Bewaffnete Magie〜魔力銃士の武装魔力学〜 (一樂神無)
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プロローグ

 人間誰しも器に伴わない自信を持つときはある。

 カズミ・スミスのその時は十歳の時、『覚醒の儀』と呼ばれる儀式に参加した時であった。

 

 

「カズミ・スミス、君の適正属性は……。なんと四属性すべてじゃ!!」

 儀式を執り行うエルドランド教の司祭が目を丸くしてそう叫ぶ、覚醒の儀それは己の魔力を知る儀式。魔法とは、この世界で広く使われる力で、己の中にある魔力を糧に超常的な力を行使する技術である。

 魔力自体は誰しも持っており、学べば簡易的な魔法も使える。その中でも魔力を使う才能に長けた者が『魔法師』と呼ばれそれを使う職に就く資格を持つことになる。魔法の才を持たない者も魔力を魔道具と呼ばれるものに与えることで魔法と似たことができ、魔道具は生活する者の助けとなり広く普及している。

 

 

 そんな、技術の才能を俺は持っている、それも普通の人間なら一つ、二つ持っていれば才能ありと呼ばれる属性を四つ、人間が使うことができるという四属性すべての適性があるのだからまさに『神童』と呼ばれる存在であった。

 周囲の大人たちは騒めき、周囲に座る同世代はそんな大人たちを見て不安になる。

 俺はその光景を肌に感じ、自然と胸を張り、今思えば自分には過ぎた自信を持つことになった。しかしそんな高く伸び切った鼻は数日と持たず折られることになった。

 

 

 

 

 

 

 確かに、俺は四属性(才能)を持っていたが、俺には致命的な才能がなかった。

 魔法を行使するとき必須になる魔力を扱う才能、それが俺にはなかった。

 類稀な適正属性と豊富な魔力を俺は持っていた。しかし俺は魔力を体から引き出す能力が魔法を学ぶ誰よりもなかった。巨大なタンクも持っていてもついてるホースが細ければ効率よく使うことができない、ましては今後学び使うであろう高位魔法は大量の魔力を引き出しそれを糧に使うことになる。杖を使えば少しはマシになるらしいが失った時のリスクや杖を作る職人も少なく後継者もいなく高額なためその道も選ぶことができない、『神童』は瞬く間に『凡人』になった、そして魔法塾を卒業する二年間で中級魔法を使う人間だ出る中俺は四属性の初級魔法をやっと使うことが出来るくらいにしかならなかった。

 

 

 しかし、三年後俺は国の名門ガルラ二ュール魔法学校に入学することになる。

 

 

 

 

 魔法と機械が交わるこの世界で俺達は人生で最も濃く最も熱い四年間を過ごし、世界に深い爪痕を残すことになる。

 

 欠けた才能を持つものが集まり支え合い新たな《物語》が生まれた。

 

 

 

 



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ガルラニュール魔法学校

 ガルラニュール魔法学校、俺が住むガルラニュール公国にある国営の魔法学校である。

 

 国内にいる魔法適性のある若者達を集め魔法技術の高等教育を行っている四年制の教育機関、故郷の魔法塾を卒業後、俺は必死に努力した領地にある実家の工房の手伝いの傍ら図書館の蔵書を読み漁り、どうにか自分の魔力放出量を増やそうとした。時には眉唾で怪しい民間療法も行ったが結局俺の体の魔力放出量は劇的に増えなかった。

 しかしその努力に比例して魔力操作技術は向上し使える初期魔法の使用回数は劇的に増えた、まぁ使えるって言っても火の魔法はろうそく大の炎を三日間休みなく灯せたり、初級攻撃魔術のファイアボールも木の板に焦げ跡とつける位で木製の的を破壊できる通常のものに比べたら遥かに劣るものである、他の魔法も同世代のものに比べたら戦力として遥かに劣る、だがそれも自分の体一つの場合である、己の肉体(才能)の限界に早々と見切りをつけると今度は魔法の行使を補助する杖の事を調べた。高額で購入が難しいなら自分で作れないかと考えたからである。幸い実家の家業は魔道具の製作修理を行う工房で魔道具を作ることには困らなかったし、杖も魔道具の延長線にあると思った。結果として杖に関する資料はあったが製作に必要な技術は魔道具の比ではなかった、ある程度規格化された魔法回路と設計図を使い製作される魔道具とは違い杖は使い手に合わせたオーダーメイド品のため使う魔法回路を1から組む必要がありその回路構成の技術習得に時間がかかった。さらに回路を組み込む素体になる本体の製作も難航した、魔道具はその使用用途の関係で本体が大きく回路を組み込む場所も量も比例して大きいが、杖は形態の都合上そのスペースは限りがある、おとぎ話に出てくる魔法使いの杖であっても大きいやつでも自身の身長位で表面積も魔道具に比べるまでもなく少ない、調べるほどにその技術の難しさを痛感し現在の職人の少なさに納得がいった。結論として『杖』の製作は成功したがこの3年間は魔力回路の勉強と本体製作と家業の手伝いと多忙を極め、さらに後半はこの学校入学の為の受験勉強が加わり非常に寂しくも充実した時間であった。

 

 

「やっと入学式か……帰りたい」

 ボサボサの黒髪をかきながら俺はそうつぶやき、一つ欠伸をし息を吸った瞬間背中を叩かれ肺に溜めかけた空気を一気に吐くことになった。

「なぁーに、朝から辛気臭いこと言ってるのよ、しゃっきりしなさい」

 後頭部で無造作にまとめたポニーテールを揺らし背の高い女が背後から前に出てそういう

「朝から元気なことで、お陰様で残っていたやる気がへし折れたよ、ニーナ」

 ニーナ・ゲシュバルト、俺の故郷ゲシュバルト領にある商会の代表の一人娘で所謂幼馴染である、領一番の商会の代表の娘ってことで近寄りがたいイメージが強かったが、こいつの場合はそんなイメージを攻城兵器で破壊するがごとくやんちゃで領内でも有名だった。屋敷を抜け出しては領内の子供たちと悪戯や山遊びを繰り返し、領内でも有名なおてんば娘で俺とは向こうが親から勉強を強いられて図書館に家庭教師と共に来た時に出会い、当時の噂で知っていた俺を見て興味を持って近寄ってきたのがきっかけで逢うようになった。はじめは汚名返上に邁進していたため無視をしていたが、しつこく絡んで来たので嫌々かまってたのはいい思い出である、その影響からか向こうも前に比べて勉強をするようになり代表に感謝されたのは言うまでもない、俺の杖製作にも協力してくれこの学校に入学する切っ掛けに……いや受験勉強に巻き込んだ人物でもある。まぁ、粗暴な性格に反して容姿は優れていて社交界では男女問わず人気があり、必要になれば猫もかぶれる器用なやつで、魔法も火と風を操る才能に恵まれた人物である。紫がかった赤髪にエメラルド色の瞳、すらっとした体型であり背後から見たら舞台役者と間違われるらしい。

「まったく、どうせ昨日も遅くまで作業してたでしょ? 新しい回路できたって言ってたし」

「正解、やっと炎熱回路の小型化に成功してさ、昨日は小型窯の試作品作ってたわ、ほんと魔法工学って面白いわ」

「巷じゃ、注目されてないけどね。やっぱり魔法っていえば戦闘だし」

 俺の話にニーナはそう返すと、目の前で拳を振るう。こんな脳筋のせいで魔道具の発展が遅れてんだよな……。まぁ俺もあれがなかったら魔法工学なんてマイナーなもんに触れなかっただろうし。

「そんで、カズミは専門科目はどうすんのやっぱり魔法工学?」

「そのためにわざわざ、忙しい中勉強したしな、ニーナは貴族教育だろ?」

「こっちは強制だけどね、薄くても国の未来を担う貴族の血を受け継いでいる身としては教養は必要だし理解はしてるが本音言えば、魔法工学を受けたいよ」

 そういい肩をすくめる、ニーナに苦笑いを返すと不意に視界の端から拳大の礫が飛んでくる、俺は手袋を嵌めた手に魔力を通すとその礫に風の魔力をぶつけわずかにそらせるそらせた先でニーナが礫を燃やしていたが俺は礫が飛んできた先に目を向ける。

「朝から、素晴らしいプレゼントをありがとうエバルト君」

 そういい振り返った先にいたのはガリガリの赤いモヒカン頭とデブな緑のリーゼントを引き連れた金髪をヤマアラシみたいに尖らせたチビがいた。

「お礼はいらないぜ、劣等種。汚い手を使うような頭を吹き飛ばせなかったのは残念だけどな」

 そういいチビは汚い笑みを浮かべる。

 このチビは、エバルト・タタラ俺とニーナと同郷で鍛冶ギルド長の一人息子で何かと俺に絡んでくる面倒な男である、魔法塾で優秀だったため俺に代わって周りに持ち上げられ無駄に自信を持たされニーナを除いた同世代を下に見ている、土属性しか適正はないがその実力は同世代では抜きんでており土属性の初級魔法の一つである錬金でただの土塊を鉄に変える位なら造作もないレベルである、俺はせいぜい畑の畝を作る程度しかできないが、背は小さいが顔は整っており普通に笑えば落とせない女性はいないと言われるレベルであり、外面もいい。まぁ性格がねじ曲がってるから俺から見たら非常にもったいなく見える。ひとしきり俺を笑うと足早にお供を連れ俺を足を踏みながらわきを通り、仕返しに足元の地面をへこませて転ばしたけどな。

 

 

 小さな仕返しを終えると、俺とニーナは足早に学校に向かって歩き始めた。

「そういやニーナ、お前馬車は? 親父さん用意してたろ」

「めんどくさいから、途中で飛び降りて置いてきた、荷物あるしそのうち追いつくでしょ」

 俺はため息しか出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 軽いトラブルもあったが学校についた俺は、その壮大な門扉に息をのむ、カルラニュール魔法学校の校舎はかつてあった大戦で使われた軍の施設を再利用したという話は聞いていたが門扉からその堅牢さを肌に感じる、こりゃ生半可な魔法じゃ壊せないし普段の俺は問題外として『アレ』を使ったとしても破壊は難しいな……。そんなことを内心考えながら正門を潜るとニーナのやかましい声が聞こえる目を向けるとニーナが指さす方向にある掲示板にクラス分けが掲示されているらしく、俺もそれを確認するために足を向けるが、その一歩踏み込んだ瞬間二度目になる殺気を感じる、本能のままその場から飛ぶと膝のあった場所に銀閃が通る体を僅かにひねり着地地点をずらすと同時に制服の懐に腕を差し入れるがその視線の先、銀閃が通った場所に見慣れたワインレッドの髪を見つける。

「いきなり、なんだよカルーエ姐さん」

 そういい差し入れた腕を制服から引き抜くとカルーエと呼ばれた少女は右手に持った剣をゆっくりと鞘に納め俺に歩み寄る

「ふぅん、腕は鈍ってないみたいね、今のは魔法を使ってないとしても結構本気で振ったんだけど」

 そういい、鼻で笑うと胸を張りその熟れた果実のような双丘が揺れる。

 カルーエ・ゲシュバルト、俺の二個上の姉貴分でケシュバルト領主の一人娘、姓が表す通りニーナとは血縁関係があるとはいえ従姉妹とかではなく、遠縁の親戚になるニーナの家は昔領主家の後継者争が起こった際継承権を破棄した御曹司が自身の資産を使い興した商会であり家系図としてはかなりの末席で継承権もあってないようなものであるのだが、ゲシュバルトの秘宝と呼ばれる美しい容姿と頭脳明晰に若年ながら最上級魔法にまで達した炎魔法の才と非の打ちどころのない美少女なのだが、ありえないくらいの運動能力のなさとあと一つ……。

「身長、伸びてないですね」

 

 その言葉を吐いた瞬間俺の頭部スレスレを火球が通り過ぎる背後で砕け燃える樹木がその威力を物語り放った本人は目に涙を溜めて俺を睨みつける。

 そう、秘宝と呼ばれる程の黄金比のスタイルを持っている彼女に神は身長を与えてくれなかった。

 俺の記憶の限り一二歳の頃から伸びてない、その幼さの残った姿から領民からマスコットのように愛されているのだが、何も考えず身長を弄ると容赦なくその才能の餌食にされる、昔調子の乗っていたエバルト(バカ)がカルーエ姐さんの身長を馬鹿にして地上から消滅しそうになり、それ以降姐さんの気配を感じると震える程のトラウマを植え付けられている。

「燃やすよ」

「魔法撃ってから言われても遅いですよ」

 肩を竦めながらそういうと、俺は姐さんから背を向け掲示板前の人混みに向かって歩き出す。

「これから、ご指導よろしくお願いします()()

「がんばれ、後輩君。次はあのお転婆も一緒にね」

 そういい姐さんは、自分の教室に向かって駆けだそうとすると数歩もしないうちにヘッドスライディングを決め、周りが心配の目を向けているのを感じながらプルプル震え、地面を叩くと同時に弾かれたように駆け抜けた。

 

 

「遅い! 何してたの!!」

「真っ赤な猫に絡まれた」

 そう返すと、ニーナは閉口して掲示板を見上げる。

「…………あった、カズミも同じクラスだな。A組だから受験も問題なかったみたいだな」

 そう言い笑うニーナ、俺はハンデありで今回の実技試験に臨んだので庶民クラスの最上位クラスであるA組に組み込まれたことはそちらは問題なかったようだ。

 

 

「さて、クラスもわかったしさっさと行くか」

「そうだね」

 お互いにいい人混みをかき分けて教室に向かう。

 

 

 

 

 やっとスタートラインに立った。十歳の頃に折れたプライドこの五年で培った俺の努力の結果で可能性を示してやる。

 俺は、制服の上着に触れそこに収めたものの感触を感じるとうるさく騒ぐニーナの話に耳を傾けた。

 

 

 



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スタートラインと新たな絆

 クラスに入ったとき、俺を出迎えたのは逞しい男の背中だった。

 さらに言えば、目の前の男は誰かと揉めていた

「俺は、魔法工学を専攻すると決めていると、何度も言っているすまないが騎士科には行けない」

「いやいや、その体格を活かさないってもったいないでしょ、それに魔法工学って今時流行らないし時間の無駄だって」

 そんな会話を聞いて、内心イラつきながらも声をかける

「すまないが、どいてもらえるかな。そんなところで会話されると入ってくる人間の邪魔になるぞ」

 そういうと、目の前にいた男は申し訳なさそうに道を開けると、彼と会話していたであろう男はふてくされたように道を譲ってくれた、この男も先の彼に比べたら細く見えるが、引き締まった体をしており見るからに何かの武術をやっているとわかる風貌をしている。

「すまない」

 そう断って俺は彼らの前を通り過ぎるもののついでに細身の男に声を変える

「そうそう、流行ってるとか云々ではなく自分が何を学びたいってことが重要で他人が偏見で強要するのはセンスないんじゃないか、魔法工学がなかったら今の生活ないし」

 そういい、体格のいい男は同意するように頷き、細身のほうは苦虫を噛み潰したように顔をゆがめる、ここで魔法を使わないくらいには理性的で安心した。俺はそう言い残し手招きするニーナのそばに行きその後ろの先に腰を下ろした。

