問題児達と一緒に仮面ライダーの力を手に入れた俺が行くようだ (岬サナ)
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プロローグ

他にも書かないといけない作品があるのに新しく書いてしまった。

でも、止められなかったの!
書きたい気持ちが沸き上がったの!

では本編を楽しみください♪


 

 

 

 

 

 

人はいきなり自分の頭で処理できない事態が起こったらどうなるだろうか?

 

慌てる?落ち着く?唖然とする?寝る?状況を理解する?見なかったことにする?

 

このどれもが間違いではないだろうし、他にも何かがあるかもしれない。

 

因みに俺は唖然としています。

 

それで何故いきなりこんな話しをしたのかと言うと理由は簡単に言います。

 

 

 

 

 

 

 

今、上空4000mから落下しているからです。

 

 

 

 

 

何でこんな事になっているのを思い返す。

 

 

 

 

俺は別に何か特別な才能とかがあるわけでもない只の40を過ぎた独身の冴えない男だった。

いつもと変わらない生活を送っていた筈なのに、それが何の因果か年齢が子供くらいに、大体10歳くらい下にまで若返った身体に自分が生きていた世界と微妙に違う世界にいた。

 

それだけだったなら俺の勘違いで済んだだろう。それと異なる出来事もあった。

俺のいた部屋には様々なある物(・・・)があった。流石に最初は玩具かと思って触って動かせばガチモノの本物であった。

 

これらの事で千景は理由は不明だが転生したのだと悟ったが、世界は平和そのものだった。ハッキリ言うならば俺の部屋にあったある物が本物であるという異常を除けば普通に暮らせていただろう。

 

本当に平和なこんな場所であれらが使う機会があるのかと言いたくなるレベルでだ。

 

 

 

そんな千景の運命が更に変わったのは空から落ちてきたある1通の手紙だった。

 

「また高校生活をやり直すはめになるとは不幸と言えばいいのか、幸運と言えばいいのか判断に困る所だな」

 

俺は多分別世界に転生した世界で数年の時を過ごし17となっていた。

 

「ん?」

 

いつも通りの日常を過ごしていると空から手紙が落ちてきた。普通に疑問を感じた千景は丁度手紙が落ちてくる位置にドンピシャでいたので手紙をそのままキャッチする。

 

「俺宛?何で空から?」

 

落ちてきた手紙には達筆で『高島千景殿へ』と書かれていた。

 

取り敢えず千景はその不可思議な手紙を触り感触的に発信器が入っていないと分かってから家に戻る。

 

家に戻った千景は手紙を開ける前にある物を全部あるかを確認してから手紙の封を切って、書いてある文章を読んだ。

 

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

 己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 我らの"箱庭"に来られたし』

 

 

 

「はぁ?」

 

そして、その直後に俺と俺以外の人物の少年少女の3人が上空4000mほどの位置から落下してのであった。

 

まぁこんな状況なんだけど1つだけ心に決めた事がある。

 

それは、

 

「これをした奴を1発ぶん殴る!」

 

いきなり上空に放り出した責任を取って貰うことだ‼️

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




15分後にもう一話更新するよ


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問題児たちと黒ウサギとの出会い

これは2つ目なので前話がまだの人はそっちも見てくれると嬉しいです。


上空4000mのいきなり転移されられた千景は驚きながらも下に落ちたらヤバいと思った。

 

「こんな所でバッドエンドは御免だ!」

 

千景は咄嗟にゲーマドライバー取り出して腰に当てベルトで固定する。

 

「これだよな」

 

《バンバンシューティング》

《ジェットコンバット》

 

千景は起動させた2つのガシャットをゲーマドライバーに差し込んだ。

 

《ガシャット!》

 

「変身!」

 

千景はそのままドライバーの正面にあるレバーを開く。

 

《ガッチャーン!レベルアップ!》

 

(ヨシッ‼️)

 

ちゃんと起動した事に内心で喜ぶ千景。

 

《ババンバン!バンババン!バンバンシューティング!アガッチャ!ジェット!ジェット!イン・ザ・スカイ!ジェット!ジェット!ジェットコンバット!》

 

千景は仮面ライダースナイプレベル3に変身し、飛行ユニットであるエアフォースウィンガーの力を使って落下を防いだ。

 

「……助かった~⁉️」

 

いきなりだったから千景もテンパってしまっていた。そして、ドボン!という音が千景の耳に届いた。

 

「そういえば他にも3人くらいいたな」

 

千景はそのまま他の3人が落ちた湖の近くに降りて変身を解除した。

 

少ししたら湖に落ちた3人が陸地に上がってきた。めっちゃ不機嫌だと身体全体から発しながら、である。

 

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

(石の中の方が親切とかスゴいな)

 

何かしらの緩和材があったとはいえ普通は上空4000mから落ちれば水面とはいえ落下の衝撃はコンクリートに落ちるのと変わらないから死んでたなと千景は思った。

 

「………。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

そんな二人の男女と同じように服の端を絞ってもう1人の少女が、

 

「此処………どこだろう?」

 

「まぁ、元いた世界ではないだろうな」

 

「だろうな。まぁ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」

 

少女の呟きに千景ともう1人の少年が答える。そして、少年は軽く曲がったくせっぱねの髪の毛を搔きあげ、

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは"オマエ"って呼び方訂正して。──私は久遠(くどう)飛鳥(あすか)よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

少年と飛鳥は話しながら次に猫を抱えてる少女の方へと視線を向ける。

 

「………春日部(かすかべ)耀(よう)。以下同文」

 

「そう。よろしく春日部さん。次に唯一濡れていない貴方は?」

 

高島(たかしま)千景(ちかげ)だ。濡れてない理由は言わない」

 

どうせ今でなくても知る機会はあるだろうからな。

 

「そう。分かったわ高島君。じゃあ最後に、野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介ありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻(さかまき)十六夜(いざよい)です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

中々、ここまで言いきる自己紹介はないだろうな。

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

心からケラケラと笑う逆廻十六夜。

傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。

我関せず無関心を装う春日部耀。

何故かいつの間にか1人携帯食を食べてる高島千景。

 

そんな彼らを物陰から見ている存在が汗を流しながら思う。

 

(うわぁ………なんか問題児ばっかりみたいですねぇ………)

 

影に隠れている存在からは千景も問題児判定を受けていた。

そんな悩んでいる存在のことはお構い無く苛立っている十六夜は言う。

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねぇんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねぇのか?」

 

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

「………。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

 

「モグモグ……それ春日部にも適用されると思うけどな」

 

(それは貴方にも言えますけど、全くです)

 

隠れている存在もツッコミを入れる。

もっとパニックなってくれれば飛び出しやすいのに、場が落ち着き過ぎているので出るタイミングが計れないでいる。

 

(まあ、悩んでいても仕方ないデス。これ以上不満が噴出する前にお腹を括りますか)

 

四者四様の態度を見ると怖じ気づきそうになるが、此処は我慢して出ていこうとする。

 

「───仕方ねぇな。こうなったら、そこに隠れている(・・・・・・・・)奴にでも(・・・・)話を聞くか?」

 

「最悪、拷問でもしたら快く話してくれるだろうしな」

 

(ご、拷問って言いましたか⁉️)

 

物陰に隠れていることと後から言われた拷問という単語に隠れている存在は心臓を掴まれたように飛び跳ねた。

 

「なんだ、貴方達も気付いていたの?」

 

「あんなに露骨なのを気付かない方が無理だろ?」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの猫を抱いてる奴も気付いていたんだろ?」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「………へぇ。面白いなお前」

 

4人は理不尽な招集を受けた腹いせに殺気の籠った冷ややかな視線を向ける。

その視線に怯んだのか隠れていた存在が千景達の前に姿を現す。

 

「や、やだなぁ御4人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

どうやら出てきた女の名前は黒ウサギと言うらしい。それはそれとして、

 

「断る」

「却下」

「お断りします」

「死ね」

 

いきなり上空4000mからの落下をさせられた4人には慈悲は存在しなかった。

 

「あっは、取りつく暇もないですね♪というか最後の方!酷すぎますよ⁉️」

 

バンザーイ、と降参のポーズをとる黒ウサギだが、その眼は冷静に4人を値踏みしていた。

 

(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。まぁ、扱いにくいのは難点です──)

 

「………」

 

「フギャ!」

 

黒ウサギは4人にどう接するかを冷静に考えている最中に側に近付いていた千景に黒いウサ耳を根っこから鷲掴みをされて、力いっぱい引っ張った。

 

「えい」

 

「ギャッ!」

 

それを見た耀も自分も引っ張りたくなり千景とは反対側のウサ耳を引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか⁉️」

 

自分で素敵耳とか言うのかと千景は思った。

 

「好奇心の為せる業」

 

「上空4000mに飛ばされたストレスの解消」

 

「自由にも程があります!ストレス解消道具にもしないでください!」

 

そして、十六夜と飛鳥も黒ウサギの耳への好奇心で近付いてきた。

 

「へぇ?このウサ耳って本物なのか?」

 

「………。じゃあ私も」

 

十六夜と飛鳥がそれぞれ千景と耀が離したウサ耳の右と左を掴んで引っ張る。そして、力いっぱい引っ張られた黒ウサギは、またも言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊(こだま)した。

 

「悲鳴がうるさいな」

 

「同感」

 

最初に黒ウサギの耳を引っ張った元凶の2人は知らぬ顔をしてそれを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




更に15分後にもう一話更新します!


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箱庭の説明

これは3つ目なので注意してください。


「───あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

「いいからさっさと進めろ」

 

「態々、止めてやったんだから話せ」

 

十六夜と千景からの辛辣な言葉に半ば本気の涙が浮かぶ程度だったのが流れるほどに泣きながらも、黒ウサギは話を聞いてもらえる状況を作ることに成功した。

4人は黒ウサギの前の岸辺に座り込み、彼女の話を『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾ける。

 

「ンヴ‼️」

 

黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて、

 

「それではいいですか、御4人様。定例文を言いますよ?言いますよ?さ「早く言え!」……はい

 

しつこく繰り返そうとした黒ウサギの言葉を千景は遮ってさっさと言えと促す。

 

「ようこそ、"箱庭の世界"へ!我々は御4人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!既に気付いていらっしゃるでしょうが、御4人様は皆、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその"恩恵"を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギに、飛鳥は質問をするために挙手した。

 

「まず初歩的な質問からしていい?貴女の言っている"我々"とは貴女を含めた誰かなの?」

 

「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある"コミュニティ"に必ず属していただきます♪」

 

「嫌だね」

「面倒だ」

 

必ず属すという所に十六夜と俺は即答で反発した。

 

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの"主催者(ホスト)"が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

「………"主催者"って誰?」

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます」

 

そこは上位存在だけが開催するってわけではないのね。

 

「特徴として、前者は自由参加が多いですが"主催者"が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。"主催者"次第ですが、新たな"恩恵"を手にすることも夢ではありません。

 後者は参加するためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらは全て"主催者"のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者は結構俗物ね………チップには何を?」

 

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間………そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然───ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

当然だな、と千景は思った。他人の才能を奪うのだから相手の方も自分の才能を奪われるリスクを背負うのは当然だと感じる。むしろ、チップにそれを選ばないのは相当使えない才能や、それを無視してでも手に入れたい何かを相手が持ってる場合だけだろう。

 

「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」

 

「どうぞどうぞ♪」

 

「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」

 

「コミュニティ同士を除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」

 

黒ウサギの発言に飛鳥は片眉をピクリと動かした。

 

「………つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 

お?と驚いた表情をする黒ウサギ。

 

「ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか!そんな不逞な輩は悉く処罰します」

 

「当たり前だな」

 

「そこまで無秩序なのも面白そうだけどな」

 

「流石は快楽主義者だな」

 

「ありがとよ♪」

 

黒ウサギの説明に千景と十六夜も互いに言いあうも楽しそうにしてる十六夜に呆れる千景だった。

 

「───が、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全く逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だということですね」

 

「そう。中々野蛮ね」

 

黒ウサギの説明に熱が入り、飛鳥がため息を溢しながら言う。

 

「ごもっとも。しかし"主催者"は全て自己責任でゲームを開催しております」

 

「つまり俺達が自分でギフトゲームをするならば自己責任で奪われる覚悟もしておけってことか?」

 

「その通りでございます」

 

千景も気になったことを黒ウサギに聞き、それを黒ウサギもすぐに答えた。

 

「つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

黒ウサギは一通りの説明を終えたのか、一枚の封書を取り出した。

 

「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭における全ての質問に答える義務がございます」

 

この時に、千景は呼び出したのが箱庭の世界からの意思ではなく黒ウサギから依頼された誰かが自分たち4人を呼び出し黒ウサギの所属するコミュニティに入れる必要があったのだと察する。

 

「ですが、それらを全て語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが………よろしいです?」

 

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 

今まで静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。言葉の通り十六夜はコミュニティに属することでの返答はしたが、4人の中でまだ質問をしていなかった。

そして十六夜の表情から、ずっと刻まれていた軽薄な笑顔が無くなっていることに気付いた黒ウサギは、構えるように聞き返した。

 

「………どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」

 

「そんなのはどうでもいい(・・・・・・)。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねぇんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねぇ。俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

十六夜は視線を黒ウサギから外して、千景を含めた他の3人を見回し、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。

十六夜は何もかも見下ろすような視線で一言、

 

「この世界は………面白いか(・・・・)?」

 

「「───」」

 

(なるほどな)

 

他の2人も無言で返事を待ち、千景は十六夜の質問に納得した。

彼らを呼んだ手紙にはこう書かれていた。

 

 

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。

 

 

それに見合うだけの催し物があるのかどうかこそ、十六夜や飛鳥に耀にとって一番重要な事だった。

 

「──YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段と面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

黒ウサギは一番の笑顔で返答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでで止めます。
次の更新は作者の気分で変わるので早いか遅いかは不明ですが、気持ちが乗ってる間にもう一話更新したいと思います!

