戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星 (レーラ)
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無印編
始まりの鼓動


処女作の為、独自展開やぶっ飛び展開があるかもしれません。


 平和な日常というのはとても尊いものであるといつの間にか忘れてしまうもの、いつだってそれに気づくのは、それが失われた時、人は何度でもその過ちを繰り返す。

 その記憶がまるでなかったかのように、退屈だと考え新たな刺激を求める。それを他者から忠告されても、その諫言は流されてしまう。そして気づいた時には全てが失われた後であり、己が過ちを死ぬまで懺悔する。

 しかし、ある少女は違った。そんな日常を少女は愛した。だが、そんな宝物を壊さんとする魔の手が、知らず知らずのうちに伸びている事に気付かないまま、ゆっくりと蝕んでゆく。

 

 

 

「行ってきまーす。」

 

 玄関から華の女子高生が一人、父親に挨拶してから門を通った。

 彼女の名は風鳴瑠璃(かざなり るり)。私立リディアン音楽院に通う高校二年生である。

 

 肩まで僅かに届きそうな黒髪に白い肌、小柄ながらも豊かな胸を持つグラマラスな体形の持ち主。他の女子生徒からも羨ましがられる。

 そのうちの一人が

 

「やっほー!おはよー瑠璃!」

 

 瑠璃の背後から抱き着いた同級生。いきなりでバランスを崩しそうになるが、瑠璃はなんとか転倒せずに済んだ。

 

「もう……危ないよ輪。」

 

 出水 輪(いずみ りん)。それが彼女の名前である。

 瑠璃より身長が高く、髪も背中の半分ほどの長さ、天真爛漫な性格の持ち主、同じリディアンに通う二年生で、クラスメイト。新聞部に所属しており、事件やトラブルが大好き。そんな彼女に欠かせないアイテム、それはカメラである。

 

「だって瑠璃は抱き心地がいいんだもん。それにいい匂いがするし。」

 

 言っておくが輪には同性愛の趣味があるわけではなく、瑠璃に対してのみに行うスキンシップである。

 輪は元々根っからのカメラガールなのだが、瑠璃の写真を撮るのが日課となっており、データ内には瑠璃を撮った写真が七割を占めている。

 二人は入学当初からの仲であり、一年の時も同じクラスであった。今年の始業式でまた同じクラスになった事が分かると、喜びを分かち合うかのようにはしゃいだ。

 

「そういえば翼さんのニューシングルって今日だったよね?」

 

 風鳴翼。彼女の従姉である彼女もリディアンの生徒であり、現在有名なトップアーティストとして活動している。

 

「うん。帰りにCDショップに行く予定なの。」

「なら私も行くよ。どうせ帰っても小夜姉が夜勤でいないし。」

 

 その小夜姉というのは輪の姉である。輪の地元は遠方で入学にあたって偶々近くに社会人の姉が住まうマンションに住んでいるという。

 看護師であり、夜勤も当たり前で、一人でいる事も多いのだとか。

 

「なら、家に寄る?ご飯、御馳走するよ?」

「え?いいの?じゃあお言葉に甘えて!瑠璃のご飯美味しいからなぁ~。こないだお姉ちゃんが瑠璃のご飯に感動しちゃってさ!」

「そ、そんな・・・嬉しいけど、逆に恥ずかしいな・・・」

 

 こうやって他愛もない日常が瑠璃にとっては幸せなものだった。だがある日を境に、その日常が徐々に蝕まれていくことを、二人は知る由もなかった。

 

 

 放課後、新聞部の活動をしている輪は今日はやる事が多かった為、終わるのが予定より遅れてしまい、気づいたら日は落ちようとしていた。

 輪は急いで瑠璃が待っている図書館へ走った。瑠璃は特にすることがなかったので図書室で本を読んでいた。

 

「ごめん瑠璃!遅くなっちゃった!」

「図書館は静かにお願いしまーす。」

 

 図書室という静かな場所に一人騒いでいればかなり悪目立ちしてしまう。他の生徒に注目された輪は萎縮しながら図書室に入った。

 

「輪、そんなに慌てなくても……。」

「いや……思いの外時間が掛かっちゃって……。待たせるのも悪いかなって……。」

「私は平気だよ……。ほら、目立たない様に行こう……。」

 

 二人は小声でやり取りして、そのまま目立たないように図書室を後にした。

 二人は談笑しながら校門を出て、時には夕焼けを背景に瑠璃の写真を撮っていた。

 

「もう輪ったら、また撮ってる。」

「だってこんなシャッターチャンスをみすみす逃すなんて、私のカメラマン精神が許さないもーん!」

 

 憎めない程はにかむ笑顔を見せる輪。

 瑠璃はやれやれと言わんばかりに呆れるが、そんな輪が好きであり、輪もまた優しい瑠璃が好きなのだ。

 そして途中で曲がり角を曲がろうとした時

 

「CD!特典!CD!特典!」

 

 大きな声を出しながらも、曲がり角から急に飛び出した走ってくる少女に気付かず、瑠璃とぶつかってしまう。強くぶつかった為、お互いに尻餅をついた。

 

「瑠璃!大丈夫?!ちょっと!危ないじゃない!」

「痛たた……あっ!ごめんなさい!怪我は無いですか?!」

 

 輪が瑠璃を右手で、瑠璃は立ち上がる。ぶつかった少女もすぐに立ち上がって、瑠璃に頭を下げて謝罪する。

 

「だ、大丈夫。それよりもあなたの方は・・・」

「私は大丈夫です!」

 

 ハッキリとした大きな声で、輪に勝るとも劣らない笑顔を見せる。だが輪は飛び出したことによる危険性が高いと注意する。

 

「もう、ちゃんと周りを見なさいよね?自転車や車だったら、今頃……」

「輪。ちゃんと謝ったんだし、もういいよ。」

「でも……」

 

 瑠璃は自分の為に怒ってくれている輪を宥めた。輪は納得行ってないが、これ以上言っても瑠璃を困らせてしまう為、ここは引き下がる。

 

「それよりも、何か急いでたみたいだけど大丈夫?」

「あぁっ!そうだった翼さんのCDが私を呼んでいるうううううぅぅぅぅー--!!」

 

 少女は再び勢いよく走り出した。

 

「ちょっとー!だから周りに・・・」

「もう良いってば。」

 

 再び輪を宥める。

 

「瑠璃ってば、何で怒らないの?!少しくらい……」

「あの子もお姉ちゃんのファンだと思う。ちょっとしか見えなかったけど、目がとても綺麗だった。」

「あの・・・瑠璃?もしもし瑠璃さーん?」

 

 別の世界に入りかかっていた瑠璃を正気に戻してCDショップに向かおうとした時だった。瑠璃のスマホから着信音が鳴った。

 

「もしもしお父さん、どうしたの?」

《瑠璃!無事か?!》

「うん。そんなに慌ててどうしたの?」

《お前が今朝言っていたCDショップの一帯にノイズが発生している!》

 

 ノイズ。特異災害として世界で認知されている謎の生命体。ノイズは人を襲い、触れればその人間を炭素にしてその命を奪う。

 通常兵器ですら倒す事も、傷も与えられない。故に一般人はノイズが発生したら自壊するまで逃げるしかない。しかしそれでも犠牲者を出してしまうからなお恐ろしい。

 瑠璃は自分の父親である風鳴弦十郎はそんな特異災害を相手に市民を守る組織に所属しているという話を聞いたことがある。その為、ノイズが発生した時には真っ先に教えてくれる。

 

《まだ学園にいるのか?なら真っすぐ家に帰るんだ!そこまでならノイズは来ない!》

「う、うん!分かった。ありがとう。」

「オジサンから?もしかして……」

「うん。ノイズだって。真っすぐ家へ帰れって……」

「なら明日に持ち越しだね。」

 

 二人はそれぞれ変えるべき家に帰る。

 瑠璃は走って自宅まで走っている。だがその途中で・・・

 

「あの子・・・!」

 

 そうあの時走っていった少女の存在を思い出した。彼女もCDショップへと向かっていた。瑠璃は踵を返してCDショップの方へ走った。

 無我夢中で走り、気がついたら辺り一帯に黒い塵が宙を舞っているのが見えた。この塵が炭素化した塵でありノイズか人間が炭となって崩れた事を意味する。

 確証はないがもしかしたら彼女のものではないかと考え、心臓の鼓動が早くなり呼吸も荒くなってしまう。

 スマホの着信音が鳴り響くと、震えながらもその画面を確認して応答した。

 

《瑠璃!帰ったか?!》

「お……お父さん……。あの子が……」

《瑠璃?》

 

 今の瑠璃は平静じゃなかった。ここで同じ学校の生徒がノイズに襲われて死んだと想像してしまい、気が気ではなかった。

 

「どうしよう……ノイズが……人を……」

《落ち着け!》

 

 弦十郎のスマホ越しからの一喝で我に返った。

 

《良いか、その子は必ず助ける!瑠璃は危険が及ばないうちに帰るんだ!》

「う、うん。ありがとう……ごめんね。」

 

 そう言うと、通話を切った。瑠璃は塵の残骸を見て申し訳なさそうに目で見つめた後、その場を後にした。

 

 

一方その頃・・・

 

「え?!なにこれ?!どうなってるの?!」

 

 例の少女は謎の装備を身に纏っている事に驚いていた。

 


 

 翌日、少女の安否が気になったのに加えて弦十郎は仕事で帰ってこず、一人で朝食を済ませて学校へ向かった。表情は晴れず、その足取りは重い。

 無事に逃げられただろうか?それとももう、そう考えてしまい心が不安でいっぱいになってしまう。

(大丈夫かな……。)

 

 本日何度目か分からないため息をつく。

 

「響、前!」

「え?」

 

 曲がり角の人影に気付くのが遅れて、出合頭にぶつかってしまった。瑠璃はものの見事に倒された。

 

「痛た……」

「だから言ったのに。すみません、大丈夫でしたか?」

「ごめんなさい。私のせいで……」

「ううん。私は大丈……あ……」

 

 悩みが杞憂に終わった瞬間だった。

 

 

 その少女は立花響と言い、今年入学したのだとか。話を聞くと、どうやら道端で困っている人を片っ端から助けていったら色々不幸が重なってノイズの避難警報でシェルター行になったという。

 

「ああ……でも初回購入特典が……」

「まだ言ってるの響?」

 

 その隣にいるのは響の幼馴染、小日向未来。響のルームメイトであり、昨夜は遅くまで帰りを待っていたのだとか。

 響は初回限定盤が手に入らなかったのが余程悔しかったのか引きずっている様子だった。

 

「なら二人とも、私今日CD買いに行くから、それをあげるよ。」

 

 その提案は落ち込んだ響をたちまち立ち直らせた。

 

「え?!良いんですか?!」

「でも翼さんのCDってよく初日で完売してしまうことがよくあるって……」

「私、予約してるから。あるよ初回限定盤。」

 

 それを聞いた響は嬉しそうに飛び上がった。聞けば響は翼の大ファンでダウンロードとCDを揃えているくらいだとか。お互いに翼談義で盛り上がっていると、もう校舎に着いた。学年が違うので踊場で分かれる事になった。

 

「あ、そういえば名前聞いてませんでした!」

「そうだったね。私は風鳴瑠璃。じゃあまた後でね!」

 

 そう言うと瑠璃は先に教室へ向かった。

 

「今、風鳴って言ったよね?」

「うん。私も聞こえた。」

 

ええええええぇぇぇぇぇぇー----?!



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流れ星が見える戦場

瑠璃か輪が絡まない場面は飛ばしていく予定です。
その為、結構進んでしまう事もあります。


 渡り廊下で二人の驚嘆が響く頃、瑠璃は自分の教室へ入った。

 

「瑠璃おはよ~。」

「おはよう輪。今日の帰りにCDショップ寄るでしょ?実はもう二人来ることになったんだけど大丈夫かな?」

「ん~?まあいいけど、どちらさん?」

「一年生の確か立花響さんと小日向未来さん。」

「立花響?」

 

 その名前を聞いた輪は腕を組んで首を傾げた。

 

「え、知ってるの?」

「いや、何か聞いたことあるような名前だなって思ってさ。でもそれが思い出せないんだよねぇ。」

 

 

 

 しかしその件について、思い出すことなく放課後を迎えた。二人は待ち合わせ場所である校門に向かう。

 

「あ、いた。あの子が小日向未来さんだよ。小日向さーん!お待たせー!」

「あ、瑠璃さん!」

 

既に待機していた未来が手を振っていた。だが肝心な響がいなかった。

 

「あれ?立花さんは?」

「ごめんなさい。響ったら用事がある事を忘れていたみたいで、つい浮かれて……」

 

 未来が申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「だ、大丈夫だよ!そういう事なら、仕方ないからね!そ、そうだ!紹介するね!こちら、出水輪!」

「どうも~。瑠璃のクラスメイトで新聞部所属、出水輪ね。よろしく~。」

 

 一先ず話題を変える為に輪の自己紹介を済ませた。

 

「ところで小日向さん、記念に一枚良い?」

「え?」

「ちょっと、だ、駄目だよ!初対面の人に!」

 

 既にデジタルカメラを構えて撮影の体勢に入っていたが瑠璃に止められたので諦めた。

 ちょっとしたハプニングがあったが、三人はCDショップでの買い物を済ませると帰り際に、今回合流できなかった響に瑠璃が買った初回限定盤CDを渡せるように、未来に預けた。

 そこで三人はそれぞれ家路に着き、瑠璃は今夜の晩御飯のおかずを何にしようか考えながら帰って行った。

 

 それからというもの、瑠璃と輪は後輩二人と仲良くなり、さらに響と未来のクラスメイトである安藤創世、寺嶋詩織、板場弓美が加わり、交流の輪が増えていった。

 ある昼休み、瑠璃と輪は二人で食堂で昼食を取っていた。

 

「ねえ、今度のこと座流星群の撮影なんだけど、瑠璃も手伝ってくれないかな?」

「え?良いけど何するの?」

「それは当日に教えるよ。」

 

 いつにも増してご機嫌な様子だった。その日の夜はこと座流星群が観測されると報道されてから、輪は普段使用している物とは別に、最新のカメラを購入したという。

 当然、狙うはベストショットであり、その為に使い慣らそうと、持ってきている。

 既に瑠璃と後輩達の写真を撮っていて、ベストな状態までなった所で、あとは撮影場所の確保だけだった。

 

「でもいくつもの候補は押さえておいたんだ~。で、その一つの下調べの為に悪いけど今日は先に帰ってて。」

「う、うん。でも、準備が早いね・・・。」

「ふっふっふっ。甘いよ瑠璃君!戦いというのは、開始前が勝負なんだよ!」

 

 漫画にありそうなポーズでどや顔を決めた。いつもは天真爛漫で活発なのだが、今日はそれに一段と磨きがかっている。

 他の生徒の視線がこちらに集まっていても、輪が気づいていないのが何よりの証である。

 輪は鼻歌を歌いながらスキップで先に食器をカウンターまで片付けに行った輪。

 

「よっぽど楽しみなんだなぁ……」

 

 そう呟いて瑠璃も食器を片付けに行こうとして席を立った時

 

「瑠璃。」

 

 後ろから声を掛けられ、振り返るとそこに従姉の翼がいた。

 

「お、お姉ちゃん……!」

 

 慌てて席から立ちあがる。

 瑠璃は翼が苦手だった。話しかけても無愛想なのもそうなのだが、どこか怒りをぶつけているようにも見えた。学院でも殆ど会話したことがなく、会ったとしても挨拶程度くらいで言葉を交わす事は殆どない。

 しかし、それでも瑠璃はトップアーティストとして表舞台に立っている翼に憧れを抱いているし、カッコいいと思っている。

 

「あ、あのね、お姉ちゃん。もし今度……お休みがあったら……」

「誘ってもらって悪いけど、私にそんな余裕はないわ。」

 

 今度一緒に食事に行こうと勇気を持って誘ってみたが結局断られてしまった。

 

「う、うん。ごめんね、忙しい時に誘っちゃって。じゃあね。」

 

 無理やり笑顔を作って、この場を去った。

 

 その放課後、輪がこと座流星群観測まで新聞部の仕事を早めに済ませたいという事で、今日は瑠璃一人で帰る事になった。だが瑠璃の気分は沈んでいた。昼頃の翼との出来事で、翼とは上手く行ってない事にため息をつく。

 学校以外で会う時も、翼は笑わない。それが良いという人も中にはいるかもしれないが、瑠璃はそれが嫌だった。小さい頃は知らないが、以前に翼が天羽奏とユニットを組んでいた時は喜怒哀楽が激しかったという。しかし奏が亡くなってから変わったと弦十郎が言っていた。

 お互いが初めて会ったのは瑠璃が事故で病院に入院していた時だった。奏が亡くなってからまだ日が浅い頃だったとのことだった。あの時から翼はどこか余所余所しいというか、冷たかった。それが忘れられず今でもそれを思い出す。

 それから瑠璃は頑張って翼と仲良くなろうとしたが上手く行かなかった。

 

(もしかして私を避けてるのかな・・・?私の事・・・)

 

 気分が沈んでいるのが余計に悪い方向に考えてしまう。瑠璃は夕日が沈む中、トボトボと歩いていると

 

「おーい!そこの黒髪!」

 

 後ろから声を掛けられた。振り返るとそこには日本人離れした銀色の髪をした同い年くらいの女性が手を振っていた。

 

「私?」

「お前だよ。これ、落としたろ?」

 

 その少女の手に持っていたのは瑠璃の家の鍵だった。バッグの中を確認したら無かった。恐らくチャックの隙間から落としていた事に気付かなかったようで、目の前の少女が拾ってくれたようだ。

 

「あ、ありがとうございます。」

「いや、良いってことよ。」

 

 瑠璃が微笑むと少女は恥ずかしそうに目を逸らした。少女から鍵を受け取る。すると瑠璃は少女の風貌を見て、首を傾げる。

 

「もしかして、外国人の方ですか?」

「ま、まあな。とは言っても日本人とのハーフなんだ。だから日本人には変わらねえ。それがどうかしたのか?」

「そうなんですね。その……綺麗な人だなって思って……。」

 

 瑠璃が顔を赤くして聞いたわけを答えると、思わぬ発言に少女は顔を赤くして目を逸らしてボソッと言う。

 

「そ、そういうのはあまり言うもんじゃねえぞ……。」

「え?」

「何でもねえ!」

 

 拗ねた児童のようにプイっと背を向ける。だが首を左回旋して瑠璃をジト目で見る。

 

「なあお前、名前何て言うんだ?」

「あ、私は風鳴瑠璃って言います。」

 

瑠璃が名乗ると少女は驚いたのか一瞬目を見開いた。

 

「そうか。良い名前だな。じゃ、じゃあな!」

 

 そういうと少女は走って行ってしまった。瑠璃は少女の名前を聞きそびれてしまった事を気にしながらも、真っすぐ家に帰った。

 

 

 こと座流星群が観測される前夜。瑠璃は弦十郎と夕食を囲んだ。弦十郎は人より何倍も食べる為、おかずやよそう白飯も多くしている。

 

「ねえお父さん。明日なんだけど、輪とこと座流星群を見に行くから、帰りちょっと遅くなっちゃうかも。」

「ああ、分かった。気を付けていくんだぞ。どこまで行くんだ?」

「あ、まだ教えてもらってないんだ。とっておきの穴場だから情報を漏らしたくないって。」

「ハッハッハッ!まるでスパイ映画みたいな事を言うな!」

 

 弦十郎は厳つい風貌とは裏腹に優しい。無類の映画好きで、特にアクション映画を好む。

 

「だが、もし場所が分かったらちゃんと教えるんだぞ。」

「うん。」

 

 弦十郎からの許可も得たことで次の日の放課後、輪とその穴場へ向かった。到着した後、弦十郎にメールで場所を教えた。

 

 そして夜を迎えた。

 

「遂に来た……この時が!天候良し!カメラ良し!穴場も良し!準備は完了!後は星を待つだけ!」

 

 先程まで入念に準備を進めていた輪は、わんぱく少年のようなテンションになっていた。曰く、昨夜は楽しみすぎて眠れなかったという。

 この穴場というのは電車で一駅先にある自然公園のような広場で、あまり知られていないのか二人以外誰もいなかった。

 

「さあ来い来い星々よ!この輪様が、お前たちの燦然と輝く雄姿を写真に収めて進ぜよう!」

 

 あまりのテンションの高さに瑠璃は苦笑いするしかなかったが、ここは切り替えて瑠璃も星を眺める事にした。

 

「でも本当に綺麗な空だね。天気が良くて良かった。」

「ホントだよ~。これで雨だったら輪さん大泣きだよ。」

 

 輪がカメラを構えているのを他所に、瑠璃は美しい夜空を見上げていた。

 

「綺麗な空・・・綺麗な・・・」

 

 ほら!見て!空が綺麗だよ!

 待ってよお姉ちゃん!

 パパ!ママ!早く早く!

 

「り・・・瑠璃?瑠璃!」

 

 思わず見入っていたのか変なビジョンを見たような気がしたが、輪の声で我に返った。

 

「どうしたの?」

「う、ううん。何でも・・・あ、見えた!」

「え?!嘘?!あぁ!ホントだ!シャッターチャンス到来!」

 

 早速シャッターを押して流れ星を撮影していた。

 

「よし!次は瑠璃、そこに立って!」

「え?!」

「良いから早く!」

 

 瑠璃を撮影ポジションに立たせた所で、輪は少し離れてカメラを構えた。

 

(輪……これが目的だったんだ。)

(最高の絶景には最高のモデル!これを取ればもう完璧!)

 

こうなった輪は暴走機関車のように突っ走り、誰にも止める事は出来ない。

 

「はいじゃあ撮るよー!はいチー……」

 

 シャッターを押そうとしたその時、瑠璃の後ろから爆風と物凄い衝撃が響いた。

 

「な、何今の?!」

「わ、分かんない……。」

 

 輪はカメラを構えて辺りを見回すと、木々が多い方に土煙が立ち込めていた。

 そのせいか何も見えないが……

 

「歌が……。歌が聞こえる……。」

 

 瑠璃の言葉に輪はよく耳をすませるが何も聞こえてこない。そしてほんの一瞬の出来事だった。

 

(あれって……)

 

 瑠璃は何か見たのか、その方へ向かっていった。

 

「え?!ちょっと瑠璃!待ってよー!」

 

 輪もカメラを持って後を追った。

 

 時を同じくしてここは特異災害機動対策部二課。

 その本部に、風鳴弦十郎が腕を組んでモニターの様子を真剣に見ていた。

 現在、外では響と翼がパワードスーツを着て謎の襲撃者と戦っている。さらに翼は日本刀の形をした武器を手にノイズを斬り、倒した。

 現在、響がノイズの粘着液によって拘束され翼が襲撃者と戦っているが一方的に押し込まれており劣勢を強いられている。内外問わず、緊張感が絶え間なく続くその状況にオペレーターである藤尭朔也から報告があった。

 

「司令!民間人二名が戦闘区域に!」

「何だと?!モニターを映せ!」

 

藤尭が操作するとモニターが映し出された。

そこにいたのは……

 

「なっ……まさか……」

 

 まさに戦場に向かっている事を知らずにそのまま進んでいる瑠璃と輪だった。




ここでオリキャラプロフィール

風鳴瑠璃(16)
誕生日:12月28日 B:90 W:57 H:85
パーソナルカラー:藍

リディアンに通う二年女子高生。
黒髪のショート、ラピスラズリのような瞳のタレ目、左目の下に泣き黒子が特徴。
控えめでな争いを好まない性格でトラブルに巻き込まれるとパニックになりやすい。
だが時々大胆な行動に出る事も。

父親である風鳴弦十郎の影響で映画好きになる。


出水輪(16)
誕生日:6月21日 B:84 W:58 H:86
パーソナルカラー:緋

瑠璃のクラスメイトで親友。新聞部所属。
茶髪のロングだが、時々ポニーテールやお下げにしたりと髪型を変える。
ミーハーかつ好奇心旺盛。自らの探求心が満足するまで突き進すむが、時にそれが命の危険に晒される事が多い。しかもなかなか懲りない。
しかし大人顔負けの洞察力から、物事の本質を突く発言も珍しくはない。

看護師として働いている姉の小夜とマンションで暮らしている。


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疼き出す

初めて貰った感想に、舞い上がる私。

いよいよ瑠璃のターニングポイントとなるあの場所に向かいます。




二課の本部では誰もが驚嘆を隠せなかった。

 司令の娘である瑠璃が、何の武器を持たない彼女が戦場に迷い込んでしまう事に、誰一人として予想できるわけがない。

 

「まさか、今夜の流星群を観測する場所がそこだったとは!」

 

 特に一番驚いている弦十郎も、今回の事は完全に失念していた。すぐに戻るようスマホで着信を掛けるも、瑠璃は出る様子は無くどんどん進んでしまう。このままでは戦闘区域に入ってしまうのも時間の問題だった。

 

「車を出せ!!直ちに現場に急行するぞ!!」

 

焦った様子で指示を出す。だが藤尭がここで口を出す。

 

「し、しかし司令!ですがそれでは指揮系統が……」

「娘が危機だというのに、黙って見ていられるわけがないだろう!!」

「落ち着いて弦十郎君!」

 

 弦十郎の前を櫻井了子が立ちはだかった。

 彼女は響と翼が着用しているパワードスーツ「シンフォギア」を作った櫻井理論の提唱者。専門は考古学であるが、メディカルチェックも担当してる才色兼備の美女。といいたいのだがマイペースな気質。

 唯一弦十郎にタメ口で意見を物申せる人物であり、対等とも言える関係である。

 

「そ、そうですよ!了子さんの言うとおり、ここは……」

「私が乗せてあげる。行くわよ!」

「ええええぇぇぇ?!」

 

 だが止めるどころか背中を押した。了子も弦十郎と共に出て行ってしまった。

 

 

 

 同じ頃、瑠璃達は木々を避けて先へ先へ走っていった。

 何が起きているのか分からないが、瑠璃は行かなければならないと予感していた。

 

(あの歌……お姉ちゃんの歌のように聞こえた。でもまさか……)

 

 真偽を確かめる為に、瑠璃はなんの躊躇いもなく進む。途中着信が鳴ったが瑠璃は気が付かなかった。

 無我夢中に走り、ようやく見えてきた。そこにいたのは……

 

「お姉ちゃん!」

 

 白いパワードスーツを纏った襲撃者と交戦している翼だった。

 

 

 戦う力を持たない従妹がここに現れたことに、翼は動揺を隠せなかった。

 

「瑠璃!何故ここに?!」

「お姉ちゃんの歌が……ってその格好は……?それに……」

 

すると後ろから来た輪が追いついた。

 

「もう早いよ瑠璃!やっと追いついた……ってうわっ!翼さんだ!何これ?!映画の撮え……」

 

 映画の撮影かと思い込み、カメラを構えて辺りを見回すが、響がノイズに捕らわれているのを見て、好奇心から恐怖へと変わった。

 

「嘘……ねえ、何でノイズが?こ、これ映画の撮影なんですよね?そうなんですよね?!」

 

 その声は明らかに恐怖で震えていた。人類にとって、ノイズとは無差別に人を襲う殺人生物と認識されているため、力を持たない者がノイズ会ったら逃げるしかない。

 輪は目の前に起こっている事が信じられず、翼に問う。

 

「二人とも逃げてください!」

 

 響は捕らわれてもなお二人を助けようと声を上げた。

 

「お姉ちゃん……これ、どういう事……?」

「来るな瑠璃!今すぐ逃げろ!」

「瑠璃……?」

 

 翼は気付かなかったが、瑠璃の名前に一瞬だけ襲撃者が反応していた。

 

「そうか……そういう事かよ……!」

 

 襲撃者が杖のを構えると瑠璃と輪の周りを囲うように緑色のレーザーを発射させる。そのレーザーが着弾するとノイズが2人を囲うように出現した。

 

「ノ、ノイズ!」

「貴様!民間人まで手にかけるつもりか?!」

 

 翼が襲撃者の行動に憤怒する。

 

「落ち着けよ、このすっとこどっこいが。ギャラリーが一人二人増えたところで何も変わらねえよ。ただちょっとばかし、あんたがやられる姿を見せてやろうと思っただけだ。勿論逃げようとしなければ殺さねえ。だからそこで大人しくしてなぁ!」

 

 人の命を弄ぶのかと憤った翼が襲撃者に刀を振り下ろす。襲撃者は軽くいなして、鞭を振るう。

 一進一退のように見えるが、翼が劣勢に立たされている。これは襲撃者が纏う完全聖遺物「ネフシュタンの鎧」によるものだった。

 シンフォギアは聖遺物の欠片を用いて作られたものであるが、完全聖遺物は欠損のない聖遺物を指す為、そのスペックはシンフォギアを凌駕する。その差を埋めるには容易ではない。現に徐々に翼が後退している。

 

 一方瑠璃と輪はノイズに囲まれた状態で逃げ道を塞がれてしまった。2人はノイズを倒す術を持ち合わせてないのでどうしようもない。

 逃げなければ殺さないと襲撃者は言っていたが、そんなことが信じられるわけもなく、いつ自分達を炭素化すべく殺しに襲ってくるか分からない恐怖に晒されている。

 

「瑠璃、ヤバいよ……。ねえどうしよう……瑠璃?」

 

反応がないので瑠璃の見たら、頭を抱えるように蹲っていた。

 

「瑠璃……?!瑠璃!!」

(頭が……ぁっ……!)

「瑠璃!しっかりして!誰か……誰か助けて!!瑠璃が、瑠璃がああぁぁ!!」

 

輪が助けを求めている声が聞こえた響は何か思い当たったように顔を上げた。

 

「そうだ、アームドギア!私にアームドギアがあれば!」

 

響は彼女達を助けようとシンフォギア装者の持ちうる武器、アームドギアを出そうとしたが出る気配がなかった。

 

「どうして?!何で出ないの?!助けを求めている人がいるんだ!だから応えてよ!」

 

響の願いも虚しくアームドギアは出て来ず、翼も襲撃者に一方的に攻撃されてしまっている。

 

「てんで大したことない。」

 

 襲撃者は翼を見下ろすように吐き捨てた。

 翼にとって、これは屈辱以外の何者でもない。

 

「この身を一振りの剣と鍛えたはずなのに、あの日、無様に生き残ってしまった。出来損ないの剣として、恥をさらしてきた!だが、それも今日までの事。奪われたネフシュタンを取り戻すことで、この身の汚名をそそがせてもらう!」

 

 そう啖呵を切るとゆっくりと立ち上がった。

 

「そうかい。脱がせるものなら脱がして……?!何?!」

 

 体が急に動けなくなっていた。

 自分の影をよく見ると、短刀が刺さっていた。

 

 

【影縫い】

 

 

「こんなもので、あたしの動きを……まさかお前?!」

 

 これから翼が何をしようとしているのか、かつて友が最期に歌った挽歌。

 

「月が覗いているうちに、決着をつけましょう」

 

 月が雲に隠れてしまえば影縫いは意味を成さなくなる。

 故に一撃で決める。

 

「歌うのか……絶唱を?!」

「翼さん!」

 

 翼は一度目を閉じて覚悟を決めると、視線を響に向けた。

 

「防人の生き様、覚悟を見せてあげる!あなたの胸に、焼き付けなさい!」

 

 天羽々斬の刃先を響に向けると、それを降ろし瑠璃と輪を見る。

 

(瑠璃、あなたは絶対に守る。それが、防人としての、家族としての責務。)

 

Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

(クソッ!こんな事があってたまるか!やっと、やっと見つけたってのに!あたしの……大切な……)

 

 一刻も早く脱出しようと足掻くが影縫いの拘束力の前に成す術がない。

 

(歌が……聞こえる……。お姉ちゃんの……)

 

Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl……

 

 翼が絶唱を終えると襲撃者は左手を伸ばしていた。

 同時に絶唱の衝撃が全身に襲い掛かり、ノイズ達は跡形も無く消し飛んだ。

 それを意識が遠のく中、瑠璃はそれを見届けた途端に意識が無くなり、気を失った。

 

 

 絶唱を食らった襲撃者は吹き飛ばされ、鎧の一部が砕かれた。

 だが鎧は襲撃者の身体を蝕むように再生していったが、それには激痛が伴っていた。

 

「チクショウ……侵食が……!せっかく見つけたってのに……!」

(悪い……。でも、絶対に、助け出してやるからな……!)

 

 襲撃者である少女は撤退した。

 

 

 同じ頃、翼の絶唱でノイズが塵となって消えたことに、輪は戸惑いを感じていた。

 

「な、何これ?!ノイズが……消えた?!」

 

 辺りを見回すとノイズが消え喜ぼうとしたが、瑠璃は気を失っていた。

 

「ねえ助けて!瑠璃が……」

 

 翼に助けを求めようとしていたが、その姿を見て絶句した。

 同時に弦十郎を乗せた車が到着し、運転していた了子とともに降りた。

 

「無事か翼、瑠璃?!」

 

 振り返った翼からは口、鼻、目からおびただしい量の血が出ていた。

 

「私とて、人類守護の務めを果たす防人……。こんなところで、折れる剣じゃありません……!」

 

 そのまま崩れるように倒れた。

 

「翼さぁぁぁぁぁん!!」

 

 響の絶叫が星が流れる夜空に木霊し、その一部始終を目の当たりにした輪は怯えていた。




良ければご感想の方をお待ちしております。



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信じるものの為に

予めお知らせします。

デュランダル争奪戦は瑠璃、輪は何の介入もない為、丸々カットします。


ある少女の夢。

双子の少女は夜空を見て約束した。

共に両親の夢を応援しようと。

流れ星が降り注ぐ澄んだ夜空の約束。

ずっと、ずっと守り続ける為に……少女は……

 

 


 

 

 目が覚めるとそこは見覚えがある天井だった。

 薬の匂いからここが病院である事がすぐに分かった。

 過去に交通事故で搬送された事を覚えており、その時はそばに弦十郎がいた。

 だが今回は誰もいない。そう思っていた矢先

 

「瑠璃……!」

 

 病室の扉が開いた音に反応して、そっちに向くと輪が入って来た。

 

「あぁ……良かった!目を覚まして……もう心配したんだから!」

「あれ……私……。」

「あの時急に意識を失って、ここに運ばれたんだよ。今オジサンに電話入れてくるから待ってて!」

 

 そういうと輪は病室を出ていった。窓を見るとそこはもう日暮れだった。

 あれからどれくらい意識がなかったのか、分からない。ただ、覚えているものといえば、翼が謎の襲撃者と戦っていた事、ノイズに囲まれていたこと、襲撃者がこちらに手を伸ばしていた事、それと……翼がノイズを全て倒した事。

 

「お姉ちゃん……!」

 

起き上がろうとすると頭痛に襲われた。

 

「ぅっ……ぁっ……!」

(約束だよ■■■)

(うん!お姉ちゃん!)

 

「はぁ……はぁ……今のは……何……?」

 

 突然流れ込んできたビジョン。二人の少女が出てきたが、何か違和感を感じた。全く知らない少女二人が出てきて、何がどうなっているのか分からなかった。考えている内に輪が戻って来た。

 

「瑠璃、オジサンもうすぐ来る……瑠璃?」

「え?ど、どうしたの?」

「いや、だからもうすぐオジサン来るって。」

「そっか。ありがとう」

 

 無理に笑おうとしているのがバレバレだった。せっかく無事だというのにどこか浮かない顔をしている。

 

「ねえ、あれ何なの?」

「あれって?」

「翼さんと、あの子、立花さんが着てたコスプレみたいな奴。瑠璃は何か知ってるの?」

 

 瑠璃なら知ってるんじゃないかと聞いてみる凛だったが

 

「ううん。知らない。私も初めて見た。」

「知らないの?オジサンからは何か聞いてたりは?」

「無いよ。」

 

 意外だと思った。近親者の瑠璃ですら知らないとなると、国家ぐるみの何かと勘ぐってしまう。だがその勘ぐりは的確である事は、弦十郎が来るまで知る由もなかった。

 二人の間に重い空気が立ち込めていたが、それは駆けつけた弦十郎がやってきた事で解決した。

 

「瑠璃!」

「お父さん……!」

 

娘の無事を確認すると弦十郎は思い切り抱きしめた。

 

「心配したぞ。」

「ごめんなさい……。」

 

瑠璃を離した後、今度は輪と向かい合うと頭を下げた。

 

「済まなかった輪君。君までもを巻き込んでしまって……」

「えっ?!あ、いや!待ってください!どっちかというと、巻き込んだのは私ですよ?!私が誘わなければ瑠璃もこうならなかったと思いますし!とにかく、頭を上げてください!」

 

頭を上げる弦十郎。

 

「お父さん、お姉ちゃんは大丈夫なの?」

 

瑠璃の問いかけに弦十郎の表情は曇っていた。

 

「翼は、ICUで意識不明の重体だ」

 

衝撃的な報告を受け、二人は絶句した。

 

「そんな……どうして……」

「オジサン、一体何が起きているのか教えて下さい。」

 

輪は真実を知る為に、弦十郎に詰め寄る。だが答えはNOである。

 

「駄目だ。これには国家機密が含まれている。内容が内容なだけに教える事が出来ない。」

「そんな!私達、あんなものを見せられて、娘に対しても、それでも何も教えられないって……納得出来ませんよ!」

 

 輪はその黙秘に納得が行かないようで、抗議する。

 

「だろうな。俺も同じ立場なら、全く同じ事を言うだろうな。」

「だったら……」

 

だが、瑠璃が制止させる。

 

「輪、良いよ。あまりお父さんを困らせちゃ駄目だよ……。」

「でも……」

 

 輪が自分の為だけでなく、瑠璃の為にも何が起こっているのかが知りたいという思いで抗議してくれている事は知っている。

 でも弦十郎にも話せない訳があるのも分かっている。であれば何を聞いても意味がない。それ故に、輪を制止した。

 

「輪、ありがとう。でも良いの。ただ……お父さん、信じていいんだよね?」

 

 自分でもこんな事は家族に対する仕打ちとして、十分酷い事をしていると自覚している。だからこそ娘を守る為には、これ以上巻き込むわけにはいかない。

 

「本当に済まないと思っている。だが、下手に口外して、君達が巻き込まれでもしたら取り返しがつかない。何を言っても信じてくれないだろうが、俺は二人を巻き込みたくはない。それだけは信じてほしい。」

 

 輪は弦十郎の人となりを知っている。優しくて、嘘を嫌い、真っ直ぐな人。だから信じられる事は出来る。しかし、輪の心中では納得いかない所がある。だがこれ以上言っても、瑠璃も困らせるだけだ。ここら辺が収め時であろうと考え、これ以上何も言わない事にした。

 

「分かりました。今は聞かないでおきます。ただ、いつか絶対に話してください。でないと、オジサンの事、信じられなくなりそうです。」

「それで良いさ。君に信じてもらえなくなったら、俺はそこまでの人間だったってことさ。」

 

 お互い合意の上でこの話は解決した。だが

 

「あの、お二人さん?」

「あ、小夜姉。」

 

 病院の扉を開く音がして、声を掛けられたので振り返ると、輪の姉である小夜が入って来た。

 小夜はここで看護師として働いている。

 

「何を話しとったのかは知りませんが、ここ病院。」

「「あ……」」

「他の患者様の迷惑なので、喧嘩は外でお願いします。」

 

 弦十郎と輪が病室で口喧嘩してしまった事について、関西弁混じりでこっぴどく叱られた。

 

 


 

 

 瑠璃は念の為検査入院となり、何も異常がなければ明日退院という事が決まり、見舞いを済ませた二人は病院を出た。

 

「家まで送ろう。」

「いえ、ここから近いので歩いて帰ります。それと、すみませんでした。生意気言って。」

「いや、輪君が謝ることはない。言い分は最もだからな。俺も自分のやっている事について、正直反吐が出る程に嫌悪している。」

「オジサンも、大変ですね。今みたいに、誰かに感謝されるわけでもないのに誰かを守る為に戦ってる。私だったら、無理です。私、強くないし……」

 

 そう言うと弦十郎は笑った。

 

「いや、そんな事はないぞ!元公安の俺に、ここまで言わせた女子高生は初めてだ!言ってしまえば、未成年でなければスカウトしたいくらいだ!」

 

 弦十郎は大いに笑うが、冗談なのか本気なのか分からない輪は苦笑いする。

 

「でも不思議ですよね。瑠璃とオジサンって顔は全然似てないのに、大胆な所とかは似てるんですから。流石親子ですね。」

 

 輪の何気ない一言で、弦十郎は一瞬驚いたがすぐに消えた。

 

「よく言われるさ。こんな厳つい父親からどうやって可愛い娘が出来たんだってな。さて、お姉さんも心配するだろう。気をつけて帰るんだぞ!」

「はい、おやすみなさい!」

 

 そういうと輪は走って家路につく。

 

「似てないか……。」

 

 残された弦十郎は、誰にも聞こえない独り言を呟いて、車に乗って自宅へと帰った。

 


 

 脳の検査などを受けた結果、異常は見られず、瑠璃は無事に退院した。

 あれから特に何も起こらなかった。強いて言えば……

 

「お父さん、映画は何にするの?」

「そうだな。ならベスト・キッズにしようか。」

「うん、分かった。」

 

瑠璃はいつもの様に映画をセットしに行く。すると

 

「頼もおおおぉぉぉーーー!」

「うわぁっ!何だ急に?!」

 

道場破りみたいな台詞で押しかけてきた突然の来訪者、立花響がやって来た。

 

「私に戦い方を教えて下さい!」

 

腕を組んで少し考えると

 

「俺のやり方は、厳しいぞ?」

「はい!よろしくお願いします!」

 

弦十郎に弟子が出来た。

 

「所で響君。君はアクション映画を嗜む方かね?」

「ふぇ?」

 

抜けた返事が帰ってくると、弦十郎が誰かと話しているのを見た瑠璃が出てきた。

 

「お父さん、ほら映画の準備出来た……あれ、立花さん?」

「あっ!瑠璃さん!え?!もしかして瑠璃さんのお父さんって……」

 

瑠璃と弦十郎を交互に見る響

 

「ああ、瑠璃は俺の娘だ!」

「うえええぇぇぇーーーっ?!」

 

 この厳つい父親からどうやってこんな可愛い娘が出来るのか、不思議に思った響。恐らく人生でここまで叫んだ事は無いだろうとおもった響である。

 


 

 弦十郎がは響に特訓をつける事になり、瑠璃はその手伝いをしていた。主に家事全般に、トレーニングの観察である。

 今日のおかずはスタミナ料理、しかもいつもより大盛りだった。

 以前に未来から響はよく食べると聞いたのでいつもより3倍多めに作った。

 牛肉と玉ねぎの甘辛ダレ炒め、味噌汁、茄子の漬物などいつもより豪勢な食事となった。

 

「お父さーん、響ちゃーん、ご飯出来たよー。」

 

と、障子が開くと

 

「待ってましたぁー!」

 

 響が物凄く楽しみにしていたようだった。

 ちなみに、呼び方が変わったのは響から名前で呼んでほしいと頼まれた事が切っ掛けだった。

 

 恐らく6人分あると思われる量を二人はあっという間に食べてしまった。瑠璃は何を考えたかというと

 

(もっと作っておけば良かったかな……)

 

 今度からもう少し量を増やそうと考える。

 弦十郎がいつも大食らいなので、響が幾ら食べようがそれくらいでは驚かない。

 最早感覚が麻痺しているのでは?と考えるのは野暮である。

 

「ご馳走様でしたー!ルリさんのご飯絶品でした!未来にも食べさせてあげたいです!」

「あ、ありがとう。」

「では片付けよう。響君は庭で待っていてくれ。」

「あ、私やるよ。」

 

 親子のやり取りを見ていた響は何だか和んでいた。

 ちなみに皿の量が多く、全部洗い終えるのに結構時間が掛かってしまった。

 

 それから響の特訓は続き、瑠璃も手伝いに徹した。

 休憩中、ある疑問を瑠璃に聞いてみた。

 

「そういえば瑠璃さんって、師匠みたいに強いんですか?」 

「そ、それはないよ。私こういうの全然出来ないし……。」

 

 そこに弦十郎が付け足すように話す。

 

「だが瑠璃は目がいいんだ。俺が自主鍛練していた時に、俺ですら気付かなかった癖を修整してくれたからな。」

「流石親子ですね……。」

 

 この親にしてこの娘にあり。響はこの親子が超人なのかと疑ってしまった。もしかしたら瑠璃がその気になればと考えてしまう響であった。

 

 響のトレーニングは数日に渡って続き、単独で任務をこなせる様になった同じ頃、翼の意識が回復したという知らせを受けた。

 




ある程度ストックはあるので早めに投稿できますが……

なくなったらヤバい……続き書かなきゃ。

所でうちの司令、他の方の所より子煩悩になってる?


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本とお見舞いと夢

時系列としてはデュランダル争奪戦が起きた次の日辺りになります。

この辺りの原作の設定が記憶が曖昧な為、おかしな所があるかもしれません。
よろしければ感想の方をよろしくお願いします。


 あれから数日が過ぎた休日。広木防衛大臣が亡くなったというニュースでテレビは持ち切りだった。どのチャンネルにしても同じニュースばかり報道される。

 

「よし、あそこに行こう。」

 

 退屈になると決まって行く所。それは、図書館。瑠璃は読書癖があり、家にもそれなりに本を並べてある。

 主に歴史小説や世界の地域、音楽に関する本が多く占めており、いつか世界一周するのが夢なんだとか。

 図書館に入った瑠璃は早速、お目当ての本を探す。

 瑠璃は気になった本を手に取り、3冊取ったところで、司書がいるカウンターまで行くのがルーティーンである。

 そのルーティン通りに従い、その3冊目を決めてそれを手に取る。

 だが3冊目を取って受付まで行こうとした時、ある一冊の本が目に入った。

 それはアフリカ大陸の情勢とその風景に関する本である。

 

「止まぬ紛争と、子供達の未来……か。」

 

 瑠璃はそれも手に取り受付まで行く。図書カードを渡し、貸出の申請を済ませるとそれを小さな机に積み重ねて最後に目にした本を開く。

 エジプト、ナイジェリア、コートジボワールなど各国について様々な事が書かれている。それを瑠璃は熱心になって読んでいる。

 するとあるページに目が止まる。

 

「バルベルデ……共和国?何だろう……」

 

 バルベルデという国だけは聞いたことがなかった。   読んでみると情勢が不安定で紛争が絶えず、今も子供の戦争参加や反政府組織などの活動が活発していると書かれている。

 

「危ないなぁ……。」

 

 読んでいると8年前にNPO活動をしていた音楽家夫妻がこの地で亡くなったとも書かれていた。

 

「雪音雅律とソネット・N・ユキネ……国際結婚ってやつかな……。」

 

 今のグローバルな時代に国際結婚は珍しくはない。

 ドラマとかでありがちな言葉を借りるなら、愛に国境なんて存在しないというやつだろう。

 ただ瑠璃は名前と写真を見た瞬間、何か違和感を覚えた。

 

「何だろう……どこかで見た事があるような……。」

 

 既視感があるようだったが、思い出せなかった。思い出そうとすればする程、頭が痛くなった。

 体調に違和感を感じた瑠璃は帰ろうと立ち上がった瞬間、バランスを崩してしまい身体が後ろに傾く。

 後ろには本棚があるが、今の瑠璃にそれを避けられる状態ではない。このまま本棚に倒れる。痛みを覚悟して目を瞑った。が

 

「大丈夫か?」

 

 誰かに支えられている。ゆっくり目を開くと、以前に落とし物で仲良くなった少女だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 図書館を出ると並列で歩道を歩いている。本は手提げ袋にしまい、それを肩にかけている。

 

「もう大丈夫なのか?」

「はい、平気です。ありがとうございました。」

「良いって。偶々あたしがそこにいただけだからな。」

「でも危ない所を助けてくれたんだもん。あなたがいなかったら、多分酷い事になってた。」

「だから……そんなこっ恥ずかしいのはもういいって……。あと、敬語は要らねえよ。」

「あ、分かりま……。うん、分かった。」

 

 お礼を言われると恥ずかしくなったのか、少女は顔を赤くした。

 

「つか、何を借りたんだ?」

「えっとね……これ。」

 

ベートーヴェンが感じた世界、止まらぬ紛争と子供達の未来、礼儀作法マナー講座本を出す。

 

「どれもジャンルが違うんだな。」

「で、最後に借りたのがこれ。」

 

その本の名前はカンフーガールファイターである。

思わぬ不意打ちに少女はビックリする。

 

「何だそのゲテモノ?!」

「え?カンフーガールファイター。知らないの?」

「知ってて当然みたいな顔で言うな!」

 

 この作品は昨年映画化された原作小説であり、ある姉妹が自分の両親の命を奪った悪の組織が主催する大会に出場して優勝を狙うという内容になっている。

 実際にこの映画を弦十郎と見た事があり、意外と面白かったという。

 

「読んで見る?」

「読むか!」

「面白いのに……。」

 

 すると突然瑠璃のスマホから着信が鳴る。

 

「あ、ちょっとごめんね。」

 

 弦十郎からの着信だった。

 

「もしもしお父さん?うん。うん、分かった。今から行く。うん、じゃあまた後で。」

 

 そう言い終えると着信を切る。

 

「ごめん。これから病院に行かなくちゃだから、また今度で良いかな?」

「ああ。気をつけて行けよ。」

「ありがとう、じゃあね!」

 

 瑠璃は走ってその場を後にした。残された少女は手を振って見送った。

 

「優しいな。」

 

 その呟きを聞くものは誰もいなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翼が一般病棟へ移った事で面会が可能になったという報告を受け、早速お見舞いに行く事にしたルリだが、緊張していた。

 家も違うし、学校で会ってもまともな会話すらしてない。家族と言っても殆ど他人に近い状態だった。

 だが翼は自分を守る為に大怪我を負ったのだ。ちゃんと礼を言いたい、その一心で病室まで来た。深呼吸して、覚悟を決めるとドアをノックする。

 

「お、お姉ちゃん、起きてるかな?瑠璃だよ。」

「瑠璃……。ええ……入って。」

 

応答してくれた。

一瞬嬉しい気持ちになったが、浮かれてはいけない。

そっと病室のの戸を開けた。

 

「失礼しま……え?」

 

瑠璃が見たものはまさに地獄絵図と言っても過言ではない程、悲惨な事になっていた。

雑誌や下着、あらゆる物という物が散乱していた。

 

「えっと……お姉ちゃん。これって……」

「何も言わないで。」

 

翼は顔を赤くするとその目は反らしていた。それを見た瑠璃は意味を理解した。

 

それから瑠璃が整理整頓して、あっという間に綺麗になった。

 

「ありがとう。こういった事は慣れなくて……。」

「ううん、良いの。いつもやってる事だし、お姉ちゃん忙しいもんね。でも少し意外だったかも……。」

 

整頓し終えた瑠璃は椅子に座る。

 

「ありがとう……お姉ちゃん。あの時助けてくれて。それと……ごめんなさい。私、迷惑だったよね。」

 

瑠璃は俯きながら謝罪の言葉をかわした。

 

「いや、そんな事はないわ。寧ろ、私の方こそ感謝したい。あの時、怒りに任せて大事な事を見落としていた。防人として、自分の不甲斐なさを思い知らされた。だから、瑠璃が謝ることはないの。それに、可愛い妹を守るのは姉の努めだから。」

 

 そう言われると瑠璃は顔を赤くした。翼にそこまで言われるのは初めてだった。

 翼とここまで話したのも初めてであり、色々新鮮だった。瑠璃は照れながらも、ここまで話せたことが嬉しかった。

 

「叔父様はどうしてる?」

「うん、いつもと同じ。映画見て鍛えて、ご飯をいっぱい食べてるかな。」

「そうか。」

「あ、そうだ。最近響ちゃんって子がお父さんの弟子になっていてね。」

「立花が?」

「うん。おっちょこちょいなんだけど、誰よりもひたむきに頑張ってるの。それでね、お父さんと同じくらいの量を食べるの。ちょっとビックリしちゃったけど……」

 

 翼は瑠璃から響の話を聞くと、どこか嬉しそうな顔をしていた。それを見た瑠璃は少し笑う。

 

「どうしたの急に?」

「ううん。お姉ちゃんが笑ってる所、初めて見たなって。そしたら何だかおかしくて。」

「そ、そんな笑うところかしら?!瑠璃って、案外意地悪な所があるわね……。」

 

拗ねた子供のようにプイッとする翼。

 

「ごめんごめん。でもやっぱり、いつもしかめっ面なお姉ちゃんより、今みたいに笑ってる顔の方が良いよ。」

 

瑠璃がそう言うと、翼は天を仰ぐように上を向く。

 

「こんな風に誰かと笑い合うなんて、久しぶりだわ。いつの間にか、忘れてたみたい。」

「良かった。お姉ちゃんが元気になって。」

 

 そういうと互いに笑っていた。

 こうして楽しい時間はこうして過ぎていき、気がついたら夕方になっていた。

 

「お姉ちゃん、明日も来ていいかな?」

「構わないけど、いいの?」

 

 心配そうにみる翼だったがルリはへっちゃらと言わんばかりに笑顔を見せた。

 

「うん。だって、一人じゃつまらないでしょ?」

「そうね。またお願いするわ。」

「じゃあまた明日。」

 

 そう言って瑠璃は手を振りながら病室を出て戸を閉めた。

 

(お姉ちゃん、全然怖い人じゃなかったな。とても優しい人だった。こんなに話したのは初めて。)

 

 少しご機嫌な様子で買い物して帰ると夕飯を作った。

 今日は了子もご馳走になるという事で少しオーガニックにしたのだが、作っている時にはその嬉しさが忘れられず、弦十郎と了子も何事かと見ていた。

 そして間違えて作りすぎたのは秘密。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その日の夜、瑠璃は夢を見た。

 見知らぬ場所で一人ぼっちになっていた。

 

「お父さん?お父さんどこなの?」

 

 父を呼ぶが夢の中では意味をなさない。

 仕方がないので少し歩く事にした。

 すると、雪のように銀色髪の少女が泣いていた。

 

「ね、ねえ。君どうしたの?」

 

 恐る恐る声を掛ける瑠璃。

 

「お姉ちゃんが……お姉ちゃんがいないのぉ……」

「そっか……じゃあ一緒に探そう?私も手伝うから」

 

 そういってぎこちなく手を差し伸べた。

 少女は手を取ると

 

「この手……お姉ちゃんの手……」

「え?」

 

 瑠璃は少女の言っている意味が分からなかった。

 

「何を……」

「だってそうだもん……私達……」

 

 少女が顔を上げたその瞬間、ルリは夢から覚めた。

 

「はっ……!」

 

 大きく目を見開いてベットから起き上がった瑠璃。

 時計を見るとまだ午前4時だった。

 

「今の……夢?」

 

 今までこんな夢を瑠璃は見た事がなかった。もう一度寝直そうとするが、結局眠れず朝を迎えた。

 

 

 次の日も瑠璃はあの夢を見ては、目を覚ますという悪循環に陥り、次第に寝不足になっていった。

 弦十郎と朝食を取っている時も

 

「瑠璃、塩を取ってくれないか?」

 

 瑠璃はボーッとしていた。

 

「どうした瑠璃?」

「え、いや、なんでもないよ!」

「本当か?」

「うん、あ、お塩だったね。はい」

 

 不審に思いながら弦十郎は塩を受け取り目玉焼きに振った。

 

 翼のお見舞いに行った時も些細なミスが目立った。

 林檎の皮を剥いている時

 

「痛っ!」

 

 親指の皮を切ってしまい、出血してしまう。

 

「瑠璃!大丈夫?!」

「あ、大丈夫!大丈夫だから……」

 

 心配させまいと笑顔を振りまくも、翼の不安は拭えていなかった。

 瑠璃の調子が悪い事は翼も気づいていたが、何と声を掛ければいいか分からず、結果的に何も伝えられないまま帰してしまった。

 

 この所同じような夢を繰り返し見ていくにつれて、瑠璃は些細な失敗を繰り返すようになり、今も上の空だった。

 

「瑠璃?瑠璃?瑠璃!」

 

 隣の席にいる輪の呼び声で覚醒すると周囲のクラスメイトと教員が瑠璃を見ている。

 

「風鳴さん、授業中に呆けるとは珍しいですね。」

「あ、す、すみません。」

「では風鳴さん、この問題解いてください。」

「は、はい!」

 

 瑠璃は黒板の前に立って問題を難なく解いていった。

 

「正解です。ちゃんと休んでますか?頑張るのは良い事ですが、授業中に呆けるのは無しでお願いしますね。」

「は、はい。すみませんでした。」

 

 教員は瑠璃は素行の良い優秀な生徒であると承知しているので、優しく注意した。他のクラスメイトも最初は何事かと心配していたが、それが杞憂だと分かると元に戻った。

 ただ一人、親友を除いては。

 

 お昼休み。食堂でいつものように昼食を取っている。

 

「瑠璃、あんた本当に大丈夫なの?」

「ううん、平気。心配ないよ。」

 

 瑠璃は笑って誤魔化していることを輪は勘付いていた。

 

「じゃあ何その隈?」

「え?」

 

 いつも瑠璃と学園生活を過ごしている彼女が、僅かな変化を見落とすわけがなかった。何より、瑠璃は嘘が下手なのも知っている。

 

「何か寝不足してる?でも、普段から夜更しするような子じゃないから何か悪い夢でも見てるとか?」

 

 そこまで当てられるともはやエスパーじゃないかと思ってしまうルリだったが、新聞部のエースを前に誤魔化しきれるわけもなくようやく観念した。

 

瑠璃は夢の内容を全てを話した。

 

「あの日から同じ悪夢をずっとねぇ。よっぽどショックだったのかな?」

 

 が、瑠璃はうたた寝していた。

 

「起きろぉぉぉーー!!」

「うわああぁぁっ!!」

 

 輪の大声にビックリした瑠璃は起き上がった。

 

「人の話は最後まで聞きなさい!」

「ご、ごめん。」

 

 しゅんとする瑠璃。

 

「ねえ、同じ夢を見るという事は何か瑠璃に訴えているんじゃないかな?」

 

 そんなアバウトな事を言われても瑠璃は首を傾げる事しか出来ない。

 

「訴えているって……何を?」

「私が知るわけないじゃん!もし不安だったらオジサンにも相談してさ、病院行って診てもらうなりすればいいと思うよ?」

 

 出来る事ならやっている、だがいつも忙しい父に迷惑が掛かってしまう。

 自分がお荷物になるわけにはいかない、そう思っていた矢先、輪が瑠璃の両頬をパンッと叩くように寄せた。

 

「シャキッとしろ、風鳴瑠璃!確かに嫌な夢を連続で見たのは嫌だっただろうけど、一々気にしてたら生きていけないぞ?それに、夢は所詮夢なんだから!」

 

そういって手を退ける。少しヒリヒリしているのか、瑠璃は頬を撫でるように擦る。

 

「やっぱ輪って相談役に向かないよね。何か勢いだけっていうか……」

 

思わぬ一言にグサリと来た輪。

 

「でもありがとう。」

 

瑠璃は輪に笑みを見せると、輪の頬は赤くなっていた。

 

「そ、それは……どうもいたしまして。」

 

二人は昼食を済ませて教室へと戻って行った。

 

 

 

 




ようやく瑠璃が苦しみだしましたね。

次回はもっと苦しんでもらいますかな。


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喪失

勘付いている方がいらっしゃる……急がねば。


それはさておき、いよいよ瑠璃に危険が迫ります。


 放課後、輪はゲームセンターに連れて行こうと瑠璃を誘った。

 

「ねえ瑠璃、今日帰り寄ってかない?どうせならゲーセンで嫌な事忘れて、スカッとしちゃおうよ!」

「あ、ごめん。今日もお見舞いに行くから……。」

「あ、そっか……。ならさ、私もついて来たら駄目かな?」

「多分大丈夫だと思う。お姉ちゃん、きっと喜んでくれると思う。でもサインは駄目だからね?今は病人なんだから。」

 

 翼のファンである事を知っているので、念の為に釘を刺しておく瑠璃。

 

「分かってるよ。そこは弁えてるもん。じゃあ行こう!」

 

そういうと二人は教室を出ようとすると

 

「翼さんのお見舞い?!」

「私も連れてって風鳴さん!」

「私も私も!」

 

 翼の熱狂的なファンであるクラスメイトに囲まれると瑠璃は戸惑った。

 人見知りである瑠璃が、殆ど会話をかわさないクラスメイトの人達に押されていく。

 

「瑠璃!行くよ!」

 

 輪に腕を引っ張られ強引に連れて行かれる。クラスメイト達も逃がすまいと追い掛けるが、校門で行方を晦ました。

 

「ふぅ……危ない危ない。あんなに大勢で来られたら翼さんも困っちゃうよね。」

「う、うん。そうだね。あ、ありがとう輪。」

「良いってことよ。それより、このまま手ぶらで行くのもおこがましいし、フルーツでも買っていこう。」

「うん!」

 

 近くのスーパーでフルーツバスケットを買って病院へ向かう二人。

 

「いやぁ、楽しみだなぁ。」

「もう、輪ったら。(お姉ちゃん、また散らかしてなければいいんだけど……)」

 

 何となく2つの意味で一抹の不安を抱いた瑠璃。

 

 杞憂であってほしいと願っていると、その二人を影から見下ろす人物がいた。

 

「ちょっと怖い思いするけど、死なせはしないからな。」

 

 そう言って杖を構えると、それから放たれた光線からノイズを召喚した。

 

 


 

 

 二課ではノイズ出現のアラートが鳴り対応に追われている。

 ノイズの殲滅は響に向かわせる事になったが、弦十郎は胸騒ぎがしていた。

 弦十郎の表情が曇っている事に気付いた了子は声を掛ける。

 

「どうしたの?浮かない顔しちゃって」

「いや、どうにも胸騒ぎがしてな。」

 

 杞憂であってほしいと願うしかないのが歯痒く感じる。

 

「大丈夫よ。きっと、何とかなるわ。今回は小規模の上、こっちには期待の新人、響ちゃんがいるんだし〜」

 

 了子のマイペースっぷりには呆れているが、今はそれで気が楽になるので有り難かった。

 

そこに新たな警報と共に藤尭から報告が入る。

 

「新たなノイズ反応パターンを検知!場所は先程の出現区域のすぐ近く、開発跡地です!」

 

 そこはかつて小さなビルや団地が多く建てられていたのだが、人口が減った事により今では無人となってそのまま放置されている。

 モニターに地図とノイズの出現パターンを座標として照らし合わせている映像が映る。

 

「何故そんな所に……」

 

 考えていると、弦十郎のスマホに瑠璃から着信が入った。

 

「すまない瑠璃、今は……」

『助けてお父さん!』

 

 声の様子からただ事ではないというのが分かる。

 

『ノイズ……ノイズに襲われてる……!』

「何?!」

『来た!逃げよう瑠璃!』

『お父さん、助け……』

 

輪の声も聞こえたが、ここで着信が切れてしまった。

 

「藤尭!友里!場所割出せ!」

 

 同じオペレーターである友里あおいは藤尭と共にケータイのGPSが発せられた場所を割り出す。

 

「司令、ノイズ発生区域内にGPSを探知しました!」

 

 胸騒ぎの正体に気付いた時には既に手遅れだった。

 弦十郎は己の無力さに嘆きながらも立ち止まるわけにはいかない。

 

「くそっ!響君、聞こえているか?!新たにノイズが出現した!だが瑠璃と輪君がその出現区域にいる!何としても助け出してくれ!」

『了解!』

「俺も現場に行く、車を出せ!」

 

 今回ばかりは止める者はいない。

 弦十郎は本部を出て、メインシャフトを利用して地上へ上がる。

(神よ……どうか瑠璃を守ってくれ……!)

 

 


 

 

 瑠璃と輪はノイズから逃亡していた。ノイズに触れれば炭化して命を落としてしまう。だが建物が入り組んでいて何処から襲われるか検討がつかなかった。

 かと言って後ろからノイズに追いかけられている。それ故に逃げるしか手がない。

 

「どうしよう……スマホ落としちゃった……。」

「大丈夫、きっと助けが来る!オジサンを信じよう!」

 

 今は何とか巻いているが、いつまた見つかって襲われるか分からない恐怖を前に、瑠璃は不安になりながらも輪に励まされ希望を投げ捨てずにいた。

 だがその希望を踏みにじるかのように、ノイズが建物を伝って襲って来る。

 

「ヤバい!逃げよう!」

 

 輪は瑠璃の腕を引っ張り、的確にノイズが少ない逃走経路を選んで走るが、前からノイズが襲って来た。

 

「こっち!」

 

 今度は右側にあるビルの間に挟まれた道を走る。だがここで足止めされてしまう。

 

「行き止まり……!」

 

 前がビルの壁と把握すると、すぐに引き返そうとするが、唯一の出口がノイズによって塞がれてしまう。左側のビルの裏口扉も鍵が掛かっていて開かない。

 もはや自分達が死ぬ以外の未来は全て潰されてしまったと、思われた。

 

「おい、こっちだ!」

 

 突然裏口扉の鍵が開いた。

 声を掛けられ、二人は急いで中へ入ると、階段を登って二階の事務室と思われる部屋に入った。

 

「ここまで来れば、もう大丈夫だ。」

「あ、あなたは……あの時の……。」

「え、知り合いなの?」

 

 助けてくれたのはあの銀色髪の少女だった。輪は知らない為、初めましてだった。 

 

「ありがとう……」

 

 瑠璃と輪は息絶え絶えだった。

 

「礼なんて要らねえ。それよりも、何とかしなくちゃな。今のうちに体力を回復させとけよ。」

 

 逃げてる間にバッグやせっかく買ったフルーツバスケットを落としてしまったが、命があっての物種、死んでは意味がない。

 瑠璃は顔を上げると自分を助けれくれた少女を見た。

 

「ね、ねえ。あなたは何でここに?」

「そりゃ会いたい人に会いに来たんだ。そしたらこのザマでよ。」

「それは災難だったね……」

 

だがこの時、輪は違和感を感じていた。少女の声、口調、こないだ何処かで聞いたことがあった。

 

「ね、ねえ。あなたどっかで会った……え?」

 

輪は少女の顔を見るや否や、瑠璃の方を見る。

 

「どうしたの、輪?」

「え、いやいや。だって……いくら何でも似すぎ……っていうかそっくりだよ……。」

 

 瑠璃と少女、風貌と体型、瞳の色と髪の色、黒子の有無の違いはあれど、瓜二つだった。

 

「お喋りはその辺にしとけ。そろそろ移動しないと、ここもヤバい。」

 

 だがここでノイズの数が少なくなったので、脱出を図る。

 少女がドアを開けて、退路を確保すると、瑠璃と輪がそれに続いて、階段を降りている時、輪はある事に気づいた。

 

(あのノイズ……すぐに襲って来ない……。あの時の夜もそうだった。)

 

 ノイズは人を認識した瞬間、炭素化すべく襲いかかって来るが、今回と言い、夜での出来事といい、何故か襲って来ない。

 

(もしかして、ノイズは誰かに統率されている?!でも誰に……まさか!)

 

 今いるノイズを操る者の正体、そして夜に遭遇した襲撃者の正体、輪はそれに気付いてしまった。

 だが考え事に夢中になるあまり、輪は足を踏み外し、階段から転げ落ちてしまう。

 

「輪!大丈夫?!」

 

 瑠璃は心配して輪に駆け寄る。

 

「大丈夫だよ……!それよりも瑠璃、早くあの子から……」

「ぁぅっ……!」

 

 逃げて、と言おうとしたが、既に手遅れだった。少女が瑠璃の首の後ろを手刀を入れられた事で瑠璃の意識は奪われてしまった。

 

「あんた……!瑠璃に何を……がぁっ!」

 

少女の正拳が輪の鳩尾に直撃する。

 

「や……ぱり……あ……た……。」

 

 輪が蹲った所を確認すると、気を失った瑠璃の方へ駆け寄る。

 

「悪かったな、待たせちゃって。迎えに来たからな。」

 

 そう言うと、少女は瑠璃を抱えるが、少女の右足を掴む手があった。 

 

「……てよ……かえ……して……瑠璃を……。」

 

 だが輪のささやかな抵抗も虚しく、簡単に払われてしまう。そして少女は杖を輪に向けた。

 

 

 

 




ご感想、お待ちしております。

そろそろストックがぁ……


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歪な再会

輪の洞察力の高さが裏目に出るのか……

そして明かされる瑠璃の真実
(但し全部とは言っていない。)


 出現したノイズを殲滅した後、瑠璃と輪を探す響だったが、如何せん建物が多くどこに隠れたのか分からない為、一人での捜索は厳しかった。  

 少し時間が経つと、実務部隊の一課と、弦十郎が到着し、人手も増えた事で捜査範囲を拡大していった。

 すると捜査員が道端に落ちているスマホを発見し、弦十郎に確認を取らせる。

 

「娘のものに間違いない……。」

 

 そのスマホは画面が割れてしまっているが、弦十郎が瑠璃に買ってあげたスマホで間違いなかったが、瑠璃本人が見つからなければ意味がない。

 とにかく弦十郎は瑠璃と輪の無事を願いながら捜索していると、リディアンの制服を着た女子生徒がストレッチャーで運ばれているのが見えた。

 

「すまん、退いてくれ!」

 

弦十郎は急いで救急車に運ばれようとしている少女の確認に向かったが、運ばれていたのは

 

「オジサン……?」

「輪君……!瑠璃は……瑠璃は?!」

 

 輪は無事だった。ただ右足関節が赤く腫脹している事から、骨が折れた可能性があるとの事だった。

 そして輪は弦十郎を見た途端、泣き出してしまった。

 

「瑠璃が……瑠璃が……あいつに……!」

「あいつ?!あいつとは……待ってくれ!」

 

 嗚咽混じりに見たものを伝えようとするが、輪を乗せたストレッチャーはそのまま救急車の中に入れられ緊急搬送された。

 弦十郎は悔しさを滲ませるかのように拳を強く握った。

 

 

 弦十郎は一度に二課に戻って情報を整理する。

 輪が生き残り、瑠璃か行方不明になったこと、輪の証言で瑠璃が攫われ、犯人は先日のネフシュタンの鎧を纏った襲撃者の少女である事が濃厚となった。

 だが住民に犠牲が出ておらず、輪の命を奪わなかった事から敵の目的は殺戮ではなく、瑠璃の捕獲であると結論付けられた。

 つまり、敵はまんまと二課を出し抜き目的を果たし、二課は敗北したことになる。

 

 弦十郎は今後の対策を建てる前に、輪が運ばれた病院へ向かい、面会をする。

 

「すまない輪君。君を巻き込み怪我を負わせた上に、瑠璃を守れなかった。」

「いえ、オジサンが悪いわけじゃ……いや、悪い所はあったかな。」

 

 輪は右足は高く挙げられていた。

 幸い骨は折れてなかったが、足を大きく捻った事による靭帯損傷との事だった。

 

「オジサン。オジサンが瑠璃に隠している事、全部話してください。」

「何を……」

「ずっと前から思ってたんです。オジサンと瑠璃、全然似てないから、何かあるんじゃないかって思ったんです。翼さんとも、従姉妹にしては学園で話してる所を殆ど見たことないですし……あと瑠璃を攫ったあいつ……何か瑠璃に似てた。でも態々瑠璃を攫ったってなると、あいつは何か関係があるんじゃないかって思うんです。」

 

 輪の勘の鋭さには弦十郎も驚かされるが、それは問題ではない。

 本当に教えていいのかと考えるが、輪を二度も巻き込んでしまった以上、輪にも知る権利がある。

 何よりこれ以上の隠し事で信頼を損なってしまうのは本意ではない。

 

「そうだな……。話は長くなる故にある程度掻い摘んで話すが、知っている事は全て話す。だが、この事を知っているのは極わずかだ。口外すれば瑠璃が傷つく事になる。それだけは理解してくれ。」

 

 その条件を輪は飲んだことで弦十郎は真実を話した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 明日からリハビリということになり、しばらくは入院する事になった。

 消灯時間はとっくに過ぎているが、輪は弦十郎の話が忘れられず、今も起きている。

 

「瑠璃……。あんたって子は……。」

 

 国家機密だらけの技術を持つ二課という存在、誰かがノイズを操っている事、ここまでは輪が推測してた通りたった。

 だが瑠璃の過去だけはまったく想像できなかった。

 出会った時から、どこか謎めいた雰囲気を持っていると感じていたが、瑠璃の過去を知った今、今後どう接すれば良いか分からない。

 でも一つだけ確かな事がある。

 

(それでも……それでも私は瑠璃の親友でい続ける。同情なんかじゃない。あの子がどんな過去を背負ってようが関係ない。私は風鳴瑠璃の大親友、出水輪なんだから。それに……オジサンだって……)

 

 弦十郎が背負った覚悟をこの日、輪は知った。

 

 

 対する弦十郎は帰り道で病院での輪の覚悟を思い出していた。

 

「失望しただろう?俺は、君が思っている程立派なものではないのさ。」

 

弦十郎は自嘲するが、輪が突然頭を下げた。

 

「どうしたんだ?!」

「ごめんなさい!オジサンの事、瑠璃の事を何にも分かってないのに、あんな生意気な事を言って……ごめんなさい!私……私……」 

 

弦十郎は輪の肩に手を置いた。

 

「良いんだ。君が謝ることはない。すべての発端は、俺達にある。俺は必ず瑠璃を取り戻す。あの子を、今度こそ平和な日常に送り返す。だから謝らないでくれ。」

 

その言葉を聞いた輪は真剣な顔付きになる。 

 

「オジサン、私にも協力させてください!」

「それは駄目だ!君はあくまでも……」

「本当の事を知った以上、高みの見物とか出来ません!それに、大事な親友がそばにいないと、私駄目なんです!今はこんなですけど何でもやります、なのでどうかお願いします!」

 

ベットに頭をつける様に下げた。

未成年を二課に入れるわけには行かないが、輪の覚悟にも応えなければ野暮というものだった。

 

「良いだろう。外部協力者として、君を仲間に向かい入れよう。」

 

そういうと輪は頭を上げた。

 

「ありがとうございます!」

 

弦十郎でも止める事が出来なかった輪の覚悟。だが肝の据わった友達が出来て、父親として嬉しく思っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 瑠璃を捕獲した少女は街外れにある大きな洋館に入った。

 少女は部屋のベットに瑠璃を寝かせる。

 

(殴ってごめん。でも、生きていて良かった……。)

 

 すると、少女は瑠璃の横で疲れたかのように眠っていた。まるで幼い姉妹が眠っているように見えた。

 

 

 夜明け頃、瑠璃は目を覚ました。

 

(ここは……。私は確か……輪と一緒にお姉ちゃんのお見舞いに……そうだ!私ノイズに……)

 

 すると左手に何か柔らかいものが当たった。

 それは自分と同じくらいの大きさのある少女の胸を鷲掴みにしていた。

 

「んぅ……」

 

少女の漏れる声で我に返った瑠璃は顔を真っ赤にして慌てて手を離したが、テンパった勢いでベットから落ちた。

 

「うるせえな、何の……あ、起きてたのか。」

 

 今の衝撃で少女が目を覚ました。

 

「お、おはよう……じゃない!ここはどこなの?!私は……何でここに……」

「いや、あたしが連れてきたんだ。」

「な、何で?!一体何を……っていうかあなたは一体……」

 

 さっきのハプニングもあって、完全にパニックになっている。

 

「落ち着けって!取って食ったりはしねえって!」

 

 一先ず瑠璃を落ち着かせてから、何を話そうか考える少女だったが突然扉が開いた。

 

「本当に連れて来たのね。」

 

 振り返るとそこには黒い服を纏い、帽子とサングラスを着けた艶やかな姿をした金髪の女性がいた。

 

「別にこれくらい良いだろ。これなら巻き込まなくて済むし、また一緒に暮らせるんだろ?」

「そうね。クリス、外で話しましょう。この子とお話はそれからよ。」

 

 少女の名はクリスと呼ばれていた。

 舌打ちをするクリスだったがここはフィーネを信じて素直に言う事を聞くことにした。

 

「分かった。また後でな、『姉ちゃん』。」

 

 そういうと女性についていくように、クリスは部屋を出ていった。

 

「ん?姉ちゃん?」

 

 クリスの最後の言葉に疑問を持ったまま残された瑠璃だった。

 

 

 

 二人が出ていった後、瑠璃は部屋を出て出口を探していた。

 

(急いでお父さんの所へ帰らなきゃ。)

 

 だが建物の中は広く、何処が出口なのか分からなくなってしまう。困り果てながら歩いていると曲がり角で人と接触し倒れた。

 

「痛た……すみませ……へぇっ?!」

 

 顔を上げるとさっきまで黒い服を着ていたはずなのに、何故か一糸纏わぬ姿になっている女性を見て慌てふためいた。

 

「うわあああぁぁ!あ、あなた、なな何なんですか?!な、ななな何で裸?!そ、そそそんな……は、破廉恥な!」

 

 女同士でも刺激が強すぎる身体つきに、顔を赤らめ手で顔を覆っている。

 

「落ち着きなさい。お転婆なのはクリスとそっくりね。私を見なさい。」

 

 フィーネは瑠璃の口元を人差し指で押して、静かにさせる。

 瑠璃は何が起きているのか、何でこうなってるのか分からず、恥ずかしさのあまり涙目になっている。

 

「ついてらっしゃい。」

 

 そういうと瑠璃の腕を引っ張りながら地下室へ連れてきた。

 

 その部屋には医療器具のような機械が多く設置されていてまるで手術室のように思えた。

 

「そこに座りなさい。」

 

 瑠璃は指示されるがままに台座に座ると、女性は隣り合うように座った。

 

「髪や黒子、目の形は少し違うけど、やはり双子と言ったところかしら。」

「ふ、双子?私に双子なんていません……!年が1つ離れた従姉がいるくらいで……」

「風鳴翼、だろう?」

 

 名前を言い当てられ何故分かったのか動揺する瑠璃。

 

「そして父親は風鳴弦十郎。」

「どうしてそれを……?!」

「そんな事はどうでもいい。だが実に滑稽だな。顔はも性格も全く異なるのにそれで胸を張って親子と言うのだからな。」

「何を言って……きゃっ!」

 

 フィーネに押し倒さると両手をそれぞれ枷で繋がれ、脱出出来ないようにされた。

 

「お前はまだ気付かないのか?どこまで鈍いのか……いや、知ろうとしないのか」

 

 右手で瑠璃の左頬に触れた。フィーネは瑠璃を愛でているのだが、当の本人は恐怖で震えていた。

 

「あなたとあなたの父親が似てないのは当たり前の事よ。そもそも、父親の血が一切流れていないのだから。」

「何を言って……私とお父さんは親子じゃないって言いたいの?」

「あなたは風鳴の駒として拾われた余所者、ただの道具なのよ。」

 

 フィーネの言葉は瑠璃の心を揺らがせるには的確なものだった。

 

「う、嘘だ……だって私はお父さんと……」

「あなたは母親の顔を見たことある?」

「お母さん?お母さんは、私が生まれた時に亡くなった……って……お墓だって……」

 

 瑠璃は気付いてしまった。母の顔を一度も見たことが無い。ましてや家族の写真にすら母親は写っていない。

 

「その様子だと気が付いたようだな。何とも間抜けなやつだ。お前は妹と同じ、シンフォギアの適合係数が高かった、それ故にやつはお前を引き取ることにした。だがお前は心が死んでいて、戦士としては使えない失敗作だった。」

「お父さんはそんな事を……お父さんはそんな事しない……!」

「では何故あなたには秘密にし、姪である翼を戦わせる?そもそもリディアンが建てられた本当の目的は知ってる?知らないでしょう?」

「それは……それは……」

 

 否定しようとすればする程父親という人間が分からなくなってしまう。

 また自身にしている秘密も打ち明けてくれない事にも気付いてしまい、信じたのが間違っていたのか、自分は何者なのか、否が応でも考えてしまう。

 

「言葉で分からないなら……体に教えてやろう。」

 

 その右手で瑠璃の制服に手を掛けるとそれを破り捨てて白い柔肌が露わになる。

 

「お前の中に眠る記憶、解放する手助けをしてあげる。」

「や、やめ……やめて……いや……」

 

 馬乗りの状態から降りて、スイッチを入れるとルリ体に電撃が走る痛みが全身に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瑠璃が苦痛の悲鳴を挙げる中、フィーネは赤く輝く結晶のペンダントを左手に握り、その光景に愉悦していた。

 




瑠璃が苦しむ姿をちゃんと書けているだろうか。

え?私はそんな外道な真似はしてないと思いますよ?


ご感想お待ちしております。


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淀む夜空

前回のサブタイトルを間違えてしまいました。

現在は修正し、こっちが本当の淀む空です。

訂正してお詫び申し上げます。

そして今回から主役の出番が激減する事もお詫び申し上げます。


 響はいろんな悩みを抱えていた。装者や二課の事について親友である未来に秘匿している事、その未来と今日お好み焼き屋であるふらわーに行けなくなったこと、そして瑠璃が攫われた事、多くの要因が重なり気が重くなっていた。

 だがこれも人の為、世の為。響は今日も装者として活動していく。

 

 少し前に二課のエージェント兼翼のマネージャーを務める緒川慎次から密かにメールを受け取っていた。翼のお見舞いに行ってほしいというものだった。

 今までは瑠璃が毎日通っていたのだが、瑠璃が攫われ他に頼める人が響しかいなかった。なお今回助っ人として輪も同行するようなので、病院前で合流した。

 

「いやー前回はノイズに襲われて行けなかったからなー。っていうかまさか同じ病院に入院してたなんてねぇー。」

 

 とても先日ノイズに襲われて死にかけた人間とは思えない程の精神の持ち主だった。

 しかも何を隠そう怪我人である。一応リハビリのお陰で松葉杖での歩行は出来るようになり、無事退院した。

 ただ今回は車椅子に乗っている。

 

「あの、輪さん。瑠璃さんの事で無理してませんか?」

 

聞きにくそうに輪に聞いてみた。

 

「ないって言ったら嘘になるかな。やっぱり瑠璃の事が心配だね。私、瑠璃がいないとやっぱ駄目みたいでさ。カメラを持ってきてもらったんだけど、何も写真撮ってないんだ。」

 

 今日は自前のカメラを出している所をほとんど見てない事に気づいた響。

 

「私の撮る写真、瑠璃がいるから輝けるんだなって気付いたの。どんなに写真を撮っても、全然足りないっていうか、何を撮っても虚しさが残るんだよね。」

 

響はどこか共感できる所があった。

この人にとって瑠璃は自分でいう未来のような存在なんだと。

出会ったのがつい最近であっても、互いに理解し合い、喜びも悲しみも分かち合えるもう一人の自分のような存在。

 

「あの、よろしかったら撮った写真、見せてもらってもいいですか?」

「良いよ。ちょっと待っててね〜。」

 

 鞄を漁るとデジタルカメラを出す。カメラの電源を起動して、撮影ファイルを映す。

 

「どれも瑠璃さんが写ってますね。」

「私の写真は瑠璃がいて、初めて彩るんだよ!」

 

 図書館で本を読む瑠璃、夕焼けを背景に佇む瑠璃、体操着で50m走を走る瑠璃など、全部の写真に瑠璃が写っている。だが輪があることに気付いた。

 

「あれ?写真……ない!何で?!」

 

 響からカメラをふんだくると撮っていた筈の写真がない事に気づいた。いくら探しても見つからず、輪は落ち込んでしまう。

 

「輪さん、あの……何の写真が?」

「ああ。あの時、殴られて気を失ったんだけど、目が覚めた時に、何か手掛かりを残すべく撮っておいたんだよね。けど……この様子だと消されたなこれ。」

 

 つまり輪は瑠璃を探そうとしているという事になる。それに気付いた響はもの凄い剣幕で反対する。

 ただ他の人の目と耳もあるので、聞かれない程度の小声で話す。

 

「輪さん、危ないですよそんなことしたら……!もしノイズに襲われでもしたら……!」

 

 もしギアを持たない輪がノイズに襲われたら何も出来ず殺されてしまうだけだ。

 

「そんなの覚悟の上だよ。私は瑠璃を取り戻す為なら何でもする。例え、あの子が相手でも……」

 

 輪の言うあの子は、ネフシュタンの鎧を纏った少女の事だと響は思った。輪を見れば、その決意の固さが伺える。だが、完全聖遺物を相手に一般人が勝てるわけがない。

 

「なら、私が瑠璃さんを取り戻さなくちゃいけませんね。」

「え?」

「輪さんの思いは分かりました。でもこれ以上、輪さんに危険な事はさせられません。だから私がこの力で絶対に瑠璃さんを助けます。瑠璃さんが一人で泣いているのなら、その手を差し伸べます。だから、輪さんは、ちゃんと怪我を治してください。瑠璃さんの事は私達に任せてください。」

 

 そういうと響は自分の胸をポンと叩く。

 

「ありがとう。私、戦えないからこんな事頼むのも本来おこがましいんだろうけど……瑠璃を助けてください。お願いします。」

そういうと輪は頭を下げた。

「わ、分かりましたから顔を上げてください!」

 

 今のやり取りを他の人に見られて反応は様々だったが羞恥心が隠せなかった二人であった。

 響が咳払いをして仕切り直す。

 

「ですが、輪さんの思い、託されました!」

「託したぞ、後輩!」

 

 響が輪に拳を突き出す。輪もそれに応えるように、拳を合わせた。

 

 

 翼の病室に着いた二人はそれぞれ異なる意味で緊張していた。二人とも深呼吸をしてノックする。

 

「翼さん、響です。」

 

 だが応答がなかった。

 

「寝てるのかな?」

「失礼しま……うえぇっ?!」

 

 響が戸を開けるとそこは無惨にも雑誌や下着が荒らされていた。

 

「響、これ!」

「あわわわ、まさか今度は翼さんまでもが敵に攫われるなんて……」

「何をしているの?」

 

 後ろから当の本人がやってきた。

 翼はまだまともに歩ける状態ではなく、点滴に繋がれたまま、松葉杖で移動をしている。

 

「翼さん大丈夫ですか?!」

「どこか怪我はないですか?!」

「入院患者に安否確認ってどういうこと?そもそもあなたも怪我人でしょう?」

 

 話の意図が読めず怪訝な顔をしているが、二人は慌てたままだった。

 

「「だってこれ!」」

 

 同時に部屋の状態を指差すと翼は顔を赤くした。輪はその表情を見て怪しげな顔をした。

 

「あの、まさかと思いますけど……。この惨状の犯人、あなたですか?」

 

 その意味に響はようやく気づいたようで、これは翼がした事なのだと理解した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 洋館では瑠璃が心身共に虐待され疲弊しきっていた。

 今は拘束から解放されているが、とても逃げ出せるような状態ではない。

 愛する父が、本当の父親ではないと告げられ、さらに自分は風鳴の役立たずだから隠し事をされ、偽りの人生のレールの上を歩かせられているのだとフィーネに吹き込まれた。

 普段の瑠璃ならこのような戯言を信じはしなかった。だが数々の証拠、思い当たる節が幾つもあり、心身共に追い詰められている状態で考える余裕が無かった。

 

(助……けて……)

 

するとフィーネが戻って来た。

 

「よく耐えたわね、ルリ。さあ、これはご褒美よ。」

 

 フィーネは手に持っていたペンダントを瑠璃の首にかける。

 

「その力があれば、あなたは本当の自分になれる。もう偽物でいる必要はないわ。」

 

フィーネが囁いたのと同時に何か浮かび上がってきた。

 

(これは……歌?)