「ご苦労様」

「なにが?」

 煽るように笑うニーナに眉をひそめる、ニーナは顔を動かさず眼だけでさっき俺が話していた細身の方を指す

「ああいう輩の相手、好きじゃないでしょ? 私が教室に着いてからずっとあんな感じだったし」

「まぁ、向こうが言ってることも理解できなくはないからな。とはいえ他人の道にとやかくいうのは嫌いなだけだ」

 そういい、嵌めていた手袋を外して制服のポケットに入れる、流石にこれからの式には相応しくないし初日から目立ちたくないからな……もう遅いかもしれないが

「ちょっといいか?」

 そう声をかけられて振り向くとそこには先ほど話した体格のいい男がいた。

「割り込むようですまない、先ほどはすまなかった」

 そういい男は小さく頭を下げる俺はそれを手で制する

「別に、あの状況だと君が邪魔だっただけだし、向こうの言い分に気まぐれに返しただけだから……えと……」

「あぁ、自己紹介が遅れたな。俺の名前はグラシナス・ホルン、イルミナ領の出身だ」

「イルミナ領のホルンって魔力馬車の……」

「あぁ、そのホルンだ。俺は三男坊だけど」

 そういいグラシナスは俺の隣の席に腰を下ろす。

「カズミ・スミス、ゲシュバルト領の出だ」

「私はニーナ・ゲシュバルト。カズミと同郷よ、ゲシュバルトだけど領主家じゃなくて商会のほうね」

 俺たちも自己紹介を返し、俺は入り口でのことを思い出しグラシナスに声をかける。

「そういえば、グラシナスは……」

「グランでいいぞ、あとそんなに堅苦しい口調でなくてもいい」

「グランは魔法工学の専攻みたいだが間違いないよな?」

「ああ、そうだがカズミもか?」

「あぁ、実家が工房やってたのもあってか昔から好きで独学で魔力回路を書いてたからこの学校でさらに勉強しようと思ってな、そっちも家業の影響か?」

「いや、実家は知っての通り魔力馬車を作ってるが俺は小型魔道具の方に興味があってそっちの道に行こうかと思ってな」

「なるほど、俺も似てるけど魔法補助具の方が専門かな」

「補助具……杖か。ずいぶんマイナーな分野だな」

「俺自身、魔法を使うことに難があってな、その関係で勉強を始めたのさ」

 そういい、ポケットに仕舞っていた手袋を取り出す。

「ちなみにこの手袋が俺の作った『杖』だ」

「これがか? てっきり棒状の物だと思った」

「あっちだと、携帯性とか実用性に難があってな」

「はいはい、盛り上がっている所悪いけど、そろそろ時間よ」

 そうニーナが声をかけると同時に教室に教師が入ってきて移動を呼びかけた。

 俺とグランは話を切り上げると、入学式が行われる講堂へ移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、ガルラニュール魔法学校は我国の未来を若人の未来を切り開くための力を育みために…………」

 入学式、来賓である文科大臣が祝辞を述べる中、俺は不意に来る眠気を紛らわせるため、小さく欠伸をしていた。

 正直、この手の席での来賓の挨拶なんて『おめでとう』の一言で十分なんだよな。

 無駄に尺だけあって中身がない話を聞くより、早く終わらせて級友との交流に時間使ったほうが、有意義だと思うんだよなこのあとのスケジュール詰まってるしさ

「眠そうだな」

 眠さとめんどくささが混じった顔をしてると、グランが小さく声をかけてきた。

「昨日徹夜で魔法回路組んでたから、正直限界点突破してる」

 そういい、欠伸を噛み殺す。

 深呼吸して頭覚ましたいが式の最中だとそれもしにくい、腕をつねって眠気を騙して俺は思考の海に頭を切り替える、昨晩思いついた新しい回路のシミレーションを脳内で繰り返す。

「……であるからして、私は君たちの未来に幸あることを願っている」

 そういいもんか大臣は祝辞を締めくくり壇上から下りた。

 そのあとは、クラス担任の発表とこのあとのスケジュールの連絡がつつがなく終わり、教室に戻った。

 ウチのクラス担任はどうやら若い女の先生みたいだ。

 やや、シュートボブの脱色気味の黒髪に無気力そうに垂れ下がったブラウンの瞳、皺だらけの白いワイシャツと同じく皺の多い黒のパンツスーツという出で立ち、傷だらけの両手から何かしらの技術科目を受け持ってるようだ。

 俺はクラスの流れに従って教室への道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、このクラスを担当するジルヴィア・ハランツだ。専門科目は魔法工学、正直自分の研究に集中したいからなるべく面倒事は持ち込まないでくれ、相談には乗るがな」

 そういい、ポケットから棒付きキャンディーを取り出し口に入れる器用に口のはしに収めると、手元のバインダーに視線を落とす。

「このあとは、各自の専攻の希望確認と現時点の実力の確認のためのテストだな、ウチは一番最後だからそれまでに配った用紙に専攻希望を書いて提出するように、実力テストに関しては受験時の的当てとは違って、ある程度実践的なものになるから、心の準備はしときな」

 そう言うと、ジルヴィア先生は教卓のそばに置かれた椅子に座ると寝始めた。

 講堂ではあまり良く見てなかったが、この教師目の下のクマや服装で印象良く見えなかったが顔立ちは整ってるし、スタイルも悪くない猫背で台無しだけど、そんな感じで担任を観察しながら俺は手早く用紙に必要事項を書き込むと教卓に置かれた箱に入れると、このあとのテストのための英気を養うため、眠りについた。

 この試験が原因でトラブルに巻き込まれるとは予想だにしなかった。

 

 

 



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実力テスト

 各自の書類提出が終わるとしばらくして、実力テストの順番が回ってきたことが告げられ、俺たちは魔法訓練場へむかうため教室を出た。

 

「さてと」

 道すがら、両手に手袋を嵌める

「カズミ、どうするの?」

 両手の感触を確かめる俺を横目にニーナが声をかけてくる

「どうするって?」

()()()()見せるのか、実戦的的って言ってたからそれより、あっちの方が適正でしょ?」

 ニーナは俺の両手から胸を見る、いや正確には懐にあるアレみたいだが

「あれに関しては、まだ未完成だし人に見せていいものでもないしな」

 そういいながら、手袋にわずかに魔力を通して仕込んだ魔法回路を起動させる青白く薄く光る回路式を見て小さく笑うと、それを肩越しに見ていたグランが、その回路式を見て小さく息を吐く

「すごいな、そんな小さな布地にそこまで細かい回路を書き込むとは、カズミは相当腕がいいみたいだな、誰か師はいるのか?」

「いや、実家は魔道具の工房だけど回路構成自体は独学だな、実家とは分野が違うし、一部流用できてるけど」

 そんな会話をしながら、俺達は訓練場に足を踏み入れた。

 

 

 

 訓練場についた俺達の前にジルヴィア先生が出てきて、無気力に声を上げる。

「はい、これから君たちには模擬戦をしてもらいます、ルールは制限時間五分使用魔法は自由、相手を戦闘不能にするか降参させたら勝利、ただし生命の機器のときは介入するからな。組み合わせはランダムでやるから各自準備は怠るなよ」

 そう言い、どこからか出した空き缶に刺さった棒を抜いて、生徒の名前を告げる。

 

 中盤に差し掛かったところで、ニーナの出番がくる。相手は同じ女子か背が低くて可愛らしい容姿の子だな、ニーナが笑うだけで顔真っ赤にしてる。

 先生の合図と同時に、ニーナが動く

 一足飛びで下がりながら火球を連射、相手は水壁を出して火球を受けるとすぐさま、壁の影から水弾を乱射する、ニーナもそれを火球で相殺すると炎槍を撃ち出して同時に空気弾を撃つ、二種類の属性を混じりこませるニーナのお決まりのパターン、炎槍を避け、追走した空気弾に当たりバランスを崩し、追撃のために踏み込む、しかしそれが罠だった踏み込む足元の水が粘り滑る、わずかに崩れたバランスを戻そうと体を動かすと同時に高圧水流が突き刺さる一気に押し戻されるニーナ、風刃で水流を払うが膝が落ちる足を取られたと同時の攻撃で膝を痛めたらしい、追撃の巨大な水球がニーナに迫るその水球のコンタクトと同時に回転してダメージを逃がす、普段なら余裕でできる行為だが今の足の状態を考えるとあそこ迄上手く逃がせない

「ニーナのやつ、使ったな」

 そうつぶやく俺、ニーナが使ったのは魔力を使った技術である、通常手から放出属性変換して使っている魔力を体全体に纏って身体能力を上げる技術、元々は俺が魔力放出を上げることに努力していたとき、両手からの出力量が増えないになら全身から出して使えばいいのではという仮説を立てて実践、結果としては魔力自体は放出できたが焼け石に水であった。しかしその副産物として魔力操作で全身に魔力を通すと肉体の強化され普段より能力が格段に上がることがわかった、具体的には子供の体で大人の男性と同じくらいの重さの荷物が運べたり、目に魔力を込めたら二キロメートル先の小鳥が見えるくらいまでに上がる、さらに言えば普段一歩走れば転ぶような運動神経が悪いカルーエ姐さんが、常人いや一流の武術家とタメ張れるくらいの運動能力をこの魔法で得られると考えたら、改良していけば魔法適正の低い戦士などの近接戦闘職の能力アップに役立つかもしれないな。

 そんなことを考えているうちにニーナが相手の襟を掴んで引き倒して顔に向かって火球を握った手を突きつけたところで、降参の声が上がった。

 

 終了の声と同時に握っていた火球を消し、相手を引き上げると制服についた土埃を払うと、微笑みながらお互いの健闘を称える。

 まぁ相手の顔を見る限り、完全に惚れたみたいだね。

 戻ってきたニーナを苦笑いで迎える

「お疲れ様、足大丈夫か?」

「うーん、そこまで重傷ではないけど滑ったところにいいのもらったから膝が伸びて痛いわ」

 そう言い、笑うニーナに俺はため息で返す。

「おまえなぁ、まぁ戻ったら保健室行って、その後魔力サポーター巻いてやるから大人しくしとけ」

 そう言うと同時に、俺の名前が呼ばれる、相手は……今朝グランに絡んでいた騎士科のやつか、名前はレオリオ・ボナパルト……ボナパルトといえば王宮騎士団長の家名、御曹司って言うわけね

 中央のステージに立つと、ボナパルトが俺を睨む

「ほう、お前は朝オレに反論した、工学科の奴か」

 その声を聞きながら、俺は戦いに備えて意識に集中させる、騎士団長の子息といえばそれなりの教育はされてるはず、気を抜いてたら一瞬でやられる。

「そんじゃ、始めるぞ両者準備はいいか……それじゃ開始」

 声と同時に手に持った棒付き飴を振り下ろす。

 それと同時に飛んでくる炎槍、俺はそれを余裕でかわすと身体強化をかけた脚で一気に間合いを詰める、走ると同時に顔の向かって空弾を撃ち出す、ボナパルトはその空弾を腕で守る、その前に向かった意識のすきをついて、後ろから石弾を撃つ背中にあたった衝撃に振り返った奴のがら空きの延髄に蹴りを入れるが寸でのところで腕を差し込まれ弾かれる

「お前、魔法戦で打撃ありかよ」

「いや、特に禁止されてないし問題ないだろ、なぁ先生?」

 俺は、そう言い先生に視線を向けると先生はけだるげな顔から満面の笑みに変える

「面白いからOK!」

 その声と同時にボナパルトも腰の剣を抜いた。

 抜くと同時に振り下ろされた剣を俺は水刃で弾く弾くと同時に炎弾が俺の腹を撃ち抜く、衝撃に逆らわず間合いを空けると牽制の火球を乱射する、その火球群を水壁で受けると煙に紛れて炎の槍衾が迫る、俺は本能的に懐に腕を入れなにかを出し一撃を与えると槍衾が砕け散り全員が驚く

 ボナパルトもその光景に口を開けているところに俺はその脚を払い倒れたところを腕を極めて床に押し付ける。

「そこまで! 勝者カズミ・スミス」

 俺はその声を受けるとボナパルトの腕を離しステージから降りる

 その背中をボナパルトが恨みの目で睨みつけていた。

 

 

 

「今使()()()よな?」

「……」

 粘っこい笑みを向けるニーナに俺は無言で返し、まだ熱を持つ懐をそっとなでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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貴族の誇りと秘薬

 初日の全日程を終えたガルラニュール魔法学校近くの酒場。そこに、レオリオ・ボナパルトが一人浴びるようにビールを(あお)っていた。

「あんな奴に……。あんな平民にこの俺が負けるなんて……」

 叩きつける様にジョッキを置くレオリオ、そこに差し込まれるように新たなジョッキが置かれ、視線をジョッキの差し込まれた元に向けると金髪の男がいた。

「未成年がこんなところでいるのは、褒められたことじゃないですよ」

 そういわれ、レオリオは奪うようにジョッキを手にすると一気に飲み干した。十八歳が成人といわれるこの国で十五の若者が酒を飲む、民の模範たる貴族としてあるまじき行為

 それは理解しているが、今日に限っては飲まないと胸の中に渦巻く苛立ちを冷ますことができない。さらに言えば今自分に酒を渡した目の前の金髪のにやけ面もその苛立ちを助長している。

「いったい何の用だ」

 苛立ちを隠しながらそういうレオリオに対して、金髪の男エバルト・タタラはうすら笑顔を張り付けたまま、口を開いた。

「実力テストで負けたと聞きまして、今校内で噂になってますよ」

「噂だと?」

 眉を顰め、つまみとして置いていた干し肉を噛み千切りそう聞くレオリオにエバルトは話を続ける

「入学生、最強と名高いボナパルト家の子息が一般庶民に負けたと、しかも相手は魔法工学専攻で魔法以外に近接戦でも圧倒されたとか」

 そう言い、エバルトは自身が注文した酒を一口口に含むと、息を吐くようにある人物の名前を口にした。

「カズミ・スミス……」

「なぜ知ってる?」

 新たに注文したビールを手にした状態でレオリオはそういうと、エバルトは肩を竦めた。

「魔法工学専攻で()()()で貴方様ほどの実力者を負かすのなら、とんでもない奇策や珍しい能力持ちくらいですからね、知ってる中で該当するのが彼くらいで」

 そう返すと、レオリオの顔に鬼が宿る

「ああそうさ、四属性っていう化け物じみた魔法に騎士団仕込みの剣術の扱うオレと素手で渡り合い、最後はオレの最大出力の炎魔法が凍って面を食らった隙に地面に押し倒される……なんだよ炎が凍るって、絶対なにか不正を行っているはずだ、そうじゃなければオレが負けるなんてありえないんだ!!」

 叫ぶように声を荒げるレオリオを見て、エバルトは大きく頷く

「そうですよ! 確かにあいつは四属性持ちっていう珍しいやつですが、まともに魔法が使えない落ちこぼれのはず、貴方に勝つなどありえないです」

 同意するエバルトの態度にレオリオは気をよくする

「リベンジしないとオレの家名が許さねえ」

 そういい、空になったジョッキを置く。大分飲んでいたのか顔が真っ赤になっている。

「イカサマしていたとしても、それができるだけの頭があるので油断できない相手なんてありえないですからね。よろしければ私がお手伝いしましょうか?」

「ほう……」

 エバルトの提案に、レオリオは赤ら顔を醜く歪めると二人は顔を寄せ合い言葉を続け、気をよくしたレオリオがエバルトの分も支払いその場は解散になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜風が酔った体を冷ます深夜

 一人夜道を歩くレオリオ、貴族である彼が護衛もつけず夜道を歩くのは単に自分の実力に自信を持っているのと今回の飲み自体が家に秘密での行為だからだ。

 気持ちいい酒を飲んだあとだからか、足取りも軽やか通学のために住むことになった別邸に向かってまっすぐ歩く、そんな中不意にレオリオの名前を呼ぶ声がする

「ボナパルト様……ボナパルト様……」

 声の元を探しながら、腰の剣の柄に手をのせる、有事に備え頭を臨戦態勢に切り替える

「ボナパルト様……」

 再度声がし、その方向を振り向くとそこにはフードを被った人間がいた。

 声の感じから女らしいそれに、レオリオは最大限の警戒をしながら声をかける

「そう。警戒なさらないでくださいな、貴方様に耳寄りな話がありまして」

「話とはなんだ!?」

 近寄ってくる女に間合いを測りながらレオリオは声を張る、変な行動をした瞬間即斬れる腹積もりだ

「ボナパルト様、貴方復讐したい相手がいらっしゃいますよね?」

「だからなんだ!?」

「負けた相手にすぐにリベンジがしたい、しかし相手は自分より強い可能性がある……」

 女の言葉に痛いところを突かれ、レオリオの? み締めた歯に僅かに力が入る

「それがどうした、あの時は相手に不意を突かれただけだ、手の内が分かっていれば負けることはない! それ以上は愚弄したとして斬るぞ!!」

 剣を抜き、そういうレオリオに女は笑っているのかフードが揺れる。

 そして、レオリオに近寄ると一つの小さな革袋を差し出す。

「これは?」

「貴方様の魔法をより強力にする秘薬でございます。一粒飲めば何人たりとも勝てるものなしの無双の力が得られるでしょう」

 そう言われ、レオリオは訝しげに差し出された革袋を受け取り中身を見る、中には小指の爪大の錠剤が入っており女の言う通りのようだ。

「いいですね、一粒。それ以上は貴方様の命を削る劇薬になることを心にお刻みください」

 そういい、レオリオが礼を言うため顔を上げた時には女はその場から消えていた。レオリオは革袋をしめると、剣を納め別邸にむかって再度歩を進めた。

 