……可能なら一週間以内に!


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世界の果てへ

なんとか一週間以内に更新ができた!


「よし。世界の果てに行こう!」

 

黒ウサギが箱庭に案内をしている途中で、いきなり十六夜がそんなことを言ってきた。

 

「暇になったんだな」

 

「折角、こんな未知が大量にある世界に来たんだから探検しないのは損だろ」

 

「そう。でも私は遠慮させてもらうわ」

 

「………以下同文」

 

「何だよ。お嬢様達はノリが悪いな。お前はどうするよ、高島」

 

十六夜の提案に女性陣は拒否され、俺の方へと意思確認をしてきた。

 

「俺も行ってみようかな。折角の異世界に来たんだ。楽しまないとな」

 

「だったら、ちょっと世界の果てを見て来ようぜ!」

 

「黒ウサギには………別に言う必要はないな」

 

「ヤハハ。そうだな」

 

そして十六夜は目にも止まらぬ速さでその場から移動した。

それを見て、まだここにいる千景に飛鳥は疑問に思った。

 

「高島君は行かなくていいの?」

 

「まぁ、すぐに追い付けるしな」

 

俺はオーロラカーテンを出現させる。

 

「何それ?」

 

「それが貴方のギフトなのかしら?」

 

「それは秘密ってことで」

 

耀と飛鳥はオーロラカーテンを出現させた千景に気になって聞くが千景はその質問には答えずにオーロラカーテンを動かしてその場から消えた。

 

千景はオーロラカーテンで十六夜が辿り着くであろう場所に先んじて到着した。千景は近場の岩に腰を下ろして十六夜の到着を待った。

 

「ヤハハ!おいおいマジかよ!」

 

それから少ししたら十六夜が辿り着き、先に待っていた千影の姿を視認し、嬉しそうに笑う。

 

「予想通りのタイミングだな」

 

「後を追って来てなかったのに先に来てるとか最高に面白いな、高島」

 

「それよりも見ないのか?」

 

千景は大きな滝がある方に指を指して十六夜がそれを見る。

 

「おぉ‼️流石は箱庭だな。ここまで爽快な滝は元の世界でも御目にかかれねぇぜ」

 

「確かにいい景色だな」

 

見つけた滝の凄さに見入っていた十六夜がこちらを方を向く。そして、

 

「それで仮面ライダー(・・・・・・)のお前は黒ウサギのコミュニティの事をどうするんだ?」

 

「⁉️」

 

その言葉に千景は反射的に十六夜から少し距離を取る。

 

「何の事だか?」

 

「その反応で俺の予想が正解だってのは証明されたぜ。なぁ仮面ライダー様よ」

 

そして千影と十六夜は一色触発な雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ時間を遡り──

 

箱庭の外門前にいる少年に黒ウサギが、

 

「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

 

嬉しげな表情で手を振っていた。

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性2人が?」

 

「はいな、こちらの御4人様が───」

 

クルリ、と振り返る黒ウサギ。

カチン、と固まる黒ウサギ。

 

「………え、あれ?もう2人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から"俺問題児!"ってオーラを放っていた方と、初っ端に黒ウサギに死ねと言ったり素敵耳を強引に引っ張った方のお二方が」

 

黒ウサギはアワアワと震えながら飛鳥と耀に聞く。

 

「あぁ、十六夜君と高島くんのこと?彼らなら"世界の果てに行こう"と"俺も行ってみようかな"と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 

「千景はオーロラのようなもので移動してたけどね」

 

そして飛鳥が、あっちの方に。と指を指すのは上空4000mから見えた断崖絶壁。

箱庭の外門前の街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて2人に問いただす。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

「"止めてくれるなよ"と言われたもの」

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか⁉️」

 

「"黒ウサギには言うなよ"と言われたから」

 

実際には飛鳥と耀は十六夜と千景にそんなことは言われてはいない。それに対して黒ウサギは、

 

「嘘です、絶対に嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」

 

「「うん」」

 

嘘だと断言したが、2人は即答で肯定した。

ガクリ、と前のめりに倒れる。新たな人材に胸を躍らせていた数時間前の自分が妬ましい。

まさかこんな問題児ばかり掴まされるなんて嫌がらせにも程がある。

そんな黒ウサギとは対照的に、ジン坊っちゃんと呼ばれた少年は蒼白になって叫んだ。

 

「た、大変です!"世界の果て"にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

 

「幻獣?」

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に"世界の果て"付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間には太刀打ち出来ません!」

 

ジンは事の重大さを伝えるように言うが、ここにいるのは世界屈指の問題児と黒ウサギが判断した4人の内の2人である。

 

「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」

 

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

2人はどこ吹く風と言ったように叱られても肩を竦めるだけである。

黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。

 

「はぁ………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御二人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「わかった。黒ウサギはどうする?」

 

「問題児たちを捕まえに参ります。事のついでに──"箱庭の貴族"と(うた)われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

悲しみから立ち直った黒ウサギは全身から怒りのオーラを噴出させて、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。外門にめがげて空中に高く跳び上がった黒ウサギは外門の柱に水平に張り付くと、

 

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

 

そして黒ウサギが踏みしめた門柱に亀裂が入り、全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に3人の視界から消え去った。

 

 

 

 

そして時は戻り、

 

「一応、確認のために聞くけどさ。やっぱり上空落下の時に見てたんだな」

 

「まぁな、それでも俺が知ってる仮面ライダーはOOO(オーズ)までだけどな。恐らくはオマエが使ったのはオーズ以降のライダーの誰かとまでしか分からないがな」

 

千景は仮面ライダーの存在を知る十六夜にため息を吐きたくなった。

本当に知っているのがオーズまでならば、まだやりようはいくらでもあるがそれでもオーズまでの仮面ライダー達の力を知られているのは千景としては、もしも敵対した時の手札が減るのが困るのだ。

 

(どうするかな)

 

千景はこの後の行動で悩んでいる。その時!

 

『人間ども風情がここに何のようだ』

 

滝からデッカイ大蛇が現れた。

 

「スゲーな」

 

「ヤハハ。流石は箱庭ってところか面白いもんが次々に見れるとはな」

 

「アレの相手は十六夜がするか?」

 

「俺は別にお前でも構わないぜ」

 

俺は先ほど仕返しに少しばかり十六夜に挑発することにした。

 

「仕方ないな。十六夜が怖くて戦えませんって言うなら俺がこの大蛇の相手をするさ」

 

「……へぇ」

 

『この我に挑むか人間たちよ。ならば試練を選ぶがいい』

 

「なら俺を試せるかテメェを試してやるよ」

 

この大蛇の言い分で十六夜の心は決まったのか、一気に大蛇の所へと跳躍した。

 

『なっ⁉️』

 

「オラァ‼️」

 

「あれは凄いな」

 

思わずそう呟いた千景は仕方ないことだろう。人間処か熊さえも一口で丸呑み出来るくらいにデカイ大蛇を殴り飛ばした現場を見れば誰だろうと思わず呟いてしまう。

 

「んだよ。期待外れだな」

 

そのまま先程までいた場所に寸分狂わずに戻ってきた十六夜はガッカリといった雰囲気を出していた。

 

普通ならば飛鳥や耀が会ったジンが言ってるように並大抵の人間では幻獣たちの相手をするギフトゲームには勝てない方が高いだろう。

だが、黒ウサギとジンが異世界から呼び寄せたのは人類最高クラスのギフトを保有した人材なのだ。

 

だからこそ、この結果は当たり前の結果だったとも言えるのかもしれない。

 

「この世界は面白いな」

 

そして、十六夜、飛鳥、耀の問題児たち3人と一緒に呼び出された千景もこれから起こる事に期待が高まっているのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




十六夜の時間軸は仮面ライダーオーズまでは放送済みで十六夜も小さい子供たちと一緒に視聴してたって設定です。


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トリトニス大河での戦闘

なんとか書けた( ̄▽ ̄;)


「あの大蛇は期待外れだったけどお前は俺の期待を超えてくれよ──高島!」

 

「チッ⁉️」

 

そう言って十六夜は先ほどの大蛇に接近した時と同じ速度で千景に殴りかかった。

 

「面倒だな」

 

千景は十六夜の攻撃を回避してとあるベルトを反射的に呼び出して手を上に翳す。

 

「うおっ⁉️」

 

急に来た飛来物に十六夜は回避する。

そして飛来してきたカブトゼクターを掴んだ千景はそれをライダーベルトに差し込む。

 

「変身」

 

《HENSHIN》

 

仮面ライダーカブトマスクドフォームへと変身した。

 

「カブトか」

 

十六夜は嬉しそうな笑みを浮かべ仮面ライダーカブトに変身した千景を見る。

 

「一気に終わらせよう」

 

「来るか!」

 

「キャストオフ」

 

カブトゼクターのホーンを左から右へと動かす。

 

《cast off》

 

「ヤハハ。やっぱりこうくるか!」

 

マスクドアーマーだった部分が物凄い早さで周りへと弾け飛び、十六夜にも向かってきたそれを十六夜は殴り飛ばして対処した。

 

《change beetle》

 

こうして千景はマスクドフォームからライダーフォームへと姿を変えた。

 

「ヤハハハ!マジで最高だなオマエ!」

 

「……」

 

ドカン!とした音が周囲に鳴り響く。カブトに変身した千景と十六夜の拳がぶつかり合って発生した音である。

 

そしてすぐさま十六夜は反対の拳で千景に殴りかかるが千景もそれを予想していて難なく回避し逆に蹴りを十六夜の腹部へと当て十六夜を吹き飛ばす。

 

「ガハッ⁉️」

 

「これで終わらせよう……クロックアップ」

 

千景はベルト左右の腰部分にあるスラップスイッチを押す。

 

《clock up》

 

その瞬間、千景の身体全身にタキオン粒子が巡り、この世の全てを置き去りにする程の速度を千景は手に入れる。

その速度を活かして千景は十六夜に迫る。

 

「マズッ…グブ⁉️ガハッ!」

 

仮面ライダーカブトに出てくるライダー達が持つ基本にして強力なそれに十六夜は簡単に背後を取られて攻撃を受ける。

勿論、やられるだけではない十六夜は反撃しようにもクロックアップした千景の速度には全く追い付けない。

 

「クロックアップしてるのに、まさかここまでの速度を出してくるのは驚いたな」

 

千景はクロックアップ使用中にも関わらず十六夜の動きが他の存在よりも動きが早いことに気付いていた。

それでもクロックアップしたカブトの姿を十六夜は視認できずに攻撃を受け膝を着いてしまう。

 

「ゲホ!……ヤハハ。流石は仮面ライダーって、所かよ」

 

「こんな状況なのに楽しそうに笑うよな逆廻は」

 

「こんな状況だからこそだろ!元の世界ではマトモに相手ができる奴なんざ誰もいなかったぜ!」

 

血を吐き、それでも愉快に楽しそうに歓喜に震えながら十六夜は立ち上がった。

口からは拭った血が残っているにも関わらずに戦意は一切衰えていない。むしろ昂っている。

 

「……」

 

「……ヤハハ」

 

千景は次で終わらせるつもりで腰のスラップスイッチを押そうとし、十六夜も身体に力を込めて動こうとした時──

 

「こんの、おバカ様⁉️」

 

バシーン!と十六夜の頭をハリセンで叩いたのは黒い髪を淡い緋色に染めた黒ウサギだった。

 

「あれ、お前黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」

 

「髪の色的に黒ウサギとは名乗らない方がいいと思うけどな」

 

「確かにな。……なら何て名乗らす」

 

「取りあえず淫乱ウサギかピンクウサギが妥当だろうな」

 

「……やるな」

 

「何を言ってますか、お馬鹿様⁉️」

 

またも十六夜と更に千景にもハリセンでぶっ叩く黒ウサギ。

2人に会った黒ウサギの胸中に湧き上がる安堵、は全くない。散々振り回された黒ウサギの胸中はもう限界だった。怒髪天を衝くような怒りを込めて2人の方を視界に入れる。

 

「もう、一体何処まで来てるんですか⁉️後、千景さんのその姿は何ですか⁉️」

 

「"世界の果て"まで来ているんですよ、っと。まぁそんなに怒るなよ」

 

「黙秘する」

 

千景は聞かれた事を喋らず、十六夜も小憎たらしい笑顔も健在であった。怒りの余り心配をしていないが、目立つ傷はないが十六夜は口から血を吐いている。だが、それも千景との戦闘で吐いたために特に問題ではない。

 

「しかしいい脚だな。遊んでいたとはいえこんな短時間で俺達に追い付けるとは思わなかった」

 

「てっきりネタ枠的な奴だと思ったのに意外だな」

 

「むっ、当然です。黒ウサギは"箱庭の貴族"と謳われる優秀な貴種です。その黒ウサギが」

 

アレ?と黒ウサギは首を傾げた。

 

(黒ウサギが………半刻以上もの時間、追い付けなかった………?)

