ブラック・ブレットー白き少女ー (虚無龍)
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序章
プロローグ


ノリとテンションで書きました!
よろしければみていって下さい!


「目が覚めたかい?」

 

 …………へ? なにここ? 何処ここ?

 

 私が目を覚ましたのは真っ白い空間だった。

 

「そうだねぇ、君たちの言葉で言うと…………死後の世界ってやつかな」

 

 …………色々と聞きたいことはあるけど、あなたは誰?

 

「僕かい? まあ、いわゆる神様ってやつかな?」

 

 …………やっぱり心読んでるのか

 

「まあ、神様だしね」

 

 それでこれから私をどうするの?

 

「え!? なんの疑いもなく信じるの!?」

 

 いやー、だってこんなとこにいきなり連れてきて、その上心を読むとか、普通の人じゃできないでしょ。

 

「まあ…………言われてみるとそうなんだけど、いままでここにきた人はいたい人扱いするか、誘拐犯扱いしてくる人ばっかりだったから新鮮でねぇ」

 

 そうなんですか?

 

「うん、『はっ? 俺が死んだ? なに痛いとこ言ってんのお前』とか『ふざけないで! 早くお家にかえしてよぉ!』とかいってるやつばっかりでねぇ」

 

 …………神様ってのも大変なんですね

 

「わかってくれるのかい! …………ってなんで僕は君に対して愚痴ってるのかね」

 

 まあ、いいじゃないですか、ストレスは溜め込むと体に毒ですよ

 

「…………そう言う君はなんで自分の死を受け入れるとこが出来ているのかな?」

 

 なんとなく最後の瞬間の記憶はぼんやりとなら覚えてますから

 

「…………原因はわかっていると?」

 

 はい、まあ。多数の出血を伴う傷があったんじゃないですか?

 

「そう、正確には出血多量だ。なにか事故にでも巻き込まれたのかな?」

 

 …………

 

「ああ、ごめん。流石に無神経な発言だったね」

 

 それで結局私はどうなるんですか?

 

「おお、そうだよ。本題に入らないとね」

 

 私はこの人(神様?)がちゃんと仕事ができてあえるのかが不安になってきた。

 

「普通は神力を使って記憶を消して全く新しい生物として同じ世界、もしくは異世界に行って新しい人生を歩んでもらうことになる」

 

 普通は(・・・)

 

「稀に全く神力がきかない特異な存在がいるんだ」

 

 それが私だと?

 

「ああ、そしてそんな子達には普通の『転生』とは違う『特別転生』してもらうことになっている」

 

 えーっと、ネットとかでよくある『俺TUEEEE!』

な感じのやつですか?

 

「まあ、平たく言えばそうだね」

 

 じゃあ、私の死んだ理由はテンプレな神様のミスによる死なんですか?

 

「いや、確かにその場合も『特別転生』の対象になるけれども、きみは違うよ」

 

 え? じゃあなんでなんですか?

 

「それは神界でも考察が続けられてるんだけど、まだ詳しい理由は不明なんだ」

 

 そうなんですか

 

「…………一つだけ信憑性の高い仮説があるんだけど聞くかい? もしかしたら嫌な思いをするかも知れないけど」

 

 聞かせてください

 

「即答か…………わかった教えてあげるよ」

 

 この時、神様が私の姿を見て納得したような感じで話始めた。

 

「君みたいな存在の多くはまだ年端もいかない子供だ。しかし、実年齢と噛み合わないほどに大人びた口調や、達観したような見解をする」

 

 …………

 

「そう、それこそまだ六歳(・・)の君のようにね」

 

 …………何となくわかってきました

 

「ほう? じゃあ続きを話すよ。その子達は生前にちゃんとした扱いを受けていなかった子ばかりなんだよ。主に君のような特殊な容姿のせいでね」

 

 今神様が言った通り、私の姿は普通じゃない。

 白髪赤目…………いわゆる『先天性白皮症(アルビノ)』だ。

 

「さて、暗い話はここまでにして転生に取り掛かろうか!」

 

 そういえば特典とかはもらえるんですか?

 

「うーん、君みたいなケースだと特典はないなあ。何か欲しいものでもあったのかな?」

 

 …………いえ、無い物ねだりしても仕方ないですか

 

「…………もう少し子供らしく大人に甘えてもいいんだよ?」

 

 わたしの中での常識では人に頼り過ぎる者は死ぬんです

 

「…………そうかい」

 

 そう言えば私の転生先はどこなんですか?

 

「えーっと、確か『ブラック・ブレット』だったっけな?」

 

 ? どういう世界ですか?

 

「詳しくは知らないけどラノベの世界だったね」

 

 まあ、ラノベなんて読む年じゃないし、知らなくて当然か

 『ブラック・ブレッド』っていうことは『黒の銃弾』…………なんかいかにも物騒な感じの世界だな?

 

「それじゃあ、次の人生は後悔しないように過ごすんだよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、強烈な眠気が襲ってきてわたしは闇へと落ちていった。

 

 

ーーーーーーーーーー神様視点ーーーーーーーーーー

 

 

「よお、無事送り出したか?」

 

「ああ、でもやっぱり特異ケースの対応は精神的にキツいな」

 

「まあ……な」

 

「あいつはちゃんとあの世界でやっていけるのかな」

 

「…………やっぱり本当の事は言わなかったのか?」

 

「…………俺だって本当は言ってやりたいさ。だけどそれは規則違反だし、何より真実が万人を幸せにするとは限らない」

 

「確かにな」

 

「なんと言うか、神って損な役回りだよな」

 

「まあ、無事を祈るしかないからな」

 

「神が何に祈るんだよ」

 

「…………」

 

「おいおいいきなり黙るなよ!」

 

「ともかく祈ってろよ。俺達にはそれしか出来ないんだから」




12/31日 大幅な修正


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 今回は結構きっつい感じです
 なお、誤字脱字などありましたら教えてくださると幸いです


 …………あれ?

 

 ここ…………何処? 

 

「きゃあぁぁぁ!!!」

 

「おい!『赤目』だぞ!」

 

「いやっ! 近づけないで! そんな穢らわしいもの!」

 

 …………?

 

 手術室?

 

 じゃあ、たった今私が産まれたのかな?

 

「どうしますか?」

 

「捨てて! そんなものいらない!」

 

「…………そうですか、わかりました」

 

 えっ? どういうこと?

 

 いらないってなにが?

 

 私が?

 

「このっ! 化け物め!」

 

 

 

 

 

 こうして私は生後10分で捨てられた

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ガタッ ガタガタッ!

 

 

 

 私は今、車に乗せられて何処かへ連れていかれています。

 

 ここまで車で私のことを運んで来た人達の会話を聞いてるといくつかのことがわかった。

 

・この世界は『ガストレア』と呼ばれる生物に実質的に支配されていること

 

・人類は『モノリス』という物でガストレアから逃れている

 

・『ガストレア』は例外なく赤い眼をしていること

 

・『呪われた子供達』と呼ばれるガストレアウィルスの『保菌者(キャリア)』がいること

 

・『呪われた子供達』は産まれた時と、力を発揮した時に眼が赤くなること

 

・産まれた時、私の眼は赤かったこと

 

 こんな感じである。

 

「それにしてもあの人も酷いこと言いやがるな」

 

「ああ、川に流すでも、外周区に捨てるでもなく、モノリスの外に捨ててこいだなんてな」

 

 そう、私の親は私を安全なモノリスの加護がない『未踏査領域』に捨てろと言ったのだ。

 

「まあ、ガキんちょ。俺らもこんなことしなけりゃ飯も食っていけないような状態なんでな、恨まないでくれよ」

 

 …………逆になんで恨まれないと思ったんでしょう?

 

 

 

 キキーッ

 

 

 

 ブレーキの音、どうやら着いたようですね。

 

「よし! さっさと帰って報酬貰おうぜ!」

 

「だな! こんなことはさっさと忘れるに限るってもんだ!」

 

 ハッ?

 

 殺してやりたい…………!

 

 人を殺すような仕事を引き受けておいて、自分から忘れたいだと?

 

 …………本当に私は世界に嫌われているようですね。

 

 

 

 ドスン!

 

 

 

「お、おい! ガストレアが来たぞ!」

 

「なに!? さっさと逃げ……ぎゃぁぁぁ!!!」

 

「お、おい! くそっ! 誰か助けッ……ぐぁぁぁ!!!」

 

 …………ははは!

 

 初めて願いが叶いましたね!

 

 神様っているんだね!

 

 …………いや、そういや会ったことも合ったな。

 

「グルルルル」

 

 …………私も食べられて死ぬんですかね。

 

 あはは…………死にたくない、死にたくないよ

 

 例え2回目だろうと、死って怖いものですね

 

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

 

 いくら泣き叫んでも私体では満足に言葉を喋ることすらできない。

 

 ああ、もう目の前にガストレアがいる。

 

 …………今度こそは、学校とか行って見たかったな。

 

 友達つくって、一緒に遊んで、普通に家族と過ごしたりしてみたかったな。

 

 

 

 グサッ!

 

 

 

 あれ?

 

 ガストレアがワたしのかラだにナニかいれテ

 

 ヤメロ! 痛い! 体が張り裂けるようだ!

 

 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、いたい、いた……い、いた…………

 

「いたいよ…………」

 

 そして『私』は死んだ




次回もなるべく速く仕上げます


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更なる転生

アイデアがでてこねぇぇぇ
へるぷみー


 痛い

 

 どこがとかじゃなくて全部いたい

 

 体が内側から張り裂けてくるような感じだ

 

 まだ…………終わらないのかな

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

 

 やっと痛みがおさまってきた。

 

「なんだったんだよ、さっきの」

 

 ガストレアに噛み付かれたと思ったら、そこから何かが入り込んで来て…………

 

 あれっ? なんか違和感が?

 

「なんで喋れてるの?」

 

 そう、私は喋ることなど出来るはずがない赤ん坊だったはずだ。

 

 一体何故喋れるようになっているんだろう。

 

 そう思い、近くに乗り捨てられたままだった車に近づいて行き、バックミラーを使って自分を見てみると、

 

「えぇ!?」

 

 そこに映っていたのは『白髪(・・)』で『赤眼(・・)』で、そして『9本の尻尾(・・・・・)』がある五、六歳ぐらいの少女だった。

 

「ナ、ナニコレ」

 

 色々と動いてみるが、鏡に映った少女は私と寸分狂わず同じ動きを繰り返した。

 

「いや、いやいやいやいやいやいや! なんで尻尾がはえてるのさ!」

 

 因みに裸だったため、後ろを向いて確認してみると確かに直接、尻尾ははえていた。

 

「あっ! そう言えばさっきの運び屋のやつらがガストレアは獲物にガストレアウィルスを注入するって言ってたような…………」

 

 そこから加速度的に最悪な、そしておそらく真実であろう予想が浮かんでくる。

 

 

 

 

 

「私が…………ガストレアになった?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「いよっと!」

 

 私が足に力を込めて跳躍してみると軽く10メートルを越えた。

 

 無論そこから着地しても体はびくともしなかった。

 

「ははは…………本当にバケモノになっちゃったな」

 

 ガストレアになったという予想を考えた彼女は自分の体を調べていた。

 

 その結果わかったのは、99%自分がガストレアになってしまったということだった。

 

 近くにあった森で試しに木を殴りつけてみると、呆気なく腕が貫通し、遠くを見ようとすると、数キロ先の景色もハッキリと見え、何よりも時より鏡でーーバックミラーを取り外して持ってきたーー見た自分の眼は常に血のような赤色をしていた。

 

 しかし彼女は、特に何の絶望も悲壮感もまとわせていなかった。

 

 なぜなら、

 

「『最早、人間に未練などない』」

 

 彼女は、前世と今世(・・・・・)、二度にもわたって自分を捨てたられたからだった。

 

 しかし、人間を憎むでもなく、ただただ期待しない(・・・・・)。つまり、敵対には敵対を、友好には友好をというようないい加減な感じなのだ。

 

「でも、取り敢えずは…………やっぱり、服が欲しいかな」

 

 そう思い、彼女は常に危険と隣り合わせの未踏査領域を進んでいくのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「うーんやっぱり、酷い状況だなぁ」

 

 数時間程走ったーーとは言っても今の彼女が全力で走ると時速60キロ程なのだがーー所にあった廃墟に来たのはいいが、とても街としての面影を残していなかった。

 

 それもそのはず、この場所は未踏査領域の奥も奥、

とても人が来れるような場所ではなく、ガストレアに荒らされ放題だからだ。

 

「せめて着るものがあればいいなあ、後これもどうにかしたほうがいいし」

 

 そう言いながら後ろを向いて自分の尻尾を見た。

 

 尻尾は狐の尻尾の様な感じで、これじゃあ何の役にも立たないと思い、変化させられないかと思った所で尻尾が変化し始めた。

 

「わわっ!」

 

 毛がまとまっていき、最終的には細くより長くなり、ナルガク⭕ガの尻尾のようなっていた。もちろん9本ともである。

 

 数十分たつ頃には、変化も収納も自由自在になっていた。因みに戻すときは電化製品のコードの様にーーあそこまで速くはないがーー体の方に取り込まれていくようになくなっていった。跡などは残っていなかった。

 

 呼び方は狐型の方を『九尾(きゅうび)』、ナ⭕ガクルガ型の方を『迅尾(じんび)』と呼ぶことにした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 街の跡地に着いてから数時間、早くも問題が発生していた。

 

「お腹へった…………」

 

 そう、空腹である。

 

 いくら、ガストレアになった所で、結局は生物なのでお腹は減るのである。

 

「何処かに缶詰めぐらいないかなぁ」

 

 今は、先ほど入った民家で見つけた、穴や破れた部分のある、元純白のワンピースの様なものを着ていた。

 

 しかし、見つけたものは後にも先にもこれだけで、てんで食糧などはみつからなかった。

 

「やっぱり、森で果物とか、山菜みたいな食べれるものを探したほうがいいのかな?」

 

 そう言いつつ、民家に入って物色していると子供部屋を見つけたのだった。

 

「…………普通の(・・・)子供部屋ってこんな感じなんだ」

 

 そこにはぬいぐるみや人形があったので、女の子の部屋だということがわかった。

 

「…………私の部屋とは大違いだ」

 

 自分の前世の部屋を思い出すと、そこにはパソコンが一つあるだけで、それいがいの物はほとんどなかった。

 

 少しの間、感傷に浸っていると、ふと童話の本を視界の隅に見つけた。

 

 色々と種類があって、その本のタイトルを眺めていると、

 

「そういや、私ってまだ名前がなかったな」

 

 そして一冊の本をおもむろにに手に取ると、

 

「よし! 私の名前は今日から『アリス』だ!」

 

 本のタイトルは『不思議の国のアリス』。前世の記憶かあるというイレギュラーな自分にぴったりだと思ったからである。

 

 そして嬉しそうな顔をして家を出ていくアリス。

 

 そして浮かれていたアリスは自分をじっと見つめてくる視線に気付くことはなかったのだった。



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すいません、遅れてしまって!
初の戦闘描写ということで時間がかかってしまいました!



「お腹へった…………」

 

 自分に名前をつけてから数時間後、アリスは廃墟を出て森を歩いていた。

 

 理由はいくらかあるが、やはり廃墟には既に食糧などが存在せず、アリスが空腹に耐えられなかったというのが一番大きかった。

 

 しかし、

 

「なにもない…………」

 

 森にしても、食べられるものなど全くなく、あったとしてもいかにも『毒キノコ!』って感じのものしかなかった。

 

 そして、そんな空腹による注意力散漫な状態のアリスがそれ(・・)に気付けたのは奇跡だった。

 

「!!」

 

 ザッ! グアァァァ!!!

 

 アリスが後ろに跳んだその直後、後ろの草むらからガストレアが飛び出して来た。

 

 気配を消して接近してきたガストレアに気づけたのは、同じくガストレアになったことによる本能によるものだったのかもしれない。

 

「なんでガストレアが!? まさか、ガストレアって共食いもするの!?」

 

 正確には、空腹な状態でいて、かつ近くに食糧足り得るものがなかったときに、ガストレアは共食いを行うことがあるのだ。

 

「ガァッ!」

 

 襲って来たガストレアは鋭い爪を振り回してアリスに攻撃してくる。

 

 それをアリスはガストレアになったことによって強化された動体視力、反射神経、身体能力を駆使し、紙一重で避けていく。

 

「くそ! このままじゃ埒が明かない!」

 

 そう言ってアリスは『迅尾』を9本出し、攻撃し始める。

 

 しかし、

 

「くそっ! 全然当たらない!」

 

 まだ完全には自らの尻尾を操り切れていないアリスの攻撃は空を切っていた。

 

「っ!! 三十六計逃げるにしかず!」

 

 アリスは『迅尾』を近くの木の枝に引っかけ、ターザンのように移動する、これを繰り返し行っていたが…………

 

「くっ! やっぱりあっちの方が速いか」

 

 この時初めて敵の全容を見たアリスだったが、

 

「虎のガストレア!?」

 

 黄色と黒の模様、鋭い爪、牙、目付き、爪などが少々異常発達していたが、それは紛れもなく虎だった。

 

 このままでは追い付かれる。

 

 そう頭では理解しつつも、有効的な打開策が全く思い付かず、ただただ逃げ続けるしかなかった。それが愚策だとわかっていても。

 

 そして、

 

 

「グガァ!」

 

 

 グサッ!

 

 

「がはっ!」

 

 とうとう追い付かれて爪の攻撃を食らい、吹き飛ばされてしまった。

 

「かはっ、はぁはぁ」

 

 傷こそ塞がっていくものの精神的に受けたダメージは大きく、体勢を立て直せずにいた。

 

(このままここで死ぬのかな? 嫌だ! まだまともな人と会ったこともないんだ! 絶対に…………死にたくない!)

 

「ガアァァァ!!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 モデル・タイガーのガストレアは困惑していた。

 

 先ほどまで格好の獲物でしかなかった少女が咆哮をあげ、そして、自分がこの少女に恐怖していたからだ。

 

「あぁああぁぁ、ゼッたイにシンでたまルカっ!」

 

 そう叫んだ瞬間から少女に変化が起き始めた。

 

 それは体内浸食率が50%を越えた時に起こる現象『形状崩壊』に似ていたが、どこか違うものだった。

 

 そして、その光景がモデル・タイガーのガストレアが見た最後の光景だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー一

 

 モグモグ ごくんっ

 

 アリスは実質、生まれて初めて食べた『食糧(・・)』〇に夢中になって食らいついていた。

 

「いやー、それにしても気づいた時にはもう食べて〇焦ったけど、食べてみれば意外と美味しいんだねこいつら」

 

 アリスはガストレア〇だったもの(・・・・・・・・・・)を食べながらそう言うとふと何か思い付いたかの様に立ち上がった。

 

 そして、自分の手に意識を集中させると、まるで先ほど文字通り(・・・・)喰らったモデル・タイガーのガストレアのような鋭く、立派な爪が生えてきた。

 

「へぇー、私って食べたガストレアの力を手にいれられるのかな?」

 

 正確には、ガストレアは食べた生物のDNAを自らの体内に取り込み、自らの力とするのだが、アリスは特にその能力が強かったのだ。

 

「人間とは会ってみたいけど、いまの私じゃあ、モノリスのせいで中の都市まで行く前に衰弱死するのは目に見えてるしなー」

 

 そう、ガストレアとなったアリスはバラニウムに対して圧倒的な脆弱性があるのだ。

 

「ふふふ、取り敢えずは力を蓄えて奥としようかな? きっといつかチャンスはあるさ」

 

 アリスはそう言うともう骨しか残っていないモデル・タイガーのガストレアを放り投げ、歩き出す。

 

「さっきの力も自分の意志で自由自在に操れる様にしないといけないし、尻尾にしてもまだまだ、強くなりそうだしねぇー」

 

 本当に楽しそうな笑顔を浮かべながらアリスは喋り続けた。

 

「でもまずは…………川か何かに入りたいね」

 

 そう言ってモデル・タイガーのガストレアの血にまみれた状態でアリスは歩き続けた。




今後の展開について、ちょっとしたアンケートをとろうと思います。活動報告でやっています。


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出会い

 今回はいつもよりちょい長めです。

 なお、原作前は後2話程で終わるつもりです。


 あれから数日後。

 

「お腹へった…………」

 

 アリスは既視感(デジャヴ)が凄まじい事を呟きながら森の中を歩いていた。

 

(ガストレアが全然見つからない……)

 

 そう、数日前にモデル・タイガーのガストレアを食べてからというもの、全くガストレアを見つける事が出来なかったのである。

 

(もう限界…………何か眠くなって来たなぁ…………)

 

 死亡フラグにまみれた事を考えながらアリスは近くの木に寄りかかり、微睡み始めた。

 

「おいっ! こっちで誰か倒れてるぞ!」

 

 眠りに落ちる直前に、そんな声が聞こえた気がしたが、そんなことは頭に入っていかなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「う、うーん」

 

 目が覚めたアリスが始めに言った言葉は、

 

「知らない天井…………ん? 天井がない?」

 

「おっ! 目が覚めたか!」

 

 目を覚ましたアリスに話かけて来たのは30代前半位であろう筋肉質な男だった。

 

 

 ぐー

 

(お腹へった…………こいつ食べちゃおっかな…………)

 

 空腹過ぎて何やら物騒な考え方になってきたアリスだったが、この男の次の言葉でそんな考えは全て吹き飛んでいった。

 

「ははは! なんだ、腹へってるのか! 食べたいなら今、飯を持ってきて「食べる!」…………早ぇよ」

 

 こうしてアリスは食糧を手にいれたのだった。

 

「お前…………泣くほど食いたかったのかよ…………」

 

 男の言う通り、アリスは号泣していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「そう言えば、お前の名前は何て言うんだ?」

 

 たらふくご飯を食べて満足していたアリスに男が聞いてきた。

 

「アリスだよ。あなたの名前は?」

 

「俺は栗原(くりはら)浩一(こういち)だ」

 

 男ーー浩一はアリスにそう言った。

 

「じゃあ、一つ聞くけどここは何処?」

 

 ここは未踏査領域のかなり奥の場所なので、普通の神経をしている人間はこんな所まで来ようとは思わないはずである。

 

「ああ、そのことか、ここは難民キャンプ…………っていうか亡命キャンプかな?

