじゃない。彼の戦い方も学習しているのさ」

 

「……そのVAVAはどうした。ジェイル・スカリエッティの仲間としているのなら、この場に現れないのは何故だ?」

 

 ゼロが無闇に反撃をしない第二の理由。それは、VAVAの乱入だ。仮に、隙が生じる技を放とうものならば、そこにVAVAが攻撃をしてくる可能性を考えていた。VAVAが偽エックスと協力して戦うとは考えられないが、その隙を伺って自分を殺しに来る可能性をゼロは捨てきれない。しかし、偽エックスの答えはゼロの予測と違う答えだった。

 

「僕が倒した……ドクターが言うにはもう彼は用済みのようなのでね」

 

「……」

 

「あのVAVAを……」

 

「倒したって……」

 

 偽エックスの言葉に、絶句するフォワードメンバー。あの男の殺意をすぐ近くで感じ取っていたスバルやティアナたちにとって、その言葉は衝撃的だった。そんな彼らの戦いを見る一方で、リインフォースは念話でティアナたちに指示を出す。

 

『ティアナ、キャロ』

 

『リインフォース部隊長補佐?』

 

『今のうちに、レリックの封印をしておけ。ゼロが戦えないのには我々と、そのレリックが近くにあるのが原因でもある。少しでも、安全性を上げておくんだ。あそこにいる少女たちが動かないところを見るに、レリックを奪取する機会を伺っているのだろう』

 

 もし、レリックを封印することでゼロが反撃するリスクを少しでも減らせるなら、とリインフォースは思う。すると、ティアナからは意外な言葉が帰ってくる。

 

『部隊長補佐、あの……私に考えがあるんです。それは……』

 

『…………なるほどな、面白い。お前の作戦に任せよう。頼んだぞ、ティアナ、キャロ』

 

『『はい!』』

 

 ティアナの作戦を聞き、リインフォースはその許可を出すとともに次の行動へ移った。

 

『ゼロ、聞こえていますか? もし可能ならば……』

 

「……了解した」

 

 リインフォースの通信に、ゼロは偽エックスに聞こえない範囲で答えて立ち上がる。その立ち上がった姿を見て、偽エックスは再びチャージをしながらコピーエックスの技である『スライディング』をかけながらその右腕のバスターをチャージする。

 

「コれデ終わリだ! ゼロ!」

 

「せああっ!」

 

「!?」

 

 そのスライディングで偽エックスが迫る直前、ゼロは自身の立っていた場所にチャージしたセイバーを叩きつけ、煙幕を引き起こす。その砂埃が消えるとそこにゼロの姿はなく、ゼロは跳躍してリインフォース達がいる場所へと移動していた。

 

「ナンダ、たダの目くらマしか……この期ニ及んデ逃げルつもリかイ?」

 

「……リインフォース。言われた通り、お前たちの所まで戻って来た。どうするつもりだ」

 

 コピーエックスの言葉を無視し、ゼロはリインフォースにそう問う。リインフォースの指示は『私の所まで一度下がってください』というものだった。意味もなく、彼女がこんな指示を出すわけもないとゼロは思い、彼女の指示に従って戻ってきたのである。

 

「ゼロ、あのエックスはおそらく、本当に貴方の戦闘パターンの殆どを把握しているのでしょう」

 

「そのようだ」

 

 ゼロの有利な近接戦に持ち込ませないようにする攻撃の数々、接近しても行ってくるカウンター……すべてがゼロの攻撃を戦闘パターンを把握した行動だ。故に、リインフォースはゼロに1つの切り札を使うことを提案した。

 

「ゼロ、1つ……奴に対する切り札があります」

 

「何?」

 

「私とのユニゾン(・・・・)です」

 

「なんだと?」

 

『ええ!?』

 

 リインフォースの言葉に驚くゼロとクロワール。それもそのはず。リインフォースははやてのユニゾンデバイスではあるが、その闇の書のバグを排除した代償に本来の主であるはやてとのユニゾン率が著しく低下してしまっていたのだ。無論、それを改善するための研究も10年間で行ってきているが、未だ良い成果は得られていないのだ。

 

「元々、我が主とのユニゾン率を上げるための研究から生まれた副産物です。ユニゾン時にクロワールと同調(シンクロ)することで融合する……ゼロの中で、私がクロワールと同じサイバーエルフのような役割をすることで融合をします」

 

「それは、本当に可能なのか?」

 

「あくまでも机上の空論……実際、この理論を思いついたのは数年前。ゼロがいない時期に考えたものです。試していない以上、ぶっつけの本番になります」

 

 つまり、成功する保証はないということである。実際、ユニゾンデバイスというのは融合者との融合率という物が存在する。融合者には適性が必要で、おいそれと誰でも使えるわけではなく、さらに事故が起きる可能性も高い。しかし、ゼロの答えは決まっていた。

 

「……わかった、やるぞ。リインフォース」

 

「いいのですか? 失敗すれば……」

 

「……俺を信じてその案を出したんだろう。なら、俺もお前を信じよう」

 

「っ! はい!」

 

 お前を信じる。その言葉を受けて嬉しさがこみ上げるリインフォースだが、今は戦闘中。それをぐっと堪え、ゼロの後ろへと立った。

 

「お喋リは済んダのかイ? どうセ僕らノ勝ちダ」

 

「それは“俺達”に勝ってからにするんだな……行くぞ、リインフォース、クロワール」

 

『オッケー!』

 

「はいっ!」

 

「「『ユニゾン・イン!!』」」

 

 眩い光が、周囲を包み込む。それと同時にリインフォースの姿は消え、ゼロの中へと溶けていく。

 

「ぐっ……ぐううううっ!」

 

『うぐぐぐぐっ……リインフォース!』

 

『ああっ! わかっている!』

 

 その初めてのユニゾンに苦しむ3人。その隙をコピーエックスが見逃すはずはなく、その右腕のバスターのチャージを完了させていた。

 

「何ヲしようト、隙だラけダ! 死ネェ!」

 

 言葉と共に放たれるチャージショット。そのチャージショットを食らう直前にゼロがZセイバーを振るう。それと同時に爆発が起きて周囲が煙に包まれる。

 

「僕らノ勝ちダ! ……いや」

 

 勝利を確信するコピーエックスだが、偽エックスの方はそうではないらしい。その戻した緑色の眼光で、その煙の先を見据えていた。そして、その煙を突き破って飛んでくる無数の赤い短剣がエックスへと迫る。咄嗟に回避しようとするも、そのアーマーの翼に命中して爆発を起こす。

 

「ぐああっ!? な、何だ!?」

 

 煙が晴れ、そこではゼロは健在であった。しかし、その燃えるような紅いボディはまるで夜天のように黒くも輝きを放つ色に。黄金に靡く髪は星のような輝きを放つ白銀へと変化し、その手に持つZセイバーの刃は黄金へと変化する。そして極めつけにそのゼロの背中にはまるでコピーエックスがシャイニング・トランスフォームをしたときのように、4枚の漆黒の翼が出現していた。

 

「なんだ、その姿は……データにないゾ!? なンなンダお前ハ!」

 

「……ユニゾンゼロ、Verリインフォース……俺達の新しい姿だ」

 

 コピーエックスの叫びに、ゼロはそう静かに答えるのだった。

 

 




というわけでようやくかけました。ゼロとリインフォースのユニゾン
そして、今回エックスが登場しましたが、まあぶっちゃけコピーエックスがだしたかったというのもあったので、こんな形に。そして、本来のエックスの瞳は翠。コピーエックスは紅……これを見て思いついたネタもあったりなかったり
今回は結構こんがらがることも多いので、一応下にキャラ解説を追記しておきます。では、また次回!

NEXT 21『夜天のゼロ』


キャラクター解説

コピーエックス
 かつてシエルによって作り上げられ、ネオ・アルカディアを本物のエックスに代わって統治していたレプリロイド。人間至上主義者であり、不当なイレギュラー認定によるレプリロイドの大量虐殺を行った。その裏には人間たちの過剰なレプリロイドへの畏怖と、枯渇したエネルギー問題故の行動でもあった。
 オリジナルのエックスとは対照的に悩む事を知らず、高慢で独善的な性格を持ち、自身を英雄と言い切る。自らの行いを批判されるとすぐに激昂するなど、どこか幼稚な部分も垣間見られた。
 ゼロに打倒されて一度はドクターバイルの手でMk2として甦るもバイルの仕掛けられた罠によって自爆するという最後を遂げる。
 そしてその彼の爆散したボディはスカリエッティにより回収され、新たなるエックスのボディとして甦ることとなる……
Mk2のボディが元になっているせいか、それともバイルの調整の名残なのか、喋り方に若干のノイズが入る。
 スカリエッティとエックスの関係とは果たして……?