 

その疑問に千景からのネタ枠扱いをされていたことが頭から抜け落ちてしまうくらいの衝撃だった。

黒ウサギ自身に気付かれることなく姿を消したことも、追い付けなかったことも、思い返せば人間とは思えない力と身体能力だった。

 

「ま、まぁ、それはともかく!御2人が無事でよかったデス。水神にゲームを挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」

 

「水神?」

 

「──あぁ、アレ(・・)のことじゃね?」

 

アレ(・・)か」

 

え?と黒ウサギは硬直する。千景の視線の先と十六夜が指さしたのは川面にうっすらと浮かぶ白くて長いモノだ。黒ウサギがそれを理解する前に十六夜に殴り飛ばされた大蛇が鎌首を起こし、

 

『まだ………まだ試練は終わっていないぞ、小僧共ォ‼️』

 

その身の丈30尺強はある巨軀の大蛇が何者か問う必要はないだろう。黒ウサギは間違いなくこの一帯を仕切る水神の眷属だと気付く。

 

「蛇神………!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん、千景さん!」

 

ケラケラと笑う十六夜と特に表情を変えていない千景は事の顛末を話す。

 

「俺は怒らせていない」

 

「なんか偉そうに『試練を選べ』とかなんとか、上から目線で素敵なこと言ってくれたからよ俺を試せるかどうか試させてもらった(・・・・・・・・・・・・・・・・・)のさ。結果はまぁ、残念な奴だったが。そんで代わりに高島と戦ってたんだよ」

 

「傍迷惑だったけどな」

 

『貴様ら………付け上がるなよ人間共!我がこの程度の事で倒れるか‼️』

 

蛇神の甲高い咆哮が響き、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が水柱を上げて立ち昇る。

黒ウサギが周囲を見れば、十六夜と千景が戦った後の他に風で水柱を上げた影響か、戦いの傷跡とみてとれる捻じ切れた木々が散乱していた。あの水流に直撃して巻き込まれたら最後、人間の胴体など容赦なく千切れ飛ぶのは間違いないと黒ウサギは思った。

 

「十六夜さん。千景さん。下がって!」

 

黒ウサギは2人を庇おうとするが、十六夜の鋭い視線はそれを阻む。

 

「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これは俺が売って(・・・)、奴が買った(・・・)喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」

 

「それに今更このゲームを止めるとか不可能だろ」

 

十六夜の本気の殺気が籠った声音と千景の状況から把握した事実に黒ウサギも始まってしまったゲームには手出しできないと気付いて歯噛みする。そして、十六夜の言葉に蛇神は息を荒くして応えた。

 

『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様の勝利を認めてやる』

 

「それは十六夜相手には間違った返答だな」

 

蛇神の言葉に千景はそう呟いた。それが事実であると証明するように十六夜は言う。

 

「寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ(・・・・・・・・・・・・)

 

与えられるまでもなく勝者は既に決まっている。

その傲慢極まりない台詞に黒ウサギも蛇神も呆れて閉口した。

それを千景だけが呆れずに決着は決まってるというようにリラックスしていた。

 

『フン───その戯言が貴様の最後だ!』

 

蛇神の雄叫びに応じて嵐のように川の水が巻き上がる。竜巻のように渦を巻いた水柱は蛇神の丈よりも遥かに高く舞い上がり、何百トンもの水を吸い上げる。

 

「十六夜。代わってやろうか?」

 

「いらねぇよ」

 

竜巻く水柱は計3本。それぞれが生き物のように唸り、千景が十六夜に自分がやろうかと聞いたが十六夜はそんな助けはいらないとばかりに拒否をした。

 

「十六夜さん!」

 

襲いかかってきた竜巻く水柱に黒ウサギが叫ぶ。竜巻く水柱は川辺を抉り、木々を捻り切り、十六夜の体を激流に呑み込む───!

 

「───ハッ───しゃらくせぇ‼️」

 

突如発生した、嵐を越える暴力の渦。

十六夜は竜巻く激流の中、ただ腕を一振りで嵐をなぎ払ったのだ。

 

「嘘⁉️」

 

『馬鹿な⁉️』

 

「当然の結果だな」

 

驚愕する二つの声と落ち着いた声が一つ。だが、驚愕の声を上げた黒ウサギと蛇神はしかたないだろう。それはもはや人智を遥かに超越した力である。蛇神は全霊の一撃を弾かれ放心するが、十六夜はそれを見逃さなかった。

 

「決めるのか」

 

千景は獰猛な笑いと共に着地した十六夜を見て察し、十六夜も、

 

「ま、中々だったぜオマエ」

 

大地を踏み砕くような爆音。胸元に跳び込んだ十六夜の蹴りは蛇神の胴体を打ち、蛇神の巨軀は空中高く打ち上げられて川に落下した。その衝撃で川が氾濫し、水で森が浸水する。

 

「危なっ⁉️」

 

千景はそれは予期して近くの木々に跳び移り全身が濡れるのを回避した。

回避した千景とは違い、また全身を濡らした十六夜はバツが悪そうに川辺へと戻る。

 

「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」

 

「そうだよな。これは謝罪費や迷惑料も込みで請求しないとダメだよな」

 

そこへ、変身を解除した千景も寄ってくる。

 

「お前はさっきと今回の両方で濡れてないだろ?」

 

「濡れかけたんだから一緒だよ」

 

そんな会話をする千景と十六夜の声は黒ウサギに届いていなかった。

彼女の頭の中はパニックにより、それどころではなかった。

 

(人間が………神格を倒した⁉️それも只の腕力で⁉️そんなデタラメが───!)

 

ハッと黒ウサギは思い出す。彼らを召喚するギフトを与えた"主催者"の言葉を。

 

『彼らは間違いなく───人類最高クラスのギフト保有者よ、黒ウサギ』

 

そう言った信用できる"主催者"からの言葉を思い出していた。

 

(信じられない……だけど、本当に最高クラスのギフトを所持しているのなら………!私達のコミュニティ再建も、本当に夢じゃないかもしれない!)

 

黒ウサギは蛇神を圧倒した十六夜と十六夜相手に優位に立っていた千景を見ながら内心の興奮を抑えきれず、鼓動が速くなるのを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次は黒ウサギのコミュニティの状況を知る話だな~


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追求

書ける時に自由に書けるのは嬉しくなるよね
これが進むと書きたいのに思い通りに書けなくなるから辛くなるんだけどね
だから今は考えたように書けるのが嬉しく思う


内心の興奮から動かなくなった黒ウサギ。そんな黒ウサギへと十六夜と千景が近付く。

 

「おい、どうした?ボーっとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」

 

「いや、それよりはまた耳を引っ張るか首を捻れば一発で反応してくれるんじゃないか?」

 

「え、きゃあ!」

 

背後にいた十六夜は黒ウサギの腋下から豊満な胸に、ミニスカートとガーターの間から脚の内部に絡むように手を伸ばしていた。それを押しのけて跳び退く黒ウサギは感動も忘れて叫ぶ。

 

「な、ば、おば、貴方はお馬鹿です!?200年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?後千景さんは黒ウサギに対してバイオレンス過ぎません!?」

 

「200年守った貞操?うわ、超傷つけたい」

 

「それを売りに出せば初回は相当な額で売れるな」

 

「お馬鹿!?いいえ、お馬鹿!!それに黒ウサギを売ろうとしないでください!」

 

黒ウサギは疑問形から確定形に言い直して罵る。

黒ウサギに限らずにウサギという種は総じて容姿端麗・天真爛漫・強靭不屈で献身的という何処かの誰かの愛玩趣味を詰め込んだような種族である。故に彼女を狙って襲ってきた賊の数は星の数ほどいた。

しかし、身がすり合う程の距離まで反応出来なかった相手はいなかったし、ましてや腋の下から胸に触れる寸前まで許してしまうようなお馬鹿、もとい変態や真顔で売ると言った人はいなかった。

 

「ま、今はいいや。後々の楽しみにとっとこう」

 

「そうだな。もう少し時を待てば更に付加価値を付けられて高く売れるしな」

 

「さ、左様デスか。それとさすがに売らないでほしいのデスよ」

 

この2人は黒ウサギの天敵かもしれない。ウサギは一瞬だけ遠い目をした。

 

「と、ところで十六夜さんに千景さん。その蛇神様はどうされます?というか生きています?」

 

「勝負したのは十六夜だし、十六夜が決めることだろ」

 

「命までは取ってねぇよ。高島との戦いに比べたらしょうもなかったが、戦うのはそこそこ楽しめたけど、殺すのは別段面白くないしな。"世界の果て"にある滝を拝んだら箱庭に戻るさ」

 

黒ウサギの疑問に俺は十六夜に選択権を渡して、十六夜も命までは奪うつもりはないと答える。

 

「ならギフトだけでも戴いておきましょう。ゲームの内容はどうあれ、十六夜さんは勝者です。蛇神様も文句はないでしょうから」

 

「あん?」

 

「……」

 

十六夜が怪訝な顔で黒ウサギを見つめ返し、千景も無言で見た。黒ウサギは思い出したように捕捉した。

 

「神仏とのギフトゲームを競い合う時は基本的に三つの中から選ぶんですよ。最もポピュラーなのが"力"と"知恵"と"勇気"ですね。力比べのゲームをする際は相応の相手が用意されるものなんですけど………十六夜さんはご本人を倒されましたから。きっと凄いものを戴けますよー。これで黒ウサギ達のコミュニティも今より力を付ける事が出来ます♪」

 

黒ウサギが小躍りでもしそうな足取りで大蛇に近寄る。しかし十六夜は不機嫌な顔で黒ウサギの前に立つ。

千景は興味がないのか欠伸をしていた。

 

「……フワァ」

 

「───」

 

「な、なんですか十六夜さん。怖い顔をされていますが、何か気に障りましたか?」

 

まぁ気に障っているといえば障っているだろうなと俺は思った。

 

「………別にィ。オマエの言うことは正しいぜ。勝者が敗者から得るのはギフトゲームとしては間違いなく真っ当なんだろうよ。だからそこに不服はねぇ──けどな、黒ウサギ」

 

ふっと十六夜の軽薄な声と表情が完全に消えた。応じて黒ウサギの表情も硬くなる。

 

「オマエ、なにか決定的な事をずっと隠しているよな?」

 

「………なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」

 

「話してないことがあるよな。黒ウサギ」

 

「………なんでしょうか?千景さん」

 

「仕方ねぇな。俺達が聞いてるのはオマエ達の事──いや、核心的な聞き方するぜ。黒ウサギ達はどうして俺達を(・・・・・・・)呼び出す必要があったんだ(・・・・・・・・・・・・)?」

 

千景と十六夜からの核心的な追求に表情には出さなかったものの、黒ウサギの動揺は激しかった。

2人の質問は意図的に黒ウサギが隠していたものだからだ。

 

「それは………言ったとおりです。十六夜さん達にオモシロオカシク過ごしてもらおうと」

 

「ああ、そうだな。俺も初めは純粋な好意か、もしくは与り知らない誰かの遊び心で呼び出されたんだと思っていた。俺は大絶賛"暇"の大安売りしていたわけだし、そこの高島や他の2人も異論が上がらなかったってことは、箱庭に来るだけの理由があったんだろうよ」

 

「呼び出された方法については異論を言いたいけどな」

 

「それは俺も同意意見だな。それとして、だからオマエの事情なんて特に気にかからなかったんだが──なんだかな。俺には、黒ウサギが必死に見える」

 

その時、初めて黒ウサギは動揺を表情に出した。瞳は揺らぎ、虚を衝かれたように見つめ返す。

 

「これは俺の勘だが。黒ウサギのコミュニティは弱小のチームか、もしくは訳あって衰退しているチームか何かじゃねぇのか?だから俺達は組織を強化するために呼び出された。そう考えれば今の行動や、俺や高島がコミュニティに入るのを拒否した時に本気で怒ったことも合点がいく──どうよ?100点満点だろ?」

 

「更に付け加えるなら、弱小チームじゃなくて衰退したチームってのが当たりだろうな。弱小チームが異世界から人材を呼び出せるだけの力やコネがあるとは思えないからな。だったら必然的に考えられるのは衰退しても繋がりがある何処か力あるコミュニティの後押しがあって俺達を召喚したって所だろ?」

 

「っ………!」

 

黒ウサギは十六夜と千景の指摘に内心で痛烈に舌打ちした。この時点でそれを知られてしまうのは余りにも手痛い。苦労の末に呼び出した超戦力、手放すようなことは絶対に避けたかった。

 

「んで、この事実を隠していたってことはだ。俺達にはまだ他のコミュニティを選ぶ権利があると判断できるんだが、その辺どうよ?」

 

「……………」

 

「沈黙は肯定と同じだぞ」

 

「だな。この状況で黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ。それとも他のコミュニティに行ってもいいのか?」

 

「や、だ、駄目です!いえ、待ってください!」

 

「だから待ってるだろ。ホラ、包み隠さず話せ」

 

「分かってると思うが、次に何かを隠したりするならばお前のコミュニティに入るなんて希望は捨ててから言えよ」

 

十六夜と千景はそう言って、川辺の手ごろな岩に腰を下ろしたり、近くの木に背中を預けて聞く姿勢をとる。しかし黒ウサギにとって今のコミュニティの状態を話すのはあまりにもリスクが大きかった。

 

(せめて気付かれたのがコミュニティの加入承諾を取ってからならよかったのに………!)