 

「亡命キャンプ?」

 

「ああ、大阪エリアから東京エリアまでな」

 

 周りを見てみると、女子供から、老人もいて、浩一の様な屈強そうな男達は皆拳銃やアサルトライフルの様な物を持っている。

 

「ここに居るやつは皆、大阪エリアの独裁者、齊武宗玄のせいで仕事や家とかを失ったやつらだ」

 

「…………ちょっと聞いていい?」

 

「なんだ?」

 

 少し真面目な顔になって聞いてくるアリスになにを聞かれるのかと思った浩一は、アリスの次の言葉にずっこけた。

 

「エリアとか、齊武宗玄とかって…………なに?」

 

 

ーーーーーーー只今説明中(´∇`)ーーーーーーー

 

 

「わかったか…………」

 

「うん! ありがとう!」

 

 結局浩一は、この世界の常識をほとんど教えることとなったのだった。

 

「じゃあ、今度はこっちからの質問だ…………アリス、お前は何者だ?」

 

「? どう言うこと?」

 

「お前は俺達、亡命キャンプの斥候部隊に森の中で発見された。普通はあんなことに一人で居て生きていられるはずがない。お前の眼が赤いことからなんとなく予想はつくが一応聞く…………お前は何者だ?」

 

 この問いにアリスはどう答えるべきかを瞬時に考える。

 

「親に捨てられて、その上運び屋みたいなやつらに絶対に戻って来れない様にって未踏査領域の奥まで連れてこられたんだよ」

 

 一応嘘は言っていない。

 

「っ! そうか…………それはお前が『呪われた子供達』だからか?」

 

「たぶんね」

 

 色々と穴のある回答では合ったが、浩一は捨てられたということだけを注目してたせいで違和感を感じずに受け入れた。

 

「まあ、俺達はお前が『呪われた子供達』だったとしても関係ない、ここに居たかったら居てもいいぜ」

 

 その言葉にアリスは素直に驚いた、何故ならば、『呪われた子供達』は世界の何処に行っても、忌み嫌われる存在のはずだからだ。

 

「意味が分からないっていう顔してるな。周りを見てみろ、子供もいるだろ? あの子供達の半分は『呪われた子供達』だ」

 

「えっ?」

 

「俺達の中のほとんどのやつが仕事を失ったやつだって言っただろ?」

 

 アリスは質問の意図が掴めないが一応頷いておいた。

 

「その時に暫くの間、外周区で暮らしてたんだが、最初の内は忌み嫌ってたが、接してる内に俺達と変わらない普通の人間だってわかったんだ」

 

「…………人間全員がそう思えればいいのにね」

 

「ああ、『呪われた子供達』は東京エリアが大阪エリアよりずっといい場所だって思ったらしくついてきたんだ。まあ、申し訳ないがガストレアが来たときは一緒に戦って貰ってるけどな」

 

 アリスはこここそが『呪われた子供達』とっての理想的な場所だと思った。

 

「…………ここにしばらく居てもいい?」

 

「ああ、歓迎するぜ!」

 

 こうして、アリスはしばらくの間、亡命キャンプにいることになった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それからさらに数週間がたった。

 

 アリスは亡命キャンプでたまに襲ってくるガストレアと皆と一緒に戦ったりーーその時にこっそりガストレアを食べたーー、遊んだりして順調に東京エリアまですすんでいた。

 

 この日までは。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 その日は背にした方角から気配がすると言うことで、斥候部隊が確認に行っていたのだが、戻って来た斥候部隊は半分(・・)だった。

 

「! おい、どうしたんだ!」

 

 今日は非番だった浩一が血相を変えて戻って来れた斥候部隊に聞くとその内の1人が全員を地獄へ叩き落とす様なことを言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつが…………アルデバラン(・・・・・・)が…………来た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 亡命キャンプ内での出来事は希望者が多ければやります。


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1人の勇気と1人の願い

 今回はシリアス回です。
 今までで一番重い会だと思います。


アルデバラン

 ステージⅣのガストレアで、アルマジロとカメを掛け合わせたような姿をしている。

 ステージⅤのガストレア、ゾディアック・金牛宮(タウロス)の右腕的存在として猛威を振るう。

 ゾディアック・金牛宮(タウロス)はガストレアでは珍しく、集団を率いて行動し、現在序列1位のイニシエーターに撃破されるまで破壊の限りを尽くした。

 アルデバランは、バラニウム侵食液を使うことができ、バラニウムによる再生阻害が効かないと予測されているーー

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あ、アルデバランだって!?」

 

金牛宮(タウロス)の野郎と一緒に殺られたんじゃなかったのかよ!」

 

「ここまで来たっていうのに…………」

 

「嫌だ嫌だ嫌だ! 死にたくない死にたくない死にたくない!」

 

 亡命キャンプの中にいる人達はほぼ全ての人達が混乱していた。目の焦点が合っていないままその場に座り込んでいるものもいた。

 

 しかしーー

 

 

「落ち着け! 斥候部隊の言う通りならアルデバランはガストレアの群れを率いている。だが、そのせいで移動速度自体は決して速いとは言えない! 今すぐ全ての荷物を捨て、最低限の水と保存食を持って東京エリアの方へ逃げろ!」

 

 

 そう皆に向かって一喝したのは浩一だった。

 

 絶望に満ちていた皆の顔にほんの少しだけ希望がさした。

 

「だ、だが、いくら遅いとは言ってもガストレアと我々人間の足では必ず追い付かれるぞ!」

 

 そう、その通りだ。

 

 このまま闇雲に東京エリア目指して走っても、必ずたどり着く前に全員ガストレアに殺られてしまう。

 

 最悪の場合、アリスはガストレアの中に紛れ込めば何とかなるかも知れないが、他の人間は全て死んだも同然の状況だった。

 

「ああ、確かにその通りだ」

 

「じゃ、じゃあどうやって…………」

 

 疑問を問いかけた彼は…………いや、この場に居る全ての者が浩一の次の言葉に驚愕した。

 

「だから…………俺がここに残って殿(しんがり)をやり、敵の群れを食い止める」

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

 そしてアリス自身もかなり驚いていた。

 

 それも当然だろう。何故ならそんなことをすれば、確実(・・)に浩一は死ぬからだ。

 

「な、なにいってんだあんたは!」

 

「そうじゃ! こんな所で死ぬつもりか!」

 

「浩一お兄ちゃんいっちゃやだよー!」

 

 周りの人間は口々に反対し始めた。

 

(浩一って本当に人望あるんだねぇ)

 

 亡命キャンプを襲って来たガストレアを倒していたのは、実は半分近くが浩一なのだ。

 

 浩一は昔、民警をやっていたという噂が立つくらいだ。

 

「大丈夫だ、俺はこんな所で死ぬつもりなんてないよ。ある程度時間を稼いだら直ぐに追いかける」

 

 嘘だ。

 

 アリスは斥候部隊の生き残りからこっそり話を聞いたのだが、ガストレアの群れの数は優に1000を越えるらしい。

 

 そんな所に行って、戻って来られる訳がない。

 

「さあ! 早く準備しろ! 死にてぇのか!」

 

 亡命キャンプの人々は浩一のそんな言葉に納得こそしていないものの、それ以上の案が出ないので従うしかなかったのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「浩一」

 

 皆の準備がもう少しで終わりそうになった頃、私は浩一の所に来ていた。

 

「なんだ、アリスか。どうかしたのか?」

 

 気丈に振る舞う浩一から目を背けたくなるが必死にこらえて会話を続ける。

 

「手」

 

「? 何言ってるんだ?」

 

「震えてるよ」

 

「っ!!!」

 

 浩一は戦闘の準備をしている間もずっと手が震えていたのだった。

 

「…………やっぱり、私も残「やめろ!」っ!!」

 

 いきなり大声で怒鳴った浩一に少し驚いた。

 

「お前の気持ちは嬉しい、だがお前は相当に強い。俺がいなくなった後に皆を守ってやって欲しい」

 

「でも…………でもっ!」

 

 別に安っぽい正義感とか、ちんけな恋愛感情に任せてこんな事を言ったのではない。

 

 ただ、私はこの男の事を気に入っていたのだった。

 

 『呪われた子供達』にも忌避などをせず、1人の人として見る事ができるこの男の事を。

 

「アリス、頼んだぞ」

 

 そう言うと浩一は誰にも何も言わずに1人で行ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー浩一視点ーーーーーーーーー

 

 

「はあ、はあ」

 

 緊張で呼吸が乱れる、手が震える、膝が笑っている。

 

 本当は逃げ出したかった。

 

 何もかも見捨てて行きたかった。

 

 羞恥心もプライドも捨てて逃げ出したかった。

 

 だが、俺が逃げたら確実に皆死ぬ。

 

「浩一」

 

 アリスが話掛けてきた。

 

「なんだ、アリスか。どうかしたのか?」

 

 俺はあくまで冷静に返答する。

 

「手」

 

「? 何を言ってるんだ?」

 

「震えてるよ」

 

「っ!!!」

 

 …………やっぱり、アリスの目は誤魔化せないか。

 

 こいつはひとの感情に対して凄く敏感に反応するからな。

 

「…………やっぱり私も残「やめろ!」っ!!」

 

 駄目だ、それは絶対に駄目だ。

 

 …………こいつはいつも優し過ぎる。

 

 そしてその優しさはいつかこいつ自身を滅ぼす。

 

「お前の気持ちは嬉しい、だがお前は相当に強い。俺がいなくなった後に皆を守ってやって欲しい」

 

 …………本音を言えばついて来て欲しかった。

 

 一緒にいて欲しかった。

 

 …………俺はいつからか、アリスをガストレア大戦で失った娘と重ねて見ていた。

 

 だからこそ、アリスには絶対に生きていて欲しかった。

 

「アリス、頼んだぞ」

 

 俺がそう言って歩き出すと、泣きそうな顔をしながら、俺を見送ってくれた。

 

 皆に話掛けるとまた、止められちまうからな。

 

 …………また止められたら、俺は行けなくなっちまう。

 

 こういう時、アニメやら、ドラマやら、ゲームでは、「この世に未練などない」とか言うんだろうけど、俺は無理だ。

 

 未練たらたらだし、今でも行きたくないと思ってる。

 

 もう一度アリスを見るとまだ、泣きそうな顔をしていた。

 

「…………最後くらい、笑った顔で見送って欲しかったな」

 

 誰にも聞こえないような…………それこそアリスにも聞こえない様な小さな声で俺は呟いた。

 

 今度は振り向かずにいけた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「よし、出発するぞ!」

 

 程無くして、準備が終わった亡命キャンプの人々は出発し始めた。

 

 だが、そこにアリスの姿はなかったのだった。




 出来れば今日中にもう一話投稿します。


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絶望からの始まり

 気合いいれて書いたら、いつもの倍近くなりました。

 一応、原作前はこれで終わるつもりです。

 なにか、不備などがあれば教えていただけると幸いです。


「はあっ! はあっ! はあっ!」

 

 アリスは亡命キャンプの人々が目指す、東京エリアの反対側に向かって走っていた。

 

 その方角は、先ほどから、ガストレアの咆哮、悲鳴鳴き声などが響いていた。

 

 そんな、どう考えても近づくべきではない場所に向かって走りながらも、アリスの心は揺れ動いていた。

 

(なんで私はあいつを助けにいってるんだ?)

 

 アリスは、もはや何故自分がその方向に行っているのか、自分ても分かっていなかった。

 

(確かに気に入ったやつではあったけど、命を賭けてまで助けに行く必要はない! なのに何故?)

 

 アリスはこの数週間で、少なくない数のガストレアを食べて来た。

 

 無論、それに比例して戦闘能力も上昇していた。

 

 だが、ステージⅣのガストレアや、ガストレア1000匹の群れになど勝てる訳がない。

 

 このままでは(・・・・・・)

 

(…………あんまりなれてないけど、やるしかないか)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「くそっ! 殺っても殺っても切りがねぇ!」

 

 森を抜けたひらけた場所、そこで浩一は戦っていた。

 

 既に周りは仕留めたガストレアの死体だらけだ。

 

(もう駄目だな。だが、出来る限り時間を稼がねぇとな)

 

「グガァァァ!!!」

 

「なっ!」

 

 爪でこちらを攻撃してきたガストレアに武器である、バスターソードを弾かれてしまった。

 

 手放しこそしなかったものの、バスターソードの大きさと重さのせいでそれは致命的な隙となった。

 

 

 ガッ!!!

 

 

「ぐふっ!」

 

 先程、攻撃してきたガストレアとは別の個体が、浩一を体当りで吹き飛ばした。

 

 

 ドスン、ドスン、ドスン

 

 

 これ以上ないほどに明確に迫ってくる『死』。

 

 浩一は覚悟を決めて目をつぶった。

 

(ははは、なんでこんな時にあいつ(アリス)が目に浮かぶのかねぇ)

 

 そして…………

 

 ガブッ! ブシャァァ! ギャァァァ!

 

 響いた悲鳴はガストレアのものだった。

 

 いきなり聞こえてきた、自分を捕食しようとしてきた圧倒的存在の悲鳴に浩一は思わず目を開けた。

 

 そこにいたのは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 純白の体、鱗に包まれた全身、頑丈な翼、そして9本(・・)の尻尾を持った体長5mほどのドラゴンと、そのガストレアに食べられたガストレアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ーー間に合った。

 

 私が到着したとき、浩一は殺られる寸前だった。

 

 浩一は目を見開いて、目の前の状況を飲み込もうとしていた。

 

 瞬間。ガストレアからの敵意が私に集中した。

 

 私のこの龍の姿、変異するのに数分~数十分かかるという欠点はあるものの圧倒的な戦闘能力を手に入れることができる。

 

 その上、食べたガストレアの分だけ力が手に入る。

 

 翼は鳥のガストレアを食べた時に。

 

 鱗はトカゲの様なガストレアを食べた時に。

 

 鋭い爪は最初に食べたモデル・タイガーのものだ。

 

 私は龍になったことで強化された、視覚、聴覚、そして第六感の様なものを全力で駆使し、アルデバランの居場所を探る。

 

 そして…………

 

(見つけた)

 

「ガァァァ!!!」

 

 無論、この姿の時は喋ることは出来ない。

 

 浩一の方を見ると彼は立ち上がっていた、しかし得物を構えてはいなかった。

 

「お前が敵じゃないのは何となく分かった。お前はアルデバランを、殺る気なんだろ? なら俺のことは放っておいてさっさといけ!」

 

(…………やっぱり浩一は凄いね)

 

 アリスはアルデバランの方へ飛び始めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そこからのアリスは正に無双だった。

 

 ステージⅠやⅡでは瞬殺され話にならず、ステージⅢは多少の時間はかかるものの撃破することができている。

 

 さすがに、ステージⅣを相手にしている時間はないのでスルーしていた。

 

「「「グガァァァ!!!」」」

 

 襲って来たステージⅠのガストレアを飛翔による加速をつけたまま、縦に回り、そのまま尻尾で叩き潰す。

 

 『龍尾(りゅうび)』という新しい尻尾だった。

 

 『龍尾』は鱗に包まれており、速さこそ他の尻尾後れをとるが、攻撃力と防御力は桁違いだった。

 

 ステージⅠ、Ⅱのガストレアを木っ端か何かのように吹き飛ばし、ステージⅢにもスピードさえ乗っていれば、一撃て致命傷を与えることができる。

 

 そして、とうとうアルデバランのを視界に完全に捉えた。

 

 一気に加速し、アルデバランの頭を食いちぎった。

 

 直ぐには能力は手に入らないが、これでアルデバランの能力も、多少劣化してはいるが獲得できたはずだ。

 

 急いで浩一の元に戻って周りのガストレアを全て吹き飛ばした。

 

 

 そして、次の瞬間なにが起こったのか私は直ぐに理解出来なかった。

 

 浩一がアリスにバスターソードを振りかぶって向かってきて、

 

 バスターソードの刀身の腹の部分でアリスを吹き飛ばし、

 

 アルデバランの背中の触腕に腹部を貫かれた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ーーえ?

 

 なんで? なんで? なんで? なんで?

 

 アルデバランはさっき、確かに頭部を食いちぎったはず!

 

 なんで、生きてるの?

 

 なんで、浩一はガストレアである私を助けたの?

 

 なんでっ? なんでっ!?

 

 まさか…………アルデバランは不死?

 

 …………いや、関係ない。

 

 絶対に殺してやる!

 

「…………ろ」

 

 えっ?

 

 今、浩一の声が、

 

「やめろ、逃げろ」

 

 私はその言葉で少し冷静になった。

 

 私は周りのガストレアをもう一度吹き飛ばし、浩一をくわえて飛んでいった。

 

 

ーーーーーーーーー浩一視点ーーーーーーーーー

 

 

「…………ち、…………いち」

 

 なんだ? 俺を呼ぶ声がする。

 

「……ういち、起きろよ浩一!」

 

「…………アリス…………か?」

 

 俺が目を開けると、そこには泣きじゃくったアリスの顔があった。

 

「なんつう顔してんだ…………!!!」

 

 しかし、俺は最後まで喋ることが出来なかった。

 

 自分の腹部を見ると大量の血と、風穴が開いていた。

 

「…………ごめんなさい」

 

「? 何…………謝ってんだ?」

 

「私が…………油断しなければ…………浩一は…………」

 

「ってことはあの龍のガストレアはやっぱりお前だったのか…………」

 

「…………そうだよ」

 

「…………まあ、そんなことはどうでもいい」

 

「えっ?」

 

 アリスは心の底から意味が分からないと言った顔をしていた。

 

「私はガストレアなんだよ? なんでそんなに変わらずに接してくるのさ」

 

 ははは、そんなの決まってる。

 

「お前の正体がなんであれ、お前は俺の立派な仲間だよ」

 

「っ!!!」

 

 アリスは心底驚いていた。

 

「いいか? 化け物かどうかは見た目じゃねぇ、中身で決まるんだ。お前は化け物なんかじゃねぇ、普通の人間だよ」

 

「浩一ぃ…………」

 

 ああ、視界が霞んできた、こりゃ長くは持たないな。

 

「アリス…………最後の頼みだ」

 

「…………何……」

 

 そんなに泣きはらした顔さやがって、これじゃあ往生できねぇっつの。

 

「最後のくらい…………笑った顔見せてくれよ」

 

「浩一…………」

 

 アリスは少し戸惑った顔をしてから、泣きながらだが、笑顔を見せてくれた。

 

「ああ、時間稼ぎももう充分だろ…………、俺はやり遂げたんだな…………」

 

「うん…………浩一、よくできました」

 

 ははは、最後まで…………お前らしいな…………

 

「アリス…………俺の武器はあるか?」

 

「えっ? あるけど」

 

「じゃあ、それはお前にくれてやるよ」

 

「いいの?」

 

「ああ、そいつもその方がいいはずだ…………」

 

 最後にそう言って俺の意識は闇へと落ちていった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 私はしばらく動かなくなった浩一を眺めていたけど、やがて立ち上がって、浩一を土に埋めた。

 

 私はみんな逃げ切れた…………そう確信して疑わなかった。

 

 だが、私は知らなかった。

 

 アルデバランに高度な知能があることを。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 森を抜けて、東京エリアの方へ走ったアリス。

 

 アリスは龍の状態にならなくても、時速80キロ程度なら余裕で出せる様になっていた。

 

 そして、そこで見たのは…………折り重なる様にあった、大量の死体。

 

 まさか、アルデバランが回り込ませた?

 

 私が皆について行ってたら防げたかもしれなかったのに…………!

 

 私の自己満足のせいで…………

 

「あ……あ、あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ…………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー??ーーーーーーーーーー

 

 

「聖天子様」

 

「なんですか? 菊之丞さん」

 

「東京エリア付近の森の向こうにアルデバランの姿が確認されました」

 

「なんですって!」

 

「落ち着いて下さい、アルデバランは既に去りました」

 

「…………何故、アルデバランは去ったのですか?」

 

「大阪エリアからの亡命キャンプと接触し、大規模な被害を受けたからです」

 

「…………その亡命キャンプの方々は?」

 

「…………我々が発見した時には既に全滅しておりました」

 

「…………そうですか。菊之丞さん」

 

「はい、何でしょう」

 

「この事は一切マスコミなどにばれない様に隠蔽してください。無用なパニックを引き起こしかねません」

 

「御意に」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 その後、アリスは強さを追い求めた。

 

 ありとあらゆるものを守れる、そして倒すことの出来る強さを。

 

 これはほんの少しの人しか知らない、無かったことにされた小さな戦争だった。




 活動報告の方も見ていただけると嬉しいです。


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一章
ファーストコンタクト


 なんか自分的にはこんな設定でいいのかと思ってるんですけど、どうですかね?


「あぁん? お前が俺たちの応援に駆けつけた『民警』だぁ? 馬鹿も休み休み言え。まだガキじゃねぇか!」

 

 春先の夕暮れ時。

 

 『グランド・タナカ』というひび割れや、汚れなどが目立つマンションの前でヤクザの様な顔をした刑事らしき人と、覇気のない不幸顔の少年が少し険悪な雰囲気で話していた。

 

「んなこと言われたってしょうがねぇだろ。俺は正真正銘、お前達の応援に駆けつけた民警だよ。ほら、拳銃もライセンスも持ってる」

 

 そういうと不幸顔は、強面にライセンスを見せた。

 

「フハハハハ! お前、写真映り悪いな! すげえ不幸面じゃねぇか!」

 

 そう言って強面は不幸顔のライセンスについている写真の不幸面を笑った。

 

((…………なんか馬鹿にされてる気がする))

 

 勘はいいようだ。

 

「それより、仕事の話しようぜ」

 

「ああ、分かった。このマンションの一⭕二号室の奴が上の階から血の雨漏りがするって悲鳴上げながら電話してきた。情報を統合すると、間違いなくガストレアだ。まあいい、さっさと行こう」

 

 警察と民警というのは基本的に仲が悪い。

 

 それなのに何故、警察が民警を待っていたかというと、警察はガストレア関連の事件は民警と一緒じゃないと捜査できないことになっているからである。

 

「ん? お前、相棒の『イニシエーター』はどうした?」

 

「あ、あいつの手なんか借りなくても、俺一人で余裕だからだよ!」

 

 …………嘘つけ。

 

「ふん、まあいい。おい、なにか変化は?」

 

 すると、警官隊の一人が青い顔をして振り返った。

 

「す、すみません。たったいまポイントマンか二人、懸垂降下にて窓から突入。その後、連絡が途絶えました」

 

 瞬間、多田島(強面)の顔が憤怒に染まる。

 

 …………訂正しよう。ヤクザが女神に見えるほどこえぇ。

 

「馬鹿野郎! 民警の到着を待てって言っただろうが!」

 

 そこから一悶着あり、蓮太郎(不幸顔)が部屋へ突入したのだった。

 

 そして、『世界を滅ぼす者』と名乗る殺人鬼と出会うのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ーー蓮・太・郎・の・薄・情・者・めぇぇぇッ」

 

 夕暮れの住宅街で大声で怨みごとをはく少女がいた。

 

 藍原延珠である。

 

「おのれぇ、『ふぃあんせ』の(わらわ)を、よもや捨てていくとは…………」

 

 何やら物騒なことを言いながら歩いていたのだが、それは長くは続かなかった。

 

「延珠っ!」

 

 当事者たる蓮太郎が来たからである。

 

 延珠は蓮太郎の姿を見ると走り寄り、そのまま蓮太郎のピーにドロップキックをした。

 

「ぎゃあああ!!!」

 

 

 

 …………御臨終。

 

 そんな言葉が頭に思い浮かぶほどに壮絶だった。

 

 あれは同じ男にしか理解出来ない地獄だ。

 

 だって、イニシエーターの目、赤かったぜ?

 

                 by多田島

 

 

「延珠ぅぅぅ!!! 俺を殺す気かぁぁぁ!!!」

 

 と、蓮太郎が血走った目で叫ぶ。

 

 その目尻には涙がうっすらと浮かんでいた。

 

 そんな時。

 

 ドゴンッ!

 

 何か硬い物が砕けるような音で三人は現実に戻って来た。

 

「これはガストレアか?」

 

 多田島がそう言うと、蓮太郎と延珠はその方角に走り始めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 現場に付いた三人(多田島は追い付いた)が見たのは、狐のお面をかぶった白髪の少女らしき人物が、バラニウム製と思われる真っ黒な太刀と、綺麗に両断されたモデル・スパイダーの首を持っている光景だった。

 

 あまりにも非常識な光景に動くことの出来なかった三人だったが、蓮太郎が、

 

「動くな! 何者だ!」

 

 と言い、XD拳銃を構えたことにより、多田島も同じ様にする。

 

 しかし延珠は、

 

「待つのだ、二人とも!」

 

 そう言って二人の前に両手を広げて立ち塞がった。

 

「退け、延珠!」

 

「そうだ! こんな怪しい野郎逃がす訳にいかねぇだろうが!」

 

 しかし延珠は一歩も譲らない。

 

 それどころか二人に背を向け、少女な話かける。

 

「…………妾と敵対する気はあるか?」

 

 すると、少女は喋りはしなかったが、小さく首を振った。

 

「…………なら行ってくれ」

 

 少女はそう言われると、そのまま走り去ってしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「延珠! どういうつもりだ!」

 

 少女が走り去った後、蓮太郎は延珠に詰めよっていた。

 

「あの人は悪い人ではない」

 

「だから、何処にそんな根拠があるんだよ!」

 

 すると延珠は、

 

「…………あの人は数年前からたまに現れて、外周区の『呪われた子供達』に食べ物をで配っていた人だ。悪い人なはずがない!」

 

「そんなこと、わかんねぇだろうが!」

 

「それに…………」

 

「なんだ、早く言え」

 

 今度はイラついち様子の多田島が延珠を問いただした。

 

「妾達が束になってかかっても絶対ににあの人には勝てない」

 

「「なんでんなことわかんだよ」」

 

 今度は蓮太郎と多田島が二人同時に聞いた。

 

 すると、

 

「…………あの人はステージⅢのガストレアをあの太刀で、一撃で(・・・)いとも簡単に両断した」

 

「「なっ!」」

 

 延珠のこの言葉に二人は驚愕した。

 

 何故なら、ステージⅢにもなると、しっかり準備しないと簡単には勝てないような相手である。

 

 それをいとも簡単にとなると、尋常な強さではない。

 

「その上、誰が作ったのかは知らないけど、遠距離でも、『おーだーめいどひん』と言っていた恐ろしい銃もある」

 

「恐ろしいって、どう恐ろしいんだよ?」

 

「とにかく、恐ろしいのだ!」

 

 その様な会話をしていると、

 

「…………わかった。本部には俺から伝えておく。お前らはもう帰っていいぞ」

 

 多田島にそう言われて二人は帰ることにしたのだった。

 

 …………無論、蓮太郎はこの後、天童民間警備会社の社長たる、天童木更に蹴り回されたのだった。

 

 回避出来なかったのは、延珠が能力使用状態でピーを蹴ったダメージが回復しきっていなかったからである。

 

 

ーーーーーーーーーー??ーーーーーーーーーー

 

「おお! ありがとう。約束通りに持ってきてくれて」

 

 狐の面の少女はモデル・スパイダーのガストレアの首を太った、いかにも金持ちそうな男に渡し、札束らしき物が入った封筒を受け取った。

 

 この男はガストレアの首を収集するという奇妙な趣味を持った男だった。

 

「またいつかよろしく頼むよ」

 

 そう言われた少女はその男の屋敷から出て、路地裏に入ると、壁を駆け上った。

 

 そして、その建物の屋根にたどり着くと狐の面を外し、自らの赤い目を晒した。

 

「ふう、全くガストレアの首なんか集めてなにがおもしろいんだか」

 

 赤い目を隠すことなく少女は歩き続ける。

 

「まあ、そのおかげで金が手に入ることだし、我慢するか」

 

 屋根と屋根の切れ目に差し掛かると、少女は5メートルという距離をいとも簡単に飛び越える。

 

「そういえば、久しぶりに延珠と会ったな。あの頃と違っていきいきとしていたし」

 

 少し嬉しそうな顔をしながら少女は喋り続ける。

 

「あの『プロモーター』は珍しく良い奴(・・・)なのかな?」

 

 少女は少し考える様な素振りを見せた。

 

「ま、これから観察すればいっか」

 

 少女は不意に立ち止まった。

 

「ふふふ、久しぶりに東京エリアに来たけど、なかなか楽しくなって来たね」

 

 少女…………いや、アリス(・・・)はそう言って笑い、次の瞬間、アリスの姿は何処にもなかった。




 ちなみに、何故、アリスのお面が狐かというと、尻尾の基本形が狐っぽい感じだからです。

 7/14 ちょい加筆


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会議と再会と邂逅と

 原作一巻相当が終わってからの話ですが、質問に答える回を作ろうと思います。
 活動報告にて、質問募集中ですので、小さいことからなんでも聞いてください!

