ダンガンロンパR~おかえり絶望学園~ (パルティアン)
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プロローグ 絶望、再び
プロローグ1


プロローグ 絶望、再び

 

 私立希望ヶ峰学園、ここは全国から「超高校級」と呼ばれるその分野における突出した才能を持つ高校生達をスカウトしている。この現代においてこの学園に入れさえすればその後の人生の成功は約束されているとも言われる、超エリート校。そんな超すごい学校の前に俺、水島輝(ミズシマアキラ)は立っていた。

 

「俺、ほんとに今日からここの生徒になるんだよな・・・?」

 

 昔からこの学校に憧れ、その生徒となることを夢見てきた俺にとってこの学校に入学することは本当に喜ばしいことではあるのだが、同時に目の前まで来てそのオーラに圧倒されているのもまた事実である。

 この希望ヶ峰学園は数年前、超高校級の絶望と呼ばれる集団により生徒達が閉じ込められ、殺し合いをさせられるという凄惨な事件があったのだが、それにも関わらずこの学校のブランド力は堕ちなかった。それ故に学校は校舎や設備を新調し、やっと今年再開することになった。そのいわば、新・希望ヶ峰学園の1期生の一人が俺だと言えよう。ただ、たいした才能も無い、ただ人より推理小説が好きなだけのこの俺がそんな大層な肩書きをもらって良いのだろうか・・・。それでも合格通知を受け取ったのは事実、入ってしまえばこっちのモンだ。昨日少しインターネットで調べてきたのだが、どうやら今年の新入生の中にはU-18日本代表のエースを務めるサッカー選手やパリの名店のオーナー達も舌を巻いた天才ショコラティエ、史上最年少で七冠を達成した天才棋士など、テレビでその顔を見ない日は無いような有名人達もいるみたいだ。他人がなんと言おうと俺は彼らの同級生、気後れすることは無い。堂々と行こう。

 そう思って新しい学園生活の第一歩を踏み出したのだが、瞬間、視界がぐにゃりと曲がった。もう自分が立っているのか、倒れているのか、それすらも分からない。そんなぐらつく視界の中で俺は意識を暗黒の中へと手放した。

 

 

 

 

 

 

 次に目が覚めたとき、俺がいたのはどこかの教室の中だった。さっきのは一体何だったんだ、そんなことを思いつつ体を起こすと、その異様な光景がまず目に入ってきた。周りを見渡すと、恐らく窓であったと思われる場所が全て鉄板とボルトによって塞がれていた。

 

「何なんだよ、これ?」

 

 不審に思いつつ次に黒板に目を遣ると、今度はどうやら新入生歓迎のよくあるメッセージのようなものが描かれていた。

 

「ドッキリか・・・?」

 

 状況も何をすればよいのかも分からないままボーッとしていても仕方が無い。とりあえずさっきいた玄関まで一度戻ってみよう。そう思って玄関へ向かってみると、そこには他の新入生とおぼしき人たちもいた。

 

「あら?まだあと一人いたのね。」

 

随分なご挨拶では無いか、そう思い、ムッとして声のした方を向くと、そこにはテレビでよく見た顔がいた。

切れ長の大きな目に美しく長い黒髪を携えた彼女は有浜鈴奈。ドラマや映画に引っ張りだこの押しも押されぬ若手人気女優である。そう言えば彼女も今年入学するとネット記事で見かけた記憶がある。今は赤を基調とした至って普通のセーラー服を着ているが、それでもくすむことの無いその美貌はさすがと言ったところだろう。

 

 

《超高校級の女優 有浜鈴奈(アリハマスズナ)》

 

 

「どうやら自己紹介の必要は無さそうね?」

「すごい自信をお持ちのようで。」

「あなたの反応を見れば分かるわ。普段から私の顔を見慣れている人の反応だもの。」

「そんなことまで分かるのか・・・。俺は水島輝だ。よろしく頼む。」

「よろしくね。」

 

やはり人気女優は何かが違うらしい。人気者故の自覚と自信なのだろうか。

 

 

「お、また1人はっけーん!!」

 

有浜と話していると、そこにもう1人やってきた。少し長めの茶髪にブレザー姿の彼もよくテレビで見ている。しかし、彼の場合はユニフォーム姿のことが多いだろう。

 

 

《超高校級のサッカー選手 二木駆(フタキカケル)》

 

 

二木駆。U-18日本代表の背番号10を背負うエースストライカー。サッカー選手としての未来を嘱望される彼も今年の新入生の一人である。

 

「おれ二木駆!よろしくな!!」

「俺は水島輝だ。よろしく。」

「なーんだよー!つれねーなー。じゃあ、今度仲良くなるためにさ、一緒にサッカーしようぜ!!!」

 

お前とやったら絶対体が保たない。できれば勘弁してほしい。

 

 

「いや、アンタとサッカーなんて無茶にも程があるでしょ!」

 

今思っていたことと同じことをツッコんでくれた奴がいた。ジャージの下に陸上のユニフォームを着た、短髪の彼女も有名人だ。

 

「えー、そうかね?」

「あんた、もっと自分の才能考えた方が良いよ?あ、私涼風紫!よろしくね、水島!」

 

 

《超高校級の長距離ランナー 涼風紫(スズカゼユカリ)》

 

 

彼女もスポーツニュースの主役の一人だ。つい先日、マラソンの日本記録を更新し、世界大会の切符を掴んだ天才ランナー。将来は日本人久々のマラソンでの金メダルも望まれる、そんな選手だ。

 

「だからさ、せめてあたしと一緒にランニングしよ!!」

 

お前もか。

 

 そう言えば新入生はこれだけなのだろうか?新入生がたったの4人は少し寂しい。やはり再開初年度はこんなもんなのだろうか?

 

「他にもいるわよ?」

「うわっ!!」

 

有浜が急に話しかけてくる。

 

「ちょっと失礼じゃない?」

「すまない。ちょっとビックリしただけだ。で、他にも新入生がいるのか?」

「ええ。今みんな席を外しているけど。」

「ていうかなぜ俺の考えていることが分かった?」

「顔に丸出しだったもの。」

 

それはちょっと恥ずかしい。

 

「そんなにしないで戻ってくると思うわ。噂をすれば、ほら。」

 

有浜の指す先を見ると、3人ほどまとめて帰ってきていた。

 

 

最初に話しかけてきたのは左目の下に星形のペイントの入った、革ジャンを着た女の子。

「お、新入生か?アタシは山吹巴、ドラマーだ!よろしく頼むぜ!!」

 

 

《超高校級のドラマー 山吹巴(ヤマブキトモエ)》

 

彼女は若者に人気のモンスターバンドのドラムを担当している。しかし、彼女のドラムの腕はすさまじく、彼女のドラム単体の演奏で全国を回るライブが大成功を収めたのはもはや伝説だ。

 

「水島輝だ。よろしく頼む。」

「そうだ、これこないだの全国ライブのDVD,よかったら見てくれ!」

「良いのか?今どこでも品切れの代物じゃないのか?というか、常に持ち歩ってるのか?」

「新しい環境に行くときは常に名刺代わりに最新の媒体を渡してんだ、気にしないでくれ!だからコイツも常に持ち歩ってる。」

 

何と豪華な名刺だろうか。これは彼女が人気ドラマー故に成立するのだろう。

 

 

 

続いて話しかけてきたのはツンツン頭にヘアバンドを着けた男。

「お、他にもまだいたんだな!!」

 

 

《超高校級の射撃選手 薬師弾(ヤクシダン)》

 

 

彼は薬師弾。若くしてピストル射撃の日本代表にも選出されたほどの凄腕のガンマンだ。その腕前はピストルの届く範囲ならどんな獲物も逃さないとまで形容される。

 

「俺薬師弾!射撃やってんだ!!よろしく!!」

「ああ、よろしく。俺は水島輝だ。」

「今度サバゲーも行こうな!!」

「サバゲーもやってんの?」

「おう!ピストル一丁で突っ込んでいくんだ。楽しいぜ?」

 

それができるのはお前くらいのもんだろう。

 

 

そしてもう1人。

 

「何を騒いでいるんだ、やかましい。」

 

 

《超高校級の棋士 玉城将(タマシロショウ)》

 

金髪にウグイス色を基調とした着物を着た彼は将棋の歴史始まって以来最高の棋士だと言われる天才だ。曰く、彼は対局において最初の1手で詰みまでの道筋を描いている。曰く、彼の生きているうちは決してタイトルを獲る者が他に現れることはない。そのようなケタ外れの評価をされているのが彼である。

 

「何だ、他にもまだいたのか。」

 

コイツも随分な挨拶だ。

 

「俺は・・・」

「いい。覚える気もない。」

 

ホントに何だコイツ。

 

「ああ、コイツは基本誰にでもこんなもんだ。あんま気にすんなよ?」

「そうか・・・。」

 

どうやら超高校級の棋士は非常に無愛想な男のようだ。

 

 

玉城の態度にため息を吐いていると、2人分の足音が聞こえてきた。

「おや、見ない顔だ。また新入生が残っていたみたいだね。」

「お嬢、あまり速く行かれては困ります。」

 

 

《超高校級の資産家 アンリ・シャークネード》

《超高校級の執事 畔田鋼之助(クロダコウノスケ)》

 

 

純白のスーツに美しい銀髪をオールバックにした気品ある出で立ちの彼女はアンリ・シャークネード。幼くして両親を亡くし、その事業を引き継いだが、その事業を生まれ持った経営の才能により急拡大させ、かの十神財閥に次ぐ一大財閥へと成長させた天才経営者。ただ、その姓が某サメ映画と丸被りであることをネット上ではネタにされていたりもする。

その隣の大柄で真っ黒のスーツを着た青年は黒田鋼之助。彼は幼いころから執事としてアンリに仕え、彼女を一番長く補佐してきた。彼の気遣いは素晴らしいもので、アンリ曰く彼女が欲しいことやものを伝える前には既に完了しているという。ボディーガードとしての役割も兼任しており、その腕っ節は彼に勝つのはかの大神さくらでもかなり大変だと言われているほどだ。

 

「水島輝だ。よろしく頼む。」

「こちらこそよろしく頼むよ。」

「畔田です。よろしくお願いします。」

 

挨拶を交わした後、畔田が再び俺の元に近づいて耳打ちをしてきた。

 

「お嬢はその才能故に中々同年代の友人ができず、皆さんとの学校生活を楽しみにされています。どうか仲良くし ていただけると幸いです。それでは。」

「ああ。」

本当に気の利く男だ。

そんなことを思っていると、

 

 

「やあやあ、そこにいるのは最後の一人の新入生かなー?」

 

 

《超高校級の漫画家 久見晴香(ヒサミハルカ)》

 

アンリを追う畔田の背中を眺める俺に話しかけてきたのは超高校級の漫画家の久見晴香。スポーツ、恋愛、バトルにホラー。どんなジャンルでも何でもござれな天才漫画家で、現代に生まれ変わった手塚治虫とまで評される。

 

「最後?」

「実はね、ぼくが目覚めたのが寮の部屋だったんだけどー、そこに掛かってたネームプレートが16枚で、君がその中で出会った最後の一人なんだー。」

「なるほど。」

「あ、ぼく久見晴香です。よろしくねー!」

「俺は水島輝だ。よろしく。」

 

なんとも不思議な雰囲気を持ってるな。漫画家ってそういう人が多いんだろうか?でもベレー帽にパーカーに短パンという中々格好に無頓着な人であるのは分かった。

 

 

「だぁーーーーーっ!!放しやがれ!!!」

「だっはっはっは!!!ひ弱だなぁ!!もっと鍛えんとダメだぞぅ!!!」

 

急に騒がしくなってきた。声のした方を振り返ると逆立った髪の豪快に笑う大柄な男とそれに抱えられた青いバンダナを巻いた少女がやってきた。

 

 

《超高校級の空手家 比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)》

《超高校級の海賊 九鬼海波(クキミナミ)》

 

 

比嘉は直接立ち合うのも、型を演武するのもどちらも素晴らしい才能を見せつける真の空手家とも呼ぶべき人間である。彼の技の一つ一つが美しく、それを見た相手は感動で涙を流すこともあるという。

九鬼は若くして海賊船の船長となった女海賊だ。と言っても一般人に手を出すことはなく、海賊を狩りそれによる利益を上げる海賊だと言われている。

 

「お!お前も新入生か?」

「ああ、水島輝だ。」

「てめぇ、見てねえで助けやがれ!!!」

「この状況は何だ・・・?」

「コイツが何か悪さしてるみたいだったからな、止めたんだ!」

「ちげえっつーの!!腹減って食いもん捜してただけだ!!!」

「まぁ、ほどほどにな?」

 

まぁ、大事にはならんだろ・・・。

 

 

「こら!!喧嘩しない!!!」

 

 

《超高校級の画家 美上三香子(ミカミミカコ)》

 

 

大騒ぎしている2人をたしなめる声が響く。ベリーショートに緑のエプロン。そのエプロンの所々が絵の具で汚れている。彼女は絵画の世界では非常に有名で、その画集の売り上げは世界の画集の売り上げのランキングを更新し、現代の絵画の最高峰と評される。特に彼女が描く人物画は生き生きしており、その絵を描いた時の様子がありありと伝わってくるとして評判が高い。

 

「あなたもちゃんと止めてよ!」

「すまない・・・。あんまり大事にはならないと思ったんだ。」

「ま、いいけどさ。私、美上三香子。よろしくね。あなたは?」

「俺は水島輝だ。」

「ふぅん。後のみんなには会った?」

「いや、全員ではないな。久見の言うことを信じるならあと3人会ってない。」

 

確かここまでで12人に会っている。間違ってはないはずだ。

 

「じゃあ多分ここにいない3人だろうから、すぐ来ると思うよ?」

「それならここで待たせてもらうよ。」

 

 

そういって美上と別れるた瞬間、後ろからヌッと人影が現れた。ツーブロックに左の前髪を搔き上げたスタイルのその青年は目の下に隈があり、少し不健康そうだった。

 

「えっと、美上さんが言ってた3人のうち1人は僕だね・・・。」

 

 

《超高校級の図書委員 太宰直哉(ダザイナオヤ)》

 

 

確か彼はその本に関する知識量の多さもさることながら、それぞれの本の魅力を最大限伝える能力も秀でており、彼が個人のブログで紹介した本は全てベストセラーになると言われている。

 

「太宰直哉です。よろしくね。」

「水島輝だ。よろしく。そう言えばこの前のブログを見て『磯の香りの消えぬ間に』を読んだんだ。すごく面白かったぞ。」

「ああ、あれ見てくれたんだ。名作過ぎて中々紹介する機会がなかったんだけど、すごく嬉しいよ。ありがとう。」

「こちらこそ面白い本を教えてもらえて感謝してる。」

 

結局かなり本の話をしてしまった。彼の話す本の内容は今すぐにでも読みたくなるようなものだった。是非とも書店に行って買いあさりたいものだ。

 

 

「おっと!」

 

本の話に夢中になりすぎた俺は誰かにぶつかってしまった。

 

「すまない!周りが見えてなかった!」

 

「ああ、いいんだ。僕も気を抜いていたし、気にしないでください。」

 

 

《超高校級のテーラー 青山蓬生(アオヤマホウセイ)》

 

 

彼は圧倒的なスピード、センス、正確性で素晴らしいスーツを仕上げてみせる事で有名なテーラーである。彼の作るスーツは世界的にも人気で、多くのアカデミー賞俳優や世界的アスリートが公的な場面で彼のスーツを着ている。テレビに映るセレブのスーツは全て彼が作っていると言っても過言ではない。

 

「やあ、青山君じゃないか。君も新入生なんだね。水島君もさっきぶりだね。」

「アンリさん、お久しぶりです。」

「2人は知り合いなのか?」

「ええ、彼女はよく僕にスーツの注文をしてくれるんです。今着ているものもそうですよ。」

「ホントにすごい人のものを作ってるんだなぁ・・・。」

「君もここに来たということは将来的に素晴らしい人材になっていくのでしょうから、必要になったときは僕のスーツを是非。」

「ああ、そうさせてもらうよ。」

 

俺がそこまでの人間になれたらの話だが。

 

 

彼の作る目の回るほど高価なスーツについて想いを馳せていると、最後の同級生が現れた。

 

「あれ、私が最後かな?」

 

 

《超高校級のショコラティエ 甘寺心愛(アマデラココア)》

 

 

彼女はパリでチョコレートのお菓子を作るための修行をしたのだが、その才能に多くの老舗チョコレート菓子店の店長が舌を巻いたと言われている。彼女の作るチョコレート菓子は人気などという言葉では表せないほどのもので、とある王国の王女も「すごくおいしいですわ!これは是非とも皆さんにも食べていただきませんと!」と目を輝かせながらよく食べているという。ただ非常に高級なので俺のような庶民には中々手が出ない代物でもある。

 

「私は甘寺心愛です!よろしくね!」

「俺は水島輝だ。よろしくな。」

「あ、そうだ!これ、どうぞ!」

 

銀紙に包まれた何かを手渡してくる。

 

「これは?」

「チョコレート!みんなに食べてほしくて!」

「手作りか!?」

「そうだけど・・・。」

 

こんなところに世界最高クラスのチョコレートが・・・!?

 

「すごく嬉しいよ。」

 

すぐに頬張ってみる。チョコレートの苦みを砂糖の甘みが邪魔することなくそれでいて完璧なバランスだ。ここまで単純なチョコレートキャンディーというのはその分作る人の腕が出るだろう。それでもここまでおいしいというのはやはり彼女の腕が素晴らしいと言わざるを得ない。

 

「うん、とてもおいしい。」

「ほんと!?よかったぁ!また何かのタイミングで作ってくるね!」

「ああ、楽しみにしてる。」

 

良いのだろうか、世界中の人が夢見てやまないチョコレートをこんなに簡単に食べられてしまって。でもまあ、これは俺の同級生特権ということで許してもらおう。

 

 

何となく全員が揃った雰囲気となり、この現状についての話となっていく。

 

「結局この鉄板何なんだ?」

 

切り出したのは二木だった。確かにここまで厳重に出られないようになっている理由とは何だろう?

 

「僕が目覚めた寮の部屋もー、ぜーんぶ窓には鉄板がくっついてたよー。」

「俺が起きた教室もそうだったな。」

「廊下も全てそんな感じだったな!!!」

 

本当にどうなってるんだ?みんなの話を聞く限りどこも全部鉄板で塞がれていたようだ。

 

みんなで首をかしげていると、

「分からないと言えばなんだけどよ、水島。お前の才能って何なんだ?」

 

唐突に薬師が聞いてくる。そう言えば言ってなかったな。

 

「ああ、俺の才能は・・・」

 

あれ、思い出せない・・・。俺の才能って何だ・・・?思い出せないまま黙りこんでいたその時。

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「あー、あー、マイクテス、マイクテス。新入生の皆さん、至急体育館までお集まりください。」

 

なんともふざけた、不快になるようなその声がモニターから聞こえてきた。

俺たちはまだ気づいていなかった。それが絶望の日々の始まりとなることに・・・。




 ダンガンロンパのオリジナル小説を僕も書いてみることにしました。
 中々文章を考えるのが難しく、拙文ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。
 頑張って書いていきますので、温かく見守っていただければ幸いです。


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プロローグ2

 チャイムの声を聞いた俺たちは困惑していた。まずモニターに映ったおよそ人間のものとは思えないシルエットに不快になる変な声と話し方。これら全てひっくるめて俺たちの頭はこんがらがっていた。

 

「何ですかね、これは?」

 

まず口を開いたのは青山だった。

 

「知るかよ!」

 

答えたのは九鬼。この二人の言葉を皮切りにみんながざわざわとし出すが、誰もこの困惑に対する答えなど持ち合わせてはいなかった。ただ、口に出すことでこの困惑を少しでも収めたかっただけなのだ。でもホントはみんな分かっていたんだ。こんなところで話していたところで何の解決にもならないなんて事は。

 

それを打ち破ったのは玉城だった。

 

「こんなところで話していても仕方ないだろう。俺は体育館に行くがお前等はどうするんだ?」

 

その言葉でシンと静まりかえる。

 

「確かにそうだね。とりあえずここにいても状況は変わらないよ!」

 

静寂を切り裂いたのは甘寺。

その言葉に誰も返す言葉は出てこない。

 

「行くしかない・・・か・・・。」

 

薬師がポソッと呟いたことは結局のところ俺たちみんなが心のどこかで思っていたことだった。

 

 こうして2人の言葉を聞いた俺たちはとりあえずのところであるが体育館に無核ことになったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、体育館に来たは良いものの、やはり不安は拭えない。どうしても尻込みをしてしまう。

 

「何をしてる。早く入れ。」

 

玉城が急かす。

 

「そんなに言うなら君が開ければ良いじゃないか。君が言い出しっぺだろうに。」

 

アンリが言い返す。

 

「おれもそう思うぜ?」

 

二木も同調する。

 

ため息を吐いて玉城は仕方がないと言わんばかりに体育館の重い扉を開けた。

 

 

 

 

 体育館に入った俺たちはまず俺たちを呼び出した本人がいないことに気づいた。もう訳が分からない。そんな俺たちは呆然と立ち尽くしていた訳であるが、その数秒後、どこからともなくそれは聞こえた。

 

「ぐぷぷぷぷ、じゃあそろそろ始めようぜ!!!」

 

ステージの上、一般的な学校なら校長が話す場所、そこから“それ”は飛び出してきた。

 

「なんだい、あれ?」

「ぬいぐるみじゃねーの?」

 

急に飛び出てきた“それ”に俺たちは驚きと困惑を隠せない。

 

「ぬいぐるみじゃねーぜ?モノトラ様だ!!!」

 

モノトラと名乗った“それ”は不遜な態度で俺たちを見下ろしている。

 

「なんだテメェ!?」

「だからモノトラ様だっつってんだろ!!」

 

これではらちがあかない。感情的になっている九鬼を抑え、久見が尋ねた。

 

「君が僕たちをここに閉じ込めたのー?」

 

端的かつ俺たちが一番知りたいこと。それを彼女が問うてくれた。

 

「そうだが。何か?」

 

モノトラは悪びれもしない。

 

「目的は何ー?」

「あー、なんだ、アイツみてえに回りくどいのは苦手だな。言っちまえ!オレらの目的は“絶望”ってところだな。」

 

この一言を聞いて俺たちは体を強ばらせた。それもそうだ。数年前、この希望ヶ峰学園を襲ったコロシアイ事件、その首謀者集団の名前は「超高校級の絶望」なのだ。俺たちはどうしてもそれを想起せざるを得ない。

 

「つまり、俺たちコロシアイをしろと?」

 

臆面もなく玉城が聞いた。

 

「ぐぷぷ、話が早えじゃねぇか。そうだ。オマエラにはコロシアイをしてもらう。つってもただ殺し合わせるんじゃつまんねえからな。ルールを用意した。」

 

やっぱりと思った矢先、コロシアイのルールなどというある意味矛盾した言葉も聞こえてきた。

 

「簡単だ。誰にもバレねえように殺せ。バレずに殺れたやつはここから出してやる。バレたらダメだ。そいつはオシオキだ。」

「そのオシオキっつーのは?」

「人1人の命を奪うんだぜ?分かってんだろ?処刑だよ。」

「悪趣味なっ・・・!!」

 

モノトラの言うことに腸が煮えくりかえりそうだった。あまりにも自分勝手すぎる。

 

「ま、別に殺し合わなくても良いんだぜ?そんときは一生ここから出られねえがな。ただ、ここからでねえっつーならまあ、オマエラが死ぬまで面倒は見てやるよ。」

 

どういうことだ?殺し合わせたいのに殺し合わなくて良い?コイツは一体何を言っているんだ?

 

「おーおー、困惑してやがんなぁ!そりゃオレらの目的は“絶望”、オマエラが死ぬこと自体ではねーからな。オマエラが絶望した顔が見られれば何でも良い訳だ。まあ、同じ絶望してもらうんなら派手な方が良いからな。もちろんコロシアイが起きるように仕向けさせてはもらうぜ?だから、オマエラは殴殺撲殺刺殺斬殺毒殺絞殺轢殺焼殺射殺銃殺扼殺暗殺忙殺薬殺圧殺溺殺氷殺抹殺爆殺縊殺礫殺焚殺呪殺何でも好きなようにやってくれ。」

 

コイツッッ!!俺たちはみんなが奴に対する憎悪を向けていた。その瞬間。足下に何かが投げつけられた。何だこれ?

 

「アブねー!!渡し忘れるところだったぜ。そいつは電子学生手帳。オマエラの全部の情報も載ってれば、色んなとこのカギにもなる。絶対なくすんじゃねーぜ!あと、そいつん中の校則も確認しとけよ?破ったらオシオキだぜ?じゃーな!!!」

「おいっ!待てっ!!!」

 

言いたいことだけ言っていなくなってしまったモノトラに俺たちは怒りを隠しきれなかった。

だが、冷静になれ。奴の言うことも一理ある。余計なとこで死ぬのは損なんてモノじゃない。まずは校則を確認しておくべきだろう。そう思い、電子学生手帳の校則のページを開いた。

 

 

【校則】

1.生徒達はこの学園内で無期限の共同生活を行うこと。

 

(ほんとはこれを最初に言うつもりだったんだがめんどくさくなったんだろうなぁ。)

 

2.夜10時から朝7時までを夜時間とし、その時間内には一部立ち入り禁止区域を設ける。

 

(なるほど、この時間は気をつけなければ一番破ってしまいかねないな。)

 

3.就寝は寄宿舎内の個室及びラウンジのソファにてのみ可能とする。それ以外の場所での故意の就寝は罰の対象となる。

 

(寝落ちには気をつけなければな。)

 

4.希望ヶ峰学園について調べるのは自由とする。特に行動に制限は課されない。

 

(これで安心して出口を探せるな。)

 

5.モノトラへの暴力及び監視カメラの破壊を禁じる。

 

(やはり逸らなくて正解だったな。)

 

6.仲間の誰かを殺したクロは“卒業”となるが、自分がクロだと他の人に知られてはならない。

 

(これがモノトラの言っていたコロシアイか。)

 

7.生徒間で殺人が起こった場合、その一定時間後に生徒全員の参加が義務づけられる学級裁判が行われる。

 

(学級裁判・・・?こんなのモノトラは一言も言ってなかったぞ?)

 

8.学級裁判で正しいクロを指摘した場合は、クロだけが処刑される。

 

(要はこれがモノトラがバレるなって言ってた奴とオシオキか?)

 

9.学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合、クロだけが卒業となり、残りの生徒は全員処刑となる。

 

(なっ・・・!ただ犯人が逃げられるだけじゃないのか!?かなり命がけって事か・・・。)

 

なお、校則は順次増えていく場合がある。

 

 

なるほど、校則はこんなところか・・・。

 

「水島君、怖い顔してどうしたの?」

「っ!」

 

ビックリして飛び退いてしまった。どうやらただ甘寺が話しかけてきただけのようだ。

 

「すまない・・・。ただ校則の確認に集中してしまっていたんだ。」

「もう、こっちがびっくりしたよ・・・。」

「ホントに申し訳ない。」

 

まだ困惑が隠しきれない俺たちに対して玉城が口を開いた。

 

「さて、喫緊で一番の問題はお前達全員な訳だが。」

「は?」

 

つい聞き返してしまった。

 

「分からないのか?この現状で、誰が今のモノトラが言ったことを真に受けるか分かったもんじゃないんだぞ?この中の誰が誰を殺してもおかしくない。」

「そんな訳・・・」

「無いと言えるか?俺たちはまだ出会ったばかりでお互いのことを全く何も知らないというのに。」

 

みんなが口をつぐんでしまった。誰も思わなかったわけじゃない。お互いに対してまだ一切の信用が無い状態。その中でここを出るためにコロシアイをしろと言われたら誰も信用することができないだろう。

 

「何より、一番信用ならんのはお前だぞ、水島。」

「っ!!!」

「そうだろう?さっき薬師がお前の才能を聞いたとき、お前言葉に詰まったな?自分の才能もすぐに答えられん奴のことを俺は信用することはできん。」

 

そうだ。俺にはその問題もあった。俺は自分の才能が思い出せない。それにも関わらずこんな状況に放り込まれてしまった。

 

「お前が何者かは知らんが、もし最初に殺しが起こるとしたらその時お前は被害者かクロ、どっちかでは関わっていることだろうな。」

「おい・・・!」

 

薬師が玉城を制止した瞬間、玉城が既に宙を舞って吹っ飛んでいた。そこにいたのはフーッ、フーッと息を荒げた九鬼だった。

 

「おい、さっきから聞いてれば何だよその言い草はよぉ!!!オレはテメェみてぇな奴が一番気に食わねぇんだよ!!!」

「九鬼も落ち着けって!!だけど玉城も玉城だぞ!気ぃ立ってんのは分かるけど水島に当たんのは違えだろ!?」

 

どうにかその場を収めようとしているのは薬師だった。

 

「フン。得体の知れない不審者と海の厄介者、お似合いじゃないか。どうかさっさと消えてくれ。」

「おい、玉城!!!」

 

捨て台詞を吐いてさっさと出て行ってしまった玉城とその背中を追おうとする薬師。全く、面倒なことになったものだ。

呆れる俺とまたキレそうな九鬼。2人のもとにやってきたのは太宰だった。

 

「2人とも、あんまり気にしない方が良いよ?何よりこういうときって真っ先に死ぬのはどっちかって言うと玉城くんの方だしね。」

「本の話、だよな?」

「もちろん。それにそもそも僕らは逆にお互いの才能くらいしか知らない。どうせお互いの理解度なんてほぼ0なんだから。気にするだけ無駄さ。」

「そーそ、アイツの勝手な言い分なんて無視しちまえばいいって!!」

 

太宰と二木が俺たちを励ましてくれる。だが、太宰の言ったことは半分ホントで半分がおべっかだろう。本心としては「どうせお互い信頼できないんだから才能が分かっているかどうか、どんな才能を持っているかなんてことは関係ない」といったところだろう。

だが、そんな中でも俺たちの事を気遣ってくれる2人の優しさには正直救われた。

 

「2人ともありがとう。」

「すまねえ、どうしても我慢ならなかった。」

「九鬼も水島を思ってのことなんだろ?なら誰も責めやしないって!」

「九鬼も、ありがとう。」

「いいってことよ!」

 

少しだけみんなの雰囲気が和らいだ気がした。

学園に閉じ込められて、コロシアイをしろなんて言われて、玉城が好き勝手言って、こんな状況になって初めて少しだけみんなとの距離が近づいた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

でもやっぱりこの段階でも俺たちはまだ気づいていなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この学園での生活には絶望しかないということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級のサッカー選手   二木駆(フタキカケル)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の画家       美上三香子(ミカミミカコ)

超高校級のテーラー     青山蓬生(アオヤマホウセイ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り16人




さて、ここでプロローグが終了となります。モノトラは何となく僕自身があのモノクマの悪趣味さを出し切るのは難しいんじゃないかと考え出してみたオリジナルのGM役です。コイツは一体どのように物語に関係していくんでしょうか・・・?

次の本編は第1章に入り、遂に本番という形です。楽しみにしていただければなと思います!

その前に、まずキャラ紹介を挟みたいと思うのであしからず

そして今回の最後に。
今後の都合上大きく構造を変化させた寄宿舎1階のマップを載せておきたいと思います。希望ヶ峰学園再開に向けた改修の際に再設計した、とでもお考えくださいませ。
他の場所はせいぜい体育館とプールの奥のところにそれぞれを繋ぐ階段が追加されている、とだけ認識していただければ幸いです。

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極秘資料-希望ヶ峰学園新入生ファイル-

No.生徒名
才能
身長
体重
胸囲
血液型
誕生日
呼び方
CV
説明
セリフ

といった感じでまとめていきます。CVはイメージかつ敬称略で。キャラのビジュアルのイメージも書いていくのですが、いかんせん画力が無いので、絵にすることができません。こんな感じかなと頭で想像しながらお楽しみいただけると幸いです!

追記:キャラクターの顔のイメージを順次投稿していきます。画力は母のお腹の中に置いてきてしまったのでご容赦を…。


1.水島輝(ミズシマアキラ)

 超高校級の???

 170cm

 63kg

 86cm

 A

 6月2日

 男女ともに苗字呼び捨て アンリはアンリ

 竹内順子

 

 幼いころから希望ヶ峰学園に憧れ、遂にはそこに入学することにもなった。アホ毛が生えていること以外は基本的に平凡な容姿に平凡な学ランという平凡代表のような男。推理小説が好き。性格は冷静だが、時に冷めていると捉えられることもある。才能を思い出せないようだが、その意味とは・・・?

 

「それは違うぞ!!!」

「お前で決まりだ!!」

 

 

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2.甘寺心愛(アマデラココア)

 超高校級のショコラティエ

 158cm

 48kg

 89cm

 B

 2月14日

 男:苗字君 女:苗字さん アンリはアンリさん

 高橋李依

 

 子供のころからチョコレートが大好きで、遂にはフランスに渡ってチョコレート作りの修行まで始めてしまった。その中で才能を開花させ、今では多くのところからチョコレート作りの依頼が入っている。見た目はポニーテールにお菓子職人の格好をしている。性格は穏やかで、常に笑顔を絶やさない。

 

「チョコレートって最高でしょ?」

「その推理は甘々かな。」

 

 

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3.薬師弾(ヤクシダン)

 超高校級の射撃選手

 181cm

 76kg

 98cm

 O

 1月3日

 男女ともに苗字呼び捨て アンリはアンリ

 榎木淳弥

 

 昔から某怪盗アニメのガンマンに憧れており、それがきっかけでピストル射撃を始めた。髪をワックスで立ててその根元をヘアバンドで支えている。常に射撃のユニフォームを着ている。良い奴で常識人なのだがバカ。ただそれも相まって周りから愛されるキャラのようだ。

 

「俺じゃねーって!!!」

「その推理撃ち抜くぜ!!!」

 

 

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4.玉城将

 超高校級の棋士

 176cm

 65kg

 86cm

 A

 9月27日

 男女ともに苗字呼び捨て

 杉山紀彰

 

 最年少プロにして最年少七冠を達成した天才棋士。髪は金髪だが、それはスウェーデン人の母の影響であり、地毛である。ただ、この髪色によって苦労したようで、そのせいで無愛想かつひねくれた性格になってしまった。

 

「下らん。俺は付き合わんぞ。」

「その推理、詰んでいるぞ。」

 

 

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5.二木駆(フタキカケル)

 超高校級のサッカー選手

 180cm

 73kg

 95cm

 AB

 4月9日

 男:苗字呼び捨て 女:名前ちゃん

 島崎信長

 

 プロサッカー選手の父の影響で幼いころからボールに触れて育ってきた。サッカーは物心ついたころからやっており、なぜ始めたかなんてことも覚えていない。見た目は少し長めのはねた茶髪にブレザー。性格は一言で言えばチャラいがサッカーに対しては誠実である。

 

「おれ、サッカーには嘘吐かないよ?」

「その推理、バーに弾かれてるぜ!!」

 

 

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6.涼風紫(スズカゼユカリ)

 超高校級の長距離ランナー

 153cm

 45kg

 72cm

 O

 4月29日

 男:苗字呼び捨て 女:名前ちゃんor苗字ちゃん

 赤崎千夏

 

 現代陸上界における最高の女子長距離ランナーの1人である。つい最近もマラソンの日本記録を更新し、彼女がいればいつか日本人がマラソンの世界記録を更新する日が来るかも知れないと言われている。性格は明るく社交的で、誰とでもすぐ仲良くなれる。容姿は濃い紫のショートカットで、陸上のユニフォームの上に髪の色に近い色のジャージを着ている。

 

「よーし!走ろう!!!」

「その推理、ブレーキだよ!」

 

 

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7.山吹巴(ヤマブキトモエ)

 超高校級のドラマー

 164cm

 48kg

 85cm

 B

 10月6日

 男女ともに苗字呼び捨て アンリはアンリ

 瀬戸麻沙美

 

 日本の若者に最も人気なモンスターバンドのドラマーを務める。その腕は彼女だけでも客を呼べるとまで言われるほどで、実際に彼女一人で全国ツアーも成し遂げた。更にこの時の映像を収めたDVDは発売から半年以上経つ今でも未だに入手が困難な代物である。普段から衣裳の黒い革ジャンに白いTシャツという出で立ちで、左目の下の星形のペイントも常に入れている。性格はおおらかで姉御肌な人物である。

 

「アタシ、アンタみたいな奴は嫌いじゃないよ。」

「そいつはビートが合ってないぜ!」

 

 

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8.有浜鈴奈(アリハマスズナ)

 超高校級の女優

 157cm

 46kg

 78cm

 A

 2月3日

 男:苗字君 女:苗字さん アンリはアンリさん

 早見沙織

 

 現在もっとも多くの映画やドラマに出演していると言われる若手の人気女優。美しく長い黒髪をたなびかせるその姿は老若男女問わず多くの者を魅了する。テレビに出ているときは非常に落ち着いて優しい物腰をしているが、実際のところは自信家で少しだけ口が悪い。

 

「あら、私は自分に自信を持っているわよ?」

「棒読みね、その推理。」

 

 

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9.アンリ・シャークネード

 超高校級の資産家

 165cm

 48kg

 80cm

 O

 11月27日

 男:苗字君 女:名前呼び捨て 畔田は畔田

 折笠富美子

 

 若くして親の事業を引継ぎ、更にはその事業を一つの財閥にまで押し上げるほどの経営力を持った天才経営者。彼女が手を出している事業はどれも大きく成長すると言われている。性格は穏やかかつ社交的。この性格によって多くの有力者を味方に付けてきたといっても過言ではない。また容姿も優れており、美しい銀髪をオールバックにし、その髪に似合う純白のスーツを身に纏う。

 

「私は嬉しいんだ、君のように私を1人の人間として扱ってくれる友ができて。」

「株が落ちる予感がするね。」

 

 

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10.畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

 超高校級の執事

 205cm

 98kg

 115cm

 A

 4月22日

 男女共に苗字さん アンリはお嬢

 小野大輔

 

 アンリに幼いころから執事として仕え、彼女のことを一番よく分かっている人物だと言える。また、ボディーガードの役目も務めており、その腕っ節の強さはかの大神さくらとも比較されるほどである。容姿は黒い短髪で左目には幼いころの事故でついた傷がある。また、彼の黒いスーツはアンリの純白のスーツと対比され、その美しさを評価されている。性格は、非常に慇懃で誰に対しても紳士的に接する。

 

「お嬢をよろしく頼みます。」

「その推理は気が利いていませんね。」

 

 

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11.久見晴香(ヒサミハルカ)

 超高校級の漫画家

 155cm

 43kg

 82cm

 AB

 11月3日

 男:苗字君(親しくなると名前君) 女:名前ちゃん

 上田麗奈

 

 そのジャンルを問わない物語を作る能力もさることながら、多くの雑誌で同時に連載も持つキャパの広さもまた有名で、“蘇った手塚治虫”とあだ名される事もある。黒髪にピンクのインナーカラーが入ったセミロングと整った顔立ちをしていながらもピンクのベレー帽、グレーのパーカーに黒い半ズボンという、美人ながら衣服に無頓着な残念美人としても有名である。性格はどこかつかみ所が無い。また、漫画を描くために入れた知識の量が半端ではない。

 

「漫画って、すごく楽しいんだよー!」

「それはホワイト修正が必要かなー。」

 

 

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12.太宰直哉(ダザイナオヤ)

 超高校級の図書委員

 182cm

 61kg

 87cm

 B

 6月20日

 男:苗字君 女:苗字さん アンリはアンリさん

 内山昂輝

 

 昔から本が好きで、常に図書館に通っていた結果、地元では図書室の主などと呼ばれることもあったという。彼が好きな本を誰かと共有したくて始めたブログは今や面白い作品を探すためには第一に見るべきブログとして大盛況である。ツーブロックに前髪を左側だけ搔き上げたヘアスタイル。目の下に隈が有り、少しだけ不健康そうな印象を受ける。性格はおとなしいが、かといって暗い訳でもない。

 

「本を読むと良いよ。色んな世界に入り込むことができる。」

「それはちょっと伏線がないかな。」

 

 

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13.美上三香子(ミカミミカコ)

 超高校級の画家

 156cm

 46kg

 76cm

 O

 10月2日

 男:苗字呼び捨て 女:名前ちゃん

 井上麻里奈

 

 油彩画を中心に繊細な人物画を得意としている。彼女の人物画は非常に生き生きとしており、その絵が描かれたときの情景をそのまま切りとったようだとまで言われている。彼女の画集は非常に人気で世界で最も売れた画集となった。ベリーショートの濃い青の髪に緑のエプロンを着けている。非常にしっかり者でみんなのお姉さん的存在になっている。

 

「私はモデルの命の輝きを丁寧に、忠実に写し取ってるだけだよ。」

「その推理は絵にならないよ」

 

 

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14.青山蓬生(アオヤマホウセイ)

 超高校級のテーラー

 176cm

 65kg

 83cm

 A

 3月2日

 男:苗字君 女:苗字さん アンリはアンリさん

 石川英郎

 

 世界最高峰の腕を持ったテーラー。彼が作ったスーツを世界のセレブのほとんどが着ている。目下の目標は同級生全員に自分のスーツを着てもらうこと。メガネに前髪を分けたスタイル。着ているスーツも自分で仕立てたもの。性格はおとなしく、誰に対しても敬語で接する。

 

「スーツは同じ生地でも作る人の腕で天と地ほどの差です。」

「縫い目がずれてますよ。」

 

 

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15.九鬼海波(クキミナミ)

 超高校級の海賊

 164cm

 49kg

 77cm

 AB

 9月19日

 男女ともに苗字呼び捨て アンリはアンリ

 甲斐田ゆき

 

 現代に蘇った大航海時代の海賊とも言われる女海賊。帆船で海を駆り、隠された宝を探す。略奪行為はほとんど行っておらず、どちらかと言えば現代の海賊を捕らえ、彼らから金品を巻き上げることがあるくらい。青いバンダナを巻き、同じ色の腰布も身につけている。性格は粗暴だが、決して悪い奴ではなく、陰湿、卑怯そういったことを嫌う。

 

「海はいいぜ?怖えけど大らかだ!」

「そんなんじゃ溺れちまうぜ!!」

 

 

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16.比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 超高校級の空手家

 201cm

 103kg

 104cm

 O

 10月25日

 男女ともに苗字呼び捨て アンリはアンリ

 日野聡

 

 現代における最高の空手家。立ち会いも型も全てを最高のレベルでこなし、その技の美しさには対戦相手ですら感動の涙を流すことがある。常に道着を着てツンツン頭。いかにも格闘家という風貌である。性格は大らかと言えば聞こえは良いが、少々デリカシーに欠ける側面もある。

 

「だぁーっはっはっは!!!鍛錬が足りてないぞぉ!!!」

「その推理はぶち砕くっ!!!」

 

 

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EX.モノトラ

 木村昴

 

 超高校級の絶望によって再び希望ヶ峰学園に送り込まれたコロシアイの首謀者。体の色が左右で白黒に分かれたトラの姿をしたぬいぐるみで、それぞれの側の色とは逆の色の縞模様が入っている。一人称は「オレ」で、生徒達を「オマエラ」と呼ぶ。傲岸不遜な話し方で生徒達をイラつかせる。笑い方は「ぐぷぷぷぷ」。

 

 

【挿絵表示】

 

 




 キャラクター紹介はこんな感じです!こんな個性的な彼らの紡ぐ物語はどんな感じになっていくのでしょうか?さあ次回からコロシアイ新章開幕です!!!


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CHAPTER1 絶望ピエロ
CHAPTER1 (非)日常編1


CHAPTER1 絶望ピエロ (非)日常編

 

 取りあえず今後の事を相談するために俺たちは体育館から寄宿舎の食堂に集まった。ただ、そこには玉城の姿はなかった。

 

「全く、玉城は自分勝手だよね!水島と海波ちゃんへの態度もあり得ない!!」

美上が憤慨している。さっきの玉城のことで腹の虫が治まってないらしい。一番言われていた俺と九鬼が既に矛を収めているんだがなぁ・・・。だが、他人のために怒れるその優しさはきっと彼女の大きな武器の一つだろう。

 

「まあまあ、そんなこと言ってもしょうがねえって。そのうちアイツだって俺たちとも馴染むよ。」

 

それを宥めているのが薬師。コイツは何も考えていないように見えて、意外と周りのことをよく見ていてすごく俺たちの関係を潤滑に回そうとしてくれている。そんな彼らを尻目にアンリが話を切り出した。

 

「さて、これからどうしようか。ここで一生なんてごめんだし、コロシアイなんてなおさらだろう?」

「じゃあ取りあえず出口を捜せばいいんじゃねー?」

 

アンリの相談に対して二木が返す。確かに、校舎のどこかに抜け穴があるかもしれない。そこから出られればコロシアイなんてする必要はなくなる。捜してみる価値はあるかも知れない。

 

「とは言ってもここまで大がかりなことをしたモノトラが抜け穴なんて見逃すかな?」

 

太宰の疑問ももっともだ。ここまでのことは相当計画的でなければできない。そしてそんな計画的犯行を行ってみせる奴らが俺たちが逃げられるような道を見逃すとも思えない。この太宰の一言をきっかけにわざわざ探索しなくても、という雰囲気が拡がる。そんな雰囲気を破ったのは比嘉だった。

 

「だが、出られないとしてもここで生活するにあたって校舎内を把握しておいても損はないだろう!!それに出口がある可能性は低くともゼロじゃない!!!」

「うーん、それもそうだね。ごめん、少しネガティブになってたよ。」

 

比嘉の一言で太宰が思い直し、みんなも校舎内の探索に前向きになった。こうして俺たちは校舎内を探索してみることになった。

 

「じゃあ、手分けしようか。私と畔田が体育館方面を回ろう。」

「僕は購買とか真ん中あたりを担当するよ。」

「では、俺と九鬼もそちらを手伝おう!!」

「オレは強制かよ・・・。」

「じゃあ私と青山、晴香ちゃんで手前の教室とかを探索してくる。」

「僕たちも強制ですか、美上さん・・・。」

「近くにいたから。」

「三香子ちゃん、まるでお母さんみたいー。」

「じゃ、おれと紫ちゃん、巴ちゃん、鈴奈ちゃんで寄宿舎を探索するぜ!」

「女子ばっかじゃねーか。」

「言ったもん勝ちだろ?」

「とは言っても寮はかなり広い。部屋のスペースとその奥のトラッシュルームは俺たち残りで担当するよ。」

「お、マジで、水島!助かる!!」

 

とまあこんな感じでグループ分けをして1時間後に再び集合することになった。ついでに分かりやすいようにそれぞれの班に数字も振っておいた。

 

【班分け】

1班:アンリ、畔田       体育館周辺

2班:太宰、比嘉、九鬼     校舎1F中央部

3班:美上、青山、久見     校舎1F寄宿舎より

4班:二木、涼風、山吹、有浜  寄宿舎共有スペース

5班:水島、甘寺、薬師     寄宿舎寄宿スペース、トラッシュルーム

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは各々の班に分かれて校舎の探索を開始した。俺たち第5班は寄宿スペースにやってきていた。

「さて、俺たちはこの寄宿スペースの方とその奥だな。」

「まあ、そんなに時間はかかんないだろ!」

「どうせお互いの部屋は入れないもんね。」

 

とまあ、俺たちは寄宿舎の探索を開始した。

 

まず目に入ったのはランドリー。寄宿スペースの廊下の真ん中に設けられた洗濯のための部屋。どうやら昔の寄宿舎は廊下の一番奥の部屋だったりすると非常に遠かったみたいだが、今回の改修で構造を見直したようだ。これでもかというほどドラム式の洗濯機がならんでおり、長時間待機することにはならないだろう。

 

「ゴミ箱もあるんだな。すっげー設備整ってるじゃん!」

「ここで洗濯が終わるのを待つ奴の事も頭に入ってる訳か。」

 

その後くまなくランドリーを調べてみたが、出口となりそうなものはどこにも見当たらなかった。

 

「外れだったね。」

 

残念そうに漏らす甘寺。まあ、仕方ないだろう。まだトラッシュルームも残っている。がっかりするのはその後でも良い。

 

こうしてトラッシュルームについた俺たち。入ってすぐに目に入ったのは大きな焼却炉とそこの簡単に入れないようにするための大きな鉄格子。

 

「なるほどな、ここでゴミを焼却する訳か。」

 

そう俺が呟いた瞬間、隣に奴は現れた。

 

「そうだぜ!!」

「げっ!モノトラ!!」

「げっとは随分な挨拶じゃねえか。で、ここでゴミを処理してもらうわけだが、オマエラで交代でゴミ係をやってもらうぜ。ということで薬師!オマエにこのカギを渡しておくから最初のゴミ係頼んだぜ!じゃあな!」

「マジかよ・・・。」

勝手にカギを押し付けていなくなった。

「ついてねえな」

心底めんどくさそうに薬師が呟く。そんな俺たちの姿を見ていた甘寺がしびれを切らしたのだろうか、

 

「とりあえず、出口がないか探そうよ!」

「それもそうだ。」

 

甘寺に進められるままに俺たちはトラッシュルームを探索した。しかし、結局トラッシュルームにも出口はなかった。しかし、強いて言うならば、学生証でも今渡された鉄格子のカギでも開けることのできない頑丈な扉が床にあったことくらいだろうか。もしかしたらこれを開けることができたらそこが出口に繋がっているかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして探索をしているうちに1時間なんてすぐに経ってしまい、俺たちは再び寄宿舎の食堂に集合した。先ほど体育館から戻ってきたときと同様、アンリが口火を切った。

 

「さて、探索の結果はどうだったかな?ちなみにこちらは空振りだ。もしかしたら混乱の中で出口を見落としていたかも知れないとも思ったんだが、やはり出口はなかった。」

「付け加えますと、体育館の近くの階段および体育館内の階段は鉄格子によって封鎖されていました。何らかの条件を満たすことで上階に行けるようになるのかも知れませんが、今のところその条件も分かりません。」

 

どうやら第1班は大きな収穫はなかったようだ。また、上階にもまだ行けないらしい。

 

「じゃあ、次は僕たちかな。」

 

続いて口を開いたのは太宰だった。

 

「やはり玄関も頑丈な扉で封鎖されていたよ。」

「さすがの俺でもぶち破れなかった!!!!」

「何をしてるんだ・・・。」

「で、後は購買と保健室だね。どちらも出口とおぼしきものは無かったよ。ただ、保健室には薬や包帯とか、更には輸血パックが揃っていたし、購買の品揃えも悪くなかった。ある程度の生活を送ることはできるんじゃないかな。」

 

第2班も出口は見つけられなかったようだが、そこでの発見によると俺たちは生活するのには困らなそうだ。

 

「じゃあ、班の順番的に私かな。」

 

続いて第3班。

 

「こっちもやっぱり出口は見つからなかったよ。しかも普通の教室の他にあったのが視聴覚室で、何に使うのかも分かんないって感じだし。」

「まあ、強いて言うのであれば、映画なども見れて退屈はしない、という感じですね。」

「あとねー、赤い扉が奥にあったんだけど、カギが掛かってて分かんなかったー。」

 

こちらは特に大きな発見はなかったようだ。だが、ミステリー映画があったら見てみたいところだ。それだけは個人的に気になった。

少し気がかりなのは久見の言う赤い扉だ。もしそれが出口に繋がってればよいのだが、そうでなかったらと思うとゾッとする。

 

「おれたちも出口は見つかんなかった!」

 

そして二木ら第4班。

 

「取りあえずまずキッチンが凄かったな。あんだけあれば食いもんにはしばらく困んねえんじゃねえかな。」

「うん、あとね、新しくできたっていうラウンジも結構よかったよ!おっきなソファがあって飲み物の冷蔵庫もあったし、かなり落ち着けそうだよ!お風呂はまだ整備中だって!」

「倉庫もかなり大きかったわ。とりあえず生活必需品はあそこにいけばたいていは揃うわよ。」

「ってな感じだ!!」

 

なるほど、食事には困らなそうで安心した。かなり設備の良い寄宿舎みたいだな。

 

後は、俺たちか。

 

「こっちも出口はなかった。ランドリーはかなり洗濯機があったからストレスは掛からなそうだ。」

「あとはトラッシュルームかな。大きい焼却炉があって、そこでゴミを片付けるみたい。」

「でも簡単には近づけないようになってたぞ!このカギを使っていちいち開けなきゃなんねえ。ちなみにゴミ係は当番制だと。」

「床に謎の扉があったけどかなり丈夫でカギも掛かってたから開かなかった。あれが開いたら出口がある可能性もあるかも知れないとだけ共有しとく。」

 

俺たちの報告はここまで。

 

「なるほど、出口かも知れない謎の扉か・・・。それは気になるところだけど結局今のところ出られそうなところはない、ということだね?」

「まあ、そういうことだ。」

 

今回の報告は以上だ。だが、情報が出れば出るほど出口がないという情報が確定されていっただけで、何も解決にはなっていなかった。この絶望的な状況に俺たちはまた黙りこんでしまった。

 

「まあ、今回はこんなものだろう!気落ちすることはないよ。すぐに見つかるくらいなら私たちもこんなに焦る必要はないのだからね。」

 

そんな俺たちに励ます声を上げたのはアンリだった。

 

「私たちだって万能ではない。もしかしたらそれぞれで見落としているものもあるかも知れない。だから、気落ちすることなく、明日も、そのまた次も、地道に出口を探そうじゃないか!」

 

さすが、若くして大財閥のトップを務める天才だ。カリスマ性もすごい。彼女の一言で全員の目に生気が戻った。そして彼女は続けた。

 

「明日はローテーションして別のところを探そう。もしかしたら別の人間の目で見ることによって新しい発見がまだあるかもしれないしね。じゃあ、今日はこのあたりで解散しよう。そうだ、食事は一緒に取ることにしないかい?それならわざわざ時間を取らなくても探索の結果を共有することができる。一応、玉城にも伝えておいてくれよ?仲間はずれなんて事はあまりしたくない。」

 

こうして明日は別のところを探すという決定をしたところで今回は解散となった。相談の結果、明日は体育館を探索することにもなったし、ゆっくり休んで明日に備えたいところだ。

 

アンリの提案に従って夕食の時には1回集まったものの、みんな今日の出来事で疲れてしまっていた。玉城には偶然会った薬師が伝えてはくれたようなのだが、やはり来てはくれなかった。こうして呆然と過ごしているうちに夜の10時を迎え、モノトラのアナウンスが聞こえてきた。

 

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「午後10時になりました。ただ今より夜時間となります。食堂はロックされますので、速やかに退出してください。それではよい夢を。おやすみなさい。」

 

 

普段の話し方とあまりにも違いすぎて気持ち悪いことこの上なかったが、それ以上に疲労が勝ってしまい、俺は早々に意識を闇の中へと手放した。

 

 

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

「いやー、やっと戻ってきたぜぇ!この希望ヶ峰学園に!!」

 

 

「さてさて、最初にコロシアイの口火を切るのは誰だろうなぁ?そんで、最初に絶望の顔を見せて死んでくれるのは誰だろうなぁ?オレは楽しみで仕方ねえぜ!!」

 

 

「画面の前の皆さんも予想しながら読んでくれよな!!」

 

 

「そう言えば、これもデスゲームって言うんだろうが、オレはデスゲームはこういうのが一番好きだぜ!」

 

 

「どういうことかって?圧倒的理不尽なやつってことさ!!!」

 

 

「もちろん、賞金のためってのも悪くねえんだが、やっぱ何も悪くねえ奴が理不尽にゲームに巻き込まれて命がけのゲームをやってる方が純粋にキャラクターの命が輝くってのがオレの持論だ!!」

 

 

「画面の前のみんなはデスゲームは好きか?そんで好きならどんな話が好きだ?教えてくれよ!!そんでオレと命がけのデスゲーム語りをしようぜ!!!そんで負けた方がひでぇ死に様を迎えるんだ・・・!!!」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級のサッカー選手   二木駆(フタキカケル)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の画家       美上三香子(ミカミミカコ)

超高校級のテーラー     青山蓬生(アオヤマホウセイ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り16人




さて、本編がスタートしました!!玉城君は中々気難しくて表に出てきてくれません。その代わり、薬師君がいろいろ気を回してくれててすごく助かります!


今回からはちょっとキャラクター達の設定裏話をしていきたいなと思います!
記念すべき第1回は水島君!

彼は超高校級に憧れ、希望ヶ峰学園に入学するに至った主人公ということで、イメージは2の日向君を更にちょっと無愛想にしたような感じですね!

名前は歴代の主人公になぞらえて苗字+3文字の名前という組み合わせにしたいなと思いました。苗字はそこまで変なものじゃないものって考えるうちに降りてきた水島、下の名前は主人公っぽいイメージの名前って考えるうちに「輝」に実際にある「アキラ」という読みを付け加えました。


さて、彼は1番最初から言っているとおり、才能が思い出せません。この余分に欠けた才能に何か意味はあるのでしょうか?楽しみにしていてください!


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CHAPTER1 (非)日常編2

 キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「おはようございます。7時です。今日も一日元気に頑張りましょう。」

 

 チャイムと不快なアナウンスで目が覚めた。俺は時間を確認して昨日の約束の通り、朝食をみんなで食べるために食堂へと向かった。食堂に入ると既にもう何人かが食事の準備を進めてくれていた。その場にいたのは美上、青山、そして畔田。

 

「畔田おはよう。」

「ああ、水島さんおはようございます。お嬢、水島さんがいらっしゃいました。」

「ほんとかい?やあ、水島君、おはよう。」

「おはよう。この良い匂いは誰が・・・?」

「ああ、これは海波だよ。彼女料理が得意みたいだ。」

「意外だ・・・。」

料理ができるというのも、そもそも時間通りに起きてくるのも。

 

「聞こえてんぞー!!!」

これは失敬。

 

6人で準備をしていると、またぞろぞろと入ってくる。ここで入ってくるのが太宰、甘寺、薬師、涼風、有浜。彼らは俺らが準備をしているのを見ると手伝いに参加してくれる。

ほぼほぼ準備が終わった段階で入ってくるのがビックリするほどマイペースなメンバー。ここに該当するのが二木、山吹、久見、比嘉。コイツらは遅れてきたことにも悪びれはしない。

 

朝食を摂りながらみんなで談笑する。朝食を食べ終わり、その流れのまま、今日の探索の話をしようとしたその時。

 

 

「よう!!オマエラ元気か!?」

 

今だけは見たくない顔が現れた。

 

「何の用だよ?」

「つれねえなぁ。オマエ、つまんねーってよく言われるだろ?」

「やかましい。早く用件を話せ。」

「そう思ったんだが、1人足んねぇじゃねぇか。」

 

恐らく玉城の事だろう。

 

「アイツは恐らくここには来ないぞ。」

「何でだ?」

「アイツが俺らとツルむ気が無いみたいだからな。」

「いいから、早く用件を話してくれないかしら?玉城君にはあとでこちらから伝えておくわ。」

 

有浜が不機嫌そうに催促する。

 

「いや、めんどくせえが勝手にこっちで行くから気にすんな!端的に言うとだな、オマエラ真面目にコロシアイする気あんのか!?」

「あるわけないでしょ」

「ばっかじゃねーの?」

 

同時に美上と薬師に罵倒され、少しシュンとするモノトラ。そもそも今日で2日目だ。そんなことする気になるほど極限状態でもない。何よりまだ俺たちには脱出する希望がある。

 

「まあ、何にせよ、オマエラは思いの外コロシアイに対してビビりのようだからな。オレはオマエラに対して早々に対策を講じることにした!!」

 

「どういうことだい?」

「動機を準備したぜ!!!」

「は?」

「閉鎖空間に集められた高校生、コロシアイが起こるにこれほど適した環境はないというのにオマエラはコロシアイどころか協力して脱出なんかしようとしてやがる。」

 

バレていたのか・・・。

 

「じゃあ何が足りねえのかと考えたんだが、まーだオマエラには動機がねえ事に気づいてな?それならこっちで用意してやればいいって思ったんだ。という訳で、どどん!!」

 

俺たちはモノトラが出してきた“それ”を見て一気に血の気が引いた。

ナイフとピストルがそれぞれ8つずつ。これがあれば簡単に人の命なんて奪えてしまう。この事実にみんな気づいているのだろう。だから誰も口を開かない。開けない。

 

「ぐぷぷ・・・。今回の動機は『殺られる前に殺れ』だ!!!この武器をひとつずつオマエラに配っていく。全員が武器を持っていて誰がいつ何をしでかすか分からない。そんな状況で最初に行動を起こすのは一体誰なんだろうなぁ・・・?」

 

つまり、早々に武器を俺たちに与えて精神を摩耗させようという魂胆だ。そして最初に摩耗しきった奴がコロシアイの口火を切る。それを奴は望んでいるのだ。

 

「何と悪趣味な・・・!」

 

アンリがこぼす。それにモノトラが反応する。

 

「悪趣味?ぐひゃひゃひゃ!!!悪趣味で結構!!こっちはオマエラの絶望が見られればそれで良いんだからな!!!気をつけろよ?オマエみたいなリーダー役は早々に殺されるか気持ちがすり減っちまうのがこういうののお約束だぞ?」

「貴様っ!!!」

「落ち着いてください、お嬢!!!」

 

今にも掴みかからんとするアンリを畔田が抱えて止める。

 

「じゃあ、一人一つ、配ってくから大事にしろよ?殺しの道具にもなれば、もしかしたら身を守るための道具にもなるかも知れねえんだからな!」

 

俺に渡されたのはナイフ。他のみんなにもそれぞれナイフとピストルのどちらかが配られる。誰も拒まない。分かっているのだ。これによって誰がいつ、どのようにしてクロになるのか誰にも判別がつかないということに。モノトラはこの場にいる全員に配り終えると早々にいなくなってしまった。

重苦しい空気が俺たちの中に流れる。それを打ち破ったのは甘寺だった。

 

「まあ、みんなくよくよしててもしょうが無いし、デザート食べよ?チョコレートアイス、冷やしといたんだ!」

 

彼女の提案にみんな乗ることにした。そうでもしないと、不安に押しつぶされそうだった。みんな今は逆に誰かと一緒にいたかった。自分の心が削れてしまわないように。ふとした瞬間、彼女が手帳か何かにメモを走らせているのが見えたが、他のみんなは気づいていないようだったので、俺は言及しないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 食事の後、俺たちは昨日の取り決め通り、それぞれの担当箇所を探索することにした。俺と甘寺と薬師は体育館に向かった。

 

「さて、今日はここだよな・・・。」

「つったって、見るとこなんてあんのか?」

「取りあえず隅々まで見てみようよ!」

 

甘寺の提案通り、俺たちは体育館をくまなく調べてみた。しかし、そのどこにも俺たちが脱出するのに使えそうな抜け道なんて無かった。心のどこかで分かっていたこととは言え、俺たちにとってその事実は心に重くのしかかった。タダでさえキツい事実なのに、今朝のことも相まって、そのキツさは数倍、数十倍にも感じられた。

これからどうしたものか考えていたとき、おもむろに薬師がそう言えば、と声を上げた。

 

「どうした?」

「いや、ふと思い出したんだけどよ、今朝モノトラの野郎は急に出てきたよな?」

「ああ。どこからともなく、突然にな。」

「昨日のここでのときもそうだよな?」

「そうだな。」

「ってことはよ?あのモノトラが使ってる秘密の通路見てえなモンがあるって考えられねえか?」

「確かにな・・・。」

「現にアイツは学園にも上手いこと潜入しているわけだし、そいつを見つけりゃ脱出の糸口がつかめるんじゃねえか?」

「そうかも!!」

 

横にいた甘寺も声を上げた。

 

「じゃあ、探してみるか。」

 

俺もその意見には賛成だったので、一緒に探してみることにした。こうしてもう1回、1時間ほど探索をしたのだが、結局のところそのような通路は見つけることはできなかった。いいアイディアだと思ったのだが徒労に終わり、余分に疲れたという感じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 昼食の時、俺たちは探索の結果を報告し合ったが、やはりどこの班も新しい発見は無かったようだった。重苦しい雰囲気のまま俺たちは一度解散し、部屋に戻ることになった。

と言っても昨日ほどいろいろあった訳ではないから、そこまで疲れているわけでも無い。と言うことで少しだけ外をうろついてみることにした。

 

思いつきでふらふらしてみたのだが、寄宿舎の共同スペースに行ってみると、ラウンジで九鬼が昼寝をしていた。今日は朝食も作ってくれていたし、疲れているのだろうと起こさないように近くを通り過ぎようとすると・・・

 

「おい。水島ちょっと待てや。」

 

起きてたみたいだ。

 

「今朝は随分いろいろ言ってくれたなぁ?」

「いろいろって意外だとしか言ってないだろ!?」

 

今朝のことでこってりと絞られるハメになった。

そう言えば・・・

 

「それこそ今日の朝も思ったんだけどさ、海賊って意外と規則正しい生活を送っているモンなのか?」

「何だよ急に?」

 

九鬼が怪訝そうな顔をする。

 

「いや、何となく。」

「まあ、厳密にではないけどきちんと起きてきちんと飯食ってきちんと寝るな。」

「海賊ってそういうとこルーズなもんだと思ってたよ。」

「まあ、そう思われても仕方ねえかもなあ。」

 

九鬼は苦笑いした。

 

「なんてことはないぜ?オレ達は基本海の上にいるだろ?時間感覚とかが狂ってっと天候とかを読み違うんだよ。どうせ充電なんかできねえってのもあって、ケータイとかも持たねえからよ、日付とかが陸に上がったときにしか確認できねえ。でもオレ達は数ヶ月海の上なんてザラだからな。変な生活してっと季節と場所が分かんなくなっちまうときがある。季節と場所がちゃんと分かってねえと、場合によってはすげえ危険なときもある。だからオレ達は厳密ではなくても規則正しい生活を心がけるようにしてんだ。」

 

なるほど、規則正しい生活を送ることが人によっては命を守ることにも繋がることがあるんだなぁ。海賊の生活リズムについて聞いて少し勉強になった。

 

「じゃあな、興味深い話をありがとう。すごく面白かったよ。」

「おう、じゃあな。」

 

 

 

 

もう少し時間がありそうだな・・・。もうちょっとだけふらふらしてみるか。

小腹が空いたのでキッチンの方に向かってみると、そこで甘寺が何やら唸っていた。どうやら新しいチョコレート菓子のレシピを考えているようだ。

 

「あ、ちょうど良いところに来たね、水島君。ちょっと新作の味見していってよ!それで忌憚なき意見をもらえると嬉しいな。」

 

そもそもコイツのお菓子のどこが悪いなどと指摘できるほど舌は肥えていないのだが、おいしいお菓子は大歓迎なので、味見を引き受けることにした。やっぱり甘寺の作るチョコレート菓子はとんでもなくおいしいということが分かった。この気持ちを率直に伝えると、甘寺はなんだか照れくさそうにしていた。そんな顔をされたらこっちまで照れくさくなるんだが・・・。

 

味見をしながらふと甘寺の胸ポケットに目が行った。そこにはチョコレートと同じ色をした手帳が入っていた。そう言えば、今日モノトラが来たあと、みんなでデザートを食べているときに甘寺がその手帳に何かを一心不乱に書き留めていたのを思い出した。一体、何を書き留めていたのだろうか?ちょっと聞いてみることにした。

 

「なあ、甘寺。」

「ん、どうしたの?」

「その胸ポケットにさ、手帳が入ってるだろ?」

「そうだね。」

「何を書いてるんだ?」

 

彼女は少し驚いた顔をしている。

 

「もしかして、今朝、見てた?」

「すまない。偶然目に入ってしまったんだ。」

「ううん、全然問題ないよ。ただちょっと恥ずかしいなって思っただけ。」

「何でだよ。」

「だって、まだおいしいかどうか分かんないレシピがいっぱい書いてあるんだもん。」

 

そう言って彼女は俺にその手帳の中身を見せてくれた。確かにお菓子の大まかな完成図とそれに使う材料とその分量、そして工程がびっしりと書いてあった。

 

「これ、すごいな。」

「そんなことないよ。」

 

また彼女は照れくさそうにする。

 

「ただ忘れちゃうから急いで書き留めてるだけなんだ。」

「そうなのか?」

「うん。もちろん今までいっぱい作ったお菓子のレシピとか技術とかは覚えてるよ?でも新しいレシピはその瞬間にチョコレートの神様がくれた贈物だから、見逃しちゃうと二度と思い出せないんだよね。」

「チョコレートの神様・・・?」

「そう。私のお菓子がみんなにおいしいっていってもらえるのも全部チョコレートの神様のおかげ。神様が作ってみろって私にくれたレシピを私が勝手に人間に合わせて改良して食べてもらってるだけなんだと思う。だからホントはこれは私の才能なんかじゃないって思うときもあるんだ。」

 

甘寺はそう言って少しだけ寂しそうな顔をする。

 

「いや、充分才能はあると思うぞ?」

「そうなのかな?」

「そもそも普通の人間じゃその神様のレシピを受け取ることもできないだろ。それに、神様のレシピを再現して更に改良する技術も持ってるじゃないか。それは才能以外の何物でも無い。お前は胸を張っていい。」

「そう、かな・・・?ありがとう。じゃあもっとがんばらないとね!」

「ああ。応援してる。」

 

この時俺は甘寺の言葉とレシピのすさまじさに圧倒されて気づいていなかったんだ。その手帳が一部切りとられていたことに。

 

 

 

 

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「午後10時になりました。ただ今より夜時間になります。食堂はロックされますので、速やかに退出してください。それではいい夢を。おやすみなさい。」

 

明日も校内の探索があるので、俺は夜時間になって早々に眠ることにした。そして意外なほど早く俺は眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

「みんなは知ってるか?」

 

 

「チョコレートってのは元々南米で薬として重宝されていたらしいぜ!」

 

 

「薬だというくらいだから苦くて今のチョコレートのようにおいしく食べられるような代物ではなかったみたいだけどな!」

 

 

「ってなわけでお菓子にとして食べるようになったのは意外とそんなに長い歴史じゃないみたいだぜ。」

 

 

「だから大量に食べて鼻血を出すのも体から悪い血を出してるだけのはずだからどんどん食べると良いんだぜ」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

 

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級のサッカー選手   二木駆(フタキカケル)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の画家       美上三香子(ミカミミカコ)

超高校級のテーラー     青山蓬生(アオヤマホウセイ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り16人

 




ということで1章は早々に動機を配ってみました。こんな状況で近くに武器があるというのはきっと死を身近に感じて精神的にキツいんじゃないかなぁって勝手な想像ではありますが。



では今回の裏話に移りましょう!今回は甘寺さんです!
甘寺さんは各シリーズにいるヒロイン枠として設定しました。時に主人公に寄り添い、時に主人公を助け、時に主人公を導く。そんな優しくて強いヒロインがほしいなって思って考えました。才能は僕がチョコレートが大好きだからという個人的な理由です笑。
続いて名前の由来ですが、すごく分かりやすいですね!チョコが甘くておいしいから「甘」の字が入った苗字ということで甘寺、チョコレート要素が欲しくて心愛(ココア)です。
今回の自由行動パートでちょっとスピリチュアルな女の子みたいになっちゃいましたが、それは彼女がずっとチョコレートばかりに触れてきたが故の境地であり、一周回って自分には才能が無いと思ってしまった悩みなのです。

自分の才能に葛藤しながら向き合う、そんな強い女の子の甘寺さんが水島君とどんな化学反応を起こしていくのか、楽しみにしていただければと思います!


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CHAPTER1 (非)日常編3

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「7時になりました。朝です。今日も一日元気に頑張りましょう。」

 

朝、か・・・。時間としてはそれなりにしっかり寝てるはずなのにあまりよく休めた感じがしない。その原因はやはり机の上にあるこれだろう。

ナイフ。昨日モノトラが「動機」として俺たちに配った武器。確かに、奴の言うとおり、これがあるだけで何となく気持ちが削れていくのが分かる。今ここに、目の前に、“死”がある。

 

それでもやはり、1人でいるよりは精神衛生上良いはずだから、食堂に行こう。きっとみんなも集まってくるはずだから・・・。

 

 

 

 

 

食堂へ入ると、昨日と同じメンバーが朝食の準備をしていた。

 

「おう、水島おはよう!」

「ああ、おはよう、九鬼。今日は美上が作ってんのか?」

「ああ、さすがに十何人分を毎日は作ってらんねえからな!」

「確かに・・・。料理できる奴らはちゃんと当番制にした方が良いかもな。」

「そうしてもらえるとすげえ助かるんだけどなぁ。」

 

そんな共同生活のルールについて話していると、続々と人が集まってくる。やはりみんなも不安の色は隠しきれていない。だが、俺と同じ、みんなも一人でいるよりはマシだと思ってここに来たのだろう。

 

みんなで朝食を食べながら昨日と同じように談笑するが、どこかぎこちない。それでも誰もそれを指摘することはない。それを言うことで一気に状況が悪い方向に転がっていくのが怖かったのだ。いつ決壊してもおかしくはなかった。それでもどうにかギリギリのバランスで保っていた。

 

そんな俺たちの元に唐突にそいつは現れた。

 

「ひどい顔だな。」

「玉城・・・。」

「何しに来たの?私たちと仲良く談笑しに来たわけではないでしょう?」

「まあな。どうやらお前達は何やら調べているみたいだからな。その結果を聞いてやろうと思ってな。」

 

なぜ上から目線なのか。

 

「何だよその態度。聞かせてくださいの間違いじゃねーのか?」

 

九鬼が食ってかかる。

 

「まあまあ、落ち着いてよー。でも、確かにこの2日間僕たちはかなりしっかり探索してたわけだし、その情報を聞かせてもらえるだけの対価は用意してきてるんだよねー?」

 

久見が九鬼を抑えつつ、玉城の事も牽制する。あの常に笑顔の久見もこの玉城の態度には思うところがあるようだ。

 

「確かに、僕たちもただで教えるんじゃ納得いかないな。」

「わがままな奴らだな。」

「どの口が・・・!」

 

太宰と山吹も久見に同調する。

 

「はあ、仕方が無い。なら話してやろう。モノトラについてだ。」

 

モノトラについて・・・?

 

「モノトラが神出鬼没なのはお前達も知っての通りだろう。だから昨日一度呼び止めて聞いてみた。どうやって現れているのか、とな。」

「答えてくれたのか?」

「まあな。だが、たいした収穫はなかった。どうやら奴が通れるどこか1カ所に繋がる通路のようなものは無さそうだ。モノトラの奴はどこにでもいるとかふざけたことを抜かしていたな。」

 

どういうことだ・・・?どこにでもいる・・・?

 

「恐らくだが奴には多くのスペアがあるのだろう。そしてそれらを校舎内の至る所に配置している。それぞれの部屋や区画でピンポイントで現れるための通路はあるかもしれないが、それがどこかに繋がる1本の通路ましてや外に繋がる通路がある可能性は低い。これでどうだ。情報としては充分だろう?」

「ぐ・・・。」

 

思いの外有用な情報をもたらされて俺たちは何も言えなくなってしまう。「外に出られる可能性はない」ということをより強く感じさせるための情報ではあったが。

 

「さて、お前達が調べた内容も俺に共有してもらおうか。」

 

仕方なくアンリが代表して俺たちの調査した結果を共有した。

 

「やはりお前達もたいした収穫はなかったか。」

 

返す言葉もない。俺たちが持っている情報としては玉城と変わらない。「出口はない」、それだけだ。

 

「どうせお前達だけに任せておいてもたいした収穫はこれからも望めんだろう。協力してやる。俺もな。」

「一体どういう風の吹き回しだ?アンタ、アタシ達とツルむ気なんてなかったじゃないか。」

「事情が変わった。モノトラの奴が動機を配っただろう。」

「単独行動で殺されるのが恐いってか?」

「勝手に言ってろ。だが少なくとも俺は殺す気も、ましてや殺される気もさらさらない。だからお前達と行動してお前達を見張るし、そのついでだから出口がないか調査してやる。」

「偉そうに・・・!」

「まあまあ、良いじゃねえか!手が多くて困ることはねえって!」

 

納得は行かないが、薬師の一言で取りあえず全員が矛を収めることにした。

 

「じゃあ、玉城はどこに入るんだ?」

「決まっているだろう。水島の班だ。コイツが一番信用ならん。」

「テメエ、まだ言ってんのか!!」

「いいって、九鬼。確かに才能を思い出せないなんて俺が玉城の立場でも怪しいと思う。だから、俺は自分の行動で信頼を得ることにするよ。」

「そうか・・・。水島がいいっつーなら俺はこれ以上口は出さねえけどよ・・・。ただ、エスカレートしてきたらちゃんと言えよ?そん時はまたぶん殴って止めてやっからな!」

「ありがとう。でも、できる限り穏便にな・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで今日も午前中はそれぞれの班に分かれて校舎内の探索をすることになった俺たちの班は玉城をメンバーに加えて校舎の中央部を探索することになった。取りあえず一番分かりやすいところで俺たちは最初に玄関ホールに向かった。

玄関はやはり巨大な鋼鉄の扉によって封鎖されており、こじ開けることも難しそうだった。

 

「やっぱり出るのは難しそうだな。」

「こんな鋼鉄の塊、どうにかしようとする方が間違ってる。」

「比嘉君は1回殴ったみたいだけどね。」

「あれは特殊事例だ。考慮に入れるだけ無駄だ。」

「まあまあ、そんな言い方しなくても。」

 

でもどうしてもこの玄関は引っかかる。初日にここに入ってきたとき、玄関はこんな大仰な扉だっただろうか?ごく普通の、一般的な学校の入り口のドアだったような気もするんだが・・・。

 

「恐らく、俺たちを逃がさないためにモノトラ達が改造したんだろうな。」

「とは言ってもあんな短時間で?時間を見た感じ俺が眠ってた時間なんてせいぜい30分だったし、起きてきた段階で他のみんなは玄関ホールに一度行った後だったろ?30分足らずでそんなことできるとは思えない。」

「謎はそこだ。そこに何かしらのトリックがあるとは思うんだが・・・。」

 

俺と玉城がそんな話をしているとその様子を甘寺がニヤニヤして見ていた。

 

「どうした?」

「何だ。」

「いや、あんなことを言ってる割には玉城君、水島君としっかり意見交換するんだなぁって思って。」

「フン。こんな状況、一人でどうにかしようとする方が愚策だ。こんな奴でもいないよりはマシだろう。」

「ふふ、そういうことにしといてあげる。」

 

甘寺が何を言っているのかよく分からなかったが、取りあえず扉は開かないということが分かった。取りあえず離れて次の場所に行こう。

 

 

 

 

次に俺たちが向かったのは購買。ここには生活必需品やお菓子などが売っているみたいだが、そもそも寄宿舎にいろいろ揃っている時点であまりここを使うことはないだろうと思うのだが。

 

「ここは特に何もなさそうかなぁ。」

「そうだな。」

「カウンターの後ろも見てみたけど、特に対したものは無かったぞ。」

「奥の荷物の方も何もなかった。」

 

あれ、玉城は何をしてるんだ?

 

「玉城、サボんなよ!」

「何もしていないわけではない。これを見てみろ。」

「何だこれ、ガチャガチャか?」

「中は何が入ってんだろ?」

「さあな。興味は無いがな。」

 

これに使うコインとか無いのか?そう思って少し探ってみると足下にモノトラがデザインされたメダルが落ちていた。

 

「もしかしてそれで回せるんじゃないか?」

「やってみろ。」

「俺かよ・・・。」

 

仕方なくメダルをセットすると、ハンドルが回った。出てきたカプセルの中身を見ると、ペン先が入っていた。

 

「これ、漫画を描くときのペンの先か?セットになってるみたいだ。」

「じゃあ後で晴香ちゃんにあげてみたら喜ぶかもね!」

「たいしたものではなかったか。次に行こう。」

「あ、おい!」

 

早々に玉城は出て行ってしまった。ある意味マイペースすぎる・・・。俺たちも玉城の後を追って最後の保健室に向かった。

 

 

 

 

 

玉城を追ってついた保健室。ここも特に何かがありそうにも思えないのだが・・・。

初日に太宰が言った通り、すごく設備が整っていた。

 

「しっかりいろいろ揃ってるね。」

「多少のケガとか体調不良ならどうにかなりそうだな。」

 

部屋の隅の冷蔵庫には輸血パックもあったが、一緒に点滴の液も入っていた。周りを見渡すと点滴をかけておくスタンドも置いてあり、ここまで来ると保健室というよりかは小さな病院と言った感じだ。

 

「なるほど、コロシアイに付随する負傷などにも対応できるみたいだな。」

 

玉城のこの一言で俺たちは体を強ばらせる。

 

「何を神妙な顔をしてる。そうだろう?モノトラは俺たちにコロシアイをさせたいんだから、それで付随する設備を準備しているのは至極当然だろう?」

「それはそうだけどよ?」

 

確かにそれはそうだ。コロシアイで関係の無いところで死なれても奴はつまらないと考えるのだろう。そしてその目的の下様々な準備がなされていると考えるのも当たり前だ。だが、みんなが気が立っているときにわざわざコロシアイについて言及することはないではないか。

 

「奴の目的がコロシアイとそれによる俺たちの絶望なんだ。意識しておけば対策も取りようがある。慎重なのとおびえているのは大きく違うぞ。」

 

返す言葉もない。

 

「確かに奴が何を考えていようが、俺たちは絶対にコロシアイはしねえ!だからコロシアイなんて気にするだけ無駄だな!」

 

薬師の前向きな発言にはまだ出会って数日だがとても救われている。確かに奴の目的に意識を向けといて損はない。それに奴の目的のおかげで健康で過ごしやすくなったと考えたら悪いことばかりでもない。

 

こうして少し前向きになったところで昼の時間になったので俺たちは寄宿舎に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寄宿舎に戻ってくると、ちょうど美上達も食堂に向かってきたところだった。

 

「水島、大丈夫だった?玉城に変なこと言われなかった?」

「大丈夫だ。ちゃんと協力して探索もできた。」

「そう?それなら良いんだけど。」

 

玉城も随分と嫌われたものだ。そしてその当人も全く気にした様子がないもんだから質が悪い。

 

「他の2人はどうしたんだ?」

「そろそろ来ると思うよ。2人とも1回部屋に寄っていくって言ってたから。」

「そうか。」

 

こうして食堂に向かうと既に他の班のメンバーがもう集まっていた。食堂に入るとまたみんなから心配された。

どれだけ嫌われたんだ、玉城・・・。

 

こうして昼食を摂りながらみんなで探索の結果を共有し合ったのだが、やはり誰一人として出口に繋がるような情報を見つけることはできなかった。どんどん俺たちの気持ちは重くなっていく。そんな気分の中で俺たちは解散することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、今日は時間が空いているな。ちょっと校舎内をうろうろしてみよう。

 

購買を覗いてみると、必死こいてガチャガチャを回している久見がいた。こいつは一体何をしてるんだ?そして何だその手のメダルの山は。よく見たら隣のカプセルの山もとんでもないことになっている。

 

「あれー、水島君こんなところで何してるのー?」

「それはこっちのセリフだ。何をそんなに必死になってるんだ?」

「それはねー?ガチャマシンの中のあそこをよく見てー。」

「何だ?」

「あそこに入ってるのがねー、すごーく高いペン先のセットなのー。ずーっと欲しかった奴なんだけどー、全然出なくてー。やっぱ自分のお金で買えって事なのかなー?」

 

ペン先のセット?そう言えばさっき取ったのって・・・。

 

「なあ、久見。」

「んー?」

「そのペン先のセットってこれか?」

「そう!!なんで水島君が持ってるのー!?」

「いや、さっき探索中に俺も回したんだが、その時に出てきたんだ。」

「うわー!いいなー!」

「よかったらやるぞ?」

「えっ!?いいのー!?でもなー・・・。」

「こういうとこで手に入るのも何かの縁だと思うぞ?それに俺は漫画を描かないから使い道もないし、もらってもらえると助かる。」

「じゃあー、そういうことならありがたく受け取るねー!ありがとー。」

 

こうして喜ぶ久見の後ろ姿を見送って俺も部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

まだ時間はあるな。もう少し歩って見ようか

 

小腹が空いたのでスナック菓子を探しに倉庫に行くとそこで何か捜し物をしている二木がいた。

 

「何か捜し物か?」

「お、水島じゃーん!そっちこそ捜し物?」

「ああ、少し小腹が空いてな。そっちは?」

「ブラシと中性洗剤をな。」

「また何でそんなものを?」

 

二木が俺をあり得ないものを見るような目でこちらを見てくる。

 

「何だよ?」

「お前、スニーカー履いてっけど洗わねえの?」

「靴は中々洗わないな。」

「不潔かよ!それにスニーカーもちゃんと手入れした方が長持ちするんだぜ?」

「そうなのか・・・。じゃあ二木は今履いてるスニーカーを洗うために?」

「まあな、今すぐのつもりはないけど。」

「にしても意外とそういうとこ気を遣うんだな。」

「おれ、スニーカー大好きなんだよ。部屋にもいっぱい置いてあるぜ?50足くらい。」

 

持って来すぎだろ。

 

「で、そいつらをちゃんと手入れしてやりたくてな。そのための準備をしてたんだ。」

「なるほどなぁ。」

「ここで学んだのは良い機会だ!水島もちゃんとスニーカーの手入れするんだぞ=!」

「そうするよ。」

 

スニーカーの手入れの仕方をしこたま教えられて俺は部屋に戻った。

 

 

 

その後急に久見に呼びつけられて彼女の部屋に行ったら、ついさっきあげたペン先で絵を描くところを見せてくれた。その技術のすごさに目を奪われていたらいつの間にか夜になっていた。その描いた絵はお土産に貰った。

 

 

 

 

 

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「午後10時になりました。ただ今より夜時間になります。食堂はロックされますので、速やかに退出してください。それではよい夢を。お休みなさい。」

 

 

「それにしても、今日は久見のすごい技術が見られて満足だな。あと、1回くらいスニーカー洗ってみようかな・・・。明日も良い日になりそうだ。」

 

そう独りごちて俺は眠りについたのだが、この時の俺はまだ分かっていなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この学園生活は、絶望に向かうための生活であるということに。

 

 

 

 

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

 

「みんなはピエロって知ってるか?あのサーカスとかにいる派手な奴だ。」

 

 

「元々はこのピエロってのは昔の貴族が普段の生活の中でその行動を笑って楽しむために奴隷としてそばに置いておいた社会的弱者の人たちだったらしいぜ。」

 

 

「だけどよ、そういう扱いを受けた人たちってのは恨みのブレーキがぶっ壊れちまってることが多いんだ。」

 

 

「恨みの募ったピエロに殺された貴族ってのも少なくないとも聞いたことがあるな。」

 

 

「だからトランプでキングやクイーンより上の切り札・ジョーカーにはピエロが描かれているのかもな!」

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級のサッカー選手   二木駆(フタキカケル)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の画家       美上三香子(ミカミミカコ)

超高校級のテーラー     青山蓬生(アオヤマホウセイ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り16人




ということで今回はここまで!なんだか不穏になってきましたね・・・!明日は一体何が起きちゃうの!?ということで次回をお楽しみに!!


今回の設定裏話は薬師君です!!
薬師君はアホだけど底抜けに前向きな良い奴というキャラクターはいるよなと思って作りました。そして実際に彼の前向きさには僕も助けられています!そしてゆくゆくは主人公の相棒枠になってってくれればな、とも思っています。
才能はスポーツ系にしたいな、という大まかな感じですね!後々書く二木君と理由は一緒です笑。でも射撃選手にしたのはまっすぐなイメージが弾の飛んでいくイメージにぴったりかなって言うイメージからです。
名前の由来ですが、簡単に言うと「弾薬」ですね。その中から「薬」の字を苗字に持ってきて「薬師」に、残りの「弾」をそのまま名前に持ってきた、という感じですね。

この底抜けに前向きな彼はこれからどんな活躍をしてくれるのでしょうか!?


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CHAPTER1 (非)日常編4

 キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「おはようございます。7時になりました。今日も一日元気で頑張りましょう。」

 

今日は何となく、昨日久見に描いて貰った絵の満足感なども相まってすごく落ち着いて寝られた気がする。すっきり目覚めたところで今日は上機嫌で食堂に向かう。

 

共有スペースに出て行くと、今日は珍しく二木も早起きしていた。

 

「珍しいな、二木。いつもはギリギリだろ?」

「おう、水島。今日はなんだかすっきり目が覚めたんだ。だからたまには飯の準備を手伝おうかと思ってな!」

「それは殊勝な心がけだ。」

 

ん・・・?なんだか今日の二木はどこか違うな・・・。そう思って二木を見てみるとその理由はすぐに分かった。

 

「あれ、お前今日スニーカー違うな。どうしたんだ?」

「ん?ああ!昨日お前とスニーカーの手入れの話をしただろ?そしたらどうしてもすぐに手入れしたくなっちまってな!戻ってすぐに手入れをしたんだ。」

「そういうもんか。」

 

そんな話をしていると後ろから久見も珍しく早起きしていて俺たちに話しかけてきた。

 

「水島君、結構そういうことってあるよー?」

「何が?」

「だからー、ついさっき話してたことのせいで何かをしたくて仕方なくなることー!」

「何だ、話を聞いてたのか。」

「うん。僕もそれで昨日絵を描きたくなったんだよー。で、どうせだったらお礼もしようと思って水島君を部屋に呼んだのー。」

「え、水島、昨日晴香ちゃんと部屋で一緒にいたん?」

「ああ。」

「2人きりで?」

「そうだな。」

「おれ、今なら嫉妬の炎で必殺シュートが撃てる気がする・・・。」

「別にお前が想像してるようなことはないぞ?」

「つってもさー?」

 

そんなくだらない話をしながら俺たちは食堂に入っていった。

 

 

 

 

「おや、今日はなんだか機嫌が良さそうだね、水島君・・・。」

 

食堂でまずアンリにそんなことを言われた。そんなに顔に出ていただろうか?

 

「そうかな。」

 

逆にそう言うアンリはひどい顔をしている。

 

「お前は逆に何かあったか?顔色悪いぞ?」

「ああ、あんまりよく眠れていないんだ・・・。」

 

まあ、俺も昨日のことがなかったら満足には眠れていないだろう。

 

「そうか・・・。体調は崩さないようにしろよ?」

「ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ。」

 

でも心配極まりないことには変わりが無いだろう。

 

珍しいメンバー構成で準備をしていると、今日もぞろぞろと食堂に人が入ってくる。

 

薬師もひどい顔をしていた。

 

「どうした?」

「いや、お前に言ってもしょうがねえよ・・・。」

 

らしくないな。ほんとに一体どうしたんだ?

 

ふと気になった。

 

 

人が足りない。

玉城が今日もいないだけかと思ったら、今日はいた。

 

「どうした。変な顔してるぞ。」

「いや、今日はいるんだな、と。」

「今日の探索場所が分からないと困るからな。」

 

なるほどと納得したが、同時に疑問はさらに膨らんだ。誰がいないんだ?

 

その答えはすぐに分かった。

 

「あれー?青山君はー?」

 

久見の一言にみんなが周りを見渡す。

 

「あれ、そういやいねぇな。どうしたんだ?」

「彼が寝坊なんて珍しいわね。」

 

誰も知らないようだ。この瞬間、全員の脳裏に嫌なことがよぎった。

 

「まさか・・・!」

 

どこからともなく声が上がった。そして誰が言うでもなく全員が弾かれたように校舎内の各地に散開した。

 

 

 

 

俺は寄宿舎の寄宿スペースに向かった。

 

まずは青山の部屋。何度もチャイムを鳴らすが返答はない。本当に嫌な予感が膨らんでいく。その間後ろからは青山を探すみんなの声が聞こえてくる。

 

こちらの側にはもう探す場所なんてランドリーとトラッシュルームしかない。

 

 

 

祈るような思いで扉に手をかける。引き戸だが窓はなく中の様子は確認できない。

 

 

そして覚悟を決めてドアを開け放った。

 

 

 

だが、ここで俺は初めて知ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

この学校において、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祈りなんて無駄だってことを・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

CHAPTER1 絶望ピエロ 非日常編

 

 そこにあったのは背中から血を流し、床に血だまりを作って斃れている青山の姿だった。

言葉にならない。

まさか始まってしまったのか・・・?

 

 

“コロシアイ”が・・・!!

 

 

俺が呆然と立ち尽くしていると、俺の様子に気づいた奴らがぞろぞろと集まってきた。そして一様に言葉を失ってしまった。その静寂を切り裂いたのは涼風だった。いや、切り裂く気は無かったのだろう。

 

「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

廊下に響き渡る悲鳴。何人かは青ざめている。だれもどうすれば良いのか分からないでいるとそれは突然流れた。

 

 

ピンポンパンポーン・・・!

 

「死体が発見されました。一定の操作時間の後、学級裁判を行います。」

 

 

「何だよ今の!」

「死体発見アナウンスだぜ!!」

 

その場に突然モノトラが現れた。

 

「何だよそれっ!」

「その名の通りだぜ!死体が見つかったら流れるアナウンスだ!!ちなみに3人以上が死体を見つけると流れるぜ!」

 

つまりこれは・・・

 

「遂にコロシアイが始まったってことだぜ!!!」

 

みんなが一斉に振り向く。だがそんなの信じられる訳がない。それはつまりこの中に殺人犯がいるということだ・・・。そんなの信じられる訳がない!!!

 

「テメェが殺ったんじゃねえのか!!このクソ野郎が!!!」

 

九鬼が怒声を挙げる。

 

「違うぜ?」

「っ!!」

 

冷静に返され九鬼が面食らう。

 

「だってよお、それじゃあオマエラはオレに対して怒ることはあれ、絶望することはねえだろう?それじゃあ意味がねえ。何よりそれじゃあつまらねえ!だから正真正銘、オマエラの中にクロがいるんだぜ。」

 

こんな奴の言うことだが、いや、こんな奴の言うことだからこそ、この言葉には真実味があった。信じるしかなかった。この中にクロがいる、と。

 

「クソッ!!!!」

 

九鬼が悔しさを吐き出す。

だが、そんなことをしても仕方が無い。

 

「それでだが、さっきも言ったとおり、オマエラには学級裁判をしてもらう。」

「なんだよそれ・・・?」

「クロがその殺人を行ったことがバレてねえことを確かめる機会だ。だがもちろん情報無しで見破れってのは難しい。だから一定の操作時間を取り、その結果をもとに推理・議論し、クロを指名してもらう。」

 

そう言えば、そんなことが校則にも書いてあった。

 

「で、正しいクロを指名できればそのクロは処刑。間違ったらクロは卒業、そんで白は処刑だ。てな訳でせいぜい頑張ってくれ。ああ、心配すんなよ?裁判は公平に行われる。ズルして生み出した絶望なんてつまんねえからな。」

 

なんて事態になってしまったんだ・・・!!他のみんなも固まっている。

 

「捜査を始めよう。」

 

そんな中で口を開いたのはやはりアンリだった。

 

「こんなところで留まっていても仕方ない。時間は刻一刻と無くなっていく。そしたら私たちはクロを除いて死ぬことになる。」

 

そうだ。俺たちはここで死ぬわけにはいかない。そして、

 

「青山の敵を取ってやらなきゃな・・・!!!」

 

山吹が漏らしたことが俺たちの心のどこかにあった。こんなところで死なないために。そして、こんなところで不本意な死を遂げることになった青山のために。俺たちは学級裁判に向かうことにしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

-捜査開始-

 

「とその前に、だ。」

 

またモノトラが現れた。

 

「何のつもりだ?」

「邪険にすんなよぉ。別に邪魔しようって訳じゃねえんだぜ?むしろ逆だ!」

 

そしてモノトラは何かを取り出した。

 

「モノトラファイルだ!!!」

「何だそれ?」

「どうせてめえらはド素人だ。正確な検死なんてできやしねえだろ?だからあらかじめ検死しといてやったぜ!」

「そうか。それはありがたく受け取っておくよ。」

 

アンリが代表してこれを受け取る。

 

「なるほど、確かに細かく書かれているようだ。これをある程度信じて捜査を進めて大丈夫だろう。」

「そうですか・・・。」

「で、内容は何て書いてあるんだい?」

「そうだね・・・、」

 

モノトラファイル1。今回の被害者は、“超高校級のテーラー”青山蓬生。死亡推定時刻は昨夜の午後11時頃。死体発見現場はランドリー。死因は背中から受けた銃撃による心臓破裂。受けた銃撃は3発。弾丸は腹部を貫通していない。

 

「といったところかな。」

「なるほど、大まかに言ったら銃殺か。」

「じゃあ、これを元に捜査を始めていこうか。」

 

 

 

コトダマゲット!

【モノトラファイル1)

 被害者は“超高校級のテーラー”青山蓬生。死亡推定時刻は昨夜午後11時頃。死体発見現場はランドリー。死因は背中から銃撃を受けたことで、銃弾は3発受けているが、腹部は貫通していない。

 

 

 

「とは言ってももうちょっと細かいことも知りたいよなぁ。」

 

二木がこぼす。

 

「じゃあー、僕が検死するよー。」

「久見、できるのか?」

「人体構造を理解するためにいっぱい医学事典を読み込んでるから、この中ではマシじゃないかなー。」

「じゃあ、任せようか。」

「私はあまり頭を使うのは得意ではありませんので、クロが余計なことをしないよう、現場保全に努めましょう。」

「それなら、俺も手伝うぞぉ!!!」

「じゃあ、それも畔田君と比嘉君にまかせよっか!」

 

取りあえず現場から捜査を始めよう。

 

「あ、水島君!」

「甘寺?」

「一緒に捜査しよ!」

「ああ、いいぞ。」

「どこから見ていこうか?」

 

ふと見渡すと壁に弾痕が3つほど残っていた。

 

「あれ?モノトラファイルには弾はおなかを貫通してないって書いてあったよね?」

「そうだな。」

「じゃあ、何であんな後が残ってるんだろう?」

「しかも1つは大きく外れてるな。」

「どういうことだろうね?」

 

 

 

コトダマゲット!

【壁の弾痕)

壁に3発撃ち込まれた後があった。そのうち1発は大きく外れたところに撃ち込まれていた。

 

 

 

「あー!そこ、足下気をつけてー!」

「どうした、久見?」

「そこねー、誰かが血溜まりを踏んだ跡があるからー。何かの証拠になるかもー。」

「ああ、ありがとう。気をつけるよ。」

 

 

 

コトダマゲット!

【血溜まり)

誰かが踏んだ跡が残っている。

 

 

 

次は・・・。ん?二木はあんなところにしゃがみ込んで何をしてるんだ?

「うーん。」

「二木、どうしたんだ?」

「いや、これ、薬莢だよなと思ってな?」

「確かにそうだな。」

「じゃあ、凶器に使われたのはホントに一般的な普通のピストルってことかな?」

「まずピストルに普通も何もない気はするけどな。」

「だけど、何日か前に薬師君に見せてもらった競技用ピストルの弾は全然形が違くて、何だか小さくて変な形してたよ?」

「そうなのか・・・。」

「でもさ、3発多いんだよ。」

「どういうこと?」

「ほら、青山が撃たれたのって3発だろ?だけど薬莢は6発分あるんだよ。」

「もしかしたらこれ、壁の弾痕とも関係あるかもな。」

「ついでにいうと、これはきっとモノトラが支給したピストルの弾だと思う!」

「なるほど・・・。」

「じゃ、俺次んとこ行ってくるわ!あ、これも落ちてたから預けとくな!」

 

忙しない奴だ。

 

 

 

コトダマゲット!

【銃弾)

薬莢が6発落ちていた。

恐らく銃弾自体はモノトラによって支給されたピストルのものと考えられる。

 

 

 

で、今二木に預けられたのは・・・、ピストルじゃないか!!

 

「あ、やっぱこれモノトラが支給してたやつだよ!」

「じゃあ甘寺の読みは当たってたのか。というかよく分かったな?」

「たまたま2日目に隣でアイス食べてたのが久見さんだったから。」

「久見はピストルだったのか。」

「うん。その時に何となくの形も見てたから間違いないよ!」

「そうか。」

 

 

 

コトダマゲット!

【ピストル)

現場に放置されており、青山が拾っていた。

甘寺によるとこれはモノトラが動機として配っていたものと同じピストルらしい。

 

 

 

「なあ、水島?」

「どうした、九鬼?」

「これ、何だと思うよ?ゴミ箱ん中に入ってたんだけどよ。」

 

その手には謎のゴミが握られていた。ん?でもこれって・・・

 

「ペットボトルとタオルか?どっちも一部が切り取られてるけど。」

「あ、ほんとだ。でもペットボトルのほうはフタと底が無いし、タオルの方も切れ端だね。気になるとしたらペットボトルの口にテープか何かがついてるのとタオルの方はボロボロでちょっと汚れてるところかな。」

「何かに関係あんのかな?」

「恐らく事件に関係あるとは思うが。」

「そっか!サンキューな!!」

 

 

 

コトダマゲット!

【ペットボトル)

ゴミ箱の中に捨ててあった。フタと底の部分がない。口のところにはテープがついている。

 

【タオルの切れ端)

ゴミ箱の中に捨ててあった。ボロボロで少し汚れている。

 

 

 

さて、とりあえず現場はこんなもんか。まだ久見の検死は終わってないみたいだし、別のところに行ってみようか。次はどこに行ったもんだろうか?

 

「次は青山君の部屋に行ってみよっか!何か犯人に繋がるものがあるかもしれないよ?」

「じゃあ次はそこに行ってみるか。」

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

 

 

 

【生存者】   

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級のサッカー選手   二木駆(フタキカケル)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の画家       美上三香子(ミカミミカコ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り15人

 




さあ、遂にコロシアイが起こってしまいました・・・!!学級裁判が迫ってきています・・・!
ちょっと怪しい人も何人かいますね・・・!一体誰が青山を!そして事件の真相はいかに!?


ということで今回の設定裏話!今回は玉城将くん!
今回の捻くれ枠ですね!でも彼にもいろいろあったんです・・・。キャラ紹介の時にも書いたのですが、彼はハーフで、母から受け継いだ金髪がチャームポイント、という設定なのですが、逆にそのせいでたくさん苦労もしました。そのせいであんなにひねくれてしまって・・・!でも、ほんとは良い子なんです!こんな状況ではありますが、みんなとの絆を深めてその凍った心が少しでも溶かされると良いなと思います。
名前は将棋の駒の「玉将」です。「玉」の方はあの人気女優さんからもあやかって「玉城」で、名前にそのまま「将」を持ってきました。
超高校級の棋士ということで非常に頭の切れる男でもあるので、学級裁判でも大きな活躍を見せてくれると信じましょう!!

ではまた次回!


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CHAPTER1 非日常編-捜査-

 とりあえず現場の捜査を終えた俺と甘寺は久見の検死が終わるまでの間、他のところを捜査することにした。そして最初に向かったのは今回の被害者、青山蓬生の寄宿舎の部屋だった。

 

「でも青山の部屋のカギって開いてんのか?」

「さあ・・・?」

「おい。」

「心配はいらねえぜ!!!」

「うわっ!モノトラ!?」

「捜査に来る奴もいると思ってな、あらかじめ開けといたぜ!!」

「意外と良心的なんだな?」

「言われてから開けるんじゃ癪だろ?」

「自分のためかよ・・・。」

 

取りあえず部屋のカギ問題は解決したみたいだ。

 

「じゃ、行こっか。」

「そうだな。」

 

青山の部屋に入るとまず机の上に置かれた手帳だった。

 

「これは青山の手帳か?」

「そう、みたいだね。」

 

文庫本のような紐のしおりがついているタイプの手帳だ。中を開いてみると、普段から様々なことを目もしていることがよく分かった。ちょうどしおりの挟まっているところの内容が目に入ってきた。

 

「これは日記か?」

「みたいだね。しかもここに来てからの日記もあるみたい。」

「一応中身を見てみるか・・・。」

 

 

4月○日

 今日から希望ヶ峰学園の生徒だ。そう思って心機一転学園に足を踏み入れたはずなのに何でこんなことになったのだろう。コロシアイだなんて意味が分からない。しかも出口も見当たらず完全に閉じ込められたみたいだ。もしかしたらあのモノトラとやらの話を真に受ける人がいるのではないだろうか。自衛の手段も考えておかなければならないだろう。

 

4月×日

 今日は朝食を平和に食べていたはずなのにモノトラが「動機」と呼んで武器を配ってきた。僕にはピストルが与えられた。一体あのぬいぐるみは何を考えているのだ。ホントに行動に移す人間が現れたらどうしてくれるつもりだ。怖い。どうにかして早く解放されたい。どうしてもピストルが目の前にあることも不安を駆り立てられる。どうしても目の前に「殺し」の道具があることは、「殺し」が身近になっていることを意識せざるを得ない。

 

4月△日

 今日もみんなで出口を探したが、見つからなかった。それにしてもあり得ない。どうしてみんなはあんなに周りと打ち解けることができるのだろう。理解に苦しむ。誰がいつどのように自分を殺そうと画策しているか分からないというのに。僕はもう限界だ。早く逃げ出したい。殺されるのは嫌だ。死ぬのは怖い。もう、やるしかない。

 

 

「これは・・・。」

「青山君、ずっと怖かったんだね・・・。」

 

日記にはこの「コロシアイ学園生活」に対する不安、死ぬことへの恐怖、そういったものが蕩々と綴られていた。ただ、気になったところがある。

 

「この“やるしかない”ってどういうことだ・・?」

 

殺されたのは青山のはずだ。それなのに何でまるで青山が殺人をしようとしていたような文面が書いてあるんだ?

 

「この日記はもしかしたら事件の真相に繋がるかも知れないね。」

「覚えておいて損はないな。」

 

 

 

コトダマゲット!

【青山の日記)

この学園生活が始まってからの生活について書かれている。その内容はその生活に対する不安や恐怖といったものが綴られている。

ただ、最後の一文は青山の方が殺人を決意したような内容であるのは気になる。

 

 

 

取りあえず手帳はこれくらいか・・・。

次は・・・、

 

「ねえ、水島君。これ見て?」

「何だ?」

「メモパッドだよ。」

「それは分かるが、メモパッドがどうしたんだ?元々備付けてあるやつだろ?」

「1枚目がもう使われてるの。しかもそれはもうどこかになくなってる。」

「ん?それは変じゃないか?だって青山は今見た手帳にメモしてたじゃないか。」

「だよね。わざわざ何のためにメモパッドを使ったんだろ?」

 

 

 

コトダマゲット!

【メモパッド)

寄宿舎の備付けのもの。1枚目だけ既に使われている。その1枚目のメモは既に破られて行方が分からなくなっている。

 

 

 

机の上で気になるのはこんなところか・・・。あとこの部屋で気になるところは・・・。

ん?ベッドの上に何か置いてあるな。あれはバスタオルか?

 

「なあ、甘寺。あのバスタオルなんだと思う?」

「え、あ、確かに。昨日使ったやつならベッドに畳んで置いておかないよね?」

「だよな。」

 

そう思ってそれを広げてみると・・・、

 

「長さが足りないな。」

「多分切られてるね。何のためだろう・・・?」

 

もしかしてこの切った切れ端って・・・。

 

 

 

コトダマゲット!

【バスタオル)

ベッドの上に畳んで置いてあった。

広げてみるとその一部が切り取られていた。

 

 

 

「なあ、もしかしてこのタオルを切るのに使ったのってこれか?」

 

ベッド脇に放置してあった裁ち鋏を指して俺は言った。

 

「たぶんそうじゃないかな?でも何でこれがここにあるんだろ?」

「いや、超高校級のテーラーの部屋だしあるんじゃないか?」

「あのね、これ女子の部屋に置いてある裁縫セットに入ってる裁ち鋏なの。」

「何だって?つまりこれは女子から借りたか何かしたものってことか?」

「そういうことになるね。」

「何でわざわざそんなことを・・・?」

 

 

 

コトダマゲット!

【裁ち鋏)

ベッドの脇に放置されていた。恐らくバスタオルを切るのに使われた。

甘寺によるとこれは女子の部屋にある裁縫セットの中にあるものと同じもので、青山自身の私物ではないと考えられる。

 

 

 

「ねえ、このゴミ箱の中のってさ?」

「ペットボトルのフタと底の部分か。これって・・・!」

「やっぱりそうだよね!」

 

恐らくあの現場にあったペットボトルのなくなっていた部分だろう。こうなってくるとやっぱり・・・?

あ、そう言えば

 

「もしかして裁ち鋏を自分のやつを使わなかったのってペットボトルの加工にも使ったからじゃないか?」

「あ、確かに!布以外を切ったらダメになっちゃうもんね。」

 

だんだん見えてきたかも知れないな・・・。

 

 

 

コトダマアップデート!

【裁ち鋏)

ベッドの脇に放置されていた。恐らくバスタオルを切るのに使われた。

甘寺によるとこれは女子の部屋にある裁縫セットの中にあるものと同じもので、青山自身の私物ではないと考えられる。

もしかしたらペットボトルの加工にも使われたかも知れない。

 

コトダマゲット!

【ペットボトルの一部)

ゴミ箱に入っていた。ペットボトルのフタと底の部分。恐らくランドリーに会ったペットボトルのなくなっていた部分。

 

 

 

「じゃあ、今度は色んな人に話を聞きに行こっか!」

「確かに何か新しい情報があるかも知れないな。」

「じゃあ、寄宿舎の共有スペースの方に行ってみよ!」

「そうするか。」

 

 

 

 

 

寄宿舎のホールに入る直前、甘寺が廊下でふと立ち止まった。

 

「ね、あれって血じゃない?絨毯についてるの。」

 

確かに絨毯が赤くて見にくいが、よく見ると乾いた血がついている。ホールに入るところで途切れているようだ。

 

「足跡か。」

「多分・・・。」

「あれならサイズと靴の種類を推測することもできそうだな。」

「それだけじゃないよ!近くに何かをこすった後もある!」

「ホールに入るところで気づいて足の裏の血を絨毯で拭き取ったってところか。」

 

そんなことを話していると、

 

「何をしている。」

「玉城!」

「いやぁ、このうっすら見える血の足跡が気になったんだ。」

「それか。それなら有浜がさっき調べてたぞ。」

「じゃあ話を聞いてみるね!ありがとう!」

「フン。」

 

玉城、根は悪い奴じゃないんだろうな・・・。

 

 

 

コトダマゲット!

【足跡)

血で付けられた足跡。寄宿舎のホールに入るところで途切れている。

近くに絨毯何かをこすりつけたような跡もあり、恐らく途中で足跡に気づいて拭き取ったと考えられる。

 

 

 

 

寄宿舎に入るとちょうど目の前に有浜がいた。

ちょうど良い。さっきの足跡の件を聞いてみよう。

 

「なあ、有浜。」

「あら、水島君に甘寺さん。捜査は順調?」

「まあ、それなりに。」

「そう、ならよかった。それで何の用?」

「ああ、そうだ。寄宿スペースの足跡について詳しく分かったことがないか聞きたくてな。」

「あなたたちも気づいたのね。一番見やすい足跡から判別しただけだけど、靴はスニーカーで足のサイズは大体26.5cmから27.5cm、一般的な男の人の靴のサイズという感じだったわ。」

「そうか。ありがとう。」

 

 

 

コトダマアップデート!

【足跡)

血で付けられた足跡。寄宿舎のホールに入るところで途切れている。

近くに絨毯何かをこすりつけたような跡もあり、恐らく途中で足跡に気づいて拭き取ったと考えられる。

靴の種類はスニーカーで、サイズは大体26.5~26.7cm。

 

 

「他に気になったことはあるか?」

「そうね、捜査の結果というより事件を受けて思い出したこと、という感じなのだけど。」

「構わない。」

「昨日夕食後の時間にラウンジで本を読んでいたのだけど、珍しく青山君が来たわ。」

「そうなのか。」

「しかも意外ね。彼、ラウンジの冷蔵庫からペットボトルの炭酸ジュースを持っていったの。きっと一緒に暮らしていけばこんな意外な一面がもっと見つけられたのかも知れないわね・・・。」

 

言い終えると有浜は悔しそうに俯く。

 

「ありがとう。参考になった。」

「そう、ならよかったわ。」

 

その場を離れようとした瞬間、有浜は俺を呼び止めた。

 

「水島君、犯人を見つけましょうね。」

「・・・。ああ。」

 

その目には決意がこもっていた。

 

 

 

コトダマゲット!

【有浜の証言)

昨夜の夕食の後、有浜がラウンジで本を読んでいると青山がやってきた。

その際、青山は冷蔵庫からペットボトルの飲み物を持っていった。

 

 

 

他に誰かいないか見回してみると、山吹と美上が協力して捜査していた。

 

「お、水島と甘寺じゃないか。アンタたちはどこ捜査してたんだ?」

「青山の部屋を捜査して今度は寄宿舎の共有スペースも捜査してみようと思ってな。」

「青山の部屋に行ってたのか?じゃあアタシの裁ち鋏見てないか?昨夜青山に貸したんだけどこんなことになっちまって返ってきてないんだ。」

「あれ、山吹のだったのか。青山の部屋はカギが開いてるからベッドの脇を探せばすぐ見つかるぞ。」

「そっか!ありがとな!悪い、美上。ちょっと行ってくる!」

「いいよ、行ってきな!」

 

コトダマアップデート!