 

「さあ、ルリ。あなたの歌を聞かせて。」

 

 そういうとフィーネと瑠璃の唇同士が重なる。

 そうして瑠璃の瞳は淀み、無機質なものへと変わり、次第に瑠璃の意識は闇へと落ちていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翼の病室で散らかっていた私物を、響と輪で片付けると見違えるように整われており、足の踏み場がなかったあの悲惨な状況とはおさらばしている。

 翼はそんな二人の背を見ながら顔を赤くしていた。

 

「もう、そんなのいいから……」

「私達、緒川さんからお見舞いを頼まれたんです。だからお片付けさせてください。」

「そうですよ。それに翼さんはみんなが憧れるトップアーティストなんですから、あんな惨状を見られてファンが離れるのは嫌ですし。」

 

 さらに顔を赤くさせる翼。

 

「っていうか翼さん、これ今までどうしてたんですか?」

「普段は緒川さんがやってくれるんだけど、入院してからは瑠璃がやってくれてる。」

「緒川さん?」

「えぇっ?!男の人にですか?!」

「嘘ぉ?!」

 

 輪は緒川を知らないが、男の人であると響の口から聞いたので唖然した。

 

「た、確かに、いろいろと問題ありそうなんだけど、それでも、散らかしっぱなしっていうのも、よくないから、つい……」

(駄目なやつだ……これ外に知られたら駄目なやつだ……。)

 

 今回見た事は心の中に留めておこう、そう悟った輪である。

 

「叔父様から聞いたわ、瑠璃が攫われたって。」

 

翼に話を切り出され響は守り切れなかった事を、翼に謝る。

 

「すみません。大事な家族を守れなくて……。輪さんにも怖い思いをさせちゃって……」

「別に良いんだよ。まあ、確かに怖かったよ?でもさ、響はそれ以上に地獄を見てるんじゃないかなって、考えちゃうんだよね。それに翼さんだって、苦しんでたんじゃないんですか?」

 

図星だったようで2人は僅かだが驚いていた。

 

「どうしてそう思ったの?」

「だって、あの力を持ったからには死ぬまで戦わなくちゃいけないんでしょう?その上で、どうしても救えなかった命や、失ったものがあるのだとしたら、それこそ生き地獄なんじゃないかなって。翼さん、前にツヴァイウィングっていうユニット組んでましたもんね。天羽奏さんが亡くなるまで。今思えばもしかしてって思うんです。」

「あなたって、まるで探偵みたいね。」

「恐縮です。」

 

 輪には翼に一礼する。

 

「そうね、奏も私と同じ装者だった。血反吐に塗れながらも掴み取った奏を、私は尊敬していた。でも、奏はあのライブで歌いきって死んだ。そしてその力は彼女、立花に受け継がれている。」

 

 最初は真剣に聞いていたが、その言葉の意味を理解した輪は驚きながら響を見た。

 

「あれ……?もしかして響って……あのライブにいたの?」

「はい。あの時のライブにいました。」

 

 勘の良い輪でもそこまでは読めなかった。

 あの事件では確かにノイズによる犠牲者が多かったと聞いているが、全体の死者数の割合では人災的なものによるとされている故に、生存者の多くがバッシングに遭っていると報道されていた。

 

(そうだったんだ……じゃああのライブ……何か……。)

「出水さん?どうしたの?」

「え?いや、ちょっと響があのライブにいたのがちょっとビックリしたっていいますか。アハハハ……!」

「それって……」

「あ、そうだ!私、二課の外部協力者としてオジサンに認めてもらえたんです!」

 

 無理矢理話題を変えるように報告した。

 外部協力者といっても外部協力者が出来る事はノイズが発生した時に住民がパニックにならないように避難誘導だけだが、それでも二課の協力が出来るだけでも十分だと輪は了承したという。

 

「え、ええ……それについては報告書で知ったわ。私が抜けた穴を、立花さんがよく埋めているということもね。」

「そ、そんなこと全然ありません!いつも二課の皆に助けられっぱなしです!」

 

響が慌てる顔を見て可笑しかったのかクスリと笑う翼。

 

「そう、だからこそ聞かせてほしいの。あなたの戦う理由を。」

 

途端に真剣な顔になる。

 

「ノイズとの戦いは遊びではない。それは、今日まで死線を超えてきたあなたならわかるはず。」

 

翼の問答に何て答えればいいか分からず、一度は俯く。だが、輪が背中を強く叩く。

 

「難しく考えなくて良いんだよ。響は響らしく、正面から向かっていきなよ。」

「輪さん……。」

 

まだ何て言ったら良いか分からないが、それでも自分の思いを打ち明ける。

 

「よくわかりません……。私、人助けが趣味みたいなものだから、それで……」

「それで、それだけで……?」

「だって、勉強とか、スポーツは誰かと競い合って結果を出すしかないけど、人助けってだれかと競い合わなくていいじゃないですか。私には特技とか、人に誇れるものがないから。せめて、自分のできることでみんなの役にたてればいいかなぁって。えへへ……」

 

最初は笑っていたが、徐々に声も表情も真面目になっていく。

 

 

「きっかけは、きっかけはやっぱり、あの事件かもしれません……。私を救うために、奏さんが命を燃やした二年前のライブ。奏さんだけじゃありません、あの日、たくさんの人がそこで亡くなりました。でも、私は生き残って、今日も笑ってご飯を食べたりしています。だからせめて、誰かの役に立ちたいんです。明日もまた笑ったり、ご飯食べたりしたいから……人助けをしたいんです!」

 

それが響が戦う理由であると知った翼は、目を瞑る。

 

「あなたらしいポジティブな理由ね。だけど、その思いは前向きな自殺衝動かもしれない。」

「自殺衝動?!」

 

そこに輪も翼の発言に同調する。

 

「確かにそうかも。」

「輪さんまで?!」

「だって、まるで自分を犠牲にする事で自分が生き残った罪悪感から救われたいっていうような感じがするから。」

「そうね。ある意味自己断罪の表れかもしれないわね。」

 

響は二人が何か共感している姿を見て、何でそんなに笑っているのか分からず置いてけぼりを食らっている。

 

「出水さん、悪いけどここからは二人きりで話がしたいから……その……」

 

 装者としての話に輪は関係ないので、二人きりになりたいが、上手く言葉に出せず申し訳なさそうな顔をする。

 

「ああ。ですね。じゃあ今日の所は帰ります。また来ても良いですか?」

「ええ。でも怪我に障らない程度にね。」

「はーい。」

 

 事情を察した輪は病室から出る。戸を占める前に

 

「あの。瑠璃の事、よろしくお願いします!」

 

そう一礼して、病室の戸を閉めた。




やっとここまで来た……。

いよいよだぁ……。

感想お待ちしております


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非情な再会

 感想見てみると何故かババアとのファーストキスが気に入らない方がチラホラ

まあ実を言うと最初はそんな予定無かったんですけどね。

それはさておき、いよいよ佳境を迎えた無印編。
一体何が起こるのか。


 突然だが小日向未来は今、一人で下校している。

先日響にふらわーというお好み焼き店でご馳走してもらうという約束をしていたのだが、突然響に諸用が出来てしまいドタキャンされてしまったのだ。

 気分が落ち込んだまま一人でふらわーで食事をしていたのだが、そこの店主であるおばちゃんから励まされた事で響と向き合う事を決め、店を出て今に至る。

 すると丁度向かいに響が走っている。

 

「響ー!」

 

未来は響に手を振るがここで思わぬ事態が起こる。

 

「未来!来ちゃ駄目だ!」

 

 響が警告するも二人の間に鞭が通った。

 その衝撃で地面は抉れ、未来は吹き飛ばされた。

 

「しまった、他にも人が……!」

 

 犯人はネフシュタンの鎧を着たクリスだったが、未来を巻き込むつもりはなかったようだ。

 だが既に打ち上げてしまった車が未来の頭上に襲いかかっている。

 

Balwisyall Nescell Gungnir Tron……

 

ガングニールを纏った響が車を吹き飛ばした。

 

「響……」

「未来、ごめん……」

 

 シンフォギアを纏った響を見てしまった未来は何て声を掛けたらいいか分からず戸惑っていると、響はそう言い、巻き込まれないよう市街地から離れる。

 ある程度離れると、戦闘再開の合図をするかのように少女は鞭を振り下ろし、響はこれをガードする。

 

「どんくせえのがやってくれる!」

「どんくさいなんて名前じゃない!」

 

そう反論すると

 

「私は立花響、十五歳!誕生日は9月の13日で、血液型はO型!身長は、この間の測定では157センチ!体重は……もう少し仲良くなったら教えてあげる!趣味は人助けで好きなものはご飯アンドご飯!あと……彼氏いない歴は年齢と同じぃ!」

 

 突然の戦場のど真ん中で自己紹介を交えた反論に、クリスが口を開けて引くには十分だった。

 

「な、なにをトチ狂ってやがるんだお前?!」

 

 確かに突然の自己紹介の上に身長やら彼氏いない歴なんてもを聞かされたら、この反応は至極当然であるが、響は真剣だった。

 

「私達はノイズと違って言葉が通じ合えるんだからちゃんと話し合いたい!」

「なんて悠長!この期に及んでぇ!」

 

 少女は鞭で攻撃を繰り出すが、今までの響から見られなかった動きと反応の速さに内心驚いていた。

 

(ガングニールの動きが変わった!覚悟か?!)

「話し合おうよ!私達は戦っちゃいけないんだ!だって、言葉が通じていれば人間は……」

「分かり合えるものかよ!人間が、そんな風に出来てねえんだよ!気に入らねえ!気に入らねえ!気に入らねぇ!分かっちゃいねえことを知った風に口にするお前がぁ!お前とギアを引きずってこいと言われたがもうそんな事はどうでもいい!お前らをこの手で叩きつぶす!今度こそお前の全てを踏みにじってやる!!」

 

 響の説得が癇に障り最早かなりふり構わず、鞭から球体状のエネルギー弾を放った。

 

「吹っ飛べぇ!!」

 

 それを響は受け止める様に防ぐとまさかの2発目が飛んできた。

 

「持ってけダブルだぁ!!」

 

 今度は反応しきれず吹き飛ばされるが受け身を取って、ダメージを軽減させた。

 だがアームドギアは形成されず、力を出し切れていない。

 どうすればいいか考えると、だったらそのままそのエネルギーを拳に託せばいいと考えると、右腕のガントレットを手前に引いてエネルギーを集中させる。

 

「この短期間でアームドギアまで手にしようっていうのか?!させるかあぁ!!」

 

 阻止しようと鞭を振り下ろすがそれを右手で受け止める力いっぱい引っ張る。

 引き寄せられた少女は響の腰のブースターで接近を許し、強烈なパンチが少女の胸に直撃した。

 その一撃は鎧に風穴を開け、倒れると咽ぶ。

 畳み掛けるチャンスであるにも拘らず、響は追撃するどころかつっ立っている。それは殺意と戦意は消えていないどころかさらに焚きつけられる。

 

「お前……馬鹿にしているのか?!あたしを!雪音クリスを!」

「そっか、クリスちゃんて言うんだ」

 

 クリスの名を聞けたのか、響は嬉しそうに語りかける。

 

「ねえ、クリスちゃん。こんな戦い、もうやめようよ。ノイズと違って私たちは言葉を交わすことが出来る。ちゃんと話をすれば、きっと分かり合える!だって私達、同じ人間だよ!」

 

響は説得を続けたがクリスは内なる思いを曝け出した。

 

「くせえんだよ……。嘘くせえ!青くせえぇ!そうやって姉ちゃんを騙して、弄んで、苦しめやがって!」

「え?姉ちゃん?姉ちゃんって誰の事?」

 

 響の知る限り、知人に雪音という名字はいない。心当たりもなく、響は戸惑った。

 

「惚けんな!あたしには雪音ルリっていうたった一人の、掛け替えのない家族がいたんだ!なのに……姉ちゃんは……!!」 

「待って!その話、詳しく……」

「いい加減に沈めよおぉ!!アーマーパージだあぁ!!」

 

 身にまとっていたネフシュタンの鎧の破片を弾丸の様に脱ぎ捨てた。

響は直撃を避けたがクリスの周りには砂煙が立ち込め、視界が効かない。

 

Killter Ichaival Tron……

 

そこに聞こえたのは紛れもなく詠唱

 

「これって歌?!」

「見せてやる、イチイバルの力だ!」

 

クリスが纏っていた赤いシンフォギアは、かつて二課で失われたはずの聖遺物第二号「イチイバル」だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同じ頃、二課でもその反応をキャッチしてモニターにイチイバルと表記されている。

 

「イチイバル……だとぉ?!」

 

弦十郎は驚愕を隠せなかった。

それはかつて二課で失われたはずの聖遺物だったからだ。

しかもそれが敵側に渡っている。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

砂煙が晴れるとその姿を見せた。

 

(あれ……?瑠璃……さん?!でも…………)

 

 髪の色、泣きぼくろが無いことを除けば本当にそっくりである為、見間違えてしまうのも無理はなかった。

 

「歌わせたな……!あたしに歌を歌わせたな!教えてやる……あたしは歌が大っ嫌いだ!!」

「歌が嫌い……?」

 

 

 イチイバルの左右腕部装甲がクロスボウへと可変するとそれを容赦なくエネルギーの矢をそれぞれ乱射。

あまりの速さに、響は何とか回避する事しか出来ず接近もままならない。

今度はガトリング砲へと可変し、乱射する。

 

【BILLION MAIDEN】

 

何とか距離を取って被弾の確率を減らそうとするが、腰のバインダーが展開されると追い打ちを掛けるように2発のミサイルを発射させた。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

弾速は速く、響の目の前まで近づくと爆破、砂煙が立ち込めても容赦なくガトリング砲をぶっ放していた。

 

発射をやめ、砂煙が晴れた……が見えてきたものは

 

「盾?!」

「剣だ」

 

何と巨大な天羽々斬が全弾防いでいた。

翼は柄の部分から、青い髪を風で靡かせて見下ろしている。

 

「死に体でおねんねと聞いていたが、足手まといを庇いに現れたかぁ?」

「もう何も、失うものかと決めたのだ。」

 

翼の新たな決意。

そこに弦十郎から通信が入る。

 

『翼。無理はするな』

「はい……!」

 

天羽々斬が防いでくれたお陰で無傷だった響は見上げる。

「翼さん!」

「気づいたか、立花。だが私も十全ではない。力を貸してほしい」

「はい!」

クリスが翼を狙ってガトリング砲を斉射するが、軽やかな身のこなしで軽々と躱し、あっという間に接近を許してしまう。

頭上からの斬撃をクリスは避けたがガトリング砲を蹴られ体勢を崩してしまう。何とか立て直したが後ろには振り向きもせずに天羽々斬をクリスの首元に触れていた。

 

(この女、以前と動きがまるで……!)

 

以前戦った時は感情に左右されていたが、今回は逆の立場となっている。

 

「翼さん、その子は……」

「分かっている。」

 

響の頼みを聞き入れ生け捕りを狙うが、如何せんクリスの抵抗は激しかった。

翼とクリスは互いに正面から構えて対峙する姿勢になった。

 

(刃を交える敵じゃないと信じたい。それに、十年前に失われた第二号聖遺物、瑠璃のことも正さなければ……。何よりこの子……瑠璃と……)

 

 互いに一歩も譲らない状況だった。互いに動き出そうとした

 

 

Tearlight Bident tron……(失くした思い出は星のように)

 

「まさか詠唱?!」

 

 詠唱と共に黒い光が発した。そこから黒い槍が飛来してきた。しかもその軌道には

 

「クリスちゃん、避けて!」

 

響が咄嗟にクリスにタックルした。

すると先程クリスが立っていた場所に黒い槍が刺さった。

 

「立花!」

「お前、何やってんだよ?!」

 

 クリスを守ろうと突然の行動だったが、結果的にお互い無傷であるものの、響がクッションのように下敷きになっていた。

 

「ごめん。クリスちゃんに当たりそうだったから、つい……。」

 

 翼は槍を見るとそれがアームドギアであると気付く。

 

「これは……アームドギア……!まさか新たなシンフォギアが?!」

 

 翼はクリスの方を見るが、当の本人は何の事か分からず、困惑が顔に出ている。

 

「知らねえよ……!こんなの聞いてねえぞ?!」

「翼さん!あれ!」

 

 響が指した方には藍色のシンフォギアを纏った装者が歩いて現れたが、どこか禍々しい雰囲気を醸し出す。

 

 藍色を基調としたインナースーツ、上肢右側が黒、左側白の左右非対称の装甲、下肢の装甲は藍色でブーツを彷彿とさせる。

 顔はヘッドギアと連結されているバイザーによって隠されており、素顔が見えない。

 

 

 一方司令室では新たに現れたシンフォギア装者についてデータを集めている。

 

「新たなアウフヴァッヘン波形を検知!照合します!」

 

 友里、藤尭が解析するが、モニターにはUnknownと表示される。

 つまり日本では未確認のシンフォギアということになる。

 

「データバンクに一致される聖遺物がありません!」

「未知のシンフォギア……だとぉ?!」

 

 見たこともないシンフォギアを目の当たりにし、驚愕していた。だがそれだけでは終わりではなかった。

 

 

 

「何者?!正体を現せ!」

 

 翼が剣先を装者に向けて警告するとバイザーがヘッドギアの一部になるように解除された。

 だがその素顔にその場にいた全員と本部にいる弦十郎は驚きを隠せなかった。

 

「なっ……馬鹿な!」

「嘘……だろ……?!」

「そんな事って……」

 

 発する言葉は三者三様でも、反応は敵味方問わず一致する。

 その風貌を見間違えるわけがない。

 

 短い黒髪、ラピスラズリのような瞳だが輝きが無く淀んでおり、左目尻の泣きぼくろがあった。

 

 

 本部でもその様子が映し出されていたが、弦十郎の額から脂汗が一筋伝わる。

 

 

「ま、まさか……」

 

 

 何故ならその正体はクリスによって攫われ、行方不明となっていた少女……

 

 風鳴瑠璃だった。




これによりタグが追加されます。

それと皆さん、ババアではなくオバハ……

あ、ノイズせんぱ……(塵になる音)


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冥魂の槍

原作主人公VSうちの小説主人公!

遂に瑠璃がシンフォギアを纏う時が来た!

ちなみに読者の皆様が瑠璃と輪の声を一体どの声優さんに当ててるかが気になる所です。

私はもう決めてますがそれを言うのは野暮というもの。


 まさに青天の霹靂だった。

 バイザーを解除して素顔が露わになったバイデントの装者、その正体は風鳴瑠璃だった。

 その瞳に光は灯っておらず、表情の変化など一切見られない。

 未だに信じ難い事態に響と翼は動揺する。敵である筈のクリスですら、驚いている。

 

「瑠璃さん……その格好は……」

「何で……何でだよ?!何で……姉ちゃんが装者になってんだよ?!」

 

 姉ちゃんという単語に引っ掛かった響はクリスを見る。

 

「姉……ちゃん?」

「立花、それは後回しだ。今は瑠璃を……」

 

するとどこからか女性の声が聞こえてきた。

 

「命じられた事も出来ないなんて、あなたは何処まで私を失望させるの?」

 

 クリスが振り返ると対岸に杖を持ち黒い衣服を纏ったフィーネがいた。

 

「フィーネ!」

(フィーネ?!終わりの名を持つ……)

「こんなやつがいなくたって、姉ちゃんが戦わなくたって、戦争の火種ぐらいあたし一人で消してやる!そうすれば、あんたの言うように人は呪いから解放され、バラバラになった世界は元に戻るんだろ?!」

 

フィーネはため息をつく。

 

「もうあなたに用はないわ。」

「何だよそれ?!」

 

 フィーネはバラバラになったネフシュタンの鎧を一箇所に集めるとそれを再生させ回収した。

 

「ルリ、その子達の始末は任せたわ。」

 

 そう言い残し、フィーネは姿を消した。

 瑠璃は先程解除したバイザーを閉じ、戦闘態勢に入る。

 

「姉ちゃん……フィーネ……待てよフィーネ!!」

 

 クリスは一瞬、瑠璃とフィーネを交互に見ていたが、瑠璃と戦う事を恐れて、背を向けてフィーネを追った。

 

「待ってクリスちゃ……」

「立花!今は瑠璃が先決だ!」

 

 少なくとも瑠璃は二人を生かして返すつもりはないようだ。

 投擲した槍が瑠璃の手元に戻ると、それを右手に持ち、響に槍を突き出す。

 右に反らすことで避けたが、今度は柄の部分で響の鳩尾に直撃させて倒す。

 ダメージを減らしてくれるとはいえ、息苦しいのは変わらない為、咳き込んでいる所を槍を振り降ろされる。

 翼が奇襲をかけて刀を振り振り上げて相殺、瑠璃は翼を蹴り出そうとするが、刀で受け止めた事で互いに距離が開いた。

 

「瑠璃さん!やめてください!私達は仲間です!」

 

 響の呼びかけには応じる様子はなく黒い槍からエネルギーを集結させ、それを翼がいる方向に突き出すと、穂先から槍状のエネルギー波を放った。

 

【Shooting Comet】

 

 それは生き物の様な動きで翼に襲い掛かった。翼は刀を斬馬刀の様に形を変えて、振り下ろすと刃状のエネルギーを放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

 激突した瞬間、蒼ノ一閃が押し切られそれに焦った翼は刀で受け止めようとする。

 

「何だ……この強大な力は……?!」

 

 徐々に後ろへ押し込まれていきこのままではやられてしまう。すると響が翼の背中を押すように支える。

 

「やらせない、家族同士で……傷つけさせない!」

 

 雄叫びを挙げると腰のブースターが点火、その勢いとパワーが上乗せされ、Shooting Cometを弾き飛ばした。

 

 

 本部では従姉妹同士が殺し合いを繰り広げる所を黙って見ているしか出来なかった。

 その歯痒さに弦十郎は拳を司令台に叩き付ける。苛立ちに似た焦燥感、瑠璃を守り切れなかった悔しさを隠しきれずにいた。

 

「すまない瑠璃……すまない翼!このような事になるとは……畜生!!」

 

 そこに新たなシンフォギアの適合者が現れたと聞きつけた了子が慌てて入って来た。

 

「何なに〜?!未確認のシンフォギア……ってあれバイデントじゃない!!いつの間にバイデントの適合者が出た……えっ?!嘘でしょぉ?!瑠璃ちゃんがバイデントの適合者なの?!」

「了子君、あのギアを知っているのか?!」

「ええ。あのギアは天羽々斬と同じ時期にドイツで櫻井理論を用いて、密かに誕生したシンフォギアよ。だけど何故か、適合者候補は全員亡くなったか廃人になった事が理由で使用しないよう厳重に封印されたって聞いて、それっきりだったけど……。でもそんな曰く付きのギアをどうやって持ち出して、何故あの子が……」

 

 謎は深まるばかりだが、今はそんな事は問題ではなかった。本部にいる者達は、戦いを静観するしかない。今の弦十郎に、瑠璃が正気に戻ることを願う事しか出来なかった。

 

 

 何とか攻撃を跳ね返した響と翼だったが、翼はまだ万全ではない為、長くは戦えない。片や響は優しさが裏目に出て攻撃を躊躇っている。

 一方ルリは命令を遂行するまで戦う気でいる。

 瑠璃は槍を連続で突くが、響は弦十郎の修行と映画で会得した武術を用いて、掌底と裏拳で捌いている。しかし、それだけでは終わらず、前腕のプロテクトを展開させると、それが白い槍となって可変した。

 それを左手で持ち、二槍流となる。

 

「もう一本?!」

 

 黒い槍だけでも精一杯だったのに二本目は流石に捌ききれない。白い槍で串刺しにされる……

 

「瑠璃!」

 

【天ノ逆鱗】

 

巨大な剣が槍の連続突きから守った。

 

(瑠璃の為にも、誰も死なせはしない!)

 

 万が一ここで死人を出してしまえば、瑠璃が元に戻った時に自らの責任に苛まれてしまう。

 その為にも早く決着をつけなくてはならなかった。

 

「瑠璃さん!もうやめてください!家族と戦うなんて間違ってます!師匠もそれを望んでません!」

 

切り捨てるように再びShooting Cometを放つ体勢に入る。

 

「何で……瑠璃さん、師匠の事をカッコいいお父さんだって、翼さんの事、頼りがいがあって強いお姉さんだって言ってたじゃないですか!瑠璃さん、そんな風鳴の家を守りたいって!!」

 

 響は腹の底から声を出して叫んだ。

 するとそれが届いたのか突然動きが止まった。

 よく見ると手が震えていた。

 

「止まった?どうしたと……」

「お……姉……ちゃん……?」

 

目の輝きが戻っているが、明らかに様子がおかしい。

 

「響ちゃん……なんでそんな痛そうに……っ!」

 

 手に持つアームドギアを認識すると、今自分がシンフォギアを纏っている事に動揺する。

 

「何なのこの格好……?!お姉ちゃんたちと同じ……それに……これは……槍なの?じ、じゃあ今……お姉ちゃんと響ちゃんを……私が……」

 

 頭を抱えて、膝をつく。意図してやったわけではないとはいえ、自分がしている事が恐ろしくなる余り、気が動転してしまっている。

 

「落ち着け瑠璃!これは瑠璃がした事ではない!今からでもまだ取り返しはつく!帰ろう!」

 

 翼が呼び掛けるが、気が動転してしまっている瑠璃に届いていない。

 

(どうしよう……私が……お姉ちゃんを……響ちゃんを……)

『帰ってらっしゃい……。』 

 

 頭に直接響く声が聞こえた事で瑠璃はさらに苦しんでいる。

 これは瑠璃にしか聞こえていないので、響と翼は何が起こったのか理解出来なかった。

 

「ぁ……ぁぁ……あ…………ぁ……」

「瑠璃……?」

「瑠璃さ……」

 

 

 

 

ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 

 

 

 

 突然甲高い悲鳴を叫び出し、その影響で鳥達が一斉に飛び立った。

 すると周囲を飛び回っては槍を無作為に振り回し、それに巻き込まれた木々が倒れた。

 

「一体どうしたんだ?!ルリ!!」

「あああああああぁぁぁぁーーーーー!!」

 

 翼の呼び掛けに応えることなく、叫びながら暴走して、何処かへと消えてしまった。

 遠く離れてしまった事で悲鳴も聞こえなくなっていた。

 一般大衆への被害者は出なかったが後味の悪い結果となってしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

司令室ではイチイバル、バイデントの反応が消え追跡が困難になった。

だが収穫はあった。

少女の正体は、雪音クリス。音楽会のサラブレッドであり、そして……

 

「瑠璃の……双子の妹。」

 

弦十郎が重苦しそうに呟く。

 2年前、バルベルデの地獄の日々から日本に移送されたはずが、行方不明となっていた少女。

 

「そうか……生きていたか。喜ばしい事なのだが……」

 

 クリスはフィーネと呼ばれる謎の女性に見限られ、瑠璃は操り人形に仕立て上げられた。これ以上、子供が苦しむ姿を黙って見過ごすわけにはいかない。弦十郎の拳は決意を表すように強く握った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 本部に帰還した二人はメディカルチェックを受け翼は先に司令室に入った。響は遅れて終了し結果が出た。

 

「外傷は多かったけど、深刻なものがなくて助かったわぁ〜。まあでも、常軌を逸したエネルギー消費による、いわゆる過労ね。少し休めば、またいつも通り回復するわよ。」

 

 診断結果を了子が発表していた。だが心はここに非ずの状態だった。

 未来に秘密にしていた事がバレてしまい、その罪悪感が降りかかった。

 その事を了子が知る由もなく事務的な連絡を話していた。司令室に入る前、無理矢理に笑顔を作ってから入っていった。

 

 司令室では今後の対策について話し合われていた。クリスの捜索、フィーネの存在と目的、そして瑠璃の救出についてだった。

 特に瑠璃に関してはバイデントの装者となった今、もはや戦いは避けられない。

 そこに響、了子、先程合流した翼が司令室に入った。

 

「翼、まったく無茶しやがって……」

 

 翼はまだ完治していない状態で独断行動に出た。いつもの翼らしくないものであるが、悔いてはいない。むしろ己の信念を持って出た行動に堂々としていた。

 

「独断については謝ります。ですが、仲間の危機に臥せっているなどできませんでした。」

「へ?」

 

 翼から意外な言葉が出た事に驚き、素っ頓狂な顔で翼を見る響。

 

「立花は未熟な戦士です。半人前ではありますが、戦士に相違ないと確信しています」

「翼さん……」

 

 翼を見ると、彼女は目線で応えた。つまり、戦士としても仲間としても響を認めたという事である。

 

「立花の援護ぐらいなら、戦場に立てるかもな」

「私、頑張ります!」

 

 仲間として認められた事に喜んでいる響だったが、もう一つ瑠璃についてモヤモヤしていた。

 

「あの、師匠!瑠璃さんについてなんですけど。クリスちゃん、瑠璃さんの事を姉ちゃんって呼んでましたよね。あれって一体どういう事ですか?」

「私からもお願いします。瑠璃が養子として入った時、何の疑問も懐きませんでしたが、姉としてあの子の過去を知らなければと思います。」

 

 翼も瑠璃の過去について殆ど知らなかった。だが今では家族として従妹の過去を知りたがっている。

 弦十郎は腕を組みながら一瞬悩んだが……

 

「そうだな……。いずれ知らなくてはならない事だったからな。」

 

 そう言うと、弦十郎は包み隠さず全て話す。瑠璃の過去を。

 




楽曲

【冥槍・バイデント】
 平和を愛する彼女が戦う事、手を汚す事へ対する彼女の戸惑い、恐怖を歌として具現化したもの。


バイデントの記録

 かつてギリシャに残った数少ない聖遺物であったが、第二次世界大戦時代、ドイツに奪われヴリル協会に保管された。

 ドイツの聖遺物研究の起死回生のプロジェクトとして、櫻井了子の協力の下に作られ、完成したシンフォギア。
 だが適合者 及び 適合者候補が全員不幸な事故に巻き込まれ死亡、廃人化、その関係者も巻き添えを食らう形で負傷する者が多かった。
 その恐ろしさから辞退する者が後を絶たず、結果プロジェクトは全面凍結、使用も持ち出しも禁じられ、全ての記録も闇に葬られた。

 しかし、フィーネによって掠め取られ、適合係数が高い瑠璃を手駒として使わせた。


解説は以上になります。

次回、瑠璃の真実が明らかになります。

ご感想お待ちしております。


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瑠璃の真実、輪の傷痕

 瑠璃の忌まわしき真実、そして輪の過去(一部)が明かされます。

また輪のお姉さんが本格的に登場します。


「響君の為に最初から話す。瑠璃は元々、俺の娘ではない。」

 

突然の台詞に響は戸惑いを隠せなかった。

 

「あの子の旧姓は雪音。つまり本名は雪音ルリだ。先程二人が戦った、ネフシュタンの鎧、並びにイチイバルの装者、雪音クリスの双子の姉だ。」

「あの子達は一卵性双生児なの。だから外見に多少の誤差はあっても、ぱっと見じゃあ間違えちゃうわねぇ。」

 

 了子が付け加えるように説明する。

 髪の色とほくろの有無といった多少の違いはあれど、瑠璃とクリスがそっくりだったのはまさにそういう事である。

 ここで翼が待ったをかける。

 

「待ってください司令。では、何故あの者と瑠璃は何故別々になったのですか?」

「それについても話す。ご両親はNGOで活動していてな、数年前に姉妹を連れてバルベルデ共和国に向かった。だがそこで紛争に巻き込まれて、ご両親は死亡、二人も戦果によって生き別れてしまったんだ。瑠璃は政府軍の、妹は反政府ゲリラの捕虜となり、そこで二人は別々で6年の月日を過ごした。反政府の方でも酷い扱いを受けていたが、タチが悪いのは政府軍の方だ。実態はは軍隊としてのモラルも規律もない愚連隊。そんな人でなし共の集まりに、非力な少女が放り込まれた結果、瑠璃は玩具のように弄ばれた。」

 

響と翼は絶句した。

 

「そして2年前、国連軍の救助隊の介入によって瑠璃と妹が救助される事になった。だが奴らはあろう事か瑠璃とは別人の遺体を引き渡して知らん顔と出た。」

「どこまでも外道な真似を……!」

 

 翼は国を守る軍人であるにも関わらず、小さな女の子に非人道的な扱いで愉悦に浸っていた事に憤慨した。

 

「そして先に妹だけが救助され、瑠璃は死亡扱いとされたが、その遺体が偽物であると分かった直後、瑠璃が発見され、救助されたという報告を受けた。」

「じゃあ瑠璃さんは無事に救助されて、師匠が引き取ったっていうことですよね?」

「それで済んだらどれだけ良かったか。発見された時、あの子は既に酷く衰弱していてな……すぐに治療され、一命は取り留めたが長い間眠っていた。そして目覚めた時、あの子は家族が亡くなったこと、妹がいる事、そして自分の名前や思い出すら忘れてしまっていた。」

 

 医師曰く解離性健忘であり、トラウマやショックなどが原因で記憶を失うという疾患だったという。

 

 ここで響が手を挙げる。

 

「あの、瑠璃さんに本当の事を話すことは出来ないんでしょうか?」

「それは……」

「はいは〜い。それは私が答えるわ〜。」

 

弦十郎が話そうとした所で、了子が割って入る。

 

「結論から言うと、それは得策ではないわ。」

 

 急に表情と声のトーンが真面目な雰囲気になる。

 

「どうしてですか?瑠璃さんに本当の事を言って、それでも師匠は瑠璃さんの事を……」

「あの子の記憶喪失の原因があの地獄の日々で受けた仕打ちだとしたら、あの子に真実に向き合うだけの精神力はないと思う。そんな事をしたら、あの子は一生トラウマに苛まれる事になるわ。」

 

 その為、弦十郎はこの二年間ずっと瑠璃に真実を黙殺して来たが、流石の弦十郎もこれには心苦しかった事が窺える。

 

「俺のやった事は正しいとは思わん。だがあの子を守る為に、愛情を注いで、そして妹も救う為に全力を尽くしたつもりだ。だが……結果的に俺はあの子を再び危険な目に遭わせただけでなく、本当の姉妹が殺し合うことになってしまったというわけだ。」

 

 弦十郎はこの皮肉な結果を齎した自分を嘲笑する。

 響はクリスが瑠璃を攫ったのも、本当は死んだと思っていた姉と暮らしたかっただけだったんだと気付き、理由を知らなかったとはいえ、自分はそれを阻んでしまっていた事を理解すると俯いてしまった。

 翼も防人としての立場に囚われて、姉として彼女を愛さなかった事に後悔している。

 暗い空気になってしまった所を、了子が手を叩いて鳴らす。

 

「ちょっとちょっと!皆そんな暗い顔してどうするのよ?ここには二人の装者もいるし、最強のお父さんがいるじゃない!それに生きている事が分かったんだから、助けられるチャンスがあるって事じゃない!」

 

 その顔は笑っており、了子は手持ちのタブレット端末を操作する。

 

「聞けば瑠璃ちゃんは、こちらに対して呼び掛けても何の反応もなかったのよね?」

「はい。ただ、最後に立花の呼び掛けて一度元に戻ったのですが、突然錯乱したような状態に……。」

「だとすると、瑠璃ちゃんは恐らく、暗示を掛けられたのでしょうね。それが催眠療法によるものか、聖遺物によるものか、何れにしてもあの子の持つギアについて、深く解明したいわね。でも……」

 

 笑顔だった了子の顔が真剣になものに切り替わる。

 

「それでも瑠璃ちゃんとの戦闘は、もう避けられないでしょうね。」

「心配無用です櫻井女史。傷付く事を恐れていては、あの子を助ける事など出来ません。」

 

 そう言うと、響も同調する。

 

「瑠璃さんは必ず取り戻します!」

 

「ああ。もちろん俺もこのまま引き下がるつもりはない。俺も可能な限り現場に出向いて……」

「弦十郎君?司令のあなたがそんな好き勝手して良いわけないでしょう?」

 

 弦十郎は元公安であり、以前より現場で暴れたいという本音に気付いている了子に止められてしまう。

 そこに緒川が微笑むように応える。

 

「調査なら僕に任せてください司令。」

「う、うむ……。任せたぞ。」

 

 渋々ながらも弦十郎は調査を緒川に託し、万が一戦闘担った場合は響と翼に任せる事にした。その後も方針が固まり、二課はより一致団結していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その日の夜、輪の姉である小夜は輪を乗せた車椅子を押して外食に行こうとしている。

 というのも輪がここの所元気がない事を察知し、それを見兼ねた小夜が外食に連れて行こうとしたが、足を怪我している輪には酷という事で車椅子を借りて外出している。

 

「たまにはええな〜二人で外食も。」

「うん……。」

 

 ちなみに小夜は大学生時代に京都で一人暮らししていて、大阪で働いていた影響もあり、関西弁が抜けなくなってしまったとか。

 

「しっかりせんと。どないしたん?ここん所の輪、全然元気ないよ?」

「ちょっと、瑠璃がね……。」

「誘拐されたんやろ。」

 

 何故二課と関係ない小夜が知っているのかとビックリして、振り返る。

 

「何で小夜姉知ってるの?!」

「盗み聞きするつもりはなかったよ。けど、偶々聞いちゃってねぇ。看護師やってるとよくあるんよ。まあ性ってやつ?」

 

 実は小夜は輪が搬送された直後、弦十郎が来る前に見舞いをしたのだが、小夜が仕事に戻った後に入れ替わる形で弦十郎が見舞いに来た。

 そして勤務中に弦十郎と輪が話した事を扉越しに聞いていたという。

 

「やめなよ小夜姉!それで小夜姉が危険な目に遭ったら……あっ……」

 

 一瞬人混みの中に見覚えのある横顔。まさかと思い、輪は車椅子を全力で漕ぐ。

 

「小夜姉、ちょっとごめん!」

「ちょっと輪!どこ行くの?!」

 

 人混みを中を掻き分けて進む。

 そして手が届きそうになると、手を伸ばしてその腕を掴んだ。

 

「瑠璃!あんた、どこに行ってたの?!」

「は?ってお前……!」

 

 瑠璃に見えた少女は、あの日、自分達をノイズに襲わせて、瑠璃を拉致した張本人、クリスだった。入院中に弦十郎から真実を聞かされていた為、瑠璃と呼ばれて困惑している様子から妹ではないかと予想できた。

 

「あんたもしかして……瑠璃の本当の妹?!」

「お前、あの時の!」

 

 クリスだと分かった途端、輪は敵意を向ける。

 

「あんた、瑠璃を何処にやったの?!」

 

 輪が手に力を入れている辺り、本気で怒っている。

 でもクリスは、未だにフィーネを信じ、自分の行動が間違っていた事を認められずにいる。

 フィーネの命令通りにすれば、姉を虐げた人間達に復讐出来る、また姉と一緒になれる、だがそう信じていた結果がこのザマだ。

 

「あんたが何がしたいのか分からないけど、瑠璃を巻き込んで楽しかったの?記憶のない姉を弄んで、傷つけて……」

「ふざけんな!姉ちゃんを弄んで傷つけたのはそっちだ!あたしはただ、姉ちゃんを助けようとしたんだ!お前の友情ごっこなんざ……」

「あんたに何が分かるってんのよ?!妹であっても!あんたの物差しで!私達の友情を軽々しく語んな!!」

 

 輪の怒号が周囲の通行人達をざわつかせた。しかし輪は自分達の友情を、心無い言葉で侮辱された事に怒りを露わにしていてそんな事は気にも留めていない。

 対するクリスもやり場のない怒りに何が正しいのか分からずムシャクシャしている。

 互いに一触即発の状態、乱闘に発展してもおかしくない。

 

「やっと追い付いたで輪!あんた怪我人なんやから……って何しとん?あれぇ、瑠璃ちゃん?」

 

 ここで置いてけぼりにされた小夜が入ってきたが、やはりというべきか、クリスを瑠璃と誤認してしまった。

 

「あたしは雪音クリスだ!ルリじゃねえ!」 

「そっか、すまへんなぁ。どうにもそっくりで見間違えたわ。ほんま堪忍な。輪、その手を離してやってや。」

 

 輪は渋々クリスの腕を離す。

 だが輪はクリスを睨んでいるが、そんな輪を横目に小夜は閃いたようにポンと手を叩く。

 

「せや、クリスちゃんやっけ。お腹空いとるやろ?一緒にご飯食べへん?」

「「はぁ?!」」

 

 輪とクリス、思考と台詞がシンクロする。

 まあ見ず知らずの人を、ましてや敵を外食に誘おうなんて、そんな思考に辿り着く人なんてそうそういない。

 

「何言ってんだお前?!あたしは……」

 

 否定しようとしたがお金もなく、行く宛もないクリスの腹の虫は盛大に鳴る。

 

「腹は減っては何とやらや。ほな行こか!」

 

 小夜はクリスの腕を引っ張ってファミレスに連れて行った。

 輪は小夜がこんな性格なのをよく分かっている為、ある意味クリスに同情している。

 

3人はそこで食事を済ませたのだが、クリスが食べたハンバーグの食器周りが非常に汚い。

 

「ねえ……汚い。」

「良いんだよ食えれば。」

「まあまあええやん。にしてもクリスちゃん、妹みたいで可愛いわ〜。」

 

 クリスは小夜の自由奔放な姿を見て、こいつは悪魔なんじゃないかと思い始めた。

 

「ただな、もう少し二人ともにこやかにならんかな〜。」

「「だってこいつが!」」

 

 輪とクリスが同時に指を指すが、その息ピッタリな連携がおかしかったようで小夜は大爆笑だった。

 

「何や息ピッタリやん!ホンマは仲ええんとちゃう?」

 

 なお小夜は至って素面である。輪はこの状況が不快なのか不機嫌な様子だった。

 

「お手洗い行ってくる。」

 

 そういうとお手洗いに行こうと車椅子を方向転換する。

 

「ああ、なら押して行こか?」

「いい、一人で行ける!」

 

 輪が見えなくなったのを確認した小夜は、すぐに真面目な顔つきになる。

 

「輪を許してやってくれな。あの子すぐに感情的になるから。」

「何でここまですんだ?」

 

 見ず知らずの人を食事に誘うばかりか、そのお代まで払ってくれるという。普通ならここまでの節介は焼かない。

 

「似てるんや。クリスちゃんと、少し前の輪に。」

「どういう事だよ?」

 

 少し呼吸を整える。

 

「二年前……輪が中三の頃やったか……あの子同級生に虐められてたんや。」

 

突然の話にクリスは唖然とする。

 

「輪とその彼氏がノイズに襲われてな、輪は無事やったんけど、彼氏は輪の目の前で炭になったんやと。けど、その子の女友達共に陰湿な虐めに遭ってな。輪も我慢の限界が来て……全員いてこましたんや。それも相手が泣き入れても容赦なく。」

 

 今の姿からは考えられないような事だったが、何故ノイズを前に冷静に対処出来たのか、腑に落ちたクリス。

 

「だからあいつ……」

「けど結局、暴力で押さえても何も解決せえへんかった。逆に別の暴力に襲われるのがオチやった。最終的にはマッポのお陰で大事には至らんかったけど、あの子が変わったのもそれからや……おっと、思いの外早いお帰りやなぁ。」

 

 輪がお手洗いから帰って来たのを確認すると話は中断した。

 

「お待たせ小夜姉。」

「ええんよ。ほな、ウチが会計しとくから先に外で待っててな。くれぐれも仲良くしときや〜。」

 

 二人はお互いにギクシャクしている状態で店を出た。

 顔を合わせないで、輪が先に話した。

 

「早く帰んなよ。あんたのボスの所へ。」

 

 突然の台詞にクリスは輪の方を見た。

 

「お前、あたしの事嫌いか?」

「そうだね。瑠璃を危険な目に合わせたんだから。でも、これ以上あんたを恨んでも瑠璃は帰って来ない。だから、早く行きなよ。」

 

 輪はクリスの方を見て言った。

 

「飯、ありがとうって伝えてくれ。」

「うん。」

「じゃあな。」

 

 クリスは人混みの中へと消えていった。

 

「まったく……性格は対照的だけど、さすが双子だね。」

 

 誰にも聞かれない、ただの独り言を呟く。その後小夜が店から出て、そのまま家に帰った。




出水 小夜(24)
誕生日:10月3日
身長:165cm
B:88 W:57 H87

輪の姉であり「小夜姉(さよねえ)」と呼ばれている。
看護師勤務。
マイペースだが家族思い。
大学時代は京都で過ごしており、大阪の大学病院勤務だった影響なのか関西弁で話すようになってしまい、現在も抜けてない。
 男子からの人気は高かったのだが、悪知恵が働き、度々周囲を振り回して来た事から、学生の時のあだ名は「小悪魔美人」

ご感想お待ちしております。


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痛みの種類

今回はちょっと長めになります。


 フィーネが根城とする洋館の広間で、一糸纏わぬ姿で瑠璃は眠らされている。

 フィーネは瑠璃と口づけを済ませると、不敵な笑みを浮かべる。

 

「まだ洗脳は完全ではない……。だがバイデントの威力は証明された。ドイツの呪われたシンフォギアも、案外役に立つではないか。」

 

 すると突然館のドアが乱暴に開き、クリスが入って来た。

 

「ふざけんなフィーネ!約束が違うじゃないか!姉ちゃんには手を出さないって……」

「手は出してないわ。全てはこの子の内側にある秘めた感情を引き出す手伝いをしただけよ。」

「言ってる事が分かんねえよ!それに、あたしが用済みってなんだよ?!もう要らないってことかよ?!あんたもあたしを、姉ちゃんを物のように扱うのかよ?!頭ん中ぐちゃぐちゃだぁ!何が正しくて何が間違ってんのか分かんねんだよぉ!」

「どうして私の思い通りに動いてくれないのかしら……」

 

 振り向きざまにソロモンの杖を構えるとノイズを召喚した。

 クリスを本気で亡き者にしようとしている。

 

「流石に潮時かしら。そうね、あなたのやり方でじゃ、争いを無くすことなんて出来はしないわ。精々一つ潰して、新たな火種を二つ三つばら撒くくらいかしら」

「あんたが言ったんじゃないかぁ!痛みもギアも、あんたがあたしにくれたモノだけが……」

「私の与えたシンフォギアを纏えながらも、毛ほどの役に立たないなんて。そろそろ幕を引きましょっか」

 

 そう言うとフィーネの体を包むようにバラバラになったネフシュタンの鎧が再生、構築された。

 

「私も、この鎧も不滅。未来は無限に続いていくのよ。カ・ディンギルは完成してるも同然。強力で従順な手駒も手に入れた以上、もうあなたの力に固執する理由はないわ。」

「カ・ディンギル……。そいつは……。」

「あなたは知りすぎてしまったわ。」

 

 杖を構えて命令を下すと、ノイズはクリスに襲いかかる。

 間一髪、クリスは避けるも声が震えて歌えない。

 階段から転げ落ちると、今日まで自分は騙されていた事に気付き後悔の涙を流した。

 

「チクショオオオォォォォーーー!!」

 

 クリスの叫びは夕陽とともに消えていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 リディアンでは未来が一人、下校していた。

 あれから響と再会したが、関係は悪化してしまった。

 原因は嘘をつかれていたことでもあるが、最大の理由は響が傷付いているのに、自分は何も出来ない、また響が自分を犠牲にして、悩んで、抱えてもなんの役にも立てない。

 結果的に、響の亀裂は決定的なものになってしまった。

 気分が落ち込み、ため息をつきながら歩いていると……

そこに

 

(パシャッ)

 

「やっほー小日向さん。」

「出水さん……」

 

 杖をついている輪が偶々通りかかり、写真を撮っていた。

 

「輪さん……?その足、どうしたんですか?!」

「いや、ちょっとね。それより、落ち込んでるんじゃないかなって思ってさ。ちょっと付き合ってよ。」

 

 そう言って強引に連れて行かれると、着いた場所はルリと共にこと座流星群の写真を撮ったとしたあの場所だった。

 

「あの……ここって……」

「ここはね、私と瑠璃が、響と翼さんが戦っている所を目撃した場所だね。」

「知ってたんですか?!響が戦っていることを!」

 

 未来は輪にグイグイ近づいた。

 

「落ち着きなよ。私達も本当にたまたまだったんだ。ここで写真取ろうとしたらさ、凄い爆発がして。で、瑠璃がそこに行ったらトンデモ体験したってわけ。ノイズはいるわ、妙な格好で戦ってるわで、訳分かんなかった。いや、今も分かんないや。」

 

 未来はあっけらかんとした輪の態度が理解出来なかった。

 どうしてそんなに割り切れるんだろうと考えてしまう。

 

「輪さんは……何でそんな風に割り切れるんですか?隠し事をされて何も思わないんですか?」

「実を言うとね、私も内心怒ってたんだ。瑠璃のお父さん、立花さんの上司みたいな人なんだけど、例の件、瑠璃にも秘密にしてたんだよ。守る為とはいえ、娘にまで秘密にしなきゃいけない事って何だよってね。」

 

 そう言うと、輪はこの風景の写真を撮る。

 

「だけどね、瑠璃は信じるって決めたんだよ。たとえ秘密にされても、お父さんを信じるって。だから私もこれ以上言わないことにした。小日向さんもさ、立花さんが選んだ道を応援してくれないかな?強要するわけじゃないけど、人が選んだ道はそう簡単に変わらない。だけど、その人が苦しんだり泣きそうになった時、そばにいてあげないと、可哀想だから。」

 

 響は誰かに言われて止まるような人ではない。

 これからも響は戦い続けるが、その度に傷付く事になる。

 そんな響を誰かが支えられる人が必要だ。 

 その意味に気付いた未来は俯いていた顔を上げたその瞬間、シャッターが押された。

 

「あー駄目だ。明るくないなぁ〜。」

「もう、勝手に撮らないでください!」

「あはは、ごめんごめん。」

 

 響とは仲違いしているが、話を聞いて少し変われそうな気がする

。後は一歩前に踏み出す勇気だけが必要になったが、その事に未来はまだ気づいていない。

 

 次の日、未来はまた一人で登校していた。あれからまだ勇気が出ずに話すら出来ない状態の自分に嫌悪感を抱く未来。

 そんな心理状態を表しているかのように雨が降っていた。

 ため息をついていると路地裏から物音がした。

 何かあるのかと近づいていると、クリスが倒れていた。

 

「嘘?!ちょっと、大丈夫?!救急車呼ばなきゃ……」

「やめろ……」

 救急車を呼ぼうとスマホを出した未来の腕を倒れていたクリスが掴む。

 

「やめろって言われても……そんな……」

「病院は駄目だ……ぐっ……」

 

 何か事情があるのかと察した未来だったが、どうすればいいか考えていた。

 

「そうだ……あそこなら!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 響は教室に入ると未来の姿が無いことに気づいた。先に出たはずなので遅刻なんてあり得ない。もしかしたら何かあったのではと考えてしまう。

 

 

 だがその推理はある意味正しかった。未来は倒れたクリスをふらわーまで運んで看病していた。おばちゃんに事情を説明すると快く受け入れ、布団まで用意してくれた。今は疲労が溜まっていた影響なのかぐっすり眠っている。

 

(それにしても……この子、何処かで見覚えがあるような……)

 

 会ったときから気になっていたがクリスが目を覚ましたことでそれはまたの機会になった。

 

「んぅ……ここは……」

「良かった……目覚ましたんだね!びしょ濡れだったから着替えさせてもらったよ。」

「な!か、勝手な事を……」

 状況を理解したか自分の今の姿を見て、顔を朱く染めた。「小日向」と書かれた体操服一枚しか身に着けていなかった。

 

「流石に下着の替えは無かったから……!」

 

「ここは……あたしは倒れて……ここは何処だ?!それにお前は……」

 

 勢いよく起き上がるクリスだったが慌てて未来が事情を説明する。

 

「落ち着いて。あなたが病院は嫌だって言うから知り合いの家を貸してもらってるの。」

「そうだったのか……助けてくれてありがとう……。」

 

 粗暴な口調とは裏腹に感謝するクリス。

 

「どうも致しまして。ちゃんと休んで良くなってね。」

「ああ……お前何も聞かないんだな。」

 

 クリスの襲撃に巻き込んでしまった罪悪感があるが、一応響とは因縁があるので自分が何者なのか聞いてくるものだと思っていたようだ。

 

「うん。私はそういうの苦手みたい……。今までの関係を壊したくなくて……なのに一番大切なものを壊してしまった。」

「それって、誰かと喧嘩したってことなのか?あたしには……よく分からない事だな。」

「友達と喧嘩したことないの?」

「友達……いないんだ。」

 

 未来はその言葉に驚いた。

 

「地球の裏側でパパとママが殺されて、姉ちゃんと離れ離れになったあたしは、ずっと一人で生きてきたからな。友達どころじゃなかった……。」

「そんな……。」

 

 未来はクリスの過去を聞いて絶句した。

 

「やっと再会できたと思っていた姉ちゃんも、あたしの事を何も覚えていなかった。たった一人、理解してくれると思った人も、あたしを道具のように扱うばかりだった。だれもあたしを相手してくれなかったのさ。」

 

 クリスにとっては思い出したくない事だった。

 

「大人はどいつもこいつもクズぞろいだ……!痛いと言っても聞いてくれなかった!やめてくれと言っても聞いてくれなかった!あたしの話も……これっぽっちも聞いてくれなかった!」

 

 クリスは今にも泣きそうになっている。話を聞いた未来は、彼女の思い出させたくない過去を話させてしまった事に申し訳なく思った。

 

「ごめんなさい……。」

 

 少し話して落ち着くと、クリスは不思議と気が楽になった。誰かと話してしまうのも悪くないものだと思った。

 

「なあ、お前のその喧嘩の相手、ぶっ飛ばしちまいな。」

 

 突然の過激な提案に驚く未来。

 

「どっちがつえーかハッキリさせたらそこで終了、とっとと仲直り、そうだろ?」

 

 クリスらしい解決方法ではあるが、乱暴すぎる上に元も子もない。

 

「で、出来ないよそんな事……!でも、気を遣ってくれてありがとう……えっと……」

「クリス。雪音クリスだ。」

 

 そういうと未来は優しく微笑んだ。

 

「優しいねクリスは。私は小日向未来。もしもクリスがいいなら……友達になりたい。」

 

 未来の笑顔にクリスは戸惑った。それと同時に複雑な気分だった。嬉しいはずなのに、傷つけようとした罪悪感で心が苦しくなる。

 

「あたしは……お前達に酷い事をしたんだぞ。」

 

 どういう意味なのか聞こうとしたとき、ノイズ発生を知らせる警戒警報が鳴り響いた。

 

「な、何だこの音?!」

 

 警報を初めて聞いたからのか何が起こったのか分からなかった。

 

「クリス、外に急ごう!」

 

 未来に言われて外に連れ出された。だが外は既にパニックになっていた住人達がノイズから逃げるために溢れかえっていた。

 

「おい、一体何の騒ぎだ?!」

「ノイズが発生したんだよ!警戒警報を知らないの?!急いで逃げよう!」

 

 その意味にクリスは自分を激しく責め立てる。今まで自分が出してきたノイズがこうやって無関係な人々を巻き込んで恐怖に陥れている事に気付いてしまったからだ。クリスは民間人が逃げる方向とは逆の方へ走っていった。

 

「クリス?!どこに行くの?!そっちは……」

 

 引き止めようとする未来だったがクリスは行ってしまった。

 

(馬鹿だ……あたしってば何やらかしてんだ……!このノイズは……あたしのせいだ!あたしがソロモンの杖なんか起動させなければ!)

 

 河川敷まで走るとクリスは悔しさを滲ませながら叫んだ。

 

「あたしがしたかったのは……こんなことじゃない!」

(戦いを無くす為なんて言って、あたしがやった事は関係ない奴らを、姉ちゃんをノイズの脅威に晒しただけで……)

「いつだってあたしのやる事は……いつもいつも!!」

 

 クリスの慟哭にノイズ達が気づいたのか、標的をクリスに定めた。

 

「来たな、ノイズども!あたしはここだ!だから、関係ない奴らの所になんて行くんじゃねえええぇぇぇ!!」

 

ノイズが体を変形させてクリスに襲い掛かる。

 

Killter Ich……

 

 運の悪い事に詠唱途中で噎びいてしまい、最後まで歌いきれずシンフォギアを纏えなかった。

 

「しまっ……」

 

 もう避けられず、詠唱も間に合わない。ここで炭になって消えるのか……諦めかけたその時だった。

 

「はああああぁぁぁぁっ!!」

 

 弦十郎が前に立ち地面を殴りつけると、そのコンクリートの破片が盾となってノイズの攻撃を防いだ。ノイズが攻撃する際、一瞬だが物理が通る瞬間がある。弦十郎はそれを利用した。

 しかし、これが本当に人間が成し得る技なのかとクリスは驚いたが、結果的にクリスは助かった。

 

「掴まれ!」

 

 クリスを抱えるとそのままビルの屋上まで高く飛ぶという離れ業をやって退けた。

 最早弦十郎は人なのかと疑いたくなる。

 

「大丈夫か?」

 

 クリスの安否を確認する弦十郎だったかクリスは弦十郎の腕を振り払う。

 

Killter Ichaival Tron……

 

 詠唱を歌うとクリスはイチイバルのシンフォギアを纏い、空中にいるノイズを蹴散らした。

 

「御覧の通りさ!あたしのことはいいから、ほかの奴らの救助に向かいな!」

「だが……」

「こいつらはあたしがまとめて相手をしてやるって言ってんだよ!」

(このノイズどと、もしかしたら姉ちゃんが……。だとしたら必ず何処かにいる!こうなったら絶対に止めてやる!)

 

【BILLION MAIDEN】

 

 ボウガンをガトリング砲に切り替え、ノイズを蹴散らしていく。

 

「付いて来い!クズども!」

 

そういうとクリスは河原の方へ移動し、それを弦十郎はその背を見ている事しか出来なかった。

 

「俺はまた……あの子を救えないのか。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 日が傾く頃、ソロモンの杖を持って山沿いの道路で河川を見下ろしている瑠璃がいた。

 

『ルリ、あの子は始末出来た?』

「対象、ロスト……。」

『そう、一先ずあなたは帰ってきなさい。まだ準備は完全じゃないわ。』

『了解。』

 

 通信を切ると瑠璃はその場から立ち去ろうとすると、川で響と未来が笑い合っているのが見えた。

 

「ぐっ……!ぅ……ぁ……!」

 

(■リ■!)

(お姉ちゃん!)

 

 突然フラッシュバックによる頭痛に襲われ、うめき声をあげながら蹲っていた。

 瑠璃は痛みに耐えながら、ここを去って行った。




オリジナルエピソードをぶっ込みすぎて進みが遅いと感じてしまう……。

ちなみに今回ノイズによる死者は0なので、元に戻っても大丈夫です。

XDっぽくバレンタインセリフ

瑠璃編
あ、あの!チョコレート……良かったらどうぞ……。お、美味しい……かな?

輪編
やっほ〜!君には私特製の義理チョコをプレゼントをあげよ〜う!ん?本命は誰かって?ふっふっふっ……そんなの一人しかいないでしょ〜う!

ご感想、お待ちしております。


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あんぱんと大人の恋バナ

今の展開でデート回は介入が難しいので……

スルーします!

そして今回……瑠璃の出番ZERO〜♪

主役だよね?


同じ頃、外部協力者として迎い入れられた未来を二課の本部に案内している響。自分達が通っている学校の真下にこんな基地がある事に驚いている。響もそうであった。

 

「学校の真下にこんなシェルターや地下基地が……」

「へへ、すごいでしょー!あ、翼さーん!輪さーん!」

 

 響は翼と輪に手を振って声を掛けた。

 輪の足は完治しており、杖や車椅子が無くても歩けている。

 未来はここにトップアーティストの翼がいる事に違和感があった。そもそも翼は自分達にとっては雲の上のような存在なので、響と親しげに話している姿なんて想像も出来なかった。

 そして輪もここにいる事にも驚いていた。響が装者として戦っていることは知っているが、まさか自分と同じ外部協力者であったとは微塵も思わなかった。

 

 

「立花か。そちらは確か、協力者の……」

「こんにちは。小日向未来です」

「えっへん!私の一番の親友です!」

「二課にようこそ〜。ってまあ私もここに来たのつい最近だけど。」

 

 未来は翼にペコッと頭を下げる。響は自慢げに未来を紹介するが、それをよそに輪は手を振って歓迎する。

 

「風鳴翼だ。よろしく頼む。立花はこういう性格故、色々と面倒をかけると思うが支えてやってほしい。」

「いえ。響は残念な子ですので、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」

「えぇ何?どうゆうことぉ?」

 

 響が理解出来ていない。未来と翼は響のポンコツぶりを知っているのである意味共感的な会話をしている。

 輪は響の肩をポンと置いて頷くように響を見ていた。恐らくドンマイと言いたいのだろうが、笑いを堪えている。そこに緒川がやって来た。

 

「響さんを介してお二人が意気投合しているということですよ。」

「はぐらかされた気がする……」

 

 優しく丁寧に説明してくれるが、響は頬を膨らませて不満を表現している。

 

「でも、未来と一緒にここにいるのは、何かこそばゆいですよ。」

「司令が手を回し、小日向を外部協力者として、出水とともに二課に登録したが、それでも、不都合を強いるかもしれないが……。」

「説明は聞きました。自分でも理解しているつもりです不都合だなんてそんな。」

「これで、お互いに隠し事はなくなったのでしょう?なら結果的には良かったんだと思いますよ。」

 

 輪の言う通り、未来にはあの夕方の日のような悩みふけていた顔つきではなくなっている。ただその明るさが眩しく映っている。

 

「あら、いいわね。ガールズトーク?混ぜて混ぜて♪」

「どこから突っ込めばいいのかわかりませんが、僕を無視しないでください。」

 

後ろから来た了子が、興味本位で混ざる。緒川が困惑しながら苦言を呈するが無視して、話を続ける。

 

「了子さんもそいうの興味あるんですか?!」

「モチのロン!私の恋バナ百物語聞いたら夜眠れなくなるわよ~?」

「まるで怪談みたいですね……。」

「遠い昔の話になるわね。こう見えて呆れちゃうくらい一途なんだから」

「「「おぉ~!」」」

 

響と未来、輪が今時の女子高生らしく、大人の恋バナに興奮している。

 

「意外でした。櫻井女史は恋というより、研究一筋であると」

「命短し、恋せよ乙女って言うじゃなぁい?それに女の子の恋するパワーって凄いんだから!私が聖遺物の研究を始めたのも、そもそも……あ。」

「「「うんうん、それで?!」」」

 

響、未来、輪が聞くが、了子は恋バナを中断してしまう。

 

「ま、まぁ。私も忙しいから、ここで油を売ってられないわ!」

「えー?!全然聞いてませんよ?!少しでもいいから聞かせてくださいよ!」

「とにもかくにも、出来る女の条件はどれだけいい恋してるかに尽きる訳なのよ。ガールズたちも、いつかどこかでいい恋、なさいね。んじゃ、ばっはっはーい♪」

「櫻井さーん!おーい!」

 

自分から入って来て、勝手に終わらせてしまった事に納得行かず、駄々っ子のように聞こうとするも、了子は行ってしまった。響と未来も残念がる。輪は了子の事について翼に質問する。

 

「櫻井さんってもしかしてロマンチストですかね?」

「いや、私も知らない。だがそんな風には見えないな……。」

「うーん。何か話し方が神話みたいな感じの進み方だったから……もしかして相手は神様とか!」

「「それは無いと思います。」」

「即否定は傷付くなぁ。」

 

 響と未来がそんな非現実的な解釈を、シンクロするように否定する。そんな彼女達をよそに、緒川は腕時計で時刻を確認する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同じ頃、降りしきる雨の中、弦十郎は一人、廃墟となった団地に向かっていた。そこにクリスが潜んでいると情報があり彼女を救う為にここに来た。

 

(瑠璃だけじゃない……彼女も過去の傷に苦しんでいる。何とかそれから解放しなければな……)

 

その思いを胸に、弦十郎は中に入った。

 

 

 逃亡生活が続いてどれだけ経ったのだろうか覚えてない。この雨のせいもあって、室温も低い。綿が禄に詰められていない、薄い毛布では暖を取る事すらままならない。あとどれだけ逃げれば、終わるのか?そもそも終わりはあるのか?

 

そこに戸が開く音が聞こえた。クリスは布団を乱暴に放り出して、部屋の壁に張り付いて気配を押し殺す。すると出て来たのは餡パンと牛乳が入ったコンビニ袋を差し入れる野太い腕だった。

 

「ほらよ。応援は連れてきてない。君の保護を命じられたのは、もう俺一人になってしまったからな。」

 

それでもクリスは警戒を解かない。手を出さないという証明をする為に弦十郎は胡座をかいて座り込む。

 

「どうしてここが?」

「元公安の御用牙でね、慣れた仕事さ。ほら、差し入れだ。」

 

 コンビニ袋から餡パンを出す。しかし、敵から貰った食べ物など信用出来ないと言わんばかりに拒否しようとしたが、腹の虫は正直に鳴る。

 弦十郎はやれやれと思い、餡パンを一口齧って毒味したことを証明する。

 毒味を確認したクリスは、渡された餡パンを強引に取り、それにかぶりつく。

 そして弦十郎は響と翼に話した瑠璃とクリスの関係性や過去を話す。その内容の正確さに、クリスは不快感を示す。

 

「よく調べ上げてるじゃねえか。そういう詮索、反吐が出る。」

 

 弦十郎が毒味した牛乳も、クリスはすぐに飲み干す。

 

「当時の俺達は適合者を探すために、音楽界のサラブレッドに注目していてね。天涯孤独となった姉妹の身元引受先として手を挙げたのさ。ところが君は帰国直後に消息不明。姉は現地で死亡報告を受けた。俺達も慌てたよ。二課からも相当数の人員が駆り出されたが、結果的に姉の方は生存が判明、何とか保護は出来たが記憶を失い、妹は見つけだせなかった。そしてこの件に関わった多くの者が死亡、または行方不明という結末で幕を引くことになった。」

「何がしたい……おっさん!」

 

弦十郎の回りくどい語りにうんざりし始めたクリスは悪態をつく。

 

「俺がやりたいことは、君と瑠璃……君達姉妹を救い出す事だ。」

 

 クリスは自身はともかく瑠璃も含まれている事に驚く。

 

「引き受けた仕事をやり遂げるのは大人の務めだからな。」

 

 クリスがこの世で一番大嫌いなもの。それを弦十郎が口にした事でクリスの怒りがこみ上げてきた。

 

「はっ!大人の務めと来たか!」

 

飲み干した牛乳パックを乱暴に投げつける。

 

「余計なこと以外はいつも何もしてくれない大人が偉そうにぃ!!」

 

窓ガラスを破り、ベランダから飛び出した。

 

Killter Ichaival tron……

 

 クリスはギアを纏って逃亡した。弦十郎はただそれを見ているしか出来なかった事に悔しさを滲ませた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「司令、まだ戻ってきませんね。」

「えぇ、メディカルチェックの結果を報告しなければならないのに……。」

「次のスケジュールが迫ってきましたね。」

「もうお仕事入れてるんですか?」

「少しづつよ。今はまだ、慣らし運転のつもり。」

 

 翼が絶唱によって重傷を負っていた間、世間では過労という体で通っていた。今は病み上がりである為、一度に多くの仕事入れずに、今後徐々に増やしていく方針のようだ。

 ここで響が確認の質問をする。

 

「じゃあ、以前のような過密スケジュールじゃないんですよね?」

「え、ええ。」

「だったら翼さん!デートしましょ!」

「デート?!」

 

響の思わぬ提案に驚く翼。輪とそう来るとは予想せずに驚いている。ただ一人、未来だけが何となくやっぱりと言わんばかりな顔をしていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その日の夜……

 

「え、じゃあデート断ったん?」

「うん。」

 

 輪は小夜と食事をしていた。なお、メニューは輪特製カレーである。

 響の提案でデートの誘いを受けたが、輪だけは用事と称して断った。

 

「もったいない事するな〜。」

「自分でもこんなチャンス、フイにしたって思ってるよ。でもさ……。」

 

 行けるわけがない。今、自分の家で客人という名の爆弾が呑気にカレーを頬張っていると考えるとゾッとする。

 

「ん?何だよ?」

 

その客人と言うのが、雪音クリスである。

 




一つお知らせです。

ストックが最後の一個になりそうなので、ある程度貯るまでガンガン更新が出来なくなります。

更新ペースが遅くなりますが、始めたからには最後までやり通したいと思っております。

以上、お知らせでした。

次回、クリ×リン?リン×クリ?危機一髪!


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客人と書いて爆弾と読む

輪がデートに欠席……そして何故かいる家にクリス。
何故こうなった……?

それはさておき、またしても瑠璃の出番がない。


 デートに誘われた時まで遡る。最初は乗り気だった、というより行く気満々だった。

 だが切っ掛けはある着信だった。

 

「小夜姉?ちょっとすみません。」

 

 一言断りを入れて電話に出る。

 

「もしもし?」

『あーもしもし?輪さ今どの辺におるん?』

「え?まあリディアンの近くだけど。」

 

 二課の本部にいるなんて口が裂けても言えないので、ある程度は誤魔化すが、嘘は言っていない。

 

『こないだ一緒にご飯食べたクリスちゃんって子が家におるんよ。』

「はぁ?!」

 

 思わず大きな声が出てしまう。しまったと思いながらも、クリスの事は気付かれていないようなので、このまま小声で通話をする。

 

「なんで家にいるの?」

『さっき偶々バッタリ会ってな。何か疲れてるみたいやから家に入れたんやわ。』

 

 最悪だと思った。

 クリスが逃亡生活をしているとは聞いていたが、まさか家に転がりこむとは、いやそもそもそんな事予想出来るわけがない。

 

「で、どうしようと?」

『クリスちゃん、お家に帰れん事情があるみたいやし、せっかくやから泊めてあげようと思ってな。せや、輪さカレー作ったってや!』

 

 相変わらず滅茶苦茶な事を言う小夜である。

 しかし、小夜に何を言っても無駄なのは輪がよく知っているので大人しく従うことにする。

 

「分かった……。すぐ帰るから……。」

 

 不機嫌そうに言って着信を切る。

 

(ヤバい……これかなりヤバい案件じゃん。デート行きたいけど……小夜姉仕事があるんだろうからあの子一人になるし……そうしたら何が起こるか分かったもんじゃない……。)

 

 結局色々考えた結果、家にいる事にした。

 響達との会話の輪に戻るが、申し訳なさそうに断った。

 

「ごめーん!その日はどうしても外せない用事があるの!」

「そんなぁ!」

 

 響が今にも泣き出しそうになっていた。

 

「でも仕方ないんじゃない?輪さんはいつでも誘えるんだし。」

「あまり無理に誘うのは、出水に悪いぞ。」

「はぁい……。」

「何か、ごめんね。」

 

 

 そして今に至る。

 

 輪はため息をつく。

 小夜はこれから夜勤で働きに行くので二人きりになると考えると頭が痛くなってくる。

 

「にしても……やっぱ食べ方汚い……。」

「良いだろ別に。あたしはそんな教養ねえしな。」

 

 これが瑠璃の妹なのかと疑心暗鬼になる。

 瑠璃は綺麗だし、口調も丁寧、何より可愛い。

 対するクリスが食べたカレーの食器の周りは見るも無惨、粗暴な口を叩くから可愛くない、明らかに正反対だらけだった。

 

「クリスちゃんせっかくやからお風呂入って来な。」

「い、良いのか?」

「ええんやええんや。乙女の身体は清めなあかんよ。」

「じゃあ……遠慮なく。」

 

 そういうとクリスは浴室へと入った。そして小夜はニヤリと一瞬だけ浮かんだ。

 小夜は高校時代こう呼ばれていた、「小悪魔美人」と。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 クリスは浴室で一人、シャワーを浴びている。しばらく逃亡生活でまともにシャワーを浴びる機会も余裕もなかった為、有り難かった。

 しかし同時に小夜がフィーネとは違う意味で恐ろしいと感じた。

 

「まったく……あんな奴初めてだ……。」

「最初はみんなそう言うよ。」

 

 浴室の引き戸の方を見るとなんと一糸纏わぬ輪がいた。

 

「おおお、お前何で?!入ってんだぞ?!」

「こっちだって願い下げよ!でも……」

 

 それはクリスが浴室に入る直前の事だった。

 

 

「ほんなら輪も一緒に入ったらええな。」

「はい?!」

 

 また始まる小夜の横暴。さすがの輪も顔を赤らめて拒否する。

 

「何であいつと……」

「親睦を深める良い機会や。女同士裸の付き合いになれば、話しにくい事も話せるやろし。ちなみに拒否したらお小遣い半分にするで。」

 

 無慈悲な所業に、輪は成す術はない。

 もはや小悪魔を通り越して悪魔である。

 

「分かったよ!その代わり、お小遣い少し増やしてよね!」

「ええよ〜。クリスちゃんの着替えは輪のものから貸してやってな〜。」

 

 そういうと輪はクリスの分の着替えも用意して入る事になった。

 

 

 そして今に至る。流石のクリスも同情してしまう。

 

「お前って結構大変なんだな……」

「うん。」

 

 と、言うわけで輪も入浴に加わる。

 今は輪がクリスの背中を洗っている。

 

「やっぱ双子なんだねぇ。体格も顔も、洗心地も同じ。」

「そりゃ……まあな。って最後の洗心地って何だよ?!」

「べっつに〜?」

 

 構わず背中を洗う。

 輪はよく瑠璃の家に泊まる事があり、瑠璃も輪の家に泊まる事がある。

 その際に瑠璃と一緒に入浴しているからなのか、輪はこの状況をすんなりと受け入れられている。

 

「なあ、今もあたしを許せないでいるか?」

 

 突然の質問に輪の手が止まる。

 

「確かに、思う所はあるよ。二度も殺されかけたし……。でも、あんたも利用されたんでしょ?オジサンから聞いた。それに……あの時私を殺そうと思えば殺せたでしょ?なのに、私はここにいる。」

 

 瑠璃が攫われた時、クリスは輪に向けて杖を構えていだが、向けただけで何もしなかった……いや、殺せなかったという方が正しかった。

 

「ずっと何でだろうって思ってたけど、あんたも何だかんだ優しいんだなって思う。だからあんたを恨んでも意味ないよ。」

 

いがみ合っている時より弱々しい声で本音を話す。

 

「そうか。初めて会った、あの夜の日の事や……色々悪かったな……。」

「うん。まあ今となっては、忘れられない思い出だね。確かに怖かったなぁ……。このまま前も洗おうか?」

「ば、馬鹿!前くらい自分で洗えるわ!」

 

強引にハンドタオルを奪って身体を洗う。

 

(も、もう!前くらい自分で洗えるよ!)

 

 その一連の動作まで、瑠璃と同じ反応をしていた事を思い出す。

 

(変な所で一致するんだなぁ……。)

 

 そもそも他人に前を洗ってもらおうとする人はそうそういないだろう。

 洗い終わるとクリスはシャワーのお湯で身体のボディソープの泡を流す。

 ここで、輪はある事に気付く。

 

「あれ?背中に傷無いんだね。」

「あ?何の事だ?」

「いや、瑠璃の背中には痣とか……何か傷だらけだったから……」

 

 その話を初めて聞いたクリスは急に輪の方を向き、輪の両肩を掴む。

 

「おい、それどういう事だ?!詳しく話せ!」

「ちょ、ちょっ……うわぁっ!」

 

 勢いよく掴んできたので、踏ん張りきれず押し倒された。

 その騒音は、小夜がいるリビングにまで聞こえた。

 

「ちょっと!大丈夫?!何か凄い音が……」

 

 浴室の戸を開けた先には、クリスの顔が輪の豊かとはあまり言えないが、翼よりはあるだろう谷間に埋まっていて、いかにも百合の花が満開に咲きそうな絵面になっている。

 意図したわけではない二人ではあるが、小夜に見られた事で羞恥心全開で顔が赤くなる。

 

「あ、あはは……まさかここまでの仲になるとは……お姉ちゃんもびっくらこいたなぁ。ま、まあそういう関係でも、お姉ちゃん応援しとるわ〜。どうぞ続けてな〜。」

 

気不味そうに戸を閉める小夜。

 

「「ち……違あああぁぁぁーーーう!!」」

 

 仲が良いのか悪いのか分からないが、息だけはピッタリな二人であった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ちょっとしたハプニングが起きたが、それから夜も更け、小夜は夜勤である為、輪とクリスの二人きりになった。

 クリスは輪の部屋で寝る事になり、輪のベッドで寝ている。

 

「悪いな……ベッド使っちまって。」

「気にしなくていい。」

 

 輪は床に布団を敷いて眠る事になった。

 久々に温かいベッドで眠るクリスだが、如何せん人のベッドという事もあり緊張でなかなか眠れない。

 寝返りを打つと、輪がデジタルカメラを操作していた。

 

「なあ、カメラなんて出して何してんだ?」

「ん?まあメモリー整理。」

 

 カメラの写真を見ながらそう答えるが、実際は写真を見ているだけだった。

 

「何の写真なんだ?」

「あんたの姉が写ってる写真。」

「見せてくれないか……?」

 

 輪はクリスの方を見ると、カメラを手渡す。

 受け取ったクリスはデータ内にある写真を見ていく。

 

「姉ちゃん、こんな風に笑うんだな……。忘れてたな。」

 

 その写真を見てどこか懐かしさを感じている。

 どんどん次の写真と見ていくが……

 

「これ殆ど姉ちゃんしか写ってねえじゃねえか!他にねえのか?!」

「無い。」

「即答かよ?!」

 

 二枚程未来の写真があったがそれ以外は全部瑠璃しか写ってない。

 

「私の写真は瑠璃がいて初めて輝く、これ常識。」

「さも当然みたいに言うな!」

 

 クリスはカメラを返す。

 

「あんたにだけ教える。瑠璃……ここの所元気なさそうだった。」

「は?」

「何か、無理して笑顔を作ってるみたいでさ……瑠璃ってばいつも自分より他人を優先するから、それで傷付く事だってあるのに……。結局何に悩んでるか分からないまま、あんたに拉致られちゃった。」

 

クリスは申し訳なさそうに謝る。

 

「悪かった……。」

「いや、別に私に謝られても……」

 

突然何かを思い出した途端、思わず笑ってしまう輪。

 

「な、何がおかしいんだよ?!」

「ちょっと、そういう困った顔とか、塩らしい顔になると瑠璃に見えちゃうんだよ。いやぁ双子って凄いなぁ。」

「何処で感心してんだよ?!」

「アハハ!反応も瑠璃と同じくらい面白いよ!クリスって性格は正反対なのにこういう所はそっくりなんだね……クヒヒヒ!」

 

 あの姉にしてこの妹あり、という事だ。

 しかし輪がクリスの名前を呼ぶ辺り、クリスに対する印象も変わって来たという証でもある。

 だが反対に、クリスは輪も姉と同じくらいの悪魔であると認識した。

 

 

 翌朝、輪が起きた時には既にクリスはおらず、リビングのテーブルにはお礼の置き手紙だけが残っていた。

 




百合要素が強すぎる事に気付くレーラさんである。

感想お待ちしております。


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繋いだ手が紡ぐ思い

いよいよここからシリアスが多くなります。

ちなみにスカイタワーでの戦いはカットとなります。 

そしてまたしても瑠璃出番なし!(3話連続!)


 クリスはルリを取り返す為に一人、フィーネの洋館へと向かっていたが、その中で見たものは……

 

「どうなってやがんだこれ……?!」

 

 米国特殊部隊員が床に倒れ、その辺り一面が血の池地獄のような惨劇になっていた。

 出血量からして、倒れている面々は全員死亡している事は容易に分かる。

 

「姉ちゃぁぁん!何処だああぁぁ?!」

 

 クリスの呼び掛けが洋館中に日々聞くが、聞こえるのは呼び掛けで出来た言霊だけだった。

 そこに弦十郎率いる黒服達が拳銃を持って現れる。

 

「ち、違う!あたしじゃ……」

「誰もお前さんがやったとは思っちゃいないさ。全ては君や、俺達の側にいた彼女の仕業だ。」

 

 その証拠に黒服達はクリスに拳銃を向けず、この洋館の調査を始めている。

 弦十郎もクリスを安心させるように頭を撫でてやる。

 弦十郎は以前から信頼出来る者達と共に極秘に調査をしたが、その黒幕がすぐ側にいた事が判明した。

 

「風鳴司令!」

「どうした?」

「これが。」

 

 手紙と言うには小さすぎるものだった。

 そこには『I Love you SAYONARA』と書かれた。

 それを一人の黒服の男が剥がそうとするが、弦十郎はそれが罠である事に気付く。

 

「いかん!それに触るな!!」

 

 が、それも虚しく剥がした事が引金となり、洋館内に仕掛けられた爆弾が爆発する。

 しかも爆発した事で天井が瓦礫となって落ち、そこにクリスがいた。

 直撃は避けられない……

 

「はっ?」

 

 その前に弦十郎がクリスを守る様に右腕一本で瓦礫を受け止めてしまった。

 他の面々は負傷した者はいるだろうが、幸い死者はいなかった。

 

「どうなってんだよこいつは……。」

「衝撃は発勁で掻き消した。」

「そうじゃねぇよ?!放せよ!」

 

 聞きたいのは瓦礫を防いだ方法ではなく、何故敵である自分を、しかもギアを纏ってすらない弦十郎がどうして自分を守っているのかだった。

 弦十郎は瓦礫を降ろす。

 

「俺がお前を守るのはギアの有る無しじゃなくて、お前よか少しばかり大人だからだ。」

「大人?」

 

 大人というクリスがこの世で一番嫌いな言葉を耳にし、胸中から途方もない嫌悪感が滲み出る。

 

「あたしは大人が嫌いだ!死んだパパもママも大嫌いだ!とんだ夢想家で臆病者!姉ちゃんだって、そんなくだらない夢を信じたせいで、良いように利用されてるじゃねえか!あたしはあいつらとは違う!戦地で難民救済?歌で世界を救う?良い大人が夢見てんじゃねえよ!本当に戦争を無くしたいのなら、戦う意思と力を持つ奴らを片っ端からぶっ潰せばいい!それが一番合理的で現実的だ!!」

 

 弦十郎は黙って聞いていたが、クリスが言い終わると、口を開く。

 

「そいつがお前の流儀か。だが……」

 

 すると弦十郎がクリスの頬を優しく叩いた。

 

「娘を侮辱する事は許さん……!」

 

 叩かれた頬を手に当てると、クリスは弦十郎を睨みつける。

 

「やっぱり……姉ちゃんはもうそっち側なんだな……!パパもママも……あたしの事も忘れて……新しい家族と……。」

「違うな……。あの子はお前の言う、こっち側でも、あっち側でもない。あの子は雪音ルリでもあり、風鳴瑠璃でもある。例え記憶を失くしたとしても、君の大切な姉である事には変わりない。それに、お前言うやり方で、戦いは無くせたのか?」

 

 痛い所を突かれ、黙りこくってしまう。

 力を力でねじ伏せようと戦った結果、ルリは戦いに巻き込まれ、関係ない人間を恐怖に陥れる事しか出来なかった。

 

 「いい大人は夢を見ない、と言ったな?そうじゃない、大人だからこそ夢を見るんだ。大人になったら背も伸びるし、力も強くなる、財布の中の小遣いだって、ちっとは増える。子供の頃はただ見るだけだった夢も、大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。お前達の両親は、ただ夢を見に戦場に行ったのか?違うな、歌で世界を平和にするって叶える為、自ら望んで地獄に踏み込んだんじゃないのか?」

「何で……そんな事……」

 

 クリスの疑問に、優しく答える。

 

「お前達に見せたかったんだろう。夢は叶えられるという揺るがない現実をな。」

 

その答えに、クリスはハッとする。

 

「お前は嫌いと吐き捨てたが、お前達の両親、そしてルリも、きっと大切に思ってたんだろうな。」

 

 そう言うと弦十郎は歩み寄り、泣きじゃくるクリスを優しく抱きしめた。

 

「ごめん……っ。姉ちゃぁんっ……。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 調査を終え、撤収する二課の車に乗る弦十郎だが、その前に泣き止んだクリスにこちらに来ないかと聞いた。

 

「やっぱり……あたしは……。」

「一緒には来られないか?」

 

その気持ちにはありがたみを感じていたが、どうしてもすぐに信用する事は出来なかった。

 だが弦十郎はそんなクリスを受け入れた。

 

「お前はお前が思っている程、独りぼっちじゃない。お前が一人道を往くとしても、その道は遠からず、俺達と交わる。」

「今まで戦ってきた同士が?一緒になれるのか?世慣れた大人が、そんな綺麗事を言えるのかよ。」

 

 そのひねくれ具合に、呆れる。

 

「ほんと、ひねてんなお前は。瑠璃はもっと素直だぞ?」

「姉ちゃんと一緒にするんじゃねえ!」

「ハッハッハッ!まあ良いさ。ほれ。」

 

 弦十郎がクリスに通信機を手渡す。

 

「限度額内なら公共交通機関が利用出来るし、自販機で買い物も出来る代物だ。便利だぞ。」

 

 車のエンジンを入れようとした時、クリスがある事を思い出した。

 

「カ・ディンギル……。フィーネが言ってたんだ、カ・ディンギルって。」

 

そう伝えると弦十郎はクリスの方を向く。

 

「それが何なのかは分からないけど、そいつはもう……完成しているみたいな事を……。」

「カ・ディンギル……。後手に回るのは終いだ。こちらから打って出てやる。」

 

そういうと、車を発車させる。

残ったクリスは自分に出来る事をなそうと動き出す。

 

 

車を走らせている弦十郎は通信を入れる。

 

『響です!』

『翼です。』

「二人とも聞こえているな?敵の目的について収穫があった……ん?了子君にはまだ繋がらないのか?」

 

 友里が応答する。

 

『はい。朝から連絡不通でして……。』

『連絡が取れないとは……心配ですね。以前の広木防衛大臣や、瑠璃の件もありますし……』

 

 翼が心配するが、響は逆だった。

 

『了子さんならきっと大丈夫です!何が来たって、私を守ってくれた時のように、ドカーン!っとやってくれます!』

 

 これに翼が疑問を呈する。

 

『いや、戦闘訓練を碌に受講していない櫻井女史にそのようなことは……。』

 

 以前デュランダル輸送作戦の時、了子はノイズからの攻撃をバリアのようなもので響を守った事がある。

 それを守られる側として間近に見ていた響は驚きを隠せなかった。

 

『え?!師匠とか了子さんって、人間離れした特技とか持ってるんじゃないんですか?!』

 

 それが普通みたいな言い方だが、そんな事が出来ること事態おかしい、むしろ普通の人間だったら出来無い。

 

『や〜っと繋がった!ごめんね〜寝坊しちゃったんだけど、通信機の調子が良くなくて〜。』

 

 人が心配していたというのに、いざ応答すると緊張感も欠片もない。

 

「無事か。了子君、そっちに何も問題は?」

『寝坊してゴミを出せなかったけど……何かあったの?』

「ならいい、それより聞きたいことがある。」

 

 了子にカ・ディンギルについて何か知っている事はないか聞いてみる。

 

『カ・ディンギルとは、古代シュメールの言葉で、『高みの存在』、転じて『天を仰ぐほどの塔』を意味してるわね。』

 

 真面目なトーンで説明する。

 

「何者かが、そんな塔を建造していたとして……何故俺達は見過ごしてきたのだ?」

 

 全員思考するが、答えは出なかったが、弦十郎が口を開く。

 

「だがようやく掴んだ敵の尻尾。このまま情報を集めれば、勝利も同然!相手の隙にこちらの全力を叩き込むんだ!最終決戦、仕掛けるからにはし損じるな!」

 

『『了解です!』』

「ちょっと野暮用を済ませてから、私も急いでそっちに向かうわ〜。」

 

 ここで通信を切る。

 

(ようやくだ……瑠璃……お前を何としてでも救い出してやるからな!)

 

 




主人公不在が長引くってどうなんだろう……

感想お待ちしております。


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帰る場所が崩れる時……

シリアスが続く中……

瑠璃、またしても出番なし!(4度目!)


 輪は瑠璃のいない学校生活に退屈していた。

 瑠璃は現在、交通事故で入院中という事で欠席している体で通っているが、あまり長引くと隠し通せなくなる。

 輪が色々説明して上手くあしらってるが、その言い分も日が経つにつれてどんどん苦しくなっている。

 

(瑠璃……早く見つからないかな……。瑠璃が来ないと退屈で死にそうだよ〜!)

 

 そう思いながら机に伏し、脚をバタバタする。

 

きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!