PS.話の核心部分はこたえられませんからね!


 あれからしばらくたったある日、蓮太郎は自らが所属する民間警備会社の社長、天童木更と共に防衛省の庁舎に来ていた。

 

 伊熊将監というプロモーターと、ちょっとしたいさかいがあったものの、それ以外は大きな問題などはなかった。

 

 そして、会議室のような場所で、なんと東京エリアの統治者たる『聖天子』が中継映像を使って、直接この場に集めた民警達に依頼の内容を話始めた。

 

『ガストレアから、ケースを一つ回収する』

 

 という、簡単過ぎる依頼内容と、あり得ないくらいの破格の報酬に対して、木更が聖天子に問い詰めた。

 

 しかし、そこで蓮太郎が前に遭遇した殺人鬼、蛭子影胤とその娘、蛭子子比奈と名乗る物が現れ、民警がたった今回収を命じられたケースを手入れようとしていることを伝え、この話し合いに唯一参加していなかった民警の社長の首を置いて去っていった。

 

 そこで聖天子は七星の遺産という、大絶滅を引き起こす危険なものが狙われていると明かしたのだった。

 

 ここで話し合いは終わると思われたが、木更が気になっていたことを聖天子に聞いたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「聖天子様、もう一つだけ聞いてもいいでしょうか?」

 

 木更は唐突にそう言った。

 

「はい、なんですか?」

 

「狐のお面をかぶった白髪の少女のことを何か知りませんか?」

 

 すると、一瞬だが、聖天子の顔に驚愕の色が見えた。

 

「…………どこでそれを?」

 

 先程の時よりもかなり緊張感を増した聖天子が聞く。

 

「蓮太郎くんが今回の依頼の対象となったガストレアにガストレアにされた男を倒したのはそんな特徴の少女だときいたものですから」

 

 すると、聖天子は少し考えこんで、ようやく口を開いた。

 

「…………決して他言しないと誓えるのであれば少しだけ教えて差し上げましょう」

 

 その言葉は木更だけに言われた事ではなく、この場にいる民警の関係者全てに向けられたことばであった。

 

 それらの人々は顔を見合わせると頷き合った。

 

「我々の中でもその様な報告が合ったことがあるものは少なくないはずだ。教えていただけるのでしたら、是非ともお願いしたいのですが」

 

 先程、蓮太郎といさかいがあったプロモーター、伊熊将監の所属先『三ヶ島ロイヤルガーダー』の社長、三ヶ島影以がそう言うと、

 

「ああ、あいつか。俺と同じ様な武器使ってやがったから、戦ったが、軽くあしらわれちまったしな」

 

「はい、しかもまだまだ手加減している様子でした」

 

 そう、伊熊将監が言うと、相棒のイニシエーターの千寿夏世が同意した。

 

「くそっ! 忌々しい!」

 

「やめたまえ将監! 聖天子様の前で!」

 

 そう言われた将監は、さすがに聖天子の前でこんな事をしたことには反省しているのか、大人しく引き下がった。

 

「…………全員一致で聞く事に賛成と言うことで良いのですか?」

 

「「「「「はい」」」」」

 

 この場のほぼ全員が言うと、聖天子は語り始めた。

 

「…………彼女の正体は我々でも掴めていません」

 

「!?」

 

 蓮太郎が驚愕した顔をするが、この場にいる者の大多数が同じ様な反応をしたのだった。

 

 何故なら、聖天子とその隣にいる天童菊之丞はまごうことなき、東京エリアの頂点に立つ者達である。

 

 そんな人物が調べきれないなど、よほどのことである。

 

「彼女が初めて確認されたのは約六年前。モノリスの外でです」

 

 このことにもかなりの非常識さがあったが、最早この程度のことで驚く者はいなかった。

 

「そこは大阪エリアからの亡命キャンプが壊滅した場所でした。当初は、菊之丞さんの調査から生存者ゼロというになりそうだったのですが、後日、衛星からの映像で確認したときにその姿が確認されました」

 

「ちょっと待ってくれ、亡命キャンプが壊滅したのはそいつの仕業なのか?」

 

 出過ぎたことだと自覚しつつも、蓮太郎は聖天子に聞いた。

 

「いいえ、亡命キャンプが壊滅したのはあるガストレアによるものです」

 

「…………亡命キャンプっつってもそれなりの武装はしていたはずだ。それを単騎で壊滅させるとなれば識別名があるはずだ」

 

 蓮太郎は勘違いをしていたが、真実を知るものがそれに答えることはなかった。

 

「それを知るには、あなたのIP序列が足りません。一定以上の人は既に知っているでしょうから、この場てそれについて話すことはありません」

 

 蓮太郎は歯噛みをしたが、ここで食って掛かってもどうしようもなく、最悪強制退室さられるので、ぐっとこらえた。

 

「…………では続けます。それから彼女の存在は確認されまんでしたが、三年前から頻繁にこの東京エリアの外周区にて姿が確認されるようになりました」

 

 すると、伊熊将監のイニシエーターの千寿夏世がなにか心当たりがあるような顔をしていた。

 

「『呪われた子供達』にとっては、かなり有名な人物です。何しろ食料を無償で与えてくれるのですから。現れては消え、現れては消えを繰り返しているのですが、ガストレアが現れたら時はいくつかの条件を満たしていた場合に高確率てあらわれます」

 

「その条件とはなんでしょう?」

 

 今度は木更が聞いた。

 

「一つ目はいままで倒したことがない姿、もしくはいままで倒した個体に似ていないこと。

 二つ目は人がほとんどいないこと。

 最後に、そのガストレアに首に相当する部位が存在すること。

 これらに該当しない場合でも、外周区の『呪われた子供達』が危機にさらされている場合はほぼ、確実に出現します」

 

 蓮太郎はつい先日の延珠の言葉を思いだし、ステージⅢのガストレアを倒したのは、危険だったからなのかと納得した。

 

「しかし、これらに該当している場合でも現れないこともあります。そして、モノリス周辺を警備している人達からの、モノリスの外へ出ていく目撃情報などもあり、他のエリアにも行っている可能性がたかいです」

 

 単騎で他のエリアまで行く。

 

 その過酷さは、民警である彼らが一番よくわかっていたものだから、脂汗を流す者もいた。

 

「そして最後に、

 彼女は必要とあらば手段を選びません」

 

 この言葉だけでは理解出来ていない者のほうが多かった。

 

「以前、外周区にて『呪われた子供達』を殺そうとしていた人達がいました。恐らく、ただの気晴らしくらいにしか思っていない様な人達でしょう」

 

 蓮太郎は心当たりがあるからこそ、ムカついたのだった。

 

「そして彼女は…………なんの躊躇いもなくその全員を殺害しました」

 

「!!」

 

「普通に会話が出来たという報告があることから、人間嫌いということではなく、敵意には敵意を、害意には害意を、友好には友好をといった感じでしょう」

 

「…………彼女が今回の件に関わってくる可能性は?」

 

 木更が躊躇いがちに聞くと、

 

「ないとは言いきれません。どんなものかは把握していませんが、彼女は常に何かしらの目的があるようですから。敵になるか味方になるかは分かりませんが」

 

 蓮太郎は嫌な予感がしたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「へくちっ!」

 

 場所は変わって外周区。

 

 時間は夕暮れ。

 

 アリスはお面を外した状態で、大量の食べ物と愛用のバラニウム製の大剣がのっている大きなリアカーを引いているところでくしゃみをした。

 

「何処かで私の噂でもしてるのかね」

 

 噂どころか、民警の社長らが集まって、秘密会議の様なことをしていたのだが、アリスはそのことを知るよしもなかった。

 

 しばらく歩いて、マンホールの前で止まると、そのマンホールをノックし始めた。

 

 すると、

 

「なにー?…………アリスお姉ちゃん!」

 

「久しぶりだねマリア」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

「久しぶりですね、アリスさん」

 

「さん付けはやめてくださいよ…………長老」

 

 マリア会ってから、約一時間後、アリスはようやく長老ーー松崎と会うことができた。

 

 何故、一時間も立ってしまったかと言うと、マリアが大声を出したせいで、マンホールチルドレンになっていた『呪われた子供達』が全員がアリスが来た事に気付き、群がってきて、なかなか離してくれなかったからだ。

 

 今は皆、アリスが運んできたご馳走の方に群がっている。

 

「ははは、こんなに食べ物を持ってきてくれる人をさん付けせずになんと呼ぶんですか?」

 

「普通に呼び捨てで良いじゃないですか…………」

 

 アリスは松崎にさん付けで呼ばれることが苦手だった。

 

「それで、しばらくはこの辺りにいるんですか?」

 

「まあね」

 

 松崎はご馳走に群がっている『呪われた子供達』を微笑ましそうに眺めながら話す。

 

「今日の所はもう行くことにするよ」

 

「もうですか? もっとゆっくりしていけばいいのに」

 

「これ以上ここに居たら、また群がられて出ていけなくなっちゃうじゃん…………」

 

 確かに、と言いながら笑う松崎に挨拶をしてお面をかぶり、アリスは帰ることにしたのだった。

 

 そして…………

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「こんばんわ、アリス」

 

 仮面をかぶった一人の男と、小太刀を二本もった一人の少女と出会ったのだった。




ボツネタ
影胤「こんばんわ、アリス」

 仮面をかぶった一人の男と、小太刀を二本もった一人の少女と出会ったのだった。

アリス「か、仮面キャラが…………被ってるだと?」

影胤&子比奈「へっ?」


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「世界を変えたいと思わないか?」

 祝! 日間ランキング2位達成ー!

 いやー、ほんとに自分の目を疑いましたよ。

 いや、まぢで


 アリスは外周区のマンホールチルドレンになった『呪われた子供達』に食べ物をあげた帰り道、それは現れた。

 

「こんばんわ、アリス」

 

「…………えーっと、誰?」

 

 アリスは普通にこの仮面の男のことを知らなかった。

 

「ああ、これは失礼」

 

 男は被っていたシルクハットを外し、頭を下げると、

 

「私は蛭子、蛭子影胤という。お初にお目にかかるね、アリス、それとも『白狐(びゃっこ)』と呼んだほうがいいかな?」

 

「…………裏の人間か」

 

 『白狐』というのは、アリスが後ろめたい内容の、つまりは裏社会などからの依頼を受ける時に使っている偽名だ。

 

 それを知っている事から、アリスはこの男の事をカタギの人間ではないと判断した。

 

「まあ、そういうことになるね」

 

「…………なんかようか?」

 

「ほう、警戒すらしないのかい? もしかしたら君を殺しに来た暗殺者なのかもしれないよ?」

 

 影胤は意外そうに、だがどこか試す様に聞く。

 

「別に、そうなら話し掛けたりせずに奇襲するでしょ。それに、襲われても絶対に勝てる自信があるしね。油断も手加減もしないが」

 

 すると影胤は、心底意外そうな顔をしたーーと思うーー後、声を上げて笑った。

 

「ヒヒ、ヒハハハハハ! いい! 実に面白い!」

 

 対するアリスはどうでもよさそうな態度のまま、言った。

 

「で? 用件は何? 私、あんまり暇でもないんだけど」

 

「ああ、そうだったね。じゃあ、本題に入ることにするよ」

 

 アリスは少し真面目な態度になった。

 

「アリスくん、私の仲間にならないか?」

 

「…………お前って確か、蓮太郎と前に接触した殺人鬼だよな」

 

「まあ、そういうことになってるね」

 

「そんな奴の仲間になって私に何の得があるってゆうの?」

 

 すると影胤は、何処からともなくアタッシュケースを取り出すとアリスの方に投げ渡してきた。

 

 少し警戒しながら中身を見てみると、百万や二百万じゃきかないほどの大量の札束が入っていた。

 

「君は外周区に住んでいる『呪われた子供達』に食べ物やおもちゃなどを金を湯水の様に使って、与えてるそうじゃないか。それは私からのほんの気持ちだ」

 

「…………いくら金をつまれても、時間をかければ私ならこのくらい稼げる。ゆえに、これはほとんど得にはならない」

 

 アリスがそう言うと、影胤はそれを予想していたかのように語り始めた。

 

「アリスくん、君はこの理不尽な世界を変えたいと思ったことはないか?」

 

「何?」

 

 影胤は気にせず語り続ける。

 

「君は外周区のマンホールチルドレン…………つまりは『呪われた子供達』が虐げられている所を何度も見たことがあるはずだ」

 

 アリスは何も言わなかった…………いや、言えなかった。

 

 何故なら、事実、そんな光景を何度も見て来たからだ。

 

「彼女達…………いや、君達は既存のホモ・サピエンスを越えた次世代の人間の形だ。今、この東京エリアが大絶滅の危機にさらされているのは知ってるかい?」

 

「…………七星の遺産か」

 

 すると影胤は、驚いたような素振りを見せて、

 

「ほう、七星の遺産を知っているのか」

 

「…………私だって、完全にフリーって言うわけじゃない。所属とまではいかなくても、協力している組織くらいいる」

 

「…………それは初耳だ」

 

 どうやら、本当に知らなかったらしい。

 

「話を戻そうか。大絶滅を経たあと生き残るのは我々力のあるものだ。私にはいま強力な後援者(バック)もいる。どうだ?」

 

 アリスは少し考えると口を開いた。

 

「…………私は『呪われた子供達』が進化した人間の姿だとは思わない。あの子達はただの、至って普通の子ども達だ」

 

「…………交渉は決裂というのとかい? 残念だよ、君はもう少し聡明な子だと思っていたのだが」

 

 そう言って踵を返そうとする影胤にアリスは続けて言った。

 

「だが、この世界を変えたいとは思っている。こんな理不尽な世界をね」

 

「ということは?」

 

 影胤がこちらを振り返りながら問う。

 

「…………私は必ずしも指示に従うとは限らない。そして、敬語で話す気もない。最後に、私が『呪われた子供達』に攻撃するとこはない。攻撃するならお前達がやれ。それでもいいなら受けよう」

 

 すると影胤は、両手を広げて大袈裟に喜ぶ。

 

「いいだろう! では、よろしくだ同志よ!」

 

「ああ、よろしく」

 

 今ここで、誰も知らない契約がなされた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「それで? 私はなにをすればいい?」

 

 アリスが影胤にそう聞くと、

 

「今のところは何もしなくていい。何かしら仕事が出来た場合は携帯に連絡しよう」

 

「なんだ? わざわざ私を勧誘しに来たってのに何も仕事が無いのかよ」

 

「ああ、君には基本、裏方で行動して貰いたいからね」

 

 アリスは少し不満そうな感じだったが、すぐにそれもなくなった。

 

 

 ブゥゥゥン ブゥゥゥン

 

 

 携帯のバイブレーションが動いたからだ。

 

「もしもし、…………そうか。わたった、なるべく速く行く」

 

「仕事の依頼かい?」

 

「まあ、そんなもんだ。今の所は何も無いんだろう? なら、向こうに行ってもいいよな」

 

「ああ、もちろんかまわないよ」

 

 影胤が了承したので、アリスはあるきだした。

 

「ああ、いい忘れていたが、蓮太郎君も誘うつもりだが、いいかね?」

 

「別にいいけど、意味ないよ、きっと」

 

 そう言ってアリスは去っていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「近々大規模な作戦ねぇ。なにするつもりだろ」

 

 アリスは先程電話で呼び出された方向に向かって走っていた。

 

 既に、その早さは並みの自動車程度なら軽く越える速度を出していた。

 

「しかも、外部の人間に実行を任せるなんて珍しい。それとも、歳で耄碌(もうろく)しちゃったのかな? …………そうならいいのに」

 

 アリスはそんな物騒なことを言いながら、電話で指示してきたひとがいる方向ーー『No.13モノリス』へと走っていった。




その後のアリスさん

(…………結局なにしに来たんだろ…………子比奈ちゃん。結局一回も喋らなかったし)


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組織

 今回出てくる登場人物書きにくい…………

 後、ちょっとしたアンケートをするので、よろしければ活動報告を覗いて貰えると嬉しいです。


 完全に日が暮れた頃。

 

 アリスは『NO.0013』という数字が描かれているモノリス。

 

 十三号モノリスの足元に来ていた。

 

「ほんとにここ、遠すぎるって。もうちょい何とかなんないのかね? 私じゃなかったら、たどり着けないぞ」

 

 アリスはモノリスに近づいていき、触れられる位に近づくと、懐からカエデの葉をかたどった鍵を取りだし、そこに差し込み回転させる。

 

 わずかな解錠音がした後、音もなく開く。

 

 アリスはなれた様子でごく自然に入っていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 中には一軒家ほどの小さなドーム状に地盤が抉れており、そこにはいつもつかっているライトレール輸送(LRV)があり、中に乗り込むと運転手が運転席に座っていた。

 

「あれ? いつもは誰もいないから自分で動かしてたんだけど、今日はいるんだ?」

 

 アリスがそう言って運転席に座っている男に話し掛けると、

 

「あ! 白狐さん! はい、今日は今からちょっと、色々な人が来るので」

 

「色々な人? 誰だろ」

 

 そう言ってしばらく席に座っていると、やがて人が来た。

 

「ん? アリスじゃないか。君も召集を受けたのかい?」

 

「お、悠河じゃん」

 

 今、アリスに話し掛けて来たは巳継悠河。アリスが協力しているこの組織の中で、比較的仲がいい人物である。

 

「ここでは悠河じゃなくて、『ダークストーカー』って呼んでよ」

 

「じゃあ、私のことも『白狐』でね」

 

「…………ところでその狐のお面は組織の集まりのときは外さないんですか? 普段は外してるのに」

 

「理由は特にないけど、強いて言えばスイッチの切り替えの為かなー」

 

 こんな風に二人が会話していると、更に人が集まってきた。

 

「ん? なんだ、俺が最初に来たと思っていたんだがな」

 

 そしてその直後に、

 

「あれ? もう結構集まってるな、私って遅いほう?」

 

「『ソードテール』に『ハミングバード』じゃん。最早、二枚羽根以上の奴、全員集めてんじゃないの?」

 

 アリスは後半、運転手に尋ねると、

 

「一枚羽根の私にはわかりません。ただ、来るのは後、一人だと聞いています」

 

 その言葉を聞き、「まだ待つのかよ」と一人事を言いながら待っていると、

 

「全員揃っているようだね、それでは出発してくれ」

 

 最後に来たのは、この組織…………『五翔会』最高幹部、五枚羽根の一人、紫垣仙一だった。

 

 その姿を確認した瞬間、アリス以外の全ての人間が紫垣に対して礼を取った。

 

「…………紫垣さんじゃないですか。なんで最高幹部の一人がこんな所に?」

 

 アリスの疑問は最もだった。

 

 通常、最高幹部たる五枚羽根は秘匿された場所にて行われている五翔会最高幹部会議にのみ参加しており、こうした場所に来るのはほとんどないからだ。

 

「いやなに、『ブラックスワン・プロジェクト』の進捗具合を見に来るのと、アリス君に仕事の連絡をね」

 

「…………なんで誰もコードネームで呼ばないんだよ」

 

 アリスの悩みの一つであった。

 

「…………つまり、私が仕事の連絡。ダークストーカー、ハミングバード、ソードテールが『ブラックスワン・プロジェクト』についての事か」

 

「ああ、そうだ」

 

 紫垣は一拍置いてから話を続けた。

 

「アリス、お前は近々行われる聖天子の暗殺のサポートをしろ」

 

「一つよろしいですか?」

 

 ここで、今まで黙っていた悠河が口を開いた。

 

「それならアリスに直接殺らせた方が確実だと思うのですが」

 

「いや、アリスはサポートだ。これは会議で決まった事だし、何より本人が嫌がるだろうからな」

 

「よくわかってるじゃん」

 

 アリスはにやりと笑うと、話しは終わったのかと言った風に紫垣の事を横目で見ると、

 

「後、もうひとつ。アリス、お前の研究成果は今どの様な状態だ?」

 

 アリスはその言葉を聞くと少し考え込むように腕を組み、黙って暫く思考に耽り、

 

「ハッキリ言って分からない。最初から言っていた通り、あの実験(・・・・)の結果はまさしく神のみぞ知るとしか言いようがないからね。安定しているのかも知れないし実は行動してないだけで暴走しているのかも知れない。唯一つだけ分かるのはあの個体はもう少しで覚醒するってことかな」

 

「そうか…………分かった引き続き励んでくれ」

 

 その言葉を聞くとアリスは話しは終わったとばかりに寝はじめてしまったのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おい、起きろ!」

 

「ふにゃ?」

 

 誰かが自分を起こそうとしている声が聞こえて来たのでアリスは目を覚ました。

 

 少し伸びてから、

 

「話し合いは終わった?」

 

 するとアリスを起こした人物ーー悠河は、

 

「それどころか皆帰ったよ…………」

 

 と、呆れた声で言って来たので謝ると、

 

「いや、いいよ。それよりアリスも早く帰ったらどうだい?」

 

「そだね。悠河も帰るのか?」

 

「ああ、取り合えずあそこに帰るよ」

 

「そっ、じゃ、またいつかねー♪」

 

 そう言ってアリスは東京エリアの内側の方に歩いていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ブゥゥゥン ブゥゥゥン

 

「またこのパターンかよ」

 

 東京エリアの方に走っていたアリスは一時停止し、バイブ音が響く携帯の画面をタッチし、電話に出た。

 

「もしもし」

 

『私だ』

 

「影胤か。どうした? 何か仕事が出来たのか?」

 

『ああ、詳しい事はまだ未定だから、明日から数日間の予定を開けて置いて欲しいのだが。どうだね?』

 

 アリスは五翔会での暗殺計画はまだ当分先だと言われたのを思い出して、

 

「今んとこ開いてるよ」

 

『そうか、なら明日改めて連絡する』

 

 アリスは通話終了すると、

 

「さて、これからなにが起こるんだろうね。どうせ蓮太郎君は影胤の誘いを断るだろうし、あんまり蓮太郎君とは戦いたくないねぇ。あ、東京エリアが大絶滅を起こしたら聖天子の暗殺計画パァじゃん。さっき言っておけばよかったな」

 

 アリスはそんな独り言を呟くと、再び走り出した。



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てんちゅうがーるず

 今回は日常回です。

 今回、遂にアリスの服装が明らかに!


「う~ん」

 

 ここは外周区にある、とある廃屋。

 

 その中でアリスは自らの尻尾、『九尾』で体を包んで寝ていた。

 

(いやー、『九尾』は日常生活で役立つ数少ない能力の一つだな。もふもふしても良し、クッション代わりにしても良し、体に巻き付ければ暖かい。…………万能だね!)

