ゲート 蒼い鋼が何故そこに…… (サソリス)
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女神との遭遇なプロローグ

「あなた――――」

 

「なるほどね、完全に理解したわ」

 

「は?」

 

何処からどう見ても神聖とか神秘的とか付きそうな空間。そこで半裸な多分世間一般的には絶世の美女っとか銘打たれそうな女性の言葉を遮った俺の悟りの呟きは何とも重々しいびみょーっな空気を作り出した。

 

仕方ないじゃん、俺ってば転生モノ大好き侍なんだもん。んで、女神さんよぉ―。どうせテンプレってなお決まり通りに俺の心声駄々洩れなんだろ? そんな【え、何でこの人惨たらしくトラックにひかれてひき肉に成りながら死んだ後なのにこんなにも冷静なの!?】ってな目線で俺を見るんじゃないよ。そんな暇あるのなら説明の続きをプリーズ。

 

 

「え、えぇ。すいません、取り乱してしまいました」

 

こほんっと咳払い一つ行い場の空気を変えると彼女は語る。さぁさぁ来い、テンプレッ。

 

「有体に言えば確かにあなたの想像している状況ではあります。しかしながら今回に関しては少々状況が異なるのです」

 

テンプ、レ?

 

「まず貴方の死因ですが私の失態による事故ではなく、○○〇……人間に分かる言語で表した所の下位に当たる死神の不手際が原因です」

 

テンプ……

 

「本来なら貴方はそのまま死に、死後の世界に行く予定でした。しかし、先ほど話した下位の死神があろうことか魂の運搬中トラブルを起こし結果沈ませてしまいました」

 

テン……

 

「その結果積み込んでいた魂達は三途の川へ。その後に行ったサルベージ作業では幸いな事にほとんどの魂を回収する事が出来たのですが一つだけ、貴方の魂だけが何処か遠くへと流されて行ったらしくサルベージに失敗してしまい行方知れずに……って聞いてますか?」

 

オレ、テンプレ、ダイスキ侍。テンプレ、チガウ、カナシイ、カナシイ。

 

「き、聞いているようなので話を続けます。―――白色に成りながら何故ブリッチを?」

 

真っ白く燃え尽きたぜ。具体的に言うとタバコの灰のようにな。あとブリッチは気分でしてます、気にしないでください。

 

「そ、そうですか‥‥‥‥話を戻しますが、その結果を聞き対処に困った最高神は事態の収拾の為に関係各所の神々を招集、人間の時間で換算し300年ほど話し合った結果魂の回収を諦め、転生させる事となりました」

 

「テンプレ、キタコレ!

 

オラぁぁぁぁぁぁぁ!! 途中から何を言っているのか全然理解出来てなかったけど転生って言葉で俺のテンションfullMaxじゃぼえぇぇぇ!!!

ぐわんっと腹筋と腰で起き上がるオレ。その急な行動に対処できなかったらしい女神様の顔と後数センチでファーストきっすな、超近距離だが俺はそんなの気にしねぇ。だってテンプレ大好き侍だから!

 

「で、で、で、何処に転生!」

 

「うぉ! ち、近い」

 

すぐさま離れる女神さん。その顔は真っ赤に染まり傍から見ても恥ずかしそうな感じで……ッポ。

 

「って、貴方が照れてどうするんですか!」

 

ソイツはごもっとも。両手でバッチンッ!!っと気合入れして俺は正気に戻った。アブねぇ、危うく三次元の女に恋するところだった。三次元の女は基本クソだからな、俺は二次元の女に恋するんだ。

 

「感情から強い怒りや悲しみなどを感じ取れます……容姿は普通ですのにどうしてあなたのような人がそのような感情抱いているんですか……」

 

色々あったんですよ、色々。

 

「んで、んで、女神さんよ。俺はどんな世界に転生するんだい?」

 

ファンタジー系のお決まりテンプレ世界かな? それとも乙女ゲーやギャルゲーなどのゲーム世界? そう考えると性転換(TS)して悪役令嬢役も悪くない。でもでもSF系の世界もすてきれなぁ……あ、でもやっぱり王道、つまりテンプレで考えるにファンタジーは必須だよねぇ~

なぁーんて脳内巡らせてると女神さん、突然俯いて暗い雰囲気醸し出し始めた。どったの、ぽんぽん痛い?

 

「―――です」

 

ん? ゴメン、ちょっとお兄さんの耳でも聞こえなかったもうもう一回頼む。

 

「ファンタジーは無い、です」

 

……って事はSF世界か! やったー! ファンタジー無いのは残念だけどSFって言ったらやっぱり宇宙! 宇宙は男のロマン、これだけは外せねぇっし外したくない。あぁー、俺ってばゲームだと探索勢だからオープンワールド系のゲームだとマップ探索がメインになるんだよなぁ。そんな俺だからこそ未探索の惑星や宙域なんかを探索する職業にもってこいだぜ。ハァ、ハァ、ハァ。やべぇ今から興奮してき――――

 

「確かにSFですが宇宙は無い、です」

 

――――た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……宇宙はない?

 

「ハイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

……宇宙船も?

 

「ハイ」

 

 

 

‥‥う、宇宙人も?

「……は、ハイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‥‥‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁくッ!」

「し、死んでる方から死ねって言われた!?」

 

 

 

まーじかマジか、宇宙無いSFとかSFであらず。確かに俺の記憶では蒼き鋼のアルペジオとか地球を舞台にしたSFチックな作品もあるが、正直俺は無理だ! だってSFだぜ、宇宙だぜ。俺はあの広大な未探索の場所へと行きたいんだぁぁぁぁぁ!!!

思わず涙がちょちょ切れ、洪水のように溢れ出してくる。だってさ、俺ってば小さな頃の夢は宇宙飛行士だったんだぜ。そんな幼少のころの夢が叶うかもって希望も持っちまったら誰だって縋り付くだろうよ。そんな感じで泣いてたら女神からの一言で俺は思考が停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ハイ。その蒼き鋼のアルペジオの世界です」

 

……すまない。俺の耳が等々はレコンギスタを起こして使い物にならなくなったようだ。もう一度、ハッキリとした声で頼む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼き鋼のアルペジオの世界へと貴方は転生されます」

 

 

 

 

 

……オワタ。

 

 

「何故だ!」

 

確かに作品としてはかなり好きな分類に入るがあの世界はアカンッ! あの世界は海に出る人間にとっては地獄ゾ。もし戦闘艦に乗り込んで外洋に出ようものなら紙よりも軽く命が消し飛んでしまってもおかしくない。何でそんな世界に俺が転生しなきゃいけねぇだ!

……いやいや、でもだでも。考えようによってはかなり安全に暮らせる可能性だってあるぞ。つまりは海にさえ近付けなければ良い事。なんならその世界の未来だってある程度は把握している訳だしうまく立ち回れば一攫千金、大金持ちだって夢じゃねぇ。それにあの世界ではSSTO、つまりは宇宙へ行くことだって割と容易に行くことが出来る世界だ。その世界の混乱の原因である霧の艦隊関係の問題を主人公がちゃちゃっと解決した後に俺の夢は叶える事も出来る……アレ、そう考えると割と有用物件なのでわ? でもなぁ……下手したら海に駆り出されて死んじゃう可能性もあるしなぁ、困った。

 

 

「安心してください。貴方はそんな運命は辿りません」

 

ほ、それはよかった。つまりは俺は海に出る事は無いし、主人公が巻き込まれるゴタゴタなんかにも関わらずに済む――――

 

「その世界では主人公である千早群像は死産する予定ですから!」

 

――――マージカ。

 

俺はその事を聞いて再度ブリッチ体勢へ移行、特に意味は無い。そして心の中でこう叫ぶ。

 

 

……そんなの聞きたくないし何処に安心する要素があるですかねぇぇぇぇぇぇ!!!

 

「この駄目な女神、略して駄女神ッ! 俺の安堵を返せ、コノヤロぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

オラぁ! 何故か近くに置いてあった座布団の投擲を食らいやがれぇ! 

 

 

「ハイクヲヨメ、必殺ッゲッタァァァァァタマフォォォォォック、ブゥゥゥゥゥウメランッ!!!」

 

俺の華麗なる投擲技術により放たれた正方形の座布団。それは功を描き飛翔、クルクルと回転しながら正確に美しき容姿である女神の顔面へとクリンヒットを果した。

 

「ぎゃぷらんッ!」

 

「ナムサンッ!」

 

これにて悪は打倒され、世界に平穏と平和が訪れた。再度悪が満ちる時彼は再び、平和を取り戻す為に動き出すだろう。頑張れニンジャ、負けるなニンジャ、これからも彼は戦い続け悪を滅ぼし続けるのだった。

 

 

 

 

 

・完・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……説明の続きをしてもいいですか?」

 

「ハイ、すいません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通り茶番を終えた俺達はいつの間にか用意されていたちゃぶ台を挟み、先ほど投げつけた座布団を敷いて座った。

いやー、思わずやった事とは言えあんな茶番に女神が付き合ってくれた事に感謝感激雨霰ですよ。

 

「いえいえ、貴方の理不尽に思うその気持ちを払拭出来たのならば私も本望ですよ」

 

「流石は女神、器がデカい」

 

そして持ってるお茶碗の大きさもデカい。あれでお茶飲むつもりなのか……お茶大好きウーマンかよ。あ、俺の分のお茶も用意されてた。普通の大きさだ。

 

「それで話は戻しますが貴方はには先ほど言った通り蒼き鋼のアルペジオの世界へと転生してもらいます」

 

「はい、それに関しては諦めました。理由なんかを伺っても?」

 

「実はあの世界へ行く予定の魂が丁度貴方でして……転生する都合上、予め割り振られた世界しか行けないですよ」

 

「なるほどなぁ」

 

ぐびーっとお茶を一口。ほろ苦い感覚が舌を支配するけど、美味い。コレは良い茶葉を使ってんな?

 

彼女の説明から考えるに魂は有限なんだろう、でなきゃ予定とか組まずに新しい魂なりなんなり生成するはずだからな。んで、これまで読んできたラノベや漫画、アニメの設定から考えるに恐らく死後使い終わった魂をクリンナップして白紙に戻し言い方は悪いが他の世界で新たな生き物の魂としてリサイクルっと。こんな感じだろうな、そんでもって今回の場合はトラブルが祟ってクリナップする事の出来なかった俺をそのまま転生させる予定だった場所へ転生させ予定の狂わないように調整する事になり、てんやわんやってところだろうな。

 

「……まったくもってその通りです、こちらの不手際で申し訳ありません」

 

いや、直接関係ない貴方に頭を下げられてもこっちは困るだけなんだけど……ってマジでこのお茶美味いな。転生先に包んでくれないだろうか?

 

「分かりました。この茶葉は私もお気に入りの物なのでそう言ってもらって私も嬉しいです。とりあえず、月一で転生先に届くよう手配しておきましょう」

 

「ありがとうございます」

 

ずびーっとお茶を再度一口。でも腑に落ちない。俺が転生先を選べない理由は分かった。けれど、さっき女神が言っていた転生先の世界で主人公をキメる予定である千早群像が生れる所か死産で文字道理死ぬ理由が分からない。彼女の言い方から俺自身が千早群像への魂だった予定では無さそうだし、一体どうして?

 

「……逆です。貴方が生れるからこそ彼が死んでしまうのです」

 

「俺の、せい?」

 

思わず湯呑を落としそうになる。一体全体どういう理由があってそんな事に――――

 

「―――実を言うと貴方の転生先は千早群像です。結果的に言えばですが」

 

「結果的に? 詳しく」

 

「あなたは本来の千早群像と双子の兄弟となるべく生まれる予定となっています」

 

「ですが、母体である千早沙保里の体では双子の出産には耐えられない」

 

「貴方を取り上げた直後、容体が変化し結果的に母子共に死を迎えます」

 

「そして唯一無事に取り上げられた貴方が千早群像と言う名を与えられる事に」

 

 

「―――」

 

唖然ってのはこういう事を言うのだろう。死ぬ前から家族になる予定の人の死が決定付けられ生きる前から寂しさを、悲しみを経験する事になってるんだろうか。

 

「……残酷な事だけども納得は出来る」

 

確かアニメ版だと父親が死んだショックな何かで自殺したって設定であったし、彼女は死ぬ運命なんだろう。けどなぁ……兄弟に関して納得いかないよなぁ。

 

「なんとか兄弟を、本来の千早群像を生かす事は出来ないのか?」

 

俺の質問に答えるのが辛いのか、暗い表所を浮かべて先ほど同じく俯いた。そしてぽつぽつと語り出す。

 

「できなくもありません。ですが、その場合物語が予定されているシナリオ通りに進まない可能性があります」

 

「そして物語は彼、千早群像中心ではなく貴方中心に、貴方が起点となって進む事になってしまいます」

 

「それでも良いのですか?」

 

主人公の交代、シナリオの変更、アドリブ前提の舞台演技。やっべ、夢にまで見た主人公だー わーうっれしー。俺ちゃんがんばっちゃうぞー!

 

「いいのですか。貴方は本来背負わなくても良い負担を、宿命を背負う事になるんですよ」

 

「上等、それもまたテンプレだ」

 

本来の主人公と変わって別の人物が、転生者が主人公となるのもまた王道。それに俺が頑張る結果、1人の人間の命が救われるってんだから頑張るしかねぇーでしょう! それに――――

 

「兄弟か、胸が熱くなるな」

 

――――生前では一人子だったからな兄弟ってのは昔から憧れがあったんだよな。だからこそこれからマイブラザーとなる兄弟を救う為ならなんだって出来るぜ。

 

「……わかりました、貴方の意志は変わらないようですね」

 

女神さんは立ち上がる。それと同時に彼女の頭上から光が差し込み彼女を幻想的に照らした。そして俺達の間にあったちゃぶ台は何時の間にか姿を消し、俺の下へゆっくり歩み寄ると両手で頭を包むように手を差し伸べて来た。

 

「貴方はこれから様々な事に巻き込まれ、苦悩し、絶望もするでしょう」

 

「ですが忘れないでください」

 

「貴方には特別に加護を与えます」

 

「これは貴方にとって優位に働き、貴方を大いに助けてくれるでしょう」

 

「だから決して諦める事だけはしないでください」

 

意識がかすれ、彼女の声が聞き取りづらくなる。さっきまであった体の感覚は麻痺し、どんどんと自我が薄くなっていくのがよくわかる。多分次目覚める時は転生した後だろう。自分が自分じゃなくなるのは中々に気持ちの悪い感覚だけども案外これも例えるならそう、泡ぶろに浸かって体が溶けるような感覚って感じかな。だけどもほとんど意識が解ける中でもハッキリとこれだけは聞こえた。

 

 

「私はあなたを見守ってますよ」

 

 

世に言う女神のささやきってやつがね。



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戦闘詳報

ほんへ


で、何だい美人な見知らぬカワイ子ちゃん。こんな夜更けに呼び出したりして……怖い人に襲われても知らないゾ。

 

問題ない。だって私は――――霧、だから。

 

な、コレは……!?

 

霧の巡行潜水艦、イ401号。世界の果てまで連れて行く貴方の船。そして、私自身……

 

……フュー 前に群像の話だけは聞いてたがマジで政府が拿捕した霧の船を隠してたんだな……ピカピカに光ってまぁ霧の船ってのはなんつうか凄いんだな。

 

そう、私は凄い。そしてこれから貴方も()の艦長になるのだから凄くなる。

 

ハハハ……俺が霧の艦長ね。成績不足で今年にでも海陽学園から追い出されかけてる俺がね――――

 

それでも、貴方が艦長に相応しいとそう私が判断した。

 

嬉しい事言っちゃってまぁ……とりあえず、俺だけじゃ無理だから他のメンバーも巻き込んでいい?

 

ん? どういう事?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おらぁてめぇーら! 今回の獲物は大物だゾーなんたって大戦艦級なんだからな! フュー控えめに言って地獄ぅー

 

なぁ兄さん……ホントに奴を、あのヒュウガを沈めるのか?

 

沈めなきゃ俺らが沈むんで海の藻屑なんだよなぁ……なぁイオナ。

 

肯定する。今のヒュウガはまるで獲物である猛獣を狩ろうと虱潰しに探す狩人。大戦艦級の探索能力から考えて私達をスルーする事はないだろう。だから今ここで沈めるしか私達には選択権がない。

 

っだ、そうだ。まぁ過去にチョウカイを沈める事に成功した俺達兄弟だ、今回だって上手くやれるさ。

 

ハァ……兄さんって変に楽観的なところあるよね。

 

なぁー千早兄弟や、そろそろ戦術プランを提示してくれないと(やっこ)さん痺れを切らして俺達を見つけておっぱじめ始めるぞ。

 

ですね、大戦艦ヒュウガは依然として私達へ指向性のソナーを使いながらも探索しているようですが……此処のままだと見つかるのも時間の問題かと。

 

それにしてもソナーで他の艦を捉える事が出来ないって事は僚艦が居ないって事ですよね……不用心な事。

 

ハイハイ、敵さんの悪口はそこまでにしといってっと、そんじゃおっぱじめますか。戦術はプラン提示、魚雷は発射管1から4まで通常セット残りは杏平のお任せオーダー。ソナーはいつも道理に感度最大で頼むぞぉ~そんじゃ皆いってみよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うわぁ……あのタカオちゃん思いっ切り俺達の事を待ち構えてるよなぁ……怖ッ!

 

台風の目と一緒に移動してますね……まぁそのおかげで私達の居場所がバレてない訳ですが。

 

今アクティブデコイの4隻目がやられた。流石はチョウカイと同じ重巡洋艦クラス、手ごわい。

 

台風の影響でソナーの能力は落ちていると思ってましたがこの記録を見るに影響は少なそうですね……残念です。

 

だねぇ……あ、二人共遅いゾー どこでホモってたんだヨ。

 

ホモって……兄さん、言って良い事と悪い子が―――

 

ヤダ群像、俺とは遊びだったって言うの!

 

――――杏平ぇ、お前まで乗るなよ……

 

アハハ、ほんっと艦長と杏平って仲がいいよねぇー

 

ちーっすいおりちゃぁん今の所エンジンの具合は好調? まぁどんな答えが返ってこようと最大出力三分は保証してくれないと沈むかもしれないんだけどねぇ~アハハハハハ

 

鬼畜ぅー! 艦長の鬼畜ぅー!!

 

アハハハハ何とでも言いたまえ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おらぁ! アイツらのせいで豪華な飯を食い損ねたんだ、絶対沈めてやる……ボスラッシュどんと来い!

 

霧の大戦艦ハルナ及びキリシマを確認。

 

――――よしイオナ、逃げ舵だ。面舵逃げろぉー! 大戦艦級二隻同時とか聞いてませんぜぇ!

 

ハイハイ兄さんの何時もの泣き言は聞き飽きましたよぉーっと。イオナ、深海の潮の流れを送る。それを使って潜めるか?

 

ガッテン! 機関停止、重力子フロートブロー。逃げ舵潜航ぉー

 

自慢の弟が艦長より艦長らしい事してて嫉妬も起きなくてワロスワロス……ワロス。

 

そう言うなら艦長さんも何か艦長らしい事してくれよ…… 

 

OK、デコイ1番から三番まで装填。四から六を音響魚雷、その他おまかせで魚雷管に突っ込め! それといおりちゃん、今回はキツイだろうが1分は保証出来るようにしてくれよぉ~

 

えぇー! ほんっと艦長は何時も何時もキツイ事を言ってくれるよ!

 

頑張っていおりちゃんファイトだぞいおりちゃん。後でお礼にプリンでもあげるから――――

 

 

高ぶってきたぁー---!!!

 

 

……楽しそうでなにより。あ、後静はソナー最大で敵の位置を探りつつ他に艦影が無いか確認してくれ。僧はいつも道理シールドとダメコンの操作頼む。

 

はい。ソナー最大、がんばっちゃいます!

 

分かりました艦長。お任せください。

 

そんじゃ皆、いってみよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わぁー久方ぶりに帰って来たよな硫黄島。とっ捕まえてたヒュウガの奴元気に――――

 

イオナねぇーさまぁー!

 

ヒュウガ久しぶり、あと痛いから離れて。

 

――――してるようで何より……ってかメンタルモデルまで会得しちゃってるし……なんか、やべぇな。特に胸元とか

 

普通にセクハラだと思うぞ兄さん……あと少なくとも兄さんよりはビックリ箱してないと思う。

 

誰がパンドラの箱じゃあッ!!! 

 

クスクス、艦長が厄災の箱だなんて、クスクス。

 

言い得て妙ですね。

 

だな。

 

うぁーお、俺ちゃん乗組員にそんな事思われてたんだなぁ普通にショックぅー

 

艦長大丈夫、皆が見捨てても私は何時も貴方の味方だから。

 

俺ってば見捨てられる事前提かよぉぉぉぉぉ!!!

 

ちょっと!私の事忘れてないッ!

 

誰だ! この乙女プラグインしそうな声の人物は!!!

 

だ、誰が乙女プラグインなのよぉ!!!

 

あ、タカオ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イエーイ、絶賛沈没ちゅー

 

艦長、これからどうする?

 

……とりま勿体ないから生命維持装置へ回してるエネルギー全カット、無駄な区画はパージして余ったナノマテリアルを重要区画に集中配置。無駄なものを削ぎ落して残ったエネルギーを節約だな。

 

了解。でも、これじゃ浮上出来ない。

 

それは元からだろ。最初の一手を受けた時点で俺達は詰んでんだ。なら最低限タカオ達が俺達を発見するまでの時間稼ぎぐらい、やってもいいだろ?

 

……分かった。区画をパージ、生命維持装置へのエネルギーを全てカットする。

 

OK。そんじゃ、緊急時の対応道理に保護カプセルにて俺も寝ますかね。正直負傷してて何だか眠いし……って事でイオナ、後よろしくぅー

 

了解。お休み、艦長。

 

おう、イオナもなぁ……zZ

 

――――いい夢を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒャッハー! 復活の蒼き鋼だぜぇ!

 

レーダー、敵艦多数確認。大艦隊です!

 

イオナにタカオ!そしていおり、超重力砲よぉーい! ぶちかませぇー!

 

あいあいさー 超重力砲、ぶちかます。

 

……なんて言うか、私の考えてた艦長と違う。よくこんなのの指揮であんな戦果上げれてるわね……

 

まぁこれが内の艦長のスタイルですから。

 

兄さんは俺達とは違って勘が良いからなぁ。でも俺が考えた戦術プランを無視してフィーリングで動かれるのは正直止めてほしいけど……

 

こんなのに負けた私って一体……

 

なぁ、ハルナ。私達ってなんで負けたんだろうな……

 

不明。恐らく人間の織りなす奇跡。

 

二人共難しく考えすぎだと思うよぉー

 

あぁー、その子の言う通り難しく考えない方が良いわよ。その子の言う通りでソイツは私達の演算では予想のつかない変な奴だから。ちなみに私は撃沈されてからその事を1か月間ずっと考えて諦めたわよ。

 

ハッハハハ! わが軍は圧倒的ではないかぁ!!! ハッハハハ!!

 

アンノウン確認、メインモニターに出します!

 

オイオイオイ、何だあのクソデカいボールは……

 

全長約300m以上。どうやってアレだけの質量をあのように空へ浮かばせているのか……霧の技術は何時も驚かせてくれます。

 

コンゴウの反応を確認……でも艇としての形をしていない。

 

マヤの固有振動も察知したわ……まさかマヤを取り込んだんじゃないわよね?

 

どちらかと言うと合体じゃないか?

 

あぁー、あの記録にあった無駄な機能ね。ところでハルナとキリシマ、なんであんな無駄な機能を追加したの? 明らかに二隻でそれぞれ超重力砲撃った方がよかったじゃない。

 

アレはキリシマの趣味だ。

 

わ、悪いか! 合体はカッコいいだろぉ!!!

 

ハッハハハ――――ハ? なんだアレ? 

 

兄さん、聞いてなかったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁー総員準備は良いか? 今回の相手は霧の生徒会なるパチモン集団だ! 学校モドキをやってるアホぅどもをイッチョ〆に行くぞオラぁー!

 

艦長、私達に指示を。

 

今の私達は損傷によりアドミラリティ・コードを失っている状態、だから提示してほしい。

 

私達は兵器。だから存在する限りその意味が欲しい。

 

なぁ群像群像、ホントにこの二人を自由にしてて良いのかな?コソコソ

 

400と402はイオナがコアのマスターキーを掌握してるから大丈夫って兄さんは言ってたけど……確かに不安だ。コソコソ

 

……何だか昔のイオナを相手してるみたいだ……ハァ~  とりまイオナの姉ちゃんと妹ちゃん、今回はイオナを手伝ってくれないか? ちょっと今回の戦闘では1人じゃ多分キツイだろうから。

 

400、402、演算処理のバックアップを頼む。相手は恐らくこれまでの戦闘データを元に対潜戦闘を主眼に置いた戦術を打ち出してくるはずだ。だから今回は艦長流の戦法で行こうと思う。具体的に言うとどんな戦法を取られても臨機応変に対応し、ヒエイを撃沈させる。

 

分かった。

 

了解した。

 

っげ、とうとうイオナが艦長に汚染された!!!

 

誰が汚染物質じゃあオラぁ!!!

 

まぁまぁ兄さん、杏平の言う事だから……

 

そうですよ。艦長はただでさえパンドラなんですから、その中身が例え汚染物質だとしても驚きません。

 

ますます禁断の箱に近づいてきましたね、艦長。

 

静ちゃんは何でそんなにも嬉しそうにしてるんですかね……酷いぃ。

 

艦長ザマぁ~

 

……いおり、今夜のプリン取り上げな。

 

っゲッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――本艦はこれより霧の総旗艦であるムサシとの戦闘に入る。現在、知っての通りイオナが不調でクラインフィールドやその他の機能は400と402のバックアップで辛うじて動いている状態だ。だが、これから俺達の戦場は恐らくこれまで経験した以上に激しさを増した戦闘になるだろう……それでも多分これが最後の戦いだ。気張って行くぞ。

 

おうさ艦長。でもあんまり心配するなって、劣勢な戦いなんてこれまで何度もやって来ただろ? 大丈夫さ、きっと今回も乗り越えて行けるって。

 

そうですよ。艦長は毎度の如くその持ち前の勘で乗り越えて来たんですから問題ないですよ。

 

たった良くて10パーセントほどのスペックしか発揮できない現状、操舵すら手動……うんぅー過去にやった縛りプレイようで久々に燃えて来ますね。

 

僧はこういう劣勢な状況での逆転劇を狙った作戦での操舵が昔から好きだったもんなぁ。何つうか、ギャンブル気質?

 

クラインフィールドの操作は任せてほしい。私達は同型艦、だから人間で言う所操作は朝飯前。

 

フィールドは最大出力で10%、これに注意して動いてほしい。

 

……ありがとう。

 

人間達のデータベースに記載されている記録によると血のつながった姉妹のピンチをカバーするのは姉と――――

 

――――妹の役割。だから気にするな401。果たしてその理屈が血液の循環していないメンタルモデルたる私達にも適応されるのか疑問ではあるがな。

 

……兄さん、そんなこれは新手のツンデレか? なんて顔でアピールしなくてもいいからさっさと目の前の戦闘に集中してくれないか?

 

群像は頭堅いなぁ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――だが兄さんそれじゃ兄さんだけ取り残される事に‥‥‥‥

 

他に方法が無いんだから仕方ない。俺が残ってイオナを操舵する。他の奴は既に降ろした、お前も早く離艦しろ。

 

艦長、タイムフィールドの維持が難しくなってきた。あと数分でこの空間は崩壊する。

 

副長、離艦の意志があるのならば即時に行動する事を推奨する。

 

っく、絶対に後から助けるからな兄さん―――……

 

たくぅ、お前もそれは難しい事だと知っているはずだろうに……さて。イオナ、群像が離艦したらわかってるよな?

 

わかってる。重力子エンジンリミッター解除、ミラーリンクシステムフル稼働。

 

ワープドライブ起動、座標軸の計算……完了。群像副長の離艦を確認。

 

重力子エンジン臨界、エネルギー出力を限界値で維持。タイムフィールドシステムを放棄、クラインフィールド最大出力で維持。

 

全メインシステムの演算をワープドライブへ。これにより操舵を艦長へ譲渡。

 

譲渡確認。さて3人とも地獄の底まで付き合ってもらうぞッ!

 

了解、地獄の底だって付き合う。だって私は貴方の、虹像(ぐうぞう)の船だから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――いっけぇー-ぇイオナッ!!! 撃てぇぇぇぇ!!!」

 

舞い落ちる純白の巨大戦艦。青色の光を滾らせながら漆黒の黒い戦艦の直上より出現し、その光を斉射する。

 

「こんのぉー----!!!」

 

赤い色の幾何学模様のフィールドによってそれは防がれるが……大質量の船体まで受け止める事が出来るはずも無く、フィールドは崩壊。美しき巨大戦艦はまるで自身を剣に見立てたかの如く甲板へその艦首が突き刺し、漆黒の巨大戦艦を真っ二つに割った。重みにより自壊し沈みゆく双方の船体。最後に脱出した乗組員の群像達の目にした姿は、空へと聳え立つその艦首から発射された戦いの終わりを告げる想いの込められた美しい光の柱だったと言う。

 

 

 

こうして人類と霧の戦いは終わった。

 

 

……1人の少年と三人のメンタルモデルにより終わった戦争。その最大の功績者達は戦いが終わって数年、時間が経った今であっても安否は分かっていないと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぉーいイオナに姉妹達、三人とも生きてるかぁ?」

 

「色々と問題はあるがとりあえず生きてる」

 

「肯定だ艦長」

 

「とりあえず私達は問題ない」

 

 

 

――――分かっていないと言う。




・千早 虹像(ぐうぞう)

 本来の主人公である千早 群像の双子の兄として生を受けた転生者。主人公の成り代わり、イオナを受領。色々とゴタゴタがありながらも本来のクルーを揃えて彼女達と共に蒼き鋼として霧と戦い続け、世界を救った。彼の消息は不明で最後の戦いにて戦死したと考えられている。

・イオナ(イ401)

霧の巡行潜水艦イ401のメンタルモデル。
本来の受取人である群像では無く虹像を艦長とした影響か、アニメ版の見た目でありながら漫画版の性格に近い性格に成りつつある。最後はヤマト結合し、轟沈したと考えられている。

・イ400&イ402

主人公が違う事によって生まれたズレにより奇跡的に不完全ながら修復出来た二人。
彼女達の行動理念であるアドミラリティ・コードを忘れて、兵器としての存在意義を見失っていた所に改変版イオナが説得して仲になる。その後に行ったイオナとのデータ共有の影響で性格がソルティーロード版の二人に似て来ている。最後は虹像と同様イオナと共に沈んだと考えられている。


・千早 群像

物語の本来の主人公。主人公の影響でその立場が失われた今では性格が若干変化しており、本来あった挑戦的な性格が成りを潜めて合理的な考えを優先して動いている。
しかし、主人公がその鳴りを潜めた挑戦的な部分を補っている為にそのカバーに大忙しとなった影響でそうなったとも言える。

ムサシ決戦後、母の入った墓に兄と父さんがそちらへ行ったと涙ながらに報告したと言う。


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緑の大地、ビバ異世界ッ!
【1】


コメントありがとうございます!

コメントもらうとモチベーションが向上し、断然やる気が増してくるので気楽にコメントして行ってくださいねぇ~



ほんへ


「うぃー、イオナぁー各種チェック頼む」

 

「了解。メンテナンスモード起動、船体スキャンを開始する」

 

「艦長、私達はどうしたらいい」

 

「指示をお願いする」

 

「あぁー400は水上レーダーを、402はソナーを頼む。あ、あとついでにイオナと同じく異常が無いかチェックしててくれ」

 

「了解した」

 

「わかった」

 

 千早 虹像。それが今世で与えられた俺の名だった。いやー、最初は主人公枠キターッ!!! ってな感じで喜んでたんだけどネーミングセンスの無さに泣いたね。だって虹像、つまりは偶像だぜ。偽物って暗示してるようでなんかヤダ。まぁーそんな風に思っても親の付けてくれた名なので有難く受け取って俺は順風満帆に成長していったともう。まぁ、精神的には成熟してた俺は関係ないけど。だけどそれが弟として生まれた群像にはカッコよく見えたらしく、良く慕ってくれたっけ。前世では兄弟のいなかった俺はそれが嬉しくて嬉しくて、何つうか暴走してたと思う。まぁそんな俺も肉体的に成長して海陽学園に入学すると色々と思っていた前提がぶっ飛んだ。なんと俺ってば主人公補正無しの落ちこぼれだったのだぁ! いやぁーそれを最初知った時には笑ったね。色々と猛勉強してコレだったんだから。そんで流石は主人公、我弟はその才能をフルで発揮して原作道理に成績トップに上り詰めた。

 まぁその影響で弟は千早の(GOLD)、俺は千早の金メッキなんて不名誉過ぎるあだ名が定着しちゃったんだけどね。その事を知った群像が切れ散らかして激怒してたのは弟の事ながら滅茶苦茶に怖かったなぁ……まぁそんな平凡? な学校生活を続けていると案の定物語の始まりを告げる出来事が起こる。イオナとの初めての接触だ。

 場所はアニメ版のような場所では無く、漫画の場所である廃棄された港にある倉庫。そこで俺は初めてイオナと出会い、そして俺は物語の歯車が動き出したと感じた。それからと言うモノ俺達の周りではトラブル続きのどんちゃん騒ぎ。何とか弟を説得して原作同様のメンバーを揃えて旅を始めたは良いがその旅は厳しいものだったよ全く。

 ちょぉこっと金稼ぎの為に霧の哨戒の網を潜って密輸モドキを行ってると地上ではイオナを狙ったアレやコレやに命を狙われるわ、海では霧の重巡洋艦チョウカイと偶然遭遇戦に戦闘となって命からがら撃破した……のは始まりに過ぎずそれからは本当のボスラッシュで天手古舞だった。メンバーを何とか揃えて再度出航してみればお次にであるのは大戦艦ヒュウガ。メンバーを1人入れ替え、珍しく政府から依頼されたミッションで護衛に付いたSSTOを防衛作戦。その後に偶像の奴が勝って受けたもう一つの政府の依頼を遂行するために横浜港に戻る途中、待ち構えるかのように立ちはだかった霧の重巡洋艦、タカオ。新型魚雷である振動弾頭を受け取って政府のお偉いさんに呼び出されている間に何故か戦闘状態となった霧の大戦艦ハルナにキリシマ。硫黄島のドックで修理した後にピーマン食べて何故か戦闘状態となってしまいコンゴウから命からがら逃げた先に待ち伏せしていたイオナと同型艦、つまりは姉妹となる霧の巡行潜水艦イ400とイ402。タカオの助けでアルスノバ状態で蘇った俺達に再度立ちふさがった強敵、コンゴウっとマジで色々あった。その後は北極当たりに旅行しようとみんなで話してたら霧の生徒会だの、総旗艦だのと色々とまた巻き込まれて最後のラム特攻した後に俺は今ここにいるってワケダ。ってか、マジで何で生きてんだ? 

 

「むぅー、イオナの計算が間違ってたとは言い難いし……謎だ」

 

 ラム特攻する前に出された確率によると8割の確率で次元の隙間に巻き込まれて遭難、漂流すると出てたんだけどなぁ……全然波の揺れを感じ無い。残り1割半はそのまま轟沈、残りが別次元へGOってな具合だけどそんなの引ける俺じゃないからなぁ。

 

「艦長、レーダーソナー共に異常なし」

 

「オールグリーン────」

 

「マジか、壊れてる場所無しってのはなんだか不自然だな?」

 

 アレだけドンパチした後だぞ、ヤマト型同士の戦闘で無傷ってのは無いだろいくら何でも不自然過ぎる。そしてこうやって不自然な事が起きると必ず続くのが────

 

「────でも、反応がおかしい」

 

 決まってトラブルなんだよな。

 

「おかしいってどういう事なんだ402?」

 

「ソナーに異常は無いが不自然な音ばかりを拾う」

 

「不自然な音?」

 

「波ではなく風の音、葉の茂音に鳥の声……絶対に水中では拾う事の無い音ばかりだ」

 

 ふむ……確かに水中では基本無音かよくて水中生物、くじらやイルカたちの鳴き声ぐらいだもんなぁ。イオナの計算が正しいなら

 

「400、水上レーダーの方はどうだ?」

 

「……奇妙だ」

 

 ん? どうした、そんな何とも言えない難しい顔しちゃって。イオナと同じで美人さんな顔なんだからそんな顔してると可愛くないぞぉー

 顔をむにゅむにゅってな具合でやるけどそれでも元に戻らない当たり何か必死で考えてるんだろうな。

 

「って、奇妙?」

 

「概念伝達の出来ない艦長には見てもらった方が速い」

 

 400がメインモニターへ指を指すとイオナがチェックしている項目を映しているであろう画面が切り替わり、外の映像が内氏出されるんだけど……マジか。

 

「なぁ400、これってバグった結果じゃないよな?」

 

「否定、外部カメラの機能は正常に動作している。映る光景に疑う考えも分かるがまずは目の前の現実を受け止めて欲しい」

 

「だがよ────」

 

 

 ────海の異次元へ潜った結果、辿り着いた先が森ってどういう事よ。

 

「私達はどうやら本来なら縋る事も出来ないほど低い確率を」

 

「0.5%の確率を引いてしまったようだ」

 

 カメラに映るのは木々。402が言っていたソナーの結果も納得だ、そりゃ水中じゃ拾うはずの無い音を拾うはずだよ。だって俺達の現在地は水中や水面では無く地上。それも見た事も無い、大自然囲まれた森の中に転移してしまったっぽいんだからな。ってかマジでここ何処よ。日本列島本土にはここまで広大な森は無い。他の大陸側を探っても長い期間国交を霧に遮断されてて世界的な飢餓に陥っていた状態だったんだ、ここまで無事な状態で保持された森は何処にもないだろうよ。まぁそれを考えるにここは異界の地、なんでもアリの未知なるフィールドって訳さ。

 

「全システムチェック終了」

 

「お、おう。お疲れイオナ」

 

「うん。船体に問題は見つからなかった。けど、私達の周りは問題ばかりだ」

 

 アハハ、まったくもってその通りですね。俺達の行く先々でトラブルばかりで嫌になるなぁ。ハシラマの時とか特に酷かったし……ズイカクさん、貴方から教わっていたサバイバル(ぢから)が無ければ生き残る事は不可能だったぜ。

 

「……とりま、イオナちゃんよ」

 

「何? 艦長」

 

 コイツと出会って一つの物語が動き出し、進んで、そして終わりを迎えた。それでもこうして一緒にいるって事はまだ何かあると言う事だろうよ、考えたくもない可能性だけどな。でも、ゼロじゃない事は確かだ。だって世界の上位者たる神様の保証付きで主人公の代役をやれと言われてるんだからな。

 こっちを不思議そうに見つめるイオナを前に俺は学生時代から愛用している帽子を被り直す。さぁさぁ多分だが今、これからが俺達の再スタートだ。前の世界の事なんて一部忘れて、気分を切り替え気張って行くか! 