 

 突如悲鳴が聞こえ、起き上がる輪。

 クラスの皆も突然の悲鳴に驚いている。

 だが窓を見るとその意味が理解できた。

 

「ノイズ……!」

 

 外に多数のノイズが襲来した事で、全ての教室からも悲鳴で溢れかえった。

 だがこの時、輪だけは冷静だった。

 誰かが先頭に立って、パニックになった者達を落ち着かせなくては、あの地獄が待ち構えてる。

 そうならないよう二課の外部協力者として避難誘導に当たる為に、まず教台に立って、大きな声で全員に通達する。

 

「皆、落ち着いて!!良い?急いでシェルターに避難するよ!」

 

 輪がクラスの皆をシェルターまで誘導し、近くのクラスの生徒も落ち着いて避難するよう指示を送る。

 

「押さないで!落ち着いて避難すれば助かるから!」

 

 そのお陰もあって、手早く避難が済んだ。

 

「君!大丈夫か?!」

 

急遽駆け付けた自衛隊の兵隊に声を掛けられる。

 

「はい、何とかこっちは皆避難しました!」

「そうか!では君も早く避難しなさい!」

「分かりました!」

 

 そういうと最後に残った輪が避難を開始しようとした時、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「他に残ってる人はいませんかー?!」

 

 同じく二課の協力者、未来が避難誘導に当たってくれていた。

 

「おーい!」

 

 輪は大きく手を振って、自分の存在を知らせて未来と合流した。

 

「そっちはどう?!」

「皆避難しました!そっちはどうですか?!」

「こっちももう誰もいない!後は私達だけ……」

 

たがノイズが三体、天井を突き破っきて来た。

次のターゲットは自身達であることを悟った輪と未来。

 

「逃げるよ!……未来?未来!」

 

 だが未来はノイズを目の当たりにした途端、恐怖で脚が震えてしまって走れずにいる。

 その隙をノイズが見逃してくれるわけもなく、ノイズは未来の身体を貫かんと襲って来るが、間一髪、緒川が飛び込んで未来を助けた。

 

 

「「緒川さん?!」」

「ギリギリでした。次、うまくやれる自信はないですよ。走ります!」

 

 ノイズの第二撃が始まる前に、緒川は未来の手を取って、輪と共に走り出す。

 ノイズに対抗出来るシンフォギアが無いなら、方法は一つ、三十六計逃げるに如かず。

 三人は二課へ通じるエレベーターへ飛び込むが、扉が閉じる寸前、ノイズの腕が輪の眼前まで迫った。

 だが、エレベーターが動き出した事で事なきを得た。

 

「助かった……。」

 

 エレベーターの壁にもたれかかって、脱力する輪。

 九死に一生を得た今、あの時暇すぎて死にそうだと思っていた自分をぶん殴りたくなった。

 未来も緊張の糸が解れたのか、エレベーターの壁にもたれかかる。

 緒川が弦十郎に通信していると、未来に声を掛けられる。

「ごめんなさい輪さん……。あの時……足が……」

「あんな目に遭ったら誰だってそうなるよ。」

 

 だが輪がギアを持っていないというのに平静を保って動く事ができた事に未来は驚いていた。

 

「まあ……前に三回もノイズに襲われてるからね。何か……慣れちゃったのかな。でも今回は流石に危なかった……。」

 

 ノイズが出る確率は通り魔に襲われる確率より低いとされているが、輪の場合こればっかりは不幸だとしか言いようがないが、それでも生き延びているというのは不幸中の幸いというものだった。

 

「そういえば、響はどうしたの?」

「スカイタワーの周りに出たノイズを倒しに行ってます。だからここには……。」

「なるほど……。じゃあ……ハメられたわけか。」

 

 輪はこのノイズ出現について推測を立てるが、未来はそれにオウム返しで聞き返す。

 

「ハメられたって……?」

「多分、スカイタワーのはブラフだよ。敵はノイズを意図的に操れる道具を持ってる。多分敵の狙いはここ。わざとスカイタワーの方に響や翼さんを呼び寄せて、ガラ空きになったここを攻めて来たんだよ。二課は、世間じゃ口外できない事が沢山あるからね。」

 

 そんな事があり得るのかと否定しようとしたが、響のシンフォギアを目の当たりにしている以上、その推測が否定しきれない。

 

「でも……気になるのは黒幕。ノイズを操れる人がここを襲うなんて、多分ここを……」

 

 推測を立てている途中でエレベーターが大きく揺れたが、この尋常ではない揺れ具合は外部からの攻撃に他ならない。

 すると見覚えのある鞭が輪の首を締め上げる。

 

「輪さん!」

 

 しかも輪だけでなく緒川の首も右手で締め付けられている。

 犯人は黄金に変化したネフシュタンの鎧を纏ったフィーネだった。

 

「こうも早く悟られるとは……おまけに勘の良い小娘だ。」

「そ……こえ……さく……ら……い……さ……」

 

 身体を持ち上げられ、さらに首を締められている事で息ができなくなってしまっている。

 エレベーターのドアが開くと緒川は拘束から解き放たれ、その直後に拳銃を発砲するが、急所を狙ったにも拘らず、弾丸は貫く事なく潰れてしまう。

 

「ネフシュタ……ぐああぁっ!」

「緒川さん!輪さ……っ!」

 

 緒川も輪と同様に鞭で首を締め上げられ、身体を持ち上げられている。

 しかも輪は四肢がぶら下がっている事から意識を失ってしまった事が分かる。

 二人を助けようと体当たりをするが、吹き飛ばすどころかフィーネに目をつけられ、顎に手を当てられる。

 

「麗しいなぁ。お前たちを利用してきた者を守ろうというのか。」

「利用……?!」

「何故、二課本部がリディアンの地下にあるのか。聖遺物に関する歌や音楽のデータを、お前達被験者から集めていたのだ。その点、風鳴翼という偶像は生徒を集めるのによく役立ったよ。」

 

 リディアンの裏で行われている事を知り、心が動揺する未来だが……

 

「嘘をついても、本当のことが言えなくても、誰かの命を守るために、自分の命を危険にさらしている人がいます!私は、そんな人を……そんな人たちを信じてる!」

 

 未来が響や二課の人達を信じる、という答えに苛立ったのかフィーネは未来の頬を叩く。

 そして不要と言わんばかりに輪と緒川を壁に叩きつける。

 

「まるで興が冷める……!」

 

 だが本来の目的を果たす為に奥の部屋に向かう。そこには二課が管理している完全聖遺物「デュランダル」が保管されている。

 

 フィーネは端末を出してロックを解除しようとするが、弾丸によって破壊される。

 

「デュランダルのもとへは、行かせません!この命に代えてもです!」

 

 緒川は拳銃を捨てて構えを取る。

 フィーネも緒川が煩わしくなったようで今度こそ息の根を止めようと鞭しならせる。

 

「待ちな、了子。」

 

 突然天井が破られ誰かが降りてきた。

 砂煙が立ち込めているが、声色からして弦十郎しかなった。

 

「私をまだ、その名で呼ぶか……。」

「女に手を上げるのは気が引けるが、二人に手を出せば、お前をぶっ倒す!」

 

 弦十郎は構えに入りながら話している、同じタイミングで輪の意識が戻った。

 

「オジサン……!」

「調査部だって無能じゃあない。米国政府のご丁寧な道案内で、お前の行動にはとっくに行きついていた。あとは燻り出す為、敢えてお前の策に乗り、シンフォギア装者を全員動かして見せたのさ!」

 

「陽動に陽動をぶつけたか……食えない男だ。だが、このワタシを止められるとでも?!」

 

「おおとも!ひと汗かいた後で、話を聞かせてもらおうかぁ!!」

 

 弦十郎はフィーネに接近すると、フィーネは鞭で串刺しにしようと放つが、容易く避け、二本目も天井の梁を掴んで避ける。

 そのままフィーネを殴り掛かるが、フィーネが避けた事で地面に穴が開くも、拳圧だけで鎧に亀裂が入っていた。

 

「肉を削いでくれる!!」

 

 ヒビは既に修復されたが、勘に障ったのか二本同時に振り下ろすが、弦十郎はそれを手で掴み取り、強引に引き寄せる。

 力で引き寄せられたフィーネはそのまま鳩尾に拳を叩き込まれ、倒される。

 

「完全聖遺物を退ける……。どういうことだ?!」

「知らいでか!飯食って映画見て寝る!男の鍛錬は、そいつで十分よぉ!」

「なれど人の身である限りはぁ!」

 

 ノイズを操る杖を出すも、そうはさせるかと地面を踏みぬいた衝撃で杖が天井に刺さった。

 打つ手を失わせた弦十郎はこの好機を逃さない。

 

「ノイズさえ出てこないのならぁ!!」 

「弦十郎君!」

 

 了子の声は、情に甘い弦十郎に決定打となったかのように怯んでしまった。

 その隙を突かれる形で、腹部を貫かれた。

 

「いやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 輪の悲鳴が響き渡る。

 フィーネは弦十郎の端末を強奪してドアのロックを解除した。

 未来と緒川、輪が弦十郎に駆け寄るが、これまで冷静に現状を対処してきた輪がここで恐怖に染まった。

 

「オジサン!!しっかりしてよオジサン!!」

「司令!司令!」

 

 デュランダルの前に到達したフィーネはコンピュータのキーボードを操作する。

 

「目覚めよ天を突く魔刀。彼方から此方まで現れ出よ!」

 

 フィーネの野望を映し出すように、デュランダルはその輝きを増した。

 




もう一周まわって輪が主役で良いんじゃないかと……

あ、ノイズせんぱ……(崩れる音)

それと調ちゃんハッピーバースデー!


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もう逃げ出さない

いつになったら瑠璃は出てくるのやら……

そしていよいよ始まる無印ラスボス戦!

と言っても今回は短めです。



スカイタワー周辺で発生したノイズを片付けた響、翼、そして助っ人として協力したクリスの三人だったが、その直後、未来からリディアンがノイズに襲われていると聞きつけ、急いで戻って来た。

 だが戻った時には既に校舎は見る影も形もなく、破壊され尽くされていた。

 

「未来ー!みんなぁぁーー!!」

 

 響が呼びかけるが誰も帰って来なかった。

 だが翼が壊れた校舎の上に人の気配がして見上げると、そこに立つ者がいた。

 

「櫻井女史!」

「フィーネ!お前の仕業かぁ!」

 

クリスが声を荒げると、了子……もといフィーネは高笑いを奏でる。

 

「そうなのか?!その笑いが答えなのか?!櫻井女史!」

「アイツこそ、あたしが決着をつけなきゃいけないくそったれ!フィーネだ!」

 

 もう正体を偽る必要がないと、眼鏡を外し、結んでいた髪を解くと、身体中に光が包み込み、ネフシュタンの鎧を纏ったフィーネとなった。

 

「嘘……。嘘ですよね?そんなの嘘ですよね?!だって了子さん、私を守ってくれました」

「あれはデュランダルを守っただけの事。希少な完全状態の聖遺物だからね。」

 

だが響だけが未だに信じられずにいる。

 

「嘘ですよ~。了子さんがフィーネというのなら……じゃあ、本当の了子さんは?」

「櫻井了子の肉体は、先だって食い尽くされた。いや、意識は12年前に死んだと言っていい。超先史文明期の巫女、フィーネは遺伝子におのが意識を刻印し、自身の血を引くものがアウフヴァッヘン波形と接触した際、その身にフィーネとしての記憶、能力を再起動する仕組みを施していたのだ。」

 

 それは偶然の代物なのかもしれないが、天羽々斬のギアの起動が、櫻井了子の全てを消し去り、フィーネ覚醒の引金となっていたということだった。

 

「まるで、過去から蘇る亡霊!」

「フィーネとして覚醒したのは私一人ではない。歴史に記される偉人、英雄、世界中に散った私たちは、パラダイムシフトと呼ばれる、技術の大きな転換期にいつも立ち会ってきた。」

「シンフォギアシステム!」

 

翼が思い当たるものを口に出すが、それは否定されてしまう。

 

「そのような玩具、為政者からコストをねん出するための副次品に過ぎない。」

 

その物言いに、翼とクリスは憤りを隠せなかった。

 

「お前の戯れに、奏は命を散らせ、瑠璃を巻き込んだというのか?!」

「あたしを拾ったり、アメリカの連中とつるんでいたのも、そいつが理由かよ!」

「そう!すべてはカ・ディンギルのため!」

 

フィーネが両手を広げると、地響きが発生し、大地から巨大な塔が天の果てまで貫かんとするかのように顕現する。

しかもその位置はエレベーターシャフトと一致しており、その証拠に、見覚えのある色彩、刻まれている文字で彩られている。

 

「これこそが!地より屹立し、天へと届く一撃を放つ過電粒子砲……カ・ディンギル!」

 

 カ・ディンギルの正体はただの塔ではなく、大砲だった。

 

「こいつで、バラバラになった世界が一つになると?!」

「ああ……。今宵の月を穿つことによってな!」

 

何故月を破壊しようとするのか、理解出来ない三人はフィーネに問う。

 

 

「私はただ、あのお方と並びたかった。その為に、あのお方へと届く塔を建てようとした。だがあのお方は、人の身が同じ高みにあることを許しはしなかった……。あのお方の怒りを買い、雷霆に塔が砕かれたばかりか、人類はかわす言葉まで砕かれ、果てしなき罰。バラルの呪詛をかけられてしまったのだ……。何故月が不和の象徴と伝えられてきたか、それは!月こそがバラルの呪詛の源だからだ!人類の相互理解を妨げるこの呪いを!月を破棄することで解いてくれる!!そして再び、世界を一つに束ねる!!」

 

 フィーネは月を握りつぶすように、拳を握る。

 フィーネの想いと共鳴するかのように、カ・ディンギルが始動する。

 

「呪いを解く?それは、お前が世界を支配するってことなのか?!安い!安さが爆発しすぎてる!」

 

 その為に自分を捨て駒のように使い捨てたフィーネに怒りを向ける。

 

「ふっ……。今まで逃げ出して来たお前に、一体何が出来るというのだ?」

「んだとぉ?!」

 

Tearlight Bident Tron……

 

その詠唱でもう一人、戦うべき相手が現れた。

 

「姉ちゃん……!」

 

 クリスは最愛の姉を前に、脚が震える。

 初めて瑠璃がバイデントの装者として現れた時、フィーネの方を追いかけてしまったが、本当はルリと戦う事が怖かった。

 今脚が震えているのも、戦う事を躊躇う自分がいるという何よりの証拠だった。

 

(姉ちゃん……)

 

 でもずっと逃げ続けても何も変わらない、向き合わなきゃ取り戻せない。

 もう逃げない、今度こそ取り戻すと決めた。 

 響と翼も、覚悟の上でここにいる。

 だからクリスも家族を取り戻す為に、姉と戦う。

 

 三人はそれぞれ詠唱を唄い、ギアを纏う。

 

「行くぞ、姉ちゃん!」

 

フィーネの野望を阻止する為、瑠璃を取り戻す為に、最後の戦いの幕が開いた。



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約束の絆

あの日、少女が見た夢は……幻か、それとも……




「あれ……ここは……。」

 

 目を覚ますと、そこは真っ暗な空間……瑠璃以外誰もいなければ何もない。

 

「私……あの時……歌を……。」

 

覚えているのは、フィーネに連れて行かれ、そこで虐待された事、そして姉と刃を交えたあの一瞬。

 

「お姉ちゃん……お姉ちゃ……」

「ようやく気付いたか……。」

 

振り返るとそこにいたのはフィーネだった。

 

「あなたは……ここは一体……」

「ここはお前の意識世界。お前にしか入れない特別な空間だ。人間には誰しもあるが、自分からでは気付くことのできない無の世界だ。」

 

では何故、自分にしか入れない世界にフィーネがいるのか訪ねようとするが

 

「私がお前の精神を支配すれば、お前だけの世界も私のものになる。私の意識をこちらに移すことでそれが可能になる。だが常人に入ろうとすれば忽ち弾き飛ばされてしまう。故にお前の心を砕いて入りやすくしたのだ。」

 

 あの日、響と翼が相手していた時、瑠璃の身体は既にフィーネに心を支配されていた操り人形だった。

 街にノイズを召喚したのも、クリスの命を狙ったのも、全てフィーネの意識だった。

 だがいつそんな事をされたのか、心当たりが一つだけあった。

 あの時微かに意識があった時、唇同士が重なった瞬間、あの時にフィーネの意識を移されていた。

 

「だが一度だけ弾かれたな。まさかあの融合症例第一号に揺さぶられて、一時的に覚醒してしまったが、今度は違う。今度はお前を声の届かぬ場所へ封じ込めてしまえば、奴らの声で二度と意識が蘇ることはない。」

 

 瑠璃の目の前で、肉体が見ているものが映し出される。

 そこでは響、翼、クリスがフィーネと瑠璃を止める為に争っていた。

 

「そんな……お姉ちゃん達を……!やめて!お姉ちゃん達を傷つけないで!」

 

 やめるように訴えかけるも肉体は戦闘を継続し、バイデントを纏って戦っている。

 

「無駄だ。私がここにいる限り、お前の全ては私のものだ。」

「ならあなたを追い出せ……っ!」

 

 いつの間にか両手と、両足から胴へに絡みつくように鎖で束縛されて動けなくなってしまう。

 

「そこで眺めるがいい。家族の鮮血が舞う瞬間を、そして絶望しろ。」

 

意思も肉体も支配され何も出来ない瑠璃は、ただ大切な人達が傷ついていく所をただ見ている事しか出来なかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 現在響と翼がフィーネ、クリスが瑠璃と交戦している。

 数では上回っている装者三人だが、クリスが使っていた時よりネフシュタンの鎧の力を存分に発揮している。

 

 瑠璃はクリスに黒い槍を突き出すが、ガトリングで弾いて軌道を変えるが、白い槍の攻撃には対応しきれず、身を屈んで避ける。

 クリスのギアは遠距離特化型である為、白兵戦ではガトリング砲もボウガンも意味をなさない、圧倒的に相性が悪い。

 

「代われ雪音!」

 

 ここで翼と交代し、突き出された白い槍を弾き返すと、距離が開いた瞬間に、瑠璃は黒い槍にエネルギーを溜め、それを穂先からビームのように放つ。

 

【Shooting Comet】

 

翼も刀を斬馬刀のように大きな刀へと形を変え、振り下ろすと刃状のエネルギー波を放つ。

 

【蒼ノ一閃】

 

 病み上がりだったあの時とは違い、今度は相殺したが白い槍からもShooting Cometを発射され、翼は辛うじて宙を舞う事で避ける。

 

(ガングニールのように一撃の威力は劣るが、手数では向こうが上……ならば!)

 

 上空に無数の短剣が降り注ぐ

 

【千ノ落涙】

 

 対する瑠璃は白い槍をブーメランのように投擲、黒い槍を高速回転させて自身に及ぶ短剣を全て弾く。

 だが最後の一本が瑠璃の影に刺さり、瑠璃は行動不能になる。

 

【影縫い】

 

 投擲された白い槍を上空に弾いて、動けなくなった瑠璃に接近する。

 

「もらったぁっ!」

 

刀の向きを変えて、峰打ちを狙う……

 

「翼さん!後ろ!」

 

弾いたはずの白い槍が意思を持つかのように翼に狙いを定め、迫ってきた。

 

「ボケっとすんな!」

 

ガトリング砲の反射で、軌道を変えるが、瑠璃の影に刺さった短刀はへし折られた。

 

「まさか槍を手にせずとも、それを自在に操れるとは……!」

 

 自由の身となった瑠璃は二本の槍を手に、翼に襲い掛かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同じ頃、二課本部はフィーネによって回線の殆どが破壊され、辛うじて生きている回線を通じて、装者とフィーネの戦いをモニタリングしていた。

 二課の面々は、一連の事件の黒幕が了子であり、その正体がフィーネであったという事実に影を落としたが、そんな状態であっても自分達に出来る事を成している。

 重傷だった弦十郎も目が覚めているが、未だに動けずにいる。

 そして二課の本部はリディアンの地下シェルターと繋がっていた為、弓美、創世、詩織と合流も果たしたが、弓美は非現実的な惨状に今にも心が折れそうになっている。

 さらに、輪も瑠璃がフィーネにシンフォギア装者としてフィーネに操られ、響、翼、クリスに刃を向けている事に信じられずにいる。

 

「オジサン……瑠璃が……。こんなの嘘だよ!あんなに、心根の優しい瑠璃が翼さんやクリス、響を殺そうとするなんて……嘘だよねオジサン!ねえ?!」

 

 あれだけ人に優しい瑠璃が、従姉と本当の妹を殺そうと戦っているという現実を突きつけられ、愕然とする。

 

「今は……彼女達に託すしかない……!」

 

 弦十郎も無力な自分に憤っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 瑠璃の意識世界でフィーネに束縛されている瑠璃の意識は、ただ大切な人達が傷つくのを黙ってみているしか出来ない。

 

「お願いやめて!これ以上大切な人達を……」

「よく言う。散々利用されてまだ信じようと?」

 

 フィーネに自身の思いを遮られてしまう。

 

「人はいつの時代でも醜く争う。それもバラルの呪詛によって……。己の体裁を守る為に、人を裏切り、偽りを吐き、血を流す。今己がされている事、している事がまさにそうだ。」

「そ、そんな事……今の私は……」

「私に利用されようとも肉体はお前のもの。それは変わらぬ事実。」

 

 瑠璃を嘲笑うように見下ろし、瑠璃の頭を髪ごと乱暴に掴む。

 

「どう足掻こうとも、お前は私の生贄でしかない。」

 

 何も出来ない、心も身体も支配され伝える事も出来ない、このまま消えてしまいたい、そう涙を流した時だった。

 

「ぅっ……ぁぁっ……!」

 

 突然耐え難い頭痛に襲われ、のたうち回る。

 同時に流れてくる、あの日見た夢と同じ光景。

 

「何だ……?」

 

 フィーネも瑠璃の異変に気付き、意識の全てを支配してやろうと口づけをしようとしたその時、瑠璃だけが見えていたビジョンを映し出すように、真っ暗だった世界が映し出された。

 

「へ……?ここは……」

 拘束もされておらず、自由に動ける。

 フィーネもいない。

 見上げるとそこは夜空に包まれ、星々が燦然と輝いている。

 

「ここは……前に夢で見た景色……これって……」

『クリス!』

 

 後ろから声がしたので振り返ると、そこには二人の少女が夜空の星を眺めていた。

 一人はクリスだ。幼いが銀色の髪と顔からクリスである事は分かった。だがもう一人の幼子を見ると驚きを隠せなかった。

 幼いクリスと同じ髪型だが黒髪にラピスラズリを思わせる瞳、左目尻の泣きぼくろが一致する人物など、一人しかいない。

 

「私……?!」

『ルリ!クリス!』

『『パパ、ママ!』』

 

 双子の少女達は両親と思われる男女の方へと走っていったが、その男女にも見覚えがあった。

 

「あの時……本に載ってた……。」

 

 前に本を借りた時に写っていた写真の夫婦、雪音雅律とソネット・N・ユキネだった。

 

「あれが……あの人達が……本当の両親……?それで私は……クリスの……お姉ちゃん……。」

 

 今の瑠璃とは全然違う、幼いルリは無邪気な笑顔でクリスの方を向いて話す。

 

『クリス、約束覚えてる?』

『うん、勿論。』

 

二人でパパとママの夢を叶える!

 

それを聞いた瑠璃は、一筋の涙を流した。

 

「あ……ぁ……。」

 

蘇る、あの日の星が煌めく夜空の下で交わした約束。

 

「どうして……どうして今まで……忘れてたんだろう……。私は……私は……!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 瑠璃の容赦ない攻撃が響、翼、クリスの体力、精神を少しずつ削っていた。

 装者四人の体力は限界に近かったが、フィーネだけは呼吸を乱していない。

 フィーネを倒そうとすると、どうしても瑠璃が前に立ち塞がる。

 しかし、こちらがいくら攻撃を入れ、ダメージを与えたとしても命令を遂行するまで止まることをしない、まるでサイボーグのように動き続けている。

 瑠璃も限界であるにも拘らず、戦闘を続行しているのは、紛れもなくフィーネの意識がそうさせているからだ。

 

「どうした?私を止めるのではなかったのか?!瑠璃を相手にその程度とはな!ハハハハ!」

 

フィーネの高笑いが、三人の悔しさを助長させる。

 

「だがもう戯れは終わりだ。ルリ、絶唱を使いなさい。」

「まさか……絶唱を!」

「フィーネ!テメェどこまでも!!」

「カ・ディンギルが現れた以上、もはや利用価値はなくなった。後は仲良く果てれば本望であろう?」

 

瑠璃を道具と言わんばかりの態度に、翼は憤怒する。

 

「ふざけるな!!瑠璃は貴様の玩具ではない!!」

「風鳴瑠璃の意思は私が支配している。故に玩具も同義。さあ、やれ!!」

「誰が好きにさせて……」

 

クリスが無防備なルリにボウガンを撃つが、フィーネが操る鞭によって全て消し飛ばされる。

響と翼が瑠璃を止めようと近づいても、鞭によって払われてしまう。

瑠璃は適合率が高いとはいえ装者としては浅く、既に身体は限界だった。

その状態で絶唱を使えば、最悪命を落としかねない。

だが、それを止められる者がいない。

瑠璃は槍を天に掲げるように構えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 気が付いたら再び真っ暗な空間に戻っており、身体は拘束され、フィーネの唇が迫っていた。

 唯一動ける頭部でフィーネを頭突きすると、まともに食らったフィーネは怯む。

 

「貴様……!よくも……」

「思い出した……。私は……私は雪音ルリ……。クリスのお姉ちゃん。」

 

そういうとフィーネは不敵な笑みを浮かべる。

 

「思い出したか……。だが、風鳴を断ち切ったと言うか!」

「違うよ。」

 

ルリはいつもの臆病ではなく、覚悟を持った顔で、フィーネを見る。

 

「一度繋がれた絆は……離れ離れになっても断ち切れはしない……!」

 

 瑠璃を縛る鎖に綻びが生じる。

 

「だから私は、お姉ちゃんやクリス達を傷つけたあなたを許さない……!この世界は私だけの世界……私の意思があれば……あなたを追い出せる!さあ……返してよ!私の自由を!!」

 

渾身の叫びとともに、鎖が破壊された瞬間、フィーネの意識が、瑠璃の意識から消えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 槍を構えたまま動かない瑠璃だったが、突如向きをクルリと変えた。

 

「何?!」

 

 バイザーを解除し、閉じていた瑠璃の瞼が開くと、そこには光が戻っていた。

 

「馬鹿な?!あれ程の意識を取り込んだというのに何故……?!」

 

 フィーネは不測の事態に驚愕を隠せなかった。

 瑠璃は、三人の方へもう一度振り向くと微笑んでいた。

 

「響ちゃん、お姉ちゃん、クリス。私を取り戻す為に、戦ってくれてありがとう。……クリス。」

 

 名前を呼ばれて、クリスはもしや、記憶が戻ったのかと思った。

 

「ごめんね、今まで忘れてて。」

「姉……ちゃん」

 

 名前を呼んでくれて、約束も思い出してくれたのに、どこか悪い予感がしていた。

 

「お姉ちゃん……クリスや響ちゃん……皆をお願い……。」

 

そう言うとフィーネの方を向き直し、高く飛翔した。

 

「なっ……何をする気だ?!」

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

 フィーネの意識から解放された今、歌っているのは間違いなく瑠璃自身、自らの意思で滅びの歌を唄い始めた。

 

「絶唱……?!」

「まさか瑠璃……自分諸共フィーネを?!」

「もういい姉ちゃん……やめてくれよ……!これ以上……姉ちゃんが歌う必要はないから……!だから……だから……やめてくれええええええぇぇぇぇーーーーーーー!!!」

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl……

 

 白と黒の槍、二つの槍を連結させて一つの二叉槍へと姿を変える。

 そして、二叉槍を巨大化させてその穂先をフィーネに向ける。

 歌い終わると吐血するが、構わず腰部のエンジンブースターを点火、隕石のように急降下する。

 狙うはフィーネただ一人。

 

「呪われたギアで……何が出来る?!」

 

 鎧の鞭をバリアのように組み込むと、それを十二層作り上げ、瑠璃を迎撃する。

 激突する直前、穂先がドリルのように高速回転を始め、バリアと激突する。

 

(パパ……ママ……天国で見ていてくれてるかな……。私、思い出したよ。歌で世界を平和にするっていう二人の夢も、クリスとその夢を叶えるっていう約束も。でもごめんねクリス。約束、守れそうにない……。ごめんね……こんな駄目なお姉ちゃんで……。)

 

 一枚目が砕け、二枚目、三枚目も破っていく。

 

(お父さん……お父さんはずっと私を守ってくれてたんだよね。ありがとう……本当の娘のように愛してくれて。)

 

 次々とバリアを破壊し、残すはあと四枚。

 

(私は雪音でもあり、風鳴。離れ離れになったとしても、どんなに時が流れても、一度繋いだ絆は、決して断ち切れはしない……!)

 

 あと三枚。

 

(お別れしたとしても、必ず……また会える。)

 

 残り二枚。

 

(でも、それを阻んで、傷つけようとする人がいるなら、私は戦う。仲間を傷つけさせない!)

 

 遂に最後の一枚に到達し、そのバリアにもヒビが入る。

 だがここで限界が訪れたのか回転が弱くなりつつある。

 

「愚かな!自らの命を無駄にするとはなぁ!」

「無駄なんかじゃない!」

 

 穂先からエネルギーが集中しており、それが徐々に膨大になっていく。

 

「まさか……貴様!自分諸共私を吹き飛ばすつもりか?!馬鹿な?!貴様の精神力などとっくに限界のはず!なのに何故折れぬ?!」

「私を守ってくれた人が沢山いる!クリスにお姉ちゃん、響ちゃんにお父さんに輪!皆、私の為に戦い、守ってくれた!だから今度は私が皆を守る!!」

 

 絶唱のバッグファイアで血涙を流す。

 全て出し切る、ありったけの思いと力、声も全て。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!」

 

 膨張したエネルギーが遂に限界を迎え、大規模な爆発が発生した。

 その威力は凄まじく、爆発範囲外の三人も、強く踏ん張らなければその爆風に吹き飛ばされそうになる。

 

「姉ちゃん!!」

 

 爆煙から瑠璃の身体が放り出されるように上空へ打ち上げられ、それを見たクリスは絶句し、手を伸ばす。  

 

「姉……ちゃん…………。」

 

 だが超爆発によって打ち上げられた瑠璃に届くことはなく、身体はそのまま森へと打ち捨てられるように落ちていった。

 一つになったバイデントの槍も地に刺さった瞬間、光となって消え、それを目の当たりにした三人は涙を流した。

 クリスは膝から崩れ落ち、ガトリング砲を落とす。

 

「そんな……どうして……どうして……こうなっちまうんだよ……っ。ぁ…………あぁ…………姉……ちゃん……姉ちゃあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 クリスの慟哭が夜空に響いた。




散ってしまった……。

 ちなみに、フィーネの口づけで他者の精神を支配する能力はオリジナルになります。

バイデントのアームドギア

・槍の遠隔操作

槍を手放した時、瑠璃の意思で槍を自在に操作する事が可能であり、自身が何かしら動けない状態であっても隠し玉として敵の意表を突く事が出来る。
但し有効範囲がある為、何処でも使えるわけではなく、操作している間は無防備になり、緻密で繊細な操作を要求される。

・バイデント連結

右手に持つ黒い槍、左手に持つ白い槍を一つに連結させる事で、一本ずつでは出せなかったパワーを凌駕し、ガングニールの破壊力に匹敵する。
欠点としては二本の槍を一度に纏めて振るわねばならず機動力を失い、反撃される恐れがある。

感想、お待ちしております。


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奇跡の結晶 シンフォギア

今回は長めとなっています。


 二課の本部でもその様子がモニタリングされていた。

 

「バイデント……反応途絶……!」

 

 それが瑠璃の死を意味し、藤尭は声を震わせて報告すると、二課の面々は悲しみに落ちた。

 弦十郎は声すらを殺し、静かに涙を流した。

 

「ねえ……嘘だよね?それって……瑠璃が死んだって事だよね……。オジサン……嘘だよ……!こんなの嘘だよ!」

 

 輪はこの事実だけは信じたくなかった。

 だがこの沈黙が答えである事を突きつけられた。

 

「輪さん……。」

「未来ぅ……。」

 

 親友を失った現実を突きつけられ、膝から崩れ落ちた。

 

「そんな……。誰でもいいから……嘘だって言ってよぉ……っ。嫌だよぉっ……こんな……お別れなんて……っ……。だって………まだ話したい事が……いっぱいあるのに……っ……。うああああああぁぁぁ……!」

 

未来は輪を抱きしめ、その悲しみを共に受け止める。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 遺された響、翼、クリスも瑠璃の死を悲しんだ。

 

「姉ちゃぁん……逝かないでくれよぉ……っ。」

「瑠璃さん……こんなのってあんまりだよ……。せっかく……クリスちゃんと再会出来たのに……。」

「瑠璃……。っ……?!立花!雪音!立て!」

 

爆煙が晴れると、なんとフィーネが立っていた。

ネフシュタンの鎧は大幅に破損し、その痛みでよろけるも生きており、フィーネは怒りを露わにしている。

 

「おのれ……あの小娘めぇ……!私にここまで深傷を……!」

 

 あの大規模な爆発を至近距離からまともに受けたというのに生きていた。

 

「そんな……何で……。」

「ネフシュタンの守りが上手だっただけだ……。完全聖遺物が、欠片如きに敗れる通りはない。愚かな小娘よ……。己の命を散らして成った事は……せいぜい私に傷を負わせたくらいだ。安い命だ。」

「おい、今なんつった……!」

 

 瑠璃を侮辱され、逆鱗に触れられたクリスの怒りは凄まじかった。

 

「姉ちゃんを……姉ちゃんを馬鹿にしやがったな……!フィーネェェェェェーーーーー!!」

 

【MEGA DEATH PARTY】

 

 怒りに任せて腰部の小型のミサイルを全弾発射し、ガトリング砲も乱射するが、フィーネの能力であるバリアで防ぎきる。

 

「貴様のような外道が、瑠璃を語るなああぁぁ!!」

 

【天ノ逆鱗】

 

 翼の怒りを体現するかのように巨大な剣を上空から蹴り込むが完全に修復しきれていないとはいえ、鞭のバリアで相殺させる。

 完全聖遺物の力の前ではそんなものは豆鉄砲でしかない。

 響は飛び道具が無い故に接近しようにも、獲物のない響でな鞭のリーチの前に近づく事すら出来ない。

 瑠璃を失い、怒りに囚われ連携すら取れていないこの状態ではフィーネに傷をつける事すら叶わず、寧ろ瑠璃の絶唱によって受けた破損が回復しつつある。

 さらにカ・ディンギルは発射体制に入り、もはや絶望的な状況になってしまう。

 

「ハハハ!そのまま這いつくばって見ているがいい!カ・ディンギルが月を穿つその時をなぁ!」

 

 フィーネは勝利を革新したように高らかに笑い、ボロボロの装者達を見下す。

 だが三人は諦めていない。

 

「まだ終わってねえぞ!」

 

クリスの発破に呼応するように、響は殴り掛かり、翼が刀を振るう。

 

「二人同時に来たところで!」

 

鞭をしならせ、二人まとめて叩きつけるが、これがクリスの思惑通りだった。

 

「本命はこっちだ!」

 

何と背中の装甲から巨大なミサイルを四発、発射する。

 

「くらいやがれ!ロックオン、アクティブ、スナイプ……デストロイィィィ!!」

「そんなもの、切り刻んでくれる!!」

 

 だがフィーネに行ったのはその半数で、残りの二本は上空へと放たれた。

 

「狙いはカ・ディンギルか?!させるかあぁぁ!!」

 

フィーネに向かったミサイルを飛んで避け、鞭で上空へ放たれたミサイルを叩き折るが、爆風が目くらましとなり、最後の一本を見失う。

 

「まさか……!」

 

上空へ飛来する最後の一本のミサイルの先端にはクリスが乗っていた。

 

「何のつもりだ?!」

 

 響と翼はクリスの不可解な行動に驚きを隠せず、見上げている。

 

「足掻いたところで所詮は玩具、カ・ディンギルの砲撃を止める事など……」

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

 クリスはカ・ディンギルの軌道線上でミサイルから降り、姉も唄った滅びの歌を唄い始めた。

 

「絶唱……」

 

響が呟く。

月を背に歌う絶唱。

腰の装甲からリフレクターを展開、二丁の拳銃から放たれたビームがリフレクターで反射され、その形がまるで蝶を思わせる。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

その中心にいたクリスが構えた二丁の拳銃が超ロングバレルへのライフルへと姿を変え、エネルギーを集約させる。

対して月を捉えたカ・ディンギルの砲身からエネルギー波が発射された。

同時にクリスの二丁のライフルが発射され、両者のエネルギー波がぶつかり合う。

 

「一点集中?!押しとどめているだとぉ?!」

 

 カ・ディンギルの大型の波動に対して、一点にエネルギーを集中させる事で、拮抗していた。

 だがクリスのライフルの銃身に綻びが生じ始めると、イチイバルの装甲も限界を表すようにヒビが入り、次第に大きくなる。

 しかしクリスはどこか笑っていた。

 

(ずっとあたしは……パパとママの事が大好きだった……!だから……パパとママの夢を……お姉ちゃんと引き継ぐんだ……!パパとママの代わりに、姉ちゃんと歌で平和を掴んで見せる!私の歌は……)

 

カ・ディンギルの砲撃がイチイバルのビームを打ち破り、クリスに迫る。

 

 思い出す、母の左手と瑠璃の右手に繋ぎ、瑠璃の左手を繋ぐ父の右手。

 そして、あの夜空の下で交わした約束、瑠璃の笑顔。

 

(その為に……!)

 

カ・ディンギル砲撃がクリスを飲み込み、月へと穿たれる……と思われた。

 

「し損ねた?!僅かに逸らされたのか?!」

 

 月への直撃とはならず、その一部が破壊されただけという結果に、フィーネは叫ぶ。

 

「あ……あ……」

 

 クリスは奇しくも瑠璃が落ちた同じ森へ導かれるように落ちた。

 響は瑠璃に続いて大切な仲間を、やっと分かり合えると思っていた彼女を失い声にならない叫びを挙げた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

二課でも、輪が膝から崩れ落ちた。

 

「そんな……クリスまで……。」

 

 クリスの事は好きではなかった、だが死んでほしくなかった。

 あの時勝手に出ていった事に文句言いたかった、食べ方が汚いとか、乱暴だとか、言いたい事はあったはずなのに。

 それなのに、クリスまで死んでしまった。

 

 輪の心は深い悲しみしか残らなかった。

 

(お前の夢を……そこにあったのか。そうまでしてお前が、まだ夢の途中というのなら……俺達はどこまで無力なんだ!)

 

 二人を守れず死なせてしまった弦十郎は、己の不甲斐なさ、無力さに打ちひしがれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 慟哭を挙げていた響は、その悔しさ、悲しみを叩きつけた。

 

「せっかく仲良くなれたのに……。やっとお姉さんに会えたのに……こんなの嫌だよ……嘘だよ……。もっと沢山話したかった……。話さないと喧嘩することも……今よりもっと、仲良くなることも出来ないんだよ……!」

 

その悲しみを嘲笑うようにフィーネは吐き捨てる。

 

「自分を殺して月への直撃を阻止したか……。ハッ……無駄な事を。」

「貴様……雪音を愚弄したか……!」

 

翼が怒りで震える剣先をフィーネに向ける。

 

「もう一度言ってやろう。クリスも……ルリも無駄死にだ。見た夢も叶えられない、とんだ愚図でしかない。」

 

響の怒りが、鼓動となって呼び覚ます。

 

「笑ったか……?命を燃やして大切なものを守り抜く事を……お前は無駄とせせ笑ったかか?!」

 

奏、瑠璃、そしてクリスの想いを踏み躙ったフィーネに怒りが増していく。

 

「許せなイ……」

 

 響の身体が黒く染まる。

 響の声に反応して振り返った翼。

 

「立花……!」

「それガ……夢ごと命を握り潰した奴が言うことかあアアアァァァ!!」

 

まるで獣の如く狂い、咆哮する響。

 

「立花!」

「融合したガングニールの破片が暴走しているのだ。制御できない力に、やがて意識が塗り固められていく。」

 

フィーネの得意げに語る様。

 

「まさか……立花を使って実験を……?!」

「実験を行っていたのは立花だけではない。見てみたいとは思わんか?ガングニールに翻弄されて、人としての機能が損なわれていく様を。」

「お前はそのつもりで、立花を……奏を……っ?!」

 

 怒りの咆哮を挙げた響はフィーネに向かって襲い掛かるが、弦十郎から教わった拳法ではなく、ただ力任せに腕を振り回す、獣のような短調なものだった。

 当然、フィーネに通用するわけがなく鞭で全て捌かれる。

 

「もうよせ立花!これ以上は聖遺物との融合を促進させるばかりだ!」

 

 だが皮肉にも届かないばかりか、今度は翼に攻撃し始めた。

 翼は響を気絶させようと肘打ちするが、それでも止まらなかった。

 

「立花ぁ!」

 

翼の思いは狂戦士となった響に届く事なく木霊する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その様子をモニター越しに見ていた未来が思わず叫ぶ。

 

「どうしちゃったの響?!元に戻って!」

「駄目だ……怒りで我を忘れてる……。」

 

 悲しみを押し殺して立ち上がった輪がそう呟く。

 

「もう終わりだよ……あたし達……。」

 

だが今度は弓美が恐怖に押しつぶされて、呟いた。

 

「板場さん……。」

「学院がめちゃめちゃになって……あの子もおかしくなって……」

「終わりじゃない!響だって、私たちを守る為に……」

「あれが私達を守る姿なの?!」

 

 未来が何とか励まそうとしても、モニターには響が怒り狂い、仲間である翼を襲っている以上、この絶望は変わらない。

 

「分かるよ……その気持ち……。」

 

口を開いたのは輪だった。

 

「怖いよね……。突然ノイズに命を狙われて、非現実的な事に巻き込まれて……。恐怖で頭がどうにかなりそうだよね。」

 

 輪は弓美の右手を包む。

 輪も二年前にノイズに襲われて、そしてこの間、二度も瑠璃と共にノイズの危機に晒された。

 今でもあの恐怖が忘れられない。

 

「でも、一つだけ分かってほしいことがある。あの子は今、瑠璃やクリスが亡くなって、怒りで周りが見えてないだけだよ。絶対に元に戻るって……奇跡を信じよう。未来だって、全然諦めてないよ。ね?」

 

 そういうと輪は未来の方を見る。

 

「はい。私は響を信じてます。」

 

 弓美は輪を見るとまだ絶望をしていない、凛とした姿だった。

 

「私だって響を信じたい……。この状況を何とかなるって信じたい……。でも……でも!」

 

 弓美は輪に縋るように抱きつく。

 輪は優しく頭を撫でてやる。

 だが未来は瑠璃が亡くなって一番悲しいはずの輪が、それを堪えてまで弓美を励ましているのを見て心配した。

 未来は輪に声を掛ける。

 

「輪さん……大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ……。大丈夫……。大丈夫……。」

 

自分に言い聞かせる様に呟く。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 だがその願いも虚しく、響はまだ暴走しており、翼への攻撃が止まない。

 翼はボロボロであるが、響は構わず攻撃を繰り返し、止まる様子すら見られない。

 フィーネはネフシュタンの鎧の損傷を完全に回復させ、仲間同士が血を流し合うのを眺めている。

 

「どうだ?立花響と刃を交えた感想は?お前の望みであったな。」

 

 かつて翼は奏のガングニールを受け継いだ響を仲間と認める事が出来ず、一度だけ刃を交わそうとした時があった。

 だが今はそれは翼の本意ではない。

 響を取り戻そうと奮闘するが、再びカ・ディンギルが光り輝き出した。

 

「まさか?!」

「そう驚くな。カ・ディンギルがいかに最強最大の兵器だとしても、只の一撃で終わってしまうのであれば兵器として欠陥品。必要がある限り何発でも打ち放てる。そのために、エネルギー炉心には不滅の刃デュランダルを取り付けてある。それは尽きることのない無限の心臓なのだ。」

「だが、お前を倒せばカ・ディンギルを動かすものはいなくなる!」

「出来ると思うなら……試してみるがいい!」

 

 瑠璃はカ・ディンギルを止める為に、渾身の力でフィーネを屠ろうとしたが、結果的にネフシュタンの高い防御力の前に敗れた。

 威力で天羽々斬を上回るバイデントでも駄目ならば、フィーネを倒すのは至難の業だ。

 

「だがいくらネフシュタンと言えど、再生能力を凌駕する攻撃を与え続ければ……っ?!」

 

 フィーネに攻撃しようにも、暴走した響がいる限りフィーネに手を出す余裕もない。

 

「ハハハ!カ・ディンギル二射目までの余興に丁度いい!」

 

今度こそ悲願が成就される。

揺るぎない事実にフィーネは悦に浸る。

一方、翼は暴走する響と対峙し、語りかける。

 

「私はカ・ディンギルを止める。だから……」

 

響が翼に襲い掛かる。

右手で殴りつけようとするが、翼は刀を地に刺す。

そのまま攻撃をくらいながらも、翼は響を抱擁する。

アームが砕け、血が飛び散りながらも優しい抱擁で、語りかける。

 

「この手は、束ねてつなげる力のはずだろ?立花、奏から受け継いだ力を……そんな風に使わないでくれ。」

 

左脚部のバインダーから短刀が射出されると、それを響の影に刺す。

 

【影縫い】

 

その場に動けない響だったが、翼の想いが届いたのか赤く染まった目から涙を流す。

響から離れた翼はフィーネに決戦を申し込むように対峙する。

 

「待たせたな。」

「どこまでも剣と言うわけか。」

「今日に折れて死んでも……明日に人として唄う為に……風鳴翼が唄うのは、戦場ばかりでないと知れ!!」

 

 刀を握り締める。

 

「人の世界が剣を受け入れる事などありはしない!」

 

鞭を翼に狙いを定めて振るうが、翼はそれを避け、斬馬刀へと形を変えて振り下ろし、斬撃のエネルギー波を放つ。

 

【蒼ノ一閃】

 

それを鞭で打払い、再び鞭を放つが、二本の鞭の間にすり抜け、接近するとフィーネに刀を振り下ろす。

 フィーネにダメージを与えたが、それだけでは足りない。

 翼は跳躍して巨大剣と化した天羽々斬を投擲、蹴り込む。

 

【天ノ逆鱗】

 

「その程度では剣先すら届かぬわ!」

 

 フィーネは三層のバリアを張る。

 攻撃を防がれるがそんな事は想定内、翼の狙いはフィーネではなかった。

 巨大剣を足場に、両手に剣を構え、剣に炎を纏うと天へ飛翔する。

 

【炎鳥極翔斬】

 

「狙いは初めからカ・ディンギルか!」

 

そうはさせまいと二本の鞭を放つ。

翼の速さを上回り、その一本が直撃、撃墜される。

 

(やはり私では……)

『何弱気なこと言ってんだ?』

 

目の前に奏がいた。

 

『翼、あたしとアンタ、両翼揃ったツヴァイウィングは、どこまでも遠くへ飛んでいける。』

 

差し伸ばされた手を、翼は握った。

 

(そう……)

 

カ・ディンギルの外装を足場に、再び剣に炎を纏うと、さらに跳躍した。

 

(両翼揃ったツヴァイウィングなら……)

 

再び飛翔した翼を鞭が追う。

 

(どんなものでも……越えてみせる!)

「立花ああああああぁぁぁぁ!!!」

 

その叫びとともに、翼は炎の鳥となって鞭の追撃を振り切り、カ・ディンギルに突っ込んだ。

 

カ・ディンギルはその衝撃で外装から光が漏れ出し、爆発した。

 

カ・ディンギルを破壊されたフィーネは断末魔のような叫び声を挙げた。

 

カ・ディンギルの破壊を見届けた響だったが、代償として翼までもを喪った。

瑠璃、クリス、翼、大切な仲間達、帰る場所も失い、戦う意味を失い、ギアが解除され、崩れるように倒れた。

 

だがフィーネは怒り狂い、響に近づく。

 

「月の破壊はバラルの呪詛を解くと同時に重力崩壊を引き起こす……惑星規模の天変地異に人類は恐怖し、狼狽え、聖遺物の力を振るう私の元に基準するはずだった!痛みだけが人の心を繋ぐ絆……たった一つの真実なのに……それをお前は……お前達は!」

 

 悲願を打ち砕かれたフィーネは、倒れた響を蹴り飛ばす。

 「まあそれでもお前は役に立ったよ。生体と聖遺物の初の融合症例。お前という先例があったからこそ、己が身をネフシュタンと同化させられた!」

 

 再び蹴り飛ばされるが、全てを失った今、抗う力も気力も無かった。

 

「翼さん……クリスちゃん……瑠璃さん……三人とも……もういない。学校も壊れて……みんないなくなって……私は何の為に……戦ってる……?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

フィーネはかつて、創造主に使える巫女だったが、いつしか、その創造主に恋をした。

しかしその真意を伝えられないまま、創造主がバラルの呪詛を作り上げ、統一言語を奪われた。

フィーネは数千年に渡って、一人でバラルの呪詛を解放せんと生きてきた。

だが、それは四人の装者によって崩れ去った。

 

フィーネはもう終わりにしようと響の殺害を試みる。

 

「耳障りな……何が聞こえている?!」

 

破壊されたリディアンの設備であるスピーカーから聞こえてきたのは、響にとっては聞き覚えのあるものだった。

 

(校……歌……?)

 

リディアンの校歌だった。

しかし、問題なのはそこではない。

 

二課の本部では生き残った生徒達が、響に届ける為に校歌を歌っていた。

それは未来や輪達が生きているという何よりの証だった。

 

切っ掛けは小さな女の子からだった。

その少女はかつてノイズに襲われている所を響に助けてもらった。

響が戦っている姿を見て、応援したいという言葉から、未来、輪、弓美、創世、詩織が立ち上がり、二課の面々との協力の下、僅かに生きているリディアンの施設を再稼働させる事に成功した。

 

「何処から聞こえてくる?!この不快な、歌!……歌、だと?!」

「聞こえる……みんなの声が……よかった。私を支えてくれるみんなはいつだってそばに、みんなが歌ってるんだ。だから……!まだ歌える!頑張れる!戦える!」

 

射し込んだ朝の光と共に、響は戦う意思を取り戻した。

ギアが応えるように、展開される。

 

「まだ戦えるだと?!何を支えに立ち上がる?!何を握って力と変える?!鳴り渡る不快な歌の仕業か?そうだ、お前が纏っているものはなんだ?!心は確かに居り砕いたはず。なのに!何を纏っている?!それは私が作った物か?!お前が纏っているそれはなんだ?!なんなのだ……?!」

 

同時に森から藍と赤の光、破壊されたカ・ディンギルから青い光が天へと伸びた。

翼、クリス、瑠璃もギアを展開した。

 

そして四人は天高く飛翔し、装甲が純白となり、背中にはエネルギーの翼が展開された。

 

「シィィィンフォギィアアアアアアァァァァァ!!!」

 

響が心の底から叫んだものだった。

一人だけでは出来ない、皆との絆が結んだ奇跡の結晶……エクスドライブ。




最後のストックがなくなった。

書かねば……

感想お待ちしております


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決戦、エクスドライブ

無印編 ラストバトル





 エクスドライブになった事で空を飛べるようになった四人、その背には朝日がある。

 

「みんなの歌声がくれたギアが、私に負けない力を与えてくれる。瑠璃さんやクリスちゃん、翼さんにもう一度立ち上がる力を与えてくれる。歌は戦う力だけじゃない、命なんだ!」

 

 その四人を苦々しく地上から見上げるフィーネ。

 

「高レベルのフォニックゲイン。こいつは二年前の意趣返し……」

『んなこたどうでもいいんだよ!』

 

 クリスが口を動かさずとも、脳に直接話しかける。

 

「念話までも……!限定解除されたギアを纏って、すっかりその気か!」

 

 ソロモンの杖と呼ばれる杖から放たれたその閃光はノイズを大量に召喚する。

 

『またノイズを……!やっぱり今までに起きた……まさか世界に起こるノイズの厄災は、全てあなたの仕業なの?!』

 

 瑠璃の念話に、フィーネも念話で答える。

 

『ノイズとは。バラルの呪詛にて、相互理解を失った人類が同じ人類のみを殺戮するために作り上げた自律兵器』

『人が、人を殺すために……?!』

 

 人との繋がりを重きに置く響が困惑した。

 

『バビロニアの宝物庫は、扉が開け放たれたままでな。そこからまろび出る十年一度の偶然を、私は必然と変え、純粋に力として使役しているだけの事……。』

『またわけ分かんねぇことを……!あいつ何を……?!』

「怖じろ!!」

 

 フィーネは杖を天に掲げると、先程とは比べ物にならない量の光線を放ち、それが空中で拡散されたそれは形は関係なく大量のノイズが展開される。

 空だけでなく、地上を、覆い尽くさんとする量を相手に、四人は背中を合わせる。

 

「あっちこちから……!」

「この量を相手に……いくら何でも多すぎじゃ……」

「何弱気になってんだよ姉ちゃん!今のあたしらなら、これくらい余裕だ!」

 

 圧倒的な数に弱気になった瑠璃だったが、クリスが強気に鼓舞する。

 

「翼さん……。私、翼さんに……。」

 

 一方響は翼に申し訳なさそうに謝る。

 暴走していたとはいえ、味方である翼に攻撃してしまった事に謝りたかった。

 だが翼は……

 

「どうでもいいことだ。」

「へ?」

「立花は私の呼びかけに答えてくれた。自分から戻ってくれた。自分の強さに胸を張れ。一緒に戦うぞ!」

「翼さん……!」

 

 翼は響に檄を飛ばすと、今度は瑠璃の方を向く。

 

「共に戦うのは初めてだな。」

「うん。いきなりこんな事になったのは……正直戸惑っている……。それに……私、皆に迷惑掛けちゃって……ごめんなさい……。」

 

 意識をフィーネに支配されていたとはいえ、今まで敵としてギアを纏い、刃を交えた事に罪悪感を抱いていた。

 その事を認識し、自分を責める瑠璃だが……

 

「瑠璃。帰って来て良かった。」

 

 翼はただ、微笑んだ。

 姉として、妹が帰って来た事が嬉しかった。

 

「お姉ちゃん……。」

「そう言えば、翼さんの妹なら、クリスちゃんも翼さんの妹っていう事に……」

「は、はぁ?!冗談じゃねえぞこんな剣だけの姉貴とか御免だね!姉ちゃんは一人で十分だ!」

 

 響の疑問という名の茶々に、クリスは顔を真っ赤にして否定するが、翼は何気にショックを受ける。

 そのやり取りを見ていた瑠璃は、思わず笑ってしまう。

 

「よし、じゃあ早く終わらせて、平和な日常に戻らなきゃだね。」

「そうだな。」

「ったく、しょうがねえな。」

「行きましょう!」

 

四人はそれぞれ散開した。

 

 瑠璃は形状が変わった二本の槍を一つに繋げ、それを上空に放り投げると、狙いを定めたようにノイズ達に向けると、槍が十二本に増えた。

 上げた右腕を振り下ろすと、十二本の槍は上空にいる無数のノイズを殲滅しに飛来する。

 

【Saint Constellation】

 

 目の前に映るノイズを殲滅するが、背後からノイズに急襲される……が、左手を振るうと、瑠璃に触れる事なく上から降ってきた槍によって塵になる。

 まるでコンダクターの様に槍を全方向に操り、周囲に蔓延るノイズを殲滅させる。

 

『やっさいもっさいだぁ!!』

 

 クリスも腰部の装甲からレーザー砲を一斉掃射、有象無象のノイズを貫いていく。

 

『何処で覚えたのそんな言葉……?!』

 

 瑠璃はクリスの独特の言葉遣いに突っ込むが、構わずクリスはノイズの殲滅に掛かる。

 

 響も両腕部のユニットを伸長させて、そのエネルギーで大型ノイズにぶん殴ると、その軌道線上にいたノイズも纏めて穿つ。

 

 翼は通常より一回り大きい斬馬刀へと可変させて、振り下ろすと、威力が跳ね上がった斬撃のエネルギー波を放つ。

 

【蒼ノ一閃】

 

 小型はおろか、大型のノイズを一刀両断していく。

 

 

 ノイズの大群もみるみるその数が減っていくが、翼がリディアンの方を見ると、フィーネがソロモンの杖で自らの身を貫いた。

 

「トチ狂った真似を……っ?!」

 

 しかし、自身の腹貫いたソロモンの杖がネフシュタンの再生能力によって取り込まれた。

 これにより、杖無しでフィーネの意思でノイズを操り、召喚していくが、さらに新たに召喚したノイズ、まだ生きているノイズを自らの下に集めていくと、人ではない、異形な化け物へと姿を変えた。

 

「ノイズを吸収している?!」

「人の在り方だけでなく、人の形までもを捨て去るというのか?!」

 

 異形の怪物からフィーネの一部が見えると叫ぶ。

 

「来たれ!デュランダル!」

 

 カ・ディンギルの炉心となっていたデュランダルをその身に宿すと、竜の姿へと変貌した。

 頭部であろうものからレーザーを放ち、その軌道線上にあった町が燃え上がる。

 その光景を見た瑠璃は、フィーネの所業に腹を立てる。

 

「酷い……なんて事を……!」

「逆さ鱗に触れたのだ……。相応の覚悟は出来ておろうな?」

 

 胸部からフィーネの一部が姿を見せ、デュランダルを片手に高笑うと、再び竜の頭部から今度は装者達に向けてレーザーを放つ。

 避けても強大な火力から発生する熱量と衝撃で、装者を吹き飛ばす。

 

「無事か?!」

「紙一重でなんとか!」

「クソッ!少しデカくなった程度で調子に乗ってんじゃねえ!」

「これ以上破壊させない……!絶対に止める!」

 

 クリスがレーザー砲、瑠璃が黒槍の穂先からエネルギー波をフィーネに向けて放つが、鱗が盾のように守り、簡単に防がれる。

 逆に今度は翼状の部位から、追尾するレーザーを放ちクリスと瑠璃を狙う。

 

「させない!」

 

 クリスを背に立つ瑠璃は一つの槍へ連結させてから槍を高速回転、回転から発せられるエネルギーを竜巻として放ち迎撃する。

 

【Harping Tornado】

 

 しかし徐々に押されていき、レーザーが迫るが、軌道を上空へと逸して事なきを得る。

 翼が蒼ノ一閃、響の渾身の力を込めたパンチで傷を与えても、高まったネフシュタンの再生能力の前では有象無象に等しい。

 

『いくら限定解除されたギアであっても、所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具!完全聖遺物に対抗できるなどと思うてくれるな!』

 

 フィーネが悦に浸るかのように念話で見下すが、この時、翼、クリス、瑠璃は起死回生の策を思いつく。

 

(完全聖遺物……!この場に完全聖遺物に対抗できる武器はある……!)

 

 その唯一の策こそが、今フィーネの持つ完全聖遺物、デュランダル。

 

「瑠璃!雪音!」

「分かってるっての!姉ちゃん、もういっぺんやるぞ!」

「うん、ただその為には……」

 

 なお、響だけはその策について考えていなかった。

 

「ええと……何だかよく分からないけど、やってみます!」

「頼んだ!私と瑠璃、雪音が露を払う!」

「手加減はなしだ!」

「勝機は一度きり……なら全力で!」

 

 クリスが先行し、翼は巨大な斬馬刀で最大出力の斬撃のエネルギー波を放つ

 

【蒼ノ一閃 滅破】

 

 フィーネを守る鱗を破壊し、その斬撃の隙間からクリスが内部へ侵入する。

 

「フィーネエエエエェェェ!!」

 

 クリスがレーザーを乱射して爆風による煙を引き起こす。

 

「所詮は聖遺物の欠片!たかが一匹で……」

「一人じゃない!!」

 

 瑠璃が巨大化、連結させた槍を手に猛スピードで特攻する。

 

「相も変わらず特攻か!」

 

 翼状からレーザーを放ち、槍ごと瑠璃を撃ち落とそうとするが、瑠璃は槍を両足で蹴った。

 宙返りのような軽やかな動きで、レーザーを避けるだけでなく、槍の投擲速度を上昇させた。

 

「おのれえぇ!猪口才なぁ!!」

 

 フィーネはデュランダルで槍を打ち払う。

 

「クリス!」

「狙いはついた!くらいやがれぇ!」

 

 振った時の隙を狙い、クリスはデュランダルにレーザー砲をこれでもかと撃ち込む。

 フィーネはレーザーによってデュランダルを弾かれ手放してしまい、斬撃の隙間からデュランダルが放り出される。

 

「そいつが切り札だ!勝機をこぼすな!掴み取れ!」

 

 響はデュランダルを手にしようとするが、如何せん距離が足りない。

 だがクリスが拳銃でデュランダルを跳躍させ、遂に響の手にデュランダルを掴む。

 が、その瞬間、響の中にある破壊衝動の闇が響を食らい尽くさんと覆い出す。

 響は辛うじて踏ん張るも飲み込まれつつある。

 

「正念場だ!踏ん張りどころだろうが!」

 

弦十郎の声がスピーカーから聞こえる。

 

「強く自分を意識してください!」

「昨日までの自分を!」

「これからなりたい自分を!」

(みんな……!)

 

 緒川、藤尭、友里が檄を飛ばしてくれた。

 

「屈するな立花!お前の構えた胸の覚悟を、私に見せてくれ!」

「お前を信じ、お前に全部かけてんだ!お前が自分を信じなくてどうするんだよぉ!」

「諦めないのが響ちゃんの強い所でしょう!ならしっかり前を、未来を見てぇ!」

 

 右肩に翼、左肩にクリス、背中に瑠璃が響を支え声を送る。

 

「あなたのお節介を!」

「あんたの人助けを!」

「今日は、私達が!」

 

 詩織、創世、弓美が応援する。

 

「響!あんたに託した思いを思い出せ!」

 

 輪があの日託した思いをもう一度送る。

 

 フィーネがデュランダルを手にした響を葬らんと職種を伸ばすが、エネルギーのバリアが装者達を守る。

 だが遂に響の全身が真っ黒に染まる……

 

「響いいいいぃぃぃぃーーーー!!」

 

 何と外に出た未来の叫び声が、響の意識に届いた。

 

 

(そうだ……。今の私は、私だけの力じゃない……!そうだ!この衝動に!塗りつぶされてなるものかあああぁぁぁぁ!!)

 

 破壊衝動の闇を消し去り、完全に己を制御した響はデュランダルを両手に持ち上げる。

 デュランダルが響の想いに答えるかのように、その剣身に光が輝く。

 

「その力!何を束ねた?!」

「響き合うみんなの歌声がくれた!」

 

 

 

 

 

 

 

シンフォギアでええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!

 

 

 

 

       【Synchrogazer】

 

 

 

 

 

 

 デュランダルが振り下ろされ、ネフシュタンの鎧……完全聖遺物同士がぶつかり合った。

 デュランダルの無限のエネルギー、ネフシュタンの鎧の無限の再生能力が相反するように、二つの完全聖遺物は崩壊を始めた。

 

 

(どうしたネフシュタン?!再生だ!この身……砕けてなるものかあああああああああぁぁぁぁぁ!!)

 

 ぶつかり合った力は超爆発を引き起こした。




次回、無印編最終回


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絆の集合写真

皆さん、ここまで読んでくれた方ありがとうございました!

最初はボロッカス言われるだろうなと思ったんですけど、それでも楽しみにしてくれた方々のお陰でここまでこれました!

最後は輪視点で無印編の幕を閉じたいと思います。

それでは最終回どうぞ!


 戦いの終焉を告げるように、陽は落ちていき、夕焼け空となる。

 シェルターにいた人々も地上に戻り、瑠璃を見つけた輪は、彼女へと走り出した。

 

「瑠璃いぃー!」

「輪!」

 

 再会を喜び合い、二人は抱き合った。

 

「良かった……!私……瑠璃がいなくて……ずっと……!」

「ごめんね……!輪……!」

「瑠璃。」

 

 輪の後ろに父、弦十郎がいた。

 

「瑠璃、黙っていて悪かった。俺は……瑠璃の……」

「良いの……。」

 

 弦十郎が自らの口で真実を告げようとしたが、瑠璃に遮られた。

 

「だって、私の事、ずっと守ってくれてたもん。血の繋がりとか関係ないよ。だって、お父さんはお父さんだもん……!」

 

 瑠璃は涙目になりながらも、笑顔で言い切った。

 弦十郎も貰い泣きしそうになって、瑠璃を抱きしめた。

 

「瑠璃!愛しているぞ!」

「うん。」

 

 やっと感動の再会を果たした瑠璃。

 そこに響がボロボロになっているフィーネに肩を貸しながらやって来た。

 

「お前……何を馬鹿なことを……。」

「このスクリューボールが……。」

 

 クリスは呆れるが、それが響なのだ。

 

「みんなに言われます。親友からも、変わった子だ〜って。」

 

 響は瓦礫の上に、フィーネを座らせた。

 

「もう終わりにしましょう?了子さん。」

「ワタシはフィーネだ……」

「でも、了子さんは了子さんですから。」

 

 フィーネは否定するが、響にとっては了子なのだ。

 

「きっと私達、分かり合えます」

「ノイズを作り出したのは、先史文明期の人間。統一言語を失った我々は、手を繋ぐことよりも相手を殺すことを求めた。そんな人間が……分かり合えるものか。」

 

 フィーネは立ち上がって響の思いを否定し、鞭を強く握る。

 クリスが反応するが、翼により制止される。

 

「人が言葉よりも強くつながれること、わからない私達じゃありません。」

 

 響がそう言うとフィーネはしばし目を閉じ……

 

「はああああぁぁぁ!!」

 

 目を開くと鞭を振るった。

 だが、それは響の眼前に止まる。

 

「上!!」

 

 瑠璃が叫ぶと、なんともう一本の鞭が月へと向かった。

 

「私の……勝ちだああああぁぁ!!」

 

 鞭の先端が月の破片に刺さると、最後の力を使って月の破片を引き寄せた。

 月の欠片はそのまま地球の重力に引き寄せられ、落下しようとしている。

 

「私の悲願を邪魔する禍根は、ここでまとめて叩いて砕く!この身はここで果てようと、魂までは絶えやしないのだからなぁ!!聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、私は何度だって世界に蘇る!!どこかの場所、いつかの時代!今度こそ世界を束ねるために!私は永遠の刹那に存在し続ける巫女、フィーネなのだぁ!!」

 

 勝ちを革新した高笑いが響くも、フィーネの身体に、響が優しく当たる。

 

「うん、そうですよね……。どこかの場所、いつかの時代、蘇るたびに何度でも私の代わりに、みんなに伝えてください。世界を一つにするのに、力なんて必要ないって事……言葉を超えて、私達は一つになれるってこと……私達は、未来にきっと手をつなげられるということ!私には伝えられないから……了子さんにしか出来ないから!」

「お前……まさか……。」

 

 フィーネは響がこれからやろうする事を悟ったが、響は笑顔で言う。

 

「了子さんに未来を託すためにも、私が今を……守って見せますね!」

 

 やれやれと目を閉じるフィーネ……

 

「ホントにもう……放っておけない子なんだから。」

 

 この時、了子として響の胸に優しく、ツンと突いて、響を見る。

 

 

 

 

胸の歌を、信じなさい

 

 

 

 

 最期は了子として、融合したネフシュタンの鎧と共に身体は崩壊し、亡骸すら残らず消えた。

 クリスは思わず、人目も憚らず泣きそうになった所を瑠璃が声を掛ける。

 

「クリス。」

「姉ちゃん……。」

「良いんだよ……弔っても。」

 

 クリスにとって、フィーネに利用されただけだったかもしれないが、それでも自分に色々教えてくれた人でもある。

 瑠璃も、装者として仕立て上げられたが、恨んではいない。

 一人の人間として、二人は彼女を弔った。

 

 

 だがまだ終わっていない。

 藤尭の計算で、月の衝突が避けられないことが分かった。

 このままでは、どんな被害が出るか検討もつかないが、少なくともここにいる者全て死に絶えるだろう。

 響は未来に歩み寄る。

 

「何とかする。ちょっと行ってくるから、生きるのを諦めないで。」

 

 そう言うと、響は空高く飛んだ。

 向かう先は月の破片。

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el baral zizz

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

 月の破片を止める為に、響は宇宙で滅びの歌、絶唱を口ずさむ。

 

(そんなにヒーローになりたいのか?)

 

 クリスの声が聞こえ、見ると翼、クリス、瑠璃がやって来た。

 

(こんな大舞台で挽歌を唄う事になるとはな。立花には驚かされっぱなしだ。)

(けど、みんなと一生分の歌を唄うなら……丁度良いと思うよ。)

 

 響が速度を落とし、三人と並列に飛ぶ。

 

(それでも私は、立花や雪音、瑠璃ともっと歌いたかった。)

(ごめん……なさい……。)

(バカだなお前!)

(そうじゃないでしょう?)

(ありがとう……三人とも!)

 

 左から翼、響、クリス、瑠璃が手を繋ぎあい、ブースターを全力で開放する。

 

 落下する月が迫る。 

 

 

(開放全開!行っちゃえ、ハートの全部で!!)

(みんなが夢をかなえられないのは分かっている。だけど、夢を叶えるための未来は、みんなに等しくなきゃいけないんだ!)

(命は尽きて終わりじゃない。尽きた命が残したものを受け止める、次代に残していくことこそが人の営み……。だからこそ、剣が守る意味がある!)

(どんなに離れても、どんなに時が流れても、絆は果てない未来まで繋がっていける。夜空の星のように……繋いだ絆は……永遠になる!)

(たとえ声が枯れたって、子の胸の歌だけは絶やさない!夜明けを告げる鐘の音奏で、鳴り響き渡れ!)

 

 四人はそれぞれの思いを胸に手を離す。

 

 

 

これが私達の、絶唱だああああああぁぁぁぁぁ!! 

 

 

 

 巨大な剣が、最大本数のミサイルが、十二本の巨大な黒白槍が、最大まで伸長させたバンカーで、月の欠片に撃ち込まれた。

 

 

 

 

 

 地上では砕け散った月の欠片が流れ星のように落ちていった。

 その光景を写真に納めた輪。

 

「瑠璃、あんた……最高に輝いてるよ。でもね……見せたかったよぉ……っ。」

 

 瑠璃を笑って送り出した輪は、笑顔を崩さないよう涙を流した。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 それから時間が流れて、私はあの日に撮った流れ星の写真をアルバムに納めた。

 私は誰にも笑顔を見せなくなってた。

 小夜姉からも心配されたけど、小夜姉にだけは無理に笑顔を作って誤魔化した。

 瑠璃達は作戦行動中に行方不明になったという事で捜索が打ち切られて、正式に死亡扱いになりました。

 私はこれから、瑠璃の家に行きます。

 お墓はないけど、せめてあの子の供養もしてあげたい。

 

 

 

 なんて言うと思った?バレバレだよオジサン。

 しばらくあの家に行ってるけど、オジサンすらいないし、流石に怪しいよ。

 明らかに何か隠してるでしょ?

 だから今日、未来とお墓参りに行く時、オジサンを問い詰めようと提案してみようと思う。

 待ってろよ〜?

 

 

 

 

 最悪だ……。まさかまたノイズと出会すなんて。

 しかもこっちは負傷した女性も運んでるし、未来は逃げようと思えば逃げるのに、私に付き合うし。

 

「囲まれた……どうする?」

「もう駄目……私……もう……」

「諦めないで……生きるのを諦めないで!」

 

 当たり前だよ。私達は諦めてない。

 瑠璃が帰ってくるその日まで……!

 

「え……?」

 

 突然物凄い音が響いて、ノイズが崩れた。

 しかもそこにあったのは……

 

「槍……っ!」

 

 投げられた先を見ると……

 

「輪!」

 

 やっぱり……生きてたんだ!

 

「瑠璃!」

 

 分かってはいたけど……やっぱり寂しかったもん!

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はーい、撮るよー!」

 

 おかえりなさい記念という訳で、瑠璃、オジサン、響、翼さん、クリス、緒川さんのみんなで集合写真を撮ることにした。

 

 私はカメラを置いてスタンバイ、急いでみんなの所まで走る。

 真ん中には響に来てもらった。

 え?良いのかって?

 良いんだよ。だって私は……

 瑠璃の隣にいれば……それで十分なんだから!

 

 

 

 パシャッと撮る音が鳴った。

 

 




というわけで、無印編完結になります。

ちなみに瑠璃はまだ過去の記憶を完全に取り戻したわけではありません。
なので……瑠璃の戦いはこれからだ!

次回は少し番外編を挟んで……
G編に行きたいと思います。


瑠璃の楽曲

【キズナメロディ】
家族の記憶を取り戻した瑠璃が、繋いだ絆を胸に前を向いて歩く歌。


ご感想お待ちしております。


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オリキャラ プロフィール(ネタバレ注意!!)

無印編が終わったので、うちのオリキャラのプロフィール公開となります。


盛大なネタバレが含まれる為、まだ読んでない方は本編へGo!




風鳴瑠璃(16)

誕生日:12月28日

B:90 W:57 H:85

使用ギア:冥槍・バイデント

型番 SG-01.2i

 

イメージCV(SAOのアスナ)

 

リディアンに通う二年女子高生。

黒髪のショート、ラピスラズリのような瞳のタレ目、左目の下に泣き黒子が特徴。

控えめでな争いを好まない性格でトラブルに巻き込まれるとパニックになりやすい。

だが時々大胆な行動に出る事も。

 

父親である風鳴弦十郎の影響で映画好きになる。

 

フィーネの尖兵として動いていたクリスに攫われ、そこでフィーネに意識を支配され、装者に仕立て上げられる。

 

最終決戦で本当の家族の記憶を取り戻したが、まだ本の一部であり、まだ全て思い出したわけではない。

 

 

本当の名前は雪音ルリであり、クリスの双子の姉。

 

両親とバルベルデへ向かったが、そこで両親は戦果に巻き込まれて死亡。

クリスと共に戦果から逃れる日々を送っていたが、政府軍にクリスが捕まらないように逃し、自分だけが捕まり、軍の基地へ収容される。

そこで虐待を受けたようだが、クリスが先に救助されてから数日後にルリも救助された。

しかし目が覚めた時にはそれまでの記憶を全て失う。

その後、弦十郎によって引き取られ風鳴瑠璃として生きる事になった。

 

G編

バイデントの装者として二課に所属する事になるが、みんなを守りたいという思いが強くなりすぎてしまい、一人で戦おうとするようになる。

輪とのデート、調との語らいで忘れかけていた絆の力を思い出し、ネフィリム・ノヴァとの最終決戦で『人の思いと聖遺物の力を掛け合わせる』というバイデントの特性に気付くまでに至り、ネフィリム・ノヴァを貫く一撃を生み出した。

 

 

 

出水輪(16)

誕生日:6月21日

身長:161cm

B:82 W:58 H:86

 

イメージCV(とある科学の超電磁砲 佐天涙子)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 瑠璃のクラスメイトで親友。新聞部所属。

 茶髪のロングだが、時々ポニーテールやお下げにしたりと髪型を変える。

 ミーハーかつ好奇心旺盛。自らの探求心が満足するまで突き進すむが、時にそれが命の危険に晒される事が多い。しかもなかなか懲りない。

 しかし大人顔負けの洞察力から、物事の本質を突く発言も珍しくはない。

 

 瑠璃を攫ったクリスを嫌い、いがみ合っていたが、その心根に触れていくうちに見る目が変わり、最終決戦ではクリスが亡くなったと思った時は涙を流した。

 

 二年前に当時付き合っていた彼氏がいたが、ノイズの襲撃に巻き込まれ、目の前で炭素化され、輪だけが生き残った。

 

看護師として働いている姉の小夜とマンションで暮らしている。

 

G編

陰から装者となった瑠璃を支えるようになる。

思い詰めていた瑠璃をデートに誘うが、未来を拉致する現場を目の当たりにしてしまい、それを阻止しようとジャンヌに挑むが敗れ、逆に自分も攫われる。

しかし、それがフロンティアの構造を把握する機会となり、弦十郎達に道案内してウェル逮捕に貢献する。

 

 

 

出水 小夜(24)

誕生日:10月3日

身長:168cm

B:88 W:57 H87

 

イメージCV(魔法少女リリカルなのは 八神はやて)

 

輪の姉であり「小夜姉(さよねえ)」と呼ばれている。

 

ウェーブが掛かったセミロングの茶髪。瞳は青。

看護師勤務で夜勤もある為、輪に構ってやれないのを気にしている節がある。

マイペースだが家族思い。

大学時代は京都で過ごしており、大阪の大学病院勤務だった影響なのか関西弁で話すようになってしまい、現在も抜けてない。

 男子からの人気は高かったのだが、悪知恵が働き、度々周囲を振り回して来た事から、学生の時のあだ名は「小悪魔美人」

 

 何故かクリスを家に招いたり、食事に誘ったりするが、その言動行動から、クリスからは悪魔と思われかなり警戒されるようになる。

 しかし、基本的に頼もしいお姉さん的存在として響達にも頼られている。ちなみに響経由で翼とも知り合いになる。

 

 

G編初登場キャラ

 

ジャンヌ・ベルナール(21歳)

 

イメージCV(無双OROCHI3 アテナ)

 

 F.I.Sに所属していたレセプターチルドレン。マリアと同い年という事もあり、相談役を買っている。

 機械に強く、蜂起した際に用いられた機材や装備はジャンヌのお手製であり、エアキャリアのメンテナンスも熟していた。

 

 唯一シンフォギアを纏えないが、戦いには精通しており、マリアが起動した完全聖遺物タラリアを武器に瑠璃と戦う。 

 特別性のLiNKERであっても、それが身体が受け付けない稀な体質である為、ギアを纏うことが出来ない。

 

 

 

 かつては妹のメルがいたが、バイデントの実験で命を落とし、自身も自暴自棄となる。

 

 そして精神的に不安定な状態で、バイデントを支配しようと実験を繰り返した結果、心臓病を患う。

 

 元々蜂起まで心臓がもたないと宣告されていたが、ジャンヌの執念というべきか結果的に余命宣告の1年以上生きた。

 

 しかしそれでも最後まで己が出来る事をなすべくナスターシャについて行く。そして瑠璃とバイデントの在り方を目の当たりにしたジャンヌは、バイデントが呪われたギアではない事を認めるが、その直後に暴走したウェルの粛清の魔の手から瑠璃達の身代わりとなって逃がした結果、瓦礫に押し潰されて亡くなった。

 

GX編初登場キャラ

 

ジーク・ラーゼンライズ

 

イメージCV(真・三國無双7 呂玲綺)

 

キャロルが作り出した5体目のオートスコアラー。意外にも最初に作製された個体であるが、キャロルの意思でその存在は秘匿されていた。

白を基色としており、西洋騎士の鎧を模した格好となっており、右手にはハルバードを持っている。

待機中はハルバードの石突を床に接し、左腕を高く掲げる英雄像のようなポーズを取る

 

プライドが高く完璧主義者であり、己のやり方の範疇で勝利を欲する。

キャロルの影響なのか人間を極度に嫌い、「虫ケラ」と見下す。思い出を奪う際には、人間を死なない程度に痛めつけてから奪い取る癖がある。

絆を重んじる瑠璃を激しく嫌い、裏切り者の存在を使って揺さぶるなど、瑠璃を執拗以上に狙う。

 

またガリィとの関係はまさに水と油であり、性格から相容れない。

 

名前の元ネタはタロットの大アルカナ7番「戦車」の正位置の勝利と逆位置の暴走から

 

瑠無・ミラー

身長:170cm

B:89 W:57 H:87

イメージCV(とある科学の超電磁砲 御坂美琴)

 

リディアンの新任の養護教諭としてアメリカから来日した日系アメリカ人。

金髪でこめかみが長いのが特徴のロングヘアー。

養護教諭らしく、生徒からの相談には真摯に向き合う。瑠璃、輪、クリスには特に目を掛けている様子だったが……

 

 

アルベルト

 

イメージCV(ようこそ実力至上主義の教室へ 茶柱佐枝)

 

 パヴァリア光明結社の幹部の一人である錬金術師。黒い髪にこめかみが長いポニーテールが特徴の容姿。

 全てを嘲笑うかのような余裕な態度を崩さなず、自分をさらけ出す事をしない為、仲間からも警戒されやすい。

 分解よりも組み立てる事を得意とし、亜空間型アルカ・ノイズ、ラピス・フィロソフィカスのファウストローブの基礎をサンジェルマンと共に研究していた。

 また過去にアーネンエルベにも潜り込んでいた事もあり、異端技術や聖遺物に関する知識は他の追随を許さない。

 キャロルの思い出を転送する技の理論を自分の手で研究し、自分の技にする事も出来た。

ルリの忌まわしき記憶を保持していた事もあり、瑠璃の地獄の6年間の結末を唯一知る人物。




輪のバストが小さくなったくらいであとは変更なし!

一応ネタバレ防止の為、比較的ネタバレ要素の少ないG編まで記載します!
キャラクター解説はちゃんとGX以降登場キャラも追加します。

5/22日 追記

輪の容姿画像を追加しました!
Picrewより妙子式2様のキャラメーカーを使用しました!
URLは下記から

https://picrew.me/image_maker/516657

7/31 追記
イメージCVを追加しました。
一応他作のキャラクターで最も声色や性質が近いキャラクターを表記します。


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番外編1

とりあえず適当に思いついたオムニバス式の4つの番外編となります。

そのうちの2つは本家しないでもあったあるストーリーがあります。


・意識を支配されていた時のお話

 

 フィーネによって意識を支配され、閉じ込められていた瑠璃。

 その時は意識世界で一人、外の様子を見ていた。

 ただそれだけ……いやそれしかなくて何もすることが無かった。

 でもこの意識世界では想像すれば大概のものは何でも出た。

 あの最終決戦でも途中から瑠璃の意識は何故か敵であるはずのフィーネの意識と共に煎餅を食べながら観戦していた。

 

「ポリポリ……ゴクリンコ。お茶おかわり要りますか?」

「ええ、今度は紅茶で。」

 

 頼まれた瑠璃は紅茶を想像して、ちゃぶ台の上にティーポットとカップのセットで出現した。

 

「そういえばフィーネさん。私の精神を支配したっていいますけど具体的にどうやったんですか?」

「簡単よ。私の唇を介してあなたの唇に私の意識を……」

 

 言い終わる前に、瑠璃は緑茶を吹き出し、それがフィーネに掛かってしまう。

 

「あの……聞いてきたのそっちよね?」

「だ、だだだだって!じょ女性同士でもキスなんて……(ゴニョゴニョ)なのに……///」

 

 顔を赤くしながらモジモジする瑠璃。

 

「え?何て言ったのかしら?」

「初めてだったんです……///」 

 

 つまりフィーネは瑠璃のファーストキスを奪ってしまったことに気付くと何だか申し訳ない気分になってしまう。

 

「そ、そう……ごめんなさいね……。」

(この子やっぱり初心なのね。)

 

 途中から若干了子混じりで、謝るフィーネだった。

 

 

 

・お嫁さん

 

 藤尭と友里は一時のコーヒーブレークを満喫していた。

 そんな中、藤尭が瑠璃の話題を出す。 

 

「にしても、瑠璃ちゃん。出来た子だよねぇ。」

「そうね、今日だって司令の為にお弁当を作ってたそうよ。」

「さっき卵焼きを食べてみたけど、本当に美味しかったな〜。結婚できたらずっと食べられるよな〜。」

「ちょっと、つまみ食い?司令に知れたらどうなるか分からないわよ?」

「大丈夫大丈夫、黙っていれば分かりは……」

「そうか、そんなに美味かったか。」

「はいとても美味しかったですよ司令……司令?!」

 

 振り返るとそこには今にも藤尭を潰すぞと言わんばかりの覇気、圧迫感を醸し出している弦十郎がいた。

 

「し、ししし司令?!す、すみません!」

「藤尭、何を恐がっている?俺が娘特製の弁当をつまみ食いされた程度で怒り狂う奴だと思っているのか?」

「い、いえ!そんな風には思ってません!」

 

 恐怖で声が震えている。

 

「そうか。所で藤尭、お前は瑠璃と結婚したいと考えたか?」

 

 さっきまで考えていたが、もし正直に答えたら地獄街道まっしぐら、かと言ってこの人に嘘ついたらそれこそ終わりだ。

 どっちも地獄という詰みゲーな選択肢の前に、藤尭が出した答えは……

 

「は、はい!考えてました!」

 

 正直に答えた。

 

「そうか……。」

 

 怒らない所を見て安心した藤尭。

 

「思うくらいなら構わん。だがな……俺を倒せん奴に、瑠璃を嫁にくれてやるつもりはない!瑠璃が欲しくば、まずは俺を超えていけぇ!!」

(そんなの無理だってばああぁぁ!!)

 

 藤尭では3秒、いや1秒無くても瞬殺だろう。

 そもそも弦十郎に勝てる男などこの世にいない。

 結局この一件で、藤尭は瑠璃を諦め、酒の席で友里がそれを慰めてたのだとか。

 

 

 

・行動制限が解除される日のお話

 

 ある日、クリスと瑠璃の二課入りを祝して記念パーティが行われる事になった。

 

「改めて紹介しよう!イチイバル装者の雪音クリス君と、バイデント装者の風鳴瑠璃だ!」

「ど、どうも……。」

「よろしくお願いします。」

 

 クリスは恥ずかしそうに、瑠璃は丁寧にお辞儀をする。

 

「ちなみに君達の行動制限も、今日を持って解除となった!」

 

 そして重なる嬉しいお知らせ。

 響はやっと未来に会えると大はしゃぎ。

 瑠璃も輪に会える事を心待ちにしていた甲斐があった。

 

 ある時、弦十郎からクリスに提案があった。

 

「クリス君、良かった、うちに来ないか?」 

「何言ってんだ?」

「なに、うちに来れば瑠璃と一緒に暮らせる。そうなれば、翼とも親戚になれるぞ!」

 

 最後のやつは置いといて、瑠璃と一緒に暮らせる、その日を夢見てたクリスは考えた。

 

「いや、あたしはいい。」

「何故だ?」

「あたしまでそっちに行ったら、雪音を継ぐ奴がいなくなっちまう。そうなったら、パパとママが寂しがると思う。あたしは堂々と雪音クリスを名乗りたい。だから……悪いな。」

 

 同じ仲間になった以上、瑠璃とはいつでも会える。

 だから断った。

 

「相分かった。そう言うと思って、実は君の住まいも手配済みだ。」

「良いのか?!」

「当然だ!装者の任務遂行時以外の自由とプライバシーは保証する!もちろん、瑠璃と過ごしたくなったら家に呼べばいい!」

「遊びに来るし、時々泊まりに来ても良いかな?」  

 

 思わずクリスは涙ぐむ。

 

「良いに決まってるだろ!」

 

 それに翼が反応した。

 

「案ずるな雪音!合鍵は持っている!いつでも遊びに行けるぞ!」

「はぁ?!」

「ごめん……実は輪の分も……。」

「私も持ってるばかりかな〜んと未来の分まで〜!」

「自由とプライバシーなんてどっこにもねえじゃねえかああぁぁーー!!」

 

 

・仏壇

 

 今日は一人で外出している輪。

 そこに、見覚えのある男女三人が前を歩いていたのを気付く。

 

「あれ?あれって瑠璃とオジサンとクリスだよね……?」

 

 まるでクリスに連れて行かれているような感じで引っ張られる弦十郎と、付き添いと思われる瑠璃。

 気になった輪は後をつけた。

 ある程度歩き、建物の陰から覗き見ると……

 

(え?!仏具屋?!な、何で?!ここ最近、親戚か誰か亡くなったっけ?!)

 

 何やらカッコいい仏壇を買うと聞こえたが、仏壇にカッコいいとかあるのかと疑問に思う輪。

 中には入らず、様子を見るとなんと弦十郎が仏壇を片手で抱えて運んでいるではないか。

 

(あれぇ?!仏壇ってそうやって運ぶものだっけ?!)

 

 色々おかしな事になって来た。そして少し歩いた所で、弦十郎が警察に職務質問されている。

 

(まあそりゃあそんなもの抱えてればね……。)

 

 そして少し歩いていくと、また職質されていた。

 

(それは可愛そすぎる……。)

 

 そしてまた職質、またまた職質と続いて……

 

「いやもう何回職質されてんの?!」

 

 7回目で思わずツッコんだ。

 声に反応して瑠璃が振り返ってしまい、見つかった。

 

「輪?こんな所で何してるの?」

「あ、えーと……あはは。」

 

 とりあえず訳を話した。

 

「まさか輪君に見られていたとはな。」

「もうビックリしましたよ。突然仏壇運んで職質されて……っていうか何で仏壇?」

「そりゃ決まってるだろ?」

 

 クリスの済むマンションに入ると、仏壇が飾られ、そこに雪音姉妹の両親の遺影が飾られた。

 

「パパとママの仏壇だ。」

「一人じゃ、パパとママが寂しがるからって。お前ん所にもあったろ?あれ見て思ったんだ。」

 

 そう言われると納得した輪。

 

「ねえクリス、私も手を合わせて良いかな?」

 

 輪はクリスに許可をもらい、手を合わせた。

 

 用も済ませた後、輪は自宅に帰った。

 

「まっさかそんな事があるなんてね……。ビックリしちゃった。そう思うよね、旭。」

 

 輪は正座で座ると、線香を供え、金を鳴らし、手を合わせた後、夕飯の支度に取り掛かった。

 輪が手を合わせていた先に飾られていた仏壇に、夫婦と少女の写真が飾られていた。




最後ちょっとシリアスっぽくなっちゃったかな?

ババアにファーストキスというのがパワーワード過ぎたので取り入れましたw

ご感想、お待ちしております。


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番外編2 クリスから視た物語

無印で起こった事のクリス視点となります。

被る所はカットしてますが、本編では書けなかった描写もあります。


 あたしの両親と姉ちゃんはバルベルデで死んだ。パパとママは紛争に巻き込まれて、姉ちゃんは政府の奴らに連れて行かれて、そこで死んだ。

 

「私の事はいいから、早く逃げて!」

 

 あたしを逃がす為に、姉ちゃんがあいつらを引きつけてくれたお陰で逃げ出せた。

 必ず帰るって約束してくれた、けどそれが間違いだった。

 あの時、あたしがあのまま受け入れていたら、姉ちゃんは死なずに済んだのに……!