 

「先に言っとくけど、そのコミュニティ加入後だったら俺がオマエ達のコミュニティを潰してたからな」

 

「ッ⁉️」

 

なし崩しにコミュニティの再建を手伝ってもらう策も千景が自身でトドメを刺すという言葉に潰される。………ジンにせよ黒ウサギにせよ、くじ運が悪かった。相手は世界屈指の問題児集団なのだ。

 

「ま、話さないなら話さないでいいぜ?俺はさっさと他のコミュニティに行くだけだ」

 

「当たり前だが俺もだからな」

 

「………話せば、協力していただけますか?」

 

「あぁ。面白ければな(・・・・・・)

 

「それはお前次第だな」

 

ケラケラと笑う十六夜だが、その目はやはり笑っていない。千景も嘘は許さないと視線から伝わってくる。

 

「………分かりました。それではこの黒ウサギもお腹を括って、精々オモシロオカシク、我々のコミュニティの惨状を語らせていただこうじゃないですか」

 

コホン、と咳払いをして内心ではほとんど自棄っぱちな黒ウサギは口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次は黒ウサギから語られるコミュニティの現状の話ですね。


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コミュニティの現状

そこから語られるのはある意味では予想通りの内容ではあった。

 

「まず私達のコミュニティには名乗るべき"名"がありません。よって呼ばれる時は名前の無いその他大勢、"ノーネーム"という蔑称で称されます」

 

「へぇ………その他大勢扱いかよ。それで?」

 

「次に私達にはコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担ってます」

 

「それだけでも絶望的だな~」

 

ここまで来ると本当に絶望的だと俺は口に出す。だが、黒ウサギのコミュニティのノーネームの絶望は止まらないようだ。

 

「"名"と"旗印"に続いてトドメに、中核を成す仲間達は1人も残ってません。もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加できるだけのギフトを持っているのは122人中、黒ウサギとジン坊っちゃんだけで、後は10歳以下の子供ばかりなのですヨ!」

 

「終わってんな!」

 

「もう崖っぷちだな!」

 

「ホントですねー♪」

 

千景と十六夜の冷静な言葉にウフフと笑う黒ウサギは、ガクリと膝をついて項垂れる。口に出してみると、本当に自分達のコミュニティが末期なのだなーと思わずにはいられなかった。

 

「で、それが高島の言ったように衰退した結果なら何があった?」

 

「はい。彼らの親も全て奪われたのです。箱庭を襲う最大の天災──"魔王"によって」

 

"魔王"──その単語を聞いた途端、適当に相槌を打っていた十六夜が初めて声を上げる。

千景も空を仰ぎ見るように顔を上に上げる。

 

「ま………マオウ!?」

 

(魔王と来ましたか)

 

瞳をさながらショーウィンドウに飾られる新しい玩具を見た子供のように輝かせる十六夜と、ある意味で自分にも関連するワードに面倒を感じている千景。

 

「魔王!なんだよそれ、魔王って超カッコイイじゃねぇか!箱庭には魔王なんて素敵ネーミングで呼ばれてる奴がいるのか!?」

 

なお、その興奮している十六夜の隣には"最低最悪"に"最高最善"と呼ばれる魔王の力を持っている千景がいるが、本人は何も言わずにいた。

 

「え、えぇまぁ。けど十六夜さんが思い描いている魔王とは差異があると………」

 

「そうなのか?けど魔王なんて名乗るんだから強大で凶悪で、全力で叩き潰しても誰からも咎められることの無いような素敵に不敵にゲスい奴なんだろ?」

 

中にはそうじゃない魔王さんもいるだろうな~と俺は思う。

 

「ま、まぁ………倒したら多方面から感謝される可能性はございます。倒せば条件次第で隷属させることも可能ですし」

 

「へぇ?」

 

「ふーん?」

 

「魔王は"主催者権限(ホストマスター)"という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断ることはできません」

 

「逃げることも不可能なのか?」

 

「はい、不可能でございます。魔王が指定された者は何があろうと強制的に参加させられるのデ」

 

千景の逃亡の可否という疑問に黒ウサギは不可能と答える。

 

「私達は"主催者権限"を持つ魔王のゲームに強制参加させられ、コミュニティは………コミュニティとして活動していく為に必要な全てを奪われてしまいました」

 

これは比喩ではない。黒ウサギ達のコミュニティはその地位も名誉も仲間も、全て奪われたのだ。残されたのは空き地だらけとなった廃墟と子供達だけである。

しかし十六夜と千景も同情する様子もなく、岩の上で足を組み直したり、木に頭を預けたりする。

 

「けど名前も旗印も無いというのは不便な話だな。何より縄張りを主張できないのは手痛いだろ。新しく作ったら駄目なのか?」

 

「確かにな。名前は最悪ノーネームでもいいが、他との区別をつけるための旗印が無いのが致命的だな。最悪だと住居さえもこの瞬間に無くなってるかもしれないって意味だしな」

 

「そ、それは」

 

黒ウサギは言い淀んで両手を胸に当てる。千景と十六夜の指摘は正しい。名も旗印も無いコミュニティは誇りを掲げることできず、名に信用を集めることもできない。この箱庭の世界において名と旗印が無いということは、周囲に組織として認められないということ。

千景の心配する内容だって的を射ているのだ。

だからこそ黒ウサギ達は、異世界から同士の召喚という最終手段に望みを掛けていたのだ。

 

「か、可能です。ですが改名はコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私達は何よりも………仲間達が帰ってくる場所を守りたいのですから………!」

 

仲間の帰る場所を守りたい。それは黒ウサギが初めて口にした、掛け値の無い本心だった。

 

「新しく作ったコミュニティの名と旗印を前のと一緒にしたら駄目なのか?それなら名も旗印もそのままでいいし、わざわざ魔王とギフトゲームをする必要もないしな」

 

「………それは解散して後から元に戻したというのならば可能なのですヨ。ただ、魔王に限らずですがコミュニティの名と旗印を他のコミュニティに奪われた場合は取り返さない限り2度とその名と旗印をコミュニティが持つことも名乗ることさえも不可能だと言っておきます」

 

千景が黒ウサギに聞いた方法も箱庭以外であれば可能だったかもしれないが、ここではそれは無理だと黒ウサギは告げる。

だからこそ"魔王"とのゲームによって居なくなった仲間達の帰る場所を守るために、彼女達は周囲から蔑まれることになろうとも、コミュニティを守るという誓いを立てたのだ。

 

「茨の道ではあります。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し………何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さんや千景さん達のような強大な力を持つプレイヤーを頼るほかありません!どうかその強大な力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか………!?」

 

「………ふぅん。魔王から誇りと仲間をねぇ」

 

(誇り……ねぇ)

 

誇りはそんなに大事なのかと俺自身は考えてしまう。誇りを支えにしてる人もいれば、誇りがあるから生きている人がいるのは否定はしないが俺はそこまで執着したものがなかった。

 

深く頭を下げて懇願する黒ウサギ。しかし必死の告白に十六夜は気の無い声で返し、千景も興味が薄いような表情をしている。

その態度は黒ウサギの話を聞いていたとは思えない。黒ウサギは肩を落として泣きそうな顔になっていた。

 

(ここで断られたら………私達のコミュニティはもう………!)

 

黒ウサギは唇を強く噛む。こんな後悔をするなら、初めから話せば良かった。そう思わずにはいられなかった。

肝心の2人の内の十六夜は組んだ足を気だるそうに組み直し、たっぷり3分間黙り込んだ後、

 

「いいな、それ」

 

「───………は?」

 

「HA?じゃねぇよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べよ黒ウサギ」

 

(へぇ~)

 

不機嫌そうに言う十六夜。それを意外そうに見る千景。呆然として立ち尽くす黒ウサギは2度3度と聞き直してきた。

 

「え………あ、あれれ?今の流れってそんな流れでございました?」

 

「そんな流れだったぜ。それとも俺がいらねぇのか?失礼なこと言うと本気で余所行くぞ」

 

(まぁ普通は黒ウサギの反応だよな)

 

気の無い返事で面白味を与えられたと思えなかったら、そんな流れなんて思わないよな。と俺は思った。

 

「だ、駄目です駄目です、絶対に駄目です!十六夜さんは私達に必要です!」

 

「素直でよろしい」

 

あれ?と千景は考えてしまった。今ここで十六夜と黒ウサギの感動場面的なところを見ていると自分の場違い感が凄いなと考えてしまった。

 

「俺は関しては、だけどな。そこの高島に関しては自分でどうにかしろよ」

 

「………ち、千景さん」

 

黒ウサギの懇願する視線が千景へと向けられる。

このタイミングでもし俺は協力しないからとか言ったら空気の読めない奴もしくは最低な奴ってレッテルを貼られるのでは!?と千景は戦慄する。

 

(別にコミュニティに入ること事態は構わないが………)

 

千景が最も懸念していることは衣食住である。

コミュニティに関しては余程の外道だったり、自分に合わないコミュニティでないのなら入ってもいいとは考えてはいるが、それでも最低限の衣食住が保証されているかが千景の懸念であった。

 

「なぁ、黒ウサギ」

 

「……はい」

 

「俺としてもコミュニティに入るのは別に構わないとは思っている」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

俺の言葉に黒ウサギは嬉しそうな顔をする。

 

「構わないが!」

 

「っ⁉️」

 

そう続けると黒ウサギはビクッ!!としてしまう。

 

「俺の中ではこれは外せないって事案がある」

 

「それは何でしょうか?」

 

ゴクリと黒ウサギは身体が強張るのを感じた。

 

「最低限の衣食住が保証されていることだ」

 

「衣食住でございますか?」

 

「あぁ。代わりの服がボロ服しかないとか、食事は週一で食べれたら良い方とか、住宅はボロボロで風呂にも毎日入れないとかが無いって保証はあるか?後1つ個人的に気になるところはあるがコミュニティに入る上で、これらが保証されてないなら入るのは考えさせてもらう」

 

「え、え~と……」

 

黒ウサギは言うかを悩んでいた。衣食住の"衣"と"食"については今の自分達のコミュニティでも問題はないが"住"が大丈夫とは言い難い。

何故ならば水の確保が大変な地理にあるために、買うか、もしくは数kmも離れた大河から汲んでこないといけない。

 

(後はギフトゲームで得るくらいし──)

 

そこまで考えは黒ウサギは先ほど十六夜がぶちのめした蛇神とのギフトゲームで得られるギフトがあることに気付く。

 

「衣食住に関しては大丈夫でございましす。残りの個人的に気になるところはと言うノハ?」

 

「それならいい。そっちはオマエに聞いても意味がないから後で判断するさ」

 

それ以上は言うつもりがないのか、千景は口を閉ざした。

 

「これで俺も高島も黒ウサギのコミュニティに入るってことでいいな」

 

「はいな!」

 

十六夜がそう締め括って蛇神へと指さす。

 

「ほれ、あのヘビを起こしてさっさとギフトを貰ってこい。その後は川の終端にある滝と"世界の果て"を見に行くぞ。高島もそれでいいか?」

 

「俺はそれでいい」

 

「は、はい!」

 

黒ウサギが蛇神に跳躍するのを見て、十六夜は、

 

「それで気になる事ってのは何なんだよ」

 

「杞憂ならそれでいいが、そうでなかったら入らないもしくは抜けるだけだ」

 

「ハッ!まぁオマエが決めたことなら俺からとやかく言うつもりはねぇさ」

 

そう言って十六夜はヤハハと笑いながら黒ウサギの方に目を向ける。

 

「………魔王討伐を望むリーダーはリーダーとしての考えを持っているのかな?」

 

千景は1人そう呟き黒ウサギの方を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




千景たちが黒ウサギに話を聞いている時に、飛鳥たちもガルドから現状を聞いてます。


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世界の果ての光景

ようやく、ここまで終わった。
今回はいつもより1000字くらい多くなってしまった。


蛇神から何かを受け取った黒ウサギはピョンと跳ねて千景と十六夜の前に出る。

 

「きゃーきゃーきゃー♪見てください!こんな大きな水樹の苗を貰いました!コレがあればもう他所のコミュニティから水を買う必要もなくなります!みんな大助かりです!」

 

「つまり前までは、まともに水さえない生活だったと」

 

「あ!?え、え~と……」

 

ウッキャー♪なんて奇声を上げながら水樹と呼ばれる苗を抱き締めてクルクルと跳び回るが、千景からの指摘にギクリと跳び回るのを停止した。

 

「まぁいいじゃねぇか高島。それと黒ウサギ、喜んで貰えて何よりなんだが、一つ聞いていいか?」

 

「どうぞどうぞ!今なら一つと言わず三つでも四つでもお答えしますよ~♪」

 

手に入れた水樹で水問題が解決しているからか十六夜から止められた千景はまぁいいかと考えた。

 

「それは三段腹なことだな」

 

「誰が三段腹ですか!」

 

「お前に決まってるだろ三段腹ウサギ?」

 

「何で千景さんはそんな何で分からないんだ?って顔をしながら黒ウサギのことを罵倒しないでください!」

 

怒ったり喜んだり忙しないウサギである。

 

「まぁ、どうでもいい疑問だけど。そんなに欲しかったならどうしてオマエがこのヘビに挑まなかったんだ?俺が見たところ、オマエの方がよっぽど強いように見えるが」

 

「もしくは、それさえも考えつかない残念ウサギだったのか?」

 

「酷いデスよ。千景さん!」

 

十六夜の言葉にお、と少し驚いたような反応を見せた後、千景の言葉にウキーと反応した黒ウサギは一転して冷めた目をする。

 

「とはいえ………その事でございますか。それはウサギ達が"箱庭の貴族"と呼ばれるコトに由来します。ウサギ達は"主催者権限"と同じく"審判権限(ジャッジマスター)"と呼ばれる特権を所持できるのです。"審判権限"を持つものがゲームの審判を務めた場合、両者は絶対にギフトゲームのルールを破ることができなくなり………いえ、正しくはその場で違反者の敗北が決定します」

