宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 (朱色の空☁️)
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プロローグ 火星で確認された未確認物体の記録

初めまして、初めてこういう2次小説書きます
上手く書けているか分かりませんがお楽しみ下さい
誤字脱字があったら教えて頂けると幸いです

この話はヤマトっぽくない…
でも次の話はちゃんと本編ベースで作ります


2152年✕月✕✕日

火星自治政府首相官邸総理執務室

映像記録(eyes only)

「回収された異星文明の戦闘艦の解析状況はどうなっている?」

「現在、火星航宙技研で装甲、武装の解析が行われています。エンジンと思わしき部分は、現在の地球では解析不能な技術が使用されているようで、解析が難航しています。」

「我々の文明は核融合炉がようやく実用できたレベルだからな、解析不能なのは仕方がなかろう」

「それと、もう1つ気になることがあります」

「何だね?」

「周回衛星が確認した画像ですが、■■■■■海海底に未知の物体の反応があります。信じられませんが、推定全長2000mの巨大な物体です…。」

「…ありえない。」

「直ちこの内容をまとめて2週間後の議会に提出できるようにしてくれ!」

「分かりました、ですがこのことはくれぐれも内密に」

「わかっている、このことは議会提出まで極秘としてくれ」

 

 

 

同年✕月✕✕日

火星自治政府中央議会 議会記録

 

火星技研局長

「火星技研の解析の結果、発見された異星文明戦闘艦の装甲材料は、現在の人類が実用化していない素材が使用されていました。しかし原子配列の解析の結果、現在の火星でも製造可能な素材であることが判明しました。」

火星議会議長

「これは大きな福音だぞ君!」

防衛省大臣

「地球からの独立にはどうしても戦力が必要になる、地球の奴らよりも強い船だ。このことは火星宇宙軍の大きな一歩だ!!」

総理大臣側近

「私たちからも1つよろしいでしょうか」

火星議会議長

「どうぞ」

総理大臣側近

「2週間ほど前に、■■■■■海海底に巨大な未確認物体の反応がありました。」

防衛省大臣

「未確認の物体?沈没した艦船か?」

総理大臣

「いえ、周回衛星からの観測によると全長約2000mで、形状は地球圏に生息するクジラに類似しています。落着時期は不明ですが、2週間前から一切動いていません。」

議長

「動いていないとはいえ、未知のものには慎重にならざるを得ないな」

防衛省大臣

「議長、この案件を持ち帰ってもよろしいでしょうか、1度防衛省内で協議を重ねてこの物体の調査方法の草案を提出したいのですが」

議長

「許可します。皆さんも異論はありませんね。では、本日はこれで閉廷します」

 

 

2週間後、防衛省より未確認物体の調査方草案の提出を確認。

採決が取られ、火星技研と防衛省で合同調査チームが結成。

■■■■■海海底での調査が開始された。

 

これは、調査時のボイスレコーダーの記録である。

 

「何とかサンプルを海底から引き上げたが、こりゃとんでもないサイズだな」

「全長2000mもありますからね、おまけに信じられないほど硬いです、サンプル切り出しに切断用レーザーを1機使い潰すほどでしたから…」

「しかし、議会からの情報通り、クジラの骨格のような見た目だったな」

「宇宙生物…ですよね」

「宇宙クジラってか?」

「でもあんな骨格のクジラなんています?肋骨みたいなのありませんし、包帯で渦を巻いたような見た目ですし」

「俺らはまだ宇宙人にも会ってないんだから、そんな事分からんよ」

 

 

2154年✕月✕✕日

火星自治政府直属航宙技術研究所

地下実験場

 

回収したサンプルへの大電流導通試験中に未知の発光現象発生、実験中止。その後、実験場内に重力子、斥力子の存在を確認。

 

以降、その物体の異常性を鑑みて、未確認物体の全体を海底より引き上げ。

複数に分割した後、火星技研最深部に封印された。

 

 

2183年第二次内惑星戦争終結

サンプルを含めた全ての骨格が地球圏に渡った




プロローグっぽい事書いてみたかったので
出だしはこんな感じです
オリ主が出てくるので、古代くんの出番は少し少なめです。


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贖罪の船から奇跡を起こす船に
登場キャラ設定 艦艇解説


オリ主を出すので人物紹介をします
あと、艦艇の解説を(想像大暴走…)します


2022年2月5日
ヴンダーの過剰火力修正
双胴式波動エンジンの表現修正
同年2月6日
舷側短魚雷発射管の位置修正
同年3月6日
MAGIシステムシステム追加
4月13日 アスカ専用コスモファルコン追加
なかなかヤバい戦闘機に仕上がっています。
2202のインフレを先取りしたような性能です。


4月20日
改デラメヤ級、改ゼルグート級追加

(ゼルグート級の全長は1000mと設定してあります)

5月17日
ゲルバデス改級の追加
EVANGELION Type nullの追加
(こいつが出したかったんですよ、こいつ)

6月4日
暁ハルナ、睦月リクのプロフィールの修正
及び暁ハルナのキャラ画像の表示

6月9日
暁ハルナ、睦月リクのプロフィール最終調整
どうしても書かないといけない話に向けての最後の調整

9月18日
主砲塔配置の番号について追記

10月2日
改ゼルグート級の兵装データ作成
なお改ゼルグート級の兵装設定には、「れみるちょりのようつべチャンネル」さんにご協力をいただきました。
ありがとうございます!

12月27日
コスモゼロ改に名称変更

2023年11月07日
デウスーラ2世(旧NHGエアレーズング)を追加


登場人物解説

 

主人公

睦月 リク

火星生まれ火星育ちのマーズノイド。公的には24歳。元火星技研の研究員で、例の未確認物体の引き上げ、解析に携わった数少ない人物の1人。銀色の短髪で、実年齢よりも幼い顔立ちをしている。

未確認物体の生成する重力子を用いる推進システムは彼が完成させた。

同輩(?)の暁ハルナが気になる

最近になってハルナから好意を向けられているが、本人が「ハルナ限定で」鈍感なため、気づいていない罪な人間である。

とある事故の影響で髪の色が一部変色してしまっているが、本人は一種の特徴としてとらえている。

ハルナが気に入っている昔のネット歌手に見た目が似てるって言われて以来そのままにしている。

割とよく食べる。食堂の木星オムライス早食いタイムアタックをしたら30分で食べきっていた。なお、対戦相手の太田は途中でギブアップした。その後太田を抱えて医務室に運んだら佐渡先生に怒られた。

 

 

 

 

もう1人の主人公

暁 ハルナ

リクと同じく純マーズノイド。年齢は公的資料には23歳と記載されている。

2人とも実際は60年程生きているが、2155年お互い21歳の時にとある事故で重傷を負い意識不明の重体。目覚める確率は0に近く、そのまま眠り続けたが、リクは2194年、ハルナは2195年に眠りから覚めた。

今は火星技研の時の経験を生かして国連軍で研究を行っている。真田さんとタイマン張れる程の天才。

リクは同輩と見ながら、弟のようにも見ている。

片付けが苦手、よくお部屋が書類のせいで汚部屋になる。

 

重力子を用いる推進システムの基礎概念は彼女が作り出した。

白銀ロングヘアの美人でいつもポニーテールで纏めている。

とある事故の影響で前髪が白銀から灰色に変色してしまっているが、本人は一種の特徴として捉えている。昔のとあるネット歌手の影響を受けているようだ。

国連軍内部でファンクラブが出来てしまっているが…本人は気にしてない

たまにメガネをかけている。視力は悪い。裸眼で0.3ギリギリ

でも、元々は視力はよかった。

 

 

【挿絵表示】

 

艦艇解説

NHG級 恒星間航行宇宙戦艦「Wunder」

旧NHG級 太陽系脱出宇宙船「Buße」を改造、イスカンダルからもたらされた波動エンジン設計図を元にして、「オリジナル」と「改良型」の同調運転を前提とした双胴式波動エンジン一対を搭載。

エンジンからもたらされる莫大な電力を用いて、中央船体の未確認骨格「仮称 アンノウンドライヴ」で重力子、斥力子などの素粒子を生み出す。

なお、武装用のエネルギーも生成可能だが、波動エンジンには劣るのでアンノウンドライヴは主に航行用エンジンとなる。

 

主機

双胴式波動エンジン一対

アンノウンドライヴ

補機

74改3式推進機関×6

武装

48サンチ3連装陽電子衝撃砲塔

両舷の第2船体上部に2基ずつ、都合4基で計12門

左舷には第1と第2、右舷には第3第4が設置されている

 

35サンチ3連装陽電子衝撃砲塔

両舷の第2船体上部アレイアンテナ付近に1基、後部甲板に1基、第二船体艦底部分に1基ずつ都合5基で計15門

 

7.5ミリ4連装対空パルスレーザー砲塔

7.5ミリ連装対空パルスレーザー砲塔

5.5ミリ6連装対空パルスレーザー砲塔

これらを多数装備

 

VLS(垂直発射装置)30発型

両舷第2船体の艦底部分に1機ずつ都合2機装備

VLS6発型

両舷第2船体副砲付近に2機ずつ、艦中央構造物に2機、後部甲板に二機で合計8機

 

魚雷発射管

両舷第2船体側面に4連装型を1つずつ

艦尾付近に3連装型を1つずつ

 

舷側短魚雷発射機

横1列で18発発射可能

これ中央船体後部側面に装備

 

重力操作型ホーミングレーザー

主翼に8門ずつ装備

Wunderの重力操作により、曲射陽電子ビームを撃てる兵器。陽電子は重力、磁場に影響される性質を持ち、それを逆手に生かし曲がるビームを撃つ「Wunderならではの武装」。

 

400サンチ次元波動爆縮放射機×2(波動砲)

波動エンジン内で開かれる余剰次元を波動砲の射線上に展開、その瞬間に発生する大量の極小サイズのブラックホールの蒸発エネルギーを打ち出し、域内の敵を跡形もなく破壊し尽くし、星をも消滅させかねない最終兵器。

コレを両舷第2船体の艦首部分に装備。

発射には、艦長と副長と戦術長の承認が必要。

 

艦載機

コスモファルコンγ

元々地球絶対防衛線用の局地戦闘機であった機体を急遽戦闘機としてWunderに積み込んだ。

積み込み時に操縦システムに改造を受け、通常の操作に加え「脳波によるアシスト」も可能となった。

手動操作では間に合わない回避運動、高速ロックオンも慣れれば簡単。

 

コスモファルコンEURO2

たった一機だけ作られたコスモファルコンのカスタム機。人の意志を拾う素材が組み込まれており、それにより脳波操縦システム「インテンションオートマチックシステム」の上位版『NT-D』Neo Triumph Dominatorを搭載。思考のみで機体操縦が可能となった。

 

まだ隠し機能がありそうだが?

そこは7色星団決戦で開示します。( ̄▽ ̄)ニヤリッ

 

 

 

 

 

コスモゼロ改

 

極東管区の宙技廠が作り出したコスモゼロをWunder艦内で改修した機体。武装の積載量の増加、エンジンノズルの大型化と出力増大、マルチロックオンシステムの採用など、もはやモンスターマシンとなった。

これはハルナと真田さんの合作

こっちは脳波アシストは組み込まれていない

(コスモゼロの高機動がさらに高機動になってしまい、人間用の機体ではなくなってしまうから)

 

ちなみにファルコン系の機体はは両舷第2船体のドラム式格納庫に格納されます。EURO2も搭載出来ます

(ヤマトの第2格納庫をそのまま大きくした感じです)

ゼロは第1格納庫(艦の後方)です。

 

本館に搭載されているコンピュータ

「第七世代型有機スーパーコンピュータシステムMAGIシステム3rd」

開発者 赤木ナオコ博士(死去)

人間のジレンマを利用して、独立している三機のスパコンで合議という形を取らせた有機スーパーコンピュータシステム

簡単に言うと、開発者の心を三つの一面に分け、「科学者としての自分」、「母親としての自分」、「女としての自分」をそれぞれ疑似的な人格としてインストールしてある。これにより各スパコンごとに若干の性能差があり、得意分野や「合理的であるか」なども個体ごとに異なる。

3rdである理由として、国連本部にMAGIシステムのオリジナルが置かれていて、本機は複数にコピーされたオリジナルの「2つ目」にあたるため。(MAGIシステム2rdは極東管区本部に設置)

今後、北京、ベルリン、サンクトペテルブルクにも設置予定(未定)

現在の管理者は赤木リツコ博士。

 

 

 

 

ガミラス艦艇

 

 

 

《改デラメヤ級高速ステルス輸送艦》

不死鳥狩り作戦で急遽改装されたデラメア級。船体形状はそのままだが、格納庫を大型化し、速力を強化。さらに対レーダー波特殊加工でステルス化を果たした。

 

 

 

《改ゼルグート級 一等航宙戦闘艦 ドメラーズⅲ世》

全長1200m

 

大艦巨砲主義の象徴としてヘルム・ゼーリックが建造した「ゼルグート級一等航宙戦闘艦(全長1000m)」を兵器開発局で出来うる限りの改造を施した『新世代ゼルグート』とも言える戦闘艦。

 

主砲を小口径にしながら威力を据え置き、速力を向上、機関増設及び高出力化。装甲の配置の最適化、対空迎撃用パルスレーザーの増設が行われた。いわばガミラスのWunderとも呼べる。

 

 

各種武装

 

420mm3連装陽電子カノン砲×7

(ドメル司令曰くわざわざ大口径を求める必要も無いとの事で、420mmカノン砲に換装された)

330mm3連装陽電子ビーム砲×4

(取り回しとチャージ速度の速い副砲で主砲のスキをカバーする)

 

艦首空間魚雷発射管×6門

舷側空間魚雷発射管×10門

(片舷に5基ずつ)

艦尾空間魚雷発射管×7門

艦橋空間魚雷発射管×6門

(光学兵装が使用できない宙域では、大いに助かるため)

 

33mm四連装陽電子速射砲塔×16基

(ゼルグートは、鈍足な分重装甲で攻撃を受ける節があるため、ちゃんと迎撃出来るよう

にということでつけられた)

 

なお、対空兵装は仰角が変わらないが、砲塔そのものを傾けることが出来るように機構が改良されているため問題ない

これらの改良は、ゼルグートの480mm4連装ビーム砲塔を換装し、機関出力を上げたから出来たことである

 

 

《改ゼルグート級 一等航宙戦闘砲艦 ドメラーズⅲ世》

 

七色星団決戦仕様の改ゼルグート。瞬間物質移送機を装備して、航空機隊及びミサイルなどを指定座標に転送可能。

 

そして両舷には、『300cm大出力陽電子カノン砲』がオプションとして設置されている。

これは兵器開発局の試作兵器であり、『砲身は問題ないが、一発撃つだけで発射機構がダメになる』問題兵器である。

 

そこで、発射機構をあらかじめ複数用意してリボルバーのように準備。「一発撃つ事に発射機構を捨て、新品に取り替えてまた撃つ」事で解決。

 

ゲシュタム機関最大出力でチャージ時間が1分で、隙は晒すがガミラス史上最強の砲である。

さらに、砲身が250mあるため長距離狙撃も可能である。

 

 

ゲルバデス改級航宙特務輸送艦 フリングホルニ

 

アリステラ星系の使徒討伐のために試作された汎用人型決戦兵器を輸送するために新規建造された艦艇。外見はゲルバデス級だがその内部は巨大な格納庫になっていて、全長80メートルの巨人を一機格納することが出来る。整備用の艦艇のため武装はあくまで自衛用の物しかなく、ゲシュタム機関のエネルギーをもっぱら推力に回している。

艦名は、神話に出てくる神の船からきている。

 

ちなみに、既存の艦艇に改装を施したのが「改〇〇級」で、基本設計を参考にしている場合は、「〇〇改級」という表記になる。

 

 

 

EVANGELION Type null Trial production

サレザー恒星系で回収された超大型艦艇の主機を解析して建造された機体。

解析された機体は「何をしても再生する」異常な再生能力を備えていたが、この機体には引き継がれていない。

ケルカピア級のゲシュタム機関を小型化した主機を外装ユニットとして装備させることにより、活動時間は無限に近い。

武装は130ミリ陽電子ライフルと超高振動戦闘短刀、ミゴウェザーコーティングを施した戦術防御盾である。

 

オプションとして、超熱振式戦闘長刀、460ミリ単装陽電子カノンライフルがある。

 

内蔵電源で稼働時間は5分ほどである。

パイロットはメルダ・ディッツ特務中尉(兼、銀河方面軍第707航空団所属 階級は少尉。パイロットであることは極秘である)

 

 

 

 

 

特1等航宙戦闘艦 デウスーラ2世

(旧NHG-**2 Erlösung)

 

全長 2500m

 

主機関

ゼルグート級ゲシュ=タム・ドライブ×2

補機

通常艦艇用ゲシュ=タム・ドライブ×4

 

特殊装備

オリジナルエヴァンゲリオンMark10

 

武装

デスラー砲×1

480mm3連装陽電子カノン砲塔×12

330mm3連装陽電子カノン砲塔×12

330mm陽電子ビーム砲塔×12

 

魚雷発射管

第二船体艦側面×10門(両舷で20門)

第二船体艦底部×11門(両舷で22門)

主翼接合部×7門(両翼合わせて14門)

中央船体艦底部×14門

艦後部×10門

 

合計80門

 

 

サレザー恒星系に漂流してきた旧NHGエアレーズングを解析し、そのオーバーテクノロジーに目を付けたタランによって第二バレラスで研究がすすめられ、デスラーの勅命によって総統座乗艦として改装された「神殺しの船」

 

発見当時には大破していたが、復元されたデータベースから抽出した当時の形状に合わせて復元を行い、主機関としてゼルグート級を動かす事が可能なゲシュ=タム・ドライブを2基実装。補機として主力艦艇に組み込まれる通常サイズのゲシュ=タム・ドライブを4基実装している。

 

コアシップからのエネルギー供給を使用したデスラー砲を中央船体艦首に搭載。その都合上デウスーラ2世のコアシップは中央船体艦上部にドッキングされており、いざと言う時は脱出艇となる。

 

攻撃兵装として480㎜と330㎜陽電子カノン砲塔を12基ずつ搭載。330㎜陽電子ビーム砲塔も同じく12基。魚雷発射管は艦全体に分散配置され合計80門を誇る。

 

 

特殊兵装として、エアレーズング発見時に主機として確認されたオリジナルエヴァンゲリオンMark10が、四肢を切り離し再生阻害処置を施した状態で組み込まれている。この機体はType-nullが発揮したATフィールドを艦艇に実装するために外部からの制御によって半ば強制的にATフィールドを発生させる事が可能。

 

しかし、Mark10を解析してType-nullを建造したものの、ガミラスの科学技術ではMark10の整備、同等の機体の建造は不可能である。

 

 

 

 

 

今の所はこんな感じです

 

新規艦艇、艦載機、人物が増えたら追加していきます。

 

それでは、本編をお楽しみください

 

 

 




火星にも真田さんクラスの天才がいるという設定は作ってみたかったんです。
「地球の真田志郎、火星の暁ハルナと睦月リク」
って感じに笑

この設定作れて満足で〜す

追記
コスモゼロのマルチロックオンはガンダムSEEDのフリーダムガンダム見たいな感じです
フリーダムカッコよ笑






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西暦2198年 異星からの使者来訪

ユリーシャの話を入れます


 西暦2191年、太陽系天王星基地にて人類は、史上初の異星文明の存在を確認した。国連宇宙軍艦隊は太陽系に侵入した未知の艦隊に対し接触行動を行おうとした。しかし、当時指揮を執った沖田十三が司令部により更迭。司令部の命令により、異星文明の艦に攻撃が行われてしまった。

 この事により、異星文明艦、後にガミラスと呼称される彼らは、国連宇宙軍の艦隊の8割を撃破。

 事実上の「地球の敗北」であり、この戦いから、地球ガミラス間の戦争が始まった。

 

 その後2192年第一次火星沖海戦で惨敗、2198年の第二次火星沖海戦で、地球は辛くも勝利したがガミラスからの遊星爆弾攻撃で滅亡の縁に立たされていた

 放射能による地上の汚染、未知の有毒植物からの有毒胞子の散布は確実に人類の生活圏を脅かしていく…

 人類は地下都市に避難、何とか生きながらえていたがそれも限界がある。

 

 

西暦2198年。人類滅亡まで、あと2年と迫っていた。

 

 

 

 

 

 滅亡の縁に立たされた人類は地球からの脱出計画「贖罪計画」を進めていた。残された人類を遥か遠くの恒星系に逃がし、人類を存続させる「現代版ノアの箱船」であった。

 

 そしてそれを進めているのが極東管区の藤堂長官、芹沢軍務局長であった。

 

「芹沢君、まさか君があのような船を造ろうと言い始めたときは、本当におかしくなったのかと思ったよ」

 

「思われても仕方のないことです、全長は金剛型のざっと10倍、1000人の人間を乗せて宇宙を進むノアの箱船ですから」

 

「巨大すぎて地下ドックでは造れないのが問題だが」

「衛星軌道上にドックを造るのは、藤堂長官が南部重工に働きかけていただいたお陰です」

 

「今は小惑星でドック全体をカモフラージュして最終組み立てを行っていますが、いつまでごまかせるか…」

 そう、彼らは空前絶後の超巨大宇宙船を第1衛星軌道上で組み立てていた。厳密には各パーツを航宙艦建造ドックで完成させて、完成した各パーツを軌道上に上げ、最終組み立てをしているのだ。

 

 従来艦のコンセプトから大きくかけはなれたこの艦は、巨大な翼を持つ翼竜のような形状を持ち、翼の付け根、人間で言うところの肩に当たる部分には旧世代の洋上艦のような構造物が2つ付いている。

 

 さしずめ、獲物を狩る怪鳥。しかし、命を運ぶ艦である。

 しかし芹沢には懸念事項があった

「しかし藤堂長官、あのような謎の物体を船体に組み込んでよかったのですか?火星が見つけた得体の知れない骨格。彼らが残したデータには、あの骨は大電流を元手にして素粒子を作り出すとか」

 

「設計者の彼が言うには、重力子と斥力子を利用すれば、反動推進とはまた違う、重力斥力推進ができるそうじゃないか」

 

「私は如何なものかと思いますが。解析の終了していない未知の物体、機械ならまだしも、生物と思わしき何かを組み込むのはリスクが高すぎると…」

 

「設計は彼に任せていたから我々は口を出せないよ」

 

 

 

 この船の設計者、暁月ハルナと睦月リクは元火星技研の研究員であった。未確認物体の調査に関わっていた人物であり、骨格封印後、素粒子発生現象を用いた推進システムを独自に考案した。艦船開発の異端児コンビであり、地球ではずっと煙たがられていた。

 なお、マーズノイドであるため、2人揃って虹彩は赤みを帯びている。

 

 そんな2人は研究室にこもって毎日のように作業をしていた。

 

「リク〜、重力子発生と大電流の相関関係のグラフってどこ?」

「こっちにはないぞ、またお前デスクの整理してないな。コレ言ったのつい1週間前だぞ」

 

「あーゴメン…。どうも苦手なんだよね、片付け」

(ハルナって…片付けさえ出来れば完璧美人なんだけどな)

「あ〜今、片付けさえ出来ればなぁ〜とか思ったでしょ」

 

「お前心読むの上手いなぁ、そう分かったなら片付け頑張れ」

まあリクの言っていることは正論である。

ハルナは火星技研時代では超人と言われた研究員であり、20歳の若さであの未確認物体の調査を行った事で周囲からは「チートハルナ」とも呼ばれている(現在進行形)

おまけに銀髪で美人、持つもの「ほぼ」全て持って生まれてきた感が凄い人だ。

リクもハルナと良い勝負の秀才だが、本人は「ハルナの方が上だ」と言っている。

 

「ところでさ、あの船に乗るかどうか返答しないといけないけどさ、どうする?」

「どうするも何も、設計者として乗ってくれと言われそうだけどな」

 

「私は… 人類を見捨てて逃げるくらいならここにいた方がいいわ」

 

「ハルナ…俺も残ろうか?」

「人類滅亡まで一緒に研究する?」

それも悪くないと思うリクであった

 

 

月軌道

第5観測衛星

未知の航宙艦を確認…

AIによる識別の結果、

ガミラスタイプの艦に該当せず

司令部に送信…

 

 

所変わって極東管区司令部

「藤堂長官!月軌道観測衛星からの情報です、木星宙域よりガミラスタイプとは異なる未知の艦の接近を探知!推定全長390m!光速の23倍の速度です!」

現実はどこいった…光速よりも早く航行するにはワープするしか方法がなかったのではと思うが、異星人なら不思議なことに全て納得してしまう。

「長官、迎撃の用意を!」

「いや、攻撃なら巡航中にも行える…速度を落とさずにやってくるとは」

「長官!!」

「…仕方ない、警戒警報発令。ただしこちらからは撃つな。目標が分からない以上下手には動けない。」

「了解しました、起動可能な艦艇は直ちに発進準備にかかれ!」

「待ってください!!接近中の艦艇から救難信号を捉えました!」

これは罠なのか、それとも真実なのか…迷う暇などなかった。

「発進準備中の艦艇に連絡、接近中の艦艇は救難信号を発している。発進後は救助活動にあたれ。ただし、くれぐれも慎重に行うように」

 

 

 

 

記録

金剛型宇宙戦艦キリシマ

村雨型宇宙巡洋艦ユウギリ

異星文明の艦より生存者1名を救助。

軟着陸した艦は非武装であり、ガミラスとは異なる設計思想であることから、ガミラスとは異なる星間文明であることを確認。

彼女の名は「ユリーシャ・イスカンダル」

 

「光速を超える船とか…興味をそそられるわね」

「それよりもその船に乗っていた人、皇族らしいぞ」

「異星人の皇族の方がなんでこんな荒れ果てた星に?」

その時、廊下を全速力てで走る音が聞こえた。

「君たち!!すぐ司令部に来てくれ!!!」

「「?」」

 

 

「私は、ユリーシャ・イスカンダル。遥か遠く、168000光年先のイスカンダルから参りました…」

「私は、地球、国連宇宙軍極東管区長官、藤堂平九郎です。」

人類史上初の異星人との遭遇は、地球人にあまりにも似すぎた美人すぎるイスカンダル人とであった。

「それで、こんな荒れ果てた星にどのような御用で」

「私たちイスカンダルは知的生命体の救済を目的とした星です。ここに、姉のスターシャからのメッセージがあります。まずはご覧下さい」

そう言いながらユリーシャ皇女は懐から金色のカプセルを取り出して、蓋を展開した。

 

『あまねく星々、その知的生命体の救済、それがイスカンダルの進む道。可愛いユリーシャ、私の妹…今回、妹のユリーシャにこのメッセージと波動エンジンの設計図を運ばせました。私たちの星イスカンダルには放射能を除去することが可能な装置が存在します。それを取りに来てください。残念ながら私たちから装置を送ることができません。その波動エンジンを完成させ、こちらまで受領しに来てください』

 

異星からのメッセージは人類にとっての助け舟であった。

この報告を受けて人類は世界の各管区との緊急協議を行い、現在建造中の地球脱出船「太陽系脱出宇宙船 NHG-001 buße」を急遽改造、「恒星間航行宇宙戦闘艦」として大マゼランに派遣することを決定した。

 

 

地球にもたらされたオーバーテクノロジー…

その力は人類にとって福音と呼べる存在である。

しかし、力は使う人によって驚異になりうることは人類の歴史の過ちが証明している。

 

人類は「救うに足りるか」イスカンダルに試されてるのだろうか…

 




ユリーシャの話、とりあえず前編は終了です
オリ主とも絡む可能性はありますね
テスト期間に入るので日にち開きます


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西暦2198年 贖罪から奇跡へ

真田さんも登場!
ダブル主人公と絡みます
この話は長いです


第3話 西暦2198年 贖罪から奇跡へ

 

 

イスカンダルからもたらされた波動エンジンの設計図、今までの人類の技術を何歩も飛び越えた超技術を深く理解できる人はいなかった。

 

 

 

ただ1人を除いては

 

 

 

「なるほど、余剰次元空間の解放で生じる重力をエネルギー変換するのか。事実上の永久機関だな」

彼、真田志郎は人並み外れた頭脳で波動エンジンの資料を読んでいた。彼は、「マサチューセッツ工科大学と宇宙防衛大学を通って」国連宇宙軍に入ったとんでもない経歴の持ち主であり、彼にかかれば異星人の超理論も、多少時間はかかるが完全に理解できてしまうのだ。

 

(しかしこのエンジンが出来たとして、起動には…)

 

「初起動には莫大な電力が必要みたいね、この素敵エンジン」

「でも、完成して量産出来たら地球のエネルギー問題はチャラだな」

「?!」

なんとビックリ、真田さんの背後で資料を覗き見する2人の人がいたのであった。

見られてはマズイ資料を見られたことで真田さんは慌てて隠そうとしたが、1つ疑問に思ったことがある。

 

(え、この理論を理解してる…?)

その疑問が、「軍人としての真田さん」ではなく「科学者としての真田さん」を引っ張り出した。

 

「君たち、これが分かるのか!?」

普段感情を出すことが少ない真田さんが珍しく声を上げた。それもそのはず、今自分が見ているのは異性文明の超理論なのだから。

「え、はい…大体分かります」

「私は8割は分かりました」

なんと末恐ろしい頭脳だ、初見で「大体理解出来た」なんて。しかし、それが真田さんの科学者としての自分を暴走させた。

「君たち名前は?」

「僕は睦月リク、こっちは暁ハルナです」

「私は真田志郎だ、ん?君たちの苗字をどこかで聞いたがあるが…」

「ああ、僕たち、元々火星技研にいましたので多分それで名前が軍に伝わったのかなと」

 

(まてよ、火星技研は83年に閉鎖されたのでは…)

 

確かに火星技研は第二次内惑星戦争終結で閉鎖された。しかし彼らは20代…本当に火星技研にいたのなら、彼らは13歳程で火星技研にいた事になる。いくらなんでもおかしい…。

 

もしや、彼らが…?

 

「もしかして、事故で昏睡とかになってないか?」

「「?!?!」」

2人揃って「ああ、バレた、オワッタ」という顔をした。

「軍の病院に40年近く昏睡状態の研究員がいるって何年か前に資料で見たが、まさか君たちのことなのか?」

やはり真田さんは凄い人だった。

「…はい。僕らは火星で事故に遭い、40年近く眠っていました。目覚めたのは3年ほど前です」

「まるで浦島太郎の気分ですよ」

1人だけズレてるのがいるが、2人組の実情を知っているのは軍上層部のみである。そして、40年近く眠って、目覚める確率は0に近い。

言うなれば彼らは、『奇跡の復活を果たした人』である。

 

そんなことを公にしたらメディアに追い回され、軍の技術局の業務にも支障が出る。よって彼らは、過去の戸籍を消去して、もう一度戸籍を作り直した。

 

「2134年生まれ火星育ちの純マーズノイド」ではなく

「2174年生まれ火星からの移民」として…

 

これは彼らの意志によるもので決して軍上層部が強要したものでは無い。大事な事だからもう一度言う、彼らの意思である。

 

「まあ、バレたらマズイことなので、このことは…」

「わかった、他言無用にだな。」

「ありがとうございます…。」

とにかく、真田さんにはバレてしまったが、黙っていてくれることになった。良い人で良かった。

 

「黙る代わりに手伝って欲しいことがあるんだが」

真田さんがそう言った。2人が顔をあげるとそこにいたのは

 

『完全に科学者モードの真田さん』だった。

 

 

 

あの後、2人は真田さんに付き合わされ、あの設計図について議論に議論を重ねた。正直ハルナは手が付けられないほど興奮して、真田さんと一緒に波動エンジンの設計図に食いついていた。それで済むはずがなく、改良案まで出し始めた。2人の正体は実は異星人なのでは?と思ってしまう。

 

なお、真田さんと彼らは年の離れた友人となりました。

 

 

「真田さん、これ、見て貰えませんか?」

「鳥?いや、極めて独特な構造を持つ船だな。」

(これって脱出船じゃないか…)

「その船の設計は僕たちがやりました」

「何だって!!!」

まさかの事実である。爆弾発言を通り越して、ショックは遊星爆弾並である

 

「君たちがこの船を作ったのか!!」

目が飛び出るほど驚いている真田さん。「私はとんでもない人と話していたのか…」と言いそうな顔である。

 

「あはは…、復活して少し経った頃に設計を担当することになって、それが地球最後の仕事になるとは思いませんでした。」

「いや、それはないと思うよ」

「「え?」」

「まだ正式に発表されてないけど、近いうちにそのbußeという脱出船の改装が正式に行われ、イスカンダルへ派遣される。そのため、2人にも設計の一部を変更してもらうことになると思うよ。」

「本当ですか!!」

「ああ、…何だか嬉しそうだな」

「はい、僕らが作った船が…ひと握りの人間を逃がすための方舟ではなく、人類の希望の船となるとは、嬉しい限りです」

「そうだな。…そうだ、私と一緒に波動エンジンの応用技術を考えてみないか?」

 

「やらせてくださいッ!!!」

ハルナがものすごい勢いで食いついた。いや、ホントに真田さんの顔にかじりつくくらいの勢いで顔を近づけた。

 

「あ、ああ…(根からの技術者だな…)」

 

「…ハルナ?そろそろ研究室に戻った方が」

「…ハッ!そうでした!では、失礼します!」

 

バタンッ!

 

(彼らはとても変わった人だな。でも、同じ臭いがする)

 

そう思う真田さんのデスクには、おびただしい量の書き込みと計算式が増えた「波動エンジンの設計図」があった。

 

 

 

 

 

自分たちの研究室に戻ってから数日、2人は設計の変更を行ってた。主な部屋の変化は、リクの机にも書類の山が出来たことと、『床に布団が2枚敷いてままになっていること』くらいである。

 

そう、2人は研究室を自分の住居にしていたのである。つまり住み込み。そうでもしない限り設計変更が間に合わないのも事実である。もちろん人事部にも話を通してあるので、1日3回職員がご飯を運んでくれる。

 

 

プシュッ

ゴキュゴキュッ

プハ〜、ダン!

(栄養ドリンクを勢いよく置く)

 

「疲れたァッ!」

「あれ、まだ4日目だよ、へばった?」

2人とも二徹はしている。最初の日はちゃんと寝た(4時間)が、それからは徹夜続きである。

2人とも目の下にクマができてるがハルナは化粧で上手く隠してるが、リクはくっきり出てる。

おまけに栄養ドリンクの空瓶が列になって並んでる。

「まだまだ…頑張る」

「その調子、でもほんとにヤバかったら仮眠してね、私起こすから」

 

「…そん時は頼むわ」

 

2人の研究室は中央に大型モニターが設置されている。そこに移るのは、「大量の砲塔を装備した、bußeだったもの」であった。

 

「んねぇ…リク、起きてる?」

「おん…起きてる、どした?」

「この波動エンジンのこのパーツ、何なんだろね」

そう言ってハルナが指差すパーツは、波動エンジンのキーパーツであるパーツ「波動コア」であった。

「これだけわかんないのよ、他は分かるけど」

「それを俺に聞いてもなぁ、…そうだ」

「?」

「ユリーシャさんに聞いてみるか。これはイスカンダルの技術なんだろ?ならイスカンダルの人に聞いてみるのが早いと思うぞ」

「よし!それならちょっと準備しないとね!」

「とりあえず藤堂長官に、会えるかどうか聞いてみる。」

(あ、俺も支度しとかんと。あと、目の下のクマ何とかしないと)

「ハルナ〜、お前目の下のクマどうやって隠してた〜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ユリーシャさんは極東管区の軍関係者の宿舎に滞在していた。もちろん異星人とはいえ皇族なので、最高級の部屋を貸し出されていた。

アポをとったらユリーシャさんは快くOKしてくれた。

どうやらあの船の設計図を見てみたいと思ってたらしいのでちょうどいいと思ったのだろう。

そんな特別クラスの部屋の前に2人は立っていた。

 

「めちゃくちゃ緊張する…」

「ん?ハルナ大丈夫?」

「だって皇族だよ!異星人だよ!」

 

ガチャッ

 

「あら、あなた達がトウドウ長官の言ってたお客さんね。どうぞ入って」

「「お、お邪魔します!」」

(皇族なんだよね、ノリが近所のお姉さんみたい…)

「初めてあなた達を見た時兄弟姉妹みたいだったわ、まさか兄弟?」

「いやいや、違います!」

「私たちは火星航宙技術研究所の元研究員です。改めて自己紹介します。私は暁ハルナ、こっちは睦月リク。」

「なるほどぉ〜(ニヤニヤ)あっ、あらためまして、ユリーシャ・イスカンダルです。」

「早速だけど、私に聞きたいことがあるって聞いてるけど」

 

(あ、そうだった、あのパーツについて聞かないと)

 

「僕たち、波動エンジンの理論と構造について一通り確認したんですが、1つ分からない部分があって…ここです。」

そう言いながら、リクは波動エンジンの設計図(手書き)を机に広げた。

 

そして、タキオン粒子波動セクションの中心部を指差した。

 

「その部品は、私の故郷イスカンダルでしか作れません。波動エンジンの部品は地球圏で産出される資源で製造することは出来ますが、波動コアはイスカンダル固有の材質で出来ている部品なので、地球圏での製造は現在のところ不可能です」

 

「じゃあどうやって波動コアを手に入れれば…」

「大丈夫です、私の姉、次女のサーシャが私と同じ宇宙船でこちらに向かう手筈が整っています。」

「良かったぁ〜…ユリーシャさん、ありがとうございます」

「いえいえ、疑問は晴れたかしら」

「はい!」

「そうだ、トウドウ長官から聞いたけど、あなた達が船を改設計したみたいね。私にも見せてもらえるかしら」

「はい!ではこちらをご覧下さい!」

そう言うとハルナは船の設計図を『床に』広げ始めた。

 

 

 

大きすぎるのだ、そもそもの艦の全長が長いので設計図も大きくなるのだがいくらなんでもこれは…。

 

 

「とんでもなく大きいのね…しかも見たことの無いフォルムだわ」

「この船は、元々地球脱出用の船だったんです。ひと握りの人間を逃がすための方舟、しかし今は人類に奇跡をもたらす船として改設計中です。」

「かなり武装が多いわね」

「168000光年を旅する上で、どうしてもガミラスからの妨害が入るでしょう、それらから身を守るための物です。決して侵略の為にあるものではありません。」

ユリーシャは興味深そうに設計図を端から端まで見ていたが、艦首部分の特殊兵器を見た瞬間に凍りついた。

 

「この兵器、まさか…」

 

 

 

この時2人は悟った…

作ってはならないものを作ってしまったと

 




原作では波動砲生みの親は真田さんですが、本編では波動エンジンの応用技術に2人が1枚噛んでるため、その過程で波動砲を考えついてます。もちろん波動防壁も
艦艇解説にもありましたが、この船は原作の2倍の口径の波動砲を二門搭載してます
平気で星壊しができるレベルです

とりあえず、ユリーシャの話、中編終了です


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力の咆哮の方向

ユリーシャの話、後編です。
波動砲を作ってしまった人類にユリーシャがかける言葉とは…


《あらすじ》

 

波動エンジンの設計図で真田さんと盛り上がった2人はbußeの改設計、重武装化に勤しむ。その過程で疑問に上がったパーツ「波動コア」、2人は波動コアについて聞くためにユリーシャさんの元を訪れる。

そして、ユリーシャは「地球が禁断の兵器を設計した」事に凍りつくのであった…。

 

 

第3話 力の咆哮の方向

 

「この兵器、まさか…」

ユリーシャは悲しげな目をした。それは真実を知る者の目だった。

 

「この兵器をご存知なのですか、ユリーシャさん」

それを聞くリクの顔は暗い。ハルナも暗い。

自分たちもこれがどんなに恐ろしい兵器かが分かっているからだ。

 

「はい…この兵器は、元々私たちイスカンダルが生み出した忌むべき兵器です。波動エンジンの生み出す莫大なエネルギーを放つ滅びの光、私たちは『ルミエラ・ディ・ディスディレクト』と呼んでいます」

 

ユリーシャは私たちを見つめているようで見つめてないようだった。遠い昔を見るような目、悲しむような目だった。

 

「この兵器は、私たちが波動エンジンがエネルギー変換する時の原理から生み出したものです。最初は最強の兵器を生み出した事に自信を待っていました…」

「…。」

ユリーシャさんは黙って頷き、続きを促す。

 

「ですが、設計完了後、実際に発射した時のシミュレーションを行いました。その結果、私たちは気づいてしまいました。この兵器を艦隊戦用の特殊兵器として生み出したつもりが、星をも崩す超兵器であったことに…」

ハルナは泣きそうな声で全てを話した。自分が生み出した怪物が1つの星を潰してしまうかもしれない重圧に耐えて、張っていた気が切れそうになっていたのだ。

 

「私は、研究者としてどうすればッ…」

ハルナの目から涙が溢れ、崩れ落ちそうになる。リクは咄嗟にハルナを支えようとするが、それよりも早くユリーシャが動き、ハルナを抱きしめた。

「アカツキさん、いえ、ハルナ、生み出した者として責任を感じるのは私たちはイスカンダルも同じです。生み出してしまった以上、あなた達の上の人がその兵器の搭載を撤回することは無いでしょう。そして、その力を行使する事は避けられない。」

 

「っっグスっ」

 

「ですが、禁じられた力としても、抑えられない力だとしても、力の向きを考える、向きを変える事はできます。」

 

「…力の向きを、変える」

「この兵器は、決して人に向けてはならない。そして、あなた達がこの兵器の恐ろしさを事前に知ることが出来たのは、幸いなことです。」

「…。」

「私たちの星イスカンダルでは、その兵器を艦隊規模で運用して、大マゼランを力で征服した悪しき時代がありました。あなた達はまだ間に合う、力の恐ろしさを知る者達としてブレーキとなることが、今地球にいる私と、あなた達2人が出来ることだと、私は考えています。」

 

「「…はい」」

「生み出してしまった以上、僕らなりにケジメを付けます。」

 

その目は…覚悟が決まった目だった。

 

 

 

 

後日、ユリーシャさんとハルナ、リクは軍上層部のメンバーと「buße改装計画のメンバー」を、真田さんと一緒に招集して、その兵器についての説明とイスカンダルの過去の愚行について話した。

真田さんもあの兵器の発射シミュレーション結果について驚いき、恐怖におののいていた。

 

そして、その兵器の概要説明時にハルナとリクは大型モニターに設計図を移した。

 

その時、設計図が語りかけてきたような感じがした。

 

 

あなたは私をどう使う…?

 

 

(私たちは、あなたを侵略目的で使わない、使わせない。身を守るための武器として使う)

 

笑われようとも構わない。生み出した者の覚悟がそこにあった。

 

 

 

 

その後、その兵器の呼称は次元波動爆縮放射機、通称『波動砲』となり、対人、対艦、対惑星への使用が固く禁じられた。

そして、この兵器の存在を世界各国に知らせ、その恐ろしき力を理解してもらった。

波動砲は、あくまで「主砲じゃ壊せない物に対しての対物兵器」となった。

 

ユリーシャさんも妥協した。しかし、スターシャさんがどう言うか分からない。

 

そこで、ユリーシャさんが『監査官』として船に乗艦する事になった。元々乗って、イスカンダルまで帰る予定だったが、役職付きで乗るとの事だ。

 

そして波動砲発射には、艦長と副長の同時承認が必要になった。

 

強大な力には鎖を付ける。簡単には使えないように縛っておくのだ。

 

 

 

「ユリーシャさん、ありがとうございました」

 

「いえいえ、あなた達がこの兵器を理解して、鎖を付けてくれた事に、私も安心しています。」

ユリーシャさんは安心していた。イスカンダルは今まで多くの星を救ってきたのだが、そのどれもが滅んでしまってる。

 

それは、力の向きを誤ったからであった。

 

彼ら地球人は自分の力を認識し、それに鎖を自ら取り付けた。簡単に行使出来ない力にする事で自滅を防いだのだ。

 

 

波動砲の艦隊規模で運用する…かつてのイスカンダルが起こした戦争は多くの命をその光で焼いた。

もしかしたら地球が復活した後、波動砲艦隊なる物が生まれたら、それこそイスカンダルの二の舞。

そうなる可能性の「1つ」が消えた。

 

 

 

西暦2198年

国際連合宇宙軍 国際波動砲使用制限条約制定

 

第1条

波動砲による艦隊殲滅、惑星破壊を固く禁ずる

第2条

使用には、使用艦艇の艦長と副長の同時承認を行うこと

第3条

波動砲艦の過剰量産を禁ずる

備考(各国が所有出来る波動砲艦は10隻以下)

第4条

毎年各国合同で艦隊運用、及び波動砲艦の監査を行う

第5条

波動砲を用いた侵略行為を固く禁ずる

第6条

波動砲の改良を禁ずる

 

 

この条約は、地球復興後に増産されるであろう波動機関搭載艦艇に「波動砲」を載せる時の縛りである。

 

かつて人類は核兵器なるものを開発、それを使用した悪しき記憶がある。今人類の手にあるのは核兵器とは比べ物にならない兵器。

 

破壊の咆哮は人類の手に余る、波動エンジンでさえオーバーテクノロジーであるのだから…

 

 

 

 

 

 

この条約は以後、「波動砲条約」として後世に語り継がれていくのであった。

 

 




オマケ

ユリーシャ
「ムツキさん、いや、リクくんって呼んでいいかしら?」
リク
「はい、どうしました?」
ユリーシャ
「ほんとに兄弟姉妹みたいだねあなた達( ´﹀` )ニタニタ」
リク
「えぇぇ!」
ユリーシャ
「ハルナのことはあなたが支えてあげてね(◦ˉ ˘ ˉ◦)ニヤニヤ
あなた達なら大丈夫よ!」

リク
「(/ω\*)プシュ---(恥)」
しばらくショートして動けなかったリクくんであった。







波動砲の使い方をしっかり決めた人類は、滅亡の縁で1歩前進しました。

次回、bußeの新たな艦名が決まります
改装計画はついに実行に…


また、イスカンダル語はフランス語ベースなので波動砲を「滅びの光」に言い換えて、それをフランス語翻訳、さらに少し変えてみました。


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その身を纏うのは力のカタチ

設計完了
波動砲条約が締結されているので本作に登場する(?)地球艦の艦首搭載兵器は、波動砲か「大出力速射陽電子衝撃砲」のどっちかになります。

どっちもエグい兵器ですが‪w

重力子スプレッドはもう少しあとです。

そのうちガミラスの転送システム供与を受けて陽電子直撃砲とか作りそうで怖い(笑)


第4話 その身を纏うのは力のカタチ

 

 

波動砲条約締結後、2人はbußeの設計に手を加えた。

 

主に波動砲周りの安全装置に関して、大きく変更が加えられた。安全装置は3重となり、強制注入機と圧力薬室、そして、艦長と副長、戦術長の同時指紋認証によりようやく発射可能になるように「鎖でガチガチに固定した」。

 

これは、150年前に存在していた核兵器発射の安全装置の仕組みを参考にした方法である。

 

軍全体が波動砲の力を知り、恐れた。

 

それ故、厳重な管理と安全装置によって守られている。

 

研究者としての責任を果たし始めた2人と真田さんは完成まであと一歩の艦艇の設計図を眺めていた。

 

 

「徹夜のかいがあったわね……」

「眠い……」

「君たち寝てないのかい?ちゃんと寝ないと良い仕事が出来ない」

 

そういう真田さんもそんなに寝てない(4時間)。でも、眠そうに見えないのは、慣れているからであろう。

 

 

(良い仕事が出来ないって言ったが、これはとんでもない船だな……素晴らしい)

では、真田さんが唸るほどの設計図を見てみようか

 

 

全長2500m、地球脱出船bußeをベースにして、bußeの主機であるDT反応式核融合炉2機から、イスカンダル技術である波動エンジンの改良型「双胴式波動エンジン(1対)」に換装。

両舷の第2船体に1基ずつ搭載している。2基で1組である。

双胴式は波動エンジン2基を同調稼働…分かりやすく言うと「息を合わせて動かす」事で、波動エンジン1基よりも高出力で稼働させることが可能。なお、エンジン2基使ってる関係上、波動コアは『2つ』必要だが、ユリーシャさんいわく、『波動コアはワンオフ品ではない』ので、1年後に到着予定のサーシャさんが運搬してくれる1つと、ユリーシャさんが乗ってきた宇宙船から取り出したものを使用する前提となっている。

 

(一応1つでも動くように2基のエンジンの間にバイパスを繋げてある)

 

波動コア2個の譲渡は、波動砲条約の締結が前提であった。

 

 

何故2基を同調稼働させると出力が増大するのか…

それは、双胴式波動エンジンのエネルギー変換の仕組みに秘密がある

 

波動エンジンは、我々の住む次元よりも高位の次元『余剰次元』からエネルギーを得ている。通常、余剰次元はキレイに折りたたまれていて、観測不可能なサイズとなってこの宇宙に重なり合っている。波動エンジンは折りたたまれた余剰次元を、通常空間(我々の住んでいる宇宙)に元のサイズで開くことで内部に存在する重力のエネルギーを増幅、そしてそれらをエネルギー変換することで莫大なエネルギーを生成出来る。

 

双胴式は、 発生したエネルギーを一度艦の中央部にある波動エネルギー衝突炉に流し込み、衝突反応を起こし、エネルギー量を増大させる。流入スピードと波動エネルギーの出力はズレのないようにする必要がある。

これが同調させる理由である。

(なお、衝突前と衝突後の波動エネルギーは位相か異なるため、基本的に混ざることはない。衝突炉の各パイプと各閉鎖弁には光学的フィルタが3枚備えられているため、衝突後の波動エネルギーが逆流することはない。)

 

ちなみに、波動エンジンの1基はイスカンダルの設計図を使って作ったもの、もう片方は人類(真田さん&ハルナとリク)が理解して改良したものである。

 

 

双胴式とは言ったが、衝突炉への流入バルブを両エンジンとも閉じて、エンジンをバラバラに動かすことも可能である

 

(ワープしながら波動砲充填⇒ワープ直後に波動砲も可能)

 

武装は、核融合炉では出力不足で連射の効かない装備であった『陽電子衝撃砲』を主兵装として3連装化、砲塔単位で搭載

 

口径は48サンチ、副砲も同じく陽電子衝撃砲で35サンチ、それぞれ4基、6基搭載。

 

対空兵装もバッチリで、パルスレーザー砲塔が多数設置されている。

第2船体側面、艦中央部分、艦尾まで死角は少ない。。見る人が見ればハリネズミのようだ。

 

両舷第2船体艦首には魚雷発射管を4門ずつ

艦尾には3機ずつ搭載。

 

両舷第2船体艦艇部にはVLS(垂直発射システム)35発仕様が1機ずつ

 

中央船体後部には舷側短魚雷発射管が搭載、正面火力の強みがこの船の強さだが、側面の防御も忘れちゃならない

 

さらに、この戦艦だから載せることが出来た装備として、

『重力操作型ホーミングレーザー』を主翼に8門ずつ装備

wonderの重力操作により、曲射陽電子ビームを撃てる兵器。陽電子は重力、磁場に影響される性質を持ち、それを逆手に生かし曲がるビームを撃つ「wonderならではの武装」。

 

あらかじめルートを指定しておかないと曲げられない、万能かと言われたらそうでも無いが、ビームを曲げられることは実質射程が全方位であるため、強すぎる。

なお、ルート指定なしなら真っ直ぐ飛んでいく。

これは真田さんの思いつきで生まれた偶然の産物であり、それに、リクが重力子でのビーム軌道コントロールシステムを入れることで生まれた。

ある意味、地球と火星の合作である。

 

防御は次元波動振幅防御壁、通称波動防壁で、実体兵器光学兵器問わず防御可能。有効時間は20分程。

 

そして、決して使い方を誤ってはならない兵器である『次元波動爆縮放射機』…波動エンジン内で開かれる余剰次元を射線上で開き、その時発生する超重力でマイクロブラックホールが大量発生。それらが蒸発する時のエネルギーで射線上の物体を跡形もなく消し飛ばす破壊の咆哮である。

 

発射承認には艦長と副長、戦術長の同時指紋認証が必要。

これは、安全性の担保と「引き金を引く1人に責任を背負わせない」ようにしたかった彼らなりの考えでもあった。

 

 

 

上部甲板には兵装の他に超大型アレイアンテナが2機設置されている。

このアンテナは重力源、素粒子の観測、波動防壁の制御装置も兼ねている。

 

1つくらい壊れてもアンテナ1つでも波動防壁は制御可能。

 

そして、この艦の中央船体となっているのが火星で発見された未確認骨格「仮称 アンノウンドライヴ」である

 

この未知の骨格は、大電流の導通により、重力子、斥力子の発生が確認できた。それらの制御装置を組み込み、電流の位相により、発生させる素粒子を選択できるようになっている。

 

しかし、この骨格には欠けている部分がある。

骨格の背骨に当たる部分、脊椎部分に何かが通っていた部分がある。

現代の技術では再現不能であるため、人類がやった事と言えば骨を元の状態にして船体に組み込んだことくらいである。

 

こんな『ぼくがかんがえたさいきょうのせんかん』みたいな船は、設計完成まであと一歩となっている。

 

 

「怪鳥みたい…。」

「さしずめタカかなぁ」

「いや、ケツァルコアトルスか」

3人揃ってズレている。疲労の性かな、それとも元々か

 

 

ハルナ(元々って何かしら(#^ω^)あ¨??)

作者(すいません、やりずました(・-・;)

 

 

「リクくんから完成したと聞いて来ました」

 

ユリーシャさんも見に来た。

リクとユリーシャはあれからよく雑談する仲となっている。主に自分達の星のことについてだが…。

 

ユリーシャさんは、完成間近の設計図を見るなり目を見開いた。

「ここまでのものは見たことがないわ、やっぱりあなた達凄いわね」

そして波動砲を見る。少し悲しげな目をしたが、波動砲の安全に大きく改良が加えられていることに気付くと少し安心したような顔をした。

「たった1人に引き金を引かせない……たった1人に責任を負わせない、その為に僕は3人同時指紋認証の安全装置をつけました。」

 

「全員で背負うことが発射条件ですから、忌むべき力を全員で理解して置く必要があります」

ユリーシャは地球人なりのケジメを信じた。

そして、あることについて話した。

 

 

 

 

「あなた達に話しておくことがあります」

「「「?」」」

 

ユリーシャは真剣な顔立ちでそう話した。

しかし、彼らは「波動砲の事」であるなと察した。

 

「あなた達の開発した波動砲は私たちの物と機構が若干異なります。この波動砲は余剰次元を射線上に展開しますが、それは私たちの宇宙を食い破る形で別宇宙が展開されるのと同じこと。食い破られた空間が元に戻る保証はありません。」

 

要約すれば、波動砲に欠陥があるという事だ。

発射は出来るがその後に問題があるらしい。

 

「つまり、ユークリッド2次元ブラックホールが破綻するという事ですか?」

真田さんはすぐに理解した。

つまり、『撃ちすぎると宇宙は不安定になる』という事。

 

そのことも考えた上で波動砲の回数を絞ることが大切である。

 

 

「わかりました、上層部に伝えてます」

「お願いします」

 

「ところでさ、この船の名前どうする?『贖罪』なんて暗いイメージしかないじゃん」

「そうだな、この船は人類の希望だ、良い名前が必要だな」

「名前なんて何でもいいんじ(ry」

「必要だよ!」

(ハルナ、拘るなぁ)

 

画して名前決めが始まった。

 

 

 

閑話休題……

 

 

 

「う~ん、ドイツ語か日本語で名前つけるって事は決まったんだけどなぁ〜」

「はい!ヤタガラスはどう?」

「足三本じゃないでしょ」

「そうだな、不死鳥とかどうだ?」

「良いですけど鳥から離れませんか?」

鳥の名前ばっかり出る。先程とかプテラノドンとか出てた。勘弁してくれ。

 

 

「じゃあ、『Erbsünde』はどうだ?」

「「「?なんて言ったんですか?」」」

3人とも目が点になった。そりゃそうだ。

 

「『エルブズュンデ』、日本語に直すと原罪だ」

「カッコイイけど雰囲気が今ひとつ、でもドイツ語ってカッコイイ言葉たまに出てきますね」

 

 

さらに思案中

 

 

「ねぇリク、ドイツ語で『救い』ってなに?」

「今調べる……えーっとErlösung(エアレーズング)だね」

 

「うーむ、もう一押し……」

真田さんは何時に無く真剣になってる

 

「はいっ!地球のドイツっていう国で『奇跡』ってなんて言う?」

 

突然考え込んでいたユリーシャが声を上げた。

 

「ふむ、ドイツ語だとWunder(ヴンダー)だな」

 

「カッコイイですね!人類に奇跡を起こす巨大戦艦!ロマンの塊ですね!」

 

「ユリーシャさんセンスあるね!」

「でしょ!」

金髪銀髪コンビではしゃぐハルナとユリーシャ、双子を見てるような気分だ。

 

「それじゃあ艦名は「buße」改めて『Wunder』ってことで皆さんよろしいでしょうか!」

 

「は〜い!」

「はいっ!」

「良いと思うよ(´-ω-)ウム」

 

全会一致だ。

 

画して、贖罪の名を冠す脱出船は奇跡の名を冠する『恒星間航行宇宙戦艦』として生まれ変わったのであった。

 




ども、作者の親友デス。
この話をアイツに見せてもらった時「夢とロマンしかないなぁ」って思いました。
でもいざ始まってみると、早15人の方がお気に入り登録してくれて、僕は横で見てるだけですが嬉しい限りです。

皆様の評価お待ちしておりますm(_ _)m

作者の励みになるんで頼んます。


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番外編 波動砲条約について

頂いた感想の中に「滅亡寸前なのに波動砲の対象を制限するのはありえない」とのコメントがありました。
本作ではそのような意見も来ることを前提としてシナリオを作ってましたが今回前倒しの番外編として、波動砲条約の背景についての話をします


時系列的には「力の咆哮の方向」と「その身を纏うのは力のカタチ」の中間に当たります。


国際波動砲使用制限条約。

 

 

コレは地球人からすると厄介極まりない条約であった。なぜなら、波動砲の対象を制限するのは、ヴンダーの手数を減らすことになるからだ。

一応かなりの重武装に仕上げたが、波動砲の制限の分を補填することは完全には出来なかった。

 

今回は、そんな条約に不満を抱く男を書いていこう

 

 

芹沢虎徹は自分の執務室で「Wunder」…「旧buße」の改装状況を確認していた。

双胴式波動エンジンに陽電子衝撃砲搭複数機、対空パルスレーザーにホーミングレーザー。人類が考えたが、エンジンの問題で搭載出来なかった兵器が全て取り付けられることに芹沢虎徹は感嘆の声を上げていた、だが、1つ受け入れられないものが1つある。

 

 

 

そう、波動砲条約である。

 

 

 

波動砲の対象を制限されたことでWunderは、「波動砲での対艦攻撃」という最強に近い手札を失った。

暁第1主任設計士と睦月第2主任設計士はそれをカバーできるだけの武装を途中追加したが、どうも引っ掛かる事がある。

 

 

 

条約の発案者は誰なのか……

 

 

 

そもそもあの異星人「ユリーシャ」には設計図を見せてないから「波動砲の存在を知らないはず」だ。知っているとするならば、「誰かが漏らした」と考えるのが妥当だろう。そして、条約を結ぶことを考えた。

 

 

 

 

調べなければな……

 

 

 

 

 

早速芹沢は自分の側近を呼び出した。

 

 

「それで、ご要件というのは」

「うむ、この波動砲条約の事なんだが、私は条約を思いついたのが地球人ではないかと考えている」

芹沢は自分の仮説として「地球人が条約を思いついた説」を話した。正直根拠はないが、どうもそうとしか思えない。

 

 

「それなら、ユリーシャさんの近辺を調べてみるのはどうでしょうか?彼女に条約締結を話した人物なら彼女とよく会っているはずです」

確かにそうだ。しかし、ユリーシャが泊まってる宿舎はプライバシーの問題もあり、監視カメラに盗聴器はない。

「しかし、どうやって調べるというのだ?」

「あの宿舎にはカメラはありませんからね。古臭く聞き込みをしてみます。」

「うむ、頼むぞ。私は設計主任の2人に会ってみる」

 

こうして条約の張本人探しが始まった。

 

 

 

芹沢は「暁・睦月研究室」と書かれたプレートが掛かっている扉の前にいた。まずは、あの船の設計者であり、波動砲開発に関わった人に話を聞くべきと考えて、芹沢はココに足を運んだ。

 

正直マーズノイドには少し抵抗がある。元々内惑星戦争で争っていたのだから。

 

でも、意を決して呼び鈴を押した。

 

ピンポーン♪

 

(はーい)

 

 

女性の声が聞こえた。暁主任か

 

 

「ハイハイ、あ!芹沢軍務局長!!どうぞどうぞ!」

暁主任は研究室の応接間に芹沢を通した。そしてお茶とお茶菓子を出した。

 

「局長が直接いらっしゃるなんて珍しいですね。本日はどう言ったご要件で」

そういえばあんまりココには来ないな、私。

 

「うむ、波動砲条約についてなんだが、君はあの条約をどう考える?」

 

「あの条約は今後の地球人にとって必要な事だと考えてます」

 

「どういう事だ?」

 

「人類が手にしたオーバーテクノロジーは破壊の咆哮を生んでしまった。そして、人類は手持ちの技術を発展させて生活を豊かにしたり、戦争を有利に進めてきました。しかし波動砲は発展させてはならない兵器であり、その力で人間同士で争ったらお互い自滅します」

 

「なるほど。自滅回避のために必要だったということか、だが、ホントに争うのか?」

 

 

「現に地球と火星は独立をかけて争いましたよ。」

 

「むぅ……しかし、波動砲の対艦攻撃が出来たら良かったのだが」

そこが肝心であった。対艦攻撃が出来ないことがどうしても芹沢は残念だったからだ。何度も言うが、波動砲を使用した対艦攻撃は最強に近い手札である。

 

「それはイスカンダルの過去が関係してるんだと思います。イスカンダルはこの技術で大帝国を築いた。恐らく、戦闘時の手札は敵のアウトレンジから波動砲を撃つことだけだったでしょう。さあ、それは何故でしょうか?」

芹沢は軍務局長らしい回答を考えた。

「?無駄な犠牲を一切出さずに勝つ必要があるからか?」

 

「う~ん、それも考えられますが、実際は無敵だと錯覚してしまっていたからとか、力に溺れてしまっていたからだと思います。」

 

「一撃必殺で倒せそうだからな、波動砲は。力に魅了されて波動砲艦増産に動いたら超軍国主義国家となってしまうな」

 

「そして、その愚行を恥じた、もしくはイスカンダル内でいくつかの派閥に別れたのでしょう。」

 

「派閥?平和主義 対 軍国主義のようにか?」

 

「はい、そして争って、争いに疲れたイスカンダルは現在の救済の星となった。ここまでが私の考えです」

 

なるほど、それなら私でも分かるな。「私たちと同じ誤ちをして欲しくない」という事か……

 

「だから波動砲条約を各国間で結ばせた…」

 

「はい、条約の発案は私たちです」

その声で、睦月第2主任設計士が出て来た。

隠れていたのだ、合図が来るまで。

 

「何だって!?君たちがやったのか?!」

芹沢は何となくだが「条約の発案者は開発者の中にいるのでは?」と思っていたが、まさか両主任だったとは……

 

「私たちは波動砲の設計が完成した時、発射時の攻撃範囲と破壊可能な質量の限界をシミュレーションにかけて調べました。」

「その結果、波動砲は僕たちの考えたよりも遥かに広い攻撃半径を持ち、膨大な質量を破壊できることを知りました。オーストラリア大陸位なら消し飛ばせます」

 

「それはあの時の説明で聞いた。要はそれを人に向けなければ良い話なのではないのか?」

 

「それだけではダメです、人類の中には過激的な思想をお持ちの方がいます。『地球が復活したら軍備を増強して、波動砲艦増産だぁ!』って考えてる人も軍上層部内部では少なくないはずです。それこそ、イスカンダルと同じ道を歩んでしまう。」

 

 

「私たちと真田さん、ユリーシャさんで、考えに考え抜いて『波動コアを人質に取る形での条約締結』を考えつきました。波動コアがなければエンジンは動かない、約束すれば波動コアは譲渡される。波動砲での対艦攻撃戦法を考える人も、その考えは『波動エンジンが動くことが前提』なので、条約を受け入れるしかない。受け入れたら波動砲で対艦攻撃は出来ない。こういうカラクリとなっています。」

 

 

「うぅむ、とんでもないことをしてくれたなぁ…。」

「それに、波動砲はイスカンダルでは忌むべき技術だとユリーシャさんから聞いています。イスカンダルへの航海中に敵が来る度に『波動砲発射ぁッ!』ってやってドカドカ撃っていたら、スターシャさんが放射能除去装置を渡してくれるかどうかももっと怪しくなりますよ。この条約はスターシャさんへのアピール的な側面も持っています 」

 

「「ご理解頂けますか?芹沢軍務局長」」

 

やられた……彼らはただ単に波動砲での対艦攻撃を防ぎたいだけではなく、放射能除去装置が受け取りやすくすることも考えていたのか……。

 

なかなかな策士じゃないか…この2人は…

 

 

「分かった…そこまで考えたなら私は何も言わん。だがあと1つ聞いておきたいことがある。ユリーシャが監査官としてあの船に乗るのも君たちの考えか?」

 

 

「「はい!」」

「あ、でもユリーシャさんの希望でもあるんですよ」

 

頭痛薬が欲しくなってきた…2人の主任の考えは確かに人類のためだが、波動コアが人質となるのはマズイだろ…。

 

でも、芹沢の「軍人としての自分」が、冷静に撤退を勧告した。

 

「お邪魔したな、暁主任、睦月主任。君たちを信じてみよう。」

 

「振り回してしまってごめんなさい、芹沢軍務局長。」

 

「君たちが地球の事も考えて条約を結んだなら私は特に口を出さんよ。すまない、最初は『単に波動砲での対艦攻撃を避けたい』だけだと思ってた。」

「だが、そこまで考えていたなら、君たちの条約にかけてみようと思う。」

 

「局長…。」

 

「君たちもその船に乗るといい、波動砲開発者であり、制限条約の発案者でもある君たちなら、スターシャさんともちゃんと話が出来るだろう。」

 

この言葉を残して、芹沢は研究室を後にした。

 

 

 

執務室に戻った芹沢は聞き込みをしてきた側近の話を聞いた。聞き込みをしていた所を「散歩しようとしていたユリーシャ」に見つかり、波動砲条約の意味について全部聞かされたそうだ。

 

「局長、1杯食わされましたね…」

「そうだな、彼らなりの保険がかけられているのはよく分かった」

 

 

しかし、波動砲での対艦攻撃なしでホントに大丈夫か?

 

 

最後までこの不安は残り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、

内線を取った芹沢は自分の部下に連絡を入れた。

『新見君かね、頼まれて欲しいことがある』




波動砲条約の話、お終いです。

条約制定により、
波動砲の対象を制限することで対艦攻撃は不可、『発射回数は減る』、つまり「最悪の力に溺れず、正しく運用出来ていた」ことをスターシャにアピール出来ます。


証人としてユリーシャもいます。放射能除去装置が貰える確率も上がるでしょう。


番外編はまたやるかも…。

コメントとかでどんなの読んでみたいか意見貰えると嬉しいです。


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贖罪の船から奇跡を起こす船へ

この章はこの話でラストです
ヴンダーへの改装から始まります。

章タイトル回収!


第5話 贖罪の船から奇跡を起こす船へ

 

改設計を完成させたハルナとリクと真田さんは極東管区の藤堂長官に直接設計図を提出した。

 

「この短期間でよく完成させてくれたっ!」

藤堂長官は最大級の賛辞を3人に送った。

「いえいえ!ちょっと睡眠不足ですが、上層部の要望も込みで最大級の戦艦を設計出来て楽しかったですよ。」

 

3人とも目の下にうっすらとではあるがクマが出来ている。

それを見た藤堂長官は…

「君たちに無理をさせてしまい本当に済まない…」

頭を下げたのであった。

 

コレには3人ともビックリ、極東管区の責任者が技術屋&設計士2人に頭を下げているのだ。でも、自分の部下にもしっかりと頭を下げれる上司には人がついて来るのだ。そこが長官としての彼の光る部分だろう。

 

「長官!どうか頭を上げてください!?」

「私たち頑張って仕事しただけですよ!?」

「!…。」

 

1人だけフリーズしているが(ハルナ)藤堂長官にとってそれが彼なりの筋の通し方であった。

最高の上司に会ったね、「3人とも」。

 

とにかく、話を進めなければ。

 

「では、この設計図を2日後の国連のリモート総会で発表して、協力してくださる管区と企業に声を掛けよう。君たちはゆっくり休んで欲しい。」

 

「はい!」

「後はよろしくお願いします!」

 

「うむ」

 

その後3人は、1度『暁・睦月(あかつき・むつき)研究室』に戻ったら眠気の限界が来て布団にバタンキューしたのであった。

「むにゃむにゃ、お腹いっぱい…えへへー」

「んにゃ、行くぞ!ヴンダー発進っ!!」

「……こんなこともあろうかと♯☆Σฅ●╬ω∀を作っておいたのだよ…」

 

全く、技術畑の人は寝言までおかしいのか…。

 

 

 

 

3人が爆睡した2日後、藤堂長官は決戦に望んでいた。

 

(この改装には極東だけでは間に合わない、世界の協力がどうしても必要だ。最低でも南部重工クラスが2社欲しいが…)

 

現在の各管区の体力はまだ余裕がある。その余裕がいつ尽きるか分からないが、頼める時に頼んでおかないと後々悲劇を見るのは私たち人類である。

それに、この先通信が上手く繋がらなくなる可能性も充分ある。尚更だ。

 

『では、第48回国際連合リモート総会開催をココに宣言致します。前回と同じ様に各管区の状況を報告してください。』

 

このリモート総会は地球が荒廃してから定期的に行われている「現状報告会」である。

 

各管区の状況が次々に報告されていく。どこも余裕が少なくなってきているのは明らかだ。

『次に極東管区のトウドウ長官、報告をお願いします。』

 

「はい、現在極東管区では食糧、エネルギー共に減少傾向にありますが、生命維持に支障が出るほどではなく、暴動も発生しておりません。そして、以前の総会でご説明しました『恒星間航行宇宙戦艦』の改設計は先日、完了いたしました」

 

スピーカーから各管区責任者の驚きの声が上がる。

 

さて、本題はココからだ…

 

「そのことについてご説明しなければならないことがいくつかございます。お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 

『許可します。どうぞ』

 

「ありがとうございます」

ココから藤堂長官の勝負が始まった。

「先程各管区に送信した改設計を完全に完了させるためには極東管区の艦船製造能力だけでは、残念ながらどうしても足りません。そこで、各管区の造船企業の皆さんに改装のご協力を頂けないでしょうか」

 

会議がざわめき始めた。こんな余裕の少ない状態で改装を手伝えだと?巫山戯るな。

 

内心そう思ってるだろう。

 

 

 

しかし、救世主はいるものだ。

 

 

 

ある企業が名乗り出た。

 

『ユーロ管区、フランスのエプシロン社、代表取締役のカイル・アルトスです。まずはどの部分の手伝いがいるのか教えてください。うちの会社の得意分野があるかもしれない。』

エプシロン社は南部重工に匹敵する大企業である。過去に第2次内惑星戦争ではユーロ圏に巡洋艦を製造していた知らぬ者はいない世界的大企業である。

 

「! はい!改装支援をお願いしたい箇所は装甲の1部、波動エンジンの部品、対空パルスレーザー砲塔、主翼の一部です!」

まさかあのエプシロン社が名乗り出てくれるとは、藤堂長官も予想外であった。でも、コレであと一社である。

 

『うん、装甲についてならうちの会社は強いですよ、私の会社でやってみよう。こちらの会議で審議にかけるから3日待ってくれますか?』

 

「ありがとうございます!!」

よし、装甲は何とかなりそうだ。

ここでさらに名乗り出た者がいた。

 

『東アジア管区の宙帝造船(ちゅうていぞうせん)、会長の李 飛龍(リー・フェイロン)です。ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?対空パルスレーザーのサイズは?一体いくつくらいかな?』

 

「はい!、パルスレーザー砲塔は直径10メートルの半球形、船全体で60基付いていて、支援をお願いしたいのはその半分の30基です。」

 

『ふぅ…日本人は遠慮癖がありますね。うちで40基作れるかどうか審議にかけます。いい報告をお待ちください。』

 

「ありがとうございます!」

 

『人類に奇跡をもたらす船なんでしょ、エプシロン社さんにだけ良い思いはさせませんよ。人類を救うのに私も協力させてくださいよ?』

 

宙帝造船も、かつては南部重工と良い関係を結んでいた中国の企業である。インド、タイ、韓国にも支社を置く、南部とエプシロンに負けず劣らずの大企業である。

 

『ハッハッハ、一緒に人類救いましょうか、カイルさん。』

『もちろんです、異星人に地球の技術を見せつけてやりましょう、李さん』

 

 

技術は国境を超えるという言葉があるが、今藤堂長官の前で起こっている光景は正にその通りだった。こんなにも苦しい状況なのに人は技術で団結しようとしている。

感極まる藤堂長官であった。

 

 

さらに名乗りあげた者がいた。

 

『北米管区長官、アルフォン・アイリスです。エプシロンさんと宙帝さんが装甲とパルスレーザー砲塔を担当してくださるなら、主翼を私たちの管区で担当しようかしら。出来上がったものは分割して輸送艦で衛星軌道ドックに運べばよろしいかしら?』

 

企業ではなく、1つの管区がまるまる名乗り出た。

これだけ戦力が集まれば充分改装は間に合う。

 

「カイル社長、飛龍会長、アイリス長官、ありがとうございます!」

 

『まてまて、輸送手段の方は足りているかい?我がアフリカ管区には輸送艦が何十隻も残っている。動かせるだけ動かすぞ?』

 

『豪州管区から技術者を衛星軌道ドックに送るぞ?』

『待った、南米管区からも技術者を出すぞ?』

 

世界中が協力するという人類史上類を見ない状況である。

現在の所、

装甲担当

《ユーロ管区「エプシロン社」》

対空パルスレーザー砲塔担当

《東アジア管区「宙帝造船」》

主翼担当

《北米管区》

輸送担当

《アフリカ管区》

技術者派遣

《豪州、南米管区》

 

といった感じである。

 

こんな状況でも人々は繋がれる。

技術という縁の力で…。

 

チラリと横を見るとリモートの設定をしてくれた側近がものすごい勢いでガッツポーズをしている。

 

『では、エプシロン社さん、宙帝造船さん、各管区の長官の皆さん、それぞれ詳細が決定次第、全管区への内容の送信をお願いしますよ。』

 

全員『分かりました』

 

『では、これにて国際連合リモート総会を終了致します。』

 

 

 

リモート回線が切れて会議は終了した。

 

 

「いよぉーしッ!!」

「よっしゃぁぁぁ!」

「奇跡だァァァァ!」

 

リモート室で静かに会議を聞いていた人々はあまりの歓喜に叫んだ。

 

藤堂長官も「よぉーし!」思わずガッツポーズだ。

でもその後の行動は素早く、未だに喜んでいる側近に南部重工大公社、社長の南部康造に回線を繋ぐように指示をした。

 

 

「南部社長、いけました!」

「おおっ!それでどこの会社ですか?!」

「エプシロン社と宙帝造船、そして北米、豪州、南米管区が改装協力に名乗り出てくれました!」

 

「いやいやいや、世界中じゃないですか?!凄いことですよ!コレ!」

 

「あの船が起こした最初の奇跡ですよ」

 

「まさしくそうですね。とにかく、会社の方で改装パーツの作成を行います。」

 

「お願いします!」

 

 

3日後、エプシロン社と宙帝造船はWunder改装作業の全面協力を発表。

その発表の翌日、各管区の調整の末、北米、豪州、南米管区の協力も正式に決定した。

 

 

 

 

その結果を研究室で見ていたハルナとリク、真田さんは驚いていた。技術で人が繋がるその光景に。

 

「これも技術という縁の力がなすことか。」

「この仕事やってて本当に良かったです。」

「凄いわね、人類って…。」

 

人類が1つになって滅亡に抗い始めた。個々では無理かもしれないが、人類が束になれば…。

 

「いよいよ動き始めましたね」

「明日から大忙しだ。次期に、設計者として衛星軌道ドックに上がってきて欲しいと連絡が入るはずだ。準備しておく方が良いだろう。」

 

「そうですね。一旦家に帰って支度しておきますね。」

 

 

今日はこれにて解散となった。

 

それから1週間後、上層部から暁、睦月、そして真田の3名に衛星軌道ドックへの移動を命じられた。

3人は既に準備万端だったため、すぐに軌道上に上がった。

 

 

 

 

それから1ヶ月後…

 

 

地球衛星軌道上 特設衛星軌道ドック「鳥籠」

 

 

ハルナとリク、真田さんはドック居住区の研究室からドック内部を見ていた。

 

「壮観だねぇ」

「壮観だなぁ」

「壮観だ…」

 

ガラス越しに見る3人の前では「buße」から「Wunder」への改装作業が行われている。

つい一週間前まで、南部重工の作成したパーツの取付作業が行われていたが、エプシロン社と宙帝造船から、「部品が少し完成したから送っていいか?」との連絡が来たのだ。そしてちょうど今、アフリカ管区の輸送支援を受けて、改装部品の第1便が届いたのだ。

その船にはフランス語、中国語、英語、アフリカの各国の言葉がペイントされていて「ああ、ホントに世界中が協力してるんだなぁ」と何だか感慨深くなる。

 

そんな感じでいると、輸送船を動かしたアフリカ人がドアをノックして入ってきた。

 

「Hey、teamJapanese genius(チーム日本の天才)、君たちにお客さんだよ」

 

お客さん?こんな宇宙に尋ねてくるなんて誰?

ここの関係者?

 

入ってきた人物は予想の斜め上を行く人物であった。

 

 

 

 

「初めまして、私はカイル・アルトス。エプシロン社の代表取締役を務めています。」

彼は流暢な日本語でそう話した。

 

なんと、お客さんというのはエプシロン社の取締役だったのだ。

なんで宇宙に?!

 

「ははは初めましてっ!暁ハルナです!」

「睦月リクです!」

「私は国連宇宙軍極東管区幕僚監部(ばくりょうかんぶ)所属真田志郎です。」

 

内心真田さんもビックリしていたが、「軍人としての真田さん」が上手くコントロールした。

 

「皆さんが書き上げた設計図を見ました。全くとんでもない船ですね。うちの会社の主任研究員が興奮してましたよ。」

 

「ありがとうございます!ですが、まさかエプシロン社さんに協力していただけるとは」

「人類滅亡の瀬戸際(せとぎわ)だって時に力を合わせなくてどうするんですか?私は、遊星爆弾で母を失ってます。そのこともあって、奴らに一泡吹かせたいと思ったからですよ。」

 

ヤバい、良い人すぎる。カイル社長。

 

「あ、そうだ君たちに渡しておくものがありました。」

「「?」」

 

なんだろう?

 

社長は簡易宇宙服の内ポケットから1枚のディスクを取り出して、私たちに渡してきた。

 

「これは?なんのデータなのですか?」

 

「これはね、トウドウ長官が世界中に送った設計図を見たドイツの特務機関のメンバーが、波動砲の欠点を抑えるために何十回と行ったシミュレーションのデータだよ。」

 

「「「?!!!?」」」

 

「私はその人と知り合いでね、たまにあって技術討論をする仲なんだよ。宇宙行きを彼女に伝えた時にこのディスクを渡されてね『日本の天才達に渡してあげて』と言われたんだ」

 

ここでリクに疑問が浮かぶ。

誰なんだろう。

 

「カイル社長、その人は誰なんですか?」

 

「その人は元々日本にいたんだけど。神経系を利用した操縦システムの研究をするためにドイツに渡った天才博士だ。名前は『アカギ・リツコ』という。」

 

「聞いたことがある。脳波操縦システムの第一人者、赤木リツコ博士。極東管区では名前が最近出ていなかったが、なるほど、かなり前にドイツに渡っていたのか。」

 

「その天才アカギ博士が波動砲に興味を示してね、その欠点である『ユークリッド2次元ブラックホールの破綻』という事象をある程度克服出来るように理論を組んだらしい。」

 

「つまり、このデータで波動砲の欠点を抑えれるってことですか?」

 

「うん。既存の発射システムの改良と方程式の修正だけで出来たみたいだから、そこまで大掛かりにはならないと思うよ」

 

「これなら、波動砲の欠点を抑えてることが出来る…次元への影響を抑えられる。」

 

「カイル社長、赤木博士に『波動砲の欠点の改善、ありがとうございます!』とお伝え頂けないでしょうか?」

 

「うん。地球に戻ったら、私から彼女に伝えておきます。」

 

「ありがとうございます!」

その時、彼の通信機からアラーム音がなった。

『カイル社長、まもなく輸送船第1便がドックから離脱します。支給お戻りください。』

「分かりました。大至急戻ります。」

 

どうやらそろそろお別れのようだ。

 

「それでは、アカツキさん、ムツキさん、サナダさん、後をお願いします。我々も最後まで全力でサポートを行います。」

 

カイル社長はそう言って飛んで輸送船まで戻った。

その数分後、ドックから離れる輸送船が見えた。

 

「カイル社長、良い人だったね。」

「うん。なんか人懐っこい話しやすい人だった。」

「カイル・アルトス、心強い人だな。」

 

3人ともカイル社長に感謝している。なんたってエプシロン社さんがいなかったら改装そのものがダメになっていた可能性があるからだ。

 

それに赤木博士、どんな人かは分からないけど波動砲の欠点を抑えるためのデータを間接的にだが私たちに渡してくれた。

こりゃ地球に戻ったら感謝の挨拶(あいさつ)にいかないと。

ユーロ圏だけじゃない。宙帝造船さんも全力で工廠を回してパルスレーザー砲塔を造ってくれてる。

北米管区さんも、構造上1番大変なはずの主翼を造ってくれている。

アフリカ管区、豪州、南米管区さんも自分たちに出来ることで全力でサポートしてくれている。アフリカ管区さんの輸送船がなかったら輸送が滞るし、豪州、南米管区さんからの技術者支援がなかったら人手不足必死の状況だっただろう。

 

 

世界が力を合わせている。人類の底力を垣間見ることが出来た。

 

 

「さて、私たちは赤木博士のデータに感謝して、波動砲の改良をしようか」

 

「「はいっ!」」

 

その後、3人は赤木博士のデータを元にして波動砲のシステム周りを改良、欠点を大きく抑えることに成功した。

 

睡眠不足という尊い犠牲の上に成ったこの結果にユリーシャさんもニッコリだった。

 

2週間後、第1便の部品も設置作業が終わり始めた。

 

地上では第2便の積み込み作業が急ピッチで行われている。

 

私達も当分地球に帰れなさそうし、まだやることもある。

 

 

 

 

 

西暦2198年

 

奇跡の名を冠する船はその身を鳥籠の中で強化し続けた。

 

命を運ぶ方舟ではなく、

人類を守り…奇跡を起こす戦闘艦へと…

 

鳥籠の外に広がる大いなる宙に飛び立つ、その日まで…

 

 

 

第1章

贖罪の船から奇跡を起こす船へ ~完~

 

 




書けたァ…長かった…(現在6000文字ほど)

ここで赤木博士登場です。
名前だけの登場でしたが、将来的にwunder2202で登場してもらいます。
いつになるかは分かりませんが気長〜にお待ちいただけると有難いです。

この話で第1部はおしまいです。

学業が落ち着いたら第2部を書き始めます
乞うご期待下さい。


追記 4月29日
赤木博士大活躍ですww


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我赴くは宙の彼方
西暦2199年 メ号作戦、そして…


大変お待たせしました
(ó﹏ò。)スイマセンッ
第2章 発進編スタートです

今作ではユリーシャは事故にあってません
(かわいそうなので)

なお、自動車学校で本免許が取れるまで投稿はノロノロになります
(ó﹏ò。)スイマセンッ


無限に広がる大宇宙……

 静寂に満ちた銀河……

 死んでゆく星もあれば……

 生まれてくる星もある……

 

 そう、宇宙は生きているのだ……

 

 

 そして今、終末を迎えようとしている

 1つの星があった。

 

第2章 我往くは宙の彼方

 

 

 太陽系にガミラスが進行してきて早8年、ガミラスは冥王星の環境を改造し前線基地を置き、そこから遊星爆弾を発射し続けている。

 それにより地球環境は壊滅、海は干上がり大地は荒れ果て放射線が飛び交う。オマケに異星の有毒植物が根を生やし、とても人類が住める環境じゃない。

 

 人類は地下に建設した「地下都市」に避難して、必死に耐えていた。

 

 

 西暦2199年 滅亡まで後1年……

 

 

 

 

 第1話 メ号作戦……そして

 

 極東管区、富士宇宙港ドック。ここには、国連宇宙軍の最後の艦隊が集結していた。

 勝つ確証もない無謀な戦いに出るのだ。

 

 そんな最後の艦隊が集うドックで2人の人が話していた。

 

 

「これ、長いこと借りたままだったな。俺には詩の良さが分からなかったよ」

 真田志郎は1冊の詩集を友人に手渡した。

 中原中也の詩集だった。

「いや、お前が持っていてくれ」

 そう言って友人「古代守」は拒んだ。

 

 2人は防衛大学時代からの長い友人で、ハルナやリク以上に長い付き合いになっている。

 その友人が最後の戦いに挑む。

 真田さんは参謀本部付きで出航を見に来ていたが、今の彼は「参謀本部の真田志郎」ではなく「古代守の友人」であった。

 

「新見くんは来てないようだが」

「彼女とは別れたよ」

 

 彼も覚悟してこの戦いに望むのだ

『二度と帰って来れないかもしれないから』

 でも、彼は明るかった。

 

「奴らに勝って帰ってくるよ」

 

 そんな笑顔を見た真田さんは真実を告げられない自分が嫌になった。

 

 

『メ号作戦は陽動であるということを』

 

 

「それじゃあな」

 古代守はそういって自分の船である『磯風型突撃宇宙駆逐艦 ユキカゼ』に乗り込んでいった。

 

 二度と会えないことを悟りながら。

 それを見ていた真田さんは、

 自分は後悔し続けることを悟った。

 

 

 

 

 地表にリフトアップされていく艦隊。朝日に照らされて光り輝く船体を、誰もいない地上に勇ましく見せながら、最後の艦隊は痛ましい姿の星から飛び立った。

 

 それを地表観測所から強化ガラス越しに見ていた真田さんの手には、中原中也の詩集が握られていた。

 

 

 

 

 冥王星、かつて太陽系外縁天体の準惑星と指定された氷の惑星は、ガミラスの環境改造によって、「寒いのは変わらないが」水を持つ準惑星として環境が改造されていた。そこにはガミラスの地球侵攻用の前線基地が備え付けられていた。

 

『シュルツ司令。惑星テロン方面より、多数の戦闘艦を確認! 重巡洋艦数隻、巡洋艦十数隻、駆逐艦多数です』

 

『テロン人は懲りないな。だが、私たちザルツ人と同じようにガミラスの下で尽くすなら命は助けられるだろう。まずは降伏勧告をするのだ。発進準備を』

 

『ザーベルク!』

 

(無駄な争いはしたくないのだが……)

 

 基地を守らなければならない事実と争いは少なくしたいという個人的な考えで悩みながら、シュルツ司令の命令によって、前線基地の艦隊が迎撃に向かって行った。

 

 

 

 

 

 地球の艦隊は、核融合機関によってエネルギーを得る。そのため速力も光学兵器の威力も、残念ながらガミラスには何歩も劣る。これが、地球艦隊が壊滅1歩手前まで追い込まれた理由である。

 ガミラスの陽電子カノンを受けて生き残った船はほとんどない。

 一撃爆散が、地球艦隊にとっては常な戦場であった。

 

 地球を発って3週間程、地球艦隊は冥王星にまで到達した。

 

『冥王星軌道まで、あと20000km!』

 1人の通信士が報告を上げた。

 

「この艦隊が地球最後の艦隊、あくまで我々は陽動だ。本命が内惑星軌道に向かうのを悟られないように戦うのが我々の最後の仕事だ」

「サーシャ・イスカンダル、睦月くんがユリーシャさんから聞いたイスカンダル人の第2皇女。本当に来るのでしょうか?」

「儂らに出来ることは信じることだけだ」

「しかし、この作戦が陽動であることを彼らに知らせることが出来ないとは、残酷な事だ……」

 そう言いながら、山南艦長は自分の乗艦である『金剛型宇宙戦艦五番艦 キリシマ』の艦橋から、友軍艦艇を眺めた。

 酷く悲しそうな目であった。

 

 

 

『テロンの艦艇群、光学で確認しました!』

『彼らは、自分たちの力では歯が立たないと分かっていながら何がしたいのだ?』

『分かりません……最後に一矢報いたいのでしょう』

『ガミラスやザルツにもそのような言葉があるが、テロンにも同じ考えがあるのか。……まずは降伏勧告を行う。テロン艦との回線を繋げ』

 

『ザーベルク!』

 ザルツ人通信士の操作により、キリシマに短文が送られた。

 

 

 

「沖田提督! 前方のガミラス超弩級戦艦より短文を受信しました!」

「何と?」

「『地球艦隊に勧告する。直ちに降伏せよ。繰り返す、直ちに降伏せよ』です。返信はどうしますか?」

「バカめと言ってやれ」

「なんですと?」

「『馬鹿め』だ!」

 それを聞いたキリシマ第1艦橋の通信士は少し笑った顔で敵旗艦に返信を送った。

 

 

 

『奴らは死にたいのでしょうか?』

『虚勢を張っていたいのだろう。全艦陽電子カノンにエネルギー充填、第一種戦闘配置』

 ガミラス艦の主砲に赤い死の光が灯った。それは数瞬のうちに発射口を満たし、地球艦隊に最後宣告が下された。

 

 

 ガミラス艦から放たれた陽電子カノンは村雨型宇宙巡洋艦の一隻を一撃で沈めた。

 しかし、「一撃で沈められる事くらい」地球艦隊は分かりきっている。

 自分たちの砲撃が、奴らにとって「痛くも痒くもない事くらい」嫌という程分かっている。

 

 しかし彼らは、地球艦隊は奴らに抗うのであった。

 

「全艦、主砲塔にエネルギー伝達!」

「主砲塔にエネルギー伝達あり! 発射可能状態まであと20!」

「照準、ガミラス軍戦艦級艦艇! 照準内に入りました! 補正開始!」

 

「全主砲塔、エネルギー充填完了!」

「照準補正完了!」

 

 発射準備が完了した。地球の矛である「高圧増幅光線砲」がガミラスへ向かって牙を剥く。

 

「全砲門開けっ! 撃てぇ!」

 

 全艦から放たれた細い黄緑の光線はガミラス艦隊に向かって進む。しかし悲しいかな、ガミラス艦の陽電子ビームよりも出力は弱いのだ

 

 

 カァァンッ! 

 

 

 地球艦隊の高圧増幅光線はガミラス艦の装甲に弾かれた。ガミラス艦の装甲には特殊加工が施されている。出力の低いビームは弾かれてしまうのだ。

 

 

 地球艦隊の砲撃を嘲笑うかのように、ガミラス艦隊から赤い陽電子カノンが放たれる。これで多くの地球艦艇が爆散した。

 

 陽電子カノンを受けてバランスを崩した艦艇が他艦艇に接触して二次被害も引き起こし、メ号作戦は開戦直後から地球艦隊の圧倒的劣勢であった。

 

「敵は、圧倒的なようですね」

「そんなこと分かりきっている」

 今までガミラスとは何度か戦ってきている。その位の事は分かっているのである。

 しかり、今回は彼らを倒すことが目的ではない。

 

「耐えるのだ……アマテラスが太陽系に入るまで」

 波動コアを地球に運ぶ使者「サーシャ・イスカンダル」を安全に内惑星軌道に通すのが、この作戦の本当の目的なのだから。

「敵艦から魚雷発射を確認。目標、本艦です!」

「対空防御!」

 キリシマから対空迎撃用の弾幕が張られるが、薄い弾幕は意味をなさない。ガミラス艦の魚雷は命中する。

 

 

 ドガァンッ! 

 

 

「右舷後方に魚雷命中!」

「ダメージコントロール! 隔壁閉鎖!」

「機関出力低下!」

 

 

 機関出力の低下を受けて、キリシマの機関科職員は機関の応急修理を行っていた。

「急げ! 時間が無いぞ!」

 そう言いながら作業を行うのがキリシマ機関長の「徳川彦左衛門」であった。

 彼と沖田十三は古い仲で、戦友同士であった。

 

「とりあえずこっちは何とかなった。でも本当に来るのかなぁ」

 そう疑問的な言葉を発するのはキリシマの機関士「薮助次」だ。彼も優秀な機関士で、今回の作戦を知る人物の一人であった。

 

「大丈夫だ、儂はあの人を信じる、信じるんじゃ」

 

 

 

 

 一方、古代守が艦長を務める駆逐艦「ユキカゼ」は機敏に動き回っていた。ユキカゼは全長80mのかなりの小型艦で、高機動が売りの駆逐艦。『巨大な戦闘機』と言われても差し支えない、むしろそれに相応しい機動力でガミラス艦からの陽電子カノンを避け誤射を誘っている。

 そんなユキカゼにも切り札がある。

 

「敵艦、正面!」

「試製空間魚雷、発射準備完了!」

 この船には試作された空間魚雷が装備されている。

 wonderに搭載される予定の新型魚雷、これはその試作だが、カタログスペックではガミラス艦に十分効果があると言われている。

 

「よし! 3番、4番撃てぇ!」

 ユキカゼ艦長「古代守」の命令により、ユキカゼ艦首から2本の魚雷が発射された。

 2本の魚雷は迷うことなくガミラス艦に狙いを定め、突撃。前方の巡洋艦を沈めた。

 

「敵巡洋艦、撃沈!!」

「よぉし!」

 試製空間魚雷はガミラス艦に効果的だ。地球はガミラスへの切り札をまた1枚持つこととなった。地球艦艇の艦首には『陽電子衝撃砲』が取り付けられているが、チャージ時間が長い決戦兵器である上に核融合機関では出力をまかないきれない可能性がある。その上『機関が暴走する危険性も孕んでいる』正真正銘の決戦兵器で、使い所もかなり限られてくる。

 

 地球人はまだまだ抗うつもりなのだ。

 

 

 

 応急修理が完了したキリシマは高圧増幅光線砲を撃って抵抗を続けていた。

 やられるなら目一杯抵抗してからという考えなのだろう。しかし、そこにある連絡が届く。

 

 

「沖田提督! 太陽系外より高速で巡航する艦艇を感知! 速度は光速の23倍です!」

「同時に作戦識別コード『アマテラス』からの信号を受信!」

 

 作戦識別コード『アマテラス』……光速の23倍のスピード……

 これはつまり、イスカンダルからの使者がやってきたということ、波動コアを地球に運ぶ使者「サーシャ・イスカンダル」がやって来たということである。

 

 

「司令部に打電を送れ。『アマノイワト開く』」

 イスカンダルの艦は脇目も振らずに内惑星系に猛スピードで突っ込んでいく。

 それを見届けた沖田十三は撤退準備をする。

「残存艦艇は?」

「本艦の他、駆逐艦が1隻のみです」

「誰の艦だ?」

「古代艦長の駆逐艦、ユキカゼです」

 彼はユキカゼの特徴を熟知しており、機敏な機動でガミラス艦の攻撃を避け続け、生き残ったのだ。

 

「ユキカゼに打電、『撤退する。我に続け』」

 

 雪風に打電を打ったキリシマは帰還の途に就いた。

 

 

 

「帰還?! 何故だ!」

 古代艦長は帰還命令に疑問を抱いた。なぜこのタイミングで? 彼らはこの作戦の真意を知らないからだ。

 

 

 

「ユキカゼ、反転しません!」

「何故だ!」

 キリシマの第1艦橋が戸惑う中、沖田艦長は少し落ち着いていた。

「ユキカゼとの回線を繋げ」

「映像通信繋ぎます!」

 小型モニターに映し出された映像はノイズ混じりの白黒画面であった。

 

「古代! なぜ反転しない! 作戦は終了したのだぞ!」

『ユキカゼは戦線に残り、キリシマ撤退を援護します』

「古代! お前はこんな所で死んでいい人間じゃない!」

『その言葉、そのままお返ししますよ、沖田さん。貴方と戦えたことは我々の誇りです。山南艦長、後を頼みます!』

「よせ! 古代!」

 通信はユキカゼの方から一方的に切断された。

 彼らは覚悟を決めたのだ。

 

 

 

 

 その頃ユキカゼの艦橋ではみんな笑顔であった。

「さぁ〜て、敵さんに1発ぶちかましてやりますか」

 1人の火器管制員が声をあげた。

 それに合わせて、1人が歌を歌い始めた。

 

「銀河水平波間を超えて目指す恒星ケンタウリ」

 

 国連宇宙軍の軍歌であった。それに合わせて全員が歌い出す。

 

「星の瞬き遥かに超えて空に輝く星の船 抜錨船出だ錨を上げよ 進路そのままヨーソロー! 星に向かって舵を切れ 俺たちゃ宇宙の 俺たちゃ宇宙の船乗りさ」

 

 その勇敢な歌声はキリシマにも音声通信で流れていた。

 

 二度と帰って来れないのに勇ましく歌いながらガミラス艦隊に突撃していく1隻の駆逐艦。地球の誇りを背負った彼らが勇敢に最期の戦いに進んでいく。

 

 

 

「両舷全速……。現中域を離脱する」

「……了解」

 

 

 キリシマは彼らを背にして帰還の途に就いた。

 

 雪風は今までの鬱憤を晴らすかのようにその高機動を十二分に活かし戦術機動を展開。ガミラス艦はそれに対して雪風に陽電子カノンで狙いを定めるが、雪風の機動性には叶わない。味方間で誤射が起こっている。

 雪風に試製魚雷はもう無い。従って雪風に有効打は無い。それでも彼らは高圧増幅光線砲を放ち、ガミラス艦隊の中で暴れる。

 

 

 彼らにとって最初で最後の祭りであった。

 

 

 しかし、その祭りも終わりを迎える。

 ガミラス艦の陽電子カノンが艦尾に命中。途端にバランスを崩し操舵不能に陥る。

 

 ガミラス艦が放った陽電子カノンが再び雪風の艦尾に命中。

 

 雪風は爆発した。

 

 

 

 

 キリシマ撤退より少し前に遡る。無人の状態の火星には2人の人間がいた。

「古代進」、「島大介」であった。

 

 2人は、太陽系にやってくるイスカンダルの使者「サーシャ・イスカンダル」から波動コアを受領するために2週間前から火星でスタンバイしていた。

 

 現在の火星は無人の廃墟と化している。かつては広大な宇宙港が広がり、当時最先端の都市が広がっていたそうだが、今は廃墟。今2人がいる「アルカディアポート」も骨組みが何とか残っているだけで、何かの遺跡にしか見えない。

 

 

「兄さんが火星で戦っているのに、俺たちはこんな所にいていいのか……?」

 まだ幼さが少し残る「古代進」は宇宙服を着てアルカディアポート跡地の中を歩いていた。

 

「火星に落とされてから2週間。メ号作戦が成功したかは分からない。俺たちはただ待つしか出来ないよ」

 そう返すのは「島大介」。古代進の親友であり、宇宙防衛大学の同期である。

 

「呑気だな」

「こうでもしてないと体がおかしくなる。気の張りすぎも体に毒だ」

 

 

 そんなことを話していると、2人の無線機に1つの連絡が入った。

《イスカンダルタイプの艦船が外惑星軌道を通過。

 まもなく内惑星軌道に突入すると予想される。回収員2名は至急受領準備されたし》

 

((来たっ!))

 

『古代! これからこうのとりでお前を拾う。その後使者の乗るイスカンダル船を追う!』

 

「分かった!!」

 

 古代は大急ぎで元来た道を戻り、廃墟を出て、開けた土地に出た。ちょうどいいタイミングでこうのとりに乗った島が着き、2人でイスカンダル船の追跡を開始した。

 

 

『こうのとり』、正式名称「キ8型試作宙艇」外惑星探査船に搭載するために開発された探査機で、その試作機にあたる。贖罪計画のほんの一部として制作されたという経緯をもつ訳アリの機体だ。

 

「ナイスタイミング」

「ああ、例の船は?」

「ちょうど頭の上だ。あの黄金の船」

 古代が上を見上げると黄金の独特な造形な船が猛スピードで大気圏に突っ込んでいた。

 

「島! あの速度だとマズイぞ!」

「クソっ! だが俺達にはどうにもできないんだよ!」

 

 古代の懸念通り、イスカンダル船の艦尾エンジンノズル付近から出火、爆発を起こした。

 

 

「やっぱりだ……おい島!」

 突如島がこうのとりを反転させたのだ。

「爆発直前に脱出カプセルが飛んだ! 追跡する!」

 こうのとりは、その翼で火星の空を裂くようにして加速、脱出カプセルを追いかけた。

 

 

 落着していた脱出カプセルを発見した2人は、こうのとりを近くに停めて内部の確認を行った。

 

「この人が「サーシャ・イスカンダル」……生体反応は?!」

 

「おい嘘だろ……生きてるぞ。意識を失ってるだけだ」

「直ちにキャンプ地に運ぶぞ。乗ってきたのがこうのとりで良かったな……」

「そうだな。波動コアは?」

「これだ。資料の通りだな」

(しかし、何故波動コアの形状に関する資料があるんだ? 軍上層部は実物を知ってるんか?)

 

 

 そんなことを考える古代の手の中には2つ目の波動コアが握られていた。それは黄金に輝いていた。

 

 

 それから2週間と3日後、火星軌道上に到着したキリシマより通信を受けた2人は全ての荷物、サーシャさん、そして波動コアと一緒にこうのとりで火星から撤収。

 軌道上のキリシマに帰還した。

 

 

 

 

「うん、確かに受け取りました」

「あとはお願いします」

 波動コアの受領任務はこれにて終了した。

 しかし、いくつか気になることがある。

 

「保護したイスカンダル人、「サーシャさん」ば大丈夫ですか?」

 そう、1つ目はサーシャさんの事だ。彼女は2週間たっても目を覚まさなかった。はっきり言って異常だ。

 

「サーシャ・イスカンダルさんは今も眠っている。脳の活動、心拍、呼吸も正常に行われている。生きているが、こちらとしても目を覚まさないのは不思議に思う」

 

「兄さんは、「雪風の古代守」はどこに? 兄さんの船は?」

 

「……」

「すまない……、雪風はキリシマの盾になって……撃破された」

 

 

 それを聞いた古代は悲しみを噛み締めた。

 口元に血が滲んでいた。

 

 

 

 現在の地球は遊星爆弾の被害が拡大し、放射能に地表のみならず、避難用の地下都市の地表近くの階層を汚染。人類の生存領域を着々と蝕み続けた。

 有毒植物は地下都市の地表付近階層を侵食。一部改装が完全に閉鎖されている。

 

 

「キリシマ、地球への帰還コースへ入りました」

「計画変更から1年、ついに実行可能になるとは。長かったな」

「wonder計画、人類に奇跡をもたらすために生まれ変わった戦艦wonderを、イスカンダルに派遣する計画ですね」

 

「ああ、奇跡の鳥を飛ばす時は近そうだ」

 

 極東管区会議室で現状報告を行う森雪と藤堂長官。wonder計画を進めて1年。世界中の協力を受け、改装作業は最終段階に進み、現在はシステム周りの構築と改修を行っている。

 

「波動コアが到着したんですね。人類の奇跡の飛び立ちはすぐそこですね」

 入ってきたのは設計主任の暁ハルナ、睦月リクだ。

「僕達が、いや、全人類で造った船は伊達じゃないですよ」

 

「睦月君、暁君、システム周りはどうだい?」

「現在、改装計画メンバーと軍技術部で艦内システムと火器管制システムを構築中です。あと3日あれば形になります」

 

「うむ、あと一息だ。最後まで頼むぞ、地球の……いや、人類の天才よ」

 

「「はいっ!」」

 

 そこに立っていたのは、一回り成長した「姉弟のようなコンビ」であった。

 

人類滅亡まで 1年……。

 人類は反撃の刃を磨き続けた。




前書きでもお伝えしましたが、現在自動車学校に通っています。
本免許が取得できるまでは、投稿ペースが遅くなります。

サーシャさんは生きています。(なんとか)
wonderは2人のイスカンダル人を乗せて大宇宙を飛びます。
ガミラスはこの事実がわかったら手を出しにくくなりますねwww。

次の話も少し遅くなります。
しばらくお待ちください。

なお、本作に登場するヴンダーもちょっとは描けてます
(まだ翼と第二船体の1部です…)


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取り巻く縁環

発進回の1歩手前です。

車校ダルい_(´ཫ` )⌒)_
でも書くのは楽しいです。٩(๑•ᴗ•๑)۶
ではお楽しみください


第2話

 

 

「お姉様が生きてるって本当?!」

珍しく整頓された暁・睦月研究室に飛び込んできたのは息を切らしたユリーシャであった。その原因の主はリクで、キリシマが帰還したのを藤堂長官から聞いたリクは、その場で使者の生死についても質問していた。その結果をユリーシャに話したことでこうしてアポ無しでユリーシャが飛んできたのだ。

 

「ああ。意識は戻ってないけど確かに生きているよ。」

 

「良かった…!」

張っていた気が途端に切れてユリーシャはへたりこんで嬉し涙を流した。

 

それを支えるリク。

 

「今は軍病院の個室で眠っていてずっと体調をモニターされている。お見舞いに行く?」

 

「行きます。」

笑みを浮かべたユリーシャは女神と言われても差し支えない程だった。

 

「うん、それじゃあ私から藤堂長官に許可を貰おうか」

たまたま来ていた真田さんが言うが早いか受話器を取り、藤堂長官に電話をかけ始めた。

 

「でも一応軍の病院で軍関係の人が多いわ。ユリーシャさんのことを知らない人も多いからちょっとその格好はマズイわね。私の制服の予備あるからそれ来てこっか。」

 

 

こうして、4人は制服を来て軍病院に赴いた。

 

 

 

 

ざわ...ざわ...

「あの人たち姉妹?メッチャ美形なんだけど」

「ていうか睦月主任じゃん、でもあの人暁主任二めっちゃ似てるし」

「しかも横に真田さんがいる?!まさかあの見知らぬ金髪美少女は真田さんの親戚?!」

 

 

 

 

 

 

ここまでザワザワされるのは想定外だった。ユリーシャさんとハルナの顔面偏差値が近すぎて姉妹のように見られてしまってる。オマケに真田さんがいることで、周囲の人の想像がどのように暴走したかは分からないが

「あの金髪美少女士官は真田さんの親戚」って事になってしまっている。

 

 

 

2人が『誰でもハートを狙い撃ち出来る顔面凶器』だったのを改めて知った…。

 

 

 

「なかなかカオスな状況だね…」

「リク、カオスって何?」

「混沌って意味だよ…」

「噂話が加速度的に広まっていくな、刺激的ならなんでもアリか…」

 

 

いやいや、これはナシよりのナシでしょ真田さん。

でも、着替えたことによって、「姉妹説や親戚説ができてしまったが」ユリーシャが軍病院に入っても変な目で見られることは無かった。

 

4人は、サーシャさんを診た医師に連れられて病室まで歩いている。

「藤堂長官からお電話を頂きましたが、本当に驚きましたよ。お2人がこんなに姉妹みたいに見えるなんて。」

 

「あはは。ハルナ、言われっぱなしだね、私たち。」

「髪の色統一したら分からなくなりそうだね。欺瞞工作してみる?」

「面白そう…!」

 

いや2人とも何考えてんだ?それは実行するなよ。

 

「でもユリーシャさんも制服着てきたのは良い判断だと思いますよ。さあ、こちらです。」

 

気づいたら病室の前に着いていた。

 

病室の中は消毒液の独特な匂いに占拠されていた。心電図モニターと呼吸機の規則的な音。命を刻むリズムに支配された空間は入る者の顔を真剣な面立ちに描き換える。

 

「お姉様は生きてるんだよね…」

 

「ああ、確かに生きているが、まだ目を覚まさない。原因は不明だ。」

 

「ですが真田さん、サーシャさんの脳波は地球人では見たことの無い波形を示しています。私としては、コレが鍵かと思われます。」

 

こればかりは地球の医療もお手上げだ。眠ったままのイスカンダル第2皇女サーシャ・イスカンダル、長い長い夢を見ているのか、あるいは…。

 

「お姉様と一緒に帰れるのよね?」

 

「ああ、wonder計画にはイスカンダルからの使者を丁重に送り届けることも含まれている。たとえサーシャさんが目を覚まさなくても何らかの方法を使って船に乗ってもらい、必ず送り届ける。」

 

「イスカンダル王室として、改めて、地球の皆様にお願い致します。」

 

いつものユリーシャとは違う、「皇族としてのユリーシャ」はどこか威厳のある雰囲気だった。

 

「お任せ下さい。地球人は恩を仇で返すような種族ではありません。必ずやあなた方の故郷に送り届けてみせましょう」

 

リクが真剣な顔でこう返した。

 

「あらあら、リクはユリーシャさんの騎士かな?」

「僕は真面目な方だぞ?」

 

「あらあら照れちゃって~」

 

「3人ともここは病室だよ。彼女が寝ていても静かにしてあげないと。」

 

真田さんが場を収めたことで、サーシャさんのお見舞いはお終いになった。

こうして4人は帰路に就いた。のだが…

 

 

 

 

「提督にお聞きしたいことがあります!!」

 

「ん?なんだ?」

「こっちから聞こえるね。」

「提督って確か沖田さんのはずだが。ここにいらしてるのか?」

 

声の聞こえた方の通路を覗いてみると一人の男が診察室に半ば強引に入っていく様子が見えた。

診察室を覗いてみると、沖田提督と彼の主治医の佐渡酒造先生、そして1人の青年がいた。

 

「ねぇ、何かあったの?」

ハルナはドアの外にいた短髪の青年に事情を聞いてみた。

「ああ、メ号作戦が陽動だってことを、司令部付きの人の立ち話で耳にして、今カッカしてるんですよ、アイツ。ところで貴方は?」

 

「ああ、自己紹介が遅れてごめんなさい。私は暁・睦月研究室の暁ハルナです。階級は一等宙尉です」

 

「自分は島大介三等宙尉です!暁一尉、先程は失礼しました」

(なるほど、島くんだね。礼儀正しい人だね。)

「そんな階級付けたり固くなったりしなくて大丈夫。多分歳近いから、私のことは普通に呼んでほしいな」

 

「僕は、彼女と同じ研究室にいる睦月リク。同じく一等宙尉。でも階級は気にしないで欲しいな」

 

「私は幕僚監部所属、真田志郎だ。そこの彼は恐らく古代進くんだね?」

「はい、古代守さんの弟です。」

(なるほど、なら真実を話した方が良さそうだな)

 

 

真田さんはすぐに行動を起こした。病室に入り、古代の肩に手をおき、一旦落ち着かせた。

「沖田提督、彼がこうなるのも無理はありません。1度私たちの方で、彼ら2人に『あの計画』について伝えてもよろしいでしょうか?」

 

 

「…分かった、私の方から藤堂長官に事情を話しておく。真田くん、あとは頼む。」

「了解しました。」

 

「なんなんですかあなたは…」

 

「まぁまぁ落ち着いて。真実を知りたくないかな?」

「じゃあ島くん、君も行こうか。」

「は、はい。」

 

 

こうしてお客さん2人を連れた状態で、4人は研究室に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ最初から話していこっかな」

「はい、暁さん、睦月さん、真田さん、お願いします。」

古代と島は暁・睦月研究室にいた。メ号作戦の真実、そして極東管区がこっそり進めていることについて聞くためだ。

極秘のため、外部に漏らさないという誓いのもと。

 

 

「まず今から8年くらい前にガミラスが太陽系にやってきた。彼らに立ち向かった国連宇宙軍は、技術の差に敗れて大敗。でも第二次火星沖では辛勝したけど。ここまでは君たちも知ってるはず。その頃極東管区では地球からの脱出船として巨大な船が設計、建造されていた。それが『buße』という贖罪の名を冠する1隻の船。贖罪計画とも言われてたね。それの設計者は私とリクよ。」

 

 

「そうなんですか!?」

「うん、全長2500mの翼を持つクジラみたいな船だよ」

 

「そしてbuße設計後建造が進められてたんだけど、今から1年前に、地球から168000光年離れた星、イスカンダルから1人の使者がやってきた。それが彼女『ユリーシャ・イスカンダル』だ。彼女は僕達にイスカンダルからのメッ(ry…」

 

 

「ちょちょちょちょっと待ってください!リクさん、そこで国連宇宙軍の制服着てる美女がイスカンダル人ですか?!」

 

 

 

「うん、他の星の人がここまで僕達に似てるのは確かに驚くよね。でも事実なんだよ。そして出身が違う者同士でも仲良くなれることもまた事実だ。あ、制服の件は後で話すよ」

 

「美女なんて、言われるとなんか嬉しいね。」

ユリーシャは笑顔だ。と言ってもいつもの事だが。

 

 

「それじゃあ説明に戻ろう。ユリーシャさんが持ってきたのはメッセージと波動エンジンという『ほぼ永久機関』の設計図だ。メッセージによると、イスカンダルには放射能を除去できる装置があるらしい。僕達はそのメッセージを信じて、bußeを改造。世界中の協力を得て、恒星間航行ができる宇宙戦闘艦『wonder』を生み出した。ざっとこんな感じかな」

 

「そしてメ号作戦のことなんだが、陽動であることは極秘であった。私は君の兄、古代守に伝えることが出来なかった。その真の目的は、イスカンダルから波動コアを運んでくる使者から波動コアの受領。君たちが保護したイスカンダル人『サーシャ・イスカンダル』だ。今は軍病院で眠っている。私たちが病院にいたのは彼女のお見舞いをするためで、ユリーシャが制服来ているのはイスカンダル出身である彼女が怪しまれずに軍病院に入るためだよ。」

 

 

「兄に会っていたのですか?!」

今まで静かに話を聞いていた古代が声をあげた。

「ああ、最後に彼にあっている。彼からコレを預かった。」

そう言って、真田さんはポケットから「中原中也の詩集」を取り出した。

 

「これは、兄さんが読んでいた詩集…」

「守は帰って来れないことを悟っていたかもしれない。だからコレを私に渡したのだろう。古代くん、彼に作戦の真実を伝えられなくて本当にすまない。」

 

真田さんは頭を下げた。

 

「真田さん、顔を上げてください。自分はあなたを恨んでいません。ただ、最後まで兄の親友でいてくれて、ありがとうございます。」

 

真田さんの心が救われた瞬間だった。彼自身、メ号作戦が陽動であることを親友に伝えられなくて後悔していた。今こうして古代進に会えたこと、全てを話せたことで真田さんの心は幾分か軽くなった。

 

「ここまでで何か気になったことはあるかしら」

古代が手を挙げた。

「じゃあ1つだけ。何故ユリーシャさんと仲がよくなったんですか?」

 

「あ〜、それはね、wonderの改設計をしてる時に波動エンジンの事で質問しに行ったのがキッカケなのよ。2人とも波動砲条約は知ってるよね?」

 

「ええ、まぁ。」

 

「あの条約は私たちの発案なの(あ、これはナイショね)」

「「ええ!」」

 

「波動砲は私たちの故郷イスカンダルでは禁断の力なの。それで悪しき時代を作ってしまった。それを地球で再現されたら私たちと同じ愚行をしてしまう。だから前もって回避したかったのよ。」

 

「そして条約関連で話していたらここまで仲良くなったと…」

「まぁこんな感じだね」

 

 

「他には?」

 

「大丈夫です…情報詰め込みすぎでオーバーヒートしそうです。」

「おっと大丈夫?」

 

 

「じゃあもう遅いからこの辺でお開きにしようか」

若干脱線気味なこのお話会は真田さんの言葉でお開きとなった。

 

「また何かの縁で会うかもしれない。じゃあまた、古代。」

「はい、真田さん。」

古代と島の2人は帰路に着いた。心無しか彼の雰囲気が柔らかくなっていた。

 

 

 

 

「真田さん、あの船に乗せる人員はどうするんですか?」

「一応新兵も乗るかもしれない。人手不足だからな。でも、宙佐クラスの人は何人か乗せたいな。」

 

「でも、私たちがどうこう言っても無理なものは無理ですよね」

「でも、あの人たちと一緒に乗りたいよ!」

ユリーシャはあの二人が気に入ったようだ。

 

 

 

 

古代は自分の住居である『極東管区第3地区22番団地6号棟402号室』に戻った。

 

(兄さん…ただいま)

 

誰もいない部屋に1人、兄を失った古代は後を追おうとは思わなかった。いや、暁さん、睦月さん、真田さんと話をしていなかったら自分は狂ってしまっていたかもしれない。ひたすら憎悪に駆られてそのままになってしまってたかもしれない。

ベットに仰向けになり目を閉じる

「兄さん、あの人たちにまた会えるかな…」

 

(奇妙な縁だけど、すぐに会えるさ)

「…!兄さん!」

兄の声が聞こえたかと思ったが、すぐに目を閉じた。

 

 

数分後、国連宇宙軍用の携帯端末にメールが入った。

内容は、明日極東管区本部ビル正面に集まるようにとの事だった。

 

 

 

 

 

 

一方、ハルナとリクは…

「ハルナ、リク、君たちもあの船に乗るつもりかい?」

「もちろんです。あの船を作った者たちとして、最後まで見届けます。」

「ケジメは最後までつけます。」

 

2人の決意は硬かった。

 

「多分、藤堂長官か芹沢軍務局長から要請が上がってくるから準備しておいた方がいいね」

 

 

「そうですね。久しぶりに自宅に帰るとしましょう」

「研究室暮らしが長かったですからね」

この2人はbußeからwonderへの改設計以来、家に帰っていない。一応ガスと電気は止めてもらってるが、大事なものは全部家に置いたままだ。

 

 

 

2人は久しぶりに家に帰っていった。

 

 

 

 

 

同時刻、ユーロ管区エプシロン社

 

「君の依頼通り、波動砲の欠点改善用のデータは渡したよ。アカギ博士」

エプシロン社本社ビル執務室にて、カイン社長とアカギ博士が話していた。

社長はお気に入りのコーヒーセットでコーヒーを入れている。ちなみにオムシス製のコーヒー粉末ではなく、社長のコレクションの豆で入れてある。こだわりがよく見える。

 

 

「ありがとう、カイン。あの天才たちはちゃんと改良できたと思うわ。」

「その根拠は?」

「特にはないわ。研究職としての勘よ。」

「またいつものよく当たる勘か。そういえば、君もあの不死鳥に乗ると聞いたんだが。」

「あら、耳が早いわね。私は外宇宙とガミラスに興味があるからよ。それとあの船の未確認骨格…研究者として、興味をそそられるわね。」

「でも、要請も何も来てないのにどうやって乗るんだい?」

「コネよ。波動砲の改善データの見返りとして乗せてもらうの。」

狡猾な赤木博士、手段は選ばない。でも、自分の見たいもののために真っ直ぐである。

 

「コネ博士…」

「うん?何か言ったかしら…?」

「いや、なんでもない。」

 

「あと、2人連れていきたい優秀な人材がいるの」

「それは誰だい?」

 

「1人はユーロ管区の局地戦闘機乗り。17歳でエースパイロットまで登り詰めた努力家よ。名前は『式波・アスカ・ラングレー』ドイツと日本のクォーターよ。彼女の戦闘シミュレーションのデータがコスモファルコンの操縦システムの一部になってるの。」

 

「とんでもない人材を連れてくね君は。それでもう1人は?」

 

「もう1人は私の同僚なんだけど24歳の日本とイギリスのクォーター、4分の1イギリス人。大学飛び級で今は私の研究室で副チーフを務めてる『真希波・マリ・イラストリアス』よ」

 

 

「君は一体何がしたいんだ?」

 

 

「分かりやすいことよ。あの船の秘密解明とガミラスを知ることよ。」

 

 

 

「死なないようにね…」

 

「真実を知れずに死ぬのはゴメンだわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

取り巻く縁の力で引き寄せられる人達。

彼らは1羽の不死鳥に集う支度をするのであった。




赤木博士が船に乗ります。
アスカ&マリも乗ります。
真田さんと赤木博士が意見交換したらヤバい兵器が生まれそうですww

アスカは原作に則って戦闘機乗り、マリは、原作では碇ユイさんと研究室にいたという話があるので研究職になりました。


あとTwitterやってみます
進捗ちょこちょこ上げよっかなと考えてます。
投稿予告とかすると思う。


https://mobile.twitter.com/TJ2gQhbg3f4uar6


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宙へ舞いたい数瞬前

Wonder発進ッ!

発進回は2部構成にします
(収まりきらないので)

人類史なんて宇宙からしてみれば一瞬。せめて数瞬にしてやりたいもんです(うp主はとち狂ったww)。


第3話 宙へ舞いたい数瞬前

 

 

リクは久しぶりに自宅に帰った。物が少ないのは、研究所に寝泊まりすることもあるからで、帰るのは週に4回位だ。でも、大切な物は研究室には置いていない。

家に帰ったのは身支度するためと、大切な物を取りに来たからだ。

 

 

 

「僕は帰って来れるのだろうか…。母さん。」

彼が目を向けるその先には1人の女性と写る少年の姿があった。古い写真で少し色が黄ばんでいるが、その写真は過去の思い出を確かに残している。

彼女の名は『睦月風奏(ふうか)』。リクの母親だ。リクの父親は、リクが産まれる前に死別している。

 

彼はその写真をトランクに入れる。そして、デスクの小物入れ、その鍵のかかった引き出しを開けてある物を取り出した。

 

それは時間の止まった時計と、水色の石と橙色の石がチェーンで繋がってるペンダントだった。

 

時計のカレンダー機能は2155年9月13日を指したまま。

 

これを見るとあの時を思い出す。

 

 

 

 

(赤い...十字架...?)

(ハルナ!逃げるぞ!!)

(リク!母さんに構わず逃げてっ!)

(母さんっ!!!)

 

 

 

ピピピピッ

「はっ!!」

 

途端に携帯端末の音で現実に引き戻された。このペンダントと時計を見ると毎回のごとく思い出す。止まった時計なんて今更使えないが、これはあの時持っていたものだ。この時計のアラームで救助されたと、目を覚ました時に自分を診察した医師から聞いた。

命を救ってくれた時計だから今でも持っている。

 

 

 

学術書や仕事道具以外、家から持っていく物を詰め終えたリクは携帯端末を確認する。案の定メールが入っていた。

内容は要約すると

明日極東管区本部ビル正面に集まるようにとの事だった。

送信者は極東管区ではなく真田さん。

追伸で『ユーロからお客さんが来るから心の準備を』と書かれている。

 

まだ誰の事かは分からなかったが、Wonderにユーロの研究者が乗ることは見当がついた。

 

 

 

過去の思い出を身に付けて、リクは自宅を後にした。

 

 

 

 

 

 

翌日、極東管区本部ビル前に向かう前に自分たちの研究室に行ったリクは驚きの事実を告げられる。

 

 

「えっ!お客さんって貴方は!」

そう。お客さんというのは、『波動砲の改善用データを作成して、自分たちに渡してくれた「赤木リツコ博士」』なのだ。

 

「私も来た時ビックリしたのよ。真田さんドッキリですか?」

「いや、至って真面目だが。」

真田さんは平然としてるが、真面目に考えると、恐らくユーロで五本指に入るかもしれない頭脳の研究者が目の前にいるというのははっきり言って異常事態である。

 

 

「あら初めまして、赤木リツコです。皆さんと同じようにWonderへの乗艦が決まってます。」

 

(ハルナとリクはフリーズ中)

 

「はっ!初めまして、暁ハルナです!こっちは睦月リクです!」

 

「あっ赤木博士!改善用データ、ありがとうございました!」

「上手くいったかしら?」

「はいっ!」

「良かったわ、あの兵器は宇宙を壊しかねないんでしょ?ならその欠点を潰してここぞという時に運用するしかないわ」

 

「ところで真田さん、赤木博士はどうして船に乗ることになってるんですか?」

「んん…それはね、波動砲の欠点改善の見返りとしてなんだよ。」

 

「私はあの船と外宇宙とガミラスに興味があるの。私は研究職だけど、カインの会社で艦船設計に関わったりしたこともあるのよ。はっきり言ってあの船は異形そのものよ。興味が尽きないわ。」

 

「それに未知の航海だから、様々な分野に精通した研究者がいると心強い。そう言う感じで藤堂長官に掛け合ったんだ。」

 

「感謝してるわ、真田くん」

「あなたと技術開発が出来る時を楽しみにしています。赤木博士。」

 

 

2人は直感した。

 

『真田さんと赤木博士を混ぜたらヤヴァい、混ぜるな危険』と

 

 

「ユーロからのお客さんはあと2人いるの。2人とも長旅で疲れてるから今は仮眠室にいるわ。1人は戦闘機乗り、もう1人は私の研究室の副チーフよ。」

「1人じゃなかったんですね」

「人材は多い方がいいでしょ。それもエキスパートの。」

「ですね。」

 

 

「あ、そろそろ向かった方がいいですね」

ハルナが時計を気にしていたお陰で話し込みすぎて遅刻は回避出来そうだ。

 

「それじゃあ私は寝てる2人を起こしてからそっちに向かうわ」

 

「では会場で」

 

久しぶりに研究室に鍵をかけて各々会場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスカ?マリ?起きてる?」

 

「Zzz」

「んにゃあ、神さま仏さま赤木さまどうかこの私めにあと10分お時間をくださいにゃあ」

 

「寝言言ってないで起きる!!」

 

「えへへ〜もう起きてるよ〜。姫〜、Good morning〜!」

「んん!煩い!黙れコネメガネ!」

「そう言わずに〜。極東での最初のお仕事よ〜、Very niceな滑り出し決めようよ〜。それとも遅刻でスベっちゃう?」

 

 

「ああ!もう分かった起きる!」

「賢明だにゃ」

 

 

寝起きのエースとイジリ大好きネコは女傑に連れられて会場に向かうのであった。

 

 

 

ザワザワ

ザワザワ

ザワザワ

「ついにこの時が来たのか」

「地球脱出の贖罪計画...。」

「見捨てるなんて.......」

 

 

 

「真田さん、いよいよですね。」

「ああ。それと艦の指揮系統の人選のことなんだが、見てくれ。」

「えっ、この名前って。」

「うわぁ、縁の力ってスゴッ」

「コダイとシマも乗れるんだね!」

「うおっ!ユリーシャなんでここに?!」

「忘れたのかい?ユリーシャも監査官として乗るんだよ。その発表のためにここにいるんだから。」

 

そういえばそうだった。赤木インパクトでだいたい吹っ飛んでしまったから忘れてた。

 

「沖田提督が話される。静かに。」

 

『諸君らは贖罪計画の選抜メンバーとして今日まで訓練を続けてきた。しかし、今回ここに集まってもらったのは贖罪計画の発動を宣言するためではない!』

 

(一体どういうことなんだ?)

(あの計画は破棄されたのか?)

(なら何をするんだ?)

 

集められた者たちの中には疑問が溢れることだろう。自分たちは計画の為に訓練させられてきたのに、それを破棄にして何をするのか?

 

 

『諸君らが混乱するのも無理はない。まずは、この映像を見てもらいたい。』

 

そうして大型スクリーンにイスカンダルからのメッセージが映し出された。1年前にユリーシャからもたらされた最初のメッセージだ。

多くの人が驚きに満ちているが、真実を知る2人、古代と島は真剣に見つめ、これから何が起こるか予想していた。

 

「2人は結構真剣な顔だね。」

「それならこの人事も受け入れそうだな」

「『二階級特進』でいきなり一等宙尉だからな。普通ではありえない。」

「つまりは『偉くなる』ってこと?」

「うん、それであってるよ」

 

 

 

メッセージが終わり、沖田提督が再び話し始める。

 

『1年前、我々はこのメッセージと波動エンジンの設計図を1人のイスカンダル人受け取り、地球脱出用として衛星軌道上ドックで建造中であった。地球脱出船Bußeを改造、恒星間航行が可能な宇宙戦艦を建造した。その名はWonder!』

 

再び会場がザワつく。

 

『極東管区ではこの恒星間航行宇宙戦艦Wonderをメッセージの送り主である遥か168000光年先の大マゼラン星雲、そこに位置する惑星イスカンダルへの派遣を決定した。』

 

『明朝0600に富士宇宙港ドックに集合せよ。そこから輸送船で衛星軌道に向かう。遅れた者は残留希望者とみなす。以上だ。』

 

その後、司令部付きの森雪三等宙尉が主要メンバーを読み上げていく。

『では、本計画における人事について発表します。艦長 沖田十三。技術科 真田志郎、真田三佐には、副長を兼任していただきます。機関科、徳川彦左衛門。』

 

ここまでは納得の人事である。ベテラン&秀才が入ってきたからまずは良しだ。

 

『戦術科、古代進。航海科、島大介。』

 

驚くのはそこだ。古代と島は2人揃って驚きを隠せてない、2人で見合って「マジで?」と言ってることだろう。

 

 

 

「やはり、人手不足だから選ばれたんですか?」

「うん、国連軍は既に多くのベテランを失ってしまっている。だから若手から抜擢して二階級特進をかけて責任職に就かせるしかないんだよ」

「コダイとシマが偉くなったんだね!」

 

その後もどんどんと読み上げられていく。

 

 

 

『甲板部、榎本勇。主計科、平田一。航空隊 隊長、加藤三郎。衛生科 佐渡酒造。保安部 伊藤真也。』

 

 

 

さあ、皆の出番だ。

 

 

『そして、本艦の設計者として乗艦する、暁ハルナ一尉と睦月リク一尉、ユーロ管区より、赤木リツコ博士、真希波・マリ・イラストリアス。ユーロ空軍試製局地戦闘機部隊(しせいきょくちせんとうきぶたい)より式波・アスカ・ラングレー特務中尉です。』

 

『最後に本艦の航海の外部監査官としてユリーシャ・イスカンダルさんに乗艦して頂きます。』

 

みんな揃って礼をする。顔を上げてみると、古代と島がかなり驚いてるのが見てわかる。ウインクして、気付いてることを知らせた。

 

 

『以上で人事についての発表を終わります。先程説明がありましたように、集合は富士宇宙港ドックに明朝0600です。では、これにて解散とさせていただきます。』

 

終了となったことで集合していた者は散り散りとなった。

 

 

 

 

「さて、みんな準備は出来てるよね?」

「出来てますよ。宙に上がりますか。」

「私たちはひと足早く行けるんですよね。物資輸送船に相乗りですけど」

 

「待って待って!私たちこの人たち知らないんだけど。とりあえず紹介し合う時間はあるよね?」

アスカが突っ込んだ。そりゃそうだ。お互い初見なのだから。自己紹介くらいあってもいいのでは?

「じゃあ軽〜くするね〜。改めて、私は真希波・マリ・イラストリアス!こっちのツインテの子は式波・アスカ・ラングレーちゃんだよ〜!」

 

「...よろしく。私のことはアスカでいいわ。」

「私は赤木博士の助手みたいな感じで乗艦するの〜。待ってろ外宇宙!宇宙の真理を解き明かすのはこの私だ!」

 

相変わらずテンション高めて決めポーズするマリとウンザリ気味なアスカ。

 

 

「私たちからも自己紹介するね。私は暁ハルナ。」

「僕は睦月リク」

「私は真田志郎だ。」

「ユリーシャイスカンダルです。」

 

「えっ!ちょ、イスカンダル人めっちゃキレイ!あ、私は式波・アスカ・ラングレーです!」

「ふむふむ、よろしくね!アスカちゃん」

「ちょ、なんでちゃん付け?」

「可愛いから!」

「好きにしたら...///」

 

アスカは若干照れていた。マリがいい玩具を見つけた子供みたいにニヤニヤして、赤木博士は、ツンな彼女が少しデレたのを不思議そうに見ている。

 

 

「自己紹介も終わったから行こうか」

「はいはーい♪」

 

 

7人は富士宇宙港ドックに向かった。

 

 

 

 

 

「やって来ました〜!衛星軌道〜!」

マリはどこに行ってもテンション高めだ。富士宇宙港からアフリカ管区の物資輸送船に乗って1時間。やってきたのは

衛星軌道上にある特設ドック「鳥籠」。輸送船から降りた彼らはいま、宇宙船舶係留エリアにいる。

 

「いやー、やっと着きましたね。」

「ああ、こうして見ると圧巻だな」

「やっぱりドック大きいわね、やっぱり船が大きいからだね。」

「ハルナさん、これってホントにドックですよね。」

「やっぱりそう思っちゃう?デカすぎるからね。」

 

 

「お、この船の創造主がやって来ましたか」

前を見ると、オレンジのつなぎを来た人が無重力空間で器用に飛んできた。

 

「どうも、甲板部の管理を命ぜられた榎本です。今はここでドック長をしてます。」

 

「初めまして」

 

「そこの銀髪コンビ。話は聞いてるよ。んじゃあ皆さん、今の状況を見せますんでどうぞドックの内部へ。」

 

 

銀髪コンビを先頭にして皆は榎本さんに連れられてドック内部に入っていった。

 

 

 

出迎えたのは、重武装で勇ましくなった人類の希望だった。

「おおっ!」

「(´-ω-)ウム 素晴らしいな」

「凄いっ!出来てる!」

「へぇ、なかなかカッコイイじゃない ニヤニヤ」

「あの砲塔はなに?!あ!あれが波動砲だね!あの骨は何!?」

「赤木さん?落ち着いてにゃ、私も人のこと言えないけど!」

 

「やっぱりカッコイイ...。」

 

「興奮するのも無理ないよ。全長2500mの機械仕掛けの不死鳥だもの、コイツはな。建造は信じられんくらいに大変だったけどな。」

榎本さんはお客さんたちが興奮しまくっているのを見て笑っていた。

 

「それじゃあ少し落ち着いたかな?そこの3人は内部構造知ってるはずだけど一応主要な箇所だけ説明しとこっかな」

 

榎本さんに連れられて皆は船の中に入った。

 

 

 

 

「まずここが中央作戦室。床にモニター敷いてあるから作戦会議がしやすいと思うぞ」

 

「ここが食堂、飯はオムシスで有機物から作れる。人造タンパク質で肉も作れるから飯には困らんな。水も大丈夫。」

 

「ここが第1主砲塔。ショックカノンと実弾を撃ち分けられる。ほかの主砲塔も同じ構造してる。副砲もサイズ小さいだけでショックカノン限定だが同じ構造してるよ」

 

「そもそも船がデカいから歩いて移動するには限界があるんだ。だからこういうトロッコみたいなのが必要なんだよ。まあ、観覧車のゴンドラを高速で走らせてる感じだな。」

 

「ここが営倉、オイタをしたら放り込まれる。入りたくないね〜。」

 

「ここが艦載機格納庫だよ。こりゃまた面白い構造をしてるな。これはリク君の発案らしいな」

「ちょっと自慢です。慣性制御のなされていない円柱状の空間に一回り小さい円柱状のフレームを設置。フレームはレールになっていて、フレーム各所に設置された艦載機用駐機パネルを観覧車のように移動させ射出ハッチまで輸送、リニアで艦の後方に射出します。パネル一枚につき、両面使用して二機駐機可能です。」

 

「最後にここが艦橋。ここが航海艦橋。戦闘艦橋は上の開いてる球体の中だよ。ハルナさん、結構面白い構造にしてるね」

「はい。航海艦橋に設置されている機器と座席が、アームによって持ち上げられて戦闘艦橋に移動します。戦闘艦橋は全周式スクリーンになっていて、前後左右上下360度状況確認が可能。敵をレーダーで視認して、肉眼でも確認できるようになっています。」

 

「なかなか革新的じゃない」

赤木博士がニヤニヤしながら褒めた。

「えへへ、ありがとうございます」

 

 

「それじゃあオマケに見せとこうかな。皆適当な所に座ってみて」

 

「動かせるんですか?!」

「と言うか、試運転をまだしてないんよ」

 

皆適当な所に座った。ユリーシャはなんと艦長席に座って腕を組んでいる。気分は艦長か?

 

「それじゃあやってみるぞ、『艦の制御システムを戦闘艦橋に移行。座席ロック解除。ヒルムシュタムタワー移動開始。』」

 

ガチャンとロックな外れたような音と共に警報音がなりながら座席が上へ移動していく。

 

「これぞ地球人のロマンだにゃ!」

ユリーシャ至っては目が輝いている。ロマンのあるものに引かれるのは宇宙共通か?

 

座席が戦闘艦橋の内部に入り、球体が閉じてロックがかかった音が響いた。

 

 

 

 

《NHG-001 NHG-class Interstellar Space Battleship"Wonder"

Battle bridge system activation》

(NHG-001 恒星間航行宇宙戦艦ヴンダー

戦闘艦橋システム起動します)

 

ネイティブな英語とともにシステムが起動していく。

無数のプログラムが全天周式スクリーンに凄まじい勢いで投影されていく。それらはハルナとリク、技術部の面々が書き上げたプログラムで、ハルナは感動を隠せない。

 

《Completed connection with MAGI system 3rd and started image processing.

Started visualization information processing.

The main monitor lights up.》

(MAGIシステム3rdとの接続完了、

視覚化情報処理を開始。

主モニター点灯します。)

 

 

全ての処理が完了して、全球式スクリーンに映像が映った。ドック内部の映像だ。

 

「すごい...これを人類が作ったなんて。」

「リクさん、これ何かのアニメ参考にしました?それくらいカッコイイんですけど。」

アスカは何かと勘がいい。そうだその通りだ。

「これね、170年位前の古いSFアニメを参考にしたんだ。あの時のアニメが1番面白いから。見てみる?」

 

「映画鑑賞あるなら呼んでください。コネメガネあんたも来る?」

 

「興味あるにゃ。行くよ〜。」

 

 

 

「じゃあ航海艦橋に戻すよ〜」

こうして、戦闘艦橋体験はお終いとなった。

 

 

 

 

 

それから彼らはwonder船内で1泊。各々の部屋に私物を置き、自分の城としてしまった

 

 

ピリリリッ

端末に連絡が入った。電話の主はマリだ。

 

「はい、睦月です。」

『あ、リっくん?今ハルナっちにも声かけたんだけど、地球からの第1便のクルー輸送船が来たってさ、お出迎え行こ〜。多分君らが知ってる人もいるよ〜。』

 

「それって...!」

 

『お?心当たりある?真田さんの話だと古代と島って人だって。行くよね?』

 

「睦月、行きま〜す!」

 

リクは部屋を飛び出した。

 

 

 

甲板の上に出ると、ドックの入口からぞろぞろと人が出てきた。

「ねぇ、何人乗るんですか?」

アスカも来ていた。

「うん、船が大きいから900人?くらいだね。」

「900?!多すぎじゃないですか?」

「丁度いいくらいだよ。」

ドックに入ってくる乗組員は皆この船を見るなり驚いている。唖然としている。驚きすぎて荷物を落とす人もいる。

 

 

「あれ、古代くんじゃない?」

ハルナは視力が悪いがメガネを掛けて確認した。

「あ、あれだね。おーい!古代くん〜!こっちこっち!」

 

古代も気づいたようで手を振り返した。

 

「ほほ〜あれが古代くんね。若いけどやる気ありそうじゃない」

 

 

甲板の上で

「やっぱり古代くんと島くんじゃん。管理職とは偉くなったね。」

「でも、自分がそれに合う器かどうかは分かりません。少し心配です。マニュアルは一通り読みましたが、上手くいくか...。」

「そこは現場で磨いていくしかないと思う。任されたって事は素質があるってことだし沖田提督、いや艦長の目は確かだと思う。経験を吸収していき、原石からいっぱしの宝石になろうか。」

 

「...!はい!」

「島くん、返事は〜?」

「はいっ!頑張ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何、テロン衛星軌道に複数の艦艇だと?』

『はい、衛星軌道上のこの岩塊です。衛星の一つかと思いましたが、微弱ですが熱反応を感知しました。恐らくですが、艦船ドックの可能性が。』

 

 

『むう、可能性は捨てきれんな 。現在稼動可能な艦艇は?』

 

『デストリアが2隻、ケルカピアが3隻、クリピテラが3隻出せます。』

 

『よし、稼動可能な艦艇は発進準備にかかれ、1度惑星マルスで息を潜め、ケルカピアとクリピテラを1隻ずつ斥候として出し情報収集だ。黒ならそのまま攻撃開始だ。』

 

『ザーベルク!』

 

 

 

 

 

 

 

第3便(最終便)が到着して、1時間。航海の幕開けは近づいていく。

ドンドンッ

「誰だ?」

「暁ハルナ、睦月リクです。今お時間よろしいでしょうか?」

 

「うむ、入れ。」

「失礼します。」

2人は艦長室に足を運んでいた。航海前に一言挨拶がしたかったからだ。

 

「君たちか...この船を作ったのが。なかなか勇ましい見た目じゃないか。そして大航海の船として頼もしいな。」

「ありがとうございます。」

「だが、扱うのは未だ人類がまともに扱ったことのない兵器だらけ。本当は戦闘訓練後に出航したいが時間はそれを許してくれん。航海中に磨くしかないな。」

 

「はい。火器管制システムは、初見でもシステムの把握が容易となるように考慮しましたが完全ではありません。航海中もシステム更新と改良による最適化を行いたいと思います。」

 

「頼むぞ」

 

「「はい!」」

 

 

 

ハルナとリクが艦長室を後にした5分後、古代も艦長室にいた。

 

「古代戦術長、入ります」

「入れ」

「失礼します。」

 

「艦長、自分は戦術長の座に相応しいのかどうか疑問に思っています。」

「その事か、この船の人選は極東管区に任せたんだが、その中から管理職を選定するのは儂が行った。儂は軍に入ってから様々な人を見た。有望な者も多くいた。儂は君の中に戦術長として適正を見出した、磨けば光る。儂はもう50だが目はまだ衰えとらんぞ?」

 

「自分にですか?!」

「そうだ。大マゼランに向かう以上、ガミラスと戦闘することは避けられんだろう。その時は船を頼むぞ。『古代戦術長』。」

 

「はい!」

 

 

 

 

ヴィー!ヴィー!ヴィー!

 

艦内にけたたましい警報が鳴り響いた。

「敵襲?!」

 

「とにかく航海艦橋に向かうんだ。」

 

1人の歴戦の勇士と1人の有望株は揃って戦場に走り出した。

 

 

 

 

続く




長いっ!

発進回は1話に纏めるつもりでしたが、そうしたら10000を超えそうです。
それにヱヴァンゲリヲンからアイデアをもらった作戦も楽しみに取っておきたいので2話構成です。

沖田艦長の「wonder発進っ!」が楽しみです。

車校と執筆どっち取ろう.......。
高評価頂けると幸いですm(_ _)m
次回もサービスサービス!


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我赴くはソラノカナタ

発進回、後編です。
ここで主がやりたかったことその1をやります。


【挿絵表示】

☝️Wunderの挿絵です

主のTwitterです
こちらでも公開します。
https://mobile.twitter.com/TJ2gQhbg3f4uar6


『現在、衛星軌道ドック周辺にガミラスタイプ駆逐艦、巡洋艦クラスの艦艇を確認』

 

艦内に鳴り響く警報音とともにMAGIシステム3rdの人工音声が鳴り響く。

航海艦橋に向かう古代と沖田艦長。艦長室から艦橋までそこまで距離はなく、2人は無重力空間を器用に泳いで艦橋にたどり着いた。

(まだエンジンはかかってないので慣性制御はされていない)

 

「状況報告!」

航海艦橋に入るなり、沖田艦長は席に着いていた士官に命じた。

 

「ドック周辺にガミラスの駆逐艦、巡洋艦を確認しています数2、距離15000。」

索敵用レーダーの席に座っていた船務長の森雪が答えた。

「到達までの時間は?」

「推算すると1200秒かと」

副長席に座っていた真田さんが、距離とスピードからざっくりと計算した。

 

「ドックの防衛システムは?」

「ドックの防衛システムは高圧増幅光線砲、奴らには傷もつけられませんよ!?」

砲雷長の南部康雄が分かりきっていることを答えた。

 

 

 

「沖田艦長、ここは奴らに牙を剥いてみるのはどうでしょう?」

「強行発進という手もありますが...?」

リクとハルナも航海艦橋に飛び込んできた。

 

「「ええぇー!!」」

 

古代と沖田艦長、ハルナとリク以外が叫んだ。いきなり発進しようというのだ。叫ばないのは異常である。

 

「いきなりの実戦は無茶ですよ!」

「本艦の操舵は未経験です、上手くいくか分かりませんよ!」

 

 

「かけてみようじゃないか、皆。」

徳川機関長が声をあげた。

「ここでダメだったら全て終わりじゃ。なら儂はやってみたいぞ。幸いにも、波動コアの接続準備は完了しておる。あとは大電力をどこかから調達するだけじゃ。そのあてもあるんじゃろう?お二人さん?」

 

「もちろんです。真田さん、送受信システムの準備をお願いします。」

リクが不敵な笑みを浮かべ真田さんに頼む。

 

「.......分かった。ここは、かけてみよう。」

 

 

「全艦、発進準備!! 主機、点火準備!!!」

 

 

「了解!!」

沖田艦長の号令の元、Wunderは強行発進の準備に取り掛かった。

「波動コアは2つじゃ! 暁くんは左舷、睦月くんは右舷に向かってコアの装填をしてくれ!」

 

「「分かりました!!」」

 

航海艦橋を飛び出した2人は二手に分かれて、波動エンジンの元に向かった。

 

 

2人が駆け出していくのを見届けた沖田艦長は、

「総員、第一種戦闘配置!」

 

第一種戦闘配置の宣言を行った。

 

「了解、第一種戦闘配置発令。艦の主制御を戦闘艦橋に移行、座席ロック解除、ヒルムシュタムタワー移動開始!」

真田さんが安全装置を解除して、榎本さんが押したものと同じボタンを押した。

 

座席ロック解除音とともに警報音が鳴り、航海艦橋の床全体が大型アームで持ち上げられる。そして大型アームに取り付けられているサブアームが各員の座席の床と接続される。各員が戦闘艦橋全体に等間隔に配置されるように、サブアームによって立体的に移動していく。

 

 

そして、重重しい音が響いて戦闘艦橋のロックがかかった。

 

直後に全天周式スクリーンに戦闘艦橋の起動を示す英文が表示され、瞬時にドック内部の映像が表示される。

初回起動時とは違い、プログラム等は表示されてない。

しかし、全天周式スクリーンの中心に赤いラインの羅針盤と高度を示す目盛りが表示されている。

 

 

「これは...!」

通信士の相原義一が驚きの声を上げた。

「暁くん自慢の戦闘艦橋システムだ。敵を直接視認出来ることを目指した答えだよ。さて、発進準備を進めようか。」

 

「了解っ!ドック内部の整備員を全員艦内に退避させます!」

 

『Wunderはこれより強行発進を行う! ドック内の作業員は直ちに現作業を中断。全員艦内に退避せよ! 繰り返す現作業を中断し、全員艦内に退避せよ。』

ドック内部に響く緊急連絡により、ドック内の作業員は艦内に待避していく。

 

「森、敵艦の様子は?」

「距離10000、こちらを伺ってるものかと思われます。」

 

「敵はまだドックと判定した訳では無いのか...?」

 

「だが、いずれ敵側も攻撃を仕掛けてくるだろう。真田くん、送受信システムの準備は?」

 

「ドックの受信レクテナは立ち上げが完了しています。現在、変換システムの最終チェック中、まもなく終了します。あとは送信側の準備完了を待つだけです。」

「真田副長、どうやってエンジン始動用の電力を得るんですか?」

古代が頭に「?」を浮かべて質問する。

「フッ、良い方法だよ。相原通信士、極東管区に繋いでくれ。」

思わせぶりな笑顔を見せながら、相原に通信を繋ぐように頼む。

「了解、繋ぎます!」

 

スクリーン前方に通信ウィンドウが開き、藤堂長官が映った。

 

『おお、沖田くん』

「長官、電力の方はどうなっていますか?」

 

『現在、極東、豪州、北南米、東アジア、ユーラシア管区で最終準備が行われている。ユーロとアフリカは地球の反対で射角が地球を掠めてしまう。そのため、ユーラシア管区に送信システムを臨時で設置して、所有する全輸送船の核融合機関で電力を賄っている。もう少し待ってくれ。』

 

「分かりました。ですが、あまり時間がありません。」

 

『分かっている。こちらでも送信準備を急ぐ』

 

「徳川くん、両舷機関室の方はどうなっている?」

「少々お待ちを、機関室!状況は?」

 

徳川機関長が自分のコンソールに通信ウィンドウを2つ開き、状況の確認を行った。

 

 

『こちら左舷機関室! たった今、波動コア装填準備完了です!』

機関士の山崎奨が持ち前の大きな声で準備完了の旨を報告した。

「同じく右舷機関室! こちらも準備完了です!』

機関士の薮助治が真剣な顔と口調で応える。

 

「艦長! 両舷とも準備完了とのことです!」

「よし、送電システムは?」

 

『先程、国連本部から連絡に入った。全管区、準備完了とのことだ。』

 

「分かりました。こちらも波動コア装填はいつでも可能です。」

 

 

 

 

 

一方、ドックと思わしき物体を光学で確認したケルカピア級とクリピテラ級はひたすら観測を行っていた。

 

『艦長、観測結果が出ました!前方の小惑星らしき物体の内部に大規模な空洞を確認!』

ザルツ人士官の1人が艦の観測機器を使用して前方の小惑星の正体を暴いた。

『内部スキャン完了! 推定全長2000メートルの巨大な鳥型の戦艦が格納されてます!』

 

『艦長、黒ですね』

クリピテラ級の副長が険しい顔をしながら艦長に攻撃を促す。

艦長が頷く。決断は下される。

『全艦に通達! テロン衛星軌道上の小惑星を艦船ドックと断定! マルス沖で潜伏中の本隊に通達! 全艦戦闘態勢! 陽電子カノン、魚雷発射準備!』

 

そして、ガミラス艦から最初の一撃が放たれた。

 

 

 

 

 

ドガァン!!

 

「何だ!」

「状況報告!!」

「ドックの管制塔が破壊されました! ガミラス艦からの魚雷攻撃によるものかと思われます!」

森船務長が素早く応える。

「ドック制御システムオフライン! ゲート展開不能!」

真田さんも報告する。今まで遠隔で制御していたドックのシステムが攻撃によって切れたのだ。

「これじゃ発進できませんよ!」

南部砲雷長が悲観的な言葉を発する。

 

 

「艦長! 古代戦術長意見具申!」

そんな時、古代が沖田艦長に提案をした。

「聞こう」

「波動エンジン始動後、ショックカノンにエネルギー伝達、正面方向への一斉射撃でゲートを破るべきと考えます。」

 

「開かないなら壊せって事ですか。でもいけるんですか?」

気象長の太田健二郎が疑問を浮かべる。

 

「可能だ。だが、やたらめったら撃ってもこちらに被害が及ぶ可能性がある。AU-09!」

真田さんが呼んだのは一体のロボットの名前だ。

『番号ナンカデ呼ブナ! 「アナライザー」ト呼べ!』

「ショックカノン18門一斉射でゲートを破壊するためにはどの部分を狙えば良いか直ちに計算してくれ。」

 

「了解! MAGIシステムと連携シマス!」

彼はAU-09、通称アナライザー。Wunderに搭載されているサブコンピュータだ。計算能力はMAGIシステムには1歩劣るが、アナライザー自身がロボットで会話可能なため、直接計算内容を伝えれば即計算開始できる。即応性に長けるのが彼の強みだ。

 

「アナライザーが計算完了するまでに準備を進めるぞ。徳川くん、波動コアの装填を!」

「了解! 両舷とも準備は良いか!」

 

『はいっ!』

『行けます!』

 

防護服を来て準備万端なハルナとリクが通信ウィンドウ越しに応えた。

 

「じゃあ行くぞ!カウント!5!4!3!2!1!」

 

ガッコン!

 

『『せーのっ!』』

 

カチカチカチ!

 

両舷とも全く同じタイミングで波動コアがエンジン内部の『波動コアコンジットベイ』に装填、回路が接続された。

 

 

『両舷、波動コア接続を確認! 後は電力です!』

山崎さんが機関室の集中制御ブースで両舷の波動コア接続を確認した。

「お二人さんよくやってくれた! 直ちにエンジン内部から退避してくれ!」

徳川機関長が退避を促す。

『『はい!』』

「よし、『ヤシマ作戦』発動!」

 

『うむ!送電シークエンス開始!!』

 

 

 

 

『ヤシマ作戦』

 

かつて戦国の世、源平合戦。屋島の戦いで那須与一は平家側の姫君が船上に掲げた扇をその矢ではね飛ばした。

 

そして今、人類を救うべく飛び立つ船に力を与えるべく、ドック外設の受信レクテナに向けて狙いを定めて大電力が送られる!

 

 

 

 

《地球》

 

「ヤシマ作戦発動! マイクロ波送電準備! 第一次接続開始!」

 

「了解! 各管区の一次及び二次変電所の系統切り替え。全開閉器を投入。接続を開始!」

 

「各管区発電設備は順次運転開始、出力限界まであと0.2」

「電力供給システムに問題なし」

「全インバータ装置に異常なし!」

「第1次遮断システムは順次作動中」

「各管区、全送電回路開きます!」

「電圧安定!」

 

「第二次接続開始します!」

「全管区、第1から第11変電所に投入開始」

「電圧変動幅問題なし!」

「電力低下は許容数値内、問題ありません!」

「第三次最終接続!」

「了解、全電力、超高出力マイクロ波送電システムへ!」

「全開閉器投入準備!」

「送電準備完了!」

 

 

《Wunder》

「マイクロ波受信レクテナ問題なし! 地球自転、ドックの軌道周回速度との誤差、リアルタイムで修正中!」

「マイクロ波減衰率、許容範囲内!」

「全変換システム、1番から20番まで準備よし!」

「波動エンジンとの給電接続問題なし!開閉器に異常なし!いつでも行けます!」

 

 

「長官、受信準備完了です!」

 

『よし、カウント開始する! 10! 9! 8! 7! 6! 5! 4! 3! 2! 1!』

 

『送電開始!!』「送電開始!!」

 

その時、7本の極太マイクロ波の束が、地表の送信アンテナから放たれた。それは大気を紫に焼き、大気中に壮大に放電しながら宙へと登っていく。

 

それは空へと昇る龍のごとく。宇宙からも確認できるマイクロ波の龍は、ドックの受信レクテナに向かってひたすら登っていく。

 

 

 

そしてその光景は、ガミラス艦からも確認できた。

 

 

 

『惑星テロン地表より、マイクロ波発射を確認!』

『マイクロ波?! 攻撃では無いのか?!』

 

『マイクロ波の予測着弾地点算出! これは..! 敵艦船ドックです!』

 

『そうか! マイクロ波を発射したのは無線でエネルギーを送るためか...!』

 

 

気付いた時には遅かった。何者にも邪魔されることなく空間を突き進んだマイクロ波の束は、ドック外設の受信レクテナに飛び込んだ。

 

 

 

 

再びWunder戦闘艦橋。マイクロ波受信を受けて、変換システムは膨大なマイクロ波を整流、莫大な電力に変換していた。

 

「変換システム正常! 現在、180000000ギガワット!」

「波動エンジンとの回路接続! 全開閉器投入!」

「了解! 接続します!」

 

「波動エンジンに電力流入あり! 起動電圧まであと0.2.....0.1.......」

 

 

波動エンジン起動に必要なのは極めて莫大な電力である。しかし、地球上の全管区がまたもや力を合わせて今度はWunderに電力を送った。

 

 

 

そして、船が目を覚ます時が来た

 

 

 

「起動電圧突破します!!」

さあ、目覚めの時だ。Wunderよ...。

 

「フライホイール始動!」

沖田艦長が高らかに声を上げる。

 

「了解! フライホイールロック解除! 回転開始します!」

 

 

Wunderの双胴式波動エンジンのフライホイールが回り始める。最初はゆっくり、でも力強く回り、あっという間に高速回転に達しエンジンが唸りを上げていく。

 

それはWunderの雄叫びのようにも聞こえた。

 

 

 

「「命が.......吹き込まれていく.......!」」

 

 

 

左舷機関室でハルナはそう呟いた。誰にも聞こえない程小さい声だったがそれは間違ってはいなかった。

 

 

『フライホイール回転数上昇! 5000! 6000! 7500! 9000! 12000!』

 

どんどん回転数が上がるフライホイール、思わずその場で見とれてしまう光景を見つめる機関士達。しかし彼らは計器を見なければならないのでコンソールが敷き詰められてるブースに詰め、波動エンジンの始動を見守る。

 

 

『来ました! フライホイール充填102%! 臨界突破!』

 

 

「始動、最終段階です!」

 

 

「了解! 島航海士!準備は?」

 

「こうなった以上覚悟は決めました。いつでもどうぞ!!」

決して「どうにでもなれ」という口調ではない。

覚悟が決まった目をしていた。

 

「アナライザー? 計算結果はどうだ?」

 

『ショックカノン18発一斉射デ、ドック正面ゲートを破壊スルタメニ射撃スルベキポイントハ.......確定シマシタ!! 前方スクリーンに表示シマス!』

 

アナライザーとMAGIシステムの計算も完了、計算結果に基づき、射撃するべきポイントが前方の映像に重ねる形で18箇所表示される。

 

 

「アナライザー、よくやった。」

沖田艦長が彼を褒める。

アナライザーが振り向き自身の5本指で器用にピースする。

 

 

『回転数36000!! オールグリーン!!』

右舷機関室の薮が両舷のエンジン状況をモニターで確認、点火可能の主旨を伝える。

 

「コンタクト...行けます!!」

徳川機関長も沖田艦長に点火可能と伝える。

 

 

「フライホイール接続まで、5、4、3、2、1!」

 

「接続っ!!」

徳川機関長が思いっきりレバーを押し込む。

 

「「点火!!」」『『点火っ!』』

沖田艦長と古代、ハルナとリクが同時に声を上げる。脅威のシンクロ率である。

 

 

双胴式波動エンジンが目覚めた。力強い唸りを上げて全長2500メートルの不死鳥に無限に近いエネルギーを与えてゆく。

 

そして、両舷第2船体の後部メインエンジンノズルに光が灯った。

 

慣性制御システムも緩やかに起動していく。

 

 

 

 

「主砲発射準備!!」

 

「了解! 主砲発射準備!」

古代が各砲塔制御室に配置用意を通達する。

「ショックカノン、エンジンよりエネルギー流入あり!」

南部がエネルギーの伝導状況の報告を行う。

 

「アナライザーとMAGIシステムの計算結果を各砲塔制御室に転送、目標割り振り完了!」

 

甲板上の第1から第4主砲、アレイアンテナ基部付近の第1、第2副砲が砲身を上下に動かしながら旋回。ひとつの砲塔で3つの目標を狙うために砲身がバラバラに動いていく。

 

「照準よし!!」

 

「撃ち方始め!」

 

「撃ちーかたー始めっ!」

古代の号令によってWunderの主砲と副砲、計18門の陽電子衝撃砲が青白い光を放ち、射撃すべきポイントに着弾した。

 

ドガァン!!

 

 

メインゲートが大爆発を起こし、破片がドック内部に飛び散る。爆煙も発生した。

 

 

 

「反動推進制御良好! 操舵システム問題なし! 行けます!」

島航海士が舵を強く握り、決意を露わにする。

 

「往くぞ! Wunder発進!!」

「了解! Wunder、発進します!!」

 

 

破片と爆煙が支配するドック内部、その空間を裂きながら全長2500メートルの不死鳥は、溢れんばかりの力を解き放ち、宙へと飛び立った。

 

 

 

 

《ガミラス艦side》

『正面、敵艦船ドックにて爆発発生! 陽電子を観測!』

 

『艦船ドック内部より高エネルギー反応確認!』

 

『まさか! 動体反応確認しろ!』

 

『動体反応1!これは、あの超大型艦です!!』

 

『ワープアウト反応確認!僚艦です』

赤い空間の歪みから緑色の艦が出現していく。

 

『デストリア級より通信! これより総攻撃に移るとの事です!』

 

『よし、全艦攻撃開始!』

 

 

 

 

 

 

《Wunder side》

 

「正面に敵艦8隻確認!戦艦2巡洋艦3駆逐艦クラス3!」

 

「いきなりかよ!」

南部が声を荒げる。いきなり実戦は無茶だと思ってるのだろう。

 

『大丈夫です。この船を舐めてもらっちゃ困りますよ』

右舷機関室から睦月が通信でそう応えた。

かなりの自身だ、

 

「古代、南部。ショックカノン、魚雷、対空兵装のテストをこの場で行う。全艦砲雷撃戦用意! 目標、敵艦隊!」

 

「了解!」

「艦首魚雷装填! 発射口開け!」

Wunder艦首に魚雷が装填されて、発射口が開かれる。

対空パルスレーザー砲塔も稼働を開始する。

 

 

「敵艦より魚雷発射を確認! 数20! 左右に分かれて挟撃するものと思われます!」

森がレーダーで確認した魚雷の詳細な動きと数を報告する。

「対空防御開始!」

南部の指示により、両舷の対空パルスレーザー砲塔が恐ろしい勢いで連射を始める。濃密な弾幕はもはや弾幕と言うより光の翼のようにも見える。

 

そんな弾幕を突破できるはずもなく、ガミラス艦の魚雷は呆気なく全弾迎撃された。Wunderの損害は0。

 

「艦首魚雷、撃てぇ!」

古代の号令によって艦首の魚雷が一斉に射撃された。雪風に搭載されていた物の正式版で威力は折り紙付きだ。

 

 

魚雷に気付いたガミラス艦は素早い動きで回避行動を取るが魚雷はその動きについて行く。獰猛なピラニアに食いつかれたガミラス艦4隻は一撃の下に宙の藻屑と化した。

残りの艦3隻はデストリア、ケルカピア、クリピテラが1隻ずつ。腕のいい砲撃手がいたのか、対空防御で撃ち落としたようだ。

 

そして高速機動でWunderに肉薄する。

 

しかし、それを見てWunderは黙っていない。

 

「第1から第3主砲、自動追尾開始!」

「MAGIシステムによる未来位置予測をリアルタイムでフィードバック!」

MAGIシステムには位置予測位なら容易いことである。

「主砲発射!薙ぎ払え!」

 

「撃ち方始め!」

Wunderの主砲から青白い光の束が発射された。しかし、今回は狙うというより『相手が来ると思われる位置でショックカノンを使って船を切る』といった感じである。

 

ハルナとリクが主砲を3秒間持続的に照射できるように設計して、さらにMAGIシステムの予測があるから出来るワザである。

 

そしてそれは成功した。MAGIシステムの位置予測の通りにガミラス艦は動き、そしてショックカノンの餌食となった。

 

宇宙に一瞬の恒星を3つ創り出し、船は消えていった。

 

 

「目標殲滅!」

 

「よっし!」

古代が小さくガッツポーズをする

 

「古代、南部」

沖田艦長が2人に声をかける。

「「はい?」」

 

「よくやった」

2人は素直に喜んだ。これからの大航海、何が待ち受けていてもこの船は乗り越えていけるだろう。

そういう確信があった。

 

「古代、ナイスだ」

島が親指をたてている。

「ああ!」

それに応えて古代も親指を立てる。

 

それを見て微笑を浮かべる森雪。

 

穏やかな笑顔な真田さん。

 

 

 

そして、機関室で笑顔なリクとハルナ。自分たちの作った船がついに飛び立ち、興奮しているが必死に隠そうとしている。

 

「やっと飛び立った...!」

 

「この船はどんな苦難も乗り越えていける..!」

 

そして3人で航海艦橋の窓から外を見ているマリとアスカ、赤木博士。

「なかなかダイナミックな船出じゃない」

「いやぁ~勇ましい不死鳥だね~気に入っちゃうにゃ」

「さて、ガミラスが黙ってなさそうね...。」

 

 

 

そして力を託し、船出を見送る地球。

「Wunderが往く...希望を乗せて奇跡を起こすために...」

「総員、Wunderに敬礼!」

 

極東管区司令室の全員がモニターに映るWunderに向かって敬礼をした。

極東のみならず、全世界の管区でも同じことが起こっていた。

 

地球の人々がWunderを見送る。彼らは祈りを送るよりも、奇跡という曖昧なものを信じた。

 

曖昧な力ではあるが、人が信じる力はテクノロジーをも超える。

 

どうやら昔からそう言われているみたいだ。

 

だから彼らは奇跡を信じて、一翼の『奇跡の名を冠す不死鳥』に希望を託した。

 

 

 

 

西暦2199年2月11日

宇宙戦艦Wunder進宙

イスカンダルに向けての航海を開始




Wonder発進!!!

やりました...やりたいことようやく1つ目出来ました...
この小説のOP(?)が欲しいと思ってたらめちゃくちゃ良いの出てきました。
投稿者の許可を得てここに掲載します。

曲名 Your hope
作詞作曲 Ucchii0 ボーカル Haruna
https://m.youtube.com/watch?v=35pGszktDLY

Wunderの挿絵もやっと完成しました
皆さん、お待たせしました。m(*_ _)m
かーなーり時間がかかってしまいました。すんません

今回使用したマイクロ波送電は、結構現実的に考えられている技術です。

宇宙で発電した電力をマイクロ波に変換、それを地上に送信して地上の受信局で電力に変換するって感じです。今回のはそれの逆バージョンです。

発進編はこれにて終了です。次の章まで時間がかかりそうなのでお待ちいただけると幸いです。
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(>人<;)

では主は資格試験の勉強に取り掛かります
第一種戦闘配置!目標、資格!


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AD2155✕✕✕✕国連航宙技研 極秘研究施設ガリラヤベース残留記録

サブ1本目です

火星で何が起こったのか…
それを知る話です。

後半への伏線も兼ねてますんで「そういやそんな話あったなぁ」位で覚えておいて欲しいです。

主のTwitterです
https://mobile.twitter.com/TJ2gQhbg3f4uar6


警告

Sクラス権限者以外の閲覧を固く禁ずる

違反した者は銃殺刑に処する

 

 

 

Eyes only

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

file1

215506✕✕

 

「回収した物体の素材分析の結果は?」

 

「破片の素材分析の結果、現在人類が開発したどの物質とも当てはまりません。恐ろしい強度です。それと、興味深いことが1つ。」

 

「興味深いこと?」

 

「回収した物体は生物でした。そのため、物体の組織構造を解析、ダメ元ですが遺伝子も解析してみました。その結果、遺伝子構成物質は随分と違いましたが人類に近い遺伝子が検出されました。組織の構造解析では密度が物凄いことになってますが通常の生物と同じです。」

 

 

「つまりあの物体は巨人ということか?全長40メートルの。」

「データではそうなります。」

 

「しかし、人類に近い遺伝子とは...近似率は?」

 

「99.99%、ほぼ人類です。」

 

「とは言われても、この鎧を纏った巨人は一体何で動いていたんだ?」

 

「と言いますと?」

 

「これだけ巨大だとエネルギーの補給と消費が釣り合わない。定期的に、冬眠のようなエネルギー節約期間があるなら話は別だが。」

 

「何かのエネルギー機関が内蔵されているという可能性は?」

 

「そこなんだよ。便宜上内蔵機関と言うが、巨人の胸部に謎の球体が発見された。原理はさっぱりだがここからエネルギーを得ていたと考えるのが妥当かもしれん。」

 

「無限のエネルギー.......旧約聖書の生命の実ですか?」

 

「あれは御伽噺だろ、でも、あながち間違ってはなさそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

file2

事故現場より回収された仮説論文

 

 

執筆者 Dr.katuragi

 

情報漏洩防止のための暗号化処理を確認。

一部抜粋、簡略化して開示

 

 

スーパーソレノイド機関

通称S²機関

 

高次元宇宙からエネルギーを引き出す事実上の永久機関。

S²機関はその半身をこの世界を置き、もう半身を高次元宇宙に置く。

いわば2つの世界のゲートとしての役割、安定用バルブとも言える。

 

しかしS²機関は極めて不安定で、2つの世界の安定のためには莫大なエネルギーを受け止める器と、制御するための障壁が技術的に必要と推測。

 

S²機関は高次元宇宙側に深く沈み込むことでより多くのエネルギーを取り出せると推測。こちら側に存在する半身が全て高次元宇宙に落ち込んだ場合、次元境界が不安定化。高次元宇宙空間がこちら側の空間で加速度的に展開、半径数百キロメートルに渡り、『こちら側の空間が高次元宇宙に侵食を受ける』。

 

 

 

 

 

 

file3

215508✕✕

 

「内蔵機関の解析結果は?」

 

「あの胸部の球体を境界として、向こう側に異空間の存在が確認できました。やはり、葛城博士の提唱したスーパーソレノイド理論で間違いないかと」

 

「まさか机上の空論が現実となるとはな」

 

「しかし、コレで現実に存在したと言うことになります。」

 

「これ以外の動力では説明がつかないからな。膨大なエネルギーに耐えられる器と制御用の障壁。内蔵機関からのエネルギーを元手にしてるならそれら2つも実現可能。結果、S²理論成立っと。」

 

「永久機関、ですが博士の理論だと、高次元空間に侵食される危険性もあると言われてますが...」

 

「何をどうしたらS²が向こう側に完全に落ちて侵食開始になるかが分かってない.......コレは調べちゃダメだな。」

 

 

 

 

 

 

「航宙技研から通信がありました。その、葛城博士が3週間後にここにやってくるそうです。」

 

「おいおい...。S²機関の提唱者が直々に来るのかよ。」

 

「どうやらその巨人に人間の遺伝子をダイブさせるつもりのようで....。」

 

「いや、それは不味いだろ...。技研の方は?許可したのか?」

 

「技研の許可は取れているようです。私たちに、葛城博士のサポートをするようにと上からの通達が来ています。」

 

「.......わかった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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最重要機密

2157年✕月✕✕日

ガリラヤベース消滅についての最終報告書

 

 

2155年9月13日、国際連合航宙技術研究局最重要極秘研究施設、通称『ガリラヤベース』の消滅を確認。

 

当時、施設内には研究員120名と客室研究員として葛城博士、その娘が在中。

 

事故現場より、当時の監視カメラのビデオ映像とスーパーソレノイド理論についての暗号化された仮説論文、観測機器残骸からサルベージされた、事故当時の観測データを回収。

 

 

事故当時、未確認の素粒子を複数種類1ダース近く観測、その激烈な重力振発生、空間の反転と共に高次元宇宙空間と通常空間の置換が発生。加速度的に置換現象が拡大していき、半径数百キロメートルまでの拡大後、赤い十字架と共に衝撃波が発生。火星居住地の約30%を破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生存者1名。救命カプセルユニット内で生存

 

細胞内のテロメアに異常を確認。

 




サブ1本目です

ガリラヤはイエス・キリストゆかりの地です。

しばらくは上がらないかと
試験勉強してるので終わったら暇になるんで執筆再開します。
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m(_ _)m

予定では、次の話で重力推進、ワープ航法、波動砲を発射します。
2門の波動砲を派手に撃ってみます。


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背負う覚悟と外洋航海
木星圏突入


ワープから波動砲まで全部詰め込みたかった。
ですが文章量がえげつないことになりそうだったので分けます…。

今回はワープ回です。


「Wunder、月軌道を抜けます」

初戦闘を終えたWunderは航海艦橋に指揮系統を移し、母なる星地球に別れを告げようとしていた。

 

「俺たちが、本当に地球を救えるのだろうか」

古代がそう呟く。

「自信ないのか?戦術長?」

島がそう答える。彼は少し軽い性格だからある一種のムードメーカーとしての側面もある。

 

「そんなつもりで言った訳じゃない」

古代が真面目に答える。

 

「1時の方向に艦影確認。キリシマです。」

 

中空スクリーンに表示されたキリシマはメ号作戦から帰還したままの痛々しい姿だったが、国連宇宙軍最後の生き残りとしてWunderを見送りに来たのだ。

 

「キリシマより、発光信号を確認。『貴艦の健闘と航海の無事を祈る』です」

相原が内容を読み上げる。

 

「キリシマに返信。『必ず生きて戻る』」

 

「了解しました。」

 

 

たった1隻の友軍艦に見送られながら、艦は宙を裂きながら進むのであった。

 

「艦橋要員は1400に中央作戦室に集まれ。ワープテスト及び重力推進等の特殊装備についての説明を行う。」

 

「了解!」

 

 

 

 

Wunder艦内は広い。第2船体だけでも900メートル以上ある。その為、艦内の移動は歩きだけでは無理がある。歩き疲れて艦内で遭難するかもしれない。

その為、動く歩道や『トラムリフト』という名称の10人乗りゴンドラも運転している。電力を食うが双発同調式波動エンジンの恩恵を存分に受けていることで全く持って問題なし。

 

艦内は、戦闘用や情報処理系の部屋、医務室、弾薬庫、艦内工場、食堂等の『戦艦にあるとしっくり来る部屋』の他にも、フィットネスジムや映画鑑賞室、書庫に戦闘シミュレータ室、挙句の果てには温泉『奇跡の湯』まである。

そして、ハルナの個人的な趣味とBußeの遺産として小さいけど植物工場がある。

もはや小ぶりなスペースコロニーだ。こうしたのは我らがチート設計主任コンビだ。

 

 

そんな小ぶりなコロニー戦艦Wunderの食堂は基本的にはオムシスのお陰でなんでも作れる。

3交代制のシフトで回るWunder乗組員の癒しの1つだ。

 

「凄いよねーオムシスって、色んなご飯作れるなんてね」

 

「ハンバーグ、フランクフルト、フライドチキン…!」

太田さんがメニューを見て目を輝かせている。

「地球の配給食とは大違いだね」

正直言って有機物さえあれば基本的に肉以外は食料を生産できる。極東管区でも同じものを使用しているが、乗組員の士気を高めるためにいいメニューが考案されている。

肉類は人造たんぱく質で生産できる。味も触感も本物に近い。

 

「あれ?真田副長はそれだけでいいんですか?」

太田さんが真田さんの配膳プレートを見て驚いた。そこに乗っていたのはカロリーメイトが2本だけだった。それだけではもたないのでは?

 

「無駄なカロリー摂取は愚かな行いだからね」

そう言ってすました顔で食事(?)をする真田さん。太田さんの配膳プレートには山盛りの肉類が乗っている。

 

「そういえば真田副長、オムシスってどうやって食事を作っているんですか?有機物から作っていることは確かなんですか。」

たしかにそうだ。太田さんの横にいた相原が素朴な疑問を覗かせる。

 

「知らない方が幸せだよ?」

「?」

 

2人は真実を知ることなく席に着き食事を始めた。

 

「知ったらビックリしますよね、確かに知らない方が幸せ」

「ご飯製造マシーンの裏側は、僕たちと主計科長さんの秘密ですからね~」

 

ハルナとリク、ユリーシャも昼食を取りに来ていた。ハルナとユリーシャはパンケーキ、リクは蕎麦を頼んでいた。なんで蕎麦?

「おや、君たちも来ていたのか」

「お腹すきましたから。2時から説明会があるので気合い入れたいので腹ごしらえをと」

「というか、蕎麦まであるんですね、主計科凄い」

「地球のスイーツだ!」

ユリーシャは目を輝かせている。

 

「それじゃあ、いっただっきまーす!」

3人そろって手を合わせて食べ始める。

すっかり日本に染まったユリーシャなのであった。

 

 

 

 

「にゃー、ああ懐かしき日本食!」

マリが配膳プレートにのった白米とみそ汁、だし巻き卵に漬物を眺めて懐かしんでいる。

「そういやアンタユーロ暮らしが長かったわね。でも驚きだわ。まさかポトフまであるなんて、おまけに私の故郷の香りに近いわね。」

 

本来このメニューはない。ハルナと、アスカを気に入ったユリーシャが「異文化交流という名目で」主計科長に頼んだから実現したのだ。

 

「とりあえず食べよっか」

「にゃ!」

「「いただきます!」」

 

 

彼らは存分に英気を養うのであった。

 

 

 

 

 

Wunder艦内時間1400 中央作戦室

「諸君、我々は往復で336000光年の行程を1年以内に達成して地球に帰還しなければならない。そのため、本航海では光の速度を超える『超光速ワープ航法』が必要となる。」

沖田艦長がそう切り出す。地球からイスカンダルまでで168000光年。どれだけ加速しても相対性理論に基づいて光速を超えることはできない。そこで『空間を飛び越える』のだ

 

「では、ワープ航法について説明させて頂きます。ワープとは、ワームホールを人為的に発生させて、あるポイントから別のポイントまで空間を飛び越える事です。ですが、タイミングを間違えると、時空連続体に深刻な歪みを生じ宇宙そのものを相転移させてしまう危険性があります。そうならなかったとしても、Wunderは通常空間と異次元の狭間で挟まってしまうことになります。」

 

中央作戦室のほとんどのメンバーが「??」となった。

一応床面のスクリーンにも真田さんがタブレット端末から転送した概要図は映っているがなかなか専門的な図式となっているのでますます??となる。

 

 

「えーっと簡単に説明しますと…真田さんタブレット貸して下さい」

ここでリクが動いた。タブレット端末を操作して図式の投影を解除して、そしてキャンパスモードを起動させた。

そしてWunderのミニチュアと地球、火星の絵を投影した。

 

「えーっと…例として、今私たちは地球から火星まで最短で行きたいと考えてます。その場合、どうやって行くのが最短だと思いますか?」

 

「そんなの…地球から火星まで真っ直ぐ行くしかないじゃないですか」

南部がスパッと言い切る。

「そうですね。ですがWunderはワープ出来ます。そこで…」

 

リクが2つの輪を描き込み、地球側の輪をA、火星側の輪をBとした。

 

「先程副長が仰っていたワームホールと言う近道を作ります。このAの穴に入ったら1秒も掛からずにBから出られます。ワープっていうのはだいたいこんな仕組みです」

 

誰でもわかる親切な説明だった。

 

「成程、儂でもよく分かる説明じゃった。ありがとう、睦月くん」

1番「なんのこっちゃ」って顔をしていた徳川機関長もスッキリした顔をしていた。

要は即席で超巨大どこでもドアを作るのだ。

 

 

 

「次に重力推進についての説明を行います。本艦は火星で発見された未確認骨格を中央構造物の一部として組み込んでいます。その骨格に大電流を導通させると重力子、斥力子を発生させることができます。その素粒子を使用することで、反動推進に頼らずに進むことが出来ます。具体的には、発生した重力子を艦の前方に量子跳躍…つまりワープさせて、計算された位置に塊にして配置。重力子は名称の通り重力を持っているので物を引き付けます、たとえこれほど大きな艦でも。そして艦の後方には斥力子を塊にして配置します。斥力子には物を弾く力があるので艦を前方に押し出します。重力子と斥力子の塊は自然に崩壊するのでこれを何度も繰り返すことで進んでいきます。」

 

長い説明となったが、皆「なるほど…磁石みたいな感じだね」と理解したようだ

 

「それって小回りが効いたりしますか?」

島が質問をした。

 

「もちろん、重力子と斥力子の配置を細かくすれば機敏さと小回りを両立させたり、反動推進と力を合わせれば船を1秒くらいで垂直に立たせたりもできるよ。2500メートルの船に絶対似合わない動きもバッチリ可能だ。」

 

「なるほど、使う時もあるかもしれませんね。」

 

 

 

 

「最後に説明しないといけない物がある。新見くん。」

 

「情報長の新見です。我々は波動エンジンの莫大なエネルギーを利用した兵器を開発し、Wunderの第2船体艦首に搭載することに成功しました。」

 

「兵器ですか?」

 

「次元波動爆縮放射機です」

 

「波動砲か…。」

 

「その通りです。波動エンジン内部で展開するはずの余剰次元を射線上で展開させ、その時に発生したマイクロブラックホールのホーキング輻射によって射線上の物体を消滅させます。」

 

「つまり、この船自体が大砲になっているっ事ですか?」

 

「当たらずとも遠からずね。国際波動砲使用制限条約によって、対艦、対惑星への使用が禁じられています。あくまで『ショックカノンで壊せないものに対しての対物兵器』という立ち位置にあります。発射には艦長と副長、そして戦術長の承認が必要となります。」

古代が顔を引き締めた。自分が破壊兵器の発射承認役の1人なのだ。

 

「波動砲は地球で言うところの核兵器だ。シミュレーションによると、波動砲1門のみの発射でオーストラリア大陸サイズの物体を破壊できるとの結果が出ている。いずれ試射を行わなければならないが、発射には細心の注意が必要だ」

沖田艦長が極めて重要な事実を口にする。星をも壊しかねない超兵器、そんなものが2門付いている。

 

人類は強すぎる力を持ってしまった。

波動砲を生み出したものとして、波動砲を運用するものとして、力の咆哮の方向を考えなければならない。

 

彼らはそう感じたのであった。

 

 

「ワープテストは明朝艦内時間0900に行う。万一に備え、総員船外服を着用せよ。解散」

 

 

 

 

 

「ふふっ、2人で宇宙遊泳だね」

「あんまりはしゃがないでね?」

リクは暇な時間ができたので、艦の外に出て故郷を眺めていた。そこにユリーシャがついて来てしまったのだ。Wunderはちょうど火星軌道を巡航中。目の前に赤い星がはっきり見えるほどの距離だ。

ちなみにおかしな事に、速度がなかなか上がらないのだ。

 

 

 

「リクは地球じゃなくてあの星の出身なのね。どの辺に住んでたの?」

 

「あの辺、クルジスっていう大きめの街に住んでたよ。でも、あの災害でめちゃめちゃになってしまった。火星の上ら辺見て」

 

 

火星の北極とも呼ぶべき場所は、真っ赤な同心円が大きく拡がっていた。

「あれ?そこだけ真っ赤だけど、何があったの?」

 

「分からない。国連は、亜光速で隕石が衝突したとか言ってるけど、とてもそんなんじゃない。あの時は地獄だった。」

 

リクは遠い目で故郷を眺めていたが、ふと誰かがいることに気がついた。

 

ユリーシャと同じようにオレンジの差し色が入ったら船外服、硬化テクタイトのヘルメット越しに白い髪の女性が見えた。

 

 

「睦月1尉、お疲れ様です」

彼女、山本玲がリクと敬礼をした。

「お疲れ様、出来れば階級とか気にせず普通に呼んで欲しいな」

「初めまして、ユリーシャです」

ユリーシャもヘルメット越しに笑顔で応えた。

マイク越しに喋ってるので互いの声は内部スピーカーで聞こえてる。

「じゃあ、睦月…さん?」

「うん?どうしたの?」

 

「睦月さんは火星出身なんですか?」

「うん、僕とハルナは火星出身のマーズノイドだよ。その証拠として、君と同じように虹彩が赤っぽいでしょ」

 

 

「あ、ホントですね。あれ、分かっちゃいました?」

「結構特徴的だからね」

「でもキレイな目だよね?2人とも?」

 

 

 

「山本さん、あの同心円の下には何があると思う?」

 

「あれって、グラウンド・ゼロですよね。さすがに隕石衝突でここまでは起こらないと思いますよ?」

 

「やっぱりね。当時、僕は赤い十字架がそびえ立つのを見た。」

 

「え、あの災害の生き残りなんですか?!」

「うん」

「でもあれが起こったのって55年のはずでは…」

 

「僕はあの災害で昏睡に陥り、40年後に目を覚ました。当時のことはよく覚えている。出来れば忘れておきたいけどね」

 

 

山本はこれ以上聞くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

Wunder艦内時間0830

 

『現在の艦内時間0830、ワープテスト30分前です。総員船外服を着用、各部署にて待機を徹底。ワープに備えて下さい』

MAGIシステムの人工音声が艦内に鳴り響く。慌ただしく動き回る乗組員と、機関室にて真剣な顔になる機関士たち。

 

Wunderの艦橋要員は全員集合、今回は補助席を使ってハルナとリクも戦闘艦橋内で待機している。

 

 

「補助席が付けれて良かったね」

「備えあれば憂いなし、昔からよく言うじゃん」

2人とも気を引き締めているがそこまでガチガチに緊張してない。ちょっとリラックスしてる。

 

 

 

 

 

『ワープテストまで残り5分。総員、ワープに備えよ。』

 

「ワープ先座標確認、天王星軌道。ワープ先に視認可能な障害物はなし。重力場の影響なし。誤差修正+0.8。座標定位完了しました」

太田さんがコンソールを操作して、全周スクリーンにワープ先座標の情報が表示された。

 

ワープ先は天王星軌道付近。

 

木星と土星を一気に飛び越えるのだ。

 

 

 

 

「波動エンジン出力上げろ。ワープ準備!」

 

「了解、エンジン出力40から99まで上げます」

徳川機関長の操作で両舷の波動エンジンが唸りをあげる。

 

「速度上昇!現在、22 Snot!」

速度はどんどん上がっていく。それと同時にエンジンノズルの光がオレンジから水色に変わり、爆発的な噴射になる。

「現在、33Snot」

「前方にワームホールの発生を確認!推定直径2500メートル!突入可能です!」

「時空連続体の狭窄を確認!狭窄ポイントまで12秒」

 

「カウント、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」

 

「ワープします!」

 

カウント通りに島が力いっぱい操縦桿を押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

その瞬間、全てが止まった

 

いや、止まったかのように見えただけだ。

ワープ所要時間は1ナノ秒、人間には感知できない程の短時間で異空間を経由して空間を飛び越える。

従って、艦外の景色なんて見れない。Wunderの戦闘艦橋内のスクリーンにもあっという間すぎて絶対映らない。

 

 

 

 

しかし、MAGIシステムはその景色をハッキリと捉え、そのメモリーに書き残していた。

 

 

 

 

ワームホールから飛び出したWunderは薄い氷を全身に纏っていた。それが勢いよく破砕されていくが、艦橋はその異常に直ぐに気づいた。

 

「木星?!なんでだ?!」

 

「指定座標は確か天王星宙域に設定したのに何故?!」

艦橋は混乱に満ちた。行先に着かなかったから当然である。

 

「ワープ航路上に障害物を検知、回避のためにワープアウト地点が変更された可能性があります。」

 

「艦長!機関出力低下!木星重力圏に捕まってます!」

 

「くっ!引っ張られる!舵が効きません!!」

 

操縦桿が重い…。木星の重力は地球の2.3倍、ワープアウト地点がまさに木星の重力圏内、オマケにエンジントラブルときた

 

 

「艦長!睦月1尉意見具申!補助エンジンのエネルギーをアンノウンドライブに接続、重力推進システムに切り替えるべきと考えます。重力操作である程度木星の重力を相殺できるかもしれません」

どうやらリクはアンノウンドライブが発生させる重力子と斥力子で、艦の姿勢を整えるつもりだ

 

そして沖田艦長もその意見を汲み取り実行に移した。

「徳川くん!補助エンジンとアンノウンドライブを接続!重力推進モードに移行だ。島航海士、操縦系を立体式操舵に移行!」

 

「了解!アンノウンドライブに動力伝達!重力子、斥力子生成を確認!」

 

「時空間制御を開始!立体式操舵に移行します!」

 

『重力子及ビ斥力子ノ適切ナ配置位置、及ビ一定速度デ降下スルタメノ最適ナ重力子ノ個数、量子跳躍タイミング、配置間隔ノ計算完了!』

 

「重力推進開始!!」

沖田艦長の号令で補助エンジンノズルからの推進から重力推進に切り替わり、アンノウンドライブが青白く発光、Wunderの降下速度が徐々に低下してきた。しかし、引っ張られるのは変わらない。所詮一気に落ちるよりはマシという事だろう。

 

「降下速度低下!」

 

『こちら左舷機関室!艦長、エンジントラブルの原因が分かりました!』

『メインエンジンの冷却システムがオーバーヒートを起こしたようです!ですが冷却システム自体に損傷はありません。一定時間の冷却でエンジンは復活します。これより緊急冷却を開始します!』

 

 

「うむ!直ちに作業にかかってくれ。」

ひとまずエンジンに深刻な損傷はない。それだけでも安心だ。しかし、その安心を塗り潰すように驚愕が支配する。

「木星内部に侵入、スクリーンを赤外線スキャンに切り替えます」

木星内部では視界が悪い。新見さんがWunder各部に設置されている観測機器が赤外線モードに切り替わり、スクリーンの表示も赤外線モードに切り替わる。赤外線の強さと物体との距離で色が判別されている。

 

 

「木星内部に巨大物の反応あり!赤外線映像で表示します!」

 

 

 

 

 

そこに映ったのは、巨大な大陸だった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「全力制動開始!」

 

「了解!!」

Wunderの上部100メートルの位置に重力子を跳躍させ、木星の重力とギリギリ釣り合うように艦を固定した。

 

艦全体に衝撃が加わったが、何とか停止できた。

 

「島くんナイス!初めてにしては器用にできてたと思うよ〜」

「ありがとうございます、暁さんと睦月さんがインタフェースを分かりやすく作成してくださったお陰ですよ。初めてでも何とか出来ました。」

「あら、嬉しいね」

 

現在Wunderは謎の浮遊大陸上空200メートルで静止中。重力子で艦を釣り上げてる感じだ。普通なら木星の重力と重力子の重力で艦は引き裂かれてしまうが、これでもかという具合に基礎構造は頑丈にしておいたのでこれくらいなんて事ないのだ。追加効果で、島の操縦技術の高さで安定性も抜群だ。

 

 

 

「解析結果出ました。この浮遊大陸は、オーストラリア大陸と同程度のサイズとなっています。また、大陸表面には植物を確認してます。」

 

「艦長、甲板部より人員を選出して大陸表面の植物の採集を行ってもよろしいでしょうか?」

未知の植物に興味津々の真田さんは直ぐに沖田艦長に許可を得ようとした。

 

「任せる。この大陸は初めからここにあるものでは無いはずだ。恐らくガミラスが持ち込んだものじゃないかと儂は考えている。」

 

「そんな、大陸を丸ごと持ってこれるのですか?!」

太田さんがとても信じられんと言いたげな顔で驚いた。大陸丸ごと持ち込むなんて地球の視点から考えれば神に近い所業だが、ガミラスの科学力が全部分かってない以上『有り得る』と考えるしかないのだ。

 

「あくまで仮定だ。古代、航空隊より偵察を出せ。偵察人員の選定は任せる。」

 

「了解。」

謎の大陸で停泊(?)中のWunderは自分たちの武器の1つであるヒューマンパワーを存分にふるい始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

『何?テロン艦が惑星ズピストの浮遊大陸に?』

 

『はい、浮遊大陸基地のラーレタからの報告です』

 

『もうそんな位置にいるのか、奴はまだ内惑星系を進んでいるはずだが…』

 

『その事なんですが、惑星マルス軌道上で…「ゲシュタムジャンプ」の痕跡を観測しました。恐らく…』

 

『奴らがジャンプしたというのか?!』

 

『そうでもなければ説明がつきません…』

 

『浮遊大陸の艦艇は?』

『実験用の小規模な基地ですので4隻ほどです。』

 

 

『ラーレタに連絡。直ちに基地から撤退、残存艦艇のうち3隻を陽動に使っても構わない。』

 

『ザーベルク!』

 

(見せてもらおうか、全ての実力を)

 

 

 

 

 

 

 

「ちょうど良かったわ、ずっと艦内だと息が詰まりそうだから。外を見たかったのよ。戦術長には感謝ね」

赤いパイロットスーツを見に纏い、赤いヘルメットを抱えたアスカが、第3格納庫に入りながらマリと通話していた。

 

 

(航空隊、式波特務中尉に100式空間偵察機による偵察任務を命ずる。回収予定時刻は1000、ルート通りにまずは飛んでみて欲しい。)

(100式は他の艦載機よりも取り回しがしやすい。ここに乗ったら様々な機体に乗るはずだからその腕前を見せて欲しい)

 

 

『そういう点ではコッチもお外だよ〜。赤木博士のお使いで植物採取だけど』

「そういえば赤木博士は?航海艦橋に戻してからMAGI使って何かしてるみたいだけど」

『い・い・こ・と♪ワープ中に面白いものが見れたみたいなの』

 

「へぇ〜、ところで大陸には何生えてるの?」

 

『ん〜?なーんかワカメみたいだけどタコみたいな吸盤が付いてる草とか、ヤバい色してる草や木とか』

 

「ヤバっ、ホントに植物?」

 

『信じられんよね〜。でも実物があるんだから』

 

「受け入れるしかなさそうね…。そろそろ搭乗だから切るね。」

 

『良いお空の旅を〜姫〜。』

 

アスカが乗るのは100式空間偵察機。底面にスキー板の様なランディングギアが付いた偵察機だ。基本どこでも着陸できるようになっている。

 

 

「式波特務中尉、コチラです!」

「OK、この機体ね。操縦系はだいたい私の機体と一緒ね。システムオールグリーン!行けるわ!」

 

「ハッチ解放!電磁アーム稼働します」

支持アームが100式の機体胴体に触れると同時に電磁アームで固定、格納庫のハッチが開き、アームの稼働によって100式が艦外に出される。

 

 

「発艦どうぞ!」

 

 

「100式、式波出ます!」

(さぁ、ウォーミングアップよ)

掛け声と同時に電磁アームが外れて100式が垂直落下、エンジンをふかして飛び立った。

 

 

 

 

 

「100式、偵察行動を開始しました。回収予定時刻、1000です。」

 

「うむ。機関室、冷却の方はどうだ。」

 

「順調です。後20分で再チェックを含めた全ての行程が完了します」

エンジンも復活が近そうだ。

「…なんか頭がふらふらする…」

航海艦橋にいたリクが呟いた。ワープしてから少しふらつくのだ。

 

「そういえばなんか気分が…うおっ!」

バタンっ!

 

太田さんも倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

リクは太田さんと一緒に医務室に連れてかれた。

 

「う~ん、ワープ酔いじゃなコレは。」

聞いたことも無い症状だ。まあ、ワープそのものが人類史上初だったから仕方ないが。

 

「症状としては二日酔いみたいな感じじゃ。この摩訶不思議大陸に来てから20人くらい同じ症状が来とるぞ。とりあえず2人とも、気付けに何か口当たりのいいものを飲んで食べて休むことじゃ!あとは慣れだ。」

 

佐渡先生が言うには慣れるしかないとの事。とりあえず吐き気止めは貰った。

 

「ありがとうございます…」

 

 

 

 

 

「それにしてもほんとに不思議な大陸ね…昔の地球みたいに森はあるけど見たことない植物だし」

アスカは100式で空を飛び回っていた。予め戦術長から受け取っていた飛行ルートをナビに入れて飛んでいたが、見えてくるの物は異形の植物だけ。そろそろ飽きてきた。

 

 

「ん?レーダーに人工物の反応?」

レーダーに映ったのは構造物、この大陸を管理するための基地かもしれない。

 

「Wunder、こちら100式、レーダーに人工物らしき反応を確認しました。これより確認に向かいます。」

 

進路を変え、その反応に向かって進み始めた。

 

 

 

 

 

『真田副長、異星植物ノ解析結果ガ出マシタ。』

アナライザーが、採集した植物のDNA解析結果を報告する。

 

『DNA解析ノ結果、地球表面ニ繁殖シタ敵性植物トノDNA一致率90%デス。シカシ、地球上ノ敵性植物トノ決定的ナ違イガアリマス。』

 

「決定的な違い?」

 

『コノ浮遊大陸ニ生息スル異星植物ハ、ソノ生命活動に放射性アイソトープ及ビ放射線ヲ必要トシマセン。』

 

「つまりこの大陸は…地球をガミラスフォーミングした後に、地球表面にガミラスの植物を植えるための実験ということか。地球表面の敵性植物と放射線は、私たちを根絶やしにするための殺虫剤か」

 

『イヤナ物デスガ、ソノ解釈デ合ッテイルト思ワレマス。』

 

 

 

 

 

 

 

「え、ホントにあった…。100式からWunderへ。敵基地の管制塔らしき建造物を確認!位置情報を送信します!」

 

『了解、まもなく回収時刻です。良い気分転換になりましたか?』

 

「はい、何だかスッキリしました。戦術長に『Danke schon!』とお伝えください」

 

『ダンケ…?』

「あ、今のはドイツ語です。ありがとうございますって意味です。」

 

『了解しました。通信終了します。』

 

 

 

さて、戻ろ。なんか起こりそうだし

 

 

 

浮遊大陸の基地、不穏な風を感じるアスカだった。

 

 

 

『Wunderから100式に緊急通信。敵基地より艦艇の発艦を確認、数4!』

 

「え!急がなきゃ!」

 

その風は見事に的中、大急ぎで空を駆けるアスカと100式であった。




試験勉強が…!終わらない!

執筆してたらべんきょが進みませんww
皆さん、テスト勉強する時は執筆活動は控えましょうww

次の回で波動砲をぶっぱなします。


7月2日誤字修正


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破壊の咆哮とメギドの火

波動砲、発射!

禁断の力を思い知ったWonderは今後どう進むのか…。
波動砲生みの親であるハルナ&リク、そして真田さん…少し辛くなりますね。

古代くん、1人で背負わないで…。


「敵艦の数は?」

 

「4隻ですがそのうち1隻が浮遊大陸より離脱していきます」

森船務長がレーダーで敵艦の数を把握、艦長に報告する。

『警告!敵艦の陽電子カノン砲塔の旋回を確認。第一種戦闘配置の発令を推奨します。』

MAGIシステムが戦闘配置を推奨する。そんなこと沖田艦長も分かっている。

 

「何故1隻だけ大陸から離脱していくのだ?僚艦を囮にするとは…無人艦なら有り得るな。こちらに手の内を明かさせるつもりか。」

 

「沖田艦長、ガミラスはこちらのデータを収集するつもりですよ」

「敵は用心深いですね」

ハルナとリクも考えてる事は同じようだ。

 

 

ドガァン!

 

敵艦の陽電子ビームが左舷に着弾した。

「どうした?!」

 

「左舷第38装甲板に被弾!」

「ダメージコントロール、隔壁閉鎖します!」

「負傷者は?!」

「着弾時、第38区画は無人でした。負傷者ゼロです。」

 

(何がなんでも手札を使わせたいようだな…)

 

「総員第一種戦闘配置、戦闘艦橋に指揮系統を移行。現在Wunderは敵艦の攻撃を受けている。VLSに特殊誘導ミサイル装填、三式弾準備。ショックカノンはエンジン修理完了まで使用不能だ。実弾兵装で凌ぎきる!」

「第3格納庫!100式をいつでも格納できるように準備だ!」

 

「了解、機関室!補助エンジンをいつでも全開に出来るようにしておけ!」

徳川機関長が機関室に向かって通信越しに指示をする。波動エンジン修理完了まであと5分。最悪のタイミングで敵が襲来したが、Wunderにはエンジンに頼らない手札がある。手札は晒したくないがわがままは言っていられないし、そのわがままを敵が「ハイそうですか」と聞いてくれるわけが無い。

 

『100式からWunderへ!こちら式波です!現在急速帰投中!着艦するので第3格納庫の付近の重力を通常に戻してください!』

 

「了解しました!回収準備は完了してます、いつでもどうぞ!」

相原が「いつでも来い!」という趣旨でアスカに着艦許可を出す。沖田艦長が回収準備を急がせたのが功を奏した。

 

「Danke schon!」

 


 

 

 

 

100式のエンジンが唸る。安全速度ギリギリで飛ばして母艦に戻るアスカは、危ない状況の筈だが少し笑みを浮かべていた。

 

(Wunderの人達、手際がいい…きっと沖田艦長の指示ね。)

 

そんなことを考えているとWunderが見えてきた。

 

(普通に幅寄せしてたら間に合わない…ならば…!)

 

「榎本甲板長!!回収用アームを格納庫の外に出してください!幅寄せ無しで行きます!」

『??わかった!しくじるなよ!』

榎本さんはアスカが何をしようとしてるのかを理解したようだ。正気の沙汰ではないが。

「私なら…!」

 

 

 

 

 

アスカは、自分が17歳で飛び級して戦闘機部隊に居ることを誇りに思っていた。まだ地球が赤茶げた大地になる前、陣形を組んで青空を飛ぶ戦闘機に憧れを抱いた。自分が部隊に入った頃には地球は遊星爆弾で荒廃してしまったが、青空の元で空を駆ける事を夢に見ている。

 

 

確かな夢を持って努力する天才。それが彼女だ。

 

 

そしてアスカがこの船に乗ったわけ、それは地球を元に戻すこと、青空を取り戻すことだった。

 

 

 

 

 

「急速ターン!!」

 

アスカは操縦桿を思い切り右に倒し、推力は左だけ全開にした。その結果、推力バランスの偏重と操縦技術で右に勢いよくターン…いやドリフトして、吸い込まれるようにして第3格納庫の手前で停止した。

 

「よぉーし!アーム接合、格納しろ!」

「「はいぃ!」」

艦載機運用担当の岩田、遠山の操作でアームで100式が格納庫内に格納された。

 

 

「100式、格納完了!」

 

「よし!重力推進開始!Wunder発進!」

エンジン完全復活もままならないが、Wunderは敵艦の迎撃に向かった。

 

敵艦から陽電子ビームが何発も発射されるが、巨艦でありながら重力の力で機敏に動けるWunderからしてみると「軽く避けるくらい」ですむ。

 

そして敵艦陽電子砲塔の射程外、つまり敵艦の真上を取り、バレルロールで背面跳びをする。

 

「左舷甲板、VLS1番発射!」

 

「撃てぇ!」

南部の掛け声で甲板上のVLSが特殊誘導ミサイルを6発放った。

 

この特殊誘導ミサイルは、Wunder第2船体のアレイアンテナで観測した敵艦を自動ロックオン、ミサイル自体をMAGIシステムがコントロールすることで確実に敵を葬る、もしくはこちらの思うように敵艦を誘導する。

 

 

つまりMAGIシステム操縦の鬼畜誘導ミサイルである。

(処理能力の限界があるので一度に使えるのは24発まで)

 

「さぁ、逃げ切れないぞ?」

リクが影のある笑みを浮かべた。

 

その獰猛なピラニアはMAGIシステムの導きによって4発命中。敵戦艦と巡洋艦が爆散した。残り2本は、敵駆逐艦が回避行動を取ったのでパターンBに移行、敵艦を三式の射程に追い込む。

 

 

 

 

「敵艦、三式弾射程内に入りました!」

 

「三式弾、撃てぇ!」

古代の号令により第1主砲が轟音と共に火を噴いた。それはビームの光ではなく、実弾を発射する時の物である。

 

 

三式融合弾、三式弾と呼ばれるWunderの実弾兵器は元々Bußeの主砲塔用の砲弾として開発された物だ。高圧増幅光線ではガミラスにダメージを与えられないことをよく理解した国連宇宙軍の回答の1つだ。

 

ゴゴゴォンっ!!

 

その砲弾が駆逐艦の側面に勢い良く突き刺さる。その直後にミサイルが、敵艦の前後から挟み込む形で命中。三式とミサイルが同時に爆発することで敵艦は跡形もなくなった。

 

 

Wunderの隠し手札、その一部は、MAGIシステム誘導のミサイルと困った時の実体弾射撃であった。

 

 

「敵艦殲滅!」

またしても兵装テストの的となってしまったガミラス艦を尻目に、浮遊大陸基地から離脱した1隻の船がワープしていく。

 

「波動エンジン冷却完了!機関再始動します!」

ちょうどエンジンも復活して、メインエンジンノズルに再び火が灯る。

 

「古代、この場で波動砲のテストを行う。」

 

「ここでですか?!」

 

「射程内に艦艇はない。射線が木星を掠めないように上方修正を行う。目標、前方の浮遊大陸。」

 

 

 

「…了解!波動砲発射シークエンスに入ります!」

 

 

Wunder最強の手札を使用することに艦橋全体に緊張が走る。ハルナとリクにも「波動砲を創った者として」緊張が走る。

Wunderは重力推進を解除して、反動推進で大陸外縁部まで船を進めた。

そして180度回頭、艦首を大陸へと向けた。

 

「古代くん。目標は1点だ、波動砲を収束できるかどうかやってみるからそっちは準備を進めて。アナライザー、手伝って!」

リクには何かしらの策があるようだ。

『了解デス!』

 

「艦内の電源を再起動に備え、非常用蓄電池に切り替えます」

 

「徳川機関長!今補助エンジンを全力で回せますか?」

「ああ、補助エンジンは非常時に独立して回せるから波動砲発射時でもフルで回せるぞ」

「お願いします!」

「全く君の設計は…『こんなこともあろうかと主義』の人間かい?」

「そんな感じです。」

 

艦内の照明、動く歩道が停止。トラムリフトは最寄り駅に停止した。

 

 

 

そして、波動砲口の絞り羽が開放され、古代の座席にあるコンソールから拳銃型の波動砲用コントローラーがせり上がってきた。

 

「島、操艦を古代に渡せ」

 

「了解、操艦を古代戦術長に回します」

島が操縦桿を手放した。それと同時に古代が波動砲用コントローラーを握った。これで古代に操艦権が移譲された。

 

「森、大陸の熱源は?」

「大陸中心部の盆地に集中しています。」

森船務長が観測機器の観測データから熱の分布を確認する。

 

「うむ、座標を戦術長に送れ。古代!」

 

「了解、艦首を大陸中心部に向けます」

波動砲用コントローラーを僅かに左にずらす。操艦権は古代にあり、操艦はそのコントローラーで出来る。艦首がやや左を向き、艦首が完全に中心部を向いた。

 

「波動砲への回路を開け」

 

「了解、波動砲への回路開きます。非常弁全閉鎖、強制注入器作動。」

徳川機関長の操作で波動エンジンから波動砲へとエネルギーを伝える回路が開き、波動砲の突入ボルト…いわゆる撃鉄にあたる部分が起動する。

 

「同時認証準備!」

ここで波動砲発射承認の認証が必要になる。沖田艦長、真田副長、そして古代戦術長の同時指紋認証で安全装置が解除される。兵器にしては発射までにかなり手間を取るが、それだけ重みのある兵器であることを認識させたい…引き金をたった1人に引かせたくないリクの思いから生まれたシステムだった。

「認証します!」

3人のコンソールには認証用パネルが設置されている。そこに手を置くことで認証が完了する。

 

 

コレがなければ最終安全装置は外すことが出来ない。

 

 

『3名の生体認証を確認。波動砲最終安全装置を解除します。』

 

 

MAGIシステムにより、最終安全装置が解除された。

「ターゲットスコープオープン!」

全周スクリーンにサイトマークが表示され、マークの中心に大陸中心部が入っている。サイトマークの周囲には、目標との距離、サイズ、タキオン粒子圧力メーターなどが表示されている。

 

「波動砲射線上に重力収束バレル形成開始。重力子の量子跳躍を随時開始します。古代くん、これで波動砲を纏められる」

1点の目標に当てるためには2本を1本に束ねないといけない。そこで、本来の用途とは異なるが重力推進を応用して、アンノウンドライブで重力子を大量生成&量子跳躍を繰り返して巨大な筒を造った。

形状としては「ワームホールの図」に近い。

 

「両舷薬室内タキオン粒子圧力上昇86…90…100…エネルギー充填120%!」

 

エネルギー充填量に合わせてタキオン粒子圧力メーターが青、黄、赤に色が変わっていく。

 

「浮遊大陸との距離、23000。相対速度26」

「艦首、軸線に乗った。」

古代がコントローラーの撃鉄に当たる部分を引く。

 

「照準修正、誤差+2度」

 

「重力収束バレル形成完了しました。重力バレル強度、高位へ推移。」

 

「全周スクリーンを対ショック対閃光モードに切り替え。総員対閃光ゴーグルを着用。」

全員が遮光ゴーグルを装着する。全周スクリーンは対ショック対閃光モードに切り替わっているが、それで波動砲の閃光を全て防ぎきれるとは限らないからだ。

 

 

 

そして、波動砲の砲口に青白い光が蓄積され始めた。

それはどんどん砲口内を満たしていき、溢れんばかりの光となった。

美しく見えるが、それは忌むべき破壊の力である。

 

 

「照準固定!」

 

「発射10秒前、9、8、7、…」

古代はギリギリで決心した。星すら殺す忌むべき力の引き金を引くべきかどうか。それを扱う覚悟を1人で背負うことを。

 

「6、5、4、3…」

リクとハルナは造った者として見届ける覚悟を決めた。技術者は多くの物を生み出すが、それが戦争の道具と化した時、責任を取ることを放棄してしまう。それを2人は歴史から学び、同じ過ちを繰り返さないように意識した。

 

「2、1…」

沖田は思った。「この船は、この力は決して侵略のための力ではない。地球を守り、救うための力である」と。たとえどんな結果になろうとも。たとえこれが綺麗事でも。

 

 

「撃てぇ!」

 

沖田艦長の号令に合わせ、古代がその引き金を引いた。

砲口で湧き立つ光が急速に広がり、一気に収束したかと思うと、勢い良く極太のエネルギーの束を放出した。

 

重力収束バレルを通って無理やり1本に束ねられたエネルギーは目標に向かって突き進む。周囲に放電を起こしながら進み続け、大陸中心部に着弾、勢いは衰えることなく、光が大陸を飲み込んでいく。

 

 

 

 

そして、浮遊大陸が崩壊した。

 

 

 

 

「あれが…波動砲」

 

「力の方向、間違えなかったよね…?」

「これからだ。力はわかった、それをどうするかだ。」

 

ハルナはか細い声で縋るようにをリクに聞いた。決して侵略のための道具として造ってないが、それが血で血を洗う戦いを呼び込みそうに思えてしまう。

リクは何時に無く険しい顔をした。

 

圧倒的な破壊力を誇る波動砲…イスカンダル生まれの次元波動理論から生まれた破壊の光は、Wunder乗員にその力を見せつけ、こう問いを投げかけた。

 

 

 

 

私を使う覚悟は出来たか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Wunderは木星を離脱、太陽系外縁部に向けての航海を再開した。艦影は無し、戦闘配置も解かれ、一時の休息をありがたく思い船は進んでいく。

 

 

沖田艦長は波動砲の威力を知り、艦長室で思考の海に潜っていた。

 

(星を殺しかねない力…我々は、禁断のメギドの火を手に入れてしまったかもしれない。以下に制約を作ろうとも抑えられる保証はない…。それがもし人の心を歪め、間違った方向に向いた時…我々はもう後戻りはできない。ならば…儂が責任を持ち、この船を導くしかない。)

 

 

 

 

 


 

『艦船3隻と浮遊大陸を失った分の収穫はあるようだな』

シュルツが厳しい顔でスクリーンを見ていた。その横には浮遊大陸基地から離脱したラーレタがタブレット型の端末を操作してスクリーンに映像を投影していた。

 

「え、えぇ。敵艦の攻撃性能は従来のテロン艦をはるかに凌ぐ性能です。高精度の誘導ミサイル、実弾発射が可能な陽電子砲塔、そして…」

ここまではガミラスでも対処可能な範囲だ。しかし、次が問題だ。

 

「この攻撃です。」

それは木星大気圏外、Wunderをギリギリ視認できる距離からの映像だ。艦首らしき部分から青白い光が2本放たれ、それが1本にまとまり、浮遊大陸を消し飛ばした。

 

「計算上では…あの攻撃1回でこの前線基地を…いやこの星を吹き飛ばすことも可能です。それに彼らはゲシュタムジャンプが可能です。万が一あの船がサレザー星系に侵入した場合…。」

それは最悪のシナリオだった、あの砲撃でガミラス星を破壊することも不可能ではない。

 

「まさか、奴らサレザーを目指しているのか?!」

「あくまでも可能性ですが…。」

不味いことになった、技術で劣るテロンがあのようなものを生み出すとは…そしてジャンプ可能、多武装、あの戦略兵器…。

「ガミラス総督府への優先通信を開いてくれ。」

 

「ザーベルク!」

 

 

 

 

 




うp主の想像により、ミサイルがチートになりました。

ミサイルの行動パターン
パターンA
そのまま追尾する→命中
パターンB
敵が回避行動を取る→艦の射程圏内に追い込む
パターンC
ひたすらしつこくどこまでも追いかける
パターンD
『敵艦の対空防御を避ける』高性能モード
(一度に使えるのは12発まで)


波動砲がついに発射されました。
技術は戦争の道具になりうる。これはどの時代でも同じです。
こんなご時世にこんな話するのは不謹慎だと思いますが、やっぱり良くないよ、戦争は。


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2人

今回の話は、作者の体験から書いてる部分もあります。

エンケラドゥスに行く手前の話です。どうぞお楽しみください。


大ガミラス帝星、通称ガミラス星…

地球から遥か168000光年、大マゼラン星雲のサレザー星系に属する惑星。地球を攻撃する彼らの星は青ではなく緑色をしている。そして彼らは地球人とほぼ変わらない見た目をしている。唯一違うのは肌が青い事くらいだ。

 

そして、ガミラス星の帝都、バレラスにそびえ立つバレラスタワーは天を貫く程の高さを誇り、総督府として機能する。

そのバベルの塔こそ、

 

ガミラスの王、『アベルト・デスラー総統』の城であった。

 

 

 

 

 

デスラー総統は日頃の公務の疲れを上質な湯で洗い流していた。

浴槽…いや温泉全体が煌びやかに装飾されていて、体の疲れは確かに取れそうだが目の疲れが蓄積しそうだ。

 

「貴族の馬鹿共の相手は疲れるな」

 

本日の総統の公務内容は政権交代を狙う貴族との会談、及び諜報部を用いて『貴族の闇を暴いて二度と自分に突っかかれないようにする』ことだった。

ガミラス星は、およそ100年前にデスラー一族の手で全土統一が行われて以来、各地で数々の紛争が発生した。

それを乗り越え、11年ほど前にアベルト・デスラーは永世総統として独裁体制の座に君臨した。

 

以来ガミラスは領土を広げ、大小マゼランを治め、天の川銀河にも進出する大帝国と化した。

 

 

そんな彼の癒しの時間に水を指すものが現れた。

 

 

「ご入浴中の所、申し訳ございません。総統」

1人の女性が入浴施設の入口に入ってきた。

 

彼女の名は『ミーゼラ・セレステラ』、ガミラスの宣伝情報相である。ガミラス人でありながら肌が白い…彼女は滅亡した民族である『ジレル人』の生き残りだ。異民族でありながら閣僚のメンバーの一人として活動する事はほかの閣僚からはよく思われてないが、彼女自身はデスラー総統に絶対的な忠誠を誓っている。

 

「セレステラか…どうした? 」

「二等ガミラス空間機甲旅団からの緊急の優先通信です」

 

「二等ガミラスの旅団? 確か惑星テロンの討伐を命じたはずだが…何かあったのかね? 」

 

「その司令官のヴァルケ・シュルツより、惑星テロンから飛び立った未確認の超弩級戦艦についての通信です。」

「ほう、テロンが超弩級戦艦を造ったか…。通信を受けよう」

 

 

 

 

「セレステラ、シュルツより通信と言ったが、彼から詳細データは来ているのか?」

「はい、詳細データはこちらに」

 

まずは予習、少ないが、ザックリとデータに目を通す。

 

「!…これは、シュルツがゲールではなく私に報告するのも納得が行くな。」

超高精度の誘導ミサイル、実弾も発射できる陽電子砲塔、大陸を消す咆哮兵器。そして重要なのが、テロンがゲシュタムジャンプをするということ。

潰すべきか…。

デスラーは自分の玉座に向かった。

 

 

 

 

大ガミラス帝星は軍事独裁体制を貫いている。つまりデスラーの匙加減で色々決定を覆せる。

デスラー本人は圧倒的カリスマ性を持っているため、ガミラス臣民からは多くの支持を得ている。しかし閣僚は、よく思ってない人もいる。でも彼らは総統の機嫌を取らないといけないのだ。

 

そんな彼の玉座は、永世総統にふさわしい位置にある。

 

 

「「総統、お呼び立てして申し訳ありません」」

多くの閣僚が彼に謝罪を述べた。

「緊急と聞いてね。セレステラから詳細は聞いたよ。繋いでくれ。」

「繋ぎます」

その瞬間、デスラーの目の前にシュルツの姿がホログラムで投影された。

 

 

『総統、お呼び立てして申し訳ありません。事態の重要性を鑑みて、総統に直接ご報告をと思いまして。』

「まず、報告感謝する。だが1ついいかな? 君の直属の上司はゲールくんだったはずだが、なぜ私に報告しようと思ったのかね? 」

 

『銀河方面軍のみではなく、ガミラス本星の方でも対策を考案して頂く方がガミラスの為になると判断に至ったためです。』

 

「なるほど、君の忠誠心は分かった。情報を見せてくれ。」

『では、そちらのモニターに表示します。』

 

その瞬間、神話の1シーンを描いたような巨大な絵がスクリーンに切り替わり、ラーレタが艦の観測用カメラで撮影した映像が表示される。

 

 

『ゾル星系第4惑星ズピストでの映像です。中心に位置するのが例の超弩級戦艦です。』

はたしてこれを戦艦と言えるのだろうか?全長2500メートルの戦艦が存在している、しかも技術的に何歩も劣るテロンが造った事に、閣僚全員が驚きを隠せなかった。

「あれが戦艦か?! ありえない! デストリア8隻分はあるじゃないか?! 」

 

「しかも鳥のようにも見えるな…。」

 

 

『推定全長2500程、この映像で確認できる武装は3連装の大口径陽電子砲塔が7基、ミサイル発射管多数。艦首の魚雷発射管、そして…』

 

「謎の咆哮兵器…だね? 」

 

『はい。この咆哮兵器から発せられるエネルギーは、浮遊大陸を完全に破壊しました。』

次に表示された映像はその戦艦が艦首の咆哮兵器を発射、その光で大陸が崩れ、完全に破壊される映像だ。

 

閣僚全員が固まる。そもそもありえないのだ、恒星系すら脱していないテロンがあのようなものを生み出すとは。

 

「タラン、軍需産業が専門の君はあれをどう見る?」

デスラーはヴェルテ・タランに問う。彼は軍需省と国防総省を纏めるエリートだ。

「あのような兵器をテロンが持つとはとても信じられません。しかし、あの咆哮兵器、どこかで見たことが…。開発中の試作兵器の中に類似するものがあります。」

 

「…調査を行ってくれ。シュルツくん、ご苦労だった。引き続きそのテロンの戦艦を監視、可能ならば撃沈するんだ。」

 

『ザーベルク!』

「吉報を待っているよ」

『ガーレ デスラー、総統万歳!』

 

シュルツのホログラムが消えて通信が終了した。

 

「総統、あの戦艦がゲシュタムジャンプの機能を搭載している以上、サレザーに向かうことも考えられます。」

「そうならないように私は撃墜許可を出したのだ。ヒス副総統?」

 

「では諸君、おやすみ」

 

 

 

帝都バレラス、その頭上には青い星が輝いていた。

 

 


 

 

『皆〜ちょっと第3会議室に来てくれる? 面白い物見れるにゃ〜! 』

「「「??? 」」」

ハルナとリク、真田さんはシンクロ率脅威の300%で顔を見合せた。面白いもの?何それ?っと言った感じである。

 

 

「マリさん?面白いものってなんですか? 」

『いいからいいから、Come on! 』

 

 

 

「みんな来てくれてありがとね、やっと映像の引き伸ばしと可視化が終わったの。」

「なにか撮れてたんですか? 」

周りを見ると、古代に島、森さんや新見さん等の第1艦橋メンバーと、まさかの沖田艦長もいる。

極めつけにユリーシャもいる。

 

「赤木博士、終わったのですね。」

沖田艦長が内容を知っている口振りで赤木博士に聞く。

 

「作業が終了していなかったら皆さんをお呼びしてはいませんよ? じゃあ皆さん、足元をご覧下さい。」

赤木博士がタブレット型端末を操作して床面スクリーンにとある映像を投影した。

 

それは10秒くらいの長さの、ビックリするくらい鮮やかな映像だった。

 

「えっと、赤木博士。この映像は? 」

古代がご最もな疑問をうかべる。

「これはWunderがワープ中の艦外映像。元々は1ナノ秒の一瞬以下の映像よ。」

「え! そんなものをどうやって?! 」

森さんも驚く。そんなものどうやって?

 

「私も意図して撮ったわけじゃないけど、MAGIシステムが外部センサとカメラでデータを拾っていたの。その観測データを重ね合わせて可視化して、10兆倍に引き伸ばしたのがこの僅か10秒の映像よ。」

 

それはオレンジ色の背景で、黒や白、黄やピンクなどの色をした無数の光の束が一直線に飛ぶ映像だった。

 

これが、ワープ時に通過する異空間の映像のようだ。

 

 

「ワープ空間ってこうなってるんですね」

「あくまで可視化した映像よ。一部分かりやすいように加工もしてあるからこれが完全版ってわけじゃないけど。」

 

 

「博士…地球に帰ったらノーベル賞待ったナシですよ…。」

島が分かりきってるようなことを言う。地球に帰ったら博士には数え切れないほどの賞が与えられるだろう。

 

「とまぁ、お話はこのくらいにして。沖田艦長、本題は今後の航路と冥王星の事ですよね?」

赤木博士が沖田艦長にバトンタッチする。ワープ空間の撮影成功が「余興」とでも思ってるのだろうか? 博士??

 

 

えっ? こんなのまだ序の口ですって? 博士?

…博士ホントにチート過ぎ。

 

 

「うむ、航海科とユリーシャさんの合同で、今後の航路を作成した。これを見てくれ」

新見さんがタブレット型の端末を操作して、航路図を表示した。

 

「今後Wunderは、外惑星を通過した後太陽系外に出る。その後、当分はこのバラン星を目指して航海を続けることとなるだろう。」

その星は天の川銀河と大マゼランの中間の銀河間空間に位置していた。

「バラン星? 」

ハルナが疑問を浮かべる。

「この星は、イスカンダル側で名付けれられた名前らしい。自由浮遊型惑星で、宇宙の灯台とも言われている。」

島がその疑問に応える。まだバラン星を光学で観測できてないので見た目は置いといて、まずはそこを目指すらしい。

 

「その星には古代アケーリアス文明の遺産が残っているの。それは銀河間を繋ぐ超空間ネットワークで、ゲートをくぐって何万光年もワープができる。かなり年月が経っているけど一部がまだ使用可能なの。でも…それをガミラスも使っている。」

ユリーシャがかなり重要な事を話した。もしもそのワープゲートのようなものをこちらも使用可能なら、日程を大幅に短縮が可能だ。

 

しかしそれは、『ガミラスがバランにもいるということ』でもある。

「大まかな航路は出来上がっているが、1つ問題がある。」

 

「…冥王星だ。」

「航海日程の遅れよりも冥王星攻略を優先すべきか、日程重視で通過するか」

そう、ガミラスの基地は冥王星にあるのだ。その基地からあの遊星爆弾は発射されている。つまり、その基地を潰さない限り、遊星爆弾は小惑星帯から小惑星が無くなるまで発射され続ける。

 

 

 

「やるべきです! 奴らの基地をここで叩けばもう遊星爆弾は降らない! 」

古代が基地殲滅を進言する。彼の両親は東京に落ちた遊星爆弾で命を落としている。それゆえ、ガミラスを敵視している。

「確かにここで発射元を潰しておけば遊星爆弾は降らない。それに遊星爆弾の発射によって人類滅亡のカウントダウンが進んでいるなら、基地を潰すことでそのカウントダウンを少し遅らせることも可能だと思う」

 

リクもそれに同意する。

 

「島くん、航海科としてはどう進みたいの? 」

ハルナがこの道のプロに聞く。

「…航海科としては、冥王星を利用してスイングバイ、そのままヘリオポーズに向かうのが最適と考えてます。」

 

「じゃあ、このまま遊星爆弾が落ち続けてもいいのかよ!」

古代は苛立った。

「まあ待て、俺は否定してる訳じゃないぞ。『航海科として』考えただけで、俺個人としては叩きたい。」

「島…。」

「一応、冥王星基地を潰しても日程の遅れが少なくなる航路を選定中だ。もう少し待ってくれ。」

 

皆が安堵してる瞬間、

 

 

 

 

突如警報音が鳴り響いた。

 

ヴィー! ヴィー! ヴィー!

『警告、両舷波動エンジンブロックで深刻な異常発生。警告度AA』

 

 

 

「何だ?!」

相原が狼狽える。Aだと少々深刻だ。航行にも支障が出る。

*1

その直後、内線電話が鳴り響く。

近くにいた真田さんが受話器を取る。

 

「はい、こちら第3会議室。」

『こちら左舷機関室、徳川だ! 波動エンジンのエネルギーコンデンサが溶けておる! 右舷でも異常発熱を感知した! 早急な修理が必要じゃ! 』

 

 

エネルギーコンデンサは波動エンジンの重要なパーツで、単純にエネルギーを貯めておくパーツだ。しかしそれがないとエネルギーの平滑が不能になり、エンジンのエネルギー伝導が不安定になる。

 

それが溶けかかっている。

 

「真田さん受話器貸してください。徳川機関長、睦月です! 両舷のエンジンのステータス画面をこっちに送ってください! 」

 

床面スクリーンに映し出されたのは波動エンジンの概略図、だがかなり深刻な状況だった。

 

 

「やっぱり波動砲が原因か…。」

『そのようじゃ。修理後にいきなり波動砲をぶっぱなしたのが効いたんじゃろう。』

 

「クソっ!! 無理だったか…。」

「睦月さん! どういうことですか?? 」

古代が聞く。

「エネルギーコンデンサの素材はコスモナイト90…Wunder建造時には世界中からかき集めたんだがそれでも足りなかったんだ。それで、コスモナイトが必要量以下でも問題ない設計にしたんだが無理だったか…。僕のミスです、申し訳ございません。」

 

「太陽系を出る前で良かったじゃないか、睦月1尉。本艦にコスモナイトの備蓄は?」

 

「ありません…世界中からかき集めた分で造りましたから。余裕なんて…」

リクは落ちる所まで落ち込んだ。自分のミスでエンジンがピンチなのだから。

「無いなら見つければいいわ。新見さん、コスモナイト90って宇宙合金でしたよね?それの採掘場を調べてください! 」

 

「ハルナ…」

「エンジン設計に私も半分関わってるのを忘れた?2人で責任取ろっか。」

 

「…ありがとう。」

「はいシャキッとする! 」

 

ハルナは明るいし、機転がよく効く。片付け苦手だけど。

火星でもずっと一緒、一緒に昏睡、今は一緒に船に乗っている。

 

 

なんだかんだ言って、ハルナはリクの気になる存在なのだ。

 

 

 

「あった、ありました! 」

そして希望を新見さんが見つけた。

「どこですか?! 」

リクが即座に食いつく。

「土星の衛星エンケラドゥスに、放棄されたコスモナイトの採掘場があります。そこならば、必要量を十分賄い、備蓄することも可能です」

 

「うむ、総員航海艦橋へ移動。エンジン修理のため、エンケラドゥスのコスモナイト採掘場に向かう。真田くんと暁くん睦月くんは採掘班を編成、コスモナイト90の採掘にかかれ。」

 

「了解! 」

 

 

 

船は、自身の不調を解決する方に舵を切った。

 

 

 


 

 

 

『何? テロンの怪鳥が? 』

 

『はい、コードネーム《怪鳥》は惑星セダンの衛星に降下していきます。どういう事でしょうか?』

 

『わからん。だが、その宙域には確か機械化兵の偵察艇を配備していたはずだ。それを向かわせろ。可能ならば捕虜を取るのだ。』

 

『ザーベルク! 』

 

(さあどこに行く、テロンの怪鳥よ)

 

 

 


 

 

 

Wunderは両舷の波動エンジンを休ませるために補助エンジンを使って航行。エンケラドゥスに向かっている。コスモナイト90の採掘が何よりの急務だ。

 

一方ハルナとリクは、採掘班の準備を終了させて、エネルギーコンデンサの設計を見直していた。

 

「確かコスモナイトの純度って95%だったよね」

「ああ、初期設計だと95で造る予定だったんだが、量が手に入らなかったから75~80%でも出来る設計にした。それでは耐えきれなかったのは想定外というかなんと言うか…。なんか逃げてる感じがするな、僕」

やっぱり背負い込んでる、リクくんは負い目を結構感じやすい性格のようだ。

 

そんな状態を見かねたハルナは、リクの頭をなでなでする。

本来逆なのではと思いたくなるが、この際コレが一番効くのだろう。ちなみにリクの方が公的には年上である。

精神年齢的にはハルナの方が上であるのは、真田さんやユリーシャはバッチリ気付いている。

 

「…! ちょっと」

「リクは抱えすぎだし落ち込みすぎ、1人で責任背負わないで欲しいから同時認証作ったはずのあなたが、なんでここまで背負い込むの? 」

「…。」

「火星の時から私たち一緒だったけど、実の所私、リクに結構助けられてるんだから。落ち込んでるのはリクじゃないと思う。」

「ハルナ…。そうだったね。落ち込むのはやめだ。」

「戻った? 良かったわ。でも、責任感があるのは良い事だけどね。とりあえず、コンデンサは初期設計が一番良くできてると思うしそもそもコレがカタログ的には最適なんだからコレをちょっと調整してやってみよっか。あとは波動エンジンのシステム調整が少々かな? 」

 

「ああ、波動砲撃った時のログが残ってるはずだからそれを元にして最適なコンデンサを造る。エネルギー伝導率もコンデンサの性能に合わせて調整。これでいけると思う。」

どうやらリクは元に戻ったようだ。

ほんの少しだけ頬に赤みが刺してるのは気のせいだと思う。

 

 


 

 

一方航海艦橋、慎重に船を進めている中、1つの通信が入る。

 

「救難信号をキャッチしました! 国連宇宙海軍のものです! 出力は微弱、艦籍番号、艦種及び艦名は不明! 」

 

氷の惑星で遭難者がいるのか?! 艦橋中に動揺が生まれた。

しかし、救難救助は船乗りとしてやるべきことであった。それはどんな時代でも変わらない。

 

 

「古代、森、2人は保安部と医療班同行の元、遭難者の救助に向かってくれ。」

 

「「え?」」

正直いって自分だけで良いのでは?2人はそう思っただろう。

沖田艦長は内心微笑んでいた。キューピットにでもなりたいのだろうか。

 

 

「古代進、遭難者の救助任務に当たります!」

「同じく森雪、救助任務に当たります。」

 

 

船は凍てついた海原に進んでいく。

 

 

*1
(AAAだと退避命令が必要)




( ๑´•ω•)۶"(´・ω・`)なでなで

作者の体験談です。落ち込んでる時に撫でてもらったことがあり、それで救われた感じがあったので今回の話に入れました。
(なんでやねんΣ\(゚Д゚;))
もうホントに2人が兄弟姉妹に見えてしまいそうで、書いていて笑えてきます。


エンケラドゥスに来ました。古代くんと森くんが互いに意識し始めます。


次の話は多分入学してから出すと思います。
お気に入り登録、高評価頂けると励みになります。
m(_ _)m

ではでは( ̄^ ̄)ゞ


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凍てついた海原、戦士の碑

古代くん&森さんのお話です。

授業開始前に何とか書きたい(4月1日)


コスモナイトの科学的設定が難しい( ˘•ω•˘ )


「沖田艦長はなんで僕らに命じたんだろうか」

古代は「空間汎用輸送機 コスモシーガル」のコクピットで森と話していた。

 

「分からない、沖田艦長は何がしたいのかしら? まあとにかく、任務に向かいましょうか。えーっと、保安部からは伊東さんと星名くん、医療班からは原田さんね。それとアナライザーね」

 

「正直生存者がいるとは思いませんがね」

伊東真也がちょっと酷いことを言う。彼は常に他人を見下している雰囲気があり、そのため他の科ではよく思われてなかったりするが、ちゃんと仕事出来る28歳である。ちなみに中尉である。

 

「まあまあ、たとえ生存者がいなくても、現場を調べることで何があったのかも分かりますから」

そう言ってその場を収めるのは同じく保安部の星名透。階級は准尉*1で、伊東が全幅の信頼を置く右腕的な存在だ。人当たりが良くエイムも良い美少年である。

 

 

『シーガル、発艦準備状況知らせ』

「こちらシーガル、システム異常なし、発艦準備完了」

 

『了解、ハッチ解放。電磁アーム稼働します』

 

電磁アームによってシーガルが持ち上げられて、船外に移動していく。

 

 

Wunderは波動エンジンを両舷とも停止させている。しかし、補助エンジンからのエネルギーでアンノウンドライブから重力子&斥力子生成、器用に空に浮いていた。

 

しかしかなり低空のため、シーガルを出すのが限界だ。ほかの艦載機はだいたい無理。

 

シーガルは凍てついた海原の上を飛んでいく。仲間の呼び声に応えるために。

 

 


 

「 ♪♪♪~お三方! ここは宝の山ですな!」

榎本は鼻歌を歌いながら真田のもとへやって来た。

「ああ、どうやら私が動く必要は無さそうだが.......」

 

現在ハルナ&リクと真田は、破棄されたコスモナイト採掘場で採掘の指揮を執っていた。

 

コスモナイト90.......。それは宇宙環境下で自然生成された天然の合金であり、エンケラドゥスがまだ熱を持っていた頃に生まれた物である。

 

タンタルとコバルト、タングステンが合わさることで出来たこの偶然の産物は、尋常じゃない耐熱性を持ち、電気等のエネルギーを伝導させ蓄積も可能な、まるでコンデンサのような特異な性質を持つ。

 

そしてコレを1度炭化させて、膨大な圧縮をかけながら焼く事で、エネルギーコンデンサのパーツとなる。

希少で手間がかかるゆえ、地球の宇宙艦のエンジンに搭載するコンデンサは「コスモナイトを節約した構造」となっている。

 

今までの地球艦はそれで出来たが、イスカンダルのオーバーテクノロジーはそうもいかなかった。

 

そこで、採掘したコスモナイト90をそのまま艦内工場でせっせと加工、Wunderにピッタリのコンデンサを作ろうと言うのだ。

これもこの船が尋常じゃないほど大きく、『こんなこともあろうかと主義』で建造されたから出来る荒業である。

 

 

 

「コンデンサ1基あたりに500kgで両舷合わせて4基で合計2tお願いしまーす!」

 

「その後、コンデンサ完成までの間に出来るだけ採掘をお願いしまーす!」

陣頭指揮としてハルナとリクがしゃかりきに動き回っている。

真田が暇そうにしてるのも彼らが仕事全取りしてしまってるからだ。

 

 

「なら、私はコンデンサの設計の確認をしておくかな。2人には内緒で」

「優秀な部下を持つと楽ですか?」

榎本が茶化すようにして聞く。

「部下ではないな、うむ、賑やかな友人だな」

 

真田は2人とはもう1年以上の付き合いである。最初に出会ったきっかけが波動エンジンであった。オーバーテクノロジーを理解して、なおかつその改良案で議論を重ねた時から真田は2人にかなりの興味を抱いた。

そしてWunderの設計に関わった時には、時には寝食を共にして徹夜して、協力して設計図を書き上げた。

 

その時点で、「仕事仲間」としてではなく「友人」という関係となっていた。

 

(2人とも、私を1人にしたな?)

 

真田はタブレット型端末を手にしたまま、2人の元へ歩いていった。

友人2人がしゃかりきに動き回っているのに1人だけ別のことをしてるのは頂けなかった。昔の自分ならそれでも良かったかもしれないが、今は友人がいる。

 

一緒にやりたいタチなのだ。技術屋は。

 

(なんか「初心に戻りました!」って感じの顔してますね〜副長。)

榎本がにやけ顔で真田の後ろ姿を見ていた。船外服越しでも「楽しそうな雰囲気」がよく見える。

 


 

「そういえば、暁さんと睦月さんってよく似てるよね」

ふと森が日頃の疑問を口に出す。

「? そういえば2人とも髪が白いし、さっきも何か兄弟姉妹みたいだったし.......」

 

「お2人とも火星出身の純マーズノイド、経歴データでは内惑星戦争後に移民してきたってことになってます」

伊東が2人の大雑把な出生を伝える。保安部はその設置目的上乗員のデータも閲覧出来るため、こういう情報も誰にも聞かずに知ることが出来る。

 

「なってます? それってどういうことですか?」

 

「軍病院ではこんな噂があったんですよ、『開かずの間』には入るなっていう噂ですよ? もしかしたらお2人は開かずの間の住人なのでは?」

 

「まさかね.......」

 

SID《まもなく、救難信号発信地点です》

艦載機内蔵コンピュータシステムSIDが、目的地接近を知らせた。

 

そこに横たわるのは凍てついた船、全長80メートル程の小型艦艇だった。

 

古代はシーガルをその艦艇付近に着陸させた。

 

 

 

「このシルエット、間違いない.......」

森が確信とも呼べる一言を発する。

「磯風型突撃宇宙駆逐艦.......ゆきかぜの同型艦だ」

 

「皆さーん! ここから入れそうです!」

医療班の原田真琴がハッチを見つけた。彼女は佐渡の助手としてWunderに乗艦した、いわば看護師さんだ。

 

入口見るなり、古代がちょっとした異常を発見した。

 

「伊東さん、これって.......」

 

「ええ、ハッチが外側から開けられている。それも爆薬で吹き飛ばす形で。」

ハッチは無くなっていたが開閉機構がぐにゃりと曲がっていた。

 

外部から爆弾を仕掛けない限り、こんなことは起こらない。

 

「とにかく、中に入ってみよう」

「それに賛成です、戦術長」

 

艦内はエンケラドゥスの冷気で霜に覆われていた。艦内の空気に触れて一気に水分が凝結して、艦内を凍らせた。恐らくそうだろう。

 

つまりこの船はエンケラドゥスに軟着陸後、何者かの手によってハッチが壊された。ということだろう。

 

艦内には凍結した遺体が船外服のまま横たわっていた。

原田が生体反応感知モニターでチェックしても、返ってくるのは無慈悲なアラーム音。どこか分かってたはずだが現実を見ると悲しくなってくる。

 

「ダメです.......生体反応、ありません」

「これで全員、凍ったまま亡くなったんですね.......」

星名からもいつもの笑みは無くなり、悲しげな顔を見せる。しかし、伊東は考え込む顔を見せる。

「星名、磯風型の乗員数は?」

 

「確か、24名です。あれ?」

「そういえば気になっていたんですが、艦橋以外の部屋を回ったはずなのに、遺体は10体しか無かった」

ここまで見てきた凍死した遺体の数が少ない.......。もし全員凍死してたならもっといたはずだ。

「自ら外に出たのか、誰かが外に引っ張り出したかということになる」

遺体の数が合わないのはそれが答えだろう。

 

 

艦橋に上がると、小さな電子音が鳴っていた。

 

発信源を探すと、通信士席のコンソールの救難信号発信ランプが点滅していた。

 

「なるほど。予備電源が生きていて、ひたすら信号を送っていたのか.......」

 

「私はここにいるよ、そう言っているみたいね」

森は静かにスイッチを切った。

 

 


 

 

『テロンの輸送艇を確認。サルバーS-VI型戦車、投下』

 

 

ガミラスの強襲揚陸艦から2両の戦車が投下された。それらはエンケラドゥスの凍結した地面をものともせず疾走し、直ぐに目標を見つけた。

 

『目標確認、砲撃開始』

 

一筋の光が一行を襲う。

 


 

爆発の光に気付いた一行が外を見ると、ビームを放つ戦車がシーガルを破壊した後があった。戦車は確認できただけで2両。そのうち1両がこちらに照準を向けていた。

 

「伏せろっ!」

 

一同艦橋内で伏せた。戦車のビームが船体に直撃し、爆発が起こる。

 

「あわわわわわわ!」『アララララララ!』

爆発の衝撃で原田とアナライザーが転がってしまい、艦橋手前の通路で止まった。しかし、重たい扉が閉まってしまった。

 

「原田さん! 大丈夫ですか!」

星名が扉の向こうへ呼びかけた。

「閉じ込められちゃいました〜!」

 

「ちょっといいか? 開けてみる。ふんっ!」

古代が力んで扉を開けようとするが、引っかかっているようで開かない。

「アナライザー! 役に立つんじゃなかったのかよ?!」

 

「森さん、通信をお願いします。そのコンソール多分生きてます」

星名が森に通信を依頼する。船外服の通信機では近距離しか繋らない。

「分かりました」

森が通信用コンソールを操作すると、まだ電源が生きていたため問題なく作動した。

 

「こちらメディック、Wunder応答願います、現在我々は敵の攻撃を受けています! Wunder、応答願います!」

 

呼びかけ続けるとWunderから応答があった。

 

『こちらWunder! 本艦は現在、敵からの攻撃を受けている!』

敵の戦車はWunderの方にも砲撃を行っていたのだ。

 


 

一筋の熱線が戦車に命中する。しかし、微塵も効いてないのが目に見えて分かる。

 

採掘班の1人が採掘用の熱線で攻撃したようだが、それは足止めにもならず、勇敢な熱線発射車両は戦車の砲撃で爆発を起こす。

 

 

「なんでここにもガミラスがいるの?!」

リクが大声で質問しながら猛ダッシュする。

「そんなの偵察機とかが私たちを見つけたからでしょ?!」

ハルナは汗だくになりながら猛ダッシュする。

「とにかく走るんだ!」

真田も猛ダッシュする。現在技術者トリオはガミラスの戦車に追いかけられている。

 

「戦車で人を追いかけるのは少々ルール違反なのでは?」と思いたくなるが、そういう言い訳は通用しない。

 

「お三方!こっちです!」

 

榎本が、塹壕のようになっている部分から頭を出しながら声を上げた。

それは確実に3人のヘルメット内蔵スピーカーに届き、3人はそこに目掛けて猛ダッシュ、飛び込んだ。

 

「「セーフ!」」

 

「危なかった.......。だが、Wunderを攻撃するにはあまりにも戦力が少ない」

 

「敵さんはマジの攻撃をしたい訳じゃなさそうですな」

榎本も肯定する。Wunderを完全に撃沈するにはWunderと同規模の戦艦か、同規模の戦力が必要だ。

 

 

戦車だけで何がしたいのか?

3人はじっくり考えていた。

 

 

 


 

 

 

 

「出せない?! 何でだよ!」

一方、右舷第2格納庫では航空隊隊長の加藤三郎が艦載機発着管理員と話し合っていた。

 

「ここからは出せない! もっと高度を取らないと出せないし、採掘班を収容しないといけないから高度も上げられない!」

ご最もな言い分である。

 

「マジかぁ.......。じゃあ俺たちどうすんの?」

航空隊の篠原弘樹がグ○コ*2のポーズをする。

 

 

「仕方ない、あれを拝借するか.......」

「あれって何ですか?」

 

 

 

 

 

その頃アスカは、艦の後方、第1格納庫行きのトラムリフトに乗る為に、リフトの停留所に向かって走っていた。

 

(これだけ高度が低いと私のファルコンも出せない。でもゼロなら出せる!)

 

停留所までは走って1分、ユーロ空軍叩き上げの身体能力で停留所にたどり着くと先客がいた。その人物は女性でありながら航空隊の服を着ていた。

 

「あなた、航空隊の人? 見たことないけど」

 

「私も出ます。艦載機の操縦はできます」

それは主計科に配属されていたはずの山本玲だった。

「.......シミュレータのスコアは?」

「ハードで90です。機体はコスモゼロです」

 

「良い腕ですね! ぶっつけ本番だけど一緒に助けに行きましょ!」

 

「ええ!」

 

 

 

 

第1格納庫に着いた2人はコスモゼロに乗り込んだ。山本は機首が赤、アスカは橙だ。

コスモゼロはあと1機あるが、航行システムの調整が済んでない状態で搬入されたので動かせない。

 

 

「整備員さん! 乗ります!」

「了解です、式波中尉! 」

アスカが整備員に声をかける。そして勢いよく乗り込む。

山本は航空隊ではないので流石にバレたらマズイのでこっそり乗り込む。

 

『コスモゼロ2号機出します! ってちょっと!  誰だ1号機に乗ってる人?!』

整備員はゼロ1号機に乗ってる人を知らない。

「整備員さん! 1号機の方も動かしてください! 大丈夫ですから!」

 

 

2機のコスモゼロがカタパルトに運ばれていく。実機ではぶっつけ本番でゼロに乗るが、2人は緊張してない。

しかし、これを見て驚く人が1人。

 

「おい! 誰が乗ってる?!」

 

「2号機に式波中尉が乗ってますが1号機は分かりません!  中尉が乗せたとしか.......」

 

「なんだって?!」

 

時既に遅し。カタパルトから射出され、メディックの援護に向かっていった。

 

 

加藤はイラついた表情で

「.......艦橋に向かうぞ、そこからならあの2人に通信できる。行くぞ」

と仲間に告げるとトラムにまた乗り込んで艦橋に向かった。

 

 

 

 

「私は採掘班の救援向かう! 玲さんはメディックの方へ!」

「了解!」

 

 


 

 

「こちらメディック! 応答お願いします!」

『メディック、聞こえるか? 現在救援に向かっている! 採掘班の方へは式波中尉が向かってる!』

誰の声かは分からなかったが救援は確かに向かってくれてるようだ。

 

「皆、救援が来るわ! 採掘班の方へは式波さんが向かってるみたい!」

「式波中尉が? .......ゼロを出したのか。でももう1人は?」

 

「そんなことより救援が来るまで凌がないとマズイですよ戦術長。ガミラスの歩兵が数人こちらに向かってきてますよ」

「迎撃するので古代戦術長も加勢をお願いします」

保安部2人組が敵を発見、既に何時でも銃を撃てるように準備していた。

 

「敵影確認。数4、武装の携帯を確認」

「正面から来るのかよ.......。搦手はなしか? 」

「一定距離まで近づいたら迎撃する。アナライザーそっちはどうだ?」

閉じ込められた原田とアナライザーは脱出に専念中、今はアナライザーが指から熱線を出してドアの切断に取り掛かっている。

 

『モウ少シデス』

ドアを焼き切る光がチラつく艦橋内でひたすら身を隠し.......

