闇堕ちへの軌跡 (地支 辰巳)
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夢見る少年の始まり

 ただただ闇堕ちが好きなだけ。上手く闇堕ち出来る様に頑張ります。


 

『次はトリスタ、トリスタ』

 

『一分ほどの停車となりますので、お降りになる方はお忘れ物の無いようご注意ください』

 

 そこそこ慣れ親しんだ列車に揺られていると、駅から見える風景が自然豊かな農地へと変わってくる。そして、まだ降りたことの無い駅に対するアナウンスも聞こえてきた。ここだ。俺は今日からこの町で暮らして行くことになる。

 

 

 駅前にはライノの花が咲き乱れていた。故郷には咲いてなかった花だけど、旅先でよく見る綺麗な花だったから、流石に名前ぐらいはもう覚えてしまった。そんな光景の中、俺は赤い制服に身を包みながら、これから通うことになるトールズ士官学院へと歩みを進める。その学園へと向かう道の途中、慣れ親しんだ二つの背中が見えた。

 

「クラウスさん!ラウラー!」

 

 ついつい子供みたいに、はしゃいでいるような声をかけてしまった。周りの人に見られてないといいんだけど、うわ〜後ろから同じ赤色の制服を着ている人が来てたよ。同じクラスだったらどうしよう。子供ぽいとか思われないかな?

 

「おはようございますノクト様。無事合流出来たみたいですね」

 

「ええ、一人寂しくの列車旅だったんで、憂鬱でしたよー」

 

「だから、一昨日うちに泊まって、一緒に行こうと言ったのにな。そなたが嫌がるから」

 

 軽々しく泊まるとか言うラウラはやっぱり羞恥心が全く無いな。それに、入学初日から一緒に登校なんてすれば、ラウラに憧れる女子や他の男子達からどんな顔されるか。想像するだけで怖いよ。しかも、お泊まりって、お互い挨拶周りとかで忙しいから誘ってくれなくてもいいのに。

 

「……それでは、お嬢様、ノクト様。ご武運をお祈りしています」

 

「うん、ありがとう。爺も元気で、父上の留守はよろしく頼んだぞ」

 

「そんな闘いに行くんじゃないんだから。楽しく立派になって二人とも戻るよ」

 

「ハハ、お二人の成長を楽しみにしています」

 

 本当にこの人にはお世話になった。家族仲がよろしく無い俺のためにまるで父親みたいに叱ってくれたり、褒めてくれたりしてくれた。本当クラウスさんとヴィクターさんには頭が上がらないな。

 

「そういえば、赤い制服の人は少ないようだな」

 

「ああ、見る限りほとんどが緑と白ばかりなんだけどな。俺の兄さんは白かったんだけどな〜?」

 

 もしかして、今年からトールズはランク制に変更されたのか?兄さんはエリートだから白で、俺は落ちこぼれだから赤の可能性もあるかもしれない。あ、でもラウラも赤だし、それは無いな。ラウラが一年の中で一番強いことは断言出来る。俺が保証する。

 

「ご入学、おめでとーございます!」

 

 ちょうど会話が終わり、トールズの玄関が見えたぐらいで、明らかに後輩感が強い人とぽっちゃりめな作業員服の人に声をかけられた。

 

「えっと、ラウラ・S・アルゼイドさんとノクト・クロンダルト君でいいんだよね?」

 

 名前が知られているのか……学校の関係者か?いや、それでも、生徒全員の名前を覚えているなんてありえないからなー。もしかして、赤い制服と関係ありか?

 

「ふむ。どうして、我らの名前を知っているかは聞かぬが、何用か?」

 

「私たち、申請してた品を預かる係なんだ。それが、申請してる品?」

 

 ああー、そういえば、そんなのあったな。でも、俺の申請してる物は結構な重さがあるから、後ろの人でも持てるか微妙なんだけどな。とりあえず、渡してしまうか。

 

「クロンダルト君の物は結構重いね。色々入っているみたいだからかな?」

 

「俺はラウラと違って一つじゃないから、色々入っているんですよ。というか、よく持てますね。もしかして、只者じゃありません?」

 

「そんな事ないよ〜。ちょっと体が大きいから持てるだけだよ」

 

 俺でも全部持つのは大変なのにすごいな。てか、ゆっくりしてたら入学式に遅れるじゃん。入学初日から遅刻なんてこれからの二年間に支障をきたしそうだし、早くしなきゃ。

 

「ラウラ。早く行こうよ?遅刻しちゃうよ」

 

「ああ、そうだな。では」

 

 入学式が行われるのは講堂だ。ラウラと共にダッシュで向かう事になったんだけど、着いた時にはまだ席はそこまで埋まっていなくて、席を選ぶ暇はそれなにりにありそうだった。

 

「ラウラは席どの辺が良い?」

 

「無難にその辺りでどうだろうか?」

 

「了解。じゃあ行こっか」

 

 見たところやっぱり赤の制服の人は少なくて、緑と白ばかりだった。赤の制服の奴は十人いるか居ないかぐらいかな?本来なら、俺もラウラも白の制服を着るはずだったんだけどなー。やっぱり何かしら変更があったんだろう。

 

 

「若者よ───世の礎たれ」

 

 ヴァンダイク学院長が力強く獅子心皇帝の言葉について語った。普段はお偉いさんの話なんか聞き流すんだけど、この言葉だけは別だ。単純に語呂が良くて好きというのもあるけど、なんていうか生きて行く目標みたいのを考えられる感じもするから好きなんだ。やっぱり、この学校で暮らしていくうちに真の意味っていうのも学べるのかな。

 

「ラウラはさ。世の礎ってどういう意味だと考える?」

 

「……自身に課せられた役目をしっかりと果たしていくと言うことじゃないか?」

 

「まぁ、そうとも考えられるよね。俺はね、みんなが幸せな未来を夢観れるように頑張るってことじゃないかなって今は考えてるよ」

 

「大きく出たなノクト。だが、そんな意見も嫌いではないぞ」

 

 

「───指定されたクラスに移動すること。学校の規則やカリキュラムに関してはその場で説明を行います」

 

 教頭先生からの入学式の終了と、この後の予定を告げられた。俺とかラウラは指定されたクラスなんて知らないけど、周りの人達は分かっているようで、どんどんと講堂から移動して行ってしまった。残ったのは俺やラウラを含む赤い制服の人ばかりだった。

 

「はいはーい。赤い制服の子たちは注目〜!」

 

 赤い制服の人がほとんど戸惑っている中、教師ぽい人が明るい声でここに残っている生徒に呼びかけた。なーんか、教師ぽくは無いんだよなー。見た目とか雰囲気とか。どちらかと言うと、俺が会って来た人達に似ている気がしないでも無い。

 

「君たちにはこれから『特別オリエンテーリング』に参加してもらいます」

 

「それじゃあ、全員あたしに着いて来て」

 

 俺たちの疑問なんて放置というように、説明だけすると、とっとと進み出してしまった。まぁこういうのは大体行けば分かるか。

 

「はぁー、なんかきな臭いけど、行こうか」

 

「ふむ。……そうだな」

 

 

 そんなこんなで着いたのは、いかにも何かが出そうな建物。しかも、教師は鼻唄を歌いながら鍵開けてるし。いったいどうなってんだろう。肝試しで友情を深めましょうて感じか?他の人達も困惑しているみたいだし、早くしてくれないかな。

 中に入っても見た目通りのおんぼろさ加減だった。ほこりもたっているようだし、こういう場所にはあんまり長居したくないんだよな。

 

「──サラ・バレスタイン。今日から君たち『Ⅶ組』の担任を務めさせてもらうわ。よろしくお願いするわね」

 

「サラ教官。この学院の一年生のクラス数は5つだったと記憶していますが。それも、各自の身分や出自に応じたクラス分けで……」

 

 う〜んⅦ組?おかしいなぁ。去年までそんなクラス無かったみたいなんだけど、今年から作られたのかな?そうそう、メガネの女の子の言う通り、貴族は白の制服を平民は緑の制服を着て、クラスは別にされるはずなんだけど……じゃあこの赤い制服はⅦ組の証ってことね。

 

「そう。あくまで去年まではね。今年からもう一つのクラスが新たに立ち上げられたのよね〜。すなわち───君たち身分に関係なく選ばれた特科クラス『Ⅶ組』が」

 

 おおーすげぇ特科クラスってまじ?他の人とは違う特別な感じがして、嬉しいなぁ〜。それに俺が選ばれたのか、運良いな。

 

「冗談じゃない!身分に関係ない!?そんな話聞いていませんよ!?」

 

「えっと、確か君は」

 

「マキアス・レーグニッツです!」

 

 めっちゃ怒ってるなー。身分ぐらいでそんな怒る事無いだろうに、この帝国に生まれた以上、身分は生まれつき着いてくるもので、もう変えようが無いのに。まぁ、あの有名なレーグニッツだったらそんな考えになるのも分からなくは無いかな。

 

「まさか、貴族風情と一緒のクラスでやって行けっていうんですか!?」

 

「同じ若者同士なんだから、すぐに仲良くなれるんじゃない?」

 

「そ、そんなわけないでしょう!」

 

 俺はあんまりそんな風に貴族で一括りにされたくは無いんだけどなー。貴族の中にもラウラみたいな魅力的な人いるし、反対に兄さんや父さんみたいな人もいるしな。でも、まぁこのクラスで、やって行くんだったら、貴族貴族しているような人は居ないみたいだから、考え方も変わるんじゃないのかな。

 とか、思ってたら居たわ。ユーシス・アルバレアとかいう大物中の大物貴族が。四大名門じゃん。そんな有名な家の人は居ないだろうとは思っていたけど、マジか。どうしようかな。うちの家は区分的に一応アルバレア家のクロイツェン州に入っているから、喧嘩したりすると不味いかな……いや、とりあえずはへこへこなんてせずに普通に接してよう。そっちの方が楽だし、ラウラも嫌な顔はしないだろうからね。それに、もうアルバレアとレーグニッツが喧嘩してるから、これ以上クラス内に余計な火種はいらないだろうから。

 

「色々あるとは思うけど、文句は後で聞かせてもらうわ。そろそろオリエンテーリングを始めないといけないしねー」

 

「もしかして……門のところで預けたものと関係が?」

 

 やっぱり肝試しかなー?この雰囲気にあるのってそれぐらいしか、無いもんね。それとも、戦闘訓練かな?闘いあってこそ友情が深まるって感じで、でも、それだったら俺とラウラの一騎打ちに最後はなるかな。ラウラより強い同い年はいるとは思えないし、俺とラウラの戦績は大体拮抗しているからね。

 ああ、確かに黒い髪の子が言うように、門で自分の獲物を預けたから、それを使うのは間違いなさそうかなー。じゃあ、やっぱり決闘とかその辺か?

 

「それじゃあ、さっそく始めましょうか」

 

 サラ教官が何かしらのボタンを押した途端、すげぇ足元がぐらついた。そして、足元の床が何か割れたというか、傾いた。いや、無理無理だから。流石の俺でも、入学式に傾いた床を避ける道具なんて持ち込んでないよー。必死に傾いた床に爪を食い込ませて生き残っているけど、もう、無理そう。あ、何かサラ教官が喋ってるな。その声が気になった俺は上を向いた。いや、向いてしまった。空中には、銀髪の女の子の足、スカート、そしてその中。ああ、やらかした。……俺は黙って飛び降りた。

 




ラッキースケベはオリ主にも有効


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俺のことは知って欲しいが、家のことは知って欲しくない

 少し身体が痛い。あの銀髪の子にバレてはいけないと思って、おもいっきり飛び降りたせいで、他のみんなよりも痛みが増した気がする。

 おお!身体の痛みを取っていたら、綺麗な姿勢でその銀髪の子が鮮やかに降りて来た。やっぱ、この子も只者じゃないんじゃないのか?さっきも何故か空中に居たし、この運動能力も普通じゃない。幼い頃から鍛えてきたのかな?

 

「ううん……何なのよ、まったく……」

 

 え、声を発した金髪の女の子の胸に黒髪の男子が埋もれてるんだけど……

 

「……その……何と言ったらいいのか」

 

 でも、男子の方はしっかりと立って謝ったぞ。下心は無かったのか。あ、ビンタされた。うわ〜痛そう。俺も一歩間違えばああなっていたかもしれないのか……同情するぞ黒髪の男子。

 

 と、いつまでも同情してる訳にはいかないな。暗くて見えにくいけど、辺りには10個ぐらいのテーブルがあって、どのテーブルにも何か荷物と小さい箱があるようだ。乗っている一つ、あれは俺の荷物だな。明らかに他の荷物と大きさが違うから分かりやすいな。

 その時、ポケットに入れていた入学案内所について来てた小さい機械みたいやつが震えた。

 

『それは特注の戦術オーブメントよ』

 

 おお、この機械からサラの教官の声がしたぞ。すごいな。そこから、教官の説明によるとこの機械はあの有名なエプスタイン財団とラインフェルト社が共同で開発した第五世代戦術オーブメント《ARCUS》らしい。そう言われても、その辺の分野は全然ダメだからな。政治とか国際情勢は多少出来るんだけどなー。

 

『───結晶回路をセットすることで、魔法が使えるようになるわ』

 

『君たちから預かっていた武具と特別なクオーツを用意したわ。それぞれ確認した上で、クオーツをARCUSにセットしなさい』

 

「ふむ……とにかくやってみるか」

 

 ラウラが動き始めたのを皮切りにみんな動き出したから、俺も合わせて歩いて行く。みんな自分の荷物だから、間違いようは無いか。

 テーブルに着いたら、さっそく荷物の中身を確かめる。うん。武器は全部ありそうだな。失くしたら、取り寄せるのに時間かかるのもあるからよかったー。でも、この箱に入っているクオーツってやつは知らないんだよなー。

 この小さいのがクオーツかな?嵌めればいいのか。白色で中々いいんじゃないかな?でも、このARCUS何か線とかがあって、小さいなりに複雑そうだな。あ、嵌めたら光が出てきた。

 

『君たち自身とARCUSが共鳴・同期した証拠よ。これでめでたく魔法が使用可能になったわ。他にも面白い機能が隠されているんだけど……ま、それは追々ってことで、それじゃあさっそく始めるとしますか』

 

 中々に良い音を鳴らしながら、大きなドアが自動で開いた。しかも、教官が言うには、この奥はダンジョン区画らしく、けっこう広めで迷うらしい。なんで、そんなものが学校の区画内にあるのかなー?聞きたいんですけど?

 

『無事、終点までたどり着ければ旧校舎1階に戻ることが出来るわ。ま、ちょっとした魔獣なんかも徘徊してるんだけどね』

 

『──そらではこれより、士官学院・特科クラス《Ⅶ組》の特別オリエンテーリングを開始する。文句があったら戻って来た後に受け付けてあげるわ。何だったらご褒美にホッペにチューしてあげるわよ』

 

 え、みんな先生の冗談に対してスルーなの?俺もラウラ一筋でやってきてるから反応はしないけど、誰かはしなきゃ。ま、まぁ、とっとと武器を装備するか。ダンジョン区画とか初めてだし楽しみー。

 

 

♣︎ ♣︎ ♣︎

 

 

 そんな教官からの無茶振りに、俺たち合計10人は成り行き的に円になっていた。

 

「フン……」

 

「ま、待ちたまえ!いきなりどこへ……一人で勝手に行くつもりか」

 

「馴れ合うつもりは無い。それとも貴族風情と連れ立って歩きたいのか?」

 

 だけど、わざわざ輪を乱すようにユーシス君は一人で行こうとするし、マキアス君もそれにつっかかる。大丈夫なのか?このクラス。あー喧嘩しちゃったよ。え、最終的に二人とも行っちゃったし、これからやっていける気が本当にしないんだけど……。

 俺含め全員の戸惑いがここの空気感だけで分かる。人を引っ張っていきそうな、二人が単独行動しちゃったら、誰が残りの8人をまとめるんだよー。

 

「───とにかく我々も動くしかあるまい。念のため数名で行動することにしよう」

 

 こんな時でも動けるラウラは、本当にいい意味で空気を読まないから、見習いたいよ。ラウラが順に女子に声をかけていっていると、声をかけられる前に銀髪の女の子は勝手に進んで行ってしまった。もしかして、俺が故意では無いにしろパンツ見てしまったのバレてしまったのかな……。どうしよう、折りを見て謝ろう。

 

「では、我らは先に行く。ノクト、男子はそなたが、リードしてやるのだぞ」

 

「うん。分かったよ。ラウラも気をつけてもね」

 

「そなたこそな」

 

 ラウラは行ってしまった。別にわざわざ別行動しなくてもいいのに。いや、ラウラなりにあのビンタされた側とした側の二人を気遣ったんだろうな。もちろん、まだ金髪の子は怒っているようで、また黒髪の彼を睨んでいた。

 

「えっと、それじゃあさ。俺らも一緒に行かない?」

 

 ラウラに頼まれたのはいいけど、断られたらどうしよう。でも、ここにいる男子は全員穏やかそうだし、大丈夫でしょ。

 

「うん。もちろん!」

 

「異存は無い。オレも同行させてもらおう」

 

「ああ、もちろん」

 

 

 全員が同行を了承してくれて、良かったー。見たところ3人ともここで武器を構えてから行くようなので、俺も構えようかな。さて、どれをメインにしよう。

 

「ガイウス・ウォーゼルだ。帝国に来て日が浅いから、宜しくしてくれると助かる」

 

「そうか……やっぱり留学生だったか。こちらこそ、よろしく。リィン・シャバルツァーだ」

 

「エリオット・クレイグだよ」

 

 えっーと、褐色気味の長髪の人がガイウスで、黒髪のビンタされた人がリィンで、オレンジで大人しそう人がエリオットね。問題なし、覚えた。

 

「ノクト・クロンダルトだ。よろしく頼むよ」

 

 

「それにしても……その長いのって、武器なの?」

 

 ガイウスの持っているのは、十字の槍か……ここら辺では確かにあんまり見ないな。見たところ、普通の槍との違いは十字部分だけなのかな。後で、軽く触ってみたいな。

 

「これか?故郷で使っていた得物だ。そちらはまた不思議なものを持っているな」

 

「あ、うん、これね」

 

「杖……?いや、導力機なのか?」

 

「え、これ導力機なの?そんな難しそうなの持っているなんて、すごいなエリオット君」

 

「そんな事無いよー。入学の時に適正があるから使用武器で選んだだけだよ。魔導杖って言うんだって」

 

 へー今の世の中にはこんな武器なんてあるんだなー。どちらかと言うと、中距離や遠距離運用かな?後で、教官に俺への適正だけ聞いておこうかな。

 

「まだ試作段階らしいんだ。それで……えっと、リィンの武器はその?」

 

 エリオット、俺の武器を見てから視線をずらすんじゃないよー。確かに、リィンの説明の方が短くなりそうだけど。

 

「それって……剣?」

 

「違うよエリオット君。太刀だよねリィン君」

 

「よく知っているなノクト。ノクトの言う通りこれは太刀だ。東方から伝わったもので、切れ味はちょっとしたものだ。ノクトの腰のものも太刀じゃないのか?」

 

「ああ!やっぱり分かるよね。そうこれも太刀なんだよ」

 

 やっぱりリィンは分かってくれたみたいで、無性に嬉しいなー。多分、手の状態を見る限り、剣士だろうし、ラウラよりも先に手合わせ願おうかな?

 

「えっと、ノクトの武器はどれが本当なの?」

 

「帝国では、そんな風に武器を大量に持っているのは普通なのか?」

 

「俺も初めて見るな。ノクトはどうしてそんなに武器を持ってるんだ?」

 

 おお、一気に来るなー。まぁ、でも初めて見たらそう思うよね。手短に軽く説明していきますか。

 

「今、手に持っているのが両手剣で、腰に刺しているのが太刀と双剣と騎士剣かな?寮に送ったやつも合わせると、もう少し種類はあるかな?」

 

「何故そんなに種類があるか聞いてもいいだろうか?」

 

「別にそんな深い理由は無いよ。色んな流派齧ってきたけど、どれが一番使いやすいか未だに決められてないだけだよ」

 

 親の意向とはいえ、習ってきた流派の数は多分誰よりも勝ると思う。腕は別としてね。

 

「さて、オレたちもそろそろ行くとしようか」

 

「ああ、警戒しつつ慎重に進んでいこう。お互いの戦い方も把握しておかないとな」

 

「もちろん。他のみんなを探すことも忘れずね」

 

 

 何回か戦闘を繰り返す内に分かったことだけど、ガイウスは攻撃範囲が広くて、最前線で槍を振るうのはすごく合っていて、エリオットのサポートも初めてにしては中々様になっているんじゃないか?

 あと、リィンのあの構えって、太刀を見た時も思ったけど八葉一刀流じゃないかな?俺は八葉流に関しては本当に齧っただけだから、少ししか型を使えないけど……リィンは型の形も綺麗だし、将来有望だと思うね。

 

「見ていて思ったんだけど、ノクトはその装備で重くないの?」

 

「う〜ん、重かったんだけど。幼い頃からしてるから、もう慣れちゃったかな」

 

「すごいね。僕なんて見てるだけで、体が重くなっちゃうよー」

 

 

♣︎ ♣︎ ♣︎

 

 

 戦闘がメインだけど、雑談も途中、途中に挟みつつ進んでいた。このままのペースだと、どこまでの広さか分からないけど、誰かしらには追いつくんじゃないだろうか?

 

「はあぁ〜っ……」

 

「エリオット、大丈夫か?」

 

「怪我はなさそうだが……」

 

「うーん、戦い疲れかな?」

 

「う、うん……ちょっと気が抜けちゃって。……3人は凄いなぁ。ぜんぜん平気みたいだし……」

 

 流石に俺やリィンみたいに、武術に関わっていなかったら、体力が尽きるのも仕方ないか。ガイウスも筋肉のつき方を見るところ、結構運動してたみたいだし。エリオットは精細そうだし、音楽とか料理とかをやっていたのかな?