 

「へぇ?それはいい話だな。つまりウサギと共謀すればギフトゲームで無敗になれる」

 

「お前はアホか十六夜」

 

俺は十六夜を見ながら呆れた表情をする。

 

「あ?」

 

「分かってないのか。ルール違反=敗北ならゲーム結果をねじ曲げるのもルール違反だ。だからその瞬間にこっちが負ける」

 

「その通りです。ウサギの目と耳は箱庭の中枢と繋がっております。つまりウサギ達の意思とは無関係に敗北が決定して、チップを取り立てる事が出きるのですよ。それでも無理に判定を揺るがすと………」

 

千景の推測を肯定して黒ウサギは更に付け加えて説明する。

 

「揺るがすと?」

 

「爆死します」

 

「爆死するのか」

 

「わざと爆死させる手段もあるのか」

 

「だから千景さんは何故黒ウサギをそこまで苛めるのですか!?」

 

黒ウサギからの猛抗議に千景は真顔になる。その顔を見てウッ!?と黒ウサギの千景に対する抗議が弱まる。

そのタイミングで千景は、

 

「イジメや冗談では言ってない。混じりっけ無しの純粋な気持ちで黒ウサギが爆死させる手段を考えている!」

 

「そっちの方がもっと酷いですよネ!?」

 

心外だと言わんばかりの返答をし、黒ウサギがなおのことダメだと言ってきた。

 

「そこまでだぜ2人とも」

 

「黒ウサギが遮るから」

 

「何で千景さんは黒ウサギの方が悪いと言うのですか!?」

 

「黒ウサギもストップだ。さっさと続きを話せ」

 

十六夜が千景と黒ウサギのじゃれ合いを止め、黒ウサギに話の続きを催促した。

 

「黒ウサギの持つ"審判権限"の所持はその代償に幾つかの"縛り"が御座います。

一つ、ギフトゲームの審判を務めた日より数えて15日間はゲームに参加できない。

二つ、"主催者"側から認可を取らなければ参加できない。

三つ、箱庭の外で行われているゲームには参加できない。

───とまぁ、他にもありますけど、蛇神様のゲームに挑めなかった大きな理由はこの三つですね。それに黒ウサギの審判稼業はコミュニティで唯一の稼ぎでしたから、必然的にコミュニティのゲームに参加する機会も少なかったのデスよ」

 

「なるほどね。実力はあってもゲームで使えないカードじゃ仕方ないか」

 

十六夜と千景は川辺を歩きだす。向かうのは世界の果てにあるトリトニスの大滝である。身の丈ほどある水樹の苗を抱えた黒ウサギも、2人に続いて小走りで追い付く。

 

「その、黒ウサギも一つ十六夜さんと千景さんに御聞きしたいことがあります」

 

「却下。嘘。どうぞ」

 

「答えない」

 

「あぅ!?……十六夜さんはどうして黒ウサギ達に協力してくれるのです?」

 

千景からは拒否られたが、気を取り直して十六夜へと黒ウサギは質問した。

 

「んー………。答えてもいいけど、ただ答えるのはつまらんな。質問を変えるけど、黒ウサギはどうして俺が"世界の果て"を見てみたいのだと思う?」

 

「やっぱり………面白そうだからでしょうか?十六夜さんは自称快楽主義ですし」

 

まぁそれだけだったら半分って所かな?と千景は思った。

 

「半分正解。なら、俺はどうして面白いと感じたんだろうな?」

 

半分と言われて更にむむ~と考え込む黒ウサギに、

 

「ハイ、タイムアウト」

 

無情にも時間切れと言い放つ十六夜。

 

「制限付き⁉️だ、駄目ですよ!ゲームの時間制限は最初に提示されない限り違反です!」

 

「マジか?じゃあ黒ウサギは爆死するのか?」

 

「なんで私が爆死するんですか⁉️」

 

「爆死しないのかよ」

 

「本当に千景さんは酷くありません!?」

 

黒ウサギをからかいながら千景と十六夜は川辺を突き進んでいく。

千景・十六夜・飛鳥・耀の4人が箱庭の世界に呼び出されてから4時間が経過していた。

陽は徐々に落ちて夕暮れになろうとしていた。

 

「結局、"世界の果て"が見たい正解とはなんです?」

 

「多分、"未知やロマンがそこにあるから"とかか?」

 

「お♪スゲーな高島。正解だぜ。……俺の居た世界では先人様方がロマンというロマンを堀りつくして、俺の趣向に合うものが殆ど残って無かったんだよ。だからここじゃない世界なら、俺並みに凄いもの(・・・・・・・・)があるかもしれないと思ったのさ。まぁ、それはコイツに会っていきなり叶ったけどな♪」

 

ニヤリと十六夜は俺を見ながら言う。

 

「面倒なのはパスだ。是非とも俺以外の奴でそれは満たしてくれ」

 

「そう言うなよ。……まぁだからつまり"世界の果て"を見に行くのは、生きていくのに必要な感動を補充しに着たってところかな」

 

「な、なるほど。十六夜さんはロマンのあるものを見て感動したいのですね」

 

「流石は快楽主義だな」

 

「あぁ。感動に素直に生きるのは、快楽主義の基本だぜ?」

 

黒ウサギは十六夜の面白いと感じるロマンに対しての理解を深めたが、ふと……あれ?と首を傾げた。

 

「そうですか………んん?あれ、じゃあ十六夜さんが黒ウサギに協力してくれるのは、」

 

「早いとこ行こうぜ」

 

「おう!」

 

千景と十六夜が川辺を歩く速度を変えたので慌てて追う。

 

「天動説のように、太陽が世界を廻っているんだな………」

 

「分かりますか?あの太陽はこの箱庭を廻り続ける正真正銘、神造の太陽です。噂では、箱庭の上層部で太陽の主権を賭けたゲームがあるそうですよ」

 

「確かに何でも賭けられるならそういった物も賭けられるのか」

 

「そりゃ壮大だ。是非とも1度参加してみたいね」

 

「太陽の主権とか要らん気がするけどな」

 

何に使うんだよと視線を向ける千景に、ケラケラと笑う十六夜を見て黒ウサギの眼には楽しそうに見えた。

それから半刻ほど歩いた3人はようやくトリトニスの滝に出る。

 

「お………!」

 

「これは………!」

 

千景と十六夜から驚く声が上がる。

 

トリトニスの滝は夕焼けの光を浴びて朱色に染まり、跳ね返る激しい水飛沫が数多の虹を造り出している。

楕円形のようにも見える滝の河口は遥か彼方にまで続いており、流水は"世界の果て"を通って無限の空に投げ出されていた。

 

絶壁から飛ぶ激しい水飛沫と風に煽られながら黒ウサギは千景と十六夜の2人に説明する。

 

「どうです?横幅の全長は約2800mもあるトリトニスの大滝でございます。こんな滝は十六夜さんや千景さんの故郷にもないのでは?」

 

「……素直に感心した」

 

「………あぁ。素直にすげぇな。ナイアガラのざっと2倍以上の横幅ってわけか。この"世界の果て"の下はどんな感じになってるんだ?やっぱり大亀が世界を支えているのか?」

 

トリトニスの大滝の絶景さに千景と十六夜は感心の声を呟く。更に十六夜は世界の果ての下が気になったのか黒ウサギに聞く。

 

「残念ながらNoですね。この世界を支えているのは"世界軸"と呼ばれる柱でございます。何本あるのか定かではありませんが、1本は箱庭を貫通しているあの巨大な主軸です。この箱庭の世界がこのように不完全な形で存在しているのは、何処かの誰かが"世界軸"の1本を引き抜いて持ち帰った、という伝説があるのですが………」

 

「マジか!あんなデッカイ柱をな!」

 

「はは、本当にそれはすげぇな。ならその大馬鹿野郎に感謝しねぇと」

 

箱庭の中心に貫通している柱の1本を誰かが抜いたからこそ世界とは面白いと俺は本気で思い心が弾んでいる。そしたら十六夜が何かを気になったのか黒ウサギに問う。

 

「トリトニスの大滝、だったな。ココを上流に遡ればアトランティスでもあるのか?」

 

その問いに黒ウサギは意地悪そうに答える。

 

「さて、どうでしょう。箱庭の世界は恒星と同じ表面積という広大さに加え、黒ウサギは箱庭の外の事はあまり存じ上げません。しかし………箱庭の上層にコミュニティの本拠を移せば、閲覧できる資料の中にそういうものもあるかもですよ?」

 

「ハッ。知りたければそこまで協力しろってことか?」

 

「いえいえ。ロマンを追求するのであれば、という黒ウサギの勧めでございますヨ?」

 

「いや絶対に知りたかったら協力しろって意味だろ」

 

「まぁ、それはどうも御親切様」

 

そう言って絶景を楽しむポイントを探す十六夜。千景は思い出したように黒ウサギに言う。

 

「あぁ、そうだ。こんなデタラメで面白そうな世界に呼び出してくれた礼としてコミュニティに入りはしたけど協力とかはしないからな」

 

「え!?」

 

黒ウサギは俺の言い分に驚きこちらを見てくる。

 

「生活する上での資金稼ぎを勝手にはするがコミュニティの再建にまで協力するとは決めてない。それを見極めてからでないと信用できないんでな」

 

「えぇ………」

 

落ち込む黒ウサギの肩を十六夜が叩く。

 

「安心しろよ黒ウサギ。こんなデタラメで面白い世界に呼び出してくれたんだ。その分の働きはしてやる。けど他の2人やコイツの説得には協力しないからな。騙すも誑かすも構わないが、高島のようにまともに協力するかが分からないからな。後腐れないように頼むぜ。同じチームでやっていくなら尚更な」

 

「………はい」

 

黒ウサギは心の中で深く反省する。

そう、彼らは同じコミュニティで戦っていく仲間なのだ。相手が問題児だからといって利用するような真似をしては得られる信用も得られなくなる。

実際に千景もコミュニティには入るが信用が得られていないから本格的な手伝いはまだしないと言っている。

コミュニティが大事だったあまり、その意識が黒ウサギの中で低くなってしまっていた。

新たな同士である彼らには失礼極まりない話である。

 

(初めからちゃんと説明すればよかったな………ジン坊っちゃん、大丈夫でしょうか)

 

黒ウサギは残りの2人を相手にしているコミュニティのリーダーのことを思った。

 

そして千景と十六夜はトリトニス大滝の絶景を見終えて箱庭に行こうとした。

 

「ここからだとまた同じくらい掛かるな」

 

「そうでございますね」

 

「………仕方ない。帰りもショートカットするぞ」

 

「………はい?」

 

「あ?……なるほど」

 

千景の言葉に黒ウサギと十六夜は首を傾げるが、十六夜は理解したのか納得した表情をする。

千景が手を掲げると目の前にオーロラが現れた。

 

「な、何ですか。これは⁉️」

 

「ヤハハ。高島、お前やっぱり最高だな。これまで使えるのかよ!」

 

俺は2人の言葉に返答せずにオーロラカーテンを通り、

 

「早く戻ろうぜ」

 

その後を十六夜は楽しげに通り、黒ウサギも不思議そうに通った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




飛鳥と耀もガルドとのギフトゲームの話し合いをしているでしょうね。
次回は問題児が4人揃って絶叫する黒ウサギをお楽しみに!


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黒ウサギの狂乱

黒ウサギの弄りツッコミはここから完全開花したとも言える。


俺のオーロラカーテンを使って箱庭の外門にショートカットをして十六夜と黒ウサギと共に飛鳥たちがいるであろう場所へと向かったのだが、そこで黒ウサギは猛烈に怒っていた。

合流した後に話を聞いてウサ耳を逆立て嵐のような説教と質問を言うくらいに、だ。

 

「な、なんであの短時間に"フォレス・ガロ"のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」

 

確かに短時間ではあったが、そのくらいの状況になる時間はあっただろう。

 

「しかもゲームの日取りは明日!?」

 

「今日じゃないんだな」

 

「流石に相手の方も準備をしたいんだろ」

 

千景の疑問に十六夜は答える。

 

「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」

 

黒ウサギの荒ぶりは止まらない。

 

「準備している時間もお金もありません!」

 

「時間はともかくとして金は最初から無理じゃね」

 

「そこは流石に黒ウサギでも何とかすんだろ」

 

コミュニティの状況から金は無理だろうと俺は判断するが何かしらのアテでもあるのだろうか?借金とかなら絶対に嫌だと思った。

 

「一体どういう心算(つもり)があってのことです!聞いているのですか3人とも!!」

 

それに対して3人は、

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

「黙らっしゃい!!」

 

「なぁ十六夜よ」

 

「何だ?」

 

千景は事の発端の3人を見ながら十六夜に言う。

 

「黒ウサギは俺達のことを問題児って言ったけどよ。リーダーも十分に問題児だよな」

 

「それは同意するぜ」

 

「そこも黙らっしゃい!!」

 

そんなことを溢す2人にも黒ウサギの激怒の声を上げる。

それはそれとしてニヤニヤと笑って見ていた十六夜とため息を吐いた千景が止めに入る。

 

「別にいいじゃねぇか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「上空4000mからの落下のストレスでやったかもしれないだろ?怒ってすみませんの一言もないのか?」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思ってるかもしれませんし、千景さんに限ってはまるで黒ウサギの方が悪いって言ってますよね!?それにこのゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?この"契約書類(ギアスロール)"を見てください」

 