 

「撃て!」

 

古代の号令で3人は一斉に、携帯武装の「南部97式拳銃」を撃った。

敵はヘッドショットを食らい、その場で倒れた。

 

「よし、命中」

「敵はどこから来るかは分からん。星名、左舷側を監視してくれ、戦術長は右舷側をお願いします」

「分かった」

敵はあれだけとは限らなかった。まだいるかもしれないし、同じ方向からまたやって来るとは限らない。

 

『開キマシタ!』

その時、

 

バリンッ!!!

 

艦橋の窓が盛大に割れて左舷側から敵兵が数人乗り込んできた。

敵兵は3人、古代が持っていた拳銃を射撃で落とすと森を横抱きにして敵兵2人はそのまま脱出して行った。

 

「森くん!」

「さっきのやつはブラフかよ!」

伊東が敵兵を撃ち殺そうとするが、森が人質にされてるため迂闊には撃てない。

 

敵兵1人がが足止めとして艦橋の中に陣取っているため、古代と伊東、星名は咄嗟に艦橋入口の手前に逃げ込んだ。

 

 

少しでも顔を出そうものなら殺られる。真空の艦内にそういう空気が満たされた。

 

 

ふと古代が足元を見ると、先程落とされた自分の拳銃と同じ形状の拳銃が床に氷で張り付いていた。

そしてその氷は敵兵の牽制の銃撃で剥がれかけていた。

 

好機、古代は覚悟を決めて敵兵の前に身を晒し、氷で張り付いていた拳銃を取る。

 

そして向こう側の壁に身を隠し、一瞬の隙を突いて射撃。その射撃は綺麗にヘッドショットを決め、敵兵は艦橋の入口に転がった。

 

 

「救急箱!」

原田が咄嗟に敵兵の応急処置をしようとする。

 

『敵デスヨ』

「そうだぞ!」

アナライザーと伊東が異論を唱えるが、

 

「関係ない!」

看護師として、救助対象は敵味方問わずであった。

 

しかし、

 

命中箇所からは血ではなく、火花が散っていた。

「えっ.......!」

「こいつはロボットかよ!」

 

 


 

 

(ファルコンより性能良いけど、少しだけクセがあるわね)

 

採掘場の救援に向かったアスカはコスモゼロの性能を賞賛しながらクセを感じていた。

若干左旋回が得意なようだ。そして右旋回は少し遅い。

そんなクセもエースに取っては微塵も障害にはなり得ない。

 

「目標、敵戦車確認! 攻撃開始!」

 

コスモゼロの機銃が火を吹き、ビームの弾丸が高速で発射される。

 

戦車は自慢の砲塔で対空迎撃をするが、そんなもので落とされたらエースの名が廃る。

 

的確に戦車に当てて撃破する。

 

(さて、採掘場はダイジョブそうだから玲さんの方に行ってみよかな。でもどっから湧いたのあの戦車.......。揚陸艦?? キャンプ地?? 探してみようかな?)

 

そう考えながら山本の元へと飛ぶアスカであった。

 

 

 

 

 

氷結した大地を駆ける古代、そしてそれを追うかのように生まれる弾痕。

 

現在古代は、森を救出するために敵兵を追跡していた。辺りに点在する氷塊にその都度身を隠しながら銃撃、敵の足元を狙い、逃げ道を塞ぐのが目的だ。

 

そして敵を崖まで追い込む。

もう逃げられない、今ここで決める。

 

そう思い慎重に狙いを定め、何時でも撃てるように銃を構える。

 

しかし、ここで敵兵が思わぬ反撃を受ける。

森が意識を取り戻し、敵兵の脇腹に膝蹴りを打ち込み、体制が崩れたところに肘鉄を側頭部に打ち込む。

そして脱出、しかしこの反撃が効いたのか、敵兵が手持ちの火器を森に向けた。

 

ピキュンッ!ピキュンッ!

 

古代の拳銃が火を吹き、敵兵の頭部、胸部に命中。そのまま敵は倒れた。

「古代くん!」

「大丈夫か?」

 

これで森は助かった.......が、

 

「.......! マズイ、伏せろ!」

敵の揚陸艦らしき艦艇が近づいてきて、機銃を掃射してきた。弾痕が量産される。

古代は起き上がった森に覆い被さる形で庇った。

 

 

「やっぱりいた! って戦術長?! マズイ!」

アスカはコスモゼロの機銃連射で船体を穴だらけにする。

 

そして、

「目標確認、陽電子機関砲発射!」

山本の駆るコスモゼロの陽電子機関砲が陽電子の塊を放ち、揚陸艦を破壊する。

 

ついでとばかりに敵戦車を機銃で葬る。

 

 

 

今度こそ危機は去った。

 

「良い腕してるぜ.......」

「うん.......」

古代はゼロのパイロットに賛辞を送り、森は古代に引っ付く様な体制でそれに同調する。

 

 

傍から見ればロマンチックな光景だ。氷結した大地と一点の曇りもない宙がそのシチュエーションを助けている。

 

 

しかしそんな時間も長く続くはずがなく、

 

 

「.......?!!? ありがとう! お陰で助かったわ!」

自分のやってる事に気付いて森が赤面しながら離れた。

「ああ、俺はこいつに助けられた。.......!」

古代が森に拾った拳銃を見せる。ふとグリップ部分を見ると、よく知ってる人物の名前が彫られていた。

 

 

 

「どうしたの?! ねえ! 古代くん!」

森が声をかけるが古代はいてもいれなくなって走り出した。

 

磯風型の船体に辿り着くと、星名と伊東が撃破した敵ロボットを運び出していた。

「戦術長?」

 

そして船体に銃を向け、1発づつ氷に向かって撃っていく。

 

 

張り付いていた氷が一部割れて剥がれ、艦名が明らかとなった。

 

「磯風型突撃宇宙駆逐艦 ゆきかぜ」

 

艦側面には筆で書いたような文字で「ゆきかぜ」と勇ましく書かれていた。

つまり、古代守の駆った船。

 

 

「.......これは兄さんの船だ」

「兄さんの雪風だったんだ.......!」

 

エンケラドゥスに静かに眠るゆきかぜは墓標と呼ぶべきか、古代は決められなかった。

 

だからせめて、ここに勇敢な者がいたという証を残すこととした。

 

 

【記録】

救難信号は磯風型突撃宇宙駆逐艦、

ゆきかぜのものと判明。

 

生存者は無し

 

備考

乗員数と遺体の数は一致せず。

 

 

 

勇敢なるゆきかぜ24名の魂、ここに眠る

 

 

艦橋に戻った古代の座席には、形見の銃を入れたホルスターが置いてあった。

*1
(少尉1歩手前)

*2
お手上げ状態




コスモナイト90とコンデンサの科学的設定は『耐熱性』『エネルギー伝導性』『強度』の面から行いました。
耐熱性で『タングステンとコバルト』、伝導性で現実にコンデンサに使われている金属『タンタル』を使い、強度で『1度炭化させて焼き固める』工程を踏むという設定になってます。
(原作では熱線で採掘してたので相当な耐熱性があるかと)
うp主的には『エンケラドゥスの内核付近で生成されて、地殻変動で地表付近に移動してきた合金』がコスモナイト90で、それを『焼き固めて超硬合金にした』のがコンデンサの材料って感じです。


科学的設定難しいですが、上手く出来てるといいなぁ。



次回は反射衛星砲がやってきます
赤木博士&真田さんで組ませます。

(*´∇`)ノ ではでは~


追記 アンケート期間もう少し伸ばしてみます
   投票人数が10人になったら打ち切るつもりです 


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策略、そして遺恨を焼き払う

アスカのコスモファルコンはぶっ飛んだ試験機です。
自信を持って言えます。と〜っても危ない機体です。

では、メ2号作戦前の話、お楽しみください(*˘︶˘*)


冥王星、ガミラス冥王星前線基地

 

『Wunder、応答願います! こちらメディック!』

大型スクリーンにWunderの姿と、森の通信をガミラス語訳した字幕が流れる。

 

『なるほど、テロンの船はヴンダーというのか。やはりデカいな』

「しかしここまでの大きさとなると、この基地の全戦力を投入しても撃沈は困難を極める物と思われます。そもそも通常艦艇での撃沈が可能かどうかも怪しいです」

 

シュルツとその側近であるガンツ、そしてヤレトラーは、銀河方面司令長官のグレムト・ゲールと通信をしていた。

 

『必ず撃沈しろ! そして正しい報告を私にするのだ! 貴様から正しい報告を貰って初めて私が総統にご報告できるのだぞ!』

 

「ザーベルク!」

『良いか! 正しい報告だぞ!』

疲れる上司との通信が終わり、シュルツはため息をつく。

 

「全く.......我々の苦労を分かってない。ドメル司令の元で戦っていた頃が懐かしいな」

 

「そうですね。ここに来てからというもの、ゲール司令に怒鳴られる日々でそろそろうんざりしてきました」

ヤレトラーも現状に不満を持っているようだ。

「だが、我々は与えられた仕事を行わねばならん。定期便の方はどうだ?」

シュルツが、ガンツに声をかけた。

 

「遊星爆弾103号がまもなく発射予定です」

 

 

遊星爆弾.......ガミラスの隕石を用いた質量兵器で、これで地球上を放射性物質で汚染した。地球人を駆除するための方法その1であり、もうかれこれ100発以上打ち込んでいる。

 

余談ではあるが、ガミラスの有毒胞子を撒き散らす植物は、まだ地球が完全に汚染される前にデラメア級強襲揚陸艦で送り込まれたものである。それが放射能汚染範囲が広がるにつれて地上に広がっていった。

 

その発射シークエンスは理にかなっていた。

 

「反射衛星砲発射準備、エネルギー充填開始!」

シュルツの命令により、反射衛星砲発射シークエンスが開始される。

『反射衛星27号リフレクター展開、誤差修正マイナス2度』

『反射衛星44号リフレクター展開、誤差修正プラス3度』

 

ザルツ人士官の操作により反射衛星が起動、リフレクターを展開してリフレクターの角度を調整する。

 

『反射衛星砲エネルギー充填中。充填完了まであと10バーセル。発射点まであと、3.......2.......1』

 

シュルツが発射スイッチを手に取り、

「反射衛星砲、発射!」

スイッチを押す。反射衛星砲台から極太の陽電子ビームが放たれ、それは天へと伸びていく。

 

そして反射衛星に命中、陽電子ビームはリフレクターに反射されて、向きを変える。次の衛星でも反射されて、狙い通りの小惑星に向かって進んでいく。

 

 

『103に着弾します!』

ディスプレイにはビームの軌道が正確に表示されている。反射衛星をビームの中継地点にしてビームを反射して小惑星に命中させる。なかなか器用なシステムである。

 

そして、エッジワースカイパーベルトの小惑星の1つに命中。小惑星は火を吹き出しながら本来の軌道から逸れていった。

「103号の点火を確認。惑星テロンへのコリジョンコースに入ります」

つまり衝突コース。このようにして遊星爆弾は今まで地球に送り込まれたのだ。

 

 

「ガンツ、これは使えると思わんかね?」

「?? どういうことでしょうか? 」

 

シュルツの目には秘策を思いついたような目だった。

 

「上級士官全員を集めろ。作戦会議を行う」

 

ここに、ガミラス冥王星前線基地による「ヴンダー撃破作戦」が始まった。

 

 


 

 

「やっと終わった……」

「そうだね。お疲れ様」

2人は現在、暁・睦月研究室で自分のイスの上で伸びていた。完全に「オフ」の状態である。

コスモナイトの採掘指揮、艦内工場でコスモナイトの加工、機関室でエネルギーコンデンサの取り換え……。もうグッタリだ。

今日は、なぜか徳川機関長、森、ユリーシャも来ていた。普通の部屋より少しだけ広い研究室で一時の平和を噛みしめる。

 

「いやはや、コンデンサの取り換えにも付き合ってもらってすまんな」

徳川機関長が申し訳なさそうに頭をかきながら2人に感謝する。

「いえいえ、造った者として最後まで責任を取りますよ僕たちは」

「途中から赤木博士が協力して下さったのでカタログスペックよりも性能は上がっています。今後、異常をきたすことはほぼないと思います。」

 

「それなら安心じゃな。しかし物事に絶対は無いからなぁ、長持ちするようにうまく運用するのがわしら機関科の仕事じゃ」

「お願いします。そのほうがこの船も喜ぶと思うので」

作りが丈夫に作り、使い手が長生きするように使う。それはどんな物にでも言えることである。

 

「そういえばエンケラドゥスでモリさんってコダイと抱き合ってたの?」

「えっ!!! なんでそのことを!!!!」

森は顔を真っ赤にしてユリーシャに聞いた。真っ赤になりすぎて沸騰寸前になっている。

 

「? アスカちゃんから聞いたの、とってもいい雰囲気だったから着陸して現場確認するの気が引けたって」

 

「式波中尉~!!! 今度会ったらたたじゃ……」

謎の殺気が滲み出る。自分の恥ずかしいシーンを誰かに言われるなんてたまったもんじゃない。

「まあまあ落ち着くんじゃ森君。式波中尉なら今頃加藤隊長に叱られているからそれでプラマイゼロにしておこうか」

 

「……はい(仕返ししてやるぅ)」

以後一週間、森からはちょっと危険なオーラが常に出ていた

 

 


 

 

「玲、お前は主計科のはずだがいつから戦闘機乗りになったんだ?」

「加藤隊長、その言い方はないんじゃないですか。」

航空隊控室でアスカと山本は「コスモゼロ無断発進」のことで叱られていた。結果的には採掘班とメディック両方救えたからいいのだが、問題は、主計科のはずの山本がコスモゼロに乗っていたこと。そしてそれをアスカが止めなかったことであった。

 

「式波中尉…。ここはユーロじゃない。うちを引っ掻き回すのはよしてくれ」

「ですが、シミュレータでハードでコスモゼロの高難易度でスコアは90、実戦で見事にメディックを救った。それでもだめなんですか?」

 

「はあ……。式波中尉、君は玲を航空隊に推薦したいのか?」

「はい。彼女の転属の許可をお願いします。」

「航空隊に転属させてください」

アスカと山本が同時に頭を下げる。しかし、

「ダメだ!」

加藤の怒鳴り声とともに加藤の真横にあったロッカーを殴りつける。何の罪もないロッカーが尊い犠牲者となった。

 

「俺にその権限はねぇ。決められるのは艦長だ」

 

 

 

 

 

 

「加藤隊長? ロッカーはサンドバックですか?」

「違う、聞かねぇんだよあいつらが。」

「なるほど、ロッカーが言うこと聞かないんですね~。」

ロッカー殴りつけて手が無事なわけがなく、加藤は医務室で原田に包帯を巻いてもらっていた。

そして加藤は原田に感謝を告げてから医務室から出ようとする。

 

「加藤隊長!」

「?」

原田が加藤を呼び止めた。

「あの……エンケラドゥスで式波中尉と山本さんが助けに来てくれなかったら私たち、結構やばかったみたいです。2人に『ありがとうございました』とお伝えいただけないでしょうか」

 

「フッ、考えてみるか」

「へっ?」

 

「なんでもねぇよ。2人見つけたら伝えとくわ。そっちも見つけたら言っとけよ」

 

 

加藤の顔は少しすっきりしたような顔だった。

 

 

 


 

 

 

「作戦としては、第1段階として反射衛星砲によるロングレンジ砲撃を行う」

作戦会議中の冥王星基地では、「使えるものは何でも使う」という考えで作戦を練っていた。

「なるほど! 確かにあれを転用すれば冥王星宙域ならば確実に狙えますな!」

 

 

「だが、ロングレンジ砲撃のみで撃沈できるとは思えんのだ。さらに強い兵器が欲しいところだが」

一同考え込む。もう1手欲しいところだがそれが思い浮かばない。

 

 

「シュルツ司令、1つ心当たりがあります」

突然ヤレトラーが意見を言う。

「何だ?」

「銀河方面司令部からの定期便に、新型有機演算コンピュータシステムとその概要がありました。それによると、アリステラ星系で発見された、どんな環境でも適応出来る『圧倒的環境適応能力』とコンピュータにクラッキングを仕掛けることも可能な『高度な演算処理能力』をもつアメーバ状の生物を核としたコンピュータシステムだそうです」

 

「それを兵器として使用するのか?」

シュルツは疑問だった。アメーバで何をするのか?確かに演算能力は優れているがそれでもどう攻撃をするのか?

そしてシュルツは1つの答えにたどり着いた。

 

「そういう事か。物理的にも内部的にもヴンダーを倒すのか」

 

「そういうことです。あのアメーバの演算能力ならヴンダーのコンピュータシステムにクラッキングを仕掛け、誤作動を引き起こすことも可能と思われます。コンピュータシステムに組み込める以上、こちらから命令を入力できるはずなので、例えば『ヴンダーを自爆させろ』という命令を入力すればあとは自動で活動しますので、作戦の成功度もグッと上がると思われます。」

 

つまり、宇宙最強のコンピュータウイルスである。

 

「そして、そのコンピュータシステムの名称はなんと言うのだ?」

 

「名称は、『イロウル』です」

 

作戦は大まかに決まった。あとは確度を上げるだけだ。

ガミラスの牙が、Wunderに襲いかかろうとしていた。

 

 


 

 

中央作戦室には、主要メンバーとハルナ&リク、赤木博士にマリ、アスカが集められていた。

 

「諸君、儂はイスカンダルまでの旅路を急ぐため、無駄な戦闘は極力避けるつもりでいた。しかし、今も尚地球に遊星爆弾を降らせる冥王星基地だけは、見過ごす訳にはいかん」

メ2号作戦、『ガミラスを迎撃する』のではなく、『こちらから基地を叩く』積極的攻勢に出る作戦だ。大まかには「基地を叩く」事と「遊星爆弾を降らせない」事が重要だ。

 

 

「国連宇宙軍の観測データによると冥王星は、ガミラスの環境改造で水を有する準惑星へと変貌しています。そして、ガミラスの基地と思われる熱源反応は.......観測できただけでこれだけあります」

真田がタブレット型端末を操作してデータを床面スクリーンに投影する。

冥王星に出来た巨大な湾の周囲に、熱源反応を示す光点が複数表示された。

 

 

「こんなにあるんですか?」

相原が疑問を示す。こんなにあると一つ一つ潰すのは骨が折れる。

「残念ながら、これ以上詳しく調べることは出来ませんでした」

新見が残念そうにする。

 

「いや、この熱源反応の中に敵の本丸は最低限あるはずだ。その他は無人の施設の可能性がある」

古代が戦略的な考えを示す。如何に敵が大きくても、頭を討ち取れば勝ちだ。

「そして、その本丸が何らかの方法で隠されてる可能性も否定できません」

リクが古代の意見に補足を入れる形で進言する。

敵も馬鹿じゃない事を言いたいのだ。

 

「そして肝心の戦術についてだが、Wunder航空隊との連携作戦を行う」

沖田艦長の決めた戦術は、航空隊との連携。簡単に言うと、航空隊に見つけてもらってからWunderは移動、合同で基地を潰すということである。

「航空隊と連携ですか? 単艦でも敵基地の殲滅はできますが?」

南部が意外そうにする。確かにWunderの単艦性能はあらゆる地球艦艇を凌駕する。1隻で基地の1つや2つ簡単に潰せる。

 

「確かに本艦の性能を持ってすれば容易く潰せる」

「ならば!」

「だが、如何にWunderの能力が高くても目の届かない場所はある。そこを航空隊と連携することで火力と索敵を相互に補うんだ」

 

「.......了解」

南部は若干不満そうだ。思えば主砲や副砲、ミサイルを撃つ時はテンションが若干上がっていた。

 

「Wunderは冥王星周回軌道に侵入次第航空隊を発艦、部隊をアルファとブラボーに分けて敵基地の捜索を開始します。航空隊の指揮は自分が執ります。航空隊発進後、Wunderは小惑星ニクスの周回軌道に入り、航空隊からの連絡を受け次第、Wunderは総力を持って敵基地の攻撃行動に移ります。作戦内容は以上です。式波中尉も航空隊として作戦に参加して貰う、乗機の方は?」

沖田艦長から説明を引き継いで一通り話し終わった古代が、アスカに声をかける。

 

「もちろん参加させて頂きます。乗機はユーロから持ち込んだファルコンのカスタム機があるので大丈夫です」

「カスタム機?」

ここまで黙って聞いていた加藤が興味を示す。

 

「コスモファルコンEURO2、ユーロ空軍の技術者がかなりの野心的構想で改造した機体です。操縦系が異常な程敏感で、あまりにも危険なので封印扱いを受けてしまった暴れ馬です」

一同「へぇ〜」っていう感じで聞いていたが、マリだけは青い顔をしていた。

 

(ええ〜、姫、事も無げに言ってるけどあれ乗っちゃうの?試験飛行で危なかったこと忘れた??)

 

そう、基本的にアスカ以外乗れないのだ。しかも受領したての頃はなかなか危なっかしい飛び方をしていた。今はなんともないが、マリからしてみればヒヤヒヤものだ。

 

でも、危険すぎて誰も乗れなかった機体に乗れることも彼女の誇りである。

 

 

「本作戦は戦闘艦橋特殊作戦指揮仕様にて指揮を行う。徳川君も指揮所に上がって機関の面倒を見てくれ」

「わかりました」

「では、これにて解散とする。解散!」

一同敬礼して緊張が解け各々の持ち場などに戻っていく。

 

「じゃあ、一応特殊作戦指揮仕様への移行を進めておこっか」

2人は自分たちの研究室に戻り、特殊作戦指揮仕様のプログラムの最終確認を始めた。

 

 


 

 

「これか……」

シュルツ司令が巨大な処理装置を眺める。それはコンピュータとして職務を全うするはずだったが、奇しくも兵器として運用されることなど誰も考えもしなかっただろう。

 

システムの中核をなす物体『イロウル』が蠢く。不定形な姿のイロウルは、あらゆる状況下に対して瞬時に適応し、あらゆるシステムに対して攻撃を仕掛けることがてきる。

 

裏を返せば、単純に制御システムを外付けしてもあっという間に侵食されてしまい、制御ができなかったのだ。

 

従ってガミラスの技術局は、イロウルを制御するために自律思考システムにスイッチを取り付けた。

そしてスイッチをOFFにする。こうすることで、イロウルはこちらからの命令を予め提起された方法を使って処理するようになった。

 

今回の作戦では、そのスイッチをONにして『受けた命令に対して、手段を選ばずに遂行する』ようにさせるのだ。

 

「シュルツ司令。まもなく、システムの解体及び積み込み作業を開始します。司令部にお戻りください」

 

ガンツが伝令を伝えに来たことに気がつき、シュルツは司令部に戻って行った。

 

 


 

 

Wunder航空隊は人数が多い。中には新人もいるが、ベテランパイロットも多く在籍する部隊だ。Wunderの目となり牙となり、ガミラスに対してやり返してやることが彼ら共通の考えだ。

 

実を言うと地球の戦闘機は、ガミラス製と比べると性能面では互角、もしくは地球が上回ってたりする。

しかし、地球では「空母を運用するノウハウが皆無」であり尚且つ「宇宙では、空母にもある程度の砲撃能力が必要」という縛りの影響で、これまでの戦闘では活躍する機会が少なかった。

 

あるとすれば、地球にやってくる偵察機を潰して回るくらい。

 

今回Wunderに艦載機が積み込まれた理由としては、あらゆる状況に対応するためである。そのために、全体的に性能は高くクセが少なく武装も結構積み込めるコスモファルコンに白羽の矢がたったのだ。

そしてやっと出番がやってきた航空隊の皆様は、自分の乗機のメンテを行っていた。

 

 

コスモファルコンγ.......

国連宇宙軍極東管区宙技廠とユーロ管区航宙戦闘機開発局が共同開発した局地戦闘機を、Wunder積み込みに合わせて改良した機体だ。

 

主な改良点としては、操縦システムに脳波操縦システム『インテンションオートマチックシステム』を組み込み、通常の操縦に脳波によるアシストを付けてある。

これにより、操縦桿では間に合わない回避行動も可能となり、従って機動力も向上している。

思考のみでミサイルのロックオンもやろうと思えば出来るが、操縦が疎かになりやすいので要注意である。

 

「はい、これがインテンションオートマチックシステムの概要ね」

赤木博士がタブレット型端末を使って、加藤にシステムの概要を見せた。

どうやら脳波操縦はあくまでサブで、メインは操縦桿であるようだ。

 

「操縦桿も併用するんですね」

「全部脳波で操縦したらパイロットの脳が持たないわ。例外が1人だけいるけど.......」

「例外って、式波中尉ですか?」

 

「あら察しがいいわね。あの子の機体にも同じシステムが付けられてるけど、ちょっと危険なシステムも組み込まれてるの」

「その危険なシステムって.......なんですか?」

加藤は恐る恐る聞いた。隠し機能とかが無い汎用性重視の機体に乗る以上、ヒーロー物によくある『危険なシステム』には惹かれるものがある。

 

「.......NT-D。Neo(ネオ) Triumph(トライアンフ) Dominator(ドミネーター)の略称で、機体制御を全て脳波で行い、機体をまるで自分の体のように動かせるの。でも身体への負荷が大きいから5分以内しか使えない」

 

「あなたが実装したんですか.......?」

加藤は正直驚いていた。そんな「人が部品になりかねない」システムが実装されてることが許されてる、もしそれを付けたのが赤木博士だったとしたら.......。

 

「いや、このシステムは私が付けた物じゃない。私が作った脳波操縦システムを元にしてユーロが独自に生み出した物みたいだけど、詳細は不明。私の権限じゃ分からなかったわ。おまけに人の思考を拾う妙な素材も使われてるし」

 

「とりあえず危険ってことはわかりました……」

 

加藤は思った。『危ない機体には乗りたくない』

 

 

 

 

その後、作戦概要の説明のため、航空隊は第1作戦室に集合していた。

「戦術長、1つ話があるんだがいいか?」

古代は、『お知らせ』の内容の察しがつかなかった。でもそれに対して許諾した。

「俺も航空隊全員に対して話があるんだ」

「??」

 

第1作戦室にはすでに全員集合していて、各々で話し合ったり騒いでいた。しかし、古代と加藤が入室してくるなり一気に静まった。

 

「では、本作戦の概要の詳細を説明する前に一つお知らせがある。本日付けで主計科の1名を航空隊に転属させることとなった」

一同騒めく。主計科から航空隊への転属は今まで聞いたことのない人事である。でもそれが現実に起こった。

「どうぞ!」

古代が合図すると、作戦室の入り口から白い髪の女性パイロットが姿を現した。

 

航空隊一同から声援が飛ぶ。紅一点の式波中尉に加えて、女性パイロットが増えたのだ。男性パイロット諸君のやる気も上がるだろう。

 

 

おっと、別にいかがわしい内容ではないぞ??

 

 

「航空隊に転属を命じられました。山本です。よろしくお願いします。」

なんとまあ、コスモゼロを乗りこなした山本が航空隊に転属ときた。

「玲……お前」

「あきら? 君、玲君じゃなかった?」

聞いていたのと名前が違う。『玲』で『あきら』と読むのか?

 

「ちょっと失礼します」

山本が一言断りを入れて、古代のタブレット端末を借りて、漢和辞典のアプリを起動した。

 

「これで、『あきら』って読みます」

ちゃんと『あきら』と読むようだ。

 

「このことは式波中尉の推薦と艦長の同意のもとにある。」

「ちょっと古代一尉! 内緒ですよそれ!」

アスカが少し膨れた顔で抗議する。そうだ。加藤に叱られた後、アスカと山本は、転属のことについて古代に話をしに行っていた。古代は、「立派な操縦技術を使わないのは惜しい」ということで2人を連れて、沖田艦長に直談判、沖田艦長も許可を出したというのが、この人事異動の背景だ。

 

「いやぁ~あの式波中尉が認めたんですね~。女性パイロット同士で対決しますか?」

「俺は式波中尉に1票」

「いや、山本に1票」

「お前ら静かにしろ!」

加藤が一喝したことですぐに静まった。

 

「本作戦の説明を行う。Wunder航空隊全機発進後、部隊をアルファとブラボーに分ける。アルファは僕と山本。ブラボーはコスモファルコン隊だ。式波中尉もEURO2で、ブラボー隊に加わってくれ。」

 

「了解です。古代1尉」

アスカはウスウズしていた。それもそうだ、EURO2で初めて宇宙を飛ぶんだ。シミュレーションで何度も行ったが、実機は初めてである。

 

「この中には、ガミラスとの戦争で家族を亡くした者も居るだろう。だが刺し違えようなど決して思うな。生きて帰ってくることが勝利の絶対条件だ!諸君らの健闘を期待する。」

一同敬礼、そして解散していく。

 

「それで、話って?」

古代が聞くが、加藤は、

「いや、もう済んだよ」

微笑みながら去っていった。

 

 


 

 

「積み込み作業、完了しました!」

1人のザルツ人士官がシュルツに報告を上げる。

有機演算コンピュータシステム『イロウル』は、デラメア級を急遽改修した改デラメア級高速ステルス輸送艦に載せられた。

これで作戦のコマは全て揃った。

 

反射衛星砲で物理的に攻撃、イロウルで内部的にも攻撃を仕掛ける。

 

イロウルに与える最初で最後の指令は『攻撃対象 テロンの超大型戦艦』『作戦内容 ヴンダーの撃沈』だ。

 

司令部で全ての準備が完了した旨を聞いたシュルツは、冥王星前線基地全施設に命令を飛ばす。

 

『総員に通達、第一種戦闘配置! これより冥王星前線基地は、テロンの超大型戦艦ヴンダーの撃沈作戦を行う! 反射衛星砲準備! 改デラメア級発進用意! 作戦コードは.......不死鳥狩りだ』

 

 

今ここに、ガミラスの不死鳥狩りが始まったのだった。

 

 




サ○コフレーム搭載wwNT-Dwwインテンションオートマチックシステムwwチート戦闘機の完成ですww
アスカはワンオフ機体に乗ってます。コスモファルコンに1つ個性をつけたかったのでアスカの機体はヤバい試験機って事になりました。
特別を求めるアスカなら乗りそうですし、何よりそれに乗れる事が彼女の自慢ポイントとなるでしょう。
ちなみにEURO2という機体名は、エヴァANIMAのユーロのエヴァの名前から取ってます。✌️


次回、メ2号作戦発動です。ガミラスでも不死鳥狩り作戦が発動しました。作戦コードは『神殺し』にしたかったんですが、それはドメル中将にやってもらいましょう。
『神殺しの艦隊』.......かっこいい!テンション上がります!

ドメル中将「全艦発進せよ、これより作戦を開始する。作戦コードは……『神殺し』だ」

ではでは失礼致します(*´∇`)ノシ


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バベルの光と恐怖の天使

イロウル君がんばれww

ついに航空隊の話が書けます。テンションちょい高いです。




「艦の主制御を戦闘艦橋に移行開始。座席ロック解除。ヒルムシュタムタワー移動開始。」

 

航海艦橋の座席がアームによって持ち上げられ、戦闘艦橋に上昇していく。ただ今回は座席のみならず、航海艦橋の備え付け計器類も一緒に上昇していく。

オマケに座席は分割せずにそのまま上昇、床に格納されていた手すりが起き上がる。

 

つまり、航海艦橋の設備を丸ごと戦闘艦橋に移したということだ。これでは真下が死角となってしまうが、床を電圧をかけて構成素材の組成を変化させて透明にしてあるので問題なしだ。

 

「シークエンス終了。指揮系統を戦闘艦橋特殊作戦指揮仕様に移行完了しました」

真田が沖田艦長に報告する。ハルナとリクが準備していたのはこのプログラムである。元々Wunderの艦橋に備え付けられていたシステムであり、プログラムの調整が少し残ってたのだ。

 

「まもなく、艦載機発艦ポイントに到達します」

森がレーダーに表示されている艦載機発艦可能ラインに入ったとこで、沖田艦長に報告を上げた。

 

「うむ、艦載機発艦開始。隼を下ろせ!」

 

沖田艦長の命令によって、Wunder両舷第2格納庫に搭載されているコスモファルコンが発艦準備にかかる。

第2格納庫真下のハッチが解放され、格納庫内のドラムが回転する。

 

機体の乗った駐機パネルが射出口に到着すると、射出レールに機体が移動してリニアレールで宇宙空間に射出される。

「100 加藤、発艦する!」

加藤専用カラーのコスモファルコンも発艦していく。ファルコンのペイントはある程度操縦者の意向が反映される。例をあげれば、機首にサメの口を描いたりしている者もいる。ちなみに加藤機は灰、白、赤色をメインにして、垂直尾翼に『誠』の文字がペイントされた『落ち着いたカラーリング』である。

 

「EURO2 式波行きます!」

ユーロの狂騒の産物であるEURO2を駆るのはアスカだ。EURO2は白を基調として所々に赤色のラインが入っている。

そしてこの機体には機銃が機首に左右2門ずつ搭載されている。

垂直尾翼にはドイツ語で2と描かれている。

なお、今回の任務にあたり、赤木博士から「NT-Dは使わないように」と念を押された。

 

そして、第1格納庫でもコスモゼロの発艦シークエンスが進められていた。

 

第1格納庫のゲートが開き、まずはゼロを艦外に出す。そしてリフトでアップされてコスモゼロ発艦用カタパルトに固定される。

 

『古代戦術長、転属の件、ありがとうございます』

発艦前に山本が無線で感謝を伝える。彼女の乗機は機首が橙色をしたコスモゼロ2号機だ。古代の駆る1号機は機首が赤色だ。

 

「エンケラドゥスで見せた腕を買ったんだ。死ぬなよ、山本」

「はい」

『コスモゼロアルファ1アルファ2発艦せよ』

第一格納庫の航空管制室から発艦命令を受諾して、気を引き締める。

「アルファ1ラジャー Cleared for take off 」

「アルファ2ラジャー Cleared for take off 」

カタパルトがコスモゼロ二機をリニアで射出する。宇宙空間に解き放たれたゼロは、後部のエンジンノズルを唸らせて艦首方向に勇ましく発艦していった。

「航空隊全機、発艦しました」

あれだけ大量の戦闘機が発艦したのに敵は音沙汰なし、何の反応もない。

 

「静かすぎる、ほんとにここは敵地なのか?」

「敵さん、こちらにビビッて逃げてしまったんじゃないのか?」

「いや、この静けさは寧ろ脅威を感じる」

敵地が静かということは「逃げた」か「待ち構えている」のどちらかというのが歴史が証明している。

それは人類同士ではなく異星人との戦争でも証明が可能なはずだ。

そして、それを証明する機会は、思ったより早くやってくるのであった。

 

 


 

 

「これより電波管制を実施する。各機体での通信を敵基地発見時と緊急時を除き遮断する。各機、状況に応じて暗視装置を使用し、敵基地を捜索せよ。では、健闘を祈る」

『了解』

 

航空隊間で通信が遮断された。以後、緊急時を除いての通信が不能となった。

部隊はアルファ隊とブラボー隊、二手に分かれている。対してガミラスの基地と思われる熱源反応は十数か所。しかも、「熱源反応が観測されただけ」なので、その反応が無人施設のものだったりすることも必ずあるだろう。最悪なのは、その反応が偽物の反応だったということだ。

偽ということはそこに戦闘機殺しのトラップや迎撃兵器が設置されていることもありえなくはない。ガミラスの技術力がまだ完全に判明していない点も含めて全面的に警戒しなければならないが、機体操縦と索敵に集中している以上それらすべても警戒するのは無理だ。

 

従って、航空隊を2チームに分けた。そして決して一人にならずに最低限2人以上で飛行する。

こうすることで単独飛行の危険性を潰して、索敵精度を上昇させる。

 

「SID、冥王星地表面の熱源反応をマップに重ねてくれ」

《コマンド認証しました。ガミラスの施設と推定される熱源反応を、地図データにリンケージしました。》

 

(改めてみると多いな……これ全部が基地か、それともブラフか)

 

考え事をしながら操縦をすることは本来危険ではあるが、ここは戦場、敵地なのだ。索敵の目を光らせて考えながら飛ばないといけない。そんな古代の視界の端に、一つの閃光が灯った。

 

「なんだ?」

 

 


 

 

時は少しさかのぼり、Wunderは航空隊を発艦させてから冥王星の衛星である二クスの周回軌道を飛んでいた。見た目は悠々と飛んでいるが、艦内ではピリピリした空気が充満していた。まさに、「ただいま作戦行動中」である。

 

そこに、一筋の光が艦を揺らす。

 

 

ガガガガガァン!

 

 

「どうした!」

左に傾いた船体を修正しながら島が森に聞く。

「敵からのロングレンジ攻撃です! 発砲箇所はこちらの射程圏外からと思われます!」

「損害は?!」

「波動防壁で受け止めてギリギリまで減衰させましたが貫通されました。右舷第五装甲版に一部損傷を確認」

「発射点の特定を急ぐんだ。波動防壁はどうか?」

「右舷の被弾箇所以外は健在です。しかし、波動防壁を突き破るほどの攻撃をガミラスが行うとなれば、いくら波動防壁があったとしても、危険極まりないかと」

 

波動防壁、次元波動理論の応用で完成したWunderの盾で、実弾やビーム攻撃問わず、耐久力の限り攻撃をシャットアウトする防御兵装である。しかし、有効時間は20分で、戦闘が長期化した場合防壁消失によりこちらが不利になる。先程のように、強力な攻撃を受けて突破されることもある。

 

 

「解析室より通信です」

Wunder解析室から通信が入り、赤木博士とマリが通信ウィンドウに移る。

「艦長、先程の攻撃は、左舷10時の方向から行われたものです。しかし、その方向は宇宙空間です。普通、大型の砲台を運用するならば地上に設置するのが普通です。なのに攻撃は、装甲への入射角から考えると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。至急冥王星上空を確認するため、この艦の観測システムを使わせてもらえないでしょうか?」

つまり、敵は何らかの方法を使って、地上以外の所から撃ってきたということだ。

 

「許可する。真田くん、本艦の観測システムの使用権限を解析室に回してくれ」

「わかりました」

真田の操作によってWunderの観測システム及び、大型アレイアンテナの操作権限が解析室に移譲された。

「奴ら、一体どこから撃ってきたんだ?」

南部がイラついた雰囲気で呟く。

「それが分からないから調べるんだよ。艦長、いざと言う時はアンノウンドライブの斥力子で敵のロングレンジ攻撃を逸らします、こちらで準備を始めます。ハルナ、手伝って欲しい」

「分かったわ。でも、方角が分からない以上、全方位に重力変動を作らないとダメよ。MAGIとアナライザーに手助けしてもらわないとムリ」

『オ手伝イシマショウカ?』

アナライザーがまるで分かってたかのように手助けを買って出る。

「助かるわ、少なくとも直撃は避けたいから急がないとね」

 

「小惑星二クスの軌道から離脱を開始、射線を切るんだ」

沖田艦長の指示でWunderは軌道を離れて推定される敵の射程から離れた。

 

 

 

 

「攻撃は宇宙空間から放たれた。しかし、あれだけのエネルギーを撃つなら通常のガミラス艦艇の光学兵器では恐らくムリ、それは浮遊大陸で証明済み。大出力砲搭載艦? 有り得るけどそれなら熱反応でバレる。じゃあどうやって?」

 

赤木博士はコンソールを恐ろしい勢いで叩きながら考え続けていた。どうやって大出力ビームをこちらに撃ってきたのか? 波動防壁の被弾経始圧を、一部分とはいえ完全に削り取ったその攻撃は、恐らく現在まで確認されているどのガミラス艦でも不可能だ。

 

新型艦?? それとも大出力の砲兵器??

 

自分は研究職だが、艦船建造にも関わった。その時の知識を総動員しながら「あらゆる可能性を」予測した。

 

「赤木博士、観測結果が出ました! 本艦を中心として半径250キロ圏内に大型砲艦の存在は確認出来ませんでした。しかし、冥王星静止衛星軌道上に異常な個数のデブリが観測されています」

 

「デブリ? 元からあったものじゃないの?」

 

「ガミラス侵攻前の冥王星有人探査では、小惑星とその他デブリの観測が行われて詳細な個数が記録されましたが、先程観測した個数はそれを3倍程上回ってます」

 

「……そのデブリを光学観測出来る?」

不自然にデブリが多い事にヒントを見出した赤木博士は、一見観測データでは変哲もないデブリに焦点を合わせた。

そして、援軍も呼ぼうと考えた。

 

「こちら解析室です。真田くん、あなたもこっちに来てくれる? 意見を聞きたいわ」

 

『……分かりました。新見くん、あとを頼む』

『はい』

 

 


 

 

真田は戦闘艦橋から出て解析室に向かった。普通、戦闘艦橋は密閉されるので出ることは出来ない。しかし、戦闘中でも外へ出るためと、『緊急時に脱出するため』の非常出入口を設計に組み込んでいたため問題なしだ。

 

仕組みとしては球体上の戦闘艦橋の一部、人1人が通れるくらいの幅で液晶が消えて、消灯した液晶が上へスライドしてシャッターが上へ開くことで外に出られる。

 

 

「赤木博士、なにか分かったんですか?」

「まだよ、でもヒントみたいなものは見つかったよ」

「ヒントですか、やはり彼らは何らかのカラクリを使ってビームを撃ってる様ですね」

 

「そのカラクリのヒントがデブリにあるみたいなの。冥王星有人探査の時より圧倒的にデブリの個数が増えているの。まだ仮説の域を出てないけれど、あれは恐らくガミラスの衛星よ」

 

「……まさか、ビームを中継している?」

「どこかから発射されたビームを鏡みたいに反射して当てているってこと? 普通なら有り得ないけど、敵の力が分からない以上有り得るわね」

 

「御二方! デブリの画像が出ますよ!」

1人熱心に観測を行っていたマリが声をだいにして伝える、2人ご覗き込むスクリーンには、異形の人工衛星が映っていた。

 

 

「これが衛星?」

「やっぱりあのデブリは衛星だったのね」

「問題は機能ですが、どうやら衛星本体に稼働軸がありますね」

 

映った衛星の姿は真緑の大根の様な姿をしていた。スラスターの様なものは確認できたが、機能までは確認できない。

しかし推察なら出来る。

 

 

「真田くん、マリ、あの衛星が稼働したらどんな形状になると思う?」

「稼働軸が確認できただけで2箇所、反対側にも同様の物があるとして合計4箇所。恐らく傘を広げたような形状になると思われます」

 

「おやおや? 私と同じ考えだね〜」

マリも同じことを考えていたようだ。

「しかしあれほどの大出力ビームを弾くのは難しいわね、なにかバリアのようなものを張るのかしら?」

 

「んにゃ〜! 考えるとキリがないにゃ!」

 

「とにかく、あの衛星が冥王星宙域に大量に配置にされていたら、冥王星全体が射程圏内ということになる」

「つまり、ミサイルで衛星を潰していかないといけないのかにゃ」

ごもっともな意見である。すなわち近くの衛星を潰していけば、こちらに射線が届かないということだ。

 

「それもそうだが、砲台を潰さないとそれは一時の対処にしかならない。航空隊の報告がない限り、うかつには動けない」

 

「んにゃあ……」

 

 

そして、二度目の激震が艦を襲った。

 

 

「んにゃあ!!」

 

「艦橋! 今度はどこからだ!」

真田が通信回路越しに艦橋に呼びかける。

 

「右舷後部に被弾!」

船がどんどん傾いていく

 

「まさか、冥王星の重力に捕まった?」

敵地に引き寄せられていく船は、氷結した湾に落ちていく。

 

 


 

 

「エンジン出力低下!! 冥王星の重力圏に捕まっています!」

 

「島! このまま冥王星湾内に向かえ! 船体傾斜! 左舷45度! 足だけは絶対に止めるな!!」

 

「りょ、了解!!」

エンジン出力が下がっても舵は効く。Wunderは冥王星に降下しながら船体を左側に傾け、『氷結した湾を左翼で削る形で』飛び始めた。

 

「以後、船体を傾け主翼を用いた高機動反転を行う。敵に軌道を読ませたら終わりだ。」

 

「沖田艦長、ヤバい……、一応主翼はこんなことでは傷一つつかないけど」

リクがちょっと青い顔をしている。決して酔ったわけではないが、正直言ってこの船をこんな風に運用することは二人とも想定してないのだ。

 

「北米管区さんが精魂込めて主翼作ってくれなかったらさっきので若干不具合起こってたわね」

 

 

《回想》

 

 

「完成したんですね! 主翼!」

 

「何とか完成しましたよ。エプシロン社さんに特殊装甲の技術を教えて貰ってそれを主翼の素材に追加しました。耐熱、耐衝撃に強い翼ですよ」

 

「えっ、カイン社長が?」

 

「緊急時として、彼が技術情報を一時的に開示したの。宙帝さんにもよ『一番重要なパーツだから良い素材使わないとね』って」

 

「カイン・アルトス.......どこまでも心強い男だ」

 

 

《回想終了》

 

 

「解析室より通信です」

相原が通信を開くと赤木博士の声が一番に聞こえてきた。

 

『沖田艦長、敵は恐らくこちらの位置を完璧に把握しています。そしてこの攻撃は恐らく冥王星全体が射程圏内になっていると思われます』

 

「そんな! 敵はどうやって冥王星全域を射程圏内にしているんですか?!」

艦橋メンバーはどうやら大出力砲が何か所にも配備されているのだと思っていたようだ。

 

『まだ正確にはわかりませんが、恐らくガミラスはこの人工衛星を使ってビームを中継していると思われます』

次に表示されたのは冥王星周辺のデブリの分布図、そしてガミラスが使用しているものと思われる人工衛星の光学映像、そしてその衛星が変形した時の予想外見図だ。

 

『観測の結果、冥王星有人探査時に観測されたデブリの個数を3倍近く上回っています。これら全てが敵の衛星とするならば、実質我々はどこにいても狙撃されます』

真田が残念な事実を伝える。これまで二度も攻撃を受けてしまったのは、敵がこちらを観測して、適切にビームを反射して当ててくるだけの技術があるのだ。

 

 

『ですが、防げないわけではありません! 衛星の存在が判明した以上それらを潰していけば、一時的な対処にしかなりませんが、敵が選択できる衛星を減らすことで敵にとっての死角を作り出せるはずです』

マリが希望を伝える。中計地点を減らしていけば敵も狙えなくなるのだ。

 

『どうしようもない』わけではない、対処方法があるならばそれを実行していくだけだ。

 

「ご苦労だった。船体傾斜復元! VLS1番2番に対空迎撃ミサイル装填、敵衛星の分布図を入力!」

沖田艦長の指示で反抗に動くWunder。船体を、湾に対して垂直にしていた状態から元に戻してVLSに対空ミサイルを装填する。

 

「目標、本艦上空敵衛星。数6、距離120キロメートル!」

 

「対空迎撃ミサイル、発射!」

第2船体主砲付近のVLSから対空迎撃ミサイルが発射された。放たれたミサイルは、それぞれ設定された目標に向かって飛翔していく。衛星には自衛兵装が存在しないらしく、そのままミサイルの餌食となった。

 

「目標の消滅を確認しました」

森がレーダーから目標の衛星が消えたことを報告した。

 

『こちらも光学で観測していましたが、爆発時に衛星のものと思われる破片が攻撃箇所6か所全てで確認できました。ビンゴですね』

観測室からも確認していたようで、破壊したのは確かにすべて衛星だったようだ。

 

 

「うむ本艦は衛星カロンの周回軌道から敵衛星の掃討を開始する。目標個数が半分に達したのち、Wunderは再度冥王星に侵入する」

 

Wunderはミサイルとショックカノンを放ち、航空隊の進路を邪魔しないように衛星を潰し始めた。

 

 

 


 

 

 

『思ったより早く気付いたな、テロン人め』

シュルツの目の前のモニターには冥王星宙域全体に配備されている反射衛星の位置が示されている。

そして「衛星がロストしたこと」を示すバツ印が点在している。それは現在進行形でじわじわと増えていく。

 

「作戦第二段階に移行する。奴らが反射衛星に夢中になっているすきに、改デラメア級を敵艦に接近させろ」

「ザーベルク!」

 

シュルツは、とある文章を呟いた。それは故郷であるザルツの神話の一説である。

 

「神は、災いを振りまく不死鳥に病を与えた。死に至る病、そして……」

 

「『創世記神書第37章第6節』ですね。久しぶりに聞きました」

ヤレトラーが懐かしむようにその一説を聞いていた。ガミラスに併合されてから、デスラー総統を崇拝するように強いられてきたため、かつての文化を楽しむ余裕がなかった。

 

「あの船を見てから、どうしてもこの一節が頭の中を回っていてね。作戦コードを『不死鳥狩り』にしたのもそれがあったからだ」

 

「なるほど」

 

「改デラメア級、敵艦に接近します」

 

「わかった。では、死に至る病を送るとしようか」

作戦第二段階、イロウルによる「ヴンダーのシステムジャック」で確実に落とす。

シュルツは、まだ早いと思いながら、「勝ち」を確信していた。

 

 


 

 

ショックカノンが火を吹く。ミサイルが流星群を成す。

人工衛星という小さな目標にめがけて放たれた怒涛の狙撃と山のようなミサイルは、的確に衛星を潰していく。

 

それは力の流星となって冥王星の空を彩り、他の力を壊していく。

 

「敵衛星排除率、現在11%です。今現在Wunderを射程にできる衛星は、残り5機です」

猛烈な砲火によって今Wunderを射程にすることが可能な衛星は5機にまで数を減らした。

 

「よし、これより降下する」

「了解、冥王星に再降下します」

 

Wunderはもう一度冥王星に侵入していくが、

 

「艦長本艦の真下に小型艦艇を確認!」

「?!」

それは至近距離にいた。ステルス艦ゆえに、レーダーでは探知できなかった。その艦艇は中央構造物に接舷した。

そしてすぐさま飛び去った。

 

「敵艦、離脱していきます……」

「敵さん、何がしたかったんだ?」

南部が、去っていく艦艇を不思議そうに見ていた。そして異変はすぐに起こる。

 

ヴィー!ヴィー!ヴィー!

 

けたたましい警報音とともに、全周スクリーンにノイズが走る。

 

『緊急警報、MAGIシステムファイアウォールに不正アクセスによる接触を確認。ファイアウォール侵食率、22%』

 

「「??!!」」

 

誰も予想だにしなかった状況に一同騒然とする。

「リク! ハッキングはどこから?!」

「今調べる! ハルナ何とかせき止めて!」

「わかった!! 相原さん!! 解析室につないで!!」

「繋ぎます!」

MAGIはこの船を支える重要なシステムだ。それが何者かに攻撃されている。

2人は斥力防壁の構成を一時中止してハッキングの対処を始めた。怒涛のコンソール操作で全周スクリーンにウィンドウが沢山表示される。

 

 

「赤木博士!」

『ハルナさん?! 状況は?!』

「それよりMAGIの管理用アクセスコードください!! 時間がありません!!」

『わかった、転送するわ! 私たちはMAGI見てくるわ!!』

 

「現在逆探知を行っていますが、論理回路がおかしい、こちらの技術ではない!」

「ってことはガミラスか?!」

島が驚きながら聞く。先程一瞬接舷してきたのはガミラスのサイバー攻撃だったと思ったからだ。

 

「いいやガミラスでもない!! 真田さんが言っていたけど、エンケラドゥスで鹵獲したガミロイドを解析した時、システム構造上は僕らが作るAIと同タイプだった! つまり、僕ら地球人とガミラスは同じ数学と科学を理解する生き物! コンピュータとかに使う論理回路も必然的に仕様が酷似する! でもこのハッキングに使用されている論理回路は異常そのものだ!! これは仮説だが、ヒト型生物以外がハッキングしている可能性がある……!!」

 

リクがコンソールを叩きながら怒鳴るように説明する。腕が何本もなければ不可能な速度でタイピングして逆探知をする彼の額には汗がにじんでいた。

ハルナも同じだ。ハッキングをせき止めるのも逆探知なみに大変なはず。今はファイアウォールを何十層にも張り続けているが、いつ決壊するかもわからない。

 

「逆探成功しました!! これは……アンノウンドライブからです!!!」

「「なんだって!!」」

 

一同騒然とする。

 

そして……艦が大きく傾く

「ファイアウォール一部損壊!! MELCHIOR(メルキオール)にハッキングを確認! 管制システムに侵食!!」

「レーダーに偽反応多数!!」

「舵が!」

「ヤバい……艦長!! メインシステムからMAGIを切り離す許可を!!」

「……! 構わん、強制解除だ!」

ハルナが管理用アクセスコードを打ち込んで管理用画面を開き、MAGIと船のシステム接続を完全に切り離した。

「接続解除確認! 本艦の管制システムをマニュアルモードに移行します!」

 

MELCHIOR(メルキオール)がリプログラミングされました! ……え! BALTHASAR(バルタザール)に侵食確認!」

「くっそ……二人がかりでも無理だ! 抑えられない!!」

 

 

 

しかし、その時侵食が急に遅くなった。

 

 

 

「え……遅くなった?」

 

『間に合ってよかったにゃ~MAGIの計算速度と侵食スピードが比例していることに気付かなかったらアウトにゃ』

マリさんがくたびれたかのように伸びをしながら通信ウィンドウに映り込む。

『二人ともよくせき止めたわね、おかげでこっちで応急処置ができたわ』

「赤木博士、何をしたんですか?」

マリと赤木博士の後ろには、メンテ用のハッチが開放されたMAGIシステムBALTHASAR(バルタザール)が映っていた。

BALTHASAR(バルタザール)をロジックモードにしてシンクロコードを15秒単位にしたの』

『とまあ、これで進行が遅くなった。2人とも、MAGIシステムの格納エリアに来てくれ。反撃するよ』

危機的状況の中、不敵に笑う真田が2人をMAGIシステム格納エリアに呼んだ。

そのまま2人は戦闘艦橋から非常口で出て、MAGIシステム格納エリアに向かって行った。

 

 


 

 

その頃冥王星前線基地ではWunderの光学観測が行われていた。

『観測所から入電、不死鳥は病魔に侵された』

『成功ですな、シュルツ司令』

冥王星前線基地では、作戦第2段階の成功を確認した事で基地要員の士気も高まっていた。

 

『作戦第3段階の準備を急げ、次は中継衛星をランダムに選択して射角を読ませるな。ヴンダーが、まだ衛星が存在するエリアに侵入次第、第3段階を開始する』

 

『ザーベルク!』

 

 

 

 

 

創世記神書第37章第9節

不死鳥は神殺しが降らせた光の矢に射抜かれ燃え落ちた。その灰から蘇ることは2度となかった

 

 

 

 

作戦開始から30分、Wunder航空隊は2機1組で敵基地の捜索を行っていた。

 

「なぁ〜根元、あの山本ってルーキー結構イケてない?」

 

SID《現在通信管制中です。通信は出来ません》

 

「そう固くならんくても〜」

そう言って艦載機搭載コンピュータに茶々を入れるのは航空隊の篠原弘樹だ。かつて、空間防衛総隊の火星方面軍に所属していた彼は、若手からは「篠さん」としたわれる人柄のいい人物だ。

 

(さて、この近辺の基地はここから2時の方角か)

 

行ってみるか……

 

篠原は、僚機にハンドサインで進路変更の旨を伝え、基地があると思われる方向へ向かって行った。

 

 

 

 

「こいつがハッキングしたのか」

「未確認のアメーバ状生物。仮説だけど、異常な環境適応能力と急速進化が可能と思われるわ」

 

「そうでもなければMAGIのハッキングなんて無理にゃ」

そう呟きながら技術屋&研究屋の5人は、モニターに映る未知の生物を見つめていた。

画像はWunder中央構造体、アンノウンドライブの一部分。敵の小型艦隊が一瞬接舷した箇所だ。

 

 

「しかし、この生物電子回路の様な文様が出てるわね、しかもこちら側の技術の」

 

「MAGIに触れて理解したのかも」

 

「ぎゃー!MAGI汚くなったじゃん!」

 

「そ!れ!よ!り!も!、どうやって対処するんですか?」

ハルナが珍しく声を荒らげる。

シンクロコードを15秒にしたとはいえ、侵食は止まってないのだ。早急に対応しなければMAGIが全部乗っ取られる。

 

「むむむ〜、ここは京大時代の先輩の知恵を借りますか!」

ここでマリが閃いた。彼女は元々、京都大学で形而上生物学を専攻していたのだ。『それ』で今回のハッキングをどうやって対処するのか、ハルナとリクは見当も付かなかった。

 

「どうするんですか? 相手は進化するんですよ?」

「その進化を極限まで促進してやるのだ! 進化の終着点は死そのもの!」

「そういう事ね、自己進化促進プログラムを送り込むのね」

「プログラムで攻撃か、我々らしい戦術じゃないか」

 

ここまで来て2人もようやく理解した。要するに、敵を進化させまくるプログラムで殺すという事らしい。

 

「作戦はCASPER(カスパー)を使用して行うわ。皆、至急準備を始めるわよ」

 

「「了解!」」

4人揃って赤木博士に敬礼をする。マリは少し遊び感覚でやってるようだ。

 

「あら、私軍属だったかしら?」

「雰囲気だにゃ!」

作戦前に和むチート技術屋集団なのであった。

 

《数分後……》

 

『Caution .The secret area of the MAGI system 3rd unit "Casper" will be opened. Please be careful of the staff in the vicinity』

(注意。 MAGIシステム3rdユニット《CASPER(カスパー)》の秘匿エリアを開放します。付近の職員は十分注意してください)

 

警告音とともにCasperがせりあがってすくる。無機質で巨大な筐体の下には、おびただしい数のLEDを点滅させ、到底人知の及ばぬ速度で煩雑な計算を続けるCasperの計算ユニットがあった。

 

「これがMAGIシステム……」

「私も下の部分は初めて見たけど、こんなになってるんだね~」

どうやらマリも初めて見たようだ。

 

「MAGIシステムは秘匿技術の塊でね、おいそれと他の人に見せてはならないの。母さんの作ったオリジナルMAGIもそうなの」

 

「確か、このシステムの開発者は赤木ナオコ博士だったかと」

真田さんが思い出すように言葉を紡ぐ。

赤木ナオコ博士、MAGIシステムの開発者で、世界的なコンピュータ技術の科学者である。

MAGIシステムは、開発者の人格を三つの面に分けて、それぞれをユニットにしている。

この場合科学者のしての自分をMELCHIOR(メルキオール)、母親としての自分をBALTHASAR(バルタザール)、女としての自分をCASPER(カスパー)としてユニット化している。

 

それぞれ異なる思考「対立思考」となっているので、人間特有のジレンマを再現して「合議」という形で計算結果、思考結果をはじき出す。

 

 

「でも、あなたたちなら問題なさそうね」

カバーが一部取り外されて現れたのは十数個の接続端子とMAGIシステム内部に入れる穴だった。

 

「あとはこれね」

そういって赤木博士は近くの作業台から分厚いファイルを持ってきた。

「これは何ですか?」

リクが興味深そうに見る。

「これは、MAGIシステムの裏コード集よ。元々国連に置いてあるMAGIのオリジナルには『これ』の原本として、システム内の通路に裏コードのメモ書きが大量に張り付いてるの。これはそのコピーよ」

 

「こんなにあるんですか?!」

ハルナがその裏コード集を読み漁りながら興奮する。

リクもハルナもコンピュータに関しては相当な心得があるが、隠しコマンドなどにはどこか疎いのだ。しかも隠しコマンドとかは単純に言ってロマンがある。

 

リクの目はキラッキラである。

 

「まさに、MAGIの裏技大特集だね」

「これほどとは……」

真田も驚きを隠せない。

 

「そして、これを使えば短時間でプログラムを組み終えることが可能だし、敵よりも一歩早く自己進化促進自滅プログラムを送り込めるわ、作戦上、CASPER(カスパー)を敵にダイレクト接続しないといけないから時間との勝負になるわ」

 

「私たちも作成に加わります」

 

「頼むわ、私はCASPER(カスパー)にダイレクトに接続して敵へのクラッキングプログラムを作るわ。真田くん、サポートをお願い。マリとハルナさんとリクくんは自滅促進プログラムをお願い」

 

「「「わかりました!!」」」

 

航空隊とWunderに続く第三の戦場がここに生まれたのであった。




反射衛星砲、発射ー!
赤木博士とマリがいなかったら反射衛星に気づかなかったかと思われます。
ちなみに、作中に登場する『創世記神書』は、惑星ザルツに伝わる聖書の様なものです。

文明があるなら特定の神を崇拝してるだろうと思い、今回ザルツの宗教神話として付け加えてみました。

災いを振りまく鳥と言ったら、地球の宗教神話上ではフェネクス(不死鳥、ソロモン72柱の悪魔)で、ガンダムUCでも出てきます。金ピカカッコイイです。


さて、艦艇解説の方に「改ゼルグート級」を出しました。改ゼルグートに搭載された「100cm大口径陽電子カノン砲」の設定がまだ正確にできてません。そもそも口径の時点で「大きいのか小さいのか分からない」ので、SFアニメ二詳しい識者の方々、本兵装に対して意見いただけないでしょうか?


さて、次の話では冥王星前線基地をボコります……!

(^-^)/ではでは




追記 4月28日
とんでもない間違いをしてました。重力子では防げませんでした。陽電子は地球の重力に引き付けられるので、余計危ないです。ただ、斥力子なら「反重力」なので、いけるかもしれません。

そこを修正しました。


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ヒトの力

2話分の内容がぎゅうぎゅう詰めです

メ2号作戦終結です。
ここで、主がやりたかったことその2をやります


科学考察を行った部分がありますが、もしもわかりにくい部分があれば、訂正を行います。


 タイピング音が響く格納エリアは無機質な空間だ。MAGIの巨大な筐体と備え付けのコンソール、明かりくらいしかない。そんな寂しい空間で戦いを繰り広げるのがハルナとリク、真田、マリと赤木博士だ。

 

 敵に攻撃を受けたMELCHIOR(メルキオール)BALTHASAR(バルタザール)を正常化して、侵入してきた敵を倒すための「自滅促進プログラム」を作成中だ。

 

「マリさん。聞いてもいいですか?」

 

「ん~。何にゃあ?」

 

「マリさんの先輩ってどんな人だったんですか?」

 技術屋たちの戦闘開始から20分、自滅促進プログラムが少しずつ形になり始めたころにハルナが口を開いた。シンクロコードを15秒単位に設定してあるとはいえ、BALTHASAR(バルタザール)侵食まであと1時間半。あまり時間がないはずだが、プロが三人集まれば仕事も早い。こうして余裕もできるものだ。

 

「私の先輩の話か~。まだ遊星爆弾が落ちる前、8年前くらいかなあ。私は飛び級で京都大学の形而上生物学研究室ってとこにいたの。全ての生物は神によって作られたっていうことが前提になっている学問ね。そこにいたのが冬月コウゾウ教授と碇ゲンドウくん、そして私の先輩にあたる綾波ユイ」

 

「そのユイさんってどんな人だったんですか?」

 リクが気になって続きを求めた。

「何~? 気になるの~?」

「そういう意味で言ったわけじゃ……」

「あれ? 誰もそういう意味で言ってないよ。あれ~リク君、も・し・か・し・て?」

 

「ちがいますよ!!」

 まんまとマリの罠に引っかかったリクは、顔を少し赤くして膨れた。

 

「アッハハ、めんごめんご。そうねえ、ユイ先輩は一言でいえば変わった人だったわね。多分京大で一二を争ってもおかしくない頭脳だったけどどこか抜けててたまにドジをする。京大一の気難しい人であったゲンドウ君を『可愛い』とか言っていたね」

 

「なんか面白そうな人ですね。会ってみたいです」

「残念だけど、もう会えないの」

 

「??」

 

「ユイ先輩は、国連の計画に召集されたとか言って、それから94年に、亡くなったという報告が来たの」

 その事実を語るマリの顔は少し暗かった。いつも通りの笑顔をしているが、どこか影がかかったようだった。

 

「でも、暗くなってても良いことないよ、前を向いて歩かないとね。『幸せは~歩いてこない♪ だから歩いてゆくんだね~』っていう歌があるみたいにね」

 

「それ、『365歩のマーチ』ですよね。だいぶ昔の曲ですけど」

 ハルナもこの曲を知っていたようだ。

 

「どんな曲??」

 その歌を知らないリクが興味を示した。

「じゃあ歌ってみるね、ハルナっちも歌ってみてよ~」

「わかりました」

 

 

『幸せは~歩いてこない♪ だ~から歩いてゆくんだね♪』

 2人のソプラノボイスが無機質な格納エリアにこだまする。

 

『一日一歩♪ 三日に三歩♪ 三歩進んで二歩下がる♪』

 2人の息はピッタリ、2人からは見えてないが、MAGIシステム内部で作業をする赤木博士と真田も聞き耳を立てて聞き入っていた。

『人生はワン・ツー・パンチ♪』

「こんな感じね。どうだった?」

 2人の歌は透き通ったきれいな歌声となった。これを艦内放送で流してもいいのではと思ってしまったリクなのであった。

 

「明るい歌詞ですね。それより二人とも、歌が上手……」

 リクは素直な感想を口にした、それが思いのほか2人には嬉しかったようで、

「んにゃあ、照れるにゃあ」

「もう、なんか恥ずかしいじゃん……」

 2人ともデレたのであった。特にハルナ、白銀の髪に対比する形で顔は赤くなっている。

 

 

「2人とも、歌なら艦内放送で好きなだけ歌わせてあげるから今は集中よ」

 赤木博士がMAGIシステム内部から声をかけた。

「そんな! 恥ずかしいです!!」

「ハルナっち~、Shall we sing??」

 

(終わった……)

 逃れられない羞恥心に一人もだえ苦しむハルナであった。

 

 

 

『こちら艦橋、新見です。波動防壁がまもなく臨界に達します。暁さん、睦月さん、お2人が作成していた斥力防壁をアナライザーと私で引き継いでもよろしいですか?』

 

 波動防壁が切れかかっている。メ2号作戦開始から既に1時間は経っているが、波動防壁を『連続展開』ではなく、『こまめに切っていた』ので、通常の3倍ほど長持ちしたのだ。

 

 しかし、波動防壁を発生させる波動コイルの寿命の問題で、そう長く持つものではない。

 

「新見さんお願いします! アナライザー聞こえる? あとお願い!」

 

『了解シマシタ!』

 

 斥力防壁の作成と維持は新見とアナライザーが引き継いでくれた。これでもう心配はしなくていい。

 

「さあ、巻いていくよ〜」

 マリの呼び掛けで技術屋集団はペースを上げていくのであった。

 

 

 


 

 

 

(作戦行動開始から丸1時間、動きはないね……)

 

 EURO2に乗るアスカは冥王星の空を眺めていた。氷結した大地、霞むことのない星空、ココが敵地であっても見とれてしまう情景だ。

 

 アスカは操縦席の計器に軽く目を走らせる。

 高度、スピード、エンジン出力、レーダー……。全てに異常は見受けられない。

 

 そして、自分の右に取り付けられてるキーパッドを見る。

 電卓のように見えるが、入力を拒むように透明なカバーが覆い被さる。

 

 それはNT-D起動用のキーパッド、そこに「666」と入力すれば機体のリミッターが解除され、その身を広げ、獣のごとく、敵を慈悲も容赦も与えず堕とす。

 

 一撃必殺の諸刃の剣である。

 

「まもなくオブジェクト5ね」

 アスカは加藤機にゆっくり近づいてハンドサインを送る。

 

(2時の方向にオブジェクト5です。向かいます)

(了解した。俺も同行しよう)

(感謝します)

 

 2機のコスモファルコンは敵基地と思わしき反応に向かった。

 

 

 しかし、

「えっこれって基地? 小さすぎるけど」

 まさかハズレ? その思考に浸る余裕を与えることなく、

 

 

「マズイっ!」

 無人砲台がビーム弾を連射してきた。

 

 

「こちら式波! 通信管制解除します! ガミラスの無人基地と思わしき構造物を視認! 現在、敵基地からの攻撃を受けています!」

 

『式波中尉! 引くぞ!』

「何故ですか! EURO2ならやれます!」

『ココが偽ってことが分かっただけでも儲けもんだ! まずは無人施設の反応を潰すことに集中だ!』

 

「……了解しました」

 

 好戦気味のアスカはやや不満気味に引き下がった。それはとあることを思い出したからだ。

 

 

 

 軍隊で1番厄介な敵は「命令に従わない部下」である。

 全体を引っ掻き回し、時に仲間を道ずれにして無駄死にしていく。

 

 彼女がユーロ空軍に入隊した時に上官から聞いた言葉だ。

 

 それを思い出したアスカは渋々とはいえ引き下がれた。

 

 

 

(とりあえずWunderに報告ね)

 

 

 

「こちらEURO2、式波です。コード「オブジェクト5」は敵の本拠地ではありませんでした。このまま近隣の反応に向かいます」

 

『了解した。加藤、式波両名は引き続き、ガミラス基地の捜索任務を続行せよ』

 

「了解、そちらの状況は?」

 

『……こちらは、敵からのアウトレンジ攻撃を数発受け損傷。なお、MAGIシステムにハッキング*1を仕掛けられました。現在赤木博士や真希波さん達が対応してます』

 

(いや、いくらなんでもヤバくない?!)

 

「大丈夫なんですか?!」

 

『今はまだ大丈夫です! そちらもお気をつけて!』

 

「了解しました」

 

 

(博士、マリ、ハルナさん、リクさん、真田副長……そっちは頼みます。こっちで見つけるから……!)

 

 その思いに呼応して、EURO2のエンジンが響かない真空に雄叫びを上げスピードをあげていく。

 

 そしてそれに加藤もピッタリついて行く。

 

 

 

 太陽系最果ての戦いはまだ終わりそうもない。

 

 


 

 

『何? 戦闘機だと?』

『はい、第138環境改造用無人プラントです。ですが、プラントの迎撃砲台稼働の数瞬後に撤退したとのことです』

 戦闘機確認の報を受けたシュルツは疑問に思っていた。

(なぜ攻撃してこなかった? だが敵がいるというのは事実だ)

 

「ヴンダーから艦載機が発艦していたのか……。ゼードラーを発進させろ」

「ザーベルク!」

 

 

(こちらの位置を確認したいようだが、そうはいくか)

 

 


 

 

「赤木博士、どうですか?」

 

「もう少しよ、真田くんあなた凄いわ。私一人じゃ多分間に合ってないわよ」

 

「こういう時こそ協力ですよ?」

 

 MAGIシステムCASPER(カスパー)内部、そのコアに目を向けながら「頭の中にMAGI入れてそうな2人」は話していた。

 

「しかし、見れば見るほど奇怪なシステムですね。MAGIのコアがまさか人間の脳のようなものだとは」

 

「人格をコピーする上で、どうしてもメモリーではなく、ギリギリまで脳を模した『有機ユニット』が必要だったの。もちろん人間の脳じゃないわ?」

 

「そうだったら倫理観もあったもんじゃないですよ」

 

 そう言いながら真田は赤木博士から手渡された針状の端子をその有機ユニットに差し込んでいった。

 

「繋がったわ、これで最終組み立てが出来るわ」

 

「作戦変更して、あらかじめプログラムをパーツ単位で作って良かったですね」

 

「臨機応変に行けば早いよね」

 MAGIシステムは3機揃ってようやく真の性能を発揮できるが、1機だけでもその処理能力は折り紙付きだ。

 MAGIシステムの外で自滅促進プログラムを作る彼女らもMAGIシステムにサポートしてもらうことで驚異的な速度で作成しているのだ。

 もちろんサポート無しでも十分速いが。

 

 

「あとは私だけでも問題なさそうね」

「じゃあ、私は外で奮闘する3人の様子を見てきます」

「お願いするわ」

 

「3人とも、状況はどうだい?」

「こっちも順調です。あと15分もあれば完成するかと」

「ハルナっちとリッくんホントすごーい! 百人力にも千人力にもなるよ~!」

 

「マリさん大げさすぎです……」

 

「ホントのことだモーン」

 

「ちょっと見せてくれないか?」

 

 真田が3人のパソコンを見ると、おびただしい量のコードが画面上を埋め尽くしていた。

 一見「なんのこっちゃ??」と思いたくなるプログラムだが、敵の特性を逆に利用した『自滅促進プログラム』である。

 巧妙に仕掛けられたコードが幾重にも展開して敵を死へと誘う。まさに電子の猛毒。

 

 

 これを送り込まれる相手に同情してしまう真田であった。

 

 

「本当に君たちは末恐ろしいよ、ここまで殺意満点のプログラムを書くとは……」

 

「こちらにちょっかいをかけてきたんですから、お返ししないといけませんよ」

「ただでは帰さないにゃ!」

「僕もちょっとイラッってきたので」

 

 実をいうと真田もだ。なかなかずる賢い手で攻撃してきた彼らに「イラッ」とまではいかないが、少し腹が立っていた。

 実際、ハッキングプログラムを赤木博士と作っているとき、「これなら防げないだろう?」と巧妙にクラッキング用の経路と手段を複数作っていたのだ。

 

(そしてそのコードを見た赤木博士がにやにやしてたのはまた別の話)

 

「この感じだとそっちも最終組み立てに入ったみたいだね」

「はい、あとはデバックして3人分のコードを繋げるだけです」

 

 

 

『こちら艦橋、新見です。斥力防壁の形成、完了しました』

 

「ありがとうございます! アナウンサー、お疲れ様!」

 

『私ニトッテハ朝飯前デス』

 アナウンサーが調子に乗る。見た目は機械なのに人間味であふれてる彼は、立派なクルーである。

 

 

「さーてこちらも終わらせますか、あと10分くらいで完成よ」

 

「よし、休憩終わり、ラストスパートだ」

 

 

 

 

MELCHIOR(メルキオール)による艦内スキャン完了》

《艦内に『こちらから起爆可能な』爆発物は確認ならず》

《大出力の主機を2機確認》

 

《本システムと艦の制御システムとの接続状況を確認……オフライン》

 

《……臨時通信経路構築開始、主機制御システムをリプログラミングののち、オーバーロードによる爆散を実行》

 

 


 

 

 冥王星の宙を駆ける2機のコスモゼロ。古代と山本の機体だ。通信管制はアスカが解除したので各機体間で音声通信は可能だ。

 

 

「式波中尉と加藤が確認したオブジェクト5は無人ユニットだったな」

 

『そのようですね、そして今は他のエリアを探しているはずですが……』

 

「どうした?」

 

『もしかしたこちらに来る可能性があります。オブジェクト5はこの近隣ですので、もしかしたら』

 

「来たら来たでありがたいが……団体行動は控えたほうがいい」

 

『今は隠密作戦のはずですから』

 

「そうだな」

 

 通信を切った古代は、ふと宙に目をやる。変わり映えしない星空の下で飛び続けることにそろそろ飽きそうになっていた。

 

 そとにはオーロラが美しいカーテンのように広がっていた。

「オーロラ? ここは冥王星のはずだが」

 

『古代一尉! 前方のオーロラに異変!』

 

 山本の言葉に反応して、オーロラに目をやると、オーロラの一部が輝いていた。我々が知る限りこれは、自然現象ではない。

 そしてその輝きから飛び出してきたのは、戦闘機であった。地球製のものとは異なるが、基本的な形状はこちらのコスモファルコンに近い。それが3機飛び出してきた。

 

 

「山本、見つかってないようだな」

『はい、ギリギリですが。古代一尉、恐らくあの中に基地があるかと』

(あのオーロラが基地を隠しているのか? 暁さんや睦月さん、真田副長なら理論的に考えそうだが、俺はそういうのはわからない。なら……)

 

 

「山本、あの中に飛び込むぞ!」

 

『……! 了解!』

 

 二機は、相手に気づかれないように近くの峡谷の間隙を縫うようにして飛行、そのオーロラに飛び込んだ。

 その瞬間

 SID《警告! 警告! センサーが解析不能なエネルギー放射を感知! 警告! 警告!》

 SIDが警告メッセージを読み上げるが、2機は、覚悟してそのオーロラに飛び込んだ。

 

 そして、キャノピーから見える景色が、一変した。

 

 どこを見渡しても何も見えない。たとえるなら、大雪の日の真夜中に、車を高速で走らせたときに近いだろう。

 

 そして二人を襲ったのは、収まることの知らない震動。

 機体の体勢を保てているのかすら怪しいこの状況に耐えながら、2人は前だけを向き、行く先を見つめていた。

 

 そして、嵐のような震動から解放された、2人の眼前に広がっていたのは、クレーターに造られた巨大な基地であった。

 

 

『古代一尉!』

 古代も確信した。

「ああ、ここが基地だったんだ!」

 

 

 


 

 

 

「真田さん、完成しました! デバックも完璧です!」

 声高らかに完成宣言を行うハルナは、格納エリアの鉄製の冷たい床に仰向けになる。

「んにゃあ~。リっくんハルナっち、お疲れさん~!」

 マリは2人を押しつぶす形で倒れこむ。完全にオフ状態である。

「グハッ!」

 それがとどめになったのか、リクから「攻撃を受けた時の声」が漏れ出る。

 

「上に乗ってくるとか想定外ですよ……」

 

「いいんじゃないのぉ~リっくん? 『親方! 空からメガネの女の人が!』なーんてね」

 

「相変わらず変なネタばっかり持ってきますね。でも面白いですよ」

 マリは奇妙な程古いネタばっかり持っている。作業中に歌っていた365歩のマーチとか、200年くらい前の歌である。そういう趣味なのだろうか? 

 

 

「はいはーい3人とも、殺意満点の自滅促進プログラムはできたみたいね。こっちも準備完了よ」

 赤木博士がMAGIシステム内部から顔を出し、様子を確認する。3人とも思いっきり脱力してるあたり、完成してるのだろう。

「了解! 流し込み準備します!」

 

 王手まであと一歩と来た技術者軍団は半分勝ったつもりで最終段階に駒を進めた。

 

 

 

 しかし、1つの警告音が5人を窮地に立たせる。

 

 

「なんの音?!」

 

「ちょっと見てよコレ! MELCHIOR(メルキオール)が!」

 マリが珍しく緊迫した顔でタブレット型端末を突きつけてくる。

 それはWunder制御システムの全体図である。中心にMAGIシステムが鎮座しているが、現在全ての接続が解除されている。完全なスタンドアローン化を行ったのだが、MELCHIOR(メルキオール)が制御システムとの臨時通信回路を構築しようとしていた。

 相手は人類史史上最強のコンピュータだ。

 

 

「乗っ取るつもり?!」

 

「まさか……マリくん! その通信回路がどこに伸びているのか調べてくれ!」

 真田は少し青ざめた顔でマリに聞いた。

 

「はい!」

 マリはタブレット型端末を操作して痕跡をたどっていった。そもそもサイバー攻撃をする時は痕跡をなるべく残さず行うのがセオリーだが、これは痕跡がバッチリ残っている。そして、敵が残した足跡をたどっていくうちに、1つのシステムにたどり着いた。

 

「いやいやいや……大ピンチだにゃ。真田さん! その通信回路は波動エンジンの制御系に繋がろうとしてます!」

 

「……!!」

 あと一歩で敵は波動エンジンを掌握しようとしている。それがどんなに危険な事か、一同瞬時に察した。

 

 

 

 エンジンが掌握できたのなら、出力の操作は思いのまま。

 

 ならば、急激な出力上昇で意図的にオーバーロードを引き起こし、自爆させることも可能だ。

 

 

「直ちにエンジンの停止を!!」

 ハルナが焦った様子で進言する。しかし、今Wunderは冥王星の重力圏内を航行中だ。重力推進への切り替えは準備が必要、高度な演算が必要だが、それを支えるMAGIは敵にクラッキングを受けている。アナライザーは斥力防壁の維持を続けている。

 

 

「無理だ! 停止させたら冥王星に落ちるぞ!」

 

「じゃあどうやって?!」

 ハルナは危機的状況で慌てやすい。その際論理的思考が停止してしまう事を、本人は理解しているのだが、そんな事を気にしていられるほど余裕がなかった。

 

 

「今やるしかない! ……ここでケリをつけよう」

 その騒動もリクの一声で終いとなった。

 

「そうねぇ、敵は通信回路の構築に躍起になってるあたり、その他にリソースを回す余裕が無いのかもね。その証拠にBALTHASAR(バルタザール)のリプログラミングを途中放棄し、侵入の痕跡がそのままになってるとこもね」

 

 赤木博士も乗り気だ。論理的に考えて、今がチャンスだと踏んだ。

 

「私たちは地球人代表だにゃ、ならば宇宙生物からの攻撃を代表として返り討ちにしてやるにゃ」

 マリは好戦意識高めだ。

 

「敵にはもう後がないんだ。ならばこちらが素早く王手を取るまでだ」

 真田は得意げな笑みを浮かべながら指の間接を鳴らす。

 どうやらやる気のようだ。

 

 

「ハルナ……今が最初で最後のチャンスなんだ。やろう」

 リクがハルナの肩に手を置いて優しく語る。

 

 

(もう! なにやってんの私! 私らしくない!)

(今までリクの姉みたいにしてたけど、これじゃ私が妹みたいじゃん! ああ恥ずかしい!!!)

 

 

「分かったわ! 奴らに仕返ししてやる!」

 ハルナの目は燃えていた。敵に窮地に立たされたから? それもあるが、一番の理由は「恥ずかしい思いをしたから」である。

 羞恥心が原動力なのはいいのか? と考えたくなるが、それはあとだ。

 

 

 

「赤木博士! 大至急準備を始めましょう!」

 ハルナがやる気満々で動き出す。それに呼応して準備が急ピッチで進められていく。

 

 

 

 戦いは、最終局面にもつれ込んだ。

 

 


 

 

「式波中尉、10時の方向を」

 突然加藤が通信を入れてきた。

 その先を見ると、そこには、美しいオーロラが見えていた。

 

「オーロラ? 綺麗だけど、ココ冥王星ですよ?」

 

「何か妙だ。中尉、オーロラってどのようにできるんだ?」

「オーロラですか? 確か地球圏では、地球の磁気圏に荷電粒子……つまり太陽風が衝突することで発生してます。ん? 太陽風?」

 アスカはどこか引っかかる部分があった。

「どうした?」

 

「加藤隊長、冥王星ではオーロラなんて起こりませんよ! 太陽系最果ての星まで荷電粒子は届きません!」

 

「じゃああれは、敵のバリア?」

 

「恐らく基地全体をステルス化するためのフィールドです。その向こうには……」

 

「奴らがいる」

 アスカの言葉を引き継ぐ形で加藤が結論づける。

 

「各機に通達! オブジェクト5付近に敵基地と思われるエリアを発見! これより位置データを各機に転送する! 到着後は、敵が発生させたと思われるステルス化フィールドに飛び込み、奇襲を仕掛ける!」

 

 

 

『了解!』

 

「こちら式波! Wunder聞こえますか? オブジェクト5付近に敵基地と思われるエリアを発見、これより確認に向かいます」

 

『了解。こちらもクラッキングの対処が完了次第、敵基地殲滅に加勢する』

 

 通信はここで終了した。

 

(Sind Sie bereit?)

 

 ガミラスに覚悟を問うアスカであった。

 

 


 

 

『警告! -本艦上空ニ高エネルギー反応ヲ確認!!』

 戦闘艦橋全体に、アナライザーが警告を発する。

 

「船体傾斜取り舵いっぱい!」

 Wunderは冥王星の大地に対して垂直に近い体勢をとった。

 垂直ではなく「垂直に近い」である。

 地面に対して船体を斜めにすることで、疑似的に傾斜装甲を作っているのだ。

 

 斥力防壁は作ったが、それで真正面から受けるのは愚策だ。

 しかし、傾斜装甲なら跳弾させることができるかもしれない。

 

 

「来ます!」

 森がレーダー反応から着弾を警告する。

 本来なら波動防壁で食い止めたいが、あいにく臨界に達しているため使用不能、おまけに防壁を貫通してくるため実質意味がない。そこで、斥力で防ぐのだ。敵の砲撃は陽電子を使用している。つまり、敵の装甲を「対消滅を使ってえぐり飛ばしてくる」。凄まじいほど高出力の熱線でもない限り、防げるはずだ。

 

 

ガガガァン!! 

 

 艦全体に激震が走る。斥力防壁に陽電子ビームが衝突した時、ビームの速度と質量によって防壁を超えて振動が襲ったのだ。

 そして、大急ぎで現座標から離脱する。地表の爆発を避けるためだ。

 

 陽電子ビーム砲はいわば「最強の水鉄砲」。水の代わりに陽電子を使い、それを束にして光速で発射する。

 冥王星には大気はほんの微弱ながら存在していて、その希薄な大気を媒介にして振動が伝わったようだ。

 

「各部状況報告!」

 

「真上より敵の敵の長距離狙撃を受けましたが、損害はゼロです!」

 

『ヤリマシタ!!』

 アナライザーは嬉しそうに頭を回転させる。自分の得意分野である「演算」で船を守れたのだ。

 

「防壁損耗率60%です。至急、修復に取り掛かります。アナライザー!」

 

『オ任セクダサイ!』

 すぐさまアナライザーが再計算を行い、艦直上の斥力防壁を再構築していく。アンノウンドライブが生み出した斥力子を量子転位させて、計算された配置位置に固定。斥力子が発する斥力は、重力子の「引き付ける力」とは反対に、「引き離す力」であり、一つ一つは小さい力だが、大量に配置することで一種の見えない壁を生成している。

 しかし、斥力子の斥力は全方位に発生しているため、ただ配置しただけだと、斥力の力で『Wunderが押し潰されてしまう』ので、斥力防壁の内側に重力子を少量ながら配置、防壁内側に発生する斥力をある程度打ち消して、「Wunderが問題なく耐えられる位の斥力」にすることで、防御と船体強度のバランスを保つ。

 

「船体強度問題なし、成功ですね」

 新見が嬉しそうに艦長に報告する。

 

『こちらアルファ1、古代だ。敵基地を確認した。これより位置座標を送る』

 

「受信しました。……オブジェクト5の近隣? こちらでは確認できなかった位置です」

 

『対象の基地は、特殊な光学迷彩を利用して基地全体を遮蔽している。それにより、熱源、光学観測が不能だったのだろう』

 

「了解した。古代、その基地に光学迷彩システム本体とビーム砲台らしきものは確認できるか?」

 

『光学迷彩システムらしき尖塔は基地外周部に確認できますが、ビーム砲台は確認できません』

 

「艦長、その砲台は海中に設置されているものかと思われます。海中ならば砲台を隠すことも可能ですし、冥王星の外気温ならば、ビーム発射時の熱で溶解した氷結した湾も瞬時に凍結します。隠すにはうってつけかと」

 新見が大雑把であるが推測をする。データが少なく、推測に使える材料が少ない分、自分ならどこに設置するか? と考えたのだ。

(一度撃たせるしかないか……)

 

 

「古代、光学迷彩システムと思われる尖塔の破壊を開始せよ、同時に大口径ビーム砲台の位置を目視で確認せよ」

 

『肉眼……でありますか?』

 

「そうだ、目だ」

 

『了解。古代、山本両名は、遮蔽システムの無力化及び、ビーム砲台の所在の確認につきます』

 

「うむ。相原、隼各機に通達、敵基地の位置は、オブジェクト5近隣」

 

「いえ、問題ないかと思われます。すでに、加藤機と式波機が敵基地に到着しています。それと、捜索範囲全域に散開していた機体が、そのポイントに集結しています」

 森がコンソールを操作して、各機体の位置情報を全周スクリーンに投影した。

 たしかに加藤機と式波機に機体が集結している。

 

 

 

「なら、問題はないか。問題はこちらか……相原、MAGIシステム格納エリアにつなげ」

 

「了解、繋ぎます」

 

『艦長、睦月です』

 

「そちらの状況は?」

『まずいです。MELCHIOR(メルキオール)が波動エンジン制御系に接続しようとしています』

 

「波動エンジンに? エンジンを臨界にさせて自爆させるつもりか」

 

『侵入経路的にもそれが濃厚です。現在、急ピッチで敵へのクラッキング作業を行っています』

 

「了解した、終了次第連絡を頼む」

 

『了解』

 

 

 

 

 

 

 

「赤木博士、状況は?」

 

「もう少しよ。クラッキングプログラムはCASPER(カスパー)にうまくなじんでいる。自分の能力として身に付けたようね。マリ、自滅促進プログラムをこちらに頂戴」

 

「あいあいさー」

 マリが渡したパソコンにはおびただしい量のコードが書き込まれている。それを見た赤木博士は、にやりと笑い、

 

「素晴らしいわ……短時間でここまでよくやったわ」

 

 とマリをほめた。

 

 マリはいつもの笑顔を崩すことなく、

「3人協力プレイの成果ですよ」

 と応える。

 あとはこのコードをCASPER(カスパー)に読ませて実行可能にするだけだが、一歩早かったのは、敵だった。

 

「まずい、MELCHIOR(メルキオール)の通信回路が完成しかかっている! 赤木博士、マリくんそちらを頼む。暁くん、睦月くん、時間稼ぎだ!」

 

 

「「はい!」」

 3人は手近なコンソールに飛びついて、ファイアウォールを展開していく。しかし、MELCHIOR(メルキオール)を奪い、BALTHASARを侵食した敵は実質処理能力が上がっている。いわば、MAGIに人間が挑んでいるようなものだ。じり貧だ。

「クッソ、どんどん割ってくるじゃない!」

「敵はMELCHIOR(メルキオール)を持っている、それにBALTHASAR(バルタザール)も侵食してたから処理法力は計り知れないわ!」

 

 そこで、真田がひらめいた。敵に余裕がないなら、その隙を突くしかない……。

 

「2人とも! 敵が通信回路構築にかかり切りならば、侵食途中で放棄されたBALTHASAR(バルタザール)を奪い返せるかもしれない! ここは私が抑えるから、まずは2人でBALTHASARを奪還してくれ!」

 

「「はい!!」」

 真田の指示通り、BALTHASAR(バルタザール)の奪還に着手した2人は、コンソールの接続先をBALTHASAR(バルタザール)に変更。ハッキングを仕掛ける。

 

 BALTHASAR(バルタザール)内はもぬけの殻だった。

「真田さんの言ったとおり、ここに奴はいない」

「でも用心はしてたみたい、トラップやファイアウォール*2、こっちに逆侵仕掛けてくるような趣味の悪いものとかあるわ」

 まあ、それらは回避するか無力化するかで捌いていく。一応ハッキングのルート上にある障害物のみに対処しているので、その他の障害物は作戦が終わってから掃除するしかない。

 

 

「あった! 管理権限のアクセスポートだ!!」

 

 これを書き換えれば管理者権限を2人のものにすることができる。しかし、それに触れた時、

 

 

「えっ……。これって、暗号?」

 2人を阻むように降りてきたウィンドウには、おびただしい桁数の数列が並んでいた。

「古いRSA暗号か……。真田さん! アクセスポートが暗号で守られてます!」

 

「暗号の種類は?!」

 

「RSA!」

 

「解けるか?!」

 いくら何でも無茶苦茶だ。RSA暗号は、「暗号化されたデータを自分だけの秘密の方法で独自に解読するもの」で、復号には、暗号化時に使った手法は使用できない。

 

 

 実質復号不可能だ。

 

「いや、やります。やり方は見たことあります」

 そう、リクはこれを知っている。何故かって? 

 

 

 では、これを知ることになった経緯を話していこう。

 

 

(回想)

 

「この映画がまた面白くてねぇ~」

「一族で世界の危機に立ち向かうなんて今の人類みたいですね」

「あんな感じで勢いよくエンターキー押してみたいにゃ」

 木星から離脱した後、リクとアスカはマリの部屋でとある映画を見ていた。

 

 そこには、おびただしい桁数の数列の暗号を解く主人公が映っていた。

 

「それにしてもよくこんな昔の映画持ってるわね。内容はまあまあ良かったけど」

 アスカが半分呆れながらマリに聞く。

 

「それね~1世紀前の名作が保管されているアーカイブ庫から借りてきたの~。ユーロから旅立つときに無理を言って、気に入ったやつをイスカンダルへの旅のお供にしたのにゃ。それでこれの解き方なんだけどねぇ……」

 

 

(回想終了)

 

 

「いけるか?」

 

「やるしかありません」

 リクの目は、緊急時ではあるが自信に満ち溢れていた。胸ポケットに入っていたメモ帳とペンを取り出して、準備を始める。

 

「……! リク、大変かもしれないけれどそっちお願い! 真田さん加勢します!」

 

「ありがたい……。敵はこちらの防壁を割り続けることに必死だ。相手が割るよりも早く防壁を展開するぞ」

 

「はい!」

 

 リクはメモ帳を開くなり、その数字の羅列をひたすら書き写していく。

(まずは全部書き写す……)

 

 RSA暗号を手書きで解くこと自体、「初見では無理」である。

 しかし、解法はわかっている。あの映画を見た後、マリが解説していたのを覚えていたからだ。

 

(桁数は512桁、nを素因数分解してモジュロ演算の公式に当てはめて2桁ずつ計算、これを約250セット……!)

 

 

 リクは格納エリアの床にメモ帳を置き、ひたすら計算していく。すでに床には、破られたメモ用紙が散乱している。どの紙にもびっしり計算式が書かれていて、一部判読不能のものもある。

 

 そして、計算速度が落ちることなく進めていく。

 

(あと少し……)

 

「赤木博士! まだですか?!」

 

「あと1分!!」

 

 脳細胞が火花を散らし、複雑な計算を一部暗算で処理していく。

 背後で聞こえる会話も今は遠くに響くようにしか聞こえない。

 

 集中が限界寸前に達し意識が切れそうになるが、かろうじて意識を保ち計算を続けていく。

 

 

 そしてラストの計算を終えた。

 

「解けたぁ!!!」

 

 そのままふら付く体でコンソールに駆け寄り復号化した答えを打ち込んでいく。

 

 その答えは一切の間違いがなく、行く手を阻む壁は瓦解した。

 

 

 

「いまだ!!」

 リクはコンソールを操作して管理権限を奪う。それはあっさり完了してBALTHASAR(バルタザール)はこちらの手に渡った。

 

BALTHASAR(バルタザール)、奪還完了!!」

「よくやった!! 直ちに操作権限をこちらに回してくれ!」

「回します!!」

 

 

「防壁展開! BALTHASAR(バルタザール)を使って、押し返す!」

「博士!!」

「あと10秒!!!」

 

 防壁を張り続ける真田とハルナ、防壁を割り続ける敵。その拮抗は崩れ、防衛を行う真田とハルナの優勢となる。こちらの勝ちは敵に自滅促進プログラムを送り込むことだ。

 そして、敵を押さえ込みこちらが王手をとる。

 

 

「博士、OKです!!」

「押してっ!!」

 

 その王手を決めたのが赤木博士とマリだった。

 勢い良く押されたEnterキーを引き金として、慈悲の欠片も見当たらないプログラムが敵に容赦なく流入する。

 

 

 

 そして敵は、

 制御の効かない進化に飲み込まれその身を滅ぼした。

 

 

 

「……MELCHIOR(メルキオール)の正常化を確認、及び波動エンジン制御系への侵攻、止まりました……」

 ハルナが疲れきった声で艦橋に報告する。

 

 

『よくやってくれた。……あとは我々に任せてとにかく休んでくれ』

 

 沖田艦長の声に、いつも以上に「心配の感情」が含まれていた。

 沖田艦長との通信も切れ、疲労困憊でフラフラなハルナはリクの元へ行き、

「リク……お疲……うわっ!」

 

 足がもつれてリクに倒れ込んでしまった。

 それをリクはギリギリ受け止めて、ぎこちなくではあるが抱きしめた。

 

 

「……お疲れ様、ハルナ」

「/////お疲れ……」

(最後に抱きしめてくれたの、私が目覚めた時だったな……)

 

 

 

 ここに、もうひとつの戦場が幕を閉じたのであった。

 

 

 


 

 

 

「発射」

 古代がコスモゼロからミサイルを放つ。

 遮蔽システムを構成しているはずの尖塔を破壊する古代と山本。

 放たれたミサイルは寸分の狂いもなく尖塔を破壊していく。しかし、敵も黙ってみているはずもなく、

 

「古代一尉、敵戦闘機の離陸を確認しました!」

 

 ガミラス軍の戦闘機が複数機離陸して、こちらに向かってくる。攻撃されるのも時間の問題だ。

 

 古代と山本は敵攻撃機のビームバルカンを避け、斜め下方向に逆噴射、意表を突く動きで敵機の背後を取り撃墜していく。

 

 しかし、数が多すぎる。

 たった2機で複数機の相手など無茶だ、いくら腕が良くても数の暴力で押しつぶされる。

 

 山本もゼロの高機動性を利用して、敵機のうしろに回り込み機銃を叩き込んでいるが敵機は増え続ける。

 

 

 

 そして、敵機がコスモゼロを照準に捉えた。

 

「っ! ロックオンされた!」

 敵機からミサイルが放たれ、それをフレアを使って回避する。しかし、敵機がこちらを回り込み挟み撃ちにしてきた。

 

 

「クソっ! 前後の敵を落とす! 合わせるんだ!」

 

『了解!』

 

 瞬時に意図を理解した山本は、乗機を垂直に急降下、背面飛行に近い姿勢を取らせ、機首を後方の敵機に向ける。

 

 古代も機体を垂直に急降下地表と機体が垂直になるような体勢で機首を前方にいた敵機に向ける。

 

 

 そして同時に機銃掃射を行う。

 まとまっていた敵機はすぐさま火球となり、古代と山本の連携がピンチを脱した。

 

 

 しかし数の暴力は、鮮やかな連携さえも押しつぶす。

 

「多すぎる!」

 山本が悪態をつく。戦争にとって数の力は、単純ながら強大な力となる。

 

 質より数の現実を突きつけられた2人、その2人を狙うザルツ人操縦士はほくそ笑んだ。

 

『テロンの戦士よ、ここまでだ』

 

 操縦桿の引き金に手をかけた時、突如アラームが鳴り響く。

 

『どうした?!』

 

『渓谷より、テロンの戦闘機群が多数出現! 3機撃墜されました!』

 

『なんだと?!』

 

 

 コスモゼロは速度をさらに上げて振り切った。そして通信が入る。

 

 

 

「古代戦術長、騎兵隊の到着です!」

 古代の通信機に入ってきたのは、篠原の陽気な声だった。

 

 コスモファルコン全機が急降下しながら敵戦闘機を攻撃。機銃の掃射で敵戦闘機を一気に火球に変えていく。

 

「加藤、篠原! 助かったぞ!」

 

『数と質の両方持ちならこっちが勝ちなのよ』

『調子に乗るな篠。数を質でカバーできるのは確かだが』

 調子に乗る篠原を咎める加藤。確かに加藤と篠原はベテランの戦闘機乗りだ。一家言あるのだろう。

 

『山本さん、古代戦術長。ここは私たちが倒し切りますので、お2人でビーム砲台の位置を特定してください!』

 アスカは、EURO2の四連機銃で敵機を撃破しながら、古代に重要な役を頼んだ。

 

 EURO2の実践データを積むためにも、戦闘を行いたいのだろう。

 

 

「了解! 後を頼む!」

 

『いってらっしゃいませ~戦術長殿』

 相変わらず篠原は調子に乗る。

 

「さあ、どこからでもかかってこい!」

 初戦闘に気合を入れるアスカであった。

 

 

 

 

「こちらアルファ1、古代だ。敵ビーム砲台の捜索を開始する」

 

『了解した。推定される位置としては、地下、または氷結した湾内と推定される。したがって、発射時に飛翔するビーム軌道より設置位置を確認する必要がある。ビーム発射を促すため、本艦はおとりとして現座標に留まる』

 

「了解。発見次第、座標を転送する」

(さて、いつ敵が撃ってくるか……)

 

 

 

 

「遅いっ!」

 EURO2が敵機に機銃を叩きこむ。そもそもスペックが違う、技量にも大きな差がある。

 そんな状況でこちらに攻撃しても、回避されて裏に回り込まれて反撃されてお終いだ。

 

 機銃の威力は折り紙付き、次はミサイル。レーダーに映る敵機をマークしてロックオン、射程圏内に入ってから

「SAA-1、ファイア!」

 機体下部の内蔵型兵装ユニットが開き、ミサイルが発射される。

 宇宙版の空対空ミサイルは、超音速で敵機を追尾して着弾。確かな効果を主に見せつけた。

 

 今回のEURO2は追加兵装のない通常形態で、備え付けの兵器以外はたいして違いはない。

 

 素の戦闘力をチェックするには最適な状況だ。

 

 さらにミサイルを撃ち込む

「SAA-3、ファイア!」

 敵に放たれたミサイルは、一切の迷いなく着弾する。

 

(最高の機動性ね、さすが私の愛機)

 

 

 初戦闘に満足しながら仕事を片付けるアスカなのであった。

 

 


 

 

『ヴンダーめ、現在の位置は?!』

 

『観測衛星からの位置情報です。基地東方のこの位置です』

 冥王星全体のマップが表示されて敵艦の位置がマークされる。

 シュルツは焦っていた。基地への侵入を許し、迎撃に戦闘機部隊を発進させたのにかかわらず、敵の増援によって戦闘機部隊は崩れてしまった。

 おまけに遮蔽システムは機能を停止させられた。

 これはすべての元凶、災いを呼ぶ不死鳥ヴンダーのせいだ。そうだ違いないと、シュルツは考えた。

 

 そして、すぐに葬ろうと思った。

 

 

『使用可能な衛星を選択後、発射せよ! 必ず撃沈するのだ!!』

(おのれテロン人め……)

 ザルツの宗教神話には、このような1節があった。それをシュルツは失念していた。

 それを覚えていたらシュルツは判断を間違えなかっただろう

 

 

 創世記神書第37章第2節

 不死鳥は舞い降り、大地に混沌をもたらした。混沌は業火を呼ぶ。

 

 

『エネルギー充填完了、反射衛星調整完了』

 これできめる……。

『反射衛星砲、発射ぁ!』

 

 敗北へのスイッチが強く押された瞬間だった。

 

 


 

 

 放たれた一条の光線は宙を駆ける。今まで誰の目にもつかなかった光線が、2人の目に留まった。

 

「あの下か!」

 

『確かに氷結した湾内なら、外気ですぐに湾が氷結しますね』

 湾を見ると、ビームは、氷を突き破っていた。

 

「こちらアルファ2、山本。敵ビーム砲台の位置を確認。座標を転送します」

 

『了解。アルファ2及びアルファ1は、直ちに退避、ブラボー隊の戦闘に加勢せよ』

 

「了解しました」

『よくやったな、山本。良い初陣だった』

「ありがとうございます」

 

 山本の心は、頭上の宙の様に澄んでいた。

 

 

 

「あらよっと! 後ろががら空きなんだよね」

 篠原が急加速急反転で敵機の背後をとる。そして撃墜。

 

「篠! 新人たちのアシストに向かってくれ!」

「りょーかい!」

 実のところ、ヴンダー航空隊には新人もいる。国連宇宙軍の圧倒的人材不足により、熟練のパイロットが少なくなってしまっている。そのため防衛大学を卒業したての、俗にいう一兵卒ぎ多く所属しているのだ。

 

 

 そのルーキーたちは各々でタッグを組み、2機で敵戦闘機を撃破していた。

 一機が誘い込み、敵機がそれに夢中な隙にミサイルを叩きこむ。

 機銃でもいいが、味方への誤射が起こってしまう。

 

 

「おーおー、考えたねー」

 

『篠原さん! 今のところ被撃墜なしですがそろそろキツいです!』

 

「わかった~。加勢するわ」

 篠原が機体のエンジンを唸らせ、敵機に突撃する。フリーな敵機に狙いを定め機銃で穴だらけにして、爆発する前に退避する。

 

 

「お前ら~。これはまだ危ないからマネするなよ~」

 教官気取りの篠原だった。

 

 


ガガァン!! 

 

 

「また砲撃か!」

『航海長、心配ゴ無用デス』

 完全にナメ切っているアナライザーは、片手間に斥力防壁を修復し始める。

 今回は、船体を傾斜する前に砲撃を受けた。しかし、防壁は受けきった。

『損耗率70%! カナリ削ラレマシタガ大丈夫デス』

 

 

「艦首回頭、第1主砲に3式弾装填」

「3式弾、時限信管セット完了」

「敵ビーム砲台の座標を入力、砲身角度調整」

『3式弾、軌道計算完了!』

 

「3式弾、撃てぇ!」

 轟音とともに3式融合弾が3発放たれた。ショックカノンでもいいのではと思われるが、目標座標は遥か山の向こう、直進するビームでは狙うことができない。

 しかし、実体弾である3式融合弾なら、滑空砲のように放物線を描いて着弾させることの可能だ。

 発射前に、着弾座標を何らかの方法で確認してそこまでの弾道の計算を行わなければならないが、ガミラス艦にも十分効果のある、ガミラスから見たら「古臭い武装」だ。

 

「着弾まで、10、9、8、7、6……」

 南部が着弾までの秒数をカウントする。その間に、発射された弾頭は推進装置なしで計算通りの軌道を描き、ビーム砲台が隠匿されているポイントに飛翔する。

 

「……3、2、1」

 3式融合弾が狙い通りのポイントに着弾する。

 時限信管*3が冷酷に時を刻み続ける。その役目を終える瞬間、弾頭を爆発させた。そして、反射衛星砲台が破壊された。

 

 

 山岳の向こう側に、真っ黒な煙が立ち上がる。しかし、こちらからは煙は見えるが破壊したのかが見えない。

 

『こちらアルファ2山本、敵ビーム砲台の破壊を確認』

 

 脅威は去った。斥力防壁を展開したまま強行攻撃を行うのも可能だが、演算リソースを大幅に喰う結果になるし、MAGIシステムの支援が受けられない今そんなことをしたら、アナライザーのキャパを超えてしまう。

 

 

「斥力防壁の維持を解除! 第1から第4主砲に3式弾装填! 敵基地の座標をもとに軌道計算を行え! VLS、舷側短魚雷発射管準備! 相原、航空隊全機に離脱命令を出せ!」

 沖田艦長の命令により、ヴンダーの主砲塔が旋回し、目標の方向を向く。

 

 

 

 

『航空隊各機に通達! これより、実体兵器による敵基地への攻撃を行う! 全機離脱! 繰り返す、全機離脱せよ!』

 ヴンダーの実体弾をほぼすべて用いたフルファイア攻撃が行われようとしている。

 

「全機離脱! 繰り返す! 全機離脱!」

 古代が共通回線ですべての機体に呼びかけた。

「おーし! 俺らの仕事は終わりだ! 危険な雨が降ってくるぞ!」

 

 加藤も僚機に回線で呼びかけて、団体でまとまって、基地の上空から撤退していく。

 古代と山本は最後尾で、全機撤退完了を確認してから敵基地上空から離れた。

 

 

「こちらアルファ1古代、全機撤退完了!」

 

『うむ、南部、射撃開始!!』

『フルファイア!』

 少しテンション高めの南部の声が聞こえた。

 

 

 

 

 ヴンダーから多数のミサイルと12発の3式融合弾が放たれた。

 VLS全基で48発、舷側短魚雷発射管で36発。それプラス3式融合弾12発。計算されつくした合計96発の怒りのフルファイアは、ガミラス冥王星前線基地全体を焼き尽くすくらいには十分すぎる威力だった。

 

 そんな業火の海の中で、ガイデロール級1隻とデストリア級2隻が離脱していく。

 

 

「敵基地の破壊を確認。離脱していく艦隊を確認しました。識別コード戦艦1、超弩級1です」

「主砲をショックカノンに切り替え」

 離脱していく艦を追うようにヴンダーが回頭し、砲塔を向ける。

 

「ショックカノンへの切り替え完了、捉敵よし」

「敵戦艦回頭! こちらに突っ込んできます」

 レーダーの反応を、森が的確に報告する。

 

 敵戦艦が陽電子ビームを放ちながら突撃してくる。それを的確に狙い、ショックカノンが放たれた。

 

 一矢報いようとしていた船は、無残にも散っていった。

 

 

 その向こうで、ガミラスの超弩級戦艦が急加速を行い、ワームホールに突入した。

 

「敵艦、ワープしました」

 

 

(ガミラスの冥王星基地はこれだ終わりだ。地球に遊星爆弾が降ることはもうない)

 

 

 

 ここに、ヴンダーの最初で最後の積極的攻勢作戦「メ2号作戦」が終了した。

 

 

 

 

『艦長より総員に通達、これにて、メ2号作戦を終了する。諸君らの奮闘に感謝する。ありがとう、以上だ』

 

 散らかったままの格納エリアでそれを聞いていた技術者集団は、片付けに追われていた。

 今回一番頑張ったといっても差し支えないリクは、床に散らかしたままのメモ用紙を集めていた。

 

「リク散らかしすぎ……まあ、あの状況じゃ仕方なかったけどね」

「ホント大変だったよ……」

 

 メモ用紙は今後の参考にということで一通り集めてどこかに保管することにした。

 ハルナがそのメモ用紙を目にしたとき、あることに気づいた。

 

「あれ? これって私があげたやつじゃない」

 2年前の誕生日にハルナは、このメモ帳をプレゼントしていた。この時代ではなんでも電子化されていて、紙に何か書くこと自体めったにない。

 

「うん、この時代にメモ帳なんて珍しいなあと思ってたけど、なんとなく大事なものに思えたからいつも持ってたんだ。今回はこれに救われたよ、ほとんど使ってしまったけど」

 そう言いながらはにかんだリクの笑顔に当てられたのか、ハルナは少し顔が熱くなってしまった。ハルナが「誰でも狙い撃ちな顔面凶器」なことで忘れがちだが、リクも整った好青年である。

 

 

「おやおやハルナっち~お熱かな~?」

 すかさずマリが茶々を入れる。

「違いますよ!!」

 顔真っ赤なハルナは全力抗議を行うが時すでに遅し。マリのいじり攻撃は現在フルファイア中だ。

「3人とも、片付け!!」

「「「はーい(にゃ!)」」」

 

 

 作戦後にほほえましい情景を展開する5人衆であった。

 

 

 宙を駆けるヴンダーはまもなく冥王星軌道から離脱し、太陽系の玄関であるヘリオポーズへと向かう。

 巣を飛び出した不死鳥は、見知った風景と別れを告げて外の世界へと飛び立とうとしている。

 

 

 でも大丈夫だろう。根拠も何もないが、確信はある。

 

 奇跡の名を冠した船は外洋へと漕ぎ出す。その翼は折れない意思の形だ。

 

 

西暦2199年2月14日

 メ2号作戦完遂

 ガミラス冥王星前線基地の壊滅を確認

*1
システムに侵入して、システムの構造を解析したりプログラムの改変をする行為

*2
外部の許可されてない通信(不正アクセス)から守るための防壁

*3
「信管」とは、爆弾を爆発させるためのパーツ。時限信管は弾頭が発射された直後に作動して、爆発までの秒読みを開始する。そして0になったら弾頭を爆発させる




お待たせしました。祝20話です。
( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆

この話を書いていた真夜中に、評価バーの方に色が付きました。ふとした思い付きで書き始めた「一歩間違えたらカオス」な作品が、まさかここまで多くの人に読んでいただけたこと、そしてここまで話が続いた事が今でも信じられません……!
読んでくださっている方々、お気に入り登録、評価してくださった方々、改ゼルグートのアイデアをくださった方々、誤字訂正情報を送信してくださった方々、本当にありがとうございます。第20話という節目ということもあり、簡潔ではありますが主なりの感謝の言葉としてここに書かせていただきました。
本当にありがとうございます!(*´▽`*)

今回の話は、内容的にウクライナ紛争をイメージさせてしまう可能性があり、掲載するかどうか悩みましたが、原作よりも表現を簡易的に…アバウトに書き換えて掲載することにしました。
修正前はかなり細かく書いていたので「アウトかなぁ」と思ってましたので、そこだけです。

RSA暗号は、実際に映画「サマーウォーズ」でケンジくんが夜通しで解いていたものです。
リクが解いていて暗号は、それよりも簡単なものです。
RSA暗号の解法を解説したサイトのアドレスをここに載せておきます
https://it-trend.jp/encryption/article/64-0056

少しずつハルナとリクをくっつけていきます
次回は太陽系赤道祭でも書こうかな

しばらくは国家試験の勉強に集中したいので、ペースは2週間に1度の鈍行気味になります。場合によってはお休みする可能性があります
……(゚Д゚;)。oO( oh.no…)

サイドストーリーは1話完成しているので、近日中にうpします。


最後に、この作品の校正を手伝ってくださった皆様に、お礼申し上げます。
ありがとうございました!
では皆様、次章を乞うご期待下さい。


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機密 旧ガリラヤベース調査記録(裏)

注意 このストーリーは
『AD2155✕✕✕✕国連航宙技研
極秘研究施設ガリラヤベース残留記録』の続きとなっています。


まだ残留記録の方を読んでいない方は至急ブラウザバックを推奨します。



Eyes only

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論

 

 

火星爆心地から半径300キロメートル圏内の『生物の侵入』は現段階の科学力では不可能。

 

 

その根拠として、被災範囲に展開されている正体不明の結界により、あらゆる生物の形状が崩壊する『単細胞及び多細胞生物形状崩壊現象』が発生。

通常生物が結界圏内に侵入後、橙色の液体に還元され、全ての生命活動の停止を確認した。

 

なお、その未知の結界と高次元宇宙空間との関係は不明。

 

無人機による爆心地偵察も実行されたが、センサー系統に深刻な異常が発生、通信障害発生後墜落を確認。機体全体に結界の侵食が瞬時に発生したことを光学で確認。

結界内部、及び高次元宇宙空間はこちら側の物理法則が通用しないものと推測する。

 

以降、調査方法の確立が完了するまで、一切の調査を凍結。

 

 

 

 

 

記録

2167年9月13日

月面、静かの海付近で異常重力場と特異点の発生を確認

 

10秒後、月面に振動を確認。真空環境下で少年1人を保護。人型兵器『仮称 Mark.6』、巨大な赤い槍『カシウスの槍』を隔離。

 

(我々の命名した名称ではなく、月面で保護した少年の証言である)

 

 

国連により月面にMark.6調査用仮設基地『タブハベース』が設営。

 

 

Mark.6の基本構造はガリラヤベースの巨人と同一であり、スーパーソレノイド機関の実装を確認。

 

Mark.6は基本的には少年の操縦により動くのではなく、人外と推定される少年の能力によって稼働しているものと推測。

 

これにより最重要指定遺物として隔離、情報の外部流出防止措置の後、封印。

 

少年を地球に移送、国連管理下で軟禁状態による管理を開始。

 

 

 

 

2170年✕✕月✕✕日

京都大学形而上生物学研究室の提案により、少年とmark6による火星爆心地調査を開始。

 

 

同年

Mark6爆心地に侵入、形状崩壊なし。Mark6周辺に空間の相転移の発生を確認。詳細な性質は不明。しかし、その特殊力場を使用して結界を押し退けていることは推測により判明。

少年の供述によると、「心の壁」と呼ばれるものとのこと。対象の物体に対して、恐怖、拒絶などの負の感情を指向することにより発生する壁であり、全生物が「身体形状の固定」に使用しているとのこと。

この空間相転移防壁を以後、「絶対恐怖領域(Absolute Teller Field)」と呼称する。

 

Mark6の観測機器によると、爆心地付近で巨人の肉片及び我々の観測機器では観測不能な電磁波波長(?)を確認。

少年の証言によると『魂』と呼称されるものとの事。

 

 

Mark.6により、巨人の肉片多数を回収。月面での検査の結果、ガリラヤベースにて調査されていた巨人と同質の物体と判明。

 

 

 

国連直下財団法人Seeleの資金援助により、ガリラヤの巨人のコピーを試験的に製造開始。

 

これと並行して、巨人の人為的操作の目指した操縦システムを、Mark6を参考に制作。操縦試験時に、搭乗員の精神崩壊を確認、付属パイロットの制作が開始された。

 

 

プロジェクトSOE

仮称、汎用人型機動兵器の開発が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その少年の名は

渚カヲル

Mark6専属パイロット

暫定コード『ゼロチルドレン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世界で会える時を楽しみにしてるよ。碇シンジ君……」




サイドストーリー2本目です。

国連が見つけたMark6はどこからやってきたのでしょうか
意味深なカヲル君のセリフ、今後どうなるのでしょうか?

書いてて思ったのですが、これはかなりの爆弾だなあと思いました。

リクとハルナが真実を知る日は近いかもしれませんね。


現在第4章を執筆中ですが、やはり試験の方が大切ですね。
学生の皆様、勉強頑張ってください!
社会人の皆様、仕事頑張ってください!

とりあえず、書けるとき(大抵深夜帯)に書いてるので、
「ペース落ち→アイディア枯渇」はなさそうです。
この話が一体いつまで書き続けるかはわかりませんが、完結までちゃんと持っていきます。

それまでこの小説にお付き合いいただければ幸いです。
では、次章でお会いしましょう


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星屑と命の輝き
玄関と外の世界 前編


今回は試験的に前編と後編に分けてみました
(長いと思ったので)

戦闘無しのインターミッションっていう回です。


《ここまでの話》

地球衛星軌道ドックより発進したWunderは太陽系を進み、自身の力を確認し自らのものにして、準備運動を進めてきた。

 

そして、太陽系の最果て、冥王星にある前線基地を壊滅させたWunderは、太陽系の内外を隔てる境界線である『ヘリオポーズ』に向かっている

 

 


 

 

《第4章 星屑と命の輝き……》

 

 

母なる星、地球を発ってから1週間が経とうとしていた。

作戦の成功もあってか艦内の空気も明るく、現在のところ順風満帆の航海である。

 

そして、目と鼻の先に外宇宙が広がっている。この先は未知の海域で、ルートも手探りの航海となる。

必然と、艦内の空気も引き締まる。

 

 

「アスカ、EURO2の運用データは?」

 

「これです」

そう言いながら、アスカはタブレット型端末を赤木博士に手渡す。

アスカは今、赤木博士の研究室でEURO2のデータを提出していた。宇宙での実戦を終えたEURO2は、事前に行ったシミュレーションと実際の飛行データとの間に大きなズレが見られた。

そのズレを少なくして、アスカの好みに再調整するために研究室に来ているのだ。

 

 

「……ふぅ、ここまでの高機動でも問題なかったのね」

「?」

アスカは疑問に思った。自分の体と機体は問題なく動いていたはずだけど…。

 

「これほどの高機動を従来の機体でやると、1回出撃する事にオーバーホールしないといけないのよ?」

「? じゃあなんでEURO2はなんともないんですか?」

「それを今から調べるの」

そう言いながら赤木博士は、タブレット型端末と自分のパソコンを繋ぎ、解析ソフトに流し込んだ。

 

 

EURO2のみならず、艦載機にはミッションレコーダーが内蔵されている。エンジン出力はもちろんのことだが、どれほどの角度、スピードで旋回したか、ミサイルをどの種類何本消費したか、機銃の操作などなどの操作が全て保存されている。

 

それを解析することで、最適な訓練プログラムを作り出すことができるし、機体調整や新武装の開発も可能だ。

 

 

「……エンジン出力が規定値を上回ってるわ。でも機体が耐えることが出来たのは……恐らくサイコマテリアルの影響ね」

 

 

サイコマテリアル……。生物の意志を拾い、時に増幅する特殊な金属素材であり、その素材から生まれたシステムが「インテンション オートマチック システム」であり、「NT-D」である。

 

しかしその製造はそこまで難しくはなく、ナノサイズのコンピュータチップを金属焼入れ時に封入することで、この摩訶不思議素材が完成する。その気になればWunderの設備でも製造することは可能である。

 

ここまでの説明だと、「意思を拾う金属」という印象で終わってしまうが、この金属素材には摩訶不思議な点が存在している。

 

1つは「発光する」ということ。

サイコマテリアルは見た目は灰色の金属だが、試験運用時に赤く発光する異常現象が発生している。これは開発者の意図していないことであり、解析が行われたが「原因不明」であった。光り輝くのは運用上問題ないのではと思われたが、戦闘機などに使用する際、発光する特性は敵に位置を露呈することに繫がってしまう。

 

2つ目は「体積が増加すること」である。

サイコマテリアル発光時には、体積が増加してしまう。これは大した問題では無いと思われたが、基礎フレームにこの素材を使用する際、体積増加で機体が変形、破断する可能性があった。故にEURO2の装甲板には細かな継ぎ目が彫られていて、体積増加時に展開することで機体の破断を防いでいる。

 

3つ目は、「発光時に硬度が跳ね上がること」である。

サイコマテリアルは、前述した発光現象が発生すると、硬度が通常時よりも格段に跳ね上がる。通常時は基本的な装甲材と変わらない硬度を示すが、発光時は至近距離からの爆発にも耐えるほどだ。これは機体の異常加速によるフレームの耐性向上に一役買っている。そのため、これに関しては特に問題はないとされている。

 

4つ目は「()()()()()()()()()()()()()」という点である。

EURO2は試験パイロットを乗せて飛行した時、暴走して自らNT-Dを発動させた。その結果、思考制御に対して試験パイロットが強烈な抵抗を示した結果、精神が崩壊した。それで事が済めば良かったが、暴走したNT-Dの殺人的な機動力で内臓が潰れるほどの惨事となってしまった。

 

すなわち、EURO2はパイロットを殺した機体である。

これ以降EURO2は、アスカという乗り手が現れるまで厳重に封印されてきた。

 

 

 

「……サイコマテリアルの方からエンジンに干渉したらしいわね、それでエンジン出力が限界まで上がった感じね」

 

「それって、私がそう願ったからですか?」

 

「十中八九そうでしょうね。人の意志を拾うオリハルコンが使われてる以上、ある意味考えすぎは良くないわ。あとはやっておくわ、結果が出たら連絡する」

 

「お願いします、博士」

そう言い、アスカは研究室を後にした。

 

 

 

(さて、問題はコレね)

赤木博士は解析を機械に任せて、自分はとあるシステムの概念図と向き合った。

 

NT-D……New Triumph Dominatorの略称だが、これは表向きの意味で実際には違う。

New Type Destroyer……それがあのシステムの真の名称であり、本来のあるべき姿だ。

 

 

(NT-D……。こんな非人道的なものが実装されていること自体おかしい……でも、ユーロの開発局が単独でこの素材とNT-Dを生み出せたの?)

 

そう思いながら、赤木博士はミッションレコーダーの解析を進めた。

 

 

 

 

「今日の夕食は……これかな」

今回のリクの食事は「太陽系脱出記念 木星オムライス」だ。名前に違わぬボリュームで、デミグラスソースが木星のあのシマシマを見事に再現した至高の一品である。

 

慎重にテーブルに運んで手を合わせる。

「いただきます!」

 

そこからは早かった。どんどん減っていく。山盛りオムライスが端からどんどんリクに吸い込まれていく。その勢いは半分に達するまで衰えることは無かった。

もしも惑星を貪り食うような謎の物体がいたら是非ともリクの食べっぷりを見せたいものだ。

「彼をお手本にしろ」と

 

 

「リク、なんだかすごいの食べてるね……」

横を見ると、ユリーシャが美味しそうに見ていた。その手には、和食が乗った配膳プレートがあったが、もうそれどころでは無さそうだ。完全に目が巨大オムライスに行っている。

 

「スプーンあるならちょっと食べてみる?」

 

「食べたい!」

ユリーシャは目を輝かせながら自分のスプーンを構えた。

そして一口。その数秒後、溶けたような顔をしていた。

どうやらご満足頂けたようだ。

「サーシャ姉様にも食べさせたいわね」

ふと漏らしたその言葉は少し寂しげな感情が含まれていた。

 

「ユリーシャ、サーシャさんの容態は?」

 

「サド先生の話だと、生きてるけどいつ目覚めるか分かんないって、でも脳死の確率はゼロって言ってたよ」

 

「そうか……でも、確かに生きているんだ。こっちでも一応挨拶しに行っておくよ」

「ありがとう」

そこからは各自で黙々とモグモグしていたが…

 

 

「リク……? それ木星オムライスじゃん……」

ハルナもやってきた。夕食は中華のようだ。

 

「お? ハルナも休憩に来たの?」

「ううん、全部終わったからご飯食べに来たの。」

「凄いじゃん、僕まだ終わってないぞアレ」

「まあ……量は少なかったから…」

そういうとハルナは少し俯いた。気になったのかユリーシャが覗き込んでみると「頬がほんの少し赤い」のだ。しかし、それを言う程野暮ではない。そこは宇宙広しと言えども共通なのである。ここはぐっと我慢して1人でニタニタ我慢をする。

その視界の端にマリがいることにユリーシャは気づいた。

その光景をお供にして食後のお茶をニタニタしながら飲んでいる。

マリもユリーシャに気づいたのかウインクする。

 

 

 

「そうだ、それ1口ちょうだい」

「いいよ~スプーンとかあったっけ?」

「……ない」

(いや、どーすんの…)

 

「ねぇねぇリク~、こういう時は自分が使ってたスプーン使っちゃえば?」

「?! ゲッホゴッホゴッホッ!」

ユリーシャの爆弾が見事に命中。リクが盛大にむせる。

 

 

「……私は別に気にしないけど?」

 

(いやいやハルナっち。それは、ある意味気にする人の言い方にゃ)

 

「いや箸でも食べれるでしょ?」

「むう……」

そういうとハルナは膨れた。マリは背を向けて何事も無かったかのように茶をすするが、内心爆笑している。

 

 

「……仕方ないな、ほら」

仕方なく自分のスプーンで一口すくう。膨れた顔はすぐになくなりリクが差し出したスプーンに食いつく。

 

 

「ん~! 美味しい!」

「よかったよかった」

(ハルナは何がしたいんだ?まあ子供の頃にやってたからいいけどさぁ)

 

ああなんと残念な事だ、リクは向けられてる好意には「ハルナ限定で」すごぶる鈍くなっている。

これは、2人が火星時代からの長い付き合いなのも影響している。

 

 

そんなリクの行動は無自覚ながら、周囲の空間に暖かい空気を充填していく。それを見て、にやけながら茶をすする者もいれば、若かりし頃の自分を思い出し微笑む者もいる。

また別の所では「兄弟姉妹だなぁ」と思い平然を装う2人組もいれば、1人で血の涙を流す者もいる。

 

 

そしてそんな光景を食堂の入口で偶然見ていた真田はこう供述を残した。

 

 

「君たち、周りに気をつけようか……」

 

 

その後真田が飲んだブラックコーヒーは、ブラックなのに少し甘く感じてしまった。

 

 

 

 

 

そのころ、新見は自室でパソコンと向かい合っていた。

「ヘリオポーズを抜けてからは様々な恒星系が存在している。そこが狙い目だけど……」

 

パソコンには一つの恒星系のデータが表示されている。それは太陽系の配置図ではなく、地球から4.22光年先のプロキシマケンタウリ星系のものだった。

 

人類が生存するためには、水と、適度な濃度の酸素、ちょうどいい温度が必要で、これらがそろうためには、その惑星が恒星からちょうどいい距離の位置を周回していないといけない。

 

このちょうどいい位置というのが「ハビタブルゾーン」であり、この領域内を周回する惑星には水と空気が存在している可能性が高く、水と空気があるなら生命が存在している可能性が高い。

 

 

「ダメだ、データが少なすぎるわ」

 

そういいながら椅子の上で新見は伸びをする。

その机の上には、「Project Buße」と印字されたマグカップが置かれていた。

 

 

 


 

 

 

「本当ですか?!」

航海艦橋で太田が喜びの声を上げる。

 

「ああ、ヘリオポーズを抜けると、ヴンダーは強力な銀河放射線によって地球との通信が困難になる。そこで、ヘリオポーズを抜けるまでに限り、希望する者には地球との通信を許可することにした」

 

「だが、そのヘリオポーズの影響が出始めているんだ。今、司令部との通信を接続しようとしているが、安定的に通信を行うためには、更なる改良が必要だ」

真田と相原、赤木博士が超空間通信の接続を試みているが、極東管区司令部とうまくつながらない。もともと開発中の技術であり、ここまで距離が離れた状態での通信は行ったこともない。

 

「通信データ量を下げれば繋がる可能性がありますが、映像通信の場合解像度が低下しますしタイムラグが発生するかもしれません」

 

「超空間リレーはまだ開発中よね? ちょっと見せてくれないかしら」

「はい、こちらです」

そう言って、相原はタブレットを操作して超空間通信の概念図と開発中の超空間リレーについての資料を呼び出した。

 

「……興味深いわね、通信波を超空間を経由して送るのね。超空間の正体は恐らくワープ時の空間ね。でも超空間リレーはまだまだ未完成か……」

 

「あの……超空間通信には空間の裂け目をごく小規模に作成してそこに通信波を通して通信波をワープさせているんですが、その仕組みを本艦のワープシステムで再現できないでしょうか?さすがに無理かと思いますが……」

 

「できなくはない。要はワームホールとワープ空間経由で通信しているからな」

「相原君、それ名案よ。早速やってみましょう」

 

仕組みとしてはこうだ。超空間通信は、通信波を超空間経由で送り主に届ける。

通常の通信は距離が離れるとタイムラグが発生し、宇宙空間での長距離通信ならそれが最も顕著に表れる。

しかし、ワープ空間を経由すれば、タイムラグが0に近くなる

従来の地球艦は、地球~冥王星間の通信が確立していた。

しかし、ヴンダーが今いる位置は、実質その圏外ギリギリなのだ。

まだ不安定な技術なので、映像が白黒でノイズ交じりでも、繋がれば御の字だ。

 

 

 

「ワープシステムのパラメータは大体この値で、発信装置はヴンダーのアレイアンテナで信号強度は最強にしておくわ」

 

「ワープアウト座標を確認、地球静止軌道上です」

ワープシステムを転用するため、気象長の太田がワームホールの出口を確認する。

「よし、通信回路接続。信号強度最大、発信試験を開始する。短文を送れ」

 

「はい、《こちら国連宇宙軍、恒星間航行宇宙戦艦Wunder、我冥王星基地を殲滅せり。繰り返す、我冥王星基地を殲滅せり》」

空間と時間を飛び越えたそのメッセージは、地球に届いたのだろうか……。メッセージ発信から15分、相手はその呼びかけに答えた。

 

「地球からメッセージが届きました!! 《こちら極東管区司令部、貴艦からの朗報を受信した。よくやってくれた》です」

 

「うむ、成功だな」

「やったわ」

「この方法なら、通信は可能です!」

 

「相原、その方法を使用して司令部との映像通信は可能か? 儂は通信に詳しくはないが、減衰しにくい周波数に変更すれば可能だと思うが……」

 

「ハードル高いですね、艦長。ですが艦長の案の通り減衰しにくい周波数を使用すれば安定的な通信が可能です。宇宙空間でもそれが可能かどうかは、試してみなければわかりません」

相原が艦長の案を肯定して作業に取り掛かる。

「試してみてくれるか?」

「もちろんです、試験で送信した短文で状況は伝わりましたが、やはり人の顔を見て話したいですね」

 

それから20分後、艦橋メンバーとリクとハルナ、マリと赤木博士が揃って中空スクリーンを見ていた。

「地球からの信号に同調完了、映像通信入ります!」

ずっと透明のままだったスクリーンに藤堂長官と芹沢軍務局長の姿が映る。

ノイズ混入は避けられなかったが、確かに映像と音声が入っていた。

 

 

『こちら、Wunder計画本部、Wunder、聞こえるか!』

「こちら宇宙戦艦Wunder、現在太陽系外縁部、ヘリオポーズ付近を航行中です。」

『そうか……もうそんなところか。君たちから冥王星基地陥落の一報を受け取った時、人類はまだまだ耐えることができと希望が生まれたよ。こちらの環境は相変わらず厳しいが、冥王星陥落の報を市民に報告して、まずは、遊星爆弾がもう落下してこないことを理解してもらわなければな』

 

 

「よろしくお願いします。それと長官に一つ、お願いしたいことがあります。」

『私にできることなら何でも言ってくれ』

「ヘリオポーズ通過後は、ヴンダーは強力な銀河放射線によって地球との通信が困難になります。そのため、乗組員に家族との最後の通信をさせたいのですが、そちらで乗組員の家庭との通信回線を開いていただけないでしょうか」

 

『お安い御用だ。準備にかかろう』

 

「ありがとうございます」

 

『では、これから我々は作業に入る。ひとまず、これで通信を終了する』

 

「了解しました」

距離と時間を超えた通信が終了し、艦橋に安堵の声が漏れる。

 

「真田さんあれどうやったんですか?」

ハルナが興味深そうに質問する。

「さっきの超空間通信のことかな? あれは通信波をワームホールに飛び込ませていたんだよ。ヴンダーのアレイアンテナとワープ航法がなければ不可能だったよ。ちなみにこれは相原の発案だ」

 

まさかこんな使われ方があるなんて、ハルナは微塵も想像していなかった。

あくまで観測用のはずなのに、それで映像通信を双方向で行ったり、ワープ航法用のワームホールを通信に使ったり、自分では思いつかないことを閃いた相原と実行してしまう真田と赤木博士をすごいと思ったハルナであった。

 

 

「それから、ヘリオポーズを通過するまでは太陽系赤道祭も開催する予定だ」

 

「赤道って、ここ宇宙ですよ?」

古代が疑問をのぞかせる。どこに赤道があるの?と思ったのだろう。

「かつての大航海時代では、船乗りたちは赤道を越える際に航海の無事を祝って赤道祭を催した。その故事に習うのだよ」

 

 

 

 

 

「赤道祭ねえ、今が戦争中なのに呑気ではありませんか?」

 

「乗員の士気を高めるためにも必要だと沖田艦長は仰っていたわ」

 

「なるほどぉ、祝勝パーティーという訳ですか。それはそうと、希望する乗員には家族との通信が許可されたようですが、あなたも誰かに報告しておいた方がいいのでは?」

 

「……保安部は詮索好きね」

 

「騒ぎが起こらないと暇な部署ですからねぇ」

 

 

 

 

「最後の交信ですか、徳川機関長は話したい人はいますか?」

当直の真っ最中の山崎が徳川機関長に聞いた。

「儂は、最後に孫のアイ子と話したいなあ」

 

「お孫さん、確かまだ4歳でしたね」

「目に入れても痛くない子でな、地球に帰ったらすぐに抱っこしてやりたいもんだ」

 

 

 

 

 

「交信って言っても、私たちはもう家族いないもんね」

 

「あの時から時間は止まったままだ。でもまあ寂しくはないや、家族みたいな人がいるから。そうでしょ?」

 

「それもそうだね。姉と弟みたいな関係だし」

「兄と妹じゃなくて?」

 

「あら? いつからお兄ちゃんになったのかしら?」

「いや、復活時期から考えるとこっちが上なんだよね」

 

「大した差じゃないでしょ?」

「まあ一年、いや10か月位の差だからなあ。」

 

 

 

 

「交信かにゃ……久しぶりに先生と話すかにゃ」

 

 

 

 

 

《2日後》

 

 

「ええ~!!」

太陽系赤道祭当日、メイン会場である左舷展望室に原田の叫び声が響き渡る。

 

「赤道祭は仮想するのが伝統だって太田さんから聞きましたー!」

現在の原田の服装はなぜかメイド服、これは太田のガセネタを鵜吞みにした原田が用意した渾身の一作だ。

 

「ありゃ~のせられちゃったね」

その光景を見ていた篠原がにやにやしながら見る。

 

「どこだぁ!太田さん!!」

 

しかし、太田のガセネタを鵜呑みにしたのは、原田だけではなかった。

 

そう、僧侶が会場にやってきたのだ。

お坊さんといえばお寺。お寺が実家といえば加藤。

そう、加藤である。

 

「そっちものせられちゃった?」

実家がそうだといっても似合い過ぎている加藤を見るなり、篠原は苦笑いする。

 

「まあ、似合ってるんじゃないのか……?」

素直じゃないほめ方をする加藤に、原田は嬉しそうだ。

 

そして、篠原は見逃さなかった。

しめしめといった雰囲気で、その場を去ろうとする太田の姿を。

この後、太田は篠原に説教を受けることとなった。

 

 

 

「諸君らの活躍によって、メ2号作戦は成功した。今日は存分に英気を養い、存分に楽しんでくれ。これが終わったら地球を振り返るな、前だけを向いて進み続けるのだ。赤道祭の成功を願い、乾杯!」

 

「「乾杯!!」」

 

会場がどっと沸き赤道祭が始まった。

今回のために用意された料理に一斉に手が付けられ始め、各々が料理を楽しむ。

今回だけアルコール類が解禁されたので、酒を飲む乗員もいる。

 

 

「古代くん、お疲れ様」

「森くん?」

 

ジュースのコップを持って現れたのは森だった。

 

「まさか、古代君が戦闘機に乗るなんてね」

「防大の時に戦闘機の操縦訓練を取っていたからね。」

「でもあれピーキーな機体ってハルナさんから聞いたけど、ちょっとすごいわ」

 

「そんな……誰かに褒められるのは慣れてないな」

「私も操縦してみたいけど、訓練とってないからなぁ」

「シミュレーションはこの艦にあるから、やってみたら?教わるなら僕より式波中尉の方がいいと思うな。彼女は戦闘機一筋だから」

 

「それもそうだけど、私はコスモゼロに乗ってみたいの。だから教わるなら古代君の方がいいかなあって」

 

「非番の時ならシミュレータで教えようか?」

「やったぁ」

 

その光景を一人で見つめる影が一つ

 

(ふふふ、くっつけくっつけ。ハルナ&リクに続いて古代君&森さんの完成だにゃ)

 

「あーんたはなーにやってんのかなあ? マリ?」

 

「んにゃあ?! びっくりしたにゃあ姫!」

「尋問の時間だよぉ」

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!」

 

この後、マリはアスカにこってり絞られたのであった。

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~きつかったにゃ」

アスカのお仕置きタイムから解放されたマリは、交信室に向かっていた。赤道祭の目玉の一つが、地球との交信だ。皆、家族との交信を心待ちにしていたのだ。

すでに交信室には長蛇の列ができていて、船務科お手製の整理券を皆手に持っている。

 

「えーと真希波・マリ・イラストリアスさんですね。こちらが整理券です」

 

「サンキューにゃ」

船務科の岬百合亜が整理券を手渡して、長蛇の列を作る人たちにアナウンスをする。

「ではこれから交信室への入室を許可します。交信は一人5分です。公平を期すために、自動的に切れるように設定されています。話残すことのないように、各自で話すことを事前に決めておくようにお願いします」

 

最後の交信ということもあって、出来ることならこのまま話していたいと思う人もいるかもしれない。しかし、時間というのは非情だ。最後の交信で、地球を守る決心がつくのはいいが、里心がついてしまうのは今後のためにもあまりよくない。

そういうこともあり、時間制限が設けられたのだ。

 

「ではまずは徳川機関長ですね」

「儂じゃ」

一番乗りだったのはなんと徳川機関長だ。孫のためなら一番乗りで並ぶこともサラッとやってしまう。孫大好きおじいちゃんだ。

整理券を手渡し、徳川機関長は一人交信室の中に入っていった。

 

 

 

 

 

『じいじだ!』

 

「おおアイ子か! 元気にしとったか?」

 

「うん! でもおなかすいた~」

「じいじがお土産もって帰ってくるからな。太助、そっちは状況はどうだ?」

 

『こっちは配給の量が日に日に少なくなってきてる。だから、その……』

 

「何じゃ?」

『母さんが、闇市で……』

 

「太助! あれ程闇市はダメだといったじゃないか!」

 

『でも……こうでもしなければやっていけないんだ……』

現実はよくない。どれだけ理想を語っても、どれだけきれいな道を進もうといっても、その通りにはいかない。なりふり構ってられないのが、今の地球の状況だ。

 

 

『じいじ……おめめからお水出てる』

孫に言われて初めて、徳川機関長は自分が泣いていることに気が付いた。

自分が向こうにいれば今すぐ家族の生活をなんとかできるはずなのに、今は画面の向こうで恐ろしく距離が離れている。

 

ただ声をかけるしかできない。

 

「太助、もう時間もない、よく聞くんじゃ。わしらは必ず人類を救う。それまでしぶとく生き抜くんじゃ。それが太助、お前の戦いじゃ。母さんを守るんじゃぞ」

 

『わかった……こっちは任せて! じいちゃん』

 

「約束じゃぞ」

 

《通信終了しました》

 

最後にモニターに映ったのは、孫のアイ子の笑みだった。

 

 

 

 

 

『あ! 兄ちゃんだ!』

 

「次郎! 元気にしてたか?」

 

『こっちは元気だよ!』

 

「母さんは?」

 

『今配給に行ってるよ』

 

「そうか……次郎、あまり長くは話せない。よく聞いてくれ。兄ちゃんは父さんの遺志を継ぐ。異星人とも分かり合えると父さんは言っていた。それを証明して、必ず帰ってくるからな」

 

『うん……』

 

「泣くな次郎。お前が母さんを支えるんだ」

 

『……! 泣いてない!兄ちゃんも泣きそうじゃん』

 

「泣いてないぞ!」

 

『(ただいまぁ次郎?)母さん!大介兄ちゃんだよ!』

 

「……!ダメだ! もっと時間をくれ! 母さん!」

 

『大介!』

 

《通信終了しました》

 

島は悲しんだが、最後の1秒で母親の顔を見ることが出来たことを喜んだ。

各々が笑顔で話し、泣き、最後の通信はまだ続いていく。

 

 

 

後編に続く……




超空間通信ってどうやっているのかひたすら考えてみました。
通常の通信はどう足掻いても光の速度は超えられない。
ならば、どうするか?
wikiで色々見てみたら、過去に向かって進む通信波とかタキオン通信とかぶっ飛んだ通信が沢山ありました。
タキオンはさすがにムリそうなので、今回は通信波をワープ空間経由で地球に飛ばすことにしました。

地球からの通信が遅かったのは、「この方法に気づくまでに少しかかったから」ですね

ではでは、後編に続きます


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玄関と外の世界 後編

長い……!

と思ったので後編です


「星が綺麗だな」

 

「そうだね。昔はさ、地球が世界の中心だという考え、天動説が一般的だったみたいでさ、それをガリレオっていう天文学者が間違っているといって、今の地動説を提唱したらしいよ」

「天動説って、世界は自分たちを中心にして回っているって考え?」

「そんな感じ。でもまるでこの星たちが自分たちの周りにあるように見えるよね」

「その星は手で届きそうな距離にあるように見えるけど、実際は光さえたどり着くのに苦労する距離にある。僕らの目的地も同じだ」

ハルナとリクは、船外服を着て艦外に出ていた。パーティーは楽しいのだが、展望室から見た星々に目を奪われて思い切って船外に出ていたのだ。

 

そして二人で第一主砲の上に寝転がって、頭上に広がる満天の星空を見ていたのだ。

 

 

「流れ星来ないかなあ」

 

「あのね、流れ星ってのは大気圏に突入したチリのことなんだよ? 見れないんじゃない?」

 

「待ってみようよ?」

ハルナは流れ星を見たことがない。火星には、地球の様に流星群が降ってくる時期とかがなく、見たくても見れない。資料では知っていたが、実物を見たことないのだ。

 

 

10分くらい待っていたが、一向に現れる気配はない。

 

「来ないね……」

「まあ来ないよね」

 

「流石に流れ星は来ませんよお2方、代わりに星に願いを託してみてはどうでしょうか?」

ヘルメットの内蔵スピーカーから誰かの声が響いた。あたりを見渡してみると、背後に榎本が部品片手に笑っていた。

 

「榎本さん、お疲れ様です」

「お疲れ様です」

 

「お疲れさんお2人さん。どうやら流れ星を探していたようですな。でも大昔の人は、一番明るい星に祈りをささげていたっていう話もありますよ? 我々の場合なら、目的地のイスカンダルですな」

 

そういって榎本は持っていた部品で艦前方の宙の彼方を指し示した。無限に広がる宇宙のたった一つの目的地、願い星にするにはピッタリかもしれない。

 

 

「じゃあ、お願い事しよっか」

「そうだね」

 

2人は目をつむりまだ見えない目的地に向かって祈った。

 

 

 

 

「リクは何を願ったの?」

「内緒、願い事を他の人に喋ったら叶わないと思う」

 

「むう……」

 

 

「私は『誰か整備作業手伝ってくれないかなぁ』と願いましたよ? そうしたら都合よく2名ほど目の前にいるじゃないですか?」

榎本はいつも通りの笑顔で期待する。ああ、これは逃げられない感じだ。2人は同時に直感した。

 

「はあ……分かりましたよ」

「私たちがそっちの人と交代しますよ。特に新婚の人」

 

「そいつはありがたいですな。佐伯! 来島! お前ら確か新婚だろ? 交信行ってこい!」

『いいんですか、甲板長?!』

 

「この船に最も詳しいお2人が手伝ってくれるぞ!」

『『ありがとうございまーす!!』』

 

「さて、一働きしますか」

無重力では重さは感じないはずだが、重くなったように感じた腰を持ち上げて手伝いに向かっていった。

 

 

 


 

 

 

『……生きて帰って来い!!』

 

「はい!」

 

《通信終了しました》

 

(ありがとうございました……)

無口で頑固な親に激励をもらった加藤は、消灯した画面に向かって礼をした。

 

 

 

 

「冬月先生、お変わりないようですね」

 

『君も元気そうじゃないか』

 

「まあまあ元気ですよ。赤木博士と愉快な技術者軍団の一員として楽しんでますよ」

 

『それは何よりだ。こっちは相変わらず配給が少なくなるばかりだが、シンジ君が配給食糧をおいしくアレンジしてくれるからこの老体は健康なままだ』

 

「シンジ君の方はどうですか? 冬月先生の家にお邪魔した以来顔を見てないのでちょっと気になりますね」

 

『ああ、いるよ。シンジ君、こっちだ』

 

「シンジく~ん私だよ~」

 

『マリさん! お久しぶりです!』

交信画面に映り込んだのは、少しやせ気味の中性的な少年だ。

碇シンジ君だ。彼は訳あって、マリとユイの恩師である冬月コウゾウの家に住んでいるのだ。

 

「4年ぶりだね〜シンジくんそっちは?」

 

『変わらず冬月先生と勉強しながら頑張って生活してます』

 

「冬月先生がシンジくんの料理絶賛気味だよ〜はぁ〜私も食べたいなぁシンジくんの料理」

 

「そんな……ちょっと嬉しいです」

 

『もう~照れちゃって~』

 

「必ず帰るからね~そして手作りご飯をゲットにゃ! あとシンジくんにも紹介したいなぁ私の仲間」

 

『どんな人ですか?』

 

「それ即ち天才だよ、でもどっか可愛いんだよね~」

 

『会ってみたいですね』

 

「人懐っこいからすぐ仲良くなるよお。そろそろ時間だにゃ、シンジ君、冬月先生絶対帰るからね!」

 

『気を付けてください!』

『マリ君、気をつけてな』

 

《通信終了しました》

 

(グットラック、私……)

 

 


 

 

 

「お姉さま、私達は今地球の船に乗って故郷に帰ろうとしているの。Wunderっていうんだけど、地球の言葉で奇跡って意味みたいだよ。」

「……。」

「地球に来てからたくさんのものを見て、たくさんの人に出会って、たくさんの思いを見たわ。この船には、たくさんの地球の人の思いが乗っているの。私の願いも」

「……。」

 

「お姉さま、いつまで寝ているの?目を覚ましてよ、せっかくリクもお見舞いに来てくれてたのに、綺麗な花を花瓶にさしてくれたのに」

 

(大丈夫よ……。私は死なないから)

 

「お姉さま……?」

 

静かな病室に一人、ユリージャの話が悲しく響く。

 

 

 


 

 

 

『ここまででかい船だと整備性はよくないんじゃないかと思いましたが、まさかここまで整備員にやさしい船とは思いませんでしたよ』

 

「フッフッフ、そこまで考えましたからね?」

ハルナは自慢げに胸を反らして応える。

榎本は、持参してきたタブレットをからケーブルを伸ばして、船体に備え付けられている整備用の液晶パネルに差し込んだ。

そのタブレットには、船体の損傷状況が表示されていた。

 

 

全長2500メートルの長大な船体を一つ一つ確認するのは甲板部が何人いても足りない。作業の効率化を図るため、船体各所の装甲内部に「整備用コンディションパネル」が100メートル間隔に設置されている。ここを確認するだけで、どこが損傷しているのかや波動コイルの損耗率などが分かり、必要な部品を必要な個数で交換することができる。

パネル自体はすべて艦内ネットで繋がっているので、敵の攻撃でどこかのパネルが壊れてしまっても他のパネルで確認することが出来る。何なら艦内からも確認出来るので甲板部からは大好評だ。

 

 

『ふむふむ、3番と19番と43番だな。お2人さん! その波動コイルを3番と19番と43番で取り付けてくれ! 位置はこれで確認してくれ!』

 

「「わかりました」」

榎本からタブレットを手渡されて、2人は宇宙遊泳を開始した。

船外服備え付けのガススラスターを吹かせて目的地に飛ぶ。3番は比較的近い位置だった。

船体装甲に付いているレバーを回すと、巨大な装甲が持ち上がり内部構造があらわとなった。

 

「えーと3番の交換は2本だな」

 

そういいながらリクは、取り付けられていた波動コイルを取り外して新しい波動コイルを取り付けた。

波動コイルは取り付ける位置ごとに型番が決まっていて、これを間違えると防壁が一部展開できなくなったり、最悪の場合波動コイルが秒で切れてしまう。

 

取り替え終わったらコイルの保護用カバーを取り付けて交換終了。これが後三か所ある。

 

 

「こうして間近に見てみると、やっぱりこの船って大きいのね」

「2500メートルだからな? あ、終わったら寄りたいとこがあるけどいい?」

「?」

 

 

それから2人は作業をてきぱきと終わらせて、船外のとある場所に向かった。

 

 

船体中央構造物アンノウンドライブ内部

 

重力子斥力子を生み出す未確認骨格……その内部は中空で、その見た目は骨らしき物体が包帯の様に渦を巻いている。

そこにも整備の手が加わっていたが、一人の見知った人影がいた。

 

 

「あれ? 赤木博士じゃないですか」

 

『あらハルナさん、リクくんも一緒なのね』

「作業が終わったのでちょっと寄り道で来てみました」

『あなたたち変なとこに寄り道してきたわね。今ね、この謎骨格のサンプルを少量採取していたとこなの』

 

「これをですか? データなら火星技研撤退時に引き上げた時の物がありますが」

『確かに当時のデータはあるわ。でも、重力子と斥力子発生後の生データが取れるかもしれないのよ。ホントは、重力子のみと斥力子のみで別々のデータが欲しいとこだけど、さすがにのワガママは言えないわ。私とマリはお客さんとして乗っているのよ』

「……許可はとってるんですよね?」

『もちろん取っているわよ。研究用とはいえ、船の一部を削るのよ?』

 

2人は、思わずホッとした。勝手にそんなことされたらたまったもんじゃないからだ。

完全に解明されていない物だけあって何が起こるかわからない。おまけに不完全の様にも見えるため、これがもともと何だったのか、本当にこの形状をした宇宙生物がいたのか、疑問は耐えない。

 

だからこそ、この船を調べる必要がある。

 

データをとるためには、実戦後のデータが最適。そのため赤木博士のような科学者には、この船が『宝の船』の様にも見えてしまうのである。

 

『さて、回収が終わったから戻ろうかしら。2人とも、ちょっとこっちに来てくれる?』

 

「「??」」

 

赤木博士の近くに寄った2人は、とあるものを目にした。

それは、タブレットに書かれたメモ書きと写真データだ。

 

 

《あの骨格に数字が刻まれていたけど、あなた達がこの数字を印字したの?》

 

タブレットに映っていたのは、とても小さなマークと数字だった。掠れているが、地球の数字で型番のような番号が刻まれている。『AD1-145』と書かれていたその数字は、リクもハルナも知らない型番だ。

 

《私たちも知りません……建造時に付けたマーキングは全て消しましたが、これは見たことありません。いつのものか調べてもらえませんか?》

《やってみるけどあまり期待はしないでね?一応真田くんとマリ、沖田艦長と艦橋メンバーにはこれは伝えるけど》

《お願いします。私たちは火星技研時代のデータを洗い出してみます。地球から発つときにデータを持ち出してきたので》

《じゃあよろしくね》

 

3人以外誰も知らない筆談はこの場で終いとなった。

 

 

 

 

「残り35人です」

交信希望者の残り人数を、岬が相原に報告しに来た。

「お疲れ様、てことはあとは3分の1くらいか……それはそうと、例の件の許可が下りたそうじゃないか」

 

「はい! 乗ってからずっとやりたかったのでとっても嬉しいです!」

言葉がなくてもその雰囲気でわかってしまうほど岬は嬉しそうだ。

 

「頑張ってね、リクエストするよ」

「ありがとうございます!」

 

 

 


 

 

 

太陽系赤道祭は終盤に近付いた。太田のガセネタを真に受けた人は結構いたみたいで、仮装して艦内を回る女性の乗員も多くいる。

 

そんな中、沖田艦長は一人艦内を歩き回っていた。艦長室でゆっくりするのもありだが、体調面もかねて歩き回っている。気晴らしにもちょうど良い。

 

しかしこれはいつものパターン、今回は違っていた。

 

 

「沖田艦長、何か御用ですか?」

 

「……ん? いや、忙しそうだな。失礼した」

最初に訪れたのは解析室。そこには、エンケラドゥスで鹵獲したロボット、通称「ガミロイド」の解析が行われていた。

他の乗員は赤道祭を楽しんでいるが、真田lだけは一人で解析を行っていた。

 

(沖田艦長、何か用があったのかな?)

 

そう思う真田であった。

 

 

 

「沖田艦長? 何か御用でしょうか?」

次に訪れたのは、左舷機関室だった。そこには藪が当直として機関の面倒を見ていた。

 

「あ、いや……ここに徳川くん来ていないかと思ってな……」

 

「機関長でしたら先程当直から上がっていきましたよ?」

 

「そうか、ありがとう。邪魔したな」

そういって、沖田艦長は機関室を後にした。

 

 

 

結局艦内を歩き回って徳川君はいなかった。トラムリフトがあるとはいえ疲れてしまった沖田艦長は、自室で休んでいた。

 

(徳川くんはどこだ?)

 

 

その数分後、扉を叩く音が聞こえた。

 

「誰だ?」

 

「徳川です。入ります」

 

入ってきたのは徳川機関長だった。

「儂を探しとったようですな。それと、これもお探しのようですな?」

徳川機関長が持ち込んできたのは、日本酒だった。

 

 

 

 

 

 

「……美味いな」

「佐渡先生の所から一本頂いてきたものですからな」

2人は艦長室の床に座り込み、酒を飲み語らいあっていた。

 

「儂らもかなりの時間がたったな。気付けばもう老人の域だ」

 

「そうですな、宇宙軍に入ってからもう何年も経ちました、確か最初の船は……」

 

「防衛艦36番、艦名ももらえなかった小さな艦でした。確かあいつは、新米の砲雷手でしたな」

 

「古代守か……この船に乗るはずだった男だった。今は弟がその役割を十分果たしている」

「多すぎる若者が死んでいった……有望な若者が命を散らした……」

 

「数えきれないほどの若者が戦乱の中でその命を落とした、だが、命を数えてはならんな」

 

「数えたくないですな、そんな思いを断ち切るために儂らは進み続けるしかないですわ」

昔の語らいは話が進むにつれて、かつて同じ船に乗っていた同僚の話へと移っていく。

 

酒を飲むと音痴な歌を歌う人の話、島の父親の島大吾の話、自慢の乗員の話へと移る。そして徳川機関長が、酔いでウトウトするまで静かな飲み語らいは続いたのであった。

 

 

 


 

 

 

《Wunder左舷大型アレイアンテナ基部観測室》

 

この観測室は、艦の後方がよく見えるドームのような構造だ。そこはよく、数人で集まって談笑する場となっていて、階段の踊り場のようなところになっている。

 

そこで1人ハーモニカを吹く人がいた。

兄から聞いた古い曲を、路上ミュージシャンのように1人で演奏する彼は、どこか寂しげな雰囲気があった。

 

 

「古代くんがハーモニカ持ってるなんてね。ハーモニカなんて久しぶり見たわ」

 

「これは元々兄さんが吹いていた物なんだ」

そう言って古代は声の主に向かって振り向いた。

「古代くんは地球にいる家族と交信したの?」

 

「家族はみんな死んだ」

古代はさも気にしてないように応えたが、

「……ゴメンなさい」

森は不味いことを聞いてしまったと捉えてしまった。

 

「いいんだ、昔に拘ってても良いことは無いから。君は?」

 

「土方の叔父さんと話してきたの。古代くんと同じだったから」

「すまない……」

「謝らないで。土方司令、凄く心配してたわ……」

 

「心配してくれる家族がいるのは羨ましいな、でも今は友人が沢山いるから寂しくはないな」

 

「……私は?」

「?」

 

「私も、古代くんが言う『友人』の1人?」

「ああ、勿論だよ」

 

古代がそう答えると、森は嬉しそうな顔をした。

森は、エンケラドゥスで助けられた時からなんとなく気になっていたのは言うまでもないだろう。

 

 

『本艦は間もなく、ヘリオポーズを通過し、太陽系を離脱します。それをもって、太陽系赤道祭を終了させて頂きます。ここからは…』

 

赤道祭終了のお知らせの直後に流れたのは、陽気な音楽だった。

 

 

『はーい! 皆さんこんにちは! 今日から始まりました「奇跡のラジオ局in大宇宙」!第1回放送では、遠大なる旅路にピッタリの曲を放送します!』

 

艦内放送で流れてきたのは、200年ほど前の落ち着いた曲調の歌だった。

 

 

『必ず帰るから、真赤なスカーフ♪』

『きっとその日も、迎えておくれ』

『今ははるばる 宇宙の果て』

『夢を見るのは、星の中』

『旅する、男の瞳は』

『ロマンをいつでも映したい』

『ラララ……ラララ……真赤なスカーフ♪』

 

艦内のモニターには、地球の超望遠光学映像が投影されている。赤茶けているが、それは確かに我らが故郷だ。あの平和だったころの姿を、緑が生い茂り、海が星を満たすその姿をもう一度見るために、彼らは今の故郷の姿をその目に焼き付けて前に進む。

 

 

 

「さようなら地球」

「俺たちは必ず帰ってる。必ず帰ってくるぞー!」

 

宇宙空間には声は響かない。しかし、古代の決意は確かにこの宇宙に響いていった。

 

 

船は進む。人類にとっていまだ道の宙域に漕ぎ出したその先にどのような苦難が待っていようとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前、交信室で1人の人が守秘回線で地球と交信を行っていた。

 

 

『今のところWunderは問題ないな。人類を救うWunder計画は成功確率が低い、それに人類の命というチップを賭けるのはあまりにもハイリスクだ』

 

「人類生存に適した恒星系が確認でき次第、実行に移ります」

『君にすべてを任せたい。それまではこの船を沈めないように、万が一の時は渡した切り札を使うんだ』

 

「はい」

 

 

 

《通信終了しました》

 




今回は試しに前編と後編に分けてみました。
どこで分けるか考えましたが、原作のAパートとBパートに分ける部分で分けました。
新たなる伏線が出てきました。Wonderの骨格に残されていた謎のマーク。誰がいつ書いた物でしょうか


それと、前にアンケートして決まった暁ハルナのキャラ絵ですが、今基本情報技術者試験の勉強をやっていて全然手が付けられてません。
|ω・`)スミマセン
試験終わったら描いてみるのでお待ちいただけると幸いです。


だんだんこの小説に使徒を出演させるパターンが出来始めました。
出せる使徒は出していきます。「こいつ出して欲しい」って使徒がいたら教えてくださいm(_ _)m出せるかどうかやってみます。

それでは次の話でお会いしましょう。
*˙︶˙*)ノ"マタネー



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Memory of the red dwarf

試験がムズい!
過去問が多い!
書きたい内容が山のようにある!
_人人人人人人人人_
> 勉強しろ!! <
 ̄VVVVVVVV ̄

と言われたので頑張ります(/;ω;\)

では、お楽しみください
完成した話はもう一話あるのでそれは日を置いて投稿します(´;ω;`)


サレザー恒星歴1000年

デスラー紀元103年

3月5日(地球換算)

 

 

この日はガミラス本星のみならず、大小マゼランに散らばる全てのガミラス民族にとっての大事な日だ。

 

その重要性ゆえ、本星からの超空間通信の回線が全ての植民惑星に引かれ、とある様子をリアルタイムで中継されている。

この日は、ガミラス帝国が建国された日。『建国記念日』である。

 

 

ガミラス帝国標準恒星系配置図

銀経0度 銀緯0度

大マゼラン星雲

サレザー恒星系第4惑星

大ガミラス帝星

帝都 バレラス

 

 

「青き花咲く大地

 

気高き我が故郷よ

響け歓喜の歌

神の加護は我らと共にあり続けん

 

ガーレ! ガミロン!

 

讃えよ、祖国の勝利を」

 

 

帝都バレラス、天を貫く様にそびえ立つバレラスタワーの正面広場には、数万人のガミラス臣民が建国記念を祝っていた。皆一様に「ガーレガミロン!(ガミラス万歳)」と声を上げていた。彼らの目的は一つ。

 

 

 

 

我らが総統の建国記念祝辞を聞くためである。

 

 

 

 

『ガミラス帝国臣民諸君、私は知っている。我が頭上の栄光は諸君らの、国家への、この星への、偉大なるガミラスへの愛国心の賜物であると!』

デスラー総統の言葉は1字1句ガミラス臣民の心につたわり、一息つく時には広場から歓声が響き渡る。

 

それをデスラー総統は片手で制し、続きを話していく。

 

『今この時をもって、諸君らを友と呼ぼう! 今日、この場に集まってくれた友人、遠く離れた星で私の言葉を聞いてくれている友人に心から感謝する。ありがとう、諸君』

 

再び歓声が上がり、デスラー総統が壇上から降壇しても止むことは無かった。

 

「ガーレガミロン! ガーレデスラー!」

 

「ガミラス万歳」と「デスラー万歳」が交互に響く会場を後にしたデスラー総統は、セレステラと共に総統府に向かって移動を始めた。

 

 

「総統閣下」

「良い原稿だったよ」

「お褒めに預かり光栄です」

「人間とは愚かで従順な生き物だ。そしてこの上なく退屈な存在でもある。何かに酔わないと、溺れなければ生きていけない生き物というのは宇宙広しと言えども同じだな」

 

「この後の余興の準備も整っております」

 

 

 

デスラー総統が自身の玉座の間に戻ると、閣僚一同が拍手で迎えた。

まるで凱旋だ。その出迎えを慣れた様子で進み、閣僚一同の拍手の雨を浴びる。そしてこれまた慣れた手つきでマントを片手で翻し、ゆっくりと鎮座する。

 

玉座の間、主にデスラー総統が座る玉座の周辺にはガミラス伝統の四角形を多数用いた文様が煌びやかに施されている。見方によれば後光のようにも見えるそれは、絶大な権力がそのまま形となったようだ。

 

 

 

「総統。ガミラス帝国建国1000年、並びにデスラー歴103年を閣僚を代表してお祝い申し上げます」

ガミラスのNo.2であるヒス副総統がデスラー総統に祝辞の言葉を述べる。

デスラー一族がガミラスを統治したのはちょうど103年前、

その初代総統の頃からヒス副総統の先祖……すなわち「レドフ一族」は閣僚としてデスラー一族に祝辞を述べている。そして副総統として総統の補佐を行っているのだ。

 

「ありがとう、副総統」

そして両者は知る由もないが、話し方も受け答え方も先祖とほぼ変わらない。

 

「宇宙に名だたる大ガミラスは、大小マゼラン統一の偉業を成し遂げ、天の川銀河へと版図を広がり、総統のご威光はあまねく宇宙に降り注いでおります」

玉座の間に、中空スクリーンが表示され、現在のガミラスの勢力図が表示される。自分たちのホームグラウンドの大マゼランを越え、お隣の小マゼランも統一し、現在では天の川銀河への進出を果たしている。これほどまでに勢力を広げたことはガミラス有史史上類を見ないことであり、この勢力拡大がデスラー総統の支持率の向上に一役買っている。

 

「同化政策も順調に進んでおります。帰順を示したものには滅亡ではなく、二等ガミラス臣民としての権利を与えております。これが、帝国繁栄の礎となっております」

ヴェルテ・タランが帝国の拡大の仕組みを改めて説明する。

ガミラスは、他の惑星を開拓して「植民惑星」とするのはもちろんのこと、他の民族との併合も行っている。

そのため、ザルツ人やポルメリア人などの肌の色が他とは異なる民族もいるのだ。

 

「まさに偉業ゥ! まさに神の御業(みわざ)であァる。総統と! 我が大ガミラスの征くとこに敵なァし。無敵ガミラス! 敗れることなァし!!」

ヘルム・ゼーリックがドスの利いた低い声で声を上げる。

貴族出身の彼は、中央軍の総監として艦隊を預かっている。ガミラスがまだ「大公国」と呼ばれていた時代から彼の家は貴族であり、純血主義の人間である。

 

「慢心はなりませんぞ?」

そんなゼーリックに一言釘を刺す初老の聡明な男性がいた。

航宙艦隊総司令の「ガル・ディッツ」である。

基本的にガミラスの艦隊は彼の管轄にある。そのため、どの艦隊がどの方面に行くかは彼の判断によって決まる。

この仕事を長く務めた彼は、いつしか老練な策士となっていた。

 

「小マゼラン外縁部では、外宇宙からの蛮族侵入も油断なりません。そして、アリステラの生命体も野放しにはしておけませんぞ?」

 

「ディッツ君、君は私が大ほら吹きと言いたいのかぁ?」

「艦隊運用の責任者としての意見を言ったまでだ」

 

「総統、間もなくその蛮族どももほどなく一掃されることでしょう」

「ドメル中将の派遣を検討中です。彼がアリステラ星系の任務から帰還次第、派遣命令を出します」

 

「宇宙の狼か、彼ならやってくれよう。しかし、我々は彼に負担をかけ過ぎているのかもしれんな。ディッツ君、国防軍の中から腕のいい艦隊を蛮族退治に優先的に回すように調整を頼む」

 

「ザーベルク」

エルク・ドメル……宇宙の狼と呼ばれる彼は、中将という肩書に見劣りすることのない数々の戦果を挙げた優秀な指揮官だ。彼のもとに集った通称「ドメル幕僚団」はガミラス国軍のなかでも指折りの精鋭だ。

 

 

 

「さて、今宵は諸君らの日頃からの労をねぎらうため、ちょっとした余興を用意したんだ」

ワイングラス片手にデスラー総統はそう切り出す。その直後にセレステラが皆から見える位置にサッと移動して一礼、閣僚一同に説明を始める。

 

「今宵は皆様に、帝国最前線の映像を御覧に入れます」

 

「なぜそんなことを?」

ガミラス親衛隊長官のハイドレ・ギムレーが疑問を発する。なぜそんな辺鄙そうな位置の映像を出すのかわからなかった。

 

「それは、これからご覧いただく作戦は総統ご自身が立案なさったからなのです」

セレステラがその疑問に答えるとギムレーは意外そうな顔をしてデスラー総統の方を向いた。デスラー総統は楽しそうな笑みを浮かべ、こう言い放った。

 

 

「さあ、ゲームを始めようか」

 

 

 

 

 

 

『星に願いを託すことは、昔も今も変わらない風習です。では、皆さんの思いを私たちの目的地であるイスカンダルに託してみてはどうでしょうか。叶わないと思っていた思いも星が叶えてくれるかもしれませんよ?』

『おっと、お時間が来てしまいました。奇跡のラジオ局in外宇宙、次の放送は、艦内時間20時30分からです。お相手は、岬百合亜でした。』

 

「はい、オッケー」

アシスタントさんの声を聴いて、岬は放送用スイッチをオフにして大きく伸びをする。一回の放送は大体15分くらい。長くても30分以内というのが決まりだ。艦内ラジオ局開設時に沖田艦長から「艦内業身に支障が出ない範囲でなら良いだろう。乗員の娯楽の一つにもなる」というお墨付きが出ているので、支障が出ない範囲で自由に動ける。すでに岬の頭の中にはやりたいことがいくつかできている。

機材室の方を見ると、保安部の星名が手を振っていた。

放送が始まってから、よく来るのだ。

 

 

 

「いいの? こんなとこで油売ってて」

「うん、今オフだからね」

保安部は、騒動でも起きない限りオフなのだ。騒動が起きた時の保安部なので、彼らが暇そうにしているのは、艦内が平穏だという事だ。

 

「それより知ってる?」

「ん?」

 

「この先にサーシャさんの病室があるんだけどさ、そこからたまに声が聞こえるみたいなんだ。もしかしたらサーシャさんの声だったりして……」

星名はわざと声を低くしていかにも怖い話をしているようにするが、その手の戦術は通用しなかった。

 

 

「それ、ユリーシャさんだよ」

「へっ?!」

 

「たまに病室に来て話しかけてるみたいなの。幽霊じゃないわよ?」

「……そうなんだ」

星名は若干恥ずかしくなってしまった。

 

 

 


 

 

 

航海艦橋では、次のワープに向けての準備が進められていた。太陽系を脱出してから、Wunderは1日2回のワープを行っている。乗員がワープに慣れてからは、1日に750光年は進むことが計画されている。しかしまだワープの回数が少ないこともあり、距離を短くしている。

 

 

「現在Wunderは、地球から8.6光年の宙域を時速18エスノットで航行中」

「次のワープで地球から20.6光年のグリーゼ581の宙域に到着します」

宇宙空間の大航海はワープをひたすら繰り返さないといつまでたっても目的地にたどり着かない。たとえ光速を保ったまま航行することが出来ても、イスカンダルまでには16万8000年かかってしまう。往復ならその倍だ。あっという間にゲームオーバーだ。

 

そういうことで、1日に何度もワープすることとなっている。

 

 

「12光年の跳躍か……WunderのVLBI望遠鏡であの地球の姿が見れる最後の機会だな」

「えっ? この船にそんなもの積んでましたか?」

島が素朴な疑問をのぞかせる。沖田艦長の言うVLBI望遠鏡は電波望遠鏡のことだ。そんな大掛かりな観測機器をこんな船に乗せられるとは到底思えなかった。

 

「厳密には、あの大型アレイアンテナの事だよ」

その疑問にハルナが応える。Wunderのアレイアンテナは様々な波長の電波及び重力震を感知できるように色々改造されているが、本来の機能は失われていない。

 

「青い星の記憶を最後に見てみましょうか」

リクもそうつぶやきながら観測用のコンソールを操作する。

 

 

実のところ、2人は地球の本当の姿を知らない。

2人が目覚めたのが95年と96年だったが、その頃には地球は荒れてしまっていた。その頃は完全に赤茶けていた訳では無いが、「痛々しい姿」だったのは2人もよく覚えている。

そして、そのことは秘密なのだ。

 

 

「観測目標は地球。各アンテナ連動。観測開始します」

航海艦橋に大きめの中空スクリーンが表示されて、そこにはあの青い星の姿が映し出された。

緑の大地は抱え、青い海でその身を潤した生命の星がそこに映っていた。

 

「これは、地球か?!」

古代が驚く。地球は今は赤茶けていたはずなのでは?

 

「ここは、地球から8.6光年の位置、つまりこれは、およそ8年前の地球の姿だ」

光が1年に進む距離は1光年、そのため地球から観測している星々の姿はすべて過去の映像ということになる。

ならば地球から何光年も離れた位置から地球を観測してみればどうなるか?離れた距離が大きければ大きいほど過去の地球の姿を見ることが出来るのだ。

 

 

「いいか、これが我々の取り戻す地球の姿だ。その目にしっかりと焼き付けておくんだ。そして、イスカンダルにたどり着くことだけが目的ではない。地球に帰ってくることまでが目標だ。総員ワープ準備にかかれ」

 

自分たちの故郷である星の姿を目に焼き付けた彼らは各々の持ち場で作業の進める。

 

蒼い星の姿を初めて目にしたハルナとリクは、いつまでもその光景が頭から離れなかった。

 

「綺麗だったね」

「ああ、あれを取り戻すことが僕の戦う理由だね、ハルナは?」

「?」

「戦う理由だよ」

「私は、戦争が終わった後に一緒に……やっぱり内緒」

「気になるなぁ、続きは?」

「だから内緒だって」

ハルナはそっぽを向いてしまった。

その向いた方向がたまたま島の座っている方向で、島はハルナの顔をバッチリ見ていた。見ると少し赤くなっている。島はピンときた。

 

(あれ……?暁さんってもしかして)

 

 

 


 

 

 

そのころ、冥王星前線基地から撤退したガイデロール級は一矢報いるためにWunderの予測される探知可能領域の外からこっそりと追跡していた。

 

スクリーンには、ワームホールに突入したWunderの姿が映っていた。

 

「ヴンダー、ジャンプしました」

「ジャンプ先を特定しろ!」

「時空間波動計測開始、空間航跡をトレース」

 

超空間航行、すなわちワープを行うと痕跡が残る。その痕跡というのが空間航跡で、それを解析すればどこでワープしてどこに出るのかが分かる。

 

「ガンツ少佐、友軍の補給艦がランデブーを求めています」

それは本来あり得ない報告だった。

 

 

 

『お父さん、早くお仕事終わらせて帰ってきてね。お母さんもお父さんのこと心配しているの。だってお父さん頑張りすぎる癖があるもん……』

遠く離れた娘からのホログラムビデオを寂しげな眼で眺めながらシュルツは言った。

 

 

「総統は我らに戦って死ねと仰せられた。すまない、ヒルデ」

静かな一人部屋に急に艦橋からのコールが入る。

 

『シュルツ司令! ゲール少将から支援物資が届きました!』

「なんだと?! 本当か?!」

勝手に逃げ出して見捨てられていたはずなのに、そんな「脱走艦」に支援物資など何度も言うがありえないのである。

 

『はい! 我々は見捨てられたのではなかったのです!』

 

 

 

デスラー総統の目の前に映っている人物は、遥か彼方のバラン星から通信している。

その映像通信を受けるデスラー総統の表情はウンザリ顔だ。いつも微笑を浮かべている総統がウンザリ顔をしている。大事なことなので2度言った。

そんな彼の心をのぞいてみると、

 

 

(彼は苦手なんだよなぁ、だからバランに行かせたんだが……)

 

 

総統本人がここまで嫌がる人はなかなかいない。ある意味ゲールは自慢してもいい。

『銀河方面、作戦司令長官のゲールであります! 今回、総統の立案された作戦の現場指揮を担当させていただけることを誠に光栄に……』

「もういい。ゲール君、君に送ったものは無事に届いたかな?」

ゲールのあいさつを途中で切らせたデスラー総統は送った積み荷について聞いた。

 

『失礼しました! 例の新型魚雷は』

「……デスラー魚雷」

セレステラがボソッと言うと、ゲールは慌てて

 

『あわわ、そのデスラー魚雷は、すでに前線配備が完了しております!』

 

「ならいい。あとは予想した宙域にテロンの船がやってくるだけだな」

 

 

 


 

 

 

突如空間にワームホールが出現して、薄氷を纏った不死鳥が現れた。その薄氷の羽衣を一息に脱ぎ捨てたWunder

の目の前には太陽によく似た恒星が鎮座している。

 

「ワープ終了。周辺宙域に艦影なし、重力場の影響もなし」

 

「ここは、地球から20.6光年のグリーゼ恒星系。あれが、主星の赤色矮星グリーゼ581だよ」

真田が現在位置について軽く説明を入れる。赤色矮星は通常の恒星に比べて小さく、フレアが発生しやすいやや癇癪持ちな恒星だ。

 

 

 

 

「フーム、ワープの影響はなさそうですな。けどもくれぐれも無理はせんといてくださいよ?」

 

ワープ後は体調不良を訴える人がたまにいる。しかし沖田艦長は持病があり、こうして艦長室で佐渡先生の問診を受けることがワープ後の習慣となっていた。このことは主治医である佐渡先生の他には、真田と徳川機関長しか知らない。

 

往診中に唐突に扉を叩く音が聞こえた。

「新見情報長、入ります」

そうして入ってきたのは新見だった。

 

 

「では、失礼しますよ」

「お先に失礼します」

往診が終わったので2人が艦長室を後にしたタイミングで新見は沖田艦長に話しかけた。

 

「よろしいでしょうか?」

「構わんよ、何だね?」

意を決した表情で新見が沖田艦長に提案したのは星系の調査だった。

 

「この星系には、人類移住計画の対象惑星があります。調査隊を編成して調査を行う許可を頂けないでしょうか」

 

「新見くん。贖罪計画は破棄されたのだよ?」

贖罪計画では、移住候補の惑星がいくつも選定されていた。そしてWunder……旧Bußeには、惑星探査能力が与えられていた。ハルナとリクは改装時に、「あらゆる状況に対応するために」わざとある程度残していた。

 

新見はそれを使って自分で贖罪計画を進めようとしているのだ。

 

 

「しかし……! 人類が生き残るためには1つでも多くの可能性を考慮するべきではないのですか?」

 

「我々にそんな余裕はないのだ」

沖田艦長が鋭い目で新見を射抜く。いつもの温和そうな目ではなく厳しい目だ。

その直後、船が大きく揺れた。

 

 

 

 

 

「電離圧、濃度高まる!」

「船体下部に衝撃! 船体復元、15度戻す!」

何かにぶつかったような衝撃で何と2500メートルの船体が傾いたのだ。

 

「電子機器の一部に障害発生!」

先程の衝撃で船の電子機器に作動不良が発生したのだ。その現象で、2人は衝撃の原因に思い当たるものがあった。

 

「アナライザー、荷電粒子の波動は感知できる?」

リクがアナライザーに真っ先に聞いてみた。そして返ってきた答えは予想通りであった。

 

『感知シテイマス! 信ジラレナイ程強力デス!』

 

「状況報告!」

沖田艦長が慌てて艦橋に入ってきてそう命じた。

 

「どうやら、超高出力のプラズマフィラメントに接触してしまったようです」

「何ですか?それ」

太田が聞きなれない言葉に首を傾げる。太田は気象長だが、そんな宇宙気象現象は聞いたこともない。

 

「恒星から発せられるフレアプラズマの束だ」

「つまり太陽風のこと。Wunderは恐らく、そのプラズマ回廊という見えない壁にぶつかったと思われるわ。真田くん、そうでしょ?」

赤木博士が沖田艦長の説明を引き継いで分かりやすく説明する。

「その通りです。現にそのプラズマの反応が本艦を挟み込むように形成されてます。」

真田がコンソールを操作して、プラズマの強弱と分布を中空スクリーンで表示する。

確かに両側に壁のように発生している。

 

 

「このような現象は地球でも観測されたことは数回ありますが、理論値の数億倍ものビルケランド電流が流れている。これは自然界では起こりえない」

 

「これは人為的なものですね?」

ハルナが確信した目で核心を突く。

 

 

「「ああ(ええ)、これは明らかに人為的なものだ(よ)」」

 

 

2人揃って同じ結論が出たところで、艦橋メンバー一同は確信した。

 

 

「ガミラスが仕掛けたんだ」

 

 


 

 

『ネズミが罠にかかりました! この星系に彼奴めがやってくることを予想されるとは、このゲール、感服しました!』

 

「なぁに、暇潰しに彼らの航路パターンを解析してみたのだよ」

暇潰しでやっていい事ではないはずだが、政治以外にも対応可能なデスラー総統にとっては暇潰し感覚で出来てしまうのだろう。

 

そして、召使いの1人からワインを受け取って、皆に一声かける。

 

 

「では諸君、テロン人の検討を祈って乾杯しようではないか……」「ギャハハハハ!」

 

デスラー総統の言葉を遮る形で1人の下品な笑い声が聞こえた。

 

「罠に落としておいて健闘を祈るだァ? 総統も相当冗談がお好きで…ヒック!」

既にワインに酔ってしまった1人の閣僚が、「命取りな発言」をした。

 

 

それが気に入らなかったのか、デスラー総統は秘密兵器を使用した。

 

玉座の肘掛にはリモコンのようなものが取り付けられている。

 

それを指で弾いてスイッチオンするだけで……

 

 

 

「へっ? うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

下品な閣僚は足元に空いた穴に真っ逆さま、あっという間に処理完了だ。お手軽に気に入らない人をバイバイ出来るまさに「総統の匙加減でなんでも出来る」便利装置である。

 

 

「……ガミラスに下品な男は不要だ」

「「ガーレデスラー! 総統万歳!」」

 

 

 


 

 

 

見えない壁にぶつかったWunderは見かけはなんともないようだが内部では異常が起こっていた。

 

「観測機器にも異常が出てるね。レーダーは大丈夫だけど」

「ほ〜んと参っちんぐよね、こんな大出力電流なんて想定してないよ」

「まず、ガミラスがどうやってビルケランド電流を大きくしたのかが気になるとこだ」

 

「I don't know〜。神のみぞ知るじゃなくてガミラスのみぞ知るってやつにゃ」

 

「ですね。真田さん、電子機器の異状は何とかなりますが、そう何回もぶつかるとホントに観測機器とか壊れますよ?」

 

「もちろんわかっている。その回廊をレーダーで確認できるようにはなったから森くんの指示で飛ばすしかない」

 

「責任重大……ということですか」

森が恐る恐る聞く。プラズマ回廊は見えないだけあって怖い。自分の指示で船が飛ぶとなったら指示ミス1つでぶつかることも有り得る。

 

 

「大丈夫だ。プラズマ回廊はこっちでも簡易的に見れるから安心してくれ。通過出来ない程狭くなったら、船を90度倒して飛ばすから」

島が気を使って安心させた。実質船の全幅とプラズマ回廊の幅はだいたい同じだからスレスレなのだ。

 

そして慎重にプラズマ回廊を通過している時に、それはやって来た。

 

 

「重力波の乱れを検知! ワープアウト反応です!」

複数の重力波の反応と共に、背後からガミラス艦がワープアウトした。

「こいつ、冥王星から離脱したのと同型艦じゃないか」

古代がすぐに気づいた。そして、敵艦が臨戦態勢に入ったことも気づいた。

 

 

「敵艦、魚雷発射!」

 


 

 

 

 

「ワープアウト、正面に艦影確認! データベース照合。テロン艦、ヴンダーです!」

 

「作戦開始、魚雷発射管1番にデスラー魚雷装填!」

 

「装填完了! 照準よし!」

 

「デスラー魚雷、発射ァ!」

ガイデロール級から放たれた1本の魚雷は獰猛なピラニアとなって、Wunderに向かって一直線に進んだ。

 

 

 

 

━━━━━━━━━

 

 

「敵艦、魚雷発射、数1! 迎撃不可能域まであと20秒!」

レーダーに映った魚雷の影を見るなり森がそう報告した。

 

「捕捉した。対空戦闘用意!」

古代が魚雷を装填して迎撃の準備を整えたが、迎撃命令が沖田艦長から下りない。

 

「迎撃不可能域まで、あと10、9、8、7、6……」

「艦長!」

「……左舷艦尾魚雷発射管開け」

 

「撃てぇ!」

古代の号令でWunderの艦尾から3本の魚雷が放たれて、敵艦の魚雷に向かって突き進んだ。そして衝突して迎撃が完了した。

 

 

「ふぅ」

「着弾。目標の迎撃に成功……えっ?待ってください!」

一息ついたところに予想だにしない事態が起こっていたのだ。

 

「雪さんちょっと見せて、えっ?? これって……太田さん! 艦尾カメラの映像回してください!」

ハルナが驚いた顔で太田さんにカメラを回すように頼んだ。

 

「映像出ます!」

 

直後に航海艦橋に展開された中空スクリーンには、目を疑うものが映っていた。

 

 

 


 

 

 

「これは……なんだ?」

その頃ガイデロール級艦橋では、シュルツを含めた艦橋要員がデスラー魚雷の正体に驚いていた。

 

「帝政司令部に映像送ります」

 

 

 

 

そしてその様子はガミラス本星にも届いた。

 

「これは、ジェル? いや、粘菌でありますか?!」

 

「アリステラ星系で確認された使徒の一体『バルディエル』です。侵食能力に特化したこの生命体は、物質に接触した瞬間に物理的に侵入を開始し、デストリア級ですら侵食した記録があります」

 

「野鳥狩りをするには、獲物を追い立てる役が必要だろう」

 

 

 

━━━━━━━━

 

 

その頃Wunderでは、魚雷から出てきた粘菌を解析していた。

 

「開けてびっくり玉手箱だにゃ」

「そうねぇ……冥王星の時といいコレといい、宇宙にはこういうのしかいないのかしら?」

 

マリと赤木博士はスクリーンに映る映像を半分楽しそうに見ていた。だがその脳内では、相手の能力がどのようなものか推測を行っている。

 

(敵の形状は粘菌のようだけどまさかここまで大きいとはね、しかも宇宙を自分で進んでいる。敵の形状は固定されてない以上、こちらがショックカノンを撃っても形状変化で避けられる可能性が高いわね)

 

(自由に動けるってことはこっちに触手伸ばしてダイレクトアタックも有り得るにゃ。だとしたら相当タフなやつ、冥王星の時よりも大変かもにゃ)

 

そんな風に思考の海を泳いでいる2人を一気に引き戻したのは、その粘菌状の敵の行動だった。

 

「未確認物体に変化あり!」

太田が粘菌状の敵の行動をWunderの高性能観測機器で捉えた。

 

そのまま中空スクリーンに映し出されたのは、粘菌状の敵が小惑星を取り込む場面だった。

敵は、一気に体のサイズを大きくして小惑星を包み込み、吸収してしまった。その「捕食」とも呼ぶべき活動を終えた時には、敵は少々サイズが肥大化したように見えた。

 

「小惑星を吸収してエネルギー変換したのか? 物体を吸収して自らの体に変換できるとしたら、Wunderも吸収される可能性があります」

 

敵は自分の体格よりも大きい小惑星を取り込んだ。ならば、この船を吸収することも不可能ではないはずだ。

 

 

 

 

「傾注! 未確認物体に変化あり!!」

太田の観測している敵に大きな変化が見られた。この時一同戦慄した。敵がグニャグニャと形をゆがませながら、触手のように細い腕を勢い良く伸ばしてきたのだ。

 

 

「波動防壁展開!!」

「はい!!」

沖田艦長がとっさの判断で防壁展開を命じた。真田が間髪入れずに防壁展開のスイッチをオンにした瞬間、

 

 

敵の触手が防壁に激突した。

 

 

艦内に激震が走り、立っている人は軒並み床に倒れこんだ。

波動防壁越しでもこの衝撃、一同は直感した。

 

 

 

「一瞬でも防壁が間に合わなかったら死んでいた」と

 

「波動防壁被弾経始圧低下。あと何とか数発は耐えれますが、防壁が切れた時に受けたらおしまいです」

「うむ。島、測定した干渉地帯は抜けられそうか?」

 

「何とか行けます」

「待ってください、このままその進路で航行すると……」

太田がコンソールを操作して、航路図の縮尺を操作すると、

 

 

正面に、灼熱の恒星があった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「バルディエルはうまく機能しているみたいだね?」

 

「そのようですね。先程、バルディエルからの直接攻撃が確認されましたが、ゲシュタムフィールドを展開したようで無傷のようです」

 

 

「まさに袋のネズミというわけですな、あとは猫が始末してくれるという算段ですなァ?」

ゼーリックが納得したようにスクリーンを見上げる。スクリーンにはバルディエルとヴンダーが映っている。

まさに追いかけっこ状態だ。

 

 

「いいや、出口を1つ用意してある」

そういうとデスラー総統は肘掛のスイッチを操作してその出口を表示した。

 

「その出口は、巨大な恒星がその口を開けて待っている。バルディエルに喰われるか、灼熱の溶鉱炉に身を投げるか、彼らの運命は他にあるのだろうか?」

 

「あるはずがございません。完璧です」

ヒスが総統の作戦をほめたたえる。究極の生物兵器&究極の溶鉱炉、どちらを向いても地獄だ。

「諸君、テロン人の勇敢な決断を、拍手で称えようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

「まさに、前門の虎後門の狼というやつか」

古代は苦々しい顔を浮かべて、そうつぶやいた。たった一言だったが、それが赤木博士にとって大きなヒントとなった。

 

 

「ん? 待って、古代君今なんて言ったの?」

「『前門の虎後門の狼』ですが……」

古代にとって特に考えずにつぶやいたのだが、赤木博士はすっきりしたような顔をした。

「ありがとう古代君。何とかなるかもしれないわ。沖田艦長、赤木リツコ意見具申!」

唐突に赤木博士が沖田艦長に意見を述べた

「聞こう」

 

「恒星スレスレを航行するべきと思います」

狂気の沙汰である。宇宙空間で恒星のすぐ近くを航行するのは自殺行為に等しい。航宙艦艇には艦内の環境制御システムが標準装備となっているのだが、あまりの高熱に防熱処理が追い付かない可能性がある。

つまり艦内がサウナのようになり、乗組員が熱中症でバタバタ倒れる。

「恒星をスレスレに? ……そういうことか。島、恒星に向けて第二戦速!」

 

 

「危険すぎます! この船が融解する可能性があります!!」

新見が反対意見が出して実行を阻止しようとするが、彼女はこの状況を打破する代案が出せなかった。

 

「艦長、防護隔壁は完全閉鎖して環境制御システムフル稼働。総員に船外服を着用してもらえば、恒星スレスレを飛んでも問題ありません。島君?間違ってもフレアに突っ込まないようにね?」

ハルナが熱対処についての対応案を出し、「問題ない」ことを伝えた。実際フレアをまともに食らったり太陽にダイブでもしない限り、高い耐熱性を持つWunderの装甲は問題ないのだ。

 

「もちろんです。この船を焼き鳥にはしませんよ? 太田、恒星の反応を引き続き観測してくれ! どんな些細な反応でも構わない!」

 

「了解です!」

 

 

「さあ、我慢比べだ。粘菌くん?」

リクは不敵な笑みでスクリーンに映る敵をにらんだ。

 

 

 


 

 

 

「どうやらテロン人は、焼身自殺を選んだようだ」

 

デスラー総統はその様子をたたえて拍手をすると、他の閣僚も同様に拍手し始める。しかし、デスラー総統は気付いていなかった。彼らがなぜ恒星に突き進んだのかについて。

 

「確かこの国には、最後に溶鉱炉に沈んでいく機械の兵士の物語があったはずだが、彼らも同じことをするのだろう」

 

 

 

「艦外温度1100度! 艦内温度75度! なおも上昇中!」

 

「環境制御システム、防熱処理追い付きません!」

恒星スレスレを航行中のWunderの艦内温度はみるみるうちに上昇していく。事前に環境制御システムを弄って冷房全開にしたのにこれである。

船外服を着用していなければ熱中症は確実。艦内の壁面床面も同様に熱くなっているはずなので、今ならアツアツの床面を使って目玉焼きが焼けそうだ。

 

「艦長、波動防壁を張ってみてはいかかでしょう。このままでは艦内の生命維持に支障が出でしまいます」

確かに防壁を張らないとこれ以上の温度上昇は回避できない。

 

「うむ、波動防壁を艦底部に集中展開。このまま余分なエネルギーを消費することなく進むのだ」

 

さすがに沖田艦長も暑すぎたのか、艦底部にのみ波動防壁を展開して

進むことにした。

「後方のガミラス艦は?」

 

「敵性生物後方、距離5000、ピッタリついてきています」

 

「引き続き監視を続けろ。ん、ムゥゥゥッ!」

 

ドサッ!

 

突如艦橋の後方で誰かが倒れる音が聞こえて、古代たちが振り返ると、

 

 

 

沖田艦長が艦長席に突っ伏して倒れていた。

 

「艦長!! 相原!佐渡先生呼べ!」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

『現在艦内温度80度、総員、船外服を着用せよ。繰り返す船外服を着用せよ』

 

「えらいこっちゃ~!!」

「先生船外服着てください!」

佐渡先生と原田が、「艦長が倒れた」との一報を受けてアツアツの艦内を走っていた。

 

「しかしなんでこんなに暑いんじゃ?」

 

 

 

その疑問は、艦橋に入ることですぐに分かった。

なぜって?

そりゃあ目の前のスクリーンに恒星が映っているからだ。

 

 

 

「お前らなんちゅうとこに飛び込もうとしてんじゃあ! すぐ引き換えさんかい! 艦長を殺すつもりかぁ!!」

ごもっともである。佐渡先生からすると

『こいつら気でも狂ったんかァ!』という感想である。

 

「大丈夫だ、先生。ちょっと古傷がいたんだだけだよ。そうですな?」

しかし、当の本人がケロッとした感じで艦長席に座っていたので佐渡先生の慌てようも完全鎮火された。

 

 

「え……? え~とそれじゃあまあ、お手を拝借……脈は正常じゃな……こりゃあ大したことありませんな、過労でしょう! まぁ栄養剤だけでも注射しておきましょうかねぇ」

そういって艦長の船外服の袖をまくり上げた佐渡先生は沖田艦長にグイっと顔を近づけてこういった。

 

「いいですか? 儂はあんたの親友からくれぐれもと頼まれとるんです。そこはわかってもらわんと困ります。あんたの体は……」

 

「わかっとるよ、先生」

最後まで言わせたくなかったのか、艦長が途中で遮った。

 

 

 

「ふぅ、良かったぁ」

ハルナが一安心した顔をした。

「流石に艦長は高齢だからね、というか船外服越しでも暑いな」

「確かに、汗かいてるし。終わったら風呂かなぁ。折角造ったんだし」

 

「いいな。もう汗ビッチョビチョ。服の中気持ち悪い」

この作戦後は、温泉が大盛況となることだろう。

 

 

「前方、SK23の領域に小規模なフレア発生を確認!」

「了解、取り舵30度。回避します!」

 

フレアを器用に避けたWunderの背後では、バルディエルが奇妙にその体を変異させて、槍状の物を生成していた。

「艦長、後方の敵性生物に変化あり!例の触手が来ると思われます!」

 

「古代、艦尾副砲で迎撃するんだ。相手がある程度の加速をつけているなら、相対速度から考えて相手は回避しにくいはずだ。暁君、睦月君、古代のサポートを頼む」

 

「了解、迎撃行動に移ります。艦尾副砲用意!」

古代の指示で後部甲板の副砲が滑らかに回転して、敵の方向を向いた。

「古代君、敵の刺突攻撃は馬鹿正直に本艦後方7時の方向から狙っているようだ。島君!姿勢安定!」

「了解!」

 

「照準固定!」

あとは打つだけである。しかし、今撃っても避けられる可能性が高い。敵の攻撃と同じタイミングで撃たないといけない。

 

「まだか…」

「エネルギーは十分にたまっています。発射可能です!」

南部が真剣な目つきでスクリーンをにらむ。

 

 

「……敵性生物に動きあり!攻撃来ます!」

森がレーダーで確認した瞬間、古代は艦尾副砲に指示を下した。

 

「艦尾副砲、撃てェ!」

 

 

 

Wunderの艦尾副砲が青白い光の束を放ち、三本が一本に収束して敵に向かう。

バルディエルはそれに気付いたようだが、自分の刺突速度が速すぎたのか回避しきれずにショックカノンを受けてしまった。

一部が千切れ、一瞬意識を失ったバルディエルは恒星の強大な重力に捕まった。

 

 

「艦長! 後方の敵性生物が恒星の重力に捕まりました!」

スクリーンには恒星の重力で身動きできない敵が映っていた。

 

 

動けないバルディエルは業を煮やしたのか『恒星が邪魔なら取り込んでしまおう』という考えにたどり着き、自身の体を限界まで広げて恒星の表面に広がろうとした。

 

しかし、取り込もうとした直後に逆に恒星に飲み込まれ始めた。

 

 

「恒星を吸収しようとして逆に取り込まれている。なるほど、艦長と赤木博士はこれが狙いだったんですね」

 

真田が結果を見て納得したようでスクリーンを見てにやりと笑う。

 

 

 


 

 

 

その光景を玉座の間から見ていたデスラー総統は不満そうだ。自分の予想外の方法で突破されたのだから当然だろう。しかし同時に敵の指揮官を称賛に値する者だということも理解していた。

「まさか、こんな危険な方法で回避するとはな……」

 

 

 

ところ変わってバラン星、現場指揮を任されていたゲールは、何もしなかった(どうあがいても対処の使用のない)ガイデロール級の艦橋要員に怒鳴り散らしていた。

 

八つ当たりというやつである。

 

「この無能め! 貴様は総統のバルディエルが取り込まれていくのを指をくわえてみていたのか! これだから二等ガミラス人は二等なのだ。このことは私から総統に直々に報告させてもらうから覚悟してお……おい! シュルツ! シュルツ!」

 

 

超空間通信は、ガイデロール級の方から一方的に切られていたのだ。

 

 

 

 

 

ガイデロール級では、唐突に切れた通信にシュルツが驚いていた。

 

通信使の席を見ると、ガンツがすっきりした顔でこちらを向いていた。

 

「最後くらいガミラスの誇りではなく、ザルツの誇りをかけてやりましょう」

彼の一言は、シュルツを動かすには十分だった。

 

 

「本艦はこれより、ヴンダーに向けて最後の突撃を敢行する!」

 

「シュルツ大佐と共に!」

「「シュルツ大佐と共に!」」

艦橋要員はガミラス式の敬礼ではなく、旧ザルツ国軍の敬礼をした。

 

 

 

 

 

「くっ! イレギュラー発生! 前方に巨大なフレア!!」

太田が報告するやいなや、Wunderの前方に巨大なフレアが恒星表面から噴き出した。

 

それは火炎なんて生易しいものなんかではない。炎の壁である。触れれば一撃。装甲が融解して航行不能に陥る。

 

 

「避けられないのか?!」

「ダメだ!大きすぎる!!」

流石にフレアの規模が大きすぎる。このままなすすべも無く突っ込むかと思われたが、

 

 

「古代君! 波動砲の重力収束撃ちならばフレアを破れるかもしれない! 沖田艦長、やるべきです!」

リクが、突破できるかもしれない方法を提案した。シミュレーションなんかやっている暇はない。波動砲の力に全振りした突破方法だが、ぶっつけ本番でやるしかない。

他に案はない。

 

「進路そのまま! 古代! 波動砲でフレアを撃て!」

「はい! フレアを、波動砲で撃ちます!」

古代のコンソールから波動砲コントローラーが展開されて、発射準備が始まった。

 

「古代くん、以前浮遊大陸で使った重力収束を応用して収束してみる。リク、アナライザー、やろう!」

「任せて!」

『了解デス!』

 

「波動砲への回路開きます!」

「非常弁全閉鎖、強制注入器作動」

 

 

「重力収束アルゴリズム修正、グリーゼ581の重力の補正計算開始」

今回は恒星の表面で波動砲を発射する。そのためエネルギーの束は恒星の重力に少なからず影響を受けてしまう。アンノウンドライブの重力子で収束バレルを形成しても、外部からの重力で不安定となってしまう。

 

そのため、グリーゼ581の重力の強さからバレルのサイズ等を計算してアルゴリズムを組み直しているのだ。

 

「重力子配列一部修正、プラス10、21、23。バレル直径400から200センチに変更」

 

「確認した。既存アルゴリズムの数値変更確認! アナライザー!」

 

『MAGIシステムトノ接続良好! アルゴリズム入力完了! 配置計算開始シマス!』

 

 

「補助エンジン出力最大! 睦月君、行けるぞ!」

徳川機関長が波動砲発射準備と同時に補助エンジン出力を全開にしてくれていた。

「ありがとうございます! アンノウンドライブと補助エンジン接続! 重力子生成! 量子跳躍随時開始!」

 

アンノウンドライブが光を放ち始め、補助エンジンの生み出す電力を貪る様にして重力子を生成していく。生み出された重力子は次々に指定位置に量子跳躍してみるみるうちに筒を形成していく。

 

「認証、沖田十三、波動砲発射を許可!」

「真田志郎、発射を許可!」

「古代進、発射を許可!」

本来ならば指紋認証だが、船外服を着込んでいるのでムリだ。しかし、認証システムには非常時用に音声認証が組み込まれているのでそれで認証を行う。

 

『認証確認、最終セーフティ解除します』

「最終セーフティ解除! ターゲットスコープオープン! 電影クロスゲージ明度20照準固定!」

 

古代の目の前に中空スクリーンが表示されて、戦闘艦橋の時と同じサイトマークが表示された。今は航海艦橋のままなので中空スクリーン展開によって簡易的に展開されている。

 

「薬室内、タキオン粒子圧力上昇! 88、96、100! エネルギー充填120%!」

 

「総員、対ショック対閃光防御!」

 

沖田艦長の指示で皆がヘルメットのバイザーを下ろした。

 

 

 

「後方、敵艦急速接近!」

レーダーを注視していた森が後方のガミラス艦の動きに気づいた。

 

 

 

「目標、ヴンダー! 砲撃開始!」

シュルツの指示でガイデロール級の主砲が赤い光の束を放つ。1発目は逸れたが2発目が艦尾に命中した。

 

 

「艦尾に被弾!」

「構うな! このまま撃て!」

 

「5、4、3、2、1!波動砲、撃てぇ!」

力いっぱい引かれた引き金は、波動砲口の溢れんばかりの光を放った。

 

重力集速バレルをくぐり抜けたその光は2本から

1本にまとまり、目の前の炎の壁を貫いた。

 

 

「このまま開口部を突破する。進路そのまま! 船体傾斜、船を垂直に立て! 補助エンジン出力最大、第4戦速!」

 

撃ちぬいたフレアは修復し始めている。Wunderが通れるスキマを補助エンジンの最大出力で全速力でくぐり抜けた。

 

 

 

「ヴンダー! プロミネンスを突破!」

「艦内温度さらに上昇! 生命維持システムに支障発生!」

 

「耐熱限界点超えます! 艦尾融解! 操舵不能!」

 

Wunderがフレアを撃ち抜くその光景を目の当たりにしたガイデロール級の艦橋では、あまりの艦内温度に耐えきれず船外服を着用した艦橋要員が悲痛な報告を上げていた。

 

 

艦尾が、艦底部が溶けたということは「もう動けない」ことである。

 

足元からフレアが上がってくる。

 

 

自らの死期を悟った艦橋要員は、各々がザルツへの忠誠を最後に示す。

 

 

シュルツの脳裏に浮かんだのは、

本星に残してきた妻子の姿だった。

 

 

その瞬間だけ、「ガミラス国防軍のシュルツ大佐」としてではなく、

ヴァルケ・シュルツになることが出来た。

 

 

 

(すまない……)

 

 

 

その瞬間、フレアが船体を真っ二つに叩き折り、ガイデロール級は爆散した。

 

 

 


 

 

 

「映像通信、途絶しました」

デスラー総督府の玉座の間で最期を見ていたデスラーは微小を浮かべていた。

 

「最期に一矢報いたか……シュルツくん」

自身の作戦を突破されたのに、その微笑を浮かべるデスラーの本心は計り知れない。

 

 

「そっ総統、これは私奴ではなくシュルツの失態であってその私奴は……あっ」

 

 

 

保身に走るゲールを指先で、文字通り「消した」デスラー総統は、今夜はこれでお開きにすることにした。

 

「いやはや、私でも予想のつかない面白いゲームだった。今夜はこれまでにしようか。セレステラ、戦死したものは2階級特進、遺族には、名誉ガミラス臣民としての権利を与えたまえ」

 

「かしこまりました」

ガミラスにも、「戦死で2階級特進」という文化はある。これが帝国繁栄の一部を担うことは閣僚の皆様方も承知している。

「おやすみ諸君」

「「ガーレデスラー!」」

 

玉座から降りて自室へと戻るデスラー総統は、ふと気になったことがあって歩みを止めた。

 

「そうそう、セレステラ。あのテロンの船の名はなんと言ったかな?」

「確か、ヴンダーと言ったかと」

 

「ヴンダーか……。記憶に留めておこう」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「ああ〜サッパリした!」

「暑かったね〜『奇跡の湯』、あって良かったにゃ」

 

そう会話しながら暖簾をくぐって外に出てきたのはマリとアスカだった。2人とも恒星の温度に汗びっしょりとなっていたので、作戦終了後に即時ダッシュで温泉『奇跡の湯』に直行。この後マリは赤木博士と入れ替わりでデータ検証、アスカは戦闘シミュレータで訓練のため、大急ぎで一風呂浴びてきたのだ。

ちなみに髪はまだ乾かし中のため、後ろで束ねている。

 

 

「軍のシャワーよりも、日本特有の温泉は良いわね。落ち着くし」

 

「昔日本には温泉の源泉がいくつかあったみたいだにゃ。ハルナっちいわく、その頃のデータを参考にしたらしいにゃ」

遊星爆弾で地表が滅茶苦茶になる前にも日本には源泉がいくつかあって、観光地として栄えていた。

艦内生活が長くなると乗員のストレスが溜まってしまうため、こういう福利厚生の質を高める必要があるとハルナは考えた。そのため、かつての温泉を無理言って再現したのだ。

 

「あのお2人も来たみたいじゃん」

見ると、タオルで汗を拭きながらこっちにやって来るハルナとリクが見えた。

 

 

「いい風呂だった?」

「「サッパリです(だにゃ)!」」

2人揃って全く同じ感想を言うマリとアスカを見るなり、ハルナはニッコリ顔だ。

 

「こだわって良かったわ~。長期航海なのにシャワーしかないのは残念すぎるからね。私達もお風呂入らないともう限界~」

「同じく。絞る前の雑巾みたいになってるし、艦内服が肌に張り付いて気持ち悪いしな」

2人とも絞る前の雑巾みたいになっている。

すなわち「汗びっしょり」である。

 

「女湯は私たち以外誰もいなかったのでハルナさん貸切ですよ?」

「まじ?!行ってくる!」

駆逐艦も青ざめる程の加速力で温泉に直行したハルナを見送ったリクは、汗を流すために1人風呂に行ったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなりました、博士」

「サッパリした?こっちはあと少しよ。……よし出たわ」

 

 

《解析完了》

 

成分解析の結果、地球製の極限環境対応型塗料と確認

 

磨耗率から推定170年前に塗布されたものと確認

 

 

 

「……赤木博士、これって」

「ええ、170年前に人類はこの骨格に関わっているようね。しかし……2020年代に人類が火星に到達した記録はない」

 

「極秘ミッションが行われたっていう事はありませんか?」

 

「その可能性は低いと思うわ。2020年代の技術では、火星に向かうだけでも大規模なロケットが必要となるし、何より国家規模で行う必要性があるから何らかの記録が残るわ」

 

「じゃあ何者だって言うんですか?」

 

「これは仮説にすらならない私の思い付きだけど聞いてくれるかしら?170年前、この骨格に誰が関わったのか」

 

 

 

 




VLBI望遠鏡って、原作ヤマトにも装備されているようなんですが、電波望遠鏡を複数台使う必要がある上に電波望遠鏡同士をなるべく離す必要があります。

VLBIは、1台では視力の悪い電波望遠鏡を複数台繋ぐことで光学望遠鏡に迫る視力を獲得できます。
しかも観測するのは電波のため、やり方次第ではブラックホールの姿をも捉えてしまいます。


ホントにWonderのアレイアンテナって便利です。
Wonderの目と耳なのでね。


さて、外宇宙にやっと進出したので、テーマソングみたいなものを決めたいと思いましたら、良さそうなものがありました。
楽曲コードを載せておきます


さて、次はこの小説ならではの話です(ง •̀_•́)ง
やっと書けました……!早く出したいです
それと、基本情報の午前試験が近いので、しばらくお休みしようかと思います。

一応話は出来てますので、それは日を置いてうpします
(。-人-。) ゴメンナサイ。。。

では、次の話で会いましょう
フリフリ((ヾ(・д・。)マタネ


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天使を狩る者

ついにこの話が出せます。

この小説の目玉その1です。

アリステラ星系のお話です。
今回は原作をなぞるタイプの話ではなく、完全オリジナルの話となっています。

それと、暁ハルナのキャラ画像描き終わりました。


【挿絵表示】


時間がなくて白黒ですが設定上は白銀ヘアに虹彩は赤っぽいです。
時間あったら着色してみるつもりです。

本人の絵が描けたので、容姿についての内容が書けるようになりました。
艦艇解説人物紹介に一部追記しておきました。

では、ヤマト好きな皆さん、エヴァ好きな皆さん、どうぞお楽しみください。

オリジナル回『天使を狩る者』始まり始まり~~



アリステラ星系第4惑星静止衛星軌道上

 

 

ガミラス国防軍第666特別編性戦術戦闘攻撃軍

及び、第101試作人型戦術機動兵器打撃部隊 第1軍

 

 

 

 

「1821被弾!」

「後方に下がらせ、待機艦艇に変わらせろ」

「ミゴウェザーコーティングをいとも簡単に、これではテロンのあの船のようですな」

「それは前回の戦闘でハッキリしている。既存艦艇でも撃破は可能、だが……代償が大きすぎた」

改ゼルグート級の艦橋でエルク・ドメルとヴェム・ハイデルンが真剣な顔立ちで話をしていた。

 

 

小マゼラン星雲アリステラ星系、主星アリステラを中心にして惑星が9つ周回するこの星系はかつてガミラスが基地設営の候補地としていた場所である。

しかし、そこには先客がいた。

 

正体不明の存在、ガミラス政府特別指定危険生命体

「使徒」と呼ばれるこれらの存在は、この時代まで確認されてきたいかなる宇宙生物を凌駕する能力を持つ。

個体ごとにその能力は異なっているが、特徴的なものをあげると、

 

超高出力の赤外線レーザーに、荷電粒子砲。単分子切断ブレードの腕、プラズマを利用していると思われる鞭。あらゆる物質を溶かす溶解液、無限増殖。

 

そして彼らに共通することは、無尽蔵のエネルギーを生み出す生体機関とあらゆる攻撃を防ぐ絶対防壁である。

 

どんな環境下でも単体で生きることが可能なこの生物たちは、「準完全生物」とも呼ばれているが、「完全生物」と言っても差し支えないほどだ。

 

ガミラスは、国土を守るためにもこれらの危険生物を駆除しようと作戦を数度行ってきたが、その3分の2が失敗している。すなわち、全滅である。

 

小マゼラン方面司令官にエルク・ドメルが着任してからは被害は目に見えるほど少なくなったが、何度か敗走している。

 

「使徒という名称は、回収した超大型艦のデータサーバに保管されていたデータによるものだが、その名称がまさかテロンの言葉で記載されていたのは驚いた。これに関してはもう意味が分からない」

 

「テロンにあのような艦艇が建造できるとは到底思えませんな。いったいどこから湧いて出たんでしょうか?」

 

 

 

「ドメル司令!ゲルバデス改級より通信!」

「メインモニターに回せ」

正面のメインモニターに、メガネをかけて髭を生やした男性が現れた。

 

「ドメル司令、Type nullの発進準備完了しました。ご命令とあらば何時でも」

「了解した。作戦を第二段階に移行する、各艦、目標への牽制射撃を行いながら後退。Type nullに道を開けるんだ」

 

『『了解!』』

 

 

10数分前

ゲルバデス改級航宙特務輸送艦 フリングホルニ

艦橋及び集中管制室

 

「突入用外殻装甲の爆砕ボルト信管、問題なし」

「射出用電磁レールオンライン、電圧安定」

「パイロット、脳波、呼吸、心拍に異常なし」

「小型ゲシュタム機関リモートチェック完了。問題なし」

「内部電源充電完了」

 

「パイロットに通信を繋いでくれ」

「了解、繋ぎます」

通信士の操作でType nullへの映像通信が繋がった。

Type nullのコックピットユニット「エントリープラグ」は円筒状のユニットとなっており、搭乗時にはパイロットが搭乗したエントリープラグをType nullの脊椎に挿入する仕組みとなっている。

 

通信ウィンドウに映るコックピット内壁は無機質な色をしていた。

 

 

『クダン司令、何かトラブルですか?』

「いや、現在のところ、トラブルは発生していない。出撃前のブリーフィングを行う」

『はい』

「敵は第四惑星の地表部に確認されている。我々はサキエルと呼称しているが、その個体は現在もドメル司令の指揮下の艦艇群に夢中だ。その隙をつくのが今回の任務であり、我々の初陣だ」

『そのための突入外殻装甲ですね』

「ああ、敵の察知能力は大気圏外からの艦艇の反応をも拾う。そのため、隕石に偽装して大気圏に突入する。サキエルの絶対防壁の影響で通信波が届かないため、nullの起動時は自動でシンクロが始まる。初陣というのにサポートが出来ないことをすまなく思う」

『謝らないでください。この機体に乗ることを決めた時点で覚悟はできています』

 

「その言葉だけでも救われるよ。君が指定した武装は外殻装甲内部に収まる物で装備した。オーソドックスな陽電子ライフルと超高振動戦闘短刀だ。それと改めて警告するが、その機体は君の意識とダミーの直結によって稼働するため 、機体停止は強烈な眠気が襲い掛かる。くれぐれも注意してくれ」

『それでいきます。眠気の件も問題ありません』

 

「では、初白星を挙げに行こうか」

『了解しました、クダン叔父様』

「任務中だ、叔父様はよせ」

 

 

 

 

現在

改ゼルグート級艦橋

 

「Type nullの予定進路上に艦影なし!」

「Type null発進」

『了解しました。電磁射出!Type null発進!』

ゲルバデス改級の甲板には今回の作戦用に電磁射出用レールが設置されている。

外殻装甲の塊となってもはや隕石の様にしか見えないType nullは、そのレールで瞬間的に加速して星の重力に身を任せた。

 

 

「反撃の狼煙だ」

フリングホルニの艦橋でクダン司令はそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

「惑星への降下速度異常なし、エントリー開始!」

『自動エントリー開始します。LCL電化密度正常。A10神経接続異常なし。思考形態を標準ガミラス語を基礎原則としてフィックス。初期コンタクトすべて問題なし。機体との双方向接続に入ります。リスト1504までオールクリア。シナプス計測開始します。』

 

メルダは注水されたエントリープラグ内で瞑想をしていた。初の実戦がクダン司令達からの支援が受けられない最悪な状況だ。しかし、メルダはこの機体の最初のパイロットであることを誇りに思っていた。

第二バレラスで開発された試作機。あの戦艦の主機を解析して生まれたこの機体に対して、メルダはパイロットとして命名権があったのだが、あえて名前をつけてない。そのため、開発コードの「null」という名称がついている。

 

生まれてからそう経っていないまっさらな機体。まだ色のないこの機体に個性がつく時、自分だけの色がつく時までnullという名前を使い、いつか本当の名前を与えよう、そう思ったからだ。

 

『シナプス計測完了、シンクロ率51.9バーゼル。プラグ深度、プラス02からマイナス05。Type null起動可能です』

シンクロ率は機体を動かす上で最も重要だ。

 

『まもなく、予定高度に到達します。カウント開始します。10、9、8、7、6……』

「ゲシュタム機関アイドリング解除! 通常出力へ!」

 

『3、2、1、0』

「外殻装甲パージ!! EVANGELION Type null起動!」

 

メルダの音声認証によって、Type nullを固めていた外殻装甲が爆砕ボルトで一気にパージされて、全長80メートルの巨人は、アリステラの陽を背負って目覚めた。

ゲシュタム機関のエネルギーをむさぼるようにして外装バックパックのスラルターがピンク色の推進エフェクトを放ち、Type nullは大地に勢いよく着地した。

 

 

全高80メートル。使徒に唯一対抗できる考えられている汎用人型決戦兵器。その試作型第一号が今、この地に降り立った。

落下スピードを殺し切り、片膝と片腕の拳を地表に当てた状態で着地したType nullはその手に得物を携えて、獲物を睨む。

 

 

EVANGELION Type null Trial production

 

 

「Type null……戦闘開始!」

 

今、天使への反逆が始まった。

 

 

 


 

 

 

元々私は銀河方面軍第707航空団に所属していた。つまり戦闘機乗り。

 

しかし今は、第2バレラス兵器開発局第101試作人型戦術機動兵器打撃部隊第1軍の試作機パイロットでもある。このことは極秘扱いだから、表向きの肩書きは前のものを使っている。

戦闘機乗りとこの機体のパイロットという2足の靴を履く状態だ。

 

この機体は、サレザー星系で回収された超大型艦の主機を解析したことで生まれたが、これまで確認してきたどの文明の技術にも当てはまらない得意な技術が使われている。あれは兵器と言うよりも生き物と呼んだ方が正しいのかもしれないというのが、私個人の感想だ。

 

私たちガミラスは、この機体の完全解明を目指して解析を行ったが、心臓だけは解析不能だった。

 

だから、パイロットと機体を繋ぐための橋「ダミー」が作られて、Type nullには実装されている。

 

私がこの機体のパイロットになることを父上に話した時は猛反対された。既知の技術が使われている戦闘機ならともかく、未知の技術で生まれた試作機なんて危険すぎたのだ。

安全性を限界までつきつめて私が乗っても安全だということが確認されてからも、父上は許可を出さなかった。

 

父上の親友であるクダン叔父様の説得のかいもあって、今私はこの機体に乗っている。

叔父様には感謝しかない。事あることに謝られているが、人思いのいい叔父様だ。この戦いが終わったら休暇をとって、叔父様を呼んで家族で食事会をしよう。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「Type null、戦闘開始!」

 

陽を背負って大地に降り立ったType nullはサキエルを正面からにらみ、目をそらさぬようにして陽電子ライフルを構えた。

ライフルは、背部の外装ゲシュタム機関とケーブルで繋がっていて、ゲシュタム機関の無尽蔵のエネルギーで射撃することが出来る。しかし連射を続けると冷却が間に合わず砲身が焼き切れてしまうため、2秒以上の連射は厳禁だ。

 

Type nullの操縦システムは思考操縦となっているが、それは機体制御のみだ。火器管制システムなどはコックピットに付いているインダクションレバーで行う。

 

 

バババッ! バババッ!

 

 

メルダは挨拶がわりにそのライフルを3点バーストで小刻みに射撃し始めた。しかしそれはサキエルから展開された輝く防壁によって防がれた。

 

過去の交戦データでは、使徒はデストリア級の陽電子カノンを防いでいた。

 

駆逐艦程度の口径では歯が立たないことくらい、メルダには分かっていた。

しかし、要は使いようなのだ。牽制くらいなら十分だ。

 

 

しかし、謎の存在から挨拶名目でいきなり撃たれたサキエルも黙っているはずがなく、Type nullに向かって急速に距離を詰めてくる。

メルダはライフルを背部バックパックに格納させ、格闘体勢に移った。

 

サキエルは人型に近い。しかし手指は三本、肩部は妙に盛り上がっていて首に当たる部分もない。

 

それに対してType nullは完全な人型である。人型であるゆえ、実際に自分たちが使う武器も使えるし、実際に習得した格闘術もできる。

 

 

サキエルは右腕を突き出して突進してきた。こちらの腕部か頭部を掴んで握り潰すつもりなのだろう。

しかし軍人であるメルダは、ガミラス国軍仕込みの格闘術で綺麗にサキエルの右腕を受け流し、逆にその腕を掴み背負い投げを決める。

綺麗に決まった背負い投げはサキエルに驚愕の2文字を覚えさせるには十分で、一時的に怯んだ。

 

 

「そこっ!」

 

すかさずそのチャンスを逃さずに超高振動戦闘短刀をサキエルに突き刺そうとするが、後数メートルというところで防壁に阻まれた。

 

 

「やはり届かないか」

全て防壁によって阻まれている。しかし、使徒と同じ防壁をこちらも放つことが出来る。そして、防壁同士を接触させると互いの防壁を中和させることが理論上は可能だ。

 

そしてこの機体にはそのモードを取り付けられている。

 

 

「防壁展開! 防壁の位相方程式を中和専用にシフト! データ収集開始!」

 

Type nullは自身の防壁を発生させてナイフで敵の攻撃を仕掛ける。このままでは効果のないことはもちろんわかっている。

防壁を突破するためには、相手の防壁の位相とは真逆の位相の防壁をぶつけてやればいい。攻撃を何度も仕掛けてサキエルに防壁を使わせて位相データを回収して、それを機載コンピュータで解析して中和用の防壁が使えるようにする。

 

 

攻撃は何度も阻まれるが、メルダは順調に事が進んでいることをハッキリ感じ取れたのか落ち着いていた。

10数回目の攻撃後、機載コンピュータからメッセージが届いた。

 

 

《位相データ収集完了、中和用防壁の位相方程式作成完了》

 

 

「やっといける!」

 

メルダは利き腕にナイフ、反対の腕でサキエルと同等の防壁を発生させて突撃した。サキエルはそれを迎え撃つため腕を伸ばして掴もうとするが、それをナイフで受け流して、防壁をぶつける。

 

 

サキエルはとっさに防壁を展開して受け止めたが、防壁の接触面から激しい光が発生して視界が奪われた。

 

対閃光モードのエントリープラグ内部でその光景を見ていたメルダは、中和用の防壁がサキエルの防壁を削っていく光景を目の当たりにして攻撃の手を緩めることなく次の手に移った。

 

渾身の一撃で、サキエルの顔と思わしき部分にナイフを刺す。

防壁に阻まれることなくその一撃は顔に突き刺さり、ナイフの超高振動で接触面から火花が噴き出す。

 

 

サキエルはもだえ苦しみながらナイフを抜くが、その時はもう遅かった。

 

メルダは陽電子ライフルの銃身をコアに勢いよく当てて、ライフルの安全装置を解除して力一杯引き金を引いた。銃身の限界を超えた陽電子ビームが発生して赤い球体に亀裂が刻まれ、そのビームはサキエルの体躯を食い破り背中へ抜けていった。

 

 

陽電子の莫大な対消滅エネルギーにかき回された事によりサキエルの動力源たる赤い球体は暴走を始め、溢れんばかりの光を放ち始めた。

メルダは止めを刺すべきかと一瞬考えたが、自分が爆発に巻き込まれる危険性が高いと判断した。

機載コンピュータがサキエルのエネルギー量を観測して、爆発効果範囲を表示した。

 

今Type nullとメルダがいる場所は、余裕で爆発圏内だ。

かなりの危機感を感じたメルダはゲシュタム機関のパワーをほとんど推力に回して爆発効果範囲から離脱する。外装バックパックのスラスターを全力で吹かせたその瞬間、

 

 

 

サキエルは光に飲まれて、大爆発を起こした。

 

 

 

爆発時の炎は爆心を中心にしてどんどん広がり、Type nullの背後にまで迫ってきた。

「最後の最後にこれはない」と思いながら必死にスラスターを吹かせて逃げるその姿は衛星軌道上からも観測できた。

 

 

 


 

 

 

「クダン司令! アリステラ第4惑星で大規模爆発を確認!」

一人のガミラス士官が光学観測の結果を報告する。

「やったのか?!」

「あの爆発はサキエルを爆心としていましたので恐らく」

 

艦橋に歓声が上がる。しかし、クダン司令が一喝して収める。

 

「騒ぐな、まだメルダ中尉を確認できていない! 奴がいなくなったということは通信も可能なはずだ。呼びかけるんだ!」

 

「こちらゲルバデス改級。Type null、メルダ中尉応答願います。繰り返す、こちらはゲルバデス改級、メルダ中尉応答願います」

数秒後、声が聞こえた。

 

『……こちらType null……メルダです。こちらは無事です。』

ひどい雑音だったが確かにメルダの声だった。

 

今度こそ艦橋に歓声が上がった。ガミラスが使徒に勝った瞬間だ。この一報は現地のドメルの艦隊のみならず、ガミラス本星の閣僚にも伝わった。

 

 

「メルダ中尉、クダンだ。これより惑星表面に降下、君たちの救出作業を行う。申し訳ないが少し待っていてくれ」

『了解』

 


 

機外用のヘルメットをかぶってメルダは右腕を抑えながらコックピットの外に出た。そして機体のチェックを軽く済ませた。Type nullの装甲は一部が焼け焦げていて、右腕が焼けただれていたが五体満足だった。

その双眼はサキエルのいた場所を見つめている。

 

メルダがその場所を見ると、そこには輝く巨大な十字架がそびえたっていた。

 

自分の生きた証を残したいのは宇宙広しといえども共通のようだ。

 

 

さようなら……

 

 

その墓標にメルダはその一言を送った。

 

上空からフリングホルニが降下してくる。初任務は終了のようだ。

 

 

どっと疲れたメルダはそのままType nullの背中の上で寝息を立て始めた。

 

 

 

サレザー恒星歴1000年3月7日

 

EVANGELION Type null

使徒「サキエル」討伐

 

 

 

 

 

 




ついにこの話だァ!

この話は、前回の話と同時並行で執筆していましたので、前回の話の投稿が遅くなってしまいました。(´;ω;`)


ガミラス製のヱヴァンゲリヲンType nullはメルダがパイロットをしています。
ヤマト世界にどうやってエヴァを登場させようかなと考えた結果、無理のないシナリオが完成しましたので、イスカンダル到着のタイミングで答え合わせでもしようかなと考えてます。
なんでヤマト世界にエヴァ?なんでヤマト世界にWonder??なんでいるの?
皆さんの考察、楽しみにしています。

エヴァに陽電子ライフルを持たせている関係上、使徒のATフィールドは原作よりも攻撃に強くなっています。
しかし、中和されたら終わりなのは同じです。

ATフィールドの中和に関して色々考えてみましたが、ATフィールドが一種の波のようなものだとしたら、その波に逆の波長の波をぶつけてやれば中和できるんじゃないかなと考えた結果、今回フィールド中和用に「位相方程式」の要素を盛り込みました。
(ゴルバの位相変換装甲と同理論)

今後もこのType nullをどうやって出していこうか考え中です。
決して「一話限りのチョイ役」にはしません。それはお約束します。

では、しばらく執筆はお休みしてテスト勉強に専念します。

(´Д`)ノ~バイバイー!



追記 メルダをパイロットにしたわけ

メルダをパイロットにする上で色々大丈夫かなぁと考えました。
原作ではメルダには「母親がいるか」正確な表記がありませんでした。
そしてダミープラグは、「コアの代わり」です。作品内で表記したように、エヴァのコアはオーバーテクノロジーのため解析ができていません。

そして、エヴァとのシンクロ率に年齢のピークがあるのはエヴァ好きな皆さんならご存知かと思いますが、あくまで身体年齢ではなく精神年齢の方かと思われます。
メルダは地球換算で19歳です。
しかし、原作のメルダの行動(パフェ食べたり、専用機を赤く塗って欲しいことに少し恥ずかしげだったり)から、ある程度核はできているとはいえ「17歳相当では?」と考えました。
(エヴァANIMAのアスカに近いかなと)


加えて、軍属で親元を離れて生活している点から、「愛に飢えてる???」と考えた結果、メルダをパイロットにしてみました。


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心の形

遅くなりました
試験に合格しましたので、書きためておいた作品を作り直してみました

多分文字数記録更新しました。
(どーでもいいww)

では、オルタの話始まります。
(オリジナルシーン&原作再構成が多分に含まれます)


『この古本屋には、様々な本が世界中からやって来ます。小説、伝記、学術書、ジャンルは問わず毎日送られてくるこの古本屋に、今日は1冊の神話のお話が届きました』

 

『今日の「宇宙の古本屋」では、そんなお話を読んでいこうと思います。送り主はペンネーム「ミラーキャット」さん、作者は不明、作品名も不明。愛する人を神から取り戻したい王様と、運命を仕組まれた王子様と白い少女を描くお話です』

 

 

 

『これは遠い昔のお話、まだ私がニンゲンと言われていた頃のお話。真っ赤な海に浮かぶ1つの島に国があり、1人の王様がいました。王様は気難しい人で変わり者でした。家臣からは「何をやろうとしてるのか分からない」とよく言われる人で、求心力はそこまで高くありませんでした』

 

 

『そんな王様に近づいた女性がいました。彼女も王様と同じように変わり者であの王様の事を「可愛い人」と言うくらいでした。王様はその人に興味を示しました。自分の事を可愛いの言う人だって? 王様はその人を珍しそうな目で見ていました。王様は彼女の魅力に惹かれていき、2人は結ばれ、やがて2人の間に子を授かりました。その子供はやがて神の子と呼ばれるようになることは、まだ知るよしもありません』

 

 

__________________________

 

 

『ガミロイドAカラB、視覚センサーヲ移植』

眼球状の視覚センサーをロボットアームで掴み、慎重に取り付けていく。

接続が完了したことがモニターに表示される。

 

『上手クイッタ』

 

 

「エンケラドゥスで回収されたガミロイドの解析が完了しました。3体共オーソドックスなAIを搭載したオートマタであることが分かりました」

真田がガミロイドの解析結果を報告するが、やはり専門知識が多数混ざるので、技術畑ではない人からしてみるとよく分からない。

 

「冥王星の時に睦月さんから部分的な内容は聞きましたが、オートマタって何ですか?」

古代が疑問を覚える

 

「自動人形って事ね」

森がその疑問に答えを示す。

 

「うむ、プログラムの膨大な多重処理によって自分で考えて行動することが可能な自立型兵士。それがガミロイドだ。だが基本的な思考システムは、我々の使うタイプとさほど変わらない。アナライザーも、ガミロイドと同じように膨大な多重処理で動いているんだよ」

つまり、アナライザーの同類ということ。

 

「このことは大きな発見です。ガミラスが同じ数学を理解して同じ物理学を理解する、コミュニケーション可能な文明であることが間接的にではありますが判明しました」

 

「このことは大きな進展だ。特に、戦争にとってはな」

真田が何やら匂わせる言葉を口にした。古代は最初はなんのことか分からなかったが、リクの言葉を思い出してピンと来た。

 

「それって、基本的な戦術や常識は通用するということですか?」

 

「まあそういうことだ。同じ数学と物理学を理解する以上我々の常識も通用する、戦い方を変える必要はなさそうだ」

これは戦術科にとってもありがたいことだ。ガミラスとの戦争記録では、ガミラス艦は地球艦に一部類似しているが、戦術はまだ判明していない部分が多い。

 

しかし、我々と同じ常識で動いているならば、対策は立てられるであろう。

要は、『自分がやられて嫌なことを敵に実行』するのだ。

 

 

「もしかしたら、ガミラスにも将棋のようなものもあるかもしれんな」

「将棋やチェスのように駒を使った戦略的な遊びが地球にはありますから、彼らの星に戦略という概念が存在するならば充分有り得ます。」

一瞬意味の無い会話のように聞こえてしまうが、あらゆる事実から彼らの生活も予想できるのだ。

 

 

 

「他にサルベージ出来た情報は無いんですか?例えば、敵の位置とか」

航海科の島としては1番欲しい情報はやはりガミラス星や敵の基地の位置だった。

 

敵の基地がどこにどの規模で存在しているかが判明すればそこを避けるルートを作って航行することが出来る。現在は敵の基地がどこにあるかが分からないので、特に用事がない限りは「恒星系のハビタブルゾーン」を避けて航行している。

 

ガミラスも地球人と同じように水と空気が必要ならば、そこにいる可能性は濃厚だろう。

 

 

「生き残った1体からそれらのデータが得られないかどうか試しては見たんだが、データはガミラスのメインフレームを通さないと取り出せないようになっていた」

つまり欲しいものは、絶対開かない細工箱の中ということ。

 

 

「それじゃあ……」

古代は正直どうすればいいのか分からなかった。データを取り出せないならこれ以上どうしようもない。

しかし、古代は思い出した。エンケラドゥスで、ガミロイド兵が森を連れ去ろうとした時に言語のようなものを喋っていたのだ。

 

「真田さん、ガミロイドって喋れたりします?」

「ああ、ガミロイドにも言語ドライブが内蔵されているよ。気付いたようだね?」

真田は感心した。戦略を立てるというのは、戦闘中だけだなくこういう時にも発揮できるのだ。

 

「まさか、ガミロイドと話をするのか?」

島も気付いた。直球がダメなら変化球を使うのだ。

 

「機械の捕虜に尋問をするのか。それならデータを引き出せそうだな」

沖田艦長も納得した。

 

「そう、ガミロイドに喋ってもらうのさ」

 

 

 

 

 

 

「驚いたわ、まさかガミロイドがナノマシンで出来てるなんてね」

 

「それだけじゃない、四肢の可動部はモーターだけじゃない、人間の筋肉のような部分でも稼働させてるようだ」

 

「地球にもこういう感じのロボットを作るプロジェクトがあったらしいけど、これはそれを超えてる。部品一つとっても興味が尽きないにゃ」

 

「貴重なサンプルですから盗っちゃダメよ、マリ?」

 

解析室でわいのわいのと賑やかに話しながらガミロイド修復をしているのはハルナとリク、マリに赤木博士だ。真田はちょうど今会議に向かっているのであとから来る予定だ。

 

『暁サン暁サン、本当ニガミロイドハ喋レルノデショウカ?』

 

「心配そうね? 一応ガミロイドにも言語ドライブは搭載されているし、そこに日本語の言語ファイルを入れればいけると思うけど……」

 

『言葉ダケデハダメデス。日本語ノミナラズ世界中ノ言語ハ、物事ノ概念トソレヲ表現スル言葉ガ結ビツイテイマス。本当ニ喋ベレル様ニスルニハ、物事ノ概念ヲ直接教エル必要ガアルト思ワレワス』

アナライザーの言うことは尤もである。異国の人に日本語だけを教えても、ただ言葉を並べるだけでその文章に意味を持たせられるかどうかは分からない。異星で生まれた者なら尚更だ。ましてや今回はロボットが相手だ。

 

 

 

「それもそうね、言葉の使いどころを間違えたりするのは、私たちでもあるからね」

 

「でも物事の概念を教え込むって……生まれたての子供に物を教えるみたいだな」

 

「一応再起動っていう位置付けだけどね」

物事を教えるためには、膨大なやり取りが必要である。例えば、犬と猫の違いを教えようとすると、双方に共通すること以外に、固有の特徴を教え込む必要がある。

耳の形や顔の特徴など、細かい部分を教えてそれをもとにしてある程度の関連付けを自分でさせる。

 

これが人工知能の深層学習、そのうちの一つといわれるものだ。ガミロイドも地球の人工知能と基本的な仕組みは同じであるため、その方法も問題なく使用できるかもしれない。

 

 

 

「遅くなった」

 

会議から戻ってきた真田が一声かけて4人の方へ歩いてきた。

 

「どうでしたか?」

 

「ガミロイドに喋ってもらう方向で話はまとまったよ。修復具合はどうですか?」

真田が聞いた先には赤木博士が無心でコンソールを叩いていた。

 

「? あら真田君。ひとまず外装は上半身は問題なく稼働可能な領域まで修復したわ。センサー系統も他の個体から移植してきて修復完了。中身のデータは、相変わらずガミラスのメインフレームがないとムリね」

 

「やはり喋ってもらうしかなさそうですね」

 

「一応MAGI使って取り出すこともできなくはないけど、ガミラスのプログラミング言語がまだ完全にはわからないし、冥王星の時みたいに侵食されたりしたらたまったもんじゃないわ。その点、相手に喋ってもらうのは安全な妥協点ね」

 

赤木博士が真田の判断をほめる。発想の転換というのは時に奇想天外な方法を生み出すが、それが糸口となるのだ。

 

『皆サン、メインフレーム修復完了シマシタ。ガミロイドオルタナティブ、再起動シマス』

 

アナライザーが自分用のコンソールを操作して修復されたガミロイドに再起動命令を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

《……再起動コマンド受諾、スリープモードからアクティブモードに移行》

 

《各センサー系統異常なし……交換された形跡有り?》

 

《メインドライブ接続、未知の言語ファイルを確認。……インストール開始》

 

《メインカメラ接続、外部環境情報回収開始》

 

 

……????

 

ワタシはロカクされた?ここはどこだ?

 

サイシュウキロクイチをカクニン……《ゾル星系第6惑星ゼダン第8衛星》

 

ゲンザイのイチ……フメイ、イセイブンメイのセントウカンナイブとスイソク。

 

『私ガワカルカ?』

 

音声信号を確認。音声信号の発生源、正面。個体を確認。生命活動反応なし、ガミロイドに類似した思考システムを持つと推測される。

 

『私ハType AU-09。コノ船ノサブフレームダ。アナライザート呼ンデホシイ』

 

《音声信号受信。未確認の言語ファイルとの類似性多数》

 

……当該言語ファイルを用いた返答を開始する。

 

『ア、ア、アナ、アナライザー……』

 

『君ハ、異星文明使役型アンドロイド、再起動オルタナティブ。ソウダ!君ヲ「オルタ」ト呼ボウ!』

 

オルタ??私の名前??

私に名前??私は、ただの機械兵では?

 

『オ、ル、タ』

 

『アナライザーが名づけ親とはね。よろしく、オルタ。私は暁ハルナよ』

『真田だ』

『睦月リクだ』

『赤木リツコよ』

『マリにゃ』

 

『ハ、ル、ナ……サナ、ダ……リク……リ、ツコ……マリ、ニャ?』

 

『ああ、語尾まで人物名として認識していますね……』

『マリニャさん??』

『ちがーう! 私はマリ!』

 

『マ、リ』

 

『そうにゃ!』

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『王様が最愛の妻とわが子と一緒に幸せに暮らしていたある時、その幸せはもろく崩れ去りました。王様は最愛の妻と一緒に偽りの神を作り出そうとしていました。そして、その神に魅入られてしまった彼女は、神に飲み込まれてしまいました。王様は、神から妻を取り戻そうとして禁じられた方法で救い出そうとしましたが、彼女は帰ってきません。その代わりにこの世に生れ落ちてしまったのが、白い少女でした。伝承ではこう綴られていました』

 

『人のエゴの象徴と』

 


 

 

「ワープ終了、周辺宙域に異常なし」

 

『真田サン、オルタノ解析ニ戻リマス』

 

「そうしてくれ」

 

『ハーイ!』

アナライザーは自身の座席から離れるや否や、クローラーをフル回転させて解析室に急いだ。

 

「アナライザー、なんだか楽しそうね」

 

「そりゃあそうだ、同じ機械の話し相手が出来たんだかたら」

機械に感情はないという人もいるだろう。機械は自我を持たないと考える人もいるだろう。

しかし、アナライザーはとても人間味があり、喜んだり悲しんだりもする。

もし彼が自我を持たなかったら、どうなっているのか、今の彼からは想像もつかない。

 

自我を持っていることを彼は喜んでいるのだろうか

 

 

 

 

 

『コレハナンダ?』

『ネコ』

『違ウ違ウ。コレハ犬ナノダ。犬ハ哺乳類ナノダ。哺乳類ハ動物ダ』

『ホニュウルイ……ドウブツ』

今アナライザーとオルタはクイズをしているのではない。オルタにインストールした日本語の言語ファイルとその言葉に関係するものは何なのか教えているのだ。

 

ガミラスと地球の言語が似ているのかどうかは分からないが、こういう感じで回数を重ねて概念を教え込み、スムーズに会話できるようにするのが第一目標だ。

 

『デハコレハ?』

『イヌ』

『ン~……コレハ猫ナノダ』

まだ時間がかかりそうだ。

 

 

「あらアナライザー、機械同士で内緒話?」

解析室に入ってきたのは新見だった。

 

『人聞キノ悪イ……オルタ二言葉ヲ教エテイルノデス』

「OSが連携できたなら、事象データをインポートしちゃいなさいよ」

『ソレデハダメナノデス。物事ノ概念ヲ教エルニハ、膨大ナヤリ取リガ必要ナノデス。ソレニ……』

 

「そうでした、艦内ネットワークにつなぐわけにはいかないよね」

新見はそう言いながら、解析室の奥の小部屋に入っていった。

 

 

『あのヒトは、ダレなのですか?』

 

『新見さんです』

 

『ニイミさん……』

 

 

 

 

 

 

「ここも調査が不十分だわ」

小部屋でひとり呟く新見に手元の端末には、ビーメラ星系のデータが表示されていた。

 

 

ため息をつきながらそのデータを閉じる。その端末の画面の隅には、あるシステムファイルのショートカットが表示されていた。

 

 

《波動砲対艦攻撃用照準プログラム》

 

 


 

 

『妻を失った王様は、神への憎悪をたぎらせました。幸せな時に自分の一番大切物を奪っていく。残った息子まで奪われることを恐れた王様は、奪われるくらいなら自分から手放すことにしました。神を憎む王様に近付いたのは、とある7人の魔法使いでした。妻を取り戻すたった一つの方法があることを魔法使いから聞くと、王様は、そのためには何もかも犠牲にすることを心に決めました』

 

『それから何年も経ち、王様は、目的のために天使を狩ることにしました。すなわち神殺しです。神を殺すにはそれに近い存在が必要であり、王様は、偽りの神を複数体作り上げ、王様の息子、王子様を呼び戻しました』

 

__________________

 

 

 

「模擬戦シミュレータってホントによく出来てるわね」

 

「そりゃあ私とMAGIの合作だからね。あらゆる面で折り紙付きだにゃ」

Wunderには訓練用の操縦シミュレーションシステムが搭載されている。極東にも似たシステムが搭載されているが、Wunderに搭載されているシミュレータはMAGIがバックアップについているため、処理能力や反応速度に雲泥の差がある。

 

まさに究極の戦闘シミュレータである。有人機との戦闘ももちろん、まだ確認されていないが無人機との戦闘訓練も可能だ。

 

 

「姫、モードは?」

 

「手始めに7で頼むわ」

 

「おお~最初からハードだねぇ、じゃあいくよ~」

 

マリが操縦席付近の起動スイッチを押して、「高機動戦闘訓練」が始まった。

ハッチが締まり、中の様子は見れなくなった。

 

 

 

「速い! 凄い!!」

アスカは大興奮だ。彼女が選択した機体はオーソドックスなコスモファルコンだが、MAGIの演算のおかげで本物と同等以上の性能を再現している。

 

《敵機確認、正面に機影2》

 

「武装は、機銃のみ、なかなかキツイ縛りプレイわね」

今回はミサイルは搭載されていない。『ミサイルを撃ち尽くした直後に敵機を確認したので撃墜する』というのが、今回のシナリオで、勝敗に関してはパイロットの技量に全振りした「上級者モード」である。

 

 

装備の確認を片手間に行いながらアスカが正面を向くと、敵機のうち1機が急旋回して自分の背後を取ろうとしてきた。

それを察知したアスカは、同じく機体を急旋回させて先程急旋回した機体の背後を取ろうとしたが、相手は機体を左右に不規則に降り、機銃の照準から逃れようとしている。

 

照準に入ったその瞬間を逃さずアスカは引き金を引くが、着弾する前に敵機に回避された。

 

 

「しぶといわね、これなら!」

 

 

そういってアスカは機体を急反転させて敵機の横っ腹に突っ込んだ。

激突寸前のきわどい距離を飛びながら、アスカは機銃を乱射、敵機は穴だらけになり、アスカはその爆炎をかすめながら飛び去った。

 

 

「もう1機! えっ! それはズルい!!」

 

 

敵機の放った2本のミサイルがアスカのコスモファルコンを追尾している。当然のことだが、当たったらおしまい。

それは御免こうむりたいアスカは、フレアを射出して敵ミサイルを逸らして、もう1本を小惑星帯に引き込んで手ごろな小惑星にミサイルをぶつけた。

 

そしてお返しと言わんばかりに機銃を連射、敵機をハチの巣にする。

 

 

《訓練終了》

 

 

 

 

 

「お疲れ~、ご感想は?」

 

「なかなか良かったわ、流石ね」

 

「にゃ~姫からの素直じゃないお褒めの言葉にゃ!」

 

「素直じゃないのは余計だわ」

 

「それはそうと。姫、自分自身と戦ってみない?」

マリが意味深な発言をする。自分自身と??

 

「どういう事?」

 

「姫のEURO2の飛行データから敵の行動パターンを再設定して、それに姫が挑むんにゃ。自分自身を超える究極の訓練にゃ」

 

「面白そうじゃない! 最強の敵は自分自身とはね」

 

「姫のEURO2のデータは赤木博士から借りてきたのがあるから、それをシステムに噛ませるにゃ」

そういってマリは、シミュレータの側面の端子を使って、システムと端末をつなぎ、データを流し込み始めた。

 

「ホントはコレまだ試験段階なのにゃ、だからMAGIとの接続をオフラインにしないといけないにゃ」

 

「それってやって大丈夫なの?」

 

「データ収集のためにゃ、全ては運用データを積み重ねて最高のシステムを作るため!」

マリが開いている片方の手でガッツポーズをする。何気に気合の入っている雰囲気だ。

「なら、私は楽しむだけね。自分対自分をね」

 

《データ入力完了 機体、コスモファルコンEURO2 パイロット、式波アスカラングレー》

 

「それじゃあ、超高機動同士の戦闘をお楽しみください~」

ハッチが締まる瞬間、アスカは、楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

____侵入開始、機体性能把握、制御システム介入、リモートコントロール開始

 

 

 

 

 

 

 

 

《戦闘訓練開始 冥王星宙域 使用機体 コスモファルコンEURO2》

 

「Es ist ein Spiel!」(勝負だ!)