 

「まぁ、慣れの違いだろう」

 

「そろそろ、休憩することにしようか?みんなもそんなに早くは行ってないだろうから」

 

「大丈夫。ちょっとヨロけただけだから」

 

 その時、エリオットに向かって、上から虫型の魔獣が落ちてきた。このままじゃ当たりそうだったから、双剣の片方だけを抜いて魔獣に当てて、倒し切れはしないものの、軌道はズラすことに成功した。で、ズレた虫は何処からともなく来た弾に撃たれて撃破された。ふぅ〜良い腕だね。

 で、それでこちらに来たのはショットガンを手に持って来たマキアスだった。まだ怒ってるのかな?それだったら俺も危ない気がするな……。

 

「……その、さっきは身勝手な行動をしたと思ってね。いくら相手が傲慢な貴族とはいえ、冷静さを失うべきじゃなかった。すまない、謝らせて欲しい」

 

 謝っているということは、やっと頭が冷えたのかな?良かった〜これからもこんな調子だったら付き合いづらかったからね。

 

「いや……気にすることはないさ」

 

「そうそう。冷静さを見失うことぐらいみんなあることだって」

 

「うんうん、あんな状況だったしね。ノクトもマキアスも危ない所を助けてくれてありがとう」

 

「君たちは……4人だけみたいだな?」

 

「ああ、他のメンバーはもっと先行していると思う」

 

 もしかしてメンバーに加わってくれるのかな?この4人だと少し前衛多めだから、ショットガン持ちが加わってくれるのはありがたいね。

 

「…その、もし良かったら僕も同行して構わないか?見ての通り、銃が使えるからそれなりに役に立つはずだ」

 

「喜んで。リィン・シュバルツァーだ」

 

「エリオット・クレイグだよ。よろしくね」

 

「ガイウス・ウォーゼル。よろしく頼む」

 

「ノクト・クロンダルトだ。よろしく」

 

「……クロンダルト……何処かで……。いや、すまない。マキアス・レーグニッツだ。改めてよろしく」

 

「……そういえば……身分を聞いても構わないか?」

 

 嘘は……良くないよなー。後でラウラにバレたら何て言われるか分からないし、でも、俺は多分上手く自分が貴族だと言えないんだよな。しかも、若干気づいているみたいだから、うちの家の詳細まで気づきそうなんだよね。人によっては詳細に嫌な顔をするけど、マキアスはどうだろう……。

 

「えっと……ウチは平民出身だけど」

 

「同じく──そもそも故郷に身分の違いは存在しないからな」

 

 あれ、この流れは俺だけ貴族という流れなのかな?それは……マキアスのヘイトを一人で買いそうだから普通に嫌なんだけど。リィン、君だけが頼りだ。

 

「なるほど……留学生なのか」

 

「少なくとも高貴な血は流れていない。そういう意味ではみんなと同じと言えるかな」

 

 リィン……そんな言い方したら、俺に高貴な血が流れているみたいじゃないか。止めてくれ、言いにくいさが増しているじゃないか。……よし!開き直って堂々とするか。

 

「それで……君の方は?」

 

「俺はクロンダルト伯爵家。貴族だ」

 

 その時、見るからにマキアスのこちらを見る目が変わった。しかも、顎に手を当てて何かを思い出しているみたいだし。俺は爵位までちゃんと言ったんだ。言いたいことがあるなら、言って欲しいなー。

 

「……思い出したぞ。クロンダルト伯爵家と言えば、クロスベル北部にある一帯を支配している、ほぼ唯一と言っていいクロスベル独立に賛成を表明している家だったか……」

 

 クロンダルト家のこと知ってるじゃん。でも、あんまり公に言わないで欲しいなー。このことを聞くと、エレボニアだと嫌そうな顔をする人ばっかりだし。

 

「せいぜい平民風情に負けないようにしてくれ」

 

 うわっ。空気が重い。これはまぁこれから二年かけて徐々に俺の人柄を知ってもらって、少しずつでも受け入れてもらうしか無いかー。先が思いやられるよ。

 

 




この辺の家のことが主な独自設定ですね。
一応、オリ主のクオーツは閃の軌跡に登場する幻属性の『ジャグラー』です。


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俺以上にラウラと連携出来る奴はいない

長くなりましたが、Ⅶ組結成までいきました。


「なんか空気が重いね」

 

 エリオットの言う通り、五人で進んでいるのに会話が少なく空気が重い。その理由として俺とマキアスがしゃべっていないから、というよりもマキアスが俺の言葉にそっけない感じだからだろうと思う。貴族って言ったのは失敗だったのかな?でも、どうせクロンダルトと言ってもバレていただろうなー。

 

「それも仕方ないとは思うよ。クロンダルトは自分で言うのもなんだけど、嫌いな人は嫌いだからさ」

 

 クロスベルの独立に賛成をする。その家の方針自体が、クロスベルを自身らの属国としか思えない帝国人にとっては、嫌うだけの充分な理由になりうる。だから、父さんもあの鉄血宰相と仲が悪い。

 

「僕は別に君の家の方針については、気にしてはいない」

 

 少々怒った口調ながらも、マキアスはしっかりと訂正をしてきた。家の方針について特に反対されていないのは嬉しいけれど、貴族に対しての嫌悪感はぬぐえないみたい。

 そんな感じで俺とマキアスの間の微妙な空気感やリィンが何故か黙っていて、空気が悪かった俺たちのメンバーだったけど、戦闘を繰り返しながらも唯一の知り合いのラウラとやっと再会することが出来た。

 

「遅らせなれば名乗らせてもらおう。ラウラ・S・アルゼイド。レグラムの出身だ。以後よろしく頼む」

 

「……レグラム」

 

「もう一つ申しておくこととすれば、そこにいるノクトとは、ノクトがアルゼイド流を幼い頃に習いに来た時からの仲だ」

 

 ちなみに、トールズに入学するまでにラウラは中伝をもらえたけど、俺はあと一歩の所で貰えなかったんだよな。あの時ばかりは悔しくて、覚えている限り初めて泣いた。この学校を卒業するまでには、中伝以上の実力を身に付けたいな。

 俺が過去に現を抜かしている間に、若干予期していたとおり、ラウラが貴族だと知ってマキアスが突っかかっていたけど、ラウラの天然と実直な性格にマキアスも引き下がったようだった。

 

「マキアス。もしや、ノクトにも同じようにしたのか?」

 

「い、いや……」

 

「ノクトも私と同じく女神に恥じるような生き方はしていない。どうしても、貴族だからといってノクトを嫌うのならば、私も嫌ってもらって構わない」

 

 やっぱり……ラウラは凄いな。俺にはあんなに堂々と言うことは出来ないし、自分を嫌えなんてことも言うことは出来ない。あんな風に俺もなれたらいいのにな。

 

「すまない。善処はさせてもらう」

 

 この場が一旦治まったのを見計らって、隣の眼鏡の長髪の子が自己紹介を始めた。彼女はエマ・ミルスティンという名前で、首席合格者らしい。エマは典型的な委員長タイプだと思うので、このクラスを引っ張って行って欲しいとは思う。

 

 そして、リィンに偶々胸を触れてしまった金髪の女の子が自己紹介を始めた。だけど、彼女はラウラ・Rと名乗っただけで、ファミリーネームを明かさなかった。あーあ、俺もそうすれば良かったかな?まぁ、また名乗る機会があるときには、そうやって名乗ろうかな?

 しかも、マキアスとの関係が微妙で、銀髪の子のスカートの中を見てしまった俺が言う事では無いが、あいも変わらずラウラはリィンに厳しく流石に不憫に思えてきてしまう。早く仲直り出来ればいいが、何となくだが、2.3日では終わらなさそう。

 

「そうだ、せっかく合流したんだしこのまま一緒に行動する?」

 

「そうだな、そちらは女子だけだし安全のためにも」

 

「いや、心配はご無用だ。剣には少々自信がある」

 

 心配を払拭するように、ラウラはアルゼイド流の主流である両手剣を取り出して、みんなに見せてみせた。他のみんなはその大きさに感嘆しているみたいだけど、俺は何度もあの両手剣に叩き潰されているから、少しトラウマを抱いてしまう。

 

「それに、そちらには様々な流派を経験しているノクトがいるではないか?実力はそなたたちも分かっているだろう」

 

「そうだな。確かに、ノクトの戦闘能力は目を見張るものがあるのは見ていてよく分かった」

 

ラウラの言葉に男子は一定の納得をしてくれて、女子もラウラの言葉ということで納得したのか、女子三人は銀髪の女の子を探しに別れることになった。

 

「本当に女子だけで大丈夫だろうか?誰か一人ぐらい着いていったほうがいいんじゃないか?」

 

「言葉を返すようだけどマキアス君。ラウラは一年全員を合わしても一番強いよ。俺も3536戦1765勝1771敗で、若干負け越しているからね。リィン君もそう思うだろ?」

 

 プレッシャーという訳では無いが、武道を嗜んでいると思わられるリィンのライラへの見解を聞いて、リィンの実力をもう少し知りたいとは思う。まぁどうあったとしても、太刀の扱いに関して言えば、俺より上は間違い無いけど。

 

「ああ。アルゼイドといえば、帝国に伝わる二大流派の一つだ。しかも、彼女の父親はあの『光の剣匠』と呼ばれる帝国最高峰の剣士だ。実力は折り紙付きだろうな」

 

「俺も彼女は実力であるというのは佇まいから感じられた。多用な心配は要らないだろう」

 

 その後はラウラの言葉のおかげか、さっきまでよりは軽い空気で進むことが出来た。その過程でリィンとガイウスの技や得物の動かし方をよく見ることが出来て、リィンの動きが八葉一刀流だとは分かったが、ガイウスの動きは独学なのか、俺が知らないだけかで、動きの元は分からなかった。

 エリオットやマキアスの二人は、遠距離で扱い慣れていない武器にも関わらず、自身の武器が一番活躍出来そうな動きと使い方をしていて、センスがあるなーとは思った。

 

 そんな感じに順調に進んでいたけど、不意にリィンが動きを止めた。その流れで全員動きを止めたんだけど……何かあそこの柱の陰に誰かいる気がするな。リィンもこの気配を感じたから止まったのかな。とりあえず、騎士剣でも投げてみるか。

 

「お、おい。ノクトそこには多分!」

 

「けっこう危ないね。当てるつもりはなかったみたいだけど」

 

 壁に刺さった騎士剣を引き抜いて、こちらにやって来たのはあの銀髪の女の子だった。最悪だ。よりにもよって彼女だったなんて……もう生意気な口なんて聞ける訳ないよ。

 

「変態のお兄さんも危ないことするね」

 

「い、いや違う……違わないけど」

 

「冗談。別に気にしてない」

 

 バレてたし。でも、許しくれるみたいでよかった。これで、許してくれなかったら、リィンと同じようになるところだった。本当に彼女の懐の広さには感謝だ。絶対後でお礼をしよう。

 

「フィー・クラウゼル。フィーでいいよ」

 

「もう半分は超えてるから、その調子で行けばいい。それじゃあ」

 

 去ろうするフィーにエリオットが心配するような言葉をかけるも、フィーは大丈夫だと示すように段差を軽々と超えて去って行ってしまった。すごすぎる身のこなしだな。一番最初に感じた予感は外れていないのかもしれないな。

 

 また少し進んでみると、剣が何かに当たる心地よい音が聞こえてきた。どうやら、ガイウスもリィンも聞こえたようなので、その場所に向かってみると、ユーシスが魔獣相手になかなかの立ち回りをしていた。

 

「……凄い剣さばき……」

 

「あれも帝国の剣術なのか?」

 

「ああ、貴族に伝わる伝統的な宮廷剣術……それもかなりの腕前だろう」

 

俺も騎士剣を持って宮廷剣術を習っていたから分かるが、ユーシスの宮廷剣術はこの学年の貴族全般のレベルよりを大きく上回っているように思える。貴族の子供が宮廷剣術を始める時期なんて、大体一緒だからユーシスのあの腕は多分教えてくれた人の腕も教え方も上手かったんだろうな。

 

「それで、何のようだ?」

 

「いや、お見事」

 

 ユーシスの名前は一方的に知ってしまっていたので、こちらの五人もリィンを皮切りに、今日何度したか分からない自己紹介をしていく。

 

「ノクト・クロンダルト。よろしく、ユーシス君」

 

「……クロンダルトか……一応改めて名乗っておこう。ユーシス・アルバレアだ」

 

 またクロンダルトについて知っている人がいた。このクラスでは、ラウラを除くとしても二人しか知っている人がいなかったのは、嬉しいし余計な隔壁を生まなくてすむから幸先良い感じかな?

 そして、案の定マキアスとユーシスが喧嘩をし始めた。一度思い切って殴り合ったらいいのに。それで、解消される悪い仲もあるからね。というより、マキアスの言葉がいちいち俺の胸に刺さって何故か申し訳なさが出てきてしまう。

 

「さぞ、僕たち平民のことを見下しながら生きてるんだろ!?」

 

「そんなことをお前に言われる筋合いは無いな。レーグニッツ帝都知事の息子、マキアス・レーグニッツ」

 

 マキアスが帝都知事の息子だということにユーシス以外誰も気づいていなかったみたいで、エリオットなんか驚きの声をあげた。連日新聞に載っていた時期もあるのに誰も気づかないとか、結構有名人だと思っていたんだけどなー。

 それに、ユーシスが付け足したけど、ただの平民というには些か新聞に載りすぎているとは思う。まぁ貴族か平民かで、結構待遇って違うからマキアスが貴族を嫌っているのも無理は無いとは思うけど。

 

 革新派と貴族派。ユーシスが煽りついでに話題に出したから、考えてみたけど、うちの家ってどっち派何だろうな。鉄血宰相と仲が悪いから革新派は無いけど、だからと言って貴族派というには父さんは貴族の地位に対してどうでも良さそうなんだよなー。今はそんなこと気にしても仕方ないか、現在進行形で殴り合いの喧嘩になりそうだし。喧嘩したほうがいいとは思ったけど今じゃないんだよな。

 

「今のは言い過ぎだ。親の話題を持ち出すなんて余り品がいいとは思えないぞ?」

 

 お、リィンが率先して注意してくれた。やっぱりこういうところが、マキアスやエマとはベクトルが違うけど、引っ張っていく素質なんだろうなって思う。

 

「フン……確かに口が過ぎたようだ。まあ、せいぜい協力してこの場を切り抜けるんだな。俺は俺で勝手にやらせてもらう」

 

ユーシスがどういう心境なのかは分からないけど、とっとと去って行ってしまった。フィーに対してはあんまり心配してなかったけど、なんかユーシスは心配なんだよな。

 

「……色々と難しい問題があるみたいだな?」

 

「ああ、帝国ならではの問題とも言えるかもしれない」

 

「んーあのさ。俺ユーシス君に付いて行ってもいいかな?なんか心配なんだよね」

 

「そうだな。武道を嗜むノクトが居てくれば、ユーシス一人よりも安全かもしれない。他のみんなはどうだ?」

 

「僕は大丈夫だよ。さっきの話からするとあと三分の一ぐらいだからね」

 

「ありがとう。四人も無事に合流しよう」

 

 リィン達四人に一旦の別れを告げると、ユーシスを追うためにそこそこのダッシュをすることとなった。そして少し進むとユーシスの背中が見えてきたので、声をかけた。

 

「ユーシス君。一緒に行こうよ」

 

「必要性がないな。一人でも充分だ」

 

「そうかな。自分で言うのも何だけど、俺そこそこの腕を持ってるよ?それに、俺に何か聞きたいとかあるんじゃない?」

 

 俺の言葉を聞いたユーシスは思っていた心持ちが当たっていたのか、若干動揺したように見えた。そこのところは、四大名門であるユーシスに勝った気がしてなんとなく気分は良い。さっきの態度からして俺の家のことだろうとは思うけど。

 

「フン、お前の家であるクロンダルトはあまりいい噂を聞かないなと思っただけだ」

 

「ああ……まあ家の管理する領土には基本領邦軍がいないから、変な噂が立つのは仕方ないとは思うけど……それが何か問題ある?」

 

「いや……」

 

 どうやらユーシスは聞きたいことを誤魔化すために、俺が嫌がりそうなことを言って付いてこさせないようにしたみたいだけど、家の悪い噂は聞き慣れているし、別にどうとは思わない。

 

 それから、ユーシスは俺の態度を見て離れていかないと判断したのか、ツンツンしながらも同行を許可してくれて、雑談をしたり何度か戦闘を一緒にして少しは仲良くなったと思う。そこから分かったユーシスの性格は思っていた以上にいい人で、なんだかんだ上手くやっていけるだろう。

 

「お前、何の流派を学んだらそんな動きになる」

 

「うーん流派は、アルゼイド流・ヴァンダール流・八葉一刀流・シュライデン流・泰斗流・宮廷剣術で全部かな?アルゼイド流とヴァンダール流と宮廷剣術以外は齧っただけだけどね。多分こんなに習っているから、変な動きになるんだろうね」

 

 俺のこのスタイルは他の人に真似されなくて対策もしずらいけど、一つの流派を極めていることにはならないから中途半端にしか学べず、上手く物に出来るまで人より時間がかかってしまったりもする。

 

「ならば、この剣ではお前に敵わないと思った方が良いな」

 

「そんなこと言って、目から負ける気が無いって感じがするよ?」

 

「フン……」

 

 意外にユーシスって負けず嫌いなのか。やっぱり、他人を深く知っていくと、その人のことを理解出来るから大事だよね。ユーシスとマキアスもお互いそうすれば良いのに。

 ゆるゆると歩きながら進んでいると、前で魔獣と戦っているフィーがいて、華麗なステップで敵を翻弄して、上手く攻撃を受けないよう立ち回っていた。加勢は必要無いと思いながらも、俺とユーシスはフィーに近づいていった。

 

「二人ともこんな所で何してるの?他の人たちはもう行ったよ」

 

「それは、お互い様だろう?」

 

「ま、そうかも」

 

「このまま三人で合流すれば良いんじゃない?もうすぐ終点でしょ?」

 

 まだ繋がりが薄く、流れて的に作られたグループだからか、会話は少ないが、少なくともユーシスもフィーもこの空間を苦には思っていないと思う。

 やっと終点が見えてきたら、そこには、すでに俺ら以外の全員が揃っていて、明らかに強者感の漂っている魔獣の相手をしているようだった。苦戦もしているようだったので、逆転の一手を打つためにもユーシスやフィーが攻撃を仕掛ける前に駆け出した。

 

「ラウラー!合わせて!」

 

「うん、了解だ!」

 

 俺とラウラは幼い頃から幾度も技を合わせてきた。こんな強敵相手に使う技だっていちいち言わなくても分かっている。両手剣を構え、ラウラと共に魔獣の身体に剣を食い込ませる。

 

「「奥義・洸刃乱舞!!!」」

 

 だが、俺らの技をくらったにも関わらず、その魔獣はまだ死んでいなく息も絶え絶えだが、技の後で隙のある俺とラウラに攻撃を仕掛けてきた。

 

「手間をかけさせる──エア・ストライク!」

 

 だけど、ユーシスがアーツを打ち注目をそちらに向けてくれた。その隙にフィーが魔獣に対して攻撃を加えて魔獣の体力のあと一歩という所まで来た。

 

「今だ!」

 

 リィンの号令によって全員が一斉に攻撃を加えようとしたら、全員の間に光の線が見えた。そのおかげかは分からないけども、全員が各々の完璧なタイミングで合わせることが出来た。過度なダメージに耐えられなくなったのだろう、その魔獣はついに消滅した。

 

「ふぅー、結構全力でやったんだけどなー。まだまだ修業が必要だな」

 

「ああ、私もノクトもまだまだ未熟だな」

 

 どうやら、みんなも光の何かに包まれたような感覚を味わったようで、それについて様々な考察を行っていて、みんなの動きが手に取るように視えたとの声もあったし、俺もそんな感覚を味わっていた。

 

「もしかしたらさっきのような力が」

 

「そう。ARCUSの真価ってワケね」

 

 お巫山戯を取り入れつつも現われたサラ教官は煽りつつも俺たちの成功を祝ってくれた。このクラスには、サラ教官みたいな、堅苦しいよりもこんな感じにおちゃらけていた方が合っていると思うな。まぁいきなり生徒をダンジョンに落とす教官にみんな不信感を抱いているようだけど。

 

「単刀直入に問おう。特科クラスⅦ組……一体何を目的としているんだ?」

 

 サラ教官が言うには、俺たちが選ばれたのには色んな理由があるみたいだけど、一番の理由はARCUS適正が高かったかららしい。しかも、さっき光った現象である戦術リンクと呼ばれるものは、どんな状況下でもお互いの行動を把握できて最大限に連携出来るように作られた、戦場に革命を持ってくるシステムらしい。

 

「トールズ士官学院はこのARCUSの適合者として君たち10名を見出した。でも、やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的な余裕があるわけじゃないわ。それと、ハードなカリキュラムになるはずよ。それを覚悟してもらった上で、Ⅶ組に参加するかどうか改めて聞かせてもらいましょうか?」

 

 みんな全然名乗り出ないな。まぁわざわざ、運良く特別なクラスに選ばれたのにそれを捨てる大馬鹿者がいるとは思えないけど……。

 

「ノクト・クロンダルト。参加を願います」

 

「流石だなノクト」

 

「……意外」

 

「一番乗りは君か……何か理由はある?」

 

「ここは兄も父も通っていた学院です。そんな場所で特別なクラスに選ばれた。そんな名誉なこと断るはずがありませんよ」

 

「なるほどね」

 

さて、これで他のみんなも出やすくなったんじゃないか?ラウラもわざと誰かが出るのを待っていたみたいだし。

 

「ノクトも参加するのならば私も参加させてもらおう。元より修行中の身。此度のような試練は望むところだ」

 

 ラウラが名乗りを上げたのを皮切りに、リィン、ガイウス、エマ、エリオット、アリサ、教官と知り合いらしいフィーも参加を表明して、残るはユーシスとマキアスだけになったけど、二人がよくわからない問答をしているうちに二人とも参加を表明した。この二人の関係性が一番よくわからないんだけど。

 

「これで10名全員参加ってことね!それではこの場をもって特科クラスⅦ組の発足を宣言する。この一年ビシバシしごいてあげるから楽しみにしなさい」

 

 ここから俺の学院生活が始まるのか。父さんや兄さんも見返せるような成長を身につけていくのを最終目標にしていくかー。今日寝る前にまたラウラと修行しよっと。

 



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人生で一番最悪な休日

 あの驚きと申し訳無さに大きく襲われた入学式オリエンテーリングから2週間ほど経った。この2週間の間に色んな科目の授業が行われ始めたんだけど……俺にはさっそく苦手な先生が出来た。

 それは帝国史を担当しているトマス・ライサンダー教官だ。トマス教官が苦手なのは歴史に関する造詣が深さ過ぎる余りに話が長くなることもそうなのだが、それに加えて、ことあるごとに俺をお茶に誘って来たりして、他の生徒よりも圧倒的に構われる機会が多い。一度理由を聞いてみたことがあったが、上手くはぶらかされたので、理由は全然分からない。