 

 そんなことを考えながら寝ていたが、

 

 

 ブゥゥゥン ブゥゥゥン

 

 

「携帯ぃぃぃ!!! 私に恨みでもあるのか! いつもいつもいつも邪魔ばっかりしやがって!」

 

 寝起きで頭が働いていない(と信じたい)せいで、よくわからないことを叫んでからアリスは電話に出た。

 

『もしもし、私だ』

 

「影胤ェ、私に恨みでもあるのかこの野郎」

 

『な、なんだ? やけに不機嫌じゃないか。どうかしたのかい?』

 

「こちとらお前の電話のせいで叩き起こされたんだよ!」

 

『…………アリスくん。もう午前11時だよ』

 

「まだだ!」

 

 影胤は呆れた様にため息をついてから話を続けた。

 

『まあ、君の私生活が荒れていると言うことだけは分かったよ』

 

「余計なお世話だ!」

 

『それでは本題に入ろう』

 

「仕事出来たのか?」

 

 少し欲求不満な感じでアリスが聞くと、

 

『いや、数日以内に感染源ガストレアから七星の遺産を回収して、未踏査領域にてステージⅤガストレアの召喚を行うつもりだ。それまで自由にしていてくれ』

 

「分かった」

 

 アリスは電話を切ると、何着か予備があるいつも着ている服、白いシャツ、前が閉まらないようになっているロングコート、白いズボンという真っ白な服に着替えて廃屋を出た。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「これ欲しい!」

 

「私はこれ!」

 

「じゃあ、私はこれがいい!」

 

 場所は変わって外周区のマンホールチルドレン達の家。

 

「はいはい、わかったから欲しい物をこの紙に書いていって」

 

 アリスは『呪われた子供達』におもちゃを買い与えていて、今回も皆に欲しい物のリストを作らせていたのだった。

 

「いやぁ、すみませんねアリスくん。いつもいつもこんなにお金を使わせてしまって」

 

 そう言って謝ってくる松崎にアリスは、

 

「やっとさん付け止めてくれましたね」

 

 と、的はずれなことを言っていた。

 

「まあ、これは私が好きでやってる事ですし、気にすることありませんよ」

 

 そんな会話を松崎としていると、向こう側からマリアがてとてとと走ってきて、

 

「アリスお姉ちゃん! 皆の欲しい物のリスト出来たよ!」

 

 それを見てアリスは、

 

 

(か、かわいすぎる!)

 

 

 …………少し妙なことになっていた。

 

(あの走り方、あのしゃべり方、お願いする時の上目遣い、全て最っ高にかわいい!)

 

「あ、あの、アリスくん? その笑顔が妙に怖いのですが」 

 

 松崎のいう通り、アリスはものすっごく妖しい笑い方をしていた。

 

「…………はっ! あ、ああ、わかったよ。じゃあ、明日には持って来るから、楽しみに待っててね~」

 

(ふふふ、『可愛いは正義!』これって世界の真理だと思うね。いや! 真理だ!)

 

 少し危ない感じにトリップしてしまっていたアリスだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「えーっと『天誅ガールズ』のグッズコーナーはこっちか」

 

 アリスは大手の家電量販店に来ていた。

 

 逆に目立つということから、お面を外して、『呪われた子供達』とは違い、常に赤い目はカラーコンタクトでごまかしていた。

 

 すると、よく知った声で『天誅ガールズ』について語っている人物がいたので、そっちを向いて見ると、

 

「あれ? 延珠?」

 

「む? あ、アリスではないか!」

 

 そこにいたのは蓮太郎に『天誅ガールズ』について熱く語っている延珠だった。

 

「ん? 延珠、どうし…………お前は」

 

 蓮太郎がアリスの姿を見て、警戒し始める。

 

「だから、アリスは大丈夫だって言っているだろう!」

 

「んなこと言ったってよぉ…………」

 

 どうやら、延珠がアリスのことをフォローしているようだ。

 

「えーっと、延珠のプロモーターの里見蓮太郎くんだよね」

 

「え? あ、ああ、そうだ」

 

「ふーん…………」

 

 確認を取るなり、アリスは蓮太郎の周囲を回り、観察し始める。

 

「な、なんだよ」

 

「いや、君は他の有象無象の奴らとは違うんだなって思っただけ」

 

 何を言ってるのか分からないといった表状を浮かべる蓮太郎に、アリスが続ける。

 

「いや、国際イニシエーター監督機構(IISO)の所に行った時は、もっと暗い顔をしていたからね。それをこんな風に笑えるまでに仲がいいってことは、蓮太郎くんは『呪われた子供達』を一人の人間として見ているってことじゃないか」

 

「そんなの当たり前だ、延珠は人間だからな」

 

 この言葉にアリスは昔あった一人の男の事を思い出していた。

 

『まあ、俺達はお前が『呪われた子供達』だったとしても関係ない、ここに居たかったら居てもいいぜ』

 

「っ!!」

 

「お、おい! 大丈夫か?」

 

 思い出した瞬間、軽い頭痛と鬱な気分になるが、蓮太郎こ声で戻ってくる。

 

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

「そうか。ところで、お前は「アリス」…………え?」

 

「私の名前はアリスだ。そう呼んでくれ」

 

 アリスは何故かはよくわからないが、名前以外で呼ばれる事を嫌う癖があった。

 

「じゃあ、アリスは何でこんなとこに来たんだ?」

 

「外周区の皆に頼まれたおもちゃとかを買いにね」

 

「それって『天誅ガールズ』か!」

 

「そうだよ。なんか、皆の間で人気でねぇ」

 

 アリスがコーナーでやっているプロモーションムービーでは、「死ねぇぇぇぇ!」と凶悪な顔で斬りかかるヒロイン天誅レッドの姿が大写しになっていた。

 

「…………蓮太郎くん、なにがおもしろいか説明できるかい?」

 

「…………悪い、さっぱりだ」

 

「…………私もだ」

 

 横で延珠が「そんなことないぞ!」と言いながら反論してくるが、既に何を言ってるのか分からなくなってきていた。

 

「まあ、話してる間に買う予定だった物は全部集まったし、またね」

 

「おう、またな」

 

「あ、そうだ。これ」

 

 そう言ってアリスは蓮太郎に一枚の紙を渡した。

 

「なんだ? これ?」

 

「私の電話番号とメールアドレス」

 

 とはいっても、複数台持っている中でのプライベート用のものだけだが。

 

「延珠をよろしくね」

 

 そう言ってアリスはカートを押しながらレジへ向かった。

 

 

ーーーーーーーー蓮太郎視点ーーーーーーーーー

 

 

 延珠にせがまれて買い物に付き合っていると、この前、狐のお面をつけてガストレアを倒していた奴を見つけた。

 

 お面はつけていなかったものの、特徴的な服装、髪のせいですぐにわかった。

 

 殺人を犯したことのあると、聖天子様から聞いていたが、とてもそんな風には見えず、年相応の子供にすら見えた。

 

 だけど、纏っている雰囲気は俺なんかよりもずっと大人な感じだった。

 

 俺と会う前の延珠の面倒なども見ていてくれたようだし、悪い奴ではないのかも知れない。

 

 帰り際に電話番号とメールアドレスも渡されたし。

 

 …………あれ? 

 

 よく考えたら、俺今、聖天子様達すら持ってない情報手に入れちまったんじゃねぇの?

 

 …………………………。

 

 重い。色んな意味で。 orz




 アリスのロングコートはsaoのキリトの服の装飾減、真っ白版だと思ってください。

 ちなみに、アリスの『九尾』は毛がふさふさです。もふもふです。


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理不尽

 なかなかストーリーが思いつかず、時間がかかってしまいまして、すいませんm(__)m


 アリスはデパートで頼んだ場所に品物を持って来てくれと五翔会の一枚羽根の奴に頼み、自分はほとんど手ぶらのな状態でデパートを出た。

 

 アリスはデパートを出てから、しばらく歩いていたのだが、街頭テレビのパネルに聖天子が映っているのを見て、足を止めた。 

 

「…………『ガストレア新法』…………か」

 

 『ガストレア新法』とは、『呪われた子供達』の基本的人権の尊重に関して聖天子が再度法案を出すことである。

 

「…………お前は正し過ぎる。だから敵を生むんだ」

 

 誰に言うでも聞かせるでもなく、ただ独り言の様に、うわ言の様にアリスは呟いた。

 

 近々予定されている聖天子暗殺計画。その主導者は大坂エリアの統治者であり、五翔会最高幹部の一人、斉武宗玄である。

 

 聖天子は確かに正しい。

 

 だが、正し過ぎる。

 

 人間として、正し過ぎる選択をしているからこそ、恨まれもするし、邪魔者扱いもされてしまうのだ。

 

 今回の暗殺計画なんてその最もたる例だ。

 

「…………暗いことばっかり考えてちゃだめだな。皆に心配かけちゃう」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 用事も済んだことだし、少しぶらぶらとしていたアリスだったが、次の瞬間にその状態は打ち破られる。

 

「ーーそいつをつかまえろぉぉ!」

 

 そんな野太い声が聞こえてきたのと同時に、人垣が破れて一人の少女が飛び出してきた。

 

 明らかに盗品であろう食料品をスーパーマーケットのかごに入れた物をもって。

 

 その服や、何よりも赤い目から外周区の『呪われた子供達』だということがわかった。

 

 あいにく、アリスはその少女から離れた場所にいて、人混みのせいで思うように近づくことが出来なかった。

 

 そして、たどり着いた頃には、そこに少女の姿はなく、呆然と立ち尽くす蓮太郎と悔しそうにしている延珠の姿があった。

 

 

ーーーーーーーー蓮太郎視点ーーーーーーーーー

 

 

「…………なあ延珠、もしかして……………………知り合い、なのかよ?」

 

 俺は延珠に助けを求めてきた『呪われた子供達』の手をはたき、睨み付けた。

 

 そして、警官がろくに話も聞かずに手錠を嵌めて立ち去った後に延珠に聞いていた。

 

「…………そうだ」

 

 いたたまれない気持ちになっていた所で、ふと、背中に視線を感じ振り返った。

 

「…………アリス」

 

 そこには、怒りや失望などが入り交じった目をしたアリスがいた。

 

 しかし、どこか嬉しそうな雰囲気を感じたのは俺の勘違いだろうか。

 

「…………や……も……なん……な」

 

 俺に向かって何かを呟いた後、路地裏の方へと走って行った。

 

 そこで俺は別れ際にアリスに言われたことを思い出した。

 

 

『延珠をよろしくね』

 

 

 アリスは確かに俺にそう言った。

 

 …………確かに、俺があの娘の手をはたき、振り払った事によって、延珠に被害が飛び火することは全くなかった。

 

 …………これでよかったはずだ。

 

 俺は延珠を守れたんだ。

 

 …………本当にそうか?

 

 あいつは『呪われた子供達』を普通の人間と同じ様に見て欲しいからこそ俺にあんな事を言ったはずだ!

 

「…………何やってんだよ、俺は」

 

「蓮太郎?」

 

 心配そうに見てくる延珠に俺は、

 

「延珠、一人で家まで帰れっか?」

 

「えっ?」

 

 そう言って俺は素早く左右を見渡し、ある少年を見つけて駆け寄ると、

 

「民警だ。ガストレアがエリア内に現れたので、君の原付を借り受けたい」

 

 今、出来る最大限の事をしよう。

 

 そう心に決めて俺は走り出した。

 

 

ーーーーーーーーアリス視点ーーーーーーーーー

 

 

 くそっ! くそっ! くそっ!

 

「どこいったんだ!?」

 

 私は連れていかれた少女を探していた。

 

 あの警官は周りの人の話をろくに聞かずにあの娘を連れていった。

 

 警官は普通、どれだけ決定的な証拠があっても周りの人の話を聞いてからどうするか判断するはずだ。

 

 それをしなかったということは逮捕ではない何かをするつもりだと言うことだ。

 

「速く! 速くっ!」

 

 人混みの中で力を使う訳にはいかないので、路地裏から、屋根上まで登ってから、屋根上を走っては跳び、走っては跳びを繰り返し、縦横無尽に探し続けるが、全く見つからない。

 

 別に蓮太郎を責める気はない。

 

 蓮太郎は延珠を守るためにあんな事をしたんだから。

 

「どこだっ! どこにいるんだよっ!」

 

 私は叫ぶ事しか出来なかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それから数分後。

 

 連れていかれた少女を探すために五感を最大限まで強化していたからこそ、その小さく響いた音が聞こえたのだった。

 

 

 ーーァン

 

 アリスは立ち止まって耳を澄ませた。

 

 ーーァン、ーーパァン!

 

(っ! 銃声!?)

 

 アリスはその方向に全速力で走っていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…………なんだよこれ」

 

 行き着いた先の外周区にある廃墟でアリスが目にしたのは、むせかえる様な血臭のする路地裏だった。

 

 所々に弾痕が見られることから、誰かが撃たれたことが分かった。

 

 しかし、アリスは諦めてはいなかった。

 

「…………全然死臭がしない」

 

 動物というものは、生命活動が完全に停止した瞬間から、腐敗がゆっくりと始まる。

 

 嗅覚の鋭いガストレアを喰らったアリスの嗅覚でも、死臭、腐臭の類いは感じ取れなかった。

 

 アリスは血の臭いがする方へ歩き続けていくと、病院へと行き着いたのだった。

 

 そのまま中へ入っていくと、

 

「…………蓮太郎」

 

 初老の医師と話している蓮太郎の姿があった。

 

「っ! …………アリスか」

 

「蓮太郎があの娘をここまで運んでくれたの?」

 

「…………ああ」

 

 蓮太郎の顔は浮かないものだった。

 

「…………それで? あの娘はどうなったの?」

 

 私がそう言うと、初老の医師が寄ってきて、

 

「大丈夫だ、一命はとりとめたよ」

 

「! そうですか! ありがとうございます!」

 

 そう言って私は医師に小切手を渡した。

 

「? これは?」

 

「手術代です。きっと蓮太郎が肩代わりするとか言ったんでしょうけど、そんなお金が有るとも思えませんし」

 

 視界の端で蓮太郎が苦い顔をしていたが、アリスは気にせず、医師に小切手を押し付けてそのまま病院を後にした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…………いるんだろ? 出てこいよ」

 

 アリスは病院を出てから少ししてから背後の闇に言い放った。

 

「ヒヒ、やはり気づいていたか」

 

「それで? なんの用だ?」

 

「ああ、仕事が出来たぞ」

 

 その言葉を聞いたアリスはため息をもらすだった。

 

「やっとか。それで? 何をすればいい?

 

 すると、影胤はどこからともなく地図を取りだし、

 

「未踏査領域にあるこの協会の近くのガストレアを始末して欲しい」

 

「ガストレアを始末って…………この教会の周りの森の奴も全部か?」

 

「いや、教会周辺だけでいい」

 

 アリスは、ここでステージⅤガストレアの召喚を行うのだろうと納得した。

 

「後、しばらくはその教会に滞在してくれ。数日以内に我々も向かう」

 

「わかった」

 

 アリスはそう一言だけ言い、背を向けて歩き出した。




 没ネタ


影「ヒヒ、やはり気づいていたか」

ア「そりゃね、だって小比奈ちゃん、思いっきり私に殺気だしてんじゃん」

 確かに、よく見ると小比奈の目は赤くなっており、ぶつぶつと何かを呟いていた。

小「…………たい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい…………」

ア「…………」

影「…………」

ア&影((こ、怖ぇぇぇ!!!))


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準備

 間違って消してしまったので、再投稿します。


「と言うわけで、数日位帰れないから」

 

 えーっ、と文句を言う『呪われた子供達』をアリスは諭していた。

 

 アリスは影胤に言い渡された仕事を遂行するために、外周区の寝床に戻り、得物を持った。

 

 数日は帰れないため、外周区のマンホールチルドレンの『呪われた子供達』に一言言ってから出発しようとしたのだが、予想よりも遥かに反対する声が多かったので宥めるのに時間がかかってしまっていたのだ。

 

 そんなカオスな状況にあてられたのか、ずっと奥の方で寝ていた影が起きた。

 

「ぅん? アリス?」

 

「? なんで延珠がここに居るの?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 延珠から聞いた話によると、学校でどこからともなく延珠が『呪われた子供達』であるという噂が流れ、それを延珠自身が否定しなかったため、嫌がらせを受け、早退したものの、家に帰る気になれずにここに来てしまったらしい。

 

 アリスは延珠から話を聞きながら皆が居るところから少し離れた所に二人で行き、腰を下ろした。

 

「アリス…………妾はどうすれば良いのだ?」

 

 延珠は泣きそうな目で…………正確には既に泣き腫らした目で聞いてきた。

 

「そうだねぇ…………じゃあ、延珠はどうして自分が『呪われた子供達』だって噂が流れた時に否定しなかったの?」

 

「だって、妾達は何も悪い事なんてしていない!」

 

「それそれ」

 

「? どういう意味だ?」

 

 アリスはしょうがないなぁとでも言いたげな顔で話始めた。

 

「延珠は自分が悪いから嫌がらせを受けたと思ってる?」

 

「そんなこと思ってない!」

 

「じゃあ、気にする必要なんかないんだよ」

 

「え?」

 

「延珠は延珠なんだから。延珠には『呪われた子供達』なんかじゃなくて、立派な藍原延珠っていう名前があるじゃないか。延珠を『呪われた子供達』なんて風にひとくくりにするやつなんか気にすることないんだよ」

 

「…………でも、そんなことしたら、もう妾の味方をしてくれる人なんていない」

 

「…………延珠はそんなことをされても、まだ他の子供達と仲よくしたいの?」

 

「もちろんしたい」

 

「…………私には理解出来ないな」

 

「えっ?」

 

 アリスから出た唐突な否定的な発言に延珠は聞き返した。

 

「私はこことかに居る『呪われた子供達』以外で、同年代の知り合いなんて一人たりとも出来た事すらなかったからね」

 

 ーー前世も含めて

 

 心の中でアリスはそう付け加えた。

 

「…………アリスは妾とは違う考えなのかも知れない。でも、妾は普通の子供達も『呪われた子供達』も関係なく仲よくしたいんだ!」

 

 そう力強く断言した延珠を見てアリスは、少しの間きょとんとした顔をし、そのあと微笑みながら言った。

 

「なら延珠がそういう人達の手本の様な存在になれるように頑張ればいい。私は止めないから」

 

 アリスはそう言ってから、それよりも、と言い、

 

「私なんかよりも先に相談するべき人がいるんじゃない?」

 

 延珠はそう言われると、ばつが悪そうに俯いた。

 

「延珠の家は蓮太郎と同じ家なんだから。何にも言わずに出てきたんでしょ? 蓮太郎も今頃心配してるよ?」

 

「…………うん」

 

「まあ、ここも延珠の家なんだからいつでも来てくれていいんだよ。ここの皆にとっては、皆が皆家族みたいなものなんだから」

 

 そう言ってアリスは延珠を後ろから膝の上に乗せて抱き締めた。

 

「…………ありがとう」

 

 延珠がそう言うとアリスはとても満足げな笑顔で延珠の頭をなで続けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アリスがようやく皆を納得させて出発しようとしていたところを、松崎が話かけて来たのだった。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

「…………何度経験しても、君がどこかに行くのを見送るのは嫌なものですねぇ」

 

「大丈夫だって松崎さん。全然安全だから!」

 

「その格好で言われても全然説得力がありませんよ」

 

 松崎は苦笑しながら言った。

 

 松崎が言った通り、今のアリスは左手に二メートル近い長さをもつ太刀を持っていた。

 

 松崎は気づいていないが、ばれていないが、白いロングコートの内側に特注で作らせた様々な武器が複数など、かなり物々しい装備となっている。

 

「ははは、確かにね」

 

 アリスはそう言って松崎に背を向けて歩き出した。

 

「無事に帰って来てくださいよ! あなたに何かあれば皆悲しみますからね!」

 

 松崎が叫ぶとアリスは振り向かずに手だけを振った。

 

 アリスは服の中から狐のお面を出してかぶり、走り出したのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「で? なんで悠河がいるのかな?」

 

 アリスがモノリスにかなり近づいた時、そう言うと、暗闇から悠河が現れた。

 

「…………グリューネワルト教授と五翔会からの遣いですよ」

 

 悠河は何故か、少し不機嫌そうな感じだった。

 

「アリス、君は今、何をしているんだい?」

 

「仮面殺人狂のお手伝い」

 

 アリスはノータイムで包み隠さず即答した。

 

「っ! 何故?」

 

「う~ん、ちょっとした気紛れ?」

 

 今度は少し考えてから、何故か疑問系で言った。

 

「…………なんでだ」

 

「?」

 

「なんでだよ!」

 

 突然大声を出した悠河にアリスは驚いた。

 

「なんで自分から危険な事に首を突っ込むんだよ! 君に何かあったら、困る人はたくさんいるじゃないか!」

 

「えーと、心配してくれてるのかな?」

 

 悠河の勢いに気圧されたアリスは控えめにそう言うと、

 

「なっ! そ、そんな訳ないだろ!」

 

 と、本人は否定したものの、

 

(なんで顔赤くなってんだろ?)

 

 アリスが考えた通り、悠河は頬の当りが少し紅潮していた。

 

 だが、アリスはその理由には気付かなかった。

 

「と、とにかく、五翔会の不利益になることはするなって、伝えて置けだそうだ」

 

「ふーん。ま、どうでもいいけど。それで? もう一つの方は?」

 

 そう言うと悠河は、腰にぶら下げていた拳銃と呼ぶには少し長い物を二丁渡した。

 

 その銃はリボルバー式の銃なのだが、リボルバー部分と銃身がやけに長く、特にリボルバー部分は通常の三倍近かった。

 

「おっ、整備と調整終わったんだ」

 

 この銃はアリスが『四賢人』の内の一人、グリューネワルトに特注で作って貰ったもので、アリス以外には物理的(・・・)に扱えない物である。

 

「じゃ、私は行くからー」

 

 そう言うとアリスは引き留めようとする悠河を後目に走り出したのだった。



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雑魚を処分するだけの簡単なお仕事です

 今週と来週で補講が終わるので、そしたら投稿ペースが上がると思います。

 後、オリキャラに関するアンケートの選択肢を少し変更したので、古い方をやった人はもう一度確認してもらえると助かります。


「さてと、どうするかなぁこれ」

 

 アリスは、影胤からの仕事を果たそうと未踏査領域の目的地に着いてグリューネワルトに作って貰った音響手榴弾を使い、ガストレアを集めたのだが、

 

「集まりすぎだろ…………」

 

 アリスはステージⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳが入り交じった100を越える群れに囲まれていた。

 

 それもそのはず、人の近くに転がして爆発させると、二、三分はほぼ完全に耳が聴こえず、数時間は耳鳴りが止まないほどの威力をもった音響手榴弾である。

 

 数キロ先まで鳴り響いて、その範囲内にいるガストレアが大挙してやってきたのである。

 

 民警で言うならば、IP序列1000番台であろうと生存率は0%であろうこの状況下でもアリスはいたって落ち着いていた。

 

「帰ったらもう少し威力を抑えたやつ作って貰おう」

 

 そう言ってアリスはずっと手に持っていた太刀『狐龍刀(こりゅうとう)』を抜き放った。

 

「こっちのほうが雑魚には効果的だしね」

 

 その言葉を理解したのかは定かではないが、ガストレアはアリスに向かって、猛然と突進を開始した。

 

 ガストレアはステージが進めば進むほど、様々な生物のDNAがまざって、元のモデルが全くわからなくなっていく。

 

 ステージⅢを越えると、もう外見的な特徴によっての判別はほぼ不可能だ。

 

 そして、例外なくガストレアは、『ステージの数=強さ』と言われている。

 

 何故なら、ステージが進めば進むほどに、ガストレアは巨大になっていき、その巨体を支える為により力強く、より硬くなっていくからだ。

 

 その中で、上位に当たる推定ステージⅢの数メートルの巨体のガストレアとアリスが交錯し、ガストレアがずれた(・・・)

 

 周りのガストレアは何が起こったかわからない様に、顔をしばらく見合せていたが、アリスが振り抜いた狐龍刀が紅く染まっているのと、ガストレアの切断面が異様に綺麗に切れているのを見て、ようやくアリスが斬ったのだと理解した。

 

「ふふふ、まだ一体が逝っただけでしょ? まだ百体はいる。さあ、もっと立ち向かって来いよ! 手足が無くなってもお前らなら生やせるだろ? さあ、お楽しみはこれからだ。ハリーハリーハリーハリーハリーハリー!」

 

「クゥゥゥン!!」

 

「みゃぁぁぁ!!」

 

「テケリ・リ、テケリ・リ!!」

 

 今のアリスの威圧感溢れる某チート吸血鬼の様な言葉に様々な鳴き声…………と言うか悲鳴を上げながら全てのステージⅠと数体のステージⅡのガストレアは逃げ去ってしまった。

 

 …………最後の鳴き声は聞こえなかったことにしよう。

 

 しかし、アリスは大漁のガストレアが逃げ去ったのを見て、

 

「あ、やっちゃったよ。()が減っちゃったよ。揃いも揃って皆ビビりだなぁ」

 

 むしろ残念がっていた。

 

「じゃ、続けよっか♪」

 

 

 クギャァァァ!!!