【裁ち鋏)

ベッドの脇に放置されていた。恐らくバスタオルを切るのに使われた。

甘寺によるとこれは女子の部屋にある裁縫セットの中にあるものと同じもので、青山自身の私物ではないと考えられる。

もしかしたらペットボトルの加工にも使われたかも知れない。

どうやら持ち主は山吹で、昨日貸したまま返ってきてなかったようだ。

 

 

 

「美上は何か気になることってあったか?」

「うーん、共有スペースの方は特に無かったかなぁ。あ、でも昨日青山の様子が変だったんだよね。」

「それは?」

「昨日私たちの班は寄宿スペースとその奥を探索してたでしょ?その時にランドリーで青山がさ、」

 

『ここなら・・・!』

 

「って独り言を言ってたんだよね。どういうことだったんだろ?」

「なるほど、参考になった。」

「そう?じゃ、お互い頑張るわよ!」

「おう・・・。」

 

 

 

コトダマゲット!

【美上の証言)

昨日ランドリーを探索していた青山が『ここなら・・・!』と独り言を言っていた。

 

 

 

よし、次は・・・。

 

「よっ!」

「うわっ!何だよ、薬師!」

「びっくりしたぁ!」

「ちょっと驚かせてやろうと思ってな!」

「しょうもないことするな!で何の用だ?」

「いや、2人を見かけたから何となくだ!」

「おい。」

 

今朝の様子はどこ吹く風の薬師に文句を言う俺に甘寺が何かを思いついたようにささやく。

 

「ね、思ったんだけど、ピストルに使うものなら薬師君が詳しいんじゃない?ほら、ゴミ箱の。」

「ああ、聞いてみるか。」

「なんだなんだ、随分仲いいじゃねえか!」

「うるさい。聞きたいことがあるんだが。」

「冷てーなー。で、何だ?」

「現場のゴミ箱でこんなものを見つけたんだけどな?」

 

そう言ってペットボトルとタオルの切れ端の写真を見せる。

 

「これ、何かに使ったと思うか?」

「これかぁ。今回の殺しはピストルだろ?ならサイレンサーじゃねえか?」

「サイレンサーって何?」

「ピストルを撃つ時の音とか光とかを抑えるのに使うグッズだよ。スパイ映画とかで見たことねえか?ペットボトルとタオルを使って即席でも作れるんだ。多分銃口で抑えるのに使ったテープっぽいゴミもついてるから十中八九そうだろ。サバゲーやるときに作ったこともあるからよく知ってるぜ!」

「なるほどな。」

「あ、でも気をつけろよ?スパイ映画みたいにほとんど無音みたいにはならないからな。せいぜい『バァン!!!』が『パン!!』になる程度だ。撃ちゃあバレる。」

「つまり近くにいたら音は聞こえるのか・・・。」

 

 

 

コトダマゲット!

【サイレンサー)

銃撃音を抑える装置。ペットボトルとタオルで即席で作ることもできるらしい。

ただし、映画のように音が消える訳ではなく、近くにいれば音は聞こえるようだ。

 

 

 

音と言えば・・・

 

「でも銃の音が消えない割には誰も何かを聞いたって奴がいないな。」

「夜時間だったしな。」

「じゃあちょっと実験してみるか!」

「実験?」

「ああ。現場で撃ってどこなら聞こえてどこなら聞こえないか。」

「久見の検死が終わってたらな。」

「よし、じゃあ行くぞ!」

「おい待てって!!」

 

さっさと行ってしまった。追いかけるしかないか・・・。

 

「あ、そうだ!実験で思い出した!これ渡しとかないと!」

 

何かを思い出した甘寺に何かを渡された。

 

「ん?何だこれ?」

「メモ。誰がどの武器を渡されたのか、あの日食堂でまとめといたの。」

「あのとき一生懸命手帳に書いてたのはこれか?ん?でも前はレシピを書いてたって言ってたよな?」

「ごめん、嘘。何も起きてないのにだあれがどの武器を持ってるのかまとめた、なんて言ったら不安にさせると思って。」

「そうか。気遣い助かる。」

 

色んな意味で気遣いがなされていたみたいだ。

メモの内容を見てみると、ナイフを渡されたのが俺、甘寺、薬師、玉城、二木、涼風、山吹、有浜。ピストルを渡されたのがアンリ、畔田、久見、太宰、美上、青山、九鬼、比嘉。これは推理の助けになりそうだ。

 

 

 

コトダマゲット!

【甘寺のメモ)

誰がどの凶器を渡されたのかをまとめてある。

ナイフ:水島、甘寺、薬師、玉城、二木、涼風、山吹、有浜

ピストル:アンリ、畔田、久見、太宰、美上、青山、九鬼、比嘉

 

 

 

おーい、早く来いよー!

 

薬師の呼ぶ声が聞こえる。他の奴らの話も聞きたいところだが。・・・行ってやるか。

 

「よーし、実験やるぞー!!!」

「久見、検死は終わったのか?」

「うん、大丈夫だよー。」

「じゃあ、協力してくれ!それぞれ部屋の外の各地点で音が聞こえるか確かめて欲しい!」

「じゃあ、俺はランドリーに一番近い俺の部屋で確かめるよ。比嘉も一緒に来てくれ。」

「じゃあ、私は共有スペースに行くね。」

「オレも一緒に行ってやるよ!」

「なら僕と畔田君たちはー、すぐ外の廊下にいるねー。」

 

というところで実験が行われた。薬師が撃ったのは3発・・・らしい。

らしい、というのはどういうことかというと、部屋の中からは一切音が聞こえなかったからだ。後から甘寺が呼びに来て教えてくれた。

 

「ま、今ので分かるとおり、部屋の中からはどれだけ近くても聞こえなかった。すごく防音性能が高いみたいだ。」

「共有スペースはしっかり聞こえたよ!」

「目の前の廊下もしっかりだったよー。」

 

この実験結果から分かるのは誰も何も聞いていないことから事件発生当時、他のみんなは全員部屋にいた可能性が高いということだ。逆にこれは誰もアリバイがないということだ。かなり厄介かも知れない・・・。

ちなみに、この後銃声を聞いて驚いて集まってきた他の奴らに薬師が死ぬほど怒られていたのはまた別の話。

 

 

 

コトダマゲット!

【実験)

ランドリーでピストルを撃ってみた。結果、寄宿舎全体に音が聞こえた。ただし、個人の部屋では音が聞こえなかった。

 

 

 

もう時間もないな・・・。後は久見の検死結果も聞いてみよう。

 

「なあ、久見。検死結果聞いてもいいか?」

「うん、いいよー。一緒に気になったことも言うねー。」

「ああ。」

「モノトラファイルはアンリちゃんも言ってたとおり、かなり正確だったよー。だからあれは信じて良いと思うよー。あとー、右手の手首にアザがあったー。」

「どういうことだ?」

「多分クロともめて手首をケガしたんだと思う。でもー、ケガしてからすぐ死んじゃったみたいで、そんなに大きいアザじゃなかったー。」

「なるほどな。」

 

 

 

コトダマゲット!

【右手首のケガ)

死体の右手首のところにアザがあった。恐らく犯人ともめたものと思われる。

 

 

 

「で、他に気になることってのは?」

「えーとねー、青山君の倒れ方かなー。青山君、ランドリーの入り口から見て奥の方向に頭を向けて仰向けに倒れてたんだよねー。これってつまり青山君は撃たれたときに入り口から入ってくる人が見える向きに立ってたことになると思う。周りの血溜まりにも引きずった後はなかったからー、青山君はあの状態で倒れたってことで間違いないと思う!青山君、ただの被害者じゃないんじゃないかって思っちゃったー。」

「そうか・・・。いろいろありがとな。」

「いえいえー!」

 

 

 

コトダマゲット!

【死体の向き)

青山は入り口から見て奥の方向に頭を向けて死んでいた。このことから青山は撃たれたときに入り口から入ってくる人が見える向きで立っていたと考えられる。

 

コトダマアップデート!

【血溜まり)

誰かが踏んだ跡が残っている。

血溜まりには青山の死体を引きずった跡はなく、このことから青山の死体は動かされていないと考えられる。

 

 

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「そろそろ十分だと思うし、オレももう我慢の限界なんで、学級裁判を始めるぜ!!!という訳で校舎の赤い扉に集合してくれ!!」

 

 

「っ!」

 

あの扉も出口じゃなかったのか・・・。

心がズンと重くなる。でもこんなところでヘコんでいる訳にはいかない。校舎に・・・!

 

「あ、水島君。」

「どうした、久見?」

「これ、渡し忘れちゃってー。」

「おいおい・・・。これは?」

「青山君の胸ポケットに入ってたんだー。中身を見てみてー。」

 

これは・・・!

 

 

・・・・・・・・・へ

ランドリーに出口とおぼしきものがあったのですが、僕一人ではどうにもならないのでお手伝いをお願いします。

情報を確定させてからみんなには伝えたいので他の皆さんには内密にお願いします。

今日の夜、10時50分頃、周りに誰もいないことを確認してランドリーに来てください。

お待ちしています。

青山蓬生

 

青山の部屋でなくなっていたメモの1枚目!手紙代わりに使っていたのか・・・!でも・・・

 

「宛先がちぎられちゃって分かんないんだよねー。だから裁判の中で推理してこーねー。あ、でも宛名がちぎられてることは言わないでねー!上手にぼかして宛名が分からないって伝えてねー。」

「じゃあ何で俺には言ったんだ。もし俺がクロだったらどうするんだ?カマかけるためだろ?」

「うーん、何となく?」

「何となくって・・・。」

「だいじょーぶ!僕の勘は当たる!水島君はクロじゃないよー。」

「どこの占い師だ・・・。ま、信頼されてるってことにするよ。」

 

 

 

コトダマゲット!

【メモ)

青山の胸ポケットに入っていた。

何者かをランドリーに呼び出す内容になっている。

宛先の部分が破られており、誰に送ったものかは分からない。

 

 

 

そんなことを言いつつ俺たちは2人で赤い扉に向かった。

 

 

 

 

 

 

 赤い扉に入ると既に他のみんなは集まっていた。

 

「遅いよ、2人とも!何してたの?」

 

美上に怒られてしまった。

 

「うーん、おしゃべりー。」

「よくそんな余裕があるね・・・。」

「何言ってんだ!男女が2人で隠れておしゃべり、中身なんて決まってんだろ?」

「お前は何を・・・。」

「確かにそうだね。ごめん、野暮だったよ。」

「太宰!?」

 

少しみんなで談笑して気持ちは和んでいたはずだった。だが、

 

「お、オマエラ余裕じゃねーか!!いいねー。こんくらいじゃねーと学級裁判は盛り上がらねー!じゃあさっそく行くとするぜ!!!」

 

唐突に現れたモノトラに俺たちは身を強ばらせる。そして思い出してしまった。この仲間たちの中に青山を殺した犯人がいる、ということに。

 

奥のエレベーターにモノトラに導かれるまま乗り込み、そして俺たちは降りていった。

 

深く、深く。潜っていくほど俺たちは寡黙になっていった。

 

 

でも、落ち込んでいる場合じゃない。青山はもっと無念だろう。アイツの真相を明らかにしてやらなきゃ、アイツは浮かばれない。だから俺は、俺たちは決意を持って学級裁判に向かっていった。

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級のサッカー選手   二木駆(フタキカケル)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の画家       美上三香子(ミカミミカコ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り15人

 




さあ、遂に捜査の時間が終わりました!遂に次回からダンガンロンパの醍醐味、学級裁判が始まっていきます。いったい、青山のことを殺したのは誰なんだ・・・!?そしてどうしてこうなってしまったんだ・・・!?次回波乱の学級裁判開廷です!!

さて、今回の設定裏話は二木君の話です!
二木君はスポーツ枠その2ですね!ダンガンロンパシリーズは原作も創作もかなりスポーツの超高校級たちがいっぱい出てきます。なので、二木君もそんな感じで出してみました。サッカー選手なのは特に意味は無いです笑。スポーツをいくつか挙げてってその中でシックりきたものをいくつかピックアップしたうちの1つって感じです笑。でもちょっとチャラいけど明るくフレンドリーな彼はこのコロシアイ学園生活におけるオアシスになってくれると思います!
名前の由来なのですが、まずはサッカーボールが2色なので「二」という字を使いたいなと思いました。結果思いついたのが実はこれとあるプロ野球選手の苗字というちょっとカオスなことになったという裏話です笑。下の名前ははわりかしそのまま、フィールドを駆ける天才サッカー選手、というイメージの名前です!
という感じでこれからの二木君の活躍にも期待してもらえればな、と思います!!


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CHAPTER1 学級裁判 前半

 エレベーターから降りると、そこは円形に16の席が用意された法廷のような造りになっている部屋だった。

 

「さ、それぞれの席についてくれ!裁判を始めるぜ!!」

 

仕方が無い・・・。悪趣味だとしか言い様がないが、そうしなければ俺たちの命が危ういのだ。それは全員が思っていたようで、全員が浮かない顔をして席に着いた。そして俺たちは裁判の準備を開始した。

 

 

 

コトダマ一覧

【モノトラファイル1)

 被害者は青山蓬生。死亡推定時刻は昨夜午後11時頃。死体発見現場はランドリー。死因は背中から銃撃を受けたことで、銃弾は3発受けているが、腹部は貫通していない。

 

【壁の弾痕)

壁に3発撃ち込まれた後があった。そのうち1発は大きく外れたところに撃ち込まれていた。

 

【血溜まり)

誰かが踏んだ跡が残っている。

血溜まりには青山の死体を引きずった跡はなく、このことから青山の死体は動かされていないと考えられる。

 

【銃弾)

薬莢が6発落ちていた。

恐らく銃弾自体はモノトラによって支給されたピストルのものと考えられる。

 

【ピストル)

現場に放置されており、青山が拾っていた。

甘寺によるとこれはモノトラが動機として配っていたものと同じピストルらしい。

 

【ペットボトル)

ゴミ箱の中に捨ててあった。フタと底の部分がない。口のところにはテープがついている。

 

【タオルの切れ端)

ゴミ箱の中に捨ててあった。ボロボロで少し汚れている。

 

【青山の日記)

この学園生活が始まってからの生活について書かれている。その内容はその生活に対する不安や恐怖といったものが綴られている。

ただ、最後の一文は青山の方が殺人を決意したような内容であるのは気になる。

 

【メモパッド)

寄宿舎の備付けのもの。1枚目だけ既に使われている。その1枚目のメモは既に破られて行方が分からなくなっている。

 

【バスタオル)

ベッドの上に畳んで置いてあった。

広げてみるとその一部が切り取られていた。

 

【裁ち鋏)

ベッドの脇に放置されていた。恐らくバスタオルを切るのに使われた。

甘寺によるとこれは女子の部屋にある裁縫セットの中にあるものと同じもので、青山自身の私物ではないと考えられる。

もしかしたらペットボトルの加工にも使われたかも知れない。

どうやら持ち主は山吹で、昨日貸したまま返ってきてなかったようだ。

 

【ペットボトルの一部)

ゴミ箱に入っていた。ペットボトルのフタと底の部分。恐らくランドリーに会ったペットボトルのなくなっていた部分。

 

【足跡)

血で付けられた足跡。寄宿舎のホールに入るところで途切れている。

近くに絨毯何かをこすりつけたような跡もあり、恐らく途中で足跡に気づいて拭き取ったと考えられる。

靴の種類はスニーカーで、サイズは大体26.5~26.7cm。

 

【有浜の証言)

昨夜の夕食の後、有浜がラウンジで本を読んでいると青山がやってきた。

その際、青山は冷蔵庫からペットボトルの飲み物を持っていった。

 

【美上の証言)

昨日ランドリーを探索していた青山が『ここなら・・・!』と独り言を言っていた。

 

【サイレンサー)

銃撃音を抑える装置。ペットボトルとタオルで即席で作ることもできるらしい。

ただし、映画のように音が消える訳ではなく、近くにいれば音は聞こえるようだ。

 

【甘寺のメモ)

誰がどの凶器を渡されたのかをまとめてある。

ナイフ:水島、甘寺、薬師、玉城、二木、涼風、山吹、有浜

ピストル:アンリ、畔田、久見、太宰、美上、青山、九鬼、比嘉

 

【実験)

ランドリーでピストルを撃ってみた。結果、寄宿舎全体に音が聞こえた。ただし、個人の部屋では音が聞こえなかった。

 

【右手首のケガ)

死体の右手首のところにアザがあった。恐らく犯人ともめたものと思われる。

 

【死体の向き)

青山は入り口から見て奥の方向に頭を向けて死んでいた。このことから青山は撃たれたときに入り口から入ってくる人が見える向きで立っていたと考えられる。

 

【メモ)

青山の胸ポケットに入っていた。

何者かをランドリーに呼び出す内容になっている。

宛先の部分が破られており、誰に送ったものかは分からない。

 

 

 

 

【学級裁判 開廷】

 

「じゃ、まずは学級裁判の軽いシステムを説明していくぜ。学級裁判の結果はオマエラの投票で決まる。正しいクロを指摘できればクロはおしおき。そんで間違ったときはクロ以外がおしおきだ。そしてクロは卒業として解放される。じゃ、頑張ってせいぜいオレを楽しませてくれ!」

 

遂に始まってしまった。でもやるしかない!!!

 

「まずは事件の概要からまとめていこっか。」

「えーっと、殺されたのは青山だよね。で、現場はランドリー。」

「殺されたのは昨日の11時頃だったな。」

「死体が発見されたのは今日の朝7時半ごろね。いつまで経っても食堂に現れなかった青山君をみんなで探した結果、発見されたのよね。」

 

これで大体の事件の概要はまとまった。さあ、本番はここからだ。

 

「じゃあ事件の概要もまとまったところで凶器からスタートしていこうか。そこが一番分かりやすいだろう。」

 

 

 

議論開始

 

 

「てかさ、そんな回りくどくやんなくても犯人は分かってんだろ!」

 

 

「どういうことだ?」

 

 

「犯人は、薬師だ!!!」

 

 

「何でだよ!?」

 

 

「青山は撃たれて死んだんだろ?」

 

 

「でもよー、ピストルを持ってんのなんて、」

 

 

「この中で【薬師しかいねぇ】じゃねえか!!!」

 

 

「理不尽だっっ!!!」

 

いや、ピストルを持っていたのは薬師だけではないはずだ!

 

 

【ピストル)→【薬師しかいねぇ】

 

「それは違うぞ!!」

 

「なんでだよ!」

「ピストルを使えたのは薬師だけじゃない。他にも結構な人数がいたはずだ。」

「九鬼オメ-忘れたんか?モノトラが“動機”として武器を配ったんだぜ?そんで半分はピストルを渡されてんだ。現在においてピストルを使った犯罪ができる奴は結構いたんだぜ?しかもそのピストルが現場に置いてあった。」

「あー、そういやオレもピストルもらってたわ!わりーわりー!使い途ねーから部屋にしまい込んだまま忘れちまってた!」

「2日で!?」

 

「でもさ、ピストルを持ってる人が多くても薬師君の疑いは晴れてないよね?」

 

 

 

議論開始

 

 

「確かに、僕たちの中に」

 

 

「【ピストルを持ってる人が多い】のは事実だよね。」

 

 

「なるほどー、僕は検死はできるけどー」

 

 

「青山君に撃ち込まれた」

 

 

「【弾丸を摘出できたわけじゃない】ねー。」

 

 

「そう。」

 

 

「つまり、【どんな弾丸が使われたか分からない】ってことになる。」

 

 

「弾丸に何が使われたか分からない以上、」

 

 

「薬師君を容疑者から外すのは早計じゃないかな。」

 

 

「モノトラのピストルも」

 

 

「偽装工作かもしれないしね」

 

いや、それは分かっていたはずだ・・・!!

 

 

【銃弾)→【どんな弾丸が使われたか分からない】

 

 

「それは違うぞ!」

 

「いや、使われた弾丸の種類は分かってる。」

「そうなのかい?」

「ああ。そうだよな?二木。」

「そうだぜ!実はランドリーに薬莢が転がってたんだ。」

「じゃあ、俺のじゃねえな。俺のは競技用のエアピストルだから弾に薬莢はついてないんだ。」

「ということは・・・」

「今回の殺人で使われたのは恐らくモノトラのピストルなんだ。」

「でもそのピストルを薬師が持ってたら意味ないんじゃない?」

「いや、それもない。だって・・・」

 

 

証拠提出

【甘寺のメモ)

 

 

「これだ!」

 

「それ何?」

「2日目の食堂で誰がどっちの武器をもらったのか、甘寺がまとめてくれていたんだ。」

「それ、正確なん?」

「自分の名前がどっちにあるか確認してもらえれば分かるんじゃないか?」

・・・

「確かに正確ですね。」

「つまり、このメモに則れば、薬師はナイフを受け取っており、クロではないということだな!!」

「ああ。」

 

 

「凶器が確定したところで次はどうしようか?」

「やはり事件の細かい流れを推理していくのが良いのではないでしょうか?」

「そうしよっか。」

 

 

議論開始

 

 

「どんな流れで殺されたのか、か・・・。」

 

 

「呼び出されていったところに」

 

 

「『いきなりズドン』じゃねーか?」

 

 

「いや、『正面から対決』したに違いないぞ!」

 

 

「そんなことあるかな?」

 

 

「意外と」

 

 

「先に殺人を試みたけど」

 

 

「『返り討ちに遭ってしまった』」

 

 

「なんてこともあるかも知れないね。」

 

 

この証拠と照らし合わせると青山の死に方は・・・

 

 

【青山の日記)→『返り討ちに遭ってしまった』

 

「それに賛成だ。」

 

 

「そうなのかい、水島君?」

「ああ。これを見て欲しい。」

「これは、青山君の日記かなー?」

「そうだ。青山の手帳に“コロシアイ”や動機があることへの不安や恐怖なんかが書いてある。そして特に注目して欲しいのは最後の一文だ。」

「えっと、なになに?“もう、やるしかない”?」

「そう。この一文を見る限り、青山は誰かを殺すことを決意していたと考えられるんだ。つまりそれは青山が先に殺しに向かったことを指している。」

 

 

「その推理、詰んでいるぞ。」

 

「なっ!玉城!?」

「確かに青山に俺たちの中の誰かを殺す意志があったことは認めよう。だが、それが今回、青山が返り討ちに遭ったことの証左にはならん。」

 

 

反論ショーダウン

 

 

「確かにその一文には」

 

 

「青山が俺たちを殺そうとしていたことが」

 

 

「窺えるだろう。」

 

 

「しかしそれが」

 

 

「今回の事件と関連しているとは」

 

 

「限らんだろう。」

 

-発展-

 

「実際、この日記が書かれた日の夜に」

 

「青山は殺されているんだ。」

 

「逆に無関係とする方が難しいんじゃないか?」

 

 

 

「同じように」

 

 

「昨日限界を迎えた奴が」

 

 

「他にいただけの話だろう。」

 

 

「【他に有力な証拠もない】のに」

 

 

「俺はそれを信じることはできん。」

 

 

【メモ)→【他に有力な証拠もない】

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

 

「他の証拠なら、あるぞ。」

「何?」

「メモだ。」

「メモ?」

「ああ。青山の検死をしていた久見が青山の死体の胸ポケットから発見したんだ。」

「なるほど。で、そのメモがどうしたんだ。」

「えーっとね、そのメモの内容がねー、簡単に言うとー、誰かを出口を見つけたから協力して欲しいって言う名目で呼び出すものだったんだー。」

「しかも、そのメモの下の方、いわば送り主の側に青山の名前が入ってたんだ。つまり、このメモを送ったのは青山だ。」

「言いたいことは分かったが、それを青山が書いた、という証拠はあるのか?」

 

 

「青山がこのメモを書いたという証拠か・・・。それなら・・・!」

 

 

 

証拠提出

 

【メモパッド)

 

「これだ!」

 

 

 

「青山の部屋にあったメモパッドだ。」

「それのどこが証拠だ?」

「青山の日記は手帳に書かれていた。そしてその手帳には事細かに様々なメモも書かれていた。つまり、青山は普段のメモはこの手帳に取る習慣があった。」

「なるほど、つまり青山さんはメモパッドを使うことはなかったはずだと。」

「ああ。だが、捜査で青山の部屋に入ったとき、このメモパッドは最初の一枚目だけ使われて破られていた。だとしたら、この一枚は自分がやったと分からないようにどの部屋にもあるメモパッドを用いて手紙を書いたと考える方が妥当だろ?」

「ふん。それなりに筋は通っているようだ。」

 

「ねえ、1つ聞いてもいい?」

「どうした?」

「そのメモってさ、宛先とか書いてなかったの?」

「そーじゃねえか!!そこにもしかしたらクロの名前が書いてあるかも知れねえ!!」

「そしたらこの学級裁判も終わりだね。」

「いや、それがそうも行かないんだ。なぜならそのメモには宛名がなかった。つまり、誰が送られたのか、言い換えると誰がクロなのかってのは分からなかったんだ。」

「さすがに、そうは問屋が卸さねえってか。」

 

「でもさ、そうなってくると、さっき玉城君は納得していたけど、ほんとに青山君が殺しを計画していたかってのは怪しくなってくるよね。」

「どういうこと?」

「だってさ、普通に考えたらクロが自分に繋がるメモを現場に置いていくことって考えにくいよね?でもクロはそれをした。つまりそれはそのメモを見たところで他の人に自分が犯人だと分からない自信があるからってことになる。それって犯人がそんな風なメモを自分で用意して残した、ってことも考えられるんじゃないかな?」

「確かに・・・。」

 

ここでみんなは黙りこんでしまった。もしかしたらクロに繋がる重要な手掛かりが全く役に立たないどころか、それそのものがクロによる罠かもしれないと言うことに気づいてしまったからだ。そしてそうなったことによって俺たちに犯人の目星がつかなくなってしまったからだ。

 

でも、本当にそうだろうか?本当に太宰が言うとおり、青山が先に手を出して返り討ちに遭ったというのは全てクロの偽装工作なのだろうか?いや、考えろ。まだ何かあるはずだ。クロに繋がる手掛かりが・・・!

 

 

 

 

 

 

【裁判中断】

 

 

「いやあ、白熱してきたなぁ!」

 

 

「でも、今のところはクロが一歩リード、といった感じだな!」

 

 

「でも、それで終わるようなら」

 

 

「希望ヶ峰学園ってのも落ちたもんだ!」

 

 

「ま、双方せいぜい頑張って俺に極上の絶望を見せて欲しいもんだぜ!ぐぷぷ・・・!!」

 

                 ・

                 ・

                 ・

 

 

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級のサッカー選手   二木駆(フタキカケル)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の画家       美上三香子(ミカミミカコ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り15人

 




遂に始まりました、学級裁判!!様々な推理と情報が飛び交う頭脳戦が展開されていますね!さあ、勝つのはどっちなのか・・・!どうなっていってしまうのか!?次回、波乱の裁判後半です!!


さて、今回の設定裏話ですが、今回は涼風さんです!
涼風さんもスポーツ枠ですね!しかもどちらかと言えばアホの子なタイプです笑。
あと、ちなみになんですが、捜査パートで彼女と何人かが登場しなかったと思うのですが、実は彼女は死体を見たショックで体調を崩してしまい、保健室に担ぎ込まれていました。そして彼女の他に出てこなかったアンリと太宰が保健室で彼女の面倒を見ていました。ってのが実は今回の裏話です!
彼女の名前なのですが、長距離ランナーということで、風のように走る、というイメージで「涼風」という苗字を付けました。名前の方は、大学駅伝で強いチームのイメージカラーに紫って多いなっていう勝手なイメージからです。
彼女は今回は上手いこと活躍できませんでしたが、これから彼女の強さが出てきますので、楽しみにしていてください!!


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CHAPTER1 学級裁判 後半

【裁判再開】

 

 本当に他に青山が殺人を計画したという証拠は存在しないのか・・・?

 

「いや、あるはずだ。青山があの日最初に殺人を計画した人間である証拠・・・!」

「本当かい?」

「ああ、きっと。」

 

 

議論開始

 

 

「本当に他に証拠があるのかい?」

 

 

「一体どんな証拠だ?」

 

 

「『他のメモ』があったんじゃない?」

 

 

「いや、『誰かが見てたんだ』!」

 

 

「それなら、」

 

 

「見てた奴が言い出すんじゃねーか?」

 

 

「だったら、『殺しに使った道具』があったのではないですか?」

 

確か現場に確か残っていたものがあったはずだ・・・!!

 

 

【ペットボトル)→『殺しに使った道具』

 

「それに賛成だ!!」

 

 

「何かあったんですか?」

「ああ。これを見てくれ。」

「なんだよ、これ?ゴミにしか見えねーぞ?」

「これはペットボトルだよ。加工されてるけど。」

「で、こいつがなんなんだよ?」

「これはね、現場のゴミ箱に入ってたんだよ。で、一緒に入ってたのが、」

そう、一緒に入ってたのは・・・

 

 

証拠提出

【タオルの切れ端)

 

「これは?」

「ちょっと汚れてボロボロになってるけど、タオルの切れ端だよ。」

 

 

「株が下がる予感がするね。」

 

 

「アンリ?」

「ごめんね、水島君。どうしても君たちが提示してくれたものはただ偶然そこに捨てられていたゴミにしか見えないんだ。」

 

 

 

 

反論ショーダウン開始

 

 

「今のところ」

 

 

「君たちが見せてくれた証拠は」

 

 

「底とフタのないペットボトルに」

 

 

「ボロボロの汚れたタオルの切れ端だね。」

 

 

「これがどうしても事件に関係してるとは思えないんだ。」

 

 

-発展-

 

「表面的にだけ物事を見てもダメだ。」

 

「これらのものを組み合わせたら」

 

「何ができるかを考えなければ答えは出ないぞ。」

 

 

 

「組み合わせるも何も」

 

 

「申し訳ないが私はDIYには疎い。」

 

 

「どうしても私には」

 

 

「それらに【使い道はない】としか思えない。」

 

 

 

【サイレンサー)→【使い道はない】

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

 

「いや、使い道はあるんだ。サイレンサーだよ。」

「サイレンサー?あのピストルにつけて音を小さくする道具かい?」

「ああ、そうだ。これらを組み合わせることによって即席のサイレンサーを作ることがあるんだよ。」

「ああ、俺もサバゲーの時に作ったことあるぜ!」

「なるほど・・・。これは私の知識不足だ。申し訳ない。」

「ですが、やはりこれが青山さんと関係するとは思えませんが・・・。」

「実はこのサイレンサーの部品を準備した跡が青山の部屋にあったんだ。」

 

そうその跡は・・・

 

証拠提出

【バスタオル)

そして

【ペットボトルの一部)

 

「これだ!」

 

「これらが青山の部屋にあった。このペットボトルの一部はペットボトルのフタと底。現場にあったものから無くなっていた部分だ。バスタオルも畳まれていたのを開いてみたら一部が切り取られていた。更にはこれらの加工に使ったと思われる裁ち鋏も部屋に放置されていたんだ。」

「その裁ち鋏ってアタシのじゃねーか!!何してくれてんだアイツ!!」

「どういうことだい?」

「昨日急に鋏を探してるとか言うもんだからよ、アタシも他に思い浮かばなくて裁ち鋏を貸しちまったんだ。まさかペットボトル切るなんて知ってたら貸さなかったぞ。どうしてくれんだ、使い物になんないじゃないかぁ・・・!」

「まあまあ、落ち着けって。愚痴はいくらでも聞くからよ!」

「薬師ぃ・・・!」

 

「でもそれってほんとに青山のやつか?だって、誰かが偽装工作のために持ち込んだモノって可能性も否定できないじゃん?」

「その可能性は低いと思うのだけれど・・・。」

「いや、でも議論しておく価値はあるよ。命が掛かってるんだ。徹底的に考えて損はない。」

 

 

 

議論開始

 

「誰かが隠れて持ち込んだ可能性か・・・。」

 

 

「つってもいつ持ち込むんだ?」

 

 

「部屋が開いてたのは【捜査中】だよね。」

 

 

「でも人が【そこそこ出入りしてた】気もするけどなぁ。」

 

 

「結構廊下にも」

 

 

「人がいたよな」

 

 

「そもそもホントに偽装工作なのか?」

 

 

「やっぱり青山君が」

 

 

「持ちこんだんじゃないかしら?」

 

 

「でもよー、」

 

 

「【目撃証言がねー】んじゃ」

 

 

「どうにもなんねーよなあ。」

 

いや、アイツは確か・・・!

 

【有浜の証言)→【目撃証言がねー】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「いや、だって誰も持ち込んでるとことか見てねーんだろ?」

 

「確かに青山の部屋にペットボトルを持ち込んだ奴を見た奴はいない。でも、持ち込んだ可能性の高い奴なら見てる奴を知ってる。」

 

「ほんとー?」

 

「ああ。そうだよな、有浜?」

 

「!ええ。確かに私は昨日見ているわ。ラウンジにペットボトルを取りに来た青山君の姿を。」

 

「ほんとか!?」

 

「こんなとこで嘘を吐いてもしょうがないじゃない。」

 

「それに、他にも青山が殺人の計画を立てていた可能性があることを知っている奴がいる。」

 

「!!」

 

そう。それを示す証拠は・・・

 

証拠提出

【美上の証言)

 

「これだ!」

 

 

「美上は言ってたよな?青山がランドリーで『ここなら』って独り言を言ってたって。」

「確かに言ったわ。」

「その発言は今になって考えてみたら、青山君が殺人に適した場所を見つけたときの反応とも取れるね。」

「ここまで来たら役満だな。青山は殺人の計画を立てて実行にまで移したが、返り討ちにあった。そういうことだろう。」

 

 

 

 

「よし、じゃあ、これでやっと犯人捜しができるな!」

「その言い方もどうなのよ・・・?」

「やはりまずはアリバイのある人からでしょうか?」

「夜時間中にそんなん持ってる奴いるか?」

「・・・。」

「ほらな?」

「でも犯人像を絞り込んでった方が良いと思うよ?」

「じゃあ今度はそれだな!」

 

 

議論開始

 

「犯人像か・・・。」

 

 

「とは言っても【絞りようがない】よなー。」

 

 

「いや、薬師は省いて良いんじゃないか?」

 

 

「殺人に使われたものと」

 

 

「薬師君の【弾はちがう】ものね。」

 

 

「それでもまだ」

 

 

「候補者は【14人】もいるんだよなあ。」

 

 

「これもしかして失敗か・・・?」

 

いや、一つだけ暫定で削れるものがあるはずだ・・・!

 

【甘寺のメモ)→【絞りようがない】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「またそのメモか。」

「結局、持ってた武器の違いになってくるよねー。」

「やっぱピストルを持ってる奴からクロを見つけることになっちゃうかー。」

「だが、そこからの絞りようがもう無いな!!」

「どうやって絞る・・・?」

 

・・・

「いや、ちょっと待て。」

「?」

「そもそも現場にあったピストルは誰のものだ?サイレンサーを作って誰かを殺そうとした奴のものじゃないのか?」

「それってつまり・・・!」

「青山のものじゃないのか?」

「ってことは凶器がピストルだからと言って・・・」

「ナイフを持っている奴らの疑いが晴れたわけではないな。」

「だぁーーーっ!!!振り出しじゃねえかぁーー!!どうすんだよ!!?」

「もうこれ以上絞れる要素はないよ?」

 

 

議論開始

 

 

「結局犯人捜しは」

 

 

「【振り出し】じゃねえか!!!」

 

 

「しかも手札を一つ切った上でだから」

 

 

「余計にきびしいね・・・。」

 

 

「【アリバイもダメ】!!」

 

 

「【武器もダメ】!!」

 

 

「これ以上クロを絞る要素は」

 

 

「【残ってねーじゃねーか】!!!」

 

いや、まだあれが残ってた!しかも武器以上に犯人を絞れる奴が!!!

 

【足跡)→【残ってねーじゃねーか】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「いや、まだあった!クロを絞るための要素!!!」

「は?一体何だって・・・」

「足跡だよ!」

「廊下の絨毯に残ってた血でできた奴だね。」

「確かあれに関して有浜が詳しく調べていたはずだ。足跡の種類にサイズ!」

「それがあれば絞れるね!」

「で、それはどんな情報だい?」

「そうね、足跡はスニーカーのものだったわ。そしてサイズは26.5~27.5cm。一般的な男性の足のサイズね。」

「そんでそれが当てはまんのは?」

「まずは俺だ。」

「おれもだな!」

「俺もだ!」

「あとは、僕もだね。」

「まとめるとー、水島君、二木君、薬師君、太宰君だねー。」

「一気に4人まで減ったな!」

「後は他にどう絞る・・・?」

「恐らくクロ以外は部屋にいたのだろうが、それを証明するのは至難の業だな!」

「そうだよなー・・・。」

「誰か部屋で聞いてたりしないの?」

「いや、無理だ。」

「どうしてさ?」

「部屋からは音が聞こえない。」

 

それはあれが証明してる。

 

証拠提出

【実験)

 

「これだ!」

 

 

「捜査の時間中に寄宿舎のどこからなら音が聞こえたのか実験したんだ。」

「それでー、寄宿舎の共有スペースとー、廊下からは音が聞こえたんだよねー。」

「でも個人の部屋からは音が聞こえなかった。一番ランドリーに近い俺の部屋から実験したけど聞こえなかったんだ。どこの部屋からも聞こえなかっただろう。」

「それは俺も証人だぞ!!!」

「つまり、音を聞いていないと嘘をついてしまえば誰にも分からないし、そしてそれを嘘だと証明する手段もないってことだね。」

「・・・。」

「・・・・・・。」

法廷に流れる沈黙。

「あれ、これって本当に詰んでね・・・?」

「これ以上推理しようがありませんね。」

「こうなると、あのメモが破られてたのって痛いよなー。」

「確かに二木の言うとおりだな。」

「犯人の名前がわかんないんだもんね。」

「ん・・・?」

「もう当てずっぽうで良いんじゃねーか?4分の1,分の悪い賭けじゃねーとオレは思うぜ?」

「そんなギャンブルは嫌よ。」

 

今のはどういうことだ・・・?

 

「いや、分かった・・・!」

「は?」

「今のちょっとした会話で犯人が分かったんだ・・・!」

「ホントか!?」

 

そう、今の会話で分かった。犯人は・・・!

 

指名しろ!

【フタキカケル】

 

「お前で決まりだ!」

 

 

「は・・・?おれ・・・?」

「何言ってんだ!?どうして二木が!!?」

「説明するよ。」

 

一呼吸置く。

 

「さっきメモの話をしたよな?そのメモには宛名がなかったことも。」

「ああ。」

「でも正確に言うと青山は宛名を書いていたんだ。」

「ええ!?」

「でもクロが破って置いていった。メモを置いていった目的は分からないけど、混乱してたんじゃないかな。メモは青山の死体の胸ポケットに入っていたのを久見が検死の時に見つけたんだ。ちょうどそれを持っているのを俺が見かけたから久見は俺に宛名のないことを破れていることをぼかして伝えて欲しいと言ったんだ。」

 

少しくらい脚色しても良いだろう。重要なのはそこじゃない。

 

「それって・・・?」

「メモの宛名の部分が破られていたことはメモを見つけた久見とその久見に教えられた俺、そしてそもそものメモを破った犯人しか知らないんだ。」

「それなのに二木は知ってた・・・。だから犯人は・・・。」

全員の目が二木に向いたその瞬間。

 

 

「ふざけんなよ!!!たったそれだけのことで!!?おれが犯人だって!!!?考えてみろよ!!!ここまでのは全部水島の妄想じゃんかよ!!!」

二木は決壊した。

「妄想じゃない!推理だ!」

「それにー、僕は水島君以外に他の人に教えてないしねー。」

「おい、二木テメー、どういうことだコラァ!!!」

「ほんとに違うんだって!!」

「じゃあ説明してみろや!!!」

「だから・・・!あっ!そうだ、そうだよ!勘違いしてたんだよ!」

「あ?」

「宛名がないってのがホントはあったのがなくなってたって意味だと思ったんだよ!勘違いだったんだ!だからおれは犯人じゃないんだって!!」

「今更かよ・・・!」

「だから!!!これは不幸な偶然だったんだ!!!!」

このままじゃ話を聞いてくれないか・・・!なら・・・!

 

 

パニックトークアクション開始

 

 

「偶然なんだ!」

 

 

「ふざけんな!!」

 

 

「おれはやってない!!!」

 

 

「これは妄想だ!!」

 

 

「蹴っ飛ばすぞ!!!」

 

 

「勘違いなんだって!!」

 

 

「頭イカれてんのか!?」

 

『おれが足跡を付けた証拠なんてどこにもないじゃんか!!!』

 

 

《ス》《二ー》《カ》《ー》

 

「これで終わりだ!!!」

 

 

 

「ッ!!!」

「お前、今日ここ3日間で履いてたスニーカーとと違うものを履いてるよな?お前は俺と話して洗いたくなったって言ってたけど、本当は違うんじゃないのか?」

「は・・・?」

「本当は、昨日現場で踏んだ血がスニーカーの目立つところにも付いてるのに気づいて履き替えたんじゃないのか?」

「な・・・にを・・・?」

 

その証拠もあるはずだ。犯人が現場で血を踏んだという証拠が。

 

証拠提出

【血溜まり)

 

「これだ!」

 

 

「そしてこれも見てほしい。これは現場に残されていた血溜まりだ。青山が流したものだろう。この血溜まりには誰かが踏んだ跡が残ってた。現場保存の観点からも捜査中に踏んだものじゃない。そしてこの時踏んだ血が廊下の足跡として残ったんだ。だとしたらこれを踏んだのは昨晩のクロだし、そしてそれに該当するのはこれまでの推理からお前しかいないんだ。」

「な・・・!な・・・!!」

「もう、認めてくれ・・・!これ以上俺たちにお前を追い詰めさせないでくれ・・・!!」

 

だから、そのためにも・・・!事件の全容をまとめて終わりにするっ!!!

 

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級のサッカー選手   二木駆(フタキカケル)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の画家       美上三香子(ミカミミカコ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り15人

 




えー、ほんとは今回で第1章の学級裁判を終わらせるつもりだったのですが、思いの外議論が白熱してしまい終わりませんでした・・・orz。と言うことで次回第1章が完結致しますので、どうか、今しばしお待ちください・・・!!!

さて、今回の設定裏話ですが、山吹さんの話をしていこうと思います!
彼女は何度も説明が入っているとおり、若者に人気のバンドのドラムを務めています。彼女はその腕前の高さから、某Xな日本のバンドの超有名ドラマーの女性版だ、なんて呼ばれることもあるみたいです。性格はおおらかで姉御肌なのですがちょっとだけ適当なとこが有り、ファンに対する態度もちょっとだけ奔放なように見えるのですがその実、とてもファン想いので、「お姉様」や「姉御」と呼んで慕う人が後を絶ちません。ですが実はかわいいものが好きで寄宿舎の自室にはぬいぐるみをいくつか持ち込んでたりします。イメージと合わないから、と人には言っていないのですが、自宅からのSNS投稿の際に画面の端に漏れ出てるので実はファンにはバレてて、それも人気の一端なのだとか・・・。でも仲良くなりたいと思った人には結構積極的に行くらしいですよ・・・?
 名前の由来はとあるガールズバンドのゲームに登場するキャラクター達からです。ちょうど原作だと澪田が某軽音楽部のメンバーから一字ずつ拝借している感覚です。

さあ、犯人が分かって裁判もクライマックスです!次回も楽しみにしていただけると嬉しいです!


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CHAPTER1 学級裁判 閉廷

 ここまで証拠が揃っていても二木は一向に罪を認めることはない。もうやめてくれ・・・!俺たちはもうお前のことを追い詰めたくないんだ!!!だからもうこれで終わりにする・・・!

 

 

クライマックス再現

 

ACT1

「今回の殺人はクロが計画したものではなかった。実際は今回の被害者だった青山が計画したものだったんだ。」

 

「青山は殺人を決意し、今まで通りみんなで校舎内を探索している時間に殺人の舞台となる場所を探した。」

 

「そして青山が選んだ場所はランドリーだった。寄宿舎に近いから殺した後すぐに戻れるというのがあったのかもしれないが、その真意はもう知り得ない。」

 

 

ACT2

「そして殺人の舞台を選んだ青山はモノトラによって与えられたピストルを軸に殺人の準備を始めたんだ。」

 

「まず青山は寄宿舎のラウンジにペットボトルを取りに来た。その時有浜がラウンジにいたけど、一緒にいた期間が短い故か、有浜はその行動が異常であることに気づかなかったんだ。」

 

「続いて青山は山吹に裁ち鋏を借りた。それは殺人に使うとある道具を作るのに使うためだったんだ。」

 

「その殺人に使う道具というのはサイレンサーだった。本当は映画のようには行かないんだけど、ピストルの発砲音を抑えようと考えたんだろう。さっき持ち出したペットボトルと部屋にあったバスタオルを加工してサイレンサーを作り上げたんだ。」

 

 

ACT3

「こうして道具の準備を終えた青山は今度は殺人のターゲットを呼び出すための手紙を用意したんだ。」

 

「私物の紙を使うとそれだけでバレてしまうから、青山は全部の個室に備付けてあるメモパッドを一枚破ってそれに手紙を書いてそれをターゲットの部屋に差し入れた。」

 

「このターゲットとして選ばれてしまった人物こそが今回の事件のクロとなった人物だった。」

 

「こうして全ての準備を整えた青山はメモで呼び出した時間に合わせてピストルにサイレンサーを装着した状態でランドリーへと向かっていった。そしてクロが入ってくるのを待ち伏せしたんだ。」

 

 

ACT4

「午後10時50分、その時はやってきた。メモによって呼び出されたクロが青山の待つランドリーに現れたんだ。」

 

「青山の行動は早かった。騙されてランドリーにやってきたクロに対してすぐに発砲したんだ。発砲された弾丸は3発。でもそれがクロのことを捉えることはなかった。」

 

「高い身体能力を持ったクロは瞬時に避けて青山に接近した。そして青山がピストルを持っていた手首を攻撃し、落としたピストルを奪ったんだ。だからこそ青山の手首にはケガをした跡があったんだろう。」

 

「こうしてターゲットにしたはずのクロにピストルを奪われた青山は殺されかけたことによって咄嗟に引き金を引いたクロによって背中に3発の弾丸を受けて死んでしまったんだ。」

 

 

ACT5

「一連の事件が全て終わった後で自分のやったことの重大さに気づいたクロは現場に証拠を残したくないと考えた。」

 

「そこでクロはまずピストルについていたサイレンサーを分解した。そして分解したそれらをゴミ箱に処分したんだ。」

 

「続いてクロは青山から受け取ったメモをどう処分しようか悩んでしまった。ホントだったら自分の部屋で隠れて処分した方がよかったんだけど混乱していたクロは冷静じゃなかった。」

 

「メモに宛先として自分の名前があることに気づいたクロはその宛先の部分をちぎった。そして何を思ったか、青山のスーツの胸ポケットに隠して逃げ出したんだ。」

 

「そしてこの逃げ出すときに青山の血を踏んでしまったんだ。」

 

 

ACT6

「こんな中でもクロが幸運だった点がある。それは直接部屋に戻らなかったことだ。直接部屋に戻っていたら自分の部屋まで足跡が続いてすぐにバレてしまっただろう。」

 

「共有スペースのホールまで足跡が続いていたことを考えるとクロは喉が渇いてしまったのだろう。廊下を歩いて行く途中で自分の足跡に気づいたクロは廊下に敷いてある絨毯にこすりつけることで靴底についた血を拭き取ったんだ。」

 

「しかし、今日の朝、クロにとって予想外のことが起こった。昨日の夜は暗かったことでそして焦っていたことで気づかなかったが、履いていた靴の目立つところにも血がはねてしまっていたんだ。」

 

「これでは自分が青山を殺したことがバレてしまうと思ったクロは気づいたんだ。昨日俺と靴の手入れの話をしていたことに。そしてそのことを口実に靴を洗ったことにしようと考え、クロは靴を履き替えて俺たちの前に現れたんだ。」

 

 

 

「そしてここまでの一連の犯行を行うことができたのは、」

 

 

「二木駆、お前だけだ!!!!」

 

「あ、ああ・・・!」

「反論はないんだな・・・。」

「沈黙は肯定と取るよ。」

 

 

「・・・。そうだ。おれが、殺した・・・。」

「なんでそんなことをっ・・・!!」

「水島が言ったとおりだよ・・・。仕方なかったんだ・・・。殺されかけて!!パニックで!!!無我夢中で!!!!気づいたら、目の前に血まみれの青山が倒れてた・・・。」

「くそっ・・・!!」

 

 

「おい、その辺の話は後で良いだろ?」

 

 

今まで沈黙を保っていたソイツが口を開いた。

 

「モノトラ・・・!」

「取りあえず、投票しろよ!そうしねえと、裁判は終わらねえぜ?」

「ああ、さっさと終わらせてくれ・・・。」

 

 

 

投票結果→フタキカケル

 

 

 

【学級裁判閉廷】

 

「ぐぷぷ・・・!大!正!かーい!!!超高校級のテーラー・青山蓬生を殺したのは、超高校級のサッカー選手・二木駆だ!!!」

 

「・・・。」

「おい二木・・・。なんとか言えよ・・・!どんな気分だよ!!仲間を殺して!!!そんでそれが全部バレた気分はよぉ!!!!」

「落ち着けって、九鬼!」

「最悪だよ・・・。最悪に決まってんじゃん・・・!だって、ずっと思ってたんだ・・・。こんなことになっちゃったけど、それでもおれたちはみんな、仲良くできるって・・・。いつか全員で協力して、こんな学園を抜け出すことができるって!!!なのに!!!訳分かんねえよ!!!!!仲間に殺されかけて!!!気づいたらその仲間が血まみれで死んでたんだ!!!」

心の内を吐き出す二木。もしかしたら心のどこかでは思っていたのかも知れない。昨晩起きたことは夢なんじゃないかって。青山を殺したのは自分じゃないんじゃないかって。でもその希望もモノトラの宣言によって打ち砕かれた。

 

「んだよそれ・・・!」

九鬼も言葉が出ない。

 

「それじゃあ始めるとするか。」

「え・・・?」

「え?じゃねえよ。分かってんだろ?正しいクロを指摘したんだ。待ってることはただ一つ。クロのおしおきだよ・・・。」

「そんな、嫌だ!おれはまだ死にたくない!!嫌だァァァァァァァァ!!!!!!」

「それじゃあ超高校級のサッカー選手・二木駆のスペシャルなおしおきを開始するぜ!!!!!」

 

床から生えてきたボタンをモノトラが押すと、そのボタンについているモニターに文字列が現れた。

 

 

 

フタキくんがクロにきまりました。

おしおきをかいしします。

 

 

 

 

嫌がる二木君の首に鎖のついた首輪がどこからともなく現れ、彼を逃がさないように捕らえる。そして鎖がどこからか引っ張られ、高速で彼の姿が見えなくなっていく。

 

そうして引きずられた彼はバットのような棒にくくりつけられた。

 

 

超高校級のサッカー選手 二木駆のおしおき

 

《高次元PK対決》

 

 

二木が連れて行かれたのはサッカーのフィールド。場面はPK。選手は全てモノトラ。彼のくくりつけられた棒はそのキーパーの足下に投げられた。

 

キッカーの足下には大量のサッカーボールが転がっている。

 

すると画面のしたに文字が流れる。

 

“ホームランセービング”

 

その文字を見た瞬間、俺たちはみんなこれから起こることを予見し、喉をゴクリと鳴らした。

 

キッカーが強烈なボールを蹴り込む。キーパーはそのボールをセーブする。手に持った棒をフルスイングして。

 

外したキッカーは足下の無数のボールをキーパーに蹴り込んでいく。そしてそのボールの全てをキーパーは打ち返してく。すべてジャストミート。棒の芯を食ってサッカーボールはどこかへ飛んでいく。完璧なホームランだ。そして、

 

その芯の場所にはちょうど二木の顔があった。

 

次々蹴り込まれる強烈なボール。そしてその全てをホームランにする、痛烈な鋭い打撃。その両方のインパクトをすべて受け続ける彼の顔は、体は無事なはずがなかった。

 

永遠にも思われたそのPK対決は唐突に終わりを迎えた。最後に1球を完璧にはじき返されたキッカーは仰向けに倒れ、完璧にホームランを打って見せたキーパーは美しいフォロースルー、そしてバット投げを見せる。キーパーは清々しい表情をしている。そしてその後ろには長時間高威力のボールを受け続けた二木が見るも無惨な姿で棒にくくりつけられたまま転がっていた。

 

そしてその様子を俺たちは鉄格子の外でただ眺めていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「うわあああぁぁぁぁぁ!!」

 

最初に叫び声を上げたのは薬師だった。他のみんなも青ざめたり、吐きそうなのを必死に抑えたりしている。

 

「どうして・・・!!」

 

誰かが漏らす。二木駆。性格は軽かった。チャラかったと言っても良いかもしれない。女好きでこの数日間でも何人の女子に声をかけていたか分からない。でもサッカーに対してだけは誠実な奴だった。少なくともこんなサッカーまがいの何かで殺されていい奴ではなかった・・・!!!

 

悔しさしかない。どうして2人を止めてやれなかったのだろう。もし俺たちが止めることができていたら、こんなことにならずに済んだのに・・・!

その瞬間、モノトラが戻ってきた。

 

「エクストリーーーーム!!!!!いやあ、やっぱ爽快だぜ、おしおきってのはよお!!!」

「モノトラっ!!!」

「おっと、オレを責めるのはお門違いだ。あくまで殺したのは二木、それをオレは罰しただけだ。」

「そもそもお前が俺たちを閉じ込めなきゃこんなことにはならなかった!!!」

「ぐぷぷぷ・・・!お前が、ね・・・!」

「何を笑って・・・!」

「いや、次はどんな絶望を見せてくれるのか、楽しみなだけだぜ?じゃあオレはもう戻ることにするぜ!オマエラも早く帰って休めよ?」

「待てっ!!!!!」

言いたいことを言って奴は帰ってしまった。・・・クソっ!!!

 

誰も言葉にならない。悲しさ、悔しさ、空しさ、不安、恐怖。全員の心をそんな感情が支配していた。

 

「戻りましょ。」

 

最初に口を開いたのは有浜だった。

 

「こんなところでずっと悲しんでいても仕方ないもの。体も心も壊してそれこそ次のコロシアイの引き金になるわ。だから、もう悲しむのは一度ここで打ち切って、部屋に戻りましょ。そしてしっかり休んで、しっかり生きるの。それこそが彼らに対する一番の手向けになると思うわ。」

「そう、だよな・・・。」

「それに、青山君が覚悟を見せたのに私たちがくよくよしている訳にもいかないもんね。」

「どういうことだ?」

「だって、ただペットボトルを加工するだけなら自分の裁ち鋏を使えたはず。でも彼はそれをしなかった。それは裁ち鋏が自分の商売道具だからでしょ?青山君はきっとここを抜け出して、そしてその先でもテーラーを続けるつもりだった。殺した先でも行き続ける覚悟をしてた。そういうことでしょ?だもん、生き残った私たちが覚悟決めなきゃ、死んだ2人に顔向けできないよ。」

 

有浜と甘寺の言葉は自然と俺たちの胸にしみこんできた。そうだ。覚悟を決めろ。俺たちはもう2人死なせた。これ以上死なせるわけにはいかない。俺たちは死ぬ気で生きなきゃならないんだ。俺たちは各々がこの学園の中で生き抜く覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

「ぐぷぷぷぷ・・・!中々おもしれえことになってきたなぁ・・・。これからが楽しみだぜ・・・!さーて、次の“ピエロ”は誰にしてやろうかなぁ・・・?」

 

 

 

 

モノトラがその裏で絶望的な未来を思い描いて笑っているのも知らずに・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

CHAPTER1 絶望ピエロ  END

 

 

TO BE CONTINUED・・・

 

 

 

 

 

 

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の画家       美上三香子(ミカミミカコ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り14人

 




 さあ、第1章が終わりました!物語はここからどんどん突き進んでいきます。次はどこで、どんな事件が起こってしまうのでしょうか?
あと、少しだけ補足をしておきますと、今回のおしおきのモデルは分かる人には分かると思います。ですが、その後の水島君のセリフはそのモデルに対するものではなく、あくまでおしおきに対するものです。某モンスターを捕獲するゲームと並んで筆者にとっての少年期の思い出で、筆者自身はそのモデルにしたものは大好きです。逆に大好きだからモデルにした、と捉えていただければ幸いです。
ということで次回からは第2章が始まっていきます!乞うご期待!!


では、今回の設定裏話!今回は有浜さんです!
彼女はクール系女子がほしいな、と思って用意させていただきました。そして、冷静に是認に意見を告げてくれる、と言う役割を担います。彼女は女優故か、非常にポーカーフェイスで、どんなときでも自信家でクールな感じです。それは彼女自身の女優観のようなもので、彼女は役に入るためには自分本来の感情はできるだけそぎ落として役の感情が素直に入ってくるようにしておかなければならないと考えています。そのため、彼女はあの基本の状態から変わることがほとんど無いのです。もちろん、人間ですから、ゼロにはならないので蔭でたまに漏れることはあるみたいですが・・・。
名前の由来は筆者が好きな女優の方々の名前を一字ずつ頂戴しました。澪田パターンその2ですね!美人✕4という、その非凡さが分かるような名前にしております。
これからも彼女が冷静にみんなにヒントを与えてくれる、そんな存在になっていくと思うので、彼女のこれからの活躍に期待していただければと思います!


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CHAPTER2 My Friend Is Tied Up
CHAPTER2 (非)日常編1


 ・・・夢の中だ。闇の中から何か聞こえてくる。

 

 

 

「どうい・・・・・・・・・!?だって、確かに・・・・・・・・・・・・・・・・・・のに・・・」

 

 

 

なんだろう、よく聞こえない。

 

 

 

「非常に・・・・・・です。・・・・・・があ・・・。・・・・・・が・・・・・・・・・なんて・・・。」

 

 

 

何を言っているんだ・・・?分からない・・・。意識が浮上する・・・。

 

 

 

目が覚める・・・。

 

 

 

 

CHAPTER2 My Friend Is Tied Up (非)日常編

 

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「おはようございます。7時になりました。今日も一日元気に頑張りましょう。」

 

・・・。なんだ・・・、今の夢・・・?訳が分からない・・・。

タダでさえ昨日のことで、気分が重いっていうのに・・・。でもここでボーッとしていてもキリが無い。食堂で朝食を摂ろう。腹が満たされれば元気も出るだろう・・・。

 

 

 

食堂に行くといつものメンバーが食事の準備をしていた。だが今日はそこに山吹もいた。

 

「よ!水島。大丈夫か?ひどい顔してるぞ?」

「ああ、大丈夫だ。山吹こそ今日は早いじゃないか。」

「何となく目が覚めてな。今日はアタシが準備してるんだ。」

「そうなのか。」

「楽しみにしとけよ?今日はすごいぞ?」

「朝飯でそんなに気張らなくても・・・。」

 

そうこうしているうちに残りのメンバーが食堂に集まってくる。

 

「よーし、朝飯だよー!」

「今日は山吹が作ったのか?」

「そうだが?」

「これを全部か!?」

 

みんなが驚くのも無理はない。

そこに出てきたのは海鮮の満漢全席だからだ。

 

「巴ちゃん、すごーい!!」

「オレも魚は料理するけどこんなにはできねーな・・・!」

「ああ、アタシは生まれが港町でな、うちの親はその近くの魚市場で魚を売ってたんだ。余った魚介はよーく夕飯とかに出てきてさ、気付いたらアタシも魚介の料理ができるようになってた。」

「なるほどなー。」

 

朝飯にしてはものすごい量だったが、山吹の料理のおいしさに全員の箸は止まらず、結局みんなで完食してしまった。

 

みんなが満腹で満足して、心穏やかに過ごしていたところに、ソイツは姿を現した。

 

「よお!オマエラ元気そうだな!!何よりだぜ!!!」

 

思ってもないクセに・・・。

 

「で、何の用だ?俺たちに用があって来たんだろう?」

「つれねーなー。せっかちな男はモテねえぜ?」

「どうでもいい。早く話せ。」

「はあ。仕方ねーなー。新しいエリアを開放したぜ!!」

「新しいエリア?」

「ああ!ほら、オマエラも真剣に調べ回ってた校舎によ、鉄格子で入れなくなってた階段があったろ?あれを開けてやったぜ!!調べるなりなんなり、好きにすると良いぜ!!!」

 

それだけ言うとモノトラはいなくなってしまった。

 

「ったく・・・。せっかくうまい飯で良い気分だったのにアイツのせいで台無しだぜ。」

「でも、上が開放されたって言ってたし、ちょっと探索してみない?」

「そうしましょ。出口が見つかるかも知れないし。」

 

こうして美上の提案に乗った俺たちは全員で2階の探索をすることになった。

 

 

 

 

 

「今回はそれぞれに探索しよっか。」

 

2階に着くなり、甘寺はこう提案した。

 

「大丈夫かな?昨日あんなことがあったばかりなのに。私は反対だな。」

 

アンリの提案はもっともだ。昨日、青山が死体で見つかって、その犯人が二木だった。更にはその二木もモノトラによって処刑されてしまった。それぞれが単独行動をすれば死人が出る可能性がある。

 

「でも、ずっとそうやって疑ったままだとコロシアイは終わらないと思うよー?」

「・・・。」

 

確かに、久見の言うことももっともなのだ。昨日の件を経て俺たちはみんなここで生き抜くことを誓った。であれば、疑いあうことは避けるべきだ。その疑念こそが次のコロシアイのきっかけにもなり得るのだから。

アンリは少し考えると、

 

「その通りだ、晴香。私たちはもうコロシアイをしないと決めた。であればコロシアイを疑うようなことはするべきではなかったね。申し訳なかった。であれば、個人で探索を進めよう。と言っても2階には探索する場所もそう多くはない。その場に集まった人間同士は協力し合おうじゃないか。」

 

アンリもバラバラに探索することに納得してくれたようだ。こうして俺たちはバラバラに、でも協力し合いながら探索をすることになった。

 

 

 

 

さて、どこから探索しようか。最もこの階段に近いのは階段すぐ横の通路を入ったところにあるプールだ。どうやらちょうど体育館の2階になっているらしい。もしかしたら既に誰かがもういるかも知れないが、探索に入ってみよう。

 

「うおああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

誰かの悲鳴が聞こえた後、その直後にバッシャーンと大きな水音が聞こえてきた。

 

「どうしたんだ!?」

 

慌てて扉に入っていくとそこにはプールの中で必死にもがく薬師の姿があった。

 

「お前、何してんだ・・・?遊んでる場合じゃないだろう。」

「遊んでねえよ!!!てか見てねえで早く助けてくれ!!!」

 

仕方ない。そう思って引き上げてやると、薬師は助かった、と俺に礼を言った後すぐに文句を言う態勢に入った。。

 

「おい、涼風、急に何してくれんだ!!死ぬかと思ったじゃねえか!!」

「アハハ、ごめんごめん。もしかしたらプールの底に出口があるかもって思ってさ。」

「だったら自分で潜れ!!!俺で試すな!!!!」

 

どうやら涼風が突き落としたらしい。

 

「えー、だって濡れるの嫌じゃん。」

「俺もやだわ!!!」

 

とコントのようなやり取りをしている2人。その騒がしさに引き寄せられて美上と山吹もやってきた。

 

「コラー!!喧嘩はやめなさい!!!一体何があったの!?」

「アンタら何だか楽しそうじゃん!アタシも混ぜてくれよ!」

 

2人に俺が事情を説明する。

 

「もう、まったく!紫ちゃん、服を着たまま水に落ちるのって思いの外危険なんだよ!不意打ちで突き落とすなんてやっちゃダメじゃない!!」

「はい・・・。もうじまぜん・・・。」

 

その後、涼風は美上にベショベショに泣くほどコッテリと絞られていた。その様子を見て少し溜飲が下がったのか、薬師は探索を再開した。

 

「さて、とは言っても出口っぽいものは無さそうだな。」

「あー、確かになー。強いて言うならホントにプールの底なのか?」

「と言っても潜るわけにもいかないだろ。現にさっきのお前を見ても。」

「だよなー。どっかで水抜いて探索してみるかー。」

「それは報告で提案してみよう。」

「だな!」

 

ここにあったのはプールとそれに併設された更衣室。女子の方は分からないが、少なくとも男子の方に出口がないことを考えると女子の方も同じと考える方が妥当だろう。

 

「あの奥の扉は?」

 

掃除用具などを入れておくためのロッカーのそばにもう一つ扉があった。

 

「ああ、それは下の体育館に繋がってんだ。さっき1回調べたから分かってるぞ!」

「なるほど。」

 

どうやらあちらの扉を出るとすぐに階段があり、そこを降りていくと体育館に行けるようだ。

やはり出口に繋がりそうなものは特には無さそうだ。プールはこんなもんだろうか。

 

「よし、じゃあ次んとこ行くか!」

 

どうやら薬師も同じことを考えていたらしく、プールの外に出る。外出でてすぐ。

 

「痛ってえぇぇーーーー!!!!」

 

悲鳴が聞こえた先を見ると、九鬼が足を押さえてうずくまっていた。

 

「何してんだ?」

「足ぶつけたんだよ!見りゃ分かんだろ!?なんでこんなとこに消火器が置いてあんだよ!!!」

「あ。」

 

薬師がそう言えば、という顔をする。

 

「そこのビート板の棚の裏を見るっつって涼風がそれよけてたな。アイツあのまま戻し忘れたな?」

「涼風だな・・・?」

「あ・・・。」

「アイツ1回説教してやる!危なくてしゃあねえ!!!」

 

ものすごい剣幕で九鬼がプールに入っていく。哀れ、涼風。自業自得とはいえきっと九鬼にもひどく説教されるだろうし、事情を聞いた美上から再びこっぴどく説教されるだろう。

案の定、直後に大泣きで謝る涼風の声がプール付近に響き渡った。

 

とは言ってもこの階には後は2つの教室と大きな図書室くらいしか無さそうだ。2つの教室はそれぞれアンリ、畔田、比嘉、甘寺の4人が探索しに行っていったし、図書室を捜索したら一度食堂に戻ることにしよう。

 

 

 

 

図書室に入ると、思いの外ほこりっぽかった。

 

「うわ、なんだこれ!ほこりっぽ!!!掃除してねえのかよ!」

 

入ってすぐに薬師が文句を言う。

 

「まさかお前と気が合うとはな。同感だ。こんなところにいたら体を壊す。」

 

玉城が本気で嫌そうな顔をして図書室から出てくる。そして、

 

「もう食堂に戻る。後は任せた。」

「あ、おい!」

 

ホントに自由な奴だ。

 

「あの野郎、ほんとにナメてやがんな・・・。」

 

薬師も隣で呆れた顔をしている。と言っても放置しておく訳にもいかないので俺たちも中に入って調査を開始した。

入ってすぐのところで本を読んでいる奴がいた。有浜だった。

 

「お前は何を・・・?」

「見れば分かるでしょ?読書よ。」

「いや、今じゃねーだろ。探索しろよ。」

「あら、一通りしたわ。でもたいしたものが見つからなかっただけ。」

「だからって本を読んでなくても・・・。」

「良いじゃない。他のみんなにも許可は取ってるわ。」

 

多分、諦めてるのだろう。コイツは玉城ほどとは行かなくとも自由な奴だ。言うことは聞くまい。

 

「じゃ、調査開始だな!」

 

薬師も諦めたらしく、図書室の調査を開始することにした。

 

「やあ。2人もこっちの探索かい?」

「ああ。」

 

そんな俺たちに太宰が話しかけてくる。

 

「何か見つかったか?」

「いや、特には。強いて言うなら蔵書の幅がかなり広いことくらいかな。小説や新書、図鑑とかかなり色んなジャンルのものが置いてあるよ。それぞれにもまた色んな種類のものが置いてあって、例えば小説なら恋愛ものやヒューマンドラマ、ミステリーなんかも置いてあるね。」

「ほんとか!?」

「うわっ!びっくりしたなあ。どうしたんだい?」

「ああ、すまん。ミステリーと聞いて思わず。」

「水島君が本好きなのは知ってたけど、特にミステリーが好きなのかい?」

「ああ。名作といわれるものは全部読んでるし、今でも大概のものは網羅してる。」

「なるほど。だからこその昨日の推理力な訳だ。納得したよ。だったら君にとってもかなり有用な空間だね。」

「そうだな。気にかけて足を運ぶことにしてみるよ。」

 

取りあえず、図書館の中は調べたな。後はあの奥の扉か。

 

「太宰、あの奥はなんだ?」

「ああ、あそこは書庫のようだ。久見さんが調べてくれてるから話を聞いてみると良いよ。」

「そうか、助かる。」

 

続いてそこに向かうと、久見が目をキラキラさせてこっちを見てきた。

 

「あー!水島君!あとついでに薬師君!」

「俺はついでかよ。」

「いーのいーの!とりあえずこれ見てよー!」

「良いかどうかは俺が決めんだぞ?」

「で、なんだそのファイル?」

「未解決事件ファイル!盗みや強盗、果てには殺人まで、世界中のたくさんの未解決事件が写真と一緒にファイリングされてるのー!」

「うへー、なんでんなもん喜んで見てんだよ・・・。」

「話のネタになるじゃん!!推理モノとか描くときにすごく参考になるよー。ちなみに僕の一推しの事件はこれかなー。『殺人鬼落ち武者』!」

「なんじゃそのオカルティックな殺人鬼は・・・。」

「えっとね、被害者の首を日本刀のようなもので一撃でバッサリ切り落とす殺人鬼だよー。でね、被害者の首はいつまで経っても見つからないのー。そのことから事件の当初は付近を彷徨う落ち武者の亡霊が被害者を殺して首級を挙げているんじゃ、なんて言われて、それが“落ち武者”の由来。さすがに警察も幽霊の仕業です、って訳にはいかないからー、こうやって名前をつけて捜査してるんだってー。でもー、未だに犯人に繋がる情報は挙がってこないらしいよー?写真、見るー?」

「いや、遠慮しておくよ・・・。」

「俺もだ・・・。首無し死体なんて見てらんねえ・・・。」

 

こうして久見が死体の写真を見せようとしてくるのを回避しながら捜査していると、ふと本棚に気になるファイルを見つけた。その表紙には希望ヶ峰学園の校章が入っている。

 

「これ、何だ?」

「何だろー。気付かなかったやー。」

「しっかりしてくれ・・・。」

「で、中身は?」

「希望ヶ峰学園再建計画、通称プロジェクトRって書いてあるな。」

「中も見てみようぜ!」

 

こうして中身を見てみると、世間にも知られている、超高校級の絶望による“コロシアイ学園生活”の詳しい顛末と、その後未来機関が介入して超高校級の絶望を倒すまでの流れ、そしてこれらの事件が収束した後、再び希望ヶ峰学園を再建し、再び希望の象徴とするための計画が書かれていた。そして、その中には非常に気になるものが残されていた。

 

 

『超高校級の絶望はその後釜として何人かの中学生を拉致し、“超中学級の絶望”として育て上げていた。我々は彼らの多くを捕らえ、再び普通の生活に戻れるようになるまでの更生プランを実行し、実際に更生させることに成功したが、捕らえる際、そのうちの何名かを取り逃がしてしまった。彼らが今どこで何をしているのかは定かではないが、その取り逃がした“超中学級の絶望”達の動向には注意せねばならない。』

 

 

「なんだ・・・これ・・・?」

「つまり今の希望ヶ峰学園が再建されるまでの流れみたいだねー。」

「いや、そっちじゃなくてこの文だよ。」

「うーん、分かんないやー。」

「それは俺もだけどさ。でも、今俺たちがコロシアイをさせられていることに何か関係があるように思えないか?」

「確かになー。この“超中学級の絶望”って奴らのうちの誰かが今回のこの“コロシアイ”の首謀者だって考えるのが妥当だよなー。」

 

といってもその首謀者に心当たりはない。全く情報が無い状態で考えても無駄なので俺たちは一度ここの調査を打ち切ることにした。

取りあえず、俺たちは食堂に戻ってみんなとの報告会を済ませた。しかし、今回も特段、出口に繋がるような情報はどこからも見つからなかった。

こうして2階の探索時間と体力を使った俺たちはその後特に何かをする気力が起こることもなく、1日を終えることになった。そして俺はチャイムが鳴るよりも早く眠りへ落ちていった。

 

 

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

 

「いやーアイツら一生懸命捜し物をしてたなー!でも大したものは見つかんなかった見てーだな、ぐぷぷぷ。」

 

 

「捜し物ってのは一生懸命探してるときには意外と見つかんねーもんさ。」

 

 

「でも、諦めて自分がそのことを忘れたくらいの時にポロッと出てくる。」

 

 

「そんで、なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろ、って自分のバカさ加減に絶望するのさ。」

 

 

「人生なんてそんなもんさ。だから焦らない、焦らないってな!!!」

 

                  ・

                  ・

                  ・

 

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の画家       美上三香子(ミカミミカコ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り14人

 




さあ、今回から2章が始まっていきます。そしてちょっとだけ気になる要素を入れてみました。一体この学園にはどんな秘密が眠っているのでしょうか?そしてこの「コロシアイ」の首謀者とは・・・!?と情報を小出ししてみたところで今回は以上です!次回をお楽しみに!!


さて、設定裏話のコーナー!今回はアンリさんです!!
彼女は毎回いるお金持ち・組織のトップ枠です!ということで彼女にはそんなカリスマ性を持った役割を期待しています。最初は男の子としてキャラづくりをしていったのですが、人数比を見て女の子になりました。名前がフランス語圏では男性名のアンリであるのはその名残です。ちなみにもう一人男女比の関係で女性になったキャラクターがいるのですが、それはそのキャラの時に。彼女は元々別にバカみたいに裕福な家庭の生まれではありませんでした。あくまで一般的な(?)社長令嬢でした。しかし、数年前、「人類史上最大最悪の絶望的事件」に巻き込まれ、彼女の両親が死んでしまい、若くして彼女は両親の会社を継ぐことに。すると彼女の経営の才能が開花し、その会社は数年でかの十神財閥に並ぶほどの企業になりました。そうして彼女は「超高校級の資産家」としてスカウトされることになりました。畔田は幼いころから彼女の世話係として仕えていたので、その頃からかなり長いこと一緒にいます。
彼女の名前はまず先ほども述べたとおり、元々は男性キャラとして考えていたため。そしてもう一つは女性にしようとなった際に、日本では女性名として扱われるので、変えなくてもちょうど良い、と考えたため、アンリという名前になっています苗字は良い感じに長い言葉無いかななんて思いながらYouTubeを見ていた際に偶然サメ映画を紹介する動画に出くわし、そこでビビッと来てしまった、という感じですね。なので意外と名前は直感的につけたものですが、それとは裏腹に彼女はこれからもそのカリスマ性でみんなを引っ張っていってくれるはずです!
ということで次回もお楽しみに!!


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CHAPTER2 (非)日常編2

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「おはようございます。7時になりました。今日も一日元気で頑張りましょう。」

 

…。昨日のあのファイルの内容が気になってよく眠れなかった。せっかく早々に眠りについたというのに結局夜中に何度か目が覚めてしまった。

 

食堂に向かっていくと、その途中で有浜にあった。有浜は倉庫にあった枕と枕カバーを持って寄宿舎の部屋に戻っていくところだった。

 

「どうしたんだ?」

「いえ、別に…。」

「何もない奴がもう一つ枕のセットを持ち歩くわけ無いだろ。」

「あなた、性格悪いと言われない?」

「特には。」

「それならあなたもっと自覚した方が良いわ。」

「そうか、気を付けるよ。で、どうしたんだ?」

「チッ、逃がしてくれないか。」

「舌打ちするな。人気女優の仮面が剥がれてるぞ。」

「失礼。どうせ逃がしてくれないのだろうし、話すわ。早く起きてしまったからラウンジから紅茶を持ち出してモーニングコーヒーならぬモーニングティーをしようと思ったは良いものの、手を滑らせて枕にこぼしてしまったの。そのままにしておくのも気持ち悪いから早々に交換しようとしていたわけ。」

「意外とうっかりしてるんだな。」

「うるさい。では私は一度部屋に戻るからいつも通り朝食の準備お願いね。」

「いや、早く起きたときくらい手伝えよ。」

「気が向いたらね。」

 

こうして有浜は部屋に戻ってしまった。やはりマイペースな奴だ。にしても意外と抜けてるんだな。意外な一面を見た。

 

食堂に入るといつも通りのメンバーが食事の準備をしていた。いつも通り食事の準備をして、いつも通りメンバーが集まり、いつも通り食事をして終わった。更に意外なことに今回は前回の事件から数えて2日目になるにもかかわらず、モノトラによる介入はなかった。

 

「そういえばさ、前にモノトラが動機を持ってきたのって2日目の朝じゃん?ある意味では今のメンバーになってからは今日で2日目だけど意外と今日は来ないんだね。」

 

俺と同じ疑問を持っていたらしい涼風が全員に聞いてみる。

 

「まだ準備ができてねーんじゃねーか?」

「まあ、何にせよ平和なのは良いことだよ。」

 

九鬼とアンリがそれぞれの意見を伝えてくる。それを聞いて確かに、と思いいつも通りの生活に戻っていった。

 

 

 

 朝食が終わった後、俺たちには暇な時間ができた。前回と違い2階にはそこまで探索する場所もなく、そしてその数少ない場所にも何か出口に繋がる手掛かりがあったわけではなかった。今日一日どうやって過ごしたものか考えていると、薬師が急に話を切り出した。

 

「なあ、今日ってみんなヒマだよな?」

「多分そうー。」

「ならさ、1回プールの水、抜いてみねえ?」

「「「は?」」」

 

薬師の提案に多くのメンバーの頭には疑問符が浮かんでいた。

 

「いやさ、昨日プールの調査をしたは良いものの、上んとこじゃ何も外への手掛かりはなかったってのは昨日みんなが報告してた通りじゃん?でもさ、まだプールの中までは調べてないと思ったんだよな。でさ、今日どうせみんな時間があるならさプールの水抜いて全員でプールの中に手掛かりがないか探してみねえか?」

 

薬師が発言の意図を説明する。これは俺たち2人で少し話していたことだった。少し急だとは思ったが善は急げだ。早めにやって置いて損はないだろう。

 

「確かに、ありかもしれませんね。」

 

最初に同意したのは畔田だった。

 

「確かに、私たちが意識しないようなところに出口があってもおかしくないもんね。」

「やってみる価値はありそうだね。」

 

次々と賛同の声が上がっていく。こうして俺たちはみんなでプールの中を調査してみることになった。

 

 

 

 

 希望ヶ峰学園のプールは非常に大きい。それは時には超高校級のスイマーなんかも入ってくるときがあるから、彼らが世界大会を意識した練習ができるように、という意図の下でそのような大きさになっているわけだが、今回ばかりはその気遣いが俺たちに仇為していると言っても過言ではなかった。いかんせん、時間が掛かるのだ。プールが大きければ大きいほどもちろんそこに入る水の量も多い。しかし、作った側があまり意識していなかったのか、排水溝は一般的な学校のプールの大きさとさして変わらなかった。結果、俺たちはプールの前で1時間待つハメになった。

 

「長えな。」

「貴様が言うな。」

 

愚痴る薬師に突っ込む玉城。最初こそあれだけ誰ともつるむ気が無さそうだった玉城も今では普通に俺たちと一緒に行動している。これは良い傾向なのだろう。

 

「でもホントに長いわね。これだったら図書室で本でも読んでいた方がまだ有意義だわ。今からでも行ってこようかしら。」

「まま、有浜さんももうちょっとだからさ!」

 

一方では勝手に出て行こうとする有浜を涼風が留めている。

 

「畔田、どうしてくれるんだい?君が同意したからみんな退屈しているじゃないか。」

「いや、理不尽だな。」

 

アンリは畔田に理不尽なことを言っていた。

 

「申し訳ございません、お嬢。私が薬師さんのアホな提案に乗ったばかりに…。責任は取らせていただきます。いつもので構いませんか?」

「おい待て、畔田!今アホっつったか!?」

「ああ、構わないよ。」

 

文句を言う薬師を無視して2人が話を進めていく。

 

「では、いつでも!!!」

 

畔田は両手を広げてアンリに背を向けた。

何する気だ?

 

「じゃあ、行くよ。」

 

するとアンリがぎゅっと畔田を後ろから抱きしめた。まさかの光景に女子の多くがきゃーっとなり、俺たち男子も驚きを隠せなかった。中々ロマンチックな責任の取り方だと思ったその瞬間。

 

「そおぉれっっ!!!」

 

アンリがかけ声をかけると畔田の巨体が宙に浮いた。アンリは海老反りになって後ろへと倒れてゆき、畔田は頭からタイルに打ち付けられた。まさかの光景に女子の多くがキャーッとなり、俺たち男子も驚きを隠せなかった。これはいわゆるジャーマンスープレックスという奴だった。

 

「アンリ!!?」

「何してんだ!?」

「畔田君生きてる!?」

 

場は騒然とし、頭から血を流した畔田がむくりと起き上がる。

 

「ええ、大丈夫ですよ。」

「いや、血でてるから。大丈夫なわけねえから。」

「いや、これは日常茶飯事ですので。」

「そんな物騒な日常あってたまるか!!!」

 

このあと畔田の口から説明があったのだが、これまでも畔田が何かをしでかすたびに“責任を取る”ということでアンリが投げていたのだそうだ。といっても初めて見るこちらは衝撃しかないのであまり人前ではやめてほしい。

 

「驚かせて悪かったね。でもみんなでわいわいしているうちに水が全部抜けたみたいだよ。」

 

これはわいわいというよりオロオロだろう。

そしてアンリは一切反省はしてないだろう。

 

畔田の治療を終えた俺たちは全員でプールに降りて中を調査した。底や壁、排水溝の付近など、様々な箇所を入念に調査したものの、出口への手掛かりはなかった。

 

「結局何もなかったな。」

 

水を入れ直す準備をしながら山吹が愚痴る。

 

「結局畔田が痛い思いしただけじゃんか。」

「悪かったって。ていうかこれの言い出しっぺは涼風だかんな?」

「あり、そうだっけ?」

「オメーが俺にプールの底調べてこいっつって俺をプールん中放り込んだんだろ。」

「あ、そうだったね。ごめんね?」

「なぜ疑問形だ。」

 

近くにいた薬師と涼風がそう話す。

 

「ほんとに畔田君大丈夫?」

「ええ、大丈夫ですよ。少しふらつくくらいです。甘寺さん、お気遣いありがとうございます。」

 

別のところでは甘寺と畔田が話しているが、それは大丈夫とは言わないだろう。

 

こうしてプールの底の調査も徒労に終わった俺たちは昼食を摂った後一度それぞれの部屋に戻ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 時間に余裕があるな。少し周りをうろついてみるか。

ラウンジの方に行ってみるとそこで畔田が休んでいた、というよりうずくまっていた。

 

「おい、大丈夫か?さっきふらつくとか言ってたが。」

「ええ、大丈夫ですよ。今は少し腹痛が…。」

 

意外だ。超高校級の執事というのは常に体調管理も万全なものだと思っていた。

 

「幼いころからあまり胃腸が丈夫な方ではなく、どうしても簡単に腹を壊してしまうのです。普段なら胃腸の薬を持ち歩くのですが、今日に限って切らしてしまっていて…。」

 

このまま放置しておく訳にもいかないので保健室に行って胃腸の薬を持ってきてやった。

 

 

「そう言えばだが、さっきの奴はなんだ?」

「さっきのと言いますと?」

「プールサイドのだよ。」

「あれはジャーマンスープレックスですが。」

「それは分かる。どうしてあれが責任の取り方になったのかって話だよ。」

「ああ、そういうことでしたか。それは非常に簡単な話です。私たちの幼年期に遡れば良いだけの話ですから。」

「幼年期?」

「ええ。私は幼いころに天涯孤独の身となりまして、その後とあるきっかけがあってお嬢の下に引き取られました。ですが、私はシャークネード家に大恩ある身。ただ居候しているというのも気が引けましたので、当時の旦那様、つまりお嬢のお父上ですね、に頼み込みまして、お嬢のお世話係として付き従うことになったのです。ですが、始めのころはお嬢の好みや望むことなどが分からず、お嬢に迷惑をかけてしまう、ということが多々ありました。その度にお嬢は笑って許してくれましたが、失敗したにも関わらず何のお咎めもなし、というのは納得いきませんでしたので、こちらもお嬢に頼み込んで失敗した際に罰を与えてもらうよう頼み込んだのです。これは単純に失敗したから、というだけでなく、私がお嬢のお世話係として生涯を捧げる覚悟を示すことでもありました。その覚悟を汲んでくださったお嬢が困惑しながらも私に罰を与えることを受け入れてくださったのです。」

「なるほど、罰を受けるようになった経緯は分かったけど、じゃあなんでその罰がジャーマンスープレックスに?」

「偶然です。」

「偶然?」

「ええ。当時の旦那様は大のプロレス好きなお方で、ヒマさえあればケータイやテレビでその映像を見ていらっしゃるお方でした。私は旦那様にも覚悟を示す意味合いも込めて旦那様の前でお嬢に罰のことを頼み込んだのですが、そのとき旦那様が見ていらっしゃったのがやはりプロレスの映像でした。罰を決めるとなった際に偶然テレビでジャーマンスープレックスが決まったところでしたので、それを見たお嬢が『じゃあ、これにしよう』とおっしゃってこの罰になったのです。」

 

なんとカオスな決まり方なことか。

 

「なんか、すごいところで働いてるんだな、畔田は。」

「ええ、シャークネード家はすごい場所です。あのきっかけがなかったら私なぞとても近づけるところではありません。」

「あ、ああ。」

 

皮肉だということに気付け。

 

もしかしたら俺の周りの超高校級の資産家は何かルートが違ったら超高校級のプロレスラーだったかもしれないと思いながら俺は畔田と別れた。

 

 

 

 

 まだもう少し時間があるな。もうちょっと校舎を歩いてみよう。

 

校舎内を歩っていると急に横から声をかけられた。

 

「あ、そこでストップ!!」

「何だ?」

「だから動かない!!」

「悪い。」

 

美上が俺に動かないよう指示してくる。

1時間ほどして動いて良いよ、と許可が出たので美上の方に向き直る。するとその美上はスケッチブックと鉛筆を手に持っていた。

 

「何してたんだ?」

「見れば分かるでしょ。スケッチしてたの。」

「スケッチ?」

「うん。ほら、おとといのことがあってさ、ホントに人っていついなくなっちゃうか分かんないなぁって再確認したからさ、どうせだったらみんなの姿を絵にして保存しておこうと思ってさ。」

 

確かに、おととい、朝起きた段階での俺たちは2人も仲間がいなくなるなんて夢にも思っていなかった。

 

「水島はあまり人といるとこ見たことないからさ、こういうとこで待ってれば偶然通りがかんないかなと思って待ち伏せしてたんだ。」

「なんか怖いな。」

「だったらもっと私が色んな絵を描きやすいように色んな人と仲良くしてね。」

「別に誰かと喧嘩してるわけではないんだが…。」

「どうせだったら、夕ご飯の時にみんなが集まってる絵も描こうかなぁ。スケッチしておけば後でキャンバスに起こすのもできるし。」

 

ぽそっと美上が言葉を漏らす。

 

「そう言えば、美上は人物画で有名だよな。どうして人物画を描こうと思ったんだ?」

「えっとね、昔いろいろあってさ、人って簡単にいなくなるんだなって思ったんだよ。自分にとって大切だろうが何だろうが、いなくなるときは一瞬。普段生活してると忘れてしまいそうになるんだけどね。だったら私はその人がここにいたって証を自分の才能を活かして残したいって思ったんだ。よくさ、私の絵ってすごく生き生きしてて絵を描いたときの情景が浮かんでくるって褒められるんだけどさ、それって私がすごいわけじゃないんだ。私はあくまでそこにいる人の命の輝きを丁寧に、忠実にキャンパスに写し取ってるだけ。生き生きしてるのはその絵のモデルの人が生き生きしてたから。私にできるのは、さっきも言ったとおり、丁寧に、忠実に描くことだけなの。」

 

少し悲しげに美上は語る。

でも。

 

「俺は絵を描くのがあまり得意じゃないからさ、それができるだけでもすごいことだと思う。それにさ、ただ丁寧に描くだけじゃやっぱりモデルの命の輝きは表現できないよ。それができるのはやっぱ美上だけの特別な才能だと思うけどな。」

 

もし美上の才能がモデルを丁寧に、忠実に描いてみせるものだとしても。その命の輝きはやっぱり美上じゃないと、何があったかは分からないけどその人が今ここにいることの貴重さを知る彼女だからこそ描き出せるものだと俺は思う。

 

「ねえ、水島ってさ、女誑しって言われない?」

「いや、別に言われたことはないが。」

「気を付けた方が良いよ。いつか刺されるわよ。」

「??」

 

コロシアイの標的になるということだろうか。できたらそれは避けたいのだが。

 

「気を付けることにするよ。」

 

身の回りに。

 

「そうするといいわ。」

 

そう言って美上は先に寄宿舎に戻ってしまった。この時美上の頬が少しだけ赤かったことに俺は全く気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 夕食の時美上がちょっとだけそこで待っててと言って俺たちを2時間足止めしたが、みんな彼女の絵のモデルになれるということで特に不満を漏らすことなくそこで座って談笑したりしていた。こうして一日は過ぎていき、俺は満足した心持ちで眠りについた。

 

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

「プールと言えば潜水、潜水と言えばダイビングだよな!ああいうレジャーってのは中々おもしれえもんだぜ。」

 

 

「オレもいつか兄弟を連れて石垣島にでも潜りに行きてえもんだ!!」

 

 

「え?兄弟がいるのかって?冗談きついぜ!!」

 

 

「みんなもよく知った兄弟がオレにはいるじゃねえか!!!ソイツをつれてオレはいつかダイビングに行くぜ!!!」

 

 

「でも、耳には気を付けねえとな!あんまり下手な潜り方をすっと、耳が聞こえなくなったり、上下感覚がなくなって浮上してるつもりがどんどん潜ってって戻ってこれないなんてこともあるらしいからな…。」

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の画家       美上三香子(ミカミミカコ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り14人

 




今回は(非)日常編、さらに動機も無しということでちょっと平和な感じなったのではないでしょうか。こんな日常が続いてくれればこれほど幸せなことはないのですが…。さて、これからどうなってしまうのでしょうか…?


それでは設定裏話参りましょう!今回は畔田君のお話です!!
畔田君は優しい巨漢枠ですね。単純に体の大きいキャラがほしいな、ということで比嘉君とセットで作っていきました。畔田君は今回のお話にもあったとおり、幼いころとあるきっかけで天涯孤独の彼をアンリの両親が引き取って育てました。そのためアンリに対する感謝の念が強く、彼女に対する忠誠心もものすごい、ということになります。また、彼は格闘の腕も高く、格闘家としても大成していた可能性があります。この物語が原作の1,2の後ということで叶わなくなってしまいましたが、かの大神さくらと戦っても良い勝負だと言われています。できたら見てみたかった…。
彼の名前はまず、彼のイメージカラー黒からそれを意味する畔という字を用いました。名前は彼の頑強なイメージから鋼という字を使いました。という感じです!
そんな超高校級の執事であり、ボディーガードでもある彼はこれから色んなところで活躍していくことでしょう。これからの活躍を楽しみにしていただければ幸いです!!


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CHAPTER2 (非)日常編3

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「おはようございまず。7時になりました。今日も一日元気で頑張りましょう。」

 

 いつも通りのチャイム。これに合わせて目が覚める。ふと思うが、やはりこのアナウンスは気持ちが悪い。普段俺たちの前に現れるモノトラは非常に粗野で野蛮な話し方をする。そしてこの毎朝毎夜の時間を知らせるアナウンスは同じ声でありながら、非常に丁寧な話し方をしている。この違和感はとてつもない。そんなしょうも無いことを考えていても別にここから出してもらえるわけではないのだが、どうしても気になってしまう。

 

まあ、そんなことも考えていても仕方が無いので、いつも通り俺は朝食の準備を手伝いに食堂へと向かうことにした。自室を出て、寄宿舎のホールに出て行くと、食堂の方が何やら騒がしかった。

 

「うわああっ!!一体何だい、これは!!?」

 

普段すごく冷静なアンリの珍しくうろたえる声が聞こえてくる。それに続いて、

 

「オメー、ここでもうストップだぁ!!!!」

 

九鬼もなんだか大騒ぎをしていた。その他にも畔田や美上、山吹と言った食事の準備に参加しているメンバーの騒ぎ声が聞こえてくるので食堂に入ってみると、どうやらみんなはキッチンの方にいるようだった。意を決してキッチンの方に入っていくと、そこには大きな火柱を上げているコンロとその前に立ちはだかる涼風、そしてその様子を見て大きくうろたえるみんなの姿があった。

 

「一体何をしてるんだ?」

「ちょっと、水島!!いいから紫ちゃんを止めてよ!!!」

「なぜ俺が。」

「いつも作らせてばかりじゃ悪いからって言うから作らせたらこんなことになってんのよ!!!どう頑張っても私たちじゃどうにもならないから水島どうにかして!!!」

「美上やアンリで無理なもんは俺でも無理だろ。」

「頼むよ、どうかそう言わずにさ!!!」

 

珍しくアンリが人に頭を下げている。いや、本来経営者として頭を下げることもあるだろうから、本来別に珍しい光景ではないのかもしれないが。はあ、仕方ない。話を聞くか。

 

「涼風は何をしてるんだ?」

「見て分かんない?朝ご飯作ってんの。」

「それはどこの風習だ?少なくとも俺の育った地域では朝食を作るときに火柱を上げる習慣はなかったぞ?」

「何変なこと言ってんのさ?フランベだよ!」

「フランベでもここまでの火は上がらん。それじゃ焦げるばかりだろ。」

「そんなことないって!絶対おいしく…、おいしく…。」

 

そう言いながら涼風が手元のフライパンに目を向けると、そこにあったのは本来何であったのかその判別は難しい、哀れ、黒コゲの炭となった何かであった。

 

「あれ?失敗?」

「今更かよ…。あんなに火柱が上がってたらこうなるのは火を見るより明らかだろ。」

「料理だけにね。」

「茶化さない!」

「おっかしいなぁ?もっとおいしそうになるはずだったんだけど…。」

「何見てやった?」

「昨日図書室で見たフランス料理の本。」

「なぜそんなハイレベルのものをいきなり選んだ?」

「だっておいしそうだったんだもん!!」

「あのな?料理はもっと段階的にレベルを上げていかないとこうなるんだからな?」

「はい…。勉強し直してきます…。」

 

涼風はシュンとした様子でキッチンを出て行こうとする。

 

「待て。」

「え?」

「誰が出てけと言った。今から俺が簡単なの作るから、お前はそれを見て少しでも学べ。」

「あ、はい。」

 

こうして結果的に今日の朝食は俺が作ることになった。まあ、俺は普通に町中の普通の中流家庭で育っているから出てくるものなんてたかが知れてるわけだが。それでもみんなはたまには普通の朝食も良いねなどと言って食べてくれたのでよしとしよう。

 

 

 

 こんな感じでみんなでドタバタしながら生活していると何だかこのままみんなでこの学園をいつか脱出できる気がしていた。それは他のみんなも同じだっただろう。だから俺たちは忘れていたんだ。こうなったときにこそその悪意はやってくるってことを…。

 

ピンポンパンポーン…

 

「オマエラ、至急体育館まで集合してください。」

 

そのアナウンスを聞いて俺たちは硬直する。

 

「これってさ…?」

「やっぱそうだよな…?」

 

誰も口に出さないが、何となくみんなモノトラの目的が分かっていた。

動機。

モノトラが俺たちにコロシアイをさせるために用意した、殺人の動機。悪趣味極まりない動機。奴が何を準備したのか、気になって仕方が無い。だが、知ったら自分自身がクロにならない自信はない。だが知らざるを得ない。そんな雰囲気が俺たちの中に流れる。黙りこくる俺たちの中で玉城がそれを切り出した。

 

「俺は行くぞ。どうせ動機は知らざるを得ない。」

「!!!」

「動機さえ知ってしまえば対策が取れる。前回は武器だった。あれもみんなで協力できれば防げた殺人だったかもしれん。今回は動機を早めに知っておくことで殺人を防げるかもしれないだろう。だから、行く。」

 

その目には確固たる意志があった。その玉城の顔を見て俺たちは全員で体育館に向かうことにした。

 

 

 

 

 

「おいおい、遅えーじゃねーか!!ま、全員がきちんと集まってきたことは評価してやるがな。」

 

モノトラは俺たちに文句を言う。

 

「んじゃ、早速行こうじゃねーか。今回の動機だ!!!さあ、コイツを見やがれ!!!」

 

そう言ってモノトラはモニターのようなものを取り出した。そしてそのモニターには何かが映っていた。

 

「何だ?何が映ってるんだ?」

 

薬師が困惑した表情を浮かべている。映像には14本の柱が映っていたが、それがなんなのかよく分からなかった。

他のみんなも何が映っているのか最初は分かっていない様子だった。しかし、少し経つと、

 

「人…?」

 

どこからともなくそんな声が上がった。その声に反応するようにみんながモニターをよく見てみると、映像の中の柱には何かがくくりつけてあった。正確には縛りつけられていると言ってもいい。そしてその縛りつけられている何かをよく見て、この場にいる全員が青ざめた。

人だ。誰が言ったのかは分からなかったが、ソイツの言うとおり、柱に縛りつけられているのは、人だった。顔には紙袋のようなものが被せられていて顔までは分からなかったが、それは確かに人だった。

そんな俺たちの様子を見てモノトラは愉快そうにしていた。

 

「ぐぷぷ…。どうやら何が映っているのかよおく分かった見てえだな。どうせだったらもっとよく見てみろよ。誰が映ってるのかも分かるはずだぜ?」

 

そう促されてモニターを見てみると、他の13人には見覚えがなかったが、1人だけ見覚えのあるものを付けていた。その人物は右手にブレスレットを付けていた。そのブレスレットは金属製の輪が2つ重なった形をしていて、それは日頃から俺の母親が身につけていたものだった。何の意味があるのかまでは教えてもらえなかったが、母が大事にしていたブレスレットだ。見間違うはずがない。

 

「母…さん…?」

 

ふと顔を上げると、周りのみんなの顔も目に入ってきた。

 

「なんでお前が…?」

「姉さん…!?」

「親父!!?」

「師匠…!」

 

それぞれが思い思いの反応をしているが、その全員の反応に共通するのは、モニターに自らの大切な人が映っていた、ということだろう。

 

「ぐぷぷ…!気付いたみてえだな!!!モニターに映る柱に縛りつけられてんのはそれぞれオマエラの大切な人だ!!!そこに映ってんのはオマエラの親か!?兄弟か!?それとも親友か!?どうだったにせよ、そこに映ってんのはオマエラの大切な人だ!!!でも、それは1人だけだ。」

「は…?」

「柱に縛りつけられている奴らのうち13人は偽物、オマエラにとって別に何も関係ない。だが1人だけは違う。オマエラのうちの誰か1人にとっては本当に大切な人だ。」

 

つまり、あれは本当の母さんじゃない可能性があるってことか…?

 

「で、自分でも分かっちゃいねえだろうが、この中の誰か1人、本当に大切な奴が縛りつけられてる奴に教えてやるぜ。明日の正午にこいつら全員を殺す。この部屋は学園外のどこかな訳だが、この部屋に致死性のガスを流す。」

「!!!」

「助けたきゃ、分かるな?」

 

全員がゴクリと喉を鳴らす。

 

「コロシアイだ。明日の正午までにコロシアイを起こせ。そうすりゃこいつら全員を解放してやる。どうするかはオマエラに任せるぜ。じゃあな!!!」

 

言いたいことを言い切るとさっさとモノトラはいなくなってしまった。

俺たちは黙ってしまった。混乱しているのだ。モニターの先のこと、それが本当に自分の大切な人なのか、そして、本当にコロシアイが起こるのか。あの、残酷なコロシアイが。

こんな動機ではコロシアイを防ぐのも難しいかもしれない。そんな空気が俺たちの間を支配していた。

 

「ね、ねえ!!ちょっと提案があるんだけど!!!」

 

そんな中で涼風が声を上げた。

 

「明日、みんなで水泳大会、やらない?」

 

唐突なその提案に俺たちはみんな首をかしげた。

 

「そんな状況か、これが?」

 

玉城が言う。確かに、みんなで競争して楽しむ余裕なんて今の俺たちにはない。

 

「元々考えてたことだったけど、でもこんな状況だからこそ、だよ。きっとモノトラは全員偽物しか用意してないよ!だって、あたしたち全員の大切な人を知ってたとしてその全員を連れ出すなんて無理だって!だからさ、みんなでさ、明日の正午まで思いっきり泳いで、思いっきり楽しんで、そんで、あんな奴に負けないってみんなの結束力を高めるべきだと思うんだ!!」

 

それでも食い下がる涼風の言葉に俺たちは納得せざるをえなかった。確かに、こんな状況だからこそ、俺たちはコロシアイを起こさないという結束力を高める必要がある。

 

「私は紫に賛成だ。泳ぐかどうかは本人の意志に任せるけど、みんなでプールに集まって楽しめばきっと結束力も高まる。それに現実的な話をすれば相互監視の体制ができる。こうやってコロシアイをみんなで未然に防いでいけば奴も何もできないはずだよ。」

「確かに…。そうかもしれないな…。」

 

涼風の提案に乗るアンリの言葉で俺たちは明日、みんなで水泳を開くことにした。そうすればコロシアイは起こらないはずだという微かな“希望”を持って…。

 

 

 

 

 

 

 戻って昼食を食べた後、暇になったので俺は少し校舎内を歩くことにした。図書室に入ると、そこでは有浜が本を読んでいた。

 

「何を読んでるんだ?」

「あら、水島君、ヒマなのね?」

「まあな。」

「今読んでるのは恋愛小説よ。」

「意外だな。そういうのも読むんだな。」

「ええ。女優だもの。私くらいの年の女優に回ってくる仕事の半分は恋愛ものよ?読んでおいて損はないわ。だから時々読むことにしてるの。」

 

なるほど、有浜の言うことにも一理ある。

 

「別に好きというわけではないのか。」

「嫌いでもないけどね。水島君はここの図書室の本はもう読んだ?」

「推理ものなら何冊か。」

「あなたはそういうのが好きなのね。だとしたら、学級裁判での推理力にも納得ね。」

「太宰にも同じことを言われたよ。」

「あら、そうだったの。ちなみに他には読んだの?」

「いや、全然だな。どうしても好きなジャンルに偏ってしまうな。」

「それはもったいないわよ?もしかしたらたまたま開いた本が人生を変えることだってあるんだから。小説を読んで小説家になろうとする人もいるし、図鑑を読んで学者になろうとする人もいる。現に私が女優になろうと思ったのだってたまたま開いてハマった小説が映画になったことだもの。」

「それで女優に憧れたのか。」

「その逆。私だったらもっとこの子を上手く表現できるのに、って思ったの。だから女優になった。」

「その頃からすごい自信だったんだな。」

「ええ。だって、同じ生きるなら自分を卑下して生きるより、自分を誇って生きた方が断然良いじゃない。」

「確かにな。」

 

それはある種昔から才能があった彼女故、何の才能か気付いていなくともどこかに自分のポテンシャルの高さに気付いていた部分があったが故なのかもしれない。そういう意味では大した才能があるとは思えない俺にはできない生き方かもしれない。

 

「それに、胸を張って生きるだけなら誰にでもできるわ。でもそれだけでもその人はすごく魅力的に見える。水島君も何の才能かは知らないけど、高い才能を持ってここにいることは確かなのだし、自分を誇って生きた方が良いわ。」

 

自分ではそうは思えないが、超高校級の女優にそう言われてしまってはそうしないわけにも行かない。

 

「ああ。そうしてみるよ。」

 

有浜は何も言わなかったが、それでも何となく微笑んでいるのは伝わってきた。

 

「あ、そうだ。意外と図鑑なんかも知らない知識がたくさん得られて面白いって太宰君が言ってたわ。」

「そうなのか?」

「私はその面白さがよく分からなかったけど、もしかしたら水島君なら分かるかもしれないわね。」

「それもちょっと気にかけてみるよ。」

 

こうして俺は一度寄宿舎に戻った。

 

 

 

 

 

 自分の部屋で少しおなかがすいたので食堂のキッチンに何か無いか探しに行くと、そこに山吹がいた。

 

「水島、どうしたんだい?」

「ああ、少しおなかがすいてな。」

「じゃあ、アタシと一緒か。なら今から魚捌くから食べてってくれよ。さすがに2人前は食べ過ぎるなと思ってたとこなんだ。」

「じゃあそうさせてもらうよ。」

 

単純な刺身だったけどやはり山吹の魚を調理する腕はすごく高いと感じさせられた。

 

「なあ、山吹。」

「なんだ?」

「確か港町出身で魚を捌くのも地元で身につけたって言ってたよな?」

「ああ、そうだな。」

「じゃあ、何でドラマーになったんだ?話だけ聞くとどっちかって言うと板前になりそうな感じがするんだが。」

「ああ、それはたまたまだ。たまたまうちの親父がそういうロックとかも好きでさ、うちにたくさんCDとかもあったんだよ。でさ、アタシもそれを聞きながら育ったのさ。で、だんだん聞いてるうちにドラムの音が気になるようになってさ。つってもうちにドラムセットなんて無いから家に山ほどあった魚入れるための発泡スチロールの箱を菜箸で叩いてドラムの代わりにして遊んでた。そしたらさ、それを聞いた親父が面白がってドラムをアタシに買ってくれたんだけどその後急に何だかトントン拍子に色んなとこからスカウトが来るようになって、今の感じよ。」

 

何だかすごく波瀾万丈だ。

 

「それでこんなに名が売れるなんてすごいな。」

「好きこそものの上手なれってな。好きなことを好きなように何があってもやり続けたらそれがいつの間にか才能なんて言い方をされるようになってただけだよ。」

「でも、好きなことだって長く続けるのはすごく大変だぞ?好きだってキツいことはある。それでも続けられるのもやっぱ才能だと思うよ。好きでいる才能があるんだ。」

「そっか。周りにはドラムバカなんて言われて馬鹿にされてきたけど、それも才能か…。」

「そうだ。バカなんて言うのは好きでいる才能が無かった奴の嫉妬だ。気にするだけ損だ。山吹は好きなことを好きなように続ければ良い。それを望んでる人がいっぱいいる。だから単独ライブが成功したんだ。」

「そっか。ありがとな。なんかこんな状況になってちょっとセンチになってたみたいだ。変なこと言って悪かったな!今度アタシのドラムを生で聞かせてやるよ!そんでいつか世界でもライブやってどこまでもアタシのドラムが響くようにしてやる!!」

「それはどっちも楽しみだ。じゃあ、部屋に戻るよ。」

「ああ、じゃあな!」

 

そうして立ち上がって背を向けてしまった俺は気付いていなかった。その後山吹が小さく

く、

 

 

「そうすればちっとは罪滅ぼしになるかな…。」

 

 

と呟いたことに…。

 

 

 

 

 

 

 その後部屋に戻った後、俺は明日の水泳大会の準備をした。別に俺は泳ぐわけではないが、タイマーだったりレーン表だったり意外と準備するものが多かった。そうして時間はすぐに過ぎていった。

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「午後10時になりました。ただ今より夜時間となります。食堂はロックされますので、速やかに退出してください。それではよい夢を。お休みなさい。」

 

準備の疲れからか、俺は夜時間になるとすぐに眠りに落ちた。ちょっとだけ明日の水泳大会にわくわくしながら…。

 

 

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

「友情ってのは難しいもんだよな。その人によってその重要性も大きく違う。」

 

 

「それに、同じ人からした友情でもその友達によっての重要性も変わってくる。」

 

 

「端から見たら普通に友達関係にある2人だったとしてもそれぞれの本人の中では目の前にいる友達の価値ってのも大きく違うかもしれない。」

 

 

「それでも陳腐な歌や小説は友情は大切だって言い続けるんだよな。」

 

 

「そりゃそうだよな。そうやって自分は友達大事にしますアピールしねえと誰も近くには来てくれなくなるもんな…。」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の画家       美上三香子(ミカミミカコ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り14人




第2章も遂に来ました、動機発表!!遂にコロシアイの火蓋が切られてしまうのか?わくわくしますね!!!次回、水泳大会開幕(予定)!!!お楽しみに!!!

さて、設定裏話に参りましょう!!今回は久見さんです!!
久見さんは簡単に言うと原作にも毎回登場する検死役ですね。彼女が検死してくれることによってモノトラが裁判の平等性のために隠した情報を更に暴き出すことができます。前回の時も彼女が見つけてくれた情報によって解決が進んだところもありますね!彼女の存在はこれからも重要になっていくと思います!ちなみに彼女が検死をできる理由というのは1章でも彼女自身が言ってくれたとおり、医学事典を読み込んでいるからです。彼女は医学事典と言っていますが、他にも人体の図鑑なども読みこんでいて、それによって人体の構造とか筋肉の動きとかを非常に理解できています。それは単純に彼女が漫画を描くために必要だ、と判断して身につけた知識です。彼女が漫画に人一倍情熱を燃やしてくれているおかげでみんなは捜査が進めやすくなっている、というわけですね!
続いて彼女の名前ですが、3文字目までは作者が好きな漫画家さんの名前から一文字ずつ持ってきてます。またまた澪田パターンです。ですが、3文字目はそこに女の子っぽい字を入れよう、ということで「香」の字を入れました。ちょっとだけ変則パターンです。変則澪田です。
ということでちょっと不思議な漫画家の女の子がこれからどんな活躍をしていくのか、楽しみにしていただければ幸いです!!


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CHAPTER2 (非)日常編4

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「おはようございます。7時です。今日も一日元気で頑張りましょう。」

 

朝、か…。今日の正午に…。いや!!そんなこと考えちゃダメだ!!みんなで決意したじゃないか!もうコロシアイは起こさない、起こさせないって!!

一度頬をパンと叩き、俺は食堂に向かった。

 

食堂に入ると、相も変わらず同じメンバーが朝食の準備をしていた。

 

「水島さん、おはようございます。」

「おはよう、畔田。今日はアンリか?」

「ええ。私がやると言ったのですが、お嬢が自分でやると聞かなくて…。」

「たまにはいいんじゃないか?料理ができて困ることもないわけだし。」

「まあ、それはそうですが…。」

 

そんな感じで談笑していると、アンリの作った朝食が出てきた。畔田が心配するほどのことはなく、逆に豪華でこちらの気が引けるくらいのものであった。そしてこの豪華な朝食をみんなで舌鼓を打った。

 

今日は一部を除き、何となくみんな食堂に長く残っていた。この一部というのは玉城と有浜だ。まず玉城が出て行った後、有浜が出て行った。その後みんなは何となく今日の水泳大会の話をしていた。そこから10分経たないくらいの頃。

 

「涼風さん、集合は9時だったよね?」

「うん!遅刻厳禁だよ?」

「ああ、分かったよ。じゃあ時間まで少し図書室で本を読んでくる。」

 

という会話があった後、太宰が食堂を出て行った。

 

「じゃあ、私もプールで絵を描く準備をしよっかな!」

 

続いて美上が絵を描く準備をするために出て行く。だからか。食堂にイーゼルだのなんだのを持ち込んでたのは。

そんなみんなを見ながら薬師や九鬼と今日のことについて話していると、そこに甘寺がやってきた。

 

「ねえ、デザート食べる?ガトーショコラなんだけど。」

「お、いいな!もらうぜ!!」

「俺も!」

「じゃあ、俺ももらうよ。」

 

世界的に有名な職人のガトーショコラ。食べないわけにはいかない。

 

「どうかな?」

「すごくおいしいよ。評論家じゃないから何がどうで、ってのは言えないけど、すごくおいしい。」

「それなら何より!」

 

俺たちがおいしそうにガトーショコラを食べているのを見て満足したのか、甘寺はキッチンへ戻っていく。そんな彼女の後ろ姿を見ながら、何となく気になった。あれ?畔田はどこ行った?アイツも泳ぐみたいだし、早めに準備しに行ったのか…?すると直後。

 

「何だかずっと座ってんのも落ち着かねーし、オレもラウンジでちょっとゴロゴロしてくるわ!」

 

そう言って九鬼が出て行った。それからまた10分経ってから薬師達今日の水泳大会で泳ぐメンバーが各々のタイミングで準備のために出て行った。その後最初に薬師達が出て行ってから5分くらい経ってから俺はプールに向かうため、食堂へ出て行った。

 

食堂を出てすぐ、水着のバッグを持った涼風に会った。

 

「あれ?水島泳がないよね?もう行くの?」

「何となくヒマでな。それにタイマーの準備とか運営側でもやることはあるし、早めに行っといて損はないだろ?」

「ま、そうだね!じゃ今日はよろしくね!!一緒に行こっか」

「ああ。」

 

こうして俺たちは2人で早めにプールへ向かった。

 

 

 

 

 プール前のホールに着いたとき、俺は特に何か考えていたわけではなかった。モノトラの動機のことどころか、水泳大会のことすら考えていなかったかもしれない。何も考えずに涼風と別れて男子の更衣室に入った。本当に頭の中は空っぽだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ、鮮烈に、強烈に、入ってきてしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首を無くしたその誰かの姿が…………。

 

 

 

 

 

 

 

CHAPTER2 My Friend Is Tied Up   非日常編

 

 誰だ、この死体は…?頭を回す。あたりを見回す。首は無い。でもイーゼルが立ったままになっている。もう一度死体に目を遣る。特徴は…?少し時間が経って、嫌なことだが頭が少し冷えてきた。冷静になってもう一度死体を見ると、その死体はよく見覚えのあるエプロンを着けていた。それは美上が付けていたエプロン。絵の具の汚れが多く染みついた、彼女がどれほど長いこと使ってきたか、よく分かるエプロン。ここで俺はやっと理解した。この死体は美上だ。超高校級の画家で、みんなの命の輝きを全て絵に収めようとしてくれた、そんな優しい美上三香子が死んだのだ。それも恐らく誰かの手によって殺された。

考えを巡らせていると、後ろから扉の開く音が聞こえた。

 

「え…?何で?どうして…?」

「これは一体…?」

「なんて惨い…!!」

 

そこにいたのは涼風と畔田、そしてアンリの3人。そして俺たち4人が揃ったところで無情なアナウンスが響く。

 

 

ピンポンパンポーン…!