偽エックス
 スカリエッティによって生み出されたエックス。上記のコピーエックスのボディを4割使用し、残りの6割をスカリエッティが作り出して誕生したミッドチルダ産のレプリロイド。見た目はエックス(イレギュラーハンター時代)とそっくりだが、その瞳の色は翠と紅のオッドアイである。
その理由は二つの人格を1つのボディで共有していることと、元はコピーエックスのボディが故にそうなっている。コピーエックスの人格が完全に表に出ると、両目は紅く染まり、喋り方もコピーエックスのものとなる。
 性格は最初こそエックスと似たような性格だったが、コピーエックスの影響や、VAVAの戦闘データ閲覧、またスカリエッティ一味の教育の影響から本来のエックスとは違う性格へと変貌してしまった。スカリエッティとその仲間、そして任務に忠実であり、エックスとは違いどこか余裕がある。
ただ、彼の中にも”悩む”ことについては存在しているらしく、どうしてこのような機能が付いているのかということには疑問を持っているらしい

というわけで、以上がコピーエックスと偽エックスの紹介でした
もしよろしければ、偽エックスの今後の名前を考えてくれれば幸いです
もしかしたら採用するかもしれません

ではでは!


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21「夜天の英雄」

お久しぶりです(土下座)
 最後の投稿からもう1年過ぎてて、そろそろ読者様たちからは忘れ去られていることかと思いますが、アイディアがまとまったので投稿です
現在、会社との契約が切れて転職活動中なのでなかなか更新する日取りが決まりませんでした。とか言っておきながらFF14はじめてみたり、ソシャゲにはどっぷりですが(汗
 ぶっちゃけいうと、現状だとほとんど新規なのでアイディアをひねり出しながら書いているせいもあってなかなか進みません。申し訳ない
次もできるだけ早くは投稿予定でございます。
では、どうぞ

感想&評価お待ちしております


「ユニゾンデバイスとの融合……なるほど、ヤはり君ハ面白イ……」

 

「……『同調完了(フル・シンクロ)』」

 

 ユニゾンを果たしたゼロを見て、偽エックスも、コピーエックスもお互いにニヤリと笑っていた。一方はゼロの成長に、一方は戦いが楽しめることに。ゼロを覆うアーマーは限りなく近い紺色に所々へ金色があしらわれている。髪はリインフォースと同じ銀色で、さらにその背には4つの黒い羽が存在していた。まるで、リインフォースが装備を纏った時と同じような印象を受けると、フォワードとギンガは思う。

 

『融合完了です。エトワールとの同調(シンクロ)も安定……ゼロ、何時でもいけます』

 

『やっちゃえ、ゼロ!』

 

 二人の言葉と共に、エックスたちの前からゼロは文字通りその姿を消した。忽然と消えた、というのが周囲から見た印象だろう。

 

「なっ……ぐガッ!?」

 

「「「「「!」」」」」

 

 次の瞬間、コピーエックスが悲鳴を上げて吹き飛ばされて水路に建てられた石柱へと激突する。そのコピーエックスがいた場所にはゼロがすでにバスターをチャージさせてその銃口を向けていた。

 

「ぐっ……舐めるナぁ!」

 

「『遅い。ブラッティダガー!』」

 

 ゼロとリインフォースの言葉が重なり、バスターを向けていたコピーエックスのチャージが終わるよりも早く、通常のブラッティダガーより速い速度でバスターへと着弾し、爆発を起こす。さらにその隙をついて追撃でバスターを発射し、それを直撃したエックスは石柱を貫通して吹き飛ばされていた。

 

「がアアアアアアアアっ!!!」

 

 コピーエックスが悲鳴を上げ、地面へと叩きつけられる。せいぜい、自分たちと互角に渡り合える程度のパワーアップだと思っていたコピーエックス。しかし、それは大間違いで、その融合で圧倒的な力を手に入れたゼロが今度は自分たちを圧倒していた。その威力上昇によるパワー値は通常スペックの倍以上である、と偽エックスはそのダメージによって解析する。

 

「こノっ……!」

 

 コピーエックスはそのバスターをすぐさまチャージしてチャージショットを発射するが、そのゼロの圧倒的な力の前に恐怖をしているのか、あるいは苛立ちを覚えているのか、先程までの冷静さも余裕もまるでない、がむしゃらに砲撃を連打していた。その読みやすい軌道の攻撃はゼロに当たるわけもなく、避けられるか、Zセイバーで叩き斬られるかの2つで全て回避されていた。

 

『ゼロ、勝機と捕えます。冷静さを欠いているなら、一撃は容易かと』

 

「……任せる。時間は?」

 

『7秒で済ませます』

 

 ゼロとリインフォースはその短い会話を済ませ、リインフォースはゼロの内部にて魔力を解放し、それをすべてゼロのZセイバーへと還元していく。そのいつもとは違うチャージが蓄えられる。それははやてやリインフォースと同じ魔力光と酷似したもの

 

「なンだ、このエネルギーは……!?」

 

『今です!』

 

「はあっ!」

 

 そのリインフォースの解放した魔力から放たれるゼロのチャージ斬りはコピーエックスを捉え、その彼のアーマーと右腕のバスターを粉々に砕いていた。しかし、流石はコピーとはいえエックスなのか、それでもなお立ち上がっている。

 

「(これは不味いね……)コピーエックス。変わってくれ。これ以上君が戦闘をするのは不可能……/ふざけるナ! ボクはまダ負けちゃイない!」

 

 偽エックスの言葉に激昂するコピーエックスだが、どう見ても戦闘続行は不可能であるのは明白。そして、このタイミングで増援としてヴィータ、そしてリィンが現れた。

 

「お前ら無事か!」

 

「ヴィータ、それにツヴァイ……いいタイミングだ」

 

「お前、ゼロ……だよな? その姿は……」

 

「話は後だ。前の敵に集中しろ」

 

 そう驚くヴィータを促すが、先程と違いコピーエックスはその手に装備されているXバスターを降ろし、アーマーの装備も解いてしまっていた。

 

「ルーテシア、アギト、引こう。多勢に無勢だ。それに、ドクターから帰還命令が出た」

 

「……」

 

「チッ!」

 

 その言葉と共に3人の足元へ引かれる魔法陣。その素早い手際に驚くフォワードたちだが、ゼロは違っていた。逃亡した彼らを見てゼロはヴィータ達に指示を出す。

 

「ヴィータ。フォワードを連れて脱出する。スバル、ウィングロードを展開しろ。一気に地上へ出る。殿は俺が担当するから、ヴィータは先行して上へ出ろ」

 

「わ、わかった……でもお前、空は……いや、その羽で察した。飛べるようになったのか」

 

「ああ」

 

 ヴィータの言葉に頷き、そのユニゾンによって得た黒い翼をはためかせて空中へ浮遊する。飛行に関してゼロは管轄外なので、その制御についてはリインフォースに一任するしかないが、ネオアルカディア四天王のハルピュイアのように空を自由に飛び回れるのは利点といえるだろう。

 

「クロワール」

 

『ん、ばっちり、発信機は作動しているわ! 彼らは上にいるみたい。今なら追いつける!』

 

「……! よし、連中を捕まえるぞ! フォワードも続け!」

 

『はい!』

 

 クロワールの発信機の設置成功によりヴィータは彼らを捕縛できるチャンスであると捕え、その言葉と共にスバルがウィングロードを展開し、ヴィータの後をフォワードとギンガが。そして、最後をゼロが飛んでついていく形で、地下水路から脱出をする。その様子を、1機のガジェットが見ていたとも知らずに……

 

 

 

 

地上

 

 

「ひとまずは、ここまでくれば……ルーテシア、どうしたんだい?」

 

「……レリック、回収できなかった」

 

 地上へと転移した偽エックスと、ルーテシア。しかし、ルーテシアは撤退をしたものの、その回収しきれなかったレリックが心残りのようで、どこか浮かない顔をしていた。というよりも、エックスがいなければいま彼でも戻って回収しに行く、と言いそうである。

 

「諦めろよ、ルールー。あれはもうしょうがないって」

 

「でも……」

 

「仕方ないさ。ルーテシア。あれは君の求める物じゃなかった、と割り切ろう」

 

「そもそも! オメーがアイツに負けなかったら回収できただろうが!」

 

 アギトと同じくルーテシアを宥める偽エックスだが、そんな言葉はアギトに突っ込みを入れられてしまう。

 

「無茶を言わないでくれ、彼のパワーアップは予想外だったんだからね」

 

 そんな言い合いをしていたのが彼らの油断だった。その彼らの元へ、ブラッティダガーと、氷のダガーが弾幕のように降り注ぐ。それぞれ回避する3人だが、そこへフォワードと、ヴィータ、そしてゼロがそれぞれ武器を構えて退路を塞いでいた。

 

「ここまでだ」

 

「公務執行妨害、殺人容疑、器物破損……いや、それ以上にありそうだけど、ひとまずこの3つだ。お前らを拘束、逮捕する」

 

 ヴィータはそういいつつ、司令であるはやてへと連絡を入れようと試みる。だが、そんな様子を見て、偽エックスは笑っていた。それは、彼が仲間へと通信を送っていたからに他ならない。もちろん、これは彼の無線故、自分は声を出さずとも通信ができるのだ。