 

 

 あたしが反政府組織に捕まった後、国連の救助隊が助けてくれた。

 けど姉ちゃんは遺体で引き渡されたって聞いた。

 

「姉ちゃんの嘘つき……!」

 

 あたしはあの場にいない、命懸けで助けてくれた姉ちゃんを、心無い言葉で罵った。

 あたしはそれをずっと後悔した。

 

 その後あたしはフィーネに連れられて、イチイバルのシンフォギアを与えられて、ソロモンの杖の起動実験をした。起動には半年掛かったけど、フィーネは褒めてくれた。それが嬉しかった。

 これで戦争の火種が消せるって信じてた。

 

 しばらくして、あたしはノイズを使って奴らと敵対した。だがそんな中、高校生くらいの女が走っている姿を見た。そいつを見た時、衝撃が走った。

 

「あれって……!」

 

 あたしはバレないようにそいつの後を追った。そいつの横顔を見た時、そんな筈はないと思っていた。

 だって、バルベルデで死んだって聞いたんだぞ。

 

「まさか……」

 

 声、髪、左目尻の泣きぼくろ、覚えている。でも確証は無かった。だからあたしは、あたしはあいつが鍵落とした時に声を掛けた。

 

「これ、お前のだろ?」

 

 そして、確認の為に名前を聞いた。

 

「風鳴……瑠璃?」

 

 その名前を聞いた時、あたしは確信した。

 何で風鳴になったのから分からない、だけど8年前に生き別れた姉ちゃんだ。

 生きていたんだ。

 でも姉ちゃん、あたしの事を何も覚えていなかった。

 

 アジトに戻ったあたしは、それをフィーネに伝えた。

 

「生きてた……姉ちゃんが……姉ちゃんが生きてた……!」

 

 フィーネは二課に潜り込んでいたから、姉ちゃんの事について知っていたはずだ。

 姉ちゃんに一体何があったのか、何で教えてくれなかったのか、フィーネに聞いても殆ど教えてくれなかった。

 ただ教えてくれたのは、今の姉ちゃんには以前の記憶が無いことだってことだ。

 だからあたしの事も、パパとママの事も何も覚えていなかったって事だ。

 

 ガングニール装者をかっさらう為にあの女と戦っている時、戦いに関係ない奴がこっちに来た。一人はカメラを持った学生。もう一人は……

 

「瑠璃!何故ここにいる?!」

「お姉ちゃん!」

 

 もう一人は姉ちゃんだった。

 絶好の機会だと思った。

 ガングニール装者を連れて行くついでに、姉ちゃんを助けようとした。

 でも、あたしはあいつの絶唱にやられた。

 せっかくのチャンスだったのに……。

 

 それからあたしは正体を隠して姉ちゃんに会いに行っていた。姉ちゃん、男手一つで育ててくれた父親を慕っていた。

 聞けばそいつは以前に戦った人気者の叔父で、特機部二の司令なんだとか。

 それを聞いたあたしは、言葉に出来ないくらい、心がぐちゃぐちゃになりそうになった。 

 

(姉ちゃん……何でそんな奴を慕ってんだよ?そいつは騙してるんだぞ?姉ちゃん、本当の家族は、あたしだけなんだぞ?)

 

 あたしはそいつを憎んだ。姉ちゃんを騙して本当は装者に仕立てようとしてんだぞ?

 でも、姉ちゃんは父親の事について話しているとどこか楽しそうだった。分からない、あたしはどうすれば良いんだ?

 

 デュランダル奪還失敗した後、あたしは姉ちゃんを取り戻すと決めた。

 

 フィーネによると、姉ちゃんは見舞いに毎日病院へ通ってるっつうから、あたしは先回りした。

 

「ごめんな、少し怖い思いをするけど、死なせはしないから。」

 

 一人になった所を狙って、ノイズを出した。ノイズはあたしの命令に従って姉ちゃんを誘導させた。

 

「こっちだ!」

 

 あたしは人がいないビルに誘い込んで、そこで姉ちゃんを助けて、気絶させた。

 

「ごめんな、遅くなって。迎えに来たよ。」

 

 これでようやく一緒に暮らせる。姉ちゃんをこんなにした、大人を、アイツらを絶対に許さない。

 そう思っていたらもう一人の奴に足を掴まれた。

 邪魔だと思ってソロモンの杖をあいつに向けた……けど、殺せなかった。

 元々こいつは無関係な奴だ。殺すのはあたしの主義じゃない。それにあいつはもう動けない。このままにしても問題ないだろ。

 あたしはそのまま姉ちゃんをかっさらった。

 

 あたしはフィーネに約束させた。姉ちゃんには手出しするなって。でも結局裏切られた。

 

「何で姉ちゃんが装者に……」

(フィーネ……姉ちゃんに何しやがった?!)

 

 姉ちゃんがバイデントの装者として利用されていた。

 そしてあたしは用済みだって……。

 姉ちゃんはあたしを殺しに来たんだ。

 でもあたしは姉ちゃんと戦いたくない、助けたかっただけなのに!

 あたしは姉ちゃんに背を向けてフィーネを追いかけた。

 

 どうしてこうなってしまったんだろう?あたしはフィーネと姉ちゃんに命を狙われる羽目になって、関係ない奴らまで巻き込んで、あたしがしてきた事は、何だったんだ?

 

「瑠璃!」

 

 突然車椅子に乗った女があたしの腕を掴んできたと思ったら、あの時姉ちゃんと一緒にいた奴だった。

 

「あんた……瑠璃を何処にやったのよ?!」

 

 あいつの目は忘れられない。

 ただ憎んでいるんじゃない。殺してやりたい、そんな目つきだった。

 でもあたしもムシャクシャしてたから、ついカッとなっちまった。

 

「ふざけんな!姉ちゃんを弄んで傷つけたのはそっちだ!あたしはただ、姉ちゃんを助けようとしたんだ!お前の友情ごっこなんざ……」

「あんたに何が分かるってんのよ?!妹であっても!あんたの物差しで!私達の友情を軽々しく語んな!!」

 

 あたしの腕を折りに来てるんじゃないかと思えるレベルで痛かった。

 そんな時あいつが現れた。

 

「やっと追い付いたで輪!あんた怪我人なんやから……って何しとん?あれぇ、瑠璃ちゃん?」

 

 あいつの姉貴だった。

 まあそりゃあ間違えるよな、あたしら双子だし。

 けどあいつ何トチ狂ってるのかあたしを飯食いに連れ出しやがった。

 いい迷惑だと思ってたけど、本当はホッとした。

 ここの所まともに食えてなかった。

 そんな時だった、あいつの過去を聞いたのは……。

 

「二年前……輪が中三の頃やったか……あの子同級生に虐められてたんや。」

 

 ちょっと待て……!二年前って……確かネフシュタンの鎧を奪ったあのライブがあったよな?

 まさかあいつ……それの生き残りなのか?

 じゃあ……あたしが起動したソロモンの杖で、あたしはあいつの大切な人を奪っちまったのか?!

 最悪だ……。あたしはなんて事をしちまったんだ……!

 

 結局あたしは二度もあいつの世話になった。

 偶々病院前を通り掛かったらあいつの姉貴が出てきやがった。

 

「あれ?クリスちゃんやない!どないしたん?何か疲れとるん?」

 

 あたしは姉ちゃんを助けたかっただけなのに……何でこうなっちまったのか分からず彷徨ってた。

 

「家においでや。少し休まんと。」

 

 そんな資格はあたしにはねえ!

 

「うるせえ!何であたしに構うんだ?!」

「うちは義理と人情を主義にする人間や。クリスちゃんが何で困っとるか知らんけど、困ってる奴がおったら、助けてやらんといかへん。でないとお天道様の下を歩いて生きていけへん。」

 

 結局あたしはあいつの家に転がり込んだ。飯まで食わせてもらって、風呂にも入れてもらった。

 でも着替えてた時、あいつの胸に刺し傷があったのを見ちまった。

 けどあたしは見てないふりをした。それが最悪な選択だって事を後で後悔する事になる。

 

 あのアジトでおっさんにあった時、あたしはおっさんに聞きたいことがあった。

 

「おいおっさん。何で姉ちゃんはあたしの事を覚えてなかったんだ?」

 

 おっさんは一回黙りこくったけど、その後ちゃんと話してくれた。

 あたしを守って政府軍に捕まった後、あいつらから理不尽な暴力を受けた事、純潔も奪われて心も身体も汚されたってことも、そんで弄ばれるだけ弄ばれて、最後はゴミみたいに捨てられた事も。

 それが耐えきれなくて姉ちゃんは記憶を消す事でしか自分を守れなかったんだ。

 

「ありがとな……おっさん。」

 

 あたしは決めた。今度こそ姉ちゃんを救い出す。そして、あたしが守るんだ。

 

 

 




というわけでクリス視点でした。

実は先々のストーリーはちょいちょい固まってるんですが、そこまでに到達できるかどうか……


感想お待ちしております。


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番外編3 雪音姉妹と序章

番外編パート3になります。

ちょっと短めですが、最後にG編の前日譚があります。




 ・誰かの為の料理

 

 クリスが越してから数日、早速クリスの部屋に泊まりに来た瑠璃。

 まずは線香をあげて、両手を合わせる。

 

「パパ、ママ、忘れて遅くなってごめんね。」

 

 その後、二人で食材の買い出しに行き、食材を揃えると帰宅、調理に掛かる。

 瑠璃の手際の良さにクリスは驚いた。

 

「随分と手慣れてるな。やっぱりおっさんの飯を作ってるからか?」

「そうだね。お父さん、いっぱい食べるからその分大変だけど、全部食べてくれるから嬉しくなるの。」

「そう……なのか……。」

 

 誰かの為に作る料理だから頑張れる、それを学んだクリスは瑠璃にご馳走を作ってやろうと考えた。

 

「というわけで今日の夕飯は任せろ!」

「だ、大丈夫?」

「へ、平気だ!よし!じゃあ昔ママに作ってもらったオムライスを、あたしが作ってやる!ちょっと待ってろ!」

 

 しかしクリスは思い切り自爆する事になった。

 まずチキンライスなのだが具を大きく切り、白米も量は適当に入れ、乱暴にかき混ぜる。

 その結果キッチン周りは米が飛散、クリスにも何粒か着いてしまった。 

 まあチキンライスを作れたのは辛うじて良しとして、問題はオムレツだった。

 なかなか上手くオムレツを作れず、どうしてもスクランブルエッグになってしまう。

 

「クリス、ちょっと貸して。」

 

 すると瑠璃にバトンタッチされ、今度は瑠璃がオムレツを作る。

 外側から内側へと巻き込むように掻くようにかき混ぜて、ある程度固まった所でチキンライスを入れて卵を包み、フライパンをトントンしてひっくり返したら、皿に移して出来上がり。

 

「おおぉ!」

 

 完成、オムライス。

 

「よし!次は成功させて……って卵がねえ!」

 

 オムレツは卵を多く使うので消費が激しく、クリスが4回やって全部失敗した為、卵があっという間になくなってしまった。

 

「じゃあこの卵を貰っていい?」

 

 クリスが失敗したスクランブルエッグを、瑠璃のチキンライスの上に乗せる。

 

「お、おい!良いのかよ?!」

「良いの。私はクリスが作った料理が食べたいから。」

 

 瑠璃とクリスは向かい合うようにテーブルに座る。

 

「じゃあ」

「「いただきます。」」

 

 それぞれ作ってもらったオムライスを一口、口運んで味わう。

 

「うんめぇ!中が半熟になっていてトロトロだぁ!」

「ちょっとクリス、もうちょっとゆっくり食べないと……ほら……。」

 

 かきこみ過ぎて喉に詰まらせたクリスはグビグビと水を飲む。

 

「悪い悪い。だって美味かったんだよ。それより、そっちのオムライスまずいか……?」

「え?美味しいよ?形はあれだけど、味は本当に良いよ。これは本当に練習あるのみだから。」

「あ、ありがとう……。」

 

 今度は成功させて姉を喜ばせようと決意するクリスだった。

 

 

 

 

 ・G編前日譚

 

 今日は瑠璃、輪、響、未来、クリスとカラオケに行っていた。

 それぞれ歌いたい曲を予約して、熱唱する。

 瑠璃とクリスはツヴァイウィングの逆光のフリューゲルを熱唱し、響は弓美から教えてもらったアニソンなどなど思い思いの曲を熱唱していく。

 そして輪はというと……

 

「Dark Oblivion?!」

 

 この曲は今全米ヒットチャートNo.1をデビューから2ヶ月で登りつめた気鋭の歌姫 マリア・カデンツァヴナ・イヴの曲である。

 輪は最近マリアの曲にハマっていて、英語の歌詞であるにも関わらず、最後まで完璧に歌い切った。

 

「凄ーい!輪さんカッコよかった!」

 

 響から盛大な拍手を贈られる。

 

「ありがとー。いやー歌った歌った。いやほら、今度のライブに出るじゃない?ちょっと触発されちゃってさ。」

 

 先日翼から近日開催される音楽ライブの祭典、QUEENS OF MUSICの特別席の招待状を貰った。

 当然翼も出演するのだが、さらに翼との特別コラボレーションでマリアと共演するのだ。

 

「いやぁ生マリアをこの目で見れる日が来るとは、生きてるって素晴らしいねぇ〜。」

 

 なんとこのライブのチケットの抽選予約開始日に殺到し、超高倍率の中、輪は堂々と予約したのだが獲得出来なかったとの事。

 だから特別席招待をされた時は滅茶苦茶喜んでいたのだとか。

 

「あの時の輪、もの凄く喜んでたもんね。」

「土砂降りの涙から一気に立ち直りやがったからな。」

「でも楽しみだよね〜!」

 

 響も楽しみで眠れないというのだが、まだ一週間以上も先なのでいくら何でも早すぎる。

 女子高生らしい会話で盛り上がっていた所、装者達の通信機から連絡が入った。

 

「お父さんからだ……。すぐに招集って、何するんだろ。」

「あぁ……。じゃあ早いけど今回はお開きだね。」

「そうですね。また今度ゆっくり行きましょう。」

 

 5人は会計を済ませて輪と未来はそれぞれ帰路に着き、装者三人は本部へと向かった。

 

 かつての二課の本部は壊滅した為、仮設の本部は潜水艦となった。

 装者達は本部に集まり、弦十郎主導のミーティングが始まった。

 ちなみに翼は歌手活動に専念してもらう為、招集されなかった。

 

「一週間後、ソロモンの杖をアメリカへ返還する為に、岩国の米軍基地へ移される事になった。そこで響君とクリス君は友里と共に岩国まで護送の任務に行ってもらう。」

「はい!」

「おう!」

 

 ここで呼ばれなかった瑠璃が手を挙げる。

 

「あの……私は……?」

「ああ、それについてだが……瑠璃はまだ実戦経験が浅く、戦力としては不安要素が大きすぎる。そこで、瑠璃には特別メニューを熟してもらう!」

 

 それから一週間、瑠璃は今……山中で走り込みをしていた。

 

 

 G編へ続く

 




というわけで、次回G編開幕です。

ご感想お待ちしております


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G編
女王の蜂起


G編開幕となります!

ただ瑠璃は諸事情により岩国へは行けず特訓中。
何故だろーなー。


 ルナアタックから数カ月の時が過ぎた。

 ノイズを呼び出し操作する聖遺物、ソロモンの杖をアメリカの研究機関から召喚されたウェル博士と共に岩国にある米軍基地に護送する作戦が行われている。

 だがその場に瑠璃はいなかった。

 

 

 少し遡る

  

 

 ソロモンの杖護送作戦に選ばれなかった瑠璃は弦十郎に抗議していた。

 

「お父さん、私も戦えるのに、なんでお留守番なの?」

「ここでは司令と呼べ。」

 

 瑠璃はバイデントの装者として正式に二課に加わったが、まだ経験と実績が足りない状態でこのような重要任務に連れて行かせるわけにはいかなかった。

 よって瑠璃は東京で待機させる事が決まった。

 

「瑠璃には俺の特別メニューを熟してもらう!だが心配するな!瑠璃の戦い方に合うアクション映画を用意した!」

「このオッサンやっぱりアクション映画しかねえじゃねえか!」

 

 

 正直な所、弦十郎は瑠璃の二課入りについて不本意だった。

 瑠璃はまだ全ての記憶が戻ったわけではない。

 瑠璃が戦う事で過去の記憶が蘇り、傷つくのではないかと不安視していた。

 しかし、瑠璃は自らの意思で志願した。

 であれば親として、瑠璃の意思を尊重し、正式にバイデントの装者として二課に登録させた。

 他の装者達の反応はというと、響は盛大に喜び、翼も仲間として快く受け入れたが、クリスだけは複雑な心境だった。

 思う所はあるが瑠璃は一度決めた事を捻じ曲げることはしない。

 だからクリスも何も言わず、瑠璃と共に戦うと決めた。

 

 そして二課入りの翌日から瑠璃は弦十郎主導、輪のサポートの下、自宅でトレーニングをしている。

 

「そうではない!稲妻を食らい、雷を握りしめて穿つべし!」

「うん……つまりオジサンどういう事?」

 

 響の時と同じ、アクション映画を鑑賞しその八極拳を習得しようとしている。

 ただ瑠璃は、響が弟子入りする前から多く映画を見ており、さらに動体視力の良さも相まって飲み込みが早く、会得にも時間は掛からなかった。

 そして、ここからが響とは異なる訓練法だった。

 重りをつけた2本の竿をバイデントの槍の代わりに振り回すものだという。

 簡単に言うがこれは非常に重く、油断すれば竿に振り回されてしまう。

 

「身体の軸がブレているぞ!得物に振り回されるな!」

 

 弦十郎の訓練は厳しいが、瑠璃は決して逃げ出さない。

 努力も甲斐あって、翼との模擬戦では良い線まで行っている。

 

「流石司令の子女ですね。この短期間で、翼さんと渡り合っていますね。」

「ああ。後は精神的な問題だな。」

 

 緒川は感心していたが、弦十郎の懸念通りのシチュエーションが起きた。

 

『蒼ノ一閃』

 

 翼が大刀を振り下ろすと、刃状のエネルギー刃が瑠璃を襲う。

 だが瑠璃はあろう事かそれに怯んでしまい、Shooting Cometが出す瞬間を逃し、避ける事も遅れてしまった事で正面から受け止めざるを得なくなった。

 相殺しきれずに弾き飛ばされ、壁に打ち付けられてしまい、そのまま翼の勝利となった。

 今の瑠璃は敵の咄嗟の攻撃に対して反応出来ず、怯んでしまう為に避けるという選択肢を消してしまい、そのまま直撃してしまうという事が多い。

 戦士としては致命的な弱点となってしまう。

 

 翼は倒した瑠璃に歩み寄り、手を差し伸べる。

 

「やるようになったな、瑠璃。だが、最後のあれは頂けないな。」

「そうだよね。つい……。」

「焦る必要はない。瑠璃は装者になって日が浅い。その内、苦手な事も必ず出来るようになる。落ち込む必要はないぞ。」

「うん。」

 

 差し伸ばされた手を握り返し、立ち上がる。

 瑠璃の当面の課題は決まった。

 

 そしてソロモンの杖護送作戦一週間前、瑠璃は弦十郎に連れられて山中にいる。

 

「お父さん、こんな所で何をするの?」

「なに、特訓だ!」

 

 意図が読めない瑠璃は首を傾げる。

 森の中のある場所で待機するよう言われると、瑠璃はそこで待った。これから何をするのか、予想がつかない。

 若干不安になってきた所で弦十郎が戻って来た。

 

「よし、ではこの先にある小屋まで走ってもらう。だが道中に障害物を全方向から投げる。それを避けるか、押し返せ!」

「え?それってどう……うわぁっ!」

 

 聞こうとする前にいきなり投げてきた。

 丸太はロープで括られおり、それを弦十郎と緒川が瑠璃を狙って投げている。

 いきなり殺意高めの投擲物をしゃがむ事で避けたが、それは偶々であって対応出来たとは言えない。

 

「いきなり丸太って危な……」

「次来るぞ!」

「痛あぁっ!!」

 

 言い終わる前に後ろからやかんが飛んできた。後頭部に直撃し、痛い所を押さえる。

 

「ボサッとするな!訓練中だって事を忘れるな!」

 

 今度は大型タイヤが襲ってくる。

 瑠璃は咄嗟に前転をした事で事なきを得た……が立て続けに丸太が襲来する。

 一度避けられても二度連続となると対応出来ず飛ばされてしまう。

 さらに容赦なくぶん投げられる為、避ける為に逆走してしまいゴールから離れて行ってしまう。

 

「逃げるな瑠璃!押し返せ!」

「押し返せってそんな無茶な〜!」

「無茶じゃない!目を背けるな!立ち向かえ!翼やクリス君を守れるのはお前だけだ!」

 

 その檄に反応したのか、一瞬だけ目付きがツリ目に変わる。

 腰に力を入れ、吹っ飛ばれないように構えて、正面から来た丸太を受け止めた。

 

「司令、今の……」

「ああ。やりやがった……。」

 

 のではなく二つの掌底で丸太を真っ二つに割ってしまった。

 

「出来た……出来たよお父さん!やったよ!」

「喜ぶのは早い!まだだ、続けて行くぞ!」

 

 瑠璃は喜ぶ間もなく特訓を続けるが、今ので自信がついたのか、障害物を捌けるようになり、ゴールへと到達した。

 最初の時と比べるとみるみると成長を遂げていき、大型タイヤを両手で受け止め、丸太を掌底でかち割りっていた。

 それを見ていた輪はというと……

 

(瑠璃、どんどんオジサンみたいに常人離れし始めてるなぁ……。)

 

 瑠璃だけは装者の中でも今まで最も普通の女の子らしかったのだが、とうとう瑠璃も逸脱し始めた事にショックを受けるスタッフがいるということを輪は知っている。

 しかし、こればかりは瑠璃が選んだ事なので口出しするのはナンセンスというもの。

 今まで通り、瑠璃を見守っていこうという方針を取った。

 

 

 

 そして護送作戦当日に戻る。

 今日は弦十郎がいない為、山中のコースを走り込みをしている。

 輪も共に走り、ゴールまで辿り着いた。

 

「はぁ……はぁ……やった……。」

「キツかった……。」

「っていうか……何で輪も走ってるの?」

「良いじゃん……そんなの……。」

 

 二人とも息絶え絶えで仰向けで大の字になる。

 

「お疲れ様でした。」

 

 二課のスタッフに起こしてもらい、スポーツドリンクを貰いそれを飲み干すと二人は下山した。

 今日QUEENS OF MUSICのライブがあり、特別招待席に招待されているが、その前に汗を流す為に、瑠璃の自宅で入浴している。

 輪が瑠璃の背中を洗っている。

 

「付き合ってもらってありがとう、輪。」

「良いって良いって。でもさ、本当に瑠璃も戦うんだよね……。怖くないの?」

 

 輪の瑠璃の背を洗う手が止まる。

 本当を言えば戦ってほしくない、傷ついてほしくない。

 

「うん。怖くないって言ったら嘘になるけど、私はクリスやお姉ちゃん、皆を守りたい。それに私だけ何もしないで待つだけは嫌だから……。その……」

 

 上手く言い表せず言葉に詰まってしまった。

 待ちかねた輪が瑠璃の背中を強く叩く。

 

「しっかりしろ瑠璃!あんたは自分が思ってるより強い子なんだよ?ルナアタックやオジサンの特訓だって乗り越えたじゃん。もっと自分に自身を持ちなよ。」

 

 輪が激励をくれた事で、瑠璃に笑顔が戻る。

 

「ありがとう。」

「いえいえ〜。じゃあ背中流すよ〜。」

 

 背中を流すと、瑠璃の背にある痣や痛々しい傷痕が露わになるが、輪は見慣れている為、何も言わない。

 

 入浴が終わり、身体を拭いて髪を乾かし終えると、二人は私服に着替えた。

 

「そう言えば、響とクリスはまだ任務終わってないのかな?」

「予定だとそろそろ終わると思うけど……大丈夫かな……。」

 

 時計の時刻を見て不安になる瑠璃だが、輪は心配していないようだった。

 

「妹でしょ?信じなよ。」

「うん。」

「私達は一足先に行こう!」

 

 忘れ物がないかしっかり確認した上で二人は家を出て、ライブ会場へ向かう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 今回のライブ、QUEENS OF MUSICにはイギリスへの移籍が決まった翼とデビュー2ヶ月で全米ヒットチャートNo.1を叩き出した、女王 マリア・カデンツァヴナ・イヴのコラボステージが目玉とされている。

 予約席の抽選の倍率は凄まじく、チケットも当然即日完売。

 特別招待席には未来、弓美、創世、詩織も呼ばれていて、響とクリスもこちらに向かっているそうなのだが、まだ到着していない。 

 

「まだビッキーたち、まだ来ないの?メインイベントが始まっちゃうよ?」

「うん……」

 

 未来が肩を落とす中、興奮が押さえきれない弓美と輪はサイリウムを構えている。なお、ライブは撮影禁止なので、ハンドバッグの中にしまっている。

 

「せっかく風鳴さんが招待してくれたのに、今夜限りの特別ユニットを見逃すなんて」

「勿体ないよね〜あの二人も。」

「本当ですよ!アニメみたいに期待を裏切らないんですよ~あの子達ったら!」

 

 その時、瑠璃の通信機から通信が入った為、一旦退室しようとする。

 

「ちょっとごめんね。」

「オジサンから?」

「うん、すぐ戻るよ。」

 

 特別席から退席し、人気のいない通路で通信する。

 

『瑠璃、そっちはどうだ?』

「大丈夫だよ。それより、どうしたの?態々こっちを使うなんて、余程のこと?」

『ああ、実を言うとな、岩国の米軍基地で再びノイズが出現した。』

「え?!それで大丈夫なの?」

 

 一度大きな声を挙げてしまったが、小声で再び通信する。

 

『響君達は無事だ。だが、岩国の方は最悪だ。兵士達はノイズの攻撃の被害に遭い、ソロモンの杖が行方を眩ませた。ウェル博士の姿もな。』

 

 恐らくウェルもノイズの攻撃に晒され炭素化されてしまったのだろうと考えると、守れたかもしれない命が失われた事に悔しさを滲ませる。

 瑠璃は未だに戦士としては3人よりも未熟な為、中々出撃させてもらえない。自分にも力があるのに、使わせてくれない事が不本意でいる。

 

『瑠璃、良いか。この先また戦いが起こるだろう。今回は間に合わせる事が出来なかったが、必ずその力が必要となる。だから今は楽しめ。こちらを心配する必要はない。』

 

 今のは二課の司令としてではなく、父親としての言葉だった。

 

「うん。分かった。始まっちゃったからすぐに……」

 

 だが既に挙がっていた歓声が悲鳴に変わった事に気がついた瑠璃はアリーナ席がある方を振り返る。

 

『どうした?!』

「分からない。ちょっと見てくる!」

 

 通信を繋いだまま特別室に急いで戻る瑠璃。

 

「どうしたの?!」

「瑠璃!あれ!」

 

 ガラス越しに見下ろすと瑠璃は驚愕を隠せなかった。

 

『瑠璃!今何処にいる?!』

「お父さん、今特別席にいる。けど、下にノイズが……!」

『ああ、こちらでも把握している!』

 

 観客席を囲うようにノイズが出現しているという恐ろしい光景だった。

 

「ノイズは私がやる!今から……」

『駄目だ!今手を出せば観客にまで被害が及びかねない!』

「そんな……。どうするの?!」

『今は動くな。』

 

 そう、よく見るとこのノイズ達は人間が目の前にいるにも関わらず襲って来ない。つまり、このノイズ達は統率されている。

 

「まさか近くにソロモンの杖を……」

『狼狽えるな!!』

 

 ステージ中にマリアの声が響いた。

 

 ステージには動揺しているがギアのペンダントを手に握る翼と、冷静でいるマリアが立っている。

 

「怖い子ね。この状況にあっても私にとびかかる気を窺っているなんて。でもはやらないの。オーディエンスたちがノイズからの攻撃を防げると思って?」

「くっ……!」

 

 その発言からノイズを呼んだのはマリアである事は明白だった。

 

「それに……」

 

 全世界に中継されているカメラの方に向ける。

 

「ライブの模様は世界中に中継されているのよ?日本政府はシンフォギアに関する概要を公開しても、その装者については秘匿したままじゃなかったかしら?ね?風鳴翼さん?」

 

 脅しとも取れる挑発。

 ルナアタック後、櫻井理論は世界に開示されたがその装者までもは開示されていない。

 今ここで翼がギアを纏えば、それが世界に中継されてしまう。

 そうなれば歌手活動生命を絶たれたも同然となる。

 だが翼はその挑発に臆するどころか余計に闘志を燃え上がらせている。

 

「甘く見ないで貰いたい。そうとでも言えば、私が鞘走るのをためらうとでもおもったか?!」

 

 翼は剣を模したマイクをマリアに突きつけた。

 それを見たマリアは笑った。

 

「あなたのそういうところ、嫌いじゃないわ。あなたのように誰もが誰かを守るために戦えたら……世界は、もう少しまともだったかもしれないわね」

「何だと?マリア・カデンツァヴナ・イヴ、貴様は一体……」

「そうね……そろそろ頃合いね。」

 

 観客席の方に向くマリア。そして高らかに宣言する。

 

「私達は!ノイズを操る力をもってして、この星のすべての国家に要求する!」

「世界を敵に回しての口上?!コレはまるで……」

「宣戦布告……」

 

 特別席にいる瑠璃がその答えを呟く。

 

「そして……」

 

Granzizel Bilfen Gungnir Zizzl……

 

「まさか?!」

「その詠唱は……?!」

 

 Gungnir 二課のメインモニターからもアウフヴァッヘン波形を感知し、映し出される。

 

「ガングニール……だとぉ?!」

 

 

 弦十郎が叫んだ言葉通り、マリアはガングニールを纏った。だが配色は響のものとは異なり、紫を基調とした黒で、マフラーではなく黒いマントを纏っている。

 

「黒い……ガングニール……」

 

 特別席にいる瑠璃、ヘリで会場に向かっている響が同じタイミングで呟いた。

 

「私は、私達はフィーネ。そう……終わりの名を持つものだ!!」

 

 マイクを再び手に、高らかに宣言した。




結構駆け足で始まりましたが……今後の展開どうしようか……。

ご感想お待ちしております。


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初陣と4つの絶唱

今回は瑠璃の初陣となります!

そしていつもより倍長いです!


「瑠璃、あれ!」

「うん、信じられない……。ガングニールは響ちゃんの……」

 

 輪はこの状況に臆する事なくカメラを取り出し、写真を撮影した。被写体は当然、黒いガングニールを纏ったマリア。

 

「我ら武装組織フィーネは各国政府に対して要求する。そうだなぁ……差し当たっては、国土の割譲を求めようか!」

「馬鹿な……」

 

 マリアは翼がギアを纏えないのを良い事に無茶苦茶な要求を宣言するが、さらにそれだけではない。

 

「もしも二十四時間以内にこちらの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって憮然となるだろう。」

「何処までが本気なのか……」

「私が王道を敷き、私達が住まうための楽土だ。素晴らしいと思わないか?」

 

 翼の方を向いて笑う様に言う。

 

「何を意図しての語りか知らぬが……」

「私が語りだと?」

 

 翼の発言に、マリアの眉が僅かにピクッと動いた。

 

「そうだ!ガングニールのシンフォギアは、貴様のような輩に纏えるようなものではないと覚えろ!」

 

 翼がギアのペンダントを握る。

 

「マズい……!お姉ちゃん……駄目だ!」

「瑠璃?!ちょっと何処に行くの?!」

 

 急いで特別席から出て、ライブ会場の裏方へ走り出す。

 

「アニメみたいに行っちゃった……」

 

 残された者たちはただ、この状況が良くなる事を願うしかできない。

 だが今の瑠璃には力がある。それを、姉の夢を守る為に、今使おうとしている。

 

(お姉ちゃん……早まっちゃ駄目……!お姉ちゃんが世界中に、歌を届ける夢が……絶たれる!そんなの、嫌だよ!お姉ちゃん歌、大好きなんだから!)

 

 一刻も早く、翼がギアを纏えるようカメラ機材がある制御室へ向かう。その途中で緒川と遭遇する。

 

「緒川さん!」

「瑠璃さん!今向こうが観客達を解放したそうです!」

「えっ……?!」

 

 マリアが自らアドバンテージを放棄した事に理解が出来ない瑠璃。

 だが好都合だった。瑠璃はただの学生である為、ギアを纏っても今後、生活に支障をきたすわけではない。

 またバイデントには戦闘補助の為にバイザーが搭載されており、それで顔を隠せば後は情報封鎖すればどうにでもなる。

 

「緒川さん、私はこれから制御室へ……」

「それは僕がやります!瑠璃さん、ステージの方へお願いします!万が一はギアを纏って素顔を隠してください!」

 

 考えている事は同じだった。

 

「分かりました!緒川さん、カメラのケーブルを切断をお願いします!」

 

 目的地を変え、瑠璃はアリーナを目指す。

 走りながら弦十郎に通信を入れる。

 

「司令!」

『ああ、お前の初陣だ!派手にブチかまして来い!』

「了解です、司令!」 

 

 瑠璃はギアのペンダントを強く握る。

 

 Tearnight Bident Tron……

 

 身につけていた衣服が消失し、一糸纏わぬ姿になると藍色を基調とするインナーとなり、脚、前腕にアームが装着、さらにルナアタックには無かった上腕の方にも黒いインナーが追加され、更に背中に翼を模した装飾も左右対称に3つ追加された。

 瑠璃はバイザーを展開し、顔を隠す。

 黒槍を右手に、白槍を左手に持つと急いで戦場へ向かう。

 

 

 一方アリーナの方では観客を解放した事でむしろ晴れやかな表情となったマリアと、険しい表情で彼女を見る翼が対峙している。

 

「観客は皆退去した。もう被害者が出る事はない。それでも私と戦えないと言うのであれば、それはあなたの保身の為。あなたは、その程度の覚悟しかないのかしら?」

 

 マリアは翼がギアを纏えない事を良い様に好戦的な物言いで挑発をする。防人としてはそれは許しがたい侮辱ではあるが、今の翼は歌姫である。今ここでギアを纏えば歌手としての自分は死に絶える。

 だがマリアは選択を迫るかのように、剣を彷彿とされるマイクを翼に向ける。だが翼はここでやられるわけにはいかない。振り下ろされたマイクを避け、同じマイクで太刀打ちする。しかし、マリアはギアのマントで、翼のマイクをへし折ってしまう。

 第2波が来るも翼は宙返りでこれを避ける。しかし、もうマイクは使えないと判断し、自ら得物を手放す。それでも翼は持ち前の身体能力を活かして、ギアの有無という不利を感じさせない立ち振る舞いで、戦っている。

 

(もう少し、もう少しで下がれば……!)

 

 さらに翼は徐々にステージから後退しつつある。中継の範囲外に出てしまえば、ギアを纏ったとしても人の目に触れずに済む。

 だがこの目論見は看破されていた。マリアが翼を目掛けてマイクを投擲した。翼はこれを跳んで回避し、舞台裏まで撤退を図る。だがここで思わぬアクシデントが発生した。翼の衣装のヒールが折れてしまい、重心が崩れそうになる。何とか直立に保ってみせたが、その為に動けない所を、マリアに胴を蹴られてしまう。

 

「あなたはまだステージから降りる事は許されない。」

 

 しかも蹴り飛ばされた先が、ノイズが跋扈する観客席だった。このまま落ちてしまえばノイズによって塵にされ、命は終わりを告げる。翼は瞼を閉じる。

 

(さよならね……歌女の私……)

 

 決別を決意し、詠唱を詠い始める。

 

 

 お姉ちゃん!!

 

 

 妹の声が聞こえたような気がした。

 翼は目を見開き、振り向くと何者かがこちらに急接近している。

 そして、気付いた時には、お姫様抱っこされたいる。

 

「瑠璃……!」

 

 連結された槍の操作の応用で、箒のように乗りこなし翼をお姫様抱っこでキャッチした瑠璃だった。

 

「お姉ちゃんの歌が聞けなくなるのは、嫌だよ。それと、あの人には言いたい事が山程ある。」

 

 姉には笑顔を、敵には怒りを向ける瑠璃。せっかくの姉の舞台を台無しにしてくれたマリアには、相応の報いを取らせたいと、心の底から腸が煮えくり返っている。

 

「バイデント……やはり纏えたのか……。」

 

 一連の事態を見ていたマリアは驚いた表情で呟いた。

 ここで緒川から通信が入った。

 

『中継を遮断しました!翼さん!』

「はい!瑠璃、参るぞ!」

「うん!」

 

 これで翼を縛るものは何もない。枷から解き放たれた鳥の如く、翼は高く飛翔する。

 

「聞くがいい、防人の歌を!」

 

 Imyuteus Amenohabakiri Tron……

 

 降下しながら、ギアを纏った際に発生したエネルギーがバリアとなってノイズを塵にした。

 リビルドによってギアの形状が変化しており、性能も格段に上がっている。その力を持って、ノイズ達を一刀両断する。

 瑠璃も連結した槍を解除、二本の槍に戻すと黒槍を振り下ろし、白槍を右から左へ払うように振るうと、十字の斬撃のエネルギー波を放ち、ノイズの群れに穴を空ける。

 

【Cross Gemini】

 

 そのまま空いた場所へ着地すると二本の槍を上空に放り投げると、遠隔操作でノイズを塵にしていく。

 

【Assault Pisces】

 

 全てのノイズを殲滅した2人はアリーナに舞い降り、マリアと対峙、瑠璃は槍の刃先をマリアに向ける。

 

「2対1で卑怯、なんて言わせない。」

「ええ、元からそんなつもりはない!」

 

 瑠璃が黒槍で急襲すると、マリアは軽い身のこなしで避ける。

 黒槍と白槍での連続突きを繰り出すも、それをマントで防いで見せる。

 その瞬間、攻撃に転じ瑠璃を襲う。瑠璃はそれを槍でいなす。

 この応酬を見た翼は確信した。

 

「見て分かった。あれはまさしくガングニール、やはり本物……!」

「ようやく、お墨付きを付けてもらった。そうだ。これが私のガングニール。何物をも貫き通す、無双の一振り!」

 

 今度はマントでの攻撃を刃のように二人に向けて放った。

 

 瑠璃と翼はそれを受け止める。

 

「だからとて!私が引き下がる通りなど、ありはしない!」

「お姉ちゃんの言う通り、負けられない!」

 

 2人は奮起し、それを押し返した。

 

 ここで、マリアに女性から通信が入った。

 

『マリア。フォニックゲインは現在、二十二パーセント付近をマークしています』

(まだ七十八パーセントも足りてない?!)

 

 それに動揺したのを、翼はそれを見逃さない。

 

「瑠璃、先陣を!」

「うん!」

 

 二本の槍にエネルギーが集約し、その穂先をマリアがいる虚空に放つと、二本のエネルギー波が放たれた。

 

【Shooting Comet:Twin Burst】

 

 マリアはこれをマントで弾く。

 

「こんなもの……はっ!」

 

 瑠璃の背後から飛び立ちながら、剣を連結させる。

 そして脚部と背部のブースターを点火させて、剣を高速で回転させる。そして高速でマリアとの距離を詰めて斬りつけた。

 

【風輪火斬】

 

「なるほど、本命はこっちだったのね……。」

「話はベッドで聞かせてもらう!」

 

 これで詰めと思われた瞬間、瑠璃のバイザーが反応をキャッチした。

 

「お姉ちゃん、上!」

 

 瑠璃の言う通り、上空から無数の鋸が降り注いだ。翼はギリギリの所でこれを捌く。だがそこにピンク色のギアを纏った黒髪のツインテール少女、月読調が追撃に出る。

 

【α式・百輪廻】

 

 さらにその背後から緑色のギアを纏った金色の短髪少女、暁切歌が翼の身体を拘束し、鎌の刃を3つ投擲する。

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 翼の死角から狙われるも、瑠璃が黒い槍で防ぎ、白い槍を投擲して、拘束を破壊する。

 

「形勢逆転。」

「間一髪だったデスよ!」

 

 それを見た瑠璃と翼は驚愕した。まさか他にも装者を抱えているとは思いもしていなかった。

 

「調と切歌に救われなくても、あなた程度に後れを取る私ではないんだけどね?」

 

 それはまるで勝ちを確信したかのように見下ろしていた。

 

「バイデント……。」

「何であんな奴が纏えるデスか!」

 

 調と切歌は瑠璃、というよりバイデントのギアを見て、怒りを表している。

 

「バイデントを知ってるの……?っ……!」

 

 だがこの時、瑠璃のバイザーに反応がキャッチされ、翼の方も笑みを浮かべていた。

 

「貴様みたいなのはそうやって……!見下ろしてばかりだから勝機を見落とす!」

「上か!」

 

 突如上からガトリング砲の弾丸の雨が降り注ぐ。

 

【BILLION MAIDEN】

 

 切歌と調は左右にそれぞれ散会、マリアはマントでこれを防ぐが、そこに響がマリアに拳の一撃を繰り出す。だがダメージを与えるとまでは行かず、逆にマリアがマントで反撃する。これを回避して、瑠璃も翼と共に距離を取る。

 再び形勢逆転した。

 

「やめようよこんな戦い!今日であった私達が争う理由なんてないよ!」

 

 響はクリスと瑠璃の時と同じように対話を試みた。

 

「そんな綺麗ごとを!」

「へ?!」

「綺麗ごとで戦うやつの事なんか、信じられるものかデス!」

 

 だが同様に拒否される。しかし響は一度拒否された程度では諦めない。

 

「そんな。話せばわかり合えるよ!戦う必要なんか……」

「偽善者……!この世界には、あなたのような偽善者が多すぎる……!」

 

 特に調の方は真っ向から拒絶し、響に対して憎悪の目を向け、鋸を放つが逆に響は接近して、攻撃の死角を突く。

 一方クリスの方も切歌と好戦しているが、遠距離特化のイチイバルでは白兵戦は致命的な不利となってしまっている。やむを得ずクロスボウへと可変して放つも、切歌は全て鎌で捌ききり、クリスに振り下ろす。だがこれを阻む者がいる。

 

「姉を見捨てたデスか?」

「違うよ。お姉ちゃんは強い、だから託した!」

 

 クリスを守る様に瑠璃が攻撃を防いだ。

 

「そんなハッタリ、マリアの方が強いに決まってるデス!」

「いいえ!お姉ちゃんの方が強いもん!」

「マリアデス!」

「お姉ちゃん!」

「マリア!」

「お姉ちゃん!」

「マリア!!」

「お姉ちゃん!!」

「戦場で場違いな事で揉めてんじゃねえええぇぇ!!」

 

 2人はそれぞれを思っての喧嘩だったが、それを見兼ねたクリスがツッコミを入れた。

 

「しっかりしろよ姉ちゃん!」

「あ、うん。そうだったね……ごめん。」

「ん?姉ちゃんデスと?」

 

 切歌はその意味を理解できず首を傾げるが、瑠璃とクリスが構えた事で、切歌も構える。

 

「行くぜ!」

「うん、クリス!」

 

 瑠璃が切歌を目掛けて走り出す。左手に持つ白い槍を水平に、左へ払うように振るうと切歌は大鎌で防ぐ。だが残った黒い槍で突く。

 

「舐めんなデース!」

 

 なんと柄で槍の穂先を弾く事で、軌道を逸した。しかし瑠璃がしゃがむと切歌の顔が青くなった。

 なんと至近距離までクロスボウを構えているクリスが突撃してきた。撃たれれば文字通り蜂の巣だ。

 

「切ちゃんしゃがんで!」

 

 無数の鋸が切歌を守る様に降り注いだ。

 

「片方のアームで両者を……響ちゃん?!」

 

 調が切歌を守れた理由、それは響が項垂れていた。

 あれほど前向きな響がここまでの事になるとは余程のことなのだろうが、今はそれどころではない。

 響の戦意が喪失している事で今は無防備、そこに調の鋸が襲って来た。

 今から調に槍を投擲しても間に合わない。瑠璃は決死の行動に出る。

 

「姉ちゃん!」

 

 響に向かって全力で走り出す。響を庇うように調の前に立ち塞がり、連結させた槍を高速回転させると、放出されたエネルギーから発せられた竜巻で鋸を弾き、かつ調に返す。

 

【Harping Tornado】

 

「瑠璃さん!」

「大丈夫!それよりも今は……っ!」

 

 調がツインテールのアームの先端が巨大鋸へと可変させると、刃を回転させて二本同時に瑠璃の頭上に襲い掛かる。

 

【γ式・卍火車】

 

 槍を連結させたまま柄で防ぎ、押し返した。

 

「邪魔しないで……!」

 

 右から来るアームを黒、左から来るのアームは白い槍で捌く。刃が接触する度に火花が散っている。双方激しい殺陣を繰り広げる。

 

「響ちゃんに何て言ったの?!」

「偽善者よ……!あいつは人の痛みを知らないで、話し合おうだとか信じられるわけがない……!」

 

 静かなる怒りが込められた攻撃に、瑠璃は捌くのが精一杯だった。

 調の方が攻撃する時間が長く、先程から瑠璃の攻撃を出す前に、鋸がその行く手を阻み、攻撃に転じると調は槍が届かない距離まで徐々に後退する。

 瑠璃は槍が届かないばかりか、リーチの差によって防御に徹するしかない。

 

「姉ちゃん!交代だ!」

 

 クリスが瑠璃の方まで走って向かっている。

 

「逃さないデース!」

 

 切歌が鎌の刃を3本投擲してクリスの背後を狙う。それを瑠璃が二本の槍で弾き返す。

 クリスが調の方に、瑠璃が切歌の方を向く。遠距離には遠距離を、近距離には近距離をぶつける。2人は背中を合わせ、各々のアームドギアをを構える

 

 だがここで思わぬ横槍が入った。

 

「あれは……!」

 

 その瞬間、アリーナの中央部に巨大なノイズが出現した。

 

「何あのデッカいイボイボ?!」

「増殖分裂タイプ……」

「あんなの聞いてないデスよ?!」

 

 響が素直な感想を述べる。マリアは両腕のガントレットを連結させると、ガングニールの象徴とも言える槍を形成する。

 

「アームドギアを温存していただと?!」

 

 さらにその矛先をあろうことかノイズに向けると、そこからエネルギー波を発射する。

 

【HORIZON † SPEAR】

 

「自分たちで出したノイズだろ?!」

 

 マリアの意図が理解できないクリスは素っ頓狂な声を上げる。まともに食らったノイズは破裂したかのように爆ぜた。だがマリアが放った閃光が目晦ましとなり、それに気を取られていた4人はマリア、切歌、調の撤退を許してしまう。

 

「引くわよ、調、切歌。」

「せっかく温まって来たところでしっぽを巻くのかよ?!」

「ノイズが?!」

「また集まって……大きくなった?!」

 

 響と瑠璃が声を挙げる。爆散したノイズが塵になる事なく、そのまま増殖している。さらに最初の状態よりも一回り大きくなっている。

 

「はぁっ!」

 

 翼が斬刃刀に形状を変えた刀でノイズを斬る。だがそれはそこからノイズを増殖させる事しか出来なかった。

 

「こいつの特性は増殖分裂。」

「放っておいたら際限ないってわけか……。」

「でもそれじゃずっと増え続けたら、ノイズが外に!」

「趣味の悪いサプライズプレゼントを置いて行きやがって!」

 

 さらに制御室にいる緒川から通信が入る。

 

『皆さん、聞こえますか?!会場のすぐ外には、避難したばかりの観客たちが居ます!そのノイズをここから出すわけには……!』 

 

 瑠璃の指摘通り、このまま増殖させたら観客達がノイズの被害に晒される。

 その中には避難した輪や未来達もいる。

 

「観客?!みんなが!」

「だが迂闊な攻撃では、いたずらに増殖と分裂を促進させるだけ……。」

「どうすりゃいいんだよ?!」

 

 打開策を考えても焦りで答えは出ない。そこで響はある案を出す。

 

「絶唱……絶唱です!」

「で、でもあの技は未完成だよ?!」

「うん。」

 

 響の提案に瑠璃が懸念を示す。

 

「増殖力を上回る破壊力を持って一気殲滅。立花らしいが、理にはかなっている」

「オイオイ本気かよ?!」

 

 増殖されるなら増殖出来ない程のダメージを与える。それが出来るのは絶唱だけ。だが瑠璃とクリスが苦言を呈した通り、絶唱はその絶大な威力と引き換えに使用者にまでダメージを与える諸刃の剣である。だが、もう迷っている暇はない。

 

「立花、やれるな?」

「はい!」

 

 4人はノイズの前に立ち、左から翼の右手が響の左、響の右手はクリスの左手、そしてクリスの右手が瑠璃の左手を握り、繋ぎ合わせる。

 

「行きます!S2CA スクエアブラスト!!」

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

 4人が絶唱を詠う。4つの絶唱が、4人の歌声が、4人の力が、4つの想いが調律されていく。

 この奏でがハーモニーがまるで命を紡ぐ歌と思わせる。

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl

 

 この星空の下に、幻想的な音楽が響き鳴り渡る。

 

「スパーブソング!」

 

「「コンビネーションアーツ!」」

 

「セット! ハーモニクス!!」

 

 絶唱の負荷が4人に降りかかる。暴れ狂う膨大なエネルギーを前に、4人は脂汗を滲ませながらも制御する。そして、その力は1つとなり、響に集約される。

 だがその分負荷も響に集中する。

 

「耐えろ、立花!」

「もう少しだッ!」

「負けちゃ、駄目……!」

 

 絶唱のエネルギーがノイズの身体を抉る。そして、露わになるノイズの脊椎のような骨格。

 

「今だ!」

 

 翼が好機を響に伝える。薄くなった所で、響が左腕のガントレット、右腕のものと繋げ、一箇所に連結させる。ここに絶唱のエネルギーを集める。

 

「ぶちかませ!」

 

 響の腰部のブースターが点火、薄くなったノイズにアッパーを決める。そして、ガントレットがブレードの形となりそれを高速回転させてドリルの様に回転する。

 

「これが私達の……!」

「絶唱だあああああぁぁぁぁーーーー!!」

 

 集まった絶唱のエネルギーが高速回転により、巨大な虹色の竜巻を起こす。その竜巻で残ったノイズの骨格が天へ還るように塵となる。その余波で上空の雲を突き破り、天へと昇った。

 

 

 その様子を近くのビルから見ていたマリア達は驚愕する。

 

「何デスか、あのトンデモは?!」

「綺麗……」

「こんな化け物もまた、私達の戦う相手……」

 

 切歌はただ驚愕し、調はその美しさに感銘を受け、マリアは強大な化け物を倒した敵の強さに、悔しさを滲ませるように歯噛みする。

 

 ある場所ではそれをモニタリングしている初老の女性が見ていた。

 

「ふっ……夜明けの光ね」

 

 不敵な笑みを浮かべるとそのモニターにはCOMPLETEの文字が表示された。

 

 

 ノイズを倒した事で一時的に脅威は去った。しかし、ここからが戦いの始まりである。敵は武装集団フィーネ。かつてルナアタックで激闘を繰り広げた宿敵の名を冠した組織。

 その緒戦で、響は古傷が蘇った。

 

「響ちゃん、大丈夫?」

 

 膝から崩れ落ちた響を心配し、瑠璃が声を掛けたが反応が無かった。

 

(それこそが偽善!痛みを知らないあなたに、誰かの為に、なんて言ってほしくない!)

「へいき……へっちゃらです……」

「へっちゃらなもんか!痛むのか?!まさか、絶唱の負荷が中和しきれて……」

「ううん……」

 

 蘇る、あの地獄の日々を

 

「私のしている事って、偽善なのかな……?胸が痛くなる事だって、知っているのに……」

 

 弱々しく、今にも泣き崩れそうな声で思いを吐露した。

 

「響ちゃん……。」

 

 3人は響の苦しみを慰める事が出来ず、ただ見ている事しか出来なかった。




感想とかでレズキスというパワーワードを見かけるようになった今日。

どうしましょ……

ちなみに瑠璃の使用技は星や星座など天文学をモチーフにしています。

 槍の遠隔操作の応用で、箒のように乗りこなすようになったのは、板場さんに勧められたアニメの影響です。


感想お待ちしております。


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平穏を望む少女、力を欲する少女

 急遽XDのキャラをアレンジして、登場させることにしました。

一応瑠璃にぶつける予定です。


 アリーナでの戦いをモニタリングする初老の女性、ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ。世間からはナスターシャ教授、そしてマリア達からはマムと呼ばれている。現在は下半身不随となった影響で車椅子に乗っており、その右目には眼帯がされている。

 今回マリア達に指示を出していたのも、増殖分裂型のノイズを召喚したのも彼女である。

 

『スパーブソング!』

『『コンビネーションアーツ!』』

『セット!ハーモニクス!』

 

 今回の戦いは全て録画されており、それを観察している。

 

(他者の絶唱と響き合うことでその威力を増幅するばかりか、生体と聖遺物のはざまに生じる負荷をも低減せしめる……。櫻井理論によると、手にしたアームドギアの延長に絶唱の特性があると言うが……。誰かと手をつなぐことに特化したこの性質こそ、まさしく立花響の絶唱……。)

 

 その思考から彼女の持ちうる聖遺物に関する知識は櫻井了子に匹敵すると窺える。

 

(降下する月な欠片を砕くために絶唱を口にしても尚、装者たちが無事に帰還できた最大の理由。絶唱の四重奏ならばこそ計測される、爆発的なフォニックゲイン……。それをもってしてネフィリムを、天より堕ちた巨人を目覚めさせた。覚醒の鼓動……。)

 

 モニターを切り替えると、響達の絶唱のフォニックゲインを利用して起動させた化け物と相違ない完全聖遺物、『ネフィリム』。聖遺物でありながら生命を持ち、自律行動を取れる、他の聖遺物とは異質なものとなっている。

 

 そこにマリアと同じ雰囲気を持った女性が入り、ナスターシャを呼ぶ。

 

「マム、バイデントの適合者が現れたって本当?」

 

 振り返るナスターシャ。

 

「ジャンヌですか。気になりますか?」

     

 再びモニターの方を向いたナスターシャはモニターに瑠璃を映した。

 

「当たり前よ……。忘れられるわけがない……!あのギアは……あの子を殺した呪いのギアだ……!」

「ええ。まさか、今になってバイデントを纏える装者が現れたとは……。どうやら一波乱が起きようとしてますね。」

 

 モニターの電源を落とし、部屋は暗闇に包まれた。

 

(許せない……。)

 

 ジャンヌと呼ばれた女性のその目には怒りの炎が宿っていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 あれから一週間、武装集団フィーネの行方をオペレーター達が全力で追っていた。しかし、手掛かりらしい手掛かりは何一つ見つからずお手上げ状態だった。そんな中、藤尭がため息混じりでボヤく。

 

「ライブ会場襲撃から今日で一週間ですね……。」

「ああ、何もないまま過ぎた一週間だった。」

 

 藤尭のボヤきに弦十郎が乗った。

 

「政府筋からの情報では、その後フィーネと名乗るテロ組織の一切の恣意行動や、各国との交渉も確認されていないとのことですが……」

「つまり、連中の狙いはまるで見えて来やしないということだ。」

 

 友里も集めた情報を整理する。しかし、それも殆どちっぽけな情報整理みたいなもので手掛かりと言うには到底程遠いものだった。

 

「傍目には、派手なパフォーマンスで自分たちの存在を知らしめたくらいです。おかげで、我々二課も即応出来たのですが……」

「ことをたくらむ輩には、似つかわしくないやり方だ。案外、狙いはそのあたりだろうが……」

 

 敵もただの武装集団ではないという事を認識付けたその時、緒川から通信が入った。

 

『風鳴司令。』

「お?緒川か。そっちはどうなってる?」

『ライブ会場付近に乗り捨てられていたトレーラーの入手経路から遡っているのですが……。』

 

 通信の背後から屈強の男と思われる怒号が混じりながらも冷静に通信している。それもそのはず。緒川がいるのは端的に言ってしまえばヤクザの事務所だ。緒川はドスやチャカを向けられようともまともに相手にせず、華麗にいなしながら調査報告をしている。

 

『たどり着いたとある土建屋さんの出納帳に、架空の企業から大型医療器具や医薬品、計測機器が、大量発注されている痕跡を発見しまして……。』

「ん?医療機器が?」

 

 それの報告に、顎を当てる弦十郎。一方緒川は影縫いで動かなくなった黒服達を他所に金庫から封筒を出し報告する。

 

『日付は、ほぼ二か月前ですね。反社会的なこちらの方々は、資金洗浄に体よく使っていたようですが……この記録、気になりませんか?』

 

「うむ……。追いかけてみる価値はありそうだな。」

 

 ようやく掴んだ一縷の望みに、賭ける。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 武装集団フィーネは現在地下施設を拠点に潜伏していた。その一員である切歌と調はシャワーを浴びている。

 

「でね!信じられないのは、それをご飯にざっばーっとかけちゃったわけデスよ。絶対におかしいじゃないデスか!そしたらデスよ……」

 

 切歌が何か面白そうな話題を話しているが、調は無反応だった。調は響の事で怒りがこみ上げている。

 

「まだ、あいつの事……デスか?」

「何も背負ってないあいつが、人類を救った英雄だなんて。私は認めたくない……!」

 

 調はシャワーの元栓を閉じて、壁を殴りつける。その手を、切歌の手が優しく包む。

 

「困っている人たちを助けるというのなら、どうして……」

「うん……本当にやらなきゃいけないことがあるなら、たとえ悪いと分かっていても背負わなきゃいけないものだって……。」

 

 そこにマリアも加わり、シャワーの元栓を開く。

 

「それでも私たちは私たちの正義とよろしくやっていくしかない。迷って振り返る時間は残されてないのだから。それに……」

 

 シャワーのお湯を浴びながら言い切る。

 そして思い出す瑠璃が纏うギア、かつてそのギアを手に入れる為に命を落とした少女を。

 

(バイデント……。使用者に災いを齎す、まさに呪われたギア……。それをあの子は手足の様に……一体何が違うというの……?)

 

 そこに水を指すように警報が鳴る。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 先程の警報はネフィリムが暴れ狂った事によるものだった。すぐに隔壁を作動させて隔離する。作動させたナスターシャとジャンヌはモニターに映るネフィリムの映像わ見て溜息を、ジャンヌは不安そうにナスターシャの方を見る。

 

「マム……。本当にあれが世界を救えるの?」

(あれこそが伝承にも絵がかれし共食いすらいとわぬ飢餓衝動……。やはりネフィリムとは、人の身に過ぎた……)

「人の身に過ぎた、先史文明期の遺産……とかなんとか思わないでくださいよ?」

「Dr.ウェル。」

 

 姿を表したのは、岩国で行方不明とされていたDr.ウェルだった。

 

「たとえ人の身に過ぎていても、英雄たるものの身の丈にあっていれば、それでいいじゃないですか。」

 

 まるで自分の事を指すかのような口振りだった。

 そこにシャワーを浴び、着替えたマリア達が扉を開けて入って来る。 

 

「マム!ジャンヌ!っ……!」

 

 だがウェルを見た時、不快感を表していた。

 

「次の花は未だつぼみゆえ、大切に扱いたいものです。」

(けっ……英雄信仰者め……。)

 

 ジャンヌは胸の内にウェルを蔑む。

 

「心配してくれたのね?でも大丈夫。ネフィリムが少し暴れただけ、隔壁を下ろして食事を与えているから、じきに納まるはず。」

 

 しかし衝撃で施設が揺れる。

 

「マム!」

「対応措置は済んでいるので大丈夫です。」

 

 マリアはナスターシャを信じている。しかし、ネフィリムに関しては過去に因縁がある為に余計に不安を駆り立てる。そこにウェルが横槍を入れる。

 

「それよりも、そろそろ視察の時間では?」

「フロンティアは計画遂行のもう一つの要……。起動に先立って、その視察を怠るわけにはいきませんが……。」

 

 ナスターシャはウェルを信用していない。彼の野心を見抜いている。だが計画実現の為には彼の力が欠かせない故に、仲間に加えた。

 

「こちらの心配は無用。留守番がてらにネフィリムの食糧調達の算段でもしておきますよ。」

「では、調と切歌、もしくはジャンヌを護衛につけましょう」

「こちらに荒事の予定はないから平気です。むしろそちらに戦力を集中させるべきでは?」

「分かりました。予定時刻には帰還します。あとはお願いします。」

 

 そう言うと、車椅子を操作して装者達を連れて行く。残されたウェルはというと

 

(さて、まいた餌に獲物はかかってくれるでしょうか……)

 

 狡猾な笑みを浮かべていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 瑠璃や響達は三日後に開催される秋桜祭の出し物の準備の手伝いをしていた。

 瑠璃のクラスの出し物はクレープ屋という事になり、瑠璃は調理担当に抜擢された。というのも、試しに瑠璃が作ったのだが、それがクラス内でも評判となり、まだ開かれていないのに、クレープ作りを依頼する者が後を絶たなかった。

 そのせいで、パニックになり今にも泣き出しそうになっている。

 

「はいはーい。これ以上はキリがないから、当日にお金払って作ってもらいなよー。ほら、仕事に戻った戻ったー。」

 

 輪が割って入ってこの場を収めた。集まった生徒は解散し、それぞれの仕事場へと戻った。

 

「ありがとう……輪。」

「良いってことよ。それにしても、瑠璃のタダ飯を強請るなんて図々しいっての。」

「輪もいつも食べてるよね?」

「そこは親友特権ってやつ。」

 

 と輪は笑った。するとそれに釣られて瑠璃も笑った。

 

「そう言えば、まだこっちに残ってたの?新聞部はどうしたの?」

「あれ、言ってなかったっけ?私辞めたの。」

 

 輪はリディアンの校舎移転に伴って新聞部を退部した。

 途中から幽霊部員になっており、このままぐだぐだと居続けるくらいならスパッと辞めたほうが良いとの事だった。

 

「まあ向こうには何の未練もないし、これで放課後いっぱい瑠璃といられる〜!」 

「あはは……。あれ?そういえばクリスは?」

「それが逃げられちゃってねぇ。」

 

 輪がやれやれと呆れるジェスチャーをする。

 ちなみにこのリディアンはルナアタック後、崩壊した校舎の代わりに廃校となった学校の敷地を政府が買取り、そのを校舎として運営している。

 生徒が6割まで減少したが、皆いつもの学校生活を送っている。

 

 もちろん良い事もあった。

 クリスが同じクラスに編入し、クラスメイトとなった。

 ちなみに自分達が双子である事は認知されておらず、学校内で知っているのは響、翼、未来、弓美、創世、詩織の6名である。

 もちろん同級生の中では知っているのは輪だけであり、瑠璃とクリスは幼馴染で、昔お姉ちゃんと呼んでいたということになっている。

 しかし、クリスは今までの事もあり、クラスに馴染もうとせず逃げている。

 いつも瑠璃と輪が匿っているのだが、そろそろ他のクラスメイトと仲良くなってもらえないかと考えている。

 

「じゃあクリスを探そっか。」

「りょーかい!」

 

 輪が大袈裟に敬礼する。二人はクリス捜索の為、校舎中を周る。

 

「そういえば、輪ってクリスといつの間に仲良くなったね。」

「あぁ……そうだね。」

 

 輪は元々クリスが好きではなかった。というのもクリスが瑠璃との関係を侮辱したからであって、クリスから謝罪されてからはお互いに水に流すという事で和解した。

 それからクリスが入学した時も、クリスを何かと手助けしている。

 

「けど、あの子はただ純粋なだけなんだよ。まあそれでも、あのじゃじゃ馬っぷりには参るけどね。」

「あはは……。」

 

 少し談笑しながら周るが、すぐに情報が入った。

 

「あれ?あなたさっき翼さんと教室にいたよね?」

「え?お姉ちゃんのクラスに?」

「あ、もしかして翼さんの妹さん?!ごめんなさい!あまりにも後輩の子に似てたからてっきり……。」

 

 その後輩の子の正体がクリスであると容易に辿り着いた。

 

「いえいえ、よく言われますから。教えていただきありがとうございます。」

「ううん。こっちこそごめんね!」

 

 上級生が去る。

 

「よし、じゃあ行こうか。」

 

 2人は翼のクラスである教室へ向かう。話し声が聞こえているので戸をそっと開けて、覗き見る。中ではクリスが翼とそのクラスメイト3人と、翼のクラスの出し物の準備の手伝いをしている。意外と満更でもないクリスの表情に、2人は邪魔してはいけないと思い、そっと閉めた。

 

「あれを見せられちゃあ……ね?」

「そう……だね。今はクリスのやりたいようにしよう。」

「うん。ただその前に……」

 

 輪がカメラを出してクリスの写真を撮った。だが輪が昨夜のライブの一件でフラッシュの設定を変え忘れていた為にフラッシュを炊いてしまった。

 

「ちょっと輪……!」

「ヤバっ……」

「「あっ……」」

 

 クリスがこっちを見ていた。完全にバレている。僅かにしか開いていなかった戸が急に全開になる。

 

「「のわあああぁぁ!!」」

 

 支えるものが急に無くなり前に倒れる2人。輪が下になり、瑠璃がその上に倒れる形になるが、輪の後頭部に瑠璃の胸が押し当たり、「にゃふっ」というだらしないうめき声が聞こえた。

 

「覗き見とは感心しないな。」

「お、お姉ちゃん……」

 

 声がした方を見上げると翼が腕を組んで立っている。

 

「ちょっと、瑠璃。重い。特に胸。当たってる。」

「あ、ごめん!」

 

 輪の後頭部に柔らかい果実が当たっている。男からしてみれば羨ましいシチュエーションなのだろうが、瑠璃より大きくない輪にとってはコンプレックスである。

 瑠璃が慌てて立つと、押してくるものが無くなり、自由となった身体を起こす輪。

 

「いやぁ……クリスがいないもので、探してたらここに。ついでにいい写真も撮らせてもらいました。」

「てめえぇ!消しやがれ!」

 

 輪は瑠璃を退かして逃げる。クリスが顔を真っ赤にして追いかける。

 

「何だ、雪音め。すっかり馴染んでいるじゃないか。」

「そう……なのかな?」

 

 翼は一連のやり取りを見て和やかに見ている。ただ、こんな日常が続けばいいのに、そうおもう瑠璃だった。

 

「逃げんな悪徳パパラッチがああぁーーー!!」

「逃げろ逃げろー!」

 

 なおこの一連の騒動はクリスが大きく騒いでしまった為、多くの野次馬が集まった。当然その中には響と未来、後輩トリオもいた。

 

「クリスちゃんと輪さんだ!」

「これ止めなくて大丈夫なの?」

「良いんじゃない?アニメみたいな展開で面白いし。」

「キネクリ先輩もう馴染んでるじゃん。」

「良かったですわね。」

 

 輪の逃走劇は教員が来た事で終結され、両者は指導室で叱られ反省文を書かされた。それにより帰りが遅くなり、それを瑠璃経由で聞いた弦十郎も呆れたという。

 

 

 




というわけで同じレセプターチルドレンからジャンヌさん参戦です。
設定等は私の改竄となっています。

ジャンヌ・ベルナール

マリアと同い年で同じレセプターチルドレン。
武装集団フィーネの中では唯一ギアを持たないが、ナスターシャの助手として暗躍する。
機械に精通しており、独自のセキュリティやナスターシャの車椅子などもお手製。
バイデントに執着しているらしく、浅からぬ因縁がある。


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再臨の夜明け

さあ、G編になったからにはどんどん瑠璃を活躍させるぞー!




『いいか!今夜中に終わらせるつもりでいくぞ!』

『明日も学校があるのに、夜半の出動を強いてしまい、すみません。』

「気にしないでください。これが私達、防人の務めです。」

 

 四人の装者は今、廃病院にいる。

 調査によればここに物資が搬入されているという痕跡を見つけ、そこに武装集団フィーネが潜伏場所として使っている可能性が高いという事で、奇襲をかけるとのこと。

 なお、明日も学校がある為、緒川は申し訳なさそうに謝罪するも翼は勇ましく返す。

 

「にしても、何か雰囲気出てるね……。本当に幽霊が出るなんてこと無いよね?」

「は、はぁ?姉ちゃんビビってるのか?」

 

 夜の病院にありがちなイメージを瑠璃の口から溢れるが、クリスはこれを否定……

 

「いやぁクリスちゃん。足震えてるよ。」

 

 クリスが分かりやすくビビっているのが見て取れる。

 

「こ、怖くねえし?武者震いってやつだ!」

 

 強がるクリスであるが、実際この浜崎病院は心霊スポットとして有名なのである。

 元々医療費の価格破壊を掲げていたらしいのだが、度重なる医療ミスと院長が、事故に見せかけて患者を殺害する事件までもが発生した事でお取り潰しになったという背景がある。

 だがそこに物資が搬入されているとなると武装集団フィーネがいる可能性は高い。

 彼女達のこれ以上のテロリズムを阻止する為、四人は病院の中へと進んだ。

 

 先頭から翼、響、瑠璃、クリスの順に進んでいくが、突如赤い霧が発生する。

 どうやらビンゴだったようだ。

 

「意外と早い歓迎だな。」

 

 その先にはノイズが待ち構えていた。

 

 Killter Ichaival Tron……

 

 クリスがイチイバルのギアを纏うと、他の三人もそれぞれのギアを纏い、ノイズと交戦を開始する。

 両腕の装甲をガトリングへと変え、ノイズに風穴を開けていく。

 瑠璃は病院の廊下ということもあり、槍を短く持つ事でリーチは削れるが、壁などに引っ掛からずに済み、的確にノイズを穿つ。

 しかし、ノイズは次々と現れ、その数が減った様子は見られない。

 

「お姉ちゃん、このノイズ……」

「ああ、間違いなく制御されている。立花は雪音のカバー、瑠璃は私と共に先陣に切り込むぞ!」

 

 翼と瑠璃が前衛に突撃、ノイズを蹴散らし、後衛のクリスが遠距離で撃ち抜き、響がクリスの護衛の如く、クリスに近づくノイズを迎撃する。

 しかし、数が減っている様子が見られず、徐々に追い込まれていき、次第に息も上がっていく。

 

「なんでこんなに手間取るんだ?!」

「ギアの出力が落ちている……?!」

 

 それは二課でも確認され、翼と同じ結論に至っている。

 だがそれでもノイズを蹴散らしていくが、四人は既に疲労困憊の状態となってしまっている。

 さらに突然怪物が襲いかかり、響と翼、瑠璃が攻撃を仕掛ける。

 だがいずれの攻撃でも炭素となって崩れないどころか、効いている様子すらない。

 

「嘘……効いてない……?!」

「アームドギアで迎撃したんだぞ?!」

「なのに何故炭素と砕けない?!」

「まさか……ノイズじゃない?!」

 

 装者達が動揺すると、怪物の奥からパチパチと拍手の音と共に、白衣の男が現れる。

 

「見事ですよ。まさか本当にバイデントを纏う者がこの世にいたとは。実際にこの目でどんな人物か確かめたくなり、出てきてしまいましたが、バイザーで顔を隠されてしまってはね。」

「その声ってまさか……?!」

「あいつは……!」

 

 クリスと響には聞き覚えがある。

 岩国へソロモンの杖を護送していた時にアメリカから出向してきたウェル博士その人だ。

 ウェル博士は怪物ことネフィリムをゲージの中に入れる。

 

「ウェル博士!」

「あの人、岩国で行方不明って聞いてたけど、何で……?!」

 

 瑠璃は名前を聞いた程度であるが、何故ここにおり、自分達と敵対的行動を取っているのか理解出来なかった。

 

「じゃあ岩国でのノイズの襲撃は全部……!」

「明かしてしまえば単純な仕掛けです。あの時既にアタッシュケースにソロモンの杖はなく、コートの内側にて隠し持っていたんですよ。」

 

 つまりノイズ襲撃はソロモンの杖を奪取する為の自作自演であると自ら種明かしをする。

 

「バビロニアの宝物庫よりノイズを呼び出し、制御することを可能にするなど、この杖を置いて他にありません。そして……」

 

 まるで舞台の演出かと思わせるような口ぶりと素振りでノイズを追加で召喚する。

 

「この杖の所有者は、今や自分こそがふさわしい。そう思いませんか?」

 

 わけのわからない暴論に腹を立てるクリス。

 

「思うかよッ!」

「待って!クリ……」

 

 瑠璃は大技を使うクリスを止めようとするも、既に遅く、腰部のアーマーから小型ミサイルを放ち、ノイズを蹴散らしたが……

 

「ぐあああぁぁっ!!」

 

 適合率が低下した状態で技を使ったばかりにギアのバックファイアに襲われ、激痛が走る。

 瑠璃がクリスに駆け寄り、支える。

 

「クリス!大丈夫?!」 

「クッソ……!何でこっちがズタボロなんだよ……?!」

(この状況で出力の大きな技を使えば、最悪の場合、身に纏ったシンフォギアに殺されかねない……!)

(でもこのままじゃ……どうしたら?!)

 

 

 翼は冷静に分析し、瑠璃はどうしたものかと考えるが、空から音が聞こえ、響がそれに気付くとなんとノイズがネフィリムが入ったゲージを気球のように運んでいるではないか。

 

「姉ちゃん、あたしの事はいい!あれを撃ち落としてくれ!」

「分かった!」

「させるわけないでしょう!」

 

 クリスを座らせて、気球ノイズを破壊しようと槍を投擲する寸前にノイズに囲まれてしまう。

 

「お姉ちゃん!私の代わりにあれを追って!」

「心得た!立花はその男の確保だ!」

 

 気球ノイズの対処は翼に委ね、瑠璃は自身とクリスを囲うノイズを黒槍で対処する。

 適合率低下によってバックファイアによるダメージが残っている以上、片手で二本の槍を扱うのが体力的にも厳しい為に、白槍は左前腕の装甲へと戻す。

 しかしこれが功を奏したようで、疲弊した状態で二本を片手で同時に扱う時より、スムーズにノイズを屠っている。

 さらにバイザーの戦闘補助によって接近してくるノイズを的確に対処していき、最後の一体を槍の投擲で葬る。

 しかし、クリスを守る為に一人でノイズと戦った代償は決して少なくなかった。

 瑠璃は黒槍を杖のように支え、身体を預けている。

 

「確かに……これは……ちょっとしんどい……かな……。」

「悪い……姉ちゃん。」

 

 息絶え絶えの瑠璃を見ているクリスは、瑠璃の制止を無視して大技を使ったばかりに、瑠璃に要らぬ負担を掛けてしまったことに後悔している。

 

「大丈夫……だよ……。それに……ほら。」

 

 響がウェルを確保、ソロモンの杖はクリスに預けられ、翼の方も緊急浮上した仮設二課の潜水艦を足場に飛翔し、飛行ノイズを撃破した。

 浮上した仮設二課の潜水艦を利用して高く飛翔した翼を阻む者はいなくなり、ゲージに手を伸ばしたその時、黒いガングニールに横槍を入れられ、翼はそのまま海へと落ちてしまう。

 

「お姉ちゃん!」

 

 横槍を入れたマリアは海上にガングニール停止したガングニールの上に降り立ち、ゲージをキャッチする。

 

「時間どおりですよ。フィーネ……。」

「フィーネ……?!」

「フィーネだと?!」

 

 ウェルがマリアを呼ぶ台詞に瑠璃とクリスが反応する。

 

「終わりを意味する名は、我々組織の象徴であり、彼女の二つ名でもある。」

「まさか……じゃあ、あの人が……?」

「新たに目覚めし、再誕したフィーネです!」

 

 朝日をバックに、水面から浮上しているガングニールの上に立つマリア、それはフィーネがここに再臨したという意味だった。




秋桜祭まで輪の出番がありません。

もしかしたらG編、輪の出番少ないかも……?

ご感想お待ちしております。


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冥槍と烈槍

早速ウェルさんには身体を張って貰いましょう。


 武装集団フィーネの正体、それが再臨したフィーネが率いていると発覚した二課では弦十郎が信じられないような形相でモニターを見ていた。

 

「またしても先史文明期の亡霊が、今に生きる俺たちに立ちはだかるのか……。俺たちはまた戦わなければならないのか……。了子君……!」

 

 運命の悪戯とはよく言うものであろう。

 外ではフィーネを名乗ったマリアを、響はまだ信じられずにいる。

 

「嘘ですよ……。だってあの時、了子さんは……」

 

 胸の歌を信じなさい。

 最期に響に託すように散ったフィーネ。

 だからこの様に、再び敵として相対する事になったのが信じられない。

 だがそんな響をお構いなしにウェルが言う。

 

「リインカーネイション。」

「遺伝子にフィーネの刻印を持つものを魂の器とし、永遠の刹那に存在し続ける輪廻転生システム……!」

「そんな……じゃあ、あのアーティストだったマリアさんは?」

「もうどこにもいない……そういう事になる。」

 

 そんなマリアであるが、ゲージを死守したとはいえ目に映る敵の装者は三人で数的には圧倒的に不利。

 さらにその内の一人はバイデントを纏っており、その強さはアリーナでの戦いで学んだ為、まともに相手にするわけにはいかない。

 だがそう考える内に水柱が発生し、そこから翼が現れた。

 脚部のバーニアを起動させ水面上を駆け、マリアに斬りかかる。

 

「お姉ちゃ……ぅっ……!」

 

 翼の加勢に行こうとするが、適合率低下によるギアのバックファイアのダメージが残っており、立っているのがやっとだった。

 

「待てよ!いくら姉ちゃんでもそんなボロボロで助太刀に行っても!」

「マリアがここにいるって事は、少なくともあの二人が来ちゃう!」

 

 前回は詰めたと思った矢先に調と切歌に奇襲を掛けられた。現在二人は何処にいるのか不明だがいつ現れてもおかしくない。

 それに気がついたクリスは、瑠璃を抱え潜水艦上まで移動しようとするが、いきなり瑠璃を担ぎ出し、更にその体勢が前から見たらギアの露出も相まって尻丸出しのような状態になっている。

 

「うわぁっ!ちょっと、クリス?!」

「行くぞ、しっかり掴まってろよ姉ちゃん!」

 

 そう言うと、クリスは瑠璃を抱えて潜水艦上へ移動し、響とウェルを連行する形で潜水艦上へ移動した。

 

 翼とマリアの一騎打ちは潜水艦上へと移動しており、その余波が艦内にも伝わっている。

 このままでは被害が大きくなる為、倒すのではなく、振り払う方向へ切り替えた。

 翼は逆立ちの状態から脚を広げ、駒のように高速回転すると、足のブレードを展開して回る剣のようにマリアを攻撃する。

 変則的な攻撃でマリアの体勢を崩したが、そんな事は知らんと言わんばかりに、マントで弾き返され転倒してしまう。

 

「マイター……っ!」

 

 今度は反撃しようとしたマリアだが、突然投擲してきた黒槍をマントで弾き返す。

 

「そっちのターンなんて迎えさせない……!」

「ずっとあたしらのターンだ!」

「やはり来たか!バイデントの装者!」 

 

 クリスに降ろしてもらった瞬間に、黒槍を投擲していた瑠璃だった。

 

「無茶はしないでお姉ちゃん!あの時足をやられたでしょう?」

 

 マリアに横槍を入れられた時、右脚をやられていた事を瑠璃は見ており、翼は十分とは言えない状態で戦いに臨んでいた。

 翼は立ち上がると、刀を構える。

 

「瑠璃、共に参るぞ!」

「了解!」

 

 適合率低下が懸念されているとはいえ、二人でなら勝機は十分にある。

 当然二人は潜水艦損傷を避ける為に振り払う方向で戦いに臨む。

 瑠璃は左前腕のアームを白槍に展開させると、高く飛びかかり、左手に持って白槍を突き出すと同時に翼は刀を水平に振るう。

 マリアはガングニールを突き出して白槍の穂先を受け止め、刀はマントで弾く。

 だが瑠璃は右手をクイッと動かすと、マリアが弾いた黒槍の穂先がマリアに向かい、そのまま突撃するも、刀を弾いた勢いをそのままに黒槍も払う。

 だがマントの守りが間に合わない内に瑠璃は飛び蹴り、マリアはガングニールで受け止めるも、後ろに下がる。

 固い防御を何とか一瞬の隙を狙って崩す事は出来たが

 

「何とイガリマアアァァーー!!」

 

 上空から切歌と調がこのタイミングで奇襲を掛けてきた。

 マリアへの攻撃で後退させた時、クリスとの距離も同時に離れてしまい、付け入る隙を与えてしまった。

 瑠璃はしまったとクリスの方を振り返るが、この隙をマリアは見逃さなかった。

 

「余所見とは呑気ね!」

 

 先程の仕返しと言わんばかりに蹴り飛ばされ、壁に背中を打ち付けてしまう。

 しかも瑠璃の懸念通り、切歌がソロモンの杖を持つクリスを狙った。

 今のクリスはソロモンの杖で片手を塞がれ、さらに苦手な白兵戦に持ち込まれてしまい、苦戦する。

 響もウェルを取り返され、交戦している。

 次第にクリスは懐に入られ、左の脇腹を蹴り飛ばされてしまい倒される。

 ソロモンの杖が宙を舞い、調が響との交戦を振り切ってキャッチしようとした時だった。

 

「そりゃぁっ!」

 

 ブーメランのように舞うバイデントの黒槍が、ソロモンの杖を弾き、さらに高く宙を舞う。

 

「響ちゃん、クリスをお願い!ちょっと……失礼します!」

「ちょ、何を……ぐふぇっ!」

 

 瑠璃はウェルの肩を踏み台にして高く飛び、切歌も調のツインテールのアームを足場に跳躍する。

 二人の手がソロモンの杖に向かって伸び、もう少しで届く所……

 

「があぁっ!」

 

 何と上空から降りてきたジャンヌが瑠璃の背中にタックルし、ソロモンの杖を奪取されてしまう。

 瑠璃はそのまま艦上に強く叩きつけられてしまう。

 

「瑠璃さん!!」

 

 クリスに駆け寄った響が叫んだ。

 

「ジャンヌ……!」

「グッドタイミングなのデス!」

「調も切歌も、ナイスコンビネーションだったわ。」

 

 ジャンヌは二人に笑みを見せ、ソロモンの杖を調に渡す。

 

「これがバイデントの装者か。」

 

 気を失った瑠璃の頭を掴むと、顔を隠しているバイザーを破壊して顔を確認する。

 

「え……。」

「デデっ?!あいつにそっくりデス!」

 

 調、切歌、ジャンヌは瑠璃が風鳴という名字であるにも関わらず、顔がクリスにそっくりである事に驚いた。

 

「何でデスか?!まさかドッペルゲンガーデスか?!」

「さあね。でも一先ずバイデントのギアは返してもら……」

「瑠璃さんを放せえええぇぇ!!」

 

 ジャンヌが瑠璃の響が真正面から殴り掛かって来た。

 咄嗟の特攻で調と切歌は反応が遅れ、防ごうとするが弾き飛ばされてしまい、ジャンヌも身を翻して避ける。

 響は同時に瑠璃を抱えて助け出すと、高く飛んで再びクリスの背に立つ。

 同じタイミングでクリスが意識を取り戻して立ち上がる。

 

「あなた達はいったい何を?!」

 

 響が問いただすと調が答える。

 

「正義では守れないものを守るために。」

 

 言い切ると突然上空からエアキャリアが出現し、ローターから発生した強風が煽る。

 

 ジャンヌがウェルを抱え、調がソロモンの杖を手にし、エアキャリアから降ろされたロープを4人は掴んで離脱した。

 

「クソったれぇ!」

 

 このままみすみす逃してたまるかと、ボウガンをスナイパーライフルに可変し、スコープを覗き見てエアキャリアを狙って構える。

 

 【RED HOT BLAZE】

 

「ソロモンの杖を返しやがれ……!」

 

 ロックオンして引金を引こうとした瞬間、エアキャリアの姿が忽然と消えた。

 

「何だと……」

「クリスちゃん……」

 

 イチイバルでも捉えられず、二課の方でも反応途絶してしまい、これ以上探すのは不可能と判断される。

 

 

 一方、エアキャリア内の操縦席にいるナスターシャのコックピットに、赤い石柱、つまりギアのペンダントが装着されている。

 この中に聖遺物の欠片が入っている。

 

 

(神獣鏡の機能解析の過程で手に入れたステルステクノロジー……。私達のアドバンテージは大きくても、同時にはかなく、脆い……)

 

 突然咳き込むと、口元を抑えていたナスターシャの手に血が着いていた。

 最早残された時間がないという証拠だ。

 

「急がねば……はかなく脆いものは他にもあるのだから……」

 

 エアキャリアに搭乗した5人だったが、アジトを押さえられてしまった事に腹を立てたジャンヌがウェルの胸ぐらを掴んで殴った。

 

「まんまとアジトを嗅ぎつけられるという下手を打つとはな、Dr.ウェル!」

「連中にアジトを押さえられたら、計画実行までどこに身を潜めればいいんデスか?!」

 

 切歌もジャンヌと同じくウェルに怒りを向けるが、マリアに制止される。

 

「おやめなさい。ジャンヌも……こんなことをしたって何も変わらないのだから。」

「だがマリア……」 

「驚きましたよ。謝罪の機会すらくれないのですから。」

 『虎の子を守れたのが勿怪の幸い。とは言え、アジトを押さえられた今、ネフィリムに与えるエサがないのが我々にとって大きな痛手です。』

 

 ナスターシャから小型モニターを介して話す。

 調はネフィリムの方を見る。

 

「今は大人しくしてても、いつまたお腹を空かせて暴れだすかわからない……。」

 

 ここで立ち上がり、得意げに襟を正すウェル。

 

「持ち出した餌こそ失えど、全ての策を失ったわけではありません。」

 

 この時、装者のペンダントを見て下卑た笑みを浮かべていた。




咄嗟に出た大胆な行動でウェルの怒りを買わなきゃいいんですが……
 
感想お待ちしております。


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思惑と秋桜祭開幕

バイデントを巡って良からぬ事が起こりそうな予感……


 柴田事務次官から今回のテロ組織、武装集団フィーネについて新たな情報が送られた。

 

「では、自らをフィーネと名乗ったテロ組織は、米国政府に所属していた科学者たちによって構成されていると?」

『正しくは、米国聖遺物研究機関『F.I.S.』の一部職員が統率を離れ暴走した集団、という事らしい。』

 

 ちなみに柴田事務次官は蕎麦を啜りながらこの情報を提供している。

 何でも蕎麦好きだからなんだとか。

 

「ソロモンの杖と共に行方知れずとなり、そして再び現れたウェル博士も、F.I.S.所属の研究者の一人……。」 

『こいつはあくまでも噂だが、F.I.S.ってのは日本政府の情報開示以前より存在しているとの事だ。』

「つまり米国と通謀していた彼女が、フィーネが由来となる研究機関ですか?」

『出自がそんなだからな。連中がフィーネの名を冠する道理もあるのかもしれん。テロ組織には似つかわしくないこれまでの行動、存外周到に仕組まれているのかもしれないな。』

 

 そう言うと再び蕎麦を啜る。

 

『ところで、お宅の娘さんも装者になったそうだな?』

「ええ。つい最近ですが、それが何か?」

『実はな、以前に米国政府がお宅の娘さんが所有するバイデントの返還を要求して来た事があってな。』

「なっ……?!」

 

 柴田が言うにはバイデントの装者である瑠璃が先のライブ中継にほんの僅かではあるがそれが映ったと分かるや否や、日本政府に対してバイデントの返還を要求して来たそうだ。

 さらにバイデントはかつてF.I.S.が研究の為に極秘理に所有していたとの事だった。 

 

『ところが急に引き渡しの話は取り下げたそうだ。あの米国があっさり引き下がる辺り……これがどうもきな臭い……。』

「まさか……米国政府が瑠璃を狙う可能性が?!」

『否定出来んな。奴らならそれくらいの事は平気でやるだろう。』

 

 広木防衛大臣の暗殺、フィーネの暗殺未遂からそれくらいの事はやりかねないだろうと想像はつく。

 

「分かりました。情報提供、感謝します。」

 

 柴田との通信が切れる。

 その途端、弦十郎は頭を抱えた。

 

(何でこった……まさかバイデントの出処にそんな事が……!)