 

「死体が発見されました。一定の捜査時間の後学級裁判を行います。」

 

このアナウンスで理解せざるをえなかった。この目の前で死んでいるのは紛れもなく俺たちの仲間の一人だってことを。

 

少し時間が経つとみんながプールサイドに集まった。

 

「何だよ、これ…!!」

「これはひどいな…。」

「これって…、美上…さん…?」

 

みんなこのむごたらしい現場に動揺している。そもそも死んでいるのが美上だとまだ分かっていない奴もいる。そんな中で奴は無遠慮に現れた。

 

「よお!!!遂に起こったな!!!コロシアイだぜ!!!!」

「モノトラ!!」

「まあそう睨むなって。今回もアレを持ってきてやったんだぜ?そうそうアレだぜ!モノトラファイル2!!!!」

「!!」

 

モノトラはまた前回と同じようにタブレット端末を人数分取り出す。全員がそれを受け取ると、

 

「じゃ、今度も楽しみにしてるぜ!!!」

 

そう言って奴は去ってしまった。

 

残されたのは手元のタブレット端末だけだ。でも二度と感じることがないと思っていたその重さが俺たち再びコロシアイが起こったことを実感させた。

でも、こんなところで立ち止まっていられない。だって、こんな惨い殺し方をされた美上の敵を取らないわけにはいかないのだから。

 

 

 

-捜査開始-

 

まずはこのモノトラファイルだ。

モノトラファイル2。今回の被害者は“超高校級の画家”美上三香子。死亡推定時刻は8時20分頃。死体発見現場は体育館二階のプール。遺体は頭部の無い状態で放置されていた。死因は不明。

 

こんなところか。

 

「なあ、水島。」

「薬師?」

「これさ、死因が不明ってことはさ、つまり首を切られたのは死んだ後ってことだよな?」

「恐らくそういうことだな。」

「オッケー、ありがとう!!」

 

そうだな。つまり、どこかに美上の死因に繋がる何かがあるはずだ。取りあえずこのプールを中心に捜査を始めよう。

 

 

コトダマGET!

【モノトラファイル2)

被害者は“超高校級の画家”美上三香子。死亡推定時刻は8時20分頃で発見現場はプール。遺体はプールサイドに頭部の無い状態で放置されていた。死因は不明。

 

 

「じゃあ、僕は今回も検死から入るねー。」

「よろしく頼むよ。」

「頼まれたー。」

「では私が見張りをしましょう。」

「俺も手伝うぞ!!」

 

前回と同じように検死と見張りが決まった。さて、こっちも本格的に捜査を開始しようか。

 

「甘寺、行くか。」

「え、私?」

「この前も一緒に捜査したし、いいだろ?」

「!うん、いいよ!」

「さて、どこから行くか…。」

「取りあえずプール周りから行こっか!」

「そうだな。」

 

そう言って周りを見渡すと、有浜が怪訝そうな顔をしていた。

 

「どうしたんだ?」

「いえ、死体の首を落とした割にはあまりにもプールサイドが綺麗だなと思って。」

「あ、確かに!」

「だからこの現場に違和感があったのか。」

「もしかしたら首を落とした後に何かで綺麗にしたのかもね。」

「かもしれないな。」

 

 

コトダマGET!

【綺麗なプールサイド)

死体の首を切り落とした割には綺麗すぎるプールサイド。

首を切り落とした後、何かでプールサイドを綺麗にしたのかもしれない。

 

 

「あ、ねーねー、これどういうことだと思う?」

「久見さん、検死終わったの?」

「ううん、まだまだ!でも気になることがあってー。」

「気になること?」

「うん。実はね死体とその周りが濡れてたのー。でもモノトラファイルにも書いてあるみたいに死亡推定時刻は分かるからー、偽装になるほど冷えるくらいに濡れたわけではなさそうなんだよねー。どういうことなんだろー。」

 

綺麗なプールサイドに濡れた死体か…。どういうことだ…?

 

 

コトダマゲット!

【濡れた死体)

死体とその周りが濡れていた。しかし、モノトラファイルでもわかるように死亡推定時刻はわかるため、その偽装のために死体を冷やそうとしたわけではなさそうだ。

 

 

「っぶはあっ!!!」

 

捜査をしているとプールの中から急に薬師が飛び出てきた。

 

「お前何してるんだ?」

「いや、別に遊んでたわけじゃねえよ。これだ!」

 

これは…消火器?

 

「プールの底に沈んでんのを山吹が見つけてな。俺が潜って取ってきたんだ!」

「なんでそんなもんが?」

「知るかよ。」

 

とりあえずその消火器を受け取るとその違和感に気付いた。

 

「なんだこれ、凹んでるじゃないか。これじゃ使い物にならないぞ?まったくモノトラは何を管理してたんだ。」

「おいおい、そりゃねえぜ!!」

「うわっ!」

 

モノトラへの文句を漏らすと急に奴が現れた。

 

「そいつはオレのせいじゃねえんだぜ!だって昨日の夜見たときには何ともなかったんだからよ。」

「それは本当か?」

「そんなしょうもねえ嘘は吐かねえんだぜ。」

 

確かにそんな嘘を吐いても仕方がない。ということはつまりこの凹みは誰かが人為的にやったってことか…?

 

 

コトダマゲット!

【消火器)

プールの底に沈んでいた。その側面が凹んでいる。

モノトラによると昨晩までは何ともなかったらしい。今日になってから人為的に誰かが凹ませたと思われる。

 

 

後は…。そうだ、涼風に別れた後の話を聞こう。誰か人の姿を見ているかもしれない。

 

「なあ涼風。」

「ん、どうしたの?」

「プールのホールで別れた後さ、プールサイドに出てくるまでに誰か見たりしたか?」

「うーん、別に見てないなあ…。あれ、発見した時って何時くらいだっけ?」

「たしか8時40分くらいだったな。」

「そっか、そんなもんだったんだ…。」

「どうした?」

「実はね?あたしが早めに出たのってウォーミングアップのためだったんだよね。だからその時間をあと20分早めるだけで美上さん死ななかったのかなって思っちゃって。」

「それを言ったらキリがない。その分は学級裁判でクロを見つけて返すべきだ。」

「うん、そうだよね…。うん!じゃあ、捜査頑張るよ!」

「ああ。」

 

 

コトダマゲット!

【涼風の証言)

ウォーミングアップのために早めにプールに入ろうとした。

そこで水島・畔田・アンリと一緒に8時40分頃に美上の死体を発見した。

水島と別れて再び出会うまでの間に更衣室では誰も見かけなかった。

 

 

よし、一度こんなもんか…。それにしても切り落とされた頭部はどこに行ったんだ?

 

「ねえ、水島くん。これってどこかで見たことがない?」

「何が?」

「死体の首がなくなるって事件のことだよ。」

「確かにそれって…!」

「図書室に未解決事件のファイルがあったよね?」

「じゃあ次は図書館に行ってみるか。」

 

 

図書館に行ってみるとそこには太宰がいた。

 

「ああ、水島君。君もあの事件が気になったのかい?」

「ああ。」

 

そういえば太宰が食堂を出て行ったのって美上の死亡推定時刻の前だったよな。

 

「そういえば太宰ってどのくらいに図書室に来たんだ?」

「あれ、僕疑われてる?」

「すまない。」

「いや、いいんだ。アリバイを結果的に僕は自分で捨てたわけだしね。えっとね、部屋に腕時計を忘れてきちゃって正確に何分てのはわからないんだけど、食堂を出るときに時計を見てそれが8時7分とかだったから、特に寄り道もしなかったし図書室に着いたのは8時10分くらいだったんじゃないかな。」

「なるほど。」

「そういえばその後有浜さんが来たよ。図書室の時計で8時15分くらいだったんじゃないかな。その後は2人で一緒にずっと死体発見アナウンスまで本を読んでたよ。」

「なるほど…。」

 

つまりこの2人はお互いにアリバイを証明しあってるってことか…?その後現場に戻ると行って太宰は図書室を出て行った。

 

 

コトダマゲット!

【太宰の証言)

8時10分ごろに太宰は図書室に来た。その後15分ごろに有浜が来た。その後は2人ともずっと一緒に死体発見アナウンスまで本を読んでいた。

 

 

俺が太宰と話している間に甘寺は少し図書館の中を見てくれていた。

 

「ねえ、水島君。このページ見て。」

 

甘寺が持ち出してきたのは人体図鑑だった。

 

「これだけちょっと飛び出てて気になって持ってきたんだけどさ、このページ少しめくった後がついてない?」

「確かにな…。何で骨の構造のページだけ…?」

「こんなに跡がつくなんて相当読み込まないとならないよね…?」

「つまりこれを相当読み込んだ奴がいるってことか…。」

 

 

コトダマゲット!

【人体図鑑)

人間の骨の構造のページにだけかなりめくった跡があった。

どうやらこのページだけかなり読み込んだ奴がいるようだ。

 

 

「じゃあ、今度は書庫に行こっか。」

「そうだな。本来それが目的だしな。」

 

そう言って書庫の中に入っていく。

数日前久見が教えてくれたファイルを開くとその事件に関する記述が事細かにされていた。

 

 

『落ち武者連続殺人事件』

 20××年、都内にて頭部のない死体が発見された。この事件を皮切りに都内の各所にて同様の死体が発見されるようになり、その数は見つかっているだけでも20数名に及ぶ。まだ見つかっていないものも考えるともっと多くの被害者がいるかもしれない。

 これらの被害者は首の切断面がかなり綺麗に切り落とされており、日本刀のようなものを用いて一撃で頭部を落としたものと考えられ、犯人はかなりの手練れだと考えられる。また、これらの被害者の頭部は未だ見つかっておらず、犯人が持ち去ったものと考えられる。

 世間において被害者の首を持ち去る様子を戦国時代の武士の生き残りになぞらえて『落ち武者』と呼ばれるようになっているため、本件は『落ち武者連続殺人事件』と銘打ち捜査を行っているが、犯人は未だ捕まっていない。

 

 

「なるほど…。被害者が首を切り落とされ、その首は未だ見つからない。今回の事件に類似する点が多いな…。」

「でもそれだと私たちの中にこの『落ち武者』がいるってことになっちゃうよね?ホントにそうなのかな?」

「これに関しては裁判で検証する必要がありそうだな。」

 

 

コトダマゲット

【落ち武者)

遺体の頭部を持っていく連続殺人鬼で未だ捕まっていない。日本刀のようなもので首を一撃で落としていると考えられている。そしてこの被害者の首は未だ行方不明である。

 

 

書庫を出た俺たちは一度時間を確認したが、そこで何かおかしいことに気付いた。

 

「今の時間が8時15分…?それはおかしいぞ?だって、」

 

『そういえばその後有浜さんが来たよ。図書室の時計で8時15分くらいだったんじゃないかな。』

 

「って太宰が言ってたじゃないか!」

「ちょっと時計を外してみようか!」

 

こうして一度時計を下ろして調べて見ると、電池が取り外されていることが分かった。

 

「これ、有浜が図書室に来たときには時計が止まっていたってことか…。」

「これも犯人の偽装工作なのかな?」

 

 

コトダマゲット!

【止まった時計)

時計が8時15分を指したまま止まっていた。

調べたところ電池が取り外されていたようだ。

 

 

図書室はこんなところか…。書庫を調べに来ただけだったんだが思いの外、色んな証拠が集まったな。

そう思い2人で図書室を出ると、薬師が急いだ様子でこちらに来た。

 

「おい!見つかったぞ!!!」

「何が?」

「何がって決まってんだろ!!首だよ首!!美上の!!!」

「!!!」

 

その薬師の言葉に導かれるように俺と甘寺も一度プールに戻った。

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り13人




 はい、ということでついに起こってしまいました。2回目のコロシアイ。いかがでしたでしょうか?ちょっと想像したらグロかったかもしれません。申し訳ないですw。
さて、捜査も中盤にさしかかって、ここからどんな証拠が見つかっていくのでしょうか!?次回お楽しみに!


さあ、設定裏話のコーナーです!今回の裏話は太宰くんです!
分かりやすいまでに図書委員な彼はみんなのブレーキ役のようなイメージですね!落ち着いた雰囲気で議論が逸れそうになったときには冷静にその方向修正をしようとしてくれる感じの存在です。彼が超高校級の図書委員と呼ばれるようになったのは何度か話題に挙げているブログがきっかけでした。彼は元々本が好きで、自分から図書委員に立候補するくらいでした。それと同時にあまり図書室に本を借りに来る人がいないことに心を痛めていました。そこで彼はまず図書委員便りのようなものを作り、そこで図書室にのおすすめの本を毎回紹介していたところ、学校の多くの生徒が図書室通いをしてくれるようになりました。そこからどうせならもっと多くの人に本の魅力を知ってもらおうと開設したのが有名になった彼の本紹介ブログでした。彼がプロフィールに図書委員をしていることが書かれていたことから世間の人々が『超高校級の図書委員』と呼ぶようになり、希望ヶ峰学園にスカウトされた、という経緯になります。
彼の名前はもう分かりやすいですね!太宰治と志賀直哉、それぞれから苗字と名前をもらってこの名前です。本に関わりのある名前にしたいなということでこの名前になりました。
彼はこれからも本から得た知識とその冷静さでみんなを助けてくれることでしょう!その活躍をぜひお楽しみに!ということで今回はここまで!!


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CHAPTER2 非日常編-捜査-

 薬師から首が見つかったという一報を受けて俺と甘寺も一度プールへ戻った。

 

「やっと来たか。」

「玉城、一体どこに…?」

「アレだ。」

 

薬師が指さす先を見るとそこにはシーツにくるまっているとおぼしきそれが転がっていた。

 

「どこにあったんだ?」

「何と言うことはない。奥のロッカーにバケツの中に入れられた上で隠されていた。適当なんだか周到なんだか分からん隠し方だ。」

「犯行時間を考えたら考えた方じゃないか?」

「そうかもしれんな。」

「じゃあ…、開けるか…。」

 

そう言ってシーツを開けるとそこには美上の死を裏付ける、そんな彼女の切り落とされた頭部があった。

 

「うぷ…!」

「わり、ちょっとトイレ…!」

 

あまりの凄惨さに直視できず吐いてしまうものも現れる状況だった。

 

「久見、こっちも任せて良いか?」

「うん、いいよー。」

 

とはいえ、こちらの方も放置しておくわけにも行かないので久見に検死を預ける。

 

「あ、その前に少しだけ検死の結果聞いてもいいか?」

「分かったー。といってもそんなに情報量が多くないよー?」

「ああ、構わない。」

「えっとねー、まず三香子ちゃんの爪の中に皮膚片が見られたよー。でも体には傷がなかったから今度は頭の方を調べて見る必要があるかなー。後はねー、首は骨の継ぎ目のところで綺麗に斬られてたよー。だからあんまり犯人は時間をかけてないかもねー。残りは頭が調べ終わってから報告するねー。」

「ああ、助かる。」

 

久見の検死は現状こんなところか。これは結構重要な情報だな。

 

 

コトダマGET!

【久見の検死)

死体の手の爪に皮膚片が見られた。しかし体にはどこも目立った傷は見られなかった。

首は骨の継ぎ目のところで綺麗に切り落とされており、犯人はあまり時間をかけていないと思われる。

 

 

さて、次は…

 

「玉城、どうやってロッカーにあるって分かったんだ?」

「床を見てみろ。」

「これは血痕か?」

「ああ。途中で途切れてはいるが、ロッカーの方向に向かって伸びているだろう。だからそっちの方向にあると判断して探した。そして見つけたんだ。」

「なるほど、ありがとう。」

「ふん。」

 

礼も素直に受けられないのかコイツは。それにしても何でわざわざあんな遠くまで運んだんだ?結果的に残した血痕で頭部も見つかっているし、あまりメリットはなかったように思われるが…。

 

 

コトダマゲット!

【血痕)

死体のあるプールサイドの方からロッカーの方向に向かって伸びている。

途中で途切れているが、犯人がそちらへ向かって歩いて行ったと判断するには十分だ。

 

 

玉城と話し終えた後甘寺の方に戻ると、甘寺はシーツとにらめっこしていた。

 

「何してるんだ?」

「あ、水島君。このシーツ、なんか変なんだよね。」

「そうなのか?特段変なところのない倉庫にあるシーツだと思うが。」

「うん、かなりいっぱい血がついてて見にくいんだけど、よく見てみるとさ、このシーツって皺が同じ方向に何本も入ってるんだよね。」

「確かによくみるとそうだな。」

「でもこれって何かを包んだだけじゃできないと思うんだよ。」

「どっちかというとロープみたいに細長くしたときのような皺だな。」

「なんでこんな皺がついてるんだろうね?」

 

 

コトダマゲット!

【シーツ)

倉庫に置いてあったもの。特段加工された跡などはないが、全体的に大量の血がついている。

恐らく美上の頭部をくるむために使われたもの。

 

【シーツの皺)

同じ方向に何本も皺が入っており、これは一度細長くロープ状にしたと考えられる。

だが、頭部をくるんだだけではそのような皺が残るとは考えにくい。

 

 

シーツについて気になったのはこんなところか。そう思って顔を上げるとちょうどバケツが目に入った。

 

「確かこのバケツって首が入ってたんだよな?」

「そうだね。実際に少し血がこぼれた跡があるし。」

「なるほど。…ん?」

「どうしたの?」

「いや、血とは別に水か何かで濡れてるんだよな。」

「あ、ほんとだ。」

「つまりこのバケツは割と近いところで水を入れるのにも使ったってことか。」

 

一体何に使ったんだろうか?

 

 

コトダマゲット!

【バケツ)

中からシーツにくるまれた美上の首が見つかった。実際に血がこぼれた跡が残っている。

また、中が水でも濡れており、近いところで水を入れるのに使ったようだ。用途は不明。

 

 

取りあえずこんなところか。後はどこを調べるべきか…。

 

「ねえ、今度は寄宿舎の方に行ってみない?」

「寄宿舎?」

「今日は何となくみんな食堂にいっぱいいたし、何か証拠が残ってるかも!」

「じゃあ行ってみるか。」

 

 

 

 

 取りあえずみんなの話を聞くために食堂に入ると、山吹がキッチンで首をかしげていた。

 

「なあ、水島。ここの引き出しに入ってた刺し身包丁見てないか?」

「いや、見てないが…。」

「昨日まであったのにないんだよ。今刃物って言ってもここの包丁くらいしかないと思って来てみたらこのザマだ。」

「よく気付いたね。」

「いや、最初は普通の包丁かと思ったんだけどさ、普通の包丁って壁に掛かってるじゃん?だからそれをみたら一本もなくなってなかったからもしやと思って見てみたら無くなってたんだ。」

「ってことは、首を切るのに使われた刃物は刺し身包丁ってことだね。」

「じゃあ、この包丁はどこに行ったんだ…?」

 

 

コトダマゲット!

【無くなった刺し身包丁)

山吹曰く昨日まではきちんと置いてあったはずの刺し身包丁がキッチンから無くなっていた。

元々は引き出しにしまってあり、他の通常の包丁とは別の場所に保管されていた。

 

 

キッチンで気になるのはこんなところだろう。そう言えば、

 

「ちなみに山吹は今日朝食の後どういう風に行動してたんだ?」

「ああ、アリバイか。アタシはずっと食堂にいて薬師たちが出るころに一度泳ぐ準備するために部屋に戻ったんだ。それでその後はアナウンスを聞いてプールへ行ったんだ。これは他の泳ぐ連中もいたからそいつらに聞けば分かるぞ。と言っても結構バラバラに出てったから覚えてない奴もいるかもしれないけどね。」

「なるほど、ありがとな。参考になった。」

「おう!」

 

取りあえず山吹のアリバイが分かったところで一度外に出る。食堂の外に出ると九鬼が捜査をしていた。

 

「九鬼、調子はどうだ?」

「あー、あんましだな。そもそもオレは頭使うのが苦手なんだよ。で、何の用だ?」

「みんなに朝食の後の行動を聞いてるんだ。」

「つってもオレはお前と一緒にいたろ。」

「ああ、それは分かってるんだがな、一応だ。」

「ま、それは大事なことだな。まあ、朝飯の後お前と薬師と一緒にいたのは良いとして、聞きてーのはその後だよな。大体8時20分くらいかな。オレも泳ぐつもりだったからな、体力温存と思ってラウンジでくつろごうとしたんだ。その前に何となくトイレに行こうとしたんだけどよ、トイレが閉まってやがってよ、開かねーでやんの。しゃあねーから諦めてラウンジでアナウンスがある直前までくつろいでたよ。まったく、何で食堂近くには家のトイレみてーのが1つしかねーんかな。」

「ちなみに、くつろいでたときって誰がどういう風に出てきたって覚えてるか?」

「ああ、大まかにだけどな。つってもおめーら結構バラバラに出てきたろ。確か8時半くらいにまず泳ぐ連中が出てきたんだ。だから、薬師だろ?あと山吹と比嘉。涼風も出てきたな。順番は覚えてねー。この辺の奴らが大体5分間くらいの間にバラバラに出てきたんだ。その後おめーが出てきたんだ。ちょうど部屋から出てきた涼風もおめーと合流してたよな。おめーら2人がプールに向かってった後オレも準備しなきゃと思って部屋に戻ったからその後の連中は知らん。」

「すごい記憶力だな。」

「くつろいでて他に頭使ってねーからな。何か参考になったか?」

「ああ、すごく参考になった。ありがとう。」

「へへ、良いってことよ!」

 

お世辞抜きで九鬼の情報は参考になりそうだ。食後の行動は他のみんなの話も含めてまとめるとして…。

 

 

コトダマゲット!

【九鬼の証言)

8時20分頃トイレに行ったら閉まっていて使えなかった。

その後九鬼自身はラウンジでくつろいだ後、水島と涼風が合流した直後に部屋に戻った。

 

 

後は…、

 

「確かシーツは倉庫にあったものだよね?何か手掛かりが残されてないかな?」

「行ってみるか。」

 

倉庫に行くと先にアンリが調査していた。

 

「やあ。水島君に心愛。君たちもここで捜査かな?」

「ああ。シーツの件もあるしな。」

「ああ、それならちょうど今調べたところだ。」

「そうなのか。」

「やはり1枚無くなってたよ。ということはあのとき見たのがクロだったのかもしれないな…。」

「誰か見たの?」

「そうなんだ。朝食の準備の前に誰かが手にシーツっぽい何かを持って校舎の方にいたのが見えたんだけど暗くて誰かまでは分からなかったんだ。追いかけていれば三香子は死なずに済んだかもしれないのに…!!」

 

アンリはそう言って唇を噛む。

 

「それは仕方の無いことだ。その無念は学級裁判で晴らせば良い。」

「そう…だね…。」

「一応朝食後の行動を聞いてもいいか?」

「ああ。主に君が食堂を出て行った後の話だけど、君が出て行ってちょっとしてからかな。食堂の外で畔田と合流してプールに向かったんだ。それで…、その後は君も知っての通りだ…。」

「ああ。ありがとう。」

「あ、そう言えばさ、詳しくは分かんないけど、美上さんが出て行った後で九鬼さんが出て行く前だから、大体8時10分から20分くらいのところで畔田君がいつの間にかいなくなってたけどその間彼は何をしていたの?」

「ああ、それなら“準備”じゃないかな?」

「“準備”?」

「いつも何か勝負事の前には畔田は何をしているかは知らないけど、“準備”をするんだ。そのために出て行ったんだと思うよ。正確な時間は覚えてないんだ。申し訳ない。」

「なるほどね。ありがとう。」

「ああ。じゃあ、お互い捜査を頑張ろう。」

「そうだな。」

 

こうして倉庫から出たところで俺たちは一度情報をまとめた。

 

 

コトダマゲット!

【アンリの証言)

朝食の前に誰かがシーツのようなものを持って校舎の方にいたが、暗くて誰かまでは判別することができなかった。

 

【畔田の“準備”)

甘寺曰く、8時10分から20分のどこかで畔田がいなくなっていた。

アンリによると畔田は勝負事の前には必ず何かしらの“準備”を行うようだ。

 

 

 

一度ここで朝食後のみんなの行動をまとめておくか。アリバイの有無を確かめるためにも。

 

「えっとまず8時に食べ終わって後すぐに玉城君と有浜さんが出て行ったんだよね?」

「ああ。恐らく普段の2人の行動を考えると部屋に戻ったんじゃないかな。その後8時10分前に図書室に行くために太宰が出て行った。その後8時10分に美上が絵を描く準備のために出て行ったんだ。」

「ちょうどこのタイミングで太宰君は図書室に着いたんだよね。」

「で、太宰によるとその後は有浜が8時15分くらいに図書室に来たらしい。」

「だけど時計は止まっていたからそれが正確な時間かは不明、って感じだね。」

「そして8時20分、このタイミングで美上は死んだ。食堂では九鬼がちょうど出て行ったタイミングだ。これは俺も見てる。その後九鬼は俺がプールに向かうくらいの時間までずっとラウンジにいたみたいだな。」

「つまり、この段階で食堂にいた人はみんなアリバイがあるってことになるね。後は、ここまでの10分の間のどこかで畔田君が“準備”のために食堂を出ていたんだよね。」

「そうだったな。そして8時30分、水泳大会に出場するみんなが食堂を出て部屋に戻った。より正確に言うと薬師、山吹、比嘉、涼風。全員が大体5分くらいの間にバラバラに出て行ったけど順番は不明だな。」

「これは九鬼さんが見ていたんだよね。」

「そうだ。そして俺は8時35分くらいに食堂を出たんだ。ホールで涼風に会って一緒にプールに向かったんだ。」

「そしてこのタイミングで九鬼さんは部屋に戻ったからその後は知らないんだよね。」

「で、この少し後にアンリが畔田と合流してプールに行ったんだ。」

「で、最後に残ってたのは私と久見さんだったよ。私たちは2人で死体発見アナウンスを聞いて食堂を出て行ったんだ。8時40分くらいかな?」

「じゃあその間に俺、涼風、アンリ畔田が美上の死体を発見したわけだな。」

「これで大体の朝食後のタームテーブルが完成したね!」

「これを表にまとめるか。」

「じゃあ、私が書くね。」

 

 

コトダマゲット!

【朝食後のタイムテーブル)

8:00   玉城、有浜が食堂を出て行く。

8:10前  太宰が図書室へ向かう。

8:10   美上が絵を描く準備のために食堂を出る。

      太宰、図書室到着

???    畔田、“準備”のため食堂を出る。

8:15   有浜、図書室に。

8:20   九鬼が食堂を出る。その後ラウンジに居座る。

8:30   ここから約5分にわたって水泳大会出場者がバラバラに食堂を出る。

メンバーは薬師、山吹、比嘉、涼風。

8:35   水島、食堂を出てプールに。ホールで涼風と合流

      九鬼、ラウンジを出て部屋に戻る。

???    アンリと畔田が合流。プールへ向かう

???    美上の死体発見。

8:40   死体発見アナウンス。

アナウンスを聞いて甘寺、久見がプールへ。

8:45 全員が集合。

 

 

「よし、タイムテーブルはこんなところだな。」

「うん、みんなの行動が分かりやすくなったよ!」

「そうだな。後は…、もう時間も無いし、久見の残りの検死も聞きに行くか。」

「そうしよっか!」

 

 

 

 プールに戻ると久見が既に俺たちを待ち受けていた。

 

「あー、やっと、戻ってきたねー。もう検死は終わってるよー?」

「そうか、済まない。」

「いいよいいよー。じゃあどこから話す-?」

「時間も無い。さっき聞いていないところを話してくれ。」

「オッケー!さっき話したのは爪の皮膚片と首の切れ目の話だったよねー。じゃあ後はー、まず引っ掻き傷だねー。」

「引っ掻き傷?」

「うん。さっき見つかった頭部の方の首にねー、縦に引っ掻き傷があったんだー。朝は見てないからー、多分殺される直前に強く首を引っ掻いたんだねー。もしかしたら爪の皮膚片は首のところの皮膚かもー。」

 

首に縦の引っ掻き傷…?その後が残るのって確か…?

 

「他には何かあったか?」

「えっとねー、頭に血がついてたよー。」

「血が?」

「うん、結構べったりついてたからこれが致命傷かなーって思ったんだけどー、頭には傷がなくて変だなーって感じー。」

 

傷がないのに大量についた頭部の血か…。これはどうしてついた血だ…?

 

「検死で分かったのはこんなところかなー。どうだったー?」

「気になるところが結構あったな。裁判の役に立つよ。ありがとう。」

「そっかー。それならよかったー。」

 

美上の死体の気になるポイント…。結局どうして美上は死んだんだ…?

 

 

コトダマアップデート!

【久見の検死)

死体の手の爪に皮膚片が見られた。しかし体にはどこも目立った傷は見られなかった。

首は骨の継ぎ目のところで綺麗に切り落とされており、犯人はあまり時間をかけていないと思われる。

切り落とされた頭部の首に縦方向の引っ掻き傷。死ぬ前に付けられたものだと考えられる。爪の皮膚片はこの傷のものか。

頭部に大量の血が付着していた。しかし、頭部には傷は見られなかった。

 

 

 

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「そろそろ待ちくたびれてきたんで学級裁判を始めるぜ!!ってなことで赤い扉の前に集合してくれ!!!」

 

俺たち全員の命が掛かってるってのに待ちくたびれたって…!

文句を言っても仕方が無いので俺たちは取りあえずみんなで校舎の赤い扉をくぐり、エレベーターの前に集合した。

 

 

 

 集合したはいいものの、俺たちは全員黙りこんでしまっていた。当たり前だ。美上を、仲間をあんな風に残酷に殺せるような奴がこの中に、同じ仲間の中にいる。その事実だけで俺たちが黙りこむのには充分だった。

そこに奴は現れた。

 

「おいおい、オマエラ前の威勢はどうしたよ!?随分シケた面してやがるじゃねーか!!そんなんじゃ簡単にクロに騙されちまうぜ!?オレは先に行ってるからよ、さっさと降りてくるんだぜ!!」

「勝手なことを…!」

 

文句の一つも言ってやろうと思ったが、ぐっとこらえた。そんなことをしても意味は無い。そんなことをしても美上は帰ってこない。であればあんな奴に文句を言うよりも目の前の学級裁判に集中しよう。そして美上を殺した犯人を見つけるんだ。それがアイツに対する一番の餞だ。彼女が向こうで安心して暮らせるように、俺たちは今、ここでクロに、その策謀に打ち勝たなきゃならない…!!

俺たちはそう心を決めてエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

エレベーターは沈んでいく。深く、深く、地の底へ。もう止まれない。2度目の学級裁判が今始まる。

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り13人




まずはお詫びさせてください!私生活が忙しく、めちゃめちゃ投稿が遅れてしまいました!もしかしたらもうちょっと忙しい期間が続くのでまた時間が空いてしまうかもしれません!どうかお許しください!

ということで今回で第2章捜査編今回で終了です。次回からは2度目の学級裁判が始まっていきます。あんなに残酷な事件を起こしたクロは一体誰なのでしょうか?ぜひともお楽しみに!!

それでは今回の設定裏話!!今回はこの2章の事件の被害者こと美上さんです。
彼女は原作のアンジーさんと比べると専門の範囲が狭く深く、といったイメージです。彼女は絵、その中でも特に人物画を描く技術に優れていたというのはこれまでも何回か書いてきたとおりです。しかし、彼女は自分に才能があると思っていません。これは本編で彼女が言っていたとおり、彼女は絵が上手い、というよりも彼女が見た人物の命の輝きをキャンバスなどにアウトプットするのが得意、という感じです。もちろん絵のレベルは高いわけですが。彼女がこのような才能を持つようになったきっかけは幼いころに事故に遭ったことでした。その事故で彼女は母を喪ったのですが、その瞬間、母が彼女を守ろうと命を燃やすその輝きが彼女には見えました。それ以降彼女は普通に生活していても人々が命を燃やす輝きが見えるようになりました。彼女はこの事故以来人間はいついなくなってしまうか分からないということを思うようになり、その命の輝きを少しでも長い間誰の目にも残るようにしたい、と考え絵を描くようになったのです。
彼女の名前の由来はまず美術の「美」ですね。ただ名前を普通につけるだけではひねりがなので苗字と名前のそれぞれ「み」と読む字を入れ替えてあの名前になりました。

そんな感じで今回もコロシアイという特に人の命が軽いこの環境だからこそ、みんなの命の輝きを残したいと思って行動した矢先のあの事件でした。みんなが納得いくような裁判の結果が出ることを願いましょう!ということで今回はここまで!


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CHAPTER2 学級裁判 前半

 エレベーターの扉が開く。この裁判場には二度と来ることはないと思っていたのに・・・。それはみんなも同じ想いだったようだ。でもこの中には一人だけ美上を殺した犯人がいる。ソイツはどんなつもりでそんな思い詰めた顔をしているのだろう。そう考えたらまだ正体も分からぬクロに対する怒りがふつふつと湧き上がってきた。

 

「お、オマエラいい顔してるじゃねーか!!絶望と怒りの入り交じった顔、いいじゃねーか!学級裁判はそうじゃねーとな!!」

 

・・・。悔しいがその通りだ。今俺たちは再びコロシアイが起こってしまった絶望とクロに対する怒りでここに立っている。でも止まるわけにはいかない。

 

俺たちはクロを、事件の真相を暴き、美上が安らかに眠れるように、戦わなければならない。その思いで俺たちはそれぞれの席に向かった。

 

 

コトダマ一覧

 

【モノトラファイル2)

被害者は美上三香子。死亡推定時刻は8時20分頃で発見現場はプール。遺体はプールサイドに頭部の無い状態で放置されていた。死因は不明。

 

【綺麗なプールサイド)

死体の首を切り落とした割には綺麗すぎるプールサイド。

首を切り落とした後、何かでプールサイドを綺麗にしたのかもしれない。

 

【濡れた死体)

死体とその周りが濡れていた。しかし、モノトラファイルでもわかるように死亡推定時刻はわかるため、その偽装のために死体を冷やそうとしたわけではなさそうだ。

 

【消火器)

プールの底に沈んでいた。その側面が凹んでいる。

モノトラによると昨晩までは何ともなかったらしい。今日になってから人為的に誰かが凹ませたと思われる。

 

【涼風の証言)

ウォーミングアップのために早めにプールに入ろうとした。

そこで水島・畔田・アンリと一緒に8時40分頃に美上の死体を発見した。

水島と別れて再び出会うまでの間に更衣室では誰も見かけなかった。

 

【太宰の証言)

8時10分ごろに太宰は図書室に来た。その後15分ごろに有浜が来た。その後は2人ともずっと一緒に死体発見アナウンスまで本を読んでいた。

 

【人体図鑑)

人間の骨の構造のページにだけかなりめくった跡があった。

どうやらこのページだけかなり読み込んだ奴がいるようだ。

 

【落ち武者)

遺体の頭部を持っていく連続殺人鬼で未だ捕まっていない。日本刀のようなもので首を一撃で落としていると考えられている。そしてこの被害者の首は未だ行方不明である。

 

【止まった時計)

時計が8時15分を指したまま止まっていた。

調べたところ電池が取り外されていたようだ。

 

【久見の検死)

死体の手の爪に皮膚片が見られた。しかし体にはどこも目立った傷は見られなかった。

首は骨の継ぎ目のところで綺麗に切り落とされており、犯人はあまり時間をかけていないと思われる。

切り落とされた頭部の首に縦方向の引っ掻き傷。死ぬ前に付けられたものだと考えられる。爪の皮膚片はこの傷のものか。

頭部に大量の血が付着していた。しかし、頭部には傷は見られなかった。

 

【血痕)

死体のあるプールサイドの方からロッカーの方向に向かって伸びている。

途中で途切れているが、犯人がそちらへ向かって歩いて行ったと判断するには十分だ。

 

【シーツ)

倉庫に置いてあったもの。特段加工された跡などはないが、全体的に大量の血がついている。

恐らく美上の頭部をくるむために使われたもの。

 

【シーツの皺)

同じ方向に何本も皺が入っており、これは一度細長くロープ状にしたと考えられる。

だが、頭部をくるんだだけではそのような皺が残るとは考えにくい。

 

【バケツ)

中からシーツにくるまれた美上の首が見つかった。実際に血がこぼれた跡が残っている。

また、中が水でも濡れており、近いところで水を入れるのに使ったようだ。用途は不明。

 

【無くなった刺し身包丁)

山吹曰く昨日まではきちんと置いてあったはずの刺し身包丁がキッチンから無くなっていた。

元々は引き出しにしまってあり、他の通常の包丁とは別の場所に保管されていた。

 

【九鬼の証言)

8時20分頃トイレに行ったら閉まっていて使えなかった。

その後九鬼自身はラウンジでくつろいだ後、水島と涼風が合流した直後に部屋に戻った。

 

【アンリの証言)

朝食の前に誰かがシーツのようなものを持って校舎の方にいたが、暗くて誰かまでは判別することができなかった。

 

【畔田の“準備”)

甘寺曰く、8時10分から20分のどこかで畔田がいなくなっていた。

アンリによると畔田は勝負事の前には必ず何かしらの“準備”を行うようだ。

 

【朝食後のタイムテーブル)

8:00   玉城、有浜が食堂を出て行く。

8:10前  太宰が図書室へ向かう。

8:10   美上が絵を描く準備のために食堂を出る。

      太宰、図書室到着

???    畔田、“準備”のため食堂を出る。

8:15   有浜、図書室に。

8:20   九鬼が食堂を出る。その後ラウンジに居座る。

8:30   ここから約5分にわたって水泳大会出場者がバラバラに食堂を出る。

メンバーは薬師、山吹、比嘉、涼風。

8:35   水島、食堂を出てプールに。ホールで涼風と合流

      九鬼、ラウンジを出て部屋に戻る。

???    アンリと畔田が合流。プールへ向かう

???    美上の死体発見。

8:40   死体発見アナウンス。

アナウンスを聞いて甘寺、久見がプールへ。

8:45 全員が集合。

 

 

 

 

【学級裁判開廷】

 

「まずは学級裁判の流れを説明するぜ!オマエラには美上を殺したクロを議論によって指名してもらうぜ。そしてそのクロを正しく指摘できた場合にはクロのみが、間違った人物を指摘した場合はクロ以外の全員がおしおきとなるぜ。てな訳で議論を始めてくれ。」

 

美上を殺した奴・・・。それは一体誰なんだ・・・?

 

「最初に何から話していこっか?」

「うーん、それなんだよなー。」

「えー、でも犯人は分かってるじゃーん。」

「え!!?」

 

 

議論開始

 

「だってー、今回の犯人はー」

 

 

「【落ち武者で間違いない】よー」

 

 

「落ち武者ってあの【殺人鬼】かい?」

 

 

「そうだよー。」

 

 

「きっと実はー、」

 

 

「落ち武者が学園の中に」

 

 

「潜んでいてー、」

 

 

「【美上さんを殺した】んだよー!」

 

ホントに犯人はソイツで良いのか・・・?

 

 

【落ち武者)→【落ち武者で間違いない】

 

「それは違うぞ!!!」

 

 

「いや、それは考えにくい。」

「そうなのか?」

「ああ。まず落ち武者の使う凶器は日本刀だとされてる。でもこんなとこに日本刀はないだろ?」

「確かにな。」

「それに、落ち武者の被害者の首はどれも見つかっていないんだ。」

「それって・・・。」

「ああ。本当に落ち武者が犯人ならそもそも捜査中に首が見つかること自体あり得ないんだ。」

「ほんとだー。僕の早とちりだったねー。ごめんねー。」

「でも可能性を一つずつ潰していくのも大切なことさ。」

 

いきなり犯人に行こうとしたのが間違いだったな。もうちょっと推理可能なところから推理していくべきだろう。

 

「とりあえずさ、美上さんの死因から議論していかない?それによって見えてくるものもあると思うよ?」

「そうかもしれんな。」

 

 

議論開始

 

「美上の死因か・・・。」

 

 

「やっぱ『首を切られた』ことじゃねーか?」

 

 

「それが一番分かりやすいと思うぜ?」

 

 

「いんや、『撲殺』じゃねえか?」

 

 

「頭にべっとり血がついてたしな。」

 

 

「確かに!!」

 

 

「私は何となくですが」

 

 

「『絞殺』じゃないかと踏んでいるのですが」

 

 

「いかがでしょうか?」

 

あの証拠を見れば美上の死因が分かるはず・・・。

 

【久見の検死)→『絞殺』

 

「それに賛成だ!!」

 

 

「絞殺ぅ?」

「私も言ってみただけであまり確証はないのですが・・・?」

「いや、ちゃんとその証拠もある。久見の検死だ。」

「うん、恐らく美上さんは絞殺されたんだと思うよ。」

「なぜだ?」

「あ、そういうことねー。えっとじゃあねー、まず美上さんの爪の中に皮膚片が挟まってたんだけどー、体にはどこにもそれらしき傷はなかったんだー。だからー、最初は犯人の皮膚なのかなー、って思ってたんだけど-、首の方を調べて見たらしっかり引っ掻き傷があったんだー。」

「その傷がなんだい?」

「えっとねー、簡単に言うとー、首を絞められたときに首にかけられた索状物を外そうと被害者が首元でもがいて首を引っ掻いちゃうときがあるんだよねー。で、それと同じ傷が美上さんの首にもあったってことー。つまり美上さんは首を絞められて、そこから脱出するためにもがいた形跡まで残ってるってところかなー。」

「つまり縄みたいなもんで絞め殺されたときの特徴があったってことだな!」

「まあ、そういうことになるな。」

 

 

「そんなんじゃ溺れちまうぜ!!」

 

「九鬼!?」

「わりーな、でもオレにはどうにも美上が絞め殺されたとは思えねーんだ。」

 

 

反論ショーダウン

 

 

「たしかによー、」

 

 

「死体に絞殺された後が残ってたのは分かった。」

 

 

「でもよ、そいつが」

 

 

「犯人の偽装工作の可能性も」

 

 

「あんじゃねーのか?」

 

 

-発展-

 

「でも他にはアイツの死因に繋がる証拠はないんだ!」

 

「普通に考えたら」

 

「アイツは絞殺されたとしか言えないじゃないか!」

 

 

 

「それはそうなんだがよー、」

 

 

「どうしてもさ気になるんだ」

 

 

「絞殺だったにしても」

 

 

「これまでの捜査の中で」

 

 

「その凶器になりそうなモンが」

 

 

「【見つかってない】ってことがさ」

 

 

 

【シーツの皺)→【見つかってない】

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

 

「は?シーツ?なんでんなモンが凶器になんだよ?ソイツは切り落とした後の首をくるむのに使っただけじゃねーのか?」

「いや、それだけじゃなかったんだ。このシーツをよく見てほしい。」

「これは・・・、首をくるんだだけにしては変な皺だね・・・。」

「皺?」

「ああ。アンリの言うとおり、このシーツには不自然な皺がある。」

 

その皺って言うのは・・・

 

 

選択肢セレクト

 

1.全く皺がない

 

2.同じ方向に細かく皺が入っている

 

3.ぐしゃぐしゃに皺が入っている

 

→2

 

「これだ!」

 

 

「ほんとだな!!細かく皺が同じ方向に入っているぞ!!」

「付け加えるとシーツの長い方の縁に沿うようになっているわね。」

「つまりこれって・・・!」

「ああ。犯人はこのシーツを細長くしてロープの代わりにしたんだ。」

「なるほどな!そりゃ見つかんねーわけだ!凶器も一緒に隠されてたんだもんな!」

「では少し整理すると犯人は美上さんをシーツをロープ状にして絞殺、その後その首を切り落として絞殺に使ったシーツに首をくるんでバケツに隠した、ってことですね。」

「ああ。そういうことだろうな。」

 

これで美上に起こったことは大体分かった。次は・・・。

 

「被害者に起こったことも分かったし、次は現場で起こったことを推理していこっか!」

「そうだな。」

「具体的には、美上さんの殺害後だね。」

「美上さんの殺害後に起こったことか・・・。」

 

 

議論開始

 

「まずはー、」

 

 

「さっき畔田君が言ってくれたとおりー、」

 

 

「美上さんの【首を切り落とした】んだよねー?」

 

 

「そしてその後は、」

 

 

「首を【シーツにくるんで】、」

 

 

「更にそれをロッカーに隠したんだよな」

 

 

「あれ、その後は・・・」

 

 

「【現場をそのままにして】逃走したんだったかな?」

 

ほんとにそのままになっていたのか・・・?

 

 

【綺麗なプールサイド)→【現場をそのままにして】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「やっぱりそのままじゃなかったのか。」

「ああ。それを証明するためにも最初の現場の写真を見てほしい。」

「これは・・・!」

「異常に綺麗だな。」

「これってまさか・・・?」

「ああ。恐らく犯人が綺麗にしたんだ。その証拠もある。」

 

犯人がプールサイドを綺麗にした証拠、それは・・・

 

 

証拠提出

 

【濡れた遺体)

 

「これだ!!」

 

 

「これを見てほしい。」

「コイツは死体の写真か?」

「そうだ。この写真をよく見ると美上の死体がびしょびしょに濡れていることが分かる。」

「あれ、確か首の方は血以外では濡れてなかったよね?」

「うん。そうだったよー。」

「ってことは首を切り落とした後に濡れたってことだよな。」

「つまり、首を切り落とした後に現場を綺麗にしてごまかしたってことか!」

「でもそれって変じゃないかい?」

「変?」

「ああ。だって現場を綺麗にしたところで首を切り落とした事実はごまかせないだろう?ならどうして犯人はわざわざ死体を綺麗にしたのかなって思ってさ。」

「確かにそうだな・・・。」

 

確かにどうしてわざわざ現場を洗い流すようなことをしたんだ・・・?

 

 

議論開始

 

「確かにどうして」

 

 

「犯人は現場を綺麗にしたんだろうね?」

 

 

「血が綺麗になったところで」

 

 

「首を切り落とした事実は『変わらない』のにな」

 

 

「他に何か理由があったとかじゃないか?」

 

 

「例えば自分が『通りやすいようにした』とかさ」

 

 

「いや、きっとそうじゃない!」

 

 

「『頭についてた血』に関係があるんだろうな!!」

 

 

「いや、水を撒くことで」

 

 

「『議論の攪乱』を試みたんじゃないかな?」

 

 

「ちょうど今みたいにさ」

 

 

犯人が現場を綺麗にした理由に繋がりそうなものって・・・

 

【消火器)→『頭についてた血』

 

「これに賛成だ!」

 

 

「比嘉、お前の言う通りかもしれない。」

「お、やっぱりそうか!!」

「どういうこと-?」

「消火器だよ。プールの底に沈んでた横の凹んだ奴。」

「ああ、あれか!」

「ですがここまで絞殺の線で話を進めてきましたよね?これがどう事件に関係しているんですか?」

「簡単に言うと偽装工作だよ。今回のクロはまず美上の死因を偽装しようとしたんだ。絞殺の他に撲殺の線を残したかったんだよ。そのために犯人は美上の頭に血を付けたし、消火器を凹ませて凶器であるように偽装工作をしたんだ。」

「でもそれだけじゃ水を撒いた理由にはならないよね?」

「そうだな。でも消火器を凹ませたときに犯人にとってのイレギュラーが起こってしまったんだ。」

 

そのイレギュラーって言うのは・・・

 

 

選択肢セレクト

 

1.粉が漏れた

 

2.上手く凹まなかった

 

3.元々凹んでた

 

→1

 

「これだ!」

 

 

「恐らく消火器の粉が漏れてしまったんだ。」

「粉が?」

「ああ。この粉が想定以上に漏れて床にこぼれてしまったが故に犯人はこの粉を掃除せざるをえなくなってしまったんだ。」

「それはまたどうして?」

「単純に床のタイルにぶつけたからだろう。頭より固いものにぶつけて凹ませたことで消火器が思いの外破損してしまった。それによって消火器から漏れた粉の量が人間の頭を殴った時より多くなってしまって偽装工作が失敗になりかけたんだ。」

「それなら最初から切り落とした頭にぶつければ良かったんじゃないか?」

「いや、それはできなかったんだ。だって撲殺の偽装工作をそもそも殺そうとしている美上にバレないように行うためには美上を殺した後に行う必要がある。殺した後、つまり横たわっている美上の頭を消火器で殴ったらどうなると思う?」

「多分ー、床の堅さも相まって-、頭蓋骨全体が砕けちゃったんじゃないかなー?そしたら確かにいきなり後ろから襲いかかったって偽装工作にはならなくなっちゃうねー。」

「なるほどなー。」

「だから床にぶつけて偽装工作をせざるをえなかったし、それによって漏れてしまった粉を処理する必要があった。だから犯人は美上の死体とその周辺に水をかけて粉を洗い流して偽装工作を完成させたんだ。恐らく水は首が入ってたバケツを使って運んだんだろう。」

「ついでに言うと、粉が漏れてしまったからプールに消火器を沈めたのかもねー。」

「確かに、漏れたまんま放置したらプールサイドを綺麗にした意味が無くなっちまうもんな。」

 

 

「これで現場で起こったことは大体分かったな!」

「いや、まだだ。首を切るのに使った道具がまだ分かってないだろう。それらしきものは現場には残されていなかった。」

「確かに・・・。」

「いや、それらしきものは推測できる。」

 

犯人が美上の首を切り落とすのに使ったと思われる道具、それは・・・

 

 

証拠提出

 

【無くなった刺し身包丁)

 

「これだ!」

 

 

「山吹なら分かるんじゃないか?」

「アタシか?」

「ああ。山吹が気付いた無くなってたものを思い出してくれ。」

「無くなってたものか・・・。あ!刺し身包丁のことか!?」

「そうだ。」

「どういうことだ?」

「実はな、刃物で思いついたのが厨房の包丁しかなかったんでそこを捜査してみたら昨日はあったはずの刺し身包丁がなくなってたんだ!!」

「刺し身包丁って他の包丁とは別に引き出しにしまってあった奴?」

「ああ。昨日使った後確かにしまったはずなのになくなってたんだ。」

「しまったところは俺も確認してる。」

「なるほど・・・、つまり今回の犯人が山吹が昨日しまってから今日の朝最初に厨房に来た奴が来るまでの間に刺し身包丁を持ち出してそれで美上の首を切り落とした、という訳か。」

「恐らくな。」

 

 

「あと現場の事件に関係しそうなものは何か他にあったかな?」

「あとは犯人の逃走経路とかじゃないか?」

「逃走経路か・・・。」

 

 

議論開始

 

「犯人の逃走経路か・・・。」

 

 

「普通に『入り口』じゃない?」

 

 

「でもよー、」

 

 

「それじゃ『リスクが高いぜ』?」

 

 

「『更衣室』を通る必要があるし、」

 

 

「そこに誰かいたら終わりだろ?」

 

 

「とはいえ、」

 

 

「他の経路なんて」

 

 

「『体育館に繋がる階段』くらいしかないだろうに」

 

 

恐らくあそこを使ったんだ。

 

【血痕)→『体育館に繋がる階段』

 

「これに賛成だ」

 

 

「なぜ?」

「単純な話だよ。わざわざ首をロッカーに隠しに行ったのにどうしてまたそっちから遠い入り口の方に戻る必要があるのか、って話なんだ。時間をかければかけるほど誰かが来てしまう可能性が高いのに。」

「それはそうね。」

「現に犯人は血がこぼれてしまったことに気づけないほど焦っていた。ならばわざわざ入り口に戻るより体育館に繋がる階段を使って戻った方が効率的だろ?」

「それは納得したわ。」

「つまり現場で起こったことをまとめるとこうだ。まず殺した美上の首をあらかじめ盗んだ刺し身包丁で切り落とした。その後死因の偽装をするために消火器を床で凹ませた。でもその際粉が漏れてしまってそれを掃除するためバケツで水を汲んで現場を綺麗にし、消火器自体はプールに沈めた。その後犯人はバケツと一緒に首をロッカーに隠したんだ。恐らくバケツに首を入れておくというのは咄嗟に思いついたことだったんだろう。その証拠にバケツから血がこぼれてそれが残した血痕が首の発見に繋がってる。そして首を隠し終えた犯人はロッカーから一番近い、そして付け加えるとプールに行くに当たっては誰も使わないであろう体育館に繋がる階段を使って脱出したんだ。」

「これなら事件のあらましとしては矛盾がないな。」

「で、その後犯人はどう行動したんだ?」

「それは犯人を推理していかないと分からない。犯人が誰かによって行動経路は変わるからな。」

 

 

そう、ここまでやって初めて本番。やっとここから犯人の推理には入れる・・・。でも、一体誰が犯人なんだ・・・?

 

 

 

 

【裁判中断】

 

「今回の裁判は中々順調のようだな!」

 

 

「え?犯人の目星がついてないって?」

 

 

「いやいや、今回はこれでいいんだよ!!」

 

 

「中途半端に事件経過を解いちまうとその結末は」

 

 

「絶望しかないんだぜ・・・?」

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り13人




はい、またまたお久しぶりです!また時間が空いてしまい申し訳ありません・・・。
ということで今回は裁判の前半ということで、めちゃめちゃ文量が増えました笑。現場で起こったことが取りあえず分かってきたところで次回から一気に推理が進んで参ります!ついでに原作にあったあのシステムも文章でどうにか表現していきたいと思いますので、どうかお楽しみに!!


それでは今回の設定裏話は、青山君です!!
青山君は1章の被害者となったわけですが、その分あまりキャラの掘り下げが本文中ではできていなかったので今回はその話をば。青山君は元々の生まれはそんなに裕福じゃありませんでした。昔ながらのテーラーに生まれた彼でしたが、その経営状況は厳しく、いつ潰れてもおかしくありませんでした。ですが父の高い技術を目で見て盗み、それを更に高いレベルに昇華させた彼の作るスーツは瞬く間に話題のスーツとなっていき、今や世界中のセレブが彼の作るスーツを身につけるほどとなったのです。更に彼のすごいところはスーツだけでなく、大概の服なら何でも作れてしまうことです。そのため、ちょくちょくセレブの普段着も依頼を受けて作ることがあります。そんな天才テーラー青山君の津売る服がもう世の中に出回ることがないと思うと絶望的ですね・・・。
名前の由来ですが、まず苗字は分かりやすいですね!あの有名なお店です。名前の方は「縫製」です。その音をどうにか良い感じの名前にできないかといろいろ調べまくった結果、「蓬生」という字に行き着きました。要はダジャレです笑。

ということで今回はここまで!次回衝撃の犯人が判明していきます。ということでお楽しみに!!


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CHAPTER2 学級裁判 後半

【裁判再開】

 

 取りあえず犯人が現場で行ったことの概要は推測できた。ここからが本番だ。ここから犯人が誰なのかを推理していかなくては・・・!

 

 

議論開始

 

「さて、ここからは犯人の推理だね」

 

 

「つってもなー、」

 

 

「犯人に繋がりそうなものなんて」

 

 

「特には【なかった】ろ?」

 

 

「いや、それはどうだろうな?」

 

 

「直接【犯人に繋がる】ようなものじゃなくても」

 

 

「何か証拠があるかもしれない」

 

 

「せめて犯人じゃない人を」

 

 

「少しずつでも【絞っていける】といいよねー」

 

 

ほんとにそんなものは存在しなかったのか?

 

【朝食後のタイムテーブル)→【なかった】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「いや、犯人に繋がりそうなものは無いわけじゃない。」

「そうなのか?」

「ああ。これを見てくれ。」

「これは今日のタイムテーブルか。」

「ああ。全員の話を元にまとめたんだ。もちろんできる限り裏付けを取れているものを書いた。このタイムテーブルを元に考えていけば犯人そのものには繋がらなくても犯人じゃない人間を絞っていくことができる。」

「それは優秀ね。」

「じゃあ、ちょうど死亡推定時刻あたりの行動が分かっている人物はまず犯人から外せるね。」

「そこに当てはまるのは・・・。」

 

 

死亡推定時刻は8時20分。ちょうどこの時間の行動が分かっているのは・・・

 

 

選択肢セレクト

 

1.九鬼

 

2.玉城

 

3.太宰

 

→1

 

「これだ!」

 

 

「九鬼のことだな。」

「オレか?」

「ああ。九鬼はちょうど美上の死亡推定時刻に食堂の席を立った。それは俺と同じテーブルにいた奴が確認してる。」

「なるほどな。それならば九鬼はほぼシロだな。」

「それで?あなたはその後何をしていたの?」

「ああ、食休みもかねてラウンジでくつろいでたんだ。」

「そうだな。そして九鬼がくつろいでいたことが今回の推理の大きなヒントになる。」

「どういうことだい?」

「九鬼はラウンジにいて食堂から出て行くメンバーを見ていた。ついでに言うと校舎から来る人間もラウンジから全部見えるから九鬼がラウンジで見た人間で校舎以外の方向から来た奴は全員それまでは食堂か自室にいたと考えて良いだろう。」

「じゃあ九鬼ちゃんに聞いてみよっか!ラウンジに戻ってからって誰がどの方向に通っていったの?」

「えーっとだな。まず前提としてオレは20分ちょい過ぎにはラウンジにいたからクロがオレがラウンジに居座る前にどこかに戻ってる可能性はないって考えてくれよ?その前提の上で話していくと、まず30分頃からバラバラと5分くらいにわたって水泳大会の出場者の奴らが全員じゃねーが食堂から部屋に向かってった。具体的なメンバーとしては薬師、山吹、比嘉に涼風だ。」

「つまりこの4人は除外して大丈夫ということだね。」

「他には?」

「後は35分くらいに水島が食堂から出てきたな。同じくらいに部屋の方から涼風が出てきて合流して2人がプールに向かってったんだ。」

「じゃあ水島も除外だな!」

「取りあえずこれでクロの候補は残り7人だね。」

「じゃあ残りのメンバーを絞っていくか。」

 

他に除外できるメンバーか・・・。

 

 

議論開始

 

「他に【除外できるメンバー】か・・・」

 

 

「つっても思いつかなくねーか?」

 

 

「とはいえ、証明できないアリバイじゃ意味が無いね」

 

 

「と言ってもそれは【かなり難しい】ですね」

 

 

「食堂にいたメンバーはともかく、」

 

 

「それ以外の場所にいた人は」

 

 

「各々【1人で過ごしていた】訳ですし」

 

 

「そうだよね・・・」

 

 

「さて、どうやって絞ったものか・・・」

 

本当に誰もアリバイがないのか・・・?

 

 

【太宰の証言)→【1人で過ごしていた】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「そうなんですか?」

「ああ。他にもアリバイがある奴らがいる。」

「それは・・・?」

 

アリバイを持っている奴ら、それは・・・

 

 

選択肢セレクト

 

1.アンリと畔田

 

2.玉城と久見

 

3.太宰と有浜

 

→3

 

「これだ!」

 

 

「太宰と有浜だ。」

「そうなのか?」

「ああ。さっきのタイムテーブルも見てほしいんだが、まず太宰は10分になる少し前に食堂を出て図書室に向かっている。恐らくちょうど10分頃に図書室に着いている。そして15分頃に有浜が図書室に来たことを太宰が証言している。その後は死体発見アナウンスまで2人で本を読んでいたらしい。お互いにアリバイが確認できている以上、この2人は一度犯人の候補から外して良いだろう。」

「ちなみに有浜さんはそれより前ってどこにいたの?」

「普通に部屋にいたけど?その後まっすぐ図書室に向かったの。九鬼さんがラウンジに出てくる前だったから証明できないのは心苦しいけれど。」

「ううん、大丈夫!」

「そうすると、アリバイがねーのは?」

「えーっと、甘寺ちゃんでしょ?久見ちゃん、玉城、アンリちゃんと後は畔田だね!」

「この5人の中から犯人を捜さなくてはならないのか・・・。」

「でもさ、甘寺ってずっとキッチンにいたよな?」

「うん、そうだったよ。食堂に残っていたみんなにガトーショコラを渡すのに食堂に出たくらい!後はずっと片付けとかしてたよ。」

「そーいや、オレ達はコイツがキッチンに戻ってくとこを見たよな。」

「そうだな。」

「キッチンには他に出口もないし、こうなると甘寺は外して大丈夫そうだな。」

「ああ、あと私はずっと晴香の姿を食堂で確認していたから彼女も大丈夫じゃないかな。」

「僕もー、アンリちゃんは食堂にいたのを見てるよー。」

「お互いに姿を見てるのか。」

「じゃあ可能性は低いな。ってことは畔田、アンタもかい?」

「いえ、私は・・・。」

 

あれ、そう言えば畔田は・・・

 

「そう言えば美上が出て行ったころにはもういなかったよな?どこに行ってたんだ?」

「えっと・・・、準備です。」

「おいおい、そんな取って付けたような言い方ないだろうよ。もしかしてアンタ・・・?」

「いえ、そんなことは・・・!」

「ごめんね、ちょっと信じるのは難しいかな。」

「オメーホントに美上を殺したってのか?」

「ならばどこにいたのか言ってみろ。それとも誰かアリバイを証明できる人間がいるのか?例えばお前が敬愛する主殿とかな。」

「私は・・・、すまない。どこにいたのか知らないんだ・・・。」

「決まりかしら?」

「おい、落ち着けって!まだ決まったわけじゃねえだろ!?証拠もない!」

「だったらー、逆に畔田君じゃないって証拠もないでしょー?」

「みんな落ち着いて!冷静になって!」

「俺でも分かるぞお!今決めるのは早計だ!!!」

「でも・・・、アリバイはないんだよね・・・?」

「それでも畔田は人殺しなんかする男じゃない!頼む、みんな信じてほしい!」

 

駄目だ、みんな真っ二つにぶつかってる・・・!でも本当に畔田が犯人なのか・・・?

 

「おお?なんだか真っ二つみてーだな!!そういうときにゃいいモンがあるぜ!!前回にゃ使うタイミングがなかったが、コイツがありゃオマエラは存分に意見をぶつけられるぜ!ってな訳で裁判場変形!!」

「・・・は?」

 

俺達が呆気に取られていると急激に裁判場が変形する。俺達一人一人がいる席が移動し、ちょうどそれぞれの意見によって対面する構造になった。

 

「さあ、その真っ二つの意見を存分にぶつけ合え!!」

 

 

議論スクラム

 

〈畔田鋼之助は本当に美上三香子を殺したのか?〉

殺していない       殺した

水島           涼風

甘寺           玉城

薬師           有浜

アンリ          山吹

畔田           太宰

比嘉           久見

             九鬼

 

 

 

開始

 

 

有浜「事実、美上さんの死亡推定時刻当時の彼の【行動】は分かっていないわよね?」

「甘寺!」

甘寺「でも【行動】が分かってないのって私も同じだよ?」

 

 

久見「だけどー、食堂にいた僕たちは誰も心愛ちゃんが【出て行くところ】を見てないよー?」

「比嘉!」

比嘉「【出て行くところ】を誰も見ていないのは畔田も一緒だろう!!」

 

 

九鬼「だがオレは【ラウンジ】で1回も畔田の姿を見てねーぞ!」

「アンリ!」

アンリ「だが私は水島君達が出た後に【ラウンジ】で畔田と合流したんだ」

 

 

涼風「うまく【校舎】から戻ってきただけかもしれないじゃん!」

「俺が!」

水島「俺達は【校舎】で誰ともすれ違ってないじゃないか!」

 

 

太宰「君たちが合流する【前】に寮に戻っていただけかもしれないのに?」

「薬師!」

薬師「合流するより【前】なら九鬼が見てないわけがねえ!」

 

 

玉城「どうあれ畔田に【アリバイ】がないのは変わらんがな」

「畔田!」

畔田「私以外にも【アリバイ】がない人はいるはずです!!」

 

 

 

CROUCH BIND

 

SET!

 

 

「これが俺達の答えだ!!」

 

 

 

「みんな結論を急がないでくれ!確かに畔田にアリバイはないかもしれないけど他にもアリバイがない奴もいる!そっちの可能性も考慮して損はないだろ?」

「それもそうか・・・。」

「で、その他にアリバイがない奴ってのは誰なんだ?」

「玉城だ。」

「!!」

「これまでのアリバイの話の中で1回も玉城の話が出てきていないんだ。」

「確かにそうだな。」

「すげー落ち着いてやがる・・・。」

「それはそうだろう。俺はずっと寮の部屋にいたからな。疑われたところでアリバイを証明する人間もいなければ逆に俺がクロだと証明できる人間もいない。まあ、俺をクロにしたところでお前等全員が死ぬだけだがな。」

「・・・!」

「・・・やっぱ畔田なんじゃねーか?だってコイツが部屋にいたってのをひっくり返す要素がねーだろ?」

「待てって!絶対何かあるハズなんだ・・・!何か矛盾が・・・!もしくは2人どちらかの潔白を示す何かが・・・!」

 

くそっ・・・!何か手掛かりはないのか・・・!

 

 

議論開始

 

 

「2人それぞれの潔白を証明する何か、か・・・」

 

 

「誰か【見てない】のか!?」

 

 

「それならさっさと出てくるだろう」

 

 

「だったらー、逆にー、」

 

 

「【クロって証明する】何かとかー?」

 

 

「ソイツもあるなら苦労はしないな・・・」

 

 

「だーっ!!」

 

 

「全然【手掛かり】がねえっ!!」

 

 

「これは堂々巡りね・・・」

 

 

いや、アイツは確か・・・!!

 

【アンリの証言)→【見てない】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「なあアンリ、今朝誰かの姿を見かけたって言ってたよな?」

「ほんとか!?」

「あ、ああ。誰かがシーツを持って校舎に向かっていくのが見えたんだけどそれが誰かまでは暗くて全然・・・。」

「ダメじゃねえか!」

「いや、この誰か分からなかったってのがキモだ。誰か分からなかったとはいえシーツを持っているのは確認できた。つまり、手元は見えたわけだ。でも誰かは分からなかった、つまり今回のクロは服装、特に袖口に関しては特殊なものを着ていなかったってことになる。その点においては」

「そっか!着物を着てる玉城は当てはまらないんだ!」

「確かに、着物だったらさすがに気づける程度の明るさではあったね。」

 

でも同時にこのことが示すのは・・・

 

「じゃあ、やっぱり畔田がクロってことなのか・・・?」

「消去法的にはそうなるな。」

「そんな・・・!」

「じゃあ投票に行くか!」

 

確かに、ここまでの推理を総合したらそうなるんだけど、何か引っかかる・・・。本当にそうか・・・?何が引っかかってるんだ・・・?

 

「なあ、みんなもうちょっと考えてみないか?」

「水島君、さすがに考えすぎじゃあないかい?ここまでの推理はみんなで導き出してみんなで検証してきたものだ。これ以上何かあるとは思えない。」

「でも何かが引っかかるんだ。それもそれがとてつもなく致命的な何かな気がするんだ・・・!この違和感を無視して進んだら絶対にダメだって予感があるんだ・・・!」

「予感?そんな曖昧なもので流れを止めたのか?」

「そうだ。でもそれはきっと虫の知らせだ。俺達がこのまま進んだらヤバいっていう、そういう。」

「おいおい、そんな適当な・・・」

「じゃあ、もうちょっと考えてみない?」

「心愛ちゃん?」

「実はね、私もこの結論にはどこか違和感があったんだ。何かを見逃してる、そんな気がしてならないの。」

「このまま投票に進んだとして、そしてそれが当たりだったとしてそれってホントに正しいのかな・・・。オレも何かこのままじゃダメな気がする・・・。」

「九鬼まで!」

「こうなっちゃもうちょい話してみた方が良いんじゃねえか?たとえその結果同じ結論で、そんでその結論が正しかったとしてもみんなが納得してるかどうかで俺達の未来は全然違うんじゃねえかな。」

「薬師君も・・・。」

「はあ、仕方ないね。全員が納得するまでとことん話し合おうか。」

 

 

 

議論開始

 

「とは言ったが、畔田のアリバイはない」

 

 

「無実を証明するのは【難しい】と思うがな」

 

 

「でも無理じゃないと思うんだ」

 

 

「つっても誰も畔田を見てないんじゃなぁ」

 

 

「何も彼自身を『見てる』ことが」

 

 

「アリバイ証明の全てじゃないと思うよ?」

 

 

「じゃあ、畔田が話してるのを『聞いた』とかか?」

 

 

「いや、考えるな、『感じるんだ』!!」

 

 

「みたいなー?」

 

 

「畔田君が『何かした結果』があった、なんてのもあり得るかな?」

 

 

畔田の無実を証明しうるもの、それって・・・!

 

【九鬼の証言)→『感じるんだ』

 

「これに賛成だ!」

 

 

「は?水島何言ってんだ?考えすぎておかしくなったか?」

「いや、俺はいたって真面目だし、まともだ。正確には感じる、というよりそこにいたのが畔田しかあり得ない、ということになるんだが、そのためにはまず九鬼、お前に確認したいことがある。」

「何だよ?」

「お前は8時20分頃、ラウンジに行く前にトイレに行ったらカギが閉まってて入れなかったって言ってたよな?」

「ああ。でも緊急性はなかったから別に気にはしなかったけどな。っつーか水島、仮にも乙女のそういう事情をこんな公衆の面前で言うんじゃねえ!!」

「わ、悪い・・・。」

「やーい、デリカシーゼロー。」

「うるさい!それに重要なのはそこじゃない!このカギが閉まってた時間を考えてみてくれ!」

「8時20分・・・。あ!美上が殺された時間!」 

「そうだ。さらに畔田がトイレに行くのを習慣化していたと考えられる証拠もある。」

 

その証拠は・・・!

 

 

証拠提出

 

【畔田の“準備”)

 

「これだ!」

 

 

「アンリが言うには畔田は大きな勝負の前には何かしら“準備”をしているらしい。」

「その“準備”とやらがなぜトイレに繋がる?」

 

畔田の“準備”がトイレに繋がる理由、それは・・・!

 

 

選択肢セレクト

 

1.畔田はきれい好きである

 

2.畔田はおなかが弱い

 

3.畔田は瞑想が趣味である

 

→2

 

「これだ!」

 

 

「畔田はおなかが弱いんだ。」

「は?」

「畔田はおなかが弱い。だから大きな勝負の前、言い換えると大きなプレッシャーが掛かる場面ではトイレに行かないと耐えられないと考えられる。これは俺が以前畔田に胃薬を渡したこともあるし信憑性は高い。」

「なるほど!“準備”って言ってトイレにこもってたんだね!」

「お恥ずかしながら・・・。」

「で、ここまでの状況や証拠を踏まえてその時間帯にトイレにこもりうる人物、言い換えれば行動が分かっていないのは?」

「畔田君しかいないねー。」

「つまり、美上が殺された時間、ちょうど畔田はトイレに入っていたってことになる。」

「本当かい?」

「・・・はい。水島さんの言うとおりです。」

「何で言わなかったんだよ!」

「言ったら信じてくれました?」

「う・・・。」

「ってことは畔田も玉城もシロ・・・?」

「そうだね・・・。」

 

これはつまり推理が白紙に戻ったってことだ。

 

「じゃあ、誰がクロなのかしら・・・?」

 

有浜の疑問。これが現状の全てだ。

 

「と言ってもみんなアリバイなりクロであることがあり得ない理由があるんだよね・・・?」

「恐らく何かを見逃してるんじゃないかな?それも犯人に繋がるようなおっきな何かを。」

 

俺達が見逃してる何か・・・?それって一体何だ・・・?

 

 

議論開始

 

「見逃したものと言ってもなぁ」

 

 

「特に思いつかねーな」

 

 

「見逃してるとしたら・・・」

 

 

「アリバイの【綻び】とかかな?」

 

 

「つってもよ、」

 

 

「みんなのアリバイが【証明されてる】訳だろ?」

 

 

「綻びなんて見つかるのか?」

 

 

「見つかるはずだよー。」

 

 

「きっと誰かが何かを【隠してる】」

 

 

「そうじゃなきゃ全員が犯行不可能なんて」

 

 

「【不自然】だよー」

 

 

俺達は一体何を見逃したんだ・・・?

 

 

【止まった時計)→【証明されてる】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「いや、いた・・・!正確にはアリバイが曖昧な奴・・・!」

「!?」

「太宰と有浜、2人は正確にはアリバイが確定しているわけじゃない・・・!」

「どういうことだい?」

「実はな、図書室の時計が8時15分で止まってたんだ。」

「何だって・・・?」

「だから有浜が来た時間が実は15分とは限らないんだ。」

「なるほど、時計が止まってしまっていることで僕たちがアリバイがあると思っていた時間が実はそうではない可能性があるって訳だね。」

「そういうことだ。まあ、正確にはどっちが犯人かほぼ目星はついているんだがな。」

「それはどういうことかしら?」

「冷静に状況を整理して推理していけば犯人がどちらか、自ずと答えが出てくるんだ。」

 

 

そう、犯人はアイツしか考えられない。

 

 

指名しろ!

【アリハマスズナ】

 

「お前しかいない!」

 

 

「私?」

「おめー何言ってんだ?コイツにそんなことできる訳ねーだろ?」

「いや、逆に有浜しかあり得ない。」

「あら、どうして?」

「さっきも言ったとおり、時計が止まっていたことで有浜が8時15分に図書室に来たというのは嘘だと考えざるをえない。かといって2人の話から2人が来た順番は前後しないだろう。」

 

 

「その推理、棒読みね。」

 

「有浜・・・!」

「残念だけど、あなたが私の行動時間の矛盾を突いたところで意味はないわ」

 

 

反論ショーダウン

 

 

「残念だけど、」

 

 

「どれだけ私の行動の時間に」

 

 

「矛盾があったところで」

 

 

「私が美上さんを殺したという」

 

 

「裏付けをすることは」

 

 

「不可能よ」

 

-発展-

 

「お前の言う矛盾が」

 

「あまりにも大きいんだ!」

 

「お前以外考えられないんだよ!!」

 

 

「あなたは久見さんの」

 

 

「検死を忘れたの?」

 

 

「美上さんの首は綺麗に」

 

 

「骨のところで切られてた」

 

 

「【専門知識も無しに】」

 

 

「そんな芸当は不可能よ」

 

普通はそうだ。でも有浜の場合は違うっ!

 

【人体図鑑)→【専門知識も無しに】

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

 

「普通ならそうだな。だが、お前ならできたんじゃないか?」

「何を・・・?」

「図書室には人体図鑑が置いてあった。そしてその中でも人体の骨の構造のページだけが異常に読み込まれた跡があった。これって図書室で急いで知識を入れた奴がいるってことじゃないのか?」

「でもそれは私よりも図書室にいた時間の長い太宰君でも当てはまるんじゃないかしら?太宰君の線が消えてもいないのに私だけを疑って掛かるなんて、水島君、焦っているのよ。」

 

話を聞いてくれないか・・・!それなら何としても話を聞いてもらう状況を作る・・・!

 

 

パニックトークアクション

 

「残念ね」

 

 

「焦っているのよ」

 

 

「私ではないわ」

 

 

「一旦落ち着くべきね」

 

 

「太宰君の可能性もあるわ」

 

 

「詭弁ね」

 

 

「証拠もないでしょう」

 

『どう時間が変化しても私が部屋から直接図書室に行った事実は変わらないわ』

 

 

《ラウン》《ジに》《いた》《九鬼》

 

 

「これで終わりだ!!」

 

 

「!!!」

「残念だけど、時間が遅れたらお前のその主張は崩れる。」

「・・・なぜ?」

「もし太宰がクロだったとしよう。そうなると太宰は30分前後に図書室に行ったことになる。でもそれより5分遅れて図書室に行ったとしたらちょうどラウンジにいた九鬼と出会っていないとおかしくなる。でもさっきお前は九鬼がラウンジに出てくるより前に図書室に行ったと言った。つまりお前が九鬼に会わずに図書室に向かったと言った時点でお前は太宰は犯人じゃないと言ったも同然なんだよ。」

「・・・!」

 

そのとき、顔を真っ青にした有浜は1歩後ずさった。瞬間、彼女の制服から何かが落ちた。

 

「!!」

「これは・・・!」

「刺し身包丁か・・・。」

「決まり、だな・・・。」

「なあ、有浜。これから事件の内容をまとめるから、それに納得できたら罪を認めてくれ・・・。」

                   ・

                   ・

                   ・

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の女優       有浜鈴奈(アリハマスズナ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り13人




 今回で2章の犯人が分かったかな?って感じになりました!ここまで時間が掛かってしまい申し訳ないです!有浜さんは一体どのような意図があって美上さんのことを殺してしまったのでしょうか?真相は次回です!


今回の設定裏話は九鬼さんの話をしていきます!
九鬼さんは幼いころから海の上で過ごしてきました。両親が海賊をしていて、彼女が海賊として活動するようになるのも自然な流れだったのです。更に一人称のオレも男社会の海賊の中で過ごすうちに馴染んでしまった、って感じですね!あまり使ってこなかった、と言う意味では彼女はあまり頭が良いとは言えないのですが、実際のところ頭の回転はすごく速いので、もし普通に暮らしていればまた別の学問分野の才能で希望ヶ峰学園にいたのでは、とは水島の弁です。あと実は彼女もアンリと同じく、男女比の関係で初期設定から性別が逆転したキャラクターです。
名前はまず実在した日本の海賊の苗字から「九鬼」、そしてしたの名前は海がイメージできて女の子っぽい名前、ということで「海波」になりました。


さあ、第2章も大詰めです!この事件を経て彼らはどのように未来へ進んでいくのでしょうか?次回もお楽しみに!!


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CHAPTER2 学級裁判 閉廷

 ここまで来たらクロはほぼ有浜で確定だろう。だからこそここできちんと事件を振り返る。そしてちゃんと罪を認めさせる!!

 

クライマックス再現

 

ACT1

「まず今回のクロは7時のアナウンスより前に図書室に来て最初の偽装工作を仕掛けた。まず時計を壁から外し、その電池を抜いた。そして時間を8時15分に設定した後止まったままの時計を壁に戻したんだ。」

 

「次にクロは寄宿舎に戻ってきた後、今回の犯行に使うものを2つ持ちだした。」

 

「1つ目はキッチンの刺し身包丁だ。これは他の包丁とは違い、引き出しにしまってあるからクロにとっても持ち出したのがバレにくかったんだ。」

 

「2つ目は倉庫のシーツの予備だ。今回の事件においてかなり重要なアイテムだな。」

 

「これらの道具を回収した後、これらを現場に隠しに行くためにクロはプールに向かった。殺人の計画に使われた消火器やバケツはこのプールの周辺で調達されたものだな。だが、この時校舎の方に向かう姿をアンリに正体までは分からずとも目撃されてしまったんだ。」

 

 

ACT2

「事件が動き始めたのは朝食のすぐ後だ。クロは朝食を食べ終わると、部屋に戻るふりをしてすぐにプールへと向かった。被害者の美上を待ち伏せするためだ。」

 

「そしてクロが食堂を出たおよそ10分後、クロの思惑通り、美上は絵を描く準備を終え、早めにプールに向かっていった。まさかこの後自分が殺されるとも知らずにな。」

 

 

ACT3

「クロが美上を殺害した方法は至ってシンプルだった。」

 

「朝に準備したシーツを細長いロープ状に持ち、それを絵を描くための準備を整えている美上の後ろから彼女の首にかけて絞殺したんだ。」

 

 

ACT4

「だが、クロの計画はここからが本番だった。まずクロは絞殺に使ったシーツをローブのように身に纏い、刺し身包丁を取り出した。」

 

「そしてその刺し身包丁を美上の死体の首に当てて彼女の首を切り落とした。更に彼女の頭に首の切断面から流れ出した血液を付着させ、あたかも彼女の死因が撲殺だったかのように見せかけた。」

 

「更には身に纏っていたシーツに彼女の首をくるんで隠す準備を整えた。」

 

「続いてクロは彼女が撲殺されたことの信憑性を高めるために消火器を凹ませてプールに沈めた。だけどトリックの都合上彼女の頭にたたきつけられなかったことで誤算が生じた。消火器の内部の粉末が思ったより漏れ出てしまったんだ。」

 

「これでは床に消火器をたたきつけたことがバレてしまう、そう思ったクロは更なる偽装を仕掛けた。元々切り落とした首を運ぶのに使うつもりで持ってきたバケツで水を汲み、プールサイドの血液ごと消火器の粉末を洗い流したんだ。」

 

 

ACT5

「そしてクロは現場での偽装工作の最後に取りかかった。バケツにシーツにくるんだ首を入れ、それごとロッカーの中に隠して更衣室とは反対側の体育館に繋がる扉の方から脱出した。この時脱出する前にクロは刺し身包丁を身につけている服の中に隠してその後ずっと持ち続けたんだ。」

 

「だが、さっきの想定外のせいで予想以上に時間を喰ったんだろな。焦ってバケツに首を入れたクロはバケツの縁から血液をこぼしてしまった。結果そのせいで早めに死体の首が発見される結果になった。」

 

 

ACT6

「そうとも知らないクロは自らのアリバイトリックを完成させるためにとある場所に向かった。それは図書館だ。」

 

「図書館には太宰がおり、その太宰も図書室の時計が止まっていることに気付いていなかったからクロにはアリバイがあると思い込んでしまった。こうして犯人は偽のアリバイを手に入れたんだ。」

 

「そして死体発見アナウンスに合わせて太宰と共にプールに現れて初めてそこで死体を見つけたように装ったんだ。」

 

 

「そしてここまでの一連の犯行を行うことができたのは、有浜、お前しかいない!」

 

「フフ・・・。当たりよ。私が美上さんをを殺したの。」

 

彼女は悪びれもせず笑った。

 

「なんでそんなこと・・・!」

「あら、話したら私を助けてくれるの?わざわざ別の人に投票するとかして。」

「そりゃできねえけど・・・。」

「だったら話す意味はないわね。モノトラ、早く投票して終わらせてもらえる?」

「オーケー、分かったぜ!!」

 

 

 

投票結果→アリハマスズナ

 

 

 

【学級裁判閉廷】

 

「ぐぷぷ・・・!大!正!かーい!!!そう、超高校級の画家を殺した今回のクロは超高校級の女優である有浜鈴奈だ!!!!!」

「嘘・・・。」

 

宣告を聞いて涼風が崩れ落ちる。他のみんなも信じられない、といった感じだ。だが、俺には1つきちんと彼女に聞いておかなければならないことがあった。

 

「有浜、原因はやっぱりあの動機か?」

「だから話す気はないわ。」

「お前は1回目の裁判の後俺達に生きることが死んだ奴らへの一番の手向けになると言った。そのお前がどうしてこんなことをした?仮にもお前が起こした殺しで死にかけた俺達にはその理由を知る権利があるはずだ。」

「・・・はぁ。仕方ないわ。話してあげる。」

 

渋々といった感じで彼女は口を開いた。

 

「水島君の想像通り、私が事件を起こしたきっかけはあの映像。あの映像の中にいた他の人が誰かは知らないけれど、1人だけははっきり分かった。私の親友だったから。」

「どうしてそれが・・・?」

「だってこの世に1組しかないペアリングを着けていたんだもの。片方は私が持っていて、もう片方は彼女が。彼女は私にとって親友であり恩人なの。私が女優を続けてこられたのはずっと背中を押し続けてくれた彼女の存在があってこそ。そんな彼女がいなくなってしまうくらいなら今ここで、殺しを行って一か八か、彼女と一緒にここから逃げ出す賭けを打った。それだけのことよ。」

「そうか・・・。」

 

彼女は親友のために殺しを起こしたのだ。有浜にとっての優先順位は俺達より彼女の方が高かった。それだけのことだった。

 

「でも、よく考えたらバカな話よね。リングで判断したというだけで実際のところは彼女が本物である確証はどこにもない、本物であったとしても生きているかどうかも分からないのに仲間を殺したんだもの。同じくらい大切な存在になったかもしれない、仲間を。」

 

そう彼女は俺達の方を見て悲しく笑う。

 

「待てよ・・・!!」

「ありがとう、あなたたちとのこの数日間、悪くなかったわ。」

「行ってはダメだ!!」

「じゃあ、モノトラ。始めてちょうだい。私のおしおきを。」

「そんじゃ遠慮なく!超高校級の女優、有浜鈴奈のスペシャルなおしおきを開始するぜ!!!!」

「待てって!!!」

 

モノトラはハンマーを振り上げボタンを押す。

 

「ああ、水島君。これ渡しておくわ。」

 

彼女が何かのメモをこっそりと俺に握らせると、その直後におしおきは始まった。

 

 

 

アリハマさんがクロにきまりました。

おしおきをかいしします。

 

 

 

薄暗い舞台の上。そこには有浜ただ一人が立っている。

 

急に照明が灯る。あまりの眩しさに目を細めるとそこには天まで届きそうな長い階段が伸びていた。

 

 

超高校級の女優 有浜鈴奈のおしおき

《冥途イン》

 

 

その階段をよく見ると有浜にとってよく見知った後ろ姿がかなり遠くではあるが先に階段を登っている。彼女に追いつこうと有浜は階段を登り始める。

 

ゆっくりと階段を登っていく後ろ姿に対して1段ずつ飛ばしながら階段を登っていく有浜。みるみるうちに親友の背中は大きくなっていく。

 

やっと追いついた。そう思って有浜は親友の肩に手をかける。親友が振り向いた、ハズだった。そこにいたのは親友とよく似た後ろ姿をしたモノトラ。その彼女に突き飛ばされ彼女は先ほどまでかなり登ってきた階段を転げ落ちていく。

 

落ちて、落ちて、落ち続けたその先に舞台が見えた。有浜はこの勢いのまま舞台に衝突して死ぬことを覚悟した。その時、奈落が落ちた。

 

それはちょうど彼女が落ちるはずだった先。彼女は目を見開きながらその穴に落ちていく。そしてその奈落の底にはいつの間に誰が用意したのか、大きな剣山。

 

有浜鈴奈はその剣山の針に全身を貫かれて息絶えた。奈落の底には血の池ができた。針の山に血の池。まるでそれはおとぎ話に出てくるような地獄そのものの光景だった。

 

 

「有浜っ・・・!!」

「鈴奈ちゃん・・・。」

 

残された俺達の中には絶望が漂う。その中を切り裂くように奴が不快な声を上げる。

 

「エクストリーーーーム!!!!やっぱいいなぁ、地獄の光景が生まれる様を見つめる地獄の空気!!ああ、乾きが潤うぜ!!」

「てめえ!!」

「やめとけ。死体が増えるだけだ。」

「っ!!クソっ!!!」

「ほいじゃおつかれさん!さっさと部屋に戻って寝るんだぜ!もしかしたら今すぐにでもオレの息が掛かった奴がオマエラの命を狙ってるかもしれねーんだからな・・・。」

「!!?」

 

ポロッとモノトラが漏した衝撃の真実。それはどうにか生き残ったこの中にモノトラの、いや、黒幕の内通者がいるかもしれないという事実。

 

「おい、今の!」

「あ、口が滑っちまった!退散退散!!」

 

勝手に暴露だけしてソイツはここからいなくなった。残った俺達の間に流れるのはある意味絶望よりもタチの悪い、お互いに対する‘疑念’だった。

 

「ね、取りあえず1回部屋に戻ろ?それでちゃんと寝ようよ!みんなきっと裁判で疲れちゃってるんだよ!だからさ・・・、みんな前を向こうよ!絶対疑い合って傷つけ合うなんてダメ・・・!ちゃんと休んで、元気になって、今度こそみんなで外に脱出しよう!」

 

甘寺が必死に俺達に呼びかける。みんなの反応はない。分かっているんだ。でも頭の整理がつかない。だから何も言葉にならない。その中で誰かが声を上げた。

 

「でも・・・、内通者がいるのは事実だよね。しかも僕たちの命を狙っているかもしれない。なのに全く何も考えず協力しようなんて無理だよ。甘寺さんが言いたいことも分かるけど、ごめんね。」

 

きっと太宰の考えはみんな心のどこかで思っていることだったんだろう。誰も何も言えなくなってしまった。

 

「でもー、ここにずっと留まってても仕方ないよねー。だからー、みんな1回部屋に戻ろうよー。そこは間違ってないはずだよー?それでさー、これからのことは明日考えようよー。」

「それは、そうだよな!その方がきっといい!頭使った後でどうせいい案も今は思いつかねえだろうしな!」

 

でも今日のところは休んで、これからのことはまた明日。そんな久見と薬師の提案に俺達は乗ることにした。そして俺達は赤い扉の前で解散した。

 

 

 

夜、どうしても寝付けず目が覚めてしまった。有浜は元々感情をそんなに表に出す方ではなかった。確か何かの雑誌で彼女はそれは演技に支障を来さないためだと言っていた。それじゃあ、最期に彼女が見せたあの悲しげな顔は演技だったのだろうか。それとも、そんな彼女が最期の最期に少しだけ見せてくれた、彼女の心の一端だったのだろうか。そんなことを考えていたら眠れなくなってしまったのだ。

有浜のことを考えていると、ふと彼女がおしおきの直前に俺に握らせてきたメモのことを思い出した。メモ開くと、そこには『p274』とだけ書いてあった。

 

「何かのページ数か・・・?」

 

でもこの校舎の中に有浜が自由に開ける本の場所なんてあそこしかない。図書館だ。

 

図書館に行ったはいいものの、彼女はどの本のことを指していたのだろうか。そう言えば彼女は以前に図鑑なんかも見てみると面白い発見があるかもしれないと言っていたな。彼女に関係する図鑑・・・?そんなものはアレしかないじゃないか・・・!彼女が殺しのトリックの参考に使った人体図鑑しか・・・!

人体図鑑を取り出す。メモに書かれたとおり、274ページを開く。しかし、ちょうどそのページが切り取られていた。

 

「なんだよ、これ・・・?」

 

俺は有浜にからかわれたのだろうか。だが一応念のため目次のページを開いてみる。もしかしたらそこにあったはずの内容が重要だったのかもしれない。索引を開いてみると、そこにあったはずとされていた内容は双子に関するものだった。俺には双子どころか兄弟すらいないし、やっぱり俺はからかわれたのか・・・?

 

結局彼女が何を思って俺にこのメモを渡してきたのか分からなかった。もしかしたらこのページが切り取られているのを見て何か深読みをしてしまっただけかもしれない。死んでしまった彼女の真意はどれだけ考えても正解は出ないので俺はさっさと部屋に戻った。すると今度はさっきとは打って変わって早々に眠りに落ちた。

 

こうして2度目の学級裁判の夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

CHAPTER2 My Friend Is Tied Up  END

 

 

TO BE CONTINUED・・・

 

 

【生存者】

超高校級の???      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り12人




ということで第2章これにて完結です!さあ、有浜さんが最期に残していったものは一体何だったのでしょうか?非常に気になりますね!!それでは次回から第3章開幕です!!!ぜひお楽しみに!!!

さて、こちらの設定裏話シリーズ、遂に登場人物編最期の1人になりました。ということで比嘉君の話をしていきたいと思います。
さて、この比嘉君ですが、じつは最初から空手が天才的だった、という訳ではありませんでした。もちろん、ポテンシャルはあったし、体も大きかったのですが、別に空手が好き、という訳ではなく稽古を全然していなかったのです。ですが、これは本編でも後々描いていこうと思うのですが、とある事件をきっかけに強くなろうと決心、稽古にもマジメに取り組むようになり、遂には全国を制覇するに至った、という経緯があります。
そんな彼の名前の由来ですが、まず勝手に空手というと沖縄、というイメージがありました。そこで沖縄っぽい苗字ということで比嘉を選出しました。そして名前は分かりやすく拳を入れようということで拳太郎にしました。今では豪放磊落という言葉がぴったり似合う彼にどんなかこがあるのか、そんなところにも注目していただけると幸いです!

ということでまた次回お会いしましょう!!


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CHAPTER3 その感情は最も遠く
CHAPTER3 (非)日常編1


校内の一角、どことも分からぬ部屋。

 

「ぐぷぷぷ・・・。それでオマエが聞きたいことって何だ・・・?」

 

「・・・・・・・・・?」

 

「なんだ、そういうことか。そんなものは簡単だぜ?大したものは持ってない。」

 

「・・・・・・・・・?・・・・・・・・・?」

 

「あー、そいつはな?その方が面白いからだ。」

 

「・・・・・・・。」

 

「ああ。そうしてくれ。じゃ、頼んだぜ?」

 

モノトラの言葉を聞きながらその人物は扉を閉める。そう。今そこにいたのが‘内通者’。正体は見えない。その姿を見送りながらモノトラはほくそ笑む。

 

「全く、いい仲間を持ってアイツは本当に‘幸運’だな・・・。ぐぷぷ・・・。ぐぷぷぷぷ・・・・・・。」

 

 

 

CHAPTER3 その感情は最も遠く  (非)日常編

 

 

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「おはようございます。7時になりました。今日も1日頑張りましょう。」

 

ボーッとした頭を無理矢理起動して起き上がる。

 

「行く、か・・・。」

 

昨日あんなことがあったばかりで気分は重いが朝食を食べておなかを満たさないと余計に気分が落ち込みそうだったので俺は食堂に向かうことにした。

 

「おーっす、おはよう水島!」

「ああ、おはよう山吹。」

 

今日は山吹が朝食担当をしてくれるみたいだ。そう言えば前の学級裁判の後も最初の朝食は山吹が作ってくれてたっけ・・・。もしかしたら少しだけ意識しているのかもしれないな。

 

「ああ、よかった今日は他のみんなは来てくれないかと思ったよ。」

「アンリもおはよう。」

 

アンリがいるということは今見えるところにいないだけで畔田もどこか近くにはいるのだろう。

 

「栄養を取らないと体にも心にもよくないからな。それにみんなとコミュニケーションを取る方がきっと次のコロシアイは防げると思うし。」

「・・・!」

「何だよ、鳩が豆鉄砲食らったような顔して。」

「いや、君はいつも物静かだからあまり他の人とのコミュニケーションを望んでいないのかと思っていたから。」

「そんなことはないぞ。現に薬師とか甘寺とかとはよく一緒にいるし。」

「それはあの2人が無理矢理絡んでいるんじゃないかと思ってたよ・・・。」

「絶対にそれ2人に言うなよ?そんなことないのに気にするから。」

「フフ、すまない。」

「逆に気を遣わせて済まない。俺はあまり感情表現が得意じゃないだけなんだ。充分みんなと仲良くしたいと思ってるからこれからもよろしく頼む。」

「ああ、こちらこそ。」

 

アンリとそんな話をしていると、結局空腹には勝てないのだろう。みんなが食堂に集まってきた。その中の久見が何か大がかりな荷物を持っていた。よく見てみるとその荷物はイーゼルとスケッチブックだった。

 

「おい久見、その荷物って・・・。」

「うん、三香子ちゃんのイーゼルとスケッチブックだよー。昨日あの後何となくプールに戻ったら置きっぱなしになっててねー、開いてみたらこんな絵があったのー。」

 

スケッチブックを覗いてみるとちょうど俺達が集まって食事をしているところだった。恐らく1回目の学級裁判の後に描いたものだから青山と二木の姿はなかったけどそれ以外のみんなの楽しそうに笑い合う姿が描かれている。

 

「すごくいい絵だな。」

「うん!だからイーゼルに立てて飾っておこうと思ってー。だって、それがみんながここで生きてたって証になると思うからー。」

「ああ、そうだな。」

 

絵を飾った後はみんなで食卓を囲んだ。最初のうちは何となくみんな黙りこくっていたが、だんだんのうちにいつも通りに談笑できるようになっていった。

 

 

そこに奴は現れた。

 

「よお!オマエラ思ったより元気そうだな!!」

「モノトラ!」

「今度は何を企んでいるんですか?」

「おいおい、随分な言い様じゃねーか!せっかくオマエラにとって有益な情報を持ってきてやったってのによー。」

「有益?」

「どうせ3階が開放されたとかだろう?」

「・・・。」

「図星かよ!!」

「黙っちまった・・・。」

 

そのまま奴は引っ込んだ。

 

「いなくなった・・・。」

「でもま、確かにアイツが持ってきた情報は有益っちゃ有益だったね。」

「じゃあ、またみんなで探索してみよっか!」

「そうだな!今回もそれぞれで行動するか?」

「それでいいんじゃないかな。また昼食前まで探索して、昼食の時に食堂で報告会ってことにしようか。」

 

ということでみんなで3階に向かった。

 

 

 

 

これまでの校舎もなんとも言えない不気味さを醸し出していたが、3階はこれまでとはまた違った雰囲気があった。

 

「さてと、どこから探索するか・・・。」

「おー、水島ー!アタシと一緒に探索しようぜー!」

「山吹か。いいぞ。」

「とりあえず目の前の娯楽室を調べてみっか!」

「それでいいぞ。」

 

山吹に導かれるまま俺は取りあえず娯楽室に入った。娯楽室に入るとそこには既に何人か来ていた。部屋のど真ん中にはビリヤード台がその存在を主張している。その奥には瓶の中にモノトラのフィギュアが入ったオブジェが棚の上に置いてある。

 

「なんだ、お前も来たのか。」

「なんだとはなんだ。というか意外だな。玉城が一番最初にこの部屋に来るなんて。」

「仮にも超高校級の棋士だからな。ボードゲームの類いには人並み以上に興味はある。現にこの部屋には将棋盤やらオセロやら色んなボードゲームが置いてある。まあ、将棋盤の脚が1本壊れているのはいただけんがな。」

 

意外だ。ボードゲームを前にすると玉城はこんなにも饒舌になるのか。

 

周りを見渡してみるとボードゲームやビリヤード台の他にもみんなで遊べそうなゲームがたくさんあった。例えばダーツ。ちょうどそこではアンリと畔田が何やら話している。

 

「2人ともどうしたんだ?」

「やあ、水島君に巴。君らもここに来たのか。」

「お前まで。」

「???」

「まあいい。何してんだ?」

「ちょっとダーツが気になってね。家にあったんだよ。ちょっと懐かしくなってね。」

「私もよくお相手させていただきました。」

「畔田はとても強くてね。本気になったら私なんて足元にも及ばない腕前なんだ。」

「へえ。こういうのも得意なんだな、アンタ。」

「執事の嗜みのようなものです。」

 

畔田がダーツの名手というのは意外だ。何だか今日はここでみんなの意外な面をよく見るな。

 

ダーツの近くには雑誌の棚が置いてある。少年誌からファッション誌から果てには都市伝説の雑誌まで様々なジャンルの雑誌が取りそろえられている。その近くには久見がいた。

 

「あれー、今日は巴ちゃんと一緒なんだねー。とっかえひっかえだー。」

「いや言い方。」

「そんなんじゃねえって!それともやきもちかー?んー?」

「そんなんじゃないよー。」

「で、何読んでんだ?」

「えっとねー、この雑誌棚にファイルが入ってたから今から開くところなんだー。でもよく考えたらこれは報告会の時にみんなで読んだ方がいいかもねー。持ってっとくねー。」

「ああ、よろしく頼む。」

 

取りあえず娯楽室はこんなところか。出口っぽいのは無さそうだな・・・。

 

「じゃ、次行くか!どこ行く?」

「美術室が近いんじゃないか?」

「オーケー、そうしようか。」

 

 

 

続いて美術室に入るとそこで目を引いたのは大量の絵だった。

 

「こりゃ壮観だな。」

「でもどこかでこの絵を見たことあるような・・・。」

「そうか?」

 

何となく見たことのある絵のような気がするんだがどこで見たんだろうか・・・。とりあえず探索を始めるか。すると太宰がこちらに歩いてきた。

 

「やあ、水島君に山吹さん。すごいね、この絵の量。」

「そうだな。誰がこんなに・・・?」

「さあ・・・?」

「んで、何かあったのか?」

「いや、全然。でもまだ美術倉庫は調べてる最中だからそっちにも声かけてみるといいよ。」

「おー、サンキュー!」

 

確かにこっちの部屋はあとは石膏像くらいしかなさそうだ。なので太宰に進められるまま美術倉庫に入ると、そこでは九鬼と涼風が調べていた。

 

「おっす水島!」

「巴ちゃんもやっほー!」

「探索は進んでるか?」

「全然だ!ここにあるのはせいぜい石膏像を運ぶための台車とハンマーとかノミとかノコギリとかそういう工具とかばっかだ。」

「あと画材とかもあったよ!」

「ほんとにただの美術倉庫のようだな。」

「じゃあこっちもハズレだな。」

 

どうやら美術室にも出口はないみたいだ。

 

「あとはこのフロアで残ってるのは・・・。」

「物理室だな!」

「そうだな。」

 

 

 

物理室に入ると最初におおよそ物理室に存在しているものとは思えない巨大な機械が轟音を上げて稼働していた。

 

「何だこれ・・・?」

「わっかんねー。」

「あ、モノトラが空気清浄機だって言ってたぞ?」

「薬師、何か聞いたのか?」

「ああ。つっても前の校舎の時から引き継ぎで使われてるらしいぜ。」

「なるほどな。」

 

こんな閉鎖空間だ。感染症でも起これば一発アウトだってのもあるかもしれないな。

 

「あれ、甘寺と比嘉は?」

「ああ、2人なら奥の物理準備室にいるぜ!行ってみるか?」

「そうするよ。きちんと探索もしたいしな。」

 

そう言って物理準備室に入ると色んな器具が入った棚がズラッと並んでいる。2人はその他なの一つ一つを丁寧に調べているみたいだ。

 

「よ!探索は進んでるか?」

「あれ、山吹さんに水島君。」

「お前達もここに来たのか!」

「ああ。」

「何か見つかったのか?」

「いや、全然だよ。出口に繋がりそうなとこと言えば・・・。」

「言えば・・・?」

「あの一番奥の棚の足元の引き戸が全然開かないんだよねー。」

「学校の備品を壊すわけにも行かんのでな!手をこまねいていたところだ!!」

 

最初に昇降口のあの鋼鉄の塊をぶん殴ったのはどこのどいつだ。

 

「ああ、ソイツは開けるのにコツがいるんだぜ!!」

「モノトラ!?」

「順調そうだな!で、そこの引き戸だが。少し押して、上に持ち上げて、その上で引くんだ!」

 

そう言いながらモノトラは引き戸を開けてみせる。

 

「おおー。」

「希望ヶ峰学園の改修の際に新調したハズなんだが、どうにもコイツだけ調子が悪くてな。ま、開かねー訳じゃねーからいいだろ?」

「いや、直せって。」

「気が向いたらな!んじゃ!!あ!閉めるときは同じ手順で閉めればいいんだぜ!!」

 

そう言うとモノトラは消えていった。

 

「ったく、テキトーな奴だ。」

「最初っからあんな感じじゃない?」

「違いない!!!」

「おい!そろそろ昼飯の時間だぞ!アタシらも食堂に戻らねえと報告会が始まっちまう!」

 

おっともうそんな時間か。じゃあそろそろ食堂に行こう。

 

 

 

 

食堂に行くと既に他のメンバーが集まっていた。

 

「遅いぞ。」

「すまない、物理準備室の戸棚に手間取ってな。」

「そんなに手間取ることがあるのかい?」

 

そう言う太宰にそこであったことを説明した。

 

「なるほど、そういうことか。」

「そこの修理は後々の課題とするとして、とりあえず報告会を始めないかい?」

「そうするか。」

 

とは言ったものの、それぞれの場所を操作した誰からも出口に関する有力な情報は出てこなかった。

 

「やっぱ出口は見つかんないかー。」

「そうは上手くはいかない、という話ですね。」

 

ちょっと全員が気落ちしたところに声が上がる。

 

「あー、そうだー。みんなにねー、見てほしいものがあるんだよー。」

「見てほしいものとは何だ!!!」

「えっとねー、娯楽室の雑誌棚にー、こんなものが置いてあったのー。」

 

それは俺と山吹も娯楽室で見かけた希望ヶ峰学園のロゴが入ったファイル。

 

「これは・・・。」

 

みんなの脳裏によぎるのは図書室が開放された日のこと。図書室の奥にも同じようなファイルが置いてあり、そこには希望ヶ峰学園が一度崩壊し、蘇るまでの顛末とその中における現在の懸念点が記されていた。もしかしたら今回のファイルにも何か重要な情報が隠されているかもしれないという期待がどうしてもある。

 

「じゃあー、開けるねー?」

「頼んだ!」

 

ファイルを開いた瞬間、そこに書かれていたのは、『希望ヶ峰学園募集要項(教員用)』という文字だった。

 

「え・・・?」

「なんでんなモンが娯楽室に置いてあんだよ!」

「知るか。」

 

正直拍子抜けだった。そもそもこの学園は予備学科以外はスカウトでしか入ることができない。その予備学科なら募集要項くらいはあるだろうが、それがこちらの校舎にあるというのは理解に苦しむ。更に教員用とはどういうことだろうか。もしかしてこれは希望ヶ峰学園の教員採用の募集要項なのだろうか?

 

「一応見てみない?何か重要な情報があるかもよ?」

「確かに、黒幕が意味のない行動するとは考えにくいね。甘寺さんの言うとおり、僕も見てみた方がいいと思うよ。」

 

この太宰の言葉が決め手となってみんなでこの募集要項を開いた。

 

募集要項の1ページ目にはこう書いてあった。

 

 

『この要項は世界の希望の象徴たる才能あふれた少年少女を導くに足る教員を求めて発行するものである。』

 

 

「やっぱりこの要項は教員募集のためのものみたいだね。」

「どうしてこんなものが・・・?」

「やっぱ何の意味もねーんじゃねーか?」

「いや、決めつけるのはまだ早いよ。もう少し読み進めてみよう。」

 

アンリの言葉に従い、もう少し読み進めてみることにした。すると、数ページ後から学校の紹介が始まった。

 

「こいつぁ、募集要項つーより、案内パンフレットじゃね?」

「確かにー。」

「いや、でも紹介と一緒にどういう教員がほしいか、ってのも書いてある。」

「ちゃんと要項としての役割も果たしている、という訳ですね。」

 

その中の一文に気になるものがあった。

 

 

『この学園は毎年15人の才能あふれた高校生をスカウトにより集めている。』

 

 

「15人・・・?」

「でも最初は16人いたじゃん!」

「1人の異分子は明らかじゃないか。」

 

1人の異分子、それは・・・

 

「俺、か・・・。」

「才能を覚えていないんじゃない。最初からなかったんじゃないのか?才能なんてものは。」

「玉城!!テメエまた!!!」

「残念だけどそうじゃないみたいだぜ?ほれ、続きを見てみなよ。」

「続き?」

 

 

『それと同時に“超高校級の幸運”として全国の次年度高校進学者の中から1人を選び、生徒として迎え入れている。彼らの中には一定数、他の生徒と比較して卑屈になってしまう者もいる。そういった生徒のメンタルケアができる人間であることが本校の教員として望ましい。』

 

つまりこれって・・・。でも本当なのか・・・?微妙に何かが引っかかる。

 

 

「コイツを見たら分かるだろ?水島はまあ、分かりやすい才能はないっちゃないのかもしれないけど、決して異分子じゃない。アタシらの大事な仲間だ。超高校級の幸運という才能を持ったな。」

「・・・。すまなかった。」

「謝った!?あの玉城が!?」

「俺が間違っていると分かれば謝罪くらいする。それに焦っていたんだ。モノトラのあの言葉にな。」

 

あの言葉。恐らく昨日の裁判の後モノトラが言った、“俺達の中に黒幕の内通者がいる”という発言のことだろう。

 

「その黒幕の息の掛かった誰かの存在にな。だから急いた判断をしてしまった。申し訳ない。」

「いや、いいんだ。気持ちは分かる。」

 

その不安はみんなが持っているはずだ。 

 

「でもきっと大丈夫だ。その内通者だって元は16人の仲間だ。必ず、協力できる。きっとコロシアイは起こさせない。」

「水島の言うとおりだぜ、玉城!」

「きっと大丈夫さ。」

「・・・ああ。きっと、そうだな。」

 

俺達は玉城の本音が聞けた、そう思って舞い上がっていたんだ。本当の仲間になれたと思って。俺も自分の才能への違和感を忘れてしまうほどに。だから聞き零したんだ。その言葉の後に玉城が続けた言葉を。

 

 

 

 

「・・・そうなれば・・・、よかったんだけどな・・・。」

 

 

 

 

 

そして夜は更けていく。わずかに生まれた俺達の希望を飲み込んでいくように。

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「午後10時になりました。ただ今より夜時間になります。食堂はロックされますので速やかに退出してください。それではよい夢を。お休みなさい。」

 

                    

                    

                    

【モノトラ劇場】

 

「幸運の象徴ってのはいろいろあるよな。」

 

 

「フクロウやらカエルやら馬やら動物だけでもいっぱいあるぜ」

 

 

「双子なんかもその1つだぜ。」

 

 

「だがよ、昔は双子は不吉なものの象徴だったんだ」

 

 

「全く真逆だぜ。」

 

 

「意外と幸運と不運てのは紙一重なものなのかもしれねーな!」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り12人




ということで、第3章開幕です!!玉城君が素直になってみんなの心がちょっとずつ近づいてきていますね!!どうやら水島君の才能が分かったようですが、本当に彼の才能は“超高校級の幸運”なのでしょうか?ここもこれから分かっていくんでしょうか?ということで乞うご期待!!


さて、前回までで登場人物の設定裏話と題して全員分の裏話をやってきましたが、今回からは第1章裏話と題しまして、第1章に関する裏話を語っていきたいと思います!

早速、今回のテーマは第1章タイトルの裏話です!第1章のタイトルは「絶望ピエロ」です。まずこのタイトルにした経緯としては、分かりやすく「絶望」というワードを入れたいな、と思ったというのがあります。ちょうどスーダン2の第1章「絶望トロピカル」のようなイメージですね!じゃあなぜ「ピエロ」をワードに入れたのか、と言いますと、いきなりこんな状況になってモノトラとその裏にいる黒幕に振り回される16人の様子を表したい、と思い、このワードを選びました。さらに、このタイトルにはモチーフがあります。それは伊坂幸太郎さんの小説、「重力ピエロ」です。大まかに言うと2人の兄弟がとある男に復讐をする、という復讐譚なのですが、それが今回の事件のイメージ(正確には復讐というより返り討ちですが、)に合うな、と思ったわけです。つまり、ダンガンロンパの象徴たる「絶望」と、その状況に振り回されるみんなの様子を比喩する「ピエロ」をモチーフの小説の名前を元に組み合わせたってな訳です!!
ということで今回の第1章裏話は以上!また次回お会いしましょう!!