黒ウサギの見せた"契約書類"は"主催者権限"を持たない者達が"主催者"となってゲームを開催するために必要なギフトである。

そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており"主催者"のコミュニティのリーダーが署名することで成立する。黒ウサギが指す賞品の内容はこうである。

 

「"参加者(プレイヤー)が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する"ねぇ」

 

千景は、ほいっとそれを十六夜へと渡す。

 

「まぁ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

「これは相手側からしたら、こっちに望むチップは"罪の黙認"になるだろうな。相当なバカでない限りな」

 

そう飛鳥達がチップにしたのは千景が言ったように"罪の黙認"であった。それは今回に限らず、これ以降もずっと口を閉ざし続けるという意味である。

 

「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は………その、」

 

黒ウサギが言い淀む。彼女も"フォレス・ガロ"の悪評は聞いていたが、そこまで酷い状態になっているとは思っていなかったのだろう。

もしくは気付けたのかもしれないがコミュニティが殆ど機能していなかったノーネームの維持や日々の暮らしの支えの忙しさに気付かなかったのかもしれない。

 

「そう。人質は既にこの世にはいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの」

 

「意外と箱庭のルールの穴があるのが判明するよな。まぁ逆に言えば箱庭の外でガルドを始末してもバレなければ問題ないって意味でもあるしな」

 

千景の言うとおり、箱庭の法はあくまで箱庭都市内でのみ有効なものだ。外は無法地帯になっており、様々な種族のコミュニティがそれぞれの法とルールの下で完全な無法地帯でないようにしているのだ。

それでもそこに逃げ込まれては、箱庭の法で裁くことは不可能となる。しかし"契約書類"による強制執行ならばどれだけ逃げようとも、強力な"契約(ギアス)"でガルドを追いつめられる。

 

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野放しにされることも許せないの。ここで逃せば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

 

「正論だな」

 

「同意」

 

「当たり前だな」

 

奇しくも問題児の4人は意見を同じくしている。黒ウサギはそれにウッ!?とする。

 

「ま、まぁ………逃せば厄介かもしれませんけど」

 

「僕もガルドを逃がしたくないと思っている。彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

「………」

 

自身のコミュニティのリーダーのジンも同調する姿勢を見た黒ウサギは諦めたように頷いた。

その時、千景はジンに対して他の皆とは違う視線で見ていたがそれに気付いた者はいない。

 

「はぁ~………。仕方がない人達です。まぁいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。"フォレス・ガロ"程度なら十六夜さんか千景さんのどちらか1人いれば楽勝でしょう」

 

それは黒ウサギの正当な評価のつもりだった。しかし十六夜と飛鳥は怪訝な顔をして、千景は呆れた顔をして、

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねぇよ」

 

「参加するわけないだろ。馬鹿ウサギ」

 

「当たり前よ。貴方達なんて参加させないわ」

 

フン、と鼻を鳴らす十六夜と飛鳥に我関せずの千景。黒ウサギは慌てて3人に食ってかかる。

 

「だ、駄目ですよ!御3人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねぇよ黒ウサギ」

 

十六夜が真剣な顔で黒ウサギの言葉を右手で制した。

 

「十六夜の言う通りだぞ、黒ウサギ。このギフトゲームに俺達の2人が参加するのは道理に合わねぇんだよ」

 

「そういうこった。いいか?この喧嘩は、コイツらが売った(・・・)。そしてヤツらが買った(・・・)。なのに俺や高島が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、2人とも分かっているじゃない」

 

「………。あぁもう、好きにしてください」

 

丸1日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力も体力も残っていない。

どうせ失う物は無いゲーム、もうどうにでもなればいいと呟いて肩を落とすのだった。

 

(まぁ、それ以外の理由もあるが……)

 

だが、黒ウサギの失う物は無いという判断は間違いでもある。千景はまだ本当の意味でノーネームのコミュニティに心から属する意思はなかった。

間違いなく今回のギフトゲームで敗北もしくは勝ってもボーダーラインを超えなければコミュニティの魔王を倒して"名"と"旗印"を取り戻す手伝いはしないつもりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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サウザンドアイズへと

ふぅー(; ̄ー ̄A
書けた………。

こうやって書いてて思うことがあるね。これを毎日更新できる人はマジで尊敬するって思うね。


取り敢えずは話し合いを終え、黒ウサギは移動しようとコホンと咳払いをして気を取り直して全員に切り出す。

 

「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為に素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけども………不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。また後日、きちんと歓迎を」

 

「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」

 

「金ないのに素敵な店を予約するとかマジか……」

 

黒ウサギの言葉を飛鳥は遮って事情を知ってるからいらないと答え、千景もコイツの頭は大丈夫なのか?と残念なものを見る目で見ていた。

飛鳥の言葉に驚いた黒ウサギはすかさずジンを見る。彼の申し訳なさそうな顔を見て、自分達の事情を知られたのだと悟る。ウサ耳まで赤くした黒ウサギは恥ずかしそうに頭を下げた。

 

「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが………黒ウサギ達も必死だったのです」

 

「もういいわ。私は組織の水準なんてどうでもよかったもの。春日部さんはどう?」

 

「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも……あ、けど」

 

飛鳥に問われた耀は思い出したように迷いながら呟き、ジンはテーブルから身を乗り出して聞く。

 

「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らに出来る事なら最低限の用意はさせてもらいます」

 

「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は………毎日3食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから」

 

耀の要望にジンの表情は固まった。この箱庭では水を簡単に得られる場所と得られない場所がある。ジン達のコミュニティのノーネームは水が簡単には手に入りにくい場所であった。

その苦労を察した耀は慌てて取り消そうとするが、先に黒ウサギが嬉々とした顔で水樹を持ち上げる。

 

「それなら大丈夫です!十六夜さんがこんな大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要もなくなりますし、水路を復活させることもできます♪」

 

一転して明るい表情に変わり、これには飛鳥も安心したような顔を浮かべた。

 

「私達の国では水が豊富だったから毎日のようにお風呂に入れてたけれど、場所が変われば文化も違うものね。今日は理不尽に湖へ投げ出されたから、お風呂には絶対に入りたかったところよ」

 

「それには同意だぜ。あんな手洗い招待は二度と御免だ」

 

「そこら辺の責任も取らないのはクズのすることだしな。……なぁ三段腹ウサギ」

 

「あう………そ、それは黒ウサギの責任外の事ですよ。あ、後!千景さんはそろそろ黒ウサギのことを三段腹ウサギと呼ばないでください!」

 

(えぇ~)

 

千景は黒ウサギの懇願にめっちゃくちゃ嫌そうな顔をする。

 

「そんなにですか!?」

 

召喚された四人からの責める視線に怖じ気づく黒ウサギ。ジンも隣で苦笑する。

 

「あはは………それじゃあ今日はコミュニティへ帰る?」

 

「あ、ジン坊っちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら"サウザンドアイズ"に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹の事もありますし」

 

俺達4人は首を傾げて聞き直した。

 

「"サウザンドアイズ"?コミュニティの名前か?」

 

「名前からして眼に関してのギフトを持ってるコミュニティの集団ってところか?」

 

十六夜と千景がそう言い黒ウサギは肯定して答える。

 

「YES。千景さんの言う通り"サウザンドアイズ"は特殊な"(ひとみ)"のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

(ん?そんな超巨大商業が俺達みたいなノーネームも店に入れてくれるのかな?)

 

千景はそんな疑問を感じたが、黒ウサギが自信満々に話してることから大丈夫か、もしくは箱庭の貴族の特権で入れるのかと考えて口には出さなかった。

 

「ギフトの鑑定というのは?」

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 

「別に興味はないな」

 

だって出処はともかくとして力は把握しているし。と千景は思ったがゆえの言葉である。

同意を求めた黒ウサギに千景を含めた4人は微妙で複雑な表情で返した。思うことはそれぞれあるのだろうが、拒否する声がなく、黒ウサギ・千景・十六夜・飛鳥・耀の5人と一匹は"サウザンドアイズ"へと向かう。

 

「桜の木………ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

飛鳥が桃色の花が咲き散っている木を見て呟く。それを聞き千景や十六夜と耀も自身の思ったことを言う。

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

 

「………?今は秋だったと思うけど」

 

「世界が違えば生態系や季節も変わるだろ。そんくらい分かるだろ?」

 

ん?っと噛み合わない3人は顔を見合わせて首を傾げるが千景が異世界だからそんなものだと答え、黒ウサギが笑って説明した。

 

「そうですね。千景さんの言うとおり、皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

 

「へぇ?パラレルワールドってやつか?」

 

十六夜は楽しそうに黒ウサギに聞く。

 

「近しいですね。正しくは立体交差並行世界論というものなのですけども………今からコレの説明を始めますと1日2日では説明しきれないので、またの機会ということに」

 

「そんなに時間が掛かる説明を聞きたくはないな」

 

当たり前だが、そんな小難しい説明を何日も聞きたくない千景は拒否の体制をとる。

そして曖昧に濁して黒ウサギは振り返る。どうやら目的の店に着いたらしい。商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。あれが"サウザンドアイズ"の旗なのだろう。

 

「閉めようとしてるわね」

 

「あ!ちょ、ちょっと待っ」

 

「待ったは無しです御客様。うちは時間外営業はやってません」

 

看板を下げて店を閉めようとしていた割烹着の女性店員に黒ウサギが滑り込みでストップをしようとするが、ストップをかける事は出来なかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨み付ける。

 

(流石は超大手の商業コミュニティだな。押し入り客の拒み方に一部の隙もないな)

 

千景は割烹着の女性店員の対応に心の中で賞賛していた。

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店5分前に客を締め出すなんて!」

 

飛鳥と黒ウサギから抗議が上がり、千景はマジかという視線で見た。

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」

 

出禁発言にキレる黒ウサギ。流石にこれは千景も先程まで賞賛した店員の評価を下げざる負えない。

大手だから客を選ぶにしても、大手だからこそ簡単に出禁発言をするところは信用を失いやすいのだ。

 

「なるほど、"箱庭の貴族"であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「………ぅ」

 

店員の冷めたような眼と侮蔑を込めた声や、言葉に詰まる黒ウサギの2人。

これを見ていた千景は理解した。この店員はこちらが名も旗印もないノーネームだと知っていて聞いていると。

だからこそ千景は口を開いた。

 

「大手のコミュニティって聞いたからどんなものかと思ったら店員の質がここまで低いなら所詮は名ばかりの大手らしいな」

 

「なんですって!!」

 

千景の言い分にキレるように女性店員は睨み付けてきた。

 

「おや、これは意外だな。まさか否定するのか?お前が原因なのによ」

 

「そこまで言うなら覚悟の程はおありでしょうね!」

 

「おいおい、先に喧嘩を売ってきたのはお前(・・)だぜ?人のせいにするなよ」

 

千景と店員の口論がヒートアップし、残りの問題児達は我関せずで黒ウサギがどうしましょうとオロオロしていると。

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィ!」

 

黒ウサギは店内から爆走してくる着物風の服を着た真っ白い髪の少女に抱き(もしくはフライングボディーアタック)つかれ、少女と共にクルクルクルクルクと空中4回転半ひねりして街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛んだ。

 

「きゃあーーーー………!」

 

ボチャン。そして遠くなる悲鳴。

水を指されて千景は先程までの険悪な雰囲気を消した。

十六夜達は眼を丸くし、店員は痛そうな頭を抱えていた。これには千景はザマァ♪と思った。

 

「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

黒ウサギのされたことに真剣な表情で自分にも頼む十六夜に、これまた同じく真剣な表情でキッパリと言い切る女性店員。2人は割りとマジだった。

 

「……はぁ」

 

思わずため息を吐く千景であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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最強の階層支配者、白夜叉

続きがなんとか書けました!(~▽~@)♪♪♪


水路にまで吹き飛ばされた黒ウサギが自分に抱きついている相手を見て驚愕の表情をした。

 

「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろうに!フフ、フホホフホホ!やっぱウサギの触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

スリスリスリスリ。

 

それを見て思った。ヤベーレベルの変態だなーと。

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

ついに我慢できなくなったのか、黒ウサギは白夜叉と呼ばれた少女を無理矢理引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。

くるくると縦回転した少女を、十六夜は足で蹴り飛ばす。

 

「てい」

 

「ゴバァ!」

 

十六夜が蹴り飛ばした少女が千景の方へと飛んできたので千景も上から殴り付けるように少女を地面に叩き込んだ。

 

「ガハッ!お、おんしら、飛んできた初対面の美少女を足で蹴り飛ばした挙げ句、地面に殴り付けるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

「少なくとも今の残念なお前よりは上だと確信している」

 

ヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜に、こんな変態よりかは立場は上だと言ってのける千景。

その一連の流れの中で呆気に取られていた飛鳥は、思い出したように白夜叉に話しかける。

黒ウサギに飛び掛かる姿を見て、白夜叉に声をかけれるとは飛鳥の心の強さが垣間見れる所である。

 

「貴女はこの店の人?」

 

その飛鳥の問いに千景は、それもかなりの重役だろうなと先ほどの呆れた姿を見た上での発言とは逆の事を思考していた。

 

「おお、そうだとも。この"サウザンドアイズ"の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

 

「こんな変態がオーナーで大丈夫なのか、この店は?」

 

冷静な声で白夜叉に釘を刺す女性店員に、千景は白夜叉の発言にオーナーでこれでいいのかと本気で心配する。

 

「黒ウサギの残念さといい勝負ね」

 

飛鳥も大概酷いことを言っていた。そして濡れた服やミニスカートを絞りながら水路から上がってきた黒ウサギは複雑そうに呟く。

 