 

 恐らく米国政府が急に引き下がったのも、理由があると考えるのが妥当だろう。

 了子が過去にバイデントの研究に関わった適合者候補を含めて全員何かしらの不幸な出来事があったと言っていた。

 つまりバイデントの研究で何か不都合な事実があり、返還要求をし続けていればそれが明るみになる事を恐れた米国政府が、秘密裏に奪取を目論んでいるのではないかと思われる。

 だが瑠璃はバイデントを唯一扱える適合者であり、恐らく捕獲対象に含まれている恐れもある。

 そうなれば瑠璃は米国で奴隷のような仕打ちを受けてもおかしくない。

 

「不本意だが……瑠璃に護衛をつけさせるしかないか。」

 

 瑠璃を守るエージェントはいるが、娘の自由を奪う事になるのが心苦しかったが、守る為には致し方ない。

 弦十郎は早速、信用出来るエージェントを瑠璃の護衛として選出し、彼らになるべく瑠璃の視界に入らないように伝える。

 その後、弦十郎は瑠璃が眠っているメディカルルームへと足を運んだ。

 

 

 

 ジャンヌのタックルを受け、意識を失っていた瑠璃はメディカルルームに運ばれたが、目を覚ました。

 だが起きた時間には既に登校時間を過ぎていた為、今日は病欠ということになった。

 今は弦十郎が様子を見に来ている。

 

「もう大丈夫か?」

「うん……。」

 

 瑠璃は浮かない顔をしていた。

 というのも、マリアとの戦いに目が行き過ぎてしまい、クリスを切歌と調の奇襲から守れなかった事に悔しさを感じていた。

 

「守れなかった……。」

「ん?」

「あ、ううん。何でもない。」

 

 瑠璃は無理矢理に笑顔を振る舞うが、弦十郎にはお見通しだった。

 

「瑠璃、今回の事で自分を責めているんじゃないか?」

 

 図星を突かれ、落ち込む瑠璃。

 

「うん……。あの時、クリスを守れなかったのが悔しくて……。マリアに攻撃するのに目が行っちゃって、私クリスの守りを……」

「それは自惚れというものだな。」

「え……?」

 

 弦十郎の方を向く。

 

「クリス君は君に守られてばかりのような、そんなヤワな子ではない。そこを履き違えるな。」

「うん……。」

「だが、初陣といい、今回と言い、短期間でこれ程の事をやって退けたんだ。もっと喜んで良いんだぞ。」

 

 父親として娘を褒めた。

 

「う、うん……。ありがとう。」 

 

 瑠璃に笑みが戻ると弦十郎も笑った。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 遂に開催された秋桜祭。

 色んな出店やその客引きの声だけでなく学生だけでなく、その家族や知り合い、一般の人間等、多くの人がリディアンに来ている為、かなり賑わっておりある意味お祭り並みに人が多い。

 

「お待たせしました。こちらチョコバナナクレープと、イチゴクリームになります。」

 

 瑠璃はクレープ屋の出店で調理しており、出来上がった商品を渡している。

 その評判を聞きつけて、自分達も賞味したいという人達が長蛇の列をなしている。

 

「な、何で急にこんなに人が……?!」

「そりゃあ瑠璃のクレープ食べに来た人達でしょ。結構評判になってるよ。あ、次はフルーツクリームね。」

 

 会計を務める輪はオーダーも取る役割を担っている。

 

「そう言えば、小夜さん来るの?」

「うん。その為に休みを入れたって言ってたけど……なかなか来ないなぁ。」

 

 

 その小夜はもうとっくに来ていたのだが色々出店を周っていた。

 

「さてと、まだまだ周るで〜!けんどそろそろ輪の出店にも行かんと。」

 

 しおりを手に瑠璃達の出店を探す。

 だが前を見ていなかった為に曲がろうとした時……

 

「切ちゃん前!」

 

 出会い頭に金髪少女とぶつかってしまう。

 

「しまった、うちとした事が……。大丈夫?」

「切ちゃん大丈夫?!」

「デデデデース!ぁ……あたしのアイスが……」

 

 小夜とぶつかってしまった金髪の子供に声を掛けたが、それよりも落としてしまったアイスを見て今にも死にそうな顔をしていた。

 というか小夜がぶつかった相手が切歌とツインテール少女の調だった。

 

「あっ!ホンマにごめん!アイス駄目にしてしもうて!」

「アイス……」

(あ、駄目だ。こりゃ聞いとらんな。)

「な、なあ。もし良かったらうちに弁償させてくれんかいな?」

 

 すると途端に喜ぶ金髪少女。

 

「デース?!良いんデスか?!」

「勿論や。そうでもしないとうちの気が収まらんわ。それにお詫びも兼ねて何か奢っちゃる!」

「デース!」

 

 切歌は喜んでいたが、調はじーっと小夜を見ている。

 

「どないしたん?」

「信用できない……。話し方とか胡散臭い……。」

「おーう。そんなストレートに言われると、流石のお姉さんも傷つくで。」

 

 とてもそんな風には見えないが、小夜にとっては本当に他意は無い。

 

「でもまあ正直者のお嬢ちゃんにも特別に奢っちゃるで!」

「でも私達には……やる事がある。」

「ん?何か事情があるん?」

 

 調と切歌は元々ネフィリムの餌である聖遺物を確保する為に、二課のギアペンダントを奪いにここに潜り込んだのだが、調が強硬手段に出る前に切歌が慌てて調と小夜の間に入る。

 

「え〜とデスね!あたし達、今上手いもんマップを完成させる為にここを周ってるんデス!」

 

 切歌がカモフラージュにしては渾身の出来である上手いもんマップを広げて見せる。

 ただまだ周った証である赤印が半分以下もない。

 

「何や!まだ全然周れてへんやん!よし、その上手いもんマップ作り協力しちゃる!ほな行くで〜!」

 

 切歌はノリノリに、調はため息をついて渋々ついて行ったが、小夜の妹の親友がバイデントの装者であるとはこの時は知る由もない。

 




小夜さんが出て来ると装者達はいつもろくな事にならない……

感想お待ちしております。



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帰る場所と夜空に差しこむ日輪の二重奏

今回、瑠璃と輪が作中初のデュエット!

何を歌ってるかは想像におまかせします


 突然だが今、瑠璃は非常に気まずい空気に戸惑いながらも調理している。

 何故かというと、小夜が連れてきた子供が今まさに敵対している調と切歌だったからだ。

 だがここでやりあったらお互い何の得もない為、切歌と調はそのまま自然な形で注文する。

 二人のお代は小夜から受け取った為、輪はオーダーを伝える。

 ちなみに他の装者三人はこの場におらず、小夜は勿論、輪も事情を知らない。

 

(まさか小夜さんがあの二人を連れてくるなんて……。)

(迂闊だった……。)

(食べ物に罪はないけど、何だか美味しく食べられそうにないのデス……。)

(何かあるな……この三人。)

 

 輪はこの重い空気を察知したが、場所が場所の為、何も言わない。

 だが瑠璃は手際よく作り、あっという間に注文の品を作り上げる。

 

「お待たせしました。チョコ生クリームチョコレート増し、チョコバナナクレープとイチゴと生クリームのチョコソース掛けです。」

 

 小夜のチョコレート生クリームチョコ増し、切歌のチョコバナナ生クリーム、調のイチゴ生クリームを渡す。

 

「ほないただきま〜す!」

 

 呑気な声を出すと、チョコ生クリームチョコ増しにかぶりつく。

 切歌と調も恐る恐る一口食べる。

 

「っ……!」

「美味しいデース!」

「よ、良かった……!」

 

 敵であるにも関わらず、瑠璃は作ったクレープを食べて喜んでいる二人を見て嬉しそうにしている。

 やはり食べ物には罪はないということであろう。

 

(程よく薄い皮で形を崩さないように包まれてる……。くどくない生クリーム。みずみずしいイチゴ……。見た目も出来も凄い……。この人、侮れない……!)

 

 一方調は瑠璃を評価すると共に、同じおさんどん係としてライバルが出来た。

 

「風鳴さーん、出水さーん!休憩入ってー!」

「あ……はい!」

 

 瑠璃は制服の上に着ているエプロンと三角巾を脱いで出店から出ると、輪に引っ張られて行った。

 

 

 校舎裏に連れて行かれた瑠璃は、階段に座って輪の尋問攻めに遭い、少しだけ白状した。

 

「え?!じゃああの子達、こないだの……。」

「うん。それに、先日あの二人とまた戦った。」

 

 あの時感じた気まずい空気でただならぬ事情があると見抜いていた輪だったが、まさか敵対組織の、しかもその中にフィーネがいる事には驚いていた。

 

「で、どうすんの?他の三人に言う?」

 

 瑠璃は少し考えた。

 

「私は……」

「ここにいた。」

 

 目の前に調と切歌がいた事に驚いた二人は立ち上がる。

 

「な、何?!口封じ?!って小夜姉は?!」

「帰ってもらった。」

「奢ってもらった恩があるデス。」

「それよりも聞きたい事がある。バイデント、何処で手に入れたの?」

 

 前からバイデントを知っていたようだったので瑠璃も気になっていた。

 

「フィーネから貰った。」

「フィーネから……?」

 

 調がオウム返しに聞く。

 

「フィーネに攫われて、私は操られるがままにバイデントを纏った。だけど、私が意思を取り戻した時、バイデントは応えてくれたの。」

「応えてくれた……?」

「調……?」

 

 調の声に怒りが表れているのを切歌が気付いた。

 輪も瑠璃が意図して地雷を踏んだわけではないとはいえ、不穏な空気になっているのに気づく。

 

「何で……何であなたが……メルの時は……呪い殺したくせに!」

 

 声を荒げる調、突然怒ったことにビクッと怯えた瑠璃。

 輪が気になる事を聞こうとする。

「呪い殺した?それって……」

「いた!雪音さん!登壇お願い!」

「え!ちょっと……」

 

 するとクリスを探していたであろうクラスメイトに引っ張られるが、クリスと誤認されたまま連れて行かれる。

 

「ちょっと!その子は瑠璃だよ!クリスじゃなーい!」

 

 輪が瑠璃を連れ戻しに行った為、取り残された切歌と調だったが……

 

「調!何処へ行くデスか?!」

 

 調は瑠璃が行った方へ向かい、切歌も後を追う。

 

 

 同じ頃、講堂でカラオケ大会が開催されており、盛大に盛り上がっていた。

 

「え〜!まだフルコーラス歌えてないのに〜!」

 

 先程まで弓美がアニソン同好会を設立するという野望を掲げて、詩織、創世と共にコスプレしながら『電光刑事バン』を歌っていたが、残念ながら途中で不合格の鐘がなってしまい、あえなくご退場となった。

 

 そしてクリスも、クリスの歌の評判を聞いていたクラスメイトに登壇してくれと頼まれ、今その舞台に立っている。

 

 席では翼、響、未来、小夜が見ている。

 そして瑠璃もクラスメイトに連れて行かれる形で舞台の袖にまで来たが、本人が舞台に立っていたことでようやく誤解を解くことができたのだが、せっかくのクリスの歌なのでここで聞くことにしていた。

 

 自己紹介を終え、綺麗なイントロが流れるがクリスは緊張の余り、上手く歌えない。

 

「クリスったら……。」

 

 変な所で繊細な所が出た事に呆れる輪だったが……

 

「クリス!」

 

 瑠璃が声を掛け、クリスが振り向く。

 そこには瑠璃と輪、クラスメイトのみんなが応援している。

 瑠璃が応援するように頷くと、クリスは歌い始めた。

 恥じらいが残るが、美しくも可愛らしい歌声にギャラリーは感銘の声が聞こえる。

 

 何で頼まれたのか、それは……

 

 だって、クリスったら楽しそうに歌うんだもん。

 

 以前に瑠璃からそう言われ、そして先程クラスメイトにも同じ事を言われた。

 

(楽しいなぁ……あたし、こんなに楽しく歌を歌えるんだ……。)

 

 今なら分かる。

 歌う事がこんなにも楽しい事に。

 前は歌が嫌いだと言ったクリスだったが、本当は歌が好きだ。

 それに気付かせてくれたのは仲間であり、大好きな姉である。

 

 

(そっか……ここはきっと、あたしが居てもいいところなんだ……)

 

 歌い終わり、観客から盛大な拍手が贈られる。

 判定の結果、なんと新チャンピオンに認定された。

 

「勝ち抜きステージ、新チャンピオン誕生!さあ!次なる挑戦者は?!飛び入りも大歓迎ですよ~!」

 

 それを聞いた輪は瑠璃の背中を押す。

 

「うわぁっ!」

 

 押された事で舞台に立ってしまいスポットライトを浴びてしまう。

 

「おおっと!ここでまさかの飛び入り参加だ〜!」

「え?!いや、私は……」

「二回生の風鳴瑠璃と出水輪のコンビで参戦します!」

 

 突然の飛び入り宣言に巻き込まれただただたじろぐ瑠璃。

 彼女が一番苦手な事、それは注目され目立つ事。

 今まさにその状況になってしまい、今にも泣き出しそうになる。

 次第に始まるイントロ。

 まるで不気味なメロディで闇を、夜を表しているように見える。

 だが瑠璃もクリスの時と同じように上手く歌い出せない。

 そこに輪が歌い出す。

 いつも快活な声色から出るミステリアスな歌声、彼女を知る者なら意外だと驚く。

 

(瑠璃、やろう。二人なら出来るよ。)

(輪……。)

 

 瑠璃も意を決して歌う。

 クリスに勝るとも劣らない美しい歌声で歌い始め、サビに入る直前に、二人の歌声が重なり合う。

 サビに入った直後に別々に分かれるも再び一つに重ね合わせ、闇夜を表した音色が輝かしい朝を迎えるような歌へと変わった。

 

 席から見ていた4人は感嘆する。

 

「瑠璃さんと輪さん、いいコンビですね。」

「ああ、さしずめ夜明けの日輪というところだな。」

 

 二人が歌い終わるが、審査員がチャンピオンであるクリスと甲乙つけ難いとの事でチャンピオンが二組になってしまう。

 

「さあ次なる挑戦者は〜?」

 

 ここにまた二人組で飛び入り参加する者がいた。

 

「チャンピオンに……」

「挑戦デス!」

 

 調と切歌だった。

 

「あ、あの時のちびっこ達!」

 

 小夜が席から調と切歌を指す。

 

「知ってるんですか小夜さん?!」

「何か上手いもんマップ完成させるんや〜!みたいでなぁ。」

 

 装者達はそれが偽装であると判断するが、ここでやり合うわけにはいかない為、二人が何をしでかすか、成り行きを見守るしか出来なかった。

 

 




瑠璃と輪が歌っている曲のモデルは鬼滅のEDです。

これ作ってる時にあれ聞いて、これ二人に合いそうだなと思ったましたw

後悔はない。

ちなみに響や翼は少し前に輪経由で小夜と知り合っています。

ご感想お待ちしております。


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決闘の夜

ストックが無い上にジャンヌさんの戦闘スタイルどうしようか考えてたら遅れてしまいました。

本当に申し訳ない……


 その頃、一人外に出ているジャンヌ。

 というのも調と切歌が独断で二課の装者と戦おうとしていると知り、連れ戻しに来た。

 とは言っても行き先はだいたい分かるのでそこを目指しているのだが……

 

「ここは何処だ?」

 

 土地勘などない外国人が一人で歩き回っていれば迷いこむのも必然である。

 現在住宅街に迷い込むジャンヌである。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 同じ頃、エアキャリアを隠し身を潜めているマリアは、今自分がやっている事は本当に正しいのかと自問自答している。

 

「後悔しているのですか?」

 

 そこにナスターシャが話し掛ける。

 

「大丈夫よマム。私は、私に与えられた使命を全うしてみせる。」

 

 だがその途端に警報が鳴る。

 モニターを見ると米国兵士がアサルトライフルを構えてこちらに侵入してきている。

 

「今度は本国からの追手……。」

「もうここが嗅ぎつけられたの?!」

「異端技術を手にしたと言っても、私達は素人の集団……。訓練されたプロを相手に立ち回れるなどと、思いあがるのは虫が良すぎます。」

 聖遺物も扱えなければただのガラクタとも取れてしまう発言だった。

 ナスターシャは冷静にマリアに伝える。

 

「踏み込まれる前に攻めの枕を取りましょう。マリア、排撃をお願いします。」

 

 つまりガングニールで排除しろというものだ。

 だがガングニールも人を殺められる武器でもあり、マリアはそれにどうしても躊躇する。

 

「ライブ会場の時もそうでした。マリア……、その手を血で染めることを恐れているのですか?」

「マム……私は……。」

「覚悟を決めなさい、マリア。」

 

 マリアの決意と覚悟が試されるこの瞬間、それに水を差す者が現れる。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 カラオケ大会に乱入参加した調と切歌。

 歌う曲はツヴァイウィングのORBITAL BEAT。

 仲間の持ち曲である歌を敵が歌うなど明らかな挑発とも取れる。

 しかし調と切歌の歌う表情を見る限り楽しそうであり、憎む気持ちにはなれない。

 歌い終わると観客の歓声が巻き起こり、審査員達もまた甲乙付けがたい歌声に戸惑うばかりである。

 だが楽しい時間はナスターシャの通信により終わりを告げてしまう。

 

『アジトが特定されました。襲撃者を退けることは出来ましたが、場所を知られた以上、長居は出来ません。私達も移動しますので、こちらの指示するポイントで落ち合いましょう。』

「そんな?!あと少しでペンダントが手に入るかもしれないのデスよ?!」 

『緊急事態です。命令に従いなさい。』

 

 通信が切断されると、二人はやむを得ず舞台から逃げるように降りて行った。

 

「姉ちゃん、あたしらも行くぞ!」

「え、ちょっと!」

 

 クリスに腕を引っ張られながら、二人を追う。

 

 講堂から脱出したが、校門の前に翼が立ちはだかり、後ろからも響、クリス、瑠璃に追いつかれてしまった。

 

「4対2……数ではそっちが有利だけど、ここで戦う事であなた達が失うものの事を考えて。」

 

 生徒の方を見やる調。

 

「おまえ、そんな汚いこと言うのかよ!さっき、あんなに楽しそうに歌ったばかりで……」

「ここで今戦いたくないだけ……。そうデス!決闘デス!然るべき決闘を……」

「何をしているんだ?!」

 

 校門から怒鳴り声が聞こえる。

 そこにいたのはジャンヌだった。

 

「ジャンヌ……!」

「早く撤収するぞ。奴らもここでは戦えない。」

「うん。とにかく、決闘はこちらが告げる。」

 

 そういうと調と切歌はジャンヌと共にリディアンを離れた。

 程なくして弦十郎から通信が入る。

 

『全員そろっているか?ノイズの出現パターンを検知した。ほどなくして反応は消失したが、念のために周辺の調査を行う。』

 

 4人はそのまま調査へと向かった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 飛行しているエアキャリアの中でマリアは己の無力さを嘆いていた。

 侵入してきた米国兵士は、ウェルがノイズを召喚し炭屑と化した。

 だがそれだけではなく、ウェルはたまたま近くに通りかかっていた野球少年達にまで手を掛けてしまった。

 自分が躊躇った事で何の関係もない無垢な子供の命までも奪われてしまったことに深く後悔している。

 

(セレナの遺志を継ぐために、あなたは全てを受け入れたはずですよ、マリア。もう迷っている暇などないのです。)

 

 ナスターシャの言う通り、中途半端な覚悟だった事に気付かされる。

 亡き妹のギアのペンダントを握りしめるマリア。

 

 マリアには妹がいた。

 名はセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。

 F.I.S.のレセプターチルドレンの中でも数少ない正規適合者だったが、ネフィリムの暴走を止める為に絶唱を使い、最期は燃え盛る炎の中、瓦礫と共にその命は果てた。

 今、その妹と唯一の繋がりが『Apple』という歌だけだった。

 

 『まもなくランデブーポイントに到着します。いいですね?』

「OKマム。」

 

 エアキャリアが着陸する。

 だがそのランデブーポイントがかつてルナアタックの激闘の爪痕、カ・ディンギル跡地だった。

 殆ど岩場になってしまった場所からジャンヌが姿を現し手を振る。

 エアキャリアからマリアが降りてきた。 

 

「ジャンヌ、調、切歌!」

 

 マリアが三人の名前を呼ぶと調はマリアに抱きつく。

 

「よかった……!マリアの中のフィーネが覚醒したら、もう会えなくなってしまうから……。」

「フィーネの器となっても、私は私よ。心配しないで。」

 

 そう言って調の頭を撫でてやると切歌もマリアに抱きついた。

 だがジャンヌはマリアの様子を見て違和感を感じる。

 

「マリア、顔色が悪そうだがどうした?」

「何でもないわ。」

 

 ジャンヌは心配するが、ナスターシャが車椅子を動かし、話し掛ける。

 

「3人とも無事で何よりです。さぁ、追いつかれる前に出発しましょう。」

「待ってマム!私達、ペンダントを取り損なってるデス!このまま引き下がれないデスよ!」

「決闘すると、そう約束したから……」

 

 調と切歌がナスターシャに抗議するがジャンヌに遮られる。

 

「2人とも、まだそのような事を。二課だけでなく、米国に追われている以上迂闊には……」

「そのくらいにしましょう。まだ取り返しのつかない状況ではないですし……ねぇ?それに、その子たちの交わしてきた約束、決闘に乗ってみたいのですが……。」

 

 ここでウェルが何か閃いたようだが、邪悪な笑みを浮かべていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ノイズの発生パターンを調査した結果、これまでとは異なる状況に弦十郎は悩む。

 

(遺棄されたアジトと、大量に残されたノイズ被災者の痕跡……。これまでと異なる状況は、何を意味している……。)

「司令、永田町深部電算室による、解析結果が出ました。モニターに回します。」

 

 そこに藤尭があるものをモニターに映し出す。

 それはマリアが使うガングニールと響が使うガングニールの波形パターンを比較したものである。

 結果は寸分違わず同じものである事から両者のガングニールは同じものである事が判明した。

 

「考えられるとすれば、米国政府と通じていた了子さんによってガングニールの一部が持ち出され、作られたものではないでしょうか?」

「だけど妙だな。」

 

 藤尭の意見にクリスが割って入った。

 

「米国政府の連中は、フィーネの研究を狙っていた。F.I.S.なんて機関があって、シンフォギアまで作っているのなら、その必要はないはず……。」

「政府の管理から離れ、暴走しているという現状から察するにF.I.S.は、聖遺物に関する技術や情報を独占し、独自判断で動いているとみて間違いないと思う。」

 

 そんな時、瑠璃が手を挙げる。

 

「あの……。フィーネがF.I.S.に関わってたって……。あの人が私に与えたバイデント……もしかしてF.I.S.でも使われていたんじゃないでしょうか?」

 

 弦十郎が驚いたように聞き返す。

 

「何か気になることでもあるのか?」

「うん。マリアはバイデントを知っていたみたいだし……調っていう子がバイデントを何処で手に入れたのか聞いてきたの。それで話したら……『何であなたが……メルの時は呪い殺したくせに』って……。」

 

 弦十郎の中で点と点が繋がった。

 米国政府が突然バイデント返還要求を取り下げたのがバイデントが絡んでいること、そのメルという少女がバイデントに呪い殺されたという事実。

 

「なる程……そういうことか。」

 

 だがその途端にアラートが鳴り響く。

 

「ノイズ発生パターンを検知!」

「古風な真似を。決闘の合図に狼煙とは!」

「位置特定。ここは?!」

 

 その場所は二課であれば誰もが知る因縁の場所。

 

「東京番外地、特別指定封鎖区域!」

「カ・ディンギル跡地だとぉ?!」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 4人は激闘の跡地へと出動する。

 既に夜であり、夜空には星が彩る。

 だがそこには既に待ち構えていたジャンヌとウェル。

 ウェルがソロモンの杖でノイズを召喚する。

 

 Balwisyall Nescell Gungnir Tron……

 

 4人はそれぞれ詠唱を唄い、ギアを纏う。

 調と切歌がいない事に気付いた響はウェルに問いただす。

 

「調ちゃんと切歌ちゃん達は?!」

「あの子たちは謹慎中です。だからこうして私が出張って来てるのですよ。お友達感覚で計画遂行に支障をきたされては困りますので。」

  

 ノイズが襲い掛かるが、装者達はそれぞれノイズを蹴散らしていく。

 瑠璃は左右の手に持つ槍を水平にすると、ベイゴマのように高速回転し、ノイズを屠る。

 

 【Spiral Circinus】

 

 ノイズを蹴散らした瑠璃だがそこに、もう一人敵が現れる。

 

「あなたは……。」

 

 現れたのはジャンヌだった。

 

「私はジャンヌ・ベルナール。風鳴瑠璃、おまえのギア、貰い受ける!」

 

 ジャンヌが戦闘態勢に入り、瑠璃も槍を構えた。

 




ジャンヌさんの戦闘スタイルを早く決めなくては……

ご感想お待ちしております。


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鮮血と蹂躙

ジャンヌさんの戦闘スタイルが確定しました。


 ジャンヌが素早く接近すると、瑠璃は黒い槍で薙ぎ払うように迎撃、がジャンヌは跳躍して避け、飛び蹴り。

 白槍の柄で受け止め、押し返す。

 

(速い……!目で追えなかった……!偶々槍で防げたけど……次が来る……!)

 

 距離が開いてもジャンヌは素早く走り出し、再び瑠璃に蹴りを入れようとするも、それを避けた瑠璃は逆に蹴り飛ばそうと足を振るうが、ジャンヌが踵でそれを相殺、回し蹴りで瑠璃を吹き飛ばす。

 

(痛ぁっ……。ただの蹴りのはずなのに、威力が違う……!)

 

 瑠璃は立ち上がると再び槍を構えて、ジャンヌに襲い掛かる。

 両者ともに引けを取らない勝負だが、生身の人間が装者と渡り合っている事に不自然さを感じた翼。

 

「奴は、シンフォギアを纏っていないにも関わらず、ギアと渡り合っている?!」

「姉ちゃんだって装者の端くれだ!こんな奴に押されるわけが……まさか!」

 

 生身の少女がギアと渡り合うならギアを上回る力は一つしかない。

 それをウェルが得意げに話す。

 

「今頃気づきましたか!彼女は唯一完全聖遺物を操る者!かつてギリシアの神が纏ったとされる神速の靴、タラリアをねぇ!」

  

 完全聖遺物タラリア、彼女の足に纏う神の具足。

 速さは勿論これで空を跳躍する事も可能にしており、ジャンヌの蹴り技を強靭的なものにしている。

 当然まともにくらえば装者と言えどただでは済まない。

 

(早い……肉眼じゃ捉えきれない……けど!)

 

 瑠璃はバイザーの反応と持ち前の動体視力を頼りに、ジャンヌの蹴り技を的確に捌く。

 後ろからの攻撃もすぐさまに振り向いて、穂先で相殺、さらに回り込まれて回し蹴りをされても、柄で受け止め押し返す。

 

 タラリアの弱点はただ速いだけ、動きさえ読めてしまえば攻撃を捌くことは容易であり、言ってしまえば走るのが速くなるだけで、ソロモンの杖やネフシュタンの鎧のようにこれと言った特殊な搦手はない。

 先程まで痛めつけられていた瑠璃だが、それでも粘り強くジャンヌと勝負を繰り広げている。

 

「ならば……これでどうだ!」

 

 瑠璃のいる方へ虚空に蹴り出すと、その衝撃波がそのまま瑠璃に襲い掛かる。

 連結した槍の穂先にエネルギーを集約し、それを突き出すとエネルギー波を放った。

 

 【Shooting Comet:Twin Burst】

 

 衝撃波とエネルギー波が共に相殺され、再び打ち合いとなる。

 タラリアとバイデントがぶつかる摩擦で火花が散り、戦いの余波が響く。

 だが敵はジャンヌだけではない。

 ネフィリムが二人を目掛けて襲い掛かってきた。

 瑠璃とジャンヌはネフィリムの不意打ちを避け、再び距離が開く。

 ウェルが邪悪な笑みを浮かべている辺り、こちらに行くよう誘導したのだろう。

 ジャンヌがウェルに憤慨する。

 

「何のつもりだ?!戦いの邪魔をするな!」

「邪魔とは失礼な方ですね。せっかく手助けしたというのに……」

「黙れ!私の手で彼女を倒し、バイデントを纏わなければ、メルが報われない!」

 

 調が零した少女の名前、メル。

 

「ねえ、メルって何者なの?もしかして、バイデントと関係ある?」

 

 瑠璃がジャンヌに問う。

 

 

「大アリだ!メルは……妹は元々バイデントの適合者だったんだ!」

 

 

 以前のバイデントの適合者であったメル、彼女はジャンヌの妹であり、既にこの世から去っている。

 肌見放さず持っているロケットにある写真、それは幼き二人の思い出が唯一残った光だった。

 そこにバイデントの適合者が二課にいると知った。

 あり得ない……何故バイデントはメルではなく、その者を選んだのか理解出来なかった。

 故にバイデントをこの手に掴み、メルの手向けとする為に今戦っている。

 だがネフィリムが乱入し、瑠璃を執拗に攻撃を仕掛けている以上、二人の勝負どころではない。

 

「きゃあぁっ!」

 

 ネフィリムのパワーに押され、吹き飛ばされた瑠璃はカ・ディンギルの壁に背を強く打ち、気を失う。

 

「姉ちゃん!この……っ!」

 

 クリスは姉の仇討と言わんばかりの形相でクロスボウを構えたが、飛びかかった時の衝撃でクリスも吹き飛ばされてしまう。

 

「瑠璃!雪音!」

 

 翼がクリスと瑠璃に駆け寄るが、それに気を取られていた隙にノイズの粘着液の餌食となり、身動きが取れなくなってしまう。

 

「Dr.ウェル!貴様私の勝負に横槍を……」

「手に入れたかったのでしょう?呪われたギアを。なら効率良く奪った方が楽ではないですか。」

 

 ウェルの言っていることは正しいのだが、それはジャンヌの矜持に反する行為である。

 ジャンヌは米国政府が隠蔽した月の落下から世界を救うた為にナスターシャと共に蜂起に参加した。しかし、結果はどうか?

 やっている事はテロリズム、そして今しているのはだまし討ち、これでは自分が何の為に戦ってきたのかも理解できなくなってしまう。

 

 動ける装者が響だけになってしまった以上、一人でネフィリムと戦うしかない。

 パワーだけのネフィリムに響の重く、かつ速い攻撃が入りまくる。

 

「ルナアタックの英雄よ!その拳で何を守る?!」

 

 ウェルが何か言っているが気にしない。

 ネフィリムを転倒させ、迫るノイズを蹴散らす。

 

「そうやって君は!誰かを守るための拳で、もっと多くの誰かをぶっ殺して見せるわけだぁ!」

 

 だがこの言葉が刺さったのか、響の中で調に言われた偽善という言葉が蘇る。

 その精神的なダメージが攻撃にも移り、弱く振るった左手の拳がネフィリムに噛み千切られてしまう。

 

「へ……?」

 

 失った左腕から舞う鮮血。

 

「立花ああああああぁぁぁぁ!!」

 

 翼の悲鳴に似た叫び声が木霊する。

 

「あ……ぁ……ああああああぁぁぁぁぁ!!」

「いったああああああぁぁぁ!!パクついたあああぁぁぁ!!シンフォギアを、これでえええぇぇ!!」

 

 左腕を失い錯乱する響に対して、ネフィリムが一部とはいえギアを食らった事を喜んでいるウェル。

 ネフィリムはガングニールを食らったことで進化を迎える。

 

「聞こえるか?覚醒の鼓動!この力がフロンティアを……」

「Dr.ウェル!!」

 

 ジャンヌはウェルの人とは思えない言動に今度ばかりは我慢の限界を迎えた。

 

「何故怒るのです?ネフィリムは我々の計画を成就させる為の……」

「黙れ!貴様の行い、もはや目に余る!」

 

 ジャンヌもこんな形は望んでいなかった。

 敵とはいえギアを人ごとネフィリムの餌にするなど正気の沙汰ではない。

 

「ゥ……ゥゥ……」

 

 だがジャンヌは響の様子がおかしい事に気付く。

 響の心臓に宿るガングニールの破片が輝き出し、そこから響の身体を黒い闇が包み込まれた。

 そう、再び響は破壊衝動の闇に飲み込まれ、暴走した。

 さらに、響は失った腕を新たに生やすように再生させた。

 

「な……腕が……!」

「ギアのエネルギーを腕の形に固定?!まるでアームドギアを形成するように……!」

 

 ジャンヌも翼も、今起きている事態に驚いている。

 このタイミングで瑠璃は意識を取り戻した。

 

「ぅ……あれ……私……。」

「瑠璃!」

「お姉ちゃん……?ってこれ……動けない?!」

 

 気がついたら粘着液で絡め取られてしまっていることに驚いていたが、正面で起きている事態を見る。

 

「あれは……響ちゃん?!何であの時みたいに?!」

「瑠璃!バイデントの槍でこのノイズを破壊しろ!」

「う、うん!」

 

 粘着液の餌食にならずに済んだ二本の槍を遠隔操作で、ノイズと粘着液を斬ると拘束から解放された。

 同じタイミングでクリスも意識を回復させた。

 

「ぅ……何だってんだ……?あいつ、また無茶しやがってんのか?!」

「瑠璃!雪音!立花を止めるぞ!」

「当たり前だ!」

「うん!」

 

 響は暴走すると、先程までの苦戦が嘘のようにネフィリムを一方的に嬲った。

 ウェルがそうはさせまいとソロモンの杖で大型ノイズを召喚したが、たった一撃で葬られ、そのままネフィリムへの蹂躙を再開した。

 ネフィリムの身体を貫き、その心臓を引き抜き、それを放り投げると一撃でネフィリムの身体を破壊した。

 

 これに恐怖したウェルは逃亡し、ジャンヌはマリアからの通信で戦線離脱する。

 この時、ジャンヌは響達を見て暗い顔になっていた。

 

 響は逃げ惑うウェルに興味を示さず、味方である三人の方を見る。

「立花!」

「お前には黒なんて似合わねえよ!」

「響ちゃん!正気に戻って!」

 

 響は三人に襲い掛かるが、瑠璃が槍を連結させて高速回転から発生させたエネルギーの竜巻で迎撃する。

 

 【Harping Tornado】

 

 だが響は怯むどころかそのまま突っ込み、懐に入る。

 

「しま……」

 

 攻撃をくらいそうになるが、クリスのリフレクターで守られ、翼が響に峰打ちをする。

 しかし、これでも抑えきれず響の咆哮の衝撃で3人まとめて吹き飛ばされる。

 

「声だけで……こんなに……」

「相変わらずのバーサーカーっぷりだ!」

 

 だがもう満足したのか響は黒い闇から解き放たれ、ギアを纏う以前の姿に戻り倒れた。

 

 




オリジナル聖遺物追加しました。

ギアとまともにやり合うには完全聖遺物しかないですね。

【瑠璃の楽曲 G編】
STAR TO STAR

仲間を、絆を守る為に装者となった瑠璃の決意と守れるにはどうしたらいいのか葛藤をイメージしたもの。

ご感想お待ちしております。


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悔しさが残る戦い

今回は遅れた分少し長めになります。

また誤字脱字の報告をいただきました。
本当にありがとうございます!
 



 響はメディカルルームで目が覚めた。

 ツヴァイウィングのライブの惨劇から生き残った後、響は同級生から組織的かつ陰湿な虐めに遭った夢を見た。

 あのライブで亡くなった数の内、ノイズの災害で亡くなった数が全体の3分の1で、残りは避難経路を巡った将棋倒しによる圧死、暴行によるものだったと知ったメディアが報道すると、まるで正義と言わんばかりの言葉で被害者のバッシングが始まった。

 それを皮切りに、主にネットリテラシーの無い一般人が正義の断罪者のように心無い言葉で罵倒し、遂にはみんながそう言っているから、という理由で便乗した愚かな人々が正義という名の暴力で痛めつけていった。

 響も被害者の一人であり、最初は心配されていたが同級生のサッカー部キャプテンがたまたま同じライブにいて、ノイズによって将来を奪われてしまった。

 それだけなら何ともなかったが、そのガールフレンドが響が生き残った事にヒステリックに喚いたのがきっかけだった。

 それから響は同級生から心無い言葉で罵倒され虐めの標的になってしまった。

 さらに響の父親の取引先の社長令嬢がノイズによって亡くなり、響の生存を喜んだという知らせを耳にした社長によって取引を白紙にされてしまい、さらに他の部署へたらい回し、腫れ物に触るかのような扱いを受けた。

 そのストレス積もりに積もって、ついに響の母親に手を挙げてしまい、遂に蒸発してしまう。

 その時の記憶が悪夢となって見る事がある。

 だがそれでも挫けなかったのは親友である日だまりが支えてくれたからだ。

 もし彼女がいなかったら、今頃響は違う未来を辿っていただろう。

 だがどの道、その傷は瘡蓋の様に残り続ける。

 響の身体に浮かび上がった、ガングニールの破片のように。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 響が目が覚めたと聞いた瑠璃は、その様子を見に来た。

 

「もうあれから何ともない?」

「大丈夫ですよ!ご飯いっぱい食べて、未来と触れ合えば完全回復です!」

 

 最後のやつは置いておくとして、本当に大丈夫そうであると確認した瑠璃はひとまずホッとした。

 

「響ちゃん、ただでさえ無茶が多いから、あまり未来ちゃんに心配かけちゃ駄目だからね?」

「もちろんですとも〜。」

 

 響の無事を確認した瑠璃はメディカルルームを後にして、弦十郎に報告して、帰ろうとした時翼と会う。

 

「立花の具合はどうだ?」

「いつも通りの響ちゃんだったよ。」

「そうか……。」

 

 翼の表情に翳りが差す。

 

「どうしたの?」

「何でもない。瑠璃、立花の日常を任せる。」

「え?どういう事?」

「戦わせるな、という事だ。」

 

 翼は何も告げず、そのままメディカルルームへと向かった。

 翼の言われた事が理解出来ないまま、そのまま帰宅した。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その頃、逃亡していたウェルは逃げ疲れたのか既にボロボロだった。

 研究者は研究が本業なので戦っていないのだからそれくらいでヘロヘロになるなと言うのが無茶である。

 一応迎えには来てくれるようなのだが今にも死にそうな程にフラフラしている。

 だがそこに光明が差し込んだ。

 

「き、ひひひ……こんな所にあったのかぁ……ネフィリムの心臓……!」

 

 それは響がネフィリムの身体からえぐり出しゴミのように捨てたネフィリムの心臓だった。

 それを見つけた途端、ウェルは絶好調と言わんばかりのテンションになる。

 

「これさえあれば……英雄だぁ……!」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 装者達は全員学生であり、出動がない時は平穏な学園生活を送っている。

 下校中、響、未来、瑠璃、輪、弓美、詩織、創世はお好み焼き屋ふらわーに向かっている。

 

「しっかしまあうら若きJKが粉モノ食べすぎじゃないですかね〜。」

「旨さ断然トップだからねぇ。おばちゃんのお好み焼き。」

「確かに……。何であんなに美味しいんだろう……?」

 

 弓美と響の話に、瑠璃は顎に手を当て考える。

 

「私らもすっかり虜だもんね。」

「お誘いした甲斐がありました。」

 

 創世曰く、響がここの所元気が無いと未来が心配になっていたようで、そこで響を誘い、ついでに偶々通りかかった瑠璃と輪も誘ったということだそう。

 そんなこんなでうら若きJKの他愛もない話で盛り上がっていた時だった。

 突如車が道路を曲がりきれずガードレールにぶつかり大破、爆発する。

 

「な、何?!」

「私が見てく……あっ。」

 

 瑠璃がその先にいるウェルを見つけた。

 恐らくウェルはソロモンの杖を持っている、であればみんなを巻き込むわけには行かない。

 

「輪、みんなを安全な場所まで!響ちゃんも!」

 

 そう言うとウェルの方へ走っていった。

 響を戦わせるな、という翼の指令を思い出した。

 意味は今でも分からないが、翼は冗談は言わない。

 きっと何か理由があると踏んだ瑠璃は響を戦いから遠ざけた。

 

「ウェル博士!」

「バイデント装者……!よりによってお前かぁぁ〜!!」

 

 ウェルはソロモンの杖でノイズを召喚する。

 

 Tearlight Bident Tron……

 

 ギアを纏うと二本の槍でノイズの殲滅に掛かる。

 ジャンヌとの戦いに負けられない、みんなを守りたいという思いを背負って鍛練を積んできた。

 その努力の結集が実を結んでおり、ノイズに抜かれる事なく確実に倒している。

 ノイズを全滅させた瑠璃は黒槍の穂先をウェルに向けて勧告する。

 

「ウェル博士!これ以上罪を重ねる必要はありません!投降してください!」

「冗談じゃない……僕は……僕は英雄にいぃぃ!」

 

 再びノイズを召喚されるのを阻止しようと杖に向けて、黒槍を投擲する。

 だがこれを阻む者がいた。

 

「盾……?」

「なんとノコギリ。この身に纏うシュルシャガナは、 おっかない見た目よりも汎用性に富んでいる。」

 

 ウェルを回収に来た調と切歌がウェルを守った。

 

「それでもやっぱりバイデントが相手はやり辛いデス。」

 

 再び戦わなくてはならないかと、心の中で嘆く瑠璃。

 秋桜祭で楽しそうに歌い、嬉しそうにクレープを食べていた二人の笑顔を見ているから余計に辛くなってしまう。

 だが今は敵同士、瑠璃は一旦頭から離して黒槍を遠隔操作で回収して構える。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一方響は瑠璃に言われて、みんなを避難させているが、それでも戦わなくてはと考え、急に立ち止まってしまう。

 

「響?どうしたの?」

 

 急に立ち止まったのを心配する未来。

 

「ごめん未来。私行くよ。」

 

 そう言うと踵を返して、反対の方へ走っていった。

 

「響!」

 

 だが未来も追いかけてしまう。

 

「ちょっと二人とも!ああもう!みんな、先に避難してて!」

 

 輪は二人を連れ戻そうと弓美、詩織、創世にそう伝え、後を追う。

 

 

 響が到着した時、瑠璃は調と切歌と戦っていた。

 ノコギリを投擲されても、瑠璃はエネルギーの竜巻で弾き返し、切歌との白兵戦でも引けを取らない。

 短期間で、しかも2対1でここまで戦えていた。

 

「瑠璃さん!」

「響ちゃん?!何で……?!」

 

 振り返ると避難させたはずの響がいるものだから驚きを隠せなかった。

 

「瑠璃さん!私も……」

「来ちゃ駄目!響ちゃんは戦っちゃ駄目!お姉ちゃんからそう言われてるの!」

 

 翼が何故そのような事を言ったのか、響自身は理解している。

 恐らく胸の中のガングニールである事は予想出来ている。

 それでも響は戦う事を選ぶ。

 

 Balwisyall Nescell Gungnir Tron……

 

 響はギアを纏うと戦いに加勢する。

 

「響ちゃん……。分かった。」

 

 瑠璃は響の強情さに呆れながらも背中を託した。

 瑠璃は予め弦十郎からある事を聞いていた。

 マリア達F.I.S.の装者はLiNKERという薬品を使っているとの事を。

 LiNKERとは本来適合係数が高くない者がこの薬品を使う事で適合者と同等の適合係数を引き上げ、後天的にシンフォギア装者になれるというもの。

 マリアが翼との戦いで『時限式』という言葉を聞いて思い当たったという。

 天羽奏も同じくLiNKERを使用しており自分の事を『時限式』と揶揄していた。

 マリアが時限式であれば恐らく残りの二人も同じであると踏んだ瑠璃は、戦いを長引かせる事で二人がギアを纏えなくなる程度まで適合係数を引き下げさせてしまおうと考えた。

 まだその様子が見られていないのは交戦したばかりであり、このまま消耗させて勝機を見出す。

 だが響が来た以上、そのように回りくどい事をする必要はなくなった。

 早めに決着をつけてソロモンの杖を取り返す。

 

 響が来たおかげで拮抗状態から巻き返した。

 切歌を追い詰めた瑠璃が、切歌に語りかける。

 

「二人が何の為に戦うのか、少しは理解したよ。だけどこのままじゃ二人が……本当に後に引けなくなるよ。」

「同情デスか……?」

「そうかもしれないね。でも、私は心の底から二人が心配なの。だって、あんなに楽しそうに歌って、食べているなんて、普通の女の子なんだなって。」

 

 瑠璃の笑みに切歌は心が思わず揺らいだ。

 

(本当に、あたし達を……思ってくれてるデス。敵同士なのに……。)

 

 切歌は思わず俯いたその時……

 

「っ!うっ!」

 

 後からウェルに首筋に注射を打たれた瑠璃。

 瑠璃はウェルを突き飛ばした。

 

「き、急に何を……ぁ……ぐあああああああああぁぁぁぁ!!」

 

 突然瑠璃がギアのバックファイアが襲い掛かった。

 瑠璃の苦しむ悲鳴が聞こえた響と調は戦闘を中断して瑠璃の方を見た。

 

「瑠璃さん?!」

「まさか……Anti LiNKER……?!」

 

 調が呟いたAnti LiNKERとは対象者の適合係数を下げる言わばLiNKERの反対版である。

 廃病院で二課の装者達がギアのバックファイアに襲われた赤い霧もAnti LiNKERでありウェルのお手製である。

 霧状にばら撒かれた時とは違い、直接注入された事で襲い掛かるバックファイアの威力は凄まじく、瑠璃は膝から崩れて倒れてしまい、ギアが強制解除される。

 

「瑠璃さん!」

 

 響が瑠璃に駆け寄る。

 

「駄目……まだ…………私は……ぐぅっ……!」

 

 立ち上がろうとしても、バックファイアによる激痛が、瑠璃の身体を痛めつけている限り、立ち上がる事すままならない。

 さらにこれだけでは終わらない。

 ウェルは調と切歌の首筋からLiNKERが入ったガンタイプの注射で投与させる。

 

「何しやがるデスか?!」

「LiNKER?!」

「LiNKERの効果はまだ余裕がデス!」

「だからこその連続投与です!あの化け物諸共消し去るには、今以上の出力でねじ伏せるしかありません!その為にはまず、無理矢理にでも適合係数を引き上げる必要があります!」

 

 だがLiNKERは元々劇薬であり、この開発の為に何人もの犠牲者を出した。

 ウェルが改良して今より負荷は減ったものの、それは普通に投与すればの話で過剰投与などすれば薬害が発生するのは目に見えている。

 調と切歌は抗議するも今のウェルには届くわけがない。

 さらに自分を回収しにきたのもナスターシャ教授の容態が悪化している事も看破している。

 もしここで回収出来なければ今後の計画にも支障を来すどころの話ではなく、頓挫する可能性だってある。

 調は覚悟を決める。

 

「やろう……切ちゃん。マムのところにドクターを連れ帰るのが私達の使命……。」

「絶唱デスか……。」

「そう、YOUたち唄っちゃえよ!適合係数がてっぺんに届く程、ギアからのバックファイアを軽減出来ることは過去の臨床データが実証済み!だったらLiNKERぶっ込んだばかりの今なら、絶唱唄い放題のやりたい放題!」

 

 一連のやり取りを倒れて伏している状態で見ていた瑠璃はその暴挙を何としてでも止めるべく立とうとしても、身体から言うことを聞かない。

 

「駄目……そんな……こと……させられない……!」

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

 だがその思いも虚しく二人は絶唱を唄い始めた。

 

「これって……絶唱?!駄目だよ!LiNKER頼りの絶唱は、装者の命をボロボロにしてしまうんだ!」

「女神ザババの絶唱二段構え!この場の、見事な攻略法!これさえあれば、こいつを持ち帰る事だって……」

 

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl……

 

 唄い終わると二人のギアが変形し始めた。

 調はツインテールのアームが4本に、切歌の鎌の形状もより荒々しいものへと姿を変えた。

 だがこのまま引き下がれない響が取った行動……

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl……

 

 響が絶唱を唄った。

 その瞬間、調と切歌のフォニックゲインが絶唱発動までのエネルギーが発しない。

 それによりギアの形状が元に戻ってしまう。

 

「セット!ハーモニクス!」

「まさか響ちゃん、S2CAを……?!」

 

 調と切歌の絶唱のエネルギーの流れを響が操り、自身に集約していた。

 

「二人には……絶唱を使わせない!」

 

 そして集めたエネルギーを虹色の竜巻として、上空に放った。

 だがその無茶のせいで、体力を根こそぎ持っていかれたのか動けない。

 

 調と切歌は撤退の好機と見てウェルを連れて撤退した。

 ここでクリスが到着した。

 

「おい!大丈……姉ちゃん!どうしたんだ?!」

 

 瑠璃が倒れていた事に気付いたクリスが駆寄ろうとするが、何故か周囲に高熱が生じていた。

 

「クリス、私はいい!それよりも響ちゃんが!」

 

 響の心臓部に位置する場所から石のような隆起物が発生していた。

 

「響……?」

「ちょっと未来!何で急に……え……何これ?」

 

 ここに未来と輪が到着していたが、響の様子がおかしい事にすぐ気付いた。

 特に未来は響の異常に取り乱し、駆寄ろうとするがクリスに止められる。

 

「よせ!火傷じゃすまないぞ!」

「でも響が!」

 

 するとバイクのエンジンが噴く音が聞こえた。

 翼が乗るバイクは高く飛翔し、車体前方に剣を展開させ、近くの貯水タンクを斬る。

 その斬れ目から水が流れ、その下にいる響に掛かった。

 水を掛けられたことで異常な高熱は消え、未来が駆け寄る。

 そこに翼が悔しがるように呟いた。

 

「私は……立花を守れなかったのか……!」

 

 それを聞いたクリスが翼に詰め寄る。

 

「私は守れなかった?!何だよそれ?!あのバカがこうなるとでも知ってたのか?!おい!」

 

 翼は沈黙した。

 

 未来が響を呼ぶ声が響く中、輪が倒れていた瑠璃に駆け寄った。

 

「瑠璃、大丈夫?!」

 

 輪の心配をよそに瑠璃は翼が言っていた事の意味に気付いた。

 

(まさか……響ちゃんの身体に何かあったって事……?!私は……そんな響ちゃんを戦わせて……。)

 

 守らなくてはならない者を守れず、倒れているばかりか逆に守られ、剰え命の危険に晒してしまった事に気付いた。

 

(私は……皆の足を引っ張ってばかりだ……。私のせいで……響ちゃんが……!)

 

 その悔しさを拳に乗せて、地面に叩きつけた。

 

「瑠璃……。」

 

 輪は瑠璃が悔しい気持ちで頭がいっぱいになっているのに気付くが、自分に出来る事など何も無い、そう思い知らされる。

 

 




瑠璃に焦りが……


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迷い淀む

今回は短めになります。


 その後、クリスと瑠璃は響に起こっている事態について知った。

 響の体内にあるガングニールの破片が、人体と融合し、ギアを纏う事でそれを促進させてしまっているということに。

 もしこのまま融合が進めば、やがては人として生きていけなくなってしまう。

 それを知ったクリスはテーブルを蹴り、瑠璃は戦わせてしまった自分を責めた。

 特に瑠璃はAnti LiNKERによるギアのバックファイアを受けて倒されてしまい、大事を取って入院しているが、結果的に響に絶唱を使わせてしまった事で、融合を促進させてしまった事に責任を感じ、病室で静かに泣いていた。

 

 そんな瑠璃を心配したクリスと輪がお見舞いに来た。

 当然輪は写真を5枚撮るが、全部落ち込んでる顔しか撮れないのが気に入らない。

 

「もう瑠璃、少しは前を向きなよ。そんなに落ち込まれちゃ、写真にまで伝染するじゃん。」

「写真じゃなくて姉ちゃんを心配しろよ!」

「心配してるよ〜。落ち込んだ時には笑ったほうが良いって聞いたことない?」

「んなんで元気になれるんなら今頃お花畑でみんなハッピーエンドだ!」

 

 クリスがツッコむ。

 

「ねえ……ここ病院。」

「「あ、ごめん。」」

 

 瑠璃が注意するがどこかよそよそしい。

 

「はぁ……相当引きずってるみたいだね……。」

「なあ、姉ちゃんは悪くねえよ。むしろあの状況下でよく動いたと思うぞ?」

「守りきれなかったら意味がないよ……。私のせいで……響ちゃんが……。」

 

 何とか瑠璃に元気になってもらいたくて励ますクリスだが、イマイチ届かない。

 

「そんなの姉ちゃんのせいじゃないって。姉ちゃんはあいつの事情を知らなかったんだ、そりゃ仕方ねえよ。それにあたしらがもっと早く来てればこんな事には……」

「事情を知らなかった……?だから何……?」

 

 クリスの励ましを冷たく遮る瑠璃。

 

「響ちゃんの命に関わってるんだよ?!それを知らなかったとか仕方ないで……済まされるわけないじゃん!!」

 

 瑠璃は思わず怒鳴ってしまい、クリスが申し訳なさそうな顔になる。

 

 

「ごめんクリス、輪、今日の所は帰ってくれるかな……。」

「待ってよ瑠璃!そんな言い方……クリスは瑠璃の事を……」

「いい……。ごめん姉ちゃん……また来るよ。」

 

 そう言うとクリスは病室を出て行った。

 

「せっかく来てもらったのにごめん……。クリスにごめんねって伝えてくれる?」

 

 自分は伝書鳩かと思いながら呆れるが、輪は了承する。

 

「分かったよ。けど、後でちゃんと謝るんだよ。」

 

 輪は笑った顔で瑠璃にそう言うと、病室から出てクリスを追いかける。

 一人になった瑠璃はまだ昼間であるが、そのまま眠りについた。

  

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

「クリス、クリス?」

 

 病院の外で追いついたが呼びかけても反応がなく、俯いていた。

 

「クリス、一時的なものだよ。確かに瑠璃が怒鳴る所なんて初めて見たし、ちょっと怖かったけど……けど瑠璃は……」

「分かってる。」

 

 クリスも瑠璃が怒鳴る所は初めて見た。

 少し怯んだが、今ここで何を話しても瑠璃を刺激してしまうだけだと思っての行動だった。

 

「さて、あの人を飯にでも誘ってみるか。」

 

 クリスはどこかバラバラになってしまった仲間との連携を繋げる為に行動に出る。

 

「ん?どういう事?」

 

 輪を置き去りにして。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同じ頃、小夜はスーパーで買い物をしていた。

 看護師の仕事は忙しく、一緒にいてあげられる日が少ないので、家の事は輪に任せているが、小夜も料理は作れない事はないので、今日は小夜が作ろうと食材を買いに来ていた。

 

「東京は相変わらずケチ臭いなぁ。大阪やったらもうちょい安くしてくれるっちゅうんに……。」

 

 豚肉のパッケージに貼られている値段を見て愚痴を零す。

 仕方ないので一番安いものを選んで買い物籠に入れた時、見覚えのある二人組を見かけた。

 

「あれ?あの子達確か……。おーい、そこのお嬢ちゃん二人ー!」

 

 追い掛けて声をかけて見る。

 その二人が振り返るとやはり見覚えがあった。

 

「あ、やっぱりあの時のお嬢ちゃん達やんか!」

「あ……。」

「デース。」

 

 調と切歌がここで買い物していた。

 

 

 二人はLiNKERの過剰投与によるオーバードーズにより、安静を言い渡された二人はスーパーまで買い物に出掛けていた。

 カップ麺や菓子パン、野菜にお菓子など買い物籠に入れていき、会計に行こうとした時、後ろから小夜に声を掛けられた。

 

「あなたはあの時の……。」

「先日はどうもデース。」

 

 切歌は色々奢ってくれた事もあり、小夜の事を好意的に見ているが、調は良い人だと思っているが、強引すぎる行動から苦手意識を持っていた。

 

「いや〜まさかこんな所で会えるなんてなぁ。あれから二人がどっか行ってしもうから、お姉さん心配しとったんやけど……っていうかそっちのお嬢ちゃん大丈夫かいな?」

 

 さっきから調がボーッとしている事に気付いた小夜。

 

「デデデッ?!調?!」

「あ、うん……大丈夫。」

「ホンマかいな?何か心なしか顔赤いで?風邪引いとんちゃう?」

 

 調の額に手を当てると熱は無い、恐らく慢性的な疲労によるものかと考える小夜。

 

「じゃあアタシが多く運んであげるデス!」

「ならウチも手伝うで。」

「いえ!大丈夫デス!色々気に掛けてくれるのありがたいデスが、気持ちだけで十分デス!」

 

 そういうと買い物籠を持って会計へ行った。

 

「ホンマに大丈夫かいな……?」

 

 残された小夜は気になりながらも買い物を続けた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(……べ!……しら……!ちょ……だっ……ス……?!)

(大丈夫……ここで……休んだから……あっ……)

(調!)

 

「はっ……!」

 

 瑠璃は急に目を開いて起き上がる。

 空を見るとまだ日が傾いていない昼時だった。

 何か夢を見ていたようだが妙に生々しく、しかも自分ではない誰かの名を呼ばれた気がした。

 

「でも今の声……何処かで……。」

 

 夢で見た内容が霞がかり、全て思い出せないまま次の日に退院した。




多分小夜さんG編での出番はもうないかな……。

ご感想お待ちしております。


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デートクライシス

束の間のデート回になります。

誤字脱字報告、ありがとうございます。


ある休日、瑠璃は輪に呼び出され公園のベンチで座って待っていた。

 だが肝心の輪が見当たらない。

 何かあったのかと思い、スマホで電話しようとした時、隣でカメラで撮影する音が聞こえた。

 

「輪……!」

「よっ、お待たせ。」

「どうしたの、急に呼び出すなんて?」

「心配してるんだよ。響の事で悩んでるんじゃないかなって。」

 

 図星だった。

 あれから瑠璃は仮設本部のシュミレーターで厳しい特訓を繰り返していた。

 響を守る為にはさらに特訓しなければと考え、その内容もハードになっているが、無理のしすぎで倒れるのではと心配した輪が呼び出したのだ。

 

「ちょっと付き合ってよ。」

「え、でも私これから……」

「オジサンにはちゃんと許可貰ってる。つまり、瑠璃は私と遊ぶしかないのだ!さあ行くよ!」

 

 

 輪は瑠璃を連れ出してデートを決行する。

 ショッピングモールで買い物、軽いファッションショー、ゲーセンでプリクラなど午前中で色々周るがまだまだ輪のデート計画は続く。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

  小日向未来は先日、弦十郎に呼び出され、響の身体について教えてくれた。

 2年前のライブの惨劇にて胸の中に刺さったまま埋められていたガングニールの破片と人体が融合し、このまま戦い続ければ、響の肉体が食い潰され、やがて死に至る事を。

 唯一助かる道は戦わせない事、未来と穏やかな生活を送らせる事で、ガングニールとの融合の速度を遅くさせる事にあると。

 未来は大好きなお日様を守る為に、今日響をデートに誘った。 

 奇しくも同じ日に響と未来もスカイタワーでデートをしていた。

 スカイタワーの中にある水族館に響と未来がいるが、響はどこか心あらずの状態だった。

 

(戦えば死ぬ……。考えてみれば当たり前の事……でもいつか、感覚が麻痺してしまって……それはとても遠い事だと錯覚していた。戦えない私って誰からも必要とされない私なのかな……。)

 

 考え込んでいると首筋から冷たい缶ジュースが当てられ、思わず絶叫する。

 

「大きな声を出さないで。」

「だ、だって!いきなり冷たいジュースくっつけられたら誰だって声が出ちゃうって!」

 

 差出人である未来が不機嫌になる。

 

「響が悪いんだからね?」

「え?私?」

「だってせっかく二人きりで遊びに来たのに、ずっとつまらなさそうにしてるから……。」

「あ、ごめん……。」

 

 そんなつもりはなかったのだが、未来にそう思わせてしまった響は謝る。

 

「ごめん……。でも心配しないで〜!今日は久々のデートだもの!楽しくないはずがないよ!」

 

 未来は心配するが響はそんな事はお構いなしにデートを続ける。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一方スカイタワーの上階にある会議室ではナスターシャが乗る車椅子を押すマリアがいた。

 何故ここにいるのか、それは先日フロンティアを浮上させる為に神獣鏡を用いて封印を解こうとしたが、出力が足りず、月の落下による衝突を回避させるという計画が絶望的であるとナスターシャが判断した。

 

「私達がやってきた事は、テロリストの真似事に過ぎません。真に成すべき事は、月がもたらす被害をいかに抑えるか、違いますか?」

 

 つまり、今のF.I.S.では月の落下から世界を救えないという意味である。

 そこに黒服を着た米国エージェントの男達が入ってきた。

 それに驚くマリア。

 

「マム、これは……?!」

「講話を持ちかける為に召集しました。Dr.ウェルには通達済みです。さあ、これから大事な話をしましょう。」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 瑠璃と輪はレストランで早めの昼食を楽しんでいた。

 

「ねえ、次はスカイタワーに行かない?」

「良いけど……あれだけ周ったのに疲れないの?」

「何言ってるの?瑠璃とデートなんていつぶりだと思ってるの?最近瑠璃っては装者になってから構ってくれないし、何より今、結構思いつめてるでしょ?少しでも息抜きしないと、本当にポッキリいっちゃうぞ?」

 

 途中、我儘を混ぜながら、脅しではないが忠告をする輪。

 

「確かに……そうだね。あれから強くなろうとしても、ただ我武者羅にやってるだけで、強くなった感じもしないし……。クリスとあまり話せてないし……。」

「はぁ……。流石双子。変な所もそっくり。」

 

 ため息をついて呆れる輪。

 

「あんたって、変な所で意地を張るよね。」

「そ、そんな事は……無いよ……。」

「いいや、あるね。瑠璃、あんたは一人で響を守ろうとしてる。けどね、一人で出来る事なんてたかが知れてる。そこに気付けてないんだよ。あんた、言ったよね?あんたの強みは、仲間と繋ぐ絆の力だって。」

「絆……?」

 

 ずっと強くなろうとして、久しく聞いていなかった言葉。

 瑠璃が一番大事にしているもの、それが絆。

 

「呆れた……まさか忘れてるとは。いい?絆っていうのは、目に見えないものだけど、実はよく見ると見えるものなんだよ。以前の瑠璃なら、ちゃんと分かるはず。」

「見えるようで見えないもの……。」

 

 とは言っても抽象的すぎてあまり分かっていないようだった。

 

「まあ今分からなくても、そのうち分かるよ。多分忘れてるだけだよ。よし、ランチ終わり!さ、スカイタワー行こう!」

 

 二人は会計を済ませてレストランから出るとスカイタワーへ向かった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 スカイタワー上階の会議室ではF.I.S.と米国エージェントの講話交渉が行われていた。

 マリアが異端技術のデータを黒服の男に渡し、男は懐にしまう。

 

「異端技術に関する情報、確かに受け取りました。」

 

 だがその途端、男達はナスターシャとマリアに銃口を向ける。

 

「あなたの歌よりも、銃弾ははるかに早く、躊躇なく命を奪う。」 

「初めから足り引きに応じるつもりはなかったのですか?」

「必要なものは手に入った。あとは不必要なものを片付けるだけ。」

 

 だがそういう展開に限って不義理を働く者は大抵碌な最期を迎えない。

 突然窓から襲来した飛行型ノイズによって、データを受け取った黒服の男がその身体を貫かれ、二度と母国の地に足を踏む事なく炭となって消えた。

 さらにヒューマノイド型のノイズも隙間から入り込み、他の黒服達に襲い掛かる。

 スカイタワーの隣のビルでソロモンの杖を持っていたウェルがコーヒーを飲んでいた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ノイズ出現は外からでも把握できた。

 それを見た人々はパニックになって逃げ出す。

 

「輪、避難誘導をお願い!私は……」

「分かった!でも気を付けるんだよ!」

 

 瑠璃は走り出すと、弦十郎から通信が入った。

 

 『瑠璃、スカイタワーの中にまだ避難が終えていない市民がいる。その中に響君と未来君がいる。』

「そんな?!」

 

 思わぬ偶然に立ち止まってしまう。

 

『さらに、スカイタワー内でガングニールの波形が確認されている。』

「まさか響ちゃんが?!」

『いや、響君は纏っていない。恐らくはF.I.S.のものだ。』

 

 それに関しては一先ず安堵するが、ノイズを殲滅しないと響がガングニールを纏ってしまう。

 

『翼とクリス君も向かわせている!決して無茶はするな!』

「了解!」

 

 再び走り出してギアのペンダントを握る。

 

 Tearnight Bident Tron……

 

 ギアを纏って、連携した槍を箒のように乗りこなすと、スカイタワーの上部にある展望台の天井に降り立ち、槍を二本に分解、それを同時に遠隔操作で飛行型ノイズを蹴散らす。

 

 【Assault Pisces】

 

 上空のノイズを全て片付けると、ノイズによって空けられたと思われるガラスの穴から侵入する。

 そこは会議室であり、既に炭素化してもなお、人間の腕や足の形が残っており、ほんの僅かに焦げ臭いがする。

 バイザーを展開して、ガングニールの反応をキャッチするとルートに従い進んでいく。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 マリアはナスターシャを抱え、スカイタワーからの脱出を図っているが、ノイズと米国エージェントからの追撃に加え、一般人が巻き込まれないように守っている。

 米国エージェントはマリアとナスターシャを抹殺する為ならば一般人の命など顧みる事はせず、サブマシンガンを撃ちまくる。

 マリアはマントを盾として防ぐ事が出来るが、他の一般人は撃ち抜かれてしまい、目の前で命を落とした。

「私のせいだ……!全てはフィーネを背負いきれなかった……私のせいだああぁぁーーー!」 

 

 怒りの咆哮のまま、米国エージェントをマントで叩き伏せ、蹴り飛ばし、ガングニールの槍で叩きつける。

 刺殺してはいないが、穂先が返り血を浴びる。

 悔しさと自責の念に苛まれ、震えるが

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ!」

 

 後からバイデントを纏った瑠璃が追ってきた。

 

「このノイズは……あなたの仕業なの?!この人達は……?!」

 

 瑠璃の問いに答える事なく、穂先からレーザーを放つ。

 

 【HORIZON†SPEAR】

 

 急に繰り出してきた砲撃を瑠璃は連結させた槍の穂先で突くように相殺させる。

 爆風から発生した煙に巻かれ、それが晴れるとマリアの姿が消えていた。

 

「司令、マリアを発見、交戦しましたが逃げられてしまいました。」

『そうか。瑠璃、そのまま響君と未来君を回収してくれ。』

「了解。」

 

 廊下を走り、響と未来を探す。」

 




いつの間にか失ったものを取り戻せるのか。


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守りたかったモノ

遅れてもうしわけありません。
色々やってたら遅れてしまいました。

今回メルの事と輪の秘密が明かされます。


 瑠璃は響と未来を回収する為にスカイタワーの中を探しているが、バイザーが反応を示さない辺り、ギアを纏っていない事が分かる。

 だが突然襲い掛かるノイズが立ち塞がり、煩わしく思いながらも全て片付け、先へ急ぐ。

 走りながら響に通信を入れる。

 

「響ちゃん!大丈夫?!」

『瑠璃さん!今階段が瓦礫に塞がれてしまって……。』

 

 響と未来は迷子になった子供をスタッフに預けた後、自身たちも避難しようとした時、突然崩れた瓦礫が唯一の避難経路であった階段を塞がれてしまったようだ。

 

「待ってて!すぐに……のわぁっ!」

 

 展望台フロアが爆発し、支柱の数が少なくなった事で支えきれなくなり傾き始めた。

 当然展望台フロアの上にいる瑠璃もバランスを崩して倒れる。

 

「もうこの近くに人はいない……!なら!」

 

 その階にはもう避難が遅れた人はいない事を確認した瑠璃はガラスを割って上空へ飛び降りて、連結した槍を箒のように乗りこなし滑空する。

 

「いた!響ちゃん!」

 

 周りを飛行すると今にも落ちそうな響の手を掴む未来を確認すると一直線に向かう。

 

 

 展望台フロアにいた響と未来は絶体絶命の窮地に立っている。

 先程の爆発で展望台フロアが傾き、外へ放り出されそうになった響は未来に摑まれた事で落下は免れたがこのままでは二人とも落ちてしまうのは時間の問題だった。

 

「未来!ここはもう持たない!手を放して!」

「駄目!私が響を守らなきゃ!」 

 

 もし手を放せば再びギアを纏う。

 そしてガングニールとの融合が進み、響は人としての在り方を失う。

 お互いに失いたくないといあ思いは同じだった。

 

「いつか……本当に私が困ったとき、未来に助けてもらうから……。今日はもう少しだけ、私に頑張らせて。」

 

 そう笑顔で言う響と、涙が溢れる未来。

 

「響ちゃん!飛んで!」

 

 そこに槍を箒のように跨いで飛んでいる瑠璃がこちらに向かっており、両腕を広げている事から受け止める体勢に入っている。

 

「未来、手を放して!」

 

 未来は響と瑠璃を信じて手を放す。

 響はそのまま落下するも、瑠璃がキャッチする。

 キャッチした時、二人分の重さが槍に掛かるが、何とか踏ん張る。

 三人だと恐らく確実に落ちるだろうがそれでも何とか踏ん張れば急速に落下する事は避けられるかもしれない。

 

「よし、次は未来ちゃ……」

 

 未来がいた場所に爆発が起きた。

 その爆風が発生した事で、瑠璃と響はスカイタワーから離れてしまう。

 かなり離れた所で体勢を立て直したが、未来がいた場所はもう吹き飛ばされている。

 

「未来……未来ううううぅぅぅぅ!!」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同じ頃避難誘導を終えた輪も避難行動に移ろうとした。

 

「ん?」

 

 河川敷の方へ行く人影が見え、輪は追い掛ける。

 

 

 マリアはナスターシャと気を失った未来を抱えて、合流地点である河川敷に到着した。

 そこにはジャンヌが待っていた。

 

「マム、これに。」

 

 ナスターシャの予備の車椅子を出す。

 こちらは先程スカイタワーで破棄されたものと形は同型だが、機能が異なる所が多々ある。

 

「ありがとうございますジャンヌ。ではこのまま撤退を。」

「了解。所でマリア、その娘は?」

 

 マリアが抱えている未来を指すジャンヌ。

 

「連れて行くのか?」

「ええ。この娘は……」

「マリア……さん?」

 

 声がする方を見ると輪がいた。

 

「やっぱり……。抱えてるのって……未来だよね?未来をどうするつもりなの?!連れて行くってどういう事?!」

 

 輪はそこで拾った木の棒を武器に構えるが、ギアと完全聖遺物を相手に出来るわけがない。

 ジャンヌが前に出る。

 

「マリアはマムを頼む。私が相手をする。」

「分かったわ。」 

 

 そう言うとマリアは未来を抱え離脱する。

 

「待って!未来を返して!」

 

 木の棒をマリアに向けて投げると、ジャンヌが蹴り返す。

 すると輪は素手で戦闘態勢に入る。

 

「いい度胸だ。悪くない。だが見られたからには帰すわけにはいかない。」

「口封じってわけ……?でもね、こっちは何度も死にかけてるからね。元スケバンをナメんなよっ!」

 

 輪が走り出して、ジャンヌに殴りかかろうとした。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 新たに出現したノイズを、到着した翼とクリスと共に殲滅させた。

 

「ノイズは問題ない……けど……。」

 

 展望台フロアが崩壊する寸前、未来を懸命に探したが見つけられず、結局助けられなかった。

 未来を失った響が車内で項垂れてしまっている。

 

「響ちゃ……」 

 

 響に声を掛けようとした時、河川敷から爆発音が聞こえた。

 

「な、何だぁ?!」

「まさか……」

「お、おい姉ちゃん!」 

 

 バイザーがタラリアの反応をキャッチした。

 急いで連結した槍に跨り遠隔操作で浮遊して移動する。

 

 その情報をもとに河川敷へと向かった瑠璃だが……

 

「え……何で……?」

 

 河川敷に到着すると、そこには破壊された通信機とデジタルカメラが残されていた。

 しかもこのデジタルカメラには見覚えがある。

 

「これ……二課の……しかもこれって……」

「瑠璃さん!」

 

 そこに一課の捜査員と緒川が到着した。

 

「その通信機とカメラは……?」

「ここに落ちてました。二つとも。カメラの方は輪がいつも使ってるものです。」

 

 あの爆発から何が起きたのかは定かではないが、ここに未来の通信機があるということは未来は生きているという事になる。

 では輪は?

 不安になった瑠璃はギアを解除してスマホで電話を掛けるが、繋がらない。

 

「輪……!輪!」

 

 輪に何があったのか分からない瑠璃は不安に押し潰されそうになる。

 カメラを確認していた緒川が口を開く。

 

「瑠璃さん。このカメラ、録画中になっているみたいです。」

 

 緒川は録画を停止してビデオを保存する。

 

「もしかしたら、このビデオに何が起こったのか分かるかもしれませんね。」

 

 真相を確かめる為に、二人は再生されたビデオを見る。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その頃、エアキャリア内の後部内の牢の中で気を失っていた未来は目を覚ました。

 ここは何処なのかと思いながら辺りを見回すと隣に輪が倒れていた。

 

「輪さん?!」

 

 腕に包帯、頬に湿布が貼られてあり手当された形跡があった。

 

「ぅ……。いっ……痛てて……っ……!」

 

 少し遅れて輪も意識を取り戻すが体中の痛みで起き上がれない。

 心配した未来は輪に尋ねる。

 

「輪さん、その怪我は……。」

「その……久しぶりのタイマンで……ちょっとヘマしちゃった。あはは……。それより、ここは何処……って言っても分からないか。」

 

 何処にいるのかも分からないのに怯えた表情を一つも見せない辺り、こういうのに慣れているのかと思ってしまう未来である。

 そこにマリアとジャンヌが現れ、鉄格子越しに対面した事でここが敵の縄張りである事はすぐに分かった。

 

「まさか、生マリアをこんな形で見る事になるなんてね……。」

「捕まっているというのに、随分な減らず口を叩ける余裕があるのね。」

「伊達にこういうトラブルに首を突っ込んでいないんで。それより、私はともかく何で未来まで攫ったの?」

「それは……。」

 

 マリアが黙ってしまう。

 

「まさか、無関係な人を見殺しに出来ないから連れてきちゃいましたっていうわけ?ライブ会場ではあんな威勢の良い事言ってたくせに、いざとなったら殺せませんか……。大方、生半可な気持ちであんなテロ紛いの事をしたって事でしょう?」

 

 図星を突かれ、眉が動いたマリアだったがここでジャンヌが割って入る。

 

「それ以上減らず口を叩いてみろ。お前を海に落とすぞ。」

 

 ドスの効いた低い声で脅す。

 流石の輪も命は惜しいので大人しくした。

 

「でも、一応聞いておく。何しに来たの?」

「ただの様子見だ。」

 

 そう吐き捨てるように言うと、出ていこうとした時

 

「ねえ、メルって何の事か知ってる?」

 

 するとジャンヌたけが血相を変えて、戻って来た。

 

「どこで聞いた?!」

「あのツインテールの子が言ってた。メルの時は呪い殺したくせにって……。あんた、まさかメルって子のお姉さんか妹さんだったりするの?」

 

 しばしの間静寂が漂うが

 

「メルは……私の妹で……バイデントの適合者だった。」

 

 衝撃の真実に輪は驚きを隠せなかった。

 

「適合者だった……って事は何かあったの?」

「メルは……私よりも適合係数が高かった。故にあの子はバイデントの装者に選ばれ、起動実験が行われ、無事に纏ったと思っていた時だった。夜が訪れる度にあの子は悪夢に囚われ苦しむようになり、次に纏った時にはあの子は発狂しだして……最期は私に助けを求めながら、自分で空けた穴の瓦礫に潰されて死んだ。」

 

 メルについて話を聞いていた輪だったが、過去の傷を掘り返してしまった事に申し訳なさそうに謝る。

 

「ごめん。辛かったはずなのに……。」

「同情などいらん……。」

「同情じゃないよ。本心だよ。私も妹が死んじゃったから……。」

 

 ジャンヌだけでなく、側にいる未来も驚いている。

 

「二年前に彼氏とライブに行った時にノイズに襲われてね、私だけが生き残ったの。けど、ある日私の周りが敵だらけになった。生き残っただけで、その家族ってだけで石を投げつけられて、暴力も振るわれて、妹もお父さんもお母さんも巻き込まれた。だから私は強くなって皆を守ろうとしたのに……私が帰ってきた時には、耐えきれなくなったお父さんとお母さんが無理心中しちゃったんだ。妹も巻き込んで……。」

(二年前のライブって……まさか!)

 

 輪もまた、響と同じツヴァイウィングのライブにいた被害者の一人だった。

 旧リディアンの校舎が崩壊した時、妙に冷静に立ち回っていた理由がまさにそういう事だった。

 

「そうか……お前は妹も家族も……。」

「これでおあいこかな?」

「そうだな……。お前には少し興味が湧いた。ありがとう。」

 

 ぶっきらぼうな顔しか見せなかったジャンヌに笑みが浮び、そのまま出て行った。

 

「え?どういうこと……?」

「それよりも輪さん……今の話、本当なんですか?」 

 

 未来が心配そうに輪を見ていたが、輪はキョトンとした顔になっている。

 

「え?なんの事?」

「え?だって、二年前のライブって……」

「あ、あれか。二年前のライブにはいたけど、一家心中の話は嘘だよ。」

「え?!」

「いやぁ……あの子の同情を誘うにはこうでもしないとね……。」

 

 結構生々しい話だっただけに未来もジャンヌもあっさり信じた。

 しかし、未来は怒っていた。

 

「未来?どうしたの?なんでそんなにお怒りなの……?」

「輪さん……いくら何でもその嘘は不謹慎です。二度としないでください。」

「あ、それなんだけどね……本当は……」

「輪さん?」

「は、はい……すみませんでした……。」

 

 未来から醸し出す威圧感に負けた輪。

 この時、未来を怒らせるような真似は絶対にしないと固く誓った輪だった。




実は輪はG編では出番少なめにしようと思ってたんですが……
少し増やす事に決めました!

ご感想お待ちしております。


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決戦の予感

汚食事と例の特訓回になります。

それと近頃誤字脱字が多くなってしまった……。

本当に気を付けなければ……。


 エアキャリア内に集まったF.I.S.だったが、ここに来て結束に綻びが生じていた。

 何も知らされていなかった切歌と調に、ウェルはナスターシャが密かに米国と講話しようとした事、それが失敗し追われたこと、そしてマリアにフィーネの魂が宿っていない事を皮肉混じりに話した。

 マリアはずっと二人を騙していた事を謝ったが……

 

「マリアがフィーネでないのだとしたら……じゃあ……」

 

 切歌の気になる事を遮ってウェルは話を進める。

 

「僕に計画を加担させる為とはいえ、あなた達を巻き込んだこの裏切りはあんまりだと思いませんか?せっかく手に入れたネフィリムの心臓も無駄になるところでしたよ。」

 

 切歌はナスターシャに問いただす。

 

「マム……マリア……ドクターが言っていることなんて嘘デスよね……?」

 

 ナスターシャは何も告げず目を逸らしたが、マリアが肯定した。

 

「あのまま講話が結ばれてしまえば、自分達の優位性が失われる事を恐れた。だからあなたはノイズを召喚し、会議の場を踏みにじって見せた。」

 

 ナスターシャの言葉にウェルはメガネをかけ直し、僅かに混じる悪い笑みを浮かべる。

 

「嫌だなぁ……悪辣な米国の連中からあなたを守って見せたというのに。このソロモンの杖で!」

「貴様!」

 

 ソロモンの杖をナスターシャの方に向けるとジャンヌが声を荒げ、切歌と調がナスターシャを守る様に庇うが、マリアはウェルを庇った。

 マリアの予想外の行動にジャンヌ、切歌と調は信じられず、動揺する。

 

「マリア、何のつもりだ?!」

「どうしてデスか?!」

 

 ウェルは高らかに笑う。

 

「ふははは!そうでなくっちゃぁ!」 

 

 輪の言葉が蘇る。

 

(生半可な気持ちであんなテロ紛いの事をしたって事でしょう?)

 

 生半可な覚悟では世界は救えない、彼女から改めて悟ったマリアが決断した。

 

「あの子の言う通り、偽りの気持ちでは世界は守れない。セレナの思いを継ぐことなんて出来やしない!すべては力!力を持って貫かなければ、正義をなすことなんてできやしない!世界を変えていけるのはドクターのやり方だけ!ならば私は、ドクターに賛同する!」

 

 マリアの決断に調は戸惑い、受け入れられない。

 

「そんなの嫌だよ……。だってそれじゃあ、力で弱い人たちを抑え込むってことだよ……!」

 

 ナスターシャは沈黙していたが、ここで口を開く。

 

「分かりました……。それが偽りのフィーネでなく、マリア・カデンツァヴナ・イヴの選択なのですね?」

 

 ナスターシャの問いにマリアは頷いた。

 だがジャンヌはマリアが、家族同然の友の事が分からなくなった。

 マリアは正義感が強く、目の前の困難に立ち向かい、誰からも頼られる、ウェルの言葉を借りるならばまさに英雄に相応しい人物だが、今のマリアにはそのように映らない。

 

(マリア……私はお前の事を……!)

 

 今のマリアを見てられなくなったジャンヌはエアキャリアから出て行った。

 だが

 

「ぅっ……!」

 

 突然蹲り、右手で心臓がある場所に手を当て苦しみだした。

 

「今だけは……今だけは……止まるわけには……!」

 

 すぐに痛みは収まり、エアキャリアの外装に背をもたれるように座る。

 

(メル……私ももうすぐそっちに行く。だけど……今のままじゃ死んでも死にきれない……!)

 

 空を見上げ、首に下げたロケットを開けると、幼き日のジャンヌとメルが笑顔で並んでいる写真が入れられていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その日の夜、クリスはファミレスまで翼を呼び出した。

 クリスはナポリタンパスタを食べているが、皿から数本の麺、玉ねぎやピーマンが飛散しており、さらに口の周りもケチャップで汚れている上に左頬にマッシュルームか付着している。

 

「何か頼めよ。奢るぞ。」

 

 対する翼は何も注文していない、というよる注文する気がない。

 

「夜の9時以降は食事を控えている。」

 

 トップアーティストたるもの、体型の維持も欠かせないが、理解出来ないクリスは軽口を叩く。

 

「そんなんだからそんななんだよ。」

「何が言いたい?!用がないなら帰るぞ!」

 

 不機嫌だった所をクリス軽口が気に入らず、怒って席から立ち上がる。

 

「怒ってるのか?」

「愉快でいられる道理がない。F.I.Sの事、立花の事、瑠璃の事そして……仲間を守れない私の不甲斐なさを思えば……!」

 

  翼は先輩として、響が戦い続けてその命を失う事を恐れており、守ろうとしてもその思いとは裏腹に響がさらに戦いに巻き込まれている。

 それがどれ程悔しいか、推量れない。

 クリスはフォークを食べ終わった皿に置いて、話す。

 

「呼び出したのは、一度一緒に飯を食ってみたかっただけさ。あたしら姉ちゃんを通じてでしか話せてなかったし、一度あたしらで腹を割って話し合うのも悪くないと思ってな。あたしらいつからこんななんだ?目的は同じなのに、てんでバラバラになっちまってる。もっと連携を……」

「雪音、腹を割って話すというのなら、いい加減名前くらい呼んでもらいたいものだ。」

 

 クリスの話を遮ってバッサリと指摘された事がクリスにとっては頬を赤く染めるのには十分だった。

 クリスは心を開いている者と言えど誰かを名前を呼ぶ事をしない。

 クリスが痛い所を突かれて何も言えない間に翼は退店してしまう。

 

「結局話せずじまいか……。やっぱ姉ちゃんがいないと無理なのか……。いや……むしろこれで良かったのかもな……。」

 

 一人残されたクリスの口の中はコーヒーの苦味だけが残る。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翌日、二課の装者達はブリッジに召集された。

 弦十郎があるものを見せる。

 それは、破壊された通信機とデジタルカメラだった。

 

「河川敷で発見された通信機とこの映像を鑑みるに、未来君と輪君はF.I.S.に連れ去られた事が分かった。」

「それってつまり!」

 

 未来が生きている。

 それだけで響の翳りは消えた。

 

「こんな所で呆けてる場合じゃないってことよ!さて、気分転換に身体を動かしに行くぞ!」

 

 そう言って響と瑠璃の頭を撫でる弦十郎。

 

 

 そして始まった気分転換という名の特訓。

 

 五人はジャージを着て海岸沿いの道でランニングをしており、先頭にいる弦十郎はかの伝説のアクション俳優が出演し、歌った映画の主題歌を歌いながら走っている。

 その後ろにいる装者4人は並列で並んで走っているが、クリスだけは息が上がっている。

 

「何でオッサンが歌ってんだよ?!つかそもそもこれ何の歌だ?!」

「アクション映画の主題歌だよ。結構古いけど、私も見た事ある。」

 

 瑠璃が丁寧に教えてくれたが、この映画が公開された時、瑠璃とクリスは生まれてすらいないはずが何で知っているんだと心の中でツッコむクリス。 

 

(そうだ!俯いていちゃ駄目だ!私が未来を助けるんだ!)

 

 響は未来を助ける為に気合を入れて、弦十郎と横に並んで歌いながら走る。

 

(響ちゃん、気合入ってるなぁ……。未来ちゃんを助けたいんだよね。私も、輪を助ける為に……!)