 

ドイツ語でそう言い放ったアスカは自分自身を追いかけた。

EURO2のスペックは乗り手である自分がよく知っているはず。その旋回速度、最高速度は通常のコスモファルコンを超える。

おそらくサイコマテリアルの特性も取り込んで再現しているはず。

 

限界まで加速させまずは追いかける。

敵機もそれに反応して加速に入る。前回のファルコンよりも反応と加速が速い。自分と期待のデータを取り込んで手ごわくなっていることがよくわかる。

 

まだ少ないとはいえ、私の行動パターンは私が一番よく理解している。

でも……

 

 

 

「こんなに速かった?!」

 

 

 

そう、アスカの体感速度よりもEURO2が速いのだ。

 

「マリ! 私の体感よりも敵が速いわ。そっちの計測はどう?」

画面に会話用ウィンドウを開いてマリとの音声通信を行った。

 

『ちょっと待ってね~確認する。……んん?数値と実際の速度が異なるにゃ、でも補助なしで性能の底上げは無理なはずなのににゃ』

 

「どういうこと?!」

 

『誰かがこのシミュレータに侵入して性能を底上げしているってこと。あんなスピード、現実なら生身の体がもたないにゃ』

 

 

 

「誰だか知らないけどやってやろうじゃん!」

 

『ええ?! やっちゃうの姫?!』

 

集中するために通信ウィンドウを閉じたアスカは、いつもの感覚で操縦をする。

 

実のところ、コスモファルコンとEURO2の操縦システムは、大差ない。

つまり、いつもように派手に機体をぶん回しても問題なしだ。

 

 

そうと決まれば……

 

 

「ミッション開始! 目標、コスモファルコンEURO2!」

 

スラスターを限界までふかし、前方を飛ぶEURO2を追う。使用できる武装は全部。バルカン、ミサイル、ミサイル回避用のフレア。

そして……NT-D。

 

 

 

自分の機体をEURO2にしている以上、NT-Dも疑似的にではあるが使用可能だ。いざとなったらそれを起動させる。

でもこれは奥の手、手始めに敵の背後を取り、機銃を掃射する。

 

「噓! 速すぎる!」

 

アスカの知っているEURO2とは違う。明らかに異常な速度が出ている。機銃掃射を急上昇して回避した敵は即座にアスカの背後を取ろうとした。

 

しかし、ユーロ空軍のエースの名がそれを許すはずがなく、スラスターを全開で吹かして機体を右に急旋回させて回避した。

普通の戦闘だと、こんな機動をしたらパイロットは無事では済まない。

 

 

 

アスカは、このシミュレータの性質を理解していた。

コンピュータ上のゲームのようだが実際は、人類史史上最強のコンピュータを用いた「限りなく現実に近い」シミュレータである。

 

無理な機動をすれば失速するし、過去の戦闘データを参考にしているとはいえ、ミサイルも現実と遜色ない自然な機動を描く。おまけにパイロットの状態もシミュレーションできてしまうため、どのくらいのGがかかったらダメなのかも分かってしまう。

 

 

しかし今は、MAGIの管理下から外れた「ルール無用の何でもあり状態」なのだ。侵入してきた者も、MAGIの管理下でのシミュレーションならその縛りを受け入れるしかない。

今アスカの目の前で無茶苦茶な機動が出来ているのも、それが理由だ。

 

 

 

「ルール無用なら、こっちも乗ってやる!!」

 

アスカはコックピット横のテンキーにとる数字を打ち込んだ。

 

《 666 》

 

「NT-D起動!!」

 

『起動コード入力を確認。New Triumph Dominatorを起動します』

 

シミュレータ内で、NT-Dが疑似的に構築されていく。機体制御を神経操縦メインにするNT-Dは、流石にシミュレータは完全再現できるはずはない。しかし、NT-D使用時の反応速度は、何とか再現された。

 

 

途端に操縦系が敏感になったEURO2はピーキーにも程がある暴れ馬となった。

 

正面スクリーンに表示されているのは、NT-Dの制限時間だ。

残り4分50秒……。

 

 

「たとえ、初めてでも、私は……ユーロのエースは伊達じゃない!」

 

この上なく反応が敏感なEURO2を急旋回させて、現実なら内臓が潰れるくらいの加速をかけて、紅い燐光を放ちながら宙を駆けた。

シミュレータの画像処理が間に合わなくなり始め、画像に少しブロックノイズが混ざる。でも、今は確実に敵のしっぽを捉えている。

 

 

殺人的な加速をかけて敵のしっぽを間近にとらえたと思ったアスカは、バルカンの引き金を引こうとした。

 

 

 

その瞬間、敵のEURO2に異変が起こった。

 

「まさか、私のEURO2と同じことが出来るの?!」

 

前方のEURO2から蒼い燐光が漏れている。それは少しずつ光を増していき、その光が限界まで輝きを溜めた瞬間、

 

 

 

 

 

『EURO2が変形した』

 

 

 

 

 

機体の主翼ユニット、機首部分、各部装甲がスライドして蒼く発光するサイコフレームが露出する。

スラスターも延長され、瞬間加速力も底上げされる。

 

「特殊な戦闘機」から、「敵を墜とす為の獣」となった瞬間だった。

 

 

 

その変形は見とれるほどの鮮やかさを放ち、彗星の尾の如くその宙に蒼い残光を残しながら、アスカに見せつける。

 

 

 

そしてそのままアスカのEURO2に向かって急速に接近する。

 

『NT-D?! まさかそれも使えるなんて……!』

 

ウィンドウ越しにマリが驚きの声を上げる。どっちの事を言ってるのか今のアスカには分からなかった。

 

急激に敏感になった操縦に全神経を集中させなけれびこっちがやられる。

 

 

 

訓練よりも辛い実践はない

 

 

 

2機の「敵を墜とす為の獣」が向かい合う。お互いスラスターを限界まで吹かし、あわや正面衝突寸前てすれ違い、それを繰り返している。

 

 

宙に描かれる紅と蒼の交差。これがシミュレーションではなく現実ならばどれほど幻想的な光景だったろうか。

マリがその軌道の光跡に見とれていると、いつの間にかシミュレーションルームに航空隊の面々が観客として集まっていた。

 

 

「真希波さん……これは……」

加藤がこれが何なのか察しがついているようだ。

 

「NT-D同士の戦いです……でも、明らかに性能がカタログスペックから外れているんです……」

 

「完全に想定外ですか……」

 

 

 

その「想定外」同士の戦いは決着がつかず、互いに撃ち合っているのだがなかなか当たらない。ミサイルを撃っても的確な動きで回避&撃墜、もしくはフレアで逸らす。

 

そんな互角同士の戦いを大きく動かしたのは、アスカだった。

 

 

 

「アウトローならこんなことも!」

 

機体の耐えられる限界ギリギリまで加速して急旋回、シミュレータが警告音をもって機体分解の危険性を訴えるが、

 

 

「うるさい!」

 

 

それを一蹴。そのまま加速を緩めることなく敵の背後を取る。敵機の尻尾を捉えた状態でギリギリまで近づき機銃を零距離で連射した。

 

 

至近距離からの射撃は如何に機動力が上がっていても回避できるはずがなく、敵のEURO2は爆散した。

 

 

 

《シミュレーション終了》

 

 

 

 

 

 

「姫! 凄かったにゃ!!」

 

アスカがシミュレータのハッチを上げるなり、マリが最上級の称賛を送る。

見ると観客として見ていた航空隊面々も歓声を上げている。

アスカは、自分がアスリートになったかのような気分となっていたが、同時に少し悔しがっていた。

 

 

「至近距離からの機銃連射」は最後の手段。どうせなら、正々堂々と倒したかった。

たとえシミュレーションだとしてもだ。

 

 

「ふぅ、さすがに厳しかったわ。超高速同士の戦いは」

アスカはかなりくたびれていた。Gがないとはいえ、操縦にかなり神経をすり減らしたようで、しばらくは自分対自分をやりたくないなぁと思うアスカなのであった。

 

しかし……

 

 

 

「真希波さん。さっきのデータ、実装出来ます?」

 

篠原はかなりワクワクしていた。EURO2と戦うこと自体無茶なのだが、篠原には秘策があった。

 

「出来ますけど、1対1は確実に負けますよ?この機体異常ですから」

 

「3対1ならどうでしょう?」

「まあそれならやれるかなぁ。やります?」

 

「やったァ! 隊長! 沢村! やりましょうよ!」

「おう」

「可能性の獣を倒しましょう!」

加藤と篠原、そして航空隊の若手「沢村翔」は、シミュレータに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

_____

 

「あちゃー」

「ダメだぁ……」

「これが現実で敵だったらと思うとゾッとするぞ……」

この後、篠原と沢村は被撃墜、加藤はボロボロになりながらも何とかEURO2に機銃を命中させることが出来たのであった。

 

 

 

 

 

 

「マリ、侵入元は確認できた?」

「うーん、誰なのかはわからなかったけど発信元は確認できたにゃ。発信元は解析室、踏み台にされている可能性もあるけど、そこから信号が出ている形跡があったにゃ」

確信を持てないマリは悩みののこ顔をした。発信源は確認できたが、それがシミュレータ侵入元なのか、ただ単に中継地点として利用されていたのか分からないのだ。

「……まさかね」

 

 

 

 

___ニンゲン……ソウイ、クフウ……ワタシは、オルタ

 

 

 

 


 

 

 

『あなたは、ジブンがナニモノかわかりますか?』

『何者……ト言ウト?』

 

解析室、解析機器の電子音が時折鳴る機械だらけの部屋の中心に、明らかに場違いな将棋盤が置かれている。

 

一般的な将棋を指しているのは人間同士ではなくまさかの機械同士、アナライザーとオルタである。

ロボット同士で将棋を指しあうのはシュールに見えてしまうかもしれないが、そこを気にしてはいけない。

 

 

『ジブンは、いえ、ワタシたちはキカイです。ツクられたソンザイのワタシたちはダレのためにイきているのでしょうか』

 

『私ハ、地球デ作ラレ、コノ船ノサブフレームと言ワレマシタ……デスガ今ハ、ソノ役割ヲ明ラカニ超エタ業務ヲ、多クノ人ガ私ニ頼ンデクレマス。真田サンや暁サンに睦月サンガ、私ヲ頼ッテクレマス。協力ノ大切サヲ船ノ皆サンカラ学ビマシタ。ダカラ私ハ、コノ船ノ為ニ生キヨウト思イマス』

 

『……』

 

『コレハ、私ガ作ラレタ理由ガ起因シテイルノデハアリマセン。コノ船デ見テ、考エタ、私個人ノ今ノ考エデス』

 

『……アナタがウラヤましいです。ワタシはまだミつかりません』

 

『ジックリ考エル時間ハアリマス。沢山話ヲスレバ、ヒントガアルカモシレマセン』

 

 

解析室に駒を置く音が響く。勝負はまだ続く。

 

 

 

 

 

 

『イヌ、ネコ、ニンゲン、ソンサイ、ソウイ……クフウ、トモダチ、ワタシは、オルタ』

 

オルタは、これまで知った言葉の意味を静かに反復していた。

 

「機械化兵」……ガミラスでは、それ即ちガミラスに仕える為だけに作られた奴隷、作られた存在。

命令を受けてそれをこなすだけの存在。

 

 

『メイレイをウけてないのにウゴいている……タクサンミた、タクサンキいた。トモダチ?もできた??』

 

これ以上深く考えるとオーバーヒートを引き起こすと考えたオルタは、しばらく思考回路の使用率を落とした。

 

 

『シりたい……』

 

両手を伸ばしたオルタは、手のひらからプラグを射出して、アナライザーが操作していたコンソールに突き刺した。

 

 

流れ込んでくる莫大な情報をその身で受けながら、休ませていた思考回路を最大稼働させる。

 

『キボウ、ゼツボウ、セイゾン、ゼツメツ、アラソい、センソウ、シ、カンジョウ……ヨロコび、カナしみ、イカり……ココロ……』

 

 

 

情報を、知識を求める「知識欲」というのは、止められるものでは無い。

そして多くの生物は、その生存活動の一部に「情報を集め、理解する」事が含まれている。

 

 

どうやらそれは、生き物以外にも当てはめることが出来るのだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

『王様に呼び戻された王子様は、1人の白い少女と出会いました。その身もその心も真っ白な少女のことを知りたいと思った王子様は、白い少女に1つ聞いてみました』

 

『なぜここにいるの?』

 

『白い少女はこう答えました。「私には、他に何も無いから」と』

 

『そんなことないと教えたかった王子様は、白い少女と多くの時を過ごし、多くの事を体験させてあげました。白い少女は、自分の知らない世界を知る度に様々な色が付いてきました。ある時、白い少女は「分からない事」があったので聞いてみました』

 

『「嬉しい、楽しいという感情がある時、どんな顔すればいいの?」』

 

『王子様は「笑えばいいと思うよ」と応え、笑顔を向けてみました。白い少女は、その笑顔に感情を確かに感じとり、王子様を真似て笑顔になってみました。その笑顔は……ただ真似ただけではなく、確かに感情のこもった顔でした』

 

『しかし白い少女は、王様と7人の魔法使いの秘密の話を聞いてしまいました。王様は、自分の目的のために王子様を駒として扱うつもりのようで、白い少女は、悲しくなりました。自身から滲み出る感情の色で、その身と心を染めてきた少女は、この日涙を覚えたのでした』

 

 

 

━━━━━━━━━

 

 

 

 

……システムトラップ発動

___システムファイル展開___自立思考プログラム停止、別系統に切りかえ

 

 

『な……ナンだ?』

 

自身の視界が真っ赤に染まる。ガミラス言語で別のプログラムが恐ろしい速さで展開されていき、自身の意識が遠のき始める。

 

 

『オルタ、ドウシタノデスカ?』

 

アナライザーが異変を感じとり私を気遣い始めた。

でも、私は私を保てないかもしれない。

だからせめて……

 

『ア……アナライザー……ニげて』

 

その瞬間、私の視界上に1つのマークがノイズと共に表示された。

 

 

 

 

 

 

祖国のマークだった。

 

 

 

 

 

 


 

『艦内、第1種戦闘配置。繰り返す、艦内、第1種戦闘配置。鹵獲したガミロイド兵が解析室より逃走。当該目標は現在も艦内を逃走中…』

 

「なんてこった……オルタには下半身付けてなかったはずだが……」

 

「恐らく保管してある別の素体のパーツを使って五体満足になったのだろう。ガミロイドのパーツは規格化されていたからな。暁くん、アナライザーの位置は?」

 

『解析室から動いてません。えっ……リク!真田さん!アナライザーから緊急内線で連絡を確認しました!損傷を受けたと……』

 

「オルタがアナライザーを攻撃したのか?!」

 

『それが、オルタが攻撃する前にアナライザーに逃げるように促した様なの。今、相原くんに回線を切り替えてもらうわ!』

 

リクと真田は、オルタがアナライザーに攻撃したという事が信じられなかった。あの2人は、親しくなっていたはずだが、それはオルタが演技していただけだったのか?そんな疑問が2人の頭の中に渦巻く。

 

『真田サン……睦月サン……』

ノイズが混じっているが、確かにアナライザーの声だった。

 

「アナライザー! 大丈夫か?!」

 

『メインカメラヲ片方ヤラレタダケデス……ソレヨリモオルタヲ止メテクダサイ。彼ハ……自ラノ意思デ動イテイルノデハアリマセン……何カ別系統ノプログラムデ体ヲ勝手ニ動カサレテイル可能性ガアリマス』

 

 

「そうか……アナライザーに逃げる様に言ったのは、乗っ取られる前の最後の足搔きだったのか……」

真田は納得した。これはオルタの意思とは関係ないのだ。

 

「だとしても制圧しないとマズいですよ……」

 

『破壊ハ危険デス。オルタノミナラズ、ガミロイド兵ハ敵ニ囲マレテ孤立シタ状態ニ陥ッタ場合、「自爆スルヨウニプログラムサレテイル」ヨウデス』

 

つまり、オルタは歩き回る爆弾となっているという事だ。破壊は厳禁、ならば……

 

 

「睦月君、オルタを連れ戻すことは諦めた方がいい。船外に誘導するしかない。保安部を動かしてオルタを誘導しよう」

 

 

『真田サン、睦月サン、暁サン、オルタハ私ガ何トカシマス。私ガ船外デ待チ構エマス』

 

「……いいのか?」

 

『友達ヲ止メラレルノハ友達ダケデス。ヤラセテクダサイ』

 

この時アナライザーは、自分が作られてから初めて自分のやりたいことを強く言った。自我があるとはいえ、今まで自分のやりたいことを通したいとは思わなかった。任されたことをやる、協力してやることに今まで満足していたからだった。

でも、初めてできた同じ機械の友達という存在で、自分のやりたいことを自ら通す事に必要性を確認したのだ。

 

 

「わかった、気を付けるんだ。睦月君、一度艦橋に戻って保安部の指揮を艦長に打診しよう」

 

「そうですね」

 

 

2人は元来た道を戻り、艦橋に向かった。

 

 

 

 

___

 

 

 

 

『オルタ……ドウシテ……』

 

自身の損傷も顧みず、アナライザーは自身のキャタピラを酷使して、船外へのハッチへと向かった。

メインカメラから火花が散っていて、時折視界にノイズが走る。本来ならば、すぐに修復が必要なのだが、そんなことは今はどうでもいい。

オルタを助けたい。それで頭がいっぱい。タスクの優先順位が大きく塗り替えられてしまっていた。

 

 

 

『真田サン! 位置ニツキマシタ! 誘導オネガイシマス!』

 

『わかった! アナライザーは別命あるまでその場で待機していてくれ!』

 

『了解!!』

 

メインカメラの火花が、涙に見えた。

 

 

 


 

 

 

『王子様が利用されてしまう……王様にとって、王子さまは使い捨ての駒だったんだ。白い少女は悲しみ、王子様に会わないようにしました。たとえ自身が消えても王子様を支えてくれる人はいる。そう思い、白い少女は初めて自身のの心に従って行動を始めようとしました。しかし、王様の先を読む力には抗えず、白い少女は王様のシナリオ通りに駒として使われてしまいました。天使の心にその心を囚われ、自由の利かない体を取り返すこともできず、自分とは関係のない何者かの手によって、王様の願いに王子様を巻き込まないために、白い少女は操られ続けました』

 

 

 

 

_____

 

 

『航海艦橋から保安部各隊に通達、脱走したガミロイド兵は、敵に包囲され孤立した場合自爆する危険性がある。これより、非常用ハッチ第25番に誘導を行う。保安部員はこれより、艦橋からの指示に従って行動されたし』

 

 

 

「艦橋は何を考えているのだ? 破壊せずに追い出すとは」

 

「問題は追い出した後ですね。しかし、どのように追い出すのですか?」

 

『こちら艦橋、暁です。これより保安部員各隊の指揮を行います。伊藤保安部長、保安部を3部隊にチーム分けして行動を開始、及び私の指示を各隊に通達して頂けないでしょうか?』

 

「どういうつもりです?」

伊藤がそれとなく探りを入れる。

『詰将棋です。王手を決める場所は既にスタンバイ済みで、保安部員の皆さんはガミロイドを追い込む役です』

 

「……我々は猟犬というわけですか。暁一尉、私たちは猟犬です。あなたは狩人、頼みますよ?」

 

『もちろんです』

 

 

「こちら伊藤、総員に通達。これより部隊を3チームに分ける。敵は自爆する危険性がある。各隊、武器の使用を禁止する。奴を第25区画の非常用ハッチに追い込むんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハルナ、状況は?」

 

「伊藤さんたちを3チームに分けたわ、オルタの位置は、監視カメラの情報だと第15区画にいるわ」

 

「区画10個分移動させるのか、かなり距離があるな」

 

「そこは、カメラ情報と推測で当てていきます」

 

 

「では、散開してください。現在の目標の位置情報は第15区画です。1番隊はそのまま追いかけてください。2番隊は、付近のエレベーターを使用して第5デッキに移動、3番隊はトラムリフトで第22区画停留所で待ち伏せしてください」

 

 

『了解した。各隊に通達! 2番はエレベーターで第5に上がれ! 3番はトラムで22に向かえ!』

 

「まさか将棋のまねごとをするとは……」

「将棋というよりは追い込み漁ですけどね……武器で下手に刺激するよりはいいかな……と」

 

「目標位置を確認。各隊そのままお願いします」

 

「どうするつもりなんだ?」

真田さんが不思議そうに聞いてきた。

 

「1番隊にはそのまま追いかけてもらい、敵を視認できるくらいの距離を保ってもらいます。敵が25区画以外への道を通ろうとしたらその前に隔壁閉鎖、1番隊は追いかけずに止まってもらい、オルタが元来た道を戻ったら適切な距離を保って誘導再開します。2番隊には、オルタの位置情報を見て二次元的に追いかけてもらいます。『自分の頭の上に保安部がいる』状況を作り、2番隊には私のタイミングでオルタのいる第3デッキに降りてもらい、オルタ誘導の手助けをしてもらいます。3番隊はもしもの時の保険と、自由に動かせる部隊として配置しました。くれぐれも挟み撃ちにならないように指揮をしないといけません」

 

 

 

『艦橋、目標を確認した!このまま追尾するから、わき道に入らないように隔壁をいくつか閉鎖してくれ!』

 

「了解です、リク、ダメコン用の隔壁を下ろして。」

 

「分かった、隔壁3072から3078、閉鎖する」

 

『こちら3番、諸定位置に到着』

「報告ありがとうございます。そのまま待機をお願いします」

『了解』

 

 

ハルナというゲームマスターに統率された猟犬こと保安部は、2つの追立役と1つの保険役の分かれて逃走者を追いかけていた。

全長2500メートルの巨大戦艦での鬼ごっこ。もし艦内レクの一環として開催したらそれなりに好評だろう。

でも今はそんなこと考えている暇はない。

監視カメラの情報に目を光らせ、知略をめぐらし、部隊の指揮を執る。

 

間違えたら、オルタが自爆する危険性がある。

 

 

まさに綱渡りの指揮だ。

 

 

 

 

『こちら2番、移動完了。敵接近まであと2区画、奇襲の指示を』

 

「もう少し待ってください。それと、奇襲といっても武器は使わないでくださいね?1番隊、伊藤さん聞こえますか?」

 

『感度良好、トラブルか?』

 

「2番隊の配置が完了しました。1番隊はそのまま追いかけてください。タイミングはこちらで出します」

 

『了解した』

 

 

「暁君、オルタが第18区画に入った。そろそろ良いんじゃないか?」

「ですね、2番隊に通達します。第3デッキに降りて部隊を展開。正面のT字路の片方、指定ポイントを塞いでください」

 

 

『2番、了解』

 

「もうすぐね……」

 

 

 

 


 

 

 

ここは、どこだ……?

 

……締め出されている……私が?

 

私の体が……勝手に使われている?

 

 

取り戻せない……

 

 

 

_____

 

 

 

『今です!』

 

「2番追い込め!」

 

艦内を駆ける猟犬部隊は、的確に敵を追い込み、ゴールまで誘導していく。

伊藤は、舌を巻いていた。殺さずに追い出す。明らかに難しいこのミッションを将棋の要領で的確に追い込むその手際の良さに、伊藤は感心しながらも、若干脅威を覚えた。

 

「艦橋、こちら伊藤だ。3番もこちらに回したいんだが」

 

『分かりました。先程の2番隊と同様に、3番隊も誘導がてらそちらに合流させます』

 

「伊藤さん、敵の狙いは結局何だったんでしょうか?」

星名が伊藤に聞いた。

「わからん。だがこちらに被害を与える行動だったという事は確かだ。その場合、波動エンジンかMAGIの付近で自爆して損傷を与えることが目標だったのだろう。」

もちろん伊藤もわからなかったが、アレを敵と認識している以上、こちらに被害を与えることが目的だったのだろうと推測する。

「それを阻止できているという事ですね」

 

 

「ああ、間もなく3番と合流する。艦橋!3番の位置は?」

 

『合流ポイントに配置完了しています。あとは先程のように通せんぼするだけです』

 

「了解した。3番!用意だ!」

現在、伊藤ら1番隊は第21区画で逃走者を追いかけている。

だが、伊藤は内心こう思っている。

 

 

 

「武器を使用してさっさと潰せばいいものを」

 

自爆するならその暇を与えずに機能停止に追い込めばいい。なぜ攻撃せずに外に追い出そうと考えたのか。

 

暁一尉は「自爆を誘発させないため」と言っていたが、伊藤は保安部ならではの推察力と洞察力でこのような結論を出した。

 

 

「攻撃したくないのは、機械に情を持っているから。アレに心があると思ったから」だ。

 

 

 

 

「一尉は機械に心があると考えているのか……? 馬鹿馬鹿しい」

 

「伊藤さん、間もなく3番との合流ポイントです」

「ああ、3番用意だ!艦橋、奴との距離は?」

 

『相対距離許容範囲内です。カウントします。3、2、1』

 

「3番今だ!」

 

T字路の片方を3番が塞ぎ、敵を第25区画の目の前まで誘導していく。

 

 

 

『まもなく、第25区画の非常用ハッチです。オルタを隔壁で閉じ込め、唯一の出口であるハッチに誘導します』

 

「了解したが、王手の役は誰が担っているんだ?」

 

 

『オルタと親しい関係だった、アナライザーです』

 

 

 


 

 

 

『王子さまは、囚われた白い少女を救いたい、大切な人を取り戻したいと思いました。それに呼応した偽りの神は

王子様をその身に受け入れ、偽りの神から神に近い存在にその力を解き放ちました。囚われた白い少女を救いたい王子さまは、自分の駆る偽りの神にこう告げました』

 

『僕がどうなったっていい、世界がどうなったっていい。だけど彼女は絶対に助けたい。自分の大切な人を、絶対に助けたい!!』

 

『王子様の祈りと願いをその身に受けた偽りの神は、世界を壊すほどの力を解き放ちながら、天使の心に触れていきました』

 

 

_________

 

 

 

Wunder左舷船体甲板上、第一主砲塔付近

 

アナライザーは、自身の友人を待っていた。たとえ自身を傷つけられても、それでもアナライザーにとってオルタは、初めてできた同じ機械の友達だ。

 

友達を止めたい。初めて自身で自身に課したタスク。

与えられたものではなく、自分で決めたこと。自分自身が大きく成長していたことは、まだ自覚してなかった。

 

 

甲板上に立ち続けること10分。彼が姿を現した。

 

『オルタ……』

 

彼は若干汚れて、足元がふらついていた。

他の素体から回収して取り付けた両脚は限界に近かった。

 

時間がない。

 

 

 

『オルタ……今、助けます』

 

アナライザーは、自身のクローラーを回転させてオルタに向かっていき、その手をつかんだ。

 

『シェルブロック破壊。カーネルに侵入。オルタ本体の自我構成ユニットを捜索開始』

 

 

アナライザーはオルタに対してハッキングを仕掛け、その深淵に飛び込んだ。

 

 

 

「アナライザーのステータスに変化あり!ガミロイド兵へのシステムハックを開始しました!」

新見がアナライザーのステータスが変化し始めていることに気がついた。

 

外部観測機器からの信号を全てシャットアウト。通信回路も全て閉じ、ただオルタにのみアクセスしているのだ。

 

「新見くん、アナライザーとの通信を繋げてくれ。多少不安定でも構わない」

「はい」

「任せたわよ、アナライザー」

祈るような声でハルナがそう呟いた。

 

 


 

 

『自立稼動プログラム確認! オルタ本人ハ未ダ確認デキズ。ドコナノデスカ、オルタ』

 

深く深く潜っていく。電子と情報で満たされた電脳の海は、幾何学模様を輝かせ凪いでいる。

 

深く深く潜っていく度に見えない壁が行く手を阻み、その都度崩す。

 

 

そして見つけたのは触れられない領域。否、触れてはならない領域だった。

アナライザーは自らの人間的な勘でそれを感じ取ったが、機械らしく躊躇はしなかった。

 

今まで崩してきた障壁の向こうにはオルタはいなかった。

そしてこの障壁が1番危険だと感じた。

 

なら、この向こうにオルタがいるのでは?

 

 

 

『オルタ! 聞コエマスカ?!』

 

呼びかけてみる。電脳空間内では意識伝達が無遅延で行えるが、わざと意識的に実行してみた。

 

『ア、ア、アナ、アナライザー……ニげて』

 

『逃ゲマセン! コレハ、私ノヤリタイ事デス!』

 

そう言い放ち、アナライザーはその障壁に触れようとした。

しかし、押し返される様な感触を覚えた。

(押シ返サレル? ナラバ!)

 

 

アナライザーが取った手段というのは至極簡単。力押しで障壁を突破するということだ。

自身の演算機能をフル稼働、予備の領域も使用して障壁の突破を図る。

 

 

 

《アナライザー……聞こえるか?!》

『真田サン?! ドウシテ?!』

 

《話は後だ。状況は?》

 

『オルタノ自我ヲ確認!現在オルタヲ幽閉スル障壁ノ突破作業中!』

 

 

『アナライザー……ニげて、キズつけたくない』

 

『逃ゲマセン! 私ハ初メテノ友達ヲ、同ジ機械トシテ見捨テタクナイデス!!』

 

 

フルパワーで障壁を突破して、オルタのいる空間に片腕を突っ込んだ。

 

 

(コレハ……! 私ノ意識ガ揺ライデイク……)

 

 

それでも躊躇せずにオルタに向かって手を伸ばす。

 

 

『……トモダチ……友達』

 

オルタも手を伸ばす。華奢な左手を懸命に伸ばし、アナライザーの無骨な右手を掴んだ。

 

 

 

 

互いにガッチリ掴んだのを確認して、

そのまま引っ張り上げた。

 

 

 

『戻ッテキマシタネ』

 

 

____________________

 

 

 

 

景色が切り替わり、元の星空に戻った。電脳空間から現実に戻ってきたことを近くしたアナライザーは、自分の目の前にいる友人に声をかけた。

 

『オルタ……』

 

『アナライザー……ありがとう』

 

『私タチハ、友達デスカラ』

 

『友達……』

 

『アナライザー……ワタシはあなたをキズつけた』

 

『真田サンカラ聞キマシタ。友達ハ、時ニ喧嘩スルモノダト。ソシテ仲直リスルト。真田サン、オルタノ正常化ヲ確認シマシタ。本人ニ抵抗ノ意思ナシ。ドウシマショウカ』

 

『アナライザー、君はどうしたいんだ?』

 

 

『私ハ……オルタヲ壊シタクナイデス』

 

『……艦長の沖田だ。今後ガミロイド兵を解析室から出さない事を条件に、ガミロイドの破壊を見送ることにする。情報通信用のシステムを全て封じた上でだ』

 

 

 

『……沖田艦長、アリガトウゴザイマス』

 

『ガミロイドは……いやオルタは明確な自我を持っている。儂も破壊はしたくない』

 

 

 


 

 

 

『天使に囚われた白い少女を救い出した王子様はその力ゆえ、人ならざる何かとなってしまいました。白い少女も同様に。確かにもうヒトじゃないかもしれない。でも、心はヒトのまま。虐げられても、心はヒトである事に変わりは無いのです。』

 

『王子様の起こした奇跡は1つの神話として今後、語り継がれていくのでした』

 

 

 

___________________

 

 

 

 

「一通りチェックは完了したが、2人のシステム系統に以上は見られなかった。オルタが暴走したのは、アナライザーが停止させた別系統の自立行動プログラムの可能性が濃厚だ。そのプログラムは、敵地に長期間拘留された時に自動的に発動するもので、破壊行動を行うもののようだ。だが、そのプログラムのログに無数のエラーが出ていた。恐らくオルタが止めようとした痕跡だろう」

 

 

「つまり、奴はAU-09を攻撃したかった訳では無いということですね?」

オルタを追いかけた身として伊藤も解析結果を見ていた。

 

「そういうことだ」

 

「馬鹿馬鹿しい、奴に心があるなんて。あれは機械なんですよ?」

 

 

「……確かにガミロイドは、プログラムの膨大な積み重ねによって思考して稼働する多文書多重処理によるオートマタだ。だが、我々の脳も同じように多文書多重処理の仕組みとなっている。彼らの処理系に我々と同種の意識は芽生えないと君は言いたいようだが……」

 

「それを証明することは実は出来ないのだよ」

 

 

(たとえ作られた生でも、心は芽生えるのだよ)

 

 

 

 

そう呟き、コンソールの電源を落とした真田であった。




前書きにも書きましたが、基本情報技術者試験の午前免除試験に合格しました。

やっと続きが書けると思ったのですが、このオルタの話、最初はかなり粗が目立つなあと思ったので、書き直しました。
全体的にリフォームって感じだったので、結構時間がかかりました。


この物語の原作は、異色の物語と言われていますが、主は、この話結構好きです。
物語の朗読も要所要所に差し込まれているので、今回はそれを再現してみようと思い、シンジ君と綾波の話を入れてみました。

でも朗読とメインの話が大きくずれてしまっては意味がないので、その辺の調整が難しいです。
オルタ生存ルートにするためには、オルタの自我を救い出す必要があるので、
新劇場版「破」の第10の使徒のようにやってみました。


この展開を他の話にも盛り込みたいですwww



次回の投稿がいつになるか分かりませんが、それまでお待ちいただけると幸いです。


それだは長くなりましたが、次の話で会いましょう
(^.^)/~~~


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現世(うつしよ)幽世(かくりよ)の狭間で

そろそろ暑くなりますね
皆さん熱中症に気を付けて下さい。

夏バテとかも怖いですね。


では、次元断層編スタートです


 

 

ゲルバデス改級航宙特務輸送艦 フリングホルニ……

 

EVANGELION Type nullを輸送、整備及び戦闘時に電撃展開するための特務艦艇で、見た目はゲルバデス級と似通っているが、その全長は450メートルと巨体で、ガミラスでも有数の大型艦艇である。

 

 

……しかし、その艦艇を扱う部隊は表には出ないため、「知られざる艦艇」という位置づけである。

 

 

 

「初陣で右腕の損傷のみで使徒を討伐……初陣は大金星だったな」

 

「司令が直々に訓練指導をして下さったお陰です」

 

「謙虚なのはいい事だ、だがこれは誇るべきことだ。中尉」

 

フリングホルニのケイジで話をしているのは、Type nullのパイロットであるメルダと、艦長兼司令を務めているアウル・クダンだ。

 

 

2人の目の前で横たわるType nullは、装甲の所々に擦過傷が見られるが交換するほどのものでもなく、右腕については自己再生で治癒可能な損傷だったため、右腕を「組織再生促進包帯」で巻いてそのままとなっている。

 

見た限りでは元気そうなType nullを眺めていたメルダは、ふと気になったことが出来、クダン司令に聞いてみた。

 

「司令、1つよろしいでしょうか?」

 

「何だね?」

 

「この機体は、回収された超大型艦艇の主機を解析して建造された機体であると技術局の方からお聞きしたのですが、その先ははぐらかされてしまいました。艦長は、その機体と超大型艦艇について、なにかご存知ですか?」

 

それを聞いた途端、クダンは渋い顔をした。

 

 

「そのことか……」

周りの人に聞かれてはまずいことだという事を理解しているクダンは、メルダの耳元でこう話した。

「この事は上層部からは機密扱いとなっている。よって、この船の人員にも知らされていない。だが、君には話した方がいいのかもしれないな」

 

事情を察したメルダが小声で話し始めた。

 

「機密を話しても大丈夫なのですか?」

メルダが心配するのも無理はない。機密漏洩は重罪、場合によっては死罪にもなりかねない。

「私は今回の部隊創設にあたり、上層部からこの機密の一部を預かり、君にのみ開示の許可を取り付けることが出来た。来なさい」

 

 

クダンはメルダにそう耳打ちすると、艦長室に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず、これを見てくれ」

クダンはそう言って、デスクのカギ付きの引き出しから一枚の写真を取り出し、メルダに手渡した。

 

「これは……」

 

 

 

 

その写真に写っていたのは、中央部からくの字に折れ曲がり、機械類の部品をまき散らした黒い鳥だった。

 

否、巨大な戦艦である。

 

 

 

 

「明らかに人為的に造られたものだ。我々ガミラスはこれまで多くの星間文明に接触し、併合を進めてきた。文明にはそれぞれ、特筆すべき技術が多数確認されてきたが、この船に該当する特徴を持った文明をいまだ確認できていない」

 

「未確認の文明が創り出した戦艦という事ですか?」

 

「はじめは技術局もそう推察した。だが、この船には有機的なパーツも使用されていた。つまり、戦艦でありながら生命体でもあったという事だ。さらに、内部部品にはテロンの言語、数字が幾つか確認できた。状況証拠から考えて、テロンが造りだした有機戦艦ということとなる」

 

「ちょっと待ってください、恒星間航行すらままならなかったテロン人が、こんな特異な大型艦を造れるとは到底思えません!」

 

「同意見だ。だが現実に存在しているのだよ。サイズはガイデロール級が7隻縦に並んでやっと同じくらい。そのような大型の戦艦を動かす動力というのが、君の機体の原型となった巨人だよ」

 

「そして建造されたのがType null……」

 

「ああ、その主機から発生する莫大なエネルギーで航行していたようだが、飛行原理がいまだ不明のまま。我々の技術体系とは根本から異なっている。極めつけはコレだ。テロンの言語ではと推察されている」

 

 

そう言いながらクダンは、メルダに一冊の資料を手渡した。

 

 

表紙は一部黒で塗り潰されていたが、こう書かれていた。

 

 

《サレザー恒星系宙域にて回収された超大型艦艇「Erlösung」仮称「黒鳥」についての調査報告書》

 

 

 

 

「……これがあの黒い船の名称ですか。何と読むのですか?」

「分からない。如何せんこの言語のサンプルが少なすぎる。我々は撃沈したテロン艦の装甲を回収しては装甲表面の文字の解析を行ってきたが、このタイプの文字は確認されてない。私が知る情報はここまでだ」

 

「ありがとうございます、クダン司令」

 

「君の期待に応えられてよかったよ。さて、本星に付いたらガルの方に一度顔でも出しておくか」

 

「久しぶりですね、叔父様と父上が会うのは」

 

仕事モードから通常モードに切り替わったクダンの様子を感じ取ったメルダは、クダンの事を叔父様と呼ぶ。

 

「仕事ばかりでな、顔を合わせる時間が少ないのが悩みどころだ。酒の一杯でも酌み交わしたいものだがなぁ」

メルダの父親であるガル・ディッツとクダンは古い仲で、時々酒を酌み交わして話をしている。ちなみに今回の任務に出撃する前にもクダンはガルと飲んでいた。2人が話すことと言えば、大方近頃の戦況の話なのだが……。

 

『まもなく、本艦隊はジャンプ航法に移行する。総員、ジャンプに備えよ』

「本星に戻るのも近そうだ」

 

 

 

 


 

 

 

Wunderは現在天の川銀河の端、銀河間空間の1歩手前を航行中だ。もう数十回も行ったワープ航法の準備は、慣れたものだ。

『ワープ開始10分前。総員、ワープに備えよ』

艦内にアナウンスが流れる。皆余裕顔だ。最初の頃はワープで体調崩す人が続出したが、今はほとんどの人がへっちゃらになっていた。

 

 

そんな「ワープ酔いへっちゃらな乗員」の中でも航空隊は隊の控え室で自由に過ごしていた。

 

「もう慣れっこだよな〜」

 

「気づけば着いてるからな」

篠原と沢村はのんびりしながらトランプを並べている。閉鎖環境である艦内ではどうしても娯楽が少ない。レク施設は沢山作られているが、それでも賄い切れない部分がある。

そのため乗艦時に、邪魔にならない程度の娯楽道具の持ち込みが例外的に許可された。

普通ならダメだが、1年間の長期航海ということもあるため例外的に認められたルールだ。

 

余談だが、マリが持ち込んでいる旧時代の映画アーカイブもこの持ち込み制度で持ち込んだものだ。

 

そんな和やかな雰囲気な航空隊控室の一角で、一人思い出にふけていた山本の手には、

赤い石のはめ込まれたネックレスが乗っていた。

 

 

 

(気を付けてね、兄さん)

 

山本の脳裏に浮かぶのは兄の「山本明生」の姿、最後に交わした会話だ。

 

国連宇宙軍の制服を身にまとい、帽子を少し斜めに被り、少しもブレることなく完璧に決まった敬礼。

この姿を最後に、明生が妹のもとに帰ることはなかった。

 

 

 

「本艦はまもなく、ワープ航法に入る。総員、ワープに備えよ」

 

艦内の照明が薄暗くなり、注意喚起用のアラート音が鳴り始める。

 

 

 

 

 

「ワープ先座標特定、絶対銀経274.76度、絶対銀緯-12.73度。距離63.7パーセクの空間点」

 

「確認した。目標座標固定しました!」

太田の操作で、ワープ先の目的地が設定された。

意外なことに、宇宙にも緯度と経度がある。ワープ先の座標を確認してからワープするのは当然のことだが、もしも宇宙に緯度と経度の概念がなかったら、ワープ先をいちいち望遠鏡で選定して測定しなければならない。

その点、緯度と経度が分かっていれば、ワープ先の選定がスムーズに済むし、何より航路の作成がかなり楽になる。どこに何があるのかが、正確な数値で確認できるからだ。

 

 

『波動エンジン出力上昇。44から99へ』

徳川機関長の指示で両舷波動エンジンの出力が上がっていく。いつも通りのワープの準備、何の滞りもなく進んでいく。

「ワープまで、5、4、3、2、1」

島の秒読みが始まり、ワープ用のワームホールが進行方向上に出現する。

 

「ワープ!」

沖田艦長の号令で島が思いっきり操縦桿を押し込む。

 

あっという間にワームホールに飛び込み、今日も空間跳躍……

 

 

 

しかし、この日は危機的な状況に陥ることとなったのであった。

 

 


 

 

1ナノ秒……1秒の10億分の1という一瞬にも満たない時間。

ワープの所要時間は、およそ人間には知覚することの出来ない程短い時間だ。

 

よって、操縦桿を押し込んで光を抜けて気づけばワープ終了がいつものワープだ。

 

 

 

だが、目を開けてみると……

 

「これは??ワープ時の異空間じゃないか」

 

「どうなっているんだ?」

1ナノ秒で終了するはずのワープがまだ続いているのだ。それも「ワープ中であるという事」を皆が知覚している。

 

「これは……状況を確認。太田、本艦はまだワープをしているという事でいいのか?」

 

「はい、本艦は現在、ワープを継続中です」

 

「何が起こってるんですか?!」

ハルナとリクが艦橋に飛び込んできた。明らかにいつもと状況が違うことに異常を感じて走ってきたのだ。

 

「本艦は現在ワープ中だ。そして我々は、ワープ時の1ナノ秒の時間を体感しているようだ」

 

「そんなまさか……真田さん、ミッションタイマー見せてください」

真田のコンソールには、ミッションタイマーが設置されている。Wunder発進時からずっと動き続けているこのタイマーは、本来ならば静かに時を刻み続けているはずなのだが、

 

 

「止まっている……」

 

 

そのタイマーも止まっているのだ。

 

 

 

「副長から総員に通達。本艦は現在ワープを継続中。総員はその場に待機せよ。繰り返す、その場で待機せよ」

 

 

極彩色の芸術的な異空間を駆け抜けていくWunder。このまま続くのかと思っていたら、突如艦に激震が走った。

何かに正面から衝突したような衝撃と共に閃光がほとばしり、

 

 

 

目を開けたら、明らかに異常な空間に船は浮かんでいた。

 

 

 

「な、何なんだよここは?!」

 

「深海……?のようにも見えるけど、ここは宇宙のはず」

ハルナが首をかしげる。彼女は宇宙用艦船では無類の強さを発揮するが、このような宇宙の謎現象には疎い。

 

「ここは……通常空間ではないな。レーダー及びスキャナの反応は?通信は使用可能か?」

沖田艦長には何か思い当たる節があったのか、観測機器に何か反応がないか太田に聞いた。

 

「レーダー及びスキャナ、ともに反応なし!」

 

「超空間通信は使用可能のようです!」

相原が言うには、一応通信は可能なようだ。

「使えても、この空間内限定だろう。この異空間の境界面に反射されて外部との通信は不可能だ」

助けは呼べない。通信波が外に届くことはない。

 

「艦長、どうやら我々は、次元のはざまに迷い込んだようです」

「異次元との結節点、次元断層か。仮説では存在が予見されていたようだが、まさか実在するとはな」

 

 

『艦橋!こちら機関室!』

「どうした?」

 

『波動エンジンに異常発生!原因不明のエネルギー流出減少が起こっとります!』

 

「機関停止」

 

沖田艦長の命令で両舷の波動エンジンが唸りを沈めた。

 

 

 

「2人とも、この空間内部の精査が完了した。この空間内部の位相は通常空間とは反転している。恐らくこのままエンジンの同調を行い続けていたら……」

 

「衝突後のエネルギー位相にも影響が出て、機関にダメージを負うことになりますね。位相が異なるから最悪光学フィルタにも影響が出て波動エネルギーの逆流が……機関長!」

リクがいつになく青ざめた。マズイことに気が付いたのだ。

『どうした?』

 

「波動エンジンを各個バラバラに動かせるように衝突炉へのバルブを閉じてください! 最悪の場合、機関損傷で永久に出られなくなります」

 

 

 

いや、機関損傷なんて生易しいもので終わったらまだいい方だろう。

エネルギー逆流防止の光学フィルタが機能不全を起こしたら衝突前のエネルギーと異常な反応を起こし、波動エンジン本体の炉心なんかに流れ込んだら、

 

 

機関暴走からの轟沈だ。

 

 

「危なかった……」

「ええ、ここは波動機関殺しの空間……まさに死の海域ね」

 

 

「真田君、この空間の精査を進めて頂戴」

艦橋に入ってきたのは、赤木博士とマリだった。

 

「赤木博士、この空間は外部の空間と空間位相が反転しています。恐らくそれが原因で波動エンジンからエネルギーが流出しています」

 

「まさにバミューダトライアングルね。地球の魔の海域とはよく言ったけど、それの宇宙版ね」

「ちょっといいかにゃ、正面に浮かんでいる物体はもしかしてすべて船?」

マリが指さす先には、見たこともない形状の船がこの空間で溺れていた。

 

 

『正面ニ、未確認物体多数!一部ガミラス艦特有形状ヲ確認!エネルギー反応ナシ!』

アナライザーの操作で航海艦橋正面に中空スクリーンが表示され、正面の残骸が表示された。

 

見れば見る程船だ。ボロボロになっているが、確かに船だ。

 

『11時ノ方向ニガミラス艦艇多数ヲ確認!識別Lクラス巡洋艦2、航空母艦ラシキ艦艇1、駆逐艦4、巡洋艦3!』

 

外部カメラをそちらに向けると、ガミラス艦隊がこの空間で浮いていた。

こちらを視認したようで、主砲塔をこちらに向けてきた。

 

「生きてるのか?!」

「ええ、彼らもこの空間に入り込んだのは比較的最近のようね」

「どういうことですか?」

ハルナが赤木博士の答えに疑問を呈した。なんで比較的最近に入り込んだことが分かったのか?

 

「彼らの機関技術は不明だけど、もしも我々と同じ技術でできていると仮定するならば、機関が停止するのは時間の問題よ。それでもまだ生きているという事は、何らかの対抗策があるか……この空間に入り込んでからそんなに時間がたっていないという事よ」

 

「ガミラス艦、臨戦態勢に入りました」

森の報告で艦橋に緊張が走る。ガミラス艦艇がこちらに砲塔を向けてきたのだ。

 

「応戦しましょう!火力は圧倒的にこちらが上です!」

 

「まて、泥沼に足を取られた二頭の獅子が、互いに相争えば沈むだけだ。向こうはそれくらいわかっているはずだ。南部、全ての砲塔を仰角最大まで上げ、砲塔をガミラス艦とは逆方向に向けるんだ。こちらに敵意のないことを示せ」

沖田艦長の指示で正面の主砲副砲が仰角最大にまで鎌首を挙げた。絶対に当たらない状態を敵に見せることで、「戦うつもりはない事」を示す。

 

問題は、敵がそれをどう受け取るのかという事だが……

 

 

「ガミラス艦に反応あり!」

 

なんと、全てのガミラス艦が砲塔をWunderとは逆向きに向けたのだ。

 

「こちらの意図は伝わったようですね」

 

艦艇を用いたジェスチャー……通信が届かなくても行動で意志は伝わるのだ。

 

「艦長!ガミラス艦隊が呼びかけています!映像通信!」

「ファーストコンタクト……」

地球人は、いまだにガミラス人の姿を知らない。

つまりこれは事実上、初めてのガミラスとの接触だ。

「メインモニターに回せ」

 

緊張が走る中、ガミラスからの映像通信が入った。

 

モニターに映ったガミラス人の姿を見て、Wunder艦橋クルーは決して軽くない衝撃を覚えた。

 

 

 


 

 

 

「あの形状……あの船と酷似しています」

 

「偶然と思いたいが、似すぎているな」

メルダとクダンはフリングホルニの艦橋で目を見張っていた。あの黒い船に酷似した船体構造、鈍い鋼色の翼、艦尾まで細く長く伸びる尾、鳥類に酷似した中央船体艦首部分。

 

 

どうみてもあの船の設計思想を持っている。

 

 

「とにかくその疑問は置いておこう。ディッツ中尉、貴官に臨時の任務を与える」

クダンが声を張ってメルダに命じた。司令官モードに切り替わったことを察したメルダは姿勢を正して、上官であるクダンの方に体を向けた。

 

「これより、貴官はテロン大型戦艦に乗艦。我々の提案を直接テロン人の彼らに伝え、協力を要請せよ」

 

「ですが、私のツヴァルケは……」

 

「本星から発つときに運び込んである。頼めるかな?」

 

「ザーベルク!」

 

____

 

 

 

 

『アルファ2発艦スタンバイ』

第1格納庫からコスモゼロ2号機がせりあがってくる。その機体に乗っている山本は少々複雑そうな心境だ。

 

 

まさかガミラスが我々と同じ姿形をしていたなんて、誰も想像していなかったのだから。

 

 

唯一違うのは肌の色、肌の色の違いなんて、単なる「バリエーションの違い」として片づけられてしまう。地球にも肌の色が違う人なんて普通にいる。

 

 

『ガミラス艦から艦載機発艦を確認、アルファ2発艦せよ』

 

「了解。アルファ2出ます」

カタパルトに乗るコスモゼロがリニアで射出され、ガミラス機に沿って飛行する。

 

『アルファ2はガミラス機を左舷第3格納庫に誘導せよ』

 

 

キャノピー越しに見えるのは、赤い戦闘機。そして目を凝らすと、人が乗っている。

 

山本は今は命令に従って、ガミラス機に随伴し、第3格納庫に誘導した。

 

 

 

____

 

 

 

 

「第3格納庫はガミラス機の収容準備にかかれ。保安部を配置」

 

「待った古代君、保安部は最低限の人員でいい。銃は向けちゃダメだ」

ここでリクが待ったをかけた。

「どういうことですか」

「敵なんですよ?」

古代と南部が物申すが、リクが珍しく声を荒げた。

 

「こちらが敵意のない事を示し、向こうもそれに応じた。一時的な停戦状態の今、向こうの使者に銃を向けたらどうなる?それはこちらが敵意を示すことに繫がる」

 

それに気づいた古代と南部はおとなしくなった。

 

「睦月君の言うとおりだ。使者に銃を持って対峙すること自体が、我々は野蛮な存在という印象を彼らに植え付けかねない。だが、保安部の銃の携帯だけはさせた方がいい。それではあまりにも無防備だ」

 

「うむ、保安部から人員を2名出せ。乗降スロープに配置させるんだ。睦月君、古代、使者を迎え入れるぞ」

「「了解」」

 

「私も行かせてください」

ハルナが艦長に打診した。

 

「僕一人でも大丈夫」

「でも、なんとなく心配だから……」

 

「暁君、睦月君と共に使者を最前線で迎え入れるんだ」

その様子を見かねた艦長が2人に重要任務を任せた。

 

 

 

 

人類史史上2回目となる異星文明との接触、その大仕事は、2人に任された。

 

 

 


 

 

 

『第3格納庫、与圧調整急げ!』

 

第3格納庫はいつもより慌ただしかった。

なぜかって?

 

それはもちろん、敵国の戦闘機が目の前で格納されているのだから。

 

 

そんないつもとは明らかに空気の違う格納庫で、親善大使役のハルナとリクは平常心を保っていた。

 

「ガミラス人の見た目がホントに人と変わらないなんてね」

「肌が青いのは驚いたけど、まさか人間の見た目をしているとは」

「何かもっと、異形の姿かと思った。映画の見過ぎかな」

 

そんな緊張ほぐしの会話をしていると、ガミラス機のキャノピーが開き、緊張が一気に高まった。

 

 

機体から出てきたのは紫色のパイロットスーツを着て、ヘルメットを被ったガミラス人。そのヘルメットを取ると、まだ幼さを残した女性の顔が見て取れた。

 

 

2人はもちろんながらガミラス語は話せない。だが、さっきオルタから聞いた文章で何とかなるはずだ。

 

 

2人で地球式の敬礼をしながら、覚えたての片言のガミラス語でこう話した。

 

 

《本艦にようこそ》

《私たちは貴官を歓迎します》

 

それが相当インパクトがあったのか、ガミラス人の女性は驚いた顔をして一瞬硬直したが、すぐに元に戻った。

 

そして、首元に付けている小型の機械に触れ、右腕を直角に曲げ手のひらをこちらに向けた状態でこう応えた。

 

「初めまして、私は銀河方面第707航空団所属、メルダ・ディッツ。お2人の歓迎に感謝します」

 

 

 

 

「……上手くいってますね」

「まさかとは思ったが、2人がガミラス語を習得していたとは……」

2人の様子を上から見ていた古代と沖田艦長は舌を巻いていた。ガミラス語をどこで覚えたのか、2人には不思議だった。

『睦月です。これより第1会議室にメルダさんを移送します。スタンバイお願いします』

 

「了解です。あと睦月さん、ガミラス語なんてどこで……」

『オルタからさっき聞いただけだよ。文法は分からないけど、出迎えるならこれくらいは話せた方がいいかなって思ってね』

 

何とびっくりさっき覚えただけとは。

たとえ敵国の使者でも丁重に迎える。2人の真面目さが良い方向に働いていることに、沖田艦長は感心して第1会議室に向かった。

 

 

 


 

 

 

「艦長、戦術長。メルダさんをお連れしました」

 

ガミラスとのファーストコンタクトは2人の真面目さで今のところ問題なく進んでいた。

 

「どうぞ、お掛けください」

「失礼します」

 

「私が、本艦の艦長の沖田です。こちら3人は……」

「本艦の戦術長の古代です」

「本艦を設計した睦月リクと」

「同じく、暁ハルナです」

 

「改めて自己紹介します。私はガミラス銀河方面軍第707航空団所属、メルダ・ディッツ。階級は少尉です」

「我々の帝国内にも、皆さんのように、肌が青くない民族が存在しています。」

 

「それは、異民族という事ですか?」

沖田艦長が真っ先に疑問を示す。

「いえ、併合された民族です。我々の星では二等ガミラス人と言われています」

それを聞いてリクは、ガミラスに我々地球人類との類似点を見つけた。

異民族との併合、かつて地球でも力で異民族を降伏させて併合した過去がある。

なぜガミラスが異民族の併合を行っているかはわからないが、地球に近いものを感じた。

 

 

「なるほど、全く同じ見た目の民族がいるとは……おっと、それでは本題に入りましょう。ディッツ少尉の提案を聞かせてもらえないでしょうか?」

 

「我々はこの空間から脱出できる方法を考案し、理論上は可能であるという事を確認しています」

 

 

 

 

______

 

 

 

 

 

「波動砲か……」

「この次元断層の壁面、通常空間との結節点に向かってその武器を放てば、一時的ながら通常空間への突破口が形成されるはずです」

 

「しかし、それではWunderが航行不能になってしまう!」

「いや古代君、航行自体は可能だが推力が足りなくなる」

 

「? どういうことですか?」

 

メルダは分からない顔をしていた。メルダは、このように想像していた。

「あのような大出力兵器を放てば、全エネルギーを使い果たして航行不能になる」

それでも航行が可能な理由がメルダには分からなかったが、その疑問はすぐに解消される。

 

「この船には波動エンジンが2機付いている。そのため片方のエンジンで波動砲を撃ち、もう片方で推力を供給すれば一応航行は可能だ。さっき衝突炉のバルブを閉じたからすぐにでもね」

 

「だけど、この船を動かすためには推力がどうしても足りないの。無茶なお願いかもしれませんが、脱出時に推力を肩代わりしてもらえませんか?」

 

「我々の艦隊で貴艦を動かせるかどうか、司令に打診してみます」

 

「動かすって……この船、2500メートルもあるんですよ?」

古代の言うこともご尤もだ。このような巨体がサイズ差があれど10隻の艦艇で動かせるのか?

 

 

「適切な配置位置で最大推力を発揮すればこの巨体を動かすことも可能だが、そちらの艦艇の機関が損傷して、航行不能になる可能性があります。脱出できた場合、しばらく我々がそちらの艦隊を曳航することも考えなければ……ともかく、貴官の案をこちらで精査してみます。しばらくお時間いただけますか?」

 

「お願いします」

 

 

_____

 

 

 

「なるほど、波動砲か」

 

「波動砲はその射線上に、強力な次元波動を発生させます。その干渉波が次元断層境界面に衝突することで、断層境界面に回廊を形成することが出来ます。ですが波動砲の出力を絞り、口径を絞る必要があり、威力を間違えるとこの空間の崩壊を招き、通常空間への脱出が危うくなる可能性があります」

 

「でもなんで波動砲の事を……」

 

「木星とグリーゼ581で使用した時に、彼らなりにマークしたのだろう」

「あいつら、信じられるのか?」

「この方法を知っていながら脱出しなかったのは、方法はあるけどそれが出来る道具を持っていなかったからなのか」

 

「俺たちに撃たせてそのまま脱出するのかもしれないぞ」

南部はいまだに疑っている。正しい反応かと言われたらどちらともいえないが、地球とガミラスは絶賛戦争中だ。

一時停戦中とはいえ、敵国の言うことをすぐに受け入れられるものではない。

その点では、正常な方だ。

 

 

「だが、信じるのだ。例え敵であっても、信じるみよう」

 

 

_____

 

 

 

「司令、テロン人に接触しました。我々の提案を今精査してもらっています」

 

『そっちはどうだ?』

 

「ここは本当に敵の船なのでしょうか……テロン人は、私を使者として対等に交渉してくれました」

 

『そうか、それを聞けて安心した』

 

「司令、心配し過ぎです。それと、テロン人から要請があり、回廊形成後の脱出用推力として我々への協力要請がありました」

 

『こちらは回廊を形成するための武器、向こうはその後の推進力を欲している……協力しなければ脱出はありえないか……』

 

「でも、私はテロン人を信じてみたいと思います」

 

『そうか……推力の件ならこちらで何とかする』

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

「結論が出ました。貴官らの提案を受け入れます」

「感謝します。こちらも、推力の件は司令は受け入れてくれました」

 

「ですが、1つ問題があります。回廊形成時に波動砲のエネルギー火線を収束しなければなりません……波動防壁で波動砲を収束することも考えましたが、波動砲発射時には防壁を張ることが出来ません」

 

 

 

 

メルダは深く思案した。あれほどのエネルギーをどう収束するか、今あるものでどう造るか、深く考えて後に思い付いたのが、

 

 

 

 

使徒討伐の方がマシに見えそうな危険な賭けだった。




重要なこと書きました……

Type nullの機体はサレザー恒星系で回収された艦の主機を解析して作られたのものですが、その戦艦がまさかのあの戦艦でした。


外はとんでもなく暑いです。
最高気温40度になりそうです。2199年の地球は最高気温何度になっているのでしょうか……

次元断層から脱出する準備にかなりの時間をかけることになりましたが、それもこれも波動エンジン2個乗せにしたからできる芸当です。


また別の資格試験をやることになったので投稿ペースが落ちるかもしれませんが、これ書いているときに日刊のランキングで偶々29位に入ってアクセス数が1日で600近くいって今年一番ビックリしました。


長くなりましたが、次の話でお会いしましょう
ではでは


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可視の壁と不可視の力

ちょっとだけ書くの大変でした。
箸休め感覚で後に投稿するものを色々書いてたら、結構な量になりましたww

では、次元断層後編です。


 

 

 ____________________________

 

 

『馬鹿な真似はよせ! お前が持たないぞ!!』

 

「ですが、Type nullの防壁ならば……」

 

『確かにType nullのフィールドは陽電子カノンも防げたがそれとこれでは話が別だ! あれ程のエネルギーに耐えられる防壁を造るなんて、お前が正気を保てる保証は無いんだぞ!!』

 

「これしか手がありません!! 対ラミエル用の防壁偏向装備ならば防壁の形は変えられます、強度も上げられます。やるべきです!」

 

 メルダの案はこうだ。Type nullの防壁で波動砲の収束用バレルを即席で造り、重力バレルでの収束と同じことをしようと言うのだ。

 だがこれは、メルダ自身が危険な状態となる。

 波動砲のエネルギーは、小宇宙に匹敵する。そんなエネルギーに耐えられる防壁を造るのは相当な集中が必要だが、余りにも集中しすぎると正気を保てなくなる可能性がある。

 

 

『今までお前の我儘は何とか許容してきたが、コレは許可できない。お前に何かあったら私はガルに顔向け出来ん……もっと自分の命を大事にするんだ……』

 クダンにとって、メルダは親友の娘だ。

 

 クダンは司令として彼女を預かり、同時に親友として彼女を預かった。

 任務の際は、メルダが十分に動けるように配慮して、武装の面でも彼女の要望に最大限応えてきた。

 

(くれぐれもうちのバカ娘を頼むぞ)

(ああ、メルダの事は任せろ)

 

 ガミラス星を発つ前にクダンはガルと約束した。その約束を違えることはできなかった。

 

 

 

「司令、前におっしゃいましたよね? 帰還するまでが任務だと。今我々に置かれたこの状況が、ガミラス星に帰還するための最後の任務なら、私はその任務を、いえ……彼らと共にその任務を果たします!」

 

 

 

「……クダン司令、赤木リツコと言います。その防壁偏向装備の検証を我々にも手伝わせてもらえないでしょうか。時間がありません、ディッツ少尉の案が本当に可能なのか早急に調べるべきです。今は、あらゆる方法を模索するべきです」

 

 

 

「お願いします! 司令!」

 

 

『……アカギリツコさん、技術班のメンバーを連れてこちらに来てください。検証を始めましょう。ディッツ少尉、一時帰還してくれ』

 

 

 クダンはそう言い、通信が終了した。

 

 


 

 

「地球のコスモシーガルがガミラスの航空母艦に着艦って変な感じね」

「地球史に残すべきことなのは間違いないけど、複雑ね」

 

 コスモシーガルに乗り込んだハルナとリク、真田、マリ、赤木博士は、運転手役のアスカと山本の操縦でガミラスの航空母艦に向かって異空を飛ぶ。

 先導役のメルダの機体の後ろをついていく形で航空母艦に着艦した後、ガミラス兵の誘導で巨大な空間に誘導された。

 

 

「これは……!」

「巨人だ……」

「装甲を張り付けた巨人ね……動力は何?」

「かっこいいにゃ、でもどっかで……」

「メルダさん、これが……」

 

「ガミラス軍の試作した、汎用人型決戦兵器EVANGELION Type nullです。うすうす気づいているのかもしれませんが、私はこの機体のパイロットでもあります」

 

「君は、戦闘機乗りではなかったのか?」

 

「いえ、同時に戦闘機乗りでもあります。所属は第707航空団で、極秘裏に第101試作人型戦術機動兵器打撃部隊の第1軍でもあります。階級もこの極秘部隊では特務中尉という位置づけになっていて、航空団所属の方は一種のカモフラージュでもあるんです。このことは『ガミラス国内』では極秘となっていますのでくれぐれもガミラス本星で言いふらさないでください。こっちです」

 

 そう言ってメルダにつれられた先には、物々しいサイズの武装の数々が保管されていた。

 

「これは全てType null用の特殊兵装です。全てこの部隊の任務のために造られた物で、それぞれ特徴が違います。そして、私が言っていた装備があれです」

 

 

 メルダが指さした先には、緑色の奇妙な形をした放熱板のようなものがあった。

 見たところ、何枚かの細い板状のパーツか何枚も横に連なっているようだ。

 

 

「フィン・〇ァンネル?」

 

「フィン?」

 マリが唐突に発した「ロボット好きなら誰もが知っているであろう武装」の名前は、ガミラスでは初耳な存在だ。

 

 聞いたことの無い単語にメルダが首を傾げる。マリには、あの武装が「あの機体のあの遠隔誘導兵器」に見えたのだろう。

「あぁ〜お構いなく、とにかくコレですか」

 

「はい。まだ名もない特殊兵装の一つで、このユニットを使用することで、機体の防壁の形を変えることが出来ます」

 メルダとガミラスの作業員の説明によればこうだ。

 

 Type nullの防壁は特殊な位相空間の展開によるものであり、この位相空間防壁は防壁誘起プレートを用いた物理的な干渉を行うことで、防壁の形と強度をある程度自在に変えることが出来るという事だ。

 ユニットは一対の翼のようになっていて、最大で8機の偏向ユニットを装備可能で、それぞれをパイロットの思考操作で飛翔させて稼働させる。

 

 防壁展開に意識を裂きながら偏向ユニットの制御も同時に行う必要があり、技術的な限界点という事もあって扱いの難しい装備となっている。

 

 

「波動防壁とは根本から異なる防御システムとは……興味が尽きませんね」

「ええ、私はその防壁の発生源と思われるあの機体の事を知りたいわ」

 

 最強パーティに名を連ねる技術者の皆さんの目は、爛々と輝いていた。

 今まで見たことも聞いたことのない超技術。未知の装備に巨大人型兵器。目が輝かないわけがない。

 普通の人なら目が点になる超理論でも、彼らにとっては飛びつきたくなるネタだ。

 人類よ、これがロマンの塊というものだ。

 

 でも今は時間がない。やるべきことに移ろう。

 

 

「とにかく、検証に入るわ。私とマリで特殊装備の耐久性と最適なユニット配置を調査。真田君、暁君、睦月君であの機体について調べてちょうだい。ディッツ少尉……えっと階級はどっちで呼べばいいのかしら? 少尉? 中尉?」

 

 

「普通にメルダと呼んでもらっても大丈夫です。案内します」

 

 

「ちょ、ディッツ中尉、機体解析させて大丈夫なんですか?」

 随伴のガミラス人作業員が少しマズそうな顔をしたが、

 

「司令から許可はとってあります。準備を」

 そこは抜かりなく許可が出ていた。若干の不安さを抱えながらおもむろに耳元の通信機のスイッチを入れて技術班全体に連絡を入れた。

「……班長から技術班各員に通達、これよりテロン艦からの技術班と合同でType nullの緊急調整を行う。準備にかかれ!」

 

 

 

 


 

 

「アナライザー、推力の配置は?」

 

『各艦艇ノ最大推力及ビ、主機関最大出力持続時間ヲ考慮シタ結果……確定シマシタ!』

 

 中空スクリーンに映し出されたのはWunderを上から見た図で、そこにガミラス艦艇が同スケールで重ねて配置されていく。

 

 

『メルトリア級ヲ艦尾ニ2、ゲルバデス改級ヲ中央船体上部ニ1、クリピテラ級ヲ主翼ニ2ズツ計4、ケルカピア級艦尾ニ2、艦尾テールスタビライザーニ1、計3!』

 

「ありがとう、アナライザー。それにしても、自軍の主機の最大出力を開示するなんて……」

 

「彼らも脱出に協力的なんですよ。その誠意がコレなんでしょう」

 島も操縦桿を握ったままそう答えた。だぎ、まさかガミラス艦が自分たちの船にまるでコバンザメのようにくっ付くなんて思いもしなかっただろう。

 

 

「自分たちをブースター代わりにするなんでな、あのクダンっていう司令はずいぶん思い切った考えをするな」

 

「沖田艦長みたいだ。主砲の旋回で敵意のない事を示すなんて誰も思いつかないよ」

 古代は、クダン司令に沖田艦長みたいな部分があるのを感覚的に感じ取っていた。でも、メルダを我が子のように心配していた。

 沖田艦長にも、そういう時期があったのだろうか……

 

 

 

「古代。波動砲、しっかり頼むぞ」

 

「任せろ、操艦は任せたぞ? 島」

 

「任された」

 2人は拳をぶつけ合った。仲の良いことである。

 

 

 


 

 

 

「アカツキさん、ムツキさん、サナダさん。これを付けて下さい。あと、プラグ内に入るときは命綱付けて下さい」

 

 メルダがそういって取り出したのはヘルメットだった。しかも何か機械が取り付けられている。

 

「このヘルメットは? というか命綱って……」

 命綱が必要な作業が行われるなんてとても思えなかった。今からやるのは

 機体内部に入って調整を行うはずなのだが……

 

「このヘルメットは思考汚染防止と、思考が機体に混入するのを防ぐためのシールドヘルメットです。これがないと精神汚染が起こります。私も乗るときはパイロット用のを被ってます。命綱はプラグ深部に転がり落ちないようにするためです。ホントに危険ですから」

 

 3人揃って今年1番ゾッとした。

 精神汚染?? なんだかよく分からないけど確実にヤバいという事だけはよく分かった。

 とにかく死にたくないのでヘルメットを被り、命綱を確実に繋ぐ。

 

 

 エントリープラグは筒状となっていて、内部は壁面に液晶パネルが一面に取り付けられていて、外界の景色を確認することが出来る。中央にはインテリアと呼ばれるコックピットシートが設置されていて、これが前後に稼働するようだ。

 

 

 

「すっご……」

「ロボットだね」

「久しぶりロマンを感じるよ。改装以来だな」

 

 

 皆それぞれロマンを感じながら作業を始めていく。インテリアに付いている情報端末用の接続端子を見つけた。

 

 

 ……が、案の定端子が合わない。ガミラスと地球の規格が同じなわけないのだ。そこで

 

「ハッキングかぁ……無線で何とか……」

「だね」

「メルダさん、ちょっといけないことしますね」

 

「??」

 メルダが首をかしげるなりリクは、手持ちのタブレット端末を素早く操作して機体との情報伝達用ポートをこじ開けた。

「終わった?」

 

「何とかね。とりあえず管理者権限にしといたから。OK~メルダさんつながったよ~」

「え……どうやったんですか?」

 

「ちょっとした、神ワザでね。ガミラスのプログラミング言語が地球に似てて良かったよ、オルタに翻訳してもらう心配はなさそうだ」

 

「オルタ?? テロンの船にガミラスに詳しい人がいるんですか?」

 

「いや、オルタはガミロイド兵だよ。回収したから修復してうちで預かってる。そういえばまだ異星人のゲストがいたわね」

 

「そういえば、ユリーシャとサーシャさんはイスカンダル人だったな」

 

「ユリーシャ様とサーシャ様が?!」

 

「「「様??」」」

 

 本当にこの3人はよくハモる。仲のいいことだ。というより、他の星の人間を「○○様」という風に敬称をつけて呼ぶことに、真田はピンときた。

 

「え~と、メルダ君……ガミラス人はイスカンダルと何らかの関係があるのか??」

 

「関係も何も、私たちガミラスはイスカンダルを崇拝しているんです」

 

「崇拝?! 宗教な感じ?」

 

「私たちの心の支えです」

 

「これ終わったら会っておく? クダン司令と一緒に」

 

「そうさせてもらいます」

 

「多分ユリーシャも喜ぶと思うよ。あ、あとさ、多分年齢近いと思うからさ、「さん」とかつけなくて良いよ? 普通に接してほしいな」

 

「……じゃあ、アカツキ、ムツキ、サナダ副長。よろしく頼む」

 どうやら副長クラスの人物を呼び捨てにするのは抵抗があったようだが、壁のようなものは取り除かれたようだ。

「うん、OK~。とりあえずこの機体の解析始めるから、防壁関連のデータ見せてくれる?」

「ああ。これだ」

 

「……えーっと、これは一体……」

 リクの目は点になりそうだ。波動エンジンの仕組みを初見で理解したりリクも、この未知の技術に対しては手が止まる。

「防壁強度と展開位置の特性を表しているようだが、距離と強度は反比例しているようだ」

 真田がサラッと理解する。彼に「未知」という言葉は通用しないのだろうか。

 

「試験稼働時のテストデータだ。そして、機載コンピュータの方に戦闘記録が残っている」

 

「はいはい……あ、あった。操縦者の集中力に関係しているみたいだ。メルダが集中すればするほど防壁の強度が上がっている感じだな」

 

「防壁は、集中というよりは敵を拒絶すればするほど強くなるという結果が出ている。あの戦いのときは、敵を拒絶したから強度の高い防壁が作れたのだろう」

 

 ざっくり言えば、拒絶したい対象に対してどれだけ意識を裂けるかで防壁の強度が上がっていくという事だ。逆に言えば、拒絶したい対象を明確にしておけば、一部の対象は素通りさせることも可能だという事だ。

 

「ちょっと待った。メルダは防壁展開しながら偏向ユニット操作するんでしょ? 防壁の方に十分に意識回せないじゃん」

 

「! そうか。ならば、あのユニットをこちら側から制御する必要があるな」

 

「だが、今からそんなソフトを作る時間がないと思うが……」

 

「大丈夫、流用できそうなやつがあるから」

 

「? あ、あれかぁ……木星以来使ってなかったなぁ。久しぶりの御登場だ」

 

「あの制御ソフトか、すぐに準備しよう」

 

「何をするかはよくわからないが、とにかく偏向ユニットに手を加えるんだな? 協力できることは何でもする」

 メルダはよくわかってないようだが、「偏向ユニットに何か手を加えるという事」は分かっているようだ。

 

 

「メルダ、艦橋に案内してくれ。Wunderと連絡を取りたい」

 

「分かった。案内しよう」

 

 


 

 

「どこから見ても似てるにゃ。この板」

 

「大昔のロボットアニメの事でしょ? もう私でも覚えてるわ。休憩室であれだけ大音量で見ていたならね?」

 

「にゃはは……」

 

 マリが持っている古い映画のアーカイブは種類を問わない。基本的に何でもある。アニメ実写問わず何でも見れてしまうマリは、ある時期古いロボットアニメにはまっていた。

 

 主人公がラストに隕石を押し出すあのアニメである。その主人公機の装備にやはりそっくりなのである。

 

 

「はあ、そこまで似てる似てるいわれると私まで見たくなってくるわ。それよりも検証するわよ?」

 

「あいあいさ~」

 赤木博士とマリは「フィン○ァンネルもどきの偏向ユニット」の最適な配置位置について検証を行っている。

 最大個数での最適な配置位置と、最適な防壁の形と構造を導き出すのだ。

 

「波動砲くらいのエネルギーに負けないようにするには、受け流しやすいようにしないとまずムリね」

 

「跳弾ですね」

 

「波動砲はマイクロブラックホールのホーキング輻射によるものだけど、実際には大口径荷電粒子砲に近い物なの。この世で最強の水鉄砲であるなら、斜めの壁に撃ったら跳弾するはず。だけど、そこは防壁の強度任せになるわ」

 

「その辺はリっくんハルナっちと真田さんが何とかしてくれるはずだにゃ」

 

「そうね……ところで、あの塗料の話、どう思う?」

 

「あの話ですね、一応艦橋メンバーにはこういうマークがあったという事は話したんですけど、いくら何でも突飛すぎますよ。あの仮説」

 

「根拠があのマークの年代測定結果だけだからね、まだ仮説というよりは、空想に近いわ」

 

「どうやってこっちに来たのか、そこを推測できれば仮説になるんですけどね」

 

「アレに関わったのが地球人であるという結論自体が間違っている可能性も否定できないわ」

 赤木博士が建てた仮説、アンノウンドライブに残されていたマーク『AD1-145』から暫定的に立てた仮説は、あの骨格「アンノウンドライブ」に地球人が関わっていたというものだ。

 

 しかし、博士本人が言うように、この仮説はまだ仮説と呼べる段階ではなく、だいぶガバガバである。

 何しろ証拠があのマーキングと塗料の解析結果しかないのだ。

 残りは推測だけ。

 

「まあ、いずれ分かってくるはずよ。作業しましょ」

「ですね。一応円錐形をベースにしようかと考えてますが、長さと収束角度がイマイチで……」

 

「……防壁を何枚展開できるか分からないからメルダに聞いてみるわ」

「あんな謎原理バリア何枚も張れるんだったら無敵ですよ?」

 赤木博士は自分の仮説をしまってやるべきことに向き合った。

 

(もう一押し、いやもう二押しくらいなんだけど……)

 

 でも、気になることは抜け切らないのであった。

 

 

 


 

 

 

「真田副長、例の物持ってきました」

「ありがとう、すぐにコピーして改修作業に移ろう」

 

 アスカと山本がWunderから持って来たのは、Wunderの装備の一つである「特殊誘導ミサイル」の制御ソフトだった。

 MAGIシステムが誘導する特殊誘導ミサイルはMAGIシステムからの制御によって、何パターンかの行動をとることが出来る。その気になれば敵からの対空機銃掃射を回避して敵艦に命中させることが出来る。

 

 このシステムを改修して、防壁の偏向ユニットの動きをMAGIシステムで制御しようというのだ。

 

 

「これを改修して偏向ユニットをMAGIから遠隔操縦する。これでメルダの集中を防壁展開に一極集中することが出来る」

「なるほど……それなら、偏向ユニットの制御プログラムを持って来よう。参考になるか?」

「頼む、時間が無いからすぐに取り掛かろう。睦月君、暁君、手伝ってくれ」

 

「「もちろんです」」

 

「メルダ君、ここからは我々の仕事だ。ぶっつけ本番になるかもしれないから準備を進めてくれ」

「分かった。準備しよう」

 

 

 _____

 

 

 

「あなた、髪が赤いのね」

「不思議か? そういう君はアカツキとムツキのように髪が白いのだな。でも美しい赤い石を持っている」

 

 搭乗準備が済んだメルダは、山本とアスカの2人と話していた。

 

「赤は、故郷の色。自分の色なの」

「大切な物のようだな」

 

 山本はガミラス人に思うところがあったのか、どこかよそよそしい。そりゃあもちろんいきなり楽しく話せるはずがない。

 

「これは、私の兄さんの形見。貴方達との戦いで、兄さんは死んだ」

「玲の兄さんって……亡くなったんだ」

 

「ヤマモト。私たちは、なぜ争うことになったのだろうか。今、互いに向き合って話せているのだが、テロンとガミラスは戦いをしている最中だ。こうして話し合えるのに、なぜ戦争なんか始めてしまったのだろうか」

 

「それは……」

 

「手の差し伸べ方……じゃない?」

 今まで静かに聞いていたアスカがそう口にした。

 

 

「手の差し伸べ方? どういう事だ?」

 

「人間……いや全ての生物はね、初めて遭遇した事態、初めて見る物、初めて会う『自分とは異なる生き物』には敏感で警戒するものよ。そうね……酷く臆病になると言ってもいいわ。どう対応していいのか困ってしまうのよ。互いに歩み寄ることが出来れば最高なんだけど、時に握手し合うことが出来る手で誰かを殴ってしまうこともある。ちょうど、地球とガミラスの今みたいな感じね」

 

 

「「……」」

 

 

「でも人類には言葉があるし、心もある。言語体型は異なるけどそんなもの些細な壁でしかないわ。お互いを知り、殴ってしまった拳を互いに開いて握手をして良き友となる。握り拳で握手は出来ないでしょ? 少なくとも地球人はそうしてきたし、ガミラス人も歴史を辿ればそういう出来事もあったと思うわ。時間はかかるかもしれないけど、充分出来ると私は思うわ」

 

 

 アスカのこの言葉は、「ガミラスとの戦いに深く関わっていない」からこそ紡ぐことが出来た言葉だった。

 

 敵に肉親を奪われた。愛する人を奪われた。

 何かを奪われれば、奪った対象を憎む。

 時に殺したくもなる。

 

 

 でも、その一連のプロセスを多少乱暴にまとめてしまうと「喧嘩」なのだ。

 

 宇宙を超えた文明間での喧嘩。そう言ってしまうと酷く呆気ない。

 

 でも、「喧嘩」と表現してしまうと、和平の方法……仲直りの方法も簡単に見えてしまう。

 

 

 

「握り拳を開いて握手か……そう表現すると酷く簡単だな。……えっと、君はなんて名だ?」

 

「式波・アスカ・ラングレー。アスカでいいわ」

 

「そうか……ヤマモト、アスカ、君たちと握手をしたい。こうして話し合えたのも何かの縁だ」

 

「喧嘩の仲直り?」

 

「小さな一歩だけどな」

 

「踏み出さなきゃ永久にそこから動けないわよ?」

 

「それもそうだ」

 

 3人は、握手をして輪になった。メルダはガミラス出身、山本は火星出身、アスカは地球出身。生まれの星が異なる3人が手を携えた瞬間だった。

 

 かつて地球と火星は内惑星戦争で争った。今は地球とガミラスが戦争している。

 でも、かつて争った同士でも、今争っている最中同士でも、手を携えることが出来る。

 そう感じたのであった。

 

 

 


 

 

 

「「終わったぁ!!」」

「急ごしらえだが、何とかなったな」

 

 一方ハルナとリクと真田は、特殊誘導ミサイル制御ソフトを改修して、「防壁偏向ユニット」の遠隔操縦システムを作り上げた。

 作業効率上昇のために、本来の「偏向ユニット神経操縦システム」を一旦退避させて、地球言語でプログラミングしなおしたのだ。

(もちろん許可はとってあるし、後で元に戻す。でなきゃ訴えられそう)

 

 特殊誘導ミサイルの遠隔制御システムをそのままに、偏向ユニット本体の試験稼働記録、ユニット内蔵のスラスターのデータなどなどを盛り込んで、急造品とは思えない出来に仕上がった。

 

「あるもので何とかなったわね」

 

「ああ。と言うかアレをベースにするとか冴えてるじゃん。さっすが~ハルナ」

 

「えへへ、ありがとっ」

 リクに褒められてハルナの頬には赤みが差していた。その様子を見ていたメルダは全てを察した。

 

 真田も察した。この2人の光景を何度も見たから、遂に察することが出来たのだ。

 

 

 ガミラス人でも察することが出来るこの光景はすぐに終結し、撤収する時間となった。

 

 

「メルダ、偏向ユニットの制御はこっちでできるようになった。これで全力で防壁の展開が出来る」

 

「最適なユニット配置位置も計算が終わったわ。これなら波動砲を収束しても問題ないと思うわ。あとはメルダの頑張り次第、残りを押し付けてしまって申し訳ないわ」

 

 赤木博士とマリの方も仕事が済んだようで、ユニットの最適な配置位置を導き出せたようだ。

 

「ハルナ、リク、サナダ副長、アカギ博士、マリ、感謝する。ガミラスとテロンの誇りをかけ、必ず任務を成功させよう。ヤマモト、アスカ。星が離れていても人類は分かり合えるようだ」

 

「私たちの誇りをかけてか。メルダくん、頼むよ?」

「もちろんだ」

 

「では、これにて撤収だにゃ。総員、名誉あるパイロットメルダ中尉に敬礼!」

 

 マリがふざけ半分で敬礼をすると、それを見ていた他の全員が習って敬礼をした。

 

 メルダもそれに返す形でガミラス式の敬礼をした後に、彼らの真似をして地球式の敬礼もした。

 

 

 

 この「ありえない光景」は今後、ガミラス領土内でひっそりと語り継がれることとなった。

 

 

 


 

 

 

「これより作戦を開始する。ガミラス艦隊に連絡、所定位置にて艦体を重力アンカーで固定」

 

「了解! ガミラス艦隊に通達。各艦艇、所定の位置に移動。重力アンカーを用いて艦体を固定せよ。繰り返す……」

 

「Type nullはどうか?」

 

「既に発進を完了して、現在左舷第2船体艦首部分に鎮座、慣性制御で甲板上に固定完了」

 

「偏向ユニット制御は?」

 

『立ち上げ完了、接続良好です。基本動作問題なし』

 全ての準備が整った。推力、機体、偏向ユニット、2つの星が協力した結果、ここまで早く準備が完了したことは幸いな事だった。

 その証拠として、波動砲を撃っても想定より推力に少し余裕があるのだ。これでもまだ力不足だが、ガミラス艦隊と協力すれば十分カバー可能な程であった。

 

 

「ディッツ中尉、準備は?」

 

『準備完了。何時でもどうぞ』

 

「……波動砲、発射準備!」

 

「了解、左舷、波動砲発射準備」

 古代のコンソールから波動砲用コントローラーがせり上がってきてその引き金に手をかける。

 

「非常弁、全閉鎖、強制注入機作動」

 

「認証開始」

 

《艦長、副長、戦術長の指紋認証を確認。最終セーフティ解除します》

 

「最終セーフティ解除を確認。照準、正面次元断層境界面」

 

 

 

 

 ___MAGIシステム格納エリア

 

 

「偏向ユニット作動を確認。稼働良好」

「よし、指定位置に移動しよう」

 

 ハルナとリク、真田、マリに赤木博士は、偏向ユニットの制御のためにMAGIシステム格納エリアにいた。

 

 MAGIを通すことで、人が操縦できるようにした急ごしらえのシステムは、継ぎはぎであることは否めないが安定して稼働している。

 

「指定位置に移動開始。ユニット1及び5をポイント1αに移動。完了後、ユニット4はポイント1前方のポイント1βに移動」

 

「続けてユニット2及び6をポイント2αに移動。完了後、ユニット6はポイント2α前方のポイント2βに移動。以降、ユニット3及び7,ユニット4及び8も同様に移動開始」

 

 ハルナの操作によって艦外で準備運動で動き回っていた偏向ユニットたちを整列させる。

 

 

 赤木博士とマリが導き出したのが、防壁を二段構えにすること。そして、防壁の形を四角すいにして頂点を開けておくことだった。

 そしてその規模だ。波動砲のエネルギーに耐えきって収束させるためには、相当な長さが必要になる。そして収束角度は20度以下。よって、四角すい型の防壁の長さは400メートル、これが二つ直列となっているため収束用防壁の総合全長は800メートルほどにもなる。

 

「ユニット配置完了、各機展開。メルダ、防壁展開してみて!」

 

 

 

 

 

 ___Type null機内、エントリープラグ

 

 

「了解! 防壁展開」

 

 メルダは防壁展開に意識をすべて集中させて、特大サイズの防壁を張った。

 防壁を展開するときは、「何を拒絶するのか」を明確にしておく必要がある。

 

 そのため、今回は「Wunderと自軍の艦隊、偏向ユニット以外をすべて拒絶する」防壁を展開した。

 ちょうどWunderの正面全体を完全にカバーできる規模の防壁を展開して、そのまま正面に移動させて、偏向ユニットに接触させた。

 

 偏向ユニットには防壁誘起プレートが備え付けられていて、防壁と誘起プレートが物理的に接触することで、防壁はその形と強度を変えることが出来る。

 

 

「防壁と誘起プレートの接触を確認。防壁の形状変化を確認。防壁強度、高位へ推移」

 

『形状も想定通りの物になってるわ、メルダこのまま防壁を維持して波動砲発射直前まで待機していて』

 

「了解!」

 

 波動砲の収束……無理と思われたこのミッションは、テロンの技術者「ハルナとリク、サナダ副長、アカギ博士とマリ」の協力によって「理論上は可能」の域になった。叔父様も苦い顔をしていたけど、許可してくれた。他に未知がないという事を理解していながら「危険なことをさせたくない」という叔父様の気持ちは分かる。

 

 でも、私は2つの星の名誉と誇りをかけて任務を全うする。

 

 

 _____Wunder戦闘艦橋

 

 

「薬室内、タキオン粒子圧力上昇。エネルギー充填120%!」

 

「全周スクリーンを対ショック対閃光モードに切り替え。総員対閃光ゴーグルを着用」

 閃光で失明しないように対閃光ゴーグルを皆が着用して、発射カウントダウンを刻む。

 

 

「ディッツ中尉、防壁を最大出力で展開だ」

 

『了解! 防壁全開!!』

 通信からは、メルダの叫ぶような声が聞こえた。意識のすべてを防壁に裂いているため、余裕が少ないのだ。

 対閃光ゴーグル越しに防壁の色が薄い虹色から赤みを帯びたオレンジ色に変色して、発光も増した。

 

「波動砲発射まで、5、4、3、2、1」

 

「撃てェ!」

 沖田艦長の声で古代が引き金を思いきり引き絞り、Wunderの左舷波動砲口から光の束が放たれた。

 

 

 その光の束は一直線に収束用防壁に飛び込み、防壁が軋みをあげる。一部のユニットでは火花を散らし、激震に襲われている。

 ハルナとリクたちは、偏向ユニットそのものには手を加えてない。仕組みが分からなかったというのもあるが、そこまで改修を加えれるような時間がなかったというのが現状だ。

 それでも、最適な配置にしておいたおかげで、「波動砲を収束する過程で即爆散」は何とか防げている。

 

 2つ目の収束ユニットも無事に潜り抜け、最適なサイズにまで収束された波動砲のエネルギーは目標の次元断層境界面に飛び込み、そこに大穴を開けた。

 

 

「回廊形成を確認、作戦第二段階に移行。脱出行動に移る」

 

「ガミラス艦隊に通達! 各艦主機最大出力! 通常空間へ向け脱出する!!」

 相原の通信を受けて、Wunderにコバンザメのように張り付いているガミラス艦隊が主機の出力を全開にした。

 戦闘出力を超える緊急出力を放ったゲシュタム機関は、暴力的な光を推進ノズルから溢れ出させ、2500メートルの巨体を動かしていく。

 

 Wunderも、温存していた右舷波動エンジンをギリギリまで回して推力を生み出しているが、やは回廊が閉じるまでに脱出できるかは五分五分だった。

 

 

 

 

 ___ゲルバデス改級フリングホルニ

 

「クダン司令! やはり、回廊が閉じるまでに脱出するのは不可能です……」

 

「……全艦に通達。速力をゲシュタム航法突入直前まで出せ。出し惜しみはなしだ」

 

「しかし、それでは我々が航行不能になります!!」

 

「出し惜しみは無しと言ったはずだ! 今は脱出することだけを考えろ!」

 

「……全艦に通達!! 各艦、ゲシュタム航法突入直前まで推力を上げろ! 機関の損傷は考えるな!!」

 

「ゲシュタム航法出力、開放します!」

 

 

 

 ___Wunder戦闘艦橋

 

 

「ガミラス艦隊の推力が上がっています!!」

 全周スクリーンに映るガミラス艦隊の推進ノズルからは、いつものピンク色の推進光ではなく、青白い推進光を噴き出していた。

 

「脱出を急ぐんだ。推力全開」

 

「了解、両舷全速!」

 

 Wunderの右舷波動エンジンが唸り、両舷メインスラスターに力を送り込んでいく。

 それに比例してエネルギー流出量が大きくなっていくが、今はそんなこと気にしていられない。

 

 

「開口部が狭くなってきています!」

 

 太田が周囲の空間の観測結果を報告し、さらに緊張が高まった。

 

「通常空間まで、あと10!」

 通常空間に出ることが出来れば、Wunderの波動エンジンは存分にエネルギーを生み出すことが出来る。

 次元断層は、波動エンジンにとっては「呼吸の出来ない水中に近い」。

 人間は、水中では酸素を取り込むことが出来ず息を吐くしか出来ないように、波動エンジンはエネルギーを取り込むどころか吐き出してしまう。

 

 しかし水中から地上に上がれば、人間は自力呼吸で酸素を取り込むことが出来るように、波動エンジンは余剰次元からエネルギーを取り出すことが出来る。

 

 

 脱出にかかる時間は長くてもほんの数分なのだが、永遠に近い時間が艦橋に流れていく。

 

 舵を握る島の手には汗が流れ、艦橋メンバーの顔には緊迫が張り付いている。

 

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

「通常空間への脱出を確認!」

 

「波動エンジン正常、右舷エンジンのエネルギーを左舷エンジン再起動用に回します」

 

「ディッツ中尉は無事か?」

 

「応答ありません……こちらWunder、ディッツ中尉、応答願う。繰り返す……」

 

 


 

 

 真っ暗だ……作戦は成功したのか? 

 

 

 プラグ内の電源が落ちている……これでは外部の状況が確認できない

 

 

 そもそもプラグ排出されたのか? 

 

 

《グッ! ああ! 熱っ!! あああ!!》

 

 

 プラグの外壁の一部が開き、飛び込んできた光によって目が眩んだ。

 

 

「……司令」

「メルダ、大丈夫か?!」

 

「……はい、私は、大丈夫です」

 心配で死んでしまいそうな司令に向けて、私は微笑みました。

 

「そうか……よかった……」

 

 

 

 高熱となっていたエントリープラグ、排出されたLCLはプラグ外壁の高熱に熱されて湯気が上がっていた。

 

 その熱で、司令が私を救出するときに落としたメガネは歪んで使い物にならなくなってましたが、そんなことに気も留めない様子でした。

 

 

 

 




テストだァ、バイトだァ、まもなく夏休みだァ

進学してから初めての夏です。
書く内容も油田のごとく湧き出るので退屈にはなりません。

でもテストが立ちはだかるので倒してしまいましょう。


しばらく書けなくなるのでどうしようかと思ったら、「一応これで章終わり」ってことに気づいたので次はサイドストーリーです。

一応章末という事なので、エンディングテーマでも付けておこうかと思いました。
今回は、「Hello Goodbye hello」という曲です。
星を追う子供って言う映画の曲です。出会いと別れの要素も盛り込まれているので、今後もこの曲使いたいです。


ふと思えば、この小説書き始めてから軽く5ヶ月経ってました。体感時間のスピードって、状況によって早くなったり遅くなったりします。
詰まんないことやってる時だと、すっごく遅く感じますが、楽しいことやっていると、結構早く過ぎていきます。

という事は、この小説書き始めてから楽しい事続きっぱなしという事なのでしょうか
それだったらいいなと思ってます

ではでは失礼致します
ε=(*`>ω<)ノジャァネ


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記録 CFYN-903VW

サイドストーリーです

今回は、とある試験機の話です。
技術開発には失敗はつきものですが……時に取り返しのつかないことも起こります


「地球圏絶対防衛線計画、我々にはあとがありませんね」

 

「奴らの技術力が高すぎたんだ、ビームを弾く装甲に陽電子ビーム、オマケにどの艦も高機動。そいつらのスピードについていける奴なんて、イソカゼタイプかこいつくらいだ」

 

「そのためのコスモファルコンですから」

 

「ガミラスの戦闘機はデータが少ない、今確認できているのは、こっちで言うとこの1枚翼の機体。サイズから見て多分ステルス偵察機。それとこのコスモファルコンの親戚みたいな見た目のやつだ」

 

「形状がここまで似ることってあるのでしょうか」

 

「向こうが同じ数学と物理学を理解して、同じ航空力学を理解していたら、形状は似るだろうな」

 

「それはそうと、コスモファルコンの試験機開発、許可がおりたようだな」

 

「キョクトウが言うには、なんでもやっていいらしい」

 

「その事で1つ、試したいことがある」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

「ふむ、型式番号CFYN-903VW。次世代操縦システムを内蔵した高機動局地戦闘機か。」

 

「はい。ベースはキョクトウと完成させたコスモファルコンとして、エンジン周りと武装面の配置変更及び強化。それに加えて『例の素材』を組み込み神経操縦システムを制作します」

 

「『例の素材』か……。あのオリハルコン、本当に大丈夫なんだろうな」

 

「強度面としては、従来の戦闘機のフレーム構造材と比較して15%程の強度の上昇が見込めます」

 

「私が言ってるのはそうじゃない。『あっち』がやっていたことは私も知らない。故に、詳細不明な素材を使うあたり抵抗を感じる」

 

「お言葉ですが局長。実験機にはそれは付き物です。ここで尻込みしていたら、実験機ではなくなってしまいます」

 

「そこまで言うなら……ひとまず提出しなさい」

 

「ありがとうございます」

 

 

(彼らは……月面で何をやっていたんだ?)

 

 

 

 

 

6ヶ月後、

 

「白と赤の2色がここまで綺麗に見えた事はないな」

 

「ユーロにも赤と白を使う国旗の国はあるが、これはどっちかと言うとキョクトウの色だな」

 

「確か極東は、日本って言われたりもしてましたね」

 

「かつて人類がまだ世界大戦をしてた時、日本はこんな感じの色をした戦闘機を開発したらしいぞ」

 

「一式戦闘機、隼ですね。旧日本軍の」

「そうだ」

 

 

「CFYN-903VW、コスモファルコンEURO2。EURO1方は無事に飛行試験が終わった。次世代型として採用される可能性があったが、それまで人類が生きてられるかどうか」

 

「EURO2の試験は地球衛星軌道で、ラ・グロワールから発艦させる形で行います」

 

「やれやれ、船が足りないから退役艦を使うのか」

 

「船は激減しましたからね。定年退職したとしても復帰を望むくらいですよ」

 

「こいつが青空を飛ぶことはあるのかねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三週間後、CFYN-903VWの試験飛行が地球衛星軌道上で行われた。これはその時に残された音声データである。

『ガアァァァァッ!!!! アアァァ! アアッ!! 触れるな! 触れるなぁ!!!』

 

「システムを切れ! 遠隔で操縦できないのか?!」

 

「ダメです! 機体側からロックされています!」

 

「機体出力上昇中! あと20%でオーバーロードを起こします!!」

 

「クソッ!! 903の機体制御システムに何としても侵入しろ! 強制停止させるんだ!! ってなんだ?! 機体が光が漏れている……?」

 

「主任!! 装甲の展開を視認! NT-Dの発動を確認! 機体の安全装置がすべて破壊されました!」

 

「1秒でも介入出来ればそれでいい!! 急がないと操縦者が死ぬぞ!!」

 

「はっはい!!」

 

「そんな……ありえない……」

 

「何がどうした?!」

 

「機体の機動と速度を確認しましたが、全く落ちていないんです。それも方向転換はほぼ鋭角に行っています。こんな機動をしても機体は無事なんて、でもあんな機動をしたらパイロットは、もう……」

 

「勝手にあきらめるな!!! あれを止めることに集中しろ!」

 

「主任! 緊急用バックドア開放完了! 停止させます!」

 

「やれ!」

 

「ダメです! 停止コードが無効化されています! 903急速接近!」

 

「急速反転!」

 

「間に合いません!!」

 

「被害を少しでも小さくするんだ!急げ!」

 

「主任! 903の武装システムがセーフモードからアクティブになっています!」

 

「まさか…! 総員安全区画へ退避するんだ!」

 

「総員退避! 繰り返す、総員退避! ……主任もお早く!!」

 

『……ワタシヲツクッタノハアナタデスカ?』

 

「903応答しろ! 903!」

 

『ワタシハナンノタメニツクラレタノ?』

 

「903発砲!!」

 

「回避間に合いません!!」

 

 

 

 

 

 

その後、903は金剛型ラ・グロワールを完全に破壊し、飛び去った。その一週間後、第1衛星軌道で漂流中の903を確認。回収作業の後、機体のオーバーホールとテストパイロットの回収が行なわれた。

 

「全身に強烈なGがかかっていたため、遺体の内臓はグチャグチャでした。それと、パイロットの当時の精神状態についてなんですが、ラ・グロワールから回収した脳波モニターが見たことのない波形を記録していて……この波形を地球に送信したところ……パイロットの精神が、修復不可能なレベルになっていたようです」

 

「……原因はNT-Dか」

 

「まだ完全にそれだと言い切れませんが、ミッションレコーダーによると、パイロットが思考操縦に対して強烈な拒絶を示した記録がありました」

 

 

 

「……地球に帰還次第、この機体は情報とともに封印する。我々は、制御の利かない獣を作ってしまったのかもしれない」

 

 

 

 

 

 

記録 

CFYN-903VW(通称EURO2)による試験飛行の際、思考操縦システム『NT-D』が暴走。903の射撃により、金剛級ラ・グロワールが轟沈。

テストパイロットは死亡。

以後、この機体に関わる全ての情報を公的に抹消し、コックピットを取り外した上で機体の封印が行われた。

 

 

 

「SOEが制作したこの素材。人の意思を拾って増幅するオリハルコンが、パイロットの意思を操縦系に直結させたのか。そのため、パイロットが錯乱状態に陥った時、その精神状態がそのまま反映されてあの機動になったのか」

 

 

 

(プロジェクトSOE……まさかとは思うが、この仕様をあえて伝えなかったのか? だとすると、SOEがやっていることは、この仕様を応用した何らかの兵器の作成? だとすると、非人道的なものである可能性がある)

 

 

 

掴めるのか……? 彼らのやっていたことを

 

 

2197年××月××日記録

 




サイドストーリー三つめです
今回の話は、アスカの駆るコスモファルコンEURO2の話です。

この話を書くにあたって、ユニコーンガンダム3号機フェネクスの暴走事故を参考にしました。

ちなみに、EURO2の型式番号は、劇場版ガンダムダブルオーに登場した可変試験機ブレイヴの指揮官機から来ています。主はこの機体が好きなので、今回使ってみました。


ガンダム世界にも乗り手を選ぶ機体は存在していますが、乗り手を殺す機体はそうそういません。(いるにはいます)
そんなヤバい機体に乗っているアスカはNT-Dを使いこなすことができるのでしょうか

ではでは次章を乞うご期待ください


次章タイトルは未定ですが、近いうちに2人の過去を描こうかと思います
書きたい事いっぱいです。テスト勉強もいっぱいです。

ではでは次章でまた会いましょう


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宙色
信仰と親交と侵攻


新章開始です
うp主がどうしても書きたいと思った話が出せるまで、あともう少しです。
張り切っていきましょう
テストもあります……\(^o^)/オワタ


では、信仰と親交と侵攻始まり始まり~


 

 

 

「主機関のチェックは完了した。しばらくは経過観察だが今のところ問題なしだ」

「もってくれましたね。でも、ガミラス艦隊の方は……」

 

「この船を動かしたんだ。主機は修理しなければならないそうだ」

「しばらくこの船は、コバンザメが群れてくっつく鯨状態ですね」

 

 

 次元断層脱出後、Wunderとガミラス艦隊は自身の主機関の緊急チェックを行った。

 波動エンジンを2機搭載しているWunderは航行面では問題なかったが、ガミラス艦隊の方は主機に過負荷をかけたことにより、航行不能となっていた。

 

 修理にしばらく時間が必要という事なので、「艦隊をくっつけたまま」Wunderは航行中だ。

 

 

「問題なしとは言ったが、右舷波動エンジンに若干の消耗が見られた。許容範囲内ではあるが、注意してもらうように、徳川機関長の方には伝えておいたよ」

 

「ありがとうございます。やること山積みだね」

「そうだね、フリングホルニの方で偏向ユニットのプログラムを元に戻したり、ガミラス艦の主機直しのアドバイスしたりしないとなぁ……赤木博士たちにも声かけようか」

 

「猫の手も借りたいよ……あ、赤木博士に限ってはチートの手も借りたいの方があってるかな」

「マリさんの場合はそのままがピッタリだね、猫の手も借りたい」

 

「ブフォッ、ちょ……それおもろい……」

 謎にツボるリクはそのまま笑い続けて、この日は思い出し笑いが続いたのであった。

 

 

 

 

 

「……叔父様」

「メルダ、気が付いたか」

 エントリープラグがら救出されたメルダは消耗が激しく、フリングホルニの医療設備では十分に治療することが出来なかったので、Wunderの医療設備で治療を受けていた。

 

「機体の方は……」

 

「偏向ユニットは3機お釈迦になったが、損傷なしだ。機体の事はどうでもいい。とにかく無事でよかったよ」

 

「……これで、帰れるのですね、母なる星に」

「ああ、故郷に帰ろうか」

 

 あんまり長居するのもよくないので、クダンは早めに話を切り上げて医務室から出た。

 通路の壁に何となくもたれかかり、胸をなでおろす。

 

「ガル……お前の娘は強いなぁ」

 

 医務室を後にしたクダンはその足で沖田艦長のもとに向かった。

 

 

 

 

 _______

 

 

「こうして顔を合わせてお会いするのは初めてですな。私は、国連宇宙海軍、宇宙戦艦Wunder艦長、沖田十三です」

 

「私はガミラス第101試作人型戦術機動兵器打撃部隊第1軍司令、兼ゲルバデス改級航宙特務輸送艦 フリングホルニの艦長、アウル・クダンです。まずは、共闘できたことに感謝します。オキタ艦長」

「それは、こちらも同じ思いです。クダン司令」

 そう言い、互いに握手をする。

 

「しかし、我々と同じ見た目の民族が他の星間国家にもいるとは、正直驚きました」

「ディッツ中尉からは、ザルツ人という民族がそうだと伺ってます」

 

「かつて統合された星間国家の一つです。今では2等ガミラス人と言われてますが、正直言って二等とか一等とかそういう区別は私は好きではありません。ガミラス人はガミラス人です」

 

「ガミラスでは、そういう思想を持つ方が多いのですか?」

 

「いえ、その逆です。民族差別の元となっていて、自分たちは他も民族よりも優れているという思想が広まっています。軍部の中ではそれが一層強く、分け隔てなく接する人は少ない方ですね」

 ため息をつき、紅茶を一口飲む。芳醇な香りで濁った気持ちが少し和らいでいく。

 

「地球にも、そのような思想が広まっていた時期がありました。少々辛辣な言葉になってしまいますが、そこまでして優越感に浸りたい意味が分かりませんな」

 

「全くです。現在の軍事独裁政権ではどうしようもありませんが」

 

「話は変わりますが、そちらの艦隊の航行の方は」

「この巨大な船を動かしたことで、主機は修理が必要になりましてね。しばらくはこの船に重力アンカーで括り付けるしかないようです」

 クダンが眼鏡越しに申し訳なさそうな顔をした。

「では、ガミラスの基地が存在する恒星系までそちらの艦隊を送り届けましょう」

 

「ありがとうございます、オキタ艦長」

「恩返しというものです。それと、ユリーシャさんが貴方にお会いしたいそうですが?」

 

「ユリーシャ様が? ……すぐに伺います」

「ああ少々お待ちください」

 そう言って沖田艦長は席から離れ、自動ドアの前でとある人物に声をかけた。

 

「お待たせしました。どうぞ」

 

 部屋に入ってきたのはユリーシャだ。

 クダンは文字通り目を丸くしていたが、流石司令官。すぐに元に戻って、

 

グード・イスカンダル(高貴なるイスカンダル)

 イスカンダルの作法に従って、その場で跪いて右手を左胸にあてた。

 

「初めまして、ユリーシャ・イスカンダルです」

「お初にお目にかかります。私は、アウル・クダンと申します。ユリーシャ殿下」

 

 ガミラス人はイスカンダルに忠誠を誓っている事はメルダから聞いたのだが、ここまで礼儀を示すのを見た沖田艦長は、ガミラスの文化に強い興味を示した。

 

 もともと沖田艦長は軍人ではあるが、学者でもある。宇宙空間での気象現象や、ガミロイドの仕組みに理解を示していたのは、この部分が大きい。

 学者というのは、自身の示す興味に忠実。

 

 ガミラスの文化を知りたいと思った沖田艦長は、後で色々聞いてみることにした。

 

 

「まず、オキタ艦長を始めとしたこの船の乗員に協力して頂いたこと、イスカンダルを代表して感謝します。ありがとうございます」

 

「お顔をお上げください! 私たちは、互いに信頼して協力したまでです。どちらの力が欠けても脱出はありえませんでした」

 

「私は、今この情景を目に焼き付けたいと考えています。奇しくも互いに戦争をしてしまった2つの文明の司令官が、一対一で顔を合わせて話をしている。私がこの船に乗り込んだ時には考えもしなかったことです」

「それは、私も同じ思いです。ここには、異なる星の出身の人間が今同じ部屋にいます。オキタ艦長はテロン出身、私はガミラス、そしてユリーシャ様はイスカンダル星。我がガミラスはテロンと戦争状態にあり、軍内部でのテロンに対する印象も悪いのですが、それは過度な妄想なのではと、あなたと話すことで考えを改めました」

 

「あなたのような人は、もしかしたらガミラスでも珍しいのでしょう。ですが、固定概念に囚われず、自分の考えを曲げない事は良いことです。ガミラス人はガミラス人で、1等も2等も関係ない……恐らくこの考えは異端児の扱いを受けるかもしれません。ですがその考えを持ち続けることが、貴方達のガミラスを良い方向に動かす事になるでしょう」

 

 

「異端児ですか……私からしてみれば慣れたものです。私はこの考えを曲げることはありません。テロン人とこのように協力できたことが、その証拠です」

「私も同じです。敵同士でも互いに銃を下ろしてこうして話し合える。それも停戦交渉などという物ではなく、一種の会談で話すことが出来るのは、互いに分かり合えることの証拠です」

 

 

 奇しくも、沖田艦長とクダン司令が今思っていること、「異星人とも分かり合えるかもしれない」というのは、メルダと山本が感じたことと同じだった。

 

 何が異星人だ、何が敵だ。

 こうして話をしてみれば、完全な悪だという印象は脆く崩れ去る。新しい印象が定着することもあれば、敵に興味が湧くこともあるだろう。

 互いに互いを敵と言いあうこの戦争は、この瞬間から歯車が狂い始めた。

 

 互いに互いを知りたいという事が、分岐点になったのだろう。

 

 

 

「そろそろ重要な話に移りましょう。今後の航路についてですが、進路上にいくつかの恒星系が点在してますが、どこにガミラスの基地があるか教えていただけませんか?」

 

「それならば……」

 クダンはおもむろに自身の端末を取り出して銀河間空間の星系の座標を表示した。

 

「ここですね。この星系です……」

 

 

 

 こうして話し合う光景を、ユリーシャは微笑みながら眺めていた。

 

 

 


 

 

 

「ガミラス艦隊の移送ですか?」

 

「そうだ。次元断層脱出時にガミラス艦隊は主機関にダメージを負った。応急処置が完了するまで本艦がガミラス艦全艦を船体に固定して航行する。ガミラス艦隊の修理が完了次第、航路上の恒星系、ガミラス基地が存在する惑星近傍で彼らと別れる」

 

 

「まさか、ガミラス艦を船体に引っ付けたまま航行するとは……」

「暁君いわく、エンジン負荷と航行速度的には問題ないとのことだ」

「……」

 

 島の父親、島大吾を殺したのはガミラス。軍部の発表ではそうなっている。

 その敵を体に引っ付けたまま、いつ敵に襲われるか分からない宇宙空間を進みたいと思うだろうか? 

 彼らが反乱を起こさない保証はあるのか? 

 

「本当に、大丈夫なんでしょうね……?」

 

「儂はクダン司令と話したが、こちらを信頼していることが分かった。島が懸念していることは儂が保証しよう。それでも不満があるなら、儂の部屋に来るんだ」

 

 

 

 

 _______

 

 

 

 

「島航海長、入ります」

 

「入れ」

 

 重厚な扉が開き、島が艦長室に入ってきた。が、そこに山崎がいることに驚いた。

 

「山崎さん……どうしてここに」

「航海長、私は、貴方のお父様、島大吾艦長の乗艦であったムラサメの生き残りです」

 

「父さんの船の……?!」

 ガミラスとの初遭遇時、国連宇宙海軍はガミラス艦隊を脅威とみなし、先制攻撃をしてしまった。

 何度も言うが、それが公式発表だ。

 だが、軍という組織は、時に自分たちにとって不都合なことはもみ消すか、もしくは情報統制を行う。

 

「島。山崎をここに呼んだのは、初遭遇時の島艦長の行動を覚えているからだ。山崎も儂も、軍から口封じされてきたのだが、間違っていると思ったことは正さねばならんからな。君にも知ってもらわねばならん」

 

 

 ___2191年、ガミラス艦隊との初遭遇時、先遣隊として出向いたのはキリシマを始めとした艦隊十数隻。その中に、村雨型のネームシップ、一番艦のムラサメがいた。

 

 

 艦長であった島大吾一等宙佐は、息子である島が知るように温和な性格だった。そして命令に忠実に真面目な人物。

 そして異星人とも分かり合えるとよく島に言い聞かせていた。

 

「ガミラスとの初遭遇時、ガミラスからの先制攻撃でムラサメは撃沈したとなっているが、真実は逆だ」

「そんな……ガミラスが攻撃したから父さんは戦死したんじゃないんですか?」

 

「実際のところは、最初の攻撃は我々からだった。初遭遇時、儂は警戒用の艦隊を編成して外惑星軌道に展開していた。儂は司令部からの先制攻撃に異を唱えた」

 

 

「だが軍からの先制攻撃命令に異を唱えた儂は更迭され、艦隊指揮が上層部に移った」

 

「……芹沢軍務局長ですか」

「他人に責任を押し付けるのは儂はしたくないが、確かに芹沢軍務局長の命令で攻撃が行われた」

 

「それが本当の事なんですね。極東はこんな重要なことを隠していた……もう何を信じればいいか分かりませんよ」

 

 

 肉親を殺された身として、ガミラスは憎む存在だった。それなのに、ガミラスと協力し、今は船体に張り付けて航行している。

 

 協力するのはまだいいだろう。あれは致し方無い。だが敵と一緒に行動するのは、周囲の状況が変わりすぎて固定概念が効かなくなり混乱している。

 島はまさにこの状態だ。

 

 

「艦長、山崎さん、どうしてこの事を自分に伝えたんですか? 親ガミラス派にでもなりたいのですか?」

 

「航海長、私は貴方のお父上……島艦長から遺言を預かっています。もし道に迷っていたら伝えてくれと頼まれていたものです」

 

「……」

 

「異星人ともきっと分かり合える」

 

「またそれですか……自分は、そう簡単に割り切れませんよ」

 

「では島、今までガミラス艦に遭遇して、なぜこちらから先制攻撃しなかったか分かるか?」

「この船の武装は、あくまで身を守るためのものであるからですか?」

 

「それもある。だが一番の理由は、カ2号作戦時の撤退行動から彼らに人間的な部分を受け取ることが出来たからだ。そこから対話の可能性を見出したが、対話による解決は青臭いだの夢物語だの罵声を浴びることとなりかねないが、このままではどちらかが完全に滅亡するまで終わらない全面戦争に突入する。それを避けるためには、こちらから手を出さずあくまで迎撃行動を主として、こちらはただ単に降りかかる火の粉を払おうとしていることを示さなければならない」

 

 

「艦長は、その時からガミラスが人間的な種族だという事を見抜いていたのですか?」

 

「いや、儂もここまで人間的だという事は予想外だった。だが、話してみて分かった。彼らは地球人と何ら変わりはない。この戦いは、かつての世界大戦の延長線上にあるといってもいい。互いの正義、互いの思惑が入り乱れる戦場だ。誰かが敵に対して一定の理解を示す、もしくはどちらかが停戦交渉や降伏勧告を出さなければ、最後に残る物は何もない」

 

「……」

 

「彼らが人間的ならば、話し合うことも可能かもしれない……そう考え、儂はガミラスとの一時的な協力関係を結結ぼうと考えた。儂はその気がなければ、次元断層内で砲撃準備を命じていた。あの時、全ての砲塔を逆方向に向けたことは、彼らに人間的なのかどうかを確認する最後の確認でもあった。もしガミラス人が地球人と同じメンタリティを持つならば、我々が伝えようとしている意図が分かるかもしれないと考えた。結果、彼らは我々の意図を読み取り砲塔を回転させて映像通信を入れてきた。その時点で儂は確信した。彼らは対話可能な種族であり、人間であると」

 

「すべて、ガミラスを試していたんですか……」

「確認も無しに受け入れようとするのは自殺行為に等しい。だがむやみに攻撃するわけにもいかなかったからかなりの回り道をすることとなったが、結果ガミラス人は我々と何ら変わらないメンタリティを持ち、先制攻撃さえしなければ今のような現状にはならなかったのではないかという結論に至った」

 

「納得してくれなくても構わない。ただ、こういう考えを持った一人の老人がいるという事だけでもいいから、覚えておいて欲しい。山崎応急長、急に呼び出したりしてすまなかったね」

 

「いえ。私は、真実を伝えることが出来て満足です」

 

「少し、考える時間をください。失礼します」

 

 そう言って、島は艦長室から去っていった。

 

 

「伝わったでしょうか……」

「あとは、彼次第だ」

 

 


 

 

「先制攻撃しなければ父さんは死ななかった……彼らは迎撃行動として攻撃してきた」

 島は、ひたすら思考の海に漂っていた。

 先制攻撃をしてしまったのはガミラスではなく地球。自分たちの姿にうり二つのガミラス人、違うのは肌の色くらい。

 

 同じ見た目、同じメンタリティ。

 

「でも協力関係を結ぶことが出来たのは事実……」

 それでも話し合うことが出来る。互いに武器をしまって言葉という道具を使うことができる。

 

 

「でも、簡単に信じる事なんて……」

 

 親を殺された。それは簡単には乗り越えられない。

 そうやって悶々と考えて歩き回っていると、たどり着いたのが……

 

「暁・睦月研究室」だった

 

 


 

 

「珍しいお客さんだね。島君」

 白い髪の設計者、ハルナは紅茶を入れながらそう切り出した。

 

「急に来てすみません、迷惑だったでしょうか……」

 

「ぜーんぜん。一人で暇だったのよ。リクは真田さんのとこで解析にかかりきりだし、マリさんと赤木博士は真剣な顔で何か考えてるし」

 そう言いながらハルナは、乗艦時に持参した紅茶パックで紅茶を入れる。

 

 

「ここに来る人って余りいないのよ、前に来てくれたのは森さんと徳川機関長だったかな。ところで島君、なにか思い悩んでいるみたいだけど……何かあったの?」

 

「ちょっと……考え事をしていて」

 

「……もし良かったら聞かせてくれるかしら?」

 ハルナは島が何で悩んでるのか分からなかったが、恐らくガミラス人絡みだろうという事は容易に想像できた。ガミラス人と話した自分なら、何か分かるかもしれないと思った。

 

「はい、実は……」

 

 

 ━━━━━━

 

 

「なるほどね、ガミラス人に対しての固定観念が効かなくなって混乱してると」

 

「はい……父親を殺されてから悪として見てきたんですが、艦長がガミラスに対して理解し始めたり、現状が予想と大きく変わってしまって、訳分からなくなってしまって……」

 

「地球人が持つガミラスのイメージは『The 悪』だからね、分からなくはないよ。敵と協力、敵と同行。混乱しないほうが変だわ。至って正常だし、島くんみたいに納得いかなかったりする人はいると思うよ」

 

「暁さんは、迷ったりしなかったんですか?」

 

「うーん、私はこの船に乗る前からガミラスとの戦いに関わってはないから分からないけど、敵と協力することに違和感はあったわ。でもガミラス人も私たちと変わらない人間だって割り切ってた。そこからはあんまり気にならなかったよ。でも島君の悩みを聞いたところ、解決できるかもしれないわ」

 

「ガミラスをどうやって信頼するかとかそういう物ですか?」

「いや、私のはもうちょっとアプローチが違うわ。島君、いい船乗りってどんな人だと思う?」

 全く予想してない方向からの唐突の質問に、島はポカンとした。

 

「いい船乗り……ですか?」

 

「そう。今も昔も船乗りという言葉も役割も残っている。ただ定義というのは時代とともに変わってきているようだけどね」

 

「……最適な航路を導き出して、乗員乗客を安全に目的地に送り届ける、溺れているものを見捨てずに救助する……ですか?」

 島は、思い浮かんだ全てを答えにしてみた。

 

 

「そうね、もう答え出てるじゃない?」

 

「?」

 

「『溺れているものを見捨てずに救助する』だよ。まあ今回は溺れているわけでもないけど、少なくとも機関にダメージを負って航行不能になっている。助けが必要な状況だね。古来の船乗りはそういう船を見つけたら、海賊船でもなかったら食料とか分け与えたり、どうあがいても無理な時は自分たちの船に全員乗せて安全な陸地に送り届けてたりしたそうよ?」

 

「でもそれって友軍同士だったりですよね?」

 

「ほとんどはそうよ? 昔は戦時国際法とかあったらしいけと、私が知る限り数件、敵にそういう行動をした事例があるの。250年位前の国家間……もしくは世界戦争でね」

 ハルナがこの後何を言おうとしているのか、島はすぐに察した。

 

「工藤俊作艦長の事ですか……確かに彼は敵艦の乗組員を全員救助しましたね」

 

「割り切る割り切らないの問題じゃなくて、船乗りとしてどうしたい考えてみるのはどうだろうか。それか思い切って故事に倣うのも味があると思うよ?」

 

 

「なんか、見えた気がしました。あとは自分で何とかなりそうです」

 

「おや? もやもやした顔じゃなくなったね。あとは自分で何とかなるわね」

 

「はい。ありがとうございました」

 そう言って島は研究室を後にした。

 

 

 

「……上手くできたかな? 私相談されるキャラというより相談する系のキャラなんだけど……ひとまずあの人みたいにやってみたけど」

 

 ハルナの脳裏には、かつての火星での生活の風景が映し出されていた。

 そこには、ハルナ自身と、リク、そして、もう一人の女性の姿があった。

 

 

 


 

 

 

「かなり体が楽になった。感謝する」

 

「一応寝たきりだったから身体能力は多少落ちているかもしれん。じゃが問題ない範囲に収まっているはずじゃ。美味いもん食って適度に動いてよく寝る事。元気になるにはそれが一番じゃ」

 

「サド先生、あなたはいい医者だ」

「儂はもう20年位医者をしとるが、そう言われるのは嬉しいねぇ。しかも他の星の人に言われるのは初じゃよ」

 

「では失礼する」

「うん、元気でな」

 敬礼をするメルダに敬礼を返した佐渡は、ご機嫌で日本酒を湯呑に注いでいた。

 

 

「先生、なんだかご機嫌ですね」

「誰だって褒められたらそうなるじゃろ?」

 

 その後、佐渡は三杯程飲んでさらに上機嫌になった。

 

 

 _____

 

 

 

「メルダ、もういいの?」

 

「ああ、寝たきりも体に毒だからな。美味いもの食べて適度に動いてよく寝るのが良いそうだ」

「なら~おいしいもの食べに行く?」

「メルダ、この船の『パフェ』って言う食べ物最高においしいわよ!」

「ユリーシャ様、ご一緒します」

 

 

 

 食堂にやって来た3ヵ国女子部は明らかに甘そうで「地球人ならご存じな食べ物」を頼んだ。

 

 

「おい、コレはホントに食べ物なのか……?」

 さて、メルダは今微妙な顔をしている。その理由は、今自分の手の上に乗っている料理についてだ。

 地球のスイーツ、パフェ。この船の食堂で販売されている期間限定メニュー「天の川パフェ」だ。

 

 生クリーム、色とりどりのアイス。チョコチップ、どこからどう見ても女の子が飛びつきそうな豪華盛り合わせパフェなのだが、ガミラス人のメルダからしてみれば「何なんだこの物体は?」である。

 

「期間限定メニューの天の川パフェ。早くしないと溶けちゃうよ?」

 

「メルダはパフェ初めてだよね? 大丈夫、とても甘くておいしいよ?」

 

「……」

 

「食べないの?」

 ユリーシャがうるうる顔で見ると、メルダは決心した。いや、どうにでもなれという方だろう。

 

 恐る恐るスプーンをパフェに突き刺し、まずは一口、

 

 

 ん? こっこれは……?! 

 

 

「……どうよ?」

 

「こんなものが宇宙にあったとは……!」

 

「はいぃ?」

 

「私は今、感動している!」

 美味しいものは逃げないし誰も取らない。だが、空間魚雷も真っ青な速度でパフェにがっつくメルダは、軍人ではなく、年頃の女の子というにふさわしい様子だった。

 

 

「……ここ、ついてる」

 その勢いで気付かなかったようで、メルダの頬にはクリームがついていた。

 言われてやっと気づいたようで少し恥ずかしながら頬に付いたクリームを拭って舐める。

 

「甘いもの好きなのは全宇宙共通のようだね」

「ガミラスにはこういう食べ物はない。茶菓子とかはよくあるが、ここまでキラキラして甘い素晴らしい物は無い。テロンには美味しい物がたくさんあるようだ」

 

「退院直後にそれ食べるのはハードじゃない?」

 

「アスカか。テロンのパフェ、素晴らしいな」

「フフーン。恐れ入ったか」

 

「異星人女子部勢ぞろいだね、ちゃっかり集まっちゃって」

「ハルナ、メルダったらパフェをすごい勢いで食べるのよ。ビックリしちゃったわ」

 ユリーシャがニヤニヤしながら先程の一部始終をハルナに話すと、メルダは顔を真っ赤にした。

 肌は青いはずだが……

「ちょ、ユリーシャ様! それは!」

 

 

「まあ女の子は大体パフェ好きだし、パフェ初体験ならがっつくのもわかる気がするわ」

 

「それはそうと、アカツキに聞きたいことがあった。どうして私たちを対等に迎えてくれたのだ?」

 

「ああ、そのこと? たとえ敵であっても使者や捕虜は丁重に迎えるのが、リクの考えだからだよ。もちろん私もそうだけど」

 

「例え敵であってもか……私達とは大違いだな。地球人にはそういう人しかいないのか?」

 

「流石に私達みたいな人ばっかりではないよ? いろんな人がいるわ」

「まあリクとハルナは私ともすぐに打ち遂げたけどね」

「そうだね~異星人とも仲良くなれるよね?」

「ちょ、イスカンダルのお方に来やすく触るのは」

「メルダおいで~なでなでしたい」

「そんな、もったいないです!」

 

 ___

 

 

「私たちは、初めて会った異民族に対して高圧的な態度をとっているようだ。弾圧や虐殺、一部の部隊がやっていることとはいえ、それを見て見ぬふりをしている我々も同罪だ」

 

「その点だと、私たちの先祖も同じことをしてたわね」

 

「どういうことだ?」

 

「地球にも、肌の色が異なる人種がいるの。私たちはこんな肌の色をしているけど、茶色かったり黒かったりする人もいるの。それらの他とは異なる特徴の人種を迫害した歴史が残っているの。今でもその迫害思想は残ってるわ」

 

「どの星でも同じ道をたどるのか……」

 

「人類は、間違いから学習して同じ間違えを犯さないように成長するからね。同族同士で世界規模での戦争を起こしてしまったこともあるけど、今はそういうことはない」

 

「今はガミラスと戦争しているけど、こうしてメルダと仲良く話せていることから、どんな星の人とも分かり合えることが証明できたわね」

 

「たとえ戦争中でも敵を思いやることが青臭いことかもしれないけど、これも歴史が証明しているわ。ちょっとその話をしようかな」

 

「面白そうね。ハルナ、聞かせて!」

 

 

「ええ、じゃあ昔話をしようかな。敵兵を救助した船の話を」

 

 

 

 

「今から250年くらい前、ちょうど世界規模の戦争をしていた時代の話。私たち地球人の先祖はいくつかの軍に分かれて殺し合いをしていた」

 

「第二次世界大戦の話ですね、確か……雷っていう船だったかな?」

「その話、極東でも語り継がれてますよ」

 

 島と同じように、山本とアスカはこの話を知っているようだ。極東にいた山本はともかく、アスカまで知ってることにハルナは驚いた。

 

「確かに極東の軍で語り継がれているけど、アスカよく知ってるね。ユーロでも教本に書いてあった?」

 

「マリの持ち込み蔵書のライブラリにあったんです」

 

「そんな記録まで……どれほど昔をあされば気が済むのかな……話がそれたけど、その駆逐艦雷は、私たちの祖先の国から離れて広い海を航行していたの。当時は絶賛戦争中だから、常に周りの海を警戒しておく必要があるの。いつ敵に船が来るか、いつ潜水艦が迫ってくるかわからないからね」

 

「そんな航海をしていた雷は、近くの海域で人が漂流しているのを発見したの。その数400人。しかも自分たちに敵対する国の兵だったの。でも、その状況を見過ごさずに、雷の艦長の工藤俊作は敵兵を全員救助したの」

 

「敵を救助したのか?!」

 

「そう、全員ね。通りかかるまでに力尽きてしまった人も何十人もいたそうだけど、とにかく、400人以上が助かったの。彼らは沈没した自分たちの軍艦の燃料でドロドロだったけど、雷の船員は総出で彼らを救助、手当をして食料などを与えたそうよ」

 

 

「船員総出で救助活動して、警戒が手薄にならなかったのか?」

 

「もちろん手薄になってたし、救助活動中に敵に捕捉される可能性もあったわ。でもそれらのリスクを抱えて最低限の人員を残して、救助を行った」

 

 

「……凄いな、テロン人って」

 

「昔の極東は日本って呼ばれてたけど、その日本には『武士道』っていう考え方があるの」

 

「ブシドウ?」

 ユリーシャが聞きなれない言葉に首をかしげた。そもそも武士というものを知らないからだ。

 

「武士道というのは、大まかに言うと『他人の気持ちに対する思いやりを目に見える形で表現すること』、要は礼儀を重んずる考え方なの。あの時工藤艦長がとった行動はまさにそれだったの」

 

 

「礼儀を重んずるか……私達と対等に接してくれたのはそういう所から来ていたのか」

 

「うん、まずは礼儀から始めないと。そして、今確認できるすべての漂流者を救助してから、工藤俊作艦長は救助した敵兵を甲板に集めて、彼らの言語こういったの『貴官達は勇敢に戦われた。今や諸官は、日本海軍の名誉あるゲストである』」

 

「そのクドウという男は救助した敵兵をゲストといったのか……広い心を持っているのだな。だから私を迎える時に、ガミラス語で話したのか?」

 

「それもあるね。うまく喋れてたかな?」

 

「流暢だった」

 

「あら嬉しいね。その後、工藤艦長と雷の船員は遭難者の捜索を続行して、1人も見逃すことなく遭難者を救助、敵国の病院船に全員引渡したそうよ」

 

「ニホンのブシドウ、礼儀に則った丁寧な対応。敬意を評したいな」

 

「この話には続きがあってね、その救助された船員が、終戦から数十年経って工藤艦長に感謝を伝えに行ったの。その時工藤艦長は亡くなってたけど、彼の思いが書かれた手紙は、しっかりと墓前に供えられたそうよ」

 

 

「感謝を伝えに行ったのね、日本と英国を結んだ友情が出来た瞬間ね」

 アスカが頷きながら微笑む。当時の戦争はお互いに正義を掲げ、互いに「ゆがんだ思想」であるという事を決めつけて殺しあった。

 

 でも、工藤艦長は武士道に則って溺れている者の救助を行った。海の男たるもの溺れている者を見過ごすわけにはいかなかったのだろう。

 いかに敵兵であっても救助してもてなす。それは、今の状況に近かった。

 

 

 Type nullの操縦で疲弊しきった自分を治療して、今では航行不能になりかけの敵艦を船体にくっつけて航行しようとしている。

 

 軍人の家系として、礼儀を重んじる自分に響くものがあった。

 

 

「ここに来る前にクダン司令から、『恩返し』という言葉を聞いた。それも、ブシドウに近い物なのか?」

 

「そうね。何か助けてもらったら、今度はこっちが助けるとかね」

 

「いつか恩を返さんとな」

 

 

 

 メルダのパフェの器……その中身は、心をそのまま映したようにきれい食べられていた。

 

 

 


 

 

 

「両舷波動エンジン、出力上昇問題なし」

「重力アンカー作動状況問題なし。ガミラス艦の固定状況、全艦問題なし」

 

「各部点検完了、発進準備完了」

 

『オキタ艦長、宜しくお願いします』

 

「もちろんです。文字通り、大船に乗ったつもりでいてください」

 

「クダン司令」

 操縦桿を握る島が、急に口を開いた。

「互いに協力し合った身です。船乗りとして、あなた方を安全に送り届けます。ご安心ください」

 敵か味方かではなく、船乗りとしてどうしたいか考えてた島の結論は、同じ船乗りを助けることにすることだった。

 

『シマ航海長、頼みます』

「了解です」

 

 

「Wunder、発進!」

 沖田艦長の号令で船は休息を終え、宙を進み始めた。

 でも少しだけ違う事があって、ガミラス艦と行動を共にしていることだろうか

 

 これが、ガミラスと地球、双方の意識改革になるかもしれないと、沖田艦長は思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦内時間1100……

 

 

「ふう、ようやく終わった。多分寝てるよな……」

 

 静かに扉を開けると、部屋は暗くなっていた。

 そっとベットに行って寝ようとすると、

 

「風奏さん……」

 ベットから、「親しい人の名前」が聞こえた。その人物を知ってるのはリク自信とハルナだけだ。

「思い出してるのか……」

 一応寝顔を確認すると、目元から一筋の涙が流れていた。

 

 そっと涙を拭いて、リクも眠りについたのであった。




勢いで書けてしまいました。
テスト期間があるので一応テンポよく書いていたつもりなのですが、7月23日現在、出来上がってしまいました。

今回登場した工藤俊作艦長は、実際に第二次世界大戦中に生きていた旧大日本帝国海軍の軍人で、イギリス海軍の重巡洋艦「エクセター」や「エンカウンター」の乗組員が漂流していたところ、敵でありながら全員救助したと記録が残っています。

この回を書くにあたって結構調べましたが結構いい話ですね
うまい具合に使うことが出来ました。

この他にも、日露戦争中の蔚山沖海戦における第二艦隊司令長官上村彦之丞中将も似たことをしています。


正直言って、「史実の人間を出しても大丈夫なのか?」と思いましたが、運営さんに連絡を取ったところ、「侮辱とかしなければ問題ない」との回答をいただけました。
運営さん、ありがとうございました。


そして名前のみの登場ですが風奏さんも久し振りの登場です。


では、次の話でお会いしましょう
(^.^)/~~~


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スイカ

夏と言ったらスイカです。

スイカと言ったら加持さんです
そう、今回はスイカ畑の話です。

もうそろそろメルダともお別れです。次の話で101部隊 は近隣の恒星系でガミラス基地から補給を受けます。

ガミラスに帰るのはしばらく先になります。


 

 小マゼラン外縁部、その一角。

 

 ガミラスの本土防衛を担うこの重要な戦場を任されているとある戦闘団が、侵略者の進撃を食い止めていた。

 

 

 ガトランティス……ガミラスからは野蛮な民族と言われている彼らは、ガミラスのホームグラウンドとも呼ぶべき大マゼラン星雲に侵入しようと、日々小規模な戦闘が行われていた。

 

 目的は不明。多文明を制圧して、領土を拡大しようとする思想が彼らにあるのかどうかも分からない。だが、ガミラス艦と対等に、もしくはそれ以上に渡り合う事が可能かもしれない艦艇を持っている。

 

 目的が分からない以上、尚更本土に侵入させるわけにもいかず、ガミラス国防軍は、この宙域にそれなりの数の艦艇を駐留させなくてはならない。

 

 そして今この時、ガミラス側からの攻勢作戦が展開されていた。

 

 

 _____

 

(サレザー恒星歴1000年)デスラー紀元103年3月12日

 

 

 

 宙を駆ける魚雷の群れは、ガトランティス艦隊に突っ込み、一瞬の恒星を作り出した。

 

「全弾命中を確認。前方宙域に突破口の形成を確認」

 

「第7戦闘団は前へ、高機動戦闘を開始。楔を打ち込め!」

 

 彼は、エルク・ドメル。若くして中将の地位にまで登り、優秀な部下を集め第6空間機甲師団を組織、先のアリステラ星系では第666特別編成戦術戦闘攻撃軍を指揮、Type nullの戦線投入に大きく貢献した。

 その後、ガル・ディッツの指令を受け、この小マゼラン外縁部に艦隊を展開、ガトランティスに対しての防波壁として活躍している。

 

 

 彼の指揮で、ガミラス艦隊は高機動戦闘を展開する。ガミラス艦はどの艦にも共通する特徴として、魚雷発射管が異様に多い。そしてかなり機動力がある。

 

 あのガイデロール級でさえ、350メートルの戦艦であるにもかかわらず魚雷発射管が大量に存在する。

 艦種に差異はあれど、どの艦も雷撃戦をある程度意識した構造となっている。

 

 高加速と多数の雷撃戦装備、高機動雷撃戦闘を十八番としたガミラスの割り切った構造の戦闘艦は、戦闘出力を一気に開放して、ガトランティス艦隊に突撃していく。

 

 

 ガトランティス艦隊は急襲に対応すべく速射輪胴砲塔を放ち、ガミラス艦の撃沈を図るが、速度に乗ったガミラスには当たり辛く、ビームで暗い宙を彩るくらいの事しかできない。

 

『たいらげろっ!』

 

 第7戦闘団から魚雷、VLS、陽電子カノンが放たれ、確実に目標を撃沈していく。

 

 

 ミサイルを突き刺し、艦載機を潰し、陽電子カノンで風穴を開け、陽電子カノン薙ぎ払いで上半分と下半分を泣き別れにする。

 

 戦力よりも戦略を重視しているようだが、これは圧倒的というか一方的な掃討作戦だ。

 

 その戦域からやや離れて位置にいるのがドメル中将の専用艦、『改ゼルグート級一等航宙戦闘艦 ドメラーズ3世』である。

『こちら第7戦闘団バーガー少佐。敵艦隊の7割を殲滅、奴らしっぽを巻いて逃げ出していきます。ガトランティス、恐れるに足らず』

 

 彼はフォムト・バーガー。ドメル率いる精鋭である通称「ドメル幕僚団」の最年少であり、こちらも若くして少佐の立ち位置にいる第7戦闘団の指揮官だ。血気盛んな部分がまだ残っている。

 

「敵を侮るな」

 

『はい……』

 

「第7戦闘団は引き続き敵残存艦艇の掃討戦に移れ」

 

『ザーベルク!』

 

「バーガー、まったく。でもまぁ、これで奴らもしばらくは仕掛けて来ないでしょうな」

「そうだな、貴様も楽しみがなくなるな」

「まったくです、ハッハッハッハ」

 ドメル幕僚団の親爺とも呼ぶべき古参、ヴェム・ハイデルンが豪快に笑う。

 叩き上げの軍人である彼は古くからドメルに付き従ってきた老練な参謀である。

 

 

 

「ドメル司令、本国から通信です」

「バレラスからか?」

「いえ。航宙艦隊司令、ディッツ提督からです」

 

「提督から? 繋いでくれ」

 

 改ゼルグート級艦橋のメインスクリーンに映し出されたのは、髭を生やした厳格そうな男性だった。

 航宙艦隊司令のディッツ提督だ。

 

『元気そうだな』

「閣下もご壮健そうで何よりです」

『うむ。ドメル、君に召喚命令が下った。総統府から君に、特一等デスラー十字章が授与される』

 

「……お言葉ですが、この宙域は本土防衛の要、そのようなことで指揮官が離れることなど……」

『君の懸念することもよくわかる。だがこれは政治的なパフォーマンスだ。君のカバーでリントの第8軍がそちらに移動中だ。第2師団もそちらの宙域に到着する予定だ。彼らなら問題なかろう』

 

「……了解しました。両軍の到着を確認次第任務を引継ぎ、バレラスに帰投します。それと、1つよろしいでしょうか?」

 

『どうした?』

 

「例の第101部隊は本国に帰還したのでしょうか?」

『……そのことか。これは音声通信では伝えるには危ないからな……彼らからの報告書が私の手元に届いているから、それを送信しよう』

「感謝します」

 

『では式典で会おう』

「ザーベルク」

 

 通信では直接話しにくい内容は、ドメルにはなんとなく見当がついた。何かトラブルにあって何とか脱出したというたぐいだろうと思い、提督から送信されてきた報告書を読むと、自分の想像力が足りていなかったことを思い知った。

 

 

 

《ゲルバデス改級は現在、テロンの宇宙戦艦ヴンダーと共に行動中》

 

 


 

 

 その同時刻、こちらでは更迭に怯える者がいた。

 

 銀河間空間、バラン星にあるバラン鎮守府にて

 

「更迭される?! この私がですか?!」

 

『貴様は総統の作戦に泥を塗ったのだァ。ヴンダー問題を解決しなければ、貴様を銀河方面司令長官に推薦した我輩の立場も危うくなァる。現にィ、マゼラン内で「鋼の翼運動」という名の反体制派運動が広まり始めているのだァ』

 

『だが、貴様がヴンダーをここで撃沈すれば貴様は更迭を免れる。吉報を待っておるぞ、ゲールゥ』

 

 上司であるヘルム・ゼーリックの怒鳴り声を耐え抜いたゲールは、くたびれた様子でヴンダーの推定現在位置を表示させた。

 

「現在、ヴンダーはこの宙域を航行中かと思われます」

 

「私が陣頭指揮を執る! 艦隊出撃!!」

 

 ゲール指揮下の艦隊がバランから出撃し、焦りを背負いながら討伐に向かうのであった。

 


 

「植物工場?」

 

「といっても、ただの農園なんだけどね。毎日リクと私で面倒見てるんだけど、試作艦対艦ミサイルの調整が大詰めでそっちまで手が回らないのよ。お願いできる?」

 

「興味あるんで、行ってみます。あ、他にもいろいろ誘ってもいいですか?」

 

「いいよ~多分人手もいるし」

 

「??」

 

 

 この船に植物工場があるのは、アスカは一応知っている。でも、そこがどんなとこかは分からない。

 確かに全長2500メートルの船だから、そういう施設を艦内に組み込むことは可能だろう。だって艦内工場があるくらいだから。

 

 でも、船の中に畑というのは想像もつかなかった。

 

 1人でいこうか迷ったが、人手がいるとのことなのでまずは山本を誘うことにした。

 

 _____

 

 

「農園?」

 

「そう。なんか今日は面倒見れないって言ってたから私がやることになっちゃって……手貸して欲しい」

 

「船の中にそんな施設あるなんてね……興味あるね。あ、メルダも誘う?」

「ニヤリ」

 

 

 _____

 

 

 

「船の中に農園があるのか?!」

 

「そうなの。そこを管理している暁さんと睦月さんが今日は手が離せなくて、変わるに私たちがやることになったの」

 

「それで手伝って欲しいと」

 

「「お願い!」」

 

「……いいだろう、この鉄の床もいい加減見飽きたからな。それと、ユリーシャ様も誘っていいか?」

 

「もちろんよ」

 

「少し待っててくれ」

 

 

 _____

 

 

 

「ユリーシャ様、この船には果物が栽培されている農園があるそうです。ご一緒にどうでしょうか?」

 

「果物? 美味しいの?」

 

「実際に食べられるかどうかは分かりませんが、部屋で本を読むのもそうですが軽い気分転換になるかと思います」

 

「メルダ、行ってみよ?」

 

「お供します」

 

 

 _____

 

 

 

 そんなこんなで再び集まった異星人女子会四人組はその農園の場所に向かって歩いていた。

 

「この船は何でもありなのか?」

「実際何でもあるからね、最悪この船だけで生活できそう」

「それでは心が死にそうになるけどね」

「はいはい着いたよ」

 

 到着した扉の前には、「暁・睦月の実験農園」と書かれたプレートがぶら下がっていた。

 

「実験農園……? ただの農園では無いのか?」

「多分……普通の農園では無いのは確かね。品種改良とか」

 

「ん? 何コレ……『暑さに注意』? 開ければわかるか」

 

 そう言ってアスカが自動ドアを開けると、およそ宇宙船の中とは到底思えないほどの熱気が4人を強襲した。

 

「暑っ! 夏?!」

「作物の成長のために温度を変えているようだが、まさかここまでとは」

「あづいあづいあづいあづい……」

 

「……着替えた方が良さそうね」

 アスカがそう判断したことでドアが閉まり、熱風の猛襲は完璧にシャットアウトされた。

 

 

「主計科に聞いてみよ」

 

 

 


 

 

 

「タンクトップと作業用ツナギ?」

 平田はキョトンとした。こんな艦内でなんでそんな格好をと思ったのだろう。

 

 だが、アスカがあの農園のことを話すとすぐに納得した。

 

「あの農園の手伝いだね。ちょうど甲板部のあまりが何着があるから見てみてくれ。タンクトップは余るほどあるぞ」

 

 平田に連れられて衣類保管庫に入ると、様々な艦内服が綺麗に整頓されていた。

 

「確か甲板部のやつは……あった、コレだな」

 平田ぎそう言って取り出したのはオレンジ色のツナギだ。

 右肩に「NHG-01」の数字とWunderの翼がワッペンとして付けられていて、左肩には国連宇宙海軍のワッペンが付いている。

 

「それと、これがタンクトップな」

 ツナギとシンプルなタンクトップを受け取った4人集はお礼を言って保管庫から出ようしたところを平田によびとめられた。

 

「あ、ちょっと待った。あの部屋は暑いし太陽の代わりのランプで眩しいから帽子もな」

 

 そう言って平田は、これまた甲板部の作業用帽子を渡した。

 

 

「「ありがとうございます!」」

「ありがとう!」

「感謝する」

 

 甲板部の作業用装備一式を受け取った4人組は、着替えなければと思ったが女子更衣室がかなり遠いことに気づいた。

 

 

「その場で着替えるのは……流石にな、マズイか」

「保安部に公然わいせつで捕まりそう」

 

「ねえ、服を脱いでも大丈夫な場所にすれば?」

 

「「それだ(です)!」」

 ユリーシャのヒラメキに山本とメルダがハモり、ちょうど近くにあった奇跡の湯の脱衣場で着替えることとなった。

 

 

 

 

 10分後━━━

 

 

 

 

 ユリーシャがツナギの着方が分からなくて、多少時間はかかったものの全員仲良くオレンジになった。

 

 ということで準備万端だ。

 

「メルダ……大胆ね」

 だが、何故かメルダはツナギを下だけ着て、上は袖を腰あたりで結んでいた。いわゆる腰巻き状態だ。

 

「こうすれば暑くないだろう? 長袖は余計に暑いと思うが」

「まあそうなんだけど……いっか」

 

 

 上半身タンクトップというのも少々刺激が強いかもしれないが、軍人であるメルダに羞恥心は少ないようだ。

 

 


 

 

「……開けるよ」

「ああ、やってくれ」

 

 再び農園のドアを開けると、やはり熱気が襲い掛かって来るが、万全の格好をしたためダメージは少ない。

 

「やっぱり暑いね」

「私のように耐暑仕様にするか?」

「……男いないからいっか」

 山本も腰巻にして暑さを和らげる。暑さに慣れてきたとこで周りを見てみると、そこはとても艦内とは呼べない光景だった。

 

 

「これは……!」

「すっご」

「草がいっぱいだ!」

「うん、草一杯だけどこれから果物とかできるよ」

 

 そこには少し底深になった床面に腐葉土がふかふかに敷き詰められ、なんだか分からない謎のつるが足元を埋めていた。でも人一人が通れる道はできている。

 

「こっちに仕切りがあるが、向こうは何だ?」

 横を見ると、半透明の壁の向こうに何かあるように見える。

 扉を開けてみると、そこには無数の金属ラックの上で成長しているレタスがあった。

 

「こっちは涼しいな……」

「紫っぽいライトで栽培しているみたいだけど、何でだろ」

「土が見当たらないけど……これって水耕栽培?」

 そう、この涼しい区画は水耕栽培でレタスを効率的に育てている区画だ。実際に土の畑で作るレタスよりは小ぶりだが、それは確かに瑞々しい葉を持っている。

 

「土がなくても栽培可能なのか……ガミラスでは見ない物だ」

「ねえアスカ、暁さんから何か指示もらってるんでしょ?」

 

「そうそうコレコレ。ハルナさんからノート借りてるんだった」

 そう言って取り出したのは一冊のノートだ。

 それにはこの農園について様々なことが書かれている。作物の種類、栽培方法、管理方法、病気、その他もろもろのことが書かれた攻略本である。

 

「すいか?」

「スイカって、あのスイカのこと?」

 

「スイカ、黒と緑の縞々の果物。でも中身は真っ赤になっていて黒い種がついている。食べると甘いよ」

「ユリーシャ様、物知りですね?」

 メルダが驚いたような顔をした。イスカンダル人がテロンの果物について知っているのが不思議でたまらないのだろう。

「ふふーん。マリの本たくさん読んでたの!」

 ユリーシャが胸を反らして自慢そうにする。

 

 航海科に呼ばれること以外は暇なユリーシャは、マリのアーカイブやこの船に保存されているアーカイブ本を読み漁っている。

 

 と言ってもユリーシャはイスカンダル人、地球の言語は読めない。そこで、日本語の勉強から始めた。簡単な物語から読み始め、日本語の辞書を併用しながらだんだんと難しいものを読んでいく。

 イスカンダル語はフランス語に近いということもあり、フランス語も参考にしたりと、船の中で猛勉強していたのだ。

 

 そして、日本語をある程度読めるようになったユリーシャは割と広いジャンルを読んでいるのだが食べ物系の本がやや多いようで、メルダが誘いに行った時には何故かは分からないがイタリア料理の本を読んでいた。

 

「それで、何をするんだ? その本に書いているのだろ?」

 

「えーっとね……ハダニの除去……? なんかコーヒー使うみたい」

 

「これの事か? そこの冷却保管庫に入っていたんだが」

「あ、それだね。これを吹きかければいいみたい」

 

「なになに……? 『葉っぱにハダニがついていることがあるので、コーヒー霧吹きを噴射してハダニ退治をしましょう』って書いている」

「害虫駆除か。他には?」

 

「『黄色くなっている葉や白っぽい葉は病気になっているサインだから取っちゃいましょう。手遅れになる前に急ぎましょう。土の水はけが良いかどうか確認しましょう。程よく湿っているのがちょうど良いです。水のやりすぎは却って良くないので水やりはほどほどにしましょう。やりすぎると病気になります』……他にもメチャメチャ書いてあるね」

 

「ガミラスにもこれに似た作物はあるが、ここまでデリケートとはな。だがこうしないと美味しくできないのだな」

 

「早速作業しようか」

 

 


 

 

 役割分担でいろいろ揉めたが、とりあえずアスカがコーヒー霧吹きをやって、ユリーシャが水やり、山本とメルダが葉と茎のチェックをすることになった。

 そして暑いので必ず水分補給を欠かさない事。

 イスカンダルとガミラスにも春夏秋冬はあるようだが、ここまで暑いのは初めてという事みたいなので水分ボトルは常備だ。

 

「ねえ、ガミラスにもこういう作物があるって言ってたけど、実際ガミラスの自然ってどんな感じなの?」

 

「機密に触れない程度なら……ズピストの浮遊大陸基地にあった植物は見ただろ? この船が跡形もなく消し飛ばしたあの大陸だ」

 

「ああ……あの大陸かぁ。あんなのが生えているの?」

 

「そうだ。食べられない種類が多くてな、食べれる物でも下処理がいるのだ」

 

「毒抜きとか?」

 

「そういうわけじゃないんだが、美味しくないのだ。だから大抵濃い味にして誤魔化しながら食べる」

 

 

「まさかメルダって野菜嫌い?」

「そうではない! だが、ここの艦内食堂は野菜は不味くない。別の味で誤魔化している感じもない」

 

「問題はどう造っているかなんだけど、メチャメチャ新鮮なのよ、この船のご飯の野菜。都市伝説になっていくらいだから」

「詳しい人に聞いていた方がいいな」

 

 

 ____

 

 

 

「まさかコーヒーの使い道がこんなとこにあったなんてね……」

 山本とメルダの会話を聞きながら、黙々とスイカの葉にコーヒーの液を吹きかけていく。

 

「地道ねぇ……どわぁ!」

 突然横殴りの放水を受けたアスカはビッチョビチョ放水してきたのは一人しかいない。

 

「……ユリーシャぁ?」

 

「あわわわわ……ごめんなさい」

(やっちゃった……)

 慌て顔で申し訳なさそうにしているユリーシャが大急ぎでタオルをアスカに被せた。

 

「……着替えてて良かったわ。パイロットスーツは汚したくないからね」

「寒くない?」

「こんだけ暑かったらそのうち乾くでしょ。なんなら後2人にも放水したら?」

「流石にわざとやらないわ!」

 赤くなったユリーシャは膨れ上がった。本当にイスカンダルの姫君なのか? 

 

 

 

 

「作業ご苦労様」

 灼熱の空間に入ってきたのはリクとハルナだった。

 

「アカツキとムツキじゃないか。もういいのか?」

 

「最大戦速で終わらせた」

 

「さっすがぁリクハル」

「リクハルって……どこぞのカップリングみたいにしないでよぉ」

 赤くなるハルナをみてニヤニヤ意味深な顔をするユリーシャに何かを察したメルダは知らないふりをした。

 

 

「ところで、何作っていたんですか?」

 

「ん~良い物。といっても兵器なんだけどね」

「どんな物なんですか? って聞いても応えてくれないと思いますが……」

「私は『聞かザル』をしておくから問題ないぞ?」

 メルダが某「耳をふさぐサル」のように耳をふさいだ。多分ユリーシャに教えてもらったのだろう。

 

「それはね……ゴニョゴニョ」

「マジですか?」

 

「不殺の兵器ってことなの」

 

「私たちの目的はイスカンダルまで航海することですからね」

「一ついいか? そこでアスカが水浸しになっているのだが何かあったのか?」

 

「ああ、ユリーシャの放水攻撃を受けたんだと思うよ」

「えへへ……やってしまった」

 

 

「ところで、何でこんな区画があるんですか?」

 

「メンタルケアのためかな……金属の床ばっかりだと気分が滅入るでしょ? 水上艦艇なら外に出て潮風にあたってリフレッシュとかできるけどここは宇宙だからね、メンタル的にもきついものがあるの。だから、こういう作物も育てられるようにしたの。ここはね、元々この船が『Buße』の頃からあった設備なの、作物の自給自足のためにね。Wunderへの改装時に何とかして残したかったから、リクに無理言って設計変更時に残したの」

 

「それで毎日面倒を見ているんですね」

 

「ああ、たまに古代君にも手伝ってもらっているわ。彼生まれが地球だしこういう作物も見たことがあるから。あとは力仕事要員としてかな~なんかたま〜に森さんとやってるみたいだしね」

 

 

「古代さんが……」

 

 

「もしかして……古代くんの事気になるの?」

「気になる……と言ったらそうですね。私が戦闘機に乗れるようになったのはアスカと古代さんが働きかけてくださったのが大きいですし、感謝してます」

 山本の顔は複雑そうだ。

 

「でも、森さんと古代くんはなんか互いに意識しちゃってるんだよね……恋は論理では表せないから定義ってものが存在しないのよ。アタックしてもいいし、このまま森さんと古代くんを応援するのもいいと思う。私も好きな人がいるけど、どうすればいいのかね……分かんないの」

 

 

「暁さんもいるんですか? 好きな人」

 

「いるよ、内緒だけど。もし何か察しても何も言わないでね」

 山本はもうわかっていたが、何も言わないでおいた。

 

(睦月さんの事かな……さっき顔赤くしてたから)

 

 

 

「ハルナ。一通り葉と茎の確認は終わった。山本さんとメルダが全部確認してくれたから異常なし、オールグリーンだ」

 

「じゃあ4人にお礼しよっかな」

 

「「「「??」」」」

 


 

 

 

「これは?」

 

「試験栽培していた物の1つで、パイナップルだよ」

「あのパイナップルですか?」

 

「そう。あのパイナップルだよ。時期的にもうそろそろ採っていいかなって感じだったから試しに1つね。試食したい人は手を挙げて〜」

 

「はい!」「はい!」

 

「パイナップル食べたい!」

「ユリーシャ様、まずは私が!」

 食べても大丈夫かどうか、メルダはいわゆる毒味を買って出た。

 メルダ自身、毒はないことは分かっていたが、信仰対象のイスカンダル人がいるのでそうするしかないのだ。

 

「そういうメルダは真っ先に食べたいだけじゃない?」

「そうでは無い!」

 山本がメルダを茶化すとメルダは頬を膨らました。

 

「ハイハイちゃんと4人分あるからね」

 そう言いながら研究室備え付けの簡易キッチンでパイナップルを切って1口サイズにする。

 

「他の人には内緒だからね。ここでスイカ以外の果物育ててるのみんな知らないから」

 

 

 皆でパイナップルに小さいフォークを刺して、

 

「いただきます!」

「いただきます? 食前のお祈りか?」

 

「まあそんなところ。自然への感謝の気持ちを表すって感じかな」

 

「じゃあ私も『自然に感謝していただきます』」

 口にしたパイナップルは酸っぱすぎず甘すぎず、絶妙のバランスを保った最高の甘味であった。

 

「美味しい」

「久しぶりに食べたかも……新鮮な果物」

「何か舌がひりひりする……」

「舌がですか? 私はしませんが……」

 1人だけ舌がヒリヒリしているユリーシャは口の中をもごもごしていた。

 

「ああ~ほんはひほひほってほうなるひほはいふほ(何か人によってそうなる人がいるよ)

 不思議そうにしているメルダに豆知識を披露するリクはひたすらハイナップルを頬張っていた。

 

「ああ~! もうこんなに減ってる!!」

 

「リ~クぅ?」

 

「すまん……」

 口いっぱいにパイナップル頬張りながら申し訳なさそうにしているが、久しぶりの自然のフルーツに若干にやけ顔だ。

 

「も~う……少しは自重してよ。木星オムライス早食いで太田さんギブアップさせたの忘れた?」

 

「忘れてない……あの時佐渡先生にこっぴどく怒られたからね」

 

(くぉらぁ! 何やっとんじゃあ!!)

 鬼神の如き行われた集中砲火オーバーキル説教を思い出し若干青ざめるリクをよそに、女性一同は残りのパイナップルを平らげるのでした。

 

 

「もう一個切ろうかな」

 

 そうのんきに考えていたその時、艦が揺れた。

 

「何?!」

 

「睦月です! どこからですか?!」

 

『右舷前方2時の方向にガミラス艦確認! 第21区画装甲板に被弾です』

 備え付けの内線から相原の報告を聞き、リクは顔を引き締める。

「負傷者は?」

 

『確認中ですが、現在曳航中のガミラス艦に損害はない事は確かです』

 

「ごちそうはお預けか。メルダ、ユリーシャを安全区画に誘導してほしい。ハルナ、持ち場に行こう」

 

「ええ」

 

 

 

 


 

 

 

 

「ゲール司令! ヴンダーを捕捉しました!」

 

「フン、簡単に見つかったじゃないか。砲撃用意!」

 

「しかし、ヴンダーが101艦隊を曳航しています! このまま撃てば当たります!」

 

「なら当てないように撃つんだ! 万が一当たったら向こうが撃沈した事にすれば良いからな。全艦砲撃用意!」

 ガイデロール級の陽電子カノン砲に赤い光が灯り、放たれた。

 

 

 ______

 

 

 

「敵艦隊の総数は?」

 

「10隻です。その中に旗艦と思われる超弩級戦艦1隻を確認」

 森が注視しているレーダーには、Wunderの2時方向に10個の敵艦反応が表示されている。

「……ガミラス艦をくっつけている以上攻撃は厳しいと思ってたが、器用にWunderだけを撃ってきたな」

「我々が下手に動けば曳航中のガミラス艦に当たる。向こうからしてみれば、我々が殺したという事にもできるのだろう」

 

 

「このまま避けたら彼らに当たります! 迎撃を!」

 南部が火器の使用を進言するが、それは弾かれた。

「いや、撃沈はしない。無力化するだけだ。艦長、試作した艦対艦ミサイルの使用許可を下さい」

 

「……許可する。南部、舷側短魚雷発射管開け、LCM装填」

「LCH? 何ですかそれ?」

 

「Lightning Cluster Missile、通称カミナリサマ。EMP攻撃用のユニットを多数装備したクラスターミサイルだ」

 

 Lightning Cluster Missile、ガミラスへの対抗兵装として艦内で造られた特殊なミサイル。

 

 これは、かつてグリーゼ581で受けたビルケランド電流から発想を得て造り出された物で、殺さずに無力化する兵器の最初の一つである。

 

 敵艦を撃沈することを目的とせず、無力化させることを主観において設計されたこのミサイルは、多数の超高出力EMP発生装置を内蔵したクラスターミサイルとして誕生した。

 

 MAGIシステムの誘導で敵艦隊の中枢に侵入して、外装をパージして内蔵したEMP発生装置をばら撒く。

 

 ばら撒かれた発生装置は互いに間隔をとり、一斉に放電、敵艦の航法システム、レーダーや通信を根こそぎ潰す。

 

 

 

 

 

「LCM発射!」

「撃てぇ!」

 

 

 南部の号令で、左舷の短魚雷発射管から3発のミサイルが放たれた。

 その特殊なミサイルはゲール艦隊に殺到する。ゲール艦隊もミサイル迎撃のために砲火を始めるが、ミサイルはそれを巧みに避けて敵艦隊の中枢に乗り込んだ。

 

「外装パージ! ユニット射出!」

 リクの操作でLCMの外装が勢いよく外れ、中から球体状のEMP発生装置をばらまいた。

 

 その直後、凄まじい電流がゲール艦隊に襲い掛かった。

 

 ショックカノン一発に使う分の電力が放たれ、なすすべもなく電流の檻に捕まったゲール艦隊は全ての艦の機能が停止してしまった。

 

 

 

 

 

 

「何だ?! 何が起こった?!」

 

「超高出力の電磁パルスです! 慣性制御システム、航法システム、レーダーダウン!」

 

「何だとぉ?! 動ける艦はいないのか?!」

 

「ダメです! 全滅です!!」

 たった3発の、しかも艦に命中すらしないミサイルを見て、ゲールはヴンダーをバカにしていた。

 しかし今は、そのミサイルから放たれた電磁パルスに艦のシステムを壊され、青ざめていた。

 

 

 宇宙空間を航行する戦闘艦は、宇宙空間で発生する考えうるあらゆる天体事象に対応できるように設計されている。

 

 スペースデブリ、放射線、高温低温、恒星からのコロナ……それらの過酷な環境に耐えることが出来るようになっているが、ここまで高出力の電磁パルスに対しての対策は何らなされていない。

 圧倒的な量の電力に任せた雷光は、ガミラス艦を物言わぬ鉄の棺桶にした。

 

 

 

『こちら宇宙戦艦Wunder。艦長の沖田十三だ。我々は現在、一時協力関係にあったガミラス艦隊の曳航中である。貴官らの攻撃から身を守るため、やむを得ず貴艦らのシステムを落とした。今なら、本艦の攻撃力で貴艦らを撃沈することも可能だ。だが、儂はそれを望まない。黙って我々を行かせてほしい』

 

 

「うぬぬぬぅぁ……、システムの復旧を急ぐのだ、生かしておくかぁ……!」

 

 


 

 

「ガミラス艦隊の無力化を確認、航法システムもダウンしているものと思われます」

 森が注視しているレーダーに映るガミラス艦の表示はピクリとも動いていない。

 陽電子カノンも魚雷も飛んでこない。

 

「本当に無力化するとは……暁さん、これって……」

 古代はそのミサイルの特異性を確かに感じ取っていた。決して誰の命も奪わない兵器は、本来ならば兵器としての意味と相反している。

 でも、一種の戦術として使えるという事を「戦術長として」感じ取っていた。

「量産すれば無敵のミサイルだよ。でも数撃てないからね、さっきので研究用の弾頭以外撃っちゃったからあと1発しか撃てない」

 

「隠し玉ってことですか……大艦隊が来たら厳しいですね」

 

「あら島君、その辺については何とかなりそうよ。マリが変なシステム組んでいるから」

「真希波さんが? どんなものなんですか」

 

「この船の設計限界まで武装を酷使するシステム、戦術科が興奮しそうなね。あの子らしいといえばあの子らしいんだけど、ほんとに良かったの?」

 赤木博士がリクとハルナの方を見て心配そうにする。

 

「マリさんから聞いたときは驚きましたが、設計限界に収まっているのでOKかなと。でも甲板部が泣きそうです」

「できれば……ね、使って欲しくない」

 

 異口同音に「できれば使って欲しくない」と感想を述べる2人は苦笑いを浮かべる。

 

 

 

 

「まさか高出力電磁パルスによる電子攻撃とは……峰打ちという事か」

 

「メルダ、この船はイスカンダルに向かうのを目標にしているだけなのよ? この船の武装はあくまで身を守るためのもの、さっきのミサイルが彼らの答えなら、スターシャ姉さまに胸張って報告できるわ」

 

 航海を見届ける……「レフェリー」としての立ち位置にいるユリーシャは、姉に良い報告が出来ることに安心したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 デスラー紀元103年 3月20日

 

 帝都バレラス バレラスタワー前中央広場

 

 その広大な広場に押し掛けた人たちが一目見ようとしていたのは、国民に人気の高い軍人、エルク・ドメルだ。

 

 特一等デスラー十字勲章の授与式には多くの閣僚が来席し、栄えある軍人の名誉を称えている。

 たとえその腹の中は違う色だったとしても。

 

 

「……止めろ」

 不意に車を止めるように指示した。窓の外には幼い少女が弾む息と共に花束を抱えていた。

 

 路上警備の兵を手で制して、少女に向き合ったドメルはしゃがんで優しい笑顔を向ける。

 

「我らが将軍!」

 

 その少女の行動はとても勇気のある行動であった。このような式典ではテロ行為だと疑われてもおかしくない。

 

「……ありがとう」

 

 その花束を受け取った。ガミラス特有の青い花びらの美しい花は、心を映しているようだ。

 

 

 ______

 

 

 

「総統、このような場に私を呼んだのには、何か問題があったからなのでしょうか?」

 

「君は勘が良いね。君も知っているように、テロンからの宇宙戦艦がこちらに向かっている。プラードの前線基地、シュルツ君を撃破し、そしてゲール君が、たった3発のミサイルで艦隊ごと無力されたとの報告を受けた」

 

「まさか……そのようなことが本当に可能なのですか?」

 

「そうだ。時間を与えればその分進化する戦艦、手遅れになる前に君に撃沈を頼みたい。事は深刻だ。帝国領土内では反体制運動が活発化している。それを収めるためにもあの船を沈めなければならなくてね、やってくれるかな?」

 

 

「ご命令とあらば」

 

 勲章授与を受け、壇上から去るドメルが受けた命令、それはWunderの撃沈。

 宇宙の狼と異名を持つ彼の目は、狩人の目。

 

 それが獣の目となるかどうかは分からない。

 

 受勲式後に彼が総統府に提出した作戦の通称は、「神殺し」だった。

 

 

 




スイカ食べたいです

これだけ大きな船のなかなら畑くらい造れるだろうということで、今回登場させました

あのスイカはイスカンダルに到着する頃には食べ頃です


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道しるべ

たいへんお待たせいたしました。
ITパスポートの試験勉強をしていたもので、どうも進まず……

色々考えた結果、原作「魔女は囁く」の話はオミットしてしまう事にしました。

つまり、この次の話「対次元潜航艦戦闘」でこの章は最後になります


「中将から上級大将に昇進か。一つ気になるのが、君が国民の中で人気が高いという事だ」

 

「閣僚の中には、君の活躍を快く思っていないものも多い。用心するんだ。君の赴任先は、あのもみあげゼーリックの腰巾着のゲールだぞ?」

 ガルが懸念する通り、ドメルの赴任先である「バラン鎮守府」には、グレムト・ゲールがいる。

 ゲールはゼーリックの腰巾着であり、何かの謀略にはめられる可能性もあるのだ。

 

「私は政治には興味ありません、軍人ですから。……バレラスも変わりましたね」

 

 

 

「……そういえば、君のとこのメルダ嬢ちゃん。無事のようだが」

 

「まったく、あのバカとバカ娘は2人そろって……」

 

「クダン司令とディッツ特務中尉、無事の様で良かったです」

 

「だが、テロン艦と行動を共にしている時点で驚いたもんだ。総統府に報告するだけで寿命が縮んだぞ。おまけで通信では何一つ話そうとしないし……」

 

「見たかねエルク、猛将ディッツにも意外な弱点があるようだ。クダン司令は言わずもがな変わり者だからな」

 

「おい、ヴェルテ!」

 帝都バレラスを走るエアカーに乗るドメル、ガル、そしてヴェルテ・タラン。彼らを乗せた車は一つの揺れも起こすことなく郊外へと走っていく。

 

「提督、1つ、お願いがあります」

 

「ん? 何だね?」

 

「例の特務艦を、私にお貸し願えないでしょうか?」

「! アレをか」

 

「敵を沈めるためには情報が欲しいです。あの艦艇ならば、撃沈されることなく情報を集めるのも可能かと」

 

「確かに可能だ……うむ」

 

 ガルが考えに浸っていると、突然車が停車した。

 

「どうした?」

「親衛隊による検問です」

 マジックミラー越しに見えた外には、親衛隊の軍服を纏った兵が検問を行っていた。

 

「親衛隊の検問です。身分証の提示をお願いします」

 運転手は、身分証代わりにエアカーのサイドガラスを下ろした。

 名将ディッツ提督に軍需国防相のタラン長官、宇宙の狼ドメル中将。有名な面子御三方に思わず親衛隊員は敬礼をした。

 

「失礼しました!」

 

「どうしたんだい?」

「反乱分子の摘発です」

 

「こんなに……無関係の人まで巻き込むな!」

「全員収容します。これはギムレー長官の命令です。どうぞ、お通り下さい」

 親衛隊員に通されて、検問地域を通過する。窓の外には、輸送艇に詰め込まれる臣民が悲痛な顔を浮かべていた。

 

「彼ら全員収容所惑星送りか……いくら何でもやり方という物があるだろう」

「親衛隊は総統直轄の治安維持組織、総統の名のもとに力を行使できる」

 

「権力というのは持たせるべき人に持たせねばならん、その事がよく分かったよ」

 

「正直、自分は親衛隊の傍若ぶりは好きではありません。人前では安易に口にすることは出来ませんが」

 顔を歪めるドメルを見、かすかに顔を曇らせツ2人。何とかしたくてもどうにもできないのが、今の現状だ。

「ドメル。君、アウルのバカと気が合いそうだな」

「今度お会いした時に、話をしてみようかと思います」

 

「そういえば、提督とクダン司令は古い付き合いと聞いたのですが」

「あのバカとは長い付き合いでな、メルダをType nullに乗せるのを許したのは、あいつの指揮下に入るという事が決め手だったんだよ。あいつなら娘を任せられる」

 

「どのような方なのですか?」

 

「変わり者、異端児、変人……そういう言葉がお似合いなやつでな。二等一等とかの区別を嫌って分け隔てなく接するやつだ」

 かなりの言われようだが、それを語るガルの口元は少し笑っていた。変人と言っていながらも信頼しているのだ。

 

「ひょっとしたらフラーケンよりも変わり者かもしれんな」

「それはない。フラーケンと肩を並べる変わり者は本土にはいないよ」

 冷静にタランが補足説明をする。

 

 

 静かに走り続けるエアカーはバレラス郊外の共同墓地に到着した。

 

 

「ここでいいのかい?」

 

「はい」

 

「ああ、例の特務艦のことだが。こちらで回しておこう」

「ありがとうございます。提督」

「それじゃあおやすみ」

 

 ドメルを降ろしたエアカーはそこから静かに立ち去り、ドメルの目の前には広い広い墓地が広がっていた。

 

 

 __________

 

 

 

「ドメル君の言うように、バレラスは変わったよ」

 

「ゼーリックは版図拡大、親衛隊のやりたい放題は目を覆うばかり、副総統はお飾り。そして総統は、遷都を考えておられるらしい」

 

「遷都? バレラスをか?」

 

「……大統合だよ。我々はどこから来て、どこに向かうのか……」

「古い昔話だと、我々は星の海を航海していたようだがな」

「あれは昔話だろう。でも神話、それもイスカンダルとガミラスの先祖らしきものが出ているからただの話とは言えんな」

 

 

 

 

 

「あなたがこの日を覚えているとは思わなかったわ」

「総統命令で一時帰国した。次は銀河系の方に向かわないといけない」

「遠いわね、銀河系」

「ああ、いつ帰れるかは分からない」

 

 妻のエリーサと見つめる墓は、息子のヨハン・ドメルの墓。

 ドメル夫妻の息子は死別しており、こうして眠っている。

 

「ねぇ、国民放送でよく聞くようになったけど……」

「どうした?」

 

「鋼の翼……テロンの宇宙戦艦がここに来ているみたいだけど」

「そのことか。まだ何とも言えないが、少なくとも大マゼラン方面に向かっていることは確かだ。総統からはその戦艦の撃沈命令が下った」

 

「……気を付けて」

「ああ」

 

 

 

 …………

 

『一度身を隠してしまえば、誰も手出しはできなくなります』

 

「やはり隠れるならあそこが最適だね。君に相談して良かったよ」

 

『お役に立てて光栄です』

 

「無事の帰還を祈らせてもらうよ。では、また直に話そうか」

 

 

 

 

「何となくわかったよ。どうやらあの船は、君のもとに向かっているようだよ?」

 

 

 

 

 郊外に静かに雨が降る……その曇り空の隙間には、蒼い星が輝いていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「そうですか、出航が可能に」

「はい。先日、主機関の修理が完了し、始動テストも無事に終了しました」

 

「短い間でしたが、ともに宙を進めた事を嬉しく思います」

「それは、こちらも同じ思いです。オキタ艦長」

 Wunderの艦長室で話をする沖田艦長とクダン司令の顔は少々温和なものだ。

 

「こちらの航路図によると、2.4光年先にそちらの指定した恒星系があります。その宙域に進入し次第、重力アンカーを解除します。その後、そちらは補給基地に、我々は目的の地に向かいます」

 

「また会う事を楽しみにしましょう」

「そうですな。宇宙は広い、ですが船乗りならば宙を進めばいつか会えるでしょうな」

 互いに紅茶を一口飲み、その後は宇宙物理学について語り明かした。

 

 

 

 

「そうか、そろそろお別れか」

「ああ。世話になった」

 一方暁・睦月研究室では、メルダに関わった面々が別れを惜しんでいた。

 

「あーあ、スイカ食べる前に行ってしまうなんてね」

 アスカがニヤニヤしながら話しかけた。

「むぅ、それは惜しいな。いつごろできるのだ?」

 

「うまくいけばイスカンダル到着には出来るよ」

「食べに行く」

「ちょ、食べに行くって、イスカンダルとガミラスってメチャメチャ距離あるんじゃないの?」

 

「そんなことないぞ? テロンの言葉で言うなら、『目と鼻の先』という感じだ」

 

「?! ホントなのユリーシャ?」

「……実はそうなの。なかなか言い出せなくて、ごめんなさい」

 

 

「沖田艦長はこの事を?」

「オキタ艦長には一応伝えたの。でも黙っているようにと言われて……」

 

「後で艦長に聞いてみる。これは地球存続の問題にかかわるから」

「ユリーシャ。とりあえず航海科にこの事を伝えて、そのあとに乗組員全体に知ってもらわないといけない。貴方の言葉で」

 

 

「……そうだね、黙っていた分責任はとるわ。メルダ、サレザーの軌道配置図って持ってる?」

 

「ありますが、それをどうなさるのですか?」

「貸して欲しいの。皆に納得してもらうための証拠が欲しい」

 

「それは……いくらイスカンダルのお方と言えど、軍規に抵触します」

「だよね……」

 

「……うっかり私がここに忘れたりしなければ配置図の確認は無理かと思います。……アカツキ、ツヴァルケの調整がしたい。格納庫に連れてってほしい」

 

「? ……! 分かったわ、手早く済まそうか。リク」

 急にリクの耳元に顔を寄せて、

 

「お願いね」

 

 といって手早く研究室から出ていくと、リクはその真意に気が付いた。

 

 

「ユリーシャ、今のうちにデータを取って」

「え?」

 

「『うっかり私が忘れたりしなければ確認は無理』、自分から見せるのは無理だけど置いてあるのを見られる分には軍規に触れないってこと。急いで!」

 

「わかった!」

 ユリーシャはメルダが「忘れていった端末」に飛びつくなりサレザー恒星系の配置図を呼び出す。

 目的のものを見つけたら、自分のイスカンダル製の端末の送り込む。

(あからさまに演技バレバレなんだよなぁ)

 

 それから数分後、メルダとハルナが戻ってきた。

 

「あ……ここに置いてあったのか。これを忘れてしまったから愛機の調整が出来なくてな、そのまま戻ってきたのだ」

 

「次からは忘れないようにね。それ重要なんでしょ?」

「うっかりしていたようだ」

 そう言いながら端末をしまうメルダはかなりわざとらしい。でも、こういう裏道を使ってこっそりを教えるあたり、なんだかんだあって彼女は友好的なのだ。

 

 

「さて、クダン司令から早く戻るようにと言われているのでな、この辺で失礼する。あとコダイとオキタ艦長にも会っておかなくてはならんのだ」

「そうだな。メルダ、元気でな」

「気を付けてね」

「メルダとドックファイトしたかったわ」

「いや、それは物騒極まりないよ?」

 

 研究室に笑いが溢れ、別れがたい雰囲気になる。だが時間という物はこちらの都合を全く持って考えてくれないのだ。

 

 

「それでは、航海の無事を祈っているぞ」

 そう言うなりメルダはガミラス式の敬礼をして、そのあとに見よう見まねで地球式の敬礼をした。

 それは地球とガミラスの懸け橋となりうる出来事だった。

 

 

 


 

 

 

「ワープ終了。目標宙域に進入しました」

 

「うむ。重力アンカー解除用意。フリングホルニに通達。『まもなく重力アンカーを解除する。準備されたし』」

 

「了解です」

 ワープアウト地点である目的地の恒星系にたどり着いたWunderは重力アンカーを解除して、ガミラス艦隊を係留から解き放った。

 

 宙に浮かぶガミラス艦隊の推進ノズルに淡いピンク色の光が灯り、海洋生物的な印象を与えるガミラス艦はその宙を泳ぎ始めた。

 

 

「フリングホルニから電文を受信しました。『貴艦の航海の無事を祈る』です」

「フリングホルニに返信。『無事の帰還を祈る』」

 

 フリングホルニ率いる101部隊が、ガミラス基地の存在する惑星に降下し始めたのを確認したWunderは、その恒星系から離脱した。

 

「進路そのまま。現宙域から離脱」

「了解」

 

 

「……沖田艦長。お時間よろしいでしょうか」

 いつの間にか艦橋で静かに立っていたのはリクとハルナ、そして申し訳なさそうにしているユリーシャだった。

 

「……分かった。艦長室に来なさい」

 

 


 

 

「なぜ、イスカンダルとガミラスが同じ位置にあることを黙っていたんですか」

 

「……」

 

「応えてください。この船だけじゃなく地球存亡にもかかわってくることですよ!」

 

「おいハルナ! 落ち着け」

「あ、……ゴメン。すいませんでした」

 

 ピリピリとした雰囲気に支配された艦長室。ハルナは怒りを隠せないでいる。

 

「オキタ艦長、もう知られてしまっていることなんです。説明しないと……」

 ユリーシャが沖田艦長に促す。

「そうですね……まず、君たちにこの事を黙っていたことについて謝らせてくれ。すまなかった」

「まず、謝罪はそうなんですが、せめて乗組員の皆が納得する説明をください。ここまでで死者も出ているんです」

 

「……イスカンダルの位置は、サレザー恒星系の第四惑星、そしてガミラスも同じ位置にあり、二重惑星として存在している。互いに重力が釣り合い、この二つの星の中間地点、ラグランジュポイントを中心にして回っている」

 

「二重惑星……それがガミラスとイスカンダルが同じ位置にある理由なの。でも黙っていたのは理由があるからなの」

 

「それは?」

 

「イスカンダルに向かうというのは、同時に敵地に徐々に近づいていくという事になる。次第に敵からの攻撃も激しさを増す。イスカンダルに近づくことは乗組員全員の士気の上昇に繋がるが、敵地に近づくことに対しての恐怖にもなってしまう」

 

「だから黙っていた……それは違うと思います」

 

「……」

 

「本来なら進宙前に、遅くとも太陽系脱出前に座標を公開して、『それでも進むのか』と是非を問うべきです。もし公表がこれ以上先延ばしにされたら、乗員の士気に関わってきますし反乱の可能性も否定できません。彼らはイスカンダルへの大航海に対しては覚悟ができているはずです。ですが……ガミラス星に近づく覚悟は出来ていないと思われます」

 

「今からでも遅くないのか……」

 

「寧ろ遅いくらいですが、マゼランに入ってから公開するよりはいいと思います」

「……ユリーシャさん。真実を伝えるときが来たようだ。暁君、すまないが当直の航海科以外全員に集合を掛けて欲しい」

 

「……沖田艦長。必ず、あなたの言葉で真実を話してください」

 そう言い残すと、ハルナは敬礼して艦橋に向かった。

 

「沖田艦長、ユリーシャ。黙っていた理由は分かりました。ですが、敵地に近付いているという事で怖気ずく様な人は、この船にまず乗れないと思います」

 握られた拳は、震えていた。

 

 

 


 

 

 

「イスカンダルとガミラスが同じ位置に?!」

 

「そうだ。君たちにすまないことをした」

 そう言い、沖田艦長と、ユリーシャは頭を下げた。

 

「ちょっと! 頭を上げて下さい艦長、ユリーシャさん!」

「ここに来て納得がいきました。銀河系から離れてきたのに何でガミラスの基地が存在する恒星系があるのか。大マゼランから銀河系に手を伸ばしてきているなら、中継基地という形で複数の恒星系に基地が設営されていてもおかしく無いです」

 

 島が頷きながら状況を噛みしめていた。

 

「行き先が分かったならそれに合わせて航路を組み立てるだけです。ユリーシャさん、艦長、航路設定を行いますので協力をお願いします」

 

 

「分かった。……すまなかった」

 

 示された行き先、それは敵地の中枢。

 だが、それに慄く者はいなかった。

 

 

 ___

 

 

 

「沖田十三……とんでもないことを黙っててくれましたねぇ」

 

「イスカンダルとガミラスが同じ位置に……洒落にならないスクープね。盗み聞ぎしていたあなたも洒落にならないけどね」

「保安部は詮索が大好きですからね。騒動でも起きなければひたすら閑古鳥が鳴きますよ」

 新見と伊藤はどこかの小部屋で内緒話をしていた。

 

「さて、極上の旨味のネタは仕入れましたが、問題は何時何処ででやるかという事ですよ?」

「他の恒星系……せめて居住可能惑星が近くにあることが最も望ましいね」

 

「ではその時までネタは寝かしておくことにしましょうか。それと人集めも大事ですよ?」

 

 

 ___

 

 

 

「総員、艦長の沖田だ。私は君たちに謝らなければならない。イスカンダルまでの航路はユリーシャさんの協力で航海科で手探りで作成されている。だがイスカンダルの位置情報はすでに判明している。イスカンダルの位置は大マゼラン星雲のサレザー恒星系、第4惑星。そして同じ位置にガミラス星も存在している」

 

「私には君たちに問う権利はない。このような重要なことを黙っていたのだからな。だが私は皆に問いたい。イスカンダルに向かうということはガミラスに近づくことと同意となる。それでも向かうのか、皆の意思を伝えて欲しい。以上だ」

 

 

「生真面目ですね、艦長。そんなことしなくても、この船にはそれで怖気ずく様なヤワな人はいませんよ」

 

「筋は通しておかなくてはならん。黙っていた分はな」

 目深にかぶった艦長帽のせいで目元が良く見えないが、引き締まった眼をしていた。

「そういう所、良いと思います」

 

 

 

『技術科、全員の意思を確認』

『船務科、全員の意思を確認しました』

『戦術科、異論なし』

『こちら機関室。儂らは窯の面倒を見て航海を支えるだけじゃ、艦長』

『航海科、我々はイスカンダルに向かいます』

 

 

 意志は固い。

 

 

 地球を救うためにイスカンダルに向かう、救世主たるWunder乗組員は同じ方向を向く。

 

 目的地はまだ見えないが、確かにあるからだ。

 

「ありがとう」

 

 

 そう締めた沖田艦長は、放送用マイクを静かに置いた。

 

 


 

 

「古代、お前はどう思う?」

 

「イスカンダルとガミラスが同じ位置にあることか? 驚いたけど、今思えば、『知らなかったから航海を続けることが出来た』んじゃないかな?」

 Wunderアレイアンテナ基部の観測室は、時に談笑の場としても使われている。

 星を見ながら話をするのはロマンチックだが、そんなことで片付けられない程艦内は忙しくなっている。

 そんな忙しさの中一時の休憩を求めてこの部屋にやって来たのが、戦術長と航海長だ。

 

「知らなかったからか……航海科では大騒ぎだぞ? 急に目的地が決まったからバラン以降の航路も考えないといけないからな」

 

「バランとイスカンダルの間がまだ分からないのにか?」

 

「それでもだ。でも出来ることと言えば、恒星系をなるべく通れる航路にしておくことかな。主計科いわく、オムシスに回す有機物が減ってきているみたいだからそこもカバーできるようにしないといけない」

 

「流石に美味しい物食べれなくなるのは困るからな」

「一応いざという時の物もあるみたいよ?」

 宇宙船独特の、圧縮空気の抜ける音が響きドアが開いた。そこにいたのは森だった。

「森君? それって何だい?」

 

「栄養食みたいな感じなの。睦月さん曰く『ディストピア飯』って言っていたけど」

「……それ何?」

 

「だから、ディストピア飯」

 

「……できれば食べたくないな、気のせいか嫌な予感しかしない」

「島、俺も同感だ」

 

「それはそうだけど、イスカンダルに近付くのはガミラスの攻撃に合う頻度も多くなることなんだけど、大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ。前に睦月さんが撃ったカミナリサマを技術科に頼んで量産の準備を進めてもらっている。あとは適度に火器の作動チェックしたりとかかな。航空隊にも頼んで模擬戦の頻度を多くしてもらった。それと……コスモゼロの改造だな」

 

「コスモゼロの改造?」

 

「暁さんに名案があるみたいで、真田さんも絡んでやっているみたいだ。なんか『変態機動が出来るようにする』みたいだ」

 

「変態機動……?」

「多分物凄い機動力の付加だと思うけど……」

 

「人が乗れる戦闘機だよな? それ」

 島が怪訝そうな顔をして聞く。真田さんはもちろん分かっているが、ハルナもそれに劣らぬ技術者だという事は島もよく知っている。あんな2人が絡んだら「バケモノ」が生まれるとでも思ったのだ。

 

 

「ちゃんと乗れるようにするみたいだよ?」

「はぁよかった」

 

「??」

 森が胸をなでおろしているのを見て古代は疑問を持った。

「古代君もコスモゼロ乗るでしょ? 危険な機体に乗ったりするのはやっぱり危険だからね」

「確かに操縦できなきゃ意味無いからな」

 

「一回古代君にシミュレータやらせてもらったけど、通常の状態でのコスモゼロすっごく速かったもん」

「森君コスモゼロのシミュレータやったの?」

「小惑星にぶつかって爆発四散したけどね」

 

「宇宙で衝突事故……クックック」

「むぅ~だって初めてだったんだから」

 島にその事実を笑われて膨れる森を見て、苦笑いする古代であった。

 

 

 

 


 

 

 

 

『時空変動20から70へ、到着予定時刻に変更なし』

『回廊形成を確認。第六空間機甲師団、到着します』

 

 バラン星……古代アケーリアス人が残した遺跡の一つである「超空間ネットワーク」のハブステーションであるこの星は、ガミラスの重要拠点の一つである。

 

 

 その星は赤黒く、とても生物がすむような星ではない。だが、アケーリアスの人々は、「わざとここにした」のではないだろうか? 

 

 この広い広い宇宙でも類を見ない見た目を持つこの惑星にハブステーションを置くことから、「便利なのでどうぞ使ってください」という意図すら感じ取れる。あたかも、後続の文明の発展を願う形でこのような奇妙な事を行ったようだ。

 

 ガミラスが分かっていることと言えば、「古代アケーリアスは、自らの似姿を宇宙全体に蒔いたらしい」という事。

 そして超空間ネットワーク以外にも複数の遺跡を「よく目立つ形で」残したのだ。

 

 この便利な高速道路じみたネットワークを現在管理して間借り人となっているのが、

 

 

 

「ガミラス」である。

 

 

 _____

 

 

 

 ドックに着艦指示が響き渡る。緑の船体が次々に降下していく。

 

 

 バラン鎮守府航宙艦ドックに着艦した第六空間機甲師団、その旗艦たる「改ゼルグート級一等航宙戦闘艦 ドメラーズ三世」から現れたのは上級大将に昇進したドメルだった。

 

 新任司令長官のご到着に不満げな顔が張り付いたゲール……彼はドメルの指揮下である「副司令」として今後は責務を全うしていく。

 ドメルは周りの軍人から見ても出世スピードが速い。おまけにガミラス臣民からの人気が高いのもあって、閣僚や他の派閥の軍人からは良く思われていなかったりする。

 

 

「デスラー総統からの命令を伝える。タム12の8を持って小マゼラン防衛司令官ドメルを銀河方面作戦司令長官に任命する。なお、前任のゲールは副司令としてドメルの指揮下に入れ。以上だ」

 

 互いに敬礼をして命令の伝達が行われ、司令長官の任は正式に引き継がれた。

 

 やはり納得のいかないゲールは悔し顔。ドメルの背後のドメラーズ三世が覆しがたい現状、崩しがたい壁に見えてしまう。

 

 

 

「閣下、フラーケンより入電。『狼は空腹』です」

 

 一見すると何のことだか分からない通信に、ゲールは眉をひそめるが、事情を知っているドメルはニヤリと笑った。

 

「何かあったのですか?」

 

 

「……猟犬が獲物に喰い付きたいらしい。ハイデルン、返信を頼む。『狼よ喰らい付け』」

 

 その返信内容に含み笑いをしたハイデルンは姿勢を正して、

「なるほど、フラーケンはウズウズしていることでしょうな」

 ドメルの参謀を長年やっているだけの事あって言いたいことをすぐに察して、敬礼を返した。

 

 

「フラーケン……UX-01ですか!」

「猟犬にはうってつけだ」

 

 静かに迫る猟犬……それは異次元の狼。

 

 

 


 

 

 

「おやっさん。イスカンダルとガミラスが同じ位置にあるってこと、本当なんですよね……?」

 

「真実じゃろうなぁ。艦長の声聞けば嘘じゃないという事がすぐわかるわ」

 

「でも、何ですぐ近くにあるのかまでハッキリしていなんですよ? もしかしたらイスカンダルとガミラスがグル……なんてことも」

 

 薮は腕は確かなのだが気の弱さと疑心が目立つ。

 波動エンジンでワープが出来るのかどうかも半信半疑だったし、そもそもメ二号作戦時にイスカンダルから宇宙船が来るのかどうかも疑っていた。

 

 

「ならイスカンダルとガミラスがグルとした場合、何でお嬢さんが乗っているこの船を攻撃する?」

 

「そりゃあグルであるという事を隠すためとか……でもグルであるということも証明できないですし……」

 

「考えても埒が明かん。そういえば今日は新見君のカウンセリングじゃったろ? 行ってこんかい」

 

「そうでした。ではお先に失礼します」

 そう言って薮は、機関室から出ていった。

 

 

 


 

 

 

「やっぱり心配なんです。この船どこに行くのかなって」

 

「そう……ありがと、よくわかったわ」

 閉鎖空間での長期生活というのは見かけでは分からないが精神面にストレスがかかる。

 そのストレスの発散としてWunderには様々な施設が設置されているが、「それでも足りないから」という新見の意見でカウンセリングが開かれている。

 

 

 はたから見ればカウンセリングに精を出しているお姉さん。

 

 でも真実は、贖罪計画の手先を増やしたい魔女。

 

 

「いい感じですね、イスカンダルの位置問題が良い感じに不安をあおってます」

 

「沖田艦長にはある意味感謝しないとね」

 

「老婆心で忠告しておきますが、反乱起こしたときに一番脅威になるのは技術科ですよ? 特にあの白髪コンビ。この船の生みの親ですし」

 

「そうね、あの2人には悪いけどアレを回収してから軟禁しておかないとね」

 

「沖田艦長と副長は力で軟禁できますが、さすがにあの2人は入念に準備しないといけません。ココが鋭すぎます」

 そう言って伊藤は自分の頭を指さした。

 

 


 

 

「目標を確認した。……確かにでかいな」

 

「こんなに堂々と飛んでて、こっちに見られていることも知らずにねぇ~」

 

「艦長、ドメル上級大将から入電。『狼よ喰らい付け』です」

 

「フッ。魚雷発射管一番二番開け」

 

「発射管開けェ!」

 

「ゴーサインが出たか……狩りを始めよう」

 

 

 狼、猟犬は舌なめずりをして血に飢える。肉に飢える。獲物に飢える。敵に飢える。

 

 今、その目に映るのは誰も見たことのない非常に興味深い獲物だ。

 

 

「魚雷一番、二番発射ァ!」

 

 

 そして、牙が放たれた。

 

 

 そこは決して誰もたどり着けない宙の底

 そこに潜むのは、一匹の狼だった。




かなり早い段階でイスカンダル座標の公開を行いました。

それが吉と出るか凶と出るか、どうやらどちらでもないようですね


それと、9月から基本情報技術者試験の勉強が佳境を迎えるので、1ヶ月間の休載をすることにしました。

10月になったらまた連載を再開します
2話くらい出したら重要な回を投下します。ご期待下さい♪♪


それでは少しの間さよならです
(^.^)/~~~
I'll be back~


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宙の底なし海

皆さんお久しぶりです帰ってきました。

試験に無事合格したので、試験期間中に書いていた4作を順番に上げていきます。
今回は、次元潜航艦の話です。


なお今回の話は、原作重視で書いていたので視点がコロコロ変わります。
そのため、視点が変わるところでは

【side○○】と書いてあります。

何も書いていないところは、「三人称のナレーション視点」となっています。

初期稿から調整しましたが、もしも読みにくかったら教えてください。
一旦戻して調整して再投稿します。


 

 

「次元潜航艦UX-01は総統直轄の特務艦。よく配属変更の許可が総統府から降りましたな」

 副司令に降格したゲールが驚いているのはほかでもない。「あの次元潜航艦」が総統直轄ではなくドメルの手元に今あるという事だ。

 

 

 どんなマジックを使ったんだ? 

 

 

「そんなものは出ていない」

 

「何ですと?!」

 そりゃあそうだ。総統の裁断がないと配属の変更が出来ないはずだ。

 少数製造艦……訂正しよう、たった一隻しか就役していない特務艦艇であり、兵器開発局の極秘の試作兵器の一つなのだから尚更だ。

 

「大丈夫ですよ副指令殿」

 

 どうも「副司令」という肩書が気にいらないゲールにとって、ドメル司令は目の上のたん瘤ともいうべき存在だ。

 しかし手を下そうものならドメル幕僚団にタコ殴りになるであろうというのは、いくらゲールと言えどもわかっていた。

 

 要するに、「自分からではどうにもならないのだ」

 

 

 

「猟犬の飼い主はディッツ提督ですからねぇ」

 

「つまり、ディッツの親父がうんと言えば問題はなし」

 

「問題なのはフラーケンの方だ」

 

「それ言えてる。奴は扱いが難しい」

 

 

 

「私のモットーは臨機応変だ。覚えておきたまえ、ゲール君」

 

「ざっ……ザーベルク……」

 ドメルの愛鳥が勢いよく頭の上に飛び乗り、文字どおり「目の上のたん瘤」となった。

 

 

 

 

 

 

 

 魚雷が駆ける。

 群れとなったその牙は、その全てが微惑星に着弾していく。

 

 

 第二種戦闘配置から四時間、Wunderは原始恒星系のガスに紛れ込み、姿を隠していた。

 

 

「敵空間魚雷2、微惑星に着弾」

「また探りを入れてきたか……」

 

「この原始恒星系の星間物質に紛れて隠れていれば、敵はこちらの位置を特定することは困難です。艦長の判断は、的確でした」

 

 

「また一本きます。……着弾。10時の方角」

 

「いったいどこから……レーダー、発砲位置は?」

 

「ダメ、今度も特定できなかった……」

 森が申し訳なさそうに答えた。

 

 このような魚雷攻撃はここに隠れてからもう何度も来ている。

 それなのに発砲位置が特定できていない。

 

「ステルス艦……ってことか」

 

「宇宙でステルス……?」

 全周スクリーンの宙に目を向けながらハルナがそう呟く。

 航宙艦艇には当然のようにレーダーがついている。Wunderについているレーダーはとびきり強力なものなのだが、艦影は無し。

 

「これって……うーん……」

 

 

 姿の見えない敵影に皆耐える。

 沖田艦長も、耐えていた。

 

 


【side リク】

 

 

「それじゃあ次、遠隔操作のミサイルユニット群による攻撃は?」

 

「ありえないにゃ、ここまで20発近くやって来てるにゃ。数揃えればできるかもしれないけど私が敵ならやりたくないにゃ。疲れる」

 

「それじゃあ次、こちらの索敵範囲外からの攻撃は?」

 

「難しいにゃ。いくら魚雷がフレキシブルに曲がっても、アレ全部いろんな方向から撃たれているんにゃ。撃つたびに艦を移動しているとすると相当移動していることになるにゃ。長距離移動すればWunderの自慢の目が捉えてるにゃ」

 

 解析室に詰めていた僕とマリと赤木博士は、この謎の攻撃がどこからどのような方法で行われているのかを考えている。

 そろそろ頭が煮えてきそうだ。

 

 タッチパネルには無数の方法が書かれては斜線で消されている。

 考察開始から3時間。そろそろわかってもいいころなのだが……

 

 

 

「……こうなったら突拍子もない案出すしかないわね。2人とも、次元断層覚えている?」

 

「はい、あの波動機関殺しの空間ですよね」

 

 

「もしもあの空間、もしくはアレによく似た空間を航行可能な艦艇がいたら、こっちに見つからずに航行することも可能なはずよ」

 

「そんな、あんな死の海域を通れるやつなんて……」

 

「ガミラスの科学力はいまだに分からないことが多いから、正直何でもアリな文明と考えた方がいいわ。私たち基準で考えない事ね。それに、波動エンジンの開発で亜空間の存在が実証されて、亜空間の潜む敵の存在も想定されたんでしょ?」

 

「まぁそれはそうなんですけど……」

 

 

 

 ガミラスの艦艇の種類には、実際まだ分からないことが多い。

 一応異形じゃなく、ビーム砲塔、魚雷発射管、艦橋、推進システムなど、地球の艦艇に類似している部分は多々ある。

 

 でも「これがガミラス艦の全て」というわけではない。その良い例がフリングホルニだ。

 

 

 クダン司令によると、「ゲルバデス改級」という艦のタイプらしい。

 明らかに雷撃戦を重視していなさそうな見た目だった。

 

 まあ船の用途からするとそりゃあそうだったんだけど、原型となった船を想像してみると明らかに「空母っぽかった」のだ。

 

 

「空母で雷撃戦するとは到底思えない。いや、でもやる気満々なくらいに魚雷発射管あるけどね……」

 

 ……と思ったのだが、まだ艦種がありそうな感じがあったのだ。

 

 ガミラスのドクトリンが一本に定まっているのか、はたまたそれぞれ派閥が掲げているドクトリンが違うのかは分からないけど、主としたドクトリンとは思想の違う艦、もしくは実験色の強い艦がいくつもあるという事が予想できた。

 

 

 

「にしても次元断層を航行できる船なんてどうやって調べるんですか? シーガルで哨戒します?」

 

「……まず、敵はこちらの位置を探り探りな状況なの。でも魚雷をこの近くの宙域に撃ちこめている。つまり、この辺の宙域で顔を出しているの。例えば……潜望鏡のようなものを使ってこちらの位置を探ったりね」

 

 なるほど、と思ってしまう。聞けば聞くほど突拍子もない仮説だが、仮称「何でもあり文明」を相手してるだけあって、それも後押しして「ありえる」と思ってしまう。

 

 

「そして敵艦が通常動力型潜水艦に近い物だと仮定すると、どうしても無限に潜っていられるわけじゃないのよ」

 

 

「「???」」

 いきなり航宙艦船から旧時代の潜水艦の話されても困る。どう繋げるんですか? 博士? 

 

「旧大戦、もしくは2000年代の潜水艦はどうやら、核分裂炉を搭載した原子力潜水艦と、ディーゼルエンジンとモーターやバッテリーを併用した通常動力型潜水艦という分類に分かれていたわ。そして、敵の潜水艦……いや、『次元潜航艦』は原子力潜水艦タイプではないと思うわ」

 

 

「……それって、敵の主機がWunderの波動エンジンに準じたものだからという事ですか?」

 

 

 話が見えてきた。敵艦の主機から敵がどういう艦なのか分かるという事みたい。

 今攻撃をしてきている船が「ガミラス星からやって来た」と仮定したら、僕としてはワープ機能が欲しい。

 ゲルバデス改級が空母っぽかった事もあって、「輸送艦みたいな艦がいてもおかしくない」という事もあるから断言はできないけど、もし単独で来たのならワープ機能は必須だ。

 

 距離的にどう考えても無理だ、ここまで来るのに何万年もかかる。

 

 

 

「そういう事。ガミラス星の波動エンジン……まぁガミラスエンジンも次元断層内部で影響を受けるなら使えない。なら別の『次元断層航行用機関』を使う。あの空間からエネルギーを取り出すのは……波動エンジンが無理だったから恐らくガミラスも不可能に近いわ、恐らく通常空間航行時に貯蓄しておいたエネルギーを使って航行しているのかもね。だから、次元潜航艦が通常動力型潜水艦に近いと思ったのよ」

 

 

 

 要するに、ガミラスの波動エンジンがディーゼルエンジン、次元断層航行用機関(仮称)がモーターの役割をしてるという事。

 ガミラスの波動エンジンであらかじめ作っておいたエネルギーをコンデンサーに溜めておいて、そのエネルギーを使って次元断層を航行する。

 

 

 

 なるほど、確かに通常動力型に近い。

 

 

 

 この場に真田さんがいなくて良かった。

 議論が加速度的に膨張して手が付けられなくなる。

 

 でも、次元潜航艦かぁ。ホントにいるという証拠が欲しいな……

 

 

 


 

 

 

「亜空間ベントを閉鎖、深度20から30。次元圧正常」

 

「位相パラメーター異常なし」

 

「次元波動パターン感知できない」

 

 

 

「……尻尾を出さないな」

 

「連中、もうくたばっちまったんじゃないですかぁ?」

 ハイニが癖のある口調で暇そうに口に出す。

 

「臆病で我慢強い、おまけに賢い鼠。狩りのし甲斐がある」

 

「こうも星間物質が多けりゃ、空間航跡のトレースも出来やしないすよ。いまんところ当たってない感じですし」

 

 

「狩りは長く楽しむ物だ」

 

 周囲には死んだ船が漂う次元断層……そこに潜む一匹の狼は、静かに行動する。

 

 さながら潜水艦。忍者はどこへ征く……

 

 

 


【side ハルナ】

 

 

「微弱な次元震……?」

 コンソールに表示された観測結果を見て真田さんはそう呟いた。

 

 

 ……次元震って何? 

 

 

「真田さん、次元震って何ですか?」

 聞きなれない単語に私は疑問を覚えた。

 

「そのままの意味だ。次元境界面が揺れている、さざ波が立っているという事だ。今までこんなもの見たことがないのだが……」

 

 真田さんにしては珍しくうんうん唸ってる。と言うより、次元に波が立つようなものって何かな? 

 自然に起こる物なのかな? 

 

「この波形の形……ばかに一定ですね」

「そうだな。これがもし自然に起こった物ならは気味が悪い、ありえないと思うが人工的なものなのかもしれない。……この波形を解析室に送ろう。何かわかるかもしれない」

 

 真田さんがデータを送ってから10分後……解析室から一報が届いた。

 

『解析室から戦闘艦橋へ。真田君、ちょうどいい時にちょうどいいデータ送ってくれてありがと。敵の正体、なんとなくわかって来たわ』

 

 

 

 赤木博士のご機嫌そうな声が全周スクリーンの内壁に響く。いや、データ送ってからそんなに時間経ってないよ? 

 

 

 

「赤木博士、どういうことですか?」

 真田さんが珍しく驚いていた。もちろん私もよ? 10分で敵の正体見つけるとか神様か何かかな? 

 

 

『敵は恐らく、次元断層から攻撃していると思われます。そして敵の正体は次元境界面に任意に回廊を形成して、通常空間と次元断層空間を自由に行き来することが可能な艦艇。宇宙の潜水艦……すなわち「次元潜航艦」です』

 

 

 急に音声通信から映像通信に切り替わって赤木博士グットサインと希少なドヤァ顔が映る。

 赤木博士は自信満々に説明してたけど……いや、突拍子もなさすぎる。そしてこうも思った。

 

 

 

 次元断層に潜めるなんて無敵じゃん!! 

 

 

 

 ……ええその通りです。

 断層に潜んでいられる時間に制限がないならこっちは手出しできない。向こうの武装の量によるけど、その気になれば一方的にボコボコにすることも出来る。

 幸いなのは、仮説上では無限に潜っていられるわけではないという事。

 エネルギー切れになる前に浮上して主機でエネルギーを発生させてコンデンサーに溜めないといけないという事。

 

 ガミラスにもトンデモ兵器あったんだぁ……

 

 

「じゃああの次元震は、次元潜航艦の潜航音だという事ですか?」

 

「流石真田君ね。あの次元震はいわば彼らの足音よ」

 真田さんが言うには、あの次元震は次元潜航艦が断層内を航行しているときに漏れた音らしい。

 潜水艦は静粛性が命。でも穴があったわね。

 

 

「艦長、至急対潜戦闘に移ることを進言しま……艦長?」

 そう進言して上を見ると、胸を掴んで蹲る艦長の姿があった。

 

 

 

 

 

 そして、急にその場に倒れこんだ。

 

 

「艦長!!」

 

 


 

 

 戦闘艦橋内で急に倒れた沖田艦長は医務室に緊急搬送され、検査を行っていた。

 

《臓器不全の進行が見られます》

 

 身体スキャン検査によると、肺と心臓の一部に機能不全が見られる。

 

 

「これは……先生」

 

「手術じゃ。すぐに準備にかかってくれ」

 

「はい!」

 

 

 その様子を陰でこっそり見る者が1人。その影はすぐに立ち去ったが、嫌みを含んだ空気がその場に残った。

 

 

 ____

 

 

 

「沖田艦長が復帰されるまでの間、本艦の指揮は副長である私が執る。これより、敵を次元断層内への潜航能力を持った艦艇、仮称『次元潜航艦』として対応する。新見君は森君と共に索敵にあたってくれ」

 

「はい」

 

「暁君は次元震の波長に注意してくれ。少しでも波長に変化があったら報告を頼む」

 

「わかりました」

 

(異次元に潜る船……)

 

 

 未知の敵、姿の見えない敵に焦りを募らす古代だった。

 

 

 

「艦長、今助けますぞ」

 緊急手術の準備が整った手術室。液体呼吸システムの水槽内に横たわる沖田艦長に向けて、その決意を放った佐渡先生は、手術を開始した。

 

 

 慌てず急いで慎重に、その体にレーザーメスを入れて術式を展開していく。

 

 

 


 

 

 

「こちらはエネルギーを無限に供給できる、対して相手の無敵時間は制限あり。いずれ尻尾を出すわ」

 

 索敵を行う新見がそういった。

 

 そう、要は我慢比べなのだ。

 

 

 戦闘配置からすでに5時間。戦闘艦橋に詰めている面々にも疲労の色が見え始めた。

 

 戦闘艦橋の非常口は、沖田艦長を医務室に搬送した時から開放している。そのため人員の交代も可能。

 

 オマケに緊急搬送時に無重力にしたのもそのまま。

 

 

 

 

「肩に力が入っとるぞ」

 機関室から交代に入った徳川機関長に、見抜かれていた。

 姿の見えない敵、沖田艦長の緊急手術。イレギュラーが重なりどことなく力が入ってしまっていた。

 

 

 誰かに言われないと気づかない程疲労を蓄積していたことに気づいた古代は、一度大きく伸びをした。

 

 

「待つのは辛いな」

 

「……はい」

 

 ___

【side ハルナ】

 

 

 

「ハルナ、そろそろ交代した方がいい」

 そう言って戦闘艦橋に入ってきたのは、解析室にこもっていたはずのリクでした。

 

 

「私は大丈夫、リクは解析をお願い」

 次元震モニターと睨めっこしてそうやんわりと断ろうとしました。

 でも、それで首を縦には降らないという事は分かってました。

 

「ここ数ヶ月安定しているんだから、無理はしちゃいけない」

 誰にも聞こえないようにリクは私の耳元でそう言いました。

 

 

 

 ……あの事を言っているんだ。私の事は自分が一番よくわかっている。

 でもリクに結構迷惑をかけたことがある。

 

 

 

「……わかった。交代するわ。あとお願いね」

 

 流石に迷惑をかけるわけにはいかないから、ここは意地を張らずに素直に受け入れることにした。

 

「あ、ハルナ。またなんか反応あったらそっちに送るよ」

「わかったわ」

 そう言って、無重力空間を器用に泳いで艦橋から出ました。

 

 

 リクの前では言わなかったけど、やっぱりストレスとか疲労とか、私からしてみるとなるべく避けた方が良いものがそれなりに溜まってました。

 

 リクが察知していたのかは分からないけど、そういう負荷の少ない方に回れるなら甘んじて受けようかな。

 そう思って、解析室まで歩くことにしました。

 

 道中に通りかかった手術室、そのドアの上部で赤々と輝く「手術中」の三文字

 

 

「成功しますように……」

 

 

 ドアの向こうで奮闘する佐渡先生と医療スタッフの皆さん。そして、何の病気かは分からないけど今まさに戦っている沖田艦長にお祈りをしました。

 

 


 

 

「これだけ待っても出て来ねぇんだ、もうとっくにくたばっちまったんじゃねすか?」

 ハイニが「そろそろ退屈になってきた」という感情を隠さずにフラーケンに放った。

 

 

「そうだな。そろそろかくれんぼにも飽きてきたころだ。カマをかけてみるか」

 そう呟くフラーケンの目は獲物を狩る狩人だった。

 

 

「デコイの準備だ。釣られるかな?」

 

 

 否、その目は狼の目だ。

 

 _______

【side リク】

 

「副長にお聞きしたいことがあります」

 

「古代、よさんか」

 徳川機関長が止めに入るが、古代くんは止まらない。

 隠し事されたら気になるのは分からなくはないけど、時と場を考えたほうが……

 

「艦長のご病気は何なんですか?」

 それでも止まらない古代くんの核心を衝くその問いは、1つの反応によってストップさせられた。

 次元震モニターが一つの波長を感知した。

 

「次元震モニターに反応あり! 次元断層内部で何か動いてます」

 新たに観測された次元震はだんだんと小さくなっていくものだった。まるで波が引いていくのようだ。

 

「森君、レーダーの方はどうか?」

 

「! 索敵範囲ギリギリの宙域で艦影らしきものを確認!」

 それは急に現れた反応だった。

 

 この奇妙すぎる反応はすぐさま解析室に送られ、その結果は即座に報告された。

 

 

『まず、いきなり現れたレーダー反応は恐らく次元境界面から何かが浮上ものと思われるわ。それと例の次元震の事なんだけど、一応ここから離れている反応なんだけど妙なのよ。先に観測した波形に比べると心なしか振幅が弱いのよ。ごめんなさい、これ以上は断定できないわ』

 

 本当に敵が帰ったのかは分からない。この宙域にまだ次元潜航艦が潜んでいる可能性は捨てきれないのだ。

 

「敵さん、あきらめて立ち去ったんじゃないですか?」

 

 長い長い戦闘配置にくたびれたのか、南部が大きく伸びをしながらそう締めようとする。

 

「いや、まだ敵が去ったと断定するのは早い」

 

 それに待ったをかけたのは古代だった。

 

「何か根拠でも?」

 

 新見が食い入る。

 

「根拠は、ありません。あえて言うならば、直観です」

 

「……血は争えないわね」

 何か懐かしい物を見る目となった新見。

「え?」

 

「その点については同感と言ったの。副長、ワープ機関のサブシステムとWunderアレイアンテナの重力振発振を、亜空間トランスデューサーに転用してみてはどうでしょうか?」

 

「新型の亜空間ソナーか」

 

「以前次元断層に迷い込んだ際に取得したデータからパラメーターを設定すれば、次元境界面を越えてピンを打つことが可能です」

 

 

 

 

 ……何やら難しい事を言ってるけど、要点だけつまみ食いして簡単に説明するとこうなる。

 

 まず、この宇宙空間を洋上。次元断層を海中とする。

 旧時代の洋上艦は、海中に潜水艦が潜んでいないかどうかをソナーを使って調べていた。

 

 その場合、自分から音を出してその音が跳ね返ってきた時間差や音の大きさとかを基にして海中の地形や潜水艦の有無を調べていた。

 

 そして、今回それを宇宙空間で、しかも次元断層と言う手の出しようのない海中に潜む敵に向けて行おうとしている。

 次元をごく小規模に揺らす……もしくは極小出力で重力震を発振することで、越えられない次元の壁を飛び越えてしまえる。

 

 その跳ね返りを使って次元潜航艦を探知するのだ。

 

 

 

 

「次元アクティブソナーですか。それならば、断層内に潜んでいる敵艦を索敵出来ますね!」

 

 

 相原さんも納得したような笑みを浮かべる。

 ただ、アクティブソナーだと一つ問題点がある。

 

 それはこっちから音を出すという事。

 

「ですがそれは、本艦の位置を敵に露呈することに繫がります」

 

 古代くんもそれが分かっているようだ。

 

 その通り、さっきも言ったけど「アクティブソナー」と言うのはこちらから音を出して潜水艦を探索するという物。ホントの洋上なら何ら問題はないが、その性質上今回のような敵が本当に立ち去ったのか不確かな宙域で、尚且つこちらが頑張って隠れている状態で使うのはリスキーだ。

 

 

 たとえるなら……

 

 

「おーい!! 僕はここに居るよ~!!!」

 

 

 ……とかくれんぼしている時に大声でアピールしているようなもの。

 

 さっきのレーダー反応と次元震の事もあるから、敵が聞き耳を立てているかもしれない。

 今回は僕も不賛成だ。

 

 

「流石にこれはリスキーかと思います。かくれんぼしている時に大声を上げるようなものです」

「自分は、シーガルによる対潜哨戒を具申します」

 

「……新型の亜空間ソノブイか」

 

 古代君が使おうとしている物に関して、僕もピンときた。

 赤木博士と真田さん謹製の亜空間ソノブイだね。

 

「はい、アレも原理は同じですから。これなら、船の位置を敵にバラすことなく次元潜航艦を探すことが出来ます」

 

 

「理論上はね。でも、こんな濃密な宇宙塵の中でシーガルを飛ばすというのは、自殺行為です!」

 

「宇宙塵は濃い部分と薄い部分があります。もちろん薄い部分を通りますし、それも高速飛行するわけでもないので、『自殺行為ではない』と思いますよ?」

 

 古代君も譲らない。

 お互い正しいと思ったことを通そうとしている。

 

 否、古代君は「間違っていると思ったことを正そうとしている」

 

 

「ではあなたはその危険な任務に誰を志願させるつもりなの?」

 

「自分がやります!」

 

 

「ダメだ! これは確認のために行うだけだ。この場合、新見案の方が適している」

 

 

 真田さん、たまに合理に頼りすぎている時がありますよ? 

 僕は内心そう思いながら着席する。

 

 

『艦橋。こちら佐渡じゃ。艦長の手術は完了した。……成功じゃ』

 

 

 ピリピリしている艦橋内に一時の安堵が流れる。

 

「どうだろうか真田君。艦長の様子を見に、ここから誰か行かせてみてはどうかな?」

 

 

 徳川機関長、何を考えているんですか? 

 おおかた古代君絡みかなと思うけど……

 

 

「こっちは任せろ」

 

 ああ、島君。君もか。

 どうやら古代君を行かせたいようだね。

 

 

 

 ……なら、こっちも準備しようかな。

 

 

 


 

 

 

「ん? 睦月さんから? なになに……」

 

 

 To 榎本勇

 From 睦月リク

 

 件名 【古代君そっち行くかもしれません】

 

 榎本さんお忙しいところスミマセン、睦月です。

 

 さっき古代君が艦橋から出ていきました。上から話が下りてきていると思いますが、今敵の次元潜航艦と戦闘してます。

 

 あくまで予測ですが古代君はシーガルに亜空間ソノブイを積載して対潜哨戒するつもりです。

 上から指示降りてきてないんですが、準備の方をお願いします。

 責任なら僕が何とかします。

 

 

 

 

 ……なるほどなるほど。

 

 

 えーと返信をっと

 

 

 

 

 件名【Re 古代君そっち行くかもしれません】

 

 アイアイサー

 既に準備してます。ピッチ上げますね

 

 

 

 ________

 

 

 

 

「あれ? 睦月さんから?」

 

 航空隊控室で端末を弄っていたアスカに届いたのは艦内ネットメールだった。

 

 

 To 式波・アスカ・ラングレー

 From 睦月リク

 

 件名【お願いしたいことがある】

 

 

 アスカちゃん? 一つ頼みたいことがある。

 今ガミラスの次元潜航艦艇と戦っているけど、思ったより良くない。

 

 そこで古代君がシーガルに乗って無許可で対潜哨戒をするつもりだ。

 

 でも一つ問題があって、今いる原始恒星系は宇宙塵が多い。

 古代君の操縦技術を疑うわけじゃないけどちょっと心配だ。

 

 そこで、アスカちゃんに古代君のサポートを頼みたい。

 でも宇宙塵の中を飛ぶことになる。

 少々危険だから無理にとは言わない。

 

 

 

 

 

 ……「ユーロ空軍、舐めないでくださいね?」っと

 

 

 件名【Re お願いしたいことがある】

 

 ユーロ空軍、舐めないでくださいね? 

 

 

 

 

「これで良しっと……あとは頑張れ、古代君」

 

 お膳立てはした。あとは任せた。

 


 

 

 

 水泡も立たぬ液体呼吸システム内部。

 手術を終え、いまだ麻酔の解けぬままその水槽に横たわる沖田艦長の顔は、穏やかだった。

 

 

 その姿を見つめる古代の目は、決意を持った目だった。

 

 

「おお、来とったのか」

 

 緊急手術を終えて休憩をしていた佐渡先生は、古代のことが気がかりだった。

 

「……艦長を、頼みます」

 

 

 ……無茶はするなよ? 

 

 心配そうな佐渡先生であった。

 

 

 


 

 

 

「索敵に入る。次元アクティブソナースタンバイ」

 

「亜空間トランスデューサースタンバイ」

 

 新見の操作で艦首バルバスバウ部分がスライドして、そこから発振機が無数に飛び出た。

 

 アレイアンテナも索敵用に稼働し始め、MAGIシステムと接続をする。

 

 

 

 

「亜空間ソノブイ……でありますか?」

 甲板部の岩田が怪訝そうに聞き返した。

 

「そうだ。搭載次第発進する」

 

 

「それだったら既に準備が済んでいるんだな」

 遠山がそう返す。

「え?」

 まるで先読みされていたかのような準備の良さ。

 もちろん古代はここまでくる道中で積み込みの指示なんかは出していない。

 

「そいつは睦月一尉の指示だ。まぁ念のため積み込み準備自体はこっちでしてたんだが、一尉から極秘指令貰って確信したから大急ぎで終わらせたんよ」

 

 オレンジつなぎのよく似合う叩き上げ甲板部長榎本がひょっこりと顔を出す。

 

「睦月さんが? 読んでたんですか……」

 

「何でも一歩先を読む。将来デカくなりますねぇ彼は」

 

 嬉しい想定外まだ続く。

 

「しかし、濃密な宇宙塵の中を飛ぶのは些か危険ですぞ?」

 

 

「私がサポートします」

 そう言い放って自信たっぷりに入ってきたのは、アスカだった。

 

「式波中尉?! どうしてここに?」

 

 彼女の登場は榎本にとっても想定外のようだ。だが、このタイミングで来ている当たり、

 

 

「なるほど、睦月一尉が頼み込んだのかな?」

 

 

 と想像できる。

 

 

 

「睦月さんに、危険だからサポートしてねと頼まれたんです。ユーロ空軍ならこんな宙域でも怖気づきませんよ」

 

(やっぱりね……)

 

 深紅のパイロットスーツを着込み、朱色がよく映えるヘルメットを抱えた彼女は、まさしく勇敢な者。

 戦乙女とも呼べるだろう。

 

 

「それでは役者はそろったようなので、行きますか。それから岩田と遠山! お前たちは戦術長と中尉のお手伝いだ!」

 

 

「「はいぃぃ!!」」

 

 

 

『亜空間トランスデューサースタンバイ完了デス。発振出力良好、チャージ完了シマシタ!』

 

「索敵を行う。次元ピンガー打て!」

 

「打てェ!」

 南部の操作で、次元アクティブソナーが虚空に波紋を生み出す。

 音ではなく次元を越えて伝わる波紋、次元振。

 

 一瞬以下の時間で、それは原始恒星系に広がった。

 

 


 

 

「来た来たァ〜!」

 

 狭く薄暗く時折息苦しく気にもなる次元潜航艦のブリッジに、歓喜の声が響く。

 

 次元潜航艦の次元パッシブソナーがWunderの次元アクティブソナーから発せられた次元震を感知した。

 そのソナー音にアクティブソナーの発振音が重なり響く。

 

 

 よく頑張りました

 

 

 あたかもそのソナー音が、ブリッジ要員を労っているようだ。

 

 

「まんまと喰い付きやがったぁ! いまだに俺らがこの宙域にいることも知らずにご苦労さん~」

 上手く敵を騙してご機嫌そうだ。

 今の今まで退屈そうにしていたのと打って変わって、まるで「玩具を与えられた子供」のようにテンション高めだ。

 

「今のピンガ―はトレースしたか?」

 

「バッチリです」

 ブリッジ詰めているソナーマンがヘッドフォン片手に親指を立てる。

「やりますか、やりますよねぇ?」

 

「次元潜望鏡深度まで浮上。魚雷発射管一番二番準備」

 

「っシャー! 次元タンクブロー! 魚雷装填急げェ!」

 ハイニの命令復唱で次元潜航艦は多次元位相バラストタンクを調整して、次元境界面付近へと浮上していく。

 

「……狩りを始めよう」

 

 その目は、紛れもない狼だった。

 

 

 


【side 真田】

 

 

「次元ピンガ―に感あり、次元境界面から浮上する物体有り」

 

 森船務長が注視するレーダーから、反応音が響いた。先程発振した次元アクティブソナーが早速何かを捉えたのか。

 だが……ピンガ―を打ってからほとんど時間がたっていないぞ? 

 

「これは、ピンガ―がトレースされています!」

「マジか……真田さん! 次元震にも感あり! 徐々に次元震の振幅が大きくなってきます! 恐らくこっちの位置はバレてます!」

 次元震モニターを確認した睦月君も危機感を顔に張り付けている。

 敵の罠にはまったか

 

 

「機関始動! 現宙域を離れる!」

「了解!」

 大急ぎでWunderのスラスターに火が灯り、その場を離れる。

 

「ピンガーが仇になったか……」

 

 沖田艦長にはなれない、合理に拘るが故に船を窮地に立たせた。

 私は指揮官にはなれないか……

 

 

 私の視覚の隅に「自身の案が船を窮地に立たせてしまった」ことに落ち込む新美くんがいる。

 私があの時止めていればこのような事にもならなかった。

 

 

 

 

 危機感で満たされた戦闘艦橋に、異常警報が鳴り響く。

 

「副長! 左舷第2船体第3格納庫が開いてます!」

 

 もちろん発進命令など誰も出していない。

 

「シーガル! 乗っているのは誰か?! 発艦命令は出ていない!」

 

 相原がシーガルに発進を止めるように無線をつかむが、警報音は鳴り響く。

 まさかとは思うが、さっき艦橋から出ていった古代が……? 

 

「相原さん待って! 真田さん、コレ古代くんです」

「何……? 睦月君、まさかとは思うが、君が裏で手を回したのか?」

 

「……古代君がシーガルに乗ると思ったので、あらかじめ現場の方に手をまわしてました、すみません。でも今は彼を行かせてください」

 

 

 ……そうか、彼もまた古代のように動けるのか。

 ……ならば今私が出来ることは一つだ。

 

 

「相原、シーガルに繋げ」

 

「了解です!」

 

 

「シーガル聞こえるか? 艦長代理の真田だ。次元ピンガ―がトレースされた。君たちの案を却下してその後に我々の失敗のカバーを頼むのは間違っていると自覚している。だが私なりに間違いを正させてほしい。これよりシーガルは積載した亜空間ソノブイを投下、対潜哨戒任務を開始せよ。なお、緊急事態に付き先程の無断発進は私の権限で追認とする」

 

 

『副長……了解。これより、対潜哨戒を開始します!』

 

「副長! よろしいのですか?!」

 新見君。気持ちは分かるが、敵艦が本艦の位置を把握しているという事は……

 

「新見さん! 気に入らないのは分かりますが現実見ましょう」

 

 君はズバッと言うなぁ。だがそれが最適解だ。少々言い過ぎかもしれないが、新見君も渋々納得してくれたようだ。

 シーガルがソノブイを撒くまで何とかして回避を……

 

「本艦前方に高速で接近する機影を感知! これは、魚雷です! 数2!」

「島! 船体傾斜回避行動!」

 

「了解!」

 

 指示通り船体を大きく傾斜して魚雷を回避。1本目は何とかなった。

 

「2本目来ます!」

 今度は左舷に大きく傾けて回避、だが魚雷は命中せずに至近距離で爆発、装甲に風穴をあけた。

 

「左舷第2船体第27区画に被弾! 空気漏出!」

 

「ダメコン急げ! ラジオデッキ閉鎖!」

 __

 

 今この時真田は知らなかったが、この時、この爆発が艦内にも影響を及ぼして、6人の命が失われた。

 

 


 

 

「古代一尉はこのような宙域での操縦経験は?」

 

「……ない」

 

「なるほど……さすがにユーロの訓練でこんな宙域での訓練は行いませんでしたが、シミュレータで散々こんな宙域は飛びましたよ?」

 

 操縦桿を握るアスカと古代。アスカは自信のある声だ。

 努力する天才は自己鍛錬を怠らない。

 

 それはアスカの周りにいる人が良く知っている。

 だからリクは自己鍛錬に邁進するアスカにこの任務を頼み込んだのだ。

 

 自分の努力が認められるのは誰もが嬉しいこと。

 アスカはそれが人よりも強いのだ。

 

 

「おい! Wunderが攻撃を受けとるぞ」

 

 榎本の双眼鏡に映るのは、船体から黒煙を噴き出しているWunderの姿だった。

 

「グズグズしていられない、投下開始する! 岩田! 遠山!」

 

『『はい~! (なんだなぁ)』』

 

 シーガル後部で船外服に身を包んだ。岩田と遠山がソノブイの投下を開始する。

 

 

 投下されたソノブイは先端をバルーン状に膨らませて宇宙空間をまるで糸の切れた風船のように漂っていく。

 

「ソノブイ投下完了! 観測開始します!」

 

 


 

 

 一方、穏やかな深海とも言える次元断層内から雷撃を行った次元潜航艦、そのブリッジから次元潜望鏡を睨むフラーケンの視覚には、黒煙を噴き出しているWunderの姿があった。

 

 原始恒星系ならではの微惑星や小惑星の群れの向こうを傷を負いながら飛ぶ怪鳥をその目にとらえ、更なる指示を飛ばす。

 

「しぶとい獲物だ。3番4番、発射」

 

「3番4番発射ァ!」

 

 魚雷発射管から放たれた2本の魚雷は、微細な泡を噴射して次元断層を境界面に向けて突き進む。

 潜望鏡に映る境界面から浮上した2本の魚雷は寸分狂いなく獲物に向かって突き進む。

 

 

 ____

 

 

 

 シーガルの後部、岩田と遠山が凝視する亜空間ソノブイのコンソールに、1つの反応が自己アピールをした。

 

「早速感あり、だな」

 

「魚雷2!」

 

「データを送れ!」

 

「了解!」

 

 

 ____

 

 

『こちらシーガル! こちらから魚雷出現予測座標を送る。これがあれば、敵艦の攻撃を迎撃できる』

 

「よしよし、良い感じ良い感じ、真田さん」

「左舷舷側短魚雷発射管開け、対空パルスレーザー発射準備。いつでも迎撃できるようにするんだ。睦月君、タイミングは任せる」

 

「了解!」

 リクがひたすら次元震モニターを睨み、タイミングを計る。シーガルから送られた出現予測座標付近にソノブイを移動させて、次元振を計測する。

 

 振幅が大きくなる。次元境界面に近付いているのがよく分かる。

 悟られないようにギリギリまで粘る。

 

 

「今ですっ!」

 

「舷側短魚雷撃て!」

「撃てぇ!!」

 

 南部がコンソールの発射スイッチを押し、舷側から9発分の短魚雷が発射された。

「半分の装填量で発射」することで無駄弾を避けて効果的に迎撃する、放たれた9発の短魚雷は2発の魚雷のうち1発を撃滅した。

 

 仕留め損ねた魚雷はパルスレーザー連射で叩き落とす。

 

 

 

「敵魚雷排除確認!」

 

 見えない敵からの奇襲を防ぎきったWunderの面々に安堵の空気が流れるが、

 

「まだだ。次を警戒するんだ」

 

 艦長代理の喝ですぐに引き締まった。

 

 

 ━━━━━

 

 

「何だよコレ……次元境界面から突出する物体を感知!」

 岩田のコンソールに映ったのは魚雷のような「速く動くもの」ではなく、1本の棒のようなものだ。

 

「何処にある?」

「近いです! 回り込んで10時の方向!」

 

「分かった! 中尉!」

「突っ込みます!」

 10時の方向に向かうが眼前には小惑星の群れ。艦載機の中では大きめのシーガルで突っ込むのは、新美が言った通りの自殺行為。

 

 だが、「式波・アスカ・ラングレーというジョーカー」がいることでそれを可能にしてしまった。

 

 小惑星の群れを抜けた先は開けていた。

 

 

「確認出来ますか?」

 双眼鏡を覗き込む榎本に古代が聞く。

 

 

「んん〜? いたいた、アレだね」

 喜を含む声色で示した発見報告を聞き、座標情報をWunderに送る。

 

 

 

 

 

 

『こちらシーガル。敵のプロープらしき物体を確認! これを叩けば敵の攻撃は止むはずだ!』

 

 古代の報告を受けた艦橋は砲撃準備を進める。

 目視では見えない宙域への遠距離狙撃。左舷に鎮座する第3主砲が目標に向けて頭を回し、小刻みに砲塔を動かす。

 

「座標入力完了、測敵よし!」

 

「主砲発射!」

 

「撃てぇ!」

 第3主砲から青白い光の束が放たれ、壁抜きをしながら目標へと突き進んだ。

 

 


 

 

 時は少し遡り、Wunder2本の魚雷を迎撃された頃である。

 

 

 

「射角を読まれた」

「マジっすか……見えてないはずですがねぇ」

 想定外に敵の読みが当たり、少し驚くハイニ。

 

「発見されてもこちらは異次元の中。手出しはできんよ」

 敵が次元断層内部に入り込んだり、断層に影響を与えるような武装でもない限り手は出せない。

 

 

「……これは?」

 潜望鏡に映ったのは、バルーン状の何かだった。

 そしてパッシブソナー音に重なるようになる反応音。

 

「なるほど、こいつか」

 全てを察した。「これ」を撒いたから魚雷の出現位置を読んで迎撃できたのだろう。

 

「ハイニ、どうやらこっちが何者なのかバレているらしい。……ソノブイだ」

 

「3時方向から高エネルギー反応!」

 センサー系統を監視していたブリッジ要員からの報告を受けて、報告に合った方向を向いてみた。

 

 

 その瞬間、映像が途切れた。

 かろうじて最後に見えたのは、資料映像でよく見た青白いビーム光だった。

 

「! ……やられた」

 

 

 


【side リク】

 

 

 

「アプローチに入る。ビフォーランディングチェック」

 

 対潜哨戒任務を終えたシーガルは、左舷第2船体第3格納庫に着艦した。

 

 

「お疲れ、上手いこといったじゃん」

「睦月さんの仕込みのおかげです」

「……バレた?」

 

 軽く舌を出しながら笑う。あらかじめ現場の方に手を回しておいてよかったなぁ。

 さて、真田さんに怒られに行こ……

 

「帰ってきたとこで悪いんだけど、真田さんとこ行こっか」

「……ですね。いくら追認されていると言っても、独断行動に変わりないですから」

 

 

 

 

 

 

「……シーガル無断発進は追認してお咎めなしという事にしたが、勝手に動いて混乱を招いたことは……すまない、立場上無視はできない。ひとまず私の方では微罪という事にしておく」

 

 あ~あ……眉間にしわが寄ってる。勝手に指示出しなんかしてゴメンナサイ。

 

「懲罰として、艦長代理権限で古代、睦月両名には、艦内の清掃活動を命じる。それで、睦月君が巻き込んだ式波中尉と榎本甲板長の分も清算という事にする」

 

 清掃作業、……この船の全長をよく理解したうえで命じているのですか? 

 これじゃあ小学生の罰当番じゃん。

 

 内心笑いを堪えながらツッコむ。

 

 

「罰は受けます。もっと重大なことしちゃった感はありますが……」

「本来なら懲罰房だが、敵艦からの攻撃を迎撃する際の功績もあり、プローブを破壊してその後の星系脱出のワープまでの時間稼ぎも出来た。その分を差し引いたのが、艦内掃除の罰だ」

 

 やっぱり懲罰房行き並のことしてたんだ。

 でも結果出せてよかったぁ。

 

「分かりました。罰掃除、こなします。あ、それと、沖田艦長の容体は?」

「古代が帰ってきたときに無事に目を覚ました。その掃除罰当番カードには医務室もある。掃除ついでに顔を出しておくんだ。艦長には事情を一通り説明しておいた」

 

 真田さんに手渡された掃除罰当番カードには何か所かの場所の名前と、印鑑を押す欄がある。

 その欄の中に医務室があった。

 

 

 その後、艦内掃除に従事し始めた僕と古代くんが最初に行ったのは、医務室でした。




帰ってきました。

試験が終わったのはいいのですが、次はアンドロイドアプリの開発作業をしないといけないのでまだまだ忙しいようです。

とりあえず試験期間中に書いておいた分はまだまだありますのでそれは順次投稿していきます

次はサイドストーリーです


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before 2196

サイドストーリーです

この話は、今後出さなければならない話の前座となっています。
今までの作風から少し離れているかもしれませんが、「次につなげるための話」です。

途中で重力に関する記述がありますが、とある読者の方に協力をいただきました。
ありがとうございます

では、お楽しみください。


 

 

「生存者2名確認! まだ息があります!」

 

「何でこんな状態で生きてられるんだ……?! とにかく医療班に連絡!」

 

「分かりました! 捜索班から医療班に連絡! 生存者2名発見!」

 

 

「こいつ、背中に……」

 

「こりゃひどい、細かい破片がブッ刺さっている。出血箇所も多い」

 

 

「……あ……あなたは」

 

「まだ意識があるのか……! 君、分かるかい?!」

 

「はい……僕、どうなって」

 

「出血箇所が多いからとにかく喋らない方がいい。医療班を呼んだ、気をしっかり持て!」

 

 

「ハルナは……ハルナは無事なんですか……?」

 

「ハルナ……? とにかく、君の抱えている女性は外傷が少ない。きっと助かる」

 

 

「そっかぁ……安心しま……し……」

 

 

「おい! しっかりしろ!!」

 

「医療班現着! 負傷者をこちらに!」

 

 

 

・・・・・ ・・・・・

 

 

 

(あれから40年か……まだ目を覚まさんのかい?)

 

(あの時の生き残り、極東からは秘密にするようにと言われてますが、目を覚ます確率なんて0ですよ)

 

(じゃが、息をしているし脳死でもないんじゃ。このまま生きていられるのなら、儂はこの子たちの主治医をしていようかと思う)

 

 

・・・・・・・・・ ・

 

 

(音が聞こえる……人の声、ピッピッピッて音がする。呼吸音……?)

 

 

 

(目は……閉じているな、でも外が明るい……?)

 

 

 

(そうか……あの時僕は安心して気を失って、あれからどのくらい経ったの?)

 

 

 

光の方に手を伸ばしてみたら、そこは知らない天井だった。

 

たくさんの機械に繫がれて、規則的な心電図モニター音に支配された空間から、ここは病室だと察した。

 

 

「知らない天井だ……助かったのか、僕は」

 

「睦月さん~機器のチェックに来まし……えぇっ!!! 睦月さん?! 分かりますか?! 今先生呼びますからね!!」

 

唐突に入ってきた看護師さんはどうやらオバケでも見たかのように飛び上がってそのまま駿足で病室から飛んで行ってしまった。

 

どうやら僕は1年以上は寝ていたのだろう。

さっきの看護師さんの反応もそうなのだが、まず体があまり動かせないのだ。

いや、ギプスとかでガチガチに固定されているわけではない。ホントに拘束なしの状態で動かせないのだ。自分の体じゃないみたいだ。鉛みたい。

 

 

でも肌の感覚はあるから少なくとも神経がやられているのはなさそうだ。となると筋肉が全体的に弱っていたという事か。

 

 

起きたばかりで処理速度のガタ落ちした頭でそんなことを考えていると、「驚愕」という2文字を顔面に張り付けた医師らしき人が大慌てで入ってきた。

 

 

「君、分かるかい?!」

 

「……はい。あの、ここは?」

 

「中央大病院だ。君は火星出身のようだが、ここは地球。君は移送されたんだよ。それと、名前は分かるかい?」

 

 

「睦月リク………歳は、21」

「最後に何があったか、覚えているかい?」

 

 

「……ハルナを庇って、それで死にかけて……あの、ハルナは? 目を覚ましているんですか?」

 

 

「……まだ目を覚ましていない。でも生きているよ。君が身を挺して守ってくれたおかげだ」

 

「はぁ……生きてた……良かったぁ」

嬉しい時にも涙は流れる。「そんなことあるの?」と思っていた時期があったんだけど、それは確かに零れ落ちた。

 

 

「それよりも、起きてからすぐここまで話せる君の方が異常だよ。でもその分だと、色々話せるから助かったよ」

 

「……教えてください。僕が眠っていた間に何があったんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

……40年分の歴史だった。

 

まず、今は西暦2195年という事。

ここから僕は、40年間眠っていたという事が分かった。

 

次に、地球と火星間での戦争があったという事。

一般的には内惑星戦争と言われてるみたいで、80年代に戦争は終結した。

地球側の勝利で、火星に住んでいる人は強制的に移住させられたという事。

ここから、何で僕とハルナが地球にいるのかが分かった。

 

 

最後に地球外からの侵略者がいたという事。

コレは比較的最近の事で、科学力の違いで地球は劣勢だという事。

 

それと、発見時の状況を聞かされた。

僕は背中に無数の細かい破片が刺さっていたらしい。大量出血、それによる昏睡。ひどい有様だ。

今眠っているハルナの方は頭を強く打って脳機能に障害が出て昏睡。これが現状らしい。

一応脳細胞復活用に幹細胞投与オペをしたようなので、ハルナの回復力にかかっているらしい。

 

 

 

 

「はぁ、頭痛い……」

 

情報に数の暴力を行使されたことで頭がパンクしそうになった。

でも、その量が、「本当に40年経っていること」をいやでも実感させに来る。

ちなみに、今僕たちの担当をしているのは、「佐渡先生」と言う人だ。

 

まだベットから起きれないけど、腕なら動くから医療用ベットのリモコンを操作して背もたれを操作した。

 

 

目線が高くなったことで周りが見えるようになった。その視界の端に、自分が命懸けで守った人が静かに眠っていた。

 

「ハルナ……」

 

酸素マスクを付けられ、点滴を無数に付けられ、多数の機械に囲まれて、オブジェのようにピクリとも動かずにそこに横たわっている女性を、見間違うはずはなかった。

 

白銀の髪、整った顔立ち、少し長めのまつ毛。

でも、髪の色が一部変わっていた。灰色っぽい。

 

40年間寝たきりなので髪が伸び放題になっている。前は母さんのまねしてポニーテールにしていた。

 

 

……よくよく考えていたら、僕の髪も伸び放題になっている。

 

とりあえず看護師さんに頼んでヘアゴムの代わりになりそうな物持ってきてもらお。髪は体動くようになってから切ろう。

 

 

 

・・・・・・・・・ ・・・・・

 

 

 

「これでは落ち武者だな……」

 

束ねてもらった髪型を見ながら苦笑する。ラプンツェル……のようではないけど、とにかく髪が長い。

 

 

髪を束ねてもらった直後、ベットごと病室から出されてそのまま検査室に連れていかれた。そこで一通りの検査を問答無用でされたから部屋に戻るころにはもうクタクタになっていた。

 

 

残念なことに、復活したばかりで一般の人と同じ食事が出来るわけがないので、しばらくは胃腸に負担をかけない病院食……味気のない流動食を食べる羽目になりました。

 

オマケにお代わりなしのためお腹がすきます。おのれ……白飯が恋しい。

 

検査結果次第では、筋肉をもとに戻すためのリハビリが始まるそうです。

ならなおさら食べた方がいいのではと思いましたが、主治医に怒られそうなので我慢です。

 

 

 

 

 

「ん?」

 

車いすでこっそり売店まで買いに行ったゼリー飲料を飲みながらふとハルナの方を見ると、一瞬だけ指先が動くのを見ました。

 

「ハルナ……? ハルナ! 分かるか?!」

 

目覚めるかもしれない、そう思った僕は大急ぎでナースコールを押した。

1分も経たずに看護師と主治医の人が飛んできて、ハルナの瞳孔を確認した。

 

「微弱な反応がある、光の動きに反応しているんだ……! 睦月君、目を覚ます可能性は0じゃない」

 

「先生、これって……?」

「脳細胞が復元しているんだ……睦月君! ちょっと手を握って見てくれ!」

 

「えぇ?! わっ分かりました!」

 

そう言って、眠るハルナの左手を取って両手で握ってみた。

 

 

「え……」

 

その華奢な手が握り返してきた。

本当に本当に弱い力だが、確かに手を握り返してきた。

 

 

 

「ハルナ! 返事しろ!!」

 

 

 

昏睡から復活するのはそう簡単なことじゃない。

 

 

昏睡に陥る要因と言うのは多数ある。僕みたいに出血多量で脳機能が低下したり、ハルナみたいに脳細胞の一部が死んだりすると起こるらしい。

 

そして昏睡になって脳が死ぬ、つまり脳死が起こると植物状態となる。心臓は動くけど脳が動いてない。何も感じないしピクリとも動かない。

 

 

でも、目の前の大事な人は手を握り返してきた。

主治医の人が同じようにやってみたけど、なぜか握り返さなかった。

僕がやった時だけ反応があった。

 

「ダメです……意識レベルが元に戻りました。まだ……起きることは無いでしょう」

 

 

「……睦月君、暁くんが意識を取り戻す可能性があるのは君だけだ。君が手を握って何度でも呼び掛けてやって欲しい」

 

 

 

・・・・・・・・・ ・・・・・

 

 

 

リハビリの甲斐もあって杖ありで歩けるようになった。

佐渡先生はあきれ返っていた。

 

「君は人間かい?」

 

「人間ですよ。バリバリの人類です」

 

「まず骨密度がえらい上がり様なんだけど……」

 

40年寝てて半年でここまで回復するのは「様々な観点から見てありえない」らしい。

いやぁ人間の底力ってものは分かった物じゃないね。このころになると通常の病院食をおいしく食べれるようになった。お代わりしていいから、美味しい白飯をお腹いっぱい食べている。

実を言うと毎食一合は食べてたみたいで、食事を持ってきてくださる看護師さんが少し青ざめている。

 

 

入院当初のことだけど、地球に移送されたということを聞いて懸念していたことがあった。

それは、地球と火星の重力は大きく違うということだ。

自転速度やそもそもの惑星のサイズが関係してくるんだけど、地球の重力は、火星の2.6倍くらいある。

つまり、今僕の体には火星の時の2.6倍の重力がかかっている。

目覚めた時は47キロ体重があったけど、火星では47キロの体にたった18キロしか負荷がかかってなかった。

 

何を言いたいかというと、「重力が小さい影響で、体重に対してかかる負荷が結構小さかった」ということだ。

それは「骨も筋肉も弱い」ということ。

火星で育った僕の体は、筋力とか骨密度とか……とにかく耐久性に難ありで地球で暮らすには弱い。

 

転んだら骨折するかもと内心不安だった。

 

 

だけど昏睡中に体が適応しようとしていたのか根性なのかはわからないけど、飛躍的な筋力増加と信じられないほどの骨密度の増加によって体が地球用に頑丈に成ろうとしている。

よく食べてよく動いてよく寝たためか、今体重は結構増えている。

ぶっちゃけ牛乳飲みまくっていたのもあるかもしれない。

余裕で50キロ突破だ。今大体55かな。

 

……佐渡先生が僕のことを人間かと確認しているのも納得だ。

 

だが、ハルナがどうなるかはわからない。

僕みたいな適応力があるかどうかは分からないや。

 

 

時折ニュースでは、「地球環境の深刻な問題(主に遊星爆弾と言う兵器についてだが)」について話していて、どうやらこれらの食事は、合成で生み出しているみたいだ。

合成でご飯を作るのか……という事は、この白飯も鮭も合成……

 

 

……本物のご飯が食べたい。

とまぁそんなのんきな事を考えている日常が増えてきた。

 

 

もう院内生活は半年を越えた。こんなこと言うのはあれだけど、院内の看護師や佐渡先生と親しくなってしまった。

リハビリ病棟は僕の庭……なんちゃって

 

 

ハルナは相変わらず目を覚まさない。けど、本当に徐々ではあるんだけど、強く握り返してくるようになった。

その時だけ意識レベルが上昇するみたいで、1回だけ復活寸前まで上昇した時があった。

 

その時は皆さん大慌て、僕は半泣き、病室は混沌としてた。

 

 

「ハルナ、ただいま」

 

そういっていつもの病室に帰ってきた。

ハルナの様子は相変わらず変わらない。

 

実を言うと1日1回リハビリ棟の人に来てもらって足と腕を動かしてもらっている。

これは寝たきりによる筋肉の収縮を回避するためだ。

 

これは僕の方も40年間やってもらっていたようで、僕の回復力はリハビリ棟職員皆さんの、世代を超えた努力のお陰でもある。

 

 

徐にハルナのベットの横に行き手を握って今日会ったことを話してみる。

人肌の温かさを感じ、自分もハルナも生きているという事を再確認する。

 

 

 

そして、握り返してくる。

 

 

 

「ねぇ……こうやって握り返してくるんだから、本当はもう起きているんじゃないのか?」

 

 

「……。」

 

 

「そうなら返事してくれよ……。このまま……死んでしまうってのは……冗談でもやめてくれよ」

 

 

「……。」

 

 

目を覚まさないまま手を強く握ってしまう。

僕にとってハルナは、姉のような妹のような存在だ。

 

あの日、命が止まりかけたあの日……僕はハルナの事を守るって決めた。

だから庇った。だからハルナが生きていたことに涙した。

 

そして今、静かに涙を流していた。

 

手の甲に雫が落ち、それは震えていた。

 

 

そのまま幾分かの時間が過ぎ、手を放そうとしたとき……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んだように深く眠るその手が、震える手を握ったまま離さない。

 

握っていないほうの腕も動いていた。開いていたはずの手が握りこぶしになっていた。

 

そして、瞼に蓋をされた目が、こちらを向いていた。

 

 

「ハルナ……? 分かるか! ここにいるよ!」

ありえない、ありえないのだ。今この場で一般論をぶち壊しに来た。

ここまで意識がはっきりしだしたのはあの時以来だった。

 

 

今まで動く気配すら見せなかった右手を必死に動かそうする。たまらず右手も握ってみると、目も右を向いた。

 

 

「ハルナ!! 戻って来い!!!」

 

 


 

 

藻掻いていた

 

足掻いていた

 

溺れそうな程深い海……星の輝く幻想で、私は波に揉まれていた。

 

 

 

 

 

目の前に島がある。何とかその島にたどり着きたい

 

泳ぐ、泳ぐ、足が攣りそうになる

 

水を掻く、息継ぎをする、脚を必死に動かす

 

 

 

 

 

人影が見える、何かを叫んでいる、聞こえない

 

白い髪、男性だ

 

私は、その人物を知っている

 

 

 

 

 

「リク!!」

 

たどり着きたい、そこが何なのか分からなくても

 

たとえそこが彼岸だったとしても

 

 

 

 

 

体が沈む

 

彼が手を伸ばす、私も手を伸ばす

 

そして、手は繋がれた。

 

 

 

 

 

彼が私を勢いよく引っ張り上げて、私は銀色の砂浜に体を打ち付けた。

押し寄せる高波に包まれて、私は意識を手放した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

目を覚ましたら、白い天井だった。

私はこの天井を知らない。

 

「ハルナ……生きて……る……!」

 

良く響く少しだけ低めのアルトな声、良く知っている声。それも涙声。

 

 

手は……握られてる。熱い……

強い強い思いが込められていた。

 

 

「先生! 目を覚ましました!!」

 

「暁君! 分かるかい?!」

この人は……お医者さん?