 

「……ムサシ戦お疲れ様、これからよろしくな」

 

「ん? 艦長が何を言ってるのか分からないけど、まぁよろしく?」

 

 まぁ、俺の相棒はそんな事情を知る由もないんだがな。




誤字報告も待ってまぁーす。


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【2】

正直一日で三本以上も投稿するのはきついですがコメントの力で何とか頑張ってまぁーす。応援よろしくです。



ほんへ


 アレから互いに情報を交換し合った俺達はとりあえず、各自の出来る行動をした。

 イオナと400、402に外の情報を取得させて、外気などに有害性などが含まれてないか徹底的に調べてもらい。無いと分かると俺と護衛の402を連れて外の探索を開始する。残りのメンバーは船に残ってセンサーなどの調整を行ってもらうからお留守番だ。

 んで、まず俺達が外に出て第一目標兼最優先に発見しなきゃいけないモノとして指定したのは当然水と食料だ。一応艦内倉庫には5人で消費する量の1週間分あるが備蓄としてあるがそれも補給が無ければ何時かそこを付く。だからこそ、その二種類の確保を最優先として行動していた。ってか、人類俺一人だからマジで死活問題だ。

 

「けどまぁ、地上に出て改めて思うがここって異界なんだなぁ……」

 

「人類のデータベースに無い植物が多い。油断厳禁だ、特に拾い食いなんてしたら体にどんな影響があるか……」

 

「あっれれぇ? おっかしいぞぉ。何時の間に俺、拾い食いするような人間と思われてたんだ???」

 

「自分の胸に聞いてみると良い」

 

 森に入って分かった事と言ったらまず植物の多さだ。森ってぐらいだから当然ではあるんだが、水没した日本ではもう見られなくなった絶滅した種やこれまで見た事の無い種まで……多彩な種類があって多分植物学者とか連れてきたら涎出して夢中になるぐらいには未確認の新種が多いんじゃないかな? 

 もちろん発見次第402に分析してもらって、データ撮りしてるけど中にはフグの毒の5万倍とか頭イカレた超危険な植物までありやがるからマジで油断が出来ねぇ。特にキノコなんてヤバいね。さっきちょっとうまそうなんて思い、見かけたキノコを口にしようとしたら402にバッシっと弾かれてそれを拾い分析した結果、内臓すら溶かす強酸液が中に含まれてるとか言われて肝っ玉冷やしたもん。まぁその結果このありさまなんですけど……ってか胸に手を当てても答えが出ねぇなぁ。

 

「しかし不思議だ」

 

「不思議? どうしてそう思うんだい?」

 

 探索の合間で挟んだ休憩。それぞれちょうどいいサイズの石へ腰掛け、俺は持って来た水筒から神から毎月送られてくる茶葉で作ったお茶、略して神茶を注ぎ喉を潤す。あぁーうめぇ~ 流石神様ご用達の神茶だ、どんな状況でも美味めぇ。

 

「この環境には様々な植物が共存関係で点在している」

 

「まぁそれが森って奴だからな」

 

 森は様々な植物が集まった結果生まれた名称。例えばA、Bと二つの植物があったとしよう。Aは繁殖能力は低いが強く、逞しい植物へと成長する。反対にBはよわよわしい植物ではあるものの、繁殖能力が高くて少ない栄養でも十分に育つ。Aは長く生きながらも死した際は高い栄養素の塊となり、Bはその栄養を吸い取って数多く繁殖していく。そのようなやり取りが様々な植物の間でなされた結果、やがては林となり、木々が数多く生えることになり森となる。まぁ、例えは悪いがつまりは何が言いたいかって言うと森って言うのは植物同士の共依存によって生まれた概念とも言える。だからこそ402が言った事はある種、当たり前って奴だ。だからこそ、その事を再確認する必要は無いと思うんだがなあ……

 

 

「しかし、この森には決定的に足りない部分がある」

 

「って言うと?」

 

「……動物、もっと言うと草食動物やそれを狩る肉食動物を見なかった事だ」

 

 確かに、その言い分に納得できる部分もある。探索は今回で三回目だ。虫ならそんじょそこらを探したら見つかるだろうけど既に合計で12時間ほどこの森を探索しているがただ一度も動物を見たことが無い。こんな草木が生い茂り、自然豊かな場所でそんな事あり得るのだろうか? 

 

「ぐ、偶然だろ?」

 

「確かに、私も偶然野生動物に遭遇しなかっただけとも考えた。現にこの森には野性生物がいると証明する痕跡があちらこちらに見受けられるからな」

 

 そぉーういえば探索の途中、ちょこちょこ獣道っぽいのとか明らかに何かの糞だろ的な臭いがしてたなぁ……

 

「でも、一度も遭遇しないのは明らかにおかしい。401が記録していたデータによると地上の野生動物と言うのは自身のテリトリーを決め、そこに住み着くと言う。だとしたら人為的に狩りを行い個体数が減るような事が無い限り、私達は何かしらの野生生物のテリトリーに入って一度は遭遇しているはずだ」

 

「むぅ……」

 

 そこまで言われると確かに怪しくなってくる。その言い分がもし正しいとしたら、俺達以外の何かしらの知的生命体的な原住民が住み着いている事になるからな。それに接触するとしてもここは異界、相手が俺達と同じ人型である可能性も五分五分だからやるならやるでちゃんと準備を整えてなるべく穏便に接触したいものだ。そうこう考えていると俺のポケットにてプルプルプルプルとコール音。そういえば定時連絡の時間だったな。

 

「ハイ千早デース、何か御用でしょうか?」

 

【豚骨ラーメン1、ニンニク油もやしマシマシの固麺で】

 

「了解ー……ってイオナさんやい、それって食べたら確実に胃もたれする奴ですよね?」

 

 定時連絡で毎度やるあいさつ代わりのパーフェクト・コミュニケーションッ! 流石はイオナだぜ、俺の考えが読めるんじゃないかと思うぐらいに俺のやりたい事をやってくれる。そこに痺れるねぇ、憧れるねぇ。

 

【艦長、報告頼む】

 

「えぇ~、探索からかれこれ……」

 

 402へ目を向けると指し示す反り立つ指が二本。あ、もうそんなに時間が経ってたんですね。

 

「二時間程度、異常は402が違和感を感じたぐらいで別に無いかな。詳しく聞きたいなら402に概念伝達して聞いてくれ、その方が速い」

 

【了解した。後程402にその違和感に関する情報を送ってもらう。それで次はこちらの状況だが────】

 

 イオナと400を残したのには理由がある。もちろん突然襲って来るであろう危険に対する保険って意味合いもあるが、本当はそれよりも船体に起こっている問題解決の為に動いてもらっている。

 さてここで問題、この場所は何ぉー処だ?  正解は森、より正確に言うと地上だ。潜水艦であるイオナが身動き取れるはずも無く移動不可能な状態で現在、地面の上で鎮座している。んで、そんな状態を何とか打開できないかと二人には船に残ってもらってたって訳だ。

 

【────水上レーダーを調整して何とか地上でも広範囲の索敵を可能にした】

 

「おぉーそれは朗報だな」

 

【まだある。イ400と解決案を探った結果、何とか船を使った地上での移動手段に目途が立った】

 

 おぉー 流石イオナちゃん。何かしらの解決案を実行したな? きっと俺だったら考え付くのに半月はかかるほどのスッゴイ方法なんだろうなぁー

 

【シミュレーションでは成功したがテストはまだ行っていない。とりあえずそのテストは艦長達が帰還後に行おうと考えているがそれでいい?】

 

「OKOK、そんじゃ俺達もそろそろ帰るよ。出迎えよろしくぅー」

 

【わかった。クラッカー構えて待ってる】

 

「……そのクラッカー、手榴弾の隠語だったりしないよね?」

 

【……通信終了】

 

 あ、通信切りやがった。アレか? 図星だったのか? だとしたらぜってぇなんかやるつもりだな? これは覚悟して帰らないと、ほんっと誰に似て悪戯好きになったんだか……

 

「終わったか?」

 

 なぁーんて考えてたらいつの間にか隣に座って俺の神茶の残りを啜る402が……って、勝手に飲むなよ。俺のお茶なのに……

 

「終わった終わった。ってか通信端末にリアルタイムでデータリンクしてる癖に何で聞いて来るんだよ」

 

「人間らしい行動を取るべきだと401から受諾したデータには書いてあった。私はそれを実行したまで……ふむ、コレが美味いと言う感覚か。何とも不思議な感覚だな」

 

「こ、コイツ。俺のお茶に既に虜になってやがる……ま、いっか。そんじゃ後5分休憩したら帰ろうか」

 

「了解した」

 

 俺は背負っているバックパックから新しいコップを取り出すと神茶を注いで一休みを続行する。

 こうして二人揃ってお茶に舌鼓させ、喉を潤わせながらのんびりとした時間は過ぎて行ったのだった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰だあの人間達」

 

「見た事も無い服装だな……もしや帝国の?」

 

「分からんっが、とりあえずは奴らの後をつけてみるか」

 

 ────二人を見つめる、3つの視線など気付かずに。




誤字報告も気軽にしてくれてもいいのよ!


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【3】

正直眠たい目を擦りながら書いたので違和感バリバリです。目を瞑ってお読みくだされ。

ほんへ


 一休みを終えた後、俺達は来た道を戻りイオナ達が待つイ401の元へ向かった。途中なんかよく分からない名称しがたき奇妙な虫に遭遇こそしたもののSAN値を削る程度で特に問題も無く戻れたと思う。いやー、402が即座にミ=ゴの頭部をクラインフィールドで形成した剣で跳ね飛ばしてくれなきゃ発狂してたぜ。

 そんでもって到着するは倒れた木々が覆いかぶさるように伸し掛かっている状態のイ401。まぁ、実際この木々の影響で全く身動きが取れなくて困ってるんだけどね。でもカモフラ効果も期待できるみたいだから安易に除去できないのが困りモノである。

 

「おしょっと」

 

「……セイランか」

 

 本来使うハッチは木々の下敷きになってる為に今回もセイラン発艦用のハッチを使い中へ。格納庫内には格納状態で放置されている機体が一機。その事に402は驚いてるようだけどどうしてなんだろうか? そういえば昔、ヒュウガが航空機が何たらって言ってた気がするけどそれが関係してるのかな? 

 ま、それは良いとしてそういえばこのセイランってまだ飛べるのかな? またとばしてぇーなぁ。……まぁ、前に飛ばした時は初回はイセに捕捉され墜落して二度目はアタゴに落とされてまさかまさかの人質になっちまったがね。アッハハハ。色々怖い目にもあったけど、アタゴちゃんが可愛かったので問題ないです! なんなら連絡先も交換してメル友だったもんねぇ。ま、異界に来たであろう今の俺には無理な話なんだが。

 

「お帰り艦長、待ってた」

 

 今回の探索で得た食料や水を402に預けると俺は真っすぐ指揮所へ入る。多分いくらかサンプルも回収したから色々と料理的な事もやるんだろうなぁ……402って最近料理にハマってるみたいだし。んで指揮所に入るとそこではイオナが出迎えてくれて、何時もの位置で待っていてくれた。ってか、頭に輪っか浮かべてる事を察するになんかまだ何かしてる最中だな? あんまりイオナの邪魔したくねぇな。 

 

「おう、ただいま」

 

 ってか指揮所がなんかガランとしてんなぁ……あ、静と杏平の荷物がいつの間にか消えてる。そして元静の席に400が座ってなんか考え事しちゃって、どうしてだ? 

 

「ん? あぁ、静達の荷物は整理して倉庫へ移した。また再会出来た時に渡せるように」

 

「なるほどなぁ……んで? 400は何を?」

 

「移動方法のシミュレートで割り出した誤差を修正してくれてる、多分もうすぐ終わると思う」

 

「へぇ~」

 

 ゆっくりと艦長席へ腰掛けると手元にある端末を操作、イオナ達が調整してくれた水上レーダーの結果を見る事にした。

 どうやらこのスキャン結果によるとこの森は相当広いようで何キロ先にも続いている。所何処に空白が見られる事から多分湖かもしくは402が危惧していた原住民の住処か何かがあるんだろうな……ってかここまで割り出せるとか、霧の技術ってやっぱスゲェ! 

 

「終わった。恐らくはこれで問題ないはずだ。401の計算道理に行くと思う」

 

「400お疲れ~」

 

「艦長戻って来ていたのか、気付かなかった」

 

「……俺ってそんなに影薄いですかね?」

 

 確かにぃ、僧とかいおりとか杏平とか弟である群像と比べれば俺ってば見た目だけは影薄いよ。けどさぁ、今のこの部屋にいるのは3人だけなんだからそんな悲しい事言わないで欲しかったぁ……あ、瞳から汗が溢れ出して来やがった。俺はそれを素早く拭い、正面モニターに表示される結果を目を向けた。……なるほどなぁ、確かにその方法なら地上でもイ401を使って航行出来るな。

 

「……ぶっちゃけ成功率は?」

 

「海上では何度も使った。だけど、ここは未知の地上だからデータが無い」

 

「つまりは?」

 

「五分五分」

 

 フィフティフィフティ。コイントスよりも確率は高そうだが俺の場合は裏面が出そうでちょい怖いなぁ……基本俺ってば運は悪い方だからさ。悪運は強いけどな。

 

「大丈夫だ艦長。もし問題が起こって良いように────」

 

「────400と私で二重のバックアップを用意している。だから心配ない」

 

「つまりは二人の演算能力を生かしてリアルタイムで修正を加えるって事ね」

 

「そうだ」

 

 なるほどなぁ……なら、最終的に考えて失敗する確率もぐぅーんと下がるだろうしもし途中で失敗しそうになっても二人係ならリカバリーも効くか……よし。

 

「いっちょやってみますか」

 

俺の指示に答えるかの如く指令所の照明が落とされ、イオナは船のモードを巡行モードから戦闘モードへと切り替える。イオナ提案した方法を取るにはこのモードが最適だからな。

んじゃ方法の説明に入ろう。イオナの思いついた方法、それはズバリ船体を包み込むシールドであるクラインフィールドの応用だ。本来エネルギーを受け流す役割のシールドであるんだが、使い方によっては重力制御の役割を果たしていたりする。そしてその重力制御の対処は自由に選べ、もちろん船体にだって作用する。そんでここで最初のに戻るがコレを使って地上を浮遊して移動しよってのが、イオナの考えだ。まぁ、大質量を浮かべる訳だから機動性はお世辞にも良くなくて理論値では1ノットも出せないほどに遅く、重力子エンジンへの負担もデカいらしいからあまり喜べた方法ではないけどな。まぁ、本来は超重力砲を発射するのに対して自身の船体を固定する為に編み出した技だから仕方ない部分もあるけどな。

 

「ほいほいっと、俺だって多少はいおりの代わりだって出来るもんね。重力子エンジン起動」

 

「エネルギー転換装甲オンライン、クラインフィールド展開」

 

「イ401、エンゲージ」

 

イオナの全身に幾何学模様の輪っかが浮かび、400にもそれが現れる。コレはメンタルモデルたる彼女達がフルスペックを発揮している証拠。つまりは頑張ってくれてるって事さ。

 

「イオナ、とりま出力はどれぐらい?」

 

「んー、最初はこれぐらいで」

 

指を立てて四の数字……4割、つまりは40%ぐらいかなぁー? 画面を操作して出力を上げる。そうこうしていると402が戻って来た。

 

「402」

 

「既に400から情報は取得済みだ401。私もバックアップに回ろう」

 

402も加わり万全な体制へ。成功も確実かなぁーなんて考えてたらツンツンとイオナが俺の肩を叩く。どうしたイオナ、飴ちゃんでも欲しいのか?

 

「ところで艦長」

 

「何だ?」

 

「――――外の連中は何者?」

 

「? ……ッ! 外部カメラ、全監視システムオンライン!」

 

俺の指示に従い、イオナが名モニターを切り替える。外の森の様子が映し出され、一見何の変哲も無いが……もう一つの画面では違った。そちらはサーマル、つまりは熱探知機能を供えた映像。その映像にはくっきりと人型の、熱源が映っていたのだった。そしてその形は、まぎれもなく人類の形をしていたのだった。

 

「オイオイオイ、どうしてこんなにも接近を許したんだ!?」

 

「対艦用の水上レーダーでは人間サイズの生体反応はとらえきれていなかったのか……」

 

「数は全部で3で全員が何かしらの武装していると思われる」

 

「先制攻撃を具申。やられる前にヤレ」

 

402、イオナ、400と冷静に状況を分析してるみたいだけどマジか。流石の霧のレーダーでも人間を捉えるのは難しかったか。

 

「……どうする、艦長」

 

「ん~」

 

ってかあの動きってどう見ても敵対と言うよりも観察してる感じだよな。前にロシア政府から送られたっぽい密偵を相手にスパイ戦争の如く戦った事はあるけど、あんなに不用心に偵察してくる事は無かったぞ。それに武器だってイオナの言っているような危険な物じゃなくて、サーマルの捉えた動きや今の構えを見るに多分弓かなにかだと思うし腰に下げてるのは恐らく直剣だろう。この事から導き出される結論は多分二つ。

 

・相手は弓、または剣を使う前時代的な戦士か何か。

 

・俺達にまだ敵対しては無く、恐らく未知である船体を前に観察を決め込んでる。

 

まぁ王道に考えてこのガバガバ結論のコレで正直言って合ってるかかも分からんが、俺の勘が全力で合ってるって言ってんだよなぁ。

 

「とりあえず――――」

 

前にも言った通りなるべく揉め事は避けたい。出来るだけ穏便に、出来るだけ平和的にファーストコンタクトは果たしたい。だから――――

 

「――――イオナ、お客さん達に挨拶行くぞ」

 

――――顔を突き合わせ対面し、コミュニケーションをとる事に決めたぜ。




誤字報告もおまちしておりまーす


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【4】

コメント、誤字報告ありがとうございます! 多分誤字はどんどん量産すると思うので気軽に修正して行ってくださいな。

ほんへ


「なぁ、アイツらってホントに帝国の奴らなのか? 偵察にしてはヤケに森を歩き馴れて無いみたいだが……」

 

「さぁて、な。それは俺にも分からんが用心に越した事もあるまい。……だよな、ホドリュー」

 

「んぁ? あ、あぁそうだな。村の外を旅して来た俺もあんな服装は見た事無いし正直に言うがかなり興味深い奴ではあったな」

 

 虹像と402がイオナ達の知らせを受けてイ401に到着する少し前。生い茂る林をかき分け、えっちらおっちらと帰る二人の背後を三人の男達が後をつけていた。

 手には弓を持ち、腰にはマチェットの身に着けていて戦士と言うよりも狩人のイメージ強い三人組は揃って同じような特徴を持っており、太陽に照らされて美しく輝く髪を風で靡かせながらも気配を馴れた手つきで気配を消して行動する。長い耳にて相手の居場所を探る三人の姿はまさに皆がイメージするファンタジーに登場するエルフそのものであった。そしてそのエルフの三人組は無駄口を叩きながらも獲物である虹像達の姿を捉え続け、自身の扱う弓の射程に収め続ける。

 

「ホドリュー……お前、また女の事考えてたな?」

 

「っゲ! そ、そんな事ぉー無いよ」

 

「あんまりハメ外してっとまたテュカちゃんに怒られるぞ」

 

「ヤダぁ~! また娘に怒られるのはやだぁ~!」

 

 何とふざけ、ありきたりな普通な会話。しかし会話している本人達の纏っている雰囲気は狩人の度を越している。殺気を隠し、全力で気配を消しながら追いかけるその姿は何処から見ても暗殺者の他ならない……が、本人達はその事に気付いてない為に完全に台無しである。

 そんな彼らが汗水垂らし、"早く帰ってご飯食べたぁーい! " "分かった、帰ったら食事の支度をしてやろう。最近気になるレシピを発見したのでな" "やったぁー 流石はお母さんだぜ! " "誰が母か" なんて会話している二人の追っていくとふと、1人が立ち止まる。

 

「どうした、ホール」

 

「────」

 

 ホールと呼ばれたこのエルフ。突然しゃがみ、土の様子を確かめると周りをきょろきょろと観察し始めた。それに疑問を感じ、他二人もきょろきょろと見回してみるが何の変哲もない光景に疑問を浮かべるばかりである。

 けれどホールは三人の中で、今いる地点方面への森の偵察を長くやって来た人物だった。だからこそ、彼だけが疑問に思い確かめ、そして感じ取った。この場所に何か違和感があるっと。 

 

「デイブ。何かおかしくないか、この場所」

 

「何を言い出すんだ。何処にもおかしなところなんて──―むむ? 確かに言われてみれば何だか風の巡りに違和感があるような……」

 

 ホールは風を読み取るのが村で一番上手い。そのおかげでホドリューに並ぶ弓の名手だと言われている彼は、デイブの疑問に答えるかのように疑問を感じ取る事が出来た。彼の感じる森の中での風は基本には規則的だ。ある種のパターンが複数存在しており、それを全て記憶しているからこそ彼が風を読むのが上手い。だからこそ、彼はそのどれにも当てはまらない風の流れに違和感を覚える。基本風の流れが変わるのは木の成長速度や森を襲う厄災に関係するが、今感じとれているほど、大きくは変わらない。それこそ何かしらがの障害が風の流れを遮っているか、一気に木々が刈り取られなければありえない話しだ。

 

「……何か不味い予感がする」

 

「あぁ、それは俺も同感だ」

 

 二人の狩人は長年の経験から察知し、判断する。この異常事態を。そして悪い事と言うのは続くもので自然に監視対象であった二人を見張っていたホリューが何か焦った様子で二人の元へと走って来た。

 

「や、ヤバイぞ二人共。あの二人、高度な魔法が使える大賢者かもしれない!」

 

「何ッ!」

 

「嘘だろ!」

 

 二人は一瞬その言葉を疑った。耳にした言葉があまりにも信じられない言葉だった為だ。

 

 賢者。それは精霊魔法の扱いに長けるエルフと同等、もしくはそれ以上に魔法に対し理解を深めている魔法使いなどを指す言葉。魔法を学び、そして探求する学者の集う街である学都ロンデル。そこで寿命が長く、精霊魔法に長けたエルフであっても合格が難しい試験をいくつも突破して得られる称号。だからこそ賢者の称号を持つ者は実力者であり、そんな者があんな風に山をえっちらこっちらと歩いているのは意外。本来なら違うと思う所なんだが、それを報告したのはエルフでも珍しい外を長い間旅して来たホドリューだった為にそれを信じる他なかった。

 

「目を逸らさずに見ていたんだが急に二人がふっと姿を消したんだ。こんな事が出来るのは高度な魔術が扱える魔法使いのみ、だからあの二人が賢者だと判断した」

 

「マジかよ……透明化、か。確か精霊魔法でもかなり難しい分類の魔法で俺達の中でも使える奴は五本の指に入る程度、ましては人間の魔法使いでは到底不可能な魔法だよな」

 

「あぁ、ならホドリューの言い分も納得だな」

 

 

 額に汗を浮かばせ、ホドリューの見つめる二人の消えた場所へと目を向ける。そこは何の変哲もないただの森が広がる何時もの光景。だからこそエルフの、特にホールとデイブは恐怖した。理不尽な存在が、もしかしたら使途にも並ぶ存在がいるのではないかと考えて。

 

「……」

 

 そして全く同じタイミングでホドリューは何となく気になってしまった。何故このタイミングで透明化を使ったのかという事を。最初から使って見つからないように動くならまだしも、何故今になって……

 

「……ッ!」

 

 結論にたどり着いたホドリューは激しく後悔する。同じ種族であるエルフ達から十二英傑と英雄視されていた為に生まれた自身の傲慢と、警戒心の無さを。

 二人が透明化した理由、それつまりはこちらの存在に気付いたからに他ならないからだと気付いたからだ。

 

 

「二人共弓を取れ、本当に不味い事になった」

 

「ッ!」

 

「ッ!」

 

 ホドリューの切羽詰まったかのような声。それで只事ではない状態が発生しているのだと悟った二人は素早く弓を取り、背中合わせで全方位を警戒する。

 エルフの優れた能力である聴力に、森で鍛えた動体視力。この二つを組み合わさる事によってどんな変化も見逃さない、陣形となった。

 

「敵は二人、透明化しててこちらの存在に既に気付いている」

 

「やべぇって、やべぇって!」

 

「オイデイブ、取り乱すな!」

 

 神経が昂り、額に汗が流れる。敵がどんな攻撃をしてくるのか分からない以上、どんな事にだって対応できる臨機応変さが試される。それが分かっているからこそ彼らの生存本能が高ぶり、様々な変化に対応できるように警戒していた。1分、2分と体感では1,2時間たっているような拷問のような時間が流れ……やがては変化が訪れる。

 

 

「いつでも来い、絶対に弓を命中させてやるッ」

 

 奥の手で使う彼の知っている金属の中で一番硬いと言われるミスリルを矢じりにした矢をセットして構えている最中、それは起こった。

 

「……は?」

 

「……なんだ、こりゃ」

 

 ホドリュー、ホールの両者の視界が青に染まった。いや、より正確に表すと青色の鉄。突如として出現した謎の存在にホドリューとホールの頭がフリーズし、対応できない。だからこそであろう、三人中ですぐさま対応出来たのが一番取り乱していて反対側を警戒していたデイブだったのは。

 

「ッ! 二人共正気に戻れ!」

 

「!」

 

「! あ、あぁすまねぇ」

 

 デイブに鼓舞された二人はすぐさまフリーズが解けると、改めてその青い色の鉄の物体へと警戒を強めた。突然出現した謎の物体。恐らくはホールが感じていた違和感も、デイブが感じていたおかしな風の流れも、コレが原因だと二人はすぐに覚った。だが、同時に疑問にも思った。何故こんなものがこんな場所に……っと。反対にホドリューはその青い鉄の物体に何処か既視感を感じていた。昔何処かで見たような、そんな感覚を────

 三名それぞれで思考を巡らせ、考える。警戒は解くことはせずにこの目の前にある物の正体を思考していた最中、突然頭上で何かが聞え、思わず顔を上げた。

 

「Etto,konnitiwa! Kotobatuujitemasuka?」

 

 そこには聞いた事も無い言語を喋る先ほど追っていた人物達の片割れが多分手摺と思わしき物に寄りかかりながら、こちらへ手を振っているのだった。

 




やっとゲート側の原作キャラ(外伝)出せたよ。


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【5】

出来た~かけたー

ほんへ


【つまりなんだ、お前らは何処か遠くの国から飛んで来たって事か?】

 

「そう、そぉーなんだよエルフのダンナ! 俺たちは乗ってる船ごとこの場所へ来ちまったって事さ!」

 

 翻訳機越しに聞こえる日本語。独自の言語を少ない情報から無理矢理翻訳した声は何処か機械的ではあるが、ちゃんと意味のある言葉だ。ってか、ぶっちゃけイオナボイスで喋ってるもんだからギャップがヤバイな。

 

 

 イオナが気付いた原住民、呼称を仮に現人(げんじん)としよう。その人達に気付いた俺は一旦は危険性が無いよう実験を中止、面と向かって接触する為に甲板へと向かった。その途中イオナから聞いた話では船体の周りを指向性のナノマテリアルを少量散布して光学迷彩のような不可視状態を生み出してるらしく、相手側からはこちらが見えてないとの事。それを聞いた俺はちょっと面倒臭い方になるかなぁー? なんて考えたが多分大丈夫だろうと即座に判断。彼らがいる場所の丁度真上に当たる場所へと赴くと、イオナに迷彩を解除してもらって話しかけたのさ。

 

 でもさ、ここで一つ問題が発生する。なんと言葉が通じなかったのだ! 

 

 その影響でファーストコンタクトはてんてこまい。現人達は俺たちの言葉が分からずパニックになってこちらに弓を向け、俺は俺で敵対の意思が無いとジェスチャー込みで何とか伝えようと苦悩する。側から見れば地獄絵図のような状態が完成してしまった。

 そんな状況に陥りってこりゃダメかと諦めかけた諦めかけたその時、この俺と話している現人の────エルフのダンナが助けてくれたんだ。

 パニックになって弓を向けていた仲間のエルフをぶっ飛ばし、こちらへ理解不能の言語を叫ぶと頭を下げた。その時俺は悟ったね、この人には俺たちに敵対の意思が無いと伝わった事を。それからはトントン拍子で物事が進み、簡単な質問を行い、ある程度の言語が分かってくるとイオナがリアルタイムで言語を解析して修正する翻訳機を作り出して今に至るって訳だ。

 

「しかしお前達も災難だな……※※のカゴを受けたってのにそんな厄介な目に遭うなんて」

 

「まぁなぁー 絶対に負けられない勝っても生き残る可能性が低い賭けの戦いだったし。それに勝って、こうして生きてるだけ儲け物よぉ」

 

 んで、試しに俺達の状況を簡易的に説明してみるとファンタジーでお馴染みの閉鎖的な種族と言う認識をぶっ飛ばすほどに柔軟な思考をしてる人だったようで、割とすんなり信じてくれてビックリした。話を聞いていくとどうやらこの世界には魔法があるらしく、それが理由との事。

俺は魔法の存在があると聞き、魔法=王道ファンタジーと気付いた瞬間、脳内で――――

 

 

 

 

₍₍(ง )ว⁾⁾

鳴らない言葉をもう一度描いて

₍₍ᕦ( )ᕤ⁾⁾ ₍₍ʅ( )ว⁾⁾

₍₍ ⁾⁾

₍₍ ⁾⁾

赤色に染まる時間を置き忘れ去れば

₍₍₍(ง )ว⁾⁾⁾

哀しい世界はもう二度となくて

₍₍ᕦ( )ᕤ⁾⁾ ₍₍ʅ( )ว⁾⁾

 

 

荒れた陸地が こぼれ落ちていく

₍₍ ʅ( ) ʃ ⁾⁾

一筋の光へ

 

 

 

 

――――ってな具合で前世での記録にあったネットミームである連邦軍に反旗を翻すダンスを踊ってたわ。やべぇぞやべぇーぞ。魔法とかテンション上がってくるぅー!!! 

 

「お、オイホドリュー ソイツは大丈夫なのか?」

 

「デイブはビビリ過ぎなんだよ。ほら、ホールとか見て見ろよ。あの青い娘にお茶なんてもらって……う、羨ましくないんだからね!」

 

……イオナ、翻訳機がバグってんぞ。突然の明らかなツンデレボイスでビビったわ。ってか何でCVタカオ?

 

「すまない虹像。400と402にも手伝ってもらってるからどちらかの影響でバグが生じた。次は無い」

 

「まじか、そんなに翻訳作業って難しいのか」

 

「難しい」

 

 現在リアルタイムで翻訳作業中のイオナによるとエルフ達が話す言葉は地球のどの言語にも当てはまらない独自の言語。情報も最初に質問した内容のモノと今喋っている内容しかサンプルがないから会話しながらそれを読み取って解析し翻訳するしかなく、一人では処理が追い付かないので二人に演算を助けてもらっているんだって。そりゃ知識ゼロで一つの言語を理解しようとしてんだ、かなり難しいだろうなぁ。……まぁ、当の本人は暢気にお茶なんか啜ってるけど。

 

「すまねぇな嬢ちゃん、俺なんかに茶何て注いでもらって」

 

「問題ない。一先ずの目標は友好的な交流。そのためにパニック症状から切り替える為に暖かい飲み物を飲んでリラックスするのは大切だ。沢山飲むと良い」

 

「あぁ……難しい事は何言ってるか分かんねぇが、落ち着くのは確かに大切だな。にしてもこの茶うめぇ」

 

神様直送の俺が誇る自慢の一品だからな、当然だろ。まぁこうやってのんびりと時間が経ち、色々と翻訳作業の為と称してお話し続けていると唯一警戒していたデイブさんは警戒心を解き、イオナと会話を続ける。んで、そうこうしているうちに俺が話していた相手であるホドリューのダンナがこんな事を言い始めた。

 

「そういえばグーゾー」

 

「発音が難しいんだろうがぐーぞーじゃなくて虹像だぞ。あとどうしたダンナ、何か気になる事でもあったか?」

 

「いや、お前らの境遇を考えると食料に困ってるじゃないかと思ってな。お前ら食える物とか注意する物、なんならこの大陸の事なんもしらねぇだろ」

 

「まぁ確かに。俺達のいた世界()とは全然勝手が違って苦労はしてるぜ。けど、それがどうしたんだ?」

 

「いや、何。お前達を俺達の村へ招待しようと思ってな」

 

「――――!」

 

突然の生活圏への招待。確かに彼の言う通り俺達はこの世界へ来たばかりでこの世界に関する文化だの生態など、何にも知らない新参者だ。情報を提供しようと言う提案は確かにありがたい事が甘い話には何かしらの裏があるモノが世の摂理。会話での駆け引きは正直苦手だが、何とか聞き出してみるか。

 

「ん~、確かにそれはありがたい提案だなぁ」

 

「だろぉー! だから一緒に来てみないか? 色々と教えるからさ―――」

 

「ふむ、だがこちらのメリットばかりでそちらに利点が無い……何か理由があるのか?」

 

「ん? あぁ、いやぁーそのぉー」

 

言葉を濁し目をキョロキョロとさせるダンナ。何か焦ってるって感じで動かしては無く、何かをチラチラと見ている風に感じた俺は目線の先を追ってみるっと。

 

「へぇイオナちゃんって大体なんでも出来るんだなぁ」

 

「データさえあれば可能。不可能は今の所ほとんどない」

 

「データってのは何を指しているのか学の無い俺らには分からんがとりあえず、娘っ子が凄いのは分かった。若い人間なのに努力を重ねたんだんぁ」

 

「ん?」

 

……イオナか。

 

「オメェイオナが狙いか?」

 

態度が急変し驚くエルフ改めエロフ。何だコイツ、イオナを狙って村へ連れ込もうとしてる魂胆じゃねぇか。アイツの相棒である立場の人間は許せねぇなぁ!

 

「い、いや違う違う! ちゃんと理由を聞いてくれ!」

 

必死に弁解しているようだがもう遅いぞクソエロフ。俺の地雷を綺麗に踏み抜いたんだからなぁ!

 

【落ち着け艦長】

 

よ、400! 翻訳機から聞こえるは艦内で作業中のははずの400の声。そうか、この翻訳機って通信機としても使えるのか。

 

【感情的に動いても後々に不利益を被るだけだ。それが例え401を狙った誘いだとしてもこの世界に関しての情報を得る機会をみすみす逃すのは惜しい。此処は感情を殺し、誘いに乗るべきだと私は考える】

 

……確かに。感情論を捨てて合理的に考えたらそうだな。俺達はとにかく情報が欠如し、現状すらおおまかにしかわかっていない。だからその欠如した情報を得るチャンスを潰すのを良しとしないのも分かる。だが、俺の心が"エロフ死すべし、慈悲などいらぬッ!"って叫んでんだよぉ!!!

 

 

「……一応理由を聞こう」

 

だが、だがッ! 俺は一応は一隻の船の指揮を任せられた艦長。どんな場合でも冷静に対処する事が大切だと知っている。だから俺は怒りを理性でねじ伏せ、相手の言い分を聞く事にした。え? 今こんな時にそんな事をするのはおかしいだって? ……黙れk―――

 

「じ、実は――――」

 

彼の言い分は実にシンプルだった。自分達の知っている情報を提供するので外の世界に関する情報を提供してほしいって言うモノだった。まぁつまりは情報交換してほしいって事だったのさ。最初からそう言えよと思わない事も無いが……好奇心の強そうな様子の彼の言う事だ、偽っては無いだろう。

 

「分かった」

 

「って事は……」

 

「貴方からのエルフの村への招待、受けよう」

 

新世界に来て数日、俺達は未知の生態系を得て進化したと思われる種族であるエルフの男の招待を得て今、これまた未知の環境へと踏み出した……っと思う。




コメント、誤字報告まってまぁーっす。


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【6】

お待たせ。


エルフの村へと招待された。

 

一言で表すと割と簡単な事なんだが、実際に体験してみると中々に難しい事でもある。それは何故かって?

 

「ひぇ〜、ふゅ〜」

 

「あんちゃん、体力ねぇーのな」

 

俺が根っからの海男だからだよ! 元から402と探索して体力を削っていたのもあってエルフのおやっさんの案内で歩き出して30分。案の定力尽きましたとも。ってか何故一日開けたりしてなかったんだよ! アレか、偏見とかバリバリ込みで考えるが交渉術のこも知らねぇだろ!