 

 

 その日一日はガストレアの悲鳴が響きわたっていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ブゥゥゥン ブゥゥゥン

 

 

「なんか用? 影胤」

 

『いや、仕事を頼んでおいて悪いのだが、少しこっちに戻ってきて手伝ってくれないかい?』

 

「影胤と小比奈ちゃんだけでも大抵のことはなんとかなると思うんだけど、なんかあったの?」

 

『いや、少し蓮太郎と話がしてみたくてね。『七星の遺産』を奪取するついでに、私が蓮太郎と接触するから、その間、他の民警どもを引き付けておいてくれ。ガストレアの駆除は後回しで構わない』

 

「ガストレアならもう、あらかたやっちゃったよ」

 

『…………』

 

「ガストレアならもう、あらかたやっちゃったよ」

 

『…………』

 

「ガストレアな」

 

『いや、もういい。…………いくらなんでも速すぎないかい?』

 

 アリスが言った通り、既に周りにはガストレアが大漁に事切れた状態で転がっていた。

 

『威圧的に少しだけ(・・・・)叫んだら、半分位逃げちゃったから、そこまで殺ってないけどねー』

 

 嘘はついていない。ただ、基準がアリスの感覚になっているせいで、おかしく感じるのだ。

 

「とにかく戻ればいいんでしょ?」

 

『ああ、明日決行だから急ぎ過ぎ無くてもいいぞ』

 

 

 ピッ

 

 

「蓮太郎と接触ねぇ。仲間への勧誘は失敗したから、もう興味は失せたと思ってたんだけど、なにか思うことでもあったのかな?」

 

 アリスは多少その場で思考に耽っていたが、周りの大漁のガストレアの死体に目を落とすと、

 

「まあ、その辺はあとで本人に聞けばいっか。それよりもまずは…………」

 

 

 

 

「いただきます♪」

 

 

 

 

 

 アリスが東京エリアへと帰還を開始したとき、既にその場にはガストレアの痕跡はほとんど無かった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「パパ、アリス斬っちゃだめ?」

 

「だめだといつも言ってるだろうが」

 

 翌日、影胤はアリスとの合流地点であるアリスの寝床(外周区の廃屋)を訪れていた。

 

「つまんなーい」

 

 しかし、早くも小比奈が退屈していたのだった。

 

「影胤? もう来てたの…………って小比奈ちゃん何してるの?」

 

 部屋の隅っこで体育座りをして、ひたすら床に「の」の字を書いている小比奈を見てアリスは少し引いていた。

 

「この子はじっとしてることが大嫌いでね…………本当に困った事だよ」

 

 こりゃ暗殺者には徹底的に向いてないなとアリスは思った。

 

「それで? なんで蓮太郎と接触するの?」

 

「ああ、彼の所の社長が私の後援者について嗅ぎまわっていてね。正直うっとおしいし、後援者からも早く片をつけろと催促されたものだからね」

 

「つまり見せしめ(・・・・)ってこと?」

 

「まあ、平たく言えばそうなる」

 

 アリスは少し考える素振りを見せたが、

 

「ま、私は邪魔が入らない様に他の民警の妨害してればいいんでしょ?」

 

 と、呆気からんとした様子で言ったので、流石の影胤も驚きを禁じ得ない様に、

 

「…………君は蓮太郎君が死んでもいいのかい?」

 

「私の持論の一つに『引き金を引いていいのは、引き金を引かれる覚悟がある者だけだ』でね、まあ、『人を殺していい者は、殺される覚悟を持っている者だけだ』みたいな感じで、似てるものも結構あるけどねー」

 

「随分とドライな考え方だね」

 

「お互い様じゃない?」

 

 ふふふふふ、と怪しげな笑い声を互いに上げると、後ろから、

 

「…………まだー?」

 

 と低い声で小比奈が言ってきたことで、二人は冷や汗をかいて話を早めに切り上げることにした。

 

「…………それで? 必要な物は?」

 

「SVDドラグノフ狙撃銃と狙撃するためのヘリ。人員はこっちで用意するから要らない」

 

「OK。用意しておこう。後、今から拠点に帰るのと何だし、止まっていってもいいかね?」

 

 アリスは「いいよ」と、言おうとしてから思いとどまり、小比奈の方をじっと見つめるてから、

 

「条件付きで許可してあげる♪」

 

 そんなこんなで夜は更けていった。

 

 え? その後どうなったかって?

 

 簡単に言うと、二人は泊まっていって、小比奈は条件を呑んだ影胤を恨みのこもった目でみてたよ⭐




 アリスはバトルジャンキーではないので、積極的に戦闘はしないし、むしろ避けることも多いです。

アリス「苛ついてボコる時もあるけどねー」


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サポート

 私は補講を終わらせたぞジョ⭕ョー!


 …………とまあ、そう言うことで、補講などを全て終わらせたので、投稿ペースは上がると思います。

 え? 課題? 

…………………………………………………………………………何を言ってるのかわからないなぁ


「白狐さん! 準備完了しました!」

 

 アリスは狐のお面をかぶった状態で影胤が用意したヘリに乗っていた。

 

 アリスが用意した人員とは、勿論、五翔会の一枚羽根の者である。

 

 ちなみに、アリスの名前は一枚羽根の者達には知られていないし、アリスの素顔は五翔会の中でも本の一握りの者しか知らない。

 

 理由は特にないが、「顔バレしてないほうが仕事しやすそうだから」と一応言っている。

 

「はいよー」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「うわぁ、蓮太郎も延珠もヘリから飛び降りるとか無茶するなぁ」

 

 SVDドラグノフ狙撃銃のスコープを覗きながら、アリスは状況を観測していた。

 

 すると、丁度蓮太郎と延珠がモデル・スパイダーのガストレアを倒した所だった。

 

 

 ブゥゥゥン ブゥゥゥン

 

 

「影胤からのメールか」

 

 ヘリの中は以前のヘリと比べると格段に静かになってほいるものの、こうした場所では、音が聞こえない可能性もないではないので、電話ではなく、メールがきたのだった。

 

『そろそろ始めてくれ』

 

 それだけ言うと電話は切れてしまった。

 

「へいへい」

 

 そう言うとアリスは、急に無表情になり、まるで感情がない様になった。

 

「…………狙い撃つぜ」

 

 まあ、危険なネタを呟いたのだが。

 

 

ーーーーーーーーー民警sideーーーーーーーーー

 

 

「速くしろ! あっちから音が聞こえてきた!」

 

 ガストレアの目撃情報を元に続々と民警は集まっていた。

 

 そんな中、蓮太郎がモデル・スパイダーのガストレアを倒した(他の民警はまだ倒されたとは思っていない)音が聞こえてきたのだから、当然の如く民警達はその方向に集まっていた。

 

 このままでは蓮太郎のいる場所にたどり着くのも、時間の問題だと思われたが、

 

 

 チュインッ バァン

 

 

「ぎゃあ!」

 

 一番前を走っていた民警ペアのプロモーターの右の腿が撃ち抜かれた。

 

 だが、大人数の民警達が驚いた理由は、

 

「おい! 今、完全に着弾してから銃声が聞こえてきたぞ!」

 

 それもそのはずだ。

 

 スナイパーライフルの弾速は秒速1000m近くまで達するものも存在するのだ。

 

 アリスが現在使用しているSVDドラグノフ狙撃銃の使用している弾薬である7.62×54mmR弾でも、およそ秒速約850mほどもあるのだ。

 

 完全に音速を越えている。

 

 そして、アリスが狙撃している地点は約1km離れている地点である。

 

 だから着弾の後に銃声が聞こえてきたのだった。

 

 そのため、民警は世界でも一握りの達人でもない限り不可能な芸当に直面し、パニックで思考能力が鈍ってしまっていた。そのため、遠くに小さく見えるほどにしか見えないヘリを見つけることは出来ず、何処から撃たれるかわからないという恐怖に、イニシエーターが錯乱してしまったりと、動くに動けない状態になってしまっていた。

 

 しかし、アリスはそれを残念そうにしていたのであった。

 

 

ーーーーーーーーーアリスsideーーーーーーーーー

 

 

「はぁ、つまんなーい。幕切れが呆気なさ過ぎ。2点」

 

 状況は早くも動けなくなった者、逃げ出した者ばかりになっており、それは与えられた仕事を既に完遂したことを表していたのだが、アリスはとても不満げで、民警に対して酷評をつけていた。

 

「熱血系のそれでもなんとかする! とか言うのは流石に引くけど、誰一人として立ち向かわないって、仮にも聖天子からの直依頼を受けた者とりてどうなのよ」

 

「白狐さん、どうしますか?」

 

「いい、興醒めだ。帰ってくれ」

 

 そう五翔会の一枚羽根の者に伝えて帰投しようとしたとき、アリスは狙撃銃のスコープで興味深い物を見た。

 

「あれは…………蓮太郎? 殺したって影胤から連絡きたんだけどな」

 

 アリスが見たのは川に流されていく蓮太郎の姿だった。

 

「あれは…………まだ生きてるっぽいな。全く、蓮太郎は見てて飽きないな」

 

 フフフ、と笑いアリスはその場を後にした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「二日後ステージⅤガストレアの召喚を実行する。なにか障害になりそうなものに心当たりあるかい?」

 

 集合地点にて合流すると影胤はそう言ったのだった。

 

 アリスは少し考えた後、

 

「…………蓮太郎だね」

 

 と答えた。

 

 その答えに影胤は意表を突かれた様で、

 

「…………彼は確かに死んだはずだ」

 

「脳天撃ち抜いた? 首を切り落とした? 心臓を破壊した? 死んだことを確かめた?」

 

「いや、だが出血多量の状態で川に落ちたんだ。助かる確率なんて0%に等しいだろう」

 

 すると、アリスは懐から携帯を取り出して、

 

「さっき、蓮太郎のイニシエーターの延珠から泣きながら電話がかかって来てね。生死の境をさまよっている状態らしい。そして、多分もう一度立ち向かって来るだろうね」

 

 影胤は神妙な顔をしてから、首を竦めて「用心するとしよう」とだけ言った。

 

「それで? 後は何をすればいいんだ?」

 

「いや、今回はもうここまででいい」

 

 そう言うと、影胤は去っていった。

 

「ふむ、この事件どう転がっていくのかな? 蓮太郎が影胤勝てる確率なんて0%に近いどころか0%そのものなんだけど。…………まあ、明後日私も行って見るとしようか。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 外周区の某所

 

 そこは地下に存在していて、とても高度な研究所だと一目で分かる様な立派な機材があった。

 

 それ以外にも特殊な金属加工が可能な設備まであったのだった。

 

「ふう、そろそろ研究も行き詰まってきたかな」

 

 そこに一つだけあるデスクにアリスはいた。

 

 恐ろしく難解なデータや一般人はおろか、民警ですら見たこともないような武器を無造作に机の上にぶちまけて。

 

「殺傷武器の開発は粗方終わったし、非殺傷の物はこれから作って行くとして、問題はガストレアウィルスの研究か」

 

 アリスはイスに座ったまま机に足を上げ、一塊になっていた紙を取り、読み始めた。

 

「いくら私の体(実験材料)にはこと書かないからと言っても、四賢人ですら作れなかったワクチンの開発は不可能か。実験の過程で私の体の中のガストレアウィルスを変化させることに成功した(・・・・・・・・・・・・)とは言え、これを使っても(・・・・)成功確率一桁だしね」

 

 アリスは頭をフル回転させるが、特に打開策などは思いつかなかったのだった。

 

「…………寝よう」

 

 一時間ほど考え込んでいたアリスだったが、眠くなってきたのか、そのまま寝てしまったのだった。




 頭のランキング

グリューネワルト>その他四賢人>アリス

 といった感じで、アリスは相当頭いいです。まあ、菫とかには勝てないけど、ガストレアの肉体などを大量に用意出来るので、それに近い成果を上げられてるのです。


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「今、幸せ?」

 思ったより執筆スピード上がんなかった…………

 そしてサブタイが思い浮かばなくなってきた

orz


 アリスが未踏査領域についた頃には、民警の乗っているヘリが飛んでいるのが見えた。

 

「…………蓮太郎、まだ戦意が残ってるかな? 普通はあれだけボコられたら立ち向かわないだろうけど」

 

 しかし、アリスは口ではそう言いつつも、蓮太郎が絶対に再び影胤の前に立ちはだかるのを予感していたのだった。

 

「まあ、具体的には分からないけど、蓮太郎と影胤はなんらかの繋がりがあるらしいし」

 

 少し影胤と蓮太郎の接点について思案してみたが、特にこれといったことは思い浮かばなかった。

 

「…………今、ヘリから降下したの蓮太郎だよな。話題にしてたそばから現れるとか、エスパーかよ」

 

 そう言ってから、歩き出してしばらくたった頃、アリスの目にそれは映った。

 

「青白い光?」

 

 それは短く点滅するライトパターンの様に見えるものだったが、未踏査領域に出るに当たって、解放した鋭敏な五感を騙すことは出来なかった。

 

「腐臭と…………死臭? なんらかのガストレア…………推定ステージはⅢって所か」

 

 それがガストレアだと言うことに気が付いたアリスは触らぬ神に祟りなしとでも言うかの様に迂回していこうと踵を返したその時、

 

「将監さん、あのライトパターンは」

 

「ああ、味方かも知れねぇな。一応行ってみるか」

 

 そう言ってガストレアに近づいていくペアがいた。

 

(おいおい、普通に考えたら、あんな色のライト誰も使ってないことくらい分かるだろ!)

 

 嫌な予感がして、危険をおかしてペアに忠告しようとしたが、既に手遅れだった。

 

 

 ドォォォン!

 

 

「なっ!?」

 

 民警のペアがガストレアの罠にかかり、イニシエーターの方が装備していたショットガンの合体装着(アドオン)タイプのグレネードランチャーユニットから榴弾を発射したのだった。

 

 その結果…………

 

 

 グォォォ!!!

 

 

「クソッタレ! 巻き込まれ損だよ畜生!」

 

 大量のガストレアが集まって来て、その約半数がアリスに向かって来たのだった。

 

 アリスとしてはあまり目立ちたくないと思っているので、ガストレアを皆殺しにして誰かに姿を見られるのは避けたい為、逃走を選択したのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ、占いに生存運って項目があったら多分、『生きる事を諦めましょう』って書かれるレベルだな。…………不幸だ」

 

 某幻想殺しの様なことを言いながら未踏査領域を歩いていると、防御陣地(トーチカ)を見つけたのだった。

 

 ガストレア大戦時に築かれた防御陣地(トーチカ)はそこら中にあると言うほど多い物ではないが、さして珍しい物でもないので、アリスはスルーしようとしたのだが、

 

「ん? 血の匂い?」

 

 それは防御陣地(トーチカ)の中から匂って来ていた。

 

 ガストレアかも知れないと思い、何時でも《狐龍刀》を抜ける様に居合いの構えを取ろうとしたが、同時にパチパチと薪が()ぜる音が聞こえて来たのでガストレアではないと分かった。

 

 しかし、危険な人物ではないという保証はないので、愛用のバタフライナイフを構える。

 

 そしてそのまま突入すると、いきなりショットガンを突き付けてきたので、銃口近くを手で払い照準を反らし、相手ごイニシエーターであることを確認し、持ち前の身体能力と体術で瞬時に後ろに回り込み、首にナイフを突き付けた。

 

「なっ!!」

 

「はい、動かないでねー」

 

 相手の無力化を済ませ、改めて相手の姿を見てみたアリスは片腕にある獣にでも噛みつかれた様な傷口を見て、

 

「ちょっと、怪我してるじゃん! 銃おろしてこっち向いて。取り合えず応急処置するから」

 

「えっ? いや…………」

 

「いくら『呪われた子供達』でも痛いものは痛いんだから!」

 

「いや、私あなたに銃口向けて…………」

 

「つべこべ言わない!」

 

「…………はい」

 

 これがアリスと千寿夏世のファーストコンタクトだった。

 

 

ーーーーーーーー応急処置中ーーーーーーーーー

 

 

 アリスは応急処置している間にこれまでの夏世の状況聞いた。

 

「ふーん、じゃあ森であいつに榴弾撃ったの夏世なんだー」

 

 ジト目で言ってくるアリスに夏世は気まずそうに目をそらした。

 

「はい…………なんというか…………すみません。て言うか、殺人よりもそっち?」

 

 現在の状況を簡単に説明すると、夏世は正座させられてアリスに怒られていた。

 

「まあ、過ぎた事はもう良いけどさ」

 

 しゅんとして涙目でうつむく夏世を横目で見ながらアリス。

 

 しかし、その怒った態度とは裏腹に、アリスの思考状況はというと、

 

(なにこの生き物、かわい過ぎる! 癒される~)ゴクリッ ハァハァ

 

 性別と年齢次第ではブタ箱間違いなしの状態になっていた。

 

 前にマンホールチルドレンと一緒に居たときにもこの挙動不審な所はあったのだが、これは一種の病気であった。

 

 人々はこの症状の病気をこう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『RO・RI・KO・N』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、アリスはその性別と年齢の関係から犯罪にはならない…………その点においては、他の『RO・RI・KO・N』よりも悪質だと言える。

 

「…………ちょっとこっち来てくれる?」

 

「?」

 

 夏世が訳もわからないまま取り合えず寄っていくと、

 

「うわぁ! なにするんですか!?」

 

 アリスが膝の上に夏世を乗せ、後ろから抱き締めた。

 

 夏世は困惑していて、アリスは恍惚とした満足げな顔をしていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 しばらくそのまま夏世をなで回したり、頬擦りしたりしていたが、ようやく本題に入ろうとしていた。

 

「まあ、この体勢はいいとして」

 

「良くないですよ!」

 

 もちろんその体勢のままで。

 

 そして渋々アリスが夏世を離した。

 

 すると、一転してアリスは真面目な顔になり、夏世も雰囲気で察したのかだまって話を聞きはじめた。 

 

「夏世はさっきプロモーターに命令されて途中で会った民警ペアを殺したって言ったよね?」

 

「っ! …………はい」

 

 一気に暗い顔になった夏世を見て、アリスは続きを話はじめた。

 

「で? 夏世自身はどう思った?」

 

「どうと思ったかと言われても、イニシエーターは殺す為の道具です。そこに本人の感情など関係ありません」

 

 するとアリスは、ため息をついてから質問を変えた。

 

「じゃあ、端的に言って…………今、幸せ?」

 

「っ!! ………………………………ですか」

 

「そんな小さな声じゃ誰にも届かないよ。もっと大きい声で言ってごらん」

 

 アリスが夏世に優しく諭す様に言ってあげると、夏世の中の何かが崩れた。

 

「幸せなわけないじゃないですか!」

 

 俯き、下を見ながら夏世は叫ぶ。

 

 地面をみると、水滴が落ちた様な跡がいくつもあった。

 

「私だって殺人なんかしたくないです! だけど、プロモーターに逆らったりしたら…………。それともあなたは私を今すぐ助けてくれるんですか!? 無理なんですよ! 誰にもどうすることも出来なっ…………!」

 

 その言葉の続きはアリスが夏世を強く抱き締めたことによってつづけられることはなかった。

 

「…………そうだね。私には少なくとも今すぐ夏世を助けてあげたりすることは出来ない。だけどね、夏世を今こうして慰めてあげる事くらいはさせてよ」

 

「うぅ…………うわぁぁあん!!」

 

 夏世はしばらくアリスにすがりつく様に泣き続けた。




 アリスが『呪われた子供達』に対して優しいのは半分は『RO・RI・KO・N』のせいで、もう半分は時機に明かします。

 後、三、四話で一巻終わります。


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危機

 今回は早く仕上がりましたよ!

 後、細々とした呼び方や名称に関するアンケートを活動報告にて実施するので、よければご協力ください。


「うぅ、すみません。みっともない姿を晒してしまって」

 

 夏世は一通り泣き続けると、泣き止み、今度は人前で泣いた事を理解し、顔を赤くして恥ずかしそうにしながら謝ってきた。

 

「別にいいから。ストレス溜まったままて過ごし続けるといつかパンクしちゃうからね」

 

 ちなみに、アリスはいまだに夏世を抱き締めたままだ。

 

 するとそこに、

 

「動くんじゃねぇッ」

 

 愛用のXD拳銃を構えた蓮太郎が飛び込んで来たのだった。

 

 それを見たアリスはというと、

 

(やべっ! 見られちゃったよ。どうにかして逃げないと)

 

 逃走する気満々だった。

 

「お前、アリスか? 何でこんな所にいるんだよ」

 

「あー、えーっとねぇ。…………人に話せないような内容の仕事しているもんで、聞き出すのは諦めて♪」

 

 と、茶化す様に言ってみたが、

 

「誤魔化すな。まさかお前、蛭子影胤の協力者だったりしないよな」

 

 有無を言わさぬ迫力でアリスをにらんでくる蓮太郎に対して、半端な嘘では通じないと思い、

 

「裏の仕事で、依頼人に元陸上自衛隊東部方面隊七八七機械化兵士特殊部隊『新人類創造計画』の蛭子影胤のデータを取って来いって言われてね。まあ、金持ちの道楽だよ」

 

 蓮太郎はなおも懐疑的な目を向けたが、少しして、諦めた様に銃を下ろした。

 

「おい延珠、来てもいいぞ」

 

 と、出口の方を向いて言うと、延珠が入って来て、

 

「おい蓮太郎、何か話し声が聞こえたが何が…………ってアリス!?」

 

「あ、あははは。はぁ」

 

 目撃者が増えていくことにため息をつかざるを得ないアリスだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「じゃあ、私はそろそろ行くから」

 

 少し延珠と話したあと、アリスが出ていこうとすると、

 

「待て、俺はまだ納得してないぞ。ここにいる理由を話して貰うまで俺の監視下に入ってもらう」

 

「…………蓮太郎って蛭子影胤を倒しに来たんだよね」

 

「ああ、それがどうかしたのか?」

 

 アリスは無表情に、

 

「蛭子影胤って機械化兵士なんでしょ? それを倒す為には少しでも多くの戦力があった方がいいはずだ。もしかしたら蛭子影胤と戦闘になった人達が全滅するかも知れない。蓮太郎はそれでもいいのかな?」

 

「っ! お、俺は…………」

 

 その時、夏世の傍らに置いてた黒い受話器の様なものからノイズと共に野太い男のうなり声が聞こえてきた。

 

 それに、蓮太郎がはっとしている間にアリスは素早く武器を回収して走り去っていった。

 

「な! お、おい! 待ちやがれ!」

 

 蓮太郎の声を背に浴びてアリス森の中に消えていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 アリスが蓮太郎のもとから走り去ってから、しばらくたった。

 

 アリスは黒いイヤホンの様なものを耳にあてていた。

 

『お前は…………ッ。伊熊…………将監か』

 

 それは走り去る時のどさくさに紛れて蓮太郎に取り付けた自作の超高性能盗聴機だった。

 

 盗聴機から聞こえてくる声から状況を察するに、蓮太郎が到着した頃には先見隊は全滅していたらしい。

 

「あーあ、だーから言ったのに」

 

 アリスは興味無さそうに呟いた。

 

 それから少し経つと、蓮太郎が影胤に接触したらしく二人の声が聞こえてきた。

 

 今回アリスが仕事を達成してもなお、未踏査領域に来たのは、影胤と蓮太郎の情報を手に入れる為だった。

 

 蓮太郎の方は最初の頃は警戒する価値なしと、判断していたが、得たいの知れない予感の様なものを感じて手に入れておいて損はないだろうと考えたからである。

 

 そして、丁度ネタばらしが始まったようだ。

 

『俺も名乗るぞ影胤。元陸上自衛隊東部方面隊七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』里見蓮太郎』

 

「何!?」

 

 この蓮太郎の言葉にアリスはなんの芝居もなしに本心で驚いた。

 

「…………私が感じてた嫌な予感はこれか。何が危険性なしだよ。相当なものじゃないか。影胤の斥力フィールドを破って充分な衝撃をあたれられるなんて…………」

 

 アリスが蓮太郎の情報を手に入れ、イヤホンを一時的に外した時、それは聞こえた

 

 

 ーーーーーー

 

 

「ん? これは…………ガストレアの仲間を呼ぶ周波数帯? …………行ってみるか」

 

 嫌な予感がしたアリスはその方向に駆けて言った。

 

 

ーーーーーーーーー夏世視点ーーーーーーーーー

 

 

「蓮太郎さん、早く行ってください」

 

 私はそう言って徹底抗戦の構えをとった。

 

「ここは任せる。ガストレアを止めろ。ただし無理はすんじゃねぇぞ」

 

「安心してください、劣勢になったら逃げますので」

 

 嘘だ。

 

 私が逃げたりしたらそれだけで蓮太郎さんはガストレアの波に飲まれて確実に死ぬ。

 

 …………そして、逃げなければ恐らく私が死ぬ。

 

 …………私自身、何故会って間もない蓮太郎さんを命を賭けてまで守ろうとするのかは分からない。

 

 だけど、蓮太郎さんとアリスさん。この二人だけは死なせたくない。

 

 蓮太郎さんは穴だらけだけど正しい言葉を私に言ってくれた。いつもなら反論なんて直ぐに出来るのに、何故か出来なかった。

 

 アリスさんは私に優しくしてくれた。私が何を言っても、人を殺したことがあると言っても、私の事を受け入れてくれた。

 

 どちらもそれだけと言ってしまえばそれまでだけど、私は何が何でも守り抜くと決めた。

 

 それなのに、

 

「ぐ、あぁぁぁあっ!!」

 

 左腕を噛みちぎられた。

 

 既にショットガンは機関部から叩き折られた。

 

 かなりの量の体液も送り込まれてしまった。

 

 意識の混濁は見られないが、既に体はほとんど動かない。

 

 なんの確証もないが、蓮太郎さんはきっとあの殺人鬼を倒してくれるだろう。

 

 アリスさんはどうしてるのか分からないが、きっと無事だろう。

 

 ガストレアを全部倒しきりたかったが、もう無理なようだ。

 

 無くなった左腕が再生を始めている。

 

 …………この様子なら体内侵食率も50%を越えているだろう。

 

 これで私が生き残る道は無くなった。

 

 あの二人さえ生きていればいいと思ったが、少しだけ欲を言うと、

 

「もっと…………生きていたかったなぁ」

 

 その時だった。

 

 

 グォォォォォ!!!