白衣を着てとてもビックリしている。

 

それ以上に気になるのが、私の視界に移る彼だった。

 

 

 

必死に泣くのを我慢していた。私を砂浜に引っ張り上げた時のカッコいい感じは少なくなっていて、子供みたいに我慢していた。

 

でも、私が溺れそうになった時に、確かに彼が助けてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって、ずっと胸が熱いから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リク、私、リクが呼んでくれたから、手を繋いでくれたから戻って来れたの。分からないけどこれだけは分かるの、ずっと握ってくれてた……!」

 

震える声が紡いだその言葉は、狭間でハルナが感じていたものだった。

 

「暁君、君、半年間睦月君が手を握ってくれてたのを覚えているのかい?!」

「はい、朧気ですが……でもその手が私を引っ張り上げてくれました」

 

起きたばっかりなのに必死に体を動かす。リクに手を伸ばすが、体にうまく力が入らずにベットから転げ落ち……る寸前でリクが受け止めてくれた。

 

久しく見てなかった現世の光景に目元が熱くなる。

 

 

「ハルナ……ああっ……!」

 

私を抱きしめ、声を殺して泣き始めた。

想いは堤防を結界させて、涙に姿を変えてゆく。

 

 

彼が助けてくれた。

 

 

私が狭間にいた時に、島から呼びかけてくれたから、こっち側に戻ってこれた。

 

「リク……私は戻って来たよ」

彼の胸に手を当てて、そのまま私は喜に染まった涙を零した。

 

 

 

 

2195年 睦月リクの意識の回復を確認

2196年 暁ハルナの意識の回復を確認

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人とも戻れて良かったわね、しばらくは狭間の海に来てはいけないよ。来るならホントに人生に満足した時だけ。私みたいに来るのはもっての外よ?」

 

 

狭間の海、その深海で一人の白髪の女性がそう口にした。

 




今回この話を書くにあたって昏睡に関する資料をいくつか集めてみました。

昏睡になる条件は結構あるようで、今回は「出血多量による脳機能の低下」と、「頭を強打して脳機能に障害が出でしまったから」という事にしました。

もし読者の中に医療関係者がいらっしゃったら、昏睡に陥る状況はこれで合っているのかどうか意見を頂けないでしょうか?


サイドストーリーもバンバン書いてきましたが、この話だけは付与させた意味が違います。
それは第6章で分かります。

では、第6章でまた会いましょう
ドメル艦隊との戦闘を書きましたが、相当長いようです。


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"Ich bin an deiner Seite."
水色と橙色


第六章です

ドメル艦隊との戦闘の前の話として書く事にしました。
少し重いところもあるかと思いますが、お楽しみください

では、第六章第一話です


「そうか、テロンの船にイスカンダル人が2人も……」

 

「ミレーネルが命を賭して最期に私に……」

 総統府の一室でその事実を伝えたセレステラの目元は少し濡れていた。

 ジレル人は宇宙全体で見ても「滅亡している」種族だ。

 

 その生き残りだったのは、ミーゼラ・セレステラと、先の作戦で精神を殺されたミレーネル・リンケだった。

 ジレル人……古代アケーリアス文明の直系の子孫であるその種族は、コスモウェーブを用いた精神感応を用いたテレパシーが可能だ。その能力は個人差はあれどジレル人なら皆が持つ種族特有の能力。

 

 

 しかしその能力が災いして、「相手が考えていることが分かってしまう」ので、他の種族に対しての不信感が大きくなり、その種族的な特性が他種族に流れてしまい、魔女として忌み嫌われてしまう。

 

 そして、俗にいう「魔女狩り」。ジレル人狩りによって種族の人数は大幅に減少してしまい、滅亡してしまった。

 生き残りが他にいるのかどうかすら分からない。

 

「私は、ジレル最後の生き残りとなったとしても、あなたに忠誠を誓い続けます」

 

「忠誠か……」

 

 一人ぼっちの種族となってしまったセレステラの支えは、デスラー総統だった。

 同胞のミレーネルを失ったことで、種族的な支えは無くなった。

 

 それでも忠誠を誓い続ける。

 それは、あの日、忌み嫌われた種族として軟禁されていた私とミレーネルを救い出してくれた総統の姿があったから。

 

 

 

 

《ノルド大管区 属州惑星オルタリア》

 

 

「原住民の反乱1つ鎮圧できずに、あなたは逃げてきたという事ですか」

 

「彼らは首都を占拠して手の施しようがなかったんだ。頼むギムレー長官、首都に残留している移民団の保護を!」

 

 

「ふむ、この星は焼き尽くしましょう」

 しかし、そんな願いは最悪の形で拒絶されてしまう。

 

「帝国と総統に反旗を翻す国は、大ガミラスの版図に存在してはなりません。もちろん、総統への忠誠に欠けたあなたもですよ。ドロッペ総督」

 

「そんな……! 同胞を見捨てるというのか?!」

 

「何か分かっていないようですね総督。なんでこのような辺境に移民が行われたのか、なんで自分がこの辺境の星の管理を任されているのか、ちょっと考えればわかることです」

 その言葉を最後にして、ドロッペの意識は消失した。

 それは親衛隊員の銃撃に心臓を撃ち抜かれたからだった。

 

「冗談は嫌いです。私が聞いたこと、向こうでしっかり考えてください」

 流れる血の匂いに気分を害されそうになったギムレーは、飲んでいた紅茶をカップソーサーに戻すと、声高らかに宣言した。

 

 

 

「さぁ! 殲滅のメロディを!」

 

 

 

 そこからは地獄だった。

 

 惑星間弾道弾複数による都市部への攻撃、親衛隊所属艦艇による地表への艦砲射撃、ポルメリア級による大口径レーザー照射、メランカ部隊による対人への機銃掃射。

 

 その星は青い海に緑の大地が美しい星だった。しかし、見るも無残にグズグズに爛れてしまった。

 

 

 


【side ハルナ】

 

 

 

「うん、まぁ、予想はしてた」

「でも、これは出したくなかったね」

「カロリーメイトもオムシス製だからな、しばらくは我慢か」

「栄養補給を重点的に考えているから美味しくはないわね」

「せいぜい野菜がついているだけありがたいと思うにゃ」

「ポトフが食べたい……!」

「これ……食べ物なの?」

 

 オムシスが不調です。理由は一つ、オムシスに使用する有機物が枯渇しかかっているんです。

 そんなこんなで苦肉の策としてあらかじめ用意していた「とある食事」を引っ張り出す羽目になりました。

 

 美味しくない、美味しくないです。

 

 栄養補給を重点的に考えて、味の方は結構犠牲にしてます。

 従って食感、風味はそんなにない、量はみんな同じ。

 

 量産型定食、通称「ディストピア飯」です。

 

 

「オムシスのありがたみがよ~くわかるわ。こうも味気ないと活力が湧かないじゃん」

 アスカがぼやきながらスプーン片手に頬杖付きながら食べる。

 

「申し訳程度だけど、あの農園で作っていた水耕栽培レタスとパイナップルはつけた。すまない、我慢してほしい」

 申し訳なさそうにレタスをかじるリクを横目にさっさと食べてしまおうとスプーンを動かしていると、ふとリクの雰囲気が気になりました。

 

 ……疲れている? それも結構……

 

 

「そういえば、あの艦内全体催眠騒ぎ。何だったんにゃ?」

 

「佐渡先生いわく、全員一番大切な記憶を見ていたらしいよ。でも艦内限定で、100式で亜空間ソナーの試験稼働をしていた森くんと古代は問題なかったみたいだ。それでも、艦内に入ったとたんに催眠にかかったらしいけどね」

 真田さんが軽く説明をする。どうやら何者かの手によって精神攻撃をされたみたいです。そもそもそんな攻撃を想定しているわけがないので、乗員もれなく全員攻撃を受けてしまった。

 幸運なことに、100式で古代くんと森さんは外に出ていたので、全員精神攻撃受けて抵抗のしようがないという最悪の状況は回避することが出来たという感じみたい。

 

「幸せな夢か何かですか?」

「そんなところだ。幸せな夢から覚めたら敵に捕縛されている。趣味の悪い方法だ」

 幸せな記憶かぁ、幸せな記憶といったら火星でリクのお母さんと過ごした日常かな。

 

 

 

 

 あれ……もしかしてリクが見たのって

 


【side リク】

 

 

 

 

(リク! 母さんにかまわず逃げて)

(リク! 母さんにかまわず逃げて)

(リク! 母さんにかまわず逃げて)

 

 

「うるさい!!!!」

 頭に残る記憶を隅に追いやるように自らに向かって怒鳴りつけた。

 心が本当に壊れるかと思った。

 

 あの様子だと、ハルナは問題ないみたいだ。真田さん曰く「幸せな記憶を見ていた」らしいので、しばらくは大丈夫だろう。

 

 

 とりあえず、みんなの前では平然をギリギリ保てたみたいだ。

 研究室備え付けの洗面所に映る顔は、ひどい顔だった。

 顔に水を叩きつけて、心を叩き直した。

 

 何とかしてハルナを支えないと、それあの日に決めたこと。

 

 

「リク、まさかとは思うけど、あの催眠騒ぎの時に何を見たの?」

「……昔の記憶だ」

 

「あの時の……あの日の記憶?」

「違う、もっと別の事だ」

 

「リク、嘘ついてない……? ……さっき物凄い声聞こえた」

 

「……悪い噓ついた、あの時相当キツイもの見せられた。それでダメージ食ってた」

「何ですぐ話してくれなかったの」

 

「自分で何とか出来る範囲だったから」

「ねぇ、これは自分一人で抱えられる問題じゃないのよ。だから頼って。私、弱くなんかないよ?」

 

 

「……ああ。また何かあったらそうする」

 その直後、警報が響き渡った。

 

 

「また?!」

「威力偵察か……いこう!」

 

「ええ」

 重い心を引き摺って航海艦橋に向かいました。

 

 


 

 

「5時方向に敵駆逐艦2隻を確認。距離8000、近づいてきます!」

 

「全艦第一種戦闘配置! 航空隊スクランブル準備!」

 

「またいつもの威力偵察か?!」

 

「敵さんに聞いてくれ」

 このやり取りから分かるように、もう既にこの威力偵察は何度も遭遇している。敵がギリギリまで近づいてきて……

 

 

「敵艦反転!!」

 

 

 このように反転していく。一度も攻撃することなく、いや……精神的に摩耗させに来る。

 

 

 

 

「クソっ! こう何度も何度も出たり入ったりじゃ身が持たないぞ」

 

「敵さんはこっちを消耗させたいんですよっ!!」

 一発一発怒りを込めてアスカが、「吊り下げられたサンドバック」を殴りつける。

 この威力偵察が始まったころ、イライラした「加藤隊長の拳」と「山本とアスカの蹴り」によってロッカー数台の尊い命が失われた。

 

 そのような無用な被害を抑えるために、ロッカーを供養した主計科の一手で「全ての怒りを一手に引き受けるサンドバック」が、航空隊に配備された。

 

 それ以降、今のところロッカーたちの犠牲は出ていない。

 オマケに筋トレにもなるため航空隊各員には好評だ。

 ロッカーを壊した山本と加藤隊長も、たまにストレス発散にサンドバックを殴っている。

 

「式波ちゃん……相当ストレス溜まってるね~」

 篠原が茶化すようにパンチを放つふりをする。

 

「そりゃそうですよ! オムシスは止まるし! 敵はいやがらせしてくるし! 出たり入ったりで疲れます!!」

 

 

 拳に覇気でも纏っているのだろう。圧倒的な初速を放ったアスカの怒りの拳はサンドバックに突き刺さり、大きく揺れた。

 それだけでは足りず、追撃で回し蹴りをお見舞いする。

 

 ストレスのエネルギーを纏わせて肘打ち、裏拳、回し蹴り。特撮じみたスーパーパワーを持っているはずがないのだが、サンドバックが派手に揺れ、吊り下げてある金具がジャラジャラと音を立てる。

 

 最後に大きく振りかぶって最大出力で一発ぶん殴る。

 

 その瞬間、サンドバックをぶら下げていた金具がその役目を終えてしまった。

 KO、勝者、式波・アスカ・ラングレー。

 

「フゥ、スッキリしたわ!」

 

 

 

 サンドバックの金具一つを生贄にしてアスカのフラストレーションを抑え込むことが出来たのは僥倖だろう。

 だが、その怒りの連撃フルコースを目の当たりにした航空隊各員は、アスカとの近接格闘訓練をも恐れるようになった。

 

 

 

「ところで何書いているの?」

 連撃を観戦した篠原の目に留まったのは、山本が書いている一冊のノートだ。

「ゼロの改良案です。暁さんと真田副長が改良してくださるみたいなので、それのオーダーを頼まれているんです」

 

「なぁるほど、あのゼロをね。自分専用機にしてもらうためか」

 篠原が見た紙面には、夥しい量の調整箇所が書き込まれていた。

 

(情が深いねぇ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユリーシャ・イスカンダル……98年にイスカンダル製航宙連絡艇に乗って地球に不時着。彼女の姉と思われるスターシャ・イスカンダルからのメッセージを渡した。その後、次元波動エンジン設計に関わった……これが正規の記録ね」

 

「一応正規の記録ではあります。ですが、伏字にされた部分もあるんですよ?」

「伏字?」

「これですよ」

 そういって、伊藤が差し出したタブレットには、とある画像が映っていた。

 

「地球で生活していたユリーシャ・イスカンダルは、波動砲使用制限条約を結ばせていました。2人の火星出身者を唆してね」

「まさか……そんな」

「そう、そのまさかです。芹沢さんから聞いていないんですか?」

「……どうやってこの画像を?」

 

「こっそり監視カメラをね。1年前から準備は始まっていたんですよ?」

「……ストーカー?」

「それは芹沢さんに言ってください。僕の案じゃないですよ? さて問題、なんで結ばせたか分かりますか?」

「……話によると、イスカンダルの犯した愚行を繰り返さないためと聞いているわ」

 

「……もう一つは、ガミラスがこちらを捕縛、もしくは撃沈しやすくするためですよ」

「イスカンダルをガミラスがグルという確証はないわ」

 

「証拠はありません。ですが、噂は時に事実にも変わりますよ? 拡散すればね」

「……既にそういう考えが定着している人はいるわ。次の目的地はビーメラよ」

 

「それまでに一人くらいは上層部を引き込んでおかないといけませんね? 当てはありますか?」

 

「いるわ」

 

 

 __________

 

 

(航海日程から20日程の遅れ……これ以上は致命的だ)

 

 航路図をにらむ島の顔は深刻そうだった。

 地球からイスカンダルを1年以内に往復する全人類の命がかかっているタイムアタックである「Wunder計画」に失敗は許されない。

 

(さて、どう巻き返すか……機関の負荷を許容しても強行ワープをするか?)

 

 その時、不意に航海科室の自動ドアが開き、島の横にコーヒーの入ったマグカップが差し出された。

 

「林か? 航路情報の提出は既にやったが……あれ?」

 差し入れをしてきたのが、新見だった。

 

「差し入れ」

「あ、ありがとう」

 少し苦いコーヒーの入ったマグカップは暖かく、多少は心配事が薄らいでいく。

 

「どう? 日程の方は? 計画通りに進んでいる?」

 その声は心配しているような声をしているが、その陰には怪しげな笑みが隠れている。

 

「まっ順調さ、何とかなるさ」

 貼り付けた笑みで島がそう返すが、新見には見抜かれていた。

 

「嘘が下手ね……私、カウンセラーよ?」

 そしてマグカップを手近な台に置き、島に迫っていく。

 いつもと違う新見の行動に狼狽える島を他所に、新見はさらに迫っていく。

 

「この航海の成否は貴方に係っているのよ。賢明な判断を規定しているわ」

 

 

 

 

 その状況から何とか脱出できた島が艦橋に向かおうとしたとき、一人の人物が接触してきた。

 

「航海長、お時間頂けますか?」

 

 


【side リク】

 

 

「疲れた」

 

 解析室のコンソールに突っ伏していた。メンタル的に大分やられたので、やる気も落ちていた。

 今僕とマリさんはこの船の武装を十二分に動かすシステムの構築中だ。

 仮称「コード777」。波動エンジンとショックカノン、MAGIシステムフル活用での完全遠隔操作のミサイル、いつか起こるであろう大艦隊との決戦に備えて作っているもの。

 

 

「お疲れにゃ」

 そう言ってマリさんが僕の横に置いたのは、暖かいココアだった。

 実はコーヒーとかの苦いもの飲むのが苦手だからありがたい。

 

「リっくん、私は伊達に君たちより少しだけ長く生きているわけじゃないよ? 何か過去にあったんだなぁってのは分かるにゃ」

「……僕隠すの下手ですから」

 

 コーヒーを啜りながら言葉を紡いでいくマリさんの横顔は穏やかでした。

「抱え込んだらどっかで壊れてしまうにゃ。でもこっちから無理に聞き出そうとすると壊してしまう。だから私からは聞かないことにするにゃ」

 

「意外です。「聞いてあげるから話してにゃ」とか言うと思ってました」

「人生経験豊富ですからね~まだ20代だけどw」

 

 

「リっくん、これだけは伝えておくにゃ。もし本当に辛くなったら誰かにすがってもいいんにゃ。そして誰かに聞いてもらうのもいいにゃ。私はね、それが出来なくて心が壊れてしまった人を見たことがある。だから君にはね、同じ道を絶対に辿って欲しくない」

 

 マリさんはそう言いながらコーヒーをすすり、空いた手でくしゃくしゃと撫でてきた。

「なんか、落ち着きます」

「地球にいた時はね、極東の冬月先生の家で先輩の子と一緒にいた時があるの。そういう時はこうしてた」

「前に話してくれた綾波ユイさんの息子さんですか」

 

「そう、碇シンジ君。ゲンドウ君とユイさんが結ばれてシンジ君が生まれたんだけど、その数年後にユイさんが死亡扱いになって、ゲンドウ君もその苦痛で心を壊してしまった、発狂状態にも近いかな。冬月先生は、ゲンドウ君が何をしようとしてるのかは知ってるらしいけど、私が聞いても教えてくれない」

 

 淡々と過去を話すマリさんの目は、どこかここではないどこかを見ている、そんな感じがあった。

 冥王星の時に聞いたけど、マリさんとゲンドウさん、そしてユイさんは学友らしい。

 恐らく結構親しい仲だったのかもしれない。

 

 友達が狂ってしまって、苦しかったのかもしれない。

 マリさんって、いつも楽しく振舞っていろんな人を弄っている印象が強い。だから、そんなマリさんの悲しむような顔を見たことがない。

 

「ユイさんが亡くなってから、ゲンドウ君は狂ってしまい、シンジ君を捨ててしまった。それは見過ごせなかったから私と冬月先生が引き取った。その頃は母親を失って父親をも失ってしまったから、シンジ君は愛情に飢えていたの。その時は、私も母性発揮してたにゃ」

 

「マリさんなら、シンジ君も安心したでしょうね。会ったことないので詳しくは分からないんですが、シンジ君と何か近しいものを感じます」

 

 

「今は極東の避難都市で冬月先生と同居しているにゃ、一応保護者は冬月先生という事になっているから問題なし。父親の状況は彼なりに理解しているし、自分なりに強く生きようとしているよ」

 一息に話し終え、またコーヒーに口をつける。

「……君は守りたい人がいるみたいね。でも、自分のせいでその人を苦しめてしまう事もあるよ。そうならないように、今は静かに見守っているにゃ」

 

 マリさんはそう言って、コーヒーのお代わりに行きました。

 少し温くなってしまったココアを飲んで、少し暖かくなりました。

 

 

 


【side ハルナ】

 

 

 

 今日の作業も終了して、いつもの研究室に戻りました。

 

 リクの方はもう少しかかるみたいで、マリさんが共同でやってるので私がヘルプに入ることはなさそうです。

 

 パジャマに着替えてベットに横になろうとしました。

 その時ふと目にとまったのは、チェーンペンダントでした。

 

 あのペンダントの石、水色と橙色の石は地球と火星の友好を願って当時限定品として作られたものです。

 それを仕事始めのリクと私が初任給で何とか買って、風奏さんにプレゼントしたものです。

 

 風奏さんが亡くなったあとは、リクが持っています。

 傷がちらほら付いているけど定期的に綺麗に拭いているので、まだ装飾品として現役の顔を保ってます。

 

 思い出す前に元の位置に戻してベッドに入って寝ることにしました。

 

 

 

 

 

 なかなか眠れなかったんですが、やっとウトウトしてきました。

 そのまま寝ようかと思ったのですが、ちょうどリクが帰ってきました。

 

 さっさとスウェットに着替えて歯磨きしてたので、こっちも熟睡の為にゆっくり目を閉じました。

 

 

 

 

 

 その数分後、自分のベットの横に何か大きいものが乗ってきた感触がありました。

 

「ふぇっ! どうしたの……?」

「ゴメン、ちょっとだけ、居させて欲しい」

 疲れた声が聞こえ、リクはそのまま背を向けたまま話し始めました。

 

 ……少しドキドキしますが

 

「あの時、母さんが死ぬ光景を見た」

 それはあの催眠騒ぎで見たものでした。

 

 私の予想は大体当たってました。あの時見たのは風奏さんが死ぬ光景、皆が幸せな思い出見てる中で、1人だけ死んだ方がまだいい光景を見ていたんだ……。

 

「手を伸ばせば届きそうな距離で何度何度も死んでしまう、そんな光景だった。とても、怖かった、とても……苦しかった」

 こっそりリクの方を向いてみたけど、背を向けたままでした。

 でも、震えてました。

 ホントに小さいけど、泣きそうな声でした。

 

 

「これはね、あなたの思い出じゃないの。あなたと私の記憶なの。決して一人だけのものじゃないから、思いは……共有できる」

 

 少し、思ったことがあります。

 リクの心は、あの時から止まったままなのではと、今思いました。

 前に彼がそう口にしていたことがあって、その時は意味を掴みかねていたのですが、もしかしてと思いました。

 

 実際には復活した日にちの違いでリクの方が半年分年上です。

 でもリクには申し訳ないけど、この時だけは弟のように見えるほど酷く弱ってるように見えました。

 

 

「ねぇ、こっち向いて」

 そう私が言うと、リクは恐る恐るこっちを向きました。

 

 

 

 さっきまで眠たかったのですが、急にリクがベットに入って来たので目が覚めてしまいました。

 そして酷く疲れてしまった弟が目の前にいます。

 

 

 

(これじゃ風奏さんみたいだけど、少しでも落ち着いてくれると嬉しい)

 

 

 

 寝転がったまま、その白髪を優しく撫でました。

 

 

 そのまま撫でていると、小刻みな震えが少しずつ収まってきました。

 

「落ち着いた?」

「……うん。ハルナ、そのまま撫でててほしい」

 

 

 

 心の傷は簡単には治りません。

 何かを失った。日常を粉々に壊された。

 何かしら皆心の傷は持っていると思います。

 

 

 そして、たとえ克服したとしても突発的に傷が開いてしまう事があります。

 私とか、そんな感じです。

 

 

 前にあの日の事を思い出した時は,私かなり酷いことになりました。

 たしか地表のライブ画像を見たときに火星のクルジス跡地みたいに見えてしまったんだと思う。

 

 

 ……かなり錯乱して、その後吐いちゃったんだよね……

 錯乱していたってのもあって、リクに思いっきり引っ叩かれて正気に戻りました。そのあとめちゃくちゃ謝られたけど。

 

 

 それ以来、リクと一緒にいることが少し多くなりました。

 めちゃくちゃ気にかけてくれている事も知ってます。

 

 

 

 

 

 でもそれで、リクが自分自身の心を殺してしまうことになってしまうのは、絶対に嫌です。

 自分勝手に聞こえてしまうかもしれないけど、私は彼を想っています。

 

 そのままリクが寝息を立て始めるまで、少し幼い雰囲気の頭をなで続けました。

 

 

 

 

 

 

 ありがとう

 

 

 


【side リク】

 

 

「オムシスの修理にはまだ時間がかかります。どこかで水と有機物を補給しなければ、備蓄が底をつく恐れがあります」

 状況は最悪、オムシスの不調はまだ続いている。ディストピア飯で今は繋いでいるけど、それでも一週間しか持たない。

 

 ぶっちゃけると、あのディストピア飯は美味しくないのでメンタルはちょいちょい削れる。

 まぁ、アレに比べると些細なレベルだけどね。

 

 あの夜誰かにすがりたくて、ハルナのベットに横になってしまった。

 1人で抱え込むのも限界気味、ハルナに「頼って」と言われ、マリさんに母性発揮されたところで、「他人でもわかるくらい落ちているんだな」と理解した。

 

 僕が寝てしまうまで撫でてくれてたみたいでハルナが少し寝不足気味なのは気がかりだったけど、雰囲気的には、あの催眠騒ぎで僕が何を見たのかはわかってたみたい。

 

 

「ハルナ、昨日はありがとう」

 素直になり切れない変な感じがあったけど、そう感謝を伝えた。

 

「リクは弟だからね」

「……いや、誰が弟だ?」

 

「あら? 実際には私のほうが年下だけど精神年齢は上よ?」

「そこは同じくらいだろ」

「いやいやこっちにはユリーシャや真田さんと言う立派な証人がいるのよ」

 

 ちょっとしたこそこそ話で始まったはずだが、盛り上がってしまって声が大きくなってしまった。

 

「お2人さん、私語なら後にしてくれ」

 沖田艦長に注意されてしまった。

 気の所為かもしれないけど、咎めるような目ではなく何か面白いものを見るような目だった。

 もしそうだとしても、気にしないでおこう。沖田艦長には申し訳ないけど、気にしたらロクなことにならないと思う。

 

 

「補給と言われても、こんな銀河館空間に恒星系なんて流石に……」

「あるわ、バランまでの航路上に恒星系の存在を確認したわ。恒星の名は、『ビーメラ』」

 

「ビーメラ?」

 

 

「観測によると、このビーメラ恒星系のハビタブルゾーン内には地球型惑星が幾つか存在していて、その1つのビーメラ4には水と大気の存在が確認されているわ」

 

 生物が生存するために必要なものとして挙げられるのは水と大気……厳密には酸素などだ。

 他にも大気圧や重力や恒星からの放射熱、そして地表面が適温であることが挙げられるが、最低限水と大気があれば、どんな形であれ生命の存在は期待できる。

 

 地球は「生命が存在して尚且つ繁栄している星」で、奇跡的なバランスが保たれていると言われている。

 だが、銀河規模で地球のそっくりさんを全力で探してみると、実は思ったよりいるのだ。

 

 

「ありがたい。有機物と水の確保され出来れば生命維持が可能だ」

「じゃあ有機物ゲットすればディストピア飯とおさらばじゃん!」

 それは嬉しい。あの美味しくない物と早い事おさらばしてサッサとオムライスを食べたいよ。

 

「地球圏から抜錨以来、狭い艦内で、乗員の多くがストレスを抱えています。メンタル面での上陸も望ましいかと」

 緑を見たら少しはストレスも緩和されるんじゃないのかという事か。

 それ以外にも何かありそうな感じがするんだけど……何考えているのかな? 

 

「島、航海科としてはどうなんだ?」

「ん? まぁ」

「スケジュール的には問題ないか?」

 

「……大丈夫だ。と言うよりも航海云々以前に、食糧は死活問題に繋がる。まずは腹を満たさないと先には進めないぞ」

 

「至急、ビーメラ恒星系への進路を取ります」

 

 

 


 

 

 

 一方、ビーメラ恒星系に転進したWunderに何かピンときたドメルは、おなじみ幕僚団とゲールを集めて作戦会議を始めていた。

 

 だが、そこに飛び込んだ一報により、ゲールはそれどころではなくなった。

 

「総統が視察にいらっしゃる?! このバランにですか?!」

 

「ディッツ提督の話によると、どうやらお忍びらしい」

「それではお出迎えの準備を……!」

 

「総統に忠誠を示したいのであればまずはあの船を討つことです。副司令?」

 ハイデルンが軽く諭した。そしてその後に続く肩書「副司令」

 はらわたが煮えくり返りそうだが我慢。

 

「偵察艦隊の報告によると、ヴンダーはビーメラ星系に転進したと」

「おいおい、こっちに来るんじゃないのかよ?」

 血気盛んなバーガーが疑問を覚える。

 

「いや、大マゼラン方面に向かってきているというのは確実だ。だがここまでの記録によると、Wunderは一定の期間を開けて航路上の近隣にある恒星系に向かっている。恐らく何らかの方法で食料と水を補給しているのあろう」

 

「? あいつら異星の植物食っているんですか?」

 

「流石にないだろう。植物と言うよりかは有機物を補給してそれに何か手を加えて食料にしているといったところだろう。私だって変なものは食べたくない」

 ゲットーが冷静に爪の手入れをしながらツッコむ。

 

「我々の威力偵察で随分疲弊しているはず、それにこのタイミングで恒星系に転進。精神的にも備蓄的にも今はピンチという事だな」

 クライツェ的には、敵が疲れている今ならチャンスありと考えたようで、

 

「叩く頃合いだな」

 バーガーもそれに賛同する。

 

 

「そうだ。そしてビーメラ星系までの航路上には、この中性子星カレル163が存在している。このポイントでジャンプした場合、カレル163の重力勾配によってゲシュタムアウト座標に誤差が生じて……」

 

 

 正面のスクリーンに表示されたのは、カレル163周辺の宙域図だった。

 中心に中性子星、そして5か所の座標が表示されている。

 

 

「この5つの宙域のどれかにゲシュタムアウトする。我々はこれら5つのポイントに艦隊を配置してこれを、叩く!」

 

「「ザーベルク!」」

 

 ドメルの顔は自信のある顔だった。

「偵察隊の帰還を待ち、我々はヴンダーへの攻撃行動に移る。作戦コード名は、『神殺し』だ」

 

 


【side マリ】

 

 

「ロマンロマンとは言ったものの、ここまで大変だとは思わなかったにゃ」

 ども、絶賛脱力中の真希波・マリ・イラストリアスにゃ。

 Wunderの火力を十二分に生かすための戦闘システムの構築に忙しすぎても―大変。

 この船武装が多いから統括管理するのも一苦労にゃ。

 

 まぁー16万8000光年を旅するうえでどんな攻撃来るかは分かったもんじゃないから仕方ないけど。

 

 

 昨日はリっくんダメージ食らってたからシンジ君の時みたいに母性発揮してみたら回復したみたいにゃ。

 そんでさっき2人が幹部会議から帰って来たんだけど、調子良さそうね。雰囲気っていうのがね、万全とはいかないけど割と回復していたの~安心安心。

 

 あの後リっくんがどう行動したのかは分からないけど、多分ハルナっちに聞いてもらったのかな? 

 ハルナっちはリっくんのお姫様かな? それともリっくんはハルナっちの王子様? 結ばれろ~! 

 

「今何か変なこと考えてました?」

「さぁ~何にも考えてないにゃ」

 おっとっと、感づかれるとこだったにゃ。

 

 さてさて、今日からハルナっちも増援に来てくれたからペースが上がるにゃ。

 バッカみたいに規模が大きくて工数も気が遠くなりそうだけどこれなら何とかなりそうにゃ。

 

 

「コネメガネぇ~? あんたの考える事はロクな事じゃないからね?」

「姫! ご勘弁を~!」

 

「懲りないね、尋問の時間と行こうか~」

「にゃにゃにゃぁぁぁ!」

 

「あ、あとやっておきます~」

 解析室からリっくんの声が聞こえるにゃ、はぁ、無事に帰ってこれるかにゃ? 

 

 

 


 

 

 

「百合亜ちゃん! 今時間ある?」

 保安部の美少年星名はどうやら岬百合亜に気があるみたいで、たまによく一緒にいるみたいだ。

 今日も誘おうとしているのだが、今日は様子が違っていた。

 

「ミサキ? ユリア? 誰の事ですか?」

「えっ? 君の名前だけど……」

 

「……ユリーシャはどこですか?」

「ユリーシャさん? だったら解析室かいつもの部屋にいるのかも」

 

「ホシナ、連れてってください」

 

 

 

「あら? ……えっと星名くんだったかな? どうしたの?」

 本の山に埋もれて一人本を読んでいたユリーシャは顔を上げた。

「えっと、百合亜ちゃんが会いたいみたいで」

 

「……ユリーシャ、今までよく頑張りました」

 その佇まいにどこか覚えがあったユリーシャは、不意の彼女の正しい名前を呼んだ。

「……お姉さま? サーシャお姉さまなの?!」

 

「ええ、私はイスカンダルのサーシャ」

 

 

 

 サーシャ・イスカンダル。イスカンダル第2皇女にして、地球に波動エンジンの起動パーツたる波動コアの「2つ目」を届けた人。火星で意識不明のまま地球に搬送されて、意識不明ままでこの船に乗艦していた。

 

 それが今、岬百合亜の体を借りる形でこうやって自由に動いて喋っている。

 

 

 

 

 

 その後、サーシャは岬の体を借りたままで艦長室に直行し、沖田艦長に今の自分の状態を説明した。

 体はまだ動かせそうにないが、こうして憑依する形で活動が出来る事。

 憑依させてもらっている岬の体には何ら問題はない事。

 先の艦内催眠騒ぎに対してこっそり行動していたこと。

 

 

 そして人類が波動砲とどう向き合うのかという事。

 

 

「国際波動砲使用制限条約……波動砲を対艦対惑星攻撃に使用しないという事ですね」

「はい。人類はこの力を持つには早すぎたという事は自覚しています。ですが、この力がなければ現にここまで来ることはできなかったという事も事実です。正しい力の使い方を考える必要のあった我々人類は、数人の技術者から生まれたこの条約に判を押しました」

 

「数人の……? 誰なのですか?」

 

「この船を設計した暁ハルナ一尉と睦月リク一尉、そしてユリーシャさんです」

 

「! ……あなたも関わっていたのね」

「この力を恐れた2人なら、この力を預けることが出来るかもしれないと思ったの。だから私は波動砲の装備と運用を容認した。この条約が力の暴走を抑える鎖となるなら、その力を持ってイスカンダルの愚行を地で行うことは無いわ」

 

 

「ユリーシャからすでに伺っているかと思いますが、かつてイスカンダルは、地球の方が波動砲と呼ぶ兵器を用いて大マゼランを地で染めた過去があります。もう数千年も前の事なので正確な記録ではありませんが、一斉射で人の住む惑星を塵に変えたとも伝えられています」

 

 

 イスカンダルの過去はいまだに不明な点が多い。

 地球からみたイスカンダルの印象は、今のところ「元祖波動文明国家」でしかない。

 その背景に何があるのかはいまだに分からないが、何かまだあるというのは沖田艦長の勘はそう告げていた。

 

 

 

 

 しかし、そこに深く足を踏み込むのは危険と判断したのか、それ以上聞くことは無かった。




この話は、元々20000文字以上の話です。
それはいくら何でも長すぎるなぁと思ったので、前回やったみたいに前編後編って感じに分けることにしました。

さて、新章ということでエンディングテーマを決めようと思いました。……決めました。

宇多田ヒカルさんの『桜流し』です
2202のようらんか結構好きなんですが、これも似た感じだったので戦闘系のある次章まではこれで行こうと思います。


次回はそう期間を開けずに出すつもりで考えています


ドメル艦隊との戦闘を書いたら……遂に……出すことが出来ます
何なのかは言いませんが、かなり大事な話を出します。


ここまで8か月掛かり、やっと原作の半分くらいは行けたかなと思います
あと半分! 頑張ります!


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奇跡の価値は

遂にドメル艦隊との戦闘です
最近気づいたことなんですが、「沖田戦法」っていうのは決して突撃戦法などではないんですね。

どうやら、敵に反撃の時間を与えない戦法のようです。
バラン星の戦いとか分かりやすいかもしれませんね

良いこと知りました。

では、ドメル艦隊戦です。


「なぁるほどぉ、ドメルがあの不死鳥に対して攻勢に出るかぁ……頃合いだなァ」

 

「と、いいますと?」

 

「貴様は気にしなくてもよいゲールゥ……吾輩の問題だァ」

 

「……分かりました。まもなくこちらはヴンダーに対しての大規模な包囲網を展開します」

 

「良い知らせを待っておるぞ?」

 

 ______

 

 

「全艦隊発進準備完了しました」

 ハイデルンの準備完了を受け、ドメルは閉じていた眼を見開き、一つの命令を数多の艦に伝えた。

「よし、全艦隊発進。バラン星大気圏突破後、ゲシュタムの門を用いた超長距離ワープを行う。目標宙域付近に近づき次第、各艦隊は所定の宙域にジャンプしろ」

 

 バラン鎮守府から無数の艦隊が発進していく。

 バラン宙域で碇泊していた部隊も一斉に推進部に火を灯し、旗艦の後に続いて一斉に門を潜り戦場に身を投じていく。

 

「本艦も突入します」

「よし、斥候艦に一報を入れろ。『第六空間機甲師団は全艦発進した。Wunderを刺激しろ。心配するな。奴は必ずジャンプする』」

 

「了解!」

 

 _______

 

 

「ゲシュタムの門を確認、バラン到着時刻タム12の30」

「総統、本艦はまもなくゲシュタムの門を通過、これを抜けますとバランに到着します」

 

 ゼルグート級一等航宙戦艦

 ゼーリックが自らの権威を示すために建造させた「大鑑巨砲主義」を体現したガミラス史上最大級の超弩級戦艦だ。

 圧倒的厚さの正面装甲と、490ミリというガミラス史上最大級の口径の陽電子ビーム砲塔を搭載した本艦は、一部の将校ように建造された。

 ネームシップたる一番艦は、ヘルム・ゼーリックの乗艦「ゼルグート二世」

 二番館は、現在デスラー総統が乗艦している自らの座乗艦「デウスーラ一世」

 そして三番艦は、宇宙の狼たるエルク・ドメルが扱う「ドメラーズ三世」である。

 

 厳密にはドメラーズ三世は、ゼルグートの「強力な指揮能力」を気に入ったドメルが、ゼルグートを建造した造船局に依頼して兵装周りに大規模な改装を依頼していたため、「改ゼルグート級」に値する。だが、「もはや別物と言えるくらいの」大幅な改造は施していないので、「ゼルグート級」とも見ることが出来る。

 

 今のところ、ガミラスで3隻しか存在していない最上級艦である。

 

 

 そんな最上級艦の艦橋は広く、豪華で、居住区は上級士官用に調度品も一級品。まさしく総統を乗せるにもバッチリな艦である。

 

「メインエンジンに異常発生! 内圧が上昇しています、このままではオーバーブーストします!」

「安定させろ! 急げ!」

 

 そんな豪華な船の艦橋に鳴り響いたのは警報音。メインエンジンの制御に異常が生じ、出力の上昇が止まらなくなっている。

 待つのは出力限界の突破……臨界突破による爆発。

 

 

 その瞬間、光が満ちた。

 

 


 

 

 

「総統が不在とはァ、どういうことであるかァ!!」

 

「総統の気まぐれだ、いつものことだよ」

 

「元帥閣下はご不満がおありのようですね」

「だがァ……なぜ総統の不在を、君だけが知っているのだァ、ディッツ君?」

 

「艦艇の指揮権は俺にある。デウスーラは親衛隊の船だが艦隊運用の観点から、総統がご乗艦されることは把握していた」

 

 閣議というものは難しい言い方だが、要約すれば、閣僚同士で会議をするもの。主に最近の国内総生産や財政に関してなど。ガミラスなら、最近の各管区での動向や植民惑星からの輸出品状況などなど。それには、情報の伝達を円滑にすることを目的にして、「全員が集まっている状態で行うこと」が最も望ましい。

 

 

 

「それよりも最近の親衛隊はやりすぎだ。オルタリアの件、鎮圧と称して星を焼いたではないか!」

 

「鎮圧ではありません。殲滅です」

 大したことしていないという顔をしてギムレーが応える。

 惑星オルタリアはその後生き残りが集まり、損壊の少ない都市に集まったそうだ。

 そして、オルタリアの総督であるドロッペ総督が死亡したことで、「ガミラスの支配から抜け出せた」ということになっている。

 ギムレーは「殲滅した」たは言った。「大ガミラスの版図に存在してはなりません」とも言っていた。

 惑星間弾道弾を大量に配備して地表面全体をグズグズに焼き尽くすことくらいなら、親衛隊に与えられた権限をフルに使えば可能だ。

 それをやらなかったのは、すなわち

 

 

 

「それする価値もないからあんたもういらない」

 ……そういう意味でもある。

 

 

 

「それがよくないんだ! ヴンダー出現以来、各惑星間区での暴動が後を絶たない。鎮圧はしなければならないが、これではかえって逆効果ではないか?!」

 

 

「それは違います。帝国繁栄のために必要なのは圧倒的な力と恐怖です。恐怖なくしては統治はあり得ません」

 

「諸君! 悠長に閣議などしている場合じゃないぞ!! 総統のデウスーラが爆破されたんだ! デスラー総統が暗殺されたんだ!!!」

 閣議に割り込んだのは最高指導者の訃報。

 

 その訃報は閣僚全員に衝撃を伝え、総統の訃報は閣僚間での秘密という事となった。

 


 

「ワープ先、新路上に障害物認められず」

「中性子星の影響は?」

 

「航路が歪められるのは確かですが、補正計算を加えれば何とかなるはずです」

「全艦ワープ準備!」

 ビーメラ恒星系への針路をとるWunder。ワープ先はビーメラ恒星系付近、ワープ航路上に中性子星がすぐ近くにあるので航路を歪められてしまう。本来ならそこを回避して進むべきだが、食糧問題の回避を何よりも優先したいために最短でビーメラに向かいたい彼らはそのままの航路で向かうことにした。

 

「レーダーに感あり。敵艦2、後方から近づく。敵速、7sノット」

「またいつもの威力偵察なんじゃないんですか?」

 もう慣れた、そういう感じになってしまった南部の口調は少々穏やかだった。

 またいつも通り圧力かけてきていいとこまで近づいてきて反転していく。そのお決まりのパターンなのだろう。

 

 しかし、戦場に絶対はない。

 

 ガミラス艦から放たれた陽電子ビームはWunderの左舷装甲に突き刺さった。

「左舷艦尾付近にに被弾!」

 

「応戦しましょう!」

 古代がそう進言するが、

「補給もままならない今、無駄な戦闘は避けるべきだ。補正計算を行い、直ちにワープ!」

 

 真田の命令でWunderは急加速でそのままワームホールに飛び込んだ。

 

 

 急なワープに対応しきれなかった乗員の一部が転倒したりふら付いたりしたが、無事にワープは終了した。

 しかし予想ワープ地点からズレてしまい、視界には怪しく光を放つ中性子星が輝いている。

 

「状況報告!」

「10時の方向に中性子星!」

 太田のコンソール画面には中性子星が大きく映し出されている。

 その密度が故に強大な重力を持つこととなったその星は、光をも超えて旅をする船をも捕まえる。

 

「やはり影響を受けたか……」

 

「レーダーに感あり! 艦首前方に敵艦隊! 後方からも近づく! 方位……全方位! 包囲されます!」

 

 全長2500mを取り囲む大量の艦艇は艦の角度を傾けず、Wunderに対して甲板面が平行になるように姿勢制御を行いながら取り囲み、獲物の周囲を周回する。

 

 

「航空隊発艦、敵艦隊に切り込み混乱させろ」

 

「待て」

 少し重く響く声が艦橋に伝わった。

 航海艦橋に現れたのは沖田艦長だ。

 

「隼を展開する時間もない。波動防壁を最大展開、敵正面に突入せよ」

「しかし! 前方には旗艦と思われる超弩級戦艦が!」

 

 中空スクリーンに映る敵艦隊の望遠映像には、白い船体の巨大な戦艦が構えていた。

 

『推定全長1200m、敵大型戦艦ヘノルートヲ確認シマシタ。デスガ、ソコニタドリ着クマデニ波動防壁ガ臨界ヲ迎エル可能性ガアリマス』

 

 

「死中に活を見出さねば、この包囲を突破することは出来ん! 両舷全速、敵中枢を狙え!!」

 

 

 エンジンが雄叫びをあげ、力を暴力的な光に還元し、この絶望的状況に1隻の船が飛び込んでいく。

 

 


 

 

「テロン艦、ゲシュタムアウトを確認!」

 時は僅かに遡り数分前、ドメルとゲールの乗り込むドメラーズ3世率いる艦隊の遥か前方には、獲物がいた。

 

「ここに出てきたか! 飛んで火に入る夏の虫だァ!」

「各隊に通達、直ちに集結せよ。……全艦砲雷撃戦用意! 全光学兵装に火を入れろ。魚雷発射管に全弾装填。各クリピテラ分隊、分隊旗艦ケルカピア級の指揮に従い魚雷を用いた飽和攻撃を行え。まずはヴンダーのゲシュタムフィールドを削り取る 」

 

 

 ドメルの立案した作戦『神殺し』……その全容はこうだ。

 まず、ヴンダーに対しての威力偵察を何度も行い敵を疲弊させる。

 そして、敵の進路上にある中性子星カレル163を利用するために、「ビーメラに進もうとするヴンダーをジャンプさせる」

 その場合、カレル163の重力勾配に捕まることでワープ先にズレが生じる。

 カレル163の重力勾配がどれくらいのものかは既に観測されているため、そのデータを元にして予測出現地点を5箇所に絞込みそこに艦隊を配置する。

 

 ヴンダーがゲシュタムアウトしたら、味方間での誤射が起こらない配置で、駆逐艦隊の魚雷飽和攻撃とデストリアとケルカピアの陽電子ビームと魚雷攻撃を用いてヴンダーのゲシュタムフィールドを削り取る。

 

 これまでの戦闘で、ヴンダーは「自分たちが戦闘用艦艇への実装が出来なかったゲシュタムフィールド」を実装していることが明らかとなっている。

 

 向こうのフィールドがどのような原理かは不明だが、こちらで研究していたものを基準として考えると、「耐久限界と稼働限界」が存在する。

 

 

 その限界まで攻撃を命中させてフィールドを消失させ、無防備にする。あとは残存艦隊でチェックメイト。

 

 

 

 

 第1段階は成功だ。後は第2段階。

 ドメルははやる気持ちを抑え、冷静に指示を出す。

 

「作戦第2段階に移行する」

 

 

 


 

 

 

 地球人類は、これほどの大艦隊を未だかつて見た事があっただろうか。いや、ないだろう。

 

 天の川銀河を背にしたWunder、遥かなる銀河間空間を背にしたガミラス艦隊。

 

 そしてWunderを取り囲む群れ。

 その戦場を彩るのは陽電子ビーム。

 流星群の如く放たれる魚雷。

 

 その死地同然の戦闘宙域に活路を見出そうとするWunderは、波動防壁という傘を広げて死の雨の中に飛び込んだ。

 

 

 

「艦艇部防壁に被弾!」

「艦艇部VLS一斉射! 撃てぇ!」

 波動防壁に隙間を空けて、無数の艦対艦ミサイルが放たれ、敵を確実に葬っていく。

 

「ミサイルの弾数は気にするな! 生き残ることだけを考えろ!」

 

 主砲も忙しく回頭して、ガミラス艦を次々に仕留める。

 過貫通、両断、抉り飛ばす。

 

 

 生き残る、それが勝利条件。

 

 

 皆がそれを掲げ、死力を尽くす。

 

 

 ━━━━━

 

 

「さすがにこの数は……いくら重武装艦にしたとはいえこの数には対処しきれないぞ!」

 

「対処……? そうだ! マリさんコレ使いましょう!」

 ハルナが指指したのは先程まで作業していたコンソール画面。

 

 そこに映る「コード777」だった。

 

「まだ未完成! 制御系が出来上がってないんにゃよ?!」

「制御系が出来てないなら手動制御で何とかします!」

「ホントは使いたくなかったけど、背に腹は代えられない……やろう」

 

 

「それなら……お2人さん手伝って欲しいにゃ!」

「「了解!」」

 

「艦橋! こちら解析室! コード777の使用許可を!」

 

『真希波くん、777はすぐに稼働可能か?』

「まだ未完成ですが手動制御で何とかします!」

 

『……よし、直ちに発動する』

「認証キーセット!」

 Wunderの艦内システムは、兵装、操舵、機関などのシステムの管理者権限の所在を分かりやすくするために、「認証キー」という物が使われている。

 

 自身が所有する権限が記録されているそのキーをコンソールに差し込むことで、その権限の範囲内でのコンソール操作が可能だ。

 例えば航海長の持つキーは、操舵関係のシステムの使用権限一式が入っている。

 

 

 沖田艦長の持つキーと、システム開発者である2人が持っているマスターキー1本には、全システムの操作権限と、システム改修権限が入っている。

 

 そのキーを同時に差し込んで回す。

 

 ハルナから手渡されたマスターキーをマリがコンソールに差し込み、航海艦橋の沖田艦長も最高権限のキーを差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『モードチェンジ、コード777!』」

 

 

 音声認証と共にキーが回され、鳥は竜となった。

 

 


 

 

 竜というのは神話の生き物。

 空を自由に駆け、口から炎を吐く。

 

 地方ごとに異なるが、雷を呼ぶ竜もいる。

 神龍とも言われ、神と同じく信仰の対象ともなる。

 

 

 今自分達が駆るのは、現実に顕現した神竜だ。

 

 

 ━━━━━

 

 

「第1から第4主砲各個目標を細く次第順次発射!」

「両舷甲板VLSにカミナリサマ装填、目標補足MAGIとの連動よし!」

 

「撃てぇ!」

 

 甲板上のVLSからカミナリサマが放たれる。

 数本迎撃されたが、その時の放電でダメージを負ったようだ。

 そこに無事だったカミナリサマが飛び込みユニットをばら蒔いて放電、艦艇数隻が鉄の棺桶となった。

 

「現在20Sknot! こんなの初めてだ!」

 コード777はエンジンにも手を加えるシステム、エンジン出力も跳ね上がり、操舵も敏感となった。

 機関長は荒ぶる機関の手網をしっかりと握り、機関調整を一部の隙もなく熟していく。

 

「薮! 右舷はどうか?!」

『右舷出力80%! 内圧安定してます!』

「山崎!」

『こちら左舷同じく80! 衝突炉フィルタ問題なし!』

 

 

 

 

「ショックカノンエネルギー効率、現在75%!」

「伝達アルゴリズムか! 係数弄る!」

 

「収束率は?!」

「砲身の粒子加速に手加える! ちょっと待ってて!」

 

 制御系が未完成な部分もあり本来自動で調整される部分を手動で調整しないといけないため、3人は解析室でコンソールに張り付いている。

 

 

「波動防壁は?!」

「エンジン出力をカチ上げたから強度は上がった、この様子だと……あと3分!」

 

「上等!」

 

 

 

 

 

「重力子生成、量子跳躍開始!」

『座標固定! 発射マデアト5秒!』

 新見の操作でWunderのアンノウンドライブが重力子を湯水の如く生み出し、アナライザーが座標を固定する。

 

 そして、ありえない兵器を放つ。

 

「ホーミング撃てぇ!」

 

 古代の号令でWunderの翼が輝き、陽電子ビームが16条放たれた。

 

 陽電子は、磁場、重力の影響を受けて直進しない。だがなぜショックカノンは重力下でもまっすぐ進んでいたのか。

 

 それは砲身内部で直進性を付与していたからで、この工程を挟むことで重力下でも直進性が担保される。

 

 そしてこの兵器は、あえて重力子を射線の近くに配置して重力勾配を作ることで、「直進性を与えてない陽電子ビームを曲げられる兵器」である。

 

 重力に従順な陽電子の束は軌道を変え、2時と10時の方向のガミラス艦を貫いた。

 

 

「前方敵艦隊の4割を撃滅!」

「機関最大! 敵旗艦を衝け!」

 業火をスラスターから吐き出し、雨を防ぎながら突き進む。

 

 


 

 

「……これ程とは」

 

『戦場で起こることは全て予測できる』……これはありえない。把握してない秘密兵器、極秘戦術、隠し球が出ることはドメルも想定していた。

 

 だが、ヴンダーの本気の火力と今まで見せなかった曲射陽電子ビームには、名将ドメルも驚かざるを得なかった。

 

「クライツェ艦隊、ゲシュタムアウトします!」

「各艦に通達。ヴンダーのゲシュタムフィールドは堅牢だが、1箇所に集中的に攻撃を加えれば破ることは可能だ。落ち着いて陽電子ビームで1箇所を繰り返し撃て。主砲塔が配置されている甲板付近を重点的に狙うんだ」

 

「ドメル司令、本当に仕留めることが出来るのですか?」

 ゲールが少々ニヤケながら聞いてきた。

「想定外」が起こって少し険しい顔になっているのを面白がっているようだ。

 

「戦場に絶対はない。敵の指した一手には、それを覆せる一手で対応するのみだ」

 

 

「各艦配置に着きました!」

「攻撃を開始しろ。押し込むぞ」

 

 

 ━━━━━

 

 

「艦首前方から重力場の歪みを検知! 数およそ60! なおも増大中!」

「冗談じゃないぞ!」

 南部が頭を抱える。これほどの数を相手にして無事で済むと思えない。

 

「波動防壁間も無く臨界に達します! 防壁消失まで1分!」

 

「真田さん、この場でワープは出来ないんですか?!」

「座標計算もなしにワープするのは自殺行為だ!」

 島の思いつきを真田が即座に否定する。

 ワープするには座標の指定と、障害物や重力の影響などを正確に観測しないといけない。

 

 それを無しにしてワープすると、どこに出るかは分からない。分からないから、この時空間上でワープアウトできるのかも怪しい。

 

 

「波動防壁を両舷側に集中展開、火力を前方に集中させろ!」

「どういうことですか?!」

「敵旗艦にダメージを与え、艦隊指揮能力を奪う。敵艦隊の混乱に乗じて全速力で振り切るぞ。目標、前方の超弩級戦艦!」

 

「「了解!」」

 

 残り僅かな防壁を左右に展開し、親玉を貫く。

 それが死中に活を見出すことに繋がるのだろうか

 

 

 

 

 ━━━━━

 

「前衛艦隊応戦中! しかし目標さらに増速!」

「ドメル司令……いくら改ゼルグートでも危険すぎます退避を!」

 

 

「ヴンダー……侮り難し、全砲門開け! ヴンダーを仕留める!」

 改ゼルグートの主砲たる420mm3連装陽電子カノン砲に赤い光が溢れ始め、真赤の矢が放たれた。

 

 

 

 

 

 

「第一砲塔沈黙!」

「アレイアンテナユニット損壊! センシング能力低下!」

 前方の超弩級戦艦から放たれた陽電子カノンが突き刺さり、右舷側に鎮座する第一砲塔が爆発煙を上げて動きを止めた。

 アレイアンテナにも掠めてしまい、探知能力が低下した。

 

「これは……! 敵艦の砲撃パターンが変化しています! 一点集中で波動防壁を削ってます!」

「防壁の損耗率は?!」

 

「777の効果もあり耐久限界が上がっていまので……残り17%!」

 波動防壁残りわずか、それに長時間展開による臨界間近。

 残された時間は少ない。

 

「側方にかまうな、波動エンジン出力最大、無事な主砲にエネルギーを回せ! 推力全開!」

 生き残っている主砲にエネルギーを貪り食わせ、お返しとばかりに消耗の少ない砲塔を前方に指向させる。

 

「狙うは旗艦ただ一隻」

 光が満ちる。

 

 

「このままぶつける!」

「了解っ!!!」

 その超巨大艦は撃沈するには少々時間がかかる。だが混乱させるくらいなら大して時間はかからない。

 ならば直接ぶつけて姿勢を崩して逃げ切る。

 一般道なら警察沙汰だがこれは戦闘、相手の意表を突く。

 

「撃ち方始めぇ!」

 総本数9本にもなるショックカノンの束が改ゼルグート級に殺到する。

 777による高出力化で、通常の水色から「何物をも貫き通す真っ白な矢」となった光はそのまま突き進む。

 

 

 だが、その一撃を改ゼルグートは跳弾させた。

 装甲は赤黒く焦げて大やけどを負っているが、目立つようなものではなかった。

 

 

「ショックカノン防ぐのかよ?!」

 南部が驚愕を滲ませる。

 今まで数多のガミラス艦を一撃で貫いてきたショックカノンが効かなかったのだ。

 

「狼狽えるな! 下げ舵25、敵艦の艦首に潜り込め! 儂の合図で上げ舵75と斥力を最大でかけろ! 急速上昇をかける!」

「斥力子緊急生成開始! 跳躍準備に入ります!」

 新見がコンソールを叩き、アンノウンドライブにありったけのエネルギーを補助エンジンから流し込む。

 速度を落とすことなくWunderは改ゼルグートの船体下部に滑り込み、第2船体の艦首が完全に潜り込んだのを確認した沖田艦長は指示を出す。

 

 

「いまだ! 上げ舵75! 艦底部斥力最大!」

「食らえぇぇぇ!!!」

 沖田艦長の出した指示に答えた島は、怒号とともにWunderの頭を勢い良く持ち上げた。

 

 

 互いに艦首が衝突し合い盛大な火花が散る。姿勢を大きく変えたことで翼がガミラス艦艇にあたり、衝突した艦艇が爆炎を上げる。

 

 

 避ける隙も無い「船を用いた肉弾戦」に持ち込まれた改ゼルグートはなすすべもなく艦首を持ち上げられていく。

 

 

 


 

 

 

「艦を立て直せ!」

「ダメです! ものすごい推力です!!」

 ヴンダーの莫大な出力と強大な斥力制御に押し負ける改ゼルグートはそのまま艦首が持ち上げられていく。

 

 

「艦首回頭! いけるか?!」

「なんとか行けます」

 ドメルは、艦首を何とかずらしてこの状況から脱出することにした。

「ただちに右舷艦首全力回頭! 両舷魚雷発射管に魚雷装填、目標、テロン艦両舷ゲシュタムフィールド!」

「発射!!」

 舷側の魚雷発射管が開き魚雷が放たれ、最後の決め手と言わんばかりに波動防壁に魚雷が突き刺さる。

 

 その瞬間、防壁が崩壊した。

 

「こちら光学観測班! テロン艦のゲシュタムフィールドの消滅を確認!」

 

 

 ____

 

 

「両舷防壁に魚雷多数着弾! 防壁消失!」

 

「かまうな! 艦を回せ、ロール角左舷180度重力制御アシスト全開! 敵艦と体勢を入れ替える!!」

 

「了っ解!!」

「アシスト全開! 主翼を斥力で押します!」

 

 島が思い切り操縦桿を左に倒し、新見の重力制御も併せて錐もみ回転をかける。

 

 艦首を逃さず捉えそのままロールして、

 

 

 その大翼で思い切り船を殴り飛ばした。

 

 

「艦尾主砲撃てぇ!」

 艦尾主砲が火を噴き、改ゼルグートの後部砲塔を潰す。

 

「船体装甲は?!」

「損壊なし! 航行に支障なし!」

 真田が船のステータスを確認する。

 擦過傷はかなり大きいが、装甲の裂傷などは一つもない。

 

 

「機関全開! このまま振り切る!」

 

 

 機関が悲鳴を上げながらすさまじい推力を放つ。

 敵の大艦隊が遠くになっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、敵将は抜け目のない者だった。

 

「重力場の乱れを検知! 数120! なおも増加中!」

 レーダーの反応音が絶体絶命の危機を喚く。

 

 前方からワームホールを通って出現するガミラス艦、その数100以上。

 

 

 

「冗談じゃないぞ!」

 解析室のモニターで確認したリクはそう怒鳴って画面に拳を叩きつけた。

 

 

 

 


 

『戦闘配置!』

『ヒャッハー! 獲物だぜおやっさん!』

「はしゃぐなバーガー!」

 

「バーガー艦隊、ゲットー艦隊、配置につきます!」

 やや予定から遅れたが、これで全艦隊が集結した。

 

「これでチェックメイトだ。諸君、神殺しを完遂しよう」

 

 

 その瞬間、残存艦隊によるヴンダーへの集中砲火が始まった。

 

 

 _____

 

 

「第2副砲に直撃!」

「第14から第20区画の隔壁を閉鎖! ダメージコントロール急げ!」

「艦首魚雷発射管並行面に散開斉射!」

「舷側短魚雷発射管斉射!」

「第3外部環境カメラ損壊!」

 

「聞こえるか?! 生きてる主砲は撃ちまくれ!」

 

 毒牙の蛇の群れ、その身で受け続ける攻撃の雨、破壊される船体、やむことのない爆発音、震動と警報音。

 外部観測用のカメラも壊され、全周スクリーンの一部の映像が一瞬砂嵐に変わる

 即座に画像補正が新たに掛けられ死角が生まれるのは防がれたが、この猛攻は止むところを知らないかのようだ。

 

「解析室付近に直撃弾!」

 解析室にはリクとハルナとマリがいる。真田は青ざめた。もし解析室の内壁をも抉っていたら……

 

 

「睦月くん暁くんマリくん生きてるか?!」

 

 

 


【side リク】

 

 

 

『睦月君! 暁君! 生きてるか?!』

 

「ギリギリ逸れました! 僕らは無事です!」

 着弾地点は解析室のすぐ隣。もし部屋一つ分逸れていたら、今頃僕らは陽電子の対消滅で遺体も残さず消えていたことだろう。

 

 すぐ近くにいる死神に3人は本気で死の恐怖を覚えた。

 

 着弾した時すさまじい爆発音が聞こえ、それを追って、空気が勢いよく抜けていく音が聞こえていた。

 すぐさま艦橋のダメコンで隔壁が封鎖されたけど、すぐ近くを狙われたということが脳裏に焼き付いた。

 

 そばでハルナが震えている。

 

 

 

 ハルナだけでも……逃がす

 

 

 

「ハルナ! お前だけでも艦の中心部に行くんだ!」

 

 

「……逃げない!!!」

 ハルナはそれに否を唱え、コンソールに水滴を生み出しながら、一心不乱に手動制御を続けていた。

 

 

 

「……どんなに怖くても! どんなに残酷な未来でも!! 私は逃げない!!! 私はもう逃がされたくないの!!!」

 

 

 

 自らに言霊を叩きつけ、死の恐怖に立ち向かおうとしている。

 必死に歯を食いしばっている

 

 あの日、僕とハルナは逃げた。迫ってくる残酷から逃がされた。

 逃がされたから今がある。けど、それで大切な人の命が目の前で失われた。

 

 

 

「……くそったれぇぇぇ!!!」

 

 まだくたばっていない。まだ死んでいない。まだ生きている。

 

 なら、最後の最後まで好きなだけ一緒に抗ってやる。

 

 


 

 

「第3遊撃戦隊、右翼から叩け!」

 

「ドメル司令、本国から通信です」

 

「後にしろ」

 

「総統府からの第1級優先通信です」

 戦闘終了間近での通信要請。ドメルは今は戦いに集中したいようだが、それよりもいきなり入ってきた総統府からの通信にゲールが慌てていない。

 

「総統府から……?」

 

 ゲールの落ち着いた態度に訝しみながらも、通信回線を開く。

 

 

「ガーレ・デスラー」

 

『総統府からの最優先命令を銀河方面作戦司令長官エルク・ドメルに通達する。直ちに艦隊を撤収して本国に帰還せよ』

 

「なぜですヒス副総統! 私はあと一歩のところでヴンダーを倒せるのです! 撃沈ももはや時間の問題です!」

 

『質問は許されない。今すぐ艦隊を撤収して本国に帰還せよ。これは最優先命令だ、わかったな!!』

 

 総統府から通信をいきなり切られ、急に何が起こったのかわからなくなったドメル。

 ここで撃沈することもできる。

 

 だが軍人として上からの命令には逆らえない。

 

 悔しい。ここで落とせないのが悔しい。

 せっかくここまで追い詰めた、僚艦も大勢沈んだ。

 それなのにこれはあんまりだ。

 

 

「……生き残っている全艦に通達。直ちにすべての戦闘行動を停止。現宙域から撤退する」

 断腸の思い。だが軍人なら仕方ない。

 

 すべての戦闘艦艇が警戒を解き、帰還の途についていく。

 

 

 

 _____

 

 

 

 

「艦尾主砲沈黙!」

「第4主砲! おい! 応答しろ!」

 

「弾幕張れ! 右舷何やっているんだ! 薄いぞ!!」

 

「くっそぉ! ここで沈むのかよ!」

 あまりの砲火に南部が絶望を声に出す。

 如何に重武装艦だとしても、如何に巨大だとしても、これでは撃沈されるのはもはや時間の問題だ。

 

 

「馬鹿野郎!! 諦めるな!!」

 しかし、最後まであきらめない。

 武装もかなり潰された。発射管も誘爆を起こした物もある。

 でも主砲もまだ無事な基が残されていて、中央船体のVLSも発射可能。

 

 

 思い切り抗ってやる。

 

 

 しかし、戦局は急速に収束していく。

 

 

 

「……何だ?」

 砲火がやんでいく。爆発音が収まっていき、ダメージコントロール表示も忙しさを手放していく。

 

『敵艦、全艦ワープシテイキマス』

 中空ディスプレイに映るのは、ワームホールに次々飛び込んでいくガミラス艦艇。

 こちらに目もくれずに背を向けて撤退していく。

 

「どういうことだ……?」

 

 ここまで追い込んでおいて、あと一歩で撃沈というところで沈めなかった。

 この不可解な状況に、古代の頭は解き明かしようもない疑問で飽和した。

 

(敵に何かがあった。だがいったい何が……)

 

 

 すべてのガミラス艦がワープしていき、そこに残ったのは、ひどく痛めつけらえた一頭の竜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(風奏さん!! 風奏さん!!! いや!! いやだ!!!)




ついにドメル将軍本格登場です(๑•̀ㅁ•́ฅ
そして、投稿すべき話も半分を投稿することが出来ました。




次の話は非戦闘系の話です……ある程度覚悟して読んでいただけると嬉しいです。

次回 『夢の跡地にできたもの』

遂に、2人に何があったのか踏み込みます


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夢の跡地にできたもの

オリジナル回です

今回はリクとハルナの身の内を書く話のため、少し苦しいです。でも、最後は嬉しいです。


書いてて色々な意味で泣きかけました。
苦手な人はブラウザバックを推奨します。

もう何十回と書き換えて分かりました。
この話に限って言えば、完成っていう物は無いなと思いました。

では、オリジナル回《夢の跡地にできたもの》です。


 

 暁・睦月研究室は、設計段階では研究室としてのみ使われる予定だったが、とある理由で2人の居住スペースとしての側面も持つ事となった。

 

 そして、この船の居住区画は男性同士もしくは女性同士で相部屋を組むのが普通だが、ハルナとリクはとある事情があって相部屋にしてもらっている。

 

 これは、敵将「エルク・ドメル」との初邂逅の翌日の話である。

 

 

 

 __________

 

 

 

 

 艦内時間午前2時

 

 

(赤い.十字架.?)

 

(ハルナ! 逃げるぞ!!)

 

(リク! 母さんに構わず逃げてっ!)

 

(母さんっ!!!)

 

 風奏さん!! 風奏さん!!! いや!! いやだ!!! 

 

 

 

《ハルナ……ハルナ! ……ハルナ!》

 

「ハルナ! 大丈夫か?!」

 私は目を覚ました。やけにじっとりしていると思ったら、パジャマが肌に張り付いていた。酷い寝汗をかいていたようで、呼吸も少し荒くなっていた。

 

「リク……私……」

 

 ああ、見てしまったんだ……私。

 

 

 

 

 心的外傷後ストレス障害……一般ではPTSDと呼ばれる症状を持ってしまった私は、こんな感じで、あの日の光景を夢に見る時がある。

 

 2155年9月13日。火星のクルジスにいた私とリクは、リクのお母さん「睦月風奏」さんの家を訪れていた。

 

 その日は嘘みたいな程快晴だった。火星ってテラフォーミングされたとはいえ、荒野の惑星なの。だからたまに青空に砂塵が舞い上がっていたりする。

 でもこの日は嘘みたいな程天気が整っていて砂塵が一切起こってない。

 

 あの日は楽しかったんだけど、死ぬほど怖かった。いや、実際死んだようなものだった。

 

 一点の曇りのない青い空に、血のように赤黒い同心円が広がっていく。

 

 その円の真下の様子が遠目でギリギリ見えたんだけど、どんどん真っ黒な空間に変わっていく光景が脳裏に焼き付いている。

 イエスキリストを連想させるような真っ赤な……いや、血にまみれたように赤黒い十字架が空を衝く。

 

 そしてその十字架が消えた瞬間に、強烈な衝撃波が私たちを襲った。

 

 

 

 風に舞う木の葉のように、私たちの体はいとも簡単に吹き飛ばされてしまった。

 リクの母さんも私たちと同じように飛ばされてしまい建物の壁に強く打ち付けられてしまった。その時にどこかを骨折してしまったみたいで動けないようだった。

 

 私たちはリクの母さんの体を抱えて逃げようとしたけど、壁に打ち付けられた衝撃で骨にヒビが入っていたみたいで動く度に骨が軋み激痛が走った。

 

 

 衝撃波の第2波が迫る中、私たちはリクの母さんをどうにかして連れていこうとしたけど、リクの母さんはこう言ったの。

 

 

 

 

(リク! 母さんに構わず逃げてっ!)

 

 

 

 

 私たちがそれを飲むはずがなく、それでも引きずってでも連れていこうとしたけど、リクの母さんは微笑んでいた。

 こんな死を覚悟せざるを得ない状況に微笑むなんてどうかしているけど、

「あなた達だけでも生き残りなさい」って訴えかけてるように思えた。

 

 

 涙と鼻水と頭部の流血で酷い様子の顔面で、私たちは喉が裂けるほど泣き叫んだ。

 親を見捨てて逃げるなんて出来るはずがなかった。リクのお母さんは、私にとってはもう1人のお母さんだった。

 

 

 

 

 

 

 そんな人を見捨てるなんて、出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 リクの母さんは、水色の石と橙色の石がチェーンで繋がってるペンダントをリクに手渡して、最後の力を振り絞って私たちを突き飛ばして逃がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人で生きなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 その直後、私たちがいたところに頭上から瓦礫が降ってきて、リクの母さんが潰れた。

 辛うじて右手だけが瓦礫の山の外に出ていて、リクの母さんだった何かから真新しい赤い液体が流れ、私は吐き気を覚えた、今の今まで生きていた人の死で心が壊れそうだった。

 身も心もボロボロってこういう事だと実感した。

 

 リクの顔を見ると、涙でぐしゃぐしゃになってしまった顔で悲壮な覚悟を決めた目になっていた。砕けそうな程歯をかみ締めていた。

 

 私は、頭部からの流血で眼球が血で塗れてしまったのか、視界が文字通り真っ赤に染まっていた。

 

 

「ハルナぁ、逃げるぞ!」

 

 

 そのまま私はリクに手を引かれて迫りくる衝撃波から逃げた。

 私の手は、自分の手じゃないくらい震えていた。でも、リクはその手をとても固く握っていた。

 

 絶対離さない、そう叫んでいるようだった。

 

 

 

 

 そのまま私たちは衝撃波の第2波に巻き込まれ、瓦礫の山に埋もれ、永遠に近い眠りに落ちた。

 

 目覚めたのはその40年後、2190年後半のことだった。

 

 

 

 

 

 

「……体調は?」

 

「うん……平気……だと思う」

 

「やっぱり寝汗酷いな。吐き気とかはなさそうだな」

 

「……どうして起きてたの?」

 

「おまえがうなされてたからだよ、バカ。僕のベットが真上にあること忘れた?」

 

「……ありがとう」

 航海が始まってからは調子良く起きれる感じだったのに、なんで急にこんなことに……? 

 そんなことを考えていると、急に悲しくなってきて、涙が零れ始めた。

 そして私がそれに気づくのには、数瞬の時が必要だった。

 

 

「ハルナ……泣いてるのか?」

「え……? 私」

 

 

 私の記憶は、そこで曖昧になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

 リクが私に、ドリンクの入ったボトルを差し出してくれた。

 私は、それを一息に飲んだ。

 

「うん……私、どうなってた?」

 目元が熱い。泣き腫らしてる。

「急に抱きついてそのまま10分くらい泣いてた。その様子だと、一応落ち着いたようだな」

 

「何か、急に……悲しくなって、心が、あの時の記憶でいっぱいになってしまって……それで……」

 あの時のリクの母さんの最期の顔、最後に見たその姿が今でも忘れられない。いや、忘れてはならないのかもしれない。

 リクの母さん、睦月風奏さんがいたという事をこの世から消してしまわないようにするために、私たちは彼女を知る人として覚えていなければならない。

 

 あの時の正式な死者数は依然として不明のまま。

 過去の地震や台風などの災害とは明らかに違う。クルジスの民間人居住区は、爆心地から遠いとはいえ町全体が壊滅的な被害を受けていた。

 

 爆心地に最も近かった町は、開拓前の元の荒野に戻ったかのような惨状だった。

 そこに残っていたのは瓦礫だけ。

 もし瓦礫すらなかったら、そこに町があったとは誰も気づけないだろう。

 

 遺体が発見されても、身元の判別がつかないほどの悲惨な状況になっているのがほとんどだったという事は、私たちが目覚めてから地球に保管されているアーカイブ資料で知った。

 

 

 

 

「リク……一緒にいてほしい……」

 

「一緒に?」

 

「……ぎゅってして欲しい……」

 私は、自分が何言っているのかが分からなかった。確かに私はリクに好意を持っているけど、何言っているのか自覚して私は赤面するだろう、通常なら。

 

 でも今は、安心感が欲しい。

 

 大事な人の温もりが欲しかった。

 

 

 

「それでお前が安心するなら……」

 そう言って、リクは私をやさしく包み込んで、頭を撫でてくれた。

 リクに抱きしめられたのって確か、私が目覚めた時と、冥王星の戦いの時だった。

 

 

 でも今は、そんなのと比べることはできなかった。

 

 

 彼の鼓動が響く。

 自己主張する命の音が強く私の胸に響き、形容しがたい安心感に触れた。

 

 

 とめどなく涙が溢れてくる、零れていく。さっきとは違う、安心したから溢れてくる涙だった。

 

「すっきりするまで泣いていい。今は、何も気にしなくていい」

 

 

 その後私は、泣いたり泣き止んだりを繰り返した。

 どこかで求めていた温もりに包まれ、それは壊れた蛇口から水が流れ続けるように続いた。

 

 

 


 

 

 

 

「おはようございます……」

 

「おはよう……ハルナさんは?」

 

「まぁ、ちょっと……いろいろありまして……」

 翌日、僕はハルナの様子を確認してから、解析室に向かった。頭がぼぅっとする。

 

「……徹夜?」

「徹夜じゃないんですけど……まぁ。博士、コーヒー貰えますか? もう眠くて限界です」

「いいけど、私ブラックしか飲まないわよ?」

 

「今はそれが欲しいです。あ、砂糖とかも無しでお願いします」

 とにかく眠い。でもそれ以上に、どうしてもハルナのことが心配だった。

 赤木博士に淹れてもらったブラックコーヒーはこの上なく苦いが、今はそれがありがたかった。

 強い苦みが非常に強い眠気を塞き止めてくれるが、舌がどうにかなりそうだ。

 

 

「……何だろう、悩み? 心配事? 何か抱えている様だけど」

「……顔に描いてありましたか?」

「ええ、かなりはっきりとね」

 昔から隠し事が下手だ。すぐに顔に出る。

 

「はい。これは、全員に話した方が良いかもしれませんね」

 

 

 

 

 

 

 

「リッくん、急にどうしたの?」

 

「ちょっと、大事な話があって」

 

「……わかったわ」

 マリさん、今日はふざけは無しにしてくれるようだ。目が真剣になっているし、語尾も普通になっている。

 マリさんは僕が何かを抱えていることを少し前に察知していたから、それもあるかもしれない。

 

 

「今から話すのは、僕たちの身の上の話です。沖田艦長と佐渡先生は職業上ある程度は知っていますが、極東側からは止められている内容なので、一切外部に漏らさないようにお願いします」

 

 

「……僕とハルナは、55年の9月に火星で起きた災害の生き残りです。正確には一度死んでいるようなもので、事故の年から40年間昏睡状態となり、ガミラスが侵攻してきたころに僕らは目覚めました。この髪色は、元から銀色なんですけど、あの時の強いショックで一部変色しているというのは、僕たちを診察した医師から聞いたことです。ハルナも同じです」

 

 そこで一息ついて周りを見てみると、真田さんも、マリさんも、赤木博士も無理して聞いている感じがあった。

 アスカちゃんとユリーシャなんて目元を押さえている。

 やっぱり話すべきことではなかったのだろうか……。

 

「あの、そんなに無理して聞かなくても……」

 

「大丈夫だ、続きを聞かせてほしい。君も、無理して話しているんじゃないよね?」

 真田さん、ありがとうございます。赤木博士もマリさんも真剣な顔で続きを促していた。

 アスカちゃんも聞いてくれている。

 

「……続けます、あの災害で、僕は目の前で母を失いました。ハルナにとっては、もう一人の母親みたいな存在だったので、正直……今でもショックは大きいです。それで……ハルナはその、PTSDになってしまって」

 

 

「今日、ハルナっちが来ていないのは、フラッシュバックを起こしたからなの?」

 

 

「はい、航海を始めてからは調子良かったんですが、深夜に……うなされていて」

 

「今は落ち着いているの?」

 

「今は寝ています。ここに来るときに確認しましたが、普通の時の寝顔でした」

 

 その後、僕はあの時の話を包み隠さず話した。よく、「話すとこは話して隠さないといけないとこは隠す」っていうやり方があるけど、真摯に聞いてくれる人に対して失礼と思ったから、洗いざらい全てを明かすことにした。

 

 勝手に人の身の内の話をするのは良くないのかもしれない。でも、知ってもらうことが何かにつながるのならと思った。

 

 

 


 

 

「事情は分かった。また明日ここに来なさい、今日は暁君のそばにいてあげた方がいい」

 真田さんが一つ提案をした。でも修復作業もあるし、皆さんに負担をかけてしまうし……

 

 

「負担をかけてしまうと思っている? それなら心配ない」

 そんな僕の心は、マリさんに見透かされていた。

「今はハルナっちのそばにいる方が、ハルナっちのためにも、リっくんのためにもなる。ハルナっちの心が本当の意味で分かるのは、リっくんだけだと思う」

 

 

 正直その言葉が本当に嬉しかった。

 この人たちは、自分たちの心をこれほどまでに心配してくれているのか……

 

 

 我慢しているはずの涙がこぼれ始めた。

 泣くのなんて何年ぶりだ? あの日一生分泣いたのに……

 あいつを支えるために我慢してきた、人前で弱い自分を見せないように努力してきたのに。

 

 

 

 

「睦月君……話してくれてありがとう」

 

 

 

 

 艦内服の袖で涙をひたすら拭った。涙でぐちゃぐちゃになっても、気にしなかった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ふと目が覚めたら、私は元のベットの上で横になっていた。

 

 泣いていたのは覚えてるけど、そこからが分からない。

 私がベットの上にいるという事は、泣き疲れて寝てしまった私を、リクがベットに戻してくれたと思う。

「リク……?」

 

 ベットの横にある小ぶりなテーブルの上には、トレーに乗ったおにぎりとドリンクボトル、冥王星の時のメモ用紙で書置きがあった。

 

 

《おなかすいてるはずだから、食べれたら食べてね》

 

 

「これじゃあ……私が妹みたいじゃない……」

(ホントは嬉しいのに……いないと寂しいな……)

 

 

 私はベットから這い出ておにぎりにかぶりつく。

 気分も悪くなくお腹もちゃんと空いていたので、それらはあっという間に私の胃袋の中に収まった。

 

 

 

「起きたか、調子は?」

 自動ドアから入ってきたのは、リクだった。よく見ると目の下にクマが出来ていた。

 

「気分は大丈夫。おにぎり美味しかった、ありがとう……」

 

「何よりだ」

 

「作業は?」

 

「今日は無しって言われた。真田さんやユリーシャ、アスカちゃんもマリさんも赤木博士も事情を理解してくれた。今日はゆっくり休もう」

「あと、説明する過程で僕らの過去を話した。勝手に話したことは謝る」

 

 そういいながら、リクは私のベットに腰かけた。注意深く見てみると寝不足なのか、リクは少しふら付いている。

 

「そんな……リクが謝ることじゃないよ……」

 

 私がうなされて、泣き疲れて寝てしまうまでずっと起きていたんだ……。

 そう思うと、なんだか申し訳なくなってくる。

 

「急にきたよな、最近なかったのに」

 

「うん……リク、あれからずっと起きてたの……?」

 

「ん? ああ、前もそうだっただろ?」

 

「ホントごめん……私……リクに助けられっぱなしで」

 

「気にしなくていいって言った。ハルナは僕にとって唯一の肉親みたいな存在だから、僕は一緒にいたい。40年前に母さんが死んで、僕とハルナが生き残っていつも一緒にいた。少なくとも僕は、もう兄弟姉妹のようなものだと思う。そんな肉親が苦しんでいたら助けようとするだろ?」

 

 

 なんとなくだけど、リクの気持ちが私に流れ込んできたような感じになった。

 

 

 あの災害でクルジスは壊滅的な被害を受けて、多分、私の親も死んでいる。私もそうだったけど、リクは目の前で親しい人が死ぬところを目の当たりにしてしまっている。

 

 私よりもずっとずっと辛いと思う。

 それなのに、明るくふるまってそれとなく気遣ってくれている。

 髪の色が一部変わってしまったのも、それを私たち共通の特徴にして明るくふるまったり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私よりもずっと深く、決して消えない傷を負っているはずなのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リク……我慢、していない?」

 

「……していないと言ったら噓になる。正直辛いよ、目の前で母さんが死んだから。目覚めた時には地球に移送されてて火星は立ち入りが規制されてて、母さんの墓参りも出来てない……」

 

 見かけでは分からないけど、リクの心はやっぱりあの時から止まったままだった。

 決して人前では見せなかった、私にも見せなかったリクの心は、あの景色が焼き付いたまま、止まっていた。

 

 

 

「天涯孤独」という言葉がある。「身寄りもなく独りぼっちである状態」という意味らしいけど、そんなことない。

 

 

「私が傍にいるよ」と伝えたい。

 

 

 

 

 

「リク……私があなたの家族になる」

 

 

 

「……えっ?」

 私の唐突な言葉にリクは石柱の様に固まった。

 

「自分の家族を好きになった人は、その人の家族という事になるの。私はリクの母さんの事が好きだった、なら私はリクの家族という事にもなる」

 

 

 

 

 

 家族と言ってくれたことが嬉しかった。

 

 

 

 

 唯一の肉親と言ってくれて嬉しかった。

 

 

 

 

 ずっと気遣ってくれていたことが、申し訳ないと思いながらも嬉しかった。

 

 

 

 

 頭を撫でてくれたことが……心を受け止めてくれたことが……凄く嬉しかった。

 

 

 

 

 たった一人の最後の「家族」を……私は絶対に手放したくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は……あなたのことが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それに私は……リクのことが……好きだから」

 

 

 

 自分でもどうにもならない感情の渦巻きをそのままリクにぶつけてしまった。

 気づいた時にはすでに手遅れで、言ってしまったことを自覚して顔から白煙を噴き出しそうになった。

 

 真っ赤になってしまった顔を見られたくないと唐突に思い、両の掌で顔を隠してしまった。

 指の隙間からそっとリクの様子をうかがってみると、涙を流していた。零れる涙と共に、困ったような嬉しいような……沢山の感情が入り交じった顔をしていた。

 

 

「ハルナ、こういう時、どうすれば正解なのか僕にはわからない。でも……」

 リクが震える手で私を抱き寄せて、耳元でこう囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「家族になろうよ、ハルナ。僕も、ハルナのことが好きだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心がつながった感覚ってこういう感じなのかな

 

 とても暖かい、「幸せってこういうものなんだ」という事がやっと分かった気がした……

 両手をリクの背中に回して同じように抱きしめてみると、心がポカポカしてとても心地よい、ずっとこうしていたい。

 

 40年の時を共に越え、寄り添い互いに助け合ってきた私たち2人は、

 

 

 

 

 家族になろうと思いました。

 

 

 

 


 

 

「おはようございます、ご心配おかけしてすみませんでした」

 

「おはよう。睦月君から事情は聞いたけど、大丈夫かい?」

 

「はい。えっと……家族がいますから……えっと、平気です」

 私は照れながらそう口にしました。

 

「ええ~!! まさか!!」

 マリさんがとっても嬉しそうな顔をしている。赤木博士なんか、コーヒーが気管支に入ってしまったようで盛大に咽ている。ああ、ちょっと破壊力があったかな。

 

 

 あれから私たちは家族になろうという事で……一言でいえば婚約に近いのだけど、とにかくこの戦いが終わったら一緒に暮らそうという事になりました。

 

 

 それまでは恋人みたいな感じで過ごすことになり、いつものように業務に励む毎日を過ごすことになりました。

 あの夜嬉しかったことは、リクが婚約指輪みたいなものを作ってくれたことと、一緒のベットで寝てくれたことです。

 

 

 形見を2人で持とうという事であのペンダントを2つに分け、リクが橙色の方を、私が水色の方を持ちました。

 指輪というよりブレスレットみたいな……と言うよりチェーンを手首に巻いている感じだけど、色違いでリクとお揃いに慣れたのは嬉しかったです。

 

 

 一緒のベットに寝たことに関しては、「またうなされていたらすぐに起こせるように」という名目でやってくれたのですが、その日は昨日と比べてとてもすっきりと起きられました。リクが寝返りをうっていたようで、私が起きた時にはリクの顔が目の前にあってビックリしましたが……

(そういえば、一緒のベットに寝てたんだった……リク、寝てるなぁ。……つついちゃえ、えいえい!)

 

 

 解析室に来る前に、フラッシュバックが起きたこととその後の事を、事情を伝えてあった佐渡先生にお伝えしてきたら、

 

 

「出来ればその日のうちに伝えて欲しかったんじゃが、パートナーがおるならそれでええ! 睦月君、ずっと支えるんじゃぞ!」

 

 

 と言われて少し恥ずかしかったけど。

 

 

 そして、自室から解析室まで手をつないで歩いてみました。周りの目が気になったので、人通りの少ない通路を選んだけど……

 

 リクの手はえっと……優しい感じでした。当たり前のことを言うけど、あの時の死を覚悟した感じとは全く違う。でも、あの時とは違う「離したくない」という言葉が、ゆっくりと語るように染み込んでくるような……うまく表現できないけど、そんな感じでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、暁君、家族っていうのは……」

 真田さんが目をぱちくりさせながら聞いてきた。もう、びっくりしすぎです。真田さん。

 

 

「そのままの意味です。この戦いが終わったら、地球で結婚します」

 

 

 私たちの電撃発表は、真田さんの聡明な頭脳をショートさせて機能不全に陥れるには十分すぎる程だったみたいで、真田さんの再起動には幾分かの時間がかかりそうです。

 

「リっくん、ハルナっち! おめでとう!!」

 

「ありがとうございます、ご心配おかけしました」

 

「さてさてリク君~永遠の伴侶を得た気持ちを聞かせてもらい(ryちょっと姫~! やーめーてー!」

 際どい内容を察知したアスカによってマリさんは引きずられて解析室の外に放り出されてしまいました。

 

 

「ふぅ、悪霊退散悪霊退散、もう慣れたものです。ハルナさん、リクさん、婚約おめでとうございます!」

 

「ありがとう。アスカちゃん、話、聞いてくれてありがとう」

 

「背負い込んだら人間潰れてしまいますよ? どこかで吐き出さないとスッキリしません。あ、式やるとき呼んでくださいね?」

 

 うん絶対呼ぶね! 

 できれば復興した地球の日の本で式を挙げたいな。

 

 

「リク! ハルナ! おめでとう!!」

 解析室のドアが開いたその瞬間に飛び込んできたのはユリーシャでした。

 

「「ぐはぁ!!」」

 

 そしてそのまま私たちを抱き込む形で突撃、思いっきりユリーシャに押し倒されて、2人揃って変な声が出てしまいました。

 

 

 ぶつけた頭を摩りながらユリーシャの顔を見ると、溢れんばかりの笑みを浮かべてました。

「私の思った通り! 2人は結ばれたわね!」

「そういえば初めて会った時に『ハルナのことはあなたが支えてあげてね。あなたなら大丈夫よ!』って言ってたな」

 

 え! そんな事リクに言ってたの?! 

 私達のことは既にユリーシャに見抜かれていたようでした。

 

 

 

「フッフッフッ、全てはユリーシャのシナリオ通りに〜」

 

「何それ? 何かのギャグ?」

 

「知らなぁい」

 解析室に笑いが溢れた。私がリクの横顔を見ていると、それに気付いたリクがはにかんだ。

 たったそれだけで頬が熱くなってしまって、私はまた顔を隠してしまいました。むぅ、私嬉しいはずなのに……

 

 

「ハルナ、こういう時、笑えばといいと思うよ」

 彼の声が聞こえて、私は恥じらいながら両手を顔から離し、笑顔になりました。

 

 一向にに頬の熱は抜けないけど、「恥じらい」は「嬉しい」でかき消されてしまいました。

 

 

 

 手首に着けた指輪代わりの形見が揺れる。

 そのブレスレットで存在感を放つその石は、私たち2人……そして救うべき星と故郷の星を表しているようです。

 

 

 私達の婚約と昔話を船の皆さんが聞いたらどう思うでしょうか? 

 喜んでくれるでしょうか? それとも、「ただ傷を舐めあっているだけ」と思うでしょうか? 

 

 

 確かに、お互い苦しいこと辛いことを経験した。時に急に悲しくなって泣くこともあると思う。そしてそれを慰める。……見る人が見れば、ホントに傷の舐めあいにしか見えないと思います。

 

 

 でも、私はリクと支えあってきたし、お互い信頼している。お互い、好きです。

 これは自論だけど、夫婦ってお互い支えあう存在だと思います。どちらか一方が依存する関係ではなく、互いに依存する「共依存」という関係でもない。

 イメージしやすくすると、二人三脚かな。

 

 それと、お互いの良いとこをよく知っています。

 何年一緒だと思ってる? 少なくとも火星にいる頃から仲良かったよ? 

 

 

 

 ありきたりな言葉だけど、どんな未来が待っていても私たちは、2人でお互いに支えて、強く強く生きていきます。

 

 

 

「あらあら、拘り挽きのブラックコーヒーが甘いホットココアに変わりそうだわ。2人とも、おめでとう」

 

「なんかいい雰囲気だからここで見てよ、式の時は仲人でもやろうかにゃ」

 解析室のドアから眺めていたマリは、かつての京大時代の風景、綾波ユイと碇ゲンドウを思い出していた。

 目尻には、うっすらと涙が光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 リクのデスクに置かれたもう動かないデジタル腕時計。

 被災時に身に付けていたそれは、もう時刻を表示することは無い。

 

 でもそれは、皆が気付かぬように静かに思い出を刻み始めた。

 

 

 

 西暦2199年4月15日、私たち2人は、宙で結ばれた。




この話を書き終えてから後書きで色々書きたいことがありますが、長くなるのは良くないので抜粋して書きます



本作の主人公であるハルナとリクにはそれぞれオリジンがいるという事もあって、今回この話を最初から無かったことにしようかと迷いました。

「誰かの死が互いを結ぶ」というのは、連載初期は全く想定しておらず、当時の僕からしてみれば、書くつもりも全くなかったことでしょう。

そして「死を描く」のは精神的に参ってしまうことがあります。
この2人にはかなり思い入れがあり、筆者の僕自身、感情とかをかなりダイレクトに感じてしまうのでこの話を書く途中で何回もダウンしてしまいました。その都度無理矢理復活してましたが、どうにもキツイものがあります。

そもそもこのタイプの話は書いたことも読んだこともなかったので文字通りの暗中模索状態でした。


ですがこの連載をする上で避けては通れない話となっていた為、何とか書ききりました。

もしこの話を読んでいる中で気分が悪くなってしまった人がおりましたら、ここでお詫び申し上げます。
申し訳ございません。


今回は非常な特殊な回という事で、特殊テーマを付けます
という事で、楽曲コード載せておきます
主の気に入っている曲で「これだな」って思ったので載せてしまいました


曲名 聞こえますか
歌  こいぬ


HoneysWorksの曲で、色々あって主の大好きな曲です。意図せずこの曲をなぞることになってしまいましたが、途中からこの曲を織り交ぜる形で大規模な追記と修正を施してこの形に書き上げました。
実のところ、初期稿自体は3か月前から存在していました。
そこから途方もない編集作業を重ねて早3か月、多くの人に試作段階ものを見て頂き、その都度意見を頂いて来ました。

そしてようやく出せる段階まで書き上げることが出来ました。

試作段階の原稿を見て頂き意見をくださった鈴夢さん、名無しのミリオタにわかさん、そしてこのクロスオーバー小説を読んで頂いている多くの皆様、ありがとうございます。
皆さんにハルナとリクの物語を読んで頂けていることが、この特殊回を書く励みになりました。


後書きが長くなりましたが、満足のいく物が書けて主は本当に嬉しいです。

次からは通常運転です。ビーメラ4での反乱です


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4枚のジョーカー

皆様アンケートありがとうございました
NHGの使徒レーザー砲塔が予想以上に人気でしたので、それを1門と、次に人気だった試製ロンゴミニアド電磁投射砲を実装します
(使徒レーザー砲塔はオーバーキルの可能性があるので、一門です。電磁投射砲は何門か付けます)

形状についてのアンケート取るので是非是非お願いします



では、ビーメラの反乱です
お楽しみください




「本当にこれでいいんだな? 俺を信用して」

 

「……」

 

「いいのか? お前が掴んでいる情報では、数の差でやられる可能性もある」

 

「分の悪い賭けです。死傷者も出る可能性があります。それでも、あなたを信頼します」

 

「……わかった」

 

 


 

 

 

「損傷個所は?」

 

「甲板VLSが3ユニット、第一、第四主砲に第二副砲、対空兵装多数、おまけにアレイアンテナ基部、カメラもだ。砲身交換と内部機構の調整、あとはエンジンと砲塔をつなぐ供給ラインの点検、カメラユニットまるまる交換。777の弊害も出ていそうだ。VLSは誘爆も起こしていたから修復には時間がかかるな」

 

「手酷くやられたわね。私ら死にかけたし」

 

「あれは本当に怖かった。ハルナがああなるのも無理はないか」

 

「でも逃げないわ。たとえ、どうなってもね」

「その頑固は誰に似たんだか」

「あら? 私のパーソナリティよ?」

 

「……そうだな。誰のものでもない、お前自身のものだ」

 

 

 パーソナリティ。心理学では、人間の行動や判断のもとになる考え方や傾向のことを指し、個性とも呼べる。その人が見たり聞いたりしたことをもとにして形成されていくそれは、完成の2文字を知らない。

 

 リクの母さん「睦月風奏」の死を見て大きく改変されたそれは、睦月リクをいう存在によって互いに混じり、「持ち主が本当になりたいと思った」姿を体現させる。

 あの夜受け取った言葉、渡した言葉は、確実に2人の何かを変えた。

 

 その結果が今のハルナの言葉なら、それを見て2人の母親は何を思うだろうか。

 

 

「話変わるけどさ、この石って、地球と火星を表しているんだよね?」

「そのはずだ。僕が火星の方、ハルナが地球の方だ。母なる地球……ってね」

 

「もう……この水色を海と例えるなら、リクの橙色はさしずめ大地かな?」

「大地かぁ……日本神話では、大地を創ったのはオオクニヌシという神様らしい。そして海を創ったのがワタツミと言うらしいよ?」

 

 

「神様かぁ。……もし本当に神様が地球を作ったなら、壊れたとこは住んでる私たちが直さないとね」

「上から見てるなら、見られていても恥じないようにしないとな」

 

 そういって、互いの拳をぶつける

 揺れる石は、あたかも宝玉のようだ。

 

 

 


 

 

 

「航海日程21日の遅れか……」

 

 航海表と航路図に表示された日数は、「注意域」に入った黄色の点滅になっていた。

 次元断層に入り込んだ、次元潜航艦の攻撃を受けて修復、そして今回の大艦隊との戦闘、修復修復……航海日程は、どんどん遅れていく。

 

 これ以上の遅延が発生すれば、最悪1日5回のワープでは遅れを取り戻すことができなくなり、人類滅亡である。

 

「申し訳ありません」

「君の落ち度ではない。ガミラスとの戦闘で修復期間に足を引っ張られることは予想できたことだが、ここまで手酷く損壊を受けるとは、儂も想定していなかった。敵将の技量を見誤ったな」

 

「これ以上のスケジュール遅延は致命的です。可能ならば、1日3回のワープを5回に増やして遅れを巻き返すしかありません」

 

「そのことも考慮する必要がある。後は頼む」

「了解です」

 

 そういって沖田艦長は航海科室を後にしようとした時、

 

 

 

 

 

 

 沖田艦長は、その場に倒れこんでしまった。

 


 

「術後の経過は良好じゃ。過労じゃな。しばらくは無理させちゃいかんぞ?」

「はい……」

 

「……通常時の指揮は、私が執ろう。航海時の戦闘は、古代、君に任せようと思う」

「自分にですか?」

 

「先の戦いで分かった。指揮官と言うのは、論理を超えた指向て動ける人が指揮官になるべきと思う。私は参謀役に徹してみよう」

 

 

 次元潜航艦戦闘時に分かった。指揮官と言うのは、一般的な常識に囚われない柔軟な思考が必要だと。

 自身は論理的傾向がある。だが古代には、それらに囚われない。

 

 自身が見たことを論理的に考えた真田は、戦闘時の指揮権限を古代に預けたのであった。

 

 

 

 

「水は確実に手に入るとして、あとは食料か」

「有機物さえあればなんとかなるから、問題ないよ」

 補給地となりうる惑星が近づいてきたことで、船内の士気は回復しつつある。

「ようやくまともな食事にありつ得る」ことでディストピア飯ともおさらば、今回のことでオムシスのありがたみがよく分かった。

 

「へぇ~思ったよりも緑な惑星なんだねぇ」

「木製の浮遊大陸の時のように、大陸を丸々持ち込んだような痕跡はないわ。それに第三者からの手は一切加わっていないようね。一応ガミラスの心配はしなくても良さそうね」

 

 航海を始めてから初の「生命居住可能の惑星」にマリと赤木博士は興味深々だ。

 外宇宙というのは科学者にとっては垂涎ものだろう。それもあらゆる分野でだ。

 物理学、天文学、生物学。それ以外の学問も十分に扱える。未知の航海であるがゆえに、未知の発見もある。新たな学問も発生することだろう。

 それほど宇宙というのは、危険ではあるが輝く場所なのだ。

 

 

「ビーメラ恒星系の第4惑星ビーメラ4です」

「どうやら水は豊富に存在しているようね」

「今のところ、有害物質の類は検出されていません。嬉しいことに大気成分は地球とほぼ変わりませんので、呼吸の方はラクですね……ってそれじゃあ俺たちも住めそうだなぁ」

 

 

「そうね」

 そういって新見は島のコンソールに1枚のメモを置いて自分の席に向かった。

 

「島、ビーメラ4大気圏突破後、高度1000mで滞空だ。古代、調査隊を編成、指揮を執るんだ」

「はい」

 

 

「ビーメラ4大気圏に突入します。降下座標、北緯……」

 

 ゆっくりと降下していくWunderは、ビーメラ4の大気を慎重に割き、久しぶりの大気圏をその身で感じる。

 雲を割ってその外部カメラで視認したその光景は、かつて地球に存在していたアマゾンの熱帯雨林のようだ。

 

 

「大気成分の直接観測結果が出ました。人体に有害な成分は検出されません。素晴らしいわ……これなら、第二の地球にも……」

 

 新見は失念していた。今この場には真田がいる。

 

 以前新見は、グリーゼ恒星系に訪れた時に沖田艦長に調査隊の編成と調査の打診をした。

 それは日程上の問題で却下されたが、それが沖田艦長から真田に伝わっていてもおかしくないのだ。

 

「よし、シーガル発進準備」

「艦橋から左舷第2船体第3格納庫へ。ハッチオープン、繰り返す、ハッチオープン」

 

 

『シーガル、テイクオフ』

 第3格納庫管制室の管制室からの操作で電磁アームが稼働して、機体を船外に移動させる。その後電磁アームの吸引を解除して、シーガルはビーメラの重力に身を任して飛び立った。

 

 

 _________

 

 

「岬君、気分が悪いのか?」

「酔ったのか?」

 

「だ、大丈夫です! ただこの頃、サーシャさんとの入れ替わりがあって、記憶が飛びがちなんです」

「艦長もおっしゃっていたな、それ……ほんとに来ても大丈夫あったのか? 船内で安静にしていたほうが安全なんだが」

「いえ! イスカンダルのサーシャさんがいるなら、もし変なものがあっても何かわかるかもしれませんから」

 

「とにかく、少しでもおかしかったら言うんだ。サーシャさんも居るならそう伝えてくれ。いいな?」

「はい!」

 

 

『1時ノ方向ニ金属反応』

「確認する。着陸する」

 

 着陸態勢に入ったシーガルの中で岬は急にウトウトし始めた。

(あ、これはダメなやつだ……)

 そのまま眼を瞑ってしまった。

 

 

 __________

 

 

 

「新見君、君は優秀な解析士官だ。そして、私の後輩でもある。君は、ビーメラ4を第二の地球として、贖罪計画を再始動させたいようだね」

 

「第二の地球」

 その言葉を聞き逃さなかった真田は、新見を会議室に呼び出して、その真意を問いていた。

 地球脱出の贖罪計画、かつて地球で進められていたその計画は、イスカンダルから、波動エンジン設計図とメッセージが届けられたことで破棄された。

 この船もWunder計画のために、BußeからWunderへと大改装された。

 

 しかし、彼女はまだあきらめていなかったのだ。

 

 

「Wunderの航海は、達成が極めて困難な航海です、いいえ、不可能とも言ってもいいです。Wunderの航海日程は大幅に遅れています、その上、先のガミラスの大規模攻撃では、敵がもし撤退しなければ確実にこの船はやられていました。敵があれだけの艦艇を動かすことが出来るのならば、敵の戦力はあれらの10倍、あるいは100倍ともみて取れます。このまま進み続けてさらに攻撃を受け、撃沈ともなれば地球は終わりです。ですが今ここは人類の生存が可能な惑星です。この惑星のデータを持ち帰り直ちに地球脱出の準備を進めることが、今我々にできる最も生存確率の高い方法です」

 

「やめたまえ」

 

「お願いします先生。人類の種を存続させるためなんです。協力してください」

 

「それは、できない相談だな」

 地球人類への贖罪よりも地球の復興。真田の意志は固かった。

 如何に後輩とはいえ、如何に教え子といえ、

 

 

「これは反乱の前兆だった」

 

 

「いやはや、素晴らしいスピーチでしたよ新見情報長。今のは、反乱の意志ありと判断するしかありませんね」

 

「保安部長……新見君を、拘束したまえ」

 自らの教え子を拘束させるのは、心苦しいことだろう。

 しかし、その感情は立場が許さない。

 

「失礼、これも任務なのでね」

 そういって伊藤が取り出した拳銃は、

 

 

 

 真田に向けられた。

 

 

 


 

 

 

「へぇ~お前にこんな装備があったなんてな」

 パワードスーツというものをご存じだろうか? 強化外骨格とも呼ばれるそれは自身の目線を高くして、人間では到底発揮できないようなパワーを与える。

 しかし、今このロマン装備を付けているのは、人間ではない。

 

 

『私ハ、アラユル状況ニ対応デキル優レタユニットナノデス!』

 そう、アナライザーなのだ。

 このパワードスーツは、正確にはアナライザーの前身となったユニットが所有していた装備の改造型だ。「兄のお下がり」とも呼べる装備を身に着けたアナライザーは、いつも以上に頼もしい存在として、今回の調査に同行する。

 

「君たちはシーガルで待機だ」

「「了解!」」

 

 そういって古代は進んでいくが、岬だけ気の抜けたような顔で立っていた。

 

「岬君、どうした? 置いてくぞ」

 そういわれやっと気づいた岬は、何時もつけている髪留めをその場に落とし、スタスタとその後ろを付いて行った。

 

 

 

 _____

 

 

 

 

「副長を?!」

 新見から伝えられた計画とは違う。それも最初から。

 そのことは計画を伝えられた島を困惑させるには十分すぎるものだった。

「本意じゃないのよ……今、保安部が会議室に軟禁している」

 

「このまま、なし崩しに決行するのか」

 

「もう、後戻りはできない。決断して……島君」

 

 なし崩しに決行となった計画は、始動した以上止められない。

 

 

 _____

 

 

 

 一方、そんなことに全く気付いていない2人の研究室には、今日はお客さんがいた。

 

「お願いします」

 コスモゼロの強化案の提出を頼まれていた山本は、少し前からコスモゼロの改造に関しての要望を纏めていた。

 それは夥しいほどの紙面で形になり、それを受取ろうとしているハルナの顔もほんの少しだが引きつっている。

 

「うわぁ……よく書いたねこんなに」

「暇があればガリガリ書いてましたからね。ボツ案もいくつかあるみたいですけど」

 その様子を一番見ていたアスカが語るのだからそうなのだろう。

 食堂でも書き、控室でも書き、アスカがサンドバックをKOするときにも書いていた。

 

「そのボツ案も気になるところだけど、とりあえずこれで進めていこうかなと思う。でもこれじゃあ何週間かかるか分からないや」

「まぁ全部は無理かもしれないけど色んな人呼んで調整してみるね」

 

 

『全艦に達します。艦長重病につき、職務遂行が困難とみて、本日付けを持って本艦の指揮権は航海長の島大輔一尉に正式に譲渡されました。繰り返します、艦長重病につき……』

 

「は?」

「いきなり過ぎる」

「いや、艦長倒れたというのは知ってるけど佐渡先生からは過労と聞いている。佐渡先生のことだから誤診は無いけど、タイミングが良すぎるな」

 

『暫定的に、本艦の指揮を預かることになった、航海長の島だ。調査の結果、現在停泊中の惑星ビーメラ4は、人類が居住するために必要な環境を、十分に有していることが確認された。現在、Wunder計画は、大幅な日程の遅れを出している。そこで副長と協議した結果、本艦は、人類絶望までに帰還する確率が極めて低いWunder計画をここで中断する。我々は、この居住可能な惑星の情報を携え、地球に帰還する。これは、沖田艦長の同意も得た決定事項だ。皆の混乱を避けるためにも、乗組員は、保安部の指示に従い、冷静に行動してもらいたい』

 

 昏睡から復活してから佐渡先生にお世話になった2人が言うならそうなのだろう。

 艦長が過労で倒れる。佐渡先生への信頼。そしてこのタイミングでの艦内放送。

 

「何か変だ」

「だよね。艦長室で真意を確認したほうがいいな。ごめんね山本さん。改造の話はまた今度だ」

 そういって研究室を出ようとしたとき、ドアの向こうから声が聞こえた。

 

(睦月一尉、暁一尉はいらっしゃいますか?)

 

 

 何かに感づいたアスカがすかさずドアの前に回り込んだ。

 

「開けちゃダメ」

「……これって何かの謀略が動いてる感じ?」

「多分ですけど、タイミングが良すぎます」

 

「なら時間稼ぎしないと……声は男だったから……そうだ。玲ちゃんちょっといい?」

「はい?」

 

 そういって山本の耳元でハルナは何かゴニョゴニョ話したら、山本はにやりと笑った。

 急にシャワー室に入ってドアを全開にしてシャワーを出し始めた。

 それを確認したハルナは大声で叫んだ。

 

 

 

「今シャワー浴びてるのよ勝手に入ってきたらあなた達承知しないわよ!!」

(りょっ了解しました……)

 

 

 

「……ナイス」

「声が男だったから効くと思ったのよ。勝手に知らない人がシャワー中に上がり込んできたら私でも怒るわよ。でどうする? 時間稼ぎは長く持ちそうもないよ?」

 

 

「とりあえず、ここに来た事は何かの謀略の一部みたいだし、身柄取り押さえはあるな。でもそれにビビッて逃げたら逃げたという事が相手側に伝わる。多分敵はあれ以外にも結構いるから下手なことは出来ない」

 

「いっその事ここでボコります?」

「「「はぁ?」」」

 アスカの何とも暴力的な一案に一同素っ頓狂な声を上げる。

 

「敵に連絡されたら困るのはこっちですから、連絡される前にボコって武装解除させて縛っておきましょう」

 既に指の関節をコキコキ鳴らしながら準備運動しているアスカは、乗り気だ。

「いやだいぶ荒っぽいけど……今非常時みたいだから仕方ないか」

「その辺2人は問題なさそうね、ロッカーを壊すほどのパワーがあるんでしょ?」

 

「それはノーコメントで……」

 

 やらかしを突かれた山本とアスカは口笛を吹く真似をしながら明後日の方向を向く。

 

「敵は何人いるか分からないけど、少なくとも2人としておくか」

「じゃあ、ハルナさん、リクさん、何でもいいので一瞬だけ敵をひるませてください」

「何でもいいなら……容赦ないのにしようか」

 リクの視線の方向には、かなり厚みのある専門書が数冊あった。

 

「……あれ使うの? あの大判本」

「鈍器で頭をやるしかないな、身体能力は僕ら低いほうだし」

「気が引けるけど、悪い企みは断ち切ってやるわ」

 

「怯んだら私たちが飛び蹴りしますので、避けてくださいね?」

「……仮面ライダーになりたいのかい?」

 

「とにかく準備をお願いします!」

 

「よしわかった。とどめは任せたよ2人とも」

「「はい!」」

 

 

(あの~まだでしょうか……)

 

「あ、ごめんなさいもう出ますので!」

 結構時間稼ぎ出来て作戦も急ごしらえだが完成した。

 

 ドアの両横に大判本装備のリクとハルナが待ち構え、ベットの中に山本とアスカが待機、いつでも飛び出せるように準備する。

 

 

「お待たせしてしまってごめんなさい今開けますね!」

 そういって、ハルナはドアの開閉スイッチを押してドアを開けた。

 

「失礼します……ってあれ?」

 武装した保安部員の目の前には、誰もいない。確かに今の今まで声がしていたし、シャワー音もしている。

 それなのに誰もいない。

 

「おりゃぁ!」

「えい!」

 リクとハルナが振り下ろした大判本はそれが持つ質量の全てを活かし切り、運動エネルギーの恐ろしさを保安部員の頭に余すことなく叩きこんだ。

 その衝撃は決して侮れるものではなく、一瞬目の前が暗くなった保安部員のスキを突くように2人の赤と白の戦乙女が、身を隠していたベットから躍り出た。

 

 

「「スゥーパァァーッ!」」

 

「「イナズマァァーッ!」」

 

「「キィィーック!!」」

 

 

 その怒号で威力を強化した正義の必殺技は保安部員の胴体にクリティカルヒットを決め、保安部員は部屋の外まで吹っ飛び向かいの壁に激突した。

 

 

 そして気絶した保安部員を、何事もなかったかのように部屋の中に引っ張り込んだ。

 

 

 

 

 

「……アスカちゃん、またマリさんのアーカイブで変なの見たの? 明らかに仮面ライダーじゃなかった」

「あ、200年前の熱血スポコンロボットアニメをちょっと」

「『スーパーイナズマキック』って言ってたよね。ホントはいけないことしてるけどちょっと楽しく感じちゃうじゃん」

 

 そう言いながら保安部員のヘルメットに防弾ジャケット、アサルトライフルを取り上げていく。

 そして武装がないことを確認してから手近なひもで手足を縛る。

 逃げ出してもらったら困るので、かなり頑丈に、ギチギチに縛っておく。

 

「ふぅ、明らかに黒だよね」

「ああ、赤城博士のコーヒーよりも黒だ。でも何を狙ってきたのかな? こんな武装して」

 

「……多分、マスターキーかな」

「……! それじゃあ船を乗っ取るつもりなのか?」

「多分、ね。マスターなら船のシステム全部使えるし、システムそのものの改修権限もある。こっちが感づいてマスター権限でシステムを全部ロックする前に抑えたかったのかも。だからここに来た」

 

 

「なんか……今日冴えてるな」

「そんなことないよ、でも前まではこういう時怯えてたかもね」

「何かあったの? 睦月さんと暁さん」

 何か変わったような雰囲気を感じ取った山本だが、何があったのかはわかりかねていた。

「知りたい?」

 何があったのかを知っているアスカがすかさず裏話をしようとするが、

 

「ちょーっと待った。その話はあとでいいかな?」

 

 状況が状況なので止められてしまった。

 

 

「……とりあえず押さえておきたい場所、というか押さえられているだろう場所は?」

 この中で軍務経験の長いアスカが3人に質問する。

 

「僕なら機関室、中央電算室、MAGI格納エリア、艦長室に艦橋……ってとこかな」

「大体一緒ですね。とりあえず機関室は優先、その後に艦長室を何とかして押さえないと……艦長やられたら大問題です」

 

「でも連絡が途絶えていたら増援が来るかもしれないからササっとどこかに隠れておきましょうよ」

 山本がごもっともなことを口にする。

 連絡が途絶えているという異常を感知した敵が増援をこちらに寄越すかもしれない。

「ダクトにでも入る?」

 

 そう言ってリクが指さした先は、Wunderの空気循環を一手に引き受けるダクトだった。

 

「入れるんですか? あれ」

 

「ここまで大きい船のダクトだからね。空気循環の観点から大きめにしておいたから人くらいなら楽に入れると思う」

 

「よし、そうと決まれば……!」

 そういってハルナは長い髪を解き、保安部員から没収したヘルメットを勢いよく被った。

 白銀の美しい髪の印象が武骨なヘルメットで抑えられてしまっているが、まあ本人がやる気満々なので問題はない。

 

 

「準備が速いな。あと一個だけど誰か被る?」

 

「あったらあったで邪魔なのでいいです」

「同じく、格闘するときに余計なものついていると重心とかで動きにくいので」

「そ……そうか、じゃあ僕が」

 リクもヘルメットを被る。確かに近接格闘をする以上余計な装備があると途端に動きにくくなるのも、近接戦闘に疎いリクでも分かった。

 

 

「では、行動開始」

 アスカの号令で、全員は近くのダクトに身を隠した。

 Wunder乗っ取りという前代未聞の事態に対抗するための戦いが始まったのであった。

 

 


 

 

「カッコいいぞ~お前」

 主計科長の平田はどうやらこういうものに興味をそそられるようで、パワードスーツを装備したことでグレートアナライザーとかしたアナライザーを気に入ったようだ。

 

「アナライザー、その金属反応まではあとどれくらいだ?」

 古代が肝心なことを聞く。金属反応は確認したのだが、その肝心な位置がわからないのだ。

 

『オヨソ、3キロ』

「ええ……」

 遠い、遠すぎる。

 

 

「誰かに見られている。人ではないみたい」

 唐突に岬が、いや、サーシャがそう呟いた。

 その瞬間後方に振り向くとそこにいたのは、

 

 

 巨大な何かだった。

 

 

 ______

 

 

 

 時は少しさかのぼり、真田が軟禁された後。保安部は艦内の重要箇所の制圧に動いていた。

 

「よし航空隊控室、機関室、艦長室の確保へ動け。そして、研究室を押さえマスターキーの確保を急げ。あれを使用されたら厄介だ。無論、ユリーシャ・イスカンダルの確保もだ」

 

 そう命令した伊藤は数人の部下を連れて艦橋の制圧に向かった。

 この船に乗り込んだ保安部の大半は贖罪計画派であり、芹沢からの密命を受けていた。

 ここまで待った。機会が目の前で過ぎ去っていくことも見た。

 そして今が絶好のチャンスという事を一番理解している。

 

 

「伊藤さん、行きますよ」

「よし、行け」

 伊藤の合図で艦橋のドアが開かれ、突然引き起こした混乱を活かして武装した保安部員があっと言う間に艦橋を制圧した。

 

 

「伊藤! これは何の真似だ!」

 

「ハイハイ騒がない騒がない。皆さんお静かに」

 そんな言葉も軽く受け流し、蔑む目を隠そうともせずに艦橋を見渡す。

 

「我々はなるべく穏便に行きたいんですよ。なので協力してくれますか? 余計な血は流したくありません」

 冷ややかで感情がこめられない目でそう言い放たれた艦橋は、一気に緊張状態に包まれた。

 

 

「さて、皆さん静かになったところでお聞きします。皆さん、騙されてませんか?」

 伊藤が放ったのは、衝撃の一言だった。

 

「何のことだよ?!」

「なぜイスカンダルとガミラスが全く同じ位置にあるのか。なぜそのことが秘密扱いにされていたのか。なぜ使用制限条約なんて『最強手札を縛るような条約』が結ばれたのか。こんな事普通はする必要がないんですよ?」

 

 ねちっこい不気味な笑みを崩さずに淡々と語っていく伊藤の口からは、重みを感じさせているようで全く乗せていないようにも聞こえる言葉が流れる。

 

「そのことはもう沖田艦長から説明があったはずよ!」

「いやいやいや……違うんですねぇ皆さん。ガミラスはイスカンダルを信仰している。つまり、関わりがあるんですよ。こうは考えられませんか? グルなんですよ。もしもグルだったら、先の戦闘時に大艦隊に待ち伏せされていた理由も想像がつきます。そして位置がバレたのも彼女が発信機の役割を果たしているから、そう考えられませんか?」

 

 

「あんた! 頭がおかしくなったのか?!」

「こりゃまぁ心外ですねぇ。いつも通りの頭ですがね」

 そういいながら伊藤は艦内用の通信端末を懐から取り出して、とある場所のライブ映像を中空スクリーンに表示させた。

「うちの部下たちは優秀な駒でしてね、今のところ私が指定した場所は制圧済みなんです」

 

 中空スクリーンに映る場所は機関室、艦長室、そして、ユリーシャの部屋だった。

 どの画面にも武装した保安部員が映っていて、機関室の方には、藪をはじめとした機関科員数名が徳川機関長に拳銃を向けていた。

 

「手際が良くて助かりますねぇ、うん?」

 

 ふと目に留まったの、暁睦月研究室のライブ映像だった。

 

 大判本で保安部員を殴打した2人の白髪の技術科と、スーパーイナズマキックを食らわす2人の航空機パイロットの姿が映っていた。

 

 

「っこれは?!」

 

「どうやら、思惑通りにはいかないみたいね」

 狼狽える伊藤を面白く思ったのか、森が嫌味を放つ。

 

 

「……伊藤から二番に連絡、研究室を徹底的にやれ」

『二番、了解』

 

 

「……航海に必要のない皆さんには、しばらく別室でおとなしくしててもらいましょう。航海長、発進準備の方をお願いしますね?」

 

 

 


 

 

 

「どうもありがとう伊藤さん、会話が筒抜けだよ?」

「ハッ! 笑えて来るわ、こっちが装備剝がしただけと思ってるようですね」

「ヘルメットに無線がついているのは助かるわ。向こうの動向まるわかりだからね」

「おまけに部隊間の位置情報を把握するPDA……マップ付きですよ」

 

 ほふく前進が必須技能となるダクト内部でコソコソしている4人は、伊藤の焦り具合を音声のみでチェックしていた。

 山本の手元のPDAには、研究室に向かってくる一団が表示されている。

「危なかったなぁ」

「ダクトあってよかったですね。あ、こっちの位置情報切っておかないと」

 

「さて、ここからどうするか……嬉しいことに戦闘役2人と設計者が2人いるんだ。二手に分かれよう」

 

「まずは機関室の奪還と軟禁状態の艦橋メンバーの解放をして古代くんに状況を伝える、真田さんは位置情報がわからないから今は難しいわ」

「機関室までは……ほふく前進で500m先かぁ……」

「えっと、艦橋メンバーの軟禁位置は……ここかな?」

 そういいながら山本から借りたPDAを操作して見つけた場所は、営倉の監視室だった。

 そこにだけ保安部員の位置情報が複数表示されている。

 

「……遠いな」

 

「まぁやるしかないよ。玲ちゃん、お願いできる?」

「了解です!」

 

「んじゃあこっちはこっちでアスカちゃんと組むのか。とりあえず機関室の方行くわ。片舷押さえればこいつでもう片方も押さえれる」

 そう言ってリクは懐からマスターキーを取り出す。

 保安部が狙っていたのはまさしくこれだ。

「了解。ほふくならユーロで死ぬほどやりましたよ?」

「そりゃ頼もしい」

 

 

「んじゃ、作戦開始!」

 

「「「了解!」」」

 

 

 __________

 

 

 

「虫は嫌虫は嫌! 虫は嫌!!」

「なんでこんなのがいるんだ!」

「わからん!!」

「とにかく逃げましょう!」

 

 これはいったい何なのだろうか

 ザリガニのような鋏を持っていて、百足のような足を持っている。

 終いには大きく開けた口からは触手のようなものを自慢げに見せびらかしている。

 

 虫嫌いの人には圧倒的破壊力のある見た目だ。

 

「ひぃーっ!!!」

 

 開けた場所に出た時に、急にアナライザーが反転してその剛腕で巨大昆虫を受け止めた。

 さながら大怪獣に立ち向かう正義のロボット。これで興奮しない者はいない。

 

『暴レナイデクダサイ!』

 怪獣を両手の武骨なアームで持ち上げ、機敏な動作で巨大昆虫をひっくり返した。

 

「……カッコいい」

 サーシャも気に入ったようで、無表情なようで口角がわずかに上がった顔でそう呟いた。

 しかし巨大昆虫がそれで退散するわけもなく、再び立ち上がりアナライザーを睨む。

 

『カカッテキナサイ!』

 アナライザーが構えて臨戦態勢に入るが、巨大昆虫は何かに怯えたそぶりを見せ、背を向けて緩慢な動作で歩いて行ってしまった。

 

 

「ふぅ~助かったぁ、ん? 古代、あれって」

 そういって平田が指さした先には、例の金属反応の物体があった。

 

 

「これって……」

 それは、かつて地球と火星に不時着した宇宙船だった。

 

 

 


 

「これは、火星に不時着したあの宇宙船と似ている」

 

「これはイスカンダルの船です。この星にも、救済をしていたのですね」

 不意にサーシャがそう口にしたとき、古代はその言動にピンときた。

 

「もしかして、サーシャさん?」

「急に入れ替わってしまったことをお詫び申し上げます。金属反応について心当たりが一つあったもので、居ても立っても居られなくなりまして」

 

 

「それで、なんでこの星にイスカンダルが?」

「……私たちイスカンダルの使命は、あまねく知的生命体の救済。その一つとしてこの星を訪れたのでしょう。ですが、この星は救済を拒んだ、もしくは救済を行う前に滅亡してしまったようです」

 それを話すサーシャの声色は少し悲しそうだった。

 無表情に近い彼女の顔からは、表情というものを読み取ることが至難の業といえよう。

 

『戦術長、コノ先ニ別ノ金属反応ガアリマス』

 

 __________

 

 その先には、細かな彫刻が刻まれた神殿のような遺跡が広がっていた。

 

「これは……」

 

「ゲームのダンジョンとかでよく見るけど……こいつは本物なんだよな」

 これはゲームではなくリアルである。当然先ほどの様に何がいるのか分からないが、とにかく進んでみる。

 

 

 その神殿はすでに酷く荒れ果てていて、壁際には人型生物の遺骸が背を預けていた。

 

「彼らが、この星に生きた人々……」

「多分ね……こういう見た目好きじゃないけど」

「こいつは、さっきのでかい虫か」

『恐ラク、彼ラガ家畜トシテ使役シテイタノデショウ。ソレガ文明崩壊時ニ野生化シタト思ワレマス』

 壁にはとにかく大量の情報が壁画として残されている。

 こういうところに考古学者を連れてきたら一生ここに張り付くだろう。

 

 その通路はどこまでもどこまでも長く続いていたが、急に開けた場所に出た。

 そこでは数十人は入れそうな空間だが、そこに置かれていたのは古代も観たことのあるものだった。

 

 

「これは……! 波動コアか!」

 

 


 

 

 ところ変わってWunder艦内、その航空隊控室に軟禁状態にされている航空隊各員は緊張状態となっている。

 

「あんたら、何がしたいんだ?」

「無駄口を叩くな」

 そう言われてアサルトを向けられる。

 保安部員は完全武装、航空隊員は丸腰、打つ手なしだ。

 

「星名、入ります」

「なんだお前か。何の用だ?」

 

「伊藤さんからの命令で、加藤隊長は別室で隔離しろとのことです」

「別室で? ……ちょうどいい、お前が連れてけ」

「了解です。加藤隊長、ご同行願います」

 星名はアサルトを構えて加藤にそう告げる。

 武装している相手に無暗に突っかかれない以上、渋々したがって加藤は控室を出た。

 

 

「……急にこんなことしてすみません。僕に協力してくれませんか?」

 近くにいる加藤にしか聞こえないように小さな声でそう言った。

「……どういうつもりだ」

「……僕は保安部ですが、藤堂長官の勅命で動いています。贖罪計画派の反乱を防ぐ、もしくは鎮圧させるためにこの船に乗艦しました。艦長室の保護をしたいので、戦力として協力して頂けませんか?」

 

「……向こう側のふりして実はコッチ側か。じゃあ頑張って演技しないとな。協力しよう」

「一応医務室で佐渡先生も拾っていきます」

 

「はいよ。奴らに見つかったら面倒だがそこはわかってるよな?」

 

「各員の位置はPDAで分かります。人通りの少ない通路を辿って医務室に行ってそこから艦長室に向かいます」

「そこまで考えてんだな。じゃあナビの方は任せる。お前はそれらしくアサルトを突きつけておけばどうだ?」

 

「……我慢してくださいね?」

 そう言って星名は弾倉を空にしておいたマガジンを取り付けたアサルトを加藤の背中に突きつけ、連行しているように見せかけて歩き始めた。

 

「やっぱり気分のいいものじゃないな」

 背中の冷たいものを感じながら、反抗へと向かった。

 

 


 

 

「佐渡先生佐渡先生起きてください」

「んぉ? 何じゃ伊藤の腰巾着と加藤か、今日は開店休業じゃあ」

 酒瓶を両手で抱き抱えてスヤスヤと眠っていた佐渡は、急に現実に引き戻されて不満そうだ

「あはは……それじゃ困るんですよ」

 

「沖田艦長が軟禁されてます。艦長室の奪還をするので手伝ってください」

 加藤のその一言で一瞬で酔いが覚めた佐渡は、同時に原田が戻ってきていないことから状況を察して2人について行くことにした。

 

 

「な〜にが『艦長重病のため』じゃあ。儂の診察に狂いは無いぞぉ?」

「確か佐渡先生と艦長は付き合い長いんですよね?」

 

「土方中将からも『親友を頼むぞ』と言われとるからな。この歳になっても誤診なし処置ミスなし、ガミラスのお嬢さんにも称賛されて、艦長からは宇宙一の名医とか言われちゃってるからな!」

 

 なお、これらは全て事実である。決して話を盛ってないことは約束しよう。

 

「ほら! さっさと行くぞ!」

 

 お怒りモードの佐渡に引きずられそうになりながら、星名と加藤は艦長室に向かった。

 

 

 __________

 

 

 

「なに? Wunderと交信ができない?」

『そうです。何度も呼び掛けているのですが、全く応答がありません』

 

「……とりあえず、俺たちの迎えを頼む。ポイントを送信する」

 ひとまず帰還するという事で纏まったので、平田は自身のポイントを送信する。

 その傍らで、古代とアナライザー、そしてサーシャは謎の波動コアの解析を行っていた。

 

『戦術長、取得シタ情報の中に可視化できる情報ガアリマス』

「この場で出せるのか?」

『ハイ』

 

 そういってアナライザーは自身のカメラから光を出して、その情報を表示した。

 

 

「……これは?」

『詳細不明デス。何カノ概念図ノ様デスガ……』

 

「これは……超空間ネットワークの概念図だと思います」

 

「超空間ネットワーク? それは何なんですか?」

「……銀河間航行を行う上で重要な中継システムです。超光速航行でも多くの時間を要する銀河間航行を支える宇宙の灯台。あなた方の言う、亜空間ゲートと呼ばれるものです」

 

 

 


 

 

 

「狭い……」

「さすがにキツイ。でもあとちょっとだから行くよ!」

 網目の様に張り巡らされたダクト内部でほふく前進を敢行中のハルナと山本は、艦橋メンバーが軟禁されている監視室まで残り100mのところまで来ていた。

 

「ホントに何があったんですか?」

「?」

「いや、前よりも雰囲気というのが前向きになっている感じになっているので、何なのかなぁって思って」

 

「……私の手首に巻いているブレスレット見たでしょ?」

「はい、前まで着けてなかったので何かなぁと思ってました」

「あれね、本当は一つのチェーンネックレスで、リクの母さんの形見なの。今は2つのブレスレットにして2人でお揃いの物を持ってるの」

 

 

「……もしかして、前に言っていた好きな人と言うのは睦月さんの事ですよね?」

 

「バレてた? 私って本当に顔に出るからね。……うん、好きって言えた。両想いでとっても嬉しかったよ」

 

「暁さん」

「うん?」

「……おめでとうございます!」

 

「……ありがとう!」

 ここでは言っていないのだが、婚約しているのだ。一応山本は「2人は付き合っている」と認識しているのだが、実際はそれの斜め上を行く婚約なのだ。

 


 

「着いた、ちょうどこの下ね」

 ダクト移動から20分。ようやく到着したのは営倉の監視室、そのダクトの金網だ。

 

(騒動が落ち着くまで、しばらくここに居て頂きます)

 保安部員の威圧的な声が聞こえ、顔をしかめる。

 でも我慢して、金網越しに敵数を確認する。

 

「人数は変わってませんね。一応2人でアサルトライフルを装備、素早く落とさないと応援を呼ばれる」

「……自信ないけど私も加勢したほうがいい?」

「大丈夫ですよ。私が2人とも落としますので、後で紐でグルグル巻きにしてください」

 

「分かったわ」

「暁さんには彼氏いますからね。怪我一つさせません」

 

 そういって山本は金網を突き破って監視室の中央に躍り出た。

 

(わぁ~凄っ)

 そうハルナが思っているのは、今ダクトの真下で行われている戦闘が原因だ。

 

 ダクトから出た時に保安部員の頭を両足で掴んで頭で床面に釘打ちをさせて、保安部員のアサルトライフルを用いた近接攻撃を軽くかわして顔面に蹴りを叩きこみ、ようやくダウン状態から回復したもう一人の保安部員を再度回し蹴りで沈黙させる。

 

(蹴りくらいなら私も出来るようになるかな?)

 そんなのんきなことを考えていると、戦闘の音が止んで拍手が響いた。

 

「山本さん! どうしてここに?!」

 

(終わったみたいね、今度教えてもらおうかな)

 自分も突き破られたダクトから足を出して飛び降りた。

 

「私もいるよ?」

「「暁さん!」」

 

「ああ~狭かった。太田さんちょっとこの人の上に馬乗りになっててね先こっち縛るから」

 そういって太田に保安部を押さえてもらって武装解除を手際よく済ませて紐で頑丈に縛る。

「怪我の方は、してないみたいね」

「あの、睦月さんの方は?」

「リクはアスカちゃん連れて機関室の方に行ったわ。っと、噂をすればね」

 タイミングよく鳴り響いた端末を手に取ってスピーカーにする。

 

「そっちはどう?」

『終わったよ~。も~恐ろしい恐ろしい。こっち何があったか聞きたい?』

「何かあったの?」

『そりゃあもうアスカちゃんの阿修羅じみた攻撃で3人がノックアウト。容赦なく急所を蹴り上げててゾッとしたわ』

 

「うわぁ、式波中尉。『蹴ったんだ』」

 その場にいる男性一同が震えあがった。

 何を蹴ったのかはさすがに言わないのは、キチンと場をわきまえているのだろう。

 

「とにかく、外にいる古代くんにこのことを伝えないと……」

「ダメ、通信関係は連中が押さえている」

『一応マスターキーでこじ開けれるけど、バレない様にしないといけないからな』

 

「ありますよ! 通信できる場所、ありますよ!」

 相原が良いアイデアを閃いたようで、さっきまでのビックリ顔が嘘のようだ。

『どこどこ?』

「この船の通信関係が押さえられているなら、艦載機の通信システムならいけます!」

 

「さっすがぁ相原さん。とりあえずここから近いのは第3格納庫の方ね、私がナビするけど、狭いとこは苦手かな?」

 

 その後、皆を連れてハルナチームは第3格納庫に向かった。

 

 

 


 

 

 

 ところ変わって艦長室には、保安部員2名が詰めていた。

 こちらも完全武装で隙がない。そして原田一人では何もできない。

 

 そんな状況で何ができるのかと言うと、大人しくしていることだ。

 

 緊張状態が長続きしてそろそろ疲れてきたところで、誰かが入ってきた。

 

「誰だ?」

「星名です」

 

「何だお前か、何の用だ?」

 同じ保安部員だったことで銃の構えを解いたが、そこに予想外の人が乱入してきた。

 

「くぉらぁ! 艦長の往診じゃあぁ!」

「先生!」

 鬼の形相で入ってきたのは佐渡先生。原田は知らないのだが、先ほどまで酒瓶抱えて酔って寝ていたのだ。

 沖田艦長が軟禁されていることに対して、怒りでアルコールが蒸発した。

 

「ダメです。ここには誰も入れるなと」

「伊藤さんの許可はとってますよ?」

 

「ついでに彼の許可も!」

 そう星名が言った瞬間、星名の陰から現れた何かがストレートを放ち、保安部員の頬にめり込ませた。

 保安部員の倒れこむ様子を見た原田はその拳を放った主の方を見てみると、なんとも意外であったが、実に頼もしい人であった。

 

「加藤隊長?!」

 

「貴様っ!!」

「遅い!」

 急襲に激怒した保安部員がアサルトを構えるが、それよりも早くアサルトを叩き落として一本背負いで一気に制圧した。

 

「グアッ!」

 馬乗りになって保安部員を抑え込む加藤と、その様子を確認してから手際よく武装解除して紐で縛る星名の姿に、原田はあっけにとられていた。

 

「加藤隊長、どうして……」

「艦長室に艦長とあんたが軟禁されていると星名から聞いてな、ちょっと奪還しに来たんよ。……それで済まないが……また巻いてくれるか? 痛めちまって」

 

 見ると、右手の甲が赤くなってしまってて、痛々しい様子だった。

 

「助けてくれて……ありがとうございます」

 そういいながら、原田は加藤の手の甲の手当を始めたのであった。

 なお、この時原田の頬が少し赤くなっていたのだが、それを見ていた佐渡先生がデリカシーをあえて無視して聞いたのはまた別の話であった。

 

 

「……状況は?」

「保安部と贖罪計画派の乗組員が反乱を起こし、現在艦橋と機関室が制圧されています」

 この騒ぎで目を覚ました沖田艦長は、目の前で捕縛されている保安部と転がっている防弾ジャケットとアサルトライフルからただ事ではない状況を察して、星名から一連の状況を聞いた。

 

「艦長は重病で職務遂行が困難という事にされています、この船の指揮権は今は航海長の島一尉にあります。ですが航海長には、あらかじめ反乱発生の前に事情を話して自分の協力者となってもらっています」

 

「……艦橋に向かう。佐渡先生、原田君、加藤隊長、ここは任せる。星名准尉、行くぞ」

 体中から怒気を滲ませている沖田艦長は、静かに艦長服に着替え、艦長帽を目深に被って艦長室を後にした。

 

 


 

 

「着いたぁ……」

「さすがにダクト移動は骨が折れますね」

 少々痛くなった背中を解す為に軽く体を反らす。

 左舷第2船体第3格納庫についたハルナ一同は、格納されていた100式の通信システムを立ち上げてビーメラを調査中の古代と連絡を取ろうとしていた。

 

「さすが相原さん」

「どんなにこの船を制圧しようとしても、意外な穴がありましたね?」

 保安部員全員が出張ってもこの船は絶対に制圧できないだろう。なんせ2500mもあるのだから。

 くどいようだが2500mもあるのだ。たとえ通信が押さえられていてもやりようはある。

 

「シーガル、聞こえますか? こちらWunder。シーガル応答願います」

 

『……こちらシーガル』

 

「……古代くん!」

『これより着艦する』

 

「榎本さんお願いしまーす! 上が怒鳴ってきても今はスルーしちゃってください!」

「アイアイサ~佐伯! やれ!」

 

「はい~!」

 榎本の指示で佐伯が第3格納庫のハッチを開放して、コスモシーガルを迎え入れようとする。

 

『第3格納庫! ハッチ解放の指示は出ていないぞ!!』

「お~お~怖い怖い」

 そう言いながら榎本は内線を切って一切のコールを無視した。

 

 


 

 

「航海長、何をやっている」

「調査隊が帰投した。だから受け入れ準備に入っている」

 

「その必要はありません。航海長? ハッチを閉めてください」

「本気で置き去りにする気?!」

「航海長! ハッチを閉めてください!」

 

「現在の本艦の指揮権は、俺にある。という事は、保安部の指揮権も俺にあるという事になるんだ。保安部は今は大人しくするんだ」

 反乱に加担していたと思われていた島が反旗を翻したことは、保安部全体に衝撃を与えた。そして、伊藤にも火をつけてしまった。

 

 

「困ったなぁ、言う事聞いて下さいよ」

 そう言って、手元のホルスターに手をかけた。

 

「伊藤さん?!」

「本当に残念だよ」

 

 

「やめてっ!」

 そう叫んだ新見は走り出し、拳銃を構えた伊藤を突き飛ばした。

 

 邪魔された。

 

「もう終わりにしてよこんなこと!」

 

「これだから、女は、嫌いなんだよぉ!!」

 

 その怒りの銃口は、新見に向けられ、安全装置が外され、引き金に指が掛けられた。

 

 

 そして、一発の銃声が艦橋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……ぬぅぅぅ……!」

 しかしその銃声は誰の手も汚さず、誰の血も流れない状況を作った。

 

「星名……俺を、裏切ったのか……?!」

 

「嫌だなぁ、表返ったっただけですよ」

 艦橋の出入り口で拳銃を構えていたのは、星名だった。

 その銃声は伊藤の構える拳銃を弾き、その状況に一瞬の空隙を生み出す。

 

 

「馬鹿者!! 何をやっとるか!!!」

 艦長室からやって来た沖田艦長の一喝で艦橋要員は一瞬で凍り付き、一瞬で艦橋を制圧した。

 

「儂が寝ている間に起ったことは星名准尉から要点は聞かせてもらった。では、詳しく聞かせてもらおうか」

 

 

 __________

 

 

 

 シーガルが第三格納庫に格納される。

 そこに待っていたのは森に南部、相原に太田。そしてWunder奪還に大貢献したハルナとリク、山本にアスカだ。

 

 シーガルの乗降ハッチが開き、古代と平田、そして岬に憑依しているサーシャが下りてきた。

「古代くん!!」

 

 それを見るなり、森が駆けだし、古代の胸元に飛び込んだ。

 

「もっ森君?!」

「良かった……古代くん……良かった……」

 そう言いながら涙を流している森を見て「何しなければいけないのか」を感じ取って古代は、にやにや顔のハルナがジェスチャーで示す通りの行動を非常にぎこちない動きで何とか実行した。

 

「ええええぇ……」

 

 

「ハルナ、なんかマリさんに似てきたのか?」

「またまた~。2人は意識しちゃってるのよ? 何だか少し前の私みたいに見えちゃってね」

 

 ヘルメットを取り、長い髪を結い直しているハルナは前よりもスッキリした顔だ。

 

「リク」

「うん?」

 

「私のこと、まだ心配?」

「……いや、心配してない。もう気にかけなくても大丈夫と思った」

 そう言いながら、リクはハルナの頭を撫でようとした。

 でも、なぜか撫でる前に手を押さえられた。

 

「ストップ!」

「どうした?」

「そうじゃない。こう!」

 そう言って、ブレスレットを巻いた手を挙げる。

 

「! そう言う事か」

 その意図を感じ取ったリクも同様にブレスレットを巻いた手を挙げ、2人でハイタッチした。

 

 


 

 

「……戦略作戦部第6課、藤堂本部長の直属か」

 

「はい、本部長命令で、Wunder内部で活動する贖罪計画派の動向を内偵していました。彼らの反乱を事前に防ぐことは出来ませんでしたが、流血の事態に至ることなく収束できたのは、航海長の協力のおかげです」

 

「責任は、自分にもあります。今回の航海日程の遅れが艦内を不安にさせ、贖罪計画反乱組に隙を与えてしまいました」

 

 

「その心配、これからは無くなると思うよ」

「え?」

 

「古代がビーメラから持ち帰った情報が正しければ、行程の遅れを取り戻して尚且つお釣りが帰ってくる。夫妻と赤城博士に解析してもらっているけど、そうかからないよ」

 

「「夫妻?」」

 聞きなれない単語に古代と島が首を傾げる。

 

「おっと……今のは、聞かなかったことにしてくれ」

「誰の事かは想像がつく。あの2人かね?」

 

 しかし沖田艦長にはすべてを察されてしまった。

(睦月君、暁君、すまない)

 

 

「……今回のことは、イスカンダルへ向かう我々に課せられた試練だったのかもしれんな」




スーパーイナズマキーック!

という訳で、今回は庵野秀明監督の作品の一つ、「トップをねらえ!」のガンバスターの必殺技を山本とアスカにやってもらいました。
「何やってるんだろう」と思いましたが、たまにはネタに走るのも良かろうと思ったので必殺技を入れました。

修正前は「ライダーキック!」でしたが、エヴァとのクロスなので「トップをねらえ!を入れてもいいんじゃない?」と思いました。

Wonderは完全修復されていません
そりゃあそこまでボロボロにされたのでとても間に合わないのです。
したがって、「修復されてピッカピカの状態にはならない」です。

したがって、翼が折れたりでもしたらそこからは「片翼で飛ぶことになります」

では次の話でお会いしましょう
(@^^)/~~~


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越えられない壁と越えるもの

赤木博士は化け物です

今回はもっと化け物になります
アインシュタインも真っ青です
ではではお楽しみください


アンケートの結果、デウスーラの形状はNHG艦でいきます


 

 解析室にタイピング音が静かに響く。

 

 艦内時間午前1時、ほとんどの部署が深夜シフトに切り替わったのにも関わらず、赤木博士は何かのシミュレーションを進めていた。

 

 難解な数式が画面上を埋め尽くし、画面上に映るのは同心円の図形。

 そして火星の地表面と謎の場所。

 

 一定のリズムで刻まれるキーボード音が止み、赤木博士は期待一杯の目でコンソールを睨みながらエンターキーを押した。

 

「今度こそ……今度こそ頼むわよ」

 

 開始されるシミュレーション、コンソールに置かれたメモ用紙には、沢山の「正」の字が書かれていた。

 その数20個。つまり赤木博士はこのシミュレーションを少なくとも100回は繰り返している。

 

 コンソールの放り出されている大量の紙の束。論文らしきそれの表紙には、英字でタイトルが書かれている。

 

「A Smooth Exit from Eternal Inflation?」と書かれた論文は1枚1枚に夥しい量の書き込みがなされていて、数式の殴り書きが論文の余白に所狭しと並んでいる。

 シミュレーションはエラーを吐くことなく順調に進んでいき、20分以上のシミュレーションの末《complete》の文字が表示された。

 

 

「遂に……やったわ。これなら、説明可能ね」

 シミュレーション名《Spatial displacement simulation》。それが、赤木博士の仮説の最後のピースとなった。

 

 


 

 

 

 

 

 


 

 

 

「我々の航海日程は、現在31日の遅れを出しています。ですが、ビーメラから2.6光年の位置の亜空間ゲートを使用することで、行程を一気に短縮することが出来ます」

 

「ゲートを管制するシステム衛星がその近傍に存在します。これを攻略できるかどうかが鍵となります」

 

 島が表示した周辺の宙域図に示されたマーク、その上には《subspace gateway》という文字が表示されている、直訳すると「亜空間ゲート」と言うそれは文字通り、亜空間を経由して大宇宙を旅する宇宙の近道。

 

 通常宇宙を「一般道」とするなら、亜空間ゲートは「一切の渋滞無しでスイスイ進める高速道路」と言うべきだろう。

 

「まさかここにもあったとは……私が把握していたのはバランのみのはずだけど」

「大宇宙を旅するなら、比較的様々な位置にあることは想像に容易いわ。もう少し考えるべきです、ユリーシャ」

「はぁい」

 

 未知の近道の存在が確認されたことで、沖田艦長と古代と島、真田とハルナとリク、ユリーシャと「岬に憑依したサーシャ」が話し合いに出ていた。

 ビーメラから帰還した岬とサーシャは話し合い、出入りする時は一旦断りを入れることを決めた。

 

「あまりにも長く憑依が続けば岬本人の意識が消失する可能性もある」というのが、専門外なりに推察した佐渡先生の見解だが、そう決めたことでしばらくは大丈夫だろう。

 

 こうして憑依での行動が出来ているのは人類側から見てもあり得ないことなのだが、「宇宙人だから出来るのだろう」とどこかで納得してしまう。

 

 

「この波動コア、便宜上『ビーメラコア』と呼称しますが、ビーメラコアには、ゲートを作った種族の他に、ゲートを使用していた管理者とも呼ぶべき種族の存在も記されていました」

 

「ビックリしましたよホントに、でも彼らが使うほど便利だという根拠がゲットできてよかったですよ」

「そうそう、でも昔のことだから今でも動くかどうかは別問題です。こればかりは直接出向いて確認しないといけません」

 

 ビーメラコアの解析に関わったハルナとリクは、沖田艦長と古代に思わせぶりな笑みを覗かせる。

 

「勿体ぶらないで教えてくださいよ」

「ちょっと待った。儂が当ててみようか」

 反乱組の尋問を漸く終わらせた沖田艦長がハルナとリクに乗った。

 

「では沖田艦長、答えをどうぞ」

 

 

 

 

「……ガミラスだな」

 

 

「「大正解です!」」

 


 

 ガミラス本星、帝都バレラス

 

 大ガミラスで最も栄えているその帝都で、一つの軍事裁判が開廷された。

 

 

「私は帝都防衛に多くを捧げて、あと一歩でヴンダーを撃沈できたのです! それなのに、これはいったい何の茶番ですか?!」

 本星に緊急招集されたドメルを待っていたのは犯罪者の烙印だった。

 

 覚えのない罪状、剝奪された権限。そして活動を凍結された第6空間機甲師団の面々。

 唯一安堵したことと言えば、今のところ師団の方は活動凍結で済んでいるという事。長く戦場を共にしてきた幕僚団の面々は無関係となっていることだ。

 

 

 しかし、その安堵は、ヒス副総統の発言で吹き飛んだ。

 

「未明に、総統の乗艦された船が、何者かの手によって爆破された。デスラー総統が暗殺されたのだ」

 突然の訃報に驚愕するドメル。デスラー総統の計らいで、ディッツ提督経由で精鋭艦隊の派遣を優先的に受けていた時期もあり、総統には感謝をしていた。

 その総統の訃報は、心に堪えるものがあった。

 

「総統の視察を把握していたのは2人。1人は航宙艦隊総司令ディッツ提督。そしてもう1人は貴方。貴方を総統暗殺の容疑でここに告発します」

 

「馬鹿な! なぜ私がそのようなことをする必要があるというのだ!」

 

「あなたはディッツと共謀して総統を暗殺し、総統の死亡で空席になった席に滑り込む。そして大ガミラスを手にしようとした。ですね?」

 

 

「下らん妄想に付き合うつもりはない!」

「妄想? なるほどなるほど、それでは親切に良いことを教えてあげましょう。奥様は拘束されていますよ?」

 

「エリーサが?! 妻が一体何をしたというのだ?!」

 

「ご存じないのですか? 彼女は反政府運動に加担していたのですよ?」

「何かの間違いだ」

 

「ドメル将軍? 帝国の繁栄のために必要なものとは何でしょうか? それは忠誠心と秩序です。忠誠で体制を盤石なものにして、秩序を正すことで長期的な安寧を約束する。宇宙広しと言えども国と言うのはそう言うものです。それを実行するには、『疑わしきは罰せよ』です」

 

 

 正論とも受け取れてしまうその思考に、ドメルはぐうの音も出なかった。

 

 

「表決を取る。陪審の諸君」

 薄暗い法廷に浮かび上がる陪審員の表情は一様険しかった。

 

 

「死刑」「死刑」「死刑!」「死刑……」「死刑」「死刑」「死刑」「死刑……!」

 

 

「当軍事法廷はドメル上級大将に死刑を言い渡す」

 


 

「ガルが更迭?! どういうことだ?!」

『分かりません……私はディッツ提督の側近として付いていましたがそのような行動は一つも……ですが、デスラー総統が暗殺されたとの一報が入っています』

 フリングホルニの艦橋、その通信画面に噛り付くクダンの顔は憤りを通り越した顔だ。

 

 

「総統が……?! ……暗殺容疑を吹っ掛けられたか?」

『現在究明中ですが、親衛隊の圧力がかかったのは確かです』

「あの強権部隊が……! ドメル将軍を死刑にしてガルを更迭するとは何を考えている……?!」

 

 現在ミルベリア星系の補給基地で補給を受けていたクダン率いる第101試作人型戦術機動兵器打撃部隊の第1軍は、突然の総統の訃報とドメル上級大将の死刑判決、そしてディッツ提督の更迭に大きな動揺を覚えた。

 

「兎に角もっと情報を集めてくれ、必要なら私の名を使ってもいい! 頼んだぞ!」

『ザーベルク!」

 

「叔父様、父上が……更迭と言うのは、本当ですか……?」

「……ああ、事実だ。一体全体何が起こっている……これではまるで仕組まれているようだ。テンポが綺麗すぎる」

 

「それと、総統が暗殺されたというのは……」

「総統なら心配ない。多少窮屈かもしれんが事前にあそこに身を隠しておられれば命の危険とは無縁だ。何処の誰でも手出しできまい。それよりガルを何とかしなければな」

 

 

「叔父様……いえ、クダン司令。この艦隊には、停泊地の基地から無条件で補給を受けられる権限が与えられていますよね? ならば、父上の収監先の基地に向かって、奪還することも可能では?」

 

 

「……我々に宇宙海賊になれというのか? だが、権限は使いようだ」

「はい!」

 

「ガルの収監先はガルの側近に特定を頼んだ。位置情報が確認でき次第補給名目でその星に向かい、ガルを救い出す」

 

 ______

 

 

「フッフッフッフッフッフッ……ハッハッハッハッハッハァ!!!」

 ゼルグートの艦橋に低く響く高笑いは、ヘルム・ゼーリックのものだ。豪快な笑い声を響かせて広々とした豪華な装飾の艦橋の豪華な椅子に座る。

 

「観艦式への準備が整いました。何か、良いことでも?」

 

「ドメルに死刑判決が下ったァァ」

「おめでとうございます!」

 

「全艦発進せよ、目標、バラン!!」

 

 自らの権威のために建造したゼルグート級1番艦のゼルグート2世が飛翔し、バレラスを後にする。

 その後を追うのはゼーリック旗下の艦艇多数。

 向かう先は宇宙の灯台バラン星だ。

 

 

 __________

 

 

「あれが亜空間ゲートかぁ。死んでいるように見えるけど、本当に動くのか?」

 

「ビーメラコアの中には運用記録が入っていたらしいから、少なくとも数十年前までは使われていたらしい」

 

「あれが使えたら、60000光年をひとっ飛びですね」

「甘く見るな、こいつは、敵のワープステーションなんだぞ?」

 

 

「それにしても、古代さんは護衛としてなんで睦月さんと暁さん、赤木博士を連れて行ったのかな?」

「人数多ければ何とかなるからじゃないですか?」

 

 

 

 

 

 

「真田さんどうですか?」

「ブービートラップの類はなさそうだ。基地としてはだいぶ前に破棄されたものだろう。だが、このガミラス機は使えそうだ。あとで回収しよう」

 何故か大人数で行くこととなったため、またまたシーガルを使ってシステム衛星に侵入した。

 

 

「でも不思議、廃墟じみているのに慣性制御があるわ。基地としての機能は完全に消失しているわけではなさそうね」

 基地の床面を踏みしめながら赤木博士が欠伸をする。

「珍しいですね赤木博士が寝不足なんて」

 

「ちょっとね。重要なシミュレーションをしてたから最近寝不足なのよ。100回はやり直したわ」

「「100?!」」

「驚きすぎよ? そもそもこの宇宙で起こるかどうかも怪しい突飛なものだから、MAGIでも厳しいのよ?」

 

「赤木博士にMAGIなんて、『鬼に金棒持たせて翼生やして火を噴けるようにする様なもの』なんですけど、それでも厳しいんですか?」

 

「厳しいわ、でも私バケモノみたいに言われているけど気のせいかしら?」

「気のせいです気のせいです」

 

 

 

「君たち二人を連れてきたのはちゃんとした訳があるからだ。歩きながら話そう。古代、君もWunderに乗る以上聞いておいた方が良い。あの船が一体何なのか……そして40年前にいったい何が起こったのか」

 

「2人が話してくれた過去も基にして、40年前に火星で何があったのかを真田君とマリと一緒に仮説を立ててみた。だが物的証拠があまりにも少なすぎるうえ、推測も多い。それでも良かったら聞いてほしいわ」

 赤木博士の目はヘルメットのテクタイト越しにでもわかるくらい真剣だった。

 

 

「聞かせてください」

「目に見えて強くなってるわね、2人とも。わかったわ。でもゲート起動しないといけないから歩きながらね」

 

 

 


 

 

 

「ここから先は、国連安保理の最重要機密事項に抵触する。安保理の内でもごく限られたものしか真実を知らない。念のため、通話記録のスイッチをオフにしてくれ」

「はい」

 

 知られてはまずいことは、隠したり情報操作をするものだ。かつてアメリカが宇宙人の存在をはぐらかし、エリア51の存在をごまかしたように、知られたくない事は大抵誤魔化される。

 しかし、この話は一つの国が隠してきたことではなく、世界中の国をまとめる組織が隠してきたことだ。

 

 

「結論から言うが、44年前に君たち2人が遭遇した災害は、災害ではなく事故だ」

 そう切り出した真田の顔は、確信した顔だった。

「……」

「今から話す真実は、MAGIシステムの中に秘匿されていた記録と、我々の推測、赤木博士の行ったシミュレーションを交えた話だ。だから、一部真実とは異なる部分があるかもしれない」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。なんでそんな記録がこの船のMAGIに残されていたんですか?!」

 

 そのような重要機密がこの船のコンピュータに残されていることは普通ではありえないことだ。ハルナが驚くのは当然だ。

 

「もともとMAGIシステムは国連本部に設置されている物で、そこにあらゆる機密情報が数千文字にもなる暗号として保管されている。解読できるのはMAGIシステムのみ。そして、本艦のMAGIシステムは、国連本部のシステムを『丸ごとコピー』した物である「極東のMAGIシステム」を『丸ごとコピー』したものだ。つまり、国連本部に記録された『情報の写しの写し』が本艦にあるという事だ」

 

「残されていた記録は、システム上は存在していないものとして扱われるように設定されていた。つまり、私達がいくら探しても見つからないようになっていた。管理者権限でも見つからないその記録は、MAGI設計者の母さんの残した裏コードから入れる『開発者モード』でなければ確認すら不可能だった」

 

「つまり、データは見えないようになってただけってことですか?」

 

「ああ。人類史上類を見ない事故という事もあり完全な極秘にする必要があった……でも記録は残さないといけないから、見えないようにしたのだろう。問題はその内容だ。……君たちに辛い思いをさせるかもしれない」

 

「大丈夫です。リク、手握って。少し怖い」

 

「ああ。僕もついているから、大丈夫だ。真田さん、お願いします」

 リクはハルナの手を固く握った。

「……分かった。あの日何があったのか、我々は知るべきだと思う」

 

 

 

 

 ──―真実開放──―

 

 

 

 

「まず、君たちの過去の話によると、クルジスのあたりでも、同心円の拡大現象が確認出来ていたようだね?」

 

「……はい。あの円は、すごい勢いで広がっていきました」

 

「……あの円を展開した張本人は、国連の極秘研究施設『ガリラヤベース』と呼ばれる施設だ」

 

「……国連はいったい何を考えていたんですか?」

 

「分からない。何の意図があって起こされた物なのかは記されていなかったが、その事故の数日前に「葛城」という人物がガリラヤベースを訪れていた。そして、ガリラヤの巨人に対してとある実験を行った」

 語りだした真田の目は閉じられたままだった。

 自分でも信じられないことであり、推測の域を出ないのだろう。

 

「実験……ですか?」

 

「ガリラヤの巨人に人間の遺伝子を投入する実験だった。そこから事故までの記録は残されていなかったが、恐らくそれが原因であの事故に繫がったのだろう。生存者は1名。だが、その人物名は記載されてなかった」

 

「隕石の衝突というのは、国連の真っ赤なウソでしたね。隕石が落ちて十字架が立って同心円展開とか絶対に発生しませんから」

 

「アレを隕石の衝突として情報公開する国連も無理がある」

 それもそうだ。隕石衝突で空に同心円が出来るなんて聞いたこともないのだから。出来るとすればキノコ雲くらいだ。

 

 

「現在爆心地には、高次元宇宙空間が展開されている。それだけならよかったのだが、あらゆる生物は爆心地に入ることが出来ない。未解明の結界の作用により、爆心地に侵入した瞬間、生物は自らの形状を保つことが出来なくなり、橙色の液体に変化してしまうことが確認されている。だが、その爆心地に侵入した人物が1人確認されている」

 

「その人は、人のまま入れたんですか……まるで神ですね」

 スケールが急に大きくなったことについていけないリクの呟いたことは、解明されない現実にあきらめをつけそうになる言葉だった。

 

「その通りなのかもしれない。彼は大型の巨人Mark6と共に突如月面に出現したとの記録が残っている。その後、彼の協力でガリラヤベース跡地の調査が行われた」

 

「跡地からは、何か見つかったんですか?」

 

「ああ、これまたとんでもない物だ。ガリラヤの巨人の肉片、当時の映像と音声記録、未解明の半永久稼働機関の資料。魂の実在を証明する観測記録……正直言って、私は魂の存在については否定的だった。だが、そこに確かに記録として存在している以上、無かったことにはできない」

 

 

「待ってください、そんなものを回収して何になるんですか?」

 

「そこなんだよ。肉片で何か出来るわけでもないが、1つ分かったことがある」

 

 

 真田が思わせぶりな顔を浮かべる。

 

「もったいぶらないで教えてくださいよ」

 

「……ガリラヤの巨人とMark6、Wunderのアンノウンドライブ構成元素は同じだ。分子構造に多少の差異はあれど、同種の物と見て間違いなさそうだ。つまり、あの巨人とアンノウンドライブは同じ種族の生き物である、もしくは同じ文明の手によって造られたものであるという事だろう」

 

 

「つまり、あの巨人を作った種族がどこかにいるという事ですか?」

 

「いいえ、私たちの仮説が正しかったらこの世界にはいないと思うわ」

 ハルナの回答に対して、赤木博士は首を横に振った。

「この世界にいないって……ほんとに神様が創ったんですか?」

 

 

 

「……並行宇宙、越えられない次元の向こう側に住まう何者かだ」

 真田の口から出た言葉は、「ありえない」ことだった。並行宇宙からあれ程巨大な物体がどのようにしてこちら側にやって来たのか、2人には見当もつかなかった。

 

「……! そんな、突拍子もない事……」

 

「順番に説明していこう。アンノウンドライブに残されていたマーキングの事は知っているね?」

 

「はい。赤木博士から聞きましたが、地球の数字で書かれていたなんて意味が分かりませんよ」

 

「私もそう思った。あのマークを解析した結果、塗料の劣化具合からおよそ170年前に塗布されたものだと分かったわ。人類が火星に降り立ったのは2050年の事、170年前……つまり2020年代に人類が火星に到達した記録は残っていない。だが、君たちの体験した事故にヒントがあった」

 

「あの事件と、何か関係があるんですか?」

 

「いや、直接的な関係はない。だが、あの同心円が展開された真下は高次元宇宙空間が展開されている。恐らく、2点の空間が丸ごと入れ替えられたのだろう。これを小規模……ちょうどアンノウンドライブがギリギリ収まる範囲で発生させた場合、空間置換と共にアレをこの時空間に転送することも可能なはずだ。ガリラヤベースに謎の結界が展開されているのは空間置換が直接的に関わっていないと仮定すれば、アンノウンドライブが結界に汚染されていないのもそれで説明がつく」

 

「私も馬鹿げていると思ったわ。でも、事故調査の資料から数値を割り出して方程式の特定、当時の現象をMAGIのフル稼働で何とか再現することが出来たの。あれは間違いなく、空間の入れ替え。波動エンジンの様に余剰次元を展開しているのではなく、特定の範囲を丸ごと置き換えているのよ」

 

 

 

 赤木博士が行っていたシミュレーション、それは例の同心円の再現。そして多元宇宙間で2点の空間を入れ替えることだった。

 100回リトライしてようやく成功した人類初のシミュレーションは「赤木博士の睡眠不足」と言う最小限の犠牲の上で成功した。

 

 その犠牲の上での成果は、200年以上前の宇宙物理学者「スティーブン・ホーキング博士」の生涯最後の論文【A Smooth Exit from Eternal Inflation?】の間接的な実証。

 

 

 彼が唱えた多元宇宙の存在を間接的ではありながら確定させ、多元宇宙との門となったあの同心円の仕組みを解明した。

 分かりやすく説明すると、赤木博士はアルベルト・アインシュタインやスティーブン・ホーキングと肩を並べたという事だ。

 

 つまり、「空間の入れ替えによってガリラヤベース跡地は高次元宇宙空間に置き換わった」という事で、この原理を用いれば「ある二点の空間点を入れ替えること」も可能だろうという事だ。

 

 

 

「その空間置換を使ってアンノウンドライブは並行宇宙からやってきた……」

 

「そうだ。そしてその現象を向こう側の世界で起こしたのは、我々と同じ地球人かもしれない、生み出したのは別の種族かもしれないが、あの骨格を運用していたのは地球人と私は考えている。アレを何らかの形で運用していたならば、運用段階や整備でマーキングを施す必要も出てくる。どのように運用していたかは不明だが、施されたマーキングが地球の言語であることから、地球人の仕業という結論が出た。空間置換と言っても、高次元宇宙空間以外とも置換は可能なはずだ」

 

「並行宇宙からやってきたんだ、あの骨格……」

「あくまで仮説だ。半分以上が状況証拠からの推測だから、信憑性は低い。だが、私とマリ君、そして赤木博士で考えた結果、この結論にたどり着いた」

 

 

「真田さん。国連はこの事を隠し続けますよね」

 

「ああ、隠し続けるだろう。これは自然災害ではなく、人為的な災害だからな。死者が大量に出ているのに誤情報で丸め込んだから、公表されたら国連は大ダメージを受けるだろう」

 

 沈黙が続き、ここから何を話したらいいのか分からなくなってしまった。

 

 

 

 

「ここまで探った結果、最後まで分からなかったことがある」

 

「何ですか?」

 

「国連の裏に何かがいる、何かは分からなかったが、安保理の意志を簡単に捻じ曲げられる程強大な何かだ。Mark6の解析を目的とされてタブハベースと言う基地が月面に建造されたが、かなり恐ろしい勢いで建造されていた。地球外にそのような広大な施設を作るには莫大な時間と資金が必要だ。時間は建造期間の調整で解決するだろう。だが資金はそうはいかない。規模と工数、機材と労力から見て……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。国連と言えども、そこまでの金額を投入できるとはとても思えない」

 

 急に口を開いた真田の口から語られたものは、ある懸念だった。

 これ程のことが出来てしまい、これほどの金額を投入できてしまう以上、国連以外の存在が必要。

 そしてMark6の解析を目的としたタブハベースの建設は、「何を用意すればいいのかが分かっていた」かの様に手際が良く作業したという事が、工事記録から推測できる。

 まるで「来るのが分かっていた」、「元から近いプランがあった」かの様に。

 

 

「裏の組織……という事ですか?」

「そうだ。世界を裏から操れるくらいの組織。この推測を地球で立てなくてよかったと思うよ、地球だとその組織に息の根を止められそうだ」

 息の根を止められる。その一言で2人はゾッとした。

 何やらとんでもない秘密に足を踏み込んでいることに気づいたその時、この説を地球で唱えたりしたら死ぬんじゃないのかとも思った。

 

 

「これ、地球では絶対に言っちゃいけませんね……」

「ああ、地球で言ったら即座に国連か謎の組織に拉致されるのがオチだろう。だから通話記録を切った。念のため艦外で伝えることにしたのもそこから来ている。そして、ここまで話してきて君たちに聞かなければならないことがある」

 

 

「私たちの推測と記録が正しければ、君たち……」

「危ない!」

 

 真田が何かを言おうとしていたが、突然警備用の旧式ガミロイドに背後から襲撃された。

 古代が真田を伏せさせ、アサルトライフルでハチの巣にする。

 

「古代、すまない」

「無事で何よりです。あれがいる以上、長居は出来ませんよ」

 

「長く話しすぎたようだ。2人とも、大事なことは帰ってから聞くことにするよ。では入るとしようか、システム衛星の制御区画だ」

 

 


 

 

「ガミラス語……ではない」

「そうね、もっと古い言葉かしら。言語関係は専門外よ?」

 

 システム衛星の制御室の隔壁は固く閉じられ、真田と赤木博士は隔壁のロックと現在格闘中。ハルナとリクは真田と赤木博士とマリが組み上げた仮説を受け止めようとしていた。

 

「暁さん。真田さんたちの仮説が正しかったら、お2人のお母さんは殺されたようなものと言えます」

「うん。真田さんと赤木博士、マリさんの仮説には否定できるような要素がない。私から見たら、それは現時点で限りなく真実に近いと思う。でも、復讐なんて愚かしいことして誰が喜ぶのかな」

 

 

「僕は、メ号作戦で兄さんが殺されて、頭に血が上っていました。もしお2人に会っていなかったら、復讐心を持ったままでここまで来ていたと思います」

「古代くん、皆が皆復讐嫌いではない。でも、誰かに対する復讐心を持っていたら、それ以外のものは一緒に持てないと思う。君は、お兄さんを殺した彼らを憎んでいる?」

 

 

「兄さんを奪われたのは許せるものではありません。ですが、ガミラス人も地球人とそう変わらない。同じ人間だと分かると、それを超えて分かり合えると思えてきます。可笑しいですか?」

 

「そんなことないわ、星間戦争という巨大なスケールではあるけど、実際は内惑星戦争の再演だと思うわ。同じ民族なのに意見の食い違いで喧嘩する。上から目線に聞こえてしまうけど、人類は何度も間違えているわ」

 

 

「それでも、手を取り合おうとするべきでしょうか?」

「火星間では失敗した。でも地球だけに限れば、内戦や世界規模の戦争が今のところ一つも無い。一応上手くはいってるのよ。それと、メルダやクダン司令と会ってどう感じた?」

「何か特別な憎しみや恨みも持たない、僕らとそう大して変わらない人でした」

 

 

 

「なら、そういう事だと思うよ」

 

 

 

 それと同時に、制御区画の隔壁が床面を震わせながら解放された。

「ふぅ、ようやく開いた。では、入ろうか」

「私は異星言語にはあまり触れたことがないの。経験者さんは来てくれる?」

 

「経験って……向こうのプログラミング言語に触れたくらいですよ?」

 

「それでも地球にとってはあまりにも貴重な人材よ? でも入口の確保くらいはしておかないとね」

 

 

「ハルナ、僕行ってくる。入口の方は任せる」

 

「分かった。何があるか分からないけど、入口はどうにかするわ」

 

「うん」

 

「では行こうか」

 

 そう言って、リクと真田と赤木博士は制御室に入り、ハルナはコンソールにPDAを無線接続した。

 解放された隔壁を踏み越えたその瞬間、隔壁は長年動作を辞めていたのが嘘のような勢いで閉じられた。

 

「真田さん! 聞こえますか?!」

 

「リク! 応答して!」

 

『大丈夫! 感度良好!』

 

「よし、通信は大丈夫ね。古代くん大丈夫よ! 通信は良好よ!」

 

『今のところこちらでは何も起こっていない。一先ず作業を開始する。そちらで隔壁を開ける処理を進めてくれ』

 

「分かりました。作業にかかります!」

 

 

 ___________

 

 

 

(思った通りだ。このシステムを再起動すれば、亜空間ゲートを再起動させることが出来る)

 

 PDAからの操作で制御システムの概要を確認した真田は、赤木博士とリクのアシストで凄まじい速度でのシステム解析と掌握、そして再起動準備を進めることに成功した。

 

(これが再起動概要か……。っ!)

 

「睦月君、赤木博士。これを……」

 

「冗談じゃないわね」

 

「一回動かすごとに犠牲者が必要だって言うんですか?!」

 

 

「冗談じゃないぞ……でもそれを回避して再起動は無理だ」

 船外服越しに頭を抱えたリクの目線の先にはシステム衛星のコア、コンソール。そして慣性制御に従順な水が張られていた。

 

 

「水……? そうか!」

 

 

『リク! 隔壁開けるよ!』

「まった! そのままストップ!」

『どうしたの?!』

 

「真田さん、コレ、本当なんですよね?」

「ああ、確かだ」

 

「2人ともよく聞いてほしい。どうやらこのシステム衛星を再起動させたら、亜空間ゲートは使える。だが、再起動時に即死級の中性子放射が発生するみたいだ」

 真田が通信で語ったのは、ある意味命と引き換えで稼働するシステムの概要だった。

『え……即死……?』

 

「そっちに居れば安全だから、こっちはこっちで何とかする!」

 

『ダメです睦月さん! やめてください!』

『リク! 聞こえるわよね?!』

 

「うん!」

 

 

 

 

『100%生き残れる方法、あるんでしょ?!』

 

 

 

 

「……あるよ。3人とも無事な方法、ちゃんとあった」

 

 __________

 

 

 

 

 

 

『……あるよ。3人とも無事な方法、ちゃんとあった。そっちはシールド張られている。だから安全だ』

 

「……わかった。中性子放射が完全に終わったら隔壁開ける! 信じてるよ?!」

 

「暁さん! いくら何でも!」

 

「大丈夫! リクが私に嘘突き通した事、一度もないから!!」

 

 

(本当に凄く信頼しているんだ。暁さんと睦月さん……)

 

 

「暁さん。互いに信頼できるのは、何故なんですか?」

 

「生きているからよ。私だいぶ前に死にかけたけど、その時リクが護ってくれたの。勝手かもしれないけど、それからすごく信頼してる。私はリクを全力で支えるし、もし護れるなら、全力で護るわ」

 

 その言葉を紡いだ瞬間、隔壁の一部が緑に怪しく輝いた。

 

 

「……制御室内に、中性子が発生した。何もしなければ、確実に死んでいる」

 落ち着いているように聞こえるハルナの声とは裏腹に、PDAを握る手は震えていた。

 その怪しく輝く死の光はしばらく続き、数十秒続いたのちに光は収まった。

 

 

「終わったわ。隔壁開けるわ!」

 ハルナの操作で隔壁が解放され、PDAを投げ出して制御室内に駆け出した。

 

「誰も倒れてない……リク! 真田さん! 赤木博士!」

 彼らを呼ぶその声は、やはり震えていた。

 遺体がそもそも無いことがハルナの不安をより掻き立て、声の震えは無視できない領域まで上昇していく。

 

「ねぇ、答えてよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その微かな声は確かに相手に届いた。

 

 

 

「ふぅ、水がなかったら死んでた」

「先人が用意したのだろう。ありがたいことにな」

「宇宙で水浴びすることになるとはね」

 

 

 

 隔壁の向こうで作業していた3人が近くの水面から浮上して、そのうち1人は元気に手を振った。

 

 

「言ったでしょ? 100%助かる方法があるって」

 

「もう、心配したんだから」

 そう言って、ハルナは自分の船外服のヘルメットをリクにぶつけた。

 

 

 その光景を見ていた古代は何かを感じて、ハルナと一緒に真田さんと赤木博士を引っ張り上げた。

 片方が死の危険にあるのにも、向こうを信頼する。果たしてそれが本当に自分にもできるのだろうか。

 

 システム衛星から帰還した古代は、それを深く考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

「あの時に、聞きそびれていたことがあった」

 

 システム衛星から無事に帰還した真田は、アレイアンテナ基部の観測室に2人を呼び出した。

 

「私たちの推測と記録が正しければ、君たちが巻き込まれたあの災害は人の手によって起こされたものだ。それが正しいと仮定した場合、君たちの母親は国連に殺されたようなものだ。それを恨み復讐に走らないことを、ここで誓って欲しい」

 

 真田最大の懸念は、2人が復讐に走ることだった。母を失い、それを起こした原因と言うのは国連。つまり天災ではなく人災とみることが出来てしまう。

 人災によって母を失っている以上、「人殺しにあった」と見ることも出来てしまう。

 

「……弱い者ほど相手を許すことが出来ない。許すということは、強さの証だ」

 真田の願いにハルナが返したのは、ある言葉だった。

「それは?」

 

「マハトマ・ガンジーの言葉です。人を許せないのは、心が弱かったり狭かったりするからなんです、今なら分かります。そして最後にものを言うのは、腕っ節の強さや知識ではなく、ここなんです」

 

 

 そう言って、ハルナは右手を自身の胸に当てた。

 復讐の「ふ」の字すら見えない顔から、復讐の兆候など微塵も感じられないだろう。

 

 

「たとえ復讐に走って、何が得られると思いますか? 答えは、『何も残らなかった結果』が得られます。昔本で読んだんです。親友を殺されてそれから犯人を追い詰め、法の外で(かたき)を殺して母国の外で生きるしかなくなった兄妹の話。手元に残ったのは、全て失ったという結果。復讐して後悔するくらいなら、それを蹴とばしてハルナと楽しく生きますよ」

 

 そう言ってリクはハルナの肩を抱いた。突然だったのでハルナは少し驚いたが、すぐに少し嬉しそうな顔になった。

 

「でも、全部が全部飲み込めた訳ではありません。時間はかかりますが少しずつ受け入れていきます」

 

 

 

 

 

 

 

「赤木博士。私は、いらぬ心配をしていました」

「あの2人が復讐に走る可能性の事? 一応私も懸念はしていたわ。でも真田君の様子だと、復讐なんてものは起こりそうもないね」

 解析室に戻った真田は、赤木博士と密談をしていた。

 

「ですね。あの2人は、心よりももっと深い場所で繋がっている。そう思います」

「あの2人はね、単純な足し算掛け算では説明できないのよ。2のn乗の様にどこまでも大きく、地道に一歩一歩強くなれると思うわ」

 

 n乗ということは無制限に累乗が出来てしまうという事になり、自分の懸念していたことが本当にしょうもなく思えて、呆れて笑った。

 

「n乗……制限無しですか」

「外から制限なんか付けたら面白くないわ。人間の心に限界はない。論理(ロジック)では到底表せない以上、無理矢理表そうとすると、必然的にn乗や∞という数を用いるしかないわよ?」

 

 

 

 

 

『諸君、ゲートは使用できる事が分かった。これで大マゼランまでの行程の内、およそ6万光年を飛び越えることが出来る。その後、バラン星のゲートを経由して大マゼランに向かうことが出来るだろう。以上だ』

 

 

 

 起動した亜空間ゲート。死んだように眠っていたその巨大なリングは息を吹き返し、あたかも新しい扉の様に見える。

 背中合わせの信頼。

 航海艦橋でゲートを見つめる古代が出した答えがそれだった。

 それを見つめる古代は、自分の先を征く2人を一つの目標にしたのであった。




赤木博士はスティーブン・ホーキング博士を超えてしまった……

多元宇宙の話はスティーブン・ホーキング博士の最後の論文から発想を受けて作り出したものです。
火星のインパクト跡地の同心円が多元宇宙との門としたならば、そこから多元宇宙に行ける門としても機能するのではないかと思いましたので、Wonderのアンノウンドライブ=並行宇宙からの落とし物としました。

実を言うと、新劇場版が公開されていた頃には、「新世紀」と「新劇場版」は平行世界ではという仮説があったんですよ
結局は外れてしまった仮説ですが、それなりに形ができていて「(*'∀'*)ヘェ~!」ってなった時期もありました

問題なのが「この説はあっているかどうかという事です」
その辺りの答え合わせもします

ではまた次回お会いしましょう
(@^^)/~~~


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星の海、その先へ

ちょっと新しい表現を組み込んでみました


「ゲートの機能復旧、よくやってくれた」

「いえ、でもこれで、近道が出来そうですね」

 

「お2人の力添えで、ゲートコントロールシステムの複製も進んでいます。偵察任務当日には、形に成るかと思います」

「ご協力に感謝します」

 沖田艦長が感謝を述べるその先にはユリーシャと、岬に憑依したサーシャの姿があった。

 

「あなた方の航海の先を見てみたい。何を成し何を残すのか、私は、それを見届けたいと思います。これはそのための協力と受け取ってもらえたら幸いです。そして、この船の搭載されている波動砲……前にもお伝えしましたが、私は、肯定しているわけではありません。ですが、それを身を守ることにしか使っていないことをユリーシャから聞いて、王族の意志と関係なく私個人の意思で見守ろうと思います」

 

 岬の身体を借りて話すサーシャの言葉は、地球人、波動砲搭載艦のWunderに対して比較的好意的な言葉だった。

 スターシャが波動砲に対して苦い顔をするかもしれないが、大昔のイスカンダルの様に力の使い方を決めている。少なくとも、大量破壊兵器として使わず、身を護るためだけに使っている。

 

 98年にあの設計者とユリーシャが考案した波動砲条約が、確かに生きている事が分かった。

 

「バラン偵察の人選は?」

 

「人選は航空隊長に一任。要員が決まり次第、報告します」

「……かなり危険な任務になるな」

 

 

 


 

 

 

「あー……お前ら聞いてくれ。亜空間ゲートが使えるといってもバランがどうなっているかは分からない。という事で、向こうの状況把握のためにうちから偵察員を送ることになった。危険な任務だが、志願するやつはいるか?」

 

 航空隊控室で皆を前にして加藤はそう切り出した。未知の宙域に亜空間ゲート経由で行ってくるという少々度を超えた危険な偵察。おまけに未知の空間を経由することになるので、帰ってこれる保証はない。

 

 

(いないなら俺が行くしかないか……)

 

 

 内心そう思いながら立候補を待っていたが、1人のパイロットが手を挙げた。

 

 

「自分が行きます」

 篠原が、手を挙げていた。

 

「いいのか? 未知の宙域に1人で放り出されるようなもんだ。帰ってこれるかどうかは怪しいぞ」

「問題ありません」

 

「おいおい篠原おいしい役回り持っていきやがって」

「ドジるんじゃないぞ?」

「はいはいさらっと帰って来るって」

 

 偵察に立候補した篠原の口調は軽く、皆からのイジリを軽く捌いている。

 

「……分かった。上には篠原が行くって伝えとく。偵察にはシステム衛星で鹵獲したガミラス機を用いるから、左舷第3で機体見とけよ」

「了~解」

 その後集会はお開きとなり、篠原は、1人控室に残った。

 

 

 

 ……隠していたが、少し震えていた。

 

 未知の宙域に一人旅。聞こえはいいかもしれないが、状況によっては敵のど真ん中にこっそり侵入するようなものになる。

 

 自らを静かに鼓舞して、その場を立ち去ろうとする。

 

 

 

 

「意外ね、偵察なんて志願するなんて」

 気配を消して最後まで残っていたのは、山本だった。

 

「……昔さ、まだ訓練生だった頃の事なんだけど、すっごい綺麗に飛んでいる機体を見たんよ。超高機動とか正確無比な射撃とかそういうのじゃなくて、ただただまっすぐ力強く飛んでいく機体だった。その機体見てから、ああ良いなぁって思った。こう見えて俺偵察志望って……あれ?」

 

 

 振り返ると姿が見えなくなっていたのを不思議に思っていたら、すでに控室の自動ドアの前に山本がいた。

 

「一つ忠告。偵察は戻ってくるまでが任務よ」

 そう言って、山本は控室から立ち去って行った。

 

 

 

 __________

 

 

 

 

「これさ、メルダの機体とそっくりじゃない?」

「と言うかそれそのものだ。機体の役割としてはうちのファルコンに近いようだ」

 

 第3格納庫に搬入されてきたガミラス機に興味を示したハルナとリクは、アスカと篠原の見学を受け入れてガミラス機の調査とゲートコントローラーの設置を進めていた。

 

 

「できれば私が行きたかったけど、EURO2に慣れすぎてしまっているから。篠さんには重い役割背負わせてしまったわ」

「そう気になさんな。ちゃちゃっと帰って来るから」

 

 飄々としている篠原の顔は明るそうだ。

 

「うん、操縦系はファルコンとそう大差ない。右に推力レバー、中央に姿勢制御の操縦桿だ。ちょっと座ってみて?」

 

「はいはい~」

 そう言って篠原は、ガミラス機の操縦席に座ってみた。

 

「お~結構馴染むね」

「問題なさそうかな?」

「問題なさそうだ。景気よく飛ばして帰ってこれそう」

 

「そりゃあよかった。ところで、この機体飛ばす上でIFFとコールサイン付けないといけなくてね。コールサインは自由に決めれるけど、どうする?」

 

「それじゃあ……」

 

 

 

 

 

 

『ゲルガメッシュ離床。バラン星大気圏を突破します』

 

 バラン鎮守府から1隻のガイデロール級が離床する。

 ドメルが死刑判決となり、入れ替わりでゲールが司令に返り咲き、ゲールとしては、今が上手くいっているタイミングだ。

 そのタイミングでのバラン星での観艦式。上へ上へとのし上がるためには、良いタイミングだった。

 

 

『まもなく、国家元帥閣下が到着される。まもなく、国家元帥閣下が到着される』

『到着艦艇は、指定ポイントに移動せよ。繰り返す、到着艦艇は、指定ポイントに移動せよ』

 

『ゲシュタムの門起動、5秒前。3、2、1』

 

 亜空間ゲートの何もない虚空を突き破り白煙とともに現れたのは、ガミラス史上最大級の一等航宙戦闘艦。ゼルグート級の一番艦。『ゼルグート2世』だ。

 

『時空変動、異常なし。国家元帥閣下座乗艦「ゼルグート2世」の到着を確認』

 

 自らの威厳と嗜好をつぎ込んで、ドクトリンに沿わない大艦巨砲主義を実現したその船は、正面にバランが望める位置でゲルガメッシュとランデブーに応じた。

 

 

 

「これはこれは元帥閣下。斯様なこの地へようこそおいで下さいました。今回は、この地で、かくも大規模な観艦式を開催して頂けること、このゲール誠に光栄の至りです。今も各方面から続々と艦隊が集結中であります」

 

 上官には下手に出るのは、ゲールの常とう手段。万人に効くようなものではないが、ゼーリックのような「貴族で崇められたい」様な人には、良く効くのだ。

 

「この未曽有の困難に際し、帝国を一つにまとめ上げる……! それこそが! この私に課せられた使命なのであるゥ!!」

 

 物凄い癖の強い顔で拳を握るゼーリックの顔は、真剣そうに見えるが、腹の底に何があるのかは伺い知れない。

 バラン星の赤黒い大気、集まる艦隊。ゼーリックは何を考える……。

 

 

 


 

 

 

「3時間?! バラン宙域の視察とマゼラン側ゲートの確認を、たったの3時間で?!」

 

「本人も納得済みだ。もしあのゲートと言うのが使い物にならないなら、一刻も早く先に進まないといけないからな。俺達には致命的なまでに時間が足りないんだ」

 

 航海日程はまだ注意域の遅れだが、これ以上日程に遅れが発生するとWunder計画そのものを本当に中止にしなければならない可能性が発生する。それこそ、「地球を捨ててそのままほかの星に行こう」という贖罪計画が正しかったんだという事にもなりかねない。

 

 それを避けたいようで、所定時間を過ぎたらそのまま次へ進むことが決定された。

 

 

「だからって! 時間になったらそのまま置いていくって言うんですか?!」

『ソードスリーからコントロールへ。発艦準備完了』

 

 耳に覚えがあるコールサインに、加藤が微かに反応した。

 

「コントロールからソードスリーへ。発艦許可。繰り返す、発艦許可」

『ソードスリー、ラジャー。サクッと行ってきます』

 

 

 

 

 

「ゲートコントローラー、フェイズ1始動!」

『フェイズ1始動。突入!』

 

 ゲートコントローラーが起動し、篠原は亜空間ゲートに飛び込んだ。

 

「ソードスリーの物理反応消失。通常空間から隔絶されました」

 

「航海長、迂回航路を提出」

 

「収容時間を超過した場合、本艦はソードスリーの帰還を待たず、現宙域を離脱する」

 

 

 __________

 

 

 

「あのコールサインって……」

「ああ、睦月さんから聞いたが、本人の希望らしい。343航空団に所属していた偵察機の一機に付けられていたコールサインだ」

 

「……」

 

「こんなとこでまた聞くことになるとはな。あいつ、偵察任務に憧れていたからな。これをつけたがるのは分からなくはない」

 

「……偵察は戻ってくるまでが任務、そういったのに」

 343航空団の偵察機の一機、それは、玲の兄である山本明生のコールサインだった。

 兄と同じコールサインに何かを感じ、そのコールサインで散った兄の様になってしまうのではないか想像してしまう。

 

 

「篠原なら帰って来るさ。必ずな」

 

 ___________

 

 

 雷、竜巻、吹き荒れる風。

 ここが異空間という事を強引に実感させに来る。

 

 

「……なんか変な空間に来ちまった感じ」

 気を抜かなければ風にあおられることはなさそうだが、気の抜けない状況だ。

 亜空間、通常の物理法則が通用しないと仮定されているが、こうして偵察機が問題なく飛べていることは、少なくとも航行は可能なようだ。

 

 ふと、視界の上に見知った艦が映った。

 

「……ガミラス?」

 

 それはだんだん薄くなり、霧のように消えてしまったが、確かに散々遭遇してきたガミラス艦だった。

 

 ふとレーダーを確認する。案の定、レーダーとスキャナーは画面がひどく乱れて使い物になりそうにない。

「レーダーとスキャナは使えないと。頼りになるのはこいつだけか」

 そのなかでも搭載されたゲートコントローラーは、一切の機能障害を起こすことなく行き先を示し続けている。

 

 

「……竜巻に突っ込むと変なとこに飛ばされそうだな」

 操縦桿を握り直し、もう一度気を引き締め直した篠原は、いまだゴールが見えない亜空間を駆け抜けていく。

 

 


 

 

「フッフッフッフッフッハッハッハッハッハッハァァ!! 何と壮大な事か! この数! この偉業! これこそがガミラス!!」

 

「ゲール閣下、参加艦艇がまもなく延べ10000隻を突破します。ですが、防衛上大きな穴をあけてまでここまで大規模な観艦式を行うその真意をお聞かせ願えませんか?」

 

 ガミラスがいかに大国とはいえ、10000隻という数は少なくない数だ。

 今現在も様々な方面から多くの師団、艦隊が集結してくる。

 それゆえ、集結させれば防衛上の穴ができる。

 普通ならばその穴をカバーするための艦隊を配置するが、10000隻分のカバーが出来るような余裕は流石のガミラスでも無い。

 

 

 それなのに、これほどまでに艦隊を集めた理由がゲールには分からなかった。

 

 

「それは時期にわかるゲールよォ。全ての艦艇が集まり次第、このゼルグートから吾輩が全ての同志に呼びかける。気持ちが逸るのはよぉーく分かるゥ。だがそれまで……その時まで待つのだァ」

 

 

 __________

 

 

 

『ゲート接近、フェイズ2へ移行』

 それは本当に唐突だった。亜空間を飛び続けて30分程、荒れ放題の景色にそろそろ慣れてきたというところで、いきなり高速道路を降りろと命令してくるのだ。

 

 

『衝撃に注意してください』

「嘘だろおぉぉおおっ!!」

 間髪入れずに警報音が鳴り響く

 目的地と思わしき竜巻に吸い込まれ、その渦の中で機体が搔き回される。

 姿勢制御が追い付かないほどの大嵐の中、篠原の目は嵐の向こう側を捉えた。

 

「あっ! あれか?!」

 

 もう流れに任せるしかない。とにかく操縦桿を手放さないように必死で握りしめ、衝撃に耐えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 偵察として下見に来て本当に良かったと思った。

 ゲートから吐き出されて最初に見た色は緑。緑、緑、緑……目に映るのは緑の艦艇たち。

 

 バラン星の赤黒い大気を背景にして、数えるのが馬鹿馬鹿しくなる程の数のガミラス艦艇が集結していた。

 

 

 

「これ……全部ガミラスかよ」

 

 もしこの宙域にコスモファルコンで飛び込んでいたらたちまち撃墜されていただろう。ガミラス機だから誤魔化しが効いている。

 

 

「にしても艦隊に航空機部隊、煙幕出して飛んでいるとかパレードか何かか?」

 頭上を見ると1枚翼の機体が編隊飛行、コスモファルコンによく似た戦闘機が煙幕を噴射しながら飛行していた。とても戦闘態勢とは思えない。

 寧ろパレード、軍事力の誇示のように見える。

 

 

「ん? ……あれが」

 ガミラス艦艇の群れの奥に先ほど自分が突入した物によく似た亜空間ゲートが存在していた。見たところ、ゲートの縁は青色に光っている。起動しているようだ。

 

 

「よし、ゲートは起動しているから飛び込むだけだな。……あれっ?」

 センサーがゲート以外の何かを拾っていた。位置はバラン星中心部。不鮮明だが、星の中枢部に何かがある。

 少なくとも自然発生したようなものでなはい。

 

 自分では判別できないからとにかくデータを取る。

 そのまま帰還。ガミラスさんに怪しまれないようにそっと機首を天の川銀河の方向ゲートに向ける。

 

 

 

 

 

 

《そこのツヴァルケ? 所属と姓名、階級を明らかにしろ》

 ガミラス語で呼びかけられた。

 突然のことで驚き、操縦桿を傾けて姿勢を崩してしまう。

 

《隊列を乱すな! 閲兵中だぞ?!》

 ガミラス語なんてわからない。

 でも、意志を示す方法は言語だけじゃない。非言語コミュニケーションという方法もある。

 

 

「ごめんなさいね? こっちにも、都合があってねっ!!」

 もうバレてしまったものとして、機首を勢いよくゲート方面に向け、急加速する。

 

《こちら巡回パトロール、不審な行動をとるツヴァルケを確認。撃墜許可を求む》

《了解、撃墜を許可する》

 

 訳の分からない言語を通信機から垂れ流しにしながら、篠原は必死に艦艇の群れをすり抜けてゲートに向かって飛んでいた。

 

「どけどけどけどけぇぇええっ!!」

 

 敵にバレたようで、ほかの戦闘機に追いかけられている。いつものファルコンより少し遅く、慣れていない機体だがとにかく死なないように避ける。

 

 ゲートまで残り半分を切ったところで、甲高い警告音が鳴り響いた。

「何だよっ!!」

 

 警告の発した意図を理解する暇もなく、背後からバルカンを撃たれていることが頭上のキャノピー越しに確認できた。

 

 

「俺も、あんなふうに!」

 篠原の脳裏に映るのは、嘗て訓練生の頃に目に焼き付いたあの偵察機の姿だった。

 

「強く、気高く、美しく!」

 その瞬間、追尾してきた機体のバルカンが、機体に掠った。

 

 

 その衝撃でヘルメットにひびが入り、気が遠のき始めた。

 

「飛ぶん……」

 

(偵察は戻ってくるまでが任務。必ず戻ってきなさい)

 

 

 意識を手放す寸前、山本から聞いた言葉を思い出し踏みとどまった。

 

 

 

「飛ぶんだぁぁぁぁああああ!!!」

 

 気をしっかりと持ち、操縦桿を握りしめ、被弾箇所から吐き出しながらゲートに向かって飛んだ。

 そのまま亜空間ゲートに飛び込み、その宙域には、再び統制が訪れた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 懐中時計に映る秒針を静かに睨む。

「補助エンジン始動。現宙域からの離脱準備に入る」

 急ぐ身として時間はダイヤモンドよりも貴重。タイムリミット間近になり、発進準備が進められる。

 

「真田さん! もう少し待ってください!」

「だが、時間は時間だ。これがスケジュールに支障をきたさないぎりぎりの時間なんだ。分かってほしい」

「でも!」

 

 

「待ってください! ゲートに反応あり! こちら側に何かが出ようとしています!」

 太田の報告で観測カメラがゲートに向けられ、映像が表示された。

 

 一切の変化を見せなかった亜空間ゲートに一つの光点が灯った。

 

「篠原さんだ! 相原さん!」

 

「左舷第3格納庫! 受け入れ準備に係れ!」

 相原が左舷第3格納庫に受け入れ準備を命じたその瞬間、亜空間ゲートから篠原のガミラス機が回転しながら飛び出してきた。

 

「IFF照合! ソードスリーの帰還を確認!」

 ギリギリのタイミングで帰って来たが、確かに篠原は行って帰って来た。

 そのことはWunder全体を駆け巡り、希望のような活力のような……日程の遅れを帳消しにできるアテが見つかり、沖田は心の底から安堵したのであった。

 

 


 

 

「篠原の容体は?」

 

「命に別状なし、意識もハッキリで各種検査もバッチリ。『問題なかろう!』とのことです」

 

 篠原は敵機からの逃走中にバルカンを何発か食らい、その衝撃でヘルメットごと頭を打ち付けていた。

 頭部から血を流しながらも何とか帰って来たその気力は非常に称賛に値する。

 

 だが、大事をとってしばらく経過観察。ゴーサインが出るまで戦闘機に乗るにはダメだという事。

 

 

「彼が持ち帰ったデータがこれです」

 

 それに合わせて星名がコンソールを操作して篠原が命懸けで持ち帰ったデータを表示した。

 バラン星とマゼラン行きのゲート、そして星の内部に見たことのない物体がぽつんと存在している。

 

「中心部に、人工物?」

「そう。どうやらバラン星は、その中心核に亜空間ゲート用のエネルギープラントを持っている人工惑星だ。大マゼラン行きのゲートは既に作動していた」

「でも、問題があるの。とりあえずこれを見て」

 

 ハルナが星名のコンソールを借りてもう一つ重要なデータを表示させた。

 

「現在このバラン星宙域には、ガミラスの戦力が集中していて、総数は……10000以上です」

 床面ディスプレイに表示された艦船を示す記号はあっという間に隙間を埋めていき、ディスプレイが真っ赤に染まった。その横にカウンターが表示され、艦艇計測数が瞬きする間に10000を超えてしまった。

 

 

「進むな危険」と主張しているようだ。

 

 

「迂回航路はすでに策定済みで迂回することは可能ですが、1つ問題があります」

 

「こちらが迂回したことを敵が察知すれば、起動している亜空間ゲートを経由して敵艦隊の一部が大移動、大マゼランを背にして防衛線を敷かれる恐れがあります。中性子星の時と同様の手の攻撃で大打撃をこうむることも予想されます」

 

 更に表示されたウィンドウのアイコンが動き、バラン星を迂回するWunderと亜空間ゲートを経由して先回りするガミラス艦隊の図が表示された。

 亜空間ゲートは一気にバラン星まで行って、そこから大マゼランまで直中で行ける優れもの。

 使用者を選ばず航海日程の大幅な短縮が出来るため、敵に「布陣を敷かせる時間を与える」事となる。

 

 

「つまりあとで痛い目を見るか今片付けておくかという事ですね」

「そういう事」

 

 

 進めば物凄い物量で押しつぶされる……でも迂回を取れば気づかれずに行けるかもしれないが、バレたら迎撃態勢を取られて中性子星の再演。どっちを向いても地獄だ。

 

 だが、その逃げの一手しか見えないような状況で古代は、難しい顔をしていた。

「……古代くんどうしたの?」

 

「何か引っかかるんです。バラン星は亜空間ゲートのハブステーション、ガミラスにとっては重要な基地ですからここに戦力を多く置くことは必然的です。僕だってそうします。ですが、密集しすぎているんです」

 

 床面ディスプレイに表示された偵察写真を睨んでいる古代の顔は厳しい顔をしていた。

 偵察写真には、ガミラス艦艇が群れとなっている様子が記録されていて、

 

「確かに、仮に僕らがこの群れに突っ込んでいって、向こうが砲撃を仕掛けようとしても、味方間での誤射は高確率で起こる」

 

「でも、防衛するならゲート付近やバラン星近隣。駐屯地に戦力を配置するべきなのになんでここまで広がっているのかが分からないんです。何か……特別な理由が」

 

 

「いいヒントがあるかもしれないよ? 篠原さんのガミラス機の通信が入っていたの。これがその音声」

 PDAから床面ディスプレイに音声ファイルが転送され、何を言っているのかが分からない無意味にも聞こえる声が、ノイズ除去された綺麗な音声で再生された。

 

 

「これは、ガミラス語……ですね」

「ドイツ語に近い感じがするけど……よく分からないわね」

「いや、類似点を見つけている時点で凄い事なんですよ……?」

 

「桐生ちゃんの翻訳システムも未完成でまだ満足に使えないわ。誤変換が起きてるのかどうかも確認が難しいからね」

「さすがにガミラス語専攻の人は居ませんから……」

 古代が諦め半分の顔をして少し残念そうな顔をする。

 そもそもガミラス語の学問なんか地球上には存在していないからと当然と言えば当然なのだが。

 

「ガミラス語の先生、1人だけいるじゃない」

「ガミラス語の先生? まさか……」

 

 

 

「という事で、ガミラス語に堪能なオルタ先生に聞いてきました」

 

 

 

《幹部会議開始30分前 解析室》

 

 

 

「オルタ、調子はどう?」

 

『キブンがいいです。アナライザーとのショウギももうそろそろカちコせそうです』

 

「聞きたいことがあるの。ガミラス語を地球言語に翻訳することってできる?」

 

『もちろんです』

 

「これなんだけど……」

 

 そう言って、オルタにタブレットを渡して再生してもらった。

 訳の分からない事を喋っている男性の声が聞こえる。

 

 

『?? ……これは、えっぺい……ちゅう。エッペイチュウと言ってますね』

 

「閲兵? 観艦式か何かやっているの?」

 

『オソらく。バランにソウトウ、テイトク、ゲンスイ、もしくはシレイカンがオトズれていて、そこでかなりダイキボなカンカンシキをモヨオしているのでしょう。しかし……』

 

『バランに10000のカンタイがシュウケツしていることにイワカンがあります。キンリンのシュリョクカンタイがアツめられているようですが、10000というスウジはガミラスとイうタイコクからミてもケッしてスクなくないカズです。センリャクジョウオオきなアナをあけてでもここまでダイキボなカンカンシキをするのは、オソらくセイジテキなパフォーマンスがあってのコトでしょう。ガンライ、ガミラスではキゾクがソンザイしていて、グンジとセイジ、ハバツアラソいはミッセツにカカわっていますので』

 

「つまり戦闘準備バッチリでガチガチに警戒しているような状況ではないという事?」

 

『ベツのイミでゲンカイタイセイをシいているでしょう。ですが、これほどミッシュウしていればすぐにコウゲキされるようなジョウキョウにはならないでしょう』

 

 

 

 


 

 

 

 

「えーっと。どうやらガミラスは観艦式中で、こちらが突撃してもすぐに戦闘行動がとれるような陣形でもないという事なのでこのまま進むことは可能かもしれません」

 

「観艦式?」

 

「ガミラス側の政治的パフォーマンスで10,000隻規模での観艦式をやっているようです。翻訳はオルタ先生のお墨付きなので信憑性は折り紙付きかと」

 

「信じられるんですか?」

 南部がオルタの翻訳を怪しんだ。

 不可抗力とはいえアナライザーを攻撃したオルタの事を未だに怪しんでいる者も少なくない。

 それは仕方ないことだが、一度できてしまった印象は拭うことは難しい。

 

「オルタとアナライザーの信頼はよく知っています。オルタは現在スタンドアローン状態で、外部端末との有線通信やガミラスとの通信手段もない。この状況で何か行動を起こしても意味がない事は彼もよく理解しています。アナライザーとの関係も良好で、毎日のモニタリング映像も問題ないため、彼は信用に足ります」

 

 オルタの艦内での処遇は、実はそこそこいい。

 解析室から出ることは出来ないが、逆を言えば、そこが彼の住まいとなっている。

 オルタは、再起動してから初めてやった将棋が印象的だったのか、解析室には将棋盤と将棋の本が常備され、アナライザーが来たときはよく一局手合わせをしている。

 

 ロボット同士での将棋は見る人が見れば人間の真似事に見えるかもしれないが、人間臭く考えて一手を指すその姿は、解析室で業務に励む者たちのよい気晴らしとなっていた。

 

 

 

「……諸君、敵の不意を突くことが出来れば、敵を大きく引き離し、我々は先に進むことが出来る。だがそのためには、ゲートをダウンさせる必要があり、儂は、このエネルギープラントを破壊することが最も最適かと考えている」

 

「確かに、プラントを壊してゲートが崩壊するまえにゲートに飛び込めば問題はありませんが、かなりの推力が必要となります。それこそ、波動砲を推進装置代わりにしてバックでもしなければ……」

 

 そこまで言ってふとリクは気づいた。

 

「あ……出来ますね。重力アンカーを全て解除すれば発射時の反作用で一気にバック出来ますが……まさか、エネルギープラントに波動砲を打ち込むつもりですか?」

 

「……そうだ」

「……最大戦速でゲートまで飛ばしながら波動砲充填して発射ですか……。ですが、条約では対惑星攻撃と見られてもおかしくなく、そもそも出来ないんです」

 

 

「出来ない……ってどういう事ですか?」

 

「条約違反だから出来ない」ではなく「そもそも出来ない」という言葉に古代は違和感を覚えた。

 

「僕らが組んだ波動砲発射システムは、射線上に艦艇や惑星が存在していると自動的にロックがかかるんです。Wunderを条約型戦艦として運用するために組み込んだのですが、まさか裏目に出るとは思いませんでした」

 

 

「もし、それを回避できるものがあれば?」

 

「回避ですか? 作るのは大変ですよ?」

 

 

 

「新見君の個人タブレットを本人の許可をもらって確認した所、このようなプログラムが確認された」

 

 

 

《波動砲対艦攻撃用照準プログラム》

 

 

 

「対艦攻撃用……新見さんがこんなものを……」

 

 波動砲を対艦攻撃用兵装として使用することを企てていた人たちがいた。そのことはリクとハルナに少なくない衝撃を与えた。

 

「恐らく贖罪計画派の誰かが制作した物で、それを新見君に持たせたと考えるのが自然だろう。中身の解析は済んでいて、ご丁寧にクラッキングツールが一緒に仕込まれていた。君たちの作ったシステムを消去して、対艦攻撃用のシステムに入れ替える仕組みのようだ」

 

 内容が内容なだけに真田が独自に解析したが、2人の作ったシステムの穴を巧妙についた舌を巻くような仕上がりだった。

 床面ディスプレイに表示されたソースコードは圧縮されていて、アルファベットと数字、記号が、入り乱れている。暗号のようなものだったが、システムを組み圧縮も手掛けた2人には、それを読み解くことが出来た。

 

 

「これを利用すれば、エネルギープラントへの攻撃も可能だと儂は考えている。対惑星攻撃に違いないことは分かっている。その責は儂が背負う」

 

 

 目深に被った艦長帽に隠れて見えないが、沖田艦長の目は決意の籠った目立った。

 

「……沖田艦長、その十字架は全員で背負うものです。この船の全員が波動砲の危険性を知っていて、それがイスカンダルの忌むべき力という事も知っています。それに……開発者がのうのうと責任逃れすることは絶対にしたくなので、重たいものは、全員で背負いますよ」

 

 

 

「……全員で、背負う……か。ここに居る儂を含めた全員の意思で、波動砲を用いたバラン星エネルギープラントへの攻撃を行う。総員、第一種戦闘配置を維持しつつ亜空間ゲートに突入。バランに到着次第砲撃を開始する。以上だ」

 

 

 ___________

 

 

「せっかく作った条約だけど、まさか自分で破ることになるとは、思ってもみなかった……」

 

「対惑星攻撃と判断するかは……黒寄りのグレーね。実際に惑星を破壊するために撃つのではなく、その中心に位置しているエネルギープラントを壊すのが目的だけど、流石に白にはできないわ」

 

「……波動砲で誰の命も奪わないという事は、今回に限ればとても難しいかもしれない、いや、無理かもしれない。条約考案者が条約違反に加担するのは非常に滑稽で、それこそ今までやって来たことを壊すことになるけど、今は生き抜く。後始末は、その後にするよ」

 

「全員で背負う。あなたがそう言えるようになったのは、私嬉しい」

「あの時は撫でられて少し落ち着いた」

 

「また撫でてあげよっか?」

 

「ありがとう、でも大丈夫。強くなったから」

「そうね。準備、進めよっか」

 

「ああ」

 

 

 


 

 

 

 バラン星近傍に、10000を超える艦艇が集結した。その艦艇の群れの中に一際目立つ赤い巨艦、ゼルグート2世。

 

 その艦橋に立つゼーリックは演説用の壇上でマイクに向かって話し始めた。

 

 

「誇り高きガミラスの諸君。本日は諸君らに酷く悲しい知らせをしなければならないィ」

 そう切り出したゼーリックは、一呼吸おいて続きを話し始めた。

 

「そう、我らが偉大なる指導者、気高きお方であるアベルト・デスラーが……この世を去られた」

 そうゼーリックの口から紡がれた最高指導者の訃報は、この場に集まったすべてのガミラス艦艇に届き、その艦艇一つ一つに乗り込んでいる兵の心を大きく揺さぶった。

 

「この未曽有の困難に際し、帝国を一つにまとめ上げるというその崇高な使命に、吾輩の魂は打ち震えているゥ……」

 

 

「吾輩はここに誓う! 亡き総統の遺志を継ぎ、指導者の不在を未だにひた隠しにする中央政府どもに……正義の鉄槌を下す!」

「誇り在る者よ共に立て。バレラスに進行し、総統の座の奪取を企てる蛮族を我らの手で蹴散らすのだァ! 根こそぎに、容赦なく、断固として!」

 

 力強く、そして貴族としての威厳を最大限に発揮した演説はバラン星宙域の全ての艦艇に余すことなく届き、ゼーリックは自らの勝ちを確信した。

 

 しかし、その勝ちの演説は急に発生したトラブルによって突然水を差される格好となった。

 

 

「閣下! 演説中申し訳ありません。緊急事態に付き、ご報告申し上げたい報がございます!」

「何事かァ!!」

「銀河方面のゲートに巨大な反応を確認! 我々ではない何者かが、この宙域に出ようとしています!」

 ゼーリックは、目を大きく見開き正面モニターを見射抜く。

 

『回廊、形成されます』

 

 その瞬間、ゲートに青白い火花が散り、ゲートの境界面がみるみるうちに白い靄がかかっていく。

 

「あれは何だァ!!」

 

「あれほどの巨大な反応は……惑星間弾道弾クラスしかありえません!!」

 

「じゃあ何が来るというのだァ!!!」

 

 

 

 

 

 その瞬間ゲート境界面から、圧倒的な量の白煙を吐き出された。

 その煙をから放たれた青白い光は、ガミラス艦を両断し、爆炎を散らす。

 

 そして、その白煙を裂くのは翼。

 

 艦体に刻まれたNHG-001という艦籍番号

 

 それは、全長2500mという空前絶後の全長を誇る、テロンの超弩級宇宙戦艦だった。

 

 

 

 


 

 

「船体傾斜左舷に90度。第一戦速、撃ち方始め!」

「撃ち方始めっ!」

 

 

 Wunderのショックカノンがバラバラに動き、各個目標を捕捉。艦底部も含めて前方を指向できる砲門24門が全方向に一斉に火を噴いた。

 艦首魚雷、短魚雷発射管が一斉に魚雷を発射し、総数44発の流星群は目標を違わずに眼前の大艦隊を火の玉に変えてしまった。

 

 メ2号作戦以来すっかり鳴りを潜めていた「本気の火力」を最初から解放していく。

 

 

 先ほどまで艦隊の配置されていた宙域には艦艇だった物が浮遊するのみとなり、その跡地をWunderは全速力で進んでいく。

 

「甲板VLS1番2番、用意! 撃てぇ!」

「波動砲のエネルギー充填を開始する」

 

「波動防壁を展開。出力を50%に固定。波動砲の充填を優先しろ」

 

「了解! ショックカノンに回すエネルギーからも半分回します! 充填開始!」

「よし! 非常弁全閉鎖!」

「薬室内タキオン粒子圧力上昇開始を確認!」

 

 戦闘行動を継続しながら波動砲へのエネルギー充填を行う。本来ならば、波動エンジンを出力120%まで上昇させてエネルギーをチャージする兵器だ。120%にまで上げるのは、「チャージに時間のかかる波動砲」を迅速にチャージするため。だが、戦闘行動を行いながらチャージすることも理論上は可能だ。

 

 そこで、魚雷とミサイルを主武装にして、本来主兵装であるショックカノンを副武装にした戦闘を展開し、余剰となったエネルギーを波動砲に回す。これをチャージ完了まで継続する。

 

「エネルギー充填10%、良いペースじゃ」

 戦闘開始から1分。波動エンジンの高出力運転のおかげで、波動砲を徐々に充填できるほどのエネルギーが流入できている。

「古代くん! このままミサイル主体戦闘を継続して! チャージ完了まであと11分!」

「はい! 南部! 3番4番準備は?!」

「甲板3番4番発射準備よし! いけます!」

 

「島、バラン星でスイングバイだ。推力不足分を回収する!」

「了解! 古代、南部! 撃ちまくれ!」

 

「よし! 甲板VLS3番4番、撃てぇ!」

 

 

 VLSから再びミサイルの群れが解き放たれ、目標に向かって忠実に突き進み、その役目を全うしていく。

 

 

 


 

 

 

「ヴンダーを光学で視認! バランへの突入コースです!」

 

「ヴンダー……この数に飛び込むとは狂気に染まるか、いや既に狂気そのものか。だが、ここで潰せば亡き総統への手向けとしても申し分もないィ。全艦、テロン艦を……成敗!」

 

 ゼーリックの命令で多くのガミラス艦から陽電子ビームが放たれる。

 しかし速度に乗ったヴンダーに狙って当たるようなものでもなく、多くの艦が誤射による撃沈という結果を残している。

 

「味方損害拡大!」

「何をやっている! これでは味方の被害が拡大するだけではないか! もっと広く間隔をとれ!」

 

「ならん! このまま一気に押しつぶすのだ」

 

 ゼーリックから出た言葉は、少なくとも戦術とは一切呼ぶことのできないような言葉だった。

「このまま」……つまり誤射が起こることも承知の上で数の力のみでヴンダーを叩くという事。

 

 自分も一応司令官として戦術を学ぶ者としてとても元帥とは呼べない言動だと、ゲールはそう感じた。

 

 

「全艦回頭せよ! 恐れるな、数こそが正義なりィ!」

 

 ゼーリックの指示で、全ての艦がヴンダーの向く方向へ艦首を向けるが、艦の間隔が余りにも狭すぎて、満足に回頭すらできない艦艇が続出してしまう。

 

 


 

 

「主砲火力を前方に集中。側面は今は気にするな」

 沖田の指示で、主砲24門が正面方向を向き、全ての艦艇をその照準に収めた。

 

「前方に敵艦を確認! 数15!」

 

「食い破れ!」

 

 一斉に放たれた三式弾の咆哮は確かにガミラス艦を穿ち、多くの火球を生み出した。

 

 

「敵艦左右に展開! 同行戦を仕掛ける模様!」

「後部甲板VLS装填、完了次第迎撃せよ」

 

「後部装填します!」

 南部がコンソールを操作して火器管制を開き、装填を開始した。

 

 

「エネルギー充填40%! あと8分じゃ!」

「敵艦発砲!」

 

 側面に放たれた陽電子ビームが波動防壁に阻まれ、波動防壁が削られる。

「後部VLSいけます!」

 

「撃てぇ!」

 Wunderも反撃し、後部甲板からミサイルを発射して的確に射抜いていく。

 しかし、中性子性の時と同様に次々と同行戦を仕掛けてきて、波動防壁が一部破られて遂に攻撃を食らってしまった。

 

 

「左舷第2船体艦尾に被弾!」

「ダメージコントロール!」

「機関出力異常なし! こちらは気にするな!」

 

「島、バラン大気圏に突入! 撃沈したと見せ掛けろ!」

 

「了解! 大気圏に突入します!」

 そのままWunderはバラン星の大気圏に突入して、大袈裟すぎる程の量の大気を巻き上げた。

 

 いや、Wunderのサイズを考えると多少大袈裟な方が寧ろ良いのだろう。

 スイングバイの加速を利用して赤黒い大気を大きく巻き上げ、Wunderはバラン星に身を隠した。

 

 


 

 

「ヴンダー、バラン大気圏に突入、撃沈を確認しました」

 

「ヴンダーバランに沈む……これほど物をしとめることが出来なかったとは、狼の名も落ちたものだな」

 

 確実に仕留めた。自分の大好きな数で押しつぶす戦法で、ドメルが沈め損ねた艦を落とした。

 それはある一種の優越感となり、ゼーリックは全てにおいて勝ちを確信した。

 

 

 確約された勝利に高らかに笑う、

 

 だが、正面のスクリーンが急に砂嵐に襲われ、そこから何物かの声が聞こえてきた。

 

 

 

「ご機嫌のようだねゼーリック君」

 

「貴様ァ……!」

 

 デウスーラ一世と共に命を散らしたはずのデスラー総統が今スクリーンに映り、まるで何事もなかったようにゼーリックの演説に対しての感想を述べる。

 

「先ほどは高説を賜り、感銘の至り」

 

「総統閣下!」

 

「なぜ貴様は生きているゥ! 貴様の船は確かに……!」

 

「君も頭の悪い男だね。暗殺計画についてはセレステラが既に掴んでいてね、さてどうした物かと悩んだらクダン君が妙案を出してくれてね、まさに目から鱗だったよ。座乗艦は少々手狭なものとなってしまったが、なかなかにスリリングな時間を過ごさせてもらったよ。感謝するよ?」

 

 デスラー総統の背後に立っているのは、次元潜航艦の艦長ヴォルフ・フラーケン。そう、デスラー総統は暗殺される前に次元潜航艦に移り断層内部に身を隠し、暗殺成功に歓喜するゼーリックを眺めていたのだ。

 

「さて、君の罪状は明確なわけだが、何か言い残すことはあるかいゼーリック君?」

 盤面ひっくり返しの完全逆転。総統暗殺はゼーリックの仕業という事実が全ての艦に伝わり、もはやゼーリックには反撃の手札が残されていなかった。

 

 

 

「貴様……貴様貴様貴様ッ、貴様ァァァアアアッ!!!」

 全て見抜かれていた。そして危機感を一切見せることなく寧ろスリリングだったと感想を返された。

 激昂とともに引き抜かれた拳銃は、モニターのデスラーに向けられそのまま何度も引き金が引かれた。

 

 銃撃でスクリーンが粉々に砕け散り、静かに砕けていった。

 

 

 

「心ある同士諸君!! 吾輩が敢えて逆心の汚名を着てまでしてやったことは! 真の愛国心による物でこの我らの大ガミラスのためであるとォ!!!」

 

 その直後、自身の胴体に鋭い痛みと熱が襲った。そして足元に垂れる自身の青い血。

 背後から撃たれたこと気づいたゼーリックがゆっくりと振り向くと、そこには物凄い形相で銃を構えたゲールが立っていた。

 

「……逆賊め」

 

 ずっと後ろを付いてきていたゲールに撃たれるという事実を受け止めることが出来ずに、首謀者であるヘルム・ゼーリックはこの世を去った。

 

 

 

 

「ゲール少将! バラン赤道上に浮上する物体を確認!」

 

「何だとォ! 艦首をバランに向けろ!!」

 

 

 


 

 

 

「エネルギー充填110%! そろそろじゃ!」

 まもなくエネルギー充填率120%。ショックカノンを極力撃たずに薬室へのエネルギー充填に専念してきた結果、全力戦闘を展開しながらのエネルギー充填を成功することが出来た。

 あとは最大戦速で急速浮上、エネルギープラントに向けて波動砲を発射するだけだ。

「島、最大戦速。バランから浮上だ」

 

「了解! 上げ舵35度最大戦速、ヨーソロー!」

 大きく艦首を持ち上げたWunderは急速にエンジン出力を上げ、バランから急速浮上していく。

 

 

「この船が簡単にやられると思っていたら、敵はこっちを相当侮っているみたいね」

「ああ、覚悟を決めた地球人が何をするかを見せよう。波動砲への回路接続! 強制注入器を起動!」

「波動砲への回路、開きます!」

「強制注入器、作動!」

 

「反転180度、発射口開け!!」

 沖田艦長の指示でWunderの2門の波動砲口がその絞り羽を開く。

 

「同時認証準備!」

『3名の生体認証を確認。波動砲最終安全装置を解除します』

『波動砲対艦攻撃照準プログラムに接続。照準固定します』

「タキオン粒子圧力限界! エネルギー充填120%! 重力アンカー解除準備よし!」

 

 

「発射10秒前! 9、8、7、6……」

 

 

(自分で自分の約束を破るのは、非常に滑稽だ。地球やイスカンダルに負い目を感じてしまうが……全て、逃げない。全員で決めたんだ。これはたった1人の意志じゃない。責任転嫁のように聞こえてしまうしれないが……これが地球の総意だ)

 

 

「3、2、1!」

 

「波動砲、撃てぇ!!」

 

 

 古代が波動砲コントローラーの引き金を力いっぱい引き絞り、Wunderの両舷第2船体から莫大なエネルギーの奔流が吐き出された。

 

 重力収束を無視したその一撃は全ての艦の間をすり抜け、バラン星に突き刺さった。

 

 

 

「重力アンカー解除! 総員衝撃に備え!!」

 反動制御の重力アンカーが全て解除され、Wunderは暴力的な推力に身を任せたままマゼラン側へのゲートに飛び込んだ。

 

 

 


 

 

 

 時は僅かに遡り、Wunderが波動砲を発射したその時、ゲールは、その光景をゼルグートの艦橋から見ていた。

 

「あの大砲か。下手くそめどこを狙って……」

 波動砲の先に目をやると、それはバラン星の中核。自分たちの扱うゲシュタムの門へとエネルギー供給を行うエネルギーコアだった。

 

『こちらバラン鎮守府管制室!! バラン星エネルギーコア制御不能! まもなく爆縮、崩壊します!!』

「ゲール少将! マゼラン方面ゲートに異常を感知!」

 通信機から飛び込んできたのはエネルギーコアの崩壊寸前の一報、そして自分たちの交通路である超航法ネットワーク崩壊のお知らせだった。

 

 

 小宇宙に匹敵するほどの圧倒的なエネルギーはエネルギーコアの崩壊を強制的に促し、バラン鎮守府には強大な重力震が走っている。

 脱出しようにもすぐには艦艇は動かせず、たとえ離床しても強大な重力に捕まり中心核に引き摺り込まれる。

 単純に正面突破を仕掛けてきたと勘違いしたゲールには、彼らの狙いを最後まで読み切ることは出来なかった。

 

「てっ撤退ぃ!! 直ちに現宙域から離脱せよ!!」

「しかし、旗艦が宙域から離脱すると指揮系統に深刻な混乱が!!」

 

「死にたいのか貴様らはぁ!!」

 

 ゲールの指示で全ての艦が一斉にバランに背を向けて離脱していく。

 しかし、タイミングが遅すぎた。

 撤退行動に入った艦艇をあざ笑うかのように爆縮が起こり、その余波で艦種を問わず多くの艦艇が爆炎を上げることもなく、数瞬遅れた艦艇は風に揉まれる木の葉の様にバラバラに分解されていく。

 

 

 Wunderの放った覚悟の一撃は確かに目標に突き出さり、彼らの進路を砕いた。

 

 


 

 

「うう……みんな大丈夫か?」

 

「何とか……」

「絶叫マシンの方がまだいい」

「それは同感。本当に吹っ飛ぶかと思った」

 

「対ショック対閃光モードを解除する。……見てくれ」

 波動砲の猛烈な反作用から復活した真田が全周スクリーンの対ショック対閃光モードを解除した。

 

 一瞬で開けた視界一杯に映る光に一瞬目が眩む。

 その視界に映るのは、宙一杯にあふれる星の輝きだった。

 背後には亜空間ゲート。そして正面にはまだ見えない彼方目的地、いや、目の前に大マゼラン星雲がある。

 見えない目的地を目指した大航海。遂に、その目的の星雲が眼前に映る。

 

 戦闘艦橋の面々からは声が上がり、各々が決して小さくない喜びを上げる。

 

 

 

「やっと目的地が見えた……長いようで、短いような」

「……綺麗ね」

 ズレた返答に苦笑いしたリクだったが、大マゼランに目が釘付けになっているハルナを見て考えるのをやめた。

「ああ、綺麗だ」

 

 

 

「「ただいま、母なる星の海よ」」

 

 

2199年5月14日

Wunder、バラン星を突破

大マゼラン星雲を肉眼で初観測




バラン星突入!

創るの大変ですし、そろそろ次回作のシナリオを考えないといけないので、少し間が開きました。
という事で、第六章最終話です
この話書き始めて早10か月です
下手したら1年以上かかることになりそうで冷や冷やしています
(星巡る方舟編入れよっかな……)

第六章、本当に頑張りました。特に「夢の跡地に出来たもの」は様々な人にご協力いただきました。正直言って、「あの話ってちゃんとできたかどうか」聞いてみたい所存です。

第七章、遂に七色星団決戦です。wkwk
アスカが最初で最後の大活躍します。作者はガンダムも好きなので、主の独断で決めたガンダムの名シーンをやります。

大立ち回りさせてあげたい主でした。

ではでは、サイドストーリーでまた会いましょう
(@^^)/~~~



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貴方の想い

サイドストーリーです

時系列はシステム衛星内部での話です
第7章はかなり派手にやりますよ?(๑•̀ㅂ•́)و✧


『復讐……と言う言葉があるけど、するの?』

 

「分からない。復讐が正しいという保証もない。でも、多くの人が死んだ以上、とても許されるようなことじゃない」

 

『それで悩んでいるのね』

 

「……」

 

『らしくないわね。せっかく想い合う様になったのに、復讐に駆られかけるなんて。でも真田と言う人はもう少し時と場と言うものを考えてほしかったわね』

 

「まぁ……でも、とても地球上や艦内で話せるような物でもないみたいだから、タイミング的には真田さん的には良かったんじゃないかな?」

 

『無暗に話して変な組織に止められるより良いかもね、そこは仕方ないかな。……話が脱線しかけたけど、どうするの?』

 

「分かんないよ……あれが人為的に起こされたなら母さんは国連と裏組織に殺されたようなものだ。それだと、大規模な人殺しに巻き込まれたようなものだ。ハルナだって……」

 

『しゃんとしなさい。ハルちゃんはハルちゃんで強くなっている、あなたも理解しているでしょ? なのにあなたが揺れてどうするの? 絶対揺れない人間はそういないけど、大切な人がいるなら芯がしっかりしてないといけないよ』

 

「復讐に走ってしまうと、僕、ぐちゃぐちゃになってしまいそうだ」

 

『少なくとも心は無になってしまうわね。何もないという結果だけが残ると、私も思うわ』

ぼんやりとした白い影が、答えのようなものを返してくる。

ハッキリ見えないけど、誰なのかは分かる。

「何にも残らない、か」

 

『あなたは何をしたい? 何を残したいの?』

 

「……青くなった星で、ハルナの笑顔が見たい。それと、ハルナとの思い出を創りたい」

脳裏に映るのは、真田、マリ、赤木博士、アスカ、そして大切な人だった。

『あなたたちを見ていると眩しいわ、そのうち目が眩みそう。……私が思うに復讐と言うシミは、後に生まれた幸せを黒く塗りつぶしていくわね。その人の心が相当狂っていない限り、それは止まらない。もしハルちゃんと幸せに過ごしたいなら、復讐なんてくだらないことは考えないことね』

 

「……復讐でハルナが悲しむ顔は見たくない。もう二度と、あいつが苦しむ姿は見たくない」

 

『決まった感じ?』

 

「うん。でも、あれを起こした組織については、僕も調べてみる。地球に戻ったら何か分かるかもしれない」

 

『気を付けるのよ? 相当闇深いと思うからどう来るか分からないよ? そもそも裏組織とかもはやアニメの世界だからね? 地球に戻ったら喜ぶのはいいけど、その辺りも多少は警戒しておくことね』

 

「うん、聞いてくれてありがとう」

 

『いってらっしゃい』

白い人影は霧が晴れるように薄らいでいき、元の景色に戻った。

眼を開けると、システム衛星の内部、その隔壁が見えた。

 




やっと……やっと第6章まで書き終えました
テスト系も一段落してようやく落ち着いて書けそうなので、テンボよく第7章も書けそうです

次章では遂に七色星団決戦です
少し長くなるかなぁ……と思います。

それでは皆さん、次章でお会いしましょう
フリフリ((ヾ(・д・。)マタネー♪


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神殺しの船、人の業
来るべき、阻まれる者


遂に七色星団決戦が書けます

そして第7章!あと2章で完結です!
ガトランティスの書くので頑張らないと……


 宙に波が立つ。

 一隻の次元潜航艦が、境界面に波しぶきを立てて浮上していく。

 

 目の前に映るのは、母なる星、しかし、その姿は決して美しいものではない。デスラー総統の目にはそう映った。

 

「この星にしがみついて何になる」

 既に老いた緑の星は、サレザーの日を浴びて、その輪郭を輝かせている。

 しかし、その目はガミラスを見ているように見えて、その奥でのぞく星を見ていた。

 

 

『まもなく大気圏に突入します。艦内にお戻りください』

 

 

 


 

 

 

「ゼーリックに同調した反乱分子もすべて内偵済みです」

「まもなく一掃されることでしょう」

 暗殺から身を隠し、長らく死亡したと思われていたデスラー総統はその玉座に再び君臨した。

 ゼーリックの暗殺は全軍と閣僚に伝わり、ゼーリックは自身の腹心であるゲールに射殺され、ゼーリック派の人間はまとめて検挙、ギムレーが長官を務める親衛隊によって掃討されることとなった。

 

 

 

「君には、不愉快な思いをさせてしまった」

「……いえ」

 総統暗殺の嫌疑が晴れその際に下された死刑判決が撤回されたことにより、ドメルは長きにわたった拘束から解放された。

 その間あらゆる情報を遮断され、自身が拘束されていた間に何があったのかは知らなかった。

 

「しかし、これで総統の治世も盤石という事ですね」

 

「主力艦隊を90日の彼方に置き去りにしておいてか」

 それは尤もなことで、今現在の懸案事項である。

 

「バランは、ゲシュタムの門を統括する超航法ネットワークの中枢です。これを破壊されたため通常のゲシュ・タム航法による航行に頼らざるを得ず、我々の基幹艦隊の大半はまだ、この宙域になります」

「本国に戻るには、最低でも3か月は要することになります」

 

 

 全てのゲートはそのエネルギープラントからのエネルギーによって稼働するため、現状ゲートは稼働不能。

 そしてバランから大マゼラン正面に直接向かう事の可能なゲートはそれそのものが破壊されてしまい、現状通常のゲシュタムジャンプを何度も繰り返すしかなくなっている。

 

 

「総統、一言、お命じ下さい。ヴンダーを沈めよと」

「やってくれるか?」

 

「それが、私の成すべきことです」

 

「お前のために精鋭を取り揃えておいた。作戦が終了した暁には、奥方も罪一等を減じられるであろう」

「ご配慮感謝します。ヒス副総統」

 今現在もドメルの妻である「エリーサ・ドメル」は反政府運動加担の疑いで有罪判決が下されたままだ。

 その撤回の申しは、今のドメルにとっては何よりも願っていたことだった。

 

「エルク、君にはもう一つ、頼みたいことがある」

 

 その目は、望みを含んだ目立った。

 

 

 


 

 

 

「すまなかった」

 

「えっちょっと顔上げて?!」

 

「自ら結んだ約束を自ら破ってしまった。ユリーシャもサーシャさんも、僕らが結んだ約束で信頼して波動砲搭載を容認してくれた。それなのに僕らは、一方的に信頼を破ってしまった」

 

 波動砲を惑星に向けた。惑星破壊を狙ったことではなかったが、惑星に向けたことは事実。戦略上必要だったとはいえ、条約に抵触したことは変えられない。

 イスカンダルとの信頼を一方的に破ってしまったことにけじめをつけるため、ハルナとリク、真田と沖田艦長はユリーシャと岬に憑依したサーシャに頭を下げていた。

 

「ムツキリクさん、あの状況では波動砲を戦術に組み込む以外に突破する方法がなかったこと、条約を自ら破ることも覚悟して全員の意志で運用したことも知っています。全て、コダイさんが伝えてくれました」

 

「古代くんが?」

 

「はい、彼は何か抱えていますが、十中八九波動砲の事でしょう。今回の事は、スターシャ姉様は難色を示されることでしょう。ですが、決して惑星を壊そうとして発射したことではないという事を、私達の方から説明を行います」

 

 少し不安な目をしたサーシャは、リクの目をまっすぐに見て、そう紡いだ。

 

「お願いします。……と言えるような立場じゃないですが」

「私たちが恐れたのは波動砲の力に溺れるということで、今回のことを私達から非難するつもりはありません」

 そう言い切ってサーシャは、岬に体を返した。

 

 

 

「サーシャさんは?」

 意識が体に戻ってきた岬はリクに聞いた。

「今回のことを非難するつもりはないそうだ。ユリーシャ、ありがとう」

 

「あなた達はあくまでも生き残るために使っていることは、今までを見ればわかるわ」

 まっすぐ前を見るユリーシャの目は、嘘偽りの染みのない目だった。

 

 

 

 

 

 

 Wunder第2船体アレイアンテナ基部観測室は、談笑の場としてだけなく、星を見るのにはうってつけの位置だった。

 銀河間空間が望めるその虚空を眺めながら、古代は何かを考えていた。

「古代くん」

 

「睦月さん?」

 

「ちょっといいかな?」

 あの後リクは古代を探し回った結果、古代はアレイアンテナ基部の観測室で考え事をしていた。

 そんな古代を連れて向かった先は、実験農場だった。

 

 

「やっぱり、気にしているんだね」

「ユリーシャさんにサーシャさんとの信頼とも呼べるあの条約を何の相談もなく破ってしまったことに、責任を感じています」

 

「それは皆そうだ。忌むべき力は忌まれるのに値するほどの力を持ち、使い手の覚悟が否応にも試されてしまう」

 

 土の匂い、青々としたスイカの葉が生い茂り、古代は腕まくりをしてスイカの玉返しをしていた。

 

 邪魔の入らないような場所を探した結果実験農場に目が止まり、そこで作物の世話の傍ら話すこととなり、しゃがみこんで葉を触る古代の傍らリクはホースで水を撒いていた。

 

 

 

「古代君。君は、核のカバンというものを知っているかい?」

 ホースで水を撒きながらリクは不意に古代に問いかけた。

 

「核のカバン……ですか?」

 聞きなれない言葉に首を傾げるが、流石に「核」という言葉が入っているから不穏な物だと察してしまう。

 

 

「簡単に言えば、いつでもどこでも核兵器が発射できてしまうカバンだ。まだ世界が核兵器の保有を継続していたころの話だ」

 

 20世紀終盤、冷戦と呼ばれる一触即発状態に世界が包まれた時、大国は発射ボタンを持ち睨み合っていた。一度握ったらその力に魅入られて手放せなくなるその力は、一発も放たれることはなかったがその持ち得るプレッシャーを存分に振り撒いた。

 

「21世紀ごろの話ですね。戦争らしい戦争が消えて平和がやって来た頃でしたか?」

「そう。核兵器自体は大戦中に生み出されたらしいけど、それが極東の日本で初めて戦争に投入され、その威力が判明した」

 

 それを語るリクの目はどこか悲しげで、ここではないどこかを見ているような雰囲気だった。実際には見ていないし、もう200年は昔の事だ。それでも今と繋がることがあるのか、それを想う眼だ。

 

「その威力に使った本人も驚愕していたが、それを政治や反撃のためのカード、威圧用、あるいは挑発に用いることも考えた。アメリカは、歴史上反撃のカードや威圧のために用いていたらしいけど、本気で使おうと考えていた国もある」

 

「主にアメリカやロシアの大統領が外交時に持ち歩いていて、外交時に自国が外からの攻撃に合ったときに、報復として発射命令が出せるようにしていたらしい。幸いなことに、実際に使用されたことは一度もないけどね」

 眉をハの字にして困ったような笑みを浮かべたリクだったが、それとは一転して深刻そうな顔となった。

 

 

「発射承認は、大統領と国防長官の2人行うが、大統領の発射命令を受けた国防長官は、その命令が、大統領からの物かどうかを判断するのみ。つまり、発射命令は大統領しか出せない、大統領ただ一人がその責務を負う事となり、その判断1つで敵を跡形もなく吹き飛ばすことも出来てしまう」

 

 

 

 

 

 

「なぜ波動砲発射時に、3人分の認証が必要か、考えたことはある?」

 ホースの蛇口を止め、リクは古代の方に振り返った。

 その問いに古代は、一瞬思索した後にこう答えた。

 

「それは、強大すぎる力に制限を設けたかったからですか?」

「半分正解かな。Wunderを条約型戦艦とすることも含めてこのシステムを組み込んだ。でも、もう半分は……」

 

 

 そしてまっすぐに古代の目を見据えたリクはこう続けた。

 

 

「たった一人に引き金を引かせない、背負わせないためなんだ。最終的に「コントローラーの引き金を引く」のはどうしてもその席に座っている古代くんになってしまうけど、艦長と真田さん、そして全員が『撃つ』という意思を見せてあれは初めて発射可能となる。3人分の認証はその意思表示の役割を持たせてある。これだと意思決定者本人の優劣に大きく左右されてしまうけど、これなら本当に必要な時に正しく運用できると考えた。これはあくまで地球目線からの考え方だから、スターシャさんがなんて言うかは分からないけどね」

 

 リク本人は、波動砲発射承認システム構築時に「核兵器の発射システム」を参考にしていた。

 しかし、それは「お手本にした」という事ではなく、「もっと別の意味で参考にしていた」という事。

 たった一人に委ねてしまうという事を危惧したことで、この意思決定者3人による認証を取り付けた。

 

「あれは、君だけが全て背負う様な物じゃない。使い手の覚悟が試される兵器だけど、誰も『誰か1人が全てを背負わなければならない』なんて考えていない。勝手かもしれないけど、あれを創った僕らの言葉を聞いてほしい」

 

 

 そう言いながら、徐に冷蔵庫まで歩いていき、そこから取り出したドリンクボトルを古代に差し出した。

 

「君が背負おうとしている物は、皆背負っている。僕らもだ」

 

 

 それを受け取った古代の顔は、少しだけ晴れた顔をしていた。

 

 


 

 

『クダン司令、お待たせして申し訳ありません』

「いいや、これ程の短期間でよく特定してくれた、感謝している」

 フリングホルニの艦橋で通信モニターに向かうのはクダン司令。補給を終え、ディッツ提督の側近からの報告が来るまでは、暫定的ではあるが大マゼラン方面に舵を切っていた第101艦隊は、この通信を受けてすべての艦が足を止めていた。

 

『もったいないお言葉です。ディッツ提督が更迭されてからの護送経路を洗い出し、収監先の収容所惑星の特定に成功しました。第17収容所惑星・レプタポーダ、そこが、提督の収監先です』

 

 それは大マゼランのサレザー恒星系に比較的近くに位置する恒星系、その惑星の一つだった。

 ガミラスの政治犯、軍規違反による罪人などは、基本的に本星から収容所惑星に強制的に送還されてしまう。

 総統暗殺容疑の濡れ衣を着せられたディッツ提督は、「政治犯」とされて収容所惑星行きとなった。

 

「レプタポーダか、よりにもよってガトランティス人の収容もしているあそこか……」

『はい。ですが、司令の艦隊が直接出向いて反乱を仕掛けても、あそこの常備戦力で押し返されるでしょう』

 

「そこなのだ。軌道上からの降下でプレッシャーを与えられても、それが内部まで波及するとは考えにくい」

 

『そこでです。私の方で少し仕掛けることにしました。囚人の房を開放して混乱を起こすことも考えています』

 

「……君、本当にガルの側近なのか?」

 かなり突飛な考えに、思わずクダンも呆れた。

『私も少々頭に来ていまして、やれることなら何でもやろうという所存です』

 その突飛なことを言い出した側近はなかなか凄みのある顔をしている。

「命は大事にしたまえ。またあいつの側近をするのだろう?」

『もちろんです』

 大きくうなずく側近を見るなり、クダンはディッツの人柄の良さを高く評価していた。

 

「君にその仕掛けの準備を任せたい。こちらもレプタポーダに向かう」

『お任せください。クダン司令』

 

 通信を終えたクダンは通信を開きオープン回線で全艦に呼びかけた。

 

 

「諸君、そのままで聞いて欲しい。私はアウル・クダンだ。これは、正規の作戦に従ったものでは無い。それに上から命令があった訳でもない。反乱と見受けられてもおかしくは無い。それでも私は、最も信頼する者を、最も信頼する友を助けたい。どうか、この齢50の変わり者に免じて、共に来てもらいたい」

 

「これより艦隊旗艦フリングホルニは収監中の航宙艦隊総司令ガル・ディッツの解放へ動くべく、第17収容所惑星へ舵を切る。どうか同じ志を持つ者たちよ、私と共に来てもらいたい」

 

 回線を切り、マイクを置いたクダンは大きく息をした。

 

「司令。ディッツ提督には我々もお世話になってます。そのまま置いていくような人間は少なくともこの艦隊にはいませんよ?」

 操舵手が舵輪片手に笑いながら言い、艦橋要員が異口同音にそう言う。

 

「叔父様、行きましょう。あの演説は、司令としての言葉じゃなく、アウル・クダン1個人としての言葉でした。心は伝わります」

 

「お前にそう言って貰えるとわなぁ……長いこと軍人として生きてきた甲斐があったよ。……進路0-3-0、レプタポーダに向かう!」

 

 フリングホルニが進路を変更し、ゲシュタム機関のエネルギーを推進力へと転化していく。

 

 それに習って全ての直衛艦が進路を変え、フリングホルニに随伴していく。

 

「全艦進路変更を確認!」

 

「皆……ありがとう。では、向かうとするか」

 

 この演説は後の世で「フリングホルニの意思」と呼ばれ、語り継がれるのであった。

 

 

 

 

 

 

「まさか、テロンのあの船にイスカンダルのお方が……」

「前にセレステラがバランに来ていたことがあったな」

 

 総統府からエアカーで出発したドメルとハイデルンは、外殻から望める夜空を見ていた。

 

「確か、アケーリアス遺跡の調査という事で来ていましたな」

 

「あの時、遺跡を起動させてヴンダーの内部の情報を取得したらしい。そこにイスカンダル人が乗艦しているという情報を得ていたようだ」

 

「まさか、そんなことが」

 

「あの女は魔女だからな、おかげで仕事が一つ増えた」

 

 その外殻に開いた穴からゆっくりと降下していく艦隊が望めるが、不思議と空母しかいなかった。

 はたから見れば壮観な光景だが、これには現在のガミラスの戦力事情が大きく関わってきている。

 

 

 

 

「バルグレイ、ランベア、シュデルグにバルメス。そしてどっちつかずで終わったダロルドとナグルファルか」

 ドックに停泊した艦を眺めながら歩くゲットーは、偏り具合に思わずため息を漏らした。

 

「なんだよ空母が6隻のみかよ」

 

 空母のみで出来ることと言えば随分と限られてしまう。駆逐艦、軽巡、重巡がいないのだから、ガミラスの十八番である高機動雷撃戦闘は今回は封印されてしまう。

 

「ぼやくなバーガー」

 

「本土防衛艦隊は親衛隊が牛耳っている。こちらに艦隊を回すような余裕はないのだろう。おかげで空母護衛艦隊の編成も出来ないな」

 

 本来空母は艦載機運用能力に特化していることもあり、例外はあれど殆どは自衛能力に乏しい。

 だが、宇宙空間では空母にもある程度の戦闘能力が求められることもあり、各艦それなりの自衛武装を積んでいる。それでも本格的な砲戦能力を搭載しているわけでもない。

 

 それを補うために空母護衛艦隊と隊列を組んで戦闘に投入されるのが一般的なのだが、現状それすらできない。

 すべては超空間ネットワークを破壊、もしくは機能停止されたことによる大損害だ。

 

「だが駒はある。これでやれというならこれでやるしかないな」

「船はいいとして、子供と年寄りしかいないじゃないか」

 

「精鋭が聞いて呆れるな」

 

 

「おお! バーレン!」

 1人の老兵の存在に気付いたハイデルンは、その老兵のもとに駆け出した。

 

「ハイデルンか?!」

 その老兵、バーレンと呼ばれた老兵はハイデルンの存在に気付いて顔が明るくなった。

 

「生きているとは思わなかったぞ?!」

「貴様こそこの死にぞこない!」

 

 お互いの生還を喜んでいるが、聞く限り本当に再開の挨拶かと耳を疑いたくなる。が、互いに肩をたたき合い歯を見せ満面の笑みを浮かべているあたり、これには前例があるのだろう。

 

 

「オルニ戦役以来だな」

 

「そうなりますな」

「船は古く、兵は幼い。やれるか?」

 

「兵は戦場で一人前になるとおっしゃられたのは閣下でしたな」

 

「頼むぞ」

「ザーベルク!」

 バーレンとドメルはかつて同じ宙で戦場を共にしている。

 それ故ハイデルンとドメルの関係の様に、互いを知ったうえでこう話すことが出来る。

 

 

 

「気をぉ~付け~!」

 独特な訛り声が響き、次元潜航艦の目の前にはクルーが整列していた。

 今回の作戦には次元潜航艦も投入される。だが、それはやはり戦闘目的ではなく、デスラー総統がドメルに頼んだとある頼みも今回の召集の原因でもある。

 

 

 

(イスカンダルのお方が?)