 

 

 

 翌日学校からの帰宅後、別邸の庭で剣を振るうレオリオ丁寧に基本の方をなぞり空いた左手で時たま魔法を撃つ、レオリオの適正属性は炎と水の2属性、反属性である二つを淀みなく運用するまでの魔法技術はまだ持たないが、剣戟の隙間を埋めるくらいの運用速度は持ち合わせている、普段こそ火力に優れた火属性を多く使うが、水属性も牽制程度には使える、カズミとの模擬戦ではカズミの豊富な手数に対応するため火属性に絞って戦っていた、その選択が間違えだったと考え現在は水属性の魔法の向上と属性切り替え速度を上げることに重きをおいて自己鍛錬を行っていた、酒場ではイカサマ云々言っていたが、そのイカサマを再度やられても勝てるように己の腕を上げる、安易な手段は貴族いや騎士としてのプライドが許さないのだ、だがしかし……。

 

「くっ、やはり水魔法への切り替えがおそすぎる、これだと実戦で全く使えない」

 本来持っているだけで天才と呼ばれる二属性、しかしその構成によっては逆に苦しむことになる。

 火、水、風、土の四属性には明確な相性があり、レオリオの持つ火属性と水属性は相性が悪い、全てを焼き尽くす炎も水を浴びたら消えるのは子供でも知っていること、相性の悪いとされる組み合わせは魔法の切り替えが難しいとされており、修業によっては同程度まで使用できるところまで行けるが、レオリオの場合は魔力操作が苦手であり、性格なのか魔法の地味な鍛錬を無視する傾向あり、努力のベクトルを剣術に向けていた、さらに言えばレオリオは本来両利きであり、魔法を使えるようになるまで、ある冒険者に憧れて二刀流の剣を鍛錬していたが、入学に際して魔法と剣を両立させるためこの形にしていた。両手で二属性を使えれば楽だと考えるが、それだと剣が使えない、剣に集中すれば魔法が使えない堂々巡りがレオリオの頭を支配している。

「っあぁ!」

 終わらない悩みを振り払うように声を上げ、脇においていた水筒を取ると中の水を一気に呷る、ぬるい水だが頭のモヤを振り払うには十分であった。そしておもむろにポケットから昨日の革袋を取り出す。一粒飲めば無双の力を得られるとということだが、正直眉唾であるとはいえ今の鍛錬では短期間での成長が望めない

 

「……まぁ、ただで手に入れたもんだし、試すだけはするか」

 そう言い、レオリオは袋から錠剤を取り出し水と一緒に飲み込む、するとレオリオの体に力が滾る、レオリオは庭に設置されていた魔法鍛錬用の的に火球を放つ、すると火球は今まで見たことのない速度で飛び的の中央に穴をあける、学校に置かれた使い捨ての的ではなく庭に置かれているのは戦闘用の高威力魔法の一撃にも耐えるほどの強度を持っている、それを初級魔法に位置する火球で貫くのは異常である、更にレオリオは剣を取り飛び出す。体が軽いやや重さを感じていた剣も羽のように軽く体のキレも段違い、今まで出来なかった無理な軌道も容易に痛みなくできる、更にレオリオを喜ばせるのは

「属性の切り替えが早い」

 そう、今まで悩んでいた属性の切り替えが淀みなくできるのだ、更に苦手だった水属性も火属性と同程度。いや、両属性ともに騎士団の精鋭魔法師の域に迫っていた。

「これだ、これさえあればあの平民を完膚無きまでに叩き潰せる」

 満ち溢れる力を確かに感じレオリオは笑う、その顔は精悍とは言い難い醜い笑顔であった。

 程なくして、体に満ちていた力が消え急激な倦怠感が体を支配してもレオリオの笑いは止まらなかった。

 

 

 

 



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魔銃グレイヴ

 ボナパルトが秘薬の沼に堕ちていた頃、俺は一人寮の自室で、あるものを弄っていた。

「うーん、やっぱり咄嗟に急激な魔力送ったから回路が一部狂ってるな……」

 そう言いながら、手元にある魔道具の狂った回路を書き直す。

 俺が弄ってるのは、魔導銃『グレイヴ』。俺の自作の杖のその今現在の完成形であるそれは、俺の弱点を補強し、そして俺の考えた新たな魔法を撃つための必須のものになる。

 元々、杖の核になる素材を探している中偶然骨董屋の投げ売り品にあった『銃』と呼ばれる物品を研究改造して作ったものである、この世界でたまに出てくる謎の物品、ちゃんとした機関に見つかれば国の機関で研究されて、国の発展に利用されるが一般人が見つけた時は多くの場合は街の骨董屋に二束三文で売られている、まぁ使い方がわからない物が高値で売れるわけないのだが、高く買うのも物好きの金持ち位である、そんな風に骨董屋で売られていたそれを安く売られていたそれ、見た目は鉄製のに突起がついた形状、解体していく中で騎士団の使うクロスボウに近い仕組みで鉄製の礫を撃つ出すものだと解り、領の図書館で資料を漁る中で『銃』というものっぽいのでそう呼ぶことにし、ちょうど開発出来た新方式の魔術回路を組み込むことで杖として魔法が撃てるようになった。

 撃てるようになった当時は狂喜乱舞したし、その威力が至近距離で撃って木の板も貫けないほどの威力だとしても十分な結果であった。更に改良を加えることで威力と射程距離、魔法バリエーションは増え、更に机上の空論であった技術も実現し本当の意味で血を分けた相棒と呼べるまでになった。

 しかしながら、こいつに込めた技術自体の危険性を考えたら今現在表に出すわけには行かず、出すならもう少し安全性を確保してからだと考え、普段はグレイヴの一部回路を流用した手袋型の杖を普段遣いするようになった、それでもこいつでしか使えない魔法もあるのは確かなので複雑な心境である。

 

 そんな相棒も先日ニーナの足の治療に使った際に無意識に魔力量を多く使ったせいで一部回路に狂いが出たみたいだった、ほんの僅かな狂いだが精密機械であるこいつの場合それが命取りになる、というかこの素体の量産ができてないから壊れたら大変というのもある、分解して修理はできるが一部精密な部品が作れないのである、小さな亀裂位なら錬金で直せるだけどな一からは俺の技術では難しい、この学校にいる間にそこら辺が得意な人間と繋がりができたら嬉しいのだが

 

 

 そうこうしている内に回路の修正が終わり、分解していた部品も組み上げ標準の確認をする。

「……狂いなし、あとは…………『リロード』」

 言葉と同時に俺は五芒星の刻まれたグリップを握る。グリップには魔力吸収の回路が組み込まれており、これは俺の弱い魔力放出を強化してグリップ中央の魔石に魔力を吸収させる効果がある。

 集めた魔力は内部の回路を通して内部に溜め込み組み込まれた魔法陣で魔力圧縮と魔法の構成、トリガーと連動したハンマーの衝撃をキーに構成した魔法弾を発射というメカニズムである。

 この世界の魔法はイメージで構成される、街の魔法塾や家庭教師に魔法を見せてもらって大まかな完成図を覚え自分でそのイメージを変化させるのが現在のメジャーな方式である、昔は詠唱によって魔法を使っていたらしいが、数多くの戦場の中で無詠唱の技術が向上今に至るわけである、詠唱技術の衰退と同時に利便性の乏しさから魔法補助具であった杖の需要も無くなり衰退していったと本で読んだ。そんな廃れた技術を掘り起こして発展させようとしている自分に内心苦笑いを浮かべる。

 重厚を部屋の対極に置かれた的に向けると俺は空弾を打ち出す、発射されるときの小さな反動を腕で感じ弾丸は狙い通り的を押し倒す、次に炎弾、水弾、石弾と実体弾を撃ち込み回路が正常に稼働することを確認して銃口を下ろす。

「ロック」

 魔力回路を止める詠唱を呟き、本体に取り付けた安全装置をロックすると革製のショルダーホルスターに収め、その上に制服の上着を着込むと鞄を持って部屋を出た。

 

 

 通学路でいつものごとくお転婆娘(ニーナ)に絡まれ、机に謎の手紙が入っていたことは今は気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『放課後、校舎裏で待ってます』

 昼休みに読んだ手紙にはこの一言のみしか書かれてなかった。本来なら、愛の告白と浮足立つものだが、今回に限っては書かれた文字が明らかに男の文字だったので心の底から面倒臭さでため息が出る、まぁ無視してもいいんだけどわざわざ手紙書いて呼び出す誠意に乗って、行くことにした。

 カルーエ姐さんに放課後女子会に誘われているニーナと教室で別れ、一人校舎裏に行く。途中売店で極糖ミルクコーヒーを買い、後ろで追ってくる気配を感じながら校舎裏に向かう

 

 

 

 校舎裏で微温くなったコーヒーを飲み舌に残る砂糖のザラつきを感じていると、缶が岩の槍で貫かれた。

 振り返ると先日模擬戦で立ち会ったレオリオ・ボナパルトが三人の男を連れてそこに立っていた。さらに言えばそのお付は俺の顔見知りである

「エバルト……お前らなんでここにいるんだ?」

 ボナパルトが連れていたのはエバルト、そしてその腰巾着の赤髪モヒカンのガンと緑髪リーゼントのジョーだった。クラスの違うコイツらが貴族のボナパルトとつながるのは意外だったがそれよりも、飲み始めたばかりのコーヒーをダメにされたことに俺は殺意に似た感情を抱く、せっかくの糖分、ニーナやカルーエ姐さんにバレたら折檻確実の砂糖たっぷりの極糖品をダメにされたのだ。堪忍袋の導火線に火を付けるのは容易だった。

「バカ正直に来るなんて以外に危機感ないんだな、いやもしかして愛の告白だと思い込んだくちか?」

 ボナパルトがそういうのを聞きながら俺はバカ四人をジト目で睨みつける

「あんな些末な手紙で騙されるほど、飢えてないんだよ。で、用事ってもしかしてこの前の再戦か?」

 手袋に魔力を通しながら、そう問いかけると四人は同時に魔法を放つことで答える。

 俺は、自分の急所に当たる物を選択して反属性で相殺すると、一気に踏み込む先ずは手前でアホ面晒しているガンの面を踏みつけ四人の裏を取る、空中で適当に作った岩を降らせ意識を散らせ、そのまま低空から炎弾を乱射、その炎弾をエバルトが土壁で遮り、崩れた隙間からボナパルトの炎刃、ジョーの風弾、ガンの火球の乱射が飛んでくる。

 それらを紙一重で躱しながら近寄るとボナパルトの目を狙い横一文字で剣を振るって来る、急制動で斬撃を躱し重心が後ろに傾いたところをジョーのタックルが入る、足腰に力を入れてタックルに耐え力比べに入る、体格もあるが昔から相撲が強いジョー相手に押し負けそうになるところで他の三人が魔法で援護してくる。俺は魔力強化を発動させ巨漢を持ち上げるとその体で魔法を防御しうめき声を上げるジョーを頭から足元の大地に叩きつける首が詰まる衝撃を感じるジョーをそのままにし、鉄パイプを握ったガンの懐に入り振り上げた両脇に両手を差し入れ持ち上げるとそのまま立てた膝に奴の股間を叩きつける股のアレのコリッとした感触と声にならない悲鳴を上げ股間を押さえるガンの顔面に蹴りを叩き込み意識を奪うと、俺の足が地面を失い天地が逆転すると同時に後頭部に鈍い衝撃を受ける揺れる視界と頭の痛み、そして背後で気持ち悪く笑うジョーの気配へそ周りに巻かれていた両腕を放しブリッジからジョーが起き上がり、開放された俺が地面に横たわる揺らぐ視界の端で肘を立てたジョーの巨漢が降ってくるのが見える、鈍った体を必死に動かしエルボーを避けるとその背中をエバルトが蹴り上げる、その衝撃を利用し起き上がると同時にエバルトの顎を掌底で跳ね上げ、距離を取るお互いに距離を取り構える、のそりと起き上がるジョーが吠える。踏み込むと同時に大振りながら体重の乗った横殴りの右、そこに被せるように左のカウンターを合わせる。跳ねるように首がまわりジョーの脳が揺れる、力なく倒れるジョーの背後からボナパルトが剣を振り下ろす。

 その剣を握る右腕を両腕で抑えるとボナパルトは空いた右手を俺の腹に突きつけ火球を連射する。

 熱と衝撃で中身を逆流させようとする胃を根性で抑え込み、苦し紛れのケリで間合いを空ける。

 空けた間合いの中で息を吐いた瞬間エバルトが鉄パイップを頭部に向かってフルスイングしてくる、俺をギリギリで躱すとエバルトとボナパルトが苦虫をかみ潰した顔をしながら俺を睨む。

 

「ちっ、四対一でも仕留めきれないなんてしぶとい奴だな」

「えぇ、コイツのしぶとさは昔から折り紙つきですから、属性適性だけで大した魔法も使えない落ちこぼれなくせに俺より上位クラスに行きやがって…………」

 

 そう言い睨む二人に俺は精一杯の皮肉めいた微笑みで返す。

 

 

 

「……。使わなくても勝てるだろうと考えていたが…………」

 そう言いボナパルトは制服のポケットから小さな革袋を取り出すと中から錠剤を取り出し一粒をエバルトに差し出す。

「それは!?」

「飲め」

 咄嗟に訊くエバルトの問いにボナパルトが低い声で答える、よくわからない錠剤を渡されて躊躇うエバルト、その背中を押したのは平民が貴族に逆らえないというあり種の刷り込みとそして今まで下に見ていた俺に魔法で良いようにやられた事実による傷つけられた自尊心であった。

 それは、錠剤を渡したボナパルトも一緒だろう、模擬戦での失態、さらに多勢を連れての襲撃で倒せない俺に対しての悔しさに腸が煮えくり返ってるのだろう。

 

 

 

 

 

 俺は最大限の警戒をしながら、ゆっくりと斜に構える。動きやすく、少しでもヒットゾーンを狭くするためだ、そしてそんな緊張感の中に異物が入った。

「あっ、カズミ! こんなところにいたんだ」

 そう言い駆け寄ってくるニーナ(異物)その姿を目に入れたと同時に、その場の空気が震えた。

 振り返るとそこには先程と比べ物にならないほどの魔力を纏ったエバルトとボナパルトがいた。視認と同時に迫る炎と岩石、それを両腕でガードする、先程とは比べ物にならない魔法の威力、込められた魔力の密度が違った。弾かれた腕を戻そうと引き寄せようとすると眼前に切っ先が迫る、背をそらして剣を躱しバク転で距離を開けると、足に痛みが走る視線を落とせば右太腿に大きな切り傷が走っていた。太刀筋のキレが違う身体強化がなかったら足一本持っていかれた。

 一瞬緩んた意識の隙間をエバルトが拳を固めて迫る、普段ならしない選択肢、手下のジョーのように殴り慣れてない振るっただけの拳それを、外側に弾くとガラ空きの腹にミドルキックを叩き込む柔らかい腹に俺の右脚がめり込む、そのまま振り抜こうとするがエバルトがその足を抱える、脚を掴んだことでこっちの動きを止めたと安心してニヤケ面で魔法を構えるが、その掴まれた足を軸に左脚でエバルトの延髄を叩き切る、蹴りの勢いのまま地面に顔面から叩きつけられるエバルト、開放された脚を引き抜いて距離をあける。あけると同時に頭上から降ってくる炎の矢、その矢をニーナが風で吹き飛ばす。

「なに、喧嘩? 入学早々トラブらないでよ!」

 俺のそばに駆け寄って、毒づくニーナに苦笑いで返し剣を振り上げて斬りかかるボナパルトの剣を狙いその刃を砕く、刃を失って使い道を失った剣の柄を投げつけ右手から炎、左手から水を集める、コイツ二属性持ちかよ、というかニーナのやつも喜々した顔で魔法を構えるな右手に留めてる風の魔力に巻き込まれた草と小石が当たって痛いんだよ

「あぁ、ニーナさん気合入ってるところ申し訳ないけど、コレ()()()()な」

「なぁに言ってるの? こんな楽しそうなこと参加しないでどうするのよっ!」

 そう言い、左手に構えた炎を二十の矢に変換し一気にボナパルトに叩き込むがその矢の壁を鞭にした水で叩き消し、身の丈の二倍はある巨大な槍衾を作りニーナを押し潰さんと押し出す。