 

 俺が何故こんなことを考えているかというと、現に今、件のトマス教官の帝国史の授業を受けているからだ。そして、その結果、何回もこの授業をやってきて、教官が当てるなーというタイミングが分かってきたので、そういう時は今みたいに考えごとをしながら、目をそらしている。

 

「リィン・シュバルツァー君。ドライケラス皇子が最初に挙兵した辺境の地がどこかご存じですか?」

 

 ほら、リィンが当てられた。この人生で父さんに唯一褒められた情報整理能力と勘が良いことは自信があるから、こんな予想とかはよく当てるんだよなー。まぁリィンは可哀想だとは思うけど。

 

 それから、無事にトマス教官を乗り越え、帰りのホームルームでサラ教官に言われて気づいたんだけど、明日は自由行動日らしい。毎日の朝だけのラウラとの鍛錬では足りないから、明日はラウラを誘って遠出して道のりにいる魔獣でも倒す修行でもしようかな。入学オリエンテーションで実戦形式も大事だと学んだからラウラも賛成してくれるだろう。

 

「ラウラのこと一瞬借りてもいいかな?二人とも」

 

 ホームルームが終わってすぐに話しかけようとしたんだけど、すぐにアリサとエマと話し始めてしまった。うーん、申し訳無いけど、女子の会話は長くなりがちでいつ終わるか分からないから、途中で遮らせてもらうことにした。

 

「え、ええ。全然構わないわ」

 

「私も大丈夫ですよ」

 

 また俺がラウラを狙っていると噂されると、昔みたいにラウラを慕っている後輩達からご忠告を頂く可能性があるので、手短に終わらせる。

 

「いきなりどうしたんだ、ノクト」

 

「明日さ、そうだなー俺の家の近くで魔獣退治しない?」

 

「ああ、構わないぞ。いつもの時間に寮の前集合で構わぬか?」

 

「うん、もちろん。じゃあ、また明日」

 

 楽しみだなー。ラウラとの魔獣退治。これまではヴィクターさんか、クラウスさんが付き添いで無ければ危険で出来なかったことだから、二人きりで出来ることにすごく心が踊る。

 

 

「ねぇ、ラウラ。さっきノクトとどんな話をしてたの?」

 

「ん、明日魔獣退治に行こうと誘われてな。行くことにした」

 

「やっぱりお二人はお付き合いをしているんですか?」

 

「いや……違う。ノクトは多分私のことをそんな風には見ていないだろうからな」

 

 今の話をしているラウラの顔は何処か切なそうで、何かを諦めているようにも捉えられた。その表情の見たアリサとエマには、ラウラの心情を計り知ることは出来なかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 朝のトレーニングや鍛錬以外では、外に出ている人が少ない早朝。俺とラウラは寮の前に居た。

 

「相変わらず武器が多いなノクト」

 

「魔獣退治は何があるか分からないからね。いくつあっても損は無いよ」

 

 トリスタから家に近い位置にあるガレリア要塞までは鉄道を使っていくことにする。2週間前は逆方向から乗ってきたけど、もう家の近くまで帰ることになるとは思って無かったな。まぁ日帰りで帰ることになるだろうから、家には寄らないとは思うけど。

 

 列車に揺られ、ラウラと談笑したりしながらガレリア要塞まで乗って行く。今日という日が、ただただ普通に終わらないだろうなーと何処かそんな気がしながら。

 

 

★ ★ ★

 

 

 無事に列車がガレリア要塞まで着いた。ここから俺の家の近くまで山沿いを通りながら向かって行くルートだ。そこまではいくつもの村々があり、場所によるが、俺もラウラも行ったことがある村もあったりもする。

 

「ここ何年かはこの辺に来ていなかったけど、道のり苦労しない?」

 

「舐めてもらっては困るな。この程度の山岳道など問題無い」

 

 一歩一歩修行になるように噛み締めて歩いて行く。そして、たどり着いた村では、全員が何処か暗い表情をしていて言い表しにくい気持ち悪い空気感が漂っていた。

 

「あの、何かあったんですか?」

 

 ここは一応、クロンダルト家の領地に入る。だったら、例え家内であまり評価の高くない俺でも、領民を助けになるような事はしてみたい。

 

「い、いえ何にもありませんから。それよりも、もしかしてお二人様はこの先に行くのですか?」

 

「うん。そうだが……」

 

「そ、それはやめた方が良いと思います。今日はこの村で泊まってはどうでしょうか?」

 

 うーん、怪しい。この先にある何かを隠しているようなそんな気がする。ラウラと顔を見合わせる。ラウラも怪しいと思っているようで、何処か疑わしい目を相手に対して向けている。ここは少し迂回することになるだろうけど、村を超えて先に行ってみようかな。

 

「分かりました。では今日の所は引き換えさせてもらいます」

 

 あっさりと引き下がり、村の人が見えないような位置まで引き返して行く。ラウラも訝しげな顔をしながらも付いて来てくれた。

 

「ノクトも彼が怪しいと思っただろう?」

 

「うん」

 

「なら、何故引き返すんだ?」

 

「ここで強行突破をしたとしても、その隠された物だろうが、人だろうが、出来事だろうが隠されてしまう可能性が高い。だったら、俺はこの村を通らない迂回ルートを知っている。そっちから行った方が良い」

 

「ん、そうなのか。だったら迂回ルートで行くこととしよう」

 

 ラウラと共に迂回ルートを通る。迂回ルートは先程まで通っていた道よりも、険しく歩きにくい。だから誰も通ることは無いし、この辺の村の人も滅多に来ることが無いから、誰にも悟らさずこの先に進むには良い道だ。

 

 そこから順調に進んで行き、先程の村の位置ぐらいも超えて、また別の村がある場所に辿り着こうとしていた所、焦げ臭い匂いと酷い鉄の匂いが漂ってきた。

 

「ラウラ、この匂いって」

 

「何かが燃えている。鉄の匂いもしているな。急ぐぞノクト」

 

 ラウラと共に、全速力で駆ける。そして、忘れずに武器の装備をしておく。今回は、もう何かしらの戦闘が始まっている可能性が高い。なら、相手を俺に引きつけられて、先制攻撃がとりやすい武器……太刀でいくか。

 

 村に着いたが、そこにはもう崩れ去った建物や血だらけで死んでいる人、そして、武器を持ち村人と思しき人々を縄で括り殺している奴らがいた。

 

「なんと惨いことを!」

 

「あいつらが何者かは分からないけど、やらなきゃ」

 

「分かっている」

 

 ラウラはいつもの両手剣を構え、俺は太刀を構えて向かって行く。俺とラウラのコンビネーションは抜群だ。相手がどんなクズ野郎どもでも、絶対に俺たちで倒し切ってやる。

 

「八葉一刀流 二の型 疾風」

 

 まだまだ未完成だけど、注目は向くだろうし、多少の梅雨払いなら。でも、俺の太刀は切り掛かった最初の男に、いとも簡単に銃で止められてしまった。いくら集団戦用の技だと言っても、こんな簡単に止められてしまうものなのか?

 

「ぼちぼちだな学生。おい隊長!こいつらは依頼に含まれて無いけど、どうすんだ?」

 

「目撃者は消せとも依頼にある。殺してしまっても構わないぞ」

 

「へへ、了解だ」

 

 依頼……こいつらもしかして猟兵か?でも、誰が、何の為に。いや、そんな事を考えている場合じゃあ無い。一人でも多く俺がこいつらを倒さないと、ラウラにも負担をかけてしまう。

 

 

 俺は必死で戦った。これまで、身につけてきた全ての技や技術を使い戦い続けた。でも、そんな俺の技も力もプロの猟兵には全く届いていなかった。

 

 ラウラも必死でやっていた。両手剣を大振りに豪快に振りながらも、その隙をものともせず、相手を蹴散らしていた。しかし、猟兵によって手懐けられた犬や閃光や煙などの搦手を使われて、徐々に追い詰められていった。

 

 俺たち二人は縄で縛られた。二人とも多彩な猟兵の技や人数に翻弄されて全く敵わなかった。ここから、俺たちは殺されるんだろう……多分、慈悲なんて貰えない。

 

「やりますよリーダー」

 

「ああ、構わない。とっととそいつらを殺して、引き上げるぞ」

 

 

 

 死ぬ。明確にそんな感情を持ったのは初めてだった。いくつもの決闘や過激な研鑽をしてきたけど、死ぬと本気で思ったのは今が始めてだった。だけど、誰かが助けに来てくれる気がするとか、本当に死ぬのか?という現実を直視出来てない感情も大部分を占めていたおかげで、こんな状況であっても俺の心は不思議と冷静だった。

 結局父さんに言われたレールを途中まで進んだあげく、死ぬのか。こんなことなら、ラウラに正式に告白でもすれば良かったなー。でも……俺に他の人を凌駕するような特別な強ささえあれば、後悔することも無くラウラを守るような現実が訪れたのかもしれない。

 

 

Δ Δ Δ

 

 

 私は力不足だ。自分の人生すべてをアルゼイド流に捧げて、この人生を生きてきたのに、ノクトを守れもせず、自身の身さえも満足に守れない。何の為にここまでやってきたのか分からなくなる。……こんな時、父上ならこの村にいる全員を守り、この場を収めることが出来るのだろう。それが出来ない自分が情けない。死ぬのは怖い。しかしそれよりも……私が例えこの場を生き残った時、それまでの私でいられるかが怖い。剣を持つことが出来るのだろうか……。もっと卑怯になるべきだったんでは無いか。後悔が止まらない。

 

 

Δ Δ Δ

 

 

 ノクトとラウラは縄で体を括られ、静かな表情をしていた。決して死を受け入れたわけでは無いとしてもその表情は何かを悟り、各々が現状に対する思いを心の内でため込んでいるようにも見える。

 

「ノクト……すまないな。私のせいで」

 

「ラウラ、ラウラのせいなんかじゃ」

 

 猟兵二人が銃を構える。苦しまずに殺せるようにしっかりと狙いを定めながら。そこに、一切の容赦は無く、慈悲も無い。現実とは非常なものだとノクトとラウラに改めて思い知らせるものだった。

 ラウラの表情はどこか生気が抜けているように見え、ノクトは悔しさと顔を滲ませるばかりだった。

 

 そして引き金が引かれた。

 

 




終わりません。

区切りの良い所でノクト君のプロフィールを書こうと思っています。


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人生で一番最高な休日

明確な分岐点です


 引き金が引かれるその直前、この村に居る猟兵全員の胸が目にも止まらぬ速さで貫かれ、一人残らず血を吹き出し絶命した。死ぬ直前で覚悟を決めお互いを見つめて、じっと待っていた俺たちにはその光景はよく見えていた。鋼の鎧を見に纏った人が目にギリギリ映るか映らないかの速度で持っている槍で殺して行っていたのを。

 

「ふぅ。これで全員ですか」

 

 その鎧を纏っていた人の声は何処か大人びた雰囲気の女の人の声だった。そして、その声を聞いたラウラは猟兵から出た血で服が汚れながらも彼女に対して尊敬の眼差しを向けていた。

 

「すまない!私を弟子にしてはいただけないでしょうか?」

 

 相手が何故猟兵を殺したのかも相手がどんな人物なのかも分からないのに、ラウラはすでに彼女が良い人だと確信しているように感じられた。かく言う俺も自身の命を助けてくれた彼女には恩義も感じているし、特別な強さを学べるとも思ったのでラウラに続くことにした。

 

「俺もお願いします!」

 

 彼女は仮面をしているので顔色は伺えないが、俺たち二人をじっと見ているように思えた。

 

「……まずは、自己紹介をしてからにしましょうか」

 

 俺たちはまだ名も名乗っていなかったことに気づくと、一気に恥ずかしさが込み上げてきたので、さっと立ち上がり姿勢を正して自己紹介を始めた。

 

「トールズ士官学院一年ラウラ・S・アルゼイドです」

 

「同じくトールズ士官学院一年ノクト・クロンダルトです」

 

 俺たちの名前を聞いた彼女は少し反応したかのように見えたが、仮面を被っているので、どんな反応をしていたかは分からなかった。

 

「……これも運命なのですかね」

 

「いかがなされた?」

 

 彼女から哀愁漂うような雰囲気が出たけど、それがどのような思いなのかは俺たちには理解することが出来なかった。

 

「いえ。……私の名前を名乗っていませんでしたね。私はアリアンロードと言います」

 

「弟子にしてくれとのことですが、ラウラもノクトもまだ学生です。弟子に取ることは出来ません。しかし、二人には見込みがあります。月一で稽古をつけるのはどうですか?」

 

 弟子にして貰えないのは残念だけど、俺らからしてみればアリアンロードさんような絶対的な強者に稽古をつけてもらえるだけで嬉しい。もう二度と自分の力不足でラウラを守れないなんてことにはなりたくないから。

 

「もちろん。お受けさせていただく」

 

「俺もです。よろしくお願いします!」

 

 命を助けてもらって、すっかり忘れていたけど……俺たちの周りにはこの村の人や猟兵の死体が横たわっていた。ここは父さんの領地だから、今日中に連絡をつけて何とか対処してもらわないと。

 

「アリアンロードさん。稽古をする場所は何処かがいいとかありますか?」

 

「人が居ない所がいいですね」

 

「じゃあ、ルナリア自然公園の近くとかどうですか?」

 

「分かりました。では、来月の初めの休日にその場所に。ああ、それと私のことはくれぐれも内密で」

 

「承知した」

 

 これからのことを打ち合わせ終わると、アリアンロードさんは俺たち二人の頭を優しく撫でて、霧のような何かに包まれて消えていった。頭を撫でてくれたその腕は鎧を見に纏っていたけれど暖かさが感じられて、母親の顔を覚えていない俺とラウラは数滴の涙を流してしまった。

 

「ああ……私はあの方のようになりたい。ノクト、一緒に目指さぬか?」

 

 ラウラの目は決意に溢れていた。この目標を絶対に叶えようとするだろうし、そのためなら手段も問わない覚悟かもしれない。俺も同じ思いだ。

 

「もちろんだよ。一緒にあの人の元へ辿り着こう」

 

 それから俺たちは村のことを知らせる為に、父さんの住む領地まで向かった。出来れば父さんとは会いたく無かったので、家の外に居た使用人に伝言を伝えてもらった。使用人の人曰く、すんなりと話を聞いてくれたらしく、すぐに後処理をしてくれるらしい。父さんなら何に関しても無関心が多いので、何も詮索はしないでいてくれると思う。

 

 

 こうして俺らの素晴らしい休日は終わった。血で汚れた服は綺麗に洗って新しい服を購入し、制服を着こなして、なんとかトールズ関係者には見られないで済んだ。本当に死ぬ思いをしたけれど貴重な経験を出来たし、素晴らしい師匠とも出会えた。今日は人生で一番最高な休日だ。

 

 

★ ★ ★

 

 

 トリスタに着く頃にはもう日が沈んでいたけれど、帰りが遅かった俺とラウラを心配して、みんなが寮で食べる夜ご飯を待っていてくれた。お礼を言い、ご飯を食べながら今日のことはトラブル無く終わったと話したりした。

 他のみんなは何をしていたかと聞いてみたら、リィンとエリオットとガイウスは旧校舎の調査に行っていたらしい。あんな場所によく行くなーと思ったけど、どうやら地下の構造も変わっていたようで、まだまだ調査が必要らしい。

 

「もし、次調査することがあったら、ノクトも行こうよ!」

 

「了解ー。俺が暇そうだったら声かけてよ。直ぐに行くからさ」

 

 あの人の稽古に加えて、旧校舎の魔獣退治で腕が磨けるとは、中々にラッキーな事ばかりだよな。よし!このまま強くなって誰にも負けないようになるために頑張ろう。

 

 

★ ★ ★

 

 

 あれから3日ほど経って、前にサラ教官が言っていた実技テストというのをやることになった。前以上に修行も取り組んでいて、何処まで参加出来るか分からないけどフェンシング部にも入ったから、実技能力は上がっていると思う。

 

「前もって言っておくけどこのテストは単純な戦闘力を測るものじゃないわ。『状況に応じた適切な行動』を取れるか見るためのものよ。その意味で、何の工夫もしなかったら短時間で相手を倒せたとしても評点は辛くなるでしょうね」

 

 サラ教官の言うことは今になって思うと身にしても理解出来る。この間だって、あんなに多くの猟兵がいたのに無謀にも突っ込んでしまった。これからは教官の言う通り、状況に応じた適切な行動と工夫をしなきゃいけない。

 ラウラもそのことを思っているのか、顔が少し硬っている。俺らはお互い自分達の戦い方をもっと変えるべきなんだろうな。

 

「ふふ──それではこれより、4月の《実技テスト》を開始する。リィン、エリオット、ガイウス。まずは前に出なさい」

 

 いきなりこの三人なのか。でも、この三人は旧校舎の調査をやったメンツだから、教官的には実戦を経験をしたとして成功が一番高いと思ったのかな?俺も誰と組むことになるかは分からないけど、しっかりとやらないと。

 相手はサラ教官が出したよく分からない人形みたいなやつで、作り物らしいけど、見覚えがある気がしないでもないようなフォルムだった。リィン達三人はこの間出てきた光の線みたいなやつを上手く使って連携しながら人形を撃破することに成功していた。

 

「うんうん、悪くないわね。戦術リンクも使えたし、旧校舎地下での実戦が効いているんじゃないの?」

 

 さてと、そろそろ呼ばれるかな?でも、呼ばれるとしたら、ラウラとの連携は出来るから、これからのことも考えて他の人と組んでみたいかな。

 

「ラウラ、エマ、ユーシス、前に出なさい!」

 

 おお、この三人になるのか。でも、ラウラのことは少し心配だな。あの日から、実戦形式で訓練はしていないから、トラウマなんかになっていないといいんだけど……。

 そんな俺の心配は無用だったように、ラウラは他二人と上手く連携して人形を倒すことに成功していた。でも、何処かラウラの動きに荒々しさが足されているように思えた。これも新しい戦い方を模索する上で考えたことなんだろうな。

 

 最後は俺とアリサとフィーとマキアス。相変わらずマキアスとは関係が微妙だけど、ユーシスほどでは無いから、何とか及第点レベルの連携が出来た。それより、フィーは全然連携が必要が無いぐらい動きが良いと思うんだけど……サラ教官と知り合いだったみたいだし、稽古でもつけてもらっていたんだろうな。

 

「さて、実技テストはここまでよ。先日話した通り、ここからはかなり重要な伝達事項があるわ。君たちⅦ組ならではの特別なカリキュラムに関するね」

 

 こんな風に貴族クラスや平民クラスに無いカリキュラムが本当にあると改めて言われると、自分達が特別なクラスなんだなって感じることが出来るなぁ。

 

「それじゃあ説明させてもらうわ。君たちに課せられた特別なカリキュラム……それはズバリ、特別実習よ!」

 

「と、特別実習……ですか?」

 

「君たちにはA班、B班に分かれて指定した実習先に行ってもらうわ。そこで期間中、用意された課題をやってもらうことになる。まさに特別な実習なわけね」

 

 おおー学校からの許可の上で帝国中を見られるってことか、すごいな。でも……もしかしたら四大貴族の家がある都市に行くこともあるのか。それは居心地がちょっと悪いな。あ、クロンダルト家の領地に来る可能性もあるのか。それも嫌かな。

 

「その口ぶりだと、教官が付いて来るというわけでもなさそうですね?」

 

「ええ、あたしが付いていったら修行にならないでしょ?獅子は我が子を千尋の谷にってね」

 

「なんだかんだ言って、着いて来そうですねサラ教官」

 

「ふふ、それはお楽しみね」

 

 絶対来るじゃん。

 

「結局、俺たちに何時、どこへ行けと言うんだ?」

 

「さっきも言った通り、君たちにはA班、B班に分かれてもらうわ。さ、一部ずつ受け取りなさい」

 

 [4月特別実習]

 

 A班:リィン、アリサ、ラウラ、エリオット、ノクト

   (実習地:交易地ケルディック)

 

 B班:エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス

   (実習地:紡績町パルム)

 

 おおラウラと一緒のメンバー嬉しいなぁ。てか、マキアスとユーシスが一緒のメンバーとか、サラ教官二人を仲直りさせようとしてるじゃん。良かったーあっちのチームじゃなくて。

 それより、行く場所はケルディックなのか……何度か行ったことがあるけど、課題になるようなものあったかなー。

 

「ほう……興味深い班分けだ」

 

 ラウラを初めとした、みんながチームメンバーに対して気づき始めると、アリサが嫌な顔をし、リィンが申し訳なさそうにし、マキアスとユーシスはお互いを睨んでいた。こんな感じで仲直り出来るのか?