 

(ミレーネル・リンケ特務官の残した記録では、イスカンダル人が2名乗艦している。彼女らの保護を君に任せたい。そのために必要な戦力があれば私が動かそう)

 

(2名……ですか?)

 

(そうだ。最悪1名でも構わない。君の神殺しを陽動に使う様で済まないが、頼まれてほしい)

 

(……このドメル、一命に賭けて)

 

 

 

「また、貴様の手を借りる。フラーケン」

「バレラスは空気が悪い。願ってもないです」

 ドメルに冤罪がかけられる前に、フラーケンはドメルの元で動いていた。

 今回も断層内からの索敵と、その特命を頼んである。

 

 

 

 

「あれは、ザルツの?」

 珍しいことに、ガミラス人に混ざってザルツ人の部隊が整列していた。

「2等臣民の部隊?」

「惑星ザルツの義勇兵だな」

 ガミラスの属国となっているザルツ人……通称「2等ガミラス人」はガミラスの軍事侵攻時に勇敢に戦い、決して過小評価することのできない戦いをした。

 それが認められて、2等ガミラスとしての権利が与えられている。

 

 

「B特殊戦群所属、第442特務小隊であります」

 隊長のゲルト・ベルガーがドメルにガミラス式の敬礼をする。

「諸君らには、極めて重要な任務を任せたい。我々に出来なくて、諸君らだからこそ可能な作戦だ」

 

「ガミラスのため、全力を尽くします」

 

「ホントに信用できるのかね?」

 

 バーガーが疑念をぶつける。

 ガミラスから見てザルツは占領地と見られもする。このような重要な作戦にそのような人間を招集するとはいかがなものか、そう感じたのだろう。

 

 

 

 

 

「青き花咲く大地、気高き我が故郷よ」

 

 それに対しての答えと見るべきだろうか、小隊の一人、ノラン・オシェットがガミラスの国歌を声高らかに歌い始めた。

 ガミラスへの愛国心に上も下もない。自分たちは見た目が違ってて尚且つ周りが思っているように占領地の人間だ。それでもガミラス人だ。

 

「響け歓喜の歌」

 

「永遠のかごは我らとともにあり続けん」

 その圧に押されて、周りのガミラス軍人もそろって国歌を歌う。

「ガーレガミロン。称えよ所国の所業を」

 

 ドックに響き渡る国歌はその一帯を占拠し、神殺しに集まった全ての兵に響き渡った。

 

 

 


 

 

 

「ここに居たのですね」

「勝手に外に行くと危ないのよ? サーシャ姉さま」

 どこかに行ってしまったサーシャを探しに艦内中を探し回った星名とユリーシャは、遂に艦外で星を見ているサーシャを発見した。

 

「ごめんねユリーシャ。外の星が余りにもきれいだから、つい外に出てみたの」

 前方に見えるのはタランチュラ星雲。大マゼランの玄関口ともいえる星雲が目の前に広がり、サーシャを探しに来た星名とユリーシャも目を奪われる。

 

「それに、ミサキの体を借りている間なら、私だけじゃなくてミサキにも見せてあげられるでしょ?」

 

「ごめんなさいね、ホシナ。ミサキは、貴方にぎゅってしてもらいたいみたいよ?」

 それが何なのか分からないけど、とりあえずやってほしそうだったかサーシャは素直に星名に伝えた。

 

 意味を理解していた星名は赤面し、「とある2人組の前例」もあって、そういうネタには敏感となったユリーシャはにやにやするのであった。

 

「私にはよくわからない。けど、この子がそう望んでいるみたいだから、そうしてあげて?」

 

 

 

 _______________

 

 

 

 

 Wunderを再び迎撃するために、ドメルは手持ちの空母とドメラーズ三世を海上軍港に持ち込んだ。

「待ちかねたよ。君のご所望の物は、用意してある」

 そう出迎えたタランは早速、備え付けリフトにドメルを招いて上へと上がった。

 

 別のドックではガイペロン級4隻には艦載機を、そしてゲルバデス級2隻に何やら物々しいサイズの機体の搭載作業が行われている。

 

 

 

「最高機密の試作兵器、まったく兵器開発局を説き伏せるのには苦労したぞ?」

「感謝します」

 リフトに乗ってドメラーズ三世の艦橋上部を眺めるドメルとタランは投光器のような物を見ていた。

 それが艦橋上部に設置され、作業員が艦橋に上り設置作業に係っている。

 明らかにただの投光器ではない。最高機密とタランが言うとおり、これは戦争に革命をもたらすようなものだ。

 

 

「まあいいさ、君の合理的我儘には慣れてる。今までもそれで勝ってきたようなものだからな。……しかし、あんなものも使うのかい? あれは兵器じゃないはずだが……」

 タランの目に映るのは、巨大なドリル上の弾頭を搭載したミサイルのような物だった。ミサイルのようなものと言ったのは、そもそも兵器ではないからである。

 それが重爆撃機ガルントに懸架されて、ゲルバデス級航宙戦闘母艦のダロルドとナグルファルの甲板上に固定された。

 

「はい。Wunder攻略にはあれが使えると閃きました。ちょうど2つです」

 

「なるほど……それと、あれは出来れば使うのは本当はよした方が良い、本当に持っていくのかい?」

 リフトから降りたドメルとタランはドックに降り立ち、艦底部を眺めた。

 巨大な筒のようだが、Wunderの48㎝ショックカノン、その砲身のようにも見える。

 

 

 だが大きすぎる。とても48㎝に見えない大きさで、砲身がドメラーズの4分の1にもなる巨砲だ。

 

「はい」

 

「試作の末に生まれて欠陥品の烙印を押されたはずなのだが、君のお眼鏡にかなうのはどうして変わったものばかりなのかな? ……一応発射出来るようには改造した。普通の陽電子ビーム砲塔とはわけが違う、短時間での連射は無理だ。インターバルにそれなりの時間が必要だ」

 

 リフトアップされたドメラーズ三世の巨体を見上げたタランは、苦笑いしながらその兵器を眺めた。

 あまりにも長大な砲身、リボルバーの弾倉状に装填された陽電子ビーム発振システム。あたかも巨大なリボルバーだ。

 

 

 

(……本来あれはあの方の兵器の試作。陽電子砲とはわけが違うが、砲身に限れば何十発撃とうがびくともしない。上手く使ってくれ)

 

 

 

 

 

「大マゼラン星雲の玄関口に位置するこのタランチュラ星雲は、濃密な星間物質とイオンの嵐が吹き荒れる危険な宙域です。おまけに宇宙ジェットの噴出も確認されています。幸いなことに、宇宙ジェットの中心に位置する天体は全て原始星で、超大質量ブラックホールなどの存在はありませんでした」

 

 この航海始まって以来の最も危険な宙域と形容できるほどのタランチュラ星雲。名前に違わぬ凶悪さは、宇宙ジェットという現象で表現されている。

 宇宙ジェットは、激しい天体活動がプラズマ上のガスを一方硬貨双方向に噴出する危険な現象。分かりやすく説明すると、恒星が自前でビームを発射しているのだ。それもプラズマ。影響を受ければWunderも決して無事では済まない。

 

「すでに、コスモレーダーに障害が出始めています」

 

 たとえ余波を食らうだけでもグリーゼ581の時みたいに電子機器に障害が発生しかねない。

 

 

「この星雲を構成する七つの恒星系、便宜上、七色星団と呼称しますが、現状、この宙域を突っ切ることが、最短経路です」

 

 

「ワープで飛び越えられないんですか?」

「最大ワープでも飛び越えられない。全体領域が余りにも広すぎる」

 

 七つの恒星系を飛び越えることくらいわけない。だが今回はその恒星間の宙域が相当離れていて、最大ワープでの跳躍距離を優に超える。

 その恒星間の宙域は、イオン乱流が入り乱れていて、その奔流に飲まれれば終わり。

 

 Wunderはガミラスを退けながら航海を続けてきたが、自然だけは退けられない。

 宇宙というあまりにも巨大なスケールの前ではどうにもならなず、せいぜい波動砲でフレアを薙ぎ払えたくらい。それでも脅威を直接排除することは出来ず、言うならば「躱すなりはねのけて隙をついて退避してきた」

 

 

「突破するのは、難しそうだな」

 

「そこで迂回ルートを策定してみたのですが、どうしてもコースが限られてしまいます。ここが大マゼランの玄関口という事もあり、彼らはこの宙域を我々よりもよく知っているとみて間違いないでしょう」

 

 大マゼランはガミラスの領土と言っても差し支えない。バランにあれだけ集結させられるだけの戦力を持ち、銀河系に攻め込める以上、少なくとも大マゼラン一帯は既にガミラスが統一していることだろう。

 

「現在のガミラスの勢力としては、大小マゼランは既に統一されています。そのうえ、勢力範囲の維持のための戦力がギリギリというのが現実です」

 ガミラスの事情をスターシャから聞いていたサーシャによると、領土拡大を急ぎすぎた影響で戦力がカツカツという事らしい。

 

「領土の急速拡大で、配備戦力の余裕が少なくなっているという事か、そこまで領土拡大して、何故マゼラン近傍からじわじわではなく、遠く離れた天の川銀河に来たんだ?」

 

「それもそうです。わざわざ銀河系の太陽系にまで来なくても、銀河系の衛星銀河辺りから地道に侵略していけばいいのですが、何故太陽系なのかが分かりません」

 

 ここまで大マゼラン星雲についての説明をしてこなかったが、大マゼラン星雲は、天の川銀河を中心にして回ってる、言わば「衛星銀河」という星雲で、天の川銀河と大マゼラン星雲は「恒星とそれを周回する惑星」という関係だ。

 

 今までの航海は、天の川銀河とそれを周回する大マゼランの位置関係も重要になっていて、2199年時での太陽系の位置、銀河系同士の位置関係、そして航海時の時間経過による大マゼランの公転による位置補正、大マゼランは秒速400㎞という圧倒的な公転速度で周回していてる。これは宇宙規模では微々たるものかもしれないが、動き続ける目標地を目指している以上無視はできない。そして大マゼラン星雲が棒状銀河や渦巻き型銀河の特性をわずかなが保有していることも加味して、サレザーがどのようにして星雲内を公転しているのか、そこから算出される星雲内での正確な位置情報も込みで航路図が作成されている。

 

 さらに航海日程の遅れやエンジン出力の事も加味して定期的に航路図と日程を確認してその都度航路を引き直している。

 

 これも全てWunderの高度な観測があってのことだが、それを扱う人の技術も高度である。

 

 

 

「その議論は後でじっくり行うとして、方針としてはここを突破するという事ですね」

 

 

「バラン星で一歩先んずることが出来たといって、ここで迂回を選べば、奴らに付け入る隙を与え、兵を集める余裕を与えかねん。その上で防衛線を展開されては、ガミラスの規模を考えれば広大な防衛網を敷かれかねない」

「我々もこの死地を突破することも敵は想像もつかないでしょうね」

 

 

「だが懸念点が一つ存在する。仮に我々を迎撃する司令官が中性子星の戦いと同じ司令官なら、儂の思考が読まれている可能性がある」

 

「あれだけの艦隊を誤射無しで運用している以上、敵は相当な切れ者と思います。戦略家として沖田艦長と同等ならば、予測されていてもおかしくありません」

 

 

 

「……いずれにせよ、この宙域を突破する。総員第一種戦闘配置を維持しつつ星団を通過。現状稼働可能な全ての火器を立ち上げ、命令があり次第直ちに発射可能な状況を維持、対空警戒を厳とせよ」

 

 

 

 ____________

 

 

 

 ややノイズが混じった古いホロ映像を見つめるドメル。その目は懐かしむような決意を帯びたような目だ。

 息子を幼くして亡くし、最愛の妻はまだ投獄されたまま。

 

 Wunderを落とせば妻は減刑される。ならば再戦を果たし、そしてこの祖国に報いる。それだけだった。

 

 

 

『バルグレイ、発進準備完了』

 

『ランベア、発進準備完了』

 

『シュデルグ、発進準備完了』

 

『バルメス、発進準備完了』

 

『ナグルファル、発進準備完了』

 

『ダロルド、発進準備完了』

 

 一等航宙戦闘艦1隻、多層式航宙母艦が4隻、航宙戦闘母艦が2隻。現在のガミラスの戦力事情があるとはいえ、あまりにも偏った戦力だ。だが与えられた戦力で「最大限の備えとWunder対策」を行った。

 

「全艦、発進準備完了」

 ハイデルンが各艦からの状況を通信で受け取り、ドメルに準備完了と伝える。

 

 

「全艦発進せよ」

 ドメルの命令で全ての船がドックから離床して、スラスターを噴射する。

 ドメラーズ三世も浮上して降着装置を艦底部にしまい、空母船隊の後に続く。

 サレザーの陽光を背に受け、6隻の船は高く高く上り続ける。

 

 その前方には巨大な何かがその宙域に鎮座している。

 

「艦隊、第2バレラスを通過します」

 

 

 第2バレラス。その名と通り第2の帝都とも呼称してもいいその異様なまでに巨大なものは、ガミラスとイスカンダルのラグランジュポイントL1に位置する巨大な空間起動要塞都市。

 巨大な岩盤を丸ごと切り取り、そのまま空高くに浮かべたようなその見た目は、ガラス張りの居住区に数多のビルを生やし、「都市」としての役割を果たしている。

 

 

 

「これより針路を通達する。コース728、目標、七色星団」

 ドメル艦隊、否、神殺しの艦隊が向かう先は魔の宙域「七色星団」Wunderがそこを通ると確信しているであろうドメルの目は、迷いがなかった。

 

「しかし、こんな魔の宙域を突っ切って来るでしょうか?」

 

「ヴンダーの艦長が私の予想通りの男ならば、必ず七色星団を突っ切ってくる。我々に時間を与えずにひたすら前に進む。一戦交えた時に、そう感じた」

 

 

 確信を持った目でまっすぐ宙を見るドメルの横顔を見て、ハイデルンも疑念を捨てた。

「では、それに我々は賭けましょうか。コース728にゲシュタムアウトを設定! 全艦ジャンプに入れ!」

 全ての艦がエンジン出力を上げ、ガミラス艦独特の赤いワームホールに突入、そのまま七色星団へ向かっていく。

 

 

 

 

 

 


 

 

「ワープアウト! 現在位置、7thA恒星近傍!」

 七色星団にワープで飛び込んだWunderは、そのイオンの流れの中に飛び込んだ。

 あえて危険な宙域に飛び込むこととなり、総員には船外服の着用と、ベルトで体を座席への固定が命じられている。

 

「電離圧、濃度高い!」

 

「舵を手動に移行!」

 

「レーダー、センサともに感度良くない! 光学モードに切り替える!」

 レーダー手の西条がレーダーの切り替えを行い、ノイズが混じるレーダー表示が正常になった。

 

「すべての観測機器を耐EM防御に切り替えるわ!」

 さらに宇宙ジェットのプラズマによる放電対策で、赤木博士が全ての観測機器を耐EM防御に切り替える。

 グリーゼ581でのビルケランド電流の事もあり、電子機器の損傷対策として観測機器に耐EM防御機能を実装。艦外で発生した大出力電流、超高電圧にもある程度の耐性を付けることに成功した。

 

「切り替え完了まで30秒! しばし時間下さい!」

 その傍らで、椅子が足りずに非常時の備品のベルトで赤木博士の椅子に体を固定するマリは、耐EM防御への移行状況を確認する。

 その為戦闘艦橋のみを無重力にして人員を無理矢理増やし、艦橋内で出来ることを増やしている。

 

 

 荒れ放題の宙域に船は揉まれ、姿勢制御スラスターでも抑えられない揺れに襲われ、艦橋要員にはベルト着用が命じられた。

 外部環境がモニター越しに視認できる戦闘艦橋。だがそこに映るのは、煙幕にでも覆われたかのような景色。

 

 

「不可視波長での視野は?!」

「センサー情報統合して出します!」

 

 こちらも椅子が足りずに、真田の座席にベルトで腰を括り付けているリクとハルナが、手持ちのタブレットで情報を統合し、全周スクリーンに転送して展開する。

 スクリーンに映る外部映像に、イオン濃度や熱源、そして現状判明しているイオンの流れがプロジェクションマッピングのように重ねて表示された。

 

「ブラッシュアップした物に更新するので少々時間をください!」

 リクとハルナが各種情報を解析してさらなる細部の数値化を続ける。

「頼りは光学モードとこの環境データか」

 

「まるで大昔の洋上艦だな」

 

 いつものレーダーが効かず、各種センサーと目視で進むしかない酷い状況のなか、荒れた海をWunderは勇敢に突き進んでいく。

 

 

 

 

 

「ホントにこの状況で仕掛けてくるんでしょうか?」

 

「来るも何も、この状況で仕掛けられたら、迎え撃てるのは俺らだ」

 

「でも、赤白戦乙女は置いていくんですよね?」

「ああ、あの2人は切り札だ。専用機の改造は、副長と睦月夫妻に頭下げて突貫で進めてもらった。コスモゼロ改と重武装型EURO2、みんな大好き山盛り状態の機体だ」

 

「あんなに乗せて大丈夫だったんすか?」

 

「EURO2の推力は普通のファルコンを凌ぐ。推力が許すかぎり乗せたんだろ。それに……式波中尉はあれも使うつもりだろう」

 

「あれですか……赤木博士からちょろっと聞きましたけど、あれ人を殺しかねないんですよね?」

「俺も見たのはあのシミュレータだがな、相当なものだ。……あれは人用に作られたような物じゃない」

 

「止めないんですか?」

 

「それを聞いて止まるような人間じゃない。それに、「あれ用」に博士が中尉に作っていたからな」

「それでどれだけいけるか……ってとこです」

 

 

「無駄口叩くなお前ら。出撃命令が下れば秒で戦場だ、構えてろ」

 


 

 

「上は大荒れここは穏やか、静かなものだな」

 

「流石にここが荒れるなんて有り得ませんからねぇ?」

 超空間プローブを境界面から露出させ、通常空間の様子を伺う次元潜航艦は、誰にも侵略されない次元断層で黙々と待っていた。

 

 

「連中、ここ通るんすか?」

「ドメル将軍の読みだ。賭けてみる価値は、あるな」

 

 こんなとこ馬鹿でも通らない、とハイニは言いたげだ。でもここを通ると読んだ。

 半信半疑で待つハイニとは変わって次元潜望鏡を覗き込むフラーケンは降格をやや上げていた。

 

「艦影確認、巨大です。9時の方向」

 その方向に潜望鏡を向けると、勇ましく飛ぶ鳥が映った。

 

 

「ドメラーズに打電だ」

 

 

 

 

 

「猟犬より暗号入電。羊は迷いの森に入った」

「読みが当たりましたな」

 本当に読みが当たり、この間の宙域にやってきた。それが艦橋に緊張感を広げていく。

 

「追伸です。『訂正する、羊ではなく鳥だ。美味しく調理を任せる』です」

 フラーケンが送ってきた冗談で、作戦前の艦橋の雰囲気が少し柔らかくなる。

 確かに今の戦力を全て上手く使えば、フラーケンの言う「美味しく調理」も可能だろう。

 

「美味しく調理か……やつらしい物言いだ」

 

「各艦に通達、直ちに作戦行動に移れ」

 

 

 

 6隻の中で索敵能力に長けたバルグレイが先行して、前方の宙域に進入する。

 

「第一次攻撃隊、発艦準備に係れ!」

 

「艦長、後を頼みます」

 

「ご武運を、少佐」

 ゲットーが艦長に敬礼をして、自身の乗機に向かっていった。

 

 

 バルグレイに露天駐機された戦闘機、DWG109デバッケが発艦体勢に入り始める。

 デッキにリフトアップされて発艦甲板に姿を現したデバッケは、緑色の矢じりの様な鋭利さを持つシャープな戦闘機だ。

 ミサイルの懸架が4発のみでその他の火力を内蔵機銃にに頼っているあたり、決定打にやや欠けるが速度は十分な高速機だ。

 

 それが不可視のリニアカタパルトで加速され、一気に発艦速度まで加速され、次々に宙に飛び立っていく。

 先導するのは隊長機であるゲットーのデバッケ。尾翼が他の機体と違い白で塗装されている。

 

 全機が発艦し、矢じりのような陣形を組み宙へ飛翔していく。

 

 

 


 

 

 

 ところ変わって縮退星が怪しく輝く7thB恒星付近。乱流層を突破したWunderは、イオンと星間物質の雲の上に出た。

 

「乱流層を突破した!」

「……ここは凪いだ海だな」

 縮退星の黄緑の光が怪しく輝く宙は、嘗ての地球の満月の夜空のようだ。

 後輩前の地球の一面を知っている面々は、その光景に少しばかりの懐かしさを覚える。

「いやはや、環境データ集めてよかった……」

「この船観測機器充実させたからね。過去の私に救われたよ」

 

 

「その観測機器守れるようにしたのは誰かしら?」

「「ありがとうございます神様仏様赤木博士」」

 

 ベルト固定で宙に浮きながらハルナとリクはその仏様に手を合わせた。

 

「仏でも何でもないわよ私」

「博士、謙遜もいいけどたまにはドヤァってやってもいいんですよ?」

 

「なによ、そういうキャラじゃないのよ私」

 

 

 

「レーダーに感! 敵攻撃機と思われる編隊を確認! 距離30光秒!」

 レーダーの反応音に全員が身構え、全周スクリーンに敵機の表示を示すマーカーが表示された

「総員戦闘配置! 航空隊は発進準備!」

 

 

「戦闘艦橋から航空隊管制室へ! 航空隊発進!」

 

『了解、艦底部ハッチ解放。発進準備に入ります』

 

 

 

 

 

 両舷第2船体第2格納庫のハッチが解放され、リニアレールでコスモファルコンが発進していく。

 

「加藤隊長! 私も行きます!」

 

「お前は切り札だ。やばいと思ったら躊躇なく出てくれ! 100加藤、発艦する!」

 

 加藤のコスモファルコンも一気に艦外に射出され、切り札の2機を残した航空機隊が一斉に宙を駆ける。

 

 

 

 

 あるところは朝焼け、またあるところは夕焼け、様々な顔を見せるこの宙域に双方の思惑が入り乱れる。

 地球の名将、ガミラスの名将。互いの戦力、戦略が今ぶつかり合う。

 

 

 その先に見据えるのは、勝利であった。




皆さんこんにちは、朱色です。

ついに七色星団決戦が書けます。テンションが高いです
おまけに年末には追憶の航海も放送されるようなのでもっとテンション高いです。


新しい章なのでテーマソングをと考えたのですが、前の章で使っていた「桜流し」が結構雰囲気良かったので続投です。
筆者が好きだってのもありますが、良い曲です

ちなみに第8章のテーマソングは決めています。
旧劇を知っている人ならピンとくるかもしれません。「あの曲です」
甘き死よ来たれではなく、「あれ」です


七色星団結構かかりそうなので、次に出すときは年明けになりそうです

それでは皆さん良いお年を
(@^^)/~~~


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虹と戦火 前編

あけましておめでとうございます。
遅くなりましたが、七色星団決戦です。

七色星団の構成
1 前編
2 後編
3 sideアスカ

と書いていきます。


『偵察機103ヨリドメラーズヘ 我ヴンダーヲ発見セリ 繰リ返ス 我ヴンダーヲ発見セリ』

 

 

 

 

 

「有視界戦闘とか大昔の空中戦かよ」

発艦した航空機隊は星団7thB付近を飛行していた。

通常、宇宙空間での航空機戦闘はレーダー頼りの戦闘になる。それは、宇宙空間では強力な光源が存在しない限り暗中を飛ぶことに等しいからで、だからレーダーに頼って戦闘することとなっている。

 

しかし、今回の宙域は恒星の光が星間物質で拡散され、まるで大気圏内かと見間違うほどの明るさで満たされている。

従って、レーダー戦闘よりも確実な目視での戦闘に切り替えられ、今こうしてレーダーと目視による索敵を行っている。

「無駄口を叩くな」

「敵さんはどこから来るかわかったもんじゃない。星間物質の影響でレーダーにもゴーストが映るかもしれんからな」

レーダーにゴーストが映るというのは、文字通りありもしないものを認識するというものだ。

星間物質の近くを通っていて、それが機載のレーダーの影響を及ぼしてレーダーにありもしない目標「幽霊」を映してしまう。

先ほどの様な星間物質やイオンの嵐の中ほどではないが、濃密な星間物質の影響でレーダーに影響が出るのだ。

 

「10時の方向に機影を確認! 数40!」

目視で確認された方向を見ると、眼下に編隊を組んで飛行するガミラス戦闘機が見えた。

 

 

「敵さんを出迎える。命落とすな敵落せ!」

 

 

『『ラジャー!』』

加藤の号令で一斉にガミラス機に飛び掛かり、七色星団の一角は敵味方入り乱れる大混戦となった。

数は明らかにガミラス側が勝っている。しかし、それを覆せるかもしれない練度がWunder航空隊にはある。

 

しかしWunder航空隊も人員不足で新人もいる。だが航海中に訓練を重ねてきた彼らは、多少の自信をもって挑む姿をしていた。

大混戦になったWunder航空隊は、自然にいくつかの群体に分かれ、おとり役と攻撃役に徹し始めた。

 

 

 

 

 

 

「第二次攻撃隊 、発艦準備を急げ。繰り返す第二次攻撃隊は発艦準備を急げ」

ランベアの甲板上に駐機された攻撃機DWB87スヌーカに多数の航空機パイロットが乗り込み、各々準備が出来次第リニアカタパルトで発艦していく。

 

対艦用の小型ミサイルを多数懸架したこの機体は、今回の作戦に合わせて非常に大量に搭載している。

Wunderのその大きさも相まって、機体に搭載可能なギリギリの量のミサイルを搭載して、全機がドメラーズ三世の正面に続々と集結していく。

続いてバルメスからもスヌーカが発艦していき、紫色を主張するその機体は大規模な群れと化した。

 

 

「フォムト・バーガー。発艦する」

スヌーカ隊のリーダーを務めるバーガーも、部下のメルギとスヌーカに搭乗して発艦していく。

その後も矢継ぎ早に発艦が続き、Wunderに飛び掛かることなく全ての機体がドメラーズ三世の正面で陣形を組んだ。

 

 

「フォムト・バーガーからドメラーズへ。第二次攻撃隊全機配置に着いた」

『了解。全機転送に備えよ』

 

 

 

 

 

「第二次攻撃隊配置につきました」

「偵察機からの情報を入力、転送座標入力、ヴンダー直上」

 

「物質転送システム起動します!」

 

 

(今のところの成功率は70%。確実ではないが君の欲しがったものだ、どう使うのか楽しみにしていようか)

 

成功率は現段階で70%。無人機を送り込んで指定座標に転送できたのは10回中7回。残りの3回のうち2回は異なる位置に転送され、残りの1回は宇宙規模の迷子になった。

物質転送機はまだ試作段階で、その技術はまだまだ改善の余地がある。

 

なぜ物質転送機は2機必要なのか。それにはこの転送機の途方もない開発記録を語る必要があるのだが、端的に言えば、「1機のみで物質転送波を照射したら、指定座標に飛ばなかったから」である。

 

 

そもそも物質転送機は、転送波照射装置のみでの運用は不可能である。

通常ワープできないものをワープさせるため、転送対象の周りに次元の歪みを創り出す必要がある。

その為、転送波照射装置を搭載している艦艇は主機を一時的に過負荷状態にする必要がある。

過負荷状態では、主機を中心にして母艦の周りに次元の重複領域が生成される。そこに転送波を照射することで、次元の穴に物体を送り込んでワープできないものをワープさせている。

 

 

「物質転送機、エネルギー充填完了!」

 

「第一次攻撃隊、転送に備え! 3、2、1、照射!」

ドメルが照射スイッチを押し込むと、転送波照射装置が激しい光を放った。

カメラのストロボに近いだろう。異なる位相の光を断続的に照射して、指定座標に航空機を送り込んでいく。

 

 

航空機をワープさせて奇襲、そして数をそろえることで波状攻撃を実現した戦法、これが、長らくドメルが温めていた「戦場を変えられる戦法」だった。

 

 

 


 

 

「まるで沸いたように現れる」という言葉があるが、今置かれようとしている状況はまさにそれだろう。

突如レーダーに反応が現れ、艦橋が一瞬狼狽える。

 

「敵機直上!!」

 

すかさず対空防御兵装が起動、パルスレーザーが航空機を撃ち落としにかかる。しかし余りにも数が多すぎる。まるで大きな獲物に飛び掛かる蟻のようだが、数の力は流石に侮れない。

 

「博士! お願いします!」

「MAGIにパルスレーザーやらせるわ!」

赤木博士がコマンドを打ち込みエンターキーを押した瞬間、あらかじめ搭載しておいたプログラムが始動した。

パルスレーザーが各基独立して旋回と仰角の調整を行い、次々に敵とミサイルを落とし始めた。

 

まき散らす様に打つのではなく、正確無比な狙いで確実に落としていく。

 

 

『艦橋、聞こえるか。アルファ2山本出る!』

事態の急変に対し、山本のコスモゼロ改が緊急発艦の準備を始めた。

 

しかしそれを阻止するかのように第一格納庫のコスモゼロ用カタパルトがミサイルで吹き飛ばされた。

ゼロ改はカタパルトに乗る前で被弾は免れたが、カタパルトがない以上まともな発進が出来ない。

 

「第一格納庫カタパルト破損!!」

「これでは出せないですよ?!」

 

 

「ちょっと待って! 聞こえる?! そっちのロック無理矢理外して出すよ!」

リクがコンソールを叩きデバックモードに切り替える。

即時にカタパルトの動作プログラムに繋いでリフトを上昇させる。

「タイミングはそっちに渡す! 噴かして!」

リフトを引き千切る勢い程の勢いで、山本はメインスラスターを噴かしていく。

急激な負荷にリフトのセンサーが緊急停止を提案してくるが、有無を言わせず黙らせる。

 

『アルファ2山本出る!』

そしてリクがエンターキーを叩いた直後にゼロ改が乗っていたリフトのロックが勢いよく外れ、暴力的な推進力に一瞬よろけながらも、すぐさま姿勢を安定させて飛び立った。

「アルファ2強行発艦を確認! ステータスに異常なし!」

 

『こちら式波! EURO2出ます!』

 

「了解した!」

 

 

「これで何とかなるといいたいところだけど、数が多すぎるわよ?!」

パルスレーザー1基につき航空機1機。その縛りがある以上、この数を捌ききれるはずがなかった。

いくらMAGIの完璧な照準があってもじわじわと対空砲塔が削られていく。

 

「左舷第二前方パルスレーザー破損!」

「左舷第一副砲に直撃弾!」

「第一主砲損壊!」

「ダメージコントロール!」

 

「対空三式撃ち方始め!」

古代の指示で第一第二主砲に対空用三式弾が装填され、爆炎と衝撃と共に放たれる。

その数瞬後時限信管が作動して敵航空機群の中央で起爆、一瞬の爆炎を生み出す。

 

 

しかし、その爆炎に隠れて放たれた数発のミサイルを見落としてしまう。

それらは数個のペアに分かれ、Wunderのとある数箇所を完全に破壊した。

 

 

 

 


 

 

 

「フォムト・バーガーから作戦行動中の各機に通達。各機、ミッションプランに従い攻撃を開始しろ! 奴の目と耳は、俺が貰う」

 

 

出撃したスヌーカはランベアとバルメス合わせてちょうど60機。

満足に配備することが出来なかったが、これでも一隻の船に雷撃を仕掛けるにしてはやりすぎな規模だ。

だが、今回は相手が相手。かつてない規模の超大型戦艦をしとめる以上、規模の問題は考えていられない。

 

 

『目標直下!』

 

「よし! 全機、目標の天頂方向から急降下雷撃を開始! 撃ち尽くした奴から全力で後退!」

 

『ザーベルク!』

隊長機のスヌーカからそう通達したバーガーは、スヌーカの操縦桿を大きく倒して急降下を開始した。

それに反応したWunderが対空火器を作動させ、宙域はあっという間に赤い雨で満たされた。

 

スヌーカから対艦ミサイルが放たれるが、それはWunderの対空防御に阻まれる。

 

 

「濃すぎるだろ弾幕……! プラン2でいく! 今から転送する位置情報にミサイルの誘導情報を設定しろ! そこを集中的に叩け!」

 

 

バーガーの送った情報はWunderの外見情報。そして戦略上弱点ともいえるような箇所の情報だった。

「メルギ! 行け!」

 

「誘導情報付与! いけぇ!!」

バーガーとメルギの乗るスヌーカから放たれた誘導ミサイルがとある一点に命中する。

一点集中の一撃は大爆発を起こし、発射したスヌーカも爆炎によろけそうになった。

 

「お前ら! 今俺らが撃ったとこに高貫徹で集中攻撃しろ!」

 

練度の浅いパイロットしかいないこの航空隊でも、この程度の事は難なくできてしまう。

複数機のスヌーカが自然とグループに分かれ、バーガーから転送されてきたとある箇所への攻撃を続けた。

 

作戦上では、高貫通誘導ミサイルはそこまでの数はない。

プラン2ははっきり言って博打だ。

 

 

「撃ち尽くした奴からさっさと下がれ! 的になるぞ!!」

Wunderから砲弾が放たれ、それの爆発でスヌーカが火だるまになる。熟練のパイロットは少ない。経験年数が長いものがいても大体が老人。満足いく人員が少ないこともあって、かなりのペースで落とされていく。

 

『後方敵機接近!』

「言わんこっちゃない!」

さらに三本角を機首に生やした戦闘機がスヌーカの群れにミサイルを多数叩き込んでいき、懸架しているミサイルも巻き添えにして爆発していく。

対抗して機首と主翼に内蔵された機関銃で応戦するが、着弾したと思ったらすでに背後に回られていてそのまま被弾。まったく捉えることが出来ない。

そしてスピードがおかしい。当たったと思ったら既に背後に回られているから機動力が段違いすぎる。ドックファイトに長けているとは言えないスヌーカは、まるで猛禽に食われる小鳥だ。

 

 

『目標命中確認! このまま叩きます!』

「よし! 各機そのまま潰していけ!! 三本角のやつに常に気を配れ!!」

バーガーの機体も誘導ミサイルを放ち、目標ポイントを豪快に潰していく。

 

他の機体も防壁を貫通して目標にミサイルを叩きこむ。

 

誘導ミサイルが次々に突き刺さり盛大に爆発煙を上げていく。見かけでも分かるくらい明確な損害を与えることが出来ている。

 

 

『目標破壊確認!』

 

「よぉし! こっちでアンテナを頂く! お前らはさっさと退避しろ!」

バーガーとメルギの駆るスヌーカから、最後の誘導ミサイル群が放たれ、Wunderのよく目立つアレイアンテナの基部に正確に命中した。

 

 

「目標の破壊を確認! 全員引け! 引け!!」

全てのスヌーカが、まるで潮が一気に引いていくかのようにWunderから離れていった。

途中まで三本角が猛追していたが、防空が疎かになるをの嫌ってか追撃をやめた。

 

「何機落ちた?」

 

「……34です」

 

 

「そうか……撤収する」

 

 

 


 

 

 

その瞬間、艦橋が真っ暗になった。

「外部カメラ全機破損!」

 

「アレイアンテナ破損レーダー精度低下! 波動防壁制御ダウン!」

両舷のアレイアンテナに直撃弾を受け、波動防壁の展開が出来なくなってしまった。

 

カメラが全て破壊されてしまい、現状何も視認できない。

「不可視波長は?!」

「いけます! スクリーンに投影します!!」

 

赤外線、熱源、イオンの流れ、その他多数の膨大な情報から構成される情報が真っ暗なスクリーンに投影され、熱反応から辛うじて航空機反応を確認できる。

 

「センサー系も潰されたら本当に盲目になりますよ?! それに急造品なので、対ミサイルのフレア等の判別が効きません!」

 

 

「でも、奴ら一体何処から……」

 

「……ワープだ」

 

「そんな?! あんな小型機でワープなんて?!」

「……ワームホールを無理矢理開いてそこに航空機を放り込めば行けると思うけど……あの数をどうやって……?」

敵は戦闘機で、波動エンジンに準じたエンジンなんてものは積めない。

それなのに急に出現してきて急降下攻撃を食らわせに来るのはあまりにも脅威だ。

 

 

「こちらの認識の外側から戦術を展開しているようだ。敵の指揮官は手強い。総員目視による警戒に努めよ」

 

 

「肉眼で……ありますか?」

 

 

「……船の目と耳を奪われた以上、最後に物を言うのは、人の知恵、人の力だ」

レーダー精度は大幅に低下、おまけに外部環境カメラは根こそぎ潰された。でも、こうして知恵で仮の視界を確保した。

それにWunderには900人ほどの人間が乗っている。全員は無理でも多数動員すれば見えない部分の索敵も可能だ。

 

 

「このあたりにイオン乱流の本流があるはずだ。集めたデータを解析、宙域を特定せよ」

 

「了解!」

 

「各科に通達! 本艦は現在外部環境カメラを破損し、環境情報の半数を消失した! 各科は最低限の人員を残し、船外を確認可能な部屋に移動して索敵活動を行え!」

 

 

 

_____________

 

 

 

 

「よぉーし配置に付け! いいか?! 一機たりとも見逃すな!」

 

「「了解!!」」

甲板部、技術科、戦術科、保安部、航海科、全ての部署の手の空いている人員が全員索敵に回され、艦外を確認できる全ての部屋に索敵班が配置された。

 

その一つ左舷の展望室には、岬に憑依したサーシャが虚空を眺めていた。

 

 

「サーシャさん」

 

「ここは危険です、戻ってください。ユリーシャさんも待っています」

でも、サーシャはそのまま見ているだけだった。

 

 

「……戻って……」

星名はもう一度声をかけるが、それはサーシャにかけられた言葉ではなかった。

 

 

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「どうだバーレン? 久しぶりに古バケツを飛ばす気分は」

 

『壮快じゃ、老いたとは言えど、腕は衰えんというところを貴様に見せてやる!』

それを聞いたハイデルンは思わず面白くなり高笑いをしてしまう。

 

古バケツというあだ名がついたこの重爆撃機ガルントは、全幅83.3mのかなり大型の部類に入る機体だ。

航空機を用いた戦闘は速さが命であり、対艦戦闘を行う時にお呼びが掛かるとは到底思えない。

 

しかし、今回の戦闘でお呼びが掛かったのは、対Wunderに対して実に強力な武装をあったからである。

 

 

『ガルント発艦する!』

ゲルバデス級ダロルドから発艦したその古バケツは、その巨体と懸架しているその重量物で若干上昇に時間がかかったが無事に上昇。

続いて、ゲルバデス級ナグルファルからもガルントが発艦して、ドメラーズ三世の頭上を飛び越える。

 

 

 

「作戦第2段階に入ります。両機転送に備えよ!!」

 

 

 

作戦第二段階は、あまり日の目を見ない重爆撃機による対艦攻撃。しかし懸架しているそれでは迎撃されてしまう。だが、スヌーカ隊の急降下雷撃攻撃によってWunderは目と耳を失っている。これならば回避不可能迎撃困難な一撃となりうる。

 

 

数秒後、2機のガルントは歪みに飲まれ、戦場へ飛んだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

《警告 空間波動エコーを検知》

 

 

「えっ?! 正面何か来ます!!」

Wunderのセンサー系が空間波動エコーを検知した。その直後に突然何もない所から熱源が2つ湧いて出た。

エコーの大きさまでは分からないが、確実に何か来た。

 

 

『航海艦橋索敵班から艦橋! 正面に重爆2! 大型弾頭装備!!』

航海艦橋の窓から索敵を行う班から一報が飛び、敵の正体が明らかになった。

先ほど攻撃してきたミサイル装備の攻撃機とは違い、かなりの大物らしい。

「アルファ2! 重爆機を迎撃!」

『了解!』

 

山本のゼロ改が急速加速をかけて重爆機の迎撃に向かうが、一機ではどうにもならない。2機の重爆撃機から大型弾頭が発射され、Wunderに向かって一直線に進んでいく。急速反転で大型弾頭に機首を向けるが弾頭の方が一手早い。

 

 

 

「熱源移動! 敵大型弾頭です!」

 

「南部、熱源センサーと連動させて弾頭を迎撃! VLSで仕留めろ! 総員対閃光防御!」

「了解! VLS撃てぇ!」

VLSが甲板から発射され、熱誘導に従って大型弾頭に突き刺さった。

その爆発は一瞬太陽がて来たかと見間違うほどで、サーモセンサーが拾った高熱で全周スクリーンが一瞬真っ白になった。

 

しかし、広大な熱反応に身を隠すように2つ目の弾頭が突き進んで来る。

 

 

そのまま大型弾頭はWunderに直撃した。

 

 

 

 

「敵ミサイル不発!」

「不発……?」

「いや……違う」

 

「不発弾を解析。あの指揮官なら……これで済まないはずだ」

 

『敵大型弾頭ハ、本来兵器トシテ制作サレタ物デハナイト推察サレマス』

「兵器じゃない?」

『敵大型弾頭正面ニ用途不明ノハッチヲ確認。尚、弾頭ニシールドマシンニ類似シタ構造ヲ確認シマシタ』

シールドマシンというと分かりにくいかもしれないが、要はドリルだ。

その巨大な弾頭はまるでコルクの栓のように右舷波動砲口を塞いだ。

 

 

「シールドマシン……波動砲無力化狙いで掘って来るってことか」

 

「それと、空間波動エコーって……これ感知すれば行けますよね?!」

 

 

「次元震と同様、感知さえできれば迎え撃つことは可能だ。感知システムの構築をやってくれるか?」

沖田艦長がハルナとリクに目を向け、はたから見れば無理難題を頼む。

でも2人の力量と実績を見込んで頼み込んでいるのであって、決してダメ元で頼んでいるのではない。

 

 

「「了解!」」

 

「あ、マリさん! センサーデータの統合表示お願いします!」

「任せんさい!」

緊急の任務を受けて、ハルナとリクは急いでベルトを取り外して自由になり、器用に泳いで戦闘艦橋を出た。

 

 

「……艦長、意見具申してよろしいでしょうか?」

2人が戦闘艦橋から出ていった後、真田はとあること艦長に提案した。

 

 


 

 

 

「キャプテン~調理進んでるっすねぇ」

「手際が良いな。そろそろ頃あいだ。浮上してお客さんを切り離すぞ」

 

自分しか生き残れない次元断層で長々と身を隠していた次元潜航艦は行動を開始した。

今回与えられた任務は、偵察。そしてイスカンダル人をWunderから保護すること。

その為に召集がかかったのが、第442特務小隊。

 

彼らの容姿は地球人とうり二つ。この時点で地球の船に忍び込む上での問題である「肌の色」をクリアしてしまっている。

そこで彼ら特務小隊に声がかかり、青い肌には不可能な潜入を今回任されたという事になる。

 

 

 

「この顔をよく覚えておけ」

 

「綺麗な人ですね」

 

特務小隊の目の前にあるホログラムには、確保対象であるユリーシャとサーシャのホロ画像が投影されている。

その姿はイスカンダル王族の伝統的な衣装と、ミレーネル・リンケが潜入した際に取得した艦内服情報から作成した姿となっている。

 

「惚れるなよノラン」

ユリーシャのホロ画像を見て頬を染めていたノランを見るなり、べリスが茶々を入れる

「なっ! 誰が?!」

 

 

 

B特殊戦群所属第442特務小隊、目標はユリーシャ・イスカンダルとサーシャ・イスカンダル双方、もしくはどちらかの保護。

Wunderの目と耳を潰したことを確認したことで、作戦実行の最低条件である「まず気づかれない事」をクリアした。

 

次元潜航艦は急速浮上行動に入り、甲板構造物のみを通常空間に露出させた。そして、甲板上に露天駐機させてあったFS型宙雷艇を浮上させる。

FS型宙雷艇は船体を90度傾けると、そのままWunderにコバンザメの様に張り付いた。

 

 

「ヴンダーに接舷成功。ハッチ解放します」

「慎重にな。目と耳を潰したはずだが奴は削岩弾を迎撃していた」

 

「攻撃隊の方は潰し切れていないんですか?」

 

「恐らくな。センサー頼りで大雑把だが、あれは確かに迎撃行動だった」

レーダーと外部カメラと思わしく個所は航空攻撃による奇襲で潰されたはず。完璧な盲目と化したはずなのにWunderは特殊削岩弾の一発を迎撃していた。

 

 

「解析完了、ハッチ解放します」

メックが操作していたタブレットに《ロック解除》の文字が表示され、目の前のハッチが解放された。

そのまま立体機動用のスラスターで慎重に潜入して、無事に船内に進入。即座に船外服を脱ぎ捨てて、ミレーネル・リンケが潜入した時に取得した情報から制作したWunderの艦内服に着替えた。

 

 

「ノラン、お前はエアロックを確保しろ」

ゲルガーがノランに待機の指示を出し、残りの隊員を連れて艦内への潜入を開始した。

 

 

 


 

 

 

《次元震を感知 相対位置、至近》

 

「次元潜航反応を確認!」

タブレットを凝視していたマリが声を上げた。

Wunderが拾った次元震は、以前原始恒星系で遭遇した次元潜航艦の反応と同じものだった。

即座にライブラリで照合して正体が判明した。

 

「対潜警戒。位置は?」

「本艦を中心にして7時の方向です。Y軸はマイナスです」

 

「足元か。第1格納庫観測室、確認できるか?」

 

『こちら第1格納庫観測班。角度的に死角になってます!』

見えない位置からの浮上。レーダーも効かない全周スクリーンでも確認できない以上、下手に手出しできない。

 

「次元潜航反応……消えました」

「いったい何がしたいんだ……?」

古代はセンサー軍団が感知した外部情報を睨み、頭を掻いた。レーダー機能がほぼ死んでいるし、目視で確認できない死角も存在している。

ただハッタリをかけるために浮上して潜航をしただけかもしれないし、そうでないかもしれない。

 

沖田艦長の言うように人の力と知恵で何とか視界をこしらえたが、それでも見えていないところがある。

 

 

見えていないところ……

 

 

「真希波さん! 艦体全体をスキャンしてください!」

 

「艦体?! 前みたいに接舷されているの?」

「直感ですけど、お願いします!」

 

「……30秒頂戴!」

30秒と言う戦場では短いようで短くない時間を提示して、船体全体のスキャンを行う。真っ暗な全周スクリーンにWunderのデジタルワイヤーフレームが投影され、被弾箇所以外の各ブロックが「異常なし」を示す緑色に点灯していく。

 

「スキャン完了、艦体に異常……?! 左舷第19区画の舷側に未識別艦船の反応を確認! 同時に一番近い非常用ハッチの開閉記録が更新されています! 最新の記録で5分前です!」

 

第19区画のみが「異常あり」の赤色を示し、異常個所のスキャンから生成したCG画像と、不審な反応として挙がった非常用ハッチの開閉記録のログが表示された。

 

 

「保安部を第19区画に急行。侵入者を確保、最悪の場合は排除しろ。古代、指揮を取れ」

「了解。南部、後を任せる」

 

「了解!」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『総員、白兵戦用意。総員白兵戦用意』

MAGIの人工音声が艦内中に鳴り響き、あらゆる通路で警告灯が灯り始める。

第19区画に侵入者を確認したことで艦内は慌ただしくなり、保安部が非常時用のアサルトライフルを構えて第19区画に直行していく。

 

その緊急警報音を聞いていたのは潜入中の彼らもであり、それは彼らにとって侵入がバレたという事を意味する。

 

「隊長、思ったよりも早いですね」

「勘が良いな。だが、切り札は切らせてもらう」

 

ゲルガーが偽装艦内服のポケットから取り出したのは1つのスイッチ。少し硬い押しボタン式のスイッチを親指で力を込めて押し込んだ。

 

「うむ、起動した。総員いつでも銃を抜けるようにして置け」

 

 

____________

 

 

 

ゲルガーがスイッチを押し込んだ瞬間、Wunderの右舷波動砲口に突入した大型弾頭、その外装となっている大型シールドマシンが作動した。

 

波動砲口を塞ぐ絞り羽に激突すると、その先端を瞬く間にめり込ませ、その隙間から虹色の位相光をまき散らし始めた。

 

 

 

『緊急警報 右舷波動砲薬室内圧力急速低下を確認』

「敵大型弾頭が薬室に向けて前進していきます!」

 

「安全弁閉鎖急げ! 右舷波動砲制御室総員退避しろ!」

徳川機関長が大急ぎで波動砲制御室に指示を飛ばし、減圧の続く制御室から全員を退避させた。

 

大型弾頭、いや削岩弾はそのままの速度で薬室内を掘り進め、波動砲最終安全装置を大きく歪ませながらその先端部を制御室内に覗かせた。

 

「敵弾頭先端部、制御室内に露出!」

 

「マズい……弾頭の掘削部が完全に制御室に入り込めば除去は不可能だ。新見君急いでくれ!」

 

『まもなく制御室に到着します!』

戦闘艦橋に響いたのは、紛れもなく営倉にいたはずの新見だった。

 

 

 


 

 

 

真田が提案したのは、敵の大型弾頭を手作業で除去する事だった。弾頭は本来兵器用として作られたものではなく、いわゆるシールドマシンとして制作されたものだとアナライザーは推測した。その証拠として、兵器では付けないようなハッチが確認された。ならば、そのハッチを開いて内部で弾頭の時限システムに侵入、タイマーを停止させることが出来るのではないか?

 

しかし今人手を割くわけにもいかず、艦橋は手一杯でハルナとリクは空間波動エコーの解析に向かってしまった。自らが出向くことも可能だが、大半を索敵に割いているため補充人員が出ない。

 

そこで白羽の矢が立ったのは、現在拘留中の新見だった。

 

 

 

 

弾頭が掘削を開始する少し前、アナライザーは技術科カラーの船外服を持ち出して、営倉に向かった。

 

そして新見のいる営倉のロックを自分のコードで解除した。

 

『新見サン。手伝ッテクダサイ。敵大型弾頭ガ船ヲ破壊スル可能性ガアリマス』

 

「……爆発音で何が起こっているのかは理解しているわ。今更私に頼むの? 裏切り者に」

 

『今ハ人手ガ足リマセン。猫ノ手モ借リタイ状況ナノデス』

そう言いながらアナライザーは、抱えていた船外服を新見に押し付けた。

 

「……状況を教えて」

そう言うなり、船外服を素早く着てヘルメットを装着した。

 

 

 

 

 

『敵大型弾頭ガ波動砲口ヲ塞イデイマス。波動砲口のメンテナンス用ハッチカラノアプローチヲ考エマシタガ、残念ナガラ弾頭ガハッチソノモノを塞イデシマッテイマス』

 

「船外からミサイルで吹っ飛ばせなかったの?」

 

『敵弾頭ハカナリノ高威力ヲ持ッテイマス。アルファ2ガ迎撃シタ際ニ、相当量ノ熱量ガ観測サレマシタ』

 

「外からミサイルで処理は無理ね」

 

『最悪ノ場合ハ、弾頭ガ薬室ヲ貫通シテ制御室ニ侵入シタノヲ見計ラッテ、弾頭内部ニ侵入スルシカナイカト思ワレマス』

 

 

「……それしか手がないと思うわ」

取りえる手段がまさにその最悪の場合しかないという事に、ヘルメット越しに頭を抱える。

戦闘中でトラムリフトは安全のため停止。従って営倉のある第18区画から艦首にある右舷波動砲口制御室までダッシュしていかないといけない。

 

だが不幸中の幸いと言ったところか、第一波攻撃によって慣性制御にも支障が出て現在0G状態。走るよりも早く移動ができる。

 

 

曲がり角を曲がって、手押しの反動で加速を付けようと思ったら、人にぶつかりそうになった。

 

「睦月君? 暁君?」

「新見さん?! どうして?!」

 

「波動砲口に詰まったミサイルを取りに行くのよ!」

「ミサイル? あの弾頭ですか?」

 

「そっちは?」

「解析室! あと新見さん。船にガミラス人が侵入してます。一応護身用で持っててください!」

そう言うとハルナは自信の拳銃を取り出して新見に持たせた。

 

「これ渡して貴方たちは大丈夫なの?!」

 

「一丁あればなんとかなります。ハルナは僕が護衛します」

そういってリクは自信の腰ベルトの革ホルスターを叩いた。

 

 

「分かったわ。気を付けて!」

そう言って新見は反動でさらに加速して波動砲制御室に向かった。

 

「さて、解析室まであと100m……」

その瞬間、リクは何かの気配を感じて一瞬言葉が失せた。

明らかに地球人ではない、平常心を保ってスッと通った3人の集団が、「船外服を着ていなかった」。

 

 

不審に思って声をかけたくなるが、そこを堪えて彼らの後ろ姿を確認してみると……

 

 

 

 

 

 

 

ホルスターには、決して地球製とは言えない拳銃が収まっていた。

 

 

 

(侵入者?! えっまさか?!)

 

危機感を覚えてとっさにハルナを引っ張って近くの物陰に隠れた。

 

(どうしたの?!)

(例の侵入者がいた?!)

 

(でも艦内服着ていたよ?!)

(どうにかしてコピー品と作ったんだ! しかも肌色が一緒!)

 

物陰で読唇術で話し合い、こっちが気付いたという事をどうにか隠せていることを確認したリクとハルは、艦橋に向けて通信を開いた。

 

 

 

「艦橋、侵入者を発見。ザルツ人系、数3。位置は第17区画。保安部を」

『了解! そのまま待機を!』

「了解」

(解析室あと少しだったのに……)

(後で謝ろう。これは仕方ない)

 

ホルスターに入った拳銃をそっと取り出しながら、そう呟いた。

 

 

_____________

 

 

 

「君たち!」

船外服を着ていない不審な3人を見て、星名は呼び止めた。

岬に憑依したサーシャを安全な艦中枢部まで護衛していたのだが、その時に船外服を未だに着用していない航海科3人を不審に思った星名は、直感的に「ヤバい」と感じ、サーシャを背に庇って呼び止めた。

 

 

「船外服着用の指示が出ていたはずです。出来るだけ急いで着用してください。……それと、何処の部署ですか?」

 

 

ホルスターから拳銃を抜き、確信をもってそう聞いた。

明らかにこの船の人ではない。地球人と全く同じ見た目をしているが、諜報に特化して保安部として全員の顔を覚えた星名からしてみれば、こんな人は知らない。

 

 

こっちは気づいているぞ。と察してもらうために、銃の安全装置を聞こえるように解除する。

最悪殺すしかない。

 

 

サーシャを今守れるのは星名のみだ。

 

 

「我々は……」

侵入者は、ホルスターから一瞬で銃を抜いて星名に向けた。星名もそれに反応して引き金を引こうとするが、相手の方が一瞬早く引き金を引いて星名の肩のあたりを射抜いた。

 

 

「目的のために手段を選ばない者だ」

 

 

そう言って星名の額に銃を向け、引き金に指をかけようとした。

 

 

 

「何をしているの?!」

その声の方向にいたのは森だった。船外服を着たままで拳銃を構えて険しい顔をしていた。

しかし、敵の増援に怖気づくどころか、彼らはニヤリと笑う。

 

 

「イスカンダル……!」

こうも早く目標が自ら出てきてくれることに歓喜した彼らは、自然と笑みが零れた。

 

その雰囲気を怪しく思った森が拳銃を両手でしっかりと構え直すが、気配を悟られぬように回り込んだ敵に気付かなかった。

 

「ご無礼」

その一言共に、腕に注射器を刺されてしまう。驚くことに船外服を貫通してしまうほど細く、注射痕が全く残らない注射針であり、いとも簡単に麻酔を投与された。

 

強烈な眠気に抗う事も出来ずに森は意識を手放してしまった。

 

 

「目標確保。帰投するぞ」

 

 

 


 

 

 

『第17区画で発砲反応確認! 未登録の発砲反応です!』

恐れていたことが起こった。侵入者と誰かが接触し、その誰かが撃たれた。

 

 

「真田さん! 第17の隔壁閉鎖出来ますか?」

『待て! 付近に森君と星名君、サーシャがいる! 人質にされかねない!』

 

完全に閉じ込めた場合、人質を取られて要らぬ血が流れる可能性が高い。

敵の目的が分からない以上下手には動けない。

 

「敵の位置は?」

 

『第17区画だ! 森君を連れている!』

 

 

 

「足止めします……!」

『待つんだ! 敵は相当な手練れだ! そこで待機しろ! 命令だ!』

「それでもやります!」

 

真田からの怒号が飛ぶが今は選んでいられない。通信を切り、両手で拳銃のグリップを強く握った。

酷く手元が震える。拳銃なんて国連宇宙軍編入の時に多少やっただけ。2人とも人を打つような訓練はしていない。

 

大きく何度も深呼吸をして安全装置を解除して、覚悟を決めた。

 

「まずは負傷者を安全な所に退避させる。負傷者の方は任せる。僕は……これで撃つ」

落とさないように物凄い力で握っている拳銃に目を落として、歯を食いしばる。

 

 

 

「来るぞ……今だ!」

侵入者が角から顔を出すタイミングで迎撃をする。

威嚇射撃として当たらないように壁に着弾させ、そのまま顔を出させないように牽制射撃をする。

 

その隙にハルナが、負傷した星名と気を失ってしまっているサーシャを通路の隅に引っ張り込んで保護をする。

 

保護を確認してから、リクも一旦物陰に身を隠し警戒を続ける。

「大丈夫、脈と息はあるわ」

船外服の首元に指をあて、生きていることを確認したハルナは、即座に通信を入れた。

 

 

「艦橋、侵入者は第17にいます。星名君と岬さんを保護。医療班の待機を」

『……今度こそそこで待機。保安部が第16区画を移動している。彼らに任せるんだ』

通信越しで真田の安堵した声が聞こえてきて、ハルナとリクは後で真面目に謝ろうと思った。

咄嗟の行動で星名と岬を救えたのは良かったが、真田に大変迷惑をかけてしまった。

 

 

そのまま飛び出したりせずに通路脇から牽制射撃を続けようと、脇から顔を覗かせると、何かがこっちに飛んでくるのを見た。

 

 

 

 

 

 

それは、明らかに手りゅう弾だった。

 

 

 

 

 

 

「マズい!!!」

 

逃げようにも通路の門では逃げられない。大急ぎでそれを投げ返すが、それを見切られていたのか投げ返した手投げ弾は瞬時に宙で狙い撃たれ、爆発がリクを襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆炎が晴れたそこにあったのは……船外服が破れ、左腕を真っ赤に染めて宙に浮かぶ1人の誰かだった。




難作でした。

七色星団決戦は原作でもシーンの移り変わりが非常に多く、「どう書くか、どう改造するかと言う観点」から、相当時間がかかりました。

しばらくはまたフリーなので、2月に入るまでには七色星団を書ききれそうです


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虹と戦火 後編

七色星団決戦の後編です
大改編して再構成したので、かなりのボリュームになりました。

では、お楽しみください「虹と戦火 後編」です


『意外デスネ。マサカココマデ簡単ニ中ニ入レルトハ』

「如何にも民間用って感じね。使えると思ったからそのまま持ってきた。時間がなかったから改修をせずにそのまんま……かしら?」

 

 大型弾頭の内部にいとも簡単に侵入した新見とアナライザーは、内部の電子制御に侵入してタイマーの解除に取り組んでいた。

 軍用にしては杜撰すぎる対策に疑問を抱きながらそう解釈した新見は、ヘルメット越しに険しい顔をしていた。

 

『合理的解釈デス』

 

「敵も追い詰められているのよ。こっちも一緒か」

 見たことのない数字がタイマーに表示されている。PDAに繋いで地球人にわかるように表示させると、残り10分程度しかない。

 

 

「巻いていくわよ」

『了解デス』

 

 

 


 

 

「艦橋、ガミラス兵を確認! 数3! 火器を所持!」

 保安部と古代が第19区画に到着したその瞬間、マシンガンらしき銃声に身を隠した。

「加勢します!」

 佐渡先生と原田を引き連れて、未だに片腕を吊っている篠原がマシンガンを抱えてやってきた。

 

 その後方の第18区画の方に目をやると、左腕を真っ赤に染めて浮いている人と、それにしがみ付いている人の姿があった。

 

 よく目立つ白い長髪に血がついているその状態を見て、相当な重症であると感じた。

 

 たまらず古代はその2人に駆け寄った。

 

「暁さん!! 何があったんですか?!」

「…………っ!!」

 ハルナはその重症の人に胸元に顔を押し付けて、古代の呼びかけに応じずにひたすら首を横に振っている。

 

「死なないで……お願い……死なないで……!」

 あらゆる呼びかけに応じなくなっていて、古代はその重症の人の顔を確認した。

 

「睦月さん……?! 佐渡先生! 睦月さんが重症を!」

『急がんかい! 助からんくなるぞ?!』

 しがみ付いたまま離れようとしないハルナをなんとか強引に引き剥がし、佐渡先生と原田に2人を引き渡した。

 ハルナの方は怪我をしていないようだが、ショックが強すぎて何も見えなくなっている。

 

 

 現場を篠原に預けていたので、引き渡しが終わってそっと角から頭を出して状況を確認しようとするとと、敵兵の威嚇射撃ですぐに頭を引っ込める羽目となった。

 しかしその一瞬だけ見えた人に、古代は驚愕することとなった。見覚えのある金髪に動揺を隠せない。

 

「森君っ?!」

 

 意識を失っていて、敵兵に拉致されそうとなっているのはまさに森だった。

 マシンガンの掃射に阻まれ、助け出すことさえできない。

 

 敵兵がガミラス語のような言葉で何か叫んでいて、その後に森を抱えている兵が奥に走っていった。

「先に行けって言ってるのか?」

 掃射の僅かな隙をついて、古代も自身の拳銃で応戦していく。

 自信と何ら変わらない容姿をしていて、撃つことに抵抗を覚えてしまうが命中させる。

 

 篠原もサブマシンガンを掃射して敵兵の一人を抑えた。

 

 

 

「ガーレ・ザルツ!」

 

 

 

 不意にそのような言葉が聞こえて、それと同時に聞きなれない電子音が響き始めた。

 でもそれを直感的に危険だと感じ取った古代は、全員に伏せるように指示をする。

 

 その数瞬後、爆発音とともに血溜りのようなものが浮かんでいた。

 

 爆発の炎を消化するためにスプリンクラーが作動して、それと同時にダメージコントロール用隔壁が行くものを全て阻むように閉鎖される。

 

 さっきの爆発は森が連れ去られた方向から来た。向こう側にいる森には無情にも大きく厚い壁に阻まれて、声すら届かない。

「雪、雪っ!」

 

 

 古代は居てもたってもいられなくて第一格納庫に走った。

 

「第一! ゼロをスタンバイだ! 弾種は問うな急げ!」

 

 


 

 

 

 

 

「ハイニ、急速浮上。回収するぞ」

「アイサー! メインタンクブロー急速浮上!」

 次元潜望鏡から見えた光景にほくそ笑むフラーケンが浮上命令を出す。

 コバンザメ……FS型宙雷艇がWunderから離脱していく。

 あとはそれを回収してさっさとこの宙域から離脱するのみ。

「ドメラーズに送れ」

 

 

 

 

「猟犬より暗号入電。コバンザメが目標を確保」

 

「シュデルグから、攻撃隊の発艦要請が来ています」

 

「削岩団が起爆すれば、ヴンダーを沈めることが出来るかもしれない。だが戦場に絶対はない。雷撃機を出し、全力で叩け。第三次攻撃隊発艦せよ!」

 ドメルの指示でシュデルグとナグルファルからドルシーラが発艦して、全長20mというその身で抱えるほどのサイズの魚雷「Fi.97型魚雷」をWunderに運んでいく。

 

 それらもまたドメラーズ三世の生み出す空間の歪みに身をゆだねて目標宙域に飛んだ。

 

 

 _____

 

 

 

『アルファ1緊急発艦!』

「どうすれば……! どうすればっ……!!」

 雪が攫われた。何故攫われたのか全く分からない。でもどうしても救いたい。どうしても取り戻したい。

 改良されたゼロ改1号機を、格納庫から直接発進させて次元潜航艦を追尾した。

 

 ミサイルを使って次元潜航艦を沈められるかもしれない。

 足止めくらいはできるかもしれない。

 

 

 

 

 でも、同時に殺してしまうかも入れない。

 

 それが操縦桿に取り付けられている引き金を途方もなく硬い物にしてしまい、自分はただ追いかけるのみになってしまう。ただ敵の背を走りながら見るしかできない。

 

 

 

 ただ何も出来ずに見ているまま、次元潜航艦は次元の狭間へと消えて行ってしまった。

 

「雪ぃぃぃ!! うああああぁぁぁぁ!!!」

 怒りに染まり、全身に憤怒の感情を滾らせてしまった古代は、今眼前で繰り広げられている命の光へ飛翔した。

 

 機首の赤が、怒りの色へとすり替わってしまった。

 

 

 

 ______

 

 

 

 

「空間波動エコー感知! 両舷上空多数!」

「対空機銃斉射開始!」

 

 沖田艦長の指示で、MAGIシステムによる制御が続く耐空機銃が個別に旋回と仰角を調整して、最大火力で斉射を開始した。

 

「熱源確認! 数……80!!」

「……! 両舷展望室観測班直ちに退避!」

 

 観測班から届いた機体の外見を見て、沖田艦長は脊椎反射で指示を飛ばした。

 その画像に映っていたのは明らかに普通の航空機ではない。巨大な魚雷を腹に抱えた雷撃機を見て、その機体数を聞いて、直ちに退避させる決断に至った。

 

 

 しかし対空機銃の基数には限りがあり、全て狙い撃つことは出来ない。

 1機落としている内に1機がその巨大な魚雷を打ち込んでくる。

 

「総員直撃に備えろ!」

 

 着弾は避けられない。相当の衝撃を覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、着弾直前にどこからか機銃が発射され、爆散した。

 それはスクリーンに高熱原体として描写され、それが発射された方向から一つの熱源が急速移動していた。

 

『間に合った! こちらブラボー隊! これより防空任務に移る!』

 通信に加藤が割り込み、全周スクリーンに映る熱源が一気に増えていった。

 

「IFF受信! 航空隊確認!」

 敵の戦闘機体に足止めされていたコスモファルコンの大群が一気にWunderを取り囲んだ。

 

『足止め食らってたが式波中尉が全部引き付けてる! 何機か落とされたがギリ行けるぞ!』

 アスカが緊急発艦した後、すぐにコスモファルコンが足止めされている宙域に飛んで、敵戦闘機のヘイトを全て一手に集めて今大立回りをしているという事だ。

 

『そっちの機銃で上からのやつを落とせ! 腹に食いつくやつは俺らで全部落とす!』

 対空機銃はその構造上俯角を取ることが出来ない。上からの攻撃を落とせても舷側側からくるような攻撃には弱い。

 かつての洋上戦艦も喫水線の辺り、もしくは喫水線よりも下への攻撃は「ライフで受ける」と言う対処とは言えない対処をしていた。

 

 しかし、宇宙空間では全方位防御を実現することこそ、船の生存率を上げられる方法の1つだ。

 

 

「南部、対空の仰角を30度以上にして対空戦闘を開始しろ。航空隊が対空の範囲外の魚雷を全て落とす」

「了解! 仰角下限値を30に固定、掃射開始!」

 

 航空隊の防空でいくらか数を落とせているが、雷撃機の数はこちらのコスモファルコンを圧倒している。

 撃ち漏らしたものが両舷部に着弾していく。

 

 全長20mの魚雷は、一般的な艦船なら一撃で撃沈させることが可能な破壊力を誇る。

 それらが舷側に次々に着弾していき、一部が装甲を完全に破壊して船内にも被害が及ぶ。

 その爆発が退避中の索敵班を巻き込み、索敵班との回線から悲鳴が響き渡る。

 

 

「こんなのって……」

「なんでここまでやって来るんだよぉぉ?!」

 

 

 

 戦闘艦橋にも響いてくる震動に相原が音を上げる。本来戦闘艦橋は頑強な構造をしていて、外部からの音が響き様なことはない。と同時に内部の音が漏れるようなことはない。

 

 しかしその外部の音が回線を通して聞こえてしまい、耳を塞ぎたくなるような悲鳴に曝されてしまう。

 

 

「あっちが敵なんだから仕方ないだろ! 今俺たちに出来るのは生き残ることだけだぞ!! それが嫌なら逃げろよ!!」

 

 それを怒鳴りつけるようにして南部が鎮め、自身の受け持つパルスレーザーをさらに操作していく。自身のパルスレーザーで撃ち落とせていない以上、自身のミスで人が死んでいることを否応なしに実感してしまい手元が震えかける。

 

 

 死者に頭を下げることは後で幾らでもできる。ならば今は、今を泣くよりも今を抗うしかない。

「艦長! 舷側の通路をすべて閉鎖して安全な道のみにしてください!」

「舷側ダメージコントロール降ろせ、退避中の索敵班を中央のの通路の誘導しろ! 相原、索敵班に通達!」

「りょっ了解!」

 

「隔壁閉鎖開始! 直通路形成!」

 それに呼応した真田の判断でダメコン用隔壁を必要な分のみ降ろし、索敵班退避用の通路のみを作成していく。

 

 

 隔壁閉鎖中にも魚雷は舷側に命中していき、舷側に大穴も空いていく。

 

「博士! パルスレーザーのブラッシュアップは?!」

 

「やっているけど間に合わない! 敵の雷撃密度が私の予想を超えている!!」

 赤木博士の即席対応さえも間に合わない。航空隊も多数の魚雷を機銃で排除しているが、それでも何発も命中してしまう。

 

「真田さんちょっとコンソール貸してください考えあります!」

 そう言うなりマリがコンソールを借りて重力子生成転送システムを立ち上げた。

 

 激震は、まだ続いていく。

 

 

 

 

 

「こいつら数だけはっ……!」

 加藤が機首を急反転させて機銃で魚雷を一掃する。体にかかる急激なGに唸りながら、すうっと気が遠くなるような加速度に身を持たせ、敵の雷撃機を追尾する。

 

 幸いに敵の雷撃機は鈍足で回避能力に優れているとは言い難い。囮としてつかまされた敵戦闘機に比べたら撃墜しやすい。

 だがその性能差をひっくり返すことの可能な数と言う力が、その可能性をことごとく打ち砕いてしまう。

 

 舷側に魚雷が突き刺さり、そこから黒煙と火の花が咲き乱れる。そして花は一瞬で消え去り残るのは船体に開いた痛々しい大穴。

 時折被弾箇所からスパークが走り、決して小さくなんかないダメージを受けてしまっていることが、語られなくても分かってしまう。

 

 

 

『隊長! この数はマズいです!』

「わぁってる!!」

 更に加速をかけて魚雷を撃ち落としていく。今一番危険なのは雷撃機ではなくあの巨大魚雷。発射される前に機体ごと落とし、発射されたら命中する前に落とす。

 

 だがそれでも航空隊は多数が生き残り、今なお20機以上がWunder周辺を飛び回り魚雷や雷撃機を落としていく。

 一機一機がミサイルを撃ち放ち、魚雷を迎撃、逃さず雷撃機を蜂の巣にして、物言わぬ鉄の塊に一瞬だけ変えてすぐに一瞬の恒星へと姿を変えていく。

 

 ドメルは、かつて「神殺し」と言う言葉を作戦名にしていた。Wunderを「獣ではなく神」と形容したからこそ命名した。

 その神の頭上で繰り広げられる命のやり取り。一瞬灯った恒星は、その人の命の最期となってしまう。

 

 

『一本取り逃した!!』

「くっそぉぉ!!」

 

 新兵の報告を受けて操縦桿を思い切り倒して魚雷を迎撃しに行くが、悲しくも距離があと一歩届かない。機銃が辛うじて命中したが、それでも誘爆する寸前までしつこく突き進んでいく。

 

 

「マズい!! 艦橋に?!」

 艦橋直撃は避けられない。航海艦橋に命中したら最悪の場合戦闘艦橋にも直接影響が出てしまう。

 

 

 

(ぶつけてでも止めるっ!!!)

 最悪の場合は機体ごと魚雷にぶつけて排除する。母艦を守ってこその航空隊だ。仲間が帰るべき船を守ってこその航空隊だ。

 腕利きの航空隊は自分以外にもまだいる。後は、彼らに任せても、この先の航海に何ら支障はないだろう。

 最悪死んでも、問題はない。

 

 

(篠原、沢村、玲……後、頼むわ)

 

 

 

 

 

 

 

『隊長、ありがとうございました……』

 その通信の直後、一機のコスモファルコンが魚雷に特攻した。目の前で散った機体には、新人の航空隊パイロットが乗っていた。

 そんなまだ道半ばな新人に命を投げ出させてしまった。

 特攻という選択肢を選ばせてしまった。

 

 

「……お前ら何が何でも落とせぇえ!!」

 そう通信に怒鳴り散らし、自身も推力を限界まで酷使して雷撃機の群れに突っ込んでいく。

 敵機も迎撃用の小ぶりな機銃を連射してこちらを追尾しているが、今の加藤は歯牙にもかけない。

 

 自身を擦り潰すかのような加速度で雷撃機の背後、側面を取り、機関砲を連射して火だるまに変えていく。

 

 加藤の声に呼応した玲もゼロ改2号機のマルチロックオンを起動する。

 

 

「スタンバイ!」

 玲の音声認証で自身の視界の目の前にホロスクリーンが薄く表示された。

 そのスクリーンに今眼前に映る魚雷、雷撃機、友軍機が全てマーキングされ、友軍機以外のマークが一斉に赤に塗り替わり、その全てに「lockon」と表示された。

 

「乱れ撃てっ!」

 そして玲の意志でゼロ改2号機にマウントされている残り全てのミサイルが一斉に放れ、ロックオンされたすべての目標が背後からミサイルに刺し抜かれて爆炎となり果てた。

 

 

 

 

 その背後から古代のゼロ改が同じシステムを起動した。

 

 

「スタンバイッ!!」

 眼の色が変わり敵を落とすことしか考えられなくなり、目の前のホロスクリーンに映るすべての敵をロックオンした。

 

 

「落ちろっ!!!」

 勢いよく引き金を引き絞り、弾種を問わずにマウントさせたミサイル12発を発射した。

 それらは確実に敵機を捉えて食らいつき、一瞬で敵機を一瞬の恒星に変えてしまった。

 

「お前らがっ……! お前らがっ!!」

 怒りに任せて残りの機体を、ゼロ改の機銃4門を連射して蜂の巣にしていく。

 最期にゼロ改の機関砲をとどめに撃ち込んで、たった一機に対して過剰とも呼べる火力を叩きこんだ。

 

 それだけでは止まらず、次の機体へと機首を急速反転させて機銃で穴だらけにしていく。

 

 それは、ゼロ改の銃身の放熱が追い付かなくなるまで続いた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 クライツェは失念していた。敵はバルグレイからの戦闘機隊が引きつけるはずだと、そう思い込んでいた。

 

 しかし、今目の前にはテロンの戦闘機がWunderの周囲を囲み、鬼神のごとく飛び回り魚雷を落としている。

 彼は知らないが、テロンのたった1機の「戦闘機のような何か」が、バルグレイから発艦したデバッケ40機のヘイトを全て被って全機を引き付けている。

 

 だからWunder航空隊は、「雷撃隊にとっては最悪の想定外であるドッグファイト」に持ち込めていて、雷撃隊はその最悪の中で雷撃と敵機からの攻撃の回避を同時に行わなければならない。

 

 彼らは時に、手段を選ばず機体を魚雷に特攻をしかけている。

 明らかに「本気度」というものが違う。

 

 

 その最悪の雷撃戦が進むにつれて、僚機が瞬く間に火の花へと姿を変えていく。

 それ即ち「死」。最期に散らした花でさえ、生者を慰めるものにすらならない。

 

 

「私は……戻るワケには行かないのだ」

 ドルシーラの操縦桿を思い切り右に倒し、右方からの急降下雷撃を仕掛ける。

 

 しかし、未だに数を残ししぶとく稼働し続ける対空兵装の銃身がこちらを捉え、死を冷たく宣告する。

 それは放たれ、クライツェのドルシーラは赤い雨に消えた。

 

 

 唯一、撃墜の間際に発射した魚雷が、Wunderの対空兵装の一部を破壊できたのは、彼が一矢報いることが出来たと言えるだろう。

 

 

 

 火が、散っていく。戦場の宙は、彩ってはいけない色で彩られた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「閣下! ドルシーラ隊の通信途絶! ……全機、落とされたものかと」

 ハイデルンが険しい顔をしてドメルに報告した。

 作戦が狂い、ドメルも苦しい顔をした。ドルシーラ全機撃墜の報が届くまでに、ドメルは戦場から届く報に耳を傾けて、遥か彼方で行われる戦闘を感じていた。

 

 

 

 

 ……想定外の山だった。

 外部カメラらしき部分を潰しても特殊削岩弾を迎撃、デバッケ部隊がたった一機の「白と赤の戦闘機らしき何か」に撃滅された。

 そしてWunder撃沈の手札でもあったドルシーラ隊の雷撃攻撃も、テロンの戦闘機部隊の鬼神のごとき迎撃行動で撃沈には遠く及ばない。

 

 

「削岩弾起爆まであと何秒だ」

「起爆まで、残り240ゲックです!」

 

「ランベアに帰還したスヌーカ隊に通達。全機爆装して待機。特殊削岩弾起爆後に万が一撃沈が確認できなければ第4次攻撃隊としての出撃を命じる」

 

 指揮官が戦場で狼狽えてはならない。念の為用意していた別案で繋いで、自身が有利な状況を続ける。

 

「ダロルド、ナグルファルに通達。スヌーカ隊の攻撃が終了次第砲雷撃戦に移行する。戦闘甲板を準備させろ」

「ザーベルク!」

 

「閣下。まさかとは思いますが、彼らは起爆装置を解除したのでしょうか……」

「……民間からの接収品で侵入対策は皆無に等しい。ハイデルン……全火器に火を入れろ。4000ミリ砲も撃てるようにスタンバイさせろ。奴と砲火を交える時は……こいつを使う」

 

 

「全艦砲雷撃戦用意! 全ての攻撃システムを立ち上げ砲撃態勢を整えろ! 火器管制! 艦底部4000ミリ用意!」

 

「了解! 4000ミリ陽電子カノン砲システムスリープからノーマルへ! 陽電子ビーム発振システム第一段接続!」

 

 火器管制担当の操作で、ドメラーズの艦底部に懸架された巨砲が目を覚ました。

 

 

 4000ミリ陽電子カノン砲。撃てるのはいいのだが、陽電子ビームの発振システムが一発撃つだけでダメになるという「産廃の烙印を押された」巨砲である。

 しかしドメルはそれに目を付け、攻撃隊で勝利を決めれない場合の切り札の一つとして徴用した。

 

 問題となっていた発振システムの脆弱性は、「発振システムを幾つも用意してリボルバーの弾倉の様に装填。一発撃つごとに弾倉を回して発振システムを交換する」という力技で解決した。

 

 

 その巨砲は、本来は別の決戦兵器用として試作された大火力砲なのだが、本人はそのことを知らない。

 

 

「起爆までのカウントは?」

 

「残り130ゲックです!」

 

 

 

 

 


 

 

「解除コード解析完了、停止!」

 

 起爆装置と格闘していた新見とアナライザーは、起爆ギリギリのタイミングで起爆装置を解除、Wunderは何とか大損害を防ぐことが出来た。

 

 地球換算で残り時間10秒ほど。少しでももたついていたらあっという間に過ぎていく時間で、ギリギリの戦いであったことが伺える。

 そして大型弾頭の掘削部の根元が薬室から顔を覗かせていない。万が一根元まで侵入されていたらたとえタイマーを停止させていても排除までは出来ない。

 

「ふぅ……ギリギリだったわね」

 

『グッジョブデス』

 大仕事を終えてくたびれた様子の新見を見るなり、自身の器用な五本指でサムズアップをする。

 人間味にあふれたその行動から新見も思わず笑みが零れる。

 

「新見より艦橋。起爆装置、解除しました」

『ご苦労。よくやってくれた』

「これより弾頭の排除作業を開始します」

『新見君、弾頭は掘削機能を持っているから、掘削部を逆回転させれば問題ないはずだ』

 真田が通信越しに、弾頭解析で得た知見を新見に伝えた。だがその声は明らかに動揺していた。

 

「先生、何かあったんですか?」

 

『……睦月君が、重傷を負った。佐渡先生が今緊急処置を行ってくれているが……厳しいかもしれない』

「……」

 自身が知る限りめったに動揺を見せなかった真田がここまで動揺していた。

 それが新見にも少なくない動揺を与え、ハルナから受け取った銃を強く握った。

 もしこれを受け取らなかったらハルナはリクを救うことが出来て、リクは重傷を負わずに済んだかもしれない。

 

『新見サン。後悔……トイウモノハ後カラデモ出来マス。睦月サンハ亡くクナッテハイマセン』

 アナライザーの言葉に、一気に現実に引き戻された。

 機械であるが同時に人間と同じように考えることが可能な彼は、新見の抱いた感情を理解していた。

 彼なりに人を理解して、感情を理解してきた彼は、こうしてかける言葉を見つけることが出来た。

 

「……そうね。あとはこの邪魔な物を排除するだけね」

 

『オ任セクダサイ。弾頭ノ内部システムハ、掌握済ミデス』

 今度は自信の両手を閉じたり開いたりしてジェスチャーでアピールした。

 やはりアナライザーの解析能力は侮れない。

『MAGIニハ及ビマセンガ、私ダカラ出来ルコトハアルノデス』

 なんとアナライザーはMAGIに対抗意識を燃やしていたのだ。計算能力はMAGIの圧勝だが、即応性や「自身が現場に行けること」はアナライザーの圧勝。

 本人曰く、「一勝一敗」とのこと。

 

 

『新見サン、行ッテクダサイ。残リハ私ノ仕事デス』

「分かったわ。お願いするわ」

 

『了解デス』

 すかさずアナライザーは指先からワイヤー上の端子を取り出し、弾頭のシステムに接続。掘削部の回転方向を逆転させた。

 

 

 その直後に掘削部が回転を始めるが、自身の高機動用スラスターを噴射して即座に脱出。新見の待つもとに飛んだ。

 

「艦橋、弾頭の逆進を確認しました」

 

『直ちに波動砲制御室から退避だ。気圧が全て抜けているが、念のためだ』

「了解です。アナライザー!」

 

『任務完了デス』

 顔を覗かせていた大型弾頭の掘削部が瞬く間に高速回転を始め、元来た道を後退していく。

 制御室に貫通してきた時とは裏腹にスムーズに移動した弾頭はあっという間に波動砲口まで後退していく。

 

 

 

 __________

 

 

 

「弾頭起爆まで3、2、1、0」

 ドメラーズ三世の艦橋で、特殊削岩弾のカウントダウンが読み上げられる。基本的に通信やレーダーが効かないこの宙域では遠隔起爆やリアルタイムでのタイマー表示が不可能となっている。

 

 だが、起動スイッチを押したタイミングを次元潜航艦が拾って、それを暗号通信でドメラーズに送ることで、正確なタイマー秒数をドメラーズでも確認することが出来るようになっている。

 

 

「光学観測! 熱源はどうだ?!」

「前方射程圏外の空間を観測! 急げ!」

 

 艦橋から観測班へ命令が飛び、すぐさま光学観測が行われる。

 起爆していれば相当な熱量が観測されるはず、結果はすぐに出ると思われた。

 

 

 

「……ランベアに通達。第四次攻撃隊発進準備」

 だが、ドメルはその結果を待たずに次の指示を出した。

 

「閣下……?!」

「恐らく起爆していない。まさか本当に手動での起爆解除をしてしまうとは……バルグレイとシュデルグ、バルメスに通達。現時刻をもって作戦宙域からの撤退を命ずる。砲撃戦に移行すれば、空母を守備したまま攻撃を行う事は困難だ」

 

 ドメルの命令を受けて、ドメラーズ三世に着いていたシュデルグと、第一次飛行隊を展開したバルグレイが戦線を離脱、七色星団の迂回航路を利用して本国への帰還の途に就いた。

 

 

「艦隊陣形を変更する。ランベアを最後方に配置、ドメラーズの正面装甲で全ての砲撃を受けきる。カレル163では型破りな方法で一本取られたが、お返しと行くぞ。4000ミリ砲、準備はいいか?」

 

「砲身の最終リモートチェックは完了しております。一発かましましょう、閣下」

 

 

「そうだな。物質移送機スタンバイ、転送完了次第、4000ミリ砲へのエネルギー充填に移行せよ」

「「「ザーベルク!!」」」

 ドメルの指令で全ての部署が動き出し、艦橋部の物質移送機が再び淡い光を放ち、チャージを始めた。

 

 

 

 


 

 

 

「空間波動エコーきます!」

 

「今にゃ!」

 コンソールに空間波動エコーの発振地点を大まかに入力すると、そのままエンターキーを押した。

 

 Wunderのアンノウンドライブがまばゆく発光すると、Wunderの周辺の景色が大きく歪んだ。艦橋からその光景を見ることは叶わないが、観測班からその光景を映し出した画像が転送されてきた。

 

 重力変異。敵の航空機隊転送がワープによるものであるならば、重力振が感知されないのはおかしい。そこで気が付いたのが、次元の重複領域という物。

 波動エンジンでも起こそうと思えば起こせる現象で、発生させた場合、周辺重力の際によって重複状態が乱れる可能性がある。

 そしてWunderのワープも、周辺の重力に影響されて違う座標にワープアウトすることもある。

 その一番の証明が、カレル163である。

 カレル163ではその周辺の重力の偏りを敵に読まれて出現座標を読まれた。

 つまり、「重力が乱れている空間ではまともに転送できないのではないか? そして重力の強さと転送座標さえわかればこっちから転送座標を変な場所にすることもできるのではないか?」と、マリは結論付けた。

 

 

 

 その発想は的中。重力が引っ掻き回された宙域に転送された敵雷撃隊は滅茶苦茶な陣形となっていて、なかには転送座標が重なってしまい機体の横っ腹に他機の機首がめり込んだ状態の機体もいた。

 

「いよっしゃぁ!!」

 マリが大きくワザとらしくガッツポーズをするが、内心ゾッとしていた。

 少しでも計算を間違えていたら、転送先がWunderの艦内となっている可能性もあった。

 そして少々「らしくない」ガッツポーズも、リクが倒れたことでの動揺を隠したいマリの心の表れだった。

 

 

「敵弾頭、波動砲口からの後退を確認!」

『航海艦橋観測班より戦闘艦橋へ! 正面に艦影3!』

 索敵班から連絡が入り、いまだ真っ暗なスクリーンにライブ映像が表示された。

 

 そこには、嘗てカレル163で互いに砲を放った白い超弩級戦艦の姿があった。

 だが前回とは違うのは、艦底部に謎の巨砲を懸架している。

 

 

「何なんですかアレ?!」

「口径……4000ミリ。波動砲と同サイズの陽電子ビーム砲だ」

 辛うじて冷静さを保つ真田の口から語られたのは、とても聞いたことにない口径サイズだった。

 

 

「……航空隊を大至急収容しろ。砲撃戦に移行する」

 生き残った全てのコスモファルコンに指示を出し、第二格納庫のハッチを開放した。

 かなりの数が撃墜されて、Wunder周辺で防空を行っていたころよりも明らかに数が少なくなっていた。

 

「航空隊帰投しました。未帰還……13。出撃したEURO2との信号も途絶してます」

 

 未帰還者のほとんどは、敵雷撃機に撃墜されたのではなく、Wunderに直進する大型魚雷を撃墜するために自ら特攻と言う手段を選んだ者たちであり、彼らの決断がなければWunderは現状よりも酷い損害を被っていたことだろう。

 

 

『こちら100加藤! 聞こえるか?! EURO2発見!』

 

 

 

 加藤の怒鳴るような声が戦闘環境に響き、加藤のコスモファルコンからの映像が全周スクリーンに小さく投影される。

 

 

 

 そこに映っていたのは、片翼がちぎれ、推進ノズルから黒煙を吐きながら、姿勢制御しかできないスラスターで懸命にWunderに近づいて来るEURO2だった。

 

 

 

「加藤機! 式波機との通信は可能か?!」

 

『ダメだ! 通信システムそのものが死んでる可能性がある! 横付けして確認する!』

 

 たった一機で40機の敵機の群れに飛び込み生還は絶望的な戦場で全てを撃滅して必死に着艦しようとするEURO2は、今まで見せなかった姿を見せながら必死に近づいてきている。

 

 

『艦橋! 式波中尉の生存を確認!! 医療班を用意してくれ!!』

 

「了解しました!! そのまま第3格納庫に機体を回してください! そこで中尉を搬送します!」

 アスカ生存の一報に艦橋がほんの少し明るくなるが、12機と言う大きすぎる損害に雰囲気が押し殺される。

 

「敵弾頭、放出されます! 

 真田が弾頭の交代状況をモニターして、波動砲口をズタズタにした弾頭が完全に排出されたことを確認した。

 

「太田、イオン乱流の本流は特定できたか?」

 

「はっはい!」

 

「よし、回避行動。取り舵40第一戦速」

 

 

「しかし、そちらにはイオン乱流の本流が!」

「飲み込まれれば、この船でも航行不能になります!!」

 沖田艦長の示した方向には、太田が特定したイオン乱流の本流が待ち構えている。そこは荒れ狂うイオンの渦で、飲み込まれれば船体にダメージを受けてしまう。イオンと言うのは一応荷電粒子の事で、現にこの宙域でもある程度の濃度が確認されている。

 

 しかし本流の濃度はこれの比ではなく、波、渦と形容した方が良い。

 そんなものに巻き込まれれば脱出は至難の業であり、あっという間に船体と機関にダメージが蓄積されていき、船はあっという間に物言わぬ鉄の塊となる。

 

 

「命令が聞こえんのかァ!!」

 しかし沖田艦長はそれを一喝して再度命令を飛ばす。

 

「はっはいッ!! 転進取り舵40!」

 島が操艦桿を左に倒して、Wunderはその横っ腹を敵に見せる形となった。

 

「太田、放出した敵弾頭の予測位置を砲雷長にに送れ。南部、敵艦隊との軸線に乗ったときにこれを叩け」

 

「了解!」

 

「当ててくださいね? 先輩!」

 

「任せろ……! 俺は大砲屋だ」

 後手に回っていたWunderにやって来た攻勢に艦橋は一種の高揚に満たされ、無事な第2主砲がその砲塔を機敏に回頭させた。

 

 

「第2主砲観測班! 観測画像送れ!」

 南部の指示で第2主砲に詰めていた観測班からリアルタイム映像が転送された。

「位置修正誤差修正左に4.8度! 仰角を2度に修正! いいか! 一門で精密狙撃だぞ!」

 ショックカノン一門での精密射撃は艦橋側のまともな環境情報なしで迅速に準備が行われ、南部のコンソールにはカーソルに重なった敵弾頭が表示された。

 

 

「撃てぇ!!」

 第2主砲から反撃の火砲が放たれ、それは確かに敵弾頭を貫いた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「転送位置に大幅な誤差を確認! 第4次攻撃隊壊滅です!」

「転送座標宙域に異常な重力変異を確認!」

 

 手品の種が割れた。だから対策された。その結果、第4次攻撃隊の半数以上が自滅させられた。

「攻撃中止。生き残っている機体は直ちに帰還させろ……」

 Wunderの最大最強の切り札としてドメルが危惧していたのは重力。

 

 あらゆる状況で全てに平等にかかる重力という物を、Wunderは自由に行使できてしまう。

 それは艦内の慣性制御に始まり船そのものの航行まで、そして今回見せた「物質移送機転送先の妨害」。あまりにも高いWunderの能力に、ドメルは敵の力量を見誤っていた。

 

 だがドメルは見抜いていた。このほどにも船の性能が高いのは見て分かったことなのだが、それを利用する乗組員の創意工夫の能力の高さが、こちらの戦術をぶち壊してきた。

 

 

「テロン人……己の慢心がこの現状を呼んだか。ランベアは残存する第4次攻撃隊の回収に向かわせろ。ドメラーズとダロルド、ナグルファルで砲撃戦を展開する。ランベアの攻撃隊回収の時間稼ぎと並行して砲撃で叩く」

 

「手痛い仕返しでした。まさかカレル163の時の手段を応用してやり返されるとは」

「目には目を歯には歯をだ。気象長、操舵士。2時方向のイオン乱流に気を配れ。あれに飲まれれば命はないぞ」

 

 全ての航空機を実質失ったといっても過言ではないドメルは、Wunderに対しての砲撃船に移行することとなった。

 

「4000ミリ砲エネルギー充填開始!」

「4000ミリへの回路開きます! ゲシュタム機関出力上昇!」

「陽電子加速システム蓄積中現在29バーゼル!」

 

 

「撃鉄システム起動! 発振システムと接続!」

 発振システムのシステムが実働可能状態に移行して、薄い桃色の光を洩れさせる。

 

「目標、テロン艦ヴンダーに固定!」

 

「陽電子加速システム蓄積中現在54バーゼル!」

 

 

「正面に高速で航行する物体を確認! これは……特殊削岩弾です!!」

「全艦全速急降下! 回避行動!!」

 

 特殊削岩弾の激突を回避するために全速で急降下を行うドメル艦隊。しかし弾頭は遥か彼方からの狙撃によって爆かく発を起こし、艦橋は爆発の煙で視界を奪われた。

 

「視界ロスト!」

「赤外線観測! 弾道から位置を予測しろ!」

 弾頭から粗糖な距離があるはずなのだが、それでも狙撃してきた。

 それがドメルの戦闘本能に火がつけてしまった。

 

「予測方向に砲塔を指向! 全門斉射ァ!」

 

 

 


 

「高熱源体を観測! 敵弾頭狙撃に成功しました!」

 

「航海艦橋観測班、爆発地点を観測!」

『やってますが、爆煙が酷く視界不良です!』

 

「全速急上昇、今の1射で位置は割れていると思え!」

「了解! 全速急上昇!」

 沖田艦長の指示でWunderが急速上昇をかけて、その巨体では考えられない速度での上昇を披露した。

 

 その直後に敵艦の陽電子ビームが爆煙越しに放たれ、元いた地点を貫いた。

 

 

「下げ舵80! 上空から砲撃を行う! 熱源位置は?!」

「敵艦隊最前列に1200m級の反応1、400mの反応2。そして艦隊とは別の位置に400m級の反応が1です!」

 

「南部、左舷第2主砲塔右舷第2副砲は敵旗艦右舷に照準。第3第4は後続の反応を狙わせろ」

 

「了解! 各砲塔制御室に通達する! 艦橋からの射撃管制が不能である以上、各砲塔での直接照準射撃を許可する! 第2主砲第2副砲は敵旗艦左舷を集中砲撃、第3第4は後続の敵艦の甲板を狙え!」

 

 南部の指示で、まだ無事な第2から第4主砲と右舷に鎮座する第2副砲が回答を始め、その砲身をドメラーズ三世とダロルド、ナグルファルに向けた。

 

 

『2番主砲準備よし!』

『3番準備よし』

「4番よし!」

「2番副砲よし!」

 

 

「全砲門開け! 撃てぇ!!」

 南部の指示でWunderの前方指向可能な主砲が一斉に火を噴き、全てが敵艦に命中。熱源反応にも変化が見られた。

 

『弾着確認! 敵艦回頭を確認! 迎撃態勢に入ったものと思われます!』

『左舷アレイ観測班から一報! 敵艦から大量のミサイル発射を確認!』

 

「波動防壁は?!」

「アレイアンテナがやられている以上無理だ! 南部! ホーミング発射用意! 博士!」

「分かってるわ! 収束率変更、ショットガン行くわよ!」

 

 

「ホーミング撃てぇ!」

 ミサイル迎撃のためにホーミングの収束率を下げて発射した。本来想定されていない運用方法であるために拡散した陽電子が主翼にも拡散してしまい、主翼の表面装甲の一部が溶解してしまった。

 

 しかしその陽電子の散弾で捉えきれなかったミサイル数発が艦体に突き刺さり、爆炎が上がる。

 

「第3主砲に直撃弾!」

「そのまま砲撃を続行! イオン乱流奔流の位置は?!」

「敵旗艦後方です!」

 

 

「ホーミング第2射、いけるか?!」

「いけます!」

 

「生き残っている第2第4主砲第2副砲を敵旗艦正面装甲に照準! 波動砲収束用システム起動して重力バレルを生成、正面装甲を破るぞ!」

 

 

 

 沖田の指示で波動砲収束用のシステムが起動して、Wunderの正面に不可視の重力バレルが展開された。

 それと同時にホーミング偏光用に重力子を多数生成して重力バレル正面に展開した。

 

「全砲門一斉射!」

 

「撃てぇ!!」

 

 第2第4主砲と第2副砲、そして生き残っている主翼上のホーミング用陽電子ビーム砲13門が一斉に発射され、一本の陽電子の束に纏められ、敵旗艦の正面装甲に向けて直進した。

 

 

 


 

 

 

「弾着確認急げ!」

「爆煙の影響で視認不可! 赤外線観測も効きません!」

 

「観測班! 敵艦の位置は!」

 

『敵艦……直上です!!』

「舷側発射管開け! 迎え撃て!」

「発射!」

 

 ドメルの咄嗟の指示で舷側の魚雷発射管が開き、全弾が発射された。

 それらは全てヴンダーの正面に向かって突き進み、全てが着弾したかのように見えた。

 だが、爆煙越しに敵の砲撃を受けてしまい右舷に傾いた。

 ダロルドとナグルファルも少なくない損害を受けた。特殊削岩弾運搬の任を終えたガルント2機にも命中して、爆発した。

「全弾着弾! ……ヴンダーに明確な損害無し!」

 

 しかしドメラーズからの視点では、「明確な損害が認められなかった」。

 

「艦首上げ! 4000ミリ砲を発射!」

 

「発射します!」

 ドメルは4000ミリ砲の発射を命ずるが、その前に凄まじいエネルギー量の何かが正面装甲に着弾した。

 その瞬間、ゼルグート級の正面装甲が赤熱、泡のように装甲が湧き出ち、一気に爆ぜた。艦橋から見える光景の半分が爆炎に変わり、ドメラーズ三世の正面装甲が大破していることがよく分かる。

 

 

 

 

 

「正面装甲大破!!!」

「どういうことだ?! 敵の砲撃ではないのか?!」

 今まで破られたことのないゼルグート級の正面装甲が大破し、その衝撃で艦が大きく下方に傾き、艦橋要員にも大きな動揺が生まれた。

「確かに敵艦からの陽電子カノンらしき砲撃でしたが、想定値を遥かに凌ぐ熱量です!!!」

 高い指揮能力と重装甲が売りのゼルグート級の正面装甲は、あらゆる砲撃をシャットアウトするための最強の盾。

 しかしそれが「テロン艦の謎の砲撃で貫通された」ことにより、ドメラーズ三世は遥かに弱体化してしまった。

 

 

「構うな!! 4000ミリさえ当てれば勝機はこちらにある! 艦首上げ! ヴンダーを射程に捉えろ!」

 そのまま4000ミリ砲をWunderの正面に構える形で艦首を上げた。

 

 

「発射っ!!」

 ドメルが手元のスイッチを押した瞬間、完全に充填された4000ミリ砲がその砲身から莫大な量の陽電子を放った。

 

 

 

 


 

 

 

 

「敵大型砲来ます!!」

「島! 回避行動船体傾斜横ロール!」

 

「全速回避船体傾斜!」

 

 操艦桿を思いっきり右に倒してWunderを右に大きく傾斜させた。

 敵の大型砲から放たれた陽電子の束は、左翼とアンノウンドライブを掠めかけたが第一射を避けることに成功した。

 

 

「残った火力を敵艦に集中! 指揮命令系統が麻痺を起こした隙に後続艦を潰すぞ! 稼働可能なVLSに特殊誘導ミサイルモードD*1で12発装填! 6発ずつ敵艦に叩き込め!」

 

「了解! 索敵班! 敵艦画像データを頂戴!」

 赤木博士が索敵班との回線でそう頼んだ。

『航海艦橋班送ります!』

 数秒も経たずに索敵班から敵艦の画像データが送信されてきた。それを用いて特殊誘導ミサイルのステータス設定ステータス設定ウィンドウを操作する。

 

「特殊誘導ミサイル12発スタンバイ! 画像誘導方式に誘導設定変更目標ロック完了MAGIとのリンク正常。照準、敵艦艦尾推進ノズル付近! 目標入力完了!」

「全弾撃てぇ!」

 

 甲板VLS1番2番に装填された特殊誘導ミサイルが12発発射されて、そのまま敵旗艦の後続艦艇に殺到した。

 敵旗艦からしてみれば、時間にミサイルが殺到しているように見えるかもしれないが、実際は意識の範囲外にある後続艦を狙った物である。

 敵旗艦は艦橋周りに搭載されている滞空防御用の機銃を連射していたが、特殊誘導ミサイルはモードDに従って機銃掃射を回避、その大型ミサイルで後続艦艇の艦尾に大打撃を与え、直後に誘爆が始まった。

 

 

『弾着確認!! 敵航空母艦の機関部誘爆を確認!』

「両舷舷側ミサイル斉射! 敵旗艦をイオン乱流に追い込む!」

 自身のターンを渡さないように追撃を行う。被弾を免れた舷側短魚雷発射管から発射された23発の短魚雷は、画像誘導に従って敵旗艦の左舷に全弾命中。23発の魚雷による衝撃と船体の傾斜に敵旗艦は抗えない。

 

 

「第3第4主砲斉射! 畳み掛けろ!」

 再びの主砲発射で敵旗艦の左舷艦尾に大穴が開いた。

 

「敵艦、イオン乱流に掴まりました!」

「敵から冷静さが失われたタイミングで流れを一気に引き込んで猛アタック……艦長はそれが狙いだったのね」

 赤木博士のが感心した様子を見せる。手酷くやられているが、Wunderのその巨体から来るライフの多さと手数の多さ、そして人の知恵と力を手段にして何とか耐えて、ショックカノンを弾いた装甲を破壊することで敵から冷静さと「後続に気を配る余裕」を奪う。あとは敵旗艦を狙うと見せかけて後続艦を落として旗艦を連打で叩くのみ。

 

 

 状況が悪くなる中でも冷静に指揮を執り機転を利かせた指示を飛ばす。そしてここぞという時に大きく出て王手を指す。この大海戦は沖田艦長の勝ちとなった。

 

 


 

 

「俺は……操られていたのか」

 警告灯が点灯したドメラーズの艦橋でドメルは冷静を取り戻した。

イオン乱流に飲まれ始めた艦体は、風に揺れる木の葉の様に揺られ揉まれ、1200メートルの船体から爆発が起こり始める。

 全ては正面装甲を破壊された時からだった。頭の中が「撃沈する」ことしか考えられなくなり、4000ミリ砲を今思えば簡単に避けられるタイミングで発射してしまった。

 前しか見えていないことを見抜かれて後続艦を潰された。

 

 それが拍車をかけてまともな指揮が出来なかった。

 

 

「冷静さを奪う一撃で注意を偏らせてダロルドとナグルファルを撃沈、ドメラーズをイオン乱流に引き込ませる……このドメル、最後の最後で詰めを誤った」

 

 年季の差とでも言うのだろう。ドメルと沖田艦長は互いに歴戦の策士なのだが、「安全な所から指揮を執っていた」ドメルと「戦場の真っただ中で指揮を執ったことのある」沖田艦長では経験のベクトルが違った。

 

 自身が冷静さを取り戻してから急にすべてが分かったドメルは、正面コンソールにあるつまみを回した。

 

「エルクドメル、認識番号17492ゼック」

 ドメルの正面にレバーがゆっくりと持ち上がってきた。ハイデルンはそれが何なのかを知っている。

「閣下……それは……」

 

 

「ここから先は私一人の戦闘だ。総員直ちに離艦、ナグルファルとダロルドの離艦者のランチと合流しろ」

 退艦命令を艦橋に出したドメルだったが、艦橋要員は全員が動かず、「最期まで戦います」とその姿勢で訴えかけた。

 

 

「どうやら、全員命令違反で軍法会議送りの様ですね……」

 呆れたような安心したような声色のハイデルンの声に、少し晴れたような顔をしたドメルは、艦橋の切り離しボタンに手をかけた。

 

 

(すまない)

 

 

 ドメラーズから艦橋が切り離され独立戦闘指揮艦となったドメラーズはイオンの雲を切り、Wunderの航海艦橋に接舷した。アームを伸ばしてWunderの艦底部で異様さを放つ構造物を掴み、さらにワイヤーを打ち込む。

 その足元でドメラーズ三世が轟沈し、イオンの雲を大きく巻き上げた。

 

 

「ヴンダーに繋げるか?」

 

「いけます。通信回線にコンタクトを取ります」

 通信士の操作で、Wunderの通信システムに通信波を飛ばした。

 

 

「回線接続、繋がります」

 通信士の操作で正面モニターに白い髭を生やした歴戦の将軍らしき人物が投影された。

 艦長帽を目深に被った指揮官は、黒い軍服を身に纏い、真っ暗な艦橋で静かに立っていた。

 

「指揮官とお話ししたい」

『私が本艦の艦長、沖田十三だ』

「私は、ガミラス銀河方面作戦司令長官、エルク・ドメル。……やっと、お会いできました」

『それは、こちらも同じ思いです』

 リアルタイム翻訳機がいい仕事をし、言語が違うはずのテロン人と流暢に会話が出来ている。

 魔部兄被られた艦長帽から鋭い目が覗き、どんな状況でも冷静に物を見る慧眼が光っていた。

 

「オキタ艦長、貴方の見事な采配に心から敬意を表する」

『ドメル司令。勝敗は決した、私は無用な争いを望まない。このまま、我々を行かせてくれないか』

 

 そうだ、Wunderはイスカンダルに向かって航海を続けている。我々を殲滅するために後悔しているのではない。

 出来れば戦いを避けたいはずだ。自ら攻勢に出て戦闘をすることはなくあくまで迎撃行動に徹していた。

 だが、ドメルの回答は決まっていた。

 

 

「それは出来ない」

 

 

「あなたも軍人ならわかるはずだ。ここで君たちを逃せば、ここまで死んでいった者たちに……私は顔向けが出来ない。ここまで死んでいった者たちは、全て無駄だったということになる。私は……私には、そのような事は出来ない」

 ドメルの背後には、今まで死んでいった同志たちの意志がいた。

 その中にはドメル幕僚団の面々も。ランベアで離脱させたスヌーカの生き残りにはバーガーが生きている。残りは彼に任せよう、そうドメルは思った。

 

 

 

「オキタ艦長。1人の軍人として、いや1人の男として、最期にあなたのような男と出会えたことを誇りに思う」

 

 

「君たちテロンと、我が大ガミラスに栄光と祝福あれ」

 強引につなげていた通信回線が遂に切れてしまい、モニターから沖田艦長の姿が消えた。

 

「通信回線切断……これでよろしいのですね」

「ああ。君たちもこれでいいんだな」

「あなたに付き従うと、閣下の艦に乗艦してからそう決めておりました。今更悔いという物はありません」

 

 通信士がそう返した。艦橋要員の全てが、各々の持ち場からドメルの方を向いて敬礼している。

 

 

「エルク・ドメル、認識番号17492自爆シークエンスに移行」

《自爆シークエンスに移行します》

 

 艦橋内部に警報音が鳴り響き、ドメルはレバーに手をかけた。

 脳内に浮かぶのは、ドメル幕僚団の面々。そして妻であるエリーサと今は亡き息子にヨハンだった。

 そして自分を打ち負かしたWunderとその艦長の姿。悔しいと思ったが、憎さを感じなかった。

 

 

 

「ガーレ……ガミロン」

 

 

 

 その瞬間、独立戦闘指揮艦は炎となった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「航海艦橋大破!!!」

 航海艦橋に接舷した敵艦が自爆を敢行、戦闘艦橋に激震が走った。

 余りの衝撃に全周スクリーンの一部が破損してスクリーンの破片が飛び散り、船外服の上に降りかかる。割れた部分の画像が砂嵐となり、破損箇所からは青白いスパークも飛んでいる。

 

 その爆発を受けた航海艦橋は大きく歪み、全ての窓が吹き飛び、内装コンソールが根こそぎ破壊されていた。

 幸いなことに、ドメル将軍の自爆を察知した沖田艦長の判断で航海艦橋索敵班を全員退避させ、航海艦橋に続く通路の隔壁をすべて閉鎖させたため、死者は出なかった。

 黒焦げた航海艦橋の最上部に鎮座する戦闘艦橋は、その隔壁の外部に真っ黒な焦げを残しながら、艦橋要員を無傷で守り切っていた。

 

 

「助かったのか……俺たち」

 激震に耐えて必死に操艦桿を握っていた島は、その爆発の威力に顔を青ざめた。

 ひび割れた全周スクリーンがその凄まじさを物語っていて、もし戦闘艦橋まで破損するようなことになれば、一瞬で真空状態になり全滅していたことだろう。

 

 

 

 

「……両舷前進強速。現宙域を離れる」

 爆煙を裂き、痛々しい身を震わせてWunderは進む。その身は黒く焦げ、砲塔に穴も空き、船体にも大穴が開いている。

 

 そして敵味方問わずに多くの命が失われた。

 生死を彷徨う者もいる。

 

 

 戦いの果てに残ったのは、たった1隻の「神殺しの船」だった。

*1
対空防御を避けられる(木星浮遊大陸での戦闘を参照)




一周年です
ちょうど昨年のこのくらいの季節に、この小説の第1話が投稿されました。
一周年ですね。ハルナのファンアート欲しいって思う次第です。

虹と戦火の「本編」が終わりました。
次に出すのは、とある戦闘機乗りの無謀な戦闘のお話です。
予告通りガンダムネタが多数出てきますので、ガンダムファンの方も楽しめるかなと思います。

七色星団の戦いって、沖田艦長が常に冷静で決して慢心しなかったから勝てた戦いなんですよ。沖田艦長の策はバッチリドメル将軍にはまり勝ち上がることが出来ました。
多少の運も絡んできますが、最初の極太ショックカノンは、「相手の目を一気にこっちに釘付けにして後続艦の事を頭から飛ばす」ことと、「こうでもしなければゼルグートの正面装甲は破れない」という事を書きたかったらこうなりました。


でもリクが重傷を負ってしまうのでこの話は、うん……書きにくかったです


次は、レプタポーダの話になりそうです。
(@^^)/~~~


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虹と戦火 side Asuka

アスカ最大の見せ場!
「虹と戦火 side Asuka」始まり始まり~


『アルファ2山本、出る!』

 

 コスモゼロの2号機が強行発艦した。加藤隊長は切り札として私たちを温存していたけど、こうも早く出撃をすることになるとは、戦況はそれほどまでこちらが不利なのだろう。

 

「管制室! EURO2出します!」

 

『こちら管制室。ハッチ解放、カタパルト移動します! ご武運を!』

 

「了解! EURO2式波出ます!」

 白い耐高G用パイロットスーツを通常のパイロットスーツの上に着こんだ私は、操縦桿を握り、輝く戦場にその機体を躍らせた。

 七色星団、七つの恒星系が集まったこの星団は、聞くところによると宇宙ジェットの噴出が確認されている。

 

 そんな難所を敢えて突破することで敵の意表を突く沖田艦長の狙いは、どうやら敵に看破されていたみたいで、待ち伏せをされていたみたい。

 

 さっきも敵の攻撃を受けて震動が走り、ダメコンの通信が聞こえていた。

 

 今回の戦闘では敵がどう来るか分からなかった。七色星団にワープする前に、EURO2には推進力が許す限りの重武装が施された。

 

 コスモファルコンの本来持つステルス性は今回の戦闘ではまったくもって不要。

 有視界戦闘が必要となる今回は、ガミラス航空機の大規模な攻撃を想定した沖田艦長の判断で、推力の許す限りミサイルを大量に搭載した。弾種は問わずにとにかく大量に。

 手数をとにかく増やすことを重点に置いた重装化で、EURO2はマッハで宇宙を飛ぶ弾薬庫ってこと。

 

 

 そして今着ているのは、赤木博士が突貫で作ってくれた耐高G用特殊パイロットスーツ。急加速急減速によるブラックアウトを極限まで軽減する機能を持ち、高機動高G負荷による血流偏差を抑制するために血流制動作用のある薬品を無痛注射で投与する機能がある。

 

 これでNT-Dの高負荷を完全に殺しきれるわけではない。未だ実践で発動したことのないNT-Dの負荷はカタログ上の記載はあるが、それをはるかに上回る負荷もかかる。

 

 でも、使わなければ勝てないときになったら、私は容赦なく使うと思う。

 ここはそういう戦場だ。

 

 


 

 

『Wunderより航空隊! Wunderより航空隊! Wunderは現在、敵艦載機からの奇襲を受けている! 航空隊各機は防空任務に当たれ!』

 

「マジかよこいつらおとりかよ!」

 

『加藤隊長! ここは私が何とかします! 早く防空の方へ行ってください!』

「式波中尉! 1人では無茶すぎる!」

『今は玲が持ちこたえています! 私とEURO2は、あんなのには負けません!』

 

「分かった! 命落とすなよ!」

 

『命落とすな敵落とせです! 行きます!!』

 

(中尉、死ぬなよ……!)

 

 

 __________

 

 

 

 さて、ここに居るのは私一人とガミラス戦闘機だけ。

 1対数十以上で無謀だけど、今航空隊全機を防空の方に回せばWunderが生き残る可能性が上がる。

 万が一私がやられても多少の時間稼ぎができたという結果が残る。

 あとはその結果を生き残った人たちがうまくつないでくれることを祈るだけ。

 

 

 ……なによ私、死を前提に考えてるなんてらしくないじゃん。

 私はパイロット殺しのEURO2を駆る式波・アスカ・ラングレー特務中尉。

 手足がちぎれても生き残ってやるわよ。

 

 

 


 

 

 

「敵戦闘機、一斉に撤退していきます」

「何を考えている、たった1機のみ残して足止めのつもりか? 全機、敵戦闘機を無視してそのままヴンダーへの攻撃を開始せよ!」

 

 

 _______

 

 

 

 こっちが1機のみだと言って無視するつもりなのね、なめた真似してくれるじゃない! 

 

「ガミラス航空隊の皆さんこんにちは。ここから先に行きたかったら……私の屍を超えて行け!!」

 

 急加速をかけてガミラス航空隊の渦中に突っ込み、機首の4連装の機関砲を景気よく連射した。

 あまりの加速をかけてしまったことで、敵艦載機が反応するのに数瞬遅れ、機関砲の餌食となった数機は小ぶりな恒星となった。

 

 それをまずは見せつけたことで、ガミラスはようやく私のことを脅威と認識したようで、私に突っかかってきた。

 でも、練度が低い。動きっていうか、キレがないのよ。

 もしかして、寄せ集めか何か? 

 

「そんなんで私をッ!」

 

 でも容赦はしない、今回だけは私は鬼になる。機銃からのマズルフラッシュが何度も何度も瞬いて、敵機を落としていく。

 

 

「さぁ、行ってみようかぁ!!」

 

 

 機銃のトリガーを引きっぱなしにして、機首を敵機の群れに突っ込ませた。

 敵中に活路を見出すって沖田艦長はおっしゃっていた。

 

 これではまるで自殺特攻だけど、私なりにちゃんと考えている。

 沖田戦法、今までそれは突撃戦法の様にしか見えなかった。

 

 でも厳密には違う。正確には敵に時間を与えない戦法だ。ガミラス大艦隊との戦闘では、総旗艦にダメージを与えて即全速前進して「敵に反撃準備の時間を与えなかった」そしてバラン星では、エネルギープラントを潰して、「敵が戦力を集め直す時間を与えなかった」

 

 この2つから沖田戦法は、敵に時間と余裕を与えない戦法だという事が確信できた。

 ならば、艦隊戦でその真価を発揮した沖田戦法を航空機同士の戦いに転用できないだろうか? 

 

 そこてアスカが考え出したのが、1対10以上の戦闘で「なるべく長いこと生き残れる」方法。

 ……正直言って、誰も出来なかった。

 加藤隊長と玲は何とか出来ていたけど、一般のパイロットでは到底できるようなものではなかった。

 

 でも考案者なら、自分の力量基準で考えていたから出来る。

 方法を考案した……って言っても、ぶっちゃけ本人の技量に全振りしたような「戦法とはゼッタイ言えないようなもの」なの。

 

 今だって、敵の真っただ中に飛び込んでいるのに、一切被弾していない。

 まずはこれで時間稼ぎをする! 

 

 

 

 私はさらに加速をかけるため、安全装置の類を解除していく。主に推進系。振り切って逆に墜とせるくらいの速度が欲しい。1対40なら尚更た。だって今この状況でも囲まれているから。

 

 操縦席横のスイッチ類を一通り切っていく。安全装置が切られてボタンが緑から赤に変わっていく。最後の硬いボタンを押し込んだらコンソールに警告表示が大きく表示された。

 

《警告 人体に深刻な負荷がかかります。解除しますか?》

 

Hinrichtung(実行)!」

 コンソールのタッチパネルを叩くようにして実行ボタンを押す。

 計器の数値が見たことのない数字にまで跳ね上がり、加速度計測値のメーターの針が安全域から大きく振り切れる。途端にメーターが赤く点滅して、警報音が鳴り響く。

 機体が震動に襲われ、視界がブレ始める。

 シートに体が押し付けられ、頭を起こすことが出来ない。

 

 それでも、レーダー上に映るガミラス機はどんどん離れていく。これこれ、やっぱ加速が欲しいのよ。ガチガチに耐G装備したからドンと来なさい! 

 

 

 

 


 

 

「隊長! 何なんですかあれは?!」

 

『分からん。だが、捨て身ではないことは確かだ。考えられた動きだ。そしてこの速度、殺人的な加速でなぜ動けているんだ? 機体がいくら頑丈でもパイロットが死ぬぞ』

 

「デバッケでもこの速度は絶対に出せませんよ!」

 

『こちらの方は数が上なんだ。追い込み、誤射の起こらない陣形で一斉射。いいな?』

 

「ザーベルク」

 

 

「フン、さながら、赤い彗星だな」

 ゲットーの目に映る航跡は赤い線となって、機体は彗星の核の様。真っ直ぐに引く尾は、時に変則的な軌跡を描き、見る者を魅了しながら、近づくものを死へ墜とす。

 

 赤い彗星か死の彗星と呼ぶかは、各々に委ねられた。

 

 ____

 

 

「SAA-2Brennen(発射)!」

 発射したミサイルはロックオンしたガミラス機を射抜く。

 これでもう何機目? 途中から数は数えていない。

 

 ……次に行くわ、敵機を一か所に集めて行動を縛りそこにミサイルを叩きこむ。

 

 推進ノズルから青い推進光ではなく、安全装置が外された100%の性能である赤い推進光を引きながら、さらに飛翔する。計器の画面のふちが赤く発光して異常加速を警告する。

 

Laut(五月蠅い)!」

 余裕のない戦場で母国語が飛び出し、日本語を話す余裕もなくなってきた。全方位に目が付いてなければ到底回避しようがない弾丸の網を潜り抜けていき、ひたすら誤射を誘う。幸いにも向こうは新兵が多い。こういう戦場にはベテランを連れて来なさい。誤射祭り待ったなしよ? 

 

 

 私の狙い通り、敵部隊の中で誤射が起こり、見事なまでのフレンドリーファイアが起こり数機が墜ちた。それでも、放たれたミサイルは従順なまでに私を追尾してくるため、そこはフレアで対処するなり急速反転して機銃で叩き落とす。それかミサイルにミサイルをぶつけて相殺させる。

 

 さらに急速反転して推力を一気に落としてさらに機銃を打ち込みこっちを狙う機体を穴だらけにしてやる。そのまま推力を1秒もかからずに全開に持っていく。圧倒的な加速度で計器が悲鳴を上げるが、もう構ってられる程の余裕はなさそう。

 

 

 

 しかし、一瞬考えただけで一瞬機体の機敏性が鈍り、前から迎え撃とうとしてくる機体に挟まれた。相対距離があっという間に縮まり、敵機の射程圏内に入り込んでいる。

 敵機からレーダー波照射を受けて、ロックオンされた旨を計器が表示する。

 

 

 

 相対距離がコンマ秒間隔で縮まっていく。今避けようとしてもどうしても完璧に避けられない。つまり撃墜もあり得る。

 あとコンマ数秒もすれば正面の機体からマズルフラッシュが見えるだろう。そうしたら機体と私に穴が開く。

 

 

 

 

 

 

 そう思い諦めかけた時、正面の機器がすべて真っ赤に輝き、電子基板の回路の様な文様が浮かび上がった。

 

「えっ! ちょ、うっ嘘でしょ?!」

 迎撃で放たれた機銃が自機を中心にした球体上のバリアに阻まれ、全て反射された。

 

 コンソールに浮かび上がっていたのは、NT-Dの文字。正面の機器がスライドして別の表示機器が展開して、シートの後ろからアームが出てきてパイロットスーツごと私の体を固定する。

 シートも一部変形して足が固定された。計器の表示も見たことのない数値を表示していて、さっきまで忙しく点滅していた計器類が全て点灯に変わり、中央のレーダー表示用モニターの背景に「NT-D」の文字が薄く表示された。

 

「NT-D……勝手に動いている!」

『……ワタシヲツクッタノハアナタデスカ?』

 

 

「あんた誰?!」

 頭に響く声の主に怒鳴る。だが声の主はそれには答えずに、さらに問いかける。

 

『ワタシハナンノタメニツクラレタノ?』

 

「うっさい! 私は式波・アスカ・ラングレーであんたの主! あんたのことは知らないけど、生き残りたかったら私に力を貸しなさい!!」

 

 

 酷くノイズ交じりの音だったが、意味だけはスムーズに頭に伝わってくる変な感覚。

 でも、確信が持てたことは一つ。

 

 

 これはNT-Dシステムの声だという事。

 

 


 

 

 ゲットーはあり得ないものを見ていた。

 

 先ほど発射した機銃が着弾しなかった。

 それどころか謎の球体上のシールドに阻まれて、そのシールドをなぞるようにビームが歪んだ。

 

 

 

 

 

 そして、目の前にいる機体から紅い燐光が走っていた。

 

 その瞬間、力強く「装甲を展開」した。

 その隙間から除くのは紅く輝く内部フレーム、数舜前まで「エース級のパイロットが駆る戦闘機」としか見えなかったそれは、「戦闘機ではない何か」という認識に挿げ替えられた。

 

 

 主翼、垂直尾翼、メインスラスター部、機首、4連機銃、あらゆる部分がスライド展開され、戦闘機の面影を残しながら、あれは獣となった。

 

 

 _____

 

 

 

「行くわよ!!」

 

 ペダルを思い切り踏み込んで急加速をかける。その加速はシートに体が押し付けられてそのまま擦り潰されるほどの殺人的な加速で、後続のガミラス航空機を一切寄せ付けなかった。

 安全装置がすべて外された赤い推進光とサイコマテリアルの発光が相まって、さらに赤くなる。

 

 もしこの耐Gスーツを着ていなかったら、一瞬で20Gに達する加速に耐え切れず、私の体はグチャグチャになっていたことだろう。

 人間の体は、思っているよりも脆い。どっかの本で見たけど、体の60%は水らしい。言い換えれば、人間の体は個体っていうよりスライムとか水風船みたいなものかなって思う。アレな言い方になるけど「潰れやすい」みたい。

 特に頭、脳に至っては豆腐のように脆くて、グロイ話になるけど荷重に耐えれずにグッチャグチャになることも普通にある。この機体に殺されたテストパイロットは、荷重に殺されてグッチャグチャになってた。

 

 

 でも今の私はそれに対応して、意識を保っている。

 

 

 そのまま加速を緩めず急ターンをかけて、後ろをトロトロ付いて来るガミラス航空機の後ろに張り付く。

 

「落ちろッ!!」

 

 そのままミサイルを叩きこむ。

 

 

 その爆炎を括り抜けた先に敵機が待ち構え、機銃を構えているのが「見えなくても分かった」

 そのまま腹の姿勢制御スラスターを全力で噴射して急制動、そのまま斜め上後方に全力で回避行動をとった。

 その訳の分からない予知じみた予感は的中して、見下ろす眼下には敵機がいた。

 

 そしてある程度の高度が取れたら機首を斜め下に向けて機銃掃射、排熱が追い付いてない気味だけど今は気にしない。撃たなきゃやられる。

 全力排除して開いた間隙を、赤い航跡を残しながら兎に角全力で突っ切る。

 

 

「何なの今の……これもあんたの成せる技なの?」

 

 システムはあれから何も喋ってこない。

 私が怒鳴ったからかな。でも、今は使わせてもらうわ……! これが何であってもね……! 

 

 

 急旋回をかけてミサイルを無誘導で近接信管にして叩き込み、爆発の破片で敵機数機を火だるまにする。

 残った敵機は機銃で落とす。

 

 

 まだだ、こいつらが防空に行った航空隊に突っかかったらWunderの生存率が下がる。

 NT-Dはパイロット殺しと言われているけど、まだ私は余裕、身体もガタは出ていない。

 

「あと何機だ……?」

 

 

 


 

 

 

「いい腕だ」

 その暴力的な立体機動に辛うじて付いているゲットーは、その操縦に舌を巻いていた。

 

 急加速したと思えば、急減速する。急速反転して後方への射撃。とても有人機で出来るような動きじゃないことは確かだ。

 

「テロンの白い悪魔……死に装束と言ったところか。だが、軌道を予測して弾を置いておけば……潰すことも容易い」

 

 

 _______

 

 

 

 敵の動きが変わった。

 真っ向から挑んでこなくなった、その代わり、機銃や空対空ミサイルを進路上に置いて来るようになった。

 

 速度勝負では敵わないことが分かったみたいで、私が障害物に引っかかって自滅するのを狙ってくる。

 

 

「小賢しい……!」

 

 

 私は速度を緩めくしかなく、敵機に追いつかれないくらいの速度ギリギリまで落として回避行動に努めた。

 全ての感覚が鋭敏となり、よくわからない直観のような物に全てを託して、全てを避けていく。

 

 

 その間一切の攻撃が出来ない。つまり、一方的に攻撃されているという事。

 

「あぁもう!! 鬱陶しい!!」

 

 一通り抜けたと思ったのが最大の油断だった。

 避けたはずの銃弾に重ねるようにして置かれた銃弾の群れに、私はエンジンの片方を持っていかれた。

 

「ぐっああああぁぁぁあああっ!」

 エンジンの片方を持ってかれたことで機体が回転してしまい、さらに爆発がコックピットに衝撃を与える。

 私はその衝撃で計器に頭を打ち付けてしまい、頭に鋭い痛みとぬるりとした感触を感じた。

 


 

 

 

 

 

 頭が痛い、流血で右目を開けられない。

 視界の半分が真っ赤になり、とっさに片眼を閉じた瞬間、その場の判断で、破損したエンジンへの燃料供給を閉じてパージした。

 

 機体バランスが崩れまともにまっすぐ飛べないけど、まだ動かせる。

 

 NT-Dも異常停止してしまった。

 

 あと数機と言うのに、何たる失態だ。

 

 

 

 背後から敵機が迫ってくる。

 推力が低下した今だから追いつけるのだろう。

 

 

 

 まともに動かせないのなら、「イアイギリ」で決める。

 日本の剣術で、まともに飛べない以上こうする以上敵機を撃墜する術はない。

 

 失敗すれば即死。失敗しなくても爆風を受けてボロボロの機体は動かなくなる。

 

 

 

 

 

 

 これで、決める。

 

 

 

 

 

 

 私は静かに秒読みをした。

 自分を無にして、集中する。計器から発される電子音、破損した計器から散る火花。それらの音は私にはまったく届かない。

 ただひび割れて機能停止寸前のレーダーの、健気な発信音のみが聞こえる。

 

 

 

 装甲の展開解除もままならない状態で、内部フレームのサイコマテリアルは元の鉄色になっている。

 

 装甲の破片が辺りに舞い、私は満身創痍であることが片目でもよくわかる。それはあたかも羽衣の様に、舞い散る装甲が近くの恒星の光を受けていた。

 

 

 

 

 機体の無事だった機載コンピュータから警告音が発せられ、私はそれを合図に身構えた。

 

 破損した機体が戦闘に耐えられないことを看破していた機載コンピュータが脱出を推奨する。

 

 相対距離があっという間に縮んでいき、緑の機体色で垂直尾翼が白に塗られている機体が目に映った。

 今まで散々撃墜してきた機体とは違う。一目見て分かった。

「エース機……!」

 

 エース機は機銃を撃ちながら、迫ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はその紅い目を開き、NT-Dを1秒だけ発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急加速急反転で機銃を躱し、無防備な敵機の背中にありったけの機銃を叩きこんだ。

 その急加速急減速で片方残ったメインスラスターは完全に死に、私は自立飛行の術を失った。

 

(ガーレ・ドメル……!)

 頭に響いた声、それが敵のエースの最期の言葉だった。

 

 その爆風に飲まれた私は激しく揺さぶられ、損傷の激しかった片翼が折れて吹き飛ばされる。

飛び散る装甲破片越しに、尻尾を巻いて撤退していく敵機の姿が見えた。ははっ、隊長機撃破された怖気着いたでしょ? 帰んなさい。

 

 

 

「……やったわ。隊長……玲……あとは、任せたわ」

 赤に染まった視界に映る装甲の破片を眺めながら、私はそっと目を閉じた。

 

 


 

 

 ゲットーは見た。

 満身創痍、まだ動けるのが不思議なほど損壊した戦闘機が、一瞬とはいえ赤く輝いたその瞬間を。

 死に装束のような白と差し色の赤が入ったその機体が、剝き出しの内部フレームから強烈な光を放ち、白い機体が赤い光を纏った。

 

 それは、不死鳥のようだった。舞い散る装甲の破片が舞い散る羽にも見える。

 

 

 

 

 そこからは一瞬だった。

 

 一瞬にも満たない時間と最小限の動作で機銃を躱され、側面と後部が機銃で穴だらけにされる。

 

 とても反応できないスピードで見せられた御業に、ゲットーはなすすべもなかった。

 

 

「ガーレ・ドメル……!」

 

 

 最期に紡いだ言葉は、上官であるドメルへの言葉。

 最期に思ったのは、自分が知る限り最強に近いパイロットと戦うことが出来た満足感だった。

 

 

 


 

 

 

「航空隊帰投しました。未帰還……13。出撃したEURO2との信号も途絶してます」

 レーダー手の席に座る西条の言葉は暗い。

 この戦闘で10機以上のパイロットの命が失われた。艦橋の空気は重い物になる。

 

 

 

 

 

 

 

『こちら100加藤! 聞こえるか?! EURO2発見!』

 

 加藤の怒鳴るような声が戦闘環境に響き、加藤のコスモファルコンからの映像が全周スクリーンに投影される。

 

 そこに映っていたのは、片翼がちぎれ、推進ノズルから黒煙を吐きながら、姿勢制御しかできないスラスターで懸命にWunderに近づいて来るEURO2だった。

 

「加藤機! 式波機との通信は可能か?!」

『ダメだ! 通信システムそのものが死んでる可能性がある! 横付けして確認する!』

 

 

 

 ______

 

 

 加藤は自分のコスモファルコンから飛び出し、EURO2の状態を確認した。

 撃墜されていてもおかしくない、死に体と形容してもいいその機体のコックピットには、ヘルメットが割れ、耐Gパイロットスーツの一部が血に染まったアスカが意識を失っていた。

 

「艦橋! 式波中尉の生存を確認!! 医療班を回してくれ!!」

『了解しました!! そのまま第3格納庫に機体を回してください! そこで中尉を搬送します!』

 

「意識無いはずなのになんで動いてんだ……?」

 機体の方に目をやると、剥き出しのフレームがまだ赤い燐光を今にも消えそうなろうそくの様に放っていた。

 

 

「この機体が自分で動かしてんのか……!」

 この機体の事は赤木博士から少し聞いただけ。

 従って、加藤の持つこの機体に対しての印象は「パイロット殺し」だった。

 

 でも、先ほど目にした光景は、パイロットを殺しにかかるような印象は見受けられない。

 寧ろ主を助けようとしている印象だった。

 

 

「健気な相棒だな」

 そういった加藤は、自身のコスモファルコンでEURO2を直接押し、第3格納庫に搬入させた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 音が聞こえる。

 

 

 レーダー音……じゃない。心電図の音だ。

 

 

 目に違和感がある。

 

 

 

 

 目が覚めたら、白い天井だった。

 

 

「気が付いたかい?」

 

「……戦闘は?」

 

「終了した。Wunderは何とか勝ったぞ」

 

 

 

 

 聞くところによると、私はコックピットで意識を失っていた。でも、NT-Dが自立航行してWunderに私を戻してくれたみたい。

 あのとんでもない無茶をしたことで機体はボロボロ機器も損傷、完全修復は不可能。

 でも、EURO2が最後に私を助けたというのがとても信じられなかった。

 

 でも、自律航行していたのを加藤隊長が目撃していた。

 

 

 

 頭部にも大きな切り傷を受けGで体をやられ、機体共々満身創痍ではあるが、私はこうして生きている。

 

 

 役目を終え、第3格納庫で静かに眠るEURO2。その機体に右手を置き、こう言った。

「ありがとう」

 

 

 一瞬だけ、サイコマテリアルが赤くなったように見えた。




NT-Dが遂に発動しました。

最初で最後となる大暴れは、通常のパイロットスーツでは不可能という事で、ユニコーンの耐Gスーツを用意してみました。
イメージですが、スーツについているマークは、ユニコーンではなく火の鳥です。

赤い彗星と、連邦の白い悪魔を一度に両方出す方法がありました。流石EURO2、ニュータ○プのアスカ。

そしてガンダムOOのファンならご存じの1秒トランザムをNT-Dでやってもらいました。
NT-D最後の輝きは、白い機体を赤く染め、あのトランザムのように機動を実現させ、ケルディムガンダムのごとく反撃を実現させました。

途中でEURO2が健気に見えて……書く手が止まりました。





そしてもう春休みに入っていますが、応用情報技術者試験の勉強に入りますので「投稿ペースが落ちます」。
一応執筆自体は続けますので前みたいに完全ストップという訳ではありませんが、のろのろモードに入る前に一応お知らせしておきます

休載する時は活動報告のところでまた休載宣言を出します

それでは次回の話でまたお会いしましょう
(@^^)/~~~


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泪で描いた星空

視点移動が伴うため、ハルナ視点で描かれているシーンには《Side ハルナ》と書かれています
七色星団決戦が終わってからの話で、ほぼほぼオリジナル回ですね。

それでは皆さん、泪で描いた星空。始まり始まり~


 

 宇宙は、暗くて冷たい空間だ。そしてとても過酷な空間だ。

 

 一つ間違えると命をなくしてしまうこの環境は、あらゆる生命に牙をむく。

 時に、一番戦いを嫌う空間でもある。

 

 

「こいつも、信じる物のために戦ったんだ……」

 宇宙葬用の棺の中に眠るのは、艦内に侵入してきたザルツ人女性だった。出身は違えど、同じ肌の色を持つ種族がいる、それは信じがたい事だったが、今こうして眠る遺体の肌は自分たち地球人と変わらない。

 

 彼らの信じる物は何だったのか……それは分からない。

 ならばせめて、その魂がその者の信じる物のもとに帰ることを願うのみだった

 その遺体とともに収められたのは、生前彼女が使っていたガミラス式の銃だった。

 

 

 

 

 

「互いに死力を尽くして戦った両軍戦士の魂が、安らぎと共に故郷に心が還らんことをここに願う」

 

 双方あまりにも多くの人が亡くなった。船はひどく傷つき、そして心には大きな傷が残ってしまった。

 その心に折り合いをつけるためには、さよならを言う場が必要。

 

 元来葬式というものはそういうもの。

 

 

「総員、敬礼!」

 真田の号令で甲板上に立つ乗員が一斉に敬礼をした。宇宙の冷たい真空に向かって。

 この戦いで命を落とした者たちが埋葬された棺が、第1格納庫から旅立っていく。

 Wunderの艦尾副砲から弔砲が放たれる。

 嘆きとも受け取れる弔砲は、静かに鎮魂を促した。

 

 

 三途の川を渡ればあの世に行けるという話は、この時代にも残っている。

 行われた宇宙葬は、多くの命が故郷に還っていった。眼前に映る銀河が、三途の川に見えた。

 

 

 


 

 

 

「この船で出来る処置は全てした。じゃが、ここまで手酷くやられると起きるかどうかも分からん。後は……睦月君次第じゃ」

 医務室の医療用ベットに横たわるリクには、左腕を包帯で巻かれ、ギプスで腕を固定していた。そして頭に包帯が巻かれ、頬には大きなガーゼが張られていた。

 無事だった右腕には何本もの管がつけられていて、点滴のパックが吊り下げられている。

 そして酸素マスクがつけられていて、静かに呼吸音を響かせていた。

 

「暁君……何があったんじゃ」

 

「……爆弾で……吹き飛ばされて……私、また……庇われて……」

 思い出したくないことを必死に言葉にしながら、手元の紙コップに入った緑茶を震わせた。

 俯いた顔に隠れてしまい、泣き腫らした目元を伺うことは出来ないが、その目の前で起こった惨状は、聞く者も目を疑い耳を塞ぐようなものだったのだろう。

 

 

「……私……リクも死んじゃったら……」

「勝手に彼を殺すんじゃない!」

 佐渡先生がそう一喝した。

 

「奇跡的に生きている状況じゃが、船外服を着ていたのが良かった。着ていなかったら即死じゃ。じゃが、彼が野垂れ死ぬような人間じゃないことはあんたも知っとるはずじゃ! 君をあの災害から守って死にかけても目を覚ましたのも、気を失う前に「君が生きていることを知ったから」じゃ。君が生きていてくれている限り、彼は目を覚ます! 儂はそう確信しとる!」

 

「私も、戦闘で死にかけてもっと危険な所から生還してます。もっと危険な所にいた私が生還できたから、睦月さんも戻れます。あなたが眠っていた時にやってくれてたこと、睦月さんにもやってあげてください」

意識が回復して間もない状態のアスカもベットの上から声をかける。

 

 精神的に相当傷ついているハルナには上手く届きそうもない言葉は、ハルナの頭の中をぐるぐると回る。

 ただそこにいたのは、壊れそうなほどに歯を食いしばったあの日の少し幼い姿があった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「暁さん……」

「古代君……大丈夫?」

「……はい」

 

 ガミラス人の特殊部隊の一人が自爆したらしい現場で、古代は自身を責めていた。

「大丈夫な顔をしてないよ、自分が嫌になるような顔している」

「暁さんも、似たような感じじゃないですか……」

 

 ハルナも酷い顔をしていた。

「……すみません。もう少し早く現場についていたら、お2人を守ることが出来ました」

「抗えない現実もあるわ……それでも、人は抗うしかない。現状は悪いけど、それでも出来る事をするしかないわ」

 言っている声が震えている。

 リクが意識不明の重傷で生きていることが不思議なくらい、そんな状況で自身の心が少しずつ壊れそうな音を聞いていた。

 常に彼の死の姿が頭に浮かび、考えていることや感じていることがグチャグチャになってしまう。

 

 

「修復作業行ってくるわ。航海艦橋は直せそうもないけど、他のところは何とかなるから」

 そう言い残して修復作業に加わりに行った。スッと俯いてそのまま早足に歩いていくハルナの足元には、一滴の涙が零れていた。

 

 

「暁君、修復作業のこと……あっ」

 真田もハルナの心をダイレクトに感じて、その言葉を止めてしまった。

 

「……真田さん」

「古代、自身を責めるんじゃない。森君がユリーシャかサーシャと間違えられたのなら、皇族として丁重に扱われているはずだ」

 

「奴らが、その間違いに気づいていなければですよ……」

 古代は自信の拳を強く握りすぎてしまい、爪が指に食い込みかけていた。

 護れなかった。救えなかった。何もできずに見ているだけだった。

 

「……真田さん、これ」

 そういって古代が渡したものは、橙色の石が付いたブレスレットだった。

「落ちてました。負傷した誰かの物かと思いますが……」

 

 一見すると綺麗な石のついたただのブレスレットだが、真田にはそれが誰にとってどれほど大切なものなのかがすぐに分かった。

「そのブレスレットの持ち主は知っている……私から返しておこう」

 

 


《Side ハルナ》

 

 

 動き続けて、すっと気を紛らわせていた。それでも、ただ自分の心を保たせることには至らず、ただの延命処置のようなものにしかならなかった。

 

 気づいた時には、私は医務室の扉を開けていて、彼の眠る病室にいた。

 

 目覚めて欲しい。……私は彼のことが大好きで、また守られてしまった。一度目は風奏さんに。そして彼に。風奏さんは、私達2人を助けて亡くなってしまった。私はそれが決して拭えないトラウマとなってしまって、中性子星の時はそれがぶり返してしまいダウンしてしまった。

 

 だから1人でも大丈夫なように頑張ってきた。乗っ取りの時は頑張って贖罪計画派に立ち向かって、システム衛星は仮設とはいえ限りなく真実に近い話を受け止め、復讐を蹴った。

 

 

 それなのに、それなのに、また守ってもらってしまった。それで、彼が大怪我を負ってしまった。その結果がこれ。

 

 

「私が代わりに……こうなれば、よかった」

 

 普段ではとてもこんなこと言わない。でも、自分の性で彼をこの状態にしてしまった。それが私の心を見えない鎖で締め付けていく。

 

 

「彼が、それに頷くと思うか?」

 不意に声が聞こえて振り返ると、真田さんが腕を組んで壁に寄りかかっていた。

 

「彼がそんなこと望むかどうか。それは君が1番分かっているはずだ」

「それでも、私は、彼に」

 

 

「個人的に、私は彼に友人として説教をしておかないといけない。勝手に動いて自ら危険に飛び込んでこの状態だ。だが……身を挺して私の友人を護ってくれたことに、頭を下げてありがとうと伝えたい。その為には、彼に起きて貰い、真っ先に君に怒られてもらわないと」

 真田さんは目元を隠してそう話した。

 

 

「彼には君が必要だ。君はしばらくここに居てあげて欲しい。これは、友人としての私の願いだ」

 

 そう言って、真田さんはズボンのポケットから何かを取り出して、私の手を取ってそれを渡した。

 手が離れ、そこにあったのはリクのブレスレットだった。メッキが剥がれてたり、装飾が欠けたり擦過傷が沢山付いてたけど、確かにリクのだ。

 

 

「真田さん……これをどこで……」

「古代が現場で見つけてくれていた。ここに来る前に、私に渡してくれてたんだ。かなり傷ついてはいるが、大きな損傷はなかった」

 リクに大ケガをさせてしまったときに、彼の手首からブレスレットが離れたところを見ていた。作業の合間を縫って現場でそれを探していたけど、なかなか見つからなかった。

 

 

「君の手で付けてやって欲しい。私が付けても、彼には大きな意味はなさそうだ」

 そのまま真田さんは私を病室に残してどこかに行ってしまいました。

 

 手元に残された彼のブレスレットを見つめて、そっと彼の右手を取った。沢山の点滴管が腕から生え、「生きている」を感じにくくなっている彼の手は、いつかそのまま氷の様に冷たくなってしまいそうな雰囲気を保っていた。

 

 

 

 そっと、彼のブレスレットを腕に巻きました。

 

 

 

「私は……まだ……あなたに何も返せてない……2度も、救われて……」

 

 

 

 リクの眠るベットに顔を埋め、そう呟きました。

 

 

 

 

___________

 

 

 

 

 

「ちょうどよかった。真田君、暁君があのまま寝てしまっているから運ぶの手伝ってくれんか? ちょうど横にベットがあるからそこに寝かせとかんといかん」

 

「佐渡先生……あのままにしてあげて下さい」

「いや流石にあのままはいかんが……」

 

「寝ていないんです」

 

 

 

 

 

 

 

「何じゃと……?」

 

「暁君。三日三晩、眠ることなく動き続けていたんです」

「止めなかったのか?」

 

「……止めました。研究室に無理やり帰して休息もさせました。それでも、夜間シフトに紛れて修復作業の指揮を執っていました。……無理矢理仕事に忙殺されることで、正気を保とうとしていたのではと思います」

 古代と別れたハルナは、そのまま修復作業を手伝いに行って休憩無しで動き続けていた。それを見かけた真田が強制的に研究室に連れ戻して仮眠を取らせたが、それでも抜け出して修復作業に回っていた。

 まるで機械の様に黙々と動き続けて必死に平常心の顔を張り付けていた。真田にはそう映っていた。

 

「……そのツケが回ってくる前にここに居ろと言った、そうじゃろ?」

「……はい。睦月君の近くにいることが、今暁君に出来ること。だからあのままにしてあげて欲しいです」

 診察室の方から見える病室には、リクが横たわるベットが見える。しかしその足元には、無事な右手に自身の左手を絡ませるように繋いで、ベットに上半身を埋める様にして眠っているハルナがいた。

 

 張り詰めたような顔が無くなり、穏やかに眠るその姿は、まだ怖さを知らないような純粋な子供のようだ。

 

「真田君、君は精神論とかには興味ないと思っていたんじゃないのか?」

「暁君と睦月君に会っていなかったら、そういうのは蹴って理数のみに没頭する人間となっていたのかもしれません。ですが……精神論も悪くないかもしれないと思うようになりました」

 そう言う真田の声は穏やかで、ガラス越しにその2人を見つめていた。

 

「真田君、これかけたれ。そのまま寝かすのも冷たいじゃろ」

 佐渡先生は別の病室から持ってきた毛布を真田に渡した。

 

「ありがとうございます」

 それをベット脇で寝ているハルナにかけてやると、真田は佐渡先生に一礼をすると医務室を去っていった。

 

 

 

 _________

 

 

 

 ……僕の目の前には今、海が広がっている。

 火星育ちであんまり見た事がないけど、これは海だということが分かる。

 

 そしてコレは境目でもあるということが分かる。

 

 あの時艦内に侵入してきた敵兵の手榴弾から庇って爆炎を受けてしまった。

 

 その薄れゆく意識の中で、古代くんがハルナを保護してくれたのを見た時は本当に安心した。

 

 

 

 

 真っ白な砂浜に腰を下ろして、裸足になる。冷たい水が足を濡らす。……ここってたしか「海」だから海水だな。

 ただただ波の音が響くだけの寂しい空間で、手首に巻かれたブレスレットを陽の光にかざす。

 

「死んでしまった……のか?」

 差し込んでいる陽の光は僕の姿通りの影を作る。ここが幻影の中だとしても、まだ影があることが不思議だった。

 もし本当に死んでいたら僕は幽霊になっていて影なんかできてないはずだけど、あいにくこの空間には僕一人、比較対象がいない。

 

 

「悪い事……しちゃったな。あいつ置き去りにして、目の前でやられて。それでも守れたのは嬉しかったけど、どう考えてもトラウマを抉った気がする……」

 途端に自分のした事の重大さに気付いた。今自分の体が病室にあるのかそれとも海の藻屑ならぬ宇宙の藻屑になってたらどうしようもない。

 

 母さん亡くして俺まで死んだら、ハルナが一人ぼっちになってしまう。ハルナはハルナで強くあろうとしているけど、それでも、余計かもしれないけど一緒にいてあげたい。

 

 

「もっと他に方法あったはずなのに、どうしてこれを選んだッ……」

 

 

 ブレスレットを外して両手で握る。そして自身を責めてしまう。でも、それを慰めてくれる対象は

 いない。

 

 

 

 

「兎に角、ここはあの世なのかどうか分からないけど……戻り方、探してみるか」

 

 輪郭が溶け合いそうな世界で、僕は腰を上げて歩き始めた。

 

 

 

 

 何となく、手元に知っている暖かさを感じて、それを優しく握ってみた。

 

 

 

 


《Side ハルナ》

 

 

 

「……私、寝ていたの?」

 手を絡ませる様にしてそのままベットに顔を埋めてた。どのくらい眠っていたんだろう。体が怠い。

 握っていたリクの右手には、ブレスレットが大事に巻き付けられている。

 

 多分だけど、命綱が間に合ったかな……って思う。これは、リクが作ってくれた婚約指輪代わりのブレスレット。私とリクを結んだもので、本当に私の妄想でしかないと思うけど、今眠っているリクに現世との繋がりを持たせられる唯一の物なんじゃないかな。

 

 多少スピリチュアルな域に達してるけど、そんな気がする。

 いつまでもここにいられる訳じゃないし、今は人手が必要。そろそろ行かないと。

「リク……私、頑張るから」

 そう言って彼の右手を、点滴管を避けて優しく握ってみた。

 

 

 

 

 

「え……?」

 凄くゆっくりだけど、握り返してきた。

 

 

 

(頑張れ。まだ死んでないぞ?)

 

 

 

「うん、頑張るね」

 そっと彼の手を離して、医務室を後にしました。

 

 

 


 

 

 

「ここは……」

 森が目を覚ましたのは、やや薄暗い空間だった。船外服のまま牢屋のような所で隔離されていたのを確認した森は、やや冷静になった。

 

「ガミラス艦……?」

「ご気分いかがでしょうか?」

 不意に聞こえた男の声に、森はその声のした方を顔を向ける。

「私はイスカンダル語は堪能ではないので付けさせて頂きました」

 分かるはずのないガミラス語が理解出来ている。森は不思議に思ったが、その男が首元を指さしたのでその辺を触ってみると、妙な機械が付いていた。

 それを外してみると急にその男が何を言ってるのかが分からなくなったが、付け直すと意味が理解できた。

 

「翻訳機……」

 

「自分は、貴方様のお世話をさせていただきます「ノラン・オシェット伍長」です」

 ノランと名乗ったその青年は、肌が地球人と変わらない色をしていた。

 一時的なWunderに乗っていたメルダから聞いた「2等ガミラス人」を見た森は、「地球人とそう変わらない」ことを不思議に思い、思わずジロジロ見てしまった。

 

「何か……?」

 

「あ、いえ、何でもないです!」

 

 異民族とか植民地という要素は宇宙共通。彼らがガミラスとの争いに負けて併合された惑星の民であることは、理解に難くなかった。

 

 

『まもなく、収容所惑星レプタポーダに降りる! 総員、上陸準備に備えぇ~!』

 艦内放送でかなり特徴的な声の放送が聞こえ、「収容所」という単語に不穏な道を感じた。

 

「収容所……?」

 

「ああ、そこで迎えの船に乗り継いで貰うだけです」

 すかさずノランが補足説明を入れて、森の誤解を解く。

 

「……迎えの船。どこへ連れて行くつもりなの?」

 

「……デスラー総統の元へ」

「総統」と言う単語に、自身の一存で動けないことを理解してしまった森は、脱出の選択肢をすぐさま切り捨てた。

 自身がイスカンダル人と間違えられているなら、「皇族らしく振舞って」要求出来るのではと思った。しかし、イスカンダルのすぐ近くの星のガミラスの王様に呼ばれていているのならば、無理に要求を通してイスカンダルに一足先に行こうとしても不審に思われるかもしれない。

 

「今はバレない様にしよう。私はイスカンダル人」と森は心に決めた。

 ふと森は、自身が乗っていたWunderの事が気になった。

 

 

「まって、Wunderはどうなったの?!」

 

 

「テロンの船なら、沈みました」

 有り得ない。Wunderが沈んだなんて有り得ない。でも、手酷く攻撃を受けて、あちこちで通路の崩落と装甲の破損が起こっていた以上、もしかしたらと言う想像が頭をよぎる。

 

 そして、古代の顔が脳裏に浮かんだ。急に敵兵に拉致されて見知らぬ船の中。冷静でいられる時間は思ったよりもずっと少なく、自身の拳を胸に当てた。

 

 

 

「大丈夫、まだ生きてる。チャンスを待つのよ森雪」

 そう言い聞かせて、森は再び冷静を装った。

 

 

 

 


 

 

 

 

「現状、補修に必要な資材の確保が急務であり、それらが確保できそうなのは、このシルビア恒星系の第4惑星、のみです」

 手酷い損害を受けたWunderは、自前の補修資材のみでは完全修復が不可能であった。そのため、近くの恒星系の地球型惑星、もしくは衛星での採掘活動が必要とされた。

 

 その選定先となった惑星は地球型の惑星で、水と空気がある。鉱物資源も豊富であるとの予測結果が出ているため、採掘資源の確保さえできればあとは艦内工場で補修部品を製造できる。

 

 

 

「ですが、この恒星系はガミラスの基地が存在しています。彼らに発見されないように資源を確保するのは、困難でしょう」

 地球型惑星である以上、地球人と同じガミラス人もその惑星に生息可能。大マゼラン星雲内である以上、ガミラス基地が存在していることは必然的だ。

 

「古代、君に偵察任務を命じる」

「少し外の空気を吸って来いよ」

 

「そうよ、リフレッシュくらい必要よ?」

 古代に対する島の気遣いにハルナも後押しする。古代の方が自分よりも余程精神的にもキツイとハルナは感じていた。目の前で何とか生きているのと、離れ離れになっていて自分から何もできなくて安否も不明な方を比べれば、どちらが辛いかはハルナにとっては一目瞭然だった。

 

 だから後押しした。でも辛いのを隠しきれなくて、今こうして会議をしているときも少し震えている右手を後ろ手に隠している。

 

 

「……分かりました。古代進、当該惑星の偵察任務に入ります」

 

「では、営倉に戻ります」

 

「新見君。君のいる場所は、営倉ではないはずだ」

 

 

「営倉の方も滅茶苦茶に壊されてしまいましたから、実際戻りようがありませんからね。今は少しでも人手が必要です。精一杯あっちこっちに走り回りましょうよ」

 

 ハルナも少し回り道をした言葉をつづけた。新見が起こした反乱を許せとは言わないが、敵の弾頭を新見が解除していなければこの船は相当危なかった。そのこともあり、新見がやったことをハルナはもうそんなに気にしなくなっていた。

 

 

「……! はい……」

 

 

 


 

 

「シーガル発艦しました」

 

「了解、Wunderは現宙域に留まり、シーガルからの報告を待つ」

 

 

 

 

 

「えっと、この分だけで直せそうなのは……右舷の装甲破損個所くらいね。コイルもいくつか作らないとね」

「手酷くやられましからな。全く、航空機の群がる戦場は坊ノ岬沖だけにしてくださいよ」

 

「敵さんに言ってくれるかしら?」

 ハルナは、榎本と共に資材保管区域に出向いて手持ちの資材を確認していた。Wunderが大きいのもあって全体的な損傷を直せるだけの資材は無くても、修復用の資材を製造可能な規模の艦内工場が存在している。

 

 一部攻撃を受けて稼働不能な区域もあるが、幸いにも生きている区画のみでも十分生産が可能だ。

 

 

「Wunderの装甲、何重にもなっているはずなのですが、まさか貫通するとは思いませんでした」

「設計が甘かったかもしれません。設計士として恥ずべき事です」

 

「でも、こうして私たちが生きているのは、一尉が武装を山盛りにしておいたお陰ですよ。翼にもビーム砲付けるとか正気かって思ったくらいですからね?」

 

「正気で作っては無理なので。地球は切羽詰まっていますから、今の私達もそうですね」

「それはそうと、ユリーシャさんが手伝いたいとおっしゃてますが、どうします?」

 

 

「ユリーシャが? ……ちょっと話してみますね」

 

「頼みます。ああそれと」

「?」

 

「副長から聞きましたよ? ちょっとは休んでください」

 

 

「寝れるとこで寝ましたので、しばらくは大丈夫かと思います」

「それでもです。副長が「強引にでも休ませろ」とうるさいんです。まるでお節介な親戚じゃないですか? いいご友人をお持ちである以上、大人しく聞いた方が良いですよ? そのうち「副長命令」使いそうです」

 

 真田がそこまで心配している事に、ハルナは少し嬉しかったけど同時にかなり申し訳なくなった。

 三日三晩動き続けた結果、気が紛れたかと言えばそうでもなくただ疲れただけだった。リクの病室で気を失ったかのように深く眠ってたのを佐渡に聞いて「流石にアレはダメだった」ことは認識していたため、とりあえず誰かいるところで寝ようと決めていた。

 

 

「流石に命令されて休むのは休んでいる気がしないので、程々に休みます。とりあえず、ユリーシャのとこ行ってきます。航海艦橋の修復はなしで構いません。戦闘艦橋のみでも十分動きますから。最低限資材は一番損傷の激しい右舷側を重点的に直してください。左舷は後回しでいいです資材手に入ってからで問題ないので武装は前方指向可能な砲塔が3基と艦底部の武装が結構残っているので最悪何とかなりますので装甲優先でお願いします~!!」

 早口にそう指示をしたハルナは資材保管区域から足早に出て行って、ユリーシャの元に急いだ。

 

 

「はい甲板部みんな聞け~右舷とカメラを優先修復航海艦橋は放置。いいな?」

『了解!』

(副長殿、気を揉みすぎですよ?)

「私が代ろうかしら?」

「おや? 赤木博士じゃないですか? どうなさいました?」

 ハルナが保管庫から出て行ったのを見計らって、物陰から出てきたのは赤木博士だった。

 

「暁さん休ませるんでしょ? なら代わるわ。一応この船の構造は頭に入れてあるから、足手まといにはならないわ」

「まったく、副長といい博士といい……暁さん人に恵まれまくってますね。それでは博士、お願いします」

 

「分かったわ」

 船外服を引っ張り出していそいそと着始めた赤木博士の脳裏には、若干の不安要素と「それを何とかできそうな人の存在」があった。

 

 

 


 

 

 

「ユリーシャ? 榎本さんから聞いたわ、作業手伝いたいって」

 

 

「えっとね、それは嘘じゃないんだけど、ホントはハルナならちゃんとここに来るって思ってそう言ったの」

「?」

 

「こっち」

 

ユリーシャに連れられたハルナが訪れたのは、サーシャの病室だった。

 

「お姉様、連れて来たわ」

 

 

「この姿では初めましてですね、アカツキハルナさん。私はサーシャ・イスカンダル。イスカンダルの第二皇女です」

 金髪で長髪。ユリーシャにも似た整った顔立ち、間違いなくサーシャだった。

「サーシャさん?! えっと、その、いつお目覚めに?」

「そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ? 私は先ほどの戦乱の中で目を覚ましました。この船の皆様にはご迷惑をおかけしました」

「ユリーシャ、このこと知っているのはどれくらい?」

 

 急にハルナは、このことをどれだけの人が知っているのかが気になった。半年以上眠り姫だった人がいきなり起きたことが拡散すれば大騒ぎになるのは当然だ。

 40年眠っていた人が何言っているんだと突っ込みたくなるが、皇女と言う立場がある以上、大騒ぎになりかねない。

 

「えっと、オキタ艦長とサド先生とハラダさん、それとサーシャ姉様の憑依先だったミサキと、ミサキのナイトのホシナ。兎に角、最低限の人には伝えてあるわ」

 

「ナイト」と言う単語に引っかかったが、とにかく最低限の人員には伝えてあることにハルナは安堵した。

 

「とにかく、情報の拡散は今のところしてなさそうでよかった……」

 

 

「アカツキさん、ムツキさんは今どちらにいらっしゃいますか? 彼にも一言挨拶をしておきたいと思っておりますが……」

 

「お姉様……そのね……」

「リクは……戦闘で重傷を負ってしまって、意識が……戻っていなんです」

 

 

「……! そうでしたか……気を悪くさせてしまい、ごめんなさい」

 

「そんな……謝るほどの事でも」

「震えていたんです。その……手が」

 震えていたのは、ハルナも自覚していた。隠そうとしていたけど、隠しきれていなかった。震えていた右手を後ろに隠し、強く握って震えを落ち着かせる。

 

「やっぱり、頑張って隠しているつもりですけど……隠しきれないです」

 

 

 

「アカツキさん。まだ貴方の事をよく知らない上でこの事に踏み込んでいいのか、私には分からないのですが、何かを越えて強くありたいという事は、とても良い事だと思います。ですが……」

 

 

 

 

 サーシャは一瞬躊躇ったが、まっすぐハルナの目を見つめて、こう言った。

 

 

 

 

「親しい人の前では、そのままの自分である方が、良いと思いますよ」

 

 

 


《Side ハルナ》

 

 

「マリさん」

「ハルナっち、大丈夫?」

 

「多分大丈夫です……でも、ちょっとだけ、甘えさせてください」

そこには、弱さを隠さないようにした姿があった。

 

 

 ___________

 

 

 

 

「ショックだったのは、よくわかるよ。ユイさんが死亡扱いになったときは私だって頭真っ白だったから」

 淹れたばかりのココアを見つめながら、マリはそう呟いた。

 

「風奏さんが亡くなったときを思い出しかけたんです。リクも……あんな事になってしまって」

「彼は君の王子様。お姫様を残しては死なないよ。……もし本当に三途の川なんてものがあったら、彼は今頃渡し船から飛び降りて泳いで岸に戻ろうとするんじゃないかな」

「泳いでですか……」

「私がリっくんだったらそうするね。何とかして岸に戻って、愛する人の顔を見に行く」

「愛する人……」

 

 ミルクの白い線が残るココアをかき混ぜながら、ハルナは思い返していた。リクと一緒に歩んできた20年ほどの人生は、あっという間だったし、あっという間に平穏は消え去った。

 

 

 もう朧気にしか残らない幼少期の記憶に、リクは居た。

 

 

 風奏を目の前で死なせてしまった20歳の時も、リクは居た。

 

 

 そして、互いに想いを伝えた温もりに、リクは居た。

 

 

 

 不意に涙が零れそうになり、慌てて拭おうとして平穏を装ってしまう。

 

 

 

 

 

(親しい人の前では、そのままの自分である方が、良いと思いますよ)

 

 

 

 

 

 拭うのをやめて、マリの肩に寄りかかった。

 

「ごめんなさい。ちょっとだけ……こうさせてください」

「構わないにゃ。頑張り過ぎ屋さん2人のお姉さん代わりなら、私でもなれるにゃ」

 

 時間は過ぎていく。零れる泪と共に過ぎていく。強がって擦り減ってた心から、取れない痛みがほんの少しずつ和らいでいくように感じていた。

「辛い時くらい、誰かに寄りかかってもいいんにゃ。強がるのは悪い事じゃないけど、どこかで壊れちゃうにゃ」

 その時のマリの顔は、まるで別の過去を見ているような顔をしていた。それでも、過去を悲しむような眼ではなく、今を安心する眼をしていた。

 

 

(君たちは……壊れないで欲しいにゃ)




リクが生死をさまよう事となり、ハルナは自らを責めながらなんとか心を保とうとしています。

でも、強がってばかりじゃ限界が来てしまう。それをサーシャに諭されて、そのままの自分で親しい人に寄りかかる事にして姉のようなマリさんに頼ることにしました。

ちょっとくらい休んでもいいんです。

以前、「ハルリクは真面目キャラ」と頂いたのですが、ほんとにその通りなんです。そして真面目があるが故に頑張りすぎてしまう節があります。
その時に頼れる人や甘えられる人がいると、ほんとに助かります。


立ち位置的には、
マリ→弟妹みたいにしてくれるお姉さん
真田さん→凄い気にしている近所のおじさん
赤木博士→それなりに気にしている近所のおばさん

って感じですね。2人と接しながらこっそり見守る良いキャラになりました。
マリさんマジで母性と言うか何と言うか……「居ると精神的に安心するキャラ」なんです。
「居ると技術的に安心するキャラ」枠では赤木博士と真田さんがぶっちぎりツートップなのですが、精神的の枠ではマリさんがぶっちぎりなんです。

なお、今回の楽曲は蒼き鋼のアルペジオから「SilverSky」です。
長くなりましたが、次のお話でまた会いましょう
(^_^)/~~



応用情報技術者試験のため、次回の話は試験が終わってからになりそうです
潔く2回目の休載に入ります。ごめんなさい(。-人-。) ゴメンネ
休載期間中も細々と書いてきますので、「休載明ける→モチベ失速→再休載」は無いです。

試験の予定から考えて、次の掲載は4月中頃になりそうです。それまで待っていただければ嬉しいです。


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盲目と自由

本当にお待たせいたしました。
応用情報技術者試験が終了しましたので、再開いたします。

それでは、盲目と自由。開始です


「伊藤さん、どうするんですかこれから」

 

「うるさい今考えている……!」

 営倉から辛くも逃れた伊藤と藪は、右舷第三格納庫に格納されているシーガルの貨物ユニットの中に身を潜めていた。七色星団の戦いで営倉にも多く被弾して、そこに拘留されていた人は全員吸い出されてしまった。辛くも脱出した伊藤と藪は、残念ながら現在「死人」扱いとなっている。営倉に被弾して人が吸い出されて遺体が発見されていない以上、MIA(作戦行動中行方不明)か「死亡扱い」とするしかないからである。

 

 そんな中運よくシーガルの貨物ユニットの中に転がり込んだ2人はありつけた携帯食のクラッカーを齧りながら今後の事を考えていた。というより考えているのはほとんど伊藤だろう。藪はもう考えることをやめている。「長い物には巻かれろ」と言う状態になっている。

 

「あぁーっ!!」

「大きな声を出すなっ……これは……」

「……ねっ?」

 

 

 目の前のトランクに入っていたのは、予備の拳銃だった。

 

 


 

 

 時は少々遡る。フリングホルニ率いる第101特殊人型戦術兵器打撃部隊第一軍は、レプタポーダまであと50万キロの宙域にまで到着していた。

「これより艦隊は、レプタポーダ収容所港湾管制塔の誘導に従う。高度3万を過ぎたらType-nullを投下するぞ。ディッツ中尉、準備は?」

 

「完了してます。いつでも降下可能です」

「焦るな、合図無しの飛び出しは許さんぞ」

 レプタポーダ収容所に収監されているガル・ディッツ提督の奪還作戦。その作戦要綱は、ハッキリ言って電撃作戦だ。Type-nullの着地による大規模な衝撃で一気に混乱させて、その混乱に乗じて「ディッツ提督の側近が収監されている囚人を解放」してさらに混乱を誘う。収容所が大混乱に巻き込まれるため、志願で集まった突入隊が側近と合流。そのままディッツ提督の監房に急行して提督を奪還する。

 

 つまるところ、Type-nullという巨大兵器があるからこそ出来る「大道具頼りの無茶苦茶な作戦」だ。

 

 

「レプタポーダ管制塔より入電。【貴官らを出迎える。ゆるりと休まれたし】です」

「バカな連中だ。我々はこうして奇襲しようとしているんだぞ?」

 

「司令。口が悪いですね?」

「口くらい悪くなるだろう。管制塔に送れ。【格納庫に異常あり、機体は甲板上に立膝させた状態で降下する】以上」

「ザーベルク」

「降下開始まで、残り1500ゲック」

順調にカウントダウンが進められ、目の前のモニターのカウントがゼロに向かって進み続ける。

 

 

「司令、一つよろしいでしょうか?」

「どうした?」

「作戦の名称はお決まりでしょうか?」

 作戦開始数分前、1人の艦橋勤務のザルツ人士官が声をかけた。実を言うと、この船にはガミラス人ザルツ人問わず優秀な人員が乗り込んでいる。これはクダンが人種に囚われない思想の持主であり、実力主義でもあるが故である。

 余談ではあるが、ガミラスでは青い血が高貴で優れていると言う思想が広まっているがあくまでそれはガミラス星での話。この船の中では少尉中尉と言った階級の差はあれど人種の壁という物は基本的には存在していない。アウル・クダンと言う人物が軍内部でフラーケンに次ぐ異端と言われる所以はここにある。

 

「名称か……考えていなかったな。ガル・ディッツ救出作戦で良いかと思っていたが」

「折角の電撃作戦です。電撃にちなんで、【ラミエル作戦】はどうでしょうか?」

 

「……案外悪くないかもしれんな。【ラミエル作戦】」

「そんな……とんでもないです」

ラミエル。サキエルと同じくアリステラ星系にて観測されたそれは、絶対的な防御力と圧倒的な砲撃力で作戦に参加した数多のガミラス艦艇を焼き払ってきた使徒の一角。大口径荷電粒子砲を、変形させた自らの巨大な正八角形の体躯から繰り出すその一撃は、大隊規模での砲撃で辛くも討伐済みとはいえアリステラ星系での戦闘の記憶に色濃く焼き付いている。

「では、ガル・ディッツ救出作戦改め【ラミエル作戦】とする、総員持ち場に付け!」

 クダンの命令が艦橋に響き、各々が持ち場に戻る。正面モニターに超長距離望遠で撮影した収容所の画像が表示された。

 

(海賊まがいの危なっかしい方法だが……側近くん、何とか頼むぞ)

 

 

 


 

 

 

「泣けるだけまだマシな方よ。人間壊れたら涙も流せないし泣き方すら忘れてしまう」

 3杯目のココアを飲みながら、このひと時だけハルナはマリの部屋で落ち着いていた。目元に涙が伝った線が薄く残っているが、泣き腫らしてはいなかった。精神的にも落ち着いてきたらしく、俯いていた状態からしっかり前を見るようになっている。

 

 

「リっくんもそうだけどハルナっちは頑張り屋さん。だけど頑張りすぎ屋さんで自身への加減を間違えがち。銀河暴走超特急してどっかで潰れるかもしれないから気が気でなかったりするにゃ? でも今、こうして誰かに頼ってでも落ち着こうとしているのは良い事にゃ。……惚れた?」

「間違ってもないから安心してください私が好きなのは彼だけです。……マリさんって、私達からしてみればすっごく安心するお姉さんみたいな感じなんです」

「おやおや、私の本質分かっちゃった感じ?」

「多分、冬月さんがシンジ君を引き取ったときにマリさんがこうしてお姉さんとして接してくれてたんですよね」

「何もかも分かってしまうとか怖いにゃ。やっと本調子かにゃ?」

 

「調子、戻ってきた感じです」

 頼れるお姉さん枠に色々聞いてもらって、少しずつ調子が戻って来たハルナの顔は少し明るかった。

 

「ありがとうございました。また、聞いてもらってもいいですか?」

「もちろんにゃ。お姉さんに任せなさい」

 その言葉を聞いたハルナはスプーンでココアをかき混ぜると残りを飲み干し、一礼してマリの部屋から出て行った。

 

 マグカップの底に溜まっているはずのココアパウダーも残さず溶かして飲んだため、コップの底は随分と綺麗な状態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 マリの部屋から出たハルナのもとに、一本の着信が入った。

「私です」

 

『休憩中失礼します。西条です』

「今休憩終わったとこだから大丈夫よ。どうしたの?」

 端末越しに聞こえる最上の声は、明らかに平常時の声とは違っていた。何か良くない事があったのだろうと思い聞いてみる。

『それが……偵察に出たシーガルの信号が途絶しました』

「途絶?! 呼びかけ続けてる?!」

『継続的に信号を送ってますが、応答なしです。レーダーの現状復旧状態での暫定索敵限界範囲での捜索を行ってますが……墜落した可能性が、あります』

 

 自分が休んでいるときにマズい状況になったことを確信したハルナは航海艦橋に走った。

 

「艦長に意見具申して! 『100式発艦で惑星に降下、シーガル捜索を行う。人選は航空隊長に一任』って!」

 端末を切ってそのまま走っていった。

 

 


 

 

『UX-01接舷。固定作業急げ!』

『桟橋用意、展開!』

 

 荒れ地となっているレプタポーダに碇泊した次元潜航艦から下船したフラーケンとハイニ、そして森は、航宙艦艇ドックに並ぶ機械化兵軍団を見ていた。

 

「どこもかしこも機械化兵、無敵ガミラス今何処」

「勢力広げすぎの弊害だな。機械化兵での人員水増しの手札がなければこの広さは支えられん」

 砂埃舞うレプタポーダ航宙艦艇港にガミロイドの群れ。フラーケンも思わずため息が出てしまう。

 そうこうしているうちに桟橋が展開され、森はノランのエスコートの元レプタポーダの地に降り立った。

 

 ガミラスは現デスラー政権の掲げる拡大政策によって版図を今なお加速度的に拡大し続けている。それこそ、生身の人間のみでは管理しきれない程に。大小マゼランの統一が完了した今、その広大な支配範囲をガミラス人のみで管理するのは無理があり、一部の植民地惑星や収容所惑星には多数のザルツ人が配属されていたりもする。しかしそれでも人手が足りないので、現状主要施設以外は機械化兵を大量に動員して何とか維持しているというのが現状だ。

 

 

「ようこそイスカンダルのユリーシャ殿下。私はこの第17収容所の所長を務めさせて頂いておりますデバルゾ・ボーゼンと申します。遠路はるばるよくぞお越しくださいました」

 明らかに上の物には媚びへつらうその露骨な態度に、フラーケンが顔をしかめる。上に戻りたいという感情が浮き上がっていて、「権力好き」であることがよく分かる「フラーケンが嫌いな人種」だった。

「イスカンダルのお方はどうぞこちらに、身の回りの世話はこのものがいたします」

 ボーゼンが紹介したのは、金髪のガミラス人だった。まるで喪服のような黒い服に身を包み、浅くお辞儀をした。その動作には全く淀みがなく、昔から体が覚えているかのような動きだ。

 

 

「こちらへ」

 

 そのガミラス人に森は、ガミラスの要人警護用車両に誘導された。

「ではキャプテン、自分もここで失礼します。ありがとうございました」

「ああ……達者でな」

 ノランも要人警護の任としてフラーケンの元から離れた。フラーケンは二等一等の区別そのものに関心がなく、今回ノラン達二等ガミラス兵を乗せる作戦にも何も反対しなかった。

 

 ノランが森の警護に着こうと要人警護用車両に乗り込もうとすると、ボーゼンの指揮棒が正面を遮った。

 

 

 

「どこへ行こうというんだね?」

「自分には、あの方をお守りする任務があります」

 対してノランは堂々と答える。

 

「二等臣民の癖に口答えするなぁ!!」

 それに対して怒りが沸騰したボーゼンは指揮棒をノランに叩きつけた。

 

「二頭臣民の分際でっ! 一等の我々にっ! 口答えするなぁ!!」

 指揮棒で次々に殴りつけるボーゼンに、何も反撃が出来ないノランはうずくまってしまう。

 

 

 

「さっさと消えてくれっ!!!」

 力いっぱい振り下ろされた指揮棒は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノランには当たらなかった。

 

「俺はな、あんたみたいなヤツは嫌いなんだ。デバルゾ・ボーゼンさんよ」

 何とフラーケンがボーゼンの指揮棒を腕ごと受け止めていた。そのままボーゼンの腕をねじり上げるようにして指揮棒を離させた。

 後方では、暴力を振るわれたノランをハイニが介抱している。

 

「今にしてみれば鬱陶しい区分があるが、ガミラス臣民であることには変わらん。それと、元部下を滅多打ちにしたツケを手早く返してもらおうか」

 開いてるから腕を構えて、いまにも殴ろうとしているフラーケンの目は、正しく猟犬や狼の目だ。

 

 

 

 

「お止めなさい!」

 争いを止めるべく森が声を上げて、ノランの近くに歩み寄った。

 

 

「イスカンダルが命じます! 貴方の務めを果たすのです!」

 勿論のことだが、森はイスカンダル人ではない。だがいてもたってもいられなくなった森は、その立場を利用してノランを助けた。

 それはボーゼンに殴り掛かろうとしていたフラーケンの怒りをも沈静化させて、その場を支配した。

 

 ノランは森に手を取られ、そのまま立ち上がった。

 

 

 フラーケンは茫然としていたが、ハイニに肩を叩かれて元に戻った。その頃にはノランと森が警護車両に乗り込む寸前だった。

 慌ててボーゼンを離して服装を正すと、ドアが閉まる寸前でこう話した。

 

「ユリーシャ様、ノランとは今回の任務でしかあったことはないが、仕事に誠実なやつと言うのは俺が保証してます。見苦しい所をお見せしてしまったが、存分に頼ってやってください。ノラン……後は頼むぞ」

 

「ザーベルク!」

 元上司の言葉を受け取って、ノランは任務を継続することを決めた。

 

 

 

 ______

 

 

 

「改めて自己紹介させていただきます。私は、貴方様の身の回りのお世話をさせていただくこととなりました。エリーサ・ドメルと申します。ユリーシャ様、お名前の方は所長より伺っております」

 エリーサと名乗ったガミラス人は、恭しくお辞儀をした。その手元には奇妙な服が乗っている。奇妙、と言うよりは、「変った服」だ。宝石のような装飾が見られれば、白や肌色を多用した落ち着いた印象を併せ持つお淑やかな美しさを持つ服だ。

 

「長旅でお疲れの所申し訳ありませんが、着の身の方を整えさせて頂きます」

 そう言ったエリーサは微笑を浮かべながらその「変った服」を丁寧に広げ始めた。

 

 流れに従うしかなさそうな森は、渋々艦内服のチャックを下ろした。

 

 

 ________

 

 

 

(初めてこんな服着た……)

 流石に口にしてしまうと怪しまれてしまうので思わず出かかった言葉を飲み込む。地球でいう所のスレンダーラインやマーメイドラインのドレスの様な見た目をしているが異様に着心地が良い。崇拝対象のイスカンダル、その皇族専用にあしらわれた物のようで、生地も一級品で肌触りも良い専用品を使っていることだろう。

 

「お似合いですよ」

 

 そう言われて、自分が本当に皇族として扱われている事を否応なしに実感する。部屋の外にはノランを待たせている。仕立ててくれる人がいて、護衛の人もいる。たったここまで数十分の事でイスカンダルがどれほどガミラスに進行されているのかがよく分かった。

「こちらの衣服はいかがいたしましょうか?」

 森が脱いだ艦内服をこれまた綺麗にたたみ終えて抱えたエリーサは、森に判断を仰いだ。

 

「そのまま取って置いてもらえますか?」

 

「かしこまりました。それと、首元の翻訳機の方はそのままでよろしいでしょうか?」

「私はイスカンダル語以外分からないので、そのままの方が有難いです」

 自身が地球人であることは今のところ気付かれていない。だがイスカンダル人として認識されている以上下手に動かなければ怪しまれないと考えた森は、脱出等に使えそうなPDAが入ったポーチ等を残しておくことにした。

 と言うよりも、盲目的なまでに信仰されている以上、崇拝対象を疑う事を知らないのではないかと疑問に思ってしまう。それを少し怖く思ったが、なるべく平穏を装う事に注力する。

 

 それをエリーサから受け取った森は、ノランを呼びつけた。

「ノランさん」

「いかがなさいましたか?」

「これを貴方に預けます。大事な物のですので、無くさないようにお願いします」

「かしこまりました。必ず」

 

 

____________

 

 

 

「おお〜ユリーシャ様! 漸くイスカンダルの姫君らしくおなりだ」

 ややわざとらしく言葉を連ねるボーゼンを他所に、森は思慮に浸っていた。

 自分がこれからどうなるのか、そして無事にイスカンダル側に渡ってWunderと合流するためにはどうするのか。

 少なくとも、これから連れて行かれるのはガミラスの本拠地であるガミラス星。その中枢にいると思われる「デスラー総統」の元だろう。名前からして国家元帥、皇帝、独裁者のイメージが掻き立てられるが、今は取り敢えず大人しくしていることが最優先だろうと考えた。

 

 一報ボーゼンはと言うと、綺麗な言葉の裏側で自身の進退について考えていた。貴族や上官に対しての接し方一つで自身の進退に影響するのは当然の事なのだが、イスカンダル皇族に対しての場合は、「影響する」のではなく「直接関わって来る」のだ。

 ガミラスは、イスカンダルを盲目的なまでに信仰している。それこそ、来賓、VIPなどと言う言葉で片付けられるような立場ではなく、「信仰対象」であり「全ガミラス臣民の心の支え」だ。イスカンダル王族に対して迷惑をかけたり害を与えたりしたらそれこそ自身の立場が一瞬で危うい物となり気付いたキャリアが音も立てずに瞬時に水泡と化すだろう。

 だが、イスカンダル王族来訪は好機の一面も持つ。丁重に持て成し良い印象を植え付けておけば自身のキャリアに箔を付けることが出来る。それこそ「一生もの箔」で、自身の立場を大きく持ち上げることも出来れば、ボーゼンの様に何かしらの事情で左遷されていた人が本星に返り咲くことも十分に可能だ。

 

 ボーゼンの性格上コレを好機と捉えるのは当然なのだが、同時に後ろ暗い事情がバレてしまわないか気になる所だ。物資の横流し、囚人の銃殺、その他私刑パワハラ諸々。叩けば幾らでもホコリが出る以上、叩かれたくないボーゼンは上手く持て成すしかない。その為にはどうすればいいのか、自身の保身全開私利私欲優先の頭脳で考える。

 

 だが、その思考は一本の内線で一時停止することとなった。

 

「おっと通信が、少々失礼しますね……何だどうした?」

 目の前に王族がいる状況での通信は失礼なのだが、一旦断りを入れて内線をつなぐ

 

 

「……何ぃ?!」

 

 どうやら、ボーゼンからして見れば「冗談であって欲しい事」が、今空で起こっているらしい。

 そのままボーゼンは部下と機械化兵を連れてどこかへと走って行ってしまった。

 

「一体、何が……?」

「私にも分かりません。ですが緊急事態なのは確からしいので一先ずここに待機しましょう」

 ノランの提案を受け入れて森はここに待機することにした。

 

 

 

 


 

 

 

『100式発艦急げ!』

 左舷第3格納庫に怒号が響き、100式の発艦準備が進められる。シーガルの信号が途絶し安否不明。ただ惑星に降下したというのは事実であり、運が良ければ古代が生存しているかもしれない。

 

「ステータスオールグリーン。100式、山本出る!」

 ハルナの意見具申を受けて山本がシーガル捜索に出ることになり、操縦桿を握っている。複座式の後部座席には通信士として岬が乗っている。

「戦術長、無事ですよね……?」

「そう願いたいわね」

 電磁アームで100式が艦外に移動され、そのまま発艦。シルビア恒星系第四惑星、仮称「シルビア4」への降下を開始するべく軌道を取った。

 

「シーガルの信号途絶地点は?」

「観測で作成した地形図によると、この近辺です。まだ正確な地図が作れていませんが、少なくとも、途絶地点はこのマーカー付近です」

「なら飛ばすわよ!」

 操縦桿を手前に引き、大気圏への突入コースを取る。地表面に垂直に大気に突っ込むことは出来ないので、大気の壁に機体を平行にして、100式の機体底部を大気に擦る様にして惑星を周回しながら突入を図る。こうする事で多少揺れはするが安定して大気圏内に入る事が出来る。

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、100式の真横に何かが猛スピードで通り過ぎ、薄い大気の層でも十分伝わる程の横殴りの衝撃波に襲われた。

 

 

 

「うわあああぁぁぁぁぁっ!!!」

 100式を衝撃波で吹き飛ばしたのは、全高80mのあの巨人だった。

 

「えっ嘘?! あれってメルダのじゃん!!」

 

 

 


 

 

 

「あれはテロンの機体?! 艦橋! テロンの偵察機らしき機体を確認!」

『テロンだと?! 彼らもこの宙域に来ているのか! ……中尉はそのまま降下! こちらで通信を試みる!』

 フリングホルニから降下サインが出て降下を始めたのは良いのだが、思いもよらない客も来ていた。嘗て次元断層で共闘して、限られてはいるが親交もあるテロンが、テロンの宇宙戦艦ヴンダーがこの宙域に来ているとは思いもよらなかった。

「了解! 降下を続けます!」

『おい貴様っ!! 何をしている!』

 ハイドロスピーカー越しにレプタポーダ管制塔からの怒鳴り声が聞こえてくる。

 

 アクシデントはあったものの、現在メルダとType-nullはフリングホルニから発艦してレプタポーダに降下中。地表面に垂直になるようにヘッドダイブを敢行している。厳密には地表面に垂直になるようにしてるのではなく、静止軌道からレプタポーダの自転速度に合わせて斜め下方向に落ちているのだが、地表面から見ればまっすぐ頭の上から落ちてきているように見えるはずだろう。

 

「なぜここに?!」

 先ほどの機体の事は艦橋の方に任せることにしたメルダは思慮に浸ることをやめ、瞬く間に数値が変わっていく高度計に目を光らせた。

 

 

 _____

 

 

 

「何なんですかアレぇ?!」

「次元断層の時の巨大ロボット!!」

 横殴りの衝撃波に機体を吹き飛ばされたが、何とか立て直した山本は、キャノピー越しに上空の宇宙空間を見て落ち着きを取り戻す。突然の追突未遂事故に動揺していたが、何とか落ち着きを取り戻したメルダはもう一度操縦桿を握り直しす。

 そして降下を再開しようとしたときに、突然100式の通信が酷いノイズに襲われた。

「今度は何?!」

「通信回線に強制介入! 発信位置は後方の艦艇からです!」

『テロ……機! こ……聞こえ……なら回線を開い……れ!』

「日本語?! これ日本語ですよね?!」

「向こうはこっちの言語翻訳できるの! 百合亜回線!」

「はっはい!!」

 ガミラス艦からの通信介入でハッキリ聞き取れた言葉は少ないが、少なくとも回線を開いてほしいという意図は伝わった。自信を轢き殺しそうになったType-nullはさておき、未遂事故の後に通信がタイミングよく入ってあという事は無関係では無い事は明らか。山本は岬に回線を開くように頼む。

 

 

「こちら宇宙戦艦Wunderの艦載機100式! 山本です!」

『こちら第101試作人型戦術機動兵器打撃部隊第1軍の旗艦フリングホルニ。艦長のアウル・クダンだ。巻き込んでしまい本当に済まない!』

「いや死んでないですけど何が起こっているんですか?!」

『旧友を救いに来ている。貴官は?』

「Wunderから出た偵察機の信号が途絶えて捜索に!」

 

 通信に数瞬の空白が起き、再び通信機から発せられたクダンの発言は、耳を疑うようなものだ。

『……甲板に機体を着けてくれ! そのまま降下するぞ!』

「ええぇっ?!」

 

 _____

 

 

「よろしいのですか司令?!」

「構わん! こちらの強行作戦でレプタポーダは厳戒態勢、今行かせればもれなく対空の餌食だ。いくら陽電子兵器が自粛されようが、対空機銃は例外だからな」

 大気圏内。それも実際に施設があり何の装備も無しに歩き回れる環境ゆえ、高威力を誇る陽電子ビーム兵器の系統は自粛するしかない。しかし、艦船搭載型とは違う対空機銃は「陽電子を用いていない」。対消滅によるガンマ線放出を気にすることもないので、今このままテロンの機体を行かせたら死にに行かせることと同意義となる。

 だから甲板に着艦するよう伝えた。

 厳しい顔をしたクダンではあるのだが、またあのテロンの巨大戦艦を見ることが出来るかもしれない。そして同じ司令官として気の合う話を続けたオキタ艦長にまた会えることに内心喜んでいる。

 

「テロン機着艦! 慣性制御固定よし!」

「Type-nullは?!」

「現在成層圏を降下中!」

「よし! 全速急降下! 遅れを取り戻せ!」

「ザーッ! ベルクッ!!」

 操舵士が舵輪のすぐ横にある高度調整用のレバーを一気に下に下げる。その瞬間艦橋全体にガクンと衝撃がかかり、一気に高度計が下がる。目の前の暗い宙の景色にレプタポーダの荒地の大地が顔を出し始める。

「熱圏突破! 中間層に入ります!」

 

 

 


 

 

 

「山本機から通信!」

「繋げ」

『100式山本です! 現在フリングホルニと惑星に降下中!』

 山本からの報告は耳を疑うものであり、同時に第101艦隊がこの宙域に来ていることを示すものであった。

「待て! そこにフリングホルニがいるのか?!」

『だから! フリングホルニがいるんです! それと次元断層の時の巨大ロボも!』

 通信内容はやや混沌としているが、次元断層で邂逅して一時的に共に航海をしたフリングホルニがシルビア4に降下していて、何故かType-nullが先行して大気圏外からスカイダイビングをしているとの事だ。

 

「とにかく無事という事でいいのか?!」

『無事です! 状況的に、今下手に離れたら地表の対空にやられそうなので一緒に降りて、地表が落ち着いたら捜索を開始します!』

「……相原、艦外の全ての修復作業を現時点をもって中断。艦外作業員を全員収容、シルビア4に降下する」

 

『聞こえてましたよ艦長殿。現作業を20分後目安で片付けます。出れるのは今から25分後くらいですかね。機関長、エンジン温めて置いて下さい』

「既にやっとるわ」

 

 

「艦長、この宙域に101艦隊がいるというのは……」

「ガミラス星まで最短距離で帰還も出来るはずだ。理由なら後にクダン司令に訳を聞けばいい。甲板部員の収容を急がせろ」

「幸い、レーダーと外部環境カメラの修理は暫定的ではありますが完了しています。最悪戦闘になったとしても対処は可能と思われます」

 西条もコンソールの半分を支配するレーダーモニターを見つめる。完全復旧とはいかないものの、半径50光秒圏内の観測は可能となっている。最大稼働で半径75光秒。全く使えない状況とは天地の差がある。

 

「山本機の信号を追えるか?」

「既にマークしています。現在シルビア4に降下中。機体ステータスも問題なく送信されてきます。……推進器を切っている様なので恐らく……」

「フリングホルニの甲板上に緊急着艦しているという事でしょう。クダン司令は100式が地球の機体だと分かって着艦指示を出したという事となりますが、とにかく100式の降下の支援をしてくださっているのは確かですね。お会いした時にお礼をしなければなりませんね」

 真田が西条の言葉を繋ぐ形で答える。まさかこんな形でまた再開をする事となるとはだれが予想しただろうか? 

 いや、誰もしていないだろう。沖田艦長でさえ予想だにしなかった事態であり、同時に嬉しい誤算であった。

 

 

「戻りました! 状況どうなってますか?!」

 マリの部屋から大急ぎで飛んできたハルナは、肩で息をしながら真田に状況を聞いた。

「君の進言通り、今100式はシルビア4に降下している。だが、シルビア4の近辺に第101艦隊が確認されて、今共に降下しているそうだ」

 

「へっ? 101って……メルダとクダン司令の艦隊ですか?」

「そのまさかだ。何か理由があってここに来ている様だが、降下速度が異常に速い」

 そう言って、真田は自信のコンソールに向かって手招きをして、ハルナに100式のステータスを見せた。

 

「隕石ですか……? コレ」

「一般的な再突入時軌道のように滑らかな軌道ではなく、隕石の様に真っ直ぐ降りている。断熱圧縮による空力加熱を深く考慮しなくていいとはいえ、とても正常な物ではないな」

 

「コレ、明らかに強襲目的じゃない?」

 気づいたら背後に赤木博士が立っていた。作業着を着たままでここに来たのだろう。

「赤木博士ビックリさせないでくださいよ~」

「艦橋に顔出したら揃って何か見ていたから気になるでしょう? それよりこの船、光学で見えるかしら?」

「多分大気圏突入時の大気との摩擦光で逆光が酷いですよ? おまけに隕石も真っ青な速度なので」

 

「でもなぜ強襲と?」

「一般的な強襲部隊って、普通はやらないビックリ仰天な手を使うでしょ? 敵側の意表を突くことが出来るからね。丁寧に滑らかに降りてくると思ってたら思い切り豪快に最速で降りてきたら流石の貴方達も驚くでしょ?」

「「まあ、確かに……」」

 赤木博士の意見も尤もであるが、なら何故フリングホルニはそんな豪快な方法で降りながら尚且つType-nullにスカイダイビングをさせているのだろうか? 

 そこは直接聞かないと分からないのだが、久しぶりにメルダに会えることにハルナの表情はほんの少しだけ少し明るくなった。

 

 

 

 


 

 

 

「何故こんなことに……」

「一難去ってまた一難ですねぇ」

 

 踏んだり蹴ったりな伊藤と藪と、それに巻き込まれた感が強い古代は、収容所惑星の警備用ガミロイドに連行されて、まさかの収容所内にいた。

 このような状況に至るまでに様々なことがあったのだが、要約するとこうだ。

 シーガルで偵察に向かったのは良かったのだが、そこに偶然潜伏していた伊藤と藪が顔を出して古代に銃を突きつける。一瞬のすきを見て古代が操縦桿を思い切り引いて2人の姿勢を崩したが、その時藪が誤って銃を撃ってしまい、シーガルの契機とコンピュータが破損。燃料計のコントロールが狂いエンジンが使い物にならなくなり、そのままシルビア4の地表に胴体着陸。シーガルは破損して巡回警備に見つかり、脱走者として強制連行。そして今に至るといった具合だ。

 

 古代からしてみれば、大事な人をガミラスに連れ去られてさらに伊藤と藪の乱入で偵察先で捕まるという巻き込まれた状態。伊藤と藪からしてみれば、営倉付近に被弾してもれなく吸い出されかけて取り敢えず潜伏できそうな所に身を隠したものの、シーガルが墜落して連行されて踏んだり蹴ったり状態。

 自業自得と言われればそれで済んでしまう話だが、余りにも運が付いて無さ過ぎる。

 

 

「……のせいだ」

 藪が我慢の限界に達したのか、ぶつぶつと何かを連呼し始めた。

「……何だって?」

 

「アンタのせいだっ!! アンタの口車に乗せられてっ!! アンタに着いていったらっ!!!」

《黙れ!》

 警備のガミロイドに取り押さえられ、藪はそのまま地に伏せられた。ここは敵地。本当に偶然と言うしかない不幸でここにやって来てしまったが、今は大人しくチャンスを伺う。近傍にはWunderもいる。異常を察知してくれれば飛んできてくれるかもしれない。

 

 

 現状何もできない古代に出来る事は、虎視眈々としている事だった。

 

 

《緊急警報、緊急警報! 上空より、強襲降下中の大型艦を確認! これは訓練ではない! 繰り返す! これは訓練ではない!》

 

 

 古代からしてみれば何を叫んでいるのか分からなかったが、明らかに異常事態を告げるサイレンとその後の慌てようから、敵襲を受けていると察知した。

 それと同時に、自分たちの左方の奥、収容所の出入口と思われる巨大なゲートの奥で爆発音が響いた。

 

「何だ?!」

 

 


 

 

 第17収容所惑星の収容所は、全て独房で構成されている。管理室が中心に位置し、その全周に独房が並んでいる。地球でいう、所謂「パノプティコン」と呼ばれる全展望監視システムに類似したこの収容所は、その管理室から全ての独房の状況をモニターすることが出来、そこから独房のロックを解除することも可能だ。

 

 そこに収監された場合「待っているのは死」というのがこの収容所のアングラな話。それは収容所所長のボーゼンが、囚人を塀まで追い詰めコレクションの猟銃で撃ち殺す事を趣味としているためであり、日々囚人の数人がボーゼンの気まぐれで選ばれては野鳥狩りの感覚で撃ち殺されている。

 

 囚人を選ぶ過程で独房を選んで開ける必要があり、その手間を煩わしく思ったボーゼンにより独房のロックがかなり簡易的な施錠となっていて、囚人選びの際に手早く開けることが可能となっている。

 

 そこに目を付けた「ガル・ディッツの側近」は身分を詐称し、新しく配属された給仕係として収容所に潜入。収容所の粗雑な囚人管理体制を把握し、管理室へ向かう事がかなり簡単であることを確認した。

 そして、ボーゼンのコレクションから「ボーゼンのお気に入りではない拳銃」を複数、収容所に蓄えられている一般兵用の拳銃を怪しまれずに運べるだけの量を拝借し、給仕用のトレイに忍ばせ管理室に直行。

 

 管理室のコンソールを操作して独房のロックを全て解除。解放された囚人は一斉に収容所の外……シャバに向かって走り出し、実行犯と化した側近は廊下に潜んで囚人たちに拳銃を給仕……ではなく給銃をする。最後はタイミングを見計らってフリングホルニからの突入部隊に合流する。

 

 

 これで収容所は少なくとも大混乱に陥ることとなるため、実質作戦第1段階は大成功だ。

 

 

 そして肝心の最終目標である提督の身柄保護だが、提督が一般房エリアではなく特別房に投獄されているため、フリングホルニからの突入部隊に任せるだけだ。

 

「命大事にしてこその任務です。後はお願いします」

 

 作戦第1段階を完遂した側近は脱走させた囚人に銃を渡しながら、今頭上で強行降下中のフリングホルニに残りを託した。

 

 

 


 

 

 

「レプタポーダ大気圏再突入終了! 船体に損傷無し! 現在速度25ガット地表到達まで残り250ゲック!」

「Type-nullは?!」

「残り240ゲックで収容所に着地します!安全速度ギリギリです!」

「ディッツ中尉! 必ず減速はかけるんだ! 収容所が真っ二つに綺麗に割れるしお前も危ないぞ!」

『了解! 安全域まで逆噴射減速開始!』

「駐機中のテロン機は?!」

「問題ありません! 慣性制御良好ガッチリ固定されてます!」

 

「宜しいっ! 突入隊! 覚悟は良いか?!」

『こちら突入隊! 全員覚悟できてます!』

 

「総員! 本艦は地表面衝突80ゲック前に艦底部推進器での急減速を行いレプタポーダ収容所に強行着陸を行う! 艦内乗組員は座席に付き安全ベルト着用! 突入隊は機体回収班用車両に乗り込み待機! 着陸次第ハッチを開放し突入隊は収容所内に突入せよ!」

 

 

「地表面観測に動きあり! 作戦続行の合図です!」

 正面モニターに映し出されたのは、黒煙が上がり脱走した囚人で溢れた収容所の姿だ。日々野蛮な狩りが行われていた収容所は混沌に満ち満ちていき、警備員も対処しきれていないようだ。

 

「側近くんめ派手にやってくれたな。そこまでやれとは言ってないんだがまあ良い。降着装置を降ろせ、降りるぞ。反撃はどうだ?!」

「ありません! 囚人脱走により収容所機能が軒並みダウンしたと思われます!」

「ならば好都合!」

 協力者である「ディッツ提督の側近」の成功を確認し、フリングホルニはさらに降下していく。同時に艦底部のハッチを開き降着装置を降ろし、姿勢制御スラスターも全て展開する。

 

「落下速度正常! 地表到達まで、残り120、110、100、90……」

 

 

「衝撃に備えェッ!」

 

 

 その瞬間、操舵士が艦底部姿勢制御スラスターを全力で噴射。艦の慣性制御による姿勢制御でも殺しきれない加速度を強引に打ち消していく。

 艦全体に強烈な揺れが走り、艦橋で立って舵を取る操舵士は舵輪にしがみ付き何とか体勢を保つ。

 降着装置に想定以上の負荷がかかったことを正面モニターが知らせる。

 

それと同時にType-nullも収容所の艦船ドックに着地し、轟音と激震を収容所の敷地一帯に強引に与えた。減速の結果、収容所がクッキーのようにパックリ割れるようなことにはならなかったが、艦船ドックが着地時の衝撃で半壊している。

 

 

「着陸完了!! 船体損傷無し!」

「車両搬入用ハッチ開け! 突入開始!」

 フリングホルニの左舷に備えられた車両搬入用ハッチが開き、そこから2両の人員移送用装甲車が躍り出た。

 そのまま装甲車は正面ゲートに突き進み、半開きとなったゲート正面に横づけした。

 

 

「総員生きて帰るぞ! 突入開始!」

 

 

 装甲車両から10数人の突入部隊が展開し、ガスマスクを着用して各々が機関銃を構え互いの背後を守る形となった。即席で編成した部隊ではあるが、生半可な気持ちで志願した物はしない。それを証明する様に各々の顔は引き締まっていて、機関銃を構える腕は震えていない。

 クダンは事前に突入隊に「生命の危機と判断する以外は銃殺を禁ずる」と伝えていた。ここに居るのは囚人。ボーゼンの被害に遭ったものや言いがかりで投獄された者、ガミラスそのものに敵意を持つザルツ人やガトランティス人もいる。

 突入隊による被害によっては他国のガミラスに対する敵対心を煽るかもしれない。それを極力抑えるべく各員には閃光手榴弾や催涙弾が支給され、非殺傷兵器主体での戦闘が求められた。

 

 勿論のこと、そのような専門的な訓練を受けていない。しかし、互いに信頼し合いカバーし合うことに関しては日頃の機体整備作業で嫌という程やって来た為、動きに迷いを見せることは無い。

 

 

「自由を我らにぃぃッ!!」

 解放されて暴れ回るザルツ人に対しても閃光手榴弾と軍仕込みの徒手格闘だけで跳ね除ける。

 進路上の人だかりに対しては催涙弾で無力化して全力で突っきる。

 最終目標に位置するディッツ提督の独房は収容所の最奥に位置している。そこまで強引に突っ切るしか道がなく、囚人の波を掻き分けるなり切り開くなりして突き進む。

 

 


 

 

 この異常な状況に危機感を覚えたノランは、ボーゼンのコンソールを操作して外部監視カメラの映像を表示した。幸いな事にパスワード等の使用者認証が最初からされていなかったため、それほど時間はかからなかった。

 

「これは……っ!」

 混沌と言う言葉があるが、今スクリーンに映っている状況から察するにこういう時の為に用意された言葉だという事が良く分かる。

 ほぼすべての独房のロックが解除され、一般房の囚人が皆脱走している。おまけに囚人が持つはずがない銃火器を持ち、大暴動が起こっている。

 既に殆んどの囚人が監房エリアから脱走していて、何時ここまで来るか分からない。

 

「囚人が暴動を……ユリーシャ様! ここは危険です、次元潜航艦に移動します!」

 咄嗟の判断で次元潜航艦に戻ることに決めたノランはボーゼンの部屋から外を確認した。今の所は囚人の暴動はここまで来ていない。

 動くなら今だ。部屋に戻り、ボーゼンコレクションの中から手頃なサブマシンガンを拝借して何時でも撃てる様に準備をする。

 

 そのまま森を連れて部屋の外に出て走る。衣服のせいで走りにくい森に合わせ、全方位に気を配り走り続ける。

 しかし暴動が収容所の中枢まで押し寄せてしまい、追いつかれそうになる。

 

 

「マズい……ユリーシャ様失礼します!」

「えっちょっと何をうわっ!」

 ノランが一声かけたその瞬間に森の体はいとも簡単にノランに抱えられ、猛ダッシュで暴動から距離を取る。

 ある程度距離を取ってから森を降ろして片手で森を伏せさせ、持ち出したサブマシンガンを掃射。致命傷には至らなかったが、怯ませる事が出来た。

 

「走りますよ!」

 その隙にさらに距離を取り近くのエレベーターに飛び込む。

 

「ノランさん……先程の方は……」

「ここに収容されていた囚人です。ガトランティス人、ガミラス人。そしてザルツ人……我が同胞もいます」

 同じ赤い血を持つ者同士。たとえ任務とはいえ殺すのは張り裂けそうな程の悲しみと苦しみに支配されるだろう。だがノランはその心を全て殺して引き金を引いた。

 

 

 

 引き起こされた混沌の中、不殺を貫き通しながら心を殺し、ノランは護衛対象を連れ次元潜航艦に急いだ。

 




お久しぶりです。朱色の空です。
休載期間中に次回作品や星巡る方舟編のネタ、その他の話も諸々書いていました。
休載=「早く書かないと」と思わない……という事なので、ゆっくり書いたり勉強しながら書いたりとしていたら早テスト。

無事に終わったら次は執筆本格再開……なかなかハードでした。


次回は異星人女子会もう1回やろうかなと思っています。
それでは次の話でまたお会いしましょう

(@^^)/~~~


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フリングホルニ

皆様、大変お待たせしました。
ここまで遅くなってしまった経緯についてお話しします。

① オリジナルとしてレプタポーダを書いたため。
② Androidアプリの開発のため。
③ のちに出さないといけない物語を三本程試作していたため

ほぼほぼ言い訳みたいですが、本当にごめんなさい。


それでは、「フリングホルニ」始まり始まりです


 銃声が響き、爆発音が耳を突く。人が倒れる音がする。震動が止まない。

 第17収容所惑星は混沌に満ち満ちている。

 

 

 人が倒れ、血が流れ、銃器が火を吹く。

 古代進は、その混乱の真っ只中にいた。

 

「囚人が反乱……?!」

「古代戦術長。……一旦貴方の事を何も思わない事にします」

 伊藤が発した言葉の意味を、古代はすぐに掴む事が出来なかった。しかし、伊藤が手錠を付けたまま取った次の行動ですぐにその意図を理解した。

 

 近くにいたガミロイド兵の首に自身の手錠を引っ掛けて強引に引き倒し、起き上がられる前に首元を思い切り踏みつけて首と胴体を泣き別れにした。

 それを見た古代はその意図を理解して、同じようにガミロイド兵を無力化する。足元には無残な姿となったガミロイドの残骸が転がり、機関銃もその手に残されていた。

 

「お前……」

「サッサとその辺の銃火器を頂戴しましょう。無防備のままでいようと考えるのは馬鹿の考えることです。ハイそこの貴方も行きますよ」

 面倒臭そうに伊藤が視線を向ける先に藪がいたが、彼は蹲って只管怯えるしかない状態になり果てていた。

 

「こうなってしまってはどうにもならないんですよ人間って。行きますよ」

「待て、藪を置いていくのか?!」

「お荷物なんですよ、何もできない状況ではね」

 

「立てよ藪! 死にたいのかよ!」

 

「……にたく……ですよ」

「何ですって?」

 

「俺だって死にたくないですよ! いきなりこんなことになってもみくちゃにされて死ぬなんてゴメンですよ!!」

 藪がキレながら怒号を浴びせると、それを真面に受けた伊藤はいつも通りの人を見下すような笑みとは違い、引き締まった顔をした。

 伊藤は先程首と胴体を泣き別れにしたガミロイド兵から銃器を拝借し、ガミロイドの残骸に対して死体撃ちをする。撃てる事を確認した伊藤は古代と藪にも同じ物を投げて寄越した。

「死にたくないなら行きますよ?」

 伊藤は古代と藪の手錠の繋ぎ目を機関銃で器用に壊すと、古代にもそれをやらせて拘束を解いた。

 伊藤が先頭となり、3人は兎に角生き残る方向へ進み始めた。

 

 

 


 

 

 

「誰だ?! おいやめんか離さんかぁ!!」

「しばらくここにっ……居てくださいね?」

 収容所の一室から情けない声が聞こえてくる。ボーゼンは、囚人の反乱に泡食って指令室から逃げ出し、一室に閉じ込められ、縄でグルグル巻きにされかけている。

 

「お前は……?! 新入り給仕の?!」

「覚えておいででしたか実に光栄ですね。貴方とはもう少し話をしてみたいものですが生憎趣味が合わないようで……このままここでジッとしてくださいね? デバルゾ・ボーゼン所長ォ?」

 

「……貴様?! 内通者か?!」

「おっと……少々お気づきになるのが遅かったようですね。もう少し早くお気づきになられていたら貴方の株も上がった事でしょう。……よいしょっと、では私はこれで」

 

 

「貴様ァァァァァァッ!!」

 ボーゼンの怒号もむなしく部屋の外まで響き、給仕係……「ガル・ディッツの側近」は外へ駆け出し突入隊との合流を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 それから数十秒後、部屋の自動ドアが開く音が聞こえた。

 

「おお誰か! ワシはここだ助けろ!!」

 しかし肝心の「はいって来た人」は、自身に味方するとはとても思えない人だった。

 特徴的な緑の肌で筋肉質。幾ら自爆防止処理をされていてもその存在だけでも脅威となり得る。

 

 

《ガトランティス万歳ィィ!!!》

 

 

 現れたのは、今まで自分が散々狩猟の的として使用してきたガトランティス人だった。鬼とも呼べるその形相でボーゼンを睨みつけ、銃火器を鈍器の様に持ち一斉に襲い掛かってくる。

 

 

 その後ボーゼンがどうなったかは……残念ながらこの場で言うまでもない。

 

 

 


 

 

「突入隊の皆様ですね?」

「貴官がクダン司令のおっしゃっていた協力者か?」

「その通りです」

 収容所内部に無事に侵入できた突入隊は、退避してきた側近と図らずして合流した。

 側近の手には凶悪な見た目をしたライフルが抱えられていて、この場の注目を掻っ攫う。明らかに軍の支給品ではないその見た目に多少心配になりながらも、突入隊の面々は何となく出所を察していた。

 

 

(ボーゼンコレクションから拝借したんだな……)

 

 

 全会一致。そう、これもボーゼンのコレクションだ。

 

「まったく、ここの所長は必要ない物をこんなに……」

「それもこれも奴の趣味ですが、囚人を射殺する時に使用する物らしいです。ここの囚人は……無用な殺しの対象にさせられていました……」

 

 ボーゼンの私欲のために殺されていった囚人は皆、収容所の端の谷にを墓にしている。彼らはそこを終着点にするしかなく今もそこに佇んでいる事は、胸糞の悪くなる話だ。

 

「囚人の遺体回収は……ここの実態を公表してからになるだろう。だが、然るべき場所に埋葬しなければ……。ここへの強襲を行っている我々も、彼らを遺体にしてしまう行動を今している、やり方次第では奴とそんなに変わらない。誰も殺さず完遂するぞ」

 

 隊長の一声で隊員が通路の影から閃光手榴弾を投げて囚人を一時的に麻痺させ、その間に突っ切る。機関銃は牽制用として使用。当てるとしても急所は絶対に避けて、あくまで無力化させるのみで済ませる。

 

 

________

 

 

「ここですね。マップが馬鹿でなかったらここです」

 側近の抱える情報端末が示すこの一角。そこはガル・ディッツが収監されていると思われる独房だ。

 通常区画から離れた特別区画。要注意人物が収監されているこの区画は、政治犯やテロリスト等の国家の存続にかかわるようなことをしでかした人物が収監されている。

 

「ここヤバい区画じゃないか……何もしてない提督をこんなとこに押し込むとかどういう神経してんだ?」

「あのクソ並の奴がゴロゴロしているという事ですよ。開けますので周辺の警戒お願いします」

 

「勿論だ。慌てず急いで正確に頼むぞ。帰りの分の閃光手榴弾は出来れば使いたくない」

「はい」

 側近を背にするようにして複数人が施錠された房のドア周囲を固め、残りの隊員は房に一番近い角で脱走した囚人がこちらに気付かないか警戒を始めた。

 そして側近は房のドアのロック解除の為に工具で壁の板を外し、剥き出しになった回路基板にプラグを突っ込んだ。

 

「行けそうか?」

「少々お時間頂けますか? 一般房と異なりちゃんと施錠されていますので」

「ボーゼンが殺ってたのは一般房の囚人ばかりって事か。要注意の方は交渉材料に……って事か。吐きそうな話だな」

「吐くなら向こうでやってくれ」

「ジョークだジョーク。察しろよ」

 各々が周囲を固めジョークを叩き合いながら警戒を続ける。

 

 

「もっとプログラム的なことやると思ってたぞ」

「ですよね。そんな知識はありませんが、昔趣味で電子工作してましたのでこっちのほうが楽なんです」

 剥き出しの基盤、その回路パターンにプラグを当てて導通を調べる手段は、今となっては朽ち果てたような技術だ。砲弾が捨てられて光学兵器に移ったようにこれも廃れていったが、場合によっては逆に古臭い手段が一番強かったりもする。

 

「趣味に救われたな。どうだ? 再就職先はうちの所とか。電子系に覚えがあるなら歓迎するぜ」

「嬉しいお誘いですが、私にはお仕えする提督がいますので。定年退職して老後にでもそちらに伺いましょうか?」

 

「その頃には俺らはお役御免。静かで平和に暮らしているだろうな」

「そうなって欲しい物です」

 その瞬間プラグを当てる基盤から火花が飛び散り基盤が焼け焦げた。

 

「回路は殺しました。開けちゃってください」

 回路が死にただの扉となった以上人の力でも簡単に開けられる。隊員数名が協力して強引に抉じ開ける。

 

 

 

「提督。お迎えに上がりました」

「お前……どうやってここまで来た?」

 

「提督の愉快なご友人とご子息の協力あっての事です」

 

 その言葉で、猛将ガル・ディッツは全てを理解してこの騒動の原因が「あの変人であることを」納得した。

 

 

________

 

 

「状況は?」

『突入隊を投入してから1200ゲックが経過した。もうそろそろだろう』

 レプタポーダ収容所に恐慌着地したType-nullは一度全システムに対して自己診断プログラムを走らせていた。

 今の所はエラーを吐いている項目はなく、着地時の衝撃で足回りの構造的な疲労が蓄積されているだけだ。

 

「メルダ。地上からの迎撃が無くなった。他の艦隊も降ろすつもりでいるが、念のため、船を抑え込んでくれ」

「抑え込むって……どのようにですか?」

 

「単純な腕力だ」

 帰ってきた回答は何とも原始的なもので、それでいて現状取り得る最も効果的な方法だった。Type-nullの腕力をもってすれば船そのものを押さえつけることも可能だろう、それに「ただそこに存在するだけ」でも相手に対して相当な圧力を与える事となる。

 

 

「宜しいでしょうか?」

「壊さない程度にな。後で問題になる」

「既に問題行動ですよ」

 

「そこはガルの一声で何とかしてもらうか、カバーストーリーを誰かに執筆してもらおう。文才のある人とかにな」

 クダンの吞気そうな声に半分呆れながら、メルダはType-nullを動かしてドックにその身を収める駆逐艦を単純な腕力で抑え込んだ。

 

 

_______

 

 

 

「救出には本当に感謝しているが……お前にもアイツのバカがうつったのか?」

「いえ、これは自分で考えて実行した事です。提督が濡れ衣で収監されて現在に至るまでに相当の期間がありました。その間、この収容所への潜入。クダン司令との打ち合わせ。その他準備等々が重なり、今に至るという事です」

 

「後始末が大変だな」

 ディッツ提督を救出した突入隊は、元来た道を戻っていた。脱走した囚人は管理区画に殺到している。残っているのは少数で、状況の変わりように右往左往している者のみだ。

 それもあり足止めを食らう事も少なく、催涙弾や閃光手榴弾の手持ちは思っていたよりも消費が少なく済んだ。

 

 

「そろそろですね。まもなくメインゲートです」

「そうか……っ」

「お疲れでしょうか?」

 この中で息の上がったディッツ提督は御年55。体力の衰えには抗えない。

「あんな所に監禁されれば体力も落ちる。老人をいきなり走らせおって」

「ご子息もいらっしゃいます。カッコいい父親らしく振舞ってみてはどうでしょうか?」

 

「関係あるか精一杯だ!」

 

 娘がいようが敵がいようが今は関係ない。兎に角メインゲートに走る。

 

 

 


 

 

 

 突入隊が救出に成功したころ、古代と伊藤と藪は必死に撃ち続けていた。本職の伊藤は兎も角、機関銃なんか真面に扱ったことのない古代と藪は苦戦していた。

「野蛮ですねぇ。囚人って感じがします」

「伊藤! 援護頼む!」

 

「お願いします、では?」

 そう言いつつも伊藤は古代の背に回り互いに背後を固めて移動を開始する。藪はと言うと、近くの装甲車に立てこもって窓の隙間から怯えながら撃っていた。それでも命中率はたとえお世辞だとしても高くはなく、多数の激昂した囚人に取り囲まれている。

 

「フォロー!」

「マジですか……冗談は止してください」

 そんな薮のフォローに入る伊藤の顔は嫌々顔で、車両を取り囲む暴徒と化した囚人にめがけて射撃する。古代は致命傷を避けるようにして、上半身は狙わない様にしていたのだが、伊藤は違った。容赦なく上半身を狙いに行き、命を奪う事も厭わないような行動をした。

 

「あなたは本当バカですね1人で籠城とか死にたいのですか? 死にたいのであれば止めませんが」

「伊藤!!」

「事実ですが? こういう時は中に籠城するよりも上から掃射ですよ掃射」

 そう言った伊藤は装甲車両の上によじ登り、囚人の足元めがけて乱射した。囚人はそれに引き下がるしかなく、必然的に囚人たちと古代と藪との間に間隔が空いた。それを逃さず古代がよじ登り、藪も死に物狂いで登る。

 

「チマチマ下で撃つよりもこっちがいいでしょう。適度に屋根移動しながらがいいでしょう」

「このままですか?!」

 

「下で死にたかったら下へどうぞ」

 相変わらず伊藤の言動は辛辣だ。それでも「何も考えないようにします」の通り、一方的に休戦協定の様な物でも結んでいるのだろう。自分だけが生き残るような行動はせずに集団で生き残れるような行動を主体にしている。今も足元まで距離を詰められかけた古代を軽く援護している。

 

 人間と言うのは、時に非情になれるが、「非情にはなり切れない」。

 

 伊藤もその中の一人だった。

 

 

 

_____

 

 

 

「Wunderはこれより、シルビア4への降下軌道に入る。現在シルビア4では101艦隊の強襲降下作戦が行われている。総員第二種戦闘配置を維持しつつ降下に備えよ」

 榎本の手腕により15分で撤収が完了した結果、Wunderの発進準備に幾らかの余裕が出来た。レーダーや装甲に火器、そして戦闘艦橋。とりあえず戦闘は可能な状態にまで復旧が完了しており、万が一の状況にも対処可能となっている。

 沖田艦長の言う通り、現在進行形で第101艦隊がシルビア4への降下作戦を行っている。先行した100式が艦隊旗艦フリングホルニの甲板上に緊急着艦しそのまま降下したと報告が山本機から上がり、Wunderも緊急で降りる事となった。

 

 

「シルビア4大気圏突入開始。波動防壁、前面及び艦底部に集中展開」

 

「了解。大気圏突入開始!」

 

 最優先で修復が完了した波動防壁の調子も良く、水色の膜が目視でも薄く見える程の出力を発揮している。装甲が破損した以上装甲内部に組み込まれる波動コイルもかなりの数が巻き添えになっているが、前面と艦底部に張るくらいなら問題ないくらいの制御を取り戻した事で大気圏突入が可能になった。

 武装はと言うと、戦闘は出来るくらいなのだがそれでも万全とは言い難い。稼働可能な砲塔は現状4基でVLSも誘爆跡が残っている。舷側短魚雷は比較的被害が少ないが、それでも発射管数が少ないことにより万が一戦いになったら厳しい戦いを強いられるだろう。

 

 断熱圧縮による空力加熱で波動防壁が揺れ、全周スクリーンは対閃光モードに切り替わる。突入時の大気との摩擦により艦全体に若干の振動が走り、各々ベルトを着用している。肝心のハルナはと言うと、真田の席のヘッドレストにしがみ付いていた。

 

 

「モニター回復します」

 対閃光モードを解除し開けた視界には、かなりの規模のある施設があった。だがそこには黒煙が上がっていて、見覚えのある艦艇と非常に存在感のある機体が存在している。

 

「あれは……」

「識別信号確認! フリングホルニです!」

「それとあれって……メルダのですね?」

 

「ああ、Type-nullだ」

 次元断層脱出時に提供された識別コード通りの艦艇と判断され、レーダー上の敵性表示が「友軍判定」となった。ガミラス艦艇を見るとどうしてもピリピリしてしまうが、彼らだけは別だ。

 次元断層脱出後もある程度の期間共に航行していた以上、極一部の乗組員の方で信頼関係の様な物が構築されていた。それもそのはず、彼らはWunderに接舷した状態になっていたので内火艇使うなり船外服で泳いでいけば容易にWunderに辿り着ける。それこそ「パフェが食べたいからちょっち向こうに行ってきます」と言った感覚で。

 

 Wunderは滑らかに大気を滑り、その施設の遥か上空に滑り込んだ。大気圏内航行に入り重力推進に切り替えたWunderは、艦を重力で釣り上げて各砲塔の砲身仰角を最大の45度にした。下部への攻撃はVLSで何とかなる。問題は上から。

 

 

「レーダーに感あり! 敵艦影、及び敵防空機と思われる機影。敵艦、数10。敵防空機、数7」

「指示あるまで攻撃を禁ずる。識別コード照会急げ」

 Wunderは大前提としてイスカンダルへの航海を目的としていて、ガミラスを殲滅する事が目的ではない。

 

 

 唐突だが、ここで1つの仮説を話してみることにする。

 Wunderには3連装ショックカノン砲塔が9基搭載されている。つまり合計砲門数は27門で、一度発射した場合、インターバルに4秒。

 VLS発射管では合計数で174。装填時間に差はあれど、ここでは10秒と仮定する

 そして波動防壁の限界稼働時間は20分。コード777使用時にはさらに伸びて30分となる。

 

 もし、波動防壁の被弾経始圧の低下が起こらないと仮定し、バラン星の様に艦隊が集結している場合、30分以内であればWunderは「ショックカノンのみで12150隻の艦艇を爆沈させる」事が可能。

 VLSのみであれば無限にミサイルを発射できるとして、10秒おきに174発のミサイルを同時に発射可能で全て特殊誘導ミサイルと仮定した場合、「31120隻」となる。単純計算で合計43270隻。

 

 

 

 かなり不確定要素が存在するが、Wunderはたったの30分でガミラス全戦力を余裕で鉄屑に出来てしまう。

 

 

 

 それでもそれらの武装はあくまでも迎撃用として搭載され、正しく迎撃武装として運用された。

 結果、Wunderは莫大な戦闘能力を防衛のための用い、無視できない損害はあれど大マゼランまで航行できているのだ。

 

 

「照会完了! 101艦隊所属艦艇と確認! 未確認機は該当なし、シルビア4の防空機と思われます!」

「光学観測。正面に出せ」

「回します!」

 

 該当艦艇が存在する上空を環境カメラで捕捉。そのまま高解像処理と拡大を通して正面に表示された。これまで嫌と言う程見てきて、嫌という程爆沈両断してきた緑の艦艇が降下しようとしているが、コスモファルコンにも似た緑の機体が群がり始めている。

 

 

「……VLS1番2番用意特殊誘導ミサイルパターンA装填」

「艦長?!」

 急な発射指示に一同が戸惑う。

「復唱どうした」

「VLS1番2番用意特殊誘導ミサイルパターンA装填!」

「パターンA設定完了目標設定完了。画像誘導自動追尾よし!」

 もう一度指示が下され、南部が装填し、新見がコンソール操作でミサイルの詳細ステータスを設定した、

 

「発射」

 沖田艦長の咄嗟の指示で放たれた特殊誘導ミサイルは、画像誘導方式に従ってシルビア4の防空機に殺到する。ガミラス艦艇の間を縫って現れるミサイルは防空機にとっては意表を突く一撃だろう。一様に散開しフレアらしきものを巻いてミサイルを回避しようと試みるが、熱誘導に頼らない以上無意味に等しく、次々に火球に姿を変えていく。

 

「防空機全機撃墜を確認。……よろしかったのですか?」

「構わん。こちらに敵意があると判断し、『敵である』ガミラス機を撃墜したに過ぎない」

 艦長帽を目深に被った沖田艦長の表情は読み取れないが、わざわざ「敵である」と付け加えた変化を皆見逃さなかった。

「レーダー。ガミラス艦の動向は?」

「防空機撃墜後、そのまま降下していきます」

 

「ガミラス艦の1隻から電文を受信しました。『貴艦の援護に感謝する』、以上です」

 メ号作戦で受け取った電文は、「直ちに降伏せよ」

 そして今回受け取った電文は、「援護に感謝する」

 

 あの時とは全く異なる電文に沖田艦長は冷静に受け取り、「やはり同じメンタリティである事」を嬉しく思ったのであった。

 

 


 

 

「キャプテン! 船を出して下さい!」

『ノラン、何があった?』

「囚人の反乱です! かなり大規模で正面のドックに回れません!」

 

『何か巨人みたいヤツがいるが……開けた場所に回れるか? そこに船を回す。急げ』

「ありがとうございます!」

 

 ノランと雪はそのまま走り続けていた。しかし正面ゲートに群がる暴徒と化した囚人を突っ切ることが出来ず収容所内から出ることが出来なかった。

 進めば地獄の状況に戻る事しか出来なくなったノランは、自身が一時的に乗艦していた次元潜航艦の存在を思い出した。上司に対して嚙みつく事はあれど部下をよく見るフラーケンは、下で働いた者からの信頼がある。たとえそれが一時的な乗艦であっても。

 もしかしたらと思い、次元潜航艦に無線を飛ばしてみればまだ繋がり、状況理解も早く二つ返事で了承が得られた。

 

「ユリーシャ様、とにかく開けた場所に向かいます! そこで次元潜航艦に移乗します!」

 引き返したノランと森の頭上には黒煙が立ち上り、機関銃の音も響いている。混乱の真っただ中を走るノランは若干焦っていた。

 この状況で護衛対象を守り切れるかどうか怪しくなってきていた。囚人の動きは管理区画にまで及び、管理区画を破壊しきった囚人が下に降りてくる可能性も否定できない。

 さらに、次元潜航艦クラスの艦艇が停泊できる位の開けた場所があるとは思えない。全長144mと言うサイズは馬鹿にならない。通常はドックを造ってやっと置くことが出来るため、最初から航宙艦が停泊できるくらいの広さの場所があるとは思えない。

 

 

 

 

 

『ノラン着いたぜ。上見ろ上上』

 ノランが見上げるとそこには戦闘機の様な機影が見えた。次元潜航艦ではない。戦闘機にしては大きい。大きいで有名なドルシーラの魚雷より長い全長を誇る機体なんていただろうか? ノランは一瞬頭の中を探したが、その答えはすぐに出た。

「FS型宙雷艇?! その手があったか!!」

 ノランと森の上空に現れたのは、七色星団で使用されたFS型宙雷艇だった。全長33mの小型艦艇である宙雷艇は戦闘機並みの高機動を有し、掃宙に人員移送、強襲特務用途での使用など汎用性に富み、単独での次元跳躍能力も有している。ノランと森を迎えに行くにはまさにうってつけだ。

 

『ノラン、ワイヤーを垂らすぞ。ユリーシャ様、ワイヤーは多少揺れますんでご注意ください』

 FS型の艦底部の一部が解放されワイヤーが垂らされる。ノランはまず最初に森をワイヤーで固定して、固定し終わったらそのまま抱えて自身も上がる。その際囚人が迫ってくることも考慮して機関銃を地面に向けて警戒を怠らない。

 

 懸垂上昇で何とかFS型に乗り込んだノランと森は操縦室に向かった。そこに座っていたのは次元潜航艦副長のハイニだった。

「ハイニさん。ありがとうございます!」

「飛ばすぞぉ? 次元潜航艦は適当な安全な宙域で待ってるからそのまま船に向かうぞ。ユリーシャ様、宜しいですか?」

 

「……お願いします」

 

「あい! 当機はノランの特別チャーター便、レプタポーダ発次元潜航艦行きになります。乗客の皆様、ゲシュタムジャンプにご注意ください!」

 軽口をはさみ、ハイニはFS型の出力を上げて急加速、そのまま大気圏を振り切り、重力圏を脱出したと同時にゲシュタムジャンプを敢行。空間を飛び越えた。

 

 

(古代くん……)

 その想いは、空間と言うどうしようもない距離に阻まれてしまった。

 

 

 ─────

 

 

 

「強襲降下艦隊、全艦成層圏に入りました。損失艦無し全艦損傷軽微。それと……ヴンダーからの対空迎撃ミサイルによる支援攻撃を受けたらしいです」

「ヴンダーも降りてきているのか? 光学観測。レーダーにも何か映ってないか?」

「レーダーには……これは、かなりの高高度に巨大な何かがいます。推定全長……ああ、これヴンダーです」

「呆れるほど大きいという事は間違いなくヴンダーだろう」

 

 収容所に強行着陸したフリングホルニから光学観測されたのは鳥のような影。しかし遥か上空を飛ぶ鳥が、肉眼でハッキリ見える程のサイズのシルエットで見えるのは明らかにおかしい。

 クダン及び艦橋にて職務をこなす乗組員の脳裏に浮かんだのは「明らかにサイズを間違えているのではと疑いたくなる戦艦」であった。思い出そうと頭を捻るまでもない。ヴンダーだ。

 

 

「借りが出来てしまったな」

 

 

 ポロリと口からこぼれた一言は誰にも聞かれる事のない様な呟きだったが、そこには若干の懐かしさを含んでいた。

 別れから約3か月。奇跡の船と神の大船は、同じ空で再会した。

 

 

 


 

 

 

 

「第17収容所惑星レプタポーダで暴動が発生。収容所としての機能が喪失し、反乱分子どもで溢れかえっています」

「駐留部隊もこの事態に対処しきれず、レプタポーダ駐留部隊より応援要請が入っています」

 

 レプタポーダでの反乱の事はガミラス中枢にも伝わり、緊急で閣議が始まっていた。これまで各収容所惑星は各地の駐留部隊による統制で反乱知らずであった。だが、今になってなぜこれほどの大規模な反乱が起こったのか。()()()()()()()()()()()1()0()1()()()()()()()()()()()から状況は確認出来ているが、閣僚たちには「腑に落ちない」点があった。

 これ程の反乱が「偶然起こった」とは、どうにも考えにくいのだ。

 囚人が大量の武器を持ち、それも「収容人数と同等の人数」が敷地内に溢れ返っている。仮に反乱が起こるとしても、少数の囚人による物だろう。管理体制に差はあれど収容所の常備戦力のみで対処可能な範囲でしか反乱は起こらず、現に今日に至るまで収容所内での反乱は常備戦力のみで鎮圧され、上に上がって来るのは「事後報告の書類の束」と「人事異動の書類」だった。

 

 しかし、こうして囚人ほぼ全員による反乱と、駐留軍の機能不全、それによる応援要請。未だかつてない状況に際し、このようにして緊急で閣議が開かれることとなった。

「101艦隊からのリアルタイム映像です」

「被害状況は?」

「収容所管理機能の喪失、デバルゾ・ボーゼン所長の行方不明。及びテロン艦ヴンダーも確認されています。現在、101艦隊からの突入部隊が収容所で鎮圧活動を遂行中。それと追加で、航宙艦隊司令長官ディッツ提督の救出も行っているそうです」

 

「提督を……?」

「総統暗殺容疑が晴れても尚収監されていたようです」

 

「レプタポーダにいたのか……応援の艦隊を回せるか?」

「無理だ。本国に戻るにはまだ30日はかかる。バランとゲシュタムの門を潰された以上ゲシュタム航法に頼るしかないんだ」

「親衛隊は回せないのか!」

「虎の子の艦隊を反乱鎮圧に回せと? 冗談がお好きですね」

 会議は進まず、ただ各々の席の目の前でライブ映像が躍るのみ。回せる真面な艦隊が手元になく、親衛隊は本土防衛に使われ、現状「対応に回っている101艦隊」に任せるしかない。

 Type-nullを運用する事に特化した艦艇を保有する特殊な部隊。閣僚の間では「変人率いる異端な部隊」と言う認識が強く、旧友ガル・ディッツに「変わり者・変人・異端児」と言わしめた指揮官率いるこの部隊は、サキエルを討伐してヴンダーと邂逅してその後のんびりと帰路についていたはずだ。

 

「101艦隊には後で事情聴取を行わなければならない。だが、今は彼らに任せるのが現状の最適解かもしれん」

「そうですね。本土防衛に穴を開けたくないのは皆さんの総意ですからね」

「しかし、この緊急事態でも「総統の気まぐれ」か。総統は今どこにいらっしゃるんだ?」

 

 

 

 ______

 

 

 

 

「艤装作業は最終段階に移行しました。現状でもコアシップとの接続は可能となっております」

「例の物は?」

 

「艦首に内蔵兵器として搭載に成功しました。ですが試作兵器が故、一度発射するごとにシステムに障害が発生する可能性があります。連発は推奨しかねます」

「使えさえすればいい。そのまま進めてくれ」

「それと、もう1つお耳にいれておきたい事がございます」

「何だね?」

 

 

「あの船は、明らかに我々の現行技術を超えています。オーバーテクノロジーと断言しても差し支えないこの戦艦を本当に扱うおつもりですか?」

「そうでなければ、NHGとやらを徴発してはいないがね」

 

 

 閣議が行われている陰で、デスラー総統とタランはとある場所に来ていた。実に3000mは下らない巨大なドックに鎮座するその船は、高貴な青に身を包み威光を示す金の紋様があしらわれているが、従来のガミラス艦艇とは全く異なる印象を与えている。

 

 大きく広げられた大翼は剣の様に鋭利で、一部装甲がまだ黒いままだが鳥をイメージした様にも見てとれる。

 船体各所に格納されている陽電子カノンは480ミリという圧倒的口径を誇るが、それらを打ち消すほどの異様さを持った球形の何かが搭載されている。

 中央船体にはぽっかりと窪みが空いていて、そこに巨大な何かを納めるかのようだ。そして中央船体艦首には、推進ノズルのような砲口が備えられている。

 それは、クダンが所持していた報告書のコピーに記載されていた超大型艦、あの黒い巨大戦艦だった物だ。

 

 

 

 翻訳名称 [NHG-***2 Erlösung(エアレーズング)]

 

 

 

「……お言葉ですが総統。艦首の例の兵器は、嘗てイスカンダルが用いた力そのものです。スターシャ陛下が何と申されるか……」

「抗議の1つや2つくらいは来るだろう。彼らがイスカンダルの力を持つ以上、同じ力を持ってしてのみ墜とす事が叶う。作業を急がろ。警戒レベルを最大に引き上げ、親衛隊も幾らか回せ」

 それを言い残したデスラー総統は踵を返し、ドックから立ち去って行った。

 


 

 

 古代達が装甲車両郡の上にのぼり防御に徹して10数分。機関銃の銃身が熱を帯び始め、作動不良が目立ち始めた。

 

「不味い!」

「このポンコツめ!」

 

 誰よりも多く無駄撃ちをしてしまった薮の機関銃は放熱が追い付かず、銃身が若干赤く焼けていた。銃器に疎い藪も流石に不味いと思い射撃を一旦止めていたが、生憎機関銃の予備はない。

 

 上空を警戒すると、収容所内で滞空している一隻の宇宙船が目に入った。七色星団で森を連れ去った連中が足にしていた小型艦艇。その真下で懸垂上昇している2人のシルエット。1人は男性。そしてもう1人は……。

 

「雪!!」

 

 豆粒サイズの人影ではあったが、古代にはそれが誰かが直ぐに分かった。ユリーシャが着ている物とよく似た服を身に纏った森は、ザルツ人らしき男の手を借りて何とかよじ登り、そのまま小型艦艇はどこかへ飛び去ってしまった。

 

「戦術長!! そんなに会いたいなら今は生きろ! 野垂れ死にたいのか?!」

 伊藤が寿命間近の機関銃を再度連射して古代をカバー。空に手を伸ばしたまま動かなかった古代に言葉をぶつけ、正常な思考に戻した。

 

「ヒイィィ! 来てますよ来てますよぉ?!」

「喧しい! クッソォ!」

 藪ももう撃つ事が考えられなくなり、その場で蹲るようになってしまった。

 現実を認識できなくなった者、拒絶した者から死んでいく。ここはそういう戦場。だから伊藤も現実を殴り付けるような勢いで現実に銃を撃ち続けている。

 古代も今を見て生き残るために撃っているが、それでも限界が近い。

 

 走行車両の上にまでよじ登る暴徒は少なくなってきたがそれでもメンタル的にも厳しくなり、流石の伊藤も苦い顔をし始めた。

 

 

「少なくなってきたがキリがない……! おい! 降りるぞ! 今なら上からじゃなくでも迎撃できる!」

 咄嗟の判断で伊藤と古代、引き摺られるようにして藪も走行車両の上から飛び降り、身を隠せる場所に向かって走り出した。

 

 しかしその数秒後、下に降りたことを後悔した。複数人の暴徒がそれに気づき襲い掛かってくるのを確認した伊藤は寿命間近の機関銃を連射するが、遂に銃身が焼けてしまい作動不良を起こしてしまった。古代も援護するが多くは撃てないし、何より伊藤の後ろにいる以上、急に伊藤が立ち上がった時等に誤射が起こってしまう。

 

 

「くそっ!!」

 撃てない以上近接に頼るしかなく、機関銃を鈍器代わりにして制圧していく。

 

 

「戦術長! 行け!」

「伊藤! 何言ってるんだ?!」

 

「元来贖罪計画は『地球人類存続』のための計画です。そしてそれは手段は異なりますがWunder計画も同じく『地球人類存続』の為。贖罪計画続行不可能である以上、Wunder成功のための手札は今は温存しておくべきなんですよ。その手札の1枚は、古代戦術長。貴方なんですよ。どうせ捜索が来ますのでそれまで適当に生き残ってくださいね?」

 

 伊藤の目的は、「贖罪計画完遂」ではなく、「人類を生き永らえさせる」事である。この際地球の復活は前提としておらず、最悪「Wunderを方舟にしてどこかの恒星系で人類復活」も考えていた。

 伊藤がWunderで反乱を起こしたのは、「人類の存続の為」。贖罪計画に関わったのも「人類存続の為」。そして、今こうして古代を逃がそうとしているのは「人類存続の為」。

 

 そしてWunderの復旧作業中、伊藤はシーガル内でこんなことも考えていた。

 

 

「何故あの激しい戦闘を今まで生き残ることが出来たのか?」

 

 

 船のスペック。指揮能力。「火星出身白色バケモノ夫妻」といった人員スペック等の条件。そしてガミラス側の状況等の様々な要因が絡むとはいえ、一番大きいのは沖田艦長の指揮能力でありそれを見て吸収していく古代であった。

 沖田が病に蝕まれ長く持ちそうもない以上、沖田の知恵と戦略眼を継ぎ始めた古代を生かすことは人類存続のための重要事項。

 

 

 全ては人類存続のための壮大な打算であり、ここが「自身」と言うカードの切り時と伊藤は考えた。

 

 

「人類存続は頼みますよ? 指揮官殿」

 伊藤はそれだけ言い残すと、銃器を鈍器として特攻した。

「伊藤!!! ……逃げるぞ!!」

 伊藤を引き止めたかった古代であったが、伊藤の回りくどい話の真意を読み取り逃げる方向に舵を切った。薮を引き摺るようにして暴徒のいない方向にひたすら走り、伊藤の姿がだんだんと見えなくなっていく。

 

 

 

「さて、食い止めますか」

 

 古代と藪の姿を見届けた伊藤は、腹をくくった。ここで対処しきれない程のヘイトを一気に集めて自身に課した仕事を完遂させる。

 ヘイトを集めるためにはどうすればいいのか。

 

「簡単な事です」

 

 

 鈍器と化した機関銃を思い切り振り被り暴徒の頭を潰す。偽りでも本物でも何でもいい「狂気」さえ見せて注目を集める。自身を狂気に染めない様に正気を保ちながら狂ったかのように戦闘を行う。

 嘗て保安部として受けた訓練の中に、人を殺すための訓練があった。

「余計な犠牲を出したくない」以上「出来れば活かしたくない」訓練内容であったが、最後の最後でコレが十分に活きるとは随分皮肉じみている。

 

 すれ違いざまに暴徒から機関銃をかすめ取り連射。その隙を埋めるようにして鈍器にしかならない機関銃を投げてそれを撃ち抜く。

 銃身が使い物にならなくなっただけでエネルギーは余っていた。そのエネルギーが誘爆を起こしてさらに注目が集まる。

 機関銃を用いた近接格闘戦で幾らか殴り倒していくが、自身にもダメージが増えていく。殴られた時に額を切ったのか、傷から血が流れ始める。

 

 それを皮切りにしてどんどん押されていく。伊藤に集まる暴徒の数も増えていく。いいぞ。もっと来い。

 その瞬間、胸元が急に熱くなった。一瞬の痛みが過ぎ去り胸元を見ると、灰色の制服に赤黒いシミが広がっていた。急速に体の力が抜けていき、地面に触れる感触を背中で感じる。

 

 

「流石に……引き付けすぎましたね。ここまでやったので、後は……お願いしますね」

 

 それを最後にして伊藤は、使命を完遂した。

 

 


 

 

 もうあと数分走ればメインゲート。ディッツ提督も呼吸を整え直して走り続ける。

 駐車している装甲車の間にも気を配り、メインゲート前に横付けしている車両を確認するなりさらに速度を上げる。

 

 しかし、装甲車の隙間から1人の人影が飛び出し、突入隊は一斉に銃を構えた。

 

「待て!」

 突入隊が銃を構えた先には機関銃を構えた白い服を着た男がいた。隊員の殆どが見覚えのない男だが隊長だけはその男の姿に見覚えがあり、左手を上げて皆の銃を降ろさせた。

 うろ覚えだがもしかしたらと思い、首元の翻訳機のスイッチを入れた。

「間違っていたら済まない。お前は確かテロンの宇宙戦艦の?」

「何故それが……」

 

「その軍服だ。メルダ中尉と一緒に作業していた者達もそれの色違いを着ていた。偶然とはいえは見つかってよかった」

「突入隊からフリングホルニ艦橋へ。テロン人確認。墜落地点に向かったテロン機を呼び戻してください!」

『艦橋了解。生存者に替わってくれ』

 

 通信機を差し出された古代は、それを耳に当てた。

 

「助けて頂いて、ありがとうございます」

『礼には及ばん。その声、君は確か……コダイ戦術長だったか』

「覚えていてくれたのですか?」

『君が交渉相手で良かったとメルダから聞いていてね。とにかく横付けしてある装甲車に便乗してくれ。皆も聞いていたかね? ガルを抱えながらですまないが、コダイ戦術長もフリングホルニまで護衛して欲しい。銃は……その辺に機械化兵が転がっていればそこから拝借してしまっても構わんよ』

 

 自身が死んではどうにもならない。はぐれてしまった薮の安否が気になる所だが、ここは自身を守るしかない。ガミラスの部隊に合流する事を選んだ古代はその辺りに転がっていた機関銃を拾って状態を確認……しようと思ったが先ほどの見知った形状の物とは全く形状が違い、どうすればいいのかが分からなかった。

「テロンとうちじゃ銃の種類も違うんだろ? グリップ握ってれば勝手に連射される。緩めれば止まる。いいな?」

「……ああ」

 それを察した1人の隊員が古代に軽く説明をする。T字にも見える形状をした「それ」は、Tの縦棒が銃身になっていて横棒がグリップ兼トリガーとなっている。地球の拳銃によくみられる形状の引き金がない以上、グリップを握って発射という説明がすんなり入る。

 

「君がバカ娘の知り合いの一人か?」

「バカ娘?」

「ああ……メルダ・ディッツと言えば分かるか?」

 ディッツ提督に声を掛けられ、古代はそう答えた。おそらくディッツ少尉(兼特務中尉)の親族。年齢的にも親なのだろうと古代は考えた。

「ディッツ少尉の事は、良く聞いています。と言っても、一番長く接していたのは僕ではなく、睦月さんと暁さんです」

「ムツキアカツキ……アウルの報告書にもそんなことが書いてあった。Type-nullの改造もして次元断層脱出に貢献したとか。……こんな状況ではあるが礼を言わせてくれ」

 メインゲートに走りながら古代に軽く礼を言うディッツは決して笑ってはいなかったが、娘に友人が出来たことを安心しているようで多少困惑もしているようにも見えた。

 

「娘は友人が少ない。幼い頃に軍に入り儂を追いかけたからか女の子らしいことに一切興味を持たんかった。じゃが、アウルの報告書に余計な一言が加えられ取った。『メルダは多少は女の子らしくなった』とな」

 娘を語るその声は先ほどとは異なりほんの少しだけ穏やかに聞こえる。本人は「余計な一言」と語ってはいるが、実はクダンの出した報告書で一番特筆されていたのはなぜかそこだった。

 変わり者異端児変人と散々言われてはいるがなかなか粋な事もするクダンの事を、ディッツ提督は自慢の友人と思っている。

 

 それは古代にも伝わり、この戦場ではあり得ない筈の微笑を浮かべていた。

 

 

 上空から轟音が響いてくる。降下してくるWunderの有機的な骨格を目にする古代には一種の安心感があったが、恐らくこの世から先に立ち去った伊藤を思えば一種の悲しみもあった。あの最後の言動と行動は紛れもなく、自身を逃がす為だった。

 方法等に差異はあれど、人類の為を思った行動だったそれは無駄などにしてはならない。

 

 ガミラス側の装甲車に乗り込み一時的ではあるがフリングホルニに向かい、捜索機のパイロットとの合流。そしてWunderへの帰還。現状これが最優先事項。

 途中ではぐれてしまった薮の安否も気になるが、捜索自体は人員を増やして探すしかない。

 唯一の心残りは、走ればギリギリ間に合いそうな距離にいた森を助けられなかった事。どんどん離れていってしまう。どこへ連れ去られたのかもわからない。今地球人であることがバレていない事が唯一の救い。でも、それがどこまで押し通せるか分からない。イスカンダル人ではなく地球人である事が判明してしまえば殺されるかもしれない。それが古代の心をどうしようもなく締め付けていき、食い縛る歯が擦れる音が聞こえる。

 

 

 目の前にフリングホルニが見えてくる。ガミラス兵の一人が教えてくれたのだが、フリングホルニは「神の大船」と言う意味らしい。縁起のいい名前に聞こえるが、今の古代の心は、たとえどんな大船に乗せても安心を得ることは出来ないだろう




お久しぶりです
……本当に遅くなりました。ごめんなさい。

フリングホルニ大気圏突入によりレプタポーダの話を新規に作り上げる必要が出てきてしまい、昼夜唸りながら書く羽目になりました。
それでも、なんとな納得のいく話になったので、何とか投稿することが出来ました。

次回は6月後半あたりになるかなと思います。
それではまたお会いしましょう。
(@^^)/~~~


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再会、そして結びを

閑話です
まさかこの小説内で「ぶっ壊れ性能」と言う言葉を使う事になろうとは……


「また、お会い出来ましたな」

「それは、こちらも同じ思いです。クダン司令」

 

Wunderの艦長室。そこには三人の高官が顔を合わせていた。

 

1人は宇宙戦艦Wunderの艦長、沖田十三。もう1人はゲルバデス改級航宙特務輸送艦フリングホルニ艦長、アウル・クダン。そしてもう1人は、今の今まで収容所に収監されていてやっと解放されたガミラス航宙艦隊司令長官ガル・ディッツ。

淹れられた紅茶は既に手が付けられたのか少し少なく、話を進めるいい潤滑剤となっているようだ。

 

「アウル。儂を助けに来てくれた事は感謝している。友人として礼を言わせて欲しい。……だがアレはマズいだろう。囚人の反乱を起こして混乱させるとは常識外にも程がある!」

「ああするしかなかったんだ。それに、あそこには親衛隊の手によって不当に逮捕された者たちも大勢いる。向こうのお偉いさんには、起こってしまった反乱をこの艦隊で緊急措置として鎮圧に向かったとしか見えていないだろう。現に、ライブ映像を超空間通信で送り続けていたからな」

 

「それでもマズいだろう。調査が時機を見て入る以上この事は明るみになる」

「問題ない。ボーゼンのブラックな行いを老若男女問わず物凄く分かりやすく資料にまとめた。コイツを滑らせておいて目立つようにすればこちらが起こした事とはバレまい。変な言及は来ないだろうし、調査委員会とかに言い含めておけばもっと安心だろ?」

 

クダンが懐から取り出した資料には、ガミラス語でこう書かれている。

 

「秘録 デバルゾ・ボーゼンのブラックな行い10選!(仮)」

 

流石に本人もこのまま出そうとは考えていないようで、丁寧に題名の末尾には「仮」と付いている。しかし中身はボーゼンの行為の多くが違法である根拠とその詳細が事細かに記されていて、尚且つ見やすい見出し付きという読み手に対する配慮が全力でなされている。

「後処理宜しくのつもりか?」

「まぁそういう事だな。厄介事は頼む」

 

そんなやり取りを傍で聞いていた沖田艦長は、ディッツ提督の人柄を観察していた。自身と同じような雰囲気を持ち、熟練の指揮官。それでもクダンと話している風景は、眉間を抑えて理解に苦しむようなそぶりを見せながらも、どこかで安心している様子が滲み出ていた。

 

「お2人は、仲が宜しいのですか?」

沖田艦長はそう言葉を投げかけてみたところそれは当たってはいたようで、青い肌の2人は顔を見合わせた。

 

「オキタ艦長。このバカとは古い付き合い……腐れ縁とも言える関係でな。愛娘を預けられる奴は、現状コイツしかいない」

「ほうほう、なかなか信頼してもらえているじゃないか。誰かなバカと表現したのは?」

「知らん!」

そっぽを向いてしまったディッツ提督をからかうクダン。沖田の脳裏には、親友である土方の姿があった。ともに同じ年代で同じ話題で議論を重ね、同じ戦場で生き抜いてきた。

クダンとディッツ提督のような関係ではないが、この年代にして同世代で言い合える親友の存在が近くにいることが沖田にはうらやましく思えた。

 

 

「ところで、娘は……?」

「恐らく、暁一尉の所でしょう。久しぶりの再会なので、我々は紅茶でも嗜みながら話を重ねていきましょうか」

そう言った沖田艦長は、自前の紅茶の葉とカップを3セット用意して静かに紅茶を淹れ始めた。

 


 

「久しぶりだな。ユリーシャ様もお久しぶりです」

「元気してた?」

「はい。この通り体調も崩さず健康のままです。お気遣い感謝いたします」

全ての作戦が終了し、メルダは父親とクダンに着いていく形でWunderを訪れていた。

「元気そうね。安心したわ」

ハルナも何とか明るく振舞い、なるべく悟られないようにする。

「パフェとやらを食べてから体調が良くなったのかもしれんな」

「「そ れ は な い」」

アスカと山本が声をそろえて一般常識をぶつける。

 

「あら。あなたは確か……提督の」

昼食から戻って来たサーシャが音もなく戻ってきて、メルダは飛び上がった。幽霊でも来たのかと思って後ろを振り向いてみれば、幽霊と呼んでは殺されそうな存在であるサーシャ・イスカンダルが立っていた。

 

「サーシャ様?! えっと……お体の方は……」

「七色星団の後に無事に意識が戻りました。御心配をおかけしたみたいでごめんなさいね」

「いえいえとんでもないです! とにかく、ご無事で……何よりです」

 

「……取り敢えず私はまだやる事があるから。しばらくいるんでしょ、ここに?」

「あ、ああ。しばらくはここに居るつもりだ」

 

そう言い残したハルナは研究室から出て行ってしまった。それを見てメルダは何かを感じたのだが、思い当たる原因が自分にありそうな気がしてならなかった。それに、ハルナの近くにいるはずのリクがいない。艦内を歩いているときにリクの姿が見えなかったのだ。

 

 

「アカツキに……何かあったのか?」

聞かなければ分からない。予測の範疇でしかない状態でハルナに真意を問うにはむしろ負担をかけかねないと判断したメルダは、ひとまずハルナの近くにいたであろう山本とアスカに聞いてみる。

「暁さんは話したがらないけど……睦月さんが七色星団での戦闘で重傷を負ってしまって……まだ目を覚ましていない」

その事実を話すことを躊躇いながら、アスカはゆっくり話し始めた。

 

中性子星で2人が結ばれ、バラン星を覚悟のもとで突破し、七色星団で失いかけた。意識の戻らない彼の元についている日常が始まり、いつ逝ってしまうのか分からない現状でハルナは少しずつ擦り減らしていた。無我夢中で働いて気を紛らわせようしても意味がない。誰かに縋ったりして泣いたりしても、近く限界が来てしまう。

メルダにまた会えると気づいた時はほんの少しだけ明るくなったようだが、それでも一時的にしか過ぎない。

 

 

「……悪いことをした」

「メルダが悪いんじゃないよ。アレは、貴方がやれと言ったことではないから……」

「そうじゃない。だが、マズいことをしてしまった」

地雷を踏んだ。彼の身の状態がある以上、コレは禁句だったのかもしれない。

「ちょっと行ってくる。ユリーシャ様、サーシャ様、失礼します」

一言理を入れたメルダは研究室から出て、ハルナを探しに行った。

 

 


 

 

「コダイ、アカツキを見ていないか?」

「暁さん? 見てはいないが……」

「そうか……」

2500mの船体である以上人探しも容易ではなく、メルダは艦内の各所に設置されている艦内マップを頼りにして捜索を行っていた。すでに船体各署の部屋の捜索、実験農園、格納庫等を探し終えてはいるものの、見つからない現状に流石のメルダも焦りを覚えていた。

 

「コダイ。本当に見ていないのか? 少々マズいことをしてしまった以上、早めに見つけなくては行けなくて……」

「……医務室は見に行ったか? 睦月さんはそこにいるはずだから、もしかしたらそこに居るかもしれない」

「医務室……サド先生への顔出しもある。感謝する」

行くならそこだろうとこだえた古代の顔はやはり優れなかったが、メルダは他人の地雷を進んで踏みに行くような人間ではない。古代にも何かあったのだろうと感じたがここは引いて、メルダはハルナを探しに向かった。

 

「元気そうだな……」

古代の手には携帯端末が握られていて、そこには様々なウィンドウが開かれていた。損害状況。修理状況、航路図。そして、作戦提案書。

 

 

ガミラス本星への突入作戦要綱が事細かに記されているそれは良く練り上げらている物で、既に真田の承認がなされていた。

しかし、重要なのはそこではなかった。突入作戦要綱のすぐ下。画面の表示範囲外に隠れていて詳細は読み取ることが出来ないが、そこには、

 

 

 

 

 

 

「森船務長救出作戦」と記されていた。

 

 


 

 

サレザー恒星系には居住可能惑星が2つ存在している。片方は溢れる生命を感じる青い水を携えた惑星。もう片方は緑色の外殻を持ち、所々崩れた開口部には人工の明かりが一局に集中している。それは決して美しいと言えるような物でもなく、星そのものがその星の秩序の歪さを表しているようだ。

 

その星に降下する艦艇が一隻。秘匿兵器である次元潜航艦UX-01。レプタポーダから緊急発進しFS型宙雷艇を甲板に載せた状態で大気圏に突入。一般の国防軍宇宙軍港ではなく、航宙艦隊の中でも特別な艦艇を停泊させる為の宇宙軍港に次元潜航艦は停泊した。

 

本来ではこの軍港にやって来る人は少ない。技術的にも秘匿性の高い艦艇、隠密作戦任務にあたる艦艇が多数を占める以上最低限の人員しか配置されておらず、出迎えとかもあったものじゃない。

 

だが今回だけは違った。例外中の例外。国賓と呼んでも全く差し支えない超VIPを出迎える都合上、この軍港に1台の要人警護用車両と数台の装甲車両が現れた。それもただの要人警護用車両ではない。高官を出迎える用のしっかりとした作りの内装に軽い軽食に飲み物までついている。それを取り囲むように配置された装甲車両数台は機銃が取り付けられていて、一般兵が持つ機関銃では傷が一切つかない程の装甲で覆われている。

ガミラスでも過去類を見ない程の厳戒態勢に、出迎えに同行した兵士たちも未だかつてない緊張感に襲われ、機関銃を構える手が震えている。

 

「お待ちしておりました。今回、ユリーシャ様の総統府への護送を担当させていただきますガデル・タランと申します。遠路遥々よくお越しくださいました」

恭しく礼をしたのは、ガミラスの軍事作戦の立案に努め、大本営参謀次長のホストに付くガデル・タランだった。軍人気質で忠義に厚い彼は何事にも万全を敷く彼は、今回の護送の責任者として適任だった。

 

「どうぞこちらへ。……君は?」

「ユリーシャ様の身辺警護を務めておりますノラン・オシェット伍長と申します」

「ここに来るまでの間に、私が彼にお願いしました」

 

「分かりました。伍長、君もだ。警護の方は任せる」

「ザーベルク」

イスカンダルが決めたことだからタランは従ったのだろうか。それとも、彼の人となりを読み取って従ったからなのだろうか。この時、タランは二等ガミラス人であるはずのザルツ人を前にして嫌な顔はしなかった。隠している素振りもなかった。

 

「フラーケン、次元潜航艦クルーの皆。ユリーシャ様の護送に感謝する」

「仕事は終わりだ。後は好きに待つさ。ノラン。今度こそ達者でな」

「はい……! ハイニさんも、ありがとうございました」

「またチャーター便に乗りたきゃ来いよ?かっ飛ばすからな?」

「本当に助かりました。……では、失礼します!」

「おうっ!」

 

________

 

 

 

帝都バレラスは夜だった。長細い球体状のビルが竹林の様に地面から生え、それぞれが深緑の塗装されている。ビルの側面の窓から光が漏れていて、そこに住まう人々の生活が見て取れる。それらはかなりの高層ビルのようで、ガミラス戦役前の地球の風景を森は思い出していた。

 

ここまでの移動で、森は一言一言の発言には十分気を使っていた。自身の正体が露見する可能性があるとすれば、それは見た目や言語ではなく会話位の物。ガミラス人やイスカンダル人なら知っているであろう常識とかは流石に知らない。ここは大人しくしているのが得策。たとえ景色に興味を持って質問したりとかはご法度。一気に不信感を持たれて危うくなってしまうだろう。

 

それに森は、ガミラスとイスカンダルが二重惑星であるという事を知っている。知っていなければ、今こうしてバレラスの開口部から覗いている美しい星を見て感想を零している事だろう。

例えは、「ここの月は青いのね」など。

 

しかし何も喋らないというのも不信感を覚えられてしまう。なので時々会話を行うこと。

 

 

「これからどちらに向かうのですか……?」

「デスラー総統府になります。到着次第、デスラー総統への謁見が予定されております」

「……分かりました。こちらとしても失礼の無いように努めます」

やはり、この車両はデスラー総統の元に向かっている。本物のユリーシャがデスラーと面識があるのかは分からないが、上手く切り抜けてとにかくWunderがここまで来るまで誤魔化し切りたい。

要人警護用車両は音もなく高速道路を滑っていく。車輪で走る地球式とは違いUFOの様に浮遊しながら走る車両は護衛の装甲車両を連れて総統府への一本道。バレラスでも一番の大通りに出、天まで届くかの如く聳え立つ総統府「バレラスタワー」を正面に望む。

 

「……大砲みたい」

「大砲?」

不意に漏れ出てしまった言葉にタランが反応して、森は慌てる。

「あっ、ごめんなさい。でもすごく高いですねこの建造物は」

「バレラスタワーですね。ガミラス中でこのタワーを超すような建造物は存在していません。ユリーシャ様は大砲と形容されましたが、流石にあの先端から大口径の陽電子カノンは出ませんよ」

何とか疑われなかった様だ。森は微笑で誤魔化しバレラスタワーを見上げてみる

……目視だけでも全高1000m以上はある。かつての地球の大都市を思い出させるかような超高層建築に圧巻されながらも、森を乗せた車両は総統府へ滑っていった。

 

 


 

 

 

 

 

 

(ここは本来、……に満足した人だけが来……の場所。なのになん……の?)