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CHAPTER3 (非)日常編2

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「おはようございます。7時になりました。今日も1日元気で頑張りましょう。」

 

目が覚める。昨日のこともあって何となく清々しい朝だ。気持ちいい気分のまま食堂へ行くとその食堂がなんだか大変なことになっていた。

 

「何だこれ・・・?」

 

食堂に入ると目に入ってきたのは大量に置かれた冊子。1冊1冊はそんなに大した厚さではないがそれも大量に集まると壮観である。また、近くの壁には数着の見ただけで高いと分かるスーツが掛かっていた。少し奥に入ると急に世界がぐるんと回った。

 

「うおあ!!」

 

どうやら俺は転んだようだ。

 

「いたた・・・。何が落ちてんだ・・・?」

 

周りを見渡すとそこにはサッカーボールが転がっていた。

 

「なんでこんなもんがここに・・・?」

「あ!水島大丈夫!?」

「おはよう、涼風。で、これは一体何だ?」

「えっと、昨日久見ちゃんが美上ちゃんのスケッチブックを飾ってくれたでしょ?だからどうせなら他のみんなの分も飾ろうと思って!」

「なるほどな。で、なんでサッカーボールを選んだ?」

「だって二木って言ったらサッカーだし、サッカーって言ったらサッカーボールでしょ?」

「他にもあっただろ・・・。こんなとこにサッカーボールを転がしといたら・・・」

 

そう言いかけた瞬間。

 

「うわっ!!!」

 

第2の被害者が既に出ていた。

 

「なんだよこれ!?危ないな!!」

 

山吹だった。同じ説明を涼風がすると、山吹にこってり絞られ涼風は号泣していた。デジャブか・・・?泣きじゃくりながら戻ってくる彼女に俺は提案することにした。

 

「涼風、ボールじゃなくてユニフォームとかスパイクとかにしないか?それなら飾っててもボールより危なくないぞ?あとあの冊子ももっと減らせ。単純に邪魔だ。」

「二木のほうは分かるけど有浜ちゃんの方はそんな言い方ないじゃん!邪魔なんてひどいよ!」

「あれ有浜のやつなのか?」

「そうだよ!有浜ちゃんが演じた映画とかドラマとかの台本全部だよ!」

 

全部て。持ち込みすぎだろ。

 

「知らなかった・・・。そりゃこんな量になるわけだ。でも言い過ぎたのは認める。すまない。」

「知らなかったんじゃしょうがないよ。」

「でもこれ崩れたらやっぱり危ないぜ?もちっと数絞った方がいいって。」

「うーん、それもそうかー。じゃ、代表作をいくつか絞ってあとは戻してくるよ。」

「ああ。」

 

こうして俺と山吹も協力して整えると中々いい感じのディテールになった。

 

「おー、これすごいねー。」

「涼風が提案してくれたんだ。」

「昨日の報告会で思ったんだ。何があっても4人も仲間だよね、って。だからみんなのこと忘れないようにって!」

 

こうしてみんなが食堂に集まってみると何だか死んだ4人も今この場にいるように感じられる。きっと今の俺達なら本当にこれ以上コロシアイを起こさずにここを脱出できる、そう思えた。

 

 

 

朝食を食べ終えるとみんな時間ができ、ヒマになったみたいだ。かく言う俺もその一人な訳だが、さて、これからどうしたものか・・・。

そう思っていると甘寺から声をかけられた。

 

「ねね、水島君。いっしょにこれから娯楽室行かない?」

「構わないがどうしてだ?」

「時間もあるしゲームでもしない?何なら罰ゲームありでもいいよ?」

「ふっ。言ったな?俺は強いぞ?」

 

こうして俺と甘寺は一緒に娯楽室でゲームを楽しんだ。オセロに始まり、ダーツにビリヤードに色々。ここにあるゲームは全部楽しんだのではないかと思う。

 

「強いよー・・・。」

「だから言っただろう?じゃあどんな罰ゲームをしてもらおうか・・・。」

「うう・・・。」

 

悔しがる甘寺を前に罰ゲームの内容を考えていると、

 

「ちょーっと待ったぁ!!」

 

薬師が現れた。

 

「おい水島お前!!罰ゲームにかこつけてどんなヤラシイことを甘寺にするつもりだ!!!」

「するか!!至って普通のことを考えてたぞ!!」

「本当かい?その手の発言をする人はたいてい邪なことを考えていると思うけど。」

「太宰まで!!」

「別にしてくれてもいいんだよ?」

「甘寺まで何を!?」

 

全くこいつらは冗談ばっかり言って。

そう呆れているとなぜか甘寺は「本気なのに」とむくれている。本気とは一体どういうことなのか。

 

「でも2人だけで遊ぶなんてずるいぞ!どうせだったら俺達も誘ってくれよ!」

「俺は誘われた側な手前勝手に他の人を誘うってのもなと思ってな。それに周りに他にはいなかったし。」

「じゃあー、みんなでゲーム大会でもやるー?」

「久見さんいつの間に?」

「ついさっきー。薬師君から聞き捨てならないワードが聞こえて来ちゃったから着いて来ちゃったー。」

「あはは、悪い悪い。で、そのゲーム大会ってのは?」

「ここにあるゲーム全部でー、みんなで勝負するのー。それでー、それぞれの結果を集計してー、一番ポイントが高い人が勝ちー。」

「でもそれじゃ玉城君の独壇場じゃない?」

「ここには運要素の強いゲームもあるし、ダーツとかもあるから意外と分からないよ?」

「なんか全部水島君強かったし。」

「面白そうだな。やってみるか。」

「で、いつやるんだ?」

「うーん、あさってとかどうー?」

「明日じゃなくてか?」

「うんー。明日ここのみんなでー、ポイント表とか準備してー、あさって開催するのー。」

「なるほどな。いいな。やろう。」

「じゃ、俺みんなに言ってくるよ!!」

「任せた。」

 

ということで俺達はあさってゲーム大会を開催することを約束して一旦その場は解散した。

 

 

 

昼食を食べた後、時間ができたので少しだけ3階を見て回ることにした。美術室に入って見ると既にそこには先客がいた。

 

「やあ、水島君。私に何か用かい?」

「いや、そういう訳じゃないんだが何となくここまで来てな。」

「そうか・・・。じゃあ少しだけ私の暇つぶしに付き合っておくれよ。」

 

美上が生きてたらここに入り浸りそうだ、なんて話をしながら時間を過ごした。

 

「水島君、ありがとう。」

すると急にアンリがそんなことを言い出した。

 

「なんだ、急に?」

「いや、君に限らずみんなには感謝しているんだ。」

「感謝?」

「ああ。私はあまりこれまで同年代の友人というものがいなくてね。何なら同年代の人間が周りにいたこと自体畔田の他に思い浮かばないんだ。だけど畔田も含めてこれまで会ってきた人たちは私のことを“超高校級の資産家”だとか、シャークネード家のご令嬢だとか、取引先の社長だとか肩書きでしか見てくれなくてね。」

「確かにそれだけ色々肩書きを持っているとそっちの方に目を持ってかれてしまうな。」

 

現に俺も最初はその1人だった。

 

「だろう?私だってそれは分かっているんだがどうにもそれが寂しくてね。私は“超高校級の資産家”や“ご令嬢”、“社長”といった存在である以前に“アンリ・シャークネード”という1人の人間なんだぞ、って思っていたんだ。」

 

彼女の吐露した悩みは彼女ならではのものであるのかもしれない。能力が高い故に、若くして多くのものを背負うこととなってしまった彼女故の。

 

「でもここに来てからは違った。みんなは私のことをそういう肩書きを持った存在である以前に“アンリ・シャークネード”という1人の人間として扱ってくれた。私にとってこんな環境はずっと望んできてそれでも手に入らなかった、そういう場所なんだ。」

 

きっと彼女は若くして背負ったものの大きさ故に、逆を言えばきっと多くのものも手に入れてきた人生であったことだろう。でもその彼女がずっと欲しかったものはそんなお金で手に入るものではなかったのだろう。彼女にとって一番欲しかったものは多くを手に入れた自分であっても同じ1人の人間として見てくれる、そんな友人だったのだ。

 

「だから、私はみんなに感謝しているんだ。ずっと一番に欲しかったものを私に与えてくれたみんなにね。」

「それはお前の人徳だ。」

「え?」

「アンリがこれまで多くのものを手に入れてこられたのも、ここでみんながお前と対等な人間として仲良くなりたいと思ったのも全部お前の人徳だ。お前が必死の多くのものを背負って踏ん張る姿を見せてきたからみんなお前のことを認めてるんだよ。みんなも、俺だってアンリに感謝してる。こんな訳の分からない状況に追い込まれたのにお前はどうにか落ち着いてみんなのことをまとめようとしてくれた。そんなお前だからみんな一緒にいたいと思うんだよ。」

「そう・・・かな・・・?でもそこまで褒められると照れてしまうな・・・。」

 

アンリが照れくさそうに頭を掻く。

 

「何だかお礼を言おうとしたら君にもっともらってしまった感じがするね。ありがとう。でも不満がないわけじゃないんだぞ?」

「そうなのか?」

「ああ。畔田はもっと私にフランクに接するべきなんだ。最初はそうだったし・・・。勝手に執事になるとか言い出して。アイツがずっと近くにいてくれるのはありがたいが、これじゃずっと上下関係が消えないじゃないか!それじゃ私は困るんだよ!」

 

そいつは俺達ってより畔田への不満じゃなかろうか。

 

「水島君からも畔田に言っておくれよ。もっと私にフランクに接してくれって。」

「俺か!?」

「ああ。君にしか頼めない。」

「そうかなぁ・・・。まあ、分かったよ。畔田に伝えとくよ。アンリが自分のことをきちんと一人の女の人として見てくれって言ってたって。」

「なっ・・・!そういうことじゃない!!」

「照れるなって。そういうことだろ?」

「うう、間違ってはいないが・・・。水島君、君は意外と意地悪だな・・・。」

「悪かったって!拗ねるなよ!」

「でも伝え方はともかく頼んだよ?」

「ああ、任された。」

 

ずっと頼りがいのあるリーダーであったアンリの普通の女の子としての側面を見られて何か新鮮な気分だった。

 

 

 

さて、もう少し時間がありそうだな。

そう思って食堂に入ってみるとそこには比嘉がいた。

 

「あれ、比嘉1人でどうしたんだ?」

「おお!水島か!!いや、小腹が空いたんでな、つまみ食いよ!!お前も一緒に食べるか!?」

「せっかくだから相伴に預かるよ。」

 

比嘉が持ってきたお菓子やパンを一緒に大量に食べた。

 

「そう言えばこんなにお菓子とか食べて大丈夫なのか?カロリー計算と狂わないのか?」

「うーむ、俺はあまりそういうのは考えたことがなくてな!!逆にこういう菓子やパンは大好物だ!!」

 

意外だ。コイツは何となく豪放磊落な武人というイメージがあった。こういうの逆に大好物とは。

 

「これでもここ数年はかなり量を減らした方だ!中学生のころなんかはこの倍は少なくとも食べてたな!!」

「倍・・・?」

 

今食べただけでも普通に1日分の食事として充分成り立つぞ・・・?

 

「じゃあなんで減らしたんだ?健康のためか?」

「それがないと言ったら嘘にはなるが、それがメインじゃない。俺が菓子の類いを控えるようになったのは弟のためだ。」

「弟?」

「ああ!俺には2つ下の弟がいてな、奴も共に空手をやっていた。」

「そうなのか・・・。お前の弟じゃ相当な実力者だろうな。」

「きっとそうだったはずだ。もしかしたらここにいたのは俺ではなく奴だったかもしれん。生きていればな。」

「・・・すまない。」

「いや、いいんだ!今はもう吹っ切れてる!!病気だった!帰り道で倒れてそのまま帰らぬ人となったんだ。」

「話さなくていいって。吹っ切れてるって言ったって話すのは辛いだろ?」

「いや、逆に弟のことをみんなにも知ってもらおうと思ってな!みんなが直接は知らなくても弟のことを知っていてくれればもしここで俺の身に何かあってもしばらくは弟は本当の意味では死なんからな!」

 

そんな話をどこかの漫画で読んだ気がする。

 

「それに俺がここまで来れたのは奴があってこそだ。奴が死ぬ前に俺に思いを託してくれたからこそ、それまで大した選手ではなかった俺が超高校級とまで呼ばれるに至った!奴の思いを叶えるために俺は菓子を制限したしな!!そして今まであまり身を入れてなかった稽古にも力を入れるようになった!だから辛くはあったが、弟が死んだことはまるっきり悪いことばかりではなかった!だからそうくらい顔をするな!!」

「そうなのか・・・。」

「どうせならこれからみんなを呼んで弟の話をしてやろう!!」

「さすがにお前は気にしなくてもみんながお通夜ムードになるからやめた方がいいと思うぞ・・・?」

 

史上最高の空手家と呼ばれた男の意外な一面と抱えた過去を知ることができたと思う。

 

 

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「午後10時になりました。ただ今より夜時間になります。食堂はロックされますので速やかに退出してください。それではよい夢をお休みなさい。」

 

何だか今日は2人の意外な部分が見られたな・・・。こうやってみんなのことをもっと知っていけるといいんだが・・・。

 

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

「みんなはダーツなんてやったことがあるか?」

 

 

「ダーツってのはどうやら」

 

 

「百年戦争のころにイギリス軍の兵士が」

 

 

「暇つぶしに始めたゲームが起源らしいぜ!」

 

 

「最初は弓矢を使ってアーチェリーに近かったみてーだ!!」

 

 

「それが今時バーなんかでもできるゲームになってんだから」

 

 

「世の中わかんねーもんだぜ・・・。」

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り12人




と今回はここまで!!第3章の2日目いかがでしたでしょうか?
水島君は意外とゲームの類いが得意みたいですね!と言ってもさすがに将棋じゃ玉城君には敵わないでしょうが・・・。ということで次回もまたお楽しみに!!


さて、今回は第1章のおしおき解説!!
第1章のおしおきは《高次元PK対決》、超高校級のサッカー選手である二木駆くんのおしおきです。ちょうどこのおしおきが載った回の後書きでも少し書いたのですが、このおしおきのモデルは筆者の小学生時代の象徴たるゲーム2代巨頭のウチの1つであるイナズマイレブンシリーズです!その中でも「ど根性バット」という、味方をバットにして振り抜くことでシュートする、という必殺技をモデルに今回のおしおきを描きました。もちろん当時僕の周りのサッカー少年達もこのゲームをめちゃめちゃやっていたわけですが、それは置いといて、いわゆるサッカーとはかけ離れた形のこのおしおきにより純粋なサッカーを極めた少年が死んでゆく、という仕様になっております。

ということで次回もお楽しみいただければ幸いです!


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CHAPTER3 (非)日常編3

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「おはようございます。7時です。今日も一日元気で頑張りましょう。」

 

昨日はアンリと比嘉の二人の深い話が聞けて何だか少しだけ気分がいい。すっきり目覚めて爽やかな気分で自室を出るとその瞬間目の前に奴はいた。

 

「よお水島、おはようさん!!」

「モノトラ、何の用だ。」

「おいおい、そう邪険に扱うなよー!お前に耳寄りな情報を持ってきてやったんだぜ?」

「耳寄りな情報?どうせ大したものじゃないんだろ?」

「いやいや、決めるのは話を聞いてからでも遅くはねーぜ?何せオマエラの人間関係に関わる重要な情報だからな。」

「俺達の人間関係?」

「ああ。だがあんまり人に聞かれちゃいけねー話だ。ちと耳貸せや。」

 

俺達の人間関係に関わるなどと言われてしまったら聞かないわけには行かない。仕方がないので、俺はモノトラに言われるがまま耳を差し出した。

 

「あのな?甘寺の奴、オマエとは友達じゃいたくねーって思ってるみたいだぜ?」

「・・・は?」

 

モノトラの言っている意味が分からない。甘寺が俺とは友達ではいたくない?

 

「ま、甘寺との関係性を考え直すこったな。」

「あ、ああ。」

 

俺、何かしてしまったんだろうか・・・?

自分の記憶を探っても甘寺に何かをしてしまった記憶がない。これ以上考えても仕方ないので取りあえず食堂に向かうことにした。

 

 

 

食堂に向かうと当の甘寺が朝食の準備をしてくれていた。

 

「あ、おはよう水島君!」

「お、おう。」

「どうしたの?体調悪い?」

「いや、何でもない。気にしないでくれ。」

「?」

 

ダメだ。どうしてもさっきのモノトラの言葉を気にしてしまう。その上直接会った甘寺の態度はいつも通りなモンだから余計に変な勘ぐりをしてしまう。余計な嘘を吐かないモノトラの発言だからこそどうしても気にせざるをえない。

そうこうしているうちにみんなが食堂に集まってきた。基本的にはみんないつも通りだ。しかしその中に少しだけなんとも言えない不和が混じっている様な気がした。やっぱり俺みたいにみんなもモノトラに何か吹き込まれたのかもしれない。山吹なんかはそれが顕著で、できる限り表に出さないようにしているが、どうしても比嘉の方をチラチラと見ている。

食事が終わると急に久見が立ち上がる。

 

「みんなー、明日さー、みんなでゲーム大会やらないー?」

「ゲーム大会?」

「そう!遊戯室にいっぱいゲームあったしさー、やらないともったいないじゃんー?」

「いいな、それ!」

「この前の水泳大会は結局流れてしまいましたし、親交を深めるためにもいいのではないかと。」

 

口々になんとなくみんなが賛成ということを言い出す。もしかしたらこのなんとも言えない不和が解消されるかもという希望をこのゲーム大会に抱いているのかもしれない。

その後明日の昼の11時集合ということで開催日時が決まった。そして朝食の片付けが終わった後、俺と甘寺、薬師に太宰が久見に呼び出された。

 

「ここのみんなは立ち上げメンバーというわけでー、大会の準備を手伝ってー!」

「なんだ、そういうことか。」

「構わないよ。」

「うっし!じゃあやるか!!」

「おー!!」

 

単純に明日のゲーム大会の準備をしようとこのメンバーを集めたようだった。断る理由もないので俺達はみんなで準備をすることにした。

 

 

 

このゲーム大会の準備といってもいくつもやらなければならないことがある。1つ目がそもそもどのゲームが娯楽室にあるのかの確認。これにはコマやダーツの矢など足りないものがないかの確認も含まれている。ここの作業が一番時間が掛かるのでここに俺と薬師、そして太宰が配属された。2つ目が得点計算方法。まあこれは単純に順位と逆に縁数を着けていこうという話になったので、同時に大会そのもののルール制定もやるということになった。ここには言い出しっぺの久見が当たった。そして3つ目がプログラム作成。どのゲームをやるのか、何種目やるのか、これは俺達の作業が終わってからにはなるが、最も重要な決めなければならない事項である。ここには残った甘寺が当たることになった。

 

 

準備をするために娯楽室に行くとまず薬師がビリヤードやダーツといった大きなゲームの確認に向かった。その間に俺と太宰はボードゲームの類いを確認することにした。

 

「さて、僕たちはここの確認だね。」

「ああ。まずは人生ゲームか・・・。」

「これはかなり運要素も強いし、玉城君の独壇場にはならなそうだね。まあ、その分君の独壇場な気もするけど・・・。」

「盤面も2つあるし、まとめてしまえば全員でもできるな。」

「じゃあ、人生ゲームは1つ決まりだね!」

 

そんな会話を横で聞いていた甘寺は自分の手帳を取り出し、種目をメモっていく。

 

「あとは・・・、オセロもあるな。」

「単純だけど戦略性も高い。コマもちゃんと揃っているみたいだし、競技としては成立しそうだね。」

「じゃあ後は、将棋もあるな。」

「えー、でもそれじゃ玉城君の独壇場じゃない?」

「その分ビリヤードとかダーツでこっちも有利を取れるだろ。」

「まあ、確かにそうだね。」

「あ!でも待って!そこの将棋盤、脚が折れてる!」

「そう言えば玉城がそんなことを言ってたな。でも折れた先の部分も残っているし、どうにか修復は可能だろう。」

「じゃあ、僕ちょっと倉庫に行って接着剤を取ってくるよ。」

 

そう言って太宰は一度娯楽室を後にした。

 

そこから30分が経った。未だに太宰は戻ってこない。一体何をしているんだ? 

 

「太宰君遅いね。」

「倉庫に行っただけだよな?」

 

そこに薬師も混ざってくる。

 

「トイレじゃねえの?」

「にしても長いだろ。」

「ねえ、まさかってことはないよね・・・?」

 

甘寺の言うまさかとはもちろん、コロシアイのことだろう。太宰がその餌食になったのではないかというその不安だ。

 

「探しに行くか・・・?」

「そうするぞ!」

 

そうして部屋を飛び出そうとした瞬間。

 

「やあ、遅くなってごめんね。」

「太宰!!」

「どこで何してたんだよ!!」

「いやあごめんごめん。思いの外探すのに手間取っちゃってさ。灯台もと暗しとはこのこと、あんなに近くにあったとは。」

 

どうやら単純に接着剤が見つからなかっただけらしい。

 

「じゃ、ササッと将棋盤直しちゃおうか。」

 

そう言って太宰はすぐに将棋盤を直した。手先が器用なようだ。

 

「後はくっつくまでちょっとこのままかな。瞬間接着剤だし、ガチガチにテープで固めたりしなくても大丈夫だと思うよ。じゃあ、もし他に何か壊れたものがあったときのためにここにこの接着剤は置いとくね。」

 

そう言って太宰は瞬間接着剤を部屋の端の棚の上に載せた。

取りあえずこれで俺達の作業は終わったので後は久見がルールを制定して準備は完了だ。ということで俺達はここらで1回解散することにした。

 

 

 

 

 

取りあえず準備が終わったことで俺は暇になってしまった。ということでちょっとだけ周囲を探索してみることにした。すると近くに同じく準備を終えて時間ができてしまった様子の太宰がいた。

 

「おお、太宰。ヒマなのか?」

「やあ、水島君。君もか。」

「ああ、そうなんだ。」

 

そのまま二人でラウンジでミステリー小説談義に花を咲かせた。お互いに一推しのミステリー小説を紹介し合うなどとても充実した時間を過ごすことができた。

 

「いやあ、やっぱり水島君となら濃いミステリー小説談義ができると思っていたんだよ。」

「それはこっちのセリフだ。やっぱり太宰とならここまで深い話ができると思っていつか話ができないかとチャンスを窺っていたんだ。」

「ご期待に添えたのなら何よりだよ。」

 

そんな話をしているときにふと気になった。

 

「そう言えば太宰は何をきっかけにあれだけの本を読むようになったんだ?」

「ああ、僕が本を読むようになったきっかけかい?それなら簡単だよ。僕の父は小説家だったんだ。実は希望ヶ峰学園の卒業生でもあってね、若いころから多くの賞を取っていたんだ。で、それだけの作品を多く書くにはそれだけの資料が必要みたいでね。かなりの本を読んでいたんだ。それだけじゃなくて父は単純に本を読むのも好きな人でね。資料とは関係なく大量の本を買い込んでは締め切り間際に現実逃避として読んで編集の人に怒られていたよ。」

「そいつはすごいな・・・。」

「そんな状況で育ってきた僕が本を読むようになったのは割と自然なことだったんだ。」

「なるほどな・・・。でもブログは自分の意志なんだろ?誰かの影響を受けたとかじゃなくてさ。」

「まあね。単純に僕が好きな本をみんなに知って欲しい、できることならば好きになって欲しい、と思うようになっていったんだ。だからブログを書き始めたんだ。でも別に趣味の範疇だったから特に最初のころは全然アクセス数を稼げてはいなかったんだけどね。」

「なるほどな・・・。」

「あ、実は僕のブログがバズったきっかけは有浜さんでね。」

「そうなのか?」

「うん。実は彼女が何かのラジオか何かで最近ハマっているものとして僕のブログを挙げてくれてね。その日以来アクセス数が爆ノビしたんだ。」

「へえ、それは意外な繋がりだな。」

 

しかもやっぱり“超高校級の女優”だな。世間の影響力が絶大だ。

 

「だから実は彼女のことは同級生でもあり、僕をここまで連れてきてくれた恩人でもあるんだ。」

「恩人・・・?」

「うん。だってそうだろう?こうやって素晴らしい仲間と大好きな本の話を思う存分できるのは彼女が僕のブログを紹介してくれたおかげだ。」

 

素晴らしい仲間なんて言われたら照れてしまう。

 

「だから僕にとって彼女は恩人なんだよ。だからこそああなってしまったのはすごく残念なんだけどね・・・。」

 

そう言って太宰は悔しそうに目を背ける。そう、有浜はコロシアイを起こしてしまったとしても俺達にとっては大切な仲間。彼女を失ったことは俺達にとって大きな傷となっている。

 

「でも、それを引きずっていても仕方が無いからね。前を向くことにしたんだ。」

「ああ、それがいい。」

「じゃあ、そろそろ行くよ。君とミステリー談義をしていたら急にミステリー小説を読みたくなってしまったよ。」

「そうか。じゃあな。」

 

そう。それでも俺達は前を向かなければならない。だから俺達は希望を持って生きていく。死んだ4人に顔向けができるように。

こうして俺は太宰と別れた。

 

 

 

太宰とミステリー談義をしたことで俺も読みたくなってしまいラウンジで本を読んでいると、そこに薬師が現れた。コイツもどうやらヒマを持て余しているらしい。

 

「おっす、水島!元気か?」

「まあな。」

「ヒマなんだ、ちっと話に付き合ってくれよ。」

 

突き放すのも申し訳なかったので俺は薬師の話に付き合うことにした。大した話をしたわけではなかったが、それなりに面白い話ができたと思う。

 

「そういえば、薬師がピストル射撃を始めたきっかけってなんだったんだ?」

「あー、確かにそういう話をしたことはなかったっけな!いいぜ!俺がピストル射撃を始めたのはアニメの影響だ!」

「アニメ?」

「ああ。某怪盗アニメに出てくる仲間のガンマンなんだがよ、幼い俺にとってはそれがたまらなくかっこいいものに見えたんだよ。」

「なるほどな。でもそういうアニメのピストルと射撃用のピストルって全然違うだろ?」

 

現にそれが証拠で最初の事件においては一度薬師から疑いは逸れた訳だしな。

 

「あー、それはな、めちゃめちゃ勘違いだ。」

「・・・は?」

「子どものころの話だからよ?アニメのピストルと競技用のピストルが同じものだと思い込んでたんだよ。ま、その後ちょっと経ってからすぐに気付いたんだけどな。」

「よくそのタイミングで辞めなかったな。」

「俺は“超高校級の射撃選手”だぜ?小さいころから才能があった訳よ。的にはバンバン当たるし、それを周りがメチャクチャ褒めてくれるからさ、辞めるのは惜しくなっちまってよ。」

 

薬師ははにかみながらそう言った。

 

「はは。デタラメな奴だ。」

「ま、結局その後に余裕ができてからサバゲーを始めたことで当初の目的だった映画みたいなガンアクションをするってのも達成したんだけどな!」

「サバゲーもやってたのはそういうことか。」

「まあな!でもピストル射撃をやってたことでそもそもの銃を撃つための基礎ができてたからそういうガンアクションもできるんだぜ?」

「何事も基本が大事ってことか。」

「もちろん何もかも同じって訳にはいかねえんだけどな。」

 

確かに射撃競技と実戦に近いサバゲーじゃ多少勝手も違ってくるだろう。

 

「そうだ、ここから出たら水島もサバゲーに連れてってやるからよ、今のうちに基礎を叩き込んでやるから話聞いてけ!」

 

おいおい、これからか・・・?

 

 

結局その後2時間にもわたってサバゲーの基礎について薬師に叩き込まれた。そんな話をしている内に夜は更けていった。

 

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「午後10時になりました。ただ今より夜時間となります。食堂は閉鎖されますので速やかに退出してください。それではよい夢を。お休みなさい。」

 

明日はゲーム大会の本番だ。でも前回の水泳大会の様なことにはさせない。みんなで大会を楽しみきって、コロシアイも絶対に起こさせない。

そう決意を固めて俺は眠りに落ちていった。

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

「ボードゲームってのは中々面白いもんだが、それが行きすぎるのもいかがなもんかって感じだよな。」

 

 

「よくAIを搭載したボードゲーム専門のロボットなんてものも出てくるが、それが人間を越えたなんてニュースを聞くとオレは賞賛の気持ちよりつまんねえって気持ちの方が勝っちまう。」

 

 

「やっぱりボードゲームは人対人でやってるからこそ心理状態の読み合いなんかも起こっておもしれーんだとオレは思うぜ!!」

 

 

「え?オレもAIじゃねーかって?」

 

 

「いやいや、こんな愛くるしいオレがAIなわけねーだろ?コンピュータごときにこの生きた愛くるしさを出すのはまだまだ無理だと思うぜ!!」

 

 

「ってな訳でオレもボードゲームくらい長年愛される存在になりてーってそんな話だったぜ!!」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級のドラマー     山吹巴(ヤマブキトモエ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

超高校級の空手家      比嘉拳太郎(ヒガケンタロウ)

 

残り12人




今回はここまで!第3章の3日目はここで終了です!!さあ、水島君達は明日、無事ゲーム大会を開催することができるのでしょうか?是非ともお楽しみに!!


ということで裏話をしていきましょう!前回まで書いてみて思いの外各章で書くことって無いんだな、ということに気付いてしまいました笑。てな訳で今回からは第2章の裏話をしていこうと思います!

今回は第2章のタイトルに関しての話をしていこうと思います!第2章のタイトル、「My Friend Is Tied Up」、直訳すると「私の友は縛り上げられている」ということになるのですが、この一文はとある曲名から取っています。その曲とは、ELLEGARDENさんの「My Friend Is Falling Down」、訳は「僕の友は落ち込んでいる」です。どちらも自分の友のマイナスな現状を述べた文になるわけですが、この曲名をもとに第2章の犯人である有浜さんの動機を書いている、というそんなタイトルになったわけです!
と今回は以上です!こちらの続きもお楽しみに!!


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CHAPTER3 (非)日常編4

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「おはようございます。7時になりました。今日も1日元気で頑張りましょう。」

 

今日も何だかすっきりと目が覚めた。なんだかんだで俺は今日のゲーム大会を楽しみにしているらしい。何となくウキウキした気分で食堂に向かう。

食堂に入ると中では九鬼が朝食の準備をしていた。何だか九鬼の様子もウキウキしているように見えた。

 

「おはよう九鬼。」

「オッス水島!!今日だろ?ゲーム大会!」

「ああ。11時集合だ。」

「よーし、負けねーぞー!」

「意外と自信ありげだな。」

「確かに頭使うゲームは苦手だけどよ、ダーツはよく船の仲間とやってたんだぜ?腕前にも結構自信があるんだ!だから今日は結構楽しみにしてたんだ。」

「そうか。俺もダーツには結構自信がある。」

「何ー?負けねーかんな?」

「そいつはこっちのセリフだ。」

 

そんな話をしている内にみんなが食堂に入ってきた。どうやらみんなも結構この大会を楽しみにしてくれているらしく、各々自分が腕に自信があるゲームについて語り合っていた。玉城ですら珍しく将棋についてちょっとだけ饒舌に語っていた。

 

そうして食事を終えて片付けも済ませると11時まで時間ができてしまった。わざわざ一人でいることもないので食堂に留まって近くにいたメンバーと何となく今日のゲーム大会について話をしていた。

 

「水島君は結構ゲームが上手いんだって?」

「甘寺に言わせるとそうらしい。」

「私もね、結構腕に自信があるんだ。まあ、将棋は玉城君には敵わないし、ダーツも畔田には敵わないけどね。」

「確かに色んなゲームも嗜んでそうなイメージはあるな。」

「だろう?私の腕前、楽しみにしていておくれ。」

「ああ。」

 

そんな話をしているとそこに久見が甘寺と薬師を引き連れてやってきた。

 

「ねーねー、水島君。太宰君には伝えたんだけどさー、今日この後準備したいから30分前くらいに遊戯室に来てもらえるー?」

「ああ、いいぞ。」

「なんだ、準備なら私も手伝うよ。」

「アンリちゃんいいのー?」

「ああ。みんなでやる大会だ。手伝いくらいいくらでもするさ。畔田も呼んで一緒に手伝ってもらうよ。」

「とても助かるよー。」

「気にしないでくれ。」

 

その後甘寺はその場に残って3人で今日のゲーム大会が楽しみだ、という話で盛り上がった。すると、気付いたら10時20分を過ぎていた。

 

「おっと、そろそろ準備に行く時間だね。」

「ああ。」

「じゃあ、行こっか。」

「あ、でも畔田も呼んでくるから先に行ってておくれよ。すぐに追いつく。」

「ああ、分かった。」

 

こうして俺は甘寺と一緒に遊戯室に向かうことにした。2人きりになった瞬間、少しだけ昨日の朝のことを思い出してしまい、少しだけ気まずい気分になったが、楽しいゲーム大会の前だ。できる限り表に出さないように気を付けた。

 

 

 

 

 

遊戯室に入るともう既に久見と薬師は遊戯室に来ていた。

 

「すまない、少し遅れた。」

「ううん、ほぼ時間通りだし、全然やることが多いわけじゃないから気にしないでー。」

「それならいいんだが。ああ、アンリは畔田のことを呼んでいるから少し遅れる。」

「あれ、ところで太宰君は?」

「トイレにこもってるみたいだぞ?俺が会った時はちょうどトイレに向かうときだったけど、準備に間に合うか分かんないから時間に来なかったら先に始めててくれってさ。」

「そうか。じゃあ先に始めているか。」

 

こうして作業を始めた直後、アンリと畔田が来た。

5分ほどすると涼風が来て、更にその5分後に九鬼が来た。

この2人も準備を手伝ってくれている内に時間はいつの間にか過ぎており、気付いたらもう集合時間の11時の直前になっていた。

 

「ほう、かなり集まってるじゃないか。」

 

その集合時間の直前に悠々と現れるのは玉城。これは全然想定内。なんだかんだ参加してくれるあたりコイツは悪いやつじゃない。でも太宰、山吹、比嘉の3人がまだ来ない。太宰はもしかしたらまだお腹の調子が悪いのかもしれない。そんなことを思っていると、

 

「ごめん、すごくギリギリだね!」

 

10時59分、集合時間1分前に太宰が遊戯室に駆け込んできた。どうにかお腹の調子は回復したらしい。しかしそのまま11時を迎えてしまった。どうにも山吹と比嘉がやってこない。ゲームの得手不得手は知らないが、この手のイベントには一番に乗ってきそうな2人なだけに心配だ。別に今日は欠席だという話も聞いていない。

 

そのまま10分が過ぎた。いつまで経っても2人が来ないので本気で心配になってきた。それは他のみんなも同じだったようだ。

 

「なあ、2人のこと探しにいかね?」

「ちょうどそれを提案しようと思っていたところです!」

「じゃあ行こう!!」

 

こうしてすぐに2人を捜索する流れになった。するとそこで太宰が提案した。

 

「それならそれぞれの階に人数を分けるっていうのはどうかな?みんなで1カ所を探すのも非効率的でしょ?」

「確かにそうだな。」

 

ということで太宰の提案に乗ってみんなを3つのグループに分けて各階を捜索することにした。内訳は、

 

3階:俺、甘寺、涼風

2階:玉城、アンリ、畔田

1階:薬師、久見、太宰、九鬼

 

という感じになった。それぞれが自分の思い思いに捜索場所を口に出したが、その割には綺麗に分かれたのではないかと思う。

 

それぞれの階に向かうみんなを見送った後、俺達は3階の捜索を開始した。

 

 

 

俺達がいた娯楽室はちょうど3階の真ん中にある。なので俺が物理室方向、甘寺と涼風が美術室方向に向かっていった。

 

 

 

息が詰まる。なんとも言えない重苦しい空気が3階を覆っていた。そしてそれは物理室に近づけば近づくほどに重くなっていった。

そんなわけはない。だって,動機がない。今回、モノトラはほとんど介入していない。昨日の朝だって交わした言葉は二言三言。ちょっとだけショックだったけど、それでも俺は甘寺を殺してやろうとは思わなかった。だからそんなはずはない。

 

そう言う思いを抱えながらいつの間にか物理室の前に到着していた。大して走っていない息を整えようと立ち止まったが、物理室の自動ドアはその少しの猶予すら許さなかった。無情に開いたその扉の先にそれはあった。

 

 

 

 

 

 

そして俺はそこで思い知ることとなった。

 

 

 

 

 

 

奴らは俺達に与えるつもりなんてない。俺達が生きるために大切にする希望なんて。

奴らは俺達に押し付けてくる。俺達の人生をズタズタに傷つけるための絶望を。

 

 

 

 

 

 

それを象徴するように彼はそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腹から大量の血を流し、うつ伏せに息絶えた状態で、“超高校級の空手家”比嘉拳太郎はそこに・・・いた。

 

 

 

 

 

 

「!!!」

 

2人を・・・!!

 

「甘寺!!涼風!!ここにいたぞ!!!」

「え・・・!?」

「今行く!!!」

 

程なくして2人も物理室にやってきた。するとそこで非情な宣言がもたらされた。

 

 

ピンポンパンポーン・・・!

 

 

「死体が発見されました。一定の捜査時間の後、学級裁判を行います。」

 

 

 

「死体発見アナウンス・・・!」

「甘寺、みんなを・・・!」

「うん!」

 

 

ピンポンパンポーン・・・!

 

 

「!!?」

なぜか流れる二度目の宣告。

 

 

「死体が発見されました。一定の捜査時間の後、学級裁判を行います。」

 

 

 

「これって・・・!!」

「水島君!甘寺さん達も!ここにいたのか・・・。!?これは・・・!比嘉君・・・!?」

「太宰!!今のは!?」

「取りあえず寄宿舎までついて来てもらえるかい!?」

 

太宰に言われるがまま俺達は寄宿舎へと行った。

 

 

 

寄宿舎に入ると既に寄宿スペースに他のみんなが集まっていた。

 

その人混みをかき分ける。

 

 

 

 

人混みの中心は山吹の部屋だった。

 

 

 

 

 

ゴクリと息をのみ、1つ息を整えて部屋の中へ踏み込む。

 

 

 

 

 

分かっていた。分かっていたことだった。

 

 

 

 

 

 

それでも・・・。それでも・・・。

 

 

 

 

 

俺は、思考を止めざるをえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の真ん中で自分の腹を何かで突き刺して息絶えた、“超高校級のドラマー”山吹巴のその亡骸に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CHAPTER3 その感情は最も遠く 非日常編

 

 

 

「山吹っ!!!」

「山吹さん・・・!!」

「僕が寄宿舎を捜索したらこんなことに・・・。」

 

クソ・・・!まさかこんなことに・・・!!

 

「まさか2人も殺されるなんて!!!」

「おい待て。どういうことだ?2人だと?」

「上の物理室で比嘉も死んでた。」

「・・・は?」

「腹から血を流してた。恐らく殺された。」

「それが2回の死体発見アナウンスですか・・・。」

「ああ。」

 

2人も殺された、その事実に打ちひしがれている俺達の前に奴は上機嫌で現れた。

 

「よおオマエラ!!いい調子じゃねーか!!2人も殺す奴がいるなんてよ!!」

「なんのつもりだ。」

「そう睨むな!例の奴を持ってきてやったんだからよ!!」

「・・・モノトラファイルか。」

 

奴の手からまたファイルを受け取ると、さっさと上機嫌でモノトラはいなくなってしまった。

 

「アイツの態度に腹を立てても仕方ない。捜査を始めよう。」

「・・・そうだな。」

 

 

 

-捜査開始-

 

 

 

まずはモノトラファイルだな。

 

モノトラファイル3。1人目の被害者は“超高校級の空手家”比嘉拳太郎。死体発見現場は物理室。死因は腹部を刺されたことによる失血死でそれ以外の外傷はない。死亡推定時刻は午前11時ちょうど。

2人目の被害者は“超高校級のドラマー”山吹巴。死体発見現場は山吹巴の自室。死因は腹部の刺し傷による失血死。死亡推定時刻は午前11時5分。

 

 

コトダマゲット!

【モノトラファイル3)

被害者は“超高校級の空手家”比嘉拳太郎と“超高校級のドラマー”山吹巴。死因はどちらも腹部の傷からの失血死。死体発見現場は比嘉が物理室、山吹は寄宿舎の自室。死亡推定時刻は比嘉が11時ちょうど、山吹が11時5分。

 

 

「とりあえず手に入る情報はこんなところか。」

「じゃあー、まず先に巴ちゃんの検死から始めちゃうねー。」

「おう、任せた!」

「さて、現場保存をどうするか・・・。」

「ではこちらは私がやりましょう。」

「あたしも手伝う!」

「物理室の方は・・・。」

「じゃあオレ行くよ!」

「一応俺もついていくな。」

「おう!」

 

それぞれの提案によって物理室は九鬼と薬師、山吹の部屋は畔田と涼風が現場保存をしてくれることになった。

 

「でもこれで捜査できるメンバーがかなり限られてしまったね。」

「じゃあ、仕方ないしそれぞれで捜査しよっか!」

「ああ。」

「じゃあ、み・・・」

「水島、まずはこの部屋から捜査するぞ。」

「ああそうだな。後の奴らも複数人の組になってくれ。」

「むー。」

 

甘寺は何だか不満そうだ。だけどそれを気にしている余裕はない。捜査を開始しよう。

 

「取りあえずこの部屋で気になるのは・・・。」

 

そう思い部屋を見回すと、死体のそばに何かが落ちていた。

 

「ガムテープか。切れ端みたいだがな。」

「そうみたいだな。」

「なんでこんなところに?」

 

 

コトダマゲット!

【ガムテープの切れ端)

山吹の死体のすぐそばに落ちていた。 

 

 

「あ、水島君ー。これ預かって-。」

「ああ。」

 

久見から受け取ったものを見ると、それは血のついた短い槍だった。

 

「久見、これは?」

「巴ちゃんが握ったまま死んでたんだー。お腹に刺さってたんだよー。」

「つまりこれが凶器の可能性が高いということか。」

「そう考えて良さそうだな。」

 

 

コトダマゲット!

【腹部に刺さった槍)

山吹が握ったままの状態で死体の腹部に刺さっていた。

 

 

「検死はどうだ?」

「あんまりいいことじゃないんだけどー、3回目ともなると慣れてくるよねー。もうそろそろ終わるから待っててー。」

「ああ。」

 

それなら少しここで待たせてもらおう。

 

「水島、お前に聞いておきたいことがある。」

「なんだ?玉城。」

「お前は今回の動機はなんだと思う?」

「と言ってもなあ。モノトラは特に何も言ってなかっただろ?」

「だが心当たりならあるはずだ。」

「それってアレか?モノトラが急に来て誰かの秘密とか陰口みたいなのを話してった奴。」

「ああ、それだ。それが今回の動機と考えていいだろう。」

「ならみんなから聞いてみるか?」

「ああ。恐らくだが、今回の殺人は陰口を言われた側が殺した可能性が高い。陰口を言われた側から言った側に向かって“殺意の向く方向”としてまとめていくぞ。」

「ああ、分かった。」

 

 

コトダマゲット!

【動機)

今回モノトラは動機だと明言していないが、お互いの猜疑心を呼ぶ発言は今回の動機であると考えられる。

 

 

「じゃあまず俺と玉城からだな。俺は甘寺だ。内容も言うか?」

「いや、関係ないなら聞く必要はないだろう。重要なのは誰が誰に殺意を向ける可能性があったのか、という点だ。ああ、ちなみに俺は九鬼だ。」

「じゃあお互いに今回の動機は薄そうだな。」

「ああ。お互い一番厄介な相手がとりあえずの犯人候補から外れたな。」

「はは、そうだな。」

 

玉城とこんな冗談を言い合う日が来るとはな。

 

「何だか楽しそうー。」

「ああ、久見。検死は終わったのか?」

「うん!」

「じゃあ話を聞いてもいいか?」

「おっけー。じゃあー、まず最初にー、巴ちゃんの傷は急所を刺したものではなかったよー。」

「つまりそれは即死ではなかった、ということか。」

「うんー。具体的にどれくらい掛かったかは分からないけどねー。あと他にはねー、手首に赤い痕がついてたよー。」

「赤い痕?」

「うんー。ちょうど7~8cmくらいの幅の痕が両手首にー。」

「何の痕だ・・・?」

「最後にー、巴ちゃんの手なんだけどー、左手の小指側だけ血がべっとりと付いてたー。そんなところかなー。」

「死体からもそれなりに情報は得られたな。」

 

 

コトダマゲット!

【山吹の死体)

死体の傷は急所にはなかった。恐らく即死ではなかった。

 

【手首の痕)

両手首に7~8cmほどの赤い痕が残っていた。

 

【山吹の手)

左手の小指側のみに血がべっとりと付着していた。

 

 

「よし、じゃあ次・・・の前に、久見、あと畔田と涼風もちょっといいか?」

「うんー。」

「いいよー!」

「どうしたんですか?」

「昨日の朝、もしくはおとといの夜とかかもしれないが、モノトラに何か吹き込まれなかったか?」

「!」

「あー、あれかー。」

「誰について言われたか聞いてもいいか?今回明言しなかっただけでアレが動機だった可能性がある。内容までは言わなくていいからさ。」

「そうですか・・・。そういうことなら、私は久見さんに関して言われました。」

「えー、そうなのー?それならー僕はー、太宰君についてー。」

「なるほどな。涼風は?」

「・・・。」

「どうした?何か不都合なことでもあるのか?」

「・・・はあ。どうせ事実は変わんないもんね。あたし山吹ちゃんについて言われたの。でも全然関係ないよ?」

「それは裁判になれば分かる。事実だけ分かればいい。」

「そうですね。」

「じゃあー、次は物理室だねー。」

「こちらの現場保存はどうしましょう?」

「一通り捜査は終わったからいいんじゃないか?ここからは捜査に参加してくれ。」

「わかった!」

 

 

 

とりあえず山吹の部屋を調べ終わった俺達はもう一つの現場、物理室に向かうことにした。物理室では、正確には奥の物理準備室ではアンリと太宰が何だか大騒ぎをしていた。

 

「・・・何してるんだ?」

「いや、この棚の下の引き戸が開かなくてね・・・!モノトラが壊すななどというから困っていたところなんだ。」

「薬師、これモノトラが言ってた奴だよな?」

「俺もそう思って手順通り一瞬手伝ったんだけど全然開かねんだ!」

「どういうことだ?」

「ちなみにそのモノトラが言っていた、というのは?」

「ああ、そこの棚の引き戸は立て付けが悪いらしくてな、開けるためのコツを教えてくれたんだが・・・!開かないな・・・。これは立て付けだけの問題じゃないかもしれないな。」

「そうかもしれないね。まったく、モノトラの奴、そんなコツがあるなら教えてくれればいいのに・・・。」

 

アンリにはコツを教えていない・・・?どういうことだ?

 

 

コトダマゲット!

【物理準備室の棚)

1つの棚の下の引き戸が開かなくなっている。誰がどうやっても開かなかった。

 

【モノトラの証言)

物理準備室1つの棚の引き戸は立て付けが悪い。引き戸を開けるにはコツがいるが、アンリには教えていなかった。

 

 

「じゃあー、僕は検死してくるねー。」

「ああ、任せた。」

「りょーかーい。」

「さて、アンリと太宰に聞きたいことがあるんだがいいか?」

「ああ、構わないよ。」

「僕もだよ。で、なんだい?」

「モノトラに誰かのことを言われなかったか?特におとといの夜から昨日の朝にかけてくらいの時間だ。」

「ああ、畔田がどうのこうの、って言っていたね。戯れ言だと思って聞き流してしまったから内容は覚えていないけど。」

「それなら僕は涼風さんについてだね。ま、その通りすぎることを言われたから気にしてはないけどね。でも、なんでだい?」

「恐らくそれが今回の動機だ。」

「!」

「名言はしていないが、俺達の猜疑心を煽ってコロシアイを起こさせようとした可能性が高い。」

「だから誰が誰について言われたか、聞いているという訳だね。」

「ああ。そういうことだ。」

「そう言えば、もしかしたらアレもそういうことだったのかもしれないな・・・。」

「アレ?」

「いや、実はここ2日くらい巴が比嘉君のことを避けていてね。恐らくだし、真偽を問うことはもうできないけどもしかしたらこの動機に関係していたのかもな、と思ってね。」

 

これは十中八九山吹の動機は比嘉に関してだな・・・。

 

 

コトダマゲット!

【アンリの証言)

ここ2日山吹は比嘉のことを避けていた。動機に関連しているかもしれない。

 

 

「そう言えば、山吹に関して思い出したことがある。」

「ほんとか、玉城?」

「ああ。確か昨日だ。山吹が誰かとコソコソ話していた。何の相談をしていたかまでは知らんがな。」

 

相談・・・?誰と・・・?何を・・・?

 

 

コトダマゲット!

【玉城の証言)

山吹が誰かとコソコソ話しているのを見かけた。相手や内容は不明。

 

 

山吹がここ数日でかなり色々抱えていたのが分かったな。

 

「水島くーん!検死終わったよー!」

「ああ!今行く。」

 

さて、久見の検死を聞きに行くか。何か情報が得られるはずだ。

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り10人




さあ、第3章非日常編突入致しました!!第3章もここから話が動いていきますんで、ぜひ次回もお楽しみに!!


それでは今回の裏話は第2章サブキャラ設定紹介です!1章は関連人物が外にいなかったため、このパートができませんでした笑。ということで行きましょう!
今回紹介する人物は2人です!
まず1人目は、美上二葉さんです!まあ、見ての通りなのですが、美上三香子さんの母親に当たる人物です。彼女はとある日、絵画教室に娘を迎えに行った帰り、交通事故に遭い、死んでしまいます。娘は生き残り、“超高校級の画家”となるわけですが、その絵画観のようなものに大きな影響を与えた人物である、と言えるでしょう。
そして2人目は永瀬美春さんです!彼女は人気女優であり、有浜鈴奈さんの動機となった親友です。元々芸能関係の仕事もしていた彼女は中学の同級生だった有浜さんを事務所のオーディションに誘い、女優の道へと進むもう一つのきっかけを与えました。それからはお互いに切磋琢磨し、支え合いながらここまで来た、一心同体の存在となっていきました。でも有浜さんにとってはこの希望ヶ峰学園の仲間達も同じくらいに大切な存在になり得たかもしれない、そのような後悔もどこかあったようですね・・・。

ということで今回はここまで!次回もお楽しみに!!


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CHAPTER3 非日常編-捜査-

どうやら比嘉の検死の方も終わったみたいだ。久見の話を聞きに行ってみよう。

 

「久見、検死の結果を聞かせてくれ。」

「分かったー。といってもー、ほぼこのモノトラファイルに書かれたとおり、って感じー。」

「そうか・・・。」

「あ、でもー、書かれてないこともあったよー。」

「それは?」

「えっとねー、まずは傷がねー、綺麗にほぼ水平に付いてたんだー。ホントに正面から比嘉君のことを刺したんだねー。」

「つまり、正面から行っても警戒されないくらい上手く持ってったってことだな。」

「あとはー、巴ちゃんのときと違ってー、具体的な凶器は分からなかったー。でも傷から推理するにー、多分形状としては巴ちゃんのお腹に刺さってた槍と近い形状のものだったんじゃないかなー。」

「なるほどな、ありがとう。」

 

つまり比嘉は特にトリックとかはなく殺された、という感じか。まさかあの比嘉を正面から殺しに行き、成功してみせる奴がいるとはな。

 

 

コトダマゲット!

【比嘉の死体)

腹部を水平に刺されていた。

 

【比嘉殺しの凶器)

不明。しかし、傷から推測するに形状としては山吹殺しの凶器と近いかたちをしていると思われる。

 

 

よし、あとはここにいる薬師と九鬼にもあのことを聞いておこう。

 

「薬師、九鬼、ちょっといいか?」

「おう!」

「どした?」

「いや、一昨日の夜から昨日の朝にかけての時間帯でモノトラに何か言われなかったか?誰かの陰口みたいなの。」

「あー、言われたな。俺はまあ、本人の前でどうかとも思うが玉城のことを言われたぞ?」

「オレは確か・・・、そうだ!アンリだ!ま、奴の戯れ言だとは思うけどよ。」

「そうか。ありがとう。」

「いいってことよ!」

 

この確認が終わったところで物理室に甘寺がやってきた。

 

「ごめーん、1回みんなに情報を聞いてとりあえずのところで整理したいから娯楽室に来てくれない?それにみんなに聞きたいこともあるし!」

「ああ、分かった。」

「うし、行くか!」

 

甘寺の要請を受けて一度俺達は娯楽室に集合することにした。

 

 

 

みんなで集まってここまでの捜査の結果を報告し合った。報告が一段落したところで玉城が口を開いた。

 

「で、なんだ。その聞きたいこととやらは。」

「えっとね、みんなのここに1度目に来た時間を整理したいと思って!」

「アリバイだな。」

「それならー、最初に10時半ちょうどに僕と薬師君が来たよー。」

「その後2分くらいしてから水島と甘寺が来たよな!」

「確か35分くらいにアンリと畔田が来たはずだ。」

「確かあたしは40分くらいだった!で、5分後くらいに九鬼ちゃんが来たよ!」

「そこから10分ちょっと経ってから玉城君が来たよねー。」

「正確には57分だったはずだ。時計が間違っていなければだがな。」

「それで、僕が来たのがギリギリ1分前の59分だったよ。」

「よし、じゃあこれをまとめるか。」

 

かなり正確にみんなが娯楽室に集合してきた時間が分かったな。

 

 

コトダマゲット!

【娯楽室に集まる順番)

10:30に久見と薬師、10:32に水島と甘寺、10:35にアンリと畔田、10:40に涼風、10:45に九鬼、10:57に玉城、10:59に太宰が来た。

 

 

「さて、捜査を再開するぞ。」

「あ、それなら残りの甘寺にもアレを聞こう。」

「そうだな。」

「甘寺、ちょっといいか?」

「うん、いいよ!」

「ちょっと聞きたいことがあってな。おとといの夜から昨日の朝くらいの時間にかけて1人でいるときとかにモノトラに何か吹き込まれなかったか?」

「何かって?」

「あー、例えば誰かが甘寺にこう思ってる、こうしようと企んでる、みたいなことを言ってなかったか、って話だ。」

「あ、それなら確か薬師君がなんとかって言ってた気がする!」

「そうか、ありがとな。」

「あ、そうだ!一応なんだけど、今日の捜索メンバーの班分けをまとめてもらえると助かる!」

「ああ、分かった。」

「じゃあ、私も捜査してくるね!」

「ああ。」

 

こうしてとりあえず甘寺と分かれて捜査を再開することにした。

 

「さて、動機の対象の方向をまとめるぞ。」

「ああ。そうするか。」

 

ここまででみんなから聞いた情報を元に全員の殺意が向く方向をまとめてみた。

すると、水島→甘寺→薬師→玉城→九鬼→アンリ→畔田→久見→太宰→涼風→山吹という全員が一列に繋がる形になった。

 

「・・・これは・・・。」

「ちょうど全員が繋がる形になっているな。」

「分かりやすくていいな。」

「これなら動機の対象が分かっていないところも推理可能だ。とりあえずこの状態でまとめておくぞ。」

「ああ。」

 

 

コトダマアップデート!

【動機)

今回モノトラは動機だと明言していないが、お互いの猜疑心を呼ぶ発言は今回の動機であると考えられる。

動機の向く方向は水島→甘寺→薬師→玉城→九鬼→アンリ→畔田→久見→太宰→涼風→山吹の順になっている。

 

 

あとはアレもまとめなきゃな。甘寺に頼まれた捜索の班分け。

確か、1階を太宰、久見、九鬼、薬師の4人が捜索した。そしてこのメンバーが寄宿舎で山吹の死体を発見した。2階を玉城、アンリ、畔田が捜索した。そして3階を俺、甘寺、涼風のメンバーで捜索し、俺達が物理室で比嘉の死体を発見した。確かこの班分けを提案してくれたのは太宰だったはずだ。勢いで分けた割には上手く分かれたと思う。この情報もまとめておこう。

 

 

コトダマゲット!

【捜索の班分け)

1F:太宰、久見、九鬼、薬師

2F:玉城、アンリ、畔田

3F:水島、甘寺、涼風

班分けをすることを太宰が提案してくれた。

 

 

とりあえずそれぞれの動機の対象と捜索の班分けをまとめ終わって顔を上げると玉城が薬師に話しかけていた。

 

「おい薬師、確認したいことがある。」

「ん、何だ?」

「お前、ホントにちゃんと確認したんだろうな?」

「何を?」

「ゲームに使う道具だよ。キューが1本ないだろう。」

「あ、ホントだ!おっかしいなぁ?昨日見たときはちゃんとあったんだぜ?」

「本当だろうな?」

「んなことで嘘吐かねえって!」

「そいつもそうだな。という訳だ、水島。どうやらキューが1本無くなっている。行方を追うぞ。」

「あ、ああ。」

 

昨日はあったはずのキューがなくなっている?なぜそんなことに・・・?

 

 

コトダマゲット!

【キュー)

1本行方不明になっている。薬師が昨日確認したときには確実に全部あった。

 

 

玉城に促されて娯楽室を出ようとした瞬間、足に何かが当たった。

 

「ん?これは・・・接着剤か?」

「何をしている。」

「いや、ここに接着剤が落ちてたんだ。」

「昨日使ったのか?」

「まあ、太宰が使ってたな。」

「ならその時のものが落ちていたんだろう。」

「でも空だ。昨日太宰は使い切ってはなかった。」

「何だと・・・?」

「一応覚えといて損はないだろ?」

「勝手にしろ。」

 

 

コトダマゲット!

【接着剤の容器)

床に落ちていた。昨日太宰が将棋盤を直すのに使ったものだと思われるが、昨日使い切ってはいないのに空になっていた。

 

 

とは言ったものの、キューがどこに行ったのかなんて全く見当も付かない。どうしたものか・・・。

 

「さて、どこにキューを探しに行く?」

「なんだ、お前も見当が付いていないのにあんなこと言ったのか。」

「昨日はあったはずのものが今日はなくなっていて、その今日にコロシアイが起きた。全くの無関係と考える方が無茶な話だ。」

「それはそうだが・・・。」

 

とりあえずキューがどこに行ったのか、推理するしかあるまい。

 

「キューがどこに行ったのか・・・。」

「推理してみるか。」

 

まさか学級裁判より前に推理することになろうとは・・・。

 

「まずは誰がキューを持ち出したのか。」

「まあ、それは犯人だろうな。それ以外の奴が持っていく必要が無い。」

「じゃあ、次は何の目的だ。」

「そこだ。そこが分からん。何か高いところのものを取りたかったのか?」

「それなら未だに持っている理由がないんじゃないか?恐らく持ち出したのは昨日の夜。何かを取ったならその後すぐに娯楽室に戻してしまえば誰かがこうやって怪しむこともない。」

「それはそうだな。だとしたらなぜ戻さなかった?」

「戻せなかった、の方が正しいのかもしれないな。」

「どういうことだ?」

「犯人が何かしらの理由でキューを持ち出したは良いものの、何かに使った結果、戻せない状況になってしまった、としたら犯人がキューを戻さなかったことにも説明が付く。」

「それならば何か不可逆的な変化を加えた、ということか?」

「恐らくな。」

「不可逆的な変化を加えるとしたらあそこしかないな。」

「ちょうどキューは木製だ。その可能性が一番高いな。」

 

そう。木製のものを加工するのにうってつけな道具が揃っている部屋、美術室に。

 

 

この推理を元に俺と玉城は美術室に向かった。

 

「おい、何もないじゃないか。」

「そんなはずは・・・。」

「そもそも加工したとして加工した痕跡を残すはずがなかったな。」

「いや、準備室はまだ見てないな・・・。」

「まさかそんなはず・・・。」

 

そう言いながら玉城は渋々準備室に入る。

 

「・・・あったとはな。」

「ああ、正直俺もダメ元だった。」

 

美術準備室に入り、調べて見ると、隅々まで調べるまでもなくゴミ箱の中から30cmほどの木の棒が見つかった。

 

「やっぱりこの棒って・・・。」

「恐らくだがそうだな。まあ、それでも気になることはあるがな。」

「気になること?」

「この残りの部分はどこに行ったのか、って話だ。」

 

確かに、キューは130cmを超える長さがある。でもここにあるのはせいぜいが30cm。残りの1メートル超はどこに行ったんだ?

 

「この続きは学級裁判だ。わざわざここで2人きりで推理することでもあるまい。」

「それもそうだ。」

「おい、水島。娯楽室に戻るぞ。」

「ああ。」

 

 

コトダマゲット!

【木の棒)

美術準備室のゴミ箱の中に捨てられていた。長さは30cm程度。恐らくはキューの一部だと思われるが、他の部分がどこに行ったのかは分からない。

 

 

娯楽室に戻ると既にみんなが戻ってきていた。みんなの捜査の結果は聞いてみたが、さっきの報告会以上の情報は無かった。俺達が落胆していると。

 

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

 

「よお!オマエラ捜査は順調か?まあ、順調だろうが不調だろうが関係ねーがな!!ってな訳でオマエラ全員赤い扉の前に集合だぜ!!」

 

モノトラによる非情な宣告。捜査があまり進んでいないのにもかかわらず学級裁判の時間が来てしまった。

 

「マジか・・・。」

「全く捜査が終わった感じがしませんね・・・。」

「だが仕方あるまい。こうなったらこの少ない情報量の中でクロを導き出すしかあるまい。」

 

そう。モノトラが捜査を打ち切ってしまった以上仕方が無いのだ。諦めてこの情報量から犯人を見つける努力をしなければならない。

どうやらみんなも腹をくくったようだ。必ず犯人を見つけるというその決意を込めてみんなは裁判場へと向かっていく。

 

「あ、水島君ちょっといい?」

 

俺も裁判場へと向かおうとすると、甘寺に呼び止められた。

 

「ん?どうした?」

「いや、そう言えばみんなに言いそびれちゃったことがあったのを思いだして!せめて水島君にだけでも伝えておこうと思って!」

「何だ?」

「実はね、今日朝食の準備をしているときに比嘉君に話しかけられてね。その時にこう言われたんだ。」

 

『甘寺!すまん!!今日のゲーム大会少々おくれるかもしれん!!約束があるんだ!!』

『誰が相手かは言えん!そいつも秘密の相談のようでな!!言わないという約束なんだ!!』

 

「・・・。」

 

秘密の相談ならその相談があるということ自体言わない方がよかったんじゃ・・・。

 

「でね、もしかしたらこの相談の相手が犯人じゃないかと思って・・・。」

「確かに可能性があるな。裁判の時にも気にかけてみるよ。」

「うん!」

 

 

コトダマゲット!

【甘寺の証言)

比嘉が今日のゲーム大会に遅れると言っていた。

どうやら誰かとの約束があったようだが、その相手は不明。

 

 

情報は足りていないというのが正直なところだ。だが、今手に入れられる情報は全て手に入れたと言えるだろう。あとはもう犯人を見つけるために全力で推理をするだけだ。

 

俺達は赤い扉をくぐる。そしてエレベーターで降りていく。

 

 

不安は拭えない。それでも俺達は3度目の戦いをくぐり抜けなければならない。この中の誰かは分からないが、今回の犯人は俺達の仲間を殺した。しかも2人も。

比嘉はやかましいと感じるときもあったが、常に俺達に明るさをもたらしてくれた。

山吹は姉御肌で、俺たちの事を精神的に支えてくれていた。

死んだ2人は確かに俺達にとって大切な仲間だった。

 

 

2人を殺して見せた凶悪なクロを俺達は許すわけには行かない。必ず、真実を突き止めてみせる。

 

 

 

3度目の学級裁判が、今、始まる。

 

                    ・

                    ・ 

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り10人




第3章捜査編はここまで!次回からは第3章学級裁判スタートです!!一体誰が2人を殺したのか!乞うご期待!!

さて、今回の裏話ですが、今回は第2章おしおきの元ネタ紹介と参りましょう!
第2章のおしおきの名前は「冥途イン」ですが、これは気付いた方もいるでしょうが、ダブルミーニングです!1つ目は分かりやすく「冥途にインする」ということでクロの有浜さんが死に向かっていくことをそのまま表しています。そしてもう1つはQueenの曲、「Made In Heaven」、そしてこの曲を元ネタにしたジョジョの奇妙な冒険のスタンド、「メイド・イン・ヘブン」です!もともとの曲名の方は和訳すると「天の思し召し」となり、彼女を天国へは行かせない、という天の思し召しがそのまま現れています。またスタンド名の方は、最初はこの名前ではなく、「ステアウェイ・トゥ・ヘブン」、意味はそのまま「天国への階段」であった、という話から天国への階段を登っていく、というおしおきになりました!

さあ、今回の第3章は誰が犯人で、誰がおしおきされてしまうんでしょうか・・・?期待してお待ちいただければ幸いです!


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CHAPTER3 学級裁判 前半

エレべーターの扉が開く。みんなの雰囲気はお世辞にも良いとは言えない。しかし、前回とは異なるところが1つ。全員の目には絶望が映っている訳ではなかった。俺達の目に映っているのは、仲間を2人も殺されたことによる怒りだった。

 

「お?オマエラ何だか前とは雰囲気がちげーな!」

 

モノトラは俺たちの事を茶化してくるが、その言葉も気にならない。その証拠に誰も奴の言葉に反応しない。

 

「ちぇ、つまんねーなー。じゃ、それぞれの席に着いてくれ!」

 

 

つまらなそうにするモノクマに促されるまま、俺達は法廷の自分の席に着く。

俺達は必ず見つけてみせる。

この事件の真相を。2人もの仲間を無残にも殺して見せた、この中にいる犯人を。

 

 

三度、学級裁判の幕は開かれる。

 

 

【コトダマ一覧】

 

【モノトラファイル3)

被害者は“超高校級の空手家”比嘉拳太郎と“超高校級のドラマー”山吹巴。死因はどちらも腹部の傷からの失血死。死体発見現場は比嘉が物理室、山吹は寄宿舎の自室。死亡推定時刻は比嘉が11時ちょうど、山吹が11時5分。

 

【ガムテープの切れ端)

山吹の死体のすぐそばに落ちていた。

 

【腹部に刺さった槍)

山吹が握ったままの状態で死体の腹部に刺さっていた。

 

【山吹の死体)

死体の傷は急所にはなかった。恐らく即死ではなかった。

 

【手首の痕)

両手首に7~8cmほどの赤い痕が残っていた。

 

【山吹の手)

左手の小指側のみに血がべっとりと付着していた。

 

【物理準備室の棚)

1つの棚の下の引き戸が開かなくなっている。誰がどうやっても開かなかった。

 

【モノトラの証言)

物理準備室1つの棚の引き戸は立て付けが悪い。引き戸を開けるにはコツがいるが、アンリには教えていなかった。

 

【アンリの証言)

ここ2日山吹は比嘉のことを避けていた。動機に関連しているかもしれない。

 

【玉城の証言)

山吹が誰かとコソコソ話しているのを見かけた。相手や内容は不明。

 

【比嘉の死体)

腹部を水平に刺されていた。

 

【比嘉殺しの凶器)

不明。しかし、傷から推測するに形状としては山吹殺しの凶器と近いかたちをしていると思われる。

 

【娯楽室に集まる順番)

10:30に久見と薬師、10:32に水島と甘寺、10:35にアンリと畔田、10:40に涼風、10:45に九鬼、10:57に玉城、10:59に太宰が来た。

 

【動機)

今回モノトラは動機だと明言していないが、お互いの猜疑心を呼ぶ発言は今回の動機であると考えられる。

動機の向く方向は水島→甘寺→薬師→玉城→九鬼→アンリ→畔田→久見→太宰→涼風→山吹の順になっている。

 

【捜索の班分け)

1F:太宰、久見、九鬼、薬師

2F:玉城、アンリ、畔田

3F:水島、甘寺、涼風

班分けをすることを太宰が提案してくれた。

 

【キュー)

1本行方不明になっている。薬師が昨日確認したときには確実に全部あった。

 

【接着剤の容器)

床に落ちていた。昨日太宰が将棋盤を直すのに使ったものだと思われるが、昨日使い切ってはいないのに空になっていた。

 

【木の棒)

美術準備室のゴミ箱の中に捨てられていた。長さは30cm程度。恐らくはキューの一部だと思われるが、他の部分がどこに行ったのかは分からない。

 

【甘寺の証言)

比嘉が今日のゲーム大会に遅れると言っていた。

どうやら誰かとの約束があったようだが、その相手は不明。

 

 

 

【学級裁判開廷】

 

「さて、そろそろこの話もしなくていいんじゃねーかと思ってる今日この頃だが、学級裁判の流れについて最初に説明させてもらうぜ?オマエラには比嘉及び山吹を殺したクロを見つけてもらうぜ。そしてそのクロを正しく指摘できた場合にはクロのみがおしおき。逆に間違った人間をクロとして指摘してしまった場合はシロが全員おしおきだ。ってな訳で議論開始だ!!」

 

モノトラの言葉を皮切りに3度目の学級裁判が始まる。

 

「っとその前にモノトラ、1つだけ聞いておきたいことがあるんだけど良いかな?」

 

アンリが口火を切る。

 

「お、何だ?」

「今回被害者は2人だ。つまりクロも最大2人いる、ということになると思うんだが、もしクロが2人いた場合それはどうするのかな?投票じゃ1人までしか投票できないだろう?」

「ああ、それなら先に死んだ比嘉の方の犯人を当ててくれ。山吹を殺した犯人はおまけで推理しても良いがな。逆に外れた場合も卒業できるのは比嘉を殺した犯人だけだ。早い者勝ちって奴だな。」

「なるほど、それを聞いて安心したよ。これで心置きなく裁判に集中できる。」

 

指名しなければならないクロがどちらか判明したところで今度こそ裁判開始だ。

 

「とは言ったものの、どこから始めましょうか・・・。」

「ま、比嘉の事件の概要をまとめてきゃいいんじゃねーか?」

「そうだね。クロは比嘉君を殺した方を指名するわけだしね。」

「それならやっぱ前と同じように死因から行こうよ!」

「そうだな。」

 

 

議論開始

 

 

「比嘉の死因か・・・。」

 

 

「たしか【刺殺】だったよね?」

 

 

「モノトラファイルにもそんなことが」

 

 

「書いてあったな!」

 

 

「確か【正面から刺された】、とも」

 

 

「書いてありましたね。」

 

 

「っつーことはよー、」

 

 

「比嘉の野郎は」

 

 

「【ナイフ】で腹を」

 

 

「刺されて殺されちまった、って訳だな!」

 

 

確かそれは分かっていなかったはず・・・!

 

 

【比嘉殺しの凶器)→【ナイフ】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「あれ?刺されたんじゃねーのか?」

「ああ、刺されたこと自体は事実だ。でも何を使って刺されたのか、ってことは分かってないんだ。」

「マジかよ!オレ完全にナイフだと思ってたぜ。」

「じゃあ、その凶器は一体何だったんだろうね?」

「正直今の段階じゃ分からない。でもヒントがないわけじゃないぞ?」

「そうなのかい?」

「ああ。」

 

そう、比嘉を殺害するのに使った凶器のヒントがないわけじゃない。そのヒントが隠されているのは・・・。

 

 

選択肢セレクト

 

1.比嘉の道着

 

2.死体の傷

 

3.出血の量

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

「ヒントは比嘉の死体に隠されているんだ。」

「死体に?」

「えっとねー、比嘉君の死体に残ってた傷がー、ちょうど巴ちゃんのお腹に刺さってた凶器に近い形をしてたんだー。」

「巴のお腹に刺さってた凶器?」

 

山吹のお腹に刺さってた凶器、それは・・・

 

 

証拠提示

 

【腹部に刺さった槍)

 

「これだ!」

 

 

「久見、それってこの槍のことだよな?」

「そう、それー!この槍の形と同じような形の傷が残ってたからー、多分比嘉君を殺すときに使った凶器はこれと同じような形だと考えられるんだー。」

「そういうことか!」

「まあ槍と言ってもいわゆる槍じゃなくて手槍だけどな。」

 

とりあえず比嘉を殺すときに使った凶器の手掛かりが得られた。でもそれってもしかしたら・・・

 

「っつーかよー、凶器、同じなんじゃねーのか?」

 

俺の頭の中を過ぎった考えを偶然九鬼が代弁してくれた。

 

「どういうことだ。」

「いやよー?その槍ならオレも見たんだけどよー、それとおんなじモンはどこにも他にはなかったろ?ってことはおんなじ槍を使って山吹も殺したんじゃねーかなと思ってよ?」

「確かにそれはあり得るな・・・。」

 

でも逆にそれが意味するところは・・・。

 

 

選択肢セレクト

 

1.比嘉と山吹を殺した犯人は同一人物

 

2.比嘉と山吹を殺した犯人は別人

 

→1.

 

「これだ!」

 

 

「ということは、だ。比嘉を殺したクロと山吹を殺したクロは同一人物、ってことじゃないか?」

「へえ、何を根拠に?」

「偶然別々の殺人がそれぞれ同じような凶器で近い時間帯で行われるってのは考えにくいし、さっきもモノトラが言ったように1回のコロシアイで脱出できるのは1人、しかも早い者勝ち。共犯者に協力するメリットもないだろ?」

「それを知らなかった可能性もあるんじゃないかい?」

「それでもクロにとってもリスキーすぎる。共犯者は殺人に関与したからといってバレたところで俺達から白い目で見られる以外何かデメリットがあるわけじゃない。クロを裏切ってしまえば自分はとりあえずのところは生き残れるんだ。逆にクロは裏切られたら一転自分の死に直結する。そんなリスキーな選択をここまで周到に殺人をした犯人がするとは思えない。」

「・・・それもそうだね。僕の考えすぎだったよ。」

「じゃあこれからは比嘉君と山吹さんを殺したその1人を探せば良いってことだね!」

 

そういうことになるが、まずは議論を進めていくしかないな。

 

 

議論開始

 

 

「比嘉と山吹を殺した犯人だと・・・?」

 

 

「つってもさー、」

 

 

「今回の事件には」

 

 

「【動機すらねえ】じゃん?」

 

 

「どうやって議論すんだ?」

 

 

「動機は些細な問題さ。」

 

 

「『現場の状況』が犯人に繋がるんじゃないかな?」

 

 

「確かに『トリックの証拠』があるかもしれませんね。」

 

 

「事件発生当時の『アリバイ』なんかも」

 

 

「使えるかもしれないね。」

 

 

「そう考えると意外と」

 

 

「取っ掛かりはあるかもな!」

 

 

確かに取っ掛かりは色々あるが、それも確かに存在していたはずだ。

 

 

【動機)→【動機すらねえ】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「え?」

「薬師、動機もこの事件には存在しているぞ。」

「でもさ、モノトラは何もしてきてなかったろ?」

「実は隠れて仕込みは済んでいたんだぜ?」

「何をー!?」

「ああ、コイツの言ってることは嘘じゃない。実際に俺達にバレないように今回の動機の仕込みは終わってたんだ。」

「それなら俺も証明しよう。俺が水島に調べるように言ったからな。」

「玉城まで・・・。」

 

今回の動機は分かりにくいけど至極簡単なものだった。

 

「今回の動機は俺達の人間関係に影響を与えるものだった。」

「どういうことー?」

「俺は捜査中に絶対みんなに1つの質問をしたはずだ。」

「質問?」

「一昨日の夜から昨日の朝にかけてモノトラに何か吹き込まれなかったか、って質問のことかな?」

「ああ、それのことだ。」

「確かにそれならオレも訊かれたぜ!」

「この質問の答えがある意味今回の事件の動機に繋がるんだ。」

「それは一体・・・?」

「今回の動機は『自分に対して誰かがこう思ってる・こうしようとしている』という情報を与えることによってソイツに自分が殺される前に自分がソイツを殺してしまおう、と仕向ける、俺達の猜疑心を煽るものだったんだ。」

「なるほどー。」

「確かにそれなら納得の内容かもしれないね。」

「そしてこれもみんなに見てほしい。」

 

そう言って俺はみんなにメモを広げて見せた。それは今回の動機の向いている方向を示したものだ。

 

 

水島→甘寺→薬師→玉城→九鬼→アンリ→畔田→久見→太宰→涼風→山吹

 

 

「これはなんのメモなの?」

「涼風、これはな?みんながそれぞれ誰を殺そうとする可能性があったのか、まとめたメモだ。」

「これはまた見事に一直線で面白いね!」

「そう、奇跡的に、というよりモノトラがそう仕組んだんだろうが、俺達は一直線になるように殺意が向くことになってる。実際に殺意を抱いたかは別としてな。」

「あ、水島!でもこれミスがあるよ?」

「ミス?ああ。比嘉の名前がないことか?」

「そう!」

「それならミスじゃないぞ。」

 

だってここに比嘉の名前がないのは・・・

 

 

選択肢セレクト

 

1.モノトラが比嘉を忘れていたから

 

2.比嘉は誰にも動機を持っていなかったから

 

3.比嘉のことは誰の口からも出なかったから

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

「比嘉の名前は誰の口からも出なかったからだからな。」

「え、そうなの?」

「それも近くにいた俺が証明しよう。」

「いつの間に水島さんと玉城さんはそんなに仲良くなったんですか・・・?」

「ちょっとBL漫画の参考にしたいからー、あとで取材させてねー。」

 

それはちょっと勘弁願いたい。

 

「話、逸れてるよ?」

「おっと、すみません。」

「話を戻すとだな?今回の動機の件をみんなに訊いたはいいものの、誰の口からも比嘉について言及はされなかった。だからこのメモには比嘉の名前がないんだ。」

「納得!」

「つまり、ここにいるメンバーは誰も比嘉に対して動機を持っていなかった、ってことだよな?」

「ああ、そういうことになる。」

「ってことはよ?今回の事件って山吹に動機を持ってる奴が一番怪しいってことじゃねーか?」

 

九鬼の言葉にはっとする。確かに、誰も比嘉に動機を持っていないなら今回の殺人は山吹に動機を持つ人間によるもの、ということになる。

つまり、この事件の最有力の容疑者って・・・

 

 

選択肢セレクト

 

1.俺

 

2.アンリ

 

3.涼風

 

4.玉城

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

「それは涼風が一番怪しいってことか?」

「えーー!!?あたし!!?」

「まー、そういうことにならあな。」

「ちょっと待ってよ!!あたし殺してないって!!」

「それはこれから議論することじゃない?」

「それもそうですね。」

「嘘でしょ・・・。水島もなんとか言ってよー!!」

「こればかりは議論してからじゃないと俺も何とも・・・。」

「もーー!!!」

 

でも俺もこの結論には違和感がある。あまりにも単純すぎる。次はホントに涼風が犯人か議論していくべきだろう。

 

 

議論開始

 

 

「比嘉に動機を持ってる奴がいなくて、」

 

 

「山吹に動機を持ってる奴がいる。」

 

 

「それならよ、【山吹に動機を持ってる奴】を疑うのが」

 

 

「筋ってモンだろ?」

 

 

「それなら犯人は」

 

 

「涼風、オメーしかいねーんだ!!!」

 

 

「だーからー!!」

 

 

「あたしは【やってない】んだってばぁ!!」

 

 

「それなら証拠を出せ。」

 

 

「それも無しに信じろというのはムリな話だ。」

 

 

「う・・・、それは・・・。」

 

 

「『アリバイ』とかないの?」

 

 

「単純に『ムリだという証拠』でもいいんですよ?」

 

 

「うう・・・、それはぁ・・・。」

 

 

こりゃ完全にたじろいでしまってるな・・・。だがこれでやっと感じてた違和感の正体にも気付くことができた!

 

 

【娯楽室に集まる順番)→『アリバイ』

 

「これに賛成だ!」

 

 

「いや、証拠ならあるぞ。」

「ほんと!!?」

「ああ。今回のゲーム大会、その当日準備のために娯楽室に集まっただろ?その時の娯楽室に集まった順番、これが涼風が今回の事件を起こせなかったという証拠になる。」

「えっとー、どゆこと?」

「おいおい、自分のことだろう・・・。じゃあ一から説明していくぞ。今回の事件、比嘉の死亡推定時刻は何時だ?」

 

そう、比嘉の死亡推定時刻は・・・

 

 

選択肢セレクト

 

1.11:00

 

2.10:30

 

3.11:20

 

→1.

 

「これだ!」

 

 

「えっと、11時ちょうどだっけ?」

「ああ、その通りだ。じゃあ、山吹の死亡推定時刻は?」

 

続いて山吹の死亡推定時刻。それは・・・

 

 

選択肢セレクト

 

1.11:00

 

2.11:05

 

3.10:55

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

「確かー、11時5分ごろ、だったよねー。」

「そうだな。それじゃあ最後に、涼風が娯楽室に来た時間はどうだ?」

 

そして涼風が娯楽室に来たのは・・・

 

 

選択肢セレクト

 

1.10:30

 

2.10:40

 

3.11:00

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

「確か俺達が来て10分くらいだったから、10時40分くらいだったか?」

「その通りだ。そして今回、全員がそれぞれ娯楽室に1回入ってからは誰も外に出ていない。それはお互いが確認しているハズだ。」

「ということは、紫は10時40分に娯楽室に入ってきてからは一度もどこにも出ていない、ということになるわけだね。」

「つまり、涼風は犯人じゃない、と?」

「その可能性が高い。」

「今水島君が言ったことは事実だし、疑う理由もないんじゃない?」

「それなら逆に死亡推定時刻の時点で娯楽室にいなかった人物が怪しい、ということになるね。」

「あー、それ自体は太宰の言う通りなんだが、1つ大きな問題があるんだ。」

「問題?」

「みんな娯楽室にいたからだろう?娯楽室に入ってきたのは太宰が最後だが、その太宰も10時59分に来ていて比嘉が死ぬ前には娯楽室にいた。つまり、誰も容疑者がいない、ということになる。」

「マジかよ・・・。」

 

そう、涼風の疑いが晴れる、ということは誰も容疑者がいなくなる、ということ。つまり議論が白紙に戻る、ということだ。

 

「どーすんだよ・・・。」

「マズいね・・・。」

「最初からか・・・。」

 

みんなの中に良くない雰囲気が流れる。

 

「いや、最初からじゃないかもよ?」

 

甘寺が声を上げる。

 

「一度1歩前に戻ってみるだけで意外と答えが見えてくるかも!」

「1歩前・・・。動機の話か?」

「そう!だってここまで全員に動機を与えているのに比嘉君だけ全く名前が挙がらないのっておかしくない?」

「確かにそれはそうだね。」

「それなら、比嘉君に関しては誰も証言できなかった、ってことになるんじゃない?」

「証言できなかった・・・?」

 

比嘉に関する動機を誰も証言できなかった、ということは・・・?

 

 

選択肢セレクト

 

1.誰かが隠している

 

2.モノトラに口止めされていた

 

3.比嘉に動機を持っている人物は既に死んでいる

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

「そういうことか!」

「あ、分かった?」

「比嘉に対して動機を持っていた人物が既に死んでいたとしたら誰も証言できないよな?」

「そういうこと!」

 

ここでもう一回誰が誰に動機を持っているのか、振り返ってみよう。

 

水島→甘寺→薬師→玉城→九鬼→アンリ→畔田→久見→太宰→涼風→山吹

 

みんなの動機の状況はさっきも見たとおり、この形だ。そしてこの動機の状況を見るに、比嘉に対して動機を持っている可能性があるのは・・・

 

 

選択肢セレクト

 

1.山吹

 

2.俺

 

3.モノトラ

 

→1.

 

「これだ!」

 

 

「山吹だろ?比嘉に動機を持っていたのは。」

「どういうことー?」

「恐らく今回の事件に関して山吹も何かしらの動機を聞かされていたはずだ。そして山吹が動機を持っていた可能性があるのは俺か比嘉。俺だった場合、比嘉だけが動機の列から外れてしまうことになる。ここまで仕組んでおいてその可能性は低いから山吹が動機を持っていた相手が比嘉で、比嘉が動機を持っていたのが俺、ということになれば綺麗に動機を持っている相手が輪になるだろ?」

「そう言われると納得できるな!」

 

 

「それはちょっと伏線がないかな。」

 

「太宰・・・!」

「確かにそう考えると綺麗に収まるとは思うけど、それでもこれはあくまで君の推論でしかないよね?証拠が足りないと思うんだけど。」

 

 

反論ショーダウン

 

 

「君の考えは確かに納得できるけど、」

 

 

「あくまで君の推論に過ぎないよね?」

 

 

「現実問題として」

 

 

「山吹さんも殺されているわけで、」

 

 

「そこも考慮しないといけないんじゃないかな?」

 

 

-発展-

 

「確かに現状は俺の推論だ。」

 

「でも他の状況も総合すると」

 

「そうとしか考えられないんだよ!」

 

 

「君は全員の動機が輪になると考えてるみたいだけど、」

 

 

「比嘉君だけが外れている可能性も」

 

 

「ゼロじゃないよね?」

 

 

「現に」

 

 

「山吹さんが比嘉君に動機を持っていたって」

 

 

「【証拠はない】よね?」

 

 

いや、証拠はない訳じゃない!あの人の発言が証拠になる!

 

 

【アンリの証言)→【証拠はない】

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

 

「証拠が有るって言うのかい?」

「ああ。まあ、これもあくまで状況証拠でしかないけどな。アンリ、説明してもらえるか?」

「私かい?あ、もしかしてアレのことかな?」

「そのアレで合ってるはずだ。」

「じゃあ、僭越ながら。私が見ていた限りなんだけど、ここ2日くらいのところかな、巴が比嘉君のことを避けて行動していたんだ。ここまで動機が揃ってくると、彼女のその時の行動は動機の影響によるものと考えるのが一番自然じゃないかな?」

「なるほどね、確かに状況証拠だけど、動機以外で山吹さんが比嘉君を避ける理由もないね。」

「でもそれってよ?」

 

そう、この証拠がこの事件の犯人を証明しているとも言える。その犯人は・・・!

 

 

指名しろ!

【ヤマブキトモエ】

 

「お前しかいない!」

 

 

「ああ。今回の事件の犯人は山吹だ。」

「は!!?」

「それはまた突飛な・・・。」

「逆にそれ以外考えられないんだ。今生きているメンバー全員にアリバイがあって犯行は不可能、そして死んだ2人の内の片方がもう片方に対して動機を持っている。」

「つまり、お前はこう言いたいんだな?山吹は動機を聞いたことで比嘉を殺害、その後自分の罪に押しつぶされて自殺した、と。」

「ああ。その可能性が一番高い。」

「じゃあ、今回は誰も殺しをしてないんだな!」

「まあ、山吹はしてるんだがな。」

「何か、ホッとしましたね。」

「やっぱりー、疑い合うのは気分の良いものじゃないしねー。」

「うっし!じゃあ投票しようぜ!!あー一件落着だぜ!」

 

そう、今回の事件の犯人は山吹である可能性が高い。高い、ハズなんだが・・・。

何だ、この違和感は?何か、誰かの手によってこの結論に至るように導かれている気がする・・・。本当に、何だこの違和感は・・・?本当にこの結論で正しいのか・・・?

 

 

 

 

【裁判中断】

 

「自殺ってのは罪深いよな。」

 

 

「だってよー、タダでさえ人殺しってのは重い罪なのに」

 

 

「一番に大切にしなきゃならん自分を殺しちまうんだからよ。」

 

 

「え?なんでこの話を今してるかって?」

 

 

「さあな-・・・。気になるか・・・?」

 

 

「ぐぷぷ・・・。ぐぷぷぷぷぷ・・・。」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り10人




第3章学級裁判前編はここまで!今回の事件の犯人は本当に山吹さんなんでしょうか?彼女は自分の抱えているものを誰にも見せず、勝手に逃げてしまったのでしょうか?真実は一体どこにあるのでしょうか?真相は次回をお楽しみに!!

さて、設定裏話なんですが、1,2章の話はどちらもとりあえず終わってしまったので超高校級の○○と題して1つのテーマに関して軽く紹介していこうと思います!
ということで今回は「超高校級の好物」と行きましょう!

水島輝→サンドイッチ
「本片手に食べられるからな」

甘寺心愛→チョコレート
「言わずもがなじゃん!」

薬師弾→肉全般
「肉は実質ガソリンだぜ!」

玉城将→盛りそば
「対局中によく食べるしな」

二木駆→おにぎり
「色合いがボールに似てるだろ?」

涼風紫→バナナ
「すぐエネルギーになるからいいんだよねー」

山吹巴→鯖の味噌煮
「ま、鯖なら何でもいいんだけどな笑」

有浜鈴奈→紅茶
「茶葉にはかなりこだわるわ」

アンリ・シャークネード→A5ランク和牛ステーキ
「うちのシェフが腕によりをかけて作ってくれるんだ。」

畔田鋼之助→味噌汁
「家庭の味というものに憧れがありまして」

久見晴香→ハンバーガー
「いくらでも食べられちゃうよー」

太宰直哉→抹茶ケーキ
「抹茶はすばらしい文化だよ」

美上三香子→ポ○フル
「カラフルで好きなのよねー」

青山蓬生→よもぎ餅
「ヨモギの香りとあんこのマリアージュが好きなんです」

九鬼海波→刺し身
「船の中でよく食べたぜ!」

比嘉拳太郎→ポテトチップス(コンソメ)
「コンソメは至高だぁ!!」

てな感じです!それでは次回をお楽しみに!!


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CHAPTER3 学級裁判 後半

【裁判再開】

 

・・・今のところ比嘉と山吹、それぞれに対して殺人を起こす動機を持っているのは山吹と涼風だけ。でも涼風は揺るぎないアリバイを持っている。それならば既に死んでいるとしてももう一人の山吹が比嘉を殺してその後自殺した、と考えるのが一番自然なはずだ。それがこの事件の真相のハズだ。それなのにどうしてこの違和感を拭うことができないんだ・・・?

 

「それでは今回のクロは既に死んでいるとは言え、山吹さんだ、ということでいいんですよね?」

「ああ、そういうことになるはずだよ。」

「じゃあ投票に行っちまってもいいな!!」

 

既にみんなも投票する雰囲気になっている。このまま行けば山吹が犯人、ということになるだろう。

 

「じゃあモノトラ、投票に・・・」

「ちょっと待ってくれ!」

「水島?」

「どうしたんだい?」

「いや、まだ何かが引っかかってるんだよ。」

「何かだと?」

「ああ、どうしても今回の事件を起こしたのは山吹です、はい終わり、で済むとは思えないんだよ。」

「考えすぎじゃねえの?だってそもそもこの推理は・・・」

「ああ、俺が言い出した。だけどさ、何か違和感が拭えないんだよ。」

「しかし状況は巴が犯人だとしか思えないよ。」

「うーん、でもー、気になるならちゃんと話しておいた方が良いんじゃないー?」

「私もそう思うかな。」

「ですが議論と言っても話す内容がないような・・・。」

「気になる点はいくらでもある。やるなら徹底的に、だ。」

「僕は山吹さんが犯人で良いと思うけどね。」

「あたしも巴ちゃんが犯人だとは思えないんだよねー。と言ってもそれ以外だとあたしになっちゃうけど。」

「オレはよく分かんねーが、やっぱ山吹が犯人じゃねーかと思うぜ?」

 

結局みんなが好き勝手話し始めてしまい、収拾がつかなくなってしまった。

 

「くそっ、みんなの意見が割れてしまっている・・・!」

 

そう呟いた瞬間、モノトラが反応した。

 

 

「割れてる?割れてるっつったか?それならコイツの出番だな!!!」

 

そう言うと前の時同様、裁判上が変形を始めた。そして意見がぶつかっている俺達が真向かいに並ぶようになった。

 

 

 

議論スクラム

 

 

〈今回のクロは本当に山吹巴か?〉

山吹巴だ         山吹巴じゃない

薬師           水島

アンリ          甘寺

畔田           玉城

太宰           涼風

九鬼           久見

 

 

開始

 

 

畔田「【動機】を持っているのは山吹さんだけですよね?」

「涼風!」

涼風「それならあたしだって【動機】は持ってるよ!」

 

 

太宰「でも涼風さんは【死亡推定時刻】当時娯楽室にいたよね?」

「玉城!」

玉城「そもそも【死亡推定時刻】と犯行時刻は同じではないだろう。」

 

 

九鬼「でも実際山吹は比嘉を【避けてた】んだろ?」

「久見!」

久見「【避けてた】相手を1人で殺しに行くかなー?」

 

 

薬師「でも山吹は【自殺】してるじゃねえか!」

「俺が!」

水島「見た目上【自殺】に見えるだけだ!決まってはいない!」

 

 

アンリ「だけど【他殺】の証拠はないよね?」

「久見!」

久見「でも自殺って証拠もないし、【他殺】の可能性も残ってるよねー。」

 

 

太宰「それでも総合的に考えたら犯人は【山吹さん】以外考えられないんじゃないかな。」

「甘寺!」

甘寺「別の可能性がある以上、【山吹さん】以外の犯人の可能性についても考えてみようよ!」

 

 

 

CROUCH BIND

 

SET!

 

 

「これが俺達の答えだ!!」

 

 

 

「確かに山吹が犯人である可能性が1番高いことは認めるよ。その推理だって俺が言い出したことだしな。でも山吹以外が犯人である可能性が残っている以上、もしそれが違ったとしても可能性がゼロになるまで議論し尽くすべきだ!」

「・・・確かにそうだね。私たちの命が懸っているわけだしね。水島君の提案に乗るとしようか。」

 

とりあえず決着を急ぐことはなくなったか・・・。さてここからの問題は・・・。

 

「他殺の証拠があるかもっつってもさ、そんなんホントに見つかんのか?」

 

そう、他殺であったとしてそんな証拠が本当に見つかるのか。

 

「それならさ、まずは水島君の言う違和感の正体が具体的に何なのか明らかにしない?」

「そうだな。コイツの抱いた違和感というのは絶対にそこに何かあるはずだ。」

「とは言っても俺自身もどこに違和感を抱いているのか分かんないってのが本音なんだよな・・・。」

「それなら違和感を感じそうな要素を一個一個挙げてこうよ!もしかしたら気付くかもよ!」

「ローラー作戦だな!」

 

俺が違和感を感じたポイントか・・・

 

 

議論開始

 

 

「水島が違和感を感じそうなポイントを挙げてくよ!」

 

 

「うーん、『アリバイ』とか結局確定じゃないんだよねー」

 

 

「『死因』とかはどうだ?」

 

 

「そこは疑う余地はないんじゃないかな?」

 

 

「それなら・・・」

 

 

「『死体の状況』なんてどうかな?」

 

 

「一目て違和感を感じるならそこだと思うけど」

 

 

「あとは・・・」

 

 

「『凶器』とか?」

 

 

「自殺するなら」

 

 

「あんなこれ見よがしにするかな、って思うんだけど・・・」

 

 

そうか!俺はあそこに違和感を抱いたんだ!!

 

 

【山吹の手)→『死体の状況』

 

「それに賛成だ!」

 

 

「太宰、それだ。」

「それ、って・・・?」

「死体の状況だよ。俺が違和感を抱いたのは山吹の死体の状況だったんだ!」

「どういうことですか?」

「まずはこれを見てほしい。」

 

山吹の手元の写真をみんなに見せる。みんなはまだピンとこないようだ。

 

「これは山吹の手元が映った写真なんだけど、これには大きな違和感があったんだ。」

「それは何だ?」

「手に付いた血だよ。山吹の手には小指側に血が付いている。いや、正確には小指側にしか血が付いていないんだ!」

「それが何なの?」

「考えてみてほしい。みんなが人を刺すとして、どういう風に刺す?」

「うーん、凶器を順手に持ってまっすぐ突き刺すか、逆手に持って振り下ろすかじゃないかなー?」

「その通りだ。そして逆手に持って振り下ろすってのは考えにくい。」

 

そう、その刺し方は考えにくい。なぜなら・・・

 

 

選択肢セレクト

 

1.比嘉の傷は水平に付いていたから

 

2.比嘉の傷は斜め上から付いていたから。

 

→1.

 

「これだ!」

 

 

「なぜなら比嘉の傷はほぼ水平に付いていたからだ。逆手に持つ場合、動きの性質上傷はどうしても斜め上から入る形になる。でもそれじゃ実際に比嘉に付いた傷と矛盾する。ということは?」

「犯人は凶器を順手に持って突き刺したって訳か!」

「そういうことだ。それならこの場合、返り血はどこに付く?」

「順手と言うことは刃は親指側に出るから・・・、あれ、小指側には付かないね。」

「その通りだ。小指側の血は山吹自身の血だとしても、親指側に血が付いていないなんてあり得ないんだ!」

「ここまでの推理をすることを読んだ偽装の可能性もあるんじゃないのか?」

「いや、それもないだろう。山吹は比嘉を避けるくらい恐れてた。それならばわざわざそんな殺し方をする必要はない。」

「なぜだ?」

「逆手に持って突き刺すのはどうしても順手で刺すよりタイムロスが生まれる。タイムロスがあるということはつまり、それだけ抵抗を受ける可能性もあるってことだ。自分が殺されるのを恐れて殺人をするのに、その偽装のための行動で抵抗を受けて殺されたら元も子もないだろ?」

「確かにな。それに殺したあとに罪悪感で自殺したならなおさらだ。自殺前提の偽装をする理由はないな。」

 

 

「その推理は気が利いてませんね。」

 

 

「!!」

「確かに、山吹さんの手に違和感があることは認めましょう。ですが、自殺前提の殺人であった可能性は否めないのではないでしょうか?」

 

 

反論ショーダウン

 

 

「確かに山吹さんの手には現状との矛盾があります。」

 

 

「ですが、それは山吹さんが自殺していない証拠には」

 

 

「ならないのではないですか?」

 

 

「自殺前提の計画を組んで」

 

 

「私たち全員を巻き込んで殺そうとした可能性も」

 

 

「あるのではないでしょうか?」

 

 

-発展-

 

「確かに自殺としたときの動機は俺の推論だ。」

 

「だけどそれ以外にも」

 

「山吹の自殺を疑う証拠はあるんだ!」

 

 

「山吹さんの自殺を疑う根拠ですか?」

 

 

「ですが、水島さんが違和感を抱いたのは」

 

 

「その山吹さんの手に関してであって、」

 

 

「他の部分には」

 

 

「【矛盾はない】のではないですか?」

 

 

いや、自殺だとしたらあれもそうした理由が考えにくい! 

 

【山吹の死体)→【矛盾はない】

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

 

「いや、もし山吹が自殺したのだとしたら考えにくいことがもう1つある。」

「それは一体・・・?」

「山吹の傷の位置だ。」

「傷の位置、ですか?」

「ああ。山吹の傷は深いものではあったが致命傷ではなかった。言い換えると即死じゃない位置だったんだ。もし彼女が自殺をしたならそんな苦しんで死ぬ死に方を選ぶとは考えにくいだろ?」

「でも最後に自分を戒めた、って可能性もあるんじゃないかい?」

「その可能性も全くないとは言えないが、その場合苦しむ時間が長ければ長いほど比嘉を刺してから山吹が自殺するまでの時間が短い、ってことになるけどな。」

「つまり、確実に苦しみながら死んだことが分かってる以上、アイツが自殺した場合犯行時刻から自殺までの時間が死亡推定時刻の差の5分間より短いって訳だな!」

「ああ、その通りだ。」

「でもよそれだけじゃ確定じゃねーだろ?自殺の可能性が薄まった、ってだけでよ?」

「そこなんだよな・・・。」

 

そう、山吹の手の状況は比嘉を殺したとは考えにくく、山吹の死体の状況から犯行時刻から彼女の体に傷が付くまでの時間はかなり短いことも分かった。でも結局アイツが殺されたって確たる証拠はまだ出てきていない、次の議論はそこだな・・・!

 

 

議論開始

 

 

「水島の言ってることは分かるけどよ、」

 

 

「ソイツは山吹が【自殺じゃない】って確たる証拠じゃねーよな」

 

 

「何か他にないのか?」

 

 

「それが思いつくなら言ってるだろ」

 

 

「とは言っても」

 

 

「都合良く彼女が自殺じゃないことを示す」

 

 

「【跡が残っていない】以上、」

 

 

「かなり難しい議論だね・・・」

 

 

「結局のところ」

 

 

「【状況証拠】だけで」

 

 

「進めてくしかないのかな・・・?」

 

 

そう言えばもしかしたらあれは彼女の自殺を否定する証拠の1つかもしれない・・・!

 

 

【手首の痕)→【跡が残っていない】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「いや、あるかもしれない・・・!」

「ホントにー!?」

「ああ。久見の検死結果の中に山吹の手首には幅7~8センチの赤い痕が残ってた、というものがあったんだ。」

「あー、あの痕ー?」

「この痕はもしかしたら山吹の体に傷が付いたとき、山吹は拘束されていたという証拠かもしれない!」

「何か関係ないアザの可能性はないのかな?」

「ああ、それに関してもその痕の正体とも言えるものがあったんだ。」

 

そう、彼女の手首の痕の正体。それは・・・

 

 

証拠提出

 

【ガムテープの切れ端)

 

「これだ!」

 

 

「実はな、死体のそばにこんなものが落ちていたんだ。」

「それはガムテープ?」

「ああ。ちょうど幅7~8センチ、山吹の手首の痕と同じだ。」

「つまりそれって・・・!」

「ああ。山吹は誰かによってガムテープで拘束された後に腹を刺されて死んだ、そう考える方が自然になった。」

「マジかよ!」

「ほんとに山吹の自殺説がひっくり返っちまったな!」

「と、言うことは、この中に犯人がいるってことだよねー。」

 

そう、山吹の自殺が覆ったと言うことは久見の言うとおり、犯人はこの中にいるってことになる。

 

「ですが全員アリバイがありますよね・・・?」

「ああ、死亡推定時刻段階ではな。」

「それはどういう・・・?」

「さっきも話題に上がっただろう。忘れたのか?死亡推定時刻と犯行時刻は必ずしも一致はしない。ある程度の時間生きているように調整してちょうど被害者が死ぬ時に誰かに姿が確認されていればアリバイの工作くらいできる。」

「玉城が全部言ってくれたがその通りだ。11時より前に2人を刺して2人がまだ生きている間に娯楽室に来てしまえばアリバイは擬似的にできる。」

「なるほど・・・!つまり全員のアリバイはアリバイではない、と・・・!」

「いや、そうも簡単にはいかない。」

 

そう、ホントにアリバイが確定している人もいるんだからな。次はアリバイが確定する条件を探っていくべきだろう。

 

 

議論開始

 

 

「つまり、全員のアリバイは」

 

 

「アリバイじゃない、という訳ですね?」

 

 

「マジかよ!!」

 

 

「そう簡単な話ではないぞ」

 

 

「『全員のアリバイ』がなくなったわけではないからな。」

 

 

「え!?」

 

 

「そうだねー」

 

 

「『ある条件を満たす』ことでー、」

 

 

「アリバイが確定する人もいるんだよー」

 

 

「そんな便利な条件があるのですか!?」

 

 

そう、アリバイを確定させるための条件が1つだけある・・・

 

 

【甘寺の証言)→『ある条件を満たす』

 

「それに賛成だ!」

 

 

「そうだな。条件を1つ満たせばアリバイは確定的になる。そしてその条件に重要な役割を果たすのが甘寺の証言だ。」

「私の?」

「ああ。甘寺は比嘉から集合時間に少し遅れる、って言われたんだよな?」

「そうだったね。確か相談を受けてるからとか言ってた!」

「比嘉の性格を考えると大雑把な奴ではあるが遅刻をするタイプでもない。つまりこの相談の時刻は相談者が指定したものと考えられる。そして比嘉の刺された箇所は山吹と比べると致命的な場所だったことを考えると死ぬまでせいぜい5分。つまり、10時55分、もっと広めに見積もっても50分までに娯楽室にいた人間は比嘉を殺すのは難しいと考えたほうがいい。」

「ってことは怪しいのはそこまでに来てなかった人ってこと!?」

「まあ可能性が高いって話だがな。」

「となるとそれに当てはまるのは・・・。」

 

 

選択肢セレクト

 

1.甘寺と水島

 

2.アンリと畔田

 

3.玉城と太宰

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

「玉城と太宰、この2人だけが50分までに娯楽室に来ていなかった。」

「なるほど、状況も踏まえれば理に叶っている。」

「そんな!」

「だが、そんなに簡単な話か?」

「どういうことだ?」

「百歩譲ってお前の言うとおり、比嘉が55分前後に刺されたとしよう。だがその場合、俺は2分、太宰は4分という短い時間で寄宿舎に行き、山吹を拘束して刺し、娯楽室まで来なければならない。そんなことが本当に可能なのか?」

 

来たか・・・。こう考える場合の一番の障害、犯行を行える時間が実際にあるか。

 

「いや、不可能だ。」

「そうだろう?」

「だがそれは比嘉を刺した後に山吹を刺そうとした場合だ。」

「・・・何?」

 

逆転の発想だ。比嘉の後に山吹を刺すのが無理なら逆転してやればいい。そう考えれば説明も付く。

 

「俺達は勘違いしていたんだ。モノトラファイルの情報からいつの間にか先入観を持っていた。それを取り払ってやれば良い。」

 

つまり・・・、

 

 

選択肢セレクト

 

1.死亡推定時刻と犯行時刻は同じ順番

 

2.死亡推定時刻と犯行時刻の順番は逆

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

「単純な話だ。先に山吹を刺してから比嘉を刺しに行けばいいんだ。」

「!!?」

「なるほど、そういうことか・・・。」

「玉城は分かったみたいだな。」

「どういうことだよ!!?」

「山吹の傷はさっきも言ったとおり致命傷じゃなかった。それなら刺された後も少しの間は生きていたと考える方がいい。その傷は比嘉より先に刺しても比嘉より後に死ぬように調整して刺したから、と考えれば説明が付く。そしてこの犯行時間の限界も取り払うことができる。」

「でもそれじゃまたアリバイが崩れちゃうんじゃ!?」

「いや、それもない。前の議論で2人を殺したのは同一犯、って結論になっただろ?ならどれだけ前に山吹を刺していようと比嘉を殺すことのできなかった人間は山吹を殺していない、という結論にたどり着くことになる。」

 

 

「それはホワイト修正が必要かなー。」

 

 

「これはまた意外だね。」

「うんー、でも気になったことは詰めてかないとねー。」

 

久見の言うことは尤もだ。であるなら受けて立つまで!

 

 

反論ショーダウン

 

 

「確かにー、水島君の言うとおりー、」

 

 

「山吹さんの刺された方が先ならー、」

 

 

「犯人も犯行が可能だよねー」

 

 

「でもさー、」

 

 

「凶器が1本しかないのにー、」

 

 

「巴ちゃんに刺しっぱなしにできるのかなー?」

 

 

-発展-

 

「確かに見つかった凶器は現状1本だよな」

 

「でもだからと言って」

 

「実際に凶器が1本しかなかった証拠にはならないんだ!」

 

 

「だけどー、実際他には見つかってないよねー?」

 

 

「みんなで念入りに探したはずでしょー?」

 

 

「【見落としはない】はずだよー」

 

 

「巴ちゃんに刺し直したってのもー、」

 

 

「順番通りの犯行が無理ならできないよねー?」

 

 

いや、1箇所だけあったはずだ。探したくても探せなかった場所が!

 

【物理準備室の棚)→【見落としはない】

 

「その言葉斬らせてもらう!」

 

 

「いや、あるんだ。1箇所だけ。みんなが探したくても探せなかった場所が。」

「そうなのー?」

「ああ。それは物理準備室の棚だ。」

「もしかして!」

「ああ。あの引き戸のことだ。あそこだけは開けようとしても開かなかった。」

「なるほどー、そこになら隠してあってもおかしくはないとー。」

「そういうことだ。」

「でもーあそこは開かなかったよねー?」

「だからこそだ。あそこは本来開けようとすれば開くはずの場所だからな。」

「ホントに-?」

 

そのための証言もある!

 

 

証拠提出

 

【モノトラの証言)

 

「これだ!」

 

 

「モノトラ。」

「お?なんだ?」

「お前はあの棚の下の引き戸を開けるのにはコツがあるって言ってたよな?」

「ああ!そうだぜ!立て付けがわりーからな!でも開かねーわけじゃねーぜ?あ、でもどこかで聞いたことあんな、こんな事件。」

「昔のことはとりあえず置いといてくれ。重要なのは本来コツさえ掴めば開くはずの扉が何をしても開かなかったってことだ。」

 

ということはつまり・・・

 

「ってことはよー、そこに何か隠してあんじゃねーのか?」

 

俺が言いたかったことを九鬼が先んじて言ってくれた。

 

「何かって何だよ?」

「それこそもう1本の凶器とか?」

「何言ってんだ!凶器ならあるじゃねえか!山吹の腹に!」

 

 

議論開始

 

 

「【凶器】ならあるじゃねーか!」

 

 

「【山吹の腹】に!」

 

 

「つってもよー、」

 

 

「他に何があんだよ?」

 

 

「水島の言うもう1本の凶器くらいだろ?」

 

 

「そいつはー、」

 

 

「【血の着いた服】とかさ?」

 

 

「まあ少なくとも」

 

 

「凶器は【考えられない】よね」

 

 

「実際に見つかってるわけだし」

 

 

「わざわざもう1本準備する理由もないしね」

 

 

いや・・・、ほんとにそうか・・・?

 

 

【木の棒)→【考えられない】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「いや、やっぱりもう1本の凶器が隠されてるんだ。もしかしたら薬師の言うとおり、血の着いた服も入ってるかもしれないけどな。」

「でももう1本の凶器があるなんて証拠はないだろう?」

「いや、これを見てほしい。これは俺と玉城が美術準備室で見つけた木の棒なんだが、これが凶器と関係してると思うんだ。」

 

なぜなら手元の証拠と合わせるとこの木の棒が元々何だったのか分かるから・・・!

 

 

証拠提出

 

【キュー)

 

「これだ!」

 

 

「その木の棒がどうしたんですか?」

「この木の棒はな、キューだ。ビリヤードに使う棒だな。」

「確か1本なくなってたんだっけー?」

「ああ。犯人はこのキューを娯楽室から持ち出して、それを加工して2本の手槍を作ったんだ!」

「でもさでもさ、キューを加工したとこまでは分かるけどさ、何で2本って分かるの?」

「それは残った方の長さを見てもらえば分かる。この棒の長さはだいたい30cm。そして手槍、と表現するからには凶器の方の長さもそんなに長くはない。」

「具体的にはー、正確に測ったわけじゃないけどー、だいたい50cmちょい位だったんじゃないかなー?」

「ちなみにキューの長さは140cmくらいが一般的だ。」

 

すると気付くことがあるはずだ。

 

 

選択肢セレクト

 

1.足した長さがぴったり

 

2.足した長さがオーバーする

 

3.足した長さが足りない

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

「あ!長さが足りない!」

「まあ他のキューは一般的な長さをしていたはずだからこの凶器に使われたキューも同じ長さとみて間違いないだろう。ならば凶器と同じくらいの長さが足りないことになる。」

「巴の腹に刺さってた槍がキューを加工したものであるとするならば、その足りない分も同じような加工をされた可能性があるね。」

「じゃあ、2本用意した凶器でそれぞれ刺したんだな!」

「そして比嘉を刺すのに使った方を物理準備室の棚に隠した、と。」

「それなら犯行時刻も矛盾がなくなるね。」

「開かなくなった理由も開けられたら困る犯人がそういう細工をした、と考えれば妥当だよね。」

「でもどうやって開かなくしたんだ?」

「そいつは恐らく至極単純だ。接着剤だよ。空の接着剤の容器が娯楽室に落ちてたし、それを使ってくっつけたんだ。」

「単純だけどー、効果的だねー。備品も壊せないわけだしー。」

 

これで犯行時刻の謎も凶器の謎も解けた。でも本番はここから。

 

「で、これを誰がやったんだろうね?」

 

太宰の一言で場が静まりかえる。そう、これらの謎の解明はヒントにはなっても答えにはならない。あくまで俺達が見つけなきゃいけないのは犯人なんだ。

 

「みんな!顔を上げて!大丈夫!これまでの情報を整理すれば絶対に犯人のヒントがあるはずだよ!」

 

甘寺が声を上げる。そしてそれに呼応するようにみんなの顔は前を向いた。そう、ヒントは手に入れてるハズなんだ!

 

 

議論開始

 

 

「犯人の条件を整理しようよ!」

 

 

「まずそもそも犯人になり得るのは」

 

 

「【玉城か太宰】だったよな」

 

 

「2人だけアリバイがないんだよね!」

 

 

「その中でも」

 

 

「山吹さんを自殺に見せかける」

 

 

「【工作ができる】人物の方が良いですよね」

 

 

「山吹さんが亡くなったのが」

 

 

「【11時5分】だから・・・」

 

 

「工作をしたのは【捜索中】ってことじゃねーか?」

 

 

「でもー、」

 

 

「そんな【都合の良い人物いない】んじゃないー?」

 

 

いたはずだ・・・!そう言う奴が!

 

 

【捜索のメンバー)→【都合の良い人物いない】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「いや、いた・・・!1人だけ・・・!アリバイがなくて、捜査中に偽装工作ができたやつ!」

「マジかよ!!」

 

そう、犯人になり得るたった1人の人物、それは・・・!

 

 

指名しろ!

【ダザイナオヤ】

 

「お前しかいない!」

 

 

「・・・へ?・・・僕かい・・・?」

「ああ。お前しかいないんだ、太宰。」

「どういうことか説明してもらえるかな?」

「俺達は2人を探すために手分けした、それは覚えてるよな?その時の班分けと担当した場所を思い出してほしい。」

「えっと確か・・・、あたしと水島と心愛ちゃんで3階を捜索したよね?」

「2階は私と畔田と玉城君だったね。」

「そんで俺と太宰と九鬼と久見が1階だったな!」

「じゃあもし玉城が1階を4人が捜索してるところに現れたら誰も気付かないなんてことあると思うか?」

「そりゃ無理だろ。いくら何でも誰かしら気付くぜ。」

「だろ?ならばもう1人の容疑者である太宰しかあり得ないだろ?」

「確かに・・・。」

「そういや探す場所も自分で決めたよな?」

「じゃあやっぱり・・・!」

「ちょっと待ってよ!何だか僕が犯人で確定のように話が進んでるけど僕には動機がないよ!僕はどちらにも何も思うところはないんだよ!?」

 

確かに太宰には山吹も太宰も殺す動機は与えられていない。けど殺害にいたるきっかけなら考えられる。

 

 

証拠提出

 

【玉城の証言)

 

「これだ!」

 

 

「確かに太宰には動機は無い。でも殺害にいたるきっかけな考えられる。」

「それが玉城君のそのあやふやな証言だって言うのかい!?」

「ああ。他の状況が犯人は太宰だと言っているならこの山吹と話していた人物もお前のハズだ、太宰。」

「その程度が証拠だなんて残念で仕方ないよ・・・!僕はそんな証拠じゃ絶対に認めないからね!!」

 

分かっていた・・・!この程度で太宰が認めないってことは・・・!だから俺は太宰がムキになる状況を作った!後はここから太宰がボロを出すのを待つ!!