 

「それと比べて最近の人間の娘っ子は凄いなぁ」

 

「だな」

 

「もんだない。艦長は砲弾よりは軽い」

 

おい待てイオナ。お前いつの間に砲弾を持ち上げるなんて事してたんだ。アレか、前に硫黄島に帰った時に俺が実弾砲撃見てみたいと日向に頼み込んで実験してた時にでも持たされたか。ってかアレ(35.6cm砲)って確か六三五(635kℊ)あったよな、良く持ち上げられたなぁ。

 

「ふぅ~、ひゃぁ~……きっつ」

 

「水、いる?」

 

「……いる」

 

イオナから受け取った水を飲み飲み。うぅーん、やっぱりミネラルたっぷりの貴重な天然水は美味いなぁ。……どうせなら群像にも飲ませてみせたかったぜ。

そのままズンズン進み、自然たっぷりの草木茂山道から400と一緒に探索した時にあまり見かけなかった複数の獣などが通って出来上がったと思われる獣道、そして明らかに人の手で手入れされたであろう草木が見え隠れする道へと変化していった。その頃には流石に自分の足で歩かなきゃと思ってイオナから降りて自分で歩いていたが……スゲェな、この森ってここまで広かったんだ。

 

「前地球環境を考えるにこの場所は信じられないほど完璧に整っている」

 

「何が信じられなんだ?」

 

「この環境が、だ」

 

デイブの質問にイオナは答えるが、言葉足らずだったようでクエスチョンマークを浮かべている。

まぁそりゃそうだろうな。イオナが語っているのは前の世界の環境と比べての話だもん。前の世界の地球は海面上昇によって農地に仕えると土地が減って言ってしまえば人類が着実に迫っていた世界だ。だからこそ一切人の手が入っていない大規模な森が続いるのは信じられない事なんだ。遺伝子改造が施された食用植物だらけになった環境と比べると食用にもならない一切人類に特が無い無用な植物だらけで形成されたこの森はありえないよな。あ、栄養たっぷりのうんこ落ちてる。肥料に加工してぇー

 

「そろそろだぞ」

 

先頭を進むエルフのダンナの声(イオナボイス)に反応し、先を見てみると何とビックリ森が広がっていた……ってちげぇ! 何か背の高い木に引っ付いてるぅ!???

 

「オイ、イオナ。あれってアレだよな!」

 

「艦長のアレが分からない。中称的な表現ではなくちゃんと個体名で言葉にしてほしい」

 

「だからツリーハウスだよ! ツリーハ ウ ス ! すげー!」

 

高さは目測30から40メートルぐらいの高さだろうか、そこには明らかな人工物が設置――と言うより建てられており、ハッキリ言って目を疑う光景だ。だって巨大な木すら滅多に見なくなった世界であんな無駄な建造物、建てるはずないもんなぁ。ってか俺も海陽学園に通っていた頃に書物個で適当に暇潰しとして読んで無ければ名称すら俺、分かんなかっただろうよぉ……

 

「確かに外では俺も見なかったが、そんなに珍しいか? アレ」

 

「珍しいも何も初めて見たわ」

 

「固有名、ツリーハウス……凄い」

 

こうして、俺とイオナはエルフの暮らす町へと赴いた。

 

 

 

 

 

「……なんつうか、拍子抜け?」

 

「スムーズに交渉が進む事は良い事。ロシアでの二の舞を踏みたくなかったから良かった」

 

「あぁー、あの4か月戦争か。めんどくさかったよねぇー」

 

 交渉は、エルフのダンナのお陰で想像してもいないほどにスムーズに進んだ。

 最初、俺とイオナとで何とか交流を深めようと考えた結果ダンナとの交渉内容でもある外の世界の料理、つまりは俺達の世界の料理を振舞ったりした。え? 何で料理かだって? そりゃ決まってるゾ。俺の準備不足だ。仕方ねぇーだろ。急にこんな事になったんだ、ほとんど準備できなかったのと単純に俺が忘れてたんだよ!

 

 まぁそんな訳でダンナが呼び出してくれた何人かのエルフに持参した……ってか遭難時に食べる用の食糧を加工して食事を振舞ったんだけど、当然最初は見た事も無い料理を前に全員が全員難色を示した。まぁ、納得ではある。急に訳も分からない外の人間が出した料理なんて食べれるもんじゃねぇーからな。だけども、此処で鶴の一声。この人達を呼んでくれたエルフのダンナが交渉に参加した。

その結果がもう、何と凄い。どうやらダンナはエルフの中でもかなり偉い人だったようで彼が最初に口を付け、そして美味いと絶賛してくれると他のエルフ達も続きそして同様の反応を示してくれた。その反応はそれはもう凄くてな、食べ終わらぬうちに外に待機してたと思われる匂いに釣られた数多くの奥様方が俺とイオナに駆け寄って来てその作り方を聞きに来たぐらいだ。いやーエルフの女性って皆容姿端麗ですね、ボイスがイオナでなければ誰かに恋の一つや二つしてたところだぜ。

 

 まぁその後はトントン拍子で事が進み、俺は数日かけてエルフの皆と交流を深めていったのさ。

 

 最初は料理。

美味しい料理、笑顔を生む料理。美味い料理を求めるのは万国、それどころか多種多様な種族共有だったようでその効果は前項の通り絶大。まさかそのおかげでたった三日ほどで身内判定されるまで馴染むとは思わなかったぜ。何だよ美味い人って、もう少しまともなニックネームが欲しかったぜ。

 

 お次は情報。

 どうやらエルフと言う種族は俺の考えていた通りに長い寿命を持つ種族なようで結果誰もが普通の人間と比べると博識。

割と身内と認めた人物には甘いらしく素直に疑問点を聞くと気分よく色々と様々な情報を教えてくれた。例えばこの村に名が無いって点だったりこの村にいるエルフは希少な、まぁ俺の知ってる単語から言うにハイ・エルフが数多く住んでいる珍しい場所との事。まぁその希少って点も普段物事に執着する事を良しとしない普通のエルフと比べたら知識に貪欲だったり、料理に拘ったりとするのが理由だとか。そんな彼らに俺はトランプゲームやマージャンなんかを教えた事は後悔していない。今では一部のエルフと毎日トランプする仲です。あぁーイセちゃん元気してるかなぁ。またヒュウガがどこが可愛いかと語り合いながらポーカーとかしてぇ。

 

 そんで最後にまさかまさかの永住権。

彼らが俺達を完全に認めるのは本当に早くて次の週には家族判定だった事にはマジで驚いた。んで、冗談半分でこの町に船体を持って来て良いかと聞くと特に質問とかも無く皆が了承。船体の移送の最も手伝ってくれてホントに助かった。いやー、魔法ってすごいんですね。一部の重力を無視して持ち上げるとか。その光景を見たイオナが珍しく目を見開いて驚いてたには笑わせられたけど。

後から聞いた話だとダンナが俺の話した身の上の事を皆に話してたらしく、船=家と認識してくれてやっぱりここに住むにはその家を持って来たいってのを察してたらしい。エルフって意外と身内限定のお人好し集団なのかな?

 

 

 

 

 

「なんつうか、ホント早かったよなぁ」

「ん? 虹像どうしたの?」

「いやな、この紅茶うめーなぁーって考えてた」

 

そんなこんな出来事があって滞在が許され既に1週間。色々と面白いトラブルから命の危機に瀕して村全体でてんやわんやと成ったりと色々な事がありながら暮らし現在、エルフのダンナ事ホドリューさんの娘テュカさんと二人でティータイムを楽しんでます。

 

「あ、そういば最近村の中でいいものを見つけてね」

「また毒性植物? この前死にかけたばかりなのに懲りないね……」

「今度は大丈夫。前に402と探索した時に発見した植物と同じものだから」

 

そうやって俺が取り出すは一つのデザート。全体的に三角の多段構造、上部には煌びやかな装飾が施されたクリームが乗っており断層の一部から見える綺麗な赤色は作った俺でも綺麗だと思うほどだ。

 

「わぁ、綺麗」

「だろぉー 一応女の子受けするように作ったからな」

 

まぁ、つまりこれが何かと言うと――――異世界版ケーキだ。

 

「タップルの実を煮詰めて作ったジャムを使ったケーキと呼ばれるデザートだ」

 

ってか異世界の植物ってホントに凄いよな。

サトウキビとは比べものにもならないほど細い若竹に似た植物を数分間煮詰め、作った砂糖とヤギに似たダンゴムシのようにクルクルと転がる動物の乳、そして明らかにこの世に存在しちゃいけないであろう見た目をした生き物? の卵で作ったクリームはまるで粘土のように自由自在に超加工しやすくてびっくりしたわ。でも面白半分でイオナの船体作んなきゃよかったなぁ……まさか対抗意識が燃えて普段欲を言わない400と402があそこまで強請るなんて、さ。

 

「でざーと?」

「四の五の言わずに食ってみやがれ」

 

俺のススメでまるで割れ物を扱うかのようにフォークにてパクリと可愛く食べる。変化はハッキリ七変化。疑う顔は一変、その未知なる甘さと美味しさに甲高い声を上げながら喜び出す。その間、俺達の間に特は言葉は無い。

 

 

俺は学んだんだ。エルフが本気で美味し過ぎて喜んでる時は言葉を話す事は無いってさ。

そんなテュカの喜ぶ顔を御菓子に茶を楽しんでいるとピピピと翻訳機から呼び出し音。俺は一言喜びに震えるテュカに言い残すと席を外し、通信に出た。

 

「こちら虹像。状況知らせ」

【こちらイオナ。予定通りフルメンテナンスに入る】

 

今回珍しくイオナと行動してない理由がコレだ。この世界に転移して以来イオナ達に不具合事態などは今の所まだ見つかってはいない。

けれど彼女達は人間の姿形、近しい性格をしていても機械なんだ。この言わば次元移動にてどんな影響があったか予測できない。だから心配した俺は一度検査の為にコアも含めて全てをメンテナンスしようって提案し、それが了承されて今に至る訳だ。

 

「了解。ゆっくり姉妹そろってメンテしておいで」

 

一週間過ごして分かったがこの村は幸い俺が不注意で死にかける事態に陥る以外は平穏そのモノだ。だから問題ないと判断したイオナ達は短時間で終わらせる為、三人一気にメンテするとになったのだ。ま、だからこそ三人の要望でメンテの間は俺と仲が良く、村一番で腕が良いホドリューさん家でティータイムを楽しんでるんだけど。それにしてもホドリューさん、遅いなぁ……あの人の性格を考えてどうせどっかで女性でも引っかけて遊んでるんだろうなぁ。

 

【わかった、ゆっくりしてくる。―――通信終了】

 

ブチっと通信が切れて翻訳機の機能に切り替わりそれから聞こえるはテュカの喜ぶ声だ。イオナボイスじゃないってのがミソだな。翻訳機がアップデートされてよかったぁ。なぁーんて考えながら俺は席に戻り、お茶を再度啜るのだった。にしてもう美味い茶だぜ。

 

 




え? 今回ご都合主義が過ぎるって? 良いんじゃないかなぁー別にこんなのでも。


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【7】

 何気ない日常。切り替わった日常。エルフと交流を得た結果俺達の得た日常がそこにあった。まぁ、今は俺のソウルメイトたるイオナが居ないのでちょいと寂しいけどね。ゆっくりしておけって言ったはいいけど早く終わんねぇ―かなぁー

 

「そういえば虹像」

「はいはい虹像です」

「外が騒がしいみたいだけど何かあったのかな?」

 

 神茶を飲もうと思ったが一度停止。ノイズキャンセラーが自動発動していた為に俺は分からなかったがテュカには何か聞こえたらしく忙しなく外を気にしてやがる。何だぁ? っと思い立ったが吉日。席を離れてドアをオープン! そして外の景色を眺め────た。

 

「テュカ」

 

「何ぃ? 何かそとであってるの?」

 

「……今すぐ逃げる準備をしろ」

 

「え?」

 

 外の景色は赤一色に染まっていた。ノイズキャンセルを切ると過剰なほどの外の音声が拾われ、耳を疑う音が俺の耳へと届けられる。短直に言えば悲鳴だ。逃げ叫ぶ声に助けを求める声で呼び覚まされるのは過去に経験した4か月戦争。そして眼前には美しかった村が燃え盛る光景。つまりは地獄絵図と言って差し支えない状態だ。

 

「身支度を済ませろ。急げぇッ!!!」

 

 俺の態度の急変に余程の事と察知してくれたテュカは急いで準備を始めた。俺はその間懐から取り出すはイオナとは別の相棒。

 その銃に銃口は無い。銃身は無い。唯あるのは回転式の六発の弾倉を供えたシリンダーと二本の展開式のレールのみ。そしてその名は────AP-999式リボルバーだ。

 

 俺が監督しイオナとヒュウガが製作してくれてるのもあって霧の扱ってる技術が盛り込まれている為に威力は折り紙付き、護身用の銃でありながら前の世界で言う所対物ライフルと同等の威力を誇っている。まぁ、霧の砲と同じ技術らしいから納得の威力ではあるんだけどね。だからこそ俺はコレを使う羽目になるだなんて思っても見なかったゾッ! 

 

「準備は出来たな、逃げるぞ!」

「う、うん!」

 

 テュカが準備を整えたのを確認すると俺は彼女の手を取り走り出した。

 

 

 

 

 

 外に出るとハッキリする。ここは、地獄だ。

 

「え、コレって────」

「構ってる暇はない、今はとにかく走れッ!!!」

 

 燃え盛る町の中を走り続ける。その途中には瓦礫の下敷きになったであろうトランプ仲間の奥様の姿や、燃え盛り悲鳴を上げている料理仲間のおっさん。関わり合いのある人間じゃない人間まで命を散らし、この場には死が蔓延していた。

 

「うぅ……」

「泣く暇はねぇ」

 

 だからこそ、そんな場に馴れていないテュカは耐えられる訳も無く涙を流す。

 それは死にゆく友を憂いてか、あるは故郷が燃える光景を目の当たりにしたためか、俺には分からない。って言うかイオナ達が全く使えないタイミングでこんな事に合うだなんて不幸すぎるぞコノヤロウッ! 

 

「テュカ!」

「お父さん!」

 

 なぁーんて憂いていたら迫り来るホドリューのダンナ発見! ダンナァー何なんですこの状況は! 

 

「無事だったか二人共」

「二人揃って怪我一つない状態なんで状況の説明をお願いしますよダンナァ!」

「そーだよお父さん、何でこんな酷い状況に……」

 

 二人揃って問いただすと興奮した俺達を落ち着かせる。FOOOOOO! どういう事なんだFOOOOO!!! 

 

「まずはアレを見ろ。アレがこの惨劇の原因だ」

 

 ダンナが指を指す方、つまり俺達は空を見上げた。そしてそこには────巨大な何かがそこにいた。

 

 真っ赤な鱗が燃え盛る火の光によって反射し輝き、その巨大な一対の羽によって広大な空を舞うその姿を目した途端、俺の脳裏にはある空想上の生き物が浮かぶ。

 

「ドラゴン、だと」

 

 鋭いかぎ爪や刃を持つそれは火を吐きながら地上で逃げ惑うエルフを襲う。

 その様子は蹂躪と言っても差し支えない光景で過去に見た光景とダブって正直吐き気がするぜ。コレはアレかな? フラッシュバックって奴かな? 

 

「エンリュウ……何故今」

 

 えんりゅう……縁竜……いや、炎龍か。火炎を拭く龍と書いて炎龍……そのまんまだな。クソが、リアルドラゴンとはイオナと一緒の時に出会いたかったぜ! 残弾を確認し予備の弾丸を確認する。予備は6発か……貫鉄90㎜であの鱗を貫通できっかな? 

 

「テュカ、アレは持って来たか」

 

「う、うん!」

 

 俺が考えてる間二人は話、テュカが取り出すは数本の矢。その矢先には前に教えてもらった綺麗な銀のような合金、ミスリルが矢じりとして取り付けられいた。あれ、アレって確か前に二人で飲んだ時にホドリューのダンナが自慢してた貴重な物じゃ……

 

「まさかお父さん、戦おうとしてるの!」

 

「あぁ、そうだ」

 

 マジぃ? あんな巨大な相手にちんけな弓と矢で? 正気かな? いや、狂気だな。

 

「だったら私も……」

 

 え、狂気が伝播したぞ。負の連鎖かな? まぁ、俺も行こうとしてる人間の1人なんだけど。反射的に拳銃を構えようとしたところ「やめんか!」っとダンナの怒号が響き、ふと霧に寝返ったとされる父を思い出した。俺も悪い事をしてああやって叱られたっけ……懐かしい。それはテュカも同様だったようでその怒号で自分の持つ矢へと伸ばす手を止めた。

 

「どうして?」

「君は、君達は逃げるんだ」

「何故だダンナ。ダンナが戦うと言うなら俺達も行くに決まってるだろうが」

「そうよ!」

「駄目だ。虹像くんやテュカに万一のことがあったら、俺はお母さんやあのお嬢ちゃん達に顔向け出来ないよ」

 

 あ、そういえばダンナには死別した奥さんがいたって聞いたな……いつも女遊びばっかりしてるから忘れてたけど。でも、そう考えりゃそりゃそうか。残された娘であるテュカに何かあったりしたらその奥さんに怒られるもんね、戦場に連れていける訳ねぇよな。あぁー、ヤバイ。多分同年代ぐらい子が普通に戦場に出てた戦場ばっかりだったから軽く俺の中の価値観も狂ってたわ。コレは今度400辺りに心理カウンセリング頼む必要が出て来るかも。

 

「……OK把握。逃げるぞテュカ」

 

俺はテュカの腕を掴み再度逃げようとする……が、動かない。

 

「私は、残る」

 

マジかよ。この子覚悟完了しちゃってますよ。親の心子知らずとはこの事か!

効果があるか分からないが懐に忍ばせた護身用の睡眠薬でもう眠らせてしまおうかと考え出したその時、状況に変化が起こる。

 

「っち、降りて来たか」

 

炎龍は炎を吐くのが飽きたのか地上に降り、エルフを襲い始めた。そのあまりの光景にテュカは言葉を失いた。正直俺もアレは直視するのは辛いぜ。だがエルフ達もタダで殺される訳も無く、各々エルフの戦士たちはホドリューのダンナ同様弓と矢を持ち抵抗する。だけども、そのような棒きれ程度の矢では見ただけでも強固だと分かる鱗を貫通する事など出来るはずも無く弾かれるだけ。

 

「時間がないな」

 

弄んでいる。見ただけでもそれが分かるほどに好き勝手してる炎龍は見てるだけでなんでも屋(パンドラボックス)と敵対組織に呼ばれてたらしい俺でも流石に頭にくるぜ。

 

「ほらテュカ、早く逃げ――――ッ!」

 

こっちを見た。目が合ってしまった。

 

「逃げろ、二人共!!!」

 

ホドリューは即座に矢を構え、放つ。そしてそれと同時に俺達は直走った。迫り来る炎龍の脅威から逃げる為に。

背後では炎龍の咆哮。ふと振り向いて炎龍を見てみると左目から出血しているのが丁度見えた。多分ホドリューのダンナがぶち抜いたんだろ。流石は英雄だ、緊急時だってのに良い腕だ。

 

「あぁ、お父さん……」

 

「オラオラオラ逃げ舵にげろぉー!!!」

 

走る走る走る。左右は火の手が回って曲がる事が出来ず、必然的に真っすぐ直走る! どこまで続いているか分からない。けど、多分どっかの出口にはつながってるだろう。そう考え俺はある種の放心状態のテュカを引っ張り走った。けど、どうやら今回はオレに備わる悪運が強く働いたらしい。

 

「ッゲ、行き止まりってマジぃ?」

 

燃え盛る火の手は等々俺達の行く先まで塞ぎやがった。後ろを振り返るに迫って来る炎龍。その目は明らかにこの行為を楽しみ、俺達を食わんとしてる事を察しさせる狩人の目をしてた。

 

「逃げる場所逃げる場所逃げ場――――って、ミッケ!」

 

流石俺の悪運、悪い事にも土壇場では良い事にも働くぜ!

見付けたは古井戸。大きさは俺とテュカが入っても十分余力がある大きさでご都合主義化の如く水が張り、水深も深そうだ。こりゃ入り込むしか俺達に選択権がねぇ!

 

「ほらテュカ井戸に入るんだ!」

 

「お父さん、お父さん」

 

先にテュカを入れようと俺は動くが彼女は炎龍の方に釘付けになってて動かねぇ。

 

「すまん、テュカ」

 

「えぇ!?」

 

だから俺は抱え、彼女の意志に関係無しに井戸へ落とす。ジャボンと彼女が落ちた事を確認すると俺も中へ入るべく井戸へと足をかける……が。

 

〖GAAAAAAAA!!!!〗

 

その直前、背中に猛烈な痛みが走りほとんどの感覚が消えた。そして身動き出来ない状況で落ち行く俺の体は水面に叩きつけられた事により、イオナとの撃沈以来久しぶりに意識を失った。

 

※※※

 

「い、伊丹隊長!」

 

特地派遣、伊丹耀司率いる第3偵察隊は炎龍によって燃え尽きたエルフの町を訪れていた。生存者捜索の為、様々な場所を回るがどこもかしこも燃え尽きた遺体や家の跡ばかり。生き残りは誰もいないだろうと諦め、水を求める為に伊丹は井戸へと樽を投げ込む。

 

「生存者二名確認!」

 

そして――――この村の生き残りを発見したのだった。



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【8】

「それにしても伊丹隊長、この人どうします?」

「どうするってそりゃ、助けない訳にはいかないでしょう」

 

 俺、伊丹耀司はどういう訳か異世界でやる気も無かった隊長なんかをやってます。クソ、ホントは今頃同人誌即売会やトラメイトで買った同人誌を読み漁ってる頃だったって言うのに……何でこうなったんだか。異世界──―じゃなくて特地に来た

 

「でも伊丹隊長、あの格好ってどう見てもスーツですよね?」

「だよなぁ」

 

 治療の為、切り裂かれた衣服を俺も触ったが覚えのある感触だった。何なら最近感謝状をもらう為に着たしね。

 

「だったら──―」

「言うな倉田。あんまりそう言うのは考えたくない」

 

 倉田の言わんとしたことは十分に分かる。彼が工作員か何かと言いたいんだろう。これまで見て来た村はどう見ても文明が数段遅れた、言ってしまえば中世の頃を思わせる生活をしていた。けれど、このエルフと一緒に引き上げられた背中に大怪我を負った男性は違う。この男性はどう見ても俺達と同じ、門の向こうの人間だ。現在、この特地に足を踏み入れているのは一部の学者さん達を除き自衛隊員だけだのはずだ。それに加えこのコダ村の近くにあったこのエルフの村は俺達が初めて訪れた未探索地域。だからこそそんな場所でこんなスーツだなんて格好は本来あり得ないんだよなぁ。何ては話をしながらも会話は逸れてもう一人の要救助者であるエルフに移り、どのエルフが一番尊いかを語り合っているとキョロキョロと誰かを探す隊員の1人を見つけ、声をかけた。

 

「栗林」

「あ、隊長! 探しましたよ」

 

 え、さっきから倉田と二人で話してたのは気付かなかったのかな? 

 

「何で探すハメになったかはあえて聞かないが……それについて何か分かったか?」

「何って言われても何にも分かりませんよ。単なるおもちゃじゃないんですか?」

 

 そう言って放り投げてくるは彼の耳に付いていた、多分イヤホンか何かだと思う物。重さは不自然なほど軽くてまるでスライムのような感触なのに全くべた付かない不思議な、見た事もない素材だ。

 

 だから素材が不明なコレが危険物でないかを確認する為に軽い分析を俺の隊員の1人である栗林に頼んで、預けていたけど帰って来た物と言葉はまぁ案の定の内容だった。だよなぁー 栗林ちゃんでもわっかんないよねぇ。

 

「ってか隊長、何で私にまかせたんですか???」

「んー何となく?」

「駄目だ隊長、何とかしないと」

 

 そう言っておもむろに懐からトンカチを取り出すの止めてくれない! 俺は一昔前のドラム缶テレビと誤認してる疑惑が出た栗林を再度怖いと思いながらも話を続けていくと不自然に言葉を止める。

 

「でも」

「でも?」

「アレ、強度だけはスゴイですよ」

 

 そう言って指さす方へ目をやると軽装甲機動車(ラヴ)に乗る富田と、何かチェックしてるおやっさんが──―って。

 

「キャリバーよーい」

「弾倉よし、給弾ベルトよし、安全確認全てよし」

「う──―」

 

「何しての二人ともぉぉ!!!」

 

 腕を下げる直前だったおやっさんの言葉を遮り、俺は大型の同人誌即売会名物早朝ダッシュの如く走った。

 

「え、だって栗林が「隊長が耐久試験をしろってさ」って言ってたので……」

「だからってブローニングM2銃機関砲(キャリバー)はやり過ぎでしょう!!!」

「え、でも既に110mm個人携帯対戦車弾(空飛ぶにっさんマーチ)は試しましたよ?」

「既に手遅れだった!」

 

 さっきから騒がしかった理由はそれか! 捜索活動の為の物音だと思ったけどまさかまさかのぶっ放した時の音だったなんて気付かなかった! ってかアレって確か一発日本円で120万ぐらいしたよな……帰ったら柳田に怒られる、絶対怒られる。

 

「ってかおやっさん、何で止めてくれなかったの……」

 

 最年長であるおやっさんこと桑原さんに抗議するけど────

 

「……」

「何故目を逸らすんです?」

 

 オイコラ最年長。何故今子供っぽい素振りを行う。それでも倉田が言っていた鬼の教官ですか。

 

「……一つ首のキングギドラの影響で昔を思い出してました」

 

 アレか。社会人が懐かしいゲームとかを見て調子に乗っちゃう、そんな感じ? テンション振り切れちゃったかー

 なんて呆れながらも一応は隊長として適当に注意しながら撤収準備とあとかたずけを命じその場を後する。何故厳重注意をしなかったと言うと俺も同類の人間だからさぁー。いやーリアルドラゴン、テンション上がるねぇ。

 

「ってか、110mm個人携帯対戦車弾(アレ)で壊れないってホントに硬いんだな」

 

 あれって確かいくらか割と爆薬が詰まっていて貫鉄は700㎜あったよな。それで壊れないってどれだけ硬いんだよ、なのに柔らかいとか一体全体何で構成されてるんだろうな。

 

 その途中もう一台の高機動車(ジャンビー)にて治療を行っているはずの人物を見つける。その人物は俺の存在に気付くと敬礼、俺も敬礼するが彼女の方が背が高いために見上げる形に……ホントにデカいよなぁ。あ、一応言うが背丈の事だぞ。

 

「隊長。男性の容態、安定しました」

「ほ、それは安心だ」

 

 エルフの方は長時間水に漬かっていた影響で低体温症に。あの怪しげの男性は重度の火傷で死にかけの状態だった。だからこそ看護資格を保有する黒川に頼んでたが、何とかなったんだな。

 

「エルフの女性の方は隊長の影響で出来た漫画のようなたん瘤はともかく、下がりに下がった体温は徐々に回復していってますので問題無いでしょう。男性の方は重度の火傷が背中の大半に広がり、正直生きてる事が不思議な状態でした。しかし井戸へ落ちた事と一緒にいた彼女が施したと思われる治療が幸いしているのか分かりませんが奇跡的に私達が発見するまでに命を保てたと予想します」

 

「そっか」

 

 何もない井戸の中で治療、ね。エルフやドラゴンとかがこの世界には存在してる訳だから魔法とかもこの世界にはありそうだねぇ。いやー、楽しみだなぁ。

 

「ま、あるかどうかは本人達が目覚めた後に聞けばいっか」

 

【い、伊丹隊長】

 

 無線機から俺を呼ぶ声、誰だろ? 

 

「どうした」

 

【こちら笹川】

 

 その無線機から聞こえる声の正体は村の端を担当し、生存者の捜索している笹川。だけど変だな、笹川の声は

 

【落ち着いて、聞いてください】

 

「一体どうしたんだ。まさかドラゴンでも見つけたってのか?」

 

 軽いジョークを飛ばすも笹川の雰囲気は一切変わらず、何となくその声は動揺していると感じ取れた。

 

【信じられない物を発見しました……】

 

「? わかった。とりあえずそちらへ向かう、細かな座標を――――」

 

 

 

 

 

「なんでこんなところに潜水艦が……」

 

 村の端、ドラゴンの炎によって倒壊したと思われる焼き焦げた倒木に隠されるかのようにそれは存在した。

 横たわるソレの長さは目測100m以上を誇り、灰色に染まった抵抗を感じさせない流線形の船体は地上ではなくまた別の環境に特化しているように見える。それもそのはず、その横たわる物は正体は本来水中に潜む狩人、潜水艦なのだから。

 

 思わず被っているヘルメットを脱いでコレが現実化と頭をかいてしまうほどの非現実的な光景。そんな俺とは別に一緒にこの潜水艦の確認に赴いた倉田は何処か目をキラキラと光らせながら、まるで新しいおもちゃをもらった子供のように喜んでいた。

 

「凄い、本物のイ号四百型潜水艦がこの目で見られるなんて……」

 

「知ってるのか倉田」

 

「はい、それはもちろんなんですが……前大戦末期にあったとされる潜水艦──―いや潜水空母がどうしてこの特地なんかに……」

 

 それから倉田から聞いたこの潜水艦の話はこうだ。

 この船の名はさっきも倉田イ号四百型潜水艦。第二次世界大戦時に日本海軍が作り上げたとされる当時世界最大の潜水艦でその航続距離は理論上と言う建て前は付くものの、地球を一周半という広大な距離を無補給で航行出来た凄い船だったらしい。最終的に全3から4隻が建造されたそうなんだがその全て今の時代には現存しておらず、海の中に沈んでいるとの事。だからこそ彼にとっては今目の前にある事が信じられない語ってくれた。

 

「しっかしこの事、どうやって上に報告したものか……」

 

 あぁー檜垣さんの叫ぶ声が頭に浮かぶぅ。唯でさえ無駄使いした110mm個人携帯対戦車弾(チャーミングな打ち上げ花火)の報告でさっき怒られたばかりなのに……どうしよう。多分そのまま報告すると帰った後は黄色い救急車で運ばれる事になるんだろうなぁ。

 

「とりえあえず……帰るか」

 

 問題の先送り、コレが今の俺の答えだ。だって仕方ないでしょ。もう現場で対応出来るレベル軽く超えてるんだよ。だからこの事は上に任せるしかないって。だけども、まったく報告しないのもしないので後で何を言われるか分からないので一応は写真だけ撮っておく。報告書と一緒に写真もセットで上に送り付ければ何とかなるだろうって我ながら安直な考えだけど、仕方ないよね。

 

「そんじゃ一度コダ村に戻りますか」

 

各員乗車し、俺達は一度コダ村へ引き返す事になる。

流石に怪我人二人も連れてあと2、3の村は回れるわけも無いので当然の行動ではあるんだけど本部に連絡したらすんなりと要望が通ったもんだから驚きだ。あれかな、最初に潜水艦を発見しましたーって感じでインパクト強めの報告をした影響かな?

 

まぁそんな訳で俺達は高機動車(ジャンビー)軽装甲機動車(ラヴ)へと乗り込み、未舗装の道にて車を進める。

 

ここで俺が乗る高機動車(ジャンビー)へと同車するある意味意味イカレタメンバーを紹介するぜ!

 

まずは運転手。俺と同じオタク仲間、倉田!

 

助手席、エルフの女の子がいつ起きて来るかとワクワクしている俺! 後部座席には全体指揮を担当する最近特撮趣味が再燃しつつあるらしいおやっさん! 保護したエルフと男性を看病する為に乗車したうっかりミスで部隊の皆に男装の演劇好きが露見してしまった黒川! 本日の主役にして要救助者、今だ目覚めぬ謎のエルフの美少女!……っと、背中に大やけどを負っている謎のスーツAだ。

うんー、俺も含めてキャラが濃い。まるで王道主人公の仲間達のようだな。

 

「って何考えてんだろ、俺」

 

「どうしましたか伊丹隊長」

 

「何でもないよ。お前はきちんとメイコの歌でも歌いながら運転してろ」

 

「えぇぇ、何で僕怒られたんですか……」

 

車は進むよ何処までも。まぁ今回に限ってはコダ村までだけどね。



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【9】

ほんへ


※※※

 

「お久しぶりです〇〇さん……いや、今は虹像さんでしたね」

 

「──―確かに久しぶりですね、女神様」

 

 煌びやかな何だか既視感のある空間。そこで俺は全裸で立って居た。ってか井戸に飛び込んだ結果あの世へ着地しててワロス。

 

「いえ、此処はあの世ではありませんよ」

 

 お、マジですか? 

 

「はい、マジです」

 

 やったぜ。まだ三途の川を渡る前でよかったぁ……ん? 待てよ、じゃあ何で俺ってばある日♪ 女神様と、出会った♪ してんだ? 

 

「えぇっと……一体全体何ででしょうね?」

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コダ村を訪れ、あのドラゴンの事を教えたらまさかまさかの村を捨てての住人総出の大移動が開始された。その理由を村長に聞くとそれも分からなくもない、納得の言葉が帰って来た。

 

「一度でもエルフや人の味を覚えた炎龍はまた村や街を襲ってくるのだ、だからわしらも逃げなければならん」

 

 っと。アレか、ドラゴンってファンタジー小説にありがちな理論と同じ両生類のワニみたいなもんか。

 炎龍は見た目通りの肉食性怪物。なのでワニと同様一度でも人やエルフの血の味を覚えた個体は他の人間も襲い始める可能性が話を聞くに高いようだ。だけど炎龍はワニと違ってそう簡単に退治出来る相手でもない、だから逃げるしかないのか。まぁ銀座を襲った小型のドラゴンでさえ7.62mmNTO弾が豆鉄砲、12.7mmを使ってるM2ブローニング銃機関砲(キャリバー)でようやく貫鉄出来る鱗持ってたもんな。そりゃ銃すらない普通の村人じゃ太刀打ちできないはずだ。

 結局、その後は成り行きで逃避行するコダ村の住人達の護衛をしながらアルヌスへの帰路へ付いていた。その途中エムロイの神官、ローリー・マーキュリーと呼ばれるゴスロリ少女と出会ったりと色々とトラブルなどもあったが何とか順調に進んでいたんだけど……どうやら俺は運が悪いらしい。

 

 

 

 

 奴は突然現れた。

 

 

 

 最初に気付いたのは何となく車両の後続に続く馬車の列を見ていた時だ。太陽の登る方、そこに現れるは銀座事件やアルヌスの丘での戦闘時に嫌と言うほど見た小型のドラゴン。それだけなら軽装甲機動車(ラヴ)に搭載されたM2ブローニング銃機関砲(キャリバー)したら済む話なのだが……‥奴はその小型のドラゴンを食うと黄金に輝かせた瞳でこちらを認識すると、かなり距離が離れているにも関わらず耳の痛くなるほどの雄叫びを上げた。そして、それから始まるは案の定逃避行を続けていた村人達に対する蹂躪だ。火を吐き馬車を人を焼きながら、悲鳴や涙を流す村人達を無残にも食い殺す。そんな光景が目の前で始まるや否や俺達は────俺達自衛隊は命の危機に瀕す村人達を救うために動いた。

 

 

「怪獣と戦うのは自衛隊の伝統だけどよ、こんな場所でおっぱじめる事になるとはねッ!」

 

 そしておやっさんの特撮好き魂にも火が入っちまった。多分アドレナリンの影響だと思うけど倉田を急かす声には多少たりとも喜声が混じってるから間違いないね。炎龍の足元にて動かなくなった村人に対し狙いを定めた炎龍は地上へ降りる。そこで俺達は待ってましたとばかりに火力を叩き込んだ。

 

「牽制射! 撃ち続けろ! キャリバーも叩き込め!!!」

 

 並走する軽装甲機動車(ラヴ)に搭載されたM2ブローニング銃機関砲(キャリバー)。50口径の重機関砲は笹川の手によってまるで掘削機のような連続音を響かせながら12.7×99mmNATO弾を打ち込んでいった。だが、効果はいま一つのようで炎龍の鋼のような鱗は火花を散らせながらその弾丸を弾く。

 

「効果が無い、隊長! 全然効いてないっすよ!」

 

 笹川からそんな悲鳴にも似た文句が飛んで来るが俺言われても困る、どうする事も出来ないからな。

 

「かまうな! 当て続けろ」

 

 奴にとっては俺が今撃ってる7.62㎜もM2ブローニング銃機関砲(キャリバー)の12.7㎜も等しく豆鉄砲! だけど、奴も生き物だ、感覚がある。

 こうやってやってれば俺達に気が集中して村人達へは向かないはずだ。だから撃つ意味はある! 