「うう………まさか私まで濡れる事になるなんて」

 

「因果応報………かな」

 

「ニャー(お嬢の言う通りや)」

 

「こっちを濡らそうとしたんだ。当然の罰が当たったんだな」

 

耀とその猫に千景からの追撃に悲しげに服を絞る黒ウサギ。

反対に濡れても全く気にしない白夜叉は、店先で十六夜、飛鳥、耀、千景の4人を見回してニヤリと笑った。

 

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たという事は………遂に黒ウサギが私のペットに」

 

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

 

「あの変態には売れるのか」

 

「何を言ってるんですカ。千景さん!?」

 

バチーン!?と千景の頭をハリセンで叩き、白夜叉と千景の事でウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。何処まで本気かわからない白夜叉は笑って店に招く。

 

「まぁいい。話があるなら店内で聞こう」

 

そう言って白夜叉の後に付いていって店内に入る千景たち。その時に女性店員が白夜叉に規定を言うが、白夜叉は性悪店員の詫びだと言って下がらせた。

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

白夜叉が案内してくれた部屋は個室と言うにはやや広い和室であった。

全員が部屋に入り、それぞれが座ると白夜叉が話し始める。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構える"サウザンドアイズ"幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々の縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

乗っけの自己紹介から中々に濃い自己主張でしてきたと俺は思った。

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

俺達の横で投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。その隣の耀が小首を傾げて白夜叉に問う。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

黒ウサギが説明する。

 

「此処、箱庭の都市は上層から下層まで7つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられております。外壁から数えて七桁外門、六桁外門、といった感じでございます。その箱庭で四桁外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する完全な人外魔境と言えるでしょう」

 

それを聞いた千景は、名のある修羅神仏でも四桁までしか行ってないのかと考え、その上の三桁より上の外門はどれ程なのかと思った。

 

黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図は、外門によって幾重もの階層に分かれている。

 

その図を見た4人は口を揃えて、

 

「………超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかと言えばバームクーヘンだ」

 

「確かに、タマネギよりもバームクーヘンだな」

 

うん、と頷き合う4人。身も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。

対照的に、白夜叉は呵々(かか)哄笑(こうしょう)を上げて二度三度と頷いた。

 

「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は"世界の果て"と向かい合う場所となる」

 

「へぇ~」

 

「あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ──その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。その反応から、この水樹を持っていた蛇神は白夜叉の知り合いだったのだろうと千景は察した。

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

(力による打倒は最初から考慮に入れてないのか)

 

そう千景は思った。

 

「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」

 

自慢げに黒ウサギが言うと、白夜叉は声を上げて驚いた。

 

「なんと⁉️クリアではなく直接的に倒したとな⁉️ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそうは思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」

 

「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」

 

「なぁ。その神格ってのは何なんだ?」

 

千景が黒ウサギと白夜叉に聞くと他の三人も同じように気になったのか頷いていた。

 

「あぁ、すみません!………神格とは生来の神そのものではなく、種の最高ランクに体を変幻させるギフトのことデス。

蛇に神格を与えれば巨軀の蛇神に。

人に神格を与えれば現人神や神童に。

鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化します。

更には神格を持つことで他のギフトも強化されるので箱庭にあるコミュニティの多くは各々の目的のために神格を手に入れることを第一の目標とする所も少なくありません」

 

神格に対する説明を黒ウサギが千景達にし、4人がなるほどと頷いていた。

そして4人に説明した黒ウサギは白夜叉の方を向き、聞く。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

それが本当ならば、この女は一体幾つなのだろうか?と千景は疑問に思った。

 

小さな胸を張り、呵々と豪快に笑う白夜叉。

だがそれを聞いた十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす。

 

「へぇ?じゃあオマエはあのヘビよりも強いのか?」

 

(強いだろうな。神格がどれ程そいつを強化するかは不明だが、与えた相手より弱いなんて可能性はないだろうしな。それにふざけてはいるがコイツは強いって伝わってくるからな)

 

十六夜が白夜叉に聞いたことを千景が考察し白夜叉の脅威度を測っていると白夜叉は肯定して答える。

 

「ふふん、当然だ。私は東側の"階層支配者(フロアマスター)"だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者なのだからの」

 

"最強の主催者"──その言葉に、十六夜・飛鳥・耀の3人は一斉に瞳を輝かせた。

千景は興味無さげに見ていた。

 

「そう………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのぅ」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

十六夜たち3人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。白夜叉はそれに気付いたように高らかと笑い声をあげた。

 

「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御3人様!?」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

「………対戦相手と認識されてないけどな

 

ボソッと呟いた千景の呟きは白夜叉と耳のいい黒ウサギ以外には誰にも聞こえていなかった。

 

「ふふ、そうか。───しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

白夜叉からの確認事に十六夜は疑問に思い、白夜叉に聞いた。

そして、白夜叉は着物の裾から"サウザンドアイズ"の旗印───向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、

 

 

 

「おんしらが望むのは"挑戦"か───

 

もしくは"決闘(・・)"か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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鷲と獣の王

今回は初の5000字を越えました。

やはり中々区切りのいい部分はここだ!って所で区切りたい気持ちが出てきますからね~(  ̄ー ̄)


白夜叉のその一言によって、その場にいた全員の視界に爆発的な変化が起きた。

 

「へぇ~」

 

その光景に千景は声を漏らす。

 

千景たちが投げ出されたのは、白い雪原と凍る湖畔──そして、水平に太陽が廻る世界だった(・・・・・・・・・・・・・)

 

「……なっ…………!?」

 

余りの異常さに、十六夜達でさえ同時に息を呑んだ。

箱庭に招待される時とはまるで違うその感覚は、もはや言葉では表現出来る御技ではなかった。

遠く薄明の空にある星はたった一つ。緩やかに世界を水平に廻る、白い太陽のみであった。

 

「流石は星霊だな」

 

千景は白夜叉の存在がどんなものなのかを理解した。全容はまだ本棚(・・)で見ていない千景には把握できない程であった。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は"白き夜の魔王"───太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への"挑戦"か?それとも対等な"決闘"か?」

 

魔王・白夜叉。その見た目から出す少女の笑みとは思えぬ凄味に、千景は楽しげに笑い、十六夜達3人は息を呑む。

 

(さて、どうするかな……)

 

千景は現時点での白夜叉(・・・・・・・・)となら本気で戦わなくても絶対に自分が勝てると確信しているが、それでも自分が本気を出すか、ある程度の実力を出すかで悩む。

その千景とは逆に、十六夜は背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。

 

「水平に廻る太陽と………そうか、白夜(・・)夜叉(・・)。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現してるってことか」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。

彼女はまさに、箱庭の代表ともいえるほど───強大な"魔王"だった。

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤………!?」

 

これに関してはそれほど驚く要素ではない。実際に特殊な空間を造ったり、そこに一部の土地と全く同じものを造るなどは個人及び種族間で確立している所もあるのだ。

 

実際に千景にも同じ規模で一つや二つくらい特殊な空間を個人的に持っているくらいだ。小さいものも含めるなら更に増える。

 

「如何にも。して、おんしらの返答は?"挑戦"であるならば、手慰み程度に遊んでやる。───だがしかし"決闘"を望むならば話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「「「……………っ」」」

 

飛鳥と耀、そして自信家の十六夜でさえ即答できずに返事を躊躇った。

 

(さて、彼らはどうするのかね~?)

 

千景は挑戦と決闘のどちらかを選ぶのは、すでに決めていたので十六夜達の返答待ちとなっている。

 

白夜叉が如何なるギフトを持つかは定かではない。だが勝ち目がないことだけは一目瞭然だった。しかし自分達が売った喧嘩を、このような形で取り下げるにはプライドが邪魔した。

 

しばしの静寂の後──諦めたように笑う十六夜が、ゆっくりと挙手し、

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意出来るんだからな。アンタには資格がある。───いいぜ。今回は黙って試されてやるよ(・・・・・・・)、魔王様」

 

「アハハハ!」

 

苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜を、白夜叉は堪え切れず高らかと笑い飛ばした。プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが、『試されてやる』とは随分と可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑をあげる。

 

「……クク」

 

それを見た千景も十六夜らしい言い方だな。と小さく笑った。

そして、一頻り笑った白夜叉は笑いを噛み殺して他の者にも問う。

 

「く、くく………して、他の童達も同じか?」

 

「………えぇ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

苦虫を噛み潰したような表情で返事をする2人に満足そうに声を上げる白夜叉。

 

「して、おんしは?」

 

そして白夜叉は残った千景の方を見て聞く。それに対して千景は、

 

「決闘で」

 

その瞬間、周りから音が消える。

 

「……ほぅ?」

 

白夜叉が眼を細めて千景の方を見ると、千景もにこりと笑みで返す。

 

「な、な、何を言ってやがりますかぁーーー!この問題児様はぁ!?」

 

黒ウサギは千景の首を掴んでガクガクと揺さぶりながら聞く。勿論、首を掴まれてるから声が出せないので千景のとる行動は単純である。

 

「ふぎゃっ!?」

 

「鬱陶しい」

 

ゴチン!と黒ウサギの頭を殴ったのだ。

白夜叉は自分の口元を扇子で隠してながら千景に問うた。

 

「……本気か、小僧?」

 

「本気だよ。……今のアンタ程度に負けるようなら俺は箱庭(ここ)に来てないんだよ」

 

「ふ。面白いのう」

 

そう言って開いていた扇子を閉じる白夜叉。

 

「だから、止めてくださ──」

 

「黙れよ、黒ウサギ。これは俺が決めたことだ」

 

「………っ!?」

 

黒ウサギは、それでも止めようとしたが千景からの圧力に口を噤んでしまう。

 

「勝てんのか?」

 

「確実にな」

 

十六夜に聞かれた千景は自信満々に即答で答える。

 

「お互いにもう少し相手を選んでください!それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか‼️」

 

「何?じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

黒ウサギの言葉とケラケラと悪戯っぽく笑う白夜叉にからかわれたと理解した十六夜たちはガクリと肩を黒ウサギと一緒に落とした。

 

その時、彼方にある山脈から甲高い叫び声が聞こえた。獣とも、野鳥とも思えるその叫び声に逸早く反応したのは、春日部耀だった。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「ふむ………あやつか。おんしら3人を試すには打って付けかもしれんの」

 

湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする白夜叉。すると体長5mはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く4人の元に現れた。

鷲の翼と獅子の下半身を持つ獣を見て、耀は驚愕と歓喜の籠った声を上げ、千景も納得の声を上げる。

 

「グリフォン………嘘、本物!?」

 

「そりゃ、吸血鬼や獣人がいるならグリフォンもいるわな」

 

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。"力""知恵""勇気"の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」

 

白夜叉が手招きすると、グリフォンは白夜叉の元に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。

 

「さて、肝心の試練だがの。まずはおんしら3人とこのグリフォンで"力""知恵""勇気"の何れかを比べ合い、背に跨がって湖畔を舞う事が出来ればクリア、という事にしようか。そっちのおんしの決闘はその後だ」

 

「それでいいさ」

 

白夜叉に千景がそう言った後。彼女は双女神の紋が入ったカードを取り出す。すると虚空から"主催者権限(ホストマスター)"にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。

 

『ギフトゲーム名 "鷲獅子の手綱"

 

 ・プレイヤー一覧

  逆廻 十六夜

  久遠 飛鳥

  春日部 耀

 

 ・クリア条件

  グリフォンの背に跨がり、湖畔を舞う。

 

 ・クリア方法

  "力""知恵""勇気"の何れかでグリフォンに認められる。

 

 ・敗北条件

  降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

           "サウザンドアイズ"印』

 

「私がやる」

 

それを読み終わるや否やピシ!と指先まで綺麗に挙手したのは耀だった。

 

「相談無しで決めたな」

 

「私がやる」

 

千景の言葉も届きながらも耀は断言し、その瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめている。比較的に大人しい耀にしては珍しく熱い視線を向けていた。

 

『お、お嬢………大丈夫か?なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』

 

「大丈夫、問題ない」

 

「ふむ。自信があるようだが、コレは結構な難物だぞ?失敗すれば大怪我では済まんが」

 

「大丈夫、問題ない」

 

耀は一緒にいる三毛猫やホストマスターの白夜叉が何を言おうと彼女の瞳は真っ直ぐにグリフォンに向いていた。キラキラと光るその瞳は、探し続けていた宝物を見つけた子供のように輝いていた。

 

その隣で呆れたように苦笑いを漏らす十六夜と飛鳥は耀に任せることにした。

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

 

「気を付けてね、春日部さん」

 

「うん。頑張る」

 

耀は飛鳥からの激励を受け取って頷き、グリフォンに駆け寄る。だがグリフォンは大きく翼を広げてその場を離れた。

戦いの際、白夜叉達を巻き込まないようにする為だろう。

耀を威嚇するように翼を広げ、巨大な瞳をギラつかせるグリフォンを、追いかけるように耀は走り寄った。

 

「アイツのギフトが幻獣の言葉が理解できるのかが分かるな」

 

「そうね」

 

耀のギフトの一端を知る千景と飛鳥は静かに見守る。

そして、数mほど離れた距離で耀は足を止め、まじまじとグリフォンを観察する。

 

(………凄い。本当に上半身が鷲で、下半身が獅子なんだ)

 

鷲と獅子。猛禽類の王と肉食獣の王。数多の動物と心を通わせてきた耀であるが、それはあくまでも地球上に生息している相手に限っていた。

"世界の果て"で千景、十六夜、黒ウサギの3人が出会ったユニコーンや大蛇などの生態系を遥かに逸脱した、幻獣と呼び称されるものと相対するのは、コレが初めてとなる。

 