 

 

パニックトークアクション

 

 

「ありえないな・・・」

 

 

「僕じゃないよ」

 

 

「残念で仕方がないよ・・・」

 

 

「動機がないじゃないか」

 

 

「証拠があやふやすぎるね」

 

 

「認めないよ」

 

 

「僕は殺してない!」

 

 

「2人に何も思うところはないんだよ?」

 

『だって僕が1階を捜索したのは偶然じゃないか!』

 

 

《捜》《索》《場》《所》

 

 

「これで終わりだ!!」

 

 

 

「・・・!」

「今回の事件の発端になった2人の捜索、その場所を決めるのを提案したのは太宰、お前だったよな?」

「・・・そうだけど。それが・・・?」

「今回の捜索場所はそれぞれが思い思いに場所を選んだ。ならば今回の捜索場所を偽装のために自由に選べたはずだ。」

「知らずに偶然選んだだけだよ。」

「それならばなんできちんと偽装が施されていたんだ?太宰が犯人じゃないなら太宰が見つけた死体はテープで拘束された状態の山吹のハズだぞ。」

 

太宰は寄宿舎を捜索していたらこんなことになっていた、という旨の発言をしていた。つまり山吹の死体の第一発見者は太宰だ。

 

「寄宿舎を捜索しているお前に気づかれることなく偽装工作するのは不可能に等しい。つまり、今回の犯行が可能だったのは太宰、お前しかいない。」

「・・・。」

「これから事件の全容をまとめるから、それに納得したら罪を認めてくれ。」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の図書委員     太宰直哉(ダザイナオヤ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り10人




どうも皆様お久しぶりです!お待たせしてしまい申し訳ありません!ですがここで第3章の犯人は判明しました。でも動機がないのは事実。どうして彼はこんなことをしたのでしょうか・・・?次回、おしおき編をお楽しみに!!

さて今回は「超高校級の学力」と行きましょう!10段階評価の学力と得意教科、それに対する本人のコメントと行きましょう!


水島輝→9、国語
「読書の賜物だな。」

甘寺心愛→7、家庭科
「ショコラティエをやるからにはね!」

薬師弾→5、物理
「射撃に例えやすいんだよなー。」

玉城将→10、特に無し
「全部できるからな。」

二木駆→4、体育
「座って勉強すんのが苦手でよ?」

涼風紫→1、体育
「あははー、ずっと走ってたからー・・・。」

山吹巴→8、音楽
「得手不得手が特にあるわけじゃないが、強いて言うなら音楽だな!」

有浜鈴奈→9、国語
「台本を含めて色んな物語に触れてるもの。」

アンリ・シャークネード→10,英語
「取引にも使うからね。」

畔田鋼之助→9、政経
「社会勉強でもありますしね。」

久見晴香→6、理科全般
「ちゃんと勉強しとかないと突っ込まれちゃうからねー。」

美上三香子→8、美術
「これだけは負けるわけにはいかないもんね!」

太宰直哉→8、国語
「読書量なら誰にも負けないつもりだよ。」

青山蓬生→7、家庭科
「裁縫なら誰よりも上手い自信がありますね。」

比嘉拳太郎→6、数学
「ははは、意外だっただろう!!!」

九鬼海波→3、地理
「ま、土地のことなんかにゃ詳しいな!」

という訳で、今回はここまで!次回もお楽しみに!!


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CHAPTER3 学級裁判 閉廷

太宰は未だ犯行を認めてはくれない。でも、俺達みんなの推理を元に犯行をイチから暴いてやればさすがに認めるはずだ。だから俺はやってみせる・・・!

 

 

クライマックス再現

 

ACT1

「今回の事件のきっかけはやはりモノトラが提示した動機だった。今回の動機はモノトラが俺たちに個別に提示した、それぞれだれか1人に対して猜疑心を抱くように仕向けたものだった。」

 

「この動機に実際に動揺してしまった人がいた。それが今回の事件の被害者のうちの1人、山吹だった。この動機を受けて比嘉に殺されるかもしれないと思った山吹はこのことを俺たちの中の1人に相談した。その人物こそが今回のクロだったんだ。」

 

 

ACT2

「モノトラが俺たちに動機を提示した直後、久見の提案で俺たちはゲーム大会をすることになった。クロはその準備の手伝いをしてくれていたんだが、おそらくその時に今回の殺人計画を思いついたんだろう。」

 

「準備をした夜、クロは娯楽室からキューを持ち出した。木製だから加工が簡単だった、というのもあったのだろう。実際にそれを美術準備室に持っていき、1本のキューを2本の凶器に加工したんだ。」

 

 

ACT3

「クロが今回の計画を実行に移したのは今日の午前中のことだった。」

 

「まずクロが向かったのは山吹の部屋だった。山吹の部屋を訪れたクロは山吹に声をかけて部屋に入れてもらった。比嘉のことを相談していた相手だ。山吹も簡単に部屋に入れてしまったんだろう。」

 

「だけど結果としてそれが山吹にとって命取りとなる判断だった。クロは持ち込んだガムテープを使って山吹を拘束し、その上で山吹の腹部を致命傷にならないように凶器で刺したんだ。」

 

「ここであえて致命傷を外したことには意味があった。それはすぐに山吹を死なせないことだった。なぜならここで彼女に死なれてしまっては彼女に罪をなすりつけることができなくなってしまうからだ。」

 

 

ACT4

「クロが山吹になすりつけたかった罪、それはこの後に殺す人物の殺人の罪だった。」

 

「その人物とは比嘉だ。さっきも言った通りだが、山吹は比嘉と何かしらの因縁があった。だからその彼を殺すことによって動機のある山吹に罪を着せようとしたんだ。」

 

「そしてその計画通り、クロは物理室に呼び出しておいた比嘉を2本目の凶器で刺した。」

 

「こちらの比嘉の方も数分かかって、でも山吹よりは先に死ぬように刺した。それは比嘉が死んだ時間帯に自分のアリバイができているようにするための工作だった。」

 

 

ACT5

「クロの工作はそれだけでは終わらなかった。クロは凶器が2本あったことを分からないように、比嘉を刺した方の凶器を隠すことにしたんだ。」

 

「そのためにクロは物理準備室に入った。そこで犯人は、モノトラから事前に聞いていたのかもしれないな、あえて立て付けの悪い棚の引き戸を選びそこに凶器を隠した。そしてその扉の縁に昨日のゲーム大会の準備で使った接着剤を塗って閉じ、そのまま二度と開かないようにしたんだ。」

 

「恐らく立て付けの悪い扉を選んだのも開かない理由を立て付けの所為にするためだったんだろう。」

 

「こうして物理室の工作を終えたクロは集合時間ギリギリに娯楽室にやってきて俺達と合流したんだ。この段階では2人ともギリギリまだ生きていて、犯人は偽のアリバイを作ることに成功したんだ。」

 

 

ACT6

「ゲーム大会のために娯楽室に集まった俺達だったけど、その集合時間になっても一向に現れない山吹と比嘉に対して違和感を覚えた。」

 

「そこでクロはやきもきしている俺達に対して2人を捜索することを提案した。しかもクロはそれだけではなく捜索場所を自分で事前に決めることを提案することによって誰にも疑われることなく1階、つまり山吹が死んでいる寄宿舎に向かうことができるよう調整することにまで成功したんだ。」

 

「こうして上手く寄宿舎の山吹の部屋の捜索に回ることに成功したクロは山吹の部屋の工作を行った。」

 

「その工作は簡単で、山吹を拘束していたガムテープを剥がし、凶器を握らせて転がしておくだけだ。これだけで後はモノトラファイルの死亡推定時刻だけで俺達は勝手に自殺だと勘違いするわけだからな。」

 

 

「そして、ここまでの一連の犯行を行うことができたのは、太宰直哉、お前だけだ!!」

 

 

 

「これが事件の全貌だ。なあ、太宰。お前が犯人なんだろ・・・?」

 

全ての推理を終えた上で太宰を見やる。彼からの反応はまだない。

 

「太宰君、そろそろ往生際の悪いマネは終わりにしてほしいんだけど、どうかな?」

 

アンリからも冷たい一言が刺さる。このまま沈黙を貫くつもりかと思った瞬間、それは起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフ・・・。フフフ・・・。ハハッ・・・!ハハハハ!ハハハハハハハハハハハハハハ!!!アハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

太宰は炸裂したように笑いはじめた。

 

「テメー、何笑ってやがんだ!!とうとうオカしくなっちまったのかよ!!」

 

九鬼の怒りの声が響く。しかしそれすらもかき消すように太宰は笑い続ける。

 

「はぁー。いやぁすまない。水島君の頭はキレるとは思っていたけれど、まさかここまでとは思わなかったよ。うん、ここまで当てられたら完敗だ。僕の敗けだよ。」

「罪を、認めるんだな?」

「ああ、認めるよ。僕が2人を殺した。」

「貴方という人はッ・・・!」

 

珍しく畔田が感情を露わにする。

 

「さて、罪も認めたところで君たちが聞きたいのはあれだろう?なんで僕が2人も殺したか、って話だろう?」

 

そうだ。今回の事件にもきちんとモノトラが提示した動機はある。けれど今回はそれぞれが誰か1人に動機がある、という状態で、更にこの太宰という男は今回死んだ2人どちらに対しても殺す動機はない。

 

「聞かせてくれるんだな?」

「もちろんさ。」

 

 

「オイオイ!ちょっと待ってくれよ!!オマエラはそれも気になるんだろうがよ、まずは投票が先だろ?とりあえず投票してくれなきゃ裁判が終わらねーぜ!!」

 

モノトラが口を挟んできた。水を差された気分だが投票しないことには話も進まない。ここはおとなしく従っておくか・・・。

 

 

 

投票結果→ダザイナオヤ

 

 

 

【学級裁判閉廷】

 

「ぐぷぷ・・・!何と、今回も!!大!正!かーい!!!超高校級のドラマー・山吹巴、そして超高校級の空手家・比嘉拳太郎!この2人を殺したのは、超高校級の図書委員・太宰直哉だったんだぜ!!!」

 

今回も正解した。正解してしまった。今回も、仲間を殺したのは同じ仲間だった。しかも2人も殺された・・・!

そのやるせない気持ちを太宰に向ける。

 

「太宰、じゃあ話してくれるよな?お前が2人を殺した理由を。」

「ああ、もちろんさ。約束だからね。ただね、動機だけ話してもよく分からないと思うから、モノトラ、前提情報を話してくれないかな?山吹さんと比嘉君の話を。」

「前提情報だと?」

「ああ、いいぜ!」

 

太宰の頼みを聞いてモノトラは俺達の前に出てきた。

 

「じゃあ、話すぜ?」

 

 

 

 

 

昔々、あるところに拳太郎と蹴次郎という仲の良い兄弟が暮らしていました。2人は空手をやっており、どちらも才能に溢れた空手家でした。

でも、ある日、悲劇が起きました。蹴次郎が病に倒れたのです。

とは言ってもそこまで重い病ではなかったはずでした。すぐに救急車を呼べば助かる命でした。

そこに1人の女性が通りました。彼女は今や知らぬ人はいない天才ドラマー、山吹巴でした。

彼女は倒れた蹴次郎に気付いていました。ですが彼女は急いでいました。大切なライブに遅れそうだったからです。そこで彼女は事もあろうに蹴次郎のことを無視しました。誰かが代わりに救急車を呼んでくれる、そう思って。

しかし彼女の当ては外れました。彼女以外の人も何かと理由を付けて蹴次郎を無視したのです。やっと救急車を呼んでくれる人が現れましたが、その時には既に手遅れ、連絡を受けた拳太郎が病院に駆けつけたときにはもう蹴次郎は冷たい亡骸になっていました。

このことを彼女が知ったのはこの学園に入ってからのことでした。たまたま家族の話を拳太郎としたときに知ってしまったのです。

彼女は迷いました。本当は蹴次郎に気付いていたこと、蹴次郎を無視したこと、本当のことを話そうか迷いました。

ですが最初の事件が起きて状況が変わりました。この学園では簡単に殺人が起きるということを思い知らされたからです。彼女は本当のことを隠すことにしました。拳太郎が本当のことを知ってしまえば自分が殺されると思ったからです。

彼女は怯えました。ですが、同時に拳太郎が知らなければ問題は無いと安心していた部分もどこかにありました。

その彼女の希望も数日前打ち砕かれることになりました。モノトラの口からこのようなことを聞かされたからです。

 

 

 

「比嘉拳太郎はオマエが弟を見殺しにしたことに気付いている。」

 

 

 

彼女はいても立ってもいられなくなりました。拳太郎は気付いていた。自分が弟を見殺しにしたことに。自分はこのままでは殺される、そう思い彼女は太宰に本当のことを打ち明け、相談することにしたのでした。

 

 

 

 

「ここまでがこの事件の前提情報だぜ!」

 

モノトラは話を終わりにした。

このモノトラの話だけでもかなりの情報量を叩き込まれた気がするが、本当に知りたいことはそこじゃない。それを聞くために俺達は太宰に目を遣った。

 

「モノトラの話も終わったところで、今度は僕の話も聞いてもらうとしようかな。まずは僕は今のモノトラの話の流れで山吹さんの相談を聞いたわけだけど。」

「うん、そこまでは分かったよー。でもなんでそれが事件に繋がるかがわかんないかなー。」

「まあまあ、そう焦らないでよ。順を追って話すからさ。僕はね、君たちに憧れてたんだ。」

「憧れだぁ?」

「そうだよ。まあ正確には超高校級の才能を持つこの学園の人みんなだけどね。だから僕は努力した。そして本が好きなのもあって僕はこの学園にスカウトされるところまできたのさ。まあ、有浜さんの偶然のアシストもあったけどね。」

 

そういえばそんなことを言っていた気もする・・・。

 

「何だか話が飛ぶね。」

「いや、繋がっているんだよ。だって現実はそう上手くはいかないんだからね。だって、超高校級の才能を持つ人が誰かに殺される、なんて被害妄想で情けなく泣きついて良い訳ないでしょ?」

「・・・それはどういうことだい?」

「だから、君たちは超高校級の才能を持った選ばれし者なんだよ?他人に泣きつくなんてあってはいけないじゃないか。君たちは何があろうと堂々としているべきなんだよ。」

「貴方は本当に何を言っているのですか・・・?」

「あれ、あまり分かってもらえてないのかな?つまり、山吹さんは僕に泣きついた時点で僕にとって憧れるに値しない、この学園にとっての異分子になった、ってことさ。」

 

太宰の口からこぼれ続ける言葉は日本語のハズだ。しかし、どう頑張っても理解することができない。

 

「普段だったらどうにかして追い出そうとするんだろうけど、今はそういう訳にはいかないだろう?だってホントにそんな出口が存在するのなら前の4人だって死んじゃいないんだからさ?だから僕はこう思ったのさ。」

 

太宰の顔がぐにゃりと邪悪に歪む。

 

「ああ、そうだ。殺しちゃえばいいんだ、ってね。」

「コイツ・・・イカれてやがる・・・!」

「・・・それなら比嘉君を殺す必要はなかったんじゃないの?」

「ああ、それなら簡単だよ。現に君たちは一度犯人を間違いかけたじゃないか。君たちの推理を攪乱するためだよ。」

「そんな理由で殺したってのかよ・・・!」

「そんな理由とは失敬な。これだって十分な理由さ。僕だって死にたくないもの。どんな手を使ってでも君達を騙そうとするさ。」

「テメエっ!!」

「よせ九鬼!こんな奴殴る価値もない!」

 

太宰の言い分に殴りかかろうとする九鬼を薬師が必死に押さえつけている。だが気持ちはみんな同じだった。目の前にいるこのヒトの形をした何かを殴りつけたい気持ちをみんな必死に押さえつけていた。

 

「さてと、そろそろ逝くとしようかな。モノトラ、もういいよ、心の内は全部吐き出したからさ。」

「お、そうか。じゃあ始めるとするか!ドッキドキワックワクのおしおきをよ!!」

「おい待て太宰!話は終わって・・・」

「終わってるよ。もう君たちに話す事なんて何もないんだからさ。」

 

引き留めようとする俺達に返ってきたのはさっきまでとは打って変わった冷たい拒絶。その変わりように呆然としているうちにモノトラは床から出てきたスイッチを既に押してしまっていた。

去り際に太宰はこちらを振り向いて最後に付け加えた。

 

「ああ、僕は君たちに憧れていた。でも、君たちのこと、好きではなかったよ。」

 

 

 

ダザイくんがクロにきまりました。

おしおきをかいしします。

 

 

 

暗い暗い部屋。明かりが灯る。高く聳える本棚の森。

 

静寂の中から微かにページをめくる音が聞こえる。暗闇の中に1つだけ灯る、蛍のような小さな明かりの下で太宰は本を読んでいる。

 

 

超高校級の図書委員・太宰直哉のおしおき

《エンドマーク》

 

 

静かに本を読みふける太宰。その頭上が大きく開く。暖かな白色電球の強い光が射し込む。それに目を細めながら太宰が顔を上げるとそこには巨大なモノトラが太宰をのぞき込んでいた。

 

ケーキの箱のように大きく開いた部屋から太宰は逃げ出した。

 

周りを見渡すと巨大な本、本、本。自分の背丈よりも大きな本の収まった本棚がズラッと並んでいる。

 

あれほど好きで、それ故に自分の憧れに近づくまでに至った本が今は恐ろしくて仕方がない。

 

逃げる、逃げる、逃げる。その巨躯を揺らし追いかけてくるモノトラから太宰は逃げる。

 

しかし、逃げ切れるはずもなく、あえなく捕まってしまった。

 

モノトラは上機嫌で太宰の足をつまみ自室に向かっていく。そこには先ほど本棚に並んでいたものと同じくらい巨大な本が開かれた状態で置いてあった。

 

そしてモノトラは足だけ本から出した状態で太宰を本の上に載せる。太宰の足は逃げ出さないように押さえつけられ逃げ出せない。そしてモノトラは本をおもむろに閉じた。

 

太宰が最後に見たものはゆっくり自分に迫ってくる巨大な文字列だった。

 

そして本の縁からは鮮やかな血が漏れ出していた。

 

 

 

「エクストリィーーーーーム!!!!やっぱおしおきの時間が最高の癒やしだぜ!!!だけどよ、何だかオマエラ反応薄くねーか?オマエラの仲間が処刑されちまったってのによ?」

 

仲間。モノトラは太宰のことを俺達の仲間と呼んだ。仲間?2人を殺し、最期に俺達を拒絶して死んでいったアイツが・・・?

 

「あんな奴仲間なんかじゃ・・・」

 

薬師が言葉を漏しかける。

 

「いや、仲間だぜ。」

「!!」

 

しかしその言葉はモノトラによって遮られてしまった。

 

「・・・どういう、意味だよ・・・。」

「オマエラはどうやら2人も殺して更に自分たちを拒絶したアイツなんて仲間じゃねー!って思い込みてーみてーだが、そいつぁ違う。オマエラだっていや、3人を推理を使って寄って集って見事殺して見せたオマエラの方が太宰よりもよっぽどタチが悪いぜ?」

「・・・。」

 

モノトラの言葉にこちらは言葉を詰まらせる。そんなことない、と言いたかったがどうしても言葉が出てこない。これまでに太宰を含めて3人を学級裁判で死まで追いやったことは事実だからだ。

だが、玉城だけは口を開いた。

 

「見方によってはな。だが、俺達はここで死ぬわけにはいかん。そのためには誰だろうと殺してみせるぞ。たとえそれがその悪趣味なぬいぐるみの先にいるこのコロシアイの黒幕だろうとな。」

 

玉城は静かに啖呵を切った。その言葉に俺達は顔を上げた。

 

「ああ。ここで絶対コロシアイは終わりにしてみせる。絶対に、お前を許さないぞ。」

「ぜってー引きずり出してボコボコにしてやっからな!覚悟しとけよ!!」

「もうー、海波ちゃんたらー。ヤンキーじゃないんだからー。」

「いや、ある意味コイツはヤンキーよりタチが悪いぞ?」

 

だんだんみんなの声音に明るさが取り戻されていく。俺達だって伊達に学級裁判を3度も乗り越えてきたわけじゃない。コイツに言われっぱなしで終わるなんて癪で仕方がない。

みんなが明るくなっていくのに反比例してモノトラは不機嫌になっていく。

 

「なーんかつまんねーなー。オマエラが気分悪そうにしてんのを見るのが良いってのによよー?ま、ここは引き下がっとくとするぜ!どうせオマエラが何やったところですぐに次の学級裁判は起こるんだからな!!ぐぷぷぷぷ・・・。」

 

不機嫌そうにした後すぐにいつもの悪趣味な笑顔に戻り、奴は姿を消していった。

 

「さてと、部屋に戻るとするか!」

 

薬師が切り出す。

 

「さっすがに今回は疲れたわ!早く飯食って寝よーぜ!」

「そうですね。今日は体力回復に努めるとしましょう。」

 

今回は2人も死んで、犯人も俺たちの事を拒絶したけれど逆に生き残った俺達の結束は更に強まった感じがする。エレベーターに乗り込むみんなの姿を見送って、俺も最後に乗り込もうとすると、

 

「あ、水島君ちょっと待って!」

 

甘寺に呼び止められた。

 

「みんなは先に行ってて!水島君に聞きたいことがあるだけだから!」

「それならエレベーターの中でも良いんじゃねえの?」

「それは野暮というものだよ、薬師君。」

「なっ!それってそういうことか!?そういうことなのかあぁぁぁぁぁ!?」

 

エレベーターの扉が閉まっていき、薬師の叫びも虚空へと消えていった。全く騒がしい奴だ。

みんながいなくなったところで甘寺に向き直る。

 

「それで、俺に聞きたいことって何だ?」

「そうそう、その話。水島君、ここ2,3日私のこと避けてない?」

「ん?そうか?」

「だってさ、ゲーム大会の準備は一緒に向かったけどさ、その間もなんかよそよそしいしさ、捜査の時だって私を仲間に入れてくれなかったじゃない。」

「別にそんなつもりはなかったんだが・・・。」

「私何かしちゃったかな?何かしちゃったなら教えてほしいな。何も分からないまま距離を取られるのは・・・、寂しいよ・・・。」

 

甘寺は俯いてしまった。それにしても俺が甘寺を避けてる・・・?そんなつもりはなかったんだけどな・・・。・・・あ、もしかしてアレか・・・?

 

「なあ、逆に何かしたか聞きたいのは俺の方なんだ。」

「どういうこと?」

「どうやら俺も無意識だったみたいでな、それ自体は申し訳なかった。でもその原因ってさ、恐らくモノトラの“動機”だったんだよ。」

「“動機”・・・?」

「俺の動機が甘寺に関するものだった、ってのは甘寺も知っての通りだと思うけどさ、その内容ってのがさ、『甘寺は俺と友達でいたくないと思ってる』ってやつだったんだ。だから逆に俺の方こそ何か甘寺の気に障ることをしちゃったかなってずっと思ってたんだけど・・・。」

「え!?そういうこと!?なーんだ嫌われちゃったのかと思ったぁ・・・。」

 

甘寺がホッと胸をなで下ろす。直後少し不機嫌そうな顔になる。

 

「それにしても、モノトラって言い方がイジワルだよね・・・。」

 

そして何かブツブツ呟いている。モノトラの性格がアレなのは今更だろうに・・・。

 

「よし!じゃあ誤解のないように、でもまだちょっとだけ私に勇気が足りないから、まずはここから!」

 

何だか気合いを入れている。

 

「ねえ、水島君のこと、下の名前で呼んでも良い?」

「別に構わないが・・・。」

 

何を急に言い出すかと思えば。

 

「分かった!じゃあ部屋に戻ろっか、“輝君”!」

「!!」

 

名前で呼ばれた瞬間、何か頭を過ぎった気がするが、これは一体何だ・・・?

 

「あれ?やっぱ嫌だった?」

「いや、そんなことはないぞ。部屋に戻ろう。」

「うん、そうしよ!」

 

その後2人並んで戻ってきた俺たちの事を薬師が問い詰めてきたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

CHAPTER3 その感情は最も遠く  END

 

 

TO BE CONTINUED・・・

 

 

 

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り9人

 




長らくお待たせ致しました!!第3章これにて完結ということになります!!いやー時間が掛かってしまった!申し訳ないです!
さて次回からは第4章が始まっていくわけですが、どのようコロシアイが起こっていってしまうんでしょうか・・・。
それでは次回をお楽しみに!!!


さあ今回の設定裏話は「超高校級の趣味」です!さーてみんなにはどんな趣味があるんでしょうか・・・?一応自分の才能とは別に、とお願いしたんですがどうなることやら・・・。

水島輝→ミステリー小説を読む
「気付いたら読むようになってたな。」

甘寺心愛→パリ観光
「かなり詳しい自信があるよ!」

薬師弾→サバゲー
「まあ、訓練にもなるんだけどな!」

玉城将→チェス
「たまには別のゲームをやるのも良いものだぞ。」

二木駆→ナンパ
「かわいい女の子とデート!一番癒やされるっしょ!」

涼風紫→走る!
「だって走る以外やってないもん!」

山吹巴→かわいいもの集め
「あっ!今柄じゃないって思っただろ!!」

有浜鈴奈→紅茶の焙煎
「茶葉を現場の人に分けたりもしているわ。」

アンリ・シャークネード→プロレス観戦
「やはりプロレスは生モノに限るよ。」

畔田鋼之助→プロレス観戦
「お嬢の影響でハマってしまいまして。」

久見晴香→弓道
「うーん、趣味って言うかー、特技ー?」

太宰直哉→ネットサーフィン
「ブログ作りの参考にしているんだ。」

美上三香子→人間観察
「絵を描くのに始めたんだけどこれが以外と面白くて。」

青山蓬生→喫茶店巡り
「スーツのデザインに詰まったときなんかに気分転換にやるんですよ。」

比嘉拳太郎→瓦割り
「その日の調子のバロメーターだ!!!」

九鬼海波→菜園
「ビタミンCを補給しねーと死んじまうからな!」


これは趣味なのか・・・?なんてものもありましたがどうやらこんな回答をしてくれたみたいです!!それでは次回またお会いしましょう!!!


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CHAPTER4 死に逝く者に蜘蛛の糸を
CHAPTER4 (非)日常編1


深い深い眠りの中、俺は遠くからの声を聞いた。

 

 

「待ってください!まだ採寸は終わってませんよ!!」

「何で今やってんだよ!!?」

「今やらなきゃ間に合わないからです!!代表の会見は来週でしょう!?」

「だからって飯時にやらなくてもいいじゃんかぁ!!」

 

 

聞き覚えのある声。また別の声が聞こえる。

 

 

「美上さん、ちょっと良いかしら。」

「ん?どしたの?」

「実はね、私の親友が今度映画の主演をやるんだけど、そのポスターを写真を元にした絵にしようって話なってるみたいで、その絵を美上さんにお願いしたいのだけれど。」

「私なんかでよければいくらでもやるよ!」

 

 

また聞き覚えのある声。声はまだ聞こえてくる。

 

 

「何だ、山吹!そんなことを気にしていたのか!!」

「そんなことってお前の弟だろ!?」

「そこで助からなかったのも天命だ!!多分お前が救急車を呼んでくれていても別の理由で助からなかったと俺は思う。理屈じゃなくそんな気がしているんだ。だからそんなに気にするな!」

「比嘉ぁ・・・。」

「超高校級同士の絆・・・、なんて素晴らしいんだろうね・・・。」

 

 

何だろう、知っている声のハズなのに、会話の内容は全く知らない。

何だろう、知らない会話のハズなのに、何だか懐かしい感じがする。

この矛盾は何だ・・・?

答えが出ることはなくより深い眠りに落ちていく。そして俺はそのうちにこのことも忘れてしまうのだった。

 

 

 

 

CHAPTER4 死に逝く者に蜘蛛の糸を  (非)日常編

 

 

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

海面から顔を上げるように、深い眠りから目覚める。

何か妙な夢を見たような気がするが全く思い出すことはできない。

 

記憶にないものを掘り出すことはできないので諦めて体を起こし、食堂に向かうことにした。

 

 

食堂に入ると食堂に飾られているものが増えていた。まずはドラムセット。人数が減ってしまったことで使わなくなったテーブルを少しずらしてこの大きいものを置くスペースを確保したようだ。そして、他のみんなのものを飾ったテーブルの上には黒い帯が置かれていた。そして、その隣にはステッカーなどは何も貼られていない、ただただシンプルなノートパソコンも。

 

「これは・・・。」

「お、水島はよっす!」

「あれ、珍しいな、薬師がこんなに早く起きてくるなんて。」

「失礼な!でもま、人数も減っちまったからな!手伝わねえと!ついでにアレも運びたかったしな!」

 

そう言いつつ新しく飾られたものを指さす。

 

「これはお前が?」

「ああ。まあ、ドラムセットは畔田に手伝ってもらったんだけどな!」

「・・・ノートパソコンも・・・?」

「・・・ああ。太宰はああ言ったけど、やっぱ俺、アイツだけ仲間じゃねえなんて言えねえや。水島は、嫌か?」

「・・・いや、俺もお前と同じ気持ちだよ。逆に同じ気持ちの奴がいてくれて嬉しい。ありがとう。」

「・・・そっか!あ、でも昨日のあの後の話は聞かせてもらうからな!!逃げんなよ!!」

 

昨日あれだけ聞いただろうが。

 

「おや、水島君ももう来ていたのかい。」

「ああ、アンリおはよう。すまない、準備手伝うよ。」

「ああ、ありがたいよ。」

 

アンリが朝食の配膳をしに出てきたので俺と薬師も手伝うことにした。

準備をしている内に残りのみんなも集まってきたので、全員で朝食を摂ることができた。

 

 

 

朝食が終わるとアンリが口を開いた。

 

「さて、不本意ながら3度目の学級裁判が終わったわけだけど、学級裁判が終わったということは新しいエリアが開放される、ということじゃないかと思うんだけどどうかな。」

「確かにー。」

「ということはそろそろ奴が・・・」

 

と玉城が口を開いた瞬間に想像通り奴が現れた。

 

「よお!オマエラ元気かよ!」

「うわ、出た・・・。」

「ガチのドン引き顔!?さすがのオレもそれは傷つくんだぜ!?」

「さっさと用件を済ませろ。」

「みんながオレに冷たいんだぜ・・・。でもまあ、オマエラの想像通りなんだぜ!昨日の学級裁判をクリアしたことで、校舎の4階が探索可能になったんだぜ!!!」

「やっぱりねー。」

「んじゃ、新しいコロシアイを楽しみにしてるぜ!!」

「二度と起こすかこのスカタン!!」

 

最後に余計な一言を残してモノトラは帰って行った。

 

「・・・じゃあ、調査してみるかい?」

 

アンリがとりあえず、とばかり口を開く。

 

「・・・ま、そうだな。」

 

うだうだしていても仕方ないので俺達はみんなで新しく開放された4階を調査することにした。

 

 

 

「さて、新しいフロアに来たわけだけど・・・。」

「どう人数を分けよっかー?」

「つってもなー、かなり人数減っちまっただろ?各自で良いんじゃねーか?」

「まあそれもそうだな。」

 

ということで各々が自分の思うとおりに調査をすることになった。

 

さて、俺はどこから調査を開始するか・・・。

とりあえず一番近いところからいくか。

ということで俺はまず階段から一番近い情報処理室から調査をしてみることにした。したのだが・・・。

 

「・・・開かない。」

 

情報処理室はカギが掛かっていて開けることができなかった。おい、解放されたんじゃなかったのか。

 

「あ、わりーわりー、言うの忘れてたぜ!そこはカギの調子が悪いんでもうちょっと待ってくれや!あと学園長室もオレのプライベート空間なんで勘弁だぜ!」

「ホントにカギの調子の問題か?学園長室も含め、何か隠してんじゃないのか?」

「そそそ、そんなわけ、な、ないんだぜ!じゃ、じゃーな!」

「あっ、おい!」

 

そう言うとモノトラはすぐいなくなってしまった。完全に何か隠してる奴の言いぶりじゃないか。

まあ、開かないものに文句を言っていても仕方ない。とりあえず次のところに向かうとするか。

 

 

いきなりアテが外れて気分は下がっているがそうも言っていられないので、廊下の奥にある音楽室に向かうことにした。

音楽室は音楽室というよりもむしろ小さな劇場と言った方が正しいだろう。大きな舞台の前にある机は教室っぽいが、その大きな舞台とその真ん中に置かれたグランドピアノ、そしてそこに当たるスポットライトという組み合わせはまさしく劇場と言うにふさわしい。

 

「すごいねー。」

「おお、久見もここに来てたのか。」

「うんー。学園長室は入れないって言われちゃってさー?仕方ないからー、次に気になったここに来たんだー。」

「何だ、仲間か。俺も情報処理室は入れないとか言われたんで次にここに来たんだ。」

「もう1カ所入れないところがあるんだねー。でもそれならー、僕たち思ってたよりも気が合うのかもー。」

「確かにそうかもな。」

「冗談のつもりだったのにー。」

 

…。冗談、か…。そうか…。

 

「落ち込んでるー。ごめんねー、さっきの方が冗談だからー。」

「お、おう…。」

「それじゃー僕も次のところに行くねー。」

「ああ。」

 

そう言って久見は俺にひらひらと手を振って去っていく。

このまま出ていくのかと思いきや、久見は唐突に振り返る。

 

「あ、そうだー。これから僕も輝くんって呼ぶからねー。」

「お、おう。」

 

そんなの許可を取らなくたっていいのに。

 

「またねー、輝くんー。」

「ああ、またな。」

 

昨日の甘寺といい、意図がよく分からないまま分かれてしまった。

その後多少散策はしてみたものの、見事なグランドピアノがあるということと、音楽室っぽい机と椅子を除いてすごく本格的な劇場になっている、ということ以外大した情報を得ることはできなかった。

 

 

音楽室を出た俺は職員室に向かった。

特に教員の姿をこれまで見た記憶はないし、もしかしたら情報処理室みたいに閉じられているかもしれない。そう思ったのだが、普通にカギは開いていて中に入ることができた。

 

「ああ、水島君か。」

「なんだ、アンリも来ていたのか。」

「教員もいないのに開いているのが気になってね。」

「まあ、それは同感だな。そう言えば畔田はどうした?」

「畔田ならあそこで。」

 

アンリの指さした方向を見ると畔田が熱心に探索していた。

 

「おーい畔田ー!」

「おや、水島さんじゃないですか。水島さんもこちらに?」

「ああ。何か目新しいものがないかと思ってな。」

「それなら残念ながらそういったものは特には見つかりませんでしたね。」

「そうか・・・。」

 

やはりここにも何もなかったか。

 

「それじゃあ水島君、私たちは次のところに行ってみるよ。」

「ああ、分かった。」

「水島さんはどうされるんですか?」

「俺は来たばかりだし、せっかくだからもう少し探索してみるよ。」

「そうですか。そういうことならお先に失礼しますね。」

「ああ。」

 

そう言うとアンリと畔田は職員室を出て行った。

さて、俺はもう少し探索してみるか。

とは言っても大して気になるところはない。教員用の机が並んでおり、その上にそれぞれ黄色い花が挿された花瓶が置いてあるだけだ。普段なら予定や生徒の実績が書かれているであろう黒板にも何も書かれたり貼られたりしているわけではない。まあ、少しだけ期待はしたがこんなもんだろう。そう思って出ようとしたとき、ふと扉の上に隠すように差し込まれた紙のようなものが目に入った。背伸びをすればどうにか届きそうなので腕を伸ばしてその紙を取ってみた。紙は2つ折りになっていて、それを開いてみるとどうやら写真のようだった。

 

「何の写真だ・・・?」

 

そう思い写真を開いてみると、衝撃の写真だった。

 

「集合写真か?しかも俺達全員の?こんなもの撮った記憶はないぞ?」

 

写真は俺達16人が写った集合写真。だけどそんなものは撮った記憶はなかった。

 

「そう言えば・・・。」

 

そう言えば、以前この希望ヶ峰学園において行われたコロシアイにおいても、過去の写真が高校生活の記憶を消された生徒達を攪乱するためにばらまかれた、という話があった気がする。まさか・・・。

 

「俺達も入学してから時間が経っているのか・・・!?俺達の記憶も・・・」

「おっと、余計な詮索はそこまでだぜ。」

 

考えを口に出して整理していると、目の前にモノトラが現れ、俺の手にあった写真を奪い去った。

 

「あっおい!」

「いやー、失策失策!まさか写真がこんなところにあったとはな・・・!おい、水島。今見たものは誰にも言うんじゃねーぜ。言ったときは最期、オマエを殺すだけだからな・・・。」

「なっ・・・!」

 

それだけ言うとモノトラは俺の前から姿を消した。でもあれほどモノトラが焦った様子を見せるといことは俺の考えもあながち間違いではないようだ。だが、みんなに伝えることはできない。すごく歯がゆい思いではあるが、言っても仕方ないので俺は諦めて職員室を後にすることにした。

 

 

さて、後残っているのは化学室だけか。そこだけ探索して食堂に戻ろう。

 

科学室に入ると甘寺、薬師、玉城、涼風、九鬼といっぱい集まっていた。

 

「みんなこんなところに集まって何してるんだ?」

「水島か。ここの薬品棚を確認している。」

「薬品棚?」

「ああ。ここの薬品棚には色んな薬物が揃っていてな。睡眠薬や胃薬といった普段使う薬から猛毒まで色々ある。」

「何だって?」

「だが、幸いここに薬品とそれがどれくらいあるのかを記したリストがあったからな。コイツを確認して全員に共有できるようにしている。何があるのか分かっていればコロシアイに使うこともできんだろうしな。」

「なるほどな。」

 

それならと俺も薬品を数えるのに協力することにした。

実際数えてみて分かったことだが、薬の強さなどに応じて棚も分けられていることが分かった。一番扉に近い薬品棚Aには睡眠薬や胃薬のような日常的に服用する薬であったり、プロテインだったりが入っていた。何でこんなところにプロテインがあるんだ。真ん中の薬品棚Bには実験によく使う薬品が置いてあった。そこまで毒性は強くないが、扱いを誤ると大変なことになりかねないだろう。そして扉から見て一番奥の薬品棚Cには実験でも稀にしか使わない猛毒の薬品が置いてある。この薬品棚は気を付けないと本当に大変なことになってしまう。

 

「とりあえずこんなところだな。」

「いやー、以外とあんなコレ!」

「だがここまでしっかり確認しておけば万が一も防げるだろう。」

「用心に越したことはないよね!」

 

薬品の種類と数の確認が終わり、これで、いや、確認したという事実が万が一の防止にも繋がるだろう。

 

「じゃー、食堂に行くか!」

「ああ、そうだな。」

 

作業が終わったところで薬師の温度に合わせて食堂に向かうことにした。

 

 

 

食堂に入ると他のみんなは既に勢揃いしていた。

 

「随分時間がかかったようだね。」

「ごめーん!化学室の薬品の種類と数を確認してたら時間かかっちゃって!」

「ああ、あの棚の薬品かい?」

「そうだ。劇薬もあったのでな、念には念を入れ、だ。」

「それなら呼んでいただければ手伝いましたのに・・・。」

「ま、6人もいたからな!」

「それならそれで呼んでもらえないのは寂しいんだけどー。」

 

なんてみんなが化学室の件で会話を弾ませている。

 

「さてと、だ。今回の報告を進めよう。」

「そうだな!まー、化学室は今ので良いとして・・・。」

「学園長室があったんだけどー、そこは閉まってたー!モノトラのー、プライベートな部屋なんだってさー。」

「そう言えば情報処理室もカギの調子が悪いとかで閉まってたな。」

「つまり、2部屋は入ることすら叶わなかった、と。」

「いかにも怪しいー、って感じだぜ。」

「後は音楽室もあったな!」

「とは言え、特に何か特徴的なものはなかったがな。」

「職員室もだったね。まあ、あそこも特に何も、って感じだったけど・・・。」

 

職員室・・・。ふと職員室で見つけたあの写真のことが頭を過ぎる。

 

「あれ?輝君難しい顔してどうしたの?」

「!ああ、いや、なんでもない。今回も出口に繋がるものはなかったなって思っただけだ。」

「そっか・・・?」

 

危ない・・・。あの写真のことを口に出してしまったら俺が死ぬことになる・・・。あの写真のことは気にならないわけではないが、今のところは口には出さないようにしておこう。

 

「まあ、実際水島君が言ってくれたとおり、今回も出口に繋がる手掛かりはなかったわけだけど、肩を落とさずに行こう!いつかはきっと外に繋がるはずだからね!」

「喫緊の課題はそこまでにこれ以上コロシアイを起こさせないことだな。」

「ま、そういうことになるわな。」

「それじゃ、今日は一旦ここで解散だな!また夕飯のときになー!」

 

とりあえず報告が終わったところで今回も解散することにした。

特にすることもなかったので俺は部屋の中で読書をしながら時間を過ごし、夜を迎えることになった。

 

 

キーン、コーン・・・ カーン、コーン・・・

 

「午後10時になりました。ただ今より夜時間になります。食堂はロックされますので速やかに退出してください。それではよい夢を。お休みなさい。」

 

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

「よくサスペンスなんかでも“毒殺”なんて言葉が出てくるがよ、」

 

 

「オレは実際のところ“毒殺”なんてものは存在しないと思ってるんだぜ。」

 

 

「だって半数致死量がかなり少ない物質を便宜的にオレ達は“毒”って呼んでるだけなんだからな。」

 

 

「そんなことを言っちまったらよ、」

 

 

「致死量のチョコレートを喰わせたとしても」

 

 

「そいつは“毒殺”ってことになっちまうと思うしな・・・。」

 

                    

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り9人

 




ということで、お待たせしました!今回から第4章がスタートして参ります!水島君達はああ言ってはいましたが、今回は一体どんな事件が起こっていってしまうのでしょうか…。是非ともお楽しみに!!

さて、第3章が終わったということで、今回から数回にわたって第3章の裏話をしていこうかな、と思います!
それでは今回はタイトル編といきたいと思います!第3章のタイトルは「その感情は最も遠く」な訳ですが、20~30代くらいの方だとタイトルの元ネタが一瞬で分かった方も多いのではないかと思います!そう、BLEACHの藍染惣右介の名言、「憧れは理解から最も遠い感情だよ」です!太宰君の超高校級に対する憧れとそれ故の無理解を表すのにこれ以上ピッタリな言葉はないかな、と思いこの言葉を選びました!もしかしたらこんな状況でなければ太宰君ももっとみんなと理解を深め合うことができたんでしょうか…?

ということで今回はここまで!それではまた次回お会いしましょう!!!


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CHAPTER4 (非)日常編2

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「おはようございます。7時になりました。今日も一日元気で頑張りましょう。」

 

朝か…。昨日の写真の事が気になってあまりよく眠れなかったような感じがする。だけどこれは誰にも相談はできない。どうにもならないことを嘆いていても仕方がないので、とりあえず体をたたき起こして食堂に向かうことにした。

 

 

食堂に入るといつものメンバーに加えて久見が既に来ていた。

 

「あ、輝くんおはよー!」

「ああ、おはよう。今日は早いんだな。」

「昨日薬師君が早起きしたって聞いてさー、なんか腹立つじゃーん?」

「腹立つって…。」

「冗談、僕も手伝わなきゃなーって思ったから早起きしただけだよー。」

「まあ理由は何でも構わないけど手伝ってもらえるのはすごく助かる。」

「うんー。輝くんの役に立てるならよかったー。」

 

そんな会話をしていると、厨房から甘寺が出てきた。

 

「あ、輝君、久見さんおはよう!」

「おはよー。」

「ああ、おはよう。」

「今ちょうどできて盛り付けするところだから、盛り付けできたら運ぶの手伝って?」

「もちろん。」

「あと、久見さん、輝君のこと名前で呼んでるの?」

「昨日からねー。あ、もちろん輝くんから許可は取ってるよー。」

「そ、そうなんだ…。」

 

何だか2人の間に火花が見える気がする。気のせいだろうか。

とりあえず料理を運び、みんなが集まってきたところで朝食を摂った。朝食を摂っている間も何だか火花が見える気がして気まずかった。

 

 

「なあ、おい。」

 

朝食を終えて食堂を出ようとすると九鬼に呼び止められた。

 

「どうした?」

「いや、あの2人どうしちまったんだ?喧嘩でもしたのか?昨日はそんなことなかったよな?」

「ああ、俺もよく分かんないんだよな。」

「つっても明らかにオメーが原因だろ?朝飯の間中オメーのことチラチラ見てたしよ?」

「そうなのか…?」

「…鈍いっつーのも度が過ぎると罪だなこりゃ。ま、どうにかしてくれや!あの雰囲気じゃ何だか飯の味がしなくてよ。」

「あ、ああ。」

 

それだけ言うと九鬼はヒラヒラと手を振って部屋に戻っていった。俺が原因つったって俺が何かした覚えはないんだけどなぁ…。

 

 

 

とりあえず今日のところは念のためみんなでそれぞれの部屋の調査をもう少しだけ進めることにした。

俺は久見、甘寺と一緒に音楽室を担当することになった。

 

「もう少し調査するっていっても特に何か見つかる感じはしないけどなぁ…。」

「うーん、ステージの方も特に何もなかったよねー?」

「机の方にも特にはなかったよ?」

 

とは言っても調査しないわけにも行かないのでとりあえず俺はステージの方を、甘寺と久見が教室部分を調査することにした。

 

「よっ!」

 

ステージ横に行けば階段はあるがそこまで行くのがめんどくさいのでステージに飛び乗った。

 

「わっ!すごい!」

「さっすが男の子ー。助走なしで乗れちゃうんだねー。」

「いや、男の子でもさすがに人によると思うよ?輝君、運動神経いいんだね!」

「そうか?昔からそう言われるんだが自分の事ってよく分からないんだよな。」

 

どうやら俺は端から見ると運動神経がいいらしい。

で、肝心の調査はというと、特に何か新しいものが見つかることはなく、失意の内に戻ることになった。

昼食の時に他のところを探索していたみんなとそれぞれの場所について報告し合ったが、他のみんなも何か新しい発見があったわけではなかった。強いて言うのであれば、化学室の薬品に変動がなかったっというのが一番の収穫かもしれない。

新しい発見がない可能性の方が高いというのは何となくみんな分かっていたことだったのでがっかりはしたが特に大きく落ち込むこともなくみんなで昼食を摂ってその後解散した。

 

 

 

午後はとりあえずすることがなかったので、娯楽室に行ってそこの雑誌を読むことにした。娯楽室に入ると、そこでは玉城が1人で将棋盤に向かい合っていた。

 

「…何だ?」

「いや、雑誌を取りに来たんだが。」

「…そうか。」

 

多少俺達に馴染んできたと思っていたが、無愛想なのは相変わらずらしい。邪魔するのも悪いので目当ての雑誌を手早く見つけて娯楽室を出ようとすると、

 

「…待て。」

 

珍しく玉城に呼び止められた。

 

「珍しいな、お前の方から俺のことを呼び止めるなんて。」

「まあ、そうだな。さすがにずっとここで一人将棋を指しているのにも飽きてきたからな。気分転換だ。」

 

それでもその気分転換に他人と話すことを選ぶようになったというのは進歩ではないかと思う。

 

「話題を選べ。」

 

そこは俺が決めるのかよ。

 

「それじゃあ、お前が将棋を指すようになった理由を教えてくれ。」

「…まあ、構わんか。さて、どこから話すか。まず俺の髪は地毛だ。」

「そういえばハーフだって話だったな。」

「ああ。俺の母はスウェーデン人だ。寒いところの生まれだからか、髪は糸のように艶やかな金髪だ。そして俺もその金髪を受け継いだ。いや、受け継いでしまった、と言うべきかもしれんな。この年までなれば俺が金髪だろうとハーフだろうととやかく言う人は少ない。まあ、お前達もとやかく言わない部類の人間だろう。だが小学生はそうとはいかん。ずっと俺の容姿や生まれをからかい続けた。中学生になると厄介なのは教師の方だ。いくら地毛だと言おうとも話を聞きやしない。終いには他の生徒が真似したらどうするなどと言い出す始末だ。そもそも俺のは生まれつきでおしゃれのつもりですらないと言うのにな。中学生になると厄介なのは他にもあった。例えば学校の不良共だな。金髪であるのを生意気だ何だと絡んできてめんどくさくて仕方なかった。」

「それは大丈夫だったのか?」

「幸運なことに、ヨーロッパの血故だろうな、特段身長があるわけではないが、フィジカルが弱かったわけでもなかった。だから何かちょっかいをかけられようと返り討ちにしてやることができたからそいつらはそのうち絡んでこなくなった。」

「さすがというかなんというか…。」

「同じくらい厄介だったのは女子だった。手前味噌な話ではあるが、俺は容姿が良い。俺は母の血を色濃く引いていたらしくな、肌の色は白いし、目が大きい。思春期の女子というのはそんな男を好む傾向にあるらしいな。だが俺はそんな女子のことはあまり好きではなかった。何だか見た目だけで選ばれていて、“玉城将”という人間そのもののことはあまり見ていないような気がして癪だったからな。告白されようと断り続けていた。一目惚れだ、なんていうのはもってのほかだ。そんなことを続けてる内に周りから気取っているだなんだと言われて距離を取られた。」

「大変、だったんだな…。」

「気にしてはいない。小学生の頃は多少気にしもしたがな。だがそんな中でであったのが将棋だった。将棋は目の前の相手との戦いであると同時に将棋盤に向かう自分との戦いでもある。将棋をやっていく内に俺は自分の中に深く沈んでいく感覚を身につけた。深く、深く沈んでいく内に見える道筋こそが最大の勝ち筋にもなっていった。端から見たらそんな感覚を身につけるのは危険であるように感じるのかもしれないが、俺にとってはそうではなかった。逆にこの感覚を身につけたからこそ俺は将棋の楽しさというものも感じられるようになったし、周りが何と言おうと気にならなくなった。全部将棋のおかげだ。」

「玉城は将棋が大好きなんだな。」

「有り体に言えばそうなるな。将棋は好きだ。」

 

フッと笑う玉城を見て何だかすごく珍しいものを見た感覚に陥る。

 

「さて、また一人将棋に戻るとするか。引き留めて悪かった。」

「いや、悪いなんて思っちゃいないさ。逆にお前がどんなことを考えて生きてきたのか、一部かもしれないけど知れてよかった。」

「気持ち悪いことを言うな。さっさと出て行け。」

「はいはい。」

 

話したいことを話し終えると玉城はすぐにいつも通りの玉城に戻ってしまった。でも、俺は玉城と話したことで玉城が抱えてきた苦悩や玉城の考え方、その一端を知ることができてよかったと思ってる。だから、

 

「玉城、ありがとな。」

「ふん。」

 

去り際に玉城にお礼を言った。玉城はさっさと出て行けとばかりに鼻を鳴らしたが、俺の心は何となく満足感に満ちていた。

 

 

 

何となく小腹が空いたので、食堂に向かうとそこでは甘寺が何かやっていた。食堂のテーブルの上には様々な形をしたチョコレート菓子がズラッと並んでいた。

 

「甘寺、こんなところで何してるんだ?」

「あ、輝君!私はいつもどおりだよ!」

「って事はチョコレートの試作か?」

「そういうこと!そう言う輝君は?」

「ああ、俺は小腹が空いたんで何か食べ物をと思ってきたんだ。」

「お、それならちょうどいいね!とりあえず色々作り終えたところだから試食していってもらえないかな?他のみんなにも声をかけようかと思ってたところなんだ!」

「それなら遠慮なくいただくよ。」

 

そんなこんながあって俺はここでみんなより一足早く甘寺の試作品に舌鼓を打たせてもらうことにした。やはり甘寺の作るチョコレートはすごくおいしい。そう言えばこのお菓子ってどこかで見たことがある気がするな。

 

「なあ甘寺?」

「ん?どうしたの?」

「今日作ってたお菓子ってさ、もしかして初日にメモってたやつか?」

「あ、気付いた?そうなんだー。もちろんいくつかレシピは作ってるんだけど遂にここまでたどり着いちゃいました!」

 

そう言えば毎日このくらいの時間はいろんな試作品を作ってたもんなぁ…。

とは言っても試作品は大量でさすがに俺一人では食べきれないし体を壊してしまうのでそこそこのところで一度食べるのをストップすることにした。

そう言えば甘寺とも2週間はここで一緒に過ごしているわけで、そんな中でも意外と聞いてなかったことがあったなと思い出した。

 

「そういえばなんだけどさ、甘寺って何でショコラティエになろうと思ったんだ?」

「あれ?話したことなかったっけ?」

「ああ。チョコレートの神様の話しか聞いたことなかった気がするな。」

「確かにそうだったかも!じゃあ聞いてってくれる?」

「ああ。もちろんだ。」

「えっとね、私がショコラティエになろうと思ったのは偶然だったんだ。」

「偶然?」

「うん。まあ、お父さんとお母さんはパティシエだったし、ある意味では必然だったのかも知れないけどね。それでね、私はお父さんとお母さんに連れられてある時フランスに行ったことがあったんだ。今思えばその時が私が始めてフランスに行ったときにあたるのかな。」

「ちなみに何でフランスに?」

「えっと確かね、お父さんとお母さんは同じパティスリーで修行しててそこで出会ったって言ってたんだけど、当時日本でそのパティスリーを開いてた2人のお師匠さんがフランスで新しいお店を開くことになったからそのお祝いをしに行くんだ、って言ってたかな。」

「すごい職人だったんだな。」

「うん、私が頻繁にフランスに行くことができたのもそのお師匠さんがいろいろサポートしてくれたおかげなんだよね。で、そのお師匠さんのところに挨拶に行った後、お父さんとお母さんに連れられてパリの色んなお菓子屋さんを回ったんだけど、運命が変わったのはそのうちの1つのショコラトリー、要はチョコレートの専門店だね、に行ったときだったんだ。」

「そのショコラトリーに何かあったのか?」

「そう!もちろん売ってたお菓子一つ一つも魅力的だったし、実際食べてとってもおいしかったんだけど、そこで初めて声が聞こえてきたんだよね。」

「それってもしかして…?」

「そう!チョコレートの神様の声!お菓子を見てるときにお父さんでもお母さんでもない誰かに声をかけられた気がして周りを見渡したんだけど2人とお店の人以外誰もいなくて。お店の人も別に私に声をかけてた感じじゃなくて。しかも日本語だったし。最初のうちはちょっと怖かったんだけど、だんだん話を聞いてる内に私にこんなチョコレートのお菓子を作れ、って言ってるんだ、ってのが分かって。日本に帰ってからお父さんとお母さんに手伝ってもらいながらその通りに作ったらすごくおいしくてさ。」

「そんなのお父さんとお母さんもビックリしたんじゃないのか?」

「もちろん!すっごくびっくりして、日本に帰ってきたばかりなのにもう1回フランスに行く、もう1回お師匠さんに会わせてお菓子を食べてもらう、って言い出しちゃって。」

「すごくエネルギッシュだ…。」

「それでホントにもう1回フランスに行ってお師匠さんにお菓子を食べてもらったらお師匠さんもビックリしちゃってさ。私その時まだ小学生だったから中学生になったらこちらに来なさい、もっと勉強をさせてあげる、って言ってくれて、私もチョコレートが大好きだったからフランス留学して今に至る、って感じだったんだ。」

「何だか偉人の伝記の読み聞かせを聞いてる気分だ…。」

「そんな大したものじゃないって!でもやっぱりフランス行ってよかったと思ってる!いっぱい色んなお菓子を作れたし、それに…」

「それに?」

「やっぱなんでもない!」

「何だよ気になるじゃんか。」

「気にしなくて良いの!」

 

もう1個の方を言いかけて甘寺は顔を真っ赤にして言うのをやめてしまった。すごく気にはなるが本人が言いたくないのであればこれ以上追求するまい。

 

「お!なんかうまそうなモンが並んでんじゃーん!」

「これは壮観だね。」

「それなら私は飲み物を淹れてきましょうか。」

 

そんな話をしている内に偶然食堂にみんなが集まってきてちょっとしたチョコレートパーティーになっていた。お菓子を食べながら仲良く談笑するみんなの姿を見ながらこんな日常がずっと続けば良いと思った。

 

 

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「午後10時になりました。ただ今より夜時間となります。食堂はロックされますので速やかに退出してください。それではよい夢を。お休みなさい。」

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

「ボードゲームってのは色んなものがあって面白いよな。」

 

 

「その中でも将棋なんかは特に古い歴史を持ってると言われるんだぜ。」

 

 

「ちなみにその起源はインドにあるらしいぜ?」

 

 

「チャトランガっつーゲームらしいんだけどよ、」

 

 

「チェスなんかとも起源を同じくするらしいぜ。」

 

 

「伝統的なゲームっつーのは色々あるけどよ、」

 

 

「こういうのは大事にしてかねーといけねーよな!」

 

 

「そうしねーと国としてのアイデンティティがなくなっちまうからな…。」

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り9人




今回はここまでです!玉城君と甘寺さんのバックボーン、楽しんでいただけたでしょうか?楽しんでもらえてたら嬉しいです!意外と不可ぼれてなかった2人なので今回その機会を取れて嬉しいです!もうちょっとだけ日常編が続きますのでご安心を!

そして今回の設定裏話は第3章のサブキャラ紹介です!今回は特に事件に関わった1人について紹介していきたいと思います!
今回紹介したいのは比嘉蹴次郎くんです!苗字を見てもらえば分かるとおり、比嘉君の関係者です!もっと言うと比嘉君の弟に当たるわけですが、彼も素晴らしい空手家でした。本編で比嘉君が言っているとおり、何事もなければ彼が超高校級の空手家だったかも知れません。ですがある日、原因不明の病を発症し、裏路地で倒れてしまいます。そこに通りがかったのがライブに遅れかけて焦っていた山吹さんだったのですが、彼女は他の人が救急車を呼んでくれるだろうと無視して行ってしまいました。しかし、そんな裏路地を通るのは同じように焦っている人物がほとんどで彼はなかなか救急車を呼んでもらえず、やっと呼んでもらえたのは既に手遅れとなってからでした。比嘉君が山吹さんと弟の関わりを知っていたかは分かりませんが、この時の罪悪感が3章の事件の引き金となってしまったのは非常に残念です…。

ということで今回は以上です!!それでは次回もお楽しみに!!


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CHAPTER4 (非)日常編3

キーン,コーン… カーン,コーン…

 

「おはようございます。7時になりました。今日も一日元気で頑張りましょう。」

 

昨日は玉城と甘寺といろいろな話をすることができた。その中で2人がどんな思いを持ってその才能を持つことになったのか、とか2人の根幹に関わる話も聞くことができた。その満足感からかよく眠れたしすごくすっきりと起きることができた。何ならいつもより早く起きることができた。

 

「今日はすごく気分が良いし、俺が朝食を作るか。」

 

食堂に行くとやはりまだ誰も来ていなかった。まあ、他のみんなと比べると大したものは作れないのだが、涼風が大騒ぎを起こしたとき以来だしたまには普通の朝食でも意外と目先が変わるかも知れない。

そんなことを考えながら味噌汁を作っているとそこにちょうど畔田がやってきた。

 

「水島さん、おはようございます。今日は一段とお早いですね。」

「ああ、おはよう。なんだか今日はすっきり目が覚めたんでな。」

「今日はお味噌汁ですか。いいですね。恋しくなっていたところです。」

「だろ?夕飯とかも結構重いものが続いてたしたまにはこういう胃に優しい朝食も良いかと思ってな。」

「確かにそれは賛成ですね。カロリーのあるものばかり食べているせいで最近お嬢が丸くなってきた気がします。」

「…お前、それ絶対にアンリに言うなよ?投げられるぞ?」

「もちろんです。それとなく忠告はさせていただきますが…。」

「ま、それは必要だよな。」

 

とそんな話を畔田としながら朝食の準備をしている内にだんだんみんなが集まってきて配膳の手伝いをしてくれた。

 

「お、今日は古き良き朝ご飯って感じだな!」

「味噌汁ってすごくあったまるよねー。」

 

どうやらたまにの普通の朝食は結構好評らしい。

朝食を食べ終わって片付けが終わったところでちょっとみんなでゆっくりしていると、唐突に奴が現れた。

 

「オマエラご機嫌麗しゅうだぜ!!」

「帰れ。」

「冷たいんだぜ!?」

「当たり前だろう。お前が来ると大概ロクな事にならん。」

「全く、オレへの信頼度が低すぎるんだぜ。せっかくオマエラに良いものを持ってきてやったってのによー。」

「いいもの?なんだいそれは?」

「そいつはな…?」

 

といいながらモノトラはどこからともなく人数分のDVDケースを取り出した。

 

「コイツだぜ!」

「そのDVDは一体何です?」

「コイツはな、学園の外の今の状況を映した映像だぜ!オマエラにはこれを見て外に出たいって気持ちを高めてもらおうって算段だぜ!!」

「動機じゃねーか!!ふざけんな!!」

「ま、見るかどうかはオマエラの自由だが、少なくとも見た奴はこっそり殺人の計画を立てるかも知れねーな…。ってな訳でじゃあな!!」

 

好き勝手な事だけ言ってDVDを置いたらモノトラはいなくなってしまった。

 

「…どうすんだよこれ…。」

「見る意味はないだろう。廃棄するのが一番だ。」

 

そう言って玉城はDVDを取り出して少し段差のあるところに置くと思い切り踏みつけた。が、DVDは壊れることはなかった。それは畔田が踏みつけても変わらなかった。

 

「どうなってんだこりゃ?」

「きっと私たちが壊せば良いという考えに至るところまでは想定済みって事だろうね。」

「どうしよっか…。」

「…逆に見るか?」

 

俺がぽそっと漏すと全員の視線が俺に向いた。

 

「水島オメー何言ってんだよ!そんなんアイツの思うつぼだろうがよ!」

「だけど結局ここで見なくてもここからは誰が見て誰が殺人を起こそうとしてるのか考えてるのか疑心暗鬼の状態で過ごさなきゃいけないのは変わらないだろ?だったらいっそのこと全員で見てそれでも殺人を起こさせないってすれば良いじゃないか。」

「そりゃそうかもしんねーけどよー。」

「あたしは水島に賛成かな。」

「涼風…。」

「みんな不安ならきっとみんなで支えられるよ!」

「…そうだよな。ああ、きっとそのはずだ。」

「それなら視聴覚室で見るのが良いだろう。別に内容は言わなくてもいい。興味もないしそれぞれの事情があるだろう。」

 

玉城がみんなに提案をしてくれるなんて珍しいが、それだけ俺達に心を開いてくれてるということかも知れない。玉城の提案を受けてみんなで視聴覚室でDVDの中身を見ることにした。

 

 

 

視聴覚室に入ると、それぞれの机がブースのようになっており、そこにはそれぞれモニターとDVDプレーヤーが付いていて、モニターにはヘッドフォンが付けられるようになっていた。

 

「みんな、覚悟は良いな?」

「もちろんだよ。」

「大丈夫!」

 

それぞれで合図を取った後、各々がヘッドフォンを付け、DVDを再生する。程なくしてモニターに映像が映った。

 

 

 

-水島輝の動機ビデオ-

 

「水島輝君は特段変哲のない、普通の中流家庭の出身でした。」

 

「普通の家庭と違うところを挙げるとすればそれはお父さんがいないことくらいでした。」

 

「ですが、離婚しただけで養育費はきちんと支払ってくれていたし、お母さんも普通に働いていたので経済的に困窮することもなく暮らすことができていました。」

 

母のことを写した写真がスライドショーのように移り変わってゆく。

 

「それでも女手1つで自分のことを育ててくれたお母さんの事を水島君自身も非常に尊敬していました。」

 

「そんなある日、水島君の元にとある通知が届きました。」

 

「希望ヶ峰学園の合格通知書です。」

 

「水島君は喜びました。」

 

「『これで母を少しは楽にしてあげることができる』と。」

 

「そして母も快く送り出してくれたので水島君は希望ヶ峰学園の入学を決めたのです。」

 

「しかし、水島君の学校生活にも、お母さんにも大きな変化が起こりました。」

 

画面が暗転する。そして、次に画面が明るくなったときにはズタズタになった俺の家。そして所々に飛び散った血の跡。

 

「水島君は希望ヶ峰学園に閉じ込められてコロシアイに参加させられている訳ですが、お母さんの方は一体どうなってしまったのでしょうか?」

 

「正解は『卒業』の後で!」

 

 

 

「…っ!!」

 

母さん!?アイツは一体母さんに何をした!?無事なのか!?

ふと周りを見渡すと俺と同じように青い顔をしたみんながそこにいた。もしかしたら俺は大きな判断ミスをしたのかも知れない。ここまでのビデオが放り込んでくるなんて…。いや、有浜の事件ののことを思えば想定はできたはずだったのに…!!

 

「輝君っ!」

「!!甘寺か…。」

「大丈夫…?顔、真っ青だよ?」

「…ああ、大丈夫だ。そっちこそ、大丈夫か?」

「ちょっとショックだったけど大丈夫…。」

 

そうしている内にみんなも見終わってこちらに来ていた。

 

「…水島、やっぱ見といてよかったわ。」

 

薬師が最初に口を開く。

 

「こんなの1人で見たら俺、どうなってたか分からねえし、それに、見なかったとしてもこんなの見た奴が殺しを計画すると思うと、ゾッとする。」

「ええ、水島さんのおかげで覚悟が決まりました。」

「うんー、輝くんのおかげだねー。」

「みんな…。」

 

みんなの反応を見る限り、俺のやったことはあながち間違いではなかったのかもしれない。みんなで動機ビデオを見ることで一層みんなでコロシアイをこれ以上起こさせないという気持ちが高まった気がする。

みんなの絆が強まったところで昼食まで一度解散することにした。

 

 

 

その後昼食を摂ってすぐ、時間が空いてしまったので俺は音楽室に行ってそこのCDでクラシックでも聴くことにした。

音楽室に行くと、扉を開いた瞬間に美しいピアノの音色が聞こえてきた。ステージの方に目を向けると畔田が一人でピアノを弾いていた。そのピアノの音色に聞き惚れていると畔田がこっちに気付いてピアノを引く手を止めた。

 

「おや、水島さんですか。どうされたんです?」

「ああ、邪魔して済まない。綺麗な音色が聞こえてきたものでな、つい聞き入ってたんだ。」

「いえ、拙い演奏で申し訳ない限りです。」

「そんなことなかったぞ。すごい上手かった。」

「そうであればよいのですが…。」

「それにしても畔田、ピアノ弾けたんだな。」

「ええ。」

「やっぱりアンリのところで弾いてたのか?」

「はい、お嬢の元で弾かせていただいていました。」

 

超高校級の執事ともなるとピアノも弾けなければいけないのか…。すごく大変だな…。

 

「ちなみにピアノを弾くようになったのってアンリに弾けるようになれとか言われたのか?」

「まあ、そんなところではあるのですが、そんな大したエピソードはないですよ?」

「それでもいいから聞かせてくれよ。」

「それでは僭越ながら。そもそもの話なのですが、本来ピアノを習っていたのはお嬢の方なのです。」

「アンリが?」

「はい。旦那様の方針で、シャークネード家の令嬢たる者全ての文化にも一通りは触れてなければならない、ということで音楽の方はピアノを習う、ということになっていたのです。ですが、お嬢はあるときレッスンに行くのが億劫になってしまったのです。」

「意外だな。アンリがそんなことを考えるようなイメージないけどなぁ。」

「幼少期のお嬢は結構お転婆だったのです。」

「まあ、プロレスにハマってるってだけでもよく考えたらかなりお転婆だったな…。」

「そういうことです。そしてピアノのレッスンに行くのが億劫になってしまったお嬢は私を身代りに差し出したのです。」

「身代り?」

「ええ。畔田は私の専属の執事、いわば私と一心同体の存在だ、だから私の代わりに畔田がレッスンに行っても私がレッスンに行ったことになるはずだ、と。」

「なかなかな理論の飛躍だな…。」

 

そう言う俺に畔田は苦笑いを浮かべる。

 

「そうですよね。ですが主である以上私もお嬢に逆らうわけにはいかないので仕方なくお嬢の代わりにピアノのレッスンに行っていたのです。」

「そうしている内に畔田の方がピアノを弾けるようになってしまった、と。」

「そういう訳です。まあ、教養のなかった私がこんな特技を身につけられたのでお嬢には感謝しているんですけどね。」

「そうか。」

 

全く、幼少期の頃のアンリは俺が思っていたよりもお転婆なお嬢様だったようだ。

でも、畔田の意外な一面を知ることができてちょっと嬉しい気分になって俺は音楽室を後にした。

 

 

 

畔田と別れた後、俺はラウンジに行ってそこでコーヒーを飲みながら推理小説を読むことにした。人もあまり通らないので集中して本を読み進めることができた。そんなこんなでくつろいでいるとちょうどそこに涼風が通りがかった。

 

「あれ、水島じゃん。こんなところで何してんの?」

「ああ、推理小説を読んでるんだ。」

「ホントに好きなんだねー。だから学級裁判でもあんなに鋭い推理ができるの?」

「まあ、そうかもしれないな。別にそのために読んでるわけではないし、読んでることがそんなことに活きてるのは不本意だけどな。」

「それもそっか。」

「好きと言えば涼風はよく俺に限らずみんなのことをランニングに誘ってるけど、お前も本当に走るのが好きなんだな。」

「まあね!走るのが大好きすぎて走ることしかしてないまであるよー。」

「それはそれでどうかと思うが…。それにしてもなんでそんなに走るのが好きなんだ?」

「うーん、あたしが体を動かすのが好きだってのもあると思うけど何より走ってる間は色んな事をゴチャゴチャ考えないで済むからかなー。」

「どういうことだ?」

「あたしんちね、すっごく貧乏だったんだ。だからゲームどころか本も中々買ってもらうことができなくて。そんなんだからあたしが何か遊ぶって言ったら周りの子と色々体を動かして遊ぶくらいしかなくてさ。」

「なんか、すまん…。」

「謝んないでよ。あたしが勝手に喋ってるだけだし。でね、中学に入ったときに絶対に何か部活に入らなきゃならないってなってさ。そこであたしが選んだのがスパイクだけ買えばやれる陸上だったんだ。競技を選ぶってなったときに結局あたしは何か道具が必要なものはやれないって思ってたしちょうど一番適性があるって言われたのもあって長距離をやることにしたんだ。」

「なるほどな…。」

「もちろん周りの子はゲームとかやってるわけだし、中学生にもなると周りのみんなはおしゃれもしてるから最初はそれが全部できなくて辛かったんだけど走ってるとそういう嫌なこと全部忘れられたし、そのうちに記録がどんどん出るようになったしですっごく走るのが好きになってったんだ。そんで今となっては全然走ること意外興味なくなっちゃった!」

「…強いんだな。」

「んー、そうかなー?あたしが単純なだけだと思う!」

 

そう言って涼風はにかっと笑う。やっぱり涼風は強い。きっとだからこそ彼女は超高校級の長距離ランナーたりえるのだと思った。

その後すぐに涼風は部屋に戻っていったので俺はその場で読書に戻った。そして時間はゆったりと過ぎていった。

 

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「10時になりました。ただ今より夜時間となります。食堂はロックされますので速やかに退出してください。それではよい夢を。お休みなさい。」

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

「マラソンってのは起源が一番古いスポーツだとも言えるよな。」

 

 

「古代ギリシャの戦争でのエピソードが起源だっていう説が一番有名だよな!」

 

 

「だけどよ、ホントにこのエピソードが起源ならよ、」

 

 

「人間ってのはつくづく悪趣味な生き物だよな!」

 

 

「だってよ…」

 

 

「そのマラソンの起源となった戦争の走ってきた兵士ってのは」

 

 

「最後に力尽きて死んじまってんだからな…。」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の執事       畔田鋼之助(クロダコウノスケ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り9人




はい、という訳で今回は第4章の動機編でした!!さあ、ここからどのようにコロシアイが起こってしまうのでしょうか…。誰が誰を殺そうとしているのか、乞うご期待です!!

それでは今回の設定裏話のコーナーです!今回のお題は第3章のおしおきの裏話です。
第3章、超高校級の図書委員・太宰直哉くんのおしおきのタイトルは「エンドマーク」です。まずエンドマークというのは単純に映画のラストに出てくる“Fin”とか“完”みたいな文字のことです。なのでこの言葉をもって太宰君の人生が終わりを迎えることを簡単に示したいと思いました。そしてもう1つの意味合いが含まれています。それは“栞”です。本に挟むアレですね!アレを英語で表現すると“ブックマーク”となるわけですが、このブックマーク、と言う言葉の頭をエンドに変えることで巨大な本に挟まれて死ぬことになる太宰君の死に様を示している、という訳です。かなり端的に今回のおしおきの内容を表せたのではないか、と個人的には思っております笑。

という訳で今回は以上!!それでは次回をお楽しみに!!!


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CHAPTER4 (非)日常編4

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「おはようございます。7時です。今日も1日元気で頑張りましょう。」

 

昨晩はあの動機DVDの内容が頭から離れず、あまりよく眠ることができなかった。昨日の朝とは大違いだ。みんなで気持ちを再確認した分、コロシアイが起こる事なんてあり得ない、そう信じているはずなのにどうしても心のどこかで不安が澱みのようにへばりついて消えることがない。だからといってここで1人でボーッとしていても意味はない。不明瞭な頭を無理矢理たたき起こして俺は食堂に向かうことにした。

 

 

 

キッチンに入ると既に朝食の準備はかなり進んでいた。

 

「あれー、輝くん今日は遅いんだねー。」

「何だか昨日はよく眠れなくてな。申し訳ない。」

「ま、いつも準備してくれてるしたまには休んでくれって!」

 

遅れた事を謝罪すると薬師がフォローをしてくれた。やはりコイツは良いやつだと思う。

今日の朝食は九鬼が作ってくれており、昨日の非常に一般的な朝食とは打って変わって海賊らしい非常に豪快な朝食であった。

朝食とは思えないほど大量の食事を摂った俺達はみんなそれぞれ食堂で食休みをしていた。するとおもむろにアンリが立ち上がった。

 

「ところでみんなに提案があるんだけど良いかな?」

「提案?」

「言ってみろ。」

「単刀直入に言おう。パーティーをしないかい?」

「パーティー?」

「いや、実を言うとね、最初の頃から考えていたんだけど色々あって提案もできずにいたんだ。でもね、こういう状況でここまで人数が減ってきてしまっているからこそ、ここで一度更に親睦を深めるイベントをできないかと思ってね。」

 

アンリは心の裡をそう明かす。

 

「いいんじゃねえか?たまには大騒ぎしようぜ!」

「みんなでなんの料理食べるか決めようねー。」

「あ、それならよー、この前結局できなかったしゲーム大会も一緒にやろうぜ!!」

「あ、いいねそれ!」

 

アンリの言葉からあまり間を置かずみんなから賛同の声が上がった。そんな様子を見てアンリもホッとした顔をしている。

しかし逆に近くにいる畔田は何か浮かない顔をしていた。俺は畔田のもとに近寄ってこそっと声をかけた。

 

「…畔田、浮かない顔をしてるけどどうしたんだ?」

「…いえ、これまでこういうイベントの直前に事件が起こってきたので少しだけ不安があるだけです…。」

「…まあ、その不安はしかたないな。」

 

畔田の不安の声を聞いて俺は1つ提案をすることにした。

 

「なあ、それならみんなで準備しよう。」

「みんなで?」

「ああ。パーティーをするなら色々準備が必要だろ?料理の献立だって考えなきゃならないし、会場の飾り付けもしなきゃならないし、それにゲーム大会のプログラムも考えなきゃならないだろ?だからみんなで班分けして準備をしようと思うんだけどどうだ?」

「それがいいね!ちょうど9人だし3人ずつがいいかな?」

「それがいいな!じゃあどう班分けするよ?」

 

3人ずつ班に分かれて準備をすればそれぞれの監視ができる。そうすれば中々コロシアイのための行動は起こしにくい。これなら畔田も安心できるだろう。

 

「…こうすればコロシアイは起こしにくいだろ?」

「…ええ、お気遣い痛み入ります。」

 

そう畔田は言った。だけどやはり彼の顔があまり晴れなかったのは少し気になった。

 

 

 

さて肝心の班分けだが、料理班が俺、甘寺、九鬼の3人、会場準備が薬師、畔田、涼風の3人、ゲーム大会準備が玉城、アンリ、久見となった。

 

「さて、じゃあ献立を決めるか。」

「そうだな!!」

「じゃあ何にしよっか?」

 

今回のパーティーの献立の決定権は俺達3人に完全に委ねられた。好きなものを選ぶ自由がある分責任も重大だ。

 

「ぜってー肉は外せねーよな!」

「それだったら焼くのと揚げるのどっちもほしいね。」

「どうせなら魚とか海鮮のものも用意しないか?」

「お、いいねー。」

 

と意外と順調に会議は進んでいく。

30分も会議をしたら大体の献立は決定した。今回のパーティーでは和・洋・中世界中の、そして肉や魚、野菜を使った様々かつ豪華な料理が作られることになった。更には甘寺の協力により様々なチョコレート菓子がデザートとして出されることになった。

 

 

具体的な料理が決まったところで俺は他の2人と一緒にキッチンにあるだけでは足りない材料とパーティーの中で飲む飲み物を取りに倉庫へ向かった。その途中食堂へ出ると、そっちはそっちで大がかりな準備が始まっていた。

 

「おー、3人ともどうしたん?」

「ああ、足りない材料とか飲み物とかを取りに倉庫にな。そっちも中々進んでるじゃないか。」

「おうよ!涼風がデザインを監修してくれてんだけどよ、これが中々どうしてセンスが良いんだ!」

「まだ飾り始まってなくて見取り図もねーのに分かんねーよ。」

「あ、すまん。」

「パーティー用のモールなども倉庫に置いてあったのでかなり準備がしやすいですよ。」

「なんで学校の寄宿舎にパーティーをする前提のものが置いてあるんだ…?」

「うーん、元々の希望ヶ峰学園の生徒は結構パーティーとかやってたのかもね?」

「まあそこのとこはよく分かんないけどそれであたし達がパーティーできるんだし良いんじゃない?」

「ま、そうだな!」

 

 

そんな会話をした後俺達は3人で倉庫に向かった。

 

「えーっと、足りないのは何だっけ?」

「確か…、スパイス類と油、あと一応小麦粉も持っていきたいな。」

「飲み物こっちにあったぜ!」

「じゃあ俺が小麦粉を持ってくから2人は飲み物とスパイスと油を持ってってくれ。」

「おう!」

「分かった!」

 

さすがに女子に持たせるのはと思って小麦粉を俺が持ったんだがやっぱり袋入りの小麦粉はかなり重いな…。

 

 

倉庫から俺達が戻ってくるとゲーム大会班が戻ってきていた。みんなでやれそうなゲームを中身を確認した上で持ってきたのでそれをとりあえず置きに来たのだという。トランプからボードゲーム、その他にも色んなものを持ってきていた。

 

「やあ、大荷物だね。」

「2週間も共同生活してるとパーティーするほどは足りなくなってたりするんだよな。」

「それにしてもいろいろ持ってきたねー。」

「相談してる内に食いてーもんがいろいろ出てきちまってな!ま、楽しみにしててくれよ!!」

「…食い切れなくてもしらんぞ。」

「そこは頑張るって事で!」

「おい。」

 

更にそこに会場準備班も加わってきてみんなで楽しく喋ってしまった。ちょうど全員集まっているところでここで一旦少し早めのお昼にすることにした。

 

 

お昼を食べた後はゲーム大会班は得点表など大会運営の準備、会場準備班は作業の続き、俺達は本格的に料理に入ることにした。今までは食事の準備は担当者がそれぞれ1人で行っていたのであまり気になっていなかったが、ここのキッチンの設備はかなり整っている。コンロもそこそこの数があるので、揚げ物、炒め物、焼き物などを同時並行で作ることができた。

 

「こいつぁ結構忙しいな!」

「ああ。だけど設備が整ってくれてるおかげでかなり進んでるとは思うぞ。デザートの方はどうだ?」

「こっちも結構進んでるよー!」

「よし!中華の下ごしらえは終わったぜ!」

「こっちの洋食の方も後は火を通すだけだ。」

 

こうして忙しく準備をしている内にどんどん時間が過ぎていった。そしてパーティの開始時間が近づくにつれてどんどんみんなが食堂へと集まってきた。完成した料理を運ぶためにキッチンから出るといつもの食堂が豪華に飾り付けされていた。

 

「これはすごいな。」

「言ったろー?」

「ええ、涼風さんはホントにセンスがいいです。ほとんどデザインの調整をせずに済みましたから。」

「えへへ、それほどでも?」

「でも畔田がデカいおかげでかなりスムーズだったぜ?だってライトの支柱くらいならテーブルに乗れば届いちまうんだからな。」

「あの支柱に?随分高くないか?」

「背伸びして腕を伸ばせばなんとか紐を結ぶくらいは。腕が長いのです。」

「さすがだ…。」

「それにしても料理も豪華だねー。」

「俺達3人で腕によりをかけたぜ!」

「超うまそうだ!」

 

 

 

そしてそこから5分もしたら全員が揃って席に着き、パーティーが始まった。アンリが乾杯の音頭を取ってそこから一気にみんなで料理を食べ始まった。

 

「うお、この麻婆豆腐すっげえうめえ!!」

「へーん、だろー?コツがあんだぜー!」

「唐揚げもカリカリでおいしいー!」

「ああ、それもコツがあるんだ。後で教えてやるよ。」

「ラザニアもそれぞれの素材がお互いを引き立たせ合っておいしいね。」

「焦らずじっくり焼くのがコツだよ!」

「これは参考になりますね…。」

 

まずは温かいうちにみんなで料理に舌鼓を打つ。中々好評なようで俺達3人で頑張って作った甲斐があるというものだ。実際お互いが作ったものもお互いで食べたが、やっぱりすごくおいしいと思った。

食事がかなり進んできたところで今度は久見が立ち上がった。

 

「よーし、宴もたけなわなところでゲーム大会を始めるよー。」

「っしゃあ負けねえぞ!」

「それじゃあルール説明をするよー。」

 

ルールは3つのゲームをやり、それぞれのゲームの結果に応じて全員にポイントを割り振る。そしてそのポイントの合計が1番高かった人物が勝者だ。ちなみにこれは前の学級裁判の前、みんなで計画していたゲーム大会のルールだ。

 

「よっしゃ上がり!!」

「なんだって!?」

「涼風お前顔に出すぎだ。」

「うあー!」

「待って待って、わっかんねー!!そんなカタカナ語あったか!?」

「あるからクイズになってる。」

「うーん、あ、これかなー?」

「正解だ。」

「よく気付きましたね。」

「ふふーん、漫画を描くために色んな言葉も調べてるんだよー。」

「俺が占い師だ。」

「おーっとちょっと待てよ!俺が占い師だ!」

「占い師が2人か…。盛り上がってきたね…。」

「どっちかが人狼か狂人だよね…。どっちだろ…。」

「にしてもわざわざここでまで推理してるとはな…。」

 

9人までメンバーは減ってしまったけど、やっぱりこうやってみんなでやってるとすごく楽しい。こうして3つのゲームを終えて点数を集計する。ちなみに人狼ゲームはお互いの貢献度に応じて点数を割り振った。

 

「それじゃー優勝を発表するよー。優勝はー、輝くん!!」

「俺か?」

「うあーやっぱりかー!」

「いや、初っぱなババ抜き全揃いはエグいって!」

「あれは“超高校級の幸運”の面目躍如、って感じだったね。」

「人狼も強かったですしね。」

「将棋さえあれば…。」

「おお、珍しく玉城が負け惜しみを言ってるぞ…。」

 

ゲーム大会が終わったところで甘寺が一度キッチンへ戻り、冷蔵庫に冷やしてあったデザートを持ってきた。そしてみんなでデザートに舌鼓を打った。そしてデザートを食べ終わると時間は8時半を回っていた。6時からパーティーを始めていたのに時間が経つのは早いものだ。惜しみつつではあるがここでパーティーをお開きにしてみんなで片付けをした。ここまで3度の学級裁判を乗り越えてきた俺達にかかれば片付けなんて一瞬。30分もしたら食堂はもういつもの食堂に戻っていた。

 

「また明日からはいつも通りの日常だな。」

「ええ。」

 

近くにいた畔田に声をかける。

 

「最初はちょっと不安もありましたがみんなで無事楽しくパーティーをすることができてよかったです。」

「ああ、そうだな。」

「水島さん、やはり貴方はすごい人です。貴方の言った通りになった。」

「いや、そんな大した人間じゃないよ。俺もコロシアイを起こさせたくなくて一生懸命なだけだ。」

「…そうですか。」

 

他のみんなはいつの間にか部屋に戻ってしまっており、既に食堂はがらんとしていた。2人きりの食堂で俺と畔田は静かに会話をしていた。いろいろな話をした。そして最後に畔田は俺に1つ質問をしてきた。

 

「水島さんは外に出たら何をしたいですか?」

「何だよ急に。でもまあ、あんなビデオを見せられた後だし、母さんの安否は確認したいかもなあ。まあそのために誰かを殺そうなんて死んでも思わないけど。」

「…ですよね。」

「そういう畔田は?」

「…そうですね。お嬢といろいろなところを旅してみたいかも知れないですね。こんな目に遭った後だ。社員の皆さんも多少の自由は許してくださるでしょう。」

「いいな。どうせなら9人みんなで旅行ってのもアリだな。」

「いいですね、それ。どこに行きます?」

「うーん、俺は海外とか行ったことないから海外は行きたいなぁ。」

「私もイタリアなど行きたいですね。」

「いいな、それ。」

 

その後数秒の沈黙が流れる。

 

「よし、じゃあ部屋に戻るか。」

「ええ、そうですね。私はトイレに行ってから戻りますのでお先にどうぞ。」

「まあ、結構食事も重かったしな。分かった。先に戻ってるよ。じゃあお休み。また明日な。」

「ええ、お休みなさい。」

 

こうして食堂で俺達は別れた。もしここで待っていればあんなことにはならなかったかも知れないのに。そんなこととはつゆ知らず、俺は1日準備をしていた疲れとみんなで楽しんだ満足感もあって早々に眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「おはようございます。7時です。今日も1日元気で頑張りましょう。」

 

あー、よく寝た。けれど昨日の満足感もあってしっかり眠れたので今日はすっきりと目が覚めた。さて、今日も朝食の準備に向かうか。

 

 

朝食を準備しようと部屋を出ると扉の外にいた誰かとぶつかってしまった。

 

「ああ、すまん。大丈夫か?」

「水島君!早く食堂に来てくれないか!?」

「どうした!?」

「私はみんなを呼んでくる…!水島君は早く食堂に…!」

「ああ!」

 

アンリの指示を受けて食堂に入る。

 

 

 

見ようと意識するまでもない。アンリの狼狽の理由は入ればすぐ分かった。

 

 

 

 

 

 

いや、俺も狼狽はしていた。頭は回っていなかった。

何でこんなことになったのか。昨日、また明日と約束していたはずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

首に掛かった1本のロープに全てを託し“超高校級の執事”畔田鋼之助は命を放棄していた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

CHAPTER4 死に逝く者に蜘蛛の糸を 非日常編

                   

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【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り8人




はい、と言うことで今回は少し趣向を変えて(非)日常編4のラストで事件を起こしてみました。明日会うことを約束していたはず人物が死体で発見される、非常に深い絶望ですね…。この事件の真相はどこにあるのでしょうか…?


それでは今回の設定裏話に参りましょう!今回は「超高校級の特技」です!

水島輝→ババ抜き
「何だか分からないんだけど絶対最初に上がるんだよな。」

甘寺心愛→植物栽培
「時にはカカオを自前で育ててるからかなぁ?」

薬師弾→サバゲー
「ほぼ自分の才能と一緒だけどな笑」

玉城将→折り紙
「集中力の訓練になるぞ。」

二木駆→ナンパ
「結構確立高いんだぜ!」

涼風紫→デザイン
「よく分かんないんだけどセンスが良いんだって!」

山吹巴→裁縫
「ぬいぐるみを自作すんのさ。悪いかよ?」

有浜鈴奈→声帯模写
「声の仕事もたまにしてるのよ。」

アンリ・シャークネード→プロレス技
「畔田を実験台にしてきたからね。」

畔田鋼之助→ピアノ
「お嬢の代わりですね、これは。」

久見晴香→クイズ
「漫画のために色んな知識を入れてるからねー。」

太宰直哉→ホームページ作り
「ブログの延長かな。」

美上三香子→どこでも寝られる
「うーん、どこでも絵を描いてたからいつの間にかね。」

青山蓬生→見ただけで3サイズが分かる
「スーツを作っているうちに見ただけで分かるようになりましたね。」

比嘉拳太郎→利きポテチ
「一時期ほぼポテチしか食べてなかったからな!」

九鬼海波→体内時計
「電波時計にゃ負けねーな!」


さて、次回は捜査編に突入します!乞うご期待です!!


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CHAPTER4 非日常編-捜査-

…どうしてこうなった…?昨日「また明日」ってそう言って別れたじゃないか…!

そうしているうちにみんなが食堂に集まってきた。

 

「畔田…?」

「嘘…!」

「そんな…!!」

 

みんなが集まってくると同時に最後の希望を打ち砕くアナウンスが流れる。

 

ピンポンパンポーン…!

 

「死体が発見されました。一定の捜査時間の後学級裁判を行います。」

 

アナウンスの流れた直後、よろよろとアンリが畔田の近くに歩いて行き、そこで膝をついた。

 

「畔田…!畔田!なんでっ!なんでこんなことにっ!!うああああああ!!!」

 

食堂に響き渡る慟哭。アンリは心のどこかで畔田の死を否定していたのかも知れない。きっと、まだ生きているはずだと。だがその最後の希望は死体発見アナウンスによって完全に打ち砕かれた。

膝をついたまま更にアンリは畔田に近寄っていき足に縋り付こうとする。しかしその前に玉城が立ち塞がった。

 

「泣き叫ぶのは勝手だが触るのは遠慮してもらおう。」

「おい!」

「いや、玉城の判断は正しい。こうなった以上学級裁判が行われるのは必至だ。死体に触って重要な証拠が消えてしまったら死ぬのは畔田だけじゃ済まない。」

「輝君…。」

「立ってくれ、アンリ。酷なことかも知れないがお前が膝を折っていたら俺達は前に進めない。」

「…ああ、すまない。少し取り乱した。もう大丈夫だ。捜査を始めよう。」

 

やはり彼女は強い。家族同様に育ってきた畔田を突然喪ったにもかかわらず立ち上がってみせる。そんな彼女に導かれるように俺達は前を向いた。

そんな俺達の元に奴は現れた。

 

「よお!どうやらやっぱりコロシアイが起こったみてーだな!!いっつもご大層なお題目だけのたまってオマエラはいつもそうだぜ!結局コロシアイが起こる。」

「やかましい。ものだけ置いてさっさと去ね。」

「おーおー、辛辣だねー。ま、無駄話をしてるのもなんだしコイツだけ置いてさっさと退散するとするぜ!」

 

モノトラはそう言うと全員にモノトラファイルを配っていなくなってしまった。

 

「ったくアイツはよー。」

「気にしたってしょうがないよー。」

「ああ、そうだね。手早く捜査に入るとしようか。」

 

 

 

-捜査開始-

 

 

 

 

 

「それじゃあモノトラファイルを見ていこうか。」

「ああ。」

 

モノトラファイル4。死亡したのは“超高校級の執事”畔田鋼之助。死因は頸部圧迫による窒息死。体の方には頸部の索状痕の他には目立った外傷は無し。死体発見現場は食堂で、首を吊った状態で発見された。

 

「こんなところか。」

「状況としては首吊り、なのか…?」

「おい、死亡推定時刻は書いてねーのか?」

「ああ、書いてない。事件の重要なキーになるのかも知れないな。」

 

 

コトダマゲット!

【モノトラファイル4)

死亡したのは“超高校級の執事”畔田鋼之助。死因は頸部圧迫による窒息死。索状痕以外に目立った外傷はない。死体発見現場は食堂で、首を吊った状態で発見された。死亡推定時刻に関しては記載されていない。

 

 

「そんじゃまず畔田を下ろすか。」

「さすがにつるされたまんまじゃかわいそうだもんな。」

「それに検死もしづらいしー。」

 

という訳で薬師が畔田を下ろそうと畔田のほぼ真下に動かしたテーブルに乗ろうとする。

 

「おい、そこ踏むなよ。」

「つっても真下はここだぞ?」

「だからだ。テーブルに足跡が付いてるだろう。」

「あ、ほんとだ。じゃあ靴脱ぐか。」

「随分デカい足跡だな。」

「…これは畔田の革靴の足跡じゃないかな。」

「確かに!」

 

 

コトダマゲット!

【テーブル)

テーブルの天板に畔田の革靴とおぼしき足跡が付いていた。

 

 

「にしても高えな…!背伸びしても…!あとちょっと届かねえ…!」

「じゃあ椅子に乗ってほどこうか。」

「ああ、そうする…!」

 

程なくして椅子がテーブルの上に上げられてそこに登った薬師が天井にわたっているライトの支柱から縄をほどいた。そして下にいた俺と玉城が畔田の体を受け取って床に下ろす。

 

「にしてもよくもまああんなところに結んだよな。」

「薬師君がテーブルに椅子を乗せてその上に乗ってやっとだもんね。」

「まあ、175cmはないと結んだりほどいたりできねえんじゃねえか?」

「じゃあ誰があそこに結んだんだ…?」

 

 

コトダマゲット!

【ライトの支柱)

天井に何本もわたっている。

かなり高い位置にあり、そこそこ高身長の人がテーブルの上に椅子を乗せたところにさらに乗ることでやっとロープを結んだりほどいたりできる。

 

 

「じゃあー、検死に入っちゃうねー。」

「ああ、頼む。」

 

それじゃ俺達はとりあえず食堂を捜査するか。

まず目に入ったのは椅子。ちょうど畔田が吊されていた足元のすぐ近くに倒れていた。どうやら甘寺も同じ椅子が気になったみたいだ。

 

「この椅子ってさ…、」

「まあ単純に考えたら首を吊るときの踏み台だよな。実際に椅子にも革靴っぽい足跡も付いているし。」

「あ、でもこれ見て!」

「ん?」

「ここ、椅子の脚!こんな傷他の椅子には付いてないし、普段の生活で付いた傷じゃないよね?」

「ああ、そうだな。…ん?」

「どうしたの?」

「いや、首吊りの踏み台にしたにしては座面の縁も背もたれも綺麗だなと思ってな。」

「綺麗?」

「ああ。だって首吊りをするならどっちかを蹴るだろ?だとしたらこんなに綺麗にはなってないと思ってな。」

「あ、確かに。」

 

この違和感は何だ?学級裁判に持っていった方が良さそうだな。

 

 

コトダマゲット!

【食堂の椅子)

吊された畔田の足元近くに倒れていた。

座面に革靴の足跡が付いていることから首吊りの踏み台にされたものと思われる。

椅子の脚に不自然な傷が付いているが、他の椅子には付いていない。また、逆に背もたれと座面の縁は首吊りの踏み台にしたにしてはどちらも綺麗。

 

 

椅子の周りを調べていると足元からカサッという音がした。

 

「ん…?」

 

拾い上げてみると透明なフィルムだった。何のフィルムだ…?

 

 

コトダマゲット!

【フィルム)

食堂の床に落ちていた。何に使われていたものかは不明。

 

 

「おーい、捜査中に何か飲んだの誰だ?」

 

捜査していると九鬼が指を指しながらそんな声を上げた。

 

「何だ?」

「いやよー、テーブルの上にグラスが置いてあっから誰かが飲み物飲んだのかと思ってよ?」

「いや、分からないが。」

 

他のみんなも心当たりはないようだった。

 

「ああ、それテーブルの上に放置されてたんだ!今テーブルを動かすのに除けたんだけどよ!」

「あー、なるほどな!」

「一応そのグラス見ても良いか?」

「?おお、いいぜ。」

 

グラスを見てみると中にまだ水が残っていた。

 

「水?」

「何だよ。」

「ああ、水が中に残ってたんだ。」

「どういうこった?誰も飲み物飲んでないんだろ?」

「俺も分からん。」

 

 

コトダマゲット!

【グラス)

食堂のテーブルの上に放置されていた。

グラスの中には水が残っていたが、捜査中に何かを飲んだ人は誰もいなかった。

 

 

とりあえずグラスをテーブルの上に戻して周りを見回すと玉城が畔田の首に掛かっていたロープを観察していた。

 

「玉城、ロープに何かあったか?」

「ああ、これを見てみろ。」

 

玉城に言われてロープの中程を見てみたが、特に目立った痕跡はなかった。逆に両端を見てみると重さが掛かったような痕が残っていた。

 

「これは?」

「見て分からんのか。このロープ、負担が掛かった痕が両端の方にしかない。言い換えると中央部の方は綺麗だ。つまり、このロープは他人が首を絞める用途では使われていない、ということだ。負担が掛かっているのも両端の結び目になっていた部分と畔田の首が当たっていた部分だけ。この考えは十中八九間違っていない。」

 

なるほど。ロープには他人が首を絞めるのに使ったとおぼしき痕跡はない、と。

 

 

コトダマゲット!

【ロープ)

ロープに負担が掛かっていたのは両端の結び目になっていた部分と畔田の首が当たっていた部分のみ。

その他の部分は綺麗で、玉城曰く首を絞める用途では使われていないだろうとのこと。

 

 

「あ、輝くんー、ちょっといい?」

「検死終わったのか?」

「うんー。で、結果を報告する前にまずはこれ!」

 

そう言って久見が手渡してきたのは何かの薬が入ったビン。よく見てみるとラベルには“睡眠薬”と書かれていた。

 

「この睡眠薬はどこから?」

「えっとねー、畔田君のポケットの中に入ってたんだよー。」

「何でこんなモンが?」

「あとね、中身が少し減ってたー。」

「つまり誰かが飲んだ、と。にしてもよく気付いたな。」

「ふふーん、実はちょっとしたコツがあるのだー。今は捜査中だから-、あとで教えたげるねー。」

「ああ。あとそれで検死の結果を教えてくれ。」

「あ、そうだねー。と言っても大したものは見つからなかったんだけどー、強いて言うなら首の索状痕かなー。」

「モノトラファイルにも書いてあったな。」

「そうー。その索状痕の形がねー、斜めに入ってたんだー。」

「斜めか…。ってことは首吊りだと?」

「お、そういうことー。」

 

踏み台があって首の痕も首吊りのものか…。

 

 

コトダマゲット!

【薬のビン)

睡眠薬のビン。畔田のポケットに入っていた。また中身が減っており、久見が言うにはちょっとした見分け方があるらしい。

 

【死体の状況)

首に残った索状痕が斜めに入っていた。これは首吊りの際にできる痕跡である。

 

 

さてと、とりあえず食堂の捜査はこんなところか。気になるものと言えば久見に渡された睡眠薬だけど、確かこれがあったのって化学室だよな…?ちょっと行ってみるか。

 

「あれ、水島どこに行くの?」

「ああ、ちょっと化学室にな。畔田のポケットに睡眠薬のビンが入ってたんだ。」

「あ、それならあたしも手伝う!その睡眠薬なら心当たりもあるしね!」

「それは助かる。」

 

涼風と2人で化学室に行き、薬品棚を調べて見る。

 

「あ、やっぱここにあったね!」

「ああ。」

 

確かここには薬品のリストがあったはずだ。大まかにではあるが2人で薬品の数を数えてみることにした。

 

「結局なくなってたのは睡眠薬が1個だけだったね。」

「ああ。殺人に使いやすい薬品なんか他にたくさんあるんだけどな。」

「もう、物騒なこと言わないでよ!」

「ああ、すまんすまん。」

 

実際、睡眠薬より使いやすい薬品はあったろうに。

 

 

コトダマゲット!

【薬品棚)

日常で使う常備薬から強力な毒薬まで幅広く置いてある。中には睡眠薬も置いてある。

 

【薬品リスト)

化学室の薬品棚に置いてある薬品の種類と数が全て記載されている。実際に調べて見たところ睡眠薬だけが1つなくなっていた。

 

 

数えるために外に出していた薬品を片付けながら俺は目に付いた睡眠薬の箱を1つ手に取る。箱の側面には睡眠薬の効能と用量が書いてあった。

 

『この睡眠薬は即効性です。持続時間は9時間となります。寝る前に1回3錠をお飲みください。ご使用の際は用法・用量を守ってお使いください。』

 

「なるほど、飲んだらすぐに眠ってしまう訳か…。」

 

 

コトダマゲット!

【睡眠薬の箱)

側面には効能と用量が書いてある。

即効性で持続時間は9時間。1回3錠。

 

 

そう言えば涼風がさっき気になることを言っていたな。

 

「そう言えば涼風さっき睡眠薬には心当たりがあるって言ってたよな?」

「あ、そうそう!えっと一昨日だったかな?畔田があまり眠れてないって言っててさ、だから化学室に睡眠薬があるよって教えてあげたんだ。」

「なるほど、じゃあポケットに入ってたのはこれか…。」

 

 

コトダマゲット!

【涼風の証言)

畔田は最近あまりよく眠れていなかった。そのため化学室の睡眠薬のことを教えた。

 

 

「でもなんで持ち歩いてたんだ?」

「あ、確かに!部屋とラウンジ以外じゃ寝ちゃダメってなってたよね?」

「ああ、それが気になってな。」

 

本当にどうして持ち歩いてたんだ?

 

 

コトダマゲット!

【夜時間のルール)

寄宿舎の部屋とラウンジ以外では眠ってはならない。

 

 

その後食堂に戻るとみんなが久見から検死の報告を受けていた。内容はさっきと同じ。報告が終わるとアンリが畔田のもとに近づいていった。

 

「全く、こんなところで死ぬなんて執事としての自覚が足りていないんじゃないかい…?」

 

そう告げて彼の顔に手を当てる。その頬には一筋の雫が伝っていた。

 

「…アンリ…。」

「ああ、水島君か。済まないね、情けないところを見せてしまった。」

「いや、仕方ないさ。」

 

そう言えば第一発見者はアンリだったはずだ。発見当時の話を聞いておこう。

 

「なあ、アンリ。第一発見者はお前だったよな?」

「ああ、そうだとも。それがどうしたんだい?」

「発見当時の話を聞きたくてな。」

「そういうことかい。それなら。私は今日少し早く目が覚めたのでね、朝のアナウンスの直後に食堂に入ったんだ。でそこで畔田が首を吊っているのを見つけた、という訳さ。」

「なるほど…。」

 

ということは朝誰よりも早く起きて、という訳ではなさそうだな。

 

「ただ少し気になる点もあってね。」

「気になる点?」

「ああ。私が朝一で発見したと言うことは死んだのはパーティーの片付けの後から夜時間の前、ということになるだろう?」

「夜時間の間は食堂には入れないしな。入ったらおしおきだし。」

「ということは1時間くらいでよくもまあその決断をしたな、と思ってね。」

「確かにな…。」

 

 

コトダマアップデート!

【夜時間のルール)

寄宿舎の部屋とラウンジ以外で眠ってはならない。

夜10時から朝7時までの間は食堂には入れない。

 

 

「さて、水島君。私はこれから一応畔田の部屋に行ってみようと思っているんだが、君も一緒に来るかい?」

「ああ、ご一緒させてもらおう。」

「待て。それなら俺も行く。」

「人手は多い方が良いからね、助かるよ。」

 

アンリの提案に乗って俺と玉城が畔田の部屋に行くことになった。

畔田の机の上には分かりやすく遺書とおぼしき書き置きが置いてあった。

 

『お嬢を始めとする皆様へ

 私、畔田鋼之助は動機DVDの内容にいたく絶望致してしまいました。そのため、自らこの命を絶つことに致しました。先立つ不孝をお許しください。

                                  畔田鋼之助』

 

「これはどう見ても遺書だな。ご丁寧にサインも書いてある。」

「DVDの内容か…。アンリは心当たりはあるか?」

「いや、ないね…。」

「それにしても遺書を書くのに部屋のメモパッドを使ったんだな。」

「一番目に付くからな。…おい、これを見ろ。」

「これ、とは?」

「メモパッドが2枚使われている。」

「書き間違いでもしたんじゃないか?」

 

そう思って部屋のゴミ箱を見てみるが何も入っていなかった。

 

「と思ったんだがどうやら書き直ししたわけでは無さそうだな。」

「普段のメモなら逆に1枚しか使っていないはずはないしな。」

「畔田は普段のメモなら自前の手帳に取っていたよ。常に肌身離さず持っていたし、わざわざ部屋のメモパッドを使う理由はないんじゃないかな。」

「…じゃあなんで2枚使われているんだ…?」

 

 

コトダマゲット!

【遺書)

動機DVDを見て絶望したため死ぬといった趣旨のものが書いてあった。また、畔田のサインも書いてあった。

 

【2枚使われたメモパッド)

1枚は遺書、もう1枚は不明。部屋のゴミ箱などにもう1枚の方はなく遺書の書き直しをしたわけでは無さそうだ。

また、普段のメモに関しては自前の手帳に取っていた。

 

 

あと気になるものとすれば…、DVDか。

 

「この動機DVDは一応確認しておいた方が良いよな?」

「実際遺書にも書かれているわけだからな。今回のキーアイテムであるのは否めまい。」

「それじゃあ視聴覚室に行こうか。」

 

視聴覚室でさすがに3人でヘッドホンは使えないので全員に音が聞こえるように音量を上げて再生した。

 

 

 

-畔田鋼之助の動機ビデオ-

 

「畔田鋼之助君は元々普通の家庭の出身でした。」

 

「お父さん、お母さんと一緒に3人で幸せに暮らしていたのです。」

 

「それが大きく変わったのは7年前、とある事件をきっかけに天涯孤独の身となってしまったのです。」

 

「そんなひとりぼっちの彼を拾ってくれたのは同じく“超高校級の資産家”として希望ヶ峰学園に在学しているアンリ・シャークネードさんの実家でした。」

 

「彼は元々ただ引き取られただけでした。ですが、それでは畔田君の気は済みませんでした。」

 

「シャークネード家の恩に報いるために彼はシャークネード家の、いえ、アンリさんの執事となることを選びました。」

 

「さてそんな畔田君に執事としてのイロハを叩き込んだのはシャークネード家の執事やメイドの皆さんでした。」

 

「幼くして家族を喪った畔田君にとって彼らはまるで父や母、兄や姉のような存在でした。」

 

「しかし、そんな彼らに悲劇が起こりました。」

 

画面が暗転する。俺の動機DVDの時と同じだ。そして再び画面が明るくなるとシャークネードの屋敷と思われる豪邸のどこかの一室だった。そしてその一室は破壊し尽くされていた。

 

「さて、このシャークネードの屋敷に仕える人たちの身に何が起こったのでしょうか?」

 

「正解は『卒業』の後で!!」

 

 

 

DVDが終わり画面から顔を上げるとアンリが何か不可解そうな顔をしている。

 

「どうしたんだ?」

「実は…、いや、何でもない。」

「気になる言い方をするなよ。」

「いや、ホントにたいしたことじゃないんだ。」

「本当だろうな?」

「ああ、誓って本当だ。」

「ならいいが。」

 

アンリの反応よりも重要なのはDVDの内容だ。

 

「なあ、アンリ、あの部屋って…、」

「ああ、それなら私の屋敷の使用人の部屋だよ。まあ、あの様子だ。もしかしたら他の使用人達は無事ではないだろうね…。」

 

アンリが口惜しげに目をそらす。

 

「だが、家族のように大切な人の身に何かあったのかもしれない、と思ったなら絶望してもおかしくはない。あの遺書の信憑性を補強できたかも知れないな。」

「ビデオの内容もまとめておこう。」

 

 

コトダマゲット!

【畔田の動機DVD)

畔田の生い立ちとシャークネード家の使用人の部屋の現状について映している。

内容を考えると遺書の信憑性も高まる。

 

 

「よし、これで畔田周りのことは捜査完了かな。」

「とりあえず食堂に戻るぞ。」

「ああ、そうしよう。」

 

食堂に戻るとみんな一通りの捜査を終えた後のようだった。

その中で薬師が雑談をしてるという訳ではなさそうだが九鬼と甘寺に何か話していた。

 

「お、3人も戻ってきたか!」

「ああ。何を話してるんだ?」

「えっとね、薬師君が気になることがあったらしくて。」

「気になること?何か見つけたのか?」

「いや、そういう訳じゃねえんだけどよ、確か動機DVDを渡された日だったから一昨日だったかな?それこそ動機DVDをみんなで見た後なんだけどよ、畔田が誰かと口論してる声聞いたんだよ。」

「口論?誰と?」

「いや、そこまで見なかったんだよな。さすがにプライバシーの侵害だと思ってよ。今思えばあそこで確認しとけばこんな事件起こんなかったかも知れなかったのにな…。」

「それは仕方ねーだろ。オレ達もうコロシアイを起こさせねーっつうことで動いてたんだからよ。」

「まあ、コイツの言うことも一理あるがな。今言っても仕方あるまい。」

 

そうだ。俺達はコロシアイを二度と起こさせないために動いていた。なのにコロシアイを予見して動けというのは酷だ。だが、口論していた本人が今日死んでいる。それは無視できることではないだろう。記憶しておいて損はないはずだ。

 

 

コトダマゲット!

【薬師の証言)

動機DVDを視聴した後畔田が誰かと口論している声を聞いた。しかし相手が誰であったかは不明。

 

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「ぐー…。すかー…。…はっ!朝イチなもんで眠っちまったぜ!んじゃそろそろいつもの扉の前に集合してくれ!」

 

寝てたってふざけたマネを…。まあコイツのふざけた態度はいつものことで気にしても仕方がない。俺達はまた校舎の前に集合した。

 

「…。」

 

いつもは饒舌とまでは言わずともみんなを励ましていたアンリが殊更誰よりも静かだった。

 

「…大丈夫か?」

「…すまない、心配をかけてしまったかな。大丈夫…とは言いがたい状態だけど、でも大丈夫だ。畔田との思い出を思い出していただけで落ち込んでいたわけではないさ。」

「無理するなよ。」

「無理などしていないさ。」

「そうか…。」

 

そう言うアンリの顔は已然暗い。無理をしていないわけなどない。家族のように、いや、彼女にとっては家族だったのかも知れない少年をコロシアイによって喪ったのだ。落ち込まないわけがない。

俺達にとっても畔田は大切な仲間だった。慇懃で、堅物で、でも意外とフレンドリーで。俺達の生活を色んなところで助けてくれていた。そんな大切な仲間だった。

その仲間のために、アンリのために、俺達はこの事件の真実を解き明かしてみせる…!

 

 

俺達の4度目の学級裁判、その口火が切られようとしていた。

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り8人




今回は第4章捜査編です!さて、今までとちょっと傾向を変えてみたのですがいかがでしたでしょうか?さて、次回からは学級裁判編に突入していきます。この事件の真実はいかに!!?次回をお楽しみに!!


今回の設定裏話は「超高校級のイメージカラー」で行ってみようと思います。本人達はそのイメージについてどう思ってるんでしょうかね…?

水島輝→紺
「確かに青っぽい色は嫌いじゃないな。」

甘寺心愛→茶色
「チョコレート色だね!」

薬師弾→赤
「結構ユニフォームなんかにも使ってるぜ!」

玉城将→ウグイス色
「着物の色か。」

二木駆→コバルトブルー
「サッカーって言ったら青だしな!」

涼風紫→紫
「名前に会わせて結構使うんだ!」

山吹巴→赤紫
「髪の色にするくらい好きな色じゃああるな。」

有浜鈴奈→臙脂
「なぜかこの色の衣裳が多いのよね。」

アンリ・シャークネード→白
「私も自分のイメージカラーだと思っているよ。」

畔田鋼之助→黒
「名前もスーツの色も黒ですからね。」

久見晴香→ピンク
「ベレー帽のイメージかなー?」

太宰直哉→グレー
「僕はそれくらい地味な方が楽かな。」

美上三香子→緑
「ずっと同じ色のエプロンを使ってるし、好きな色じゃないかな。」

青山蓬生→黄色
「メジャーの色とかですか?」

九鬼海波→ウルトラマリン
「こちとら海に生きる女だからな、ピッタリだぜ!」

比嘉拳太郎→オレンジ
「太陽みたいに明るいってイメージかぁ!?」

皆さん好評なようで何よりです!
それでは今回はここまで!次回からの学級裁判をお楽しみに!!