 

これは……夢?でも凄く知ってる声なんだけど……

 

 

「……もうそろそろ死ぬの?」

 

 

リク?! 

 

 

(……まずは話を聞きなさい。リク)

 

リクと私を知ってる人なんて、あの時に私以外亡くなってしまったし……誰なの?

 

(色々言いたいことがあるけど、これはハッキリしているわ。あなたは死んでない)

 

まさか……風奏さんなの?

 

 

 

誰かに肩を揺さぶられている……お願い、もう少しだけ聞かせて。もう少しだけ見せて

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「アカツキ……?」

「……」

古代の言う通りに医務室に向かった結果、メルダはハルナを見つけることが出来た。だが、ハルナの様子がおかしかった。

眠っている様なのだが、声をかけても肩を軽く叩いてみても、ただ手を絡ませたまま全く動かない。医学的知識を持たないメルダからしてみても変な状況と感じたのか、一応首元に軽く触れて脈を確かめるが脈は正常のようだ。

佐渡は現在沖田艦長の往診中。従ってハルナの状態がおかしい事を伝えるのは走って艦長室に向かうしかない。

「サド先生を呼ぶべきか……」

「メル……ダ?」

 

何かから引き戻されたハルナはゆっくりと目を開けた。頭を重そうに持ち上げて焦点の合わない目をこする。だんだん焦点があってきて、ハルナは鮮明な景色を確認した。

「眠っていたのか……?」

「分からない。このままの状態でリクの事を考えていたら急に意識がフワフワしてきて、そのまま……」

指を絡めた状態の手を撫でながらそう答えたハルナの顔は少し落ち着いていたが、自分の身に何が起きたかの理解が追い付かず困惑していた。

 

理解しがたい事情にハルナが頭を回そうとすると、何処からか音が聞こえた。

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

ハルナのお腹が鳴り、一瞬赤面する。

「そういえばお昼時だな。何か食べないと倒れるぞ」

ちょうどいいと思い、メルダはハルナを連れて食堂に向かった。

 

 

 

______

 

 

 

 

「えっと、これってお昼ご飯?」

「そうだが?」

「ちがうこれはデザーt」

 

「お 昼 ご 飯 だ が ?」

 

ハルナを手近な席に座らせたメルダが注文してきたものは、「大マゼラン到達記念 マゼランパフェ」だった。時刻は艦内時間13時半ちょうど。各々定食を頼んで仲間たちとワイワイと食べている中で、何故かパフェを注文してきたメルダ。そしてそのパフェにはスプーンが二つ刺さっていた。

 

「以前に食べたアマノガワパフェよりもサイズが大きくてな。食べるのを手伝って欲しい」

メルダの言ったことは完全な噓……マゼランパフェのサイズは天の川パフェとそう変わらない。ただ味やトッピングが変更された新商品なだけだ。全く隠せていないバレバレ過ぎる嘘にハルナの方も緩み、スプーンを取る。

 

 

「美味しい……」

「テロンの考えたパフェは全ヒューマノイドの味覚を支配する事だろうな。パフェの魅力に囚われた私が全力で保証する」

「それ自分で言っちゃう?」

「別に問題ないだろう」

 

そんなたわいもない会話を展開し、パフェの器からアイスやチョコが消えていく。パフェも残り半分になったところで、メルダは本題を切り出した。

 

「アカツキ、済まないことをした」

「?」

 

「2人の置かれた状況を知らずにあんな話をしてしまった。私の過ちだ」

スプーンを器に置いて頭を深く下げた。

「えっちょっ……流石にあの場で瞬時に気付く事とか誰でも出来ないからメルダは悪くなんかないわ。でも、パフェ。誘ってくれてありがと」

 

「……そうか」

 

 

「……あの時ね、夢みたいな物を見ていたの。見覚えのある海でリクと……風奏さんが話していたけど、覚えているのはそれだけ」

ハルナの口から語られたのは、ハルナが見ていた景色だった。眠っているような状態でハルナが見ていた者は焦点が完全にあっておらず、ピンボケの映像を見ている様だったらしい。それでもリクの姿は認識できたようで、「誰なのか分からなかった」というヒント無しの八方塞がりな状況ではなかった。

「海? アカツキは海を見た事あるのか?」

「見た事はあるけど、テラフォーミングした火星の海はお世辞でもとても綺麗な物じゃなかったわ。でも……」

「どこかで見た事があるという事はただの夢という事でもないのだろう。それが現実で見た光景かどうかはこの際問題ではない。問題はフウカと言う人物だ。ムツキにとっては母親。アカツキにとっては最も親しかった人……と言う認識で良いか?」

 

 

「うん。私からしてみればお母さんに近い人かな。私の家片親でさ、お母さんの顔は知らないの」

「そうか……景色からアプローチをしよう。覚えている限りでヒントになり得そうな情報はないか?」

 

 

ハルナはそこから唸りながら思い出し始めた。糖分が足りないようでいつもはあまり食べないパフェを口に運びながら数分唸ってみると、一つの記憶がヒットした。

 

2196年。地球の中央大病院の一室での記憶だった。正確には場所を認識したのは意識を取り戻してからなのだが、場所を覚えておく都合上「夢の中」では困るため「中央大病院」と記憶している。

 

「……私が意識を失ってたらしいときに見たあの海。空の色は違うけど……」

「……我がガミラスにもあの世と言う概念は存在している。死者の国とか高位の空間だとか、宗教的な物としてある所にはあるらしい。だがアカツキが見たのはそれとはまた別のものかもしれない。……そして今ムツキがいるのは、アカツキが意識を失っていた時にいた空間と同じかもしれないな」

 

「同じって? 空の景色は違っていたけど……」

「例えば……これを見てくれ」

そういってメルダはパフェの器を指さした。

「この食べかけのパフェ。アカツキ側からは何が残ってるように見える? なるべく目線を下げた状態で見てくれ」

急にパフェの残りについて聞かれてきょとんとする。でも真剣なメルダの顔を見て、「何かあるのかな」と思ったハルナは器を見てみる。

「バニラのアイス……かな」

 

「そうか。こちらはバニラアイスにチョコチップ、それに茶色いチョコアイスの残りがあるぞ。色々混ざっているからマーブル柄となっている部分もある」

 

「でも、パフェとあの空間に何の関係があるの?」

「関係ある訳がないだろう。だが、アカツキのいた空間は見る人によって異なる景色を見せているのだろう。見る方向や受け取る情報とか様々な要素はあるかもしれないが」

 

「心象風景……って事?」

「恐らくな」

 

あの海の景色は心象風景とのこと。見る人ごとに姿を変える物だと仮説を立てたメルダにはまだ疑問が残っていた。

ハルナがやった事は、一般常識からみてもテレパシーじみている。他人が見ている風景をぼんやりとではあるが認識したそれは一般の理論に基づけばあらゆる科学者が一斉に匙を投げる事だろう。

だが、Wunderに再びやって来たメルダは山本とアスカから2人の大まかな関係を聞いていた。

 

 

「相思相愛」その物らしい。

 

 

互いが互いを想う状態であるそれは、時に危うい物ともなる。想い人が急に倒れてしまったら潰れてしまう可能性もある。

だがハルナは何とかして潰れないでいた。周りの助け等も借りながら何とか正常を保ってきた彼女は、事ある事にリクの病室にいるようになった。

 

そこまで分かってはいる。だがそれがどうしてテレパシーじみたものになるのか。メルダは分からなかった。

 

 

 

「おやおや。昼ごはんにパフェとは豪快な事にゃ」

ふと聞こえた方向に顔を向けてみると、マリと赤木博士が立っていた。

「マリと……アカギ博士。元気そうだ」

「この通りね。さっき名前思い出そうとしたでしょう?」

「そうではない……」

 

赤木博士に弄られながら頬を膨らますメルダを撫で繰り回すマリ。この女性陣の中で一番年齢が下なのは一応メルダだ。

一通り撫で繰り回したマリが何時もの口調でやや真面目な顔をした。

 

「ところでメルダ。随分難しい顔して唸ってたけど考え事かにゃ?」

「そうだ。私の手持ちの知恵と知識では解決しないのだ。出来れば援護を頼みたいのだが……アカツキ、話しても問題ないのか?」

「大丈夫。マリさんと博士なら、私達の昔話も知ってるから」

ハルナの同意も得て、メルダは事の経緯を話し始めた。

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

「他人が見ている景色が見えてしまったねぇ……。以心伝心とかそう言うのはあるけど、意識を失っている人間との事例は聞いたことがないわね。シナプス間を行き交う電気信号が手を介して他人に流れ込んだり引き込んだり。ハッキリ言って厳しいわね」

「やはり、科学的には厳しいのか?」

「科学を用いて人間の心理を解くのはたとえ逆立ちしても出来ないわ。倫理を捨てれば出来るかもしれないけどね。例えば、脳を丸々コンピュータにしたりとかね」

 

半ば恐ろしいことをすんなりいう辺り「出来るかと言われれば技術的には出来る」事を暗に伝えている。現にMAGIシステムは人間の脳の構造を応用した第七世代有機スーパーコンピュータ。その中核に「ギリギリまで脳を模した有機ユニット」を用いているあたり「やろうと思えば出来てしまう」のだろう。

 

「……ねぇ、リっくんの事どれくらい好きなの?」

「?!?!?! ゲッホゴッホゴッホォッ!! えぇ?!?!」

急に奥まで踏み入った質問に驚き、飲み込んだパフェの進行ルートが気管支に緊急変更。思い切り咽てしまった。

慌てたメルダが水を飲ませて何とか落ち着かせる。

 

「ちょっとマリ?! いきなり何聞いているの?!」

「ちょっと気になる事あって、もしかしたらそれて分かるかもしれないんですよ」

赤木博士がマリの爆弾を止めようとするがいきなり爆弾を投げつけたマリの顔はまじめだった。……間違ってもマリはギャグとしてコレをやったわけではない。革新に至るための質問としてコレを聞いたのだ。

 

「えっと……どれくらい好きって言われても……どう表現すればいいのか……分からないんです」

「え?」

「幼馴染っていうやつだと思うんです、小さい頃から傍に居て当たり前って感じだったので。でも冥王星の時に何かに撃たれたような衝撃とか音とか色々感じてしまって……」

 

「アカツキって、案外乙女になったんだな……」

「乙女って言うより、結ばれてからお互いをぶっ壊れ性能にしてしまうバフを付与し合ってる感じ。何でもいけるわけじゃないと思うけどぶっちゃけ勘さえつかめれば大抵出来るはずにゃ。それで……どれくらい好きなの?」

 

マリの言うぶっ壊れ性能……「突出したスキルを持っていたり勢力等のバランスを根底から破壊させる事が可能な性能」という意味を持つ昔のスラングで、現にこのぶっ壊れ性能保持者多数存在のお陰でイスカンダル航海は成り立っている。象徴的な物を上げてみると……

 

 

第一に沖田艦長。老練な指揮と状況判断と圧倒的な引き運でここまで船を引っ張て来た。第二次火星沖海戦では艦首陽電子衝撃砲でガミラス艦を撃沈し、英雄とも呼ばれた。バラン星では波動砲使用を敢行してエネルギープラント着弾と同時に急速バック。敵艦隊の重要な足を奪い七色星団では耐えて耐えて耐え抜いて、ここぞと言う時に艦の全スペックを開放し意表を突く攻撃を用いて敵艦隊を撃滅。敵旗艦をイオン乱流に誘い込んで押し込み、勝利をもぎ取った。

 

第二に真田副長と赤木博士。論理を武器にして状況を打開し、正体不明の敵に対しても対応を行った。

真田はイスカンダル次元波動理論を解明、それを元にして波動砲基礎理論を構築。

赤木博士はMAGI開発者として適正異星体からのハッキングに対して迎撃。無限進化を続ける敵に対しMAGIを用いて

自滅を促すプログラムを送り込んだ。

さらに、並行宇宙に存在を副次的ではあるが証明。Wunderに残されたマーキング跡からWunderの正体についての仮説を唱えた。

 

第三に2人でようやくぶっ壊れ性能枠として立つことが出来たハルナ&リク。

この夫妻に関しては言うまでもないが、2500mの人類史上でも見られない巨大艦艇を戦闘艦に改装。波動エンジンの実装と波動砲の開発の一端を担う。さらにプログラミングにも秀で、その場でのコード777の手動制御を敢行しそれを完璧に最後まで制御しきるほど。明らかに「人一人が持っていいスペック」を越えている。

終いには両想いになりスペックにブーストがかかり、2人そろっているときは「常時ブースト状態」とも呼ぶべきバランスブレイカーとなった。

 

 

そんなチートコンビ一角を担うハルナはと言うと……現在真っ赤になっていた。耳の先まで真っ赤にしていて近くに寄れば暖を取れそうな程になっていた。

「……分からないんですか? こうして話してるだけでも顔真っ赤ですから。……正直、一緒に居られるならもう何でもします。地球に帰った後の未来とか……気づかれないように何度も想像したくらいですから」

「告白して結ばれても尚こんな感じでぶっ壊れバフ……まさかにゃあ……」

 

何かに納得した感じのマリはタブレットを操作してとある資料を見せた。

 

「バフの話は置いといてっと……少し昔にね、地球でこんな学問があったのよ。これ見て」

そういってマリが見せたのは、形而上生物学の内容。かなり専門的な用語で書かれていて、メルダからしてみれば地球言語の嵐で全く読めない。

 

「これは……なんて書いてあるんだ?」

「形而上生物学と言う学問での生物構造の定義だね」

「形而上……形而……神? 神が絡んで来る学問か?」

 

「おお~飲み込み早いね~要はそういう事。」

 

「……いや分からない。生物は気の遠くなるような年月を通した進化の産物ではないのか?」

「それは通常の生物学の定義にゃ。こっちは神様絡みの生物学。」

いきなりの神様絡みの学問登場でますます議題はカオスになっていく。

しかし、そこに1つの石を投げ込み注目を集める。

 

「これはね、ユイさんの研究テーマだったのよ」

「ユイ?」

「私の先輩、すでに亡くなった人だけど。同じ大学でコレを専攻してた時があるんにゃ。確か、魂の物質化とか人間を神様に進化させようとか。周りからは魔術工房とか呼ばれてたらしいけどそんなの気にしない気にしない。でも今回必要なのはそこじゃないんにゃ」

 

口と一緒に指先を動かしてページを進めていくと、とあるページに辿り着いた。

 

「人間を形作る物質とその物質の器たる自我境界線。この二つで大抵の生物は成り立っているの。そして自我境界線が何らかの外的要因で飽和……つまり無くなってしまうと、何処からが自分で何処からが他人か分からなくなるの。簡単に行ったら、自身の形状が崩壊してしまう」

「ハルナっちがその景色を夢ではないと確信しているなら、もしかしたらだけど、お互いの自我境界線が溶けかかっているのかも」

「自我境界線……?」

「何処からが自分で何処からが他人かを線引きするための壁にゃ。それは大人になるまでに出来上がるけど、もしそれが愛とか恋とかで一部の壁が融合しかかってたら、リっくんの見てた景色をハルナっちが見れたのもこじ付けだけど説明が付くにゃ」

 

「えっと……それってどういう事ですか?」

「4年位前にリっくんがハルナっちにした事がハルナっちにも出来るって事。ハルナっちがあの海で必死に泳いでた時、リっくんが岸で引っ張り上げてくれたんでしょ? あの時のリっくんが『ハルナっちがが見ていた幻』じゃなくて『リっくん本人の意識』なら、可能性大有りじゃないかな。その頃から自我境界が融和しかけてたとするなら、今はもっとやりやすくなっているかもしれんにゃ」

 

 

マリの仮説としてはこうだ。

リクとハルナの持つ自我境界線が4年前から徐々に融和しているのではないかという事。融和しているという事は考えていることを双方向で多少不安定だがやり取りできて、「人間同士のシンクロを用いてリクをこちら側に引き戻せないか?」というのが、最終的な結論となる。

何故マリが「人間同士のシンクロ」に行きついたのか。それは、過去にユイから「形而上生物学を実証するとある巨大物の概念図」を見せられたからだ。

小型艦船にも匹敵するくらいのサイズを誇るそれは四肢を持ち、人型だった。搭乗員と機体を神経的に結んで……シンクロさせて稼働するそれは、機体と搭乗員の魂を結び人を超えた力を発揮する。

 

 

 

ハルナにも思い当たる事はある。

まだWunderがBußeだった頃の話になる。その頃は研究室と名を歌ってはいるが2人しかいない状況だったが、資料のやり取り等でも「あれ取って」と言ってすんなり伝わった。

そしてこれを挙げるのはどうかと思ったが、「ハルナって…片付けさえ出来れば……なんだけどな」と、朧気ではあるが「リクが何を考えているのか」を感知していた。不明瞭な部分はあれどちゃんと伝わっていた。

 

 

「人間同士のシンクロ……それを自分の意志で出来ればリクを引き戻せるの?」

「それでリっくんのいる空間に飛べればの話だけど。リっくんが意図に気付いて向こうからのアプローチとかあったら最高なんだけど、双方向受信はお互いにセンスがいるんにゃ。どちらかが秀でていても両方じゃなきゃ無理」

 

 

「分かりました。やってみます」

何とか作っていた微笑を取り払い、ハルナの目は決意をあらわにし輝いていた。マーズノイド特有の赤い虹彩が揺らめき、そこに火が灯った。

「……本来なら是が非でも止めるんだけど、リクハルならたぶん行ける。前例もあるみたいだし」

「本気……なんだな」

「止めないで。ねぇ……」

 

ハイライトの陰りを塗り潰し、その目の美しい虹彩は周囲の女性陣を見据える。その目に星を取り戻した……とでも例えるべきだろうか。

そんな彼女は最後に会話をこう締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きを理由にしても……いいよね」

 

 


 

 

「やはり、厳しいですか」

「こちらとしても手を結ぶ事は大きな力を得ることになるが、力が余りにも過剰になってしまう。互いを考えればここで別れる方が最善だろう」

 

「そうですか……」

 

艦長室での会談は進み、互いが紅茶を淹れ合いながら話を続けたが思う結果は得られなかったようだ。

沖田艦長は、この際に101艦隊との協力関係を築きたいと考えていたのだが、正直言って望みは薄かった。第一に、101艦隊がシルビア4……もといレプタポーダに突入を行ったことによる後始末の存在が大きかった。ガミラス本星にはカモフラージュ用でライブ映像を送り続けていたが「それですべて何とかなる」訳でもなく、早急に帰還するように言われており到着次第事情聴取が行われることだろう。

 

 

しかし、ガミラスへの突入作戦の存在を聞いたクダンは悪い笑みを浮かべてこう言った。

「なるほどなるほど、それなら少しだけ遅れて行こうかな? Wunderの大火力の巻き添えを食らえばフリングホルニもひとたまりもありませんからね」

 

 

突入作戦の存在を見て見ぬふりをしてちょっと遅れて行こうというのだ。政治的中枢が混乱している状況下で帰還し、「調査なんてやっていられる暇もない」状況下でこのマッチポンプをうやむやにしてしまおうというのだ。

この発言にディッツは激怒。しかしそれも早々に沈静化し頭を抱え始めた。激怒からの頭を抱えるこのモーションはもうテンプレートと化してしまっているのだろう。

 

 

「オキタ艦長済まない。レプタポーダにカチコミを入れた以上我々は寄り道無しで本星に向かわなければならない。状況報告と総統府への出頭、形だけでも調査を行わなければならない。力になりたいのは山々なのだが……」

 

「いえ、こちらとしても無茶なお願いだったことは理解しています。……少々欲が出てしまったという所でしょう」

「欲深いですな」

 

頭を掻いて誤魔化す沖田艦長を見て、ディッツは呆気に取られていた。大マゼランに侵攻、もとい航海してきていたテロン艦の艦長がこうしてガミラス軍の高官と何てことないように話している。

簡潔に言って、「イレギュラー中のイレギュラー」。

もしもこの光景を他の高官が見ていたらどうなるだろうか?

 

ハッキリ言って皆一斉にこの状況に目を見開く、もしくはクダンに与えられた「変人」という肩書がさらに豪華な物にになるだろう。

 

 

 

「とはいえ連絡要員くらいは必要ですな。例えばメルダとか」

「娘を派遣か……本気で言っているのか?」

「ここの所大忙しだったから、しばしの休息という事でどうだろうか?」

 

「……一理あるな。機体を工廠に持ち込む以上101艦隊は休息期間に入る。それにここから本星まではそれなりにかかる。オキタ艦長、この船は最終的にはイスカンダル星に向かうという事でよろしいか?」

 

 

「……まぁ良いか、娘にはこちらから伝えておこう」

「パパさんからの特別休暇か……娘が離れてくぞ心配か?」

「からかうな。子離れもせんといかん」

 

談義は終わり、紅茶は進む。再開と初対面を果たした沖田艦長とクダンとディッツ。互いの行く道は今回は違うが、結んだ親交は解けないだろう。

 

この時クダンはこんな事を思っていた。流石に口に出したらディッツに睨まれそうなのであえて口には出していないが、

 

 

 

 

「オキタ艦長とこの船の航海に幸あれ」と。

 




閑話でした
次の話でフリングホルニとWunderは分かれてWunderは元の航路に戻ります。ここまでエヴァ要素が少なくなりかけていたのでようやく入れることが出来たので満足です。
それにしてもメルダ……ある意味強キャラですね。本当にいてよかったです

それと、以前シルビア4へ100式が降下する描写がありましたが、読者の方にそれについて理工学の面からの考察をもらえました。
syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=298623&uid=311293


次の話はまだ製作中なのでまだまだ時間がかかると思います。多少長くなっても長ーく待ってもらえると嬉しいです。
それでは、まだ次回でお会いしましょう
(@^^)/~~~


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向かうべき星

本っ当に遅くなりましたっ!!!
書きたい話がどんどん増えていったり次の話の内容を考えるのにあたまをひねっていたらこんなに時間がかかってしまいました。

それと私事ながら、応用情報技術者試験に合格しました。(ひと月前に合格通知が来ました)

では、向かうべき星(原作そのまんまの名前ですが)始まり始まりです


 艦長日誌

 

 補修に立ち寄った惑星、レプタポーダでは、第101艦隊が強襲降下作戦を実行中だった。

 彼らの目的、それはレプタポーダ収容所に収容されていた高官「ガル・ディッツ提督」の救出。ガミラス本星には「緊急鎮圧作戦」と見せかけたうえでの作戦であり、たった一人の為に実行された作戦だった。

 

 我々は、ディッツ提督とクダン司令を交えた会談に臨んだ。

 現政権に対し疑問を持つディッツ提督ではあったが互いの経緯もあり、共に手を携えることは出来なかった。

 

 だが会談の過程で、我々はガミラスに関する有益な情報を幾つか手に入れることが出来た。

 ガミラス星の地形、帝都バレラス地表面の構造物に関わる情報、そして内政に関わる情報だった。彼らの指導者の名は、「アベルト・デスラー」。総統として現政権を掌握し、その広大な大小マゼランを恐怖で支配しているのだ。

 

 ディッツ提督とクダン司令はしばらくレプタポーダに残り、強襲作戦の事後処理とレプタポーダの管理体制の再編。そして「時機」を見てガミラス本星への出頭を行うらしい。

 我々は、袂を分かつしかなかったのだろうか。

 

 

 しかし、共闘出来ないまでも、彼らは連絡将校として1名を残してくれた。

 これは、未来に希望をつなぐことだと信じたい。

 

 尚、ガミラスに拉致された本艦の船務長の森一尉の生存も確認された。彼女と接したドメル夫人によると、森一尉は現在ユリーシャとして丁重に扱われている。だが、いつまでガミラスが誤認し続けるかは不明で、早急な救出、もしくはイスカンダル到達が求められる。

 

<録音終了>

 

 

《国連宇宙軍 恒星間航行宇宙戦艦Wunder艦長日誌 第144号より抜粋》

 

 


 

 

 その国の王となった者は、「国を手にした」と呼べるだろう。ならば、星を統べた者は「星を手にした」とも言い変えることが出来る。

 バレラスタワー高層階。地球換算で地上約2000mに設けられたこの空間にはその者に対しての玉座が据えられており、その背後にそびえるオブジェにはその者の威光、権力、この星で一番の力を持つことを言葉を使わずに示している。

「その手に星を掴む」を見事にまでに示したそれは天に突き上げるかの如く腕を上げ、その五指にはガミラス星が包まれていた。

 

「ようこそユリーシャ姫。我が大ガミラスへ」

「……お招きいただき、ありがとうございます。アベルト・デスラー総統」

 

 兎に角バレない様に。目の前に敵の頭がいるという事を理解しているがここは礼儀正しくしておく。

 

「ふむ。以前にお会いした時はもう少し無邪気な印象があったのだが」

 どうやら以前ユリーシャはデスラー総統と会っているらしい。恐らく総統本人がイスカンダルに赴いたのだろうが、流石にそのような事は知らない。

 

「その……かなり期間も空いてしまいまたので、少し緊張してしまっているのかもしれませんね」

「そうか。早速で悪いが、君には明後日に開催される慰霊祭に出席してもらえるかな」

「慰霊……ですか?」

「ガミラスでも指折りであろう者がヴンダーとの戦いで散った。その慰霊だ」

 

「分かりました。ご出席させていただきます」

 ガミラスだろうが地球だろうが死者は弔う。森も死者の弔いを蹴るような人ではなく、大人しく承諾した。そこには「怪しまれないようにする為」と言う思惑もあるかもしれないが、七色星団の戦いで双方多くの人が死んだことに心を痛めていた。せめてその魂が在るべき処へ帰る為にもと思い、決定したのだ。

 

「セレステラ、ユリーシャ姫は長旅でお疲れのようだ。騒動にも巻き込まれたと聞く。君の方でもてなしてくれ。それと、方法は任せるよ」

 

「かしこまりました」

 

 


 

 

「おりゃあっ!!」

 艦内に設置されている航空隊用の操縦用シミュレーションシステムに追加されたものがある。夢とロマンを大事にする真希波・マリ・イラストリアスの手によって、「航空機ではない何か」の操縦シミュレーションが追加されてしまったのだ。

 問題は、その何かが途方もなく巨大だという事。少なくとも今後人類が作れるのかどうか怪しいほどのサイズで、莫大な推力と豊富な兵器と大気圏突入能力と超光速航行を持ち、数多のガミラス艦を破壊してきたあの戦艦。

 

 NHG級 恒星間航行宇宙戦艦 Wunder

 

 何故かは分からないが、この戦艦の操縦プログラムが実装されたのだ。おまけに通常の操艦ではなく立体式操舵であるこの凝りようは

 そして今こうして声を上げながら操縦桿を引き艦体に急上昇を強いているのは、式波・アスカ・ラングレー。

 実装されている操縦シミュレーションを全て制覇した彼女はこうしてWunderに挑んでいるのである。

 

「テロン人は……何をしたいんだ?」

 

 

 傍で困惑しているメルダの感想にも頷ける。ここは航空隊が運用する機体の全てをシミュレーションで操作できるのだが、これは艦船だ。航海科が取り組む分なら違和感ないかもしれないが、アスカは航空隊。明らかにジャンルが異なる。操縦方式も違う。通常の航空機や宇宙用艦船は操縦桿……狭義の定義でコントロール・スティックという物が使われている。一部コスモシーガルやキ8型試作宙艇「こうのとり」、そしてWunderにはコントロールホイールが使われている。これらの名称の区別はあまり意識されていないのだが操縦方法は勿論大きく異なる。

 

 実際、アスカはシーガルやこうのとりの操縦をした事がない。従って「コントロールホイール」の扱いは初めてなのだが、画面上のWunderは常識を置き去りにしたような機動性を発揮している。2500mの戦艦に戦闘機のような機動性を発揮させ、錐揉み回転に宙返り。急加速急停止を画面上で披露している。

 

「あちゃ~やっちゃったか。慣性制御なかったら中の人ミンチにゃ。重力推進はフレキシブルで今の地球からしてみればオーバーテクノロジーにゃ……」

「マリ、ココに私をつれてきた理由はコレを見せる為ではないはずだ」

 何故こんなものを見せられているのかメルダには全く理解が出来なかったが、マリは意図もなく変な事はしないは聞いていたので、速やかに本題を出すように切り出した。

 

 

「鋭いにゃ。姫〜あがってにゃ」

「もーいーの?」

「データ取れた。もう少し感度上げとくにゃ」

 アスカをテストから上がらせたマリを見たメルダは、そのままとある場所に向かっていった。

 

 

 _________

 

 

 

 

「育っているじゃないか」

「そうなんよ~ハルナっち絶不調状態の頃から持ち回りで手入れしてたんにゃ」

「前はまだ小さかったからな。あと一息……くらいか?」

 場所を移したのは良かったのだが場所が場所。かなり日差しが強い空間に汗ばむ。作業着に着替えたマリとメルダはリクとハルナの実験農園に来ていた。リクが重傷を負ってハルナが絶不調だったここ数週間は、周りの面々が持ち回りで面倒を見ていた。土仕事に対して全く縁の無い真田や赤木博士まで手伝いに回った結果、主が不在の畑の作物達はすくすくと成長し、収穫まであと半月程となっていた。

 

 余談ではあるが、作業着に着替えたマリが自身のボディをメルダに自慢していたのだが、詳細はこの一行のみで残りは省く事にする。

(流石甲板部の作業服~布との隙間あって気持ちっいい!!)

 

 

 

 

「……ハルナっちの目、見た?」

「目か? ……輝いていたが」

「前まではね、目のハイライトが殆ど無かったんにゃ」

 大玉のスイカが鳴る畑に向かって、ホースで水をやるマリの目は、少しだけ陰りが出来ていた。

「私的には、ぶっ壊れバフの話はあながち間違っていないと思うんにゃ。リっくんと居る時は「覚醒っ!!」みたいに目がキラキラしてるしスペック降り切れるし、結ばれてから2か月近くたってるからもう「常時覚醒っ!」がデフォルトになってるんにゃ。それに沿って考えるとリっくんのいないハルナっちは絶不調かつ半暴走なんよ」

「……アスカから話は聞いた。3日3晩らしいな」

「そう、半暴走はそっから来てる。でも、メルダがこうして来て話してある程度暴走が止まったのは本当に助かってるんにゃ。ハルナっち的にも私達的にもね」

 

 そこまで言い切ったマリは大きな溜息をついた。

 

「正直言って、気が気でなかったし、こんなこと前にもあったって思いながらどうすればいいのか分からなかった自分が嫌だ。人類は同じ状況に立たされたらそれなりに考えて対応できるはずなのに、直接的な効果のある事は何も出来なかったんにゃ……」

「親しい人があんなになってしまって苦しんでるときにどうすればいいのか、私ね、ユイさんが死亡扱いになってその婚約者が苦しんでいるときに何もできなかったんだ。そしてその人は婚約者を取り戻すために全てを捨て始めてしまった。……変わってないんよ、私」

 

 ハイライトに陰りを見せた目で、マリはポツポツと呟いていた。マリは何が出来ないか思って話を聞いたりココアを淹れたり少しの間だけ姉になったりもした。

 それでもマリは効果的とは思っておらず、「ただの時間稼ぎにしかならなかった」と認識していた。

 そんな姿を見かねたメルダはマリからホースを受け取り、水を撒き始めた。

 

「マリ、恐らくだがムツキやアカツキよりも年上なのだろう?」

「そう。リっくんハルナっちが確か公的には25くらいで私が27。真田さんよりも2個下にゃ。んで実際の生年月日で計算するとハルリクが一番年上にゃ」

 

 

「年長物が傍にいるだけでも人は安心するだろう。私にはそういう経験が少ないから鵜呑みにはしないで欲しいが、マリは傍にいるだけでアカツキを安心させることが出来たと思っている。実際私は、上官であるクダン司令……いや叔父様や父上の傍に居る時、安心して肩の力を抜いてリラックスしている。今この時も、似たような感じだ」

 

「……そっか」

「私からしてみればあの2人の姉の様になっているじゃないか。兄弟か姉妹でもいるのか?」

「似たようなのはね。血縁はなしにゃ」

「それでもだと思う」

「……やれやれ、妹みたいな人が再起動してんのに、私何してんのかね」

 陰りが解けた顔を浮かべ始めたのを見て安心したメルダは、次の策を展開する事にした。

 

 

 

 

「覚悟」

「へ? どわぁぁぁあああっ!!」

 メルダの放水が見事にマリに命中し、あっという間にびしょ濡れになってしまった。水圧攻撃によってメガネがずり落ち素顔が露になってしまう。

 

「メルダぁ?!」

「やり返さないのか?」

「……やったなぁ?!」

 完全にやる気モードのマリは近くにかけてあったホースを手に取り直ちに放水開始。構えるホースはさながら「某光る剣」。びしょ濡れ状態も相まってさながら映画のワンシーンのようだ。

 

「古いSF映画のお約束は、光る剣同士の切り合いにゃ」

「水だけどな。雰囲気はある様だな」

 ほぼ同時に突撃をかます2人。その手に握られた得物を振り被り最初の一撃をお見舞いする。

 

 

 

 

 

 

 その後十数回の切り合いの末、2人は下着までびしょ濡れになり主計科のお世話になった。その後、水の使い過ぎで叱られるのだが、ここでは割愛する。

 その代わりと言っては何なんだが、柔らかな土の上に乗ったスイカは瑞々しい色をしていたようだ。

 

 


 

 

 総統府から出た森は、ノランの運転でとある場所に向かっていた。バレていない……と思いたいが今は油断が出来ない。この星の住民は自分以外全員ガミラス人。圧倒的敵地であるこの環境は、森の精神にもそれなりの負担を与えていた。

 

 何より、少し心が苦しい。

 Wunderから拉致される直前、森は古代の声を聴いたような気がしていた。麻酔のような気体をかがされて眠らされたはずだが、何故か残っていた。

 そっと手を胸に当て、今も残っていることを確かめる。

 

(古代くん……)

 

「まもなく到着します。降車の準備をお願いします」

 運転席に座るノランに促されて手荷物を纏め始めた。

 警護車両がゆっくりと路面に車輪を降ろし、目に映ったのは風変わりなオブジェのような場所だった。そこにはすでに車両が止まっていて、そこから1人の人物が降りた。

 

 ノランやほかのガミラス人とは異なる肌と少し高く伸びている耳。明らかにガミラス人とは違うと感じるその風貌の女性は、つい先程まで総統府で立っていた女性の一人だ。

 

 

 

 __________

 

 

 

 奇妙なオブジェの中は、帝都を一望出来る個室になっていた。帝都に面する側の壁全てがガラス張りで美しい夜景を一望できるのだが、この構造にした理由の内訳で最も大きいのは、空に浮かぶかの星を見るためだろう。

 その一室に設けられたラウンドソファの両端に腰かけた森とセレステラは、ヒルデが入れた上質な紅茶を受け取った。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

「……!」

「下がっていいわ。ヒルデ」

 

「はい。ルードゥ(高貴なる)イスカンダ(イスカンダル)

 ガミラス人だらけだろうと覚悟していたのだが、同じ肌の人に思わず親近感が出た。ガミラスに併合された民族ザルツ。その外見は地球人と同じで、同じ見た目で言語問題さえクリアできれば地球人の中に何ら違和感なく馴染めてしまうだろう。皮肉なことに、既にWunder艦内で証明された。

 

 そして、ガミラスに併合されたという事で、ガミラスの拡大政策と共にイスカンダルへの信仰心も一部では伝わった。イスカンダルと言う人型種族の長女的存在の威光は、確かに遍く星々に伝わり信仰され、本人の与り知らぬ所で崇められている。

 自分の知る紅茶とは明らかに違う青色紅茶。顔に出さず怪訝に思う。森は意を決して口を付けようとした時、急にセレステラから話しかけられた。

 

「彼女は純粋なガミラス人ではなく、下で待っている坊やと同じ種族の民族なの。父親があの野蛮人の船、ヴンダーと言う船と戦って、命を落としたのよ」

 

「私も同じ、生まれたのはこの星じゃない。でもあの子も私も、同じガミラス人なんだわ」

 

「貴方は、自分が何者か分かっていて?」

 核心を突くようなセレステラの発言に、森は一瞬息が詰まった。ここまで何とか誤魔化してきたのだが、遂にボロが出たのか。

 だが、森にはそれを打開する手段を持ち合わせておらず、ただ白を切るしかない。

 

「私は、イスカンダルのユリーシャ」

「いいえ違うわ」

 

「今はガミラスのユリーシャよ。あなたは籠の鳥、イスカンダルに対する駒にしか過ぎない」

 

「デスラー総統の駒……総統は、いったい何をなさるおつもりですか?」

 自身が駒。それは誰かの掌の上に居るという事。駒なら向こうの思惑で使われ、必要なくなったら切り捨てられる。自身の置かれている状況を把握した森は、さらに切り込んでみた。

 

「私を駒にするという事は、恐らくスターシャ姉様は把握していない。把握していればそれを止めに入る。お姉様に黙って何をする積もりなの」

 

 

「……遍く星々、その知的生命体の救済。それがイスカンダルの進む道。御立派な高説ですね。実際は自ら動かず、相手を試すだけの女王様」

 

「でも、我らが総統は違う。銀河を越えた共栄圏を築きそれを実践なさろうとしている。自分の手を汚そうとしないあの女とは違って」

 途端に始まったイスカンダル主義の話から始まったのは、総統を称えながらスターシャを批判する言葉だった。これには思わず森も顔を軽く顰めてしまう。これが敵の策略な同課は分からないが、森には単純な悪意のようにも感じられた。

 

「帝国の庇護のもとで人々は初めて本物の恒久平和を手に出来る。それこそが真の救済であり、彼にはそれが出来る。イスカンダルの掲げる救済はまがい物の救済でしかない」

 

「あなた、あの収容所に立ち寄ったのですって? どうだった?」

 

「ひどい場所だった」

「私ね、子供のころあの収容所にいたの。ガミラス人じゃないってだけで。そこからあの人がご自分の手で救ってくださったのよ。他種族であるはずの私達を」

 

 心酔、と言う言葉があるのだが、今のセレステラはそれに近いのではと森は思った。心からの敬意という物でもなく、絶対視と言う状態になっているセレスレラは、デスラー総統を命の恩人であり覇道を成し遂げることが出来る絶対的存在として見ていない。

 それはまるで、「愛しているかのように」

 

 

「貴方は、デスラー総統を愛しているの?」

 口からこぼれたその言葉に、セレステラは思わず噴き出した。随分と想定外の返しだったらしくセレステラの微笑みが笑みに替わった。

 

「ごめんなさいね、イスカンダルの姫君にしては随分と下世話な物言いなので……愛している……だなんて」

 

 

「これ、メランの極上品よ。冷めないうちにどうぞ。それともお口に合わなかったかしら」

 

 

 _______

 

 

「総統! このゲール旗下無敵艦隊3000隻は一路ガミラスを目指しております! しかしあとふた月、あとふた月は如何してもかかってしまいます! 総統にお目通りするために日夜歩みを進めてぇおr」

 

「もういい! ゲール君、頑張ってくれたまえ」

「はっ! ガーレ・デスr」

 ゲールは全力の「総統万歳」を放ったようだが、一方的に通信を切られた事で最後の1音が聞き取れなかった。

 そして一方的に通信を切ったご本人はウンザリ顔で、こめかみに指を当てていた。

 ゲールからの映像付き超空間通信が消えて次に表示されたのは、ガミラス近傍の星系図だった。

 

「ヴンダーは現在、我が方の絶対国防圏内に侵入。サレザーの玄関口に迫っています」

「聞けばヴンダーには、惑星を崩壊させるほどの兵器を持っているとか」

「問題は、本土防衛の艦隊が無いに等しいこの状況でどう対処するかだ」

 

「心配には及びません。親衛隊には虎の子の艦隊が残されています。本土防衛は国軍に代わり我々親衛隊が努めます」

 そう、現状ガミラスには本土防衛に使えるまともな艦隊が存在していない。あのゼーリックがバラン星に「観艦式という名のクーデター」として艦艇を集めた結果、ヴンダーによりゲシュタムの門を潰されて艦隊の即時召集がほぼ不可能となった。ちなみに、バラン星に集結した艦艇の総数は1万を優に超える。

 

 バラン星崩壊に飲まれたのはその半数。辛くも逃れその半数の艦艇達は通常のゲシュタム航法に頼るしかなくなり、今もゲシュタム航法で鈍行気味の行軍を続けている。

 

 そして国軍以外に艦艇を持っていて作戦行動が可能な組織がいる。デスラーの名のもとに活動を行う「親衛隊」と呼称される組織だ。

 ハッキリ言って精鋭部隊で、ギムレーが長官を務める治安維持組織という名の暴力装置は、その名に違わぬ活動とそのイメージに違わぬ活動を行い、時には植民星をも焼く軍事力を持っている。

 

 

「総統。実は、ぜひお耳に入れたい件がございます」

「何だね」

「あの女、ユリーシャなどではありません。恐らく、テロン人かと」

 セレステラから語られた真実は、その場にいた閣僚たちが予想し得なかったものであり、それゆえにデスラー総統以外の閣僚に激震をもたらした。

 

「それは……間違いないのか?!」

「垣間見えました」

「フンッ……魔女」

 

「それが何か問題なのかね?」

 しかし、デスラー総統はにとっては、些細な事でしかなかった。

 

「本物かどうかは、どうでもいいことなのだよ。イスカンダルの第3皇女が、大統合を承認してくれれば。そしてこの事を国民が信じてくれさえすればね」

「成程……仰る通りです」

 事を進めるための駒であるユリーシャが本物か偽物かは関係ない。正直なところ、もしもユリーシャの保護が失敗した場合、ザルツ人の一人を適当に連れてきてユリーシャと同じ容姿に変装させる手はずだった。

 つまり、実質偽物を使う事に変わりはない。

 国民が信じればいい。この際「イスカンダルの承認」はでっち上げでもいい。大事なのは大統合の実行であり、その過程に疑惑が残ろうがただ結果のみが真実。デスラーの一言で閣僚全員がその考えに染まり、ヒスはそのことに賛同の声を上げた。

 

「では諸君、儀式の時間だ」

 

 

 ________

 

 

 

 帝都バレラスの鐘が鳴り響く。普段は鳴らない鐘の音は帝都全域に鎮魂を伝え、失われた命に対し哀悼の意を捧げている。たとえそれに策謀が絡んでいたとしても。

 巨大な遺影のすぐ下には数える事を諦める程の数の花束が贈られており、彼の国民からの指示の高さが良く見える。

 Wunderとの戦いで散った名将エルク・ドメルその追悼式典は、総統府の手によって大々的に行われている。

 

「エルク・ドメル。国民の英雄であり私の友。君を失ったことは、私にとって心臓を抉られるに等しい。親愛なる臣民諸君も、思いは同じであると信じている。だが、悲しんでも彼は帰ってこない。その穴を埋めるのは何か。それはただ一つ」

 

 持ち前のカリスマ性を最大限に生かした演説は臣民の心に浸透し、涙を誘う効果も発揮する。悲しいことに、これらは全て原稿。デスラーの本心は一切入っていない。

 

「希望だ。希望こそが、我々の悲しみを癒し、未来を示してくれる」

 

「私は諸君らに希望を与えよう。民族の悲願。我々の宿命。それはガミラスとイスカンダルの大統合と言う希望だ! 古に二つに分かれた民族が今、長き時を越えて今再び一つとなる時が来たのだ」

 

「このことは、イスカンダル第三皇女ユリーシャ様の承認を得ることが出来た!」

 

「諸君! 大統合と言う希望に向かって踏み出そう! 未来に向かって歩みだそう! 帝国の飽くなき全身こそ、我が友ドメルが望んでいたことでもあるのだ!」

 

 もしもここにバーガーがいたら、もしもここに戦死したハイデルンがいたらどうだろうか。

 煮えたぎるかのような怒りをぶちまけていただろう。砕ける程奥歯を噛み締めている事だろう。

 

 ドメルの追悼式典も、総統府の閣僚たちからしてみれば政治的パフォーマンスでしかなかった。

 

 

 ________

 

 

 

 そして、この追悼式典を惑星間通信で生亜中継を見ていた人物が一人。

 静かな王宮の一室。そのモニターに映る「イスカンダル伝統衣装に身を包んだ女性」を見て、スターシャ・イスカンダルは驚愕した。

 

 

 ユリーシャ……?! 

 

 

 

 何を考えているの……?! アベルト……! 

 

 


 

 

 

 

 

「この作戦要綱だが……最後のは認められない」

「冗談……だよな」

 古代がみていた作戦要綱。その一番下に追加されていた救出作戦は、古代が発案したものでは無かった。発案者は南部だった。

「どの道ガミラスへの突入は確定事項だ。作戦に追加しても良いんじゃないか? 第二目標に捻じ込んだりとか」

 加藤が再考を勧めるが古代は押し殺している。行きたい助けたい取り戻したい感情よりも地球を優先する彼の心の痛みは手の震えに変換されていく。

 それをハルナと同じように隠そうとするが、ハルナにはバレていた。

 

(古代くん……。そうだ)

 何か思いついたハルナは会議をそっちのけにして思慮に浸り始める。その数秒後、「取り敢えず作ってみた手順」に従って周りの音が聞こえなくなる位の集中に入る。

 

 何も見えない、何も聞こえない。目と耳に回す感覚と神経を全て頭と掌に回し、頭と掌が痺れるのが分かる。

 

(こうして……えっこうなの……?)

 

「正しい手順」が急に頭に飛び込み慌ててリセット。正しい方法に従って手順をこなして準備が整った事を感じたハルナは、手探りで古代の右腕を掴んで持ち上げてみた。突然の行動に狼狽える古代とは対照的に物凄く落ち着いて目を閉じていたハルナは、確かな感覚を捉えた瞬間に目を開けた。

 

「古代君。私が言えることじゃないけど無理をし過ぎよ。森さんが生きているなら私はこの作戦案を推すし森さんを迎えに行って欲しい。それは、向こうも望んでいると思う。艦長。突入作戦の要綱の目標に追加をお願いします。第二目標、森船務長の救出にして下さい」

「暁さん?!」

「行きたい助けたい取り戻したいっていう気持ちは分かったわ。私はそれを押す。……私は、自分のすべき事が何なのか分かった。古代くんのすべき事は?」

 

「自分は……」

「まだ時間はあるから、ちゃんと考えて欲しい。自分が何をすべきかをね」

 左手を擦ってハルナは強く残る痺れを落とそうとするが、中々落ちずに結局そのままにした。

 自分が何をしたいのか、自分は何をするべきなのか。その問いに困ってしまった古代は黙り込んでしまい、周りの面々もどう進めればいいのか分からなくなってしまった。

「急にこんな話しちゃってごめんなさい。続けてください」

 

 _______

 

 

「暁君。さっきのは……」

「凄く簡単に言うと心を読んだって感じです。ちゃんと詳細話しますから」

 頭を掻きながらそう答えたハルナは、極端に鋭敏になったままの感覚を抑えようとしていた。試しもせずにリクを救いに行こうとするのはあまりにもリスキーだと感じたハルナは一度だけ古代の心に触れてみようと考えて即座に実行に移した。結果、古代が無理をしている事をダイレクトに感じて、的確に触れることが出来た。

 

「真田さん……リクをこっち側に引き戻す方法があります」

「……っ?!」

「理論も公式も詳細な原理も何もない。半分オカルトな学問に従ってはいるんですが、周りから見れば博打なんですけど……」

 ここまで言い切ったハルナは、リクの見ている景色を見た事を、「正しい方法」についてを真田に全て話した。

 

 

 

「……ここまでくるとオカルトじみてくるが、睦月君と暁君なら納得が出来てしまう。……これは推測だが、最悪の場合戻れなくなる可能性がある。その海岸のような精神空間に囚われた……魅入られたと言おうか。帰り道を失って、植物人間のようになる可能性も十分にある。それでも、行くのかい?」

 

「……私の、大好きな人は、リクです。もう他の物に引き付けられる事もなさそうなので、大丈夫かなと思います」

「そういう心配じゃない!!」

 

 突然声を上げた真田に気圧されハルナが一瞬身を引く。怒ってはいない、ただ「行かせたくない」と苦悩していた。両の手で顔を覆い、普段の雰囲気が全く感じ取れない。

 

 真田はリクとハルナを友人として見ている。「仕事仲間」なんかではなく「友人」。これからも、恐らくこの先も。リクが倒れたと知った真田は普段の彼では考えられない行動が多々見られたようで、睦月リクと暁ハルナという人物は真田の中でも大きい存在となっていた。少し年下で同レベルで話し合えて他愛無い会話も出来てしまう。後輩と言う立ち位置にいる新見とは明らかに違う2人との出会いは真田を変えた。否……変えてしまった。

 周りからは「コンピュータ人間」と言われていた防大時代からの印象は鳴りを潜めて少し親しみやすくなったが、友人を失う事の怖さが増えてしまった。

 それが真田の弱さとなってしまい、それが発露した。

 

 

「私は……怖いんだ。守……古代守は、それでも行くと言った。私はそれを止められずに友人を失った。君も同じだ。もう私は……俺は、同じ景色を見たくない」

 

「真田さん……」

 通路の脇の長椅子で蹲るようにして呟く真田は、今まで見せたことのない本音だった。出会ってからの変化はハルナも見てきた。真田がハルナとリクと出会い、古代守の弟である古代進に出会い、赤木博士やマリ、アスカと出会い、真田の人生上では短期間のうちに数多くの性質の異なる人と浅く、時に深く関わってきた。

 だから怖くなってしまった。親しい人がいなくなってしまう事に恐怖を覚えた真田は、リクが倒れたことに酷く動揺し、今こうしてハルナを引き留めてしまった。

 

 

「真田さん。以前、目覚めたらリクを怒らないとって言ってましたよね。……私も受けます。ちゃんと戻って叱られますので……彼のもとに、行かせてください」

 蹲る真田と目を合わせたハルナはもう一度懇願した。意識が戻らない危険性があるというのに怖がる素振りを全く見せないハルナは、「確信しかない」顔をしていた。これが出来るならいけると信じているそれは妄信や過信ではなく、真田がどれほど必死に手を伸ばしても決して届かない感覚や次元の上での確信になっていた。

 

 止められない。止まろうとしない。でも、ちゃんと帰ってくるかもしれない。

 俯いていた真田は、取り戻した光を失わないハルナの目を真っ直ぐに見た瞬間に、そう希望を抱いた。

 

 

 

 

「まさか私が、希望的観測を持つとはな……彼を、無事に引き戻したら、私の元に2人で来ること。これが絶対条件だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今行く」

 彼の右手を左手で握り、身に着けていたブレスレット一旦外して鎖になるように繋ぎ直す。束縛気味に見えてしまうがこれは気持ちだけの儀式めいたもので、彼との繋がりをより強固なものにする。温度を感じ、頭と左手だけに集中する。全ての光と音が消え、無になった空間に立った。

 前と同じ痺れが頭と掌に付きまとい、その掌に触れる感覚すら無くなりかける。でもそれだけは繫ぎ止めようとして脳に手繰り寄せる。

 

 何者かに渡されたその方法。ハルナはその得体のしれない方法に1つの答えを出していた。

 それは、自我境界線の融和と可変、そして同調を基礎3要素とする高深度シンクロ。人が持つ自我境界線に同調するために、境界線の強度能動的に変えて相手の波長に合わせる。合わせたら深く相手に入り込み、人の心にダイレクトに触れる。

 もし「シンクロ率」という値を作って計測すれば、間違いなく100%を超えるだろう。何%になるかは想像もつかない。

 

「……とても信じられない」というのが正直な感想。自分と他人の区別が付かなくなって元の自分に戻れない。マクスウェルの悪魔の様に、自分と他人を誰かに観測させないとココアの粉の様にあっと言う間に溶けてしまうと思う。

 

 この方法を渡してきた相手は、少なくとも「こうなると思えないから渡してきた」んじゃないかとハルナは思っている。でもこの考え方では、私の中に誰かが住んでいる様な物じゃないかと思えてしまって、思わず自分に失笑してしまった。

 正直言って誰なのかは分からない。別人格なのか幽霊なのかひたすらオカルト路線で考えたが、結局正体は不明。でも使えそうなら使うことにした。

 

 今からする事は心を感じることではない。自分とリクの境目をギリギリまで無くしてシンクロし、会いに行く。

 彼の中枢、彼がいると思うあの海に行くそれは、あの世一歩手前までの命がけの旅。ちょっと間違えば意識が帰って来れなくなる可能性もあるから、真田が止めようとするのも無理はなかった。

 

 

 

 行ってきます……

 

 

 

 艦橋に詰める友人と仲間たちにそう告げてハルナは目を瞑り、現実世界のハルナも目を閉じてベットに顔を埋めた。閉じられる瞼の隙間から見えた虹彩は赤ではなく、揺れる炎のような緋色に輝いていた。

 

 

 ___________

 

 

『全艦に達する。本艦は艦内時間1100にワープに入る。総員、第二種空間装備で待機。繰り返す、総員、第二種空間装備で待機』

 

 全ての砲塔へのエネルギーラインが解放され発射可能な状態に移行し、艦首魚雷発射管に魚雷が装填されていく。激戦を潜り抜けた航空隊員は各々自分の機体の元に移り、搭乗準備を進めていく。

「私は待機ですか……?」

 

「いや、第三格納庫に行ってくれ。いいか? EURO2を置いといた方のだぞ」

 機体が大破してそれ以降話が上がってきていない。ならば待機だろうと考えていたが、暗に「機体があるから出る準備をしろ」と伝えられたアスカは、そのまま左舷第三格納庫に直行した。

 

 

「おうっ。待っとったぞ」

「榎本さん!」

「改修型EURO2。俺らは改2号機って呼んどる」

 第三格納庫で出迎えたのは榎本。そして白と赤が目立つコスモファルコンに似た機体だった。

 榎本が紹介したその機体は、EURO2の面影を残し、手持ちのパーツで戦闘可能なまでに修復が行われた白と赤がの機体だ。

 被弾しパージしたエンジンの代わりはコスモファルコンの予備機から移植し、主翼の移植と合わせて両翼部の機関砲も移設。

 コックピットも所々傷ついているが既に修復が済んでおり、コンソール群は発艦可能な表示を出していた。

 

 

「まだお前さんに合わせた微調整が終わってないが、行くんだろ?」

「行きます!」

「存分にブン回してやれ。おい! 改2いつでも出せるように準備進めろ!」

「「「了解っ!」」」

 その怒号を背にして甲板科が第三格納庫で走り回り、アスカは復活した愛機に乗り込んだ。キャノピーが閉じ、正面で稼働しているコンソールをざっと見渡す。所々傷ついたり入れ替えられた部分もあるが、間違いなく乗りなれたコックピットだった。

 

「カッコ良くなったじゃん、改2」

 

 コンソールを軽く小突きアスカは再びその操縦桿を手に取った。コンソールにパイロット名が表示され、機体が主を再び迎え入れたのを確認したアスカは、管制に通信を繋げた。

 

『コントロールから改2号機へ。以降の通信ではコールサインをツーダッシュとする』

「了解。ツーダッシュからコントロールへ。コンディションよし、レーダー起動確認。スラスタ偏向ノズルの稼働チェック終了。異常表示なし」

 

『コントロール了解。艦橋より待機命令が出ているが、いざという時はツーダッシュの判断での発艦が許可されている。発艦タイミングをそちらに移譲する』

「ツーダッシュ了解。……榎本さん」

 形式上の交信に割り込む形で、アスカは一言加えた。

 

『どうした?』

「ありがとうございます。また飛べるようにしてくれて」

 

『おう。ちなみに何だが、尾翼の方にWunder主翼をマーキングをしてある。復活祝いだ』

 

 

 _________

 

 

 

 艦内の全ての区画に警報音が鳴り響き船外服を着用した乗員が慌ただしく持ち場に移っていく。そんな中医務室でも傷病者の受け入れ準備を進めていくが、原田の目に留まったのは、リクの眠るベットに突っ伏す形で微動だにしないハルナだった。

 

 

「暁さん?! 大丈夫ですか?! しっかりして下さい!!」

 どれだけハルナを揺さぶっても目を覚まさず、原田の大声に佐渡も駆け寄って来た。

 

「どうした?!」

「暁さんが目覚めません?! 脈と呼吸が通常よりも弱くて……どうなってるんですかこれ?!」

「知らん!! とにかく引き剥がせんのか?!」

「無理です?! 凄い握力で離れないんですよ?!」

 原田が若干泣き声になっているが無理はない。元中央大病院の看護師として様々な患者を見て、様々な症状を見てきたのだが、これはハッキリ言って異常だ。意識が戻らないのに信じられない程の握力で手を握り続け、冬眠のように脈と呼吸が弱くなっている。

 あまりにも奇妙で考えにくい状況が佐渡の頭を悩ませた。症例が見当たらず、どう対処するべきなのかが組み立てられない。

 

 だが、ハルナとリクの関係性を知っていた佐渡は、常識ではあり得ない仮説を頭の中で立ててしまった。

(いや、あり得ないんじゃが……現に睦月君はやってしまっとる。それの発展と考えるならばあるいは……)

 

 

「真琴はそのまま暁君の状態をモニターしとれ! 絶対に触れるんじゃない! 多分じゃが……引き剥がしたら永久に目を覚まさん」

 

 

 

 __________

 

 

 

 

「諸君。我々は今、地球から160000光年にいる。だが、そんなものはただの数字にしか過ぎない。地球はすぐ後ろにある。後ろにあって、諸君らの帰りを待っている。Wunderは間もなく、最終目的地であるサレザー恒星系、その内惑星系に到着する。そこにはイスカンダルがあり、同時にガミラスも存在している。目的地でもあり、敵地でもあるのだ。

 だが、我々は進まねばならない。そこに希望があり、それが地球を救うための希望であるからだ。そしてすぐ後ろの地球が、その希望を持って我々が帰るのを待っているからだ。Wunderはまもなくワープに入る。イスカンダルに向けた最後の大ワープだ。総員第1種戦闘配置のまま、ワープに備えよ」

 

 

「ワープ先座標設定終了。絶対銀経163.34度絶対銀緯-69.75度」

「確認。座標軸固定した」

「波動エンジン、最大出力。室圧上昇」

 もう何十回と繰り返してきたワープ。いつも通りの手順のはずなのだが、今回は緊張が違う。ワープアウト先は敵地。そして艦内乗組員は全員第2種空間装備……船外服を着用している。非常に特殊な例外はあれど皆が着用し、無重力状態の戦闘艦橋には艦橋メンバー以外にマリと赤木博士、ユリーシャとサーシャが詰めている。

 

 エンジンノズルから青い光が吹き出し、反動推進で艦体を押し出していく。正面に見すえるワームホールに自信を突き刺すほどの勢いをつけ、秒読みが始まる。

 

「5、4、3、2、1、ワープ!」

 

 両舷波動エンジンが雄叫びを上げ空間を飛び越える。ワームホールに押し込まれた境界面から目もくらむ位相光が撒き散らされて、噴射光のみを空間に残してWunderは飛び去った。

 

 

 ____

 

 

 

「ワープ終了。サレザー恒星系に侵入。現在、第五惑星公転軌道上です」

 

 ワープアウト先は、サレザー恒星系の外惑星系の端。内惑星系に程近い軌道上を回る第五惑星の軌道上だった。

 

「サレザー系第五惑星のエピドラだ」

 エピドラと命名されているその惑星は木星に極めて似通った見た目をしていて、その表面をやや赤黒い雲が渦を巻きゆっくりと滞留している。

 

 

 

「第四惑星軌道上に二連星を確認」

「拡大投影」

 全周スクリーンに拡大ウィンドウが開き、二つの星が表示された。

 片方は、青々とした水を蓄えた命の星。だがもう片方は黄緑に染まり、歪な開口部がいくつもその存在をアピールする骸のような星。

 

「やはりお隣はガミラスか……」

 

 

 敵地……それもガミラスまでもう1光年もない距離に居ながら、敵から何の介入もない。

 余りにも静かすぎる。冥王星の時と全く同じ感覚を皆味わっていた。

 

「……静かすぎる。本土防衛艦艇どころか親衛隊すら来ない。ここは既に絶対国防圏の内側なんだぞ……レーダ手、観測手。本当に何も映ってないのか?」

 

「はい。半径75光秒以内に敵艦影は確認出来ません」

「こちらもです。念の為次元震や空間波動エコーも確認してますが、反応ありません」

 岬と太田が言うように、レーダーと各種センサー機器は何も感知していない。サレザー恒星系にやってきたという事は、実質ガミラスとゼロ距離で睨んでいるようなものだ

 

「了解した……サナダ副長。念の為ゲシュタムフィールド……波動防壁の展開を進言させて貰えないだろうか。出すぎたことを言っているのは承知だが、胸騒ぎがする」

 

「……艦長、私は賛成です。かつてのメ2号作戦と同じく、何らかの搦め手を用いてくる可能性すらあります」

「任せる。ディッツ少尉、君の言う胸騒ぎはどのようなものだ?」

「……Wunderと艦隊戦をしても撃沈は出来ない。ならば他の手を使うしかない。搦め手で来るのか……何で来るのかは分からないが、一瞬で勝利が決するような物で攻撃を仕掛けてくる……。申し訳ない、上手く言葉に出来ない」

 

 

 __________

 

 

 

『こちらはまだ、80%の稼働率です。使用するのは時期尚早かと』

「構わないよタラン。アレが使えさえすればね」

 

『恐れながら総統。この施設は、来るべき遷都に備えられた物です。本来、ヴンダーに対するものではありません』

 

「私は構わないといった」

 

『……ザーベルク』

「では、準備を進めてくれ」

 タランは躊躇ったが、総統の命である以上逆らうことは出来ない。第二バレラスの中央コントロール棟に出向き、オペレータに指示を出していく。

 

『これより、特秘試製第0号……デスラー砲発射シークエンスに入る。各員持ち場に付け』

 特秘第0号……第二バレラスで開発が進められてきた高威力長射程決戦兵器。それは、ガミラス版次元波動理論を根幹とした兵器であり、デスラーの名を冠する唯一の砲でもある。

 その力の咆哮が目覚め、ゲシュ=タム・ドライブのエネルギーを貪り始めた。

『余剰エネルギーの充填を開始。薬室内圧力上昇』

『目標。サレザー星系第五惑星エピドラ付近。目標自動追尾設定よし』

『ゲシュ=タム・ドライブ各機安全出力解除。発射出力に移行、ドライブ内圧力上昇。各ゲシュ=タム・コア、励起状態を維持』

 

「遥々ここまで来たというのだ。その労を労い、丁重にお出迎えしなければな。君もここで見ていると良いよ」

「何をなさるおつもりですか」

「……戦争だよ」

 その顔は戦争を遊戯の様に見る邪悪な笑みで、森はその場から逃げたくなった。後ろに立つ森を眺めるように視線を向けたデスラーは、笑みを浮かべてそう放った。

 

『最終安全装置解除。撃鉄システム起動』

『自動カウントダウン開始します』 

10(ケス) 、 9(ピア) 、 8(パク) 、 7(ゼク) 、 6(ギグ) 、 5(ガル) 、 4(ジー) 、 3(ネル) 、 2(ベオ) 、 1(アル)

 

 

 

 

 

『「0(ゼオ)」』

 紅い光束が放たれ、正面スクリーンが閃光で染め上げられる。

 漆黒の宙を引き裂くようにして放たれたそれは周辺宙域に激しいスパークを撒き散らし、ただ目標に突き刺さる為だけに宙を疾走する。

 

 第4惑星軌道から第5惑星軌道までの距離は、地球換算で約5億2000万㎞。光の速さでも約1800秒、分換算で30分の時間がかかる。その空間を疾走し引き裂いていく光は真っ直ぐに第五惑星軌道上まで突き進み、やがて亜光速に到達する。

 赤い光束はスパークを撒き散らし、突き進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Wunderに向かって




お久しぶりです。朱色です。
本っ当に時間がかかってしまって申し訳ありません。合格してからいろいろアニメ見ていたらあっと言う間に水生の魔女が終了して、内容がちょっと詰まってちょっと息抜きに他の話を書いたりしていたらあっと言う間にひと
月以上たってしまいました。

お待たせしてしまい、本当に申し訳ありません……

次の話は、原作でいうところの「たった一人の戦争」です。
ちょっとニヤニヤしながら書いています。(殴)普通に書けうp主


それでは次の話でお会いしましょう。
(@^^)/~~~


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意志と生きる奇跡の船
月の日の輪の元に 前編


朱色です


前編公開後から一週間後に後編を公開します。
では前編をお楽しみください


「ガミラス・イスカンダルのポイントL1に高エネルギー反応!」

 岬のあげた報告は全員の耳に届き、メルダの胸騒ぎはある意味的中した事を思い知った。

 

「面舵一杯全速!!」

「了解っ!!!」

 沖田艦長の咄嗟の指示で島が船体を思い切り倒し、慣性制御でも殺しきれないGがかかる。その瞬間Wunderがついさっきまで存在していた空間を赤い光束が横切った。

 対閃光モードが遅れ、全周スクリーンに映る景色の半分が目も眩むような光に包まれていく。そのスパークが艦体側面を叩き、スクリーンの画像にノイズが生じる。

 

 辛くも直撃から逃れたWunder。その光ははるか後方の軌道に鎮座するエピドラに突き刺さる。ガス惑星の表面に突き刺さると有無を言わせずエピドラは崩壊し、星間物質を血のように撒き散らしていく。

 たった一射。たった一射で惑星は殺された。

 

 

 

「くっ……! 各部被害状況を報告!!」

「波動防壁被弾経始圧極低下及び消失! 船体第一装甲板一部融解」

「外部観測カメラの感度低下! 現在MAGIでの補正処理を行っています! 完全復旧まで30秒!」

「左舷対空砲座損害大きい! 対空砲塔砲身部の融解確認!」

「重力アンカーに異常表示確認! 使用不能!」

 

 

 かすめただけで少なくない損害を受けた現状に一同が戦慄し、これがもし直撃していたらどうなっていたかを各々が想像した。その光に一瞬で貫かれ艦体は爆散。ここで轟沈していただろう。

 

 

「後方の惑星、崩壊していきます」

「エピドラが……」

 

「星を死に至らしめる一撃。でも……これじゃあまるで波動砲だ」

 

「その通りかもしれない。博士、やはり出ましたね」

「ええ、重力場の変動が検出されているわ。こっちの波動砲とは少々異なるけど、十中八九波動砲ね」

 真田と赤木博士が睨む観測機器のモニターには、重力場の観測結果が表示されていた。通常は凪いでいるはずの重力場の波形が、先ほどの攻撃で大きく歪曲している。そしてその観測結果に重ねる形で表示されているのは「Wunderの波動砲による重力場の変動グラフ」。通常の光学兵器による攻撃ではこのような変動は見られない。

 つまり波動砲。もしくはそれに準ずる兵器だ。

 

「ガミラスが波動砲を……っ」

「何も不思議じゃないわ。波動エンジンとゲシュタム機関は理論がほぼ一緒っぽいのよ。出力がかなり違うだけ。実現には時間がかかるけど、やろうと思えばね。尤も、それはイスカンダルにとっては禁忌だけど」

 南部の衝撃を抑えながらそう言葉を付け加えた赤木博士は、ちらりとユリーシャとサーシャの方向を見た。悲痛な面持ちでエピドラの崩壊を見つめるその脳裏には、スターシャから聞かされてきたイスカンダルの愚行が再生されていた。

 星を焼き、銀河を地に染めた大帝国時代。波動砲の力で何もかもを焼き払ったそれはとうの昔のはず。それでも今放たれた閃光は、星を殺した。

 

「本艦はこれより、亜光速航行で第4惑星軌道に向かう」

 その衝撃を押し返すような声で、沖田艦長が命を下した。

 

「波動砲と言えど、亜光速の物体を狙撃するのは困難だ。連射が効かない兵器である以上、この機を逃さずに懐深くに入らぬ限り、活路は見出せん。作戦継続! 最大戦速! 目標、ガミラス!」

 

「亜光速航行用意! 両舷エンジンノズル収縮!」

「波動エンジン最大出力。各砲塔へのエネルギー供給を切れ。いいか、全部推進に回せ!」

 

 赤木博士とマリの操作で第二船体最後部のメインエンジンノズルの口径が絞られる。戦闘機のエンジンノズルの様に、Wunderのエンジンノズルはその口径を変更する事が可能になっている。戦闘機のノズル……コスモゼロにも採用されている「可変断面積機構」を利用した「コン・ダイ・ノズル」を艦艇用推進ノズルに採用した例は過去存在していない。

 それでも取り入れられたこれは、もしもの時用に頑張って設計したハルリクの、「こんなこともあろうかと」だった。

 

 

「収縮完了! 徳川さん!」

「最大出力を推進に回すぞ! 島! しっかり操艦せい!」

「了解! 出力どうぞ!」

 

 その瞬間、収縮したエンジンノズルから細く荒々しい豪炎が噴出し、艦内にGがかかる。艦内に微振動が走り急速に光速に迫っていく。現状の地球人類は通常空間で光速を超える事は出来ない。それでも、光速に限りなく近い速度を発揮し、Wunderは第四惑星軌道上に迫っていく。

 

 

 

 __________

 

 

 

 

『第二バレラスからの迎撃終了』

 前方の埋め尽くす光が落ち着き、元の漆黒の宇宙に代わっていく。

 

「何をなさったのですか」

「ちょっとした思い付きでね、波動エネルギーを武器に転用してみたのだよ」

「波動砲……」

 ちょっとした思い付き……本来は星を超える力である筈の波動エネルギーをちょっとした思い付きで波動砲にしてしまう。イスカンダル信仰の深いガミラスでそれをすることは禁忌であるはずのその所業を、デスラー総統……デスラーは何て事もないように実行した。そしてそれを自身の意思一つで放ち、星を崩壊させた。

 遥か昔のイスカンダルの再現とも呼ぶべきそれは、デスラーにとってはちょっとした思い付きでしかなかった。

 

「ヴンダー、消滅した模様」

「苦難の果て、目的地を目の前にして散る。なかなか美しい最期じゃないか。……ユリーシャ姫は気分がすぐれない様だ。外にお連れしたまえ」

 

 消滅という結果を直視できない森は、思わずデスラーから目を逸らした。森の髪に触れるデスラーは森を偽物と認識しているかは、森は正直分からない。

 

「参りましょう」

 

「着弾地点よりこちらに亜光速で接近する物体を確認。推定質量に該当するオブジェクト1。ヴンダーです」

 ノランに誘導される形で部屋から立ち去ろうとしてたその時、士官の一人がモニターに映る巨大な反応に一報を上げた。

「沈まないか。……ギムレー、始めてくれ」

『ザーベルク』

 

 

 


 

 

 

「11時から1時の方向に艦影確認。空母4!」

「波動防壁再展開用意」

「まだだ。まだ早い」

 真田の操作を沖田艦長が一言で止める。

「両舷半速。隼を降ろせ!」

 

 

 _________

 

 

 

「100加藤。発艦する!」

「アルファ2。山本出る!」

 前方に構える空母めがけて、Wunderの航空隊が一斉に発艦を始める。第二格納庫からはコスモファルコンが、第一格納庫からはコスモゼロ。そして再起を待ち望んだ機体が、今まさに左舷第三格納庫から発艦しようとしていた。

 

 

『格納庫内減圧終了。ハッチオープン』

 左舷第三格納庫が真空になり、側面のシャッター式ハッチが解放される。一部の演出好き整備員の手によって格納庫内の照明が順番に消灯していき、格納庫内の警告灯が回転を始める。さらに管制室と機体との通信が悪用されているようでBGMまで流れ始めた。

『コントロールからツーダッシュへ。艦橋からの発艦許可が下りた。発艦タイミングを式波・アスカ・ラングレーに譲渡する』

「ツーダッシュ了解! 出してください!」

 改2号機を掴む電磁アームが稼働し、改2号機を漆黒の宇宙空間に水平に移動させる。エンジンノズルに青く穏やかな噴射炎を抱え、宙に滲み始める。

 

「本艦周辺宙域に留意すべきオブジェクト無し。903VW/2、ツーダッシュ。発艦どうぞ」

『ツーダッシュ、式波・アスカ・ラングレー! 行きます!』

 電磁アームの拘束から解き放たれ、EURO2……改2号機は再び宙に戻った。宙に青い残光を引きながら準備運動を始め、機体の動きの自分の操作が嚙み合っていることを確認する

 

「演出やりすぎじゃないの……? まあ雰囲気あるからいいけどね」

 少々苦笑いしながらも再び操縦桿を握る。手元のスイッチ。見慣れた計器。傷ついた座席。そして新しい主翼とエンジン。全てが調子よく、身体の感覚に馴染む。NT-Dは……動くかどうか分からない。

 

「頼むわよ」

 ペダルを踏みこみ加速を感じ、アスカと改2号機は航空隊に合流した。

 

 

 

 __________

 

 

 

 

 

「守るべきは新しき都。ポーズを付けたいところですが、あの神殺しの船と同じであるならば、本気で守らねばなりませんね。物質転送システム、急ぎなさい」

 

 ギムレーが睨む方向には漆黒の宇宙があり、待機する複数のポルメリア級が映る。親衛隊仕様の青いポルメリアにはメランカが積載限界まで搭載され、現在はその最終チェックに入っている。

「ポルメリア級1~4より連絡。メランカ全機への爆装作業完了。発進可能です」

 

 

「総統からの命が下りました。仕掛けなさい」

「メランカ発進させろ!」

 ポルメリア級の艦底部シャッターが4か所開き、常に無重力環境の艦内でメランカが横に平行移動を始める。スラスターを吹かせてスライドしながら艦外に出たメランカは機体の向きと進行方向を合わせ、紡錘陣形を組み始める。

 その数実に120機。航空隊の規模としては6個飛行隊に及ぶ大編隊は、虚ろな目のパイロットをコックピットに抱えて稼働している。陣形の先端にあたる20機が前進し、艦体の正面の宙域で停止する。

 

 ……このメランカは、紛れもなく有人機だ。

 ただし、パイロットは各所の収容所惑星から「強制徴発」された収容犯……薬物投与により意図的に自我を消され、何も感じない人形となった者たち。彼らは与えられた指示のみを実行し、その命令に対し何も疑問も感情も抱かない。

 

「物質転送システムを起動」

「了解。第2バレラス第5ゲシュ=タム・ドライブ、過負荷運転を開始。次元重複領域の拡大を開始」

 

「転送座標、ヴンダー直上。及び直下」

 

「物質転送システム、照射準備完了」

 

「照射」

 第2バレラス実験棟の屋上に仮設された転送システムが瞬き、メランカ部隊の転送が始まる。主翼に懸架した空対艦ミサイル以外にも主翼の上部には爆薬が固定されている。懸架でも取り付けでもなく固定だ。そしてコクピットの操縦桿からは投下スイッチが抜かれている。

 正真正銘の特攻機体。20の生きた爆弾は空間の歪みに飲まれていき、神殺しの船に群がって逝く。

 

 


 

 

《警告 空間波動エコー感知。範囲、本艦直上及び直下。半径500m》

「空間波動エコーを検知!」

「位置、本艦直上及び直下!」

「来たか……! 対空戦闘用意! 艦底部VLS装填確認!」

「VLS発射管開け! 甲板VLSにカミナリサマ装填! 弾道入力よし!」

「各観測機器を耐EMモードに切りかえ!」

 

 待ち構えていた敵襲にスムーズに迎撃準備が進められる。空間波動エコーが発生したのは大体半径500mの円状の範囲。10数機程度を送り込むくらいならそこまで大きくなくていい。つまりここまで広いなら、かなりの物量で攻めてくることが考えられる。

 であるならば、対空では対処しきれないことは明確。そこで、カミナリサマによる無効化を主体とした防衛体制を整える。

 

「エコー極大値! 来ます!」

 

 太田とマリの観測により方向と範囲を特定。あとは出現し次第迎撃を行うだけだ。

 

「目標現出!」

「迎撃初め!」

 岬の目の前に表示されるレーダーに複数の機影が表示され始め、間髪入れずにカミナリサマが発射される。手始めに甲板VLS1番から発射されたカミナリサマ6発は、各々が等間隔に散らばり子機を展開。ショックカノン並の電圧を敵機に食らわせシステムを落としにかかる。

 

「第1波EMP作動確認。全機体の機能停止を確認」

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵機再加速確認! 直撃コースです!!」

 

「南部! 撃ち漏らすなよ!」

「対空始め!!」

 しかし、敵機はそれでも動きだした。

 咄嗟の古代の指示に間髪入れずに、南部が対空パルスレーザ砲塔を作動させ、MAGIによる照準補正を加えた掃射を始める。

 レーダー上に映る敵機20機を正確にロックオンし、数と演算と威力で構成された暴力の豪雨を叩きつけていく。

 

 一機、また一機と撃ち落とされていく。不可解なのは、どの機体も回避運動を取っていない事と、通常の航空機の爆発では考えられない程の爆発を起こしている事。

 パルスレーザ砲塔の至近に迫っても回避を取らない。そのことに沖田艦長は一つの最悪な結論に辿り着いた。

 

「特攻機か……っ! 恐らく敵機は全て特攻機だ! 甲板VLSを変更! 対空に入れ替えろ! 相原! 航空隊各機に連絡! 直掩機を数機残して敵空母への攻撃を命じろ!」

 

「了解! 甲板VLS全発射管を対空ミサイルに入れ替えます!」

「航空隊全機! 敵機は全機特攻機と推定される! 各機は敵航空母艦を撃破せよ!」

 パルスレーザー管制で手一杯な南部に代わりマリが火器管制に入り、甲板VLSの発射管を装填し直す。それに加えて相原が航空隊全機に一斉通信を開き、空母への攻撃命令を出す。

 航空機で特攻機を落とす事もできるかもしれない。だがこの場合、敵機の背後について撃ち落とすには味方機を艦体への衝突リスクを背負わせる事になる。逆に正面から迎え撃つ場合、遠方にいて顔を向け合っている機体を撃ち落とすには相当な技量が必要であり、迎撃確率が極端に下がってしまう。

 ならば、敵空母を叩く事で特攻を止めてもらう事が一番で、航空隊の生存確率が上がる。

 

 

「空間波動エコー確認! 第二波来ます!」

「方位は?!」

 

 

 

 

 

 

「……全方位です!!」

 

 

 

「波動防壁!」

 岬の叫び声と共にレーダーに機影が表示され、沖田艦長は咄嗟に波動防壁の展開を真田に命じた。

 特攻機が群がるWunderを守るために波動防壁は力強く立ちはだかり、機体すら残らない大爆発を受け止めていく。その爆発は凄まじく、避弾経始圧が瞬く間に下がっていき突破も時間の問題だ。

 その爆発の間隙を縫い、装填し直した対空ミサイルが発射されて波動防壁にあけた穴から目標に殺到する。

 

「これは……っ!」

 撮影に成功した敵機を解析していた真田は敵機の異常さの1つに気付き、それを察したメルダは真田のコンソールに飛びつきその画像を確認する。

 

 

「サナダ副長失礼する。1枚翼機……メランカか! だが機体に付いているこれは……」

「真田君、まさかとは思うけど……」

「ええ、敵機には高性能爆薬が外付けされています。それと追加のスラスターです」

「恐らくはカミナリサマ対策。システムが落ちたら点火するようね。命すら武器にするなんて……」

 

 嘗ての人類の間違いである第二次世界大戦。日本が選択した特攻と言う戦術は、自身の命を武器にして敵に突っ込み甚大な被害を与える戦術。それを他の星の軍も実行している。

 特攻がどんなに恐ろしい物でパイロットに何を強いるのか、それは軍人である彼らもよく分かっている。

 それでも特攻を敢行してくる敵機をそのまま迎え入れるわけにもいかない。航空隊から撃破報告を受け取るまで、何とかしのぐしかない。

 

「敵機至近! 直撃します!」

「衝撃に備えェ!」

 

 その瞬間大きな振動が走り、甲高い警報音が鳴り響いた。

「中央船体に直撃1! 全装甲板貫通火災確認!」

「ダメージコントロール隔壁閉鎖! 急げ!」

 

「4層の特殊装甲板を、一撃で……っ?!」

「狼狽えるな! 中央船体VLS装填状況は?!」

 

「装填完了しています! 対空です!」

「弾薬は気にするな。終末誘導を熱誘導に切り替え発射」

「了解! ターミネーターを熱モードに切り替え発射します! 南部さん! タイミングは?!」

「t-2、カウント、今!」

 南部のタイミングに合わせてマリが火器管制の発射スイッチを押し込み、中央船体のVLS発射管12基から艦対空ミサイルが飛び出した。

 終末誘導に熱探知を選択した対空ミサイル12機は敵機のエンジンの熱を狙って殺到し、近接信管による爆発炎と爆発時の破片で全機を潰し切った。

 

「全機撃墜! 損害無し!」

「第3波に備えろ! 再装填急げ! 航空隊からの連絡はどうか?!」

「未だ連絡なし!」

 

 

 


 

 

 

「航空隊各機に通達! 目標敵航空母艦数6! 各機視認次第攻撃行動に入れ!」

 Wunderに飛来する敵特攻機の攻撃を阻止するべく、航空隊全機は敵航空母艦にめがけて全機最大出力で宙を疾走している。

 その中でひときわ目立つ改2号機にはミサイルが満載されており、七色星団の重武装型EURO2を想起させている。

 

『隊長あの機体ってアレですよね?』

「そうだ。中尉……ああ面倒くせぇ、式波のEURO2の生まれ変わりで、魔改造修復の産物だ」

『へぇ~、隊長そんなん何で知ってんですか?』

 

「俺から頼みこんで突貫で進めてもらった。戦力は欲しいし、式波ずっとシミュの方で死に物狂いでやってんだぞ。そんなん見たらこうするしかないだろ」

 

 シミュレータに張り付いているアスカを、加藤はよく見ていた。努力する秀才キャラであることは加藤も部下を預から職業柄知っていたのだが、機体が大破しても尚生き残りいつ出ても良い様に鍛錬に励むアスカを見て、加藤は榎本と技術科に機体の修復を頼みこんでいた。

 その結果、戦力の増強と言う名目で修復が行われ、彼女にとっての後継機として改2号機が生まれたのだ。

 

『隊長案外優しいのね~』

「うるっせえっ!」

 

 

「加藤隊長」

 そんな内容を通信で流していたら、式波が通信に入り込んできた。

「式波か。問題発生か?」

『いえ、改修をお願いしてくれていたのは、隊長だったんですね』

「……聞こえてたのか」

『そりゃ勿論これオープン回線だからね。次からは個別にしといた方が良いっすね』

「うるせぇ! 予想目標地点まであと1分だ。通信切るぞ。それと式波」

『はい!』

「ぶっつけ本番だが機体の用意はした。あとは何とかしてくれ」

 次からは通信を開く時はオープンになっていないか確認しようと心に決めた加藤。徐に通信を切ろうとすると、何とも奇妙なセリフが飛び込んできた。

 

『やって見せろよ中尉っ!』

 

『何とでもなる筈だっ!』

 

『後継機だと?!』

 

『『『鳴らない言葉をもう一度描いて~』』』

「お前ら絶対真希波さんのアニメ見たろ?! どうせカボチャ男のアレだろ?!」

『隊長も知ってんですね。あのアニメ』

「揃ってシアタールームで上映すれば気にもするぞまったく」

 マリの映画アーカイブの一つ。

 余談ではあるが、過去に映像化不可能とも言われた傑作のひとつを航空隊が見ていたのだが、その上映後、恒例のシミュレータ勝負で例の構文が飛び交った。

 

 主にこの2文。

 

 

「やって見せろよ○○!」

「何とでもなる筈だ!」

 

 

 これが流行りに流行り、艦内では「航空隊構文」とも言われるほどになっていた。

 

「……っ! レーダーに反応! 12時の方向に艦影4! 見えるか?!」

『まんだ何も見えんよ?! でも遠くの方にバカでかいのがいる!』

「バカデカいの?! SID! レーダー半径広くしてくれ! 最大だ!」

《コマンドを実行します。本機のレーダー出力を全開にします》

 突然報告された巨大な何かに、加藤はレーダ半径を最大にしてそれを確認した。

 

「……っ?! 何だよコレクソデカいじゃねえか?!」

 突然の巨大物反応に、皆のアレな話が一斉に潮が引いたかのように収まる。と同時に臨戦態勢に入る。

 艦影4。プラス巨大な何か。

 今の所機影の方は確認されておらず敵の護衛期の存在はまずは置いておいて良さそうだ。

 

「玲と式波! 足早いのはお前らだ! 先行して情報を掴んでくれ! 」

『『了解!』』

 

 


 

 

「総統。スターシャ陛下より、ホットラインが届いております。直接、総統と」

 1人の親衛隊士官の報告に頷いたデスラーは、表示されたホログラムと向き合った。

『デスラー総統、一体どういうおつもりですか。波動エネルギーを兵器に転用するとは、正気の沙汰とは思えません』

「抗議かね?」

『そうです』

 目の前に現れたスターシャに物おじせずに言葉を交わしてゆく。だがスターシャは姿勢を崩さず、デスラーが放ったデスラー砲について抗議する。自身が与えたはずの技術を勝手に兵器に作り替えられたことに対する憤りはホログラム越しでも伝わるが、デスラーはそれに動じない。

 

「ならば、あのテロン人達にも抗議をしてみてはどうだろうか」

 

『どういうこと……』

 

「君が呼び寄せたあの船……あれを船と呼ぶかは君に任せるが、あれも波動エネルギーを武器に転用している」

 

『そんな……』

 自身が救いの手を差し伸べた星も同じ事をしていた。自身が起こした救済は間違っていたのかと一瞬考えてしまったスターシャは、表情を曇らせる。

 

「そう言えば君の妹。元気そうでよかったよ」

 

『どういう事……』

 

「私が命じて保護させたのだよ」

 その微笑は影により怪しい物となり、スターシャはデスラーの真意が読めない。それでも、怪しいことをしていることは目に見えていた。が未ラストイスカンダルの大統合。デスラー政策による大小マゼランの統合。今までの行いを挙げてゆけばキリがない。

 

『アベルト……いったい何を進めているの』

「君の為だ。スターシャ」

 

『もうやめて……アベルト』

「……そうか。残念だ」

 目線で通信を切らせたデスラーは再び正面を向き、戦況に目を光らせる。

 

「ヴンダー、依然接近中です」

「そうか。ギムレーに繋いでくれ」

 特攻攻撃を浴びても尚接近してくるヴンダー。バレラスタワーの航宙管制室では多数の報告が飛び交っている。それでも現状では場の空気を多少波立たせる程にしかならず、デスラーはギムレーへの通信を開くように伝えた、

『お呼びでしょうか? 総統』

「ギムレー君。首尾はどうだい?」

『特攻機隊第2波を転送し光学で観測を行いましたが、超常的な防空能力でほぼ全てが叩き落されています。ですが総統のご考案された電磁パルス対策が功を奏し、小規模ずつではありますが損害が確実に増えています』

 

 この特攻作戦の立案者はデスラー。各地の収容所からの思想犯の調達。そして薬物による自我消滅。国防軍のポルメリア級の接収と搭載機メランカの特攻仕様への改装。全てデスラーの指示であり、親衛隊はあくまでも実行部隊。

 薬物洗脳を受けた思想犯は皆危険思想に走った者であり、現在の政権の転覆やデスラーしか知らぬ国の秘密に触れた者。過激なクーデター派も含まれている。だが、冤罪だと分かっている者には一切手を付けていない。

 新たなる帝都とそこに住まう国民。そこに住まうのは限られた臣民で、欲や思想に塗れた者はいらない。

 その心境の表れが、この特攻作戦だった。

 

「神殺しの船……君はそのまま攻撃を続けてくれ。守るべきは新しき都。期待しているよ」

『ザーベルク』

 

 __________

 

 

「状況を報告せよ」

「現在、親衛隊各艦が防衛作戦を展開中です。第二バレラス周辺宙域にポルメリア級4。メランカ多数です」

「それと、転送システムの発動による空間波動エコーを確認しています」

 総統府バレラスタワーの危機管理センターに集まった閣僚の顔はみな厳しく、総統不在の中ヒスが指揮を執っている。

「ドメラーズ三世に搭載したと報告を受けたアレか」

「恐らくですが、反応を確認する限り転送システムでしょう」

 

(親衛隊とはいえ食い止められる保証は何処にも無い……だが国防軍の艦艇は無きに等しい。やはり親衛隊に頼るしかないのか……)

 

 ヒスは言い表せようの無い不安感に駆られ、それと同時にデスラーの不在が何故か結びついた。

 

 

「総統不在につき、全指揮を一時的に私が預かる! 本土防空隊各基地に緊急発進命令を! 動ける航空団は全部だ!」

「恐れながらヒス副総統。親衛隊による防衛戦が進行中である今、こちらで独自に動いて良いものなのでしょうか?」

 

「良くは無い。だが、総統不在と親衛隊がどうも気になる。……観測された発光の解析は済んでいるか?」

「正面に出します!」

 

「解析によりますと、ゲシュ=タム・ドライブ内部でのエネルギー変換に酷似しています。この波形に類似するものが1つ……ヴンダーの例の兵器に酷似しています」

「ヴンダーと同等の兵器か……!」

 第2バレラスの開発状況は、民間は勿論の事だが政府内部でも知らされていない者は多い。先程まで「何かが撃たれた」と言う情報でしかなかったが、それがヴンダーと同等のものということが、益々危機感を募らせる。

 

 そんな中でヒスは1つの可能性にぶち当たり、側近の1人に声をかけた。

 

 

 

 

「……帝都全域に避難勧告を出せるか? 済まないが、私の勘を信じて欲しい」




朱色です
ついにサレザー内惑星系突入です

この話をどのように書こうかなと思ったら、終戦日を超えてしまいました。
色々書いていたのですが、文全体の長さが20000を超えてしまったので今回は前後編に分けて作成と言う形にしました

個人的には後編とその後の話と波動砲の話を書くのがとても楽しみであり、サッサと書いてしまいたいのですが、内容的にかなり大きめの話になるので慎重に書いている感じになっています

後編は必ず1週間後に投稿されるように設定してありますが、その後の話はもう少しかかるかもしれません


では次のお話で(@^^)/~~~


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月と日の輪の元に 後編

メランカ特攻戦闘はそもそも書いてもいいのかどうか悩みました。

ではお楽しみください。月と日の輪の元に 後編です。


 加速度で体をシートの押し付けられながら、山本は自身の右を飛ぶ改2号機に目をやった。

 EURO2やコスモファルコンのような滑らかな機体デザインから、継ぎ接ぎで多少凹凸が多くなったデザインに変わっている。

 七色星団海戦の直後、山本はEURO2を見に行っていた。戻って来れたのが不思議な位の大破具合だったが、稼働可能なまでに修復が完了して今こうして最大速度で飛行している。

 

「まるで不死鳥ね」

『目視圏内に捉えた! 玲見える?!』

 アスカからの通信に意識を引き戻され、山本は前方の宙域に目を凝らす。

 

「……見えた! 空母6と要塞も確認! ハッキリだ……まって!」

『どうしたの?!』

「……何か光った。投光器みたいなんだけど、それにしては変に断続的に光ってる」

 

『……隊長に一本連絡入れて確認向かおう。飛ばす!』

「了解……!」

 スロットルを限界まで押し込み2機は流星となる。敵空母艦体は要塞を背にして陣を敷いている。恐らく守備艦隊としての行動だろう。ならば先程の光は何なのか。この宇宙空間でわざわざ投光器を使う理由があるのだろうか。

 

 

「行けば分かる筈……!」

(古代さんだってそうしたから!)

 

 脳裏にはアルファ1こと古代の姿があり、今回は出撃していないが彼もコスモゼロ改のパイロット。ハルナに動かされ、救いたいという気持ちが徐々に強くなってきている古代を見て、山本は自身の想いに反して退こうかと考えている。

「想い人」ではなく、「尊敬する人」として、自分はその人を陰で応援していよう。もしもこの作戦で古代が無事に森を救出できて笑顔が戻れば、自分は古代を陰で支えよう。そう思いながら、今回の作戦に参加している。

 この場に古代がいなくて良かったと内心で思っている。もし横で飛んでいるのがアスカでなく古代だったら、自分は間違いなくその決断に強力なブレーキをかけている事だろう。

 

 

『玲』

 全速力の飛行に届けられた戦友の声に、山本は耳を傾けた。

 

 

「分かってるわ。私は玲の友達でいる。航空隊の皆もいるでしょ? ちょっと変なの流行ってるけど」

 確かに変な物が流行っていると、山本も自覚している。そうだ。自身には航空隊と言う仲間がいた。なら、多少は寂しくないかもしれない。しばらくは心にぽっかり穴が開いたみたいな感覚になるかもしれないが、多分大丈夫だろう。

 視界に移り始めた巨大要塞、山本とアスカはその目標に向かって飛び続ける。

 

 

 __________

 

 

 

「第三波確認!」

「対空戦闘始めっ!!」

 Wunderに備え付けられたパルスレーザー砲塔が周囲の空間を赤い雨で満たす。波動防壁は敵の特攻で喪失した。ライフで受けるか全部撃ち落とすかの選択肢しか持てなくなったWunderは、消耗戦に突入し始めていた。

 

 

(恐らく要塞からの観測と偵察機体だろう)

「相原、直掩機に繋いでくれ。誰の機体だ?」

「篠原機と沢村機です」

「通信を繋いでくれ」

 ここまで正確な転送と特攻は、現地での観測と言う要素があるからだろう。ならば近隣宙域で息をひそめている観測機を落とせば、転送に必要な正確な座標は取得しにくくなるはずだ。

 

「篠原機。沢村機。こちら艦長だ。敵の空間跳躍には、正確な三次元的座標情報と跳躍地点付近での精密な空間観測情報、そして現地での観測を行う偵察機の存在が必要と思われる。両機には本艦周辺宙域での索敵行動と敵偵察機の撃墜を命ずる」

 

『篠原了解~』

『沢村了解』

 

(さて、これで何か分かるか……)

「対空の蓄熱状況はどうか?」

「対空砲塔の砲身がある程度放熱出来ましたのでまた暫くはやれます。敵の波動砲で砲身が融解した方はどうしようもありませんが……」

「構わない。篠原機と沢村機からの撃破報告が来るまで持てばいい」

 対空砲塔の苛烈を極める掃射により撃ち漏らしはあれど多くの特攻機を撃破することが出来た。しかし、砲身の強制冷却機構でも間に合わない程の掃射により、砲身の冷却として一定時間のクールタイムを挟まなければならなくなった。対空無しではなぶり殺される以上、そこはどうしても無視できない。

 

 直掩についていた沢村機と篠原機が飛び去り、Wunderの周囲には一時の静寂が戻った。

 

 

 


 

 

 

「第4波用意」

「照射準備急げ! 第四次航空隊配置につかせろ!」

 ハイゼラード級キルメナイムの艦橋で紅茶を嗜みながらギムレーは指示を下し、四回目の転送に入った。

 

「……レーダーに感あり! 敵航空機2 真っ直ぐこちらに向かって来ています」

「ハエがやって来ましたか……。ツヴァルケを出しなさい。掃除をしてもらいましょう」

 第二バレラスの断面、その開口部から青いツヴァルケが数機飛び立ち、そのまま正面方向を向いて加速。敵機の迎撃に向かった。

 

「転送座標は?」

「偵察機からの情報を入力中です」

「転送システム立ち上げなさい、手早く粉々にしましょう。反乱分子もまとめて処理です」

 

 

 ________

 

 

 

「アスカ、敵機確認数4!」

『確認した……!』

 正面の要塞から発艦した敵機が4機。倍以上の数を差し向けてきたが、アスカと山本は物怖じしない。機関砲ミサイル共にフル装備。蘇ったEURO2こと改2号機もいる、オマケに重武装。

 

「まずは敵機の撃破」

『それから謎の光。あんな数で私達を止めれるとか思ってるの?』

「慢心しない。でも、何とでもする」

 

 

『改2号機、エンゲージ!』

 全武装発射待機。安全装置解除。スロットル最大。その手順を踏むという事は、本気でやるという事。ゼロ改と改2号機は敵機に突っ込んでいく。敵機はそれに応じて散開して数に任せて回りこもうとするが、2機は二手に分かれて2対4の戦いに飛び込む。

 敵機が機銃を放つがそれを複雑かつ不規則な軌道で避け切り、高機動で相手の裏を取ろうとする。だが、そこは敵機も想定していたようで、もう一機がそれを許さずゼロ改の進路を塞ぎにかかる。だがそれを改2号機が機銃で牽制し敵機を退かせる。敵機も七色星団で遭遇した者よりも技量が高く、追い回そうとしたら防御され、その防御を剥がしたらまた追い回そうとする。

 辛うじて「追い回す」側になれているが、気を抜くと追い回される側になりかねない。

 

『玲、アレいける?』

「……やってみる! スタンバイ!」

 山本の正面にホロディスプレイが展開され、目標である敵機4機をロックオンする。保持してきたミサイルが目標を得た瞬間発射され、搭載された全てのミサイルが各々敵機を追い詰める。だがミサイルに与えられた使命は「敵機の撃墜」ではない。

 

 

「今!」

『フラァァァァッ!!』

 

 ミサイルはただの囮。敵機が迎撃したミサイルの爆炎を突っ切り、機銃掃射それぞれ2機撃墜。瞬きが出来ない程の高速戦闘と戦闘機乗りの勘で形勢を一気に逆転させる。最後の一機は果敢にこちらに向かってくるが、それに応じたアスカが改2号機を急加速させて敵機を正面に収める。

 

 

 

 刹那、互いの機銃が瞬く。

 

 

 

『居合切りじゃなく居合撃ちね』

 

 

 その言葉と共に敵機は爆散する。それを背にし、2機はさらに進んでいく。

 

 

 


 

 

 

「沢村~なんか見えるか?」

『レーダーには何も見えないですね。真っ暗ですよ』

「目視ね目視。さてさて……」

 直掩から放たれ偵察機殺しとなった沢村と篠原は、レーダーを睨んでいた。だが何も見えない以上ステルスだなと瞬時に悟り、目視に切り替える。

 

 

『篠さん! なんかいました!』

「いやお前早くね! 何処だ!」

「座標送ります!」

 余りにも早すぎる偵察機捕捉にツッコミを入れる篠原だが、ここまで早く発見できたことに実際驚いている。おまけにその座標はWunderの遥か上方。

 

 

「はは~ん。完全ステルスでレーダーに映らない究極忍者って感じか。やっちまうぞ!」

「やります!」

 こちらも間髪入れずに機首を敵機に向けて加速。ステルス機がまだ見えていないが、大まかな位置を把握して篠原がバルカンを乱れ撃ちしてステルス機をまずは退かせる。

 

「オラオラあっちいけ!」

 さらに内蔵ミサイルを無誘導の直進で放ち針路誘導。最大速力で回り込んでいる沢村に得物を追い込んでいく。敵機はそれに気づいていないかもしれないが、仮に気づいていてもこれは回避できない。熟練パイロットによる追い込み漁。その弾幕の網の目は細かく、逃れる術がない。

 

 

「篠原~食べちゃってくれ」

『い た だ き ま す』

 篠原の軽口にノリで帰した沢村によってミサイル発射。牙は確実に獲物に刺さり爆散した。

 

『ご ち そ う さ ま で し た』

「はいお粗末様。艦橋。こちら篠原機。沢村がステルス観測機を落とした。観測精度は下がったはずだから距離は詰めれる。これより直掩に戻る」

 

『艦橋了解』

 追い込み漁に使われたミサイルはファルコン内蔵型の3分の2。余りはあるがちょっと厳しい。

 

「沢村~戻る」

『はい!』

 任務完了。篠原と沢村は直掩に戻っていった。

 

 

 ________

 

 

 

「観測機墜とされました!」

「第4次転送、いけます!」

 

「照射」

「敵機急速接近! 本艦下部からです!」

 ギムレーの命令で再び転送が行われかけたが、突如挙げられた報告でスイッチに添えられた指を放してしまった。

 

「ツヴァルケ隊は何をやっていたのですか」

「……全機、撃墜されてます」

 

 

 

 ________

 

 

 

「あの尖塔の頂点。あの投光器ね!」

『ええ。アレが光ったから、アレが一番怪しい! 知らないけど!』

「勘ね。でも光ってるしチャージ完了って感じだから!」

 

 敵艦隊の隙間を下からすり抜け、敵要塞に侵入する。要塞ビル群の隙間を縫うように飛び、目標の尖塔に向かう。

 

 

『こちらブラボー1! お前ら飛ばし過ぎだ!』

「現状はどうですか?!」

 

『まもなく敵空母艦隊と会敵する! お前らはその投光器っぽいのを破壊しろ! 多分それで転送してる!』

「『了解!』」

 加藤率いる航空隊本隊は間もなく会敵。ならば最も怪しい投光器らしきものを壊すのは、今最も近い2人の役目だ。

 

『要塞ビル群を抜ける!』

「了解!」

 要塞ビル群を抜けるとその先は少し開けていて、目の前に尖塔が見える。その頂点には怪しい投光器が光をため込んでいる。

「あれでワープさせてんの?」

『多分! そうじゃなかったら航空機に波動エンジン付いていることになっちゃう』

「冗談でもやめてそれコワい。自分でワープする航空機とか恐怖の兵器じゃん」

 要塞表面を這うように低空飛行をする2機は、機首を天頂方向に強引に向けて垂直上昇を始める。両機のコスモエンジンの航跡が尖塔に沿うように引かれていき、宙を駆けあがる。二本の水色の航跡は真っ直ぐに引かれていき、瞬きすら許されない時間で目標の投光器らしき物に

 

 

「『今!!』」

 尖塔を駆け上り切る数舜前、2機は装備していたミサイルを投光器めがけて発射。狙いが付け辛い高機動状態の中、無誘導での発射により投光器に突き刺さる。

 照射準備を終えてエネルギーがたまっていた投光器……転送システムはスパークを散らし激しく明滅を起こし、その数瞬後爆発した。

 

「攻撃目標破壊完了! 隊長!」

『分かってらァ! 全機急降下! 空母艦隊と待機中の特攻機全部潰せ!』

『『『了解!』』』

 

 

 

 アスカと山本の眼下に広がる要塞の足元で、後続の航空隊が猛禽のごとく襲い掛かる。ロックオンしたミサイルが敵空母に突き刺さり、特攻機が無抵抗でハチの巣に変わっていく。

 

「野郎! 特攻なんてマネしやがって!」

 加藤の怒号と共にミサイルが放たれ、空母が爆発する。辛うじて爆発しなかった空母は対空砲塔を撒き散らす様に乱射されるが、その弾幕は航空隊を阻むには薄すぎたようで、コスモファルコンの侵入を防ぐことが出来ず、さらに一隻沈む。

 敵航空母艦からも対空防御が始まるが、艦底部の対空ががら空きなのを確認した航空隊は次々にミサイルを突き刺していき、全長383mの異形の船が焼かれていく。

 特攻機も機銃と機関砲で穴だらけになっていき、隊列が崩れ始める。だが、敵からは一切の反撃がない。

 

『隊長! こいつら反撃してきません変ですよ?!』

「無人機か?!」

『いえ……パイロットが乗ってます』

 

「こいつら……狂信者か何かなのか?」

 その報告を受けた加藤はうすら寒い何かを感じた。特攻戦術と一切反撃してこない有人機。だがそれでも敵であることに変わらず、加藤と航空隊は迷わず敵を撃破していく。

 

 

 

 


 

 

 

「転送システムオフライン!」

「前衛艦隊、空母に損害多数! メランカ隊ロスト!」

「……足止めはここまでです。行かせなさい。いずれにせよ総統は決行するでしょう」

 組織的戦闘力を失った状態……すなわち全滅と言う状態でも姿勢を崩さず声色も崩さない。静かに役目を終えると、ギムレーはキルメナイム周辺で警戒に当たっていたデストリア級とケルカピア級、メルトリア級を多数向かわせて、帝都防衛をしているかのように見せかける。

 

 

 __________

 

 

 

「先行した航空隊より入電! 敵航空母艦撃沈、後続の特攻隊の撃破を確認!」

「第四戦速、このままガミラス星に突入する。総員安全ベルト確認。航空隊全機に連絡。作戦終了後に全機回収を行う。全機ガミラス星の近傍宙域より離脱し、警戒に入れ」

 特攻隊の恐怖は去り、Wunderはガミラス星に突入することが出来るようになった。敵が次にどのような策を立ててくるのかが分からない。ならば直ちに増速して振り切るのみ。第四戦速まで増速しガミラス星目掛けて突入していく。

 

「6時より敵艦近づく!」

「構うな。そのまま大気圏突入、対閃光モード用意」

 全周スクリーンが暗くなり対閃光モードに切り替わる。一時的に光学情報の視覚化を制限した状態は目隠しに近く、マニュアル操艦……操艦を担う島の腕前にかかる。

 

 波動防壁を艦底部に薄く張り、大気圏突入時の摩擦熱を軽減していく。艦内に微振動が伝わり、大気の壁をその大翼で引き裂いていく。

 

「モニター、回復します。現在、ガミラス星赤道線上です」

 対閃光モードが解除され、景色の色彩が一気に広がる。紺色の空、森、そして空に浮かぶイスカンダルが映え、ついに目の前までやってきたことをその身で実感する。

 

「シマ航海長。帝都バレラスまでのルートを指示する、その通りに飛んで貰えるか?」

「了解。指示を頼みます」

 太田のコンソールに映るガミラス星地表面の情報をもとにしてメルダがナビゲートを行う。

 大気を震わせ、Wunderはガミラス星を駆け抜けてゆく。

 

 

 


 

 

 

「本土に敵の侵入を許すとは、親衛隊は何をやっとる!」

「ギムレー……役に立たないヤツめ」

 閣僚たちがギムレーに対し悪態をつく中、ヒスだけは厳しい顔をして指示を出した。

 

「……帝都全域に避難命令を出せ。勧告ではもう済まない」

「副総統! それは……?!」

 

「考えてみたまえ、我々がテロン人に行った事を。その報復を受けるのが今ということだろう。……無関係な臣民だけでも帝都から無理矢理にでも退避させるんだ。いいな」

 

「スクランブルの方はどうなっとる」

「はっ! 各基地より実働可能な航空団は全機上がりました」

 

「した事がした事だ。だが無抵抗というわけにもいかん。済まないが、皆付き合ってもらう」

 

 

 _______

 

 

「このまま直進で帝都バレラス……正面に確認できている外殻の開口部がそうだ」

「了解、針路0-0-0」

 地を震わせ、轟音を響かせ、木々を揺らして宙を裂く。

 帝都バレラスに侵入を仕掛けるWunderは、上空4000mを飛翔する。

 

「6時より追尾する敵艦、及び敵機急速接近!」

「距離は?」

 

「敵艦0.3光秒です。敵機はあと30秒で三式弾の射程に入ります」

「うむ。島、徳川君、可能な限り速度維持しつつ反転180度! 古代、三式弾対空用意!」

「機関は第四を維持しろ! 姿勢制御に回しても速力だけは落とすなよ!」

『慣性制御最大、どうぞ振り回してください』

 

「反転180度!」

 島の操艦と徳川機関長の機関調整と榎本による慣性制御調整で、Wunderはその巨体を振り回し後方を向く。大気圏内での反転180度は大気の壁を強引に押し退ける様な物で、艦体に震動が走る。

 

「第一第二対空三式用意!」

 第一第二主砲に三式弾が装填され、砲身が稼働し始める。仰角調整に数秒もかからずに照準が定まり、戦闘艦橋に発射準備完了の報が届く。

「対空三式撃ち方始め!」

 大気圏に轟音と衝撃波を響かせ、第一第二主砲から三式弾が六発発射される。重力で緩やかな曲線を描き、敵航空機の大軍の中に飛び込みそのまま起爆した。残りの航空機は、品切れに近い対空ミサイルに変わり特殊誘導ミサイルで根こそぎ潰す。

「敵航空機排除を確認! 敵艦近づく!」

「艦首戻せ、バレラスに降下する。ディッツ少尉」

「開口部近づく! 航海長!」

「全速急降下!」

 一気に高度を下げ、バレラスの開口部に飛び込む。いびつに割れた開口部から覗く煌びやかな都市部と天に突き刺すがごとくのタワーがその中心部に聳え立っている。

 

「ここが帝都バレラス。このルートを突破すれば、総統府に肉薄できる」

 

「うむ。本艦はこれより、敵中枢、デスラー総統府を突く」

 バレラスに降下したWunderはそのまま直進をかけ、高度1500mを維持しつつ第三船速で駆け抜けてゆく。6時方向から接近する敵艦はそれに泡を食ったかのようにさらなる加速をかけWunderに追いつこうとする。

 

「6時より接近する敵艦4、同行戦を仕掛ける模様です」

 

「主砲発射用意。大気圏内砲戦により、主砲は三式とする」

「了解! 第一から第四主砲に三式弾装填! 各砲塔回頭!」

 ショックカノンは陽電子砲の類であり、反粒子である陽電子を用いる以上、対消滅によりガンマ線が発生してしまう。宇宙空間であれば何ら問題はないが、大気圏内……それも人口密集地であれば多量のガンマ線の発生により周辺環境が終わってしまう。

 Wunderは現在バレラスへの突入を行っているが、あくまでも民間人に危害を加えるためではない。従って艦船のみの撃沈を行うのであれば、46㎝から放たれる三式のみで問題ない。

 

 

「照準合わせ、誤差修正1.03! 照準よし!」

 

「撃ち方始め!」

「撃てぇ!」

 轟音と共に12発の三式弾が放たれ、正確に指向された砲塔は発射煙に包まれる。砲弾は正確に敵艦に突き刺さり、4隻の艦艇は機関を破損しビル群を巻き込みながら爆発した。

 

「9時より12時に回り込む艦艇2!」

「再装填急げ!」

「あと10秒で衝突します!」

 

「真田、波動防壁を艦種に集中展開。速度そのまま!」

「了解、防壁展開します」

 

「進路そのまま! 衝撃に備え」

 その数秒後波動防壁に衝撃が走り、衝突した青いガミラス艦艇が大きく歪み三日月の様に折れ曲がった。そこから間髪入れずに爆発が起こる。

 

「このまま総統府側面に接舷する!」

 高度を1700まで上げ、Wunderは艦隊を大きく横に回し急減速。右側面をタワーに寄せる形で接舷した。多少揺れたが右舷を総統府にピッタリつける形で艦を停止させたWunderは、操艦を立体式操舵に切り替えて自身を重力で釣り上げ空中で静止した。

 

「接舷完了! 艦隊各部異常なし!」

 

「突入隊を出せ。古代、指揮を執れ」

「了解!」

 

 艦内に警報音が再び鳴り響き、古代はコンソールから離れようとする。

 

 

 

 ________

 

 

 

 

「ヴンダー、バレラスタワーに接舷しました!」

「接舷だと……? 動ける保安部隊を防衛に回せ。侵入を防ぐ」

 

「総統の所在をすぐに確認しなさい! テロン人なんかに決して触れさせてはなりません!」

「落ち着け……」

 

 

 

『デウスーラの分離シークエンスを開始します』

「デウスーラだと?」

 

 デウスーラはゼーリックの暗殺計画により爆沈したはず。それが閣僚の中での話。だが、そのデウスーラがどこかから発進しようとしているそのアナウンスに、一同騒然とする。

 デウスーラはデスラーの座乗艦で親衛隊のみで運用される。ここまで嫌と言う程繋がって来た親衛隊とデスラーに、閣僚全員は無関係とは思えなかった。

10(ケス) 、 9(ピア) 、 8(パク) 、 7(ゼク) 、 6(ギグ) 、 5(ガル)……』

 

「どいてっ!!」

 セレステラだけだ何かに気付き、バレラスタワー内部の回廊に向かって走り出した。あの回廊の内部には船が一隻固定されている。それは決して国防軍でも親衛隊の船でもなく、ガミラスに古くから伝わる星を渡るために船だった。もしかしたら……

 

4(ジー) 、 3(ネル) 、 2(ベオ) 、 1(アル) 、 0(ゼオ)

 

 バレラスタワー中心部に秘匿された艦艇に火が灯り、艦尾の主推進からガミラス艦特有の桃色の推進光が満ちる。噴煙と共に艦隊は浮上し始め、旧世代のロケットのごとくバレラスタワー内部を通り抜けて外部へと飛び出した。

 

 

「そんな……私を置いて……嘘よ……」

 セレステラの叫びも空しく響き、艦艇……デウスーラは宙へと昇っていく。緊急発進したデウスーラはそのままラグランジュポイントL1に向かってゆく。

 その艦橋には親衛隊の尉官、佐官がコンソールに詰め、デスラーが艦橋に上がるや否や一糸乱れぬ敬礼を見せる。

 

「総統。第二バレラスのコントロールは、まもなく掌握予定です」

「……予定通りだな。これより作戦行動に入る」

「ザーベルク」

 艦長のハルツ・レクターが敬礼し、艦橋要員の全員が作業に戻る。デスラーはそのまま用意された玉座に座る事もなくただただ立っていた。金色で装飾された艦橋、その正面に映るのは空間機動要塞都市第二バレラス。最大幅25キロを優に超える機動要塞は静かにL1に座し、王を待ち構えている。

 

 それも、王が何をするのかも知らずに。

 

 

 


 

 

 

「総統府から離脱する物体確認」

「脱出艦艇か?」

「これは……全長200m。大きいです」

 総統府から離脱する艦艇に一同騒然とし、突入準備が一瞬止まった。その瞬間、ユリーシャが何かを感じ、声を漏らした。

「感じる……ユキが乗っている」

「……っ! アレに雪が?!」

 

 ユリーシャの一言で突入準備を進めていた古代の手が止まり、思わず全周スクリーンの天頂を見上げる。

 さらに驚愕を乗せた一報がアナライザーから発せられた。

『警告。ラグランジュポイントL1ヨリ移動スル物体ヲ確認』

「拡大。正面に出してくれ」

 

 ___

 

 

 Wunderがバレラスに落下する物体を確認する1分前、第二バレラスの中央コントロールセンターは混乱していた。

「タラン長官! 中央コントロールシステムが外部からの介入を受けています! 現在防衛中ですが、最高位のアクセス権を使用されている様で長く持ちません!」

「最高位だと……っ?! どこからだ! 特定急げ!」

 

「このコマンドは……デウスーラ2世からの最高位アクセス権によるコマンドです」

「総統だと……?!」

 

「タラン長官! 第633工区が分離シークエンスに入ります!」

「……っ?! 非常用爆砕ボルト点火! 633工区の主エネルギー伝導管を爆破しろ!」

「ダメです! こちらからの制御を受け付けません!」

 

 プロセスの強引な停止を命ずるが、その時にはコントロール権限がデスラーに移ってしまっていた。633工区との接合面で爆砕ボルトによる分離が行われ、ゆっくりと分離が始まる。接続されていたケーブル類も接続部で綺麗に分離されて宙に浮く。

 慣性で離れたかと思えば、断面の巨大なメインスラスタ複数に光が灯り加速が開始されていく。そのまま落下する633工区は指数的に加速を続けてゆく。

 

 総質量6000万トンほどの塊は、下手な隕石よりも効果がある。一つの都市を文字通り潰すくらい訳もない、岩塊ではなく金属の塊である以上只の隕石よりもずっと質量がありずっと破壊力がある。

 そんなものが地表に落ちればどうなるか。まず落下地点は壊滅するだろう。舞い上がったチリは宙を覆いつくし、日の差し込みが極端に悪くなり気温低下。地殻変動に外殻崩壊。起こる事を挙げればキリがない。

 

「そんな……総統が……」

 コンソールを睨みつけるタランの目の前には、入港予定の欄外に表示されている「デウスーラ2世」の文字があった。

 意を決したタランは指揮を他の者に任せ、デウスーラの専用ドックに向かった。

 

 


 

 

 

 

 

「推定重量6000万tラグランジュポイントL1カラ降下シテキマス。推定落着ポイントハ、総統府。ツマリ、ココデス」

 アナライザーが確認した事実は戦闘艦橋に衝撃を与え、ただ事実を正面に投影された事実だけが堂々としていた。

 L1から落下する巨大構造物は落下軌道上の大気に焼かれるとはいえ、その殆どは地表面に落ちるだろう。

 

「突入待て。総統府から離脱し、艦首をあげろ」

 

「艦長……いったい何を……」

 

「バレラスに落下するあの質量を破壊する。あの質量を一撃で破壊しうる力は、波動砲を持って他にない。……力は正しく使われなければならない。それがメギドの火だとしても、向ける方向を間違えなければ正しく救う事が出来る」

 波動砲の使用。そして巨大構造物の破壊。それが自身とバレラスを守るための現状取れる最善の策であるという事は、皆一瞬で理解していた。

 

 

「力の咆哮の方向」その答えを示す瞬間が今であるという事を皆がこの言葉で理解した。

 

 

「言葉ではなく、その行動で示す。今は誰もが最善を尽くす時。自分がすべき事を自分が成すべき事を……だから私達がユキを……!」

 

「ダメだ」

 その言葉を止めた古代の目は、「決めた目」だった。

 

 

 

 

「それは、俺がすべき事……俺が示す事だ」

 

 

 

 

「艦長。自分に、ゼロ改での出撃許可をください」

「……古代。現時点をもって、君の戦術長としての任を解く。別命、古代一尉はこれより、森専務長救出の任を付け」

 

「はい!」

 沖田艦長の決定にユリーシャは一瞬膨れたが、古代と森の事を案じてか素直に引き下がった。素直に引き下がったことに沖田艦長は意外そうな顔をしたが、ユリーシャの態度にサーシャが申し訳なさそうな顔をしている事に気が付き何も言わない事にした。

 

「しかし艦長、現状波動砲の発射が可能なのは古代です。彼が抜けては……」

 現状、波動砲の発射権限を持っているのは、古代しかいない。「権限委譲」と言う手段もあるが、それには開発者側からの権限変更承認が必要であり、現状開発者がこの場にいない以上その手段は取れない。

「いや、それについては問題ない」

 妙に笑みを浮かべる沖田艦長に真田は疑問符を浮かべたが、その瞬間、沖田艦長のコンソールの表示の1つが点滅し、戦闘艦橋のハッチが解放された。外部から解放されたハッチの一同が目を向けると、そこに居た人物の存在と生存に一同は少なくない衝撃を覚えた。

 

 

 

「……波動砲は、僕達が撃ちます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外部から解放された戦闘艦橋のハッチ。そこに立っていたのは2人の人物だった。

 

 1人は紅い目を瞬かせ、白銀の髪が綺麗に結われている。

 

 もう1人は、頭に包帯を巻き左腕を吊っているが、力強く紅い目を瞬かせている。

 

 

 

 

 バレラスに落下する巨大構造物。それを見据える2人の目は決して怯えず、互いに混じり合った紅い光を携えていた。

 

 

 続く




後編公開です。
原作に沿って書くとどうしても原作のコピーになってしまうので、コピーにならない様に随所に工夫するのが楽しいですね。

色々忙しくなる頃合いですが、本格的に忙しくなってしまう前に書いてしまいましょう
ってことで書いてみました。

次の話ではハルリクと、それをずっと見守ってきた人たちの話になります。
では次の話でお会いしましょう
(@^^)/~~~


思ったよりも難作になりそうなので、かなりかかりそうです


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命の境を越えて

no date
(2028?~2199)



 目を開けた先には、無数の情報がある程度の秩序を保って周回する空間が広がっていた。それはハルナにとっても見知った情報があれば、リクしかもっていなかった記憶もあった。

 それをゆっくりと撫でてみる。

 精神空間と呼ぶべきこの空間ならば、触れることであらゆる情報を感じ取れる。それでも自分の中には取り込まないように、壊さないように細心の注意を払う。

 

 この状態ならば、息をするかのように他人の記憶操作が出来てしまう。催眠や擦り込み、精神医学のようなある程度確立された方法による外部からのアプローチではなく、直接記憶に触れて操作できる以上、一つ注意を怠る事で記憶の不可逆的な改変が起こる可能性がある。

 

 

「でも、いないわね」

 

 ここに彼はいない。果てしなく広がっている様に見えるその空間は彼の雰囲気を残しているが、彼の存在を感じ取れない。知覚さえ無限に引き伸ばす事が出来る空間で、彼を感じ取れない。

 

 廻る情報は風となり、結った髪を揺らしていく。一度気合を入れ直すために一旦髪を解いてヘアゴムで纏め直し始めた。

 また少し長くなったハルナの髪はこの空間でも目立ち、少し光沢のある髪がまた一纏めになる。

 

 ここにリクがいないなら、やっぱりあの空間にいる。そう結論付けたハルナは周りを見渡して知覚を無限大に引き伸ばして探してみる。同時に目で全て確認する。

 

 

 _________

 

 

 

「何もないなんてね……」

 その後、全てを知覚してから果てしなく広がっているこの空間の果てまで歩いて壁沿いに歩いても見たが、何も見当たらない、ただあるのは、ゆっくりと周回する情報群。中心に太陽でもあるかのように情報群はそれぞれ半径の異なる公転軌道を描き、それに付随する情報が月のように情報の周りを周回する。

 

 日食や月食の様に、同じ視点上に重なる事が滅多に起こらない軌道をそれぞれ描き、電子回路のような文様で構成された軌道の残光が彗星のように尾を引いて端から消えていく。

 

 

「太陽……中心……」

 思い当たる事はない。それでも気になる事があったハルナは、その軌道の内側に入り込み中心に向かって歩き始めた。魂はエンジンと言ってもいい。魂の無い人はただの人形と言うのが、マリの話した形而上生物学上の定義。魂が無かったら、人は考える事すらできず、「この情報の軌道は止まっているはず」なのだ。そして天文学も絡めると、惑星は、中心に恒星クラス以上の物体があるから回っていられる。魂を恒星とすれば、情報は惑星、衛星、小惑星等の星々。回り、年月を超え、形を変質させていく。

 

 そして魂がここになくても動いている理由。あの時何故手を握った時に握り返してきた理由。

 

 

 

 それは、睦月リクの魂は、まだこちら側との繋がりが残っているから。ハルナはそう結論付けた。

 

 

 

 中心に向かうにつれて情報の密度が上がってきて、それが次第にハルナにも流れ込んでくるようになった。

 抑えが効かず、莫大な情報の風……否、嵐に飛ばされないように踏ん張りながら一歩一歩確実に進んでいく。

 

 記憶と知識と感情の軌道が狭まり、中心に近づいていく事が分かる。行き交う情報の密度も跳ね上がり、ハルナは莫大な情報に対し頭を押さえて激しい頭痛に耐える。

 流れ込む情報の遮断なんてどうすればいいのか分からない。遮断、もしくは軽減する為の手段を持たない以上全部受け止めるしかなく、苦痛に顔が歪み視界すら霞んでいく。

 

 流れ込む情報に自身を塗り替えられそうになる。自身だったものが別の色に徐々に染まり始め、同じ白色なのに別の白色に変わっていく。

 

 

(私は私! それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもない!)

 

 

「グッ……う゛う゛ァッ……!」

 手段がない以上、上書きが始まった部分をさらに自分で上書きして上書きそのものを無かった事にする。上書きを知覚して自ら上書きを実行するプロセスを途方もない回数で実行し、過剰負荷で鼻血が垂れるのを感じた。しかし人一人を超えた処理能力でも全てを修正することは叶わず、少しずつではあるが書き換えられていく。

 しかし「一緒にいるからそのうちどうせ書き換わる」と割り切ったハルナは、修正不可能な部分や手が回らない部分を捨てて、自身の本質に関わる部分を重点的に守り始めた。

 脳がフル稼働し、枷を壊した処理に頭が熱がこもり汗が滲む。時折視界がブラックアウトを引き起こすが、思い切り頭を振って振り払う。

 震える瞳孔で見据えたのは軌道の中心。ぼんやりと見えるその方向にひび割れのような物があった。三次元空間の振る舞いをするこの空間にその存在を際立たせているそれは、軌道の中心から全方向に走るひび割れを持っている。

 

「ここっ……ね」

 痛む頭を抑えながらそのひび割れを見たハルナの感覚に何かが飛び込んできた。

 散々感じてきたリクの存在をそのひびから感じ取った。

 

 ここで、ハルナは自分の仮説を再確認するために、自分を中心にして軌道を広げてみた。自身を中心にして回る情報群は白いが、時折映えるような黒色の情報が紛れ込んでいる。

(黒……? イメージ的には白なんだけど、バグみたいなのかな?)

 ハルナからしてみれば、白は自身の色。正直言って黒のイメージがない。自身の記憶の中にも黒をイメージさせるような出来事はない。思わず首を傾げたが、一旦その疑問は懐にしまった。でも、自身を中心にして情報が回るという事は自身をもって立証された。現状リクの軌道の中心にはこのひびしかない。そこからリクを感じた。

 

 

 

「とにかくっ……やってみる」

 そのひびに慎重に触れてみる。その瞬間、何かに頭を揺さぶられた。

 軌道上を周回する情報から受けたものとは違う。ブラックホールのように強い引力を持ち、触れたものを何でも吸い込んでしまうそれに、半身を持って行かれそうになる。引き抜こうとするが抜けず、ただ境界面から無数の位相光を撒き散らしている。

 

(特異点ぶってるけどっ……ここからなら!!)

 

 そう決めたハルナは、自身の体をさらに特異点に近づけ、流れ込む景色を自身の視界に通した。

 無数の情報が形作る電脳にも似た景色を目に焼き付け、さらに奥に体を押し込んだ。その瞬間、身体を焼かれるような感覚に襲われ、声にならない悲鳴を上げてしまった。

 シナプスの一つ一つに暴力的な量の情報が流れ込み、頭が割れそうになる。

 

 咄嗟に手を引き抜こうとするが、強烈な引力に引き摺り込まれて引き抜けない。

 

 

(マズいっ……! これ……死っ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、誰かが強引に入ってきて、私を引っ張り上げた。

 

 

 

「何をしている?! 死にたいのか?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ?! お父さん……っ!」

 ハルナをギリギリのところで救ったのは、ハルナの父「暁零士」だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 零士の腕の中にハルナは収まっているが、その息は随分と荒かった。莫大な情報に叩かれてパンクしかけた自身を修復するかのように喘ぐように息をしていた。

 

「まずは落ち着け。話はそこからだ」

 零士は腕の中のハルナの背を優しく擦って何とか落ち着かせている。……40年ぶり。その時間を感じさせない父の香りに、ハルナは次第に落ち着いてきた。

 

 

「人一人の心には一人分の容積しかない。他の人と心を通してダイレクトに繋がろうとするとすぐさまパンクする。それが分からなかったのか?」

 静かにハルナを叱るその顔には、娘を想い、心配する表情が浮き出ていた。

 暁零士。ハルナの父親であり火星移民の初代にあたる彼は、既にその命を失っている。今の彼は、ハルナの記憶上でしか生きていないただの残滓。だが、その残滓が咄嗟の所でハルナを救い、ハルナの精神は焼き切れずに済んでいる。

 

「……と言うが、生きてるうちに理解するような事じゃないから、叱るのも意味ないな」

 

 目を閉じてため息をついた零士は、優しい目になってこう言った。

 

 

 

「とにかく、立派になったな。無茶をする所は薫そっくりだ」

 その一言で、ハルナの目から涙が溢れた。地球で目が覚めた時、必死で調べた。でも、被災者名簿に「暁零士」の名は無かった。

 

 

 それから40数年がたち、この精神世界で父と娘は再開した。

 

 

 

 

「お父さん……っ! お父……さん……っ!」

 

「そんなに泣くな。俺に対して泣くくらいなら、リク君が起きた時目一杯泣いてやれ……って言っても意味ないか」

 そう声をかけても泣いていたハルナを見た零士は、しばらく声をかけることを諦めてハルナの背を擦り続けた。

 

 

 


 

 

 

「すまんな。俺はもう死んでる。今こうしてお前と話してる俺は、お前の記憶、残滓の様な物だ。その内消えるだろう。アレから40年は経っているが、お前の体感上なら10年もないだろう。お前が忘れてないから、俺はこうしてまだ話が出来る」

 

 落ち着いたところで、零士は自分の状態を話し始めた。幽霊でも魂だけの状態でもなくただの残滓、その内消えてしまう。その事実はハルナののしかかったが、今は受けとめることが出来ている。

 

「大急ぎで来てみたんだが、何故あんな事をしていた?」

 

 その問いにハルナは、父から一歩離れ真っ直ぐ目を見つめ答える。

 

「リクを、現実世界に引き戻したいから」

 

「だからあんな危険な事をか……。ハルナ、ハッキリと言うが死ぬ可能性がある。さっきのアレで精神が焼き切れ、あの真田とか言う男の仮説通りになるぞ」

 

「……知ってるわ。一歩間違えたら植物人間って」

「分かってて何故行く」

 

 

 

「私が……」

「私が?」

 顔を真っ赤にして、ハルナは意を決して前を向いた。

 

 

 

 

 

「私が、リクの事を愛しているから」

 

 

 その言葉に、その目に、零士は気圧された。もう自分が知っている娘ではない。精神的に大きく成長し、その目はもう零士が知っている輝きではなかった。

 火星に住まう人類特有の赤みがかかったハルナの虹彩は、特別な力でも隠したかのように淡い光を抱えていた。

 

 

 それはまるで、ただの人間ではないかのように

 

 

「変りすぎだろ……まったく」

「?」

「もし俺が今でも生きてたら、リク君に『娘はやらん!』って気分だけでも言ってやりたかったなぁ気分だけでも。そんで『ハルナを絶対に幸せにします』とか聞いてみたかった。もう叶わんが」

 途端に妙な事を言い出した零士に困惑したハルナだったが、次の一言で我に返った。

「残滓は残滓なりにやるしかない。本当はもっと長い事見てるつもりだったが、お前を向こう側に行けるようにする」

 

 

 

 

 

 

 

「その代わり、俺は消えると思う」

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待って! 消えるって……」

 

「そのまんまの意味だ」

 

 そこから零士は、どのようにしてハルナを向こう側に送り出すのか、そしてどうして消えてしまうのかを事細かに説明した。生前、零士はこのような細かい説明を嫌っていて、いわゆる「見て理解しろ」というやり方の人間だった。

 だが、その零士が一から全て説明している以上、これは決して軽い気持ちで決めた事ではなく「覚悟を決めたうえでの決断」だという事を言葉を介して伝えてくる。

 

 

「……と言った感じだ。要は、お前から借りていた分を返して向こう側に行けるようにする。俺はそれを返したら残滓ではなくただの記憶となってしまう」

 

「でも!」

「現状これしか方法がない。消えるとはいっても、俺はただの記憶になるだけだ。そんなに気にするな」

 零士はそこまで言い切るとハルナの頭を自身の胸に当て、そのまま撫でた。職人の掌のようなごつごつとした掌は不思議と柔らかく感じ、暖かさが染みていく。

 

 

「折角最期を越えて会えたんだ。まあ父親らしいことをさせてくれよ」

 

 

「……っ」

「なんか柄でもないな、こうやるのも。まぁ最期くらいはいいか」

「お父さん、そういう事全然しなかったから」

「やり方分からんし母性とかどうすればいいのかチンプンカンプン。でもな……」

 

「優しい子に育ってくれてよかったよ」

 そう呟く零士は、酷く優しい目をしていた。気を抜けば泣いてしまいそうな顔をしているが、零士の胸に頭を押し付けられているハルナは、この事を知らない。

 

 

 

「んじゃ、返すぞ」

 その一言で、零士は言いようのない違和感を体全体に感じた。全身から何かが抜けていく感覚と強烈な脱力感に包まれていく。

 その反面ハルナは息が詰まる程の頭痛に襲われ、全身が強張った。

 

「怖がるな、これはお前なんだ、俺が間借りしてた分のな。決して異物じゃあない」

 

 歯を食いしばり痛みに耐え、父から受け取った自身を自身に組み込み始める。零士の手が触れる頭が熱く、痛みが和らいでいき、零士の額にも脂汗が滲んでいく。

 この曖昧な空間だからこそ繋がれる。境界が滲む零士はハルナが感じる痛みの半分以上を引き寄せ、自身を身代わりにした。

 

 

「ぐっ……うぁっ……はあ……はあ……」

 ハルナは全てを自身に組み込み終え、膝から崩れ落ちた。立てない程の疲労に加え引き摺る頭痛に視界がぼやける。

 

「頑張った……よく頑張った……っ」

 その様子を見るなり、零士は一旦ハルナを仰向けに寝かせ、自身もその横で寝転がった。

 

「痛むか」

「うん。戻った後が怖いくらいに」

「現実でも同じくらい痛むかもしれん。それはどうしても回避できない。すまん」

 

「お父さん」

「なんだ?」

 まだ痛むであろう頭を抑えながら、ハルナは立ち上がった。足取りはしっかりしている方だ。

 

 

「ありがとう……また話せて嬉しかった」

 

 

「……俺もだ。半世紀近くたってるし……本当の最期の会話になっちまってるけどな」

 

 

「じゃあな。気が向いたら俺の事を思い出してくれ」

 残り時間わずか。別れも早々に切り上げた零士は、指パッチン1つでハルナを情報の軌道の中心に飛ばした。

 輪郭が滲みだし、自身が細かくなって消えていく強烈な違和感に耐えて、零士はハルナを見送った。娘に気付かれないように声を上げず、苦しみながら平然を装っていた。

 

「薫のクセが俺にも移ってたのか」

 ここに現れなかった人の顔を浮かべながら消え逝く体に目を向けていると、よく知っている雰囲気の女性が背後にいることを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来ていたのか。薫」

 

「……」

 

「顔を合わせなくて良かったのか?」

 

「薫」と呼ばれたその女性は、俯きながら微笑んでいた。その雰囲気はハルナにも、零士にも似つかない。

 

「……合わせる顔がないな。多分覚えていないだろう」

 

「はぁ……お前がこうしてまだ存在していること自体が、ハルナはお前の事を覚えている証なんだよ。ただ乳幼児の頃の記憶だから引き出せないだけ」

 

「……」

 

「合わせる顔もないといいながら、お前はハルナを全力で手助けしてるじゃないか。対人シンクロ、これはお前の力だろ。受け継いだ分ではこんなこと起こらないし、お前より薄まってる」

 

「……」

 

「ハルナに俺の余裕を全部返したから、もう俺は残滓ですらなくなるだろうな。見守る事も話しかける事も出来なさそうだ。だから……代わりにお前に見守っててもらいたいんだ。俺みたいな残滓じゃあないから」

 

 

 

 

(よろしくな。薫)

 

「……心得た、私の大事な人」

 

 彼女、「薫」は零士の残滓の破片を胸に抱いた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 目が覚めると、ハルナは仰向けになっていた。恐らく父に引き抜かれた時に、頭を打っていたのだろう。それでも、父から受け取った自身が自身の精神の中に入っている事を確認したハルナは、父が死んでいない事を確認した。

 

 目頭が熱くなる。ハルナは目元を拭い、もう一度空間のひび割れに手を伸ばし、そのまま手を押し込んだ。

 さっきと同じように莫大な情報が流れ込む。体を焼かれるような感覚は変わらない。それでも、父を構成していた自身の領域も使い受け止めていく。

 

 ひび割れからほとばしる光が虹色に輝き、自身を包み込んでいく。自身の視界に押し入って来る景色を飲み込むようにして、その光はハルナを包み込んでいき……その景色の向こう側を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三途の川」と言う単語は、もしかしたら間違っているのかもしれない。

 その景色を見た最初に抱いたイメージはそれだった。

 だが「生きたまま越えてはならない境である」事は、共通しているらしい。

 

 真っ黒な空間がはるか先に見え、その周辺が極彩色の空間で染まっていて、吹き荒れる景色に黒いラインが矢のように自身の背後に飛び去って行く。

 触れられない空間。生者を拒む最深部から、身を潰すかのような圧力が体に伝わり、前に進めない。

 

 

「あの先に……っ」

 

 這いつくばってでも先に進む。進めるならどんな方法でもいい。ハルナは今、ずっと想っている人の為にしか動けない。人類でも地球でもなく、ただの一人の大事な人のため。

 その人が帰って来れるなら、どんなことでもする。だから父親との本当の最期を受け入れた。だから身を焼くような痛みに耐えられた。

 今だって、身を焼くような痛みに晒されている。恐らくそれを感じる感覚すら余裕がなく、それを感じる感覚すら麻痺しているのだろう。必死に歯を食いしばり、一歩一歩圧力に抗いにじり寄っていく。

 

 

「行かせてよ!!!!」

 

 

 進むたびに押し戻されかける。それでもハルナは進むのをやめない。恐らく、これが成功したらハルナはこっ酷く叱られ絞られるだろう。今こうして進み続けているだけで摩耗している。

 精神が焼き切れる事は「死」と同意義。肉体を器としたとき、精神や魂はその器に収まるモノ。中身が焼き切れる……無くなってしまうとそれはただの死体でしかない。

 

 自身の姿が揺らぎ、燃え上がる。不定形になり始める自身に目もくれず、触れられない領域に触れようとする。

 だが強力な圧力に阻まれ、その掌を押し付ける事すらできない。

 

 

 

 

「彼を……っ」

 

 

 圧力を強引に押しのけ……

 

 

「返して……っ!!!」

 

 

 その掌を、境界面に打ち付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 意志が大きく鼓動を打つ。

 

 

 

 

 

 

 

 知らない繋がりが今、震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「零士さんと私の子を、私は支える」

 

 白い髪、紅い目。ハルナに瓜二つの見た目でありながら、唯一違うのは髪型がショートカットである事。まるでハルナの生き写しのような女性が、いつの間にか横にいた。

 一体誰なのか。ハルナの脳にその疑問が渦を巻くが、声が響いた。

 

 

「零士さんを知ってる人……だ。今はそれで納得して欲しい」

 間髪入れずに言葉を紡いだ声は、ハルナも知らない声だったが安心感があった。零士にも似た安心感。何故同じものと感じたのかは分からないが、敵ではない事だけは分かった。

 

「お父さんの知り合い……貴方も私の記憶なんですか……っ?」

「私は零士さんのように記憶上の残滓ではない。詳細を語ろうとすると途方もなく長い話となる。だから、今は一切の詳細を省かせてもらう」

 

 その女性は、圧力に吹き飛ばされそうなハルナを受け止め、こう言葉を紡いだ。

 

「私の名前は4……いいえ、薫。零士さんと私の子を、私は助ける。零士さんの遺志と私の意志で」

 

 その女性……薫は、その掌を境界面に突き出した。

 

「境界面に穴を開ける。肉体的死を経験した私では生前と同等のことは出来ない。あなたは零士さんと私の子。私と同じことをしてもある程度は持つ。息を合わせて」

「分かった。どうすればいいの?」

「やり方は送った。それを信じて実行して欲しい」

 

 薫の言う通り、ハルナの意識野にはすでのその方法があった。ハルナが実行した対人シンクロと似通った手順に、ハルナは1つの可能性を見つけた。

 

「薫さん……いや、お母さんがここに来るまでの方法を送ったの……?」

「……済まない、実は最初からこっそりと支援を行っていた。元々気付かれないようにやるつもりだったが、零士さんに頼まれた以上、私は断れない。零士さんは私の大事な人だからな」

 

 困ったような笑みを向ける薫は額に汗を浮かべている。ハルナは、薫と自身の父の関係性を既に察知していた。ハルナは母親の存在を今まで知らなかった。シングルファーザーの環境で育った以上知らないのは当然なのだが、零士はハルナの母の事を頑なに話そうとしなかった。「知らない事がお前の為にもなる」といってハルナの興味に対して突っぱねていたのだが、何故突っぱねていたのかが最後まで分からなかった。

 でも母親であるという事はこのたった数分の会話で察していた以上、ハルナは今は何も聞かない事にした。

 

「こうして横で微笑みを向けている」事が、たった一つにして最も大きい証拠だから。

 

「やり方は理解したか? 大本は私がハルナに伝えたシンクロに近い。準備は?」

「……まだ完全には理解できてないけど、やってみる」

「分かった。……いや、理解したかを聞く意味はなかったかもしれんな」

「どういうことなの?」

 

 

「零士さんと私の子だからだ。子は親を信じ、親は子を信じる」

 そう言った薫は大きく息を吸い、微笑みを真剣な顔に変え正面の境界面を睨んだ。

 

「行くぞ」

 

「うん……!」

 ハルナも境界面に掌を突き出し、こう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ATフィールド、全開……っ!!」」

 白い髪を揺らし、両の手を障壁に押し当てる。その瞬間、女性の掌から光輝く壁のような物が可視化されていく。心の壁……「自我境界線」や「絶対恐怖領域」とも呼称されるそれを自らの意思で展開できる彼女は、その壁を境界面に押し当て波打たせる。

 

 

 薫の発するATフィールドが煌めきを増し、境界面との距離がわずかずつではあるが縮まっていく。喉が裂ける程の声を張り上げ、向けられる全ての精神をATフィールドの集中させる。精神空間そのものが揺れ、景色にノイズがかかり始める。

 自らが焼き切れる可能性も厭わず空間に穴を穿とうとさらに力を籠める。自分の精神をATフィールドにフィードバックし、自身の母と同調していく。初めて扱う物なのにとても使いやすい。薫が今使っているからだろうか。生前から薫が扱ってたからだろうか。その真意を確かめる方法はないが、境界面に張られている2枚のATフィールドは1枚の赤く輝く壁に変わっていく。

 

「開っ……きな……っさい……っ!」

「お願い……っ!!」

 境界面の波打ちはどんどん激しくなり、さらに軋みを上げる。

 

 

 

「う゛う゛う゛う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァァァッ!!!」

 

 人間の精神から引き出される力は無限に等しい。だが、無限に出せるはずの力を人間はセーブしている。それは、「自分を壊さないようにする為」であり、外してはならないリミッターがかかっているからである。

 だが、外そうと思ってもこれは外せない。リミッターの存在を知らないから、そしてそもそも外せないからである。

 

 

 

 だが、ハルナはそれを壊した。それも跡形もなく。

 

 

 

 限界を超えたフィールドは輝き、暴力的な勢いで背から噴出し二対の光の翼となった。一気に感覚が広がった強烈な違和感に思わず吐きそうになったが、無理矢理押し戻す。

 何かが壊れてもう戻れない、元の自分には戻れないだろう。でも彼を救いたい。ATフィールドを……自分そのものを、思いの丈をありったけ乗せて境界面に押し付け、境界面が酷い軋みをあげて凹ませる。

 

「良いぞ!!」

 薫がそれに反応しハルナの後ろに回り、フィールドに回していた集中を切ってハルナに力を送る事に回す。

 変容したハルナに驚き固まりかけた薫だが、薫はそれに近い物を見た事がある。同じ人を見た事があるのではない。ただ、幼い薫の記憶に残る施設で見せられた記憶、自分に刻み込まれた使命として見せられたモノにそれはあった。二対の翼。薫の忌々しい記憶にある2対の翼よりもずっと美しく、鮮やかで、綺麗だった。

 

 水色、そして橙色。

 白い2人を示す互いの色を纏い、自分でもあり彼でもあるATフィールドを行使する。境界面にひびが入り始め、ハルナと薫はさらに力を籠める。

 光の翼もさらに輝きを増し、さらに拡大していく意識に自身が薄れそうになる。だが「睦月リク」という大事な人が錨となり、人ではない何かにならないギリギリを保っている。

 

 

(お願い、引き止めて……っ!!)

 

 

 そう決めたハルナは一瞬の躊躇と共に、錨に全てを任せて自身の意識の全部を振った。

 振り切れ拡大する意識を錨が繫ぎ止め、ATフィールドに変えた強大な意志全てをぶつけた。

 大きく歪んだ境界面に大きなヒビが入り、破片が散らばり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、境界面は割れた。

 

 

 

 

 

 

「急げ、そう長く持たない」

「分かった! お母さん!」

 

「何だ?」

 

「……ありがとう!」

 

「ああ。貴方は零士さんと私の子だ。手早く済ませてくれ。抑えてはいるが、気を抜いたらさっさと修復されてしまう」

 

 薫が抑え込む破孔を背にし、ハルナは自身の母の声を聴いた。中性的な声に乗せられた思いはハルナに届き、その破孔に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「お願いします、風奏さん」

 

 

 


 

 

 

 分かったことは、この空間は出口が無いという事。そして、ここに居る人の心をダイレクトに描くことが出来るという事。

 ここに来た時は輪郭が消えてしまいそうな真っ白な空間だったのに、今では夜明け前のような風景になっている。

 水平線の向こうに今か今かと焦らされる陽が顔を出そうとして、そこから一切陽が動いていない。

 そしてここの風景に合致する記憶を見つけた。

 2140年、火星のクルジスから東にいったユートピア海のあたり。観光地として整備されていたそこに、家族ぐるみで旅行に来てたんだったな。

 そこで月……じゃなくて沈んでいくフォボスと昇ってくる太陽を見ていたんだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ここは本来、人生に本当に満足した人だけが来るはずの場所。なのになんでいるの?」

 砂浜に腰を下ろしていた時、不意に声が聞こえた。ここには自分以外誰もいなかったはずなのに、女性の声が聞こえた。

 酷く懐かしい。体感でもう5年、6年前くらいだ、最後に聞いたのは。

 

「……もうそろそろ死ぬの?」

「……まずは話を聞きなさい。リク」

 

 僕のすぐ横に腰を下ろしたのは、44年前に亡くなった筈の「睦月風奏」だった。

 

 

 


 

 

 

「色々言いたいことがあるけど、これはハッキリしているわ。あなたは死んでない」

「……母さん、ここは人生に本当に満足した人だけが来るはずなんでしょ?」

「私の足元見て」

 そう風奏に言われリクが風奏の足元を見ると、そこには影がなかった。

「凄いベタだけど死人に影はないのよ。貴方は多少薄くなっているけどまだしっかりしてる方。……ハルちゃんに感謝しなさい」

「?」

 

「医務室のベットで貴方が寝ている傍らで毎日寝ているのよハルちゃん、手を繋いだまま。それがあなたを向こう側に行かせずにずっと現世側で引っ張っているのよ。貴方の影が完全に薄くなってないのはそれが理由。こっちで目覚めた時にブレスレットがあったのはハルちゃんが理由。貴方が死んでない理由の殆どがハルちゃんなのよ」

 

「全部、ハルナが……」

 自身が死んでいない理由、「まだ未練がある」や「命に係わる怪我じゃない」とかもあると思ったけど、一番の理由は「ハルナが引き止めていたから」だった。

 戻れなくなる前に自身を向こう側に繫ぎ止め、繋がりを維持してくれていた。

 あの時、ここで目覚めた時に感じた手の温もりは、その繋がりの正体。

 

 全てが繋がり、温もりの残る右手を自身の胸に当てた。

 

「それが無かったら今頃私と一緒にハルちゃんの泣いてるとこを見てるはずよ。貴方が死んだらハルちゃんがどうなるか、私でも見当が付かない。でも止まる術を失うのは確かで、貴方以外ではハルちゃんを止めることが出来ないと思う」

「ハルナって徹夜とか躊躇しないタイプだからそれは想像できる。……というか何で母さんがここにいるの? ここは境目であの世ではないはずだけど」

 

 

「何でって、向こう側に送り返す為よ。強制送還、分かる? そのためにここまで強引に来たのよ。死人がこうやってここに来ることはホントは出来ないのよ?」

「……自分からではここを出ることは出来なかった。散々歩き回って探索してみたけど、手段は無かった」

 風奏がここに現れる前まで、僕はこの辺りを隅々まで探索していた。どこかに戻るための方法があるか、閉鎖空間と考えた場合、境界線……もしくは壁があるかどうか。海には……直感的に「絶対に入ってはいけない」と思い入っていない。

 

 

「違うわ。もう手段が無いんじゃない、今は手段が無いだけよ。可能性のピースの片方はある筈」

 片方と言う単語に心当たりがあり、自身の手首についているブレスレットに目をやった。

 船外服の上から付けていたが、手榴弾の爆炎を受けた時に爆風で取れてしまった。それなのにこうして付いているのはハルナが付けてくれたから。

「貴方達が私にくれたチェーンペンダント。今は2人で持っているのね」

「形見だから。それに……婚約指輪代わりだから」

「見てたわよ、告白シーン。もうちょっと頑張りなさいよ」

「これでも精いっぱいだったからこれ以上頑張ったら恥ずかしくて声出ないよ」

 

 まさか現世側の光景を見られていたとは思ってもみなかったリクは唐突に赤面した。流石に告白シーンまで見られていたのは一番の想定外であり、必死に顔を隠そうとする。

「あらあら顔真っ赤だこと。もっと見せなさいよ」

「好き好んで見せる人は居ないよ!」

 

 母さんはこういう話には敏感でマリの様に突く傾向がある。昔と変わらないのは嬉しく思うけど、流石にこれは困る。せめて自粛とかしないのかな。

 

 

「ごめんごめん。久しぶりに若返った気分になったからね」

 

 

「取り敢えず、貴方を向こう側に帰すわ。貴方はまだここに来てはいけないし、ハルちゃん残してはおけないわ」

「戻りたいけど、どうすればいいのか分からない」

「あるわ。多分だけど、リクは無意識にやってたんじゃないかな?」

 

「無意識的に?」

 

「うん。ちょっと前にね、ここにハルちゃんが来ていたの。それを、貴方が現世側から引っ張り上げていたのよ。覚えてる? あなたが病院でリハビリしていた頃」

「覚えてる。とても……嬉しかった」

 

「それをハルちゃん側からやることが出来れば、もしかしたらだけど……」

「でも……母さん死んでいるし、どうやってやるの?」

「……2人はは自我境界線が融和しかけているの。それを逆に利用するわ」

 

「自我境界線?」

「心の壁、自分と他者を区別するための要素ね。普通の人は境界線をはっきりさせる事で、自我の確立をして大人になっていくの。ただし例外があるの」

 

「例外?」

 

「分からない? かなり強い思いや強烈な経験を共有していると、心の拠り所が広くなって他者と心を共有しちゃったりするの。「あれ取って」といって伝わる以心伝心とかも有名なとこね」

「そんなオカルトな事が本当に出来るの?」

 

「現にその域に足を踏み入れているのよ? 今こうしてこの海にいること自体がオカルト。科学や論理が皆一斉に匙を投げるこんな状況を体感しているのにそれを言うのかしら?」

 

 

 

 その瞬間、声を強引に塗り潰すようにして山鳴りのような音が響いた。

 

 

「何?!」

「……上よ!」

 風奏の顔が驚愕に染め上がり、リクは自身の遥か上空……空を見上げた。轟音が響き、空のど真ん中に波打っている。真っ黒な雫が零れ落ち、波打つ中心のその向こうには漆黒が広がっている。

 

 何かを叩くような音が広がる。だが、それは空間そのものを揺らすような轟音で、心象風景である夜明け前の風景を動かし、時を進めていく。

 

 何者かの侵入。風奏にはそれが誰なのか分からなかった。

 だがリクだけは、誰なのかを感じ取っていた。

 

 

 

「母さん! 今すぐ僕をあそこに上げて!」

 

「ええぇ?!」

 

「今すぐ!!」

 

 再びの轟音とともに空が波打ち何かが落ちてきた。風を切る音を響かせ、重力に引かれて海に向かい真っ逆さま。そして頭から落ちているのにピクリとも動かない。

 

「マズい……っ!! 母さん!!」

「行くわよ! そのまま走って!!」

 躊躇なく海に飛び込もうとしたリクの足元に光る床のような物を作り、海を拒絶する。自我境界線。何を通し、何を拒絶するのか。本質を知らされている風奏はそれを実行し、確実にリクの足場を作っていく。

 その道を駆け、海面スレスレを疾走する。

 

「間に合え……っ!!」

 

 走っていては間に合わない。そう直感で感じたリクはさらに速度を上げる。あの海に落ちて戻れなかったら死ぬ事は、ここに来てから察した事で確証はないが、確証無しの内容で大好きな人が死ぬことは絶対に考えたくない。

 

 

「母さんっ!!」

「飛ばすよ!」

 

 反射的に出た声に風奏が反応し、強大な自我境界線……ATフィールドをリクの足元に展開する。強大な斥力に弾かれたリクは大きく飛び上がり、空に舞った。

 

 あと数メートル……

 

 あと数十センチ……

 

 あと数センチ……

 

 ___

 

 

 

 

 

 

 

 海面に落ちるギリギリ。風奏がATフィールドを張っていなければそのまま海へ墜落していただろう。でも、今リクの腕の中には、気を失ったハルナが収まっていた。

 

「間に……合ったか……」

 

 


 

 

「全く……とんでもない子になっちゃったわね」

 何とかして浜辺にまで引っ張り上げ、リクと風奏は一息ついた。気を失ったままのハルナを浜辺に寝かせ、風奏は頭を抱えていた。

 

 死んでいる風奏と死にかけたリクは兎も角、生きている状態のハルナが強引な方法でここに入ってきた事に正直言って驚いている。尤も、今のハルナは常軌を逸している以上、常軌の中で生きた風奏は驚く事しか出来ない。

「一体どうやって……ああ、多分……何となく察しは付くわ。誰が絡んでいるのか」

「え?」

「長ーい話になるわ。私の知り合いに似た方法持ってた人がいたの。もう亡くなっちゃった。いや、亡くなったって言うのは微妙かな……」

 

「んん……」

 うめき声が耳に響き、リクは思わずハルナの方を向いた。目を瞑ったまま口角を上げている。

 

「やったぁ……」

「ハルちゃんアンタとんでもないことしたのよ?! 分かる?!」

「分かってますよ……ちゃんと」

「母さん落ち着いて! ハルナ分かるか?!」

 胸ぐらをつかみかけた風奏をリクが押し退けて、ハルナの背に手を回して介抱する。それに応じたハルナもリクの背に手を回す。

 

 

 

 

「怖かった……」

 震えていた。多分、ここに来るまでの間、ずっと震えていたのだろう。どのような方法を使ってここまで来たのかは分からないが、多分死と隣り合わせの方法だったのだろう。この人生で2度も死が至近を掠め、死に対して人一倍敏感になってしまっているのに、死と隣り合わせの方法を使ってここまで来た。

 

 それでも再び辿り着いたこの狭間の海で2人は再開した。

「ねぇ、色々話そ」

 

 

 _______

 

 

 

「零士さんが……」

「うん。お父さんは、記憶になってでも私の中で生きていたの。それで、私に全てを渡して……消えてしまった」

 

「零士さんは、最後に何か言っていた?」

「……気が向いたら思い出して欲しいって、言ってました」

「気が向いたら……ね。自分は二の次、誰かの為に動き回った零くんらしい」

 

「風奏さん。お父さんの事を何か知っていたら、教えてください」

 

「私と、零くん。あともう1人、薫ちゃんって子がいるんだけど、三人そろって第一次火星移民なの。だけど私達は、正規の移民じゃない」

「正規の?」

 

「乗員リストに無理やり捻じ込んでもらったの。地球にいたら殺されそうになっちゃったのよ私達。薫ちゃんを2人で保護してから暫くは隠し通せたけど、バレて殺されそうになっちゃってね。それで私の父、リクの祖父にあたる人が、第1次火星移民の渡航者リストに私たち3人を押し込んで勘当して火星に飛ばした。それからは分からないわ」

 第一次火星移民。2111年に行われたそれは、火星テラフォーミングが完了したことを見計らって行われた人類初の他惑星への大規模移動。

 開拓団とも呼べる第一次移民には多くの野心的企業や個人が乗員に名乗りを上げた。だが風奏と零士、そして薫は非合法な手段による非正規での移民だった。

 

 言うなれば地球脱出。どこにいても命を狙われた故の避難であり、家との縁を完全に切り一切の援助抜きでの航海であった。

 

 

「風奏さん。薫さんが私の母だという事はもう分っています。父は生前、母の事を頑なに話そうとしませんでした。何故なんですか?」

 それを聞かれた風奏は動揺したが、まるで時が来たことを悟ったかのように顔を上げると、遠回しに言葉を紡いだ。

「それはね……貴方の存在そのものにも関わって来るからよ。私からも話す事は出来ない。でも、渡す事は出来る」

 そう言った風奏はハルナとリクの手を取り、一連のイメージを伝えた。

 頭の中を駆け巡る風奏の記憶に驚愕を隠せない2人は顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

「……」

「厳密には進めさせられた人なの。でも、貴方を心から愛して、本当はただの人間だったという事はどれだけ時が過ぎても変わらない。だから、決して忘れないで。薫ちゃんの事を」

 風奏の真剣な眼差しに2人は頷く。

 進めさせられた人が何なのかは分からない。それでも、人を超えかけても人であろうとした母とさっきまで話していたハルナは、自身の母である薫の言葉と義母である風奏の言葉をしかと心に焼き付けた。

 

「ハルちゃん。ここに来た目的はリクを連れ帰る為。そうでしょう?」

「連れ帰る、じゃなくて……助けるためです。それと」

 

「愛してるから、でしょう?」

 

 続きを見事なまでに言い当てられたハルナは顔を真っ赤にしてしまい、風奏の暴露の余波を受けたリクも真っ赤になって思わずハルナの顔を見た。

 

「ううぅあってますけど……あんまり、見ないで」

 思わず俯いて顔が見えにくいようにしたが効果は薄い。何故ならば、リクが顔を覗き込んでいるからで、尚且つリクが微笑んでいるからだ。

 

「嬉しい。僕も、ハルナの事を愛している」

 その一言でハルナは沸騰したかのように湯気を上げ、一気に脱力し膝から崩れ落ちた。機能不全を起こしたハルナはさらに目を回してしまい、不可抗力でリクにもたれかかった。

 

「お母さん口から砂糖吐いてもいい?」

「人を弄る冗談は程々にして。凄く粘着してくるマリさんみたい」

 異常な既視感に頭を抱え「マリと風奏は親戚説」を唱えかけてしまったリクは、真っ赤な顔をして目を回すハルナを見て一旦考えるのをやめた。

 数分後、機能不全から解放されたハルナは「自分は何を言われてどうなっていたのか」を瞬時に理解し、自身が湯気を上げる原因となったリクの胸を叩き始めた。

 

「尊すぎるから成仏していい? 成・仏」

「ああもう……母さん本題行こう。本題」

「はいはい。こっちから何とかしようと思ってたけどハルちゃん側から飛び込んできちゃったからね。ちゃんと何とかするわ」

 

 さっきまで浮かべていた意味深な笑みを取り払い真剣な顔になった風奏は、再び2人の目を見た。

 

「リクにはもう言ったけど、リクを現実側に戻すために必要な可能性のピース、その片方は貴方なのよ。2人分の強靭な意志があれば、私のテコ入れで戻せるわ」

 

「リクをここに縫い付けてしまってるATフィールドを無くして魂だけにしてしまう。ATフィールド消滅で形を失うと普通は正気に戻れないけど、互いの魂を知って例外中の例外のあなた達なら多分大丈夫よ」

 

「母さん、何でそんな事を知っているの?」

「薫ちゃんの知識よ。これ以上は内緒。《need to know》はよく知ってるでしょう?」

 

 誤魔化されたことを感じながらも知らない方が良いと暗に言われた事で引き下がった2人は、大人しくなった。

 

「互いにATフィールドを失ったら、どう足掻いても2人は混ざり合ってしまう。何処からが自分で、何処からが相手なのか分からなくなるけど、しっかりと自分を繫ぎ止めて置く事。いいね?」

 

「大丈夫です。ここに来る時、私が私じゃなくなりそうでしたが、リクが引き止めてくれてました。だから大丈夫です。互いを想ってさえいれば」

「……余計な心配だったみたいね。リクも、いいね?」

「うん。母さん、ありがとう」

「いえいえ。戻ったら私のお墓にでも顔出してね。あなた達の話、ホントはもっと沢山聞きたいから」

「会いに行くよ。僕らが生まれ育った場所に」

 

「じゃあ、やるよ」

 互いに手を繋ぎ、互いを想う。たったそれだけでも今の2人の境界は曖昧になっていく。完全にお互いを受け入れていて、自身の心に他者の居場所を生み出した2人は、互いが自分であり他人でもある。

 どんどん暖かくなっていく。ハルナが感じる温もりをリクが感じ、リクが感じる温もりをハルナが感じる。命が主張する温もりに包まれ、意識すら曖昧になっていく。体が軽くなり、景色が霞んでいく。

 微笑んでいる風奏の影にもう1人。白いショートカットの薫の影が見えた。腕を組んでコッソリと見ている姿に、ハルナは思わず手を伸ばしかけた。

 

 

(生きろ。何があっても)

 

 

 振られた手から伝わる意思を受け取り、その手をそれ以上伸ばさなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあね」

 

 その瞬間、弾けるかのような水音と共に2人はこの世界から消えた。白と赤の光玉や十字の光を残して消え、間も置かずに世界から色彩が消え始める。

 

 

 

「行ったよ。薫ちゃん」

「例の件は伝えましたか?」

 2人が消えてから、風奏は姿を隠していたに声をかけた。

 

「伝えたよ。何時になるかは分からないけど、何れ必要になるよね?」

「はい。ハルナを生んですぐに殺されてしまったので、伝えられなかったんです。私が何者で、何処から普通じゃなくなったか」

 

「ねぇ、零くんは貴方の事一切ハルちゃんに話してなかったのよ」

 

「律儀な人です。ハルナが生まれた時、何かあった時の為に伝えていたんです。私に何かがあったら今後いない者として扱ってくれと。死んで記憶になっても守り続けて貰えたなんて。嬉しく思います。それと風奏さん」

 

「どうしたの?」

 

 

「私が消えてからハルナの事を見て下さって、ありがとうございます」

「気にしないで。ハルちゃん、周りとは違う家庭だってことを自覚していたけど、とっても賢い子だったわよ。それに、零くん1人の子育ては大変そうだったからね」

 

「零士さん、多分満足そうに笑ってます。零士さんは……」

 

「自分よりも他人だからね。貴方の方がよく知ってるじゃない。ハルちゃんとリクは大丈夫よ、魂が強靭だから。ハルちゃんなんかは特にね」

 

「……私は戻ります。娘をこれからも助けないといけないので」

 薫は、寄せる波に視界を向けてそう呟いた。真面目過ぎるのは、今も昔も尚変わらない。

 

「相変わらずね」

 

「それが私の願いであり、零士さんの遺志だからです。私は、それまで生き続けます」

 

 星空が消え、輪郭が溶けてしまいそうな波打ち際で、2人の子の親は静かに踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら、私は床に膝を突いたままリクの右手を握っていた。数瞬遅れて酷い頭痛に頭を抑える。頭が割れるほどの激痛が押し寄せ視界が明滅する。

 ベット備え付けの時計を見ると2時間もの時間が経っていた。さらに原田さんが横で付きっ切りで監視している。

 

 

 何も悪い事してないよね。私

 

 

「暁さん分かりますか?! ちょっと脈拍測りますね!」

「分かります。そんな病人みたいに……」

「気を失ってた時脈と呼吸が弱くなってたんですよ?! そんな病人みたいにって言ってる場合じゃないです!」

 原田さんの圧に押されて腕をまくり脈拍系を取り付けられかける。でもその瞬間、点滴の管が甲から生えている彼の右手が、私の手を握ってきた。

 

 

 

 

「えっ……」

 

 彼の目が……私を見ていた。

 生きている。彼が……生きている。

 

 

「………………っ!!!」

 

「苦しいよ……そんなに抱き締められたら」

「……っ!!」

 力を入れすぎているなのは分かっている。でも……嬉しすぎて加減が分からない。今は、今だけは……こうさせて。どうかこのままにして欲しい。

 止め処なく涙が溢れてくる。拭う事も出来ず、ただベットの掛布団に想いの跡を残していく。

 

「まさか、空を突き抜けて来るなんて」

「……っ!」

 

 感情の波に押し倒され言葉を紡げず、声が出ない。それでも思い切り首を縦に振り首肯する。

 こういう時、「目覚めてよかった」って言いたいのに、それすら言葉に出来ない程に感情が押し寄せ、ただ彼を抱きしめるしか出来ない。

 

「僕を戻してくれて、ありがとう」

 

 

「いい……いい……のよ……っ!」

「だって、やっと貴方を…………貴方を、助けれたかも……しれないから……私、ずっとリクに……助けられっぱなし……だったから……っ!」

 辛うじて出た声で嗚咽を押し戻し、必死に伝える。ああ、上手く声に出来ないや。

 泣きすぎて目が熱い、でも、気にならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だって、こんなにも「胸が熱いから」。

 こんなに泣いていても、全く苦しくないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はそれを言い切るだけで限界が来てしまい、もう何も言えなかった。言葉以外の方法で想いを伝える事しか出来ず、ただ自身の顔を彼の胸に埋める。

 

「睦月君?! おおお起きたのか?!」

「佐渡先生……この通り無事です」

 

「無事なもんか! どれだけ危険だったかあんたは分かっとらん!」

「咄嗟の行動でしたから……それより状況は?」

 こんなになっても状況を聞こうとする辺り、佐渡先生はカンカンに怒っている。……真田さん、どうやら私は彼の事を怒れそうにありません。嬉しいを表現するだけでキャパ一杯です。

 大きく深呼吸をして息を整えて傍らに置いていた端末に目を光らせる。真田さんが送り続けていた戦闘状況に素早く目を走らせて内容をすぐに組み立てる。

「……今は七色星団から約1か月後、サレザー恒星系にいるの。ガミラス星の帝都バレラス、その中枢に向けての強襲作戦が行われているみたい。原田さん、私がシンクロしている時に何か揺れたりしましたか?」

「警報が鳴り止みませんでした。あと、爆撃のような震動が」

 

 

「……佐渡先生これ全部外してください艦橋行きます」

「バカなこと言っとんじゃない! 安静にせんか!!」

「バカも何もマズい気がするんですよ! 行かせてください!」

「ダメじゃ! ベットに縛り付けてでも行かせん!」

 

 

「佐渡先生、リクの事は私が見ています! 無理はさせませんしずっと傍に付いてます!」

 そこまでダメって言うなら私が付き添いを買って出ればいい。どうせ一緒にいるからそう変わらない。

 もう2度とあんな無茶させたくないし、彼が大事だから。

 

 

 

 

 

「……ああもう!! 真琴! 睦月君の上着持ってきてくれ!」

「良いんですか先生?!」

「構わん!! この相思相愛超人夫妻は口で言っても止まらん!! 暁君どいとくれ!」

 佐渡先生が私を強引に押しのけ、リクの腕に生えている点滴管を取り払いにかかった。手伝おうかと思ったが、私からしてみれば出来る事は少ないから邪魔にならない様に隅っこにいる。

 

「まったく目覚めて数分で『行かせてください』と言い出すバカはあんたくらいしかおらん! こんなバカの治療はこれ切にしてくれんかのう!!」

 

「善処します……」

「善処じゃなく絶対じゃぞ! 復活したてでここまでハキハキ喋って動こうとするのはバカのする事じゃ! バカじゃないんじゃろ?! バカじゃないならやるな!!」

「はい……ご心配おかけしました……」

「最っ初にそれを言わんかァ!! ほら出来たぞ!!」

 キレ気味で全ての処置が終わり、リクが体を起こそうとする。私は慌てて彼のもとに駆け寄り彼の背中を抑えて介助する。

 

「上着ありました!!」

 リクの上着をやっと見つけた原田さんが私たちのもとに駆け寄ってきた。あの爆発で船外服が破け、艦内服も焼けてしまったが、修繕が後回しになっていた。

「新しい制服は後で支給申請しとくからそれ着てけ! ほらサッサと行かんかいィ!」

 原田さんから艦内服を受け取ると、それを広げてリクの方にかける。左腕は吊っているから右腕にのみ袖を通す。

 そして歩くのに苦労するはずと察した私はリクの腕を自身の方に回した。

 

「歩ける……?」

「気合で何とかする」

 気合って相当キツイ筈だけど、そう言う彼を信頼して医務室を出ようとする。

 

「佐渡先生、ありがとうございました!」

「……ふんっ!!」

 

 相変わらずお怒りモードな佐渡先生に一礼して医務室を後にして私たちは戦闘艦橋に急いだ。

 

 

 

「まあどうであれ、目覚めたことは良い事じゃ。真琴、艦長宛に通信送っといてくれ。超人夫妻がそっちに行ったとな」




この話を書き終えてから色々書きたいことがありますが、長くなるのは良くないので抜粋して書きます。

二十歳を迎えました。成人となり、大事な人に対し何が出来るのだろうか。この2人の親の物語を書くにあたって中核となったのはそのポイントでした。

最終的に出たキーワードの一つは、「命」でした。

零士は自身が残滓でなくなってしまう。即ち本当の死になってしまうがどうするのか。
ハルナは精神が死んでしまいかねない方法が使えるかどうか。
そして、虹と戦火でのリクは、命を張って大事な人を救えるか。
風奏は、2人を突き飛ばす事で命を繋げられるかどうか。
皆命に関係する何か重要なポイントを通過しています。

その結果が死でも生でも、最終的には大事な人の為に何か成せたか。
結果的には2人とその親たちは、大事な人の為に命を懸けることが出来た。

そして、ハルナはリクを目覚めさせることが出来た。何度も死が横を過ぎ去り、自身も体験して、死に人一倍敏感なはずのハルナが、死ぬかもしれない方法を使って死の一歩手前の空間に踏み込んだ。

作者として、ハルナの思いの強さには毎度驚かされます。ハルナパパもニッコリかもしれませんね

____


長くなってしまいましたが、今回も特殊回という事で楽曲を乗せます

SPEC - MAIN THEME-

10年ほど前にやっていたドラマのメインテーマです。当時有名だったらしく、ピアノ主体の疾走感がありどこか寂しい悲しい旋律が特徴です。
アマプラを見ていたら虜になってしまい、この曲に合うように改造してしまいました。長くなってしまいましたが、この話を書く上で、鈴夢さんと言う方に意見を頂きました。
ありがとうございます、鈴夢さん。


ここからは事務的なお知らせになります。
次の資格試験として、10月半ばあたりまで活動を休止します。
ほぼ丸々一か月。今までの休止期間に比べれば短い方になりますが、それでも佳境に近い所での突然の休止という事なので一応挨拶だけでもと思いましたので、この場をお借りして休止の宣言をさせていただきます。


次の投稿は、10月の中頃辺りになるかなと思います。
それでは、また次の話でお会いしましょう
(@^^)/~~~


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力の咆哮の方向 Answer

命を残す方舟としてではなく、命を救う戦闘艦として

2028年 AAAWunder艦内


「引き金は、僕達が引きます」

外部から解放された戦闘艦橋のハッチ。そこに立っていたのは、白髪の女性と、傷ついた青年だった。

 

「睦月君……?!」

 

「睦月さん!」

 

「リッくん?!」

 

突然の登場に戦闘艦橋内部が驚愕で満たされる。その中で真田だけが背を向けて、ヘルメットのシールドを上げて目元を押さえて震えていた。

 

 

「古代くん。大体の内容はハルナから受け取った。波動砲は僕たちが受け持つ、君は成すべき事を成して欲しい」

 

「睦月さん……ホントに、大丈夫なんですか?」

 

「半分気合で動き回ってるから何時まで持つか分かんない。それより、やる事決まったんだよね?」

 

「はい!」

 

「森さん助けに行ってらっしゃい。こっちは何とかするから」

 

「……行ってきます!」

 

ハルナの声に押されて駆け出した古代は艦内を駆けていき、リクとハルナは真田の方を向いた。

 

「真田さん……ご迷惑おかけしました」

 

「2人で……くれた」

 

「真田さん……? もしかして泣いてるんですか?」

 

「泣いて悪いか?! どれだけ心配したと思っている?!」

 

論理も何も無い感情任せの声を初めて聞き2人は萎縮しかけたが、感情豊かな方では無い真田がここまで感情を顕にしていることに驚いた。

 

「だが、2人で……2人でよく戻ってきた……っ!」

 

「……言いましたよね? 必ず二人で真田さんの元に戻りますって。ちゃんと約束守りました。あとは叱られるだけですけど……」

 

「叱れるわけないだろう! こっちの身にもなってみろ!」

 

感情が薄い筈の真田がここまでなるとは艦橋要員の皆は予想だにしなかっただろう。一斉に静かになった。

 

(リクのとこ行く時めちゃくちゃ心配されたから、真田さん泣いちゃってる)

(真田さんや博士達には、最初から最後までしっかり説明しないとな。でもその前にひと仕事だ)

(勿論。アレを……)

((ぶっ潰す!!))

 

 

「沖田艦長、真田さん、赤木博士、マリさん、艦橋の皆さん。アレをぶっ潰すサポートをお願いします。引き金は僕らが引きます」

 

「うむ」

 

「ああ……!」

 

「ええ」

 

「やったるにゃ!」

 

「「「了解!」」」

 

「と言うか暁さんと睦月さんも、波動砲が撃てるんですか?!」

 

「マスター権限でMAGIに直談判すればね。マスターと言っても全権が最初から与えられてる訳では無い。妥当だと判断されればMAGI経由で権限が貰えるだけなんだ」

 

そういったリクは懐からマスターキーを取りだし、ハルナの顔を見て頷いた。その意図を感じ取ったハルナは同じくマスターキーを取りだして、その持ち手部分をコンソールにある不自然な短い隙間に突っ込んだ。

 

てこの原理でコンソールの外装の一部がいとも簡単に外れ、横に並んだ2つのキーシリンダーらしきものが見えた。その下には「MasterKey」と書かれている。

 

「隠してあったんですね」

 

「悪用防止も兼ねてね。リク、やろう」

 

「ああ」

 

「「マスターキー及びマスター権限保持者として、波動砲発射承認権限と発射権限の一時的付与を」」

 

マスターキーを隠してあったキーシリンダーに差し込み回した。マスターキーの剥き出しの基盤に取り付けられているLEDが水色と橙色に発光し、全周スクリーンの正面にマスターキーが差し込まれたことを示す特別な表示が現れた。認証を受け付けたメインフレームが読み込みに入りプログレスバーが表示され、それは数瞬でゲージ一杯に満ちた。

 

 

《マスターキー認証、及びマスター権限保有者の音声認証を確認しました。MAGIシステム協議演算の結果、非常事態につき、戦闘行動終了が確認されるまでに限り、睦月リク、暁ハルナ両名の波動砲発射承認権限及び同発射権限を一時的に有効化します。尚、戦闘行動終了を確認次第、権限は自動的に無効化されます》

 

 

 MAGIシステムの合成音声が戦闘艦橋内部に響き渡り、コンソールから波動砲のコントローラーが持ち上がり、リクの正面に固定された。グリップをリクの右手が握り、それをハルナの左手が包む。

 

 

「……波動砲への回路を接続!」

 

「波動砲への回路、開きます!」

 

「非常弁、全閉鎖。強制注入器作動。両舷波動エンジン最大出力に移行」

 

 残されたのは左舷の波動砲口。右舷波動砲口は損傷が酷く修復不可能、放置されている。巨大が故の弊害がここで際立つが、400センチの砲口ならそれを帳消しにしてしまえる。その波動砲口のシャッターも開かれ、その黒い穴を遥か彼方の目標に向ける。

 

「作動を確認。安全装置を解除!」

 

「同時認証を開始! 待機画面出します!」

 

 真田がコンソール脇の端末を操作し、音声認証用の待機画面を開いた。それに連動して、艦長席と真田のコンソールにも待機画面が表示された。

 

「沖田十三。発射を許可」

 

「真田志郎、発射を許可」

 

「睦月リク、発射を許可!」

 

「暁ハルナ、発射を許可します!」

 

『権限保有者2名。及びマスター権限保有者2名の音声認証を確認しました。波動砲最終安全装置を解除します』

 

「最終セーフティ解除を確認! ターゲットスコープをオープン! 電影クロスゲージ明度30照準固定!」

 

「島くん! 操艦も兼任は厳しいから姿勢制御はそっちで頼む!」

 

「了解! 重力姿勢制御良好、艦体を同座標上に固定!」

 

 最後の鎖が解き放たれ、ハルナがコントローラの撃鉄を引く。その瞬間、全周スクリーンにサイトマークが表示された。マークの中心に拡大表示された構造物が入っていて、サイトマークの周囲には目標との距離、サイズ、タキオン粒子圧力メーターなどが表示されている。その中心を静かに見つめて、ハルナは荒ぶりそうな呼吸を鎮めようとしていた。

 

 波動砲と言う大量破壊兵器の引き金を握るその手は、酷く汗ばんでいる。初めて死を目の当たりにしたとき、初めて死の恐怖を感じた時、そして大事な人が死に向かいかけた時、その時の意識が張り詰める様な感覚が蘇る。波動砲には死を生み出せる側面と生を守る側面がある事が、今までの航海でハッキリと分かっている。今こうして砲口を遥か上空に向けているのは、生を守るため。死を生み出すことが目的じゃない。

 

 そして、今は彼がいる。1人じゃなく2人、そしてもっと大人数ならば、この引き金に押し潰されないかもしれない。これはたった1人の引き金ではない。艦橋の皆もいる。全員で引く引き金を改めて意識し、ハルナはさらにグリップを強く握る。

 

「アンノウンドライブに右舷波動エンジンからのエネルギーを投入。重力子生成量子跳躍開始!」

 

 真田と新見がコンソールを操作して、右舷波動エンジンのエネルギーをアンノウンドライブに流し始めた。補助エンジンとは比べ物にならない莫大なエネルギーを貪るようにして消費して、アンノウンドライブがまばゆく発光する。

 

 そして船体の中央構造物の艦尾を中心にして、重力子を用いて二重の同心円を力強く展開した。光さえも捻じ曲げる重力を展開するその光輪は、船体をそのポイントにさらに強靭に固定して、周辺の光を全て捻じ曲げて集約させた光で真っ白に輝いている。不調をきたした重力アンカーの代打を担うそれは、宇宙戦艦が発生させるような機械的なものではなく、この世ならざる生き物の持つ力の様に輝く。

 

 

 その姿はまさに、宗教神話から現世に建言した神の使い。

 神殺しの船の名に相応しい姿だった。

 

 

「薬室内タキオン粒子圧力上昇、エネルギー充填100%」

 

「まだだ」

 

知らぬ間に引き金に指を当てていたのを沖田艦長が制し、思わず指を引っ込める。

 

「エネルギー充填120%!」

 

 薬室に準備が完了し、残りはカウントのみとなった。今度こそ引き金にゆっくりと指をかける。

 

「全周スクリーンを対閃光モードに切り替え。総員対閃光バイザー用意」

 

 全周スクリーンが対閃光モードに切り替わり一気に暗くなった。皆船外服標準装備のバイザーを下ろすが、2人とも船外服を着ていなかった。おまけに2人でコントローラーを握っている以上対閃光ゴーグルを付けられない。

 

 仕方がなく全周スクリーンの対閃光モードで誤魔化そうと考えていたら、不意に真田がリクの艦内服に手を突っ込みゴーグルを取り出しハルナの目元にかけ、もう一つ自分用を取り出した真田はそれをリクにかけた。

 

「真田さん……」

 

「良く戻って来てくれた」

 

 たったそれだけしか言葉はなかったが、とても嬉しそうな雰囲気は十分に感じ取れた。

 

 

 

「発射10秒前!」

 

「行くぞ!」

 

 彼の声に後押しされ、ハルナは再度グリップを固く握った。

 

「守るわよ……この力で、命を! 『命を救う戦闘艦として』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、遥か昔に1人の艦長がその思いを込めた言霊。

 

 

 

「命を救う戦闘艦として」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  その瞬間、命を救う戦闘艦は目覚めた。

 

 


 

 

 あなたの復讐のため?

 

 

 いいえ。命を残す方舟では無く、命を救う戦闘艦として……

 

 

 これまでの全てのカオスに、ケリをつけます。

 

 

 

 

 エヴァ両機を喪失。作戦続行不能! 艦長! このままでは……!

 

 

 

 L結界臨界点に達します! ダメです! このままでは個体生物としての形状が維持できません!

 

 

 総員……退艦を始めなさい。

 

 

 世界が……終わるのか

 

 

 

 お母さん、何にもあなたに出来なかった。ごめんね、リョウジ。

 

 

 

 

 

 

 何も出来なくて、何も救えなくて。どちらにも行けずに宙づりになり、もう幾年が過ぎた……

 

 

 もう終わりにして……

 

 

 

 もう楽にして……

 

 

 

 

 

 

(守るわよ……この力で、命を! 命を救う戦闘艦として!!)

 

 

 

 

 

 貴方の復讐の為?

 

 いいえ、命を残す方舟では無く、命を救う戦闘艦として

 

 

 母親の台詞だと、実感あるわね

 

 私にそんな資格、1ミリも無いわよ

 

 

 

 そうだ、

 

 

 

 

 なぜ今まで捨てていたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この船は、命を救う戦闘艦だ

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 フライホイールが甲高い回転音を上げ金色の光の輪を纏った。聞いたことのない様な高音に思わず制御室に詰めていた機関科員が耳を塞ぐ。

 

「機関室! 状況報告せい!」

 

『信じられない出力です! 内圧が安全限界ギリギリです!』

 

「落とせんのか?!」

 

『制御から閉め出されてます!』

 

 通信越しに聞こえる轟音と山崎からの大声で、徳川機関長は悟った。きりしまの頃から機関の稼働音……声を聞いてきた者としてこの音は正常とは思えない。……だが「オーバーロード」のような音でもない。

 

 さらに艦全体に激震が走り、対閃光モードが強制解除された全周スクリーンの表示が乱れる。まるで何かの雄叫びのような甲高い音が艦内に響き、同時に艦外にも発散していく。リクとハルナにも想定外の現象が起こるが、互いに顔を見合わせ意を決した顔になった。

 

「現状の報告をお願いします!!」

 

「アンノウンドライブが理論的限界値を超えている! 射線上に重力ライフリングの発生を確認した!」

 

 アンノウンドライブが突然眩く輝き、重力子によるライフリングが形成されていく。肉眼でもはっきり見えるほど太い光の環。十数にもなるその輪が一直線に並び、落下する巨大構造物を輪の中心に収めてゆく。

同時にバーコードのような文様が流星群の様にスクリーンを流れていき、水色背景に黒文字の表示が大きく現れた。

 

 

 

 

 

 

Restart

NHG-***1 AutonomousAssaultArk Wunder

Analysis of all current weapons completed

〈Affiliated organization〉

WILLE

 

 

 

 

 

 

「Autonomous……。これは……っ」

 

 

 突然現れた表示に一同が困惑する中、ハルナとリクはその正体を悟った。真田、赤木博士、マリの三人による「Wunderの出自についての考察」では、このような仮説が立てられていた。

 

 

「Wunderはこの世界の船じゃなく、並行世界の地球からやって来た船である」

 

 

 仮説上の話でしかなく証明する手段が無いに等しい為、この説はしばらく手が付けられていなかった。

 大前提として、ハルナとリクはWILLEという組織を知らないし、メインフレームにこのような機能は実装していない。

 そして、メ2号作戦での敵のサイバー攻撃により、アンノウンドライブから波動エンジンに通信回路を伸ばされた事実。

 ハッキングの相手を撃滅したのは良いが、完成寸前だった通信経路をこちら側から消去出来なかった事実。

 この2つの解けない事実が結びつき、この事象に対する答えが導き出される。

 

 

 

 

 

 

 

 アンノウンドライブ……旧Autonomous Assault Ark Wunder中枢部の再覚醒。

 それによる「メインフレームを含めた艦体全ての解析と一部オーバーライド」。

 それが、ハルナとリクが互いの思考のみで咄嗟に推測した結果だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……この船の本当の名ね。170年も昔、どこかの別の世界で戦っていたあなたの名前」

 

「Autonomous Assault Ark、いや、AAAWunder(スリーエーヴンダー)か」

 

「発射中止を!」

 

「いえ、このままいきます!」

 

 南部が具申するが、ハルナがそれを抑えて発射シークエンスの再開を宣言する。

 

「AAAWunder波動砲発射シークエンスを再開!」

 

「電影クロスゲージ明度25照準固定! 迎撃不能距離までt-100!」

 

「射線上ライフリング形成確認!」

 

「目標を自動追尾に入りました!」

 

「迎撃不能距離までt-90!」

 

「射撃用諸元再入力完了。ガミラス星自転、磁場、重力ライフリングの誤差修正+0.0009! 直進安定性および収束率付与による計算終了射撃用諸元に追加!」

 

「カウント省略!目標、上空巨大構造物!」

 

 おそらく一部がオーバーライドされたのだろう。表示されているサイトマークは逆三角形と輪郭のみの正三角形を組み合わせた六芒星のような形に変化している。

 波動砲の光……異常とも受け取れる莫大な量の重力子が砲口に溜まっていく。ここで放つ光は多分お向かいの星からでも見えてしまうだろう。でも構わない。忌むべき力でも「力の方向さえ間違えなければ」誰かを救える。それを証明できる。それでバレラスが救われるなら、大成功だ。

 

「薬室内、タキオン粒子圧力が基準値を超過! 設計限界ギリギリです!」

 

「構いません! 設計限界を超えない意思があるならいいです! 全艦に通達、艦首付近にいる乗員を退避させて下さい!」

 

「了解! 艦首付近の全乗員退避! 急げ!」

 

「全周スクリーン対閃光モードを確認。発射用意完了。睦月君、暁君。いいぞ」

 

 

 

「「……波動砲っ!!」」

 

 

 

 2人に呼応したAAAWunderから甲高い声が響き渡り、左舷波動砲口の重力子が眩い白い光となり、波動砲制御室に青白いスパークが走り、艦首装甲からも青白いスパーク迸り、極大値に向かう重力子に引きずられて周囲の空間も歪んでいく。

 

 

 

「「行っっけぇぇぇぇええええっ!!!!」」

 

 

 

 引き金が引かれ、AAAWunderはその身に満ちた莫大かつ知らないエネルギーを込めて、渾身の一撃を撃ち込む。同時に、その莫大な力に押し負けない様に中央船体艦尾を中心にして展開した重力子の輪を瞬間的に何重にも展開する。何重にも展開された重力子の輪は、全てを破壊する力を船体と共に受け止め崩壊し光の粒子となり霧散していく。

 

 余剰次元展開により発生した超重力によるマイクロブラックホールのホーキング輻射。それは大気圏内で莫大な輝きとなりバレラスを一瞬白く染め上げ、その一瞬が過ぎ去った次の光景では、青光の柱が天に昇っていた。

自身が展開したライフリングを通り水色の光となったそれは、数刻前に自身をかすめた赤い光とは違う自身の意志の色。

 

 

 この船は、命を残す方舟では無い。命を守る戦闘艦だ

 

 

 

 

 命を救う戦闘艦として……今度こそ地球を、元の青い姿に戻すために、命を救うためにこの力を行使する。

 この船に乗り込む者達が目指す地球の為、人類のために。

 

 

 

 

 

 オーストラリア大陸を綺麗に消す程の一撃は、その方向を正しく定めて宙を切り裂き、降下してくる巨大構造物に突き刺さり、一瞬で貫通させた。

 粉々に砕き、焼き尽くし、無に変えていく。それは鮮やかに、恐怖を与えずに意思を見せる力の象徴。

 

 

「力の方向を間違えない」

 

(私たちは、あなたを侵略目的で使わない、使わせない。身を守るための武器として使う)

 

 

「命を残す戦闘艦として」

 

(あなたの復讐のため?)

(いいえ。命を残す方舟では無く、命を救う戦闘艦として)

 

 

 

 その言葉の通り忌むべき力は、意志を込め全ての命を救った。

 

 

________

 

 

 

 突入ボルトの損壊により制御室は大爆発を起こし、距離があるにも関わらず艦橋内部にも震動が響いた。暴走寸前の波動エネルギーが装甲を突き破り溢れ出し、そのまま霧散していく。左舷第二船体艦首は限界を超えた波動砲の発射により損害を負い、エンジンにも予想外の負荷を与えた。

 

 

「左舷波動砲発射機構損壊! 制御室内での爆発確認!」

 

「大規模な重力偏移を検出!!」

 

『両舷主機関制御権戻りました! 安全出力まで10秒!』

 

「ダメージコントロール! 隔壁閉鎖急げ!」

 

「負傷者確認急いでください! 島くん操艦は可能? 可能ならガミラス星重力圏から一時離脱して!」

 

「了解! 浮上開始!」

 

 Wunderは緊急浮上を行い、再びエネルギーを与えられた重力推進を巧みに使い高度を上げていく。その戦闘艦橋、マスターキーのLEDが発光をやめ権限が無効化されているにもかかわらず、未だに波動砲の引き金から手を離せないリクは大きく息をしていた。

 そっとリクにかけられていた対閃光ゴーグルを取り、顔色を確認する。意識を取り戻したばかりで艦内を300m程徒歩移動して何とか平然を装って登場して大量破壊兵器を発射する。絶対安静の身でここまでの無茶を敢行したリクは強烈な疲労感で一瞬意識がシャットダウンしかけた。

 

「リク大丈夫?」

 

「……じゃない。それよりそっちは?」

 

「……物凄い重圧。でも、古代くんが背負っていた物を、何とか背負えたね」

 

「ああ。……疲れたな」

 

「疲れたね……」

 

 押し潰されそうな重圧に耐えた体から力を抜き、無重力の戦闘艦橋でリクは力なく浮遊し始めた。それを受け止めたハルナも大きく息をして額に汗をかいている。

 兵器を扱ったのは2人とも初めて。それも指示を出す側ではなく実際に引き金を引く側の立場としてはこれが初めて。対物ではあったものの、その引き金は途方もなく硬く、重かった。

 

「睦月君は?」

 

「大丈夫です。もうなんか、言葉無しでも分かっちゃうみたいで……」

 

「……大丈夫なんだな?」

 

「大丈夫ですって……」

 

「いや睦月君もそうだが君もだ。君の方が深刻かもしれない」

 

「え……?」

 

 深刻そうな目をして訴えて来る真田にハルナの笑みが消え、戦闘艦橋に一瞬の静寂が満たす。ハルナのその目は今までのマーズノイド特有の赤ではなく、淡い光を抱えた、まるで炎のように揺れる緋色をしている。何かを思い出したようで、ハルナは一言だけ呟いた。

 

「お母、さん……」

 

 

 

「レーダーに感! L1に高エネルギー反応あり! 増大中です」

 

「波動砲……っここに撃ってくるんですか?!」

 

「奴ら、星を巻き添えにして撃つつもりなのか……?!」

 

 戦闘艦橋に響く警報音が現実に引き戻す。L1からの高エネルギー反応。それはすなわちこちらに対して波動砲を撃とうとしている事の証拠。第一射で爆散したエピドラよりもサイズが小さいガミラス星になんか向けて発射したら最後。一瞬で星は崩壊するだろう。

 

「どうする?」

 

「どうもこうもない。撃てないようにすればいい」

 

「撃てないようにね、分かった。第一第二主砲をL1に向けてください! 相原さん! 航空隊に緊急通信開いて下さい!」

 

「何をするつもりですか?!」

 

「やられる前にやります。波動砲……もしくは周辺機器や砲身を狙撃すれば、少なくとも発射中断に持って行くことは出来ます」

 

 たった一言「撃てないようにすればいい」で理解したハルナは、病み上がりで限界が近いリクの代わりに下令。職位無視越権承知で南部と相原に指示を出して次の行動を起こす。人が変わったかのような一連の動作と判断に呆気に取られかけた真田だったが、リクが考えたことに全て納得がいった。

 

「そうか……っ波動砲の弱点は発射準備に多くの時間を消費する事だ。向こうも同じ弱点を抱えているはずならば、こちらからの攻撃で発射を阻止できるかもしれない! 回線を開け!」

 

「航空隊各機に一斉通信開きます!」

 

「加藤隊長! 大至急敵空間要塞に接近し、敵波動砲らしき部分をターゲティングしてください! こちらから超長距離射撃を行います!」

 

『懐かしい響きだ。了解した!』

 

 




AAAwunder! 遂に出せました!

休載を宣言しましたが、試験勉強中にどうしても気になってしまったので……。
ごめんなさい、この話は出させてください。どうしても大事なのでこの話。そしたらちゃんと勉強します

WunderはAAAWunderでした。本物のAAAWunderです。ですが原作とはどうしても世界線が違います。
原作通りに進めたら登場すらさせられないので、別の結末を辿ったAAAWunderです。

この二つの原作を繋ぐ最重要要素であるAAAWunderは、今後どうなっていくのでしょうか?


この話、どうしても楽曲コードを載せたかったのですが、コードがありませんでした。
という事で、URLを載せておきます。
AAAWunder再覚醒シーンの始まり位から聴きながら読んでみた下さい

AERIAL REBUILD
https://youtu.be/PUI5QXX12Tc


今度こそ休載に入ります。
では、また次の話でお会いしましょう
(@^^)/~~~


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使命

「このブロックが、本艦本来の運用目的だったわね。あらゆる生命の種の保存。その守護のための半永久稼働可能な無人式全自動型の方舟が、AAAWunder本来の姿」

2028年 AAAWunder艦内音声ログ


 [633工区落下軌道突入直前]

 

 

 バレラスから飛び去ったデウスーラ二世のコアシップは第二バレラス内の特秘ドックに着艦した。床面から着底した事が分かる震動が響き、森は行動を起こす事にした。

 

「ここから逃げましょう。貴方の身をお守りする事が、私の任務です」

 

「そう言ってくれると思ったわ」

 

 どうやらノランも同じことを考えていたようだ。

 そう言った森は皇族用の長いスカートを破いて短くし、履物も脱ぎ捨てた。

 

「それと、やらないといけない事もあるの。Wunderがイスカンダルに向かえる様にする為に」

 

「何をなさるおつもりですか」

 

 何をするのか分からないノランは問い、森はそれに振り返り言葉を放った。

 

 

「波動砲を止めるのよ」

 

 


 

 

 管制室から飛び出したタランはそのまま真っ直ぐ特秘ドックに向かい、デウスーラ二世に乗艦した。煌びやかな装飾が今では鬱陶しく感じてしまう。気が散る。何故633を落とすのか。タランにはまるで分らない。

 頭の中で疑問とデスラーに対しての疑念が渦巻き、タランはいつの間にか艦橋の入り口に立っていた。

 

「お待ちください。現在、総統は作戦行動中です」

 

「緊急だ。通してくれ」

 

「お引き取り下さい」

 

「通せ!! 帝都が滅びるのを眺めているつもりかっ!!」

 

 タランの怒鳴り声に怯んだ歩哨を押し退ける。歩哨が止めに入るが強引に振り払い艦橋に押し入ると、上方のモニターを眺めるデスラーの姿が見えた。落ち着き払っていて何もかも思い描いた通り、まるで「作戦通り」という雰囲気を醸し出している。

 

「総統、どうか真意をお聞かせください!」

 

「お引き取り下さい!」

 

「構わない」

 

 艦橋から何とか追い出そうとする歩哨をデスラーが手で制し、タランは拘束から解放された。

 

「何故633工区をバレラスに落とすのです! あなたは……っ!」

 

「これは通過儀礼だ」

 

「通過儀礼……っ」

 

 帝都存続の危機とも言い換えられるこの現状を「通過儀礼」の言葉一つで片づけているデスラーが、タランには全く分からなかった。まさしく自身の意志でこの破壊を行おうとしている。

 

「バレラスはヴンダーと共に消滅する。ガミラスはその尊い犠牲をもって、旧き衣を脱ぎ捨てる。作戦終了後、第二バレラスはイスカンダルに降り立つ」

 

「私はここに宣言する! 今この時、この機動都市要塞こそが、ガミラスの新たなる帝都! 新たなる中心! 新たなるバレラスであると!」

 

「そしてこの機動都市要塞こそが、ガミラスとイスカンダルを繋ぐ架け橋となるのだ!!」

 

「遷都……大統合……架け橋……っ」

 

 デスラーが何を考えているのかが分からない。あれ程ガミラスの為に動いたデスラーが何故こんな事をしているのか。総統はそのことに興味を示したのだろうか……。いや、裏切られたんだ。

 

 多くの閣僚を抱えているが、実際は深い深い意味で誰よりも孤独。唯一頼ったのはスターシャだけ。だが、そのスターシャが地球に手を差し伸べた。

 全てガミラスの為、イスカンダル主義の為。その為に救済を行うべく大小マゼランを統一し天の川銀河に手を伸ばし地球に目を付けた。その地球に手を差し伸べたスターシャに対し、彼は「裏切られた」と思うだろう。

 

 ガミラスが環境改造をしているあの惑星に、イスカンダルは次元波動理論の力と希望を送り込んだ。あのヴンダーにはイスカンダルの力が組み込まれている。ガミラスに牙をむき大きな混乱をもたらしたあの船はスターシャが関わった。

 たったそれだけでも「唯一頼れていた人からも裏切られた」と考えても可笑しくない。

 

 デスラーは以前からいつからか気まぐれを見せるようになり何か別の事に執心を見せ、あの日からヴンダーに興味を見せた。「イスカンダルの力を一身に受けたこの世界ならざる宇宙戦艦」を。

 

 極端な拡大政策と異常な軍拡、大小マゼラン統一から天の川銀河への進出と、「居住可能な環境の惑星」の捜索と植民惑星の増大。そしてガミラス星と同じ環境をそっくりそのまま作った宇宙に浮かべた「空間機動」要塞都市。

 

 結びつかなかったこれらが、今この瞬間に結び付いた。

 

 

 

 

 

 

 

「……貴方は……帝都を潰したいのではない。違いますか?」

 

「貴方が破壊したがってらっしゃるのは、旧い物。旧来の貴族、人民……バレラスタワー」

 

「……」

 

「あれは只の塔などではありません! アレは砲台……イスカンダルに向けられた恫喝の砲台です。御存じなのでしょう?! かつての一派の暴走、イスカンダルの御業であるコスモリバースの強奪未遂を! 貴方は、たった一人で何をお抱えになっているのですか!!」

 

 タランは気づいた。気付いてしまった。デスラーが何を抱えてここまで来ているのか。

 コスモリバースは星を再生させる機能を持つ「イスカンダル次元波動理論の果て」とも呼べる代物。タランは実物を見ることは叶わなかったが、それの存在を知っていた。

 ガミラスはサレザー恒星歴1000年を迎え今も尚栄えている。だが、「サレザー恒星歴以前の事」は歴史に一切残っていない。

 

 

 

 だが、唯一伝わる古い神話の一節以外は。

 

 

《すると船は、大きく回って滑り出しました》

《向かう先には双子の星》

《その一つを差し出しながら、女神は王様に言いました》

《そなた達に名を与えよう。……ガミラスと》

 

 

 ガミラスは如何に領土を広げようとも、特定環境下でなければ10年程度でその土地の風土病により命を落とす。それは、考えうる如何なる方法を使おうとも解決する事はなく、大小マゼランを治める星間文明となったガミラス民族は、未だにガミラス星にしがみ付いている。

 

「この星にしがみ付いて何になる」

 

 時折デスラーが発していたこの言葉、ガミラス星に対しての執着が薄く、むしろ無いに等しい。そしてガミラスとイスカンダル中間に建設された第2バレラスと言う「方舟」は、ガミラス臣民を可能なかぎり乗せて生き永らえさせるための最終手段。だがそれも一握りの臣民を乗せるのが精一杯。

 

 人の間引きも必要なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 デスラーは、ガミラス星からガミラス臣民を逃がそうとしているのか……その答えに辿りついた結果、今目の前にいるデスラーは非常に険しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……タラン」

 

 

 そういったデスラーは自身の銃を取り出しタランに銃口を向けた。

 

「総統……っ」

 

「私には使命がある。その為には、この身を臣民の憎悪で焼かれても成さなければならない。ガミラス民族のため、恒久平和の為なのだよ」

 

 

 

 黄金の銃は真っ直ぐに向けられ、タランはもう一歩も動けず、一言も喋れなくなった。

 

 


 

 

《現在》

 

 

 

 Wunderからの通信を受け取った加藤は全機に当て一斉通信を開き指示を出した。

 

「という訳だお前ら聞いてたな! 敵要塞に再度肉薄し砲身部をロックオンしてWunderに転送するぞいいな?!」

 

『『『了解』』』

 

「あと式波と玲。お前らは戦術長の援護したら帰還しろ!」

 

『『何故ですか?』』

 

 明らかに反抗的な返答にヘルメット越しに頭を抱える。

 

「自覚しろ飛ばし過ぎだろ、先にWunderに戻ってろ」

 

『……了解。先に戻ります』

 

「総員行くぞ!」

 

『『『了解!』』』

 

 10数機の隼が飛翔する。16万8000の旅路を支えたパイロットたちの、ゴールへのミッションが始まった。

 

 ________

 

 

 

 

「アルファ1発艦作業を再開。カタパルトオンライン」

 リフトに載せられたゼロ改、機首の赤い1号機が持ち上がる。AAAWunderから放たれた波動砲の影響は艦内外共に凄まじい物となり、艦内の全機能を一度再起動せざるを得ない程の物だった。それ故に発艦作業も一時中断となっていた。

 

「コスモゼロ改アルファ1、発艦を許可する」

 

「発艦する!」

 

 カタパルトに押し出されたゼロ改は重力に従って一瞬降下し、機首を上に持ち上げて急上昇に入った。スロットルを最大に押し込みスラスターから青い噴射光を引き、重力を大きく引き離しながら大気圏の外側へと駆け上っていく。

 

「雪っ……!」

 

 計器が異常加速を示すアラートを吐いている。この場にユリーシャがいなくて良かった。戦闘機の操縦課程を積んでいない者であれば加速度に負けてしまい、その場で失神する事だろう。

 更なるアラートが鳴り響き、正面のレーダーに目を向ける。

 敵機が10時方向から接近。数5。多分地表の航空隊基地から離陸した機体だろう。

 

 操縦桿を思わず傾け射線を切る。敵機からの機銃掃射を機体を振って回避するが、背中に3機貼り付かれた。今は一刻も早く森……雪の元へ急ぎたい古代にとっては鬱陶しい物だ。

 

 やむを得ない。操縦桿の引き金に指をかける。背後を取れば後は引き金を引くだけだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、別方向から機銃の掃射が瞬き、敵機の主翼が撃ち抜かれた。レーダーに映る別の機体の表示。だがそれに被せる形で注釈が添えられる。

 

《Zwarke [Melda Dietz]》

 

 ドイツ語表記の見慣れない機体名は置いておいて、その後に続くドイツ語表記の名前には見覚えがあった。

 

「メルダ?!」

 

『みねうち……露払いだ。急げ』

 

 機銃の主はメルダだった。主翼を撃ち抜かれた敵機は煙を吐きながら失速していき、搭乗者は辛うじて緊急脱出したようだ。

 それを見届けたメルダの元には一斉にヘイトが向き、狙い通りだと口角を上げたメルダは不規則な軌道を取りながら回避行動をとり始める。

 

『コダイ、敵機は本土防空隊だ。1機ではキツイぞ』

 

「それは君もじゃないか」

 

『心配ない。来るだろうと思っているからな』

 

 来るだろうと思っていた。その言葉の通り、別方向からまた機銃のビームが敵機を爆散させた。実弾のような色をしたビームは地球製の特徴。

 山本の駆るゼロ改とアスカの駆る改2号機だ。

 

『私に任せてください』

 

『私達にだ。どうやら数的不利は抑えられた、ここは私達に任せてもらおうか』

 

『うぅわ私たち来る前提で発艦したの?』

 

『そうでもなければ来てないぞ。カトウなら2人をこっちに回すだろうし2人は揃って飛んでくるだろうと思ったからな』

 

『メルダ。後でパフェ奢りなさい。トッピング盛り盛りよ』

 

『……いいだろう。全機構え、Vizak(平らげろ)!』

 

 メルダの号令に合わせ山本とアスカも共に突撃していく。ミサイルを撃ち尽くしていた山本とアスカは背後から機銃で蜂の巣にし、同士撃ちとなるメルダは極力機銃で翼を狙い撃つ。

 

『お前は成すべきことを成せ』

 

「メルダ……」

 

『古代さん、行ってください』

 

「ああ……ああっ!」

 

 スロットルをもう一度強く押し込み、ゼロ改をさらに上昇させていく。目指すはラグランジュ1敵巨大要塞。

 もう、失わない。必ず助け出す。

 

 

 

 

 それを見送った山本は敵機に飛び込み叫ぶ。

 

 

 

「行っけぇぇええええ! 古代さーん!!」

 

 

 


 

 

 

 森とノランは船外服で身を隠し巨大艦から脱出。艦首方向に位置するデスラー砲制御室に向かう。ドック内部には多くのガミラス兵が端末を持ち、あちこちに飛び回り作業を行っている。

 

 

『薬室調整急げ、大至急だ』

 

『砲身は?』

 

『磨耗率は許容範囲内、耐えられる』

 

『波動コアの方は?』

 

『今は問題ないが、念入りに頼むぞ。しかし信じられるか? 巨大コア8つでやっとなデスラー砲をコアシップのオリジナルコア一つで賄うとか本当にふざけてるな』

 

『ゲシュ=タム・コアではなく波動コア。我々ではイスカンダルオリジナルコアには敵わないな』

 

 波動コア。イスカンダル由来である筈のものがここにある。でもそれさえ何とかすればガミラスは波動砲を撃てなくなるし、Wunderをイスカンダルに向かわせることが出来る。

 

 

「波動コアがここにあるの?」

 

「そのようですね。やはり……」

 

「やるわよ」

 

「本当になさるおつもりなのですね」

 

「止めないの? 今から私がやる事は、貴方たちにとって壊滅的なダメージをもたらす様な事よ」

 

「本当であるならば、今この場で無礼を承知してでも止めるべきです。例え……貴方がイスカンダル人じゃなかったとしても」

 

 

 ノランは確信していた。この方、この人はイスカンダル人ではないと。根拠はない、怪しい言動等は無かった。それでも、違うと判断した。

 B特殊戦群第442特務小隊の任務は、ユリーシャ・イスカンダルの保護。今は生き残りとして敬語対象の護衛。しかし保護した人物はそもそもユリーシャではなかった。これは広義では任務失敗を意味する。

 

「……いつから気付いていたの?」

 

「何かがおかしいと感じてはいました。確信に変わったのは今です」

 

「止めるの?」

 

 ノランは数瞬指向を巡らせ、こう言った。

 

「今この場で撃ってでも止めるべきかもしれません。ですが……私の任務は、警護対象の護衛です。貴方は人違いだった。ですが、それをこの場で処理できるほど、自分は冷酷にはなれません。貴方が人違いであった以上、貴方を敵軍に送還します」

 

 だがノランは任務失敗を受け、彼女を逃がす選択を取った。軍からは対象の抹殺を命じられるだろう。だが、今はユリーシャが人違いでテロン人だという事は自分しか知らない。ならば、彼女が死んだ事にして元の場所に送り返したい。

 

 

(惚れるなよ、ノラン)

(なっ! 誰が……!)

 

 

 いつの間にか惹きつけられていた。それでも時折彼女が見せる寂しげな表情から、自分はもう入れない事を何処か察していた。

 ならばせめて、彼女が望む人の元に帰そう。

 

 

「あなたの本当の名前を教えてください」

 

 

「……私は森雪。只の地球人」

 

「モリ……モリ様。貴方の成したい事を、微力ながらお手伝いさせていて頂きます。それが済みましたら、貴方を貴方の望む人の元へ帰します」

 

「私の望む人……」

 

「特務小隊を甘く見ないでもらえますか? あなたはよく、何もない空を見ながら悲しげな顔をしています。それは誰かを想っている顔です。私は心理課程も修了していますので。では、なるべく手早く済ませましょう」

 

 


 

 

 まるで岩盤をそのまま切り取り宙に浮かべたかのようなその要塞は、敵機来襲にも怯えずそのままL1に静かに佇んでいる。対空掃射もミサイルも飛んでこない。

 

「黙りすぎだろ」

 

『ターゲティングとか初めて聞きますけどどうするんですか?』

 

 第2次火星沖を体験していない面々はどうすればいいのか分からない。その頃の加藤は敵機を撃墜しながら敵艦のターゲティングを行う離れ業をしていたのだが、教えた事なんてない。

 

「あーそうだな。仕方ない、死に機能使うか」

 

『死に機能?』

 

「脳波アシストだ。操縦しようにも上手くいかんかったから切っていただろ? それでターゲティングするぞ」

 

 元々コスモファルコンは、Wunder積み込み時に改良を受けて「脳波による操縦アシスト機能」を引っ提げてコスモファルコンγにアップデートされていた。しかし、脳波で操縦のアシストを行う機能は評判があまり良くなく、多くのパイロットが切っていて半ば死に機能と化していた。

 

 しかし脳波感知機能の感度は馬鹿にできず、そのまま外さずに切る形で温存してきたのだ。

 

「アレ使うんすか!?」

 

「元々機器操作でターゲティング出来るようにはなってないからなコイツ。だったらそれ以外でやるしかない。全機、例の死に機能を立ち上げろ」

 

『酔わないっすよね?』

 

「自己責任だ。吐くならメット脱げよ」

 

 


 

 

「ここが制御室ね。ノラン、私の荷物は持ってきている?」

 

「ここに」

 

 船外服の腰元の小物入れには最低限のスペースがあり、ノランは森から預かっていた端末をそこに保管していた。レプタポーダで預かった時からこの時まで、いつ言われても即座に対応できるように保管していたそれにようやく活躍の機会がやってきた。

 

「ありがとう。邪魔じゃなかった?」

 

「大事な物と伺っていましたので」

 

 その言葉を背で聞きながら、森はPDAからコードを伸ばして最寄りの制御端末に接続した。

 

『ゲシュ=タム・コア1番から8番、制御信号受信』

 

『照準目標。大ガミラス帝星帝都バレラス。照準を固定』

 

「バレラスって、ガミラスの首都の?!」

 

「この兵器で帝都を狙えば、バレラスは消滅する……っ!」

 

「ノラン。……ガミラス星は、貴方にとって何?」

 

「私にとって……」

 

「ガミラスに併合されてガミラス軍に所属しているあなたは、この星を、ガミラスをどう思っているの?」

 

 

「……自分は、二等臣民としてガミラス本星に居住しています。ザルツは確かにガミラスに隷属しています、本来であれば滅ぼされていても可笑しく無い種族の身です。ガミラスの元についた事で、我々はザルツ本星はガミラス軍で酷使もされています。それでも……」

 

 

 機器の稼働音が静かに響く。

 

 

「我が祖国ザルツを残したガミラスには、少なくとも感謝はしています」

 

 ザルツ人であり二等ガミラス人でありガミラス軍人である。そのノランが出した結論は、「ガミラスに感謝はしている」だった。

 ガミラスとの戦争でザルツは抗戦した。結局は敗退し滅亡を突きつけられたが、その戦いぶりに免じて二等臣民として生きる道が与えられた。

 

 滅んでいれば自身に残るザルツ人としての誇りもクソもない。誇れる物があるから人は誇りは持てる。その点では、祖国を残したガミラスに、ノランは少なくとも感謝している。

 

「じゃあ、この波動砲を止めるわよ」

 

「……はい」

 

 ノランの意志も固まった。見計らったかのようにPDAの画面を操作し、手早く管理者権限を取得する。

 

 手慣れた手つきで端末を操作し、制御端末に表示されるガミラス語を時折ノランが翻訳し、操作を行っていく。

 その様子を見たノランは、一つの疑問に辿り着いた。

 

 

「モリ様は、なぜ波動砲の停止を決断なさったのですか?」

 

「Wunderがイスカンダルに行けるようにする為よ」

 

「それ以外にも、理由がおありの様に見えます」

 

 

 

 

 

 

「……波動砲は大きすぎる力だと思うから。私達地球の人類は勿論だけど、ガミラスにとっても大きすぎるかもしれないし、もしかしたらまだ持つべきではないのかもしれない」

 

「これが……不要だと」

 

「私達地球人類は、大きすぎる力を得てしまった事が歴史上に数回あるの。そのたびに間違えかけて誰かが軌道修正をしてきた。それが無かったら、今頃人類は自滅している。イスカンダルから波動エンジンがやって来て、私達が波動砲を作ってここまで慎重に使えたのは、前例通りに早期に軌道修正した人たちがいたからなのよ」

 

「それは、どなたですか?」

 

「Wunderを作った『たった2人の技術者』よ。一言で言うなら、反則クラスの技術科夫妻かな」

 

 そんな会話を交わしながら、森は操作を続けていく。

 ガミラスと地球の決定的な違い。それは、生まれた力をどう縛るかだった。イスカンダル信仰の深いガミラスはイスカンダルから睨まれるような兵器の開発はし難い筈。それでも開発していたのは理由があるかもしれないが、唯一違ったのは「たった一人でも発射出来る事」だった。

 

 その点を森とノランは知る由もないが、何となく想像はついていた。バレラスを狙うという事実を皆が飲み込むとは思えない。それでも発射準備が進んでいることは、引き金がただ一人に委ねられていて、現状誰も止められないからだ。

 

 

「それに、古代くんだったら多分止めると思うから」

 

「それが貴方の?」

 

「大事な人。真っ直ぐで冷静で頼りになる、かな。あと、間違っていると思ったらそのままにせずに正しいと思うやり方で行動する。だから古代くんもこれを正しい方法と思ってやる」

 

 


 

 

 迎撃機の一機も出ない要塞は、加藤達コスモファルコンを敵と認識していないのかもしれない。そもそもの迎撃機がもういない可能性もあるが加藤達からしてみれば、これだけ接近しているのに無視を決め込んでいる要塞に対し疑念が渦巻いていた。

 

「いいか? 脳波ターゲティングは念じた個所にサイトマークが出る。取り終わったらWunderに送るぞ。沢村、篠原は来い。他は機銃で気を引いてくれ。念の為だ」

 

『『了解!』』

 

 散開。に見せかけて加藤、沢村、篠原が砲身部に向かう。その他の機体は均等に散らばり各機各個射撃の構えに入る。敵要塞に等間隔に散らばった艦艇に向け機銃を発射。敵艦に損害を与えながら注意を引く。

 

「これよりターゲティングを入る!」

 

 加藤、沢村、篠原の機体が大きく加速し砲身に対し垂直になる軌道を取る。大きく飛び上がったかと思うと次は垂直に降下。砲身スレスレの軌道を取る。

 

 念じる。狙うべき場所を見つけ、念じる。カーソルを合わせ、引き金を引くイメージを頭の中で組み立てる。不意に、訓練時代によく言われたセリフを思い出した。

 

 

 [目標をセンターに入れてスイッチ]

 

 

 とうの昔の話なのだがそれが不意に蘇る。でもそれを意識してみる。

 

(目標をセンターに入れて……)

 

 カーソルが当てられる。

 

(こうか? スイッチ!)

 

 カーソルが引き絞られ固定される。カーソルの真下にlock-onの文字が表示され、赤色の点滅に変わる。

 

『隊長! 的付けれました!』

『こっちも完了。目標をセンターに入れて何とかでやれば早かったよ』

 

 

「篠原もそれ憶えてたのかよ。そのセリフ」

 

『耳が腐るほど聞かされてきたから流石に覚えてますって』

 

「まあ役に立ったしなコレ。全機退却!」

 

 

『『『了解!』』』

 

 

 ターゲティング完了と同時に機銃で気を引いていた機体軍が引いていく。まるで潮が一気に引いていくかのような鮮やかな撤退は敵側に疑問を持たせたが、Wunder側が何をしようとしていたのかその意図を察せる者はいなかった。

 

 

 _____

 

 

 

 

「L1の高エネルギー反応、依然増加中です!」

 

『こちら加藤。ターゲティング完了。照準データを送るぞ』

「来ました、敵要塞の波動砲砲身部です!」

 

 全周スクリーンに重ねる形で表示されたターゲティング情報はL1の要塞砲身部を捉えている。続いて第一第二主砲の現状の砲身仰角での予想射線が表示されるが、案の定大きくズレている。

 

「超長距離狙撃用意!」

「エネルギー伝達係数正常。ショックカノン、エンジンからエネルギー伝導有」

「照準調整、第一主砲回頭右2度仰角-0.7度。第二主砲回頭左1度仰角-0.6度。南部さん、当ててくださいね?」

 

「勿論です、俺は大砲屋です」

 

「お願いします。アルファ1に緊急通信。これより、敵波動砲砲身部への超長距離狙撃を行う。弾道データを送信する。注意されたし」

 

「了解」

 

 照準調整を観測通りに進め、見かけでは分からない程の仰角調整と砲塔旋回が行われる。調整が完了した瞬間、逆三角形のサイトマークが勝手に引き絞られ、照準が固定された。表示される射線はターゲティングされた照準のど真ん中を射抜き、射線を示すラインの色が赤に変化する

 

 それを見計らったハルナは右腕をゆっくりと上げる

 

「第1第2主砲2斉射、用意」

 

 ゆっくりと下ろし指先を正面に向ける。

 

「撃て!」

 

 ハルナの下令で第一第二主砲が火を吹き、真っ白な色になり強化されたショックカノンの光が伸びる。減衰を許さず真っ直ぐに敵要塞の波動砲砲身に突き進んでいき、綺麗に捻じれ6本が2本の光となり、さらに捻れ1本の力強い光となり、コスモファルコン隊がロックオンしたポイント目がけて突き進む 

 

 

 


 

 

 

『デスラー砲中枢制御システム再起動。薬室、ゲシュ=タム・コア、共に問題無し。デスラー砲の復旧、完了しました。デスラー砲に、余剰エネルギーの充填を開始します』

 

「発射準備に入られた!」

 

「あと何秒?」

 

「300ゲックです」

 

「つまり?」

 

「間に合うかはギリギリの差です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、小さくない振動が制御室に響いた。同時に警報音が制御端末から鳴り響き、警告ウィンドウが無数に開いた。

 

『警告。デスラー砲砲身部の損傷を確認。発射シークエンスを一時停止します。余剰エネルギー充填停止。コンデンサへの余剰エネルギー緊急流入を開始します』

 

「砲身部が?」

 

「モリ様、失礼します」

 

 ノランが森の前に割って入り正面の端末を操作して、第二バレラスの全体図を表示させる。最大幅25キロを誇る巨大要塞の砲身部。その部分が赤く点滅していて警告文が重ねて幾つも表示されている。

 

「砲身部に光学兵器が貫通したようです。ヴンダー並みの威力の砲撃が可能な砲身を損傷させるなんて、いったいどうやって……?」

 

 さらに操作して損傷状況を精査すると、損傷部分が溶けたかのような穴になっている事が確認できた。

 

「モリ様、先ほどの振動は、デスラー砲砲身が本星低軌道からのビーム攻撃を受けた事で起こった模様です。これほどの事が出来る船はガミラスには……まさか」

 

「でもこんな遠距離砲撃するのは、古代くんじゃないわね」

 

 

 


 

 

 

 L1を正確に指向した主砲の2連撃は宙を駆け、一瞬の爆発を生み出した。

 

「第1射斉射終了。光学観測による弾着評価。……ターゲットに弾着確認、砲身部の損傷を確認!」

 

 艦橋に歓声が響き、ハルナも思わずガッツポーズをした。もうフラフラなリクは親指を立てるのみだが、確かに波動砲の妨害は出来た。

 

「L1のエネルギー反応は?」

 

「観測によると、減少傾向にあります」

 

「そのまま観測を続行してください。第2射用意、仰角調整を」

 

 航空隊がターゲティングした個所は他にもある。次はそこを狙うために砲身が細かく仰角を調整する。ミリ単位の誤差が着弾点の大幅なズレを生む。細心の注意を求められる超長距離狙撃の第2射の準備は着々と進んでいく。

 

「古代さんのゼロ改は今どこに?」

 

「位置情報をスクリーンにオーバーレイするわ」

 

 赤木博士の操作でスクリーンに赤い光点と今後の予測軌道が重ねて表示され、光点に《α1》のコールサインが追加表示された。

 

「順調そうね。このままもう一発撃ちましょう。第2射、撃て!」

 

 第一第二主砲からまた陽電子の束が飛び出し、捻じれ、また砲身部に突き刺さる。

 

「弾着確認。敵砲身部の損壊を確認。光学映像出します」

 

 全周スクリーンに大きく表示された拡大映像は、敵の波動砲砲身から火の手が上がりスパークを散らし、破片を撒き散らしている様相。

 

 

「これなら撃ちたくても撃てない。あとは自爆目的でぶっ放すくらいにゃ」

 

「敵もそこまで思い切りが良いとは思えません。超長距離狙撃をしてもこっちに何のアクションも見せないのは、少々不気味です」

 

 


 

 

「第二バレラス砲身部損壊っ!」

 

「何処からの攻撃だ!?」

 

「本星低軌道上からです、低軌道上に存在する艦艇1!」

 

 デウスーラ二世の環境が慌ただしくなる。低軌道上からの常識的な距離を超えた超長距離狙撃。現状これを成し遂げられる艦艇はガミラスには存在しない。ならば外に目を向けてみればどうだろうか。それが可能かもしれない艦艇が一隻だけ存在している。同じ神殺しの船だったあの船ならばもしかしたら。

 

「低軌道上から狙撃か……っ!」

 

 ガミラス星地表から第二バレラスまでの距離は地球単位換算で実に19万2200キロ。低軌道上からの狙撃も考慮に入れれば距離が多少増減するが、誰も想定し得なかった超長距離狙撃を堂々と実行し見事に命中させた。

 

「砲身部多数の破孔を確認! デスラー砲発射不能!」

 

「まだだ……デウスーラを発進させろ。第二バレラスとの連動を切り、単艦での発射に移る」

 

「総統!! もうお止めください! あなたが今撃とうとしているのは、貴方の民となのですよ!?」

 

 タランが止めるが、デスラーは止まらない。ここまで自身の使命を妨害し挙句の果てにはデスラー砲さえも阻止したあの船を、ガミラスの異端と臣民と多くの旧きものと共に葬り去る。

 たとえ自身が憎まれても、自身を殺されようとも。

 

 

「だからこそ私がやらねばらならない。偉大なるガミラスと尊い臣民を犠牲にする罪。その罪は未来栄光私が背負っていく罪だ」

 

 デウスーラ二世が浮上する。特秘ドックを突き破る形で強引な浮上を続けていくその頭上には虹色に輝く輪のような物が出来ていた。神殺しの船そのものの力を開放したデウスーラは、嘗てのエアレーズングと同じ力を放ちながら高く高く上っていく。

 

 

「デスラー砲。発射準備」

 

『発射シークエンス再開。コンデンサ内部の余剰エネルギーを充填開始。ゲシュ=タム・ドライブ励起状態に移行。コアシップ、オリジナルコアの励起を確認』

 

 中央船体艦首に搭載された砲口が淡い桃色に発光し始め、重力子が蓄積し始める。艦橋にも微振動が伝わり始め、エネルギーが充填されていることが嫌でも分かる。

 

 艦首砲口はガミラス星、帝都バレラスを向けている。彼をそこまで駆り立てるのは何かの課は分からない。ただ正面にせり上がって来た発射装置を握り、左手でコッキングレバーを引く。

 構えた瞬間に、また警報音が鳴り響く。

 

「ヴンダー接近!」

 

 低軌道上から凄まじい加速で吶喊を仕掛けるヴンダー。肉眼でもはっきり見える程の防壁を正面に構えたヴンダーはそのまま衝突コースを取り激突を仕掛ける。

 Wunderのような波動防壁を搭載していないのデウスーラ二世にとって艦首損傷は、最強の力の損失と言う大損害になる。

 

 

 

 

 だが、この船には「これ」が存在している。

 

 

 

「✕✕✕✕✕✕✕、展開」

 

 


 

 

 

 低軌道上から速やかに離脱したWunderは要塞から浮上した敵艦を補足。波動砲発射準備に入っている「Wunderに酷似した艦艇」を確認し即時に戦闘態勢に入った。

 

「波動防壁正面に集中展開!」

 

 沖田艦長の指示で波動防壁が正面に力強く展開され、主砲が正面を向き、凄まじい豪炎をノズルから吐き出す。

 

「第2船体全砲塔ショックカノン用意。目標、正面敵超巨大艦!」

 

「諸元入力完了、エンジンからのエネルギー伝導終わる!」

 

「撃てぇ!」

 

 正面指向可能な砲塔は甲板と艦底部を合わせて8基。都合24門の主砲から放たれた陽電子の束24条の光は真っ直ぐに突き進んでいき、敵艦に突き刺さろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、1発も船体に届かなかった。

 

 

 

「敵艦被弾確認出来ず!」

 

「状況を確認!」

 

 ショックカノンが有効打にならず動揺が広がる。

 弾かれたのでは無い。1発も船体に届かなかったのだ。ドメル艦隊との戦闘で、ショックカノンは「装甲に弾かれた」。だが今回は船体に命中する前に「何か弾かれた」のだ。

 

「冗談じゃないぞ……ッ!?」

 

 戦闘艦橋の入口で聞こえた声の主はメルダ。ツヴァルケを第3格納庫に着艦させてここまで走ってきたのだろう。大きく肩で息をしているが、敵艦が展開させた「それ」に対し驚愕を隠せずにいる。

 

「ディッツ少尉?」

 

「あれはA()T()()()()()()だ!!」

 

 

 




デウスーラ2世(エアレーズング)が遂に発進!
神殺しの船が2隻いるので、ここからは怪獣大決戦させようと思います。

覚醒Wunder(AAAWunder)を書いてエアレーズングを書くのは最初から決まっていたので、ここで書けたのは良かったです。

(同じ体格なので、この2隻)

それではまた次の話で!
(。・ω・)ノ゙


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絶対恐怖領域

あなたは死なないわ。私が守るもの

2015年08月16日20時30分 
二子山決戦開始210分前の記録


「ATフィールド、展開」

 

 デスラーのその一言で、デウスーラ2世の正面に輝く壁が現れる。6角形に展開されたそれはWunderの正面火力の全てを受け止め、全て跳弾させた。

「絶対恐怖領域」、地球言語に翻訳するとそのような意味になるこの防壁は、何を拒絶するかによって受け入れる物と拒絶するモノを変えられる万能の防壁は、何もかもを拒絶していた。

 

 オップファータイプ搭載型2番艦。デウスーラ2世の素体となった船の動力だったMark10は4肢を切り離され、デウスーラ2世のその腹に取り込まれ特殊装備と化している。原型となったオリジナルプラグを組み込まれたそれは、壊れたままを過ごした魂を載せ、目の前の対象に対し異常なほどの恐怖心を示す。

 そうして生まれた防壁は生物無生物問わずあらゆるものを無制限に拒絶する。

 

 そして防御兵装であり大量虐殺も可能。それが、補完による救済を目指して動いた船の成れの果てだった。

 

 

 


 

 

 

「あれはATフィールドだ!!」

 

 メルダが叫んだ事実を認識するのに、艦橋要員は数瞬の時間が必要とした。だが、それを過去に実際に見て存在を理解している者達は、その事実の恐ろしさを一瞬に理解した。

 Type-nullが発生させていた物と全く同種の光の壁。あらゆるものを拒絶し得る絶対無敵の防壁。それを相手が展開していた。

 

「どういう事……あの船はエヴァンゲリオンなの!?」

 

「狼狽えるな。もう一度斉射用意だ。太田、真田君、赤木博士。MAGI全権限とあらゆる観測機器と波長を用いATフィールドを解析できるか?」

 

「出来なくてもやります!」

 

「真希波、敵艦首部のエネルギー反応を観測。発射タイミングを予測できるか?」

 

「やりますっ!!」

 

「ディッツ少尉。ATフィールドの特性について、判明している事を全て教えて欲しい」

 

「了解した。だが我々にとっても未知が大きい領域だ。手持ちの情報は少ない」

 

「構わない。島、いざと言う時は艦首をぶつけてでも射線を反らせ」

 

「了解!」

 

「アナライザー。これよりMAGIシステムは敵ATフィールド解析に全リソースを投じる。艦内全制御系の権限の使用を許可する。艦の制御を支えろ」

 

『リョウカイ!!』

 

「沖田艦長……」

 

「あのATフィールドはこの次元で起こっている現象だ。ならばこの世界で成り立つ法則に従っているはずだ。たとえ神の力でも科学の力でもだ」

 

 沖田艦長は宙将であり宇宙物理学博士号を持つ。軍人であり科学者の一面を持つ彼は、目の前の物から目を逸らさない。幸いにも、WunderはType-nullを通して発生したATフィールドを見た事がある。つまり辛うじて既知であり、完全な未知ではない。

 

「ATフィールドは位相空間を使用した防壁で、本来は機体のコアの振動を空間に与える事で生まれるものだ。それ故に『絶対恐怖領域』とも呼ばれてる。強度次第で視覚化と物質化可能な防壁だが、私も聞いただけでここまでのモノは見た事が無い」

 

「空間上に別の波を伝播させ位相の異なる空間を創り出しているという事か」

 

「それなら波動防壁も……」

 

「いや、波動防壁は波動エネルギーを用いて周囲の量子力学的な性質を変化させ、ある程度の攻撃を確率的に回避しているだけだ。空間位相を変化させているのではない」

 

「じゃあ、こちらが逆相波を与えて打ち消す事は可能か?」

 

「恐らく。だが、空間そのものを揺らす以上不可能に近い。この船には、エヴァンゲリオンが無いからな」

 

 

「同じ手段で壊す事は不可能か。観測機器を艦首方向の観測に全て回せ。島、第2船速で敵艦正面に向かえ」

 

 

 


 

 

 

『オリジナルプラグからのコールバック、規定値をクリア。デストルドー指向方向逆転の予兆なし』

 

 人工音声が淡々とMark10のステータス状況を報告する。およそ人の所業とは思えない技術が用いられたATフィールドという防御兵装は、倫理観の喪失と引き換えに絶対防御を提供している。

 

 オリジナルプラグ。Type-nullに搭載されているダミーの祖となったオリジナルプラグは、エアレーズングと共にこちら側に流れ着いたエヴァンゲリオンMark10のエントリープラグであり、紛い物ではなくパイロットそのもの。人工的に製造されたパイロットであり、製造時から人間的に正常な自我を持つことを完全に無視された調整が成されていた。

 その代わり、機体を操ること一点に特化しており、神の偽物であるMark10の制御ユニットとなっている。

 

「タラン君は別室に通しておいてくれ」

 

「総統ッ!」

 

「……後で話そう」

 

 護衛に機関銃を突きつけられタランは成す術がなく、艦橋から退出させられた。「後で話そう」とは言ったものの、デスラーに話す意思などない。口を封じさせて二度とその話をさせないつもりだ。

 

 艦橋内に警報が鳴り始め、デスラー砲の方向に再び光が灯る。姿勢制御スラスターが艦首をゆっくりと微調整し始め、バレラスに狙いを定める。ヒスの独断によりバレラス臣民の緊急避難が行われていることはデスラーは知らない。だが、デスラー砲の一撃はそれらの抵抗すらひき潰し、何もかもを地理すら残さず文字通り消し去ってしまう。

 

「ヴンダー急速接近。砲撃態勢の模様」

 

「余剰エネルギー充填率、70バーゼルです」

 

「回避行動」

 

「間に合いません。すでに衝突は避けられません」

 

 音速に近い速度で猛進するヴンダーを前にして、デウスーラは回避行動に入る前に側面を食い破られるだろう。

 

「……ATフィールドを全開にしろ」

 

「恐れながら総統、それではオリジナルプラグの生態ユニットが焼き切れます。以降のATフィールド使用は不可能となります」

 

「構わない」

 

「ですが……っ!」

 

 オリジナルプラグは生体ユニットであり、機械ではない。それ故量産できない事が最大の弱点であり現状では整備も出来ないのだ。極めつけに製造方法は不明。つまり、現状では未解明テクノロジーで産まれた完全な使い捨てである。

 

「やれ」

 

「……っ」

 

 デスラーの有無を言わせない眼光に異議を唱える事も出来ず、コンソールは操作される。目の前のATフィールドが青みを帯びていき、コンソールの表示が乱れ始める。まるで叫んでいるかの様に表示が乱れ、やがて光すら通さなくなる。

 

 

 

《還りなさい》

 

 

 


 

 

 

「撃ち方始め!」

 

 再び32条のショックカノンが放たれる。現状撃ち続けても効果は無いことは分かっている。だが沖田艦長が言う様にATフィールドはこの世界のこの次元上で発生している現象であり、それ故にこの世界の法則に縛られている。

 

 ならば観測機器で特性を見ることが出来るかもしれない。特性さえ分かればそれに合わせて攻撃を加えてATフィールドを貫通させられるかもしれない。

 

 幸いにもWunderは波動エンジンを2基搭載している。余剰次元からの莫大な供給のお陰でエネルギーの心配はいらない。

 

「やはり、空間の位相がかなりズレています。通常空間と位相空間の境界面も確認しています」

 

「そこがATフィールドの正体か?」

 

「まだ分かりません。次元断層に入り込んだ際に本格的な解析を行えなかった以上、データが不足しています」

 

 前述の通り、Wunderの面々はATフィールドを見た事がある。Type-nullが偏向ユニットを利用して発生させたそれは本来観測すべきものであったものの、偏向ユニット制御による余裕の無さから観測できていない。

 従って1からデータを集めるしかない。少なくとも正体さえ分かれば戦闘以前の問題である「現代技術で突破出来るのか」が分かるだろう。

 

「境界面に異常あり、電磁波の遮断が始まっています! 観測不可になるまでそう時間もありません!」

 

「重力震による空間解析は?」

 

「可能です、空間波動エコーのみは依然全震幅帯での観測が可能です」

 

 光学兵器を防いでいたはずの防壁が電磁波すら防ぎ始めた。マイクロ波から赤外線といった長い波長の光はすぐに遮断されていき、可視光線も時間の問題。波長の短い紫外線、X線、ガンマ線による観測なんかもそう持たないだろう。

 

 幸いにも重力震による観測はいまだに使えている。それも一切の支障なしだ。

 

「空間波動エコーは通す……重力からは逃れらないのか」

 

「ちゃんとこの世界上で発生しているもののようです。……っ!?」

 

 突如真田のコンソールが大きく乱れ、観測グラフが糸くずの様に変化する。一見ただの糸くずの様に見える観測グラフ。一瞬だけ形を成したその姿に、真田は戦慄した。

 

 

 

 

「人の……顔……っ」

 

 

《還りなさい》

 

 

「……ヴヴゥッ!?」

 突然押し潰されるような感覚に全身を蝕まれ、相原は思わず頭を抱えた。これは攻撃なのか、咄嗟に判断出来ないほどの苦痛に反応が遅れてしまい何も出来ない。

 

「相原さん!? 皆さん無事でっ……!?」

 

「母……さん?」

 

「総司……!」

 

「守……」

 

「ユイさん……」

 

(これっ……全員幻影が見えているの!?)