 

「撃て撃て撃て!!!」

 

 しかしこのままでは何時か弾切れや炎龍の放つブレスでなどでやられてしまうのもまた事実。あの二人が無駄使いをしてた110mm個人携帯対戦車弾(決定打)も、これだけ人が集まった状態じゃ危なくて使えない。ならばもっと気を引いて、村人達が遠ざけなければいけないのに。

 

 そんな時。

 

「オーノ!」

 

 背後から知らない少女の声がして俺はふと振り返る。するとそこにはぱっと金糸のような鮮やかな髪が広がていた。

 そしてその人物はその細い指で仕切りに「オーノ!」っと叫びながら自身の青色の瞳を指す。

 

 

「全員、目を狙えッ!」

 

 それに俺はピンと来て全員に指示。全員の銃口が奴の目へと向けられ、火力が集中する。その効果は絶大らしく、先ほどまでほとんど無視をしていた炎龍は急に眼を庇うように動き出しあとずさり。

 このまま行ける! と思ったその時、待たせたなぁ! と言わんばかりに110mm個人携帯対戦車弾(ヒーロー)が登場。炎龍目掛けて撃ち放たれた……が、勝本がやらかして明後日の方向へ。もうダメかと思ったその時。

 

 

「すいませんそこの軍人さん。俺のイヤホン、返してもらいますよ」

 

 再度俺へと声がかけられた。振り向くとそこにはエルフの少女と同じく目が覚めたであろう背中を大怪我している男性。

 今度は声だけではなく腕まで伸ばされ、真っ直ぐにが俺の懐にしまってあったあの謎の物体を手にするとそれに向かってこう一言。

 

「艦長権限作動。イオナ、出番だ。寝坊助め、起きろ」

 

 その時、俺達の目の前で不思議な事が起こる。地面から光が急速に強い光が漏れ始めると突如、真っ二つに割れたのだ。その事に俺達も、そして炎龍も気が取られるだが彼の言葉が続く。

 

「ワープドライブオンライン。重力子エンジンリミッター解除。機関最大、最大出力。さっさと来な、俺の船」

 

【────ガッテン】

 

 突如、その割れ目から何か大きな物が飛び出してきた。その先には炎龍が存在し奴をぶっ飛ばすとちょうど勝本がやらかしたおかげで明後日の方向へと飛んで行っていた110mm個人携帯対戦車弾(迷子の通り魔)に命中、奴の左腕を綺麗に拭き飛ばした。

 

 それと同時だろう、現れた物が地面に接触。巨大な煙を上げて地面に落ちるが現れた謎の存在の攻撃はそれだけでは終わらない。

 

「全砲門フルブラスト!」

 

 青い光の雨霰。そう表現していいほどの数多くの閃光がその現れた物から放たれた。その一つ一つが炎龍の鱗を溶かすほどの熱量を持っているようで炎龍は悲鳴にも似た咆哮を上げた後、その閃光を恐れて広大な空へと去ったのだった。

 

「対空警戒を厳に。イオナ、後頼んだ……」

 

「! ぐーぞー!!!」

 

 そして、謎の男は再度気を失った。



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接触ッ! 別世界の日本国
【10】


政治系の考えってむずかしぃ……


タクチクと秒針の音が聞こえる。ちなみにタクチクはチクタクの誤字などではなく、俺の耳へと確かに聞こえるのはタクチクである。そんな微かな聞こえるその音で若干目覚めた俺はモゾモゾと体を少しずつ動かす、すると徐々にではあるが感覚が戻ってきた感じがした。そして、同時に俺は久しぶりに感じる体を優しく包み込むシルク、もしくはコットン素材のような柔らかな感触に疑問が湧いたが、同時に湧き出した疑問に掻き消される事となる。

 

アレ。そういえば艦長室に置いてた炬燵の電源、OFFにしてたかな?

 

 

エルフの村は森に囲まれている影響で直射日光があまり当たらない。その為季節に関係無く村全体の気温は低く、加えて高い木々が並ぶこの森の中ではどうやら複雑な乱気流を作っているようで冷たい強い風がいつも吹いてるのだ。まぁ、なんと言うか率直に言うと凍えるほど寒い。

その村で生まれて数百年のテュカやそれに慣れきっているホドリュの旦那はそれが普段だろうが、イオナによって気温などが完璧にコントロールされてる艦内にいる俺は違う。寒さに耐性が無い俺は二人や他のエルフの人達のような薄着なんて絶対に出来ないほどの極度の寒がりなのだ。

だから船に帰った後は必ず部屋に用意した炬燵へと潜り込み、ぬくぬくとイオナとトランプして大負けしながらいつも過ごしてるんだけど……電源切ったかな??? ドラゴン云々でついつい忘れてたけど船を出る時に消したような……決してなかったような……わっかんね。

どうしても炬燵の有無が気になった俺は気合いで意識を完全覚醒。目を開けた。

 

「ーーーー知らない天井……いや、このデザインはやっぱり知ってるわ」

 

前々世でよく見たら光、真っ白な純白の天井が広がっていたのだった……あ、ナースコール発見。ポチィィィィ!

 

 

 

 

目覚めたら一目で分かる病院の天井。起き上がって左右を見ても仕切られたカーテンのみ。思わず前々世に戻ったのかな? と思い、いつも感覚でナースコールをポチィィィィ!したけど……全然ココ、前々世じゃないですわ。

 

「はぁはぁ。目覚め、ましたか」

 

ナースコールで駆けつけるは純白のナース服に身を包んだ可愛いねぇーちゃん……ではなく迷彩服を身に付け、肩に階級章を付けたゴリゴリの軍人さん、年は30後半から40弱くらいの成人男性。個人的にはこの時点で恭平とおふざけで買った娯楽本、【月刊可愛い子Book】のハズレ枠を当てた残念過ぎる気分に。さらに最悪な事に彼は現在息が上がっており、顔に油は大量の脂汗がががががが――――

 

「チェンジで」

「は?」

 

可愛い子を期待してた俺が思わず彼に向かってチェンジコールしたのは悪くねぇと思うんだ。

 

※※※

 

日本から見て銀座に突如として出現した門の向こう側である特別地域、通称特地。その特地と日本とを繋ぐ、ゲートを中心として作られた駐屯地がある場所こそ、特地にて神聖な場所とされるアルヌスの丘だ。日本と繋がってしまった現在では繋がった当初発生した悲劇的な事件である銀座事件のような出来事が無いよう再発を防止する為自衛隊員が常駐している。そこには日本から持ち込んだ戦車や小銃などで警備され、言わば要塞と化していた。そしてその場所に彼らは招かれた。

 

「えっと、つまりあなた方は私達同様別世界の住人であると?」

 

「肯定します、狭間陸将」

 

彼女らは突然現れた。伊丹達がエルフの村跡にて発見した謎の潜水艦。それが突然SFとでしか考えられなかったワープという方法を使用し現代の技術では到底理解出来ない理論で出現した彼らは最初、敵対的であった。しかし伊丹の文字通り命懸けの説得と何故かエルフの少女を保護していた事もあってか直ぐに誤解は解かれ、彼女らはこの場所。アルヌス駐屯地へと訪れる事とに……

 

「私達はあなた達同様外から来た住人―――いえ、迷い込んだ住人です」

 

その1人である第二次世界大戦で沈んだとされる潜水艦と同名の名を名乗る少女、イ402。そしてその基地の責任者である狭間陸将は応接室にて自身の立場を明確にする話し合いをする為に対面する事となった……なっちゃったのである。そして初の接触から数日経過した現在……彼女らの立場は未だに話し合われていたのだった。 

 

 

そんな中、その少女と直接話し合った狭間陸将はこの案件に関して一番の適任と判断した柳田と再度話し合っていた。

 

「しっかしどうしますかね、あの子達」

 

「そうだな……我々と同じこの特地とは別の世界からやって来た少女達……か」

 

彼女らは自分達の事を霧の艦艇と名乗り、それは現実であった。人と姿形は似通ってはいるが明らかに普通の人間では出来ない事を次々と成し遂げる事の出来る少女達。特地の原住民がファンタジーに出て来る住人だとすると彼らはその世界へと飛来した外惑星の、それでこそSFに出て来るような子達だ。

 

「しかし驚きましたよ。彼女、確か400と言いましたかな。人間ではない証拠にと74式を軽々と持ち上げたのですから」

 

「確かにそうだな。アレには俺も度肝う抜かれたぞ」

 

 まさか伊丹達がそのような人達を連れて来るとは夢にも思っておらず、一緒に連れて来たコダ村の住人達と一緒に保護したは良いが扱いが極めて難しい。上にも報告したものの、やはり当初想定していた住人と別のベクトルで予想外の人種を受け入れてしまった影響か彼女達の扱いを決めかねてるとの事だ。

 

「あとあの潜水艦もそうです。先日特地入りした専門家達の話によるとやはりあの潜水艦は今の我々、地球人類にとってはオーバーテクノロジーの塊だそうです」

 

「俺達はファンタジーの世界へ派遣されたはずが、何時の間にSFの世界に入り込んでいたんだろうな……」

 

「それもそうですね、ホントに不思議な船です」

 

柳田のいう通り、あの船は不思議な乗り物だと狭間も同様に考える。

旧日本海軍が極秘裏に建造した当時世界最大の大きさを誇っていた大型潜水艦、伊号四百型潜水艦。その姿を模したそれは潜水艦というカテゴリーに入っていながら、某宇宙戦艦の如く空を飛び、別の地点から別地点へのワープを可能するまさしくSFの塊だ。それが現実に存在するんだから頭が痛くなる。

 

「その証拠にあの船体に使われてる技術を一部でも解明しようなら技術革新が必ず起きると彼らは鼻息を荒く、興奮しながら話してました」

 

「あぁなるほど、だからあの船の警備を担当していた隊員から苦情が殺到していたのか……」

 

狭間は思う。あの潜水艦の扱いは特地同様に現場レベルでは手に負えないほど難しい物だ。それでいてこの情報が門の向こう側に存在する外国の者に漏れれば、日本を滅ぼしてでも手に入れようするだろうテクノロジーの塊だ。だけども、説明された話によるとその船の中核が彼女達との事だ。それはつまりあのテクノロジーの塊は感情を持つ、機械生命体だと言う事に他ならない。そしてアレは明らかに戦闘行動に特化されたパンドラの箱。下手な刺激をして、どんな被害を被るか不明な為に―――――っと、最悪な想像へ居たりそうになるが誰かのノックする音で現実へと引き戻される。

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

誰が訪ねて来たかと思えば話題に上がっていた彼女達をこのイタリカへと導いた伊丹率いる第三偵察隊が発見、保護した人物を警護していた自衛隊であった。

 

「どうした」

 

「患者が目を覚ましました」

 

重症を負っていた彼だが、先ほど話題に出した彼女達が何等かの処置を施した結果、普通よりも早く回復へ向かっている人物。明らかに彼女達に何等かの関係があると思われたので狭間は彼の扱いには繊細な注意をと念を押していたんだが……何かあったのかと疑問に思うがすぐにその答えを知る事になる。

 

「ですが……」

 

「何かあるのか?」

 

「目覚めた直後、私へチェンジと……」

 

「……ふむ」

 

再度狭間は考える。彼が目覚めた直後に人員を変えろと言ったのは何か理由がある。恐らく彼は何かしらのコンタクトを求めているんだと。

 

「私が行こう」

 

こうして狭間は彼女達のリーダーである虹像と対面する事となる。だがこの時の狭間は知らなかった。チェンジと言った理由が、単純に可愛い女の子では無かった為だと言う余りにもバカバカしい理由だと言う事を――――



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【11】

難しい事書いてると途中から何を書いてるかわからなくなるぜ


「なるほどなるほど。そちらさんは別世界、それも日本の陸軍さんであると……へぇー」

 

「虹像、リンゴ」

 

「イオナさんきゅー……ウマー!!!」

 

「後自衛隊はこちらの世界にも存在していた」

 

「……マジで?」

 

「マジ。具体的には2040年まで存在していた」

 

俺が目覚めた後、駆け付けて来た明らかに軍人さんっぽい見た目の人にチェンジコールすると昔相手した陸軍のお偉いさんみたいな人と共に俺の相棒であるイオナが来てくれた。しかし別世界の、それも温暖化の影響で沈む前の日本か……データでは知ってるが具体的にどんな感じだったんだろうな???

 

「ヘぇー、知らんかったなぁ」

 

「海洋学園のカリキュラム内の歴史の授業にて習ったはず」

 

「おうおうおうイオナさんよ……毎年成績最下位だった俺への当てつけか、あぁ???」

 

イオナから珍しく喧嘩を売られたのでそれを買ってその綺麗な髪をぐちゃぐちゃにしてやろうと右手を伸ばそうとしたが、イオナと一緒に来た確かハザマ……とか言ったかな。渋い明らかにお偉いさんって顔の軍人さんの咳払が響いた。あ、忘れてた。

 

「再会の感動も分かりますが、私の事を忘れないでいただきたい」

 

「そーでしたね。すいません」

 

さてさて、イオナからもらったリンゴをパクっと食べ終えると痛い体を起こして狭間さんと目を合わせる。うんー、良い目をしている。コレは強い戦士の目だな。これから始めるのは恐らく交渉だ。今回は同じ日本人同士ではあるが別世界の人間相手の交渉だ、気を引き締めてやりますか。

 

「それでは改めて……統合軍アジア方面特別艦隊【蒼き鋼】旗艦特殊潜航艇イ号401艦長、千早虹像です。この度は私の救助や船体及びクルー達の身柄を一時的とは言え受け入れて頂き感謝します」

 

「私はイオナ。感謝する、ハザマ」

 

ビシッと久しぶり敬礼し、過去に振動魚雷を輸送する為もらった一応正式な俺の身分を話しながら彼へと感謝の意を述べる。するとハザマは同じくビシッと見惚れるほど綺麗な敬礼をした。

 

「日本国陸上自衛隊、陸将の狭間です。こちらも大事な部下を助けて頂き、感謝します」

 

さて、自己紹介も終わった事ですしジャブ飛んで本命ぶっ放すか。

 

「それではハザマ陸将、率直に聞きます――――あなた方は私達に何を求める」

 

俺の船であるイオナを渡せだの侵食魚雷を渡せだのいつも道理の要求が来るかなーっと予想して居たんだがこの質問をした途端、ハザマは目に見えて困ったような表情を浮かべる。お、こりゃ珍しい。単なる直感だが、これまでと違う交渉になりそうだ。

 

「実は我々も貴方達の扱いに関しては決めかねているのです」

 

「決めかねている……ですか」

 

「はい」

 

ほーん。コレは珍しいパターンになりそうだ。

 

「言ってしまえばあなた方の持つ技術はその一端でさえ私達にとってはSF――――」

 

「まぁ確かに」

 

霧の技術は俺達の世界の人間にとってもSFの塊みたいなやべーモノだ。その艦艇の艦長である俺が言うんだから間違いねぇよ全く……そりゃ扱いにも困るもんだ。下手に刺激するとどんなシッペ返しが来るか分からないからな。つまりアレか、今回の交渉で有利なのはこっちなのか……初めての経験だなぁ。

 

「――――ですので逆にお聞きしたい。あなた方は我々に何を求める」

 

ま、マジか。この人、俺の言った事を丸々返して来やがった。

始めての経験で困った俺はとりあえず、リンゴを切り出したリアルな造形の兎を作りつつあったイオナに耳打ち。

 

 

「……イオナさんやい、参考程度に聞くけどこの基地を再起不能にするまでの時間は?」

 

「5.23秒」

 

ヒュー 前に陸軍を相手にした時は1分って言ってたのにこの人達相手ではそれ以下かよ……これはアレだな、恐らく今この基地に配備されてる自衛隊戦力は低いのか?

 

「おいおいイオナ、それはいくら何でも短すぎじゃね? 岩蟹とかそんなに配備されねーの、此処」

 

 

「この基地に配備されている陸上兵器は主にキャタピラを使っている戦車と呼ばれる兵器。前に対象とした統合軍陸軍が約40年以上も前に採用していた時代遅れのモノばかりだった」

 

「マジか、霧以前に技術体系そのものが俺達と開きがあるのかよ……」

 

これじゃ下手に対価として報酬渡せねぇージャン。下手したら通常魚雷一本でもこの人達にとってはオーバーテクノロジー扱いにされそうだ。俺は色々と考えるが答えは出ず、結果素直に今欲しいモノを述べる事にした。

 

「とりあえずは船体を保管できる簡易的でもいいので水の張れる艦ドック、そして俺達の身柄の保護とそちらの日本……いや、地球の状態が分かるネットワークの開示を求める」

 

「艦ドックに身柄保護、情報開示ですか……」

 

色々と無理があるかなーっと思ったがハザマはこれを了承する。マジか、艦ドックに関しては断られると思ったのに……予想外だぜ。

 

「分かりました。直ぐに用意しましょう」

 

全て了承され俺ちゃんビックリ。こんなにあっさり要求が通るのは逆に怖ぇ……後に何要求されるか分かったもんじゃねぇからな。こりゃ一つ制限を設けとくか。

 

「……あと対価に関してはそちらの開示してくれる情報次第でこちらで決めます」

 

「と、いいますと?」

 

「どうやら俺達のいた世界とそちらの世界とでは科学技術そのモノにかなり開きがあるようですからね」

 

そう言うと少しばかり何かを考えた後、何処かしぶしぶと分かったと意思表示。やっぱり何かヤバイ要求でもするつもりだったのかな??? 制限を設けて正解だぜ。これにて俺にとっての最初の交渉が終わった。さてさて、俺達は異世界の日本政府に何を要求されるんか―――――そしてハザマが俺の寝てる病室から出た後。

 

「あ、そういえばテュカは無事だった?」

 

「ほとんど無傷。虹像が大怪我してまで庇ったお陰」

 

「え"、俺ってばそんなに大怪我してんの!!??」

 

俺自身の状態を知ったのだった……えぇ、俺ってば重症じゃねぇーか。こんな怪我をしたのはイオナと深海へGOした時やナガトとムツを相手した時以来だぜ。



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【12】

頭が痛くなる……難しくなる。


「ハァ……どうしてこんな事になっちゃったんだろうね」

 

 伊丹耀司、彼は青色の巨大な船体を前に先ほど友人である柳田二等陸尉に言われた言葉を思い出す。

 

※※

 

 あれはアルヌスの丘に帰還し、手違いでコダ村の難民と途中で拾った神官、そして潜水艦を拾って来た事にお説教を受けた帰りの事。声をかけられ、振り返ると綺麗な夕日の見える隊合の物千場に設置されたベンチに腰掛ける柳田の姿があった。彼の側へと立ち寄ると彼はタバコを吹かしながら、何ともまるで苦いモノを噛んだような表情で彼は語り始める。

 

「伊丹お前、この特地以上の爆弾を持って来たな……一体どうするつもりだ?」

 

 特地以上の爆弾。最初伊丹は柳田の言葉にピンとこなかったが、自身の連れて来てしまった少女達の事を思い出し伊丹は大げさなっと笑った。しかし、それを語る柳田の目は真剣であり、徐々に不安が大きくなっていた。

 

「難民だけならまだよかった」

 

 タバコを口へ運ぶ。大きく吸われ、吐き出されるはため息混じりとも取れるほど大きなモノだった。

 

「遅かれ早かれ現地民との交流は深めなきゃならなかったからな。俺達裏方にとっては当初に組んでいた段取りが狂うから正直止めて欲しいが、言ってしまえばスケジュールが単純に早まるだけだ……だがな────」

 

 言葉をそこで止めると短くなったタバコを灰皿へ押し付け火を消して捨てるとベンチから立ち上がり、フェンスにもたれ、新しいタバコへと火を点ける。

 

「────アレは例外だ」

 

 彼が目線を送る対象。そこには伊丹自身が拾って来た────っと言うより連れて来た潜水艦が戦車や機動車と共に鎮座する様子が目に入った。陸上の乗り物の中に青く輝く船が混じる姿は現実離れしており、異質ともとれた。

 

「この特地は言ってしまえば宝の山だ。これまで集めた情報の一つをとっても地球の環境に似ていて、原生生物も地球に生息している生き物に酷似した遺伝子構造をしている。恐らくだが、人間に酷似した種族同士だったら交配も可能だろ……公害も無い、環境汚染も無い、無政府状態の未開発の土地が広々と広がる世界。見た事も無い植物に加え、当然地球では滅多に取れないレアメタルなんかの鉱石資源もわんさか地下には埋まってるだろ。俺達から見て現地民との文明格差もアリと巨人ほど離れてるほど有利だ。そんな土地への門が日本へと開いたのは幸運とも災厄とも言える。当然日本と関係深い海外系の株価は軒並みストップ高で鉱石系は徐々に下がる一方。議員連中は重役どもと連日勉強会に加え、世界中からの問屋合わせに外交官は天手古舞、国連の総会ではこの特地を各国合同で管理するべきと言う意見まで出ている。捕鯨問題程度だったのなら伝統的な食文化を守る為だと銘打って日本は突っ張れただろうが、ここまで大きな問題になって来ると今の日本では力不足だ。上の連中は知りたがってるのさ。この特地は世界の半分を敵に回してでも価値があるモノなのかっとな……けどな伊丹、それ以上の問題を起こしてどするよ」

 

「問題、そんな大げさな――――」

 

「大げさにもなるさ。なんたって俺達の地球から見ても十分オーバーテクノロジーの塊である潜水艦を拾ってきちまったんだからな」

 

 再度煙を吸い込み、やはりため息混じりの煙を吐く。しかし先ほどよりも大きく、そしてどこか深い息だった。

 

「まだ文明的に大きく離れていて会話も通じず、分析すら不可能だけだったらまだよかった……けど、アレはどう見ても意思疎通の出来る兵器だ。そして彼女らと少し話た結果ではあるがアレに搭載されている通常兵器だったら俺達も解析、生産する事が出来ると来ているらしい。分かるか、伊丹。アレは言ってしまえば厄災を呼ぶ箱、パンドラの箱と同じなんだ。もしあの潜水艦の詳しい内容が他国の大使や全国に潜んでいるだろう工作員やスパイ達の耳に入ってみろ。これまで結んで来た条約なんて全て無視してあの未知のテクノロジーの塊を奪取する為、世界中の軍隊やテロリストどもが血眼で日本へ進行してくるだろうさ。もちろんこれは同盟国であるアメリカも例外じゃない。むしろその同盟国と言う肩書を良いように使い、なんやかんやと理由を付けて日本へあの潜水艦を引き渡せと各国は圧力をかけて来るだろうな、きっと。それほどヤバすぎる劇物なんだよ、あの潜水艦の価値はな」

 

 あまりの事の重大さに伊丹は驚きながら何となく眩暈がした気がし、思わず両目を抑えてしまうが柳田の話は続く。

 

「ただでさえ今の伊丹の立場はこの特地において重要視されてしまうほど特殊な立場に成っちまってるんだ。これ以上日本を超えて世界中にとって重要な人物の仲間入りをしてどうするよ」

 

「ど、どういう事なんだ?」

 

 冷や汗を額に浮かんで来た事を感じながら伊丹は珍しく緊張した様子で柳田へ問う。すると柳田は短くなったタバコを放りながら、愚痴をこぼすかのように語り出す。

 

「さっきも言っただろ特地での一番の価値は情報だ。その情報をお前の立場だったら他の隊員とは違って軽々しく現地の人間に聞く事が出来る立場でもあるしそして、あの潜水艦に至ってはお前は彼らにとって大きな恩を貸している恩人なんだ。なんたってその価値の塊である少女達が一心に信頼を向けているあの船の艦長を偶然とは言え助けちまってるんだからな。下手をすればお前が彼女らに尋ね、提供を促した技術一つでそれを巡って第三次世界大戦すら起こる可能性があるんだからな」

 

 思わず息を飲んだ。伊丹自身の行動によって世界中を巻き込んだ戦争が起こる可能性があると知ってしまったのだから。

 

「だから覚悟をしておけ伊丹。お前には近日中に大幅な自由行動が許されるはずだ。どんな任務、どんな目的になるかは官僚たちしだいだがどんな文門がならんでいようとお前へ課せられる目的は大きく分けて二つ。この土地を情報をだれよりも集め、そして彼、彼女らのご機嫌とりだ」

 

「……ハァ。なんでこうなったんだか」

 

 思わず自身の運命を呪う伊丹。だがそれは柳田も同様だったようで同じように遠い目をしていた。

 

「いままでは税金でのんびりしてたんだ。ちょっとは真面目に働く事だな」

 

「しくじったら世界大戦なんて何てラノベですかね……」

 

 思わず伊丹はこれまで読んだライトノベルの内容と自身の状況がソックリな事に大きなため息を吐いてしまうのだった。

 

※※

 

「ハァ……本当にどうしようかね」

 

 思考の海から浮上した伊丹は頭を欠く。自身がこんな風に重要な立場になるとは夢にも思っておらず、何故このようになってしまったのかと特地勤務になった事を後悔しながらも、目の前に存在するSFの塊である潜水艦に心を躍らせる。

 

「401から概念伝達を確認。艦長が目覚めたぞ400」

 

「402こちらも401からの報告を受信した。これはテュカへと報告した方がいいだろうか?」

 

「肯定する。彼女は艦長の身を最後まで心配していた。精神的に不安定な彼女を安心させるには必要不可欠と考える」

 

「了解、私はテュカを探してくる。402は伊丹を頼んだ」

 

「了解した」

 

 そして潜水艦の甲板にて鏡の如く瓜二つの少女二人の様子を遠目で見てしまった伊丹はこちらへ向かって来る402の言葉へ耳を傾けるのだった。

 

 



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【13】

伊丹の口調が分からなくなるから難しいZE!


「危ない、ムシャムシャ、ところを、ムシャムシャ、助けて頂き、ムシャムシャ、礼を言います伊丹さん、ンッゴクン。なぁイオナ、このリンゴ前に食った時より美味くない?」

 

「栄養豊富な土地にて育った果実。軍の横領品であった前の物は新鮮さが足りなかった為にそう感じているだろう」

 

「中国軍は隙が凄かったからなぁ……」

 

「あ、あはは……」

 

 イ402に呼び出された伊丹は彼女らが信頼を置いているという人物が目覚めたという事で彼の元へと赴く……が、当の彼は自身を連れて来た彼女と同じような容姿のイオナと呼ばれる少女から何とも羨ましい事にあーんっとリンゴを食べさせられていたのだった。

 

「艦長。伊丹が戸惑っている。目覚めたばかりでお腹が空いているのは理解できるが、食べるのを一時止めて欲しい」

 

「おぉ確かにそうだな402、スマンスマン。どうしてもお腹が空いてね……ごめんなさい、伊丹さん。せっかく来ていただいたのに」

 

「け、怪我した時はお腹すきますもんね。仕方ないですよ」

 

アハハと虹像は笑いながらイオナが持つリンゴを遠ざけようとするが――――パクっとその開いた口に割と無理矢理突っ込まれた。そして突っ込まれた本人は何かを察し、遠い目になる。そしてその瞳は確実こう語っている、また始まったかっと。

 

「402、現在虹像には傷を癒すため栄養が必要。よって食事する事が最優先だと考える」

 

「401。その意見は理解出来る、が現在は艦長の命の恩人である伊丹殿が訪れている。なので優先順位的に考えるにこちらが先だ」

 

「抗議する402。それは通常時での優先事項を参考に従っているに過ぎない。現状の虹像の身体を考えるなら回復を優先する事が先決だ」

 

「しかしだ401、伊丹は現状コダ村の難民達の世話も任されている。そんな忙しい中わざわざ来てくれたのだ、短時間に事を済ませる事が優先だと考える」

 

それから始まるのはイオナと402との舌戦。その様子を虹像はもぐもぐとリンゴを食べながら見つめ、伊丹は先ほど402が話した内容に驚きを隠せなかった。

 

「え"先日決まった事なのに何で知ってるんですか???」

 

「そう言うもんだ伊丹さん。基本的に彼女らに対して隠し事は出来ないぜ、俺も何度お宝グッズを捨てられたか……」

 

「401、何故分からない。現状では伊丹と会話する事が先決だ!」

「402、それは虹像の体調を考慮していない結論だ! 彼にとって体調の回復に取り組む事が最優先事項なのだ!」

 

ヒートアップしていく舌戦。それを横目で聞いていた虹像はモグモグと口に含んだ物を食べ終わると体を起こし、ヒートアップし過ぎて当の本人達を忘れて続ける二人の間に割り込んだ。

 

「艦長、退いてくれ。今からこのバカな姉を再度沈めないといけないのだ。退いてほしい……」

 

「虹像、この愚妹を再教育しなければならない。できれば退いてほしい……」

 

「止めんか二人共」

 

「「ッ!?」」

 

コチンっと振り上げた両手を彼女達の頭へ降ろし、拳骨を披露。その軽い音は裏腹に振り下ろされた二人はその場で蹲ってしまう。

 

「他所でやるな、恥ずかしい」

 

伊丹はこの時思った。何だかベットで寝ているこの男が母親のように見える……っと。

 

※※※

 

いきなりイオナ達が喧嘩し始めて正直ビビったぜこの野郎。拳骨を食らわせた後、ホイホイホイっと二人を病室を追い出すと俺とテュカを助けてくれたと言う兵士、伊丹耀司と顔を合わせた。

 

「さてさて伊丹さん今回はホントに助かりました。波動砲の如く極太ビームに晒されたことやプロトン魚雷のような魚雷を何発か食らって命の危機に陥る事はあってもドラゴンに背中を焼かれ、そのまま放置なんてことはこれまで無かったことですからね」

 

「こちらもあの次元潜航艇の如き異次元からの一撃が無ければ私達もあの炎龍の攻撃で全滅していた所でしたのでお互い様です」

 

手を差し出され、俺はそれに応じる。良かった、異世界の日本でも握手って文化は根津いてるんだな。なんて考えながら握手してたらふと、俺は気付いた。アレ、今伊丹さん次元潜航艇って……まさか。

 

「伊丹さん伊丹さん」

 

「何でしょうか、えっと……」

 

「千早虹像」

 

「では千早さん」

 

「伊丹さんって……波動砲って知ってるぅ?」

 

「!?」

 

伊丹さんも気付いたらしい。確かに伊丹さん達と俺のいた世界は違う。けれど、サブカルチャーの文明は共通してる場所があるかもしれないと言う事を……

それからというモノを伊丹さんとの会話はトントンどころか滅茶苦茶進んだ。なんと伊丹さんは俺と同じくオタクだったらしい。ヒャッフゥー 前の世界だと杏平ぐらいしか俺の話についてこれなかったから最高だ、ぜッ!

 

「やはりメイコ。メイコは至高にして頂点。っく、原作者が徴兵で命を落としていなければ打ち切りって言う形ではなく、あの子達が紡ぐ物語の続きが見れたというものを……」

 

「こっちでは既に3期に突入してますよ」

 

「マジで!」

 

マジか。そっちの日本では続くどころか大ヒットして3期に突入してるのか……みてぇーよぉー!!!

そんな感じで話が弾み、あっちの世界で流行ってるアニメやらこっちの世界じゃ資源不足によって廃れてしまった貴重な文化である同人誌即売会などなどの情報などマジで俺にとって有意義な会話だ。

 

「そっちの世界は俺にとって天国かよ、いいなぁ。俺達オタクにとって既に伝説と化した失われた聖地である秋葉原……いきてぇーなぁー」

 

「逆にそっちの世界はまるでラノベで書かれるような近未来の世界だぁ……それに霧の艦艇って、丸々チートじゃないっすか!」

 

「うんうん、分かる。分かるぞー伊丹。俺もイオナに乗っていく度か戦闘を重ねてるけど、その度に霧の艦艇は毎度の如くリアルチートだと思う」

 

ビーム兵器やシールド、侵食魚雷なんかを標準搭載されてる意思を持つ船とか今考えてもやべぇーよなぁ。

いつの間にか堅苦しい態度や言葉は外れ、二人して笑い、そして驚きながら話合っているが楽しい時間というものは割と早く過ぎ去るモノ。いつの間にかアニメの話が変りに変わって自分でも正直SFの創作話にしか思えないイオナ達のチートっぷりやこれまで行って来た戦闘詳細などを語り始めたぐらいにボーンボーンと時を告げる鐘の音がした。

 

「あ、やっべ。時間を忘れて話過ぎた」

 

「そういえば伊丹は時間が無いとか言ってな」

 

「そーなんですよぉー。コダ村から連れて来た難民達のアレやコレを用意しなきゃいけなくて……ハァ。コレだからお役所仕事はメンドクサイ」

 

「俺はそこん所は全部イオナと群像、そしてに任せてたからな……分からないぜ」

 

「艦長ですよね?」

 

「艦長だが?」

 

オイオイ。俺が肩書だけの人間だと思ってるんじゃないよな? 思ってるんじゃないよな??? なんて考えも浮かんだが伊丹はイソイソと焦りながら病室を去る。

 

久しぶりの1人の時間。ベッドでゴロゴロしようかと思った丁度その時、コンコンと扉からのノック音が聞こえた。ハーイじょぉじーっとばかりに答えるとギコーっと軋む音と共に扉が開け放たれ、そこには見覚えのある人物がいたのだった。そしてその人を目撃した俺は一言。

 

「よっすテュカ、生きてて良かったぜ!」

 

「グーゾ―!!」

 

こうして俺はテュカと再会できたのだった――――

 

「私を忘れないで欲しい」

 

―――あ、あと400。ごめんって、だからそんなに拗ねるなよ。今度402と一緒に作ったプリンあげるからさぁ。



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静粛は猛烈の後で【イタリカ攻防戦】
【14】


 自衛隊と呼ばれる別世界の日本軍に保護され数日。俺達の生活はエルフ達と一緒に生活していた頃と同様、前の世界では考えられない一変した生活を送っていた。俺達が住んでるのは仮設で設置された難民キャンプの隣、そこに船を鎮座させて俺は前の世界と差ほど変わらない生活を送っていた。まぁ唯一変わったと言えばこの場所が陸地だからか日が一日艦内に缶詰になる事も無いって点とご近所付き合いが発生するって点かな。

 

「でもなぁーぜかあのゴスロリ神官様には俺ってば嫌われてるんだよなぁ……」

 

「グーゾ―、今日も日本語教えて」

 

「いいぞぉレレイ。今日は日常会話でもしてみるか」

 

 そして今の仕事は現地民である難民達と自衛隊とを繋ぐ翻訳事ぐらいだな。

 あのドラゴン────炎龍と言ったかな。アイツの攻撃を食らって目覚めてからと言うモノ、何故かイオナ特製の翻訳機無しで現地語が達者になった俺は現地民に日本語を教えたり、自衛隊と現地民とを繋ぐ翻訳の仕事をしたりと色々忙しかったりする。

 

「レレイさんはリンゴを食べますか?」

 

「リンゴ、食べる。甘い、美味しい」

 

「……初期イオナかな?」

 

「抗議する虹像。私もここまでは酷く無かった」

 

 他のメンバー、つまりメンタルモデルである彼女らはと言うとイオナは俺のボディーガード兼補佐役として何時も一緒にいる。まぁ、前の世界と変わらないな。実際達者になったと言ってもまだまだ不完全な俺。だからこそ、いつの間にか様々な言語データを取得して現地語の完璧となった彼女がそれを補正してくれるので大変有難かったりするもんだ。

 

「レレイ。リンゴ()食べる、な」

 

「リンゴを食べる」

 

「そうそう。あと"甘い、美味しい"ではなく正しくは"甘くて美味しい"だぞ」

 

「なるほど……日本語は難しい」

 

 んで残る400と402だが、アイツらは俺じゃ出来ない事、具体的に言うと主に俺が自衛隊へと要求したモノの対価のお話しを狭間さん達としているらしい。細かい内容は聞いてもチンプンカンプン過ぎて良く分からなかったが、イオナによるとあちらさんの化学技術に合わせた報酬を出してるとの事。多分ナノマテリアルで何か良いもの作ってるんだろうなぁ……初期型のスーパーキャビテーション魚雷とか。その他は400が自衛隊の確か空挺部隊とか言ったかな。そのエリート部隊で格闘術を習ってたり、402が料理を習ってたりと色々と個々の好奇心を満たして生活してるらしい。最初はSFに出て来るような命令以外は興味の無い二人だったけど……成長したなぁ。ま、そんな訳で俺達はそんな日々を毎日過ごしてる頃、ちょっとしたイベントが起こる。

 

 アレはベッドから解放され、イオナにより霧流手術を受けて火傷を完治。難民達とも仲良くなり、前の世界の価値観で見たらかなり贅沢であるお蕎麦をイオナや最近俺が集中的に日本語を教えているレレイという少女と共に食べてる時だった。歴史の授業でしか見た事のかったモノを実際に食べれるとあってテンションが上がりその美味さに舌を打っていた所、向い側に座っていたレレイが急にこんな事を言い出した。

 

「なぬ。飛竜の鱗を売りに行くに同行してほしい、だと」

 

「そう」

 

 今、俺達がいるこの場所。自衛隊の駐屯地のあるアルヌスの丘にて自衛隊が侵攻した直後に起こった連合諸王国軍と自衛隊との戦闘、後にアルヌス戦争と呼ばれる戦闘は総勢6万人もの命が散った戦いだった。当然死者の数には入っていないのだが、その中には飛竜などの怪物も存在し今、時間の経過した現在においてそれらは全て難民達の資金源となっていた。レレイの師匠であるカトウ先生によると飛竜の爪や角、鱗などは大変高価で売れるらしく、自立を求められていた難民達にとって自衛隊が価値を見出せず放置しているそれらは渡りに船。こっちでの活動資金が俺も欲しかったので回収や選別には手を貸したが、まさか売却まで俺が同行しなければいけないだなんて思っても見なかったなぁ……

 

「グーゾ―は日本語もこっちの言葉も達者。そして交渉術もある程度出来るとイオナに聞いてる。だからついてきて欲しい」

 

「なるほどなぁ」

 

彼女に詳しく事情を聞いた所どうやら俺には商人と値段の交渉をするネゴシエーターとしての役割をしてほしいとの事。レレイ自身も出来ない事も無いらしいのだが、難民達のこれからの事を考えて出来るだけ高く売りつけたいからだとか何とか。確かに年寄りや子供が多いとはいえあの人達がこれから自衛隊の保護から離れて生きて行くには金が必要だな。

 

「イオナ、危険性」

 

俺が横に座り、そばを口にするイオナへ質問すると開いてる手でマルと意思表示。なるほど、あれがゼロなのか大丈夫って事なのかイマイチ判断付かないがとにかく俺は行って良い事だな。

 

「分かったレレイ。俺も同行しよう」

 

「感謝する」

 

こうして俺とイオナはレレイ達に同行する事が決定したのだった。そして移動中の高機動車の車内。

 

「……っで、何故俺がナビなの?」

 

「ここがテッサリア街道そこがロマリア山、そしてこの場所が目的地のイタリカの街」

 

「ハイハイハイっと」

 

伊丹率いる第3偵察隊に送迎される形で俺達はイタリカの街へ向かっていた。

メンバーはネゴシエーターとして呼ばれた俺に加えそのボディーガードとしてイオナ。そして売却人であるレレイにテュカ、そして何故かゴスロリ神官ことロゥリィ・マーキュリーの三人。そして先ほども言った第3偵察隊の面々だったりする。ってかさ、何でネゴシエーターである俺がマジで何でナビなんだ? ってか、紙の地図なんて初めて触るな。

 

「そりゃ千早が一番レレイ達と話せるからな」

 

「いや、アンタも十分話せるでしょ」

 

助手席に座る伊丹にそう言われ思わず反論したが、返された言葉に何となく納得してしまう。確かに俺がレレイ達に聞き取りして地図に書き込んで行くのが一番効率が良いだろうけど面倒なんだけど……

 

そんな風に考えながら書き込んでいくとふと運転席に座る倉田と話す伊丹が見えた。何話してんだろう?