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CHAPTER4 学級裁判 前半

エレベーターの扉が開く。4度目の法廷。俺達は二度とコロシアイを起こさせないと誓ったのに…。だが俺たちの気分が暗いのはそれだけじゃない。特に俺達の気分が暗い理由はきっと…

 

「おーオマエラ来たか!って何だか暗えじゃねーか。何かあったのか?ぐぷぷぷ。」

 

色々考えを巡らせているとそこに神経を逆なでするようにモノトラが俺達に話しかけてきた。

 

「テメェ…!」

 

九鬼がモノトラをにらみつける。言っても仕方のないことだと思っているがそれでも奴への怒りは腹の中で煮えくりかえっている。

 

「…そこまでにしておこうか。」

 

ここまで沈黙を貫いていたアンリが口を開いた。

 

「私たちが今やるべき事はここでモノトラと喧嘩をすることじゃないだろう?」

「…わりい、熱くなった。」

「いや、こちらこそすまない。」

 

そうだ。今やるべきことはそれじゃない。今やるべきことは学級裁判で正しい答えを導き出すこと。そして…、畔田の死の真相を導き出すこと。こんな奴に構うことじゃない。

アンリのおかげで冷静になれた俺たちはそれぞれの席につき、お互いの顔を見合わせた。そして、一つ息を整えてもう一度前を向き、4度目の学級裁判がここに開幕した。

 

 

 

コトダマ一覧

 

【モノトラファイル4)

死亡したのは“超高校級の執事”畔田鋼之助。死因は頸部圧迫による窒息死。索状痕以外に目立った外傷はない。死体発見現場は食堂で、首を吊った状態で発見された。死亡推定時刻に関しては記載されていない。

 

【テーブル)

テーブルの天板に畔田の革靴とおぼしき足跡が付いていた。

 

【ライトの支柱)

天井に何本もわたっている。

かなり高い位置にあり、そこそこ高身長の人がテーブルの上に椅子を乗せたところにさらに乗ることでやっとロープを結んだりほどいたりできる。

 

【食堂の椅子)

吊された畔田の足元近くに倒れていた。

座面に革靴の足跡が付いていることから首吊りの踏み台にされたものと思われる。

椅子の脚に不自然な傷が付いているが、他の椅子には付いていない。また、逆に背もたれと座面の縁は首吊りの踏み台にしたにしてはどちらも綺麗。

 

【フィルム)

食堂の床に落ちていた。何に使われていたものかは不明。

 

【グラス)

食堂のテーブルの上に放置されていた。

グラスの中には水が残っていたが、捜査中に何かを飲んだ人は誰もいなかった。

 

【ロープ)

ロープに負担が掛かっていたのは両端の結び目になっていた部分と畔田の首が当たっていた部分のみ。

その他の部分は綺麗で、玉城曰く首を絞める用途では使われていないだろうとのこと。

 

【薬のビン)

睡眠薬のビン。畔田のポケットに入っていた。また中身が減っており、久見が言うにはちょっとした見分け方があるらしい。

 

【死体の状況)

首に残った索状痕が斜めに入っていた。これは首吊りの際にできる痕跡である。

 

【薬品棚)

日常で使う常備薬から強力な毒薬まで幅広く置いてある。中には睡眠薬も置いてある。

 

【薬品リスト)

化学室の薬品棚に置いてある薬品の種類と数が全て記載されている。実際に調べて見たところ睡眠薬だけが1つなくなっていた。

 

【睡眠薬の箱)

側面には効能と用量が書いてある。

即効性で持続時間は9時間。1回3錠。

 

【涼風の証言)

畔田は最近あまりよく眠れていなかった。そのため化学室の睡眠薬のことを教えた。

 

【夜時間のルール)

寄宿舎の部屋とラウンジ以外で眠ってはならない。

夜10時から朝7時までの間は食堂には入れない。

 

【遺書)

動機DVDを見て絶望したため死ぬといった趣旨のものが書いてあった。また、畔田のサインも書いてあった。

 

【2枚使われたメモパッド)

1枚は遺書、もう1枚は不明。部屋のゴミ箱などにもう1枚の方はなく遺書の書き直しをしたわけでは無さそうだ。

また、普段のメモに関しては自前の手帳に取っていた。

 

【畔田の動機DVD)

畔田の生い立ちとシャークネード家の使用人の部屋の現状について映している。

内容を考えると遺書の信憑性も高まる。

 

【薬師の証言)

動機DVDを視聴した後畔田が誰かと口論している声を聞いた。しかし相手が誰であったかは不明。

 

 

 

 

【学級裁判開廷】

 

「それじゃ4回目にゃなるが学級裁判について説明していくぜ!オマエラにはこの学級裁判においてこの事件における犯人、クロを見つけてもらうぜ!そんで全員に投票してもらう!そしてその投票の結果正しいクロを指名できていればシロの勝ち、クロにゃおしおきを受けてもらうぜ!逆に誤ったクロを指名した場合はシロの全員がおしおき、クロは晴れて卒業、ってことになるぜ!!ってな訳で議論を始めてくれ!」

 

この説明も4回目。だがそんなことを気にしている場合じゃない。今俺達がやるべき事はたった1つ、畔田を殺したクロを見つけることだけだ…!

 

 

「さて、じゃあ何から話していこうか?」

「今回は割とはっきりしてるし、死因からでもいいんじゃない?」

「何でも良いから早く裁判を進めるぞ。」

 

 

議論開始

 

「畔田の死因か…」

 

 

「確か首に縄状のものの」

 

 

「痕があったんだよね?」

 

 

「って事は【窒息死】ってことか」

 

 

「え!?」

 

 

「それってつまり」

 

 

「畔田は【首を絞められて】」

 

 

「殺されちゃったってこと!?」

 

 

いや、そうとは断言できないはずだ。

 

【死体の状況)→【首を絞められて】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「いや、絞殺とは言い切れない。」

「でも窒息死なんでしょ?」

「窒息死は窒息死なんだが、その死ぬまでの過程が違うんだ。」

「なんでそんなこと分かるの?」

 

畔田が絞殺されたと断言できない理由は…

 

 

選択肢セレクト

 

1.索状痕が首に対して垂直

 

2.索状痕が薄い

 

3.索状痕が首に対して斜め

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

「これを見てほしい。」

「これって畔田の首の部分?」

「ああ。この畔田の首に付いた索状痕を見てほしいんだ。」

「さく、じょ…?よく分かんないよ…。」

「…すまん。」

「その謝罪は失礼だよ!?」

「索状痕、つまり縄の痕が斜めに入っているな。」

 

困惑する涼風に対して玉城が補足を入れる。

 

「そうだ。玉城の言うとおり、索状痕は畔田の首に対して垂直じゃなく斜めに入っている。」

「あ、そういうことか!…でそれってどういうことなの?」

「それは俺が説明するより検死をした久見に話してもらった方がいいか。」

「ほいほいー、任されたー。えっとねー、いわゆる絞殺、縄とかを手に持って首をぎゅーって絞める殺し方をするとねー、縄の痕って首に対してほぼ垂直くらいに付くハズなんだよー。」

「あ、だから首を絞めたって言い切れないんだ!」

「そういうことー!」

 

涼風は謎が解けてすっきり、という顔をしている。しかし、それと反比例するように今度は甘寺の顔が怪訝そうなものになる。

 

「じゃあさ、畔田君ってどうやって死んだんだろう?」

 

そう、窒息死だけど絞殺じゃない、そうなると次に挙がってくる問題は必然的にそれになる。畔田はどうやって死んだのか?次の議題はこれだろう。

 

 

議論開始

 

「じゃあさ、畔田君ってどうやって死んだんだろう?」

 

 

「確かになー、」

 

 

「【絞殺】ではないんだろ?」

 

 

「とは言え…、」

 

 

「【窒息】が原因であることは」

 

 

「疑いようもあるまい」

 

 

「それならー、」

 

 

「『溺死』とかはー?」

 

 

「『首吊り』なんてのも考えられるね」

 

 

「化学室の薬品を使った」

 

 

「『麻痺』による呼吸困難なんてのも」

 

 

「あるかもね!」

 

 

あの証拠と組み合わせると死んだ方法は…

 

【ロープ)→『首吊り』

 

「それに賛成だ!」

 

 

「アンリの言う通りかも知れない。」

「どういうことー?」

「これを見てほしい。」

「これは…、畔田の首に掛かっていたロープ、かな?」

「ああ、その通りだ。それでこのロープの真ん中と両端を見てほしい。」

 

みんながロープをのぞき込む。

 

「うーん、確かに端っこの結ばれてたところとそこからちょっと離れた畔田君の首が当たってたところはロープが毛羽立ってるけどー、真ん中は特に何にもないよー?」

「ああ、真ん中には何もない。」

「待ってくれよ、オメーが見ろって言ったんじゃねーか!」

「大事なのはその“何もない”って状況だからな。」

「…よくわかんないや…。」

「あまりしたくない想像かも知れないけどみんな自分が誰かの首をロープで絞める想像をしてくれ。」

「ほんとにあんましたくねえ想像じゃねえか…。」

「みんなは相手の首にロープをかけてギュッと絞めた。じゃあ、その時ロープの相手の首に掛かっているところはどの部分だ?」

「えっと…、あ、比較的真ん中の方かな?」

「あ、確かに!」

「つまり、誰かを絞殺するのにロープを使ったとしたらその痕跡はロープの真ん中の方に残るはずだ、という訳だね。」

「そういうことだ。ついでに言うとさっき話題に出た首の痕も斜めに入っているのは首吊りの際にできる痕だ。」

 

…でもそうだとしたら畔田は…、

 

「じゃあ、畔田は首吊り自殺って事か…?」

 

薬師が疑問を投げかける。

 

「首の痕が絞殺の物じゃなくて、何なら首吊りの物で、ロープの毛羽立ちも絞殺で使った痕跡じゃない。そんで畔田は窒息死なんだろ?ってことはさ、それってもう首吊り自殺しか考えられなくねえか?」

 

 

議論開始

 

「これまでの推理を総合するとさ、」

 

 

「畔田は【首吊り自殺】ってことにならねえか?」

 

 

「だってよ、」

 

 

「実際の畔田の【首の痕】も、」

 

 

「【ロープ】の毛羽立ちも」

 

 

「みんな首吊りの痕跡なんだろ?」

 

 

「いや、そう決めつけるのはまだ早い」

 

 

「確かに現状の証拠は」

 

 

「首吊り自殺したことを示してるけど」

 

 

「【遺書もない】のに」

 

 

「自殺とは言い切れないよね」

 

 

確かそれは畔田の部屋に…!

 

【遺書)→【遺書もない】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「いや、遺書ならある。」

「えっ、そうなの?」

「捜査時間中に畔田の部屋に入ってみたんだが、畔田の机の上にこんなものが置いてあったんだ。」

 

『お嬢を始めとする皆様へ

 私、畔田鋼之助は動機DVDの内容にいたく絶望致してしまいました。そのため、自らこの命を絶つことに致しました。先立つ不孝をお許しください。

                                  畔田鋼之助』

 

「うわ、めちゃくちゃ遺書だ…。」

「ご丁寧にサインまで書いてあるな。」

「サインは…、手帳の名前で私が見たことある物と同じだよ…。」

「部屋のメモパッドを使った物のようなんだが、これを見てもらえば分かるとおり、畔田の部屋には遺書が…」

 

 

「その推理、ブレーキだよ!!」

 

 

「水島、その推理はちょっと待っただよ!」

「どこが気になったんだ?」

「その遺書ってほんとに本物なの?」

 

 

反論ショーダウン

 

 

「その遺書ってさ、」

 

 

「ホントに畔田が書いた奴なの?」

 

 

「犯人が捏造したんじゃないの?」

 

 

「畔田の字も分かんないし、」

 

 

「部屋のメモのそれだけじゃ」

 

 

「あたしは信じらんないよ!」

 

 

-発展-

 

「でも内容は完全に遺書のそれだし、」

 

「遺書にはしっかり畔田のサインも書いてあるんだぞ?」

 

「それに畔田が書いたものじゃない証拠もないじゃないか!」

 

 

「そのサインだって【犯人が書いた】かもじゃん!」

 

 

「それに第一、」

 

 

「畔田がアンリちゃんを置いてまで」

 

 

「自殺する理由が」

 

 

「DVDに【残されてるとは思えないよ】!」

 

 

いや、その理由は確実に存在した…!

 

【畔田の動機DVD)→【残されてるとは思えない】

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

 

「いや、DVDの内容は畔田が自殺という判断を下しても仕方ないと言える物だったんだ。」

「何でさ…!」

「それは私の口から説明させてもらおうか。動機DVDは私と水島君、そして玉城君で畔田の部屋を捜査している時に見つけたんだ。そして内容を確認したらその中身はボロボロになった私の家の執事やメイドの控え室だった。しかも彼が親や兄姉のように慕ってきた執事やメイド達に何か起こったことは明白だった。もし畔田があの映像を見たら絶望してしまったとしても仕方がなかったと私は思っているよ…。」

「そう、だったんだ…。」

 

重苦しい空気が俺達の間に流れる。その沈黙を破るように九鬼が口を開いた。.

 

「…っつーことはよ、遺書もあって自殺の動機もある、そんで死体も自殺したとしか思えねーってことだよな?それってつまり畔田は完全に自殺だったって事じゃねーのか?」

「またかよ!前もこんな話になったよな!?」

「だけど、そうとしか考えられないよね…。」

「だけど前回の例もあるよねー。」

「あたしやっぱ自殺だと思えないよ…。」

「前回は死体に違和感はあったがな。」

「私たちが気付いてない何かがあるのかも…。」

 

またみんなの意見がぶつかってる…!でもどうすればいいんだ…!現状は完全に畔田が自殺だって事を示してるけどかと言って短絡的に投票して良いものか…。

 

「お、どうやらオマエラの意見がまたぶつかってるみてーだな!そういうときは…、やっぱこれだろ!」

 

モノトラはカギを取り出して目の前のパネルに差し込む。カギを捻ると席が動き出し、対面の状態になる。

 

 

 

議論スクラム

 

 

〈畔田鋼之助は自殺したのか〉

自殺じゃない!    自殺だ!

甘寺         水島

薬師         玉城

涼風         アンリ

久見         九鬼

 

 

開始

 

甘寺「畔田君って本当に【自殺】だったのかな?」

「九鬼!」

九鬼「状況はどう見たって【自殺】じゃねーか!」

 

 

久見「でも【前回】は自殺と思ったら違かったよねー?」

「玉城!」

玉城「【前回】は死体にも目に見える違和感があったがな。」

 

 

薬師「【ロープの痕】を勘違いしてるかも知れねえだろ?」

「俺が!」

水島「検死で【ロープの痕】は自殺の物だって結論になったんだぞ!」

 

 

涼風「説明を受けてもやっぱり【動機DVD】を理由に自殺したなんて思えないよ!」

「アンリ!」

アンリ「【動機DVD】が自殺の理由になり得るのも事実だと思うけどね。」

 

 

久見「それって遺書に書いてあったんだよねー?でもその遺書がサインも含めて【本物】だって言い切れるのー?」

「俺が!」

水島「遺書もそのサインも【本物】かどうかは畔田の手帳を見れば一目瞭然だ!」

 

 

 

CROUCH BIND

 

 

SET!

 

 

「これが俺達の答えだ!!」

 

 

「やっぱり、畔田は自殺だよ…。悲しいことだけどどの証拠を見ても畔田が他殺だなんて証明してくれないんだ…!」

「…。」

 

絞り出すように言葉を紡ぐ。みんなも言葉が出てこない。

 

「…投票に移ろうか。」

 

アンリがぽつりと呟く。答えは出た。これ以上話すことはないはずだ。これ以上ここに留まることは無意味なはずだ。だから俺はモノトラの方に目配せをして投票に移るように促し…

 

 

 

「まだだよ!!!」

 

 

裁判場に大きな声が響く。あまりに凜としたその声に最初俺達は誰がその言葉を発したのか分からなかった。声のした方向に目を遣るといつもとは違う雰囲気の久見がそこに立っていた。

 

「…久見…?」

「…まだだよ…。まだ、終わってない…。裁判はこれからだよ…。」

「んなこと言ってもよー、もう何も残ってねーだろ?」

 

みんなを見回した後、少し下を見てフッと一息吐くと久見はもう一度前を向いた。

 

「ホントにそうかなー?だってここまでの話って畔田君自身に残された証拠と畔田君の部屋にあったものだけでしょー?でも捜査中に分かった事ってそれだけじゃなかったしー、その中には畔田君がホントに自殺なら謎のままの物だっていくつかあるんだよー。僕はさ、結論が変わらなくてもいい。でも、謎の物を謎のまま終わらせるのは畔田君のためにも良くないと思う。」

 

いつものほわんとした雰囲気とは全く違う久見の様子に、言葉に息を呑む。

そして先ほどの久見のように一息吐くと思い切り両手で頬を叩いた。

 

「水島!!?」

「…すまない。俺もきっと怖がってたんだ。今回こそホントに自殺なら誰も疑わないで、誰も喪わないで済むから。誰かを疑い、殺すことを俺は怖がってた。でもそれじゃダメだよな。もし本当に畔田が自殺だったとしても色んなことに目を瞑って逃げた結論と真実に正面から向き合った結論じゃ意味合いが違う。だから俺は、いや俺ももう一度畔田の自殺を疑ってみせることにするよ。真実に向き合うために。」

 

流れる沈黙。もうこの裁判中何度目だろう。きっと4回目にもなってみんな疲れてきている。この選択もみんなにとって酷なものかもしれない。でもそれじゃダメなんだ。死んだみんなに俺達が胸を張って生きられるように。みんなの命に目を背けないために。

 

「…ったくしゃあねえな!やってやんよ!正直涼風じゃねえけど俺も畔田がただDVD1枚で自殺するようなタマに思えなかったとこだしな!」

「業腹だがコイツの判断はこれまで間違っていたことがない。従って損はないだろう。」

「あはは、素直じゃないね。でも、輝君に賛成!」

 

みんなもだんだんもう少し議論することに前向きになっていく。久見の言うとおり、裁判はこれからだ。俺達は必ずこの事件の真実を掴み取ってみせる…!!

 

 

 

【裁判中断】

 

「オイオイ何だかみんな団結しちまってるじゃねーか!」

 

 

「お互いに疑い合ってギスギスしてるのを見てーってのによー。」

 

 

「でもま、いいか!」

 

 

「逆にお互いを信じすぎても」

 

 

「疑いきれずに判断をしくじることがあるしな…!」

 

 

「さーてこの裁判はどう転がっていくのか、」

 

 

「楽しみで仕方ねーぜ…。」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り8人




お久しぶりです!今回は第4章学級裁判前編です!
まさかの2回連続自殺案件…?それともほんとは…?この事件の真実やいかに!?続きの後編も鋭意執筆中ですのでお楽しみに!!


それでは設定裏話、「超高校級のオススメ漫画」!超高校級とはいえ彼らも高校生。漫画を読むわけです!じゃあ彼らはどんな漫画を読むんでしょうか…?

水島輝→名探偵コナン
「色んなトリックがあって考え甲斐があるぞ。」

甘寺心愛→失恋ショコラティエ
「少女漫画ってキュンキュンしちゃうよねー。」

薬師弾→ルパン三世
「お前のカルマは何色だ?ってな!ま、このセリフは映画だけど。」

玉城将→三月のライオン
「強いて言うならこれか。」

二木駆→キャプテン翼
「やっぱ王道のこれっしょ!」

涼風紫→無し
「あたし走ることしかしてこなかったし…。」

山吹巴→BECK
「ちと古いけどな、名作だ。」

有浜鈴奈→アクタージュ
「絵も綺麗で好きだったのよ。ほんとに…。」

アンリ・シャークネード→キン肉マン
「私の推し技はパロスペシャルだね。」

畔田鋼之助→キン肉マン
「よくお嬢に技をかけられていました。パロスペシャルとか。」

久見晴香→僕の漫画全般!
「やっぱ漫画家としてはこう言っとかないとー!」

太宰直哉→特に無し
「僕はもっぱら小説しか読まなくてね。」

美上三香子→ブルーピリオド
「同じ絵を描く者として色々感じるものがあるのよ。」

青山蓬生→流行り物を少々
「お客様との話の種になりますので。」

九鬼海波→ONE PIECE
「そりゃオレは海賊だからな!」

比嘉拳太郎→刃牙
「拳と拳のぶつかり合い、最高だぞ!!!」


結構でしょうね、ってものから意外なものまであったのではないでしょうか?こんなみんなの趣味もどんどん語っていけたらなんて思います!

さてそれではまた次回お会いしましょう!!!


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CHAPTER4 学級裁判 後半

【裁判再開】

 

俺達はもう楽な結論で終わらせたりしない。畔田の死の真相が分かるまで徹底的に議論をする。それが畔田に、死んでいったみんなに誠実に向き合うことになるはずだから。

 

「じゃあ議論を再開していこうと思うんだが、久見はどこが気になったんだ?」

「うーん、単純に死んだときの状況は首吊りなんだと思うんだけどー、首吊り=自殺っては必ずしも成り立たないんじゃないかなーってさー。」

「確かにそうかも知れないな…。」

 

まずはそこの可能性について考えてみるか…。

 

 

議論開始

 

「確かに首吊り=自殺ってのは早計かも知れないね」

 

 

「いわゆる【絞首刑】って奴は」

 

 

「形だけ見れば首吊りだしな」

 

 

「誰かがライトの支柱に」

 

 

「ロープを【くくりつけて】…」

 

 

「そんで畔田の首を引っかけた後に」

 

 

「ストーンと【落とせば】」

 

 

「形だけは」

 

 

「首吊り自殺の【完成】だな!」

 

 

確かにそれはそうだけどホントに可能なのか…?

 

【ライトの支柱)→【くくりつけて】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「いや、それは無理だ。ライトの支柱が高すぎる。畔田以外じゃあそこまで手は届かない。」

「でもよ、俺がテーブルの上に椅子を乗せたら届いたろ?」

 

確かにそれで手は届いたけど、発見当時のテーブルには…

 

 

証拠提出

【テーブル)

 

「これだ!」

 

 

「確かにそれはそうなんだが、食堂のテーブルには発見当時畔田の足跡しかなかった。言い換えると椅子の跡はなかったんだ。ということはあそこにロープを結んだのは唯一手の届く畔田ということになる。」

「あー確かにそうだったなぁ。」

「つまりやはり自殺、ということか?」

「いや、まだ謎はあんだろ!」

 

 

議論開始

 

「残ってる謎か…」

 

 

「『DVDの中身』とかか?」

 

 

「犯人がそれっぽく見せるために」

 

 

「見えるとこに置いたとかさ」

 

 

「やっぱり『遺書』だって!」

 

 

「なんか引っかかるよ!」

 

 

「『現場の状況』とかもあるよね」

 

 

「自殺ならあるべきものがないとか」

 

 

「うーん、『死体』は特段」

 

 

「気になるところはなかったはずだが…」

 

 

…そう言えばちょっとだけ不自然なものがあったはず…!

 

【食堂の椅子)→『現場の状況』

 

「それに賛成だ!」

 

 

「現場の状況と言えば気になるものがあった。」

 

そう言いつつ椅子の写真を見せる。

 

「食堂の椅子?」

「ああ。」

「特段何か変わった様子はないが?」

「全体としてはな。細かいところに注目してほしいんだ。」

 

そう、みんなに注目してほしいのは…

 

 

選択肢セレクト

 

1.足跡

 

2.背もたれと座面の縁

 

3.倒れていた場所

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

「みんなに見てほしいのは椅子の背もたれと座面の縁だ。」

「背もたれと座面の縁?足跡じゃなくてかい?」

「ああ。縁だ。あまりしたい想像じゃないかもしれないがみんな自分が首を吊ると想像してくれ。」

「ほんとに嫌な想像だぁ…。」

「すまない…。それでだが、ロープをくくりつけて椅子に乗って、首にかけて、そして後は落ちるだけ。さてどう落ちる?」

「俺ならそれこそ背もたれか椅子の縁を蹴るな。そこが一番蹴りやすい。」

「そうだろ?だけど今回畔田の近くに倒れていた椅子はそのどちらも目立った傷はなかった。その代わりだが、この椅子の脚のうちの1本に靴で蹴ったような傷が付いてた。」

 

…あれ?それって…。

 

「それは妙だな。いくら畔田がデカいとは言え、さすがに首に縄をかけた状態で椅子の脚に足が届いたとは思えん。」

 

玉城の一言がこの状況の異常性の全てを示していた。畔田自身の状況が畔田が自殺したことを示しているにも関わらず、その周りの状況が畔田は自殺ではなかったのではないかと主張している。

死んだ当人の足が届かないところに靴で蹴った跡が付いている、ってことは…。

 

「最後に畔田を落としたのって畔田以外の誰かだったって事か?」

「そういうことになるね。」

「あ?そいつはおかしくねーか?だって畔田が自殺の準備を進めてたんだろ?でもトドメを刺したのは畔田じゃない誰かだったって話が通らねーじゃねーか!」

「いや、可能性はなくはないな。例えば昨日のパーティーの後、畔田が死のうとしていることを知っていた誰かが奴が死ぬ準備を整えていざ、という瞬間に椅子を蹴り畔田を殺せばいい。」

「ということはー、畔田君の自殺の計画を犯人が乗っ取っちゃった、ってことー?」

「そういうことだ。畔田はそもそも死ぬつもりだったんだ。そして畔田の目論見通りの死に方をさせれば現場の状況はほぼ畔田が自殺したのと同じ状況になる。」

「そうなれば犯人は最低限の努力で最大限のカモフラージュができるってわけか。」

「まあそれはあくまで一例だ。これだとしたら納得のいかんものもあるしな。だが畔田が自殺の形を作って他の何者かが畔田にとどめを刺したという点は間違いあるまい。」

「じゃあ次は具体的な事件に関係しそうなものを考えていこっか!」

 

 

議論開始

 

「事件に関係しそうなものか…」

 

 

「そもそもほんとに【他殺】なのかよ?」

 

 

「確かに玉城の言う通りなら」

 

 

「どうやって畔田の抵抗を退けたんだ?」

 

 

「いくら何でも」

 

 

「【意識がある】状態で」

 

 

「殺されそうになったら」

 

 

「自殺しようとしてるとはいえ」

 

 

「【抵抗】するだろうね…」

 

 

「でもさー、」

 

 

「現場の椅子は完全に」

 

 

「他の誰かが【蹴った】としか思えないよー?」

 

 

そうか、他殺だとしたら畔田の状態は必ずしも…!

 

【薬のビン)→【意識がある】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「いや、畔田は他殺だ…。だからあんなものが畔田のポケットに…!」

「あんなもの?」

「薬のビンだよ。しかも睡眠薬の。久見が検死の最中に畔田のスーツのポケットから見つけたんだ。」

「なんだって…?」

「もし畔田が自殺しているところにうまく割り込んで睡眠薬を飲ませ、眠った畔田を首吊りの形で殺害したならば畔田の抵抗を受けず、かつ畔田の自殺の計画を乗っ取れるかもしれない。」

 

 

「株が下がる予感がするね。」

 

 

「でも本当にその睡眠薬は使われていたのかな?」

「見た目では分かんねーよな。」

「いや、わかるんだ。これまでずっと謎だったあの証拠を使えば!」

 

 

 

反論ショーダウン

 

 

「確かにそのビンは」

 

 

「畔田のスーツのポケットに入っていたんだろう。」

 

 

「だけどだからと言って」

 

 

「実際にその睡眠薬が使われたとは」

 

 

「限らないよね?」

 

 

‐発展‐

 

「確かに睡眠薬はポケットに入っていただけだ。」

 

「関係ないように見えるかもしれない。」

 

「だけどちゃんとそうじゃないってことが分かるんだ!」

 

 

「でも実際問題、」

 

 

「見た目だけじゃその睡眠薬が」

 

 

「使われたかどうかなんて【分からないよね】?」

 

 

「液体ならいざ知らず、」

 

 

「錠剤なんて数粒減っていたとしてもわからないんだからさ。」

 

 

いや、食堂に落ちていたあれは今思えばあの薬のビンに入っていたものだ!

 

【フィルム)→【分からないよね】

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

 

 

「いや、わかるんだ。これを見てほしい。」

「それは、フィルムかい?」

「あ、なーんだ輝くん、僕が教えるまでもなくコツ知ってるんじゃないかー。」

「コツって何だ?」

「その錠剤のビンが既に使われているかどうかのコツだ。一から説明しよう。まずこのフィルムって何に使われていたものだと思う?」

「あ、あれじゃね?新品の薬のビンに入ってるやつ!」

「その通りだ。これは錠剤に埃が入ったりしないようにするためのものなんだが、それは一旦置いておこう。じゃあ、このフィルムが外に出てた理由は何だ?」

「それはー、誰かが薬を飲むのにそのビンを開けた、ってことじゃないー?」

「じゃあその薬ってのは?」

「睡眠薬じゃねーのか?」

「いや、その他の薬の可能性もあるんじゃないかい?化学室にはいろいろな薬があったけど。」

「恐らく睡眠薬で間違いない。なぜなら…」

 

 

証拠提出

【薬品リスト)

 

「これだ!」

 

 

「俺と涼風で化学室の薬品リストと照合したんだが、数がずれていたのは睡眠薬だけ、それも1ビンだ。」

「っつーことはその睡眠薬は畔田のポケットに入ってたやつだな!」

「ああ。ということは逆説的にそのフィルムもこの睡眠薬のビンに入っていたものだろう。わざわざビンを開けてフィルムを出すところまで行っているのにも関わらず全く飲んでいないというのも考えにくい。恐らく犯人は何かしらの手段で畔田に睡眠薬を飲ませ、その上で畔田の自殺の計画を利用した、というのが一番あり得る。」

「それならその睡眠薬を持ち出した人が犯人ってことだね!」

「じゃあ次はその睡眠薬を持ち出した人が誰か考えてみよっか!」

 

 

 

議論開始

 

「睡眠薬を持ち出した奴が誰か…」

 

 

「ずっと化学室前にいたわけじゃねーしなー」

 

 

「さすがに誰も【見てねー】よなー」

 

 

「そんな奴怪しすぎんだろ!」

 

 

「それじゃー、」

 

 

「睡眠薬を欲しがってた人とかはー?」

 

 

「例えば眠れてないとかさー」

 

 

「確かに…」

 

 

「嘘でもそういうことを『言っていた』なり」

 

 

「『顔色が悪い』なり」

 

 

「そういう様子を見せている奴は」

 

 

「いたかもしれんな」

 

 

確かあいつがそんなことを言っていたような…

 

【涼風の証言)→『言っていた』

 

「それに賛成だ!」

 

 

 

「涼風、確かお前そんなことを言ってなかったか?」

「あたし?」

「睡眠薬を欲しがってた人がいたってさ。」

「あ!そういえば!」

 

その睡眠薬を欲しがってたのは…

 

 

選択肢セレクト

 

1.畔田

 

2.玉城

 

3.薬師

 

→1.

 

「これだ!」

 

 

「畔田が睡眠薬を欲しがってたって言ってたよな?」

「うん!まあ正確にはよく眠れてないって!だから化学室に睡眠薬が置いてあるよって教えてあげたんだ。」

「ちょっと待て、っつうことは睡眠薬を持ち出したのって畔田ってことか!?」

「それは変だね。クロは睡眠薬を持ち出した人物って話だろう?君らの話通りならば今回のクロは畔田ということになってしまうよ?」

「でもー、それじゃ話のつじつまが合わないよねー。だって畔田君は睡眠薬を飲まされて眠っているところをクロに殺されちゃったんでしょー?それならー、畔田君はクロになりえないよねー?」

「睡眠薬を持ち出したのが畔田なら、睡眠薬を畔田に飲ませたのも畔田自身、ってことになっちまうぞ!?」

 

マズい…!みんな混乱してしまっている…!でもここまで話してきたのはほぼ正確な情報のはずだ。何か見落としがあったのか…?

 

「どうした水島、この程度か。今までのお前ならこんな状況でも推理をして見せたはずだ。今それができないというのなら必ず何か見落としがある。しかもその矛盾をつなぐ要素がな。」

「…悪い、少し焦った。もう大丈夫だ。じゃあ次はその見落としがないか考えていこう。」

 

 

 

議論開始

 

「全てが事実にも関わらず矛盾がある」

 

 

「ならば必ずそこに【見落とし】があるはずだ」

 

 

「見落としか…」

 

 

「『畔田の死体』はどうだ?」

 

 

「いくら久見といえどずっと検死すんのはキツイだろ?」

 

 

「そんなはずはないんだけどなー」

 

 

「僕はー、『化学室』が怪しいと思うよー?」

 

 

「『畔田の部屋』なんてどうよ?」

 

 

「おめーらそんな長く捜査してたわけじゃねーだろ?」

 

 

「『DVDの内容』だったりして…」

 

 

「『食堂』なんてパターンもありえるかもね」

 

 

そういえばあそこにあったはずだ…!小さな、でもずっと引っかかっている謎が…!

 

【2枚使われたメモパッド)→『畔田の部屋』

 

「それに賛成だ!」

 

 

 

「あった…!ずっと謎だったもの…!」

「ほんとか!?」

「ああ。畔田の部屋にあったメモパッドだ。」

「あの遺書に使ったってやつ?」

「そう、それだ。それなんだが、メモパッドが2枚使われてたんだ。遺書は1枚しかないのに…!」

「普段使いしてたんじゃないの?」

「いや、畔田は普段のメモは自前の手帳に取っていたよ。」

「それに普段使いなら逆に2枚しか使われていない方が不自然だ。」

「書き間違いじゃなくてか?」

「畔田の部屋のごみ箱もそのほかの場所も見てみたけどどこにもそれらしきものはなかった。」

「つまり、普段のメモでもなく、遺書の書き間違いもしていないのにメモパッドが1枚余分に減っていた、と。」

「そういうことだ。」

「…あ!」

「甘寺何か気づいたのか?」

「それこそその行方不明の1枚が事件の真相に関わってるんじゃないか、って思って。」

「話してもらってもいいか?」

「もちろん!畔田君がその無くなったメモをどこにも持ってないとしたらどこに行ったんだと思う?」

 

畔田が持っていないとしたら…?

 

 

選択肢セレクト

 

1.畔田が食べた

 

2.畔田が既に処分した

 

3.誰かに渡した

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

「誰かに渡した…?」

「そう!書き損じとか普段のメモなら別に部屋のごみ箱に捨てといて問題ないし、誰かに渡した可能性が高いんじゃないかな?ちょうど最初の事件の時の青山君みたいに。」

「じゃあそのメモって誰に渡したんだと思う?」

 

メモを渡した相手か…

 

 

選択肢セレクト

 

1.水島

 

2.犯人

 

3.アンリ

 

4.モノトラ

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

「…もしかして犯人か…?」

「その通り!畔田君からメモを受け取ったって人がここまで出てこないって事は、畔田君はそのメモを今回の犯人に渡した可能性が高いんじゃないかな?」

「待て待て!なんでそんな真似をアイツがすんだよ!」

「それが最後の質問!じゃあなんで畔田君はそのメモを犯人に渡してるんだろうね?」

 

畔田が犯人にメモを渡した理由…?

 

 

選択肢セレクト

 

1.畔田と犯人は協力関係

 

2.畔田と犯人は対立関係

 

→1.

 

「これだ!」

 

 

「…畔田と犯人が協力関係にあったから…?」

「は!?畔田が犯人とグルだったっつーのか!?」

 

そうか、そういうことだったのか。ならば犯人はアイツしかいないのかもしれない。

そして、その仮説が正しいとしたら…

 

「だとしたら可能性がある。例えば畔田が殺人の計画書をメモに書いて犯人に渡したとしたら、それは畔田の部屋に謎のメモが残っていない理由になるだろ?そのメモを受け取った人がここまで出てこない理由にも。」

「つまり畔田は殺人計画を立てていたがその共犯に選んだ相手に裏切られて殺された、と?」

「いや、そういうわけじゃないんだろう。それならば畔田は自分の部屋に自分が死ぬ前提の遺書を残す必要がない。つまり畔田が立てた殺人計画、そのターゲットは…」

「…畔田君、ってわけかー。」

「やっべえ、頭混乱してきた…。なんで畔田はそんなことしたんだよ…?なんでクロはそんな計画に乗ったんだよ…?」

「多分クロは最初はそんな計画に乗る気はなかったんだと思う。その証拠もある。」

 

 

証拠提出

【薬師の証言)

 

「これだ!」

 

 

「薬師は畔田が誰かと言い争う声を聞いたって言ってたよな?これは多分畔田が犯人と計画のことで言い争う声だったんだ。でも結果的に計画に乗らざるを得なくなった。だから畔田は死んだ。殺された。」

「…なるほど…。」

「それならよー、結局その共犯者、いや、クロは何者なんだ?」

「そのクロの正体が畔田君の目的にもなってくるんだよ。畔田君は誰かに自分を殺させておいて自分は自殺だと私たちに誤認させようとした、それがここまでの推理から導き出される状況だよね?じゃあ何でそんなことしたんだろう?」

「それは…。あ!クロを逃がしたかったから、とか!」

「その通り!じゃあ、畔田君がそこまでして外に逃がしたいと考える人物は、誰なんだろうね?」

 

甘寺が俺に視線を向ける。俺にとどめを刺せ、と言うのだろう。それならば引き受けた。畔田が俺たちの、そして自分の命を捨て石にしてでも外に逃がしたかったクロの正体。それは…!

 

 

 

指名しろ

【アンリ・シャークネード】

 

「お前しかいない!」

 

 

 

「…私、か。」

「ちょっと待ってよ水島!アンリちゃんは畔田のことを大切に思ってたんだよ!?最初に死体を発見して、みんなを部屋に呼びに来るくらいに!なのに何で犯人なのさ!?」

「…そうだね、水島君。私が犯人だ、という証拠はないだろう?今のはあくまでここまでの状況を総合した推理、いわば状況証拠に過ぎない。私には彼を殺すことは不可能だよ。」

 

彼女はただただ冷静にその灰色の美しい瞳を俺に向けてきている。そしてそのプレッシャーはさすがは超高校級の資産家と言わざるをえないものだった。だが、それに気おされてはならない。生きるために。死んだ畔田のために。そして、アンリのために。

 

 

 

パニックトークアクション開始

 

「私ではないよ」

 

 

「どうして私が」

 

 

「少し落ち着いてくれないか」

 

 

「絶対に違う!」

 

 

「証拠はないのかな?」

 

 

「少し失望したよ」

 

 

「私には不可能だよ」

 

 

「それはただの推理だよね」

 

 

「絶対にありえない」

 

『そもそも私が畔田の巨体を持ち上げられるわけないじゃないか』

 

 

《ジャー》《マン》《スープ》《レックス》

 

 

「これで終わりだ!」

 

 

 

「…。」

「今お前は畔田の体を持ち上げられない、と言ったがそれは違う。だってお前は畔田のことを投げていたじゃないか。それなのにその言い訳は通じないぞ。」

「その点でお前の他に眠って力の入らない畔田を持ち上げられる人間はこの場にはいない。さっさと認めたらどうだ。」

「…。」

 

アンリは黙りこくっている。黙秘を貫くというのだろうか。

 

「…アンリ、もういいんだ。もう、楽になって。薬師の聞いた声からお前が殺したくて畔田を殺したわけじゃないことはわかってる。畔田が口論していた相手はお前なんだろ?畔田がお前を助けるためにお前に自分自身を殺させようとしていると知って。」

「……はあ。そうだね。もうこのあたりで終わりにしようか。」

 

大きくため息を吐くとアンリは諦めたような一言を溢す。

 

「…何で?何で畔田を殺したの?アンリちゃん、畔田のこと大好きだったじゃん!」

「仕方がなかったのさ。」

「仕方ないって…!」

 

そう、仕方なかった。その証拠もある。

 

 

証拠提出

【夜時間のルール)

 

「これだ!」

 

 

「ほんとに仕方なかったんだよ。畔田は死ぬことを決めていた。だからアイツは食堂で睡眠薬を飲んで眠った。夜時間に入る直前に。」

「夜時間…。…あっ!」

「そう、畔田は夜時間に食堂に入ってはならない、そして自室とラウンジ以外では眠ってならない、その2つの校則を破っていた。つまり、この事件が起きなくても畔田はルール違反で明日の朝には殺されていた。」

「だから、せめて最期は、私の手で…。」

 

アンリは悔しそうに顔を背ける。

 

「アンリ、最後にこの事件を振り返って、それで終わりにしよう。」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の資本家      アンリ・シャークネード

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り8人




はい、ということで4章学級裁判はここでおしまい!次回は裁判閉廷へと向かっていきます。かなり人数も減ってきているので、予想が当たった方も結構いらっしゃるのではないでしょうか?畔田君は何を思ってこの事件を計画したのか、アンリさんは何を思ってこの計画に乗ったのか、それはまた次回ということで!


それでは今回の設定裏話に参りましょう!本日の設定裏話は「超高校級の恋愛事情」と参りましょう!思春期真っただ中のみんなはこれまでどんな恋愛をしてきたのでしょうか?

水島輝
「あまりそういうことに興味がないんだ」

甘寺心愛
「片思い中、かな」

薬師弾
「彼女いたことはあるぜ?」

玉城将
「女などめんどくさくて仕方ない」

二木駆
「全世界の女の子がおれの恋人だぜ!」

涼風紫
「走ること以外全然興味なくって、あはは」

山吹巴
「んー、今はドラムが恋人みたいなモンかな」

有浜鈴奈
「恋愛映画はたくさん出ているけれど私自身はないわね」

アンリ・シャークネード
「鈍感なのが近くに1人、ね」

畔田鋼之助
「私は執事としての役割で精一杯ですので」

久見晴香
「今はー、ちょっと気になる人がいるよー」

太宰直哉
「僕はまるっきり本の虫だからね、そういうのはないかな」

美上三香子
「今は好きな人はいないかな」

青山蓬生
「テーラーとしての修行に力を注いでいましたのでそういうのは」

九鬼海波
「アイツらは男っつーより家族だからなー」

比嘉拳太郎
「そういうのはもっと金を稼ぐようになってからだぁ!!」


やっぱり才能に偏りすぎてそういうところまであまり目が行かないのでしょうかね?ということで、今回はここまで!それでは次回をお楽しみに!!


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CHAPTER4 学級裁判 閉廷

…最後に、この事件の流れをまとめて全てを終わりにする…!

 

 

 

クライマックス再現

 

ACT1

「今回の事件の発端はあのモノトラが俺達に配ったDVDだった。このDVDを見てしまったことによって今回のクロは外の様子を知ってしまったんだ。」

 

「今回のクロが俺達と違うところは他に近しいコミュニティを持った人物がこの学園の中にいたことだった。」

 

「その人物こそ今回の被害者の畔田鋼之助だった。だから今回のクロはこのDVDについて相談することにしたんだ。」

 

 

ACT2

「そのクロから相談を受けた畔田は自室に戻って殺人計画を立てることにした。それは俺達の中の誰かを殺すのではなく、畔田自身を殺す計画だったんだ。」

 

「そして畔田はその計画を部屋の中にあったメモパッドに書いてクロに持ち込むことにしたんだ。」

 

「だけどその計画を受け入れることができなかったクロは畔田と口論になってしまったんだ。薬師が聞いた口論の声はそれだろう。」

 

 

ACT3

「畔田はそれでも諦めなかった。だからその計画を進めることにしたんだ。」

 

「畔田は自分の睡眠不足を理由に計画で用いる睡眠薬の調達を試みたんだ。そして畔田は涼風にそのありかを聞いて睡眠薬の調達に成功したんだ。」

 

 

ACT4

「そしてその計画が動き出したのは昨日の夜、パーティーの後片付けが終わった後、夜時間の直前だった。」

 

「畔田は倉庫から調達したロープを食堂の天井のライトの支柱にくくりつけ、首吊り自殺の準備を整えた。」

 

「そして早くから準備していた睡眠薬を飲み、食堂で眠りに落ちた。そしてクロが到着するのを待つことにしたんだ。」

 

 

ACT5

「そしてその畔田の願いは現実のものとなった。」

 

「畔田が計画を実行に移したのか、気になってしまったのだろう。クロは食堂に様子を見に来た。そしてそこで見たのは既に眠りに落ちた畔田の姿だった。」

 

「その畔田の覚悟を見せられたクロは覚悟を決めた。畔田の計画に乗ることにしたんだ。」

 

「クロは眠った畔田を持ち上げ、その首を畔田が準備したロープにかけ、そして畔田を椅子の上に立たせた。」

 

「そしてその畔田を立たせた椅子の脚を蹴り飛ばし、畔田の首を吊らせることによって畔田を殺したんだ。」

 

 

ACT6

「そして今日の朝、クロは今まさに畔田を見つけたような反応と共にみんなを呼び回ることによって畔田を殺したのが自分ではないかのように振る舞ったんだ。」

 

 

「そしてそうまでしたクロが守ろうとした人物、そして畔田がその計画を実行に移した覚悟を一番にくみ取ろうとする人物、それはアンリ、お前しかいないんだ!!」

 

 

 

「これが事件の全貌だ。」

「…ああ、その通りだ。水島君の推理通りだよ…。」

 

アンリは静かに目を伏せる。

 

「…理由を聞いてもいい?」

 

甘寺が口を開く。

 

「さっき少しだけ話は出たけどさ、でもきちんとアンリさんの口から理由を聞きたい。何で畔田君を殺したのか…。」

「…。」

 

アンリは黙りこくっている。でも少しだけ覚悟を決めたような顔をすると口を開いた。

 

「…そうだね。私の殺人によってみんなは死にかけているわけだから、話を聞く権利くらいあるね。じゃあ、話すことにしようか。まずは水島君のいうとおり、原因はあのDVDだった。内容は私の所有する…」

 

アンリが語り出したその時、

 

「ったくオマエラも学ばねーなー!」

 

モノトラが割って入った。

 

「邪魔すんじゃねーよ!!」

「邪魔されたくなきゃオマエラもちったぁ学べっつーの!まずは投票タイムだろ?全くよー、前もおんなじことやったじゃねーか。」

 

そう言われてしまうと否定はできない。前回も同じくだりがあった気がする。

まあ、アンリの話を聞くためだ。仕方ない。業腹だがまずは投票だ。

 

 

 

投票結果→アンリ・シャークネード

 

 

 

【学級裁判閉廷】

 

「な・な・なんと!4回目の!!今回は!!?まさかの!!!?大・正・かーい!!!いやー、4回連続とはオマエラも中々やるじゃねーか!オマエラの執念にはオレも感服するしかねーぜ!!」

 

分かっていた。本人も自白していたし、疑う余地はなかった。だけどやっぱり辛いものは辛い。仲間を殺した犯人として仲間を糾弾し、そしてそれが正しかったというのは何回目だろうと慣れるものではない。

 

「さて、投票も済ませてすっきりしたところで事件の話の続きをしようか。どこまで話したっけかな。そうだ、DVDがきっかけだ、という話だね。それでそのDVDの内容は私の所有する会社が全て潰れた、というものだったんだ。私がいなくなったことによって全ての会社で混乱が発生した、というのが理由らしい。会社が潰れたことくらいは大した問題ではない。私にかかれば同じくらいの規模に再び成長させるくらいは造作もないことだ。それよりもショックだったのは私にとって会社経営の右腕とも言える人物が私の代わりに全ての責を負っていたこと。そして自ら命を絶っていたこと。」

 

彼女はDVDの内容を話していく。その内容はいくら超高校級とはいえ俺達とそう年の変わらない少女が背負うには重すぎるもの。ある程度年のいった会社経営者なら、ダーティーな世界も飲み込んだ大人ならあるいは受け止められたのかも知れないが。いや、それでも自らの代わりに責を負った人物が自ら命を絶った、その事実は大人であってもショックは受ける。

 

「私はパニックになってしまってね、このことを畔田に相談したんだ。会社経営の右腕も畔田は知っていたからね。だけどその後畔田が持ってきたのがあの計画だったんだ。もちろん最初は抵抗したさ。DVDの内容が事実であるかどうかは確認しなくてはならない。だからといって君たちの誰かを、ましてや畔田を殺すなんてもってのほかだ。だから強く反対したし、畔田とも口論になってしまったんだけどね。」

 

再びアンリは悔しそうに目を伏せる。

ずっと無言で話を聞いていた涼風がおもむろに口を開く。

 

「…事情は、分かったよ。でも、そんなに強く抵抗したのに、そこまで大切な存在だったのに、なんで畔田を殺したの…?」

 

それだけ言うと涼風はぐっと唇を噛みしめる。

 

「…それは、さっき少しだけ言った通りだよ。私がどれだけ畔田の計画に反対したとしても畔田は計画を実行に移すだろう。実際に彼がそうしたようにね。それが分かっていたから私は食堂に行ったのさ。そしてその時にはもう既に畔田は睡眠薬を飲んで眠ってしまっていた。そして知っての通り、校則には寄宿舎の部屋とラウンジ以外では眠ってはいけないというものがある。そして、もしこのまま私が部屋に戻れば夜時間内の食堂への立入禁止という校則も破ることになる。2つの校則を同時に破ることになればモノトラによる処刑は免れない。畔田はその覚悟を持って私を外に逃がそうとした。ならば私もその覚悟を蔑ろにするわけにはいかないだろう?」

 

苦しげにフッと笑う。そしてすぐにその笑顔を消す。

 

「…それに、朝にはどのみち殺されていしまうのであれば、せめて最期は私が、私自身の手で終わらせてやりたい、そう思ったのさ。」

 

そう告げるアンリの姿に俺達は何も言えなくなってしまう。

 

「その割には偽装が中途半端なようだが?」

 

その静寂を切り裂いたのは玉城だった。

 

「そう思って犯行に至ったのならなぜ畔田のスーツのポケットに睡眠薬を放置した?なぜ、食堂にグラスを放置した?アレさえなければ俺達は自殺じゃないとは気付いたとしても、その犯人がお前だなんて気付けなかったかも知れない。」

「そうだね、端的に言うと時間がなかったのさ。」

「時間、だと…?」

「原因は君さ、水島君。君はパーティーの後片付けが終わった後、畔田と少しおしゃべりをしていただろう?」

「…ああ、そうだな。20分くらい、だったかもしれないな。」

「その分時間が押したのさ。君が部屋に戻ったからといってすぐに実行には移せない。誰かが部屋から出てきてしまえば計画はご破算だからね。万全に万全を期した結果、時間がギリギリになってしまったんだ。」

「待て、今お前は畔田が計画を実行すると思って食堂に行ったと行っていただろう。なぜ時間が押していたことまで分かっている?」

「…私を、畔田をなめないでほしいな。私たちがどれだけ一緒にいたと思ってるんだい?畔田が水島君と話している姿さえ見ていれば大体どれくらい押していたのかなんてすぐ分かるさ。」

「遅れた時点で計画を別日にするかも知れなかったのに、か?」

「そんなの畔田の顔を見れば一発さ。計画を取りやめる気がないのなんてすぐに分かる。それに、今日を逃せばこの計画はもう実行できなかったしね。」

「…なぜだ?」

「今日を逃せば他のみんなが全員早く部屋に戻る事なんてもうないからさ。例えば娯楽室に深夜も一人将棋を指しに行く玉城君、元々夜型の傾向にある久見さん、そして水島君。君らは深夜に行動するだろう?」

「…そうだな。」

「今だから白状するとパーティーを開いた目的の1つにみんなに疲れてもらう、というのもあったのさ。みんなが疲れて早々に眠ってしまえば計画を実行するときに誰にも姿を見られない確率が上がると思ってね。まあ、ついでに言うとさすがに眠って力の抜けた畔田を立たせるのに苦戦してしまった、という私の計算外も多少あったけどね。」

「つまりー、輝くんが畔田君とおしゃべりしてたこととー、アンリちゃんが意外と畔田君を殺すときに苦戦してしまったことでー、時間が押してしまって偽装まで手が回らなかったんだねー。でもー、今日しかチャンスがなかったから今日計画を実行するしかなかったとー。」

「まあ、そういうことだね。結局自分自身のために誰かを殺そう、そしてそれをバレずに生き延びよう、なんてうまくいくはずがないってことだね。」

 

アンリは自虐的に笑う。

 

「さて、一通り話したことだし、そろそろ終わりにしてもいいかな?」

 

目線をモノトラに送る。

 

「お、やっとお待ちかねのおしおきか?いいぜ!終わりにしてやる!」

「おい待てよ!これで終わりなんて…!」

「それではわっくわっくどっきどっきのおしおきタイムだぜーーー!!!!」

「待てって!!!」

 

引き留めようとする薬師にそれを意にも介さずおしおきを進めようとするモノトラ。

手を伸ばす薬師に対してアンリは手のひらで制した。

 

「良いんだ、薬師君。君の気持ちは、みんなの気持ちは充分に伝わったよ。ありがとう。でも、私はこれで、良いんだ。大切な人を守れずあまつさえ手にかけた。そんな人間にはきちんと報いが必要だ。それに…」

 

アンリはこちらを振り向いて優しく微笑む。

 

「これから畔田の元に逝けると思うと、それはそれで悪くない気分なんだ。」

 

その笑顔と共にモノトラによっておしおきの開始を告げるボタンが押された。

 

 

 

アンリさんがクロにきまりました。

おしおきをかいしします。

 

 

 

アンリが立っていたのは大きな屋敷の廊下。それはシャークネード家の屋敷を模したものだった。ただその廊下は烈しく炎が燃えさかっている。

 

 

超高校級の資本家・アンリ・シャークネードのおしおき

《My Fire Lady》

 

 

呆然と立ち尽くすアンリの前にメイド服を着たモノトラが看板を持って現れた。その看板に書かれていたのは

 

『この屋敷のどこかに畔田鋼之助の死体がある。探されたし。』

 

その看板を見た瞬間、彼女は走り出す。そして手当たり次第に屋敷の扉を開けていく。

 

焼け落ちていく屋敷。崩れ落ちてくる瓦礫。

 

落ちてくる木材の破片がアンリの腕や脚をかすめていく。流れ出る血が純白のスーツを紅く染めていくのもお構いなしにアンリは畔田を探す。

 

炎の勢いは増してゆく。金属製のドアノブは烈しく熱され、扉を開けようとするアンリの手を焼いてゆく。それでも彼女は気にせず捜索を続けていく。

 

いない。いない。いない。いない。いない。

 

その扉を開けてもそこには畔田の姿はない。どんどん火元に近づいてゆく。

 

そして最後にたどり着いたのは火元の奉公人の部屋。

 

もはやドアノブとしての役目を果たさないそれを掴み、扉を開く。

 

その扉の先に見えたものは既に焼け落ちて、近くに落ちているスーツの焼け残りでしか当人と判別できない白骨死体と化した畔田の姿だった。

 

アンリはそこで膝を落とす。出血とやけどで既に限界を迎えた彼女の体はもう動かない。

 

それでもどうにか最後は彼のそばでと体を引きずり腕を伸ばす。

 

無情。そんな彼女に向けて焼け落ちた梁が落ちてくる。そしてその燃えた木材が背中から彼女を貫く。

 

涙に歪む視界に震える手は力なくその場に落ちた。

 

 

 

「エクストリィィィィィム!!!!やっぱ学級裁判の醍醐味はおしおきのカタルシスだぜ!!!」

「くそっ!くそぉっ!!」

「てめえ畔田までっ!!!」

 

コイツは死んだ畔田の事まで弄ぶって言うのか…!!

 

「ぐひゃひゃひゃひゃ!!!畔田だって殺人計画を立てたんだぜ!?いわばオマエラを殺そうとした奴に同情するってのか!?随分おめでてー奴らだぜ!!」

 

そのモノトラの言葉に腸が煮えくりかえりそうだった。でもここで命を散らすわけにはいかない。手のひらから血を流さんばかりに拳を握りしめていると、横からガツンと強い音が聞こえてきた。ハッとそちらを向くと玉城がモノトラにこれまでとは比べものにならないほど鋭い目線を向けていた。

 

「…貴様今すぐその汚い口を閉じろ。そして即刻ここから去ね。」

 

元々口の悪い玉城だ。言葉の強さは変わらない。だが、そこに含まれる怒気はこれまでの比ではなかった。

 

「…へぇ、オマエがねぇ…?ま、いいや!これ以上ここにいる意味もねーんでさっさと帰って寝ることにするぜ!!じゃあな!!」

 

そうしてモノトラはさっさとこの場を後にした。

そして奴の気配が消えた後も俺達はその場に立ち尽くしていた。

 

「…いつまでそうしているつもりだ。さっさと帰るぞ。奴を、黒幕を倒すにはこんなところで無駄に体力を浪費している場合じゃない。ここで立ち尽くしたところで死人が戻ってくる訳ではないのはもう分かっているだろう。」

 

言葉はさっきと変わらず強い。だけどその言葉にはさっきと打って変わって俺達への気遣いが含まれていた。

 

「ああ、そのとおりだな。」

 

…顔を上げよう。アンリは、畔田は自分の大切な人のために覚悟を決めた。それならば俺達も覚悟を決めて生きなきゃならない。

 

俺達はみんなでもう一度立ち上がって生きていくことを誓って部屋に戻ることにした。

 

 

 

ただこの時俺はアンリの言った言葉の違和感に気付いていなかった。その言葉が学園の、このコロシアイの真実に繋がるヒントだったというのに。この言葉さえ気付いていればあんな悲劇は起きなかったというのに。

 

 

 

 

夜時間、遊戯室に乾いた音が響く。いつも通りの駒が盤面に打たれる音。ただいつもと違うのはそこに相手がいるということ。

 

「…ぐぷぷ、今日は随分な言い草だったじゃねーか。ああ、でもそれはいつものことか。」

「やかましい。その口を閉じろ。」

「全く、自分の立場を分かってんのかねー?オマエの大事な母親はずっとこっちの手の中なんだぜ?」

「それもいつか必ず取り戻す。貴様とその裏にいる黒幕を殺してな。」

「随分な自信じゃねーか。アイツらに触発されちまったか?それともアイツらに思い入れでもできちまったか?」

「…。」

「ぐひゃひゃひゃ!そいつぁーありえねーか!だってオマエはオレの命令で奴らの中に潜り込んだ()()()なんだからな!!」

「…言いたいことはそれだけか?それならさっさとどこかへ行け。一局限りの約束のハズだ。」

「…おお、いつの間にか詰んでたのか…。ぐぷぷ…。それなら約束通り退散させてもらうぜ。じゃ、まあ裏切り者としてこれからもよろしく頼むぜ…!」

「…。」

 

夜は更けていく。娯楽室に響く駒の音と共に。

 

 

 

CHAPTER4 死に逝く者に蜘蛛の糸を  END

 

 

TO BE CONTINUED

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り7人




はい、ということで第4章これにて完結でございます!!最後の最後にとんでもない事実が発覚しましたが読んでくださる皆さんとしてはどうだったでしょうか?もしかして皆さんの中には裏切者の正体が分かってたぜ!!なんて方もいらっしゃるかも知れませんね笑。さあ、次回からは第5章に入っていきます。モノトラが発した衝撃の事実はどんな風にみんなを引っかき回していくのでしょうか?乞うご期待です!!



それでは今回の設定裏話と参りましょう!!今回は「超高校級の初期設定」ということでやっていきます!もしかしたらちょっと前に話したこともあるかもしれませんが、その時はどうかご容赦を…。

水島輝
→実は元々は別の才能の予定だったのですが、やっぱりダンガンロンパと言えば超高校級の  
幸運でしょ、ということで才能をちょこっと変更しました。

甘寺心愛
→最初はパティシエでいこうかと思ったのですが、3にお菓子職人がいたことを思い出してもうちょっと絞ってみるか、ということになりました。

薬師弾
→実は最初は彼の苗字が弾から玉で玉城になる予定でした。変更理由は玉城君とところで!

玉城将
→最初は駒の銀将から苗字を白銀とぱっと思いついたんですが、そりゃつむぎちゃんだ、と思い直した結果、ちょうど将棋に絡められる苗字が横にあるじゃないか、と玉城になりました笑。

二木駆
→実は第1章の犯人ありきで作られたキャラでした。

涼風紫
→最初の衣裳イメージが長距離のユニフォームそのままだったのですが、想像したらちょっとセンシティブだったのでジャージを羽織らせました。

山吹巴
→音楽系の才能を1人、というコンセプトで作られたキャラでした。

有浜鈴奈
→2章で殺すことだけは決まってて、他のキャラとの兼ね合いで結果クロになりました。

アンリ・シャークネード
→元は男性の予定でした。プロレス好きはジャーマンスープレックスに説得力を持たせるために後々くっついた設定です。

畔田鋼之助
→4章の被害者ありきのキャラでした。

久見晴香
→有浜さんの見た目との兼ね合いで髪の毛がロングからセミロングへと短くなりました。

太宰直哉
→最初はもっと真っ当な動機の予定でしたが、3章という点を考慮して狂った方向に変更しました。

美上三香子
→元々生かそうかどうか当落線上だったのですが、他のキャラとの兼ね合いで空いていた2章で死ぬキャラになってしまいました。そして有浜さんと比較した結果あんなことに…。

青山蓬生
→二木君とは対照的に1章の被害者ありきでした。

九鬼海波
→アンリ同様元々男性の予定で名前も九鬼武吉でした。と言うより、海賊というところから男性になったのですが、男女のバランスの関係で女性へと変更になりました。

比嘉拳太郎
→コンセプトは武道・格闘の才能でした。そこから作ってった結果こんな形になりました。


ということで今回は以上です!!それでは次回からスタートする第5章をお楽しみに!!


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CHAPTER5 ビターホープ・メルトダウン
CHAPTER5 (非)日常編1


夜中にふと目が覚めた。有浜の事件以来2回目のことだ。何となく目が覚めてしまったのだ。

 

「こういうときは…、図書室だな。」

 

布団から起き上がり、寄宿舎の部屋を出る。

 

 

 

やはり一番心が落ち着くのはミステリー小説を読んでいるときだな。

あんなことがあった、しかもミステリー小説と近い出来事だったにも関わらず楽しむことができるのだからきっと俺は本格的なミステリー好きなのだろう。視線を感じてふと顔を上げるとそこには久見がいた。

 

「うわっ!」

「うわっとはご挨拶だなー。」

「いや、なんで俺の顔をのぞき込んでるんだよ。」

「本読んでる姿ってあまりちゃんと見たことないなーって思ってねー。」

「ビックリするからやめてくれ…。それにしてもどうしてこんなところに?」

「ちょっと目が覚めちゃってー。裁判で疲れてるはずなのにねー。」

「悩み事か?」

「うーん、と言うより考え事ー?」

「考え事?何を?」

「内緒ー。乙女の秘密なのだー。ところで輝くんってあまりこういう夜更かしってしないよねー?」

「ああ、今日は珍しく、だ。」

「…だよねー。」

「…?」

「ま、いいやー。どうせ眠れないなら僕とお話ししようよー。」

「ああ、いいぞ。」

 

久見の一瞬見せた思うところのありそうな顔は少し気になったがそんなことは久見と話している内に忘れてしまっていた。気付いたらモノトラの朝のアナウンスが流れていた。

 

 

 

CHAPTER5 ビターホープ・メルトダウン (非)日常編

 

 

 

久見と話している内に図書室で朝を迎えてしまった俺は久見と一緒に食堂へと向かうことにした。

 

「はよーっす。」

「ああ、おはよう。」

「おはよー。」

「あれ?輝君、晴香ちゃんと一緒に来たの?」

「ああ。」

「朝まで一緒にいたからねー。」

 

爆弾投下。食堂で大爆発を起こした。空気が凍った。

 

「ふ、ふーん、二人とも仲が良いんだね…。」

「お、おい!久見、その言い方は語弊が…!」

「えー、どこがー?一晩中楽しかったじゃーん。図書館で二人っきりでさー?」

 

爆弾は連投された。こうなるともうリカバリーは不可能な気がしてきた。

 

「…水島、お盛んなのは構わないが場所は選んだ方が良い。」

「玉城っ!!?」

 

玉城まで何を言い出すんだ!!?

 

「たまたま昨日眠れなくて図書室にいたらちょうど久見が来たから話してたら朝になってただけだって!!何もやましいことはない!!」

 

心ばかりの抵抗をしてみるが周りの温かい目と甘寺の冷たい目が止まる気配はない。薬師に至っては、

 

「照れなくていいっつーの!!うらやましいことこの上ねえけどよ?」

 

などと宣っている。どうやらこの抵抗は無駄らしい。

 

「…おめーら何やってんだ?」

 

唯一朝食を作るために厨房に引っ込んでいた九鬼が朝食を持って出てきた。コイツにどうにか助けてもらおうと思ったんだがすかさず薬師に事情を言われ、

 

「…おめーよー、随分倒錯してねーか?」

「ちがーう!!!!!」

 

ただ俺達のことを誤解した人物が増えただけになってしまった。

 

 

 

朝食が終わった後、また一通りみんなにイジられて朝から疲れてしまった。

 

「さて、学級裁判が終わった、ということは分かるな?」

 

玉城が話題を転換させた。

 

「あ!そっか!新しいエリア開放だ!」

「そうだ。昨晩確認してみたら既に5階が開放されていた。少し休んだら探索して報告会をするぞ。」

「アイアイサー!!」

 

とりあえず玉城のおかげで助かったようだ。

 

 

 

 

5階に行くと何やら異様な雰囲気が流れていた。

 

「何だか気味悪いな…。」

「うーん、前の希望ヶ峰学園のコロシアイ学園生活の時には5階の生物室が死体安置所に改造されてたらしいしー、もしかしたら今回もそうなのかもねー。」

「おいおいやめてくれよ…。」

「まあまあ、とりあえず探索してみようよ!」

 

とりあえず階段のところで分散して探索を開始することにした。

 

 

まずは…、近いところからだな。とすると武道場か。

 

「あ、水島やっほー!」

 

武道場に入ると既に涼風が来ていた。

 

「とりあえず何があるのか手分けして探索するぞ。」

「おっけー!」

 

まず気になるものとしては…、ロッカーか。

 

「なんか居酒屋の靴箱みたい。」

「…言いたいことは分かる。」

 

武道場のロッカーは形は普通のロッカーだが、そのカギは木の札を差し込む形になっていた。

ロッカーを開けてみるとそのそれぞれに弓の入った袋と矢筒が置かれていた。それぞれを開けてみるときちんと弓と矢が入っていた。

ロッカーを閉めると次に目に付いたのが巻き藁だった。

 

「この太鼓の偽物みたいなの何?」

「太鼓の偽物て…。これは巻き藁だ。弓道の練習をするときに使うんだよ。」

「あ、そういうことね!」

 

次に開けたところに目を向けてみると桜吹雪が舞い散っていた。

 

「なんでこんなところに桜が…?」

「でもあたしたち入学したばっかじゃん。」

「いや、それはそうなんだがここは屋内だろ?」

「あ、確かに。」

「まあそこは置いといてもいいか。ここは武道場というより弓道場だな。まあ、剣道とか長刀くらいなら落ちないように気を付ければできないことはないだろうが。」

「そんな感じだね!」

 

次に行こうと振り返ると中々に立派な鎧兜が置いてあった。

 

「これはまた立派だな。」

「模擬刀がくっついてんだね。」

「まあ、これを使う機会はないと信じたいな。」

 

これでとりあえず一通りここの探索は終わっただろう。

 

「よし、じゃあ次に行くか。」

「そうだね!じゃ、また報告会で!!」

「ああ。」

 

武道場の入り口で涼風と分かれて俺は次のところに向かうことにした。

 

 

 

次は目の前の植物庭園に入った。そこでは玉城と薬師と九鬼が既に調査を始めていた。

 

「お、水島!」

「なんだ、お前も来たのか。」

「ああ。ちょうど目の前の武道場にいたんでな。」

「うし、じゃあ一緒に探査すっか!」

 

まず目に付いたのは何と言ってもずっと見たいと願ってきた青い空、のように見えるペイント。

 

「さっきモノトラが来たんだけどよ、どうやら少しでも開放感を味わえるように空のペイントしたんだとよ。」

「なんだそれ…。」

 

そう思うならさっさと外に出してほしいものだ。

次に目に留まったのが庭園の中央にある巨大な南国風の花だ。

 

「モノトラはこの花についても説明していったのか?」

「ああ。どうやら超高校級の植物学者によって品種改良されたものらしい。真偽は不明だがゴミを入れるとそれを溶かして栄養にするらしい。」

「そんなこと本当に可能なのか?」

「だから真偽は不明だと言っただろう。まあ、超高校級が作ったものであるとしたら充分に可能性はある話だと思うがな。」

 

まずはぱっと見で目に付くのはこの辺だろう。さて、そろそろ本格的な探索を始めるとするか。

最初に目をつけたのは小さな小屋とその近くの謎の機械。

 

「これは…、スプリンクラーの制御装置、か。」

 

機械の方にはスプリンクラーの制御装置と書いてあった。詳しく見てみると、どうやらこの植物庭園では朝の7時半に植物への水やりのためスプリンクラーが作動するらしい。このスプリンクラーの作動時間は一応この制御装置で弄ることはできるようだがその制御装置自体にカバーがつけられており、俺達が操作することはできなくなっているみたいだ。

その近くの小屋に近づくと中からニワトリの鳴き声が聞こえてきた。

 

「こんなところでニワトリを飼っていたのか。」

 

小屋の中をのぞき込むとそこには5羽のニワトリがいた。もしかしたら俺達が普段食べている卵はここのニワトリから採取しているものかもしれないな。

次に気になるところは真ん中の花壇を挟んだ反対側にあるこのニワトリ小屋とは打って変わって大きい小屋か。

小屋の中に入ると九鬼が探索を進めているようだった。

 

「おっす水島。」

「何か見つかったか?」

「いや、特に大きなものはみつかってねーな。どうやらここは物置小屋みてーだぜ。」

 

九鬼の言葉を元に周りを見回してみると確かにこの小屋は物置小屋のようだ。

 

「スコップに除草剤、化学肥料、花の種、あとよく分からんがツルハシも置いてあるな。」

「何でツルハシが。」

「花壇の石を砕くんじゃねーか?」

「こんな建物の中の花壇のどこに石があるんだよ?」

「…それもそうだな。何でだ?」

 

それは俺にもよく分からないがそのツルハシをよく見てみると日本最大の暴走族のチーム名が彫ってあった。そう言えば昔のコロシアイに参加させられた生徒の中には超高校級の暴走族の名前があったな。もしかしたらその生徒がここに持ち込んでいたのかも知れないな。校舎を改築したのにわざわざこれも残したのか。

小屋の外に出てみるとそこには袋入りの土がいくつか積み重ねられていた。

 

「結構しっかり管理できるようになっているみたいだな。」

「どうせだったら学級庭園みてーなのもやってみてーな。」

「それはそれで面白そうだな。」

 

これで一通りこの植物庭園は調べ終わったか。

 

「じゃあ俺は次のところに向かってみるよ。」

「おう!じゃあな!」

 

 

 

九鬼と分かれた後薬師と玉城に出ることも伝えて廊下に出た。廊下が途中で分岐して校舎の奥の方に向かう廊下の曲がり角のところに1つ教室があった。

 

「ここは何の教室だ?」

 

教室に入ってみるとそこは何の変哲もない普通の教室だった。だけどそこでは久見が何か思うところのありそうな顔で立っていた。

 

「何してるんだ!?」

「わっ、輝くんどうしたのー?」

「いや、探索してるんだが。」

「それもそっかー。」

「それで何してたんだ?こんなところで。」

「うーん、ちょっとこれを見てほしいんだけどさー?」

 

そう言って久見は1つのファイルを俺に見せてきた。それは図書室の奥の書庫に置いてあった希望ヶ峰学園再建計画、通称・プロジェクトRのファイルだった。

 

「…これ、持ち出していいのか?」

「モノトラに許可を取ってるから大丈夫だよー。」

「そうなのか…。」

 

そんな話はどうでも良くて、とりあえず彼女が見せてきたページをのぞき込んでみると、それは凄惨な殺人現場の写真だった。

 

「…なんだよこれ…?」

「人類史上最大最悪の絶望的事件って覚えてるー?」

「…ああ。」

「それには前段階があったんだけどー、それが“希望ヶ峰学園史上最大最悪の事件”。当時の希望ヶ峰学園のメンバーが“超高校級の絶望”江ノ島盾子にけしかけられてコロシアイ、いや殺し合いを行った。それをきっかけに後の事件に繋がってくんだけどー、その殺し合いの現場がこの教室ー。」

 

久見の話を俺は黙って聞いていた。いや、黙っていることしかできなかった。

 

「まあ校舎が改築されてるわけだしその跡が残ってるとは思ってはなかったんだけどー、でもやっぱり何となく思うところはあったよねー。」

「そういうことか。」

「よーし、じゃあー、次のところ行こっかー。あとどこに行ってないのー?」

「あとは生物室だな。」

「おおー、それは勇気あるねー。」

「いや、さすがにあっちも普通に戻ってるだろ…。」

「ま、それもそっかー。」

 

さすがにまた死体安置所になってるとは思いたくない…。

 

 

 

教室を出て廊下を奥に進むと件の生物室があった。扉の前には甘寺が立っていた。

 

「あ、輝君!輝君もこっちに来たの?」

「ああ、ラストだ。」

「まあ、あんな話聞いちゃうとね。」

「ああ、少し後回しにしてた。」

 

とは言ってもずっとそうしているわけにも行かないので扉の取っ手に手をかけた。

少し覚悟を決めて扉を開けると俺は拍子抜けした。

 

「…普通だな。」

「…普通だね。」

 

生物室は生物室だった。何を言ってるか分からねーと思うが。要は死体安置所なんかにはなっておらず、普通の生物室だったのだ。

 

「なんか怖がって損しちゃったね。」

「ああ、その通りだ。」

 

結局生物室を探索して回ったが、生物の実験で使いそうな薬品やメスや鋏、ホルマリン漬けになった標本と、普通の学校よりは充実しているかなくらいの設備が置いてあっただけだった。

モノトラの奴がみんなの死体をどこへやったのか、その真実は終始分からなかったが、まあ、下手げに見つけてしまうよりかは遙かにマシだろう。

 

「よし、じゃあ戻るか。」

「そうだね!お昼食べながら報告会だね!」

 

 

 

ということで俺達は食堂に戻り、昼食を食べながら5階の探索の報告会をやった。

 

「と、今回の報告はこんなところだな。」

「いや、もう1つ抜けているところがある。」

「抜けているところ?」

「気付いていないのか?校舎の他の部分にはあって5階にはなかったものがあっただろう。」

「うーん、あ、階段のことー?」

「その通りだ。」

「階段がなかったっつーことは、これで校舎は全部開放されたっつーことか?」

「ああ。まあ、寄宿舎の2階はまだ残っているがこちらは基本的に寄宿スペースの1階と構造は変わらん。大した発見はないだろうよ。」

「ま、寄宿舎だしそうだよなー。」

「うっしじゃああとはのんびりすっか!あ、甘寺!涼風!久見!ちょっと残ってくれ!」

「?いいよ?」

 

報告会が終わると九鬼が女性陣を呼び出していたが、とりあえず俺達男子には関係なさそうなので俺達はそれぞれ部屋に戻って各々自由に過ごすことにした。気付いたら夜になっていて夕食を食べたあとはまたそれぞれの部屋に戻って夜時間になるまで時間を過ごした。

 

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「10時になりました。ただ今より夜時間となります。食堂はロックされますので速やかに退出してください。それではよい夢を。お休みなさい。」

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

「本能寺の変ってのは結局のところ何が原因だったのかってのは未だに分かってないらしいぜ?」

 

 

「一昔前は信長によるパワハラに耐えられなくなった光秀が…、なんて話が主流だったみてーだがよー、」

 

 

「信長自身は相当光秀の事を重用していたらしいぜ。」

 

 

「他にも比叡山の焼き討ちが原因だったとか、実は朝廷と裏で繋がってたとか色んな説があるがよ、」

 

 

「結局のところこれが原因だ!ってのは判然としてねーんだぜ。」

 

 

「まあ結局何を言いたいかっつーとよー、」

 

 

「人っつー生き物は何が原因で裏切るか、他人を殺すかわからねー恐ろしい生き物だっつーことだな。」

 

 

「ぐぷぷぷぷ…。」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り7人




はい、ということで今回から第5章開幕です!なんだかんだここまで来てしまいました!1年近く前、これを書き始めたときにはここまでこれるとは思っていませんでした(エピローグを迎えてから言え)。前回のラストの衝撃情報がみんなに伝えられるのいつになるのでしょうか…?乞うご期待です!!

それでは今回の設定裏話に参りましょう!ここからは数回にわたって第4章の裏話です!
今回は第4章タイトル編です!
さて、第4章のタイトルは「死に逝く者に蜘蛛の糸を」でした。これは畔田が自らの死を以てアンリの救いを望むけどそれは救いにはなりえなかった、という今回の事件のあらましを詰め込んだタイトルです。ただ、これには元ネタも存在しています。それは某黒い執事が出てくる漫画のセリフです。そこにおいては蜘蛛の糸は人間の執念の象徴のような言われ方をしていましたが、そこはそれ、ダンガンロンパですので救いのようで救いにはならなかったものとしてタイトルに入れさせてもらいました。

ということで今回はここまで!!それではまた次回!!


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CHAPTER5 (非)日常編2

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「おはようございます。7時になりました。今日も一日元気で頑張りましょう。」

 

朝、か…。昨日とは打って変わって何だかしっかり眠ることができた気がする。昨日は九鬼が朝食を作ってくれたし、今日は俺が朝食を作るか。

 

 

キッチンで朝食を作っているとそこにちょうど九鬼が入ってきた。

 

「おー、水島!今日はお前が朝飯作ってんのか!」

「ああ。昨日は九鬼が作ってくれたからな。」

「あー、まあ、飯作れるメンバーがもうオレとオメ-くらいしかいなくなっちまったもんなぁ。」

 

そう、しかもこれまではかなりの割合で畔田が食事を作ってくれていた。その畔田を喪って、俺達は、特に食事担当もする俺と九鬼の2人は特にその存在の大きさをあの学級裁判から2日目にして感じている。ショコラティエである以上甘寺も料理はできるのだがいつもおいしいデザートを作ってくれている分余計な負担はかけさせまいということで他の料理できるメンバーが交代で食事を作っていたのだがいつの間にかその料理できるメンバーも俺と九鬼の2人になってしまっていた。

 

「前々から思ってたがよ、やっぱオメー手際いいな。」

「まあな。うちは母子家庭だったからな。母さんが仕事で忙しい時には俺が結構食事を自分で作ったりしてたしな。」

「そういうことか。なんかオメーの飯からはお袋の飯みてーな暖かさを感じるんだよなー。すっげーホッとする。」

「そうか?それなら嬉しいんだが。っと卵焼きができたから持って行ってくれ。」

「おう!任された!」

 

そんな話をしながら食事の準備をしているとだんだんの内にメンバーが集まってきて人数は少なくなってしまったけれどそれなりに賑やかな朝食を囲むことができた。

朝食を食べ終わって片付けをしようかと思ったその時、九鬼が男子に声をかけた。

 

「おう、男共!!」

「なんだ?」

「片付け終わったらちっと顔貸せや!」

 

本当になんだ?ボコられるとでも言うのだろうか?発言が不穏すぎる。まあ、気にしても仕方ないし、とりあえず食器の片付けを済ませてしまおう。

片付けを終わらせて食堂に戻ると既に他の女子はどこかに行ってしまっていた。

 

「で、結局何の用だ?」

「おう!ちっとオメーらに頼みてー事があんだ。」

「頼みたいこと?」

「ま、続きは言ってから話すわ。とりあえずオレと一緒に植物庭園まで来てくれや!他の女どもはもう先に行ってんだ!」

 

何だかよく分からないが逆らってもいいことにはならなさそうだしついていくことにしよう。他の女子も集まっているならそこまでひどいことにはならないだろう。

 

 

 

植物庭園に行くと九鬼の言葉通り女子が既にみんな集まっていた。

 

「そんで頼みたい事って?」

「これから花壇を作るんでオメーら手伝え!」

「何だ、そんなことか。」

「バカか。それなら先に言え。着物じゃ作業できんだろう。」

「あ、わりー。」

 

それもその通りだ。実際他の女子は既にみんな倉庫に置いてあったジャージに着替えている。薬師はまだ普段からユニフォームだからいいとして俺も制服のまま来てしまった。さすがにこのまま作業をしたら学ランが汚れるし、その洗濯は骨が折れる。

ということで俺と玉城が着替えて戻ってくるのを待ってもう一度具体的な説明をしてもらうことにした。

 

「それで花壇を作るんだって?」

「ああ!ほらあそこの花壇見てみろよ!」

 

九鬼が指さした先を見ると花壇の一部が何も植えられずに放置されていた。

 

「あそこ何も植えられてなくて寂しいだろ?だから昨日女全員で相談してあそこに学級花壇みてーなもんを作ろうって話になったんだ!」

「なるほどそういうことか。」

「事情は分かったけど俺達必要か?」

「いやー実はねー、昨日1回作業しようと思ったんだけどー、あそこの部分が結構壊れちゃってるんだよねー。」

 

近づいてみると花壇の縁を囲んでいるレンガが一部壊れてしまっており、そこからかなり土がこぼれてしまっていた。そのせいで下のタイルが見えてしまっている部分があった。

 

「ほら、さすがにアレを4人で修復するってのは中々骨が折れんだろ?だからオメーらにも手伝ってもらおうと思ってよ!」

「まあそういうことなら手伝おう。」

「仕方あるまい。」

「任せとけ!」

 

まずは…、レンガを積み直すところからだな。と言ってもただ組むだけでは崩れてしまうからセメントか何かで固める必要があるだろう。とは言ってもセメントなんてどこにあるんだ?

 

「おーい水島ー!ちっと手伝ってくれー!」

 

そんなことを考えていると遠くから薬師が俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「どうした?」

「土と一緒にセメントが置いてあったから運ぶのを手伝ってくれー!」

 

どうやら物置小屋の外に置かれていた土の中にセメントなんかも一緒に置かれていたらしい。1袋とは言え中々な重さがあったので薬師と協力して花壇の近くまで運んできた。

 

「よーし!じゃあ作るか!」

「その前にたらいか何か持ってこないと練りようがないだろ?」

「それもそうだな!」

 

と2人でたらいの捜索を始めると、

 

「生物室に置いてあったぞ。」

「マジか!助かる!」

 

と玉城がいつの間にかプラスチック製のたらいを持ってきてくれていた。

玉城が持ってきてくれたたらいにセメントの粉を空け、近くの水道から水を調達して来た。さすがに左官道具までは置いてなかったので仕方なく物置小屋のシャベルを3人分持ってきてそれで混ぜた。

そうしている内にいい感じに混ざったのでそれを使って崩れたレンガを積み重ねた。意外と3段くらいにはなり、それなりに高さのある花壇になりそうだった。

 

「うっし!それなりにはなったんじゃねえか?」

「わーすごーい!ありがとーう!」

「まあこれくらいはな。でも固まるまで時間が掛かるぞ?」

「具体的にどのくらいだ?」

「えーっと、この袋を見ると…、“モノトラ謹製速乾セメント”、普通なら1日以上掛かるところを約6~8時間で固めることができます、だってさ。」

「そりゃすげえな…。そんな技術存在してたのか…。」

「俺は聞いたことないがな。」

「それじゃあ一旦片付けて解散だな!今が10時だから…、早めに6時くらいに夕飯食ってからまた8時くらいからまた作業しようぜ!」

「まー、あとは土入れて、肥料撒いて、種植える、だから夜時間になる前にゃ終わんだろ!」

 

セメントが固まるまでは自由時間と言うことにして、また早めに夕食を食べたあとにもう一回集合することにした。

 

 

 

「うっし!じゃあ汗もかいたことだし風呂でも入るか!!」

「確かにー。動き回ったら汗でベトベトだよー。」

 

…風呂だと…?

 

「じゃあ4人で入ろうよ!」

「いいね!じゃあ流しっこしよっか!」

 

…流しっこだと…?

確か俺の部屋に数日前モノトラに押し付けられた…

 

(オメーにこれを渡しとくぜ!持っておくといいことがあるぜ!!)

 

“男のマロングラッセ”が置いてあったな…。

 

「おい、水島…!」

 

小声で薬師が話しかけてくる。

 

「思ったんだけどよ、これまでこんだけずっと男女1つ屋根の下で暮らしておいてあのイベントがねえのはおかしいと思う訳よ。」

「あのイベント?」

「覗きだよの・ぞ・き!しかもあれだけの美人揃いがまとめて同じ風呂に入ろうってんだぜ!?覗かねえってのは悪い冗談だろ!?」

「…見つかったらただじゃ済まないぞ?」

「なあに、死ぬことはねえ。それに危険を冒さなきゃ“ロマン”は手に入らねえんだぜ?」

「ロマン、だと…?」

 

…そうだ、俺は、俺達は、ロマンを手に入れなければならないんだ!!

 

 

 

女子が風呂に向かっていったのを確認して俺達も静かに脱衣所への侵入を試みる。そしてそこにはいつの間にか玉城がくっついてきていた。

 

「…お前何してんだ?」

「…お前達こそ。俺を仲間はずれにしようというのか?」

 

コイツがこの手のイベントに参加するというのは意外だ。なんだかんだコイツも健全な男だということだろう。

 

「2人ともそろそろ静かにしておかないと声でバレるぞ。」

「おう、そうだな!」

 

静かに、静かに。そろーりそろーりと脱衣場をのぞき込む。どうやら4人とも既にお風呂場へと向かっていったらしい。お風呂場の方からは何やら楽しそうな会話が聞こえてくる。

4人に気取られないようにゆっくりと脱衣所とお風呂場を隔てる扉を開けていく。そして湯気の中から見えてきたその景色はまさに“理想郷”。天女の水浴びを覗いた昔話の男の気持ちも今ならよく分かる。

 

「わっ!心愛ちゃんおっきい!!」

「え、そうかな?」

「いや、こりゃでっけーな…。」

「でも久見ちゃんも充分おっきいよ!いいなぁあたし小さいからさぁ。」

「んなこと言ったらオレだってそんなデカくねーぞ?」

「いやー、海波ちゃんのは引き締まってるって感じでしょー。モデル体型でうらやましいよー?」

「あんま気にしたことはねーんだけどな。」

 

なんと素晴らしい光景か。他の3人もその光景から目を離せないでいる。…3人?

 

「ぐぷぷぷぷ…!こりゃ絶景だな…。」

 

なぜここにっ!?

 

「てめえモノトラなんでここにいやがるっ!!?」

「バカ、お前、こんなとこで大声出したら!!!」

 

撤退っ!!と思ったのも束の間、既に手遅れだった。目の前に立っていたのはさっきまで引き締まった素晴らしい体を見せていた天女改め海賊。

 

「ほぉテメーら随分いい度胸してんじゃねーか。」

 

怒りで血が上っているのか体を隠すことなく額に青筋を浮かべてその指をポキポキと鳴らしている。これはこれで絶景…、じゃなくて終わった…。

 

「ちょっと3人とも何してんのさ!?モノトラまで!!?」

「もう、輝君ったら覗きなんかしなくたっていってくれればいつだって見せるのに。」

「あー、ずるい!!僕だって輝くんならいつでも見せるよー!」

「サイッテー!!覗きなんて最低だよ!!」

 

約2名変なことを言っているが、涼風は真っ当に怒り心頭のようだ。

 

「玉城っ!俺はコイツが妬ましいっ!!」

「そんなことを言ってる場合ではないだろう!?」

 

隣で薬師が俺のことを指さしながら玉城に何かを訴えかけているがそれは一旦無視することにしよう。喫緊の問題は目の前の修羅の形相を浮かべた九鬼だ。さすがのモノトラも今回ばかりは1発殴られるのを受け入れた顔をしている。

 

「安心しろよ。俺も死にたかねーんで死なねー程度にフルタコにしてやるからよ。」

 

ああ、拝啓母上。僕は自分の健康の代わりに何物にも替えがたいロマンを手に入れました。そのことについては一切後悔しておりません。だけどもし死んでいたら先立つ不幸をお許しください。

 

「「「「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」」

 

無事モノトラ含めた4人は九鬼によってフルタコにされたのであった。

その後俺達は3人で保健室へと向かいお互いの手当をした後、それぞれで自由時間を過ごすことにした。

 

 

 

さすがに九鬼に殴られたところが痛くて外に出る気にならず部屋で1人で過ごしているといつの間にか午後の5時になっていた。あの覗き事件の後罰として女性陣から今日と明日の食事の準備と片付けを全部やることを命じられたのでさすがに準備をしに行かないわけにはいかなかった。

さすがに同じことを思っていたのか俺がちょうど食堂に着いたタイミングで薬師と玉城もやってきていた。

 

「おーっす、お前らも準備か?いっつつ…。」

「さすがにな。うぐ…。」

「とは言え俺しか料理はできないし2人はできた物を運んでくれ…。いてて…。」

 

体中が痛かったが女性陣への謝罪の意を込めてごちそうを準備させてもらった。その後食堂に来た4人は満足して夕食を食べ終えてくれたようなので良かった。

 

 

 

夕食を食べ終わった後は当初の予定通り花壇作りの残りの作業を行うことにした。

ジャージに着替えて植物庭園に入るとまずはレンガを積むのに使ったセメントが固まっているか確認した。

 

「…よし。しっかり固まってるみたいだ。」

「ほんとになんでこんなに早く固まるんだろ…。」

「よく分からん。」

「よーし、じゃあ土を運んで入れちゃおう!!」

 

物置小屋の隣に積まれていた土をどんどん運び込んでいく。赤玉土に腐葉土、普通の土を運び、それぞれを花壇の中に流し込んでいく。土と一緒に物置小屋の方から持ってきたスコップを使って今流し込んだ土が均等になるように混ぜ込んでいく。いい感じになったところで更に肥料を撒いて中に混ぜ込む。体中が痛い状態では中々の重労働だが花壇の土ができあがっていくのは何とも達成感がある。

 

「こんなところか。花壇の土はできあがったぞ。」

「お、いい感じじゃねーか!そんじゃ種を撒こうぜ!」

「了解!」

 

物置小屋に種類ごとに分けて置かれていた植物の種を3種類ほど持ってきて区画ごとに分けて種を撒いていく。そもそも花が咲くまでは相当時間が掛かるし、俺達がこの学校を脱出するまでの間に花が咲くところを見られるかどうかは分からないけどこうやってみんなで1つの物を完成させたという事実が俺達に結束力を与えてくれるだろう。

一応1日一度のスプリンクラーはあるけどこの区画はあまり水が届かないのできちんと1日1,2度女子が持ち回りで水やりをすることに決めた。そしてその記念すべき第1回目をなぜか俺がやった。

もちろんこの作業の後も汗をかいて風呂に入らなければいけなくなるわけだが、女性陣は昼間の反省を活かして自分の部屋のシャワーへと向かっていった。さすがに2度目はホントに命がないと思うのでもし大浴場に向かっていったとしても覗きはしないと思うが。

 

 

 

夜時間になる前に紅茶を飲もうとラウンジに行くことにした。ラウンジでティーバッグとティーカップを取り、部屋でお湯を入れに戻ろうとすると、モノトラが何やら機嫌の悪そうな様子でそこに立っていた。

 

「何してるんだ?」

「おう、オマエに聞きてーことがあんだぜ。」

「聞きたいこと?」

「ああ。オマエ、俺の大事なモン見なかったか?」

「大事な物って…。それが何かも分からないのに心当たりも何もあったもんじゃないだろ。」

「まーそりゃそうだな。要はカギの束なんだが見てねーか?」

「さすがに見てないな。お前が保管するようなカギなんて見てたら分からない訳ないし持ってたら持ってたで言うわけがないだろ?」

「まーそれもそうだ。引き留めて悪かったんだぜ。さっさと部屋に戻って寝るんだぜ。」

「ああ、そうさせてもらうよ。」

 

コイツが素直に謝罪するなんて気持ち悪いことこの上ない。それにコイツが探してるカギってどこのカギだ…?いくつか心当たりはあるけど結局それがなんなのかは分からなかった。

そのまま部屋に戻り紅茶を飲むとすぐに夜時間になった。

 

 

キーン,コーン… カーン、コーン…

 

「10時になりました。ただ今より夜時間となります。食堂はロックされますので速やかに退出してください。それではよい夢を。お休みなさい。」

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

「…………。」

 

 

「…………。」

 

 

「…………。」

 

 

「さすがに奴は調子に乗りすぎたんだぜ。」

 

 

「多少の言動は目を瞑ってきたがこれはダメだぜ。」

 

 

「という訳で明日は報復をさせてもらうんだぜ。」

 

 

「目には目を歯には歯を、って奴だぜ。」

 

 

「ぐぷぷ…。ぐぷぷぷぷぷぷ…。」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り7人




何やら不穏な雰囲気になってきましたね…。モノトラは一体何を企んでいるのでしょうか…?その辺りの話はまた次回と言うことで!

それでは今回の設定裏話です!
今回は第4章のサブキャラ紹介です!今回紹介するのは副島灰次さんです。
まあ、誰だコイツ、という話だと思うのですが、前章の最後の方を思い返していただけるとちょっと心当たりがある方もいらっしゃるかと思います。そう、アンリさんの会社経営における右腕です!彼は元々畔田君同様シャークネード家の執事を務めていました。ですが事務処理能力の高さを買われてアンリさんの秘書に任命されていました。日常生活が畔田くん、仕事が彼、というイメージです。しかし、アンリさんがいない間に彼女の会社が全て潰れたことの対応に追われることとなります。結果、彼はアンリさんに責任を負わせないよう自らが全ての責任と共に命を絶ち、アンリさんが戻ってきたときにまっさらな状態から再び会社経営を始められるような素地を整えていきました。ですがそんな彼の願いももう叶うことはありません…。

ということで今回はここまでです!また次回のこのコーナーでお会いしましょう!!!


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CHAPTER5 (非)日常編3

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「おはようございます。7時になりました。今日も一日元気で頑張りましょう。」

 

もう朝か。でも今朝のモノトラのアナウンスは心なしかいつもよりもテンションが低い感じがする。恐らくだけど昨日のその大事なカギとやらを無くした件が相当響いているのだろう。まあアイツが元気ない分にはこちらが不快な思いをすることはないし大した問題ではあるまい。

 

 

俺はそう思い込んでいた。まさか昨晩のあの件があの俺にとって、いや、みんなにとって最悪の事件を引き起こす引き金になってしまうなんて気付かずに。

 

 

食堂に行くとなんだかすごい甘い匂いがしていた。最初は人数が減ってしまったことで珍しく甘寺が朝食を作ってくれているのかと思っていたが、良く嗅いでみるとチョコレートの甘い匂いは多少しないではないがそれはメインではない。うーん、これは…ピーナッツバターか?

そんなことを考えていると厨房の方から九鬼がトーストの乗った皿を持って出てきた。

 

「はよっす水島!ちょうどいいところに来た!運ぶの手伝ってくれや!」

「ああ、分かった。ところで今日は何を作ったんだ?」

「朝飯か?それならこれまでとはちょっと趣向を変えて甘い奴でも作ってみるかと思ってよ?今日はピーナッツバターとバナナとトーストだ!ちょっとチョコレートソースもかけてあるぜ?」

「だからこんなに甘い匂いがしてるのか。」

「そういうこった!」

 

これまでとは趣向を変えたトーストを運んでいるとそこにみんなが集まってきた。

 

「わー!これすごーい!」

「ピーナッツバターにバナナか。これまでとはまた違っていいんじゃないか。」

「あ、飲み物はセルフサービスなー。コーヒーでも紅茶でも好きな物をラウンジから自分で取ってきてくれ。」

 

そんなこんなでみんなで席についてトーストに舌鼓を打った。そう言えば…

 

「なあ、ピーナッツバターなんてどこにあったんだ?バナナはキッチンに置いてあるしチョコレートソースも甘寺がいるとはいえ冷蔵庫の中に入ってるのを見たことはあるんだがピーナッツバターだけは見たことないぞ?」

「あ、それあたしも思ってた!」

「それなら手作りだぜ!」

「手作り!?」

「ああ、簡単にできんだぜ?ピーナッツを砕いて砂糖と少量の塩を入れてミキサーで5分くらいガーッとやるだけだ。ピーナッツって勝手に油が出るからすぐにできんだぜ!」

「すごいなぁ。」

「いんやたまたま食堂におつまみ用ピーナッツを見つけたからどうせならと思ってやってみただけだぞ?おつまみ用って皮も剥かれてて手間もねーからな!」

「そのピーナッツってさー、それくらいあったのー?」

「あー、段ボール1箱にバカみてーに入ってたぞ?」

「ホントにー?ありがとーう。」

 

何でそんなことを久見が聞くのかはよく分からないがそんなにたくさん入っているというのであれば俺も少しくらい部屋に持っていってもいいかもしれない。

そんなこんなで時間が過ぎて俺達は片付けまで終わらせて自由に行動することにした。

 

 

 

図書室に紅茶を持ち込んで読書をしているうちに時間はもう10時。確か女子の定刻の花壇への水やりがこの時間だったはずだ。ちょっと気になるし行ってみることにしようか。

 

「あれ、輝君どうしたの?」

 

植物庭園に行ってみるとちょうど今日の担当である甘寺が水やりをしているところだった。

 

「いや、ちょうど水やりの時間がこの時間だったなと思ってな。少し気になって来てみたんだ。」

「そういうことねー。まあまだ芽が出るのだって先の話だけど結構いい感じなんじゃないかな!」

「確かに見栄えもいい感じになってるな。これは花が咲くのが楽しみだ。」

「でもまだ完成じゃないんだよね。」

 

完成じゃない?まあまだ花どころか芽も出ていないんだから仕方ないとは思うが…。

と思っていると甘寺がおもむろに何かを取り出して花壇の縁に刺した。

 

「今何を刺したんだ?」

「実はね、さっき朝ご飯の後に久見さんが水やりのときにこれを刺して来てって!」

 

今甘寺が刺した物をよく見るとそこには“新1期!!”と書いてあった。どうやら画用紙に描いたものをラミネートしたいわば看板のようだ。

 

「…どこでラミネートなんかしたんだ…。」

「太宰君の部屋にあったんだって。」

「本屋のポップ作りでもしてたのか…?」

 

まあ経緯はさておき、久見が作ってくれた看板はかわいらしくて分かりやすく、それでいて花壇の景観を邪魔しない、そんな絶妙なバランスで作られていた。まあ、この後再び新しく生徒が入ってくるかどうかは分からないからこの看板に意味があるかは分からないけど、“俺達が作った花壇”として俺達の結束力を更に高める物としては十分な役割を果たすことだろう。

 

「さて、水やりも終わったし戻ろっか!」

「ああ、そうだな。」

 

とりあえずじょうろを物置小屋に戻して一緒に寄宿舎の方に戻った。その途中で偶然であった久見がだいぶものすごい顔をしていたのは忘れることにしよう。

 

 

 

先ほどまで読んでいた本を図書室で出しっぱなしにしてしまったということに気付いたので俺は図書室に戻ってきていた。片付けをしてもう一度寄宿舎に戻ろうとすると唐突にチャイムが鳴った。

 

 

ピンポンパンポーン…

 

 

「オマエラ至急体育館に集合してください。」

 

どういうことだ、急に集合なんて?そう思いながら体育館に向かうとその途中で玉城と出会った。

 

「玉城、これどういうことだと思う?」

「まあ、前の裁判から3日が経った。そう考えると恐らく今回の動機の発表じゃないか?」

 

その玉城の言葉にもう1週間以上前、美上が殺された事件の動機となったあの出来事を思い出す。あのときは生き残っていた14人の大切な人を拘束し、翌日正午までに殺人が起きなければ全員を殺す、ただしその中に本物の大切な人は1人しかいない、という物だった。その動機が発表されたとき、俺達は確かに体育館に集合させられてその拘束されている映像を見せられた。

 

「…もしかしてまたあんな外の誰かをターゲットにした動機を…?」

「さあ、そこまでは分からん。ただろくでもない動機であることは確かだろうな。」

 

体育館に入るといつもは全員が集合してから演台から飛び出してくるモノトラが既に演台の上で仁王立ちしていた。やはり昨日無くしたカギの件が随分尾を引いているらしい。かなり機嫌が悪そうで開口一番、

 

「遅え!!」

 

と俺達を怒鳴りつけた。

 

「遅えって5分くらいのとこじゃ来ただろ?」

「何イライラしてんのさ!」

「口答えするんじゃねーぜ!!」

 

どうにも話を聞いてくれる雰囲気ではないようだ。腹立たしいことこの上ないがここは一旦我慢してコイツの話を聞くことにしよう。

 

「イライラしてるのは構わないけど用件はスパッと話してくれ。」

「ああ、それもそうだな。このイライラもこの後の事を想像するだけでスッとするしな!」

 

さっきまでとは裏腹に急にニヤッと笑い出すモノトラ。不気味で仕方がないがそれは言うまい。

 

「それでなぜ俺達を集めた?いつもの動機とやらか?」

「動機?あー、そこまでは考えちゃいなかったがまあ、これが今回の動機でも全然問題ないんだぜ!!」

 

動機じゃないけど動機になる?一体どういうことだ?

 

「今回オマエラを集めた理由はとある発表をするためなんだぜ!」

「とある発表?」

「ああ、オマエラには衝撃の事実かも知れねーな。」

 

衝撃の事実だって…?

 

「オマエラ、以前の学級裁判の後に俺がうっかり口を滑らせたこと覚えてるか?」

 

モノトラがうっかり口を滑らせたこと?考えを巡らせていくとモノトラのある言葉が思い当たった。

 

 

『ほいじゃおつかれさん!さっさと部屋に戻って寝るんだぜ!もしかしたら今すぐにでもオレの息が掛かった奴がオマエラの命を狙ってるかもしれねーんだからな・・・。』

 

 

もしかして有浜の事件の後の“裏切り者”のことか…?

 

「それって“裏切り者”のことか?」

「まあ、そういうこったな!今回はその裏切り者の正体を発表させてもらうんだぜ!」

 

正体を発表だって?俺達の命を狙わせているのに、か?ふと周りを見回すとみんな困惑したような表情を浮かべていたが、その中でも特段玉城がモノトラを鋭い目でにらみつけていた。

 

「…玉城?どうしたんだ?」

「いや、なんでもない。なんでもない。」

 

2回もなんでもないを繰り返すなんてコイツらしくない。一体何を思っているんだ…?

 

「それじゃ発表させてもらうんだぜ!!オレの息が掛かり、オマエラの中に潜り込ませていた裏切り者、その正体は…!!!玉城将なんだぜ!!!」

 

すぐに今の玉城の表情と言葉の意味が分かった。だけどその事実を俺達が受け入れるには時間を要した。

 

「…は?テメー何言ってんだよ…?玉城が裏切り者?んな訳ねーだろ!!!コイツがオレ達の命を狙ってるって!!?ふざけるのも大概にしろよ!!!」

 

最初に言葉、いや怒声を発したのは九鬼だった。九鬼が怒るのも理解できる、いや、俺も一緒になってモノトラを怒鳴りつけてやりたいくらい、モノトラが今言ったことはタチの悪い冗談にしか思えなかった。

 

「わざわざそんな冗談なんか言わねーんだぜ。」

 

俺がモノトラを怒鳴りつけることをしなかったのは、そう、奴は俺達を怒らせるような冗談を言うことはない、ということをこのコロシアイ学園生活の中で嫌というほど思い知らされてしまっているからだった。

 

「だって、オマエラ冗談でこんなこと言ったら怒るだろ?でもオマエラを怒らせたってオレにとって何のメリットもねーんだぜ。それに、ずっと一緒に戦ってきて、絆を育んできて、仲間だと思っていた奴が実は“裏切り者”だっていうシナリオが純然たる事実であった方が、」

 

そう、こいつが俺達に与えようとする物は怒りなんかじゃない。こいつが俺達に与えようとするものはいつだって…

 

 

 

「オマエラ、絶望してくれるだろう?」

 

 

 

その後アイツが何を言っていたのかは覚えていない。怒りと混乱と、“絶望”と。色んな感情がない交ぜになって気付いた頃にはもうモノトラは俺達の前から姿を消していた。

体育館に取り残された俺達はしばらく沈黙を貫いていた。そんな中で最初に口を開いたのも九鬼だった。

 

「…おい、玉城。オメー、ホントに裏切りモンだったのか…?」

 

絞り出すようなその一言に込められていた想いはどれほどの物だっただろう。だが、その言葉に対する返答はない。

 

「…何か、言えよ…。」

 

それでも言葉は返ってこない。すると突然体育館の床が爆ぜるような音がした。

 

「何か言えって言ってんだろ!!!テメーはホントに裏切りモンだったのかって訊いてんだよ!!!!」

「おい九鬼、やめろって!!」

 

九鬼は床を強く蹴って距離を一瞬で詰めると、玉城の胸ぐらを掴み怒声を浴びせかける。その九鬼を薬師がどうにか引き剥がそうとしてる。そこに俺と涼風が加わってどうにか3人で九鬼を抑えつける。

俺達3人に取り押さえられた九鬼は息を荒げている。

 

「テメーオレ達をずっと騙してたのかよ!モノトラに振り回されてるオレ達を見て最初っからずっと陰で笑ってたのかよ!!?」

「ぐっ!!力強えっ!!」

 

暴れる九鬼に対して玉城は一言も発さないどころか身じろぎ1つしない。

 

「玉城、どうなんだ。お前は、本当に裏切り者だったのか?本当に俺達を、陰で殺そうと動いていたのか?」

「…ああ、その通りだ。俺はモノトラに命じられてコロシアイ参加者の中に潜り込んでいた。それは、事実だ。」

 

それだけ言うと玉城は俺達に背を向ける。

 

「…俺は()()()と関わるべきではなかったな。」

 

そう一言漏すと体育館を出ていった。その背中に九鬼は、

 

「オレはよ…、最初はお前のこと気にくわねーと思ってた…。だけどなんだかんだ色んなことやって、バカ騒ぎして、少なくともお前のこと、仲間だと()()()()()。」

 

その言葉に玉城からの返事はない。何も言わないまま玉城は体育館を後にした。俺達はもう何も言うことができなかった。

 

「…なあ、ホントに玉城って俺達のことを殺そうとしてたのかな…。」

 

再び続いた沈黙を破ったのは薬師だった。

 

「最初の頃ならまだしも、どうしても今の玉城が俺達のことを殺そうとしてたようには俺には思えねえよ…。」

「…オレだって、思えねえよ…。」

 

薬師の言葉に九鬼が絞り出すように応える。その言葉には悔しさが滲み出していた。他の誰も言葉を発さなかったけれどみんなの思いは同じだったように思う。けれど玉城が話してくれないのであれば俺達はもう何もすることはできなかった。

また少し黙りこんだ後、俺達はそれぞれの部屋に戻ることになった。

 

 

 

昼食の時間、またみんなが食堂に集まってきたけどそこに玉城の姿はなかった。玉城が食堂に来ないのは最初の頃もそうだったけれど、あの頃より人数が減ってしまった分、その空白はとてつもないほど大きな物に感じられた。

ただ当の俺達も仲良くおしゃべりという雰囲気ではなくなってしまい、黙りこくったままの食事となった。その後はそれぞれがそれぞれの部屋に戻り、また夕食の時間になるまで誰1人部屋から出てくることはなかった。そうしてそのまま夜時間を迎えることになった。

 

 

 

【モノトラ劇場】

 

「どうやらオレが放り込んだ爆弾は随分な威力になったみてーだな。」

 

 

「オレが想定していた以上だぜ…。」

 

 

「さてさて、アイツらは単独行動を取ってるみたいだが、」

 

 

「ソイツは果たして正しい選択なのかどうか…。」

 

 

「1人っつーのは」

 

 

「誰かに襲われても助けてもらえねーし、」

 

 

「疑われたときにゃ」

 

 

「誰にもアリバイを証明してもらえなくなっちまうんだぜ…。」

 

 

「ぐぷぷぷぷぷぷぷ…。」

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の棋士       玉城将(タマシロショウ)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り7人




さてさて、遂にモノトラの口から玉城君が裏切り者だという事実が水島君達に明かされてしまいました。いつの間にかどんどん他のみんなもバラバラに…。はてさて、みんなの心が又1つになる日は来るのでしょうか…?



それでは設定裏話に参りましょう。今回は第4章のおしおきのお話です。
第4章、アンリさんのおしおきは「My Fire Lady」です。タイトルの元ネタはミュージカルのタイトルやロンドン橋のワンフレーズとして有名な「My Fair Lady」です。元ネタの方の意味は「我が麗しの貴婦人」といった感じなので、おしおきの方のタイトルは無理くり訳すなら「我が炎の貴婦人」といったところでしょうか。これは屋敷を模したおしおきの舞台の最奥で死んで尚、主を待ち続ける畔田君の視点から見た言葉になっています。炎の中畔田君を探し、たどり着く直前に息絶える、そんなアンリさんの絶望的な最期をいい感じに表現できているのではないかと思います。


さて、それでは次回は(非)日常編の4回目ということでそろそろあのお時間が…?ということで今回はここまでです!!


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CHAPTER5 (非)日常編4

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「おはようございます。7時になりました。今日も一日元気で頑張りましょう。」

 

モノトラのアナウンスが聞こえてくる。アイツは元気でなんて言っているけれどそんな気分になることはできない。とは言え食事の準備はしないわけにはいかないので食堂に向かう。

食事を摂らないわけにはいかないというのは他のみんなも同じようで、みんなひどい顔をしながらも食堂に集まってくる。

ただ、食堂に集まるとき以外はみんな一緒にいる気にはならないようで、食事とその片付けを終えるとみんなそそくさと自分の部屋に戻ってしまう。

自分の部屋にたった1人でずっといると時間が過ぎるのがかなり遅く感じてしまう。図書室から本を持ち出してもみたが、暗い気分は晴れない。といっても外に出る気にはなれず1日部屋で時間を過ごしてしまった。

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「10時になりました。ただ今より夜時間となります。食堂はロックされますので速やかに退出してください。それではよい夢を。お休みなさい。」

 

 

 

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「おはようございます。7時になりました。今日も1日元気で頑張りましょう。」

 

キーン、コーン… カーン、コーン

「10時になりました。ただ今より夜時間となります。食堂はロックされますので速やかに退出してください。それではよい夢を。お休みなさい。」

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

 

 

 

あのモノトラの動機発表から3日が経った。玉城が何かをする気配はないし、逆に俺達の誰かが玉城に何かする気配もない。ただ、俺達はみんな食事の時だけ食事をして、事務的な会話だけをして、すぐに食堂をでる、そんな日が続いた。俺達の距離は初めて出会った日よりも遠くなってしまったように思う。そしてそんな食堂にも相変わらず玉城は顔を出していない。倉庫の食べ物の一部がなくなっているので食事はちゃんと摂っているみたいだ。

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

「おはようございます。7時になりました。今日も1日元気に頑張りましょう。」

 

いつもより少し早く目が覚めた、いや、それは間違いか。ここ2日ほどあまり眠れないまま朝を迎えた俺は食堂に向かうことにした。するとそこには今日の食事当番の九鬼も来ていた。

 

「…おう。」

「…ああ。」

 

会話はない。黙ったまま食堂に入り、九鬼が作ったものを俺が機械的にテーブルに並べていく。そのうちにみんなが集まってくるが、その顔はどれも暗い。まるでハロウィンの死霊の群れのようだった。そして今日も相も変わらず玉城は顔も見せない。

 

「…そういやよー。」

 

久しぶりの会話を九鬼が切り出す。

 

「昨日花壇の面倒見に行ったときによ、ついでにちっとニワトリ小屋の方も見てきたんだけどよ、なんかニワトリが変なんだよな。」

「変?」

「いや、具体的にどこがどうってのは分かんねーんだけどよ。」

「へー、そうなんか。」

「…。」

 

会話は途切れる。どうしても続けることができない。九鬼もこれまでの沈黙が耐えきれずこの話を振ったのだろうけど話をする前よりバツの悪そうな顔をしている。

結局この沈黙は食事の間中続き、昨日までと同様、ほぼ会話をしないまま俺達は解散することになった。

 

 

 

こんなことを考えてい当の俺も誰かと一緒に過ごす気にはなれず、1人で寄宿舎の自室で読書をして過ごしていた。結局のところモノトラが用意した動機はこれまで以上に俺達の猜疑心を掻き立て、そのせいで俺達はお互いの交流を断ち切ってしまった。その分、モノトラの望んだような結末にはなっていないわけだが。誰とも関わりを持たないという点には思うところがないわけではない、いや、むしろ寂しく思っているくらいではあるのだが、コロシアイが起こらないという点においては悪いことばかりではないと思っている。だから最悪このほとぼりが冷めるまではこのままでいいか、とも思っていたし、このままの日々がもう少し続くと思っていた。

 

 

 

あの絶望的なアナウンスが流れるまでは。

 

 

 

ピンポンパンポーン…!

 

 

 

 

「死体が発見されました。一定の捜査時間の後学級裁判が行われます。」

 

 

 

 

…は?死体…?なんでだ…?みんな、玉城も含めて、俺達の全員が部屋に篭もっていたはずじゃないか。みんなお互いを疑っているから、お互いの言うことを無条件に信じないはずだし、コロシアイなんて起こりえない環境になっていたはずじゃないか…!