 

 

 私の目の前に真っ白な龍が現れて、私を助けたのは。



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選択

 今回は時間かかった割には短いです。

 何分、色々と初挑戦立ったもので。


 夏世の危機に表れた白い龍の様なガストレア。

 

 それは勿論アリスだった。

 

(ガストレアが仲間を呼んでるから嫌な予感がして来てみれば、とんだ大惨事だな)

 

 そこからは、もはや戦闘と呼べるものは繰り広げりれてはいなかった。

 

 蹂躙、殺戮と言った表現の方が何倍もしっくりくる。

 

 

 グォォォォォ!

 

 

 考え事をしているアリスを見て、隙が出来たと思ったのか、一気に10体程がアリスに向かって突っ込んで来た。

 

 いくらなんでもステージⅡとⅢ、合わせて10体の同時攻撃には耐えきれないだろうと思ったのだろうが、アリスの圧倒的な力はその様な打算を吹き飛ばす程のものだった。

 

 一番先頭のガストレアに噛みつき、そのまま持ち上げる。

 

 ステージⅢと思われるガストレアは助けを求めようと、自らの後ろを走っていたガストレアの方に首を向けた。

 

 しかし、そこにいたのはアリスの九本の鋭利な尻尾、『迅尾』に貫かれ絶命しているガストレアの姿だった。

 

 そして、そのままそのガストレアは首を食いちぎられ、絶命した。

 

 その隙にステージⅠのシカらしきガストレアが角を向けて突っ走って来た。

 

 ステージⅠとは言え、岩程度なら砕ける程の威力の突進をアリスはかわさず、当たった。

 

 しかし、角は砕け散り、アリスにはダメージはこれっぽっちも入ってなかった。

 

 その光景を見て、ようやく勝ち目が無いことに気づいたのか、我先にと逃げ出すガストレアの群れ。

 

 しかし、アリスが夏世をここまで傷つけたガストレアをみすみす見逃す訳もなく、森の中に逃げ込んだガストレアは一体残らず駆逐されたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 夏世が龍のガストレアが逃げ出したガストレアを追いかけて行った方向を見ていると、人影がこちらに走ってくるのが見えた。

 

「アリス…………さん」

 

「夏世、大丈夫!?」

 

「逃げて下さい。恐ろしく強いガストレアがさっきここに来たんです!」

 

 夏世はアリスに危険が及ばないようにと教えたつもりだったが、そのガストレアの正体が自分自身の為、アリスはついつい苦笑をもらすのだった。

 

「そいつなら大丈夫だよ。それよりこの傷…………」

 

「…………おそらく体内浸食率が50%を超えています」

 

 アリスは俯いて、何事かを考えたる様子を見せてから話始めた。

 

「…………それで夏世はどうしてほしい?」

 

「…………アリスさん、お願いします。人のまま、私を死なせてください」

 

 アリスはその言葉を聞き、悲しげに笑いながら語りかけた。

 

 

 

 

 

「もし、万が一にも、ほんの0.1%でも生きていられる可能性があるのなら試したい?」

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 夏世がその言葉の意味を理解するのに暫くの時間がかかった。

 

 何故なら、今現在2031年でも、ガストレアウィルスへの特効薬や治療薬と言ったものは存在せず、浸食抑制剤ですらも、あくまで抑制することしか出来ないからである。

 

「本当に…………そんな方法が存在するんですか?」

 

 夏世が信じられないと言った顔をしていたので、アリスが補足をした。

 

「成功率は一桁。もしも失敗すれば地獄の様な傷みだけを感じてそのままガストレアになってしまう危険な賭けだよ」

 

 アリスの説明を聞いて夏世は即座に決意した。

 

「お願いします。その方法を試してください」

 

 アリスはやさしく微笑みかけながら、

 

「本当にいいの? 後悔しない? もし生き残れたとしても、今まで通り過ごしていくことは不可能だよ。それでも?」

 

「はい。私はまだ死にたくありません!」

 

 その言葉を聞き、アリスは妖しい笑顔を見せ、口元からは鋭く尖った犬歯が見えていた。

 

 そして、そのまま夏世の顔に自分の顔を近づけ、そのまま唇を重ねた。

 

「!!??!?」

 

 夏世は何をされているのかようやく理解が追い付いたらしく、アリスを引き剥がそうとするが顔を両手でがっちりと固定されていて、その上自分は体を満足に動かす事が出来ない状態なので、抵抗らしい抵抗すらすることができなかった。

 

 そうしている内にアリスが自分の口の中に舌を差し入れてきて、そのまま血の混じった唾液を流し込まれ無理矢理飲み込まされた所でようやく解放された。

 

 すると、

 

「ぐ…………あぁあぁぁぁ…………!!」

 

 その瞬間から全身に激痛が走り、自分の体が何か別の物に変えられていくような感覚を感じたのだった。

 

「夏世が生きていられるかは夏世次第だよ。生きていたければ頑張って耐える事だね」

 

 アリスはそう言って夏世の首筋に噛みつき体液を流し込んでいった。

 

 そして、そのまま夏世の意識は闇へと沈んでいった。




 デート・ア・ライブの二次創作も始めたけど、特に更新が劇的に遅くなることなどはないので安心してください。


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真の目的

 なかなかアイデアが出なくて遅くなりました。


「さてと、影胤の方はどうなったのか見に行ってみるか」

 

 気絶した夏世をいわゆる『お姫様だっこ』して持ち上げて、アリスは影胤のいると思われる方向へと走りだした。

 

 そしてその道中、思い出したかの様に盗聴機を使用して状況を把握しようとすると、

 

『…………そうか…………わた……き…………たのか』

 

「? 故障か?」

 

 いまいち音が伝わらないのをアリスが不審に思っていると、

 

『隠禅・哭汀・全弾激発(アンリミテッド・バースト)ッ! ザザー』

 

 最後の蓮太郎の叫びと破壊音でなにが起こっているのかアリスは悟ったのだった。

 

「まさか…………影胤が負けたのか?」

 

 真偽を確かめる為にアリスは速度を上げたのだった。

 

 

ーーーーーーーーー影胤視点ーーーーーーーーー

 

 

 …………私はどうなったんだ?

 

 確か蓮太郎君と死闘を繰り広げて…………

 

「はっ!?」

 

「あ、パパー!」

 

 私が目覚めてから最初に視界に入り込んで来たのは小比奈の姿だった。

 

「どっか不具合とか、不自然な感じがある場所はない?」

 

 私に声をかけて来たのは白いロングコートを脱ぎ、ズボンの裾を捲った姿のアリス君だった。

 

「ああ、不自然な箇所はない。…………私を引き上げてくれたのはアリス君かい?」

 

「そうだよ。お陰でびしょびしょだよ」

 

「手当してくれたのもお姉ちゃんだよ」

 

「そうか…………助かっ…………お姉ちゃん?」

 

 なにかおかしな呼称が聞こえてきた気がする。

 

「いやー、お姉ちゃん…………いい響きだ」

 

 アリス君がうっとりとした様子でそう言った。

 

 …………なにがあったのかは聞かないでおこう。

 

「じゃあ、私はそろそろ行かせてもらうよ」

 

「まて」

 

 まだ一番重要な事を聞いていない事を思い出した私は、その疑問をアリス君にぶつけてみる。

 

「ゾディアック…………ステージⅤガストレアはどうなったのだ?」

 

「ああ、あいつなら蓮太郎が『天の梯子』を使って倒しちゃったよ」

 

 その言葉を聞いて私が思った事は悔しさではなく、喜びだったのかもしれない。

 

「ふふふ、そうか…………蓮太郎君が」

 

 視界の隅でアリス君が走り去っていくのが見えるが私は既に蓮太郎君の事を考えていた。

 

「…………小比奈。そう遠くない内に蓮太郎君とは会う気がするな」

 

「今度こそは斬る!」

 

 頼もしい娘の声を聞きながら私は再び眠りに落ちていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 数日後ーー天童の屋敷

 

 

 東京エリア第一区の一等地に立つ天童本家の中の天童菊之丞の書斎。

 

 そこで蓮太郎は天童菊之丞と対峙していた。

 

 蓮太郎が今回の『蛭子影胤事件』の黒幕は天童菊之丞だと訴えていたのだった。

 

「貴様は答えを見つけたと言うのか?」

 

 天童菊之丞のこの問いは蓮太郎に向けられていたものだったが、結果的に答えが出たのは入り口にいるもう一人の人影からだった。

 

「ガストレア新法だろ? 天童菊之丞」

 

 その言葉を聞いた二人は反射的に、弾かれたかの様に銃を人影に向けた。

 

「な!? …………こんな所でなにしてんだよ。アリス」

 

 蓮太郎が言った通り、そこにいた人影はいつも通りに大太刀を持ったアリスだった。

 

「蓮太郎。お前は私が何故、今回の事件に関わっていたかと聞いたよな。なら今答えてやるよ」

 

 大太刀を抜き放ちながらアリスが語り始めた。

 

「私が今回の事件を調べていくつか疑問に思った点がある。大規模な援助とかな。それは天童菊之丞が黒幕だと考えると全て辻褄があうものだった。まあ、本来ならお前が犯人でも私はどうでもいいんだけどさ、一つだけ許せないんだよね」

 

 アリスは霞の構えをとり、太刀の切っ先を菊之丞に向けた。

 

「貴様の勝手な考えにあの娘達を巻き込んでんじゃねぇよ。あの娘達…………『呪われた子供達』に恨みでもあんのか」

 

 アリスの殺意が籠った視線を受けた二人ーー正確には殺意を向けられたのは天童菊之丞だけーーは何時でも引き金を引けるように、蓮太郎に至っては義肢の脚部カートリッジを撃発させる用意までしていた。

 

「まあ、理由はどうでもいい。唯、あの娘達を殺そうとするならーー」

 

 そうアリスが言った時には既に、菊之丞から1.5m程の距離まで接近し、太刀で切り上げようとしていた。

 

「ーーコロス」

 

 その光のない、まるで感情を見せないその赤い目を怖れるかの様に顔をひきつらせて引き金を引いた菊之丞だったが、

 

「…………まさか、銃弾を斬ったのか!?」

 

 そこに立っていたのは無傷で太刀を振り上げた体勢のアリスだった。

 

「抵抗は無駄だ、大人しく死ね」

 

 アリスから再び威圧が放たれた瞬間、

 

「うおぉぉぉ!!!」

 

 蓮太郎が脚部カートリッジを撃発させ、アリスに急接近する。

 

「『隠禅・黒天風・三点撃(バースト)』ッ!」

 

 当たると確信した必殺の一撃。

 

 しかし、

 

「我流戦闘術・速の型零番『刹那』」

 

 その声が蓮太郎の耳に届いた頃には、既にアリスは菊之丞に再び接近していた。

 

「ぐっ! まだだぁぁぁ!!!」

 

 蓮太郎は再び脚部カートリッジを撃発させ、その勢いで自らの体を回転させ、そのままXD拳銃を撃った。

 

「何!?」

 

 流石のアリスもこれは予想外だったようで、蓮太郎が拳銃の引き金を引こうとした瞬間に後ろに飛び退きその銃弾を回避した。

 

 アリスが体勢を立て直し再び構えをとった頃、その状況は振り出しの状態まで戻っていた。

 

 しかし、焦っていたのは蓮太郎達のほうだった。

 

 このままでは押しきられると分かっていたからである。

 

 膠着状態が続き、蓮太郎達にはそれが何時間にも感じられた。

 

 そして、アリスは何かに気づいたかの様に構えを解くと、

 

「…………邪魔が入ったか。今回は見逃してやるが次はないぞ」

 

 そう言ってアリスは背を向けて走り去って行った。

 

 訳が分からずその場に立ち尽くしていた二人だったが、それから数十秒後に聞こえてきた大量のパトカーのサイレンを聞き、ようやく助かった事を実感できたのだった。




 次回は1週間以内に投稿出来る様にします。
 後、我流戦闘術の名前は何か案を下されば変わるかも知れません。


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エピローグ

ハーメルンよ、私は帰ってきた!












すいません。マジ謝るんで見捨てないでください。
色々と用事があったり、執筆意欲が湧かなかったりして遅くなりました。
暫くは早めに更新するのでお許しください。
それでは本編をどうぞヽ(*´▽)ノ♪


 『蛭子影胤事件』は表面上終息したかのように見えた。

 しかし、水面下ではいまだに『蛭子影胤事件』を発端とする『ある物』の交渉が行われているのだった。

 

 

ーーーーーーーーアリスのラボーーーーーーーー

 

 

 

  プルルルル プルルルル

 

 

「もしもし?」

 

『なんのようだ、アリス』

 

「取引しませんか? グリューネワルト教授(・・・・・・・・・・)

 

『取引だと?』

 

「私が欲しいのは貴方がもっている機械化兵士に関わる情報及び研究成果とガストレアウィルスの研究データです」

 

『…………これはまた随分な物を要求してくるじゃないか』

 

「此方からは『ゾディアック・スコーピオン』の組織を1kgだしましょう」

 

『っ! なるほど、今回の事件でどさくさに紛れて回収したと言うわけか』

 

「まあ、手に入る物なら手に入れておくに越したことはありませんからね」

 

『…………2kgだ。それならそちらの提案を飲もう』

 

「じゃあ、交渉成立ってことで♪」

 

 

 ピッ プーッ プーッ

 

 

「ふふふっ♪ なかなかの収穫かな?」

 

 アリスは自らのラボのデスクの回転椅子に座りながら、そのまま後ろへと椅子の向きを回転させ、その視線の先にある培養液が満ちている水槽の中に保管されている『ゾディアック・スコーピオン』の組織5kgを眺めながら満足そうに言ったのだった。

 

 

ーーーーーーーー蓮太郎sideーーーーーーーー

 

 

 聖居で行われている叙勲式。

 蓮太郎はその叙勲式で表彰され、IP序列十二万三千四百五十二位から序列千番まで上昇することが決まっていた。

 本来ならそこで叙勲式は終わる筈だったのだが、蓮太郎が聖天子に対して予定にない質問をし、聖天子がその質問に現状答えられる事だけを答え、今度こそ叙勲式が終わるかと思いきや、

 

「聖天子様。後、一つだけ聞きたい」

 

 蓮太郎が再び聖天子に対して質問をしたのだった。

 

「何でしょうか?」

 

「あの白髪の少女の事だ」

 

 蓮太郎自身はアリスの名前を知っていたが、聖天子はその名前を知らないので蓮太郎はあえてアリスの名前を告げなかった。

 

「お教え出来ることはあの時、全てお教えしましたが、まだなにか?」

 

「あいつがこの事件に関わっていた」

 

「っ!? …………それは本当ですか?」

 

 聖天子は一瞬狼狽したような表情を見せたが、流石は国家元首とでも言うべきか、すぐにポーカーフェイスに戻ったのだが、その声色は固いものだった。

 

「ああ、一度だけだが交戦もした。…………まるで歯が立たなかったけどな」

 

「そうですか…………。分かりました。しかし、今この場で貴方の質問に答える訳にはいきません。いつか時期が来たらお教えしましょう」

 

「ああ、それでかまわない。長引かせて悪かった」

 

 こうして叙勲式は終わったが、蓮太郎の心はもやもやとした気持ちに包まれたままだった。

 

ーーーーーーーーアリスsideーーーーーーーーー

 

 

 アリスのラボでは基本的には『武器の開発』『自身の能力について研究』『ガストレアウィルスの研究』が行われている。

 つまり、実質研究する事が無くなるというのはありえないのである。

 今もアリスはホワイトボードに一般人はおろか、並大抵の研究者では理解出来ないような数式や設計図が所狭しと書きなぐられている。

 ある実験(・・・・)の研究がもう少しで完成しそうになっているこの瞬間もアリスは高速で思考を続け、新しい物を作り続けているのだった。

 そんなアリスの集中力を削いで現実へと引き戻したのは小さな声だった。

 

「ん…………うにゅう…………」

 

「? もしかして夏世?」

 

 声の主はアリスがガストレアウィルスを注入してから数日ほど眠り続けていた千寿夏世だった。

 あの未踏査領域で気絶してからアリスが自らのラボに運びこんこんだのであった。

 

「…………ここは?」

 

 夏世はまだ少し意識がハッキリしない様子でデスクの横に設置してあるベッドから身を起こしていた。

 

「私の研究所だよ」

 

「え? …………アリスさん?」

 

「覚えてない? ガストレアにやられた時の事とか、そのあとの事とか」

 

 アリスに言われて夏世は考え込み三十秒ほどたった後に何かを思い出したかのように顔をあげて、今度は頬を赤く染めて俯いてしまった。

 

「あれ~? なーにを思い出したのかな~?」

 

「そ、それは…………その…………ふきゅう//////」

 

「ふふふふふ、可愛いいねーその反応♪」

 

 そのまま数分程、アリスはにやにやとしながら顔を真っ赤にしている夏世をいじっていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あの…………アリスさん」

 

「んー? 何かな?」

 

 時間が経ち、落ち着いてきた夏世はアリスに疑問をぶつけ始めた。

 

「あの時、私の体内侵食率は50%を越えていた筈です。なのに何故、私は無事なんですか?」

 

 そう夏世に問われると、アリスは難しい顔をして告げた。

 

「…………落ち着いて事実を認識するんだよ」

 

 そう言ってアリスは夏世に手鏡を渡した。

 

「それで自分の顔を見てごらん」

 

 夏世は疑問を持ったままではあったが、言われた通りに鏡を覗きこんでみるとそこには目を赤々と染めた自分の顔があった。

 

「? …………あ、あれ? 戻らない?」

 

 夏世は赤くなっている自分の目を見て、知らないうちに能力を使っていたのかと思い、目を黒く戻そうとしたが、一向に戻らず焦った様に呟き始めた。

 

「あの…………アリスさん? これ…………どういう…………」

 

「夏世…………本当はもう気づいてるんでしょ」

 

 優しく諭すように夏世に問いかけるアリスを見て、夏世は一つの結論に至った。

 

「私が…………ガストレア?」

 

「そう。それが唯一無二の夏世が夏世のままで生き残る方法…………人としての意識を持ったままガストレアになること」

 

 夏世は予想はしていたものの、面と向かって言われるとショックは大きく、思考が停止していた。

 

「夏世をそうしたのは私。だから夏世は私を恨んでもいいんだよ?」

 

 その言葉を聞いて夏世はようやく思考を再開させ始めた。

 

「でもね、一つだけ覚えておいて。夏世は一人じゃないってこと」

 

「一人じゃ…………ない? それってまさか」

 

「そうだよ、私もガストレア」

 

 それを聞いた夏世は全てのことに納得ができた気がした。

 アリスの強さ。人間性を保ったままガストレアにする方法を知ってたこと。そして、自分の窮地に現れたあの白い龍の様なガストレアのこと。

 アリスがガストレアだとしたら、全てに合点がいく事ばかりだったからだ。

 

「夏世?」

 

「…………私はずっと正気を保ったままでいられるんですか?」

 

 夏世はアリスに問いかけていった。

 

「うん。理論上はね」

 

「…………ならいいです。そもそも生きたいと望んだのわ私はですから、アリスさんを責めたり恨んだりするのはお門違いですから」

 

 まだ納得したわけでも。割りきることが出来たわけでもない。だが、夏世は今この瞬間生きていることはアリスのおかげだと思い素直に自分の気持ちをアリスに告げた。

 

「私を生かしてくれてありがとう。アリス」

 

「どういたしまして。夏世」

 

 こうして二人目の人型ガストレアが誕生したのであった。



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間章1.5
新メンバー


 warning! warning! warning !

 百合注意! 苦手な方はラストのスペースが空いているところから先は読まない方がいいです!


ーーーーーーーーアリスのラボーーーーーーーー

 

 

「私の仕事を手伝う?」

 

 夏世が目を覚ましてから数日後。

 アリスのラボで夏世の精密な検査や様々な測定などを行われている最中に夏世は「アリスの仕事を手伝う」と言ってきたのだった。

 

「はい。私も何か出来ることがしたいので。…………ダメですか?」

 

「ダメ」

 

 躊躇なき即答であった。

 

「…………ダメ…………ですか?」

 

 夏世の攻撃!

 上目遣い+涙目+不安そうな声色!

 

「うっ…………だ、ダメ」

 

 アリスは(ギリギリ)耐えた!

 

「…………何でですか?」

 

「…………逆に聞くけど何で私の仕事を手伝おうとする訳? 私の仕事の内容は『殺人』『暗殺』人間の汚い部分を凝縮したようなものだよ」

 

 アリスは痛々しげに話すが、

 

「それでもです。それに何より…………その…………(アリスさんの役に立ちたかったから)

 

「…………」ゴクリ

 

 アリスの自制心に9999のダメージ!

 しかし、アリスは(ギリギリ)理性を保った!