 

『こちら、エックスです。ウーノお姉様。応答を』

 

『エックス? 何かトラブルかしら?』

 

『ええ、機動六課の面々に捕縛されかけています。フォローをお願いできますか』

 

『……わかったわ。クアットロ、聞こえていたわね?』

 

『はぁい、もちろんですともぉ。可愛い弟ちゃんの為にも、おねーちゃん頑張っちゃう♪』

 

 エックスと女性の通信に、別の女性の声が聞こえた。その女性の声はそれっきり聞こえなくなったが、エックスはお願いします、とだけ言って通信を切るのだった。そして、クアットロと呼ばれた彼の姉は策に出たようで、今まで無口だったルーテシアが喋りはじめる。

 

「逮捕は、いいけど……」

 

「……?」

 

「大事なヘリは、放っておいていいの? 貴女はまた、守れないかもね……?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ヴィータの顔色が変わり、視線を機動六課のヘリへと向ける。エックスはこのスキを見逃さない。その手のバスターを最小限にしてスモークを発射。これにより彼らの視界を塞いでいた。いつものヴィータなら見逃さなかっただろうが、その彼女の言葉に揺さぶられてしまったのだ。

 

「なっ……!」

 

「ルーテシア、アギト、逃げるよ。セインお姉様、頼みます」

 

「あいよ! こっちもばっちりだよ!」

 

 その地面から突然少女が現れる。その手には、エリオが確保していたはずのレリックのケースがあった。この隙に偽エックスたちはその場を離脱するも、ヴィータにとってはそれ以上に気になったのはヘリの安否である。スモーク越しでもわかる爆発に、ヴィータは慌てて通信を開く。

 

「ロングアーチ! ヘリはどうなった!? あいつら、堕ちてねーよな!?」

 

 

ヴィータの悲痛な叫びが、その場に響き渡るのだった。

 

 

 

 

ミッドチルダ ビルの屋上

 

「ふっふっふ、どうだったかしらディエチちゃん? 私の完璧な作戦」

 

「クアットロは相変わらず悪趣味。またあの子に毒吐かれても知らないよ……それに黙っていて。今、確認しているから」

 

 そのビルの屋上では、そのヘリが爆発する原因ともなった2人の少女がいた。1人は大型の銃を構え、もう1人は作戦が上手くいったと上機嫌である。スコープを覗く少女、ディエチはそこで異変に気が付いた。確かに自分の放った砲撃はヘリへと直撃したはず。だというのに、ヘリの残骸が1つたりとも、欠片も落ちてきていない。まさか、とディエチはそのスコープの倍率を上げてその狙撃した場所を見る。煙が晴れると、そこには紺色のボディに銀髪の髪をなびかせ、黒い羽を持った1人の戦士が立っていた。

 

「こちら、ゼロ。ヘリの防衛に成功した」

 

「うっそでしょ」

 

 思わずそんな言葉が出てしまう。彼女の放ったその攻撃はゼロによって防がれていたのだ。しかし、彼女たちが知る情報では、彼は自分の仲間である偽エックスと交戦していたはず。だというのに、なぜ彼がここにいるのか。それは、ディエチがトリガーを引く直前。つまり、数分前に遡る。

 

 

『大事なヘリは、放っておいていいの?』

 

 この言葉を聞いた時点で、ゼロはそのヘリへの襲撃を察していた。ゼロはクロワールへ簡易転送装置を起動させるように促し、ヘリへと転移。そこから、エネルギー反応がある方向へシールドブーメラン、そしてリインフォースによって魔力壁を展開させることで、ヘリへの襲撃を防いでいたのである。シールドブーメランを収納したゼロはその砲撃の先にいた2人の少女を捉えていた。

 

「補足した。フェイト、なのは……!」

 

「「了解!」」

 

 そのヘリを襲撃した主犯2人を確認した情報をフェイト達へと送ることで、なのはたちがその2人の捕縛へと動く。ゼロもそのまま追撃をしようと考えたが、そこで限界が来てしまった。無理な初のユニゾンデバイスとのユニゾン、そして簡易転移装置による強制転移と、砲撃をエネルギー容量の超えたシールドブーメランでの防御……通常のレプリロイドであれば回路が焼き切れて死んでもおかしくはない。

 

「……ぐっ、さすがに、無理があったか」

 

『ゼロ!? 大丈夫ですか!?』

 

「すまん、限界、だ……後を頼む」

 

 その言葉共にユニゾンは強制解除となり、弾かれるようにゼロから出るリインフォースとクロワール。ここでゼロは今回の任務を離脱する形となる。落下しそうになるゼロをリインフォースが確保する形で事なきを得るが、そのままゼロは深い眠りへと置いていくことになるのだった。

 

 

 

 

某所にて

 

 

「流石はゼロ、といったところか。私の改良したディエチの攻撃を防ぎきるとは……それに、本来は魔導師とのみ融合可能なユニゾンデバイスとの融合。ふふ、あはははは! とんでもないな、彼は!」

 

「ドクター、笑いごとではありません」

 

 そのとある場所、次元犯罪者ジェイル・スカリエッティのラボで、その戦闘の映像を見ていたスカリエッティはその戦いの様子を大いに楽しみ、笑っていた。そんな彼の様子に秘書である戦闘機人のウーノは呆れたようにため息を吐く。

 

「ああ、すまないね。とてもいいデータが取れた。私の計画に上乗せが出来るのはいいことだろう? 正直、タイプゼロたちも、Fの遺産もどうでもいい。私の理想を叶えるのには彼の成長が不可欠と言える」

 

「エックス……あの子が、ドクターの理想を、ですか?」

 

「ああ、そうだとも。楽しみだ。無限の可能性がどんな夢を見せてくれるのか……」

 

 スカリエッティの言葉に、ウーノはどこか心配そうにスカリエッティを見る。確かに、“彼”のお蔭で自分たちの行う作戦は機動六課との戦い以外では圧倒しレリックも順調に手に入っている。しかし、どこかスカリエッティに違和感を覚えているのも確かだ。エックスを開発した後から……自分の慕うドクターのいつもの眼に、どこか輝く物が見えている。ウーノはそんな気がしてならなかった。

 

「ああ、もっと君たちの可能性を見せてくれ。エックス、そしてゼロ……私と、彼の願う理想の世界のために……」

 

 スカリエッティの言葉は、ウーノには聞こえてはいなかった。

 

 

 

 

 

数日後 聖王病院

 

 

 その病院を機動六課にて保護された1人の少女が歩いていた。その手にはウサギのぬいぐるみを持ち、何かを探すように歩いていた。この少女の病室を抜け出したことによって1人のシスターが慌てて警戒態勢を発令したのはまた別の話だが、少女はそんなことなどつゆ知らず、その病院を出て整備された中庭へと訪れていた。

 

「パパ……ママ……どこ? ……う?」

 

 両親を求めて彷徨っている少女。その紅と緑の瞳へ何かが映った。少女は少し怯えながらも、それがなんなのか、と近寄る。それは、人の形をした“何か”。幼い彼女の記憶ではその中庭の木にもたれ掛るそれは自分の知る「人間」とはかけ離れた形をしていた。しかし、彼女はそれに興味を示すと、それにゆっくりと近づいた。危険な物なのか、それとも近づいても大丈夫なのか? それがわからずとも、少女はそれへと近づいていた。

 

「……誰?」

 

「ひうっ……!?」

 

 その人の形をした何かは少女の気配に気が付いたのか、その目を開き、そう少女に問う。

 

「ヴィヴィオ……」

 

「そう。貴女、人間ね? ……保護してあげたいけど、生憎と動けないのよ」

 

「怪我しているの?」

 

「怪我……ええ、そうね。それと、エネルギー切れ。予備の“エネルゲン水晶”があるのだけれど……腕を動かすのも無理。私の腰のポーチにそれが入っているんだけれど、出してくれる?」

 

 人の形をした何かはそう少女、ヴィヴィオへ言う。ヴィヴィオもその怪我をしている、という事を聞いて放っておけなかったのか恐る恐るそれに近づき、そのもたれ掛っている木とそれの間にあったポーチを開けて、キラキラと輝くエネルゲン水晶の入ったボトルを取り出した。

 

「これ?」

 

「それ。青いボタンを押して、私の方へ傾けて」

 

「……こう?」

 

 言われるがまま、ヴィヴィオはそのボタンを押してそのキラキラと輝くエネルゲン水晶を人の形をした何かへと傾けた。それは吸い込まれるように消えていき、ヴィヴィオもそれに驚き目を見開く。

 

「ふぅ、なんとか動けるといったところね。助かったわ、ヴィヴィオ。本来は人を守るべき私が人に助けられるなんてね……ふふっ、なんだか変な気分」

 

「“おねーさん”、お名前は?」

 