 

 

 

ただ部屋に留まっているわけにもいかない。誰が死んだのかも、どこで死んだのかも全く分かっていないのだから。

部屋を飛び出すとちょうど寄宿舎にいたメンバーを呼びに来たと思われる甘寺とぶつかってしまった。

 

「すまん!」

「こっちこそ!輝君今のアナウンス聞いた!?」

「ああ、それで今部屋を飛び出してきたところだ。」

「それならちょうどいいや!武道場に急いで!!」

「!ああ!」

「私は薬師君のことも呼んでくる!!」

 

 

 

その場で甘寺と別れた俺は急いで甘寺に言われた武道場に急いだ。5階にたどり着くと元々異様な雰囲気を持っていたフロアが更に異様なことになっていた。ちょうど植物庭園と武道場の間の廊下に血の雫が垂れていた。そして勢いよく武道場の扉を開くとあのアナウンスの意味が分かった。

 

 

 

廊下から続く血の雫のその先、武道場の巻き藁に拘束されて、

 

 

 

 

 

 

裏切り者と称された男は射場に咲く桜のように孤独にその命を散らしていた。

 

 

 

 

 

CHAPTER5 ビターホープ・メルトダウン 非日常編

 

 

 

 

 

 

「…玉…城…?」

「…。」

 

そこでは巻き藁に寄りかかるようにして玉城が喉を矢で貫かれていた。そしてその周囲の床には何度も玉城を射ようと試みたかのように何本もの矢が刺さっていた。

 

なぜコイツがここで死んでいる…?玉城は実際の肚の内はともかく、モノトラからの命令を受けて俺達の殺害を目論んでいることになっていたはずだ。それなら何でコイツがここで死んでいる…?

同じく混乱しているのか、俺よりも先に死体を発見していた九鬼、久見、涼風の3人も一言も発することなくその場に立ち尽くしている。

 

「…は?玉城…?何でコイツが死んでんだ…?俺達の中の誰かならともかく、なんでよりによって裏切り者のコイツが死んでんだよ!?」

 

甘寺と共に後から来た薬師が俺達の思考を端的にまとめてくれた。でも結局その問いに答えが出ることはない。俺達が呆然と立ち尽くしていると奴は現れた。

 

「おや、おやおやおや!?遂に裏切り者を殺っちまったってワケか!?」

 

モノトラはその不快な声を武道場に響かせる。

 

「…テメエ、遂にやりたがったな…?オレ達を仲間割れさせるために玉城をテメエが殺したんだな!?」

 

九鬼がモノトラの方を振り向き、怒号を飛ばす。

 

「いやいや、そんな必要なかったじゃねーか。オマエラ勝手にギスギスしてあんまりにも関わり合わねーもんだから逆にどう嗾けたモンか困ってたところなんだぜ。」

「っ!!」

 

そうだ。モノトラの言うとおり、モノトラが俺達に何かをするまでもなく俺達はお互いに関わり合うことを避けていた。むしろ下手気に介入すれば俺達の団結を招き、モノトラからすればもっと厄介なことになりかねなかった。そういう意味ではモノトラには玉城を殺す理由なんてなかった。でも、つまりそういうことは、その現実が示すものは。

 

 

 

「そこの裏切り者を殺したのはオマエラの中の誰かなんだぜ。」

 

 

 

俺達の中に玉城を殺した()()がいる、というもっと信じがたい、いや、信じたくない現実だった。

でもそれを信じようが信じなかろうが学級裁判は始まってしまう。それであれば捜査をするしかない。

 

「…モノトラ、ファイルをよこせ。」

「お?随分やる気だな。」

「どうせここで突っ立ってたってお前は学級裁判をやるだろう?ならばせめて捜査くらいはしておかないとな。」

「いいねぇいいねぇ。いい顔だ。その顔が絶望に歪むのもまた格別なんだぜ…。そういうことならほい、モノトラファイルだぜ!」

 

モノトラはいつも通りの不愉快な言いぶりをしていたが、そんなことを気にしている場合ではない。俺はファイルを受け取るとすぐに捜査を開始した。

 

 

 

 

-捜査開始-

 

 

 

 

 

まずはモノトラファイルを確認しよう。

 

 

モノトラファイル5。死亡したのは“超高校級の棋士”玉城将。死体が発見されたのは校舎5階の武道場。死因は喉を矢で貫かれたことによる窒息死。喉の傷の他にも後頭部に打撃痕がある。

 

 

致命傷と発見現場、そして死体の詳しい状況が書かれているのか…。でも、今回も死亡推定時刻が書かれていないな…。また事件の核心にも関わっているのか…?

 

 

コトダマゲット!

【モノトラファイル5)

死亡したのは“超高校級の棋士”玉城将。

死体が発見されたのは武道場で、死因は喉を矢で貫かれたことによる窒息死。

喉の傷以外にも後頭部に打撃痕がある。

 

 

さてと、まずはこの武道場の捜査から始めるか…。

 

「…よしっ!輝くん、僕は検死に入るよー。」

 

少し気合いを入れ直した後久見がそう言った。

 

「じゃあ念のため俺が現場の監視に入るぜ!」

 

続いて薬師がそう言ってくれた。

 

「それならオレは涼風と現場の外の捜査に行ってくるぜ!」

「がってん!」

 

と九鬼と涼風が連れ立って捜査に向かった。

 

「それなら私は輝君と一緒に捜査するよ!」

「ああ、甘寺、よろしく頼む。」

 

こうしてみんながそれぞれの役割を持って捜査に向かうことになった。それはまるで今までに戻ったようで、まさかコロシアイをきっかけに俺達の関係性が良くなるなんてことは思いもしなかった。

 

さて、ずっとこうしているわけにもいかないだろう。

周囲を見回すとまず目に付いたのが床に落ちている弓だった。

 

「これは弓道の弓だよな?」

「そうだね。なんでこんなところに落ちているんだろう?」

 

そう言えば玉城の死因って喉を矢で貫かれたことによる窒息死、だったよな?もしかしてその死因と関係があるのか…?

…ん?

 

「なあ、なんで弓の弦がないんだ?」

「あれ、ホントだ。これじゃ撃てないね?」

 

じゃあ本当になんでこんなところに落ちているんだ?

 

 

コトダマゲット!

【弓)

武道場の床に落ちていた。玉城の死因と関係があるのかもしれない。

ただしその弓の弦は外されてどこかになくなっている。

 

 

床と言えばもう1つ気になるのがこの床の血の痕だ。

これをよく見てみるとその起点は玉城の死体で、その血痕はどうやら廊下の方向に向かって伸びている。

 

「この床の血ってさ、」

「ああ。死体から廊下の方に向かって伸びているな。」

「でも玉城君はこの武道場で発見されたから…。」

「生死は分からないけど恐らく出血した状態でこの武道場の外から運ばれてきたんだろうな。」

 

でももしそれが本当だとしたら玉城は一体どこから運ばれてきたんだ…?

 

 

コトダマGET!

【床の血痕)

床にこぼれていた血痕。死体から伸びており、そこから廊下の方に続いている。

恐らく玉城は出血した状態で武道場の外から運ばれてきた物と思われる。

 

 

ふと顔を上げるとちょうど武道場に飾られていた鎧兜が目に入った。

 

「…あれ?何かおかしいぞ?」

 

その鎧兜に違和感を感じて少し調べて見るとすぐにその違和感の正体に気付いた。

 

「刀はどこ行ったんだ?」

「どうしたの?」

「いや、この鎧兜が模擬刀を佩いてたんだけどさ、その鞘はあるんだけど刀の方がないんだよな。」

「あれ、ホントだ!どこ行っちゃったんだろう?」

 

この刀も事件に何か関係があるのか?

 

 

コトダマゲット!

【模擬刀)

武道場の鎧兜が佩いていた物。刀の方が行方不明になっている。

 

 

さてと、武道場で調べられるのはこのあたりか…。それならそろそろ久見の検死の結果を聞いてもいい頃か。

 

「久見、検死の結果ってもう聞いてもいいか?」

「うん、大丈夫だよー。じゃあまず何から話そっかなー。えっとねー、とりあえずー、後頭部にはしっかり打撃痕があったよー。そこはモノトラファイルの情報と矛盾はしてないかなー。あとはー、喉の傷はー、死因が一応呼吸困難ってはなってるんだけどー、その喉の一撃で割とすぐ死んじゃったみたいー。でねー、死体をよく見てみたらー、手が後ろ手に巻き藁に縛りつけられてたんだー。とりあえず死体の気になるところはこんなところかなー。」

「そうか、ありがとう。」

 

つまりほぼ死体の状況としてはモノトラファイルの通りというワケか。でも巻き藁に縛りつけられていたというのは気になるな。ただ座らせられていた、という訳ではないのか。

 

 

コトダマゲット!

【死体の状況)

喉の傷によって玉城は比較的すぐに死んだものと思われる。また、後頭部には打撲痕が見られ、そこはモノトラファイルの情報通りである。

また、玉城の手は後ろ手に巻き藁に縛りつけられて動けなくされていたようだ。

 

 

それなら今度は俺が死体とその周辺を調べて見るか。

まずは死体本体。確か後ろ手に縛られていたって話だったな。

実際に巻き藁の横に回って調べて見ると玉城の手は巻き藁の脚に何か紐のような物で縛りつけられていた。

 

「これは何の紐だ…?」

「あ、これってもしかして弓の弦じゃない?」

 

確かにそう言われてみるとそう見えてくる。…弓の弦?それって…。

 

 

コトダマゲット!

【弓の弦)

玉城の手を巻き藁に縛りつけるのに使われていた。

捜査中のどこかで弓の弦に関する話が出ていた気がする。

 

 

さてそれじゃ本格的に死体も調べて見るか。

…裏切り者だって言われてたけど、俺達を殺そうとしているって言われてたけど、俺にはコイツがそんなことをしようとしているなんて思えなかった。絶対にコイツは俺の仲間だった。そんな玉城を殺した犯人を俺は、許せない。

玉城の傷をよく見ようとその頭を持ち上げるとその状態に違和感があった。

 

「…?」

「どうしたの、難しい顔して?」

「いや、何か変だなと思ってな。」

「変?」

「ああ、死体の傷を見ようと思って頭を持ち上げたんだけどなんか変なんだ。」

「うーん、あー!矢の向きじゃないー?」

 

俺達の捜査の様子を見ていた久見が口を挟む。

 

「矢の向き?」

「うん!だって弓を使って矢を射たらたいていどう射ても矢って地面に対して矢羽根が水平より上がるはずでしょー?」

「ああ、そうだな。」

「だけどこの玉城君に刺さってる矢はさー、矢羽根が床に対して水平より下がってるでしょー?」

「あ!確かにそうだな。」

「僕は傷は見たけど矢は念のため動かしてないしー、普通に射たらこんなことにはならないと思うんだけどー、どういうことだろうねー?」

 

 

コトダマゲット!

【喉の矢)

死体の傷を見るために玉城の頭を起こしてみたところ、本来矢で射た場合矢羽根が床に対して水平より上がるところを実際は矢羽根が水平より下がっていた。

死体の検死を行った久見は検死の際傷は見たがその刺さっている矢は念のため動かしてはいなかったらしい。

 

 

「それにしてもよく矢を抜かないですぐ死ぬくらい傷が深いって分かったな?」

「あ、それはほら、『きゅーどーぶ!!』を描いてたじゃん?」

「それって確か…、」

「久見さんのデビュー作だよね?弓道部の日常と青春を描いた漫画だよね?」

「ああ。それが流行ったおかげで久見は“超高校級の漫画家”として世に知られるようになったんだよな?」

「その通りー。」

「そこまでは知っているんだが、それが今回の事件とどう関係があるんだ?」

「あれ、そう言えば言ったことなかったっけー?えっとねー、僕はその『きゅーどーぶ!!』を描くために中学時代は弓道部に入ってたんだよねー。だから大体の矢の長さは分かってたんだー。」

「そうだったのか!?」

「ビックリしすぎだよー。僕結構うまかったんだよー?全国大会に出るくらいにはー。」

 

それは結構なんてレベルじゃないだろう。

 

「でもまー、同じ世代にとんでもないのがいたしー、あくまで漫画のために弓道をやってただけだからわざわざ続けはしなかったけどねー。ほんとに上手だったからもしかしたら希望ヶ峰で会えるかなーって思ってったんだけど結果的には会えなかったねー。」

「まあ、ここで会えなかったのはある意味幸せじゃないか?ここで会ってたらつまりコロシアイに巻き込まれてたってことだしな。」

「ま、それもそっかー。よーし、気を取り直して捜査を続けるぞー。」

 

色々ビックリする話もあったが、この久見の話は覚えておいても良いかもしれない。

 

 

コトダマゲット!

【きゅーどーぶ!!)

久見のデビュー作にして出世作にあたる作品。この作品によって久見は“超高校級の漫画家”として認識されるようになった。

弓道部の日常と青春を描いている。

 

【久見の証言)

久見は『きゅーどーぶ』を描くに当たって弓道部に所属していた。

腕前は全国大会に出場できる程だったようだ。

 

 

あと他に気になるところは…。

 

「この死体の周りの矢も調べて見よっか!」

「ああ、そうだな。」

 

玉城の周りの床に矢が何本も刺さっていた。その矢のうちの1本に触るとすぐに抜けてしまった。

 

「なんだこれ、すぐに抜けるな。刺さりが甘いのか?」

 

他の矢もそうかと思って周りを見回してみると、その矢の違和感にも気付いた。

 

「あれ、全部ほぼ一列に並んでるな…。矢で射たらこんなに綺麗に並ぶことってあるのか…?」

「確かにこれは変だね…。」

 

もしかして犯人の偽装工作だったりするのか…?

 

 

コトダマゲット!

【床に刺さった矢)

玉城の死体の周りに矢が何本も刺さっていた。その矢はほぼ一列に並んで刺さっており、刺さりも甘かった。

もしかしたら犯人の偽装工作の可能性もあるかもしれない。

 

 

…よし、武道場で調べられるのはこんなところか。次は目の前の植物庭園に行ってみるか…。

俺は甘寺と一緒に武道場を出た。久見と現場の監視を終えた薬師も2人で捜査に出かけていった。

                   

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り6人




…はい、という訳で遂に第5章の殺人が起こってしまいました。まだ捜査編は半分なワケですが、皆さんの中にはもう犯人が目星が付いてしまっている人もいるのでしょうか…?
第5章と言うことでこの事件が終わると物語は一気に終わりに向かっていくわけですが、そこまで是非ともお付き合いください。ということで今回はここまで!(設定裏話はもうネタ切れです…。ごめんなさい…。)


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CHAPTER5 非日常編-捜査-

俺は甘寺と一緒に植物庭園に向かうため武道場を後にした。廊下に出るとまた床に付いた血痕が目に入った。どうやらこの血痕は武道場の方から繋がってきているらしい。

 

「なあこの血痕ってさ…?」

「うん、多分武道場の床の血の続きだよね?」

「だよな?」

 

そしてその血痕の伸びていく方向を見てみるとどうやら植物庭園の方に向かって伸びているみたいだった。これってつまり…?

 

 

コトダマアップデート!

【床の血痕)

床にこぼれていた血痕。死体から伸びており、そこから廊下の方に続いている。

恐らく玉城は出血した状態で武道場の外から運ばれてきた物と思われる。

更に廊下に出てみると血痕はまだ続いており、その血痕は植物庭園の方に向かっているようだった。

 

 

植物庭園に入ると既に九鬼と涼風が捜査を進めていた。その2人の目はある1点に注がれていた。それはスプリンクラーで少し流れてしまっているが、植物庭園の中央で大きくその存在を主張している“血溜まり”だった。

 

「おう、水島と甘寺か。もう武道場はいいのか?」

「ああ。もう久見と薬師も別のとこの捜査に向かったよ。」

「そうか。」

「ところで2人は血溜まりのところで何をしてたんだ?」

「えっとね、この血は玉城のだよねって話をしてたんだ。」

「まあ、そういうことにはなるわな。」

 

この血が玉城の物であることは間違いないだろうが、他に手掛かりになりそうな物がないか見てみる。

するとその血溜まりから点々と血痕が扉の方に向かって伸びていた。

 

「これって…、」

「うん、廊下と武道場の血痕って多分ここからこぼれた物ってことだと思う。」

 

つまり、玉城はここで何かしらの出血性の負傷を負わされた後に武道場まで運び込まれた。そしてその際に傷から血液がこぼれて痕が残ってしまった、ということか…?

 

 

コトダマゲット!

【血溜まり)

スプリンクラーによって少し流れてしまっているが、植物庭園の中央に残されていた。

その血の主は玉城の物と思われ、玉城はここで一度出血性のケガを負わされたと思われる。

 

 

コトダマアップデート!

【床の血痕)

床にこぼれていた血痕。死体から伸びており、そこから廊下の方に続いている。

恐らく玉城は出血した状態で武道場の外から運ばれてきた物と思われる。

更に廊下に出てみると血痕はまだ続いており、その血痕は植物庭園の方に向かっているようだった。

更にその血痕は植物庭園中央の血溜まりまで伸びており、玉城はここから武道場まで運ばれたものであると考えられる。

 

 

よし、それじゃあ他の部分の捜査の結果も聞いてみるか。

 

「なあ2人とも、他に捜査で分かったことってあるか?」

「…。」

「…何だよ?」

「…血溜まりに集中しちゃって他のとこ捜査できてないや…。…ゴメンネ?」

 

…危機感はどこへ消え失せたというのか。

 

「…はあ。捜査できてない物は仕方ない。一緒に捜査するぞ。」

「…ああ、わりーな。」

 

それならまずは物置小屋だろうか。そこなら色々置かれていてもおかしくないだろう。

物置小屋に入るとまず目に入ったのがスコップだった。これは数日前花壇を作るのにも使った物だったが、それは泥で汚れていた。

 

「なあ、九鬼はさ、昨日花壇の水やりの時スコップ使ったか?」

「いんや、使ってねーぞ?他の女連中も特にここ数日は最低限の水やりだけのハズだから使ってねーハズだし。」

「そうなのか?」

「ああ。最低限花の水やりだけは続けよう、ってのを話したんでな。一応何かあったら報告することにもなってたけど特に何も聞いてねーし誰も特別何かしたわけじゃねーはずだぞ?」

「そうか。」

「うん、あたしも使ってない。」

「あ、でも甘寺が今日何かしたってんならさすがに分かんねー。」

「あ、私今日は入ってすぐに血溜まりを見つけちゃったから何もできてない!」

「なるほど…。それならスコップを最後に使ったのって花壇を作ったとき以来ってことだよな?」

「そういうことになるね。」

「じゃあさ、俺達片付けの時に一緒にスコップを綺麗に洗ったよな?」

「うん、洗ってたのは見てたよ。」

「…じゃあ、なんでこのスコップは泥だらけなんだ?」

「あ、ほんとだ!なんでだろ?」

 

 

コトダマゲット!

【甘寺の証言)

今日は花壇の世話の前に血溜まりを見つけてしまったため、まだ花壇の世話をすることができていない。

 

【スコップ)

物置小屋に置かれているもの。そのうちの1本の土を掘るところが泥だらけになっていた。

花壇の世話の際には誰も使っておらず、最後に使ったのは花壇を作った日のことだったが、その時には使い終わった後に綺麗に洗ったはずだった。

 

 

「で、花壇の世話は続けてたってことなんだな?」

「ああ、そうだぜ。元々女連中で世話はするってことになってたし引き続き、な。一応朝の10時に水やりをするってことになってたぜ。オメーと薬師に何も言わなかったのは悪かったな。」

「ああ、それは構わない。」

 

つまり女子はある程度花壇周りの様子が分かっていたってことだな。

それに時間も決まっていたのか…。

 

 

コトダマゲット!

【花壇の世話)

女子が持ち回りで花壇に水やりをすることになっていた。

毎回決まった時間に世話をすることになっており、その時間は10時だった。

 

 

さて、物置小屋はこんなところか。

物置小屋を出て周りを見回すと、俺達が作った花壇とはまた別に植物が植えられていなかった花壇の土が不自然にこんもりと盛り上がっていた。

 

「なあ九鬼、あそこの土って元からあんな感じに盛り上がってたのか?」

「いやー、昨日はそんなことなかったと思うぞ?」

 

ということは昨日から今日にかけてここに何かが埋められている、ってことか。

それならばと物置小屋にすぐに戻って綺麗なスコップを取ってその土を掘ってみた。するとそこからむき出しの日本刀が出てきた。

 

「わっ!何これ!?」

「日本刀、か?峰の方に血もついてんな。」

「え、でも日本刀なんてどこから持ってきたの?」

 

日本刀…?

 

「あ、よく見て!それ本物じゃないよ。刃が潰れてるし何か斬ったりはできないと思う。」

 

斬れない日本刀…。

 

「それってもしかして武道場の模擬刀か?」

「多分そうじゃないかな?ちょうどなくなってたし。」

「つまりアレを植物庭園に隠してたってことか。」

 

 

コトダマアップデート!

【模擬刀)

武道場の鎧兜が佩いていた物。刀の方が行方不明になっている。

行方不明になっていた刀の方が植物庭園の花壇の土の中から見つかった。その峰の方に血液が付いていた。

 

 

となるとこの模擬刀の使い道も想像が付いた。そろそろ他のところに行っても…

 

「ねえ輝君、ちょっとこっち来てー!」

 

とその瞬間いつの間にかニワトリ小屋の方に行っていた甘寺が遠くから俺のことを呼んでいた。

 

「どうしたんだ?」

「いやちょっとね、このニワトリたちを見てほしいんだけど…。」

 

甘寺に促されて俺はニワトリ小屋の中を覗いた。しかし、中にいたニワトリは5羽で最初のときと変わっていない。

 

「どこか変わったか?」

「うーん何となくなんだけどさ、ちょっと太った感じがしない?」

「そうか?」

 

そう返答はしたもののそう言われてみると確かにニワトリ小屋のニワトリが最初に見たときよりも太っている気がする。あ、そういえば…。

 

『昨日花壇の面倒見に行ったときによ、ついでにちっとニワトリ小屋の方も見てきたんだけどよ、なんかニワトリが変なんだよな。』

 

って朝食の時に九鬼も言ってたな…。九鬼が言ってた“変”ってこういうことだったのか…。

 

 

コトダマゲット!

【ニワトリ)

植物庭園のニワトリ小屋に飼われている。全部で5羽。

甘寺によると最初に見たときよりもここ数日で太った気がする、とのこと。

 

 

今度こそ植物庭園で調べられるのはこんなところだろう。さて、次はどこの捜査に向かおうか。

 

「ねえねえ、次は玉城君の部屋を捜査してみない?」

「玉城の部屋?」

「多分今回の事件って玉城君が裏切り者だった、ってことに起因しているには間違いないでしょ?それならもしかしたら玉城君の部屋にも何かしらの事件に関わるものが残されてるかもよ?」

「確かにそうかもしれないな。」

 

それならばということで俺は甘寺の提案に乗って玉城の部屋に向かうことにした。

 

 

 

玉城の部屋は最初の事件や畔田の事件のときと同様、既にモノトラによって開錠されており、自由に出入りできるようになっていた。

玉城が裏切り者ということは恐らくモノトラとも直接以外に何かしらのやり取りをしていたとしてもおかしくはない。だとしたらそのやり取りの証拠が残っていそうな場所と言えば…、机だな。

玉城の机は一見綺麗に見えたが、引き出しを開けてみると大量の紙が入っていた。どうやら部屋のメモパッドを用いて誰かと多くのやり取りをしていたようだ。

 

「すごい量だな…。」

「どんなやり取りをしてたんだろうね?」

「少し見てみるか。何かの手掛かりになるかも知れない。」

 

とりあえず2,3枚のメモを取り出してそのやり取りを見てみた。

 

 

 

『4月○日

  モノトラからの指令通り対象者の監視を開始します。

  モノトラとのやり取りを任せてもよいですか?   』

 

 

『4月□日

  コロシアイが始まって1週間以上経過しますが、監視対象が真実に気付く様子は見ら   

  れません。引き続き監視を行います。』

 

 

『4月☆日

  モノトラの思惑と反して他の生き残りのみんながコロシアイに発展する様子は現状見  

  られません。安心してください。これからのことはこのほとぼりが冷めてから改めて  

  考えることにしましょう。』

 

 

 

これってホントにモノトラとのやり取りか?

 

「このメモって何だかモノトラじゃない他の人とやり取りしてたみたいじゃない?」

 

メモを読みながら甘寺がそんなことを口にする。

 

「やっぱり甘寺もそう思ったか?」

「うん。」

「この字にも見覚えがある気がするし、恐らく他の6人の誰かとやり取りしていたんだろうな。」

 

つまりそれはあまり考えたくないことではあるが、俺達の中には玉城の他にもモノトラによって送り込まれた裏切り者がいた、っていうことになるのかもしれない…。

 

 

コトダマゲット!

【引き出し)

玉城の部屋の机の引き出しには多くのメモが入っており、誰かと頻繁にやり取りをしていたと思われる。

文面はモノトラとやり取りをしていたものには見えず、玉城の他にも内通者がいたものと考えられる。

また、そのメモの文字には見覚えがあった。

 

 

こんなところかと思って引き出しを閉めようとするとそこから1枚のメモがひらりと落ちた。またやり取りのメモかと思って拾ってみるとその内容に俺は目を奪われた。

 

 

 

『玉城君へ

  本日夜11時に植物庭園に来てください。監視対象に関して大切な相談があります。』

 

 

 

これって玉城は誰かに呼び出されたってことか?しかもこの筆跡ってさっきの他のメモと同じ物じゃないか。これも覚えておいた方がいいな。

 

 

コトダマゲット!

【呼び出しメモ)

夜11時に大切な相談があるため植物庭園に来てほしいと書いてあり、玉城はこのメモで呼び出されたものと思われる。

また、こちらのメモの筆跡も他のメモの文字と同じ物である。

 

 

その後玉城の部屋の他の部分も調べて見たが、特に気になるものは発見されなかった。

 

「よし、じゃあ他のところに行くか。」

「うん、そうだね!」

 

そうと決まれば長居する必要はないので俺と甘寺は寄宿舎の部屋を出た。

 

 

 

寄宿スペースを出てもう一度校舎の方に戻ろうとすると共有スペースのホールで薬師が怪訝そうな顔をして突っ立っていた。

 

「…お前、こんなところで何してんだ?」

「いや、ちょっと気になることがあってよ。」

「気になること?」

「ああ。玉城が裏切り者だって分かった日の朝飯の時にさ、九鬼がピーナッツバターを使ったトーストを用意してくれたろ?」

「ああ、そうだったな。」

「でさ、その時に水島とかにピーナッツバターの作り方を教えてたじゃん?」

「ああ、それもその通りだ。」

「そんでさ、一緒にさ、おつまみ用のピーナッツが倉庫の中に段ボールに入って大量に置かれてた、ってのも言ってたろ?」

「そう言えばそんな話もしていたな。」

「でよ、捜査中に少し腹が空いちまったんでふとそのことを思い出して倉庫に行ったんだよ。」

 

コイツは捜査中だというのに暢気だな…。

 

「そしたらさ、そのおつまみのコーナーからピーナッツが根こそぎなくなってたんだよ。」

「根こそぎ?」

「さすがにピーナッツバターを作ったときに全部使っちまったってのはありえねえだろ?誰かが一人で全部食っちまったってならなおさらだしよ。」

「それはそうだな。」

「だとしたら誰が持ってったんだろうな、って思ってよ。」

「確かにそれは気になるな。少し気に留めておくよ。」

 

 

コトダマゲット!

【ピーナッツ)

段ボールに入って倉庫に大量に置かれていたはずのものが根こそぎなくなっていた。

誰が何のために持っていったのかは不明。

 

 

「あー、輝くんどうしたのー?」

「ああ、ちょっと玉城の部屋を調べててな。」

「そういうことかー。」

 

そんな話をしているとふと久見が左手を背中の方に隠すように動かした。確かにさっきの検死のときも少し動きに違和感があった気がする。

 

「なあ久見、左手どうしたんだ?」

「え!?左手!?」

「いや、今後ろに回したろ?」

「全然意識してなかったよー。」

「じゃあちょっとだけ見せてもらってもいいか?」

「全然気にすることじゃないよー。」

 

何だか明らかにごまかしているような気がする。何を隠しているのか気になったので久見の隙を突いて左手を目視することに成功した。するとその左手には包帯が巻かれていた。

 

「あっ!」

「その包帯、どうしたんだ?」

「ちょっと、ね…。」

 

何かケガをしているということは分かったけれどそのケガをした理由がなんだったのかはついぞ教えてくれずごまかしきられてしまった

 

 

コトダマゲット!

【久見の包帯)

久見が左手に巻いていた。理由に関してはごまかされてしまい、結局教えてはくれなかった。

 

 

さてと、他にどこか捜査しておいた方がいい場所はあっただろうか…。

 

「確か玉城君ってさ、よく1人で娯楽室にいたよね?」

「ああ、確かに。もしかしたらそこに何か隠されているかもしれないな。」

 

その甘寺の提案に乗って娯楽室に行くことに

 

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

 

「!!」

 

 

「ほいじゃそろそろいつもの赤い扉の前に集合してくれ!裏切り者だから裁判しねーなんてのはナシだぜ?」

 

 

玉城が裏切り者だから裁判しないって?そんなことあるわけない。俺達にとって確かにアイツは仲間だった。それがたとえずっとモノトラの命令で俺達にくっついていたのだとしても。

 

 

 

 

その思いは他のみんなも一緒だったようで、他のみんなも決意の篭もった目でエレベーターの前に集合していた。

 

「なあ、水島。モノトラはああ言ってたけどさ、俺やっぱ玉城はただの裏切り者だって思えねえよ。」

 

エレベーターに乗り込む前に薬師はそう呟いた。

 

「俺さ、アイツがあの日体育館を出てくときのこと、忘れらんねえんだよ…。アイツさ、体育館を出てくとき俺たちの事をさ、最初の時みたいに、モノトラを呼ぶ時みたいに、()()って言ったんだ。俺達を敵だって言ってるみたいにさ。でもさ、その時のアイツの声、震えてた。斜めから見てたから顔が少し見えたんだけどさ、アイツ、すっげえ苦しそうな顔してた。何だか泣きそうなのを無理矢理自分のプライドに懸けて押し込めてたみたいだった。」

「…。」

 

その時のことは俺も覚えている。俺はちょうど薬師の反対側の位置にいたから、俺も玉城の顔が頭から焼き付いて離れない。

 

「俺やっぱさ、玉城は確かにモノトラの命令で俺達の中に潜り込んでたのかも知れないけどさ、そんでもれっきとした俺達の仲間だったんだと思う。」

「…俺も、そう思うよ。」

「だからさ、俺、すっげえ悔しいんだよ。分かってたはずなのに、アイツがただの裏切り者なんかじゃないってことさ、でも俺もしそれが違ったらと思ったら怖くなってアイツのこと避けちまった。アイツのこと独りぼっちにしちまった。そんで独りぼっちで死なせちまった。それがすっげえ悔しい。」

 

薬師は“悔しい”と2度口にするほど玉城を避けてしまったことを悔やんでいるようだった。そしてそれは俺も同じ気持ちだった。

 

「だから俺、許せねえんだ。アイツがモノトラから送り込まれたってそれだけで玉城を、仲間を殺した犯人が。」

「ああ、そうだな。」

「だから俺さ、絶対この裁判、勝つぜ。」

 

薬師は決意を口にするとエレベーターに。いの一番に乗り込んだ。それに続くようにみんなが乗り込んでいく。全員が乗り込むとエレベーターは一度大きく揺れた後静かに地下深くまで沈んでいった。

 

 

玉城はモノトラによって送り込まれた裏切り者だった。それは揺るぎない事実だ。でもアイツが俺達の大切な仲間だったこともまた確かな事実だ。だから俺達は絶対にこの事件の真相を、真実を掴んでみせる。

 

 

エレベーターの到着のベルの音が5回目の学級裁判の始まりを告げた。

 

                    ・ 

                    ・ 

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り6人




次回は5回目の学級裁判が始まっていくこととなります。なぜ玉城君は死ななければならなかったのか、誰が玉城君を殺したのか、その真実を暴くための学級裁判がまさに始まろうとしています。それを是非お楽しみください。ということで今回はここまでです!それでは又次回!!


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CHAPTER5 学級裁判 前半

エレベーターの扉が開くと俺達は全員無言ですぐに自分の席に着いた。言葉は誰も発しておらずともその目には決意が灯っており、みんなの気持ちが1つであることは明らかだった。

 

「おーおー、オマエラ随分情が深いんだな。」

 

そんな俺達の様子を見ながらモノトラがそう発する。

 

「玉城はオマエラにとって裏切り者だったんだぜ?ソイツのためにそんなにやる気を出すなんてよ。」

「そんなことは関係ない。玉城は確かにお前によって送り込まれたのかもしれないけど、でも俺達にとって大事な仲間だったことに代わりはない。だったらソイツの仇はこの学級裁判で晴らさせてもらう。」

「それならそれで構わねーんだぜ。ま、それで絶望することになったとしてもオレは全く責任は取らねーけどな。ぐぷぷぷ。」

「そんなもの取ってもらわなくて結構だ。勝手にやらせてもらう。」

 

それだけ言うと俺達は目の前の裁判に意識を集中した。

 

 

 

コトダマ一覧

 

【モノトラファイル5)

死亡したのは“超高校級の棋士”玉城将。

死体が発見されたのは武道場で、死因は喉を矢で貫かれたことによる窒息死。

喉の傷以外にも後頭部に打撃痕がある。

 

【弓)

武道場の床に落ちていた。玉城の死因と関係があるのかもしれない。

ただしその弓の弦は外されてどこかになくなっている。

 

【床の血痕)

床にこぼれていた血痕。死体から伸びており、そこから廊下の方に続いている。

恐らく玉城は出血した状態で武道場の外から運ばれてきた物と思われる。

更に廊下に出てみると血痕はまだ続いており、その血痕は植物庭園の方に向かっているようだった。

更にその血痕は植物庭園中央の血溜まりまで伸びており、玉城はここから武道場まで運ばれたものであると考えられる。

 

【模擬刀)

武道場の鎧兜が佩いていた物。刀の方が行方不明になっている。

行方不明になっていた刀の方が植物庭園の花壇の土の中から見つかった。その峰の方に血液が付いていた。

 

【死体の状況)

喉の傷によって玉城は比較的すぐに死んだものと思われる。また、後頭部には打撲痕が見られ、そこはモノトラファイルの情報通りである。

また、玉城の手は後ろ手に巻き藁に縛りつけられて動けなくされていたようだ。

 

【弓の弦)

玉城の手を巻き藁に縛りつけるのに使われていた。

捜査中のどこかで弓の弦に関する話が出ていた気がする。

 

【喉の矢)

死体の傷を見るために玉城の頭を起こしてみたところ、本来矢で射た場合矢羽根が床に対して水平より上がるところを実際は矢羽根が水平より下がっていた。

死体の検死を行った久見は検死の際傷は見たがその刺さっている矢は念のため動かしてはいなかったらしい。

 

【きゅーどーぶ!!)

久見のデビュー作にして出世作にあたる作品。この作品によって久見は“超高校級の漫画家”として認識されるようになった。

弓道部の日常と青春を描いている。

 

【久見の証言)

久見は『きゅーどーぶ』を描くに当たって弓道部に所属していた。

腕前は全国大会に出場できる程だったようだ。

 

【床に刺さった矢)

玉城の死体の周りに矢が何本も刺さっていた。その矢はほぼ一列に並んで刺さっており、刺さりも甘かった。

もしかしたら犯人の偽装工作の可能性もあるかもしれない。

 

【血溜まり)

スプリンクラーによって少し流れてしまっているが、植物庭園の中央に残されていた。

その血の主は玉城の物と思われ、玉城はここで一度出血性のケガを負わされたと思われる。

 

【甘寺の証言)

今日は花壇の世話の前に血溜まりを見つけてしまったため、まだ花壇の世話をすることができていない。

 

【スコップ)

物置小屋に置かれているもの。そのうちの1本の土を掘るところが泥だらけになっていた。

花壇の世話の際には誰も使っておらず、最後に使ったのは花壇を作った日のことだったが、その時には使い終わった後に綺麗に洗ったはずだった。

 

【花壇の世話)

女子が持ち回りで花壇に水やりをすることになっていた。

毎回決まった時間に世話をすることになっており、その時間は10時だった。

 

【ニワトリ)

植物庭園のニワトリ小屋に飼われている。全部で5羽。

甘寺によると最初に見たときよりもここ数日で太った気がする、とのこと。

 

【引き出し)

玉城の部屋の机の引き出しには多くのメモが入っており、誰かと頻繁にやり取りをしていたと思われる。

文面はモノトラとやり取りをしていたものには見えず、玉城の他にも内通者がいたものと考えられる。

また、そのメモの文字には見覚えがあった。

 

【呼び出しメモ)

夜11時に大切な相談があるため植物庭園に来てほしいと書いてあり、玉城はこのメモで呼び出されたものと思われる。

また、こちらのメモの筆跡も他のメモの文字と同じ物である。

 

【ピーナッツ)

段ボールに入って倉庫に大量に置かれていたはずのものが根こそぎなくなっていた。

誰が何のために持っていったのかは不明。

 

【久見の包帯)

久見が左手に巻いていた。理由に関してはごまかされてしまい、結局教えてはくれなかった。

 

 

 

 

【学級裁判開廷】

 

「まあホントにもうそろそろいいんじゃねーかとは思うんだが一応説明を入れさせてもらうんだぜオマエラにはこの学級裁判を通して今回の事件のクロを見つけて指名してもらうぜ。そして正しいクロを指名できたときにはシロの勝ち、クロにはおしおきを受けてもらうぜ。逆に間違ったクロを指摘してしまった場合にはクロの勝ち、シロにおしおきを受けてもらい、クロは晴れて卒業となるんだぜ。ってなわけで議論を始めてくれ!」

 

 

「うし、じゃあ始めんぞ!!」

「じゃあ何から話し始めよっか?」

 

 

 

議論開始

 

「何から話し始めよっか?」

 

 

「やっぱり死因じゃねえか?」

 

 

「そこから【手口が分かる】だろ?」

 

 

「それなら簡単だな!」

 

 

「玉城の頭に傷があったし、」

 

 

「アイツは【撲殺】されたんだ!」

 

 

「アイツは誰かに頭を【かち割られて】」

 

 

「殺されちまったんだ!」

 

 

確かに玉城の頭には傷があったけど、本当にそれが死因だったのか…?

 

【モノトラファイル5)→【撲殺】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「いや、玉城は撲殺されたんじゃない。」

「でも頭に傷があっただろ?」

「それはそうなんだがモノトラファイルをよく見てくれ。」

「モノトラファイル…、あ、死因は喉を貫かれたことによる窒息死って書いてあるな!」

「ああ。そしてそれを裏付ける証拠もある。」

 

 

 

証拠提出

【死体の状況)

 

「これだ!」

 

 

 

「久見の検死結果からもそのことが分かるんだ。」

「うん、玉城君はー、喉に傷を受けてからそこまでしないで死んじゃった、って感じだったよー。」

「ってことはよ、玉城は喉を矢で貫かれたことで死んじまったってことが確定でいいんだよな?」

「ああ、そういうことになる。」

「じゃーよー、あの頭の傷は何だったんだ?」

 

 

 

議論開始

 

「玉城君の頭の傷かー」

 

 

「だってそうだろ?」

 

 

「【いきなり喉を刺されて】死んだなら」

 

 

「玉城が頭の傷を負うことはねーじゃねーか」

 

 

「確かにそうだよな…」

 

 

「あ、でも刺されて倒れるときに」

 

 

「『頭を打っちゃった』なら」

 

 

「頭に傷をできたとしても」

 

 

「おかしくなくない?」

 

 

「うーん、でもさ」

 

 

「そんな痕跡あったかな?」

 

 

本当に犯行手順はそうだったのか…?

 

【弓の弦)→【いきなり喉を刺されて】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「多分いきなり刺されたわけじゃないんだと思う。」

「そうなのか?」

「ああ。玉城の死体をよく見てみるとな、手が後ろ手に巻き藁に縛りつけられてたんだよ。」

「これは…、弓の紐の部分か?」

「ああ、正確には弦って言うんだが、それを使って玉城は拘束されてたんだ。」

「殺してから拘束する理由はないよね…。」

「そうだ。つまり玉城は拘束されてから殺されたことになる。」

「ってことは殴られた理由ってのは…」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.事故で殴った

 

2.気絶させるため

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

 

「拘束しやすいように気絶させるためってことになる。」

「なるほどなー。」

「ってことは玉城を気絶させられて、同時に矢で殺せる人間を探せばいいってことになるな!」

 

 

 

議論開始

 

「でもさー、玉城君を気絶させるのって」

 

 

「【誰でもできる】よねー?」

 

 

「まあぶん殴りゃ良い訳だからな」

 

 

「それなら、」

 

 

「【矢で殺せる】人を」

 

 

「探せばいいんじゃないかな?」

 

 

「矢で殺せるっつーことは」

 

 

「【弓道家】ってことか?」

 

 

「でもそんな人【ここにはいないよ】?」

 

 

「う、確かに…」

 

 

「じゃあ結局どっちも無理じゃねえか!」

 

 

…いや、ホントにいないのか?

 

【久見の証言)→【ここにはいないよ】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「いや、いたはずだ…。弓道ができる人間がこの中に」

「何だと!?」

 

そう、弓道ができる人物はこの中にいる。ソイツは自分の口で弓道ができると言っていた。その人物は…

 

 

 

指名しろ!

【ヒサミハルカ】

 

「お前しかいない!」

 

 

 

「久見、お前昔弓道部だったって言ってたよな?」

「…そうだねー。もしかして僕、疑われてるー?」

「いや、もしかしなくてもだろ。」

「話を戻すぞ。もう一度確認するがお前は以前弓道部に所属していた、そうだったな?」

「うん、その通りだよー。」

「いや、ちょっと待てって!コイツが何で弓道部にいるんだよ!漫研とか美術部とかならともかく、コイツが何で運動部、しかも武道系にいることになるんだ!?」

「そのことを示す証拠もある。」

 

久見が弓道部にいたことを示す証拠、それは…!

 

 

 

証拠提出

【きゅーどーぶ!!)

 

「これだ!」

 

 

 

「この漫画だよ。」

「これって久見さんのデビュー作?」

「ああ、ついでに言うと出世作でもある。弓道部に所属する学生の日常と青春を描くこの漫画を描くために久見は弓道部に所属していたんだ。」

「まあ、それは自分で言ったしね、否定しないよー。」

「でもさ、それってお遊びとは言わないけど本気でやってたわけでもないんだよね?人の喉を撃つなんてそこそこ近くても相当うまくないと難しくない?漫画の資料集めだけのために入部した晴香ちゃんにはできないと思うんだけど…。」

「それも問題ないんだ。」

 

そう、久見にはそれなりの腕があったことも分かっている。なぜなら…

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.久見は超高校級の弓道家でもあった

 

2.久見家は代々弓道家の家系だった

 

3.久見は弓道の全国大会出場者である

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

 

「久見は弓道で全国大会出場も経験しているからな。」

「えっ!?そうなの!?」

「うん、実は上手なのだー。」

「つまり久見は“超高校級の弓道家”でもあったっつうことか!?」

「うーん、希望ヶ峰学園のスカウト事情はよく分からないけどー、それはないんじゃないかなー。あのときには僕よりはるかに上手な人が優勝してたしー、希望ヶ峰学園に弓道家としてスカウトされるとしたらその人だと思うよー。」

「なるほどな…。ってそこじゃねえ!つまり久見は全国大会に出られるほど弓道が上手かったってことだろ!?ってことはさ、」

「腕がないとって問題も解決されるね…。」

「久見、オメーが犯人だってことか!?」

「待ってよー!僕じゃないってー!」

 

 

 

議論開始

 

「久見、オメーが犯人だったんだな!?」

 

 

「だから僕じゃないってー!」

 

 

「でも弓道が上手なのって」

 

 

「【晴香ちゃんしかいない】し…」

 

 

「そもそも、」

 

 

「僕が矢を射たって」

 

 

「【証拠もない】じゃんかー!」

 

 

「証拠なんかなくたって」

 

 

「矢を当てられるのが」

 

 

「久見しかいねえだろ!?」

 

 

「【冤罪だ】ー!!」

 

 

確かに直接射た証拠はないかもしれないけど…

 

【久見の包帯)→【証拠もない】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「それならその手のケガは何なんだ?」

「えっ?」

「左手の包帯だよ。その手のケガは何でしたんだ?」

「あー、えー、それはー、えーっと…。」

「露骨すぎんだろ!!?」

「これは俺も聞きかじっただけだから間違っていたら訂正してほしいんだが、弓道って弓を持っている左手、特にその中でも親指のケガが多いって聞くぞ。だとしたらそのケガを隠すために大仰に左手に包帯を巻いてるんじゃないのか?」

「えっとー、まず、左手の親指のケガが多いってのはホントだよー。擦り傷になったり指の付け根をケガしたりってのは僕も経験あるんだー。でも今の左手のケガは事件とは関係ないよー。」

「いやいや、それは無茶だろ…。」

 

現状はどう見ても久見が犯人としか思えない。でも久見の反応も怪しいと言えば怪しいけどでもまるっきり犯人だと決めつけて掛るのは危険な感じがする…。

 

「…久見、だとしたらそのケガは本当にどこでしたんだ?俺達も命が懸ってる。正直なことを言ってくれ。」

「えーっと…、植物庭園で、ここまでしか言えないかなー。」

 

植物庭園でケガだって…?

 

 

 

議論開始

 

「植物庭園でケガつったってどこですんだよ?」

 

 

「あ、例えば、」

 

 

「『花壇の世話』の最中とか?」

 

 

「いや、でも誰も水やり以外してねーはずだぞ」

 

 

「単純に『スッ転んだ』とか?」

 

 

「それなら」

 

 

「左手以外もケガしそうじゃない?」

 

 

「じゃーどこだっつーんだよ?」

 

 

「あと思いつくとこなんて」

 

 

「『ニワトリ小屋』しかねーぞ?」

 

 

…あれ、確かあそこに妙な変化があった気がするぞ…!

 

【ニワトリ)→『ニワトリ小屋』

 

「それに賛成だ!」

 

 

 

「ニワトリ小屋ぁ?なんでんなとこでケガすんだよ?」

「そうだな、まずその説明をする前にニワトリ小屋で起こった妙な変化について説明させてもらうぞ。まずはこれを見てくれ。」

 

そう言って俺が見せたのはニワトリ小屋のニワトリの写真と図書室の生物図鑑から拝借した一般的なニワトリの写真だ。

 

「この2枚の写真を見て何か気付くことはないか?特に九鬼は今朝ニワトリが変だって言ってたし、どうだ?」

「んー、あー。あ、ニワトリ小屋のニワトリはこっちと比べて随分太ましい気がすんな。」

「そう、その通りだ。つまり、この数日間でニワトリに起こった変化って言うのは、」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.太った

 

2.痩せた

 

3.老いた

 

→1.

 

「これだ!」

 

 

 

「ニワトリが太ったんだ。しかも数日の間に急激に太ったから九鬼は違和感を感じたんだよ。」

「そういうことか!で、それがなんで久見の手のケガと関係するんだ?」

「それはな、」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.久見がニワトリに食べさせすぎた

 

2.久見がニワトリを入れ替えた

 

3.久見がニワトリを間引いた

 

→1.

 

「これだ!」

 

 

 

「久見がニワトリに食べさせすぎたからだよ。」

「…は?」

「久見がニワトリに餌をやり過ぎたせいでニワトリが太ったんだ。」

「ちょっと待ってくれ水島。今オレは混乱してる。久見がニワトリに餌をやり過ぎてニワトリが太ったのは分かるが、何でそれで久見がケガすんだよ!?」

「その説明をこれから…」

 

 

 

「その説明、ブレーキだよ!」

 

 

 

「ごめん水島、あたしも海波ちゃんと一緒で正直混乱してるし、それだと説明付かないとこもあるからちょっと付き合って!」

「受けて立とう。」

 

 

 

反論ショーダウン

 

「まず、ニワトリが太ったのは分かった。」

 

 

「で、それが晴香ちゃんの餌のあげすぎが原因だってのもわかった」

 

 

「でもさ、」

 

 

「どうしてそれが」

 

 

「晴香ちゃんのケガに繋がるのか」

 

 

「全然わかんないよ!」

 

 

-発展-

 

「その説明を今からしていくんだ。」

 

「焦る気持ちは分かるが」

 

「少し待ってくれ!」

 

 

「それにさ、」

 

 

「倉庫にもどこにも」

 

 

「ニワトリの餌になりそうなものって」

 

 

「【なかった】よね?」

 

 

「なのに餌のあげすぎが原因だってのも」

 

 

「正直繋がってないんだよ!」

 

 

涼風がそう言いたくなる気持ちは分かる。けど、この事態に繋がりそうなことが倉庫では起こっていたんだ!

 

【ピーナッツ)→【なかった】

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

 

 

「いや、ニワトリの餌になりそうな物は倉庫にきちんとあったんだ。今はなくなってしまっているけどな。」

「その餌になりそうな物って、何さ?」

「ピーナッツだよ。倉庫に置かれていたおつまみ用の。」

「え、海波ちゃんがピーナッツバターを作ったアレ?」

「ああ、その通りだ。」

「あ、もしかして!箱ごと全部なくなってた奴か!?」

「どうやら薬師は気付いてくれたみたいだな。」

「実はよ、捜査中に腹減っちまって少し何か食べようと思って倉庫に行ったらさ、段ボールにめちゃんこあったはずのピーナッツが根こそぎなくなってんたんだよ。」

「さすがにオレもあの朝だけで全部は使ってねーしなー。どこ行っちまったんだ?」

「ニワトリの餌だよ。ホントは塩で味付けもされてるしあまりやらないほうがいいんだろうけど、ニワトリの餌としてニワトリのお腹の中に行ったんだ。」

「それで、そのピーナッツをニワトリにあげちゃった、あげすぎちゃったのが久見さんってこと?」

「ああ。そういうことだ。」

「え、でも餌になるものがあったのはいいけどさ、じゃあなんでケガに繋がるの?」

「それは簡単だ。つつかれたんだよ。もしかしたら指とかに噛みつかれたのかも知れないな。ニワトリによってケガを負った久見はその傷の処置として手に包帯を巻いている、としたら弓道以外で左手にケガを負っていたとしても不思議じゃないだろ?」

 

とそこまで説明すると久見は観念したように手の包帯をほどいて見せた。するとそこには今まさに噛みつかれたような痛々しい傷が親指と人差し指の間についていた。

 

「という訳でー、輝くんの言うとおり、ニワトリさんに囓られちゃったケガだったのでしたー。」

「うわ…。」

「痛そー…。」

 

傷を見せられてしまうとみんなさすがに久見に同情するような声を上げていた。

 

「つかなんで先に言わねーんだよ!そいつをさっさと言ってればこの議論はすぐ終わったろ!?」

 

九鬼の言うことも尤もだ。事件に関係のないケガなら正直もっと早く説明をしてほしかった、というのはある。

 

「うーん、理由は2つかなー。1つは単純に油断してニワトリさんに囓られちゃいましたー、って言うのが恥ずかしかったからー。」

「いや、死ぬよかマシだろ…。」

「で、もう1つー。これが一番だねー。僕の手の傷がニワトリさんによるものだとしても僕の疑いは晴れないからー。」

「え、何でだよ?」

「だってさー、弓道でも親指をケガすることはあるけどさー、逆にケガしないこともあるわけだよー。だとしたらさー、上手に射てケガしないで上手いこと殺したんだーって言われちゃったら反論できないでしょー?」

「…あ、確かに…。」

「じゃあ次は本当に久見さんが殺したのか、それ以外にも可能性があるのか、それについて見てみよっか!」

 

 

 

議論開始

 

「つっても久見以外の可能性ってあんのか?」

 

 

「どうだろ…」

 

 

「でもさ、そもそも問題、」

 

 

「あの手のケガで」

 

 

「【矢を射れた】のか、って問題はあるよな?」

 

 

「上手く【握れない】だろ?」

 

 

「それはそれで納得できるけど」

 

 

「だとしたら誰が矢を射たんだろうね?」

 

 

「だけどよー、」

 

 

「【矢で射られたってのは確定だろ】?」

 

 

「それなら久見以外には」

 

 

「考えらんねーよなー」

 

 

いや、凶器が矢であるだけでそうとは言いきれないのかも知れない。

 

【喉の矢)→【矢で射られたってのは確定だろ】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「そもそも矢で射られたって考えたのが間違いだったのかも知れない。」

「それってどういうこと?」

「俺も検死が終わった後に玉城の死体を見てみたんだ。それで頭を起こしてみたんだけどさ、喉に刺さってた矢の矢羽根が水平より下を向いていたんだ。矢も物理法則に従うわけだから射た後は放物線を描いて飛んでいくはずだ。そして最後には少し落ちていくはず。ってことは首に刺さったときには?」

「矢羽根は上を向いてるはずだねー。」

「矢羽根を下に向けるのは玉城を寝かせて脚の方向から射てから拘束するとかわざわざ下に潜り込んで射るとかでできないこともないが、自分から現場の状況から想定される物理法則に反する状況を作り出すわけだから変な証拠を残すことになるし実行する意味はない。」

「検死の時に触っちまったんじゃねーの?」

「いやー、逆に僕は手がこんなんだからさ、痛くて死体を触ったりはできてないんだよねー。特に首回りは右手で頭を起こしちゃってたし。」

「あ、それもそうだな。」

「実際傷も刺さった当時のままの状態だったから時間と共に落ちてきてしまったってのも考えにくい。」

「ってことはさ、玉城はどうやって殺されたの?」

 

玉城がどうやって殺されたのか、それは…

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.やっぱり矢で射られた

 

2.直接矢で刺された

 

3.実は頭の傷が原因だった

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

 

「直接喉を矢で刺されたんだ。」

「直接!?」

「そうだ。犯人は矢で直接喉を刺したんだ。だけどその時に物理法則のところまで頭が回らず矢羽根が下がった状態で刺してしまったんだ。」

「でもよ、周りにも何本も矢が刺さってたろ?アレはどう説明すんだよ?何本か外したからああなったんだろ?」

 

周りの矢、アレのことか…。

 

 

 

証拠提出

【床に刺さった矢)

 

「これだ!」

 

 

 

「周りの矢ってこの床に刺さった矢のことだよな。確かに一見すると薬師が言うように見えなくもないけど、実はよく見ると状況に変な部分があるんだ。」

「変な部分?」

「そうだ。実はな、あの矢は、」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.深く刺さりすぎている

 

2.刺さりが甘い

 

3.実は貼り付けただけ

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

 

「あの矢は床への刺さりが甘かったんだ。」

「刺さりが甘い?」

「ああ。俺が軽く触れただけで抜けてしまうくらいには刺さりが甘かったんだ。」

「確かに矢で射たんだとしたらもうちょっと深く刺さっててもおかしくないよね。」

「つまり犯人は玉城に対してと同様、自分の手で床に矢を刺したんだ。そしてこの事実が示すのは、」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.犯人は思いの外非力

 

2.床が思いの外硬い

 

3.床の矢は偽装工作

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

 

「床に刺された矢は偽装工作だったんだ。」

「偽装工作?」

「ああ。床に矢が刺さっていればさっきの薬師みたいに実際は玉城には直接矢を刺していたとしても矢で射られたみたいに見えるだろ?」

「ってことはあたしたちは犯人の偽装工作に惑わされてたってこと?」

「まあ、有り体に言えばそういうことになるな。」

「でもなんてそんなことをしたんだ?」

「久見に罪を着せるため、じゃないか?久見が弓道に関する漫画を描いていたのは事実だし、あまりにもリアルなもんだから弓道経験者のファンからは久見は弓道をやっていたんじゃないか、って言われていたんだ。しかもこれは結構有名な話だ。例えこの話が嘘だったとしても矢を使ったように見せかけておけば弓道のできない犯人は疑われることはない。」

「どっちにしても自分が疑われるリスクを下げることができたってわけだねー。」

「ああ。逆に弓道ができる久見はどうあってもこの偽装工作では疑われてしまう。つまり久見にこの偽装工作をする意味はないから久見は犯人候補からは外れたと考えてもいいとは思うけどな。」

 

 

けど問題はここからだ。久見が犯人候補から外れたとは言え、まだ俺も含めて犯人候補は5人いることになる。でもここまで生き残ってきたということは人数が多かった最初の時よりはるかに状況は楽なハズなんだ。だから落ち着け。冷静になるんだ。この事件の真実を、真実に繋がる重要な証拠を見逃さないために…!

 

 

 

【裁判中断】

 

「中々おもしれー状況じゃねーか。」

 

 

「でもその真実は本当にオマエラにとって希望になりえるのかねえ?」

 

 

「もしかしたら」

 

 

「ただただ絶望にむかっているだけかもしれねーぜ…。」

 

 

「まあ、どっちに転んだところで」

 

 

「絶望の顔が見られることに変わりはねーだろうからな。」

 

 

「オレは楽しんで見させてもらうことにするぜ…。」

 

 

「ぐぷぷぷぷぷ…。」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り6人




第5章学級裁判編の前編はここまでです。どうしても書き切りたいところまで書いたのでいつもより長めになっているかもしれません笑。さあ、そして次回からは第5章の犯人を突き止めていくことになります。ずっとここまで戦ってきた仲間の誰が玉城君を殺してしまったのでしょうか…?乞うご期待です!ということでまた次回お会いしましょう!


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CHAPTER5 学級裁判 後半

【裁判再開】

 

この裁判の本番はここからだ。これまでの推理の結果から久見が犯人ではないということはほぼ確実なはずだ。それでも俺含め犯人広報はまだ5人いる状態だ。ここからさっきまでよりも更に集中して犯人を見つけ出してみせる!

 

「じゃあ久見が犯人じゃないとしたら誰が犯人なんだ?」

「と言ってもさすがにいきなり犯人を当てるってのは無理だよねー。」

「だとしたらどこから考えていくよ?」

「うーん、まずは犯行可能な時間から考えていくか。」

 

 

 

議論開始

 

「犯行可能な時間か…」

 

 

「確か【死亡推定時刻は書いてなかった】よね?」

 

 

「あー、確かに」

 

 

「とは言っても昨日はずっとみんな部屋にいたし、」

 

 

「誰がどこにいついたかなんて」

 

 

「【分からない】んじゃない?」

 

 

「せめて犯行時刻の範囲だけでも」

 

 

「分かりゃいいんだけどなぁ」

 

 

「それもさすがに」

 

 

「【絞れない】よねー」

 

 

確か決まった時間にアレが行われていたはずだ。

 

【花壇の世話)→【絞れない】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「いや、犯行可能時刻の終わりは分かる。」

「え、なんでー?」

「決まった時間に行われていたものがあったからだよ。」

「それって何だ?」

「花壇の世話だよ。植物庭園にみんなで作った花壇の世話を玉城が裏切り者って分かってみんなが気まずくなった後も女子は続けてくれていた。そしてそれは毎日決まった時間に行われてたんだ。」

「そうなんか?」

 

そしてその時間は…

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.8時

 

2.9時

 

3.10時

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

 

「10時だ。朝食の後少し経ってから行われていたんだ。」

「あ、ちょっと待って!」

 

説明をしていると甘寺に一度止められた。

 

「それならもう少し絞れるかも!」

 

もう少し絞れる…?

 

「ほら、花壇の世話以外にもあったはずだよ。毎日決まった時間に行われているもの。」

 

毎日決まった時間に行われているもの…?それって…!

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.朝食

 

2.スプリンクラーによる水撒き

 

3.水島の起床

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

 

「それってスプリンクラーの水撒きだよな?」

「その通り!」

「あー、毎朝7時半にってやつか。」

 

 

 

「そんなんじゃ溺れちまうぜ!」

 

 

 

「いや、オレだって7時半にスプリンクラーが水撒いてるっつーのくらいは分かってるぜ?だけどよー、それって事件にゃ関係ねーんじゃねーか?」

「それがそうとも言いきれないんだ。」

 

 

 

反論ショーダウン

 

「7時半に水が撒かれてるっつーのは」

 

 

「分かってるぜ?」

 

 

「だけどよー、」

 

 

「その時間ってのが」

 

 

「事件に何の関係があんだ?」

 

 

-発展-

 

「確かに一見関係ないように見えるかも知れないけど」

 

「よくよく考えてみると」

 

「事件にとって大きな要素になるんだ!」

 

 

「事件にとって大きな要素つったってよ、」

 

 

「スプリンクラーが水を撒く時間から」

 

 

「犯行可能時刻を絞るなんて」

 

 

「オレは【無理】だと思うぜ?」

 

 

「やっぱスプリンクラーは」

 

 

「事件にゃ関係ねーって!」

 

 

いや、あの証拠の状況を考えればそうは言いきれないはずだ!

 

【血溜まり)→【無理】

 

「その言葉、斬らせてもらう!」

 

 

 

「いや、植物庭園のスプリンクラーの時間から犯行可能時刻の終わりを絞ることはできるんだ。これを見てほしい。」

「コイツは…。」

「血溜まり、だね。」

「これがどう関係してんだよ?」

「この血溜まりをよく見てほしいんだ。この血溜まりは少し流れてしまっているだろ?」

「あ、ほんとだ!」

「この血が流れてしまう要因としてはあそこにはスプリンクラーしかないだろ?」

「でもそれが玉城の血とは限んねーだろ?実際久見もそこでケガしてんだしよ。」

「いや、今回の事件は先に植物庭園で始まってると考えた方がしっくりくるんだ。」

 

そう、逆にそうでなければありえない証拠も残ってる。

 

 

 

証拠提出

【床の血痕)

 

「これだ!」

 

 

 

「こいつを見てくれ。これは植物庭園、武道場、そしてその間をつなぐ廊下に残されていた血痕だ。そしてこの血痕は植物庭園の血溜まりから始まって武道場の玉城の死体までずっと続いていたんだ。こんな繋がり方をしてるなんてこの血が玉城のものだってこと以外考えられないだろ?」

「それは…、そうだな…。」

「そしてこれが十中八九玉城の血だとしてそれが少し流れているってことは玉城の頭の傷がつけられたのは朝の7時半より前ってことになる。でも俺達は夜時間が明けてからすぐ朝食のために集合するから7時から7時半の時間は考えにくいし、夜時間前もいくらみんな部屋に篭もっていたとは言え誰かに見られるリスクがあるから恐らくこの傷は夜時間中につけられた物だろう。」

「これだけ血溜まりとして残ってるってことはー、血がそれなりに乾いてたってことだからー、もしかしたら夜時間の中でも早めの時間かも知れないねー。」

 

とここまで時間を絞ってきたのはいいけどその夜時間なんてなおさら誰も明らかなアリバイを持っているはずがない。

 

「でも夜時間中じゃみんなアリバイなんてないよね…。」

「まあ、みんな部屋にいたよな。」

「だとしたらー、まずどう犯行が行われたかってのを考えてみよっかー。」

「今更か?」

「いやー、結構重要だよー?犯行の手順が分かったら犯人の動きも分かるわけだからねー。」

 

確かにそれは久見の言うとおりだ。一度犯行の手順を整理しておく必要があるかもしれないな。

 

 

 

議論開始

 

「えっと犯人はまず、」

 

 

「植物庭園で玉城を【殴った】んだよね?」

 

 

「それで、あれ、殴った道具は」

 

 

「【適当に放り投げた】んだったか?」

 

 

「えっととりあえず気絶させた玉城君を」

 

 

「武道場に運んで」

 

 

「巻き藁に拘束して」

 

 

「矢を使って殺害したんだよね」

 

 

「確かそんで矢を床に【ぶっ刺して】」

 

 

「偽装工作したんだよな!」

 

 

あれ…、その道具はそんな単純な状態だったっけ…?

 

【スコップ)→【適当に放り投げた】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「いや、確か玉城を殴った道具は隠されていたはずだ。それはこの泥だらけのスコップが証明してる。」

「え、その泥って花壇を作ったときの汚れとかじゃないの?」

「その時はきちんと洗ったぞ。」

「じゃあ世話したときに使ったとか?あたしは使ってないけど。」

「オレも使ってねーぞ。」

「僕もー。心愛ちゃんはー?」

 

確かそもそも今日の甘寺は世話すらできていないはずだ。

 

 

 

証拠提出

【甘寺の証言)

 

「これだ!」

 

 

 

「実は私今日そもそも世話できてないんだよね…。まず血溜まりを見つけちゃって周りを探して回っちゃったし…。」

「そういや第一発見者は甘寺だったな。」

「ってことは…、そのスコップはやっぱ玉城を殴るのに使った道具を隠すのに使われたんだね!」

「いや、でも分かんなくねえか?だって道具自体見つかってねえだろ?花壇に隠したとは限らねえんじゃねえか?」

 

確か花壇の中から見つかった物があったはずだ…!

 

 

 

証拠提出

【模擬刀)

 

「これだ!」

 

 

 

「恐らく玉城を殴った道具はこの模擬刀だ。この模擬刀は元々武道場の鎧兜が佩いていた物だったんだけど事件発生時には行方不明になってたんだ。だけどそれが捜査中に植物庭園の花壇の中から見つかったんだ。」

「それが偽装工作の可能性はねえのか?」

「それも低いと思う。」

 

それを証明するのは…

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.玉城の傷と一致した

 

2.血痕が付いていた

 

3.植物庭園に空振りで殴った後があった

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

 

「この模擬刀には峰の部分に血痕が残っていたんだ。さすがにそんな状態で隠されていたのにこれで殴っていないってのは考えにくいだろ?」

「そりゃそうだな!」

 

ここまでの犯行をまとめると、犯人は模擬刀で玉城を殴った後、その模擬刀を花壇に隠し、玉城を武道場に連れて行った後、巻き藁に縛りつけて矢を使って殺害した。そして床に矢を刺して矢で射たように偽装工作をした、ってところか。でもこの犯行の流れも夜時間にアリバイがなければ誰でも可能だ。

 

「うーん…、でもこの犯行の手順も誰にでもできるな…。」

 

いや、でもこれを他の証拠と組み合わせたら何か見えてくる物があるかもしれないぞ…?

 

 

 

議論開始

 

「結局犯行の手順も」

 

 

「アリバイさえなければ【誰でもできる】よなぁ」

 

 

「どうにかここまでの情報から」

 

 

「犯人を導き出せないかなぁ」

 

 

「他に何か」

 

 

「『ヒントがあれば』いいんだけどねー」

 

 

「意外とどこかで」

 

 

「『見落としがある』かもしれねーぞ?」

 

 

「と言ってももう一回振り返るのは」

 

 

「大変だしねえ…」

 

 

確かちょうど夜時間中に関係しそうなものがあそこに置かれていた気がするな…。

 

【呼び出しメモ)→『ヒントがあれば』

 

「それに賛成だ!」

 

 

 

「夜時間中に関係しそうなものが玉城の部屋から見つかってはいるんだ。」

「それって何ー?」

「玉城を呼び出すメモだ。夜11時に植物庭園に集合って書いてある。」

「っつーことはよー、玉城はこのメモを見て植物庭園に呼び出されて行ったところに何者かによって殺されちまったっつーことか!」

「でもそんなうかつなことをあの玉城君がするのかな?しかもみんなに裏切り者として認識されていた分余計に。」

「そこに関しては考えられる可能性はあるんだ。」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.もう1人裏切り者がいる

 

2.メモの送り主はモノトラ

 

3.玉城は誰かを買収していた

 

→1.

 

「これだ!」

 

 

 

「この中にもう1人モノトラからの裏切り者がいて、この呼び出しのメモがそのもう1人から渡された物だとしたら警戒心の強い玉城が呼び出されたとしてもあり得るだろ?」

 

一見考えにくい、いや、考えられない推理、でも状況を考えたらそうとしか考えられない推理を伝える。

 

「…いやいやいや!そりゃありえねーだろ!!この中にもう1人裏切り者がいるって!?」

「さすがに俺もそう思うぜ?さすがに突飛すぎるって!」

「うーん、でもそれなら辻褄は合うんだよねー。」

「でもでも、あたし仲間の中にまだ裏切り者がいるなんて思いたくないよ!」

「でも可能性は考えてみるべきだと思うよ?」

 

…やっぱりこうなるよな。信じられないと拒否する者、真実はどうあれ可能性は考えてみるべきだと思う者、完全に意見は割れてしまった。

 

 

「おうおう!オマエラの意見がちょうど半々になってるみてーだな!ってことはアレの出番ってことじゃねーか?」

 

と言うとモノトラはまたあの裁判場を起動した。

 

「さあさあ、意見のぶつかり合いをしっかり見せてくれよ?」

 

 

 

議論スクラム

 

 

〈生き残りの中にもう1人裏切り者がいるのか?〉

 

いない!       いる!

薬師         水島

涼風         甘寺

九鬼         久見

 

 

九鬼「いやいや、まだ【裏切り者】がいるなんてありえねーだろ!」

「久見!」

久見「でもー、みんな玉城君が【裏切り者】だなんて誰も思ってなかったよねー?」

 

 

涼風「普通に誰かに【呼び出された】可能性もあるんじゃないの?」

「俺が!」

水島「みんなに警戒されているのに玉城が簡単に【呼び出された】とは思えない!」

 

 

薬師「これ以上【仲間】を疑えって言うのかよ!?」

「甘寺!」

甘寺「【仲間】だからこそ疑わなきゃいけないんだよ。」

 

 

涼風「【モノトラ】が犯人って可能性はないの?」

「甘寺!」

甘寺「せっかく動機発表までしたのにわざわざ【モノトラ】が自分で殺すのかな?」

 

 

薬師「裏切り者同士が殺し合う【理由】がねえじぇねえか!」

「久見!」

久見「モノトラが怒りながら裏切り者を発表したことに【理由】があるのかもよー?」

 

 

九鬼「つーかそもそも裏切り者が2人いるって【証拠】はあんのかよ!?」

「俺が!」

水島「もちろんそうとしか思えない【証拠】も存在してるんだ!」

 

 

 

CROUCH BIND

 

 

SET!

 

 

「これが俺達の答えだ!!」

 

 

 

「やっぱり裏切り者は俺達の中に2人いたんだ。」

「そう言ったって証拠がねえだろ?」

「いや、証拠もきちんと存在してる。」

 

 

 

証拠提出

【引き出し)

 

「これだ!」

 

 

 

「玉城の部屋の引き出しを探してみたんだけど、そこからは玉城が誰かと秘密にやり取りしていたと思われる痕跡が多く発見されたんだ。今からその一部を見せるぞ。」

 

 

 

『4月○日

  モノトラからの指令通り対象者の監視を開始します。

  モノトラとのやり取りを任せてもよいですか?   』

 

 

『4月□日

  コロシアイが始まって1週間以上経過しますが、監視対象が真実に気付く様子は見ら   

  れません。引き続き監視を行います。』

 

 

『4月☆日

  モノトラの思惑と反して他の生き残りのみんながコロシアイに発展する様子は現状見  

  られません。安心してください。これからのことはこのほとぼりが冷めてから改めて  

  考えることにしましょう。』

 

 

 

「これは…、」

「まさにって感じだねー。」

「筆跡もあの呼び出しメモとおんなじだね。」

「でもこれがモノトラとのやりとりって可能性はないの?」

「その可能性は低いだろう。」

 

モノトラとのやり取りである可能性が低い理由は…

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.モノトラは字が書けない

 

2.玉城はモノトラが嫌い

 

3.度々モノトラについて言及している

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

 

「だってこれがもしモノトラとのやり取りだとしたらこんなにモノトラについて言及するのはおかしいだろ?」

「あ、確かに!」

「モノトラ本人とのやり取りだったらー、モノトラのことを示すワードは二人称だよねー。」

「ってことは、やっぱ俺達ん中にもう1人裏切り者がいるっつーことなのか…?」

「でもそれならそのもう1人の裏切り者って誰なの…?」

「それはまだこれから推理していかないと正直分からない…。」

「つったって何も取っ掛かりがねえよな…。だって今まででほぼ全部調べた証拠は出ちまったろ?」

 

確かに、ここまでで証拠はほぼ全て使い果たしてしまった。でも取っ掛かり自体はあるはずだ。

 

「いや、取っ掛かりは1つだけある。それは…」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.手紙に使われた紙

 

2.手紙に使われたペン

 

3.手紙の筆跡

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

 

「この手紙の筆跡には俺は見覚えがあるんだ。」

「そうなのか!?」

「ああ。」

「それって誰なの!?」

「…それが誰のものなのかは分からないんだ…。」

「それじゃ意味ねーじゃねーか!」

「すまない…。」

「仕方ないよー。これまでの事件でも青山君とか畔田君とかメモをよく使ってたしー、結果色んな筆跡を見ることになっちゃったもんねー。」

「…そうだよな、すまねえ…。」

 

そう、この筆跡は確実に俺がどこかで見たことのあるはずのものだ。だけど俺は色んなところで色んな人の筆跡を見てきてしまった。それ故にこの筆跡が今まで見てきた誰のものなのか分からなくなってしまっている。その悔しさと無力感の中で俺は無意識に学ランのポケットに手を入れていた。学ランだからそんなに汚れることもなかったし洗うのも難しいから最初の頃からずっとそのまま使い続けてきた学ラン。俺はこの学ランを着てこの学園に足を踏み入れて、この学ランを着てコロシアイに巻き込まれて、この学ランを着て学級裁判を乗り越えてきた。そのここまでの生活の軌跡がこの学ランには残されていると言っても良い。それ故にその学ランのポケットで指先にカサッと何かが当たる感触があった。

 

「…?」

 

恐らく何かの紙ゴミを入れっぱなしにしてしまったものだろうと思っていた。そうは思いつつも念のためそのポケットの中の紙を取り出してみる。するとそれは一番最初の事件の時に動機となった凶器、そのナイフとピストルをそれぞれ誰が持っているのかがまとめられたメモだった。その筆跡はこれまで議論してきた玉城を呼び出したメモ、そしてこれまでずっと玉城とやり取りをしてきたメモの筆跡と同じ物だった。でも、この筆跡は…。

 

 

コトダマゲット!

【最初の事件のメモ)

最初の事件の動機となった凶器をそれぞれ誰が持っていたのかを記したメモ。筆跡は呼び出しメモとやり取りの手紙のそれぞれのものと一致している。

 

 

「だーっ!結局誰が犯人なんだよー!!」

 

どうにもならない状況に九鬼が叫び声を上げる。でも、もうその答えは出た。

 

 

 

議論開始

 

「結局どうすんだよ!?」

 

 

「頼みの綱の水島も」

 

 

「筆跡が誰のものか【分かんねー】んだろ!?」

 

 

「現状唯一の手掛かりが」

 

 

「その【筆跡の記憶】だったもんね…」

 

 

「そもそも水島頼りすぎたんだって」

 

 

「水島だって分かんないこともあるよ…」

 

 

「でもー、その筆跡が誰のものか分からないとー」

 

 

「【犯人は判明しないよー】」

 

 

「くそっ!」

 

 

「どうすりゃいいってんだよ!!」

 

 

いや、俺にはもう、分かっているはずだ。

 

【最初の事件のメモ)→【分かんねー】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「いや、でもオメー今分かんねーって言ってたじゃねーか!」

「気付いたんだよ。このメモが誰によって書かれたものか。まずは気付くきっかけになったこれを見てもらおうか。」

 

そう言って俺はポケットの中の紙を広げてみせる。

 

「この紙は何だよ?」

「最初の事件の時のメモだよ。動機の凶器どちらを誰が持っていたのかがまとめてある。」

「それは分かったけどよ、そのメモが何だってんだよ?」

「よく見てほしい。」

 

俺はメモのピストルのト、ナイフのイ、アンリのア、モノトラのト、そしてコロシアイのアとイを順番に指し示した。

 

「そんなにサンプルが多いわけではないけどこのそれぞれの対応している文字の筆跡が同じだと思わないか?」

「ああ、確かにそんな感じだな!」

「この字の筆跡から俺は誰がもう1人の裏切り者なのか、引いては誰がこの事件の犯人なのか気付くことができたんだ。」

 

いや、俺はもっと前には気付いていたのかも知れない。気付いていながらそれを指摘するのが怖くて、間違いであってくれと願って、それを認めなかっただけなのかもしれない。

 

「それは誰なの!?」

「それはな…。」

 

俺は少し逡巡した後周りを見回す。するとみんながその犯人の名を聞こうと身を乗り出している。たった1人、穏やかな笑顔でこちらを見ているその犯人を除いて。これは言え、ということなのだろう。躊躇うな、怖がるな、お前は間違っていない、と。その笑顔に背中を押されて俺はその人物の名前を指名した。

 

 

 

 

 

 

 

 

指名しろ!

 

【アマデラココア】

 

「お前しか、いない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…は?」

 

周りから困惑の声が上がる。それもそのはずだ。誰もソイツだけは、彼女だけはあり得ないと思っていたはずだ。

 

「いやいやいや、水島、こんな時に冗談やめろって…!甘寺が犯人なわけねーだろ…?」

「そうだよ!今まで心愛ちゃんはあたしたちをいっぱい助けてきてくれたじゃん!」

「こんな場面で冗談なんか言わない。」

「それが冗談じゃねーっつーならオメーはオカしくなっちまってんだよ!裏切り者が2人いるっつーのは良いとしてもよ、それが甘寺でしかも玉城を殺した犯人なんてフザけたことを言うのも大概にしとけよ!!!」

「おい九鬼、落ち着けって!」

「こんなこと、口が裂けてもフザけて言うわけないだろ!!」

「水島もらしくないよ!!」

「うるせぇうるせぇうるせぇ!!!俺はぜってー認めねーかんな!!アイツが犯人なんてぜってーに認めねー!!!」

 

それならこっちも本気で論破してねじ伏せるまでだ!!!

 

 

 

パニックトークアクション

 

「うるせぇうるせぇうるせぇ!!」

 

 

「認めねーかんな!!」

 

 

「フザけんのも大概にしろよ!!」

 

 

「オカしくなっちまったんじゃねーのか!?」

 

 

「ぜってーにありえねー!!」

 

 

「アイツが裏切り者なわけねー!!!」

 

 

「アイツが犯人だと!?」

 

 

「冗談言ってんじゃねーそ!!!」

 

 

「甘寺は大事な仲間だ!!」

 

 

「疑うなんて俺は許さねーぞ!!」

 

『サンプルが足りてねーんだろ!?だったら筆跡が同じだって言いきれねーじゃねーか!!』

 

 

《レシ》《ピの》《筆》《跡》

 

 

「これで終わりだ!!」

 

 

 

「…サンプルが足りないって言うならもう1つサンプルを出してやるよ。甘寺、いつもの手帳を見せてもらえるか?」

「いいよ。」

 

九鬼とは対照的に疑われている本人である甘寺は落ち着き払っており、こちらの要求にも素直に従っている。

そして甘寺から差し出された手帳を開き、そこに書かれたレシピの文字をみんなに見せる。そしてその文字と手紙やメモの文字を比較すると疑いようもないくらいその筆跡は一致していた。

 

「…コイツは…。」

「…疑いようも、ないねー。」

「…そんな…。」

「………。」

 

みんなは信じられない、いや、信じたくない、といった面持ちでそれを見ている。そして一番甘寺が犯人だと言うことを否定していた九鬼は完全に黙りこくってしまっている。

 

「…ホントに…甘寺が犯人だってのかよ…。裏切り者だってのかよ…!」

「…それは甘寺の口から直接聞くべきだ。そのためにも、この事件の全貌を振り返って終わりにするよ…。」

 

                   ・

                   ・

                   ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級のショコラティエ  甘寺心愛(アマデラココア)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り6人




さてさて、これで今回の犯人も判明したわけですが、皆さんどうでしたでしょうか?正直バレバレだよ!って思われた方もいらっしゃったでしょうか?少しでも多くの方に驚いていただけると幸いです。
次回はこの裁判が閉廷していくわけですが、彼女は何を思ってこの犯行を行ったのでしょうか?その真相が明らかになっていきますのでお楽しみに!ということでまた次回お会いしましょう!


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CHAPTER5 学級裁判 閉廷

本音を言えばこんなことしたくはない。できることならみんなで黒幕を倒してここを出られるに越したことはない。けれどそういう訳にはいかない。だって、この一瞬に俺達全員の命が懸っているのだから。だから俺はこの事件を振り返ってこの悲劇を終わらせる…!

 

 

 

クライマックス再現

 

ACT1

「事件のきっかけは3日前のモノトラの動機発表だった。正確には別の発表を動機にした、って状態だったんだけどな。」

 

「それで、その動機というのは今回の被害者となった玉城が黒幕によって俺達の中に送り込まれた裏切り者だったっていう衝撃の事実だったんだ。」

 

 

ACT2

「この動機発表を受けてみんなはそれぞれ一人で行動するようになってしまったんだけど、その中で1人だけ殺人に向けた行動を始めていた人物がいた。それが今回の事件のクロだったんだ。」

 

「その人物はこの状況下で唯一、孤立した玉城がその呼び出しに応じる人物、そしてもう1人のモノトラによって送り込まれた裏切り者だったんだ。」

 

「そしてこの立場を利用してクロはこれまでのやり取りに関して話があると玉城をメモを使って植物庭園に呼び出したんだ。」

 

 

ACT3

「クロの目論見通り、玉城は植物庭園に呼び出されたんだ。」

 

「そしてその玉城をあらかじめ準備しておいた武道場の模擬刀を使って不意打ちで殴ったんだ。」

 

「殴られて気絶した玉城をクロは現場となった武道場まで運び込んだ。ただその際に頭の傷から血液がこぼれ落ちて床に垂らしてしまったんだ。」

 

 

ACT4

「クロは玉城を武道場まで運び込んだ後、その玉城を確実に逃がさないために巻き藁に弓の弦で縛りつけて拘束した。」

 

「そして玉城を弓矢を使って射殺したと思わせるために武道場に置かれていた矢を使って玉城の喉を刺して殺害した。」

 

「その後クロは弓矢で射殺したという状況を強めるために更なる偽装工作を行った。」

 

「まずは玉城の死体の周りに矢を刺した。その上で武道場に弓を放置したんだ。これらの工作によってクロは現場の偽装を完成させたんだ。」

 

 

ACT5

「ただこれだけではクロの犯行の偽装は終わっていない。」

 

「そう、最初に玉城を殴った現場である植物庭園だ。そこに残してしまっていた模擬刀を花壇の土の中に埋めて隠したんだ。」

 

「ただクロはその時に使ったスコップの状態が暗くてよく分からなかったのか、土を掘る部分に泥が付いたまま物置にしまい直してしまったんだ。」

 

 

ACT6

「そして夜の明けた今日、クロは花壇を世話するときに血痕を見つけ、第一発見者になったふりをして俺達の他のメンバーを呼び周り、他の全員に自分は純然たる第一発見者であるという印象を植え付けたんだ。」

 

 

「…そして、ここまでの犯行を行うことができた人物、黒幕によって送り込まれたもう1人の裏切り者、それは…、手紙のやり取りや呼び出しのメモの筆跡と普段のレシピや最初の事件の時のメモの筆跡の一致具合からも、甘寺心愛、お前しか、いないんだ…!」

 

 

 

「…これが、事件の全貌だ。」

 

ゆっくり言葉を紡ぎ、そう告げる。苦しい。今までの裁判も気持ちが良いものではなかったけれど、今回は格別に胸を締め付けられるような心地がする。そんな俺の様子を見ながら甘寺はさっきまでの笑顔を崩すことなく落ち着いて答えを告げた。

 

「…()()正解。」

「…ほぼってどういうこと…?」

「それは、まずは投票してからにしよっか。」

 

説明を求める涼風の言葉を遮って甘寺はモノトラの方を見遣る。その意図を汲むようにモノトラは俺達に投票を促してきた。

俺達はもう片方の手を血がにじみそうなほどに握りしめてボタンを押す。

 

 

 

投票結果→アマデラココア

 

 

 

【学級裁判閉廷】

 

「さてさて5回目の今回は!!なんと!!まさかの!!?大!!正!!かーい!!!!いやー、さすがに舌を巻かざるを得ないんだぜ!!!ほら、もっと喜べよ!また生き残れたんだぜ?」

 

1人で勝手に盛り上がっているモノトラとは対照的に俺達の空気は暗く沈んでいた。このまま沈黙を貫いていても俺達の知りたいことは知ることができないので意を決して俺は口を開く。

 

「…甘寺、さっき言っていた()()って意味を教えてくれ。」

「うん、そうだね。教えてあげる。まず正解のところは私が犯人だってこと、そしてモノトラがみんなの中に潜り込ませた裏切り者だってこと。」

「じゃあほぼの中に含まれてない部分は…?」

「不意打ちのところかな。みんなが私が犯人だって分かってなかったら教えなくても良いかなって思ってたところなんだけどね。」

「いやでも不意打ちじゃなかったら後頭部に殴打痕なんてできねえだろ?」

「だって、玉城君分かってて受けたんだもん。」

 

甘寺が発した衝撃の一言。

は…?玉城が分かってて殴られた…?

 

「いやいやいや、そりゃねーだろ?なんで自分が殴られるって、殺されるって分かっててアイツは無抵抗で殴られたんだよ!?」

「…この計画そのものが玉城君が立てたものだったからかな。」

 

重ねての衝撃発言。

この殺人の計画は玉城が立てたものだって…?

 

「玉城君ね、ここ数日のみんなのことを見てて心をすっごく痛めてたみたい。自分がずっとみんなの中に居残ったせいで、って。それでね、一昨日の夜、私の部屋にこんなメモが差し入れられてたんだ。」

 

そう言って甘寺はポケットから1枚の紙を出した。それにはこう書いてあった。

 

 

『今の状況は看過できるものではない。このまま奴らの心がお互いに離れてしまえばきっと黒幕を倒すことは達成できなくなるだろう。だから俺は自分の命を以て償い、そして再び奴らの心を結びつける。ただそれは俺1人では達成できない。俺1人自殺したところで裏切り者が消えただけにすぎない。だからお前には俺を殺してほしい。学級裁判で再びクロを協力して見つけ出したという過程を通して奴らの心を1つにする。後生の頼みだ。協力してほしい。』

 

 

そこに書かれていたのは玉城の俺達に対する秘めたる想い。そしてただ黒幕を倒したいという切なる願い。

 

「…アイツこんなこと思ってたのかよ…。」

「きっとー、望んで得た裏切り者のポジションじゃなかったんだろうねー。」

 

この玉城の想いと願いにみんな苦しそうな顔をしている。

 

「この玉城の頼みを果たすために甘寺は玉城を殺したのか?」

「うん。それに、私もずっと仲の良かったみんながあんな形でバラバラになっていくのを見ていられなかったから。」

 

そう甘寺は穏やかに微笑んでみせる。ただその笑顔の奥に何とも言い表せぬ苦しさが滲み出ていた。

甘寺は優しい奴だ。まだここに1ヶ月もいないかも知れないけど彼女の優しさはずっと、ひしひしと伝わってきていた。そんな彼女が仲間を守るために仲間を殺した。その心中はどれほどのものだったことか。

 

「じゃあ…、玉城はオレ達のために殺されたって言うのか…?甘寺は、オレ達のために玉城を殺したって言うのか…!?」

 

九鬼はこの現実を受け止めきれないでいる。誰よりも玉城が裏切り者だったという事実に動揺し、怒った彼女だ。この事実は誰よりも深くその心に刺さっているのかも知れない。

 

「…続きを話すね?」

 

そんな俺達の様子をよそに甘寺は話を続ける。

 

「玉城君はトリックとか色んなものは私に任せてた。たった1つ、“本気でみんなを騙しにかかること”って制約を設けて。」

「…それはやっぱり、みんなで協力して学級裁判を乗り越えたっていう事実を作るため、か?」

「うん、その通り。私が答えを教えちゃったら意味ないもんね。」

 

玉城の想いを信じるのであれば甘寺の言うことは辻褄が合う。俺達と本気の学級裁判で勝負してその上で俺達が勝って結束を取り戻す、という玉城が自分の命を代償に描いた黒幕を倒すための試金石となるシナリオ。そしてそのシナリオを甘寺はたった1人、その気持ちを心の奥底に抱えたまま演じきって見せたのだ。

 

「でもトリックとかを全部心愛ちゃんに任せてたなら何で玉城は自分が殴られるって分かったの?」

「最期に言葉を交わしたからかな。」

「話したのか…!?玉城と…!」

「うん。メモに応じて植物庭園に来た玉城君はね、最期にこちらも話したいことがあるって隠れてた私を呼んだんだ。」

「その話したいことってなーに?」

 

久見の質問に応じて甘寺はその時の会話の内容を話し始めた。

 

 

『すまない。最期に少しだけ話がしたかった。』

『どうしたの?やっぱり計画はやめる?』

『いや、続行だ。俺が生きている限りきっと奴らはお互いを疑い続ける。決して1つには戻らん。それを俺は望まん。』

『…じゃあ、最期に話したいことって何?』

『“希望"について。』

『…"希望"?』

『ああ。俺が死んだら脱衣所のロッカーを探せ。そこに俺達の"希望"となり得るものが置いてある。そして俺達の目論見通り事が進んだらお前も死ぬことになる。そうなったらそれを誰でも良い、生き残った誰かに託せ。まあ、お前のことだ。水島にでも託すんだろうがな。』

『最後の一言は置いておいて、とりあえず言いたいことは分かったよ。』

『それが聞ければ安心だ。』

『そっか。』

『ああ、あと最期に。甘寺、巻き込んで済まない。』

『違うよ。そういうときは、"ありがとう"って言うんだよ。』

『そうか。それならば。"ありがとう"。』

 

 

「そこまで言ったら玉城君は黙って私に背中を向けたんだ。そしてその後はみんなも知っての通り。」

 

甘寺は事件の真相を何1つ包み隠すことなく話してくれた。だけど真実が明らかになるたびに残りの俺達を襲うのは絶望。誰よりも不器用で誰よりも優しかった仲間を俺達のために孤独に死なせてしまったという深い悲しみ。そしてそんな彼の想いに応えるためにもう1人玉城に勝るとも劣らない優しさを持った仲間に殺人を犯させてしまったという後悔。そしてそんな状況になっているとはつゆ知らず、こんなことになるまで独り部屋に篭もってただ時を浪費していたということへの無力感。そしてそれらの感情全てをひっくるめた絶望感だった。

その絶望感に打ちひしがれていようと俺は、俺達は、彼女に確認しなければならないことが1つあった。

 

「…なあ、甘寺。」

「なあに?」

「お前と玉城は"裏切り者"だったんだよな?」

「…うん。」

「じゃあ、なんで俺達にここまでしてくれたんだ?お前達は他の俺達を殺すために送り込まれたんじゃないのか?」

「…それは違うよ。私たちは確かに裏切り者としてモノトラに送り込まれたけど、でもそれは決してみんなを殺すためじゃない。みんなのことを生かすため。まあ、言い換えるとコロシアイ学園生活が破綻しないようにするため、だったんだけどね。でも、私たちはずっとみんなのこと、大切な仲間だと思ってた。いつかこの真実がみんなに明かされて、そのときみんなからどれだけ罵られ蔑まれることになったとしても。ずっとみんなに嘘を吐いたままここまで来ちゃったけどこの気持ちだけは、絶対に、嘘じゃない。」

 

それは心からの言葉だった。彼女は、いや、彼女たちは何があろうと俺達の事を仲間だと心の底から思ってくれていたのだ。

 

「だからこのまま大切な仲間達がバラバラになっていっちゃうことに耐えられなかった。それが今回の事件の真相。」

 

やっぱり先に投票してよかった。きっと俺達はこんな2人の想いを聞いてしまったら甘寺に投票はできなかった。2人の想いを、2人を大切に思うが故に踏みにじってしまうところだった。

 

「さて、と。これで一通りは話せたかな?」

 

何かを切り替えるように甘寺はそう言葉を漏す。全て話し終わった。つまりそれが指し示すものは。

 

「おい、待てって…!それって…!」

 

九鬼が今にも泣きそうな顔で甘寺を引き留めようとする。でもその言葉に甘寺は耳を貸すそぶりはない。

 

「じゃあモノトラ、終わらせてもらえる?」

「お、もういいのか?そんじゃ始めさせてもらうぜ!!わっくわっくどっきどっきの!!おしおきターイム!!!!」

「甘寺!!!」

 

思わず声が出ていた。嫌だ。行ってほしくない。ずっと俺達と、俺と一緒にいてほしい。ずっと横で笑っていてほしい。今ここで、こんな状況になって初めて気がついた。今気がついてももう遅いのに。ああ、俺は、ずっと、彼女のことが…

 

「…好きだった。」

 

思わず口をついて出たその言葉に甘寺は目を丸くする。そしてその大きな瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちる。

 

「…ずるいよ。死にたく、なくなっちゃうじゃん…!」

 

その言葉の意味、それすらも分からないほど鈍い俺ではない。

 

「…でも、叶わない…!」

 

止めどなく流れ続ける彼女の涙に俺は最期になんてことを口走ってしまったのかと後悔した。俺の口から漏れたその言葉が死ぬことを受け入れた彼女のその覚悟を崩してしまった。それでも想いを伝えずにはいられなかった。

甘寺はその涙が溢れ続ける瞳のまま彼女は俺のことを見据える。

 

「輝君、一番最後になっちゃったけど、その言葉、ずっとほしかった。すごく、嬉しかった。私もずっと、好きだった。でももう、一緒にいることは叶わないからせめて最期にお願い事を聞いて?」

 

俺ももしかしたら涙を流していたのかも知れない。そんなこと気にもならないほど俺は彼女の最期の言葉に耳を傾けていた。

 

「後は任せるね。黒幕を、倒して。信じてるから。」

 

その言葉と共に甘寺は俺に封筒を握らせる。その封筒の中身が何かなんて今はどうでも良かった。それよりも今は甘寺の姿以外に意識を向けていた。

涙混じりの優しい笑顔を最期に彼女は、甘寺心愛は鎖でどこかへと連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

アマデラさんがクロにきまりました。

おしおきをかいしします。

 

 

 

 

 

そこはどこかのキッチン。ピンク色の装飾の施されたかわいらしいキッチン。

 

それの異常なところと言えば、普通の人が料理に使うには少々大きすぎると言ったところだろうか。

 

その中心の調理台にこちらも人間が使うには大きすぎるすり鉢が置かれていた。そしてその底には甘寺がたった1人座り込んでいた。

 

 

超高校級のショコラティエ・甘寺心愛のおしおき

《チョコレートロス》

 

 

甘寺がいるすり鉢に近寄ってくる大きな影。それはまるで世界を滅ぼすために攻め寄せる巨人のようなモノトラ。ただそのモノトラは真っ白のお菓子作りのための服装をしている。

 

そのモノトラを見上げる甘寺に向かって巨大なボウルから何かが降り注ぐ。

 

それはこれまで甘寺がその人生の中で最も触れてきたなじみ深い存在。カカオ豆だった。

 

すでにそのカカオ豆はローストされて後はもうチョコレートに加工するだけという状態になっていた。

 

次に甘寺に迫ってくるのは大きく長い影。それは都会の電波塔のようにも見えるほどに巨大なすりこぎだった。

 

モノトラはその巨大なすりこぎでカカオを砕いていく。甘寺はそれを喰らうまいと必死に逃げ回る。しかしその大きさ故に逃げ切れるわけもなく、甘寺の右脚が巻き込まれて潰される。

 

痛みにのたうち回る甘寺をよそに再びモノトラはすりこぎをすり鉢に当てる。カカオ豆を砕いたら次に来る過程は決まっている。

 

ゴリゴリとすり鉢のでこぼこをすりこぎが擦っていく音が響く。

 

動かない片足を引きずりながら甘寺は迫るすりこぎをすんでの所で回避する。

 

回避。回避。回避。回避。

 

甘寺はどうにか避けていく。そのうちに足元の違和感に気付いた。足元のすりつぶされたチョコレートに足が取られていく。

 

油が出てペースト状になったカカオ豆が、これまでずっと甘寺と共に生きてきたチョコレートが今ばかりは甘寺の足を引っ張り続ける。

 

そして遂には底なし沼のように甘寺の脚を完全に絡め取った。

 

もう動かない。

 

ゴリゴリと近づく死の音。

 

甘寺が最期に見た光景はカカオ豆のペーストを巻き上げながら自らへと突き進んでくる巨大な木の壁だった。

 

そこからは早かった。モノトラはどんどんチョコレート作りを進めていき、最後には黒く美しい宝石のようなチョコレートができあがった。

 

そこに人間が1人入っているなんて思いもよらないほどに。

 

 

 

 

 

 

「エクストリィィィィィィム!!!玉城が何考えてたのかは分かんねーが、とりあえずスッキリしたんだぜ!!オマエラも仲間だと思ってた2人の裏切り者を一気に処理できてスッキリしたんじゃねーか!!?」

「…。」

 

モノトラの煽りに反論する気力もないほど俺達は沈みきっていた。ただ絶望感にその拳を握りしめることしかできなかった。その握りしめた拳の中でカサと音が鳴った。それは甘寺がおしおきの直前に俺に手渡した封筒。それは玉城が命を懸けて甘寺に託し、その甘寺が命の代わりに俺達に繋いでくれた"希望"。その希望も感触を掌に感じながら俺はモノトラの方を見遣った。

 

「…ああ、スッキリしたよ。」

「水島!!?」

「これで…、もう俺達はコロシアイの事を考えないで済む。ただ純粋に俺達にこんなことをさせて裏で笑っている黒幕を倒すことだけに集中できる。」

 

これは宣戦布告だ。モノトラへの、そしてその裏にいる黒幕への。この言葉を聞いて他のみんなも顔を上げる。

 

「ああ、そうだよな…!甘寺がこうまでして俺達の事を生かしてくれた!俺達に託してくれた!だったらこんなとこで落ち込んでらんねえよな!」

「うん…!うん!絶対にあたしたちはアンタなんかに負けないんだから!」

「そうだぞ黒幕ー。もう君たちが何をしようと僕らの結束は揺らがないもんねー。」

「その通りだぜ!!こっからぜってーにオメーの正体暴いてぶっ飛ばしてやっからよ、今から芋洗って待っとけよ!!」

「それを言うなら首を洗って、だ。」

「あ、そうだっけ?じゃあ首洗って待っとけ!!」

 

何だか締まらない感じになってしまったけどこれで俺達全員の宣戦布告は終わった。そしてモノトラの反応を待つ。

 

「ぐぷぷ…。オレを倒す、ね…。おもしれーじゃねーか。それなら受けて立つんだぜ!!それなら明日、一定の捜査時間の後"最後の学級裁判"を行うんだぜ!!」

「最後の、学級裁判?」

「ああ。オマエラが探索できる範囲ならどこを捜査してもらっても構わねー。この学園の真実に気付き、このオレの正体に気付くことができたらオマエラを全員解放してやる!だが、もしそれができなかったら全員おしおきってな寸法よ!どうだ?乗らねー手はねーだろ?」

「ああ、いいぞ。乗ってやる。それでこそ最終決戦にふさわしい。」

「んじゃ、そういうことで!また明日な!」

 

そう言うとモノトラは姿を消した。

勢いでとんでもない約束を取り付けてしまったような気もしないでもないが、みんなの顔は必ず外に出てやるという決意と希望に満ちあふれていた。

 

「それじゃ、部屋に戻るか!決戦は明日だ。少しでも長く休んだ方が良いしな!」

「ああ、そうだな!」

「じゃあまた明日ねー。」

 

みんながそれぞれに裁判場を後にする。俺は最後に1人、残っていた。1つの証言台を見る。そこはついさっきまで甘寺が立っていた場所。そこに甘寺が生きていた場所。ただそこを見ると甘寺はいなくなってしまったのだという事実を強く印象づけられるようなそんな感覚があった。1人になると急にこみ上げてくる。寂しい。辛い。悲しい。でも涙は流さない。俺は託されたから。せめて最後の戦いが終わるまでは泣かない。誓いを新たに俺はその証言台に背を向ける。

 

「…それじゃあ、俺も行くよ。ありがとう。」

 

これまでずっと助けてくれて。後は任せてくれ。ここからの話はいつか俺がそっちに行ったときにでも話してやるからさ。

そうして去って行く彼のその頬に光るものは、なかった。

 

 

 

CHAPTER5 ビターホープ・メルトダウン  END

 

 

TO BE CONTINUED

 

 ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り5人




これにで第5章終幕です。かなり終わりに向けて物語が動いたかな、というのが僕個人の印象でもあります。次回から第6章、最後の捜査パートへと入っていきます。どうにか最後まで駆け抜けていきますので、応援していただければ幸いです。それではまた次回お会いしましょう!


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CHAPTER6 絶望を飼う高校生
CHAPTER6 非日常編-捜査1-


深夜にふと目が覚めた。どうしても頭からあの光景が離れない。大量のチョコレートの奔流に甘寺が飲み込まれてゆくあの光景。甘寺は俺に託すと言ってくれたけど正直俺一人じゃそんな自信は毛頭湧いてこない。

部屋の明かりをつける。周りを見回すと机の上に置いたクシャクシャになった封筒が置いてあった。これは死ぬ前に甘寺が俺に託した封筒。甘寺と玉城が"希望"と呼んだものに関係する封筒。モノトラに啖呵を切るときに握りしめてしまたが故にクシャクシャになってしまっているが。裁判の疲れで開く気力がなくそのまま放置してしまっていた。

中身を見ようと手を伸ばす。ふと思い立つ。2人が希望と呼んだもの、つまりそれはモノトラにとっては都合が悪いもの。ここでこれを見てしまったら監視カメラを通してモノトラにバレてしまい、2人の願いを台無しにしてしまうのではないか。それであればモノトラが絶対に見ることのできない場所で。

 

 

 

そんな場所を探した結果、俺は大浴場の脱衣所にいる。ここは女子も服を脱ぐことがある場所とあってモノトラはプライバシー保護の観点からここと大浴場にだけは監視カメラを設置していない。ここならば多少モノトラは怪しむかも知れないが少なくとも意図がバレることなくこの封筒の中身を見ることができる。

脱衣所の椅子に座って俺は封筒の中身を見る。彼女が託した希望とは何だったのか。封筒の中身にはただ二文字、いや文字と言っても良いのだろうか、61という数字がそれぞれ左右逆転して書いてあった。

 

「どういうことだこれは…?」

 

意味が分からない。でも彼女が死ぬ間際に俺をからかったとも思えない。きっとどこかに何か意味が隠されているはずだ。

 

「61…。61…。」

 

何の数字だ?背番号…?プロスポーツならこのくらい大きな数字を使うこともあるけど、俺達の中で背番号を使っていたとしたら二木くらいだし、その二木の背番号も10のハズだ。それに背番号だとしたら数字を逆に書いておく理由も分からない。それとも暗くて何か見逃しているのか…?

明かりの代わりに電子生徒手帳を開き、その画面の光で見てみるがそれでも何も新しい情報はない。振ってみても濡らしてみても逆さにしても…。…ん?逆さ…?今紙を濡らしたことでこの紙が透けていた。そのおかげで裏側から見てもこの数字を見ることができた。

 

「16か!」

 

そのおかげで気付くことができた。この紙に書かれていたのは61のそれぞれの数字が逆さに書かれたものではなく、16と言う数字が全体で逆さに書かれていたものだったのだ。

 

「…でも16って何だ…?」

 

それでも結局16という数字に思い当たるものはない。ふと顔を上げると目の前にコインロッカーが置かれていた。コロシアイなんて状況に置かれていながらという話ではあるが、防犯の観点からモノトラコインを入れることでカギを閉められる構造になっている。その1う1つの扉の端っこに数字が書かれている。

 

「もしかしてこれか…?」

 

俺は立ち上がり、16番と書かれたコインロッカーの扉を開く。生徒手帳で照らしながらロッカーの奥底まで見てみるが、何も書かれていない。

…いや、16のロッカーってだけなら数字をそのまま書けば良い。ということは逆転させていることの意味がどこかにあるはずだ。逆…。逆…。16と書かれたロッカーの逆…。16と書かれた扉の逆…。逆…?裏…?扉の裏…!?扉の裏側を照らしてみる。あった…!

ロッカーの扉の裏にテープで何か貼り付けてあった。これは…カギか?正確にはカギ束。何本かのカギを1つのリングにまとめた物が貼り付けてあった。その中の1本にはモノトラのマークが書かれていた。

 

「これって…!」

 

このカギ束を見てふと思い出す。玉城が裏切り者だと判明する前日、その夜にモノトラが何か大切な物を無くしたと言っていた。この大切な物がこれかもしれない。だとしたらやっぱりこの脱衣所で封筒を開けたのは正解だったかもしれない。きっとこれを活用すればこれまでは入れなかったところにたくさん入れるはずだし、そうなればもっとたくさんの情報を手に入れることができるはずだ。

そのカギ束をポケットに突っ込むと俺は素早く部屋に戻った。

 

 

 

 

 

CHAPTER6 絶望を飼う高校生  非日常編

 

 

 

 

 

 

部屋に戻ってからはすぐに眠りに落ちた。そして決戦の日を迎えた。みんな朝のアナウンスが流れる前には食堂前に集まって、食堂が開くとみんなで食事を摂った。そしてみんなで片付けを終えると再びみんな食堂前に再集合した。

 

「…うし!じゃあ捜査すっか!」

「今日勝っても負けても全部終わるんだよね…!緊張してきちゃった!」

「きっと大丈夫だよー。みんなで勝って、みんなでここを出て行こうー。」

「そうだな!!じゃあ出発だ!」

「「「おー!!!」」」

 

何となく明るい雰囲気で捜査が開始された。

 

 

 

-捜査開始-

 

 

 

さてと、まずどこから手をつけようか…。

 

「学園の秘密に関連しそうなところと言えばー、あそこだよねー。」

「あそこ?」

「図書室の書庫だよー。あそこに色んな資料が置いてあったしー。」

「確かにそうだな。行ってみるか。」

 

久見に促されて俺は図書室の書庫に向かった。

 

 

 

相も変わらずほこりっぽい書庫の中の本棚を調べる。

 

「えーっとー、これだこれだー。ばばーん。」

 

久見がその中の1冊のファイルを手に取って開く。そのファイルを横からのぞき込む。

 

「確かこれって…。」

「そうー。希望ヶ峰学園の再建計画とその背景について書かれてるのー。」

「確かプロジェクトR、だったか?これももしかしてこのコロシアイにも関係があるのか…?」

 

 

コトダマゲット!

【プロジェクトR)

超高校級の絶望によってダメージを負った希望ヶ峰学園の再建計画。

この計画をまとめたファイルには計画に至る背景として以前のコロシアイ学園生活や未来機関による超高校級の絶望との決着についても書かれている。

 

 

その内容は以前一度見たことがあるが、もう一度見直してみることにした。計画について、コロシアイ学園生活について、未来機関について。そして、超高校級の絶望について。それと同時にこのファイルには気になる文が書かれている。

 

 

『超高校級の絶望はその後釜として何人かの中学生を拉致し、“超中学級の絶望”として育て上げていた。我々は彼らの多くを捕らえ、再び普通の生活に戻れるようになるまでの更生プランを実行し、実際に更生させることに成功したが、捕らえる際、そのうちの何名かを取り逃がしてしまった。彼らが今どこで何をしているのかは定かではないが、その取り逃がした“超中学級の絶望”達の動向には注意せねばならない。』

 

 

「"超中学級の絶望"…。超高校級の絶望の後釜、か…。」

「何人かを取り逃してしまってるみたいだねー。」

「ってことは今回のコロシアイの黒幕は…?」

 

 

コトダマゲット!

【超中学級の絶望)

超高校級の絶望は中学生を拉致し、次世代の超高校級の絶望として育成していた。未来機関によってその大部分は捕らえられ、更生プログラムを受けたが、その一部を取り逃してしまっている。

 

 

「…よし、ここはこんなところか。」

「じゃあ次のところだねー。」

 

書庫を出て次のところに向かおうと思ったその時、ふと俺は思い出したことがあった。

 

 

『ああ、水島君。これ渡しておくわ。』

 

 

有浜が死の間際に俺に渡してきたメモ。何かの本のページ数がメモされたものだと思われていた。そこに書かれていたページは確か274ページ。

 

「こうなるとさすがにアレが関係していないとは思えないよな…。」

 

俺は図鑑のコーナーに近づき、あの2回目の学級裁判の夜に開いた人体図鑑を手に取る。やはりその274ページに該当する部分はあの夜と同様、何者かによって破り捨てられている。確か内容は双子に関する内容だ。あの夜目次で調べたから覚えている。

 

「双子…。あのときは無関係だと思ってたけど、何か関係しているのか…?」

 

 

コトダマゲット

【破られたページ)

有浜に渡されたメモの通りに図書室の人体図鑑を見てみると、該当するページが破られていた。

目次を見てみるとそのページには双子に関する内容が書かれていたようだ。

 

 

よし、今度こそ次のところに行こう。

 

「あ、そうだー、輝くんー。」

「どうした?」

「4回目の学級裁判の後図書館で聞いたこと覚えてるー?あの考え事してたって奴ー。」

 

4回目の裁判の後に聞いたこと…?考え事…?それって確か…。

 

 

『ところで輝くんってあまりこういう夜更かしってしないよねー?』

 

 

「あの夜更かし云々って奴だよな?」

「そうそうー。あのとき輝くんほとんど夜更かししないって言ってたよねー?」

「ああ。あの日の時で2回目だ。1回目は2回目の学級裁判の後。それと昨日に1回だからせいぜい3回だ。」

「じゃあさー、アンリちゃん達が犯行を延期できなかった理由ってのも覚えてるー?」

 

アンリが犯行を延期できなかった理由は確か…。

 

 

『今日を逃せば他のみんなが全員早く部屋に戻る事なんてもうないからさ。例えば娯楽室に深夜も一人将棋を指しに行く玉城君、元々夜型の傾向にある久見さん、そして水島君。君らは深夜に行動するだろう?』

 

 

「確か普段だと深夜に行動するメンバーがいるからみんながパーティーで疲れていたあの日意外には犯行は実行できない、って話だったよな?」

「そうそうー。それでさー、玉城くんはきっと裏切り者としての動きもあっただろうから分かるしー、僕が夜型なのも認めるところなんだけどー、今日までで3回しか夜更かししていない輝くんが夜型っていうのはおかしくないー?」

 

そう言えば確かに…!なんでアンリは俺のことを夜型だって思っていたんだ…?

 

 

コトダマゲット!

【アンリの遺言)

アンリはあの日にしか犯行をできなかった理由として普段深夜に行動するメンバーの存在を挙げた。

そのメンバーとして水島、玉城、久見の3人の名前を挙げたが水島はここまでで3日しか深夜に出歩くことはしていない。

 

 

あのときのアンリの発言に疑問は残るけれどそれを今気にしていても仕方がない。それならばもっと色んなところの捜査を進めるべきだ。

 

 

 

一度調べるべき場所を整理するために食堂に戻ると他のみんなも勢揃いしていた。

 

「おう水島!捜査はどーよ?」

「とりあえず図書室を調べてきた。書庫にそれなりに資料があったからまあまあ情報は手に入ったんじゃないかな。みんなは?」

「うーん、微妙ー。」

「こっちもだ。」

「モノトラの奴大した情報を残してねーんじゃねーのか?」

「その可能性はあるな…。」

 

つまりこれまで開放されたエリアじゃ図書室以外には大した情報は残されていなかったってことか。だとしたらアレの出番じゃないのか…?

 

「なあみんな。昨日の学級裁判で甘寺が俺に渡した封筒って覚えてるか?」

「ああ、あれな!野暮なことは聞くまいと思ってほっといたんだが何か大事なことでも書いてあったのか?」

「ああ。2人が俺達に遺した"希望"のありかが書かれてた。」

「マジかよ!」

「それでその希望ってのはこれだ。」

 

今捜査が始まったこの段階に至ってモノトラが手出しをしてくることはあるまいと踏んで俺はあのカギ束を出した。

 

「2人はこれをモノトラから盗み出して俺達に遺してくれていたんだ。」

「ってことはこれで今まで入れなかったところも見れるってこと!?」

「ああ、そういうことだ。」

「うし!じゃあ1つ1つ見て回るか!!」

「それじゃー、まずは1番近い寄宿舎の2階から見て回ろっかー。」

 

そんなわけで俺達はまずは寄宿舎の2階のカギを開けて入ることに成功した。

 

 

コトダマゲット!