 

「日時は今週末。実習期間は2日くらいになるわ。A班、B班共に鉄道を使って実習地まで行くことになるわね。各自、それまでに準備を整えて英気を養っておきなさい!」

 

 楽しみだなー特別実習。アリサとかはあんまり関わりが無いから、今回の実習で絡みが増えると良いな。後、リィンにも八葉一刀流のことで話してみたいかな。何にしても、アリアンロードさんに話せるような経験が出来る気がする。




段々と堕ちていきます


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意外に特別実習は忙しい

遅くなってすみません。



 いよいよ特別実習の日となった。前日は今日に備え、早めに寝たこともあり、体調は万全だ。部屋から出るとちょうどエリオットとラウラも部屋から出たところだった。そのまま流れで三人で一階に降りると、アリサとリィンが二人で喋っていた。珍しいものだなと思って話を聞いていると、二人はやっと仲直りしたみたい。これで班行動も雰囲気良くなりそー、良かったー。

 

 用意が整ったので、駅のホームに行くと、B班の人たちがすでに受付に居た。委員長であるエマがまとめているみたいだけど、マキアスとユーシスの仲は相変わらずだから、上手くいくかどうかが本当に心配だ。まぁだからといって、マキアスとの距離感が微妙な俺にはどうしようも無いことだけど。

 

 列車に乗ると、みんなと一緒にケルディックについての話をしてみた。俺は一度、二度行ったことがあるので、その経験も含めてケルディックのことをまとめてみた。トリスタからケルディックまでは一時間ほどかかり、大市と呼ばれる場所が町の中心にあって、交易地と有名な地域だ。麦なんかも有名で、良い人ばかりの所謂良い田舎だという印象が強い。

 

「え、何で来てるんですか?」

 

「……どうも朝から見かけないと思ったら」

 

 ケルディックについて粗方まとめ終わったので、次に特別実習についての詳細をみんなでまとめていたら、それを補足するようにサラ教官が列車に現れた。乗った気配が全くしなかったので、本当にいつ乗って来たんだ?しっかりと運賃を払ったか心配だ。

 

「VII組A班全員揃ってるみたいね。ちゃんと仲直りもして、まずは一安心ってとこかしら?」

 

「その教官はどうしてここに?俺たちだけで実習地に向かうという話だったんじゃ?」

 

「んー、最初くらいは補足説明が必要かと思ってね。宿にチェックインするまでは付き合ってあげるわ」

 

 エリオットも心配してるけどA班の方がサポートが必要だと思うし、俺たちに心配するようなことは無いと思うけどなー。

 

「あちらに同行した方が良かったのではないか?」

 

「えー、だってどう考えてもメンドクサそうだしー。あの2人が険悪になりすぎてどうしようもなくなったらフォローには行くつもりだけど」

 

 うわー、やっぱりこの教官尖ってるよ。それでも、実力はある気がするから、尊敬はしたいんだよな。それに、サラ教官がクラス内の雰囲気を改善しようと思って、こんな感じのグループ分けにしたのは納得出来るから。

 それから、サラ教官は何故か寝てしまったので、五人で雑談をすることになった。

 

「ケルディックでノクトがおすすめしたい場所とかはあるのか?」

 

「うーん、まぁそうだなー。畑の麦の匂いを嗅ぎながらする鍛錬なんかはリラックスしながら出来るからオススメだよ。もちろん、大市も食べ物やお土産まで多種多様だから、行かない理由は無いね」

 

 リィンが中心に回りつつも会話が回っていると、エリオットがカードゲームのブレードを取り出した。懐かしいなぁ。何年か前に、兄さんとあいつと一緒に遊んだっけ。今は全員別々に暮らしているから、もう三人では出来ないけど……

 

「時間もありそうだし、みんなで遊んでみない?」

 

「いいアイデアだと思うよ。俺とリィン君がルールは分かるから、アリサさんやラウラも一緒に出来るね」

 

「よし、じゃあみんなでやってみるか」

 

 途中、途中、会話なんかを挟みながら、ブレードを楽しんだ。俺自身慣れているから、そこそこ勝てたけど、リィンには負けてしまった。なんか、リィンは大物になる気がするからこういうのも得意なんだろうな。

 そんな感じに絆を深めていると、列車の窓から麦畑が見えており、やっとケルディックにたどり着きそう。

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 

 

 ケルディックは前に見た時とさほど変わりない、のどかな風景だった。サラ教官はこの辺りで有名な地ビールを飲みに行きたいらしい。ただお酒を飲みに来ただけじゃないのかな?

 その後、教官によって案内された宿は一階が酒場となっており、女将とのあいさつを終えると、僕たちが部屋へ案内される中、さっそくお酒とつまみを注文していた。やっぱり呑みに来ただけじゃないか。

 

「え、」

 

「あ、」

 

「そうゆうことか」

 

 案内された部屋は一つで、部屋の中には全員分のベッドがご丁寧に置いてあった。全員が同じ部屋に寝泊まりするという事実に、アリサは普通の反応で嫌がっていたが、ラウラ含め他のみんなはそこまで問題では無いみたいだった。俺に関しても、昔からラウラとは家を泊まりあっている仲なので、あまり気にしてはいなかったりする。結局、アリサは同じ女子であるラウラの説得もあり、男子三人を警戒しながらも了承してくれた。

 とりあえず、今回の武器袋は少し軽めで、太刀・片手剣・チャクラムという構成だ。少し火力が足りないとは思うけど、今回はラウラやリィンがいるから火力方面は大丈夫だと思う。

 

 女将さんからもらった特別実習の課題の内容は手配魔獣や街道灯の修理、薬の材料の調達なんかの雑用が多かったけど、これが課題なのか?もっと素直に強さを競うやつか、貴族や領事軍に対して話を聞くものかなと思ってた。やっぱり特別なんて言葉がつくと、俺が想像つかないことばかりだな。

 

「とりあえずサラ教官に確認してみよう。こういう疑問に答えるために付いて来てくれたみたいだし」

 

「ふむ、道理だな」

 

 色々と聞きたいことを聞きにサラ教官の元へ向かうと、案の定ビールを飲んでいた。その酔いのせいかガチなのかは分からないけど、実習期間が二日なことと意味深なことを色々言っていた。それに対して、俺含めみんな意図が理解出来なかったけど、リィンは理解出来たようで一旦外に出て、その意図を聞いてみることになった。

 

「どうやら何か気づいるみたいだけど?」

 

「ああ、先日の自由行動日。俺は生徒会の手伝いで旧校舎の地下の調査以外に、今回みたいなお手伝いや手助けをしていたんだ。一通りこなしてみると、学校やトリスタのことについてよく知ることが出来たんだ。多分、目的にはそういったものも含まれていると思うんだ」

 

「そういった依頼を通じて見えてくることもありそうだね」

 

「サラ教官の思惑はともかく……まずは周辺を回りながら依頼をこなしていかないか?」

 

「そうしよっか。リィン君は手伝いで経験があるみたいだから、全体的に合わせるよ」

 

 そこからはそれぞれの依頼の詳細を町民のみなさんから聞いて、解決の為に奔走した。街道に出たりして、魔獣と戦った後はリィンの太刀筋を見たりしたラウラがリィンに何かを言おうとしていたみたいだから、街道付近を散歩していて、リィンがアリサとエリオットと話している今、聞いてみようと思う。

 

「ラウラ。少しいいかな?」

 

「どうしたんだノクト?」

 

「リィンについて何か気になることでもあるの?」

 

 その時のラウラの反応はまるで自分を恥じるようなものだったけど、直ぐに元の表情へ戻すと、いつもよりも少しだけ暗く話し始めてくれた。

 

「ノクトも気づいているとは思うだろうが、リィンの太刀筋は八葉一刀流のものだ。だが、そうにしては少し手を抜いているようにも感じるのだ。それが剣の道を歩むものとしてはどうかと思ってな。それにそんなことをしていれば、我らのように後悔をする時が来る。それを思うと理由が聞いておきたいのだ」

 

 ラウラの懸念はもっともだと思う。俺もリィンが八葉一刀流だと分かってはいたけど、ラウラが気づいたみたいに手を抜いているなんて気づくことが出来なかった。リィンにどういう事情があれ、そんなことをしていれば、いざという時に俺たちのようになってしまうかもしれないな。

 

「うん。そうだね。ラウラの言うとおりだと思う。理由ぐらいはしっかり聞いておかないと」

 

「ああ、夜に聞いてみようと思う」

 

 そんなことを言いながら一旦町に帰って来ると、この辺の領邦軍にばったりと会ってしまった。この辺の領邦軍と言ったらアルバレア家の領邦軍で、クロンダルト家は嫌われているので、下を向いて対応はみんなに任せようと思う。主にリィンが対応してくれたおかげで、なんなくと済んだけど、小隊長と名乗った人物とは目が合ってしまった。特に何か騒ぎに巻き込まれなければ、クロンダルト家の人間だとはバレないと思う。

 

「そんな縮こまってどうしたのノクト?」

 

「いや、俺の家の領地は一応クロイツェン州に入っているんだけど、微妙な位置ということと、昔からの伝統というか決まりで領邦軍を領地に入れたことが無くて、仲が悪いんだ」

 

「なんというか、災難だな」

 

 多少の同情をみんなから受けながらも、俺たちは次なる依頼のために動き始めた。

 

 

 ♦ ♦ ♦

 

 地形把握と依頼のためにまた街道を探索していると、次にアリアンロードさんと会う約束をしているルナリア自然公園の入り口に着いた。しかし、そこには見張り?管理人?が二人居た。

 

「ここに何か用かよ?」

 

「少し通りかかっただけだが……そなたたちは?」

 

「俺たちゃ、この自然公園の管理人だ。見ての通り、今は立ち入り禁止でな。悪いが出直してもらおうか?」

 

「何か工事でもやってるんですか?」

 

「あーそんなところだ。ほら、分かったら帰った帰った。俺たちは忙しいんだ」

 

 特に今は依頼とは関係無いので離れることになったけど、何かある気がするんだよな。あの管理人達も何処か管理人ぽくないし、アリアンロードさんとの約束もあるし、来月まで入れないと困るんだよな。特別実習の内に時間があれば、侵入してみようかな。

 

 

 そんな寄り道をしながらも、依頼を達成し終えた俺たちは宿に帰ろうと町の中を歩き始めると、大市の方から騒ぎが聞こえてきた。

 

「気になるわね……ちょっと行ってみる?」

 

「ああ、そうしよう」

 

「ふざけんなあっ!ここは俺の店の場所だ!シャバ代だってちゃんと払ってるんだぞ!?」

 

「それはこちらの台詞だ!許可証だって持っている!君こそ嘘をいうんじゃない!」

 

 二人の商人がお店の場所を巡ってトラブったらしく争ってらしく、つかみ合いの喧嘩の一歩手前までいっていた。それを止める為にリィンとラウラが動き始めたのでラウラを止めて、俺とリィンで二人を押さえ込んだ。

 なんとか、落ち着いた所にこの大市の元締めのオットーさんが来てくれて二人のことを一旦は収めてくれて、家に招待してくれた。

 オットーさんが言うには今回の特別実習の依頼を斡旋してくれたらしい。それに、さっきの揉み合いの解決もしてくれたみたいだけど、原因はアルバレア公爵家の売上税の上昇の反対に対しての嫌がらせが話している内容の中では一番ある線だと思った。領邦軍もそれに連動して大市には不干渉を貫いているらしい。ユーシスには申し訳ないけど、やっぱりアルバレア公爵家って面倒くさいな。これを嫌ってうちの先祖も領地に領邦軍を入れないことにしたのかな?

 

「他家のやり方に口を挟むつもりはないが、此度の増税と露骨な嫌がらせはさすがに問題だろう。アルバレア公爵家当主……色々と噂を聞く人物ではあるが」

 

「ユーシスのお父さんだよね?いっそユーシスに相談する訳にはいかないよね?」

 

「いや、無駄だよ。家の決定は当主自身で決める場合が多い。ましてや、ユーシス君は長子でも無いから、言うだけ迷惑をかけるだけだよ」

 

「やっぱり無理かぁ……」

 

 そんな風に多分解決策が出ないことを話し合っていると、快活な声を上げながらサラ教官が来てくれた。

 

「予想通りB班の方がグダグダになっているみたいだからちょっとフォローしてくるわ」

 

「今からB班の実習地に向かうんですか?」

 

「やっぱり……強者は」

 

 アリアンロードさんも去るときはまるで消えるように居なくなったし、サラ教官もそれを使って移動するんだろうな。次に会う時にアリアンロードさんに聞いてみようかな。

 

「そういうわけでこちらは君たちに任せたわ。せいぜい悩んで、何をすべきか自分たち自身考えてみなさい」

 

 俺たちに対するアドバイスを一言だけ言って、サラ教官は颯爽と去って行った。本当にズルい先生だとは思う、普段は不真面目なのに、偶に言う言葉には人生経験から来るかは分からないけど、重みが混ざっている。だから、サラ教官はこのクラスの担任に相応しいだろうな。

 

 もう夕方になって、レポート課題にも取りかからなければならないので、1度宿に帰ることになった。

 





簡単なプロフィール。(公式サイト風)

ノクト・クロンダルト 17歳 cvイメージ梅原裕一郎さん

 帝国北東部のクロスベルの北部の地方貴族クロンダルト伯爵家の次男。
 明るく常に相手をリスペクトした態度や喋り方を取る誰とでも打ち解けやすい少年だが、自身が普通だということを嫌っており、特別という言葉や特別に憧れを抱いている。
 幼い頃から父親の方針により、さまざまな流派の武術を嗜んでおり多彩さではⅦ組一を誇るが、どれも中途半端なことを悩んでいる。
 父親と兄が卒業生で、ラウラも入学するということでトールズ士官学院への入学を決めた。


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剣の道は茨の道だと教えたい

夏休みとコロナでモチベーションが下がってました。回復したので再開していきます


 特別実習一日目の依頼が終わり、みんなで宿の中で食事をしながら雑談をしていた。その中の話題で自分達の志望理由がⅦ組の結成の共通点と予想したリィンが提案したことにより、みんなの志望理由を言っていくことになった。

 

「ふむ――私の場合は単純だった。目標としている人物に近づこうとしたところだ」

 

「目標としている人物?」

 

「ふむ、それが誰だったかはこの場では控えておこう」

 

 入学する前にラウラに聞いた通りだと、その目標としている人はお父さんのヴィクターさんだとは思うけど、今の口ぶりから今はアリアンロードさんかヴィクターさんどちらのことを言ったのか分からない。

 

「アリサの方はどうだ?」

 

「色々あるんだけど、自立したかったからかな。ちょっと実家と上手くいってないのもあるし」

 

 実家か。アリサの方もRと誤魔化しているだけあって、バレたくない家なんだろうな。有名貴族か、もしかしたら他の国の有名な血筋の可能性もあるかな。

 

「うーん、その意味では僕は少数派なのかなぁ……元々、士官学院とは全然違う進路を希望してたんだよね」

 

「確か音楽系の進路だったか……」

 

「あはは、まあそこまで本気じゃなかったけど」

 

 アリサもエリオットも自分の意思をしっかり持ってこの学院を選んでるなんてすごいな。俺なんて……。

 

「ノ、ノクトはどうなの?」

 

「お、俺?俺にそんな立派な理由なんて無いよ。ただ兄さんが通っていた学院ってことと、ラウラが通うから通うことにしただけだよ」

 

 流石になんとも言えない理由だったからか、場が少しシーンとしてしまった。

 

「……リィンはどうなの?」

 

「……俺は……そうだな。自分を――見つけるためかもしれない」

 

なんだろうか。今までリィンのことは何処か特別感がある人で、自分とは違う特別な人だと思っていたけど、なんか昔の俺みたいな悩みを抱えているのかと思うと、親近感が沸いてくるな。

 

「いや、そんな大層なことじゃないんだ。あえて言葉にするならそんな感じというか……」

 

「そんな思い詰めて言うことじゃないよリィン。みんな自分を探してるんだし」

 

「そうそう。カッコよくていいじゃん」

 

 そんな感じで結局共通点を割り出すことは出来なかったけど、他の人の人となりをよく知れたから、意義のある雑談になったと思う。

 

 明日の予定を女将さんと一緒に確認し終わり、部屋に戻ろうとすると、リィンに対してラウラが声をかけていた。多分この前言っていたリィンが手を抜いている理由を聞きたいんだろうな。ラウラにはラウラなりに伝えたい思いがあると思うので、今回は聞き役に徹するかな。

 

「どうしたんだ?」

 

「ノクトとも相談していたが、聞いておくことにしよう」

 

「そなた。どうして本気を出さない?」

 

「そなたの太刀筋はノクトと同じ八葉一刀流のものに間違いないな?」

 

「……ノクトには気づかれていると思っていたけど、ラウラにも気づかれていたなんてな」

 

 やっぱりそういったことを意識してリィンの方を見ていたらバレるのも仕方ないよな。ラウラは冷静に話していっているように見えるけど、いつもよりも激情感が出ているみたい。

 

「俺は……ただの初伝止まりさ。確かに一時期、ユン老師に師事していたこともある。だが、剣の道に限界を感じて老師から修行を打ち切られた身だ」

 

「……うむ」

 

「その、だから別に手を抜いているわけじゃないんだ。八葉の名を汚しているのは重々分かっているけど……これが俺の限界だ。……誤解させたのならすまない」

 

 あのユン老師直々に師事してもらったリィンを羨ましく思うと同時に、初伝がもらえていることに少しの嫉妬を抱いてしまう。それに、リィンの気持ちも分かるけど、今のラウラには限界なんて言葉は使わない方が良い。

 

「リィン。そなたは何も分かっていない。限界などと自分を決めて己の命が守れるのか!?周りの人間を守れるのか!?」

 

 ラウラはいつもの冷静さが見えないほどに息巻くしながらリィンに対して言葉を詰めていた。リィンとラウラの問答を見ていたアリサもエリオットも見たことも無いラウラの姿に引いているようだった。俺もあの出来事を経験していなかったら同じような対応だったのかもしれない。

 

「ラウラ。君は……」

 

「……すまない。少し頭を冷やしてくる」

 

 ラウラがそう言って宿屋から出て行ってしまったこの場の空気は静かな空気となっていた。

 

 

「ノクト。少しいいか」

 

 手持ち無沙汰になったエリオットやアリサの近くに居た俺の元へ傷心気味のリィンが来た。

 

「どうしたんだリィン」

 

 まぁ大体の内容は検討はつくけど。

 

「……ラウラの過去に何があったんだ?」

 

 ラウラの過去。ラウラが自分の強さに疑問を持ったきっかけ。それは死を明確に認識したあの時のことだろうけど、リィン達に言っても良いのだろうか……。でも、言わなければラウラとⅦ組に溝が生まれてしまう。俺がやられなきゃ。

 

「……俺とラウラはさ、ついこの間に殺されかけたんだ。全力で戦った。でも、足元に及ばずに死というものを明確に味わったんだ。……なんとか助かったんだけどね」

 

 俺が出していた暗い雰囲気と話の内容によって三人は絶句しているようで声も出ていなかった。

 

「俺が言えるのはこれだけだよ。ラウラのところに行ってくるよ」

 

 突っ立っている三人を置いて、外にいるラウラの元へ向かった。ここまで話してⅦ組のみんななら、ラウラを受け入れてくれると思う。この短い期間の付き合いだけど、そのくらいのことならやってくれるほどの人間性はあることは分かる。

 

 

♦ ♦ ♦

 

 

「ラウラ」

 

「ん、ノクトか。リィン達にあのことを話したのか?」

 

 ラウラは風に吹かれ、星空を眺めながら黄昏れていた。その表情はついあんなことを言ってしまったことを後悔してしまっているようで、俺も人のことは言えないけどラウラは本当に不器用なんだなと思ってしまう。

 

「うん。多少なりとも言っておかないとな。大丈夫、あの人のことは言ってないし、猟兵のことにも触れていない」

 

「ああ、気遣わせてしまったようだな。すまない」

 

「――――私は今こうしている間もリィンへの怒りが取れないのだ。リィンにはリィンの事情があるとは分かっているのにも関わらずだ。父上やアリアンロード殿なら、こんな迷いなど抱きはしないだろうにな」

 

「ラウラ。俺はさ、無理して怒りを押さえろなんて言わないし、俺だってそんな器用な真似も出来ない。だけど、無理してヴィクターさんやあの人にならなくても良いと思うよ。俺らは子どもで、あんな大人にまだまだなれないだろうから、時間をかけていこうよ。……出来れば一緒にさ」

 

 昔はラウラに教えられることばっかりだったから、こんな風にラウラに俺の考えを伝えるのは不謹慎だけど、少し嬉しく感じてしまう。

 

 

「ああ……そうなのだな。私は焦り過ぎていたんだろうな。感謝するノクト」

 

「いや、これくらい良いよ。明日もまだ特別実習があるんだし、早く戻ろう」

 

 俺の言葉一つで、俺の剣筋一つで、ラウラのことをずっと守れるのならば、どれだけでもやってみせる。それは俺にしか出来ないと思うから。

 

 

♦ ♦ ♦

 

 

 次の日、女将さんから今日の依頼を受けとった。内容は昨日と変わり映えしないけど、今日の実習が夕方までということを考慮してくれたのか、一つ少なくなっていた。結局、昨日はラウラとリィンのゴタゴタがあったから、ルナリア自然公園の管理人の怪しさを調査することは出来なかったなぁ。まぁ、アリアンロードさんに師事してもらうまでにはしっかり調査しようかな。

 

「――ラウラ。昨日はすまなかった。八葉一刀流を、剣の道を軽んじ、自分の人生を否定していた。ラウラの言う事態も起こるかもしれないのにだ。それを気づかせてくれたラウラには感謝と謝罪をさせてほしい」

 

「私もすまなかった。リィンの事情も知らないにも関わらず勝手な物言いをしてしまって」

 

 エリオットもアリサも今日一日どうなることかと思ってビビっていたみたいだけど、早々にわだかまりが無くなって安心しているようだった。かくいう俺もなんだかんだ言って安心感を得れていた。お互いに仲直りが出来て、気持ち新たに依頼に挑めるようになったと思ったんだけど、大市に出ている屋台の商品が盗まれるという事件が起こったらしいのだ。

 流石に事件と聞いて、放って置くのは士官学院の人間として出来ないので、満場一致で大市に様子を見に行くことに決定した。

 現場に行ってみると、盗難騒ぎにあっていた商人は前日にもめていた二人で、元締めが間を取り持っているにも関わらず、言い合いがヒートアップしていた。

 

「待った!!」

 

 それを見かけたリィンが颯爽と駆けつけて、リィンを追うようにみんな走って行ったので、俺も頑張ってその流れに着いていった。二人の言い分はお互いが盗み合ったという証言で、このまま何の証拠も出なければ平行線を辿るだろうということは素人である俺からしても明らかだった。

 そんなこんなでつかみ合いの喧嘩に発展しかけたところに、あまり会いたくない領邦軍が出てきた。その領邦軍は引っ捕らえるということを脅しに無理やり争いを鎮めていた。良い方法だとは思うけど、こんな公衆の面前でやっても領邦軍の信用を下げるだけになるんじゃないのか?もしくは下がっても気にしないのかな。

 領邦軍が帰って、元締めによってなんだかんだこの場が収められると、俺たちも混ざって壊れた屋台を直して大市は遅れながらも開かれることになった

 

「ケルディックの抱える問題思った以上に根が深いようだな。領邦軍が駆けつけたとはいえ、結局、何の解決にもならぬとは……」

 

「うむ……やはり大市のトラブルにはまともに取り合う気がないようじゃ。ワシらが増税への苦情を取り消さん限り、その姿勢を貫くつもりなのじゃろう」

 

 元締めが言うには、このままでは客足が遠のく可能性も全然否定出来ず、対策も考えているけど、中々良い案が無いらしい。

 

「今回の事件――俺たちに調べさせてもらえませんか?」

 

 そんな時、ふとリィンがそんな事を言い出した。こんな勇気あることを言い出せるリィンは本当に英雄的だと思うし、実際にリィンは英雄にもなれる気がする。

 

「目の前で理不尽なことが起きて、頼るべき領邦軍も当てにならない。だったら……士官学院の生徒である俺たちが見過ごすわけにはいきません」

 

 そんなリィンの言葉とサラ教官の言葉である自分達で考えて行動しろという言葉によって、リィン以外の俺たちも事件を調査することに決心が付き、元締めに安全のため深入りしないことを条件に許可してもらい、いよいよ事件を調査することになった。

 




段々と原作場面でも小さな差異を出していきたい


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何処にでも腐った人間はいる

端折るところが難しい


 この大市放火事件の捜査の為に俺たちは関係者へと聞き込みを行っていく。なんだかんだで被害者の2人からも話しを聞くことが出来たし、中々に順調な滑り出しになっている。それに、話を聞いていく過程で、エリオットの聞き込み力や推理力が披露されて驚かされる所が多々あった。こんなⅦ組のメンバーの気づかない面に気づくことが出来るのも特別実習の良いところなのだろうな。

 

 そして、聞き込みやリィンやエリオットの推理のお陰で領邦軍の行動が不審で怪しいという結論に至った。やっぱり領邦軍かー。個人的主観も多く入るけど、領邦軍に対するイメージは中々に悪いからな。他の良い人そうな人が事件の黒幕なんかよりは全然良い。

 

「ふぅ、我々も忙しいのだがね。まあいい、手短に用件を言ってみたまえ」

 

 領邦軍に話を聞きに行くと、領邦軍の隊長らしき人がすごく気だるそうな態度でこちらに対応してきた。民衆の要望なども無視しているらしいのに、この人らは忙しいのか?うちの領地には領邦軍は居ないけど、独自にいる治安維持の人たちはもっと地域の人に寄り添っているし、ちゃんとしている。こんな人たちを見ていると、俺が父さんや兄さんともっと仲が良ければ、故郷にもっと馴染めたのかなとも思ってしまう。

 

「では、単刀直入にお聞きします。領邦軍としてはあれ以上の調査を行わないおつもりですか?」

 

「フン、何をいうかと思えば……そんなことか」

 

「各地の治安維持を預かる領邦軍としては、いささかそぐわぬ言動に思えるが」

 

「フン、威勢の良いことだ。だが、その認識はまだまだ青いと言わざるを得ないな」

 

「……ラウラの何処が青いんだよ」

 

「我々領邦軍が各地を維持するにあたって、最も重要なものが分かるかね?それは、各地を治める領主──我々の場合はアルバレア公爵家──彼らの意向ということになる。領邦軍に属する以上、貴族の命令は絶対だ。我々はその意向に従い、守るべきものを冷静に、判断しているだけなのだよ」

 

 こいつらの言いたいことは貴族である俺からしても、理解は出来る。でも、納得はしたくない。忠義は大事だと思う……だけど、それによって何かから目を背いてちゃ駄目なんだ。取り返しの付かないことになるような気がする。

 

 軍人だから。その理由で領邦軍の人はこれは仕方の無いことだと言って、何も話そうとはしなかった。確かに、未だに学生の身である俺たちには分からないものなんだけど、年齢の問題なのか?