 迫りくる炎の壁にニーナは身を屈め、頭上に半円状の風壁を作りそれと同時に壁が爆発するように倒れ込む、湧き上がる砂煙俺とニーナを同時に倒したと思っているのか、ボナパルトは満足そうに笑う、その汚い満面の笑顔に俺の踵が突き刺さる、駆け抜けた割れた土煙の奥、力が抜けて座り込むニーナの周りを崩れた土壁が囲っている。咄嗟にニーナ風壁の上に土壁をかぶせて守ったが流石に自分まで手は回らなかった。焼かれたところを水魔法で雑に消火しズタボロのなった制服を翻し渾身の浴びせ蹴りを奴の鼻っ柱に叩き込んだ、折れて鼻血を垂れ流す顔面のままひっかくように水と炎の刃を振り回す、ボロボロの制服を更に引き裂きながら前進するボナパルトに追い立てられるように下がる、魔法訓練を行うため、対魔法繊維を織り込まれた制服を切り裂く刃の乱打に俺は反撃の間を見つけることができなかった、だがそんな乱打もそう続くことはなかった。

 いきなり凪いだ乱打、途端に力なく項垂れたボナパルト訪れたチャンスに俺は手袋に土属性の魔力を流し込み拳を固くし渾身の右アッパーを奴のボディに叩き込む、鳩尾にめり込み肺の中身を吐き出しその場に蹲るボナパルト、横隔膜の痙攣で呼吸ができなくなり震えている、顔面に叩き込まなかったのは本能だった、あの威力を薄い顔面に叩き込めば確実に骨は逝くし、下手すれば命すら奪いかねない、だったら肉のついた腹のほうがまだ、命は助かるただそれだけだった。

「もう、無駄に喧嘩売ってくるなよ」

 そう言い、踵を返し制服についた土を払っているニーナに手を振り、帰路につこうとしたがそれをボナパルトの叫びが止めた。

 

「まだだ、まだ終わってねぇ!!」

 フラフラと立ち上がったボナパルトはそう叫ぶと先ほど薬が入っていた革袋を出すとその中身を一気に口に入れ噛み砕く、するとボナパルトの体が制服を破るほど膨れ上がり、目が真っ赤に血走り、流れていた血も止まった。明らかに異常な変化だが一番の変化はそこではなかった。

「シネ」

 片言のそれと同時に真っ赤な炎が俺を巻き込む、再び焼かれる体全力の水と風魔法で炎の渦を引き裂く、炭になった制服の上着を脱ぎ捨て、俺は手袋が焼失し素手になった手で髪をかきあげると、ニーナに声をかける

「ニーナ、先生呼んで来い! 早く!!」

 聞くと同時に駆け出すニーナを見送ることなく、俺は今の状況に集中する

 無作為に乱射される魔法を躱しながら、俺はホルスターからグレイヴを抜いた。

 

「リロード、『フレイムバレット』」

 安全装置を外すと同時に真っ赤な弾丸を打ち出す、弾丸が当たると同時に燃え上がるボナパルトの肉体、しかし多少の火傷を苦にしないで前進するボナパルト、人並み外れた速度と力まかせの肩からの体当たりが俺を吹き飛ばす、飛ばされながら緑色の弾丸『エアロバレット』を乱射当たると同時に吹き出す風に乗り、暴力の塊から距離を取ると地面に向かって黄色の弾丸『ランドバレット』を撃ち込石壁を作り出すがそれもすぐさま砕かれる、振り回される腕から逃げながら、俺は必死に魔力弾を打ち続ける、貫通力に優れた青の弾丸『ウォーターバレット』で腕を抉っても、ランドバレットで内部で作られた岩で貫かれてもなに食わぬ顔で岩を引き抜き傷が塞がってしまう。

 

「ただの属性弾だとダメか、ただの魔力弾なんてもっと意味ないだろうし…………使うか」

 そうつぶやき、俺は暴風雨になっているボナパルトの攻撃を躱しながらグレイヴに魔力を送る、コイツはただ魔力を弾丸にして撃ち出す銃ではない、複数の魔法を合成して新たな魔法として撃ち出すことが可能なのである、複数の魔法を使うための並行思考能力や繊細な魔力操作を必要とするコレを扱えるのは俺だけであり、素体の希少性も相成って完全なワンオフ品である。

「フリーズバレット」

 完成した混合魔力弾をボナパルトの足元に撃ち込むとそのままボナパルトの足元を巻き込み凍る、水と風の魔力を混合し弾丸の当たった場所を凍らせる『水冷魔法』を込めた弾丸による拘束、もがくボナパルトから一気に距離を取ると、土魔法と風魔法の混合魔法『雷撃魔法』を込めた「ライトニングバレット』を矢継ぎ早に撃ち込む、一発でクマも動きを止めるそれだが、完全に暴走状態の奴が一発で効くわけないので、効果が出るまで撃ち込む、次第に動きが鈍るボナパルト、突き出された状態で止まった腕を潜り接近しながら火と風と土の魔力を混合、銃口をボナパルトの腹に押し付ける

「チェックメイト『エクスプロードバレット』」

 詠唱と同時に銃口から漏れる魔力光、耳をつんざく音と肩を持っていかれそうになる衝撃と熱がボナパルトの内蔵をかき混ぜる、周囲のガラスを震わせるような雄叫びを上げ、力なく膝が折れる前のめりに倒れると、膨れ上がった肉体がしぼみ本来の引き締まった体に戻る、警戒しながら安否確認のため体をひっくり返すと、『爆裂魔法』が当たった腹が焦げておりその威力に撃った本人ながら、相手の内臓を心配してしまう。

「…………まぁ、いいか。危ない薬使った自業自得ってことで」

 そう言い、グレイヴをホルスターに収めると、同時にニーナが数人の先生を連れて戻ってくる。

 俺は、手を振り場所を伝えると、教師陣が倒れているボナパルトたちの状態を確認し保険医の指示で保健室に搬送される、それを横目に俺は生徒指導室に連れて行かれ事情聴取、事の経緯を説明していたら開放されたのは夜も更けた頃になっていた。帰り道安全のため付き添っていた生徒指導主任が近くの食堂で夕食を奢ってくれたのは怪我の功名と考えよう。ズタボロになった制服は買い直しになり、その費用は今回のことの説明ついでにボナパルト家に請求されるらしい。

 

「今日は散々だったな」

 部屋で力なく呟くと、ホルスターから相棒(グレイヴ)を抜き眺める

 予定より早く使ってしまった。本来ならもう少し学内で鍛錬して合成魔法の地盤を固めてから使うつもりだった。だが、今回の一件で貴重な実戦データが取れたから良しとするか、その代償があの面倒くさい教師陣への説明だったのが不満だったが

「しっかし、まさかアイツが二属性持ちしかも反属性だったとは」

 剣の腕があり二属性持ち、扱いにくい反属性ではあるがそれをどうにかすれば今回のように薬に頼ることがなくなるはずだ。

「まぁ、そこをどうにかするのは本人次第なんだけど」

 正直、助けることはできるがそれを受けるかは本人次第である。ため息混じりにガンスピンさせホルスターに相棒を収めると、ベットに倒れ込むとそのまま眠りについた。

 

 

 今回の教師陣への説明が更に面倒くさい騒動に発展するとはこのときの俺は思ってもいなかった。

 

 



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ハランツ研究室

 俺がボナパルトを完膚までに撃ち負かせた日から数週間がたった。

 アレから、学内での事情聴取や怪我の治療などドタバタしていた、ボナパルトは例の薬の過剰摂取の影響か体中ボロボロになり、現地数ヶ月の重症で量は違うが同じ薬を飲んだエバルトは強烈な筋肉痛で数日動くことが出来ず、寮で呻き続けていた。その腰巾着の二人はアレだけ頭部にダメージを受けていたのに、翌日には普通に登校してきた。昼休みに三人で飯食べたが二人共今回の件には相当頭を痛めていたらしい、というかガンもジョーもエバルトが絡まなければ結構仲がいいのよね、ガンは実家が俺がグレイヴの素体を買った骨董屋の次男坊、ジョーは格闘道場の道場主の一人息子、喧嘩していく中で不思議と変な絆ができて、エバルトがいなきゃ一緒に飯食いに行く仲である、ジョーに関しては偶に二人で体術の訓練してお互いの技術の研鑽をしている、エバルトのそばにいるのはタタラ家との付き合いもあるが、単純にエバルトとつるむのが楽しいかららしい。

 

 

 

 まぁ、今回の件で学校からは喧嘩両成敗ということで俺とガンジョウーコンビは三日間の自室謹慎と反省文、薬使った二人は二ヶ月の停学になった、比較的軽めになったのはボナパルト家から一言あったことと入学早々のトラブルだったので学校からの慈悲らしい。

 そんな騒動もあった記憶も頭の片隅に置いといて、俺は放課後の楽しみである極糖ミルクコーヒーを飲みながら購買で買った『月刊魔道具』を読んでいた。今月も各社最新の家庭用魔道具略して家道具を発売するらしい、魔道具は基本魔道具を専門で開発している会社から発売され、街にある魔道具屋がそれを仕入れて販売、故障などは販売した魔道具屋で修理するというシステムになっている、道具屋で直せないようなトラブルは会社に送って修理になるが、各社の本社が王都にあるためどうしてもタイムラグが出る、数年前までは大型化の一途になっていた家道具も俺が作った魔術回路式の発表により従来の機能のまま小型化が可能になった。もちろん回路式は特許局で特許をとってその権利のロイヤリティーでこちらでの生活費を賄っている、不労所得というよりかはニーナの親父さんが俺の回路式をみてその価値を見出して、その権利を守るために登録させられたというのが正しい、まぁ実家にいる時は俺の収入を実家に入れてはいたが、進学に際して両親からこの金は俺が使うように言われて今に至るわけだ。俺に至っては開発中心の生活で使うのは趣味の甘味巡りくらいだし十分賄えるだろ、というか学生の中には学業の傍らバイトしている人間もいるし恵まれてる方だろ

 

 

 

 そんなこんなで、授業も終わりこのまま自室に帰って、新しい回路式でも試そうかと考えているところに不意に担任のハランツ先生から声がかかった。

「あー、カズミ・スミス、ニーナ・ゲシュバルト、グラシナス・ホルン、このあと私の研究室に来ること、場所は技術棟の三階の突き当りな」

 そう言い、軽く手を振りながら教室を出る先生を見ながら、俺たち三人は顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

『ハランツ教諭研究室/魔道具技術研究部』

 そうプレートに書かれた教室は、正直異様だった見た目ではなく目の前のドアから湧き出るオーラが異様だった、なんとなくドアに触れたら食われるそんなイメージすら湧く

「ここ、だよな?」

 そう呟く俺にグランは小さく頷く、筋骨隆々の体はじっとり汗をかいている。どうやら俺と同じ印象を感じてるようだが、それを感じていない ニーナ(アホ)が直ぐ側にいた。

 

「なにやってるの? 早く入るよ!」

 そう言い、ドアを開けて飛び込むニーナを追って俺達も部屋に入った。

 部屋に行った俺達を迎えたのは色とりどりの配線に繋がれた魔道具群だった。

「コロニャ社のCR-567型自動掃除機にサーズ者のSS696式高圧洗浄機…………どれも絶版された魔道具たちだ!」

「今だと、オークションで起動しないやつでも50万ギラ、未使用品なら200万ギラで取引されるレア物だ!」

 俺とグランが興奮して、置かれている魔道具を見ているのをニーナは冷たく見ている、そんななか誰かの手を叩く音がその意識を持っていった。

「アタシのコレクションに興味持ってくれたことは嬉しいけど、そろそろここに読んだ理由言ってもいいかね?」

 そう呼び掛けた先生は、俺達を部屋に置かれたソファーに座らせるとそれぞれにコーヒーの入ったカップと一枚の紙を置いた。

 

「スミス、この前のボナパルトとの喧嘩で学校側は違和感を感じている」

 そう言われ、俺はコーヒーを飲みながら僅かに眉を動かす。隣でニーナのやつがニヤついてるが無視だな、グランに関しては、俺の砂糖の量に驚き目を見開いている。

「違和感とは?」

「現場にあった氷の塊や気絶していたボナパルトの身体に触れた時に走った電流、魔道具無ければ不可能なものばかりだ」

「電流に関しては静電気では?」

 そうはぐらかす俺に、先生は皮肉げに笑う

「ほぼ裸の体に素手で触れて静電気を感じるのはそうあり得ない、乾燥して寒いなら兎も角今の時期なら特にな」

「氷の方は魔法で出したと考えたら説明付きますが」

「魔法で人間が氷を出すには高い魔法技術が必要で、あの場にいた人間でその域に達してる人間は居なかった。特に当事者二人は片方は水属性を碌に鍛えてない脳筋、もう片方は四属性持ちだが魔法をほぼ使えない人間とそんな奇跡的な事早々起こらない」

 そう解説し、カップを置くと好奇心の塊のような笑顔で俺を見た。

「スミス、お前さんがいつも着けているその手袋になんか仕込んでるだろ……杖か?」

 俺の手袋を見てそう言う先生に俺は驚いた.一発で見抜かれた俺は、とっさに手を隠そうと動かしたが、諦めて砂糖でざらつくコーヒーを口にした。

「はい、この手袋は杖の機能を持ってます」

「まぁ、杖自体は校則で禁じられてないし過去には使っていた生徒の方が多かったらしいからな、しかしそんな小さな布地に多属性の魔法が撃てる様な魔法回路を組み込めるとは……いや確かお前さん短縮魔法回路の特許持ってたな」

「ええ、おかげ様で学生の身分で何不自由ない生活を送らせていただいてますよ」

「あの、魔法回路のおかげで停滞していた業界で開発競争が加速したからな、若いながら大したもんだよ学内で学べること無いんじゃないか?」

 そう言い笑う先生と困惑する両隣に苦笑いを浮かべ、空になったカップの底の砂糖をスプーンでかき出す。

「いやいや、過大な評価されてますがあくまで独学で道を極めるなら確かな基礎から固めたいので、先生方から嫌ってほど学ばせて頂きますよ」

「だが、先日の模擬戦観る限りその手袋であの規模の被害は出せないはず、まだなんか仕掛けがあるよなぁ?」

 粘っこい声と目線に俺は警戒を強めるが、隣のアホの口は予想外に軽かった。

 

「あの規模だとグレイヴ使わないと無理だしね」

「グレイヴとはなにかね?」

「カズミ作った、新型の杖で魔銃っていうやつですよ」

 笑顔で言うニーナ(バカ)に俺は肩をすくめ、年甲斐無くキラキラした目でこちらを見ている先生に俺は溜息をついて、懐からグレイヴを抜いてテーブルに置くとそれを先生が素早く掻っ攫う

「これがそうか! この握る所の魔法陣が魔力を吸って先端から出すと、しかしそれだけだとわざわざ持ち歩く意味が無いないはず……すまないが解説を頼めるかいこのままだと解体してしまいそうだしな」

 そう言われ、俺は先生にグレイヴ(相棒)の説明を始める。先生とグランは嬉々としてメモを取りながら話を聞いている、口火をきったニーナは俺の鞄から出したクッキーを頬張っている。

「ふむ、オーパーツベースに複数魔法を同時使用、更に異なる属性を掛け合わせて新しい魔法の開発と、それを十代の専門知識を学んでいない子供が開発するとか君の悪い夢みたいな物だな」

 そう言い苦々しく笑うと先生は追加のコーヒーを淹れてくれた。

「本当に同世代とは信じたくないですよ、これが天才というものですかね」

 俺を見ながらグランがそう言う、生優しい目で見るのはやめてくれ

「天才って、まだ未完成な部分多過ぎて迂闊に出せないから普段使ってなんだが」

「いやいや、その発想自体が評価されてるのだが、普通複数の属性魔法を掛け合わせること自体やらないからな、魔力コンロですら、二年前まで火種と火力を強くする機能が別だったのだから」

 そう言いながら、先生は新しいコーヒーに砂糖を入れようとするがシュガーポットの中身がなくなっているのを見てジト目で睨み付けてきた。

 改めて、グレイブを持ち上げグリップを握り、クロスボウの要領で構えるこの姿をみてちょっとした悪戯心が湧いた。

 