「……ああ、そういえば名乗っていなかったわね。というか、もしかして私の事知らない?」

 

 おねーさん、そうヴィヴィオが呼ぶ彼女はヴィヴィオにそう問いかける。ヴィヴィオもそれに頷くと、今度は彼女が目を見開く。ヴィヴィオくらいの年齢の子供にですら、自分は広く知られている存在だと思っていただけに、それはそれで驚きであった。

 

「なら名乗りましょう。ネオアルカディア四天王の紅一点、蒼海の海神の異名を持つ、我が名は『レヴィアタン』。よろしくね、ヴィヴィオ」

 

 人のような何か、否、レプリロイド。そして、かつてはゼロと戦いを幾度も繰り返したネオアルカディア四天王が一角、妖将レヴィアタンは、そう手に持っている槍を見せながら彼女へと名乗る。そんな彼女が、驚きの再会を果たすのは、数分後の話である。

 




というわけで、22話でした
大幅な修正というのは、新キャラということでネオアルカディア四天王の1人であるレヴィアタンの登場でした。ハルピュイア、ファーブニルも予定していますが、ファントムはどうしようかなぁ……難しい(汗
なぜ、レヴィアタンがこの世界に来たのか、はまた近いうちに
まあ、ぶっちゃけ海外のロックマンのソシャゲのイベントでレヴィアタンが出た、というのを見て思いついただけなんですけどね
ではまた、次回
感想、評価、お待ちしております

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Next「再会と出会い」


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22「新たな出会いと懐かしき再会」(前編)

お久しぶりです。約1年ぶりの投稿という(汗)
あれからいろいろありまして、新しい会社が決まり、その忙しさから小説を更新する暇が全くなかったといいながら、漆黒のヴィランズまでFF14を終わらせ、今はクッキーを焼く日々。何が言いたいかというと

投稿遅れてすみませんでした。

去年、PCがぶっ壊れてからWordなどもなくなったことで小説を書くというモチベーションが失われていました。遊戯王のほうはご時世のせいでカードがあっても遊べないのがつらいがゆえに、更新が滞っております。

ちなみに、後編については近いうちに更新予定です。

では、第22話どうぞ


機動六課訓練場

 

「……次だ」

 

『右方向にガジェット2機! 後ろに3機!』

 

『チャージ完了、撃てます!』

 

「……!」

 

 エックスの偽物との闘いから翌日。今日の早朝訓練はフォワードたちが実戦で疲弊したこともあり、休みとなっている。しかし、その訓練場ではシミュレーターが起動し、爆発音が鳴り響く。言わずもがな、メンテナンスを終えたゼロである。ゼロはクロワールを宿し、さらにリインフォースとユニゾンして訓練を行っていた。相手はフォワードたちと同様のガジェットⅠ型からⅢ型とランダムに戦う方式。そして、そのゼロはいつものゼロではなく、ユニゾン状態で新たに得た新フォームである。

 

「せあああっ!」

 

 そのいつもとは違う銀色の髪を靡かせ、黒い羽根でゼロは空中を舞い、その手にあるバスターのトリガーを引くとともに、空を蹴って一気に距離を詰め、ガジェットたちを一刀両断する。傍から見ればゼロが新たな力を使いこなしているように見えるだろう。実際、このシミュレーターを動かし、遠くから見守るなのははそう思っていた。しかし……

 

『ゼロ! リインフォース! ストップ! ストォープ! なのは! 訓練中止ぃ!』

 

『ふぇ!? あ、うん!』

 

 突然のクロワールの悲鳴にも近い声とともに、ゼロはその訓練場が解除されたのを見てなのはのいたところへと着地する。着地とともにユニゾンは解除され、クロワールのサポートも解除されてしまった。

 

「どうした、クロワール」

 

「どうした、じゃないわよ! 3人ともバスターとセイバーを見て!」

 

 クロワールが怒っていますと言わんばかりに腰に手を当ててそう声を荒げる。そんなクロワールの声に、一同はそのゼロが持っていた武器へと視線を移す。ゼロの持っていた武装はバチバチとスパークを起こして悲鳴を上げ、煙を出していた。まるで、昔のスバルが使っていたローラーやナックルのようであった。

 

「またか……」

 

「やはり、私の魔力を込めてしまうと武装の耐久力が削られてしまうようですね」

 

 このセイバーとバスターに関してはシエルとシャーリーが開発したもののコピー品。そのため、もともとの耐久性はないものの、最初とは違いかなり改良が施されたものである。しかし、それでもゼロの戦い方とリインフォースの魔力に武器が耐えられないのである。

 

「これでもかなり私が調整しているんだからね! もう、これで3個目じゃないの!」

 

「す、すまないクロワール……幾分か調整はしているのだが、ゼロへ魔力を供給すると主はやての時とは方式が違うせいで一気に魔力が溢れてしまうのだ」

 

 そうリインフォースが申し訳なさそうにクロワールへ謝る。とはいっても、もともと魔導師ではなく、レプリロイドへ魔力をユニゾンによって供給しているというのもかなり無理な話なのだ。

 

「リインフォースさんの理論だと、ゼロさんが魔法を使うのも可能なんですよね?」

 

「ああ、無論だ、高町。しかし、それはゼロへの負担がかなり大きい。ゼロが稼働に使うエネルギーを通す場所へ魔力を送って魔法を発動させるわけだが、それをすれば当然、この武器たちのようになることもあるからディアボリック・エミッションや、昔お前から収集したことで得たディバインバスターやスターライト・ブレイカーの類も使えない。使えば、ゼロの回路が焼き切れてしまうだろう。魔力によっての空中飛行はともかく、ブラッディ・ダガーが限度といったところだ……ほかにも問題があって、昨日の戦いのあと、ゼロがシールドを発動させたときに誤作動も起きていたからな」

 

「誤作動?」

 

「魔力からいつもの武器へ力を供給したときに武器のシステムがクラッシュして発動できなかった……クロワールのサポートがなければ俺たちもヘリも消し飛んでいたところだ」

 

 ゼロとリインフォースの説明を聞いてゾッとするなのは。あのタイミングで、なのははヘリからの砲撃の間に割って入ることができる距離ではあった。だが、それをしなかったのは直前にクロワールからレイジングハートへゼロがヘリへの砲撃を防ぐ、と一瞬にして連絡が来たからである。ゼロなら大丈夫だろう、となのはは心のどこかで思っていたのだ。

 

「飛行の部分も完全にリインフォースに任せているがゆえに行えているが、俺の意思をリインフォースが受け取るのには若干のラグもある。空中での戦闘もガジェットの相手や、初見の相手ならともかく、なのは、フェイト、そしてシグナム、ヴィータの4人と渡り合うのは難しいだろう。あのコピーエックスに対して圧倒できたのも、相手が初見だったからに他ならない。2度目はおそらく、コピーの半身が対策を講じるはずだ」

 

 なのはやフェイトたちも報告で聞いた、ゼロの世界における『偽りの英雄』、コピーエックスの登場。その半身はまたスカリエッティが作り上げたという別のエックス。エックスという存在については10年前にゼロから軽く聞いたことのある存在だった。なのはにとっては、過去、自分の道を諭してくれたゼロがエックスの話をしたときに見せた笑みから、どれだけゼロが信頼していたのかを知っている。

 

「もし、私やフェイトちゃんたちがそのエックスと対峙したら……どうなりますか?」

 

「……仮想で戦った、VAVAとの戦績は?」

 

「……『3割』です」

 

 なのはの問いに、さらに質問で返したゼロの問いに、なのははそう答える。それは、ロングアーチとシエルがVAVAから得たデータで作り上げた訓練場における架空のVAVAの存在。それに対して、なのはが挑んで勝率は3割。この世界でエースオブエースとまで呼ばれた彼女ですらVAVAには苦戦していた。そうなれば、答えは決まっていた。

 

「勝率1割……しかも、スターズ、ライトニング両隊長、副隊長で挑んで、誰かしらの犠牲を出さないと難しいと思うわよ」

 

 なのはの答えに対してゼロではなくクロワールがそう答えた。彼女が正確にシミュレートをした結果なのだろう。要するになのは1人で挑みなどすれば確実に死が待っている。それほどまでに、『エックス』という存在は特別であり、強さという点ではコピーなどとはいえ本物なのだ。そこは、素体に天才であるシエルが作り出した技術が盛り込まれているからといえよう。それを聞いて、本当のエックスはどれだけ強かったのか、となのはとリインフォースは戦慄する。

「……遠い記憶、思い出すエックスは確かに戦いにおいて『甘さ』があったが、『弱かった』わけじゃない。アイツには技術も、実力もあった。ただ、非情になりきれなかっただけだ。その甘さがないエックスは脅威に他ならない。もし、奴と対峙したときは生き残ることだけを考えろ」

 

「わかりました」

 