 

「最後に一つ、僕からいいですか?」

 

 何も手がかりが得られないかと思い帰ろうとした時、エリオットが機転を見せてくれた。領邦軍が調査をしていないにも関わらず、俺らが聞き込みで得られた情報を知っていたのだ。この答えを引き出すように質問したエリオットはすごいな。音楽家や軍人よりも探偵の方が向いているんじゃないのか?まぁ、案の定、これを指摘された領邦軍の人たちは理由をつけて、退散していったけど。

 

 

★ ★ ★

 

 

 エリオットやみんなの推理によりこの事件は領邦軍によって周到に計画されたもので、その狙いは税への苦情の取り下げらしいことが予想された。これでようやく黒幕が判明したな。良かったー元締めや被害者の商人達じゃ無くて。頑張って普通に生きている人たちが疑われるのは心苦しいことだからな。

 

「いや……おそらく実行犯は別にいるはずだ。あのプライドが高い領邦軍が、自ら手を汚してまで、事を起こすとは考え難い」

 

「確かにラウラの言う通りだね。あの人らはそういうことをしないね」

 

 ラウラからの的を得ている指摘と併せて事件の盗品が何処に行ったのかということが疑問点から、実行犯である犯人はまだ近くにいるという結論にいたった俺たちは街の住民に怪しい人物の話を聞くことになった。

 

「では、さっそく調査開始といこう。卑劣な犯人を逃さぬためにな」

 

 有力な証言は直ぐに見つかった。昼間から大通りで酔っ払っていた男はあのルナリア自然公園の元管理人らしく、クロイツェン州の役人にいきなり解雇されたという話だった。しかも、昨日の夜に新しく管理人になった若者達が木箱なんかを持って走っていったということらしかった。本当にこの証言だけで充分すぎるよ。

 それに、ルナリア自然公園に荷物がありそうなのか……このままだとアリアンロードさんとの集合場所なのに無駄な手間をかける訳になってしまう。これは絶対に解決しなければならないことになったな。

 

「行き先は決まったな。ルナリア自然公園……万全に準備を整えてから向かうことにしよう!」

 

「う、うん!」

 

 

★ ★ ★

 

 目的のルナリア自然公園に着くと昨日は入り口にいた、あの偽物の警備員達は居なかった。犯人は違う場所に既に逃走した可能性もあるけど、俺はまだ中にいる気がする。

 そんな中、アリサが入り口の門近くに転がっているブレスレットを発見した。それはあの帝都の商人が扱っていたものと共通点があるデザインで、そこから犯人がまだ中に居る可能性が高いということで、乗り込むことになった。昔、ルナリア自然公園には近くに来た時に時間が空いたので、来たことがあるけども、そこまで歪な構造もしてなく特徴的な物も無かった普通の自然公園だった記憶がある。今も変わっているかは分からないけど……。

 

「……この南京錠は内側から掛けたというわけか。ならば」

 

 門のところに南京錠がかかってるんのを見つけて、ラウラが壊そうと大剣を取り出した。南京錠を壊そうと剣を取り出すなんてラウラらしいとは思うけど、昔からそういう所はいい意味でも悪い意味でも変わってないんだよね。

 

「俺がやろう。その大剣よりも静かにできるはずだ。それに、ラウラに言われたことにも答えたいからな」

 

「八葉一刀流 四の型・《紅葉切り》」

 

 リィンが自身の刀を取り出すと、ものの見事にほとんど音を出さずに南京錠を破壊してみせた。リィンもラウラに言われたことを気にして、しっかり気遣ってくれてるんだな。リィンがそういうことが出来る人だとは薄々分かっていたもののいざ見てみると、なんか嬉しいな。しかも、紅葉切りって俺が上手く使うことが出来ない型の一つなんだよな。俺に教えてくれた人が少しその型が不得意だったというのもあるとは思うけれど……。

 

「……見事だな。……ノクトの目からどう映った?」

 

 ラウラ。そんな事を聞かないでくれ。リィンが何かを期待するような目で俺のことを見てきてるから。俺はリィンみたいにしっかりとならった訳では無いから、いまいち言いにくいんだよな。いや、仮にもどんな人間であっても師匠のことを言い訳みたいことは止めよう。

 

「うん。しっかりと研ぎ澄まされているよく分かるよ。ユン老師は丁寧に教えて下さったんだね。俺も一度くらいは会ってみたいよ」

 

 そこからルナリア自然公園を探索していくことになった。中には魔獣が蔓延っていたので、そんな奴らを討伐しながら進んでいった。多分、盗んだ大きな荷物があるとしたら開けた場所だろうから、そんな場所にたどり着ければ良いな。

 

「ノクト。こんな時だけど、聞きたいことがあるんだけどいいか?」

 

「うん。どうしたのリィン君」

 

「ノクトは誰に八葉一刀流を習ったんだ?俺もノクトに教えてた人に会いたいと思ったんだ」

 

 うーん、言いにくいな。はっきり言って俺が師事してもらってた人は色々と曰く付きだったから。まぁ、もう会って無いから言っても大丈夫か。

 

「会えるか分からないけど、一応その人がどういう人かは言えるよ。名前は……ずっと師匠って言ってたから分からないけど、途中で八葉一刀流から破門された人で、厳しくて優しくされたことなんて無かったな。父さんが個人的に大金で雇った人だから、あんまり為になる情報とかは分からないや」

 

「……そうだったのか。ノクトはどう思ってたんだ?」

 

「俺は好きだったよ。ストイックで無口な俺にもずっと同じ態度で接してくれていたし、直した方が良いところは俺が分かるまで言ってくれたから。でも、軽く別れだけ言ってふらっと居なくなっちゃったから、そこだけは寂しかったかな」

 

 あの人は多分指名手配か何かをされてたんだろうな。誰かに追われてる風だったから。それでも、暇つぶしだとかずっと言っていた割にしっかり接してくれたあの人には感謝が多い。

 

「ノクトはその人のことが好きだったんだな」

 

「うん」

 

 何かしんみりしてしまったけど、様々な魔獣を倒しながら、俺たちは順調に進み続けた。そして、ついにルナリア自然公園の奥にある開けた広場の場所にたどり着いた。

 そこには偽の管理人が4人。何とも下らない会話をしていた。こんな事を言ってはなんだけど、そのもっと稼げるとかいう会話をしているだけで、俺とラウラが戦った猟兵の方が仕事に対して矜持を持っていたと思うし、もっと下衆では無かった。

 

「その木箱も、どうやら大市で盗んだものみたいだし……」

 

「この場合、現行犯逮捕が認められる状況なのかしら?」

 

「観念した方がいいですよ」

 

「……下衆だな」

 

 ラウラも静かな怒りを心に灯したようだった。俺も命を取られそうになったあの時の猟兵に恐怖を感じるし、許すことは出来ない。でも、その猟兵よりも実力も精神も下のこんな悪党には言いようの無い怒りの方が覚える。

 

「ハッ、やっちまうぞ!」

 

「所詮はガキどもだ!一気にブチのめしてやれ!」

 

「クク、幸い目撃者もいないことだしなぁ……!」

 

「覚悟してもらおうかッ!」

 

 一斉に4人とも僕らに向かってかかってきた。4人全員が銃を所持していて、遠距離からの攻撃には強いようだけど、多分、近距離には弱いはず。上手くエリオットとアリサにサポートしてもらって、俺とラウラとリィンが決定打を作らないと。

 

「リィン君!そっちの奴は任せた。俺とラウラはこっちの奴らをやる!」

 

 リィンに1人を任せると、俺とラウラは3人を相手に立ち回ることになる。エリオットとアリサにはリィンを重点的にサポートするように軽く言って、俺たちは2人がかりで3人を相手にする。そこには、こんな奴らは自分達の敵では無いというプライドの他に、自分たちの実力を試したかったというのもあったんだと思う……。

 

「ラウラ。いけるよね」

 

「ああ!数を減らしていくこととしよう」

 

「了解」

 

 ラウラの両手剣はさっそく一番近くにいた奴の骨を折るかの勢いで叩きつけられた。実際にはその両手剣は銃でガードされたものの、代わりに銃が嫌な音を立てて壊れていった。

 

「ガ、ガキがよ。調子に乗るんじゃねぇぞ!」

 

 銃が壊れてしまったことでナイフを取り出してラウラを切りつけようとしたようだけど、俺はその間に割って入ると、太刀と片手剣の二刀流で切り伏せた。

 

「これで同数。観念するんだな」

 

「へ、誰がするかよ!」

 

 ラウラやエリオットのサポートを受けながら、そこまで苦労せずに残る2人も倒し切ることに成功した。リィンの方も問題無く倒せたみたいで、これで相手を全員戦闘不能にすることが出来た。本当はもっと圧勝したかったんだけど、今のところはこれくらいでも十分か。

 いや、何かが来そうな気がする。なにかは分からないけれど、俺たちの敵になるようなものだとは思う。あっちの木々の方か……チャクラム投げてみるか。

 

「ノクト。何をやっているのかしら?」

 

「分からない。こっちの方に何かが来るか気がしたんだ」

 

 チャクラムは木々の幹を切りながらその方角へと進んで行った。そして、ある一本の木が切れた所で、人間の瞳が見えた。あんな場所にいる人間なんて、怪しいに決まってる。俺が思ったのとは違う気がするけど、こいつらを雇った人間の可能性もある。追わなきゃ。

 

「みんな。こいつらは任せた!俺ちょっと行ってくる」

 

 みんなが何か言っているみたいだけど、何を言ってるかはよく聞き取れない。見つけた奴は俺が追って来たことが分かると逃げたようで、逃げていた背中が見えた。背の丈的に俺たちよりも年上で男のようだった。

 

「おい!待てよ。何が目的でこんなところにいるんだ」

 

「これは気配察知能力が優れているのか?いや、これは気配察知というよりも……」

 

「話聞いているのか?お前……何者なんだ?」

 

 その男は眼鏡をかけており、何処か知性的に感じるような佇まいだった。戦闘能力は強くなさそうだけど、この人があの野盗を雇ったのか……だったら、策略などが得意な人なのかな。

 

「我々は帝国解放戦線。私の名前はGと言います。以後お見知り置きを」

 

 帝国解放戦線?聞いたことも無いな。結構有名なのか?だけど、自分の本名を名乗らない時点で人に素性を知られたくは無いってことだから、ヤバい組織には違いない。Gは片手に拳銃を持ち、もう片手に笛のような物を持っていた。あの銃なら大体のスペックは分かるけど、笛の方はどんなものかすら全然分からない。あっちに狙った方が得か。

 

「大人しく引いていただけませんか?」

 

「無理だな。怪しそうな人間を放っておくほど、俺は正義感が欠けていない」

 

 太刀をGに向かって、躊躇うこと無く投擲する。この距離なのもあり、太刀は真っ直ぐGに当たるような軌跡をする。だが、反射か予想したかGはその太刀を避けた。それを読んでいた俺は避けたばかりで直ぐには動けないGに近寄ると蹴りをお見舞いし、笛を奪い取った。

 

「学生で、ここまでの芸当が出来るとはな……」

 

「昔から武術は嗜んでいるんでね。それに……死を目の前にした俺は死を恐れない」

 

 Gは名残惜しそうに笛を見たものの、形勢が悪いと思ったのか森の奥へと退却していった。俺は追おうとして、止めた。ここで彼を捕まえることも殺すことも容易いとは思うけど、それにしては彼は切羽詰まっていて、哀愁漂ように思えたから。

 

 笛をカバンに入れてみんなの元へ戻ると、すでに野盗達は縄に捕まっていた。しかも、領邦軍が居るし、鉄道憲兵隊を引き連れた氷の乙女クレア・リーヴェルトが居た。あの氷の乙女は苦手なんだよな。昔、父さんの領地を抜き打ちで調査しに来ようとした時、色んな理論を持って入ってこようとしたもん。結局、父さんが無理やり皇帝に連絡して止めさせたけれど、それもあって、オズボーン関係とうちの家は関係が悪い。

 

 それとは関係なしに、鉄道憲兵隊のおかげでこの事件は無事に解決に持っていけそうなことは後から聞いた。なんだか複雑な気分なのは否定出来ないけど、氷の乙女が居なければ自分達が捕まっていたとも聞くし、素直に感謝しておこうとは思う。こんな俺の心情とは別に特別実習は無事に終わった。クラスメイトとの関係も少しは良くなったと思えるようなものだった。




更新ペース落とします


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貴方との出会いに感謝を

 

 特別実習が終わってから帰りの列車の中、リィンから衝撃的な告白があった。どうやらリィンは帝国北部のユミルを治めているシュバルツァー男爵家の養子らしい。しかも、ラウラ曰く、男爵の地位にありながら、帝国に縁がある家みたい。養子だったんだ。リィンの語る言い方的に幸せな家庭のようで安心したけど、もし俺が養子だったら、幸せな家庭だったんだろうか、今とそんなに変わらない気がする。それよりも、リィンが貴族だと知ったことで、マキアスがリィンに距離を置くことは決まっちゃったな。面倒なことにならなきゃいいけど。

 俺はラウラにちらっと言っただけの変な笛の使い道を考えながら、列車の中を過ごすことにした。

 

 

★ ★ ★

 

 

 特別実習から数日、予想していた通り、マキアスとリィンの仲の悪さというか、マキアスが一方的リィンを無視に近いことをし始めていた。いいかげん、マキアスも貴族を受け入れてくれても良いとは思うんだけど、事情があるだろうから、真正面からは言えない。

 そんな面倒なこととは離れた月末の休みの日、俺はラウラと共に朝早くからまたルナリア自然公園に来ていた。来た理由は前々から約束していたアリアンロードさんとの約束の日だからだ。昨日は早く寝たし、武器も全部持ってきた。修行する準備はバッチリだ。

 

「……楽しみだな。ノクト」

 

 この間も歩いた道を歩きながら、楽しみだと言っているラウラの表情は笑顔を隠すことが出来ておらず、わくわくして楽しみにしていることがまる分かりだった。昔はこんな表情をすることが多かったけれど、最近は見なかったから新鮮だ。いつもの顔も表情も素敵だけど、こんな風に見る嬉しそうな顔も好きだな。

 

「そうだね。いよいよ教えてもらえると思うと、わくわくする」

 

 進んで行って着いたのは、この間、あの盗人達と戦った開けた場所だった。その中央に佇んでいたのはこの場には似つかわしく無い異質過ぎるオーラを持っているけれど、逆に異質すぎて溶け込んでいるアリアンロードさんがいた。本当に神々しいという言葉が似合うお人だ。

 

「お久しぶりです。アリアンロードさん。お元気でしたか」

 

「ええ。二人はどうでしたか?」

 

 落ち着いていて、それでいて、覇気のある声質は俺らの耳にしっかりと入ってきて、変な話だけど、この人の前に俺とラウラが存在していることを実感する。

 

「特に大きな怪我も無く、過ごせました」

 

「同じく、様々な経験を積むことが出来ました」

 

 俺には師匠と呼べる人物が多くいるけれど、ラウラには明確に師匠と言えるのは父親のヴィクターさんしか居ない。だからか、距離感を掴みにくくなっているようだった。

 

「思い出話は後で聞くとして、さっそく手合わせといきましょうか」

 

 アリアンロードさんが取り出すは巨大な槍。俺には到底扱いきれないもので、絶対に勝てないということが戦う前から分かっていた。そんな当然なことは分かっているというようにラウラは俺の方を見て頷く。連携して何とか喰らいつく!

 

「いかせてもらいます!!」

 

「手加減無用!」

 

 俺とラウラの連携は十年ぐらいになる。それは並大抵の人には突破されることは無いんだけど……やっぱり全く歯が立たなかった。アリアンロードさんはあんな大振りな槍を持っているのに、素早くて攻撃なんて当たらないし、その割に俺とラウラの隙が出来たタイミングでバッチリと狙ってくる。戦闘というもの知りつくしている人の動きだった。

 

「アリアンロードさん、いや、師匠!強過ぎませんか?」

 

「ノクトの言っている通りだ。全く勝てる気がしない」

 

「今はそれで大丈夫です。いつかはここまで来て欲しいですが……」

 

 師匠のクスッと笑うような笑み、それは俺とラウラを馬鹿にするようなものでは無く、何処までも俺達がそこに行けると確信しているような嬉しそうな笑みだった。

 

「一度休憩を挟んでから、もう一度やりましょうか。次は教えながらです」

 

 師匠の言う通り、次は手加減ありきで手合わせをしてくれて、俺達の悪いところを指摘してくれた。良いところもいっぱい褒めてくれて、本当に良い師匠に巡り会えたと思う。

 

「ノクトはもう少し、武器同士の組み合わせを上手くしましょう。二つ別の武器を上手く使えば、ノクトなりの利点を生かせることが出来ますよ」

 

「ラウラは動きが型にハマっていないのをもう少し生かしたいですね。強者同士ならば、その流派に無い動きは勝ちへの活路になりますよ」

 

 ラウラの前よりも勝ちに貪欲になった荒々しい剣筋をアリアンロードさんを否定しなかった。普通の剣士だったら、流派に基づいた動きを最優先とするはずなのに。俺達のことは否定しない、だけれども、厳しく教えてくれる。俺達は今日だけで、抜群にレベルアップ出来たと思える。

 

「そろそろ今回は終わりしましょうか。今からは語らいの時間です」

 

 一気にリラックスムードになった師匠は仮面を外し、切り株に座ると、近くにあった切り株を見た。俺達はそれに座れということと受け取ると、力を抜いて座った。というか、師匠の顔を初めて見たけれど、すごく整っていて、美しいけれど、何処かで見たことがあるんだよなー、何処だっけ?