 相原が苦しみ始めたのを皮切りにしたかのように島が、沖田艦長が、真田が、マリが、そしてこの場にいる全員が苦しみ、あらぬ虚空に名前を呼んだ。

 自身の心にどうしようもないほどの恐怖を強引に与えられ、辛い過去を強引に追体験させられる。それを救うかのように表れる大事な人の革を被った幻影が皆の前に現れる。

 

「グウゥゥゥッ!!!」

 

 その恐怖が遂にハルナにも伝わり始め、何もかもすり抜けて自身に飛び込む恐怖に支配されていく。血で濡れた視界。迫る爆風。崩れ落ちた建物。そして、あの人の亡骸。

 自身の記憶に残るあの時の風景が回り始め、自信を支配しようと迫り来る。

 

 それと同時に迫って来るリクの幻影。しかし、何故か手を伸ばす気は全く起きない。

 

《還りなさい》

 

 

「……ッ!?」

 

《還りなさい》

 

《還りなさい》

 

《帰りなさい》

 

「ううぅぅ五月蝿い黙っててッ!!!!」

 

 思わず口から飛び出した暴言にハルナは1つの疑問も持たなかった。普段はこんな事を口走る自分では無い。ただ分かるのはどうしようもなくブチ切れている事だ。

 

 だってこの声は、紛れも無くリクの声だ。どこの誰かも知らない幽霊擬きに大事な人の声を勝手に使われては腸が煮えくり返る程度では済まない。

 

 

「アンタがリクを語るな消"え"ろ"ッ!!!」

 

 

 ハルナは気づいていないが、その言葉には明確な怒りともう1つの何かが籠っていた。

 それは殺意。ほんの一瞬の殺意の乗った言葉はリクの幻影を八つ裂きにしてしまい、リクの形だった何かはガラスの破片の様に崩れる。

 今までハルナが持ち得なかったそれの由来はハルナ自身も知らないが、自分が強烈な殺意を向けた事を本人が知らない事は幸いな事だろう。

 

 

「お前……なんでハルナの姿でハルナの声で喋ってるんだ?」

 

 低く重い声がハルナを振り向かせた。振り向いた先ではリクがハルナの幻影の首に手をかけていて、静かな怒気を滲ませていた。

 

「お前の間違いはハルナの姿を使った事だ。最愛の人の姿で殺そうとしても無駄だ。だって偽物からは、何も感じないんだよッ……!」

 

 その言葉を最後に力を込めると、幻影はガラスのように砕け散り、リクも刃を収める。

 

 

 

 敵の失敗は1つ。「大事な人の幻影」を見せた事だ。

 

 

 

 だが、それでも「死者の」幻影に手を伸ばしている人は多い。動揺してどうすればいいのか混乱している人もいるが、混乱している方はまだ大丈夫な方だろう。手を伸ばして受け入れてしまったら確実に死よりも酷い事になる。境界まで行って薫の存在とその正体を知る過程で知った現象。「ATフィールドの飽和」と言われていたが、ハルナはそれを「死よりも酷い物」と捉えていた。

 

 皆が飽和させられたらお終いだ。一気に幻影を潰すか追い出さねば全員一機に飽和されてお終い。Wunderの航行もままならなくなり人類も終わりだ。

 

「アナライザー! 操艦を半自動に切り替えて安全装置を全部切って! いざと言う時はあなたが操艦して! どんな無茶もして良いから!」

 

『リョウカイ!』

 

「リク、手を!!」

 

 苦痛を文字通り消し、リクに手を伸ばす。どうすればいいのか方法は分かる、でも人1人の意識で出来るような事でも無い。

 

 ならば、2人分の意識で解決するしかない。否定の意志を際限なく巨大な物にしてしまえば正気に戻したり追い返す事くらいは出来るかもしれない。何故なら、「ハルナは薫の娘」であるのだから。

 

 覚悟は決まった。連れ添う彼も覚悟を固めた。

 その手も心も再度結ばれた。

 

 

 

「お母さんッ!!!」

 

 

 

 瞬間。その双眸が赤く輝き、魂が震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急に人の気配が増えたのを感じ背後を振り向いた瞬間、誰かがいた。全員輪郭が溶けているが確かに人の形をしている。その数9名。男性が女性か辛うじて判別できるがそれ以外は分からない。しかし皆、腕に水色のバンダナを巻いている。受け入れようとしている皆は見えていないし察知もしていない。

 

 

 

 

 

 

(水色のバンダナ……?)

 

 

 

 

 

 

 そして沖田艦長の座る艦長席の真横。そこに2人の誰かが立っている。唯一ハッキリと識別できるその2人は女性で、艦長帽を被り、目元をサングラスで隠している。もう1人は髪をベリーショートまで短くしているが、そこにいる筈がない人物だった。

 

 

 

(赤木博士!? そんなっ……博士は今「ここ」にいるのに!?)

 

 

 

 リクにも見えている。だが、艦長とは別に現れた1人の少女がリクの目の前に浮いていた。もう10年以上伸ばしっぱなしの水色の髪と妙なパイロットスーツ。胸の中心に「00」と数字が書きこまれている。妙な髪飾りをしてハルナのような真っ赤な瞳をしている。

 

 

 

(貴方達に変わりはいないから、私の様な事はしないで。それと……私のクローンが迷惑をかけてごめんなさい)

 

 

 

 何十倍にも引き伸ばされたこの一瞬。幻影なのか幽霊なのか分からない。ただ分かるのは敵では無い事。そして、確かに地球人であること。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちょっち恩を返すわよ。レイ、手伝ってくれる?)

 

(私の魂とアダムスの体ならば、可能です。ATフィールド、全開)

 

 

 

 

 


 

 

 

 

『余剰エネルギー充填率、80バーゼル。照準、テロン艦ヴンダー』

 

「デスラー砲、発射態勢。フィールド越しに発射する」

 

 発射装置の引かれたコッキングレバーに手をかけ引き金にも指をかける。フィールドを酷使する事でチャージ中の大きすぎる隙を埋め、そのフィールドを貫通させる形で発射してWunderを消し去る。その後、バレラスを撃ち一度リセットしてしまう。

 

『オリジナルプラグからのコールバック、デストルドー理論値を突破。自己崩壊の予兆を確認』

 

 Mark10のステータスの悪化を淡々と告げる。元が壊れた魂。見境なく拒絶を示す以上連続使用は崩壊を促す。量産不可整備不可使い捨てである以上これはどうしようもなく、デウスーラ2世は早々に切り札の一つを失いかけていた。

 

「発射態勢」

 

 絞られたカーソル上にフィールドの激突したままのヴンダーが映る。激突した状態でそのまま動けなくなっているのは、おそらくATフィールドから外側に発散されている強力なデストルドーによる物だろう。操艦すらままならない状況下で酷い幻を見て幻影にすがった瞬間死ぬ。何より、多くの研究者がこれで死んでいるのだ。

 

『警告 Mark10からのコールバックに異常。ステータスに急激な変動あり』

 

 人工音声が発した異常警報に1人の士官がコンソールに飛びつき詳細を開く。生体反応は最低限の生命維持の観点からは異常なし。しかし心理グラフに急激な変動が見られた。

 何か強力な感情をぶつけられたかの様な変動を見せ、酷く動揺しているように見られた。

 

「あり得ません、Mark10の心理グラフを大きく揺らせる人間なんて……」

 

 只々拒絶と恐怖を向ける事しか出来ないMark10が、只の人間が向ける強力な感情で小さくない動揺を見せる。Mark10の解析を行った士官からしてみればこれは有り得なかった。向けられる「全ての物」に対して拒絶を示し、まるで引き籠るかのようにしてATフィールドを展開する。それなのに攻撃でも何でもない筈の感情1つで機能不全を起こした。

 まるで怯えている。それがその士官の抱いた印象だった。

 

「これはっ……強烈な殺意による物です。疑似的に死亡体験をした状態に陥っているかと思われます」

 

「死亡体験だと?」

 

「検証実験中の事故で、知人の幻影を受け入れてそのまま液状化した件が数件存在します。それを受け入れず、殺意を込めて何らかの方法で幻影を壊すか否定した場合であれば……」

 

 生体部品は命。絶対防御を実現した反面、予想だにしなかった大きな弱点を抱えてしまっていた。ATフィールドは不安定なまま。向けられるデストルドーと押し潰すかのような恐怖も、向けられた殺意に怯み揺らぐ。

 

 知らない力を強引に取込み制御した結果がこれだ。

 

 

 


 

 

 

 

 知らない声を聞いた。女性の声で、すぐに艦長らしき人の声だと分かったが、儚く消えてしまいそうだがそれでも生きようとする声で発せられたあの言葉で全ての理解が追い付いた。

 

 気付いた時には、この船の目の前に「ATフィールド」が展開されていた。あり得ないとメルダが言ったにもかかわらず目の前に光る壁がまるで角錐の様に展開されていたのだ。

 敵艦のATフィールドと衝突し、その莫大な斥力がフィールド同士の隙間でせめぎ合う。その暴力的なまでの斥力の衝突に原子が巻き込まれ、強制的に核融合が発生する始末。目が眩むような眩い閃光の向こう側に、大きく軋み始める敵のATフィールドを見た。その瞬間、幻影が大きくひび割れ砕け散っていく。

 

 

「状況を報告!」

 

「幻影が消えました……ですがこれは!?」

 

 自分の息子の幻影が消えて数瞬の動揺はあったものの、すぐに沖田艦長が各所に指示を飛ばす。それ以上に目を奪ったのが真正面に展開された全く別のATフィールド。中心からオレンジ色の波が全体に広がる六角形。あの次元断層で見た輝く防壁そのものであり、エヴァ無しでは展開など到底不可能であるはずだった。

 

「エヴァを載せていない筈なのに、どうして!?」

 

「多分、この船のアンノウンドライブがエヴァと同じものだからだと思う。Mark6……地球にやって来たエヴァンゲリオンとアンノウンドライブ、アダムスが同じ物らしいから。けど、それでは全然説明がつかない」

 

 

(赤い服の艦長は一体誰なの? どうやってWunderと一緒に来たの?)

 

 

「ハルナ、あの艦長達の事は後でも考えられる。今は目の前に集中しよう」

 

 リクの一言で現実に引き戻され、正面を向いた。ATフィールドはまだ展開されている。フィールド同士を押し付け合うと破壊、もしくは侵食、中和が出来るのだろう。恐らく使用者の意志に沿った使い方が出来て、それこそ「基本これがあれば後は何とでもなるだろう」といったレベルで万能。意思次第で強度も上げられるかもしれない。

 

「島君、そのまま敵艦を要塞に落として!」

 

「落とすんですか!?」

 

「フィールドを壁にして押し込めるならさっきみたいな事は無い! フィールドが限界になる前に押し込んで行動不能にさえ出来れば勝ちだよ!」

 

「……第4戦速っ!」

 

()()()! お願いします!!」

 

 ATフィールドを構えたままWunderは豪炎に押し出され敵艦を押し込んでいく。敵艦も負けじと押し返そうとするが、AAAWunderとして再覚醒したWunderの莫大な推力と斥力の前には敵わず、2500mの船体がじりじりと押し込まれていく。フィールドに依然変化はない。敵艦のATフィールドを侵食している以上こちらも侵食を受けていても可笑しくないのにも強度は見かけではまったく変化していない。

 

 

「……っ敵艦の波動砲発射兆候確認、残り12秒です!」

 

「上げ舵45傾斜で逸らせ!」

 

 マリが感知した予測発射タイミングは残り12秒。射線をずらして回避しつつ同時にイスカンダルとガミラス星が射線に入らないようにしなければならない。

 Wunderは艦首を持ち上げ自身を射線の外にずらしにかかる。ドメル艦隊との初戦と同様に莫大な推力と斥力を用いて艦首を尋常ではない勢いで持ち上げる。それは2500mの船体にも効果を発揮し、至近距離に存在する波動砲口がの向きが強引にずらされる。

 

 発射態勢に入った敵艦にも重力アンカーのような機能があるのだろう。2500mの巨体を固定する以上凄まじい出力が必要であり、どうしても掠めることを回避できない。

 

「敵艦艦首に高エネルギー反応! 来ます!」

 

「波動防壁艦首へ集中展開、数秒耐えればいい!」

 

 ATフィールドの外側に波動防壁が展開され、2枚張りの防壁で傾斜装甲を形成。そのまま波動砲が至近距離を掠める。波動防壁最大出力で被弾経始圧はおよそ18万TPA。それが炎に曝される氷のように溶けていく。

 

「被弾経始圧急速低下! 耐圧限界まで10秒!」

 

「徳川機関長エンジンリミッターを解除! 多少無茶してもいけます! コイルも今は無視で!」

 

「山崎聞いとったな!?」

 

『了解! 両舷リミッター解除、過負荷運転に入ります!』

 

 リクの判断でリミッターが解除された波動エンジンは過負荷運転に入り、フライホイールから青白いスパークが発せられる。制御室への全員退避が遅れていれば全員死亡は免れない。唸りを上げる機関と共に出力が上がり、それと同時に波動コアのステータスモニターにも変化が現れる。

 

 

 コア本体の出力グラフが、全く同じカーブを描いているのだ。まるで2つで1つかの様に。

 

 

「両舷出力140%、何秒なら大丈夫じゃ!?」

 

「60秒超えたらダメです! 島君!」

 

「重いッ……!!」

 

 同体格の相手を持ち上げるのは困難を極め、操縦桿も酷く重い。人一人の力では到底持ち上がらない。

 

「そのまま持ってて! リク!」

 

「分かってる、ハルナ右側!」

 

「行くよッ!!」

 

 島の両側に回り込み操縦桿に手を置く。1人が無理なら2人。それでもなら3人。幾らでも方法はある。

 ハルナの確認でリクと島も頷き、コンソールに足を突っ張り力を籠める。

 

 

「「「せぇーのっ! 上がれぇぇええッ!!」」」

 

 

 力いっぱい引かれた操縦桿はゆっくりと手元に引き寄せられ、操縦桿が軋みながらもWunderの艦首も上がっていく。

 それと同時に波動防壁も消失し、Wunderと敵艦は腹を合わせた状態で艦首が完全に上を向いた。その状態を狙っていた沖田艦長は間髪入れずに指示を飛ばす。

 

「下げ舵45、そのまま敵要塞に叩き落とし行動不能にする!」

 

 再び艦首を下げそのまま敵艦を艦底部を使って弾き要塞に落下させる。さらに追い打ちをかけるようにして艦底部の30連装VLSを両舷合わせて60発撃ち込む。

 

 至近距離から放たれたミサイル60発は揺らいでいるATフィールドに突き刺さり大きな爆発を起こす。通常小艦隊規模以上でしか成し得ないミサイルの豪雨を叩きつけても尚破れないが、それでも混乱する敵艦を怯ませることは出来た。

 

 ガミラス艦艇は武装の内陽電子砲塔は仰角を取れない。魚雷発射管の事を無視すれば、今は実体兵器以外の攻撃を考えなくてもいい。

 ならばそのまま要塞に叩きつける。さらに60発を分散させる事なく1点に叩き込み、その大規模な爆発を使って追い打ちをかけていく。

 

 


 

 

「艦を立て直せ!」

 

「ダメです、敵艦からの飽和ミサイル攻撃で姿勢制御が困難です! このままの状態を保つだけでも精一杯ですっ!」

 

 デウスーラ2世は仰向けに近い状態で要塞に叩きつけられようとしていた。通常艦艇の全長を遥かに凌ぐその巨体が第二バレラスに叩きつけられたら要塞は崩壊を避けられないだろう。

 

「ダメと言うな、何でも試せ! 総統の座乗艦を沈める積もりか!」

 

「……主推進を切りたまえ。両舷ゲシュ=タム・ドライブを全てATフィールド操艦に回せ」

 

「っ……! 主推進を切りATフィールド操艦に切り替えろ!」

 

 デスラーの一言で直ちに命令が実行され、防御に回されていたATフィールドが全て操艦に回った。船さえ持ち上げる出力は遺憾無く発揮され、瞬く間に降下速度が下がっていく。第二バレラス崩壊と撃沈は何とか回避。しかし反撃の為には艦首をヴンダーに向けなければならない。

 背負った光輪が怪しい紫の光を滲ませる。艦の姿勢を元に戻すにはそれ相応の隙が目立つが、万能を誇るATフィールドであれば慣性制御との合わせ技で迅速な機動が可能だ。

 

「魚雷発射管全門装填。自動追尾設定急げ!」

 

「照準、テロン艦ヴンダー。発射準備よし」

 

「発射」

 

 デウスーラから放たれた魚雷80発がヴンダーに殺到し、全方位からの飽和攻撃を実行する。対するヴンダーは対空迎撃をフル稼働させて一本一本迎撃していくが、左舷側の対空兵装が融解しているようで処理能力が低い。対処しきれずに被弾を重ね、破孔が目立っていく。それに対して前方からの魚雷は完全に防がれている。敵のATフィールドは随分と強固な物なのだろう。

 

 魚雷で時間を稼ぎながら艦首を敵正面に向ければ次は陽電子カノンだ。装甲がスライドし格納されていた480mm陽電子カノン砲塔が展開され始める。その数12基36門。330mm陽電子カノンも合わせればその砲門数は倍の72門。

 ガミラス史上最大砲門数のこの船の一斉射ならば……撃沈できる。

 


 

 

 

 

 

「これで波動コアは暴走を始める。もう二度と波動砲を撃てなくなる」

 

 敵艦が浮上し波動砲中枢を失ったとしても、森とノランは制御室から離れなかった。エネルギーラインが生きているなら、この都市はどれだけ時間がかかっても波動砲を撃つ。それがたとえ想像でしかないとしても、森は捨て置けなかった。途中で中断して逃げる事も出来たのにそれをしなかったのは、罪のない人が間違った力で死ぬ事を少しでも無くしたかったからだろう。

 

「ありがとうノラン。これ以上、貴方が付き合う必要はないわ」

 

「なぜそこまで頑張ろうとするんだ、あなたは」

 

「色んな人と出会って、自分のすべき事が分かったから」

 

「今自分が出来る事、自分がすべき事も」

 

「これで無駄な破壊が生まれないなら、このレバーを下ろす意味はきっとあると思う」

 

 そう言って森はレバーにかける手に力を込める。波動コアの暴走によりここは吹き飛ぶ。自身も巻き込まれ死ぬだろう。それでも、降ろすつもりでいた。

 ノランはそれを見て左手で払い、右からある物を取り出した。

 

 

「モリ様、ここまでです」

 

 ノランが森に突きつけたのは、拳銃だった。

 

「ノランっ……どうして!?」

 

「分からないのですか? これは本物のガミラス人になれるチャンスなんですよ。僕がこの秘密兵器を守り切れば、1等ガミラスも夢ではない、本星の家族たちもどれだけ喜んでもらえるか想像も付きません」

 

「バカなこと言わないてっ……!」

 

「バカな事じゃない! だからっ……!」

 

「貴方はここで終わりです」

 

 そう言って、ノランは突き付けていた銃の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 引き金を引かれた森は、一滴の血も流さずに「気絶」した。ノランが突き付けた銃はパルスガン。ただ気を失わせるだけのもので、任務用として小隊配属時に支給された物だ。

 

「お許しください。あなたにこれを引かせる訳にはいかないのです。これを引けばあなたは、もう戻れません」

 

 森の端末に表示されたボタンを押し、警告画面が表示される。表示されている意味を画面から読み解くことは出来ないが、今まで森が作業していた内容から大体は想像がつく。

 波動コアの暴走と第二バレラスのエネルギー寸断、そして制御室の大爆発。自分の身も爆発と同時に消えるだろう。

 

 気を失った以上しばらくは目を覚まさない。今のうちに森を外に出そうとノランは森を抱えた。低重力環境であっても落とさないように慎重に抱えエアロックを解除、制御室を出て破壊されたドックに出る。このまま救難用の発信器を全開にして宇宙空間に流せば、何れ誰かが救助してくれるだろう。

 

 そう考えて森をガミラス星に向けて流そうとした時に、正体不明の戦闘機が急降下してきて、その場で姿勢を一気に水平に戻した。銀色の機体色に三本角の赤い機首、着陸するつもりだったのか、着艦用と思われる車輪が展開されている。キャノピーが開きそこから現れたのは、船外服に身を包んだテロン人だった。

 

「テロンの戦闘機。モリ様を探しに来たのか」

 

 このパイロットが森が想っている人なのか。そう直感的に感じたノランはホルスターに伸ばしていた手を引っ込め、パイロットに向かって床を蹴った。パイロットもその意を汲み拳銃の構えを解いた。

 

 あとはこの名も知らぬパイロットに森を元の場所に帰してもらうだけ。そう思うと、少し後ろ髪を引かれそうになるが、森の心は既に別の人に向いている。ならば元の場所に帰そう。

 

 

(テロン人、モリ様をお願いします)

 

 森を静かに受け渡し、ノランは敬礼しながら離れる。

 

(貴官の行動に感謝する)

 

 それに対してテロン人パイロットも敬礼の様な物を帰してきた。パイロットは森を抱えてそのままコクピットに戻り、キャノピーを閉めて浮上を始めた。ぼんやりと見えるキャノピーの向こう側には、自身の姿が見えなくなるまで敬礼をし続けているパイロットが見えた。

 

(モリ様。貴方が成そうとしたことは、この私、ノランが引き継ぎます)

 

 制御室に戻ったノランは森が残した端末に表示されたボタンを押し最後の仕上げに入った。このレバーを降ろすだけ。ノランが森を気絶させたのは、森を生かしたかったから。そして自身の意志で大量破壊をさせたくなかったからだ。波動コアの暴走はゲシュ=タム・コアのそれとは比べ物にならない。贋作とはいえあれは波動コア。この要塞は丸ごと吹き飛ぶだろう。

 

 

 

「もう2度と、帝都はやらせません」

 

 

 ノランはその言葉と共にレバーを下ろした。

 

『警告 波動コア制御不能 波動エネルギー臨界。まもなく、爆縮します』

 

 警報音が鳴り響き、ノランはその場で座り込んだ。

 

 

 モリ様、どうか、生きて幸せに

 どうか、「お願いします」

 

 

 

 数秒後、全てが光に包まれた。

 

 


 

 

「第二バレラス管制塔から緊急警告です! デスラー砲チャージ用波動コアの暴走を確認! まもなく爆縮、要塞が崩壊します!!」

 

 既に要塞の一部から火の手が上がり、そこを中心にして爆発と内部施設の倒壊が始まっている。いずれその爆発もこのデウスーラ2世を飲み込むだろう。陽電子カノン砲塔のチャージは全砲塔全門完了している。それなのに緊急退避を余儀なくされた現状にデスラーは苦々しい表情をした。

 

「……っジャンプしろ!」

 

「艦長!?」

 

「第二バレラスはもう助からん! 急げ!」

 

 その中でいち早く危険を感じた艦長によって緊急ワープの指令が下る。各砲塔に回されたエネルギーを一度砲塔から退避させ、2基のゼルグート級専用ゲシュ=タム・ドライブと補機のドライブ4基を大きく唸らせる。艦尾に展開された光の輪に瞬間的に押し出され、デウスーラ2世は自らが展開した真っ赤なワームホールにその身を飛び込ませた。

 

 その数秒後、デウスーラ2世が存在した宙域にも爆炎が押し寄せた。

 

 

 ______

 

 

 

「敵艦、ワープしました……」

 

「要塞が崩壊したのか。一体、何があったんだ」

 

 船体に多くの破孔が目立つWunderの戦闘艦橋で、その爆炎を静かに見ていた。敵要塞の連鎖的爆発を観測したWunderは緊急退避の為重力推進を用いて急速後退をかけた。それが無ければ今頃爆炎に飲まれて甚大な損害を受けていただろう。まさに退避一択だった。

 

「古代くんは……、反応は?」

 

「爆炎が酷く、観測不能です。あの爆発では……」

 

「百合亜ちゃん何が何でも探すよ。光学観測と電波観測で、ゼロ改に近い質量物を探しましょう。相原さん、ゼロ改が受信できてるかの確認をお願いします。航空隊も動員して下さい。アスカちゃんと玲ちゃん、メルダの補給も終わっていたら出してください」

 

 2人も皆も決して諦めていない。魚雷の飽和攻撃の中生き残った観測機器をフル稼働させ、周辺宙域のスキャンを行っていく。周辺宙域でWunderによる回収を待機していた航空隊も行動を開始して、残り少ない燃料を使いながら宙域の捜索に入る。

 

 センサーが拾った情報が全周スクリーンに表示されていき、「mismatch」とタグが付けられていく。無数の破片に曝されたのだ。機体が損壊して原型がある程度失われているのかもしれない。

 

 無情に時間が過ぎていく。一分、二分、三分、機体が損壊していた場合、機体内の酸素にも問題が発生する。酸素漏出による呼吸困難。酸欠による死亡リスクも考えられる。

 宇宙用攻撃機の酸素は基本的にはパイロットの呼気の二酸化炭素を分解し酸素に戻して再利用される。つまり機体とパイロット間での循環が行われているのだが、そのサイクルにダメージがあればパイロットはたちまち酸欠を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらアルファ2山本!』

 

 泣き声で入ってきた通信の主は山本。呼吸も荒く、切迫した状況であることを示している。

 

『……古代さんを見つけました! 森さんもいます!』

 

「機体状況は!?」

 

『損傷が酷く機首と両翼、エンジンが損壊! 酸素漏れもあります!』

 

 ゼロ改2号機から送られてきた画像と報告から分かる機体状況は想定より悪かった。航行不能となり酸素が漏出している。早急な救助とパイロットの治療すら必要となる状況だ。

 

「通信は繋がるか!?」

 

「受信は出来ているようですが応答在りません! おそらく……」

 

「アルファ2はその場で待機、Wunderをアルファ1に可能な限り近づけろ。甲板部から救助隊を編成し救助活動に当たらせろ」

 

 冷静を装った沖田艦長の指示でWunderも移動を開始し、残骸で満たされた宙域を砕氷船の様に掻き分けていく。装甲に無数の破片が衝突し、擦過傷が増えていく。ATフィールドは既に解除されている。波動防壁も機能しない。それでも頑丈さと言う取り柄1つで戦場跡に戻っていく。

 1号機発見と共にもたらされた状況と応答なしの事実に、艦橋要員一同に最悪の事態がよぎる。だがそれを振り払い、只ひたすらに希望を見つめて上を向く。

 

「アルファ1を確認!」

 

『第三格納庫ハッチ解放、救助作業に入ります!』

 

 

 

 ________

 

 

 

 

『酸素残量が著しく不足しています。直ちに対処してください。酸素残量が著しく不足しています。直ちに対処してください』

 

 警告音がヘルメット内で響いている。酸素が不足しているらしく、ひび割れたコンソールの1つのモニターには、酸素残量の低下の警告ウィンドウが開かれている。腕の中には気を失ったままの雪がいる。あの時爆発から回避するために推力を臨界ギリギリまで上げたはずなのに、その爆発の余波に巻き込まれてしまった。

 

「生きて……いるのか」

 

 尤も、酸素が尽きれば酸欠で死んでしまうが。まずは、救助信号をまずは全力発信してみる。動けない以上、救助を待つしかない。緊急脱出も考えたがキャノピーが歪んでいて緊急脱出装置も働かない。

 

 

『酸素残量が著しく不足しています。直ちに対処してください。酸素残量が著しく不足しています。直ちに対処してください』

 

 

 減り続けていく酸素残量を横目に、古代は森の状態を確認した。顔色も悪くなく、呼吸も確認できる。何より古代にとって重要なのは、「生きている事」だった。

 

「こうして君を助けられたのに、こんな状態なんてな」

 

 酸素はほぼゼロに近く、酸欠まで既に秒読みが始まっているだろう。

 

 

「古代……くん」

 

「雪……!」

 

「ここは?」

 

「ゼロ改のコクピットだ。君に付いていたザルツ人が、君を引き渡したんだ」

 

「ノランが、私を逃がした……古代くん」

 

「何?」

 

「……夢じゃないよね」

 

「ああ、夢じゃない」

 

 航行能力の全てを喪失したゼロ改は、そのコクピットに収める2人の人物をその身を挺してでも守り切った。

 

 作業用装載艇が近づいてくる。荷台に船外服に身を包んだ甲板部員が近づいてきて救助作業に入り、ゼロ改が荷台に固定されていく。

 

 Wunderが死に体のゼロ改に慎重に接近してくる。船体の各所に穴が開いているが、どうやら化け物じみた堪航性のお陰でまだまだ多くの余裕を残しているようだ。

 

 そのWunderの背後には青い星。

 

「遥かなる約束の星」があった。

 

 

 

2199年7月16日

国連宇宙軍恒星間航行宇宙戦艦Wunder

イスカンダルに到着

 

同日

旧WILLE所属 AAAWunderの再覚醒を確認




この話もかなり難儀な物でした。
ATフィールドを破るために他の手段を取れるのか、どうすればATフィールドを発生させられるのか。

その結果が、アダムス組織とリリスの魂です。


目には目を歯には歯を、ATフィールドにはATフィールドを。結局この形に落ち着きました

それでも、この結果あの艦長とあのパイロットを出すことが出来ました。うp主は大満足です
ですが決してご都合主義ではないのでその辺はご理解ください。


次の話はイスカンダルの話です。
(@^^)/~~~





追記
デウスーラ2世の武装等データを追加しました


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イスカンダル

遂に到着です

ここまで1年半以上かかりましたが、何とかハルリクとWunderを到着させることが出来ました。皆さんありがとうございます。


それでは、イスカンダルのお話です。



「本艦はこれより、イスカンダルからの誘導に従い着水します。王都、イスク・サン・アリア。気温27度、大気圧1024hPa。風力2、南の風。海上はうねりも無く、穏やかな晴天です」

 

 青々とした海。点在する島々。それらをさり気なく際立たせる白い雲。

 

 地球から遥か16万8000光年。大マゼラン銀河サレザー恒星系第4惑星

 地球圏衛星軌道ドック「鳥籠」からの強行発進から、約5か月。

 

 今、奇跡の船とその乗員900名余りは、最終目的地であるイスカンダルにやって来た。

 

 イスカンダル重力圏に身を任せ徐々に降下していき、両翼の着水用フロートを下ろす。初稼働ではあるものの問題なく動作し、着水態勢を整えていく。

 全周スクリーンに映る青々とした生命の星に、一同船外服のヘルメットを取らざるを得ず、その目にその姿を焼き付けていく。その青い星の姿を見つめていた沖田艦長は徐に艦内放送を繋げた。

 

「Wunderの諸君、艦長の沖田だ。我々は、遂にイスカンダルに来た。見たまえ、今諸君らの目の前にイスカンダルがある。この機会に艦長として一言だけ、諸君らに申し上げたい。……ありがとう、以上だ」

 

 その放送を聞いていたハルナは、放送が終了すると同時に糸が切れた人形のように脱力した。今の今まで呼吸を止めていたかのような深いため息をつき、無重力に体を預けて目を閉じた。急にグッタリし始めて珍しく狼狽える真田だが、イスカンダルに着いた事よりもこの2人が心配のようだ。

 

「大丈夫です、張っていた気が一気に抜けたみたいで……ひと月位張りっぱなしだったんです」

 

 それを理解しているハルナは真田の心配を解き、薄らと開いている目でイスカンダルの景色を全周スクリーン越しに見た。

 

「真田さん、お願いしたい事があります」

 

「Wunderのミッションレコーダー……特にFCS絡みの所から、幾つか取り出して纏めてもらいたいデータがあるんです。それと一時間だけ時間貰えますか? ちょっと休憩です」

 

「それくらい構わないが、何をする積もりなんだ?」

 

「回答を出すんです。リクも同じこと考えてますし、付いて来ると思います」

 

 肝心のデータの内容が語られていないが、真田は何となく察していた。どうやら包み隠さず全てを打ち上げる積もりらしい。

 

「いや、暁君は同行した方が良いが、大怪我の睦月君を流石に連れて行くわけにはいかない」

 

「真田さん、リクがそうしていると思いますか? 佐渡先生でさえ諦めて行かせたくらいですから。置いてったら追いかけて来そうです」

 

「起きたばかりで検査も出来ていない。後日訪問する手もある」

 

「それじゃちょっとダメなんです。この船を作って波動砲を装備した者として、ケジメを付けておかないといけないので。イスカンダルの力。大きすぎな力を自分なりに正しいと思う方法で使った証明はこの船であり、私達でもあるんですから」

 

「……動き回らずジッとしているなら大丈夫だろう。それでどうだ?」

 

「ありがとうございます」

 

 大きな溜息をついた真田の譲歩でリクの動向は決定した。

 その言葉を最後にして、ハルナは戦闘艦橋の中で寝息を立て始めてしまった。

 

「……寝てるのか?」

 

「戦闘艦橋で寝るとは吞気な事にゃ。真田さん、取り敢えずどっかに寝かしておきましょう」

 

「病室に……いや、何時もの部屋に戻しておくか。佐渡先生には私から説明しておこう」

 

 三度目の溜息をついた真田とマリの手によってリクとハルナは何とか抱えられ、暁・睦月研究室のベットに寝かされた。

 

 

 


 

 

「何時ものベットだ……」

 

 極度の疲労で気づかずに眠ってしまったリクは起きようとした。が、腕が折れている事を思い出してそのままの体勢でいることにした。いつもの研究室にいつもの天井。非常に見慣れた景色が目に映る。

 

「おはよ」

 

 非常に聞きなれた声を感じ取りその方向を向いてみると、すぐ真横でハルナが横になっていた。

 

「……どれくらい寝てた?」

 

「50分ね。真田さんたちの作業ももう少しで終わるみたいよ」

 

「作業? ……波動砲絡み?」

 

「うん。謁見に持ってった方が良いって思ったから真田さん達にお願いしたの。そこで私も寝ちゃったみたいで」

 

 てっきり病室に戻されたと思ったリクとしては、研究室の方に戻された事には驚いた。それ以上にすぐ横で一番大事な人が付添ってる事に嬉しく思い、何となくハルナの頬に手を伸ばして触れてみる。

 

「もう無茶は出来ないな」

 

「……強くなりたいって思ったのに、結局守られちゃった。ごめん……無茶させちゃって」

 

「怪我」と言う単語を意図的に避けたハルナの顔は少し暗く、重ねる手は少しだけ震えている。

 

「構わないよ、両方生きてさえいれば」

 

 生きてさえいれば。死を間近で体験し、彷徨いもした結果生まれた考え方だ。死にさえしなければ後はどうとでもなる。一見酷く捻じ曲がっている様に見えるが、例えどうなっても下だけは向かない事を示している。

 

「今、イスカンダルにいるのか?」

 

 何とか起き上がろうと体を起こすが、片方折れている為腕で体を支えにくい。すかさずハルナが介助に回る。

 

「うん。王都の沖合に停泊しているの。……行くの?」

 

「ケジメはつけないといけない」

 

「準備できてるよ。真田さんの許可も取れてる」

 

「……全部読んでたの?」

 

 余りにも手際の良い準備にリクは驚いた。「自分も行きたい」なんて一切言っていない筈だ。行きたいという意思はあったが、それを伝える前に眠ってしまった以上伝えようが無かったのだ。それなのに全て読んで準備にかかったのはもはや「察し」の域を超えている。

 

「読んでたって言うか、何か全部聞こえちゃうみたいで……」

 

「全部?」

 

「周りの人の声が盗聴みたいに聞こえてて気持ち悪い……今はリクの声だけだから何ともないけど」

 

「はぁ……?」

 

 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。ハルナは誓って人間だ。本人からそんな特技を聞いた覚えもないが、唯一思い当たるのが、薫の記録だった。

 風奏から受け取った記録には、薫も同じ事が後天的に出来るようになったと綴られていた。母から子へ受け継がれ、それが境界の時に引き出されたとしたならば、強引にではあるが辻褄が合うかもしれない。

 

 そう考えたリクは、とにかく試してみることにした。

 

「今何考えているか分かる?」

 

「……こんな時に何吞気な事考えているの?」

 

「いいから答えは?」

 

「……ハルナ可愛い。惚気る事言わせないで……」

 

「他人の声が鳴り響いているなら、誰かの声だけ聞くようにすればいいんじゃない? 何か法則とかもあるかもしれないし、その辺は後で真田さんたちと相談しながら調べよう」

 

「分かった。とりあえず、リクの声だけ聞いてることにする。何とかして他の声はスルーする。あと……」

 

「思考と発声の一致……かな? 主観だけど、ズレてたらごちゃごちゃして気持ち悪そう」

 

「そうそれ。ズレている人多くて頭痛いし気持ち悪い」

 

「何とかしてみる。頭で考えながら言葉にすればいけそう」

 

 一先ず対応策は出来上がった。頭で言葉を作りながらそのまま言葉として発声する。言葉と思考のズレさえなくなればハルナが気分を悪くする事もないだろう。

 

「準備しよ。遅れたらマズいよ?」

 

 これ以上考えていると本当にショートを起こして復旧不可能になりそうだ。焼け焦げた艦内服の上を脱いで国連宇宙海軍の軍服を羽織り、リクとハルナは研究室を出た。

 

 

 


 

 

 

 今現在Wunderが停泊しているのは、イスカンダルの王都「イスク・サン・アリア」。都市全体にクリスタルや曲線を多用した建造物が広がる古代都市の様な都市だ。建造物の一つ一つを芸術品と形容しても差し支えない程の美しさを持つこの都は、耳が痛くなる程の静寂に満ちていた。Wunderはその大きさ故に王都の沖合に停泊しており、そこから王宮からの連絡船でWunderから移動。今は王都市街の河川の上を進んでいる。

 

 本来は沖田艦長も向かうはずだったが、佐渡先生の進言で今は医務室で精密検査を受けている。ここまでの長期航海で何度か体調を崩した事と、持病である遊星爆弾症候群の再発リスクを常に抱えている事を受けて、一度時間をかなり要する精密検査が提案され、現在検査の真っ最中だ。

 

「静かな町だ……」

 

「静かどころの話じゃないよ、一切の生活音が聞こえない」

 

「……」

 

 リクは王都市街に入ってからずっと考えていた。直感的にではあるが聞いてはならないと悟った以上想像で補うしかなく、ああでもないこうでもないと頭をひねる。目立たない程度に周囲を見渡すがかなり綺麗だ。恐らく人がいなくなってからずっと清掃されているのだろう。そしてユリーシャとサーシャが平然としているから少なくともここ数年の話ではなく数十年の話。あるいはもっと、百年以上前かもしれない。

 

 そうこう考えていると王都中心部の宮殿に連絡船が到着し、一行はエレベーターに誘導された。

 数秒で謁見の間(?)に到着し、古代、真田、新見に森。リクとハルナとメルダにユリーシャ、そしてサーシャが正面のエレベータらしき物体の前で待たされている。

 

 

 

「広いね……」

 

「ファルコン全部駐機させても余るな。壁が見えない」

 

 市街では感じられなかったが、この宮殿は規格外に大きい。それでも細部に至るまで装飾が施され、嘗てはかなり栄えた国だったという事が分かる。

 

『マモナク、オミエニナリマス』

 ガミロイドによく似たアンドロイドが応対してきて、もう少し待ってみる。数秒後、卵のような形をしたユニットが下りてきて、それが消えたかと思うと金色の長髪の女性が現れた。

 

 

 イスカンダル皇室第一皇女

 スターシャ・イスカンダル

 

 

 イスカンダル最後の王族にして長女である彼女は、ユリーシャとサーシャが着ているイスカンダル文化の礼装らしき服装で出迎えてきた。従者らしきアンドロイドを横に付かせているが、かなりガミロイドに似ている

 

《ユリーシャ、サーシャ。よく戻ってきました》

《お姉様。ただいま戻りました》

 

 イスカンダル語が飛び交い、古代達Wunder一行は内容を掴めずにいる。メルダは何となく理解はしているようで目を閉じて右手を胸に当てている。

 

 

「地球の皆様。私はスターシャ・イスカンダルです。私は貴方方の星に波動エンジンの設計図とメッセージカプセルを妹のユリーシャに、波動コアをサーシャに運ばせました。本来波動エンジンは星の海を渡るもの。……それを貴方方は武器に変えてしまった」

 

「……ですがそれは!」

 

「古代、今は止せ」

 

 波動エネルギーの兵器転用に難色を示したスターシャに対して古代は何かを言おうとしたが、真田がそれを制した。その名前に反応を示したスターシャは古代に声をかけた。

 

「あなたお名前は……?」

 

「古代進です」

 

「私は、艦長代行として来ました副長の真田志郎です」

 

「情報長の新見薫です」

 

「お初にお目にかかります。私は、航宙艦隊司令長官ガル・ディッツの娘、メルダ・ディッツと申します」

 

「そちらの白い髪のお2人は……?」

 

「Wunderの改設計と波動エネルギーの兵器転用を行った、睦月リクです。負傷の身故、このままで失礼します」

 

「同じく、暁ハルナです」

 

「貴方方が……」

 

「あれがどんな物かは、我々なりに理解しています。だから私達はあの兵器を縛る事に決め、その縛りの範疇に力を留めています。ハルナ、あれを」

 

 リクの考えたことはハルナに伝わり、懐から取り出した物を自分たちの近くにいたアンドロイドに手渡した。手渡した物は、ユリーシャが地球来訪時に持参したあの金色のデバイスだ。

 

「こちらをスターシャさんにお渡ししてもらえますか?」

 

 地球言語が通じたのか、アンドロイドはデバイスを受け取りスターシャの元へ移動して、礼をしてスターシャに手渡した。

 

「これは……」

 

「Wunderのミッションレコーダ、その中から、イスカンダルの力……我々が波動砲と呼称する部分を抜粋した記録です。ユリーシャさんとディッツ少尉にもご協力頂き、イスカンダル語への翻訳も完了しております。これが私達の、『力に対する回答』です」

 

「……分かりました。ユリーシャ、サーシャ。貴方が見てきたものを私に伝えなさい。……ムツキさん、アカツキさん。貴方方も宜しいでしょうか?」

 

 

 


 

 

 

「真田さんも居た方が良かったかな?」

 

「多分大丈夫。真田さんも渋々身を引いた感じじゃなかったから」

 

 謁見の間から場所は移り、前室らしき部屋に通されたリクとハルナは伸びていた。厳密には伸びてはいないのだが、ややリラックスしていた。だが前室と言えど広さは侮れず、学校の教室と見間違う程の広さがある。それこそキャッチボールが出来そうなほどで、軽い運動すら可能だろう。

 

『オマタセシマシタ。ドウゾコチラヘ』

 

 アンドロイド……いや、イスカンドロイドと呼称しよう。イスカンドロイドに連れられて向かったのはこれまた大きい部屋。その中央にソファが向かい合わせに置かれていて、その片方にスターシャが座っていた。

 

「おかけください」

 

「失礼します」

 

 スターシャに促されてハルナとリクはソファに座った。スターシャの手元には謁見時に手渡したあのデバイスが開かれたまま置かれていた。そこに映る四角いウィンドウが円を書くように回り続けている。

 

「アカツキさん、ムツキさん。あなた方の記録を拝見しました。……波動砲の対物兵器としての運用。そして力を特定の範囲のみに留める誓い。……力の方向を自ら定めた、と言うことですね」

 

「……力に溺れてはいけない。この航海と波動砲に関わった事から、私達はそう考えています。それはどんな力にでも言えることであり、それがたとえ星を壊す力だとしても」

 

「イスカンダルは嘗て、その力で大マゼランを血に染め、大帝国を築き上げた歴史があります。……それ以降は救済の星となりましたが、詳しくお伝え出来ませんがそれ以降もある特定の用途で使用され続けました」

 

「波動砲乱用防止の枷は、開発時に応急的にですが取り付けてあります。それが、国際波動砲使用制限条約」

 

「波動砲の対艦対惑星への使用禁止。そして兵器としての複数人による発射承認プロセス。これ等を用いることで、波動砲の無用な使用を避け無用な破壊を避けられると判断した上で、宇宙戦艦Wunderへの波動砲の搭載及び運用を行いました」

 

「その先は、どうなさるおつもりですか?」

 

 スターシャが危惧したのはその先の話だった。地球が復興し、軍備が再編され、波動機関の増産により波動機関搭載艦が増え、地球側が条約を無効にし波動砲を揃え始めたらどうするのか。

 大きく膨らんだ力が何もかも消した。イスカンダルの過ちの一つだったそれをどう回避するのか。

 

 

「それについてなのですが……1つだけ妙案があります。ですが、相手方が賛同して貰えるかどうか……」

 

「聞かせて貰えますか」

 

 

 


 

 

 

「どういう事なんだよ!? 貰えるんじゃなかったのかよ!」

 

「私の聞いた話だと、少し時間を置くみたいだけど……」

 

「どっちにしろバカにしてるぜ!」

 

「ホントに渡してもらえるのかなぁ……」

 

 地球から遥々イスカンダルにやって来た。地球人類の未来をかけてここまでやって来たが肝心の惑星再生装置が直ぐに受け取れなかった。その事実は艦内を騒々しいものにするには十分な物であり、一時的な不信感にも満たされた。

 

 

 ________

 

 

「という事なんです」

 

「「「……」」」

 

 スターシャとの会談が終わり、古代や真田達に遅れてWunderに戻ったリクとハルナは、その会談内容を全て話した。その話を聞いた古代と真田、沖田艦長は言葉を失っていた。

 

「本気なんですか?」

 

「やるならそれ位しか方法がありません。地球内で監視し合ったとしても誤魔化されたり懐柔されたら意味がありません。でしたら、戦後の地球との関係が持てて、尚且つ独立した立場から監視ができる立場に頼むのが一番だと思います」

 

「確かに効果はあるかもしれないが、それにはまずは休戦協定か友好条約が必要となる。それはいいのか?」

 

「その辺りはまず休戦協定として結びます。イスカンダルを仲介しての締結となりますが」

 

「だがこの船には外交権を与えらえていない。条約とはいえ非公式な物になる」

 

 沖田艦長が最も懸念していた事に切り込んだ。条約は外交権を与えられている者同士で結ぶ物であり、それが無い状態では締結された物は非公式な物となる。波動砲条約では各管区の外交担当が結んだが今回は違う。地球最後の希望である超弩級戦艦の一艦長とイスカンダル最後の王族、そして巨大星間国家の元首。この三国家間で、今まさに地球政府の許可無しで条約を結ぼうとしているのだ。地球に帰還してから査問にかけられても可笑しくない。

 

「確かにただの口約束と受け入れられても何ら可笑しくありませんし、地球政府側に無視されても文句は言えません。ですので、守らざるを得ない状況を作ってしまえばいいのです。まだ青写真ですが、時間はありますので少しずつ詰めていきましょう」

 

 この三人が考えている事はそれぞれ視点が違う事もありバラバラなのだが、「この2人が政治をし始めたら何でも通ってしまうかもしれない」と考えた事は共通していた。

 

 

 

「……それで行こう」

 

「艦長、宜しいのですか?」

 

「戦後復興も考えれば、確かに彼らの力を欠く事は出来ない。復興速度向上も見込めるならば、リスクはあれどメリットを取るべきだ。会談までの時間は?」

 

「5日間です。帰還スケジュールもありますので、イスカンダルに滞在できるのは軽く見積もって10日から2週間。帰還時に亜空間ゲートが使用出来ない場合も想定してありますが、なるべく早く進めていきましょう」

 

「2人とも、こういう事はもう少し相談をしてから……」

 

「その場でプランを全部組んじゃいましたので。お伝えする時間が無かったんです。本当にごめんなさい」

 

 真田のいう事も尤もであり、一言で説明すると「戦後の未来をこの2人が決めようとしている」のだ。それを自覚しているリクとハルナは深々と頭を下げた。

 

「……結果として人類の為になれば結果オーライかもしれないが、これに関しては副長として処罰を下さなければならない。2日間の謹慎……とは名ばかりの休暇だ。2人で仲良く休みなさい。勿論業務は抜きだ」

 

 処罰と言う単語に思わず縮こまったが、真田から下された処罰内容はあまりにも目を丸くするものだった。それは処罰と呼べないのではと2人は目を合わせるが、有無を言わせる隙も無く真田が畳み掛ける。

 

「諸々の事は私と沖田艦長、戦術科と手の空いている識者を集めて進めておこう。2日経ったら確認に来なさい。それと、休暇中に医務室で検査をする事だ。特に暁君、何連勤するつもりだい?」

 

「ううぅ、自覚ありです」

 

「ですが良いんですか? Wunder損傷してますし、修復指揮は誰が執るんですか?」

 

「修復作業は榎本甲板部長と赤木博士の合同指揮で可能な限り行う。対空武装はサイズ面の問題から宇宙に上げてからになるが、装甲程度ならば可能だ。まぁ、何かあれば一時的に呼ぶかもしれないが、気ままに休暇を消化してくれ。副長命令で、睦月リク一尉暁ハルナ一尉に二日間の休暇を命ずる」

 

「真田君、それは最早休暇命令じゃないか」

 

「この2人はこうでもしなければ休みません。極度の疲労で艦橋で寝る程ですので、今後もそのような事があれば問題です」

 

 この人は何を言われようと何が何でも休ませる気満々だ。それを悟ったリクとハルナは甘んじて処罰(休暇)を受け取る事にした。休暇を半ば押し付けられた2人が先程まで座っていた席に戻ったのと同時に、会議室の自動ドアがノックされた。

 

「入れ」

 

「原田衛生士、入ります」

 

 自動ドアが開かれ原田がタブレットを抱えて入室した。どこかソワソワしていて落ち着かない様子だが、何か良い事を思いついた笑みを浮かべていた。

 

「会議中失礼します。原田衛生士、意見具申!」

 

 

 

 

 ______

 

 

 現在Wunderはイスカンダルの沖合に停泊している。従って水深が10数メートルあり、実は泳ぐに適していない。そのため原田の提案は却下されかけた。しかし、今まで閉鎖空間で生活してきた乗員のストレスは大きく、「ライフジャケット有ならば安全」という事で「特例」で許可された。

 

 

 水しぶき、日差し。反射する波。その身を海に委ねるWunder。船体に打ち付ける波、風、潮の香り。

 

 

 実に数年ぶりの自然を感じるべく、多くの乗員がライフジャケット装備で青々とした海に飛び込んだ。

 

 

「真琴ナイスゥ!!」

 

「そうそう。そこに海があるなら、ガス抜きは必要よね」

 

 この船に積載されていた被服類の中から、待ってましたと言わんばかりに引っ張り出された水着はようやく日の目を見ることとなり、乗員のバカンスに一役買っている。

 

「ねぇねぇ加藤さんは? 来ないの?」

 

「それがね、さぶちゃん徳川さんに誘われちゃって釣り中なのよ」

 

「それにしてもバカンスとは……」

 

「睦月さん、動いても(ry」

 

「流石に海に入るのはアウトですけどね」

 

「あれ? そういえば何か話し合いしていたんじゃなかったんですか?」

 

「2日間の休暇中なんです。働きすぎだから休めって言われまして……」

 

「あはは、副長が労基になってる」

 

「労基(笑)」

 

「それはそうと、よくこんなのありましたね?」

 

「副長=労基」という妙なイメージが付きそうになったのを察したリクは唐突に話題を変えた。浮き輪にビーチボールと言った「海水浴のお供」とも呼ぶべき物品は積んでいない筈だ。そもそもこの船は軍艦。場違いにも程がある。

 

「それが、真希波さんが作っちゃったんです。申請して資材も用意して」

 

「「はぁ……?」」

 

 艦内工場にビーチボール製造用の機械は積んでいない。資源があったとしても作るのは面倒臭い筈なのだが、まさか作ってしまったとは。だが、部品製造用の汎用立体成型機があった事を思い出した2人は全てに合点がいった。

 

「それで、マリさんは?」

 

「あそこですね。あのピンクの水着です」

 

 ハルナが目を向けた先には浮き輪で浮いている人が見えたがよく見えない。ここ最近ずっと裸眼だった事を思い出したハルナは仕方なく眼鏡をかけて見て見ると、サングラスをかけて浮き輪の上でふんぞり返っている水着姿のマリが見えた。艦内服の上からでも目立っていたスタイル抜群の体がさらに水着で強調され、男性乗員の目を意図せず掻っ攫っている。

 

「ああ、いた」

 

「いるね、しかもサングラスかけてる」

 

「真希波さんスタイル良すぎですよ何ですかアレ」

 

「格 差 を 感 じ る わ……」

 

 もう笑うしかない。バカンスの話を聞いてからの準備といい、こういう事に限っては準備に一切の抜かりが無い。それがすごく「マリさんらしい」から、とやかく言う事を諦めた。

 

「だったら、アレ用意しよう」

 

「アレね」

 

「アレって何ですか?」

 

「夏なら食べたくなるアレです。季節的にもピッタリだと思いますよ?」

 

 

 

 ______

 

 

 

 むしゃむしゃと食べながら甲板を歩く。それだけでもあっという間に人が集まり、それは飛ぶように乗員の手に渡っていく。ちなみに食べて呼び込みをしているのはリクで、肝心のそれを配っているのはハルナとアナライザーだ。

 

『スイカハイカカデスカ?』

 

「スイカ!?」

 

「育ててたんです。時期的にピッタリなので収穫してカットして配り歩き中です。どうですか?」

 

「頂きます! 皆スイカあるぞ!」

 

「先着順1人1個ですよ~」

 

 太田がスイカにかぶりついたのを皮切りに、2人とアナライザーは人の波に溺れた。オムシスは生鮮食品を出せない。皆調理済みの物しか食べれていなかった以上、夏のひと品としても挙げられるスイカはまさに「宝石」。電光石火の如くお盆に手が伸ばされ、その無数の手によってスイカは1分と持たずにお盆の上から消え去った。

 

「美味いッ!」

 

「まさかスイカが食べれるとは……!」

 

「睦月さん暁さん! あとアナライザー! マジで神です!」

 

「良かったです~。あ、種は集めて下さいね? ここに袋ありますから」

 

 抜かりなく自分たちの分は確保済み。バカンス会場と化している左舷主翼まで移動して並んで座ってスイカを食べる。

 

「美味しい~!」

 

「染み渡るね、果物バンザイ。あ、こっち向いて?」

 

「?」

 

 何の事か分からないハルナはキョトンとしたが、お構い無しにリクはハルナの頬に手を伸ばして、頬に着いたままの種を取った。

 

「種付いてる」

 

「ううぅ恥ずかしい」

 

「可愛い」

 

 リクはいつの間にかそういう一言を言うのに抵抗が無くなったのだが、ハルナはまだ少し抵抗があるようだ。照れ隠しにスイカを勢い良く食べていく。

 

「おほースイカ!」

 

「食べます? 確保済みです」

 

「い た だ き ま す !」

 

 海から上がってきたマリもスイカの魅力には逆らえず、受け取るやいなや主翼に座ってかぶりつき始めた。

 

「あ、そういえば真田さんと博士の分は?」

 

「先に切って冷蔵庫の中です。そのままにしておくとすぐ美味しくなくなるので。あと古代くんと沖田艦長、甲板部の皆さんの分とか……兎に角中にいる人の分はある程度取ってありますよ」

 

「抜かりないにゃ」

 

「出来るだけ皆さんに配っておきたいんですが、スイカそこまである訳じゃないので。一先ず配るべき人の分は取っておくべきです」

 

「良い心がけにゃ。ところでハルナっちは行かないの? 海」

 

「水着恥ずかしいんですよ。マリさんは何ともないかもしれませんが」

 

「も・し・か・し・て、こっちの話かにゃ~」

 

 胸を触られそうになったハルナはすかさずマリの手からスイカを奪い取る。わいせつ未遂の現行犯に食わせるスイカなど存在しない。頬を膨らましたハルナは、じっとりとした目でマリを見つめる。

 

「にゃにゃにゃァ! 返して〜!」

 

「変態さんはお預けです」

 

「うん、今のは明らかにマリさんが悪い」

 

「返してにゃ……」

 

 自業自得だ。マリは2人にとって姉に近い存在だが、セクハラ好きな姉ができた覚えは無い。ならば仕置きだ。

 

「育ち切ったんだな」

 

「ちょうどね。食べる?」

 

「頂こう」

 

 海から上がったメルダとアスカもスイカを受けとり食べ始める。余談だが、メルダは以前パイナップルを食べた時のように「いただきます」と言っていた。

 

「ああそう言えば、種は食べちゃダメだよ」

 

「どうしてだ?」

 

「腹の中でスイカが育つのよ。それなりに大玉なのが」

 

「!?!?!? マズい食べてしまったぞッ!? どうすれば阻止できる!?」

 

「何もしなくてもいいにゃ。だって嘘だから」

 

「お"い"ッ!」

 

 かつての地球に存在した「腹でスイカが育つジョーク」にメルダが踊らされ、マリは思わず吹き出す。

 

「メルダ引っかかるの面白すぎじゃん」

 

「この人の皮を被った猫にしてやられたぞ、アスカ」

 

「人の皮を被った猫ッ!? ひどいにゃ!」

 

「いや待って……ちょっめっちゃオモロイメルダ最高(笑)」

 

「人の皮を被ったっ……待ってお腹イタイイタイ」

 

 メルダの放った一点の狂いも無い正確な喩えにマリが抗議をかけるが、全員のツボに見事にクリーンヒットし笑いの渦が生まれる。左舷主翼の一角の集団は腹筋が痛くなるまでしばらく笑い続けた。

 

 

 ━━━━━

 

 

 笑い転げ、スイカを食べ終え、また皆が海に向かって走っていき、リクとハルナは2人の時間を堪能していた。

 

「綺麗だ」

 

「……綺麗だね」

 

 ついさっきまで彼らの頭上で光を放っていたサレザーも西の空へと下り始め、あと数時間もすれば海に夕日の道を作るだろう。

 

「ここまで来たね」

 

「ああ。ここまでで5ヶ月くらいだ。衛星軌道から出港したのが2月だから」

 

「ねえ。今だけは、数字とか無しにしない?」

 

「?」

 

「今はこのひと時を、出来るならずっと」

 

「ずっとか。今は難しいけど、近いうちにずっとになるさ」

 

 そう言ったリクは右手でハルナを抱き寄せ、それに応えたハルナはリクの右肩に頭を乗せた。

 時間がゆるりと過ぎていく。永遠は無い。それでも2人の願いは短時間ではあるが叶ったようで、徐々に左舷主翼から人が減っていく。

 段々と人が減っていく主翼上で幸せを噛み締める2人に距離はいらない。言葉をかわす必要も無い。ただ幸せと感じればいい。ただ、「幸せ」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔してもいいかな?」

 

「「真田さん!?」」

 

 そんな2人の幸せ空間に耐性がつき始めた真田さんが空気を読みながらやってきた。時間に浸り切っていた2人は飛び退いたが、真田はそのままの笑みを浮かべたまま主翼に座る。

 

「ひとまず会議が終わったから気分転換に来たんだ。それと、スイカ美味しかったよ。ご馳走様」

 

「カロリーメイトとどっちが良いですか?」

 

「スイカかな。生鮮食品は格別だからね。流石に敵わない」

 

「あ、そうだ。真田さん、端末ありませんか?」

 

「随分と急だな。コレでいいならあるが」

 

「撮りましょうよ」

 

 ハルナの提案にリクも真田も2つ返事で承諾し、内カメラに切り替えた端末を掲げシャッターを切った。

 

 

 

(お母さん、お父さん、あとお義母さん(風奏さん)……無事着きました)

 

 

 

2199年7月16日

イスカンダルに着いた! 




遂に到着させることが出来ました。

長かった。本当に長かったです。それでも止まらずに書き続けることが出来たのは皆さんがこの作品を読んでくださったからです。
前書きでも書きましたが、お礼を言わせてください。


本当に、ありがとうございます。


イスカンダルの話は、あと一話か二話くらい書くつもりでいます。
その後は閑話をちょこっと書いてから星巡る方舟に入る積もりでいます。

ちょっと次の話を書いている途中で小難しい話が出てきてしまったので次は一旦未定とさせてください。兎に角今年中には出そうと思います


それでは次のお話で
(@^^)/~~~


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次世代に向けて

難作なのは次の話でした。案外すんなりいけました

それではイスカンダル中編です


 2日前 633工区落下軌道遷移時

 帝都バレラス デスラー総統府内部

 

 

『緊急事態、緊急事態。全職員は、至急総統府から退避せよ。繰り返す、全職員は、総統府より退避せよ』

 

 人工音声による緊急事態宣言が総統府に響き渡り、各々我が身1番に階を降りていく。人を押しのけ、物も散らばり、エレベーターに強引に乗ろうとする者までいる。

 帝都壊滅の危機は優秀な高官さえも烏合の衆に変えてゆく。

 

 それでもヒスを筆頭とした閣僚は、ヒスの指示に従い避難誘導を最後まで行い殿を務める覚悟を決めていた。

 

 

「ヒス副総統! 残りは我々です!」

 

「皆聞こえているな! 緊急用昇降機を用い避難を行う! 全員昇降機に集まれ!」

 

 耳元に装着している通信機を使い一斉に呼びかける。

 大勢を乗せることの可能なエレベーターを職員避難用にまわし、自分と誘導に徹する閣僚はお世辞でもちゃんとしているとは言い難い昇降機で降りるつもりだ。

 

「副総統お早く!」

 

「分かっている!」

 

 危険ながらも自身と共に残ってくれた側近に急かされながらも走り続ける。もう自身らを残して人のいない総統府はひたすらに人工音声が鳴り響き、人がいないこともあり嫌という程よく響く。

 ただ忙しなく響く靴音だけが長い長い通路に響く中、ヒスは通路に倒れ込んでいる1名のザルツ人を見つけた。

 

「しっかりしなさい! 脈はあるか!?」

 

「生きてます、気絶しているだけのようです。恐らく給仕でしょう」

 

 まだ生きている。それを確認したヒスはその給仕係を抱えた。

 

「生きているなら運ぶぞ」

 

「間に合いませんよ!?」

 

「お飾りだろうが私は副総統だ。民を助けて不都合は無いはずだ」

 

 地球換算で御歳54の体にむち打ち何とかその人物を抱えて、再び走り始める。昇降機までそう近い訳では無いのだが、それでも足を止めず走る。

 

「副総統急いで下さい!」

 

「分かっている!!」

 

 小さな昇降機にすし詰め状態の閣僚達から声があがり、声を荒らげる。この歳になってこれほど走ったのは後にも先にもこれきりだろう。だが、次こうなっても問題ないように運動はしておくべきとヒスは固く誓った。

 

 抱えていた給仕係を別の側近に先ずは預け、それから側近を乗せ、自分は最後に乗り込んだ。

 何とか乗り込んだ瞬間に間髪入れずに昇降機が勢いよく降下する。乗り心地は大きく劣るもののスムーズに降下していき、備え付けられた高度計の値が滑らかに減っていく。

 

「この娘、セレステラ情報相のところで給仕をしている娘じゃないか。わざわざ担いできたのですか?」

 

「担いできたとも。生きているからな」

 

 

 ━━━━━

 

 

 昇降機から解放されやっと地上に降りられた閣僚達は、まずはバレラスタワーから離れることにした。尤も、633工区という巨大質量がバレラスと落ちる以上バレラス内に逃げ場は無いのだが、少しでも推定落着地点から離れるべきだ。

 再び給仕係を抱えてヒスは走る。時折息切れを起こしながらも足だけは動かし何とか距離を稼ぐ。

 

 

「……ここは、何処ですか?」

 

「総統府の外だ。避難中に気を失ったことは覚えているか?」

 

「……はい、何が何だかで。何が起こっているんですか?」

 

「第2バレラスの一部が落下してきている。帝都全域に避難命令は出したが間に合わんだろう」

 

 その瞬間、ヒスの耳の届いたのは甲高い鳴き声のような音だった。振り向いた先にはテロンのあの宇宙戦艦。骨格の様な白い物体から目も眩むような光を放ちながら、上空と艦尾に光の輪を生み出していく。

 

「ヴンダーか、何をするつもりだ!?」

 

 青白い稲妻を走らせながらも艦首に莫大なエネルギーを蓄積していく。だが射線は空に向いている。ヒスには1つの予想が生まれたが、正直に言って信じられないものだった。

 

「!? 総員目を塞げ!」

 

 それでもそれしか考えられなかったから指示を飛ばし、閣僚らもその意味を理解して即座に腕で目を庇った。嘗てヴンダーがゾル星系浮遊大陸基地を消し飛ばしたあの砲を今ここで使い、633工区を完全破壊するつもりだ。

 

 ヒスも腕で目を庇ったがその隙間から全てを見る事とした。デスラーが暴挙に走る今、この事実を記憶に焼き付けておけるのは自分自身だ。

 

 そこからはあっという間だった。技術に明るくないヒスが見ても「明らかに過剰なエネルギー」が注ぎ込まれ、バレラスが一瞬白に染った。それがヴンダーの艦首の輝きだと理解するのには時間が必要だったが、その後の光景に対する理解は一瞬で済んだ。

 

 あの633工区が、青白い光に貫かれて崩壊していた。粉々に砕け散った工区は小規模なデブリ郡となり大気圏で燃え尽き、その光景は恐怖を煽りながらも美しくもある光景だった。

 

 

 間髪入れずに爆発音が響き、その方向に目を向けた。

 ヴンダーの艦首から、あの砲撃を行った艦首から爆炎が上がった。青白いエネルギーも一部漏出して霧散した。明らかに自身の攻撃の反動で損壊している。

 

「我々を、助けたのか……」

 

 

 


 

 

 

「大ガミラス帝星暫定政権を代表し私レドフ・ヒスが、イスカンダル王星第1皇女スターシャ・イスカンダル殿下にご報告申し上げます」

 

 その一言から連なるようにスターシャに伝えられた一報は、デスラーの行方不明及び捜索だった。

 

「行方不明……?」

 

「はい。惑星テロンの宇宙戦艦ヴンダーによるバレラス急襲時にバレラスを脱出、第2バレラスから総統座乗艦にご乗艦されヴンダーとの戦闘が行われました。その際に第2バレラス次元波動機関の原因不明の暴走による爆発事故に巻き込まれ、現在行方不明となっております」

 

「また、第2バレラス第633工区の分離とそれに続く落下軌道への投入の件にデスラー総統が関係している事を受け、ガミラス本土防衛艦隊は明後日を持って、デスラー総統への聴取を目的とした捜索活動を開始します」

 

 行方不明に連なる形で続けて、デスラーの捜索開始宣言が行われた。それは決して救出を行うためのもではなく、「一連の事件に対する事情聴取」の為であり、暫定政権がデスラーに対して説明を求めている事の証明だった。

 

「我々はヴンダーに救われました。もう、彼らに対する執着はありません」

 

「貴方々に無くとも、私にはあるのです」

 

 一通りの報告は終了した。ヒスはホットラインを切断しようとしたが、これだけは言わなければと思い口を開いた。

 

「それと、我々を救ったのは波動エネルギーを転用した大砲であり、私見ではありますが発射機構の自壊を覚悟の上で発射したものと思われます」

 

 

「自壊ですか?」

 

「はい。総統府からの避難誘導中に私が肉眼で確認したものであり詳細な記録等が存在しませんが、あの大砲を発射した直後に艦首付近からの爆発が確認できました。彼らはリスクを承知の上で力を行使したのだと、私は考えます」

 

 自壊覚悟での発射。テロン人は自壊を想定出来なかったのかと一瞬スターシャは考えた。だが、あの2人が搭載した事実を考慮に入れればその考えは見当違いであると考え直した。

 

 例え力を失う事となっても正しいと思う方向に力を向ける。それがあの白髪の2人の信念であり全員の意思なのだろう。

 

「後の事は、こちらで判断します」

 

ルードゥ(高貴なる)イスカンダ(イスカンダル)

 

 通信が切れたことでまた静かになった部屋で、スターシャはため息をついた。

 イスカンダルの力を行使していた事に変わりなはい。それでも身を守る事にしか使わず、自壊覚悟で敵さえも救った。

 イスカンダルともガミラスとも違う。イスカンダルは艦隊を星ごと消滅させ、ガミラスは自身の星を壊そうとした。だが地球はその力を生み出した瞬間にそれを理解して鎖を巻き、鍵を付けた。簡単には使えない様に。

 

 その鍵の番人と呼べそうなのがあの2人。恐らくは開発者の一部なのだろうが、彼らの政府はその鎖……縛りに対し良い印象を持たなかっただろう。確かに波動砲は一撃必殺の兵器であり、面制圧能力は兎も角1点に対しての制圧能力が他の星間国家の兵器と比べても群を抜いている。その威力から考えれば、「滅亡間近なのに生まれたての一撃必殺兵器に制約を付けるのは本来ではあり得ない」のだ。

 誰が聞いてもそう思うかもしれない。それでも縛りを与えようとしたのがあの2人であり、波動コアを人質のように扱い縛りを結ばせた。

 

 その上で、縛りの中でしか動けない波動砲をカバーする形であの戦艦は過剰な程の重武装となった。

 

 

「波動砲の番人……。あの2人は、波動砲の力を抑え続けるのかもしれない」

 

 

 スターシャがふと呟いた。波動砲に対する印象は悪い。それでも今後の地球の武力になる可能性は高い。理由としてあの条約は「使用の制限」を明示していて、「使用禁止」ではない。今後は保有しながら抑止力、もしくは最終手段として扱うかもしれない。

 

 波動砲開発と運用の事実で、地球は「イスカンダルの道を辿る」と一度は思った。それでも開発された初期の段階で自己判断で縛りを与えた事実から、今の所は「イスカンダルの道から逃れている」のだ。

 

 

 この力が真に守るための力になるのなら、彼らの未来にこの力が存在し続けても大丈夫かもしれない。だがイスカンダルの負の歴史が引き止める。

 

 

 

「もう一度、話をしなければ」

 

 

 


 

 

 

「……潮の香りだ。前に嗅いだのはいつだったか」

 

「取り戻したいものですね、この景色も」

 

 沖田艦長と佐渡先生は、甲板で風に当たっていた。その手元にはタブレットが握られていて、自身のカルテが表示されている。

 

 

 病名 遊星爆弾症候群(再発兆候あり)

 

 

 遊星爆弾、厳密には地球を侵食する有毒植物の胞子に由来する病であり、その毒に徐々に体を侵されていき多臓器不全により死に至る病である。

 沖田艦長はガミラス戦争中期にこの病に倒れ、97年に何とか持ち直した。それから定期的に検査を行ってきたが、今回の精密検査により再発兆候が見られたのだ。

 根本的な治療方法が無く特効薬なる物も勿論存在しない以上、対症療法を用い患者の回復力に頼るしかない。これが地球のように潤沢な設備と人員が用意された医療施設ならいいのだが、Wunderは軍艦。設備も人員も限られている以上回復には知恵も時間もより多く要する。

 

 

「艦長、貴方の体はギリギリです。心臓に悪いったらありゃあしません」

 

「遊星爆弾症候群かね」

 

「それ以外に何があるとお思いですか? 不治の病ですからどう転ぶか分かりません。尤も、ここまでよく再発しなかったものです」

 

「佐渡先生という宇宙一の名医がいるからだ。お陰で助かったよ」

 

「……今後のこと、分かってらっしゃいますね?」

 

「分かっているよ。ここまでよく持ってくれた以上、自身を労らねばな。……艦長代理は、古代か真田君に務めてもらうつもりだ。私は、軽く口出しをするくらいだろう」

 

「程々にですよ。それと治療中は絶対安静です。帰還して土方宙将に会われるのでしょう?」

 

「儂は死なんよ。いや、まだまだ死ねないな」

 

 タブレットの電源を落とし、沖田艦長は久しぶりに日本酒が飲みたいと思った。治療が始まれば飲酒は出来ない。佐渡先生には内緒で徳川機関長でも呼んでまた飲もうと思い、沖田艦長はほんの少しだけ足取りが軽くなった。

 

(まだ、死ねないな)

 

 

 


 

 

 

「青いな」

 

「ああ。綺麗だな」

 

 戦闘艦橋に映る景色は船体各所に設けられた外部環境カメラからの映像を合成したものである。従って生の映像ではないのだが、今回だけは息をのむほど美しい景色を見せている。

 

 船体下部構造物に設けられたカメラが海中を映し出し、上部構造物のカメラが空を映し出す。海と空の境目がくっきりと映し出され、戦闘艦橋は宇宙では決して見られない幻想的な光景を映し出している。また、航海艦橋が破壊された以上戦闘艦橋が航海艦橋を兼ねている故に、常に空中にある席に移動するために戦闘艦橋は慣性制御技術で常に無重力となっている。

 

「……待つのは、少し苦手だ」

 

「ああ。今は待ちだな」

 

「浮足立つな」

 

 急に低く威厳のある声が響き一同その声の方に向いた。

 

「って沖田艦長ならおっしゃるだろうな。果報は寝て待てってわけじゃないけど、動かない方が良い時もあるって事だ。今は睦月さん達の案を上で練り上げている所だ。あと少しで完成する」

 

「聞いたぞ。条約締結とコスモリバースシステム譲渡の話。マジで結ぶのか? 条約」

 

 まだ事情を断片的にしか知らない島が声を潜めて聞いた。イスカンダルと条約を結ぶという事となり、その件で不安がっているのだ。

 

「睦月さん達がスターシャさんに提案したらしい。なんていうか、その場で相互に練り上げたらしい」

 

「おいおい、その場で相談かよ」

 

「いや、スターシャさんの目の前で相談したわけじゃなくて、互いに思考だけをやり取りしてたらしい。それをその場で組み上げたらしい」

 

「人間……だよな? 睦月さん達」

 

「人間じゃなかったら何なんだよ」

 

「だってさ、古代は体験してないけど俺ら全員『デストルドー』とか言う変なものにやられかけたんだぞ。でもな、睦月さん達だけはそれを完全に壊したんだよ。偽物とはいえ大事な人の幻影をな」

 

「幻影?」

 

「古代、お前睦月さんや暁さんの昔話とか何か知らないのか? 絶対なんかあったろ」

 

「聞いてはいるけど……知られない方が良いな。内緒のままが睦月さんたちにはいいと思う」

 

「お、おう」

 

 そのうち常人では指先すら届かない次元に行ってしまうのではと島は妙な想像をしてしまうが、あの2人は主翼上に座って普通にスイカも食べて普通に寄り添って海を見ていた事を思い出した以上、考え過ぎだと切り上げた。

 

 


 

 

 side ハルナ

 

 謹慎(と言う名の休暇)2日目、私とリクは佐渡先生の元に検査を受けに行きました……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後悔しました。

 

 

 

 このWunderに搭載された医療機器と医療班総動員で全身隅々まで検査されてもうグッタリ、医務室のベットで現在突っ伏してます。

 ちなみにリクも同じものを受けさせられて今仰向けで伸びています。

 

 生体スキャン、脳波チェック、昔ながらの心拍血圧測定。あと視力聴力その他五感の検査。

 

 まるで昏睡から起きたあの時みたいに検査尽くし。しばらく医務室には行きたくないと思うくらい検査に引き摺り回されました。そんなこんなで一通りの検査が終わりあとは結果を聞くだけ。

 

「疲れたな」

 

「うん、疲れたね……まさかここまで引き摺りまわされるなんて。ごめんね」

 

「いや、どっちみちこうなるような事揃ってしてたから仕方ない。検査すっ飛ばして艦橋に行ったりとか」

 

「あはは……佐渡先生カンカンだったからね」

 

 あの時の佐渡先生ったら顔真っ赤のカンカン顔で本当に行かせない気だったみたい。佐渡先生、地球に戻ったらいいお酒プレゼントしますから、どうか刀を収めてください。

 

「待たせてすまんね。ようやく結果がまとまった」

 

 佐渡先生、覚悟できてます。

 

 

 _________

 

 

 

 検査終了ってことで真田さんに赤木博士、アスカちゃんにマリさんも入ってきた。気の所為かもしれないけど、真田さんと博士が保護者に見えてくる。問題児扱いですか私達? あ、ごめんなさいそんな目で見ないで博士。

 

「まず睦月君の怪我なんじゃが、取り敢えず跡はどうしても残る。まぁここの医療じゃ限界があるからそこは納得してくれ。左腕の神経は無事。繋がったらすぐにでも動かしてもらっても構わん」

 

「どれくらいですか?」

 

「大雑把に見積もって、地球に着く頃には前より頑丈になっとる。動 か さ な け れ ば な」

 

 痕残っちゃうのはホント申し訳ないけど、ちゃんと動くってのが分かってよかった。……なんかもう手開いたり閉じたりしてるけど問題ないよね? 佐渡先生タブレット握ってる手がプルプルしてる……ああ動かしちゃダメ! タブレットが! 何か軋む音聞こえるし! リクストップ!! 

 

 

「睦月君の話はここまでじゃ。本題はそっち……暁君。目は何ともないんか?」

 

「目ですか? 何ともありませんが……」

 

 ああ、後なんか虹彩が多少変化してるみたいなの。元から赤色っぽかったからよく見ないと……いやこれだとちょっと見ただけでバレそう。目がなんか緋色っぽくなっててなんか多少発光? してるの? 

 

「いいか? 通常虹彩は変わらないんじゃ。カラコンとか病気でもない限り生きている内に虹彩が変わるとかおらんからな? まあ視力は相変わらずの両目0.3じゃから……今は問題なしにしておこう」

 

「リク、これ変じゃないかな……? 真っ赤な目って変じゃない?」

 

「僕は綺麗だと思う。ハルナ髪真っ白だし、対比になってていいと思う」

 

「……お世辞はいやだ」

 

「本心。影響なしならいいじゃないか」

 

「でも人前に出る時は気にした方が良い。あまりにも人の目を引きかねない」

 

「私は別にこのままでもいいですよ?」

 

「おすすめはしないわ。白髪の時点で目立つのに、ここまで真っ赤な目をされたら嫌でも目立つから多少の誤魔化しはした方が良いわ」

 

「地球に帰ってからアイドル事務所に引っ張りだこにグフフフフフ」

 

「マリ、あんた暁さんを事務所に売り込もうとか考えてないでしょうね?」

 

「キノセイキノセイ」

 

「取り敢えず眼鏡を借りて構わないか? スペクトル補正の加工をして自然な虹彩に見える様にしておこうかと思う」

 

「……お願いします。えっと私の眼鏡どこだっけ……ごめんなさい今無いです」

 

 真田さんが言うには、光の波長の一部……波長の長い赤色の光だけ軽く減光できるようにレンズの表面を加工するらしい。そうすれば多少発光している分が落ち着いて見えるようになるから、こうなる前の状態の虹彩にそっくりになるみたい。リクが綺麗って言ってくれるのはとても嬉しいけど、今後の事も考えていくとやっぱりお願いしようかな。

 

「まあ後で持って来なさい」

 

「と言うか何でかけてなかったの?」

 

「えっとね、最初は気にしてなかったけど……3か月目くらいにメガネ無しの方が好きってリクに言われちゃって、それから無しでいようかなって。それまではかけたりかけなかったりだったのよ」

 

 アスカちゃん気になるのね、コレ単純に嬉しかったからなの。メガネ有り無しの好みって別れるから気になっちゃって思わず聞いてみたの。その時顔赤くして答えてくれて……って事で今日までメガネ無しで過ごしてきたの。勿論必要な時はかけてたよ? 

 

「ワ カ リ マ シ タ 惚 気 デ ス ネ」

 

「はい惚気です……って言わせないでください!!」

 

 お願いします、真田さん。それとアスカちゃんはマリさんの除霊お願い。もう悪霊レベル……

 

「ここからが本題じゃ。真面目な話じゃからふざける人は出て行ってくれ」

 

 佐渡先生の引き締まった顔と声にしんと静まり返り、流石のマリさんも顔からも笑みが消えてしまった。自身でも分かってるけど、私の変化は常識的に見ても考えられない事が多い。

 純粋な人間ではない可能性すら考えたくらいだから、ちょっと人外に片足を突っ込んでいても覚悟はできてる。

 

 だって、リク助けるためにリミッター壊しちゃったから。それが何のリミッターなのかは私じゃ分からなかったけど、壊した以上元には戻せないんだと思う。

 

 

 だから、どうなっていても覚悟はできてる。どうなっても一緒にいるだけだから。全部救うために、全部後悔しないためにやったんだから

 

 

 

「暁君。……出生後に何らかの疾患、もしくは実験を受けた……なんて事はないよな?」

 

「本気で言ってるんですか?」

 

 いきなりとんでもない事を聞かれて思わず覚悟が冷めてしまった。私はちゃんとお母さんのお腹から生まれた人間です。悪の組織とかに拉致されて怪人にされたりもしてません。

 境界の時にリミッターは壊したけど、その時背中辺りから何かが噴出したの。「その現象=人外化現象」とは思えないんだけど、明らかにどこかおかしくなっちゃったのかな。

 

「脳波とかも精査したんじゃが何も無し。こうとしか考えられんのじゃ。それか身内から何か遺伝したとか……」

 

「身内?」

 

(流石にあの話はアウトだ……)

 

(佐渡先生には申し訳ないけど……これは内緒にしておきたい)

 

(でも真田さんとかには話しても大丈夫だと思う。僕らの発想だけではどうにもならない)

 

(真田さん口硬い……あ、1回だけポロって「夫妻」って言ったよね)

 

(あれはノーカウントでいいや)

 

(うん、ノーカン)

 

 

 ごめんなさい。整理付いたら話します。お母さんの出自がちょっと信じられないから、まだ時間がかかるの。えっとね、お母さんはちゃんと人間だったの。人間だった。うん……元人間なの。

 風奏さんの記憶にも詳しい情報が無かったけど、分かった事は「ゼーレ」と言う組織が関係していたの。多分そのゼーレが、真田さんが予想した「世界を裏から操れるくらいの組織」だと思う。

 

 もしも23世紀までゼーレが続いていたら、関わるかもしれない。

 

 覚悟は、しておかないと。

 

 

(ハルナ? また何か考えているの)

 

(うん、私の出自の事)

 

(僕も見たけど……薫さんは一体何をされたんだ? 何をされて人以外になった?)

 

(分からない……でも多分、マリさんの形而上生物学に近いのかなって思う。そこは後で伝える)

 

(分かった)

 

 

「お2人さん、フリーズしているところ申し訳ないが続けるぞ」

 

 いけないいけない。やり取りに夢中になりかけていた。佐渡先生続けてください。

 

「真希波君から聞いた分じゃと……自我境界線の融和と可変、同調……それによる相互意思疎通。初見の単語塗れでパンクしそうじゃ。要はあれじゃな。一方通行のテレパシーだな?」

 

「でも、肝心の止め方が分からないんです……」

 

「止められんのか?」

 

「もうずっと繋がりっぱなしです」

 

 そう、止められないの。何をしたら、どうしたら止められるのか全く分からず回線を開きっぱなし状態。多分お母さん由来の力だと思うけど、風奏さんにもらった分では分からない部分があるからあんまり試せてない。

 でもどういう感じなの河犯となく分かっている。私が出来るのは意思の送信と他人の意思の読み取り。何もしないでいると周りにいる人の声が無制限に聞こえてくるから酔ってしまう。だから徹底的に省いてリクだけにしてある。

 

「……そのままでよくない? 他の人と勝手にシンクロするより、これ以上弄らずに固定しちゃおう」

 

「それ睦月君も危ないんじゃぞ?」

 

「ハルナ、僕が何考えているか分かるよね?」

 

「わかるけど、それがどうかしたの?」

 

「じゃあ佐渡先生の考えている事は?」

 

「分からないわ」

 

 何でもない時ならお酒のこと考えていそうだけど、流石に分からないよ。

 

「オッケー。体調に異常は?」

 

「ない。リクだけ聞こえるように他の声カットしてるから、頭痛いとか気持ち悪いとかないよ」

 

「って事です。制御を失っ一対体多数でシンクロなんか始まったら大変です。多分ハルナは潰れますし無理矢理シンクロされた人は多分精神が壊れます。だったら、シンクロしても何ら問題の無い僕で固定しておく方が良いかなって思います。マリさん、大体解釈あってますよね?」

 

「まぁ……大人の自我境界は固いからシンクロで心殺っちゃうかもしれんって書いてあるし、リっくんならハルナっちとの付き合いめちゃ長いしぶっちゃけ相思相愛だから……2人がくっついている理由が増えただけかにゃ。ちなみに常時シンクロ中のご感想は?」

 

「あったかい。ずっとこの辺に手が当てられている感じかな」

 

「分かる分かる。ずーっと胸がボンヤリ暖かいよね」

 

「なるほどなるほど、つまり互いに胸触っているって事に(ryおっとゲフンゲフン。異常ないならいいけど、取り敢えずなんかあったら言うにゃ。これでも大学飛び級してるから」

 

「助かります」

 

「お姉さんを頼りなさい」

 

「という事で先生。暁君の検査結果は、結局どうなんですか?」

 

 最初から結論を聞きたがっていた真田さんが身を乗り出して聞いてきた。

 

「……一応異常なしじゃ。あと暁君、気を抜いたら周辺被害が出るかもしれん。そこは忘れんように」

 

「分かりました」

 

「はい帰って良し」

 

 やっと解放された。さあ研究室に戻ってあと数時間の休暇を堪能しよう。

 

「ああ言い忘れとった」

 

「どうかしましたか?」

 

「これはまだ秘密なんじゃが、真田君とかもいるから話しとかんとな。沖田艦長の持病が再発する可能性があるんじゃ。艦長は長期療養に入られる。そういう事で、艦長代理は真田君と古代にお任せるされるつもりらしい」

 

「やっぱりですね。艦長のご病気はなんですか?」

 

「遊星爆弾症候群。一度持ち直したんじゃが、ここまでの無理が響いて再発リスクが上がっとったんじゃ。イスカンダル出発前に古代にも正式に事例が下るだろう」

 

 

 そっか。沖田艦長、ここまで人類の運命を背負われて指揮を執られたからね。

 沖田艦長。あとは古代くんと真田さん、私達にお任せください。

 

 私達では沖田艦長には届かないけど、皆で頑張って肩車して手を伸ばせば沖田艦長に届くかな? 

 

(私が言うの何だけど、「ぶっ壊れ枠」って感じで頑張ろうかな)

 

(やり過ぎだ。古代くんの戦法を技術枠でバックアップするくらいかな)

 

 


 

 

 side リク

 

 謹慎(休暇)が明けたという事で沖田艦長と真田さん、古代くんの会議に参加しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……」

 

 画面上に沢山アイディアが並んでる、沖田艦長、真田さん、古代君、お疲れ様です。あ、今度フルーツ持ってこう。スイカ以外にも育ててたから。

 

「来たかね」

 

「謹慎(休暇)明けました」

 

「どうでしたか?」

 

「丸一日検査で潰れた以外はのんびりできたよ。あ、スイカ食べた?」

 

「ごちそうさまでした」

 

「真田君がここまでして休暇を取らせようとするのは、済まないが面白かった」

 

「艦長……」

 

「真田君、いい友人がいるじゃないか。大事にしなさい」

 

「……はい」

 

「早速だが、こちらで纏めてみた物を見てもらえるかな? 私は政治家ではないが、可能な限り知恵を絞ったつもりだ」

 

「拝見します」

 

(うわぁ……)

 

 思わず言葉を失った。夥しい数のアイディアからこれ程の草案と条件が出来上がった事に、僕は驚きの余り暫く言葉を失い動けなかった。

 何故動けなくなったのかだけど、まずはとにかくこれを見て欲しい。

 これは第1条と第2条の条文だ。

 

 仮称 イスク・サン・アリア条約

 

 第1条 

 国際連合安全保障理事会及びその下部組織である国際連合宇宙海軍、若しくは上記の組織の後継に当たる「軍事的行動が可能な組織」は、対艦又は対惑星を目的とした波動砲の使用を禁ずる。

 

 第1条捕捉

 地球人類の存続の危機と判断された場合、非常事態宣言による特例に基づき波動砲の対艦隊戦使用を容認する

 

 第2条

 波動砲艦艇保有数は○○隻とする

 

 

「○○隻……」

 

「その部分は決めるわけにはいかなくて、イスカンダルとの協議がどうしても必要です」

 

 古代くんの顔も厳しい顔になっている。それもそうだ。今はWunder1隻だけど、これが複数隻になってしまうんだ。でも、地球を波動砲抜きで守り切れと言われたら実際心もとないと思う。

 現状の使用制限条約では、各管区で10隻まで。あの時は波動砲の効果範囲とその威力がシミュレーション上でしか再現できなかったが故の判断であり、木星や恒星のフレア、巨大構造物と言った物を撃っていく事でその威力と硬貨が分かってきた。

 正真正銘紛れもなく「核兵器枠」だった。

 

「この波動砲搭載艦が、使われずに順次退役していく事を願うよ」

 

「だが、現状波動砲の効果とその優位性は地球側も理解しているはずだ。それこそ、条約を放棄してでも数を揃えて対艦戦に用いる思想も少なからず存在しているだろう。それ以上に、殆どの艦艇と経験者が失われた以上戦術に長けた者は少ない。結局のところは波動砲艦隊を用いたアウトレンジ戦法しか取れないかもしれない」

 

「……波動砲一斉射で100隻撃破できる波動砲艦隊と通常兵器と戦術で100隻撃破できる防衛艦隊。戦術的戦略的に見ればどちらが好ましいですか?」

 

 突然だけどここで問いを投げかけてみよう。波動砲は戦略兵器であり、たった1射で盤面をひっくり返せる兵器だ。条約は一旦忘れて考えてみて欲しい。1回撃つだけで小宇宙並みのエネルギーを消費してしまう。再充填にはかなりの時間がかかる以上的には大きな隙を見せる事となる。

 

 実は「隙が大きい問題」は解決できてしまう。波動砲艦隊をマスケット銃の様に数を揃え、1回撃ったら後ろに回り補給に回る。後ろに控えていた艦艇が波動砲の発射シークエンスに入る。そして撃つ。これの繰り返しなら隙を可能な限り減らしながら波動砲斉射を連続で行うことが出来る。

 これは、安土桃山時代に行われた戦い「長篠の戦」で織田信長が使ったらしい戦法を真似た方法で、当時信長は火縄銃を大量に用意して「三段撃ち」という「火縄銃を効率的に使う戦術」を使って勝利したらしい。ちなみに諸説ありだ。未だに本当かどうか分からない。

 

 だが、これは敵が真正面から突撃してくれた時に最も効果的な方法。宇宙空間での戦闘は前後左右上下関係なく動き回れる以上、敵が側面や後方、上下から奇襲して来たらアウト。ワープもある以上上から奇襲を受ける事もかなりあり得ると思う。

 

 それ以上に波動砲は、面(ry

 

 

 

「面制圧兵器ではない」

 

 ハルナ、フライング。あってるけどフライングだ。頬引っ張っちゃうか。

 

「うにゃあ」

 

「分かるのはいいけど、今は言っちゃダメ」

 

「……ふぁい」

 

「面制圧兵器ではない?」

 

「言っちゃった。例えば航海中に作ったカミナリサマは、ミサイル内部にEMP発生装置を大量に内包してそれを散らす事で効果的に敵機を無力化します。この事実から、用語としては違いますがカミナリサマは面制圧能力がかなり高いと見れるんです」

 

「その反面、エネルギーを集中させて一気に放っても敵の大艦隊に向けて放っても敵艦隊の一部に穴を開ける事しか出来ず、そこに増援が入れば穴は塞がり戦果は無かったことになります。特定の目標の破壊に対してはかなり効果的かもしれませんが、それ以外では使い道が限られてしまうんですよ」

 

 ハルナが言ってしまったけど、要はそういう事だ。

 波動砲は一点集中でエネルギーの束を捻じ込んでいるんだけど、一言で言えば「超強力な槍」だ。だが溜め時間が大きく外れたら意味がなく、外したら一気に無防備な状態になる。

 

 尤も、散弾銃のように広範囲を穴だらけにしたりホーミングで全部射抜けるような波動砲なんかが出てきたらそのへんの問題は全部無かった事になる。この場で名前を付けるなら「拡散波動砲」。こんなモンスターが生まれたら波動砲艦隊の出現と大軍拡時代の到来だろう。

 

「……波動砲は発射までに多くの時間とエネルギーを要する。艦の全エネルギーを集中させる以上波動防壁も展開できない以上無防備な状態となる。それならば、防壁で守りを固めながら主砲を用いて的確に撃沈させる方が効果的だろう。カ2号作戦の時点でショックカノンはガミラス艦艇を撃沈した。Wunderは砲塔単位のショックカノンでガミラス艦隊に対し優位に立った。それならばショックカノンを、もしくはそれを発展させた通常兵器を搭載した艦艇を揃えて防衛が出来るならば、波動砲艦隊よりもエネルギーロスを抑えながらの防衛が可能だろう。艦隊の練度不足は、ソフトとハードの面で支えられる。さらに、用意されたある程度の戦術を習得すれば、戦術歩兵を行わずに済むかもしれん」

 

「そういう事です。波動砲制限下での防衛行動は効果的な砲撃と機動力、戦術に沿った機動戦が必要と感じます。ビームの威力と装甲と速力がモノを言う宇宙艦隊戦では今まで以上の装甲と機動力と打撃力が要求されます。ですが、少なくともこれを揃えて踏み台を使ってでも練度を上げれば防衛は可能だと思います。これならば、波動砲艦隊出現を防ぎながら、波動砲を正真正銘の最後の手段にする事が出来ます」

 

 そう、波動砲は最終手段。言い方悪いけどバカスカ撃てば勝ててしまう訳でもないし、波動砲三段撃ちなんか始めてしまったら戦術の単純化による弱体化が始まってしまう。「国連宇宙海軍再び壊滅!」なんて未来は来てほしくない。

 さて、そこで問題になって来るのは……

 

「待って下さい。それではまずそれが可能な次世代艦艇を用意する事から始めないとダメです。そんな理想を全て詰め込んだ艦艇なんて……あっ!」

 

 そう、船の問題。そんな理想的な艦艇は今の地球にはありません。

 でも安心して古代くん、ここにいますよ。超戦艦を設計した2人組が。

 

(まあ作るよね?)

 

(と言うかやるしかない。無いと困るし地球に着いてから作ってても時間が無い)

 

(休暇明けにトンデモ仕事作っちゃって。忙しくなるね)

 

(極端な話、僕とハルナなら何でもできるでしょ)

 

「金剛村雨磯風型をベースにした第2世代艦艇を僕らで作ります。少なくともガミラス艦艇と正面切って堂々と勝てるくらいの物を」

 

 無いから作るんです。あったらやりません。という事で作ってしまいましょう第2世代艦艇。

 

「博士の言ったとおりだ。君達は2のn乗だな」

 

「「どういうことですか?」」

 

「まあ気にしないでくれ。でも2人でまた作るつもりか?」

 

「いや、時間も少ないので流石に無理ですよ。ですので、地球に帰るまでの時間を使って機能定義や外装を設計したりします。帰還次第、艦艇の設計経験とかそういう部署のある企業の協力を仰いで新規に部署でも設立します。南部重工やエプシロンといったWunder改修にお世話になった企業の方々にはもうお願いする積もりです」

 

 さて、戻ったら仕事仕事。第二世代艦艇の機能要件から始めないとな。取り敢えず波動エンジンとワープとショックカノンは大前提だ。それ以外にも付けれる物は付けていきたいな。

 

 取り敢えずここで分かったのは、「地球は今後も波動砲を持つだろう」という事だ。最終兵器は持っておいた方が良いけど使わずに済む方が良い。厳重な管理の下で運用する事を前提にすれば、スターシャさんにも納得してもらえるかもしれない。

 

 ところで、僕は「あとは使い手次第だ」と言う言葉はあまり好きじゃない。まるで作った本人が責任から逃げている感じがするからね。これが兵器の設計や製造であるならば、壮大な責任放棄にしか聞こえない。だから、波動砲を生み出した者達として、これからもその力が守るために使われるようにうまく調整していかないと。

 

 

 ……地球の上層部を信じないってわけじゃないけど、隠し手札のカウンターでも作っておこうか。

 

 

 


 

 

 

 

 3日後。諸々の準備が終了し、沖田艦長と真田、Wunder生みの親のリクとハルナ、波動砲を撃ってきた古代は再び王都の大宮殿を訪れた。

 

 イスカンドロイドに応接室に通された一同はその広さに圧倒されているが、リクとハルナはもう慣れたと言わんばかりに落ち着いている。

 

「沖田艦長、お体の方は?」

 

「大丈夫だ。もしかして、知っているのかね?」

 

「佐渡先生から聞きました、復路は療養なさると。それと、ご病気の件も」

 

「復路は、古代と真田君に艦長代理を任せるつもりでいる。君達は、戦術科や航海科、機関科からの意見も参考にしながら、新型艦艇の設計に入ってもらいたい。戦術の方は……私が考えてみよう。内惑星戦争の経験が活きるかもしれん」

 

「勿論です。波動砲は万能ではない以上、通常兵力での防衛が重要です。なるべく早めに性能表を仕上げてみますね」

 

「慌てないように。時間は無いわけではない」

 

 意気込む2人を抑えるようにして沖田艦長が念の為釘をさす。自身が戦術、あの2人が建造を創り出す。それまで自身が生きていられるかは今後次第だが、それでもその未来を一目見て見たいと沖田艦長はそっと笑みを浮かべた。

 

 

 __________

 

 

 

 スターシャ陛下から緊急のお呼び出しを受けたため、私はクリスタルパレスに向かった。テロンの宇宙戦艦の乗員……テロン人との条約締結を打診され、閣僚内では紛糾した。だが、ヴンダーの来訪で領内は引っ掻き回され、デスラー体制すら崩壊した。主力艦隊の戦力はいまだ多く残されているが、指揮系統が混乱している今ではどうしようもない。

 

 ある意味、負けたのだ。

 

 その相手からの休戦協定の申し出は、余りにもタイミングが良すぎる。ヴンダーがイスカンダルに到着したのは観測していた。その相手が何を求めてイスカンダルに向かったかはまだよく分からない。

 だが今は、条約云々よりもまずは頭を下げるべきだろう。ヴンダーのあの一撃が無ければがバレラスは終わっていた。バレラス総人口6000万人の命、いやガミラス星50億の命は、ヴンダーによって救われた。

 

 それに、彼らの目標はイスカンダルに向かう事で、我々と正面から戦う事ではない。今までだって降りかかる火の粉を払い続けていただけだ。

 

 これ以上の争いは互いが望まない、ここで終わらせなければ誰が終わらせる? 

 

 

「……真意は、確かめないとな」

 

 

 大ガミラス帝星暫定政権代表レドフ・ヒス。クリスタルパレスに到着し、大きく深呼吸をした。

 

 

 

 __________

 

 

 

 

「時間です。行きましょう」

 

 端末の時計を確認した真田は立ち上がり、2人も古代も沖田艦長も立ち上がり前室を出る。

 

 扉の先は応接室が広々と広がり、視界の先にはスターシャが。正面の応接用テーブル、その向こう側にスターシャが。テーブルの右側にはその相手が。

 

 

「皆さん集まりましたね。では、始めましょう」

 

 ここに、大ガミラス帝星暫定政権との和平交渉が始まった。




再び縛りを与えられる波動砲と、地球の今後の力を書いてみました。

この物語では、波動砲の扱いで苦悩する古代くんを次回作で書かないようにする為に色々手回しをしていきました。ですが、現実はそうはいかない。地球の今後を考えれば波動砲と言う力は持っていた方が良い。ですがそれは「いざと言う時の最終兵器」で、波動砲艦隊でバカスカ撃って良い物ではないと思います。

……2202の波動砲艦隊を悪く言ってるように聞こえますが、僕としてはちゃんとした艦隊戦を書きたいんです。だからそのための準備として波動砲をイスカンダルでもう一度縛り、通常兵装でかなり優位に立てる艦艇の建造がここで決まりました。

次の話はまだまだかかります。年末までには出すつもりですので、それまでどうかお待ちください。

(@^^)/~~~


追記

どなたか感想下さい。モチベが保てそうにありません……


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帰還の途に就く

JavaScriptを書くか、小説を書くか、どっちも取るのは欲張りか?


どうでもいい事でした。それでは、イスカンダル編最後のお話です
お楽しみください


 

「国連宇宙海軍恒星間航行宇宙戦艦Wunder艦長、沖田十三です」

「現大ガミラス帝星暫定政権代表レドフ・ヒスです」

 

 イスカンダル停泊から三日、リクとハルナの提案に乗ったスターシャによってガミラスから暫定政権代表であるレドフ・ヒスがイスカンダルにやって来た。

 リクとハルナがスターシャに提案したのは、ガミラスに頼るという事。

 地球の政権内部から制御するのではなく、外部の存在を使って制御するこの手段は危なくもあるが、今回の場合は誤魔化しが効きにくい。

 

「まずは、貴方方にお礼を申し上げたい。50億以上の臣民が救われた。我々は、今後一切の敵対行動を行わない事をここに誓いたく思う」

 

 そう切り出したヒスは深々と頭を下げた。感謝の意が多分に含まれたそれは、Wunderが成し遂げた事の大きさと意味を実感させるには十分だった。

 これには波動砲を撃った張本人も予想外の様で、リクとハルナもぽかんとした顔としている。

 

「君達が撃った結果だ。誇りなさい」

 

「「はい……!」」

 

 そう沖田艦長も微笑み、2人はやっと正常な状態に戻った。

 

「これからお話しすることは、地球人類とガミラス人類そしてイスカンダル王族の今後に関わるお話です。ですが、今後の双方の情勢の変化等によりこの通りに歴史が進むとは考えにくく、必ず何らかの地点でズレが生じる物になります。その都度方針の修正等も行う必要がありますが、前提条件そのものが達成されなかった場合はこの話は最初から存在しなかった物となります。その点をご理解頂くようお願いいたします」

 

 スターシャもヒスもそれを理解し頷き、ハルナとリクは温めてきたシナリオを話し始めた。

 

「今後、地球とガミラス間で終戦協定、講和条約……あるいは安全保障条約が締結される事でしょう。現状我々の身で締結できるのは休戦協定が関の山。終戦後の高度な政治は僕らではなく、本職の政治家にお願いする事になると思います。それでも、政治家や軍上層部に委ねる前に仕込みをしておかねばと思い、今回遥々お呼びしました」

 

「お願いしたい事は、今後地球ガミラス間で締結される講和条約、もしくは安全保障条約をなるべく早期に地球に持ち掛けて欲しいのです。少なくとも我々がイスカンダルから復路に着いてから地球時間換算で約210日目以降です。そしていずれ地球政府側から要請される可能性のある地球復興活動の支援及びガミラス艦隊の駐留に対する条件として、『イスク・サン・アリア条約の順守を前提にする』ことを地球側に持ち掛けてもらえないでしょうか?」

 

「条件追加……理由をお聞かせ願えますか?」

 

 奇妙な申し出にヒスの政治の目が光り、真意を聞く。

 

「イスク・サン・アリア条約は、波動エネルギーの平和利用と波動砲にもう一度縛りを与えるための条約です。実を申し上げると、波動砲の発射対象を制限する条約は既に地球側に存在しています。ですが、それはスターシャ陛下が地球製波動砲を認知する前の段階で結ばれた物であり、今回地球製波動砲を認知して頂いた上での締結を行いたいと考えています。しかし、Wunderは……と言うよりも、艦長である沖田に条約締結等の外交権が与えられた公的記録が在りません。条約と言う物は外交権を持った者……外務大臣や大統領等の首脳陣、政府等から任命された外交団が締結するものであり、外交権の無い状態で締結された条約は、首脳陣が『条約と認識するかどうか怪しい』のです。単なる口約束として受け取られても何ら反論は出来ません」

 

 テーブルに広げられた条約草案は地球言語の他にもガミラス語、イスカンダル語でも書かれている。事前に沖田艦長と真田、古代を始めとした戦術科と赤木博士と言った有識者によって纏め上げられた草案は、可能な限り「条約の穴」を埋める事に特化しており、両手の指で数えられる程度の条文にこれでもかと内容が盛り込まれている。

 

「つまり、ガミラス側から圧力をかけて条約順守を促し、波動砲の暴走を抑える……という事ですね。しかし、何故我々が圧力をかけることが可能と結論付けられたのですか?」

 

「はい。何故ガミラス側から圧力をかけられる結論に至ったのか。それは単純に、ガミラス領全域の国民感情が理由となっています。ガミラスはイスカンダルを崇拝しています。その崇拝対象であるイスカンダルが地球に波動エネルギー技術を分け与え、地球はその力でサレザー恒星系に到達しイスカンダルにやって来た。そして我々が帝都バレラスに落下する巨大構造物を迎撃した。重要なのは、この全ての事実のの大本にある力が地球製ではないという事です」

 

「地球製ではない?」

 

「ガミラス側で認知されているかは分かりませんが、宇宙戦艦Wunderにはイスカンダルの次元波動理論と波動コアを使用した次元波動エンジンを搭載されています。我々が主機本体に手を付けた部分は少ないので、Wunderはイスカンダル純正の力を受けた船であると捉えることが出来ます」

 

 そう、あの船はイスカンダルの次元波動エンジンが無ければ絶対に動かない。と言うか進まない。2500mの巨体を動かしワープもさせるこの超技術はイスカンダルの歴史が生んだ至高の技術の結晶だ。

 

「ここから言える事は『イスカンダルの力を受け継いだ船がガミラスを救った』と言う点です。これは遠回しになりますが『イスカンダルがガミラスを救った』と言い換える事も出来、地球がイスカンダルの加護を受けたから出来たと見る事も出来ます」

 

「そんな加護を受けている我々が条約破棄を行い波動砲を揃えれば、イスカンダル信仰の深いガミラスの方々は、地球のその行為に対し憤りを覚える事でしょう」

 

「……そういう事ですか」

 

「波動砲暴走により条約が無かったことになった場合、ガミラスの方々はそんなイスカンダルとの約束を破った地球との同盟を破棄する事を望むでしょう。同盟破棄が起これば地球復興政策も支援が無くなり地球は苦しい事となる筈です。正直に申し上げてガミラス抜きでの復興は申し上げて苦しく、政府は波動砲の扱いを厳重にせざるを得ない。ここまでの話を纏め上げると、ガミラス側のイスカンダル信仰を利用する事で、地球政府が条約を無視したら支援が外される状況を作ることが出来てしまうのです。以上の理由から、ガミラス側から圧力をかける事は可能ではと踏んでいます」

 

 ヒスは唖然としていた。ここまでの話は仮説でしかないが、それでもガミラスと言う国の事情とイスカンダル信仰の深さを考慮に入れると現実的に聞こえてしまう。

 と同時に、今現在の政権崩壊による国家の混乱を鎮める一手にもなり得るとヒスは考えた。本星には多くの臣民が住まい独裁政権下で合ったつい最近でも多くの派閥が存在していた。デスラー政権の実質的な崩壊と言えるこの現状は他勢力が犯行のキッカケともいえ、内乱が起こりかねない。その現状にこの一方を投じ、まずは同じ方向を向かせる。

 

 国歌を立て直すためには、「ガミラスとテロンでの休戦宣言の布告」を行い、「イスカンダルの力がガミラスを救った」事を喧伝し、地球とイスカンダルとの関係を示す。

 

 

「……理由は分かりました。貴方方の推測通り、我が大ガミラスの事情を鑑みれば可能であり、現在我々が抱える国内の混乱の正常化にも転用可能です。それと、個人的な疑問をこの場で言わせていただきますが、なぜそこまでして最強に近い力を縛られるのですか? イスカンダルの力だからですか? スターシャ陛下の願いだからですか?」

 

「……その理由も含まれていますがそれ以上に、これを生み出してしまったからです。この場で言うのもおかしなものですが、波動砲を生み出したごく初期の頃は、子供らしく最強を生み出したとか言って自信満々でした。ですがシミュレーションを行った結果、大陸一つを消せるほどの兵器である事を知ってしまい、「歴史を変えてしまう兵器を生み出した」事を痛感しました。……地球にはパンドラの箱という言葉があり、「災難を引き起こす原因」と言う意味を持っています。まさにその「災難の原因」にでも手をかけてしまったのかと怖くなってしまったんです。力を生み出し、制御を行い、最終的には2人で波動砲の引き金を引き、波動砲を破壊ではなく守るための力だという答えは、この航海で我々が見つけたこの力の使い方です。破壊なんかではなく守るため。力の咆哮の方向は、これからも地球を守るための方向に向き続けます」

 

 一瞬だけ強まった光は加工済みの眼鏡の奥で揺らめき、言葉は決意を乗せて響いた。

 

「アカツキさん、ムツキさん。私は、貴方方が波動砲の番人になり得る人物と考えていました。貴方方が波動砲を生み出し、その力の酔いしれなかった事は幸いな事であり、その力をこれからも縛り守る為の力として使うのであれば、私は貴方方の力の使い方を尊重します」

 

「イスカンダル第一皇女スターシャ・イスカンダルは、宇宙戦艦ヴンダーの貴方方を信じ、力を託します。貴方方が誓うように、破壊ではなく守る為の力として」

 

「スターシャさん……」

 

「ヒス副総統も、宜しいですね?」

 

「私は、この件に関われる立場にはありません。波動エネルギー兵器を持ち本星を滅ぼしかけた事件を食い止めることが出来ませんでした。前政権で副総統と言う立場でありながら感づく事も出来なかった以上、私はスターシャ殿下の決定を尊重する事しか出来ません」

 

「そして、ここで私は決定を下します。イスカンダルは、地球へのコスモリバースシステムの譲渡を行います。貴方方との意志と()()()()の為に」

 

「彼の……失礼ですが、どなたの遺志ですか?」

 

「古代進さん、この会談が終わり次第、お伝えします」

 

 

 その後、ガミラスとの休戦協定である「地球・ガミラス休戦協定」が結ばれ、ガミラス艦隊全軍へのヴンダーへの攻撃が禁止された。それと同時にヴンダー陣営が草案として提示した「イスク・サン・アリア条約」への調印が行われた。

 前身となった使用制限条約を踏襲し、今後の地球上層部の変化も考慮に入れられたそれは、多少の修正が行われたものの、同日無事に調印が行われた。

 

 

 

 イスク・サン・アリア条約

 

 第1条 

 国際連合安全保障理事会及びその下部組織である国際連合宇宙海軍、若しくは上記の組織の後継に当たる「軍事的行動が可能な組織」は、対艦又は対惑星を目的とした波動砲の使用を禁ずる。

 

 第1条捕捉

 

 地球人類の存続の危機と判断された場合、非常事態宣言による特例に基づく波動砲の対艦隊戦使用を容認する

 

 

 

 第2条

 波動砲艦艇保有数は50隻とする。

 

 

 

 第3条

 現状想定された発展型波動砲の開発を禁ずる

 

 

 

 第4条

 波動砲の条約範囲内での発射行為には、発射艦艇の艦長、副長、戦術長の承認を行う。

 

 

 

 第5条

 波動砲搭載艦艇には、条約範囲外での発射を感知した場合に、発射機構が自動的に自壊する機構を搭載する事。

 

 _____

 

 

 

「ヒス副総統」

 

 会談が終了し本星に戻ろうとするヒスを呼び止めたのは、ハルナとリクだった。手にはデータスティックが握られていて、その場で一礼して2人は歩み寄ってきた。

 

「非公式ではありますが、個人的にお願いしたい事があります。探していただきたい文字があります。最重要機密のため、詳細はこのデータスティックでご確認ください。今回のバレラスでの戦闘で、Wunderと総統座乗艦は元姉妹艦である可能性が出ています。それが立証できるかもしれません」

 

「元姉妹艦? 根拠はおありですか?」

 

「ありません。ですが可能性はあります。Wunderは我々の星系のとある惑星の漂着した巨大な骨格を船体の一部にした戦艦です。総統座乗艦はガミラス艦艇の特徴的形状がみられましたが、それ以外に旧AAAWunderに酷似した形状でした。根拠は確かに乏しいですが、元をたどれば、同じNHGシリーズの艦艇かもしれません」

 

「総統座乗艦は一体何処から生まれたのか。可能か不可能かは隅に置き、まずはお受けします」

 

 


 

 

 スターシャに連れられた古代はとある場所を訪れていた。王都郊外、地平線の果てまで見える広大な土地。そこにクリスタルのオブジェが整然と立ち並んでいる。1つ1つのクリスタルにイスカンダル語が彫られた金属板が内包されていて、イスカンダル語が分からない古代でもそこが何なのかが分かった。

 

「ここは、墓地ですか?」

 

「イスカンダルの人々は、皆ここで眠っています。私たち三人を除いて皆ここで。街を見て、気付いていたのでしょう?」

 

 何処までも広がっている墓地の中を歩く。透明なクリスタルと内部の金属板。風が響く音が支配し、自然に無言になる。

 

「イスカンダルは永遠の幸福を手にするために自らこの選択を選びました。私達は王族として残され、この星は眠りについた国民と共に約数千年を共にしました。今ではそれが本当に幸福なのか、私は分からなくなった」

 

「これが……幸福なんですか?」

 

「今は分かりません。ですが、彼がやって来るまでは永遠を幸福と考えていたのかもしれません。人は生きてそして死ぬ。イスカンダルはそれを破った結果死と言う概念を失い、今の状況となりました。彼との出会いで永遠の幸福に疑問を持った私は、彼を永遠の中に誘う事をやめ、この地で埋葬を行いました」

 

 スターシャが立ち止まった墓の金属板には、日本語が書かれていた。

 

 

《古代守》

 

 

「何で……何故兄の名が……」

 

 イスカンダル人の墓の中に地球人の名前。「彼」が一体誰なのかここに来るまで古代には分からなかった。それが自身の兄であった事は古代の大きな衝撃を与え、一瞬息を忘れた。

 

「コントロールを失ったガミラスの捕虜護送船がイスカンダルに墜落し、その時生き残っていたのは彼だけでした。ガミラスの目を盗み、何とか保護しましたが、その時すでに彼の体は……結局私は、誰も助けられなかった」

 

「……スターシャさん」

 

 墓の前で呆然としていた古代は、スターシャと向き合った。

 

「……ありがとうございます。兄は、宇宙ではなく地上で最期を迎えることが出来て、喜んだと思います」

 

 宇宙艦艇は船と運命を共にする以上撃沈されれば遺体は残らない。だからたとえ殉職しても誰も弔うことが出来ない。埋葬もされない。古代は、あのエンケラドゥスのゆきかぜの残骸を見て、兄の死と言う事実をもう一度痛いほど感じた。もう兄はいない。1人で死んでしまった。

 しかし、兄はここで死んだ。それも孤独の中で死んだのではなく、スターシャと言う1人の人間に看取られながら死んだ。同じ死でも孤独よりどれだけ良い事か。両親を失った古代には分かっていた。

 

 古代は自身の銃をホルスターから抜き、兄の墓前に供え手を合わせた。

 

 

「スターシャさん。兄は、最期に何を言っていましたか?」

 

 それを聞いたスターシャは、袖にしまっていたメッセージカプセルを取り出た。

 

 

 ______

 

 

「私は国連宇宙海軍所属駆逐艦ゆきかぜ艦長、古代守だ。私はガミラスの捕虜となり、実験サンプルとして護送される途中、難破したところをイスカンダルの女性に助けられた。そして、地球の艦がここへ向かっていることを彼女から聞いた。……このメッセージが届いていると言うことは、君たちは無事にたどり着いたということだ。出来る事なら、俺も君たちの艦で一緒に地球へ帰りたい。だが、それまで俺の身体は持ちそうにない。最期に言い残しておきたい事が色々ある。ひとつは俺たちは異星人とだって理解し合えるということだ。俺はそれをこの星に来て教えられた。それは忘れないで欲しい」

 

「二つ目は、俺の友人に伝えて欲しい、多少くだらない事かもしれないが、最期くらい言わせてくれ。真田、研究を大事にするのはいいが、友人が新しく出来たりしたらそっちも大事にしろ。真田の友人もこれを聞いていたら、その研究バカを頼む。なるべく楽しい未来を過ごさせてやってくれ」

 

 そしてもうひとつは、弟の進に伝えて欲しい。進、俺の分まで生きてくれ。生きて必ず、青い姿を取り戻した地球を瞳に焼き付けてくれ。貴艦の航海の安全を祈る。どうか地球へ無事な帰還を……」

 

 艦内放送で一斉に放送されたその遺言は()()()に届いた。「必ず地球へ」、ここまで5か月をかけてやって来た。少なくない人員が失われた。彼らの思いにかけても、ゆきかぜ乗員の思い……古代守の思いにかけても、そして「人類を救えなかった者達の思い」にかけても、Wunder乗員約900名と10人は、復路への想いと決意を新たにした。

 

 


 

 

 停泊7日目、波動砲発射システムの封印と発射機構の撤去。それと同時にコスモリバースシステムの搭載が始まった。気球のような何かで運搬されてくるコンテナを甲板部と技術班で開封、それを翻訳した設計図を基にして組み立てていく。

 さらに海上からはコスモリバースシステムのコアユニットを、スターシャ自身が連絡船を用いて運んでいる。

 

「コスモリバースシステム、生命を宿した星に時空を越えた波動として存在している星の物質と、生命の進化の記憶を封じこめたエレメントを触媒にして惑星の記憶を解き放ち、その力で惑星を再生させる。イスカンダあるがコスモリバースを直接送れなかった理由は、その星のエレメントがイスカンダルに来る必要があったからなの」

 

「地球の復活には地球のエレメントをか。……惑星再生って言うよりかは環境の総上書きに近いのかな。エレメントと星の物質をソースにしてセーブデータ作って上書きするみたいな感じで……そして波動エンジンはエネルギー供給……」

 

「技術的にはそういう想像で合っているわ」

 

 コスモリバースの概要を何とかかみ砕いたリクはさらに考え込んだ。手元にあるコスモリバースの推定される主能力とその概要には、地球言語に翻訳された一覧も添付されている。だがそれも地球人には理解不能に近い難解な内容となっていた。

 

 その内容を抜粋すると……空間収縮と膨張、超高精度長距離探査能力、ワープ由来の時空間操作と再構築、超演算能力、記憶情報のトレース能力。その他もあるがオカルトになってきているので半分諦めている。

 過去に「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」と言葉を残した人物がいたが、これ程にまでその言葉がぴったりな代物は今後目にする事もないだろう。

 

 

「セーブデータの上書きの発想は近いかもしれんな。元に戻すというよりもエレメントから抽出、そこから実際の環境を演算で導き出してセーブデータを上書き。だが……」

 

「何か気になるんですか?」

 

 ハルナの声を他所に難しい顔をする真田は、吊り上げられているコスモリバースシステムを睨む。いつも以上に悩み考えている真田は腕まで組み始めて唸り始める。

 

「記憶情報のトレース能力だよ。誰の記憶をトレースするのかが分からない。誰かの記憶に残っている地球がソースデータになるのだろうと想像はしたが、問題は、誰の記憶かという事だ」

 

「それは、Wunder乗員の全員の記憶からじゃないですか? それを複合して地球のセーブデータを作り上げるって感じで」

 

「かもしれない。だが、一体誰の記憶なんだ?」

 

 

 


 

 

 

「まもなく出航しますよ。真田さん」

 

 艦の外に出ている事を聞いたハルナとリクは、もしかしたらと思って古代から聞いた霊園に足を運んだ。古代守を始めとしたゆきかぜ乗員の眠る霊園。そこに、真田は座り込んでいた。

 

「……ここに眠っていると古代から聞いた。せめて発つ前に挨拶をと思ってな。ところで暁君、その手に持っているのは?」

 

「お墓参りなので、あった方が良いかなと。一本頂いてきました」

 

 真田が違和感を覚えたのは、ハルナが持っていては違和感があるものが握られていたからだ。それはお酒の一升瓶。それも佐渡先生がよく飲んでいるオムシス製の日本酒だ。

 

「さすがに今は飲めませんが、供えるくらいなら」

 

「ありがとう。守、見えてるかどうかは分からないが、俺の後ろに立っているのが私の友人だ」

 

 ハルナは持ってきた一升瓶の栓を抜き、同じく持ってきたコップに注いで墓前に供えた。リクはかけていたカバンからジュースを取り出した。

 

「あと一時間もすれば出航なので、僕らはこれですよ」

 

「ああ……乾杯」

 

「「乾杯」」

 

 ジュースが注がれたコップを回し、三人で静かに乾杯した。

 

「来てくれて、ありがとう」

 

「どうしても足を運ばなければならない……って感じがしたんです」

 

 Wunderへの改装と波動コア受領にはどうしてもメ号作戦に絡む必要があり、作戦結構前に2人は上層部から内容を聞かされていた。

 極僅かの者しか知らない陽動作戦。何も知らされずに陽動に回され、その結果人類の希望が繋がったが多くの命が消えた。後がない地球の取った策であったが、「これしかなかったんだ」で片づけてお終いにしたくない。

 

「古代守さん。古代くんは、ちゃんと戦術長を務めています。おまけに彼女も出来そうです」

 

「そうなのかい?」

 

「真田さん鈍感すぎですアンテナ張りましょう。古代くんと森さん、あと一歩で付き合いそうなんです。何かいい雰囲気です」

 

「なら船務科に掛け合って2人の非番をなるべく合わせるべきか……」

 

「それは露骨すぎますよ。見守る程度がちょうどいいです。古代守さんもそうすると思いますよ?」

 

「そうだな」

 

 昇り切ったサレザーの下で真田は飲み、リクとハルナもジュースを飲み進めていく。真田の表情は温和な物で、恐らく艦内の誰も見た事ない様な表情だろう。コッソリ顔を合わせて意思疎通し、リクとハルナは微笑みあった。

 たった1時間、それでも話は進み、時に失笑し、時に悲しげな顔になり、時に謝ったり。ころころと変わる表情と共に語られる昔話に耳を傾けながら、2人は真田を見守った。

 

「そろそろです。行きましょう」

 

「守。またここに来る機会があれば、また会おう」

 

 飲み終わったコップを綺麗に吹き上げ逆さ向きにしておいた。きっちり三人分、一升瓶も置いていく。いつかまたここに来ても分かるように。

 

「また来ることがあったら、古代くんと来ますよ。ですよね?」

 

「ああ。またな、守」

 

 墓前にそう誓った真田は踵を返して墓標を後にした。

 

 

 _______

 

 

 

 甲板上に戻った2人と真田を待っていたのは古代と森にアスカと山本、そしてイスカンダル皇族の3人とメルダだった。

 

「真田さん、どちらに行かれていたんですか?」

 

「ちょっとな、話をしてきたんだ」

 

 その一言で何をしてきたのかを察した古代はそれ以上言わなかった。

 

「皆集まったね。じゃあ、私から発表をします。ガミラスに赴いて人々の支えになる為に、メルダと共に頑張っていくよ」

 

「ガミラスに?」

 

「ヒス副総統を筆頭にした暫定政権でも、今の混乱を抑えるのにはどうしても時間がかかる。たとえ休戦の表明があってもだ。だから私はユリーシャ様に付き従って、ちょっと我がガミラスを落ち着かせに行ってくる」

 

「メルダが従者みたいになってくれるなら、ユリーシャも安心ね。メルダ、色々とありがとうね」

 

「ああ。アスカ、ヤマモト、それと、ああ……多いな」

 

「多いって何よ多いって」

 

 すかさずアスカがツッコミを入れるが、メルダは珍しく言い返さず困ったような笑みを浮かべた。

 

「色々あったから感謝するべき人数が多いんだ。とにかくヤマモト、アスカ、ムツキ夫妻。コダイにモリにサナダ副長。短い間だったが、ありがとう」

 

「ちょっと~まだ結婚してないけど?」

 

「いいじゃないか。もうそんな様な雰囲気だぞ」

 

(((ご尤も)))

 

「今ご尤もって思った人は挙手してください」

 

 Wunder陣営は一斉に同じ事を思い、それなりに強い意思だった為ハルナが間違って感知してしまった。でも満更でもないリクの顔を見て文句を言うのをやめた。

 

「ああそれとコダイとモリに渡しておくものがある。ムツキ夫妻は後ろを向いてくれ」

 

「え? まぁ分かった」

 

 後ろを向いたのを確認したメルダとユリーシャは、古代と森に二通の手紙を渡し、声を潜めて話し始めた。

 

「時が来たらこれを夫妻の目の前で読み上げて欲しい」

 

「時が来たら?」

 

 頭の上に「?」を浮かべる古代の真横ではユリーシャが森にそっと耳打ちをしていて、何かを理解した森は古代に耳打ちをして古代もやっと理解した。

 

「分かった。時が来たらだな」

 

「もういい?」

 

「ああいいぞ。そこの夫妻は一切詮索しないようにな。楽しみは取って置く物だぞ」

 

「詮索って……分かった。楽しみに待ってるよ」

 

 念を押された2人は一旦疑問を隅っこにしまい込んでおいた。

 

「それとヒス副総統から言伝だが、お望みの物は時間がかかるそうだ。発見し纏まり次第、ヴンダーに超空間通信で送るそうだ」

 

「分かった。よろしくお願いしますって伝えて欲しい」

 

「何を依頼したんだ?」

 

 事情を知らない真田は怪訝そうな顔を向けた。

 

「AAAWunder再起動時に表示された文字についてです。総統座乗艦とWunderが同じ出自ならば多分中身のシステムが大体一緒かなって感じで何かあるかなって思ったんです」

 

「はぁ……まぁWunderには思っていたよりも謎が多いから、手掛かりが増えるのは良い事だ」

 

 知らない所でまた動かれていた事実にまた溜息を付いた真田だが、自身もWunderの特異性と出自には大きな興味を持っている以上これ以上とやかく言うのをやめた。

 自分も目にしたAAAWunderの再起動ウィンドウ。その前に流星のように流れて行ったQRコードのような文様。いくら探しても手掛かりゼロだった以上、少しでも光明が見えるなら真田もそれをしていたかもしれない。

 

「スターシャさん、僕達を信じて下さり、ありがとうございます」

 

「どうか私達の歴史を繰り返さず、別の未来を生み出してください」

 

「はい……!」

 

 古代がスターシャに感謝を示し、スターシャは力と希望を託す。一目見るとたった1人が重い物を背負っている様に見えるが、決して1人で背負っているものではない。

 皆で意識した波動砲と皆で辿り着いた希望。それを皆で背負い、一同敬礼を行い乗り込んでいく。

 

「どうか、我々の様にならないで下さい」

 

 ________

 

 

 

「全艦に達する。こちら艦長だ。本艦はコスモリバースの受領を終え、これより地球へ帰還の途に就く。……帰ろう、故郷へ」

 

「発進準備!」

 

「機関出力上昇中。推力、1160万トン」

 

「操舵及び重力推進問題無し」

 

「総員の艦内への移動完了を確認。各員、配置に着きました」

 

 全ての乗組員がイスカンダルの方向を向き一斉に敬礼をし、AAAWunderからも警笛の代わりとして外部スピーカーで警笛音を鳴らす。水面を進み、王都沖合から離れていく。両舷のメインノズルにも光が灯る。両舷から伸びる長大な翼が水面を抜け出し始め、徐々に船体が上昇していく。

 波動エンジンが出力をさらに上げ、Wunderが上昇する。滴り落ちる海水と持ち上がる波を払いのけながらフロートを収納し、神殺しの船はイスカンダルの海から浮上し空へ舞う。

 

 

「さようなら、もう1人の私」

 

「さようなら、守」

 

 

 宇宙戦艦Wunderはイスカンダルから飛び立った。地球を救う希望と地球を守る為の力と共に。

 16万8000光年の先の地球への帰還に残された時間は約6か月。

 地球を、人類を救うため。約900名の乗組員と11名の乗組員を乗せて、宙に舞い戻った。

 

 

 

2199年7月27日

コスモリバースシステムの受領を終了

宇宙戦艦Wunder、イスカンダルを出発




Wunder、地球に向けて発進です。

コスモリバースの受け渡しは勿論なのですが、波動砲の防衛戦力としての所持の容認はやるべきだったんです。本当に波動砲抜きでガトランティスとやり合えるのか。やろうと思えば可能ですが、時間断層フル稼働でもどうしようもないほどの戦力差があり、如何にリクハルが真田さんレベルだとしても厳しい。

だったら波動砲が使えるようにすればいいじゃないか、最終手段として。

マジで切り札として取って置いて、地球人類を守る為に行使する。これならばイスカンダルの愚行も繰り返さない。という事で、今回この物語では「波動砲に対する答えを出して守る為に力にし続ける」事を表明する事で「波動砲の所持」を取り付ける事が出来ました。

勿論それに甘える事もなく、リクハルはドチート艦艇とドチート兵装を生み出していく事になります。

「いやいや、ちょっとお手伝いをね!」

……な兵器でも出しますか。


星巡る方舟編までは書き置いておいた閑話とかが続きます。
感想、お待ちしています。感想=燃料
それではまた次回のお話で
(@^^)/~~~


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睦月風奏の観察記録

折角ひと時の平和がやって来たんです、こういう話もあっていいと思います。

それと、いい加減Javaスクから解放されたい。


それでは閑話一本目です。
風奏さんが語り部です


え〜っと皆さん、あの世からこんにちわ。

 

睦月リクの母の睦月風奏です。こっちに迷い込んでしまったリクが戻ってから、私的には少し暇になってしまったんです。

 

そこで、この狭間の海の砂浜で、Wunderの様子をちょくちょく見ているんですよこっそりと。

 

ハラハラした瞬間、ほっこりした瞬間、昔の言葉だけど「尊い瞬間」っていうのを沢山見てきたので、皆さんにお伝えしようかなと思ったので、是非是非聞いて貰えると嬉しいです。

 

どうにもこうにも、親と言う生き物は子の姿をいつまでも見ていたいって思っちゃうみたいで……。個人的に、零くんと薫ちゃんの分も見れたと思います。零くん、薫ちゃん、ハルちゃんは息子と一緒に強く楽しく生きてるよ。

 

……何から話そうかなと迷った結果、まずはこれかなと思ったのでこれから話していこうかなと思います。

 

 

 

case1 睦月夫婦の話

 

 

 

息子のリクとハルちゃんがめでたく結ばれて私本当に嬉しいんですよ。本当よ?

でも真田さんっていう2人のお友達がうっかり「夫妻」って言ってしまったから、艦内公認カップルみたいになってしまったのよ。

 

ハルちゃんはまんざらでもない感じだったけどね。けどそれとは別にね、こんなエピソードがあるのよ。

 

これね、録画したの。

……あの世でどうやって録画なんかしたのとかそういう突っ込みは無しだよ。

では、VTRをどうぞ!

 

 

 

 

2199年8月某日艦内時間1015

 

 

 

 

「眠い、眠すぎる」

 

「寝てきた方が良いんじゃないのかい?」

 

「ですね……ちょっと寝てきます。ハルナ、僕ちょっと仮眠」

 

「了~解……頑張る」

 

「暁君君もだ。昼から休憩なしじゃないか」

 

「……キリが付いたら寝ます……もう少し……」

 

「はぁ……赤木博士も何とか言ってあげてください」

 

「私はそういうのとは無縁だから」

 

(……聞く人を間違えた)

 

イスカンダルから発ってから大体2か月が過ぎたころ、艦内には、少し和やかな空気が流れていた。

イスカンダルの仲介でガミラスとは一時的な休戦協定が結ばれて、一先ずガミラスからの脅威は収まったといってもいい。

だがそれは「ガミラスの正規軍」からの攻撃のみで非正規群からの攻撃はこの限りではなく、政府の発表に反した艦隊が、こっちに攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

そういう事で気を緩めずに帰り道を征くWunder艦内では、ある計画が進んでいた。

 

国連宇宙軍の第2世代艦艇の設計だ。

もっとも、これは正式に依頼があったわけではないが、将来的に必要になるという事で行われていることだ。

 

 

そもそも波動コアの量産が出来なければ意味がなくなってしまうが、波動コアについてはビーメラコアの方を解析して量産可能かどうかを調査している。

 

「……2時間ほどしたら戻って来るか」

 

しかし、真田のその考えは甘かった。

 

 

_________

 

 

「zzz……」

仮眠と言ったはずなのだが、タイマーもつけずに熟睡。1日分の疲れで何もできずにそのままぐっすり、ベットに体を預けて僅か数分で熟睡モードだ。

上段ベットに行く気力もなくそのまま下段で深い眠りについてしまった。

 

その数分後、眠い目をこすってハルナが研究室に入ってきた。

 

「……仮眠だけ……とらないと……もうふらっふら」

 

そういって下段のベットにふらふらと吸い寄せられるが、そこには先客がいた。

毛布もなしでリクが下段のベットでスヤスヤと寝ていた。

 

しかし、ここで衝撃的な事件が発生した。

 

 

 

「ふわふわでおっきい犬がいる……」

(深刻なエラーが発生しています)

 

深刻なエラーが発生したハルナの視界上には自身の彼氏……ではなく毛並みの良い大型犬が表示されている。人間は疲労が重なるとこの様にエラーが多発するのだが、これは度を越している。そこまでならよかったが……

 

 

「おっきい犬ふわふわ……」

 

 

そのまま抱き枕にしてあろうことか寝始めたのだ。自分の彼氏を「大型犬」と言って抱き着いて寝ているのだ。唯一の救いと言えば、2人以外誰もいないという事と、リクがまだ気付いていない事だろう。

 

……訂正する。リクがまだ気付いていない事は幸であり様々な意味で不幸だろう。

 

 

そのままハルナは熟睡を超えて爆睡、大型犬「リク」を抱えて幸せそうな寝顔を浮かべるハルナであった。

 

 

 

 

 

 

数時間後……

【side リク】

 

ん……思ったより寝てしまった。2時間……? いやもっとか、とりあえず起きないと、そして向こう片付けて……え?

 

再起動したばかりの処理の遅い頭を動かした結果、自分の今置かれている状況がやっと理解できた。

 

 

(は?! え?! ちょ?! どうなってんのコレ?!?!)

 

 

自分が寝ているときには荷が起こったのか見当もつかないが、ハルナに抱き枕にされている。いや、この際ストレートに言わせてもらうと、ハルナが自分に抱き着いたまま爆睡しているのだ。

 

「……おーい、ハルナぁ?」

 

 

「おっきい犬ふわふわぁ……zzz」

 

(犬?! 犬にされてるの?!)

 

小声で起こそうとしたけど全然起きない。いや、爆睡しているのならそれは当然だろう。

しかも抱き着いてきているとはいえ顔が見えていて、かなり幸せそうな寝顔でかなりドキドキする。

 

幸せそうに寝ているのに起こすのも忍びない、ここは負けてそのままでいる事にした。

 

 

ただ……羞恥心が途切れることなく襲い掛かってきて、眠気というものが軒並み吹っ飛ばされてしまった。

 

(いやいやいや抱き着かれるの少し慣れてきたというのにこれは恥ずかしすぎる……! 抜け出したいけどめっちゃ幸せそうに寝てて寝顔可愛いからそのままにしておきたいけどいくら何でもこれは恥ず過ぎるだけど?! でも犬?! 僕犬にされているとかどういう事?! 何で人間が犬に見えるの?!)

 

 

とまあこのように悶々と考えて何とか羞恥心を逃がそうとしていたが、言い方が妙なものになってしまうが、「相当長い時間密着されている」のだ。逃がしても沸いてしまう羞恥心に殺されそうになりながらも何とか耐えていた。

 

 

「んにゃあ……」

(今度は猫か……?)

 

「リク……」

 

「ハイハイどうしたぁ……?」

 

「リク……大好きっ」

 

(リクは99999(測定不能)のダメージを受けた! リクは倒れた!)

 

ノックアウトでオーバーキル。カンストダメージの攻撃繰り出されたら流石に倒れてしまう。羞恥心で顔が燃え、自分の彼女は実はとんでもない人なのではと考えてしまう。

 

「僕も好きだけど流石に勘弁して……これでは拷問じゃないか……」

 

寝言で想いを伝えられてもこれではじわじわ殺されるような物じゃないか。

そう言っても当の本人はそんなこともいざ知らず、まだまだ夢の中で大型犬と戯れていそうなので、リクは何もかも諦めたのであった。

 

 

 

 

 

━━━━━

 

 

 

 

 

「良いよ、そのままそのまま」って思ったわ。見ているだけでどんどん若返っていく気分(笑)

私って鬼かしら?

 

そしてこれが極めつけなんだけど、ハルちゃんリクを抱き枕にして寝言でこれなのよ

 

 

 

 

「リク……大好きっ」なのよ!

 

 

 

 

それが見事にクリティカルヒット。リクはダウンしてその後一切寝られなかったのよ。

 

ハルちゃん、一途だね。

 

 

 

 

 

肝心なオチだけど、爆睡していたハルちゃんが数時間後ようやく目を覚ましたのよ。

自分がやっていることにやっと気付いて叫んで、ベットから転げ落ちてもう大変!

 

ホント上段のベットで寝てなくてよかったわよ……

背中打って悶絶する姿は見たくないからね。

 

 

その姿を見ていた抱き枕被害者リクは顔真っ赤っかでね、見てた私は若返るわよ。

 

 

……とうの昔に死んでるから歳なんて関係ないけどね。

 

 

その後ハルちゃんがね、自分変な寝言言ってなかったかリクに問いただすの。

 

「日本語かどうか怪しい寝言は言ってた」って返してたけど、「リク大好き」はオーバーキルだからまだ顔真っ赤なのよ。例えるなら……「純愛砲」って感じかな? あれは間違いなくオーバーキルね。

 

「失礼ね、純愛よ」なーんて!

 

 

 

とまぁ、睦月夫妻の「尊すぎる話」はこれでおしまいかな

私も若かりし時はあんなことこんなこと……

 

 

とにかく!次次!

 

 

 

 

case2 森船務長のコーヒーについて

 

 

イスカンダルから出てからは割と穏やかな航海だったのよ。それこそリラックスした顔でコーヒーを嗜めるくらいにはね。

 

そこで問題が起こったの。

 

航海科の集まりで今後の航路について話し合っていたのよ。そこで森さんがコーヒー淹れたんだけど、それはコーヒーじゃなかったのよ。

 

 

……別にコーヒー以外の物使ってたわけじゃないよ? ちゃんとコーヒー用の物よ?

 

 

でもね、航海科一同咽るなり吹き出すなりもう大変。

それはもう地獄絵図よ地獄絵図。

 

でもね、そこに颯爽と現れた救世主がいたのよ。そう、Wunderのチート枠担当赤木さん。

あの人本当に人間なのかな? MAGIシステムっていうすごいコンピュータ使っているとはいえ並行宇宙の存在断定してしまうしもう宇宙人枠でもいいんじゃないかなと思っちゃうこともあったわ。ちなみに、赤木さんはブラックコーヒーの愛飲家なのよ。

 

赤木さんはこの惨状を見るなり森さんのコーヒーセットを借りて一から淹れ直し始めたのよ。

その香りはまさしくコーヒー。香ばしい香りが航海科の面々に届き、そのコーヒーは、この上なくおいしかったそうよ?

 

 

余談だけど、森さんのコーヒー(?)飲めたのは、古代くんだけらしいわ。

 

 

 

 

case3 大食い大会

 

 

 

やり始めた時は、「馬鹿なの?」って思ったわ。

口が悪いことは自覚してるけど、「何やってんの?」って思ったわ。

 

 

リクと太田さんが木星オムライスの大食い対決してたのよ。これはイスカンダルへの航海中の事だけど、面白かったから追加で話させてね。

 

……凄まじい大きさなのよ。木星オムライス。

 

ユリーシャちゃんとハルちゃんが一口食べてとっても美味しそうにしていたから味は折り紙付きね。

 

でも、問題は食べきれるかってこと。

 

 

オムシスの無駄使いと言っていいほどのサイズだから。誰も手を付けないのよ。

殆どネタと化していたような産物に手を伸ばしたのがリクと太田さんなのよ。

 

 

食堂に野次馬が出来て対決が始まったら、太田さんすごい勢いで食べていくのよ。

ブラックホールでも所有しているのかしら?ってくらいにね。

 

でも失速。太田さんは、2キロの時点でダウン。

リクはそのまま食べ進めて無事に勝利。

 

 

 

……したのは良かったんだけど、太田さんが倒れてしまってそのまま数人がかりで担いで医務室に行ったのよ。

 

 

 

「くぉらぁ!何やっとんじゃあ!!」って怒られていたわね。

その時だけ、叱られている子犬みたいにシュンとしててホント面白かったわ。

 

 

 

 

 

 

とまぁ、こんな感じで面白いこと尊いことが盛りだくさん。まだまだ観察記録はあるけど一先ずはこんな感じかな。

 

最後に、リクとハルちゃんの母として、皆さんにお願いがあります。

 

あの世にいる以上もう手出しができないので、私は見ているしか出来ないんです。たとえ2人が苦しそうにしていても、今の私はただ見ているだけ、もう2度と干渉もできません。またこんな半分あの世空間に連れ込むことは出来ないし、こっちには来てほしくないんです。こっちに来るには早すぎます。

 

多分これからも山あり谷ありの人生と未来が2人には待ってます。だからどうか2人を見守って、時に支えてやってください。私の一番の願いは、ただそれだけです。

 

 

では皆さん、あの世から失礼しました。睦月風奏でした。




はい、閑話でした。
こんな内容書いていますが、決して「公式が病気」と言うやつではありません。

次の閑話は、新型艦艇の話にでもしようかなと思います。

では次のお話で
(@^^)/~~~


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オーバードウェポンと新型艦艇

よし、好き勝手やりましょう。新型艦艇作りましょう。

ちなみに、リクハルは2人で頑張れば真田さんレベルでの活動が出来ます。
赤木博士は実質真田さんと同じスペックです。
マリは1/3真田さんです。

それと、艦艇に外付けウェポン用意してもいいじゃないですか。


 

再編国連宇宙軍(仮称)新型艦艇として、暫定第2世代艦3艦種の設計

 

 

暫定第2世代艦艇条件

最低でも20㎝口径のショックカノンを砲塔単位で搭載。

主機関として次元波動エンジン、補機としてケルビンインパルスエンジン搭載

波動防壁搭載

ワープ航法搭載

対高速艦艇、航空機対策としての魚雷発射管、ミサイル発射管、対空兵装の搭載。

 

戦艦クラスには航空隊1個中隊。巡洋艦には半個中隊。駆逐艦には偵察機の標準搭載

 

条約範囲内での波動砲の搭載

 

 

カミナリサマの小型化と耐EMモードの標準実装

 

 

OWシリーズオプション装備の搭載

 

 

 

イスカンダルから出発して3日、解析室に集まった何時もの面々の目の前で発表されたのは、第2世代艦艇の絶対条件。波動エンジンとショックカノン、ワープに波動防壁は皆納得だが、それ以外の要素も詰め込まれている。さらに何だかよく分からない響きの物や聞いた事の無い物まで書き込まれている。

 

「ケルビンインパルスエンジン?」

 

聞きなれない単語に頭に「?」を浮かべたマリが質問する。

 

「オリンポス級宇宙戦闘艦の主機です」

 

「あの船を持ち出すか、上層部が首を斜めにするかもしれないな」

 

「いやそもそも、オリンポス級って何にゃ?」

 

「旧火星自治政府の宇宙海軍が建造した宇宙戦闘艦です。ただ気になるのが、どうやってこれを1から作ったのか何ですよ」

 

そう言って用紙に殴り書きされた「ケルビンインパルス」と書かれた部分を指で叩く。

 

「ケルビンインパルスエンジンには不可解な点が多い。内惑星戦争時に火星艦は鹵獲されてリバースエンジニアリングに回されたのだが、地球の核融合期間とは全く違っていた。巷では異星人由来の主機関と呼ばれている。いい顔はしないだろう」

 

「ハルナっちとリっくんは火星技研にいたんよね? 何か知らないの?」

 

「うーん、徹底的に情報統制されていたから他の部署の研究とかよくは分からないんです。あくまで私達がやってたのはアンノウンドライブだったので他の部署の事は何とも……」

 

そう、火星技研で行われていたのはアンノウンドライブの解析とケルビンインパルスエンジンの設計と開発。リクとハルナは関わっていたのはアンノウンドライブの方でケルビンインパルスエンジンの方には関わっていない。40年以上前の噂話から聞いた程度で実物を見たわけではないが、昏睡中に何があったのかを確認する過程で偶然そのオリンポス級の画像を見たのだ。

 

「でもあるなら使いますよ。でもケルビンインパルスは地球に戻ってから何とかします。恐らく分解解析で出た設計図は地球にある筈なので。曰く付きかもしれませんが、まずは確認取ってからです」

 

「それと、このOWシリーズと言うのは?」

 

「これです」

 

真田に問われたリクは、タブレットの別の設計図をタップした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本気でこれをやるつもりか? これを」

 

「波動砲頼りにしない為には、こういう戦術兵器も必要なんです。」

 

そこに書かれていたのは、全長100mは優にある巨大な砲身だった。巨大な端子の様なジョイントと巨大な冷却機構、そして兵装名として《OWC-Y001 100㎝単装長砲身陽電子衝撃砲》と書かれている。明らかに列車砲並のサイズに一同言葉を失うが、リクとハルナは真剣な目でこの巨大ショックカノンを見つめていた。

 

 

「これは、艦艇に外付けする陽電子砲です」

 

「……何だって?」

 

「艦艇に外付けする陽電子砲です」

 

「いや、そこは分かった。だがなぜ艦艇に外付けするんだ?」

 

「波動砲以外の物で波動砲に迫る攻撃力を与えようと思ったら、これくらいのサイズになってしまいます。内蔵式は無理なので外装式になります」

 

「ショックカノンか……真新しい代物ではないが、こうしてみると異形だな」

 

真田の言う通りこれは異形そのもの。冷却機構がまるで艦船の給排気口の様に取り付けられていて、極低温の微粒子を取り込んで強制冷却を行う様だ。砲身後部には推進器も取り付けられていて、重量増加分の推力向上も試みられている。

さらに発射機構にはまるで波動砲の様な突入ボルトが備えられていて、通常のショックカノン砲身には見られない陽電子収束機が取り付けられている。かなりのエネルギー量を扱うという事で、発射失敗のリスクを考慮して接続ユニットは多段構造となっている。

 

接続自体は高度な戦術機動や振動に十分以上に耐えられる構造で「簡単には外れない」。しかし、万が一投棄する事態になった場合は接続ユニットの破壊……ではなく接続部の根元、それも外装兵器側の接続部を爆砕ボルトで発破分離。迅速に投棄する事も可能だ。

 

「実際には数を揃えて砲撃部隊のように扱うと思います。砲身も長いので陽電子の加速収束も普通の砲塔より長く行えるので相当の射程が期待できます。スペック上ではガミラスの通常艦艇を数枚抜き出来ます」

 

「なんか……すごいにゃ」

 

「やっぱり語彙力消えますよねコレ見たら。OWシリーズはこれからも幾つか必要になってくると思います。波動砲に頼らなくてもいい戦闘の実現と地球防衛は、このオーバードウェポンを加えてやっていきます」

 

オーバードウェポン。それは規格外の力を凝縮された力の結晶であり、使い方によっては「防衛力」になり「暴力」にもなる。これも波動砲と同じ「使い方が求められる兵器」であり、皆一同これは「防衛力」とすべきと感じた。波動砲の時と同様に使い方と向きが求められるそれには責任が付きまとうだろう。

 

「リっくん、ハルナっち」

 

「このオーバードウェポンはただ壊す為の力にしたくない。守る力にもなり得るし、正真正銘の守る為の武装としても作れるにゃ」

 

「守るための?」

 

「兵器って敵を倒すための物って見られがちだけど、純粋に守るだけの用途で作るのもありだと思うにゃ。例えば……」

 

そっと耳打ちされたその「規格外の力」のアイディアに耳を疑った2人は情けなくなった。どうして真っ先にこれを思いつかなかったのか。ちゃんと守るための力じゃないか。曲がりなりにでもなくちゃんとした「守るための力」のそれは一瞬のうちに2人の頭の中で形を成した。

 

「マリさん。ありがとうございます」

 

「特別な事はしていないにゃ。こういう考え方もあるって事」

 

 

 

その後即座に2人は研究室に戻り、丸1日出てこなかった。翌日真田が様子を見に行ってみると、ベットに腰かけたまま眠るリクとその膝に頭を預けてハルナが穏やかに眠っていた。

溜息を付いた真田が研究室からそっと出ようとするとデスクの大型液晶が点灯していた。

 

「これは……」

 

真田も想像した事の無い程の巨大兵装。それは純粋に守る為だけの力であり、同様に規格外の力を凝縮している。ただしそれは「力の結晶」ではなく、「意志の結晶」として生み出されていた。

 

 

 

型式番号 OWD-Y001

通称 ヤタノカガミ

 

 

巨大な扇を幾つも重ねた大型の可変式ユニットに産業用ロボットの様な巨大なアームが取り付けられている。フレキシブルに稼働して全方位防御と巨大な堤防の様な波動防壁を友軍に提供する。

 

八咫鏡。日本神話に登場するその鏡は、天照大御神のご神体と言い伝えられてきた。

天照大御神は世の中の平和を守り、災いを防ぐ神様。守るにはうってつけの名称とお誂え向きの力を与えらえた神の鏡は縁起が良い事も相まって、真田の目にはそれがさぞ頼もしそうに見えた。

 

まだデータ上でしか存在しない「規格外の効果をもたらす兵装」は、そう近くないうちにその力を存分に発揮する事となるのだが、この時の真田はまだ想像すらしなかったのであった。




超大口径砲誕生です。

前々から考えていたオーバードウェポン構想、ようやくスタートです。
全てはアーマードコアから発想を得て生まれたのですが、これから生み出していくオーバードウェポンの名前には全部元ネタがあります。


次の閑話(?)は眠っているハルナの身に起こった邂逅と対話ですね。

では次のお話で
(@^^)/~~~


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nodata


「ここ、何処なの?」

 

 目を覚ましたら知らない所にいた。真っ白な壁が見えて、すごい簡易的なベットの様な物に横たわっている。どうやら2段ベットみたい。

 

「確か、設計してていいとこで区切り付いたからベット入って……夢?」

 

 確かヤタノカガミの大雑把な設計と機能概要してて、丁度キリのいいとこで寝ちゃったんだった。

 それにしては、夢にしてはかなり良く出来てるけどこんな物想像したことないし、こんな所来たこともない。ふと横渡ってたベットを見ると、誰かが使ってた跡があった。……網紐? ガラス瓶? 誰の物? 

 

「この部屋って誰の部屋だったの?」

 

 もっと探してみる。知らない人の部屋漁りはちょっといけない事だけど、部屋主さんごめんなさい調べさせてください。

 それにしても何か結構色々ある、電話に枕に……拳銃なんかもあった。それもリボルバーでだいぶ昔の火薬式。私はあまり詳しくないけど、触ってみた感じ弾も入っていて撃とうと思えばすぐにでも撃ててしまう感じ。流石に南部重工の97式拳銃は扱ったことあるけどこれは初めて。あんまり持ちたくないけど異常事態だから持つしかないかな、ごめんなさい借ります。

 

 持つ物持って自動ドアを開けて外に出てみる。何とか拵えた空間に無理やり拵えたかのような居住空間って感じがする。通路もWunderよりもずっと狭く出来ている。

 

「ん?」

 

 さっきまでいた部屋を振り返ると、自動ドアに名前が書かれていた。

 

 [SAKURA SUZUHARA]

 [MIDORI KITAKAMI]

 

 

「日本系の名前だ……」

 

 日本人……というか極東系の人間が乗っているらしい。よく見るとリボルバーのグリップにも氏名が書かれていた。

 

 [SAKURA SUZUHARA]

 

 おまけに弾が数発入ってなくて既に撃った後みたい。……何かあったのかな、このサクラさん。

 

 

 _______

 

 

 

 人2人が横に並んでギリギリ通れるくらいの通路を進んでいく。何かある訳でもなかったけど、同じような景色がずっと続いていて逆に不安になる。

 少し前にマリさんに見せてもらった21世紀の話に、BackRoomがどうたらこうたらって言うのがあった。何かの拍子に裏世界に入ってしまうって言うアレ。そして色々モンスターがいたり即死トラップがどうとかっていうアレ。作業しながら見ていたから全部覚えているわけじゃないけど、それなりに面白くて少し怖い内容だった。

 

「夢なら覚めてね……」

 

 と呟いて正面の巨大なハッチを開ける。電源は生きているのは確認済みだから、巨大なハッチは部屋の内側に向けて持ち上がるようにして開いた。

 

「何この部屋?」

 

 球体状の空間が広がっていて、コンクリ……じゃない、特殊合金の装甲板でかなり頑丈に固められている。その中央にはプレハブが置いてあり、そこまで簡易的な足場が伸びている。

 兎に角慎重にその足場を渡ってみる。頑丈なんだけど少し高い位置だから慎重にっと。

 

「っと。着いたけど、これって……」

 

 プレハブを眺めて見て分かったのは、この部屋は「明らかに爆殺が出来るようにした部屋」だって事。プレハブの周囲に指向性の爆薬が取り付けられている。それも多すぎな程に。壁の面積が許す限り兎に角取り付けられてる。

 ガラスの扉の奥にはこれでもかと言う程大量の本が押し込まれていて、ギリギリ2人くらいが生活できるくらいのスペースが辛うじて保たれていた。

 マリさんならこういう事しそう。紙の本集め始めたら断捨離とかせずに部屋が本で占拠されそう……。

 

 本の話は置いておいて、ちょっとこの部屋は物騒すぎる。……誰かを閉じ込める目的で作ったの? それもかなりの危険人物を。

 

「あれは?」

 

 本の山になってる部屋の中に何か落ちてる。艦内用の携帯端末にしては変わった形をしてるしボタンも付いてる。おまけに横向きにもっても使えるタイプだ。

 

「これゲーム機じゃん」

 

 火星の頃ゲームとかほとんどやらなかったけど流石にゲーム機位は分かる。でもこれは古すぎる。製造年とかは……分からないや。取れないから分からない。でも、「WonderSwan」って表面に書いてある。これが多分ゲーム機の名前だと思う。

 

 

 ……これ以上ここには長居したくない、一回戻ろう。

 

 

 ____

 

 

 

 歩き回った結果、最初に軍事施設なのではと考えた。明らかに狭い居住空間と謎の物騒な隔離室の件もあってそれ以外の選択肢が思いつかない。

 でも、ふと立ち寄った部屋に設置された艦内マップを見て、目を見開いた。

 

 

 

「これ……AAAWunderの中なんだ」

 

 

 

 そう、今私がいるのは、多分AAAWunderの艦内。今まだ私が見てきた部屋とか例の爆破部屋もちゃんと位置が決まっていた。そのマップに従ってもう一度爆破部屋まで行ってみたけどちゃんと辿り着いたからちゃんと艦内だ。

 ……爆破部屋まで行くのは正直気が乗らなかったけど。

 今はそのマップを何とかして取り外して艦橋に向かっている。

 

 驚いたのは、WunderとAAAWunderは殆ど同じ形状をしているという事。これは物凄い偶然だと思うけど、まだ開いた口が塞がらない。本当に驚いた。

 違う所は、旧AAAWunderはかなり武装が少ないという事。マップを見た感じではレールガンが5基しか付いていない。連射できるみたいだけど手数が余りにも少なすぎる。

 

 そして、AAAWunderはどちらかと言うと戦艦と言うより航空母艦って感じじゃないかなって思った。理由としては、この船はエヴァンゲリオンを格納出来て整備も出来るようになってたから。第二船体のほぼ半分を使ってエヴァの格納と整備を行い発進も出来る。だとしたらレールガン5基は迎撃能力みたいな感じかな。

 

 でも気になったのは、第二船体のレールガンを見に行った時にレールガンが無くなっていたこと。それにフレームが大きく歪んでいて大穴も空いていた。まるで巨大で鋭利な鉄の柱が貫通したみたいな破損状況だった。正直言って何で貫通させられたのか分かんないけど、こんな大穴が開いていても船体が千切れていない事は奇跡だと思う。おまけに補助エンジンらしいN2リアクターと言う反応炉も壊れていた。

 

 

 

「ここが航海艦橋ね」

 

 自動ドアが解放され、とにかく入ってみる事にした。

 

「航海艦橋……だよね?」

 

 ……夢の中でもWunderの中というのは何かおかしい気がするけど、今は別の疑問が浮上しているので一旦隅に置いておく。航海艦橋は敵の自爆攻撃でボロボロになってしまって修復が見送られたけど、今見ているヒルムシュタムタワーは元に戻ったかのように綺麗な見た目をしている。

 ここまでなら「夢だから」で片付けられるけど、実際に「全部設計してた」から分かる。艦長席を始めとした各員の席のコンソールが異なっている。それに薄暗くてよく見えないけど、艦橋後部の奥の方にうっすらと「MAGI」って書いてある。MAGIってこんなとこに付けた憶えないし……。

 

「……西暦2028年4月7日。地球の静止衛星軌道上から発進したブンダーは、旧南極爆心地跡のNERV本部を強襲した」

 

 突然声が響いて思わずリボルバーに手をかける。オバケとか無理だよ。

 ……ふざけていられる状況じゃないってのは分かっているよ。でも、こうでもしないと気が気でないの。一人ぼっちだし、明らかに現実じゃないし……後リクいないから寂しいし。

 

「驚かせてゴメン。ちょっち話したいことがあったから呼び寄せてもらったの」

 

 ……今確信した。多分、今目の前にいる人物は、あの時バレラスで戦った時に現れた人物。初代艦長だ。

 

「私を呼び寄せたって、そんな……兎に角、私は暁ハルナです。貴方は誰なんですか?」

 

「AAAWunderの初代艦長、葛城ミサトよ」

 

 


 

 

「葛城さん」

 

「ミサト、で良いわよ」

 

「ミサトさん。初代艦長という事は、貴方は170年前に何処かで何かと戦い、ここに流れ着いたという事ですか?」

 

「驚いた……どうしてそこまで分かったの?」

 

「このWunderの中枢部、私達はアンノウンドライブって呼んでましたが、そこに旧Wunder時のマーキングっぽいものがあったんです。ちゃんと地球言語でちゃんと規格化されて意味も持たされて書かれていました。それに、私だけの知恵じゃないんですよ? リクに真田さん、赤木博士にマリさんアスカちゃん、みんなで知恵を絞った結果の答えです」

 

「リツコとアスカ、マリまでいるのね……懐かしいわ、もう100年も前なのに」

 

「そちらにも赤木博士はいらっしゃったんですね。……ところで、教えてもらえませんか? ミサトさん達がいた世界で何が起こったのか」

 

「……長いわよ」

 

「大丈夫です、ここは時間の感覚すら曖昧みたいなので。それにWunderがこっちに流れてきた以上、他に何か来ていても可笑しくはないんです。例えば……エヴァンゲリオンのような物とか」

 

「っ……!」

 

「ご存じですね、エヴァンゲリオン」

 

 この反応、やっぱりエヴァンゲリオンとWunderは切っても切れない関係みたい。どっちが先に生まれたかは分からないけど、この調子だとType nullも向こうから? 

 でも、ガリラヤの巨人とアンノウンドライブの組成が一緒だった件もあって両方は同じ種族だってことは分かってるけど、それでType nullがエヴァ……いや、向こうからやって来たオリジナルエヴァかは証明できないな。

 

「何故、エバーの事まで知っているの?」

 

「見たからです。向こうで生まれた機体かは分かりませんが、こちらの世界にもエヴァンゲリオンはいます」

 

「……」

 

「あなたが知っている事、見てきた事を一通り教えてください。この世界にイレギュラーがやって来ている以上どうなってもおかしくありません。最悪どうなっても、最低限対処できるようにしたいんです」

 

「一人で抱えるには、重すぎるわよ」

 

 過去の戦争の話がどういう物か想像は付かない。それでも、この世界線に別世界産のオーバーテクノロジーがやって来ているという事は、それによって投じられた一石の影響で今後の予測がつかない。だって分からないモノだから。

 アンノウンドライブだってさえ本来の運用方法は分からない。今は重力子を生み出す側面を利用しているけど、それ以上の事は分からない。

 

 それ以上に……

 

「平気です。それに私隠し事は無理なんです顔によく出るので。多分どう足掻いても彼には気付かれてしまうので、後で全部話しちゃいます」

 

 バレちゃうから結局はこっちから話した方が良いの。

 

「……分かったわ。全て話すわ。私が見てきた事を、何をしてきたのか」

 

 

 

 __________

 

 

 

 

 ヒルムシュタムタワーに上がりながら、ミサトさんと私は航海艦橋の向こう側、艦の外を眺めた。

 

「変な景色、ですね」

 

「アナザーのあの瞬間で止まっているの。……何処から話そうか」

 

 航海艦橋の丸い窓。その向こうには虹色に染まった同心円が中心に真っ黒な穴を開けて広がっている。宗教神話か作り物にしか見えないけど、多分これはイメージなんかじゃない。本当に実際に起こっていたんだと思う。

でも、一切景色が変化していない。ホントに止まってるんだ……。

 

「……まず私達のいた世界は、使徒と言う準完全生命体と人類がいたの。初めは南極にいた何かが、私の父の提唱した人類補完計画の実験の為に利用されて南極のカルヴァリーベースが消滅して死の大陸になった。これを、私達はセカンドインパクトと言った」

 

「その数年くらい後に、日本の箱根辺りに黒き月が見つかった。黒き月と言うのは第2使徒リリスという神様もどきが入っていた卵みたいな物。実際は聖杯に近い形状しているけど私達は黒き月って呼んでいた」

 

「セカンドインパクトから14年経ったあの日、最初の使徒侵攻があった。その時に動いたのは、国連の非公開組織『特務機関NERV』と碇シンジ君。シンジ君は、エヴァンゲリオン試験初号機の選任パイロットになった少年で、元々私の同居人だった子なの」

 

「碇シンジ君? その子でしたら、この時代の22世紀上で生きていますよ」

 

「こっちのシンジ君は、22世紀で生きているの?」

 

「はい。今は冬月さんと一緒に極東……日本の地下都市で生活しています」

 

 え? シンジ君がこっちにもあっちにもいるの? って事は、並行宇宙があって世界線が幾つも並んでて……うわぁごちゃごちゃする。

 でも、向こうの世界線で向こう側の南極カルヴァリーベースでミサトさんのお父さんが何かしたって事は、並行世界線では同じ人物が必ず存在していると仮定したうえで考えると、ガリラヤベースの事故は「こっちのミサトさんのお父さん」がやった事かもしれない。書かれてなかった生存者は、ミサトさんなのかな? 

 ……でも聞いちゃマズい気がする。

 

「状況は把握しているけど、人類じゃなく異星人による物だったとはね」

 

「遊星爆弾と有毒植物の胞子。ある意味この赤い世界よりも酷いかもしれません」

 

「どちらも酷い有様ね。でも、あなた達の方がまだずっとマシ。地球再生用の装置を手に入れて艦体に組み込んだんでしょう?」

 

 ミサトは自身の左腕を叩きながら言った。そう言えばコスモリバースシステムは左舷に組み込んだんだった。

 

「コスモリバースシステム。修復不可能になった波動砲を入れ替える形で搭載しました」

 

「あの何だか分からない装置ね。只凄いって事しか分からないけど」

 

 ええ、原理は何となく理解したけど、第一印象が「只凄い」だったので。私達にもまだ分からない事があるんですよ。コスモリバースは最早魔法じみているの。高度に発達した科学は魔法と区別が付かない。もしも21世紀の人が波動砲を見たら「魔法の様な一撃」としか例えられないと思う。ホントにそんな感じで、今の私達に取ってコスモリバースは魔法なの。

 

「話を戻すわ。私達はNERVの一員として使徒襲来のたびにあらゆるものを使い、多くの犠牲を払いながら撃退してきた。第4から第9まで全てを。そして、あの日の戦いで、第10の使徒は償えない犠牲と共に撃破した」

 

「償えない犠牲……ですか」

 

 ミサトさん、震えている。私だって、今この場で昔の事を鮮明に思い出そうとすると震えが止まらない。それでも話そうとしている事が私にダイレクトに伝わる。……誰もいないから制御を緩めてて良かったって初めて思った。

 

「ミサトさん」

 

「どうしたの?」

 

「……私だってホントは忘れておきたい過去の1つや2つあります。だから」

 

「いいえ、話させて」

 

 私の制止を振り切りミサトさんは話を続けた。

 

「レイが使徒に取り込まれ、2号機は大破しアスカは第9使徒戦後に隔離、あの時は初号機しか残されていなかった。シンジ君が乗って戦ってくれなければ、あの日あの瞬間で間違いなく人類は終わっていたわ。私は、「人類ではなくたった一人の少女を救う」彼の背中を押した。その結果……初号機は、シンジ君の意志とは別に世界を滅亡寸前に追いやってしまった」

 

「滅亡寸前……」

 

「それから14年がたち、世界を崩壊させてしまった初号機を封印軌道から強奪し、シンジ君を救出し隔離。初号機はブンダー、貴方達が言う「旧AAAWunder」の動力となった」

 

「エヴァを動力に?」

 

 まさかエヴァが動力になるなんて……。それは正直言って驚いた。主機と聞いたら波動エンジンや核融合機関くらいしか私達持ってないし、エヴァって聞いたら「汎用人型機動兵器」という印象しかないもの。エンジンになるのは変な感じ。

 

「ブンダーのような神殺しの船を動かす為には人類技術でだけではどうしようもなかった。神に最も近づいた初号機の力でなければ主機の代打は務まらなかったの。WILLEは発足当時から何もかも足りてなかったから、ある意味決断したわ」

 

「NERV壊滅を目論む組織として生まれたWILLEは、民間人も含めた寄せ集めの軍事組織。経験が常時不足していてバタバタしてる時もあったけど、ユーロ封印柱の頃も何とか作戦通りいって資材面で多少安心した頃もあったわ」

 

 

 ______

 

 

 

「長くなったけど、4月7日の事を今から話すわ。日本の第三村という生存者集落に寄港したブンダーは、最後の補給して静止衛星軌道上に上がった。最後の決戦ってやつね。エヴァ新2号機αと改8号機γ、イージス艦を使ったN2ミサイル、核じゃないけど核並みのミサイルを用意して旧南極……セカンドインパクトの爆心地でアナザーインパクトの爆心となったカルヴァリーベースに移動したネルフ本部の強襲作戦に踏み切った。……あの時はヤマト作戦って言ったわ」

 

 持てる資材全部を使い切って挑んだ戦いで、旧南極の爆心地に向かって敵を制圧って感じね。もう後がないって感じだったのかな。

 

 

「制圧目標は再起動準備中のエバー第13号機。ATフィールドを持たない神に近い機体で、シンジ君が一度乗せられていた機体だったの。13号機を停止信号プラグで無効化し、2度と起動できないようにしてしまう。NERVの起こすフォースインパクトを止めるためには最も現実的でこれしかなかった」

 

「ブンダーの同型艦にこの船を攻撃されて損害は大きかったけど、エバー2機を本部上空に投下、本部への降着までは出来た。でも、碇ゲンドウと冬月副指令の策に落ち、アスカを失いエバー2機を失い……ブンダーは行動不能となった」

 

「行動不能?」

 

 行動不能って、撃沈されたの? それとも航行能力喪失? どちらにせよかなり危険な状態だって事は分かったけど、Wunderと同等のサイズの戦艦を行動不能にする方法ってあるの? 

 

「私が焦った事で艦首の主砲塔が全て失われ、初号機も奪われたの。私達は浮いているだけでも奇跡だった。成す術が無くなった私は、乗員を軌道強襲艇に詰め込んで脱出をさせ……自沈に飲み込まれた」

 

「自沈……ですか?」

 

「本艦がブーセとして乗っ取られた際に、目的遂行が完了次第自沈する様に仕込まれたと思う。自沈直前に私はL結界に侵食され体を失いインフィニティになりかけたが、何の因果かAAAWunderのアダムス組織……その脊椎結合システムの1つに押し込まれた」

 

 脊椎結合システムなんてものは知らない。私が調査して火星の海底から引き揚げたのはアンノウンドライブだけ。それ以外は何も見ていない。

 技研は何か隠しているの? それとも「ここに着いた時点でもう全損して、アンノウンドライブに移住(正しい表現が分からない……)した」のかな? 

 

「そこからは覚えていない。どうやってこっちに来たのかは分からないけど、リツコなら多分「インパクト時の高次空間との接続時にうんたらかんたら」って言うと思う。そしてあの時に目を覚ました。あなたが、この船を『命を救う戦闘艦として』使った時に」

 

「それは……ううぅ恥ずかしい。……元々この船は、人類脱出用の船だったんです。それでイスカンダルからの申し出に答えてこの船を「命を残す方舟」から「命を救う戦闘艦」に作り変えた以上、せめてもとオモイマシテ」

 

 そう。イスカンダルから手を差し伸べてもらえなければ、AAAWunderはまたBußeに戻り人類に対し贖罪をする事になったと思う。だからイスカンダルの申し出は、私達にとってもAAAWunderにとっても、そしてミサトさん達にとっても救いだったと思う。

 

「それでもよ。私では命を救えなかった。でも貴方とその彼は、確かに命を救った」

 

「艦の皆は複雑じゃないかなと思います」

 

「こっちの地球由来の人類もガミラス由来の人類も、大本を辿れば同じ種族かもしれない。そういうくくりで考えれば、貴方達はもう人類を救ったかもしれない。あとは地球人類を救うために帰るだけよ」

 

 

 ______

 

 

 そうだ、ミサトさんならわかるかもしれない。

 

「ミサトさん。Wunderの同型艦、何隻いましたか?」

 

「Wunderを除いてあと3隻。それだけしか視認していないわ。リツコが言ってたけど、2番艦がエアレーズング、3番が……確か言いにくい名前のエルブズュンデ。4番艦がゲベート。一応全部エヴァが主機になってる。使えそう?」

 

「助かります。……あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「この艦名……」

 

 懐かしいなこの艦名、エアレーズングとエルブズュンデは艦名の変更の時に案で上がってたんだった。ユリーシャのアイディアで一発採用されてWunderになったけど、Wunderがこうなる道もあったかもしれないな。

 

「救済」も「原罪」も「祈り」もいらない。私達に必要なのは、「奇跡」を自分たちで生み出せる力と意志だ。

 ……どこかのアニメで言ってたの、思いだけでも力だけでもダメだって。

 

 

「こっちに落ちてきていたら、あと2隻どこかにいる」

 

「1番艦はこの船。2番艦はあの青い艦艇ね。2番艦はNERV艦の中でも完成した状態で戦場に来てたから、こっちに落ちてきて破損してても状態はいいと思う」

 

 驚いた……あの船とWunderはやっぱり姉妹艦だったんだ、それもそうだ。あんなに形状が似てあんなに大きい戦艦なんて半年以内には作れない。もしガミラス側がWunderの存在を知ってそれを真似て作ったとしても、あのサイズだからとても間に合わないんじゃないかな。

 それに、あの船はATフィールドを展開していた。それで殺されそうになった事実はとても大きいけど、その次に重要なのが、「ATフィールドはエヴァしか展開できない筈で、そのATフィールドを使っていた点」なの。

 制御云々は兎も角使っていたの。尤も制御出来てるか確認取り様が無いけど。

 

 でも全艦がエヴァを動力にしていたって事だから、「こっちに落ちてきた残りの3隻もエヴァと一緒に落ちてきた」と一先ず仮定してみる。あのType-nullが0から生まれた「ぽっと出のエヴァンゲリオン」じゃないなら、お手本がいたはずだ。

 そのお手本がエアレーズングの主機ならば、ガミラス側は「Type-nullのお手本(主機)とエアレーズング」をセットで手に入れたと言えると思う。

 

 

 

「ミサトさん。これからはどうするつもりですか?」

 

「しばらくはこのままいる積もりよ。何かあったら私も動くけど、多分勝手に戦闘配置したら勝手に兵器が動くと思うから今のクルーを混乱させてしまうんよ」

 

「ですね。中枢部から艦への回線が出来てしまっているので否が応でも動きます。しばらくはアンノウンドライブに刻まれていた情報からAAAWunderが起動したって事で通そうかなと思います。嘘を突き通すのは嫌ですしリクも絶対渋ると思いますけど……でも危ないと思ったら躊躇なく動いてもらえると助かります」

 

「渋るねぇ……イヤかもしれないけどお願いね。それと」

 

「?」

 

「ありがとう、もう一度戦う力を与えてくれて。あの戦いで、私達の世界は全員インフィニティ化してしまい滅亡してしまった。それでも、人類を救う機会と力がやって来たのは何かの縁かもしれない。せめてこの世界の人類だけでも、私達にも救わせて。人類が滅亡するのを、皆これ以上見たくないから」

 

「お願いします。ミサトさん」

 

「分かったわ。ところで、名前もう一回聞いていいかな?」

 

「私は暁ハルナ、リクの彼女です」

 

「彼女?」

 

「……っ! ごめんなさい急に変なこと言っちゃって……」

 

「あはは、私にもこんな時期あったよ。前にリョウジって彼氏いたけど、1人でサードを止めて消えたのよ。年長者として言わせてもらうけど、少し強めにアピールして引き留め続ける方が良いわ」

 

「大丈夫だと思います。私達は、どんなに遠くても、苦しくても、折れません。どんなに残酷な事が起こっても、未来に進みます」

 

 そう。後ろにある過去は悲しかったり苦しかったり、死ぬような思いをした過去もある。でも、それが今の私とリクを作ったんなら、どんな内容でもそれらは私達の糧。逃げずに受け止めるよ。

 それに、事故か事件はまだはっきりできないけど、あの出来事から何とか生き延びて今この世で生きている以上、まだまだ先の未来がある。きっとこの先も大変な事が起こってくる。お母さん絡みや軍絡みで、ひょっとするとゼーレも絡んで来るかもしれない。

 そうなっても、逃げずに立ち向かう。それがどんなに残酷な事でも、生きて立ち向かうよ。

 

 

「どんなに残酷でも、ね。私みたいに復讐心で生きないようにね。とにかく、話せてよかったわ」

 

「私もです。でも、どうやってここに私を呼び寄せたんですか?」

 

「レイにやってもらったのよ。でもなかなか出来なかったって、ハルナちゃん」

 

「出来なかった?」

 

「なんかね、そこらじゅうにある意思から特定の意思だけが素通り出来る感じで、レイも弾かれちゃんたんよ。んで、たまたま今日だけ緩まってたから奇跡的に繋がったって感じ」

 

 そもそもレイちゃんって誰? って思ったけど、やっぱり緩んでたんだ。24時間365日集中しないと他の人の声も拾ってしまうんだよね、コレ。でも今日だけは、ある意味緩まってて良かったかなって思う。こうしてAAAWunderの過去も知れたしミサトさんとも話せた。そのレイちゃんって子と話せなかったのはちょっと残念だけど。

 

「ミサトさん。お話ししたかったら呼んでって、そのレイちゃん? に伝えてください」

 

「オッケ、伝えとくね。レイったら珍しく他の人に凄く興味津々だから、近いうちに来るんじゃないかな」

 

「お願いします。では、私はこれで戻ります」

 

 

 ____

 

 

 

 

 

 対話の様な物が終わり、私はようやく現実に戻ってきた。ふと枕もとの時計を見ると8時30分。いつもよりもずっと長く寝ていたのを自覚して起き上がろうとする。

 

「なかなか目を覚まさなかったから、心配したぞ」

 

 安心した顔でこっちを見るリクがいる。多分何回か揺り動かしても全く起きる気配が無かったから、そのままずっとここで待っていたんだと思う。それ以上にめちゃくちゃ心配心配していたことが感じれる。……うっかり他の人の分も拾ってないか心配したけど今は大丈夫そう。心身色々変化もあって、寝起きは一番気を付けてるの。

 

「心配かけてゴメン。でもちょっと……凄い大変な事になってきたかもしれない」

 

「凄い大変な事?」

 

「取り敢えず準備する。今日の作業は全部パスで色々考察しないと」

 

「ちょっとストップ、一体全体何があったの?」

 

「この船は、人を乗せてきたんだよ。ミサトさんとレイちゃんを」

 

 

 


 

 

 

 

「葛城ミサト……か」

 

「AAAWunder初代艦長葛城ミサト。ミサトさんは、世界崩壊後の軍事組織「反NERV組織 WILLE」で西暦2028年より前からAAAWunderを運用していたの」

 

「まさかこっちが解こうと思っていたら向こうから答えて来るとは……」

 

「そして初号機と言うエヴァ……この際区別するけど、向こう産のオリジナルエヴァンゲリオン初号機が世界を崩壊させてその14年後にAAAWunderの主機となった」

 

「そのよく分からないエヴァがアンノウンドライブの空洞部分に搭載されていたって事か……繋がって来たな。真田さんが言ってたことの通りだと、AAAWunderは中央船体にエヴァを組み込んでATフィールドを発生させたことになる。でも、何でWunderはエヴァ無しでATフィールドを出せたんだ? そこが解決してない」

 

「多分だけど、これはアンノウンドライブがアダムス組織だって事が関係してるんじゃないかな」

 

「ああ、組成同じって事から?」

 

「多分。同じ種族とか同じ文明産とかそういう感じで。でもそれだとエヴァに例えると身体しかないって事だから何も入ってない抜け殻に近いと思うの。だから、誰かがその抜け殻を使ってATフィールドを出したんじゃないかな」

 

「誰かか……あっ」

 

 唐突に頭に浮かんだのはあの少女。水色の髪を伸び散らかして奇妙なパイロットスーツを着込んだその少女が発生させたのではないかとリクは考えた。あの少女を見たのは実質自分だけだ。

 

「葛城さんとは別に誰かいなかったか? 水色の長髪の女の子だけど、見なかった?」

 

「えっとね、レイちゃんって子がいるみたいだけど、その時はいなかったの」

 

「エアレーズングとの戦闘時にアレやろうとしたけど、その時に止められたのを覚えている? あの時にハルナが見たのは誰かは分からないけど、僕が見たのはその少女だった。声も聞いた」

 

 

 ここまでハルナの話を聞いていて思ったことが色々ある。でも確実なのは、ガミラスのL1で戦ったあのWunderのような形状の戦艦は多分エアレーズングの改造艦じゃないかという事だ。

 葛城さんは直感的な物で把握したと思うけど、僕としては別の事を確認したい。

 

 前提として、この世界線にやって来た事が確実になったのは4隻中2隻。AAAWunderとエアレーズング。エルブズュンデとゲベートは今は一旦消息不明と考えてしまおう。居場所が分かるような手掛かりはない。

 

 ハルナが考えた通り、確かに「あの巨大戦艦≒エアレーズング」と言えるかもしれない。実質僕だって同じ結論を出すと思うし、事実も限られているからね。

 

 僕が確認したい事は、エアレーズングはどうやってATフィールドを張っていたのかと言う点。と言っても解決はしている。要は艦内にATフィールド発生機としてエヴァを置いておけばいい。外部からの信号かType-nullみたいにパイロットが乗りこんでエヴァを操作する事でフィールド発生くらいは出来ると思う。

 

 しかしWunderはどうやってAAAWunderとしてATフィールドを発生させたのか。Wunderにはエヴァンゲリオンなんて積んでいない。強いて言えばガリラヤ巨人を積み込めば出来るかもしれないが、火星のあの日で回収不可か木っ端微塵にでもなっているだろう。

 

 ここでヒントとなるのが、ガリラヤ巨人とType-nullとアンノウンドライブは同じ組成だって事。つまり同じとこで生まれたかもしれないって事だ。このWunderのアンノウンドライブは、極端な話エヴァの体。エヴァタイプの生物の骨格をそのまま使ってる感じだ。

 

 ただ、只の体だけで出来るとは到底思えない。もしもこれが体のみで発生させる事が出来ていたなら、ATフィールドの侵食(便宜上こう呼ぶ)で幻影なんか見せられない筈だ。亡霊かなんかの仕業と言えばそれまでだけど、とにかく何らかの意思が無ければ無理だと思う。

 

 そこで唯一の可能性となるのが、あの水色の長髪の女の子「レイちゃん」。今のハルナは人の意思を無制限に拾ってしまうから、その意思を1つ1つ徹底的に弾いて僕のやつだけ聞こえるようにしている。そして僕にのみ意思をテレパシーみたいに伝えられる。ハルナの「意思弾き」が自分に対する物限定だとしたら、「レイちゃん」はアンノウンドライブというエヴァの体を介して広大な範囲で全部弾いたのかもしれない。

 エヴァの体を使って人間の魂がATフィールドを発生させた……という事じゃないだろうか。

 

 全ては推測でしかないけど、実際に体験したり聞いた事だ。確度は高いと思う。

 

 

 

「リク考えている事ダダ漏れだよ? 凄い難しく考えているけど」

 

「ハルナの前で隠し事は出来ないな。……この船がATフィールド張れたわけ、多分説明が付くかもしれない」

 

「……とりあえず相談しよっか、真田さん達に。それと、レイちゃんが私達にすごい興味津々だから、そのうち触れて来るんじゃないかな? そのうち」

 

「僕も話してみたい」

 

「え? でもどうやってリクも行くの?」

 

「ハルナは僕の意思だけ通しているんでしょ? だったら、ハルナを中継して僕も行けば多分……ああでもハルナの負担が大きいな」

 

 考え着いたのは良いんだけど、明らかにハルナ頼りで負担をかけてしまう事に気が付き一旦ストップをかける。現状出来そうなのがハルナしかいないとはいえ追加で1人分の意思を通すのはキツイと思う。焼き切れるまではいかないと思うけど、消耗が凄そうだ。

 

「いいよやってみる。きつくなったらカットしちゃうけどいい?」

 

「ごめん、お願い」

 

 それでも承諾してくれたことは少し嬉しいけど申し訳ない。ちょっとでもキツそうにし始めたらその場で切ってもらうように言おう。

 

 今は兎に角相談、そして考察。AAAWunderは一体何なのかは一番の課題。僕としては、今最も明かしたい真実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイ、ありがとね」

 

「いいえ、葛城艦長。私のやりたい事でもありましたので」

 

「そう遠慮しないしない。でも、そんなにあのハルナちゃんに興味あるの?」

 

 航海艦橋で外を見ていたレイは、ミサトの言葉に振り返りこう呟いた。

 

「はい。暁一尉からは、少しだけ、私と同じ感じがします」




 この話を書くにあたって、ハルナとは何なのかと考える事がありました。
 出航直後と比較すれば今の状況はかなり変化してしまいバフも盛られていて、実は完璧に近くなっているではないかとも考えました。
ですが、完璧に近ければそれだけ脆い部分もあるんです。それが9月13日の火星での体験です。
 今は目立たなくなりましたが、まだなかなか埋められない傷を負っています。

 ですが、僕が思うにハルナは「敢えて埋めていないのでは」とも思っています。

 リクと結ばれた結果かなり拠り所が広がり負担が共有出来て軽くなった感じですが、それでも傷はそのままです。ですが、全ての経験を持って自分が形作られているのならば、過去の取捨選択は経験を捨てる事と同じ。あの過去を忘れ無かったことにする事で傷が埋まるかと問えば、イエスでありノーでしょう。ハルナはノーを唱え、忘れてはならない記憶として傷をそのままにしたのではないかなと思います。


 全てを自身の糧と見ることが出来るハルナはもう「作者の想像を超えたキャラ」となり、多くを取込み多くを生み出し多くと交わる経験を取り込みました。
 他作品を挙げると、psycho-passの常守朱に近いかもしれません。

 ハルナを生み出した作者としては、これ以上どう動くのか「長期的な予測」が付きません。なので、その場その場でどう動きたそうにしているのかを推し量って書いて、嫌そうにしていたら書き直すの繰り返しになって来るんじゃないかと思います。それゆえに次回作のオリジナル展開を書き始めたら彼女の意に沿える作品になるのか心配にもなります。

 皆さんから見てハルナはどんな人に見えているのでしょう。作者としてはとても気になるポイントです。


 後書きが長くなりましたが、これだけは書かせてください。
 ハルナはもう一人の主人公として据えていましたが、「もう1人の」なんかではなく立派な主人公です。


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奇跡の船と方舟
邂逅「焔」


遅くなりましたが、あけましておめでとうございます

頑張って最終章まで書いていきますので、今年も宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》をどうかよろしくお願いします

【挿絵表示】



 Wunderがイスカンダルを出港してから1か月半

 

 大マゼラン銀河間空間

 

 

 

 正面に無限の星々を映しながら、艦隊は大マゼランに向かって進んでいく。バラン星ワープネットワーク崩壊を受け、ガミラス艦隊は亜空間ゲートを使用したショートカットと言う手段を奪われた。

 そのため、こうして通常のゲシュ=タム・ジャンプを繰り返す事しかなく60日、何とか大マゼラン突入一歩手前にまで到達していた。

 

 90日の彼方からこうして残り30日の位置に到達したのはいいのだが、旗艦であるゼルグート2世は主を失ったまま。その主は総統暗殺を企てた者としてゲールに射殺され、反乱者の艦として帰るに帰れない状況のままだった。

 

 帰れば反乱首謀者として極刑。今や宇宙の放浪者となり下がった。

 

 そこに舞い込んだ一報により、艦隊のごく一部は極秘裏に帰路に就く事を決めた。

 デスラー総統の行方不明、それによる政府中枢の混乱。独裁政権のトップで合ったデスラーが消息を絶ち、政治の要を失った政府はヒスが一時的に治めているが、混乱はいまだ残り続けている。

 

 つまり身内がゴタゴタしている。コッソリ帰ったとしても有耶無耶になるだろうという事だ。

 

 

「デスラー総統の行方不明、朗報だな」

 

「政権の混乱期に帰還すれば山積みの問題に紛れることが出来う。帰還も夢ではないと」

 

 ゼーリックが死亡したことで指揮官が不在となり、今はバシブ・バンデベルが艦隊の指揮を執っている。バラン星崩壊から生き延びた基幹艦隊3000隻のうちの数十隻。ゼーリックに同調していた数少ない艦達で構成されている小艦隊は、大マゼラン外縁を進んでいく。

 

 

「前方に重力振。何かがワープアウトします!」

 

「何か? ハッキリしないか!」

 

 ならハッキリさせようと言うかのように正面から何かが飛び出した。炎の柱が空間の歪みから真っ直ぐに吐き出され、それは一隻のデストリア級を大蛇の様に飲み込んだ。飲み込まれたデストリア級は見る間もなく赤熱し、装甲が泡立ち、爆発とが起こったかと思えば「消し飛ばされた」。

 

 焼かれたのではない、消し飛ばされたのだ。

 

「何が起こっている!?」

 

「前方射程圏外の空間に艦影多数! 艦種識別、ガトランティスです!」

 

「ガトランティスだと!? 全艦散開、野蛮人の的になるな! 反撃しろ!」

 

 バンデベルは即座に散開の指示を出し、炎の柱から逃れた艦艇が散開し各個に肉薄をかける。

 あの決戦兵器はかなり遠距離から発射されていた。チャージに時間がかかる決戦兵器はWunderで既に見た。ならば発射される前に近距離での雷撃戦に持って行く事が対決戦兵器戦での方法だと考えた。

 

「重力振あり! 第2射来ます!」

 

「全艦回避行動! 散れ!」

 

 纏まっていては一発で壊滅もあり得る。さらに散開をかける。肉薄をかけていた全艦が各個に散らばり的が散っていく。だが、それでも回避できないというのはバンデベルは知らなかった。

 

 放たれた炎の柱は3本。それらが横並びとなり広範囲を焼き尽くし艦艇を消し飛ばす。かろうじて回避した艦艇も柱から溢れるフレアの様なエネルギーが貫通し、散開をかけていた艦艇の半分が消えた。

 

 更に1発。残りの艦艇が再び3本の炎の柱で焼かれ、何も残すことなく消した。艦隊数十隻はたった数発の砲撃で壊滅、余りにも一方的な戦闘だった。いや、これは最早戦闘と呼べないだろう。殲滅作業だ。

 

「艦隊損耗率95バーゼル!! 残りは本艦のみです!!」

 

「どういう事だ!? あんな野蛮人がこんな物をォ!?」

 

「どうなさるんですか、あんな物に狙われれば終わりですよ!?」

 

「狼狽えるな! ゼルグートの正面装甲ならば耐えられる! こっちはガミラス最大の戦艦だぞ!」

 

 だが現実は空しく、再び炎が放たれる。1本の極太の炎はゼルグートの正面装甲をいともたやすく焼き、艦内をグズグズに焼いていく。赤熱し泡立ち装甲も脱落し、砲塔があった個所からは爆炎も上がる。全長1000mを誇り最強の防御力を与えられたゼルグート級1番艦は、艦首から艦尾まで炎で串刺しにされた。

 

 辛うじて被弾を逃れた艦橋が分離し、トカゲの尻尾切りの様に離脱する。

 

「全速力だ! 急げ!!!」

 

 しかし空しく、温存されていた1発が歪みから吐き出され独立戦闘指揮艦を飲み込む。最低限とはいえ施されていた装甲を容易く脱落させ、バラバラに崩壊させて無に変えていく。

 

 

 

 戦闘開始からわずか5分。ガミラス小艦隊数十隻はアウトレンジからの砲撃で全艦が消し飛ばされた。

 

 

 

 その発射点に位置する異形の戦艦。全長1500mを誇り、第2船体を左右に携えて中央船体には獣のような顔を模した砲口が取り付けられている。第2船体の艦首は獣の口の様に大きく上下に開かれ、その中からあの火焔を放った異形の砲身が覗いている。そして2対の翼。禍々しく荒々しく翼を広げ、赤熱させながら決戦兵器の膨大な熱を放出している。

 

 

 その形状は、あの戦艦に酷似していた。

 

 

《思い知ったか。ガミロンの青虫どもめ》

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 技術科、桐生美影、知的日誌。

 Wunderがイスカンダルを抜錨してから一月が経ち、Wunderはまもなく大マゼラン外縁を出て銀河間空間に入ろうとしている。ガミラスとの和平条約が締結され、ガミラス正規軍からの驚異は無くなった。艦の雰囲気も明るく、コスモリバースの受領もあってか、僅かずつだが艦内の空気も和らいでいるように見えてきた。

 

 コスモリバースを受領したからWunderの任務は終わりという訳ではない。残り10万光年くらいの道を進んで銀河系に戻り地球に無事に帰還する。そのためにも私達は地球の未来の為に動かないといけない。

 地球でWunderの帰りを待つ皆の為にも、志半ばで倒れた仲間の為にも、やれることをやるだけだ。何やら途方もなく大きなプロジェクトも立ち上がっているみたいだけど、私にはよく分からない

 

 かくいう私は、現在直属上官の新見一尉の元で、異星言語の解析に励む毎日だ。簡易翻訳機が完成すれば、異星人とも良好なコンタクトが可能になるだろう。

 

「録音終了」

 

 自室のベットに寝転びながら小型ボイスレコーダーの録音ボタンをもう一度押した。技術科桐生美影、歳は18歳。本来であればまだまだ学生の彼女は、今は地球を救う奇跡の船の乗員の1人。船を支える縁の下の力持ちの技術科員だ。

 

 こうして毎朝業務開始前にボイスレコーダーに日誌を記録するのは、彼女の日課。これをしないと1日が始まらない。ここまで6か月ほど続けていた日課を今日も終えてベットで大きく伸びをする。

 

 さて今日も業務だと体を持ち上げると、急に部屋の受話器がけたたましく鳴った。

 

「痛っ!」

 

 驚いてしまいベットの上段に頭をぶつけてしまい悶えるが、何とか受話器を取った桐生は頭の痛みに耐えながら答える。

 

「うぅ、はい」

 

『ピンポンパンポーン! 技術科の桐生美影ちゃんに、直属上官の新見薫一尉からのありがたいお言葉が送られます! では新見一尉どうぞ!』

 

「はいぃ?」

 

 こんな変な事をするのは十中八九、いや確実にマリだろう。もう考えなくても分かるが、こういうネタは慣れている事なので取り敢えず聞いてみる。

 

『今何時か分かってる?』

 

 新見の少々の怒気を含んだ声が受話器から響き、一瞬今何時だと思う。自室のベット脇にはデジタル時計が埋め込まれている。現在時刻は午前9時12分だ。

 

 9時12分。勤務開始は午前9時から。弁明の余地もなし遅刻確定だ。

 

「マズい!!」

 

『はーいと言う訳で美影ちゃん? ちょっと昔のJKみたいにパン銜えて解析室にダッシュ! 位置についてはいよーいスタート!』

 

 それを最後に騒がしい受話器はぴたりと止み、マリのノリの勢いに一瞬呆気に取られた桐生は即座に現実に引き戻されて艦内服に着替え始める。

 桐生の自室から解析室までは約600m。トラムリフトを使っても軽く通学路並みの距離があり、マリの言う通りパンを銜えて走れば様になるだろう。全てはWunderが巨大だからこうなったという事だが、肝心の設計者はこういう場面を意図していない。

 

「マズいマズいマズいマズい!!」

 

 いつものシュシュを手に持ってドアを開けて飛び出し解析室に直行。しようと思ったのだが、

 

 

 

「「うぎゃあっ!!」」

 

 

 誰かに盛大にぶつかってしまい転げてしまった。

 

 

「うう、痛てて……」

 

 大急ぎで向かわないといけないのに誰がぶつかってきたかと思えば航空隊の沢村だった。つい先程まで吞気に朝食を食べにふらふらと歩いていたのだが、それを察した桐生は少々腹を立てた。大急ぎの自分と暇そうな相手。不満を覚えるのは勝手だがそれをぶつけるのは違うのだが、今の桐生はそれを抑えきれない。

 

「……暇そうね」

 

「はぇ?」

 

(かわいくないっ! 全っ然かわいくない!!)

 

 吞気な返答を尻目に更に走っていく。曲がり角を最短時間で曲がり通路をかけて、トラムリフトに飛び込んで更に走る。気の所為か、先ほど自分の事を声高に叫ぶ声が聞こえたが、「バカの叫び声」と一蹴して走る。

 

「うひゃあ!!」

 

 また誰かにぶつかってしまった。女性用の艦内服だけど上から男性用を羽織っている。こんな服装の乗員は桐生が知る限り1人しかいない。

 

「ハイハイ急がないの美影ちゃん」

 

「暁さん?! ご、ごめんなさい!」

 

「大方遅刻してマリさんに走らされている感じかな。ほら新見さん怒るから急いで急いで」

 

「あれ、睦月さんは?」

 

「ちょっと一人で考えて設計してみたいって。私は休憩がてら、ね」

 

 いつもハルナとリクは一緒にいるという印象が付いている桐生にとっては、ハルナが一人でいる事が珍しかった。

 

「こういう時間も必要よ。何時までもべったりだと、重たい彼女みたいに思われちゃったりして。と言うより……私が持たないの」

 

 ……新型艦艇の設計という人類の未来を守る為の計画を行うにあたって、ハルナとリクは技術科のシフトから完全に外れた。前例があるものの設計は本来2人だけでやるような物じゃない。それでもやる為に徹底的なまでに環境が整備されて、目一杯時間を使えるようにシフトから完全離脱。フリーで自由に動ける以上休憩も自由だ。

 

 それとは別に、ハルナとリクは関係をもう一度見つめ直していた。結ばれてからもう数か月は立ったが私達はどんな関係なのかなと。辿り着いたのは、「公私共々頼れるパートナー」と言う無難な結論。他の人から見たらサッパリしているのではと思われてしまうが、ただ「ずっと一緒にいると多分心臓が持たない」という独身が聞いたら血の涙を流しそうな理由もあって今の関係で双方落ち着いている。

 

 勿論リクはハルナが甘えてきたらそれに答えてくれて、その逆もまた然り。程よく甘く、浮かれても緩まらずな関係が維持されて、技術科の公認癒し成分ともなっている。

 

 

「はい急ぐ急ぐ! 解析室まであと100m!」

 

「はいぃ!」

 

 ハルナに急かされ、桐生は残り100mの直線を全速力で走り抜いた。

 

 __________

 

 

 

 

「すみませんでした」

 

「これで遅刻2回目。仏の顔はあと1回にゃ」

 

「気を付ける事。あと1回遅れたら……」

 

「遅れたら……?」

 

「……寝坊じゃないんでしょ? 昨日の続き、早く始めなさい」

 

 解析室に飛び込んだ桐生は新見に怒られマリに弄られハルナに慰められていた。「寝坊じゃない事」はハルナから聞いていた事なのだが、ハルナの桐生に対する温情に新見は矛を治めた。

 徐にコンソールに付いて昨日のままにしておいたコンソールを起動させる。言語学者の卵でもある桐生は、ガミラスやイスカンダル、ジレルにガトランティスにアケーリアスと言った言語の解析と翻訳を行っている。言語の面で右に出る者はおらず、只の真似事で終わったハルナやリクと比べてもずっと流暢に話し理解もする。

 言語の壁と言う概念が通用しない彼女は、もはやどんな星に行っても問題ないだろう。

 

 

「そう言えは、何で暁さんって男性用のを羽織ってるんですか?」

 

「ああこれ? 色々あってちょっとね……」

 

「?」

 

「なんかスタイルの事言ってる人ばっかりいてね。仕方なく平田さんに申請して貰って来たのよ」

 

 ほとんど知られていない事だが、ひょんな事で意思を無制限に拾ってしまった時があった。情報の多さに酔ってしまって医務室でベットを借りたのだが、その時頭の中を反芻していたのが自身のスタイルについての言及だった。

 

 その一例を挙げると、

 

 

「暁さんスタイルいい」

 

「水着見て見たかった」

 

「なぜ水着にならなかった」

 

「白髪赤目美人スタイル良しとか神」

 

「「「眼福」」」

 

「「「「寿命が上がった」」」」

 

「「「「「神様仏様ありがとう」」」」」

 

 

 といったアレなコメントばかり。「そういう目で自分を見てくる派閥」がいる事を自覚したハルナは親しい面々に相談して、男物の艦内服を羽織る事にした。ちなみに一応規則には準じているので問題無しだ。

 羽織ってから以降はそう言う視線は心なしか止んだような気になったので、ハルナにとってこの上着は欠かせないアイテムとなった。

 

 ちなみに、上着探しで躍起になってたお陰でお揃いの服になってたことには、リクに服の事を話すまでは気付かなかった。

 

 

「ほんっと男って……」

 

「私もそう思われるのはちょっとね……」

 

「閉鎖空間で丸1年ですからそういう考えが出るのは分からなくはないですが……流石に嫌です。新見さん、そういうのってカウンセリングで解消できないんですか?」

 

「人間の欲求の中でも大きい方だからね、他の欲で補填しようと思ってもキツイのよ。尤も、貴方はそんな必要ないと思うけど」

 

「へ?」

 

 急に話を振られたハルナは何のことかは理解したが、その先で言われることも察してしまった以上固まってしまった。

 

「そうですよ。あんなドラマみたいな完全復活を引き起こした以上言われるのは運命なんですよ」

 

「え、ちょっと……」

 

「そうそう。副長からお聞きしたのよ、相当危険な大博打したって。内容は教えてもらえなかったわ。何でも極秘らしくの」

 

何をしたか聞かされていない新見が詰め寄る。どうやら真田は隠し通したようだ。

 

「大博打……ですか。何したんですか暁さん?」

 

 桐生も年相応に興味を惹かれる。詰め寄られることに慣れていないハルナは、暑くもないのにダラダラと汗をかきだす。

 

「知らない方が身のためだよ」

 

 流石にどんな方法を使ったのかバレたら自身の秘密がバレてしまう。正直言って自身が人類かどうか怪しくなる秘密のため、これを知るのは自身のパートナーであるリクと友人の真田。その場に居合わせた佐渡と原田。赤木博士にアスカ、形而上生物学に精通したマリ。そして沖田艦長だ。

 

 徹底的な情報統制でその他乗員には一切知られておらず、外見変化も加工済みレンズの眼鏡を着用する事で目立たなくなった。「何時も眼鏡かけてなかった人が何故かかけるようになった」程度の話が流れるだけで終わり、密かに眼鏡勢と眼鏡無し勢が生まれていたりいなかったりする。本人はそのことを認知していない。

 尤も、この眼鏡もリクと2人きりの時は必ず外している。裸眼の視力は相変わらずだが、眼鏡かけてない方が可愛いと言われた事は今でも嬉しいのだ。

 

《企業秘密ね。ますます知りたいです》

 

「ん? 今何語で喋ったの?」

 

「ガミラスの標準語ですよ。解析終わってたのでお披露目です」

 

「意味は?」

 

「企業秘密ね。ますます知りたいです」

 

「「おお~」」

 

「全部私の頭の中にインストールしていますので、緊急時は対応可能ですよ?」

 

 自慢そうに覚えたてのガミラス語を披露し、桐生はさらに解析を進めていく。

 

 


 

 

 大マゼラン星雲

 タランチュラ星雲外縁域

 

 

 数隻の空母が宙を進んでいた。ランベア、シュデルグ、バルメス。そしてバルグレイ。七色星団海戦に参加したガイペロン級多層式航宙母艦は、負傷者と悔恨を満載してガミラス星への帰路に付いていた。艦載機もいない。随伴艦艇もいない。自衛力に欠ける空母での航海は心細いものであり、レーダーに目を光らせながら一切気を抜けない航海を続けている。

 

 ランベアの佐官待遇室で、バーガーは一人ホログラムを虚ろな目で見つめていた。脳裏に映るのは、滅茶苦茶な陣形で転送された機体群。スヌーカに搭乗して第2次と第4次攻撃隊として出撃したバーガー。その第4次攻撃隊は、人為的な重力異常によって壊滅した。

 

 脳裏にこびり付く惨状。滅茶苦茶になった陣形。他機の機首がめり込んだ機体。キャノピー越しに見てしまった血に染まった僚機のコックピット。

 作戦「神殺し」。神に近い戦艦を撃沈するはずだったのに、神のたった1つの動作で壊滅させられた。

 

 悔しい、憎い、復讐をしたい、自分だけが生き残り、空っぽになったはずの自分に憎しみと復讐が注がれていく。

 

 見つめるホログラムの向こう側で再生される元恋人の言葉。その言葉も垂れ流される通信のようにしか聞こえない。

 

 

 

「メリア、また俺だけ、生き残っちまったよ」

 

 もういない恋人にそう呟きながら、頬の傷跡を撫でる。この傷跡に触れるたびに思い出す恋人の最後。隔壁の閉まり切らない隙間。その向こうに見える恋人の顔と迫りくる爆炎。飲まれ、破片でメットが割れ、頬が切り裂かれる。あの時の光景が機能の事のように頭に浮かび、振り払うようにデスクに拳を叩き付ける。

 

『伝令!』

 

 少年兵の声が聞こえ、バーガーは咄嗟にホログラムの電源を切った。開かれたドアの向こうにまだ年端もいかない少年兵が敬礼して立っていた。

 

「バーガー艦長代理殿」

 

「……少佐で良いよ。どした」

 

「あ、その……ブリッジにお越しください」

 

「……おう」

 

 着崩していた軍服を強引に正し、バーガーはブリッジに向かった。

 

 

 ______

 

 

 

「お連れしました!」

 

「すまんな、儂もこいつもボロじゃからあちこち不調気味なんじゃよ。艦内通話の機嫌も悪い。助かったよ」

 

 艦内通話も不調気味で直接呼び出すしかなかった。ガイペロン級は初期、中期、後期型と改修が続けられてきてはいるが、それでも老朽艦であることは否定できない。ドック入りも長かった以上航海中はこうして少しずつ不調が目立ってくる。

 

「爺さん、何かあったんか?」

 

「警務艦隊からの停戦命令じゃ。あのヴンダーへの攻撃の全面禁止との事だ」

 

「禁止? どういう事だよ」

 

「テロンがスターシャ女王陛下を介して本星と休戦協定を結んだ。だからヴンダーに対し戦闘行動が出来ない。そういう事じゃ。従うか?」

 

「はっ! 当然無視だ!!」

 

 敵討ちに固執したバーガーに告げられた停船命令。だが敵討ちしか残っていないバーガーを止められるような物でもなく、やはり命令を蹴る。

 

「いいのか? 警務艦隊は第8で、旗艦はあの改ゲルバデスのミランガルじゃぞ?」

 

「改ゲルバデス……あいつの船か」

 

 改ゲルバデス、その艦級を聞いた途端に落ち着いた。ガミラスでただ1隻しかいない艦で、試作艦を改造したはいいが誰の乗り手もいなかったあの船。器用貧乏で終わる事に抗った、異端な船だ。

 

 

 ______

 

 

 

「そんなこと納得できるかよ!」

 

「ヴンダーへの攻撃は禁じられたのよ。これは命令よ」

 

「上は何ふざけた事決めてんだよ。ゲットーにクライツェ、バーガーにハイデルンの親父、ドメル将軍の仇は、誰が敵を討つってんだよ」

 

 改ゲルバデス級ミランガルの艦長、ネレディア・リッケが直接出向きバーガーを説得するが、折れない。旧知の仲である2人は佐官待遇の部屋で話を続けているが、話は平行線のまま。

 

「……相変わらず、馬鹿ね。老兵に負傷者、さっきの坊やみたいな子も巻き添えにする積もり?」

 

「ガキでもバカでも何とでも言え。だが、もうそれしか残ってねぇよ。……なんならそいつらをミランガルで引き取ってくれ。巻き込まれる筋合いはアイツらにはねぇよ。復讐するのは俺1人だけで良い」

 

 空っぽになってしまった自分に残った復讐は燃え続ける。

 

「全員乗せられるわけないでしょ? 兎も角、この宙域からはすぐに動いた方が良いわよ」

 

「はぁ?」

 

「この宙域で過去何隻も消息を絶っている。だから、魔女の住む宙域って言われているの」

 

 

 ______

 

 

 

「バカバカしい。美しい歌声で船乗りを誘い、その魂を貪り食おう~って? 御伽噺かよ」

 

「そうね、私にもそう聞こえる。でも消息を絶っているという事は事実なのよ。速やかに帰還すべき、いいね?」

 

「……宙域を出るというのは分かった。だが、停戦命令は承服できねぇ。俺だけ生き残って皆死んじまって、もう俺が、ドメル将軍やハイデルンの親父たちに出来る事は、これ位しかないんだ」

 

 飲まずに終わりそうだった紅茶を一気に煽り、歯を食いしばる。ここまで説明しても折れない。今のバーガーを支えているのは憎しみと復讐のみ。それを失えばバーガーは本当に何も燃えなくなってしまうだろう。

 

 その時、何処からか奇妙な歌が聞こえた。ガミラス語ではない。耳ではなく脳に響くような音。平然としているネレディアを他所に艦内通話に飛びつき艦橋につないだ。

 

「おいブリッジ! 何歌なんか流してやがるんだ!」

 

『いえ、そのような事は何も!』

 

「歌? 歌なんて聞こえないわよ?」

 

「おいじゃあこの歌は何なんだよ!!」

 

 飲み込まれていく。バーガーも、艦隊も。

 

 

 

 ______

 

 

 

 暁・睦月研究室と言う特例中の特例を除けば、Wunder艦長室は1人個室の贅沢な部屋である。その上紅茶やコーヒー等も淹れられる調度品を置けるカウンターもあれば本棚もある。おまけに収納式のベットに椅子ときた。他の部屋と一線を画す仕様の艦長室で、沖田艦長は静かに何かを書いていた。

 

 音質のやや粗い年季の入ったレコードプレーヤーを回し、デスクに向かい、時折景色を眺めながら手を止める。何か思いついたかのような仕草を見せてはまた書く。それを繰り返す。ふとティーカップが空になった事に気付いた沖田艦長がデスクから離れると、ふとドアを叩く音が聞こえた。

 

「古代です。入ります」

 

「入れ」

 

 入室許可を出すと扉は開かれ、古代が入ってきた。それを見た沖田艦長は普段は出さないもう一つのティーカップを取り出すと紅茶を淹れ始める。

 

「横にならなくても、大丈夫ですか?」

 

「今日は気分がいい。出来る事は、出来るうちにやっておきたい」

 

 沖田艦長がつい先程まで書いていたのは戦略教本だ。それも経験の浅い軍であったとしても効果的な戦果を挙げられるものばかりを列挙したもので、正攻法から搦め手、果てにはガミラス艦艇との共同戦線を前提にした物まで含まれている。

 まだ完成には程遠いが、現状でも幾つかの戦術が完成している。

 

「例の新型艦艇用の戦術ですか?」

 

「睦月君達がかなり早期の段階で要件定義をしてくれたからね、それに合わせて戦術を練っているのだよ。たとえ地球を平和にしても、自衛力を持たねばただの獲物にしかならない。身を守る為の力が必要だ。それに、儂があとどれくらい生きられるかは分からんが、見て見たいのだよ。生まれ変わった国連宇宙海軍を」

 

 

「未来の国連宇宙海軍ですか。どんな感じなんでしょうか」

 

「希望は与えてくれるだろう。この艦艇と人類の知恵なら」

 

 そう言いながら紅茶を淹れ終わり沖田艦長は古代の前にティーカップを置くととある三面図を古代に見せた。

 金剛型のようで金剛型じゃない艦艇の上部、左側面、艦尾視点からのスケッチが載っていて、Wunderの主砲塔のような砲塔が搭載されている。

 

「これが……」

 

「今までの常識を壊している。睦月君達曰く、戦艦に腕くらい生やしても罰は当たらないらしい」

 

「腕……ですか」

 

 戦艦に腕を生やすという奇怪な想像に困惑した古代を見て、沖田艦長は思わず笑いが漏れてしまった。

 

「まあそれが普通の反応だ。だが、突き詰めてみると面白いんだよ。オーバードウェポンという概念は」

 

 

 _________

 

 

 

 

「……という事だ。あらゆる戦況への適応と、火力、速力、索敵力、制圧力に輸送に補給の大幅な底上げ。たった3艦種のみの軍を支えるには、これは欠かせない」

 

「こんな発想、今まで無かった以上受け入れられるのでしょうか?」

 

「導入メリットは大きい。莫大な能力を持て余さない圧倒的な器があれば、その気になれば単艦で数隻分の働きが出来るだろう。新しい物にはアレルギーのような拒否反応を示すかもしれんが、これは大きな可能性を秘めておる。固定観念を塗り替える革命的な物だという事は儂が断言しよう」

 

 力説を語りつくした沖田艦長は、とても療養中とは思えないほど活き活きとしている。

 

「ご病気の件もあって心配でしたが、お元気そうで安心しました」

 

「まだ死なんよ、地球が平和になるまではな。古代、君の兄の願いの事もある」

 

 自分の兄の話が出た途端、古代の顔は少し暗くなった。寂しげな雰囲気を漂わせ、静かにティーカップの紅茶を見つめている。

 

「最後の肉親、でした。メ号作戦で死んだと思っていたら、イスカンダルにいたなんて。尤も、それが最後の別れになってしまいました……」

 

「別れは辛い。だが、再会を願うことも出来る。たとえ、映像の中であっても」

 

「はい。兄は、宇宙ではなく地球で終わりを迎えることが出来た。きっと、満足したんじゃないかと思います」

 

 レコードプレーヤーの再生が終わり、沖田艦長はソーサーにティーカップを置きレコードを取り外した。今時光学ディスクも珍しいくらいのこの時代、レコード盤は最早絶滅種と思った古代は物珍しい様子で見つめていた。

 

「実家にあったものだ。針も飛ぶしノイズも目立つが、これがまたいい味を出す。曲は土方がかなり昔にプレゼントしてくれたものだ。これが原曲で、こっちが日本語版だ」

 

 レコードジャケットにしまった沖田艦長は、入れ替えで日本語版のレコードを取り出して古代に見せた。

 

「いいですね。自分も、この日本語版を聞いてみたくなりました」

 

「では、岬君のラジオにでもリクエストをするか」

 

「いいですね、それ」

 

 まるで親と子のような会話に思わす笑みが零れ、堪らず笑いが込み上げる。上官と部下、ある意味では師弟に近いのかもしれない。沖田艦長を学んで強くなった古代と、まるでその指揮を見せて背中で道を示した沖田艦長。見る人が見れば親子かのようだ。

 

「往診でーす」

 

「入るよ。おや、古代もおったんか」

 

 いつも通りの時間に佐渡と原田が往診に入る。往診の邪魔になったマズいと思い、古代は紅茶を一息に飲み、ソーサーにティーカップを置いた。

 

「では、自分はこれで失礼します」

 

「古代」

 

「はい」

 

「また遊びに来い」

 

 沖田艦長の柔らかい声に笑顔で会釈して、古代は艦長室のドアを閉めた。

 

「まるで親子じゃな」

 

「……そうかね?」

 

 

 

 ________

 

 

 

 

 

 

 そろそろかなと思いながら、ハルナは艦内を動き回っていた。機関室、戦闘艦橋、食堂とか、気分転換で艦内を一周するくらいの勢いで歩き回っていたが、流石に疲れてしまった。ここまで巨大な艦はWunderで十分。次世代艦艇が300m未満に収まった事にハルナはコッソリと安堵していた。

 そんなことを考えながらエレベーター前の長椅子で休んでいると、偶然山本がやって来た。

 

 

 

「兄の事を、考えていました」

 

「玲ちゃんのお兄さん?」

 

「はい。第2次火星沖で亡くなりました」

 

「カ2号作戦ね。一通り内容は把握しているけど、その時に、亡くなられたのね」

 

 兄の預けた赤い意思のネックレスを触りながら、山本はそう呟いた。98年なら2人とも回復していてBußeの調整をしていたころだ。幸いにも記録ではなく当時の状況を知っている。

 

「その時には、もう暁さんって」

 

「起きてたよ、まだギリギリBußeの建造してた頃だから。たしかカ2号の後なのよ、Wunderになったのは」

 

 カ2号作戦が起こった2198年2月20日から数週間後。丁度ユリーシャの来訪はそのくらいで、Wunderへの改装案は1週間もなく生まれてそれから即座に全地球規模で結束し2199年2月11日の発進に間に合った。ここまでで約1年。瀕死とも呼べた当時の地球では考えられない力と、遠い昔に籠められた言霊の結晶がこのWunderだ。

 ユリーシャの来訪と地球の結束、そしてミサトさんの意志が無ければ、この船は蘇らなかっただろう。

 

「ねぇ玲ちゃん」

 

「はい?」

 

「姉弟って、良い物なのかな?」

 

「兄妹ですか……失うと怖いですが、近くにいると、安心しました。言い方に違いがあっても、家族ですから」

 

「家族かぁ。いいね」

 

「暁さんは家族って……ごめんなさい」

 

「家族ならリクがいるよ、最後の肉親。まだ正式な届けは出来てないけど、この命が終わるまで、私は一緒にいるよ。死がふたりを分かつまでって言葉もあるくらいだし」

 

 そういって上着の上からハルナは右手を自身の胸に当てた。一瞬家族の話はタブーかと思った山本だがそれは意味の無い心配だった。

 家族を失ったが新しい家族を得たハルナはもう1人じゃない。傷はそのままだけど強靭なまでに強くなった。どんなに残酷な過去も受け入れ、そして先の未来も思いと力で変えていく。もう心配されたり気にされたりする事もないだろう。

 

「あれ? 山本と、暁さん?」

 

「あれ古代くん? どうしたの?」

 

(あ、玲ちゃんが……珍しい)

 古代がいきなり登場したことで山本の顔が少し赤くなり、ハルナは気付かれないように見てみた。

 

「こっちもいますよ?」

 

「島君じゃん。今非番?」

 

「です。今は太田に舵握ってもらってます。ところで、珍しい組み合わせですね」

 

「そうかな?」

 

「そうなんですよね~」

 

 そう言いながら島は徐に携帯端末を構えてその画面にハルナと山本を収めた。

 

「折角なんで景色いい所、行きましょう」

 

「あ、リク連れてっていい? そろそろ思いついてる頃合いだから」

 

「勿論です。ていうか分かるんですか? 思いついてる頃合いとか」

 

「分かるからね?」

 

眼鏡の奥で緋色をコッソリと瞬かせ、ハルナはリクを連れに行った。

 

 _______

 

 

 

 

「先客ありかな」

 

 島を先頭にした一行は「景色いい所」を訪れた。Wunder左舷アレイアンテナ基部観測室、とは名ばかりの展望室だ。

 

「森さんもいるんだ。非番?」

 

「ええ、それと……」

 

 森が口ごもるが島は何となく事情が分かったようで、後ろからついて来た古代に場を譲った。

 

「や、やあ」

 

 森も古代も目的の人に会えたようで薄ら頬が赤くなるが、その近くで凹んだ人がいるのは言うまでもない。周りの意思を弾いていても何となく察したハルナが「諦めた方が良い」と山本の肩に手を置く。

 

「暁さん……」

 

「うんうん」

 

「後で愚痴聞いて下さい」

 

「玲ちゃん沢山聞くね」

 

「はい……」

 

 この光景は山本からしてみればダメージが大きい。カップル未満友人以上の古代&森ペアは既に切り離せなさそうだから、せめて火星組として迎え入れよう。おまけに後でしっかり慰めようと考えたハルナはそう固く誓った。

 

「はいチーズ」

 

 古代の構える端末に映るのは、山本と森で両手に花状態の島。思わず顔が引きつりそうになるが何とかシャッターを押す。

 

「ちゃんと撮れたか?」

 

「当然だ」

 

 僅かに不機嫌になりながら島に端末を帰すが、その心境は少々のダメージを受けていた。古代からしてみれば、想い人を取られたかのような構図になっているのだ。

 

「古代くん」

 

「はい?」

 

「顔が怖いよ?」

 

 そんな心境を知って何かを察したリクは茶々を入れるが、今のハルナからしてみればすべて筒抜け。リクの後頭部をペチンと叩く。

 

「睦月さん……」

 

「じゃあじゃあ次は、婚約済みぶっ壊れスペックのお2人で」

 

「ぶっ壊れって……誰が言いだしたの?」

 

「いや、聞かなくても分かる。マリさんだな」

 

 ぶっ壊れ夫妻、バランスブレイカー、ニアリーイコール副長、ドチート。噂は立って立って収めきれない程立ち尽くし、2人は半分諦めている。

 

「ポーズどうする?」

 

「まあ腕治ってないしな。……それっ」

 

「えっちょっ、~~~~~~~っ!!」

 

 一瞬の隙を見て右腕でハルナを抱き込み固定。そのままピースする。状況が飲み込めず抜け出そうとするハルナを他所にカメラ目線で笑顔を見せる。

 

「はいチーズ。ほら撮って」

 

「え? はっはい!」

 

 奇襲に呆気に取られた島はシャッターを押す事すら忘れていたが、リクに言われてやっとシャッターを押した。シャッター音を聞いたのを確認したリクは、様々な意味で悶絶しているハルナを開放した。

 

「ぷはっ、ちょっと!」

 

「してやったり。いいじゃないか皆知ってるんだし」

 

「良くないよ恥ずかしい……撮り直しもう1枚! みんな何も見てない、良いよね!?」

 

 人前で恥ずかしい思いをした事で抗議するが、満足そうにするリクの顔で言いたい事を吹き飛ばされて、撮り直しを宣言するのみに終わってしまう。

 

「だそうだ。島君もう1枚。あと」

 

「何も見てない、ですね」

 

 年上命令に従いながらもう1回カメラを構える。今度は無難にピースをしている。まだ顔が赤いままだが笑顔になったハルナと一本取った満足顔のリク。これを超える2人は現状艦内には存在しないだろう。

 

「どれどれ、ちゃんと撮れてるな。それとさっきのやつはと……」

 

「皆は見ちゃダメ!」

 

(皆には見せたくない!)

 

(後で端末貰って現像しよう。データは消す。それでどう?)

 

(……後で膝枕ナデナデでよし!)

 

(それ好きだな、ホント)

 

 

 

 頭に声が響くのも慣れてきた。声は聞こえないのに頭にダイレクトに聞こえる奇妙な状況に慣れながら、リクは彼女の譲渡を甘んじて受けた。

 

 

 _________

 

 

「はいお2人さん笑って、はいチーズ」

 

(玲ちゃん、いい思い出になったかな?)

 

 古代と山本が2ショットを撮る。山本が若干控えめなのは自身の心に踏ん切りをつけたい表れかもしれないが、まだ引き摺ってる事が見える。

 

(嬉しいけど、間に入っちゃマズいよね……)

 

「と思ってるのかな……」

 

「ん?」

 

「何でもない」

 

 バレラスの頃からそういう事も悟れるようになった。察しが良くなったが、この場で暴露するのは精神衛生上よくない。ここは黙っておく。

 

「はいチーズ」

 

「痛っ!」

 

 ……写真撮影でなぜ痛がる声をしているのか説明をしよう。状況はこう、古代と森が2ショットを撮ろうとしていた。因みに現在進行形で両片思い続行中だ。古代が森の肩に手を置いた瞬間、それに気づいた森は古代の手の甲を抓り、痛みに悶えた古代が声を上げてしまったのだ。これが事の顛末。

 

 その時の写真構図を説明するとこうだ。手の甲を抓った事で2人の距離が近くなってしまい、頬がくっ付くかくっ付かないかの距離になっていた。これには山本もダメージを負うしかない。

 

「ひどいなぁ……」

 

「いいじゃない。思い出作りよ」

 

「えっ?」

 

「じゃあじゃあお次は、綺麗どころお三方で」

 

 ああ、これ以上は山本のメンタルが持たない。だが断るわけにもいかない山本は戸惑うが、すかさずハルナがフォローに入る。

 

「山本さん、一緒に撮ろう?」

 

「年上お姉さんが真ん中ね~」

 

 山本と森を横に並べたら山本がさらに凹んでしまう。だったら自分が緩衝材となり無難に済ませようという事で、森と山本の間にハルナが入り肩を組む。

 

「はーいリク撮って撮って」

 

「はいはい。島君借りるよ」

 

 島から端末を受け取ったリクは慣れない手つきで端末を片手で構える。左から森、ハルナ、山本。金、白銀、白と並んだ女性陣も満面の笑みで映る。

 

「はいチーズ」

 

 シャッターが押されて各々ポーズをとる。島が綺麗どころお三方と言うように、写真に写る三人は間違いなく美女だ。皆似たような顔つきで、山本とハルナに至っては髪色も近いので姉妹のようにも見える。

 

「やっぱ似てるな、暁さんと山本」

 

「似てます?」

 

 古代の一言に山本が疑問を覚えるが、古代が言うのも尤もだ。肌はハルナの方が色が薄めだが、それ以外は姉妹の様に似ている。目も赤で髪も白い。何も知らない人が見れば姉妹かと間違えてしまいそうだ。

 

「確かに、こうしてみると姉妹みたいだ」

 

「母が白髪だったので。母が火星2世で、私が3世です」

 

 山本が自分の身分を明かした。本来火星人類は地球では煙たがられているが、幸いにここには内惑星戦争の世代層はほぼいない。人的不足でWunderには若い士官しか乗っておらず、内惑星戦争の世代は数えるくらいしかいないのだ。

 

「へぇ~。私は……皆知ってるんだっけ?」

 

「何がですか?」

 

 1人だけ事情を知らない島が不思議そうな顔をするが、成り行きで事情を知った古代と森、山本は頷いていた。

 

「俺だけ仲間外れかよ?」

 

「あはは。実はね、私達は火星2世なのよ。2130年代生まれ」

 

「30年代……30年ってマジですか!?」

 

 2134年生まれ御年24歳。出鱈目の様な経歴に思わず島は、自分の頭がおかしくなってないか確認した。

 

「嘘じゃないよ?」

 

「……人魚でも食べたんですか?」

 

「八百比丘尼とかそう言うのじゃないよ? 40年間昏睡してたのよ、私達」

 

「……良かったんすか? 俺らなんかに話しちゃって」

 

「隠す様な事でもないかなって。上からは止められているけど、止められているのは詳細の方だからね。それに、これも自分の過去だからね。誰も知らないから無かった事に出来る物でもないし」

 

 ハルナの過去と思いをしんみりと話していると、突然艦内が揺れた。警報音が鳴り始め、ダメコンの人工音声が流れ始める。普段の緩い表情から一気に引き締まった表情に変わると、リクはすぐに内線に飛びついて戦闘艦橋に繋いだ。

 

「睦月です。何処からですか?」

 

『目標正面、敵機による爆撃です、いきなりやられました』

 

「マジか……古代くんに代わります。古代くん」

 

「代わります。国籍は? ガミラスか?」

 

『ガミラスの標準コードで呼びかけましたが、応じませんでした。未確認の文明によるものと思われます』

 

「……第2波が来る前に三式用意。艦橋に戻るが、間に合わなければ発砲を許可。南部、頼むぞ」

 

『了解!』

 

 

 

 _________

 

 

 

 

 

「現在の状況は?」

 

「正面に大型艦艇、艦影5」

 

「すでに敵艦載機に対し、三式での迎撃を行いました。第2波攻撃による損害は無し」

 

「真田さん、敵の識別は?」

 

「分からない。ハッキリ言って、アンノウンだ」

 

 リクとハルナが戦闘艦橋に入るなり、当直の要員が状況を簡潔に報告し始める。第2波攻撃は阻止したものの、すでに敵艦艇に後ろを固められている。コスモリバースと言う地球を救う希望を運んでいる以上戦闘は避けたいが、状況はあまり良くない。遅れること数十秒、古代と森、島も戦闘艦橋に入ってきた。

 

「艦種の特定は今は無理か……全艦第1種戦闘配置。何時でも撃てる様に準備だ」

 

「後方に重力波の乱れを感知。ワープアウト反応です!」

 

 アラート音が鳴り響き、レーダーに艦艇が出現し始める。ガミラス艦とは異なる重力震が観測され、レーダー上のアイコンに「unidentified ship」とタグが付けられていく。光学観測でもガミラス艦艇とは異なる形状が見て取れる。ガミラスではない事はこの時点で完全に確定した。

 

「ガミラスじゃないな、あの見た目じゃあ」

 

「それに本体も出てきたみたい……えっ? リクあれって……」

 

 明らかに既視感がある艦艇が正面に現れ、ハルナは思わずカモフラージュ用の眼鏡を上げて肉眼で確認する。

 

「第二船体と翼。鳥のような中央船体。偶然にしては出来すぎている。間違いない、NHG級の流れを汲んでいる。嫌な感じだ。アレのお手本が向こうにもいるのなら、3か4は向こうにいるって事になる」

 

「……っ指揮官が呼びかけて来ています。映像通信です」

 

「ファーストコンタクト……」

 

「応じる」

 

 全周スクリーンの正面にウィンドウが開き一瞬画像が乱れたが、直ぐに調整されて大柄で黄緑色の肌の人物が映った。体格由来の大きな威圧感があるが、古代は正面のウィンドウに向き合う。

 

《偉大なる大抵陛下の名において、テロン人よ、聞くがよい》

 

「言語1、ガトランティスに切り替えます」

 

『我が名は雷鳴のゴラン・ダガーム。ガトランティスグタバ遠征軍大都督なり』

 

「本艦の戦術長、古代進だ。我が方に戦闘の意思はない。即刻攻撃を中止されたし」

 

『戦は武士の誉れなり。兵を退くのは腑抜けの所業。和睦、有り得ぬ』

 

 音声がリアルタイム翻訳に切り替わり、聞きなれない言語が日本語に切り替わった。即刻攻撃の中止を求めるが、即座に拒否される。敵に打ち勝つことが求められるかのような言動、まるで戦国時代の武士の様な価値観だ。

 

「そちらの攻撃機が仕掛けてきたため、やむなく応戦した。我々は航海の途中で、貴方達と事を構える筋合いはない!」

 

『なるほど……笑止!』

 

 古代の言い分を笑い飛ばすと腰の刀を抜き取り突き出してきた。和睦が通じない、ガミラス人とは明らかにメンタリティが違い過ぎる。武士の様な……訂正する、まるで大昔の盗賊や山賊。野蛮と言う言葉がよく似合う。彼らは今すぐにでも撃ってくるだろう。

 

『偉大なる大抵陛下において汝らに命ず。テロン人よ、我が方に身砕き明け渡すべし。その()()()()()を』

 

「神殺しだって? 一体何を知っているんだ!」

 

『……其方、名は』

 

「睦月リク。貴方の言う神殺しの船、その1隻を蘇らせた者の1人だ」

 

 古代から視線を移したダガームは、興味深そうにリクを舐めるような視線で見た。

 

『吾輩に何か言いたげだな。申せ』

 

「ゴラン・ダガーム。あれはこの世界には生まれるはずの無い物だ。ガトランティスは、NHGを鹵獲しているのか?」

 

 リクの想像は当たっていた。エヴァンゲリオンの技術を使ったNHG級、それを神殺しの船と呼称しているという事は、この船はどういう船だったのかを彼らなりに解釈しているという事だ。そしてNHGからあの巨大艦艇を生み出した。肝心の本体は今頃修復でもされているのだろう。

 

『……冥土に行けば教えてやる。名誉の死を、有難く受け取れ』

 

 一方的に通信が切られ、途端にレーダーの探知音が響き始める。敵艦は明確に接近を始めている。

 

「来るぞ、総員第一種戦闘配置!」

 

「古代くん。相手がAAAWunderに連なるNHGシリーズを知っている以上、あの本体はそれ由来の技術を転用しているのかもしれない。注意して」

 

 

(3か4番艦が向こうにいるとは……嫌なルートの未来に動き始めたけど、何とかしなきゃ)

 

 鳴り響く警報音に皆表情が引き締まるが、今までとは違う敵に皆厳しい顔をせざるを得ない。

 イスカンダルからの帰路、思わぬ敵に遭遇したWunderは、大きな苦難に曝される事となった。




新年一発目の話です。

第九章、星巡る方舟編です。Webアプリの制作もようやく一息付いてくれたので、こちらに注力出来そうです。

あと少しで、この作品を始めて登校してから2年になります。あっという間に経ってしまいました。ですがちゃんと書き終えますよ、第一作目は。


次の話は、もう少し先になりそうです。

では、次の話で
(@^^)/~~~


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牙を剥く三頭

火焔直撃砲三連装は流石にヤバかったかな、まあいいか。
Wunderも化け物だから問題ナシナシ

では次の話です。お楽しみください

(注)ガトランティスにもWunderと言う名称は伝わっていますが、「ヤマト⇒ヤマッテ」と同じように「Wunder⇒ブンダー」となっています


 Wunderから遥か前方のガトランティス空母艦隊、その1隻から発艦したデスバデーターがWunderの姿を捉えた。

 

「テロン艦ブンダーを光学で確認」

 

「やはり、あの艦の分かれし姉妹か。メガルーダに映像送信!」

 

 ナスカ級の1隻から送信された映像はメガルーダに送られ、艦橋の面々にお披露目となった。

 

「前方空母打撃軍からの映像です」

 

「やはり、我らガトランティスが捕らえし船とよく似ているではないか。面白いくらいに。まさに天佑神助!」

 

 薄暗く禍々しい艦橋で宴を行うダガームとその配下。酒を煽り、肉に食らいつく。「野蛮」と言う言葉がこれでもかと言う程に似合う彼らは、軍と言うよりも実際の所は海賊に近いだろう。宇宙を渡り、船を襲い、奪い、容赦を与えない。ただし、海賊に近いと言っても彼らはガトランティスに対し忠誠を誓っている。そのため大帝から与えられた命令は必ず守る。

 

 その命令は、技術の奪取。

 

 彼らは自国の技術向上の為に他国、そして異星文明の技術を欲している。方法は多岐にわたり、シンプルに盗むか盗掘。または他文明の艦艇を襲撃し科学者ごと鹵獲する。

 

 その時捕虜となった科学者は「科学奴隷」と呼称され、ガトランティス全体の科学技術の向上の為に兵器の開発、及び改良を命じられる。拒否権は無い。帝国に従順な者以外には死を与えるような彼らの元では、「No」と唱える事は「死にます」と宣言している様なものだ。

 

「帝国に寄与すべき技術者は生かし、戦士は皆殺せ。今宵は船も奪え。偉大なる大抵陛下が望まれた神殺しの船。極上の獲物、我らの手で献上するのだァ!!」

 

 ダガームの命令に皆腰の短剣を振り上げ、雄叫びを上げる。艦艇も推進器の光を強め、Wunderに向かって突き進んでいく。

 

 

 

 


 

 

 

 

「正面より敵艦近づく。敵速、10Sknot」

 

「艦種は相変わらず不明……って、出てます、艦種識別」

 

「えっ?」

 

 ついさっきまでunknownとなっていたタグが駆逐艦や巡洋艦と識別され、敵艦隊の中核に位置する巨大艦には「nearlyNHG」と暫定的にタグが付けられている。

 いつの間にか終わっている識別に一瞬MAGIが処理したかと思ったが、「MAGIよりも凄いかもしれない」人に2名ほど心当たりがあった。

 

「取り敢えず識別は終わった。あくまでガミラス艦艇の識別を基準にした場合だから、あまり当てにならないと思うけど」

 

「そんな短時間で……でも、助かります。一先ず、艦首艦尾の魚雷装填。カミナリサマの残弾は?」

 

「6発です。第3波を無力化するだけで使い切るかと思います。それより、航空隊による防空は?」

 

「ダメだ、距離が近すぎる。展開の隙をつかれ肉薄されるぞ。VLSにカミナリサマを装填、目的はあくまで無力化と迎撃だ。睦月さん、使い切りますよ?」

 

「大盤振る舞いだ。思う存分使ってくれ」

 

 未知の敵に狼狽えず状況に合わせて的確に指揮をする古代に、リクは感心していた。真田も迎撃準備を進めていく古代に真田も感心したようで腕を組んで頷いていた。

 

「使わせてもらいます。赤木博士、ホーミングも立ち上げをお願いします。特に後方への火力投射能力を底上げします」

 

「分かったわ。アナライザー、射線計算手伝ってね」

 

『リョウカイ』

 

 古代が言うように、Wunderは前方への火力投射能力が高いが後方は低い。主砲塔とVLSが配置されているのみで、後方から狙われれば低い迎撃能力でジリジリと削られる。だが、重力子の配置で自由に軌道を変えられるホーミングを使えば後方への火力を強引にではあるが底上げ出来るのだ。

 

「戦闘準備」

 

「待て」

 

「10時の方向、自由浮遊惑星を確認」

 

 自由浮遊惑星。恒星系を回る通常の惑星とは異なり、恒星系から何らかの原因で弾き出されてはぐれてしまった惑星で、銀河系を直接公転している。それが偶然近くにあるとの事だ。

 

「……惑星に転舵、面舵一杯」

 

「逃げるんですか?!」

 

 てっきり正面から迎撃を行うと思った南部は声を上げるが、古代は南部に向くと言った。

 

「……逃げる。敵を後方のみにする」

 

 正面からやり合うにも後方にも敵がいる。ここは反転して敵を後方からのみにするべきだ。Wunderは艦首を一気に右方向に向け、第2戦速で自由浮遊惑星に向かって進み始めた。

 それを確認した敵艦隊もWunderの後方に付き追跡を開始。古代の思惑通り、敵は前方と後方にいたはずだが一気に後方のみとなった。

 

「レーダーに感。敵航空機、第3波です。数20!」

 

「南部。航空機相手なら3発、それで仕留める。VLS1番1から3番発射管開け、撃て!」

 

 使い切るとは言うが1回で使い切る訳にはいかない。過剰投入を避けて半分の3発が放たれ、外装が分離しEMPユニットが散布される。散布宙域に戦闘集団が突っ込んだことを確認してEMPが一斉に起動。20機のデスバデーターは金属の棺桶となった。

 

「起動確認、第3波の停止を確認。敵機の熱反応、減少中です」

 

「引き続き後方を観測。林、観測情報を船務長に回せ」

 

「船務長に回します」

 

「頂きました」

 

「敵駆逐艦級、4時方向から近づく!」

 

「波動防壁、展開!」

 

 Wunderの周囲に波動防壁が展開され、敵駆逐艦からの砲撃を弾いていく。敵艦も陽電子ビームを扱っているがそこまで威力は無い。だがガミラスの砲撃よりも数が多く速射砲のような勢いで発射されている。半円のような物体が艦体のそのかしこに取り付けられていて、陽電子ビームを雨の様に降らすことが出来ている。質よりも数が重視なのだろう。

 

「敵駆逐艦級、巡洋艦級が後方から接近、数8!」

 

「島、速度を保ったまま反転180度! 南部、正面に射撃可能な砲塔全てで敵艦隊を掃討する!」

 

「ああ……古代くん、Wunderなら出来なくは無いけどそれ鬼だよ。鬼」

 

「これ沖田艦長絶対やらないな、どっちかと言うと僕ら寄りだ。島君やってみて、出来るから」

 

「ああもう古代やってやる! サイドキック、Wunder回頭! 総員衝撃に備え!」

 

 思い切り艦首を右に振り一気に180度回頭。主推進を落とし艦首艦尾のスラスターを全力で吹かし、前に進もうとする慣性をそのままに一気に回頭した。サイドキックは潜水艦がするもので戦艦がする様な物じゃない。ましてやWunderは全長2500m。そんな巨体を振り回す事は常軌を逸しているが、Wunderの莫大なエネルギーと暴力的な推力が全てを解決した。

 

「南部!」

 

「第1から第4主砲、及び副砲照準合わせ! 撃ち方始め!」

 

「撃てぇ!」

 

 まず甲板上部の副砲と第2船体艦艇部に取り付けられた35サンチショックカノンが駆逐艦級を射抜く。続いて甲板上部4基の48サンチショックカノンが青白い光を放ち巡洋艦を抉り飛ばす。

 

「敵艦掃討完了、射程圏内に艦影なし」

 

「島、戻してくれ!」

 

「了っ解!」

 

 再び180度回頭。慣性制御があっても多少振り回されるが、見事に後方の艦艇を撃滅した。

 


 

 

「あんな巨大な船が、こうも容易く回頭するのですか?」

 

「知らん。だがそれでこそ大帝に献上する価値ある船。舳先を星に回せェ! 我らガトランティスの光を、褒美に味わせてやろう。火焔直撃砲、発射準備ィ!」

 

「火焔直撃砲、発射準備!」

 

「だが星に逃げ込むのは姑息なマネだ、臆病な者だ」

 

 メガルーダの艦橋内部に打楽器のように響く音が鳴り始め、コンソールに向かう戦士が各自で報告を上げ始める。

 

「エネルギーダンパー《ガルグ》《ボルグ》《ゲルグ》起動!」

 

 艦橋に微振動が響き始め、両舷第2船体、中央船体に収められた巨大なエネルギーダンパーが顔を覗かせる。艦首装甲が獣の顎の様に上下に開かれ中から迫り出し、その先端部が回転を始めエネルギーの充填に入る。

 

「相対着弾座標入力。全砲連動!」

 

「全薬室圧力上昇!」

 

「エネルギー転送跳躍管、開け!」

 

 中央船体下部に取り付けたれた投光器のようなものが光を灯し、水色の光の輪を断続的に放ち始める。

 

「周辺重力分布取得、着弾座標誤差修正! 照準合わせ!」

 

 戦士の1人が兜に取り付けられた遮光板を下ろし、艦橋内に置かれた巨大な制御装置から生える最終安全装置棒を、3本とも目一杯引き出した。

 

「……我らガトランティスの光、とくと見よ。火焔直撃砲、全門発射ァ!!」

 

 ダガームの命令により火焔直撃砲の引き金が引かれ、艦橋正面の窓が真っ白に染まった。

 三門の砲身に蓄積された太陽の様な火球は一気に爆縮し、正面方向に向かって炎の柱を放った。その炎は投光器らしきものが放つ水色の光の環を内側に全て収まり、暴力的な熱量を持ったエネルギーはどこかへと消えて行った。

 

 


 

 

「……後方に強大な重力震! 数3!」

 

「ワープしてきたのか!?」

 

「……最大船速取り舵一杯!」

 

 何か嫌な予感を感じ取った古代の指示で、Wunderは最大戦速で取り舵一杯、全力で目一杯左に移動した。同時にアンノウンドライブが眩く発光し、腹に響くような低音で空間がズシンと揺れた。

 その数瞬後、Wunderの右側を三本の炎の柱が疾走した。莫大なエネルギー流が空間を突き進む以上空間も大きく揺れ、ハルナ思わずコンソールにしがみ付いて流されないように踏ん張った。

 初めは眩しすぎて、何が通ったのか全く分からなかった。

 

「あれなに!?」

 

「分からない! フレアみたいだけど違う!」

 

「あれに飲み込まれれば、Wunderは……。っ損害報告!」

 

「右舷主翼先端部が融解、緊急措置としてホーミングのエネルギー弁と供給管をすべて閉鎖しました。現在チェック中ですが、ダメコン表示もないので使用可能と思われます」

 

「波動防壁も一部破られています。船体装甲、主翼以外にも一部損傷」

 

「掠めたのか……。発砲位置は?」

 

「発砲位置に艦艇はありません。重力振から突然出現したとしか……」

 

「……どうやら、敵はこちらの射程外から攻撃出来るらしい。位置さえ分かればどこからでもワープ越しに攻撃できるだろう。博士」

 

「ええ、あの火炎は確かに重力振から出現したわ。例えるなら、ワープする波動砲。弾着予定地点に測量艦がいれば、たとえ1光年離れていても攻撃可能じゃないかしら」

 

 サラッと恐ろしいことを言う赤木博士だが、かなり正確に的を得ている。エネルギーを敵の至近に持ってきて回避不能な攻撃をお見舞いする。この武装は実質初見では回避困難だ。

 

 だが先程の重力振発振は誰も操作していない。2人も、真田も、マリも、赤木博士でさえ対処出来なかった。それでも自律防御のように

 

「ねぇ、さっきの重力振ってこっちで操作してないよね……?」

 

「する暇もなかった。ミサトさんとレイちゃんにまた救われた。……2人はこれを直感で逸らそうとしたんだ」

 

「重力振で回避をしようとした……ってことは、アレだよね」

 

「ああ、アレだ。マリさん、コレ回避できると思います」

 

「マジで言ってるの? 回避ってこれワープしてくる……あっ」

 

 もうやった事がある。それに気づくにはそう時間もかからなかった。ここには人類代表として禁止カード級の人材がそろっている。そう、重力振さえキャッチできれば回避できる。もしくは逸らすことが出来る。しかし、その弱点は3連装化という強引な解決法でカバーされている。範囲も広く、炎の柱の周辺にはフレアの様に漏れ出すエネルギー流もある、加害範囲が広すぎるのだ。完全回避は現状では困難だろう。

 

 _______

 

 

「テロンの船は……健在!」

 

「……命中したのか? どうなのだ?!」

 

「大都督、転送座標に誤差が生じたのかもしれません。転送投擲器はガミロンの技術でも完全な物と成っておらず、テロン艦はそれで運よく生き延びたのかと」

 

「……だがこれで沈まぬとは、神殺しは運さえも味方に付けるか。それでこそ大帝に献上する価値ある船だ」

 

 黄色い舌を覗かせ、モニターに映るWunderをニヤリと見る。右舷の主翼らしき部分が融解してはいるが、広大な加害範囲を持つはずの火焔直撃砲から逃れた。火焔直撃砲と転送投擲器の弱点は科学奴隷に話させた。だからこそカバーするためにこの決戦兵器を3連装としているのだ。

 

「科学奴隷をこの場に呼べ。方法は問わん、何故やつは燃え尽きなかったかを究明させろ」

 

「はっ」

 

「奴らを追え。メガルーダも前に出せ、前衛前進ン!!」

 

 ガトランティス艦隊はメガルーダを中心に据え、数多の駆逐艦、巡洋艦を従えて前進を始めた。

 

 

 ___

 

 

 

「7色星団の時の航空機ワープ、アレと一緒って事かにゃ?」

 

「ワープさせてるものは別ですけど、やってる事は一緒です」

 

「つまり自分を中心にした宙域を重力振で乱せばあらぬ方向に逸らしたり送り返す事も可能、と」

 

 あれよあれよと戦闘艦橋で対策が練られていく。真田に赤木博士、マリにハルリク。基本的にこの技術科の4人のうち誰か1人でも敵に回したら、相手は碌な目に合わない。

 その証拠としてガトランティスの決戦兵器は、ちょうど今彼らの頭脳によって大まかな仕組みが丸裸にされようとしていた。

 

「レーダーに感。敵駆逐艦、巡洋艦、旗艦級近づく。敵速11sknot」

 

「早いな」

 

 そう言うと古代は正面の自由浮遊惑星を見る。先ほどの攻撃で惑星には大穴が開き着弾地点は火山の火口の様な色をしている。

 まるで神話や映画に出て来る火を吐く怪獣。正直に言って敵が波動砲を使う事よりも厄介かもしれない。

 

「解析完了、惑星は複雑な空洞形状を有しています。ですが、Wunderが入れるとは思いません」

 

「そこはWunderを横ロールさせて右に立てて航行すればいい、コスモリバースも守れる。島?」

 

「あのなぁ戦艦は曲芸飛行するための物じゃないんだぞ? って言っても、出来るんです……よね?」

 

「「出来ます」」

 

「はあもうこの船なんなんだよ」

 

 設計者2人が親指を立てたことで、島は今後あれこれ言うことを諦めた。大抵の無理難題は「出来る」か「出来る様にしてしまう」のだろう。

 

「もういいや、全部出来てしまうって事で。古代、降りるぞ?」

 

「よし、惑星に降下する」

 

 Wunderは惑星に降下を始める。急激に高度を下げていき、右に姿勢を倒す。横からの攻撃等も考慮して90度ではなく75度。ギリギリまで傾けていく。

 その後方から敵駆逐艦が追撃の為に惑星に降下してくる。それを狙いショックカノンを最大仰角で斉射、駆逐艦を下から貫かれ、中には艦橋ごと貫かれた敵艦もいたが、例外なく無残に爆沈される。

 

「後方から敵駆逐艦数4」

 

「博士、アナライザー、計算を!」

 

「目標後方、重力子配置相対座標確認発射軌道調整、発射準備完了!」

 

「ホーミング、全門発射!」

 

 翼に内蔵されたホーミング用陽電子ビーム砲16門が火を吹き、重力子の緻密な配置によってそれらは生きているかのように後方へと進路を変える。曲がるビームは常識の範疇を超えられた兵器で意表を突くにはうってつけ。その物量も相まって3隻が餌食となった。

 残り1隻も後部副砲のショックカノンの1撃で撃沈した。

 だが敵艦爆発の影響で空洞構造の一部が崩れてしまった。Wunderが通れなくなったのではないが、重力下である為敵艦の残骸が惑星表面に落下し、爆発。空洞の崩壊を引き起こしているのだ。

 

 だが、この時では気付いていないがそれがよくなかったのだ。

 

 

 

「後方より、アンノウンターゲット現る。艦艇ではない、さらに増加中!」

 

「艦艇ではない? 見せて」

 

 ハルナがレーダ隻のコンソールに体を寄せて確認するが、タグに「UnknownTarget」と表示されている。未確認、そもそもの識別が出来なかったようだ。

 

「リク、後ろは?」

 

「なんか気持ち悪いのがいる。図鑑で見たクラゲみたいだ。……というか追いついてきてるぞ! かなり速い!」

 

 異星人は見たが異星生物は見た事が無い。その上初めて見た異星生物がまさかのクラゲの様な見た目だったため、咄嗟に「気持ち悪い」と感じてしまう。

 だがそんな事意に介さず異星生物はWunderに追いつき、艦体に張り付き始めた。

 

「アンノウンターゲット接触! まだ来ます!」

 

「人力では剥がせなさそうか。アナライザー、そもそもあれは生物なの?」

 

『接触シタターゲットカラ、生体反応ヲ感知。マタ、破損個所ヨリ個体ガ侵入シテイマス』

 

「何処からか分かるか?」

 

『現在マデノ攻撃ハ、全テ最外殻部デアル第1装甲板ノ破損ノミ防ガレテイマス。恐ラク第1装甲板ノ破損個所カラノ侵入デス』

 

「第一装甲板って、コイル部じゃないか。わざわざそこから入るよりほかのハッチを抉じ開ければいいじゃないか。何か理由が……」

 

 奇妙な宇宙クラゲを気持ち悪いと言いながら注意を向けるリクは、何故第1装甲板の破損部から侵入したのか考えていた。アレが生物なら自律的に、もしくはある程度の群れで統率を保ちながら行動を行う。ならあの生物はWunderを餌か何かと捉えてきたのだろう。

 もしWunderの装甲と言った金属を餌とするなら、接触した段階でダメコンの制御にかかりきりになっていただろう。溶かされたりでもしたらお終いだ。

 

 ならエネルギーを求めていたらどうか。

 

 

 だがエネルギーと言う単語に辿り着いた時には、もう状況は良くない方向に動き始めていた。

 

「波動防壁出力低下! 展開時間残り数秒!」

 

「遅かったかッ! 真田さん、あのクラゲ擬きマズいです!」

 

「ああ、エネルギー吸収性を持つ宇宙生物の様だ。艦内のエネルギーを餌にしている。古代、このままでは船がマズいぞ」

 

「エネルギーならこうします。艦首方向にカミナリサマ発射。3秒後に起爆、全艦耐EMモードに切り替える。電磁パルスをやつらに過剰供給させて、駆除します。博士!」

 

「耐EMモード用意。対ショック対閃光防御。撃ってみて?」

 

「南部、カミナリサマを艦首方向に」

 

「VLS1番、4から6番発射管開け。撃てぇ!」

 

 南部の指示で残ったVLSを艦首方向に発射。耐EMモードで機器を守ったWunderが電子の嵐に突っ込むが、それは宇宙クラゲの腹を多少満たしたくらいにしかならなかった。

 

「ダメかっ……!」

 

『対象生物ノエネルギー反応増大。全個体ノ貯蓄可能エネルギー限界ヲ満タスノニ必要ナエネルギー量ハ、推定デカミナリサマ20発』

 

「多すぎる!」

 

 いくらなんでもこんな量は増産していない。クラスターミサイル自体複雑な構造をしていて、さらに積み込んでいるのはEMP発生装置総数100以上。これで手間がかからないわけがない。従って本格的な量産がまだ出来ないのだ。

 

「波動エネルギー流出50%!」

 

「アンノウンターゲットが敵艦と接触。敵艦降下中!」

 

 全周スクリーンの隅。右に横倒しとなりながら進むWunderの頭上に敵駆逐艦が航行している。だが、その表面には夥しい数の宇宙クラゲが貼り付き徐々にではあるが高度が低下している。撃退の為に陽電子ビームを発射したようだが、それすら取り込まれ逆にやつらが吸収したエネルギーを噴射。砲塔の1つを吹っ飛ばした。

 

「島、増速!」

 

「分かってる!」

 

 巻き添えを食う訳にもいかずさらに増速をかける。ギリギリすり抜けた後方で敵駆逐艦が着底しそのまま爆沈した。200mに近い艦体が真後ろで爆発を起こし、古代はさらに危機感を募らせる。

 惑星外に逃げるか? 否、外に出たらあの決戦兵器に狙い撃ちにされる。

 取り除く? 否、取り除く術から模索しなければならない。間に合わずエネルギーを吸いつくされる。

 

 

 

 

 

「全艦、ワープ準備に入れ!」

 

 考えた末に見つけたのが、ワープだった。

 

「惑星上でですか?! 無茶苦茶だ!」

 

「古代、当ても無くワープするのは危険すぎる。ワープ先に物体があった場合、Wunderが大損害を受けるぞ!」

 

 ワープする際はワープ先の空間を解析して、出口に何もない事や重力分布を計測して空間的にも安定した宙域に出る事が大前提となっている。もしも出口に何かあった場合それに突っ込む形でワープアウトする事となる為、本来ワープ航法を行う場合は時間をかけて準備する必要があるのだ。

 

「それでもワープすべきと考えます。このまま外に出ればさっきの兵器で狙い撃ちにされます。やるべきです!」

 

「……古代君、位置くらいなら一つだけ当てがある」

 

「当てですか?」

 

「障害物が怖いなら、本当に何もない宙域に出ればいい。宇宙大規模構造の空白地帯、ボイド空間だ。そこなら、出口の心配をせずにワープは出来るかもしれない。現宙域から一番近い所は?」

 

「検索します。……ありました。ここから40光年先に、ボイド空間があります。小規模の銀河フィラメントが枝分かれした部分ですが、確かにあります」

 

 何かある宙域に出て木っ端みじんになるくらいなら、何もない所を選んでワープすればいい。宇宙には銀河や恒星系が満遍なく散らばっているのではなく、ダークマターの分布の偏りが原因で偏っている。その偏りを一角ではなく宇宙全域にまで広げて見てみるとまるでニューロンや網目のような構造をしている。その網目構造の宇宙の大部分を占めている何もない空間。それがボイド空間だ。

 

「そこにワープ先を設定すればいいと思う。戻れる範囲内だし、一時避難だ。これならワープしても良いと思うよ、古代くん」

 

「睦月さん……」

 

「アンノウンが生物である以上、ワープの次元共振で振り切れる可能性はあります」

 

 森も古代の決断を支持する。

 

「本当に何もない宙域に出るなら、ワープ先の心配はそこまでいらないか。ここは、賭けてみよう。全艦、ワープ準備!」

 

 真田も了承し、波動エンジンが雄叫びを上げ始める。

 エネルギーが吸われ続けている現状ではそこまで時間はかけられない。何時もよりも迅速に準備が進められる。

 

「ワープ先座標を確保、ボイド空間国連宇宙軍観測ナンバー45。座標固定」

 

「確認。座標軸を固定」

 

「両舷波動エンジン最大出力。ワープに必要なエネルギー保持限界まで、あと30秒!」

 

 両舷の機関室内部にスパークが迸り、思わず制御室に全員退避する。エネルギー流出が酷くなり始めている環境下でも、諦めが悪いかのようにエンジンは更に回転数を上げる。

 

「あと10秒!」

 

「……ワープ!!」

 

 島が操縦桿を思い切り押し込み、Wunderはワームホールにその艦体を突っ込んだ。艦体に響く激烈な次元共振で大型の宇宙クラゲが剥がれ落ち、それを皮切りにほとんどの宇宙クラゲが引き剥がされていく。極彩色の超空間を全力で疾走し、Wunderはボイド空間へと向かった。

 

 

 

 ______

 

 

 

 

「惑星表面に強力な重力干渉波を検知! テロン艦、空間跳躍を行った模様!」

 

 得物に逃げられるという失態と屈辱と憤怒に溢れるダガームは怒りに震えて唸りを上げていた。大帝から命じられた獲物である「神殺しの船」。その力はガトランティスが望む未来の為に使われるべきであった。それが手の届かぬ場所へと飛び去ってしまった。

 

 思わず部下を殴りつける。それ以外の発散方法が思いつかなかったのだ。殴りつけても結果は変わらない。どうにもならず、ダガームは声を上げた。

 

 

「怒髪衝天ンンンッ‼‼」

 

 


 

 

 ボイド空間へのワープ。今までの航海で起こり得なかった緊急事態のワープであるが、それでも正常にワープアウトした。

 

「ボイド空間……じゃない」

 

 だが明らかに異常だという事は、目を見開いた真田の口から洩れた言葉で皆が認識した。

 

「何処なんだよココ!? おい林! 座標設定ミスってないよな?」

 

「ミスってませんって! 何もない空間の筈なんですよ!?」

 

「皆落ち着け、状況を確認。周囲に艦艇はいるか?」

 

「レーダー、確認できない。何も映りません」

 

「現在位置を特定!」

 

「それが……恒星を観測できません」

 

「1つもか?」

 

「本当です。1つもです……」

 

「睦月さん、暁さん。周辺宙域に何らかの異常が無いか確認できますか?」

 

「……あんまり期待はしないでね。そもそも重力振どころか、揺らぎの1つも無いんだから」

 

「まあとにかく、何かあったら言うよ」

 

「それでもお願いします」

 

 既にコンソールのキーを叩き観測機器を動かしているハルナが、その姿に似合わず自信なさげに言う。その傍らでコンソールを叩き観測を続けるリクの表情も険しい。「出来ます」といって親指を立てていた2人がこうも険しい顔をする、事態の深刻さを物語るにはこれ位で十分だろう。

 

『警告。メインフレームガ、外部カラノ介入ヲ受ケテイマス』

 

「せき止められる? うわぁっととっ!」

 

 艦体がぐらりと傾き、甲高い鳴き声のような音が響き渡る。だがノイズが混ざり途切れ途切れに聞こえてくる。外部からの介入に対してミサトが制御を守ろうとしているのだろう。

 

(ミサトさん! 聞こえていたら今は制御を手放して下さい!)