 なのはが頷き、朝のトレーニングは終了となる。今日フォワードは先日の市街地での戦闘についての報告書の作成に終われており、訓練はなしとなっている。だからこそ、今回ゼロはトレーニングを行っているのだが。ちなみに、なのははすでに作成を終了していたりする。ここは、流石エースオブエースと言われる所以であろう。そして、はやての業務の手伝いがある、と先に訓練場を後にしたリインフォースを確認したなのはは、ゼロへこんな提案をする。

 

「ゼロさん、今日、1つ私の任務についてきてもらってもいいですか?」

 

「任務? 今日は、お前は業務を終えたといっていた気がしたが」

 

「はい。私個人の任務ですので、六課の任務には含まれてないです。保護されたあの女の子の様子を見に行こうかと思いまして。よければ」

 

「ああなるほど、アルエットとかのこともあるし、ゼロならお手の物ね!」

 

 なるほど、と、クロワールは手を叩くが、ゼロはそれはシエルの役割ではないか、と思う。実際、初対面であったころは割とアルエットから距離を置かれていた。今では、彼女が作成したサイバーエルフであるクロワールを託すくらいには信用しているが。クロワールもクロワールで、なのはに頼まれ、どうにか2人きりなことをしたい、と頼まれているが故である。本当は子供の相手をゼロができるとはあんまり期待していない。

 

「……いいだろう。了解した。いつ、出発する?」

 

「今からすぐです。場所は聖王教会の近くにある聖王病院なんですけど……」

 

「あ、そうだゼロ! だったらあれ使いましょう! シエルが作ってくれたアレ!」

 

「ああ、アレか。確かにいい機会だ」

 

 クロワールの言葉に、ゼロはそう納得して頷く。あれ、と言われていまいちピンとこないなのはだが、ゼロはその訓練場をなのはと共に後にして、その格納庫へと訪れる。

 

「これって……!」

 

「……ああ、俺の世界で発見されたロストデータを元に再現したものだ。名前は『ライドチェイサー』だったか、個体名称は『アディオン』という。」

 

 そう、これはゼロの世界にある『沈没した図書館』と呼ばれた場所にてゼロやシエルたちレジスタンスが発見したロストテクノロジーである。かつて、イレギュラーハンターたちはこれに乗って戦場へ赴いたという。高速移動を目的として開発されたエアバイク型マシンだ。基本武装として、連射の効く小型ビーム砲を装備しており、空中を滑空する形で走行しているため、針が敷き詰められたり高圧電流の流れるトラップ地帯、あるいは水上など、通常なら足を踏み入れられないようなエリアにも突入して行ける万能マシンで、加速性能や最高速度に優れるが、反面ブレーキが効きにくく、一時を争うハンターの任務においては乗り捨てられる場合が多かったという。 また、高い機動性と引き換えに装甲は少なく、耐久力は非常に低い。操縦者が露出するため、搭乗中のダメージも防げない弱点を抱えている。さらにいえば、ゼロたちが復元したアディオンはかなりじゃじゃ馬である。

 

「すごいですね。これ、2人乗りできるんですか?」

 

「ええ、もちろん。シエルが改造したから大型化しているの。ああでも、ゼロ以外はたぶん操縦が難しいと思うわ」

 

 そう、このアディオンがじゃじゃ馬と呼ばれる所以がこの機体に搭載された反重力ユニットである『ドライブブレード』だ。単純に推進力としての機能のみならず、ウィリー走行でブレードを前面に押し出しての体当たりで攻撃したり、障害物を破壊できる推進力があり、 元々ハンターの隊長機として開発された……が、性能が高すぎて乗りこなせる者が限られるため、性能をデチューンした量産機の『ハーネット』と呼ばれた機体が開発されたほどである。その古いデータにはゼロが搭乗した記録が発見されたことから、今回それをもとにシエルが作成したのである。

 

「一応、戦闘においてAMF下でも魔導師を運ぶことなどを想定して2人乗りだ。これを使え」

 

 そう言ってゼロはなのはへヘルメットを渡してアディオンに火を入れる。余談だが、もしここにティアナがいれば、興奮すること間違いなしだっただろう。ミッドチルダにおいて、駆動二輪などはいまだタイヤがある地球の技術とはあまり変わらないものが主流である。なのはにとっては、地球での生活で見たことのあるSFバイクにしか見えない。ゼロがまたがった後、なのはもそれに続いてヘルメットをかぶり、後ろへと乗り込んだ。

 

「じゃ、じゃあ、失礼して」

 

『ナビゲート起動、えーっと、場所は聖王病院っと。じゃ、飛ばすわよ、ゼロ!』

 

 起動したライドチェイサーにより、浮遊してなのははゼロの腰を強く掴む。想い人との二人乗りバイク、嬉しくないはずはない。しかし、現実は非常である。なのははそこで一瞬、嫌な予感がよぎったのだ。このバイク、クロワールはなんと言っただろう。ゼロ以外、操縦が難しい。そして、飛ばす? 彼女の第六感が、危険信号を発していた。

 

「あの、ゼロさん? これ、一体何キロ出るんですか?」

 

「知らん。だが、そこそこにスピードが出る。しっかり捕まっていろ」

 

「え、ちょっと待っ……」

 

 瞬間、爆音を立ててライドチェイサー『アディオン』が発進した。その瞬間、なのはは悲鳴にならない悲鳴を上げたのは言うまでもない。

 

 

 

 

聖王病院

 

 

「で、ヴィヴィオだったかしら。貴女どうしてここにいるの? というか、ここがどこかわかる?」

 

「……わかんない。ヴィヴィオ、ママとパパ、探していたの」

 

「迷子、か。まあ、私も同じなんだけど……」

 

 聖王病院の中庭にて、少女ヴィヴィオに名乗ったレプリロイド、レヴィアタンはそう言いながら困ったように頭を掻く。レヴィアタンも、自分がどうしてこんな場所で倒れているのかがわからなかった。メモリーを引っ張り出しても、最後は自分が惨敗を喫したレプリロイド、オメガへの借りを返すためにゼロに手を貸したのが最後だ。

 

――何をしている! 早く立て、ゼロ!

 

――オラァ! 借りを返しに来たぜオメガァ!

 

――やられっぱなしって、性に合わないのよね!

 

 あの場所へ辿り着くのに自分たちは満身創痍だったが、自分たちの”本当の主”から頼まれた最後の命令を守るためにゼロへ加勢した。そして、最後は他の四天王である2人と共に爆散するオメガの爆風からゼロを守るために盾となった。これが、レヴィアタンの最後の記憶だった。もし、自分のメモリーが奇跡的に無事で、目を覚ますなら当然ネオアルカディアのメンテナンスルームだろう、と思う。ますますわけがわからない。

 

「戦闘バカはともかく、キザ坊やがいればまだ、冷静に判断ができたもんだけど……」

 

「う?」

 

「なんでもないわ。さて、どうしたもんかしら……地上にしては、ネオアルカディアでもないのにずいぶんと綺麗だこと。外だとしたら、まだこんな綺麗な場所があったね」

 

 レヴィアタンの知る地上といえば、土ばかりで埃っぽくて、とてもではないが綺麗好きの自分にはとても耐えられない場所だったはず。しかし、ここはどうだろう。豊かな自然と、心地よい風が吹いている。

 

「まあ、やることもないし。貴女の親を探しに行くのを手伝ってあげるわ。こう見えて、情報収集は私の分野……っ!!」

 

 ヴィヴィオへ言葉を言い切る前に、レヴィアタンは十の光る武具の一つであり、自身の愛槍である深紅の槍、『フロストジャベリン』を出現させ、それを振るう。それと共に聞こえる金属音。そこにはトンファーのような武器を携えた女性がいた。その表情は酷く驚いた様子だった。

 

「一応、聞いておこうかしら? どういうつもり(・・・・・・・ )?」

 

「っ……!?」

 

「”私ではなく( ・・・・・)”、この子を狙っていたわね?(……こいつも人間? にしては、パワーがレプリロイドクラス。しかも、戦闘バカに及ばずともそれなり。どうなっているの?)」

 

 攻撃を防ぎながら、レヴィアタンはその攻撃をしてきた人間の女性を分析する。伊達に、ネオアルカディアで冥海軍団を指揮するネオ・アルカディア四天王の一人ではない。しかし、その武器同士の拮抗ははじかれ、女性は距離を取った。

 

「なぜ邪魔をしたのです! その子は人造生命体! どんな危険があるか!」

 

「……ふーん? 言っていることはよくわからないけれど、まあ、私からすれば、子供を襲っている危険な女にしか見えないわよ? 貴女。 それに、なんであれ、恩を仇で返すほど私も落ちぶれていないの。人を守るはレプリロイドの誉れ、この子をどうにかしたくば、この妖将レヴィアタンを倒すことね」

 

 そう言いながら槍を回し、構えを取るレヴィアタン。しかし、女性はその名を聞いて驚き、目を見開いていた。

 

「レヴィアタン!? では貴女が「行くわよ!」っ……! ヴィンデルシャフト!」

 

 女性はそのトンファーで迫りくるレヴィアタンを迎撃する。そんな彼女に対して、レヴィアタンは容赦なくその槍からホーミング弾を発射して牽制を図る。しかし、そのホーミング弾は一つ残らず女性に叩き落された。

 

「ハッハァ! 人間にしてはやるじゃない! ヴィヴィオ! アンタは隠れてなさい!」

 

「う、うん!」

 

 一応、その戦闘に巻き込まないようにと惚けていたヴィヴィオへいうレヴィアタンはそのまま槍を回して空中へと跳ぶ。

 

「これはどう? ヤッ!」

 

「この程度! はああっ!」

 

 氷の輪を作り出したレヴィアタンはそれを発射するもレヴィアタンの攻撃を女性が迎撃する。本来、レヴィアタンの得意とするフィールドは水中である。その重力から振り切れるその場所で相手を惑わし、踊るように戦うのが彼女の戦闘スタイルである。しかし、ここは地上。彼女が苦手とする場所でもあった。それにより、思うように実力を発揮できない状況でもあった。

 

(長期戦は不利、なら、一気にケリをつけてやるわ!)