 

 瑠璃も弦十郎と響の横に並んで走り歌い出す。

 

 その後の特訓も映画さながらのハードなものだった。

 逆さの状態で足に棒を引っ掛け、下の瓶にある水をお猪口で汲み、それをお尻の高さにある樽に入れる作業を繰り返す鍛練、縄跳び、空気椅子の姿勢で腕をまっすぐ伸ばし、腕や太腿、頭の上に先程のお猪口を乗せて、姿勢を保つ鍛練等、明らかに気分転換の領域を越えている内容だった。

 それでも響はめげずに気合で、翼はそれを冷静に、瑠璃は映画と同じ動作で模倣して乗り越えるが、クリスは常人では普通に音を上げる特訓を何とか乗り越えた。

 

(どいつもこいつもご陽気で、あたしみたいなやつの居場所にしては暖かすぎんだよ……。)

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 エアキャリアの中の牢に囚われている未来と輪だったが、存外悪い扱いはされていない事に不思議に感じていた。

 

(普通こういうのって、何か言え!とか吐け!とか脅されて尋問されるパターンのような気がするけど……いかんいかん。オジサンの映画の見過ぎだ……。)

 

 そこにウェルとマリアが現れた。

 

「この二人を連行することに指示をしたのはあなたよ。一体何の為に?」

「もちろん、今後の計画遂行の一環ですよ。」

 

 輪はウェルに対して異様に悪い予感を感じ、未来を背に立ち塞がる。

 

「何?私達に何かするの?」

「いえ、今のところあなたに用はありませんよ。用があるのはそちらのお嬢さんです。」

 

 ウェルは未来に向けて指す。

 

「私……ですか……?」

 

 輪と同じ様に、未来もウェルの事を信じられず警戒している。

 

「そんなに警戒しないでください。少し、お話でもしませんか?きっとあなたの力になってあげられますよ。」

 

 そう言うとウェルは微笑むが、輪が噛み付く。

 

「未来、騙されちゃ駄目!そいつの言う事を信じたら……」

「あの融合症例の彼女の事で、お悩みなのでしょう?」

 

 図星を突いた悪魔の囁きが未来の心を揺るがせる。

 これ以上、響を戦わせたくない、響が安心して休める、平和な世界にしたい、そんな思いがウェルの言葉によって増幅する。

 

「その話……詳しく聞かせてください。」

「未来!!」

 

 未来の決意は固く、もう輪の静止は意味を成さない。

 このやり取りで、未来だけが牢を出る事が許され、輪だけが中に閉じ込められたままになってしまった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 エアキャリアの外では洗濯物を竿に干す切歌と調だったが、切歌は心ここに非ずの状態だった。

 LiNKERの過剰投与の際の休息として、スーパーまで買い物に行った時、工事現場の鉄骨が倒れ危うく潰されそうになった時に発せられたバリア。

 あれは紛れもなく自分の力ではない。

 だとしたら誰の? 思い悩んだ時に一人だけ心当たりがあった。

 そしてマリアから告げられた偽りのフィーネ。

 

(マリアがフィーネでないのなら、きっと私の中に……。怖いデスよ……。)

 

 本当にフィーネの魂が宿っているのは自分以外ありえないと確信した。

 そしてそれを知った時に現れる恐れ、自分の自我が塗りつぶされフィーネが現れることに。

 自分が自分でなくなることへの恐れが、切歌を不安に駆り立てる。

 

「マリア、どうしちゃったんだろう……?」

「へ?」 

 

 調が不意に発した声で、先程の思考を考えるのをやめた切歌。

 

「私は、マリアだからお手伝いがしたかった……。フィーネだからじゃないよ……。」

「う、うん。そうデスとも。」

 

 調はマリアを本当の姉のように慕って来たからこそここまで一緒に頑張れたが、マリアが力で誰かをねじ伏せようとするやり方と捉えた調は、マリアの事が信じられずにいる。

 

「ジャンヌだって……マリアの事が好きなのに……。」

 

 ジャンヌはマリアに対して何も言わなくなってしまった事に寂しさを覚えた。

 二人は亡き妹を持つ姉同士、互いに支え合ってきたが、ここに来て二人のすれ違いで皆との絆に深い亀裂が生じていた。

 そんな現状を憂い、嘆く調だが切歌は違う話を切り出す。

 

「調は怖くないデスか?マリアがフィーネでないのなら、魂の器として集められたあたしたちがフィーネになってしまうかもしれないんデスよ?」 

 

 不安げになる切歌。調は

 

「よく、分からないよ……。」

「それだけ?!」

 

 驚愕が隠せなかった切歌はその場から逃げ出すように駆けて行った。

 

「切ちゃん……。」

 

 その背を、調はただ見ている事しか出来なかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「切ちゃん!」

 

 そう言って手を伸ばして起き上がる瑠璃。

 辺りを見回すと、そこは仮設本部の休憩室のソファで座って休んでいたのを思い出した。

 

「何で私……あの子の名前を……?」

 

 ここの所何故か見る夢、その中に出てくる切歌。

 夢にしては妙にリアルで、言葉に形容し難い感覚、それが残っていた。

 

 

「あれ?何で私……あの子の名前を?」

 

 




決戦は近い……

ご感想お待ちしております。


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それぞれの決意

いよいよG編もシリアスマシマシになってきましたな……。


 F.I.S.が搭乗するエアキャリアは、現在海洋上を飛行している。

 再びフロンティア浮上の為だ。

 マリアが舵を取る中、切歌はナスターシャの容態を聞く。

 

 

「マムの具合はどうなのデスか……?」

「少し安静にする必要があるわ。疲労に加えて、病状も進行してるみたい。」

 

 マリアは切歌の方へ向かず、ただ前を見てそう言う。

 そこにF.I.S.の主導権を握ったウェルが、尊大な態度で話す。

 

「つまり、のんびり構えていられないということですよ。月が落下する前に、人類は新天地にて、一つに結集しなければならない。その旗振りこそが、僕たちに課せられた使命なのですから!」

 

 調と切歌はウェルに対して従うのも不満であるが、マリアがウェルについてしまった以上、二人はマリアについていこうと気持ちを切り替えようとするが、調はずっと心の中にあるモヤモヤが晴れずにいる。

 だがそれはジャンヌを見た時にそれは後回しになった。

 

「ジャンヌ……大丈夫?」

「あ?あぁ……平気だ。」

 

 口ではそう言うが、肩で呼吸しながら見せる表情がそれが嘘であると分かる。

 心配する調だがそこにレーダーが米国の哨戒機を捉え、モニターにも映し出された。 

 

「こうなるのも予想の範疇。精々連中を派手に葬って、世間の目をこちらに向けさせるのはどうでしょう?」

 

 ウェルは余裕の笑みで提案するように話すが、中身は強制であると読んだ調は反論する。

 

「そんなのは弱者を生み出す、強者のやり方。」

 

 だがマリアはウェルの提案に賛成する。

 

「世界に私たちの主張を届けるには、恰好のデモンストレーションかもしれないわね。」

 

 かつてのマリアは無益な殺生を拒んでいたが、今は違う。

 

「私は……私達はフィーネ。弱者を支配する強者の世界構造を終わらせるもの。この道を行くことを恐れはしない。」

 

 ここまで変わってしまったマリアを調は見ていられなかった。

 もう自分達に優しく、強いマリアはどこにもいないのかと、悲しむ調だった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 二課の潜水艦のブリッジでノイズ発生アラートが発令され、さらに米国所属の艦隊から救援要請された。

 

 

「この海域から遠くない!急行するぞ!」

「応援の準備に当たります!」

 

 弦十郎の指示に、いち早く応答する翼。

 そしてクリスと瑠璃も出撃の準備に掛かる。

 

「翼さん!私も……」

「響ちゃんは戦っちゃ駄目!」

 

 響も出ようとしたが瑠璃とクリスに止められる。

 

「未来ちゃんが帰って来た時に、響ちゃんが生きていないと、いなくなっちゃ駄目だよ。」

「その通りだ。お前は大人しく待ってな。」

 

 二人とも響の身を案じて止めてくれたのだ。

 クリスと瑠璃はブリッジから出ていく。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 米国の兵士はノイズに対して現代兵器で応戦するも、ノイズにそんなものが通用するはずもなく次々と炭素化されていく。

 一方的な殺戮にマリアは耐えているが、調が側に歩み寄る。

 

「こんなことが、マリアの望んでいることなの?弱い人たちを守るために、本当に必要なことなの?」

 

 調の問いにマリアは沈黙したままだった。

 すると調は振り返ってエアキャリアの扉を開ける。

 突然の行動に驚いた切歌が引き止めようとする。

 

「調!なにやって……」

 

 そこにジャンヌが静止する。

 

「調、行くんだな?」 

「うん。マリアが苦しんでいるのなら、私が助けてあげるんだ。」

 

 そういうと調はエアキャリアから飛び降りる。

 

 Various Shul Shagana Tron……

 

 空中でギアを纏い、ツインテールのアームから小型の鋸が大量に降り注ぐ。

 

【α式・百輪廻】

 

 降り注いだ鋸はノイズを切断し、炭素へと変える。

 この戦いを見下ろしていたジャンヌは何処か寂しげでもあったが、同時に誇らしかった。

 

「調……ぅっ……!」

 

 だが突然ジャンヌが壁にもたれかかって苦しそうに倒れ、蹲る。

 倒れた音に、切歌が反応する。

 

「ジャンヌ!どうしたデスか?!」

 

 切歌が駆け寄ろうとした時、ウェルに肩を掴まれる。 

 

「連れ戻したいのなら、いい方法がありますよ。」

 

 ジャンヌは苦しみながらも、切歌に向けたウェルの悪魔の囁きに嫌悪感を示すが、今の状態では止める事が出来なかった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 シュルシャガナのギアを纏って米国哨戒機に放たれたノイズを葬っている調。

 現代兵器ですら効かない化け物を一方的に壊滅させている。

 だが数ではノイズの方が上回り、調の背後から襲い掛かろうとした時、頭上から三枚の碧刃が降り注ぎ、そのノイズは塵芥となる。

 振り返ると、やったのはイガリマのギアを纏った切歌だった。

 共に来てくれたことを嬉しく思い、駆け寄る。

 

「切ちゃん……っ!」

 

 だが切歌は調の首筋に注射を打ち込んだ。

 

「ギアが馴染まない……!まさか……。」

 

 Anti LiNKERを打ち込まれた。

 それにより適合係数が急激に下がり、LiNKERによって後天的にギアを纏えるようになった調のギアは強制解除され、立つのも辛くなる苦しみが全身に襲いかかった。

 切歌は自分の思いを吐露するように言った。

 

「あたし、あたしじゃなくなってしまうかもしれないデス!そうなる前に、何か残さなきゃ!調に忘れられちゃうデス!」

 

 切歌がウェルについた。

 大好きな友が力でねじ伏せるやり方に賛同してしまった事に、信じられずにいる。

 

「たとえあたしが消えたとしても、世界が残れば、あたしと調の思い出は残るデス!だからあたしは、ドクターのやり方で世界を守るデス!もう、そうするしか……あっ!」

 

 突如海中からミサイルが打ち出され、それが上空で分解されると翼、クリス、瑠璃がギアを纏っている状態で飛び出した。

 翼は切歌と交戦、クリスは調の回収、瑠璃は残ったノイズの殲滅に掛かった。

 Anti LiNKERで身動きが取れない調は、クリスに組伏せられ、拘束された。

 

「おい、ウェルの野郎はここに居ないのか!ソロモンの杖を使うアイツはどこに居やがる?!」

 

 クリスはソロモンの杖によって引き起こされた全ての犠牲は全て自分にあると責任を感じ、激情的に問うが調は答えなかった。

 一方、ノイズをバイデントのギアで殲滅させた瑠璃は、バイザーがエアキャリアを捉えると、連結させた槍を箒のように跨り、遠隔操作を応用して浮遊、エアキャリアに向けて飛ぶ。

 

(待ってて、輪!未来ちゃん!今助けに行くから!)

 

 それをレーダーで確認したマリアとウェルだが、彼は慌てる素振りは見せず、むしろ待っていたかのように笑う。

 

 

「ならば傾いた天秤を元に戻すとしましょうよ。出来るだけドラマティックに……。」

「出来るだけロマンティックに……。まさか、あれを?!」

 

 ウェルがコンソールを操作する。

 

 

 飛行している瑠璃はエアキャリアに向かっていたが、バイザーがエアキャリアから投下されたものをキャッチした。

 

「これって……?!」 

 

 Rei Shen Shou Jing Rei Zizzl……

 

 突如紫色に輝く光が発し、詠唱と共に船へと落ちた。

 

「お姉ちゃん!クリス!新たな装者が!」 

『新たな装者だと?!』

 

 翼とクリスに危機を知らせるが、船に落下したそれの周りに煙が立ち込める。

 晴れていくとそこにいたのは……

 

「嘘……?!」

 

 神獣鏡のギアを纏い、虚ろな瞳をした小日向未来がそこにいた。




XD風ボイス【冬編】

瑠璃
こんなに寒いと、お鍋が美味しくなるんだよね。けど、いつの間にか鍋の無限ループが続いちゃうんだよね……。


こうも寒いと人肌恋しくなるんだよね〜。そうだ、瑠璃に温めてもらおう!あの子暖かいんだよね〜。


シリアスが続くので定期的にこういう感じで中和していこう。
ご感想お待ちしております。


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歪鏡が紡ぐ歌

 神獣鏡のギアを纏った未来が現れた事は、ブリッジでもモニターに映し出されている。

 

「未来……!」

 

 響が未来の名前を叫んだ。

 

 

 エアキャリア内でも、安静にしていたナスターシャが車椅子に乗ってウェルに問いただしている。

 

 

「神獣鏡をギアとして、人に纏わせたのですね……。あれは封印解除に不可欠なれど、人の心を惑わす力……。」

 

 ナスターシャはウェルを睨みつけるも、本人は悪びれた様子は見られない。

 

「ふうん。使い時に使ったまでの事ですよ。マリアが連れてきたあの娘は、聞けば融合症例第一号の級友らしいじゃないですか。」

「リディアンに通う生徒は、シンフォギアへの適合が見込まれた装者候補たち……。つまりあなたのLiNKERによって、あの子は何もわからんまま無理矢理に……」

 

 それにウェルが添削するように言う。

 

「ちょっと違うかなぁ~。LiNKER使って、ホイホイシンフォギアに適合できれば、誰も苦労しませんよ。装者量産し放題ですよ。」

「ならば、どうやってあの子を?!」

 

 ナスターシャの問いにウェルは断言した。

 

「愛、ですよ!」 

「何故そこで愛?!」

 

 そこに愛という言葉が出てきた事に信じられなかったが、ウェルは狂気の歓喜で言い放つ。

 

「LiNKERがこれ以上級友を戦わせたくないと願う思いと、これ以上何も失わせたくないと願う思いを神獣鏡に繋げてくれたのですよ!ヤバいくらいに麗しいじゃありませんか!」

「悪趣味なやつだ……。」

 

 そこに割って入ったのは、息が荒く、苦しそうな状態であるにも関わらず、ウェルに対して静かに憤るジャンヌだった。

 

「ジャンヌ……。」

「あの子は急ごしらえで仕立て上げられた分、壊れやすく脆い。それを分かってお前は……」

「私は背中を押しただけに過ぎません。選んだのはあの娘ですよ。」

 

 詭弁と言いたいが、シンフォギアは人の意思を映し出す、言わば鏡のようなものでもある。

 そして未来の意思を映し出すように纏えたのも、全ては響を戦う必要のない、安心して過ごせる世界を作る為にと思っての事だった。

 

「なら……バイデントは……メルの時はどう説明する?!愛でギアを纏えるのなら、メルにだって……」

「さあて、それは僕にも分かりませんよ。」

「何……?!」

「いずれ分かりますよ。その為に彼女を連れてきてもらったのですから。」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 エアキャリアを目指していた瑠璃は、未来が装者になっていた事に動揺し、船まで戻って行った。

 

「未来ちゃんが装者に……?!」

 

 クリスに拘束されていた調が話す。

 

「あの装者は、LiNKERで無理矢理に仕立てられた消耗品……。私たち以上に急ごしらえな分、壊れやすい……。」

 

 それを聞いたクリスは怒りに震える。

 翼は本部に報告するが、流石の翼も動揺を隠しきれなかった。

 

「行方不明となっていた、小日向未来の無事を確認。ですが……。」

「無事だとぉ?!あれを見て無事だというのか?!だったらアタシらは、あのバカ共になんて説明すればいいんだよ?!」 

 

 確かにクリスの言う通り、無事とは言い難く、装者として自分達に立ち塞がっている。

 未来はヘッドギアを閉じ、脚部のユニットで浮遊し、加速する。

 やるしかないと踏んだクリスは調の拘束を解いて、腕の装甲をボウガンへと可変させる。

 

「こういうのはアタシの仕事だ!」

 

 未来がアームドギアである閉じた扇の先端から光線を放つが、それを舞うように避けボウガンを乱射する。

 

 【QUEEN's INFERNO】

 

 だが神獣鏡に搭載されたダイレクトフィードバックによって、即座に軌道演算、適切な回避ルートによって全て避け、海上へ浮遊する。 

 そこにバイデントの黒槍が未来へ襲い掛かる。

 

「姉ちゃん?!何で……」

「クリス一人に辛い思いはさせない……!私も一緒に戦う!」

 

 米国の哨戒機上で槍を遠隔操作する瑠璃の援護によって未来の行動ルートを封鎖していく。

 さらにクリスはガトリング砲を乱射、未来にダメージを与える。

 圧倒してはいるが、瑠璃にとっては可愛い後輩であり、クリスにとっては恩人である未来を相手にしているという事実が、心の枷となって一層やりづらくなる。

 

(やりづれぇ……!姉ちゃんと共に助ける為とは言え、あの子はあたしの恩人だ……!)

(お姉ちゃんやクリス達に……こんな苦しい思いをさせてたなんて……!)

 

 以前フィーネに操られていた瑠璃は、こんなに辛い事を三人に敷いていた事に気付く。

 

 だが次第に数でも経験でも上回る二人の攻撃に追い詰められ、黒槍の柄が未来の腹部に直撃して、彼女は船の上に倒れる。

 倒れた未来に、クリスが駆け寄る。

 

「こんなもん、取っちまえば……」

「女の子は優しく扱ってくださいね。乱暴にギアを引きはがせば、接続された端末が脳を傷つけかねませんよ。」

 

 手を伸ばそうとした時、ヘッドギアから聞こえたウェルの警告にクリスは躊躇うが、その隙を突かれる形で未来は動き出し、扇が展開されるとそこから波動を放つ。

 

【閃光】

 

「クリス危ない!」

 

 辛うじて避け、距離を取る。

 展開された扇を閉じて浮遊すると、背部の鞭、脚部のユニットが連結すると巨大な鏡となって、紫色の光がエネルギーとなって集約される。

 クリスは背後にいる調を見ると、今度は瑠璃の方を見る。

 

「姉ちゃん!そいつを頼む!」

 

 クリスはリフレクターを展開させて迎撃の構え、意図を察知した瑠璃は調の所へ駆け寄る。

 

「飛ぶよ、掴まって!」

 

 瑠璃は調の手を掴んだ瞬間、二人の身体中に電気が流れるような衝撃が走った。

 突然の出来事に二人は動揺を隠せなかった。

  

(何……今の……?!)

「呆けるな瑠璃!」

 

 翼の声で我に返った瑠璃は今はここから調を安全な場所へ移動させなくては、未来の攻撃の餌食になってしまうと判断し、調を抱える。

 

「しっかり、掴まってて!」

 

 調を抱えた状態で連結された槍に跨って浮遊すると、上空へ移動する。

 

「調を返すデス!」

 

 逃がすかと言わんばかりに切歌は大鎌の刃を三枚投擲する。

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 後ろからイガリマの刃が迫っているのを確認すると、上昇、下降を繰り返して回避すると弦十郎に通信を入れる。

 

「司令、調ちゃんを保護しました。すぐに安全の……」  

「待って。」

 

 突然調に遮られる形で声をかけられる。

 

「お願い、切ちゃんの所まで連れてって。このまま切ちゃんを、ドクターの所に行かせたくない。」

 

 瑠璃の左腕を掴んで、瑠璃に懇願した調。

 瑠璃はその思いに頷いた。

 

「分かった。司令、少し寄り道を……っ!」

 

 旋回して切歌の所へ向かうが、突如目の前に紫色の光線がバイザーに被弾してしまい、左半分が割れ、ラピスラズリの瞳が露出する。

 遠隔操作の制御が一瞬途切れてしまった事でバランスが崩れ、海に落ちそうになるがギリギリの所で制御を取り戻し、超低空飛行で立て直す。

 放たれた方を見ると、未来がこちらを撃ち落とさんと扇を向けてきた。

 再び撃ち落とそうと放とうとした時、切歌に腕を掴まれる未来。

 

「やめるデス!調は仲間!あたし達の大切な……」

『仲間と言い切れますか?僕たちを裏切り、敵に利する彼女を。月読調を……仲間を言い切れるのですか?』

 

 切歌のヘッドギアの通信からウェルの声に遮られる。

 

「違う……あたしが調にちゃんと打ち明けられなかったんデス……!あたしが調を裏切ってしまったんデス!」

 

 その声は震えており、今にも泣き出しそうになっている。

 

「切ちゃん……!」

 

 後ろを振り返ると浮遊から着地した瑠璃と調がいた。

 

「ドクターのやり方では、弱い人達は救えない……!」

『そうかもしれません。何せ我々は、かかる災厄にあまりにも無力ですからね。』

 

 再びウェルの声が神獣鏡のヘッドギアから割って入った。

 エアキャリアの扉が開いた音で装者達がその方へ注目すると、そこにはウェルが立っている。 

 

「シンフォギアと聖遺物に関する研究データは、こちらだけの専有物ではありませんから。アドバンテージがあるとすればぁ……精々このソロモンの杖!」

 

 するとウェルは再びソロモンの杖を海に向けて薙ぎ払うように緑色の光線を放つ。

 そこからノイズが召喚され米国哨戒機に乗り込むと、生き残ったの米国兵士達を襲い、次々と炭素化していった。

 虐殺とも言えるそのやり方に憤る瑠璃は、ウェルに怒号を向ける。

 

「Dr.ウェル!!」

 

 槍の穂先エネルギーを集中させるが、ウェルの声がそれを妨げる。

 

『おぉっと!それを放てば、あなたの学友も一緒に木っ端微塵になる事をお忘れなく。』

 

 その言葉に心が動じ、身体は止まってしまう。

 

「まさか……輪!」

 

 エアキャリアの中に輪がいる事が判明したが、これでは人質に取られたようなものだった。

 

「瑠璃、それよりも小日向を!倒そうとせずとも、抑えておくだけでいい!」

「分かった……。」

 

 翼の指示で冷静になった瑠璃だが、悔しさを噛み締めながら未来と対峙する。




ここで裏話。

瑠璃は穏やかで誰かに対して怒る事をしません。
基本たじろいだり、泣き出すくらいです。
なので瑠璃が怒った所をクリス、輪、弦十郎ですら見たことがありません。
なのでもし瑠璃が怒る時が来たら……


ご感想お待ちしております。


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喪失、融合症例第一号

シンフォギアのコンプリートCDホスィ……


 米国の船上で神獣鏡のギアを纏った未来と対峙する瑠璃に弦十郎から通信が入った。

 

『瑠璃、先程イチイバルのリフレクターがいとも簡単に崩された。恐らく神獣鏡は聖遺物殺しのギアだ!』

 

 クリスはリフレクターで迎撃した時、呆気なく分解されたが翼が機転を利かせた立ち回りで無事だったというのだ。

 さらにそこに調が瑠璃に忠告する。

 

「あれは無垢にして苛烈、魔を退ける輝きの奔流。それが神獣鏡のギア。」

 

 調の忠告に瑠璃は頷いた。

 

「ありがとう。気をつけて立ち回るよ。」

 

 だが瑠璃のバイデントは冥槍、闇の槍では魔を祓う聖遺物殺しの神獣鏡が相手ではまさに相性は最悪と言っても過言ではない。

 さらに瑠璃は調を担いでいた際に未来の攻撃によってバイザーは破損してしまっている。

 これが無いとノイズや他の装者からの攻撃や接近の察知など戦闘補助機能が封印されるが、バイザーが破損した破壊された時点でそれらの機能は使い物にならなくなったので、これを解除する。

 ここから先は瑠璃の経験と感覚のみで戦うしかないが、それらのディスアドバンテージを気にしていたら未来を取り戻せなくなる。

 勇気を振り絞って、瑠璃は二本の槍を構える。

 

 扇から放たれる光線を避け、距離を詰めて槍を水平に払うように振るうが、後退する形で避けられ、連続突きも、扇で的確に防がれる。

 そして黒槍の穂先からエネルギーを集約させ、それを虚空に突いた時、エネルギー波となって放たれる。

 

【Shooting Comet】

 

 未来は展開された扇から波動を放つ。

 

【閃光】

 

 当然聖遺物の力をかき消す性能によって、バイデントから放たれたエネルギー波は消されてしまい、瑠璃は避ける事しか出来ない。

 さらに未来は脚部のユニットで浮遊して海上へと移動する。

 バイデントは槍の遠隔操作を応用してこそ遊行出来るのだが、その代わり一切の攻撃手段を失ってしまうという欠点を抱えている。

 

「だったら……!」

 

 両腕を広げると、二本の槍は浮遊し、右手を突き出すと黒槍が未来に向かって突き進む。

 だが未来は扇から光線を放ち、黒槍を撃ち落としたかに見えたが被弾直前に急降下、柄が撃ち抜かれるも穂先が残っている為、構わずに動き続ける。

 さらに黒槍に気を取られている内にもう一本、背後から白槍が回転しながら襲い掛かる。

 だが未来も扇を投擲して白槍を弾く。

 

(やっぱりあのバイザー、私のバイテントと同じ……!)

 

 神獣鏡に搭載されたダイレクトフィードバックによって尽く避けられ、背後からの攻撃すらも読み防がれる事から、その性能はバイデントの戦闘補助システムを上回る。

 さらに防御だけでなく攻撃も的確で、扇から放つ光線は瑠璃が避けづらいポイントに正確に放ち、攻撃を封じ込める。

 やむを得ず二本の槍を手元に戻し、柄が半分消された黒槍は剣のように短く持つ。

 

(こうも攻撃が激しいと、ここから攻撃が出来ない……!)

 

 黒槍の柄が半分消されたことで連結させて浮遊させて乗る事も出来なければ反撃も出来ず、避ける事しか出来ない。

 

「未来!瑠璃さん!」

 

 未来を呼ぶ声に反応し、攻撃をやめてそちらに向く。

 瑠璃もその方へと向くと、二課の潜水艦か浮上しており、その甲板に立っている響がいた。

 

「響ちゃん……何で?!」

 

 そこに弦十郎から通信が入る。

 

『瑠璃。未来君の相手は、響君に委ねる。』

「そんな!そんな事したら響ちゃんが……」

『お前も分かっているだろう。バイデントではあのギアを倒せない事を。』

 

 弦十郎の言う通り、バイデントでは相性が致命的に悪く、苦戦を強いられている。

 このまま戦っても勝てる見込みはない。

 

「悔しいな……。けど……分かった……。ごめんなさい……お父さん……。」

『いや、瑠璃。お前が責任を感じる必要はない。むしろこれ程の相性の悪い強敵相手に、ここまで抑え込んだ。良くやったな。』

「お父さん……。」

 

 司令として、父親として娘の成長を褒める言葉だった。

 

『司令だ。クリス君がノイズに対処している。瑠璃もそれに加われ。』

「うん……!」

 

 そう言うと通信を切り、響の方を見る。

 

「響ちゃん、どうか……死なないでね。」

「はい!」

 

 響は笑って返す。

 未来は響に託し、米国哨戒機を飛び回ってノイズ殲滅へと動き出す瑠璃だった。

 

 

 未来は脚部のユニットの浮遊を使って、響の正面に立つ。

 

「一緒に帰ろう……未来。」

 

 響がそう言うと未来はバイザーを開き、虚ろな瞳が露出した。

 

「帰れないよ……。だって私には、やらなきゃならないことがあるもの。」

「やらなきゃならないこと?」 

 

 響が聞くと未来は笑みを浮かべる。

 

「このギアが放つ輝きがね、新しい世界を照らし出すんだって。そこには争いもなく、誰もが穏やかに笑って暮らせる世界なんだよ。」

「争いのない世界……。」

「私は響に戦ってほしくない。だから響が戦わなくていい世界を作るの。」

 

 それが未来がギアを纏い、戦う理由。

 響はその想いを聞いて一瞬だけ言葉に詰まった。

 

「だけど未来。こんなやり方で作った世界は、暖かいのかな?私が一番好きな世界は、未来が傍にいてくれる、暖かい陽だまりなんだ。」

 

 未来の想いは正しいのかもしれない。響はその想いを否定するわけではないが、それでもウェルのやり方を認めるわけにはいかない。

 

「でも、響が戦わなくていい世界だよ?」

「たとえ未来と戦ってでも……そんなことさせない!」

「私は……響を戦わせたくないの。」

「ありがとう。だけど私、戦うよ!」

 

 強く言い切った。

 

 Balwisyall Nescell Gungnir Tron……

 

 ギアを纏い構える響。その瞬間から死へのカウントダウンが始まった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 何故響が戦う事を決めたのか、それは瑠璃が未来と交戦していた時の仮設本部内で思いついた響の作戦にあった。

 

「あのエネルギー波を利用して、未来君の纏うギアを解除するだと?」

「私がやります!やってみせます!」

 

 提案された弦十郎は響の身を案じた。

 

「だが……君の身体は……」

「死んでも未来を連れて帰ります!」

「死ぬのは許さん!」

「じゃあ死んでも生きて帰って来ます!それは絶対の絶対です!」

 

 藤尭と友里が過去のデータと現在の融合状況から計測する。

 響がギアを纏って戦える時間はたったの2分40秒というとんでもなく短い時間だった。

 だがそれは止める為ではなく、支える為に二人はこの計算を割り出した。

 弦十郎は響に問いただす。

 

「勝算はあるのか?」

 

 それに響が言い切る。

 

「思いつきを数字で語れるものかよ!!」

 

 かつて弦十郎が放った言葉を、こんな形で返された弦十郎は響の出撃を許したのだった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 遂に始まった、響と未来との戦いが。

 

 響が右手で殴り掛かり、蹴り込み、未来がそれをダイレクトフィードバックで的確に防ぎ、逆に扇で響を甲板の壁まで吹き飛ばす。

 壁に強く打ち付けられた響だが未来の二本の鞭の攻撃を両腕で防ぐが、防御している間にもこうして刻々とタイムリミットが迫る。

 

(熱い……体中の血が沸騰しそうだ……!)

 

 弦十郎からの通信が入る。

 

 『胸に抱える時限爆弾は本物だ!作戦時間の超過、その代償が確実な死である事を忘れるな!』 

(死ぬ……私が死ぬ……。)

 

 だが響は諦めない。

 

「死ねるかああああぁぁぁ!!」

 

 鞭の攻撃を強引に突破し、反撃の拳を突き出すも未来に距離を取られた上に、空中を浮遊して左右の脚部から展開されたユニットが、未来の頭上に円形に連結するとそこから光線を放つ。

 

【流星】

 

 響は避けるが、米国哨戒機に直撃する。

 さらに小型の鏡を大量に展開、そこからも光線を放つも、響は脚部のジャッキを展開して、その光線を足場にして跳躍する。

 

「戦うなんて間違ってる……。戦わない事だけが、本当に暖かい世界を約束してくれる。」

 

 同じ頃、エアキャリアを操縦するマリアが神獣鏡の光線が放たれているのを確認した。

 

「ポイント確認、シャトルマーカーを射出。」

 

 エアキャリアの上部が開かれるとミサイルのようにシャトルマーカーが放たれる。

 それらは円形のような陣を敷くように配置され、体部が展開される。

 その体部が開かれた場所に神獣鏡の光線が反射する。

 

 本部では友里が危険を知らせる。

 

「まもなく危険域に突入します!」

 

 残り時間が30秒を切ったその瞬間、心臓のガングニールの破片が動き出すのを感じた。

 そして響の胸部からガングニールの破片が大きく露出した。

 それを目の当たりにしてしまった未来は、助けるはずが自分が戦う事で響を逆に苦しめている事に動揺する。

 

(違う!私がしたいのは……こんな事じゃない!こんな事じゃ……)

「ないのにいいいいぃぃぃーーーー!!」

 

 未来の慟哭が響き、バイザーが開かれると涙を流していた。

 

(誰が未来の身体を好き勝手してるんだぁ!)

 

 光線が飛び交う中に響は未来に突っ込み、抱きしめる。

 

「離して!」

「嫌だ!離さない!もう二度と離さない!!」

「響いいいいぃぃ!!」

「離さない絶対にいいいぃぃ!!」

 

 シャトルマーカーに反射したレーザーが展開された。

 それを確認した響は切り返し、未来を抱えたままそれに突っ込む。

 

「来る、フロンティアへと至る道!」

 

 操縦席でスイッチを押すマリア。神獣鏡のエネルギー波が照射される。 

 展開された光線が、下中央に配置されたシャトルマーカーに反射されると、強大なエネルギー波となって放たれた。

 

「そいつが聖遺物を消し去るっていうんなら……こんなの脱いじゃえ!未来ううううぅぅぅ!!」

 

 二人は神獣鏡のエネルギー波の軌道線上に突っ込み、それを全身に受けた。

 二人のギアは粉々に砕け散り、未来の後頭部に繋がれたダイレクトフィードバックも、響の心臓に埋められていたガングニールの破片も跡形も無く消え去った。

 

 強大な神獣鏡のエネルギー波は最後の一個のシャトルマーカーが海上へと反射された。すると、海中から大陸とも言える程の大きさを誇る巨大な島が浮上した。

 これがフロンティアである。

 

 

 一方ノイズを相当したクリスと瑠璃だったが、瑠璃は一度助けたはずの命が、ウェルが再びソロモンの杖で召喚したノイズによって奪われ、そこにいた米国兵たちが皆死んでしまった事に嘆き、動じに静かに怒る。

 

「Dr.ウェル……許せない……!」

 

 その背を見ていたクリスはある決断を下すために瑠璃に歩み寄る。

 

「姉ちゃん。」

「クリス……がぁっ!!」

 

 鳩尾を殴られ倒れる瑠璃。

 

「ど……し……」

「悪い。ケジメはつける。」

「ク……リ……ス……。」

 

 倒された瑠璃はクリスの行く背をただ見てる事しか、出来なかった。




GX編早く書きたい……。

ご感想お待ちしております。


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語らいの中にあるモノ

無印編であったものが、G編でも……

恒例化しそうだなぁ……


 浮上したフロンティアにエアキャリアを停め、乗り込んだ調を除いたF.I.S.の面々と手錠を掛けられた輪、そして二課を裏切ったクリス。

 今はフロンティアの中枢へ目指し、歩いている。

 

「こんなものが、海中に眠っていたとはな。」

「あなたが望んだ新天地ですよ。」

 

 ウェルの言葉をぶっきらぼうに返す。

 

「御託はいい。全て終わったら、報酬を約束してくれ。」

「しっかり働いてくれたならば、然るべきものを考えておきましょう。」

 

  切歌は突然二課を裏切ってF.I.S.についたクリスに疑いの眼差しを向ける。

 

「本当に仲間を裏切って、アタシ達に付くつもりなのデスか?」

「あいつを仕留めたのが証明書代わりだ。」

 

 クリスは瑠璃を気絶させた後、翼を銃撃してF.I.S.に寝返った。

 それでも切歌は納得しない。

 

「しかしデスね……」

「力を叩き潰せるのは、さらに大きな力だけ。あたしの望みは、これ以上戦果を広げない事。無駄に散る命を一つでも少なくしたい。」

 

 マリアも疑っている。念の為確認する。

 

「本当に私達と一緒に戦う事が、戦火の拡大を防げると信じているの?」

「信用されてねえんだな。気に入らなければ鉄火場の最前線で戦うあたしを後ろから撃てばいい。」

「もちろんそのつもりですよ。」

  

 ウェルがそう言うと、切歌は輪の方を見る。

 

「何か言う事はないんデスか?」

 

 輪はため息をつくと……

 

「裏切り者に何か言えって言うの?」

 

 冷淡な言葉で吐き捨て、そっぽ向いた。マリアは輪にも問いかける。

 

「級友にそんな冷たい事を言うのね。」

「本当の事じゃん。」

 

 輪の冷淡さに何処か怖さが感じ取れた。

 

 そうこう話している内に、フロンティアを制御するジェネレータールームに到達した。

 中央に、広大にそびえ立つ祭壇のような球体の建造物に驚く切歌。

 

「何デスかあれは?」

 

 切歌の疑問に答える事なく、ウェルは祭壇へと早足に赴き、トランクケースからネフィリムの心臓を取り出すと、球体に押し付ける。

 するとネフィリムの心臓が、まるで血管のように伸びると球体と繋がった。

 そして球体が黄金の輝きを纏った。フロンティアが起動した。

 

「心臓だけとなっても、聖遺物を喰らい取り込む性質はそのままだなんて……。卑しいですねぇ……。」

 

 ウェルに下卑た笑みが浮かぶ。

 フロンティアにエネルギーが行き渡った事で、フロンティア全体に緑が生い茂る。

 

「さて、僕はブリッジに向かうとしましょうか。ナスターシャ教授も制御室にてフロンティアの面倒をお願いしますよ。」

 

 そう言うとウェルは去っていった。

 

 切歌はあの海戦で調に言われた事を思い出した。

 

『ドクターのやり方では、弱い人たちを救えない……!』

 

 だが切歌はこれを否定する。

 

「そうじゃないでデス……フロンティアの力でないと……誰も助けられないデス……。調だって助けられないデス……!」

 

 それを聞いていたジャンヌはただ見ている事しか出来ない自分に悔しさを滲ませる。

 

(あれだけ仲の良かった二人が……こんな事に……。)

 

 そこにナスターシャに声を掛けられる。

 

「ジャンヌ。私はこれより制御室へと赴きます。」

「なら私も……」

 

 これをナスターシャが遮る。

 

「ジャンヌはあの子をドクターの手に渡らないようお願いします。」

 

 ナスターシャは輪の方を見ていた。

 

「分かった、マム。君はこっちだ。付いてこい。」

 

 そう言うと輪を引っ張り出し、去っていった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一方、神獣鏡のギアから解き放たれ、二課のメディカルルームで治療を受けていた未来が目を覚ました。

 

「未来!」

 

 良いタイミングで響が入ってくると、未来を抱きしめた。

 クリスの銃撃を受けながらも生き延び、頭に包帯を巻いている翼、タブレットを持っている友里も入って来た。

 

「小日向の容態は?」

「LiNKERの洗浄も完了。ギア強制装着の後遺症も見られないわ。」

 

 友里は悪いニュースが一つもない報告を発表する。

 

「良かった……本当に良かった!」

「響……その怪我……。」

「うん?」

「私のせい……だよね……。」

 

 未来は自分が響を傷つけた事に涙し、謝ろうとしたが、響はへっちゃらと言わんばかりの笑顔で返す。

 

「うん。未来のお陰だよ。」

 

 思わぬ返しに戸惑う未来。

 

「ありがとう未来。私が未来を助けたんじゃない。未来が私を助けてくれたんだよ!」

 

 友里がタブレットに映るレントゲン写真を見せた。それは響のものであるが、以前に目にしたガングニールに侵食されていたものとは見違える程に、破片は一切無かった。

 

「あのギアが放つ輝きには、聖遺物由来の力を分解し、無力化する効果があったの。その結果、二人のギアのみならず、響ちゃんの身体を蝕んでいたガングニールの欠片も、除去されたのよ。」 

「え……?」

 

 友里が優しく説明すると未来は驚きの声を漏らす。

 

「小日向の強い思いが、死に向かって疾走するばかりの立花を救ってくれたのだ。」 

「私が本当にに困ったとき、やっぱり未来は助けてくれた……ありがとう!」

 

 そう言うと響は未来の手を握る。

 

「私が響を……。」

(でも待って……。それって響は……。)

 

 ガングニールを纏えなくなった、という事を意味した。

 

「F.I.S.のたくらみなど、私と瑠璃の二人で払って見せる。心配など無用だ。」

「二人……?」

 

 今気づいたがクリスと瑠璃がいない事に気付いた。

 

「そういえば、瑠璃さんとクリスは?」

「瑠璃さんは今、調ちゃんの所にいるよ。」

 

 

 

 瑠璃はあの戦いで調に触れた時に起きた衝撃を確かめる為に、調が収容されている部屋の前にいる。

 念の為緒川も同伴している。

 

「ありがとうございます、緒川さん。」

「いえ。僕も彼女について色々聞いておこうと思っていたので。」

「その事なんですけど……私に任せてもらえますか?」

 

 緒川が問う。

 

「何故ですか?」

「何となくです……。それに、女の子の話は女の子が聞いた方がいいかなって思って……。すみません、上手く言えなくて……。」

「いえ。では彼女の事はお任せします。」

 

 そう言うと緒川は部屋のロックを解除する。瑠璃は部屋の扉を開け、中に入る。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

(切ちゃん……。) 

 

 切歌の説得に失敗した後、緒川によって保護された調は、部屋に収容されている。

 目的を見失い、暴走する仲間を見ていられず、ジャンヌに背中を押される形で飛び出した。

 ここに来たということは、マリアや切歌、ジャンヌ達と刃を交えるという事になるが、それは覚悟の上だ。

 だが気になるのはジャンヌだった。

 あの時様子がおかしかったのが気になり、何か嫌な予感がした。 

 だが考えていると部屋のロックが解除される音が聞こえた。 

 ドアが開くと瑠璃が入って来た。

 

「こんにちは。」 

「あなたは……。」

「さっきぶりだね。隣……良いかな?」

「うん。」

 

 そう言うと調の座るベッドに、隣に座る。すると、瑠璃が心配そうに話しかける。

 

「身体の方はもう良いの?」

「うん。私は元々適合率が低いから、ギアが解除出来た。だからバックファイアは無かった。あなたの時は、かなり苦しんだみたいだけど……。」 

「そうだね……。あれは大変だった……。お父さん、あの時すごく心配してなぁ。」

 

 秋桜祭で見たところ、調は切歌より警戒心が非常に高く、人見知りすると考えた瑠璃は他愛もない話で調の警戒心を解いていく。

 

「ねえ、その人本当のお父さんじゃないでしょう?」

「えっ?!」

 

 ごく一部にしか知らない事を、調が知っている事に驚く。

 

「それで双子の妹がイチイバルの装者の雪音クリス。本名は雪音ルリ……」

「待って待って!何で知ってるの?!」

「あなたの顔を見た時、イチイバルの装者に似てた。それにあの人、あなたの事を姉ちゃんって言ってたし……。でも……双子だったのはちょっと意外だった。」

 

 まさかそこまで知られていたとは思いもしていなかった。だが一つ引っかかる事があった。

 

(ん?双子って言ったっけ?)

 

 確かにそっくりではあるが、普通は姉妹というのが自然だろうが双子なんて細かい所まで見抜けるのか。

 だがそう考えていると調に腕を掴まれて我に返る。

 

「あの……。お願いがある。」

「お願い?」

「私と一緒に皆を止めてほしい。ジャンヌに送り出されたとは言っても……私一人じゃ……止められない……。だから……どうしたの?」

 

 今にも泣きそうな様子で瑠璃に頼み込んだ。この時、瑠璃は何か思い出したような顔をしていた。調は瑠璃の顔を見て尋ねた。

 

「あ、うん。大丈夫。」

(そっか。調ちゃんも、切歌ちゃんやマリア、ジャンヌが大好きだから……私達に。こんな形で教わるなんて……。忘れてたな……。)

 

 調に微笑む瑠璃。

 

「止めるよ、みんなで。」

「良いの?そんな簡単に……私はあなた達と……。」

「関係ないよ。私もしたいし、お父さんなら子供の願いを無下にはしないよ。」

 

 その言葉に調の笑顔が戻った。すると、突然調の両手は瑠璃の頬に当て、頭を寄せると唇同士を重ね合わせた。

 

「っ……!」

 

 突然接吻された事に顔を赤くする瑠璃。重ね合った唇が離れる。

 

「やっぱり親子ね……ルリ。」

「え……?えぇっ……?!」

 

 何故こんな事になったのか困惑する瑠璃。

 そこに緒川が良いニュースを持って入って来た。

 

「瑠璃さん、未来さんが目覚めたようです。」

「本当ですか?!良かった……。」

 

 良いニュースで平静を取り戻した瑠璃は、座っていたベッドから立つ。

 

「じゃあ、お父さんに言ってくるね。」

「うん。ありがとう。」

 

 瑠璃は手を振って緒川と共に部屋を出た。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 調が言っていたことをブリッジにいる弦十郎に伝える瑠璃。

 

「そうか……あの子がそんな事を……。」

「良いよね、お父さん?」

「当たり前だ。」

 

 弦十郎が腕を組んで笑顔で認めた。そこに起き上がったばかりの未来、響、翼、友里が入って来た。

 

「瑠璃さん!」

「未来ちゃん!もう大丈夫なの?!」

「はい。クリスがいなくなったって聞いて、いてもたってもいられなくなって……。」

「確かに響君とクリス君が抜けた事は、作戦遂行に大きく影を落としていた所だが……。」

 

 友里がタブレットを見て報告する。

 

「でも、翼さんに大事がなかったのは本当に良かった。致命傷を全てかわすなんて流石です。」

 

 それに疑いの念を持つ翼。クリス程の実力者なら目と鼻の先の距離を外すなんて考えられなかったからだ。もしかしたらと考える翼だった。




瑠璃は今回の件である事に勘付いています。
それはまた後ほど……

そしてキャロルちゃんお誕生日おめでとう!

「おい、早くGX編まで進めろ!」


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最後の望み

ジャンヌの隠し事が明らかになります。


 マリアを伴って制御室に入ったウェルは、中央にそびえ立つ球体の前に立つ。

 懐から緑色の液体が入ったガン型の注射器を出す。

 

「それは……?」

「LiNKERですよ。聖遺物を取り込む、ネフィリムの細胞サンプルから生成したLiNKERです。」

 

 すると白衣の左袖を捲くって前腕を晒すとそこに注射器を打ち込む。すると打ち込んだ腕が変色、変形して人の腕とはかけ離れた歪な腕へと変貌した。

 さらにその手で球体に触れると、フロンティアがウェルのネフィリムに反応するかのように文字が羅列される。

 

「ふふへへッ……早く動かしたいなあ……。ちょっとくらい動かしてもいいと思いませんかぁ?ねぇ、マリア。」

「っ……!」

 

 マリアは何処か嫌な予感がした。

 ウェルの下卑た笑みにはいつもろくな事にならないのは分かってはいるが、世界を救う為にウェルを頼るしかない。だが今度ばかりは違う。

 その悪い予感は現実のものになろうとしている。

 

「さぁ行けえぇ!」

 

 ウェルの意思に呼応するように三本の柱がそれぞれ輝きを帯び、それが天を貫き、月にまで届いた。空中で一つになるとそれは巨大な腕となって月を上から掴んだ。

 

「どっこいしょおおぉぉーーー!!」

 

 ウェルの声とともにフロンティアが浮上、地表までもが剥き出しとなったフロンティアは空中都市のように浮かび上がった。

 

 

 その影響による地響きは二課の潜水艦にも伝わった。

 

「い、一体何が?!」

「広範囲にわたって海底が隆起!我々の直下からも迫ってきます!」

 

 響の問いに答えるように藤尭が報告した。

 さらに新たに第二陣として配備された米国の艦隊がフロンティアを砲撃するが、フロンティア自体が聖遺物であり、その相手に現代兵器では傷らしい傷を一つもつけられない。

 

「楽しすぎてメガネがずり落ちてしまいそうだぁ……」

 

 ウェルはネフィリムの腕を使ってフロンティアに命じると、島底の地から光が放たれ、米国艦隊がそれに引き寄せられるように宙に浮かび上がり、空圧で押し潰された。次々と艦隊はスクラップとなり、全艦爆破された。

 

「ふっ……制御できる重力はこれくらいが限度の様ですねぇ。フハハハハハ!」

 

 もはや英雄とは程遠い所業と高笑いに、マリアですら疑念を抱くようになる。

 

「手に入れたぞ……蹂躙する力を!これで僕も英雄になれるぅ〜!この星のラストアクションヒーローだぁ~!やったぁ〜!」

 

 メガネは不要と言わんばかりに捨て、制御室中にウェルの高笑いが響き渡る。

 

 

 その様子は別室にいたジャンヌと輪も把握していた。

 輪は初めてウェルを見た時、雰囲気からして何か良からぬ事をやらかすと予想してはいたが、まさかここまでやるかと考えていなかった。 

 

「これ……あのマッドサイエンティストが……!こんなの虐殺じゃん!やめさせないと!」

「無駄だ……。ここでは全てウェルの思うがまま。その気になれば私達だって……。」

 

 完全聖遺物を操るジャンヌでもフロンティアに干渉など出来やしない。

 何も出来ないもどかしさに葛藤している所に、ナスターシャから通信が入った。

 

「マム?!」

『ジャンヌ、最悪の事態が発生しました。Dr.ウェルがフロンティアを浮上させた事で、そのアンカーとなった月が落下を始めています。』

「なっ……?!馬鹿な!奴は人類を滅ぼすつもりか?!」

 

 F.I.S.は本来米国政府が隠蔽した月の落下軌道の偽装を暴き、人類を救う為に活動していたが、結果的に真逆の事が引き起こされてしまった。

 

「どうするマム?!このままじゃ……」

『落ち着いてください。あなたはそのまま、彼女をお願いします。』

「だったらこの子は逃がす。その後私もマムの……ぅっ……!」

 

 再び心臓の鼓動が止まり、激痛が走った事でジャンヌは蹲る。

 

(こ、こんな時に……!)

『ジャンヌ?ジャンヌ?!』

「ちょ、大丈夫?!マムさん!ジャンヌが心臓を抑えて……何か苦しそうなんだけど!」

 

 輪が代わりに答えた事でナスターシャはジャンヌの心臓病について思い出す。

 

(まさか、心臓がもうそこまで……!)

 

 ナスターシャはジャンヌの心臓の病について、把握していた。

 

 

 ジャンヌはメルが亡くなった後、バイデントの装者となるべく度重なる無茶な実験の被験体となったが、結果は実らないばかりか己の身体をボロボロにしただけでなく、心臓の機能が余命宣告を受けてしまう程にまで弱ってしまった 。 

 本来であればまともな医療を受けなければならない身体であるにも関わらず、ジャンヌはそれを顧みることなくナスターシャについて行った事で己の寿命を更に縮めてしまった。

 ナスターシャは元々彼女を置いていくつもりだったが

 

『私も連れてってほしい。マリア達だけに、苦しい思いをさせたくない。』 

『ですがあなたは既に心臓が弱っています。もしかしたら、あなたは死んでしまいますよ。』

『構わない。私はどの道死ぬ。最後に、自分の命の使い道くらい、決めさせてほしい。』

『分かりました……。』

 

 ジャンヌの意思を尊重して彼女を連れて行くことに決めた。

 この事はナスターシャしか把握しておらず、他の者には誰にも知らせていない。それはジャンヌが口外しないでほしいとナスターシャに頼み込んだからだ。

 

「マムさん!どうしたら……」

「余計な事をするな!」

 

 ジャンヌは声を荒げる。心臓は再び動き出し、痛みも引いたが息は荒く、脂汗が額から垂れ流れている。

 

「マム、私には……もう未来はない……。だからマリア達には光を……未来を歩んでほしい……。」

 

 それがジャンヌがF.I.S.に、ナスターシャについて行った理由だった。

 

「私は……後悔していないよ……。皆と過ごした時間……とても楽しかった……。」

 

 今までの男勝りの口調が変わった。これが本来のジャンヌなのだろう。

 

「マム……私は、最後にどうしても、やらなきゃいけない事がある……。だからごめん……最後に我儘を……許してほしい。」

 

 ナスターシャは溜息をついた。

 

『あなたは最後まで、強情な人ですね……。分かりました。あなたはあなたのやりたいようにやってください。私も、あなたの後を追うとします。』

「ありがとう……マム。」

 

 そう言って通信を切って立ち上がる。

 

「良いか、この事は他言無用だ。バイデントの装者にもな。」

 

 一方的に言い渡し、輪を置いて一度別室から去った。

 

(Dr.ウェル、私の最後の戦いだけは……貴様の指図を受けてたまるか……!)

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 二課の潜水艦のブリッジではライダースーツを纏った翼と瑠璃が戦う準備をしていた。現状二課でまともに戦える装者がこの二人しかいない。

 

「翼、瑠璃、行けるか?」

「無論です。」

「私もです。」

 

 二人は勇ましくブリッジを出ようとするが、その直前に響に呼び止められる。

 

「翼さん、瑠璃さん!」

 

 その表情は心配そうだったが、安心させる為に二人は笑みを浮かべる。

 

「案ずるな、立花。」

「私達に任せて。」

 

 二人はそう言い、出て行った。だが響の心は晴れなかった。ガングニールを纏えたのならと、考えてしまう。

 

 

 潜水艦の先端にある出撃経路に立つ翼の瑠璃。翼はバイクに乗る。

 瑠璃は翼とは別ルートからの侵入を試みる為、翼が出撃した後、遅れて出撃する形となる。

 

「では一足先に露払いに行く。」

「うん、気をつけて。」

「ああ。瑠璃もな。」

 

 翼はバイクのエンジンを吹かし、走らせる。そしてジャンプ台から飛び立ち……

 

 Imyuteus Amenohabakiri Tron……

 

 天羽々斬の起動詠唱によってライダースーツから、シンフォギアを纏い、脚部のブレードを翼の乗るバイクの前部を覆うように連結させた。

 

 【騎刃ノ一閃】

 

 フロンティアに配備されたノイズ達が、翼の前に立ち塞がるも、ギアの前では塵芥となる。

 

「よし、私も。」

 

 Tearlight Bident Tron……

 

 バイデントのギアを纏い、連結させた槍に跨って飛行する。上空から翼が進んだ方向とは異なるルートでフロンティア内部への侵入を試みるが、広大な大地しかなく、出入り口らしきものは見当たらない。

 さらに下から葡萄のような形をしたセル型ノイズが現れ、球体を放つ。

 

「ノイズ……!」

 

 だがノイズはたった一体だけで、しかも一回攻撃した後、背を向けて何処かへと走り出した。

 

「えっ?!何で?!」

 

 そこに弦十郎から通信が入る。

 

『瑠璃!恐らくそのノイズはお前を誘導する為に出されたものだ!』

「それって罠ってこと?」

『ああ。翼の方は大群で待ち構えていた所を見ると、そう考えるのが妥当……』

 

 だが突然通信が乱れ、弦十郎の声が聞こえなくなってしまう。

 

「司令?!お父さん??」

『バイデント装者、風鳴瑠璃。聞こえるか?』

 

 その声に聞き覚えがある。だが二課の通信を妨害した上でハッキングまで仕掛けてきた。

 

「ジャンヌ……。」 

『ああ。お前の仲間の通信機を少し細工して、お前に話しかけている。』

「輪は……輪は無事なの?」 

『安心しろ。私がいる限り身の安全は保証する。』

 

 それを聞いて安堵する瑠璃。

 

『よく聞け。私はお前との決着を着けたい。』

「何を……」

『口応えは許さない。でなければお前の学友の命はない。』 

「そんな!さっきは……」

『それとこれとでは話は別だ。良いか、そのノイズは迎えだ。そいつの後についていけばすぐに会える。一人で来い。』

 

 そう伝えられ一方的に通信を切断され、弦十郎との通信が回復した。

 

「お父さん……!」

『ああ、こちらも聞こえていた。何かあるかもしれん。気をつけろ。』

「了解!」

 

 瑠璃はセル型ノイズの後を追う。

 




いよいよG編も最終決戦が近づいてきましたね。

ちなみにジャンヌの心臓病について、ウェルには話していませんがバレています。

ご感想お待ちしております。


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それぞれの戦い

三ヶ所で戦いが幕を開けようとしています。


 二課の潜水艦、ブリッジに調がいた。

 というのも、響が調にも一緒に戦ってほしいと願い出たのだ。元々瑠璃が弦十郎に願い出た事もあってそれが認められた事により、独房から出されたのだ。

 

「捕虜に出撃要請って……どこまで本気なの?」

「もちろん全部!」

 

 だが響の事を知らない調はその台詞、その表情を疑う。

  

「あなたのそういう所、好きじゃない……。正しさを振りかざす、偽善者のあなたが……。」

 

 そのセリフに響は悲しそうな表情をするが

 

「私、自分のやってることが正しいだなんて、思ってないよ……。以前、大きなけがをした時、家族が喜んでくれると思ってリハビリを頑張ったんだけどね。私が家に帰ってから、お母さんもおばあちゃんもずっと暗い顔ばかりしてた……。それでも私は、自分の気持ちだけは偽りたくない。偽ってしまったら、誰とも手を繋げなくなる。」 

 

 響は自らの手を握って、調に過去を話した。響の言葉に偽りはない。それだけは信じてほしくて、打ち明けた。これには調も一瞬揺らいだが、それでもまだ信じきれていない。

 

 

「手を繋ぐ……。そんな事本気で……。」

「だから調ちゃんにも、やりたい事をやり遂げとほしい。」

 

 調の言葉を遮って、彼女の手を握る響。

 

「もし私達と同じ目的なら、少しだけ力を貸してほしいんだ。」

「私の……やりたい事……。」

 

 瑠璃にも同じ事を言った。暴走する仲間を止める事だと。また前のように皆と笑って過ごしたいから、調は素直になりきれないが

 

「みんなを助けるためなら、手伝ってもいい……。」

 

 少し恥ずかしそうに、響の手を解いてそう言う。

 

「だけどそう信じるの?敵だったのよ?」

 

 そこに弦十郎が立ち上がって言う。

 

「敵とか味方とかいう前に、子供のやりたいことをさせてやれない大人なんて、カッコ悪くてかなわないんだよ。」

「師匠〜!」

 

 弦十郎が調にシュルシャガナのギアペンダント渡す。

 

「こいつは、可能性だ。」

 

 受け取った調は流しかけた涙を拭う。

 

「相変わらずなのね……。」 

「甘いのは分かってる、性分だ……」

 

 この調の台詞に一瞬だが違和感を覚えた。調とは初対面のはずなのに相変わらずという言葉など普通は出ない。だがその違和感は響が調の手を取って、ハッチまで連れて行った事で有耶無耶となった。

 

 調を送り出した弦十郎はモニターに集中させるが、それを目にした途端驚いた。

 調がギアを纏い、ツインテールのアームと脚部の走行ユニットを連結させて、タイヤの様に走っているが調の肩に掴まる形で響も乗っていた。

 これには弦十郎が立ち上がって驚くのも無理はない。

 

「何をやっている?!響君を戦わせる心算はないと言ったはずだ!」

『戦いじゃありません!人助けです!』

「減らず口の上手い映画など、見せた覚えはないぞ!」

「行かせてあげてください!」

 

 そこに未来が割って入る。

 

「人助けは、一番響らしい事ですから!」

 

 これに呆れた弦十郎は頭を掻きながら

 

「それは本来俺の役目だったはずなんだがな。」

「弦十郎さんも?」

 

 未来はキョトンと目を丸くする。

 

「帰ったらお灸ですか?」

 

 緒川は笑ってそう聞くと

 

「特大のをくれてやる。子供のやりたい事を支えるのは、俺たち大人のやる事だしな!」

「バックアップは任せてください!」

「私達のやれる事でサポートします!」

 

 藤尭、友里もやる気満々だった。

 

「子供ばっかりに、良い格好させてたまるか!」

 

 弦十郎は腕を組んでそう宣言するように言う。

 

 

 ノイズを殲滅させた翼はバイクを走らせ、フロンティア中枢へと向かう最中、弦十郎から響も出撃した事を知る。

 

「立花があの装者が一緒にですか?」

(想像の斜め上過ぎる) 

 

 だがそれが立花響という人間である。

 翼はギアを失っても走り続ける響の変わらなさに笑みを浮かべるが、すぐに表情を戻し引き締める。

 

「了解です。直ちに合流します。」 

 

 そう言って通信を切った途端、上空から大量の矢が降り注いだ。寸での所で気付いた翼は跳躍して避けたが、バイクは直撃し、大破した。

 この矢を撃てるものは一人しかいない。

 

「そろそろだと思っていたぞ、雪音。」 

 

 崖上からクリスが見下ろしていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 響と調の方でも、似たような状況にあった。

 フロンティア中枢へと目指していた二人だが、そこにイガリマのギアを纏った切歌が立ちはだかった。

 

「切ちゃん!」

「調、どうしてもデスか?!」

「ドクターのやり方では、何も残らない!」

「ドクターのやり方でないと何も残せないデス!間に合わないデス!」 

 

 切歌には焦りがある。もう時間が残されていないような、そんな思いを抱いて大好きな調と刃を交えようとしている。

 互いの意地はもう止まることは出来ない。だが響がそこに割って入る。

 

「二人とも!落ち着いて話し合おうよ!」

「「戦場で何を馬鹿な事を!!」」 

 

 切歌と調の声が重なった事で響は少し萎縮してしまう。だが調は切歌の方へ向いたまま

 

「あなたは先に行って。あなたならきっと、マリアを止められる。手を繋いでくれる。」

「調ちゃん……。」

「私とギアを繋ぐLiNKERにだって、限りがある。だから行って!」 

 

 そして響の方へ向くと先程まで向けなかった笑みを浮かべる。

 

「胸の歌を信じなさい。」

 

 この時、調の瞳は黄金になっていた。

 その台詞は、消滅する際に響に最後に贈られたフィーネの遺言だった。

 その記憶が蘇った事で一瞬だけ呆けたがすぐに頷き、走り出した。

 だが切歌がそうはさせるかと響に大鎌を振り下ろすが、調の鋸によって阻止される。

 切歌は何故調が響を庇い、背中を押したのか理解出来なかった。

 

「調!何であいつを?!あいつは調の嫌った、偽善者じゃないデスか?!」

「でもあいつは、自分を偽って動いてるんじゃない。動きたいときに動くあいつが、眩しくて羨ましくて、少しだけ信じてみたい……。」 

「さいデスか。でも、アタシだって引き下がれないんデス!アタシがアタシでいられるうちに、何かを形で残したいんデス!」

「切ちゃんでいられるうちに……?」

 

 切歌はフィーネになっても忘れてほしくない、だからウェルの強行路線に賛同した。その思いを調にぶちまけるように打ち明ける。

 

「調やマリア、マムにジャンヌが暮らす世界に、アタシがここに居たっていう証を残したいんデス!」

「それが理由?」

「これが理由デス……!」 

 

 鎌を握り構える切歌、二つの鋸を展開させる調、二人の意地のぶつかり合いが始まろうとしていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 セル型ノイズの案内により内部への侵入に成功した瑠璃。だが内部では槍に跨って乗る事は出来ない為、瑠璃は自らの足で走っているが、ノイズはどこまでも走り続け、止まる気配がない。

 

(ちょっと、どこまで行くの?!)

 

 

 階段を降り、地下広間にたどり着いた途端、ノイズは急に停止する。すると、役目を終えたように緑の閃光と共に消えた。

 

「待っていたぞ、風鳴瑠璃!」

 

 声が聞こえた後、向かいの扉が開くとそこにはジャンヌがおり、その後ろに手錠を掛けられた輪がいた。

 

「輪!」

「瑠璃!」

「感動の再会と言いたいところだが……お前には唯一のギャラリーとしてそこで見学させてやる。」

 

 そう言って、手錠を外させる。

 

「風鳴瑠璃、君との戦いが私の最後の戦いになる。」

「それって……どういう……。」

「私は今まで、バイデントを手に入れる為にこの身を犠牲にした。メルの為にも、私がバイデントを支配出来るようにならなければと。だがやはり……私には駄目だった……。バイデントは私を受け入れない……。」

 

 ジャンヌは自分の胸に手を置く。

 

「だが君は、それを操る事が出来る。君との違いが何か、私はそれを知りたかった。だから……この戦いで私の全てをぶつける。君も全力で来い!」

 

 そう言うと、足に装着しているタラリアが輝きを帯びる。対照的に瑠璃はジャンヌと戦う事を躊躇っている。

 

「どうしても、戦わなくちゃいけないの?調ちゃんは、みんなを止めてほしいって……今ならまだ……」

 

 瑠璃は説得しようとするがジャンヌに遮られる。

 

「無駄だ。今の私は、調のいう止めなくてはならない敵だ。もしここで戦いを放棄しようなどと考えてみろ。お前の学友の身柄を、ウェルに引き渡す。」

 

 それだけは駄目だ。自らの欲望を叶える為に月の落下を早めた凶人に、輪を渡す事だけは避けなければならない。

 覚悟を決めた瑠璃は二本の槍を構える。

 

「分かった……。決着を着けよう。」

「ありがとう……。君に敬意を表する。さあ、来い!」

 

 遂に二人の因縁の対決が始まった。 

 

 

 




次回は恐らく長くなると思います。

瑠璃とジャンヌの運命はいかに……

ご感想お待ちしております。


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意地

3つの戦いが一気に繰り広げられます。


 フロンティアのブリッジで、三組の戦いがモニターされているが、切歌と調が刃を交えている光景を目にしたマリアは、涙を流しながら膝から崩れ落ちた。

 

「どうして……あれだけ仲が良かった調と切歌が……!私の選択は……こんなものを見たいが為ではなかったのに……!」

 

 己の選択が齎してしまった戦いに無力さを噛みしめていたその時、ナスターシャから通信が入った。

 

「マム?!」

『今、あなた一人ですね?フロンティアの情報を解析して、月の落下を止められるかもしれない手立てを見つけました。』

「どうやって?!」

 

 マリアが興奮気味に問う。

 

『それは……あなたの歌です。』

「私の歌で……?」

『月は、地球人類より相互理解をはく奪するため、カストディアンが設置した監視装置……。ルナアタックで一部不全となった月機能を再起動できれば、公転軌道上に修正可能です……ごほぉっ!」

 

 大量に吐血したナスターシャ。最早猶予はない。

 映像ではなく声のみの通信となる為、様子も見れないが苦しんでいるのは分かる。

 だがナスターシャは懸命に伝える。

 

『あなたの歌で、世界を救いなさい……!ジャンヌの為にも……!』

「ジャンヌが……?」

『マリアには未来を歩んでほしい。皆と過ごした時間は、とても楽しかった……そう言っていました。』

 

 まるで遺言のようにも聞こえた。確かにここ最近のジャンヌの異変に気づいていたが知ろうとしなかった。マリアはそれに後悔しながらも、この先後悔しないように選ぶ事は出来る。

 

『マリア、今度こそ……世界を……!』

 

 ナスターシャの檄でマリアは立ち上がり決意する。

 

「OKマム。」

(ありがとう……ジャンヌ。)

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 

 翼とクリスとの戦いも激化していた。

 銃弾と斬撃が飛び交い、捌き、いなし、撃ち、斬る。蒼ノ一閃に対しても、クリスは跳躍して避け、空中から銃撃を繰り出すも、翼は大剣で防ぐ。

 

「何故弓を引く?!雪音!」

 

 だがクリスは答えない。

 

「その沈黙を、私は答えと受け取らねばならないのか?!」

 

 翼は訴えかけるがその答えは銃口を向けられ発砲される事だった。刀で斬り落とし、クリスに振り下ろすも銃身で受け止められ、鍔迫り合いに持ち込む。

 だがクリスはすぐに身を引く事で鍔迫り合いを解いて再び発砲、翼は身を翻す事で避け、その回転を利用して振り下ろす。

 クリスは今度は拳銃二丁で防いで翼に銃口を向ける。

 

「あたしの十字架を……他のだれかに負わすわけにはいかねえだろ!」

「何……?!っ……!」

 

 一瞬クリスの首に巻かれているチョーカーのランプが赤く点滅しているのが見えた。

 

 『さっさと仕留めないと、約束のおもちゃはお預けですよ……?』

 

 クリスのベッドギアからウェルの声が聞こえた。  

 外からウェルはクリスの戦いを嘲笑うように傍観している。その手にはソロモンの杖を持っている。

  

(ソロモンの杖……!人だけを殺す力なんて、人が持ってちゃいけないんだ!) 

 

 そのチョーカーを目にした翼は一目で判断した。

 

「犬の首輪をはめられてまで、何をなそうとしているのか?!」

「汚れ仕事は、居場所のない奴がこなすってのが相場だ。違うか?」

 

 翼はクリスの言ったことに不敵な笑みを浮かべる。

 

「瑠璃に誓ったからな。首根っこ引きずってでも連れ帰ってやると。お前の居場所、瑠璃がいる帰る場所に。」

「え……?」

 

 出撃前、翼は瑠璃に頼まれていた。

 

『もしもクリスと戦う事があったら、伝えてほしいの。帰って来るのを待ってるって。』

『ならば、私からも願い出よう。』

 

 もしどちらかがクリスと戦う事になったら、クリスを連れ帰ると約束していた。結果的に翼がクリスと戦う事になり、翼は先輩として後輩を連れ帰る事となった。

 

 

「お前がどんなに拒絶しようと、私はお前がやりたいことに手を貸してやる。それが、片翼では飛べぬことを知る私の、先輩と風を吹かせるものの果たすべき使命だ!」

(そうだったよね、奏……。)

(そうさ!だから翼のやりたい事は、あたしが、周りのみんなが助けてやる!) 

 

 亡き友と共に駆けた戦場、天羽奏が心に映る。

 

「その仕上がりで偉そうなことを……」

『何をしているのですか?その首のギアスが爆ぜるまでもう間もなくですよ?』

 

 二人の戦いに水を差すようにウェルが通信で脅しかける。クリスは翼に正面から見据える。

 

「風鳴……先輩!」

 

 クリスから出た、先輩というワードに反応する翼。

 

「次で決める!昨日まで組み立てて来た、あたしのコンビネーションだ!」 

「ならばこちらも真打をくれてやる!」

 

 クリスがボウガンを構えるが翼の蒼ノ一閃が早く出て、それを避けるが左手のボウガンが破損するも右手に持つボウガンが結晶の矢を放つ。

 放った瞬間、小型の結晶となって分裂、数が増えても翼はそれを防ぐもクリスは立て続けに腰部のアーマージャッキから小型ミサイルを全弾発射、翼の背から小型の剣が大量に降り注ぎ、ぶつかり合い空中で爆ぜた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 切歌と調の戦いも接戦が続いた。

 切・呪りeッTぉとα式・百輪廻がぶつかり合い、火花が散るが、どちらも的確に避ける。

 鋸を振り下ろしても、鎌を振るっても、戦況は変わらない。互いにどう動き、どう攻撃してくるか知っているからこそ、戦いが膠着する。

 だが切歌がここまでして強がる理由がわからない調は問う。

 

「切ちゃんが切ちゃんでいられる内にって、どういう事……?」 

「アタシの中に……フィーネの魂が……覚醒しそうなんです。」

 

 調が驚く。

 調は意識が朦朧としていたから覚えていなかったが、切歌はあの時、落ちてくる鉄骨をバリアで受け止めた。それが今でも忘れられない。

 

「施設に集められたレセプターチルドレンだもの……こうなる可能性はあったデス!」

 

 切歌の本音をようやく聞けた。

 

「だとしたら、私はなおの事切ちゃんを止めて見せる。これ以上塗り潰されないように、大好きな切ちゃんを守る為に!」 

 

 アームの鋸が、回転速度を上げる。

 

「大好きとか言うな!アタシの方がずっと、調が大好きデス!だから、大好きな人達がいる世界を守るんデス!」 

 

 切歌も調に鎌の先端を向ける。

 調は鋸を横向きにして、それを頭上と足元に、プロペラのように展開させる。

 

【緊急φ式・双月カルマ】

 

 切歌も左右の肩のアームが分離、それぞれ二つに、合計四つのアームが刃となる。

 

【封伐・PィNo奇ぉ】

 

「「大好きだってぇ……言ってるでしょおおおおぉぉぉぉ!」」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 地下の戦いでも激しさを増していた。完全聖遺物タラリアの靴を纏うジャンヌの素早い攻撃に、瑠璃は捌いているが、カ・ディンギル跡地での戦いの時とは比べ物にならない程に強く、また弱点だった直線的な軌道も手数で補っており、手にはめられている機械製篭手による徒手空拳の攻撃も追加で出してくる。

 バイザーの戦闘補助システムを用いてなんとか軌道を読んではいるが、手数が多くなった事で攻撃に移る余裕がなくなり、攻撃よりも防御が多くなってしまう。

 

「どうした?それでは私に追いつく事は出来ないぞ!」

「分かってる!」

 

 ジャンヌはこの一戦に全てを賭けてここに立っている。仲間の為に自らの命を燃やし尽くす覚悟だ。

 だが瑠璃にも負けられない事情がある。平穏を、友を、仲間を傷つけさせない、守る為に瑠璃は装者としてここに立っている。

 瑠璃は二本の槍の穂先をジャンヌに向けると、遠隔操作で操る。

 

【Assault Pisces】

 

 ジャンヌは回し蹴りで弾くが、一度弾かれた程度では再び槍は襲い掛かる。だが黒槍を避け、白槍を足場にして跳躍すると、瑠璃のいる方の虚空に蹴り込む。するとその軌道が衝撃波となって瑠璃に襲い掛かる。

 

 槍が手元にない瑠璃は宙返りで避けるが、ジャンヌは着地を狙い第二波、第三波の衝撃波を繰り出す。

 第二波は着地時に素早くローリングする事で避け、第三波は手元に戻った黒槍で弾く。

 

「やるな、そうでなくてはな!」

 

 ジャンヌは楽しそうに言い放つが、いつ心臓の鼓動が止まるか分からない。一方瑠璃はウェルの暴走を止める為に一刻も早くジャンヌを倒さなければならない。 互いに短期決戦に懸けるが、どの攻撃も決定打に届かない。

 距離を詰め、ジャンヌが拳を突き出しても白槍で流され、黒槍で突いても掌で軌道を変えられる。そして鍔迫り合いに持ち込まれる。

 

「嬉しいよ。こうして打ち合う度に君を知れる……!言葉で交わさずとも、互いを理解し合える!」

「私も何となく……あなたの事が分かった……!でも、それでも分からない……!何で、マリアを止めないの……?!その力があれば、この世の理不尽と戦えるのに、暴走した仲間を止めようとしないのは何で?!」

 

 ジャンヌの表情が悔しさに変わり、歯を立てると

 

「私に……そんな時間など残されていないんだ!」

 

 ジャンヌが退く形で鍔迫り合いを解き、再び蹴脚の衝撃波を放つ。

 瑠璃も二本の槍の穂先から十字状の斬撃を放つ。

 

【Crossing Gemini】

 

 衝撃波同士がぶつかり合い、相打ちとなる。だがジャンヌは既に肩で息をしている。よく見ると胸に手を当てており、苦しそうな表情をしている。

 

「瑠璃!」

 

 離れて輪の呼び掛けに反応する瑠璃。

 

「ジャンヌは……心臓が弱ってるんだよ!」

 

 ジャンヌは輪を苦々しく見る。余計な事をと言わんばかりの目で睨むが、心臓の鼓動が止まりかけている。

 

「時間が無いって……」

「ああ……悔しいが、私にはもう未来がない。だから今、この瞬間を輝かせたい。そんな心境に至ったんだ。この輝く瞬間がある限り、私は止まりはしない!」

 

 再び構えるジャンヌ。

 

「風鳴瑠璃!次の一撃で全力をぶつける!お前の全てを、この私にぶつけろ!!」

 

 瑠璃は何も応えず、二本の槍を槍を連結させて構えた。

 

「行くぞ!!」

 

 タラリアが黄金の輝きを帯びると、ジャンヌは高く飛翔、高エネルギーを纏ったタラリアの飛び蹴りを瑠璃に向ける。

 

「行くよ……!」

 

 瑠璃は連結させた槍の穂先に闇を表すような藍色の光がエネルギーとなって集約、最大まで集めるとそれを虚空に放つのではなく、タラリアに直接ぶつける形で突き出す。

 

【Raging Hydra】

 

 二つの対となるエネルギーがぶつかり合い、二人は衝撃によっていまにも吹き飛ばされそうになる。だが互いに譲れない思いが、この場に踏みとどませる。

 やがて二つのエネルギーが耐えきれなくなり、爆風を起こした。




ジャンヌが上弦ノ参の奴みたいになりつつあるなぁ……。

ご感想お待ちしております。


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それぞれの戦いの結末

お待たせしました!

それぞれの戦いに決着をつけさせる為に今回長くなってます!


 二課の潜水艦のハッチではウェルを逮捕するべく弦十郎と緒川がジープに乗り込んだ。緒川がハンドルを握った時、ブリッジから通信が入る。

 

『司令、出撃の前にこれをご覧ください!』

 

 タブレットで確認すると、そこにはマリアが映っていた。

 

『私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下がもたらす災厄を最小限に抑えるため、フィーネの名をかたったものだ。』

 

 藤尭によるとフロンティアから中継されており、世界に向けて発信しているとの事だった。

 

 

 その中枢、ブリッジでマリアが世界中に訴えかけるように演説をしている。

 

「全てを偽ってきた私の言葉が、どれほど届くか自信はない。だが、歌が力になるという真実だけは、信じてほしい!」

 

 目を瞑るマリア。

 

Granzizel Bilfen Gungnir Zizzl……

 

 黒いガングニールを纏ったマリアは目を見開く。

 

「私一人の力では、落下する月を受け止めきれない……だから貸してほしい!皆の歌を、届けてほしい!」

 

 世界を救いたいという偽らざる思いを胸に歌う。

 

(セレナが助けてくれた私の命で、誰かの命を救って見せる。それだけがセレナの死に報いられる!)

 

 あの日、燃え盛る研究所で伸ばし、届かなかった妹の手。そしてもう一人、冥槍を手にして果てた友の妹、メル。

 二人の死に報いる為に、この歌を唄う。

 

 そして二課の潜水艦のハッチが開いた。

 

「緒川!」 

「分かっています!この映像の発信源を辿ります!」

 

 アクセルを強く踏み、ジープを発車させる。 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その頃、ウェルは翼とクリスの激戦によって穿たれた穴にやって来た。

 

「シンフォギア装者は僕の統治する未来には不要……!」

 

 二人を確実に殺す為にここに踏み入れたのだが足を踏み外して情けない声が響き渡る。

 

 

「その手始めにぶつけ合わせたのですがぁ……こうもそうこうするとは……チョロすぎるぅ〜!」

 

 歓喜していたウェルだったが、それはすぐに消え失せた。目の前にはギアがボロボロになったクリスの背、そしてギアを纏っていない翼が倒れ伏せている。

 

「約束通り、二課所属の装者は片付けた。だから……ソロモンの杖をあたしに……。」

 

 振り返って、右手を出す。振り返った際、ヘッドギアの一部が半壊する。だがウェルが出した答えは……

 

「こんな飯事みたいな取引にどこまで応じる必要があるんですかねぇ?」

 

 ポケットからギアスと呼んでいたチョーカーの起爆装置をスイッチを取り出し、それを押す。これでクリスの首が吹っ飛ぶ……

 

「何で爆発しない?!」

 

 事はなかった。

 

「壊れてんだよ!約束の反故とは悪党のやりそうなことだ!」

 

 クリスは損壊していたチョーカーを強引に外す形で破壊する。最初から約束を反故にする事は想定内だった。

 クリスに詰め寄られたウェルは恐怖の悲鳴を上げながら腰を抜かすも、すぐにソロモンの杖でノイズを呼び出す。

 

「今更ノイズ……ぐっ……!」

 

 アームドギアを展開しようとした時、ギアのバックファイアに襲われる。

 

「Anti LiNKERは、忘れたころにやってくる。」

 

 ギアのバックファイアに苦しめられている間、ノイズで一網打尽。ウェルは勝利を確信したかのように下卑た笑みを浮かべるがクリスはそんな事はお構いなしだ。

 

「なら……ぶっ飛べ!アーマーパージだ!」

 

 纏ったギアの装甲を弾丸のように、それを全方向に放つ。穿たれたノイズは塵となる。

 ウェルは回避したが、土煙で周りが見えない。柱から顔を出した瞬間、一糸纏わぬクリスがウェルの持つソロモンの杖を奪い取らんと急襲。突然の不意打ちにソロモンの杖を手放してしまう。

 

「杖が?!」

 

 これにはウェルは焦った。杖が手から離れてしまえば今残っているノイズの制御は失われ、機能通りに人間を襲う。そのノイズの標的は紛れもなくクリスとウェルである。

 

「先輩!」

 

 クリスが叫んだ。

 

 Imyuteus Amenohabakiri Tron……

 

 聞こえたのは天羽々斬の起動詠唱。翼が立ち上がり、ギアを纏う。だがそのギアはルナアタック時に纏っていた時の形状のものだった。

 しかし、翼は逆立ちから脚部のブレードを展開させると高速回転して、ノイズ達を斬る。

 

「そのギアは……!馬鹿な。Anti LiNKERを抑える為、敢えてフォニックゲインを高めず、出力の低いギアを纏うだと……?!そんなことが出来るのか……?!」 

「出来んだよ。そういう先輩だ!」

 

 あの時の一撃も、クリスのチョーカーを斬った時も、互いを信じ合い、鍛練を積み上げてきたからこそ出来た芸当だった。これを人は絆と言う。

 

「付き合ってられるか!」

 

 ウェルは形勢不利と見てフロンティア中枢へと退却する。そして翼がノイズを殲滅させた後、クリスはギアを纏っていた事で分解された制服が元に戻り、身に纏う。掌にはイチイバルのギアペンダントがあった。

 翼もライダースーツの姿へと戻り、ソロモンの杖を広い、クリスに手渡す。

 

 

「回収完了。これで一安心だな。」

 

 クリスが照れながら謝る。

 

「一人で飛び出して……ごめんなさい……。」

「気に病むな。私も一人は何も出来ない事を思い出せた。何より……こんな殊勝な雪音を知る事が出来たのは僥倖だ。」

 

 翼の台詞が追い打ちを掛けた事で、クリスはプイッとそっぽ向く。

 

「それにしたってよ、なんであたしの言葉を信じてくれたんだ?」

「雪音が先輩と呼んでくれたのだ。続く言葉を斜めに、聞き流すわけにはいかぬだろう。」

「それだけか?」

「それだけだ。さあ、立花たちと合流するぞ。」

 

 翼が響の所へ向かおうとした時、クリスがもう一つ聞く。

 

「なあ、姉ちゃんは何処にいるんだ?」

「瑠璃なら、ジャンヌという者と戦っているはずだ。向こうから決着を望んでいるようだったが……それがどうしたのか?」

「いや……何か嫌な予感がする。」

 

 何とも言えない胸騒ぎがクリスの表情を曇らせた。だが翼、クリスの肩に手を置く。

 

「案ずるな。瑠璃とて立派な戦士だ。きっと無事に帰って来ると信じよう。私達はあの子の姉妹なのだからな。」

 

 血の繋がりに関係なく、二人は瑠璃を信じると決めた。二人はこの場を後にした。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 切歌と調、ザババの刃同士による一騎打ちも終局を迎えようとしている。

 互いに一歩も譲らない状況に埒が明かなくなった切歌、調にLiNKERの入った注射器を投げ渡す。そして切歌もLiNKERを投与する。

 

「ままならない思いは、力づくで押し通すしかないじゃないデスか。」

「切ちゃん……。」

 

 調もLiNKERを投与した。

 

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl

 

 二人は絶唱を唄い、フォニックゲインを高めていく。

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl…… 

 

 切歌の大鎌の先端を地面に刺すと、柄が伸長し、刃の部分もそれに見合った大きさへと変え、それを手に背部のブースターで上昇する。

 調はツインテールのアームが伸び、鋸が四肢として組み換え、それは二足歩行の巨大ロボットを彷彿とさせる。

 

「絶唱にて繰り出されるイガリマは、相手の魂を刈り取る刃!分からず屋の調から、ほんの少し負けん気を削れば!」

「分からず屋はどっち……!私の望む世界は、切ちゃんもいなくちゃダメ……!寂しさを押し付ける世界なん て……欲しくないよ!」

 

 切歌が接近し、調は右腕のアームで迎え撃つ。

「アタシが調を守るんデス!たとえフィーネの魂に、アタシが塗りつぶされる事になっても!」

 

 防がれようとも、鎌のエンジンブースターを点火させて高速回転しながら再び襲い掛かる。

 

「ドクターのやり方で助かる人たちも……私と同じように、大切な人を失ってしまうんだよ!」 

 

 再びアームで迎撃するが、イガリマの威力が上回った事を表すようにアームが一本砕け散る。

 だが調は諦めず、涙ながらに訴えかける。

 

「そんな世界に残ったって、私は二度と歌えない!」 

「でも……それしかないデス!そうするしか、無いです!たとえ私が……調に嫌われてもおおぉぉ!!」

 

 切歌が叫ぶと同時に鎌を振り下ろすと、もう片方のアームが破壊された。

 

「切ちゃん……もう戦わないで……!私から……大好きな切ちゃんを……奪わないでええええぇぇ!!」 

 

 切歌が鎌を振り下ろし、調は咄嗟に両手を翳す。その時だった

 

「えっ……?」

「何……これ……?」 

 

 調の手から展開されたバリアが、切歌の鎌を防いだ。弾き飛ばされた切歌、何でこのバリアを出せたのか分からない調、両者ともに困惑していた。

 だがその意味を理解した切歌は膝をつく。

 

 

「まさか……調……デスか……?フィーネの器になったのは調なのに……私は……調を……。調に悲しい思いをしてほしくなかったのに……出来たのは調を泣かす事だけデス……。」

 

 自身の誤解から大好きな調を傷つけてしまった自己嫌悪に陥った切歌。切歌が手を動かした。

 

「アタシ……本当に嫌な子だね……。消えてなくなりたいデス……。」

 

 その瞬間、イガリマの刃が高く翔び、回転しながら切歌の方へ向かった。その意味を理解した調は脚部のローラーを全力で回転させて切歌の方へ走る。

 

「駄目!!切ちゃん!!」

 

 切歌を突き飛ばしたが、その代償としてイガリマの刃が調を背中から貫き、倒れた。

 

「調……?!調ええええええええぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 バイデントとタラリアのエネルギーのぶつかり合いによって発生した土煙が晴れていき、唯一の見届け人である輪が呼びかける。

 

「瑠璃!ジャンヌ!あっ……」

 

 瑠璃は仰向けで大の字で倒れているジャンヌに穂先を向けている。二人とも外傷は無いが、ジャンヌは左手で胸を抑えており、右足のタラリアは損壊していて、既に機能を停止している。

 

「負けた……。でもこれで、思い残すことは無い……。」

 

 勝負に負けたジャンヌだったが、その表情は晴れやかだった。

 瑠璃は穂先を降ろしてジャンヌに駆け寄る。瑠璃は座ると、膝を枕のようにしてジャンヌを寝かせた。

 輪もジャンヌに歩み寄ってしゃがんだ。

 

「ジャンヌ……。」

「見せてもらったよ……瑠璃。君とバイデントの力……。」

 

 エネルギーがぶつかり合った際、ジャンヌのタラリアのエネルギーが徐々に弱まっていた。

 戦う前から既に肉体は限界であり、ジャンヌはこうなる事を分かった上で、あのぶつかり合いを選んだ。

 

「瑠璃……ウェルの野望を止めてくれ……。」

「え……?」

「私はバイデントと共に在る君の意志を、絆の力を、可能性を見た。そして確信したんだ。マリア達を託せるのは、君達しかいない。」

 

 メルが亡くなってから、バイデントを憎むようになっていた。いつしかバイデントを支配する事しか頭になかった。

 だが瑠璃は、バイデントを支配するのではなく、共に戦いリスペクトし、繋がる事が出来た。瑠璃の、絆を信じる性分だからこそバイデントを手にする事が出来た。

 

「まさか、最初から私達に……。でもジャンヌ……あなた程の人なら、私達に託さなくても……止められたはず。どうして……?」

 

 瑠璃の問いにジャンヌは自らを嘲笑するように笑む。

 

「私はいつだって、何かを見届ける事しか出来ない……傍観者でしかなかった。自分の手で掴みとろうとして……手を伸ばしても……結局は届かない。皆が先へ行く中、私だけが闇に残った。私は誰かを導く光にはなれない。でもみんなは、そんな私を照らしてくれた。だから私はみんなの影となって……みんなの行く末を見届けようって決めたんだ。」

 

 その思いを馳せたジャンヌは瑠璃と輪の方を見ると目を瞑る。

 

「瑠璃、輪、君達とは……違う形で出会いたかった……。そうすれば……君達と……本当の友に……なれたかもしれない……。」

「そんなことないよ。」

 

 瑠璃が遮り、目を見開いたジャンヌは瑠璃の方に向く。

 

「ジャンヌと私は……既に友達だよ。」

「私の事を……友と呼んでくれるのか?」

「ジャンヌは……マリアや調ちゃん、切歌ちゃん達を守る為に戦って来た。私はこの戦いを通して、ジャンヌの優しさ、強さを知った。ジャンヌだって、私の事を知ってくれた。誰が何て言おうと、私はあなたの友達だよ……!」

 

 瑠璃はジャンヌの手をそっと握る。ジャンヌは嬉しそうに涙を流す。

 

「ありがとう。」

 

 ジャンヌは瑠璃の手を握り返す。 

  

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 絶唱状態のイガリマの刃によって貫かれた調は意識が戻らず、生死の境を彷徨っていた。イガリマの絶唱には魂を刈り取るという特性があり、それが調を死に至らせようとしていた。

 

「調!目を開けて!調えぇ!」

 

 切歌の声にも反応しない。

 

 調の意識はどんどん闇へ誘われるように、沈んでいく。だが何か聞こえ始めた。

 

「切ちゃん……じゃない……。だとすると、あなたが……。」 

  

 目をゆっくり開かせる。

 

「どうだっていいじゃない、そんなこと。」

 

 白いローブを着た女性、フィーネが調を抱擁する様にそこにいた。

 

「どうでもよくない。私の友達が泣いている……。」

「そうね。誰の魂も塗りつぶすことなく、このまま大人しくしているつもりだったけれど……そうもいかないものね……。魂を両断する一撃を受けて、あまり長くは持ちそうもないし……。」

 

 そう言うと、フィーネの身体が少しずつ黄金の粒子となり、消えゆこうとしていた。

 

「私を庇って……?でも、どうして……」

「あの子に伝えてほしいの。」

「あの子……?」

 

 調の問いに答えることなく、フィーネは調に伝える。

 

「だって、数千年も悪者やって来たのよ?いつかの時代、どこかの場所で、今更正義の味方を気取る事は出来ないって……。」

 

 フィーネの身体が透け始める。

 

「今日を生きるあなた達で何とかなさい。いつか未来に……人が繋がれるなんてことは……亡霊が語れるものではないわ……。」 

 

 最期にそれを言い残し、フィーネの魂は、完全に消滅した。

 

 

 現実世界では切歌が涙を流し、それが調の頬に落ちる。

 

「目を開けてよ……調ぇ……!」

「開いてるよ……切ちゃん……。」

 

 突然調の声が帰ってきた事で驚く。すると調の身体は光の粒子に包まれ、それが消えるとそのまま静かに起き上がる。立て続けに起きる不可解な出来事に切歌は困惑する。

 

「体の怪我が……!」

 

 背中を貫いた傷が跡形もなく消えていた。調が意識を完全に取り戻した事で喜び、調を抱きしめる切歌だったが、それでも何故こうなったのか理解出来ずにいる。

 

「調!でもどうして……?!」

「多分……フィーネの魂に助けられた……。」

「フィーネに……デスか……?」

 

 一度切歌は調を離すが、今度は調が切歌を抱きしめた。

 

「みんなが私を助けてくれている……。だから切ちゃんの力も貸してほしい……。一緒にマリアを……ジャンヌを救おう?」

「うん……。今度こそ調と一緒に、みんなを助けるデスよ……!」

 

 二人は立ち上がり、和解した。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 フロンティアのブリッジでは月の遺跡を再稼働させる為に、マリアが歌でフォニックゲインを高めようとしていたが、それでも足りなかった。

 どんなに足掻いても、自分では世界を救えないという事実を突きつけられ、絶望した。

 

『マリア、もう一度月遺跡の再起動を……!』

「無理よ……!私の歌で世界を救うなんて……!」

『諦めるなマリア……!』

 

 するとジャンヌから通信が入った。

 

「ジャンヌ……?」

『マリア、歌ってくれ……!』

 

 ジャンヌは瑠璃と輪に肩を借りて、やっと歩ける状態であるが、それでも必死にマリアに呼びかける。

 

『君の歌は、どんな困難を前にしても立ち向かう勇気をくれる歌だ!』

「無理よ……!私じゃ……もう……」

『君は一人じゃない!』

 

 ジャンヌから檄が飛ばされる。

 

『メルが死んで、私が受けた実験でボロボロだった私を、そう言って手を差し伸べてくれたじゃないか!あの時と同じだ!今度は……私が……ぅっ……!』

 

 通信越しに倒れる音が聞こえた。

 

「ジャンヌ?!どうしたの?!」

『構うなっ……!世界を救いたいなら……躊躇うな……!』

 

 ジャンヌの必死の檄を受けたマリア。だがそこにソロモンの杖を失ったウェルがブリッジに戻り、マリアを退かすように突き飛ばした。

 

「月が落ちなきゃ、好き勝手出来ないだろうが!」

 

 ウェルはネフィリムの左腕で球体に触れ、制御を開始する。

 通信越しにウェルの声を聞いたジャンヌは怒号を浴びせる。

 

『ウェル……!貴様……!』

「くたばり損ないが、やっぱり死にかけのあんたじゃ完全聖遺物を持ってしてもバイデントの欠片に敵わないのかぁ?」

 

 最早今までの紳士的な態度が、化けの皮を剥いだかのようにかなぐり捨てている。

 

『私の問題に……貴様に指図など受けたくない……!とっとと失せろ!』

「そうかい!じゃあその面二度と拝まなくて済むようにしてやるよ!」

 

 ブリッジの球体に指示を送ったウェル。その瞬間、瑠璃達がいるフロアに地響きが起こった。そして、そのフロアの壁が瓦礫となって崩落を始めた。

 

 

 ジャンヌに肩を貸し、支えた状態で急いで移動している瑠璃と輪だったが、その歩みは遅く、徐々に瓦礫が崩れ落ちるのが近づいている。いくらバイデントのギアがあっても大量の瓦礫から見を守れる術はない。

 

「瑠璃、輪……私を置いて逃げろ。」

 

 突然ジャンヌが言い出すが、瑠璃と輪は反対する。

 

「嫌だ……!出来ないよ……!」

「一緒に逃げよう。そんであのマッドサイエンティストに一泡吹かせよう!」

 

 二人は諦めずに歩むがジャンヌが、強引にその腕を振り解く。

 

「無駄だ。このままでは三人ともあの世行きだ。それよりも、生存確率の高い君達が生き延びた方が良い。」

「そんな……そんなの……」

「私からの頼みだ!」

 

 瑠璃が涙混じりの拒否をジャンヌが遮る。

 

「友として、君達に頼む。マリア達を……世界を頼む!皆で、未来を切り開いてくれ!」

 

 ジャンヌは残った左のタラリアにエネルギーを込め、クラウチングスタートの体勢に入る。

 

「行けぇ!瑠璃!!輪!!」

 

 そして勢いよく僅かな距離を走り出すと猛スピードで二人を抱え、フロアから投げ出す。

 投げ出された二人はジャンヌに腕を伸ばす。

 

「ジャンヌ!ジャンヌ!!」

(瑠璃……)

 

 タラリアのエネルギーを使い切り、その場に残ったジャンヌ。最期は瓦礫によってその姿が見えなくなってしまった。

 

「ジャンヌゥゥゥゥ!!」

 

 瑠璃が叫ぶ。

 投げ出された二人は、瑠璃が侵入した出入り口から外へと放り出され、転がる。

 起き上がると、その出入り口は瓦礫によって塞がれ、二度と入れなくなった。

 

「瑠璃……あれ……!」

 

 輪が指した先には、あるものが落ちていた。それはジャンヌが大切にしていたロケットだった。

 ジャンヌが二人を放り投げる直前、ジャンヌはロケットを外し、その手に持っていた。そして瑠璃と輪を投げた時に、同じタイミングでその手から放したのだ。

 

「ジャンヌ……。」

 

 瑠璃はそのロケットを拾うと、涙を流しながら喪った友の名前を叫んだ。

 

 

  

 

 

ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

 

 

 

 




これにてジャンヌさん、退場となります……

ジャンヌはシンフォギアを纏う為に度重なる無茶をして来ましたが、それを懸命に止めたのが当時セレナを亡くした直後のマリアでした。
それ以降、ジャンヌはマリアを親友として彼女を支え続けました。
調と切歌からも面倒見の良いお姉さんとして信頼されていました。
それでもバイデントへの拘りを捨てきれずにいましたが、瑠璃の人となりに触れた事でバイデントへの拘りにも踏ん切りをつけられるようになりました。

結果的にウェルの膨れ上がった欲望からマリア、調、切歌を守る為に自らの身を犠牲にして彼女達を守りました。


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7色の奇跡

おそらくG編もこれを含めて2.3話で終わるかと思います。

長かった……無印編の話数を越えてる……。


 ジャンヌとの通信が途切れ、その意味を理解したマリアは泣き崩れた。

 

「そんな……ジャンヌ……!」 

『ドクター……なんて事を……!仲間をその手に掛けるとは……!』

 

 ナスターシャはウェルの所業を避難するが、当の本人は悪びれた様子はない。

 

「やっぱりオバハンが手を引いてたのか……!」

『Dr.ウェル!フロンティアの機能を使って、収束したフォニックゲインを月へと照射し、バラルの呪詛を司どる遺跡を再起動できれば、月を元の起動に戻せるのです!』

 

 だがウェルにとって、そんなものは知ったことではない。もはや不要と判断したウェルは

 

「そんなに遺跡を動かしたいのなら、あんたが月に行ってくればいいだろ!」

 

 ウェルが球体を操作すると、ナスターシャのいる区画が付に向かって打ち上げられてしまった。

 

「有史以来、数多の英雄が人類支配を成し得なかったのは、人の数がその手に余るからだ!だったら支配可能なまでに減らせばいい!僕だからこそ気付いた必勝法!英雄に憧れる僕が英雄を超えて見せる!」

 

 ウェルは高笑いするが、もはやその姿は英雄と呼ぶには歪んでおり、独裁者と言うのが妥当だろう。

 マリアはナスターシャとジャンヌをその手に掛けたウェルに激怒する。

 

「よくもマムとジャンヌを!」

 

 アームドギアの槍を形成し、その穂先をウェルに向ける。

 

「手に掛けるのか?!この僕を殺すことは、全人類を殺すことだぞ?!」

「殺す!!」

 

 ウェルは自分が世界の命運を握ってると言わんばかりの脅しを掛けるが、マリアは構う事なく槍を振るう。

 ウェルは悲鳴を挙げるが、その刃は突如現れた響の介入で止まる。

 

「そこをどけ!融合症例第一号!」

「違う!私は立花響16歳!融合症例なんかじゃない!ただの立花響が、マリアさんとお話ししたくてここに来てる!」

「お前と話す必要はない!マムとジャンヌがこの男に殺されたのだ!ならば私もこいつを殺す!世界が守れないのなら、私も生きる意味はない!!」

 

 マリアは怒りに身を任せてその槍をウェルに向かって突き出す。だが響はその槍を掴んで止めた。

 

「お前……!」

 

 掌から出血しており、痛むがそれを声にも顔にも出さない。それどころかマリアを説得する。

 

「意味なんて、後から探せばいいじゃないですか。だから、生きるのを諦めないで!」

 

 そして響を目を閉じ、唄う。

 

 Balwisyall Nescell Gungnir トロオオオォォォーーーーン!!