「リロード」

 小さくそう呟くと、グリップの魔法陣が薄く光りそれと同時にグリップを握る先生の驚きの表情と共にグレイブを落しそうになる。

「オイ! いきなり尋常な量の魔力を持っていかれたのだが」

 息を荒くしてそう問いかける先生に俺は笑顔で返す。ネタを知っているニーナは呆れて額を抑える。

「グリップに描かれてる魔法陣、握っている人間の魔力放出量の倍化と吸収なんで慣れない人が握ると一気に魔力吸われて、魔力欠乏症になるんですよ吸われた分魔力弾の威力も上がりますがね」

 リロードの魔法は併用して魔力操作で弾丸の形成もしないといけないから繊細な技術が必要なんだよな、吸われっぱなしだと吸われた分内部で魔力が圧縮されて一発の弾丸になるだけだしね。

「そう言う仕組みだと、放出しないと危ないんじゃないか!?」

 普段の気怠げな様から急に焦りを見せる先生に俺は、ちょっとした可愛さを見て顔が緩む

「余剰魔力はグリップ内にある専用機関に溜まるようになってるんで、大丈夫ですよ流石に限界量はありますが今日は新しいやつを入れてるんで先生の魔力くらいなら十分入りますよ」

 そう言われ、安心と年下に遊ばれた羞恥心が混ざった複雑な顔を浮かべながら、グレイヴを俺に返してくる。

「とはいえ、軽症で治めたあたり流石としか言いようがないですね、ニーナなんで昔悪戯で同じことして三日間寝込みましたし」

「吸われ始めは驚いたが、魔力の放出を無理矢理止めたらどうにかなったからな、流石に今日は大規模な魔法は使えないけど、お前を折檻するくらいの魔力は残ってるぞ」

 そう言い掲げた右手に小さな竜巻を生み出し笑う先生に冷や汗を浮かべる俺、そこにグランが割り込む。

 

「先生、そろそろ自分を呼んだ理由を教えて下さい、カズミだけお話しされていていまだに状況が理解出来てないんですが?」

「あー、すまんすまん。忘れてたわ。端的にいうとお前ら三人アタシの研究室に入れ」

 いきなりの話に俺たち三人は困惑する。普通研究室に入るのは三年次から、二年間の基礎講義の後自分の進路に向かって細分化された各教師の研究室に入ることになっている。

「まぁ、正確には研究室というよりクラブ活動に近いんだが、表にも書いてあるがアタシは魔道具技術研究部という部活の顧問をしているが、魔法工学の花形のレース用魔力馬車の開発や魔導人形の開発とかが人気で、アタシの専門の魔道回路や小型魔道具の方は日陰者なんだよ、ホルンは小型魔道具の開発を志望しているし、スミスはさらに珍しい魔法補助具の開発、ゲシュバルトはスミスの研究を本人の次に理解しているから、勧誘した。まぁ今までの部員が昨年度卒業して存続の危機も有るんだけどな」

 笑いながらそう言う先生に対して三人で顔を見合わせると、ほぼ同時に目の前の書類に必要事項を書き込む、今更ながら思い出したが、目の前のジルヴィア・ハランツという人物軍用魔道具開発の第一人者だ、若干十代で現在軍で採用されている装備の殆どを開発し、民間用にまで広げた手腕はまさに天才という言葉が当てはまる人物である。現在は非常勤職員として一線を退いて隠居したと聞いていたが、まさか教師をしていたとは技術を学ぶなら正にうってつけの相手である。そして書いた書類を先生に手渡すと笑顔で受け取ってくれた。

「ありがと、それとスミスわかってると思うが魔銃に関してはしばらくは秘匿しとけ、外に漏れたら確実に軍部に接収されて、無理矢理技術提供されるぞ。アタシの頃の総司令官はまだ理解があったが、今の総司令はバリバリの強硬派で使える技術は()()()()()で使おうとするからな」

 そう脅しをかける先生に俺は頷くと、遅れて提出した二人と共に先生から部活動の詳細を説明された。

 その中で、俺達三人の呼び方は本人達の希望により家名ではなく名前になり、先生のことも愛称であるジルと呼ぶ様に厳命された。というか、若いと思ったがまさかまだ二十四歳だとは思わなかったし、二十歳から教鞭を取っていたとは人とはわからないものだなとしみじみ感じた。

 

 

 



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グランの才能

 無事にジル先生の研究室に入ることが出来た俺たち三人は、一路学生寮への帰路を歩いていた。

 あの後もジル先生との話は尽きぬことは無く、先生が締切を忘れていた仕事の回収に来た他の教諭が来るまで続いた。

 

「しっかし、初年度から研究室入りとか運が良いのか悪いのか…………」

 

「まぁ、研究室に入ってたら材料費とかの経費は研究予算から出るし良いんじゃない」

 ボヤく俺にニーナが能天気に答える。

 

「というか、お前は大丈夫だったのか? 姐さんと同じ研究室に入るとか言ってただろ」

 

「うーん、その予定だったけどジル先生の所も面白そうだし、あわよくばおこぼれにあずかれそうだし」

 そういう彼女にため息をつく、そういや姐さんに懇願されて身体強化を教えてたら、たまたまその場に居合わせて勝手に覚えたんだったな……。門前の小僧教えぬ経を覚えるとは良く言ったものだ。そんなやり取りをしていると不意に恵体を猫背で小さくしたグランが視界の端に見えた。

 

「なんだよグラン、辛気臭い顔して」

 敢えて茶化す俺の言葉をグランは聞き流すと、溜め息をついた。

 

「おこぼれの様な形で研究室入ったけど、俺って目標に対する明確なビジョンないなと思ってな」

 そう言い肩をすくめるグラン。

 

「明確なビジョンってものに関してはそこに居るニーナもないぞ」

「あっちに関しては、そいいう細かいこと考えないで感性でやってそうだけどな」

 その言葉に返すものがなく閉口する。

 

「家業に反発して小型魔道具の開発って考えてはいたけど、なにを作りたいかまでは決めてないしさ」

「そんなこと、後からついてくるよ。俺もあれこれもがいていくなかで今があるしな」

 そう言いグランの肩を強めに叩いた。筋肉の鎧が硬すぎて叩いた俺の手のほうが痛い。

 

「俺も出来ることは協力は惜しまないし、焦らずやってこうぜ」

 笑う俺に笑い返すグラン、俺の背後からニーナが顔を出して俺たちの話を聞こうと問いつづけるニーナをいなしながら走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 研究室所属が決まって何日かたった。

 名目上、魔道具技術研究部の部員ではあるがそこの活動の大半は、顧問の仕事の補助であった。いや、俺自身の研究もやってはいるがジル先生は思った以上にズボラだった。

 重要書類の締切破りは日常、月間の経費の計算も雑と本人より仕事をこなしているようなものだった。経費の計算は実家の家業の修行名目でニーナが一手に担当し、書類の校正は俺が担当し、ひとまず人間が読める形に整え提出させた。さらにいえば堆く積まれた紙の山脈を探す中でとんでも無いアイディアの走り書きが見つかって、今まで詰まっていた分野の糸口になったりと十分こちらの理にはなっていたがついでに教師としての尊敬の念も無くなっていた。

 

「ジルさんよ、ここの回路式なんだけどさ……」

 ノートに書いた回路図案を持って、ジルに声をかけ、ジルは柳眉をしかめて俺を睨む

「呼び捨てとは、誉められんなこれでも曲がりなりに教師なんだが」

「そう言うのは、自分で仕事全部締切間に合わせてから言え」

 ジト目でそう言いノートを差し出す。ジルはそれを受け取ると的確に回路の問題点を上げ説明するとともに替わりの回路式をノートに書いていく、ズボラではあるが技術者としては一流なのに変わりはなく、俺の書いた回路図の問題点を上げものの数分で改良、より高いクオリティに仕上げた。本人曰く俺の書く回路は機能自体は高いが、無駄が多く想定以上の魔力消費があるらしく、彼女の改良で魔力効率が大きく高くなった。とはいえ最初の数日はスーツを着ていたが、普段はキャミソールとスカートの上に白衣を纏い、素足にフラットなサンダルというラフすぎる格好で学内をうろうろしている、ニーナの抗議でどうにか現在はキャミソールの上にシャツを着ることになったが、正直男として目のやり場に困っていたので、放課後ニーナが好きな激辛フードを奢った。翌日まで口が痛くて涙が止まらなかった。

 

 

 

 そんなドタバタを俺たちがしている中、部屋の端の作業台でグランが黙々と作業していた。邪魔しないようにそっと近寄るとそこには真鍮で編まれた首飾りがあった。チェーンの繊細な編み目もそうだがトップの戦女神を模した細工も美しく作られているが、しかし……。

 

「しかし、デザインや細工の出来はいいけど素材の質がなぁ、そこだけが勿体無いよなぁ」

 デザインセンスや造形の腕は確かなのだが、グランは錬金の魔法の精度がとことん悪かった。

 素材に関しては店で購入という手もあるのだが、個人が店舗で買える金属素材は学生には割高くそう月に何度も買える物ではない、グランは大手の魔力馬車メーカーの御曹司ではあるが、厳しい家らしく実家からは毎月の学費と一般学生位の小遣いらしく金属素材を潤沢に買える懐事情ではないらしい、ジルからは素材費を経費にしても良いと言われているが、本人が自分の方向性が決まってからと言って誇示している。

 

「とはいえ、鍛治に金工細工に木工系と幅広く学んでると方向性もなにもあったもんじゃないだろ……それも全部職人から太鼓判とか、器用というか」

「その器用が魔法にも活かされたら良かったんだけどな、どうも錬金だけは満足出来る出来にならないんだよな」

 そう言い苦笑いで、目の前に置いた金属片を魔法で混ぜ合わせインゴットを作るがやはり作られた物の純度は低い、魔力操作や錬金魔法自体の出来はいいのだが、出来たインゴットは不純物が多い、となると錬金と不純物の除去の並行作業に問題があるということだが。

 

「グラン、お前練金するときに中の不純物の除去どうしてる?」

「うん、ああ錬金してる最中に取り除いてるが何度やっても取り切れてないんだよなぁ。不純物除去に注力すると金属自体の出来がお粗末になるし、錬金に注力すればとても使えた物じゃなくなるし、今自分が出来る限界がこれなんだよ」

 皮肉げに笑うグランに俺は閉口してしまう。そこにジルが俺の肩越しから顔を出しグランの手元を覗き見た。

 

「錬金の分解と金属合成のバランスが難しいなら、問題を分けて解決させたらどうだ?」

「問題の仕分けですか?」

 グランの返しにジルは俺の肩に置いた顎を外して、俺達の前に出てきてどこからか出した黒板にチョークで図面を書き出した。

 

「錬金の魔法が組み合わせる金属に混ざった不純物を取り除く『分解』と合金を作る『金属合成』を同時にこなしているというのは各自理解しているよな。

「魔法が起こす現象に関してはある程度把握はしてますが、それを別けるとは一体?」

 グランの問いに内心同意する。魔法はただ魔力で不思議な現象を起こすのではなくいくつかの作業が絡み合って一つの現象を起こしているのが研究の中でわかってきている、火属性なら魔力で作った火種は空気を取り込んで大きくして物を操作するといった方式で、魔法塾では入口として実際の物に触れて、イメージを明確化してから練習を開始させている。魔法を擬似的に使わす魔法工学では魔法自体を細かく分解して考えているが、一般的には魔法塾で教わるイメージを変化させて魔法を使っているものが多い、上級魔法なんかは魔法書にある魔術式や詠唱を覚えたりして使える様になるがその基準自体は割と大雑把ではある、分厚い石壁を溶かしたりとか平地で津波を起こしたりとかという超常現象を起こしたりとか出来たら上級魔法師という枠組みに当てはめるらしい、最上位魔法を使えるカルーエ姐さんに関しては本人の素質もあったが、俺があれこれもがいている中で様々な魔法書を読み漁る中で自然と魔法の理解を深めて、今では詠唱使用がほとんどの最上級魔法を無詠唱で使えるようになった。噂だと学校から依頼された農村を襲うゴブリンも群れを巣穴ごと粉砕したらしい、まぁ最上級魔法使った後は流石に魔力切れで普段のポンコツ身体能力に戻ってるらしいが。

 

「錬金中の精錬と合成を別の頭で操作できれば問題解決だろ?」

「いや、そもそもそれ自体が人間の頭だと……あっ!」

「気づいたが、お前にしては遅かったが」

 ジルのその言葉に俺は、一気に頭の中の回路がつながった。

 

「魔法の効果を補助する魔道具か……」

 そう呟く、俺にジルが口のみの笑顔を向ける。

「お前の魔銃は、魔力圧縮と魔法合成とか複数の作業を分割して回路に組み込んでいたろ? あの技術を流用したら解決しないか?」

 そう言われ、顎に指を当て思案すると、ノートに無造作にいくつもの回路図を書き出す何十もの式のを書く中で俺は一つの回路図にたどり着く、だがコレを組み込む素体が見つからない素体候補としては、いくつか思い当たる作業グローブにアクセサリーとか候補はあるけど、今回はなにを使うか悩む。

 

「回路組み込むのになに使うかが問題か……使いやすい方がいいが」

 そう呟く俺にグランがハンマーを差し出す。

「分解をつけるなら、ハンマーの方が使いやすいと思うが、組み込めるか?」

 差し出されるハンマーを受け取って、周囲を見回す頭や柄などを観察して組み込める場所を確認した。

「書くことは出来るな」

 そう言い俺は、グランの許可を得てハンマーを解体してポケットから手袋を取り出しはめると、各パーツに回路式を書き込んでいく、ヘッドに核となる分解の機能式、柄にそれを起動させる魔力動線と使い手の錬金魔法に反応する魔法陣を組み込む、回路式を組み込み手早く組み立てるとグランに返す。ハンマーを受け取りグランが目の前のインゴットを叩く、すると叩かれたインゴットが光り輝きが強くなる、光りが収まり再度インゴットを見ると明らかに出来栄えが違っていた、ジルがインゴットを持ち上げ鑑定をかけると満面の笑みを浮かべた。

 

「成功だな、元とは比べ物にならないくらい金属の純度が上がってる」

 その一言に、俺とグランは無意識にハイタッチする。

「金属合成のみに注力した物を叩けば金属の純度が上がるということは鍛冶のときに使えば鍛造しながら作品のクオリティーが上がるから一石二鳥というわけだな、インドットにするときも叩きながら整形作業すれば同じことになる、作業効率が上がるぞ」

「武器にしたときは基礎の錬金魔法さえ使えたら、相手の鎧や武器の破壊に使えると……。まさか日用品が杖になるとは」

 目の前の道具の可能性に俺達のテンションが高まり、話が止まらない。遅れて部屋に入ってきたニーナにも気づかない俺達の話し合いに、ジルは呆れ混じりのため息を付きながらニーナの入れたコーヒーを受け取り一口口に含む。

 

 

「武器といえば、グラン。お前に頼みがあるんだ」

「頼みって、今更改まってなんだ!?」

 俺の急な問いかけにグランは呆れ混じりに返す。

 

「剣に杖の機能を付けたい」

 声高にそう言う俺にグランは手に取ろうとしたカップを倒し俺を見上げた。

 溢れたコーヒーがインゴットを濡らし、ゆっくりと広がり、隣に開かれたノートに染み込み汚す。

 俺は、濡れて重くなったノートのページを捲り先程、ジルと話していた別の回路図をグランに見せた。

「騎士団の新装備コンペが来月あるんだよ、それに出すための作品の素体をグランに頼みたいんだ!」

 俺の呼びかけに、グランは目の前の紙をみて苦笑いを浮かべた。

 

 

 

「取り替えず、詳細を話せ。話はそれからだ」

 

 

 



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武装魔道具

「剣型の魔法補助具を作る!?」

 俺の提案に声を上げるグラン、当たり前だ本来魔法補助具所謂杖は文字通り木製や金属製の杖に加工をして作るもの、俺が使っている手袋やグレイヴみたいは変わり種はあるが基本、直接相手に触れてダメージを与えるものではない、それを剣正しく言えば実戦武器を杖として加工するのは古今東西例がない。

「あぁ、騎士団でも魔法を使う時は攻撃を止めて別で使うことが多いし、近接格闘しながら並行して魔法を使えるのは一握りの天才のみっていうしな」

 魔法を使うときに集中力が必要だからか、近接は前衛で魔法は後衛と棲み分けがされているし古来から兵法として確立されていたりする、しかし今の時代そんな古い考えで戦を考えていたら将来もし他国の侵攻を受けたとき生き残れるかはわからない、正直兵法は専門じゃないのでそこの改革は出来ないが技術的に変化を加えたらと考えて、色々アイディアを溜めていた。それに……。