 

「その、我々に、仮面の下を見せても大丈夫なんでしょうか?」

 

「ええ。あまり知られる訳にはいきませんが、貴方達二人には見せても問題ありませんよ」

 

 その信頼の証とも言える、仮面の下を見せるという行為。俺には信頼の証に見せるようなものも、渡すようなものも無いのが悔しい。いや……ある。信頼の証とは言えないけれど、渡せるようなすごいものが。

 

「師匠。この前、手に入れたこれ。すごいものだと思う気がするんですけど、受け取って下さい」

 

 リュックの中からこの前、Gという人から奪ってきた笛を取り出す。明らかに普通では無いから、師匠だったら扱いきれると思う。

 

「これは……古代遺物ですね。どこでこんなものを?」

 

「帝国解放戦線?ってところのGってやつから奪ってきたんだ。どうですか師匠?」

 

 師匠はじっと笛のことを見る。多分、この古代遺物が使えるものか、使えないものかを判断しているだろうな。師匠と相性が悪いものだったら、使わないだろうし。

 

「そうですね、気持ちだけ貰っておきます。この道具でノクトの戦略ももっと増やせるでしょうし」

 

 確かに師匠の言うとおり、俺が持っているこれは武器なんだ。いくつもの武器を習ってきた俺だったら使いこなせるはずだ。

 

「分かりました!使いこなしてみせます」

 

 次はあなたの番ですという感じで、師匠はラウラと目を合わせた。師匠もラウラが剣の道で悩んでいることに気づいていたんだろうな。俺にはそれを聞き出す勇気も良い答えを出すほどの経験も無かった。師匠なら何か示してくれるはずだ。

 

「ラウラ。ここには私とノクトしか居ません。いくらでも吐露してくれてもいいんですよ」

 

「……先日、剣の道を迷っていた友人に誇りを持て、限界を決めるなと言った……しかし、私もずっと迷っている。このままアルゼイド流からズレた剣筋のままでいいのか、その道の先に強さはあるのか、不安で不安でたまらない」

 

 ラウラの心からの叫び。いつもは凜々しく、大人ぽいラウラだけど、体も心もまだ年相応で、何かしらの悩みを抱えているんだ。俺はその悩みの大きさに気づくことが出来なかった。いや、ラウラの強さを勝手に信じていたんだ。こんな自分勝手な俺が本当に嫌になる。俺はまだ未熟だ。

 

「流派というのは生み出す人が居て初めて存在します。それはまずは忘れないで。そして、アルゼイド流を受け継ぐものとしての責任に囚われないで下さい。貴方が目指す強さへの道を選んでいいんです。私はどんな道を選ぼうと、貴方を鍛えます」

 

 暖かい。師匠の言葉は何処までも優しくて、泣きたくなるようなものだった。実際、俺とラウラは顔が少し赤くなっていたし、師匠の顔を真っ直ぐ見れなかった。

 

「はい!精進します!!」

 

 その後も俺とラウラと師匠との対話を続いた。師匠の言う言葉どれも説得力があって、俺たちの心に残るものばかりだった。世間話もしたけれど、師匠は俺よりも様々な場所を回っているみたいで、色んなことを教えてくれたけれど、そんな幸せな時間も終わりを告げることになった。

 

「もう、暗くなってきました。そろそろお開きにしましょうか」

 

「え?ああ。そうですね。次はいつ会えます?」

 

「次の貴方達の休日に。ここで」

 

「師匠!私、やってみます」

 

「応援していますよ」

 

 また師匠は音もなく消えていった。まるでさっきまでの時間が夢だったかのように静かになったこの場所を俺とラウラは離れていく。

 

「ノクト。気づいていたか?」

 

「何に?」

 

「あの方の顔はサンドロッド様と瓜二つだった。何故そうなのかは気にしない。だが、これが運命であるとは信じたい」

 

 そうだ、ラウラの言っている通りだ。レグルスにある像と師匠の顔は一緒だ。でも、本人なのか?いや、生きているはずが無い。でも、並々ならぬ事情はある気がするから、師匠が自分から話してくれるまで待とう。ラウラもそう思っているはずだから。

 

「待とう。師匠が自分からこのことについて触れてくれる日まで」

 

 俺とラウラはこの間と同じ帰りの列車に乗って、トールズに戻る。そういえば、リィン達がまた旧校舎の探索をしていたみたい。聞く話によると、旧校舎の構造がいつの間に変わっているらしく、また別の機会に連れて行ってとは言っておいた。でも、今日の修行の成果を驚かせたいから、次に戦闘がある時はみんなの前で見せたいな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 今日も今日とて、全ての授業が終わった。最近は学校が終わると、新しく入ることになったフェンシング部へと向かうのが日課となっていた。ラウラも入るのかなとは思ってたんだけど、他の運動もしてみたいということで水泳部に入った。

 フェンシング部の同期には平民クラスのアランと四大名門のパトリック・アームズがいるんだけど、まぁ何というか居心地が悪い。四大名門だけあって、平民を見下すパトリックと平民アラン。空気が悪くならない訳が無い。それに、加えて俺に近寄らないパトリック。部長には本当に苦労をおかけしているとは思う。

 

「やめろ!こっちに近づくなクロンダルト」

 

 多分、俺の家の嫌な噂のせいだろうなー。父さんがあまりにも秘密主義が多過ぎることやほとんど誰とも絡まないおかげで、こんなにも避けられてしまっているんだろうとは思う。昔から一部の貴族からはこんな扱いだから、もう慣れてしまった。ちょっと寂しいけれど。

 

 




 


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ちょっとした違和感だけど

オリジナルエピソードを少し挟みます
あまり話数は無いと思います


 

 また前と同じように実技テストが開催されることになった。こんな感じに何回も実技テストなんかして意味があるのかとは思うものだけど、お互いの連携とか強さを測ってサラ教官が把握する意味では大切なことだったりするんだろうな。

 

「さぁ、先月に続いて実技テストのお時間よ」

 

 サラ教官の指パッチンで、先月とは色が違う機械か生物かよく分からない物が出て来た。本当にどんな物か検討もつかないから、次会った時に、師匠に聞いてみてもいいかもしれない。そんな予定を考えている内にリィン、アリサ、ラウラ、ガイウス、ノクトと名前を呼ばれて、この五人で連携してあの得体の知れないものを倒すことになった。軽く五人で集まってポジションや戦略を練ってから、挑む。

 

 前衛気質の武器を得物としているのが4人だってことで、少し変則的なポジションで戦っているけど、中々上手く行っているとは思う。だけど、戦ってる中で何か変な違和感がある。これがいったい何の違和感なのかは分からないけれど、ラウラの方を見ても同じような違和感を感じているのか、顔色や挙動に俺と同じようなものを感じた。

 そんな違和感がありつつも思ったよりも強かったこいつを倒すことが出来た。特に特筆すべきことは無い、訓練用感が強かったのは確か。

 

「うんうん、いいじゃない。特別実習の成果と旧校舎対策の賜物かしら?さぁ続けて行くわよ。マキアス、ユーシス、エリオット!それにエマにフィー、前へ」

 

 うわー相変わらずサラ教官はマキアスとユーシスを仲直りさせたいみたい。絶対ガタガタになるに決まっているのに。本人含め、全員が色々察しているにも関わらず、サラ教官はニヤニヤ笑っているだけ。性格が良いのか、悪いのか本当に分からない。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「分かってたけど、ちょっと酷すぎるわねぇ。ま、そっちの男子2名はせいぜい反省しなさい。この体たらくは君たちの責任よ」

 

 全員の予想通り、このチームは撃破するのにうちのチームよりも苦労していて、サラ教官も厳しめの意見を申してた。俺もマキアスとユーシス、どちらと組んでも上手くいける自信は無いから、あんまり強くは言わないが。

 

「今回の実技テストは以上。続けて今週末に行う特別実習の発表をするわよ。さ、受け取ってちょうだい」

 

【5月特別実習】

 

 A班:リィン、エマ、マキアス、ユーシス、フィー

    (実習地:公都バリアハート)

 B班:アリサ、ラウラ、エリオット、ガイウス、ノクト

    (実習地:旧都セントアーク)

 

 うわーまたあの2人一緒じゃん。サラ教官もここまで来ると、仲直りするまでするんじゃないのか?それよりも、旧都セントアークか……行ったことはあるけど、ハイアムーズの息子であるパトリックとは折り合いが悪いからなー。ちょっと行きにくい。でも、アルバレア家のいるバリアハートよりかは全然良かったかな。サラ教官とか、常任理事とかの意向だったら、色んな意味で何も言わないけど。

 

「冗談じゃない!!!」

 

 そんな俺の悩みなんて安いもんだろと言うようにマキアスが大声を上げた。大方、貴族達の本拠地のような場所に行くのが嫌だからなのと、ユーシスと一緒なことに怒ってるんだろう。

 その意見には同調するようにユーシスも声を上げて、二人でサラ教官へ文句を言う。うーん、これが毎回だと、流石になぁ。俺も何か言うか。

 

「二人が仲良くすれば良い話じゃないか。ユーシスくんもマキアスくんも何がそんなにお互い嫌うことがあるんだ?」

 

 まさか、俺からそんなことを言われると思ってもみなかったか、二人とも何とも言えない表情をしてた。

 

「……あまり人のことに口を出さない奴だと思っていたがな」

 

「君は黙っていたまえ!!貴族で腫れ物のような扱いの家の君には分からないさ!」

 

 ……二人から同時に反撃された。どっちも正しいことだから、なんとも言い返せないけれど。こんなに反撃されるなら、言わなきゃ良かったかな?

 

「ぬしら、言って良いことと悪いことがあると思うぞ?特にマキアス、それはノクトには関係の無いことだ。あまり言わないでやってくれ」

 

 ラウラの口調は柔らかかったけれど、そこに凄みと覇気があった。ラウラの気持ちは嬉しいけれど、ラウラばかりに庇われていてばかりじゃあ駄目だな。

 

「はいはい、そこまで。全員一旦落ち着いて。あたしは軍人じゃないし、命令が絶対とは言わない。でも、そこまで異議するのなら、2人がかりでもあたしに言うことを聞かせる?」

 

 サラ教官の煽りとも言えるセリフにユーシスとマキアスは迷いなく乗った。サラ教官もやる気のようで、片手に導力銃、もう片手にブレードといった中々に本気のスタイルで相手をするようだった。そんな折に、サラ教官にリィンが呼ばれて、三体一の構図で戦うことになった。サラ教官、リィンのこと好きすぎでしょ。

 三人とも善戦していたけれど、サラ教官の鮮麗された技や圧倒的なスピードに翻弄されて、負けてしまっていた。……もちろん、サラ教官は手を抜いているとは思うけれど、世界、いや、人類最高峰だと確信している師匠の動きを見てしまっていると、自分たちでもステージを二つ、三つ上がれば勝てるのだという確信が芽生えてしまった。多分、この感情はよく無い。

 

 そんな感じで結局、決められた通りのメンバーで試験に行くことになったけれど、今回もラウラと一緒で嬉しいな。また一波乱起きそうな気がするけれど。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ということで、特別実習の日がやって来た。駅のホームでA班と会ったけれど、相変わらずの2人でいたので、リィンに対して心の中で応援しておいた。そんなことがあったけれど、この班は比較的落ち着いたメンバーで揃っていると思う。ユーシスにちらっと言われた通り、俺はラウラ以外の人間とあまり親しくしていなかったみたいなので、もう少し親交を深めたい。言われるまで、あまり自覚無くて、自分では普通に接しているつもりだっただけどな。理由は薄々分かっているけれど、あまり考えたくは無い。

 

「ノクト。ノクト」

 

「え、ああ。どうしたのガイウスくん?」

 

「何処か思い詰めた顔をしていたが、大丈夫か?」

 

 そんな顔をしていたのか。いつの間にか、列車に乗っているし、随分と自分の世界に入っていてみたいだ。あんまり、こういうことはした記憶が無いんだけど、思ったよりも、ユーシスやマキアスに言われたことが効いているからだろうな。

 

「大丈夫。俺のことは気にしないで。セントアークの観光のことでも調べておいてよ」

 

「……もしかして、ユーシスやマキアスに言われたこと、気にしてる?2人とも勢いで言っただけだから、気にしなくても良いと思うよ?」

 

「……事実だから。ユーシスが言っていることだって自覚が無いことは無いし、マキアスの言う通り、うちの家が貴族からも平民からも疎まれてる。改めて自覚する出来事も最近、あったからさ」

 

 地元以外で見せている明るい自分じゃないことぐらいは分かっているけれど、色んな気持ちが一気に出てくる。何でこんな生まれだとか、もっと幸福になりたいとか、お姉ちゃんには申し訳ないけど、ラウラと恋愛したいとか。思い起こせばきりが無い。

 

「……ラウラ」

 

「分かっている。ノクト。アリサもエリオットもガイウスもここに居ない者だってお前のことを家で判断しないし、疎んだりもしない。他にも、ノクトが通ってきた多くの人だって、お前のことを認めている。ノクトは充分持っていると私は思うぞ」

 

 ……情けないな。こんなみんなの前で今までの気持ちを吐露してしまうなんてさ。立ち直ろう。ラウラの言うとおり、俺はしっかり持っているんだ。父さんや兄さんよりも。

 

「ラウラ、ありがとう。みんなもありがとう。特別試験頑張ろっか」

 

 こんな湿っぽい雰囲気にしてしまったけれど、上手く直すことは出来なかった。でも、今なら、なんでも出来る気分にはなれた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 二時間近くの長旅を終えて、着いた駅から見えた景色は白く幻想的な街だった。何度も来たことがあるけれど、相変わらず四大貴族の都である街は見飽きることが無いし、美しさも色褪せることか無い。その分、他の部分に醜さが顕著に出ているんだけどね。

 

「初めて来たけど、凄いねここ。帝都にも負けてないよ!」

 

 エリオット含め、みんなテンションが上がって舞い上がっているようだったから、一応うろ覚えながらも道を覚えている俺が先行しながら宿までの道案内をした。ハイアームズ家が直接統治しているだけあって貴族がそこら中にいて、浮いてしまうことは仕方ないんだろな。宿に着くと、前回と同じように課題を渡して貰った。内容も前回と変わり無く、まるで遊撃士のような仕事なことには今更ツッコまないけど、学校の方針としてこれからの世の中には遊撃士の志が必要だと思っているのかな。

 

 今日、渡された課題については終わったんだけど、前回行ったケルディックとは違って、貴族が幅を利かせている場面が多々見られた。色んな場所を流派を学ぶ関係で訪れた自分としては、物珍しい光景でも無かったんだけど、ガイウスなどは大きく驚きを示したり、他のみんなも改めて帝国にある差別的な階級制度に対して思う所があったみたい。俺もこんな風に語ってはいるが、この見慣れた光景も意識して見てしまったら、自分の立場も含めて、思う所が無いわけじゃない。

 

「寝ないのか、ノクト」

 

「ああ、うん。ちょっと気になることがあってね」

 

 一日が終わり、男女別の部屋で宿に泊まっている俺たちB班。辺りは既に暗くなっており、明日も早いということで、みんな寝てしまっている。多分、起きているのは俺とラウラぐらいだろうな。

 

「……戦っている時にあった違和感か?私も違和感を感じたぞ」

 

 やっぱり、ラウラほど一緒にいると、思っていることまで一緒なんだな。この間の実技テストで感じた違和感が今回、課題こなしていく中でも同じように感じた。俺だけが変なのか、何なのか原因が分からないけれど、動きにくいっていうか、そんな感じの違和感。

 

「俺も感じた。それがずっと引っかかっていて、他のみんなとのつなりがやりにくいというか、つながりにくい感じ。自分のスタンスとも被ってどうすれば良いか考えてた」

 

 ラウラはフッと笑う。それは俺を馬鹿にした感じでは無く、ただ労わるような、共感するようなそんな感じ。

 

「同じだな。私も1人でそれを解決する方法を探したくて、ここに来た。だが、ノクトがいた。ノクトが変なのでは無い。我らで探そうじゃないか、解決方法を。幸い、他の人には迷惑をかけてはいない」

 

 もう1人で悩むことはやめよう。ラウラだって一緒に悩んでくれる。俺はしっかりと持っているんだ。解決しなくても良い、ただラウラと一緒に悩もう。

 




闇堕ちするのに心の悩みは不可欠


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貴族なんて所詮、こんなもの

 

 セントアークに着いて、2日目。今日も今日とて、特別実習の課題をしようと思っていると、宿の扉から同じような年齢の人間を連れた小生意気な表情をしているいい服を着た少年が入って来た。

 

「よお、あんたらが、トールズの学生さん?パトリックお兄様と似て、頼りなさそうだよねー。僕が何か恵んであげようか?」

 

 その小生意気な顔通り、そいつは煽りに近い言葉を俺たちにかける。何なんだこの餓鬼はとか思ったけれど、ハイアームズ家には問題児の四男がいると聞いたことがあるから、言葉的にこいつだろう。パトリックとは違うベクトルでめんどくさそうだな。

 

「俺達に恵んでなんかいらない。急いでいるから、そこをどいてくれないか?」

 

 ハイアームズ侯の関係者だと薄々察していて、動きを躊躇っていた他の人に代わって親などには迷惑をかけても大丈夫な部類の俺がいの1番に反論する。そんな俺の返しが気に入らなかったのか、そいつは不機嫌そうな表情で眼前まで迫る。

 

「僕のこと知らない?ここの領主ハイアームズ侯の四男、ジュリアス・ハイアームズだよ?そういう態度は改めた方が良いと思うなー?」

 

 やっぱりハイアームズ家の四男だったけれど、本当にありきたりな貴族だな。俺の家や、ラウラの家が特殊だとはいえ、ここまで貴族らしい貴族を間近で感じるのは久しぶりだ。

 

「そんなことする必要はない。俺は人の肩書きとかは気にしないように生きてるからな」

 

「はぁー?そんな人間いるわけないじゃん。みんな、人の顔や肩書きばっかり見て、生きてるんだよ?そういう君は貴族、平民どっち?」

 

「俺はクロンダルト伯爵の次男、ノクト・クロンダルト。貴族だ」

 

 ここまで堂々と名乗るのなんて、いつぶりだろう。いつもは自分が萎縮して名乗っているけれど、今回は違う。相手は貴族の考えを受けて育ったまだ成長途中の子ども。何も気負うことは無い。

 そんな、俺のことを知っていたのか、ジュリアスは引き攣った笑い声を上げる。

 

「え、あの、売国奴とかも噂されてるクロンダルト家?ヤバいなー。変な噂ばっかりあるし、殺されちゃうかも。ハハハ」

 

 煽ってくるジュリアスは本当に俺の嫌な噂を聞いていたんだろう、手に少しの汗が滲み、感じる恐怖に耐えながら俺を煽ってくる。だけど、それを見て、やっと分かった。彼は虚勢を張っている。そう思えると、何か愛らしくも思える。でも、例え、そうだとしても、俺達の進路を邪魔して良い理由にはならない。

 

「もういいだろ?これから試験なんだ、どっか行ってくれる?」

 

 俺は他の人が居る前だけど、語気を強める。色んな流派を習っている内に学んだ威嚇する方法も披露したから、これで帰ってくれたら良いんだけど。

 俺の願いどおり、ジュリアスはバツの悪そうな顔をしながら、去って行った。

 

「ふぅ、みんな大丈夫?」

 

「うん。それにしてもノクトってそんな怖い言い方とか、顔を出来たんだね。すごく意外」

 

「俺もそう感じた。いつもより纏っている風が違う、そんな感覚だな」

 

 みんなが言うほど、自分が強くやっている感は無い。だけれども、周りの皆んなが感じてるんだったら、これ以上、うちの家の変な噂が広まらないように控えるべきなのかもしれないな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 そんな波乱があった始まりだったけれど、日中は昨日どおり問題無く特別実習をすることが出来た。他のみんなともしっかりと交流して、色んなことも知れたので、そう言った意味でも特別実習のありがたみは感じれる。

 それをやっている内に昼ごはん刻を過ぎてしまったので、昼ごはんを食べにお店に入る。お店はおしゃれな感じが凄く出ているけれど、ちょっと怪しげな雰囲気も出ている。そんな店に入ったのは、俺が前にセントアークに来た時に入ったことがあるのが大きいけれど、アリサもエリオットも興味はあったみたいだし、ガイウスやラウラもそこまで渋らなかった。

 

「本当にノクトってセンス良いよね。ここの料理も美味しいし」

 

「いや、偶々、前に来た時に来ただけだから俺のセンスは関係ないよ。ガイクスくんはここの味、どう?」

 

 俺と同じでエレボニア帝国の辺境出身であるガイウスは自分の経験から言うと、帝国のやつと口に合わないことがあるかもしれないから、一応聞いたけれど、表情を見る限り大丈夫そう。

 

「ああ、田舎者の俺の口にも合う良い味だ」

 

「それは良かったよ。俺もクロスベル方が近くて、家でもそっちよりの料理しか出なくてさ、初めてここの料理食べた時、微妙なやつもあったから、どうかなって思って」

 

「そうなのか。ノクトの故郷も遠方にあるのか。クロスベル?にはよく行くのか?」

 

「うん、まぁ。親戚があっちにいるから。月一では絶対に遊びに行くよ?あと、あっちには仲良い従兄弟も居るからさ」

 

 この学校に入ってから、姐さんさんに会ってないなー。一応、将来的にはもっと会うことになる気がするんだけど、どうなんだろうな。聞きたく無いけれど、父さんに聞いとくのもありかな?父さんも姐さんとの仲や親戚関係気にしてるから。

 

「そうなの。どんな人なの?」

 

「クロスベル国際銀行って知ってる?そこの総裁の娘さんでさ、典型的なお嬢様だよ。性格はちょっと腹黒いけどね」

 

 姉さん、外面は結構良いんだよね。俺と居る時に偶に出る想像以上にヤバい言葉なんかを聞くと、根は多分碌なひとじゃないと思う。いつかはみんなにバレるとは思うけど。まぁ、幼馴染にも隠しているみたいだから、そこは結構凄いと思う。

 

「ノクト。お前の姉さんの話はお腹いっぱいになるほど聞いた……それに、許婚なのだろ?そう悪く言うもんじゃないぞ」

 

「あ、だから」

 

 ラウラの上を少し見た表情が分からない訳では無い。俺だって姉さんのことは好きだよ。でも、それは俺がラウラに向けているものとは違う。許婚だって、父さん同士が勝手に言っているだけで、ただの家の伝統。気にしたくは無い。

 

「どうせ、父さんが勝手に言っているだけだから」

 

 そんな風に個人個人のことを知れた昼ごはんになったと思う。そのままの悪くは無い雰囲気まま今日が終われるはずだったんだけど、店を出た直後に確か、この辺りの領邦軍の人たちに囲まれた。

 

「ノクト・クロンダルト。自領で作った危険物をセントアークに持ち込んだ疑いで来てもらうか」

 

「?何かの間違いです。俺はそんな危険なもの、持ち込んでいません。学校側に確認して下さい」

 

 勤めて冷静に話そうとはするけど、こんなことはいくら、貴族で嫌われる俺でも初めてだ。誰かの差金だろうことは明らかなんだけど。

 

「それは我々も証明出来る。ノクトはそのようなことをするような人間では無い」

 

 ラウラを筆頭にして、みんな庇ってくれているけれど、多分、無駄だと思う。俺の家の領地でもそうだけど、貴族に仕えている人間は正しいかどうかでなんて、行動していない。自分の立場が悪くならないようにしか、行動しない。だから、今回もそう。

 

「仲間のお前らの意見など、信用出来ん。同罪として連れて行くぞ?」

 

「辞めてくれ。疑いがあるのは俺だけだろ?俺を連れて行ってくれ」

 

「分かればいいんだ。ほら、こっちだ」

 

 みんなが次々に声を上げたりするけれど、ラウラが顔を伏せながらもこっちに来るのを止めてくれている。ラウラも分かってくれたんだろうな、ここで今、何をしてもあっちが有利なだけだって。うーーん、これは後で父さんの権力で何とか出してもらうしかなさそう。貴族の権力なんて所詮、こんな風でしか使うことは無いんだから。

 

 

★ ★ ★

 

 

 そして、俺が連れて来られたのは何処かは分からないけれど、ほとんど牢屋と言ってもいい所だった。そこに一時間放置されると、俺の目の前に昼間にあった生意気な奴、ジュリアスが現れた。