 

 叫びに混じった詠唱、それに反応したのかマリアのガングニールが分解され、周囲には光の粒子で満たされる。

 

「何が起きているの……?!こんな事ってありえない……!融合者は適合者ではないはず!これは貴女の歌、胸の歌がして見せたこと!あなたの歌って何?!何なの?!」 

 

 何が起きているのかマリアには理解出来なかった。

 

 二課の潜水艦でそれをモニターで見ていた未来が叫ぶ。

 

「イっちゃえ響!ハートの全部で!」

 

 その光の粒子は響の身を包み、それがシンフォギアの形となる。

 

「撃槍・ガングニールだあああぁぁぁーーーー!!」

 

 響は声いっぱいに叫んだ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ジャンヌを喪い、悲しみに暮れる瑠璃と輪も、その輝きが遠くから見えた。

 

「一体何が……。」

「行こう瑠璃。ジャンヌの願いを、無駄にしない為に。」

 

 瑠璃は涙を拭って輪と共にフロンティア中枢へと目指す。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 響がガングニールを纏うと、光の粒子達は消え、輝きを失った。

 マリアは適合者ではないはずよ響がガングニールを纏えた事に驚愕が隠せなかった。

 

「ガングニールに適合……だと?!」

 

 それを目の当たりにしたウェルは悲鳴を挙げながらを逃亡する。途中、恐怖のあまり階段から転げ落ちるが、痛みを気にする事はない。

 

「こんなところでぇ……終わる……ものかぁ!」

 

 ネフィリムの左腕でフロンティアへの指示すると、地面に穴が空いた。ウェルはそこに入り下の階へと逃げおおせた。

 響が倒れるマリアを支えている間に穴が塞がろうとしていた。

 

「ウェル博士!」

 

 そこに弦十郎と緒川が到着したが間に合わず、完全に塞がってしまった。だが二人は響が再びガングニールを纏っている事に驚いていた。

 

「響君!」

「響さん、そのシンフォギアは?!」

「マリアさんのガングニールが、私の歌に応えてくれたんです!」

 

 その途端、フロンティアで地響きが起こった。

 

『重力場の異常を計測!』

『フロンティア、上昇しつつ移動を開始!』

 

 二課のオペレーター陣が通信で弦十郎に報告する。

 

「今のウェルは……左腕をフロンティアと繋げる事で、意のままに制御出来る……。」

 

 その言葉通り、ウェルは廊下を歩いて呟く。

 

「ソロモンの杖がなくとも……僕にはまだフロンティアがある……!邪魔する奴らは……重力波にて、足元から引っぺがしてやる……!」 

 

 そう言うとウェルは廊下の壁にネフィリムの左腕を当てて指示を下す。

 

「人んちの庭を走り回る野良ネコめ……!フロンティアを喰らって同化したネフィリムの力を……思い知るがいい!!」 

 

 フロンティアの外庭の地面が割れ、巨大な生物が姿を現した。それは、以前より一回り大きく、強力に進化した全てを喰らう怪物、ネフィリムだった。

 

 

 ブリッジからでもネフィリムの出現は確認された。マリアは弱々しく情報を伝える。世界も守れず、ナスターシャとジャンヌを失った今のマリアには戦う力すらない。

 

「フロンティアの動力は……ネフィリムの心臓……。それを停止させれば、ウェルの暴挙も止められる。お願い……戦う資格のない私に変わって……お願い……!」

 

 今戦える響に懇願するマリア。

 

「調ちゃんにも頼まれてるんだ。」

「えっ……?」

「マリアさんを助けてって。だから、心配しないで!」

 

 任せろと言わんばかりの笑みと声で応える。すると弦十郎はウェルとはやり方は違うが地面に拳を振り下ろして穴を開けた。

 

「ウェル博士の追跡は、俺たちに任せろ。だから響君は……!」

「はい!ネフィリムの心臓を止めます!」

「行くぞ!」

「はい!」

 

 弦十郎と緒川は、開けた穴から入ってウェルを追う。響はマリアの方を見据える。

 

「待ってて!ちょっと言ってくるから!」

 

 そう言うと響は無重力圏に近づいた事で浮遊した瓦礫を足場に跳躍して行った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 輪の案内でフロンティア中枢へと至る別の出入り口まで辿り着いた瑠璃だったが、巨大化したネフィリムが見えた事でその足が止まった。

 

「あれって……ネフィリム……?!」

「いやいやいや!あんな化け物を飼ってたって言うの?!」

 

 以前の姿とはまるで違う、まるでウェルのどす黒く肥大化した欲望を体現したかのように変貌していた。

 瑠璃は輪の方に向き直す。

 

「私はあれの相手をする。輪は……」

「早く逃げろって?分かってるよ。でも、それじゃ私の気が収まらないよ!」

 

 そう言うと輪はフロンティア中枢へと向かって走った。

 

「ちょっと輪!」

「あいつに一発ぶん殴らなきゃ気が済まないからー!」

 

 姿が見えなくなっていたが、輪は大声で叫ぶ。

 瑠璃は輪の行動力に驚きながらも、ネフィリムの方へ移動を開始する。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 フロンティア中枢から一気に飛び立った響は翼とクリスの目の前で着地した。

 

「翼さん!クリスちゃん!」

「立花!」

「もう遅れはとりません!だから!」

「ああ!一緒に戦うぞ!」

「はい!」

 

 翼と面と向かって応えるが、一方クリスはそっぽ向いている。その手にはソロモンの杖があった。

 

「やったねクリスちゃん!きっと取り戻して帰ってくると信じてた!」

 

 クリスの手を握って、クリスの帰還を喜ぶ響だがクリスは頬を赤く染める。

 

「おまっ……!当たり前だ!」

 

 だが喜んでばかりではない。遠くからネフィリムが響達を捉えた。ネフィリムの姿を目の当たりにした翼は驚愕を禁じ得なかった。

 

「あの時の自立型完全聖遺物なのか?!」

「にしては張り切りすぎだ!」

 

 強大な敵を前に、退くという選択肢はない。翼は二人に号令をかけた。

 

「行くぞ!この場に槍と弓、そして剣を携えているのは私達だけだ!」

「もう一つ、冥槍を忘れないでよね!」

 

 そう言うと槍に跨って飛行していた瑠璃が降り立つ。

 

「お待たせ。」

「ああ、よく来た!」

「姉ちゃん……。」

 

 翼と響は喜んだがクリスは、ソロモンの杖を奪還する為とはいえ殴ってしまったからか、申し訳なさそうに俯いていた。

 

「クリス、後でお説教ね。」

「え……?」

「あれを倒して、みんなで帰ろう。」

「ああ!」

 

 クリスは笑みを浮かべると、倒すべき敵ネフィリムの方に向き直る。

 

「行くぞ!」

 

 翼の号令と共に、4人はネフィリムに攻撃を仕掛ける。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同じ頃、ブリッジの階段を放心状態で歩いていたマリアは、戦えない自分の無力さに嘆いていた。

 

 

「私では……何も出来やしない……。セレナの歌を……セレナの死を……ジャンヌの遺志も……無駄な物にしてしまう……。」 

 

 己の正義を貫いた結果がこのザマだ。その悔しさに涙を流した。

 

「マリア姉さん……」

「セレナ……?」

 

 目の前にセレナが映る。

 

「マリア姉さんがやりたいことは何……?」

 

 目の前に映った亡き妹、セレナが現れた事に戸惑いながらもマリアは迷わず答える。

 

「歌で世界を救いたい……。月の落下が齎す災厄から……みんなを助けたい……!」

「「マリア。」」

 

 突然後ろから声が聞こえた。振り返ると、そこにジャンヌと、ジャンヌの左手を繋いでいる幼き少女、メルがいた。

 

「ジャンヌ……メル……?」

「私達はここにいる。」

「だからお願い。マリアの歌を聞かせて。」

 

 

 ジャンヌは優しく、メルは満面の笑みを見せる。そして、セレナはゆっくりとマリアの手を取る。

 

「生まれたままの感情も、隠さないで……?」

「みんな……。」

 

 マリアは目を閉じると、思い出の歌、自分達を唯一繋ぐ歌、Appleを唄う。

 マリアが一節歌うとセレナも同じく、目を閉じて唄う。ジャンヌとメルも続くように唄った。

 

 

 

 月に向かって区画を飛ばされてしまったナスターシャ。その影響により瓦礫が降り注いだが、ジャンヌお手製の車椅子のお陰で、ジャンヌと同じ運命を辿る事はなかった。

 

「これは……?!」

 

 突如制御室へと流れ込むフォニックゲインが高まっている。

 世界中の人々が、マリアの歌に祈りを捧げている。一人一人から発せられたフォニックゲインが、今この制御室で一つに集まろうとしている。

 

「世界中のフォニックゲインが、フロンティアを経由して、ここに収束している……。これだけのフォニックゲインを照射すれば、月の遺跡を再起動させ、公転軌道の修正も可能……!」 

 

 ナスターシャは車椅子を変形させて瓦礫を退かす。そして地上にいるマリアと通信を試みる。

 

 

『マリア!』

「マム?!」

『あなたの歌に、世界が共鳴しています!これだけフォニックゲインが高まれば、月の遺跡を稼働させるには十分です!月は私が責任を持って止めます!』 

「マム……!」

 

 その意味を理解したマリアは涙を流す。だがナスターシャは優しく諭すように語りかける。

 

『もう何もあなたを縛るものはありません。行きなさいマリア……。行って私と……旅立ったジャンヌに……あなたの歌を聞かせなさい……。』

「マム……。」

 

 しばし目を閉じるマリア。そして覚悟を決めたように目を見開く。

 

「OKマム!世界最高のステージの幕を開けましょう!」

 

 マリアはその身を翻し、行くべき場所へと赴く。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ネフィリムと交戦している二課の装者達。響と翼、瑠璃が三方向から攻撃を仕掛けるも、ネフィリムにダメージが入っている様子がなく、腕を振回す。

 

「効いてない……?!」

「やはり姿形だけではないという事か……!」

「だったら全弾くれてやる!!」

 

 だったらとクリスが腰のアーマージャッキから小型ミサイルを全弾撃ち込み、同時にガトリング砲の弾丸を放つ。

 

【MEAG DEATH PARTY】

 

 まともにくらったのを確認したクリスは口角を上げたが、爆煙が晴れた途端それが糠喜びであると認識させられる。

 

「嘘だろ?!効いてねえぞ?!」

「来るぞ!」

 

 さらにネフィリムが口から巨大な火球のエネルギーを翼とクリス、まとめて消し飛ばそうと放つ。

 

「だったら!」

 

 瑠璃が連結させた槍を高速回転から発せられる竜巻型のエネルギーをぶつける。

 

【Harping Tornado】

 

「何……このパワー……?!」

 

 桁違いのパワーをぶつけられ、竜巻は呆気なく消し飛ばされてしまい、火球の爆風で三人は吹き飛ばされてしまう。

 

「翼さん!クリスちゃん!瑠璃さん!」

 

 だがネフィリムは響を潰さんと腕を振り下ろす。特大すぎるその大きさでは避けられない。避けられないと察知し、拳で迎え撃とうとしたその時、その腕を碧刃の鎌が切り刻み、紅刃の鋸をがネフィリムの身体に傷をつけた。

 

「シュルシャガナと……」

「イガリマ到着デース!」

 

 守ったのは調と切歌だった。二人が来たことに歓喜する響。

 

「来てくれたんだ!」

「とはいえ……こいつを相手にするのは結構骨が折れるデスよ。」

 

 切歌の言う通り、この程度でネフィリムを刈る事は出来ない。だが後ろから勇ましい声が響く。

 

「だけど歌がある!」

 

 声のした方を向くと、マリアが岩の上で仁王立ちしている。

 

「もう迷わない……!だって……マムが命懸けで、月の落下を阻止してくれている!」

 

 宙を見据えるマリアだが、その表情にもはや迷いは微塵もない。

 

 

「出来損ない共が集まったところで、こちらの優位は揺るがない!焼き尽くせ!ネフィリイイイィィーーーム!!」

 

 フロンティア中枢のジェネレータールームでネフィリムの姿を捉えていたモニターで見ていたウェルは、ネフィリムに命令を下すように叫び、ネフィリムは先程放った火球よりもさらに巨大なそれを放つ。

 直撃したのを見たウェルは狂うように高笑いする。

 

 Seilien coffin airget-lamh tron……

 

 聞こえてきたマリアの詠唱。土煙が晴れると、マリアがギアの装着によるバリアによって、並び立った装者達はそれに守られていた。

 

 

(調がいる……切歌がいる……。マムにジャンヌ、メルにセレナもついている。)

「皆がいれば……これくらいの奇跡、安いもの!!」

 

 マリアが叫ぶ。

 ネフィリムが再び火球を放つが、ここで響が動き出す。

 

「セット!ハーモニクス!S2CA!フォニックゲインを、力に換えてえええええぇぇぇーーー!!」

 

 ガントレットを右腕のものと連結させて、火球を殴りつけ爆散させた。

 このS2CAは7人の装者によるものだけではない、7人の不揃いではあるが、それぞれの思いを一つに重ねた奇跡のS2CA。

 翼は左手を調に差し伸べる。

 

「惹かれ合う音色に、理由などいらない。」

 

 調はぎこちなくも、その手を右手で握る。

 

「あたしも付ける薬がないな。」

「それはお互い様デスよ。」

 

 クリスの右手と切歌の左手が繋いだ。

 

「絆の形は一つだけじゃないよ。」

「デスね。」

 

 敵同士だったあの時、秋桜祭の一瞬だけだとしても、皆と美味しく食べるという形ではあるが、確かに繋がりかけていた。そして今、今度は目の前の困難にともに立ち向かおうと、瑠璃の左腕と切歌の右手は本当の意味で絆が繋がる。

 

「瑠璃さん、調ちゃん!」

 

 響の左手と瑠璃の右手が繋がるが、調は響を見据える。

 

「あなたのやってる事……偽善でないと信じたい。だから近くで私に見せて。あなたの言う人助けを……私達に……。」

「うん。」 

 

 そう頷くと、調の左手と響の右手が繋がり、並び立った6人の装者が繋がり合った。

 

 

 フロンティア中枢のモニター越しで見ていたが、その光景を良しとしないウェルは受け入れない。

 

「絶唱7人分……。たかだか7人ぽっちで……すっかりその気かあああぁぁぁーーー?!」

 

 ネフィリムに命ずるが如く、今度は全身から装者達に向けてエネルギー波が放たれた。その威力は凄まじく、装者達は踏ん張るもギアが耐えきれず分解されていく。

 だがウェルは大きな誤解をしていた。今奏で、生み出されたフォニックゲインは7人によるものではない事を。

 

(七人じゃない……!私が束ねるこの歌は……!) 

 

 そう……この歌は……

 

 

 

 70億の、絶唱おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!

 

 

 

 装者達はそれぞれの色に輝く光に身を包まれ、再びギアを纏う。しかも光の翼と純白のギア、エクスドライブとなって。

 

 

 

「響き合うみんなの歌声がくれた!!」

 

 

 

 

 

 シンフォギアだああああああああああぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 7つの光と力が1つとなったそれは、ネフィリムの身体を貫き、虹色の竜巻が空へ、宇宙へと届く程に大きく渦巻いた。

 




ジャンヌがAppleを歌えるのは、メルが存命中だった頃に彼女が夜怖くて眠れなかった時、マリアが歌った事で安心した様にゆっくりと眠る事が出来たからです。
それ以降、ジャンヌとメルも、Appleを歌えるようになったという経緯があります。

ですがジャンヌはメルの死後、これを存命中に歌う事は最期までありませんでした。


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繋ぎ掛け合わせた両手

G編ラストバトルとなります。

そしてバイデントの特性も明らかになります。


 同じ頃、ウェルを逮捕する為にその追跡をする弦十郎と緒川。しかし迷宮ともいえる複雑な回廊に苦戦を強いられている。だがこのまま逃がすわけにはいかない。追跡を続けていると、曲がり角から飛び出す少女の姿があった。

 

「あれ?!オジサン、緒川さん!」

「輪さん!」

 

 飛び出して来たのは輪だった。

 

「君が無事で良かった。早くここから……」

「オジサン、私ここのルート知ってるよ。」

 

 弦十郎の勧告を輪は悪魔のような笑みで遮る。遠回しに私も連れて行けと言っているようなものだ。

 

「私なら最短ルートで案内出来るよ。」

「ですが危険を伴いますよ?輪さんは既に……」

「もう危険な目に遭ってます。今更何が来ようが、ちょっとやそっとじゃ驚きませんよ。」

 

 緒川は輪の身を案じているのを承知の上で返す。弦十郎はため息をつく。

 

「ったく……響君と言い君と言い、勝手にも程があるな。仕方ない、後でたっぷり説教だ。遅れるなよ。」

「了解!」

 

 こうして輪も加わりウェルの追跡を再開する。輪の道案内もあってウェルがいると予想されるジェネレータールームに早く突入出来た。

 

「いた!あそこ!」

「ウェル博士!」

「なっ……!」

 

 三人の存在に気付いたウェルは焦った様子だった。エクスドライブのギアを纏う7人の装者によってネフィリムが倒された光景をモニター越しで目の当たりにしてしまい、倒されるはずがないと勝利を疑っていない所に受け入れ難い敗北を突きつけられた上に、逃走経路すらないジェネレータールームで三人に囲まれてしまった。

 

「お前の手に、世界は大きすぎたようだな!」 

「覚悟しなよ、この似非英雄のクズ野郎!」

 

 目の前でジャンヌを殺され、怒りのままに思っている事をぶちまける。全否定されるが如く、侮辱されたウェルは輪に不合理な怒りを向ける。

 

「僕を……英雄たる僕を、お前みたいな小娘にいいいぃぃぃ!!」

 

 ネフィリムの左手を使ってフロンティアに指示を出そうとしたが、そうはさせるかと輪が出した予備のカメラを投擲、ウェルの後頭部に直撃する。頭に直接、当てられた事で怯んでしまい、さらに緒川が発砲した銃弾が、ウェルの影に命中する。

 

 【影縫い】

 

「あなたの好きにはさせません!」

 

 緒川の銃弾で影が固定された事で、ウェルは身体を動かす事が出来なくなった。これで終われば良かったのだが、輪は嫌な予感がした。

 

(こいつ……何か最後にやらかしそうな感じがする……。)

「奇跡が一生懸命の報酬なら……」 

 

 ウェルの左腕には血管が浮かび上がる程に力が入る。次第に血管が破れ、出血する。

 

「僕にこそおおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 最後の悪足掻きと言わんばかりの力で影縫いを破り、左手が制御盤に触れ、フロンティアに最後の命令を下した。 

 

「やっぱり……!」

「何をした?!」

「ただ一言……ネフィリムの心臓を切り離せと命じただけぇ……!」

 

 外で撃破したはずのネフィリムの心臓が浮かび上がり、禍々しい光を帯びながら鼓動する。

 

「こちらの制御から離れたネフィリムの心臓はフロンティアの船体を喰らい、糧として暴走を開始する!そこから放たれるエネルギ-は……一兆度だああああぁぁぁぁ!!」

 

 今のネフィリムは核爆弾などと陳腐に思える程の破壊兵器と化し、それが地上に降り立とうものなら世界は一瞬で蒸発という形で破滅してしまう。

 

「僕が英雄になれない世界なんて、蒸発してしまえば……」

「うっさい!!」

 

 ウェルの半狂乱の高笑いにうんざりしていた輪はウェルの顔面を殴って黙らせる。そして弦十郎は制御盤を殴り粉々にするが、既に切り離されてしまっていた事から無意味に終わってしまう。

 

「壊してどうにかなる状況じゃ、なさそうですね……。」

 

 弦十郎から指示を受けた翼。まだネフィリムの心臓は鼓動を続けており臨界には達していない。今破壊すれば臨界に達する事なく終わらせられる。

 

「了解。臨界に達する前に……っ?!」

 

 だがここで予想外の事が起きた。ネフィリムの心臓はフォニックゲインが集まっていた建物の先端におり、そのフォニックゲインをエネルギーとして取り込んでいた。

 

 

 ウェルは電子手錠を掛けられ、緒川が操縦するジープに乗せられている。

 

「確保だなんて悠長なことを……。僕を殺せば簡単なこと……」

 

 頭上から影に覆われるのを確認したウェルは見上げると、フロンティアの建造物の一部がネフィリムの覚醒によって吹き飛ばされ、それが巨大な落石となって落ちてきた。ウェルは情けない声を挙げているが、輪は動じておらず、緒川も構わずにジープを走らせる。そして弦十郎が立ち上がり……

 

「はああああああぁぁぁーーーーー!!」

 

 拳一つで落石を粉々に破壊してみせた。

 

「殺しはしない……。お前を世界を滅ぼした悪魔にも……理想に殉じた英雄にもさせはしない。どこにでもいる、ただの人間として裁いてやる!」

 

 その言葉はウェルにとって一番忌むものであり、そう宣言されてしまった事で喚きながら叫ぶ。

 

「畜生おぉお!僕を殺せええぇ!英雄にしてくれえぇぇ!英雄にしてくれよおおおおおぉぉぉぉ!!」

(あぁ……うっさいコイツ……。)

 

 輪は耳を塞いで、心の中で毒づいた。

 こうして英雄になる事を夢見た男は人の道を踏み外し、誰からも英雄として認識されないただの人間として収容されるという末路を迎えた。

 

 70億の絶唱のエネルギーを取り込んだことで急速に成長したネフィリムの心臓は、フロンティアそのものを取り込み始める。

 本部に戻り、ブリッジに入った弦十郎はオペレーター陣に指示を出す。

 

「藤尭!出番だ!」

「忙しすぎですよ!」

「ぼやかないで!」

 

 藤尭の迅速なプログラミングによって、潜水艦から発射されたミサイルが、潜水艦周囲に着弾、爆破した事で地面が割れ、潜水艦はフロンティアから落下、海へと落下していく。

 輪がブリッジに入ると、覚醒するネフィリムを目撃する。

 

「オジサン……あれ……。」

「ああ。だがあいつ等を信じよう。」

 

 世界の命運は7人の装者に託された。

 

 フロンティアを完全に取り込んだネフィリムは、赤く、巨大な躯体となって完全に姿を現した。飛行能力を持ち合わせないネフィリムはそのまま地球への落下を開始する。

 だがそれを阻止せんと切歌と調が動き出す。調は全ての装甲とツインテールのアームを連結させて巨大ロボットを作り上げて乗り込み、切歌は巨大なの大鎌の刃を3枚に変え、高速回転で振り下ろす。

 

【終Ω式・ディストピア】

【終虐・Ne破aア乱怒】

 

 だがダメージを与えるどころか、逆にそのエネルギーを取り込まれてしまい、さらに返り討ちに遭う。

 

「二人とも!」

 

 吹き飛ばれる切歌と調をキャッチする瑠璃。調と切歌は何とか体勢を立て直した。

 

「攻撃しても、逆に取り込まれてこっちがやられる……!」

「滅茶苦茶なんてものじゃないデスよ!」

 

 調と切歌はネフィリムの性質にボヤくが、その滅茶苦茶な生命体は重力に引っ張られながら地球へと落ちようとしている。

 このまま臨界に達してしまったら地球は一瞬で蒸発してしまう。

 ここで瑠璃はある事を考えつく。

 

「クリス、ソロモンの杖を!」

「分かってらぁ!バビロニア、フルオープンだあああぁぁぁーーーー!!」

 

 クリスが前に出てソロモンの杖を構える。緑の光線を放つと、その先には異空間への入口、バビロニアの宝物庫の扉が大きく開く。

 

「エクスドライブの出力で、ソロモンの杖を機能拡張したのか?!」

「ゲートの向こう、バビロニアの宝物庫にネフィリムを格納できれば……!」 

 

 翼の言う通り、エクスドライブの力で扉の大きさも今まで以上のものになるが、ネフィリムを放り込める大きさに至っていない。さらに扉を開くのにかなりの気力が必要となる。

 

「ぐうううぅぅ……!」

 

 だがそこに瑠璃の左手がソロモンの杖を掴んだ。

 

「姉ちゃん!」

「続けてクリス!バイデントの力でクリスの思いをソロモンの杖に乗せる!だから立ち止まらないで!」

 

 瑠璃はバイデントの特性に気付いていた。

 それは人の気、意思を聖遺物の力を掛け合わせてそれを具現化させるものだった。ルナアタックで月の欠片に放った絶唱、QUEENS of MUSICのライブで放ったS2CAは響の手を繋ぐ性質があった為、それに気付かなかった。

 だが響と手を繋いだ時、図らずもその繋ぐ力を増大させていた事に気付いたのでもしやと思い、この行動に出た。

 

「そうだ……。歌で世界を平和にする為に……人を殺すだけじゃないって、やって見せろよ!ソロモオオオォォーーーン!!」

 

 クリスの願いが、瑠璃のバイデントを通してその力を急速に引き上げる。扉がさらに拡大した。

 

「よし、このまま……」

「避けろ瑠璃!雪音!」

 

 だがもう少しで開ききるという所でネフィリムが腕を振るい、瑠璃とクリスを吹き飛ばした。その時、手にしていたソロモンの杖を手放してしまうが、マリアがそれを手にして構える。

 

「明日をおおおおぉぉぉ!!」

 

 マリアの叫びと共に、光線を放つ。バビロニアの宝物庫の扉が完全に開ききった。

 ネフィリムはマリアを握りつぶさんと腕を伸ばすが、巨体となった分動きが緩慢だった為、あっさり避ける。だが手の先から触手が伸び、それをマリアの身体は絡め取られ引きずり込まれてしまう。

 

「格納後、私が内部よりゲートを閉じる!ネフィリムは私が!」

「自分を犠牲にするつもりデスか?!」

「マリアアァーー!!」

 

 マリアの決断に調と切歌が叫んだ。勝手なのは分かっている。だがこれ以上誰かを巻き込むのは望まない。

 

「こんなことで、私の罪が償えるはずがない……。だけど、全ての命は私が守って見せる……!」

 

 覚悟を決め、目を閉じた時だった

 

「それじゃ、マリアさんの命は、私達が守って見せますね。」

 

 目を開くと隣に響がいた。響だけじゃない、後ろからみんながマリアの所に集まった。

 

 

「英雄でない私に、世界なんて守れやしない。でも、私達は……一人じゃないんだ。」

 

 響はそう言って微笑む。ネフィリムに引きずれこまれたマリアと、共についてきた装者達はバビロニアの宝物庫の中へと突入、入った途端に開いていた宝物庫のゲートが揺れるように閉じた。

 

 その光景を潜水艦のブリッジにいた未来と輪は驚愕する。

 

「響!」

「ど、どうなっちゃうのこれ?!」

「衝撃に備えて!」

 

 友里の声と同時に潜水艦のブリッジと本体が切り離され、切り離されたブリッジはパラシュートが展開され、落下の速度を緩める。

 

 

 そして宇宙空間を漂うフロンティアの制御室で一人倒れるナスターシャ。もはやその命は終わろうとしていた。

 

「フォニックゲインの照射継続……!これは……!」

 

 最期に奇跡を目の当たりにした。

 

「月遺跡……、バラルの呪詛……。管制装置の再起動を確認……!月軌道、アジャスト開始……!」

 

 月の落下は防がれた。後は暴走したネフィリムを止めるのみ。

 

「星が……音楽となって……!」

 

 見上げた地球を最後に、己の役目を果たしたナスターシャは安らかに眠った。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 バビロニアの宝物庫の中はまさにノイズの巣窟、その数は無尽蔵。その中に人が入れば当然機能に従い抹殺しに掛かる。相手がただの人間であれば。

 響は右手をガングニールの槍の穂先を模ったアームへと形を変える。

 

「うおおぉぉりゃああああぁぁぁ!!」

 

 ブースターを加速させるとその軌道線上にいたノイズを塵にしていく。

 翼は手に持つ刀を巨大化させるだけでなく、脚部のブレードも巨大化させて、宙を舞うように回転してノイズを斬り伏せる。

 クリスは巨大化させたアームドギアを、自身を覆うように全ての装甲と連結させ、特大の砲門を形成、エネルギー砲を発射させると、被弾したノイズは爆破する様に消えてなくなる。

 瑠璃の方も両腕を上げると、背後から現れた大量の黒槍と白槍を展開。ノイズの大群に向けて、上げた右腕を振り下ろすと大量の黒槍が発射、串刺しとなったノイズは爆散するが、後ろにいたノイズごと貫き、一本で無数のノイズを倒す。続けて左腕も下ろすと白槍も放たれ、狙われたノイズはバイデントの餌食になる。

 

【Judgment Libra】

 

 調と切歌はマリアを縛るネフィリムの触手から引き剥がそうと切歌がネフィリムの攻撃を誘い、その間に調が形成したロボットの鋸で触手を切ろうとする。

 

「調!まだデスか?!」

「もう少しで……!」

 

 完全に切断され、調の形成したロボットは崩落ち、拘束から解き放たれたマリア。

 

「一振りの杖では、これだけの数を……制御が追いつかない!」 

 

 いかにエクスドライブでソロモンの杖の機能を拡張させたと言えども無尽蔵のノイズの前に制御しきれない。

 だが響が叫ぶ。

 

「マリアさんは、杖でもう一度宝物庫を開くことに集中してください!」 

「外から開けられるのなら、中から開けることだって出来るはずだ!」

「鍵なんだよ!そいつは!」

 

 翼とクリスのアドバイスでマリアは再び杖を構える。

 

「瑠璃、こっちへ!」

「はい!」

 

 瑠璃はマリアの腕を掴む。

 

 

「セレナアアアァァーーーー!」

 

 マリアの思いとバイデントの力によって掛け合わせたその力で、最大出力で扉が開いた。

 

「脱出デス!」

「ネフィリムが飛び出す前に!」

「響ちゃん!お姉ちゃん!クリス!急いで!」

 

 瑠璃が叫ぶと、翼は小さく頷き、脚部のブレードを離断させる。

 

「雪音!」

「おおっ!」

 

 クリスもアーマーを分離させて翼と共に脱出口へと向かう。分離したアーマーは自壊する際に最後の放射と共に爆発する。

 響とも合流し7人で脱出を図るがその行く手をネフィリムが阻む。

 

「最後の最後で通せんぼなんて……!」

「迂回路は無しか……!」

「ならば、行く道は一つ!」

「手を繋ごう!」

 

 切歌と調、瑠璃、響、クリス、翼が手を握る。

 

「マリア。」

「マリアさん。」

 

 調と瑠璃が手を差し出す。マリアは胸の結晶から聖剣を取り出し

 

「この手、簡単には離さない!」 

 

 マリアは瑠璃と調の手を強く握る。

 

「繋いで、掛け合わせたみんなの思いを、この手に乗せて!!」

 

 7人の中心に立つ瑠璃が発破を掛けるとその繋がった両手を天に掲げる。

 

 

 

 

「「最速で最短で!真っ直ぐに!」」

 

 

 

 

 聖剣が輝き、光の粒子となって装者全員を包むと高く飛翔する。

 響のガングニール、マリアの白銀のアガート・ラーム、瑠璃のバイデントの装甲が分離される。

 そしてガングニールとバイデントの白い装甲が連結された右手、アガート・ラームとバイデントの黒い装甲が繋ぎ合った左手が形成され、右手は黄金に、左手は白銀に輝きを帯びて拳を作るように繋ぎ合わさる。

 

 

 

 

「「一直線にいいいいいいぃぃぃぃ!!」」

 

 

 

 

 繋ぎ合わせた両手は回転し、ネフィリムへと突撃する。ネフィリムの身体から大量の触手が放たれるも繋ぎ掛け合わせた両腕の力の前に跳ね返され、高速回転する両腕はネフィリムの胴を貫いた。

 

 

 

 

 

【Vit✝aliza✝ion】

 

 

 

 

 そのまま彼女達は宝物庫の扉を潜り抜け、外へと脱出、海辺の砂浜に放り出される。だがまだ扉は開いたままであり、ソロモンの杖は砂浜に刺さるように立っている。

 

「杖が……すぐにゲートを閉じなければ……!まもなく……ネフィリムの爆発が……!」

 

 マリアの言う通り、腹部を貫通されたネフィリムは自壊する。しかし扉が開いたままではその自壊に発生する爆発が扉を介して地球にまで及んでしまう。だがこの場にいる装者全員、力を使い果たし身体へのダメージによって動けない。

 

「まだ……だ……!」

「心強い仲間は……!」

「他にも……!」

「仲間……?」

 

 翼、クリス、瑠璃のセリフにマリアは問いかける。

 

「私の……親友だよ……。」

 

 響がそう言うとこちらに駆けつける一人の少女がいた。

 

(ギアだけが戦う力じゃないって響が教えてくれた!)

「私だって……戦うんだ!」

 

 未来は全力で走り、杖を手に取る。

 

「お願い!閉じてえええええぇぇぇーーー!!」

 

 杖を力いっぱい、扉の中に向けて投擲する。ネフィリムの身体が爆発する予兆の光りを発し始める。もう爆発まで時間がない。

 

(もう響が……誰もが戦わなくていいような……)

 

 未来の思いをソロモンの杖が加速する。

 

「世界にいいいいいいぃぃいぃーーーーー!!」

 

 ネフィリムから発せられる光が満ち溢れ、その光によってノイズが塵となりながら、宝物庫の扉にまで向かう。それが到達する寸前、ソロモンの杖が扉の中へと入り、扉は閉じた。

 その爆発は異空間の壁を越えて、現実世界でもその僅かな揺れが目視出来たが、それ以外地上には何も被害が及ばなかった。

 世界は守られた……。

 




バイデントの特性

聖遺物と人の思いを繋ぎ、掛け合わせた力を表面へ具現化させる、言わば聖遺物と人の思いを繋ぎ掛け合わせた絆の力。

思いが強ければ強いほど、その力は高まる。
S2CAで繋いだ場合、たとえ不揃いであってもその人数分の思いを掛け算のように上乗せさせる事が可能であるが、その分使用者である瑠璃の体力も大幅に消費してしまう。

ちなみに、対フィーネ戦の時は仲間を、友を守りたいという思いを具現化させた事でフィーネの守りを崩し、ダメージを与えるまでに至ったが、装者として未熟だった点から制御しきれていなかった為に、戦闘補助システムで割り出された想定ダメージより下回る数値しか与えられなかった。


次回G編最終回

ご感想お待ちしております。


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絆の証

G編最終回になります。

みなさん、ここまで読んでくださってありがとうございました!

最後は無印編と同様、輪視点でG編が終わります。


 時が流れ、夕焼けが地上を照らしている。誰かがこちらに駆け寄って呼び掛けている。

 

「起きた?」

 

 既にギアが解除されていた瑠璃、目を開けるとそこには輪が膝枕をして、覗いていた。

 

「終わったんだね……。」

「うん。何もかも。」

 

 瑠璃は何とか起き上がるがまだダメージが抜けきれていないせいでよろけてしまう。

 

「ちょ……立って大丈夫?!」

「うん。ほんの少しだけね。」

 

 そう笑うが、突然その笑みは消えてしまう。

 その先には二課の独房からロータリーへ移送されようと連行されているウェルの姿が映った。

 

「どうしたの瑠璃?瑠璃?」

 

 瑠璃はよろけながらもウェルの方へ歩いて行く。ウェルは自らの野望が打ち砕かれた事に意気消沈しており、後ろの軍人には銃が突きつけられている。

 

「間違っている……。英雄を必要としない世界なんて……ん……?」

 

 足音が聞こえ、その方を向くと瑠璃がこちらに向かって歩いている。

 

「お前は……ぐほぉっ!」

 

 突然ウェルの顔面を瑠璃が拳で殴りつけた。誰も予想しえなかった突然の行動に、全員が驚愕する。

 

 殴られたウェルはその拍子で倒れ、尻餅をつく。

 

「き、貴様!英雄である僕に何するんだ?!」

 

 ウェルは瑠璃に憤慨するが、瑠璃はそんなもの知ったことではない。瑠璃はジャンヌが殺された事、そしてウェルがネフィリムの心臓をフロンティアの制御から外した事でフロンティアは取り込まれ、ジャンヌの遺体が残らなかった事に、瑠璃は激しい怒りがこみ上げていた。

 

「これは……ジャンヌの分……です。」

 

 見下ろして言うと、瑠璃はウェルに背を向け去って行く。

 

「瑠璃……。」

 

 輪が心配そうに声を掛ける。響、翼、クリスも駆け寄った。

 

「あの人は許せない……。けど、これ以上怒っても……ジャンヌは帰って来ない。それに……」

 

 瑠璃は俯向きながら、吐露する。

 

「痛いなぁ……人を殴るって。」

 

 瑠璃は生まれて初めて人を殴った。右手から伝わる痛みに、左手で優しく擦っているとマリアに声を掛けられる。

 

「瑠璃。」

「マリアさん……。」

 

 マリアの後ろには切歌と調がいた。

 

「ありがとう。私達の代わりに、彼女の為に怒ってくれて。でも、殴るのはよしなさい。」

 

 確かに褒められるべき行動ではないと殴った本人も認めており、反省する瑠璃。

 そこに輪がある事を思い出した。

 

「マリアさん、これを。」

 

 輪は胸ポケットからあるものを取り出した。それはジャンヌが肌見放さず掛けていたロケットだった。

 

「これは三人に返します。ジャンヌもそれを望んでると思います。」

「ジャンヌ……あら?」

 

 ロケットのチャームを開くとそこにはジャンヌとメルが笑顔で写っている写真が飾られていたが、もう一つ、マイクロチップがテーブでくっつけられていた。

 

「これは……。」

「あ……それなら、私の通信機で流しますね。」

 

 輪はマイクロチップを通信機の中に挿し込んで、中身をロードすると、音声データがあった。輪はそれを流す。

 

『マリア、調、切歌、これを聞いているだろうか?』

 

 声の主はジャンヌだった。

 

『これを聞いているということは、私は既にこの世の者ではないのだろう。もしかしたら……マムも……。

 私は三人に秘密にしていた事がある。私は、度重なる実験で、心臓はほとんど弱っていた……。医者曰く、今生きているのが不思議だと驚かれたな。』

 

 三人はこの時、ジャンヌの心臓病について初めて知った。調と切歌はジャンヌの体調の異変について知ってはいたが、まさかそんな事になっていたとは露知らず、マリアはその異変に気付けなかった。

 

『私がみんなに付いて行ったのは……残り少ない命で、私が出来る事をしたかった。世界を救い、皆が歩む未来を見てみたかった。けど……それはマリア達に任せる事にする。

 マリア……セレナを失ったばかりだったのに、メルの事で自棄になっていた私を、目を覚まさせてくれてありがとう。

 調、君の作る料理、美味しかったよ。ただ……もっといっぱい君の料理が食べたかったなぁ……。

 切歌、これからはしっかり者の君が、皆を支えてやってくれ……任せたぞ。

 もしこれを聞き終わったら……みんなの足枷にならないよう、捨ててほしい。みんなには、未来を見てもらいたい。それが過去に囚われていた私の……遺言だ。皆と出会い、過ごした時間は……最高に楽しかった。ありがとう……皆。ありがとう……マム……。』

 

 それを最後に、停止した。調と切歌は嗚咽交じりに泣き、マリアも静かに涙を流している。

  

「ありがとう、瑠璃、輪。君達がジャンヌの最後の友になってくれて。」

 

 マリアは二人を見据えて言う。 

 

「月の軌道は、正常値へと近づきつつあります。ですが、ナスターシャ教授との連絡は……。」

 

 そして弦十郎と緒川の報告を耳にしたマリア、調、切歌は夕焼けの空を見上げる。マリアの手に握られたギアは半壊していた。

 

(マムが未来を繋げてくれた……。)

「ありがとう……。お母さん……。」

 

 マリアが呟くと響が歩み寄る。

 

「マリアさん……。」

 

 響の手にはガングニールのギアが。響はこれをマリアに返そうと出すが……

 

「ガングニールは君にこそ相応しい。」

 

 そう言って、マリアは響に優しく微笑む。

 

「だが、月の遺跡は再起動させてしまった……。」

「バラルの呪詛か……。」

「世界を救う為とはいえ……」 

「人類の相互理解は、また遠のいたってわけか……!」

 

 皆が悔しそうにするも響だけは違った。

 

「へいき、へっちゃらです。だってこの世界には、歌があるんですよ!」

 

 響だけが前を向き、ポジティブになっている。皆は驚くも、翼とクリス、瑠璃、未来、輪はそんな響を知っているから笑みを浮かべる。

 

「歌……デスか……」

「いつか人は繋がれる……。だけどそれは、どこかの場所でも、いつかの未来でもない。確かに、伝えたから。」

 

 調を守り、消滅した先史文明の巫女の遺した言葉を、調は伝えた。

  

「うん。」

 

 響は優しく頷く。

 

「立花響。君に出会えてよかった。」

 

 マリアは響を見据えて、そう言った。マリア、調、切歌はその後、ロータリーへと乗り、去った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そんなこんなでフロンティア事変から日が過ぎました。皆普通に学校に通って元の日常に戻ったんだな〜って感じます。ただ一人除いて……

 

 あれからマリアさん、調、切歌の三人は裁判に掛けられましたが、何かバイデントの返還要求に応じなかったとして日本政府が訴えられ、それに飛び火する形で所有者である瑠璃までもが裁判に掛けられる事になりました。オジサン曰く米国主導で……。

 

 ねえ、おかしくない?普通第三国に審議してもらうでしょう?それなのにバイデントを手に入れたい為にほんなセコい真似するなんて……。

 でもそこはオジサンが何とかしてくれるそうです。オジサン曰く

 

「俺の娘に手出しはさせん!どんな手を使っても必ず取り戻す!」

 

 だそうです。確かにこの人なら拳一つで何でも解決しちゃいそうだけど……。まあそれはそれとして、その道のスペシャリストが何とかしてくれるそうです。

 

 まあそういうわけで、今は瑠璃がいない日常を過ごしています。

 

「おい、いつまでしょげてんだぁ?」

 

 クリスに話しかけられるけど、私は瑠璃もいない嫌だ!だから私はそっぽ向く!

 

「そりゃああたしだって心配するさ!けど、落ち込んでたって仕方ないだろ?」

 

 私の半分は瑠璃で出来ている。だから瑠璃がいないといつもの70%力が出せないのだ。ちなみに学校の方には病気という体で押し通した。けどこうも瑠璃がいない日が続くとつまんない〜!って輪さんは輪さんは駄々っ子のようにジタバタしてみたり!

 

「お前も難儀なやつだな。」

 

 クリスに何か言われているが別にどうだっていい。早く帰って来ないかな……

 

 プルルルルル

 

 おっと電話だ。誰々?オジサン?どうしたんだろ?

 

「もしもし?」

 『輪君、瑠璃の事なのだが……喜べ!瑠璃の全面勝利が確定した!』

 

 それは一番の朗報で私とクリスは盛大に喜んだ。

 オジサンによるとF.I.S.にいた頃のジャンヌに行われた実験が米国政府の独断であったこと、それによりジャンヌが心臓病を患った事、さらにメルがバイデントの起動実験で亡くなった事が明らかになって、さらに元はフィーネがドイツから盗んだという事実もあってドイツの機関から横槍が入ったらしい。

 それで米国政府はバイデントを諦める事になって、ドイツ政府からも承認を得られた事で、晴れて瑠璃はバイデントの所有者である事が認められたんだって。

 

「それで瑠璃はいつ帰ってくるの?!」

『それが今度はドイツに出向になってな。もう少し時間が掛かりそうだ。』

 

 こ、今度はドイツに?!それは少し羨まし……ゲフンゲフン。何でもないよ。けど帰って来れることになって良かった。

 

『帰ってくるまでもう少しの辛抱だ。』

「うん、ありがとうオジサン。」

 

 良かった〜!これでまた瑠璃に会える!早く帰って来ないかな〜。

 

 

 輪は空を見上げると、そこには虹色の羽根が舞っていた。




これにてG編完結になります!

次回少し番外編を挟んだ後、GX編に入りたいと思います。

ご感想お待ちしております。


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番外編4 ジャンヌの物語 前編

ジャンヌの過去話となります。

思いの外長くなったので分割して投稿します。


 F.I.S.を陰からサポートし、未来を託して逝ったマリアの最大の友、ジャンヌ・ベルナールの過去のお話。

 

 彼女がF.I.S.に連れて来られたのはまだ幼い少女の時だった。両親が自動車事故で亡くなり、行き場のない孤児になったジャンヌと妹のメルはF.I.S.によって白い孤児院と呼ばれる場所へ連れて行かれた。

 だがメルは何処とも分からない場所に連れて来られ、怯えていた。ジャンヌは手を握る事で、少しでも恐怖を和らげてあげる。

 周りにはここの施設で支給された衣服を纏う子供達が集められていた。そして、一人の女性が鞭を持って、子供達の前に立つ。それがナスターシャであった。この頃は眼帯や車椅子もしていない。

 

「今日からあなた達には戦闘訓練を行ってもらいます。フィーネの器となれなかったレセプターチルドレンは、涙より血を流すことで組織に貢献するのです。」

 

 

 その冷たい一言が、子供達の血反吐が出るような壮絶な日々が始まった。

 まずジャンヌとメルは別々に別れ、違う部屋で機械に繋がれた。

 

「嫌だ!お姉ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だ!」

 

 メルはジャンヌと離れるのを嫌がり泣き叫んだ。ジャンヌはメルを助けるべく抵抗する。

 

「メルを連れてかないで!メル!」

「お姉ちゃああぁぁん!!」

「メル!!」

 

 泣き叫ぶメルを助けられず連れて行かれ、ジャンヌの抵抗も虚しく鎮静剤を打たれ、強制的に大人しくされてしまう。起きた時には検査が終わっていたようだが、鎮静剤のせいでジャンヌはまともに歩けないまま、違う部屋へと連れて行かれた。

 その部屋には大勢の子供達が複数の列をなし、その列に一人ずつ白衣を着た研究者達に注射を打たれていた。ジャンヌも列に並ばされるが、鎮静剤のせいであまり立つことが出来ず、座り込むと、鞭が地を叩く音が響く。

 

「何を座り込んでいるのです?立ちなさい。」

 

 周りの目線が突き刺さる。お前のせいで自分達に飛び火したらどうするんだと、言いたげな目で見られ助けの手すらない。ジャンヌは一人、立ち上がった。

 そしてジャンヌの番が周り、左上腕に緑色の薬物、LiNKERを投与された。それが終わると、ジャンヌは割り当てられ部屋に案内され、そこでメルと再会した。

 

「お姉ちゃん!」

「メル!」

 

 メルは怪我もなく、姉と再会出来た事に涙し、抱きしめる。

 

「恐かったよぉ……お姉ちゃぁん……!」

「ごめんね……守れなくて……。」

 

 最愛の妹を守れなかった自分の無力さを噛み締めて強く抱きしめる。

 今思えばこの頃からだったのかもしれない。ジャンヌがただ傍観者にしかなれない事を。

 

 それからすぐだった。ジャンヌの身体に異変が起きたは。高熱によって顔は赤く、呼び掛けても反応がなく、呼吸も浅くなっていた。

 

(熱い……身体が……焼けるような……)

「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」

 

 メルが大声で呼び掛けるもジャンヌに届いているか、外からでは分からない。異変に気付いた研究者達がジャンヌを医務室へ運び、延命しようと必死に処置が行われる。残されたメルはただ泣く事しか出来なかった。

 

「お姉ちゃぁん……。」

 

 そこに声を掛ける者がいた。

 

「大丈夫?」

 

 メルが振り返ると、そこにいたのはジャンヌと同じくらいの背丈の少女とその後ろにはメルと同じくらいの背丈の少女の姉妹がいた。

 

「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが死んじゃうよぉ……!」

 

 メルは再び泣き喚いてしまう。だが大好きな家族を失うかもしれない恐怖に押し潰されそうになる気持ちは、姉も痛い程分かる。姉の子はメルの手を握ると

 

「大丈夫。お姉ちゃんはきっと良くなる。だから一緒に待ちましょう?」

「本当に?お姉ちゃん良くなる?いなくなったりしない?」

「大切な妹を遺して逝くなんて、お姉ちゃんだってしたくないと思うわ。」

「でも……でも……。」

 

 泣き止まないメルにマリアはある歌を歌ってあげる。その歌はマリアの故郷に伝わるわらべ唄。その歌はメルの心が安らいでいき、いつの間にか泣き止んでいた。

 

「私はマリア、この子は妹のセレナ。あなたは?」

「メル……。お姉ちゃんは……ジャンヌ……。」

 

 これがメルとマリアの出会いだった。そして翌日、ジャンヌが意識を取り戻したという連絡を受け、医務室へ案内されたメル。そこにマリアとセレナもついて行った。

 メルがベッドで目を覚ましたジャンヌを覗き見る。

 

「メル……?」

「お姉ちゃん……!」

 

 姉が無事であると知った途端、メルは再び泣き出した。ジャンヌはメルの頭を撫でてやる。

 

「心配かけちゃったね……メル。二人は……?」

 

 ここでマリアとセレナの存在に気づくジャンヌ。メルが答える。

 

「お友達。マリアとセレナ。」

「そうか……。友達が出来たんだね……。」

「ずっと心配してたの。死んじゃうんじゃないかって……。」

「そっか……。メル、私はメルを置いて先に死んだりしないよ。」

 

 そういうとジャンヌはメルに微笑んだ。

 

「本当に?」

「勿論だよ。」

 

 その後、ジャンヌは順調に回復した後、戦闘訓練を受けさせられたが、メルの為なら何だってやると決めた。そして、メルを経由してマリアとセレナとも友達になり、特にマリアとは意気投合した。

 

 

 その頃、ナスターシャとその研究者はジャンヌの病態の原因を追求していた。

 

「何故あの子にだけ……。」

 

 ナスターシャがポツリと呟く。

 全員にLiNKERを投与され、一部の子供は副反応が見られたが、ジャンヌのように大きな副反応が見られたのは他にいない。LiNKERは元々劇薬ではあるが、このLiNKERは検査結果を元に調合された特別性のLiNKERである為に、ここまで酷い事にはならない。

 原因を探していくと、ある男が一説を唱える。

 

「恐らく、彼女の体質に問題があったようですね。」

 

 そう言って眼鏡をかけ直す男、ウェル。

 

「どういう事です?」

「彼女の検査結果を拝見しました。彼女の体質は非常に稀なものであり、それがLiNKERに含まれる成分を受け付けないのでしょう。彼女にとって、LiNKERは毒でしかありません。」

「つまり……副反応ではなく、拒絶反応……。」

 

 ナスターシャが答えるとウェルは小さく頷く。

 

「恐らく今後、如何様な調合を施しても彼女にLiNKERを打てば、最悪死ぬ事になります。」

「そうですか……。」

 

 そう言うとナスターシャは部屋から出ていく。その時のナスターシャはどこか憂いているようだった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 それから日が経ち、ジャンヌはLiNKER投与の免除が言い渡された。だがその分、戦闘訓練もより厳しいものになり、音を挙げてもおかしくなかったのだが、ジャンヌは全てこなした。

 メルもそんな姉を尊敬し、自分も頑張らなければと触発され、訓練を頑張っていたお陰で内気だった性格も潜み、社交性の高い子になっていた。

 それからマリアとも親友となった。セレナとメルもそれぞれと打ち解け合えるようになっていて、マリアのいる部屋に遊びに行くようになっていた。

 そんな折、マリアが二人の少女を紹介する。

 

「紹介するわ。月読調と……」

「暁切歌デース!」

 

 調は人見知りしているのかマリアを介して紹介してもらい、対象的に切歌は明るく挨拶する。

 

「よろしく二人とも。私は……」

「ジャンヌデスよね?戦闘訓練トップの!アタシ、 何度か見掛けてたデスよ!」

「そ、そっか。ありがとう。」

 

 快活に話す切歌だが、調は中々自分から話そうとしない。そこにメルが歩み寄る。

 

「私はメル。大丈夫だよ。お姉ちゃん、凄く優しい人なんだよ。」

「う、うん……。ありがとう……メル……。」

 

 少し笑みが溢れる。調は勇気を出してジャンヌに挨拶する。

 

「は、初めまして……私は月読調……。よ、よろしく……。」

「ええ。よろしくね調。」

 

 ジャンヌは優しく微笑んだ。

 これが調と切歌の出会いであり、特に調とは何でも話せる程に仲が良くなった。

 

「調ってば、あんなに仲良くなって……。私の時はそれなりに掛かったのに。」

「メルも最初はそうだったさ。けど、あの子は人とすぐに仲良くなれる、不思議な雰囲気を持ってる。セレナと同じようにね。」

「そうね。」

 

 切歌、調、セレナ、メルが楽しそうにしている姿を見ながらそういうマリアとジャンヌだった。

 

 ある日、転機が訪れた。セレナとメルが正規適合者候補として選ばれた。これは大変名誉な事であると、研究者からは盛大な拍手で讃えられた。

 だがジャンヌは複雑な気持ちだった。本来であれば自分がメルを守らなければならないが、ジャンヌはLiNKERを投与出来ないから適合者にはなれない。そして適合者となったメルが戦わなくちゃならなくなるという事に、妹を守れず、戦いに向かわせる事に気が引けていた。その本心をマリアにだけは打ち明けていた。

 

「やっぱり、メルの事が心配なの?」

「当たり前だ。メルは、戦いには向かない……穏やかな子なんだ。マリアだってそうだろう?セレナを戦わせるなんて……あの子だって本当は……。」

 

 マリアも下を向くが

 

「そうね……。けど、二人が選んだのなら……私達にそれを止める権利はないわ。だから……二人で守っていこう?」

 

 マリアの前向きな姿勢に、ジャンヌは眩しく感じた。だがジャンヌはメルを守る為に厳しい訓練に耐え抜き、突破してきた。見ているだけでなく、二人を守れるようにこれからも強くなっていく事を二人で約束した。

 




次回でジャンヌの過去話はおしまいになります。

ご感想お待ちしております。


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番外編5 ジャンヌの物語 中編

前回ジャンヌの物語を終わらせる予定でしたが、これまた長くなったので前中後編に分けることにしました。
もうしわけありません!



そして迎えた起動実験の日、メルは赤い結晶、ギアのペンダントの前に立たされる。後ろでその様子をジャンヌとウェルが立ち会っており、ウェルが開始の合図を出す。

 

「それではこれより、バイデントの起動を始めます。」

 

 メルは一度深呼吸をした後、起動詠唱を唄う。すると、身につけていた衣服が分解され、黒色のインナーギア、装甲を纏った姿へと変わった。

 起動は成功した。その事に研究者達は大いに歓喜し、ジャンヌは安堵した。

 

「おめでとう……メル。」

 

 ジャンヌは労いの言葉を掛けたが、メルの反応がない。

 

「メル?」

 

 メルの異変に気付いたジャンヌとウェル。よく見るとメルの額にから脂汗が滲み出ており、何処か怯えた様子だった。

 

「どうしたのメル?!メル!」

「え……?な、何でもないよ……。」

 

 何とか我に帰ったようだが明らかに様子が変だった。起動実験は終了し、研究者達は大成功と謳ったが、ジャンヌは不安が拭えきれずにいた。

 その日から、夜が訪れる度に呼吸が荒くなり、まるで何かに怯えているかのように精神的に不安定になっている。そして眠る時、メルは少しでも恐怖を和らげる為にジャンヌと同じベッドで寝るようになった。

 

「メル……大丈夫?」

 

 ジャンヌが優しく声を掛ける。

 

「怖いよ……姉さん……。」

 

 メルはジャンヌに抱きつく形で身体を丸めていた。この姿勢がメルの精神状態を表していた。

 

「大丈夫だよメル。きっと良くなる。」

 

 ジャンヌはメルを抱きしめ、その頭を撫でてやる。そして、ジャンヌはマリアから教えてもらったAppleを子守唄として歌ってあげた。この歌を唄うと、メルの心は安らぎ、眠りについた。

 

 その事はマリア達にも耳に入った。特に調はメルと仲が良いだけあって、一番心配していた。

 

「メル……大丈夫なの?」

「大丈夫……とは言い難いかな。バイデントを纏ってから……ここの所、眠るのが怖くなってる。」

「その事なんだけど……ジャンヌ……。」

 

 調はバイデントの良からぬ話をジャンヌに話した。

 

「呪われたギア……?」

「うん。そのギアに関わった人は……呪われるって。白衣を着た人が話しているのを聞いた。」

「そんな事が……あるのか?」

 

 にわかには信じがたい話だが、今のメルの精神状態を鑑みれば、その噂は本当なのではと考えてしまう。

 

「話してくれてありがとう調。でも噂は噂だ。そんな風に考えると、全部が良くない考えになってしまう。けど、その話は覚えておくよ。」

 

 ジャンヌは調の話を頑なに否定するのではなく、受け入れた上で鵜呑みにしないように覚えておく事にした。ジャンヌはそのまま部屋へ戻って行った、

 

「ジャンヌ……。」

 

 その背を見ていた調の不安がどんどん大きくなっていった。

 

 

 翌日、バイデントを用いた戦闘訓練が行われる事になった。当然ジャンヌも立ち会う。何事もない事を願い、別室でその様子を見守る。

 

「では始めてください。」

 

 研究者が開始の合図を出した事で、メルはバイデントを纏う。そして訓練室の周りが、実際の街を再現した仮想空間へと変わり、ホログラムのノイズを出現させる。実際のノイズと同じプログラムに従いメルに襲い掛かる。

 メルはアームドギアである二叉槍を出現させてノイズを倒していく。ここまでは問題ない。

 

(やっぱり、呪われたギアなんて迷信だったんだな……。)

 

 ノイズを全て蹴散らし、このまま何事もなく終われる。そう思っていた。

 

「お疲れ様でした。ギアを解除してください。」

 

 終了の合図を出して、メルにギアを解除するよう指示する。だがメルはギアを解除する様子はなく、そのまま立ったままだった。

 

「メル……?メル!」

 

 異変に気付いたジャンヌはガラス越しに声を掛ける。 研究者達もメルの異変に気付いた直後、突如警報が鳴り響いた。メルのバイタル、脳波に異常、さらに高かった適合率が急激に低下し始めた。立て続けに起こったトラブルの対応に追われる研究者達だが、ジャンヌはメルの呼び掛けを続けた。

 

「どうしたの……メル?!」

「ぁ…………ぁ…………」

 

 頭を抱え蹲るメル。

 

「メル?」

 

 突然メルは悲鳴を挙げながら、その身に余るフォニックゲインを、エネルギーとして周囲に撒き散らした。そのエネルギーは地に、人に触れた途端爆発し、研究者達を吹き飛ばしていく。

 ジャンヌは別室から抜け出し訓練室の扉を開ける。その間にも被害が拡大し、機材が爆発したことにより、訓練室は火の海となっていた。

 研究者達の数名は血だらけとなり、動かなくなっていた。

 

「よせメル!落ち着くんだ!」

 

 ジャンヌはメルに駆け寄ろうとするが、エネルギーが爆発した事による爆風の余波で吹き飛ばされる。ジャンヌはメルに歩み寄ろうと立ち上がり、ふらつくその足で歩く。

 

「メル!メル……っ!」

 

 メルの目を見た時、光がなく、まるで自我が失われ、有り余る力を周囲に厄災のように撒き散らして暴走する破壊神だった。

 

「け……て……。」

 

 微かに聞こえたメルが助けを求める声。姉として助けるべく、走り出す。

 

「メル!今助けてや……」

 

 だがメルは容赦なく二叉槍を振るい、ジャンヌの胸郭に直撃、鈍い音が聞こえだがそれでもジャンヌは立ち上がる。

 

「メル……。」

 

 痛みに耐え、歩き出そうとした時 

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl

 

「それは……」

 

 メルが絶唱を唄っている。

 

「駄目だメル……!よせ……!ぐっ……」

 

 肋骨が折れている事による痛覚が、ジャンヌの行動を抑制させている。だが止まるわけにはいかない。ジャンヌは痛みに耐えメルに歩み寄ろうとする、

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl…… 

 

 だがジャンヌの奮闘も虚しくメルは絶唱を唄い終わり、その膨大なエネルギーを解き放つ。

 そのエネルギーに正面から受けたジャンヌは吹き飛ばされ、壁に打ち付けられてしまう。意識が朦朧とする中、ジャンヌはメルに手を伸ばす。

 

「メ……ル……」

「ね……さ……た……け……」

 

 ジャンヌの意識は闇に落ち、伸ばした手も落ちていった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ジャンヌとメルが医務室に運ばれたと聞いたマリア、セレナ、切歌、調は急いで医務室へと向かい、駆けつけるが、扉の前には涙を流すナスターシャがいた。

 

「マム!ジャンヌとメルは?!」

 

 マリアの問いにナスターシャは答える。

 

「今しがた、入室の許可が降りました。ですが、いかなる結果であっても……それを受け入れる覚悟はお有りですか?」

 

 マリア達は覚悟を問われた。

 

「ええ。だから、ジャンヌとメルに会わせて。」

 

 マリアがそう言うと、続くようにセレナ、調、切歌は頷いた。それを肯定と判断したナスターシャは扉を開ける。

 そこには一台のベッドの上に一つは身体中に包帯を巻かれている少女がいた。

 4人は恐る恐る確認すると、包帯を巻かれていた少女の顔を見た。

 

「ジャンヌ……!」

「マリ……ア……?」

 

 ジャンヌはゆっくりとマリアのいる方を向いた。先程意識が戻ったようだが、身体の方はほとんど動かせず、手さえも握る事が出来ない。

 

「外傷は酷く、肋骨も折れていたそうです。」

 

 ナスターシャが付け加えるように説明した。

 

「そう……。そうだ……メル……メルは……?」

 

 ジャンヌは自分の事よりもメルの身を案じていた。あれからどうなったのか、メルは無事なのかを問いかける。

 少し沈黙が漂ったが、ナスターシャは意を決して打ち明けた。

 

「メルは……亡くなりました。」

 

 突然突きつけられた妹の訃報に、目を見開くジャンヌ。ジャンヌだけではない、マリア、セレナ、調、切歌も驚愕を隠せずにいた。

 

「嘘だ……嘘だよ……。」

 

 調が声を震わして言う。

 

「そうだ……。調の言う通り……間違いなんでしょう?マム……!」

 

 ジャンヌも信じられずにいる。

 

「では確認しますか?」

「え……?」

 

 そう言うと、ナスターシャはジャンヌが向いている反対の方を指す。そこには台の上に人一人入れる大きさの袋があった。

 

「まさか……。」

 

 マリアはそんなはずはないと思いながらも袋のチャックを開ける。そこには火傷と身体の一部が損傷し、目を見開いたままの遺体があった。ジャンヌもそちらの方を向く。

 

「ぇ……。そん……な……。メル………?」

 

 その遺体は紛れもなくメルだった。

 

「絶唱を放った後、倒れた彼女の上から瓦礫が降り注ぎ、そのまま潰されてしまったそうです。」

 

 ジャンヌの目から涙が溢れ出した。

 

「ぁ…………あぁ…………!」

 

 深い悲しみに落とされたのはジャンヌだけではない。友達の死はまだ幼かった少女達の心を大きく抉るには十分だった。調は大声で泣き崩れ、切歌も調を抱き寄せるが悲しみを止める事は出来なかった。

 

「嘘だよね……?起きてよ……メル……!」

 

 セレナはメルの死が受け入れられず、身体を揺するが、遺体となった今の彼女に反応など帰ってくるわけがなかった。

 

 メルが死んだ事を認識したセレナはマリアに抱きしめられ、その腕の中で泣いた。

 

 

 

 メルの葬儀が執り行われた後、ジャンヌはその深い悲しみから立ち直れずに時が過ぎていった。訓練には参加しており、成績はトップを維持し続けていたが、その言動と行動には気高さも誇らしさも、優しさもなく、ただ死に場所を求めるだけの亡霊のようになっていた。マリアの制止も一切聞かない程に。

 

「ジャンヌ、そろそろ休みなさい!じゃないと……」

「駄目だ……。やめるわけにはいかない……。私は……強くなりたい……。」

 

 切歌と調、セレナはやつれて行くジャンヌが見ていられず、いつしか一番の仲良しだったマリアとも衝突するようになっていた。

 

「そんなボロボロになってまで無茶をしても……メルはきっと……」

「お前達には分からない……。ギアを纏えるお前達には!」

 

 ジャンヌは遂に劣等感をマリア達にぶつけてしまい、距離を離れるようになってしまった。 

 ある日それを見かねたナスターシャに面談室へと連れて行かれた。

 

「ジャンヌ、いつまでそうやって後ろばかりを向くのですか?そんな事をしても、メルは帰ってきませんよ。」

 

 ナスターシャは厳しい言葉でジャンヌを叱責する。ナスターシャはどんな時でも、子供達を甘やかしはしない。それがここでの基本的な方針なのだ。

 そして、ようやくジャンヌの口が開いた。

 

「あの子の死を……このまま無駄にする事など、あなたにとって不本意のはず……」 

「分かってる……。でも……メルの死に……どうやって報いればいいのか……分からない……。なら教えてよ……ギアを纏えない私が……あの子の死に、どうやって報いればいい?!」

 

 ナスターシャの叱責を遮って、ジャンヌは自身が抱える劣等感を、それもLiNKERを使う事が出来ない故にギアを纏うことが出来ない、彼女にしか分からない苦しみと慟哭だった。それ故にLiNKERという希望があるマリアと衝突するようになってしまったのだ。

 

「そういう事なら、協力をしよう。」

 

 そう言って入ってきた、黒服の男達。

 

「何ですかあなた方は?」

 

 来客の予定など聞いていないナスターシャは、声を荒げるが、黒服の男は構わずジャンヌに話し掛ける。

 

「君はLiNKER使えない事に悩んでいるそうだな?」

「だから何だ?笑いに来たのか?!」

「とんでもない。むしろ、強くなりたいという君の思いに応えようと思ってね。」

 

 ジャンヌの警戒心を解く為に、甘い言葉で誘う。しかもまだジャンヌは幼く自制心が制御出来ない。故に力を渇望するジャンヌにとって、その誘惑は強烈だった。

 

「君に合ったLiNKERを提供する。そしてそのLiNKERでバイデントを支配するんだ。」

「バイデント……?」

 

 メルの命を奪う原因となった呪われたギア、バイデントをそれを支配する。その一言が、ジャンヌを動かした。

 

「待ちなさい!この子は……」

「お言葉ですがナスターシャ教授。これは政府からの命令です。Dr.ウェルにも通達しており、既に承知の上です。つまり、これは決定事項です。」

 

 政府からの命令となれば従わざるをえないが、ジャンヌは過去にLiNKERの拒絶反応によって生死の境を彷徨っている。あの時のように、助かる保証などどこにもない。ナスターシャは拒否しようとしたが……

 

「分かった。やろう。」

「ジャンヌ……!」

 

 ジャンヌは立ち上がると黒服達の方を見る。

 

「私に出来る事があるのなら……それがメルの死に報いるのであれば……私は喜んでやろう。」

「決まりだな。」

 

 ジャンヌは黒服達に連れて行かれ、白い孤児院の中にある研究所へと移された。

 その背を見ることしか出来なかったナスターシャは、己の無力さを噛みしめるしか出来なかった。だがナスターシャはジャンヌだけに目を向けるわけにはいかなかった。何故なら翌日、ネフィリムの起動実験が行われる事となる。それに向けて準備もしなければならなかった。

 万が一ネフィリムが暴走した時、それを抑えられるのがセレナしかいない。ナスターシャは一度ジャンヌを諦めるという非常な選択を選ぶ事しか出来ない自分を呪いながら、その背を向けるように去った。




次回、今度こそ完結させます。


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番外編6 ジャンヌの物語 後編

ジャンヌの過去話、これにて完結になります。


 研究所に移されてからすぐに実験が行われた。多くの研究者から見守られるジャンヌ。その中にはウェルと、日本から出向した櫻井了子がいた。

 まずはLiNKER投与の障害となるその体質を変えるべく、薬物療法が行われた。得体のしれない薬をジャンヌは嫌な顔をせずに飲み、実験台のベッドに寝かせられると、身体中の至る所に機材と接続するコードに繋げられる。その機材は細胞を活性化を向上させるための電気療法の機材、言ってしまえば電気ショックである。

 研究者がスイッチを入れるとジャンヌの全身に電気ショックを浴びせる。

 

「うああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ジャンヌは悲鳴を挙げるが、研究者達は誰一人ジャンヌを見ておらず、モニターに映る脳波、心電図、カルテの情報に目が行っている。

 

 数分後、電気ショックから解放されたジャンヌはLiNKERの入った注射を投与された。だがその途端、ジャンヌは吐血してしまい、痙攣を起こしてしまう。すぐに体内洗浄が行われ、一命を取り留めたが、しばらくは立つことすらままならなかった。最初の実験は失敗に終わった。

 

 二度目でも違う薬を投与された後、再び電気ショックを浴びせられた。しかも一回目よりもパワーを上げられた為、全身に襲う痛みも苦しみもその分増していた。だがそれでもジャンヌは弱音を吐かなかった。

 

(こんな痛み……メルが苦しんだの時と比べれば……!)

 

 ジャンヌは、メルの死に報いる為にバイデントを支配する。それが出来るのであれば何だってやる。もはや彼女にはそれしか残されていなかった。

 しかし、月日は半年流れてもその成果は実らず、未だに初期段階の状態から進んでいなかった。それをずっと繰り返していく内に、バイデントを支配する事にしか頭になかった。

 

 そして何度目なのか分らなくなる程に実験を重ねていった。再び薬物を投与され、電気ショックを浴びせられるジャンヌ。だが今回は黒服達も実験の様子を見ていた。そこに黒服の男が指示を出す。

 

「パワーをもっと上げろ。」

 

 それを聞いた研究者達はその命令に意見する。

 

「で、ですが……これ以上は危険です!」

「このままパワーを上げてしまえば、彼女の命は……」

 

 流石の研究者達も人殺しに加担するのは本意ではない。これでもギリギリの数値であり、もしこれ以上上げてしまえば、本当に死んでしまう。研究者達は訴えるが……

 

「ならこいつはそこまでだったというだけだ。他にも被験体は幾らでもいる。構わん、上げろ!」

 

 銃を突きつけられた研究者は、死への恐怖から逃れる為にパワーを上げた。

  

「あああああああああああぁぁぁぁぁ!!ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 甲高い悲鳴が響き渡り、ジャンヌの心臓の鼓動を映す心電図の波は平坦になり、危険を知らせるアラートが発せられた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ジャンヌと喧嘩してから2年の歳月が過ぎた。マリアはジャンヌと一度も会う事はなく、メルに続いてセレナまでもが亡くなってしまった。

 セレナは暴走したネフィリムを休眠状態にする為に絶唱を唄い、その暴走を止める事が出来た。しかし、セレナは降り注いだ瓦礫によって潰され、命を落とした。

 マリアはセレナを失った事で、ジャンヌの気持ちをようやく理解した。マリアはジャンヌともう一度会う為に部屋を訪れたが、既にジャンヌは部屋を移されており、今どこにいるか分からない状態だった。調と切歌もジャンヌの身を案じていた。

 

(ジャンヌ……一体何処へ……)

 

 俯向きながら歩いていると、ストレッチャーを動かす研究者の会話を耳にする。しかも、その慌てぶりようからただ事ではない様子だった。

 マリアが駆けつけると、ストレッチャーで運ばれている少女の姿を見て絶句した。

 

(まさか……今のって……。)

 

 見間違えるはずがない。それは一年前に仲違いした友、ジャンヌだったからだ。

 マリアは追いかけたが、処置室の扉の前でその行く手を阻まれた。

 

「そんな……何で……?!」

「まさか……こんな事になるとは……。」

 

 後ろを振り返ると、車椅子に乗っているナスターシャがいた。

 ナスターシャはセレナの一件で下半身不随となり、左目も失った事で眼帯を着けている。ただ車椅子は手動で動かす車輪タイプのものだった。

 

「マム……何か知ってるの?!」

「ええ。」

 

 一度目を閉じたナスターシャだが、説明する時は、マリアの方を見て話す。ジャンヌに起こった事を。

 

「そんな……ジャンヌはLiNKERを……」

「ええ、恐らく何度も拒絶反応があったことでしょう。そして今回、あってはならない最悪の事態を引き起こしてしまった……。」

 

 ナスターシャも研究所で行われていた実験の事実を知ったのはついさっきだった。しかし、ナスターシャはあの時、強引にでも止めるべきだったと後悔していた。

 

「こんな事になるのなら……初めから止めるべきでした……。ですが、今となっては……。」

「マム……。」

 

 悪いのはナスターシャではなく、ジャンヌの弱みにつけこんだ米国政府だと言っても、これでジャンヌが死んでしまったら何の慰めにもならない。今はジャンヌの無事を祈るしかない。

 数時間経過した後、処置中のランプが消えると扉が開いてストレッチャーを動かす研究員達が姿を見せた。

 

「どうでしたか?」

「ええ。何とか一命を取り留めました。」

 

 マリアは当然のことながら、ナスターシャも安堵した。ジャンヌはそのまま治療室へと運ばれ、そこで絶対安静となった。また今回の結果と事態を引き起こした黒服の男は独断で実験に関わった罪で逮捕となり、さらにバイデントのギアペンダントが行方不明になった事で、今回の計画は全面破棄される事となった。

 

 治療室へ運ばれたジャンヌだが今でも眠ったままだった。マリアは毎日訓練が終わった後、調と切歌を伴って何度も通い詰めている。一命を取り留めたとはいえ、いつ目覚めるか分からないというだけで、みんなを不安に駆り立てる。

 

「いつになったら……目を覚ますのかな……。」

「早く、起きてほしいデス……。」

 

 メルが亡くなってから、ジャンヌと疎遠になったとしても、彼女の事を大切に思っていた調と切歌。あれから闇に落ちていくジャンヌを見ていられなかった二人は思わず目を背けてしまった。だがジャンヌがこんな事になってから、その行動に後悔した二人は、罪滅ぼしとして毎日通っていた。

 マリアが二人の頭を撫でる。

 

「二人は先に戻ってて。私も少ししたら戻るから。」

「マリア……大丈夫?」

「無理は駄目デスよ?」

「ええ。分かってるわ。ほら、戻りなさい。」

 

 切歌と調を先に帰し、二人きりになった。

 

(駄目……調と切歌には見せられない……。私が不安になったら……あの子達もきっと……。)

 

 日に日に積もりゆく不安が、マリアの心を押し潰そうとしていた。ジャンヌの手を握っても、握り返してこない。何度呼び掛けても帰って来ない。メル、セレナに続いて、ジャンヌまで本当にいなくなるのではと考えてしまう。

 

「ジャンヌ……早く起きてよ……。」

 

 ジャンヌの右手を、マリアは両手で握って祈る。その時だった……

 

「っ……!」

 

 一瞬握り返してきた。そして自分ではない、発した呼吸音。

 

「マリ……ア……?」

 

 ジャンヌが目を覚ました。今まで抑えてきた涙が、溢れ落ちた。

 

「ジャンヌ……!」

 

 嗚咽混じりにマリアは泣いた。

 

 調と切歌もジャンヌが目を覚ましたと聞きつけ、治療室へ駆けつけた。

 

「良かった……目を覚まして……。」

「すっごい心配したデスよ!」

 

 あれから2年の間に起きた事をジャンヌに話した。セレナが亡くなったこと、マリアがガングニール、切歌がイガリマ、調がシュルシャガナのギアを纏えるようになった事も。

 そして、ジャンヌは自身の身に起こった事を全て、マリア達に話した。自身が抱いていた劣等感も、メルの死に報いる為に自分が起こした愚行を自分を嘲笑うように。

 

「馬鹿みたいだろう……?私は結局……何も出来ないただの出来損ないだ。笑いたければ笑え。今の私を見たら……メルは軽蔑するだろうな……」

「そんな事はない!」

 

 マリアが大声で遮った。

 

「ジャンヌは、出来損ないなんかじゃない!ギアの有無なんて関係ない!だってこんなに苦しんでまで手に入れようとしたんだ!それを笑う人なんていない!メルが軽蔑するものか!」 

「そうだよ。もしジャンヌを笑う人がいたら、私達が黙らせる。」

「だからジャンヌはもう一人で苦しまなくていいんデス!私達を頼ってほしいデス!」

 

 ジャンヌはハッとした。自分は大切なものを失ってまでバイデントを手に入れようとした事に気付き、あと少しで本当に失うところだったと知った。ジャンヌは下を向いて涙を流した。

 

「ごめん……みんな……ありがとう……!」

 

 シーツを握りしめジャンヌは懺悔するように泣いた。そしてジャンヌは生涯三人を守る事を誓った。

 

 それからというものジャンヌは順調に回復し、戦闘訓練に加わった。さらにマリア達を陰から支える為に、メカに関する勉強も始め、並々ならぬ努力で2年でエンジニアになれる程の知識を得た。その知識を活かして、戦闘シュミレーターの改良、セキュリティの強化、さらにナスターシャの電動車椅子も開発出来るようになり、完成させた。

 

「ありがとうございます、ジャンヌ。」

「いや、これくらいは平気だ。それに……私に出来るのはこれくらいしかない。」

「あなたは十分に、みんなの役立ってますよ。それは誇らしく思いなさい。」

 

 ナスターシャは優しく、ジャンヌに諭す。

 

「マム……っ……!」

 

 だが突然ジャンヌは心臓を押さえて苦しみだした。

 

「ジャンヌ?!ジャンヌ!」

 

 ジャンヌは再び処置室へと運ばれ、検査を受けた。それを聞いたマリア達はタラリアの靴の起動実験を終えた直後、慌てて検査室へと駆け付けるが、到着した時には既にジャンヌは元気そうにしていた。

 

「ジャンヌ!大丈夫なの?!」

「ああ。平気さ、少し疲労が祟っただけだ。」

 

 心配するマリア達だったが、過労と伝えたジャンヌ。しかし、ナスターシャだけは知っていた。ジャンヌの本当の病を。

 

 

 マリアが到着する数分前、ジャンヌは診断結果を宣告された。

 

「君の心臓の機能は10代にしては非常に弱くなっております。このままでは、3年以内には完全に止まり、亡くなってしまうでしょう。」

 

 ジャンヌは2年前の実験の失敗によって心臓の機能が低下していた。それが今になって今後の人生を奪う形となって発症してしまった。そして、それをマリア達には黙っていてほしいと頼まれた。

 

「何故このような事を?」

「いずれは話す。だがそれは今ではない。それに私の口で話さないと意味がない。どうか……頼む……。」

 

 ジャンヌは頭を下げて、ナスターシャに懇願した。その結果、マリア達には事実が伏せられたままあの日を迎えた。

 

 日本でルナアタックが起きた事で、月の落下の軌道線を割り出したNASAの観測結果が不正だと判断したナスターシャが、この事実を暴露する為に武力蜂起する事を決意。マリア、調、切歌、そしてドクターウェルが賛同した。

 そしてもう一人、ナスターシャの右腕として名乗りを上げた少女がいた。

 

 

「私も連れてってほしい。マリア達だけに、苦しい思いをさせたくない。」

「ですがあなたは既に心臓が弱っています。もしかしたら、あなたは死んでしまいますよ。」

「構わない。私はどの道死ぬ。最後に、自分の命の使い道くらい、決めさせてほしい。」

「分かりました……。あなたの力を……私達に貸してください。」

 

 そして、彼女はバイデントの装者となった風鳴瑠璃と刃を交える事となる。 

 

 

 

 

 ジャンヌ・ベルナール(享年21歳)

 

 F.I.Sに所属するレセプターチルドレン。

 マリアと同い年という事もあり、相談役を買っている。

 機械に強く、蜂起した際に用いられた機材や装備はジャンヌのお手製であり、エアキャリアのメンテナンスも熟していた。

 唯一シンフォギアを纏えないが、戦いには精通しており、マリアが起動した完全聖遺物タラリアを武器に瑠璃と戦う。

 特別性のLiNKERであっても、それが身体が受け付けない稀な体質である為、ギアを纏うことが出来ない。

 

 かつては妹のメルがいたが、バイデントの実験で命を落とし、自身も自暴自棄となる。

 そして精神的に不安定な状態で、バイデントを支配しようと実験を繰り返した結果、心臓病を患う。

 元々蜂起まで心臓がもたないと宣告されていたが、ジャンヌの執念というべきか結果的に余命宣告の1年以上生きた。

 しかしそれでも最後まで己が出来る事をなすべくナスターシャについて行く。そして瑠璃とバイデントの在り方を目の当たりにしたジャンヌは、バイデントが呪われたギアではない事を認めるが、その直後に暴走したウェルの粛清の魔の手から瑠璃達の身代わりとなって逃がした結果、瓦礫に押し潰されて亡くなった。

 

 

 




次回はもう少しコミカルな番外編を作りたいと思います。


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番外編7 フロンティア事変後

久々の瑠璃登場となります。なお、ここに登場しますアーネンエルベの事務長はオリジナルで、今後出番は多分名前だけになるかと思います。

なので解説は無し!