 

 

「隊長隊長。何であの人とそこまで親し気なんです?」

 

「そりゃお前、あの人は同士だからな」

 

 

グット、サムズアップされたので何となく同じくサムズアップ、理由は知らん。けど何となくやった方が良いと思ったからやった。

 

「グーゾ―グーゾ―」

 

「何だ?」

 

肩をトントンと叩かれそちらへ目を向けるとテュカの姿が。白いTシャツにジーパンのみと言うシンプルなファッションはシンプル故に彼女のスタイルの良さを引き立たせ、正直キレイと思ってしまうほどだぜ。ま、ホドリューのダンナに再会した時に殺されたくはないので事を起こそうとも思えないけどね。

 

「どうしたいきなり、何か問題でもあったのか?」

 

そう言うと何とも微妙な表情へ変わる。ど、どうしたんだ?

 

「問題って言ってしまえば確かに問題ね……」

 

 

 

 

「貴方って本当に面白いわ」

 

「何が面白い?」

 

「生命の鼓動を全く感じないのに何故か暖かな心は感じる事が出来る……本当に不思議で面白い存在だわぁ」

 

「あ、あのぉロゥリィさん? そろそろ解放してあげた方が……」

 

「もう少し良いじゃない、もう少しだけもう少しだけ‥‥…」

 

テュカの指を指す方向へ目を向けるとそこにはまるで子供を撫でるかの如くイオナへ撫でまわすロゥリィ、そしてそれをオロオロとしながら止めに入る黒川さんの姿が……なんかデジャブを感じる。具体的に言えばなんかこう、硫黄島で同じよう光景を目にした気がするぜ、主にヒュウガ関係で。

 

「で、デジャブ……」

 

だな、イオナ。だからそんな助けを求めるようにこちらを見ないで欲しい。ただでさえそのゴスロリ神官には俺ってば嫌われてるんだから助けられねぇーよ。そんな感じで紙の地図にレレイの話を元に書き込みをしながら偶にテュカと楽しいお話しをしていると運転席の倉田が何かに気付いた。

 

「伊丹隊長、右前方で煙が上がってます」

 

その声に釣られ彼が指を指す方向へ目を向けるとそこには確かに煙が上がっている……アレ、なんか見覚えのある煙だな。時を同じに伊丹から渡された無線から同じ内容の報告が先導車から入って来る。

 

「全車停車」

 

伊丹の指示によりその場で停止する車列。あの煙がどんな意味を持ち、これから俺達にどんな出来事が待っているいのか――――誰にも分からない。けど、俺の勘はハッキリとこう告げていた、これから待ち受けるのはかなりの面倒事なんだと。

 

 

 



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【15】

この話地味に難しかった……


「光り輝く空飛ぶ青い箱舟に鉄の逸物……?」

 

伊丹達と共に資金を手に入れる為、イタリカへと向かっていた虹像達行動した時よりいくつか日を遡り、炎龍撃破後の時まで戻る。

イタリカの近く町の多くの人が賑わう酒場にて住民達とは不相応な騎士達がその一角を占領していた。彼らの目的は聖地アルヌスを占領する異世界人たちの隠密調査。その為村々を周り、率いられる騎士達は本心では来たくも無い汚らしい酒屋へ足を運んでいた。そしてその集団の中心たる赤毛の女性、帝国の第三皇女たるピニャ・コ・ラーダは先ほど聞かされたコダ村から逃げて来たと話す女給の言葉に疑問を浮かべていた。

 

一瞬の沈黙を得て、騎士達は話を続ける。

 

「そ、それにしても立派な者達です! 緑の服の傭兵団……異郷者とは言え炎龍を追い払ったその実力と心映えならば是非にでも味方に迎えたいと思いますよ。いかがでしょう姫様?」

 

ピニャの従者であるハミルトンは女給の話を聞き、そうピニャコラータに問うと彼女は手を付けようとしていた肉を置き、酒へと手を伸ばす。

 

「余はその者達が使っていたという炎龍を追い払った武器に興味がある」

 

隠密調査に出る直前聞いたある議員曰く、アルヌスを占領している者達は見た事も無い不思議な魔法の武器を使うと言う。パッパパっと言う音を聞いたが最後、遠くにいる歩兵が血を流して死んでいた……なんて非現実な話と彼女が話す内容とで符合するモノを感じたからだ。

 

「それに誇張表現だとしても光り輝く空飛ぶ青い箱舟とは……何かあるな」

 

御伽噺と片付けるには具体的過ぎる内容。話を聞くに炎龍へ突っ込んだと言う突如現れたその光る箱舟は鉄の逸物が炎龍へと当たるのを援護していたと考えられる。非現実的な武器を使う者達の事だ、そのような物が実際にあっても不思議じゃない。彼女らの論議はその後も続き時は戻り、そして現在。彼女らは立ち寄ったイタリカの街にて剣を取り、民の為、血を流していた。

 

 

「ノーマ! ハミルトン! 怪我は無いか!!!」

 

 

異世界出兵に続き連合諸国のアルヌスへの出兵。元々内輪揉めにより少なかった兵達が殆ど出兵した為に常駐兵がほとんど居なくなった都市にて今ここにイタリカへの襲撃が行われていたのだった。敵は元は数十人程度だった賊。しかし戦いに敗北し、敗残兵と化した兵達が合流した事により総勢数百人規模となった死や財宝を求める賊達は軽々と街を占領し略奪行為を出来ると考えていたが話はそう上手く行くハズも無く、襲撃時に丁度ピニャ率いる騎士達が街へと訪れていた為に戦える住人を指揮しコレを撃退。多数の犠牲を出しながらも街を一時的にとは言え守り切ったのだった。

 

「はぁはぁ、なんとか、生きてまーす!!!」

 

座り込み、声を上げるハルミトンの近くには剣を地面へと突き立て、杖のように体を支えながら立つは騎士ノーマ。彼はピニャの言葉に答えるように腕を上げるがその様子には気力が無い。それもそのはず、彼らの周りには賊や守護兵の遺体が複数ある。その事を考えるに壮絶な戦いがあった事は想像に難く、その証拠に彼らの体にはいくつもの生々しい傷や鎧にはいくつもの矢が刺さっていた。 今にも倒れそうな二人だが、一応の無事に安堵の息を吐くピニャだったがもう一人の騎士、グレイ・コ・アルドことグレイの姿を見て何だか呆れの感情を抱く。

 

「姫様、小官の名が無いのはいささか薄情と言うモノですぞ」

「グレイ、貴様は無事に決まってるだろう、だからあえて問わなかったに決まってる」

「それは小官の実力が正しく理解されてると喜んでいいのでしょうか?それとも問う必要もないと判断されて悲しんでいいのでしょうかな?」

「その両方だ」

「なら笑いましょう、ハッハハハ」

 

豪快に笑うグレイ。しかしその姿に返り血は見られず、彼の直剣の刀身に血液さえ付着して無ければどこかに身を潜め、隠れていたと疑ってしまうほど体力気力共に溢れ大丈夫とういう様子だった。流石は一般兵からの叩き上げで騎士補まで登り積めた歴戦の戦人だとピニャは思ったが、彼が強い事は周知の事実なので特にそのような事を言葉にする事もせず、そのままハルミトンを起こすと共にイタリカ中心部の屋敷へと足を運んだ。その途中ハルミトンはこういい出す。

 

 

「何故自分達はこのような場所で盗賊を相手に戦っているのか」

 

っと。その言葉に戦いでの疲労で肉体的にも精神的にも限界を迎えつつあったピニャは思わず柄にも無くハルミトンへ声を上げてしまった。

 

「仕方ないだろ! フォルマル伯爵領に大規模な武装集団が侵入したと言うから、てっきり異世界の軍隊かと……ッぐ!」

 

本来は今頃アルヌスの丘へ到着していたはずっとピニャは頭の隅で考えてしまう。しかし異世界の軍隊が等々侵攻を始めたという可能性も捨てきれなかった故の結果である為、連合小王国軍の敗残兵混じった盗賊を相手にする事は仕方ない事だと割り切って考え……られると良いなぁ。

自身の指揮が甘かったや元々の守護兵の数が少なかった事も起因して今回の戦いは本当にギリギリの戦いになってしまった。農具などを手に取り、一緒に戦ってくれた住民達が居なければ既にこの場所は陥落していたと想像に難くない。犠牲者を多数だした事により、元々少なかった兵達も今では両手で数えられる程度しか生き残っては無い。

 

「三日だ。本隊に使いを出した、三日で援軍が到着する」

 

こう言葉にするが実際に援軍がイタリカへと到着する時間など彼女には分からない。実際はもう少しかかってしまうだろう。相手は敗残兵とは言え元は正規兵。訓練も碌に受けたことの無い住民達が束になっても次の攻勢、耐えきれる保証など何処にもない。

 

「援軍が来たら勝てる。だから皆、頑張ってくれ!」

 

勇敢な者も多数死んでいった結果、士気も一日で下がるところまで下がってしまっている。

だが、彼女にはどうやっても士気を上げる方法が思い付かない。それもそのはず、だってこの戦いこそ彼女率いる薔薇騎士団もといピニャ自身の初陣なのだから。

 

 

 

 

 

 

ピニャが屋敷へ戻り、客間にて体を休め、眠っていると突如として全身を冷たい水の感触が襲った。

 

「何事か!」

 

思わず跳ね起きその事について咎めようと考えるが直ぐに今が緊急事態なんだと思い出す。メイドから手渡された布にて顔を拭い、濡れた服や鎧を身に着けると駆け付けて来たグレイに事情を聞いた。だが、彼の表情は珍しく煮え切れない表情を浮かべていた。

 

「果たして敵なのか味方なのか……小官には計りかねます。とにかくおいで下され」

 

 

報告のあった都市の城門に駆け付けてみると兵士や武器を手に取った住人達がチラチラと強固に閉ざされた城門を見ている。そしてその中でハルミトンだけが除き窓にて外の様子を見ていた。

 

「姫様、こちらを」

 

困惑したような様子のハルミトンに促され、先ほど彼女が見ていた覗き窓より外を見ていると目を疑うようなおかしな物がそこには存在していた。

 

「なんだアレは」

「木甲車、ですかね?」

「いや、違うな。アレは鉄だ」

 

ハルミトンが言ったような攻城兵器のような外見をした緑色の何かが三つ。だけどもそのどれもがピニャの記憶にある木甲車とは似ても似つかぬ形であり何よりアレは別の何か、恐らく鉄で出来ていると分かる。

 

「ノーマ!」

「敵影、他にありません」

 

訪ねたい事が分かったようで直ぐに答えを返す。

 

「何者か! 敵でないのならば姿を現せ!!」

 

城塞の見張り台にて立って居るノーマの誰何の声が頭上で響いた。どんな反応が返って来るかとピニャも兵士も住民達も息を呑んで待つ事しばし。ふと、木甲車に似た何かの後ろの扉が開いた。

 

「あの杖、リンドン派の正魔術か」

 

そこから出るは十三から十五ほどの少女。身に纏っているローブや杖を見るに魔術師だと言うのは一目で分かる。そしてその杖に使われているのはオークでくすんだ長杖を見るにリンドン派と呼ばれる派閥の正魔術師であることは明白だった。ならば歳がいくら若かろうと攻撃魔法や本格的な魔法戦闘も熟すはず。その事からもし戦闘になった場合、かなり厳しい戦いを強いられる事となる。その可能性にぶち当たり、ピニャは彼女らしくもない舌打ちしてしまう。

 

「な、エルフまで……」

 

次に出て来るのは見たことも無い衣装を身に纏う十六前後の娘。だがその耳や金髪碧眼を見て一目でエルフ族の人間だと分かった。

まずい……エルフは例外無く優秀で、非常に強力な精霊魔法の使い手だと聞く。特に風の精霊を駆使した雷魔法に関しては強力なモノだと一撃で一軍を壊滅出来るほど強力だと知られている。リンドウ派の魔術師と精霊魔法使いのエルフ。その両者が揃っている今、例え騎士団を率いているとしてもまず戦場では出会いたく無い組み合わせだ。油断している今だったらまだ相手取る事が出来ると攻略法をピニャは考えるが、次に出て来た人物を一目見てそのような考えを捨て去る事となる。

 

「ッ!?」

 

フリルを重ね、刺繍に彩られた漆黒の神官服を身に纏ういたいけな少女。

 

「あ、あれは……ロゥリィ、マーキュリー」

 

死と断罪と狂気。そして戦いの神エムロイに仕える使徒。本来早々出会えるはずの無い人物の姿がそこにはあった。

 

「ほお、あれが噂の死神ロゥリィですか?」

「見た目に騙されるな。あれで齢九百歳を超える化け物だぞ」

 

自身の父が収める皇帝の姿形すら無い昔から延々と生き続けている不老不死の亜神、それが使徒である。眼前に佇むロゥリィでさえ十二使徒と呼ばれる同類の中では二番目に若い事を考えるにその化け物さが分かるだろう。

 

魔術師、エルフ、そして使徒。もしこの三人の組み合わせが本当に敵なのならピニャ自身、すべてを捨て去り逃げ出す方法を考えようとも思ってしまった。

 

「む、まだ出てきますな」

 

グレイの言葉に離していた目線を戻すともう一人、少女が出て来る。見た目は魔術師と同じ十三から十四ほど。身に着けて居る青を基調とした衣服こそエルフと同じで見た事の無いモノだったが他の三人と違い、特徴的な部分がまるで無かった。その事に疑問を浮かべそうにもなるが一緒に見ていたグレイは別の反応を見せる。

 

「なッ!?」

「どうしたグレイ!」

 

目を見開き、その少女をまるで信じられないモノを見たかのように見つめる。だが彼は動揺した様子から落ち着きを取り戻すとゆっくりと目を離し、両目で目を抑え、覗き窓から目を離した。

 

「い、いえ。きっと気のせいです……なんでもありません」

 

何でもないと話す彼だが、その様子は先ほどと違い明らかに異常。それれがあの少女に起因してるのは明らかだった。だからこそ長く付き合って来て滅多に見られないそのグレイの表情を見て何かを感じた彼女は行動に移す。

 

「話せ、グレイ」

 

ピニャが問い質すと何度か目を左右に揺らし迷った後、グレイは観念したかのようにゆっくり語り出す――――

 

「私が若い頃、それこそ帝国兵として志願する前の話です」

 

――――自身が体験した過去の出来事を……

 

「ある時私は父の気まぐれで碧海にあるある港町へ向かいました」

「碧海と言うと帝都の近くの海である」

「はい、そこです。そこで泊りがけで遊ぶ事となった私達ですが……その時の私は若かった。その場所散々遊んだ日の夜の事です。昼間遊び足りなかった私は1人、両親の目を搔い潜り宿屋を抜け出して砂浜へと向かいました。月明りに照らされ、幻想的な砂浜は当時の私にとってどんな光景よりも美しいモノでした。そんな中で遊び、やがては疲れて丁度休んでいた頃、砂浜で寝ていた時にふと沖合にて目にした人物と言いうのが――――」

「……彼女と言う訳か」

「はい。雰囲気が見るからに常人じゃないと一目で分かるほどに神々しく、そして可憐でありました。様々な経験を積んだ今だからこそ分かりますが彼女は恐らく亜神……ですね、間違いありません」

「亜神……」

 

死神ロゥリィと同じ亜神。しかしピニャの記憶にある十二使徒の記録の中にはあのような少女の姿は無い。それに加え死神ロゥリィから感じ取れるような圧倒的なオーラもあの青色の少女からは感じ取る事が出来ず、化け物とは言い難い。

 

「して、彼女の名前は」

「終始彼女は名乗る事は無く、海へと姿を消しましたので分かりません。しかし出会ったのはそれっきりでした。しかし小官はそれでも彼女の所在が気になり、帝都にある全ての書庫にて何かしらの文献が無いモノかと探し回りました。しかし手掛かりは一つたりとも見つからず、結論としてその時の出来事は今の今まで夢か何かだと考えおりました。しかし―――」

「今回その人物を目にして驚いた……っと」

「そう言う事です、姫様」

「つまり相手は魔術師に加えエルフ、そして亜神が二人と言う訳か……」

「と、言う事にもなりますね。今からでも白旗でもあげますか?」

「それも良い考えだと思うがまだ敵だと決まった訳じゃない。ここは――――」

 

ピニャは思わずそこで言葉を止めてしまう。何故なら何一つ思いつかなかったからだ。確かにこの四人は賊かもしれない。けれどだとしたら何故1日目の攻防戦にて姿を現さなかったのか、何故今姿を見せたのか、と彼女の中で様々な考えが巡り渡って結論が出ない。そんな状態のまま、とうとう城門の通用口の戸が外から叩かれた。その瞬間、息が止まる。時間が無いまま彼女は等々この問いの答えを出す。勢いだ。勢いで有無を言わさずに巻き込んでしまえば何となる……かもっと。

 

「よく来てくれた!」

 

そして彼女は通用口の戸を力ずよく勢いをつけて開け放ち、グパーンっと効果音が響くかの如く開け放たれ。

 

「ハンブランビッ!?」

「ギャプランッ!?」

 

途中妙な感触と鈍い音、そして小さな悲鳴が響き渡った。その音を聞きふと我に返り、こちらへ向かって来ていた四人を見ると彼女達は通用口を開けた自身ではなく揃って下を向いていた。それに釣られ、ピニャ自身も下へと目線を映すとそこには男が二人倒れていた。片方は白目を向き、もう片方は赤く出血しているであろう鼻を抑えている。

 

やがて彼女達の冷ややかな目線がゆっくりとピニャへと注がれる。

 

「……もしかして妾が、妾がやったのか?」

 

「「「「うんうん」」」」

 

魔術師にエルフ、亜神と亜神と思わしき人物はその問いに揃って頷く。

 

「は、鼻ガァァアアアアァアアアアアア!!!!」

 

そしてその場にて最後に響き渡るは気絶した男とは別の黒い服を身に着けた男の悲鳴だけであった。



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【16】

評価がもうすぐ7を切りそうで笑えねぇ‥…赤ゲージ行きたかったなぁ。


「痛い、痛いよぉ」

 

 気絶した伊丹の体は現在こんな事を仕出かした本人に手伝ってもらい城内へ運び出すと窮屈なヘルメットなどを脱がせ、ロゥリィに膝枕されている状況だ。そして俺は涙を流し、現在進行形で流れ出ている鼻血を鼻にハンカチを突っ込む事でとりあえずは止めた後、はわわと煩い赤毛の人を他所に俺は倒れた伊丹への簡単な診察を始める。まずは閉じられた目を開き瞳振の有無の確認。その後は俺と同じ様な出血や首の骨が折れてない事、頭部全体に何かしらの外傷の有無を確認をした。けれどどれも異常は無く、唯一あったのは額にあるたん瘤ぐらいなので異常は無いだろう。ッホ、良かった。伊丹さんったら単純に気絶してるだけだわ‥‥‥‥ってか鼻痛てぇ。

 

「イオナぁ、俺の鼻どうなってる?」

「曲がってる。こう、右にぐっと」

「ッゲ、マジ?」

 

 何だかテュカが倒れた伊丹へと水をぶっかけながら赤毛の人に非難してるみたいだけど知らん。だからこっちへ助けてぇーって感じで見られても庇いだて出来ないからな。

 

「治療する」

「自分で出来るから遠慮する……遠慮するからその徐々に徐々にと近付いてくるの止めない?」

「大丈夫虹像。私には過去、貴方を治療した経験もある。安心して任せて欲しい」

 

 そろりそろりと近づいて来るイオナ。多分意地でも俺の曲がった鼻を修正したいんだろうけど絶対イオナに任せると酷い目に遭うって予感がする俺はその無防備なオデコへ人差し指を添える。子供っぽい動きをしてるイオナはその人差し指で突っかかり、その場で停止した。ムムムっと頑張ってこちらへ歩こうとするけど……フハハハ、我の鋼鉄の指は例えイオナであろうと突破出来ないのだぁ!!! 

 

「邪魔」

「指ぃッ!?」

 

 俺の人差し指をグワンっと曲げて退けたイオナは俺の曲がった鼻を掴む。きめ細かな若い女の子特有の柔らかな肌の感触が俺の鼻を包んだ結果、俺の心はドキドキと鼓動を強めていた。あ、コレは恥ずかしいとかそっち系では無く、単純に恐怖でドキドキしてるんだゾ。それにイオナに対しては絶対にそんな風には見られ──―

 

「そい」

「──―痛ったぁぁぁぁぁ!!!」

「あ、曲げ過ぎた」

 

 ポキっと鈍い音が俺の鼻から響くと同時に激痛が走ったので俺は思わず声を上げる。何度か鉛弾を食らった事があるからある程度痛みには馴れてるけど顔に関しては別だよ別、俺の痛みに対する許容限度はオーバーだって。ってかイオナ、今曲げ過ぎたって……オイオイオイ止めろ。修正する為に逆方向へ曲げるは止めろ、止め──―

 

「修正」

「うご!?  うぅ、だから痛いってぇ」

 

 修正が終わったのか手を離したので俺は思わず両手で鼻を抑える。くっそイオナめ、荒治療にも程があるだろ。お返しにと空いた片手で彼女の髪をぐちゃぐちゃにしてやるけど"オォー、スウィート"っとか言って喜んでやがる。ご褒美でも何でもないんだけどなぁ……

 痛たたたたぁっとこれからどうやってイオナにやり返してやろうかと考え出した時、クイクイと誰から服を引っ張られる感覚が。

 

「グーゾ―グーゾ―」

「何だレレイ。今の俺はどうやってあの純粋無垢の相棒を懲らしめてやろうかと考え────」

 

「伊丹が起きた」

 

 レレイに促されたので倒れている伊丹の方へ目を向けると彼女の言う通り丁度目が覚めていたようで上半身を起こしている。見た感じ何処もおかしい様子は無く、キョロキョロと周りの様子を把握しようとしてるのが分かる。その後、無線へ話しかけているようだった。

 

「で、誰が状況を説明してくれるのかな?」

 

 無線が終わったであろう直後そう問う伊丹。周りを見渡し、俺へも視線が来たので俺は自然と皆が目線を向ける人物へと目を向ける。俺達をこんな目に遭わせてくれた赤毛の女性へと。皆の視線に晒される赤毛の女性はなんとも情けない表情へと変わっていきこう、ほのぼのとした雰囲気がこの場所を支配したのだった。

 

 

 

 

 

 

「さてさて、コレからどうなるかね……」

 

 俺が鼻に大怪我を負い、伊丹が気絶より目覚めた時から時間が過ぎて夕焼け見える時間帯。俺達はあの赤毛の女性、帝国第三皇女ピニャ・コ・ラーダの要請によりこのイタリカの街での防衛戦をする事となった。細かい内容は伊丹と一緒に同行させたイオナに任せてたから俺自身知らないのだがこの眼前に広がる悲惨な惨状はどうやら一か月ほど前から繰り広げられているらしく大義名分の元、伊丹率いる第三偵察隊が次の防衛戦へ参戦する事が決定したとか何とか。別世界の日本人は偉くお人好しな人が多いんだねぇ。俺がいた世界なら利点を見いだせず問答無用で皇女殿下の要請を断りそうなものを……ま、前に402に見せてもらったこちらの日本が辿った歴史を見るに自衛隊に所属している兵隊達は戦いを知らない、平和な世の中で育った人間ばかりなので仕方ない部分もあるか。

 

「イオナぁ、AP999式持って来たよな?」

「ない。艦長が村で持ってたのが最後」

「オォージーザス! 神は死んだぁッ!」

「虹像、神ならそこに居るぞ」

 

 そう言ってイオナが指さすは伊丹と話すロゥリィ。いや、確かにあの人も神みたいなもんだけど何方かと言うと死神だろ? 死んだ方じゃなくて死を呼ぶ方じゃん。他人の命を問答無用で奪うほうじゃん、怖すぎだろ。仕方なしにサブとしてイオナに預けてた別の銃を手に取る。

 

「もっと良い武器を用意したらよかったなぁ」

「あっちの世界では一応最新式の武器。……確かにヒュウガと一緒に作った物と比べたら劣るが」

 

 黒い拳銃を受け取ると手早くマガジンを出し、弾倉内に弾丸が入っているかを確認。その後シリンダーの中に異物が無いかをチェックした後、コッキングしてシリンダー内に弾薬を送り込んで再度コッキングさせ弾を取り出し、弾倉へと戻した。その後、イオナがチェック中にナノマテリアルで製作したガンフォルダーを身に着けてそこへと仕舞った。お、予備の弾倉は6本か、今回の戦いは長期戦になるかな? 

 

「チェック完了っと。イオナ、いつも通り防御は任せるぞ」

「ガッテン。地上での守りは任せろ」

 

 ドンっとない胸────おっとイオナさん、その振り上げた拳を下げましょう。きっとそれで世界は平和と成ります、えぇそうです。このことが切っ掛けで世界が平和に。そうです、それでいいのです……ッホ。ま、まぁとりあえずイオナはポンっと自信アリげに答えてくれる。懐かしいな。過去、俺が地上でのゴタゴタに巻き込まれてた時はイオナがクラインフィールドで何時も鉛弾の雨から守ってくれてたっけ……ガトリング数門から放たれる雨霰、怖かった思い出しかないぜ。

 

「そんじゃ伊丹さんに俺達が担当する持ち場でも聞きに行くか」

「ならその間、私は防壁作りに協力してくる」

 

 イオナはそう言って階段も使わずに城壁から飛び降りた。まぁ、イオナはメンタルモデルですし心配はないだろ。ってか俺ってば一応客人扱いなのに何で戦闘に参加する事になってんだろなぁ……ま、いいけど。そんな疑問を抱きながらも俺はロゥリィとお話ししてる伊丹さんの元へ足を運ぶんだけど……そこではロゥリィが何ともキラキラとした楽しそうな表情を浮かべながら回り回ってまるで踊るかの如く心の底から笑っていた。

 

「恐怖! 全身を貫く恐怖をあのお姫様の魂魄に刻み付けるのね!!!」

「い、いや。それは違うくて……あ」

 

 そして俺と伊丹さんの目と目が合うぅ~瞬間、俺が恐怖の表情に染まってるのだと彼は気付いたぁ♪ 

 

「い、伊丹いや伊丹さん。貴方ってそんな怖い人だったのか……」

「いや千早さん、それは誤解──―」

「いやー! サイコパスいやぁー!!!」

 

 俺は走り出しそして伊丹さんはそれを追いかける。今ここに、伊丹のイメージを賭けた無駄な追いかけっこが幕を開けるのだった。結果? うん、流石は腐っても陸の男。海の男たる俺は勝てなかったよ……トホホ。

 

 そして月灯りが夜を照らし静粛が漆黒の夜を包み込んだ夜中過ぎ、戦いは始まった。



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【17】

ノリとノリと頭空っぽにて書いてたらこうなりました、この内容に後悔は無い。


 時は遡り伊丹がピニャの要請を受け、それを無線にて報告した直後にまで遡る。アルヌスにて構える陸上自衛隊特地方面派遣部隊本部では左官級の幹部自衛官達と外部協力者である少女二人が集まって怒号にも似た激論が行われていた……何故かゲームをしながら。何か切っ掛けさえあれば殴り合いにも発展しそうな雰囲気であるにも関わらず、全員が全員コントローラーを手に持ち門の向こう側で傑作として売り出されている超大乱闘スマッシュヒーローズで遊んでいる様は正に狂気にも似た何かだ。そんな部下達の様子を眺める狭間は思う、何故このような事になったのか……っと。

 

 事の始まりは門の向こう側、この特地にて溜まりに溜まった鬱憤を持った打撃部隊である戦闘団達が精神的に追い詰められ、地味なはずの訓練が次第に殺伐とし外部協力者によって狂気の沙汰とまで言われるほどのハードトレーニングを熟していた頃だ。

 門の向こう側たる日本の防衛省の都合で戦闘師団たる第一と第四戦闘団はこちら側に派遣されて以降訓練しか行っていない。攻勢に出る計画もまだ立てられていない為に当たり前のことではあるがそれでも戦闘師団の団員達は他の師団と比べて役に立ってない、何も出来ていない鬱憤を着実に溜めていたのだ。そんな鬱憤している中、隊員達の耳に【ドラゴンを相手にして住民達を救った】だの【生き残りのエルフを救った】だの【まるでSFから出て来た潜水艦を拾って来た】などなど……某偵察隊の活躍が入れば彼らの中で溜まりに溜まっていた鬱憤を爆発させるのは必然であった。これがもし本土にいて、平和を満喫している間ならまだ耐えられたかもしれない。けれど本来この場所、門の向こう側であるここは戦場のはずだ。なのに虎の子であるはずの自分達が何もしない、もしくは出来ないこの状況は隊員達にとって強いストレスとなる。そしてそのストレスの影響は訓練の様子に強く表れる事となる。

 

 通常の訓練行為のハズが陸上自衛隊の中で精鋭部隊と分類されるレンジャー部隊すら顔色が真っ青になるほどの模擬弾飛び交う交う実戦さながらの切羽詰まった戦闘訓練。同様の精鋭部隊たる空挺部隊ですら行わないだろう高速移動中での超低空で行う安全装備なしでのエアボーン。などなど、普段の訓練の様子からでは考えられない厳しい訓練が行われていた。

 これだけならまだ来るべき戦いに備える為と理解も出来た……が、某偵察隊が連れて来てしまったSFの如き超技術を持つ外部協力者が介入した事により変貌する。模擬弾が死にはしないが死ぬ思いをする事となるビームに、エアボーンがパラシュート無しでの空挺降下へ。彼、彼女らのもたらした超技術は着実に彼らに変化をもたらし狂気を宿し始めた。そして今、鬱憤を爆発させる切っ掛けとなった某偵察隊の援軍要請によってその狂気とまで言われていた訓練は日の目を見る事となる。

 援軍要請の内容はシンプルに言うとこう。

 

 イタリカと言う街が敗残兵の混じった大人数の盗賊共に襲われている。市代表である帝国第三皇女、ピニャ・コ・ラーダ氏より当方に治安維持の協力要請を受けた。しかし当方では戦力が足りないのでそこに住む住人達を救う為、至急援軍を送ってほしい。

 

 との事。それを耳にした幹部自衛官達は色めき立った。それはもうあまりの嬉しさにこの話を耳にした訓練中の自衛官達が思わず天に広がる青空へと模擬弾を打ち上げ、ビームで撃たれ死ぬ思いをするほどには大騒ぎとなった。住民達を救うと言う大義名分の元、スカッと叩き潰す事を許された生きる的が現れたのである。コレは訓練の成果を生かす──もとい、欲求不満を解消するチャンス。こうして決定権のある狭間陸将の元に左官連中どころか多くの幹部自衛官が半長靴を多数に響かせ集まり、怒号の如き詰め寄ったのだが……此処で最後に登場した人物よって鶴の一声が響く。

 

「多人数で詰め寄ってはハザマが対応できない」

「此処はコレで勝ち残った者のみ意見を許そう」

 

 訓練に参加した自衛官である人間が殆どその狂気の訓練に参加した人間だった為にその命令には逆らえず結果、急遽集まった多くの佐官や幹部自衛官によるゲーム大会が開催されたのである。そして現在、勝ち残ったメンバーである4人と外部協力者たる2人が狭間の目の前で対戦をしながら激論を交わす。【第一戦闘師団】からは団長の加茂一等陸佐と団員の柘植二等陸佐。【第四戦闘師団】からは団長の健軍一等陸佐、団員の用賀二佐。そして外部協力者である【蒼い鋼】からはイ400とイ402の6人が今ここで対戦する。勝ち残った者のみ狭間への意見が許される為、少女二人以外は真剣な眼差しで画面を見つめ、たどたどしい手付きでコントローラーを操る。そして第一回の勝利者は第一戦闘師団チームである加茂一等陸佐と柘植二等陸佐であった。

 

「是非、自分達にやらせてください!」

「自分の第101中隊が特増強普通科中隊として既に編成、完熟訓練が完了しています! 呼集も済んでいます。許可さえ頂ければ直ぐにでも出動可能です!」

 

 柘植はこう言うが隊員にとっては迷惑な事である。実際に出るかも分からないのに呼集をかけられ、今頃蒼き鋼によって齎された技術によって改良された特殊装備を身に着けた完全武装の隊員達が営庭にて整列し、今か今かと出動の命令を待っているかと思うと可哀そうな事である。

 お次の勝利者は第四師団チームの健軍一等陸佐、団員の柘植二等陸佐。

 

「第一師団ではダメだ!」

 

 この瞬間、殺気立った加茂一等陸佐の拳が正確に健軍一等陸佐の顎を捉えるが緑色のシールドが彼を守り事無きを得る。ちなみに狭間は目を見開いた。

 

「陸上移動ではどうしても現場まで時間が掛かる! その点俺達の第四師団ならば空を飛び、迅速に現場へと到着できる。ぜひ俺ら第四戦闘師団を使ってください!」

 

 柘植二等陸佐が続いて加茂一等陸佐に映画のような見事な回し蹴りを放つが、またしても謎のシールドに防がれる。ちなみに色はピンク。そして狭間は誰もそれに対しツッコミを入れないこの状況に目を丸くする。

 

「大音量スピーカーとコンボと、ワーグナーのCDは既に用意してあります!」

「パーフェクトだ用賀二佐」

「感謝の極み」

 

 褒めたたえる健軍一等陸佐に胸に手を当て頭を下げる用賀二佐。そしてそのタイミングで何かしら攻撃を仕掛けるのかと思いきや第一師団の二人は何もすることも無く、逆に二人してパチパチと拍手喝采を送る第一師団の二人。その事に対し狭間は右手の親指と人差し指で目元を抑えマッサージ。そしてこう考えた。こいつら、本当にどうしちゃたんだろう……っと。見ない内に第一師団の二人はえらく攻撃的になっているし、第四師団の二人はまるでキルゴア中佐の霊に取り憑かれたの如く脳みそが腐った発言を口にする……段々と頭が痛くなってきたような気がした。

 

「現場ではうちの艦長も巻き込まれている」

「私達からも援護を出す」

 

 そんな中での蒼き鋼所属である少女達の発言。ちなみにゲーム画面を見てみると彼女達が操っていたキャラは他のキャラを捻り潰し、圧勝していた。彼達の言う援護がどのようなモノなのか想像も付かない……っが、何か言っておかないと大変な事になるだろうと何だか悪い予感する。しかしひとまずは目の前で第四回戦を繰り広げる隊員達を他所へやる為にこの件を速やかに処理した方がいいだろう。

 

「第四戦闘団の出動を命じる。今は速度が必要だ、それが現実的な選択だからな」

 

 しかし、この時の狭間は知らなかった。そのような考えがまだまだ甘いものだと言う事を。予想する展開であるAH-コブラとUH-1Jヘリの大編成が低空飛行を行い、搭載している大音響スピーカーからワーグナーの旋律を響かせながら盗賊達を殲滅している光景であろう光景がストレス発散の為に提供された異世界の技術を総動員した装備を使い、地獄のような戦闘訓練を連日繰り返している彼らにとって目的としているモノではない……っと。

 

 戦闘団を乗せた大編隊は登りつつある朝日を横目に夜空を飛び去る。目指すはイタリカ。伊丹や虹像が戦う、血で血を拭う戦場の地。

 



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【18】

何書いてるか分からなくなってくるぜ!


 夜明けまであと数時間。深淵の如き漆黒に染まる夜空の中、見上げるとそこには無数の落ちる光。その正体は矢じりに塗った油へ火を付けた火矢。それが今、イタリカの城壁へと降り注いだ────伊丹達の居ない、東門へと。

 

 数々の悲鳴があがり倒れ、死人が増える。そんなパニック状態の中でも門の防衛を任されていた正騎士ノーマンは兵士や武器を手に取った住人達へ怒号にも似た指示を飛ばし、序戦である弓射戦が始まった。そして互いに倒れる者が増えて行くと盗賊と数多くの敗残兵が集まった賊軍である者達は城壁から放たれ続ける矢で作られた弾幕をまるで縫うように一部の兵士が弾幕の隙間へと向かい、ジリジリとにじり寄り始める。強固な金属の軍装を身に纏い、大小様々な盾を構えるその姿は正に多国籍軍。対して、イタリカを守るは前日の戦いで数を減らした少人数の兵士と武器を持った住民達、そしてピニャが連れて来た正騎士1人。戦力差は誰が見ても明らかであり、この強固な城壁が無ければあっという間に落とされるだろう。だからその事が分かっている住民達や一部の兵士は必至の抵抗を見せ始める。子供や老人などが石を投げ岩を落し、溶けた鉛や熱せられた熱湯を攻め込んでくる賊軍の頭上に垂れ流す。その威力は下手な矢よりも強力で効果的であった。しかし、それでも賊軍達の侵攻は止まる事はない。何故なら彼らの本当の目的は街での略奪などでは無く、戦いの末に辿るであろう死、なのだから。

 あのアルヌスの丘で経験した意味の分からない理不尽な死。気付けば大将が、気付けば上官が、気付けば隣で戦っていたはずの戦友が────敵の姿も見えず、何が起こっているのかも理解出来ず、味方に訪れるのは一方的な死。だからこそ、彼らが本当に求めるのは血を血で洗うような彼らの知る戦場。兵士として、戦士として、そして戦いの神であるエムロイに捧げる供物として。戦う者達が命や自身の魂魄を燃料に戦いの劫火は激しく燃え盛る。

 

 そしてそのような状況の中。反対側の西門にて血生臭い残酷な戦場と似つかわしくない、淫乱な悲鳴が響いていた──

 

 

※※※

 

「あのぉ~イオナさん? そろそろその耳栓兼顔のロックをしているこの手を外して欲しいんですけど……」

 

「駄目、グーゾーにはまだ早い」

 

 戦いの証である光が神々しく遠くに確認出来る西門。俺達はこれから来るであろう賊軍を相手するべく、伊丹に指示されたポジションで待機してたんだけど……何故かイオナさんに耳を塞がれ、頭ロックされてます。マジでどうしたんだろ? 