 

「出ておいで!」

 

 その言葉と共に、彼女の周囲が氷結していく。その周囲の木々が、地面が、そしてその空気すら。女性もそれを見てバリアジャケットを纏っているのにも関わらず冷気を感じていた。そして現れるのは氷の龍。まるで生きているかのように錯覚するそれをレヴィアタンは妖艶な笑みで笑ってひと撫ですると、手を女性へと向ける。

 

「そらっ! 行きなさい!」

 

「っ……! ならば、ヴィンデルシャフト!」

 

 再び、女性の持つデバイスがロードされる。その魔力を纏った一撃をその龍へとぶつけるために地を蹴った。しかし、そこで乱入者が現れる。

 

「そこまでだ!」

 

「まて!」

 

 飛び出した2つの影。片方は女性のトンファーを『2本の剣』で受け止めており、もう1人はその女性へと迫らんとしていた龍を炎を纏った剣で叩き切った。それを見て、レヴィアタンと女性、双方が目を見開いた。

 

「まさか、お前とも会うことになろうとはな……レヴィアタン」

 

「貴方……ゼロ!? それに……」

 

「……久しぶりだな、レヴィアタン」

 

 レヴィアタンは驚愕する。そこに現れた2人の人物。それはかつて自分が出会い、倒すことに執着してしまうほどに夢中になった好敵手であるレジスタンスの戦士、ゼロ。そして、その先ほどまで自分が戦っていた女性のトンファーを受け止めていた人物。翡翠のアーマーと、背中のジェットパック。そして、2本の赤い双剣。

 

「ハルピュイア!?」

 

「”お前も( ・・・)”、この世界に流れ着いていたとはな。少し、驚いたぞ」

 

 

 賢将ハルピュイア。彼がその場にて、女性の一撃を防いでいるのであった。




一口単語

アディオン
ロックマンX4~X5に登場したライドチェイサー。公式イラストではゼロが搭乗している写真がある。
個人的にゼロのライドチェイサーといえば、PSPのイレハンのムービーが印象深いです。

余談
最近、今更鬼滅の刃にはまりました(二次創作に)
推しはカナエ姉さんと、しのぶさん。
カップリングは炭しの


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23「新たな出会いと懐かしき再会」(後編)

というわけで、後半投稿です。
覚えている人も少ないだろうな、という感じでこっそり更新。
一応、次の話の構想も頭の中ではできているので、後はそれを文面に書き上げられるモチベがあれば、なんとかなりそうです。というわけで、感想、評価など待っております。
リメイク前を読んでいただけている方からすれば、完全に今までとは違う方向へ走っているので、まあ、次回もまたちょっと時間はかかりそうですが、今ちょっとそこそこにモチベがあるので、頑張りたいとは思います。

では、23話です。どうぞ


レヴィアタンが戦闘を始める少し前のこと

 

「ここが聖王病院か」

 

『目的地周辺です。音声案内を終了します……なんてね♪」

 

 起動六課より、聖王病院へと出向したゼロとクロワール、そして依頼をしたなのは。ゼロとクロワールは特になんの気に留めることもなくアディオンから降りるも、一方のなのはは違っていた。

 

「ふえぇぇぇ……」

 

 目を回していた。速度にしておおよそ300km強でここへと到着したわけだが、空戦魔導師として本来のように空を飛ぶのならばともかく、今回は自分の意志とは違う方法でその速度にさらされたことによってなのはは三半規管がダメになってしまい、目を回す結果となった。

 

「大丈夫か、なのは」

 

「ら、らいちょうぶれふ~」

 

 明らかにダメそうである。ひとまず病院のベンチの座らせるゼロだが、そこで異変を感じ取る。人の気配がまるでしないのだ。医者も、看護師も、患者も、見舞客や清掃員などすらその姿はない。すると、空中に浮遊するようにレイジングハートが出てきた。

 

『ゼロさん。先ほど、聖王教会のシスター、シャッハ・ヌエラ様より伝言が。先ほど保護した人造生命体の少女が脱走したとの報告がありました。危険性を考え、病院内の人間はすべて避難させた、とのことでした』

 

 そう、レイジングハートがなのはがそのバイクによってとても通信が聞けないことから受け取ったメッセージを伝える。レイジングハートはできる子である。

 

「それにしては、やりすぎだろう。あの子供はなんの力も感じなかった」

 

『彼女はそう思っていないらしいです。また、聖王教会から教会に所属する方が援軍でいらっしゃるとのことです』

 

「援軍……っ!?」

 

 レイジングハートの話を聞いていたゼロだったが、そこでまるでジェット機のような音と共に感じた殺気を感じてすぐにZセイバーを抜刀して振り抜く。それによって得物がぶつかった。片方はZセイバーだが、もう片方はゼロの武器と似ているが、紅い刀身でやや短いもの。それを見て、なのはは正気になってレイジングハートを手に構えた。

 

「流石だな、ゼロ……報告書に聞いた通り、腕は鈍っていないようだ」

 

「お前は……馬鹿な、なぜおまえがここにいる!? ハルピュイア!」

 

「……それは、私のセリフでもあるのだがな。まあ、いい」

 

 そこにいたのは翡翠のボディに、ゼロとは反対に白いタイツスーツ。羽根を模した形のヘルメットと、物々しいジェットパックを身に着けた1人のレプリロイドの姿だった。それはかつて、ゼロと何度も激突したことのある、ネオアルカディア四天王の一人、賢将ハルピュイア。なのはも驚き目を丸くするのだが、それを見てか、そのレプリロイド、ハルピュイアは剣を下ろして地上へと降り立つ。

 

「貴女が機動六課のスターズ隊長の高町なのは一尉。俺は聖王教会所属の『神父』、ハルピュイアだ。もっとも、貴殿にはこういった方が分かりやすいか。ネオアルカディア四天王、賢将ハルピュイアだ」

 

「……! ゼロさんの世界の、ゼロさんと何度も戦った、ネオアルカディアの将軍……」

 

 驚きと共に、自分の仲間であり、想い人であるゼロと敵対してきた人物の1人との出会い。それになのはは緊張な面持ちでレイジングハートを構えていた。ゼロと同じく、この人物に隙というものが見当たらない。バリアジャケットを纏う一瞬すらないほどに。しかし、そんな空気の中、ハルピュイアは自身の愛刀であり、十の光る武具 と呼ばれた武具の一つである『ソニックブレード』を下ろした。

 

「安心しろ。貴様らと戦う気はない。特に貴殿、人間である高町なのは、貴女とはな……」

 

「へ?」

 

「俺は人々の命と未来を守ると誓った身。そうそうのことがなければ、人を斬る気はない。もっとも、お前が戦う気があるというな別だがな、ゼロ」

 

 そう言ってゼロを見るハルピュイアだが、ゼロもそれを見てか、自身の持っていたZセイバーの刀身を消してホルスターへとしまう。

 

「もともと俺は戦う気はない」

 

「ふん、相変わらずだな……」

 

「……なぜ、お前が生きている? お前はあの日……」

 

「ふっ、その話はあとでいいだろう。ファーブニルを交えた後でも遅くはない」

 

 もう1人の四天王、闘将ファーブニルすらもこの世界にいることに驚くゼロだが、さらに驚くべきはハルピュイアの纏う空気だった。ゼロがかつて出会ったばかりの頃のハルピュイアといえば、はレジスタンス達をゴミと見下すような傲慢なところがあった。だが、ゼロに敗れた後、何度も激突していくうちにハルピュイアという男をゼロは知っていったつもりでいた。他人に厳しく、そして自分にはさらに厳しいが、エックスへの忠誠心はどの四天王よりも強い、厳格な戦士だ。だがしかし、今の彼はどうだろう。今まで纏っていた張りつめている空気を感じない。自分と戦うとき、何もかも忘れていられると言ったときに見せた、1人のただのレプリロイドという印象を受ける。

 