 

「今廃れてる魔法補助具が復活するためには、既存の形以上に新しい形を作らないとならない、グラン協力頼めるか」

 そういう俺にグランは静かに思案する、そして俺に疑問を投げる

「剣に回路を組み込むのは可能だとして、剣は消耗品。新しくする度に回路を書き込んでいたら将来的に人件費が跳ね上がるぞ、それに魔力と相性のいい金属は剣の素材にするには強度が足りない、一太刀骨に当たれば使い物にならなくなる、そこはどうするんだ?」

「回路に関しては、家庭用魔道具の量産に使われる複製機の技術を流用できれば解決するが、金属に関しては正直合金の作成から始めないとならないな、そこら辺も含めて手伝って欲しい」

 俺の答えにグランは深くため息をつく。正直呆れてるのだろう言うのはいいが完全にノープランなのだから、二人の間に冷たい空気が流れるそんな空気を俺たちのそばにコーヒーを置いたニーナが壊した。

「正直、素材の方は手伝えないけど、回路とかの技術面は私も手伝えると思うから男二人で抱え込まないでやるだけやってみたら? 急ぐ必要もないんだしさ」

 その言葉を砂糖をコーヒーに染み込ませながら聞いていた俺は肩の力が抜けた。明確な解決策ではなく精神論の能天気策、だがそれに毎回救われている。俺達がそんないい空気を作ってる所にジルが手を叩いて注目を引いた。

 

「いい所申し訳ないが、アタシにも相談してほしいね。顧問だし個人的に色々ツテがあるから手伝えるはずだぞ」

 そう言われ三人一緒に苦笑いを浮かべた。

「ジル、実戦に耐え切れて魔力を通しやすい素材ってあるか? できたら単価安いやつで」

「これから開発を開始するのにいきなり単価を気にするな、まずは一本目を完成させてからだ!」

 そうツッコむジルは、深いため息をついていくつかの金属のインゴットを取り出し作業台に並べた。

 

「剣に使うのは一般的には鉄や鋼鉄だな、騎士団の官給品は鋼製の剣だなサイズは均一だからそこは変えずにいこう、で問題の回路の方だが普段魔道具の機関部に使うのはミスリル合金、古いものだと銀が使われているのは今更説明する必要はないな。鋼は剛性が強く多少硬いものを叩いても欠けることはそうそうないが魔力は通りにくい通る事は通るが魔法を使えるまでではないな、加工の方はある程度修行は必要だな、ミスリルに関しては加工はしやすく魔力の通りもいい、一昔前の魔法士の師弟が卒業の証のアクセてサリーとしミスリル製のものを送る慣習があるくらいだ、今でも宝飾品の材料で使う職人もいるな。まぁ宝飾品も場合は銀を使う方が多いが」

 魔法銀とも呼ばれるミスリルは一般的な銀に比べ希少性が高いためにそれで作られたアクセサリーは同じデザインの銀製に比べ十倍の価値がつく場合も多い、俺も魔銃の量産において素材の問題はずっとネックなのでそこは理解している。

 

「仮にミスリル並みの魔力伝導率の金属を作り出せれば、その問題は解決なんですよね」

 軽い感じでそういう俺に他の三人は分かりやすくため息をついた。

「そう簡単に作れたら苦労はしないぞ、大体その素材の案はあるのか?」

 呆れまじりにそう言うジルに俺は無言で懐から袋を出すと、作業台にその中身を広げる. 中身は、大きい物でも小指の爪くらいの大きさの色とりどりの石たちだった。

「それは?」

「魔道具製作の際に出た魔石のかけらや商品として価値がなくまとめ売りされているハンドメイド素材の屑魔石ですね」

 俺の説明にそれぞれ積まれた魔石を眺めている、さらに俺は説明を続ける

「ハンドメイド素材用は兎も角、産業用の廃棄魔石は小さくても魔力は有してますしそのまま廃棄は勿体無いと思うんですよ」

「確かに、魔道具製作の際に魔石の形を整える必要性から細かい魔石のかけらは出るが、保有魔力の少なさから使用用途が好きないのが問題ではあったな」

「一時期魔導馬車の燃料として実験されていたが、燃料効率の悪さや魔石の再利用技術が発明されたことから需要が少ないしな」

 そう言うジルとグランの話をニーナは魔石を弄びながら聞き流していたが、途端になにかを察して俺の顔を見上げた。

「まさか、金属とこの魔石を混ぜるとか言わないよね? 昔それやって大怪我したよね?」

 ニーナの話にジルのやつが満面のニヤケ面で俺を見る。

「はぁ、よくある失敗だよ。昔さっき話した魔石を混ぜた合金を作ろうとしていた時に、錬金を失敗して大爆発、幸い当時親にバレたくなくて街の外でやっていたから物的被害はなしだったけど、真正面から爆発の熱を受けて大火傷したわけで、魔力操作には自信あったけど資料の無い新しい合金作るには力不足だったと、その後は親父に怒られて実家の工房の隅を借りられたけどな」

 言いたくない黒歴史を語ることになり、不満が溜まるがジルはそれを興味深く聞いていた。

「錬金の失敗は普通何も起きないはずなんだけどな、爆発したということは使った魔石の魔力が膨張して弾けたと言うことかね……」

「あれから、実験ができてないけど仮説としては錬金時に金属の精錬が甘くて魔石の魔力を金属内部に馴染ませきれてなくてバランスが崩れて暴走、魔力が膨らんで金属の形を保てずに爆発したと考えてる」

「で、グランに渡したハンマーと彼の合成技術の出番というわけか」

 ジルの解説に俺は頷き、グランの方は事の次第を察したのかじっとり汗をかいていた。

「確かに、錬金の問題は解決したけど新しい金属を作ることは正直自信ないぞ」

「それに関しては、すぐに結果を出す必要がないから試行錯誤していくしかないな、俺は剣に書き込む回路式を詰めるから」

 そう笑顔で言う俺にグランは深海のように暗く深いため息をつく、それをニーナが苦笑いで肩を叩き励ます。

「さて、アタシは校長から予算かさらって来るから、カズミなるはやで資料作れ!」

 ビシ! と効果音がつきそうな勢いで俺を指すジルに俺は、力無く頷き研究室に常備されているレポート用紙に今回の件の詳細な内容を書き込むとはいえ、今まで自分勝手にやってきたので正式な場に出す資料なんて書くことなんで皆無だったため、資料作りに四苦八苦しジルに何度もやり直しを喰らい、彼女を満足させる資料ができたのは三日後だった。そこからジルが経験のもとギリギリ学校から貰えそうな予算額を算出し、学校との交渉(戦い)に向かった。その中で俺が校長から呼び出しをされ、この研究の細かい部分を質問や確認をされ学内審査を経て正式に認可されたのは、申請してから二週間の時が経っていた。

 その期間内でも俺とグランは寮の門限ギリギリまで合金の試作に騎士科の学生から剣について色々訊き回ったりと忙しい日々を過ごしていた予算の降りた前日に研究室にあった金属や俺が集めていた魔石は底をつき、その状況でも満足のいく成果は出ていなかった。

 最初は剣に使う鋼に混ぜることから始めたが、やはり元の魔力との親和性の低さからかただ混ぜただけだと雀の涙程度の親和性の上昇にならなかった、次にグランがよく使う真鍮を試してみる、鋼よりかは魔力は通るが満足のいく物ではなく強度も脆かった。銀に関しては予想どおり魔力の通りは良かったが強度の方も予想どおりだったが、意外だったのは鉄が銀ほどではないが鉄が魔力伝導率が高いことがわかり今後の方針として鉄をベースに合金を作ることに決まった。重要な魔石の端材に関してはジルのツテでメーカーの工場から格安で譲ってくれる事になり工程として順調となった。

 

 

 合金製作に勤しむ日々を送っていたある日、騎士科の生徒達からとある噂が流れた

「ガイナス領で、魔物が暴れている?」

 食堂で食後の極糖コーヒーを飲んでいる最中にニーナから振られた話にそう返すと、ニーナはクラスの男子から強奪したカップケーキを食べながら話を続けた。

「うん、なんかクラスの騎士科の友達から聞いたんだけど、ガイナス領で魔獣が人里に出て近くの村の畑を荒らしてるらしいよ」

 そう言われ、俺の頭の疑問はさらに深まった。『魔物』魔獣とも呼ばれるそれはこの世界に出現する動物の総称である、魔力を持ち一部は魔法も使えるものもいるが、基本は人間に害を与えることはなく温厚な種類のものは人間に家畜化され俺たちの生活の助けをしてくれているし、食用の魔物もいる、しかしごく稀に家畜化されてない野生の魔物が人里に降りてきて作物や家畜を襲う場合がある、もちろん人間側も生活圏を分けるために魔物除けの柵や魔道具で対策はしている。こういった人里に出た魔物は大体は地域に滞在する冒険者に討伐依頼を出し討伐してもらうことが多く、うちの学校の騎士科の実習としても使われている。だからこそ公都の隣に位置してるガイナス領でも魔物出現なんて噂になる前に討伐されてるはずである。

「魔物なんて、ウチの騎士科の生徒か、地元の冒険者が討伐して終わりだろ、新聞の地域欄に地域欄に小さく載るならわかるが学内で噂になるようなことか?」

「なんか、騎士科の実習で討伐隊が行ったらしいのだけど姿を見つけられずに一方的にやられたらしいよ、インビジブルフロッグとかカモフラウルフとかの仕業とか考えられてるみたいだけど、生息地域から遠いし周囲にグレーウルフの死体があったからその線は薄いかも、畑の被害はグレーウルフみたいだったから、依頼自体は達成されてたようだし問題はなしって処理されてるらしい」

 ニーナの話を聞き終えたが、俺は今だに話の芯が理解出来ないでいた。

「そんで、その話を俺にしてなにがしたいんだ?」

「その見えない魔物を見つける魔道具ない?」

 ニヤケ顔でそう答えるニーナの顔に手にもった空き缶を投げつけたくなる、そんな未来から来たネコ型の同居人みたいに都合がいい物があるのか! 

「そんな都合がいい物ないぞ」

「作れない?」

 マジで顔面に魔力弾撃ち込んだろうか。内心で沸々と湧き上がる感情を抑えながら言葉を続けた。

「魔物の魔力探知ができたとして場所を正確に割り出すのが難しいし、今から開発しで完成までに時間がかかり過ぎる」

 そう答える俺にニーナは形のいい唇を尖らせてブーブー言い出す。俺はそれを放置して席から立ち上がる。

「どこ行くの?」

 見上げながらそう言うニーナに俺は、制服のネクタイを軽く下げながら答える

「魔物討伐の依頼実習を今やってるのは三年だからそこから情報を仕入れる」

「カルーエ姉様から?」

 頷く俺を見て、ニーナは手に持っていたケーキを一口で頬張ると追いかけるように立ち上がり俺のそばにむかおうとするが、待ち構えていたかのように貴族科の女子生徒がニーナを取り囲み引っ張っていた。助けを求める彼女を笑顔で見送ると一路三年の教室に向かって歩き出した。 

 

 

 

 

 三年の教室のある三階に着くと周りの先輩方が俺を見る、俺はその視線を無視して聞いていた姐さんの教室に向かうとその前を男子の先輩が阻む、ガタイの良さや射抜くような視線などで騎士科の冒険者志望の生徒だと察せた。

「おいおい、一年坊が三年の教室になんのようだ?」

「知り合いに用事がありましてすみませんが通らせて頂きます」

 そう言い先輩を避けて通ろうとするが腕を伸ばされて行く道を阻まれる

「通行料として財布の中身全部貰おうか」

 そう言い下衆な笑いを浮かべる先輩に俺は懐から財布を出すと先輩の頭上に投げた。先輩が視線を上に上げて手を伸ばした隙に先輩の横を通り過ぎて空中の財布を跳んで回収する。

 振り返り睨む先輩に笑顔で会釈し、目的地に向かう背後から獣の様な咆哮が聞こえたが無視しよう。

 

 

 姐さんの教室に入ると、タイミング良く姐さんがいた。俺を見つけて手を振ってくれたので俺も振り返して彼女のそばに歩み寄る、近くにいた女子の先輩が俺について姐さんに詰め寄っていたが、姉さんから俺と関係性を話すとつまんなそうにしていたが、すぐさま俺の気を引こうと近寄ってきた。俺はそれをやんわりやり過ごしながら姐さんに向かい合う。

「それで、いきなりこんな所に来て何の用?」

「ガイナス領の魔物について何か情報ありませんか?」

「ああ、騎士科の子達が騒いでる件ね」

「ニーナから話聞いたけど、いまいち情報が足りなくてさ」

「うーん、私も当事者じゃないからそこまで詳しい訳じゃないけど、どうやら現場にあったウルフのしたい岩で潰されていたらしいよ」

「岩ですか?」

 姐さんの言葉についオウム返し気味に言葉を返してしまう

「そう、それも十匹の群れが押しつぶされるほどの大きさの」

「おかしいな、ここら辺は平地で岩が落ちるような岩山や崖もない……岩が飛んでくるような火山活動があれば王城からなにかしら発表があるはずだし」

「不思議でしょ? 冒険者ギルドでも調査したみたいだけど手がかりなかったらしいよ」

 苦笑いでそう言う姐さん。ふと時計を見上げると午後の授業の開始時間間際になっており俺は姐さんにポケットから出した棒付きキャンディーを渡すと自分の教室に向かって走り出した。背後で怒鳴り声が聞こえたが無視することにする。

 

 

 

 

「見えない魔物か……話聞くだけだと眉唾ものだが」

 放課後、研究室で新合金の割合調整をしながらグランと噂について話しているとグランが渋い顔でそういう、手元のは錬金用ハンマーと合金の素材の山、初めは実験用に素材を大量に用意していたが、このハンマーの分解機能が、作った合金を素材に分解できることがわかってからは製作から加工実験の後分解して再利用というルーティンワークが出来ていた、加工といってもインゴットを短剣状に伸ばして簡単な回路を書いてそこに実験としてニーナが魔力を通して魔法を放つと言うものである、俺はその実験データの記録と素材比の調整を担当している本来は実験の方は俺が担当するつもりだったが、ニーナがやりたいと志願した為やって貰ってる、魔法技術は正直この三人の中で一番だし彼女が使って普段と同じかそれ以上の魔法が使えたら充分実用に耐えうる物になるだろうな、結果としてはニーナのおかげで割合の方は目処が立ってきたので今は微調整の段階になっていた。

「うん、これならいいんじゃないかな魔法もこれ無しで使うよりかなりスムーズに使えるし、体感だけど魔力消費も少ないと思う」

 そう言い器用に手に持った短剣もどきの回すニーナ、俺とグランもその様子を見て無意識にハイタッチをしていた。それと同時に職員会議を終えたジルが研究室に入ってくる。

 

「お、どうやら結果が出たようだな」

 そう言い、手に持った資料を自身のデスクに置くと肩を回しながらこちらに近寄り作業台に置かれた例の合金のインゴットを持ち上げ鑑定を掛ける、鑑定魔法は技術者には必須の魔法だったのだが、身体強化を流用した独学で使っていたそれはジルのそれと比べて鑑定の精度が差があり研究室に入ってすぐに学び直した。しばしインゴットを眺めていたジルは満足そうにそれを置くと俺達に向けて親指を立てた。

「この短期間で良く作った、まさか学生の身分で新金属を作るやつが出るとは顧問として鼻が高いぞ」

「ありがとう、これでやっと素材が揃ったし剣の開発に移れる」

 褒められたことをくすぐったく感じながら、俺は新たな目標に向けて襟を正して答える。

「そっちの方はなんか案は用意できてるのか?」

「東洋のカタナという剣の技術を流用しようかと考えてはいる」

 そう言い、大きめの紙に描いた図面を作業台に広げた。

「鋼と新合金を交互に重ねて剛性と魔力伝導率を両立できるかなと」

「回路式の方はどうするんだ? その作り方だと回路式を描いても無意味になるぞ」

 その質問に俺は図案の剣の刃と柄の接合部分を指差す。

「ここに回路式の核を描いて刃と接合させます、グレイヴみたいに内部機関があるなら細かい導線を作るんですが、今回は魔法の発動に特化させるので核の回路に魔力通したらあとは剣自体に魔力を纏わせるだけなので重ねた合金自体を導線にする形だな」