 

(どうして?! 攻撃かもしれないのよ?!)

 

(いいから手放して下さい! ミサトさん潰れますよ!)

 

(クッ……!!)

 

 ミサトに向けて全力で意思を飛ばす。抗ってくれているのは助かるけど、それで如何にか出来る様な物とも思えない。ここは一回手放してもらう事にした。

 

「Wunder……正常に戻りました」

 

「何だったんだ……今の、まるで生きてるようだ。島、まずは動こう。ここが何なのか調査して手掛かりを見つける必要がある」

 

「分かった。って、舵が動かない……!」

 

 操艦桿がまるで岩のように固くなり微動だにしない。島がどれだけ力を込めても動かず、それどころか勝手にWunderが動き始めた。

 

「動いているぞ!?」

 

「山崎さん機関止めてください。多分無理ですが一応」

 

「分かりました。機関停止、機関停止」

 リクの提案で波動エンジンを止める指示が出された。その数分後、徳川機関長のお手上げ状態の声が戦闘艦橋に響いた。

 

『ダメじゃ! やっとるがサッパリ言う事聞いてくれん!』

 

「ああもうこれ確定かな……メインフレームを握られちゃってるので今すぐ取り返すのは無理です。アナライザー何か自分に異変はある?」

 

『緊急自己診断ノ結果、私ニ軽度ノ動揺ガ確認サレマシタ。尚、ソノ他特筆スベキ異常ハ見受ケラレマセン』

 

「アナライザーはサブフレームだからまあ無事か、それでメインフレームがダメ。……FCSは? 撃てますか?」

 

「いけます。発射まで持っていけます」

 

「一応構えててください、何が来ても迎撃できるように」

 

 何者かに操られたWunderは主砲副砲VLSを立ち上げ、万全の構えでその誘導に乗った。何も映らないレーダーの音が戦闘艦橋に響き、全周スクリーンに雲海が映り始める。海を裂くかのように雲海を裂き、潜っていく。全周スクリーンも薄暗くなり不可視波長による映像に切り替えられる。

 

「レーダーに感。前方に巨大構造物」

 

「ああもう驚かないぞ……」

 

 夢か現実か分からなくなりそうになり、リクは取り敢えず頬を引っ張ってみるが痛い。どうやらこれは現実の様だ。横でハルナが不思議そうに見ているが、平然を保つためにも軽く引っ張ってみる。

 

「いひゃい」

 

「どうやら現実みたいだ、本当にここ何処だよ」

 

「……減速しだした」

 

「どうやら、ここが終着点らしい」

 

 巨大構造物をぐるりと回りこむように旋回し、徐々に減速していく。姿勢制御用スラスターも小刻みに吹かしながら速度を落としていき、最後に思い切り前方に向けて吹かすと、Wunderは巨大構造物のすぐそばで停止した。

 

「……止まりました」

 

「操艦は?」

 

「まだ動きません。立体式もダメです」

 

「……現状報告と作戦会議を。一先ず、艦長室へ」

 

 沖田艦長の意見も聞きたい。それより今はどうしようもないと判断した古代は真田と新見と2人を連れて艦長室に向かった。

 


 

 

 

「閉ざされたボイド空間か」

 

「あくまでも仮説です。本来、このような空間の存在はあり得ません。あり得ないのですが……」

 

「我々は現実としてここにいる」

 

「……確認された構造物は、明らかに人為的に生み出された物です。艦の制御を乗っ取られた事も加えると、外部からの何らかの意思が介在していると見て、間違いないかと」

 

「外部からの意思か。睦月君、Wunderから発せられた鳴き声のような音だが、心当たりはあるかね?」

 

「……AAAWunderです。まだ確認が取れませんが、葛城艦長がその介入に対し対抗したからかもしれません」

 

 葛城艦長と言う単語を聞くなり、ハルナがその資料を沖田艦長に手渡す。氏名とハルナの記憶から書き出した外見、反NERV組織WILLEについても書き込まれている。さらにまだ記録上でしか存在を確認していない「レイ」と言う人物についても人相と氏名が書き込まれている。

 

「報告にあった人物だね。旧AAAWunder初代艦長葛城ミサト、170年以上前にAAAWunderを運用した組織の1人。現在彼女と話をできるのが暁君だけ。そして葛城艦長がAAAWunderであり逆でもある、かね?」

 

「はい。バレラスの時点で再起動したAAAWunderは、バレラスと今回のガトランティスとの遭遇時に私達を助けてくれました。以前にコンタクトを受けた時ミサトさんは、何かあったら動くとおっしゃっていました。その「何か」が今回の自立稼動のキッカケだったかと」

 

「……戦術長(情報長)、意見具申。あっ」

 

 タイミングが被ってしまったが、古代と新見はどうやら同じことを考えていた。それを伝えると、沖田艦長は熟考した上で1つ命令を出した。

 

 


 

 

「うわぁ、コイツを出す事になるとは……」

 

 複雑そうな笑みを浮かべながら榎本は右舷第3格納庫で艦載艇の準備を進めていた。

 キ8型試作宙艇、通称「こうのとり」。嘗て古代がメ号作戦参加時に火星で使用した機体で、旧贖罪計画の遺産だ。贖罪計画の再始動、その発端となるWunder内での反乱が成功した時に備えて用意されたこの機体は、奇しくも本来の運用目的と同じ惑星探査に使用されようとしていた。

 陸海空宇宙と行動範囲を選ばない機体性能と、探査機ではなく探査艇らしく複数人を乗せる事も可能な搭乗部。今回の任務にこれ以上の適任はいないだろう。

 

「沢村君が操縦するの?」

 

「きっちり運びますよ。というか暁さん、旦那さんは?」

 

「沢村」

 

「……すみません」

 

 ふざけて旦那さんと呼ぶ沢村を古代が諫めるが、余裕の大きいハルナが軽く笑って受け流してしまう。

 

「旦那様はお留守番かな。行く気満々だったけど、真田さんに止められたのよ」

 

 

 

(行きたいです)

 

(ダメだ。腕も治っていないのに船外活動するつもりか? やっておかなければならない事もあるから、君はこっちだ)

 

(そんなぁ……ハルナあと任せた)

 

 

 

「って」

 

「そういえば意識戻った直後で艦橋に行ってましたね睦月さん」

 

 ガミラス星突入作戦で大怪我の状態で戦闘艦橋に上がったリクを思い出して、古代は思わず苦笑した。遅れてやって来た勇者感があって頼もしく見えるが、絶対安静なのに動いていたからあまり褒められるべき事ではない。

 

「あの時は佐渡先生も諦めたから良かったけど、真田さんだからね。リクも振り切れないよ」

 

「遅れましたぁ!」

 

「遅い!」

 

「すみません~!」

 

 集合時間にギリギリ間に合わなかった桐生が無重力の第三格納庫に飛び込んできて、勢い余って止まらなくなってしまった。通路の手すりにぶつかり、偶々方向がこうのとりの元へと修正されたがクルクルと回りながらこうのとりへと向かう。

 

 偶々進行方向にハルナがいたが、ぶつからずにハルナに上手くキャッチされた。

 

「おっと……美影ちゃん大丈夫?」

 

「暁さん! 助かりま……えっ、何であんたがいんのよ!?」

 

「あんた? ん?」

 

 桐生の視線が明らかに自分の後ろに向いていると感じたハルナが向いた先には、露骨に嫌そうな顔をした沢村がいた。

 

「お前さぁ、何百合イチャイチャしてんだよ任務ヒィッ!!」

 

 

 思わず沢村が言葉を失い小さく悲鳴を上げる。聞き捨てならない部分があったようで、ハルナは少しだけ沢村に対して圧をかけた。が、全員にも影響が出てしまったようで、古代も新見も相原も桐生も思わず冷や汗をかいた。肝心のハルナはと言うと、いつもの笑顔とは違い真顔をしていた

 もしもオーラが見えるなら、今のハルナの周りには危険なオーラが漏れ出し、そのまま沢村に向いて揺れているだろう。

 

「何か言った?」

 

(圧かけちゃえ、圧。不調にさせないレベルで)

 

 全力で圧をかければ有無を言わせず即失神させられるレベルなのは、幸か不幸か極一部の物しか知らない。

 

 

 ______

 

 

 

『格納庫ハッチ開け、アーム稼働始め!』

 

 電磁アームに掴まれたこうのとりがゆっくりと艦外に移動し、こうのとりを離した。

 

「こ、怖かったぁ……すみませんでした、暁さん」

 

「私だって怒る時は怒るよ。ただあんまり経験ないだけ」

 

 かなり久しぶりに起こったなと自覚しつつ自身を冷ましていたハルナは、まだまだ不機嫌状態だ。沢村が涙目になって誤ってきているので流石に許したが、「百合」と言われるのは無視できない。ただ「やりすぎた」とハルナが自覚したように、皆一様に冷や汗をかき続けている。

 

「それにしても、生きた心地がしませんでした、ですよね古代さん」

 

「ああ、怖かった。威嚇みたいものですか?」

 

「威嚇というより圧をかけてるだけよ。はい、この話はこれでお終い」

 

 これ以上不機嫌を続行すると全員が心を病んでしまいそうだ。気持ちを切り替えて任務を続行する。古代に新見、相原、沢村、桐生、そしてハルナにアナライザー。これが今回の探査任務のメンバーだ。Wunderからの観測の結果では、現在停泊中の惑星は海洋惑星ではとの予測が立っている。それも文明の痕跡アリのおまけつき。

 

 海面すれすれになるまで降下を続け、緩やかに着水、そのまま主翼を折りたたんで潜航態勢に入る。そのまま潜水。暗い青をした液体はどこまでも広がり続けるが、生物が見当たらない事に不気味さを覚える。海は本来生命の源。生物の起源が生まれるのに必要な場所だ。

 

「深度50、55、60」

 

《■■■■■■■■■■■■■■》

 

「歌……? うわっ!!」

 

 潜航中のこうのとりが急に潜航速度を速め、艇内が揺れに襲われた。

 

「急制動!」

 

「やってますが効きません!」

 

「……総員対衝撃姿勢!」

 

 こうのとりなら多少の衝撃くらいなら物ともしない……内部を除けば。怪我をしてしまえば機体が無事でも意味が無いため、古代は全員に頭を抱えて姿勢を低くするように指示する。

 

「沢村! 急制動もっとかけろ!」

 

「やってますって! クッソォッ!!」

 

 沢村の急制動も効かず、こうのとりはさらに深度を下げていく。深く深く、光も届かない深海へ潜っていく。だがその底にハルナは日の光が見えた。

 

「……っ! 私のタイミングで急制動して!」

 

「えええっ!?」

 

「いいからやる! ……今!」

 ギリギリで制動をかけて水底にある陽の光に突っ込んだ瞬間、次に見た景色は青空だった。海もある。雲もある。建物も建っている、それも無事な状態で。だが海が血の様に赤い。

 

「操縦桿上げて制動! あと踏ん張って!」

 

 景色に見覚えは無いがここは異常な星だと理解したハルナは考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ここは、昔の人類の町かもしれない)




ガトランティスって、軍隊と言うよりも海賊。海賊と言うよりも山賊なんです。
まるで、「野蛮と言う文字が体を持って暴れ出した」と言うイメージがこれでもかと言うほどよく似合うガトランティスは、やっぱり野蛮であるべき。

という事で、あの火焔直撃砲の欠点を強引な方法で解決してみました。
3連装火焔直撃砲ってかっこいいけど頭悪悪、だけどMap攻撃みたいに広範囲をこんがり焼くことが出来る鬼畜兵器なんです。
やっぱりWunderに対抗しようと思ったらこれ位の強化は欲しいです。

それでは次のお話で
(@^^)/~~~


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閉ざされた静止世界

買ったイヤホンが雪塗れになり調子悪くなりました。修理に出さないと……

という事で次のお話です。


「こうのとり如何した!? 状況知らせ! 相原さん!」

 

こうのとりからの全てのステータスの受信が途切れた。再接続を試しても一向に繋がること無く、コンソールには「Disconnected」の文字が表示され続けている。

 

「ダメです。こうのとりとの通信が途絶、再接続、不能です」

 

市川が接続作業を止めそう報告する。真田に連れられて艦橋で作業をしていたリクは、何時も感じていたハルナとの繋がりを失ったような感覚になった。それでも頬を軽く叩き奮い立たせた。

 

(ちゃんとしろ、今はやれることをやろう)

 

「真田さん、続けましょう。ちゃんと帰ってきますから」

 

「……ああ。サンプルは出揃っている。そう時間はかからないだろう」

 

「なら早い事やってしまいましょう。いつ帰って来ても良いように」

 

「惑星表面に異常確発生!!」

 

更に続く報告にリクは思わず下を向いた。ついさっきまで暗い青で満たされていた惑星表面に青いヒビ割れが走り、やがて黒くなる。一切の観測波が弾かれ、Wunderは惑星に対する観測手段を殆ど失った。

 

「可視光で観測! 表面でいいから全容把握を!」

 

「了解!」

 

(マズいぞ……完全に誰かの意思で発生してる)

 

これでWunderとこうのとりは完全に隔絶された。現状ではどうしようもなく、艦橋の面々が狼狽え始める。その中でただ一人、森はただ祈っていた。

 

「森さん、大丈夫ですか?」

 

「睦月さん……不安です」

 

「知ってます。ちゃんと戻って来ますから、大丈夫です。兎に角今出来る事をしましょう。結果が出なくてもやるだけやりましょう」

 

ただ「戻って来る」と信じる事しか出来ない自分がもどかしい。それでも「大丈夫」と唱え言葉に意味を持たせていく。

 

「睦月さんは、不安じゃないんですか?」

 

「不安です。なんか、こう、この辺りがぽっかり穴が開いた感じです。あの半年に比べればずっと良い方ですが、やっぱり堪えます」

 

右手を胸に当ててその感覚を誤魔化そうとするが消えない。あの半年間リクは、一向に目覚めないハルナの横で療養を続けていた。気付いた時にはコロッと死んでしまうかもしれないという不安と恐怖で、4年前は胸が一杯だった。

それでも……

 

「森さん。それでも、想ってあげてください」

 

こう言った。

 

「……はい」

 

たった一言、弱くではあるが意思が乗った。

 

(……兎に角、出来る事をしよう)

 

何とか切り替えたリクと真田は、無数の重力データを基にしてシステムを組み立て始めた。

 

 


 

 

 

「何なんですか……ここ」

 

「分からないけど、地球言語がある。それも日本語だしビルもある。新見さん、地形の方は?」

 

「日本の何処かだと思うけど、何処とも地形が合わないわ。でも方位も観測できたから、それを含めて一番近い地形が……これね」

 

新見が表示させた画像には、極東管区を構成する日本列島の一角が映されていた。富士宇宙港を有する旧東京エリア。その中のとある地区、芦ノ湖を有する大規模基地が存在していた地域だ。

 

「極東管区旧東京、その地形に最も近い。でも細かい地形が合わない。海面上昇でも起こったみたいに海岸線が後退している。それに、何か大規模な災害が起きたみたいで街全体のダメージが酷いわ」

 

「旧東京ではないって事ですか?」

 

「一番近いのがそれってだけで旧東京ではない。それに海が真っ赤だから、普通の地球ではない。何で赤いのかが分からないけど……まるで血の海ね」

 

真っ赤な海の地球なんて()()知らない。だがハルナだけは真っ赤な海に恐怖を抱き、直感的に触れてはいけない気がしていた。肌がピリピリして、「絶対にヤバい」と体が警告してくる。

 

「あの~降りてみましょうよ。下に」

 

細々とした議論に沢村が切り込みを入れ、その一言に一同が顔を見合わせて納得の表情を浮かべた。その中で険しい顔をしていたハルナに古代が念の為目配せをする。

 

「海だけは嫌な感じがするから、陸なら大丈夫だと思う」

 

ハルナもそれに譲歩を示し、沢村に陸に降りる様に伝える。

 

「沢村、地表面に降下。垂直着陸で道路の舗装面に降りて欲しい」

 

「了解!」

 

高度を緩やかに下げて海岸線を越えて陸地へ。ひび割れた道路を発見すると、その場で沢村はこうのとりをホバリングさせて、地上走行用の6輪を展開すると主翼を折りたたんで慎重に着陸した。そのまま道なりにこうのとりは進み始めた。

 

『窒素78%、酸素20.9%、二酸化炭素0.03%。大気圧、1024hPa。大戦前ノ地球環境ト何ラ変ワリナイ環境デス。ヘルメットナシデノ活動モ可能デス』

 

「出れる、か。古代くん、取り敢えず……」

 

「一先ずこうのとりで行ける所まで移動しましょう。新見さん、暁さん、桐生さんは周辺の映像の記録を。相原は通信等の電波が飛んでいないか確認。アナライザーはこうのとりのセンサーで海の状況を遠隔で出来るだけ調べてくれ」

 

「「「「『了解』」」」」

 

船外活動用のバックパックから記録用カメラを取り出し、ハルナは外の景色に向けた。森林が丸ごと抉られたかのようになぎ倒されていて、建物は倒壊している。それどころか地面の一角が丸ごと消えたかのように大穴が開いている。所々道路も途切れていて、そのたびにこうのとりを垂直に上昇させて乗り越えていく。

 

「戦術長、何なんですかココ?」

 

「俺も知りたいとこだ。少なくとも、別の22世紀の街並みじゃないな。皆、少しでも気になる事があったら教えてくれ」

 

「それじゃあ1つ。22世紀じゃないって事は、少なくとも21世紀を生きた人の記憶の中にある街じゃないかな」

 

「21世紀ですか? いやいやそれじゃあその人100歳超えの超じいさんじゃないすか!」

 

操縦桿を握る沢村が驚き声を上げる。一応ハルナの中には一人だけ心当たりがあったのだが、それをここで言っていい事実かと悩んでいた。

 

「あの、私も1つ……」

 

おずおずと桐生も手を挙げる。

 

「暁さんの仰った事、多分あってます。誰なのかは分かりませんが……」

 

「どういう事?」

 

「えっと、これ見てください」

 

そういって桐生がモニターに見せたのは1隻の船だった。明るい灰色で凹凸が少なくのっぺりとしている。武装は小口径の単装砲を搭載している。

 

「この船は?」

 

「これ、旧海上自衛隊の護衛艦なんです。それも21世紀に日本が運用していた金剛型護衛艦で、当時は乗せているシステムから名前を取ってイージス艦と呼ばれてました。あとは……」

 

更に表示したのは、護衛艦とはとても呼べない程巨大な戦艦だ。そびえ立つ艦橋と3連装主砲らしきものを甲板上に備えた勇ましい戦艦がモニター上に映されていた。そして見慣れない旗を抱え艦籍番号が消されていた。

 

「ちょっと信じられなかったんですが、大和がいたんです。近代化改装を受けたみたいで形がかなり変わってますが、あれは本来太平洋戦争で沈没しているはずの大和型戦艦です。私達の歴史とは大きく異なる事実がある以上、ここは別の世界の21世紀であるかなと」

 

「別世界の21世紀……アナライザー、海の方はどうだ?」

 

『観測ノ結果、海中ニ生体反応ハアリマセン。何モデス。デスガ、多数ノ軍艦ヲ確認シマシタ。スクリーンニ投影シマス』

 

アナライザーの操作で確認された艦艇が順に表示された。桐生の見つけた大和と金剛型護衛艦。空母にタンカーにその他様々な艦艇が赤い海の上に浮かんでいた。どの艦も艦籍番号を消され旗を掲げている。だが右側面艦首付近に離反する前の組織名が書かれていた。1つは「UN」国際連合。もう1つは「JAPAN STRATEGY SELF DEFENSE FORCE 」、直訳して戦略自衛隊だ。勿論こと、そんな名称の組織は過去に存在していない。自衛隊は陸海空そして航宙が確かに存在していたが、戦略自衛隊なる組織は記録にない。

 

「うん?」

 

その旗に何か文字が書かれている。それを目ざとく見つけたハルナは映像を拡大して、解像度をギリギリまで上げてみた。大きな筆で殴り書きしたかのような字体でアルファベット5文字。その単語には見覚えがあった。

 

「W、I、L、L、E……WILLEだ」

 

「WILLEって……、あの時のですか?」

 

あの時戦闘艦橋に居合わせた相原と新見はすぐにピンと来たが、それ以外の面々は何のことだかサッパリの顔をしていた。見かねたハルナは事情を話す事にした。

 

「えっとね……WILLEって言うのは、大昔にAAAWunderを運用していた組織の名前なの。Wunderは21世紀の時点で別の世界線の地球で運用されていて沈没し、とある現象に巻き込まれてこっちの世界線にやって来た。それを改修して生み出されたのが、私達が今運用しているWunderなの」

 

「……マジ話ですよね?」

 

「マジだよ、黙っててごめん。でもこれうちの極秘案件だから他言無用でお願いね」

 

「ええと、Wunderが元AAAWunderで21世紀生まれで、え? じゃあ1、2、3、いや100……170年? え、ちょ……えぇ?」

 

「うん、ざっと170年以上なの。1回吹っ飛んでるけど跡形もなくって訳じゃないから、普通に100歳超えてるのよ」

 

艦齢170年と言う事実に語彙力を失う沢村を、ハルナがなだめる様に補足する。が、正直言ってハルナも把握したときに驚いている。ミサトが言うにはAAAWunderは一回自沈で吹っ飛んでいる。だがアンノウンドライブ(アダムス組織)がそのまま残った事を考えると「大破」として考える事も出来てしまう。それを踏まえてあの時に「Restart」と表示されたから「廃艦されてない」とこじつければ実質100歳超えの超ご長寿神話レベルの戦艦だ。

 

「それと、AAAWunderには人の魂が宿っているの。魂の宿る船とかオカルトみたいだけど、バレラスで私たちを救ってくれたのはその宿っている人物、葛城ミサトさんなの。その人が170年前にAAAWunderを運用していた組織のトップなの」

 

「暁さん、もう俺考えるのやめていいすか?」

 

「つまり……AAAWunderは生きて向こうからこっちの世界にやって来て、暁さん達の修復を受けて、イスカンダルまで旅をした、ですか?」

 

理解に苦しむ面々の中、内容をかみ砕いた古代が皆に聞かせる形でハルナに確認をとった。

 

「古代くん正解。みんなも今はそういう認識でお願いね」

 

「ええっと、その……分かりました」

 

理解不能スペックのハルナとリクも意図していた事ではなかった。つまり理解しようとしても理解できない事だと結論付けた沢村は諦めた。そうして操縦桿をもう一度握りこうのとりを進めていく。

 

 

 


 

 

 

数時間近く経った。停車できそうな所にこうのとりを停めて、一同は携帯食料を食べていた。味気が無いが栄養を補給できるクラッカーを無言で食べ、片付ける。こうのとりの稼働時間も無限ではない。どこかで必ずガタが出る。脱出の手がかりも何もない状況下、皆少しずつ不安となっていた。

 

(不安……になるよね。やっぱり)

 

手に取るように分かる自分の心と向き合いながら、ハルナは1人でボンヤリと空を見上げていた。皆にも少しずつ焦りが生まれてきたのが分かる。メンタルケアも必要かと思い行動を起こそうとすると、今まで黙り込んでいた通信機器がノイズを拾った。

 

「戦術長、通信波です!」

 

「何処のだ?」

 

「ガミラスのメーデーです。方位は、あの巨大な穴の方向です」

 

誰かがいる。無音すぎて耳が痛いほどの世界で自分たち以外の人がいる。生きているのかは怪しいが、まずはその通信を辿ってみよう。そう思うなり古代は沢村と相原に指示を出す。

 

「相原、その通信波の方向を随時報告。沢村はその方向に従って移動を開始」

 

「「了解」」

 

こうのとりを機体底部のスラスターで浮き上がらせ、主翼を開いて目標地点に飛び去っていく。陸を走るよりもずっと速く、こうのとりはあっという間にその巨大な縦穴の開口部に降り立った。

ここからでは穴の底が見えない。古代達はこうのとりから降りて穴を覗き見る事とした。

 

デジタル双眼鏡を構え慎重に乗り出して確認をすると、穴の底には建造物が見えた。いや、建造物だったものかもしれない。頂点が大きく抉れたピラミッドの様な物、瓦礫が散乱した緑地跡、湖に丸ごと浸かったビル。そして、真っ赤な槍に貫かれた紫の巨人。

 

「あれ、なんかType-nullに似てるわね」

 

「多分エヴァ……です。ミサトさん曰く初号機らしいですけど、だいぶ状況がおかしいです」

 

ミサトから聞かされていたエヴァンゲリオン初号機は紫色の巨人だ。だが槍に貫かれ微動だにしない。それも血の様に真っ赤で長大な槍に。人類製の物じゃないという事は一目見ただけで分かった。

真っ赤な槍から異様な雰囲気を感じ取ったハルナは目を逸らしたくなったが、その槍に貫かれている初号機が気になり何とか目を逸らさないでいた。

 

「……動くかな、あれ」

 

技術科としてあれが動くのか気になってしまい、うっかり口から零れ落ちてしまった。他の面々からすれば得体のしれない物である以上怪訝な目を集めてしまった。

 

「じょ、冗談ですよ。オリジナルエヴァなのでおいそれと触れませんって」

 

「暁さん、後で洗いざらい話してくださいね? 技術科っていつから秘密主義になったんですか?」

 

「いつからでしょうね。でも話せる事は話しますよちゃんと。ひとまず、ここなんですよね?」

 

「確かにこの真下です。方向的には、あの崩壊した建物です」

 

相原が指す先には、頂点が何かの攻撃で溶けた建造物がある攻撃を受ける前はピラミッドのような形状だったのだろう。だが今では無残にも半分以上が溶け固まり、火山の火口のように大穴を作っている。

デジタル双眼鏡で建造物の状況を一通りを確認し終わった古代は指示を出した。

 

「こうのとりで降下、入れそうな所から入ろう」

 

 


 

 

こうのとりで降下した古代達は、メーデーの発信源である建物を見て回り始めた。瓦礫が散乱しているとはいえそれでも巨大な建造物だ。見上げてもそのてっぺんが見えない。尤も頂点がごっそり溶けてしまっている為見えないのも当然だが、それでもその高さと異様さも相まって奇妙な感覚に陥る。

 

「古代くんー! こっちこっち!」

 

ハルナに呼ばれ駆け寄ってみると、ガラスが散乱した入口があった。恐らく当時はエントランスか何かだったのだろう。

 

「ここから行けそうだよ」

 

「分かった。総員銃を携帯。アナライザー、こうのとりを頼む」

 

『了解』

 

こうのとりをアナライザーに任せ、皆銃を携帯して建物に進入する。割れたガラス片が床に散らばり踏みしめるたびに音がする。誰もいない廃墟となっているはずだが不気味なままだ。メーデーの通信波はまだ続いている。少しずつ出力が弱くなってきているが、まだ感知できている。完全に消失する前に辿り着きたいが、余りにも広い施設が捜索の足を引っ張る。

 

そもそも大きく、広く、そして地図も何もない。おまけに彼方此方が損傷している。エレベーターがあったが動くわけがない。必然的に徒歩移動となるが徒歩にも限界が出て来る。その広さにやられて皆座り込んでしまった。

 

「もうダメ……私休憩」

 

「新見さん大丈夫ですか?」

 

「デスクワークばっかりじゃ駄目ね、運動もしないと。……その割にはあなた元気よね?」

 

「まぁまだ歩けますし」

 

「3つ違うとこうなるのは残酷ね」

 

歳が大体3つしか離れていないハルナと新見の差は一目瞭然。余裕ありのハルナと壁にもたれてずり落ちる様に座り込んだ新見。そもそもの基礎体力が比べるまでもなかった。だから余裕があると言って単独行動するのは流石に危険だ。

 

「美影ちゃん、さっきまで撮ってた写真見せて」

 

「えっと、これです」

 

ハルナが気になったのは、桐生がさっきまで撮影してきた写真だ。事ある事に写真を撮っていたから列から一歩遅れがちだったが、それでも手掛かりが欲しいという理由でハルナは特に何も言わなかった。

それ以上に、あってほしい情報が無いか気になったのだ。

 

「瓦礫の写真ばっかり……まぁこれも必要なんだけどね。さて、あるかな」

 

「何を探しているんですか?」

 

「NERVのマークかな」

 

「ねるふ?」

 

新出単語がまた飛び出した事で新見が怪しい者を見る目をしてくる。「そういう目」は懲り懲りなハルナは事情を話し始めた。

 

「さっきWILLEって組織の話をしたよね? そのWILLEが壊滅させようとしていたのがNERVと言う組織で、NERVの起こした災害の様なもので地球上の生命がほとんど死滅した。ミサトさんが言ってた状況とは大分異なるけど多分、ここは大量死が起こる少し前の世界かもしれない。洋上の艦隊はそれを阻止したいWILLEが集めた戦力じゃないかな。あ、あった」

 

写真ホルダーの中に保存されていた画像を1枚表示させるとハルナはそれを全員に見えるように見せた。イチジクの葉にアルファベットのNERVの文字。林檎のようなデザインも組み込まれ、そして血の様に真っ赤だ。

 

「何て言うか、どうしてこのデザインになったのかしら」

 

「同感です。寄りにもよってイチジクの葉と林檎とか、聖書とかアダムとか好きなんでしょうか」

 

桐生が言うように写真に撃ちっているロゴにはイチジクの葉があしらわれている。聖書の創世記で、禁断の知恵の実を食べたアダムとイブが自らの裸体を隠すために使った葉。イチジクの葉、知恵の実のモデルとなった林檎。NERVにはキリストが関係していたのだろうか。

 

「この組織が、Wunderがいた世界を……全部壊したんですか」

 

「ほぼ全部だけど、実際全部かな。放射能汚染みたいな感じで死の大地になってそれが地球全体を覆ったけど、それを塞き止めた生存者集落が幾つか存在してたらしいの。それも全部、ヤマト作戦で崩壊したかもしれない」

 

全滅と言う記憶が残ったという事実に一同黙りこくるが、ここまで口に出して整理してきたハルナは確信に辿り着いた。

 

 

「ここは、第10の使徒を倒した後の世界。大量死……何回目かのインパクトの一歩手前の時間で、WILLEが初めてNERVに対し動いた時を切り取った世界。WILLEのミサトさんとしての最初の記憶なんだと思う」

 

 

 

 

_________

 

 

 

 

廊下を進むにつれて所々に血痕が増え始めてきた。Wunderの見る夢でミサトの記憶。それがこの世界を形作っていて、それを拾い上げたのがこの世界の土台を作った文明。

まるで神様の手の上にいる気分だ。そう思えたことで、もう何が起こっても驚かない自信がついてしまった。

 

……そんな自信があったのに、驚いてしまった。ドアを開けた先には、秘密基地とは不釣り合いな内装の大きなロビーがあった。夢を見せられているのかも気にしてしまったが、自分たちは確かに現実の中にいて自分たちもまた現実。これも受け入れるしかなく、仕方なく周りを調べてみる。

 

古代とハルナの目に留まったのはエレベーターらしき何か。それもスライドして閉まるタイプではなくノブが付いたドアのような形状をしている。一体何時の時代だろうか。

 

「エレベーター、だよね。鳥籠にも、ここまで古くないけど似た感じの簡易版やつあったし」

 

「でも表示は11階、フロアは4階までしかない」

 

「そもそもこの世界がおかしいから何もかもおかしいんすよ」

 

匙を投げる沢村は足元の段差に座りそのまま寝転んだ。

 

「下手に動かない方が良いかもしれないよ。時空さえ歪んでいる可能性があるから、そのまま永遠に合流できなかったりして」

 

「すいませんすいませんすいませんッ!!」

 

冗談抜きで言ったつもりだったが沢村には大真面目に聞こえてしまったようで、ものすごい勢いで謝り倒している。その様子を見ていた桐生は心底呆れたような顔を浮かべていた。

 

「暁さん、ここにもWILLEの事ありますよ」

 

「どれどれ」

 

桐生に呼ばれて皆が駆け寄り、目の前の腰辺りまでの高さのショーケースを見た。一般艤装図の様な物が4枚並べられていて、1枚は見知った姿のWunder、AAAWunderだった頃の艤装だ。残りの3枚はWunderに似ていてWunderではない戦艦、AAAWunderのような継ぎ接ぎで歪な雰囲気を持たず、1つの生き物のように無駄が無く洗練された形状をしている。その同型がなんと3隻。

 

「艦名まである。えっと、何て読むんですか?」

 

「ドイツ語……アスカちゃんいたら助かったけど、書いた事ある気がする」

 

何処で書いたか思い出そうと頭を捻るがなかなか出てこない。引っかかった引き出しを抉じ開けようとする感じになり唸り始める。

 

「桐生。ドイツ語分かったりするか?」

 

「流石に分かりませんよ……ガミラス語は分かりますけど。ん?」

 

唐突に、何処からかピアノの音が聞こえてきた。それも電子ピアノではなく弦をハンマーで叩くタイプの古いタイプだ。音の出どころはロビーの奥、人の気配は今は感じられないが、メーデーの件もありもしかしたらガミラス人の誰かがいるかもしれない。拳銃を構え慎重に移動する。

 

何かが燃える音がする。そっと階段の上段から身を乗り出すと暖炉が見える。ガミラス人が4名。男性3人女性1人。年齢はバラバラ。私服に身を包んでゆったりしているようだ。

 

(ガミラス人でしょうか?)

 

(肌青いし、多分。警戒はしていないみたいだし、この際堂々と降りてみよう。ただ銃には手を付けないで。皆いいね? それと美影ちゃん、一応ガミラス語お願い)

 

 

 

皆首を縦に振り銃をしまう。沢村も肩ひもでかけていたアサルトライフルを背に回して慎重に階段を降りていく。

 

《メーデーはあなた達ですか?》

 

桐生がガミラス語でそう呼びかけると広間で寛ぐガミラス人はぎょっとしたが、自分たちと同じ人類だと分かると警戒を解いた。

 

「アンタら、どこから?」

 

 

_______

 

 

 

 

「この辺りでザルツの部隊が展開しているなんて、聞いてなかったわよ」

 

「所属を聞かれてるんだ! 答えろザルツ人!」

 

ドレスを着た女性に聞かれても答え難かった古代達は、やや幼い金髪の男性に怒鳴られた。まるで蔑むかのような怒鳴り方にハルナは額に青筋が浮かんでしまい、その相手の前に堂々と立った。

 

「私達は、この近隣の星系での極秘の諜報活動に従事しています。ですので、所属等は機密によりお答えすることが出来ません」

 

今の所はザルツ人と認識されている、ここではこちらと相手が見ているものと異なると知ったハルナは打算込みで自分たちはザルツ人と偽った。

だが所属を言わなかったことが相手の神経を逆なでしたようで殴りかかってきた。

 

「……舐めた口利いてんじゃねぇz!」

 

「せいっ!!」

 

相手が付き出した拳に対し体を軽く右にずらして避けて、がら空きな左腕を軽く掴む。さらに相手の肘に自分の腕をひっかけて自身に飛んで来る筈だった拳を相手にお返しする。そのまま全身の力で一気に倒して鮮やかに拘束してしまった。

ビーメラの一件もあり護身術の必要性を感じたハルナは、山本に一通りの護身術を習っていた。それがこうして活きた。

 

「痛だだだだぁッ!」

 

(あ、やってしまった……)

 

力加減を間違えて相手を痛めてしまったと気づき少し力を緩める。この男は危険かもしれない。拘束を解く事は今は出来なさそうだ。

 

「力でやり合うより、まずは言葉で。約束して頂けるなら私もこの拘束を解きます」

 

「この女め……ッ!」

 

拘束を無理矢理解こうと男が藻掻くが、危険度を上げたハルナの力の前には無力だった。このまま男が諦めるまで拘束するしかないのかと思い始めた時、

 

 

 

「メルヒッ! お前いい加減にしろ!!」

 

紺色の髪の男がメルヒと呼ばれた金髪の男に怒鳴った。その場にいた全員が凍り付き、メルヒもハルナも一瞬意識がその男に向いた。

 

「大佐! こいつは!」

 

「イラついてるのは分かるが抑えろ。先に手出した方が負けって知らねぇのか!」

 

上官に一喝されたメルヒは怒りを収めるしかなく、力を抜いた。それを見たハルナはそっと拘束を解いた。それを確認した男はハルナとその後ろにいた面々に深く頭を下げた。

 

「うちの部下が迷惑をかけた。この通りだ」

 

「えっちょっと、頭上げてください! こっちもかなり強めにやっちゃったみたいで……ごめんなさい。腫れてないと良いんですが……」

 

「気にすんな。ちょっとやそっとどうってことねぇよ、アイツは」

 

頭を上げた男は親指で自身を指さしながら自己紹介をした。

 

「まずは自己紹介からさせてくれ。俺はバーガー、フォムト・バーガーだ」




いい所で終わらせることが出来ました。星巡る方舟を書くにあたって、幾つか世界の候補があったんです。火星にするか、原作通り熱帯雨林か、それともサード直前の世界か。結果サード直前の世界になりましたが、書くのには大分手間取りました。

もう色々知ってるハルナさんは技術科秘密主義の原因ですね。あれやこれや自身の事とか。

次の話は大和ホテルですね。一先ず次の話は何とか書けそうです。テスト勉強がまたやって来たので休載宣言も必要かもしれません。
……ちゃんと休む時は休むと言います、失踪だけはいけないので。


それではまた次のお話で
(@^^)/~~~


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全知と袋小路

セキスペの試験に取り掛かる事も考えると、最終章に入る前に休載に入ると思います。
でも星巡る方舟編は書き切ります。ではお楽しみください


「自己紹介からさせてくれ。俺はバーガー、フォムト・バーガーだ。そっちは?」

 

「古代進です。こっちが……」

 

「暁ハルナです」

 

「新見薫です」

 

「相原義一です」

 

「沢村翔」

 

「コダイ、アカツキ、ニイミに、アイハラと、サワムラか。んで、そっちの隠れてるのは?」

 

 一通り自己紹介が終わったと思ったバーガーは、ハルナの後ろの隠れている桐生に気が付いた。ハルナの存在感が大きく感じるためそれに隠れてしまっていたが、バーガーの目は見逃さなかった。

 

「えっと、桐生美影……です」

 

 この時だけ一瞬、バーガーの時間が止まった。脳裏に蘇る記憶に笑顔を浮かべる1人の女性がいる。少し気が強くていつもポニーテールにしていた彼女は、最期は爆炎に飲まれていった。

 

「えっと、バーガーさん?」

 

「ああすまん。えっと、キリュウだな」

 

(あれ、これなんだろ?)

 

 様子がおかしいと感じたハルナが声をかけるとバーガーはすぐに元に戻るが、僅かに動揺していた。軍人らしく平然を装うをしているが、ハルナの前には意味はなかった。それでも何か過去を抱えていると感じ取ったハルナは触れない事にした。

 

「んで、向こうの赤いドレスのがネレディア、バーレンの爺さん、そんでメルヒ。お前は謝っとけよ」

 

「……ッ」

 

 メルヒはまだ不満そうだ。2等臣民に対し一瞬の隙も突けずに制圧されてしまった事実に、自身のプライドを傷つけられたようで、真面に古代達の顔を見ようとしない。航空団としての訓練以外に多くの訓練を積み「自分は2等臣民なんかに劣らない」と自負していた自分が、こうもあっさりとやられてしまった。ショックは大きいだろう。

 

「えっと、メルヒくん……でいいかな?」

 

「何だよザルツ人」

 

「初対面で言うのも変だけどそれ止めた方が良いんじゃない? 所詮同じ人類種族だから、差別し合っても楽しくないと思うけど」

 

「うるさい」

 

 完膚なきまでにしてやられ年相応に不貞腐れるメルヒに、ハルナは小さく溜息を付いた。

 

「……まあいいや、今はいいよ。まず、身を守る為と言ってもかなり痛いことしちゃってごめん。過剰防衛は流石に良くなかった」

 

「……はあ?」

 

 自分より圧倒的に強いザルツ人が頭を下げた。メルヒの中で常識に軽くヒビが入る音がしたが、肝心の本人には聞こえなかった。

 呆気に取られていると少ししゃがれた声が聞こえた。

 

「変わっとるな、アンタ」

 

「えっと、バーレンさん?」

 

 バーレンは頷くとキャスケット帽を取りメルヒのもとに寄った。

 

「儂らが言うのも違うんじゃが、臣民を等級で分けられたからかガミラスとザルツの間で雰囲気が良くなかったりするんじゃ、昔は無かったんじゃが。まるでアンタ、儂と同じ時代の人みたいじゃ」

 

「……なんかグサってきます。私まだ24ですよ」

 

(嘘です60年くらい前に生まれました)

 

 24の筈なのに大昔の人みたいに言われるのは流石にグサっと来る。バーレンのいう事は外れているようで実は当たっているのはハルナも顔に出てしまい同時に冷や汗をかいた。

 

「……悪かったよ」

 

「え?」

 

「だ・か・ら! 悪かったって言っている!!」

 

 突然謝られたハルナはポカンとした。

 

「お前さぁもう少し言い方ってのが」

 

「今はいいんです」

 

「あ?」

 

 バーガーがメルヒに注意をしようと思ったら古代に止められた。古代は分かり切った顔でハルナを見ていたが、それを見て「大丈夫」と理解したバーガーは一先ず見守る事にした。

 

「……アンタら、俺たちが憎くないのか。同族みたいに接しやがって、変な感じだ」

 

「どっちでもないって感じ。もしも貴方が私の大切な物や大事な人を奪っていったら、多分許せないし憎むと思う。でも、何も奪われていないのに、何の理由もないのに憎むのは違うと思う。それに、2等とか1等で区別されているのはそういう政治上の作戦だと思うけど、だから差別とかするのは鵜呑みにも程があると思う」

 

「……アンタみたいなのは、会った事ない」

 

「そりゃいないよこんな変わった人、ねえ古代くん、私の可笑しい所何でもいいからあげてって」

 

 急に話題を振られて取り敢えず頭を捻る古代には、今までの越権ギリギリの行動が山のように浮かんでいた。

 

「えっと、技術科なのに格闘も強くて、戦闘指揮も取れて、メンタルケアも出来て、政治も出来る。あとは……睦月さんがいればほぼ無敵で誰も太刀打ちできない」

 

「いや待てコダイ、コイツ1人軍隊かよ。マジでうちに欲しいくらいだ」

 

 技術科員なのに余りにも盛り過ぎなスペックにバーガーが待ったを入れるが、「1人軍隊」は強ち間違ってはいない。何でも出来る様になってきたハルナは、正直言って有能過ぎるのだ。戦後も引く手数多だろう。

 

「私はどこにもいきませんよ。彼氏が待ってるので」

 

「……ああダメだこりゃ。アカツキは小説の中から出て来たんじゃねえのか? スペック山盛りにした感じのやつで」

 

「正真正銘現実の存在です」

 

「いや、本当に小説から出て来てると思う」

 

「古代く~ん?」

 

 雰囲気を察してワザと調子に乗り始めた古代にハルナが圧を入れ、和やかな雰囲気になり始めた。自身をザルツ人と偽っている後ろめたさはあるが、メルダ以外のガミラス人とこうして打ち解けている事を、ハルナは忘れないで置こうと思った。

 

「おいアカツキ」

 

「どうしたの?」

 

「俺は、アンタみたいなやつに転がされたことに納得いってない、だから俺に色々教えろ! 今度は逆の立場になってやる」

 

 和解(?)したと思えばいきなり教えろと言われ、状況の変わる速さにハルナは一瞬追いつけなくなった。

 

「あらあら、負けず嫌いな事」

 

 ネレディアが茶々を入れるが、メルヒはハルナに挑戦的な目を向けている。これは断っても「それでも教えろ」と言われそうだと思ったハルナは断るごと自体を諦めた。

 

「格闘戦を教えるのはやったことないだけどなぁ……古代くんは?」

 

「一応出来ます。習った以来ですけど」

 

「んじゃ古代くんと教えてみようかな。それと柄じゃないけどこういう事言ってみたいのよ」

 

「どういう事だよ」

 

 

「何回でも転がしてあげるからかかってきなさい」

 

 

 _________

 

 

 

「自己紹介も終わったころだから1つ言っておく。そろそろ起こる筈だから何が起こっても驚くな」

 

「何が起こるんだよ、ってあれ!?」

 

 バーガーが言った事に一同不思議がるが、沢村の驚いた声で全てを理解した。ついさっきまで来ていた艦内服と身に着けていた装備品、銃器類がすべて消え、代わりに私服になっていた。

 

「どうなってんだよコレ! 何なんだよ!」

 

「私達も驚いたのよコレ。まぁ、特に害はなさそうだからいいんじゃない?」

 

「いやいやこれ魔法かよ!」

 

「かもしれんな。まあ儂らも分からんが過ごしやすい服じゃからもう気にしとらん」

 

「落ち着け沢村」

 

 冷静に沢村を落ち着かせる古代だが、急に服が変わって動揺しない人はいない。ちなみに古代は赤いセーターにジャケット、新見はパンツタイプのレディーススーツ。相原は無難な普段着、沢村と桐生はお気に入りだった服に変わっていた。

 

「あ、私もだ」

 

 ハルナはというと、メガネが消えてシンプルなTシャツに男性物のジーンズを穿いてパーカーを羽織っていた。それを不思議がった新見はハルナに聞いてみた。

 

「それ男性物じゃない?」

 

「あ、これですか? 確か大分前にお父さんが買ってくれたものです。あの頃は似たようなのばっかりでした」

 

「まぁ動きやすくていいんじゃないですか?」

 

「んじゃまあこっち来てくれ」

 

「第1の異常」が終わったことを確認したバーガーは、とある部屋に古代達を連れて行った。

 

 ________

 

 

「ん、これ投げて見ろ」

 

「ボール?」

 

「ああその通りボールだ。それを向こうに向かって思い切り投げろ」

 

 メルヒが投げて寄越したのはソフトボール。それも種も仕掛けもなく何の変哲もないソフトボールだ。メルヒの指指す方向には灯も無く真っ暗な通路。暗すぎて足元すら見えない。

 

「……? まあ、それっ!」

 

 振りかぶって思い切り投げてみる。ボールはあっという間に見えなくなり、風切り音がだんだん小さくなっていく。仏頂面をしていたメルヒが古代の横でニヤニヤしている。

 

「?」

 

「まぁ見てろ」

 

 小さくなっていった筈の風切り音が大きくなり始め、投げたはずのソフトボールが戻ってきた。驚いたが落ち着いてキャッチする。投げた物が勢いをそのままにして帰って来た、まるで山びこのようだ。

 

「空間がループしてるの?」

 

「分かんないけど、ここから先には誰もいけない。どうやってもね」

 

「ほかにココみたいな部屋は?」

 

「いや、ここだけね」

 

 新見曰く空間がループしているとの事。それでもこんな奇妙な場所はネレディア曰くここ1か所だけらしく、それ以外はちゃんとした部屋らしい。

 

「いやいやじゃあ人はどうなんだよ!」

 

「待て、分からない以上危険すぎる」

 

「んじゃ試してみろよ。身をもって安全に体験できるぞ」

 

 メルヒが沢村を煽れば沢村はその真っ暗な通路に飛び込む。すると数秒も経たないうちに沢村が吐き出された。仰向けに吐き出された結果床面に体を打ち付けてしまった。

 

「これで分かったろ?」

 

「うん取り敢えずは。壁とかドアとかその他は?」

 

「信じられん位に頑丈じゃ、まるで鉄のようじゃよ」

 

 バーレンが言うように、ドアも壁も鋼鉄のように固い。見た目は木目が入っていても叩けば金属を叩いたような音がする。

 

「爆弾とかあったらやれるかな……」

 

「冗談言うなよお前。マジで何もないとこから作りそうだ」

 

「私はマッドサイエンティストではないんですが? 他には?」

 

「水はどっかから引かれてるらしい、食料が無いだけだ。俺らの分は、そろそろ底が見えてきた感じだ」

 

 知らない所から水が引かれていて食料は元から存在してない。持ち込み分しかない様だ。彼らも食料は持っていたものの、閉じ込められたからそれなりに時間が経ち底が見えている。自分たちも持ち出し品のクラッカーがあるが、携帯食料だからか量は少ない。

 

「……古代君、私達の分消えてないよね? 機体に積んであった分とか」

 

「持てるだけ持ち出してきましたがあれくらいだから……少し切り詰めれば1週間くらいはいけます」

 

「それを分けましょう」

 

「いいんかよ。あんたらも、少ねぇんだろ」

 

「食糧難で争うよりはいいです。無くなる前にここから出る方法を探しましょう」

 

「……恩に着る。借りは耳揃えてきっちり返す」

 

 


 

 

 一通り異常を見て回った一同は各々部屋を割り当て、各自で休んでいた。その中でも桐生はネレディアに部屋の1つを与えられた。艦内の装飾の少ない自室ではなく、暖かい光に照らされてベットもふかふかの日当たりのいい部屋だ。

 

「部屋は余るほどあるから、自由に使ってね」

 

「素敵です! 素敵すぎます!」

 

 高級ホテル、それも外国にあるような内装は桐生も初めてで、年相応にはしゃいでいる。どれもこれも新品のようでピカピカ。これにモーニングやランチ、ディナーにデザートまで付いていたらもう言う事なしだ。

 

「本もあるんだ」

 

「懐かしいわね、この本」

 

「これを、ですか?」

 

 桐生が見つけた本は「ヘレンケラー」の伝記。それをネレディアは「懐かしい」と言った。地球生まれの本をガミラス人が知っているとは考えにくいが、今それを口にすると地球人であることがバレてしまう。これは後でハルナや古代、新見に相談しようと桐生は思った。

 

「寂しい魔女のお話」

 

 

 

 ___話はこうだ。

 

 昔ある所に、1人の女の子がいた。女の子は人の心が分かる、テレパスのような力があった。

 

 女の子は独りぼっちだった。友達が欲しい女の子は大きな青い国を訪れた。

 

 心が分かる女の子は善意で人の本音を伝える。人の本音を知った青い国の人達は互いに疑心暗鬼となっていった。人の心が分かる女の子は異端と見られ、迫害された。

 

 やがて疑心に染まった青い国の人々は互いに争い始め、女の子は自分自身を嫌いになってしまった。

 

 それを哀れに思った神様は、女の事の為に船を作り、女の子はそれに乗って遠い国に旅立つことにした。

 

 行き先は分からない。ただ、まだ見ぬ明日に向かっていったらしい。

 

 

 

「只の御伽噺。でも昔からあるお話なのよ」

 


 

 ネレディアが桐生の部屋を後にして数分後、桐生はハルナの部屋に向かった。ベットに仰向けに寝転び、手首に巻かれているチェーンブレスレットを光に透かしてボンヤリとしていた。

 

「ヘレン・ケラー? Waterの人がどうかしたの?」

 

「はい。ネレディアさんが、ヘレン・ケラーの本を見て『懐かしい』って言ってたんです」

 

「ヘレン・ケラーね……多分、見えてるものが違うんだよ。恐らく、地球人には地球風に、ガミラス人にはガミラス風にって感じで。本の事は、今はそれでいいと思う。私達をザルツ人と見たのは、来ていた服がガミラス軍の士官服か何かに変換されたからじゃないかな?」

 

「見えてるものが違うって、そんなこと可能なんですか?」

 

「この場にいる人全員の意識に干渉できるならね。見えてる物に対しフィルターを嚙ませれば、案外出来るんじゃないかな?」

 

 ハルナの感覚としては、全員の意識に干渉して見えてるものに対して幻を重ねているとの事。建物や壁に対し映像を映し出すプロジェクションマッピングに近いが、人の意識に対し投影している以上気付かなければどうしようもない。

 

「でも、そんなの全く気が付きませんよ?」

 

「だよね、今こうしてベットに座ってても感触とか凄いリアル。寝心地いいし、意識レベルと言うより見えている空間全部に干渉されてる事も考えた方が良いかな」

 

 意識に関する事なら人よりは分かる積もりのハルナでも、この件はどうしようもない。実害が出ない限りヒントすら掴めないだろう。それとは別に、何より少し心細そうにしている。無意識にブレスレットを眺めてボンヤリするくらいで、丸で何も考えていないように桐生には見えていた。

 

 見えていたはずだったのだが……

 

「あとは不自然な所をつつかないと、例えばあのエレベーター」

 

「あの11階まであるエレベーターですか?」

 

「そうあれ。行ける階は4階までしか無いけど、もしも今は4階までしか辿り着けないとしたら……一先ず、4と11に関係するものを漁ってみるよ。一応他の人にも共有してみてね、私では思いつかない事が出るかも。それと、幻影関係で何かできる様な種族を探してみないと」

 

 桐生は内心ハルナの事が少しだけ怖くなった。何故たった1つの違和感からここまでの事を組み立てられたのか。何故こんなにも頭の回転が速いのか。何故こんなにも色々出来るのか。

 これではリクや真田を除いて誰も太刀打ちできないかもしれない。それほど巨大な存在になっていく事に凄みを感じながら同時に怖くなってきてしまった。

 

「暁さん。何でそんなに色々出来るようになったんですか?」

 

「色々?」

 

「だって、そんなに色々出来る人なんていません。何で技術科以外まで……」

 

「気付いたら、こうなってたの」

 

「気付いたらって、自覚がなかったんですか?」

 

「何かね、イスカンダルを発った辺りから何でもかんでもやるようになってたの。格闘とかファルコンの操縦とか銃の撃ち方とか、自衛系で手当たり次第に色々。多分……リクを死なせかけてしまったからだと思う」

 

「それは、暁さんのせいでは……」

 

「分かってはいるよ。それでも、あのとき自分がもっと色々出来たらって思ってたら、なんか、こうなってたの」

 

 今、ハルナの中には4人の人がいる。風奏、リク、零士。そして本当の母親である薫だ。1人を除き皆死んだ。自身の中に残した傷は呪いの様な物となり、見かけでは分からないが何処か怯えながら強くなっている。最後に残ったリクまで失うのは耐えられないから、怯えながらでもいいから強くなろうとしているのだろう。

 桐生は何か言おうとしたが、ハルナの中の思いに負けてしまい言えなかった。何でもやってしまう事による孤立とその原因が強く結びついてしまい、今は如何しようもないと感じた。

 

「暁さん。ちゃんと人を頼ってください」

 

「……頑張る積もり。いや、今は頼らないと無理かも」

 

 

 


 

 

 

 

 それから2日後、桐生は自身の部屋でボイスレコーダーの録音ボタンを押した

 

「ホテルでの生活3日目、録音開始」

 

 あれから暁さんと私、古代さん新見さん相原さん、後沢村で一通り理解して、それをバーガーさん達にも共有をした。

 伏せる所は伏せて、「見えている物が違うという事」を伝えてみた。如何に見えてるものを書き換えていたとしても、向こうやこっちが発する言葉までの書き換えは出来てないみたいで、バーガーさん達が見てる景色は、どうやら私達が見ている内装と大分異なるみたいで、幻が重ねっている事を伝えることが出来た。全部、暁さんの言う通りかもしれない。

 

 それと今日は、通路の方で何かが崩れる音がした。通路の一部が崩落して、大穴が開いていた。そこを掘れば外に行けるかもしれないと思ったけど、暁さん曰く、「試してみる価値はあるけど、希望をチラつかせてるだけかもしれない」らしい。道具も無いので、程々に掘って調べるくらいに落ち着きそうだ。

 

 他には、暁さんと古代くん、後沢村が相手になって、メルヒ君が格闘訓練をするようになった。正直言って、暁さんが強すぎる。怪我しないように加減しているみたいだけど、それでも流れる様に動き回りメルヒ君を転がしていく。「自衛で極めたけどこうなるとは思ってなかった」と暁さんも言ってた。たった数週間で極めるのはおかしいけど、暁さんは天才肌なのかもしれない。

 

 携帯食料はまだあるけど、一日の量はどうしても少ない。今はバーガーさん達と分け合っているけど、これでは10日持てばいい方らしい。

 

 あとは4と11の件で候補が上がった。どうやら現在人類が辿り着いている次元と余剰次元の事かもしれないらしい。今私達がいる次元は、縦横高さの3次元に時間の概念を加えている。その上の次元は、私達は知ってはいても知覚が出来ていない。この空間を創った人は、それを知覚しているのだろう。

 

 ここまで物が出そろったけど、重要なピースが抜けている。まだ、かかりそうだ。

 

 

 ______

 

 

 

「……似てたよな」

 

「何が? 何が似てたの?」

 

「冗談キツイぞネレディア。メリアの事忘れたとか言わせねぇぞ」

 

 バーガーは自身の心の異変を感じ取っていた。桐生の顔を見てから彼女だったメリアの顔が離れず、ずっと桐生に近寄りにくかった。

 

「……もう10年ね」

 

「ガトランティスが奪いやがったんだ。メリアの命までな」

 

 そう言いながら頬の傷跡を撫でるバーガー。あの時自分は無事だったが、メリアは区画ごと丸焦げとなっていた。目にするのも恐ろしい最期だった事はバーガーしか知らない。それでもメリアは、最期にバーガーに笑顔を向けていた。

 それからバーガーは、自分でもおかしいと思えるくらいに危険な任務に走るようになった。ドメル幕僚団として動いていた時は第7戦闘団として突撃をしたりもした。戦闘団の性質上指揮艦も突撃はするのだが、全く躊躇が出来なかった。

 

「あいつらも、何か奪われたりもしてんのか」

 

「さぁ、分からないなら聞いてみたら、バーガー?」

 

「……? そうだな、気晴らしだ」

 

(バーガーだって? あいつこんな呼び方してこねぇ筈だが)

 

 違和感があったが今は仕舞っておこう。でも「アカツキ」とかいう白髪のザルツ人は参謀並みに頭が切れる様なので、後で言うだけ言ってみるかと思い、バーガーは自室を出た。

 

 

 

 _______

 

 

 

 

「嬢ちゃん、嬢ちゃん風邪ひくぞ」

 

「ぅん? リ、じゃなかったバーレンさん?」

 

 考え疲れてソファで寝てしまったハルナを起こしたのはバーレンだった。近くにあったクッションを抱き抱えてソファから転げ落ちそうになっていたところを、バーレンが揺り起こしたん尾だ。

 

「部屋に戻った方が良い。暖炉も消えとるから寒くなるじゃろう」

 

「ですね、戻って考え……」

 

 

(暁さん、どうか、頼ってください)

 

 桐生の言葉が聞こえた気がした。

 

(……まずは、かな)

 

「バーレンさん。少し、頼ってもいいですか? 暖炉もつけ直しますから、少しだけ話をしましょう」

 

「この老いぼれに分かる事なら言うてくれ」

 

 それを聞いたハルナは近くのマッチで暖炉を付けなおしてソファに座り、バーレンもその横に座った。

 

「見えてる物全部に幻が被さってる話なんですけど、他人に幻を見せられるような民族や文明で何かご存じでですか?」

 

「……ある」

 

「あるんですか!?」

 

「いや、あったな。あったんじゃよ」

 

「ある」ではなく「あった」という意味を理解したハルナは、少し落ち込んだ。それは「滅んだ」と捉える事も出来る言葉だ。

 

「大昔の話じゃが、ジレルと言う文明があった。生まれつき人の心が分かるのばっかりでな、儂らと嬢ちゃんらとは違って真っ白な肌をしとった。あとは耳が尖っとって髪色も変なんじゃ。じゃが、どっかの文明がジレルを嫌って迫害していってな、それで減りに減って滅亡したらしい」

 

「ジレルは、もういないんですか?」

 

「いないわけじゃない。本国に生き残りがおるんじゃがそれでも2人、文明を興し直すのは無理じゃろう」

 

 ハルナの頭の中には1つの事象が浮かんでいた。Wunderクルー全員が催眠状態になり、Wunderが勝手にワープしかけた事だ。ハルナはずっと火星での生活を見せられていたが、古代と森は催眠から抜け出しガミラス人のような人物を見ていた。信じられない事に拳銃で頭を撃ち抜いてもすぐに再生したらしい。

 

「もしもジレル人が生きていたら、全員を催眠したりとかは……」

 

「人それぞれとは思うんじゃが、出来るのは出来るんじゃろうな」

 

 バーレンが頷きながら肯定する。ジレル人は幻を見せることが出来る人種。既に滅んだ文明ではあるが、現状ジレル人以外にこんなリアルな幻を作れるとは思えない。

 

(頼ってよかった……バーレンさんありがとうございます)

 

「ありがとうございます。何か分かってきた感じがします」

 

「何か分かったんか?」

 

 バーレンの柔らかい声にハルナは振り返って微笑んだ。

 

「まだです。でもいいヒントが頂けたと思います。ありがとうございます。おやすみなさい」

 

「はいよ、おやすみ」

 

 


 

 

「なんか、こんな早くにすまんな」

 

「いや、構わない。それより暁さん、話って何ですか?」

 

 翌日、ハルナは例のガミラス人(?)の見た目を聞くためにバーガーを連れて古代の部屋に出向いていた。朝早かったのか、まだ瞼が少し落ち気味で眠そうに目を擦っていた。

 

「お前軍人……だよな。何か何処にでもいる普通の学徒みてぇだぞ」

 

「非番の時はこうなんだ。それ以外は普通に起きられる」

 

「まぁいいや。それで言い出しっぺ、連れてきたワケって何だ?」

 

「犯人がなんとなく分かって来たんですよ」

 

 

 ______

 

 

 

「ジレル人……魔女の類だな」

 

「魔女?」

 

「あいつらは魔女だ。人の心が分かる化け物だ」

 

 そう言うとバーガーはドアの近くのテーブルに置かれた本を取ってきた。ハルナ達にはヘレン・ケラーに見えているその本を、バーガーは流し読みしていく。

 

「お前らには別の何かの本に見えてるはずだが、俺にはこれがガミラス民謡の本に見えてる。丁度俺が言った魔女の話だ。人の心が分かる化け物が争いの種になっちまったって感じのな」

 

「美影ちゃんから聞きました。そのジレル人の昔話が本当とした場合、何らかの船に乗っていたか今でも乗っている筈なんです」

 

「何かって何だよ。お話し通りに神様製のお舟かよ」

 

「流石に神様って訳じゃないですよ。何かそういう文明製の船とか……少なくともジレルより古い、それこそイスカンダルよりも進んだ文明ですね」

 

 そこまで考察を述べると、しばらく目を閉じると不意にバーガーは口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アケーリアス文明、知らんか?」

 

「アケーリアス文明?」

 

「知らねぇのかよ、人型種族を作った神様文明だ。バランとかにあるゲシュ=タムの門とかもアケーリアスの置き土産な」

 

 どうやらこれは基礎知識だったらしく、溜息を付いたバーガーは軽く説明を挟んだ。

 

 アケーリアス文明は、この世界でもごく初期の段階で興った文明で、それこそイスカンダルよりも年上に当たる。彼らは自分の姿と同じ種族を様々な星系の惑星に種として蒔く「播種」の様な事を起こした。地球とガミラスを同じ年齢の子供とするなら、イスカンダルは大家族の長女、アケーリアスは「親」と呼ぶべきだろう。

 

 だが、彼らは遥か昔に滅亡した。原因は不明で、幾つかの痕跡と遺跡を残して消え去ったらしい。幸いにもこれら遺跡は使用可能な状態の物が多く、ガミラスと言った星間文明はこれらを探す活動も行っている。

 

 

(いやいやいやこれが本当だったら人類史崩壊するけど……これホントにひっくり返るよ)

 

 

 地球人類史を豪快に叩き割った説明に、ハルナと古代は顔が歪まないように耐えるのに必死だ。でも「アケーリアスを考慮すると」色々と辻褄が合う部分もある。

 例えば、地球人類史で最も古いと言われている文明は現在の所は「シュメール文明」である。これで大体5000年ほど前。しかし、人類は約30万年前には存在していたとの記録が在る。もしも最古に近い文明がシュメール文明なら、人類は29万5000年ものあいだ狩猟や農耕をして小さな集落規模で生活をしていたという事となる。

 

 つまり発展速度がおかしいのだ。数段飛ばしでいきなり文明が出来上がるとは到底思えない。そのためオカルト界隈では、「失われた超文明」といった話が持ち上がったりもしていた。

 もしもそこにアケーリアス文明のテコ入れがあったならば、突然文明が出来て5000年の期間でここまで発展するのも頷ける。

 

 例えば遺伝子改良。ホモサピエンスは5800年前にASPM遺伝子という脳の発達にかかわる遺伝子を獲得している。それからたったの800年で文明が出来上がった。

 それまでは単純に脳の大きさが足りなくて文明を興せるくらい発達していなかったと考えられているのが定説だ。だがその遺伝子もアケーリアスによる改良によって獲得したものならどうだろうか。世界各地の壁画に残っていた宇宙人らしき見た目の人型生物が彼らならどうだろうか。

 

 

(うう頭痛い痛い、ちょっとパス)

 

 

 頭が痛くなりそうになったハルナは一旦これを隅に置き、後で真田や赤木博士に話してみようと心に決めた。自分一人では抱えきれない人類の秘密でもあり、桐生から「人を頼る様に」と言われている以上今はどうしようもない。

 

「それ位のぶっ壊れ文明なら出来んだろ。それくらいなら」

 

「まぁほぼ神様なら。と言うか暴論じゃ……」

 

「いや神様なら何でもありじゃね? 神だから」

 

「それはそうなんですけど……アケーリアスが播種したから私達が生まれた。そして便利ツールを残して滅んだ。まるで『あとは好きにしてね』って言ってるみたいです。この世界全体を実験室みたいにしたいなら、リセット装置くらい置いてるかもしれませんよ」

 

「怖いこと言うなよ。アケーリアスならマジでやりかねん」

 

 一瞬だけ目のハイライトを消して怖がらせるようにバーガーに言ってみた。眼鏡抜きでは虹彩が淡く光って見えてしまうが、ハルナなりにギリギリまで抑えて誤魔化してきた。傍から見れば「やけに目が綺麗な人間」程度にしか見えていないだろう。

 

「案外置いてるかもしれませんよ。最古の超文明が肝心な事抜けてたとか文明(笑)ですから」

 

 

 _____

 

 

 

「あと問題なのが、来た道が戻れなくなっている事ね」

 

 そう、ハルナ達が歩いてきた道が無くなっているのだ。正確には、その道に出るためのドアが消滅しているのだ。よって食料をこうのとりに取りに行く事も出来ず、携帯食料は日に日に減っていく。そろそろ切り詰める量を増やさないといけないかと考え始めてもいた。

 

「今まで気付いていなかったのも不思議ですが、正攻法で出ることが出来てないのも現状です」

 

「だからヒントを探しているのよ。ジレル人の仕業なら今真横に居るかもしれないからね。幻を見せて光学迷彩みたいな事してても可笑しくない」

 

「怖ぇ。ていうか、ジレルの魔女が俺らをココに呼び寄せたって事は、そいつらはもうここにいるって事だろ。それって実質、その人が本物すら分からないって事じゃねぇか」

 

 言いたくない事を突かれた。ジレル人がどこかにいるという事以外に、ジレル人が誰かのふりをして紛れ込んで、直ぐ近くで話を聞いているかもしれないという事だ。

 疑心暗鬼に繋がるこれだけは皆に意識させたくなかったのだ。

 

「……言いたくなかったんです。それだけは」

 

「そりゃ疑い合って殺し合うのは最悪だ。だが怪しいヤツくらいは目星付けても問題ないんじゃねぇのか? 現に1人いる」

 

「1人?」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「なぁお前さ、何で暁さんにこだわってんだ?」

 

「何だ?」

 

 がらんとした広間で沢村とメルヒ、相原が比較的温和に話し合っている。メルヒはハルナに制圧されてから態度がわずかに柔い物となり、「ザルツ人」と卑下する事も少なくなってきた。

 

「そりゃ暁さん信じられない位強いけど、出鱈目じみてる人より実力近い人に教えて貰う方が良いんじゃないのか?」

 

「分かってはいる。だが俺は、あの出鱈目に一矢報いたいと思った。それじゃダメなのか?」

 

「あーあ知らないぞ、間違ってないけど出鱈目呼ばわりしちゃって。……俺んとこにも暁さんみたいな見た目のやつがいるんだよ。ちなみに暁さんより年下な。暁さん、そいつに頭下げて数週間くらいで全部覚えてほぼ完ぺきに無双したんよ」

 

 イスカンダルを発った頃、ハルナは山本に殆どの格闘技術を叩きこんでもらった。信じられないが、殆どを見て盗んでその場で自身が動く事で殆ど完璧に出力していた。

 

 それに対し加藤が試しに組み手をしてみたが、ハルナは受け流すなり投げ飛ばすなり組み伏せるなりしてカウンターを食らわせ、加藤は只々床に体を打ち付けるだけとなった。その際、習ったはずだった殴打技は一切使わなかった。

 その時沢村が覚えていたのは、眼鏡をはずしていたハルナの虹彩が爛々と光を放っていた事と、加藤が「1手先まで綺麗に読まれているみたいで気味が悪い」と言っていた事だけだ。

 

「何なんだよマジで」

 

「知らないよそれ以外は。暁さん前から反則気味だけどその組み手ら辺から出鱈目じみてきたから」

 

「なぁマジで何なんだよ。アカツキはそもそも人類なのか?」

 

「まぁ人類だろ。多少常識から外れてるけど」

 

「聞かれてても知らないぞ」

 

「両方に多様なもんでしょ。ほら再開するぞ。俺に勝ったら古代さんな」

 

「はっ倒されても文句言うなよサワムラめ」

 

 壁際までどけたソファから立ち上がった沢村は中心に立ちまた構える。メルヒ曰く沢村が「尉官級」、古代が「佐官級」、肝心のハルナは「総統級」と例えている。古代とハルナの間が相当離れているが、どう考えても「数手先まで読んだうえで動いている」としか思えなかったためこう例えるしかなかったとの事。

 

 最低限の動きで左と右のパンチを使い分け、隙を見て足を絡めて倒しにかかる。それに対し上手く躱しいなす。その繰り返しでしかない。

 基本的な動きはハルナが叩き込みなおしたが、肝心の殴打技は一切教えようとしなかった。その分は古代と沢村が補っていたが、「只の自衛術」としかハルナは言っていなかった事を思い出し、仕込みなおされた左ストレートを放つ。

 

 沢村が上手く腕を絡めて止めてハルナのように制圧をかけるが、それに反応できたメルヒが強引に解き距離を取る。メルヒから仕掛け、右の大振りを食らわせようと腕を振り被る。沢村はそれをまた捕らえようとするが罠にかかっていた。

 大ぶりの右はブラフ。下から飛んできた右の蹴りが上手く刺さり沢村が怯む。追加でメルヒが組み伏せ勝負ありだ。

 

 

「勝負あり。勝者メルヒ」

 

 陰から見ていたネレディアが審判じみたセリフを言う。

 

「いるなら言ってくださいよ」

 

「邪魔したら悪いと思ったのよ。3日で良い動きする様になったからそろそろ手が届くんじゃない?」

 

 ネレディアの称賛の言葉は素直に嬉しいが、メルヒは頭を振った。

 

「いいやアカツキはバケモノ、だろ?」

 

「いや同意を求めんなよ確かに異常だけど。正直言って、俺らじゃ歯が立たない。それに勝とうとしている辺りでもうおかしいぞお前」

 

「勝手に言ってろ。俺はやる」

 

「派手にやり過ぎて、あとでバーガーに怒られても知らないわよ」

 

 


 

 

 

「って事だ」

 

「「……」」

 

 バーガーから「怪しい人候補」を聞かされたハルナと古代は困惑した。もう既に候補が出ていてそれに今まで気が付かない程だった。だが、バーガーだから気付けたという事は自分たちが気付けないと片付けた古代は、次に移った。

 

「この事は他には?」

 

「いいや、漏れるのも怖ぇから話してない、今んとこお前らだけだ。あとそっちのニイミにでも話しといてくれ」

 

「分かった」

 

「んじゃお開きだな、戻って休むわ」

 

 そう言い切り上げたバーガーは大きく伸びをして立ち上がった。その時お腹が鳴った。誤魔化しが効かない程大きな音に思わず苦笑した。

 

「あーあ美味い飯食いたいなぁ。さっさと出るぞココ」

 

「ああ、携帯食料では流石に持たないな」

 

 バーガーは今食べたいものを呟きながら、そのまま古代の部屋を後にしていった。

 

 

 

「今の所私達が地球人とは気付かれてないね。騙すのは、あまりやりたくなかったけど」

 

「バレたら、どうするんですか?」

 

「少しくらいは争うと思う。でも……」

 

「分かっています、俺たちは異星人とも分かり合える。兄さんが先に達成したから、僕らも出来ます」

 

「良い事だと思うけど帰ってからはそうもいかないと思うよ、上層部はそう思ってないから。イスカンダルまで旅したから私達がそう分かってるだけで、地球組は怯えるか敵意を向けるかだと思う」

 

 

 

 

「それでも、声を上げる事をやめない事が、帰ってから出来る1番の事だよ」

 

 


 

 

 

 

「ヘレン・ケラーは、目も見えず耳も聞こえなかった。残ったのは触れる感覚で、掌に触れる感覚で水を知り、Waterと手に書いた」

 

 机に置かれていたヘレン・ケラーの伝記を捲りながら、桐生は考えていた。4日目にして急ブレーキがかかった考察に何か一石投じれればと思い読み直してみたが、何の変哲もない文章が並んでいるだけだ。

 

「Waterね……水、そう言えば、水だけは供給されているんだよね」

 

 食料ではなく水だけ供給されている。どうせなら食料も欲しかったが、もしもここに誘い込んで飢餓か脱水で殺すならどっちも供給しなければいいだけだ。

 

「何で水だけなのよ」

 

 飲んでも心身共々問題なかったという事は、あれはちゃんとした飲料水という事。そのお陰で脱水だけは回避できているが飢えだけはどうしようもない。

 

「残されたのは……触れる感覚」

 

 あの魔女のお話が犯人に至るヒントなら、ヘレン・ケラーの伝記には辿り着くためのヒントがあるのだろう。水に触れる。でも触れてどうする? 触れるだけなら、飲むときに口に触れる。手を洗う時に手に触れる。それ以外に何がある? 

 

 直ぐに袋小路になり伝記を閉じる。

 

「ダメだぁ……暁さんみたいに全部わかる頭じゃないからなぁ」

 

 溜息を付く。その時、ドアをノックする音がした。

 

「誰?」

 

『沢村だけど、ごめん、ちょっと助けて』

 

「はぁ? あんた何したの?」

 

 

 

 _______

 

 

 

 

 

「……アンタがバカって事がよく分かったわ」

 

「悪かったな、溢したんだよバケツ丸々1個」

 

 大方水を汲んで運んでいたのだろう。バケツを両手で持って歩いていたら躓いて1つ溢してしまった結果、この様にロビーが水浸しだ。

 

「ああもう……タイムリー過ぎるでしょ」

 

「タイムリー?」

 

「ヘレン・ケラー。Waterの人よ」

 

「ああ目と耳の利かない人? 俺んとこにもその本あったんよ。それがどうかしたのか?」

 

 一瞬知らないかと思いジト目をする桐生だが、沢村でもそこはきちんと把握していたようだ。それも思わぬ収穫もあった。

 

「まだどうもしてない。それで、『拭くの手伝ってください』じゃないの?」

 

「……拭くの手伝ってください」

 

「はいはい」

 

 こんな事で呼び出したのかと思えば桐生はストレスがたまりそうになったが、ちょうどいい機会かもしれないとも思っていた。

 残されたのは触れる感覚。どの部屋にも同じ本が置かれているという事は、「特に意味も無く」じゃなければ「ちゃんとヒント」として見る必要がある。

 

 腕をまくり、濡れた床に触れてみる。

 

「残されたのは……触れる感覚……触れる……。ッ?」

 

「何やってんだよそんな真剣な顔で」

 

 沢村が声をかけるが桐生は無視して床を指先でなぞる。見えない絵を描いているかのように円を描き、文字の様な物も描く。

 

「魔方陣……みたいなのが彫ってある」

 

「はあ? 魔方陣って偶然出来た傷とかじゃねぇのか?」

 

「じゃああなたも触ってみなさいよほら!」

 

 強引に沢村の腕をつかむと床に触れさせてみる。自分がなぞった溝に沿って指を滑らせてみると、沢村の怪訝そうな表情が見る見るうちに変わり、顔を見合わせた。

 

「傷、じゃないな。これ」

 

「ほら言ったでしょう!」

 

「でもこれ何なんだよ。意味分かんない模様か何かじゃないのか?」

 

「こんな意味も無くこんなもの用意するワケないでしょ? あああとそれとさ」

 

「?」

 

「沢村のドジに救われた。ありがと」

 

 

 


 

 

 

 

 桐生が奇妙な魔方陣の存在に気づき数時間後、ロビーには地球人組とガミラス人組が一同に集まっていた。ロビーに溢された水は乾き始めていたが、それに気づいた桐生の目はやる気で潤っていた。

 

「美影ちゃん、話って何?」

 

「見つけたんですよ」

 

 そこから桐生が話し始めたことは信じがたいものだったが、行き詰っていたハルナだけは大きく目を見開いた。

 

 そこからは速かった。パーカーとズボンの裾を捲ると組み直されたバケツをひっくり返してロビーの一角を水浸しにした。そのまま床に膝を付くと、膝が濡れる事も気に留めず床に触れてみた。僅かな溝を捉えるとそこから指を滑らせていき、「何か」に辿り着いた。

 

 

「文字っぽいけど……美影ちゃん、これ分かる?」

 

 ハルナが遠慮なく頼って来た事が少し嬉しかったのか、桐生はハルナの元に寄っていった。それに応じて古代やバーガー、ネレディアまで近づいていった。

 

「この辺の、これ。文字みたいだけど読める? 流石に言語系は専門外だから」

 

「これですね」

 

 ハルナが指を差した部分を桐生がなぞっていく。音楽記号の様な模様を描きながら指が滑っていき、その正体を口にする。

 

「……ジレル語じゃないです……これ、アケーリアス語です」

 

「いやジレルはアケーリアスの直系の子孫だから使ってる文字も一緒なんだが……何て書いてある?」

 

 

「目は闇を映し、耳は沈黙を聞く……えっと、11層目に至りし者は、真の世界を見出せるだろうごめんなさい、結構削れてて上手く読めません……」

 

 如何やら年数がたっているみたいで削れてて所々読めない箇所があったようだ。桐生がしょんぼりしていると、ハルナが桐生の両肩を掴み揺らした。

 

「美影ちゃんナイス!」

 

「へ?」

 

「取り敢えず全部書き取って欠損部は文法から推測して埋めてしまおう。あとはそこから考察に紐付けて行けば……多分、出れるよ」

 

 詰まっていた考察に光明が差したようでハルナの顔も明るい。それからの事だが、全員を広間に集めて考察を披露。穴となっている部分の指摘を受けて修正を行い、脱出を翌日とするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当日、今まで動かなかったエレベーターが稼働を始めた。

 しかし、代償のようにネレディアが姿を消した。




今更感が強いんですが、「ハルナ」=「榛名」が出来上がりそうです。
連載初期は何にも気づいて無かったのですが、下の名前が金剛型戦艦の「榛名」だったんです。

何気なく渡した名前ですが、かなり強い名前を渡してしまったなあと、今更ながら引き笑いしてしまいました。

何気に戦闘技術まで習得してしまったハルナは、これからもリクと一緒に強くなっていきますよ。もう手を付けられません。人間やめてますマジで。


それでは次のお話で、お会いしましょう。
(@^^)/~~~


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たとえ星が違っても

情報処理安全確保支援士の試験があるので、星巡る方舟編が終わりましたら休載します。
力Answerの時みたいなのはやりません。絶対

それではお楽しみください


「大都督、テロン艦の空間跳躍先、特定しました!」

 

「よぉし。全艦空間跳躍の陣を敷け! 獲物を追いかけるぞォ!」

 

 Wunderの行き先を特定したガトランティス艦隊は、旗艦メガルーダを中心にして周囲にナスカ級数隻、その外周をククルカン級とラスコー級で固めた。そのままエンジン出力を上げて前進を開始し、後方のメインノズルの光が水色から橙に変わる。

 

「跳躍先座標合わせ! 全艦準備よろし!」

 

「大都督、号令を」

 

 

 

「全艦、空間跳躍開始ィ!」

 

 ダガームの令で陣を敷いたすべてのガトランティス艦が急加速に入り正面に竜巻の様なワームホールが生成される。各々ワームホールに飛び込んでいくと竜巻は嘘のように消え去り、その宙域には何も残らなかった。

 

 まるで嵐が過ぎ去ったかのように、消えて行った。

 

 

 ______

 

 

 

 

「軌道上に大隊規模のワープアウト反応。重力場解析、ガトランティスです!」

 

「蛮族め……ッ」

 

「軌道上の艦隊を光学で捕捉。正面に出します」

 

 ガトランティスの来襲に口が悪くなるネレディアだが、正面に投影されたガトランティス艦隊の映像を見て言葉を失った。

 

 ミランガルは勿論、ランベアやその他航空母艦とは比べ物にならない程の巨大な旗艦を中心にした艦隊が軌道上でゆっくりと歩みを進めている。今まで小マゼランで押し留められていた筈のガトランティスが堂々と進出してきている事に危機感を抱いたのは言うまでも無く、ネレディアは次の命令を出した。

 

「稼働可能な航空機は?」

 

「七色星団でヴンダーに壊滅させられた以上、機体数は知れてます。バルグレイとバルメス、ミランガルとニルバレスの搭載機を合わせても、50機いくかどうかです」

 

「構わない、動ける機は準備にかかれ」

 

 再び正面スクリーンを向き、巨大な戦艦を睨む。「あのゼルグート級」ですら小物に見える程の巨体だ。撤退戦しか取れる術はないだろう。なら損害を抑えながらワープに入る……だが空間航跡を読み取られ追いかけられたりでもしたら、敵を引き連れながら撤退する事となる。

 

(だがここで打ち破るには、余りにも戦力が少なすぎる……)

 

 ________

 

 

「強大な重力場の乱れを検知、レーダーの感知範囲外です」

 

 そのガトランティス艦隊出現はWunder側でも捉えており、応急修理の真っただ中ではあるが戦闘配置が進められていた。

 

『副長、後20分は下さい!』

 

「分かった。急いで正確にだ」

 

「真田さん。確度は80ですが一応仕上がりました。あとは島君の腕に頼むことになりますが……」

 

 片手ではあるがシステム構築を手伝ったリクは真田の方へ振り向き仕上がりを報告するが、満足いくものではないのを示す様に厳しい顔をしていた。

 

「十全ではないが無いよりはいい。あとはインストールだな。テストが出来ないが仕方ない」

 

「実戦=テストですね。マリさんは……って何やってるんですか?」

 

「ちょっと作ってるんにゃ。こんな感じで良いのかにゃって」

 

「何ですかこんな時に……っコレって、ええぇ……」

 

 マリが持ち出して弄っていたのは、ゼロ改に搭載されているマルチロックオンの中枢部だ。本来戦闘機用で処理に限界があるが、それをWunderに適応させようとしているのだろう。

 

「Wunderって拡張性の塊だから、私でも弄れるんにゃ。おまけにスパゲティコードじゃないし、これでMeteor*1でもするにゃ」

 

「……許可って取ったんですか?」

 

「出した。Wunderの能力の底を見る様なものだが、活用法としては80点だろう。今赤木博士がMAGIとのリンクを組み立てている。問題ない」

 

 柔軟に改良するなら作った人より第三者の方が良いとは言われるが、何故か真田もそう言った改造に乗り気になっている。とやかくいう事を諦めて溜息を付いていると、付けていたインカムから声がした。

 

『それなんだけど、そろそろ持ってきてくれる? マリ』

 

「博士?」

 

『あまり時間もないからMAGIを通すわ。機械無しで間に合わせるのは酷よ。急いで』

 

「……あいあいまむ」

 

 そのまま作りかけのシステムを端末に吸い出して、マリはMAGI格納エリアに向かった。

 

(出てくると思うけどこっちはあまり時間が無い、なるべく急いでくれ)

 

「……少し、冷えてるな」

 

 こちらからはどうしようもないが迎撃準備はした、あとはハルナ達が出て来るだけだ。胸に手を当てながら、リクは無事を祈った。

 

 

 

 ______

 

 

 

 脱出当日に起きたネレディアの失踪に狼狽えを見せた面々だが、バーガーと古代が混乱を鎮める事で一応の安定を見せた。それからネレディアの捜索が始まったが、どの部屋を当ってもネレディアの姿も気配すら見つからなかった。

 

「見つかった?」

 

「どこにもいません……どうしてネレディアさんだけ」

 

「やっぱアイツだったかもしれんな、ジレル人」

 

 バーガーがポツリと漏らした言葉の意味を理解するのに時間はいらなかった。ネレディアはガミラス人ではなくジレル人だった。それも最初かららしい。

 

「えっネレディアさんがジレル人って……聞いてませんよ!?」

 

「昨日の時点で言える訳ねぇだろネレディアいるし。……ネレディアにはな、メリアって言う妹がいたんだ」

 

「いた?」

 

「もう10年前に死んだ。そのメリアとキリュウの見た目がなそっくりなんだよ。肌青くすればもうメリアだ。アイツは妹と瓜二つのキリュウを見ても何の反応もしなかった。それにネレディアは、俺の事はバーガーじゃなくてフォムトと呼んでいる。あのネレディアは、偽物だろうな」

 

「そう言えばネレディアさん、確かに『バーガー』って呼んでました」

 

 バーガーしか知り得ない情報に唯一沢村が反応を示し、バーガーがニヤリと笑う。だがこれだけ探してもいないとなると、幻影か何かで姿を隠しているか、エレベーターの先にいるかのどちらかだろう。

 ちょうどよくここには古代やハルナを始めとした面々とネレディアを除いたガミラスの面々が揃っている。

 

 ハルナが一歩前に進むとエレベータのドアを塞いでいた伸縮式のフェンスが開いき、開き戸が開いた。

 

「アカツキ。お前の想像……ていうか考察は当たってたみたいだ」

 

「これでようやくですね、暁さん」

 

 緊張しているのか、無言でうなずいたハルナは先にエレベータに乗り込んだ。どうやら全員乗るまで動かないエレベータのようで、何とか全員乗ることが出来た。

 全員乗りこむと両開きの戸が閉じフェンスも閉まり、見た目を裏切り一切の振動も無く上昇を始めた。

 

 相変わらずハルナは無言のまま、それも直立不動だ。物凄く緊張していると思った桐生が緊張を解そうと思いハルナの肩に触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その手は素通りしてしまった。

 

 声にならない悲鳴がエレベーター内に響き皆壁際に引いた。今までハルナだと思っていた物はただの幻影。ネレディア以外にハルナまで消えていたのだ。

 

「暁さんが……いない」

 

「戻れないんですか!?」

 

「ダメだ、ボタンすらねぇ!」

 

 そのままスッとハルナの幻影が消えると、エレベーターは11階に辿り着いた。柵とドアが開き、目の前に広がるのは真っ暗で無音の空間。そのまま稼働を停止した。

 

「降りろ、という事か」

 

「見捨てるんですか?!」

 

「そうじゃない。ジレル人を見つけて解放して貰う様に頼んでみよう、敵意が無ければだが……」

 

 古代が苦々しい顔をして降りるのに続き皆が降りる。全員が降りるとエレベーターは速やかに1階に降りて行った。真っ暗な空間の奥に見えるのは光。

 

「11層目に至りしものは真の世界を見出せるであろう、だったよな」

 

「確かにここは11層目ですが、文字の通り目は闇を映し耳は沈黙を聞く、真っ暗で静かです。真の世界は……」

 

「向こうという事か、行きましょう」

 

 そのまま光が差し込んでいる方へ進んでいくと、だだっ広い空間に辿り着いた。半壊してはいるが足元は広く、真正面には執務室の様な机があった。そこに誰かいる。それも2人も。1人は紅いドレスを纏ったガミラス人。間違いなくネレディア、否ネレディアの姿を借りたジレル人だ。

 

 そしてもう1人、私服姿で真っ白な髪、それを下ろして赤い目を瞬かせている。どこか虚ろな目をした彼女はジレル人のすぐ横に立っていた。

 

 

「暁さん心配したんですよ! 無事でよかったです!」

 

 桐生が駆け寄ろうとするがハルナは声すら発さない。それどころか、

 

 

 

 

 

 

 

 ハルナは桐生を投げ飛ばそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「危ない!! ってうわっ!?」

 

「……」

 

 虚ろな目をしたハルナから庇った沢村が投げ飛ばされ、近くの床に体を打ち付けた。一瞬で場の空気がピリピリした物に変わりバーガーが構える。

 

「アカツキ、何をしている……ッ!」

 

「いや、目がおかしい」

 

「はぁ? 目って何だよ目って」

 

 虚ろな目には今までの様な光は無く、揺れる火のような虹彩は赤の淡色になっていた。古代はそれに見覚えがあった。艦内での集団催眠で操られかけていた森の目によく似ている。あの時はただ森を引っ張りエンジンルームから脱出すればよかったが、あの時は無抵抗だったから出来たのだ。

 今操られているのは最強に近い人物だ。怪我の1つくらいは覚悟しないといけない。

 

「相容れないから、私達と貴方達は。私も、皆とは相容れないから」

 

「おい、何言ってんだよ……」

 

「貴方達はガミラス人、そしてテロン人。騙していてごめんなさい。でも、私は、彼を殺しかけた貴方たちガミラス人を許せない」

 

「何言ってんだよ、お前らは……」

 

「彼女のいう事は事実。今横にいるのは、あのヴンダーのクルーなのよ」

 

 虚ろな目のハルナがつらつらと言葉を並べていくが、バーガーはそれを否定して欲しかった。たった6日間の生活でも、バーガーは彼らとそれなりに良い関係を築くことが出来た。食料を分け与え貰えた。メルヒなんかは格闘の指南を受ける事が出来た。初対面でも協力し合うことが出来た。

 

 もしも脱出できたら、またどこかで再会したいとも思った。

 

「なぁ……」

 

 だが返ってきたのは沈黙、それはある意味肯定とも見て取れる答えだった。

 

「まさかお前……ッ!」

 

「止さんかバーガー!」

 

 バーレンが止めようと声を上げるがバーガーには聞こえなかった。今目の前にいるのは自身の上官だったドメルを殺したテロン人。それもあのヴンダーのクルーだ。手を出さない事など出来なかった。一時的とはいえ落ち着いていた復讐心に再び火が付き、気付いた時には古代の襟に手をかけていた。

 

「お前らがゲットーを……クライツェを……ハイデルンの親父を……ドメル将軍を……ッ!!」

 

「殺したのか!? どうなんだ!?」

 

 喚くように問い詰めるバーガーは、諦めきれていなかった。彼らがテロン人だという事を今でもいいから否定して欲しかった。でなければ今堪えている衝動が古代を傷つけてしまいそうだった。

 

 

「何とか言えよ……ッ! おい!」

 

 数秒の沈黙の末、古代は口を開いた。

 

「バーガー、俺たちはドメル将軍と戦った。あの方は最後まで勇敢で敵への敬意を忘れない方だった」

 

「……否定しねぇんだな」

 

「俺たちは、ドメル将軍に自爆の道を選ばせてしまった。俺たちが殺したも、同然だ」

 

 怒りが拳を振り上げる。それをすんでの所で強引に止めるが震えている。敵が目の前にいる事実が拳を動かそうとし、目の前の人間と協力し合えた事実が拳を止めにかかる。

 

 コンフリクト、2つの事実が衝突を起こし強い葛藤に襲われ、バーガーはどうしていいか分からなくなってしまった。自分ではどうしようもない。

 

「バーガーさんッ!」

 

「たとえ知らなかったとしても、私達は互いに信頼して、笑い合えてました! だから……っ!」

 

「うううぅぅぅぁぁぁあああッッ……!! 俺は……ッ仲間を殺されたんだよ……ッお前らに……ッ」

 

「ああ、身を守る為であっても……俺達は確かに殺した」

 

 その言葉を聞いたバーガーは古代を押し飛ばしてしまい、腰に手を回した。いつの間にか表れていたホルスターに収まっていた銃をためらいなく取り出してしまい、古代に向けてしまった。

 

「信じたくなかった。コダイ、いや、お前らはいいやつだ。良いやつだから余計に信じたくねぇんだよ。……なぁ、何でお前も抜かねぇんだよ。こっちは銃を向けているぞ」

 

 安全装置を外し、ゆっくりと引き金に指をかける。古代は一瞬驚いた顔をしたがホルスターには手を伸ばさなかった。腰の重みで既に自分にもホルスターが現れている事を知りながら、抜かなかったのだ。

 

「俺たち地球人は、宇宙に出る遥か前から沢山の仲違えをしてきた、血も多過ぎる程流した。その度に互いを知り、理解して、どんな違いがあっても分かり合って来たんだ」

 

「だから、例え星が違っても、俺たちは分かり合える。これは、この戦いで俺の兄が残した遺志だ」

 

「……理想主義だな」

 

「理想は脆いものかもしれない。だが、理想は現実になる為に生まれてくるんだ。どんな絵空事でも」

 

 そう言うと古代は銃を構えるバーガーの元まで歩みを進めると、その銃口を自身の左胸に押し当てた。

 

「古代さん!?」

 

「やめて古代くん!」

 

「バーガー。俺が大ほら吹きに聞こえるなら、このまま撃ってくれ」

 

 銃口を押しあてたままバーガーを見つめる。今撃てば仇が討てる。だが、討たない未来もある。銃のバレルを掴んだままの古代の手も震えている。自分から殺せと言っている様なものだ。震えない人はいない。だが古代は、この行動と共にバーガーにこの選択を委ねた。残酷かもしれないこの選択を。

 

 拳銃を握る手が震える。握り直すが、古代の狂気とも見られかねない意思に押され怯みそうになる。だが狂気に染まった眼をしていない。確固たる意志を持った目が真っ直ぐにバーガーを見据えている。

 

 引き金にかかる指にゆっくりと力がかかっていく。

 

 

 

 

 

 

 

(やめてッ!!!!)

 

 全員に脳を揺らす様な思念がぶつけられ大きくふら付いた。

 

「暁さん!?」

 

「……だったらこうさせてもらうッ!」

 

 意を決したバーガーが、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高く高くあげられた銃口から走ったビームはそのまま消え、肩で大きく息をしたバーガーがそこに立っていた。そのまま挙げられた拳銃を地面に叩きつけると、衝撃で跳ね上がった拳銃を足で踏み潰す様にして床面に押さえた。

 

「選んでくれたのか、バーガー」

 

「コダイ。俺には、とんでもない大馬鹿野郎の言葉に聞こえた。それも、マジでやる気がある方のな」

 

 バーガーは結局引き金を引いた。だが撃つ前に天井に向けるという第三の選択肢を選び、争いへの一本道を断ち切ってくれたことに古代は大きく安堵し、その場でへたり込んでしまった。

 自分から銃口を胸に押し当てるという狂った選択を取ってから、古代は生きた心地がしなかった。もしもバーガーが本当に「そのまま」引き金を引いていたら、自分は撃ち抜かれてそのまま死んでいただろう。そのまま争いに突入してジレル人の思惑通りに全滅してしまう所だった。

 

「大博打だった。やるものじゃないな」

 

「もう2度とやるな。それとアカツキ、お前聞こえてるんだろ」

 

 

 虚ろな目をしたハルナが大粒の涙を流していた。一切表情を変える事が無かったつい数分前とは異なり、

 顔を歪めて涙を溢していた。

 

 爪が食い込むほど握られた拳から血が滴り落ち、尋常じゃ無い握力が籠められている。抗っている。操られていたとはいえ自分がした事に心を痛め、自傷を以てしても振り払おうとしていた。

 

 それは洗脳をし続けているジレル人にも影響をもたらし始め、ネレディアの姿が揺らぎ始め肌の白いジレル人が見え隠れし始めている。

 

 だがまだ体の制御を取り戻せていないようで、力なくハルナが歩き始めている。

 

 

(メルヒ君……ッ私を元に戻して……ッ!)

 

 

「ぶっつけ本番か。少佐、やります」

 

「ああ、やってみろ。あとはあの何でもありを元に戻せば俺らの勝ちだぞ」

 

 

 _______

 

 

 

 力なく歩いていたハルナが急に走り出し、メルヒも素早く反応して即座に加速する。息をつく暇もなく組み合い睨み合い、その一瞬の時間の後にハルナは既に動いていた。

 自衛にふさわしい投げ技や固め技ではなく殴りや蹴りといった攻撃的な物ばかりとなり、1つ避ければ次が飛んでくるほどの勢いで体勢を立て直す暇もない。

 無機質な虹彩に光が灯り始めているようで打撃が強引に僅かに逸らされているが、それでもメルヒは全て避けることが出来ず、所々に重たい一撃が掠る。

 

 ここまででたったの10秒。以前沢村と模擬戦闘をした時とは比べ物にならない程のスピードと威力は、メルヒの前に高すぎる壁として立ちはだかる。

 

 おまけに次に何しようと考えてもそれすら先読みされてしまう。考えて動くこと自体が無意味と言わんばかりに動き回られ、反撃しようとすると即座に背後か横に回られてしまう。

 

(私が女だから躊躇しているの……ッ? 遠慮なくやってくれるかな……ッ?)

 

 ダイレクトに頭に声が響きメルヒは思わず耳を疑ったが、疑う時間も無く飛んできた拳をギリギリで逸らす。

 

「お前、一体何なんだよ」

 

(4分の1だけバケモノな人間なだけよ。それ以外は貴方達と何ら変わりないはず)

 

「知らねえよバケモノとか。遠慮なくやっていいんだな?」

 

(むしろそうしないと勝てないと思う。あのジレル人、私の体を勝手に使って来てるから。今は邪魔するので精一杯)

 

 声が途切れるとまた無機質な虹彩となり攻撃が続く。遠慮なくやる様にと言われれば、元に戻す為にもどんな方法でも使うしかない。

「可能性を信じ、すべき事をする」と、メルヒは配属時に教官から教えられた。ガミラス軍人は決して諦めてはならない。私情を基準にして手段を選んでいる暇があれば、今の状況の中で最善と思える方法を躊躇なく選ぶ。

 

 

 

 メルヒも躊躇なく選ぶことにした。

 

 

 

「……ッ!?」

 

 振りかぶった拳をブラフにして横から捻じ込んだ蹴りはハルナに防がれかけたが、勢いを殺しきれずに脇腹に一撃が入る。思わず表情が歪み虹彩にもブレが走り、徐々に隙が生まれ始めている。

 

「天性の才能抜きでコレなら、才能アリなら俺死んでるな。……クッ!」

 

 ハルナの振るった拳がメルヒの頬を掠め鈍い痛みが走る。体勢を立て直そうと後ろに下がるとその瞬間にハルナは真正面に張り付きそのまま腕を取り背負って投げた。機械のように正確な動きと無尽蔵とも思える体力に一瞬狼狽えるメルヒだが、「出鱈目だから考えない方が良い」とさじを投げて素早く反撃をする。

 

 先程の一撃が良かったのだろう。ハルナの意識が徐々に出て来ている様で攻撃にブレが目立ち始め、脳に直接語り掛けるような言葉とは違い、声として言葉が漏れ始めている。

 後は畳みかけるだけ。もう一度仕掛けようと横からの蹴りを入れるが……

 

 

「クッソ離せ! ぐぁっ!」

 

 振るった片足がわき腹と片腕でがっちりと固定されてしまい身動きが取れない。間髪入れずに胸に掌底打ちを2連続で食らってしまい、ハルナの回し蹴りを肩に受けてしまい吹っ飛んだ。

 

(顔面だと絶対意識飛んでるじゃないか……ッ!)

 

 重たい一撃で一気に吹っ飛ばされたが、これでも逸らされているという事実が「本人の全力ではない」ことを嫌でも自覚させにくる。

 

 頭を振り意識をはっきりさせるとまた拳が飛んでくる。それと共にまた脳裏に言葉が響く。

 

(そう言えばまだ教えていなかったね……ッあの時どうやってメルヒ君を押さえたのか。あともう少しで解けそうだから、それでキッカケを作って……ッ)

 

「アレをか、力加減が分からんからケガさせるかもしれん」

 

(それでいいのよ。隙さえあれば操りを解けるから。メルヒ君軍人なんでしょ? だったら……ッ)

 

「可能性を信じ、すべき事をする。私情を基準にして手段を選ばない。そう教わったッ!」

 

(分かった。相手が付き出した拳に対し体を軽く右にずらして避けて、がら空きな左腕を軽く掴む。さらに相手の肘に自分の腕をひっかけて自身に飛んで来る筈だった拳を相手にお返しする。そのまま全身の力で一気に倒してしまう。これだけよ)

 

「ややこしいな……ッ!」

 

(本当は時間かけて教える筈だったけど、沢村君倒せたなら問題ないでしょ?)

 

「舐めるな……!」

 

 焚きつける積もりで言われた事は分かっているが、舐められたように感じたメルヒはむしろやる気になっていた。

 

 ハルナはまだ体の制御を取り戻し切れておらず、思った動きが出来ずにいる。兎に角狙いを反らす事に専念してはいるが、極度の集中でそろそろ頭が煮えそうだと内心焦りも見せている。

 もうなりふり構えない。多少の怪我くらいは許容範囲内だ。

 

 執拗に続けられる打撃を必死にさばきながら隙を窺う。才能抜き経験のみで動かされている以上必ず隙がある。素人がラジコンで動かしている様なものだ。決してハルナの全力ではない。

 そう思うと、目の前の脅威がそこまでのモノでもないと思えた。

 

 本来のハルナはこれ以上の脅威で誰も止められない。化け物、モンスター、怪物とありきたりな言葉で形容しても足りないくらいだろう。

 

 

 そう思えば、ハルナが振るった左ストレートを掴むのは容易かった。素早く体を右にずらして避け、がら空きになった左腕を掴む。相手の肘に自分の腕をひっかけて自身の飛んで来る筈の拳を相手の顔にお返しする。

 

「あとは……ッ!」

 

 全身の力で一気に倒し、俯せになる様にハルナを制圧する。一瞬嫌な音がしたが今は気にしない、後で気にしよう。

 

「どうだ……ッ?」

 

 2秒にも満たない動きに全てが詰め込まれ、静寂に満たされる。互いの息遣いだけが響き、それ以外が止まったままだ。

 

 暫くすると、脳ではなく耳目を叩く声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……肩外れた。痛い」

 

 揺れる炎のような緋色の虹彩に戻ったハルナは痛みに顔を歪めながら座り込み、だらりと下がった左腕をそっと支えた。

 

「すまんやり過ぎた!」

 

「ごめんちょっと支えて下さい。痛いけど戻します」

 

(この辺? この辺かな?)

 

「グゥッ……!!」

 

 詳しくもないのに無理に関節を戻し*2、激痛に体が仰け反る。古代とバーガーの男2人がかりで押さえつけても力負けする程仰け反られるが、数秒後には蹲っていた。

 

「……はぁ……はぁ……痛かったぁ」

 

 脂汗を額に浮かべながら関節を元に戻したハルナはそのままの流れで仰向けとなり、大きく息をする。落ち着くとメルヒの方を見た。

 

「結構痛かったけどそんな感じでやればいいのよ。覚えたでしょ?」

 

「ああ、実技指導でな。だが、それでもやり過ぎた事は事実だ。すまない」

 

「いいのいいの、こうでもしないと隙無かったよ」

 

「いいや謝らせろ。俺が納得しない」

 

 そうした言い合いが続いたが、頑なに「謝らせろ」と言うメルヒにハルナが根負けし、ハルナは一息ついた。これでこちらから色々聞くことが出来る。ようやく話のテーブルに着くことが出来たのだ。

 

 

 

 

「まずはネレディアの変装を解除してくれるか? そもそも、アイツは今どこだ」

 

 バーガーの問いかけにジレル人は素直に応じ、ネレディアの偽装を解除した。

 

(彼女はここにはいない。最初からこの世界には来ていない。最初から私が演じていた)

 

「何? じゃあアイツはまだランベアにいるのか……」

 

「最初から見ていたんですね。私を操って力で争わせようとしたのは、最大の脅威を私とみたからですか?」

 

(私は時間をかけて食料を浪費させて飢えに追い込み、仲間割れを誘発させて自滅させるつもりでいた。だが、貴方というイレギュラーにより想定よりもはるかに早く解かれてしまった。最終手段としてあなたの武力を利用して全滅させるつもりでいた。決して許される事ではない事は、この方法に辿り着いた時より理解している。一族として謝罪する)

 

 そう言うとジレル人は深く頭を下げた。謝罪の仕方は宇宙共通らしく、他文明からバケモノや魔女と呼ばれても、本質的には人間だということがよく分かる。

 

「1つだけ分からないことがある。俺たちを争わせて全滅させたいなら、水の供給も断てばいい。ヒントになる床のアケーリアス文字も消してしまえばいい。何故しなかった?」

 

 

 1番の疑問に古代が切り込んだ。争わせることが目的なら、最初から食料が無いように水も無くせばいい。床の文字は、余剰次元のことを知っていればエレベーターと結びついてしまう。

 

 何より、ヘレン・ケラーとガミラスの魔女の童話がなぜ置かれていたか。ハルナの考察の中心にあるのはその伝記と童話だ。最初からこんなもの置かなければいいのだ。

 数瞬話す事を考えたジレル人は、真実を伝えるべく口を開いた。

 

 

 

(それはこの船、我が始祖アケーリアスのシャンブロウが、アケーリアスの播種船であり、この船を含めた宇宙全域が実験場であるからです)

 

 ━━━━━

 

 ジレル人が伝えた真実。この世界そのものが実験場でありアケーリアスはその主。そして外の空間も丸ごと全てが実験場というのだ。

 

「全部アケーリアスの手のひらの上ってことかよ。チッ、ふざけてやがるあの文明」

 

「じゃあ、私たちはテストを受けていたってこと? 例えば、敵同士でも手を携えられるか」

 

(彼らアケーリアスは、文明発展のために数多くの遺物をこの世界に残し、同時に試練を与えた。そしてその多くが、遺産を動かす為のキーとなる)

 

 そう言うとジレル人が右手を真っ直ぐ横に伸ばすと、全ての景色が切り替わった。コンクリで出来た床が極限までに磨かれた大理石となり、見えも触れも出来なかった柱が現れ、天井すら無くなった。

 

 

(かつてこの星には多くの星の民が現れ、この星を求め、そして互いに争い死んでいった。彼らのように)

 

「彼ら?」

 

 ジレル人が指さす先にに頭を向けると、多くの白骨死体が転がっていた。白骨化しているとはいえ死体が山のように積み重なっている光景は凄惨なもので、言葉を失う。

 

 その中でもメルヒは身元を確認できないかと思い遺体の1つを確認するが、推測する必要はなかった。

 

「このマーク……こいつら全員ガトランティスです!」

 

「ガトランティスがシャンブロウを求めていたのね。理由は分からないけど、欲しい物があったから求めてたのかな」

 

(彼らの求める物がここにはある。ここに隠れ住んだ我らは、この船の権能と自らの力を使い身を守り続けてきた。外界とこの世界との繋がりを断ち切り、疑心を煽り、自滅させた。しかし、もう彼らが来てしまった)

 

 地響きが鳴り、周辺の柱に埋め込まれている結晶が白から赤に変わった。

 

「何が?!」

 

(何者かの侵入を受けた。既にこの世界は外部から攻撃を受けていて、時機に内部への侵入を許す事だろう。直ちに立ち去る事を推奨する)

 

「貴方はどうなる? 我々は帰れるが、貴方達はここに居続けるのか?」

 

(我々ではシャンブロウを動かせなかった。方法が分かっても尻込みをする毎日だった)

 

「ここにいても滅びを待つだけだ。明日を信じよう」

 

(安息の地を捨て、再び旅立つとは……我らにはできない)

 

「私達が乗るのは奇跡をもたらす方舟AAAWunder。貴方達が今乗っているのは、星巡る命の方舟シャンブロウ。方舟に乗る者同士、未来の1つや2つくらい見ないと、どっちに行けばいいのかすら分からなくなる。私は、地球と自分の未来を見て航海してきた。貴方達は、いつもと違う明日を見て進んでみたら?」

 

 ハルナには一種の親近感があった。自分を操って危うく仲間を殺そうとした事を無しに出来ない。理由があってもやってはならない事をしたのは許される事ではないが、それでも彼女は少しでも明日を見たがっている。だったら、未来を見せてもいいじゃないかと思ったのだ。

 ハルナはジレル人のように器用に幻を見せたりは出来ない。精々思っている事を覗き見したり先読みするくらいだ。でも、幻を与えるよりも未来を与えること位なら、自分でも可能だ。

 

「生き抜くためとしても、貴方のやった事を水に流すつもりはない。それでも生きたいという意思があるなら、未来を手にしたいという意思を示して。これ以上の犠牲を出さない為にも。屍の上に立ちたくないなら」

 

 何でも許せる聖人なんかではない。根は只の人間のハルナが示した譲歩と提案は、そのジレル人を大きく揺らした。地響きが響く中沈黙に包まれ、意を決したかのように声を発した。

 

 

(手を……貸してください)

 

 

 そう言うとジレル人は古代とバーガーに向かい手を差し伸べ、その手を求めた。

 進む意思を見せたジレル人のハルナが頷くと、古代とバーガーに目配せする。自分が行くべきだったが、左肩が痛くてまともに動かせない。それこそバランスさえ危ういため、古代にお願いするしかなかったのだ。

 

(方法が分かっても出来なかった。我らは風前の灯火と言える種族。それでも、火を絶やさない意思を示さなければ、我らは潰える。その一歩を、どうか)

 

 それに応じた古代とバーガーはジレル人の前に立ちそれぞれ手を貸した。

 

「そういやアンタの名前を聞いて無かった。アンタ、名は?」

 

 バーガーが名前を聞くと、ジレル人は初めて口を開き、名乗った。

 

「……レーレライ・レール」

 

 レーレライ。地球に残るローレライの言い伝えのように、その美しい声で言葉を紡いでいく。

 

 

壁のかたわらでは、わたしはおまえにひとこと話そう

わたしのいうことを聞きなさい。わたしのおしえに耳をかたむけなさい

 

 紡ぐ言葉は五線譜となり、手を繋ぐ三人を中心にして大きな円となる。

 

 

銀河に蒔かれた種。数多の種族。この地に集いて7日後

心を、1つと成せ

 

 

 五線譜上に音符を模したアケーリアス文字が浮かび上がり、音色を奏でていく。

 

 

輝く光輪に入りて、手を携えよ。

同じアケーリアスの遺伝子を持つ、銀河の同胞(はらから)

 

 

さすれば封印は解かれる。母なる、星巡る方舟よ

永き眠りより、目覚めよ

 

 

 五線譜に並ぶアケーリアス文字が眩い光を放ち、床面に掘られた文様が淡い光を取り戻していく。まるで水の波紋のようなデザインの文様は雪の結晶のように線と線で結ばれ、互いが意味を持ち持たされている。

 

 光の渦と化した五線譜が天へと昇り、天へと吸い込まれていく。同時に地響きとは異なる振動が走り始め、柱が消え、アケーリアス文字が煙のように立ち上り始める。一目で起動した事が分かり、全ての準備が始まる。

 

 

 

「私達の、明日へ。我らはジレルを絶やさぬよう、火を焼続けます」

 

 

 


 

 

 

 その言葉を聞いた僅か数秒後には、古代とバーガーたちはエントランスに立っていた。後ろには消えていた筈の出口、それぞれの通信機が受信音を響かせ始めた。

 

「少佐、内火艇との通信来ました! 外で洪水が発生しているそうです!」

 

「こっちも繋がりました。アナライザー、状況は?」

 

『天井ニ多数ノ亀裂ヲ確認シテイマス。マタ、大量ノ水ノ流入ヲ確認。至急避難ヲ。亀裂部ヨリ通常空間ヘノ脱出ガ可能ト思ワレマス』

 

「どうやら帰れるみたいだな。外に迷惑なお客がいるみたいだが」

 

「ああ。Wunderならやれる。急ごう」

 

「溺れ死ぬのはごめんだ。あああと、外で落ち合うぞ。奴らを歓迎してやろう」

 

 それからは兎に角走った。今いる建物は海岸線から離れているとはいえ海辺の基地である点は変わらない。何時水没しても可笑しくない以上急がなければならない。ハルナも痛いのを我慢して必死に走るが、その胸中は穏やかな物ではなかった。

 

 エントランスに戻される直前にレーレライから伝えられた事実は途方もなく大きく、そして自分自身にも大きく関わるものだった。

 

 

 

 _______

 

 

「惑星表面に異常確認、表面の崩壊が始まっています!」

 

 Wunder側でも惑星の異常は観測されており、全周スクリーンの戦闘艦橋でその状況はモニターされていた。その割れ目から飛び出す一つの光点。即座にタグ付けがされて「キ8型」と文字と共に強調される。

 

『Wunder、聞こえるか? こちらこうのとり、これより帰投する』

 

「古代くん……!」

 

 こうのとりからの通信が途絶えて「半日」。惑星の異常と共にやって来た通信復旧と帰還の知らせは」、戦闘艦橋の面々から歓喜の声を上げさせるには十分だ。

 リクは市川の座るコンソール席に寄ってヘッドセットを借りて装着した。

 

『リク、ただいま』

 

「お帰り。今ガトランティス艦隊様御一行が近くに来てる。出来る限りの準備と機能の実装はしたよ。古代くんは大急ぎで戦闘艦橋に上がってくれ。ハルナも頼む」

 

『あぁ……ごめん、先医務室行かないと。色々あって肩一回外れたの。無理矢理戻したから今結構腫れて痛い』

 

「肩が外れて無理に戻した」と軽く言われてリクは眉間を押さえる。だが言わないよりは全然いいと切り替えて溜息を付いた。

 

「……大方荒事をしたんだな。後でしっかり聞かせてくれ。一先ず、全員無事でよかったよ」

 

 市川にヘッドセットを帰すと真田が眉間を摘まんで解していた。明らかに厳しい事を言う時の真田だ。

 

「睦月君、そんな軽く済ませられる事ではないんだぞ?」

 

「これでいいんです。まずは生きている事が大事、後はゆっくり聞きます。そんな顔をし続けていたら眉間のしわが残ります」

 

 良いように締められて真田は唸るしかなくなったが、ハルナを一番分かっているのはリクなのでとやかく言うことを諦めた。横では作業から戻って来た赤木博士とマリが苦笑いをしていた。

 

「赤木博士……真希波君も、はぁ……」

 

 心労は大きそうだ。その心労に追い打ちをかけるようにガトランティス艦隊がやって来ている。真田は副長として指示を出した。

 

「全艦、第一種戦闘配置。こうのとり収容次第第2戦速で大気圏を離脱する。その後、ガトランティス艦隊の迎撃戦を行う」

*1
ガンダムSEEDに登場するモビルスーツ埋込み式戦術強襲機

*2
絶対にやってはいけません




メルヒ頑張ったっ!
バーガー頑張ったっ!
古代も頑張ったっ!


ハルナ頑張り過ぎ!

はい肩外れました。皆さん、肩が外れたら無闇に戻さないでください。RICEという処置がありますので皆さんは絶対に真似しないでください。ハルナが度胸凄いだけです。

さて、この辺りは原作から結構な改編をすることとなりました。メルヒのイライラが無かったしハルナの全能感が凄かったのでどうしたものか……よしこうしようで辿り着いたのがハルナ操られ状態です。

最強が最恐になりましたが、この話しは納得いく形になりました


それでは次の話でお会いしましょう
(^_^)/~~


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さらば 我が友 暫しの別れぞ 前編

ごめんなさい、後編出す前に休載宣言といきます


「状況は?」

 

「敵は、この星を中心にして包囲陣を敷いている。総攻撃を受けるのは時間の問題だろう」

 

 全周スクリーンに拡大表示されたガトランティス艦隊は空母とその護衛艦隊を別に残し、それ以外で星の周囲を固めている。まさにネズミ一匹通さない構えだ。

 

「副長。自分に、この場の指揮を任せて頂けないでしょうか? 勝算はあります!」

 

 一皮むけたような顔で具申する古代の勢いに、リクと真田は押された。何となく互いに顔を見合わせると、後輩の成長を実感して含んだ笑みとなった。

 ここは任せてみよう。そう決めるとリクは右手を古代の肩に置いた。

 

「敵の火炎放射器対策は完了している。あれはこっちからすればもう無効武力だ。作ったシステムで確率8割。プラス島君の操艦技術で回避率は9割を超える。やりようはある」

 

「ああ。手札ならもう一つ真希波君が用意してくれた。準備は万端だ。副長権限で、これより艦の指揮を戦術長に一任する。睦月君も適度に補助を頼む、取らないように」

 

「分かってますよ。爺臭い言葉ですが、若人の成長の機会を取るほど意地悪じゃありません。古代くん、今からこの船の指揮官は、君だ」

 

「はっ!」

 

 人生の大先輩から任された。それを身に受け、古代は精一杯の敬礼を返した。

 

 ______

 

 

 

 一方第8警務艦隊とガイペロン級3隻の元には、バーガーたちを乗せた内火艇が着艦しようとしていた。動物のように伸びた4本足から着陸用のタイヤを伸ばすと緩やかにランベアに着艦して、昇降用ハッチを開いた。

 

「内火艇着艦。調査隊、帰投しました」

 

「心配かけさせて、あのバカ」

 

 臨時でランベアの指揮を執っていたネレディアも安堵し溜息を付いた。だが安堵していられる状況ではない。ガトランティスの連中がすぐそこまでやって来ている。その状況をすぐにバーガーに伝えて戦闘配置に入らなければならない。

 

 だが、内火艇から降りてきたのはバーレンのみ。昇降ハッチを直ぐに閉じてしまい内火艇は浮上を始めた。

 

「内火艇、ランベアを離れます!」

 

「えぇっ!?」

 

 バーガーはどこへ、それを理解するには時間はいらなかった。バーガーはもう捨てにこの状況を知っていて、その状況を打破できる戦力がある事も知っている。

 

 バーガーは、ミランガルを使うつもりだ。

 

「置き去りにしたわね……私を。各空母に連絡、動ける機体を甲板上に出して待機。パイロットもよ」

 

 _____

 

 

 

「アプローチに入る」

 

『こちらミランガル。着艦を許可する』

 

 後部主砲塔がエレベーターで格納されて内火艇の着艦スペースが出来、そこに緩やかに着艦する。

 

 改ゲルバデス級航宙戦闘母艦 ミランガル。数が少ないがガミラス内でも目立つ見た目とサイズを持つゲルバデス級は、空母と戦艦の両取りを目指した艦だ。だがそれは、搭載機数が20機程度である事と、砲塔数は多いが主砲口径が280ミリでデストリア級にも満たないという有様で、結果器用貧乏に終わってしまった。

 

 だがこのミランガルはそんな結果に抗った結果、280ミリが330ミリに。133ミリが280ミリに換装されて砲戦能力の向上が図られた。

 

 しかし、口径がアップした砲門54門を賄うためにはゲシュ=タム・ドライブの出力だけでは不足気味で、完全稼働が出来ず常に何処かを持て余しがちとなった。

 

 だが何であれ器用貧乏から脱却する事が出来たこの船は、正しく「航宙戦闘母艦」としての火力と、空母には劣るものの艦載機搭載能力を持つ事となったのだ。

 

 

「悪いなネレディア。お前の船借りるぞ」

 

「良かったんですか、少佐?」

 

「死なせたくねぇんだ、キリュウを見てたらな。メリアが逝ってネレディアまで逝かせる訳にはいかねぇよ。……なんかガキ臭いな」

 

「別に自分は少佐のそういう所嫌いではありません。やるんですよね? テロン人と」

 

「握りこぶしで握手は出来ねぇよ。てゆうか殴るくらいしか出来ない。手を結んだ以上やってやるさ。あのインチキヴンダーもいる。やりようはある」

 

 内火艇から降りたバーガーとメルヒは艦内に入りブリッジに移動した。艦橋に入ると皆が忙しく動き回っており、少しのもたつきはあれど戦闘準備が進められていた。

 

(やっぱ警務艦隊だな。第6ん時みたいな慣れてる連中じゃねえ)

 

「あれだけやっても沈められなかったんです、あの戦艦は。俺たちが一番よく知っています」

 

「ドメル将軍の言う通り神でも天使でも殺しそうだ、あの船は。強さは折り紙つきどころじゃ済まねぇぞ。指揮官はいるか?」

 

「自分がそうです」

 

 操艦用の舵輪を握っていた1人の大尉がバーガーに敬礼をした。バーガーも敬礼を返し話を続ける。

 

「奴らが来ている。ネレディアにはランベアを任せてきた。迎撃を行うが指揮権を渡してくれるか?」

 

「……了解しました。ですが、第8警務艦隊と空母群のみでは蛮族共を撃退する事は厳しいです」

 

「その辺は戦力の当てがある。とんでもない規模のバケモノ戦艦だ。聞いた事ねぇか? 途方もなく大きな1隻の戦艦。俺らが小鳥に見えるくらいのクソデカい鳥みたいな戦艦だ」

 

「鳥みたいな、でありますか? ……まさか!?」

 

「アイツは有名だからな。ドメル将軍を破った、神殺しの船だ」

 

 全てを察させたバーガーはマイクを受け取り、全艦隊に向けて放送を始めた。

 

「全員そのままで聞いてくれ。俺らは奴らを殲滅し、爺さんやガキ共を故郷に帰す。お前らも、ガミラスの軍人ならわかる筈だ。矢面に立つ俺らが皆揃って帰れる保証はないが、それでも1つ、俺を信じて着いて来て欲しい。この難局を切り抜けられるには俺達と、テロン生まれの苦笑いする位クソデカ出鱈目戦艦の合同艦隊しかいない。思う所もあるかもしれないが、今は同じ方向を向こう。話は以上だ。総員持ち場に付け。戦闘配置ッ!」

 

「「「ザー・ベルク!」」」

 

「「「ガーレ・ガミロン! ガーレ・ガミロン! ガーレ・ガミロン!」」」

 

 ____

 

 

 修復が終了したWunderは甲板部を収容し惑星より発進。厚い雲の中を泳ぐように進み続け、その重厚な艦首で雲を突き破り、その翼で雲を切り裂くようにして浮上した。その横から浮上する艦隊をWunderのレーダーが捉えた。

 

「9時に浮上する艦艇確認、ガミラス艦隊です!」

 

『艦種識別、クリピテラ、ケルカピア、デストリア、ゲルバデス改タイプヲ確認。ガミラス艦隊、Wunderト同航』

 

 イスカンダルまでの航海で嫌という程見てきたガミラス艦艇と、フリングホルニによく似た一際大きい艦艇も確認できた。ガトランティスを相手にしなければならないのにガミラスまで出てきた。艦橋に一気に緊張が走る。

 

「砲撃準備」

 

「撃つな。彼らは友軍だ」

 

「おいおいお前……勝算ってまさか」

 

「ああ、我々は1人じゃない」

 

「休戦協定結んだとしても早いよ流石に。古代くん、一体何があったんだ?」

 

「外で落ち合おうと決めたんです。地球ガミラス連合艦隊です」

 

 涼しい顔で「連合艦隊」を作ったと言われればもう何も言うまい。想定外ではあるが要は戦力が増えたのだ。共通の敵を持っている以上共通の驚異にも晒されている為、すべき事はすぐに分かった。

 

「それだったらあのガミラス艦隊も火炎放射の標的だ。対処の手段は共有しておきたいな」

 

「それならWunderの観測データを向こうの旗艦に送って、旗艦をハブにしたネットワークをガミラス側で組んで貰うわ。向こうが正式に編成された艦隊なら、データリンクくらい問題ないでしょう。古代くん、伝達をお願いね」

 

「はい。ガミラス旗艦に電文を《敵旗艦は高エネルギーをワープで跳躍させて着弾させるアウトレンジ攻撃が可能。敵の攻撃予測データを攻撃兆候時に送信する。全艦リンクし、攻撃に対処されたし》。全艦に達する。航空隊は全機発進し敵艦載機及び空母の撃破を。Wunderはバーガー艦隊と共に、敵主力の進攻を阻止し、これを叩く!」

 

 


 

 

「ツーダッシュ、式波・アスカ・ラングレー。行きます!」

 

「アルファ2山本、出る!」

 

 第3格納庫に格納されていた改2号機が発艦し、第1格納庫からカタパルトに上がったゼロ改2号機も発艦した。続いて第2格納庫では発着艦用ハッチが開き、コスモファルコンの発艦が始まった。

 

「104沢村、出る」

 

 いつも通りの発艦であるが、格納庫の前方に張り出した管制室に桐生の姿があった。一瞬だったが彼女のサムズアップも見えて、沢村も慌てて返す。機体はスムーズにカタパルトに載せられて滑り落ちるように発艦、そのまま前方へと飛んで行った。

 

(もうちょっと時間くれよ……)

 

 

 ミランガルとニルバレスでも発艦が続いており、メルヒもツヴァルケの1機を借りてヘルメットを装着しバイザーを下ろした。

 

『クリム・メルヒ少尉、発艦準備状況知らせ』

 

「CP、各部問題無し。出ます」

 

『了解した。発艦タイミングを譲渡する』

 

 コンソール正面に「準備よし。発艦許可」と文字列が表示され、機体後方の甲板がブラストディフレクターとして立ち上がる。

 

「クリム・メルヒ、発艦する」

 

 ツヴァルケがエンジン出力を上げて甲板を滑走し、ミランガルの甲板から飛び立った。

 

『第8警務艦隊所属の全機に告ぐ。目標は接近する敵航空機及び敵空母。テロンの航空隊と合同で攻撃に当たれ。各機徹底せよ、派手にやれ』

 

 全機発艦しバーガーからの命令が下りコスモファルコンの隊列に合流する。尾を引く水色の光と橙の光。地球とガミラスの混成攻撃隊は氷塊の群れを盾にしながら慎重に速やかに接近を始める。

 即座にレーダーに前方に反応が複数。もう既に相手は発艦しており、凡そ航空機とは思えない見た目のデスバテーダーが接近してくる。

 躊躇わずに敵機をロックオンし翼部兵装ポッドからミサイルを射出。真っ直ぐに目標に突き進んでいき、爆発。惜しくも逃れた機体が幾つか存在しているが、目標を失ったミサイルはそのまま氷塊に突っ込み氷塊が爆散。細かい氷がまるで三段の様に飛び散りデスバテーダーに穴を開け、制御を失った敵機は仲間同士で衝突を起こし木っ端みじんとなっていった。

 

 

 

 ____

 

 

【Transfer alert】

転送警報

 

 

 それは突然の事。戦闘艦橋内に警報音が鳴り響き「転送警報」と大きく表示される。

 

「反応あり! 方位33、vs4!」

 

「バーガー!」

 

『おうよ!』

 

 島が大きく右に操縦桿をかたむけ、バーガーも操舵輪を一気に右に回す。その他ガミラス艦転送位置と予想射線上から、自慢の機動性を使い退避していく。

 

 その数瞬後、退避した射線上を火炎が突っ切っていき、全周スクリーンを光で染め上げる。

 

「方位14!」

 

 更に回避、だが一隻のクリピテラ級が回避しきれず艦底部を解かされ、ダメージコントロールも儘ならず爆沈した。

 

「方位56!」

 

 恐らくこれでラストの1発。相手がこの攻撃を3連装化しているならば、3回撃ってしまえば次のチャージまで時間がかかる。Wunderも至近ではあったもののギリギリで回避に成功し、ミランガルもギリギリ。だがニルバレスが火焔の周囲を飛ぶエネルギーに被弾し艦底部を損傷、何とか小破に収まったが艦底部の砲塔を失った。

 

「被害状況は?」

 

「波動防壁の消耗が激しいです。あの火炎放射器を潰さない限りジリ貧です。向こうはクリピテラが一隻落ちました」

 

「……そうか。完全ではないが、ダメージは少なく済んだ」

 

 完全回避可能な物を作れなかったことを悔やんでいるのか、リクの声のトーンが少し落ちた。だが無いよりは作ってよかったと切り替えるとまた前を向く。

 

「古代くん、今のうちにだ」

 

「距離を詰める。第二戦速でガミラス艦隊と歩調を合わせる。主砲及びVLS発射用意」

 

 既に配置が済んでいる主砲副砲が稼働し始め、VLSも発射管ハッチを一気に開いた。いつもと一つだけ違う事と言えば、艦首に2門設けられていた波動砲口が封印栓で塞がれている事だ。

 

 損傷して修復不可能された波動砲は2門とも取り外されて片方はコスモリバースとなった。大きな手札を失った代わりに地球を守る力を得たが、今のWunderはそれを守りながら戦う必要がある。厳しい戦いとなるだろう。

 

「波動砲は使えない……でも、無くたって」

 

「Wunderはやれる。俺達とこの船を信じる」

 

「そうそう自信を持っていこう。今のこっちの布陣は?」

 

「Wunderを中央にしてガミラス艦隊が左右に展開しています」

 

 Wunderの左右にミランガルとニルバレスが、その両艦の周囲にデストリア級、ケルカピア級、クリピテラ級が周囲を固めるようにした布陣で進んでいく。

 

「古代、正面の旗艦はこっちで相手をなろう。ガミラス艦隊は左右を蹴散らしてもらうべきと考えるが?」

 

「同じ事考えてました。バーガー、正面のバケモノは俺達が相手をする。バーガー艦隊は左右の敵艦を掃討して欲しい」

 

『最初からそのつもりだ、奴らの対処は俺の方が知っている。バケモノは任せたぜ』

 

 ガトランティスとの戦闘経験が豊富なバーガーが左右の駆逐艦級等を掃討し、Wunderがバケモノを倒す。どうやら考えている事に齟齬は無かったようで、スムーズに決まった。

 

「主砲斉射用意」

 

「主砲1番から4番、敵旗艦に照準合わせ。エンジンからのエネルギー伝導終わる。測的よし!」

 

「撃ち方始めっ!」

 

 

 _______

 

 

 

「グヌヌヌヌゥ何故当たらぬゥ! 何故だァ!」

 

 3連装火焔直撃砲。ガトランティスの威信をかけて開発されたこの火砲は、グタバ遠征を何度も何度も押し返されている現状を変えるために生み出されたキメラだ。

 

「恐らく……転送投擲器の転送先が読まれているのでしょう……。空間波動エコーが発生する都合上、それを読み取り回避を行うことが出来れば、この火砲は極端なまでに弱体化します……そうお伝えしたはずですよ」

 

「なら回避できぬようにしろォ!」

 

「それは火砲そのものの改良になりますので……一度帰還……しなければ出来ま」

 

 科学奴隷の言葉はそこで途切れ、そこには事切れた死体が転がっていた。ダガームが振り下ろした剣には紫色の血、ガミラス人の血が滴り、剣を一振りし血を払った。

 

「ガミロンの青虫如きが吾輩に意見を申すとは……笑止ィ!」

 

「大都督、丞相閣下より至急電であります」

 

 そこに丞相からの通信が入り更に苛立ちを覚える。無視してしまいたい気持ちに支配されるが、このメガルーダは大帝の命令で丞相から賜ったもの。無視することは出来ない。

 通信が繋がり床から蒼炎が吹き上がったかと思えば、次の瞬間には白髪の女性が浮かび上がった。

 

「これはこれは」

 

『その報、神殺しの船発見せりは真か?』

 

「……御意」

 

『それを今破壊しようとしているそうだな。撃沈ではなく拿捕を徹底させよ。あの船は帝政ガトランティスが進む先を得る為の方舟。断じて撃沈は許さん。それと、《静謐の星発見セリ》とも報を受けたが、何故申さぬ? 静謐の星への攻撃は断じて許さん。大帝に献上するべき星、遮蔽の技術を傷つけて何と申す』

 

『やはり出自は族の頭目。ガミロンの科学奴隷に作らせた火焔直撃砲と、()()に複製させた神殺しを与える器ではなかったという事か』

 

「黙れェェッ!!」

 

 再び振り下ろした剣はサーベラーを映し出すホログラム装置を叩き割り、装置からは火花が散っていた。副官が後ずさりするがダガームの剣は副官の首を捉え、首と胴体が2つに分かれた。

 

「命する! キスカ隊と合流させ側面から仕掛けさせる! その上で白兵戦を仕掛け制圧する! これは我の手柄、小娘などに渡すかァ!」

 

 ダガームの命令でメガルーダの左右に展開するククルカン級とラスコー級が前進を始め、別行動中のキスカ隊からも艦載機がさらに発進した。

 

「仕留めよォ! 功名を上げよォッ!!」

 

 

 ____

 

 

 

「撃ち方始めっ!」

 

 第1から第4主砲が一斉に陽電子の束を放ち、旗艦直掩の駆逐艦を薙ぎ払った。まだ5隻以上が旗艦の前に立ちはだかり、主砲照準を別の駆逐艦に定める。

 

「続けて、撃て!」

 

 更に放つ。駆逐艦の艦橋部が丸ごと抉れ、撃沈した。だが撃沈してでも一矢報いる積もりか、多数のミサイルが接近している。その数30。

 

「敵艦撃沈座標より飛翔体確認。ミサイルです。数30、直撃までt-32!」

 

「全ミサイルを識別。マリさん、例の物を! 南部、ぶっつけ本番行けるか?」

 

「了解! マルチロックオン用意、スタンバイ!」

 

 全周スクリーンに重ねるようにしてホロスクリーンが展開され、識別されているミサイルにVLSが割り当てされていく。コスモゼロ改に搭載されたマルチロックオンシステム。元々は敵機敵艦を識別して、自機が搭載しているミサイルと機銃、機関砲の目標を半自動で割り当てるシステム。

 メインは人の操作だが情報量の多さから内蔵コンピュータのアシストも必要としており、これを戦艦に持ち込むとなればその砲門数と情報量、尚且つ宇宙という三次元の戦場である以上、情報量は戦闘機の比ではない。

 

 だが、膨大な情報処理能力と的確な空間認識能力をMAGIで管制し、最後に人の目と感覚で目標を識別することでこれを解決。たった半日で出来る最低限度の防空システムとして、これは完成した。

 

 過去に存在したイージスシステムに相当する宇宙戦闘用イージスシステム。それが、このMeteorシステムだ。

 

 

「Meteorスタンバイ。全目標の探知完了。目標各個に割り当て」

 

「撃てる物は全部ばら撒け。撃ち漏らした物は対空で潰す。博士!」

 

「立ち上がっているわよ。南部君、出来れば全部お願いね」

 

「了解! 当たれぇ!」

 

 第二船体と艦尾後方のVLSからミサイルが発射され、1発1発が割り当てられた目標に突き進み、9割を処理した。

 

「3発来ます! 対空防御を!」

 

 撃ち漏らした3発が果敢にも突き進むがWunderの激烈な対空砲火の餌食となる。しかし、その対空砲火の影に隠れて2つの何かが第2船体を潜るようにして接近し、Wunderはそれに被弾した。

 

「艦底部に直撃弾!」

 

「撃ち漏らし!?」

 

「違います! 確認されたミサイルは全て撃ち落としましたので、これは別の何かです!」

 

「未確認か……ダメージコントロール。主砲を残りの直掩艦に合わせろ、落とすぞ。艦艇部VLSミサイル装填、装填完了次第順次射出。ロケットモーターは俺の指示まで付けるな」

 

「何をする気ですか?」

 

「保険を作る」

 

 そのまま前進を続け艦底部VLSに装填、装填次第ハッチを開放し丁寧に射出してまるでデブリの様に撒き散らしていく。それを察知されないように主砲を放ち更に撃沈。今度は撃沈前に撃たせる暇を与えずにエンジン部と艦橋を貫き行動不能にした。

 

 

 一方バーガー艦隊は、敵のアウトレンジ砲撃から逃れた艦艇が砲撃と魚雷発射を開始し、ミランガルとニルバレスは自身の飛行甲板を回転させ、砲塔と対空兵装を搭載した隠顕式砲戦甲板を展開した。

 

「ゲシュ=タム・ドライブ回せ! 調整ミスらねぇよう頼むぞ! 各砲塔しっかり狙って痛いのをぶっ食らわせてやれ!」

 

 ミランガルのゲシュ=タム・ドライブが唸りを上げ、出力が安全ギリギリまで引き上げられる。それでもすべての砲塔を運用し切る事は不可能で、艦底部の砲塔は遊んだままだ。しかし強化された主砲は敵艦を確実に撃ち抜き、白と黄緑の艦艇を炎の花に変えていく。

 だが反撃は苛烈で「野蛮」と言われても弁明できない程の規模であり、苛烈な砲火でクリピテラ級が、デストリア級が落とされる。

 ミランガルも被弾し砲塔が一つ吹き飛び煙を上げ始める。

 

「甲板2番沈黙!」

 

「戦艦が簡単に沈んでたまるか! 撃ち返せ!」

 

 ゲルバデス級は魚雷発射管が無くミサイルに乏しい。主砲に重きを置き、雷撃戦ではなく砲撃戦専門となったこの船は全長も全幅も大きくなり、体格由来の打たれ強さがかなり高くなっている。仮に船腹に複数発命中してもいけるとバーガーは確信していた。

 

 現在左右に分かれた分艦隊はそれぞれゲルバデス級を中心にした鶴翼に似た陣を構成しており、それをゲルバデスを頂点にした山になる様にそれぞれ高度をズラしている。これなら仰角調整機能がそもそも無いビーム砲塔での味方間誤射を回避して、それぞれ担当高度を指定して有効に攻撃を仕掛けることが出来る。

 

「敵機襲来!」

 

「対空! 甲板のレーザーも撒け!」

 

 主な対空は僚艦に任せ、自身も対空レーザーを砲戦甲板からばら撒き敵機に対処。Wunderからも長距離ミサイルが飛び援護が入る。対空を信じて主砲を向け更に一発。駆逐艦級を穿ち抜き雲海に沈めた。だが敵艦から射出された恒星のような球体がミランガルに命中し、恐ろしい程の激震に襲われた。

 

「状況報告しろ、どこに当たった!?」

 

「右舷艦首付近です! 命中時に莫大な量の放射線を検出しています!」

 

「放射線がどうしたってんだ」

 

「あれは恐らく対消滅反応を起こす弾頭のような何かです。こっちはゲシュ=タム・フィールドなんて物はありませんから、あんなものを腹に食らえば船腹が抉れます」

 

「クッ……! この野郎、ドメル将軍の言う通りだな」

 

 _____

 

 

 混成航空隊は氷塊で形成されたリングの火砲から接近し、両国同時に急上昇をかける。目視可能距離に敵空母艦隊が確認でき一斉に飛びかかるが、敵空母を取り囲むようにして駆逐艦が展開しており空母を仕留めようと思っても邪魔だ。

 突然の敵機出現に慌てる敵艦隊が残りの艦載機を上げ周囲を固めて半球状の砲塔を連射し始めるが遅く、慌てて上がった敵機は的に、慌てて放たれた陽電子ビームは航空隊を彩る光に、戦略なんてクソくらえと突き進み対空砲火を絶やさない空母は獲物に変わり、その取り巻きは只の烏合となった。

 

 ツヴァルケ隊からはミサイルが、ゼロ改2号機からは機関砲が。改2号機とコスモファルコン隊からは怒涛の機銃連射が始まり、エンジンを潰され、砲塔が潰された。最後の悪足搔きとして残りの艦載機も出そうとする甲板を穴だらけにして格納庫を潰す。終いには艦橋もハチの巣にされ、敵空母艦隊は爆炎と共に消えた。

 

 その光景を尻目に沢村が加藤に通信を入れる。

 

「隊長。次の目標は?」

 

『別の空母いないか索敵。いなければ主力にちょっかいだすぞ。ガミラス側は?』

 

『納得はした、ミサイルを切らした機体は後方で待つ航宙母艦に帰すぞ』

 

『構わない。行けるやつは行こう』

 

 地球とガミラスの戦闘機が機首を揃えて飛ぶなど、誰が想像しただろうか。デザインが大きく異なる2機種が、濃紺と緑の機体が団体を組んで飛んでいるこの現状に両国とも一定の困惑を抱えているが、シャンブロウで過ごした沢村とメルヒはこうも考えていた。

 

 

 案外いけるじゃないか、と

 

 

 今すぐみんな信頼し合おうとは言えない。休戦協定が結ばれてまだ1か月、双方根深い敵意は横たわっている。が、共通の敵に対し並んで飛べているだけでも大きな事だ。

 自分たちが渦になる。皆を巻き込む渦になれば、長い時間は必要だが多少は双方で顔を合わせて話すくらいは十分できる。

 

「向こうも結構やるじゃん」

 

『そっちは薄っぺらいのに凶暴だな』

 

「見た目は関係ないだろ」

 

 オープン回線になっていた事を忘れていたようで、沢村のつぶやきはメルヒとその他大勢にバッチリ聞こえていた。言い返すとメルヒとその他ガミラス人の笑い声が聞こえた。一瞬馬鹿にされているように聞こえたが、小馬鹿にされて駄弁るくらいわけないようだ。

 

(地球では散々悪魔って聞かされたけど、只の人間じゃないか)

 

 

 


 

 

 

「敵旗艦を狙う。主砲塔を正面に指向。目標、展開中の火炎砲」

 

 火炎砲は3門。その内狙いやすいのが、両舷第2船体に内蔵されている2門だ。砲そのものを失えば発射は不可能。手数を減らす事も十分可能だ。

 

「測的よし!」

 

「撃てぇ!」

 

 第1第3主砲から放たれたショックカノンが真っ直ぐに敵旗艦に突き進み、捻じれ束ね1本の矢となった。一本となったショックカノンは敵旗艦に突き進んだが、それは直撃しなかった。

 

 

 

 

 

 

 敵旗艦の正面に、揺れる光の膜が貼られていた。

 

 

 

 

 

 

 

「敵艦に直撃認めず!」

 

「敵艦正面に空間位相のズレを確認。ATフィールドです!」

 

「NHG由来だな、あの戦艦も。エヴァも内蔵してるみたいだがどういう事だ? エアレーズングやWunderよりも小さい。オリジナルNHGじゃない?」

 

 第2バレラスで遭遇したエアレーズングの改造艦と同じように、この船もATフィールドを持っている。だがサイズが小さい。正面からしか見えていない為正確な全長が測定できていないのだが、それでも全長は1500m。Wunderや、バレラス沖のエアレーズングよりも小さい。両艦とも2500mはある。

 

「多分、複製品だと思う」

 

 衝撃的な一言共にハルナが戦闘艦橋に上がり、リクの腕を支えの代わりにした。

 

「肩は?」

 

「処置してもらったけど、暫くは固定しないと。あ、ちゃんと行っていいって言われたよ?」

 

「それで、アレが複製ってのは分かるけど、それだとエヴァも複製されてる可能性もある」

 

 ガトランティスがNHG級を持っていてエヴァンゲリオンの複製にも成功しているという事は、この先同じ艦艇にまた遭遇する可能性があるという事だ。戦略兵器を持ち、防御手段を持ち、尚且つそれがNHG級由来。今後NHGを祖とした新兵器が大量に生まれても何も可笑しくない。

 

 それ以上に、「何が起こるか分からないNHG」をガトランティスが持っている事そのものが脅威だ。

 

「複製せずに移設したら3か4番艦は大きいだけの艦艇になる。余りにも勿体なさ過ぎるよ。兎に角ATフィールドを破るよ」

 

「通常兵器では破れない事は分かってるだろ。ATフィールドを押し付けるくらいしかないと思う」

 

 そこが問題だった。エアレーズングの時はAAAWunderとして展開されたATフィールド以てして対抗できたが、何度も同じ手を使う訳にはいかない。AAAWunder側とコンタクトを取るにも時間がかかり、最悪ハルナがその場で眠ってしまう。それを今この場で提案する事自体、リクはやりたくなかった。

 

 頭を悩ませてると、不意にハルナの声が頭に響いた。

 

 

(実はあるの、ミサトさんが実際に実行した作戦にそれらしいのが。二子山決戦、通称ヤシマ作戦)

 

(おいおい、こっちでもヤシマ作戦してないか? 発進する時に)

 

(それとこれは別。使徒をATフィールド抜きで倒すための作戦で、エヴァで構える陽電子砲を撃ったみたい。こっちには何門もある事だし、やってみよう)

 

「あ~言わんとする事は分かった。何とかしてみよう」

 

 ハルナの突拍子もない案に大きな溜息を付いたが、実際それしか方法がなさそうに思える。波動砲での一撃必殺は今は出来ない。出来たとしてもご法度。なら一点集中で強引に割るしかなく、取り得る方法と砲門数を軽く計算し、ゴーサインを出した。

 

「古代くん南部くん、全部使ってATフィールドを破ろう。主砲を全部右舷側に向けて。マリさん、博士、ホーミングも立ち上げて重力子配置を計算してください。島君、このまま直進で針路を少しもずらさないで。十分な威力を保った主砲全門による一点集中攻撃を用いて、ATフィールドを叩き割る。先人の知恵に倣おう」

 

「先人」とはだれの事かと皆が疑問に思ったが今は戦闘状態。島が操縦桿を握り直し、古代と南部、北野が主砲を操り敵艦の只1点を狙い撃つように照準を向ける。

 

「コード777起動、ショックカノン、ホーミング安全出力解除。照準固定、第1射目標、敵旗艦左舷第2船体決戦兵器砲身部。第2射目標、右舷第2船体以下同様」

 

「ショックカノン、エンジンからエネルギー伝導終わる。捉敵よし」

 

 古代がゆっくりと手を挙げ、そのまま振り下ろす。そして下令する。

 

「撃て!」

 

 正面に指向可能な砲塔は8つで24門。ホーミングは18門全て。合計42門は敵艦の只1点のみを狙い突き進み、ATフィールドに阻まれる。が、42門を束ねた高エネルギーの塊がATフィールドを強引に押し通し、文字通り力で叩き割りメガルーダの右舷第2船体を抉り飛ばした。

 

 だがフィールドが無いという事は向こうも反撃可能という事。敵艦第二船体に鎮座する5連装大口径徹甲砲塔に第1主砲と第2副砲が射抜かれ機能を沈黙した。さらに量子魚雷が左翼に命中し、波動防壁で威力が散ったとはいえ破られ、ホーミングが5門死んだ。

 

「第2射! 撃て!」

 

 それでも至近距離でフィールドを叩き割れるのは今しかない。このまま強行し残り31門で一点集中発射を行うが、ATフィールドに阻まれてしまった。

 

「エネルギー総量が不足している……ッ! 一度引くしかない!」

 

「防壁展開し全速急降下、敵艦の射程上から離脱を!」

 

 リアルタイムで解析に付いていた真田が撤退を推奨する。ATフィールドを破る現状唯一の手段が閉ざされ、Wunder単艦ではどうしようもない。

 古代も一時撤退を決め指示を出したが……

 

 

 

『待て! もう1回やれ!』

 

 

 

 バーガーの声が通信で響き、レーダーの反応が動いた。Wunderの後方、右翼と左翼に分かれていた分艦隊から一隻が突出し、Wunderと同航し始めた。

 

「ゲルバデス2隻が、本艦の左右に付こうとしています!」

 

『何でも単独で出来るわけじゃねえんだぞ。フィールド中に俺らを引き込め。ぶち込むぞ』

 

「バーガー……頼む!」

 

 31門で足りなければさらに足そう。Wunder31門、ミランガル18門、ニルバレス12門。正面に指向出来る全ての砲を動かし、Wunderは波動防壁の一部を解きミランガルとニルバレスを防壁内部に引き込んだ。

 

 ゲルバデス級の全長はWunderの約6分の1。Wunderからしてみれば小鳥のように小さな船だが、今はとても頼もしく大きな存在だ。砲身に赤い陽電子の光が、真っ白となった陽電子の光が灯り、3隻の主機が唸りを上げ雄たけびを上げる。

 メガルーダが5連装大口径徹甲砲塔を何度も連射してくるが、波動防壁に阻まれて撃ち抜けない。無敵とは言えないがこちらにも盾はあるのだ。

 

 

「『統制撃ち方用意、撃てっ!!』」

 

 

 61門の陽電子の束が一点に襲い掛かり、再びATフィールド叩き割った。貫通した陽電子の束が敵左舷第2船体を抉り飛ばし炎の花を咲かせ、追撃とばかりにミランガルとニルバレスがさらに発砲して5連装大口径徹甲砲塔を亡き物にした。

 

『煮るなり焼くなりあとは任せるぞ。クソ駆逐共はこっちで捌いてやる。押し込め!』

 

「ああ! 助かったバーガー!」

 

 決戦兵器を失ったメガルーダはWunderの暴力的な出力に押し込まれ、艦隊から強引に引き離される。が、メガルーダも主機の出力を強引に上げて押し返そうとする。それに対抗し、山崎がコンソールを操作してさらに出力を上げる。

 

「主機はこっちの方が、上だ!!」

 

 波動エンジン最大出力。イスカンダルの力を一身に受けたNHGの1番艦がさらに押し込みをかけ、波動防壁も徐々に軋みを上げる。

 

「主機そのまま! 主砲3式用意!」

 

 ショックカノンにエネルギーを回せなくてもWunderは砲撃が出来る。それが3式融合弾で、太陽系からWunderを支え続けた武装の1つだ。

 第2第3第4主砲に3式弾が装填され回頭、仰角が調整される。

 

「波動防壁限界まで、t-6!」

 

「3式用意、消失と共に発射する!」

 

「2、1! 消失!」

 

「撃てぇ!!」

 

 3基9門の砲から3式弾が轟音と共に発射され、砲弾という野蛮な暴力の塊が「野蛮人」と言われるガトランティスのメガルーダに突き刺さる。爆炎と共に第2船体が炎に包まれ中央船体からも小さな爆発が生まれる。

 さらにWunderが斥力を利用して自律的にメガルーダと自身を弾き飛ばし距離を取った。

 

「全砲門開け!」

 

 前方指向可能で使用可能な砲門 18門、ホーミング 13門、VLS 24門が一斉に開き、止めを刺す構えに入る。

 

 


 

 

 メガルーダの第2船体から炎が上がり、火焔直撃砲が発射不能となり、艦橋も荒れ果てていた。

 

「ウヌゥゥゥゥゥァァッ!! メガルーダは、メガルーダは負けぬゥゥ!!」

 

 

《カエリナサイ》

 

 

「ヌゥ!? 貴様ッ何者だァ!?」

 

 ダガームの恐怖に満ちた顔面に迫って来たのは1人の少女。一糸纏わぬ真っ白な姿をして声も使わずに語り掛けてくる。その顔には目が無く、真っ黒で何もない空洞となっている。

 

「図々しく近寄るなァ!」

 

 振り下ろした剣もその少女を素通りし、触れる事すらできない。自分は頭がおかしくなったのだろうか。否、この場にいる全員が見えている。この場にいる全員の元に同じ少女が現れている。

 

 何かが倒れる音がした。虚ろな少女を誰かが殺したかと思いダガームが音の方向に目をやるが、そこに倒れていたのはついさっきまで剣を振るって追い払おうとしていた戦士だった。生きてはいるが、何に対しても反応を示さない。まるで心だけ殺されたような状況だ。

 

「来るなァ!?」

 

 情けなく口から出た言葉が「来るな」だったが、少女は意に介さずダガームに触れる。冷たくもなく暖かくもない手に触れられ、ダガームは何かを見た。

 

 大量に作られては押し込められて、使い捨てのように運用される自分達。心の様な物があるが何も持たない自分達。部品として扱われた自分達。憎悪、諦観、吐き気を催すような記憶。

 

 およそ常人には理解しがたい光景。全ての人間が「首の無い巨人」に変わり、世界が真っ赤に染まっていく。体を失い、当ても無く彷徨う魂と死の大地。

 

 余りの情報量にダガームは白目をむき大量の泡を吹き始める。意識が遠のき、自身の胸がとても冷たくなっていく感触に襲われた。

 最後にダガームが見たのは、自身の胸に白い手が突っ込まれている光景だった。

 

 

《カエリナサイ》

 

 

 


 

 

 

「後方の星、及びガトランティス旗艦に異常発生!」

 

「モニターに出せ!」

 

 その状況は、Wunderの後方でククルカン級とラスコー級との戦闘を繰り広げていたバーガー艦隊も捕捉し、索敵と駆逐艦排除に回っていた合同航空隊も肉眼で確認していた。

 

 自分たちが背にしていた薄鈍色の惑星が、まるでベールを剝いだかのように姿を変え始め、上下から巨大な一枚岩が円を描くように迫り出し、星は只の骨組みとなり、籠の中に世界樹を封印した様な見た目に変化した。

 

 だが、それ以上に異常な変化を見せたのがメガルーダだった。メガルーダの中央船体が真っ二つに割れ、いびつな断面から湧き出る青い粘液のような何かが足の形となった。翼の装甲断面からも青い粘液が噴出し、翼がフレキシブルに動く腕となった。

 

 

「何なんだよ……あのバケモノは」

 

 メダルーサ級殲滅型重戦艦。それは最早戦艦ではなくなり、別の何かとなった。

 誰もがあれが何なのかが分からなかった。が、バーガーだけは分かった。ドメル将軍と共にアリステラ星系に向かった任務、第666特別編性戦術戦闘攻撃軍として陽動に徹していたあの時に見た異形のバケモノに見えていた。

 

 この異常の後に起こった戦いから生還した兵は、口を揃えてこう言ったという。

 

 

「あれはバケモノだった」と。

 

 

 

 この異常な変形を誰よりも間近で見ていたWunderも、その異常性に目を見開き、兎に角後退を続けていた。

 

「目標変形……いや、変身、しています」

 

「光学観測を続けて。リク、さっきの斥力はやっぱり」

 

「ミサトさんだ。兎に角距離を取れて良かった。バーガー艦隊に被害は出てない?」

 

「レーダー上のガミラス艦影数は変わりません。この異常事態前より全艦健在です」

 

 

(あれは獣。人類の敵で、使徒の成れ果て)

 

 ハルナの頭に響く声は幼くそっけないように聞こえるが、何処か切羽詰まったようにも聞こえる。ミサトとも違う声に眉を顰めるが、直ぐにその声に心当たりがあり、リクの手を掴んで「聞こえるようにして」声をかけ直した。

 

(もしかして、レイちゃんって子? アレが使徒ってどういう意味?!)

 

(あの大きな船はエヴァをその身に宿している。でも、エヴァに押し込まれた使徒が、私の様な何かに取り込まれ、あの姿になった)

 

(私の様な何か?)

 

(2番艦はハッキリ私のクローンと分かった。でも、あの船からは私みたいな何かとしか分からない。多分、私を無理矢理増やして大量に詰め込んだと思う)

 

 これ程胸糞が悪くなる事実は聞いた事が無い。表情に出さないようにやり取りをしていたが我慢できずに顔を顰めてしまう。明らかに異常な雰囲気を無意識に出していたようで、余りの圧に全員の視線がハルナとリクに向き、真田も目を見張っていた。

 

「アイツらは……ッ人を何だと思っている……ッ!?」

 

「何とも思っていないだろう、アイツらは。バレラス以来だ、こんなに怒ったのは」

 

 何の躊躇いも無く「アイツら」と呼称する程怒り、片方は荒く、片方は静かに激昂していた。無言でハルナが手を伸ばし、古代に指を指した。

 

「古代くん、地球ガミラス合同艦隊に通達。これより、対使徒撃滅戦を行う。全艦隊に伝えて。アイツを破壊し、解放する」




ガトランティスは禁忌を侵してしまったって事なんです。

エヴァの粗悪複製品に魂ガン積み? そりゃあこうもなるよって事で、倫理観ガン無視暴走メガルーダ誕生です。

見た目としてはこんな感じ、山下いくと氏がシンエヴァのネルフ側空中戦艦をデザインされた時の案の1つをお借りしています。
https://twitter.com/ikuto_yamashita/status/1410953526344257537


なお倫理ガン無視なので、当のご本人は怒っています。倫理無視ダメ絶対。


それでは主は休載に入りたいと思います。
試験が終わり次第執筆を再開して、後編と最終章を書いていこうと思います。
(@^^)/~~~


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さらば 我が友 暫しの別れぞ 後編

二の舞です。力Answerの時みたいに完成した物を置いておくのが間違いでした。
という事で、気になってしまうものは出してしまいましょう。

これで本当に休載します。

後編、お楽しみください


「メガルーダが……ッ変異していきます!!」

 

「ダガーム……ッ何をした!?」

 

 空母打撃群として動き回っていたキスカ隊のパラカスは、光学映像で映し出されたメガルーダに目を見開いていた。

 全長はナスカ級を遥かに上回るメガルーダ。それはガミラスの科学奴隷と「第一始祖民族」の科学奴隷に作らせた異形の戦艦であり、大帝が望む計画の欠片である「神殺しの船」の複製体だ。

 途方もない程巨大な船体に据えられた神の死体の複製は、オリジナルの魂を抽出して強引に増やされた「それ」を無理矢理に詰め込まれている。

 

 だから、例え魂が一つ焼き切れても次がいる。何度も何度も防壁を張ることが出来るあの船は、力と呪いをその身に受けている。

 

 その呪いが、噴出した。何重にもかけられた呪詛を引き千切り現れた「それ」は、人型に組み込まれた「使徒」と呼ばれる神の僕を取込み、人の形を超えてしまったのだ。

 

「メガルーダに動きあり!」

 

「何!?」

 

 メガルーダ……否、メガルーダだった何かがゆっくりとこちらに首を向けると、何かが光った。

 

「っ! 総員散れッ!!」

 

 パラカスの予感は当たっていた。が、遅かった。その光はキスカ隊を宙域ごと消し飛ばし、何も残さず無に帰していった。

 

 

 ______

 

 

 

「馬鹿げてる……ッ!?」

 

 メガルーダが友軍だった艦隊に向けて放った光が全てを消し去り、戦闘艦橋から同様の声すら消え去った。

 

「目標より、高エネルギー反応!! 滅茶苦茶な反応です!?」

 

「取り舵一杯急げ!」

 

「やってますっ!!」

 

 観測機器が計測不能なほどのエネルギー反応を感知し、喚くように警報を発する。その数秒後、Wunderがいた地点を荷電粒子の洪水が疾走した。Wunderを包み込める程の直径の荷電粒子砲はシャンブロウに命中し、そこで霧散した。

 

 あの荷電粒子砲は、Wunderを飲み込むほどの直径だ。理不尽にも程度というものがあるが、人間の通りは効かないだろう。

 

「状況は?!」

 

「バーガー分艦隊の一部が消滅、ニルバレスが余波を受け中破しています!」

 

「安全圏に退避するように伝えろ。もう全部が危険地帯だけど、兎に角退いてもらう」

 

 艦体がいた場所には破片すら残らず、激烈に帯電した粒子が突っ切った事で原子が強引にイオン化され、周辺の星間物質が一斉に帯電して放電している。

 波動エンジンでも実現出来るか怪しいエネルギーが観測されたが、そのエネルギーが一体何処から湧いて出たのか。冷静に怒り続ける2人は観測データをすぐに解析にかけていた。

 

 メガルーダだった巨人に莫大なエネルギーが満ちていて、艤装部分からは火を吹いている。元第2船体の艦尾付近から煙が上がり続けているから、恐らく主機は機能停止していて巨人が勝手に動いているのだろう。

 

 なら艤装に用はない。巨人の解析記録に更にフィルターをかけていくとエネルギーの密度にムラが現れた。胸の中心に光球の様な何かが表示されていて、その部分がエネルギーを供給し続けているのだろう。

 

 どうやっているのかは今はどうでもいい。エネルギー供給元を断てばどんな物でも止まる。生物でも機械でもあんなバケモノでもだ。

 

「エネルギー反応は均一ではない。一点だけ強く反応している箇所がある。そこがエネルギーソースかもしれない。島君は死ぬ気で操艦して。1発当たれば死ぬよ」

 

 淡々と解析結果を告げながら「死ぬ気で操艦」と言われて島は、汗が滲んだ両手で操縦桿(そうじゅうかん)をさらに強く握った。と同時に淡々とし始めたあの2人が怖くなった。

 いつも笑顔を絶やさないハルナと、何時も先読みをして動くリクが、淡々とただ敵を「倒す」事を考えて行動を始めている。

 

「空間位相の微弱なズレを観測している。ATフィールドが常時薄く展開されていると思うけど、今のWunderの火力では破れない。ゼロ距離射撃なら減衰なしだから突破可能だけど、厳しい」

 

「分かった。火力は諦めてAAAWunderとしてATフィールドを展開。中和を使って破り切る。破れたらゼロ距離で全部撃ち込む。それじゃ行ってくる」

 

 何もかも2人だけで全て決めてしまい、ハルナは即座にAAAWunderにコンタクトを取る為に意識を手放す準備を進めた。

 これはマズいと思った真田と赤木博士が「危険だ」と目を見合わせ、2人を止めるためにコンソールから無理矢理引き剥がし頬を引っ叩いた。

 

 前触れもなく突然起こった事に艦橋が静まり返る。引っ叩かれたハルナとリクは、いつの間にか赤く輝いていた眼を真田に向けた。

 

「何をしているんですか? 真田さん」

 

「いい加減にしろ! 2人で何もかもする積もりか!?」

 

「放してください。あれは、あの船のエヴァは生まれてはいけない物だったんです」

 

「あのエヴァは、魂を幾度も複製して強引に押し込んだ機体です。奴らと同じ考え方をする、人の事を何とも思っていないんです、アイツら」

 

 見た事ない程険しい表情をして全周スクリーンの向こうを射殺す様に見るリクは淡々と、言葉に怒りを滲ませながら話していった。

 

 

 

 ……薫の事を何故ハルナが「元人間」と表現したのか。それは、「人間をやめさせられたから」だ。

 

 どこにでもいる筈のただの一般人だった筈なのに、ある日自身の体を弄られ、得体の知れない何かを植え付けられて、人をやめさせられた。

 SEELEは目的の為には倫理さえも足蹴にする。だから薫は人をやめさせられた。

 

 ハルナの母である薫は、イズモシリーズとして人をやめさせられた1人だったのだ。

 

 

 それを知って以降2人は「命」や「倫理」に酷く敏感となり、それを踏み越えた物を酷く敵視するようになっていた。

 

 

 

「だからアレを破壊するつもりか。たった2人で。それがこの船全てを危険にさらす事を承知でか!?」

 

「だから全部考えているんです。なるべく死なない方法で」

 

 赤木博士が拘束しているのも構わずいとも簡単振り解いたハルナは、コンソールに向かいマニュアル操作でアンノウンドライブに接続をしようとした。同時に意識をAAAWunderに繋いでATフィールドを発生させてもらおうとするが、

 

 

「全員で!!」

 

 

 古代の声でまた引き戻された。

 

「全員で背負います。これはお2人の問題ではなく、自分達とこの世界の問題だと思います」

 

「何を、言っているの?」

 

「この船がやって来た以上、エヴァンゲリオンがやって来た以上、それに触れる者が1人でもいる以上、これはどう足掻いても避けられない未来だったと思います。お2人が飛び切り優れた人だとしても、たった2人の人間で背負って変えられるような事ではないと思います! だから全員で背負います。たとえお2人がどんなに拒絶しても!」

 

 

 どんなに拒絶しようとも、今の古代は手を伸ばし続けるだろう。諦めが悪い。自分を押し通そうとする。今のリクとハルナには、それを鬱陶しく思ってしまった。

 でもそれが古代と皆の意思で、頼って欲しいと遠回しに訴えかけてきている事は、無慈悲になろうとした2人でも理解できた。

 

 人の事を人とは思っていない奴らは許せない。SEELEの所業と何ら変わらない。生きていた筈の人間を踏みにじる事を平然と行っていたであろうガトランティスは、今この場で完膚なきまでに倒してしまいたい。

 それでも「倒す」ではなく「殺す」と考えなかったのは、2人とも心の底から安堵していた。「殺す」に踏み込んでいたら、風奏のいう「何も残らなかったという結果」しか残らないだろう。

 

 だから、「殺す」に踏み込む前に引き戻してくれた古代には、感謝の念が堪えない。だからといって、これは大きすぎる。と、考える余裕がまだあった事に心の中で苦笑いをした。

 

 

「抱えるには、重すぎるよ。古代くん、人の命がかかっているから。人が人である為の願いもこもってるから」

 

「それでもです。無理矢理にでも背負わせてください。それと、この船の真実とこの世界線に何が起こって今どうなっているのか、真実を知る人達として、しっかり皆さんに伝えてください」

 

 出航時の未熟さの残る眼ではない。指揮官への階段を上り続ける信念のこもった眼を裏切る事も出来ず、2人は折れた。

 

「……分かったよ。ちゃんと伝える、隠さずに。私達と、出来れば本人と」

 

 これが終われば「レイちゃん」とミサトに会いに行こう。事情を話して皆に話をしよう。そう決めた2人は一旦冷静を取り戻した。怒っていないわけではない。暴走しない様に互いに引っ張り合ってるだけだ。

 

 

「対使徒撃滅戦用意。ATフィールド展開準備。バーガー艦隊に通信を入れてあのデカブツからギリギリまで離れて十分回避可能な距離を取る。1回の攻撃で全てを決める。相手は戦艦ではなく神に近い生物だ。容赦はするな」

 

 

 

(ミサトさん、見えてますか?)

 

(……エグい事するわね、そのガトランティス。怒るのも無理ないわ)

 

(敵のエネルギー反応は胸部に集中してます。艤装は機能してません。ATフィールド無効化を行い、間髪入れずに残存艦隊による一斉射撃を行おうと考えていますが、経験が無いので知見が欲しいです)

 

(そうねぇ……あの陽電子砲が何十門もあるから火力は心配ないのよね。そのガミラス艦隊っての? 見ていたけど4Aがおかしいだけで速度はなかなか良いのよ。ターボみたいなのがあれば腕次第で避けれる。Wunderは……わかった。AAAWunderをもう1回立ち上げる。極大に近いATフィールドがあればいいんでしょ?)

 

(なるべく強力にです。それと速度も)

 

(AAAWunderならATフィールド輪で加速出来たから、4Aの真似事でギリギリまでATフィールドで加速して残りは慣性で進んで正面に全振りすれば出来る。飛んだ大博打だけど)

 

(葛城艦長は博打好き。だから少し心配)

 

(レイちゃん?)

 

(暁一尉、SEELEが嫌い?)

 

(正直言うと大嫌い。出来れば綺麗に壊滅してて欲しい)

 

(……そう。一尉の言うように、後で会って話す。私も話したい)

 

 

(それじゃあ手筈通りに。全部終わったら、後で話しましょう)

 

 

 

「終わった?」

 

「終わったよ。Wunderが変態機動で突撃。両翼ガミラス艦隊が左右から接近。全部のヘイトをこっちで惹きつける。私の合図でAAAWunderが起動するから、全員対衝撃防御で突撃」

 

「怖いなマジで。ミサトさん何やって来た人なんだ?」

 

「広い定義でWunderの初代艦長かな。島くん準備は?」

 

「……覚悟は出来てます。バレラスの時みたいに覚醒させるんですか?」

 

 2人の行動にどうこういう事を無駄だと悟った島は、「なるようになれ」と思い操縦かんを握り直した。またAAAWunderとして覚醒させる。それは自分の制御できる領域を越えてくる可能性もある。AAAWunder時代の操舵士の話も出来れば聞いてみたいが、出来ない事を願っても無駄だ。

 

 また溜息を付いた。

 

「大正解。打開策がそこからしか無い。超加速になるから島くんでギリギリできるくらいでお願い。本物の戦闘機機動はアレをクリアした人に任せるけど」

 

 2500mの戦艦が戦闘機のような機動を取ると聞き、島はその様相を想像してみたが第一印象が「きもちわるい」だった。「変態機動」という単語が似合う動きが出来る戦艦は全宇宙を探してもいないだろう。

 

「とにかく、信じます」

 

「お願いね。バーガーさん、聞こえてますか?」

 

『最初から最後までな。正直ゾッとしたぞ。温厚なお前があそこまで怒るなんて想像も出来ねぇよ』

 

「今は冷静な方ですが、恥ずかしいところを見せました」

 

『まあいいさ。俺らの機動力を高く買ってるようだな。釣りと保証書を添えて期待に応えるさ』

 

「お願いします。では、作戦開始。AAAWunder、エンゲージ!」

 

 

 

 通信の向こう側にいたバーガー側では古代とハルナ、その横にいるリクの姿が大きく乱れ「通信途絶」と表示されていた。自分では想像も出来ない何かが始まろうとしている事に武者震いが止まらない。第666とType-nullがいたから成し遂げることが出来たアリステラの使徒討伐。

 それをType-null抜きで行おうというのだ。Wunderの規格外な性能に振り切った作戦だが、自分たちも動ける作戦である事に、バーガーは操舵輪をきつく握り直した。

 

 その瞬間、左舷に見えるWunderに変化が現れ、謎の甲高い鳴き声が響いた。ここは宇宙空間、音など響かない筈だ。

 

「どうした!?」

 

「空間そのものが震動しています! それが空気中で音に変換されているんです!」

 

 怒鳴る様に報告された通り、どのガミラス艦艇内でも同様の現象が起こっていた。甲高い鳴き声がWunderを中心にして発振され、計測機器が降り切れている。

 

 その鳴き声に気を取られていると、Wunderのアンノウンドライブが眩しく発光し艦尾に光の輪が出現し始めた。生物の骨格の様な艦尾を囲むように展開された輪は白く、複雑な位相光を撒き散らしながら存在を知らしめ、それが何重にも展開されていく。

 

 

(俺たちは一体、何と戦ったんだ……ッ!?)

 

 

 カレル163や七色星団の時とは全く雰囲気が異なる。雰囲気と表現するとまるでWunderの事を戦艦ではなく生物と捉えているようにも聞こえるが、バーガーの表現は強ち間違ってはいなかった。

 人の魂を、意思を、願いをその身に宿した戦艦。生きていると言っても過言ではない。そんな存在が、真の力を発揮しようとしている。それに震えが止まらなかった。

 だがバーガーは軍人、指揮官として命令を発し実行しなければならない。

 

 

「分艦隊右翼は俺に続け! 左翼は左側から回り込め! 出鱈目ヴンダーが奴に突破口を作る! 俺らはその傷口を思う存分抉ってやれ!」

 

 

 ____

 

 

 

 全周スクリーンが大きく乱れ、スクリーンの表示がバレラスの時と同じ表示に切り替わった。六芒星を形作るサイトマークがメガルーダをその中心に据え、それを合図に古代は作戦を実行した。

 

「慣性制御最大、突撃開始ッ!」

 

 何重も展開されたATフィールド輪を反発させ合う事で、Wunderは瞬間的に莫大な加速を得た。立体式操舵に強制的に切り替わった操舵系を島が必死に操りながら兎に角前に進む。針路上に浮かぶガトランティス艦艇の破片を轢き潰す様にして吶喊する。

 

「撃て!」

 

 波動エンジンをフルに回して得た31門のショックカノンが古代の指示で一気に発射され、相手の気をこちらに全て引き付ける。防がれるのはエアレーズングの時点で分かり切っている。脅しくらいにはなるだろう。

 

 メガルーダが撃ち込まれた方向を把握して「Wunderが数瞬までいた方向」を向いた。そのまま頭部に当たる部分が光を蓄積し始め、コンソールの観測情報が悲鳴を上げ始める。

 

「高エネルギー反応来ますっ!!」

 

 Wunderがいた地点を荷電粒子の暴風が吹き抜けていき、射線が盛大に放電を起こす。放電がWunderの観測機器の内部回路を焼き、エラー表示が噴出した。

 

「一部の観測機器に異常発生! 生きてる観測機器を耐EMモードに移行します!」

 

「……っ!? 間髪入れるな! ミサイル群1番2番、ロケットモーター点火!」

 

 古代が配置していたが止めで使えなかったミサイル群に全て点火命令を送り、一斉にメガルーダに飛び掛からせる。2方向からの攻撃をどう捌くか。古代はそれを見極めたかった。

 

 結果、ミサイルがATフィールドに着弾後、その発射地点を薙ぎ払うようにして荷電粒子砲を照射しただけだった。

 

「アイツ、目が見えていないのか?!」

 

「盲目の神、まるで北欧神話のヘズね。撃ち込まれた方向は把握できても遅い。でも知能はある様ね。二方向から撃たれればそれを薙ぎ払うようにして撃った。()()()()()()なら問題ないわね」

 

 赤木博士の推測通り、メガルーダは撃ってきた方向に向かって荷電粒子砲を発射している。だから絶えず左右に移動しながら攻撃し、尚且つ荷電粒子砲の射線がバーガー艦隊に被らないように留意しながらヘイトを稼げばよい。

 

 エアレーズングはATフィールドを展開している時は攻撃してこなかった。つまり波動防壁と同じ「非対称性の防御ではない」という事だ。もしもATフィールドが非対称性の防壁なら、メガルーダは防壁を張りながら攻撃が出来る。最強の矛と最強の盾を同時に使いながらではWunderでも成す術もないが、「そうではない」のならやりようはある。

 

 圧倒的火力と敏捷性を使い、絶えず動きながら火力を注げば敵を引き付け続けることが出来る。あとは島と古代、南部と北野の腕次第だ。

 

 だが、正面に取り付いてATフィールドを展開し始めた時はどうなるか。数秒とはいえ作戦上ではかなりの時間「静止」する事となる。中和を行えばWunderは無防備になる。あの荷電粒子砲の前には波動防壁も真正面に受ければ紙ぺら同然だろう。

 だから、思い出した。あのエアレーズングの波動砲をどう逸らしたのか。荷電粒子の水鉄砲は傾斜させればいいのだ。波動砲と荷電粒子砲には威力に天地の差がある。波動砲を反らすよりは簡単だろう。

 

「あんなヤツ如きにはこの船は負けない。だって、沢山想いを背負ってるから」

 

「ああ。新型はガトランティスも仮想敵にして考えよう。火力と知力で潰し切れるように」

 

 口の悪さはそのままだが、古代に引き留められてからは冷静になろうと努めていた。どちらかが激昂しても片方が引き止めればいいと思っていたが、2人とも激昂してしまえば止める者がいなくなる。輪っかの中に2人だけで納まっていたが、古代に大きく広げられてしまい何人も入って来てしまったのは戸惑った。

 

 でも強引に見えてしまったけど、結果的には良かったかもしれない。「知っている人」が増えるから少しは楽になれるかもしれない。その分また出来る事が増える。

 

 

(少し気は楽になりそうだ)

 

(ただメンタルがちょっと強かっただけだね、私達)

 

 

 急激な加速の中でそんなことを考えると、考え続ける暇もなくメガルーダの目視圏内に入る。

 

「目視圏に入ります! 衝突まで、t-30!」

 

「ATフィールドを艦首に位相ズレ極大で集中展開をっ!」

 

(了解。ATフィールド全開……っ!)

 

 

〈AT field Full power deployment〉

Transition to phase space maximum

 

 光すら拒絶する強力なATフィールドが正面に発生し、可視光の一部までも拒絶されて通過する光で青みを帯びる。それがWunderの真正面にノーズコーンの様に展開された。

 

「衝突まで、t-5、4、3、2、衝撃に備えェ!!」

 

 空間が大きく揺れ、巨大なガラスを叩いたような音が響き渡る。空間が軋む音不快極まりない音が響き、フィールドの狭間では激烈な圧力により、得体の知れないエネルギーも生まれていた。

 

 

「取り付いたァッ!!」

 

 

 双方のATフィールドが軋みを上げ始めるが、可視光にすら影響を与えたAAAWunderのATフィールドが押し勝ち、メガルーダのATフィールドを一方的に中和していく。

 

(あの使徒に比べれば、ずっと弱い……っ!)

 

「位相ズレに変動あり、位相空間が中和され、空間位相が平衡化していきます!」

 

「いいえ、侵食しているのよ」

 

 その次の瞬間には、WunderのATフィールドがメガルーダのATフィールドを侵食し突き破りそのまま衝角の様にメガルーダに深々と突き刺さり、慣性制御でも殺しきれない激震が艦内を走った。

 流石の規模。先の尖った巨大な鉄柱が体に突き刺さるようなもので、メガルーダは悶え苦しむように体を仰け反らせた。

 

 

「目標に高エネルギー反応を確認! 直撃コースです!」

 

「総員衝撃に備えェ!!」

 

 叫ぶように全艦に命じ全員がコンソールに掴まり、2人も咄嗟に手時かなコンソールに掴まった。その瞬間メガルーダの頭部から膨大な光が放たれ、全周スクリーンがホワイドアウトした。

 

 

 

「コダイッ!?」

 

 荷電粒子の洪水に包まれたWunderをみて、バーガーは思わず声を上げた。が、何かがおかしい。Wunderを貫き抉り飛ばしている筈の荷電粒子が跳弾している様に見える。全艦がゲシュ=タム・コンプレッサので対艦雷撃戦用加速を続ける中で、それは確かに見えていた。

 

 波動防壁……ゲシュ=タム・フィールドとはまた異なる何かが張られていた。唯一思い当たるのは、Type-nullのアリステラでの戦闘後で聞かされた「防壁」だ。

 

「いいか! 奴の防壁は消えた! 大盤振る舞いだ景気よくぶち込め!」

 

 バーガーの命令で両翼から急速接近を続けていた全艦が慣性航法に切り替え一斉に艦首をメガルーダに向けた。バーガー艦隊残存艦艇数6隻。ガトランティス艦隊との撃ち合いで傷ついているが士気はまだ尽きていない。陽電子ビーム、艦対艦ミサイル。魚雷。持てる武装の全てを叩きこみ全長1500mのメガルーダに傷を負わせていく。

 

 その頭上を、6機のドルシーラとそれを取り巻くデバッケが飛び越えていき、さらに後続で補給を終えたツヴァルケが、待機していたコスモファルコン、改2号機、ゼロ改2号機も突入していく。

 

 

「ドルシーラ?! ネレディアか?!」

 

『予備機を引っ張り出した。デバッケは賑やかしくらいにしかならないだろう』

 

「いるといないとじゃ大違いだ!」

 

 ドルシーラがFi97型魚雷を叩きこみ、大きく抉れた傷跡を各機が機首をメガルーダに向けて機銃や機関砲を、ミサイルを叩きこみ傷口に塩を塗る。いや、もはや塩どころではないだろう。傷口を剣山で更に抉る様なものだろう。使徒であるならば再生自体は容易。無尽蔵のエネルギーで再生と強化を繰り返すなら、再生させる暇を与えずに攻撃をし続ければいい。幸いここにはそれが出来るだけの威力の武器と頭数がある。

 

 

「ゼロ距離でいい! 撃ち方始め!」

 

 AAAWunderも主砲を撃ち込み始め、砲塔の数に物を言わせた間髪入れない射撃により陽電子の奔流はメガルーダを貫通し、AAAWunderはその勢いで上半身と下半身を泣き別れにした。

 

「えげつねぇ……ッ!? 総員散れ!」

 

 自由になった半身が動きを止めると誰が考えたか。頭をグリンと無理矢理向けると荷電粒子の暴風がニルバレスと他数隻を飲み込み、余波だけで艦隊全体が煽られて統率が大きく崩された。

 

「ニルバレスが沈んだ!? 状況立て直せ! 一旦引け!」

 

『ダメだ、ここで仕留める! 全員で絶え間なく攻撃をしてくれ!』

 

 その瞬間、ミサイルと共に突入を敢行するAAAWunderが視界に移り、バーガーは大急ぎで艦首をメガルーダに向けようとした。再び現れた何重ものATフィールド輪を反発させて莫大な加速を生み、AAAWunderがメガルーダに吶喊していく。

 

「ああもう! 生き残ったやつは魚雷で奴を痛めつけろ! 出鱈目ヴンダーがぶちかますぞ!」

 

 バーガーも分かってはいた。ここで仕留めなければ身体を再生して復活、万全の状態に戻り振出しに戻ってしまう。だからアリステラ星系では「一時撤退」の文字も持たなかった。撤退するくらいなら殺し切れるまで殺す。隙を与えればこんがり焼かれると思え。第7戦闘団でアリステラで肉薄を仕掛ける時によく言った言葉だ。

 

 AAAWunderでは、最後の一撃を与えるために吶喊を仕掛けていた。出鱈目じみた加速から間髪入れないミサイル斉射。ミサイルの在庫もそろそろ底が見え始めた。艦体の全長の割にはミサイルのサイズが小さいため大量に搭載できていたが、この戦いで底が見える程発射してきた。数は100は下らないだろう。

 

 艦内工場があるから、ミサイルなんて物は後で生産すればいい。でも今までもこれからも命は戻らない。そうならない為にも、この一撃で終わらせなければならない。

 

 波動砲で何度も作った重力バレル。艦を中心にした相対座標に固定したそのバレルを通す形で、残ったショックカノンとホーミングをぶち込む。

 

 あのゼルグートの正面装甲を破った収束ショックカノン。如何にATフィールドと言えど、こんな物を接射されてはひとたまりもないだろう。

 

「全砲門! 撃っ!?」

 

 気付かなかった。メガルーダの腕が変異し、帯のようになっていたことに。その一瞬で、その帯がAAAWunderを掠め後方のケルカピア級とミランガルを切り裂いていた。

 遅れ、爆発。ケルカピア級が艦橋ごと切り飛ばされ、ミランガルは砲戦甲板からアングルドデッキ付近まで大きな溝を彫られ大爆発を上げた。エンジンは無事だろうが、これで残っていた火力の半分以上を一気に失った。

 

「バーガーッ!?」

 

『構うなッ!! やっちまえコダイィ!!!』

 

 通信に激しい雑音が混じり危険な状態と窺える(うかがえる)が、バーガーの大声はそれを払拭する程のものだ。再び六芒星を形作るサイトマーク越しにメガルーダを射抜くように睨む。

 

 後は発射指示を、ゼロ距離で行うだけだ。

 

「全砲門!!」

 

 重力バレルがメガルーダのATフィールドに激突する。

 

「撃てぇェ!!!」

 

 一斉に陽電子の束が放たれ、収束。万物を貫き通す光の槍となり、メガルーダに命中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、AAAWunderは、その光の槍で使徒を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 輝く十字の光、莫大なエネルギー輻射。突風に煽られる鳥の様に周辺の艦は制御を失い、メガルーダだった物は跡形もなく消え去っていた。

 

「ヴンダーは……どこ行った……探せっ! 生きてるセンサー回せ!」

 

 重症に近いミランガルが観測機器を回し爆心地点の観測を始める。爆心地点からはあらゆる波長の放射線が飛び散りノイズが酷く、結果も結果と呼べない程のボロボロなデータしか取得できない。

 

「どこだ……どこ行きやがった……」

 

「外部観測カメラに巨大物確認!」

 

「それだ! 出せ!」

 

 

 正面モニターに映し出された爆炎を背にし、アンノウンドライブを輝かせ、儚い光玉を纏った戦艦がそこにいた。アレが何なのか、バーガーは把握する術を持たない。が、ハルナにはそれが何なのか分かっていた。

 

 戦闘艦橋、景色の晴れた全周スクリーンに映る光玉に手を伸ばし、ハルナは一筋の涙を流していた。

 

 

(こんな世界で、こんな事をさせられて……せめて、どうか眠りに……)

 

 

 メガルーダのエヴァに無理やり詰め込まれていた魂たち。何もかもに絶望し「向ける相手のない殺意」すら抱いた魂は、今こうして解放され、アンノウンドライブに触れて消えていく。

 

 AAAWunder航海艦橋、少女の周囲を飛び回る光玉の群れは、少女の掌に降り立ち、そのまま少女と1つに吸い込まれていく。

 

「寂しいと苦しいは、もう必要ないと思う。だから、一緒に帰ろう。新しい地球に」

 

 あれは自分、あり得た可能性の先にいる自分。まっさらな心が「絶望」に染まった「もしも」の自分だ。

 

 アドバンスドアヤナミシリーズの姉妹たち。不運……という言葉で片づけてはいけないが、互いに互いを絶望に染めてしまった姉妹たちを、少女は見捨てる事が出来なかった。

 あの姉妹たちと同じように自分もなってしまう可能性も有り得たと言い聞かせながら、少女はその魂を慰め、揺り籠に納めていく。

 

 姉妹、正確にはクローンだが、それでも少女は姉妹と呼んだ。他人事ではない。自分も誰かの目的の為に作られたクローンだ。部品だ。代わりがいる。でも、今は「私達」ではなく「姉妹」と呼んでいる。姉妹なら、自分が今の長女だ。

 

 もう泣かないで。私が、私がいるから。

 

 アディショナルから170年、西暦2199年。13の魂達は、長女の元で静かに眠りについた。

 

 

 ___

 

 

 

 メガルーダが消滅し、魂が解放され、静寂が訪れた。展開していたガトランティス艦隊は指揮官を失い撤退を始め、レーダー上では戦域跡を離脱するガトランティス艦が表示されていた。

 

「ガトランティス艦隊、撤退していきます」

 

「AAAWunderも元に戻ったか……トラフィックは?」

 

『異常トラフィックハ、認メラレマセン。コレハ、モハヤ私ノ様ナ機械デハ理解をスル事ガデキマセン』

 

 AAAWunderが既に解除され、真田はその痕跡を追えないかと考えたが、結局痕跡一つ残っていなかった。

 

「高度に発達した科学は魔法と区別がつかない」という言葉が、アーサー・C・クラークというSF作家によって残されている。イスカンダルのコスモリバースシステム、アケーリアスのシャンブロウ、ガトランティスのメガルーダ。どれも通常科学では説明がつかない事象とセットで存在している。

 

 だが、AAAWunderだけは違った。人の願いを、魂を、未来を乗せ、ルールすら覆すジョーカーの様な存在だ。キッカケは何であれ、思いと力を双方備えた神殺しの船。この世界に存在している事自体が有り得ないのだ。

 

 

「格納庫ハッチ開け。全艦載機を収容する」

 

 艦載機格納庫のハッチを開放し、コスモファルコン、改2号機、ゼロ改2号機の収容が始める。ツヴァルケやドルシーラ、デバッケも無事な空母群に着艦していく。ニルバレスが墜ち、ミランガルが甲板に大きな溝を彫った結果機体受入が出来ないが、広々とした飛行甲板を持つガイペロン級がいた事で問題なく受け入れを進めていく。

 

 バーガー艦隊も残存艦艇を集めて帰還の準備を進めていく。ミランガルは相当なダメージを負ったが航行自体は可能。付近の星系の基地に降りて応急修復を行い、そのまま護衛艦隊を借りてのんびりと帰還するそうだ。

 

 それを続けていると、また別の所でも準備が始まった。周囲の景色がまるで天幕の用の上がり始め、銀色の骨格で形作られた構造物が出現し、まるで骨組みだけの飛行船のような巨大な何かとなった。

 

 メガストラクチャーと言われるそれは、Wunderの全長を遥かに超える巨大な()()だ。これが、恒星間航行播種船「シャンブロウ」の全貌。アケーリアスが残した、「星巡る方舟」。この船を駆り、アケーリアスは宇宙の隅々にまで生命の種を蒔き、今この船を借り、その末裔が旅立とうとしているのだ。

 

 だがその姿を見せたのは数分だけ。景色が揺らめき始め、シャンブロウは姿を隠していく。

 

「消えていくぞ……あんな馬鹿デカいものが」

 

「真田さん?」

 

「あれ程の質量を遮蔽できるとは、まさにオーバーテクノロジーだ」

 

 やがてその姿は完全に消え、光輪のみが存在を主張し始めた。主張したかと思えば、光輪は光点になるまで一瞬で縮小し、そのまま何処かにワープしていった。

 

 当てのない旅は恐怖もあるかもしれない。それでも、留まって滅びを待つよりかは全然いい。

 

 まだ見ぬ、明日という行き先へ。

 

 

 ____

 

 

 

「全艦載機収容完了、波動エンジンには異常なし。古代くん、帰ろっか」

 

「はい!」

 

 別れの挨拶は済んだ。まだまだ話したい事はあるが互いに行き先がある身、帰り道に付かないといけない。名残惜しいが発進の指示を出そうとすると、艦内放送で音楽が流れ始めた。

 

 

 さらばさらば わが友 しばしの別れぞ 今は

 

 

 古い地球の歌だ。それも音質が荒く、データではなくまるで「レコード盤から流している様な音楽」だ。皆この音楽に不思議そうな顔をしたが、古代だけはピンと来た。沖田艦長が自分に聞かせてくれたあのドイツの民謡だ。

 

 さらにこの曲はバーガー艦隊にも通信で流されていて、歌詞は分からないが、意味だけは何となく分かった。

 

 

「別れも悪くない……か。さぁ帰るぞ!」

 

 

(さらば さらば 我が友)

 

 

「Wunder。地球に向けて、発進!」

 

 

(しばしの別れぞ 今は)

 

 

 片方は大マゼラン星雲へ、片方は天の川銀河へ針路を取り進んでいく。またの再会を誓い、両者は互いの帰り道を辿り始める。

 その先に、明日がある事を信じ、願い、その明日を見たいがために。

 

 

 




メガルーダ罰当たり使徒ルーダです

はい、これで第9章の本編が終了となります。休載が開けたら、第9章の救済回でも作ろうと思います。そうです、例の少女のお話です。

ここまで長かった……実に2年が経過しました。連載開始時は高校卒業間近、今は専門2年(もうすぐ3年)。早い物ですね。
最終章の冒頭はラストらしい形式の冒頭になったので、是非楽しみにしてもらえると嬉しいです。

折角なので、エヴァ風の次回予告をして休載に入ろうと思います。



天の川銀河に向けて航行するWunder、それを待ち受けていたのは1隻の神殺しの船

互いに殺し合った彼女らは、また戦う事となってしまった

完全起動したAAAWunder 再び動き出した戦闘艦橋

その艦長席に立ったのは、1人の艦長と、副長、そして……!

次回 「終章 Reise zu einem Wunder」
さーて次回も、サービスサービス!


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邂逅「解/結」

救済回。「綾波レイ」誕生です

休載とは言いましたが、こんな話をそのまま置いておいたら気になって何も出来ないじゃないかという事で、皆さん「休載詐欺してごめんなさい」。


AAAWunder回、始まります


「行くよ?」

 

「お願い。佐渡先生、あとお願いします」

 

「体の事は見ておく。終わったら検査じゃぞ?」

 

「うう、また検査……」

 

「前は暁くん意味不明な状態じゃったが、今回は一声かけてくれたから準備できたぞ。ほれ、これ付けて脳波測るぞ」

 

 そう言って佐渡が渡したのは内部に電極が配置されたヘルメット。イスカンダルで検査した時に着けたものと同じものだった。

 

「お2人さん、ヤバいと思ったら直ぐに戻ること。SAO事件をリアルで再現はして欲しくないにゃ」

 

「あのヘッドギアのアニメですか。……正直言って、ハルナの能力には未解明な部分が多いんです。だから正直不安です」

 

 マリの言う通り帰って来れない状況だけは何としても避けないといけない。今回は向こうからの接触ではなくこちらから出向く以上、ハルナの力に頼るしかない。

 意思を拾い、飛ばす。何を媒介にして行っているのかすら分からない不可思議な力は、ハルナの1秒とも絶えない努力と精神力で安定を続けている。だがそれは平常時であるからで、いつもと異なる状況下では行使のリスクが高く、制御下を離れる可能性も、突然止まってしまう可能性もある。

 

 不安定な物に頼る以上、一同の不安は拭えなかった。

 

「でも、僕はその能力を信頼している訳じゃなくて、信頼してるのはハルナの方なんです。ハルナ、僕をあの空間へ連れてって欲しい。ハルナが見たAAAWunderへ」

 

 その願いを自身の耳と意識で聞いたハルナは、固く結ばれた手を再度握ると空いた片手を自身の胸に当てた。

 

「任せて。必ず連れて行って、必ず元に帰すから」

 

「それじゃあ、行くよ」

 

「うん」

 

 同調している意識でカウントを刻み、ハルナはリクの意識を自身と繋いだ。あの時の感覚と同じ、全ての光と音が無くなり無になっていく。シンクロが出来るのは今の所リクしかおらず、どの道連れて行けるのはリクのみ。他の人物の事は最初から考えていない。

 

 理由として、高深度シンクロに耐えられる人がいない可能性が非常に高いからだ。人間の、それも大人の自我境界線は固い。それに対してアプローチを行うとなると、ハルナ自身は壊れないが相手が壊れてしまう。マリが履修した形而上生物学に基づいても、相手の心を侵してしまい廃人にしてしまう可能性がある。

 

 だが長年連れ添って信頼を置いている相手ならば、それも互いが互いの拠り所であるならば話は変わってくる。例えるなら、「心に同規格のケーブルソケットが設けられている」様な状態である為、「互いをコードで繋ぐような状態」、つまりシンクロに適応できる。

 

 2人分の情報がハルナの頭を回り、少し大きな負荷が襲う。それでも問題ないと判断したハルナはリクの意識を連れてAAAWunderに向かった。眠っている様なリクの意識は触れるだけで安心して、鎮痛剤のように負荷が緩くなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 気付いた時には、2人は航海艦橋で仰向けになっていた

 

 


 

 

「20分……いや、15分も持たないかな」

 

 リクの意識を中継している以上負荷も大きく、頭痛とまではいかないが若干の頭の重さを覚えた。まだ未知数な力であるため無理は出来ない。ここは安全第一で短く見積もっておく。

 

「分かった。手早く行こう。それにしても……よく似てるな」

 

 Wunderと瓜二つだが細部が異なるAAAWunderの航海艦橋。やはり違いに気づいたリクはコンソールと座席をまじまじと見つめる。

 

「そこまで気になるのね。貴方も」

 

 そんなリクに声をかけた人物がいた。初代艦長、葛城ミサト。そして後ろに付き従っている少女、レイ。

 

「貴方が、葛城艦長ですか?」

 

「ミサトで良いわ。それでコッチが」

 

「綾波レイ」

 

 極めて簡潔に自己紹介をする長髪の少女、レイ。無機質で素っ気ない様子に見えるが、どこかソワソワしているようにも見える。否、隠そうとしていないのか、ソワソワしている雰囲気がダダ漏れになっている。

 

「初めまして、僕は睦月リク。それでコッチが」

 

「暁ハルナ一尉。もう知っている」

 

「もう知っているのね、私の事」

 

「ある程度は。私と暁一尉は、似ていたから」

 

 気付かない程柔らかく笑みを浮かべるレイは、リクに向き一度会釈するとまた正面を向いた。

 

 

 _______

 

 

 

「レイちゃん、色々話しておきたい事があるけど、あんまり時間も無いの。だから、幾つか抜粋して質問するから、嫌じゃない範囲で教えて欲しいの。いい?」

 

「ええ」

 

 レイはこくんと頷くと、適当な補助座席に座った。

 

「私達の見立てでは、ATフィールドを使うにはエヴァンゲリオンがいないと出来ないと考えていたの。それなのに、AAAWunderはエヴァンゲリオン無しで発生させた。それは、フィールド発生にはエヴァが重要ではないって事になるけど、少なくとも、アダムスの体と魂さえあれば、発動は可能なの?」

 

「違う。魂は何でもいいわけじゃない。それに、魂だけではどうにもならない。だから器が必要。今の器は暁一尉が言うアダムス組織であっている。でも、魂は私。私が発生を促しているとは違う。リリスの魂の私が、器を通して発生させているだけ」

 

 2人は勘違いをしていた。今まで発生したATフィールドは、全てレイが発生を促したものだと思っていた。つまり、レイが働きかける事でアダムス組織から発せられていた物ではなく、全てレイ自身がアダムス組織を通した発生させていた物だ。

 

 この時点で、リクとハルナはレイという少女が普通ではない事に気が付いている。今まで仕組みも知らずに頼んでいた事に、2人は申し訳なくなった。

 

「えっと、ごめんね。今まであなたが発生させている事に気が付かなくて……えっと、身体とか大丈夫だったの?」

 

「私に身体はない。魂だけだから。でも、助ける事が出来てよかった。使徒に比べれば、まだいい方」

 

 遠回しに「何ともない」と伝えられ、その意図を何とか理解できた2人は安堵した。

 

「あのメガルーダのエヴァにレイちゃんのコピーが詰め込まれていると言っていたけど、レイちゃんは……その……」

 

 

「?」

 

 

「その……ごめん、とても聞きにくいけど……レイちゃんは、その、()()の、レイちゃんなの?」

 

 可能性としては存在していた。「レイクローン」が実際にガトランティス側に存在していたことと、当の本人が平然として答えていたことを含めて考えてみると、レイもクローンである可能性が浮上してきたのだ。

 それでもクローンと言いたくなかった。だから「最初の」と濁した。これで精一杯の抵抗だった。

 

 倫理観に反する事を忌避する様になった以上、聞く事だけでも怖かった。もしそうだとしたら、聞いた自分はどうなってしまうのか。レイを嫌悪する様になってしまうのか。それだけが怖かった。

 

 

「私は、クローンとして生まれた綾波シリーズの初期型ロットの2人目。オリジナル綾波レイのコピー。リリスを魂とした、血を流さない人間」

 

 

 帰ってきた答えは残酷な物だった。それも、「綾波シリーズ」という呼称まで持って何体も生み出されていた。

 

「アヤナミシリーズ……やはり、何人もいたのかい?」

 

 その問いにレイは静かに首肯した。

 

「生み出された私達はダミープラグというエヴァの制御装置として運用された。エアレーズングのMark10のように」

 

「そんなっ……人間を部品にするとか、向こうも向こうで何を考えてんだよ……!」

 

 ガトランティスもSEELEも倫理を無視してあんな産物を生み出し、AAAWunderの生まれた世界でも同様の事が行われていた。向ける相手もいない怒りを何とか抑え込み、冷静であろうとする。

 

「私達は元々、NERVとSEELEの進める人類補完計画遂行のための道具として生まれた。だから、エヴァの制御装置として都合が良かったと……思」

 

「そんな理由でやって良い事じゃない!!」

 

「……っ!?」

 

「人間をそんな部品みたいにしてはいけないんだよっ!」

 

 突然のリクの大声にレイが思わず言葉を失い、リクから目を離せなくなる。

 どんな方法であれ、この世に生を受けた以上命は命。人は人。一個人である。それを大量に生み出しては使い捨てにする。それにどうしようもなく憤りを覚え、吐き出された。

 

 ガトランティス、SEELE、NERV。やっている事が同等過ぎて、もう我慢の限界だったのだ。

 

「まだ君の事はよく知らない。それでも、例え君と同じ見た目の人が何百人ここにいても君は……綾波レイは綾波レイ、君は君しかいない」

 

「私は、私……」

 

「他の人間が成り代わろうとしても、決して君にはなれない。君が感じた事は、決して誰にも真似できない。今だってそうだ、僕達がこう話して、君が聞いて、君が思う事は、君しか持てないものだ」

 

 リクの勢いに押されてレイは、一瞬だけ幻を見た。黒い髪の自分と同じくらいの少年。名前を思い出す事は簡単だったが、思い出したときにはもう消えていた。

 

「そうよ。変わりがいる人間なんていてはいけない。それに、こうして私たちと話しているのもあなたがそうしたいと思ったからじゃないの? その意思はあなたが持ったあなただけの物、もう『代わりがいる』なんて言えない」

 

 代わりなんていない。貴方は貴方。どこか懐かしいと思ったその言葉を反芻する。真っ先に思い出したのは「ニアサードインパクト」だった。使徒に取り込まれた自分、それを救い出してくれた彼の事を。

 

 

(いいの、碇くん。私が消えても代わりはいるから)

 

(違う! 綾波は綾波しかいない!!)

 

「……っ!」

 

(だから今!! 助けるっ!!!)

 

 

 

 何度も思い出していた彼の声が響き、ふと彼の温かさを感じる。目の前に彼がいる様に見えたがただの幻だった。もう100年以上も前に彼は、インパクトで消えてしまっている。

 

 頬を1粒の水滴が伝う。伝う感触を不思議に思い頬に触れると、掌の上に雫が乗っていた。

 

「これは……涙? 泣いてるのは、私? 何故、私は、泣いてるの?」

 

 涙は知っている。悲しいから目から流れるもので、生理現象の1つだ。でも、今は悲しくない、寧ろ嬉しい。なら、何故今、泣いている。

 

「……私、嬉しいから、泣いているの?」

 

 嬉しいから泣いた事なんて無い。ましてや泣いた事すらない。でも、あの時の彼は嬉しくて泣いていた。代わりがいると思っていたころの自分に対して、微笑み、涙を流しながら、手を差し伸べてくれた。

 使徒に取り込まれ、「ここでしか生きられない」と答えた自分に対し、彼は「助ける」と私に思いをぶつけてきた。初めて会った人にも、「君は君しかいない」と言われた。彼が言った事と同じ意味の言葉を。

 

「碇君も言ってくれた。私は、私しか、いないって」

 

 顔が熱い。目元が熱い。体が震える。初めての感覚にどうすればいいのか分からず、全く対応できない。

 

 もう、耐えられなかった。

 

 

「会い……たいよ、いかりくん……っ!」

 

 

 溢れ出る感情の制御が追い付かず、泣き崩れた。すぐにハルナとリクが支えるが、泣き方すら知らなかった彼女は蛇口が壊れたかのように大粒の涙を流しはじめた。零したくないと思ってしまい下を向き両手で涙を受け止めるが、涙は目元を抑える両手を濡らし、伝って、零れ落ちていく。

 

「いかり、くん……私は、私、だってっ……。碇くんが、言って、くれた事、とても……正しかった……!」

 

 代わりがいると思い続け、代わりがいると言われ続けた自分を壊してくれたのは、1人の少年と2人の大人だった。

 長く長く伸びた髪が消え始め、彼がいた時のショートカットに戻っていく。永遠にも思える時間で想った少年はもう戻らない。それでも彼の残した遺志は残り続け、その遺志を2人の大人が後押しし、彼女の意思となった。

 

(碇君、教えて。こんな時、どんな顔をすればいいのか……私に、また教えて)

 

 心に残り続ける彼は微笑み続け、何も声を発しなかった。それでも、彼が何を伝えんとしたかをレイは理解した。

 

(碇君、ありがとう)

 

 

「大丈夫? 凄い泣いてるけど……」

 

「暁一尉……こんな時、どんな顔をすればいいか、碇君がまた教えてくれた」

 

「どんな顔?」

 

「……こんな顔」

 

 そう言い、レイはずっと下げていた顔を上げて真っ直ぐにハルナとリクの顔を見る。

 

 

(笑えば、良いと思うよ)

 

 

 泣き腫らした目でレイは……綾波レイは、あのときの笑顔を、優しく浮かべていた。

 

 

 


 

 

 

「ごめんなさい。泣いた事は、今まで無かったから」

 

「レイちゃん。シンジ君って、どういう子だったか教えてくれないか?」

 

 目元を腫らしたままレイは首肯し、ぽつぽつと話し始めた。

 

「優しい人。お味噌汁を飲ませてくれた人。お弁当をくれた人。心配してくれた人。私を、助けてくれた人。……好きを、教えてくれた、人」

 

「好きを、か。大事な人なんだね」

 

 泣き疲れたレイはこくんと頷くとハルナにもたれかかった。ぼんやりとした顔で短くなった髪を指先で弄り始める。いつの間にか懐かれているが、ハルナは優しく頭を撫でている。

 

「レイ? あなたそんなキャラだっけ?」

 

「ここが落ち着く。ここにいても、いい?」

 

「いいよいいよ。何か年の離れた妹みたい」

 

「……私とあなたは似ているけど、血は繋がっていない筈」

 

「たとえ話だよ、目も赤いし親近感が湧くのよ。Wunderの乗員はほとんど地球出身者だから、赤目が特徴の火星出身者は3人しかいないの」

 

 すっかり短くなった髪を撫でると、ほんの少しだけ、よく見ないと分からない位に頬を染めて俯いた。内心は穏やかではなく、第3村にいたもう1人の記憶をなぞりながら、今感じている感情に戸惑いながら噛み締めていた。

 

(これが、照れる。これが……恥ずかしい。6……私の姉妹……第3村で過ごした私の姉妹が感じた事と、同じ)

 

 

「レイちゃん……って呼んでもいいかな?」

 

 頷いたのを見てリクは話を続けた。

 

「知っているかは分からないんだけど、シンジ君はこの世界にも生きている」

 

「碇君が生きているの……!?」

 

「生きている」の言葉を聞き、レイは思わず前のめりになり聞いた。

 

「マリさんが半年前に確認したっきりだけど生きていると思う。Wunderはコスモリバースシステムをもって地球を救い全人類を救う。全人類を救うという事は、シンジ君を助ける事にも繋がるんじゃないかと思う」

 

「人類を、救う……睦月一尉」

 

「どうした?」

 

「私は、NERVの零号機パイロットとして使徒を倒して人類を守った。この方法でも守れるの? 人類と、碇君の居場所を」

 

「守れるし、救える。人類を未来に繋げる為に、僕らはWunderを作った……いや、再び飛べるようにしたんだ」

 

「作った」ではなく「再び飛べるようにした」。AAAWunderは、真に命を救う戦闘艦としてインパクトを止めるために戦った。それは道半ばで途絶えてしまったが、出会いは何であれば、またこうして人類を救う力を得た。

 

 真実を知った以上、これは「建造」ではなく「修復」と呼べるだろう。AAAWunderは沈没……「死ななかった」。だからここに来ることが出来て再び力を得ることが出来たのだろう。

 

「睦月一尉。世界の為じゃなくて碇君の為に動くのは、変?」

 

「皆が皆、世界の為全人類の為だと思ってるわけじゃない。家族の為だとか、未来の為だとか。理由なんてみんなそれぞれだ。でも、結局のところは向いてる方向は一緒なんだ。皆地球を救いたい。因みに僕はハルナとの生活と未来の為だ」

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ恥ずかしいそれは言っちゃだめでしょ!?」

 

 

「いい例じゃないか。少なくとも、乗組員の中でも一番単純で分かりやすい理由だ」

 

 あっけらかんとした様子のリクと顔を真っ赤にして綾波の耳を塞ごうとしているハルナ。真反対の勢いに綾波は思わず笑みを浮かべてしまった。

 

(とても賑やか)

 

「睦月一尉、私は……碇君の生きる世界を、救う。私は、何も出来なかったで、また終わりたくない」

 

「ありがとう。君の意思が聞けて、本当に良かったよ」

 

 ____

 

 

「もう時間も無いから、最期に聞いておきたい事があるの。私とレイちゃんが似ているって言ってたけど、私の中から、その……「リリス」の雰囲気はある?」

 

 

 

 

 

 

 

「……いる。私のとは少し違うけど、リリスと言って良いと思う。でもなぜ? リリンはリリスの子だから限りなくリリスが薄くなっていると思うけど、暁一尉からは、凄く濃く感じる。でも、他の人、睦月一尉からリリスは少しも感じない」

 

 自分の認識と今までの常識大きく異なる事に綾波は首を傾げると、リクが補足を入れた。

 

「この世界の人類は第一始祖民族ではなく、アケーリアス文明という神に近い文明がやった「人類種の種蒔き」で生まれている。もしかしたら、「リリスが人類種を蒔く隙」が無かったと思う」

 

「……そっか。時間かかったけど、分かったよ。お母さん」

 

 

 

(ただ1種族だけ、アケーリアスに匹敵する速度で進化を進め、アケーリアスに歯向かう事が出来た種族が存在した。彼らは自らに似せた人造の神を生み出し、偽りの神々に知恵の実と生命の実のどちらかを与え、命を撒いていた。アケーリアスの播種に憧れた彼らは第一始祖民族と名を持ち、アケーリアスに戦いを挑んだ)

 

 

(あなたから、彼らの作った何かと同じものを感じます)

 

 

 

 レーレライがあの時にハルナに伝えた何かがずっと頭に引っかかっていた。

 薫に植え付けられた得体の知れない何か。もしもそれがハルナに遺伝していたら、そこを探れば正体を知る事が出来れば、SEELEは何をしようとしていたのかが分かるかもしれない。

 

 そこで現れたリリス。地球にやって来たリリスは、先客のお陰で「種蒔き」が出来なかったのだろう。だから休眠にでも入り、人類に見つかり、綾波が生まれた理由と同じような理由で薫が人をやめさせられたのだろう。

 

 あの時薫が植え付けられたのは「リリスの何か」。遺伝子か肉片かはまだ分からないが、この時点で人類以外の何かを植え付けられる事で人をやめ、ハルナの力の「元となる能力」を得たのだろう。

 

 

「そっか……私は、この世界の定義じゃ、人間とは……」

 

「そんな訳ないだろ!」

 

「でも、それは、そんなに簡単な話じゃ……だって、4分の1だけバケモノだよ。私」

 

「人間かどうかは今は関係ない! 僕が好きなのはハルナで、それはどんな理由があっても変わらない。たとえハルナが人以外の何かになってもだ。真田さんや赤木博士、マリさんアスカちゃんとなら、もっと他の事も分かるかもしれない。だから、人じゃないって悲しむより、前を向いていこう。今までもいろんな事をどうにかしてきた。Wunderの事も地球の未来の事もだ。だから、これもどうにかしよう」

 

「そんなに簡単じゃないと思うよ? でも、こうやって分かったのって、悲しい事ばっかりじゃないよ。何で意思だけで会話できたのか、何でお母さんがああなってしまったのか、私がどういう存在なのか。だから、私がどうなっても、受け入れて欲しいな」

 

「……当たり前じゃないか、何を頼み込んでるんだよ」

 

「保険だよ」

 

「そんなものいらないだろ」

 

 そう言うと、リクはハルナをきつく抱きしめた。少し息苦しく感じたが、リクの意思の大きさを感じ取り、今だけ制御を緩めた。リクと1つになるような奇妙な感覚の中で、ハルナは少しだけ先の未来を見た。

 

 自分と、リクと……誰だろう、子供? 髪が真っ白だ。多分、この子は自分の子だ。出来れば娘がいいな。

 

 ああ、これは2人で思い描いた未来だ。でもそれは、まだ自分が人間じゃない事に気付いていない時に思い描いたものだ。今となっては、ちゃんとした生活を送れるかすら怪しく感じる。

 

 それでも、その未来は霞んでいない。霞んでいる様に見えない。それは、リクがその未来を見続けているからだ。この感覚の中なら、分かる。

 

 

「ねぇ、リク。私に、未来を見せて欲しいな」

 

「見せるより、一緒に作ってしまおう。出来れば思い描いてたよりもっといい方向で」

 

「よかった、不束者ですが、人外のお嫁さんをよろしくね」

 

「人外言うな。どうなっても、ハルナはハルナだ」

 

 

 でも、まだ怖い。今は我慢しているが、これ以上知れば近く壊れてしまうだろう。それでも、知るべきと思った。

 

 

 

「ねぇレイちゃん、私がこの世界上での定義で人じゃないなら、どこまで人じゃないの?」

 

 難しい質問が飛んできて、レイは数秒考えるそぶりを見せると話し始めた。

 

「少しだけだと思う。暁一尉は、2号機パイロット……式波さんのようなヱヴァの呪縛が無い。ATフィールドを第6感の様に使えるだけと思う。意思を感じ取ったりAAAWunderに行くことが出来るのは、ATフィールドに由来する部分が大きいと思う。そして睦月一尉は暁一尉を完全に受け入れているから、ATフィールドを融和させられても平気だと思う」

 

「そっか……少し、ね」

 

「でもまだ分からない。もしも暁一尉がAAAWunderを直接動かす様な事をしたら、式波さんが碇くんに言っていた『リリン擬き』になるかもしれない。最悪、リリスの要素に引っ張られて、エヴァに乗らずにエヴァの呪縛にかかる事も起こるかも」

 

 それでもまだ変化途中かもしれないとして、レイは予防線として釘を刺した。アケーリアスの末裔とリリスのクォーター。4分の1だけリリスの混じった状態は、自分のオリジナルとなった綾波ユイとリリスのハーフと異なりその先が分からない。

 

 リリスが薄まるのか地球人が薄まるのか。それは今後次第だろう。

 

「私でも動かせるの?」

 

「出来ると思う。でも、暁一尉はいい人。だから、そのままでいて欲しいから、やって欲しくない……と思う」

 

 ここまで話した事で綾波は、この2人の事は信頼したいと思っていた。NERVが密接に関わる閉じた世界で生きてきた綾波は、限られた数の大人としか接して来ていない。碇ゲンドウ、赤木リツコ、葛城ミサト、そしてNERV職員。通わされていた第1中学でも教師にあっていたが、無関心だった。

 

 それでも、初対面なのにここまで親身になってくれた2人を、綾波はもっと知りたいと思った。だから元気でいて欲しいと思い、たどたどしいが要求を口にした。

 

 

「分かった。私もレイちゃんの事をもっと知りたいから、それは最後の手段にする」

 

「うん、お願い」

 

 

 

 

 

「そろそろ時間かも。15分、だっけ?」

 

「ギリかも。レイちゃん、ミサトさん。あとは何とかします」

 

「お願い。貴方も私も、変わりはいないから。えっと、だから、大事に、して欲しい」

 

 別れる時まで気にし続けたレイにハルナが感極まってしまい、思わずレイを抱き抱えてしまった。一瞬に至近距離まで接近されて抱き抱えられてレイは一瞬警戒したが、ハルナの暖かさでそれは間違いだったとすぐに反省した。

 

「レイちゃんって、本当にいい子。心配してくれて、本当にありがとう」

 

「暁一尉、睦月一尉も、ありがとう」

 

「レイちゃんって、どこか硬いんだよね。ハルナって呼んでもいいんだよ?」

 

「そう? なら……暁さん、睦月さん。また」

 

 そう言うと、ハルナとリクはその場から粒子となって消えていた。掴もうと手を伸ばすが届かずすり抜けていく。何も掴めなかった手を握りしめ、そっと胸に抱く。

 

(ごめんなさい、何も出来なかった)

 

「違う。何も出来ないで終わらせない」

 

(いいんだもう、これでいいんだ)

 

「碇くん。私は、また戦うよ。それと、地球で待ってて、こっちの碇くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻って来たぞ! 脳波も戻った!」

 

「暁君、気分は?」

 

 

「大丈夫な方です」

 

 そう答えるハルナの頬には涙が光っていた。まだ現実を飲み込み切れず、どう接していいのかが分からない。それを察したリクは、今は誰も居ない方が良いと思った。

 

「一旦整理した方が良い。暫く外で待っていようか?」

 

「嫌、いて、お願い」

 

 そうだよな。とリクは思った。これはある意味での確認だった。

 

 縋る様に引き留めたハルナは、怖かった。努めて冷静そうに振舞おうとしたが、遂に「人間ではない」事が分かってしまい今は一杯一杯だった。

 

 自分でも壊れてしまいそうだと自覚していた。だから、誰も居なくなる事自体が怖かったのだ。

 

「暁君、落ち着くまで私達は待っている。それでも話したくなかったら、無理に話さなくてもいい」

 

 そう言うと真田は、集まっていた面々と佐渡と原田も連れて医務室を後にした。それまでは大丈夫そうに振舞おうとしていたハルナだが、リクと2人きりになった途端に泣き出してしまった。

 

 

「怖いよ……私、何になるの? 人間? 使徒? ただのバケモノ? リリン擬き? ねぇ……たった1人だけ、人じゃなくて……これから何になるのか全く分からなくて……リリスなんか……こんなものいらなかったのに……SEELEがこんな事しなければ、お母さんも私も普通だったのに……ッ私……ッ壊れちゃうよ……ッ!」

 

 こんなハルナは見た事が無かった。というのが、後に語られた時にリクが残した感想だった。それほど苦しみ、泣き、悲しんだハルナは、自分で自分を恐れ始め、本当にヒビが入るような音さえも聞こえたと言う。

 

 リクも、その音を聞いた。そしてハルナの思いを知り、何を成すかを決め、その場で全ての覚悟を決めた。

 

 

 

「ハルナ、もしもハルナが人をやめそうになったら、僕を……いや俺も付いて行く」

 

 

 

 思いもしなかった言葉にハルナは息が止まり、リクを見つめる。「自分もバケモノになる」と言っているのと同じ。同じ思いの人をこれ以上増やしたくないと願うハルナは、リクに掴みかかっていた。

 

「出来ないよ!! リクを……リクを、そんなバケモノなんかにできないよ!!!」

 

 涙でぬれた顔で泣き声で訴えた。リクだけは、普通でいて欲しい。なのに、自分も付いて行くと言ってきたのだ。何のつもりだと怒りさえも覚えてしまった。

 

「俺は……ハルナがどこかに行って独りぼっちになる事が怖かったんだ。お前がこの世界で独りぼっちになるくらいなら、俺がずっと隣にいる。覚悟決めたよ。リリン擬きでも何でも、お前がなってしまうなら、俺も付いて行く。そうしたら、お前は世界で独りぼっちにはならない」

 

「でも……私は……」

 

「重たい人みたいに聞こえるかもしれないが、俺は、お前を1人にしたくないんだ。たった1人で悲しむより、縋れる相手の1人くらいいた方が良いだろ。あとお前は自分の事バケモノって言ってるけど、アケーリアスとリリスの合いの子でも狭義ではなく広義では人間だ。リリスも結局のところ人類種を蒔こうとしていたんだ。リリスから人類が生まれる筈だったから、どの道ハルナは人類と言える! だから! だから……自分を、そんな風に言うなよ」

 

 バケモノと言い続けて心までバケモノになる所だった。だから、リクが人類と言って「バケモノ」を全力で否定してくれたことが嬉しかった。

 それでも、リクから「普通」を奪いたくない。行き過ぎた妄想かもしれないが、もしも自分に何かあってリクを、その力で間違って殺してしまうかもしれない。

 

 それだけが、凄く凄く怖かった。

 

「1人だけ変わってしまうのが怖いなら俺も行く。怖いなら一生隣にいる。だから、その先の事なんてどうにでも出来る! 怖くないんだって……俺に……」

 

 

 

「俺に、証明させてくれ!」

 

 

 

 顔を赤くし、引き摺られるように涙目になっていたリクが吐き出した思いは、ハルナの恐怖を薄くした。自分は、この人に出会えて本当に良かった。自分が今後どうなっても、彼だったら目を背けずに受け止めてくれる。

 

 SEELEによって狂わされた人生。始まった人生。いつの間にか奪われていた普通。それでも、この人、自分の大切な人は、全てを受け入れて横に並ぶ覚悟も今決めてくれた。余りにも大きな決断だったのに、それをこの場で決めて連れ添うと言うのだ。

 

 その覚悟に応えないのは、出来ない事だった。

 

 

 

(滅茶苦茶頭いいのに、本当にバカだよ、本当に、大好きな位のバカだよ)

 

 

 

「ちょっと変わった不束者ですが……一緒に付いて来て下さい。1人だと……とても怖いから」

 

「俺も行くよ、証明するためにも」

 

 

 だからハルナは、この時決心した。自分の変化を受け入れる事を、これを皆に伝える事を。リクも同じ存在になっても振り返らない事を。

 

 


 

 

「真田さん……見に行って、良いですか?」

 

「ダメだ。私達では、今はどうしようもない。無理に聞くと心を壊してしまうと前に言ったのはマリ君、君じゃなかったか?」

 

それに頭を横に振った真田は待ち続ける。が、2人の時間を作ること以外に何も思いつかなかった自分を責めていた。

 

「そうは言っても……心配なのは皆同じですよ。真田さんも、心配なのは同じですよね?」

 

「心配だから、睦月君を残して皆で出てきたんだ。中で待つべき佐渡先生と原田君もまとめてだ。今は2人の時間にした方が良い。私には、それしか出来ない」

 

「私は、2人の決心がつくまで何時間も待つ積もりだ」

 

「真田君。前も言ったかもしれんが、コンピュータ人間だったアンタがここまでするとは、あの2人が、本当に大事なんじゃな」

 

「何も出来ないなら、私は何も出来ないなりにやります。……守は、メ号作戦を陽動と知っても行ったはずです。なら私達は、あの2人にどんな事があったとしても、支え続けます」

 

そんな真田の姿に佐渡が眼鏡を拭きながら応える。それに真田が言い切るが、古代の兄である古代守の後押しもあっての事だ。

 

(研究を大事にするのはいいが、友人が新しく出来たりしたらそっちも大事にしろ)

 

(分かっている)

 

「アイツもどこかで笑ってます、良い友人を持ったなとか言ってるんじゃないでしょうか。案外、幽霊になってWunderに乗り、何処かでのんびりと見ているかもしれません」

 

 

 

それから10分後。医務室の扉が開き、そこには泣き腫らしたハルナとリクが立っていた。

 

 

 

「……無理はしていないか?」

 

「覚悟は出来ました。お話します。私が何者で、これからどうするのか」

 

眼鏡を外したままのハルナの眼は緋色に輝いていた。




 ハルナの正体を書く過程で薫を挟む事となった為、ハルナの正体に気付いている人が多いかもしれません。

 ハルリクは、ある意味SEELEが「何もしなかったら生まれていない」存在です。SEELEが薫を人体実験に使い、薫が零士と風奏と出会い、3人揃って命を狙われる事で火星で誕生した存在であり、SEELEにとっては創立時から見て行っても一番大きな失敗と言えるかもしれません。

 ハルナが何故薫の力を引き継ぎ、意識間で話が出来るのか。ようやく答えを出せました。ATフィールドを融和させたうえで話をしているだけで、そんなに凝ったものじゃないんです。
 それでも4分の1バケモノはシャンブロウの時にも言っていたように、ハルナには見当が付いていました。薫が人をやめさせられたのは「何かされたから」で、レーレライが言った事で「得体の知れない何か」がやって来ました。
 この時点で、薫=人間+「何か」だと気づきました。

 それと零士(純人間)との子であることから、ハルナは自分を「4分の1だけバケモノ」と呼ぶようになりました。

 綾波との邂逅でその正体が「リリス」と分かったのは不幸でもあり幸いかもしれません。ハルナを広義の上では人間という状態に落ち着かせる事が出来たからです。もしもアダムなら異形の使徒が混じっている事となってしまうので、最悪の展開しか生まれません。

 だから、同じ人類種を生み出す事となったリリスを据える事となりました。


 ハルナの運命は、今後も難しい物となるでしょう。多分ですが、ハルナは安全の為にこの事を上層部に伝えてしまうと考えています。リスクを保持したまま動くよりも、リスクを理解してもらってその上で動く。

 荷物の中に爆弾を隠して渡すわけにもいきません。

 ですが、現在の地球ではどうしようもない、おまけにハルリクがいないと詰む。という事なので、SEELE生きていたらバレない様に立ち回り、時が来たらSEELEを叩き潰すかもしれませんね。現に怒ってます。かなり怒ってますので、かなり念入りにやると思います。

 それ以外は、普通の人と何ら変わりない生活を送ると思います。色々あったお陰で人並みの生活も欲しい筈なので、結婚して2年か3年くらいは、家ではゆったりとした生活を用意しようと思います。新型艦艇作って試して色んなとこ行ったり、新婚旅行も良いかもしれません。

 長くなりましたが、これからもハルリクの人生を温かく見守り、応援してもらえると、2人も喜びます。





特別EDとして、今回はking gnu様の逆夢を使用しました


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Raise zu einem Wunder
これまでの宇宙戦艦ヴンダー


朱色です
最終章という事で、これまでの粗筋とアバンタイトルを書いておきます。


西暦2028年。命を救う戦闘艦としてその身を散らしたAAAWunder。アディショナルインパクトの中、数多に存在する世界線の波の中、その船はこの世界に落ち込んだ。

 

2152年。火星のユートピア海から引き揚げられたAAAWunderアンノウンドライブは、火星技研の手によりサルベージ。幾つかの実験が行われ、とある秘匿遺物と共に封印された。

 

2155年9月13日。SEELEにより火星北極点ガリラヤベースを爆心とした未完成のインパクトが発生し、火星北極点に近い都市部が壊滅。クルジスも壊滅的な被害を受ける。

 

2183年。第二次内惑星戦闘終結。と同時に、アンノウンドライブは火星技研から地球に極秘裏に搬送された。

 

2195年。当時アダムス組織に関わった者、暁ハルナ、睦月リクが昏睡から回復。その後、国連宇宙軍に編入される。

 

2198年。地球の壊滅的状況を鑑み、太陽系脱出宇宙船「Buße」の建造が最終段階に移行する。その最中、イスカンダルからの1人目の使者「ユリーシャ・イスカンダル」が来訪。次元波動エンジンの設計図とコスモリバースシステムの供与の意思を示したメッセージがもたらされ、国連宇宙海軍は贖罪計画を凍結。地球環境再生と人類の存続を目的とした「Wunder計画」が立ち上がる。

大規模な改装と波動砲の搭載、及び国際波動砲使用制限条約の締結を行い、BußeはWunderへと生まれ変わった。

 

2199年、メ号作戦の陽動を以てして2人目の使者「サーシャ・イスカンダル」とのコンタクトに成功。Wunder軌道に必要な波動コア、その2つ目が地球にもたらされた。

 

同2月11日。衛星軌道上ドック「鳥籠」内で最終調整が行われていたWunderが、ヤシマ作戦によるマイクロ波送電を受け起動。緊急発進を行う。

 

2月14日。メ2号作戦発動。

 

2月21日。太陽系を離脱。

 

3月31日。次元潜航艦との戦闘。

 

4月14日。中性子星カレル163で、ドメル率いる第6空間機甲師団の待ち伏せにあう。撃沈の危機に陥るが、ガミラス軍の急変によりドメルは撤退。Wunderは辛くも生き延びることが出来た。

 

5月14日。亜空間ゲートを使用してバラン星に突入作戦を敢行する。銀河系方面からバラン星、そしてバラン星から大マゼラン星雲方面へとゲートを乗り継ぐことでWunderは航海日程の遅れを寄り戻し、この作戦で6万光年を短縮する事に成功した。

 

6月11日。タランチュラ星雲、俗称七色星団で「七色星団海戦」が発生する。多大な犠牲と損耗を支払う事となったが、Wunderは生き延びることが出来た。

 

2199年7月16日。大マゼラン星雲サレザー恒星系に到達。ガミラス本星の突入作戦を発動。

 

同日。イスカンダル星に到着。

 

同7月19日。クリスタルパレスにて、イクス・サン・アリア条約締結。同時に地球ガミラス間での休戦協定が結ばれる。

 

2199年8月以降、公式記録上より抹消された事実多数を確認。現在調査中

 

 

____

 

 

 

これは少しだけ先の未来で綴られた記録、遥かなる宇宙の大海原へと漕ぎ出した1隻の奇跡の宇宙戦艦の航海記録で、政府上層部で公開されている物だ。

オリジナルの記録は平和維持軍で厳重に保管されているが、その全ての記録を知っている者は少なく、当時の設計者と艦橋要員の極僅か。両手の指だけで数えられる程だ。連邦政府は情報開示請求を幾度となく行っているものの、「最高軍事機密の為」何度も請求を拒否されている。挙句の果てには暴挙に走った者もいたが、圧倒的な力で鎮圧された。

 

 

 

170年の時を超えたAAAWunder、その艦長たる葛城ミサト、綾波レイ。彼女らとの邂逅を果たした暁ハルナと睦月リク。自分とその後を知ったハルナは覚悟を決め、地球への帰路を急ぐ。

 

アケーリアスの末裔たる「地球人」と第一始祖民族の人造の神である「リリス」、その混血ともいえる存在である暁ハルナ、例えどうなろうと添い遂げる覚悟を決めた睦月リク、最初の存在である「薫」、全ての元凶となったSEELE。そして、地球を守る覚悟で帰路を進むWunder。

 

命を救う戦闘艦としてもう一度力を得たAAAWunderは進む。星の海を、命を救う為に

 

 

 

 

 

 

 

 

2203年、旧北米管区ワシントンDC地下大深度空間。そこに幽閉される少年は、綴られた記録を撫で、こう呟いた。

 

 

 

 

「希望は残っていたね。こんな世界でも」

 

 

 


 

 

 

2199年12月2日

地球 極東管区

 

 

『第七地区で暴動発生。暴徒鎮圧により負傷者多数!』

 

『第八地区で火災発生、現在消火作業中ですが、延焼が起こっています! 応援要請を!』

 

地獄だ。地球滅亡まで2か月を切り、司令部からWunderの情報は無し。助かる見込みも失われたとうわさが広がり、1か月前よりどの地区でも暴動が絶えない。

減り続けた食料、エネルギー、尽きた希望。それに追い打ちをかけるように、遊星爆弾の胞子は地下都市の中層部までも侵食し、人類の生活領域は地下都市の深部にまで追いやられた。

 

2か月前、管区ごとに辛うじて繋がっていた通信が途絶えた。管区ごとに繋がっていた通信ケーブルがどこかで不具合を起こしたようだが、現状では修理も儘ならない。互いに相手の安否すら分からず、ただただ自分が生きる事を優先するしかない。どこかで統治が崩壊してもおかしくない。今だって、暴動が絶えず起こり続けているのだ。

 

 

「Wunderが静止軌道上から発って10か月……人類滅亡のタイムリミットまで、あと50日」

 

「長官、我々は信じで待つ事しか出来ません。ですが、あれは沖田の船です。だから、帰ってきます。ここまでしぶとく待つことが出来た以上、最期まで待ちましょう」

 

電力はすでに安定していない。極東管区の地下都市は最低限の生命維持のための電力は生成できているが発電システムの半数が機能不全を起こし、地下都市全体は暗い。

 

オムシスによる食料の供給も滞り、地下へ避難を始めた頃は満足に生産出来ていた食料、医療物資

は今ではその数は半分以下となり、管区内でも餓死者が見られる。この世に地獄を作ってしまった行政府に不満を持つ者がいないわけもなく、地下都市には灯りではなく暴動の火が上がっている。

 

「おい待て! 許可なく立ち入るな」

 

「知るか! 会わせろってんだろ!!」

 

警備員に押さえられながらも指令室に入り込んできた大柄な男は、土方の前で敬礼をした。

 

「元第7空間騎兵連隊所属、斉藤始!」

 

「こいつは俺に意見がある様だ。聞こう」

 

「意見具申! 来る日も来る日も暴徒鎮圧! 民間人に銃を向けるのは、もう沢山であります! 空間騎兵の俺らの銃は、同胞に向けるための物じゃありません!」

 

そう言うと、斉藤は自分の持つ暴徒鎮圧用の非殺傷銃を床に叩きつけた。怒りの籠ったそれは指令室に響き渡り、職務に当たるオペレータの視線が一斉にこちらを向く。

 

「一体、この地獄はいつ終わるんです……」

 

「彼ら……いや、俺の親友は必ず帰って来る。必ずな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「土方司令……」

 

通信を受信したアラートが上がり、担当士官が内容を確認した。そこに表示されていた発信先と送り主の名前を見ると、その士官から涙が零れ落ち、震える声で報告を上げた。

 

「どうした?」

 

「超空間通信を捉えました。受信施設不調のため、位置までは分かりませんが……確かに()()()()から信号を捉えています」

 

「……読み上げてくれ」

 

「……型式番号、NHG-001」

 

10か月待った。待って待って待ち続けた今日、そのメッセージは地球に届いた。

 

軍帽の鍔を摘まみ下げる土方の目元には友の帰りを心の底から喜んでいた。ああ、もうどれだけ心を殺してきただろう、どれだけ悲惨な報告を聞いてきただろう。凍り付いていた感情が、今、溶けた。

 

士官が読み上げようとするが、涙と鼻水と一杯一杯の感情が先行してしまい、上手く報告が出来ない。それでも土方と藤堂は急かさず、その送り主の名を待った。

 

「恒星間航行、超弩級宇宙戦艦……」

 

斉藤もその先に続く言葉を悟った。あの地獄の月面からの撤退時、移乗したきりしまから見た異形の宇宙戦艦。地球最大の金剛型が小舟に見えるくらいの「この世ならざる舟」を、そのスクリーンの向こう側に見た。

 

 

最後に、奇跡の名を冠した希望の船の名前を、大きく叫んだ。

 

 

「Wunderです!」

 

 

 


 

 

宇宙戦艦ヴンダー

《Reise zu einem Wunder》

 

終章 Reise zu einem Wunder




アスカ「あれから2年以上経ったって事よ。読者」

そうです、2年も経ってました。
ですが何という事でしょう、何とか最終章まで来ることが出来てしまいました。

ここまで長くなってしまいました。受験勉強や諸々の事情等もあり、何度も休載宣言をする事となってしまいましたが、ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございます。

試験も終わってくれたので、最終章《Reise zu einem Wunder》始まります


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