 

 何もする事が出来ないので目線を右往左往と動かすしかない訳で……あぁー夜空がきれぇー。あ、流れ星。船員達と無事に再会出来るように願い事祈っとこ。何て考えて夜空を眺めているとふと視界の端じに何かが横切る。あのフリフリに真っ赤なアクセントが施されたゴッシクドレスの女性は────ロォリィ!?  

 この瞬間、俺の勘がピキーンと反応しコレは追いかけた方が面倒な事にならない、そう告げた。だから俺はイオナの手を外し、彼女の手を掴んだまま走り出す。

 

「オラぁイオナ! 俺達も続くぞ!」

 

「ガッテン!」

 

 

 俺の突然の行動は何時もの事。前の世界で散々付き合わせたイオナは特に疑問に思う事も無い様子で続いてくれたお陰で割とスムーズに俺達も城壁から飛び降りたロォリィに続き飛び降りる事に成功。まぁ流石に俺ってば一応一般人なんで、そんな高い場所から飛び降りれば落ち方によっては俺の体はお察しになる訳で────

 

「イオナ、着地任せた!」

 

「わかった」

 

 先に落下するイオナに着地の衝撃を殺させ、そのまま俺を抱えさせたままイオナは跳躍し飛び上がり広い場所へ移動を開始。ロォリィの姿を追いかける為、まるでカンガルーの如く数多くの建物の飛び跳ねながら高速移動する。いやー彼女が常に張ってくれるクラインフィールドが無ければ風の抵抗で俺ってば死んでるぜ。

 

 そして到着するは木々で作られた簡易バリケードを境に城壁を突破して来た数多くの盗賊どもと街の住人達の睨み合う場。地面には無数の遺体が転がっていて血生臭い臭いが俺の割とデリケートな鼻を刺激する。そしてロォリィはその中心に立ち、身の丈以上ある鋼鉄のハルバードを舞うかの如く振り回しながらちょうど鉄仮面を付けた大男をぶっ飛ばしていた。そして俺達はその場にて彼女の隣へと降り立つ。

 

「ヘイ、ロォリィさん。1人だけで面白い事してんじゃないですか……俺達も混ぜてくださいよ」

「援護する。1人で相手するには敵が多い」

 

 右手に拳銃、左手にアーミーナイフ。大量の人間を相手にするには明らかに火力不足だけど、俺には最強の守護霊が後ろに居るので死角からの攻撃や普段の守りは問題ない。ロォリィが先ほどぶっ飛ばした大男に似た容姿の大男がこちらへとにじり寄り、その手に持つ凶器を俺へと振り下ろされるがそれはイオナの張っていた青いフィールドによって防がれる。

 

「いいわよ。死を忘れた不思議さんに私に近しく、最も遠い不思議な亜神さん。三人で血の宴を盛り上げましょう!」

 

 ロォリィの笑う声を背に突然の超常現象に固まる大男を前に俺は銃口を向け、ナイフを構えた。

 

「そんじゃ皆、いってみよう!」

 

 そして俺は引き金を引き、撃鉄を鳴らすと同時に城門が爆ぜた。

 

※※※

 

 風を切り裂く規則的なローター音。上り行く朝日を背に編隊を組んで薄幕に覆われた空を飛ぶのはAH-1S、その名もコブラ。そしてその後続として多くの隊員を乗せた複数のUH-1Jが続く。薄闇の大地が彼らの下方を流れている様子を見るに、かなり高速で移動している事が分かる。

 

「それにしても凄いですねアレ。流石はSFの世界から来た人たちによって改造された機体だ」 

 

 そう呟くように話すUH-1Jに乗り込む隊員の目の前を飛ぶは戦闘ヘリと呼ばれる攻撃型ヘリコプターであるAH-1コブラ。しかしその装甲は通常のコブラと違い、極めて異質。薄闇であろうと神々しく青い光が多数見受けられるそれは通常のコブラと違い、イオナ達メンタルモデルによって直接手を入れられ改修された特別仕様なのだった。

 

 特地に置いて、自衛隊へ降りかかる脅威は未知数であった。唯でさえこの世界には魔法と言う超常現象に加え戦車と同等の分厚い装甲、ヘリの如く機敏に空を滑空する炎龍と言う脅威が確認されている。本国の防衛省の判断では現地に派遣した戦力で十分対応出来るとされていた……が、現場の人間は違った。伊丹達第三偵察隊などから提供されたデータを確認した科学者やその脅威を知る整備士達が分析した結果、現状の装備では対抗策としては十分だが、現場へと実際に派遣される自衛隊員の命を守るには不十分と判断。複数の人間が結託し、狭間陸将を通じて防衛省上層部に散々改善策を求めた……が、これを議会は資金の無駄と判断し却下したのだった。

 

 そしてそれを知り、特地に派遣されている現場の自衛隊員達の堪忍袋の緒が切れる事となる。自分達の命よりも、ポッケに入れる資金の方が大事なのか……っと。丁度同時期にSFの塊である蒼き鋼より技術供与が約束される事が決定。その情報を手に入れたパイロット達や整備士、現地生物を研究した事によって未知の脅威を恐れた科学者達は彼女達へ直談判。その結果、技術供与の最初の段階としてこの機体が生れたのだ。

 

 

 彼女達によって徹底的に基礎構造から手を入れられたこの機体は今までの物とは別物だ。最高速度や搭載能力を上げる為シャーシ素材やエンジンに手を加えられ全長などの延長要らずに巡航速度や実用上昇限度、航続距離などの基本性能を大幅に向上に成功。前席の射撃手として戦闘用AIを導入しレーダーなどの電子機器も一新し内部アビオニクスも彼女達が1からプログラミングしたオリジナルの物に書き換えた為、従来の弾薬であっても射程距離などを20%向上。搭載能力が向上した事により武装に関しても手が加えられ、搭載するミサイルも最大8発から12発と増加しバルカン砲の弾数も30%ほどアップした。そして最大の変更点であるナノマテリアルと呼ばれる現代の科学では一切分析不可能な要素。それが一部の装甲として換装した結果、パイロットの生存性を高める事となり改造の施されてない同機体とは比べ物にならないほどの高性能な機体となった。こうやって彼女らによって手を入れられたこの三機の機体は今までの防衛省の考え方である専守防衛の理念からはかけ離れ、そしてライセンス元である米国が知ったら必ず引き渡し要求をされるであろう程に高性能になってしまった機体。それがこのAH-1ARP+、通称メデューサなのだ。

 

 

 科学的に証明できない蒼く発光し続ける謎の装甲。HA-1Jより増速し、速くイタリカへと向かうコブラ達の後を引く。それと同時に健軍一等陸佐の指示によって各HA-1Jに搭載された大音量スピーカーによって流されたワルキューレの騎行はまるで彼らの発陣を祝うかの如く、朝日を登る空全体へ響き渡る。

 

 

 

 さぁ、蹂躪を開始しよう。

 

 

 

 誰かの言ったそんな呟き。その一言と同時に放たれる光の閃光であるミサイルによって戦闘の火蓋が切って落とされたのだった。



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【19】

いやー出来た


※※※

 

 突如東へと飛び去ったロゥリィとそれを追いかけるイオナに抱えられた虹像を追いかける。高機動車にて東門へ到着した伊丹達は突如爆発した城門に加え、信じられないモノを目にする。

 

「おいおい、何処が普通の人なんだよ……」

 

「アハハハハ!」

 

狂気を瞳に浮かべ、狂ったかのように笑い続けるはロゥリィマーキュリー。彼女が引き起こす惨劇はまるで一種のダンスようで身の丈以上の大きさを誇るハルバードを踊るかの如く振り回す。多数の賊軍相手に言葉通りの蹂躪を展開するはエムロイの使徒、ロゥリィマーキュリー。

無双と言う行為を文字道理行う彼女がいるその戦場は彼女のみが活躍するアリアのよう……だが、違う。いるのだ、そんな人間では到底近付けもしない舞台で彼女と共に踊り、主役であるロゥリィを盛り上げるかのよう黒子を演じる者の姿が。

 

「ちょっとロゥリィさん、俺事斬ろうするの止め―――ッひ! イオナ、ナイスガード」

「ぶい」

 

主役の動きに合わせパートナーである者が作り出すフィールドを時に盾に、時に足場として活用しながらも彼女の振るうハルバードを神業の如く避けながら斬り込んでくる戦士達へその手にある拳銃により鉛弾を撃ち放ちながら、度々ナイフを投擲する。そのような技を自称一般人こと千早虹像がやるんだからコレが分からない。確かにロゥリィ同様超常の存在であるイオナの援護あってこその動きだろう。だがレンジャーを経験している伊丹でさえも目の前に迫る凶器を前に何時展開されるかもわからないバリアに自身の命すら任せ、多数相手に拳銃とナイフのみで戦い続けるほどの根性はない。でもだからこそだろう、2人の戦いは結果的に言えば連携しているようにも見える筈なのに戦っている両者の姿はそれぞれ独奏曲を奏でているかのようだった。

 

「ッハ!」

 

自分らは腐っても自衛官だ。戦闘員である自分らが客人である虹像や現地協力者であるロォリィに先陣を任せるだなんてイケない。などと考えたかは不明だが銃の安全装置を『ア』から『レ』へと切り替えた後それぞれ銃剣を着剣し、高機動車より降りた直後なんと部下の1人である栗林が単独で突貫。結果的に置いて行かれた伊丹と富田は栗林とあまり距離があけないよう広場を囲む人混みをかき分け懸命に追った。

 

「突撃にぃ、前へ!」

 

目標を決め、短連射。訓練の賜物か伊丹富田両者の放った弾丸は正確に目標を貫き血しぶきを上げる。同時に倒れ行く体は地面へと伏せるかと思われたがその体はそのままロォリィの振るうハルバードの一撃に巻き込まれ吹き飛ばされ、無数に積みあがる骸の一つとなった。

ロゥリィは盾を構える敵集団を蹂躙し跳ね飛ばし、潰してひき潰す。そしてそれを援護するようにダンダンと弾丸を撃ち放ち、時にナイフを巧みに扱いながら青いバリアで相手の攻撃を防ぐ虹像。両者の蹂躪が続き、闘牛かの如くロゥリィへ突っ込む大男が現れたタイミングで栗林が加わった。

喊声を上げながら銃剣を前に直突、背後から襲う敵を貫き三発鉛弾を置き土産として発砲する。直後に反動を利用して刀身を抜くとそのタイミングで襲って来る槍を持った敵を交わし発砲。次に襲って来た直剣持ちの斬撃を小銃で防ぎながら回し蹴りを放ち吹き飛ばす。次の獲物と盾持ちを相手に銃剣を向け、渾身の突きを放つが敵の持っている大盾に防がれてしまう。それだけならばまだいいがどうやら大男を突いた時に限界に達していたらしく、刀身は無残に折れ後方へ吹っ飛んで行く。

 

「ヘイヘイ大槍さん、ここまでお出で――――ッヒ! 今何か飛んで来た!?」

「虹像、前髪が少し短くなった」

「オーノー!!!」

 

その結果虹像の前髪を正確に切り取り、彼の髪型がバケツヘアーになった事はこの際どうでも良いだろう。折った本人はそんな事に構っている暇はないのだから。直後振り下ろされる直剣。咄嗟に小銃で防ぎ、腰のホルスターにある拳銃を手にするとそのまま盾越しに三発撃ち放った。倒れ行く敵を前に攻撃を防いだ小銃を構え直そうとするが直後ポロっと小銃下部に取り付けられていた二脚が落下。どうやら先ほどの攻撃が丁度ジョイント部分を直撃していたらしく、根本から折れた結果落下したらしい。

 

「あちゃー」

 

そう嘆きながら栗林の脳裏には武器陸曹の激怒した顔が浮かぶが、このような場合を想定して現場の自衛隊員には旧式である六四式小銃を持たされているのだ。むしろ最新式の小銃を壊さなかっただけマシだ。

 

「消耗品、これは消耗品!」

 

そう考え、自分に言い聞かせながら彼女は再度小銃を握りしめる。

 

実はこのような前時代的な戦法である白兵戦は彼女の得意戦法である。小柄である事を活かし猫のような瞬発力で接近すると蝶のように敵の攻撃を躱し、蜂のように敵を倒し続け敵を圧倒。距離をあけようものなら手榴弾の雨を食らわせ、接近させたかと思うと小銃や拳銃で構えられた盾を貫通させて敵を屠る。その圧倒的な活躍を前に虹像の脳内には栗林を前にこう思った、【現代のコマンド―、もしくはターミネーターかな?】っと。

栗林が加わった事により殲滅スピードは目に見えて早まる。栗林が盾持ちの盾を砕き始末すると直後ロォリィが突っ込み多数を殺害、そして無防備となった二人をイオナがバリアによって守ったかと思うとその襲撃者を虹像が格闘術を織り交ぜ始末していく。三……いや四人の連携は即興ながら見事と言うしかない。だがその様子に伊丹は危機感を覚える。虹像はまだいい、彼は戦いながらも逃走の機会を伺うように立ち回っている事が分かるから。しかしロォリィと栗林は違う。二人は完全に戦いにのめり込み、その戦いは本来の目的を忘れてるかのようにも見えたからだ。だからこそ伊丹は富田へと指示を飛ばす。彼女らの背後に絶対に敵を近づけてはいけないっと。敵味方入り混じる戦闘から一方的に蹂躪する戦闘へと変わり、余裕が出来たのか警備兵や農民たちが冷静となって伊丹達の存在に気付く。「緑の人だ!」「エムロイの神官さまだ!」っと声が上がるタイミングだろうか戦闘中だった虹像が目の前に迫る敵の存在も忘れ、不意に門の外に広がる黒煙の空を見上げたのは。

 

「オーケストラ?」

 

それは突如黒煙を引き裂き天へと現れる。城門前集う誰もかれもが天を見上げ指を指し、その鋼鉄の天馬へと注目を向けた。

AH-1ARP+(メデューサ)。神から魔物に落ちた怪物の名を関する攻撃型ヘリは蒼き光を装甲の一部から発光させながら機首の下部部分に搭載させたM197ガトリング砲を改造し、ビームが撃てるようになっちまった魔改造品の銃口を確かにロゥリィ達に押しやられ、密集している敵集団へと向けていた。そしてそれを目撃した虹像はというとヒューっと口笛一つにこう呟く。

リィ達に押しやられ、密集している敵集団へと向けていた。そしてを目撃した虹像はと言うとヒューっと口笛一つにこう呟く。

 

「ワルキューレなんて、趣味がいいな」

【サンレコン、こちらハンター1。これよりカウント3で門内を掃討する】

 

ま、そんな暇も無くなったんだが。

 

【繰り返すこれより門内を掃討する。明日ある眠りにつきたいなら3秒以内に避難しなぁ】

 

えらく渋い声が無線から聞こえた直後、俺は咄嗟に背中合わせで構えていた栗林とロゥリィの首根っこを掴み背負い、そして抱える。二人の苦情がうるさいが時は一刻も争う事態。全てを無視して虹像はイオナの後ろへと隠れた。

 

【いぃーっちぃ】

 

直後、耳を塞ぎたくなるほどの轟音と共に水色のシャワーが降り注いだ。幸い虹像達はイオナの貼ったバリアによって問題は無いがそれ以外は別。水色のシャワーを無数に受けた結果彼らの体には無数の真っ赤な噴水をいくつも作り上げ、敵を焦げのあるミンチへと変た。

 

「「二と三わぁぁぁぁぁぁ!????」」

【知らねぇ―なそんな言葉、男には0と1を覚えておけば生きていけるんだよ。姉御もそう言っていたぁ】

 

伊丹と虹像の声がリンクして響くが通信機越しに聞こえる渋い声は全然気にしていないよう。そしてオマケかと言わんばかりに両サイドに搭載したロケット弾を派手にぶっ放し、汚い花火を上げたのだった。

後に残るは肉片と地面に残る焦げ跡、そして空中に響き渡るローター音と共に終わりつつあるオーケストラの音楽。信じられないような光景にロォリィ以外は言葉を失い虹像はフニュンと手に何かを感じる。ふと誰を抱き上げていた事を思い出し、誰かと確認してみる。

 

「「……」」

 

抱き上げていた人物と目と目が合う。抱き上げていた人物とはあの鬼神の如き活躍をしていた栗林二等陸曹であった。そして虹像の右手は確かに彼女の背丈とは比べものにもならない立派なモノを鷲掴みにしており、両者の間では無言の空気が続く。

 

「こ、こんにちわー」

「えぇこんにちわ」

 

直後虹像の顔面に拳が飛来、その顔に確かな青あざを作った。




ラッキースケベは虹像の手に……代償がデカすぎるが。


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【20】

※※※

 

「しんど、ってか死ぬ。コレだから銃をぶっ放すのは嫌いなんだ……アタタタ」

「グーゾ―、その顔大丈夫?」

「大丈夫だ。それにこれぐらい前にしずかの全裸を見た時よりはマシ」

「流石はしずか、全治3か月は伊達じゃない」

 

 あの後数多くの自衛隊員を乗せたヘリが到着し降下、残党と化した敵が全て鎮圧された事によって戦いがようやく一段落した後俺は伊丹率いる第三偵察のメンバーと現地協力者であるロォリィやテュカ、そして通訳のレレイと共になんか豪華な廊下を歩いていた。あ、そういえば殴られた後貧弱な俺は当然気絶した。んで殴った本人である栗林さんは伊丹さんにしこたま怒られたらしい……まぁそのせいで俺はコレから何をするかわかんないんだけどね! だって説明役の栗林さんが怒り心頭だから……まぁ今回の出来事は不可抗力とは言え俺が彼女の胸を揉んだ事は事実なんだから気絶するぐらいまで殴られても当然なのに……伊丹さんもあんなに怒る必要、無いと思うんだけどなぁ。

 

「千早さん」

「ハイハイ千早さんですよ」

 

 おれに話しかけて来るは第三偵察唯一の天使、黒川さん。その美しい黒髪を靡かせ────ってオイイオナ、俺の脛を蹴るんじゃねぇ。普通に痛い。何てちょっと転びそうになりながらも伊丹達を先に行かせながら最後尾にて話を続ける。

 

「これからこの都市の領主である人物と大事な話し合いがあります。伊丹やレレイさんだけでは通訳が難しい部分もあるので協力していただけませんか?」

「通訳ですか」

 

 なるほどなぁ、戦後処理の話し合いって奴か。そんな大事な話し合いならそりゃ言い間違いなどあっちゃ事だもんな、そりゃ確実性が欲しいか。

 

「分かりました」

「ガッテン!」

「……イオナが受ける訳じゃねぇぞ?」

 

 ってな訳で到着するは領主代理を務めている皇女のピニャコラーダさんが玉座へとふんぞり返る豪華な部屋。そしてピニャの傍らに立つは彼女の部下と思わしきハルミトンと言う女性だ。ってかヤケにピニャコラーダさんに見られるよなぁ……俺、なんかやったっけ??? 

 

「捕虜の権利はこちら側にあると心得て頂きたい」

 

 んで俺は彼女の言葉を健軍一等陸佐へと伝える。すると健軍は直立不動のまま頷き発言、そして俺はそれを通訳する。

 

「イタリカの復興に労働力が必要だという貴女の意見は理解した。それがこちら習慣ならばそれを尊重しよう。だが、せめて人道的に扱うという確約を頂きたい。それに加え我々としては情報収集の為に、数名の数名の身柄が得られればよいので確保されている捕虜の内、数名を選出して連れて帰る事を希望する。以上約束して頂きたい」

 

 結構キッツイ長文の翻訳を澄ました直後彼女、ハルミトンは眉間に皺を作りながら目に見えて疑問を浮かべていた。

 

「ジンドウテキとは?」

 

 おっとここで文化の違いが出るか。今度は俺が眉間に皺を浮かべる番が巡って来る。それにしても人道的……言われてみればこの概念を明確に表現するのは中々難しいな。

 

「えっと俺達も明確に表現は出来ないのだが例えるなら友人知人に接するような、外道の如くその人に対して無下には扱わない事……かな?」

 

 俺なりの表現で人道的という言葉の意味を語ってみたところハルミトンさんは眉を寄せるばかり……アレ? わかりずらかったかな??? 

 

「私の友人や知人がそもそも平和的に暮らす集落などを襲い、人々を殺め、略奪などをするものかッ!」

「うぉッ!?」

 

 突然声を荒げて怒鳴かけるハルミトンさん。び、ビックリしたぁ……突然大きな声を出さないで欲しいもんだ。俺ってば耳は貧弱なんだから突然発生する大きな音とかは苦手なんだよ。ま、そんな感じでちょっと取り乱しながらも通訳をしようとするがピニャコラーダ……もう長いから内心ではピニャでいいや、その人が声をかけはじめる。

 

「声を荒げるなハルミトン。よかろう、捕虜の扱いに関しては不当に扱わないと約束しよう。此度の勝利にそなたらの貢献が著しいのでな、世もそなたらの意向を受け容れるに吝かではない」

 

 いや長げーよ。言いたい事は分かるがなげーよ。自分が寛大で、偉大だと言う事を示しながら俺達の意見を受け入れたいんだろうけど兎に角何度も言うが言ってる事がなげーよ。めんどくさくなった俺は内容を省略して日本語に翻訳する。

 

「えっとハルミトンさんが【人道的という概念が理解できない】っと言ったので友人知人のように扱うんですよーって教えたら【友人知人が略奪や殺人などをするか!】って怒っちゃいました。んで、それに対してピニャコラーダ殿下が【そなたらの言い分は分かった。そのように取り図ろう】って言ってますね」

 

 ほら、レレイに伊丹。その【あれれぇ? 言ってる事が違うくない???】って顔するんじゃねぇ。意味は全く同じなんだからイイじゃねぇ―か。

 

「うむ、文化の違いは仕方ない。しかし意味が分からずとも我々の要求を受け入れた事に関しては上々だな」

 

 ……健軍一等陸佐が現地語覚えてないせいで傍から見るに陸佐が能天気な事を言ってるように見えるな。なんか、ごめんね? 

 

「おほん。それでは捕虜に関しては以上だ。残りは軍に関する事と協約期間に関して────」

 

 その後も細々とした協約の確認などを終え、戦後処理の協約の話し合い……っというより事前に話し合って決められた協約内容の確認は終わった。んだけど何で書面の一角に俺の名が使われるんですかね??? え? 一応は自衛隊とは別の勢力で、ロゥリィ同様戦場で暴れ回ってたからだって??? ……何も言い返せなくて草。

 

 さてさて協約は直ちに発効され、協約通りにイタリカへと駆け付けた401中隊は飛び去って行く。でも謎だ、その直前ほぼ全隊員がイオナに挨拶周りをしていたのは何でだ? こいつら俺の知らないところで何やってんだ??? ま、そんな疑問も他所に後始末に忙しいはずの住人達が手を休め、空の向こうに消えるヘリの大群に手や帽子を振る人達と一緒に手を振ってたらどうでもよくなったんだよね。

 そんでもって場所は移って商人宅。俺はアレやコレなどのトラブルで俺も忘れてたが本来の目的であるネゴシエーターとしてレレイ達と共に商人リュドーを相手していた。

 

 

「銀貨千枚!」

「高い、銀貨五百枚!」

 

 

 リュドーの左フックを俺は何とか躱し即座に右ストレートを叩き込む。

 

 俺達がやっている事、それは短直に言えばボクシングだ。実を言うと商人リュドーとは俺がエルフの村にいた頃に出会っており面識があった。

 彼は確かに普通の商人のように対話による交渉も得意だ。しかしその体付きから分かるように彼は自身の体を鍛えるのも得意だった。だからこそ、その時の俺は思ったのだよこの人にボクシング教えたらどうなるんだろ? っとね。その結果がこのボクシング式交渉術である。まぁ正確に言えば情報料の値切り交渉だけどね! 

 

「銀貨950枚ラッシュ!」

「っく!」

 

 教えたのは数か月前。けれど彼はアレから鍛錬を怠らなかったようで連続で振るわれるその拳には一つ一つにキレが見える。けれどまだ甘い! 俺はその拳より早い銃弾をしょっちゅう浴びてたんだよぉ、だから見切れるぜ! 何とか躱し、躱しきれなかった拳を両腕で防ぎきると今度は俺の番だ! 

 

「銀貨600!」

「安すぎる!」

「銀貨700!」

「まだ安い!」

 

 右左と拳を叩き込むが彼のガードは堅く、なかなか打ち破れない。っく、これじゃ長期戦は避けられないようだな。

 俺の予想は正しかったようで交渉は続き多分一時間、どちらも引けない攻防戦を続けているとやがては俺にチャンスが巡って来た。俺の左ストレートで体制を崩したようで一歩下がった。そしてそれにより隙ができ、俺の特技が放てるようになる。

 

 

「銀貨ぁぁ────」

 

 右の拳を強く握り絞めばねの如く引きながら構え────そして。

 

 

「750枚ぃぃぃぃ!!!」

「ぐはぁぁあ!!」

 

 アッパーを放った。俺のアッパーをまともに食らったリュドーは弧を描くように吹き飛びそして、その場に倒れ伏せる。

 そして俺は痛み軋む体を引きずりながら臨時で作ったリング外の待機席に座るセコンドの元へ向かった。そしてそこで心配そうに見つめるセコンドからタオルと水筒を受け取る。

 

「レレイ」

「グーゾ―、なんだ」

「銀貨750枚。250枚は余りだ、ぜ────」

「グーゾ―の意思、確かに受け取った」

 

 俺の体力はそこで限界を迎えたらしくその場で俺はぶっ倒れた。視界が霞み、意識が薄くなりつつある所誰かが俺をしゃがんで見つめていた。んぁ? 誰だ? 

 

「……一体何をしていたのかしら???」

「さぁ?」

 

 最後に見えた人の顔は多分、俺の事をバカを見るかの如く見つめてるテュカとロゥリィだった……と思う。

 

「この紅茶は良いモノ。できれば購入したい」

「100グラム○○となります」

「買った!」

 

 ところで何でイオナは紅茶なんかを買ってるんですかね??? 

 




ネゴシエーター(ボクシング)


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【21】

 不自然に揺れる振動に頭を支える柔らかな感触、それに加え妙に硬い感じを背中に感じ、俺の意識は覚醒する。

 

「……ッハ! ここは何処? 俺は誰?」

「ここは高機動車車内、そして貴方は私の艦長グーゾ―」

「なるほどなぁ……あと俺はグーゾ―じゃなくて虹像だぞ」

 

 俺のボケにノータイムで答えるイオナ。俺は嫌いじゃねぇぜ、そのツッコミ。いつの間にか膝枕していたイオナの若い女子特有の感触と別れを告げると俺は体を何とか起こし、ふと眼前にあった窓の外を見る。地形から見てどうやらまだイタリカから出たばかりらしく遠くにはイタリカの城壁が見て取れた。しっかし状況から見てあの商人とボクシングした後俺は気を失ったのか……流石は俺の貧弱ボディだぁ、一戦ぐらい耐えれないモノかね??? あ、なんだイオナ、そんな事は艦長には無理だって? ……ショボンヌ。

 

「お、起きましたか」

「……ヌルポ」

「ッガ! ってなにやらすんですか!」

 

 声をした方、つまりは前席の方へ目を向けると運転手に倉田さん、助手席には伊丹で丁度倉田は疲労の為か欠伸をしていた。何となく後ろを見ると目の前にはイオナがキョトンとした顔でこちらを見つめて来たので撫でる。

 

「おぉースウィート」

 

 更に後方では大天使黒川さん、そしてその向こうにはレレイとロゥリィ、テュカがそろって仲良くお昼寝中だ。まぁあんなトラブルの後の移動時間だし皆気がぬけて眠くなるのも仕方ないよね。

 

「いやつい」

「ハァ……それにしてもこのネットスラング、そっちの世界でもあったんですね」

「あ、確かに」

 

 のんびりとした雰囲気に車特有の規則正しい振動、そのダブルコンボで割と疲労困憊な俺は思わず眠くなってきてもう一度イオナに膝枕を頼もうとした時突如発生た急激な横G、つまりは急ブレーキによってそれは叶わなかった。

 

「フォビデゥンッ!!!」

 

 だってバランス崩して足場に倒れちゃったからね! イオナの助けもあり、強く打った事による痛みの続く鼻をさすりながら何事かと倉田へと目を向けると彼は先を見つめているようだった。

 

「前方に煙が見えます!」

「また煙だぁ?」

 

 伊丹と倉田がその首に下げてある双眼鏡で煙の正体を探る。俺もちょっと興味が湧いたので手持ちにあった双眼鏡を向け、覗き込んだ。

 確かにそこにはこちらへと向かう正体不明の部隊らしき人が見て取れた。けれどどのような人物が馬に跨り、こちらへと向かっているかは煙が邪魔でよく見えない。

 

「ふむ、なんだろ?」

 

 双眼鏡を離し、相手の正体を考え始めてたらハッキリと見えたらしい倉田から耳を疑うような発言が飛び出した。

 

「ティアラです! 金髪です! 縦巻きロールです!」

 

「「な、なんだって!?」」

 

 思わず俺も倉田へと近寄る伊丹と共に素早く再度目標へと双眼鏡を構え、そして度肝う抜かれた。

 

「目標、金髪縦ロール1、男装麗人1、後方に美人多数!」

 

 目を疑う光景とは正にこの事。視界の先には倉田が口にした報告通りのメンバーであり大変テンションの上がる光景だ! やべぇ、まるで同人誌の表紙みてぇ。

 

「薔薇だな」←伊丹

「薔薇だね」←虹像

「薔薇です!」←倉田

 

 俺が居た日本にも宝塚歌劇団と言う文化は細々と残っていたりする。女性のみで編成されて歌や踊り、そして演劇を楽しませてくれる人達で規模こそ温暖化による飢餓と霧との大海戦の影響で縮小したが大昔から存在する由緒正しい劇団だ。まぁそのせいで敷居が滅茶苦茶高くなり、にわかオタクである俺には入る事の出来なかった世界だがいつかは見に行ってみたいと思っていた。だからこそ、こんな場所で彼女達にある種酷似した騎兵集団を見られるとは思いもしなかったぜ。

 

「俺、縦巻きロールの実物なんて初めて見ましたよ」

「俺は二度目だな、青髪のポ二-はある意味縦巻きロールだった」

「縦巻きロールのポニーテール……だと!?」

 

 ようやく双眼鏡の必要ない距離まで近づき、よく目を凝らして見てみるが見事に女性ばかりだ。多分男もちゃんと混じってるんだろうけど、少なくとも見える範囲には男装の麗人しか見えない。ってかその中で金髪縦巻きロールって異質過ぎねぇか? 

 突如現れたまるで宝塚かの如き騎兵師団。それに対して無線から警戒の命令が飛ぶが、そこは部隊である隊長こと伊丹の鶴の一声でそれを解除。むしろ刺激しないように敵対行動を避ける命令まで出す始末……ナイスだ伊丹さん、後で飴ちゃんあげる。

 そんでもって最初に接触したのは車列の前方を走っていた車両に乗り込む富田さんであった。

 

 

「────!」

「──―、────」

 

 仮称白薔薇と話す富田さん。何を話しているかは分からないけど何とか無事に接触が果せそうだ。なぁーんて考えながらせっかくの宝塚、近くで見なきゃ損と考えた俺はイオナを残して車両から降りるであろう伊丹に続き俺も降りた。だけども俺の考えは甘かったらしい。その直後、後方より声を荒げる白薔薇の声が聞こえた。あ、コレはあれですか? やらかした奴ですか? 

 直後素早く騎馬の列が整えられ、それぞれの武器を構えられる。そして俺もいつの間にか回り込まれた兵士さん(多分女性)の剣が首筋に添えられていた。

 

「えっと、俺らに敵対の意思はないんですけど……」

「黙れ!」

 

 後方より割とヒステリックに聞こえる女性の声。首筋に凶器を添えられ身動き取れず、交渉も不可能そうっと……うん、コレはヤバイですね! 

 

【グーゾ―、ピンチ?】

 

 おっと通信機越しにうちの問題児のエンジンが俺のピンチによって繋りかかってるのが分かるぞぉ。多分彼女に任せれば三秒とかからずにこの宝塚騎士団を制圧できると思うけど、俺の名が刻まれたピニャコラーダさんとの約束もあるし……どんな状況であれこちらから手を出すのは流石に不味いっピ! 

 

【大丈夫、イオナは一先ず待機で】

【了解、待機する】

 

 一先ずのピンチに思わず額に浮いたであろう汗を拭いたかったが、首筋に添えられた刀身がそれを許してはくれない。さぁーって一体どうしたものか。

 

「えっと、失礼。部下が何かいたしましたかね?」

 

 なぁーんて考えてるとのんびりとした雰囲気で伊丹さん登場! やったぜコレで勝てるな、風呂入って来る。

 彼は俺と同じオタクだが一部隊の隊長を任されているって事は難しい交渉も熟す事が出来る実力があるはずだ! 例え白薔薇から剣を向けられようとも。金髪縦巻きロールから睨まれ、再度白薔薇より降伏勧告されようとも────

 

「お黙りなさい!」

 

 ……ダメみたいですね。

 

 金髪縦巻きロールが伊丹へ放ったスナップの効いた強烈なビンタ。コレが引き金となり、殺気立った自衛官およびうちの問題児。その直後、経験と直感的に今動かないとやべーっと判断した俺は勝手な行動をする前に俺は無線機越しに再度イオナへ命令を飛ばす。

 

【待機だイオナ、待機だぞ】

【……了解した】

 

 うっすらと見え始めていた縦巻き金髪ロールの首元にチョーカー的なものが消失、俺は直感を信じてよかったと心から安堵した。まぁそんな事この薔薇の騎士団的な人達が知る由も無いんだけど……ま、死人が増えなかっただけ俺的にはOKです! 

 

「逃げろぉ! とにかく、今は逃げろ!」

 

 その後伊丹必死に逃げろと叫ぶように命じ、結果三台の車両はエンジンの怒号を響かせ土煙を上げながらはるかかなたへと走り去って行った。置いて行かれたある種不幸な男が二人。そして俺は同じ立場となった伊丹へ一言。

 

「やったぜ伊丹、コレでハーレムだぜ!」

「ちょ! 何で千早も車両から降りてんの!??」

 

 まぁその伊丹からは心底驚かれたがね!



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【22】

※※※

 

「へ、へへへへ」

「ほ、ほほほほ……パタリ」

 

「なんて事をしてくれたんだッ!」

 

 まるで火山が噴火したかのような怒りを表し、ピニャはその手にしていた銀製の酒杯を酒の残っている状態のまま彼女の目の前にいる縦巻き金髪ロール事愚か者へぶん投げた。

 

 伊丹と虹像と言う捕虜を手に入れた愚か者であるボーゼスは意気揚々と自身の功績を誇ろうとピニャへ謁見したが、突如としてぶつけられる尊敬する者からの怒りに理解が出来なかった。額の激痛に理不尽な怒り、身体が竦みあがりその場に座り込む。暖かな感触が額を伝い、手を触れそれが血液だと初めて知った。鼻先からぽたぽたと落ちる血液が大理石の床に真っ赤な水溜まりを作り、それは止まる事を知らない。

 

「ひ、姫様。どうしたと言うのですか!? 我々が何をしたと言うのです?!」

 

 座り込んだボーゼスの額に手布をあて、ピニャに理由を尋ねる銀髪の騎士パナシュ。だが、その時には先ほどまで怒りに駆られていたピニャもその傍らに立つハルミトンも怒りというより最早あきれも混じった様子で二人を見ていた。

 

 

 401中隊が飛び去り、伊丹率いる第三偵察隊が去って夕刻。騎士団を引き連れイタリカに到着したボーゼスとパナシュは、ピニャに対して到着に関し報告するとと共に戦闘に間に合わなかったことを詫びる。だがピニャはこれに対し責める事はせず、逆に当初の予定よりも早い到着に彼女らを褒めたたえた。まぁその影響で気をよくしたボーゼス達はピニャの初陣に祝福する言葉を送り、そして向かう最中で捕まえた捕虜を見せた────のが、悪かった。その途端にピニャは怒りにかられ酒杯が飛来、ボーゼスが傷を負う事に…… だからこそ謁見した二人は何故責められるのか理解できないでいた。

 

「こともあろうに、その日の内に協定破り。しかもよりによって彼と彼らが客人としていた人物とは……」

 

 ハルミトンは見ろまの隅に連れ込まれた捕虜達へと歩み寄る。床に力なく倒れ伏せるは虹像、そして同じく座り込んでいるのは伊丹であった。

 

「へへへへ」

 

 意味不明な事を嘆く伊丹はまだ意識が辛うじてありそうなので肩に手を置き、揺すりながら彼の名前呼びかけるが反応は無い。

 それもそのはず両者は全身泥まみれで擦り傷だらけ、さらには身体中に打撲痕と思われる痣ばかりあり、体力気力ともに知己はてていると言う姿でまともに返事も出来そうにない。

 

「イタミ殿、イタミ殿ぉ」

「へへへへ……パタリ」

「い、イタミ殿!?」

 

 ここへ来るまで相当酷い目にあわせたんだろ、容易に想像できる有様だった。圧倒的武力を持った異世界の軍隊たる自衛隊と結んだ条約をその日で破るこの有様。目の前にある残酷な事実に思わず目元を抑え、頭痛のする頭を押さえたくもなったが伊丹を手当した後もう一人の捕虜である虹像を手当していたハルミトンが神妙な顔つきでピニャへと歩いて来る。

 

「あ、あの姫様」

「なんだハルミトン」

「……彼の腕は元々こうでしたか?」

 

 ピニャは突頭に意味の分からない事を言い放つ彼女の発言が理解できなかった。だって確かに傷だらけではあるものの彼の体は五体満足であると思っていたから。だからこそ彼の体をよくよく詳しく見てみた途端、目を見開き度肝を抜かれた。あるはずのモノが無い、彼の体には本来あるはずの右腕が無かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 首の痛み、背中の痛み、足、頬右目周りと全身の痛みを感じながら伊丹は目覚める。

 

「いててて」

 

 首筋を無意識に抑えながらか目覚めた痛みの視界は妙に明るい。体を包み込む柔らかな羽毛の感触を察するに自身の体はベッドに寝かされているんだろうが、それ故に彼は自分のいる場所が分からない。痛む首を回し、周囲を見渡そうとするとそこに居た人物と不意に目が合った。

 

「お目覚めになられましたか? ご主人様」

 

 そう言って微笑むはどう見てもオタク文化の象徴の一つ、メイドさんであった。

 

「!?」

 

 驚きのあまり思わず体を起こそうとするがそのメイドさんが優しくそれを止め、掛布団を掛け直す。その事からちょっとだけ落ち着きを取り戻した伊丹は改めて周りを見渡す。するとそこには先ほど話しかけて来たメイドさんと同様、同じ格好のメイドさん達がスタンバイしていた。その光景から思わずここは秋葉のメイド喫茶かそっち系のお店か? なんて考えも浮かんだが自身の性格が割とチキンと自負している為、そんな訳ないとその考えを切り捨てた。

 

「ここはどこです?」

「こちらは、フォルマル伯爵家のお屋敷です」

 

 現地語で尋ね、それから得られた情報と今起これた状況を合わせ整理するに伊丹はこの場所が監獄に類似する施設ではないと判断した。イタリカの街へ走らされた事を考えるにここはイタリカの街、そして彼女らはフォルマル伯爵のメイドなのではないか? そして自分の置かれた待遇が改善された事を考える事をみるにピニャ殿下には俺達と結んだ協定を破る意図は無かったのではないかと思えた。なら無事に帰れる可能性もある、無駄に場を荒らして逃亡する必要もないかもしれない。そう結論が出た伊丹は体の力を抜き、心からリラックスできた。

 

「って事はイタリカに戻って来ちまったって事か……」

 

 そのタイミングだろうかコンコンっとノック音が響き、誰かが顔を見せる。

 

「よ!」

 

 そして登場するは何とも気軽に挨拶する虹像。その様子は文字道理一緒にデスランをやっていたはずなのに何処か余裕そうとも感じれた。けれどその姿は伊丹よりも重症のようで全身包帯だらけ、それに加え彼は車椅子にも似た椅子に座り兎耳の似合うメイドさんに押され入って来たのだった。

 

※※※

 

「伊丹も無事に目覚めてなにより。俺の方は走ってる途中で義手を無くし、最終的に義足がぶっ壊れてたらしく困った困った!」

 

 なめんなよ、こちとら一回ナガト&ムツと差しで勝負して結果半身吹き飛ばした人間ぞ。これぐらいの負傷で根を上げれるかってんだい。いやぁーあの二人は普通に強敵でしたね、その時乗ってたコンゴウが俺の体の一部をナノってくれなきゃ普通に死んでたぜ。なんて笑いながら運んでくれた兎耳メイドさんにお礼を言い、ちょうど手が届く距離で寝ている伊丹の肩をパンパンと叩いていると彼は唖然とした表情をしている、どったの? 