 

「あのー、アリスさん?」

 

「はっ!? だ、大丈夫だよ!(ヤバイぞ、何だよ今の! 誘ってんのか!? もういいの!? 据え膳なの!? 頂いちゃっていいの!?)」

 

 激しく葛藤し、必死に理性を保つアリスだった。

 

「お願いします!」

 

 そう言って夏世はアリスに頭を下げた。

 

「…………私の仕事を手伝うって事は人殺しもするって事だよ」

 

「分かってます」

 

 アリスは暫く夏世と睨みあっていたが、夏世の目に強い意思を感じ、何を言っても考えを曲げないだろうと思い、

 

「分かったよ。但し無理はしないこと。嫌だ、辛いと思ってまでやって欲しいとは私も思って無いからね」

 

「はい!」

 

 夏世の満面の笑みを見たアリスは、ため息をつき、携帯を懐から取りだし(アリスのラボは地下にあるが、電波は通じるように改造されている)何処かへと電話をかけ始めるのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「よし、じゃあ出発!」

 

「ちょっと! 何処行くんですかアリスさん!」

 

 アリスはあれから電話をかけ終わると、夏世を居住区(アリスのラボにはちゃんと寝泊まりできる設備があるスペースが完備されているが、アリス本人は余り使っていない)置いてある私服を私に着せて自分も同じものを着た。

 

 今の格好は白っぽいフード付きのパーカーとズボンといったよく言えばシンプルな、ハッキリ言えば適当に選んだ様なものだ。

 

「あのー、この服は?」

 

「んー? だって夏世は表向き死んだことになってるんだから顔隠さなきゃだし、私もこの髪の色凄い目立つからさー」

 

 そう言いながらアリスは自身の長い白髪を後ろで纏めながら答えた。

 

「あ、後これだけは手離さない方が良いよ」

 

 そう言ってアリスは夏世に小さな箱の様な物を渡した。

 

「何ですか? これ」

 

「カラーコンタクトだよ。目の色は隠さなきゃ私の髪の色より目立ちかねないからね」

 

 すると夏世は蓋を開けて中の黒のカラーコンタクトをじっと見つめ始め、恐る恐ると言った様子で手に取った。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………もしかして怖いの?」

 

「そっ、そんなわけ無いじゃないですか!」

 

 と、夏世は否定するがどっからどう見てもビビってるのが丸わかりである。

 

「ふーん、じゃあ最初だし私がいれてあげるよ」

 

「…………はい、お願いします」

 

 にやにやしながらアリスが言うと、夏世は恥ずかしそうに顔を赤らめながら頼んだ。

 

「あの…………」

 

「ん? 何?」

 

「痛く…………しないでくださいね?」(涙目+不安そうな声色+上目遣い)

 

「…………ゴクリ(…………ゴクリ)」

 

 そこからアリスの記憶は途絶えていた。

 気づくとラボの出口の付近で二人でフードをしっかりと被った状態で立っていた。

 ちなみにカラーコンタクトは二人ともちゃんと出来ていた。

 

 

ーーーーーーーーー喫茶店ーーーーーーーーーー

 

 

「お前、呼んでおきながら一番遅くに到着するってどういう事だよ」

 

 アリスが目的の場所ーーとある喫茶店についたとき、そこには呼び出していた三人が既にこの店での定位置である窓際の角のボックスに集まっていた。

 

「いやー、何か色々あって…………ね?」

 

「いや、『ね?』って言われても」

 

 アリスの返答に反応したのは巳継悠河だった。

 

「でー? 用事って何なの?」

 

 そう聞いて来たのは『ハミングバード』こと久留米 リカだった。

 最初にアリスに話しかけてきた『ソードテール』こと鹿嶽 十五も同じような考えをしていたのか、同調するようにアリスに視線を向けてきた。

 

 この五翔会の中のチームーー通称『アリスチーム』は基本的にプライベートでも仲は良い。

 とは言っても、このチームが結成された頃。つまりはアリスが五翔会に入ったときの頃はとても仲が悪かった…………と言うか殺意を向けあう事すらある程だった。

 それをアリス皆を集めて説得(物理)によってリーダーの座を奪い取り、皆を纏めていき、ここまでのなかにしたのだった。

 喧嘩もないではないが、『喧嘩するほど仲が良い』の範疇に収まる程度だ。

 このメンバーは基本的には五翔会での仕事がない限りフリーである事が多いため、このような急な集合をかけられても大体は集まるのだった。

 

「用件? ああ、それなら…………夏世、何時までも私の後ろにいないで出てきなよ」

 

「うぅ…………はい」

 

 そう言って夏世がアリスの後ろから出ていくと、

 

「「…………どっから拐ってきたんだ(の)?」」

 

「何で拐ってきた前提なんだよ!」

 

 綺麗にハモらせてリカと十五がアリスに言ってきた。

 

「ははは…………で? その子は結局どうしたの?」

 

「新しい仲間(仮)」

 

「「「…………はっ?」」」

 

 アリスの予想外の発言に三人とも綺麗にハモった間の抜けた声を出した。

 

「あー、最初に言っておくと、私は散々止めたし仕事の内容も知って尚、手伝いたいっていってるんだからね」

 

「お願いします! ここで働きたいんです!」

 

 どこの神隠しの台詞だとツッコミが入りそうな事を夏世が言うと、

 

「…………本人が入りたいって言うんだったら別にいいんじゃないのか?」

 

「ちょっと十五!? あんた本気で言ってるの!?」

 

 十五が肯定的な答えをだし、それにリカが噛みついた。

 

「俺たちだって人には話せない様な事情から五翔会にいるんだから、こいつだってそんなもんだろ。見る限り覚悟も出来てるみたいだし、何よりアリスの推薦だ。入れてみる価値はあると思うが?」

 

「それは…………そうだけど」

 

「まあ、僕もどちらかと言えば賛成ですね。最悪、実戦で使い物にならなくてもバックアップ要員としてなら十分入れる理由になるとおもいますけど」

 

「でもこんな小さい子どもを…………」

 

「それでいったらアリスも同じ位だし、君もあまり変わらないじゃないか」

 

 最終的にリカだけが反対するようになり、どう納得させようかとアリスが考えていると、

 

「ダメ…………ですか?」(涙目+不安そうな声色+上目遣い)

 

「…………」キュン

 

「ん? おーいどうした? 急に固まって」

 

「ぜ…………」

 

「「「ぜ?」」」

 

「ぜっっっったいに入れるわよ! こんな貴重な癒し要員を逃す訳には行かない!」

 

 突然態度を急変させたリカに、男二人組が気圧されているなかでアリスは確かに見たのだった。

 ニヤリと笑う夏世を。

 

「(夏世…………恐ろしい子っ!)」

 

 そしてその日はそのままいくらか雑談をしてから解散となったのだった。

 

 

ーーーーーーー東京エリア某所ーーーーーーーー

 

 

「…………まさか影胤が負けるとは思っていなかったわね」

 

「母さん?」

 

 ある場所に二つの人影があった。

 一つは20を過ぎた程度背の高いの女性、もう一つはそれよりもずっと小さな10歳いっているかいないか程度の子ども。

 

「華鈴いくわよ」

 

「うんっ」

 

 二人は人混みに紛れていく。

 

「アリス…………か調べてみようかしらね」

 

 

 

ーーーーーーーーアリスのラボーーーーーーーー

 

 

「ふぅ、今日はなんか疲れたな」

 

「大丈夫ですか? アリスさん」

 

 アリスと夏世はアリスのラボの居住区にいた。

 普段は居住区ではなく、デスクの横に備え付けてある一つのベッドにねているのだが今日からは夏世も居住区に寝ることになった(いままでは検査や暴走などの危険を考え見てちょっとした隔離室の様な場所で寝かせていた)ので、一緒に寝ようと提案してきた夏世に特に反対する理由もないので一緒に寝ることになったのだが、

 

「一緒に寝るって、ベッドもかよ」

 

「ダメですか?」

 

「まあ、いいけどさ」

 

 そう、ベッドまで一緒だったのである。

 驚いたような嬉しいような複雑な心境のアリスだった。

 そして就寝。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリスさん」

 

「何?」

 

「私はちゃんとアリスさんの役に立てるでしょうか」

 

「別にそこまで役に立とうと無理しなくて良いよ」

 

「…………私はアリスさんに命を救われました。だからその分アリスに尽くしたいんです」

 

 夏世がアリスに抱きつきながら言うと、

 

「…………ブツン」

 

「…………へっ?」

 

 アリスは急に起き上がるとそのまま夏世の上に馬乗りになり、

 

「夏世さぁ」

 

「は、はい? 何ですか?」

 

「ずっと今日一日誘ってんの?」

 

「へっ!? いや、そんなこと!」

 

「だからさぁ、これは夏世が悪いんだよ」

 

「ちょっ、あ、アリスさ…………うむぐぅ!?」

 

 夏世が戸惑い、焦っているとアリスは夏世の顔に近づき、そのまま唇をうばった。

 

「んっ」

 

 そのまま滅茶苦茶に暴れる夏世を無理矢理押さえつけ、そのまま舌をねじ込み、暫く堪能してから顔を離した。

 

「ふふふふふ♪」

 

「ちょっ、アリスさぁん、もうこれいじょうはダm」

 

 

 

 

 このあと 滅茶苦茶 ゴソゴソした!

 

 

                第二章に続く




 お気づきの方もいるとおもいますが、オリキャラ結局出すことになりました。すいません。
 今のところ4人程出す予定です。
 アンケートに協力して頂いた皆さんすいませんでした。


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登場人物紹介(オリキャラのみ)

 今年最後の投稿です。
 最後の投稿が登場人物紹介とか(まあ、オリキャラ限定だからアリスだけなんだけど)締まらないと思うかも知れませんが、ちょうど次回から2章の開幕なので切りがいいところで終わらせて貰います。
 連絡
 序章のプロローグの後半部分を大幅に改稿しました。


 登場人物紹介(オリキャラのみ)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 アリス

 

性別:女

 

年齢:詳しくは不明。大体7~10歳だと推定される

 

身長:147cm(基本値)

 

容姿:白髪で赤目

   身長は同年代と比べると高め

   肌はかなり白い

 

解説(前世)

 今現在、ほとんど明かされていない。先天性白皮症(アルビノ)だったらしい。自室にはパソコンと必要最小限かそれ以下の物しか置いていなかったらしい。

 死因は多数の裂傷による出欠多量。原因は現在不明。

 

解説(今世)

 生後約10分で捨てられ、モノリスの外側、未踏査領域に運び屋によって運ばれ捨てられた。その時、ガストレアによる襲撃を受け、運び屋二人は死亡。アリスはガストレアウィルスを注入されガストレアになったが、人の姿と正常な思考、理性を保ったままだった。

 ガストレアを捕食することによってその能力を得る事が出来る。疑似形象崩壊を使うことによってガストレア状態、『白龍』になれる。他にも人間の状態でも尻尾をはやしたりできる。ちなみに本人は九尾を一番使っている。理由はモフる為だったり、体に巻き付けてそのまま寝るなど比較的万能である。

 『呪われた子ども達』のことを妹の様な家族の様なものだと思っている。

 基本的に人間嫌いだが、栗原光一(オリキャラ)と出会ったお陰で邪険に扱うことはほとんどなくなった。だが、自らの大切な物・人に害を及ぼそうとするものには容赦しないし、必要とあらば殺人も犯す。

 四賢人にこそわずかに劣るものの、世界最高クラスの頭脳を持つ。研究の最終目標はやはり、『呪われた子ども達』の為にガストレアウィルスの治療薬を作ること。

 戦闘能力面では現在作中最強クラス。剣術は前世で知った数々の流派を混ぜ合わせ、自身のたぐいまれな解析能力を使って、徹底的に無駄を省き、理論上では最も隙がないのだが、寸分の狂いから技の切れががた落ちするため、実質アリス以外には使えない。銃に関しても、一瞬で弾道計算等を終わらせて撃つ為、命中率はとても高い。五翔会の戦闘員メンバーの三人を単騎で撃破した。

 実は同性愛者の気がある。別に男がダメだったり、嫌いな訳ではないが、そこら辺は前世が関係しているらしい。

 因みに絶壁(貧乳)ではない実は脱ぐと結構ある(意味深)。

 

使用武器

 大太刀『狐龍刀』

 素材・超バラニウム

 長さ2m近い大太刀

         etc.

 

武術

 我流戦闘術

 速の型しかまだ使っていないが、他に色々ある。

 体術から剣術、CQCやCQBさえも取り入れている為、使いこなすことさえ出来れば実質最強クラスの戦闘術。しかし、アリスが前世で知っていた架空の技まで取り込んでいるため、人間の肉体的スペックでは扱いきれない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




アリス「それでは皆さん」
夏世「また来年!」
蓮太郎「大晦日だからって夜更かししすぎるなよ!」
延珠「妾を見ながら言うな!」
アリス「それではゲストの影胤! 締めよろしく!」
影胤「それでは読者諸君。よいお年を!
   ハレルゥゥゥヤァァァ!」


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二章
Past&Parologue


 新年明けましておめでとうございます!
 早速新年一発目いってみよー!


 ーー暗い部屋

 

 

 ーー窓もない

 

 

 ーー光はパソコンのディスプレイからだけ

 

 

 ーー何もない

 

 

 ーーナニモない

 

 

 ーーナニモナイ

 

 

 ーー空虚で空っぽで虚無感のみが溢れてくる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」カタカタカタカタ

 

 

 その部屋には一人の少女がいた。

 ほとんど何もない部屋で数少ない物のパソコンと向かい合っていた。

 食べ物は必要最低限のみ明け渡される。

 そんな闇にまみれた様な空間で彼女はとても輝いて見える。

 それ自体が光を放っているかのような真っ白な髪。煌々と輝いているかのような紅い目。

 誰もが絶世の美少女ーーいや、年齢的に美幼女(・・・)と認めるほどだった。

 時が時、場所が場所なら傾国、もしくは傾世のと付く程である。

 しかし、その容姿は少しくすんで見えた。

 その少女の周りは唯でさえ暗い部屋なのに、より暗く見える様な重々しい雰囲気を纏っているからである。

 仮に、その場に誰かがいて、その少女の顔を覗きこむと、その光を映さず、意志を感じさせない空虚で死んだ魚の様な無機質な目を見て顔を引き吊らせる事だろう。

 

 

 カチャ スー バタンッ

 

 

「……………………?」キョロキョロ

 

 

 その部屋の唯一の扉のある方から物音がした為、少女が振り向くと、そこにはトレイと、その上にストローがささった水筒の様な物が置いてあった。

 少女はそれを見ると、『食事(栄養摂取)』の時間かと、思い付いた。

 少女はパソコンを弄っていたと時の体育座りの体勢から這うように四つん這いの状態で扉へと進んでいき、そのストローを(くわ)えて中身を飲み始めた。

 

 

「……………………」コクッコクッコクッコクッ

 

 

 その中身は栄養素とカロリーだけを考えて作られた物なのであろう。お世辞にも美味しいとは言えない処か、馴れてない者であれば口に含んだ途端に吐き出し兼ねない程のえぐ味があった。

 しかし、少女は相変わらずの無機質な目でそれを飲み続ける。

 

 

「……………………」コクッコクッコクッ ズズー

 

 

 音から考えるに、全てを飲み干したらしい。

 少女はそれをトレイの上に置き、扉の方へと押しやり、再びパソコンの前まで戻っていった。

 

 

 カチャ サッ バタンッ

 

 

 再び音がしたが、今度は片付けたのだろうと思い、少女は気にせずパソコンを弄り始めた。

 

 

「……………………」カタカタカタカタ ピタッ

 

 

 淡々とパソコンを弄り続けていた少女だったが、ふとした操作ミスから一枚の写真データを表示してしまった。

 これが唯の写真データであれば少女は直ぐにファイルを閉じ、操作に戻ったのだろうが、この写真は少女にとっての所謂『ブラックボックス』だった。

 

 

「はっ…………ひぃぅ……あぁ」

 

 

 少女は唐突に目に見える程に動揺し始め、無機質だった瞳に光が宿った。

 しかし、その光は触れれば途端に壊れてしまいそうな程に儚い光だった。

 その写真に写るのは『もう一人の膝に座る少女』と『その少女に雰囲気が良く似た黒髪の女性』。そして、少女の顔は今の彼女からは考えられない程に眩い程の笑顔だった。

 その写真を見た瞬間、押さえ込んでいた感情が発露していく。

 

 

「かぁ…………さま。…………会いたいよぉ…………かぁさまぁ」

 

 

 少女は延々と泣き続けた。

 その写真を見る度に自分の中でナニカが壊れていくのを感じながら。

 唯、泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「っ! はぁっ! はぁっ!」

 

 白髪の少女、アリスは居住区のベッドの上で寝覚めた。しかし、その直後から荒い息をしていた。

 

「はぁ、はぁ。…………今更なんであんな時の事が夢に出てくるんだよ」

 

 アリスが悪夢を見る事は実は度々あり、その度に起きた直後から寒気と涙が止まらくなり、うずくまって動けなくなってしまう事があるのだった。

 

 

 ガチャッ

 

 

「アリスさん? どうかしたんですか?」

 

 居住区の扉を開けて中に入って来たのは、一緒の場所で同棲(意味深)している千寿夏世。アリスによって命を救う変わりにガストレアになった少女だった。

 

「…………夏世?」

 

「っ!? 何があったんですか!?」

 

 うずくまって泣いているアリスを見て気が動転した夏世はアリスの元へと駆け寄っていった。

 すると、アリスは駆け寄って来た夏世に抱きつきながら、

 

「ごめん夏世。ちょっとこのままでいさせて」

 

「え? あぁ、はい」

 

 夏世は何がなんだかわからないと言った様子だったが、ただならぬ様子のアリスに気圧されて、そのままアリスを抱きしめ返したのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「本当に大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だって! 夏世は心配し過ぎ!」

 

 あれから約10分程度経った頃、漸くアリスの様子が安定してきたのだが、今度は夏世から何があったのかと詰問されることになっていた。

 

「それよりも! 明日は夏世の初仕事なんだから! 色々と準備しなきゃいけないんだかね!」

 

「むぅ、何か誤魔化された気がします」

 

 実際アリスはうやむやにして誤魔化そうとしていたのだが、はっきりいって全然意味をなしていなかったのだった。

 それに、今さらっと流されたが、アリスの言った通り、明日は夏世の初仕事なのである。

 

「夏世。少し真面目な話をするとね、私の…………いや、私達のこの仕事は人間同士で殺し、殺されるという典型的な裏の仕事だ。準備を怠るといくらそのハイスペックな体でも死ぬかもしれないんだからね」

 

「はい、わかってます。まだ…………少し怖いですけど、覚悟はできてます」

 

「ふふふ、ならよろしい。着いて来て」

 

 そういうとアリスは居住区を出ると研究区(いつも使っているデスク等がある場所)を横切り、何やらものものしい扉を開けた。

 

「アリスさん、ここは?」

 

「ここは武器庫だよ。とは言っても市販されてる様なちゃちな拳銃(おもちゃ)なんかは別の所に保管してあるけどね」

 

「じゃあ、どういう物があるんですか?」

 

「それはね…………私達の様な存在(人型ガストレア)じゃないと使えない様な超高火力へい…………武器だよ」

 

「へいっ!?」

 

 アリスの言葉に夏世はおもいっきりビビっていた。

 それもそのはず、夏世はガストレアになってから単純な身体能力だけでも数倍になっているのを既に実感しているからである。

 それほどの身体能力がなければ扱えない武器とはどれ程の力を持つのかーーいや、もはやそれは今アリスが言いかけたように兵器と呼んでも決して過言ではない。

 

 

 ピッピッピッ ピー

 

 

 アリスが部屋の真ん中奥に設置されている端末にパスワードらしきものを入力し、その後なにやらアルファベットと数字の入り交じったコードらしきものを入力すると、

 

 

 ガチャッ

 

 

「…………? 今のは何ですか?」

 

「ああ、あれはID入力と『Wpon code』っていう、所謂パスワードを入力して、対応するコードの武器保管場所のロックを解除するんだよ。後でID発行と、いろんな武器の『Weapon code』教えるから勝手に使っていいからね」

 

 そういってアリスはロックが解除された引き出し口へと歩いていき、引き出しを開けて中の武器を取り出した。

 

「…………ナンデスカ? ソレ」

 

 思わず夏世が片言になったのも頷ける。そこから出てきたのは通常のものよりも口径が大きい『ガトリング機関銃』だったからだ。

 

「ふふ~ん! これは私の自信作! その名も『タイラント』! 通常のイニシエーターとは比べ物にならない程の身体能力を誇る私達(人型ガストレア)の力を最大限に使う兵器だよ!」

 

 もはや武器と言い繕う事もやめ、完全に兵器と言っている。

 

「えーと、通常のものよりも威力が高いってことですか?」

 

 そう夏世が聞くと、アリスは不敵に笑い、

 

「いや、この『タイラント』は通常の弾薬や徹甲弾なんてちゃちなもんじゃなく、もっと恐ろしい物の片鱗をあじあわせるんだぜ! …………因みに通常の弾薬や徹甲弾も使える仕様にしてるけどね」

 

「何か矢鱈とテンション高くないですか? …………で、どういう物なんですか?」

 

「聞いて驚け! 『タイラント』の使用する弾薬は12ゲージ散弾だ!」

 

「…………………………………………はっ?」

 

「12ゲージ散弾だ!」

 

「…………」

 

「12ゲー…………」

 

「いや、もういいですから!」

 

「そうか? 分かった」

 

 銃に対する知識がある人ならこれがどれだけ異常なことかわかるだろう。

 12ゲージ散弾とは、本来ショットガンに使用する弾薬である。つまり、通常の『ガトリング機関銃』の弾薬よりも反動が大きい。

 それを『タイラント』の様な携行タイプのもので、秒間100秒/発などといったレートで撃ったりしたら、吹っ飛ばされるか、支えている骨が砕けちるのが目に見えている。

 正しく、アリスや夏世(人型ガストレア)専用の兵器と言える代物である。

 

「更に距離減衰をかなり押さえたスラッグ弾も発射可能だから貫通力も抜群! 暗殺以外なら基本これだね!」

 

「…………もう…………いいです」

 

 夏世は精も根も尽きたといった様子で投げやりになった。

 アリスのでたらめさと、自分達の肉体のスペックのでたらめさを思い知った日であった。



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悪巧みと集団リンチ

 遅れてすいませんでした!
 理由としては作者がリアル留年ピンチになったりしたからです。
 あとは…………バイオハザードの新作面白かったです♪
 ごめんなさい謝るので許してくださいm(__)m


ーーーーーーーーー????ーーーーーーーーー

 

 

 外周区にあるとある薄暗い廃墟の中に二人の人物がいた

 

「…………あっ、母さん、来たみたい」

 

「そうね」

 

 光もほとんどなく、光源と言えば窓枠から入ってくる僅かな月光のみなのだが、この二人は待ち人が来たことを一瞬で察した。

 

「ククク、相変わらずの索敵能力ですねぇ、澪香」

 

「パパ、華鈴だよね? あれ華鈴だよね?」

 

 現れたのは蛭子影胤とその娘、蛭子小比奈だった。

 

「それで? 私に用とがあると聞いたのだが」

 

「ええ、早速だけど、ゾディアック・スコーピオンの時に、情報提供してあげた時の借りを返してもらおうとおもって」

 

「ククク、本当に早速ですね」

 

 影胤を待っていた女性ーー桐谷澪香はセミロング程の長さの艶やかな黒髪を指で弄りながら影胤に話し始めた。

 

「あのゾディアック・スコーピオンの時にあなたに協力していたあのアリスとかいう奴の事を教えてくれない?」

 

「別に構わないが、何か興味をそそられることでもあったのかな?」

 

「興味というか、あの娘何者なのか気になってね。万が一敵になった時は情報はあった方がないより断然いいでしょ?」

 

「ふむ、何か彼女と敵対する予定でもあるのかな?」

 

 仮面によって表情を伺うことはできないが、恐らく影胤は訝しげな視線をしていたのだろう。

 

「いえ、彼女についての調査を極秘で依頼されてね。しかも、依頼人は聖天子」

 

「ほほう、先の一件に関わっていた事がばれたのかな?」

 

「恐らくね」

 

「…………あまり深入りし過ぎると不味いかもしれないな。戦闘能力だけでも少なくともIP序列二桁台は下らないだろう」

 

 それを聞くと澪香は眉をひそめると、

 

「まあ、依頼は受けてしまった事だし、やれるとこまでやってみるわよ」

 

「ふむ、ならば私も協力しよう」

 

「いいの?」

 

「ああ、それに…………小比奈!」

 

 話しについていけずに暇そうにあくびをしていた小比奈が突然呼ばれて慌てた様に、

 

「何? パパ」

 

「アリスを斬りたいか?」

 

「え!? いいの!!?」

 

「ああ、構わないぞ」

 

「やったー!」

 

 大はしゃぎして喜ぶ小比奈を尻目に、

 

「…………理由はともかく、いざという時の戦力としては期待してるわよ」

 

「ああ、任せたまえ」

 

 アリスは知らない内に、厄介事に巻き込まれて行っていることをまだ知らない。

 

 

ーーーーーーー東京エリア某所ーーーーーーーー

 

 

「はぁ、はぁ、まだ追って来るのかよ…………!」

 

「常弘、大丈夫?」

 

「朱里こそ…………大丈夫かよ?」

 

「私は大丈夫」

 

 必死に何かから逃げる様に走る二人の人影があった。

 二人共作業服を着ていて、少年の方は中学生程度、少女の方は10歳かそこらといった具合だ。

 少女の目は赤くなっており、一目で『呪われた子ども達』だと分かる。

 しかし、少年は当然ながら『呪われた子ども達』な訳はなく、かといって運動が得意そうという訳でもない。少女の方はともかく、少年がこの既に数キロ以上走り続けているというのは、尋常な事ではなかった。

 彼を此処まで駆り立てているものは、(ひとえ)に自由への渇望故だろう。

 少年は自分自身とはほとんど関係のない借金のかたにバラニウムの盗掘場で無理矢理働かされていたのだった。そして、とうとう『呪われた子ども達』の朱里を連れて脱走したのだった。

 

「朱里でも勝てないイニシエーターが追って来るなんて…………本当に最後までついてないな」

 

「常弘! 諦めちゃ駄目だよ!」

 

 自分を置いていけばもっと早く走っていけるのに、わざわざ自分と一緒に逃げるために並走してくれている朱里を見て、常弘は今一度気合いを入れて走った。

 

 やがて、遊園地らしき場所を見つけ、人混みに紛れようと入ったのだが、そこには数十人の幼い子供達しかいなかった。

 

「くそっ!」

 

 悪態をつき再び走り出そうとすると、

 

「ーー犯罪、ダメ、絶対ッ! 妾が許さないぞッ」

 

 そう言ってイニシエーターの少女ーー藍原延珠が腕を❌の様にクロスさせて立っていた。

 その後ろから自転車に乗った黒髪長髪の美少女ーー天童木更もやって来て係員の人に民警ライセンスを見せて説明している姿が見え、それからこちらに走り寄って来た。

 

「あなた達が小星常弘くんと那沢朱里ね? 依頼により天道民間警備会社があなたたちの身柄を拘束します」

 

「て、天童民間警備会社って…………ほ、本物の天童民間警備会社ッ?」

 

 あのステージⅤを倒した救世主を有している民間警備会社の名前を聞き、更に天童木更が里見蓮太郎の名前を呼んだことで、もう終わったと思った二人が崩れ落ちると、

 

 

「てめっアリス! 俺に何の恨みが…………」

 

「ん~? 何か聞こえた気がするけど気のせいだよね! いやー、だって天誅バイオレットの着ぐるみが喋る訳ないもんね! 皆ー! もっとやっちゃって」

 

『わ~!』

 

「うおっ! この、やめろ! うおぉぉぉぉ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 あ…ありのまま 今起こった事を話すぜ!