「あの、そういえば、昨日保護した女の子のことなんですけど」

 

「ああ、そういえばそうだった。つい話し込んでしまったな。ヌエラの話では、子供が1人脱走した、との報告だが……」

 

「それほど危険を感じる子供には見えなかったがな」

 

「……だろうな、彼女の悪い癖だ。俺が言うのもなんだが、まじめすぎる。ファーブニルにも見習わせたいところだ。急いで彼女と合流しよう」

 

 そう言って歩き始めながらもやれやれとため息を吐くハルピュイアと、未だに戸惑いを感じるゼロ、そしてなのははそのハルピュイアの後を続く。しかし、そこで爆発音が鳴り響く。外での戦闘。それにゼロとハルピュイアはすぐに駆け出す。それを追うように、なのはもバリアジャケットを纏って空を飛んで2人と並走する。

 

「戦闘……!? ハルピュイアさん! これは」

 

「……十中八九、ヌエラだろう。だが、ゼロ。話が違うぞ。子供に聖王教会のシスター、騎士と戦えるほどの力はあるのか?」

 

「ない。クロワール……」

 

「そのとーり! 昨日スキャンしたけど、衰弱した人間の子供! 何の力も感じなかったわ!」

 

「となると、別の人物が戦っているのか? チッ、報告にあった戦闘機人か? どちらにしろ急ぐぞ、ゼロ。お前と肩を並べるのは余り好まないが……ついてこれるか?」

 

 かつては敵であったから、未だどこか割り切れていない様子のハルピュイア。しかし、ゼロはそんなことを気にした様子はなく、ただ一言言い放つ。

 

「お前がついてこい」

 

「ふっ、面白い!」

 

 ゼロの言葉に頬を吊り上げたハルピュイアは、その地面を蹴って跳びあがり、その背中のジェットを使って空中を飛ぶ。それとほぼ並走するように、ゼロはハルピュイアと共にダッシュで走っていくのであった。

 

 

 

 

時間は戻って、聖王病院中庭

 

 

「ゼロ……それに、ハルピュイア!?」

 

「……とりあえず、ヌエラ、武器を下ろせ」

 

「ハルピュイアさん!? し、しかし……!」

 

 ハルピュイアの言葉に驚く女性、シャッハ・ヌエラだが、そのハルピュイアの無言の圧力と視線にため息を吐くと、シャッハは自身の双剣型デバイスである『ヴィンデルシャフト』を下ろした。が、もう片方のレヴィアタンはそうもいかなかった。ゼロを目にしたことで彼女の中に潜む狂気が顔をだしていた。

 

「うふ、うふふふ……ゼロ! また貴女に会えるなんてね! ああ、嬉しいわ! 本当にうれしい! さあ戦いましょう! 貴方を今度こそ引き裂いて「レヴィアタン。一度、落ち着け……今、この場で戦うことがお前の目的か?」……仕方ないわね」

 

 好敵手であるゼロを見たことで、彼女の視界にはゼロしか映らなくなって暴走気味に殺気を溢れさせるレヴィアタンだったが、ゼロが戦う気がないことに気が付き、さらにゼロの言葉によって冷や水をかけられたかのように正気へと戻ることで渋々と自身の槍を下ろした。

 

「レヴィアタン。久しぶりの再会で悪いが、事情を話してもらう。何があった?」

 

「なにって、あそこの子供、ヴィヴィオをその女から守っただけよ。私は……というか、どういうこと? 久しぶり? だって、私たちはオメガと戦って……」

 

「ああなるほど、お前も”そこで”記憶が止まっていたか。そのことはあとで説明してやる……ひとまず、高町一尉、彼女を頼めるだろうか。我々では、あの少女を怯えさせてしまう」

 

 ハルピュイアは状況を整理しつつも、近くにいたなのはへ少女、ヴィヴィオの保護を頼んだ。凄まじい戦いを繰り広げたレヴィアタンとシャッハ、そしてそれを止めたゼロとハルピュイアでは少女を怯えさせてしまい、どうなるかわからない。となれば、と、ハルピュイアは人間であるなのはへヴィヴィオを落ち着かせることを頼んだ。なのははそれを承諾すると、彼女が抱えていたが、落ちてしまったうさぎのぬいぐるみを拾い上げてヴィヴィオを宥めに行く。こうして、一連の騒動は幕を下ろすのだった。

 

 

 

 

機動六課

 

 

「ふーん? ここは異世界で、私はあの時死んだ扱いになっていて、バイルは1年前に死んだと」

 

「え、ええ……そうよ。理解できた?」

 

「できるわけないでしょうが! 何その非現実的、非科学的な話! シエル! 貴女の正気を疑うわ!」

 

 機動六課の食堂にて、エネルゲン水晶から抽出されたエネルギーを変換して飲み物のように飲むレヴィアタンは、シエルにそう声を荒げる。突然、そんな話をされれば、そう叫びたくなるのも無理はない。むしろ、過去、異世界へと転移したゼロの冷静さが異常であったといえる。幸い、機動六課の面々は仕事中故に人はいないのだが、隣で同じようにジュースを飲んでいたヴィヴィオがビクリと震える。

 

「でも、事実なの。貴女にとっては、受け入れがたいかもしれないけれど」

 

「……ネオアルカディアの人間たちは、無事なんでしょうね」

 

 普段、ゼロとの戦闘に闘志を燃やすレヴィアタンだが、彼女もまた人を守護するネオアルカディア四天王の一人。ゆえに、彼女としては自分たちの世界の今を知りたかった。

 

「ネオアルカディアの中心地点……議会があった場所はラグナロク作戦で跡形もなく吹き飛んでしまったわ。今のところ確認できている死者は、辛うじてバイルに『生かされていた』バイル派の議員たちだけ……住居地区にいた人間たちは奇跡的にレジスタンスが救い出した。今は、その辛うじてライフラインが生きているネオアルカディア地区に仮設住居を作っているのが現状ね。少しずつ、エリアゼロへ人を送っているところよ。エリアゼロの居住範囲の開拓と、建設の見積もりから見れば、早くて5年で、ネオアルカディアからエリアゼロへ、人の移動を完了できる」

 

「……ふーん、あの人間に反旗を翻していたレジスタンスが、人間を助ける、ねぇ? どういう風の吹き回しなのかしらね。」

 

 シエルの説明を受けて、レヴィアタンはどこか苛立ちを覚えた様子でそうシエルに言う。本来ならば、それは自分たちがすべきことだった。人々を守り、その生きることができる範囲を広げていく。それが自分の役割だったはずなのに。と、どこか逆恨みというか、嫉妬のような感情がレヴィアタンには生まれていた。しかし、そんなレヴィアタンを諭すように、シエルはレヴィアタンの手を握る。

 

「確かに、貴女からすれば虫のいい話なのは、わかっている。人間たちは私たちレジスタンスを恐れてもいた。そして、バイルの支配とレプリロイドの存在から逃げるように人間はエリアゼロへと流れていった。けど、私も、そしてレジスタンスの皆も、決して人間が憎いわけじゃない。私も、彼らも、ただ、死にたくなかった。ただ、それだけだったのよ」

 

「……」

 

「そして、私たちレジスタンスと……いいえ、レプリロイドと人間はエリアゼロでまた昔のように手を取り合うことができるようになったの。互いを認め、新しい未来へ歩くことができるようになった。もっとも、それは私たちだけじゃなくて、ゼロの存在も大きいけれど」

 

 シエルの言葉に、レヴィアタンは心の中で燃えるように渦巻いていた負の感情が急速に冷えていくのを感じていた。まっすぐに自分の手を取って見てくるシエルの目に、レヴィアタンは理解してしまったのだ。彼女が言っていることは本当のことだし、嘘偽りでないということを。少ない期間であるものの、自分が生み出され、ネオアルカディアにシエルがいたころ。彼女は自分に嘘をついていたという記憶もない。だからこそだろう、その話を聞いて、自分の世界の人間たちが本当の平和を得ることができたということを……もっとも、そのきっかけとなっているのがゼロであることが気に食わなくはあるのだが。

 

「わかったわ。今は、貴女の言うことを信じてあげる」

 

「ありがとう、レヴィアタン」

 

「話は終わったか」

 

 話を終えたところで、そこにゼロとハルピュイアが現れる。2人ははやてのところへハルピュイアが挨拶と聖王教会からの伝言を伝えてきたのである。もちろん、ゼロ以外のレプリロイドとの邂逅には驚きを隠せなかったし、聖王教会のトップであるカリムを知るはやてからすれば大混乱であった。そして、一方のレヴィアタンとしては、今すぐにでもゼロと戦いたいという気持ちに狩られるのだが、ここで暴れれば多くの人間に被害が出るだろうし、何より、自分の立場というものが危うくなる上に、どうやら組織に所属しているというキザ坊やこと、ハルピュイアの立場も悪くなるだろう。それは、レヴィアタンも望むところではない。

 

「ええ、ちょうど……貴方とこうして話すのも久しぶりね、ハルピュイア」

 