 

「って千早義手に義足だったのか……」

 

 ……なるほどなぁ。確かに伊丹達自衛隊の面々には教えた事なかったよなぁ。あ、いっけね、よくよく考えるにイオナにも教える忘れてたわ。そもそもこの事を知ってるのはナノってくれた本人であるコンゴウとある事件でトラブった結果心臓をナノってくれたアタゴぐらいだったわ。あぁーあのメル友元気かなぁ。

 

「そーなのよ、昔ヤンチャしてね。和服美人二人をナンパした結果こうなった」

「流石異世界、ナンパの代償がデカすぎる……」

「まぁ、結果的に言えば黒いドレスが似合う割と好みな美人をナンパ出来たから良いけどネ!」

「スゲェ、転んでタダでは起きなかった」

 

 まぁその後に群像達とやったBBQでピーマン食わせたら怒って別れちゃったんだけど……気にしなくてもイイよね、ネ。 

 

 一先ずの喉が渇いたので猫耳メイドさんに水を注文すると「かしこまりました」と了承。その人は水を灌ぐんだけど……伊丹がやけにその人に熱い視線を送っていた。どったの、伊丹? 

 

「どうかされたニャ?」

「い、いえ状況はどうなってるのかなって……」

 

 ははぁ~ん。察するに猫耳長身眼鏡メイドさんの猫耳に注目してたなぁ??? わかるぞぉその気持ち、俺も初対面の時は思わず宇宙ネコに成っちまった自覚あるからな。なんて考えてると誰かが伊丹の発言に反応する。声のする方へ目を向けると明らかにメイド長って感じの老メイドさんが部屋に入ってきているところだった。扉を閉め、ゆっくりと姿勢を崩さず歩くさまはまさしくカリスマメイドって感じだぜ。

 

「お二人には最高のおもてなしをするよう我ら一同ピニャ様により命じられております。そして、無礼を働いた騎士殿達はキツク叱責を受けており────―」

 

 それから語られるはその叱責の内容。彼女の説明は非常に丁寧で分かりやすく、割と詳細に教えてくれた。あちゃぁー嫁入り前の娘の額に傷か……後でイオナと合流した時に治してもらわないと。説明を終えると老メイドさんは腰をおとして頭を垂れる。

 

「この度は、この街をお救いくださり、真に有難うございました」

 

 そしてそれに倣うように他のメイドさん達も深々と頭を下げた。 ……何て言うか俺達って結構大きな事を成し遂げたんだんだな。確かに前の世界ではこんな風に大義名分がある大きな事をやった事もあるけれど、こんな風にお礼を言われたことはなかったよなぁ……何だかいい気分だな。

 何だかいい気分になった俺はその後に続いた【イタリカを滅ぼすなら私達も協力する】って発言に度肝を抜かれのだった……マジか、この人覚悟決まり過ぎじゃね?



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【23】

 

脅威の判定を開始……エラー。特地での情報が足りない、脅威判定不能。

定義変更、データバンクに存在する中世ヨーロッパに存在したとされる騎士達の行動を参照。

ピニャコラーダ及び5時間32分49秒前に発効した協約を組み込み再度脅威の判定を開始……脅威判定、極めて微妙。

艦長の生存率…43% 危険と判断、艦長の奪還を具申……【不許可】

艦長の命により待機中。行動は不可――――エラーエラーエラー。

該当率98.99%。艦長千早虹像の右腕部を発見……回収を行う。

 

 

回収完了。データバンク内の全ファイルへのアクセスを申請。

 

【許可】

 

マスターキーを取得、全ファイルへのアクセス権を行使。情報取得開始。

 

細胞と血液、DNAを採取。データバンク内の情報から虹像のデータを読み込み中……読み込み中……データの読み込み完了。採取した細胞、血液、DNAのデータと虹像のパーソナルデータとの照合を開始……エラーエラー。適合率100% しかし細胞内にナノマテリアルの混在を確認。

スキャン中…スキャン中……ユーザー不明のナノマテリアルの反応を確認。

千早虹像のパーソナルデータを参照。

過去右脚部、左脚部、右腕部、左腕部、下半身、上半身、心臓、頭部、背部のナノマテリアルによる治療履歴を確認。

戦術ネットワーク内への再接続を具申。

 

【許可】

 

戦術ネットワークとの接続を開始。

ネットワーク内に存在するナノマテリアルの固有パターンと治療歴を照合……完了。細胞内に混在するナノマテリアルの反応とのデータを反映します。

 

 

【右脚部】

・コンゴウ

 

【左脚部】

・イ401

 

【右腕部】

・コンゴウ

 

【左腕部】

・ズイカク

・レキシントン

 

【下半身】

・イ401

・コンゴウ

 

【上半身】

・イ401

・コンゴウ

・イセ

・チョウカイ

・アタゴ

 

【心臓】

・アタゴ

 

【頭部】

・ヤマト

 

【背部】

・イ401

 

予想外。私の知らないところでこれほどまでに虹像の体に手が入れられていたとは……ヤマト、消滅する直前に意図的にこのデータを隠したな?

さぁ? 何の事だか私は分からないわ、だって私は既に消滅している存在だものぉ~

 

 

「イオナちゃん大丈夫? 無理してない?」

「私は問題ない。それより艦長の安否が心配だ」

「確かに……あのセクハラ艦長、本人曰く貧弱らしいからね」

「栗林、アレは事故だ。この事をあまり掘り返すとまたも伊丹に叱られる事になる」

「それはもうごめんよぉ」

 

時は少し戻り夕刻。地球では絶対に経験した事がない幻想的な風景の中に彼ら第三偵察隊の面々が、大地に伏せて隠蔽しながら完全に暗くなるのをじっと待ち構えていた。

 

「それにしても隊長、今頃死んでるんじゃないの?」

 

双眼鏡で街の様子を監視しながら栗林が呟く。捕虜になった伊丹が女騎士の連中に追い立てられ、走らされているを見ていた為に出た言葉だったがその口ぶりは何処が願望めいていた。それには彼女にあった過去の出来事が大きく関係しているのだが、今は語るべきではないだろ。

だがそんな彼女でも伊丹が危機に陥れば一目散に駆け付け、彼を助けるだけの信頼関係は築けているのでその発言を聞いていた富田はどうとも思わなかった。だが、その横で裸眼で見ていたイオナが即座にその発言を否定する。

 

「栗林、私はその発言に異議を申し立てる」

「異議?」

 

疑問を浮かべ、双眼鏡を離して思わずイオナの方を見る栗林だったがイオナはジーっと街の方を見つめていた。

 

「その発言を肯定してしまうと内の艦長は既に死亡している事となる」

「あ」

 

自分の考えが至らなかった。自身でも言っていたではないか、あの艦長は貧弱と。だったら自衛隊の訓練を熟す伊丹よりは弱い事は明らかであり、今の発言がどれだけ考え無しだったか分った。一応普通の日本人である栗林は後悔に苛まれ、罪悪感が湧いた。

 

「ごめん。私、考え無しだった……」

「それに伊丹はレンジャーの称号を持っている。そう簡単には死ぬことはない」

 

この瞬間、後悔とか罪悪感とか何処かへホイやって栗林はこの時だけ自分の耳がバカになったのだと本気で思った。

 

「え、誰が?」

「伊丹耀司二等陸尉」

「冗談?」

「冗談をつく理由が私にはない」

「うそ?」

「本当と書いてマジだ」

「なッ!?」

 

ボロボロと崩れる音が聞こえる。自分の中であった伊丹に対するイメージか何かに決定的な罅が入り、雪崩の如く崩れ落ちる。そしてその崩れた瓦礫の上にレンジャー持ちと言う情報が乗っかった。

 

「そのマジ、あり得ないぃー勘弁してよぉー--!!!」

 

頭を抱えパタリと崩れ落ちた栗林。その様子を日本が理解できていないロゥリィとテュカはキョトンと見ていたが、日本語をマスターしつつあるレレイはレンジャーと言う概念に対し好奇心を爆発、そのまま栗林へ質問した。

 

「イタミがレンジャーというものを持ってては、いけない?」

「だってぇあの人のキャラじゃないのよ!」

 

それから語られるは美化度200パーセントオーバーなレンジャー像。だがその声色は昼間に見せた勇敢さと真逆な絶望感と悲鳴も混じってる風に感じられる嘆きのようだった。そしてその発言にレレイもわずかであるが頬をほころばせ、通訳した内容を聞いたテュカ、ロゥリィもコロコロと笑った。

 何故なら彼女達の中にある伊丹のイメージと、栗林の語るような精強なイメージとはどうしても合致しないからだ。彼はどちらかというと何時もぐうたらしていて暇さえあれば本を読み、暇が無くとも本を読みふけりながら虹像と語り合っている姿しか思い浮かばないからだ。実際過去に、彼女達は難民キャンプの傍らで伊丹と虹像が極めてどうでもいい事、キノコの形をしたお菓子とタケノコの形をしたお菓子の事で言い合ってるのを目撃していたからだ。

 

「でも事実。彼はレンジャー、ありとあらゆる分野に対して深く精通しており陸戦のスペシャリスト。日本政府内のデータではそうあった……まぁ、欺瞞情報だったが」

「……まさかハッキングとかしてませんよね?」

()()やってない」

 

富田は冗談半分な気持ちで発した発言が、まさかまさかのホームランヒットしていてやはりこの子達はSFの世界から来たんだなぁーなんて思った。

 

「えぇー、そろそろ行きますか?」

 

富田は先ほどのイオナの発言を聞かなかった事にして腰を上げる。どうやら楽しくお話ししている内に日は完全に落ちたらしい、辺りは完全な暗闇だ。

 

「ヒトキュウサンマル、理想的な時間帯」

 

富田に続いて起き上がったイオナの声に続き、他のみんなも立ち上がる。

 

「目標、捕らわれた伊丹耀司二等陸尉及び千早虹像艦長の救出。艦長が寂しさのあまり死んじゃう前に手早く行こう」

「……あの人は兎か何かなの?」

 

こうして昨夜の激戦に続き、第三偵察隊と外部協力者達は今宵も戦いへ赴く。潜入救出ミッションの幕開けだ……ま、そう言っても疲労困憊で陥落直後だったイタリカの警備はザルを超して無警戒だったがね。なのでテュカがパパっとやる気のない見張りを魔法で眠らせたり、イオナが気絶させた。その後、合図を送るとそれを確認した栗林達が門内へ乗り込んで行く、此処からは彼らの出番だ。

静かな夜の街で人の気配がないと言っても伯爵邸の中では流石に巡回の警備が存在する。普通に彼らと同程度の人物ならこの時点で難関な場所なのだろうが、まぁ現代科学の用いる自衛隊員たる彼らの前では敵ではない。昨夜の戦闘では出番が無かった個人用暗視装置を使えば、どんな暗闇の中であっても何処に誰が居るかは昼間のように確認できるのだから。なんならそれ無しでも裸眼?で確認できる少女もいるので問題ない。草木をかき分け、静かに建物まで進む。そして富田が鎧戸をこじ開け、中の板を壊す―――前にイオナがバリアでそれを消滅させると彼らは伯爵邸への侵入を成功させたのだった。

 




評価が下がってかなちい……頑張ってランキング入り、またしてみてぇなぁ。


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【23】

「んで、隊長達は何をしてる訳?」

 

 

「いけぇぇトウカイテイオー、差しきれぇぇ!!!」

「ビヤハヤヒデお前ならイケるッ、そのまま逃げ切れ!」

 

 ホルマル伯爵邸へと侵入した直後、それを察知して駆け付けたメイドの案内で伊丹達のいる部屋へ辿り着いた栗林達だったのだが……当の本人達は二人揃って携帯でアニメを見ていた。だからこそ、その様子を見た途端呆れた様子で栗林はそう呟く。

 

「FOOOOOO↑↑↑」

「WOOOOOOOOO!!!」

 

 だけども二人の興奮は相当なモノらしく、突入して来た自衛隊員達の事に気付かずまるで初めてエロ本を見る青年かの如く画面を食い入る様子には思わず助けに駆け付けた富田は二人の趣味嗜好を理解しているが正直引いた。そして親の影響で多少競馬を知っている為に、二人がどんなシーンを見ているか容易に想像出来て胸の中がちょっと熱くなった。奇跡の有馬、アレは……良いモノだ。

 

「イタミ様、グーゾー様、アレに夢中でカマってくれない……」

「ケンタウロス族の亜種……でしょうか?」

 

「隊長ォォォォォォ!!!」

 

 そしてその二人を忙しなく世話する髪がヘビなメイドさんとケモミミなメイドさんの姿を見て、倉田は嫉妬の炎を燃やす。何故なら彼は生粋のケモナーだからだ。自分は重い装備を身に着け、眠気の過る体調で暗闇の中コソコソと救出しに来たってのに当の本人は秋葉以上のクウォリティーを誇るメイドに囲まれアニメなんかを見ている。ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなバカ野郎! 羨ましい、羨ましい過ぎるぞぉぉ! っと血涙(比喩)を流した。ついでに彼の中にいたランサーは自害した。

 

「「ナイスなネイチャ、最高過ぎんだろFOOOOO!」」

 

 そんでもってライブシーンに移った画面。賑やかな音楽と共に容姿端麗なキャラクターが躍っている様は美しい。そして彼らは両者共有の推しキャラである子の投げキッスを食らい、そう言い残し興奮のあまり萌え死んだのだった。

 

「蘇生」

「カラミティ!?」「レイダー!?」「フォビデュン!??」

 

 直後駆け付けたイオナよる蘇生術(拳)は無事成功したのは語るまでもない。

 

「なんで俺まで拳骨なんですか!?」

「倉田も艦長と伊丹みたいになってたから」

 

 

 

 

 倉田は今猛烈に興奮し今感じている幸せを噛みしめ、この世の春を謳歌していた。

 これまで難民エルフ娘やゴスロリ神官、そしてクール無口系の魔法少女やSFから出て来たような兵器系美少女などなど……伊丹の好むタイプばかり現れていた。なので何時も倉田は内心「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなバカ野郎! 羨ましい、羨ましい過ぎるぞぉぉ!」っと先ほどと同じ感想を抱いていたのだが……到頭自身の好みのタイプの女性が現れ、嬉しさのあまり泣きそうになった。

 

「この腕や過去の治療歴に対しての説明を要求する」

「いやその、これには訳がありまして」

「説明」

「否応なき事情と言いますか何と言いますか」

()()

「……シャイ」

 

 フローリングの床に正座して、どう見ても年下の女の子に問い詰められながら浮気がバレた旦那のような雰囲気で涙を流す男もいるが……それは別に無視でいいだろう。触らぬ神に祟りなし、何をしたか分からないが馬に蹴られて死ね。ってな訳で彼は目の前の猫耳美人、ペルシアへと好意の感情を表にしながら楽し気に会話するのだった。

 

 他のメンバーはと言うと武闘派の栗林はヴォーリアバニーであるマーミアと妙に気が合ったようで話が弾み、傍から見ればガールズトークの如く雰囲気を醸し出している。まぁ、その内容は昨晩無双していた栗林をマーミアが褒めたたえるってな感じで何とも血生臭い話ではあったが。

 レレイはメデューサ種のアウレアに興味深々なのか観察したり、特徴的なウニョウニョと動くヘビの様な触手にも似た髪を指先で突っついたりとしていた。

 ロゥリィは、敬虔なエムロイ信徒らしい舞い上がった老メイドの推しに対してちょっと引いていた。珍しく怯えた表情も見せるほどだから相当なモノなんだろ。

 テュカはテュカでヒト種のメイドさんであるモームに身に纏っている日本製の衣服の事を尋ねられて、わかる範囲で衣服の着心地を答えていた。実はこの伸縮性優れる素材で出来た体のラインがくっきり浮き出る衣服のせいで中々体型維持に油断出来なくて困っているのは彼女だけの秘密である。

 そしてイオナの拷問の如き聴取により再度精魂尽き果て、真っ白に燃え尽きた虹像と同じく精神分析(拳)を受けた伊丹は富田達から状況の説明を受け、これからの対応を相談していたが……この和んだ空気に笑みが零れていた。

 

「なんだか和んじまったな」

「急いで脱出する必要も無さそうです」

「夜が明けたら残りのメンバー呼んで普通に正面から出ますか」

 

 のほほぉーんっとした空気(一人だけ精魂共に燃え尽きてます)。深夜だと言うのにお茶まで出るリラックス空間(一人だけ自分の今後に頭抱えてます)。

 

「ま、今夜は文化交流ってことで」

 

 まぁそんな雰囲気だったので誰も部屋に入って来たネグリジェ姿のボーゼス嬢の存在に気付くことが出来なかった。

 

「……」

 

 誰も彼女の存在に気付いていない。

 

「……」

 

 無視である。

 

「……」

 

 シカトである。

 

「……」

 

 ハッキリ言って現在真っ白に燃え尽きた虹像同様空気な扱いであった。

 

「……っく!」

 

 ピニャの命により、自身の犯した失敗の責任を取る為涙を落しながら覚悟を完了させて伊丹が寝ている寝室へと赴いた……が、無反応。帝国内にて有力貴族とされるパレスティー伯爵家の次女を無視である。この扱いはどうか? 良い度胸である。ボーゼス・コ・パレスティーという存在は、雑巾にすら劣ると言うのか? 

 別に誰もそのような事は言っていないのだが、ヒステリーとかピニャからの重圧やらストレスやらで内心追い詰められていた彼女の中ではこの状況をそう解釈してしまった。もちろん人それぞれだと思うがボーゼスは無視される事をその高いプライド故に絶対に許さない。腹の底から湧いて出るドロドロとした怒りに彼女は両手を震わせ、そしてそれは行動になって表れてしまった。

 

「え、ボーゼスさ──―!? 「復ァ────フリーダムッ!?」──―なッ、虹像ぉぉお!?」

 

 そしてその割を食ったのは白い灰から奇跡の復活した直後のバカだった。

 

※※※

 

「で、その傷は?」

「私がやりました……」

「ぁ"わぁー」

 

 あ、ピニャ様が声にならない声で嘆きながら頭を抱えていてらしゃる。ま、自分の部下の不祥事だしそうもなるか。

 ボーゼスに打たれた後、俺達はピニャ様の命により謁見の間と化した広間にて集められていた。

 

「大丈夫? グーゾ―」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 ぶっ壊れた義足はスーツと同じくイオナにナノってもらい修復してもらったので一応普通に歩けるようになったが、紛失した義手は見つからなかったらしいので俺の右腕は未だに袖がぷらーんだ。流石に右腕そのモノを修復するナノマテリアルの残りはなかったよ。

 そんでもって今の状況だが、額に大きな紅葉を作った俺を見てピニャ様が見ての通り嘆いてるって感じだな。

 

「この始末、どうつけよう……」

「いや、俺自身こんな事しょっちゅう遭ってるから別に大丈夫なんだけどなぁ」

「謝罪は既に受けている、気にする必要はない」

「本人もこう言っている訳ですし我々としては隊長達を連れて帰りますので。それについてはどうぞそちらで決めて下さい」

 

「勝手に決めてよいっと」

「それは困る!」

 

 レレイが通訳した内容をピニャ殿下へ伝えると彼女はまるで何かに弾かれたかの如く目を見開いた。な、なにが困るんすか? そちらで勝手に決めて良いと言ってるんだから何も困る事は無いと思うんだけど……ってか腹減ったなぁ。

 

「あぁそうだ! もうすぐ夜明けだ、どうせなら朝食なんかを一緒にどうだ?」

 

 焦る様子のピニャ様が朝食のお誘いをしたタイミングでどうやら俺の体はこれから飯の時間だと勘違いしたらしく胃袋がぐぅ~っと悲鳴をあげた。

 

「「「……」」」

 

「……ごめん、昨日から何も食べて無くって」

 

 広間に広がる何とも言えない空気。目線は揃って俺へと向けられ、正直恥ずかしい。けれど、その中でまるで希望を見出したかの如くピニャ様のお目目はキラキラと輝き出した。いや、俺も食べたいのはやまやまなんだけど正直アルヌスへと帰りたいってのが本音かなぁ。

 

「申し出は嬉しいのですが」

 

 お、倉田くんよ。気の利いた断わり文句でも思い付いたのかな? 

 

「実は伊丹隊長は国会から参考人招致がかかってまして」

「え、何。伊丹何かやべぇー事でもやったの?」

 

 思わず伊丹の方を見ると本人に心当たりが無いようで焦った表情でブンブンと左右に首を振っている。っとなると部下がやった事……何かあったかなぁ? 

 

「恐らく炎龍に襲われた難民達の件だ。難民達が襲われ、犠牲者が多数出た事には門の向こう側にも知られている。だからその事に関して招致がかかったのだろう」

「なるほどなぁ」

 

 ん? でも待てよイオナ……そうなると俺達にも招致がかかるはずじゃ? そう疑問に思った瞬間イオナが俺にしゃがめと合図。ちょっと中腰になった途端耳元で囁くようにイオナは語った。

 

「日本政府はどうやら私達に関する情報は他国には伏せていたいらしい。恐らくギリギリまで他国には隠して外交におけるすべてをひっくり返すジョーカーとしておきたいのだろう」

「なるほどなぁ」

 

 前の世界でも霧の技術を狙って国ぐるみでイオナを囲おうとした事は何度かあった。まぁその時は運び屋紛いの事をやって資金を調達してた頃だからほとんどが実力行使によるものだけど……今回は外交のカードかぁ。

 

「俺達、って言うよりイオナ達霧の力を将来的には我が物にする腹積もりかな?」

 

 ま、そんな事は冗談でもさせねーけどな。

 日本政府が誠意ある対応をしてくれるならある程度は俺も協力するつもりはあるけど……流石に彼女達は渡せないなぁ。彼女達霧の力は俺達人類にとってはパンドラの箱だ。無機質な物から生物にも変化できるナノマテリアル……これを異質と言わなくて何をいう。確かに彼女らの力が手に入ったら人類にとって大きな進歩には成るだろう、化学式から生物学までありとあらゆる分野に革命が起きるほどに。その証拠に何度か死にかけた俺がいるんだからな。けれど、この技術は人類の進歩と同時に大きな争いの火種にもなりかねない。昔海洋学校に通っていた頃に誰かがこう言っていたのを偶然耳にした。【行き過ぎた科学は人類の滅びを招きかねない】その当時はそんな訳ないって鼻で笑ってたが、実際に彼女達の力を俺の意志で振るえるようになってその言葉がドンピシャで笑えなかったものだ。だからこそ門の向こう側にいる日本政府がどのような手段であれ、彼女達を狙おうものなら……

 

「げ、元老院ッ!?」

 

 おっと目の前のピニャ様を忘れてた。レレイの通訳、っと言っても彼女のなりの解釈を加えた内容を伝えたところ表情が激変。それはもう、見事過ぎるムンクの叫びだった。あー、携帯のカメラでパシャリといきたいけど流石に失礼だよなぁ。なんて他人事のように考えたからだろう。

 

「あ、そういえば千早さんも別件で国会に呼び出されてますよ」

 

 追加で言い渡される倉田の発言に俺も同様、ムンクの叫びをあげる事となった。




ヘイヘイ 久しぶりに筆が進むぅー


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【24】

 何故か俺までもが国会に招致が掛かり、面倒だと感じていたらまたもどういう事かピニャ殿下がイタリカへと同行すると言う状態になった。

 俺が呼び出される理由は思い当たりが多すぎて分からないが、彼女の語る言い分には納得させられた。確かに組織同士のトラブルに対する謝罪は重要な内容程組織の上の者が当たるべきだよな……今回に至っては結んだ直後の協約破りだし、司令官であるピニャ様が当事者であるボーゼスさんと謝罪に来るのは納得だな。

 

 ってな訳で伯爵家の前に停められた三台の車両。荷物を積み込み、乗り込むと俺達はイタリカへの帰路につく……だが、物事はそう上手く行かなかった。全く面倒な事にな。

 

「イタミ」

「なんですかイオナさん」

 

 車両がイタリカから出て少しした頃、俺の横に座っていたイオナが突然立ち上がり運転席の方へ移動した。そして珍しく伊丹へ話しかけ始める。

 

「全車停車を提案、敵が来た」

「!?」

 

 オイオイマジですかい。イオナの発言を受け伊丹は胸に装備する無線へと手を伸ばす。

 

【全車停止、イオナさん曰くお客さんが来たらしい】

 

 ボーゼスさん達と出会った時と違い車はゆっくりと停車。その後伊丹と倉田は首に下げた双眼鏡を手に取ると周りを確認し始めた。

 

「倉田、確認できません」

「黒川、確認できません!」

【富田、確認できません】

【栗林、確認できません。何かの間違いじゃないですか?】

 

 俺も自前の双眼鏡で辺りを確認してみるが確かに人影一つ見えない、見えるのは緩やかな丘に生える青々とした草原のみだ。

「」

 

「目標一時の方向、距離にして約5キロ」

 

 イオナの発言を受けて指を指す方向へと目線を向けて双眼鏡の倍率をあげる。だが見えるのはやはり遠くに広がる丘と草原ばかり。何となくそのまましていると、何かが視界に映る。

 人だ、人の集団だ。土煙をあげながら幾人もの人の雪崩が迫って来るのが見えてしまった。

 

「全車全速後退! イタリカまで引き返せ!!!」

 

 伊丹の指示で道を外れUターンした車列は即座にイタリカへと引き返す。その途中伊丹はイタリカの司令部へと救援を要請するが難しそうだ。一番足の速いはずの前に来てくれた401中隊でも最低30分はかかるらしいので間に合わないだろう。そう判断したんだろう伊丹は各員に武器を持たせ、部隊を二つの班に分けた。イタリカの住民に逃げるように勧告し、逃がす班と門で敵を足止めするある意味囮となる班だ。その命令を下す伊丹の顔色は決していいものとは言えない。まぁ自分の部下に死ねって言ってるもんだからね。

 俺は一応戦える人間なので囮となる班に志願したけど、伊丹は俺は客人だからと逃がそうとしてくる。まぁあの数だったら何処に逃げても一緒だろうけどね。そう考えた俺は伊丹の呼びかけを無視して門の上へと足を向けた。そしてそこには外交用にだろう豪華な装飾が施された衣服に身を包むピニャ様とボーゼスさんがいた。けれど二人の顔色は決して良く無く、多分だけど今の状況を段々と理解したんだろうな。

 

「ピニャ殿下」

「な、なんだ」

 

 ヘロヘロとその場で座り込む彼女。その顔に浮かんでるのは前の世界でよく見たすべてを諦め、絶望したような表情。止めてくださいその顔、美人な顔が台無しじゃないですか。それが面白くない俺はちゃっちゃと面倒事をかたずける事にした。

 

「あの場所って、吹き飛ばしても問題ない場所?」

「へ?」

 

 丁度良く敵集団が攻めて来るは多数の田畑の広がる平野。芝生は確かに貴重なモノだが、それは俺の世界での話。この世界ではありふれたモノだろ。

 

「いやね────ちょぉーっと出発前にあの集団を掃除しようと思って」

 

 横にいたイオナの手を握り締め、奴らを見る。さぁーって始めるか、デッカイ花火を打ち上げる準備をな。

 

※※※

 

 イタリカ街を囲む城壁。そのうえから見える景色は本来美しい平原のそれであるのだが……実際に見てみると眼前に広がるは無数の数を誇る鉄の騎兵。遠目であってもハッキリとその数は昨晩命懸けで自衛隊と協力して殲滅した敵と比べ圧倒的に多数だと分かる。あの軍団が攻め込んできた場合、応援として駆け付けて来てくれた薔薇騎士団の協力あってもあの数相手では奮戦虚しくこの城塞都市は簡単に陥落するだろう。そう考えへと至ったピニャは心の底からの絶望を感じてた。

 

 だが、その時────

 

「仕方ない。やるか、イオナ」

「ガッテン、虹像」

 

 ────予想外の人物の声が聞こえる。ピニャの前に突如現れたのはピニャ自身の不手際で鼻を怪我させ、ボーゼスの暴行により腕を無くしその頬に真っ赤な手跡を残す男とグレイが恐らく亜神と言っていた不可思議な少女。鉄の天馬などの活躍や伊丹達への暴行事件など様々なトラブルによって記憶の中から途方彼方へと行き、彼らの存在は忘れていたが何故このタイミングでこのような者達が……

 そう思うがピニャの目には何故か今、目の前に立つ二人は最初に出会った時とは違い死神ロゥリィにも似た圧倒的な強者のオーラを放っているように映った。

 

「艦長権限により機能制限解除。拘束具を脱ぎ去れ」

「艦長権限によりセーフティーロック解除、次元ポケットより全パーツを召喚。船体とパーツとの合体……完了。アルス・ノヴァモード実行」

 

 目の前に立つイオナの体が眩しいほどの光に包まれ、やがてはそれは収まり、そして真っ白なドレス姿の彼女が姿を現す。

 

「さぁ相棒、異世界にお前の存在を刻み付けてやろう」

 

 彼のその言葉と同時に────町全体を包み込むほどの輪を頭の上から展開された。その輪には様々な言語の計算式が浮かび、そのどれもが人間には到底行えない膨大な演算。そしてそのすべてはただ一つの目的に対しての演算でもあった。

 

「対地射撃よーい。主砲、弾種徹甲」

【主砲一番から三番、副砲一番二番徹甲弾装填。警告します、これより本艦は艦砲射撃に移ります。本艦の近くいる自衛隊及び現地人は対ショック姿勢を取り、衝撃から身を守ってください。砲塔旋回完了。発射角、座標計算完了】

「虹像、いつでも撃てる」

 

 イオナとは違うもう一つの女性の声。その声に彼は懐かしそうな表情を浮かべながらも彼は片手を上げ────

 

「撃て」

 

 ────それを、振り下ろす。

 

「さぁってピニャ殿下。これよりご覧頂くのは私と彼女の持つ力の単なる一片。そして文明を滅ぼしえる神罰の一撃」

 

 彼はそう言って振り返り、イオナに驚くピニャへそう言葉をかける。しかし当の本人は彼のその様子に言葉を失っていた。それもそのはず、常識外の状況であるにも関わらず彼は普段と変わらない様子で笑みすら浮かべていたのだから。 

 

 遠くに見えるは無数の軍勢、数にして約2万。イタリカへ攻め込む賊軍と化した敗残兵達の本体。その上空に一瞬何かが、高速で落ちるのが目に入った。瞬間それは地面へと吸い込まれそして────爆発する。

 衝撃の後に聞こえるは轟音と化した爆発音。強固な城壁すら一部崩壊させるほどの威力を持つそれは見る者を圧倒し、そして空高く飛ぶヘリに搭乗する自衛官を唖然とさせる。自衛官の彼は知っていたのだ、コレがアルヌスの丘から放たれた艦砲射撃の結果なのだと。煙が張れた後に見えるのは複数のクレーター、数にして十八。着弾地点には何も無く、すべてが蒸発。それに例外は無く生き残りは見られない。一瞬で2万もの軍勢を滅ぼした一撃は思わず神の御業かとピニャは思ったが目の前の彼は語っていた。コレは自身の持つ力の一片なんだと。

 

「……状況終了」

「ささ、さっさとイタリカへ帰りましょ」

 

 これにて突如として発生した第二次イタリカ攻防戦は終わりを告げる。後に残ったのはなんでもないかの如くそそくさと機動車へ向かい、乗り込む虹像とイオナ。そしてその遥か彼方の草原だった場所に新に焼け付いた現実離れした高温に熱せられた複数のクレーターのみだった。

 




疲れたぁ


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【掲示板1】

 

あるネット掲示板。様々な事に対しての板が無数に作成される中よく話題に上がるのは日本の銀座に突如として開いた異世界、つまりは特地に足してだった。

 


 

【特地について語るスレpart290】

 

1:名無しの異世界人

ここは銀座に突如現れた謎の建造物である門の先、特地について語るスレッドです。

無関係な話題はNG、荒らしは即退場。全てのスレ民は節度を守って思い思いの事を書きましょう。

銀座事件に関しての話題は専用スレッドがあるのでそちらでどうぞ→https:―――――(銀座事件について語るスレpart1112)

 

 

2:名無しの異世界人

スレ建て乙 やっと平和になった。

 

3:名無しの異世界人

荒らし達が全て他のスレに分散してくれたのがデカいな

 

4:名無しの異世界人

仕方ない。あの事件で大勢の人が犠牲になったからなぁ……

 

5:名無しの異世界人

悲報、俺氏ドラゴン×馬車の同人誌を買いに行ってドラゴンに襲われ、馬車に轢かれかける。

 

6:名無しの異世界人

>>5

それはお前の性癖が悪い

 

7:名無しの異世界人

>>5

性癖の対象に殺されかけてて草

 

8:名無しの異世界人

スレチだから別の場所で語ってくれませんかね?

 

9:名無しの異世界人

https:―――――(ドラゴン×馬車について語るスレpart200)

 

10:名無しの異世界人

>>9

地獄みたいなスレッドだなw

 

11:名無しの異世界人

それにしても政府の情報統制って一部を除いて徹底してるよな。

 

12:名無しの異世界人

>>11

分かる

 

13:名無しの異世界人

殆ど情報が漏れないから既に出現から半年は経ってるはずなのに俺達の知ってる情報は政府からの公式発表で出したモノぐらいだもんな。

 

14:名無しの異世界人

その中でも漏らしてる強者は居るんですけどネ……ホント何なんだあの姉貴。

 

15:名無しの異世界人

>>14

分かる。大いなる和姉貴は強者だ。

 

16:名無しの異世界人

>>15

でもその強者のせいで政治界は大荒れなんだよなぁ

 

17:名無しの異世界人

それにしても民間人の犠牲者が百三十人以上……自衛隊は一体ナニと戦ってるんだろうなぁ

 

18:名無しの異世界人

ノ(ドラゴン)

 

19:名無しの異世界人

ノ(ゴブリン)

 

20:名無しの異世界人

ノ(オーク)

 

21:名無しの異世界人

ノ(くっ殺女騎士)

 

22:名無しの異世界人

>>21

欲望漏れてる漏れてる

 

23:名無しの異世界人

でも中世の騎士ってのは合ってんだよなぁ

 

24:名無しの異世界人

時代錯誤の鎧騎士にまるでスパルタンの如き大盾

 

25:名無しの異世界人

どう見ても野蛮人なんだよなぁ

 

26:名無しの異世界人

せめて魔法が欲しかった

 

27:名無しの異世界人

>>26

魔法使いでええんやで

 

28:名無しの異世界人

>>26

魔術師もアリや

 

29:名無しの異世界人

>>26

そこは遭えて陰陽師!

 

30:名無しの異世界人

>>26>>30 

悪霊退散!悪霊退散!

 

31:名無しの異世界人

懐かしい

 

32:名無しの異世界人

あの頃は良かったよなぁ

 

33:大いなる和

誰か呼んだ?

 

34:名無しの異世界人

ファ!?

 

35:名無しの異世界人

大いなる和姉貴や!大いなる和姉貴が現れたぞぉぉ!!!