 

「どうだったかな?見事でしょ?君を捕えることなんて、この僕にかかれば造作も無いんだよねー」

 

「あんたがやったのなら、こんなことが出来ることに合点がいくが、どうしてこんなことをしたんだ?」

 

「いやー、なんかね、クロンダルト家に恨みがある人がいるらしいんだよね。その人に僕が手を貸してる感じ。偶然だよねー。納得いった?」

 

 こんな偶然に俺の家に対して、恨みがある人間がここに来ているのか?いや、だけど、そんなことが無ければ、こいつは動くような奴じゃないとは思う。そんな気がする。

 

「ぼちぼちかな。それで……俺をどうするつもりなんだ?」

 

「知らない。その人と夜に会ってもらうことしか僕は聞いてない。まっ、僕は権力に従わなかった君を邪魔したかっただけだからさ」

 

 そんな言葉を残してジュリアスは何処かに行ってしまった。夜まで時間を潰してくるつもりなんだろう。窓も無く、今、何時なのか分からないし、俺が持っているのはハンカチ、あの時奪った笛とかかあるけど……出るには危ないか。武器は無いしな。

 

 

★ ★ ★

 

 

 ノクトが捕らえられた。その事実に落ち着いて対応したはずの自分は大きく動揺している。何故ノクトが暗に示した通り、時間に任せるようにしたのだろう。その場で反抗すべきだったのでは無いだろうか。父上の権力に頼ってでも止めるべきなのでは無いだろうか。だけど、そんな取れなかった選択肢は忘れよう。私にはその場を自力で突破する力、権力、名声が無かっただけだ。私はまだまやかしの強さしか持っていない。

 

「ラウラ。ノクトを助けに行きたいけれど、何か良い案とか無いかな?」

 

 議論することも無く、話がノクトの救出へと向いていた。それは嬉しいことではあるので、私も積極的に議論へと関わる。私自身の思いはこんな時は後回しにすべきだからな。

 

「いくら、領邦軍だからと言って、ハイアームズ家全体が関わっているとは考えずらい。我々が出会ったジュリアスがやったと思うのが、妥当だろう。そこから、考えるなら、ジュリアスの人となりを知ることがノクトを救う手掛かりになるだろうな」

 

「ならば、別れて聞き込みといこう。情報が集まった人から宿に戻ろう」

 

 ガイウスの仕切りにより、四人全員街中に散らばって行く。こんなこと初めてだから、……私がこれまでもノクトと離れることに対して、ストレスを感じるとは思わなかった。私とノクトの心と身体の為にも急いで居処を掴まねばな。

 

 



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天才なんてものは嫌いだ

凡人と自覚のあるノクトの悲痛な叫び


 

 一体何分経ったのかは分からないけれど、多くの時間をこの中で過ごしたと思う。そんな時、俺の居るところに柄の悪いいかにもな人が来た。近くにジュリアスもいるところを見ると、この人が俺を捕まえるように依頼した人なんだろうな。じゃあ、そろそろかな。

 

「よく捕まえてくれたじゃねぇか。坊ちゃん」

 

「僕が好きでやったことだしね、気にしなくても良いよーハハハ」

 

「よぉ、てめぇを捕まえれば金がもらえるって依頼されてな。悪りぃな」

 

 その男は俺に近づくと、耳打つように言ってきた。俺の首を欲しい人なんて心当たりないんだけどなー。まだ、父さん関連かな?領地に猟兵も出るし、息子の首は狙われるしで、本当にいい加減にして欲しい。俺が何をしたっていうんだ。

 

「んじゃあ、坊ちゃん。お前にも来てもらおうか。伯爵家を狙う依頼だ、もっと良いやつもついでに持っていこうじゃねぇか」

 

 柄の悪い男の周りの男が俺に向けている導力銃を同じくジュリアスに向けて構える。やっぱりこういう猟兵とかチンピラは信用しちゃいけないんだよ。そんなことは俺とラウラならよく分かってる。……この子も哀れなもんだよ。

 

「ハハハ、いやー分かんなかったな。どうしよっかな。一応聞くけど、僕が居なくなったらハイアムーズ領は大騒ぎだよ?」

 

「へっ知ったことはねぇ。俺らにそんなこと関係ねぇからな」

 

 ジュリアスの笑いは乾いていたみたいだった。嘘くさいっていうか、そんな感じがすごくするんだけど。分かってたのか?いや、そんな気がする。

 でも、好都合かな。俺に注意はそこまで向いていない。ここでやるしかないでしょ。俺はゆっくりと笛を取り出すと、吹き始める。えーと、貴族の嗜みで軽くしか触れたことが無いけど、これで大丈夫かな?

 

「おい!なんでここで笛なんか吹きやがる。おちょくってんのか!」

 

 笛の音に呼応するようにどんどんと足音のようなものが大きくなっていき。俺たちの辺りに魔獣が何体も現れ始める。こんな地下みたいな場所だから、こんなに魔獣がいるのかな?そのままチンピラ達と交戦を始めた魔獣によって、俺の檻が壊される。

 

「へぇー魔獣を操る笛か。古代遺物なんじゃないの?予定外かな」

 

 無事に檻から出れた所で、ラウラ、ガイウス、エリオット、アリサの四人が助けに来てくれた。嬉しいな。俺の為なんかにそこまでしてくれるなんて。でも、今は凄くごちゃごちゃしてるんだよね。

 

「ノクト、受け取れ!」

 

「ありがとう!ラウラ」

 

 ラウラから投げてもらった騎士剣を受け取る。取り上げられていた武器だけど、取り返してくれたんだ。よし、これで何とか戦えそうだね。いやーでも、自分が呼んだ魔獣を自分で倒すのか、申し訳ないなー。

 魔獣もチンピラもそこまでの強さでは無かったと思う。だけど、俺たちが四人がかりで倒している間、ジュリアスは自前の騎士剣を武器に無傷で生き残っていた。

 

「いやだなー君たち。僕の計画がめちゃくちゃじゃないか」

 

「計画って何よ」

 

「こいつらを利用して僕を死んだ事にする計画さ。貴族に四人兄弟なんて必要ないしね。僕、天才だから」

 

 俺はこいつを侮っていたかもしれない。ただの貴族を盾にする生意気な少年だと思ってたんだけど、思ったよりも頭が回る。多分だけど、誰よりも。年下なんて思えないな。

 

「君の計画は分かったけれど、理由は兄弟が多いだけじゃないよね?」

 

「まぁね。周りの人間が合わないんだよね。僕を理解してくれない。理解して欲しいのにね」

 

 天才ゆえの悩みってやつか。俺には全く分からないけれど、こいつをこのままハイアームズ家の四男でくすぶらせるなんてもったいないかも。俺もどうせ将来は父さんの言う通りにしかならないんだ。人助けのつもりでやっても良いかもしれない。

 

「分かった。俺がトールズを卒業したら、うちの家で雇うよ。やることが多いからね」

 

「僕を使うなんて烏滸がましいとは思わない?まっ、僕に勝ったらいいよ」

 

 ゆっくりとジュリアスは騎士剣を俺の方へ向けてくる。ブレもなく向けてきている剣身を見ると、迷いなんかないんだろうなって思う。俺なんかに迷いを抱くことの方がおかしいんだけどね。ラウラからチャクラムを貰うと、それを仕舞って、俺も騎士剣を構える。

 

「参ったとか、チェックメイトでいいよね?」

 

「構わないよ。それじゃあ始めるよ」

 

 他のみんなは新しい見張りが来ないか心配しているみたいだけど、多分大丈夫な気がする。そんな予想でもいいぐらい、俺はこの勝負に集中出来てた。

 動かないジュリアスに痺れを切らして、先に詰める。スピードは自信があったんだけど、初激は上手く塞がれたちゃった。流れるように押していくけれど、それは全て当たらないように流される。

 

「ノクトすごい攻めれてるよ。これ、勝てるんじゃないかな?」

 

「いや、あの猛攻を防げている時点で相手も相当の腕前だ」

 

「ガイウスの言う通りだ。ノクトは騎士剣が得意な方だが、ここまで決めきれないとは。ただのハイアームズ家の四男と侮らない方が良いだろうな」

 

 俺が猛攻をかけて、少し疲れた所で、ついにジュリアスが動き、急所を狙い、騎士剣を振るってくる。上手く防げているけど、いつまで待つかな。

 

「真正面からかかっても勝てないことは分かってるんだから、工夫ぐらいするでしょ?」

 

「確かに、それはその通りだと思うよ」

 

 今度はジュリアスを引きつける。それを受け続け、いよいよジュリアスが俺の胸を狙っててきたところで、俺の騎士剣をジュリアスの騎士剣に絡めて、弾く。卑怯なんて知らない。俺は懐からチャクラムを取り出し、飛びかかる。

 

「ちゃんとした流派を学んでる癖に卑怯だと思わないの?」

 

「あんたも卑怯じゃないか?そんな銃を取り出すなんて」

 

 俺が首筋へチャクラムの刃を突きつけるのと同じようにジュリアスが取り出した導力?銃が俺の胸へ突きつけられていた。

 

「ねぇ、これって」

 

「ああ。勝負、そこまで。お互い引き分けとする」

 

 ラウラの采配によってこの勝負は終わりになる。俺の我儘な公平勝負に持ち込んでしまったのはみんなに申し訳ないなー。というか、俺らの班がこんなとこに巻き込まれているのがバレたら、色々問題になりそうな気がするんだけど。

 

「まぁ、その話は考えてあげるよ。僕には色々準備ってものがあるからね」

 

 相変わらず気に食わない笑みを浮かべてる奴だけど、多少は悩みが吹っ飛んでくれてると良いな。いずれ、どっかで会いそうな気がするし。

 そのまま、俺たちはその場所から出た。思いっきり、侯爵公の家の土地の中だったけれど、ジュリアスがいるおかげで特に疑問にされることはなかった。でも、そのまま侯爵家の門を出ると、あの人がいた。

 

「あまり、問題を起こされては困るんだがな」

 

「あ、貴方は」

 

「ラウラ知っているのか?」

 

「……ノクトのお兄さんだ」

 

 目の前に居たのはクロイト・クロンダルト。俺の兄だ。どうしてこんなとこにいるんだか。いつもは家で父さんの手伝いをしているか、クロスベルの方へ仕事をしに行っているはずなのに。

 

「え、えっと、初めまして」

 

「クロイト・クロンダルトだ。ラウラくんの紹介の通り、ノクトの兄に当たる。ああ、自己紹介は結構。VII組の情報は仕入れているものでね」

 

「こんな場所に何しに来たんですか?ここに来たことも無いですよね?」

 

「フッ、詳細を話すことは出来ない。だが、大した力量の無いお前が面倒を起こすと、クロンダルトがさらに浮くということを覚えておけ」

 

 その言葉だけを告げると、足早に兄さんは何処かに行く。ほんと、何しに来たんだか。それにあの嫌味たらしい性格は何とかならないのかな?空気は最悪だし。

 

 

★ ★ ★

 

 

 色々あったけれど、セントアークにおける特別実習は終わりを告げた。はっきり言っちゃうけど、あのジュリアスとのことがあったせいで、特別実習、そのものの内容はあまり覚えていない。そんな中、帰りの列車に乗っている俺たちの空気はなんというか、俺には触れづらい空気感だった。

 

「聞きにくいんだが、ノクトは兄弟仲が悪いのか?」

 

「まぁ、上の兄とは見た通り悪いよ。でも、下の妹とは凄く仲が良いんだよ」

 

「そうなんだ。妹さんとは何歳離れてるの?」

 

「2歳だね。俺よりも優秀で、凄く良い子だから、もし会うことがあったら宜しく頼むよ」

 

 その流れでみんなの兄弟仲とか聞いた。といっても兄弟がいたのはエリオットとガイウスだけだったけれど。あーなんか、兄さんと会ったことだし、兄弟の話もしたから、あいつと会いたくなってきたな。休みの日に会いに行こうといけば会えるけど。

 

「さぁ、B班もお疲れ様。二班とも似たような出来事に巻き込まれたみたいだけど、無事でなによりよ。今日ぐらいは英気を養ってちょうだい」

 

 帰ってきて、A班、B班合流したところにサラ教官が労いの言葉を珍しくかけてくれた。というか、A班のギスギス感が薄まってる気がするんだけど。なんか、マキアスの俺に対しての敵意のようなやつも薄まっている。

 それより、特別実習が終わったということは師匠と会える自由行動日もそこそこ近づいているってことだ。ジュリアスという天才と同じぐらいだったってことはあんなにも師匠に学んでおいて申し訳ないから、言いたくは無いんだけれども、その後の学びの為にも言った方が良いよね。

 こんなことは言いたくないけど、見るからに天才みたいな奴に負けると悔しいんだよね。絶対に勝てないって自分の本能で分かる人以外には負けたくなんてない。だから、俺もこれから先はそうなりたい。

 




この小説を書いて一年ほど経ちました。全く投稿が出来てない点はほんと申し訳ないです。


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俺とラウラにそれに耐えられない

 

 セントアークに行った特別実習から数日。俺とラウラはフィーに近づくことが出来ていなかった。それは、彼女の正体が元猟兵団だと、A班から聞いたからだ。俺たちだって、フィーを自分たちを死に追いやりかけた猟兵と一緒にしている訳じゃない。でも、無理なんだ。心の何処かでフィーも同じことをしてきたって思ったり、あの時のトラウマが蘇ってしまう。だから、俺たちは避けざるおえなかった。

 そんな不安定な心持ちのままサラ教官から通達されたのは定期試験をするということだった。各々訳ありとは言え、みんな高い能力を持っているから、定期試験でひどい点数を取るとは思えないけれど、俺はこんな状態でみんなと同じぐらい出来るかが、不安だった。

 

「二人は何か得意科目や苦手科目とかはあるのか?」

 

 順位という概念がある以上、お互いがライバルとも言える定期試験。そんな中、VII組は苦手部分で補いながらも、頑張っていこうという話になっていて、リィンから、それについて質問を受けていた。

 

「得意科目は政治経済と軍事学かな?苦手なのは導力学だね。機械は本当に苦手で」

 

「私は得意と言えるほどでは無いが、帝国史か。苦手なのは美術といったところだ」

 

 みんな誰かしらと勉強するという流れになっていたので、俺とラウラは二人で勉強するということをみんなに伝えて、誰とも被らなそうな食堂に向かった。

 

「……どうすればいいのだろうな」

 

「うん。フィーのことは好きだけど、どうしても、変な汗をかく、手足が震えそうになる。情けないよね」

 

「ああ、全くだ」

 

 勉強に集中にしているように見えても、俺たちは全く集中出来ていなかったと思う。いつだって、頭の中にあの時と猟兵団とフィーの顔が一緒に写ってくるから。そんな憂鬱な心持ちを持っている日々を無気力に過ごしている内に、あっという間に中間テストの日になっていた。

 その肝心のテストはというと、悪くはなかったんじゃないか?悶々としていながらも、勉強の時間はしっかりと取っていたからだと思う。他のみんなも概ね良好ではあったみたい。

 

 

★ ★ ★

 

 

 自由行動日。昨日から新しい管理人が来ており、その人によって家で出るもの変わらない豪華な朝食が用意されていた。その管理人はシャロンさんというらしいんだけど、どうやら、アリサの実家らしいラインフォルト家のメイドみたい。はっきり言えば、ただのメイドとは思えない気がしてならないんだけど、そう感じるのは俺だけなのかな?

 

「アリサちゃん。テンションが高いのか分からないね」

 

「親からの監視とも言える派遣に嫌がっているが、知っている人間が来て嬉しいのだろうな。本人はああ言っているが、親子仲は悪くは無いだろうな」

 

 隣にいたユーシスに話を振りながら、アリサとシャロンさんの様子を観察する。ユーシスの言う通り、アリサは戸惑っているだけのように思えるし、前に思いがけず、兄に会った時に俺が感じた気恥ずかしい思いがあるんだろうな。シャロンの美味しい料理を完食し終えた俺は既に食べ終わっていたラウラと共に一足先に寮を出る。ユーシスには夜には戻ると言っておいたから、大丈夫だとは思う。

 

 

★ ★ ★

 

 

 

 シャロンさんと対面をし、これからの寮のご飯が楽しみになった俺はラウラと共にいつものようにあの場所に向かい、師匠と向かいあっていた。

 

「おはようございます師匠。今日もよろしくお願いします」

 

「よろしく頼みます」

 

 俺たちのことを見て、何か考え込むような動作をした師匠は巨大な槍を地面に刺し、切り株の上に座った。

 

「二人とも何か思い悩んでいるようですね。そんな状態では修行に身が入らないでしょう。私でよければ話を聞きますよ」

 

 その姿はまるで母親だった。俺とラウラが得てこなかった愛情。師匠から感じるそれはまさしく母親が子に与える愛情なのだと、知らないながらもそう思えるものだった。

 

「感謝する」

 

 同じように別の切り株に座った俺たちはぽつぽつとフィーのこと、自分たちの心持ちのこと、自分たちの考えなどを。そんな俺たちの話を師匠は嫌な顔一つせずに頷いてくれながら終わるのを待ってくれた。

 

「と、まぁそんなところです」

 

「このままでは、私たちのせいで連携が乱れが生じ、大変な事態を生み出してしまうかもしれぬ」

 

「ラウラ、ノクト。まず、厳しいことを言うようですが、戦場に出れば、その気持ちは誰もが味わうことです。故郷を滅ぼした人間と味方になることもあるかもしれない。昨日、味方だった人間と戦うことになるかもしれない。この不穏な世の中、いつ誰がそうなってもおかしくありません。だからこそ、折り合いをつけながらも戦うことが重要なんです」

 

 師匠の言うことはまさしく正しくその通りだった。俺たちはその折り合いがつけられていない子どもなんだ。世の中を生きる上ではそれが正しいんだろうけれど、俺にはそれが出来る気がしない。

 

「ですが、これは理想であり、息苦しい生き方です。貴方たちはまだ学生。一度しか無い学生人生。そこで出会った友人とそんな思いのまま過ごして欲しくはありません。肩書きと中身は別。ありきたりなことですが、中身を見て、個人を見て下さい。私は貴方達なら、それが出来ると信じていますよ」

 

 師匠が俺たちに見せた微かな笑顔は俺たちの心を安心させるようなもので、決して俺たちを癒すためだけでは無く、心の底から俺たちが出来ると信じているようなそんな心のこもった顔だった。

 そんな師匠に俺たちはただ何度も頷くことしか出来なかった。

 

「さぁ、始めましょう。頭も心も整理する為にも体を動かすことが一番です」

 

 そして、本来の目的であった師匠との修行が始まった。こんな時でも師匠は手を抜くことはせず、全力で戦いながらも、俺たちのことを指導してくれた。何度目かになる今回が終わった頃には、俺は別々の流派の武器を両手に持って、今までと同じ動きが出来るようになり、ラウラはアルゼイド流の動きからは離れたものの、前よりも格段に良い動きになっていた。

 

「今日はここまで。二人とも、良くなってきています。次は今の自分の実力を測りましょうか。例の子とのこと、頑張って下さいね」

 

 師匠から激励を受けた俺たちは師匠と別れ、トリスタへと向かう列車に乗っていた。お互い、疲れており、いつもよりも会話は少なくなっていた。

 

「なぁ、ノクト。実は、私はまだフィーとのことを整理出来ていないんだ」

 

「そう、なんだ。俺はなんとか整理出来そうだよ」

 

「ノクトは昔から器用だからな。でなくては様々流派であれだけの動きは出来ぬ。……私はそこまで器用では無いのだ。だから、一度フィーと話をつける」

 

 ラウラの目は覚悟に満ちていた。止めても無駄なのだと、流石に付き合いの長さであれば、家族以外では一番の俺は確信する。ラウラにはその方法が一番なのかもしれない。それに、俺もそれを見れば、もっと綺麗に整理出来ると思えるから。

 

「分かった。俺も側で見とくよ」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 それから、トリスタに着いた俺たちはまたリィンが旧校舎の調査をしたということを聞いた。そろそろ俺たちも旧校舎の調査をしてみたいけれど、師匠との修行があるから、無理なんだよな。こればっかりは仕方ないね。

 

 

 

★ ★ ★

 

 

 充実した自由行動日を終えて、直ぐに実技テスト当日になっていた。その日は丁度待っている人は待っていた中間テストの発表日でもあったけれど、俺は待っている人では無かった。だけど、気になるものは気になるので、しっかり見はした。24位だった。ラウラと差はあったけど……気にして無い。

 実技テストではいつものように何かよく分からないものを相手にすることになっていたんだけど、パトリック・ハイアームズが絡んできたので、何かそれと戦うことになった。はぁ、ハイアームズと聞くたびにジュリアスを思い出すから嫌なんだよな。部活が一緒だから、ほぼ毎日聞いてるんだけどな。

 

「リィン。3名を選びなさい!!」

 

 と言うわけで、リィン含め四人で戦うことみたいなので、あまり人相手での修行の成果を実感したことが無いので、リィンに立候補してみた。

 

「リィン君、リィン君。立候補したいんだけど、いいかな?」

 

「ああ、もちろんだ。ありがとう!」

 

 結果、俺、ユーシス、フィーの3人が選ばれた四人になったんだけど。フィーは女子だから拒否され、ユーシスと俺は貴族だから駄目という理由で拒否された。別にいつも部活で戦っているから、良いと思うんだけどな。そんなことでうだうだ言われたあげく、結局、リィン、エリオット、マキアス、ガイウスの四人が対決することになった。

 

「頑張って、みんな!」

 

 みんなで応援していたのだが、ギリギリで四人は何とか勝利をもぎ取ることに成功していた。リィン達の圧勝かと思ったんだけど、案外I組のやるんだね。まぁ、パトリックも部活では強い方だから、当然か。

 

「ユミルの領主が拾った出自も知らぬ浮浪児ごときが!」

 

 が、パトリックが手を差し伸べたリィンにそんなことを言うもんだから、この場の空気は一瞬凍った。

 

「ハッ、他の者も同じだ!何が同点首位だ!貴様ら平民ごときがいい気になるんじゃない!ラインフェルト!?所詮は成り上がりの武器商人風情だろうが!おまけに蛮族や猟兵上がりの小娘まで混じっているとは……!」

 

 立て続けるように悪口を言いまくるパトリック。部活の仲間だから、あまり深く考えないようにしてたんだけど、あんまり言ってると俺も怒るぞ?