 そう説明するとジルは顎に指を置きしばらく考えた後、ひとまずの納得をした。

 

「さて、ひと段落ついたところで君達は例の魔物の噂は聞いてると思うがどうだ?」

「まぁ、一通りは聞いてますね。さっきもその話してましたし」

「そうかそうか、それでその魔物ウチで討伐しないか?」

 唐突な提案に固まる俺たち三人、すぐさまニーナが口を開いた。

「いや討伐って、そう言うのは騎士科の学生の領分でしょ。工学科……私は違うけどには分野違いでは?」

「正確にはアタシの仕事のついでにだけどな、不可解な話だから校長からアタシに調査指示が出て君達三人を助手として連れていこうかと思ってな」

 ケタケタ笑いながらそう言うジルをジト目で見ながら、俺は話の内容に納得をした。技術士官とはいえ騎士団所属していて実戦にも出ていた経験から戦闘要員とは違った視点からの意見が欲しいとのことだろ、ついでに問題の魔物を討伐して弱小のウチの追加予算もふんだくろうという打算もあると見た。

「例の剣の試用実験も出来そうだし一石二鳥だろ、出発は来週末それまでに出来るか?」

 ジルの質問にグランはチラリと俺を見て、口を開く

「試作なら大丈夫かと、問題は核となる部分ですが……」

「そこも回路式自体はできてるから大丈夫よ」

 そう答えると、満足そうにジルは手を叩いた。

「それじゃ、出発は来週の日の曜……各自無理はないように準備しておくように当日は日の出と共に出るから遅れないように」

「はい!!!」

 ジルの号令に答えると俺とグランは作業に入る。

 

 

 

 

 

 

 これが後に『武装魔道具』と呼ばれ、新たな歴史の夜明けになるとはこの時は誰も考えもしなかった。

 

 

 



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学外研修と冒険者登録

 ジルからの調査遠征の発表から一週間、俺とグランにとっては濃い日々であった。グランは刀身の製作あの発表の後俺と話し合い刀身は今回は騎士団でオーソドックスに使われている両刃のものにすることになりすぐさま製作を開始したが、グラン自身慣れていない鍛治に更に国内ではメジャーでは無い鋼と軟鉄の混合という技術に四苦八苦しており、俺に至っては柄の製作自体はわりかし時間はかかっていなかったがついでにと回路図複写の仕組みの構築をしようと欲を出したらこれがまた難題であった。自分の案が机上の空論だったと嫌でも身に染みてこれを思い浮かんだ当時の自分を助走をつけて殴りたくなった。なるべく単純にしたつもりが小さなスペースに正確に安定して細かい紋様を正確に描くのは考えた以上に厳しいものだった。結局試作品は完成したが複写機は完成しなかった。

 完成した剣『魔剣杖(まけんじょう)ソロン』は、ニーナに装備させている俺はグレイヴがあるしそもそも剣が使えない、グランは嗜み程度には使えるが、本人がソロンを作るついでに作った新武器を使いたいためニーナが使うことになった。

「眠い……」

 まだ薄暗い早朝の空気に俺はボソリとそう呟く、昨晩グレイヴのメンテや荷物の用意を遅くまでやっていて寝不足であった。こう見えて心配性な為もしもを考えすぎて荷物が増えすぎて整理に時間を取られたのだ。

「眠いなら動け、まだ積み込む荷物あるからな」

 目を擦る俺に、魔力馬車に荷物を積み込んでいたグランが声をかける。俺が着いた時から動いていたので結構早起きであるし朝から元気なそれを見て俺は気怠けに馬車のそばに置かれている荷物を持ち上げグランの指示の下次々と荷物を乗せていく、調査用の機材もあるがドレスの入ったスーツケースや現地で作業する為の鍛治道具など必要かどうかわからない荷物も多い、俺達二人が荷物を乗せ終わった頃に寝起きのボサボサ頭のニーナが走ってきた。

「ごめん遅れた!」

 息を切らせてそう言う彼女を苦笑いで迎えると、続いて青白い顔で頭を抱えたジルがやってきた。

「みんな、おはよう。男子は荷物の積み込みお疲れ様」

 声を出すと共に痛そうに額を抑えるジルに俺とグランはため息をつく

「先生、二日酔いですか?」

 グランの指摘に俺とニーナは背中に冷たいものを感じる。今回の魔力馬車の運転はジルの担当なのだ。そんな彼女が体調不良と言われたら道中に不安を感じることも当然である、変わりたくても俺達三人は免許は持ってないしジルの研究室には助手にあたる成人はいない俺は旅の始まりに不安を感じながら、グランから渡された水を勢いよく飲んでいる研究室の長に心底呆れていた。

「んん……。ふぅ治まってきた。さて時間も勿体無いし出発しようか?」

 幾分か顔色が戻ったジルがそう言い馬車に乗ると、それを追いかけて俺達も乗り込む。馬車は一路目的地に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、ソロンだっけ? 使い心地はどうだ」

 ガイナス領に向かい道中、ハンドルを握るジルがニーナにそう問いかける、かけられたニーナは後部座席でソロンを持ちながら軽く考え込む。「使い心地と言われても答えられるくらい使い込めてないけど、魔法を発動しながら接近戦できるのはかなり有利かなとは思うかな」

 そういうニーナの言葉に隣に座るグランが満足そうに首を振る、俺も助手席で地図を見ながら聞いて自然と口元が緩む、ニーナにソロンを渡してから数回模擬戦をやったが、作った俺から見てもニーナは使いこなしていた、身体強化で上がったスピードと切れ味鋭い剣術と同時に来る魔法の組み合わせに何度も首が寒くなった。グレイヴの魔力弾も容易に切り払われラグなしで魔法が返ってくるのは、予想通りに戦略が変わる予感がした。それ以上にグランが作った新兵器には驚かされたが……。

「そうか、この一週間他の仕事で忙しかったからしっかり見てないから、向こうで見れることを楽しみにしてるよ」

「いや、剣を抜く状況になることならない事を祈りましょうよ」

 咄嗟に出た俺のツッコミに車内が笑いに包まれる、麗らかな日差しの中俺達は目的地へ順調に走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガイナス領『ナガス村』

 

 学校側の情報にあった村に着いたのは日が真上に着いた頃だった。距離的にはそこまでではなかったが、慣れないものに揺られた影響か体が凝り固まって軽い違和感がある

「やっと着いた……」

 凝った腰を伸ばしながらそう呟く、その背後でグランがせっせと荷物をおろしていた。女性陣はジルは村長宅に挨拶と調査関連の事実確認に向かい、ニーナは到着と同時に馬車から飛び出し村内の観光に消えた。

「着いたのは良いけど、これからどうするんだ?」

 荷物を下ろしながらグランがそう声をかけてくる

「予定としては騎士科の奴らの情報もあった場所にいって現場の調査であとは……。なにすんだろ?」

「計画性なさすぎるだろ……」

 最後の荷物を呆れながら下ろしグランは肩を回す。学校活動の一環なので制服は来ているが改めて見るとやはり彼の体は仕上がっている、本人曰く特に筋トレや運動はしてないみたいだが普段鍛えている騎士科の面々が羨むほどである、ボディピルディングみたいに魅せる肉体でなく、使う筋肉が発達した実用性のある肉体らしい、普段から室内作業が多く運動不足だからと姐さんとニーナに無理やり運動習慣を付けさせられたのは幼い頃の思い出としてはいいとは思ってはいる、外の出る度に姐さんが出来もしない行動をしてニーナと二人で冷や汗かかされていたな。身体強化魔法が出来るきっかけにもなったし

「運動出来ない人を強化したら、学内トップの戦士になった件……」

 ボソリとつぶやいた俺をグランが冷たく見つめていると、ジルとニーナが笑顔で帰ってきたニーナの両手に紙袋があることにはあえて触れないことにする。

「戻ったぞ」

「ただいま」

 二人同時に声を上げるのを男子二人で笑顔で迎えると、ジルは手に持っていた資料を持ち上げる。

「みんな喜べ、調査ついでに討伐依頼ももらえたぞ!」

 笑顔でそう言うジルに、俺とグランが同時にため息をつくありそうだがあってほしくなかったことが起きた。

「討伐依頼って、俺達騎士科の生徒でも冒険者登録もしてませんが」

 本来魔物は、その危険性から地元領主の私兵が領主の指示で討伐するか冒険者登録をした人間が討伐業務を請け負って討伐する二パターンで処理される、例外としてウチみたいな教育機関が実習教材としてボランティアでやってたりしてはいる、その分怪我とかの保証もされているが俺達みたいな専門外からしたら寝耳に水である。俺とニーナは地元にいたときにラットとかの弱い魔物を相手に魔法の訓練をしてはいたけど、本格的な討伐とは無縁である。

「そう言うと思って事前に代理で冒険者登録しといた」

 そう言いジルが懐から三枚のプレートを取り出し、俺達に手渡す。

 プレートには俺達の氏名などの個人情報と魔法師というジョブ情報、冒険者としての最低ランクであるEランクという情報が書かれている、冒険者登録は個人が冒険者ギルドという公的機関に書類を出してテストの後その結果に見合ったランクで開始するのと今回のように教育機関などの団体が纏めて申請して一律最低ランクで開始する二パターンが主であり、例外として騎士科の生徒が卒業時に在学中の実習成績から出されたランクで冒険者として活動を始めたり、ごく稀に街や村で大型の魔物を討伐してその功績を評価されあと追いで申請しテストを免除されて冒険者になるパターンがある。冒険者はいわゆる便利屋で魔物の討伐や薬品などの素材の収集といった市民からの依頼をギルドから受けてその成功報酬を得たり、一部の地域にあるダンジョンに潜り魔物を狩ってその素材を売って日銭を稼いでいる、また冒険者ギルドから配布されるギルドカードは各国公認の身分書になっており街の入退場時の身分確認や、他国に入国する際の手続きもスムーズに行える。さらに先述した魔物討伐時に得られる素材の買取手続きにもギルドカードがあればギルドで相場に合わせた額で買い取られ、民間の悪徳業者に安く買い叩かれるのを防いでくれる、まぁ高ランクの冒険者は贔屓にしている業者に買い取ってもらってるのでギルドで買い取りを行うのは贔屓の店のない中ランクまでの冒険者かギルドと良好な関係を結んでいる高ランク冒険者に限られる、また現在の高ランク冒険者の殆どが冒険者になる前に大型魔物を討伐している化け物揃いらしい。

 まぁ、今回に関してはジルが調査と新装備の試験運用のついでに小遣い稼ぎをするために用意したみたいだが……。

 そんなふうに、考えていると俺達の周りを男達が取り囲む男達の粘っこい笑みを見た限り、まともな集団とはとても思えないが。

「ヘイヘイ、お姉さんたちこの村は初めてかい?」

「よかったら、俺達が案内しようか?」

 火の良さそうなセリフを吐く男達は吐く男達、完全に側にいる俺とグランを無視している. それにいるそれに内心ため息を付きながら二人で女性陣と男達の間に割り込んだ。

「なんだよ、邪魔だからどけや」

「男はお呼びじゃないんだよ」

 割り込んだ俺達を男達に男達が口汚く罵るが、俺達はその言葉を素通しして動くことはなかった。

「これから予定あるんで、他をあたってもらえません?」

 俺が無表情でそういうと男達から殺気が漏れ男達のリーダー格の拳が俺の頬を跳ねる。

 た. 当たる当たる瞬間、首を派手に回して衝撃を逃がすがその一撃が戦いの火蓋を切って落とした。

 響き当たる男達の咆哮にニーナが喜々として参加して参加しようとするが、ジルがそれを止めて近くのカフェに引きずり込む。それを横目で見ながら目の前の男の拳にカウンターの拳を合わせる。隣で暴れるグランは鍛冶で鍛えた腕で襲いかかる男達を捕まえ次々と後方に無造作に投げる。この手の争いに魔法は不要魔力の無駄だ。横殴りの大振りを躱し相手の腰に腕を巻きつけるとそのままジャーマンで担ぎ上げ後方から迫ってくる男に頭からぶつける手応えと同時に腰の腕を外し転がるようにその場から離れる。

 短時間で仲間の殆どをやられたことで尻に火が着いたのか、俺達に声をかけてきたチャラ男が懐からナイフを抜き構えた。

 

 手入れされていないのか、刃はボロボロで所々サビが浮かんでいるそれを見て俺も制圧のため構えるが、その気をグランが腕で制した。

「丁度いいから、()()試させてくれ」

 そう言いグランが腰からハンマーを取り出すと、それに魔力を通した。

 その瞬間ハンマーが大きくなり一振りのウォーハンマーになる感触を確かめるように振るとハンマーを腰だめに構えた。

 これは、『❘魔戦鎚(ませんつい)アピラスター』ソロンを作ってる最中に、グラント俺の悪ふざけに近い発想から生まれたものであった。

 研究室で作った作業槌に魔力回路を組み込んで暫くしたとき、不意にグランが呟いた。

「物の大きさが自由に変えられたらな」

 という言葉に俺が反応し、作業の息抜きがてら回路を組み始めたのが始まりだった、複雑な回路式は家の手伝いや魔道具の小型の際に何度も組んできてるのでなれたものだが、物理法則を無視したものは全く経験がなかった。発想自体誰もしてなかったとは思うが……。

 

 ソロンの開発が一段落ついて、余裕ができたときにジルにその発想を話すと案の定大爆笑、まぁ机上の空論でしかないから俺とグランもその笑いにはあまり腹が立たなかった。

 だがし、ソロンが完成してグランも武器が欲しくなったのか戦鎚を作りそれに俺が試しに組んだ『縮小と拡大』の魔力回路を書き込んだら何故か成功、全長二メートル、ヘッド部分の全幅七十センチの戦鎚が金槌サイズにまで小さくできた、その後拡大で大きさを自由に変えるときに繊細な操作が必要な点と戦鎚自体にサイズの柔軟性を求めてないということで、『拡大』は元のサイズに戻す『復元』に変更ヘッド部分の形を自由に変えれる『変形』と作業槌にも付けた『分解』に周囲の鉱物を飲み込みヘッドを大きくできる『吸収』、柄の部分を強化するための『補強』と持ち主の筋力増強させる『身体強化』の魔力回路を組み込んだ、正直これに関しては一度火がついた馬鹿は止まらないの典型例で出発前日の朝まで二人で作っていた。最初はこれも杖の機能をつけようかと考えていたが、他のメンバーが戦鎚を使うような人間が攻撃魔法を絡めた戦闘はできないという指摘から杖ではなく、純粋な武器になった。将来的に量産するときは吸収や変形の機能はなくなるだろうこの二つはグラン用に組み込まれた機能である。更に言えばグランは普段身体強化の方はオフにしており、純粋な筋力でこれを振り回しているので恐ろしいもんだ。ヘッドだけでも五、六十キロはあるし鋼材を芯にしている持ち手も相応に重いはずだ。本人は重心の関係で重さは問題ないらしいが、俺やニーナが身体強化をかけて不格好に振り回せるくらいでしかないのに、やはり筋力は嘘はつかないようだ。ちなみにジルは身体強化をかけても持ち上げることもできなかった。

 さて、急に戦鎚を出して構えたことにナイフを持った二人は冷や汗をかいているが、本能的にスピードは上だと考えたのか二人同時に襲いかかって来た、踏み出しは同時だが間合いを詰める間に縦に並ぶことで時間差を利用するつもりのようだ、この手の輩にしては頭がいいようだ。

 グランは手前の男のナイフの刀身を弾き折るとその背後にいた男が飛び上がり頭上からナイフを突き立て降ってくる、グランはナイフを折ったそのままの勢いで回転し手首を返して戦鎚の横っ面で空中の男をはたき落とす、衝撃と同時にナイフも手を離れていく、グランは落ちてるナイフを遠くへ蹴り飛ばすと、はたき落とされ伸びてる男の腰に戦鎚を乗せ動きを封じると、ナイフをおられた方を睨みつける、男は柄だけになったナイフを投げ捨てるとお決まりの文句を言いながらその場から逃げ出した。

 