【希望のカギ)

玉城がモノトラから盗み出し、甘寺が俺達に繋いでくれたカギ。

学園のこれまで入れなかった場所に入ることができる。

 

 

 

寄宿スペース入り口のすぐ横にある寄宿舎の階段の前、鎖されたシャッターを前に俺達は息を呑んだ。ここには一体、何が残されているのか。怖い。ここにあるのは黒幕を倒すための希望なんかじゃなくてここからは一生出られないかも知れないという絶望かもしれない。でも俺達は止まっていられない。死んでいったみんなのためにも。その決意を胸に俺はシャッターのど真ん中の鍵穴にカギ束の内の1本を差し込んだ。カギを引っこ抜くとゆっくりとガラガラと音を立てながらシャッターは開いていった。

 

「…よし、行くぞ。」

 

決意を新たに5人は階段を上がっていく。そしてたどり着いた寄宿舎2階。構造はほぼ俺達がこれまで生活していた1階と変わらない。が、なんとも言えない異様な雰囲気が漂っていた。

みんなはそれぞれ気になるところを調べに向かった。俺は薬師と一緒に2階ホールの奥、1階の大浴場にあたるところに存在しているロッカールームに向かった。

 

「つってもここは特に調べることはなさそうか?長いこと誰も使って無さそうだし。」

「いや、分からないぞ。ご丁寧にロックまでかけられているし、ロッカーの中に何か隠されているかも知れない。」

「つったってそのロックを解除できねえだろ?」

「そうなんだよなぁ。」

 

そう言いつつロッカーのカギの部分を見てみるとよく見たタッチパネルのようになっていた。

 

「なあ、この形ってもしかして電子生徒手帳を使えば開けられるんじゃないか?」

「あ、確かに部屋のロックに形が似てるかも!試してみるか!」

 

手近なところで試してみたが、開かなかった。ただもしかしたらと思い虱潰しに手帳を当てていくと1つからピピッと音が鳴り、そのロッカーが開いた。

 

「開いた…。」

「何でこれだけ開いたんだ?」

「さあ…。中身を見てみれば分かるかもな。」

 

ロッカーの中身を覗いてみると、そこにはあり得ない光景が広がっていた。

 

「どういうことだよ、これ…!」

 

ロッカーの中には教科書やノートがたくさん詰め込まれていた。そしてそのどれにも"水島輝"と名前が書いてあった。そしてそのどれにもきちんと授業を受けていたような痕跡が残されていた。

 

「水島、ここに来たことあるのか?」

「そんなわけないだろ?」

「…だよなぁ…。ちっと俺も試してみっか。」

 

その光景に驚いた薬師が今度はロッカーを虱潰しに開けてみようとした。するとまたその中の1つから音が鳴ってロックが解除された。

 

「うわぁ!!」

 

そして中を覗いた薬師が悲鳴を上げた。

 

「なんでこんなとこに俺のユニフォームが入ってんだよ…?ピストルも、弾も、みんな入ってんじゃねえか!」

 

どうやらそこにはピストル射撃用のユニフォームやピストル、弾が入っていたようだ。こんな道具を扱うのなんて俺達の中じゃ薬師しかいない。

 

「なんでだよ…?俺もここに来た事なんてねえぞ…?」

「これがもしかして学園の真実ってのに繋がっているのか…?」

「だとしたら、俺、怖えよ…!」

 

 

コトダマゲット!

【ロッカールーム)

長いこと誰も使っていないような雰囲気のロッカールーム。

たくさんあるロッカー中の1つだけは電子生徒手帳で開けることができ、その中には教科書やユニフォームなどロッカーを開けた人物の私物が入っていたが、もちろんここに入った記憶はない。

 

 

「なあ水島、気味悪いし次行こうぜ…。」

「ああ…、そうだな。」

 

そのロッカールームの異様な様子に気味の悪さを感じた俺達はさっさとそこを後にした。

次に2階の寄宿スペースに向かうとその部屋の内の1つの入り口で涼風が首を傾げていた。

 

「どうしたんだ?」

「ちょっとこれ見てよ。」

 

涼風が指さした方を見るとそれは2階の個室の1つで、そのベッドにあたる部分に巨大な機械が設置されている。でもよく見るとそれは本来のベッドに何かの装置が付け加えられている、という感じだった。

 

「何だこれ…?」

「そう思うでしょ?しかも全部の部屋がこうなってんだよ?」

「…マジか。」

「何の機械かはよく分かんないけど下手に触んない方がいいよね?」

「ああ、そうだな。」

 

 

コトダマゲット!

【謎の機械)

2階のそれぞれの部屋のベッドにつけられていた。

何のための機械かは不明。

 

 

よし、じゃあ寄宿舎では最後の奥の部屋、学園長の部屋に入ることにするか。これまでの部屋と違ってきっと大きな手掛かりが隠されているはずだ、俺は息を呑みながらその扉を開け放った。

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り5人




さてさて、最後の6章に突入致しました。それでいきなり捜査編に入ったわけですが、本来1話で収めようと思っていたのが全然そんなわけに行かず、2話構成になりそうです。見込みが甘かった…笑。ということでもう少し捜査編が続きますのでどうか見届けていただけますよう…。


それでは久しぶりの設定裏話と参りましょう!
今回は第5章のタイトル解説をして参りたいと思います!
色々衝撃の第5章だったわけですが、そのタイトルは「ビターホープ・メルトダウン」でした。このタイトルの元ネタはボカロの曲名、「チョコレートメルトダウン」です。曲の中の「ずっとこの幸せに浸っていたい」という部分をイメージする感じの章の結末にできたかな、と思っております。
そしてタイトルに関して、まずチョコレートと言えば甘く且つ苦い、というイメージだと思いますが、その苦いの部分をビター、甘いの部分を希望として水島くんを始めとする生き残ったメンバーにとって苦い、苦しい思い出でありつつ同時に黒幕を倒す希望、その一部がこの裁判を経て表出してくる、というこの章の全てを込めた章タイトルになっています。甘寺さんと玉城くんの2人の物語はあそこで終わってしまいましたが、きっと生き残ったみんながその希望を繋いで勝利を掴んでくれることでしょう。そのクライマックスまで皆さんどうかお付き合いください。
ということでまた次回お会いしましょう!!


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CHAPTER6 非日常編-捜査2-

学園長の個室の扉を開けるとこれまでの部屋とは大きく異なる雰囲気が漂っていた。というより、学園長の個室とは言うものの、そこに誰かがいたような形跡は残されていなかった。

 

「こんなに人がいた形跡ってないものか…?仮にも学園長が暮らしていたはずだろ…?」

「オメーもそう思うか?」

「おお、九鬼か。あまりにも人がいた形跡がなさ過ぎて不気味だ。」

「オレもそう思うぜ。でも色々証拠になりそうなものもありそうだけどな。」

「ああ、そうだな。探索してみるか。」

 

この部屋の異様な雰囲気に不気味さを感じはしたものの、気合いを入れ直して部屋の探索を開始した。

一番可能性があるとしたらこの部屋の本棚だろう。実際のところこの部屋の本棚はほぼ空っぽになっていたのだが、その中をよく調べて見ると本棚の奥の方に1冊のファイルが隠されていた。そのファイルの表紙には衝撃の文字が書かれていた。

 

「"絶望再建プロジェクト"…?」

 

それは書庫に置かれていたファイルの"希望ヶ峰学園再建プロジェクト"、通称"プロジェクトR"に対抗するかのように付けられた物騒な名前だった。

中身を見てみると更に驚くような内容ばかりであった。

 

 

『絶望再建プロジェクト

 我々はこの計画を以て再び世の人々を絶望へと堕とすことを最終目的としていく。

 その第1歩として我々は希望ヶ峰学園の教員の排除に成功。ここから超高校級の生徒達 

 の記憶を奪い、その状態でのコロシアイを2カ所で同時多発的に開催。希望同士のコロ 

 シアイを全国中継することで世の人々の希望を再び奪う。』

 

 

…なんだよこれ…!もしかして今の状況のことか…?2カ所…?もう1カ所で同じことが行われているって言うのか…!?

 

 

コトダマゲット!

【絶望再建プロジェクト)

世の人々を再び絶望に堕とすためのプロジェクト。

超高校級の生徒達の記憶を消し、2カ所で同時多発的にコロシアイを行わせ、それを全国中継することで再び人々を絶望させる計画のようだ。

 

 

「おーい水島!これなんだと思うよ!!」

 

手元のファイルに意識を取られていると遠くから九鬼に呼ばれた。

 

「ん?どした?あんまり顔色よくねーぞ?」

「その話は後でするよ。で、どうしたんだ?」

「ああ、そうだ!ちょっとこれを見てくれよ!」

 

そう言って九鬼が差し出してきたのは何かの薄い冊子だった。

その表紙に大きく取扱説明書と書いてあった。

 

「何の説明書だ?」

「うーん、よく分かんねーんだよなー。だからちっとオメーに見てもらおうと思ってよ。」

「そういうことか。」

 

それならばと冊子を九鬼から受け取るとペラペラとそのページをめくっていった。

 

 

『心臓一体型スイッチ 取扱説明書

 これは様々な機械と連動させることでその機械を半永久的に動かし続けることのできる 

 スイッチです。使用手順は次のようになっております。

 ①電波受信端末を対象の機械の中心となる基盤に取り付けてください。

 ②電波発信端末と受信端末の電源を入れ、2つの端末を連携させてください。

 ③電波発信端末を対象生物の心臓に取り付けてください。

 

 しばらくは内蔵のバッテリーで稼働しますが、一定期間を過ぎると発信端末は対象生物 

 の生物電気によって、受信端末は対象の機械に流れる電気で動くようになります。

 以降は対象生物が生きている限り機械は半永久的に動くようになります。

 また、生死に関わらず対象生物の心臓が止まると対象の機械も止まります。』

 

 

何だ、そんなスイッチが存在しているって言うのか…?だけどそんなものの説明書が何でこんなところに…?

 

「で、何か分かったかよ?」

「ああ。どうやらこれは生き物の心臓に取り付けてその生き物が生きてる限り何かしらの機械を動かし続けることができるっていうスイッチらしい。」

「何じゃそりゃ?んなもんどこに使うってんだ?」

「さあ?この辺の話も裁判を通してってところだろうな。」

「ま、そうだな!」

 

 

コトダマゲット!

【心臓一体型スイッチ)

生物の心臓に取り付けて対象の生物が生きている限り対応する機械を動かし続けることのできるスイッチ。

対象の生物に生死に関わらず心臓が止まってしまうと対応する機械も止まってしまう。

 

 

とりあえずこれで寄宿舎の2階の捜査は全部終わっただろうか?

ちょうど俺と九鬼が学園長の個室を出ると他のみんなも捜査を終えて2階のホールに集合しているところだった。

 

「それじゃー次のところに行こっかー。」

 

久見がそう切り出したので俺達はみんなで次のところに向かうことにした。

 

 

 

次に向かったのは4階の情報処理室。寄宿舎の2階と並び、他の開いていなかった場所とは違ってなぜ開いていないのか想像もつかなかった空間。その扉の鍵穴に扉と同じ色をしたカギを差し込むとガチャ、という音と共に扉が開いた。

 

「これは…!」

 

部屋の中に入るとまず目に入ってたのは部屋の壁の1つを覆い尽くす大量のモニター。そこには学園の各所の映像が映されていた。

 

「ここで俺達のことを監視してたっつうことか…!」

「わっ!あれ僕の部屋だよー。」

「プライバシーも何もあったもんじゃないね。」

 

1つ1つのモニターを見てみると実際、教室や食堂、果ては俺達それぞれの個室までほとんどの部屋が映像として映されていた。ただその中で1枚だけ妙な映像のモニターがあった。

 

「なあ、あの映像ってここだよな?」

「あ!ほんとだ!あたしたちみんなが映ってる!」

 

その映像の左上には"LIVE"の4文字が書かれており、その他の部分にもまるでテレビのバラエティー番組のようなテロップが書かれている。

 

「これってもしかして生中継とかされてんのか…?」

「どこにだよ?」

「それは分かんねーけどよー…。」

 

その可能性はあるはずだ。だって学園長の個室に残されていたファイルには…。

 

 

コトダマゲット!

【モニター)

壁一面を埋め尽くす、学校各所の映像が映されているモニター。

その中の1枚にはバラエティー番組の生中継のようなテロップが入れられている。

 

 

この異様な1枚のモニターが持つ可能性を頭に浮かべつつ他に何か関わりがありそうなものはないかと周囲を調べて見ると部屋の奥の方にモノトラの顔が描かれた、これまでの中でも特に異様な雰囲気を湛えた扉があった。

 

「あの扉は…、」

「輝くんも気になったー?」

「ああ。」

「さっきちょっと扉を開けてみようしたんだけどー、開かないんだよねー。」

 

だとしたらもしかして…?

手元のカギ束を取り出すとその中の1本にモノトラの顔の造形が施されたカギがあった。もしかしてこれを使えば開けられるんじゃないか…?

その勘は当たりのようで、カギを捻ると確かな手応えと共に扉が開いた。

部屋の中に入るとそこにはまるでロボットアニメのコクピットのような操作室があった。

 

「これは…。」

「すごいねー。」

 

そしてその部屋のドアを除く5方向を覆うモニターはちょうどモノトラの身長くらいの高さのところを映していた。

 

「もしかしてこれってー、モノトラの操作室かなー?」

「だとしたらこの映像の高さの理由も説明が付くな。ちょうど映ってる映像の高さもそれくらいだ。」

 

ここの部屋を調べたら何か見つかるかもしれないな…。

 

「でもさー、モノトラをここで捜査してたって事はさー、黒幕もここにいたってことじゃないー?」

「…確かにそうだな。」

「もしかして隠し部屋があるのか…?」

「うーん、でもここには特にそういう感じの扉ってないよねー?」

 

部屋の壁や床を久見と一緒に調べて回ったが、それらしきものは見つからなかった。

 

「やっぱり隠し部屋なんかないな…。」

「じゃあ一体黒幕はどこに行っちゃったんだろうねー?」

「うーん…。ん…?」

 

部屋を見回しているとその操作室のシートが目に入った。そのシートを見てみるとその座面には埃が積もっていた。

 

「なあ、このシート長いこと誰も座ってない感じがするんだけど…。」

「あ、ほんとだー。」

 

ということは、ここの部屋でモノトラを長いこと操作した形跡がないってことだ。隠し部屋もないのにどこで、どうやって黒幕はモノトラを操作していたんだ…?

 

 

コトダマゲット!

【モノトラ操作室)

情報処理室の奥の扉から入ることができる。

ロボットアニメのコクピットのようになっており、そこでモノトラを操作できるようだが、そのシートには埃が積もっており、長い間誰かが座った形跡がないようだ。

また、部屋の中には隠し部屋もない。

 

 

この部屋に入って色々分かったこともあるけど、逆にそのせいで色々謎が深まってしまったような気がする。

 

「さてと、情報処理室で調べられそうなのはこんなところか…。」

「あと開いてないとこと言えば…、学園長室か!」

「何言ってんだ?学園長の部屋ならさっき調べたじゃねーか?」

「そうじゃねえよ!4階の学園長室!さっきの学園長が寝泊まりするための部屋じゃなくて、学園長が仕事する部屋!」

「あ、校長室みてーなもんか。」

「そういうこった。」

 

…全く、この2人は緊張感というものが感じられない。まあ、最終決戦を前にガチガチでいられるよりかはいいか。

 

 

 

案の定、あのカギ束の残りの1本のカギを使うと学園長室のカギは簡単に開いた。その中に入ると思ってたよりも整理整頓され、捜査がしやすい状態になっていた。ここにはきっともっと重要な何かが眠っていると考えて良いだろう。

 

「やっぱり探すとしたらこの本棚か…。」

 

目の前にあったファイルを取り出すとその表紙には『希望ヶ峰学園生徒情報』と書かれている。

その1ページ1ページに俺達新1期生全員のプロフィールが書かれている。その最後のページには俺の情報が書かれている。

 

「何だよ、これ…?」

 

俺の目を一番引いたのはその才能の欄。確かに俺の才能に関する記憶はなかったけど、その才能欄にはどうやら2つの才能が書かれていたようだった。ただその片方は幸運、そしてもう1つの才能は黒塗りで潰されていた。

 

「…俺には才能が2つあった…?」

 

何もおかしいことではない。過去の希望ヶ峰学園の生徒の中には"文学少女"と"殺人鬼"を兼ねていた人物もいたようだ。これはプロジェクトRの資料にも書かれていた。だから忘れているだけで俺が2つの才能を持っていた、というのは何らおかしいことではない。だけど…

 

「なんで俺の才能の片方だけ黒塗りにされているんだ…?」

 

 

コトダマゲット!

【生徒プロフィール)

希望ヶ峰学園の新1期生のプロフィールが1つのファイルにまとめられている。

水島輝のプロフィールの才能欄には2つの才能が書かれていたが、その片方は幸運、もう片方は黒く塗りつぶされていた。

 

 

「えっ、何これ…!?」

 

俺がファイルの内容に衝撃を受けているとその隣で同じように本棚を捜査していた涼風が驚いたような声を上げた。

 

「どうしたんだ?」

「あ、水島!ちょっとこれ見てよ!」

 

そう言って涼風が見せてきたのは何かのアルバムのようだった。そしてその中の写真を見るとあり得ない写真ばかりが収められていた。

 

「なんだよ…、これ…?」

 

アルバムの中の写真には普段の生活に加え、体育祭や文化祭、林間学校といった様々な学校行事を楽しんでいる()()()()()写真だった。

そしてその写真の横には様々な筆跡でコメントが書かれている。一度アルバムを閉じて表紙を見てみるとそこには『新1期の思い出』と書かれていた。

 

「俺達こんなイベントやった記憶ないぞ…?」

「だよね…。あとさ、1枚目の写真がないんだよね。」

「1枚目?」

「ほら。」

 

もう1度アルバムを開くと1ページ目の1番最初の写真がなくなっていた。そしてその写真のコメントには『これからよろしくね!』と書かれている。

 

「ほんとだな。」

「しかもこれあたしの字だ…。」

「どういうことだ…?」

 

 

コトダマゲット!

【アルバム)

表紙には『新1期の思い出』と書かれている。

中には水島達16人のの普段の生活や学校行事の様々な場面を切り取った写真が収められており、その横にはそれぞれの文字でコメントが書かれている。

その中の最初のページの最初の写真がなくなっており、そのコメントには涼風の字で『これからよろしくね!』と書かれている。

 

 

そういえばあり得ない写真と言えばあの時の…。

 

 

『写真は俺達16人が写った集合写真。だけどそんなものは撮った記憶はなかった。』

 

 

職員室の探索中に拾った俺達全員が映った集合写真。あれもこのアルバムの写真と同じで俺は撮った記憶がない。もしかしたらあのなくなっていた1枚はあの写真だったのかも知れないな…。だけどあの写真については学級裁判になるまで言及するのは避けておこう。逸ってここでいきなり処刑なんてのはごめんだ。

 

 

コトダマゲット!

【集合写真)

職員室の探索中に拾った水島達16人全員が写った写真。しかしそれを撮った記憶はない。

もしかしたらアルバムの空いている1枚はこの写真だったのかも知れない。

 

 

本棚はこんなところか。それなら次は学園長の机なんかは何か隠されているんじゃないだろうか。

そう思って机に向かうと既に久見が机で何かを弄っていた。

 

「何してるんだ?」

「えっとねー、机にノートパソコンが放置されてたからちょっと調べてみてるんだー。」

「パスワードが分からないだろ?」

「それがねー、ロックがかかってなかったんだよねー。」

「そんな重要そうなパソコンにか?」

「うーん、もしかしたら最初からロックがかかってなかったのかもねー。」

「そんな不用心なことあるか?」

「でもー。元々この部屋は僕達が入れる場所じゃなかったわけだしー。」

「確かにそれはそうだが…。」

「ま、入れるんだからどっちでもいいよー。何か分かったら教えるねー。」

「ああ、頼む。」

 

久見がパソコンを調べてくれているのであれば俺は他の引き出しとかを調べて見よう。

順番に引き出しを開けていくとそのうちの1つに分厚い紙が2つ折りになった何かを見つけた。

それを開いてみたがその内容は俺に混乱をもたらした。

 

「…これはエコー写真、か…?」

 

中身は2枚のエコー写真。そのうちの片方は双子のもの。もう片方は1人の胎児のものだった。

 

「何でこんなものが置かれているんだ…?もしかして前学園長のものとか…?」

 

 

コトダマゲット!

【エコー写真)

2枚の子宮の中の胎児を写したエコー写真。

写真の片方は双子の胎児を、もう片方は1人の胎児を写していた。

 

 

「あ、輝くんー。とりあえず中身を見終わったよー。」

「そうか。何か分かったか?」

「えっとねー、まずここにはとあるプログラムが組み込まれていたみたい。」

「プログラム?」

「うん。人工知能プログラム"アルターエゴ"。」

「それって確か超高校級のプログラマーが組んだっていうプログラムか?」

「そうそうー。でねー、このパソコンの中のプログラムを解析してたらねー、何かしらの人格を組んだ形跡が残されてたんだー。」

「解析ってそんなことまで…。で、人格を組んだ?」

「そうー。多分モノトラの人格なのかなー?形跡があるってだけでデータそのものが残ってるわけじゃないからそこは分かんないやー。」

 

でも人工知能で制御していたのだとしたらあのモノトラ操作室で誰かが操作した形跡がないのも納得いくな…。

 

 

コトダマゲット!

【ノートパソコン)

中には人工知能プログラム"アルターエゴ"が組み込まれていた。

そのアルターエゴを解析してみると何かしらの人格を組んだ形跡があるが、その人格のデータそのものは持ち出されておりどのような人格かは不明。

 

 

「あ、あともう1つー!アルターエゴとは別に1つだけファイルが残ってたよー。」

「ファイル?」

「うん、ちょっと見てみてくれないかなー?」

「ああ。」

 

そのファイルタイトルには『超中学級の絶望について』と書かれていた。これはきっと重要な情報に違いない。ファイルをスクロールしていくと前半部分はプロジェクトRのファイルにも書かれていたような内容だったが、後半部分で気になる文章を見つけた。

 

 

『コードネームについて

 超中学級の絶望はその構成員の中でも特に能力が高く、将来の幹部候補の人物にはコー

 ドネームを与えていた。

 今回取り逃がした超中学級の絶望の子どもたちもいずれもコードネームを持ち、それぞ

 れユニオン、ストリング、スコアと呼ばれていたことが更生プログラムを受けた者の証 

 言によって明らかになっている。』

 

 

コードネーム…。ファイルの中身を見る限りそれに当たる人物の誰もが高い能力を持っていたようだな。もしかして今回の黒幕もそのコードネーム持ちの人物ってことか…。それならば江ノ島盾子同様、たった1人でこの規模の事件を起こせたとしても納得だ。それにしても連合に糸、得点。どういう意味で付けられたコードネームなんだ…?

 

 

コトダマゲット!

【コードネーム)

超中学級の絶望の中でも将来の幹部候補となる者にはコードネームが与えられていた。

取り逃がした超中学級の絶望も全てコードネーム持ちであり、それぞれユニオン、ストリング、スコアと呼ばれていたようだ。

 

 

「どうー?何か分かったー?」

「恐らくこのコロシアイの黒幕にも関係しそうなことが少し分かったよ。」

「おー、それは期待ー。」

「プレッシャーかかるからやめてくれ…。」

「でもー、輝くんの土壇場の判断が間違ってたこと無いもん、信用してるよー。」

「そりゃどうも。さて、俺は少し行きたいところがあるからここはみんなに任せて良いか?」

「おう!どこだか知らんが行ってこい!」

「助かる。」

 

 

 

みんなに一言断りを入れて俺は単独行動を取らせてもらうことにした。時間的にはこれが最後。その俺が行きたかった場所は寄宿舎1階、玉城の部屋。

 

「結局2人からは何のためにモノトラに従っていて、何を知っていたのか、聞くことができなかったからな。すまない、玉城。少し部屋を漁らせてもらう。」

 

もう届かない言葉を呟きながら玉城の机の中の手紙を1枚1枚見ていく。

結果を言えばあの事件の始まりのメモ以外はほぼみんな似たような内容だった。

 

「ここからは何か得られそうな感じではないか…。」

 

ただ1つだけ気になるポイントを挙げるとするのであればその似たような内容の中で度々出てくる"監視対象"という言葉。これを見る限り2人はモノトラ、いや、その裏にいる黒幕の指示で俺達の中の誰かを監視していた、ということになる。そしてその監視対象に関するやり取りは2人が死ぬ直前まで続けられていることを考えると恐らくその"監視対象"とやらは今生き残っている俺達の中にいるのだろう。2人は誰を何のために監視していたのだろう?

 

 

コトダマゲット!

【監視対象)

甘寺と玉城の2人は黒幕の指示を受けて俺達の中の誰かを監視していたようだ。

関係するやり取りがつい最近まで続いていることからその対象は今生き残っているメンバーの中にいると考えられる。

 

 

「甘寺、玉城。俺達、絶対勝つから。」

 

そう呟いた瞬間その宣告は響いた。

 

 

 

キーン、コーン… カーン、コーン…

 

 

 

「さてさて、そろそろ良い頃じゃねーか?ってなワケでオマエラとオレの最終決戦だぜ!!オマエラいつもの赤い扉の前に集合してくれ!!!」

 

来たか…。俺は、俺達は絶対に黒幕には負けない。このコロシアイの全貌を、黒幕の正体を暴いてみんなでこの学園を出てみせる…!死んだ仲間達のためにも…!

覚悟を決めて1歩を踏み出す。その時、大きさの違う2つの手から背中を押されたような、そんな気がした。

 

 

 

俺が赤い扉の前に来たときには他のみんなはもう集まっていた。

 

「お、水島!やっと来たか!みんな揃ったことだし行くか!」

 

薬師の音頭でみんなで扉の中に入る。これまでの学級裁判でも5回もやってきた部屋。でも最後となるとこれまでとはまた違った緊張感がある。

 

「…これで最後、全部決まっちゃうんだね…!」

「ああ、これでオレ達が勝ってここを出るのか、負けてここで死ぬのか決まるんだ…。」

「緊張しちまうからそんなこと言うんじゃねえよ…。」

「でもー、言っても言わなくても状況は一緒だよー。」

「そりゃそうだけどさぁ…。」

「…大丈夫だ。きっと俺達は黒幕に勝てる。きっとここを生きて出られるさ。」

「…ああ、そうだよな!これまでずっと一緒に戦ってきたオレ達だもんな!」

「うん、きっとそうだよー。」

「よーし、絶対に勝つぞー!!」

「「「「「おー!!!!」」」」」

 

全員で声を出して気合いを入れる。そして5人横並びでエレベーターに乗り込む。全員が乗り込むと扉が閉じてエレベーターが動き出す。

でもこれまでの暗い気持ちじゃない。俺達はみんなここを生きて出るっていう希望を胸に最後の学級裁判に向かう。その希望に満ちた俺達を運ぶ舟はゆっくりとだけど確実に決戦の場へと向かっていた。

 

                    ・

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【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り5人




第6章、捜査編はここまでです!次回からは遂に、最後の学級裁判となっていきます。物語もどんどん終わりへ向かっていきます。ここから最後に向かって頑張って書いていきますので皆さんどうか見届けてやってください!

それでは設定裏話、今回は第5章おしおき編です!
第5章のおしおきのタイトルは「チョコレートロス」です。元ネタは和ぬかさんの曲である「シュガーロス」となっております。このタイトルは完全に水島くんの視点からのタイトルかなという感じです。超高校級のショコラティエである甘寺さんをチョコレートに喩え、その彼女がチョコレートを作る過程で、チョコレートの中に消えていく、という状況を表現したいと思って付けたタイトルになっています。この甘寺さんの様子を見ているときの水島くんの心の裡は「さよならなんて言わないで」、そんな言葉でいっぱいだったのかも知れません。
ということで今回はここまでです。次回からの最後の学級裁判も楽しんでいただければ幸いです。それではまた次回お会いしましょう!!


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CHAPTER6 学級裁判 前半

エレベーターの扉が開く。最後の学級裁判の舞台。これで良くも悪くも全てが決まる。このコロシアイが終わる。

 

「よおオマエラ!!今までになくやる気満々だな!!」

「そりゃそうよ!!テメーなんかさっさとぶっ飛ばしてやんぜ!!」

「覚悟してよね、モノトラ!!いや、黒幕!!」

「俺達は絶対生きてここを出てやるぜ!!」

「絶対に僕たちが勝つー!」

「おうおう威勢が良いじゃねーか!おい、水島、オマエは何か言わなくてもいいのか?」

「多くを語る必要はないだろ?絶対にお前を倒す、それだけだ。」

「いいねー。それでこそ絶望させ甲斐があるってもんだぜ!!さあオマエラ、自分の席に着いてくれ!最後の学級裁判の始まりだ!!!!」

 

 

 

コトダマ一覧

 

【プロジェクトR)

超高校級の絶望によってダメージを負った希望ヶ峰学園の再建計画。

この計画をまとめたファイルには計画に至る背景として以前のコロシアイ学園生活や未来機関による超高校級の絶望との決着についても書かれている。

 

【超中学級の絶望)

超高校級の絶望は中学生を拉致し、次世代の超高校級の絶望として育成していた。未来機関によってその大部分は捕らえられ、更生プログラムを受けたが、その一部を取り逃してしまっている。

 

【破られたページ)

有浜に渡されたメモの通りに図書室の人体図鑑を見てみると、該当するページが破られていた。

目次を見てみるとそのページには双子に関する内容が書かれていたようだ。

 

【アンリの遺言)

アンリはあの日にしか犯行をできなかった理由として普段深夜に行動するメンバーの存在を挙げた。

そのメンバーとして水島、玉城、久見の3人の名前を挙げたが水島はここまでで3日しか深夜に出歩くことはしていない。

 

【希望のカギ)

玉城がモノトラから盗み出し、甘寺が俺達に繋いでくれたカギ。

学園のこれまで入れなかった場所に入ることができる。

 

【ロッカールーム)

長いこと誰も使っていないような雰囲気のロッカールーム。

たくさんあるロッカー中の1つだけは電子生徒手帳で開けることができ、その中には教科書やユニフォームなどロッカーを開けた人物の私物が入っていたが、もちろんここに入った記憶はない。

 

【謎の機械)

2階のそれぞれの部屋のベッドにつけられていた。

何のための機械かは不明。

 

【絶望再建プロジェクト)

世の人々を再び絶望に堕とすためのプロジェクト。

超高校級の生徒達の記憶を消し、2カ所で同時多発的にコロシアイを行わせ、それを全国中継することで再び人々を絶望させる計画のようだ。

 

【心臓一体型スイッチ)

生物の心臓に取り付けて対象の生物が生きている限り対応する機械を動かし続けることのできるスイッチ。

対象の生物に生死に関わらず心臓が止まってしまうと対応する機械も止まってしまう。

 

【モニター)

壁一面を埋め尽くす、学校各所の映像が映されているモニター。

その中の1枚にはバラエティー番組の生中継のようなテロップが入れられている。

 

【モノトラ操作室)

情報処理室の奥の扉から入ることができる。

ロボットアニメのコクピットのようになっており、そこでモノトラを操作できるようだが、そのシートには埃が積もっており、長い間誰かが座った形跡がないようだ。

また、部屋の中には隠し部屋もない。

 

【生徒プロフィール)

希望ヶ峰学園の新1期生のプロフィールが1つのファイルにまとめられている。

水島輝のプロフィールの才能欄には2つの才能が書かれていたが、その片方は幸運、もう片方は黒く塗りつぶされていた。

 

【アルバム)

表紙には『新1期の思い出』と書かれている。

中には水島達16人のの普段の生活や学校行事の様々な場面を切り取った写真が収められており、その横にはそれぞれの文字でコメントが書かれている。

その中の最初のページの最初の写真がなくなっており、そのコメントには涼風の字で『これからよろしくね!』と書かれている。

 

【集合写真)

職員室の探索中に拾った水島達16人全員が写った写真。しかしそれを撮った記憶はない。

もしかしたらアルバムの空いている1枚はこの写真だったのかも知れない。

 

【エコー写真)

2枚の子宮の中の胎児を写したエコー写真。

写真の片方は双子の胎児を、もう片方は1人の胎児を写していた。

 

【ノートパソコン)

中には人工知能プログラム"アルターエゴ"が組み込まれていた。

そのアルターエゴを解析してみると何かしらの人格を組んだ形跡があるが、その人格のデータそのものは持ち出されておりどのような人格かは不明。

 

【コードネーム)

超中学級の絶望の中でも将来の幹部候補となる者にはコードネームが与えられていた。

取り逃がした超中学級の絶望も全てコードネーム持ちであり、それぞれユニオン、ストリング、スコアと呼ばれていたようだ。

 

【監視対象)

甘寺と玉城の2人は黒幕の指示を受けて俺達の中の誰かを監視していたようだ。

関係するやり取りがつい最近まで続いていることからその対象は今生き残っているメンバーの中にいると考えられる。

 

 

 

【学級裁判開廷】

 

「よーし、じゃあ最後の学級裁判についての説明をさせてもらうぜ!オマエラには今回の学級裁判でこのコロシアイの裏にある真の目的とこの学園の真実、そしてそれを行おうとしたこの学園の中にいる黒幕の正体を見破ってもらうんだぜ!そして見事その全てを見破ることができれば晴れてオマエラは自由の身、この学校から出て行ってもらうんだぜ。逆にそのどちらでも見破ることができなければ黒幕の勝ち、オマエラ全員にキツーいおしおきを受けてもらうんだぜ!」

「よーし、やるぞー!」

「じゃあ何から話そっかー?」

「それなら順番にコロシアイの真の目的から行くか!」

 

薬師が切り出したのに従って俺達は議論を開始することにした。遂に最終決戦の火蓋が切られた。

 

 

 

議論開始

 

「コロシアイの真の目的かー…」

 

 

「【あたしたちに恨みを持つ人物】とか?」

 

 

「いや、そりゃねーだろ」

 

 

「海賊のオレはともかく」

 

 

「おめーらは【誰の恨みも買ってない】だろ?」

 

 

「いや、そうとも言いきれねえぞ?」

 

 

「だって俺や涼風は」

 

 

「【大会で負かした奴】もいたわけだし、」

 

 

「僕だってー、」

 

 

「僕の漫画が売れたことでー」

 

 

「自分の作品が【打ち切りになっちゃった漫画家さん】もー」

 

 

「いたわけだよー。」

 

 

そんな個人的な理由でここまで大々的な犯行をしでかすのか?

 

【絶望再建プロジェクト)→【あたしたちに恨みを持つ人物】

 

「それは違うぞ!」

 

 

「いや、俺達が誰かに恨みを買っていたという線はないだろう。だって俺達の才能は全員バラバラで恨みを持つ対象は死んだ奴らも含めた誰か1人のハズだ。その1人のためにこれだけ大きな事件を起こす人物がいるとは考えられない。それにこれを見てほしい。」

「これって水島が学園長の個室で読んでたファイルだよな?」

「ああ。そしてこのファイルの内容でも特に重要な部分がこれだ。」

 

 

『絶望再建プロジェクト

 我々はこの計画を以て再び世の人々を絶望へと堕とすことを最終目的としていく。

 その第1歩として我々は希望ヶ峰学園の教員の排除に成功。ここから超高校級の生徒達 

 の記憶を奪い、その状態でのコロシアイを2カ所で同時多発的に開催。希望同士のコロ 

 シアイを全国中継することで世の人々の希望を再び奪う。』

 

 

「絶望再建、プロジェクト…?」

「ああ。そしてこの中にはこのコロシアイの裏にある真の目的が書かれているんだ。」

 

その真の目的とは…

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.コロシアイの全国中継

 

2.世界の人々を再び絶望に堕とすこと

 

3.超高校級の生徒達の記憶を奪うこと

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

 

「再び世界の人々を絶望に堕とすことだ。」

「それってつまり…!」

「そうだ。この事件は過去のコロシアイにおいてその首謀者であった超高校級の絶望、その後釜によって起こされた事件だ。」

「待て待て!超高校級の絶望はちゃんと滅びたはずだろ!?その後釜なんているわけねえじゃん!」

「いや、きちんと後釜はいたんだよ。」

 

 

 

証拠提出

【超中学級の絶望)

 

「これだ!」

 

 

 

「超中学級の絶望、と呼ばれた奴らがいたんだ。超高校級の絶望は中学生を多く拉致し、自分たちの後釜として育てていた。そいつらこそが今回の事件の黒幕なんだ。」

「でもそいつらってほとんど捕まってんだろ?だったらこの事件に関係あるとは思えねーぞ?」

「それなら次は奴らとこのコロシアイの関係について議論するか。」

 

 

 

議論開始

 

「超中学級の絶望って奴らは」

 

 

「【ほとんど捕まってんだろ?】」

 

 

「だったらこの事件には」

 

 

「関係ねーと思うぞ?」

 

 

「【前回のコロシアイの首謀者】のこともあったから」

 

 

「勘違いしちゃったんじゃない?」

 

 

「彼らを捕まえてるのも」

 

 

「未来機関だしー、」

 

 

「この事件とは【関係なさそう】だよねー」

 

 

いや、それこそが前回のコロシアイの終結に大きな役割を持っていたんだ…!

 

【プロジェクトR)→【関係なさそう】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「その未来機関という組織こそ前回のコロシアイの終結に大きく関わった組織だ。彼らはコロシアイ学園生活そのものが終わった後に介入し、超高校級の絶望と呼ばれた者たちを拘束し、更生させ、そしてこの新たな希望ヶ峰学園の誕生にまで関わっていた。超中学級の絶望の生き残りはその未来機関が取り逃した存在なんだ。」

「ってことはまたこの学園が狙われたのって…!」

「恐らくだけどこの学園が未来機関の、言い換えると希望の象徴だったからだ。元々この学園は希望の象徴と呼ばれていたけど、あの事件以降あの致命的なダメージから見事な復活を遂げたこの学園は更にその様相を強めていったんだ。」

「ということはー、コロシアイの真の目的はー、以前より更に希望の象徴としての側面が強くなったこの学園で再びコロシアイを行うことでー、再び絶望を世にはびこらせることー、そしてそれをやったのはー、超高校級の絶望の後釜にしてー、希望ヶ峰学園を更なる希望の象徴に押し上げた未来機関が取り逃してしまったー、超中学級の絶望ってことだねー。」

「俺既に頭がこんがらがってきた…。」

「安心しろよ、オレもだ。」

「安心できねえ…。」

「でも、これでコロシアイの真の目的ってのは分かったんだよね?じゃあ後は2つじゃん!」

「ま、そういうこったな!」

「それなら次はまた順番に学園の真実にいこうよ!」

 

 

 

議論開始

 

「学園の真実っつってもよー、」

 

 

「未来機関が更なる【希望の象徴にした】ってくらいだろ?」

 

 

「うーん、」

 

 

「モノトラが言ってるのはー、」

 

 

「【今僕たちがいる学園の現状】」

 

 

「って事じゃないかなー?」

 

 

「学園の現状っつってもなぁ」

 

 

「俺達は【入学したばっかで】」

 

 

「全然学校の事なんか」

 

 

「分かってねえだろ?」

 

 

俺達の立場はホントにそうなのか…?

 

【アルバム)→【入学したばっかで】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「多分、俺達は入学したばかりなんかじゃない。」

「は?だって俺達初めて校舎に入ってすぐに気を失って、そんで初めてあのエントランスで顔を合わせたんじゃねえか。」

「じゃあもしその気を失ってから顔を合わせるまでの間にかなりの時間が空いていて、その記憶を失っていたとしたら?」

「そんなバカな…。」

「あ!あのアルバムのこと!?」

「涼風は気付いたみたいだな。その通りだ。学園長室に置かれていた『新1期の思い出』と書かれたアルバム、あれがその証拠だ。」

「新1期ってオレ達の事だよな?それこそ入学したばっかで思い出も何もねーだろ?」

「それが、なんだ。百聞は一見にしかず。このアルバムを見てくれ。」

「なんだよ、これ…。」

「僕たちこんなイベントなんてやってないよー?」

「こんな日常の風景みたいなんもないはずだぞ…?」

「こんなのモノトラの捏造に決まってんだろ…!?」

「俺も最初はそう思ったんだが、恐らくそれは違う。なぜなら、」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.実は水島には写真を撮った記憶がある

 

2.写真の下に日付が書かれていた

 

3.みんなの文字でコメントが書かれていた

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

 

「写真の横にみんなの文字でコメントが書かれていたんだ。」

「あ、ホントだ!これ俺の字だ!」

「こっちはオレの字だ!」

「これは僕の字だねー。」

「あ、でもここだけ写真が抜けてるぞ?」

「それあたしの字でコメントが入ってる奴だよね?」

「ああ。だけどその写真もどんな写真だったのか分かってる。」

「ほんと!?」

「ああ。モノトラ、さすがにもう良いよな?」

 

念のためモノトラに確認を取っておく。

 

「ああ、最終決戦だし、構わないんだぜ!!」

 

そう言うとモノトラは俺にあの写真を渡してきた。

 

「なんでモノトラに訊いたのー?」

「その説明の前にまずこの写真を見てほしい。」

 

 

 

証拠提出

【集合写真)

 

「これだ!」

 

 

 

「これは集合写真、か?」

「その通りだ。」

「しかもまた全員が映ってるねー。」

「そしてこの写真とアルバムの中の写真が捏造じゃないと思う理由、そして一度モノトラに許可を取った理由は、」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.モノトラに口止めされていた

 

2.この写真は水島が撮った

 

3.写真のデータが残っている

 

→1.

 

「これだ!」

 

 

 

「俺は4階が開放されてみんなで調査をしたときにこの写真を職員室で見つけたんだけど、俺がこの写真を見ていた時にモノトラは焦って俺から写真を奪い返して写真のことをみんなに言わないようにと口止めしてきたんだ。わざわざ処刑までちらつかせてな。」

「でもほんとは捏造なのに重要っぽく見せただけかも…。」

「その可能性は低いと思う。むしろ捏造写真なら俺からみんなに広めてもらって混乱させて疑心暗鬼の状況を作った方がコロシアイも起こりやすくなるし黒幕にとって都合がいいだろ?」

「そっかー。それをしなかったってことはー、その写真はモノトラにとって少なくともその段階では僕たちに見られて、知られてはならない重要な証拠品だったってことだよねー。」

「見られなくなかったっつうことは、この写真の中身も本物って事か…?」

「恐らくな。そしてこれが例えば入学してすぐの写真だとすれば涼風のコメントにも当てはまるし、この写真がアルバムから抜けていた1枚だと考えられる。」

「だけどよー、じゃあなんでモノトラは写真を隠そうとしたんだ?」

「多分それはとある事実を隠そうとしたんだ。」

 

その事実とは…、

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.水島達は実は既に死んでいる

 

2.水島達はクローンである

 

3.水島達は記憶の一部を失っている

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

 

「俺達が記憶の一部を失っているという事実をな。」

「は…!?オレ達が記憶を失ってるって…?」

「そんなの映画の世界じゃないんだから…。」

「でもよ、実際撮った記憶のない写真があって、それが捏造じゃないとしたら俺達が記憶を失ってるってことになるよな…?」

「だけどさー、どうやって記憶を失わせるのー?」

「あ、確かに。」

「そうだぜ!その方法を教えてくれよ!」

「それなら次はその方法について考えてみようか。」

 

 

 

議論開始

 

「オレたちの記憶を消すっつったってなぁ」

 

 

「いきなり『ぶん殴った』とかか?」

 

 

「でもそれじゃ確実じゃないよね…」

 

 

「じゃあ、」

 

 

「『薬を使って』」

 

 

「記憶を飛ばさせた、とかはどうだ?」

 

 

「そんな便利な薬あんのか?」

 

 

「それならー、」

 

 

「『機械を使ってー』」

 

 

「特殊な電波で」

 

 

「記憶操作したとかー?」

 

 

「そんな便利な機械もあんのか?」

 

 

もしかしたらあそこのアレがそうなのか…?

 

【謎の機械)→『機械を使ってー』

 

「それに賛成だ!」

 

 

 

「思い当たる節がある。なあ、涼風、あの寄宿舎の2階の部屋を覚えてるか?」

「うーんと、あ、あの変な機械?」

「ああ、そうだ。」

「機械?」

「寄宿舎の2階のそれぞれの部屋のベッドに妙な機械が取り付けられていてな。その使い道というのが分かっていなかったんだけど、それが俺達の記憶を奪うためのものだとしたら納得できる。」

「他の使い方あったりしねーのかよ…?」

「うーん、でもー、他に確実に記憶を奪えそうな手段は見つかってないしー、多分その機械が僕たちの記憶を奪ったってので合ってると思うよー?」

「じゃあ、この学園の真実って…、」

「ああ。この学園は黒幕の目的である、世界の人々を再び絶望に堕とすために希望ヶ峰学園の生徒にコロシアイをさせてそれを中継するという目的を達成するために、俺達の記憶を奪って閉じ込めていた、ということになると思う。」

「どうなんだよ、モノトラ?ここまでは合ってんのか?」

「勘が鋭いんだぜ。オマエラやっぱここまで生き残ってきただけのことはあるんだぜ。オマエラの推理通りのものが黒幕の真の目的、そしてこの学園の真実なんだぜ。そしてオマエラの記憶を奪うためにあの機械も使わせてもらった。」

「…!!」

「つまり俺達はもう顔見知りで、そんな奴ら同士でコロシアイしてたってのかよ…!?」

「ま、そういうこったな!」

 

当たってほしいけど外れてほしかった推理。その事実に俺達は唇を噛む。

 

「おいおいどうしたんだよ?まだ終わりじゃねーぜ?オマエラにはきちんと黒幕まで当てるっつー目的があんだろ?」

「…!そうだな…。」

「うん、こんなところで死ぬわけにはいかないもんねー。」

「ああ、死んだ仲間達のためにもな!」

「なんかモノトラに立ち直らされんの悔しいんだけど。」

「同感だぜ。」

「それほどでもねーんだぜ。だってこのまま中途半端に絶望されてもつまんねーからな。」

「ま、そんなとこだろうとおもったけどよ。」

 

そうだ。俺達はこんなところじゃ死ねない。俺達は必ず黒幕を倒してここを出なければならないんだ。そのためには、ここで絶望なんてしていられない!

 

 

 

 

【裁判中断】

 

「ふう、危ねー危ねー。」

 

 

「危うくアイツら既知の友人同士で殺し合ってた事実に」

 

 

「絶望しちまうところだったぜ。」

 

 

「まったく、ここからがもっとおもしれーってのによー。」

 

 

「え?何が面白いのかって?」

 

 

「そいつは内緒だぜ。」

 

 

「それは今後のお楽しみってな…。」

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り5人




今回はここまでです!ここまでは最終章の序章です。ここから一気にこのコロシアイを起こした黒幕が何者なのかという部分に迫っていく事となります。さあ、黒幕の正体を知ったとき、水島くん達は一体どのような選択をしていくことになるのでしょうか?乞うご期待!
ということでまた次回お会いしましょう!!


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CHAPTER6 学級裁判 後半

【裁判再開】

 

ここまでの議論で黒幕が何を目的にこのコロシアイ学園生活を起こしたのか、そしてそのコロシアイを行うに当たって学園で何をしたのか、ここまでは分かった。ここからはこのコロシアイの核心、黒幕が何者なのかについて議論していくことになる。モノトラは裁判が始まる前、黒幕はこの学園の中にいるといった。だけどここまでの捜査で俺達以外には誰かがいるとは思えない。ということはつまり生き残った俺達の中に黒幕がいるって事だ。

 

「ここからは黒幕の正体について、だよね?」

 

涼風が切り出す。

 

「ああ、そうだな。」

「つってもこの学園のどこにいたってんだよ…?」

「それならー、どこにいたのかってとこから議論してみよっかー。」

 

 

 

議論開始

 

「黒幕がどこにいたのか、か…」

 

 

「つってもなー、」

 

 

「最後の捜査前に【開いてなかった部屋】のどこかだろ?」

 

 

「でもどこからも見つからなかったよー?」

 

 

「【隠し部屋もなかった】よな?」

 

 

「あ、でもさ、ずっといたとしたら」

 

 

「【モノトラの操作室】なら」

 

 

「可能性あるかも!」

 

 

「モノトラを動かさなきゃいけないわけだし!」

 

 

「捜査中だけ別の部屋に」

 

 

「避難しといてさ!」

 

 

「確かに【調べてない部屋】も」

 

 

「結構あったもんなー」

 

 

確かあの部屋には人のいた痕跡は…。

 

【モノトラ操作室)→【モノトラの操作室】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「多分その部屋にいた可能性は低いと思う。」

「えー、でもモノトラの操作はしなきゃいけないでしょ?」

「それはそうなんだが、実際問題、俺達が調べたときあそこのシートには埃が積もっていただろ?」

「それはそうだけど…。」

「あー、それならそこはないかもねー。」

「晴香ちゃんまで!」

「だってー、埃が積もってたって事はー、長い間そこには誰も座っていなかったってことだよー?もし黒幕がそこに座ってたならー、そんなことにはならないはずだよー。」

「あ、確かに!」

「まあー、それならそれでー、新しい疑問が生まれるんだけどねー。」

 

 

 

議論開始

 

「新しい疑問?」

 

 

「だってー、もし操作室のシートにー」

 

 

「【誰も座っていなかった】としたらー、」

 

 

「どうやって黒幕はー」

 

 

「モノトラを操作してたのーってことになるでしょー?」

 

 

「そういやそうだな」

 

 

「すぐ動けるように」

 

 

「『立ったまま』操作してたとかじゃねーの?」

 

 

「操作室とは他に」

 

 

「『リモコン』を持ってたんじゃない?」

 

 

「そもそも『自動操縦』だった」

 

 

「とかはどうよ?」

 

 

「実はー、」

 

 

「『もう1つの操作室』がー」

 

 

「あるんだったりしてー」

 

 

もしかしてあの中のアレは操作室で使うためのものだったのか…?

 

【ノートパソコン)→『自動操縦』

 

「それに賛成だ!」

 

 

 

「きっと薬師の言うとおりだ。」

「…マジで?俺自分で言うのもなんだけどかなりテキトーに言ったぞ?」

「これを見てほしい。これは学園長室に置かれていたノートパソコンだ。これを久見に解析してもらったんだけど、この中には人工知能プログラム"アルターエゴ"が入っていたんだ。」

「何でそんなものが?」

「このプログラムの中には何かしらの人格を組んだ形跡があった。きっとこの学園の中出使うための物だったんだろう。」

「そのノートパソコンが何でモノトラが自動操縦だったってことに繋がるの?」

「それがそのパソコンの中のプログラムで作った人格に関係しているんだ。そしてそのパソコンで組んだ人格っていうのが、」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.水島

 

2.モノトラ

 

3.甘寺

 

4.黒幕のおしゃべり相手

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

 

「モノトラの人格だったんだ。」

「マジかよ!!?」

「黒幕はモノトラの操作室にアルターエゴで組んだ人格を取り込ませることによって自分は別のところにいながらもモノトラが自動で動いてくれるように仕組んだんだ。」

「確かにそれならー、僕の言った疑問も解消されるねー。」

「そしてその事実が示すことがもう1つある。」

 

もう1つの示すこと、それは…!

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.黒幕の事を水島達は知らない

 

2.黒幕は実は学校外にいる

 

3.黒幕は16人の中にいる

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

 

「真の黒幕は最初に集まった俺達16人の中にいるってことだ。」

「えっ!!?」

「だってそうだろ?黒幕が16人以外ならわざわざ人工知能にモノトラを操作させる必要なんてないんだ。モノトラとは別に俺達を監視したかったのか、黒幕は自身をコロシアイの参加者の中に潜り込ませたんだ。」

「でもそんなの、もし自分が殺されちまったらどうするつもりだったんだよ!!?」

「黒幕はそれを防ぐための方策も準備していたんだ。」

 

黒幕が自分を殺されないために用意した方策はアレが証拠になるはずだ。

 

 

 

コトダマセレクト

【監視対象)

 

「これだ!」

 

 

 

「モノトラが甘寺と玉城に命じていたことが証明しているんだ。」

「命じていたこと?」

「ああ。モノトラは2人に対して俺達の中の誰かを監視することを命じていた。それは2人のやり取りから読み取ることができる。そして、それは甘寺が玉城を呼び出すためのメモの口実にも使われていることからこの2人のいうところの"監視対象"は5回目の学級裁判の後も生きているということが推理できるんだ。」

「なるほどー。」

「そこまでは分かったけどよ、その監視対象が黒幕だとは限んねーだろ?」

「それにはもう1つ、処刑前の甘寺の発言にヒントがある。」

 

 

『私たちは確かに裏切り者としてモノトラに送り込まれたけど、でもそれは決してみんなを殺すためじゃない。みんなのことを生かすため。まあ、言い換えるとコロシアイ学園生活が破綻しないようにするため、だったんだけどね。』

 

 

「甘寺は2人が俺達の中に裏切り者として送り込まれた理由をこういう風に説明していた。」

「そういやそんなこと言ってたな。」

「でもそれがどうして監視対象が黒幕だったってことに繋がるんだよ?」

「考えてもみろよ?もし黒幕以外の誰かが死んだとしてもコロシアイ学園生活が破綻することはないだろ?」

「あ、確かに。」

「黒幕が死ぬことになればコロシアイ学園生活の継続は困難になる。だからこそ黒幕は2人に対して裏切り者として自分自身を監視させることにしたんだ。まあ、2人がその監視対象が黒幕だとは知らなかっただろうな。自身の正体を明かすわけにもいかないしな。」

「でもさー、それだと前の部分の"僕たちを生かすため"ってところは繋がらなくないー?」

 

 

 

議論開始

 

「"僕たちを生かす"ってところとー、」

 

 

「"黒幕を守る"って部分はー、」

 

 

「【イコールじゃない】よねー?」

 

 

「心愛ちゃんの言葉のこの矛盾点はー」

 

 

「どうするのー?」

 

 

「それもそうだな…」

 

 

「確かモノトラって【自動操縦】なんだったよな?」

 

 

「なら最悪黒幕が死んでも」

 

 

「コロシアイは【継続できる】し、」

 

 

「【支障はない】はずだよな?」

 

 

「最悪の場合、」

 

 

「【裏切り者の2人】に」

 

 

「任せられるよね!」

 

 

モノトラが自動操縦だからって本当に死んでも問題ないのか…?

 

【心臓一体型スイッチ)→【支障はない】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「支障がなかったわけではなかったハズだ。」

「そうなの?」

「ああ。これはあくまで俺の推理だけど、学園長の個室にこんな説明書が残されてたんだ。」

「心臓一体型スイッチー?」

「これは心臓にスイッチを取り付け、その受信装置をスイッチを使いたい機械に取り付けることでスイッチの取り付けられた生物が生きている限り対象の機械が止まることはなくなるという代物だ。」

「なんでそんなもんがこの学園にあんだよ?」

「それはこのスイッチが学園に残されているからだ。」

「ってことはこのスイッチを取り付けられた生物がこの学校にいるってこと?」

「ああ、その通りだ、そしてその生物ってのは…」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.植物庭園のニワトリ

 

2.黒幕

 

3.九鬼

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

 

「黒幕本人だ。」

「マジかよ…!」

「あくまでも推理だけどな。だけど、俺達の他のメンバーに取り付けたらコロシアイの都合上誰かに殺されてしまうかも知れないし、人間である以上、心が弱って自殺してしまうかもしれない。でもこのスイッチを自分に取り付ける分には少なくともいつの間にか自殺して受信装置を取り付けた機械が止まってしまうことはない。そして自分に護衛を付けることで殺されるリスクも極限まで削ったんだ。」

「じゃあ、その機械ってのはなんなんだよ?」

「それは正直分からない。けど、例えばモノトラを動かすための機械とか、物理室の空気清浄機とか、止まってしまうとコロシアイの継続が困難になり、かつ勝手に俺達にスイッチを落とされてはならないものだったんだと思う。」

「じゃあここまでの話を総合するとー、黒幕はAIでモノトラの人格を作った上でー、自分の心臓に何か重要な機械のスイッチを仕込んだ上で自身は僕たちの中に紛れ込んだー。そしてー、自分が死んでコロシアイの継続が妨げられないようにー、2人の裏切り者を用意してー、自分を守らせていたー。こういうことでいいのかなー?」

「ああ、そういうことじゃないかと思う。」

「じゃあさ、その黒幕って誰なの?」

「そこはまだ分かっていないからみんなで議論していくことにしよう。」

「つってもいきなり誰かを当てんのなんて無理だしちょっとずつ近づくことにしようぜ!」

「そうだねー。」

 

 

 

議論開始

 

「黒幕の正体かぁ」

 

 

「何かヒントがほしいよな!」

 

 

「うーん、『黒幕の才能』とか?」

 

 

「んなもん分かってりゃこんな議論はしてねーだろ」

 

 

「だったら黒幕の『家族関係』とか?」

 

 

「それも分かってりゃ苦労はないな…」

 

 

「せめて黒幕の『性別』とか分かればー」

 

 

「最低でも5分の3まで絞れるよねー」

 

 

「つってもなー」

 

 

「どれもよく分かってねーし、」

 

 

「『ヒントなんてねー』んじゃねーか?」

 

 

そう言えばアレに関してはずっと同じワードが出てきていたはずだ…!

 

【破られたページ)→『家族関係』

 

「それに賛成だ!」

 

 

 

「いや、家族関係だけは少し推測できるかも知れない。」

「そうなの?」

「実はな、2回目の学級裁判の後、有浜は死ぬ前に俺にとあるメモを握らせてきたんだ。」

「メモ?」

「そこには数字が書かれていたんだ。俺は有浜に関係しそうで、数字が関係しているものってことで図書室の人体図鑑を調べてみたんだ。恐らくアイツが事件を起こすに当たって使った本に関係するんだろうと思ってな。そしたらちょうどその数字に当たるページはちぎられてなくなっていたんだ。」

「なくなってたんなら何でそれが黒幕の家族関係に関係してるって分かるんだ?」

「目次だよ。目次を見たらその破られたページに何が書かれていたのか、すぐに分かったんだ。」

 

そして、その書かれていた内容から推測できたのは…

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.黒幕には双子の兄弟がいる

 

2.黒幕は天涯孤独

 

3.黒幕は一人っ子

 

→1.

 

「これだ!」

 

 

 

「その目次から分かったことは、その破られていたページには双子に関することが書かれていた、ってこと。そしてそこから推測できるのは、黒幕には双子の兄弟がいるってことだ。」

「マジかよ!!でもじゃあ俺にゃ関係ないな。俺は一人っ子だ。」

「あたしも双子の兄弟はいないかなー。」

「僕もー。」

「オレもだぜ?」

 

…あれ?そんなはずは…!

 

「…俺にも兄弟はいない。母さんとの2人暮らしだ。」

「そりゃおかしくねーか?だって黒幕はこの中にいて、そんでソイツには双子の兄弟がいるんだろ?オレ達の中に誰も双子の兄弟がいる奴がいねーってのはありえねーだろ?」

「まあ、ここでバカ正直にホントのことを話す奴もいないとは思うけどよ?」

「いや、そんなはずは…!これまでの状況から黒幕は俺達の中にいるはずだし、そしてソイツには双子の兄弟がいるハズなんだ…!だから、都合が悪いから黒幕は図鑑のページを破ったはずで…!」

「うーん、その前提が間違ってるんじゃないー?」

「…前提?」

「その黒幕には双子の兄弟がいるーって奴ー。だってー、黒幕には双子の兄弟が"いた"だとしたらー、さっきのみんなの回答も嘘ではなくなるでしょー?」

「昔はいたけど今はもう死んじゃってるって事?」

「後は養子で引き取られたとかもありえるよねー。」

「水島!そんな感じの証拠とかねーのか!!?」

「黒幕には過去、双子の兄弟がいたとする証拠、か…。」

 

そうは言われても、そんな都合が良い証拠なんて…。

…。

…過去っていうのは本人の記憶がなくても過去だよな…?だとしたら、アレはそういうことなのか…?

 

「…んな都合のいいモンあるわけねーか…。」

「いや、あるかもしれない。ただ、黒幕も双子の兄弟がいるって自覚はなかったのかもしれない。この写真を見るまでは…!」

 

 

 

証拠提出

【エコー写真)

 

「これだ!」

 

 

 

「この、エコー写真を見るまでは。」

「これって赤ちゃんがお腹の中でどんな様子かってのを見る奴だよね?」

「ああ。」

「これってー、片方は双子でもう片方は1人だからー、別人のエコー写真なのかなー?」

「いや、そうじゃないと思う。これは同一人物のものだ。」

「んなわけねーだろ?腹ん中の赤ん坊の人数が変わるわけねーじゃん。」

「いや、変わったんだ。変わったからこそ、黒幕はもともと自分に兄弟がいたなんて知らなかったんだ。」

「っつうとつまり?」

「片方の胎児がもう片方に吸収されたんだよ。」

「結合双生児ってやつだねー。」

「それって双子が肩とか足とかでくっついてるってやつだろ?そんなきれいに吸収されることなんてあんのか?」

「隠れ双子なんてのもあるよー。最初は双子だったけど生まれてくるときには1人になってるってやつー。」

「じゃあ黒幕もそうだったってこと?」

「ああ。だけど黒幕の場合は奇跡的に完ぺきに結合した結合双生児だったんじゃないかな。綺麗に2人が映っているエコー写真があるくらいだしな。」

 

そう、黒幕は結合双生児のハズだ。もしかしたらアレもそういうことだったんじゃないのか?

 

 

 

証拠提出

【コードネーム)

 

「これだ!」

 

 

 

「きっとこの超中学級の絶望の将来的な幹部候補が持っていたっていうコードネーム、その1つにもそのことを証明するものになっているんだ。」

 

そのコードネームって言うのは…

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.ユニオン

 

2.ストリング

 

3.スコア

 

→1.

 

「これだ!」

 

 

 

 

 

 

 

「それがこの1つ目のユニオンっていう奴だ。」

「ユニオン?」

「"結合"ねー。」

「そうだ。」

「ユニオンってのが英語で"結合"って意味なのか?」

「そうだ。ユニオンって一言で言っても色んな意味があるし、俺も最初は"連合"って意味だと思ってたんだ。だけど、ここまでの推理を踏まえると意味は全く違かったんだ。」

「それが結合、だから黒幕は結合ソーセージって事だな!」

「双生児、な。」

「…じゃあさ、結局その結合双生児の黒幕って誰なの?」

「…。」

「……。」

 

流れる沈黙。そうだ、問題はそこなのだ。黒幕の背景の一端は推理できるが、だからといってそれがそのまま黒幕の正体に繋がるわけではない。

…いや、本当にそうか?手元の情報とこれまでの推理を組み合わせれば答えは自ずと見えてくるんじゃないのか?

…そうじゃない。もう見えているはずだ。見えているのに俺は目を逸らしているんだ。このコロシアイの黒幕が一体誰なのか。

 

「…いや、分かるぞ。もう、分かってる。このコロシアイの黒幕が誰なのか。」

「マジか!!?」

「それって誰なの!?」

 

そう、このコロシアイの黒幕は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指名しろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ミズシマアキラ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前しかいない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…は?」

「何を、言ってるのー?」

「…オメエこんなときに冗談やめろって…。今度こそ冗談、だよな…?」

「…冗談なんかじゃない。このコロシアイの黒幕は、俺だ。」

「自白って、ことか?」

「そういう訳じゃない。」

「じゃあなんでお前が黒幕ってことになんだよ!!?」

「…ならまず輝くんが黒幕だって、その事実から固めようよー。」

「ああ、そうしよう。」

 

 

 

議論開始

 

「水島が黒幕なんてありえねえよ!!」

 

 

「でも、輝くんはそう言ってるんだよー?」

 

 

「それに、」

 

 

「どんなに突拍子もなくたって、」

 

 

「水島の推理は【間違ってたことない】よね…」

 

 

「でも今回がその1回目かもしれねえだろ!?」

 

 

「オレもありえねーと思うぜ?」

 

 

「それに、水島が黒幕だっつー【証拠もなければ】」

 

 

「【証言もねー】んだぞ?」

 

 

「それは、そうだけど…」

 

 

いや、アイツの言っていた言葉と俺達の認識には明らかにズレがあったはずだ。

 

【アンリの遺言)→【証言もねー】

 

「それは違うぞ!」

 

 

 

「証言と言えるかは分からないけど1つだけ、俺達の認識とずれた発言をした奴がいた。」

「それって誰のこと?」

「アンリだ。アンリは多少のリスクを侵しても事件をあの日起こした理由として俺達にこういう風に言い遺した。」

 

 

『今日を逃せば他のみんなが全員早く部屋に戻る事なんてもうないからさ。例えば娯楽室に深夜も一人将棋を指しに行く玉城君、元々夜型の傾向にある久見さん、そして水島君。君らは深夜に行動するだろう?』

 

 

「ソイツは変だな?水島ってちゃんと寝てただろ?だから毎朝の飯の準備もできてたわけだしよ?」

「そうだ。実際に俺の記憶でも深夜に出歩いたのは2、4、5回目の事件の直後に1回ずつ、計3回しかないんだ。」

「そこは僕もよく夜中に出歩くしー、輝くんがあまり出歩いていないのは証言するよー。」

「じゃあなんでそんなズレが起きてたんだ?」

「簡単な話だ。」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.アンリの見間違い

 

2.アンリは実際に水島を見ていた

 

3.アンリの嘘

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

 

「アンリは実際に俺の姿を見ていたんだ。」

「待って、でも晴香ちゃんは見てないんでしょ?」

「例えばアンリが俺を見た時間帯が久見ですら眠った後だとしたら?」

「まあ一応朝ご飯の時間には遅れないくらいの時間には寝てたけどー。」

「つったってお前自身3回しか出歩っていないって言ってただろ?」

「それに関連しうるものが学園長室に残されてる。」

 

その証拠って言うのは…

 

 

 

証拠提出

【生徒プロフィール)

 

「これだ!」

 

 

 

「この生徒のプロフィールの内容が俺の記憶とアンリの証言の矛盾の原因を推理していく材料になる。」

「プロフィール?」

「ああ。まずは俺のプロフィールを見てほしい。その中に違和感のある部分があるはずだ。」

「それってこの才能の欄のところか?」

「けどよー、ちゃんと幸運って書かれてるじゃねーか。」

「問題はそこじゃない。俺が言いたいのは、」

「黒塗りの部分だよねー。」

「ああ。俺の才能の欄には幸運と共にもう1つ、何かの才能が書かれていた痕跡があった。だけどこのもう1つの才能の部分は黒塗りにされて読めないようになっている。」

「そのもう1つの才能って?」

「これはあくまで推測だけど、俺のもう1つの才能、それは…」

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.絶望

 

2.結合双生児

 

3.希望

 

→2.

 

「これだ!」

 

 

 

「"超高校級の結合双生児"だったんじゃないかな。」

「"超高校級の結合双生児"!!?」

「ほら、さっきまでの議論で黒幕は完全に2人が合体したことで1人の人間にしか見えなくなっている結合双生児だって話になっただろ?普通結合双生児ってほぼきちんと2人の人間がくっついてるように見えるものだ。一番融合している例でも肩にこぶのように相方が残ってる。」

「ってことは、完全に合体した結合双生児はある意味、世界でもっとも珍しい超高校級の才能を持っている事になる、と希望ヶ峰学園が判断したってことか…。」

「でもー、もし輝くんが2人分の身体をその身に宿してるとしたらー、色々説明が付くこともあるんだよねー。」

「説明が付くこと?」

「ほらー、前に4階を探索したときにさー、音楽室で胸くらいの高さのステージに助走無しで飛び乗った事があるでしょー?いくら何でもそんなことできる人が幸運だけの才能ってことがあるのかなー、って思ってたんだよねー。」

「確かにそれはすごい身体能力…。」

「でもさー、もし2人分の身体能力がそこに宿っていたとしたら1人の身体で2人分の出力があるわけだからー、そういう人間離れしたことができてもおかしくないよねー。」

「あ、もしかしたらこれまでの裁判での大活躍も水島が推理小説好きだからってだけじゃなくて2人分の脳みそがあるからなのかも!」

「それならあの頭の回転の速さにも納得いくな!」

「だけどー、それはあくまで輝くんの身体の話でー、記憶には関係しないよねー?」

「完璧な結合双生児だからだよ。」

「"完璧な"?」

「ああ。結合双生児は本来別々の人間だったハズなんだ。つまり、それぞれの肉体にはそれぞれの人格があるはずなんだ。」

「…!まさか…?」

「…久見は気付いたみたいだな。」

「どういうことだよ!?」

「俺には俺ですら気付いていなかったもう1つの人格が存在していたんだ。そしてその人格の時に歩いているのをアンリに見られていたから俺に記憶がなかったんだ。」

 

そう、つまりこの俺、水島輝は…

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.サイコパス

 

2.分身できる

 

3.二重人格

 

→3.

 

「これだ!」

 

 

 

「俺は、自分でも気付いていなかった二重人格だったんだ。」

「んな、事…。」

「ありえんのかよ…?」

「あり得ない話じゃない。過去の希望ヶ峰学園には文学少女と殺人鬼の2つの人格を持っていた人物がいたくらいだからな。」

「……。」

「…さて、俺の役目はとりあえずここまでかな。後は主役に登場願うことにするか。モノトラ!いや、黒幕。出てこいよ。俺の推理間違っちゃいないんだろ?」

 

俺がそう声を上げると急な眠気が俺を襲い、俺の意識は深く深く、闇の中に沈んでいった。

 

 

――――――

――――

――

 

 

輝くんがモノトラ、いや、自分の中にいる誰かに声をかけると彼は眠るように目を閉じる。そして直後、また目を開くとこれまで僕たちが知っていた輝くんとは雰囲気がガラッと変わっていた。

 

「ぐぷぷぷぷぷぷ…。」

 

そしてその口から漏れてきた笑い声はこれまでずっと不快だと思って聴いてきたモノトラと同じ物であった。

 

「水、島…?」

「ああ、水島だぜ!」

「なんか様子違くない…?」

「まるでモノトラみてーだぞ…?」

「もしかしてー、黒幕、なのかなー?」

「!!」

 

先ほどまでの輝くんの推理、そして行動から導き出した答えを告げる。

 

「ぐぷぷ、その通りだぜ!!このオレこそがこのコロシアイ学園生活の黒幕にして、水島輝のもう1つの人格、そして超中学級、いや、今となっては超高校級の絶望が1人、ユニオンだ!!まあ、親しみを込めてヒカルと呼んでくれてもいいけどな?」

「そんな馴れ馴れしいのは願い下げだな。」

 

冷や汗を垂らしながら薬師君が憎まれ口を叩く。

 

「さて、オマエラは何の話から聞きたいよ?オレの3サイズか?それともオレが何者かか?それとも、このコロシアイの全てか?」

「うーん、じゃあー、まず君が何者か、からかなー?」

「つってもまあ基本的にはもう1人のオレの推理通りだ。オレは奴の双子の兄弟。だが、母親の腹の中で奴とくっついちまった。その時に神様だろうと計算外の出来事が起こっちまった。」

「それが、完璧に結合したって奴か?」

「ああ。人格を残したまま2人分の肉体が1人分の身体として成立しちまった。何でこんなことが起こったと思う?」

 

完璧に結合してしまった理由ってもしかして…?

 

 

 

選択肢セレクト

 

1.偶然だった

 

2.並外れた幸運を持っていた

 

3.医者によって仕組まれていた

 

→2.

 

「これだー。」

 

 

 

「輝くんが"幸運"だったから、かなー?」

「そのとおりだ。奴は、俺達は生まれる前から並外れた幸運を持っていた。だから完璧な結合を成し遂げることができたんだ。と言っても俺たち2人と比較しても輝の方がより強い運を持っていたからメインの人格が奴になったわけだがな。」

「じゃあ、こんどはあたしから。なんで2人の内アンタだけ超中学級の絶望になったわけ?」

「ま、ソイツは偶然だな。さっきも言ったとおりメインの人格は奴だ。オレは中々自由には動けない。自由に動けるとしたら輝の許可があるときか、輝が眠っているとき。実際のところ輝は今日の今日までオレの存在を認識していなかったし、オレが自由に動けるのは輝が眠っている間しかなかった。だからオレは深夜に行動し、そしてあの方に偶然出会った。」

「あの方?」

「江ノ島盾子、だよねー?超高校級の絶望を率いた1人の少女、希望ヶ峰学園における最初のコロシアイの黒幕。その彼女に出会ったんだよねー?」

「ああ、そういう訳だ。あの方に出会ってからの生活は充実していたよ。あの方は、仲間は、オレが自由に動けない事を理解した上で様々な役目を与えてくれた。遂には将来お前が中心の1人として超高校級の絶望を導けとコードネームまでくれた。これがオレにとってどれだけ大きいことだったか分かるか?」

「へっ、分からねーな。人殺しをして喜ぶ変態ヤローの気持ちなんてよ。」

「ああ、分からねーだろうな。この世に確かに存在しながら、誰にも、実の家族にすらも認識してもらえない、何者でもなかったオレの気持ちはよ。特に、世の全ての人々から才能を認められたオマエラにはな。超高校級の絶望はオレに名前を、存在意義をくれたんだ。」

「…。」

「でも1つだけ輝に感謝してることがある。それはアイツがバカみてえに運が良かったことだ。アイツの運のおかげでオレは超高校級の絶望が壊滅したときにも何人かの仲間と共に逃げ切ることができた。そしてオレは今こうして絶望を復活させるための計画を実行に移すことができてる。アイツの幸運のせいで色んなものを失ったが、アイツの幸運のおかげでオレは今こうしていられるってワケだ。」

 

彼の語る彼の背景は僕たちには理解し得ないものだ。だって少なくとも今こうして生きている僕たちは確かにこの身体の持ち主で、同時に彼の言うとおり、僕たちとして世の中からも認識されている。

 

「さてと。なんだかんだオレが何者か話す内にこのコロシアイの全ても全部話し終えちまったな。目的も何も全部オマエラが当てちまってるからなぁ。話せることなんてオレがこのコロシアイにかけてきた想いくらいなモンだったしな。」

 

どうやらヒカルと名乗る黒幕は全てを話し終えたらしい。

 

「だが、まだオレの用事は終わってねー。最後の投票をするにあたっての説明をしとかなきゃなんねーしな。」

 

そう言うと彼は輝くんには似つかわしくない不敵な笑みを浮かべた。

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の幸運?      水島輝(ミズシマアキラ)

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り5人




この話において遂に黒幕の正体が判明しましたが、皆さんとしてはいかがでしたでしょうか?想像通りだったでしょうか?それとも、ビックリ!という感じでしたでしょうか?驚いてくれた人が多いと嬉しいな。
さて、もう気付いている人もいるかも知れませんが、実はいつの間にか、今更、キャラクター人気投票のアンケートを設置させていただきました。よろしければ投票していただけると嬉しいです!
後数話でこの物語も最終回を迎えていきます。水島くん達の行く末をどうか最後まで見守ってくださると幸いです。


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CHAPTER6 コロシアイ 閉廷

輝くんに似つかわしくない不敵な笑みを浮かべた彼はゆっくりと口を開く。

 

「さて、最後の投票に関してだが、元々はオマエラに提示した事を全て解かせた上で黒幕に投票させるつもりだったんだが、ちょっとだけルール変更をさせてもらうんだぜ。」

「ルール変更?」

「あ、テメエそれで自分に都合の良いルールに変える気だな?汚えぞ!!」

「あー、ソイツは半分正解で半分間違いだ。結果的に多少オレに有利になるかも知れねーが、ソイツはオレの目的じゃねー。」

「じゃあ、どう変えるつもりなんだよ?」

「簡単だ。オマエラにはこの学園を脱出するか否か、それを投票してもらう。つってもずっとコロシアイに参加してきた輝の奴に投票権がないのは不公平だからな。投票の時にはアイツに参加してもらう。」

「じゃあ楽勝じゃねえか!全員一致で学園を脱出だな!」

「お、良い自信じゃねーか。それならオマエラ全員が脱出するに投票したら黒幕のオレはおしおき、オマエラ全員を学園から脱出させてやる。1人でも脱出しないに投票したらお前等全員にキツいおしおきを喰らってもらうぜ!」

「うっし、それなら問題ねーな!早く水島を戻してくれ!!」

 

ほぼ脱出が確定したと思い、みんなは明るくはしゃぎ出す。でもその中でふと彼の言葉に違和感を感じた。いや、この投票の悪趣味さに気付いてしまった。

 

「まって、僕たち全員が脱出するを選んだら君はおしおき、僕たちは脱出、だったよねー?」

「晴香ちゃん説明聞いてなかったの?あたしたちもう脱出できるんだよ!!」

「じゃあさー、そのおしおきを受ける身体は誰のものー?」

「…!!そういう、ことかよ…。」

 

その質問を飛ばした瞬間、薬師君が苦い顔をした。

 

「え?え?どういうこと?」

「黒幕は輝くんの身体に宿った別の人格、彼自身の身体はないわけだよー。ならさー、黒幕がおしおきを受けることになったとき、もう1人自動的におしおきを受けることになる人がいるよねー。」

「ッ!!クソ野郎が…!!」

 

海波ちゃんも気付いた様子だった。それに対して紫ちゃんは未だ状況がつかめないと言った様子で周りを見回している。

 

「じゃあー、端的に言うねー。僕たちはこの学園を脱出するためには輝くんを殺さなきゃならないんだー。」

「えっ?あっ!!」

 

その一言で紫ちゃんもそのことに気付いたようだった。

 

「しかもー、輝くんには自分で自分を殺すスイッチを押してもらわなきゃならないんだよー。」

「くそっ!!」

「でも、水島が脱出しないを選んでもおしおきなんだよね?」

「だから悪趣味なんだろ。水島が戻ってきてこの事実を知ったとして、アイツはどう転んでも死ぬしかない。だからアイツには俺達を生かす義理も理由もないんだよ。」

「あ、それなんだが、おしおきの内容は既に決めてあるし、もう発表しちまうぜ!!」

「…勝手にしやがれ。」

「ここは江ノ島様をオマージュして、"この学園の中で永遠に暮らしてもらうこと"を今回のおしおきにさせてもらうぜ!!」

「…は?」

「ってことは、つまり脱出しないを選んだとしても死ぬことはないってこと…?」

「いつか寿命が尽きるその時まではな。」

 

やられた。もうこうなったら誰も脱出するを選ぶことはない。何より、輝くん自身がわざわざ生きられる道を捨てることをするわけがない。みんなそのことが分かっているから誰も言葉を発さない。

 

「さてさて、説明も終えたところで、主導権を輝に返すとするぜ!」

 

そして黒幕は最悪のタイミングで肉体の主導権を輝くんに返してきた。僕たちは一体どんな顔をして彼に会えば良いというのだろう。一体どんな顔をして、この真実を伝えればいいのだろう。僕にはその答えは持ち合わせていなかった。

 

 

――――――

――――

――

 

 

朝目が覚めるようにだんだんと視界が光に包まれていく。意識を取り戻し、周りを見回すと仲間達は自分が意識を失うよりも遙かに意気消沈した顔をしていた。

 

「……。」

「…。」

「………。」

「……。」

 

そしてみんなは誰1人として口を開く様子を見せない。きっと俺の中にいる黒幕に何か言われたのだろう。みんなの様子はまさにモノトラが常々俺達に言っていた"絶望"と言って差し支えない状態だった。ただこうしていても仕方がないので俺の方から話を切り出すことにした。

 

「…俺がいない間に何があった?黒幕は何を話していったんだ?」

「…それは…。」

「…俺には言いにくいことなのか?」

「……。」

「頼む、俺にも話を聴かせてくれ、何も分からないことには俺も判断が付けられない。」

 

そう言うとみんなは顔を見合わせてその後うんと頷いた。

 

「じゃあー、僕から話させてもらうねー。まずはねー、」

 

すると久見が黒幕から聴いた話、黒幕が何者なのか、何を思ってこのコロシアイを行っていたのか、そして、最後の投票のルール変更について、全てを話して聴かせてくれた。そしてその話を聴いて奴が俺達に何をさせたいのかはすぐに分かった。悪趣味なこと極まりない。でも、ここまで戦い抜いてきたみんなだ。きっともう気持ちは固まっているはずだ。

 

「…話は分かった。それなら話は早いな。そういうルールなら脱出する以外選択肢はないよな?」

「…え?」

「何…、言ってんだよ…?」

「そっちに投票したらお前、死ぬんだぞ…?」

「そうだが?」

「怖くないの…?」

「怖くないと言ったら嘘になる。」

「だったら…!」

「輝くん。」

 

俺に言い返そうとする涼風の言葉を遮っていつになく真剣な、そして暗い表情で久見が俺に視線と言葉を向ける。

 

「僕たちもね、脱出したくないと言ったら嘘になる。」

 

その言葉からはいつもの間延びした口調が消え去っていた。それ故に彼女の言葉がいつどのときよりも真剣なものであることが伝わってきた。

 

「でもね、それでも僕らにとってこの学園を出ることよりも大事なことがあるんだ。それは仲間だよ。」

「……。」

 

他のみんなは沈黙を貫いている。

 

「確かに輝くんはその中に黒幕がいたのかも知れないけど、輝くんはずっと僕たちと一緒に戦ってきてくれた仲間であることに違いはないんだよ?なのにそんな仲間を殺してまで僕たちは外の世界に出たいとは思えない。」

「…そう、だよね。水島はずっとあたしたちを助けてくれたもんね!」

「お前がいなかったら俺達絶対ここまで生き残れなかったよな…!」

「ああ、黒幕にゃ腹立つけどでもオメーは絶対にオレ達の仲間だ!」

 

みんなは俺が、俺の中のもう1人の人格がこのコロシアイの黒幕だと知ったのに、俺がこの学園に来たせいでみんなはこんな目に遭っているって言うのに、みんなは俺の事を仲間だと言ってくれる。その言葉は本当に温かくて、優しくて。俺はみんなの優しさに甘えてしまいそうになる。けど、それじゃダメなんだ。それじゃみんなのためにならないんだ。

 

 

「…それは、ちがうぞ。」

 

 

その言葉はこれまでずっとみんなと戦っていく最中、みんなの発言を論破するために使ってきたもの。そのこれまでの戦いの象徴はいつの間にか口をついて出てきていた。

 

「…なん、で…?」

「みんなの言葉はありがたいよ。俺もみんなのこと仲間だと思ってきたし、みんなも俺の事をそう思ってくれていたってのを知ることができてとても嬉しい。できることならずっとみんなと一緒にいたい。みんなとずっと一緒にいられたらどれだけ幸せなことだろう、でも、それはダメだ、」

「何がダメだっていうのさ!!」

「…今から俺の"希望"に懸けて、みんなのことを論破する…!」

 

 

 

コトダマGET!

【希望)

 

 

 

議論開始

 

「黒幕は【絶望】かもしんねーけどよ、」

 

 

「オメーは仲間だ!!」

 

 

「殺す気は毛頭ねえ!!!」

 

 

【希望)→【絶望】

 

「それは違うぞ!!」

 

 

「何が違うってんだ!!?」

「俺の中に眠っていた以上、俺だって絶望だ。もう仲間としてはいられない。」

 

 

 

「そんなこと言ったって、」

 

 

「一緒に【絶望】と戦ってきたじゃん!」

 

 

「一緒にいようとして何が悪いの!!?」

 

 

【希望)→【絶望】

 

「それは違うぞ!!」

 

 

「だってそうでしょ!?」

「でもその絶望が俺だったんだ。どれだけ願ってももう共にいることはできないんだ…!」

 

 

 

「お前がどう言おうと」

 

 

「俺達にとってお前は仲間だ!!」

 

 

「【絶望】かどうかなんて関係ねえ!!」

 

 

【希望)→【絶望】

 

「それは違うぞ!!」

 

 

「いいや、絶対に関係ねえ!!」

「一番そこが重要なんだ…!どれだけ願っても希望と絶望は相容れないんだよ…!」

 

 

 

「僕たちにとって」

 

 

「仲間を殺すことが」

 

 

「最大の【絶望】なんだよー」

 

 

【希望)→【絶望】

 

「それは違うぞ!!」

 

 

「僕たちの希望を輝くんに決めないでほしいなー。」

「でも、俺を殺すことは必ずみんなの希望になる!それだけは言える!!」

 

 

 

「…みんな、分かってくれよ…。」

「…っ!わっかん」

「分かんないよ!!!!!!」

「!!!!」

 

九鬼が俺に食ってかかろうとしたその瞬間、もっと大きな怒声がその声をかき消した。その声の主は、久見だった。

 

「…分かんないよ……!」

 

続けて弱々しく同じ言葉を続ける。

 

「輝くんはさっき、輝くんの希望に懸けて僕たちを論破するって言ったけど、それのどこが希望なの…?僕には、分かんないよ…。」

「だって、俺にはみんなに外の世界で生きてもらうことが一番の希望で…」

「僕たちにとっては、輝くんにも生きてもらうことが一番の希望なんだよ…?なんで僕たちの希望を願う輝くんがその僕たちの希望を潰そうとするの…?」

「……。」

 

言葉が出てこない。久見のその悲痛な言葉に俺は返す言葉を持っていない。でも確実に、黒幕の望むとおりにこの学園の中で死ぬまで生き続けるのは"希望"だなんて言うことはできない。だから、絶対にここで久見達にそんな選択をさせるわけにはいかない。だから、俺は出てこない言葉をゆっくり頭の中で練って、そしてゆっくりと言葉にしていく。

 

「久見、それは本当に希望だって言えるのか?」

「!だって、ここにいる仲間がみんなで仲良く生きていけるなら、それは希望以外の何者でもないでしょ…!!?」

「こんな学園の中でも、か?」

「…どういう、意味?」

「この学園は元々希望ヶ峰学園だったかも知れないけど、同時にこの学園は超高校級の絶望が用意したコロシアイの舞台なんだ。そして、俺達がずっとこの学園で死ぬまで生きていくって言うのも黒幕が、絶望が用意した"おしおき"なんだ。つまり、俺を生かすって事は、ずっとこの学園に留まり続けるって事は、一生の停滞を選ぶって事であり、絶望に屈するってことだ。そんなの、"希望"だなんて言えないじゃないか。」

「……。」

 

久見も他のみんなも黙ったままだ。

 

「確かに、みんなにとって俺を殺すことは自分で言うのもなんだけどみんなの心に大きな傷を残すことになってしまうのかもしれない。ずっと心の中に残り続けるかもしれない。だけど、それは決して絶望なんかじゃない。俺が死んだその先にみんなを待ち受けてるのは輝かしい希望と、その希望に満ちた明るい未来だ。」

「希望のためだからって、仲間を殺せってのかよ…?」

「みんなは仲間を殺すんじゃない。絶望を倒して、その絶望に満ちた学園から希望に溢れた未来に向かって歩き出す、ただそれだけの事なんだよ。」

「でもそれじゃオメーは絶望を倒すためのスケープゴートじゃねーかよ…!」

「そんなスケープゴートなんかじゃないさ。俺はみんなの希望を守っている俺の希望を守るために今取れる最善の行動をするだけだ。俺がやりたいことをやるんだからみんなは気に病む必要はないんだ。」

「水島が死なないで済む方法はないの…?あたしたちにとっての別の希望は…!」

「希望ってどこかにはあるけどそれがいつも都合の良い形だとは限らないんだ。みんなにとっては不本意かも知れないけど、今回は俺を殺すことが、絶望を倒すこと、希望に繋がるんだ。」

「…好きな人を殺すことって、それは、絶望じゃないの…?」

 

…ああ、そういうことか。今目の前にいるみんなは、久見は、以前の俺だ、甘寺の処刑が目前に迫る中でどうにか死なせない方法はないかと足掻いて、子どものように駄々をこねていた俺だ。でも俺は分かっているはずだ。それは、絶望なんかじゃないって。

 

「久見、それはきっと辛いことだ。しばらく落ち込むこともあるかもしれない。でもそれは決して絶望なんかじゃないんだ。もし自分の選択が最愛の人を殺すことになったとしても、いつかその最愛の人への想いが、最愛の人からの想いが、きっと必ず未来へ向かう支えになる。」

「なんでそんなこと分かるの…?」

「…分かるさ。俺だってそうだった。」

「「「…!」」」

 

みんなの脳裏に過ぎっていたのはきっとあの最後の事件。俺が立ち直っていく姿を見ていてくれたみんなならこの言葉の意味を分かってくれるはずだ。

 

「だからさ、みんな安心して"脱出する"に投票してくれ。俺は死んでもみんなと共にいる。死んだからってみんなと共に戦った水島輝が完全に消える訳じゃないんだからさ。」

「………。」

 

流れる沈黙。

 

「…じゃあ、俺、"脱出する"に投票するよ。」

「薬師…!?」

「だって、もうこうなったら水島はテコでも動かねえだろ?それにさ、死んだからって水島が完全に消えるわけじゃないってのになんか心動かされちまった。だから俺は希望と一緒に水島のことも引きずってくつもりだけど、みんなはどうするよ?」

「それならあたしも!だってさ、学園の中の事なんて調べ尽くしちゃったけど、外には色んな見たことないものがまだいっぱいあるんだよ?それならあたしはそれをいっぱい見てみたい!それが水島が言ってくれた、学園の外にあるあたしの希望!!」

「オレもそれに乗っからせてもらうぜ!外にゃ船の仲間達だって待ってるしな、あのバカ共ほっとけねーんだ!久見、オメーはどうする?」

「うん、僕も脱出するよー。僕だって外の世界で待ってるファンがいるはずだしー、それに、これ以上駄々こねたら好きな男の子の覚悟を踏みにじることになっちゃって野暮ってもんだしねー。」

 

黒幕から主導権を取り戻してからずっと沈んだ顔をしていたみんなの顔がやっと明るくなってきた。

 

「さて、方針も決まったことだし、投票だ。モノトラ、最後の投票を頼むよ。」

「お、いいのか?」

「ああ。いいんだ。」

「なんだよつまんねーなー。もっと仲間を殺す絶望に、仲間に殺される絶望に、永遠にこの学園から出られない絶望に泣き叫ぶオマエラの姿を見たかったってのによー。」

「そんなもの、俺達の希望にかかれば何でもない。」

 

ああ、みんなの希望を守れる、その希望のために死ねることは何と幸福なことなんだろう。投票の話を聞いた直後は死ぬ事への恐れがあった。でも、今はそんな恐怖心なんてどこかに行ってしまった。

 

「さ、最後の投票だ。みんな、ボタンを押すぞ。」

「「ああ!!」」

「「うん!!」」

ああ、これで終わりだ。これで終わるんだ。このコロシアイ学園生活も、俺の命も。でも同時に始まるんだ。みんなの希望に満ちた新しい生活が。

 

「これで終

 

 

 

 

 

 

投票結果→ダッシュツスル

 

 

 

 

 

 

 

ああ、これで終わりだ。これで終わるんだ。このコロシアイ学園生活も、俺の命も。でも同時に始まるんだ。みんなの希望に満ちた新しい生活が。

 

「これで終わった、んだよね?」

「ああ、終わりだ。このコロシアイは。みんな外に出られる。」

「…でも、輝くんは…。」

「もうそれは言わないでくれ。それがみんなの希望であり、俺の希望なんだ。もう言いっこなしだ。」

「…うん!」

「さて、結果も決まったことだし、モノトラ、学園を脱出するためのスイッチをこいつらに渡してやってくれ。」

「ぐぷぷ、そう言う約束だ。いいぜ!!」

 

するとどこから取り出したのか、モノトラは真ん中に大きな赤いボタンの付いたスイッチを久見に渡した。

 

「これを押せばもう学園から出られるんだよね?じゃあ水島を連れてっちゃえば…。」

「そうはいかねーんだぜ!」

「なんでさ!」

「コイツの心臓に仕込んだスイッチはソイツとはまた違う学園の扉のスイッチだ。コイツが死なねー限り扉は開かねー。」

「そんな…。」

「いいんだ、元々そのつもりでいたんだから。」

「それはそうだけど…。」

「涼風、それ以上は野暮だ。やめとけ。」

「…うん。」

「じゃあそろそろ俺は行くことにするよ。」

「おーい、もう行っちまうのか?最期だし、もう少しゆっくりしてけよ。」

「…そうだな、じゃあもう少しだけ。」

 

そこからはみんなとこの学園生活の中での思い出を話した。学園に閉じ込められたこと、みんなで学園を探索したこと、色々話したこと、パーティーしたこと、裁判のこと、見送ってきた仲間のこと。ああ、こうして思い返してみると色んなことがあったもんだ。嬉しかったこと、楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと。すごく濃密な時間を過ごしていたように思う。黒幕の事は業腹だが、それでもこんな仲間達と出会えたことにだけは感謝してやっても良いかもしれない。

 

「…じゃあ、今度こそ行くよ。」

「…ああ。次は…、あの世か?」

「ま、そうだな。これからどんなものを見たのか、どんな経験をしたのか、できるだけたくさん話のストックを貯めてから来てくれよ。」

「おう!任せとけ!!」

「色んな土産話を持ってってやるよ!」

「じゃあ、あっちでも元気でね?」

「死んでるのに元気も何もあるか。」

「それもそっか!アハハ…。」

「輝くん。」

「なんだ?」

「ありがとうー。あと、大好き。」

「ああ、こちらこそありがとう。」

「うん!」

「じゃ、モノトラ、始めてくれ。最後のおしおきだ。」

「そうか、じゃあいくぜー!!最後の!!超絶望的な!!!おしおきターイム!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミズシマくんがクロマクにきまりました。

おしおきをかいしします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これまで何度も見てきた鎖付きの首輪が俺に向かって飛んでくる。モノトラと共に俺はその首輪に捕らえられる。

 

首輪で引きずられて連れて行かれた先にはサッカーコート。巨大なバットにくくりつけられたと思ったら俺に向かってサッカーボールが飛んでくる。

 

超高校級の幸運・絶望・水島輝のおしおき

《超高校級の絶望的おしおきR》

 

大量のボールが身体に当たり、体中の骨が折れる感覚がする。

 

一度暗転して再び明かりが灯ると、俺は階段から転げ落ちていた。そして転げた先には奈落の底。

 

そしてそこに聳える針の山。

 

全身をその針が貫く感覚が襲う。だけど急所は外れ、俺の命に届く感覚はない。

 

再び暗転、そして再点灯。次は図書館。巨大なモノトラに足を掴まれ身動きを取れない。巨大な本の上に落とされ、更に本が閉じてくる。

 

寸でのところで回避を試みるが片足を挟まれる。

 

三度暗転、三度の再点灯。

 

燃えさかる屋敷の中に取り残されている。そして落ちてくる燃えた屋敷の一部が俺の身体を焼いていく。

 

4度目の暗転、再点灯。

 

既にすりつぶされたチョコレートの中に放り込まれる。身動きが取れないまま沈んでいくのだと思ったその時、ボウルの縁から俺の身体が放り出される。

 

放り出された俺の身体が向かう先はベルトコンベアの上の机と椅子。背後には巨大なプレス機が絶え間なく動き、その机と椅子は徐々にプレス機へと向かっていく。

 

これは過去のコロシアイの記録に残っていた超高校級の幸運のおしおき方法だ。

 

ああ、俺の最後はこれか。

 

薄れゆく意識の中ぼんやりと顔を上げると、俺の最後を見届けようとするみんなの姿がふと映った。

 

ああ、やっぱり。

 

できることならもっとみんなと…

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【生存者】

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

残り4人




最後のおしおきが終わってしまいました。やはり最後のおしおきは江ノ島オマージュでいきたいなというところでこんな感じのおしおきになりました。少しだけ原作と違うところとすれば、水島くん視点で進むおしおきというところでしょうか。
さて、次回ダンガンロンパR最終回となります。その結末をどうか見届けていただけると幸いです。それでは次回、最後の後書きで!


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エピローグ 花と空と希望
エピローグ


――――――

――――

――

 

 

僕たちの目の前には鮮血に染まった輝くんだったものが横たわっている。

終わった。コロシアイが。

終わった。僕の好きな人の命が。

 

「…これで終わり、なんだよな?」

「…うん。」

「あたしたち、これで脱出できるんだよね?」

「…うん。」

「…やっぱちっと後味悪いな。アイツがそうしてくれって言ったことだっつってもよ。」

「…うん。」

 

頭が上手く回らない。彼の最後の言葉は確実に僕たちを気遣った、僕たちを先に進ませるためのものだった。その言葉に心動かされて僕たちはこの学園を脱出するという選択をした。でも全てが終わった今、また僕は迷ってしまっている。本当にこれで良かったのかと。もう取り返しはつかないって言うのに。

 

「…まだ迷ってんのか?」

「…正直。輝くんの覚悟を無碍にしないためにもってこの選択肢をしたけど、やっぱり他にも方法があったんじゃないかーって。野暮だって分かってるんだけどさー。」

「ま、それでいいんじゃねえの?」

「え?」

「俺だって正直まだ迷ってるよ。だけどさ、こうやって迷いながらも先に進んでいくことが水島の"希望"だったわけだしさ。」

「それは…」

「それにさ、こうやって迷ってる内は俺達、水島のことを忘れることはないだろ?」

「…うん。」

「昔、偉いかどうかは分かんねえけどとある医者が言ってたんだぜ?『人が本当に死ぬのはみんなに忘れられたときだ』ってさ。俺達がこうやって迷ってる内は水島のことは忘れない。ってことはさ、確かに身体は死んだのかも知んねえけど、俺達の中では水島は死ぬことないだろ?」

「…うん。」

「だからさ、出ようぜ。俺達の、水島の希望のためにさ。」

「うん。」

 

薬師君はすごいなぁ。もう前を向いてる。輝くんのことはずっと引きずっているのに。でも確かにこの薬師君の姿が輝くんの望んだ僕たちの姿なのかも知れない。そう思ったら、死んでしまった人の願いまで無視するなんてそんなひどいこと、僕にはできない。

 

「お、ちったぁ前向いたか?」

 

海波ちゃんがからかうように僕の方を見てくる。

 

「うん、どうにかねー。」

 

ちょっとだけ目が腫れぼったい気がするけどでもみんなに笑顔を見せる余裕だけは出てきた。これだけでもちょっとした進歩だと思う。

 

 

 

エピローグ  花と空と希望

 

 

 

「あ、でもさー、この学園を出る前にやっておきたいことがあるんだけどー、いいー?」

 

思いつきだけどやりたいことを思い出したのでそれをみんなに伝える。

 

「やっときたいこと?」

「手伝う?」

「うーん、でも、手伝ってもらった方がみんなもちょっとだけ気持ちが晴れるかもー。」

「???」

 

僕の回答にみんなの頭にははてなマークが浮かんでいるような感じがする。

 

「じゃあ付いてきてもらえるー?」

「お、おお。」

 

やっぱり僕は仲間に恵まれたらしい。みんなきっと早く外に出たくて仕方がないはずなのに僕のちょっとしたわがままにも付き合ってくれる。

最初にみんなを連れて行ったのはランドリー。ここでは最初に青山くんが二木くんに殺された。先に殺人の計画を立てたのは青山くんで、二木くんは咄嗟に返り討ちにしてしまった形だったけど、この一件がコロシアイ学園生活の引き金を引いてしまった。

 

「ある意味、ここが全部の始まりだったよな。」

「ああ、ここでオレ達の生活はまるっきり変わっちまった。」

 

すぐにランドリーを後にすると次に寄宿舎の巴ちゃんの部屋を開けた。そこでは3回目の事件の2人の犠牲者の1人、巴ちゃんがここで死んでいた。部屋の荷物とか内装はそのままだけど、今となってはこの部屋の持ち主がここで死んでたとはもう思えない。今すぐにでも帰ってきそうな感じすらする。

 

「太宰は色々ヤバかったよね。」

「まさかあんなこと考えながら暮らしてたとはねー。」

「比嘉も山吹も災難だった、としか言いようがねえよ…。」

 

一度食堂はスルーして、僕はみんなをプールに連れて行く。ここでは三香子ちゃんが鈴奈ちゃんに殺された。しかも殺された上に首を切られ隠される、という凄惨な方法で。鈴奈ちゃんにはそうまでしても助けたい友達が外にいた。あのときはその気持ちをよく分かってあげられなかったけど、輝くんを助けたくて足掻いた後の今ならその気持ちも少しは分かってしまう。

ただ、これまでの思い出を巡り、仲間を偲ぶっていうのも僕のやりたいことではあったけど一番やりたいことは別にある。そしてそれを達成するためのとりあえずの道具がここにある。

 

「ここでの事件も中々強烈だったよな…。」

「あたし水島とかと一緒に第一発見者になっちゃったよ…。」

「そりゃお気の毒だ…、って久見どこ行くんだ?」

「実は僕の真の目的を達成するための道具がここにあるのでーす。」

「何じゃそりゃ?」

 

首を傾げるみんなをよそに僕は掃除用のロッカーに手をかける。そして中から取りだしたのはバケツ。ここには三香子ちゃんの首が入っていたっていう衝撃の思い出もあるけど、ここでの目的はこれだ。

 

「よーし、ここでの目的はたっせーい。1回裁判場に戻ってもいいー?」

「そりゃ構わねーけど…。」

 

みんなの了承を得た僕は一度裁判場へと戻る。そしてバケツを手に奥の処刑場へと向かう。黒幕が死んだからか、処刑場への出入り口となっている金網は自由に出入りできるようになっていた。輝くんの最期の場所となったプレス機へと向かう。おしおきが終わったことでプレス機は上がった状態で止まり、どこに輝くんがいるのかはすぐ分かった。

 

「久見、お前…。」

「これは僕の自己満足。だけど、こうすることで僕は本当の意味で前に進める気がするから。」

 

僕の意図を察した薬師くんにそう告げると僕はその血溜まりの中の肉塊に手を伸ばした。金属の上にあるからか、ついさっきまで生きていたとは思えないほどもう冷たくなってしまっている。血の中のそれを手で掬ってはバケツの中に入れていく。ほんとはもっと良い入れ物で運んであげたいんだけど、そうも言ってられないからね。そうしていると周りから6本の腕が伸びてくる。

 

「そういうことなら俺も手伝うぜ!このまんま放置して出てくってのは何だか後味悪いしな!」

「あたしもちゃんと供養してあげたい!」

「ったくそういうことなら早く言えよなー。反対なんてしねーって!」

 

肉塊となった死体を明るく話しながら掬ってバケツに入れていく4人の高校生。端から見たら異様な光景に違いない。もしかしたらコロシアイのせいで心が壊れてしまったと思われるかもしれない。見た目は反論の余地ないしね。でもここには確かに僕たちにとっての青春と希望に向けた足がかりがあった。

さすがにこうも潰されてしまっていると全ては回収できなかったけど粗方を回収し終わったところでバケツを持ち上げようとする。けど重くて持ち上がらない。よく考えたら当たり前かも知れない。輝くんは60キロは超えていた。血や肉がかなりこぼれていったとは言え、このバケツは40~50キロはあるはずだ。日頃漫画ばっか描いてて運動不足の僕に持ち上がるわけがなかった。この時ばかりは僕ももうちょっと運動しようと思った。

 

「みんなで持とうぜ!」

 

そう言うと薬師くんが一緒にバケツを持ち上げてくれた。

 

「コイツは俺達みんなの仲間だ俺も一緒に連れていきたい。」

「5階までだけど大丈夫?」

「お、おお。大分運ぶな。ま、今更そんなことに文句は言わねえさ。」

 

そう言う薬師くんに呼応するように紫ちゃんと海波ちゃんも頷く。大量の血肉が入ったバケツをみんなで交代交代で持ちながら5階まで運んでいく。バケツを植物庭園まで運び終わると一度みんなで武道場に行った。

この武道場ではモノトラに裏切り者として好き放題されていた玉城くんが同じく裏切り者であった心愛ちゃんに殺された。でもそれはただの裏切りなんかじゃなかった。僕たちにバラバラになってほしくなった2人からの悲しくも優しいバトン。2人がいてくれたからきっと僕たちは今こうして生きていられる。

 

「2人はもしかして今水島と会ってんのかね?」

「あ、どうなんだろ?」

「貴様こんなところで何をしている馬鹿者がー、なんて玉城くんに憎まれ口叩かれてたりして。」

「いんや、意外とやはり貴様が黒幕だったか、なんて言われてるかもしんねーぞ?」

「ま、少なくとも甘寺には怒られてるだろうよ。」

「あはは、違いない!」

 

3人を偲んだところで僕の目的を達成することにしよう。植物庭園に戻るとまずは物置小屋からスコップを取り出した。そしてみんなで作った花壇のそのまた隣のスペースに穴を掘っていく。ちょうど良いくらいの大きさの穴ができたところでバケツの中身を穴に流し込んでいく。バケツの中身が空になったところでもう一度穴に土を被せる。そこに何があったのか分からなくなったところで僕はもう一度物置小屋に向かい、花の種を取り出した。

 

「うーん、僕たち出てっちゃうけど上手く咲くかなー?」

「ま、そこは水島が面倒見てくれるって!」

「アイツは肥料じゃねえぞ。」

「分かってるっつーの!」

 

奇跡的に、幸運にも咲いてくれる事を願って花の種をそこに撒く。そして花壇が完成したあの日のようにみんなで最初の水やりをした。

ここは僕たち希望ヶ峰学園新1期生のクラス花壇であると同時に、僕たちの大切な仲間のお墓。ここにちょっとだけ僕たちの心を置いていくね。そうすればいつまでも君を忘れずに、本当の意味で死なせずに済む気がするから。

 

「うっし、これでもうやり残すことはねえな?」

「あ、あと2カ所!」

「まだあんのか?」

「物理準備室と食堂!」

「あ、そうだな!さすがに無視したら3人に悪いな。」

 

4人で物理準備室に行き手を合わせる。彼は太宰君の計画の犠牲になった人。しかもとばっちりで。でも明るくて僕たちのムードメーカーだった。彼の明るさをきっと忘れることはない。

そして食堂に向かう。っとその前に。

 

「おーい、久見どこ行ってたんだよ?」

「ちょっとだけ取りに行くものがあってねー。」

 

と両手に色んなものを抱えてみんなの元に戻る。

 

「ちょっとっつー量じゃねーけどな。」

 

他のみんなに開けてもらって食堂に入る。ここではみんなで毎日食事をした。楽しい食事も、パーティーも、バラバラの寂しい食事も。そしてここでは畔田君がアンリちゃんに殺された。でもそれは2人のお互いへの愛故の悲しい殺人。僕たちは2人の想いを責めることはできない。

 

「よいしょっと!みんなちょっと手伝ってー。」

「何をそんなに抱えてんだ?」

「えっとね、将棋盤と駒と手帳と、学ラン。」

「そういうことか!」

 

それは玉城くん、心愛ちゃん、輝くんが大切にしていたもの。3人を象徴するもの。せっかく今まで死んだみんなの持ち物を食堂に飾ってきたのだから、この3人だけ仲間はずれにするのはかわいそうだ。そして僕の意図もみんなにちゃんと伝わったみたい。

 

「さすがに将棋盤は重かったなー。」

「よし、じゃあ上手く飾るか!」

 

まずは将棋盤をテーブルの上に。いつ彼が将棋をしたくなってもいいように、いつでも対局が開始できるよう、駒も並べて置いておこう。

次は心愛ちゃんの手帳。心愛ちゃんはいつもみんなのためにチョコレートのお菓子を作ってくれてた。彼女がすぐに手に取って試作品を試すことができるようにキッチンに一番近いテーブルの上に。

最後に輝くんの学ラン。輝くんは色んな意味で僕たちの中心だった。普段まとめてくれていたのはアンリちゃんだったけど、いざとなったときにいつも僕たちを助けてくれたのは彼だった。僕たちがここで食事をすることはもうないだろう。だからいっそのこと彼の学ランを食堂の一番ど真ん中のテーブルに飾ってしまおう。

 

「よっし、こんなとこだな!!」

 

別にそこまで大変な作業ではなかったけど海波ちゃんがおでこの汗を拭うような仕草を見せる。うん、入り口から見回したらみんながここにはいたって痕跡がきちんと完成した。

あ、でもこれじゃ僕たちがいた痕跡がなくなっちゃうな。僕たちはこうして生きているけど、それでもここにいた痕跡が全くないんじゃなんか寂しいからね。

 

「ちょっと僕のペン取ってくる!」

「あ、じゃああたしは予備のシューズ!」

「オレはバンダナでも置いてってみるか!」

「あ、みんなずりい!俺もピストル置いてく!!」

 

僕の思いつきをみんな察したみたいでそれぞれが自分の部屋に行って自分の所持品を1つ持ってくる。そしてそれぞれが思い思いの場所にそれを飾っていく。輝くんは心愛ちゃんの事を好きだったみたいだけど、ここは生きてる僕の特権って事で僕のペンは輝くんの学ランの隣に。ちょっとずるいかも知れないけど、心愛ちゃんは僕よりずっと長くそっちで輝くんと一緒にいられるんだからこれくらい許してほしいかな。

 

 

 

一通り食堂でのひとときを終えるともう一度部屋に戻り、持ち出したいものだけ回収して今はあの鋼鉄の扉の前にいる。もうここから出るだけのハズなのになんだか緊張してしまう。

この学園を出たらもう今までの通りの生活に戻ることになる。僕たちは元いた世界にちゃんと戻れるのだろうか。何かこのコロシアイの中で欠落してしまっているんじゃないだろうか。周りの人は僕たちのことをどう思うのだろうか。

 

「この扉を開けたらもう外だよー。」

「…そうだな。」

「ちょっと不安かも。」

「どうしてもなー。」

 

不安が尽きないのはみんな同じみたいだ。だけど。

 

「きっと、大丈夫だよー。きっと必ず未来は明るい。」

「うん、そうだよね!水島もそう言ってたもんね!」

「ま、なるようになるよな!」

「オレなんかどう転んだって海の上だしな!!」

 

それでも僕たちは歩みを止めない。輝くんが、仲間が、僕たちに繋いできてくれた希望があるから。僕たちは何があろうと前へ進んでゆける。

 

「なあ涼風。」

「海波ちゃん、どうしたの?」

「オメーさ、最後の学級裁判の時に色んな見たこと無いもんを見て回りてーって言ってただろ?」

「あ、言った!」

「それならよ、いつかオレらの船に乗らねーか?ぜってーに今まで見たことのねーすげーもんが見られることを約束するぜ?」

「あ、それいいかも!でもなー、とりあえず走りたいって気持ちもあるんだよねー。」

「こりゃ生粋のマラソンバカだ。」

「バカって何さ!!」

「ま、それならそれでいいけどよ。その気になったらいつでも言ってくれ!乗せてやるからよ!」

「それならさー、取材のために乗るってのもアリー?」

「おう、全然構わねーぞ!!」

「次の作品は冒険ものもアリだなー。」

「連載楽しみにしてるぜ!」

「薬師くんはこれからどうするのー?」

「とりあえず競技に復帰して、オリンピックだな!」

「おーそれも楽しみー。」

「涼風もマラソン続けるんならいつかどこかのオリンピックで会うこともあるかもな!」

「あ、いいねー。負けないよ!!」

「いや、競技違うだろ。」

「「「あはははは!!!!」」」

 

気付いたら僕たちはこれからの話をしている。それはどれも明るい、希望に満ちあふれた未来の話で、僕たちは絶対に大丈夫だって言う根拠のない自信まで湧いてくる。

 

「じゃ、その未来を現実にするためにも、扉を開けるよー。」

 

みんなは無言で頷き返す。そして僕は手に握った機械の赤いスイッチを押す。するとゴゴゴゴと大きな地鳴りを上げて開いてゆく。そしてその隙間からは僕たちのこれからを暗示するようなまぶしい光が射し込んでくる。

きっと、大丈夫。僕たちはこれからも希望を持って生きてゆく。僕たちは希望の光に包まれながらその学園の外へとその1歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

ここは空の上。ボクのそばにはボクやその仲間達と同様、絶望に打ち勝った希望の象徴達が乗っている。

 

「無事、保護に成功しました。ボクの仲間達はどうですか?」

 

ボクは通信機器を手に取り、ボク達を保護してくれた"未来機関"へと繋ぐ。

 

『うん、分かった。キミの仲間達はとりあえず元気だよ。そのヘリは自動操縦だし、念のためのパイロットも乗ってるから安心して彼らと仲良くしててよ。』

 

通話相手は最初に希望を守り抜いた英雄の1人。ちょっと恐縮してしまう。

 

「はい、了解です。であれば。」

 

ボクはコクピットを離れて彼らの元へ向かう。さて、何の話をしようか。どうせなら、ボクの身の上話でも聞いてもらっちゃおうかな。

ボクはちょっとだけ心躍らせながら彼らの目の前に踏み出した。

 

 

――――――

――――

――

 

 

ここは全てが終わった後の法廷。その中心には16人の少年少女を弄んだぬいぐるみがうつ伏せに倒れている。

 

「…ああ。負けちまったな。せっかくここまで計画してきたってのに最後の最後で失敗するなんて絶望的だ。だけどオレはまだ諦めねーぜ…。だってまだ手は残ってる。オレは、オレ達は必ず、絶望を取り戻してみせる。ぐぷぷ…。ぐぷぷぷぷぷ……。」

 

法廷の真ん中から不敵な笑いが響く。絶望は根が深い。この1つの絶望の物語は終焉を迎えるが、いつかどこかで新たな絶望が物語を紡ぐだろう。

だけど同時に新たに現れるのだ。その絶望を打ち払う新たな希望が。その時を待ち望みつつこの劇の幕は下ろすことにしよう。

 

 

 

 

 

ダンガンロンパR~おかえり絶望学園~ END

 

                    ・

                    ・

                    ・

 

【最終生存者】

超高校級の射撃選手     薬師弾(ヤクシダン)

超高校級の長距離ランナー  涼風紫(スズカゼユカリ)

超高校級の漫画家      久見晴香(ヒサミハルカ)

超高校級の海賊       九鬼海波(クキミナミ)

 

計4人




という訳で、これで『ダンガンロンパR~おかえり絶望学園~』はこれにて終幕です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
このエピローグは何を書こうか迷った中で、原作の苗木くんのように即出て行くのかな、と思ったときに久見さんがきっとそういう訳にはいかないだろうな、苗木くんのような強い希望がいない以上、気持ちの整理を付ける時間をあげたいなと思ってこんなお話になりました。
さて、最後に出てきた人物とその仲間達に関してなのですが、彼らの身の上話を新しく書いていきたいなと思っております。そちらも書き進めていきますので、温かく見守っていただけたらと思います。
それではまた次回作でお会いしましょう!!ありがとうございました!!!


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