 

「貴族というものはそんなに立派なものなのか?」

 

 パトリックの言葉でみんなの気持ちが昂ってきた頃に、ガイウスの問いと言葉によって、パトリックは押し黙った。ノルド出身なところから出る言葉は説得力もすごくて、何か俺まで考え込むほどだった。流石、ガイウスは大人びてるな。

 結局、サラ教官によって、騒動は強制的に打ち切られた。最初からやるならやって欲しいんだけどな。そして、流れるようにそのまま次の演習地が発表された。

 

【6月特別実習】

 A班:リィン、アリサ、エマ、ユーシス、ガイウス

 (実習地:ノルド高原)

 B班:マキアス、エリオット、ラウラ、フィー、ノクト

 (実習地:ブリオニア島)

 

 うーん、案の定、フィーと同じになったな。この前、揉めているユーシスとマキアスが同じところになったから、なりそうとは思ったけれど、やっぱりなっちゃった。でも、俺もラウラに師匠のおかげできっかけはつかめていてるんだ。この実習中になんとかしてみせる。

 A班はガイウスの故郷か良いなぁ。ノルドは行ったこと無いんだよな。泊まる場所もガイウスの実家みたいだし、羨ましいな。ブリオニア島も見たことしかないから、行くのは楽しみだけどね。

 




原作よりもラウラからフィーへの溝は深いですが、アリアンロードのおかげで原作ぐらいの溝には持っていってます


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大人になっていく俺たち

色々と原作より前倒しです


 

 俺たち、B班が行くことになるブリオニア島。そこはラマール領で一番栄えているオルディス近くにある。毎度の如く、特別実習場所へ向かう列車の中で、みんなでブリオニア島の情報やラマール州の州都であるオルディスの情報を整理する。

 

「そうそう、海がすごいんだよ。綺麗でロマンチックで」

 

「へぇー凄いね! 僕も早く見たいな」

 

 他のみんなはあまり行ったことが無いようなので、俺が出来るだけオルディスに関する情報を提供する。全員、内陸部で暮らしているから、海への興味が一番凄い。言葉では言い表せないものなので、実際に見てもらって感嘆して欲しいな。

 

「だが、オルディスはカイエン公のお膝元、その辺りは大丈夫なのか?」

 

「それは分からないかな。カイエン公は貴族の中でも貴族らしい人だから、あんまり歓迎的にはしてくれなさそう」

 

 しかも、クロンダルト家は血筋を辿れば余所者。それを分かっているからこそ、うちの家とカイエン公は四大貴族の中でも特に仲が悪い。これを言ってしまうと、空気が悪くなりそうだから、カイエン公と会うタイミングの後で、みんなに言うことにするけど。

 長旅を終えて、オルディスに着く。残念ながら、列車の中ではフィーとラウラも俺も話すことが出来てかった。何か、話すタイミングを失ってしまったからだ。

 オルディスに降りて直ぐ、肌に当たる潮風が凄く気持ち良かった。海と街を合わせた景観も素晴らしいもので。みんなもこの景色に見惚れてるみたいだった。

 

「圧巻だな」

 

「ああ、本当にな」

 

 そのままオルディスの雰囲気を感じながら、貴族街へと進んで行く。貴族街は湾街地区とは違って、セントアークようそんな荘厳さを感じさせるような景観だった。

 

「……息苦しいね。ここ」

 

「なんか、重苦しいよね。何でかよく分からないけど」

 

 そんな重厚な雰囲気がある街中を歩いて行くと、一際日立つ建物、カイエン公の居城が見える。そして、その門にはカイエン公が見覚えのある人と別れの挨拶をしていた。何でこんな場所にいるか全く分からないあの人と。

 

「了承してくれて、助かったよ」

 

「こちらとしてもあれをされては困るのでな。仕方なくだ」

 

「と、父さん! 何でこんな場所にいるのですか?」

 

 犬猿の仲であるカイエン公と何で、父さんが。それに、カイエン公は笑っているけれど、父さんはカイエン公を睨んでる。俺が来ることを知らなかったのか。いや、知ってる方がおかしいんだけど。

 

「……仕事だ。お前には関係ない。私は前よりも増して、クロスベルへ赴くことが多くなる。あいつにはお前から伝えておけ」

 

 要件だけ言って何処かへ行く。いつもそうだ。父さんから愛情なんてものを感じたことなんてこれまでの人生で一度も無い。母さんが生きていれば、もう少し、愛情も感じられた人生だったかもしれない。

 そんなことをずっと考えてたせいか、ブリオニア島に関することを色々と話してくれたカイエン公のことは全然覚えてない。申し訳ないけれど、これは許して欲しい。

 

「もしかして、さっきの人が」

 

「うん。俺の父さん。アーネルト・クロンダルト伯爵だよ。見た通り、要件しか伝える気の無い人間で、感情を感じられないというか、何処かに置いてきた人だよ」

 

「ノクトの家って……複雑」

 

「そうだね。父さんと兄とは仲が悪いところばかり、みんなに見せちゃってからっていうのもありそうだけど」

 

 フィーから会話を振られたから、父さんに関することをもう少しだけ話そうとしたけど、辞めた。なんか、これ以上話したら、悪口しか出てこないような気がして。

 カイエン公に挨拶をしたら、オルディスには用が無いので、湾岸地区に戻り、船に乗る。船から見えたブリオニア島は自然が溢れる島で到底人が住んでいるとは思えない場所に見えた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 遂に着いたブリオニア島はやっぱり人の気配が無くて、何か神秘的で何かしらの信仰があった気がする。島での俺たちの拠点になるロッジのような建物には人は居なかったけれど、食料の備蓄や今回の特別実習での指令が書かれた紙が置いてあった。

 

「魔獣の退治に魔獣の生態調査、それに遺跡に関する調査とレポートか。どれも俺たちだけで完結するものばかりだな」

 

「本当にこの島には誰も居ぬようだな」

 

「ほぼ自給自足ってこと!?」

 

「そう、みたいだな」

 

 A班と比べて、明らかにこっちの方がきつい気がするんだが。あっちはノルドの人たちもいるだろうし、ガイウスの家族もいる。サバイバル感に差があると思う。

 

「……リラックスは出来るかも」

 

「とりあえず、自分たちのペースでやってみるか」

 

 前回が今の貴族というものを学ぶことが主題なのだとしたら、今回は自主性を育てるのが主題なのかな? でも、他にも何か共通点がある気がする。

 そんな感じに色々と準備が整った所で、みんなで島の探索をすることにした。島の外周的に今日は回るだけで終わりそう。

 

「こんなものがあるなんてな」

 

「うん、圧巻だね。存在感が凄い」

 

 何かの遺跡なんかも多かった島だったけれど、一番印象に残ったのは巨大な人型の何かだった。動く気配は無いものだけれども、存在感だけはそんなことは関係ないというようにあった。近くまで寄ってみても、その印象は変わらず、これが動いていた時はどんな感じだったのか、あまり神秘的な歴史には疎い俺でも気になってしまうほどだった。

 

「結構、島広いね」

 

「ああ。一日ずつ、一つの依頼をこなすのがやっとかもな」

 

 一周回り終えた俺たちはロッジに帰って来る。歩いた距離が長かったことで、エリオットやマキアスなんかは足取りもロッジに来た時よりも圧倒的に重かった。

 

「フィー。少しいいか」

 

「何、ラウラ?」

 

 そんな中、ロッジに入る手前でラウラは真剣な表情を隠すことなく、フィーに声をかける。そんなラウラの様子を察したのか、フィーも立ち止まってラウラと目を合わせる。

 

「私と勝負をしてくれぬか? フィーと分かりあうにはこうするしか無いと思うのだ」

 

「……うん。いいよ。今日の夜とかにする?」

 

「それでいこう」

 

 二人の醸し出す雰囲気に俺も、マキアスもエリオットも誰一人として入り込める隙は無かった。ついにやるんだ、ラウラ。俺は何とか整理が出来そうだけど、ラウラがするにはこうでもしなきゃ区切りはつけられないかもしれない。

 

「ラウラ。これでいいんだよね」

 

「ああ、これでしか私の気持ちに整理はつけられぬ」

 

 ラウラは遠い目をしていた。これ以上、自分のせいでみんなには迷惑はかけられないというように。

 

「ラウラ。頑張ってきて」

 

「ああ、任せておけ」

 

 そして、レポートをまとめたり、休憩をしたりした後、ペンションの外に全員が集まる。ラウラもフィーも準備が万端といったように、目を離さず、見つめ合う。この勝負からは逃げられないという覚悟を決めて。

 

「え、えっと、じゃあ。勝負を始める。どちらかが降参するか、こっちが勝負がついたと宣言するまで続ける。では、勝負初め!」

 

 審判経験のある俺が勝負の始まりを宣言する。エリオットやマキアスは少し、遠くで見ているから、もしもがあったら俺が止めなきゃな。

 

「本気でいくぞフィー! 本気でこい!」

 

「望むところ」

 

 お互いに始めから負けないというように、最高速で交わる。ラウラが大振りで振るう大剣もフィーはガードし切れないと理解しているのか、受けることはせずにギリギリのところで避ける。そのようなやり取りを数回続けると、二人は一度距離を離す。

 

「ラウラも実力隠してたんじゃん。いつもより強いよ」

 

「フィーもな。だが、私の本気はまだまだこんなものじゃないぞ」

 

 師匠からのアドバイスをその身に宿すようにラウラの動きはアルゼイド流からは離れていき、荒々しく、自他共に容赦しない形になっていく。それは荒れていながらも、美しく洗練されていた。

 その王道から外れていっている型にフィーも対応を変えざるを得ないようになっていき、段々と押され気味になっていく。

 

「……仕方ないか」

 

 ラウラによって吹き飛ばされ、その瞬間、追い討ちをするように来たラウラに向かって、フィーは激しい光を放つフラッシュグレネードを放つ。だが、織り込み済みというように、ラウラはフラッシュグレネードを蹴り飛ばし、最小限の被害に抑え、フィーの首元に大剣を突きつける。

 

「勝負あったな」

 

「そっちもね」

 

 ラウラの胸元に向かって向けられるフィーの得物の銃口。お互いがお互いの命を握り合っているという状況になった。この勝負、引き分けか。二人とも全力を尽くしたように見えるけれど、命の取り合いとも言えるようなことはしなかった。

 

「それまで。両者引き分けにする」

 

「……フィー」

 

「……ラウラ」

 

 二人は段々と近づいて行く。武器を仕舞い、静かに、視線を揺らすことさえせずに目の前まで来る。

 

「フィー。おぬしのことを認めたい。猟兵として生きてきた人生も、その戦い方もフィーはフィーだ。他の猟兵とも誰とも違う。それを今の戦いで分かった」

 

「……私もラウラのこと分かった。誰とも違う自分だけの強さを目指そうとしてる。そんなラウラの誇りが好き。……間違いなく良い人」

 

 戦いの中でお互いのことが分かった二人は互いに認め合い。握手を交わす。その顔は真剣そのものであったけれど、その中には笑顔のようなそんな感情も宿っていたようにも思える。

 

「無事に終わって、良かったよー」

 

「本当に、ヒヤヒヤした」

 

「ああ、ラウラらしいよ」

 

 何故か誇らしい気持ちになりながら、その場は解散となってペンションへと戻った。A班には方にも何か起こっていないといいけど。

 




直ぐに次の章に行くことになります


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今を見つめて、未来を見つめた

特別実習はすぐ終わりました


 

 ラウラとフィーの勝負から一夜明けた。一夜明けた後の二人の様子は仲が良さそうで、何も知らない人から見れば喧嘩していたなんて思わないほどだった。蟠りも無くなったB班が苦労することなんてほとんど無く、大きなトラブルも無く、特別実習を終了することが出来た。A班の方はまた何かが起こっていそうな気がするけど。

 案の定、寮に帰って来てから、A班のみんなから聞いたことは想像を易々と超えるものだった。帝国解放戦線とかいうのが糸を引いたりしたことで、あわや共和国と戦争になる直前にまで行ったようだった。それを止めるって凄いな。毎回毎回リィンと一緒の班になるとトラブルに巻き込まれるように思える。俺はトラブルに負けこまれるのは嫌だけど、リィンばかりがそんな主人公のような活躍をしていると何とも言えない気持ちになる。俺とリィンなんかは境遇も割と似ているから、なんか置いていかれたような、もっと置いていかれるようなそんな気がする。

 

 

★ ★ ★

 

 

 あれからあっという間に夏になり、制服も夏服に変わった。授業でもプールの授業が入って来て、水泳部のラウラはもちろん、ガイウスもすごく早かった。俺はクラスではラウラと対決して負けたフィーより少し遅いぐらいの速さだった。クラスの中では上位だから、良いけど。フィーとラウラの対決はバチバチしているようなものでは無く、すごく和やかさがあり、良いライバルというのは誰が見ても明らかだった。

 

「ラウラとフィー、仲良くなれたみたいだな。ノクトが手助けしたんだろ?」

 

「少ししか出来てないよ。二人が頑張ったんだ」

 

 このクラスへの貢献具合が一番高いリィン本人から笑顔で声をかけられた。マキアスとユーシスの仲を取り持ったリィンから言われるとちょっとむず痒い気持ちと親から褒められたみたいなそんな変な感覚がくる。

 

「ほんと、よくやってくれたわ。あの二人はもう少し時間がかかるかなって思っていたもの」

 

「いやいや、ラウラと一番付き合いが長いのは俺だから、俺がしなきゃ」

 

このクラスの中でラウラを知っているのは俺だ。これだけは誰にも譲れないし、譲る気も無い。親の意向や家に流されてしまう俺の中でここだけは最後まで残していきたいんだ。

 

 

★ ★ ★

 

 

 そして、また訪れた自由行動日。その前日には夏至祭と特別実習が被るだろうとはサラ教官から言われてた。夏至祭はラウラに連れられて行ったことが何度かあったけれど、行けなくて最悪良いかな。行かない年はクロスベルに家族で行くことが多かったし。

 

「何を考えておるのだ? ノクト」

 

「夏至祭のこと。今年は行けないとか、あいつは行くんだろうなとか」

 

「アベルのことか? 聖アストライア女学院に行っているのならば行くだろうな」

 

 唯一仲の良い家族の妹のアベル。今は聖アストライア女学院に通って、貴族のお嬢様らしい日々を過ごしていると思う。家に男しか居なかった影響か男勝りなところがあるから、少しは可愛らしくなっているといいけど。

 

「ラウラもアベには会いたかっただろ? 割と仲が良かったから」

 

「ああ、久しぶりに会いたいな。妹の居ない私にとっては妹のようなものであったからな」

 

 アベルとラウラは数える程度しか会っていないけれど、そんな中でも直ぐに仲良くなっていたから、多分相性が良い二人だと思う。

 

「そうだよね。あ、そろそろだね」

 

 アベルのことで盛り上がっていたけれど、その内にいつもの集合場所である森林公園の中心に着いた。師匠の佇まい、雰囲気はいつもと変わらず、何だか帰ってきたなという感覚がしないこともない。

 

「待っていましたよ二人とも。前回言ったように今回は貴方達の実力を思います」

 

 緊張した面持ちの俺とラウラを前に突如としてある少女が現れた。見た目は俺達と変わらないようだけど、持っている騎士剣や着ている鎧から見た目以上の経験や年齢なんだろうな。

 

「マスター。この二人に修行をつければいいんですわね?」

 

「ええ、手加減はいりません。その前に自己紹介を」

 

 どうやら、師匠相手だと実力を測れないから、師匠の弟子で実力や測ってくれるみたいだ。この人がどれだけの実力かは分からないけれど、真剣にやらなきゃ死ぬ。

 

「師匠の元で学ばせてもらってますノクト・クロンダルトです。今日はよろしくお願いします」

 

「同じく学ばせてもらっているラウラ・S・アルゼイドだ。今日はよろしく頼む」

 

「聞いたことある家名ばかり。鉄機隊筆頭、神速のデュバリィ。せいぜい油断しないことですわ」

 

 名乗りの後、デュバリィはその肩書きの通りのスピードで近づいて来る。まず構えるのが早い俺を狙ってきてくれたお陰で何とか初撃は防ぐことが出来た。

 

「変な武器を構えるのですわね」

 

「チャクラムと双剣の片方だ。あんた相手にはこれが良いと思った」

 

 デュバリィの攻撃は早く、防戦一方にするのがやっとだけど、こっちはハンデで2人だ。負ける道理は無い。

 

「後ろからやれば勝てるとは思わないことですわ」

 

「そんなこと百も承知だ!」

 

 俺にかかりきりだったデュバリィに剣を振るったラウラだったけれど、その刃は避けられ、逆にラウラに狙いを変えて剣戟を繰り出していく。ラウラは両手剣だから、ついていくのにやっとみたいだったけれど、それを補うように蹴りやアクロバットな動きを取り入れて喰らい付いていた。

 

「アルゼイド流の動きでは無いですわ!!」

 

「そうだ! 私は私の流派を築いてみせる!!」

 

 ラウラの決意を俺の脳裏にも刻み、デュバリィへと迫る。俺とラウラが交互に攻撃することで、何とか主導権はこっちが握れそうだった。だけど、相手は師匠直々弟子だ……押し込めきれない。

 

「ラウラ。どうするこっから」

 

「やるしかなかろう。本気でな」

 

 俺たちは最近、連携する時お互いの命を見ない。こうするって分かっているから、こう動くって分かっているから。だから、俺たちは相手を倒すことだけしか考えない。

 

「血迷いましたか!?」

 

 ラウラが剣をデュバリィに向かって真っ直ぐ投げる。それは落ちる事なく真っ直ぐにデュバリィの元へと辿り着いたが、いとも容易く弾かれ、空中へと舞う。その弾いた隙に懐へと入り、両手に持った刃を振るうも盾と騎士剣に防がれる。

 

「ここで終わりじゃ無い!」

 

 しかし、ラウラが空中で弾かれた剣をキャッチすると、そのまま剣先を光らせ、拮抗している2人の元へ大きく振り下ろす。

 

「やりますわ。少し侮っていました」

 

 直前で離れた俺を見た瞬間、デュバリィも離れたようで、致命傷のようなものは負っておらず、鎧に少し傷が増えたぐらいだった。

 

「そこまでです。3人ともしっかりと休憩をして下さい」

 

 師匠に止められて、俺たちはゆっくりと剣を下ろす。俺たちよりも従事している時期が長い彼女に負けたのはもっとやりおうがあったんじゃないかなど、色々と思ってしまう。

 

「まずはデュバリィ手を貸してくれてありがとう」

 

「いえ、マスターのご命令とあれば当然ですわ」

 

「ノクト、ラウラ、強くなりましたね。迷いも吹っ切れたようですし、改めて2人の目標を率直に言って下さい」

 

 仮面を被っている師匠からは表情を読み取ることが出来ないけれど、声からは俺たちの成長をただ喜んでいるようだった。

 

「……俺は自分の運命さえ乗り越える力が欲しいです。俺の未来は家によって縛られています。俺は自分の未来を決められるぐらいの強さを、周りの人だけでも守れる力が欲しい」

 

 他の剣に通ずる人間からすれば邪道な願いなのかもしれない、貴族の次男としては駄目な考えなのかもしれない。でも、俺は不条理で不公平な未来よりは自分で選んだ未来で後悔したい。

 

「……私はずっと高い壁である父上に憧れながら剣を道を進んでいた。あんなにも高い壁である父上にです。最初はそれで良かった。だが、学院に入って感じざる負えなくなっていった。このまま進んでも父上には勝てないと。父上が極めたアルゼイド流を極めるだけで良いのか分らなくなったのだ。だから、師匠の元で学ぶうちに自分の道を自分で作りたい……と今は思っている」

 

 俺の目標の時とは違ってラウラの言葉は哀愁漂うような暗く、心から迷いのようなものを吐き出しているようなそんななけなしの言葉だった。

 

「ノクト、何処までもそのまま突き進みなさい。いずれはその力が身を結ぶ事もあるでしょう」

 

「ラウラ。それは大きな師匠がいるならば、誰もが悩むことです。その悩みの末、他の流派を習う選択肢もあるでしょう。自分だけの道を見つける選択肢もあります。それは貴方が選んで下さい。どれを選んでも弱くなることは無いです」

 

 偉大な親父さんがいるラウラなりの悩み。俺には解決出来ないかもしれないその悩みを師匠はただただ大きく受け止めた。

 

「……ありがとうございます」

 

 どんどんと俺たちは師匠が居なければならなくなっているのかもしれない。でも、それでもいいじゃないか。俺たちには頼れて、目標となるような大人が必要なんだ。

 鉄機隊なんて部隊で正式なものは大昔のサンドロット様の鉄騎隊しか知らない。師匠とデュバリィは一体何処の味方で何処の敵なんだろうか。

 

「さぁ色々と話し合いましょうか」

 

「あたなたちの知らないマスターのことも教えてさしあげますわ!」

 

 デュバリィも入れて四人で雑談に興じた。デュバリィは師匠ほどの内面の分からなさが無くて、少し年の離れたお姉さんとしゃべっているようなそんな感覚に陥るようだった。俺とラウラには姉はいない。だからこそ、師匠との間にデュバリィが入ってきても嫌じゃない。むしろ、家族の団らんみたいで俺には心地よい空間だった。

 

「では、また次の時に。楽しみにしています」

 

「次の時までに腕を磨いておくことですわ」

 

 師匠とデュバリィはまた消えるように居なくなった。ただ近況を話し合っただけなのにこんなにも楽しいというというか嬉しいのは初めてだ。大げさかもしれないけど、自分の居場所だってそんな気がする。

 

「私はやはり師匠の元で上に昇りつめようと思う。誰よりも高く自分だけの剣の道を」

 

 ラウラの決意はいつも以上だった。今日のことで自分自身の迷いとけじめがついたような感じだった。具体的にどの部分が響いたのかラウラ自身では無いから分からない。でも、自分のことだけをただただ俯瞰的に見てくれる師匠だからこそ思うところがあったのかもしれない。

 

「俺も師匠の元で自分自身をどれだけ強大な敵とか運命に勝てるだけの強さに高めたい」

 

 この言葉は俺の本当の気持ちだ、でも、それ以上に俺はただただ人と違ったようになりたいだけなのかもしれない。普通じゃなくて誰かとは違う特別になれるように。

 

「これからもそなたを歩めることを嬉しく思うぞ。ノクト」

 

「俺がラウラと袂を別つ時は来ないよ」

 

 自分の強さを知れ、自分の未来を形作った。今日は何て良い日なんだろう。




これでクロンダルト家は全員ですね


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