 グランはアピラスターを小さくして腰のホルダーに収めると、こちらに向かって歩いてくる。

「どうよ、使い心地は?」

「悪くないな、小回りがきかないのが問題だが戦鎚というのはそういうものだしな」

 そう言い戦闘で熱くなった肩を回すグラン、今回は俺も暴れたりない位だが、ニーナとジルに無駄に危害を加えられることがなかったのは救いだったな、ニーナに関しては男中の何人かは消し炭になっていただろうし、元軍属のジルもそれなりにやり過ごせるだろうが無駄に時間取らせるより静かなところでお茶を飲んでいたほうが有意義なもんだ。

 

「おーい、終わった?」

 そう言いお茶をしていた女性陣がこちらに合流してくる。途中倒れてる男達の背中や頭を踏んでいたが、彼らにはご褒美だろうな。

「随分と暴れたな.……。殺してはないだろうな?」

 死屍累々な現場を見て、ジルが物騒なことを聞いてくるアピラアスターを使った最後の二人はともかく他の男達は怪我はあっても致命傷にまではいってないはずだ。

 ジルは俺とグランの様子を見て軽く息を吐くと、馬車に乗るように促し俺達が乗り込むと一路、討伐依頼の現場に向かった。

 



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見えない驚異

 馬車を走らせ数十分、俺達は村の近くの森林に来ていた。

 村から依頼された魔獣の討伐と例の見えない魔獣の調査を兼ねてきてはいるが、すでにピンチを迎えていた。

 

「くぅ、次から次へと!埒が明かねえ!!」

 叫びながら引き金を引く俺、目の前には数えることも億劫になりそうなウルフの群れ、大半は眉間を撃ち抜かれていたり、頭が潰されていたりと凄惨な死体である。

 ここに来て、すぐに俺達はこの群れに襲われた。依頼内容は車内で確認してはいたがまさか、現場に到着してすぐに鉢合うとは思いもしなかった。ニーナに至っては見敵必戦とソロンを引き抜き一目散に群れに飛び込み、切った張ったの大立ち回りを始める、縦横無尽に動く彼女のすきを狙う敵は、遅れてニーナに合流したグランのアピラスターに大地のシミにされる。俺に至っては相棒を抜いて只管引き金を引く、精密性にすくれたエアロバレットで群れの進行を邪魔し前衛二人が漏らした獲物はロックバレットで風穴を空ける、ちなみにジルは戦う俺達を眺めながら優雅に読書している、正直助けてほしいが稀に俺が逃したウルフを本を読みながら水刃で三枚におろしているので役に立たないという訳でもない、しかしこう数が多いと範囲魔法でまとめて倒したいところだが、周辺が木々に囲まれており、無駄に火事を起こすのも気が引けるのですんでのところで抑えているが前衛で駆け回るニーナは実に楽しそうに剣を振っていた。ソロンを渡してから子供のように毎日剣をふるい独学で自身で魔法剣と名付けた技術を突き詰めていた。当初は剣を振るいながら魔法を使うことを想定していたが、魔法を纏わせ相手を斬る技術をニーナが見つけてそれを剣術として成り立たせた、ニーナが使う属性なら風は文字通り剣のキレを上げ血飛沫から体を守ったりできるが火属性では刀身が高温になり騎士が纏う鎧を簡単に斬り裂き、更に熱で相手の傷口を焼くという追加効果も得た。正直斬られただけならまだマシで、体を貫かれたまま内蔵を焼かれるところを想像したら、夢に出そうであるし実際夢に出た。

 

 そんな風にウルフの群れを討伐し終え、ウルフの死体を山に積んでいると前衛を張っていた二人が自分たちが倒したウルフ載せたソリを引っ張りながらこちらに歩いてきた、ソリは多分グランのやつが即席で作った土製のだろうな、ホント便利なものだし、俺には到底真似できない芸当だ。

 

「お疲れ、そっちはやっぱり量あるな」

「それなりに数と当たるからな、それでもかなりの数はカズミのところに漏らしてるからお互い様ということで」

 俺とグランがソリのウルフを山に置きながらそういうと、同じくウルフを積んでいたニーナが興奮気味に声を上げた。

「グランすごいよ、あんな大量のウルフをコントロールして私が戦いやすい状況作ってくれるし、死角からの攻撃は全部受けてくれるから、助かるなそれに、知ってはいたけどアピラスターの一撃ってすごいね、一振りでウルフが纏めて吹っ飛ぶし、良い牽制にもなるね」

 そう言いながら手持ちのウルフを豪快に山の頂上に投げ置くニーナ、制服の所々に返り血が付いていて前衛の凄惨さがよく分かる、それは俺もグランの変わりないが、俺は獲物の都合上量は少ないがグランに至っては最前衛でニーナのように風で防げるわけもなく本来ならトマト染めになるはずだが、そこまで血に染まってない、話聞いてるとニーナから離れてなかったみたいだしニーナの風の影響を受けていたみたいであるが……。

「やっぱり、汚れない服は欲しいよな」

 今回は状況が状況で制服で戦わないとならなかったが、本来はこういう返り血や体液などで汚れるからそれなりの服装や装備を用意するもんだ。騎士科の奴らも訓練や実習の時は専用の実習服で活動するし、本職の冒険者もそれを想定した装備で活動している、制服も替えはあってもあまり汚したくないしな、ギリギリでウルフを切り裂いていたジルの服がまっさらなのはなんというか経験の差を感じる。

「うーん、うちの制服って黒いからそこまで汚れが目立ちにくいけど中のシャツとかについたら洗うの面倒だよね」

「生活魔法で汚れは落とせるが、それで一々魔力使うのも面倒だし俺みたいに魔法自体上手くない人間はそのまま放置も多いからな」

 前衛二人の言葉に俺も同意する、グランも魔法師としては優秀な部類だが、技術としてはクラス内では下位の方だし、俺に至っては杖なしではなにも出来ない無能だ。

「とりあえず、この問題は今回の件が終わってから考えよう」

 そういい、話しを切る俺にニーナはウルフの山を見上げる。

「しっかし、数が多いね。これ全部持って変えるの?」

 積まれてるウルフの山はこの中で最も身長が高いグランよりも高いし、総数も多いニーナの指摘のとおり全部を持ち帰ることは出来ないのは確かだ。

「とりあえず俺の方で討伐証明の牙は確保したし、何頭か持ち帰るのもありだけど、形の良いやつの何頭かは今回は肉にして食べて、残りは例の魔物を誘き出す餌にしようかと考えている、むこうが肉食かはわからないけど」

 今回倒したウルフは肉食獣としては肉に臭みも少なく食べやすく数が多いことから市場でも安価で売られているので広く食べられている食材だし、冒険者の野営食としてもメジャーなものだ、幸い捌き方に関しては地元の肉屋のオジサンから教えてもらってるし、すでに血抜きの最中でもある、今回は倒した数も多いし、食べざかりの男二人もいるから十頭ほど確保しているか……俺だけで処理しきれるか

「そういうことなら、さっさと処理しようウルフなら俺も経験あるし」

 そう言いながらグランが腕まくりして、血抜きが終わったウルフの元にむかう、正直後悔してたので非常に助かる。ニーナに手伝ってもらえって?どんな素材でも劇薬に出来る人間の料理を進んで食べるような命知らずではないので勘弁してくれ、作るのは壊滅的なのに舌の方は繊細なのは未だによくわからん。

 

 

 ウルフを捌き終え、土魔法で作った焚き火で串焼きにするとジルがやっと本から目を上げた。

「お、今日のランチはウルフの串焼きか。シンプルながらうまいのよ……。ビールない?」

 俺が焼く串焼きをみてそういうジル、キャンプしに来たと勘違いしてないか、形式的には学校からの依頼で来てるんだが正直気を抜き過ぎである。

「帰りも運転するんですから、酒は我慢しろよ」

 そう言い、焼けた串をジル達に配り自分の分を口にする、シンプルな塩で味をつけただけだが場の雰囲気も相まって旨く感じる、見回すと他のメンバーも満足そうに串焼きを頬張る、そうしていると不意にニーナが声を上げる。

「ねえ、あそこに山なんてあった?」

 そういい、彼女が指さした先に小高い山があった。ゴツゴツした岩が多い山で木の多いこの一帯では確かに違和感があった。

「……。確かに地図だとここらへんに山はないな、ここらへんで活火山はないし新しく山ができることはないだろうし」

 グランが馬車内に積んでいた地図を取り出し確認し、それと同時に突然地面が震えた。立つこともままならない揺れに全員膝を付き耐え、ジル以外の三人が獲物を構える、そして不気味に足元に広がる影野生の本能でその場から飛び去ると俺がいた場所に俺の身の丈の倍以上の岩が突き刺さっていた。

「おいおい、まじかよ……」

 見上げた先でそれは咆哮を上げ俺達の方を見ていた。

「ロックワイバーン、見た感じ若い成体みたいだが、生息域は明らかにここではないな……元の住処を追い出されたはぐれか!?」

 そう、今まで俺達が山だと思っていたのは眠っていた竜種だったのだ、ロックワイバーン竜種の中では下位にあたるものだが、討伐に高ランク依頼が出ることもある存在である、地中の土を食べることで作られるらしい外角は実際の石のように固く、古くなって剥がれ落ちたものは城壁などの建材に使われる。尾の外角が最も固く重くこれを振り回すことで外敵と戦いその一撃は当たりどころによっては上位の竜種も昏倒させると言われている。

 本来は、竜種の中では温厚で人を襲うことはないと言われている種なんだけど、今回は群れからはぐれて気が立ってる中俺達の焚き火の匂いに反応したらしいが、どうもおかしい。

「気が立っているとはいえ、あんな巨体に気が付かないわけがない、というと噂のやつが別にいるのか?」

 そう、今回の発端になった「見えない魔物」その正体がこれでは説明がつかないのである、コイツのせいでグレーウルフが生息域から追い出されて村の作物や家畜を襲ったのはまだ理解できるが、普通に考えてあの巨体に気が付かないのはありえないのである。あれ、最初に俺を襲ったのは尻尾じゃなくて外殻だよな。

「皆散れ!こいつはなにか可怪しい!!」

 声と同時に全員が散り散りになる、それと同時にロックワイバーンの咆哮と同時に射出される外殻降り注ぐ殺意の塊を避けながら、ニーナとグランが敵との距離を詰める、俺はそれを遠目で見ながらジルに駆け寄った。

「ジル、ロックワイバーンが外殻を()()()使()()()することあったか!?」

「いや、アタシも奴とは何度か戦っているがこんな使い方をしたのは初めてだし、他の種でも見たことない」

 そう言われ俺は、思考を巡らすが明確な答えは見つからずひとまず、目の前の敵に集中することにした。

「ひとまず、ジルは馬車を安全な場所に移動してもらって、俺は先に飛び出した二人に合流する」

 そういうと同時に、ジルは奇跡的に無傷だった馬車に飛び乗り走り去っていく、距離は離れてはいるがさっきの攻撃を考えたら貴重な足を失うリスクのほうが高いからの判断であった。

 俺は、グレイヴを構えるとかけれるだけの身体強化をかけ前衛の二人のもとに駆け出した。

 

 俺が二人に合流したとき、案の定二人は苦戦を余儀なくされていた。小型の竜種とはいえ身の丈よりデカい怪物相手、更に言えば体の大半を硬い岩で覆われているのだ、人間の攻撃なんて簡単に通るはずがない。

 しかし、人には知恵があるし今は数の利はこちらにある、ソロンを握りワイバーンの関節の隙間を狙い岩盤を跳ね登るニーナ、身体強化をフルに使い縦横無尽に剣と魔法を振るい、少しずつその身を削っていくその勢いを削ごうとワイバーンもニーナに目を向けるがグランがアピラスターでワイバーンのスネを執拗に叩く、種族は違っても体の弱点は似てるのか、ワイバーンは反撃の的を絞ることは出来ていなかった。しかしそれでも二人の攻撃はワイバーに大きなダメージは与えられていなかった、剣も魔法も浅い傷は付けれるが致命傷にまでは届かず、グランの打撃はあくまでも陽動でしかない勝ち筋としては一番確実なのはあの長い首を下に降ろして、アピラアスターの一撃を与えることであるがその第一歩の足への攻撃は今の二人には火力が不足していた。

 ニーナなら高火力の魔法が撃てればその部分を解消できるが、高火力の高位魔法ほど発動までの隙がでかい、だが俺が合流した今ならその条件は解消する。

「二人共離れろ!」

 言葉と同時に離れた二人に目もくれず、俺はグレイヴの引き金を引いた。重厚な黒い魔法陣とともに放たれた黒色の魔力弾は真っ直ぐにロックワイバーンの頭部を捉える、数瞬後その長い首はまるで地面に無理やり引き倒されたのかのように地面に叩きつけられる、俺が合流までに相棒に装填した弾丸は重力魔法が込められた『グラビティーバレット』当たった相手を強烈な重力で押しつぶすそれで、ワイバーンの首を地面に無理やり押し付ける、人間相手なら一発で数分は拘束できるが相手はワイバーン、魔力を多めに込めてはいるが効果は一瞬だろう、だがその一瞬があれば十分、首が落ちる刹那重力の波にその戦鎚を割り込ませ頭部を守る分厚い岩盤ごとその頭を叩き潰す一撃を文字通りグランは叩き込んだ。

 爆発する地面、空気を震わせるワイバーンの咆哮にアピラアスターの柄が限界までしなる、勢いのままのグランの体が持ち上がり棒高跳びのようにその恵体が跳ね上がる、ワイバーンは頭部の岩盤が砕け首が地面にめり込んではいるが、その生命はまた潰えておらず。心臓はまだ鼓動を続けているが、脳震盪を起こしているのか動き出す気配はなかった。

 あと少し俺かグランのタイミングが遅れていたら、ニーナの攻撃が単調だったら、あの岩盤射出がまた行われていたら、『もしも』の歯車のかみ合わせが違ったらこの結果はなかっただろう、三人三様の冷や汗混じりの苦笑いで物言わぬ塊を眺めていると、馬車を動かしたジルがこちらに駆け寄ってきた。

 

「おぉ、倒したのか!しかし、まさかワイバーン相手に三人で勝つとは」

 そういいワイバーンの体を叩くジル、死んだわけじゃいので起きる可能性があるから下手に刺激を与えてほしくないんだけどさ。

「あくまでも、気絶させただけだから……。それよりもこいつの後処理をどうするかが問題だけど」

 倒し魔物の後処理、普通は討伐するから魔物を解体して換金可能部位を回収、残りは放置してその地域の他の動物や魔物の餌にする、自分たちの生活の糧を得て残りを自然に還元する、持ちつ持たれつのサイクル形成ができてる。

 今回は討伐ではなく、気絶させて動きを封じただけ放置すれば問題の解決にはならない、しかしだからといってこの巨体を持ち帰ることは物理的に無理、重力魔法で浮かべて運ぶのは俺の魔力でも街まで運ぶのは無理というか重力魔法自体俺のオリジナルでニーナや姐さんでも使えない魔法自体コスパが悪いのもあるけどな。こんな大きなものを簡単に持ち歩けるカバンがあればいいけど、収納系はなんど魔力回路を組んでもまともに使えるものは出来ていない精々野菜袋の容量を増やした位であり袋より大きいものや大量のものを持ち歩けるようにするのは夢のまた夢である。

 俺達四人が今の状況をどうにかしようかと顔を見合わせていると遠くから地響きと馬の鳴く声が聞こえてきた。

 

 音のなる先に目を向けると、白銀に輝く鎧をつけた男を先頭に紺色の揃いの鎧を装備した集団がこちらに向かってきていた。

「あれは……王宮騎士団?」

 勢いのままこちらに向かってくる集団に俺が怪訝な顔でそう呟くと、他の三人は状況がわからず顔を見合わせている、ジルに至っては心の底から嫌そうな顔をしている。

 そんな雰囲気の中、こちらに着いた騎士団が俺達を取り囲み、集団の長であろう白銀の鎧を装備した騎士が馬上から俺達を見下ろし無表情のまま口を開いた。

 

「私は王宮騎士団長兼第一師団師団長。ナラバリ・ボナパルトである、この魔物を討伐したのは、お前たちで間違いないな!?」

 そう問われると同時に、俺達に周囲から槍のように鋭い視線が突き刺さる、反射的にグランの獲物を握る手に力が入るが俺が目でそれを制す。

「お初にお目に掛かります、私はガルラニュール魔法学校所属のカズミ・スミス後ろに控えますは同じく魔法学校所属の生徒になります」

 そう言い三人同時にその場に膝をつく、内心この後のことを考え頭痛を感じていた。

 

 

 



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