 そのゼロの隣にいたハルピュイアに、シエルはそう静かに話しかける。彼もまた、エックスを元に作られたレプリロイドであり、その設計や製作には少なからずシエルは関わりを持っていた。また、秘匿ではあったが、システマシエルについてネオアルカディアへ手紙を送ったのも、シエルからハルピュイアへ宛てたこともあった。

 

「ああ、そうだな。シエル。俺たちの世界のことは、ゼロから聞いた。バイルを倒したこと、ネオアルカディアの人間たちを助けてくれたこと。レジスタンスであるお前に言うのは癪だが……礼をいう。ありがとう」

 

「いいえ、当然のことをしただけよ。これからは、一緒に戦える。違うかしら?」

 

「ふん、せいぜい足手まといにならないことだな。貴様らレジスタンスの力などたかが知れている」

 

「みたみた? ゼロ、あれってはやてが言っていたツンデレよね!」

 

 どこか素直になれないハルピュイアに対して、クスクスとクロワールが笑って水を差す。そんな彼女に青筋を立てるハルピュイアだが、そんな彼を見て、今更ながらレヴィアタンもどこか驚いた様子であった。

 

「驚いた。あのキザ坊やがこんなに丸くなるなんてね。どうしたのかしら?」

 

「……色々あった。お前やファーブニルと違い、俺がこの世界で目が覚めたのは半年ほど前のことだ。このミッドチルダにある聖王教会という場所で、今は神父をやっている」

 

「神父ぅ!?」

 

 ここが異世界である、という説明をシエルから聞いたとき並みに驚きの声を上げるレヴィアタン。今までそれなりに長い付き合いである彼女からすれば、どう見てもあっていない役職であると言わざるを得なかった。

 

「そのことについては、後日、ここの部隊長と隊長陣たちとともに、聖王教会にて話すことになる。お前はしばらく、ここで待機だ。レプリロイドのメディカルチェックができるのはレジスタンスのトレーラーしかないからな……万が一がある。しばらくはシエルとこの部隊の世話になれ」

 

「命令しないでくれる? もう、ネオアルカディアはないから四天王もないでしょうに……でもまあ、そうね。あとでここの部隊の隊長さんとやらには会っておこうかしらね」

 

 そう言ってエネルゲン水晶の補給を終わらせるレヴィアタン。そんな相変わらずの彼女に短く笑みを見せるハルピュイアは、ちらりとその隣でジュースを飲む少女、ヴィヴィオを見た。

 

「それでゼロ。この少女はどうする」

 

「なのはから、一応しばらくは六課で預かるとのことだ」

 

「あ、妖精さんだ!」

 

「はぁい、ヴィヴィオ。一緒に遊びましょうか?」

 

「いいの!?」

 

 先ほどまで難しい話に首をかしげていたヴィヴィオだが、クロワールを見つけると、椅子から飛び降り、飛び回るクロワールを楽しそうに追いかける。最初こそ、怯えていたが、なのはやクロワールの奮闘によってこの短時間で少しずつ心を開いているようである。特に、聖王病院の一件からレヴィアタンには懐いているし、ゼロもある意味恩人だと感じているのか、先ほどなのはとゼロが離れるときは2人の服をつかんで行かないでと泣き叫んだほどである。

 

「了解した。カリムには俺から伝えておく。また明日、聖王教会で会おう」

 

「……ああ」

 

 そう短く言葉を交わし、ハルピュイアはその六課の食堂を後に、聖王教会へと戻っていくのだが、それを見てか、ヴィヴィオがハルピュイアへ「ばいばい」と手を振ると、ハルピュイアは一度だけ振り返り、笑みを見せて右手を挙げて挨拶をして、無言で食堂を立ち去っていくのだった。

 

 

 

 

その日の夜

 

 

「やーあー! ヴィヴィオ、お兄さんとお姉さんと寝るのぉ!」

 

「ヴィ、ヴィヴィオ、お願いだから泣かないで。ね?」

 

 六課のロビーにて、寝間着姿のヴィヴィオが大声で泣いていた。その理由は簡単。ヴィヴィオは、仲良くなったなのは、そしてゼロ、さらにはレヴィアタンと共に寝たいと言い出したのだ。しかし、レヴィアタンは今は検査中で不在。それを説明したところ、だったら、となのはとゼロと一緒に寝たいというのだ。それはできない、と口では言うが、ちょっとそれもありかもしれないと思っているなのはは困ったようにヴィヴィオをあやす。しかし、これが面白くないのがはやて、フェイト、リインフォースの3人である。今日、2人でバイクに乗って聖王病院へ行ったことといい、3人からすればどこか仲が深まっているように見えるのである。そんな嫉妬オーラに怯えるのは当然ながらフォワードメンバー。彼女たちも早々に危機を感じ取って就寝するため寮へと駆け出していたため、すでにここにはゼロ、クロワール、なのは、ヴィヴィオ、はやて、フェイト、リインフォースしかいない。

 

「これ、明日大丈夫かしら。明日って、ゼロとレヴィアタン、それになのはも聖王教会へ行くんでしょ?」

 

「シエルとお前に任せるしかない。それより、クロワール、ヴィヴィオをどうにかしてくれ」

 

 流石のゼロも、こうも泣き叫ぶ人間の子供の相手をしたことがないため、比較的子供の扱いに慣れたクロワールにそう促す。クロワールはやれやれと首を振りながら、ヴィヴィオの肩へ降り立つ。

 

「ねえ、ヴィヴィオ。お姉さんとお兄さんが困っているわ。ヴィヴィオが一緒に寝たいのはわかるけど、今日はお兄さんと寝るのだけで我慢してあげて? そうしたら、明日は私が一日中一緒に遊んであげる」

 

「ホント?」

 

「もちろん。さ、ゼロが抱っこでお部屋まで連れて行ってくれるわ。行きましょう」

 

「……うん」

 

 未だ、クロワールのことを妖精さんと思っているヴィヴィオはそんな彼女の説得に渋々ながらもヴィヴィオはゼロのところへと近づいた。クロワールの言葉を聞いてか、ゼロはしゃがみ込んでヴィヴィオが来るのを待つ。ヴィヴィオもすぐにゼロへ抱き着き、嬉しそうにしていた。

 

「えへへ、お兄さん一緒に寝よー」

 

「わかった。部屋へ行くぞ」

 

「じゃ、おやすみー」

 

「みー!」

 

 抱き上げられたヴィヴィオは、クロワールの挨拶と共になのはたちへと手を振った。そんなヴィヴィオを、なのははその場が収まったことの安心感と、ゼロと一緒に寝るというチャンスがなくなってしまったことが残念という複雑な気持ちでヴィヴィオを見送り、はやてたちはそんななのはに『お話』をしようと決めつつも笑顔でヴィヴィオたちに手を振っていた。余談だが、この日の夜、またも寮にあるなのはの部屋にて、少し艶のある悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとか。そんなことは露知らず、ゼロは自分が普段眠っている部屋へと戻ることになる。すると、そんなゼロを不思議そうにヴィヴィオが見つめる。

 

「……? どうかしたか?」

 

「おにいさん、なんだかパパみたい」

 

「ブフゥッ!」

 

 その何気ないヴィヴィオの一言に、クロワールが噴出し、笑ってしまう。ヴィヴィオからすると、唯一この六課で出会った大人の男性。ハルピュイアは終始ネオアルカディア時代と同じ格好であったが、ゼロは通常の人間と変わらない服装を着ている。確かに、傍から見れば親子と見えなくはないだろう。ただ、普段のゼロのことを知っているクロワールからすれば、ゼロが父親という図はあまりにも似合わないゆえに、爆笑していた。しかし、ここでそんなクロワールはさらに悪ノリをすることにした。

 

「フヒヒ……あー、笑った。なら、ヴィヴィオの本当のお父さんが見つかるまで、ゼロがパパでもいいんじゃない?」

 

「お前は何を言っている。クロワール」

 

「ゼロ、パパ?」

 

「……」

 

 クロワールの言葉に、少し驚きつつも、そうゼロを呼ぶヴィヴィオ。ここで、それを断ろうものなら、また先ほどと同じようにヴィヴィオが泣き出す可能性がある。ゼロは小さくため息を吐き、どこか諦めたようにうなずいた。

 

「好きに呼べ」

 

「……! うん! パパ!」

 

 そう言って嬉しそうに抱き着くヴィヴィオ。翌日、ヴィヴィオが食堂でゼロをパパと呼んだことではやてたちの間で波乱があったのは、言うまでもないだろう。

 

 




原作、StrikerSとの相違点
聖王教会でカリムと対談するのは後日となった。
→レヴィアタンのメディカルチェックのため

というわけで、23話でした。次回は聖王教会での対談編です。戦闘はまたしばらく先ですかね。近いうちに、ゼロVS四天王か、六課VS四天王編もやろうかと考え中です。

ではでは、また次回。

Next 24「対談」


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