「え、えーと。初めまして、春日部耀です」

 

『!?』

 

ビクンッ!!とグリフォンの肢体が跳ねた。その瞳かは警戒心が薄れ、僅かに戸惑いの色が浮かんでいた。耀のギフトが幻獣に対しても使えるという証だった。

 

(だったら彼女のギフトは、この箱庭でかなり化けるな)

 

耀のギフトの力の一端を見た千景はそう思った。だが反対にこうも考えていた。

 

(誰が渡したかは知らないが、ある意味でもっとも残酷な運命を背負わされているな)

 

「ほぅ………あの娘、グリフォンと言葉を交わすか」

 

そう考えていた千景とは違い、白夜叉は感心したように扇を広げた。

 

耀は大きく息を吸って、一息に述べる。

 

「私を貴方の背に乗せ………誇りを賭けて勝負しませんか?」

 

『………何………!?』

 

グリフォンの声と瞳に闘志が宿る。この箱庭で実力がある者程『誇りを賭けろ』とは、最も効果的な挑発と言える。耀はグリフォンの返事を待たずに交渉を続ける。

 

「貴方が飛んできたあの山脈。あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。貴方は強靭な翼と四肢で空を駆け、湖畔までに私を振るい落とせば勝ち。私が背に乗っていられたら私の勝ち………どうかな?」

 

「なるほどな」

 

「確かに、これなら2つを一気に試せるな」

 

千景と十六夜は耀の言ったことに対しての条件を察していた。この条件ならば力と勇気の試練を試すことが出来る。

だがグリフォンは如何わしげに大きく鼻を鳴らして尊大に問い返す。

 

『娘よ。お前は私に"誇りを賭けろ"と持ちかけた。お前の述べる通り、娘1人振るい落とせないならば、私の名誉は失墜するだろう。───だがな娘。誇りの対価に、お前は何を賭す?』

 

「命を賭けます」

 

即答であった。グリフォンの言葉は分からずとも耀の受け答えである程度の会話の予測は出来ていた面々だが、余りに突飛な返答に黒ウサギと飛鳥から驚きの声が上がった。

 

「だ、駄目です!」

 

「か、春日部さん!?本気なの!?」

 

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になります。………それじゃ駄目かな?」

 

『………ふむ……』

 

耀の提案にますます慌てる飛鳥と黒ウサギ。それを白夜叉、十六夜が厳しい声で制す。

 

「双方、下がらんか。これはあの娘から切り出した試練だぞ」

 

「ああ。無粋な事はやめとけ」

 

「そんな問題ではございません!!同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけには───」

 

「ならコミュニティの再建を掲げるのも止めろ」

 

「なっ!?」

 

尚も食い下がろうとした黒ウサギに千景が止める。千景の言葉に黒ウサギは驚きの声を出す。

 

「大丈夫だよ」

 

更に千景が黒ウサギに口撃をしようとする寸前に耀は振り向きながら飛鳥と黒ウサギに頷く。その瞳には何の気負いもない。むしろ、勝算ありと思わせる表情だ。

それを見た飛鳥と黒ウサギはもう何も言えなくなる。

 

『乗るがいい、若き勇者よ。鷲獅子の疾走に耐えられるか、その身で試してみよ』

 

そして耀は手綱を握りグリフォンの背中に乗り込む。鞍は無いためやや不安定だが、耀は手綱をしっかりと握りしめ獅子の胴体に跨る。

 

「始める前に一言だけ。………私、貴方の背中に跨るのが夢の一つだったんだ」

 

『───そうか』

 

そして、グリフォンが大地を踏みぬくようにして薄明の空へと飛び出し、耀とグリフォンのギフトゲームが始まる。




次は、ついに千景と白夜叉との決闘です!
純粋な戦闘シーンは難しいですが必ず書き上げます!


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勇気の竜

サブタイが今回千景が変身するライダーです。

やはり戦闘シーンは難しいけど、それを書く楽しさが出てきますね。
いや、本当に大変だけど( ̄▽ ̄;)


耀とグリフォンのギフトゲームは耀の勝利で終わった。

耀の持つギフトが"生命の目録"と称するレベルの名品だと分かったり、それを白夜叉が欲しがるも耀は拒否した。

 

「さて、次はおんしだな」

 

「あぁ」

 

そして耀のギフトゲームが終わり、次は千景と白夜叉とのギフトゲームである。

 

「だ、大丈夫でしょうか?」

 

黒ウサギは白夜叉と決闘する千景の心配をしていた。

 

「ヤハハ。無用な心配だろうぜ黒ウサギ」

 

十六夜は笑いながら黒ウサギに告げる。それを聞いた黒ウサギはムッ!?と十六夜に詰め寄る。

 

「何を言っておりますか!?相手は元とはいえ魔王だったのデスよ!」

 

「それでも、この喧嘩はアイツが了承したんだ。外野の俺たちがあれこれ言うのはお門違いだ」

 

黒ウサギは十六夜の正論に黙る他なかった。千景と白夜叉の当人2人が納得して決めた以上、ギフトゲームを止める算段は黒ウサギにはない。

 

「では始めようぞ!」

 

白夜叉が両手をパン!と叩くと千景と黒ウサギ達にギフトゲームの羊皮紙が目の前に現れる。

 

『ギフトゲーム名 "白夜叉との決闘"

 

 ・プレイヤー一覧

  高島 千景

 

 ・クリア条件

  白夜叉に勝利する。

 

 ・クリア方法

  白夜叉と決闘をし、打倒する。

 

 ・敗北条件

  降参もしくは死亡か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

          "サウザンドアイズ"印』

 

千景は白夜叉とするギフトゲームの内容を確認した。同じく確認した黒ウサギの叫び声が聞こえてきた。

 

「な、な、な、何なんデス!これは!?」

 

「ヤハハ、まさしく決闘だな。相手が死亡するリスクもあるのか」

 

十六夜はこれだからここに来た甲斐があると言うように笑う。

 

「元魔王様の実力を拝見ね」

 

「そうだね」

 

飛鳥と耀もこれから始まるギフトゲームに傍観者として無関係な風に話していた。

そんな風に言っている3人に目掛けて黒ウサギはハリセンを振り上げる。

 

「何を言っているのですか御馬鹿様!?」

 

スパパパーン!!と3人の頭を一瞬の内にハリセンで叩いた黒ウサギはワー!ワー!と騒ぐ。

 

「黙ってろ黒ウサギ」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

千景から聞こえてきた一声に先程まで騒いでいた黒ウサギだけでなく十六夜や飛鳥と耀さえも黙ってしまう。その圧に白夜叉はニヤリとする。

 

「よい気迫だ。いつでも来るがいい!」

 

両手を広げて初撃はくれてやるとでも言うような体勢だった。千景は今の内にやることを済ませておく。

 

《聖剣ソードライバー!!》

 

「聖剣?」

 

「また別のドライバーか」

 

黒ウサギは聖剣という単語に、十六夜は千景がまた別のドライバーを出したことに気が向いた。

 

「聖剣とは中々の物を持っておるの御主は」

 

「断言してやる」

 

千景は一冊のワンダーライドブックを取り出す。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

「今のお前が相手なら俺に敗北はない」

 

ブレイブドラゴンのワンダーライドブックのページを千景は開く。

 

《かつて全てを滅ぼすほどの偉大な力を手にした神獣がいた》

 

開いたページを閉じて千景はドライバーへと差し込んだ。ソードライバーからの待機音が流れる。

 

「……変身」

 

《烈火抜刀!》

 

千景は火炎剣烈火を抜いた。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

千景は烈火を✕になるように振るう。

 

《烈火一冊!》

 

千景の周りに赤い竜(ブレイブドラゴン)が現れて回り千景の右腕に纏い姿を変える。

そして、千景が振るった✕がセイバーの装甲を纏ったの仮面へと戻り、その姿が現れる。

 

《勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!》

 

次に千景が姿を見せた時には、その姿は──仮面ライダーセイバーへと変身していた。

 

「いくぞ」

 

「ふふふ。これは楽しめそうだの♪」

 

セイバーへと変身した千景を見て白夜叉は楽しそうに笑う。

 

ガキン!!ガキン!!パキン!?

 

「消えた⁉️」

 

「……速い」

 

その直後に2人の姿が消えたように飛鳥は見え音だけが聞こえる状態だった。耀はギフトの恩恵か見えたり見えなかったりとなっている。

 

「ヤハハ!スゲーな箱庭はよ!!」

 

「あの白夜叉様と!?」

 

この場で十六夜と黒ウサギの2人だけが千景と白夜叉の動きを目で追えていた。

 

「やるのぉ!」

 

白夜叉は千景から振るわれる火炎剣烈火を数度防ぐために使った鉄扇は真っ二つに折られていた。

ドガン‼️と千景と白夜叉の互いの拳がぶつかり合う。

 

(さすがに速いし、強いな)

 

千景も烈火を白夜叉の頭部に並の相手ならば回避できない速度の斬撃を振るうも避けられる。

剣による攻撃以外にも空いた方の拳で殴りかかり蹴りも放つが決定打としては弱いと感じている。

 

パシンッ!ドスン!!

 

「クッ!?」

 

千景の聖剣を振るう腕を反らすも続けてきた膝蹴りを咄嗟に防御するも吹き飛ばされる白夜叉。

油断せずに距離を詰める千景も烈火を再びドライバーへと差し込み、トリガーを引き、

 

《必殺読破!》

 

「オラァァァ!!」

 

そのまま抜刀する。

 

《烈火抜刀!》

 

「いいぞ!」

 

白夜叉と吹き飛ばされても体勢を空中で整え、迎撃するためか拳が分かりやすく燃えていた。

 

《ドラゴン一冊斬り!ファイヤー!》

 

「ハァァ!!」

 

千景と白夜叉の技がぶつかり合い、巨大な爆発を引き起こした。辺り一面に大量の煙が発生し、十六夜達3人には観戦できない時間ができた。

 

「見えねーな」

 

「凄いわね。2人とも」

 

「うん」

 

「お二人とも現在もヤバイくらい戦ってますヨ!?」

 

「「「ん?」」」

 

黒ウサギの言葉に十六夜、飛鳥、耀の3人は黒ウサギの方に振り向いた。

 

「おい、黒ウサギ。お前あんなになってるのに見えるのか?」

 

「いえ、見えていませんが聞こえていますので」

 

「聞こえてる?」

 

「はい。黒ウサギの耳は現在審判をしてる状態なのでお二人の動きが聞こえているのデス!」

 

「只の残念ウサギじゃなかったのね」

 

「「全く、その通り」」

 

「失礼すぎますよ!この問題児様方⁉️」

 

黒ウサギはこの問題児達の息の合わさりように怒っていたが状況の変化を黒ウサギの耳は聞こえた。

 

 

       ドスン!!!

 

 

「ガハッ!?」

 

「ゲフッ!?」

 

黒ウサギが重々しい音を聞いた直後に煙から2つの塊が左右に転がるのを4人の視界に捉えた。

 

「ケホッケホッ!?……元とはいえ魔王を名乗るだけはあるな」

 

「ペッ……おんしこそ中々やるではないか」

 

千景は烈火を支えに荒い息を吐いていた。白夜叉も口から垂れる血を拭いながら溜まった血を吐き出していた。

互いに本当の意味での全力は出していないながらも激しい攻防によるダメージは両者に蓄積していた。

 

「今のままじゃ、かなりキツイな」

 

「私もここまで手傷を負ったのは久々だぞ!」

 

千景は火炎剣烈火をソードライバーに差し込んで戻し、新たにワンダーライドブックを2冊取り出しす。白夜叉も両手に白く燃える炎を顕現させる。

 

《ピーターファンタジスタ!》

 

《ニードルヘッジホッグ!》

 

「ほぅ。次は何を見せてくれるのだ」

 

「更に先の領域さ」

 

《とある大人にならない少年が繰り広げる夢と希望のストーリー》

 

《この弱肉強食の大自然で幾千もの針を纏い生き抜く獣がいる》

 

千景はドライバーに差してあるブレイブドラゴンのライドブックを閉じ、ニードルヘッジホッグとピーターファンタジスタを追加でドライバーに差し込んだ。

白夜叉も3冊に増えたことによる力の増加を感じ取っていた。

 

「ほぅ」

 

「……いくぞ」

 

《烈火抜刀!》

 

「今度は高島君の後ろに3冊出てきたわね」

 

「うん!」

 

飛鳥と耀が千景の更なる力の解放を肌で感じとった。

 

《3冊の本が重なりし時、聖なる剣に力がみなぎる!ワンダーライダー!》

 

右側だけにあった赤いドラゴンのアーマーに正面にヘッジホッグに左側に妖精の羽のようなものとフックが新たにセイバーの装甲に追加された。

 

《ドラゴン!ヘッジホッグ!ピーターファン!》

 

「あの野郎、やっぱ隠し球がありやがるな!やっぱ面白れぇ奴だな!」

 

十六夜はドライバーに差し込める場所が3つあったことに一目で気付いていた。

 

《3属性の力を宿した強靭な剣がここに降臨!》

 

千景は仮面ライダーセイバー、ドラゴンヘッジホッグピーターフォームへと変身した。

 

「さぁ、第2ラウンドだ!」

 

「望むところだ!小僧!」

 

白夜叉も千景の新たな変身した姿に興奮した様子を隠さずに千景の方へと距離を摘める。




一気に3冊使用までいきました!

次回で決着にしたいですね。……頑張ろう。


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