 

36:名無しの異世界人

毎度の如く特地に関する情報をリークしてその度に日本政府を混沌の渦に落とすカオス……その実績はあえて語るまい。

・陸上自衛隊と万を超す大軍とのガチンコバトル

・炎龍と呼ばれる巨大ドラゴンと自衛隊との戦闘。そしてエッグイ数の犠牲者。

・疲弊した要塞都市へ救出に駆け付けた結果大規模戦闘に巻き込まれる自衛隊。そしてまたもエッグイ数の犠牲者

 

今回はどんな話が飛び出してくるんでしょうか!

 

37:名無しの異世界人

>>36

説明乙

 

38:名無しの異世界人

何時もながら説明ニキは語るまいと言いながら語ってんだよなぁ

 

39:名無しの異世界人

(多分説明ニキは大いなる和姉貴のファンなんでしょう)

 

40:名無しの異世界人

(なるほどなぁ)

 

41:名無しの異世界人

(ファミチキください)

 

42:名無しの異世界人

(コイツ、直接脳内に!?)

 

43:大いなる和

私の事無視してくれちゃって……折角今回もたんまりと情報持って来たのよぉ。皆、聞きたくないの?

 

44:名無しの異世界人

聞きたいデス

 

45:名無しの異世界人

聞かせてください

 

46:名無しの異世界人

全裸待機してました

 

47:名無しの異世界人

>>46

服着て、どうぞ

 

48:名無しの異世界人

よろしい。実はね、今回はこんな写真を撮って来たのよぉ~

【特地避難キャンプの横に設置されているイ401の船体】

 

49:名無しの異世界人

……ファ!?

 

50:名無しの異世界人

潜水艦、だと!?

 

51:名無しの異世界人

ファンタジー世界に突如として差し込まれる、咽返るようなミリタリー

 

52:みりたりぃ

ほほぉ、所々違いは有りますがコレは旧日本海軍が開発した伊号四百型ですね。

 

53:名無しの異世界人

な!? そのコテハンはミリタリー掲示板には必ずいる妖精!? 何故このスレッドに……

 

54:名無しの異世界人

>>53

この人有名なん?

 

55:名無しの異世界人

>>54

ミリタリー界隈では知らぬ者は居ないと呼ばれる人間wikiさんや。ミリタリーに関する事ならこの人に聞く方がネットで調べるより早いぞ

ついでにこの人はCGとか映像加工を直ぐに見破る眼力を持つヤベェ―人でもあるぞ。ちなみに的中率は今の所100パーセントだ

 

56:みりたりぃ

細かいデテールや艦底部の形に違いはありますが間違いなく失われた幻の巨大潜水空母……コレが特地の地にあるとは興味深いですね。

 

57:大いなる和

そーなの! 私も見付けた時はビックリしちゃった。それに加え乗ってる子が、ねぇ

 

58:名無しの異世界人

>>57

kwsk

 

59:名無しの異世界人

>>57

kwsk

 

60:名無しの異世界人

>>57

kwsk

 

61:名無しの異世界人

>>58>>59>>60

早く聞きたいのは分かるがまずは落ち着け。落ち着いてまずは服を脱いでだな――――

 

62:名無しの異世界人

>>61

そのまま全裸待機ですね、わかりません

 

63:大いなる和

あまり全裸全裸と言っていたら写真あげないわよー

 

64:名無しの異世界人

>>63

服を着ました

 

65:名無しの異世界人

>>63

ズボンを履きました

 

66:名無しの異世界人

>>63

パンツを被りました

 

67:名無しの異世界人

>>66

1人やべぇ奴混じってるなw

 

68:名無しの異世界人

カモンカモンカモン姉貴

 

69:名無しの異世界人

早くアップしてよぉ~

 

70:名無しの異世界人

ちくわ大明神

 

71:大いなる和

>>70

なんだ今の

 

ひとまずこの写真をどばぁー

【船体を背景にカメラに向かってキラン☆ポーズしているイオナと写真の隅に申し訳程度に写る虹像】

 

72:名無しの異世界人

美少女ktkr‼

 

73:名無しの異世界人

何やこの美人さんは!

 

74:名無しの異世界人

朗報、俺氏初めての一目惚れを経験する

 

75:名無しの異世界人

>>74

IDを見るにドラゴン馬車アニキ、まだおったんか

 

76:名無しの異世界人

何故特地にこんな滅多にお目にかかれないような現実離れした美少女が!?

 

77:名無しの異世界人

現地人はレベルが高いとちょくちょく出される情報を見て前々から思っていたが、まさかこれほどとは……

 

78:名無しの異世界人

やっぱり異世界ってすげぇー

 

79:名無しの異世界人

ん? まてよ、確か姉貴はひとまずと言ったな。つまりは続報がまだあるのか?

 

80:大いなる和

>>79

ピンポーン正解。ってことで次もドンッ!

【401の船体を背景にカメラに向かってカンフーポーズをとる400と写真の隅に写るお鍋を被った虹像とその後ろに突如落ちて来るイオナ】

 

 

81:名無しの異世界人

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

82:名無しの異世界人

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

83:名無しの異世界人

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

84:名無しの異世界人

盛り上がってまいりました!

 

85:名無しの異世界人

ってかノリノリで中華コスでカンフーポーズ取ってて可愛い

 

86:名無しの異世界人

俺的には一枚目の子が好みだな

 

87:大いなる和

そんな貴方にはこちらをドゴンッ!

【401を背景にカメラに向かってカワイイポーズをとる402と写真の隅に写るイオナに顔面を蹴られ、頭にかぶったお鍋が凹むほどの衝撃を受けた結果ぶっ飛んでフェイドアウトしてる途中の虹像】

 

88:名無しの異世界人

カワ(・∀・)イイ!!

 

89:名無しの異世界人

なに、この、ゴシックドレスがヤケに似合う女の子わ

 

90:名無しの異世界人

でも何故かお母さん的なオーラも感じるんだよぁ

 

91:名無しの異世界人

分かる、何故かママ味を感じる

 

92:名無しの異世界人

あの子は私の母になってくれるかもしれない女性なんだ!

 

93:名無しの異世界人

>>92

ロリコン総督ことシャア―かな?

 

94:名無しの異世界人

可愛い子が多すぎる……なんや特地ってレベルの高い秋葉かなにかかよ……

 

95:名無しの異世界人

現地に派遣になった自衛隊が羨まっすぎるぅぅぅ!!!

 

96:名無しの異世界人

俺も自衛隊にいけばよかったなぁ

 

97:名無しの異世界人

尚、特地に派遣された場合はドラゴンなどのファンタジーなやべーやつらとの戦闘を科せられる模様

 

98:名無しの異世界人

>>97

致命的過ぎる

 

99:名無しの異世界人

ってかよく見たらこの子達もしや姉妹?

 

100:名無しの異世界人

三姉妹か!

 

101:名無しの異世界人

三姉妹丼……夢が広がるなぁ

 

102:大いなる和

三姉妹ドン? ってのは分からないけど>>99、その考えは正解よ

【401を背景に三人並びそろってカメラに向かってジョジョ立ちをするイオナと400、402。そして写真の隅でぶっ倒れ、伊丹に回収されている虹像】

 

103:名無しの異世界人

何故ジョジョ立ちwww

 

104:名無しの異世界人

コレからこの子達はエジプト行きなのかな?

 

105:名無しの異世界人

無駄にキマってるのが微妙に腹立つwww

 

106:名無しの異世界人

でもドヤってる顔が可愛いので問題ナッシングです

 

107:名無しの異世界人

>>106

分かる

 

108:名無しの異世界人

それにしても毎度の如く隅っこに写るあの男の人は何なんだろ?

 

109:名無しの異世界人

>>108

男なんてシラネ

 

110:名無しの異世界人

>>108

亡霊か何かでしょ

 

111:名無しの異世界人

あ、そういえばこんな映像もあるんだった。

【変形映像と砲撃映像、そして】

 

112:名無しの異世界人

どんな美少しょファ!?

 

113:名無しの異世界人

潜水艦が変、形?!

 

114:名無しの異世界人

世界観変わりすぎぃぃぃ!!!

 

115:みりたりぃ

戦艦大和にも近い形状……CGではないようですし一体コレは

 

116:名無しの異世界人

美少女から突然のSF、高低差があり過ぎて耳キーンってなるわ

 

117:名無しの異世界人

わわ、アレを見てたと思われる自衛隊員さんがてんやわんやしてやがる

 

118:名無しの異世界人

それもそっか、突然の事態のようだからな。いくら自衛隊の人でも対応できるはず無いか

 

119:名無しの異世界人

ってかコレがCGじゃないってホントか?

 

120:名無しの異世界人

>>119

ミリタリーの妖精は嘘つかない。つまりはこの光景は現実だと言う事だ。

 

121:名無しの異世界人

しっかし綺麗な装甲だなぁ……真っ青から真っ白かよ

 

122:名無しの異世界人

色すらも激変だな

 

123:名無しの異世界人

んで、変形が終わった元潜水艦はそのまま砲塔を回し

 

124:名無しの異世界人

仰角を調整し固定させて

 

125:名無しの異世界人

砲を発射!

 

126:名無しの異世界人

そんでもってその砲弾が―――――あ

 

127:名無しの異世界人

 

 

128:名無しの異世界人

 

 

129:名無しの異世界人

 

 

130:名無しの異世界人

 

 

131:名無しの異世界人

 

 

132:名無しの異世界人

 

 

133:名無しの異世界人

 

 

134:名無しの異世界人

 

 

135:名無しの異世界人

 

 

136:名無しの異世界人

ちんもくのおおいいんたぁねっつですね

 

 


 

「うんー すこしやり過ぎちゃったかしら?」

 

パソコンをカタカタと動かす謎の人物。彼女がネット掲示板に投降した内容は一気に広まった結果政界などを動かし、そして現政権に不満のあり荒探しをしていた政治家達を奮い立たせた。公開から数時間しかたっていないのにもかかわらずテレビでは特集が組まれ、全て彼女達の正体に迫る内容ばかりだ。

 

「でもいっか、これも後々にあの子達の為になるんだし問題なぁーっし」

 

謎の存在によって露わになってしまった虹像達……これから彼らがどうなっていくかは誰にも分からない。だが、その様子を微笑みながら見ている存在は確かに存在していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミツケタ

 

 

 

 




掲示板形式は読むのは好きだけど書くのは苦手だから二度と書きたくないぃぃぃぃってか誰かに書いてほしいぐらいだぁぁぁぁ


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雪景色に浮かぶ黒い雷鳴【東京湾防衛戦】
【25】


お待たせしました! 新刊の23巻が楽しみ過ぎて投降をサボってましたぁぁぁあ!!
ってかロリコンゴウ可愛いい。


 雪降る季節の東京。銀色の景色が広がる空の元、突如として海面にて刹那に輝く漆黒の雷鳴がその開戦の合図だった。

 

「敵艦主砲発射」

「イオナ、ダウントリム最大で急速潜航。潜れッ!」

「仰角マイナス三十、キュウソクセンコー」

 

 俺の指示に従って船体を操るイオナ。鉄の軋む音が全体に響き渡ると同時にイオナ自身である船体の仰角が変化、手前に大きく傾き始めた。重力に釣られて体も傾き被っていた帽子がズレ落ちそうにもなるが落ちる前にその鍔を掴み深々と被り直す。同時にまるで地震に遭遇したかのような揺れを体全体で感じとれる。そして彼らしくも無い鋭い目つきで見つめるは自身が置かれた戦場をほぼ全て映し出されているメインモニターだ。

 

「第一射回避成功。先行させていたアクティブデコイからデータに基づきランダム回避運動を開始。同時に5番6番のアクティブデコイ、発射」

「やっぱり外敵である俺達に対して攻撃して来るよなぁ……」

 

 二つほど信号の増えたモニター、そこには味方を表す青の光と敵を表す赤の光が入り乱れ複雑に絡み合っている。その他にも様々な情報が表示され続けるが俺が注目するのは巨大な赤マークで記された一点のみ。

 

「400」

「重力子エンジン安定稼働中、強制波動装甲へ出力伝達良好。クラインフィールド展開可能だ」

「402」

「1から4番通常魚雷装填、残りはアクティブ魚雷を装填済みだ。既にコードは入力済み、何時でも発射が可能」

 

 家族のように過ごしてきたクルーでは無いが腕は確かであるメンタルモデルである二人の姉妹。その二人がサポートに着いてくれるのなら初めて戦うある意味庭しのようなホームグラウンドである横須賀近海での戦いは問題無く行えるだろうが相手をする敵艦の数は自軍よりも多い。だからと言って一隻でも逃せば最終防衛ラインとして出張っている俺達は意味を成さなくなり、遥か後方にある東京湾に入られると周辺に広がる街に確実に被害が出てしまう。だが、そんな劣勢な状況下だってのに俺は何故か胸の奥はワクワクとしていた。

 

「イオナ」

 

 けど、同時に不安も感じている。

 元の世界で最初の扱いはテロリスト紛いや闇で物資を運ぶ配達人。それがいつの間にやら世界の希望なんかを運ぶ羽目になり、最終的には霧の親玉を打ち取って恐らくだが世界を救う事となった俺達……だけども、それはあくまでも元の世界の話だ。この世界において俺達でしか相手する事が叶わない脅威を前に自国を防衛する為正しく脅威を理解出来ていない自衛隊員が出しゃばった真似をしないか心配だからだ。

 

「艦長、大丈夫だ」

 

 だからだろう。そんな様子を見かねか何時もよりニッコリと笑うイオナが声をかけて来たのは。

 

「自衛隊の艦艇や航空機は全てハッキングして動けないよにしてある。私達が負けない限り間違っても彼らに犠牲者が出ることはない。なに、いつも道理の戦闘だいつも道理に勝とう」

「……だな」

 

 確かにいつも道理の状況だ。そう思えて俺は思わず自覚できるぐらいには笑みを浮かべる。でもまさか回り回って別世界とは言えまたも数多くの誰かの命を守る為戦う羽目になるだなんて思っても見なかったぜ。

 

「そんじゃ()()()()()()戦、頑張ってやっていきましょうか」

 

 俺はモニターに映る謎の巨大戦艦を前にそう何時ものように言い放った。

 何故このような事態になったのか、何故別世界の海にて戦闘を行う事になったか……今更ではあるがそれを語るには別世界であるこの世界に降り立った日である5日前まで遡る必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達……っというよりは俺を含めた現イ401クルーは国会への招集に従いテュカやレレイ、ロォリィの特地で知り合った三人組や何故か謝罪したいと同行して来た帝国第三皇女ピニャコラーダ殿下と騎士ボーゼスさんの二名と一緒に気が知れた第三偵察隊の同行の元、門を潜った先にある日本へと訪れていた。

 そんで門を潜った俺達だったんだけど……その先には俺も見たことも無い、まるで夢幻かのような光景が広がっていた。

 一面雪による銀世界。前の世界では温暖化によって滅多に見られなくなったそれは右を見ても左を見ても立ち並ぶ俺達にとってかなり古い作りのビル群を覆いつくし、俺の世界では既に海中へと姿を隠していた銀座の街を幻想のような風景へと変化させていた。

 そんな光景を眼前に唖然として呆然と立ち尽くす特地出身の五人とそんな風景をお手製のナノったカメラにて記録している400と402。そしてそれとは別に俺は歴史の教科書の中に入ったかのような錯覚に陥っていた。そして脳裏に浮かんだ感想はと言うと────

 

「あ、フランクフルト食べたい」

 

 ────何となくフランクフルトが食べたかったのだ。

 

「いや虹像どんな感想だよ、ソレ」

 

 そんな俺の様子を横で警備所で手続きを行っている伊丹があきれ顔を浮かべながら突っ込んできやがった。いやぁー今日は朝食を抜いてるので思わず、な? 

 

「グーゾ―。今はカロリーバーしかないが、食べて」

「ありがとイオナ……ってストロベリーか、美味いけどイマイチなんだよなぁ。まぁもらえるだけありがたいから別にいいが……ってかトレンチコート着てるのに割と寒いな」

 

 温暖化育ちの俺にはこの寒さは答えるぜ、何て考えながら手続きを終えイオナから受け取ったカロリーバーをもそもそと食べていると俺達へ話しかける者がいた。

 

「ッフ……伊丹二尉、ですね」

 

 まぁ俺達ってよりは伊丹へだったけども。それはともかく、彼らの見た目は俺の経験から言うに"いかにも"って感じの黒服集団。どうやら俺達へ話しかけた来た人物はそのちょっと怪しげな仕事をしていそうな男達の代表者らしき人物のようで、一見するに彼の姿は何処にでもいそうな中年のおじさんのようだった。まぁその身から滲み出る怪しさは隠せれ手無いけどね……夜中に出会ったら俺は悲鳴をあげる自信があるぞ。

 

「えっと何方様で?」

「情報本部から来ました駒門です。皆さまのエスコートを仰せつかっております」

 

 情報部……うん、名前からそのまま読み取るに日本版CIA(アメリカ中央情報局)とかMI6(イギリス秘密情報部)SVR(ロシア対外情報庁)みたいな組織かな? そんな彼の浮かべる笑みは確かに愛想の良い笑みではあるがその目はオレがロシアで相手した工作員と似たり寄ったりな感じで鋭く、全く笑っていない。それほどの切れ味を持った雰囲気を醸し出せるって事は相当な修羅場を潜ってるって証拠だろうし、相当の手練れだね。

 

「おたく……ホントに自衛隊員? どちらかと言えば公安の人じゃない?」

「フフフフッ、やはりわかりますか?」

「アンタほどこわぁーい雰囲気な人は生粋の自衛隊員で生まれる訳ないしね」

 

 二人の会話に付いて行けず俺はストロベリー味のバーをもそもそと頬張る。すると駒門と名乗った人物は先ほど浮かべた笑みとはまたジャンルの違う笑みを二ヤリと浮かべ俺とイオナを空気に話を続ける。

 

「流石は二重橋の英雄……ただモノじゃないね」

 

 伊丹はその返しが気に入らなかったのか偶々とぶっきらぼうに答えるけれど、二ヤリと浮かべる彼はそれすらもお見通しかのようにコートの内ポケットから黒革の手帳を取り出す。

 

「アンタの経歴、調べさせてもらったよ」

「何も無かったでしょ?」

「そうでもないね、結構楽しませてもらったよ」

 

 そして駒門が語るは伊丹の概略。俺も伊丹の横に居るから一緒に聞く填めになるんだけども……正直な感想伊丹はお世辞にも優秀とは言えないように感じられた。けれど何処となく程よく手を抜き優秀な生徒が普通を演じる、そんな杏平にも似た何を感じさせるモノだった。

 

「よく調べてるなぁ……」

 

 そんな彼のリサーチ能力に伊丹はあきれ顔で頭をカリカリと掻き始める。

 

「フフフ、そんなアンタの部隊内評価()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っとコテンパンだね」

 

 そう言ってハハハッっと笑い出すけど、俺は気が気じゃなかった。だって俺も海洋学校に通ってた頃メッキの千早って言われてたからさ。だからそう評価される辛さがわか────あ、なんか別に気にして無さそうな顔してる。伊丹って俺と同じオタクなのにメンタル鋼かな? 

 

「……そんなあんたが、何で()なんぞに」

 

「え、えぇぇぇぇぇ!????」

 

 伊丹が肩を竦めた瞬間、何故か栗林の悲鳴が響き渡った……え、どうしたのさ一体。

 何か何かと栗林の元へイオナと共に駆け付ける。え? 何でさん付けじゃないかだって? ちょっと門を潜る前に彼女とはOTOMODATIになれたからさ。

 ってのは置いといて様子を見てみると彼女はまるで何か見たくも無いモノを見たかのような表情をしながら頭を抱えたかと思うとビクビクと体を震わせブツブツ何かを呟く。呟き終わったかと思うと直後、突如狂った笑いを上げ始めた。え、何この人怖ッ! 

 

「特殊作戦群、通称特戦群。高度な訓練を受けた()()な自衛隊員しか入隊を許されず、任務内も極秘な特殊部隊の事だ」

「えっとつまり?」

「伊丹のキャラとは合っていない。恐らくだが栗林はこれまで自身の中にあった伊丹に対するイメージと現実とでの乖離性を受け止め切れていないのだと思われる。前にもあった事だ、問題無い」

「つまりは伊丹のギャップが栗林には受け止め切れない事だったのか……ってか前にもあったんかい」

 

 へぇーっとイオナの説明に納得と前にもこんな事があったのかっと疑問に思っていた所再度ッフフフっと駒門の笑い声が響く。

 

「へぇ~貴方が噂の謎の美少女Aさんですか」

 

「ほぉ、っとなるとご存じではないようですね」

 

 そして見せられた携帯の画面には確かにイオナの姿があった。ってかこれって倉田がノリで撮った写真じゃね? アイツの性格的に誰かに送る訳も無いだろうし何でそんな写真をこの人が……

 

「……この写真、何処で手に入れた」

 

 シリアスとした雰囲気でイオナが駒門を見つめる。そんな様子に彼は何を感じたのか更に笑みを深め、話を続けた。

 

「いやなに、コレはネットで運営されているある匿名掲示板にアップされたものでね。オリジナルの投稿は日本政府の要請によって既に削除されているが、コピーがそこら中に出回ってて……今では下手な有名人よりも君達は有名じゃないかな?」

 

 直後イオナの周りに幾何学模様が浮かび上がらせる。その様子に駒門や後ろの黒服達は驚いて、腰に手をやっているようだったけれどそんな事はお構いなしと処理を終え、彼女はその光を収めた。

 

「……確認した。確かに私達3人の写真がネットワーク上に無数にコピーが出回ってるようだ」

 

 マジか。こちらを振り返り告げられたイオナの言葉。その事を含め考えるにこれから先銀座での行動が難しくなると直感的に考えた付いた俺は、何かしらの打開策が無いか考え始める……けれど、イオナの報告はそれだけでは終わらない。

 

「更に艦長、困った事になった」

「一体どうしたんだ? 改まって」

「どうやら何者かの手によってネットワーク上に変形中の船体映像がネットに流出したようだ」

 

「……は?」

 

 正直言うにこの時のイオナが何を言っているのか、俺は全くもって理解できなかったのだった。




銀座編、スタートです。


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【26】

3000字を目途に書いてるけど中々絞り出せないもんだねぇ。


 

※※※

 

「ど、どうしよう。マジでどうしよう……」

「嘘よ、誰か嘘だと言って……きっとこれは夢、夢なんだぁぁぁぁ!!!」

 

うわぁぁぁっと泣き叫びながら両手で顔を隠したまま現実逃避をする栗林に加え、その直ぐ横ではハイライトの無い目で何かをブツブツとつぶやき続ける虹像。二人の出すどよっとした重暗い雰囲気は情報部の用意したマイクロバスでなければ一層最悪な空気へと変わっていただろう。まぁセダンなり何なりの普通乗用車と比べ、圧倒的に広さが段違いなので当たり前ではあるが。

 

 

それはともかく

 

 

そんな様子の二人を最後尾を座らせた後、残りのメンバーを運転席側に詰めて座れば二人の出す負の気に汚染されずに済む。そう考えた伊丹はそれを実行したものの……二倍の負の力は侮れないものらしく、少しでも目を向けようものなら感染しちまいそうな程だった。

特地組三人やメンタルモデル三姉妹、そしてピニャ一行も栗林や虹像の事が嫌い言う訳では無くむしろ好感が持てる人物だと評価しているんだが……今の状態に陥っている彼女らに好んで近づきたくは無いかなって感じだ。まぁピニャに至っては虹像に対し何かしらの恐怖を若干ながら抱いているので尚更ではある。しかしそれ以外では今の所段取りに問題が発生していないのもまた事実。このままスムーズに行くかなーっと伊丹は考えたが、この先の用事を思い出し思わず顔をしかめる。何故かというと栗林がこのような状態に陥っている為に若干の問題が発生している事に気付いたからだ。

 

「隊長、何処へ向かっているのですか?」

「国会に行くにジーンズにジャージって訳にもいかないでしょう」

 

そう言って思わず伊丹はクリスマスシーズ真っ盛りな装飾が施された街並み広がる景色に、目を輝かせて夢中になってるテュカと若干回復したのか栗林と傷の舐め合いを始めた虹像へ目を向けた。

 

「凄い、お祭りかしら?」

「栗林、俺にはわかるぞぉーその気持ち。俺も前に砲雷長だった友達の普段のバカな行いと実際奴が持ってるスペックのギャップにいく度となく苦しんだ事が――――」

 

セーターにジーンズと言う格好のテュカは言わずもながら、自身も受けた薔薇騎士団の拷問により元々着ていた衣服が破れさり廃棄された為に代用品のジャージを着こんで日本へやって来てしまった二人の服を整える必要があったからだ。両者の衣服は日本製であるのが、それ故に国会の参考人招集と言う場では相応しくない。何しろ公式の場だ、それ相応の格好をしないと失礼にあたるのだから。本来ならこういった配慮は栗林が担当するんだけども……現在彼女は機能不全の為にダメ。だから結果的にその代役が最もセンスの無い伊丹が担当する事になってしまったのだから救いが無い。富田やこの場に居ない倉田は兎も角、恐らく黒川あたりがいたらきっと必死に止めていただろう。

 

「適当に吊るしスーツでもいっか……」

 

……止めて欲しかった。

 

そんでもって紳士服などを専門として取り扱ってる量販店に到着した伊丹一行はテュカと虹像のスーツを見繕う事になり、テュカの分は店員さんの手腕によってあっさりと終わった。しかし虹像のスーツを選ぶ事になった途端、それに待ったをかける人物達がいた。

 

「駄目だ。艦長には赤いシャツに―――――のブランドが一番だ」

「否だ401、それでは過去に身に着けて居たスーツとまるで変わらない。ならば新たなる試みとしてピンクのシャツと――――のブランドが好ましい」

「それこそ論外だ400。新たなる挑戦と言うなら私は緑を推す。そして――――が艦長にはピッタリだ」

 

虹像の連れであるメンタルモデルの姉妹達だ。彼女らの謎の拘りによって一番の安物のスーツのはずが何故か吊るしスーツの中で一番高い物となりその価格、テュカの倍以上。それに対しスーツの代金は経費とはして落される関係上から後からぐちぐちと小言を言われると予想し伊丹は悲鳴を上げそうになったのは語るまでも無いだろう。そして最終的な彼女達の討論の種となったのはシャツの色。その話し合いは熾烈を極め、それぞれ自分のイメージカラーを反映させようと彼女らしくも無く必死の様子だった。

 

「私は白も良いと思うな」

 

その討論に途中から何故かテュカが加わっていたのは謎である。伊丹はその討論の最中一応レレイやロォリィにもスーツを勧めたが、レレイは不要と答えロォリィは今着ているモノこそが神官としての正装だと断った。まぁレレイは民族衣装だと言える衣服ではあるので問題は無いが、ロォリィが着ているドレスは別だ。どう見てもゴシックドレスなので民族衣装と押し切るのは弱い……が、文化的な違いって事でゴリ押ししかないかぁ。なんて伊丹は目の前で繰り広げられている三姉妹+エルフの口論を見守るしかなかった。……そして当の本人は着せ替え人形のように真っ白く燃え尽きていたという。

そんでもって彼が正しく再起動したのはお昼ごはんでの席だった。出張費扱いで一食500円しか出ないようだったのだが、その500円で食べる料理がその再起動した虹像にとってはかなり衝撃的だった。

 

「高級料理である牛丼がたった500円……だと!?」

 

温暖化によって農地に適していた土地が限られていた元世界。唯でさえ一頭育てる際にも莫大な資金がかかってしまうオーガニックで育てられた牛は一般市民どころか富裕層でも中々手が出せない超が頭に付いてしまうほどの高級食材として君臨していた。だからこそ虹像はその牛肉が沢山入った牛丼がたった500円で食べられる事に驚愕を隠しきれていなかった。

 

「流石別世界の日本、侮れない」

「だなイオナ。いおりが良く食べたい食べたいと言っていた牛肉がこんなに簡単に……アイツを連れて来たかったぜ」

「艦長、速く食べろ。冷えるぞ」

「完全オーガニック……美味い」

 

虹像はバクバクと食べている400と402を見た途端、前の世界で培った価値観が馬鹿らしいと考え付いてしまい大人しく目の前に鎮座していた牛丼を頬張るのだった。

 

※※※

 

「いやぁ牛飯美味しかった」

「グーゾ―、アレは牛飯ではなく牛丼だ」

「だな。しっかし特地で食べた牛肉も合成肉や培養肉とかではなくオーガニックな肉だったとは驚いたよなぁ」

 

牛丼で腹を満たした俺達は国会議事堂へ訪れていた。石作りの歴史が感じさせるこの国の中心たる建物。俺の世界では既に海の中へと沈んだ過去の遺物なのだが、目の前に聳え立つそれは前の世界にて学んだ教科書に載っていた写真そのモノ。その事にやはりこの日本は自分の知っている日本ではないと改めて考えさせられた。そうこうしているうちにピニャ殿下とボーゼスさんとはここで一端のお別れをし、議事堂の係員により伊丹他レレイ、ロォリィそしてテュカと俺達3人が議事堂内部へと案内される。そんな中、最後尾を歩く俺はふと考えた。何だか面白くない……っと。

 

「形式ばってるのは王道だが面白くねぇ……メンドクサイ政治家達相手にどう面白おかしくするか考えなきゃなぁ」

 

それ加え恐らくだが流失した俺達に関する情報も今回の事で必ず質問される。その事に対しどう対処したのもか……俺の頭じゃ考え付かねぇぜ。ってか、こういう交渉事は群像が得意だったから丸投げしてたんだよなぁ、ここに来てアイツがどれだけ頑張ってたか身に染みる想いだぜ。何て考えながらも俺は移動中にイオナに頼んで作らせておいた物を身に着け、そして手に取り、何処か気が張っている重々しい雰囲気の通路を進み続ける。現在の時刻は日本時間にて14時ジャスト。参考人質疑の時間まで残り1時間を切っていたのだった。

 




さてさて、虹像君はどんな風に場を盛り上げてくれますかな???


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【27】

 

※※※

 

 日本時間にて14:20。ある意味世界中で注目されている国会中継が幕を開けた。普段ならば視聴率をあまり振るわない某国営放送局も今回に至っては普段の視聴率と比べ200パーセント以上増と言う現実離れした数字を叩き出しており、別の放送局や生中継配信サイトも似たような状態に陥っている。では何故そのような状態に陥っているかと言うと────

 

 

 444:大いなる和

 そういえば今回の国会中継に美少女エルフと前にあげた三姉妹が来るらしいよ

 

 ────そう某掲示板にて書き込みが成された為であったからだ。

 

 コレが有象無象の書き込みならば皆信じずスルーするところなんだが、書き込んだ人物がそう言う事に対しては絶大なる信頼を置ける人物だった為に確かな情報として拡散された結果、ほぼすべての一般大衆も注目する異例過ぎる国会中継となったのだ。

 

【ただ今参考人が入って来ました!】

 

 そして参議院予算委員会の議場にはレレイにロォリィ、そして美少女エルフたるテュカに加え書き込んだ本人が流したソックリ過ぎる三姉妹が揃いも揃ってスーツ姿で姿を現したるや否や視聴率は更に倍増され、中継していたテレビ会社各社は嬉しすぎる悲鳴を上げた。だがあくまでも注目されるのは美少女達であり、最初に登場した伊丹はインパクトに欠けている為か何となく無視されており、最後に登場した虹像もそのような扱いを受ける‥‥‥‥かに思えたが実際は違った。

 

【最後の1人は……犠牲者の遺影、でしょうか?】

 

 喪服にも似た黒いスーツに身を包んだ独特なサングラスをしたその人物は他の参考人とは違い、遺影らしき写真を手に彼女達の最後尾より現れたのだった。そしてその様子に気付いた最初に入って来た自衛隊員は度肝う抜かれたような表情を浮かべていたという。

 

※※※

 

 最初の質問に立ったのは女性議員の方だった。

 

「伊丹参考人。単刀直入にお尋ねしますが特地装甲種害獣、通称ドラゴンによってコダ村からの避難民の約五分の一、約百二十人名が犠牲になってしまったのは一体全体何故でしょうか?」

 

 そう言って議員さんはドドンっと民間人犠牲者120人って書かれたボードを出すけど……この人は一体全体何を言ってんだ? 確かに百二十人死んでるけど残りの人間が生き残ってんだからそれで良いじゃねぇか。そう俺は考えたけど、彼女の表情を見るに何か目的があるなっと直感した為に口に出す事は無かった。そして委員長に呼ばれ前に出る伊丹。会場にあるカメラは初めて伊丹へと注目し、彼の言動を撮ろうとしてるようにも見える。俺もどんな答えを出すのかちょっと気になったので注目する。

 

「えー、それはドラゴンが強かったからじゃないですかね?」

 

 この瞬間、俺は思わず吹き出しそうになった。だってこのようなちゃんとした場で具体的でも無い、まるで他人事のように抽象的な意見を述べるだなんて俺も思っても見なかったからだ。質問した議員さんも見るからに絶句している。そして、それから伊丹かた語られる内容は何とも彼らしいものだった。

 確かにあのドラゴン相手では現地にて派遣されている自衛隊員の携帯火器では豆鉄砲と同等だろう。けどね、だからと言って荷電粒子砲やら中性子爆弾やら完全SFな兵器が欲しかったなんていう必要無かったんじゃないかな? まぁ、携帯火器としての荷電粒子砲っぽいものならイオナに頼めば用意出来ない訳でも無いけどさ。 ってか今わかったけどこの議員さん、何かと理由を付けて自衛隊叩きがしたいだけの単なるアンチじゃん。自分の身を守る為の盾であるはずの人達のアンチがこんな上層部に湧くだなんて……この国の軍隊も前の世界の陸軍同様大変だね。その後、科学的なドラゴンの分析結果を説明されたアンチ議員さんは何とも納得いってない様子でこの案件を一度取り下げた……かと思いきや通義のレレイの時に同じように持ち出して来やがった。

 

 多分レレイがまだ少女と言う歳だから丸目込めると思ったんだろ、さも自分が聡明かのように語る彼女の姿は何となく滑稽に見えた。

 そして注目のレレイへの質問だけど……流石は俺が認める天才少女だ。幸い俺と日常的に日本語を練習させていたお陰で言語に関しては特に問題が起こる訳でも無く、彼女は議員の質問に対し簡素的に、黙々と自身の考えを答え続けた。その結果子供と侮っていた議員さんの旗色が悪くなる。最後の抵抗か率直に自衛隊の対応に何か問題があったのかと尋ねるが、レレイは無いと断言し彼女との質問に終止符を打った。

 

 

 そしてお次はテュカの番なんだけど……大丈夫か、アレ? 

 

「私はエルフ、ロドの森部族、ホドリュー・レイの娘、テュカ・ルナ・マルソー」

 

 名前を尋ねられたテュカは胸を張って答えた。その様子は何時もの格好とは違いスーツ姿の影響でちょっと大人びて見える。……ってかテュカ、チラチラとこっちを見るんじゃありません。その"私だってちゃんと出来るんだぞー! "って来な目線で見なくても良いから。

 何とも不安の残る様子だったが議員が気になったのはそこではなく彼女の耳だったようで、一言断わり彼女のその長い耳が本物かと質問して来た。そしてそれをレレイが通訳すると彼女は「は?」ってな感じの表情を浮かべこっちを見て来た。なので俺は彼女の優れた聴力を当てに小さな声で外見に関する事だよーっと教えると。納得と言う表情を浮かべ、質問して来た議員へと解説した。

 

「はい、コレは自前ですよ。触ってみますか?」

 

 多分無意識だろうが洒落っぽく微笑んだ彼女はその長い髪を細い指先で作仕上げ、その耳を露わにするとぴくぴくと動かす。そしてそれが衝撃的だったんだろう。会場全体がどよめき、サングラスを予めしておいて正解だったと思わせるほどフラッシュが焚かれまくった。ま、眩しい……

 

「で、ではテュカさん。ドラゴンに襲われた際に自衛隊の対応に問題はありませんでしたか?」

 

 ゴッホンと咳払いをした後にレレイへと質問した内容と似かり寄ったりな設問をした議員は最後に、やはり自衛隊を陥れたいのか自衛隊の対応について聞いて来た。そんでもって彼女の返答はと言うと

 

「ん~、多分無いと思うわ」

 

 これまた伊丹に似た、ふわっふわとした内容だった。

 

「た、多分とは一体?」

 

 何か巧妙を見たかの如く、目を輝かせた議員がその理由を尋ねるんだけど────

 

「だって私、その時意識が無かったから」

 

 ────っと返答されてしまい何も言えなくなってしまった結果、テュカへの質問は終了したのである。

 

 そんでもって4番、エースであるロォリィの番になるけど……正直俺の記憶はあんまりない。名前を聞いてそれに答え、難民キャンプでの生活を聞いた後に意味の分からない質問をしたところまでは憶えてるんだけど……直後ロォリィの放った声がマイクをハウリングさせ、轟音となって響き渡った為にそれを聞いた俺は気を失ったからそれからの内容まで知らね。そして今に至るんだけど……え、これって俺もやんなきゃいけない奴? 

 

【千早虹像、参考人】

 

 呼ばれて飛び出でジャジャジャジャーン。っと心の中で唱えながら俺もマイクの前へと立つ。目の前には俺から自衛隊の非を取り出そうと必死なアンチに加え、この国の重役達であろう偉そうな人達。そしてそれを囲むように周りは俺の言動すべてを映し、見守るテレビカメラやそれ越しに見る無数のオーディエンス達。小道具はある、ネタもある。さてさて、どうやって面白可笑しくしたもんかね……

 

「参考人さんにお訪ねしたい」

 

 何とか優位に立とうと努力する議員はそれでも何か疑問に思ったんだろう、俺へと名前を尋ねる事は無かった。その代わり「貴方は……何者ですか?」っと俺の正体を率直に聞いて来た。だから俺は言ってやったのさ。

 

 

 

 

「私は、別世界よりやって来た日本人です」

 

 

 

 ってね。そしてこの瞬間テュカに向けられたどよめきよりも大きく、そして更に多くのフラッシュが俺へと浴びせられたのだった。

 




そんじゃまた来週~


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