「おれは 里見蓮太郎が出てきて捕まってしまう

思ったら 男の声が中から聞こえる天誅バイオレットの着ぐるみと、それに小さい女の子達をけしかけている少し背の高めの白髪の少女がいた」

な… 何を言っているのか わからねーと思うが 

おれもどうリアクションすればいいのか わからなかった…

頭がどうにかなりそうだった… 出オチだと超展開だとか

そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

 

                by小星常弘

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ! アリス! 何でこんなところにいるんだ?」

 

「ん? ああ、延珠か。皆が遊園地行きたいって言って聞かなくて、でも人が多い所に連れていく訳にも行かないし、寂れたここに来たんだよ」

 

 延珠がリーダー格らしき白髪の少女ーーアリスに話しかけ、延珠とアリスの関係…………というか、アリスと会った事のない木更は、

 

「延珠ちゃん? その子誰? 知り合い?」

 

「ああ、前に話したアリスだ。蓮太郎も話していただろう?」

 

 その言葉を聞き、木更は目の前の少女を少し警戒した。

 というのも、木更は蛭子影胤事件の顛末…………アリスによる天童の屋敷にいる天童菊之丞の襲撃の事を蓮太郎から聞いていたからである。因みに延珠はアリスの事を心の底から信用しているので、伝えられていない。

 

「…………あなたがアリスちゃん? 延珠ちゃんからあなたの事は聞いてたよ。私は天童木更、よろしくね」

 

 そう言って警戒していることを感じさせないように手を出して握手を求めた。

 

「へー、あなたが延珠が言ってた木更さんか、うん、よろしく。…………『本当に延珠からしか私の事は聞いてないのかな?』」

 

「ッ!?」

 

 最後の言葉は延珠には聞こえない様に小さい声で囁きかけた。

 

「私ね、こそこそと嗅ぎまわられるの嫌いなんだよねぇ。そんな事は『ゴミ』は『片付けたくなる』」

 

 言外に敵対するな、調べるなと牽制してくるアリスに対して木更は内心冷や汗をかきながら曖昧な苦笑いを返すしかなかった。




 それと、ぼけなす様の作品『とある転生者の憂鬱な日々 リメイク版』とコラボしました。
 『第六十二話 コラボっちゃいます(嘘つきと化け物とサッカーしようぜ!! byソラ)』に登場します。
 本編のアリスとは違い、BADENDルート後のアリスを想定した設定なのでもしご覧になる場合は注意してください。


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「愛してる、だから殺す」

 どうも、虚無龍です。
 本当に遅れて申し訳ない…………
 全然モチベーションがでなくてこうなってしまったでござる。後、オンラインゲームも忙しかったんだ←おい
 次の話はもう半分以上出来上がってるから一週間以内に更新してみせる!(フラグ )


「はぁ、はぁ、…………えらい目にあった」

 

 しばらく子ども達にもて遊ばれてから開放された蓮太郎は壊れていたチャックを延珠と木更に外してもらいようやく自由の身となったのだった。

 

 

「あれ? 蓮太郎居たんだー?」

 

「おいこらアリス、面貸せやこの野郎」

 

 もっともアリスを恨めしそうに睨んでいたが。

 当のアリスはアホ毛をピョコピョコとうごかし、コロコロと笑っていたが、

 

「はぁ…………で、こいつ等はなんなんだよ?」

 

「捕獲対象」

 

「へぇー、朱里ちゃんって言うんだ。私はアリス、よろしくね」

 

「捕獲対象? 政府筋の依頼なのか?」

 

「は、はいよろしくお願いします」

 

「いいえ、依頼人は民警よ」

 

「ふふ、ふふふふふ♪ 朱里ちゃんは可愛いねぇ」

 

「民警が民警を雇うなんてこと、あるのか?」

 

「やっ! ちょ、ちょっと…………そんなこと触られたら…………んっ、ひゃうっ」

 

「ま、珍しい事じゃ無いわね」

 

「…………て言うかアリス! さっきから何してんだ!」

 

 蓮太郎が木更と状況の確認をしていると、朱里を膝の上に乗せてベンチに座りながらアリスは朱里に対してセクハラを働いていた。

 

「可愛い娘がいたからにゃんにゃんした」

 

「空気! 空気読めよ!」

 

 蓮太郎が思わず突っ込むと、アリスの後ろからフードを被っていて顔が見えない少女がアリスの方に歩いてきて、何処からともなく取り出したハリセンで、

 

 

 スパァーン!

 

 

「痛ッ!」

 

 物凄くいい音を出してアリスの頭を叩いた。

 そのまま、少女は蓮太郎の方に頭を下げてアリスを引きずって後ろに下がっていった。

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 あまりの展開に誰もフードの少女の正体なんて気にすることさえ出来なかったのであった。

 

「…………で、お前らなにやったんだ?」

 

(((((あ、無かったことにしようとしてるな)))))

 

 一連の出来事を無かったことにしようとした蓮太郎のお蔭でようやく話しが進んだのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それから蓮太郎達は常広の話す理由を聞いたのだった。

 借金のかたにヤクザに連れていかれてそのまま未踏査領域で盗掘しているバラニウム鉱山で強制労働をさせられていたこと。鉱山守護の為に連れてこられてるろくでもない民警に仲間の労働者がリンチにあって殺されたこと。朱里と出会い、逃走し今に至ると。

 

「…………天童木更さん、いくら金に困っていても仕事は最低限選ぶべきだと私は思うのですが、そこのとこどうなのでしょうか?」

 

「いきなり丁寧な口調にならないで! 知らなかったの! 信じて!」

 

 アリスにゴミを見るような目で見られ、木更は必死に弁解するが、アリスの絶対零度のごとき視線は木更を貫き続け、最終的には半分ほど涙目になっていた。

 年下に常識を説かれ、なおかつ反論のしようがないとなればそれも当然だろう。

 しかし、その状態は唐突に終わりを告げる。

 

「おぅ、見つけたぞガキどもッ!」

 

 そこに現れたのはバラニウム製のボウガンを持った先程の話にでた『ろくでもない民警』の筆頭、羽賀だった。

 常弘と朱里が身を寄せあい、さりげなくアリスが庇うように二人の前に立った。

 そこで蓮太郎はあることに気付き羽賀に問い掛けた。

 

「おい待てよ、オッサン。お前が依頼した民警か? イニシエーターはどうしたんだ?」

 

「あとで報酬はやるから野良犬は黙ってろよ」

 

「イニシエーターはどうしたっつってんだよ」

 

 蓮太郎の気迫に気圧され、先に目を反らしたのは羽賀だった。

 

「チッ。あーあーそういやいたなそんなの、ギャアギャアうるさくわめくからぶっ殺しちまったけど任務中の殉職ってことにしておいたから、もう少……しぃ!?」

 

 瞬間、その場にいた全員が心臓を鷲掴みされたような悪寒と猛烈な殺気を感じた。

 一瞬の内にそれはなくなったが、なまじ実力がある者ばかりなので、その一瞬で悟ってしまったのだった

 

 

ーーこいつと敵対してはいけないーーと、

 

 

 一瞬だけなので発生源が誰なのかは最初から心当たりがあった蓮太郎以外は気づく事が出来なかった。

 回りにばれない様に殺気の発生源ーーアリスの方を見ると先程までの豊かな表情は消え去っており、まるで能面の様な無表情が顔に張り付いていた。

 

「ッ!」

 

 そこで蓮太郎は聖天子に言われた、『呪われた子供たちに危害を加えた者達をなんの躊躇いもなく皆殺しにした』、その言葉を思い出したのだった。

 

「…………オラァ!」

 

「な!? グホァ!」

 

 思い出した事を吹っ切ろうとするように羽賀を殴り飛ばす蓮太郎。

 

「…………二度と民警として俺達の前に立つな。万が一、もう一度あった時にまだお前が民警だったら…………ぶっ殺してやるからな」

 

 半分は怒りで、もう半分はアリスの行動が気がかりで、喉から絞り出すような声で羽賀を睨めつけて蓮太郎は言った。

 そして、殺気に気づいていなかった朱里と常弘はその姿を見て民警ーと言うより蓮太郎ーに憧れを持ち、いつか民警になるのを夢見たのはまた別の話。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ハァハァ…………くそったれが! あの餓鬼どもめがぁぁ!!」

 

 蓮太郎に殴り飛ばされた羽賀は歩いて、拠点まで悪態をつきながら帰っていて、丁度人通りがほとんどない道にかかった所だった。

 

「あぁぁぁ!! このままじゃ気が収まらねえ! 外周区の餓鬼でもぶっ殺してストレス発散してやろうか…………」

 

 羽賀本人は特に意図した訳でもなく、いつもやっているストレス発散方法を何気なく口にしただけだったのだろう。だが、タイミングが悪かった、場所が悪かった、発言が悪かった、そして…………相手が悪かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、まだ懲りも反省もせずにそう言うこと言うんだ」

「…………まぁ、運が悪かったと思ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?!?」

 

 早く反応しなければ、即、死に至る。そう直感が働き、羽賀は後ろにいるなにかから逃げるように前に転がった。

 

 

 ズバァ!

 

 

「ッ!」

 

 ほんの一瞬前まで自分が立っていた場所に斬撃の後がうっすらと残っているのを見て、羽賀は背筋を冷や汗が落ちていくのを感じた。

 

「私はあの娘達を愛してる。だからあの娘達を害するあなたは害悪にしかならない。だから…………死・ん・で♪」

 

「私もあなたは気に入らないですし、そもそもここまで怒ってるアリスさんを止める事は私には出来ません。あまり苦しまないように潔く避けない方が賢明ですよ」

 

 白い髪に赤い目の少女の手に収まっているマチェットを目にしたとき、先程の斬撃が少女の手によるものだと理解し、その瞬間ーー

 

「ぅ、うわぁぁぁ!?!?」

 

 本能に従って恥も外聞も捨てて逃げだしたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…………見逃してあげるんですか? さっきまであんなに怒ってたのに」

 

「ふふふ、まあ、あれだけ怖がらせればもうあの娘達をどうこうしようなんて思わないだろうね」

 

「じゃあ…………」

 

「でぇもぉ見逃してあぁげなぁい♪ だってだって…………私は怒ってるんだよ?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 どれ程走っただろうか、外周区に近いあの場所から走ってきたのだ。相当な距離だろう。

 現に、走り始めた時は沈みかけだった夕日もいまでは完全に沈み、夜の帳が降りている。

 

「ハァハァ…………カヒュー…………あ、あぁ?」

 

 対に町の光りが手に取るように見える距離まで自分がたどり着いた事を自覚し、安堵したと同時に疑問が頭をよぎった。

 

(何故…………俺は逃げられた? あいつが餓鬼だからか? いや、あいつは目が赤かった。つまりイニシエーターだ。身体能力でプロモーターが勝てる訳がねぇ)

 

 一度考え始めると止めどなく沸き上がる数々の疑問。しかし、もうすぐ町に入ることが出来るところまで来ると、次第にどうでもよくなってきた。

 

(まあ、いい。逃げきれたならそれに越したことはない。それに俺は生き残れたのだから…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        『みぃつけたぁ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『続いてのニュースです。本日早朝、xx区の町の外れで、頭部のない男性の遺体が発見されました。警察の発表によると、死因は頭を吹き飛ばされた事による即死とのことです。検察の調べによると死体にそれ以外の傷はなく、死体の身元も犯人の検討も未だについていないそうです。続きましてのニュースは…………』




 今回の話でアリスにアホ毛があると言われていますが、ぶっちゃけこれは書き忘れてた設定で、いまから全話に修正をいれていきます。


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怒りと煙

遅れた理由↓
ゲームだのじい! でもガンダム怖い!


ーーーーー東京エリアのとある喫茶店ーーーーー

 

 

 アリスは喫茶店で窓際の角のボックス席に座って頬杖をつき、外を眺めていた。

 アリスが今いる喫茶店は、以前巳継悠河達、通称アリスチームで集まり、夏世を紹介した喫茶店と同じ場所だった。

 アリスチームを含めてアリス本人以外は、知らないことだが、この喫茶店は、アリスがよく利用する場所である。理由はアリスともう一人しか知らない。そのもう一人とは、

 

「アリスさん、また来たんですか?」

 

「カウンターに立ってなくていいの? マスター?」

 

 この喫茶店のマスターだった。

 マスターはよくある喫茶店のマスターの格好をしていて、綺麗に整えられた短い髭をはやしていて、渋い声。所謂ダンディーなおじ様的な装いだ。

 

「いえ、今はアリスさん以外にお客さんは入っていないので大丈夫ですよ」

 

「そう。このあとここで待ち合わせしてるから。後、いつものやつで」

 

「両方分かりました。待ち合わせの人達はいつものメンバーですか?」

 

「いんや、マスターの『後輩(・・)』だよ」

 

「ほう、それは興味深いですね」

 

 マスターがカウンターに戻り、アリスの注文の品を用意し始める。

 愛用の懐中時計(アリスは個人的趣味から、基本的には腕時計ではなく、懐中時計を使う)を開いて時刻を確認し、時間を確認すると、約束の時刻まで後30分程あった。

 注文の品もまだ届いていないため、ぼんやりと窓から外を眺めて、自身の研究に思考を割いていると、

 

「あ! アリス来てたんだー!」

 

 カウンターの方から従業員の制服を来た、アリスよりも小さい10歳前後の青みがかった銀髪の幼j…………ゲフンゲフン、少女が走りよってきた。

 

「リリア…………マスターといいリリアといい、私の事客扱いする気あるの?」

 

 銀髪の少女ーーリリアはそんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりにアリスの隣に座り、頬杖をしていない方の腕に抱きついた。因みに、口ではそう言いつつも、美少女であるリリアに抱きつかれアリスは嬉しそうにしていた。内心では恍惚としていたが。相変わらず何処か残念である。

 

「えー? だってアリスはそんなこと気にしないじゃん?」

 

「いや、仮にも客にそれは駄目でしょ」

 

 リリアは一応この店の従業員…………というか、この店の従業員は実質マスターとリリアだけである。リリアは本来働ける様な年齢ではないが、この店の常連にとっては恒例の光景であり、なにより、若い常連は注文の品をトテトテと運んでいくリリアに癒され、年をとった常連は微笑ましそうに見ているのであった。

 しばらくの間、腕に抱きついたリリアの頭を撫でていると、

 

「お待たせしました、いつものやつです」

 

 そう言ってマスターが紅茶とイチゴのショートケーキを持って来たのだった。

 

「モグモグ。それにしても今日は人いないね」

 

 アリスが言った通り、喫茶店の店内に今客は、アリスだけだった。

 別にこの店の人気がないとかではなく、基本的にこの店は、満員になる事は滅多にないが、誰もいないということも滅多にない常連客が多い店なのだ。所謂隠れた名店というやつだ。

 もっとも、この店の場所か大通りから外れた一本裏路地に入った所なので新規の客が中々こないという理由もあるのだが。

 

「まあ、たまにはこんなときもありますよ。それにことなんて滅多にないんですから、少しリリアに構ってやってあげてはいかがですか?」

 

「そうだー! 構えー!」

 

「マスターはともかく、リリアは客に対する態度じゃないな…………」

 

 それからしばらくなし崩し的にリリア構っていたアリスだったが、突然顔をあげると目を瞑り黙った。数秒程すると目を開けて、

 

「リリア、待ち合わせてる人が来たから戻りなさい。後、聞かれたくない事もあるかも知れないから一応マスターも連れてしばらく店の奥に居てくれない?」

 

「えー、…………分かったよ。その代わりまた今度ね!」

 

「はいはい」

 

 そう言ってリリアはトテトテとカウンターの方に引っ込んでいった。

 それから数十秒後、カランカランとドアが開く音がし、蓮太郎と木更が店内へと入って来たのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「それで? 話しって何かな?」

 

 アリスは口元に微笑を浮かべて蓮太郎に自分を呼び出した経緯を尋ねた。

 木更の方はどうやら蓮太郎に連れてこられただけのようで、蓮太郎に問いかけるような視線を向けていた。蓮太郎は暫く黙っていたが、やがて意を決したかのようにアリスを真っ直ぐに見据えた。

 

「…………今日のニュースを見たか」

 

「私は子供なのでニュースなんか見ませーん」

 

 そう茶化すように言い、コロコロと笑うアリスに蓮太郎は続けて問う。

 

「xx区の町の外側で頭を吹き飛ばされた男の死体が見つかった。警察もその男の素性を掴めていない。頭を吹き飛ばされたんだから時間もかかるだろう。だが、俺にはわかった。あいつは羽賀だ」

 

 蓮太郎の妙に確信を得ているかの様な話し方にアリスは少しだけ苛つきのようなものが垣間見えた。

 

「へー、面白い事言うね。警察も掴めていない情報を蓮太郎が勘によって入手! 穴だらけ過ぎるでしょ」

 

「ちょっと蓮太郎君? そんな話し私も聞いてないんだけど? というかなんで私までここに連れて来られたの?」

 

 木更が言う通り、木更がこの場にいる理由はないかのように思える。しかし蓮太郎は最悪の場合、ここでアリスとの戦闘がおこることを考えて木更を連れてきたのだった。戦力という意味合いなら延珠の方がいいかとも思えるが、アリスを慕っている延珠がいきなりアリスと戦えるかと言われると難しいと言わざるを得ない為、木更を連れてきたのだった。

 

「アリス、お前羽賀との騒動があった日、子供達を連れて帰った後何をしてた?」

 

「あの娘達を何時もの場所まで送り届けた後、自分の住んでるところに帰ったけど?」

 

「本当に何も知らないのか? 本当に何もしていないのか? 本当にーー」

 

 蓮太郎が更なる疑問を投げ掛けようとしたとき、アリス吐き捨てるように言った。

 

 

「だからなんだっつうんだテメェは。あんなカス死んだ所で困るやつ居んのかよ。それともなにか? 法に反してるとでも言うのか? ふざけんな! その法があいつらみたいな奴等を野放しにしてるだろうが! 私はそんな法なら認めねぇ! 私は…………俺だけはそんな奴等を許さない。必ず報いを受けさせてやる」

 

 

 蓮太郎達が知ることではないが、アリスは常に赤い目を隠す為に今もカラーコンタクトをつけていた。しかし、蓮太郎達の目に写ったのは血のような深紅の目をしたアリスだった。

 

「…………なんでお前はそんなにも簡単に人を殺せるんだ。人を殺し続ければ…………」

 

「…………言いたくはないけど、最悪民警や警察、特殊部隊なんかがあなたを狙うかもしれないわよ」

 

 純粋にアリスを心配する蓮太郎と木更の言葉にアリスは押さえつけたような低い声で、

 

「何? 私が殺されるとでも? それに俺はあの娘(呪われた子供達)の為なら死んだって後悔はない。…………チッ、気分悪ぃ。帰る」

 

「あ、おい!」

 

 蓮太郎の声に反応する事もなく、アリスは喫茶店を出ていってしまった。

 しかし、蓮太郎も木更も会話の内容の衝撃に気を取られ気づくことが出来なかったのだった。アリスの白い髪が一部黒くなっていた(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)事に。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 アリスは喫茶店を出るとそのまま野路裏の奥に進んでいき、確実に一般人が近くにいないと判断すると、壁に向かって走り出し、そのまま駆け登った。最後に壁を強く両足で蹴り宙返りをしながら対岸の建物の屋上に着地した。

 すると、今度は懐から携帯を取りだし、夏世に電話をかけた。

 

「…………夏世? 私。ちゃんと準備は出来てる?」

 

『何回確認するんですか…………ちゃんと終わってますって』

 

「それならいいんだけどさ…………。最初にヘマしたらカバーするのは難しいから、ちゃんとやるんだよ?」

 

『わかってますよ。それじゃあ切りますね』

 

 ピッ! っと音を鳴らして通話を切られると、アリスはそのまま携帯をしまった。そのまま走り去ろうとしたアリスだったが、不機嫌そうに頭をかき、少し速めに建物の上を走っていった。

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ」

 

 

 アリスはそのまましばらく走り続けけいたが、やがて苛立ちを隠そうともしなくなり、おもむろに立ち止まった。

 すると再び懐を探り、煙草を取りだしてくわえて火をつけ、息を大きく吸い、そして吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………不愉快だ、殺すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ふぅー、監視とか尾行って思いの外暇だし、帰りたい」

 

「母さん、聖天子様からの依頼なんだから真面目にやらないと駄目だよ?」

 

「分かってるわよそれくらい」

 

 喫茶店へと向かうアリスのかなり後方。一人の女性と一人の少女がそのアリスの後を追っていた。聖天子からの依頼を受けた桐谷澪香と桐谷華鈴だ。

 

「それにしてもいくら探しても見つからなかったのに、普通に二人で出掛けてる時に見つかるなんて、皮肉なものね」

 

 言葉通り澪香と華鈴は聖天子からの依頼を受けて以来、アリスを探し続けていたが、まるで居場所がわからず、早くも依頼は難航していたのだった。

 そこで、気分転換でもしようと思い、澪香は華鈴を連れて出かけていたのだが、そこで偶然アリスを見つけたのだった。

 

 しばらく尾行を続けていた二人だったが、喫茶店からアリスが路地裏の奥でいきなり壁を駆け登ったものだから、あわをくって追いかけ、追い付いた頃にはアリスは何処かへ電話していたのであろう、携帯を懐にしまっていた。

 再び走り出したアリスを一定間隔を保ちつつ、尾行していたが、突然アリスが立ち止まり、それと同時に華鈴が澪香の服の袖を掴み震え始めた。

 

「? どうしたの? 華鈴」

 

「母さん…………帰った方がいいかも知れない。凄く…………嫌な予感がする」

 

 華鈴は澪香と出会う前に色々とあったことによって、とても危険に敏感になっており、その勘については澪香も信用している。

 娘の恐怖に震える姿を見てアリスの方を覗き見ると確かに少し寒気がしている気がした上、どこか苛立っているようにも見えた。

 娘の為にも「今日の所は帰ろうか」と言おうとすると、アリスが懐から煙草を取りだし吸いだしたので眉をひそめ、「これは尾行なんかより、出ていって止めたほうがいいんじゃないか?」と思ったその時、澪香の強化されている聴覚には聞こえてしまった。

 

「…………不愉快だ、殺すぞ」

 

「っ!?」

 

「母さん!?」

 

 アリスの声が聞こえた瞬間、澪香は華鈴を抱えて即座に全力で離脱を開始した。隠密性なんて考えずに、走り続けた。

 

(あれは私達だけじゃ勝てないな…………こうなると影胤の申し出はありがたい)

 

「わわわ! か、母さん? 大丈夫?」

 

「華鈴…………えぇ、大丈夫よ」

 

 澪香は華鈴を抱き締めながら安心させるために、そして自分にも言い聞かせる様にそう言ったのだった。




アリス「さていつも私の活躍を見てくれてる皆? メリークリスマス♪」

××××「めりーくりすまーす♪」

夏世「メリークリスマス…………って、その黒髪の子供は誰ですか?」

××××「××××だよー!」

夏世「え? なんか聞き取れない上に発音もできないんですけど…………」

アリス「それは夏世が本編でまだ××××の存在を知らないからだね。ついでにあいつからもこの茶番を見てくれてる人にメッセージがあるぞ
『補講ヤバイ 赤点ヤバイ ゲーセンガンダム台パンコワイ メリークルシミマース by虚無龍』
だって。相当追い詰められてるな」

夏世「まあ、あのゲーム依存性患者はほっといて」

××××「そうだね! じゃあ一緒に…………せーの!」

皆「メリークリスマス!」


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