 米国政府に訴えられた瑠璃は一度アメリカに出向というより強制送還され、被告人として裁かれそうになったが、斯波田事務次官の協力と追求もあって、米国政府が隠してきたジャンヌに対する非人道的な実験、さらに元バイデント装者であるメルの事件の隠蔽が明らかとなり、さらに元はといえばフィーネがドイツからバイデントを流出させた事から米国政府は二国からの激しい追求を受け、さらにフロンティア事変での批難追求を避ける為にF.I.S.そのものを存在しないという立ち回りをしなければならなくなった為、その流れで訴えを取り下げ日本政府に和解を申し出て、これを成立した。

 これにより瑠璃は裁かれることはなかったが、ドイツ政府が日本政府に協力した見返りとして今度はドイツに出向させなければならなかった。

 ちなみに米国から出立する前日、つまり昨日は月の落下を防いでこの世を去ったナスターシャ教授の遺体回収の作戦が行われており、瑠璃は独房の中で作戦行動をモニターで見ており、無事成功した際は喜んだ。

 そして今、瑠璃はベルリンにある空港に到着した飛行機から降り、フロントに到着すると、いかにも要人が乗りそうな高級車が待機しており、運転手が瑠璃に駆け寄った。

 

「あなたがMs.風鳴ですね?」

「は、はい。そうですけど……あなたは?」

「私はドイツ公的研究機関アーネンエルベの使いの者です。Ms.風鳴をお出迎えせよと、局長から承っております。」

 

 罪人である自分がまるで客人のように接するその態度に驚きながらももてなしを丁重に受け、そのまま後部座席へと乗り、アーネンエルベの本部へと向かった。

 その施設は研究所というより博物館を彷彿とさせるような洋館だった。少し前に輪にやらせてもらったゲームにこんな感じの建物を見た事があった。ゾンビとか出てこないよなと一瞬考えはしたがそんな空想の生き物が出てくるわけがないと結論づけ、そのまま案内された。

 

 

「やあ、よくぞ参られたMs.風鳴。私はアーネンエルベの事務長を務めている、レオン・コードマンだ。」

 

 車から降り、正面玄関の扉が開くとスーツを着た初老の男性が笑って出迎えに来た。心なしか雰囲気が弦十郎に似ている。

 

「は、はい。風鳴瑠璃です。今回は助けていただいてどうもありがとうございました。」

 

 瑠璃は頭を下げて礼を言う。

 

「いえいえとんでもない。元はと言えばバイデントを横取りしたあの女狐と君を陥れようとした連中が悪い。それに他でもないMr.八紘の頼みでもあったからね。」

「八紘伯父様の……ですか?」

「ああ。Mr.八紘とは友人でね、今回我々に協力を要請したのも彼なんだ。」

 

 風鳴八紘。日本の安保を支える内閣情報官であり、弦十郎の兄にして翼の父親である。その特権を通して様々な情報機関や政府と太いパイプを持っている。

 瑠璃は八紘とは何回か会っており、最初は怖い雰囲気を持った印象だったが、それに反してとても優しかったのを覚えている。ただ翼とは親子であるにも関わらず、その関係は冷めきっている。

 

「彼にはよろしくと伝えておいてくれ。」

「はい、分かりました。」

「では、軽い世間話も済んだところで本題に入ろう。早速なのだが、君のバイデントの力を見せてほしい。」

「今からですか?」

 

 突然の申し出に困惑する瑠璃。

 

「ああ。あのギアは起動に成功しても、纏える者が現れなかった。だが君はそれを意のままに操る事ができる。私はその感動的瞬間に立ち会いたいのだ。」

 

 そう熱弁するレオンの気迫に押されたのもあるが、頼みとあらば断る理由もないので瑠璃はこれを了承、早速シュミレータールームへと案内され、その部屋の中心に立たされる。

 

『そう緊張しなさるな。リラックスリラックス。』

「は、はい!」

『では、始めたまえ。』

「はい!」

 

 Tearlight bident tron……

 

 瑠璃の着ていた衣服が分解され、バイデントのギアを纏う。フロンティア事変以降、再びリビルトされ、胸部のマーカーがさらに白くなり、前腕とアンダーアームと脚部の装甲には、瑠璃の命の鼓動を表すように藍色のラインマーカーが刻まれている。

 

『これがバイデントの……!』

 

 レオンは感銘を受けるが、本番はこれからと言わんばかりに平静となり、ホログラムのノイズを出現させる。

 

「よし……!」

 

 少しの間、ギアを纏っていなかったがその動きに無駄がなく、的確にノイズを葬る。突き、払い、蹴り、殴る、全ての動作にキレがある。

 それをモニタリングしていたジークは感動の涙を流す。

 

 シュミレーションを終えるとレオンとその研究員達から盛大な拍手を贈られた。だがこの状況を苦手とし、突然の出来事に困惑する瑠璃。

 

「あ、あの……」

「素晴らしい!実に見事だった!ブラボー!」

「いや……ちょ……あの……」

 

 しばらく鳴り止まない褒め殺しに瑠璃は逆に顔を赤くし、涙目になったとか。

 だがこうして無事に正式にアーネンエルベからバイデントの装者として認められた瑠璃。レオンには孫のように可愛がられるようになり、翌日の帰国の便に乗ろうとした際は涙ながらに引き止められたとか。

 

 そんなこんなで無事に日本に帰国した瑠璃。羽田空港に到着し、ゲートを潜ると

 

「瑠璃さーん!」

「瑠璃!」

「姉ちゃん!」

「おかえりなさい瑠璃さん!」

「おかえり瑠璃ー!」

 

 響、翼、クリス、未来、輪、そして弦十郎が待っていてくれていた。

 

「みんな!ただいま!」

 

 瑠璃は元の日常へと帰って行った。その数ヶ月後、翼はリディアンを卒業した後ロンドンへと旅立ち、瑠璃、クリス、輪の三人は三年生へ、響と未来は二年生へと進級した。

 そしてフロンティア事変の一件で拘束されたマリア、調、切歌も無罪となり、マリアは司法取引によってエージェントとなり、調と切歌は保護観察下でリディアンに入学する事になった。

 

 




次回、GX編 開幕


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GX編
束の間の平和


GX編開幕デェス!

シャトル救出任務については前回の番外編で軽く触れたのでカットさせていただきます、悪しからず。


 シャトル救出任務から数ヶ月、特異災害機動対策部二課は解体となり、代わりに国連所属の超常災害対策機動部タスクフォース S.O.N.G. として再編成され、新たなスタートを切った。と言っても人事は二課の時と変わっていないのでいつも通りではあるが。

 日常の方でも少し変わった事があったが、いつも通り平和を満喫している。というのも翼がリディアンを卒業しロンドンへ旅立った。そして入れ替わる形で調と切歌がリディアンに入学、それ以外の面々はみんな進級した。

 今の季節は炎天下を誇る夏であり、世間ではクールビズスタイルとなっている。リディアンも然り、夏服で登校している。

 そんな中、瑠璃とクリスが他愛もない談話で盛り上がりながら登校していると

 

「ク〜リスちゅわあぁ……ぶへぇっ!」

 

 どこぞの大泥棒の如く後ろから抱き着こうと飛び上がった響だったが、頭上からクリスのカバンが振り下ろされ、その後頭部に直撃する。その後ろで響と共に登校している未来が苦笑いする。

 

「ちょっと、クリス!そんな乱暴な!」

「この馬鹿はあたしが先輩だって認識しねえからな。それなりに躾とかねえと、あいつらに示しがつかねえんだよ。」

 

 瑠璃はクリスの反撃を咎めるが、クリスは響に自分だけ先輩と認知されていない事に不満があった。

 響は瑠璃と輪には敬語を使い、さん付けで呼ぶがクリスにのみ友達感覚で呼び捨て且つタメ口なのだ。さらに調と切歌という後輩が出来た今、規律や順序はしっかりしておかないと組織としても成り立たないのだ。

 クリスが響の後ろを指すと調と切歌が手を繋いで登校して来た。

 

「おはようございます。」

「ごきげんようデース!」

「おはよう。暑いのに相変わらずね。」

 

 この暑い中、切歌の変わらず元気よく張り切った挨拶に感心するが、響と瑠璃は調と切歌の手に注目する。

 

「いやぁ暑いのに相変わらずだねぇ~。」

「まるで恋愛小説みたいに……。」

 

 二人は手を繋いで登校してきたのだが、まさに恋人繋ぎである。

 

「いや〜それがデスね、調の手はちょっとひんやりするのでついつい繋ぎたくなるのデスよ。」

「そういう切ちゃんの二の腕もひんやりしていて癖になる。」

 

 切歌は照れながら説明すると、調は付け足すように切歌の二の腕をプニッと摘む。それに未来が食いつくように反応した。

 

「それ、本当なの?!」

 

 確認の為に響の二の腕をプニッと摘む未来。

 

「いやあぁぁ〜!やめて止めてやめて止めてあああぁぁ〜!!」

 

 あまりのくすぐったさに響は大声が出るが、その光景を目の当たりにした姉妹は顔を真っ赤にして、瑠璃は手で自分の顔を覆うように視界を塞ぎ、クリスは響の背中をバッグで叩いた。

 

「そういう事は家でやれ……。」

「家なら良いの……?!」

 

 クリスのセリフに思わずツッコむ瑠璃であった。

 

 

 瑠璃とクリスは教室に着き、自分の席に鞄を置く。

 

「あれ?輪はどうしたんだろう?」

 

 登校中の道でも学校に着いてからも、まだ輪と会っていない事に気付いた瑠璃。いつもなら、輪が早く学校に到着するのだが、教室にも姿がない。一体どうしたのかと心配した瑠璃はスマホで電話を掛ける。

 

(あれ?出ないな……。どうしたんだろう……?)

 

 何回掛けても繋がらないのでメールを送信した。結局ホームルームが始まってしまい、一限目の授業の途中でようやく姿を現した。

 

「ごめんなさい!遅くなりました!」

 

 勢いよく扉を開けた輪だが、かなり息が上がっている事から全力で走ってここまで来たのだろう。

 

「何があったかは存じ上げませんが、次からは気を付けてくださいね?」

「はい、すみませんでした。」

 

 一礼してお詫びすると瑠璃の隣の席に座る。それ以降は特に大した事もなく、一限目の授業が終わり、10分休憩になると遅刻した理由が気になった瑠璃とクリスは輪に問いかける

 

「どうしたの?輪が遅刻なんて随分珍しいね。」

「あぁ……それがさ、寝坊しちゃったんだよね。」

「寝坊だぁ?」

「私、電話したの気付かなかった?」

「スマホをリビングに忘れちゃったんだよ。だから鳴ってる事に気付かなかったの。とにかくそれだけ!はい、この話はおしまい!」

 

 輪が強引に話を打ち切らせに来る辺り、あまり触れてほしくないのだなと悟った瑠璃は、話題を変えた。

 

「そう言えば今日クリスの家でお泊り会するんだけど、輪も誘われてるよね?」

「あ、それについてなんだけど。私パス。」

 

 断った事に、瑠璃とクリスは目を見開いて驚いた。

 

「パスぅ?!」

「え?!何で?!だって今日はお姉ちゃんの……」

「チャリティライブでしょう?しかもマリアさんのコラボ付きで。それがさ……小夜姉何か体調悪いみたいでさ。」

「え?!大丈夫なの?!」

 

 食いつくように驚く瑠璃。

 

「風邪とかじゃねえのか?そんなのよくある話だろ?」

 

 クリスは小夜について悪魔であること以外知らないが、小夜が体調を崩す事なんて事は滅多にない。

 以前に大阪で勤めていた病院で集団食中毒が発生した事があり、看護師達もそれを貰ってしまったらしく、殆どの人が体調を崩した中、たった一人小夜だけが何ともなかったなど、上げればキリがないがとにかくちょっとやそっとでは風邪を引かない強靭的な肉体の持ち主なのだ。

 

「そういう訳で私はパス。ごめんね!」

「そういう事なら仕方ねえけど、あんま無理すんなよ?」

「そうだよ。何かあったら言ってね?」

「うん、ありがとう。」

(ああ〜二人の優しさが心に染みるぅ〜。)

 

 雪音姉妹の労りに呑気に癒やされる輪だった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そして迎えた夜、瑠璃、響、未来、創世、弓美、詩織、切歌、調がクリスの家に集まりリビングで待機していた。テーブルには様々なお菓子が用意されており、全員入浴も済ませ、パジャマに着替えてあとはライブが始まるのを待つだけなのだが……

 

「何か人数増えてねえか?!聞いてねえぞ!」

 

 クリスは輪が欠席となったので、瑠璃だけかと思っていたのだが、瑠璃が大勢連れて来た事にツッコむ。

 

「ごめんねクリス。みんなも同じ目的みたいで……」

「すみません、こんな時間に大人数で押しかけてしまいました。」

 

 詩織はクリスに一言お詫びを入れる。

 

「ロンドンとの時差は約8時間!」

「チャリティロックフェスをみんなで楽しむには、こうするしかないわけでして。」 

 

 弓美と創世はそう言うが、クリスの家のテレビは大画面になっていて、その分迫力も段違いになるのだ。

 クリスは心の中で呟く。

 

(ったく……姉ちゃんと二人きりで見られると思ったのに……。)

 

 そこに響がそばにやってくる。

 

「ま、頼れる先輩ってことで!それに、やっと自分の夢を追いかけられるようになった翼さんのステージだよ?」

「お姉ちゃん……やっと世界に羽撃けるって知った時、凄く嬉しそうだったもんね。」

「そしてもう一人……」

 

 未来がそう言うと調と切歌が嬉しそうに続く。

 

「マリア……!」 

「歌姫のコラボユニット、復活デス!」 

「ね?今日はみんなで楽しもう?」

 

 瑠璃にそう言われるとクリスは反対出来ない。ここは素直にみんなで楽しもうとテレビの前に座る。

 

 そして会場の照明が一度落ちると、ステージ中央に立っている翼とマリアにスポットライトが照らされた。二人が歌う曲は《星天ギャラクシィクロス》

 

 歌い出すと背景のパネルが展開され、ロンドンの夕陽が射し込し、水上の床の水面を鮮やかに照らす。

 音楽に合わせて、水がアーチの様に噴射し、噴いた宙には虹を生み出す。Bメロに入ると翼とマリアがスケートのように滑走、プリマのように踊りだす。

 そしてサビに入ると同時に夕日は落ち、夜となる。少しの間に漂う静寂を、二人が歌い出してそれを打ち破ると天井に映し出されたプロジェクターから星屑が降り注ぐ。水面がそれを映し出し、一層の輝きを放つ。二人が滑走した所を頭上から見ると、それは∞を表していた。

 サビが終えるその時、頭上の青と桃色の銀河が一つに混ざり合って超新星爆発を起こすと、クロス状の光が輝いた。

 現地の観客は勿論、テレビで見ていた響達も歓声をあげた。

 

「凄い……。」

 

 瑠璃は完全に魅了されていた。

 こうして、平和を満喫する装者達。しかし、それが砂の城のように儚く崩れ去ろうとしているのをまだ知らない。

 

 




GXでは瑠璃が大事にする歌と人の絆の強さが試されます。

瑠璃の楽曲(GX編)
Twilight Bonds

絆の形、強さ、そして大切なものが何かを探しながら前へ進む思いを歌にしたもの。


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新たな火種

GX編ではオリジナルストーリーを何話か挟む形で展開していく予定です。


 全ての曲を歌い終え、舞台から降りたマリアは黒服の男二人に出迎えられる。

 

「任務、ご苦労様です。」

「アイドルの監視ほどではないわ。」

 

 マリアは皮肉っぽく言葉を吐く。

 

「監視ではなく警護です。世界を守った英雄を狙う輩も、少なくはないので。」

 

 その薄っぺらい言葉を構わず無視し、マリアは楽屋へと戻る。

 マリアはフロンティア事変収束後の裁判でマリアは無罪となったが、米国政府の陰謀によってマリアは米国政府のエージェントであり、世界を救った救世主という偶像として立ち振る舞うことを強要されている。切歌と調を守る為とはいえ、再び偽りの英雄を演じさせられているこの状況に、皮肉すら感じている。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 月夜が浮かぶ夜更け、建物の頂上に佇む黄色を基色としたディーラーを思わせる女が地を見下ろしている。その先を見ると、ローブを着た少女が何か箱のような形をしたものを抱えて走っている。息を切らしながらも必死に走っている辺り、逃亡しているのだろう。

 女が目をつけてからコインを数枚指で弾くと、そのコインは道路を運転中のタンクローリーのタンクを貫く。さらに後輪のタイヤを破壊し、運転中のタンクローリーは制御が効かなくなり横転する。運転手は命の危険を感じその場から逃げ出した瞬間、破壊されたタンクから漏れ出たガソリンに火花が接触、それが引火しエンジンに火の手が及ぶとタンクローリーは爆発を起こした。

 

 火災が発生した事を響、クリス、瑠璃に通信で伝える弦十郎。

 

『第七区域に大規模な火災発生。消防活動が困難なため、応援要請だ。』

「了解です。響ちゃんとクリスと共に、直ちに向かいます。」

 

 瑠璃が応答して通信を切る。名前が出なかった切歌と調も立ち上がる。

 

「待って、私達も……!」

「手伝うデス!」

 

 勇ましさは十分だが、クリスがそれを止める。

 

「LiNKERの無いお前達は留守番だ!」

 

 現状ウェル以外にLiNKERを作れる者がおらず、手持ちにそれがない以上ギアのバックファイアによって苦しむ事になる。その為、S.O.N.G.所属の装者であっても調と切歌の出動は認められなかった。

 そんな現状に立たされている二人は不満だっだが、瑠璃が歩み寄り

 

「いつか……本当に私達が危険な目に遭ったら……その時は、力を貸して。ね?」

 

 二人の手を優しく包み込み、微笑む。下手に押さえつけるより、敢えて優しさを前に出す事で不満を解消させた。

 

「分かりました……。」

「了解デス。」

「ここに残るみんなの事、お願いね。」

 

 そう言うと瑠璃はクリスと響と共に出動する。

 

 同じ頃、ロンドンでも非常事態が起きていた。マリアの前に現れた謎の女、緑色のフラメンコドレスを着ており、そのダンスのような立ち振る舞いで右手には剣を持っている。

 

「司法取引と情報操作によって仕立て上げられたフロンティア事変の汚れた英雄、マリア・カデンツァヴナ・イヴ……。纏うべきシンフォギアを持たぬお前に用はない。」

 

 

 その女はマリアを監視していた二人の黒服を亡き者にし、今度はマリアに斬り掛かりに来る。

 だが戦闘慣れしているマリアにとってこの程度のものを避ける事は造作も無く、さらに背後を取ってその女の首を目掛けて蹴りを入れてやる。これで黙らせることが出来る……はずだった。

 

「なっ……!」

 

 その女はダメージを受けている様子は一切なく逆にマリア宙へ押し上げ、剣先を落下するマリアの方へ向けていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「踊れ、踊らせるがままに……。」

 

 見下ろしながらそう言うディーラー風の女はコインを弾き、車のガソリンタンクを貫通させる。爆発によって逃亡中の少女は爆風で転倒するも、すぐに受け身を取って、走り続ける。

 

 火災現場に向かう為、上空を飛んでいるヘリに搭乗している響、クリス、瑠璃の三人。現在通信で弦十郎が現状説明をしている。

 

 

『付近一帯の避難はほぼ完了。だが、このマンションに多数の生体反応を確認している。』 

「まさか人が?!」

『防火壁の向こうに閉じ込められているようだ。さらに気になるのは、被害状況は依然、四時の方向に拡大していることだ。』

「じゃあこれは、意図的に起きたって事……?」

「どっかで赤猫が暴れていやがるのか?」

『響君と瑠璃は救助活動に、クリス君は被害状況の確認に当たってもらう。』

「「了解!」」

 

 火災現場の真上まで近づくと、ヘリの出入り口のドアを開ける。

 

「任せたぜ、二人とも!」

「うん。」

「任された!」

 

 そうクリスに返した二人はヘリから飛び降りる。

 

 Balwisyall nescell gungnir tron……

 

 響がギアのペンダントを掲げて詠唱を唄うと、ガングニールのギアを纏った。瑠璃もそれに続いてバイデントのギアを纏う。

 響は拳で、瑠璃は連結させた黒白槍で火災現場のマンションの屋根を穿ち、そこから内部へと侵入する。既に火の手が上がっていて、煙で視界が利きにくいがバイデントのバイザーに内蔵されている補助システムを用いれば、視界不良の問題は解決される。

 

「友里さん、響ちゃんの誘導をお願いします!」

『任せて!瑠璃ちゃんは?』

「大丈夫です!視えてますから!」

 

 バイザーには建物内にある3つの生体反応がキャッチされていた。1つは響であり、残りの2つが救助対象ということになる。その2つはそれぞれ正反対の方に別れている。

 

「じゃあ響ちゃん。」

「はい、そっちはお願いします!」

 

 響と瑠璃は二手に別れて避難に遅れた住民の救助に向かう。バイザーが捉えた反応の方へ走ると、それが下方に動く事から下の階にいると判断した瑠璃は階段を使おうとするも、そこは既に瓦礫で塞がれ、通れなくなっていた。バイデントの威力をもってすれば破壊できなくもないが、横幅が狭い故に、柄が長い槍では壁に引っ掛かり振り回せない。どうしたものかと悩んだが……

 

「そうだ……!」

 

 連結させた槍の穂先をを床に突き立て、それを振り下ろすと、そこに穴を空けて下の階へ通れるようにした。穴から入って下の階へ落ち、さらにもう一階床を穿ち抜く。目的の階まで降りると再び走り出す。

 

「いた……!」

 

 そこには倒れ伏している女性がいた。

 

「無事ですか?!私の声が分かりますか?!」

 

 瑠璃は女性を抱え、少し揺さぶる。すると女性は咳き込んだ。まだ生きているが、このままでは一酸化炭素中毒で死んでしまう。瑠璃はマンションの壁を破壊すると女性を抱えて飛び降りる。そして、連結させた槍を箒のように跨ると、遠隔操作を用いて飛行する。ゆっくり着地すると、ギアを解除して救急車の方へ向かう。

 

「お願いします。」

 

 救急救命士に女性を預けると、ストレッチャーで運びそのまま救急車へと運ばれた。

 響の方も救護完了したようだ。

 

「これで一安心ですね!」

「うん。」

 

 そこに弦十郎から通信が入る。

 

『瑠璃、そのまま被害状況の確認も出来るか?クリス君のいる所とは反対の場所だ。』

「了解です。すぐに行きます。」

 

 通信を切った瑠璃は響の方に向き直す。

 

「響ちゃん、ここはお願いね。」

「はい!」

 

 瑠璃は再び走り出し、その背を見届ける響。

 

「瑠璃さん、また一段とカッコよくなってるなぁ。」

 

 そう呟くと、響はあるものを見つけた。それはとんがり帽子を被り、魔法使いを思わせるようなローブをきた小さな少女だった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 宙に打ち付けられ、剣を突きつけられたマリア。このままでは串刺しになってしまう所だったが、天羽々斬を纏った翼が、女の剣を弾いた事でマリアは串刺しにならずに済んだ。

 

「翼?!」

 

 翼はマリアを守る様に、女の前に対峙する。

 

「友の危難を前にして、鞘走らずいられようか!」

 

 翼が現れた事で女は笑みを浮かべる。

 

「待ち焦がれていましたわ。」 

「貴様は何者だ?!」

 

 そう言うと女はスカートの裾を掴んでフラメンコのポーズを取る。

 

「オートスコアラー。」

「オートスコアラー……?」

 

 そんな名称は聞いたことがなかった。だが誰であろうと友に危害を加え、刃を向けている以上、倒すべき敵である事に変わりはない。

 

「あなたの歌を聞きに来ましたのよ。」

 

 そう言うと女は剣先を翼に向けて、素早く距離を詰めて突きつける。翼は正面から剣を受け止め押し返すと、脚部のバインダーから刀をもう一本出して、柄の部分を連結させて双刀へと姿を変える。それを脚部のブースターを点火させながら双刀に紅蓮の炎を纏わせ、高速回転させる。

 

「風鳴る刃、輪を結び、火翼を以て斬り荒ぶ。月よ、煌めけ!」

 

 高速回転させていくと紅蓮の炎は蒼炎へと姿を変えて振り下ろし、女を勢いよく吹き飛ばした。

 

【風輪火斬・月煌】 

 

 吹き飛ばされた女は崩れ落ちた荷物の下敷きとなった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同じ頃、少女は燃え盛るマンションの炎を目にした事で忌まわしき記憶が蘇った。それは最愛の父が、助けたはずの村人達に悪魔呼ばわりされ、その上磔にされ火刑に処されたあの日を。

 泣き叫んだ少女に託された、『世界を知る』という亡き父の命題。それだけが彼女に残されたたった一つのもの。

 

「消えてしまえばいい思い出……。」

「そんなところにいたら危ないよ!」

 

 下から響が呼び掛けていた。響は善意で声を掛けてくれているのだが、キャロルにはそれが不快だった。

 

「パパとママとははぐれちゃったのかな?そこは危ないから、お姉ちゃんが行くまで待っ……」

「黙れ!」

 

 少女は円を描くように緑色の魔法陣を展開させると、その中心から竜巻を発生させて響に放つ。響は間一髪のところで避けるが、竜巻の攻撃を受けた地面は抉られており、突然それ程の攻撃をしてきた事に戸惑う。

 

『敵だ!敵の襲撃だ!そっちはどうなってる?!』

「敵?!敵って……」

 

 通信からクリスが敵襲を知らせる。だが響はその敵の内に、今見上げている少女も入っているのかと戸惑いを隠せずにいる。

 

 威力の高い攻撃で敵を吹き飛ばした翼にマリアは叱責する。

 

「やりすぎだ!人を相手に……」

「やりすぎなものか!手合わせして分かった……こいつはどうしようもなく……」

 

 翼は確信していた。敵は人間ではなく……

 

「化物だ!」

 

 山積みとなった荷物を蹴散らし立ち上がるフラメンコの女。まるで痛みを感じてないと言わんばかりの余裕で構えている。

 

「聞いてたよりずっとしょぼい歌ね。確かにこんなのじゃ、やられてあげるわけにはいきませんわ。」

 

 

 響と対峙する少女は複数の金色の魔法陣を展開させる。

 

「キャロル・マールス・ディーンハイムの錬金術が、世界を壊し、万象黙示録を完成させる。」

「世界を壊す?」

「オレが奇跡を殺すと言っている!」 

 

 そう宣言したキャロルという少女は複数の魔法陣から放たれたエネルギー波が一つとなって響に襲い掛かる。

 




どっかのタイミングで技に関する解説もしていこう……


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自動人形と新たな雑音

今回、瑠璃の出番、ほんの僅か!以上!


 家主であるクリスが出動してしまった事でお泊り会は不完全燃焼という形でお開きとなってしまい、それぞれの家に帰っている。

 調と切歌の家路の方向は、未来達とは違うので今は二人きりになっている。

 

「考えてみれば、当たり前の事。」

「ああ見えて、底抜けにお人好し揃いデスからね。」

 

 フロンティア事変の裁判で無罪となったあの日の後、響達がドーナツを持って面会に来てくれた。

 

「フロンティア事件の後、拘束された私達の身柄を引き取ってくれたのは、敵として戦ってきたはずの人たちデス。」

「それが保護観察なのかもしれないけれど……学校にも通わせてくれて。」

 

 入学初日、初めて通う学校に戸惑っていた所をクリスに背中を押され、瑠璃に手を差し伸べられ、その手を取ると自分達を引っ張ってくれた。そして響と未来は自分達が来るのを待っていてくれていたかのように笑顔で迎え入れてくれた。

 そんな優しい恩人達の役に立ちたいのだがLiNKERがない以上、それは叶わない。クリス達が出動する前に、瑠璃が自分達に言ってくれた言葉が蘇る。それは自分達を守る為にと言ってくれたのだろう。

 切歌はギアのペンダントを握りしめる。

 

「力は、間違いなくここにあるんデスけどね……。」

「でも、それだけじゃ何も変えられなかったのが、昨日までの私達だよ、切ちゃん。」

 

 力はあるのにそれを活かせないこの状況にもどかしさを感じている。結論が見えない迷いに、心が沈んでいた時だった。見上げたビルのモニターに火災のニュースが映っていたのだが、目に映っていた同時にヘリが爆発した。

 

「何か、別の事件が起きているのかも……!」

 

 こうしてはいられないと二人は行動に出る。

 

 

 クリスが被害状況の確認の為にヘリを降り、それが飛び立った瞬間、ディーラー風の女が弾いたコインによって撃墜された。それを皮切りにクリスと女の銃撃戦が始まった。

 ボウガンを乱射するも女の人外的な動作を目の当たりにしたクリスは、人ではないと判断した途端、ガトリングへと可変させて、弾幕の量を倍増させる。

 しかし、女もマシンガンのようにコインを連射し、弾丸を全て弾いた。

 ならばと展開した腰部のアーマーから小型ミサイルを全弾発射させる。

 

【MEGA DEATH PARTY】

 

「へっ、どんなもんよ。」

 

 全弾命中させた……はずだった。

 

「何……だと?!」

 

 まさかのノーダメージ。女は余裕の立ち振る舞いを見せた。さらにこれだけでは終わらなかった。

 

「危ない!」

 

 どこからともなく声が聞こえると、頭上から船が降ってきた。先程の精密な射撃とは異なり、出鱈目な攻撃に驚きながらも避けた。

 

「私に地味は似合わない……だけどこれは少し派手すぎる……。」

 

 女の背後には風貌は女に似ているが、ビルの高さに勝るとも劣らない巨体で、その両手には船を掴んでいた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同じ頃、キャロルの姿を捉えた動画を盗撮していた命知らずの青年がいた。

 

「こういう映像ってどうやってテレビ局に売ればいいんだっけぇ?」

 

 どうやらテレビ局に情報を売って細やかな小遣い稼ぎが目的だったようだが、そんな邪な考えを持った者の末路は大抵碌なものではない。

 

「断りもなく撮るなんて、躾の程度が窺えちゃうわね。」

 

 青年は突然現れた青を基色としたメイドを思わせるドレス姿をした女が現れた事で動揺する青年を余所に、その頬を手に触れて、顔を寄せると強引に口づけを交わした。するとその青年の髪は白くなり、まるで年老いた風貌へと変わってしまい、そのまま倒れてしまう。その様を嘲笑うように見下していると、一人の少女が近づいてきた。

 

「あらその格好、あなたか。今回も情報提供ありがとうねぇ〜。」

 

 まるでバレリーナのような立ち振る舞いに、わざとらしく笑顔で出迎える。少女はリディアンの夏服を着ている。口を開く事はせず、女のすぐ下に倒れ伏している青年を見て嫌悪感を抱く。

 

「嫌だなぁそんな顔しなくても〜。もうすぐあなたの望み通りになるんだからぁ。こんなチンケな人間の一人や二人の犠牲なんて、ちっぽけなもんでしょ〜う?」

 

 笑顔で独善的なセリフを吐く。人ではない故でもあるのだろうが、そのセリフがいかに性根が腐っているのかが分かる。

 

「ま、今後とも頼りにしてるからよろしくねぇ〜。あぁそれから、もうその格好で現れなくても良いわよ〜。じゃあガリィちゃんはこの辺で〜。」

 

 そういうとガリィと名乗った女はキャロルの所へと移動していった。少女は青年のスマホを手に取ると、先程撮った動画を削除すると地面に叩き割った。

 

 蘇るあの日の記憶。同級生に人殺しと罵られ、暴力を振るわれ、まるで中世の魔女狩りのような虐めを受けていた中学三年生生活。教師からも無視され、それでも耐え抜いて『人殺し』『税金ドロボー』など書かれた貼り紙が貼られ、壁にはスプレーで悪戯された家に帰ったら、血溜まりに倒れていた両親と妹の亡骸があった。

 人権なんてない仕打ちを受け、誰も助けてくれない、味方なんていない、この世の全てが敵だった。もうあんな日には戻りたくない。

 

「世界なんて……無くなっちゃえばいい……。」

 

 少女はそう呟くと何処かへと去って行った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 頭上から船が降ってきたという予想外の攻撃を何とか避け、草むらで打開策を練っているクリス。

 

「ハチャメチャしやがる……!」

 

 出鱈目な手段に悪態をつくクリスに背後から声をかけられる。

 

「大丈夫ですか……?」

「あぁ……ってええぇっ?!」

 

 振り返ると簡素な黒いローブで身体は隠されているが、パンツ一枚という破廉恥な格好に赤面する。

 

「あなたは……」

 

 クリスは慌てて顔を隠す。

 

「わ、私は、快傑☆うたずきん!国連とも、日本政府とも全然関係なく、日夜無償で世直しを……」

「イチイバルのシンフォギア装者、雪音クリスさんですよね?」

 

 カバーストーリーとして噂されていた流行りの漫画のキャラクターを名乗ってとりあえずその場しのぎの言い訳を少女は遮る。

 

「その声、さっきアタシを助けた……」

 

 先程危機を知らせてくれた少女の声だった。その少女はフードを取って素顔を晒す。

 

「ボクの名前はエルフナイン。キャロルの錬金術から世界を守るため、皆さんを探していました。」

「錬金術……だと……?!」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 被害状況を確認に行く為に再びギアを纏って、槍に跨って飛行していた瑠璃だったが、クリスが敵襲を受けたと聞き、急行する瑠璃。不安になりながらも何とか平常心を保っている。でなければ今頃こうやって飛行出来ていない。

 槍の遠隔操作は精密な操作が要求され、この飛行も遠隔操作を訓練した末に応用出来るようになったからこそ行える芸当なのだ。フロンティア事変後でも飛行操作をしながら様々な二重課題を行いながら訓練し続けた。

 瑠璃はクリスに通信を掛けようとした時、友里からの通信で響がキャロルと名乗る錬金術師に倒されたという知らせを受けた。

 

『あの馬鹿がやられた?!』 

『それだけじゃないわ、翼さんのいるロンドンでも襲撃を受けてる。』

「お姉ちゃんも……?!」 

 

 キャロルに倒された響だったが、幸い怪我も少なく医療班によって回収されたとのこと。

 翼はマリアに連れて行かれる形でライブ会場から離れているとのこと。翼が狙いであれば一般人の多い会場から遠く離れた方が被害も少なくなる。

 

『翼さん達も撤退しつつ、体勢を立て直してるみたいなんだけど。』

『こっちにも252がいるんだ!ランデブーの指定を……なっ?!』

「どうしたのクリス?!」

『そんな……!』

 

 ブリッジのモニターに信じられないものが捉えていた。翼とクリスの周囲に赤い陣が敷かれると、そこからネフィリムの爆発によって消滅したはずのノイズが出現した。それも大群をなしていた。

 

「ソロモンの杖も、バビロニアの宝物庫も、一兆度の熱量に蒸発したのではなかったのか?!」

 

 だがこうして翼とクリスの前に姿を現した。全て消滅しきれなかったのかと考えてしまうが、現れた以上排除する他ない。

 

 クリスはガトリングで襲い掛かるノイズを文字通り蜂の巣にする。しかし大群に包囲され、エルフナインを守りながら戦っている状態なので、迂闊に動く事が出来ない。次第に包囲が狭まっていき、一体のノイズがクリスに攻撃を仕掛けようとする。

 

「どんだけ来ようが今更ノイズ!負けるかよ!」

 

 ノイズ如きに遅れは取らない。プロテクターでその攻撃を防いでカウンターを決める……はずだった。

 

「何だと?!」

 

 ノイズの手を思わせる白い尖端がプロテクターに触れた途端、その守りがいとも簡単に崩されてしまった。

 ロンドンでも戦っている翼にも同じ事が起きていた。剣先にノイズの攻撃が触れた途端に、刃が塵と消えた。

 

「剣が……!」

 

 そして守りが崩れた所をノイズの攻撃が、ギアのマイクコンバーターに直撃、ヒビが入った。二人のギアが次第に分解されていった。

 

「ノイズだと、括った高がそうさせる……。」

 

 このノイズを召喚したディーラーの女がジャズダンスのポーズを取って言う。

 ロンドンでもフラメンコの女が翼に対してこのノイズを召喚していた。

 

「敗北で済まされるなんて、思わないことね。」

 

 ブリッジにいる人員は全員混乱していた。予想しえなかった事態に皆が動揺する。

 

「どういうことだ?!」

「二人のギアが分解されています!」

「まさか……ノイズじゃ……ない?!」

 

 響を倒したキャロルは玉座とも言える場所に座っていた。

 

「アルカ・ノイズ……。」

 

 それがこのノイズの名前であった。

 

「何するものぞ……シンフォギアアアアアアァァァーーーーーー!!」

 

 キャロルの叫びが響き渡り、部屋の中央には台座が5つ、その内の2つにガリィともう一体、ツインロールの赤い髪の曲芸師のようなポーズで止まっていた。




リディアンの制服を着た情報提供者……果たして何者なのか?!


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後悔

オリジナルオートスコアラーの名前と設定はある程度決めてるから後は出すだけです。
果たして受け入れられるだろうか


 急いでクリスがいる場所まで急行するが、その途中でバイザーが捉えていたイチイバルの反応が消失した。最初は何が起きたのか戸惑ったが、弦十郎からの通信でクリスのギアが分解された事を知った

 

「ギアが解除された?!」

『ああ。しかもイチイバルのプロテクターを無力化した上でな。良いか、奴らの攻撃を相殺しようと思うな。アームドギアを失うぞ!』

「了解!」

 

 瑠璃はバイザーの道案内でクリスのいる所まで飛行する。まもなくクリスがいる場所まで辿り着けると思っていた矢先、突如下からコインが飛来し、瑠璃のすぐ横を通った。

 

「のわっ!」

 

 身体を左に反らすことで回避するが、咄嗟に避けた事で操作が乱れてしまい、バランスを崩してしまう。辛うじて落下は避けられたが、今度は瑠璃のギアのマイクコンバーターを狙うかのようにコインが放たれる。瑠璃は何とか避けるが、これでは思うように近づけない。

 

「何とか敵の位置を割り出せば……!」

 

 バイザーの戦闘補助システムでアルカ・ノイズを除いた敵の位置とクリスの位置を割り出し、敵の 姿形を捉える。すると瑠璃は腰部のブースターを点火させて、そのまま突っ込む。

 

「派手に特攻……いや違う……!」

 

 なんと瑠璃は空中で槍の連結を解除させて、黒槍をオーバーヘッドキックで投擲したのだ。勢い良く蹴りこまれた黒槍はそのまま女の方へと向かい、女はコインを弾いて応戦するが、そのパワーは相殺しきれない。だが軌道が僅かに逸れた事で女には当たらず、代わりにアルカ・ノイズがその餌食となった。

 瑠璃はそのまま落下しながら、白槍の穂先に集めたエネルギーの波動をアルカ・ノイズに撃ち込む。

 

【Shooting Comet】

 

 被弾したアルカ・ノイズは赤い塵となって消え、その地点に着地した瑠璃。黒槍を遠隔操作で手元に移動させると、クリスの所へ駆け寄る。

 

「クリス!クリス、しっかり!」

   

 身体を揺さぶるが、クリスはギアが分解されて一糸纏わぬ姿で気を失っていた。

 

「バイデントの装者……雪音ルリさん……。」

 

 エルフナインが小さく呟く。その呟きは瑠璃に聞こえていたが、今の瑠璃にはそれに構う余裕がない。アルカ・ノイズに囲まれた今、何とかしてこの包囲網を突破しなければならないが、攻撃を受け止めようとすればアームドギアが分解されてしまう為、今まで通りの立ち回りでは自分も同じ運命を辿る事になる。

 

「今のは地味に焦った……。だが次は……」

「させないデス!」

 

 女は次の標的を瑠璃に変えようとした時、上から声が聞こえ、その方を向くと切歌が布をマントのように脱ぎ取った。

 

 Zeios igalima raizen tron……

 

 イガリマのギアを纏った切歌は、大鎌の刃を3枚に展開させて、それを投擲する。

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 その刃はアルカ・ノイズを刈り取るが、適合係数の低い状態でギアを纏った事で、切歌の全身に激痛が走る。

 

「切歌ちゃん……何でここに……?!いや、それよりも……!」

 

 ここに切歌がギアを纏って現れた事に一瞬驚愕した瑠璃だが、それよりもクリスとエルフナインの周囲に跋扈するアルカ・ノイズを、槍で突いて塵にしていく。だがアルカ・ノイズの攻撃を的確に避ける為の集中力と大群による数の暴力が、瑠璃の体力を少しずつ削っていく。

 さらに背後からもクリスとエルフナインを襲うアルカ・ノイズが迫って来た。虚を突かれたエルフナインが振り返ると、無数の小型鋸によって、そのアルカ・ノイズは切り刻まれた。

 

【α式・百輪廻】

 

「女神……ザババ……。 」

 

 助けが来た事で緊張の糸が切れたエルフナインはそのまま気を失った所を調が回収。さらに、切歌の方も先程取った布でクリスの身体を包んで抱える。

 

 調は鋸を車輪のように走行して、道中遮ろうとするアルカ・ノイズを蹴散らすが、調もまたギアのバックファイアによる激痛を伴っている。

 

(やっぱり、私達の適合係数では、ギアをうまく扱えない……!)

「殿は私が!二人はそのまま撤退して!」

「「了解(デス)……!」」

 

 調と切歌はそのまま戦線を離脱、それを確認した瑠璃は槍を連結させてから、高速回転させると竜巻のエネルギーを発生させる。

 

【Harping Tornado】

 

 竜巻に巻き込まれたアルカ・ノイズはそのエネルギーによって切り刻まれるように分解される。頃合いと判断した瑠璃は、連結させた槍に跨り、低空飛行でそのまま撤退する。

 

「マスター指示を。」

「追跡の必要はない。レイア、帰投を命ずる。ファラも十分だ。」

「了解。」

 

 レイアと呼ばれたディーラーの女とロンドンで翼と交戦したフラメンコの女、ファラは液体が入ったアンプル、テレポートジェムを地面に投げて割るとそのまま転移するように姿を消した。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 戦いが終わりを告げたように朝日が登り、海面がそれを一層と輝かせる。それぞれ抱えながら湾岸沿いの道を走る切歌と調。そこに殿の務めを果たして撤退した瑠璃が二人の前で降り立つ形で合流する。バイザーを解除して、二人に駆け寄る。

 

「二人とも、大丈夫?!LiNKERがないのに、そんな状態になってまで……」

「LiNKERが無くたって、あんな奴に負けるもんかデス!」 

 

 切歌は悔しさと怒りのあまり、思わず瑠璃に当たってしまった事に気付いくが、既に手遅れだった。

 

「ごめん……。」

 

 瑠璃は申し訳なく俯き、調がそんな切歌を落ち着かせようと声を掛ける。

 

「切ちゃん……。」 

「分かってるデス……。」

 

 切歌の方も、瑠璃が心配してくれているのは分かっていたのに、焦りと悔しさで強い言い方で、つい瑠璃を傷つけてしまった事に申し訳なく思っている。

 

「私達、どこまで行けばいいのかな……。」

「行けるとこまで……デス。」

「でもそれじゃ、あの頃と変わらないよ?」

 

 瑠璃は二人の悩みを少しでも解決してあげたいが、二人の痛みは二人にしか分からない。こその悩みを共感する事が出来ない瑠璃は口出しする事は出来ない。

 

「マムやジャンヌ、マリアのやりたい事じゃない。アタシ達が、アタシ達のやるべきことを見つけられなかったから、あんな風になってしまったデス。」 

「目的もなく、行ける所まで行った所に、望んだゴールがあるなんて保障なんてない……。我武者羅なだけでは……ダメなんだ……。」

 

 弦十郎だったら、ジャンヌがいたら、何て言ってあげられたのか。だが自分は弦十郎でもジャンヌでもないし、特にジャンヌには未来を託された以上、二人を支えてあげられるのは自分達しかいない。瑠璃は意を決して話す。

 

「無責任かもしれないけど、結果なんて……誰にも分からないよ。調ちゃんの言う通り、どんなに努力したって……望んだ結果が待っているわけじゃない。だけど、少しでも自分が望んだ結末に辿り着けるように、行動する事は出来るよ。」

「瑠璃先輩……。」 

「私が出来る事は……話を聞いてあげるくらいしか出来ないけど、それでも二人が後悔のない選択が出来るように手伝えたらって思う……。」

 

 今自分が出来ることは、精々これくらいしかない。だがそれでも二人が少しでも前に進められるならと、瑠璃は話してあげた。

 そこに気を失っていたクリスが目を覚ます。

 

「クリス!」

「クリス先輩……!」

「大丈夫デスか?!」

 

 クリスもまた、怒りと悔しさを露わにした。

 

「大丈夫なものかよ……!」

(守らなきゃいけない後輩に、ずっと姉ちゃんに守られて、大丈夫なわけないだろ……!これじゃあ9年前から……何も変わってねえじゃねえか……!)

 

 全員が悔しさに苛まれる結果に終わったこの戦い。しかし、まだ戦いは始まったばかりだ。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ロンドンでもファラに勝ち逃げされた結果に終わった。翼のギアも分解され、一糸纏わぬ姿だったが、マリアの衣装の一部を借りて、隠している状態だった。

 

「完全敗北……いえ、状況はもっと悪いかもしれません。ギアの解除に伴って、身に着けていた衣服が元に戻っていないのは、コンバーターの損壊による機能不全であると見て間違いないでしょう。」

 

 翼のギアペンダントが損傷した状態で元の形に戻っていた。

 

「まさか、翼のシンフォギアは……。」

「絶刀・天羽々斬が手折られたということだ……。」

 

 S.O.N.G.の艦内では完全に意気消沈していた。天羽々斬とイチイバルが損壊してしまったことでまともに戦えるのが響と瑠璃の二人だけになってしまった。櫻井理論のデータは残っていても、それで直す腕を持った者が存在しない以上、実質直すことが出来ない。

 

「響君の回収はどうなっている?」

『もう平気です。ごめんなさい……。私がキャロルちゃんときちんと話が出来ていれば……。』

「話を……だと?」 

 

 響の行動に思わず面を食らった弦十郎だった。

 

 一方ロンドンでは黒塗りの車がマリアを囲うように配備され、そこから降りた黒服達が銃口を向けていた。

 

「状況報告は聞いている。だがマリア・カデンツァヴナ・イヴ、君の行動制限は解除されていない。」

 

 目的は多くの規定を超えてしまったマリアを捕らえる為のものだ。だがここまでの事が起こった以上、ただ偶像でいる事に耐えられるわけがない。マリアは翼の通信機を借りる。

 

「風鳴司令。S.O.N.G.への転属を希望します。」 

「マリア……」

「ギアを持たない私ですが、この状況に、偶像のままではいられません。」

 

 そう言うと、マリアは月を見上げた。




蹴って投擲はクー・フーリンが実際にやってるので、瑠璃にもやっていただきました。
特に深い意味はない!


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危機の上乗せ

日常パートがどんだけ尊いか思い知らされる私。


 任務がない時の装者達はそれぞれの日常に戻る事になるのだが、その日常の中で昨夜の戦いの結果がチラついてしまう。

 切歌と調は大事を取って検査入院となり、響も大事はないがどこか上の空で、瑠璃とクリスも引きずってしまっていた。

 食堂で瑠璃、クリス、輪が同じ席で昼食を取っているのだが、せっかくの平和な昼食時がお通夜のような空気になっている事に疑問を抱いた輪が口を開く。

 

「何この状況?この後お葬式でもあるの?」

「ないよ。」

「真面目か!そこ真面目に返さなくていいから。」

「とりあえず黙って食っててくれ。」

「姉妹揃って暗い暗い!私はこの空気に負かされてCryCry!あーもう!何なの二人して?!」

 

 この空気に耐えられなくなった輪が立ち上がって親父ギャグを交えて叫ぶが二人とも真顔のままだった。姉妹揃って俯いてお弁当、菓子パンを食べている姿を写真に収めた所でこちらまで暗い空気になるのがオチなので撮る気にすらならない。

 輪は再び席につくとテーブルに両肘ついて、指を組む。

 

「話してみてよ。二人まとめて聞くから、少しは気が楽になると思うよ?」

 

 まるで何処かのグラサンを掛けた司令を彷彿とさせる格好だが、それは置いといてクリスが立ち上がった。

 

「いや……気持ちはありがたいけど、遠慮しとく。」

 

 そう言うと席を離れてしまう。

 

「ありゃりゃ……行っちゃった。ねえ、瑠璃の方は?」

「ううん。私というよりは……調ちゃんと切歌ちゃんの事でね。」

「二人の事?あれ?そう言えば暁さんと月読さんは?」

「あの二人は今日はお休み。ちょっと入院中で……。」

「それちょっとなんて話じゃなくない……?」

 

 大事を取っての検査入院なのだが、装者ではない輪からすればただ事ではない。

 

「まあでも、二人を心配するのは良いけどさ、少しは自分の事も考えなよ。」

「え?」

「あんたはお人好しすぎるんだから、少しくらい警戒心っていうのを持った方が良いと思うよ。」

 

 瑠璃の両肩をポンと叩く輪。輪はこの2年半、瑠璃を見て来たからそれ故に瑠璃の強みも弱みも分かっている。そこにつけ込まれないように親友の好で忠告した。

 

「ありがとう輪……心配してくれて。」  

 

 瑠璃もそのまま席を離れてしまった事で、一人取り残された輪。瑠璃の背を見ていた輪が独り言を呟く。 

 

「困ったなぁ……。姉妹揃ってあれじゃあ……この先どうなるか分かんないや。ま、今は静観するしかないか。」

 

 そう言って腕を伸ばした輪は席から立ち上がって食堂を後にする。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 学校が終わって、空港で翼とマリアの帰りを出迎えた後、S.O.N.G.の艦内に装者が全員集まったが明るい雰囲気にはなれない。事態は深刻であるからだ。

 モニターには破損したギアペンダントが映し出された。

 

「これは……?」

「新型ノイズに破壊された、天羽々斬とイチイバルです。」

 

 破損していないバイデントのギアペンダントを取り出して見比べる瑠璃。その差は明らかだった。

 

「コアとなる聖遺物の欠片は無事なのですが……。」 

「エネルギーをプロテクターとして固着させる機能が、損なわれている状態です。」 

「セレナのギアと同じ……。」

 

 そう呟いたマリアはフロンティア事変で半壊したアガート・ラームのギアペンダントを出す。クリスは腰に手を当てて

 

「もちろん直るんだよな?」

 

 簡単に言ってくれるが、そもそも櫻井理論の提唱者である了子は既にこの世の者ではなく、さらにその腕を継ぐ者すら存在しない為、事実上直すことが出来ない状態だ。

 

「現状、動けるのは響君と瑠璃のみ……。」

「私と響ちゃんだけ……。」

 

 そう呟く瑠璃だが、調と切歌が反論する。

 

「そんなことないデスよ!」

「私達だって……」

「駄目だ!」

 

 弦十郎が叱責する。

 

「どうしてデスか?!」

「LiNKERで適合値の不足値を補わないシンフォギアの運用が、どれほど体の負荷になっているのか……。」

「君達のに合わせて調整したLiNKERが無い以上、無理を強いることは出来ないよ……。」

 

 昨夜の戦闘ではLiNKER無しでどれほどの負荷が身体を蝕むか、二人はよく分かっているのだが、それでも役に立ちたいという思いがそれを認められずにいる。

 

「何処までも私達は、役に立たないお子様なのね……。」

「メディカルチェックの結果が思った以上に良くないのは知っているデスよ……。どれでも……!」

 

 目の前の現実に打ちのめされ悔しさと不甲斐なさを感じていた。

 

「守られてばかりが嫌なのは、私も同じだよ。だけど二人を見て。」

 

 翼とクリスは戦えない悔しさはあるのだろうが、焦っている様子は無かった。

 

「二人は今ジタバタしても仕方がないって分かってる。戦えないなりに今出来ることを考えて、戦える私達に今を託してる。だから今だけは……私達に託してほしい。」 

 

 瑠璃の語りかけに翼とクリスも続く。 

「こんなことで仲間を失うのは、二度とごめんだからな。」

「その気持ちだけで十分だ。」

 

 そう言うと二人は瑠璃と響を見据える。

 

「瑠璃、立花。私達の代わりに、戦線は任せたぞ。」

「頼んだからな。」

「うん。」

「……はい。」

 

 瑠璃は言い切るが、響は何処か煮えきらない感じだった。それをマリアは見逃さなかった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 キャロルの居城、チフォージュ・シャトー。その広間の中央にある台座でガリィは未だ起動していないオートスコアラーの起動を試みている。

 

「いきま〜す。」

 

 ガリィとミカの唇が重なると、ミカの身体が禍々しいオーラを纏う。これはオートスコアラーのエネルギーの源である思い出を移しているのである。これによってオートスコアラーは起動し、活動する事が出来る。特にガリィは思い出の分配という独特の機能が備わっていて、ミカにはそれがないのでガリィを介して思い出の蓄えている。

 すると、ミカがぎこちない動きで起動したが、ヘナヘナと座り込んでしまう。

 

「最大戦力となるミカを動かすだけの思い出を集めるのは、存外時間がかかったようだな。」

「嫌ですよぉ〜これでも頑張ったんですよぉ?あの子のお陰でよりスムーズに進んだとはいえ〜なるべく目立たずに〜事を進めるのは大変だったんですからぁ~。」

 

 ガリィの言うあの子とは情報提供者である少女の事を指している。その者の情報によって、人目のつかない夜道で、ならず者とも言える集団の思い出を確実に、早くに搾取出来たのだが、ミカを動かす為には膨大な思い出を必要とした為、予定より掛かってしまったのだ。

 

「まあ問題なかろう……。」

 

 ガリィのぶりっ娘のようなセリフと性根が腐っている点を除けば忠実ではある為、この際目を瞑る。

 

「マスター。」

 

 中央の台座から、テレポートジェムを通して現れた白を基色としたオートスコアラーが現れた。他のオートスコアラーとは違い、西洋の鎧を彷彿とさせる衣装であり、右手にはハルバードを手にしている。

 

「ジークか。」

「はっ。エルフナインは奴らに保護されたようです。」

「それは把握している。あいつから何か聞き出せたか?」

「いえ、特に目ぼしいものはありません。強いて申せば、思い出の搾取にうってつけの場所があるとの事ですが……」

 

 ミカの現状をチラッと見るジークだが、再びキャロルの方に向き直る。

 

「ミカのその頭と同様に足りない思い出の補充も済ませられる好機かと。」

 

 遠回しにミカを貶しつつ報告するジーク。

 

「ご苦労だった。」

 

 ジークとガリィに命令を下す。

 

「まあいい。奴には引き続き、情報提供を続けさせろ。ガリィ。」

「ハイハイ。ガリィのお仕事ですよね〜。」 

「ついでにもう一仕事、こなしてくるといい。」

 

 ガリィは台座からテレポートジェムで転移した。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 所変わってS.O.N.G.艦内。保護されたエルフナインからキャロルに関する情報を得る為に装者全員と弦十郎が集まっていた。

 

「僕はキャロルに命じられるまま、巨大装置の建造に携わっていました。ある時、アクセスしたデータベースよりこの装置が世界をバラバラに解剖するものだと知ってしまい、目論見を阻止するために逃げ出してきたのです。」

「世界をバラバラに……?!」

「それは穏やかじゃないな。」

 

 瑠璃とクリスがキャロルの目的を知り、呟く。

 

 

「それを可能とするのが錬金術です。ノイズのレシピを元に作られたアルカ・ノイズを見れば分かるように、シンフォギアを始めとする万物を分解する力は既にあり、その力を世界規模に拡大するのが建造途中の巨大装置……チフォージュ・シャトーになります。」 

「装置の建造に携わっていたという事は、君もまた、錬金術師なのか?」

 

 翼の問いにエルフナインは答える。

 

「はい。ですが、キャロルのように全ての知識や能力を統括しているのではなく、限定した目的のために造られたに過ぎません……。」 

「作られた……?」

 

 響が疑問を抱く。

 

「装置の建造に必要な、最低限の錬金知識をインストールされただけなのです。」

 

 エルフナインから立て続けに説明されているが、人間にはあり得ない事が次から次へと口から出る。マリアもエルフナインに聞く。

 

「インストールと言ったわね?」

「必要な情報を、知識として脳に転送・複写することです。残念ながら、僕にインストールされた知識に計画の詳細はありません……。」

 

 期待に応えられない事に俯くが、エルフナインはすぐにみんなの方に向き直る。

 

「ですが……世界解剖の装置、チフォージュ・シャトーが完成間近だということは分かります!お願いです!力を貸してください!その為に僕は、ドヴェルグ=ダインの遺産を持ってここまで来たのです!」

 

 そう言うと箱の蓋を開けると、中身を取り出す。何かの破片のようなもので、ルーン文字が刻まれている。

 

「アルカ・ノイズに……錬金術師キャロルの力に対抗しうる聖遺物。魔剣・ダインスレイフの欠片です!」

 

 エルフナインの話を一通り聞き終え、ブリッジへと向かおうとした時、エルフナインはある事を思い出した。

 

「そう言えば、みなさんが着ているそれは……リディアン音楽高等学院のものですよね?」

「そうだけど……興味あるの?」

 

 響が的はずれな事を聞く。

 

「いえ……その……。チフォージュ・シャトーを脱走する直前、その制服を着ている方がキャロルと話しているのを見掛けました。」

 

 その情報に全員が唖然とした。

 

「何を話していた?!」

 

 弦十郎が思わず詰め寄る。

 

「あの……。全て聞いていたわけではないのですが……オートスコアラーの起動に必要な思い出搾取に適した場所、皆さんのその日の行動パターンや予定、ルートなどを話していました。」

 

 ということはキャロルに装者全員の行動パターンが筒抜けという事になる。

 

「それって……つまり……。」

「スパイがいるって事デスか?!」

 

 包み隠さず言ってしまえば切歌の言う通りである。マリアがエルフナインに問う。

 

「顔は見たの?」

「いえ……後ろ姿しか見てませんし…。かと言って髪だけで犯人と決めつけるわけにも……。」

 

 エルフナインの言う通り、髪の色ならいくらでも変えられる為、特定するのは難しい。

 

「分かった。スパイの正体はこちらであぶり出すとしよう。」

 

 そう言うと装者と弦十郎は一度ブリッジへ戻った。新たなる敵ある錬金術師とオートスコアラー、ギアを分解してしまうアルカ・ノイズ、さらにスパイの存在など問題は山積みだ。

 




スパイは一体誰なのか?
スパイの正体は分かっていても言わないでいただけるとありがたいです。


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隠しきれない思い

今回は閑話という体で始まります。


 閑話1

 

 ブリッジのモニターにはエルフナインの検査結果が映し出されていた。全員がそこに注目しているのだが、オペレーター陣は戸惑っていた。

 何故なら性別、血液型など人間にはあるはずの情報が殆ど無いからだ。

 友里曰く

 

「彼女……エルフナインちゃんに性別はなく、本人曰く、自分はただのホムンクルスであり、決して怪しくはないと……。」

 

 それを聞いた装者全員はこう思った。

「「「「「「「怪しすぎる(デース)……。」」」」」」」

 

 

 閑話2

 

 翼がロンドンで遭遇したアルカ・ノイズの絵を提示した。

 

「これが……ロンドンでお姉ちゃんが戦ったアルカ・ノイズ?」

「我ながら上手く描けたと思う。どうだ瑠璃、雪音。」

 

 翼は自信満々なのだが、子供が描いたような侍であり、瑠璃が記憶しているアルカ・ノイズの特徴、姿形とはあまりにもかけ離れている。

 

「アバンギャルドがすぎるだろ?!現代美術の方面でも世界進出するつもりかぁ?!」

「うん……。ノーコメントで……。」

 

 評価はそれとして、雪音姉妹は揃って呆れた。ただその翼作 武者ノイズはちょっと可愛いので瑠璃のスマホで写真を撮ったという。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 放課後、その画像を輪に見せた所大爆笑した。

 

「プッ……!ハハハハハハ!あぁー!おかしいおかしい!こんなっ……こんな個性が爆発したノイズが……クククク……!」

「もう、笑い過ぎだよ輪。それに声が大きいよ。」

 

 瑠璃は注意するが、当の本人は笑いのツボに入ったようで、笑いが止まらなくなっていた。

 

「にしても翼さん絵心無さすぎでしょ?!これ……バライティー番組とかで出したら……お茶の間の人達爆笑する……ヒヒヒ……!」

 

 ちなみに翼は日本でバライティー番組に出た所、そのポンコツ具合がウケたようで、ロンドンでもバライティーの出演依頼が殺到したという。それ以降、翼にとってバライティー番組はある意味天敵となりつつある。

 

「あー笑った笑った。こんなに笑ったのいつ以来だろ。」

 

 今も若干笑っている。これではキリがないので瑠璃は話題を変える。

 

「そう言えば、小夜さんはもう大丈夫なの?」

「あ、うん。あれからもうすっかり元気になっちゃって。復帰したよ。多分夜勤疲れで疲労が祟ったんじゃないかな?小夜姉も人間だったってわけよ。」

 

 最後の一言を本人が聞いたらツッコまずにはいられないだろうと考えながら帰り道を歩く瑠璃。すると二人が通ろうとした道の前に、アルカ・ノイズが大量に出現した。 

 

「何なのこいつら?!」

「アルカ・ノイズ……!何でここに……?!」

 

 瑠璃はギアのペンダントを握りしめる。

 

Tearlight bident tron……

 

 瑠璃はすぐさまギアの詠唱を唄い、バイデントのギアを纏う。そこに弦十郎から通信が入る。

 

『瑠璃、響君の方にもアルカ・ノイズが出現した!現状はそこにいるアルカ・ノイズをお前一人で対処しなければならない。行けるか?』

「任せてください。輪、下がってて!」

「う、うん!」

 

 輪は危険が及ばぬよう下がり、瑠璃は走り出した。

 

『気を付けろ!奴らの発光する部分こそが解剖器官だ!』

「了解!」

 

 アルカ・ノイズは命令通り、瑠璃に攻撃を仕掛ける。白く発光している解剖器官がギアコンバーターを狙うが、瑠璃はそれを避けつつアルカ・ノイズの身体を黒槍で刺突する。後ろからの攻撃もしゃがんで回転斬りで対処、さらに黒槍と白槍の穂先にエネルギーを集め、それをアルカ・ノイズのいる虚空に放つとそこからエネルギー波を放った。

 

【Shooting Comet:Twin Burst】

 

 エネルギー波に貫かれたノイズは赤い塵となって消え、その後ろにいたノイズも纏めて塵と消えた。

 

「信じらんない……。」

 

 後ろで潜んでいた輪が思わず呟く。

 バイザーの戦闘補助システムに瑠璃の動体視力が相まって的確に攻撃を避けつつ反撃を繰り出す為、瑠璃は殆ど防ぐ事をせずにアルカ・ノイズを殲滅させた。

 

「よし、何とかなったかな……。」

 

 一安心出来ると思いきや弦十郎から通信が入った。

 

『瑠璃!すぐに響君の所へ向かってくれ!』

「響ちゃんに何か?!」

『いや、響君の代わりにマリア君がガングニールを纏って戦っている!』

 

 マリアもLiNKERによって適合係数を高めていた。それを無しでギアを纏うとなったら身体に掛かるバックファイアも尋常ではないだろう。

 

「すぐに向かいます!」

 

 そう言うと瑠璃は響の所へ走り出し、後ろで身を潜めていた輪もその後を追う。

 だが輪が潜めていた場所の後ろにジークが見ていた。

 

「バイデント……。人間如きの下らん噂話で呪われたギアと名付けられた悲しきギア……か。」

『ジーク。』

 

 キャロルの念話に反応するジーク。

 

「何でしょうマスター?」 

『まだ様子見を決めているのか?破壊を先延ばしにしすぎると、計画に支障をきたす。』

「これもまた、勝利の為。もう少し煽ってやれば、奴の絆の力とやらも……いずれは容易く壊れるでしょう。」

 

 ジークは確実な勝利を得るまで目立つ動きはしない。自らの身を隠していたのもその為であり、エルフナインにすら自分の存在は知り得ない。

 

『完璧主義も良いが、早い所済ませてしまえ。』

「はっ……。」

 

 そう言うとジークは姿を消した。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 瑠璃は急いでマリアの救援に向かったが、瑠璃と輪が到着した時には既に終わっていた。マリアの両目からは血が流れ、蹲っていた。

 

「ちょっと、これ大丈夫なの?!」

「マリアさん!立てますか?!」

 

 バックファイアによる激痛でまともに立つことすらままならないマリアに、瑠璃は駆け寄って肩を貸す。

 

 装者でもない後ろ4人はともかく、響が戦えないのには訳があった。帰り道にガリィがアルカ・ノイズを召喚して襲い掛かってきたのだ。対抗しようと響がギアのペンダントを握るが、詠唱が浮かび上がらず戦えなかった。

 詩織が機転を利かせて一度は包囲から脱出出来たが、あっさりと追いつかれてしまい、到着したマリアが代わりにガングニールを纏って戦っていたという。

 アルカ・ノイズは全滅させたが、ガリィを倒すまでには至らなかった。ガリィの攻撃がギアのコンバーターに届く寸前にギアが強制解除された事で、ガングニールの破壊は免れ、ガリィはそのまま撤退したという。

 

「ごめんなさい……もっと早く到着出来ていれば……。」

「君はしっかり務めを果たした……。それだけで十分よ……。」

 

 マリアは凛とした表情で言うが、マリアの痛々しい姿を見ると心苦しくなる。

 マリアは瑠璃に支えられ響達の方に歩み寄る。ガングニールのギアペンダントを返そうとそれを手に出す。

 

「君のガングニール……」

「私のガングニールです!」 

 

 響はあろう事かペンダントを奪う形で取った。

 

「これは!誰かを助けるために使う力!私がもらった、私のガングニールなんです!」 

「ちょっとあんた!戦ってもない癖にそんな言い草……」

「良いの。」

 

 響の叫びに輪が憤慨するが、マリアによって制止される。

 

 昨日の翼の武者ノイズの展覧に戻る。響のあるセリフが切っ掛けだった。

 

「戦わずに分かり合うことは……出来ないのでしょうか……。」

 

 瑠璃は戦う事に対して前向きな姿勢でいるのとは対象的に、響は戦う事を躊躇っていた。それにマリアが反応した。

 

「逃げているの?」

「逃げているつもりじゃありません!」

 

 響が感情的になって否定する。

 

「だけど……適合して、ガングニールを自分の力だと実感して以来、この人助けの力で誰かを傷つけることが……すごく嫌なんです。」

 

 これにマリアは

 

「それは……力を持つ者の傲慢だ!」

 

 響の主張にマリアは一刀両断した。

 マリアからすればギアを纏えても、その纏うギアが無い上にLiNKERすらない。ジャンヌが抱えていた悔しさを、このような形で痛感していた。そもそもジャンヌは戦う為のスタートラインに立つことすら出来なかったのだ。今ならばジャンヌが自分の身体を虐待してまで力を欲した訳も頷けた。

 

 だがマリアはそれでもガングニールを響に託す事を選んだ。

 

「そうだ……ガングニールはお前の力だ!だから……目を背けるな!」

「目を……背けるな……。」

 

 だが響はその重圧に耐えきれず、目を背けてしまう。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 チフォージュ・シャトーではジークが先に、間もなくガリィも帰還した。

 キャロルはジークに続いてギアを破壊せずに帰還したガリィを玉座から見下ろす形で睨みつける。

 

「ガリィ……」

 

「そんな顔しないでくださいよぉ。碌に唄えないのと、唄っても大したことない相手だったんですからぁ!あんな歌を毟り取った所で役に立ちませんって。それに、ジークだって全然戦おうとしないんですからぁ。」

「性根の腐った貴様と同じにするな。私は完璧に、奴のギアを破壊する。」

「完璧ぃ〜?チキンの間違いでは〜?」

「何だと……?」

「やめろ!」

 

 ガリィとジークの口喧嘩をキャロルが怒鳴って止めた。

 

「自分が作られた目的を忘れていないのならそれでいい……。だが次こそ奴の歌を叩いて砕け。これ以上の遅延は計画が滞る。」

「レイラインの解放……分かってますとも。ガリィにお任せでぇ〜す。」

 

 ガリィの猫を被った態度とウィンクにキャロルは呆れるようにため息をつく。ジークの言った通り、性根が腐っているのを知っている。

 だがそれは今は置いておく。キャロルは響と初めて邂逅した夜を思い出し、苛立った。次こそギアを確実に破壊する為に、念には念を入れる。

 

「お前に戦闘特化のミカをつける。それとジーク、お前もだ。いいな?」 

「はっ。」

「いいゾ~!」

 

 ミカは無邪気に元気よく手を挙げる。ジークはガリィの下につくような命令で内心快く思っていないが、主の命令には従わなくてはならない。ジークは顔色を変えずに平伏する。

 だがキャロルが命令を下したのはガリィにであって、彼女を無視した反応にガリィは

 

「そっちに言ってんじゃねぇよ!」

 

 今までの猫かぶりをかなぐり捨てるかのように怒鳴った。

 

(せめてあの時、外れ装者のギアが解除されなければ……。)

 

 マリアとの戦いを思い出し、任務を遂行できなかった事に悔しがるガリィだったが、構わずジークがキャロルに問う。

 

「マスター、バイデントの装者は如何様に?」

「奴はそれに関しては吐こうとしない。よほど話したくないのだろう。バイデントの装者に関しては、お前に任せよう。」

「はっ。」

 

 そう言うとジークは台座から転移した。ジークは人間嫌いであり、自身が人間より優位に立っているという証としてわざと人間を甚振ってから思い出を搾取していた。情報提供者にも手を出そうとしていたが、キャロルが命じた為、未遂に終わった。

 

「まあ、やりすぎないだろうがな。」

 

 キャロルは静かに呟いた。

 

 

 




ぶっちゃけ血を流している状態で迫られたらそりゃあ……ねぇ。


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その歌は何の為に?

久しぶりの小夜さんの登場……だけど出番はほんの少しだけ。
まあメインじゃないからね。
シカタナイネ☆


 ガリィの急襲があった日の夜、小夜はヘトヘトになりながら帰宅した。毎日激務に追われ、小夜はヘトヘトで帰ってくるのだが、今日は予定より早めに帰ってこれた。小夜は鍵を開けて、玄関のドアを開ける。

 

「ただいま〜。あぁ〜疲れたわ〜。輪、今日の夕飯は何〜?」

 

 呼んでも輪の応答は来ない。輪の履いている靴はあり、リビングの電気はついている為、いるのは分かるのだが靴が揃えられていない。何かあったのかと気になりドアを開ける。そこに輪がいたのだが

 

「ただいま輪……輪!その怪我どないしたん?!」

 

 輪が救急箱から湿布や絆創膏を出していた。よく見ると頬を殴られた痕がある。

 

「ちょっと、帰りにそこら辺のチンピラに絡まれちゃって。えへへ……。」

 

 小夜の心配を余所に輪はあっけらかんと笑うが

 

「何を笑っとるん?!あんた、3年前もそうやって傷作って……どんだけ心配したと思っとるん?!父さん母さん、旭も亡くなって……うちにはもう輪しかいないんやで!」

 

 小夜は今にも泣きそうになりながら、輪を強く抱きしめる。小夜の背にある棚には仏壇が飾られている。そこに飾られている3つの額縁にはそれぞれ両親と小さな少女の写真が納められていた。

 

「ごめんって小夜姉……心配かけて。もう喧嘩なんてしてないから……って痛い痛い……。小夜姉離して、痛い。」

「あ、ごめん。」

 

 強く抱きしめるあまり、傷が痛む。小夜は慌てて輪を離す。

 

「よし、うちが夕飯作っちゃる!何が良い?」

 

 そう言うと小夜は立ち上がって台所の前に立つ。

 

「じゃあ炒飯!」

 

 輪は笑顔でリクエストした。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 今にも雨が降りそうな曇り空、マリア、調、切歌はナスターシャとジャンヌの墓参りに来ていた。隣り合うように置かれた、西洋式の墓にマリアは花束を墓前に添えた。

 

「ごめんねマム。遅くなっちゃった」

「マムの大好きな日本の味と、ジャンヌの大好きな貝デス!」

「私達は反対したんだけど……常識人の切ちゃんがどうしてもって。」

 

 切歌がキクコーマンの醤油と多様の貝殻を墓前に添えた。明らかに墓に添えていいものではないのだろうが、切歌の要望によって決まった。またジャンヌはフランス出身で、海が好きだと生前から語っていたので切歌は以前より貝殻を集めていた。

 そこにもう一人、来客がやって来た。

 

「輪……?!」

「どうも。」

 

 頬に湿布を貼っていた輪が花束を持ってやって来た。

 

「その湿布、どうしたのデスか?!」

「ちょっと色々ね。それより、私も良いですか?」

「ええ。」

 

 マリアが頷くと、輪は一礼してジャンヌの墓前に花を添えた。

 

「ありがとう、ジャンヌの為に来てくれて。」

「いえいえ。本当は瑠璃も一緒に行く予定だったんですけど、何かオジサンに呼び出されたみたいで……それで私一人になっちゃいました。いやぁ……面目ないです。」

「いえ……瑠璃先輩には色々良くして貰ってますし……。一番負担を掛けてしまってますから……。」

 

 輪と調、共に申し訳なさそうに言う。

 

「あ、どうぞどうぞ。何か話したい事があったら。私は帰りますから……」

「いえ、いてくれて構わないわ。」

 

 F.I.S.とは関係ない部外者は帰ろうとしたが、マリアに引き止められる。輪も監禁されていたとはいえ、ナスターシャとはほんの少しだけ話した事はある。見た目とは裏腹に優しい人だと感じていた。

 マリア達3人がナスターシャとジャンヌに報告する。

 

「マムと一緒に帰ってきたフロンティアの一部や、月遺跡に関するデータは、各国が調査している最中だって。」

「みんなで一緒に研究して、みんなのために役立てようとしてるデス!」

「ゆっくりだけど、ちょっとづつ世界は変わろうとしてるみたい。」 

 

 マリアは心に秘めた思いがある。

 

(変わろうと、進もうとしているのは世界だけじゃない。なのに私だけは……ネフィリムと対決したアガートラームも、再び纏ったガングニールも、窮地を切り抜けるのは、いつも自分のものではない力……。)

 

 それでもマリアは前に進もうと決める。

 

「私も変わりたい。本当の意味で強くなりたい。」

「それはマリアだけじゃないよ……。」

「アタシ達だって同じデス。」

 

 3人の思いを表すように雨が降り始めた時、輪が口を呟いた。

 

「世界って……本当に変わるのかな……。」

「え……?」

 

 声に出したマリアだけでなく切歌と調も輪の方を向く。

 

「どんなに一人が頑張っても……それを邪魔しようとする悪意が必ず現れる……。それを倒しても、また次から次へと邪魔する奴が出てくる……。そしていつか……その人の心は……」

「輪。」

 

 過去の古い記憶が蘇り、まるで呪詛のようなセリフを言う輪だったが、マリアの声で我に返った。

 

「あ、ごめんなさい!今のは冗談です!忘れてください!あはは……」

 

 そう言って無理に笑う輪だが、マリアにはその笑顔が何処か怖く思えた。その笑顔の裏にある、何かドス黒い感情というものを感じ取ったような気がしてならなかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  

 

 S.O.N.G.本部、現在は寄港しており、本部内ではエルフナインによる作戦の提案がなされていた。

 

「先日響さんを強襲したガリィと、クリスさんと対決したレイア。これに、翼さんとロンドンでまみえたファラと、未だ姿を見せないミカ、この4体がキャロルの率いるオートスコアラーになります。」 

 

 本当であればジークも入れて5体なのだが、エルフナインはその存在を知らない為、4体と答えた。シンフォギアのスペックとまともに戦えるオートスコアラーがまだ存在する事を知った翼とクリスは、ギアを壊され何も出来ない事に悔しがる。

 

「人形遊びに付き合わされてこの体たらくかよ……!」

「そのオートスコアラー達は、お姫様を取り巻く護衛の騎士……みたいなところなのかな?」

「スペックをはじめとする詳細な情報は、僕に記録されていません。ですが……」

「シンフォギアをも凌駕する戦闘力から見て、間違いないだろう。」

 

 現在まともに戦えるのが響と瑠璃のみなのだが、その響が詠唱が浮かび上がらない以上、その責務は瑠璃

 に集中する。託したとはいえ、姉としては心苦しくある。

 弦十郎も父親として同様の気持ちだ。

 

「超常脅威への対抗こそ、俺達の使命。この現状を打開する為、エルフナイン君より計画の立案があった。」

「計画?」 

 

 瑠璃がオウム返しに聞き返す。そしてモニターには深紅の文字でその計画名が表示された。

 

「Project IGNITEだ。」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

  同じ頃、響は未来と相合傘をして下校している。先日の戦いでガングニールが纏えない事に葛藤していたままが続き、未来も心配している。

 互いに言葉を交わしにくく、雨音だけが響く中、未来がようやく切り出した。

 

「やっぱりまだ……唄うのは怖いの?」

「え……うん……。誰かを傷つけちゃうんじゃないかって思うと……ね。」 

 

 ガングニールの起動詠唱が浮かび上がらなかった原因は分かってはいる、だがそれがどうしようもないくらいに解決出来ず、余計にブレーキを掛けてしまっている。

 

「響は初めてシンフォギアを身に纏った時って、覚えてる?」

「どうだったかな……?無我夢中だったし……。」 

「その時の響は、誰かを傷つけたいと思って、歌を唄ったのかな?」

「え……。」

 

 未来のセリフにすぐに否定したかった響だが、それが出来なかった。初めて纏った時は、本当に何がなんだか分からない状態で戦いの世界に放り込まれていたからだ。その時の心境など事細かに覚えていない。本当に、何で自分がシンフォギアを纏うのか、分からずにいる。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 その資料が友里の操作によって開示される。その内容の一部を緒川が読み上げる。

 

「イグナイトモジュール……そんなことが、本当に可能なのですか?」

 

「錬金術を応用することで、理論上不可能ではありません。リスクを背負うことで対価を勝ち取る……。その為の魔剣・ダインスレイフです。」

 

 その途中、アルカ・ノイズの出現のアラートが鳴り響き、反応も検出された。藤尭がモニターを拡大すると、そこにはアルカ・ノイズと、ミカが響と未来を追っていた。

 

「ついに……ミカまでも……。」

 

 エルフナインが不安になりながら呟く。すかさず弦十郎が瑠璃に指令を下す。

 

「瑠璃!直ちに現場へ急行し、響君達を救うんだ!」

「了解!」

 

 瑠璃はすぐさまブリッジから出て行き現場へと向かった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ミカとアルカ・ノイズの襲撃を受けた響と未来は必死で逃亡するが、工事現場に入ってしまう。

 

「逃げないで歌って欲しいゾ!あ、それとも歌いやすいところに誘ってるのか?うーん……おう!それならそうと言って欲しいゾ!それぇー!」

 

 ミカのその大きくも鋭い手を振り下ろして、アルカ・ノイズに指示を出すと、水色の芋虫のような形をしたクロール型アルカ・ノイズ達が先行、二人の走る先を誘導するように周りこむと、二人はアルカ・ノイズのいない方へと走るが、入った先は工事現場の中だった。

 しかも他に目立った出入り口が無い為、階段を登って逃げようとする。一般人である未来を先に行かせて、その後ろに響が続こうとするが、無情にもアルカ・ノイズに二人の間を裂くように階段が分解されてしまいまい、響は落下してしまう。

 

「響!」

「未来……!」

 

 背中を強く打ってしまった響の顔を、追いついたミカが覗き込んだ。

 

「いい加減戦ってくれないと、君の大切なモノ解剖しちゃうゾ?友達バラバラでも戦わなければ、この町の人間を、犬を猫を、みーんな解剖だゾー?」

 

 子供のように無邪気ながらも吐かれるそのセリフは残忍そのものだった。そうはさせるかと立ち上がり、響はギアのペンダントを握るが、まだ戦う覚悟が持てていない状態ではやはり詠唱が浮かび上がらず、ギアを纏えない。

 

「ふーん……本気にしてもらえないなら……。」

 

 ガッカリしたミカの視界の先には未来が映った。するとアルカ・ノイズ達が未来のいる階より下の階段に集まる。シンフォギアでさえ分解してしまうのだから、人間を分解するのだって容易だろう。だが命を狙われている恐怖に臆する事なく響に語り掛ける。

 

「あのね響!響の歌は、誰かを傷つける歌じゃないよ!伸ばしたその手も、誰かを傷つける手じゃないって、私は知ってる!私だから知ってる!!だって私は響と戦って、救われたんだよ?!私だけじゃないよ!響の歌に救われて、今日に繋がってる人は沢山いるよ!だから怖がらないで!!」

 

 決死に訴えかける未来に魔の手が差し掛かる。

 

「ばいなら~!」

 

 ミカの指示を受けたアルカ・ノイズは未来に飛び掛かり、床を分解してしまった事で彼女は宙に放り出されてしまう。

 

「未来!!」

 

 響は身体の底から、魂の全てで叫んだ。

 

 Balwisyall nescell gungnir トロオオオオオォォォォォーーーン!!

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ギアを纏い、連結させた槍に乗って飛行しながら現場に向かっている瑠璃。ブースターを点火させて全速力で飛んでいる。降りしきる雨で、バイザーの表面が濡れるも、内面の視界にはそれによる支障は出ておらず、鮮明に映し出されている。アルカ・ノイズと敵の反応を頼りに現場に向かっている。

 

「間に合って……!」

 

 嫌な予感を感じながらも、二人とも無事である事を信じる。そこにバイザーがもう一つの反応を捉えた。

 

 Balwisyall nescell gungnir トロオオオオオォォォォォーーーン

 

「この声……もしかして!」

 

 遠くからでも聞こえるその叫びが響であると確信し、工事現場に入る。その途端に建物の一部が分解された事で瓦礫が崩落した。だが瑠璃の視界には、ガングニールのギアを纏った響が未来を抱え、着地していた。響の迷いが吹っ切れたかのように雨は止み、雲の間から僅かに差し込む陽の光が、響と未来を祝福するかのように差し込んだ。

 

「ごめん……。私、この力と責任から逃げ出してた……。だけどもう迷わない……!だから聞いて、私の歌を!」 

 

 その様子は本部のモニターにも映し出されていた。

 

「どうしようもねえバカだ。」

 

 クリスは笑みを浮かべてそう言う。

 

 

「響ちゃん!」

 

 瑠璃の声に気付いた響はその方を向く。瑠璃は二人のもとへ駆け寄る。

 

「瑠璃さん、私も戦います!だから一緒に!」

 

 響の凛とした表情に、瑠璃は頷いた。

 

「うん!行こう!」

 

 未来を降ろした響と槍の連結を解除させた瑠璃は、ミカを見据えて対峙する。

 

「うおりゃぁ~!」

 

 新たにアルカ・ノイズを召喚し、数でゴリ押そうと襲い掛かる。響が一番槍を受け持ち、真っ先にアルカ・ノイズを撃ち抜く。瑠璃も、響の周囲を守るように二つの槍を縦横無尽に操ってノイズを蹴散らす。 

 アルカ・ノイズの数が少なくなった今、アルカ・ノイズは瑠璃に任せ、響の次の標的はミカ。響が真っ先に懐に入り込み殴りこもうとするが、掌から射出した赤いカーボンロッドを手に、受け止める。

 

「コイツ、へし折りがいがあるゾー!」

 

 響のパワーに任せた拳を真正面から受け止めているにも関わらず、余裕の表情を崩さない。流石戦闘特化と呼ばれるだけの事はあるが、それで遅れを取る響ではない。

 瑠璃もアルカ・ノイズを殲滅させて、響の援護に周ろうとしたその時、バイザーの反応がミカともう一人の敵を捉えていた。

 

「もう一人……?!この形って……!」

 

 先程のブリーフィングのモニターに映っていた姿形を捉えた。嫌な予感を感じた瑠璃は叫んだ。

 

「響ちゃん駄目!」

 

 だが既に遅かった。響が殴ったミカは水となって散った。響の方も、その事に唖然としていた。

 

「残念。それは水に移った幻。」

 

 建物の陰に潜んでいたガリィが、腕を組んで勝利を確信した。響のすぐ真下から現れた本物のミカが、ギアのコンバーターに狙いを定めて、掌からカーボンロッドを射出しようと向けていた。

 




キクコーマンというパワーワードw


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絶対領域 トポス・フィールド

いよいよジークが戦います。どんな能力になるのか?


 響が攻撃したミカと思われたそれは、ガリィが作り出した水の幻影であった。野晒しとなったギアのコンバーターを、直下に現れた本物のミカが、カーボンロッドが放たれる掌を向ける。

 

「しまっ……」

「響!!」

 

 響の絶体絶命の状況に未来が叫ぶ。

 掌かが開き、カーボンロッドが射出されようとしたその時だった。

 

「のわあぁーー!!」

 

 響の目の前がミカとの間に割り込むように、突如黒白のエネルギー波が通り、カーボンロッドを破壊した。

 思わぬ横槍を受けたのを目撃したガリィは放たれた方向を見ると、瑠璃が槍を突き出していた。

 

「まさかアイツ!」

 

 アルカ・ノイズと戦っていた瑠璃の距離は離れていた。バイザーの反応によって響よりも先に本物のミカを捉えていたが、離れすぎた距離では接近しても間に合わなかった。だが瑠璃は槍を連結させて、穂先にエネルギーを最大まで集約させずに、黒白のエネルギーを融合させるように放っていた。

 

【Shooting Comet:Dual Drive】

 

「冗談じゃない……!少しでも手元が狂えば、下手したらあいつも……!」

 

 ガリィの言う通り、下手をしたら響をも巻き込みかねないが、バイデントの戦闘補助システムの軌道演算と瑠璃の動体視力の高さだからこそ成せた荒業なのだ。絶体絶命の危機から脱却した響はミカとの距離を取る。

 

「響ちゃん!大丈夫?!」

「ありがとうございます!助かりました!」

 

 瑠璃も響の所へ駆け寄り、並び立つ。

 

「良かった……。」

 

 響が無事である事を安堵した未来。

 

「今のビックリしたゾ!だけど凄かったんだゾ!」

 

 憤るガリィとは対象的に、体勢を崩して仰向けに倒れたミカは起き上がり、その予想外の攻撃に驚きながらも胸を高鳴らせていた。

 

「じゃあ今度はこっちの番なんだゾ!」

 

 そう言って新たに出したカーボンロッドを片手に構えたミカ。戦闘続行の意思を見せ、対峙する響と瑠璃も構える。

 だが頭上から、両者の間に割り込むように降り立つ者が現れた。

 

「な、何?!」

 

 降り立った時の衝撃で砂煙が立ち込め、視界が利かないが、瑠璃のバイザーにはハッキリとその姿を捉えていた。

 

「何……あれ……。」

 

 砂煙が晴れると、そこにいたのは白を基色とした最後のオートスコアラー、ジーク・ラーゼンライズがハルバードを手に、そこにいた。

 

 S.O.N.G.本部のモニターでもその姿を捉えていた。エルフナインからは4体と聞かされていたが、まさかの5体目が現れたことに誰もが驚愕した。

 

「馬鹿な……5体目のオートスコアラーだと?!」

「どういう事だよ?!オートスコアラーは4体じゃねえのか?!」

 

 その存在を知らなかったエルフナインは酷く動揺していた。

 

「そんな……こんなオートスコアラー……僕の記憶にはありません……!」

「用意周到に秘匿していたという事か。」

 

 エルフナインの狼狽えようから弦十郎はすぐに察した。

 

 ジークが現れ、ガリィは内心舌打ちするもすぐに猫かぶりの態度でジークに話しかける。

 

「ようやく出てきたなんて、遅すぎじゃなぁい?」

「ふんっ……お前の見事な負けっぷりに腹が立っただけだ。」

(私は負けてねえっての……。)

 

 ガリィは声に出さずに心の中で悪態つく。一方割り込んできたジークにミカは抗議する。

 

「あたしの獲物を横取りはズルいんだゾ!」

 

 ぷんぷんと頬を膨らませて怒るがジークはそれを無視し、命令するように言う。

 

「ならバイデントの相手をしていろ。私はこいつを潰す。」

 

 ジークはハルバードの穂先を響に向ける。

 

「う〜ん。まあ戦えるならそれで良いゾ!」

 

 ミカはただ戦えればそれで良いので扱いやすい。ジークは一瞬不敵の笑みを浮かべる。

 

「術式展開……トポス・フィールド……!」

 

 ハルバードの穂先を地面に刺すと、自身を中心に魔法陣のような円陣が展開される。その円の内部には十二芒星の紋章が浮かび上がる。

 

「任務開始……」

 

 すぐさま響の懐に入り込まれてしまい、反応が遅れた響はハルバードの柄で鳩尾を突かれそうになるが、寸での所で腕で受け止めるも、その衝撃が身体に襲い掛かる。

 だがジークは立て続けにハルバードを水平に振るい、響はそれを跳躍して避け背後を突こうとするが、ジークは背後を背後を見ずに、ハルバードの石突を突出す。思わぬ攻撃を繰り出され、対応出来なかった響は鳩尾を突かれ、倒される。

 

「がはぁっ!」

 

 いかにシンフォギアが外から受けた衝撃を和らいでくれても、鳩尾を突かれては呼吸が上手く出来なくなる。咳き込んでいる隙を突かれ、今度は腹部を蹴り上げられた。

 

「響ちゃん!」

 

 ミカと鍔迫り合いになっていた瑠璃は、それを目の当たりにし、急いで救援に駆けつけようとするが、水の壁によって邪魔されてしまう。

 

「私と遊んでいきなよ!」

「そこを退いて!!」

 

 黒槍で突いても水の幻影を貫いただけで本人はすぐ真横から、氷の手刀を振り下ろした。これを白槍で受け止め、さらにそれを受け流して、突き飛ばす事でミカの攻撃が繰り出される前に妨害させる。急いで響の救援に駆け付けたいのだが、水の壁がある限り通る事が出来ない。だがその高さには限りがある。

 

「余所見してないでこっちに集中するんだゾ!」

 

 乱暴な口振りで地面から水柱を放ち、ミカもカーボンロッドを乱射させる。前方からはカーボンロッド、下からは水柱、後ろは水の壁に囲まれた。どっちを防いでももう片方の攻撃でやられてしまう。だが側面へ避けるは不可能だ。

 

「なら……!」

 

 槍を連結させてそのエネルギーを穂先に集める。そして、地面にそれを思いっきり叩きつけると、その衝撃で、身体は宙を舞う。

 

「飛んだ?!」

「飛んだゾ!」

 

 その高さは水の壁を超え、ガリィとミカの攻撃を避けただけでなく、そのまま壁の外へと脱出した。だが……

 

「響いいいいぃぃぃ!!」

 

 未来の悲鳴が聞こえ、その方を見るとうつ伏せで倒れていた響が、ジークに頭を踏みつけられていた。

 

「響ちゃん!!」

 

 一糸纏わぬ姿になっている辺り、ギアを破壊されてしまったという事を意味していた。

 

「一足遅かったな。」

 

 ジークは勝ち誇ったように笑うと、未来のいる方へ響の身体を蹴り飛ばす。

 

「響!嫌ああぁぁ!返事をしてよ!響いいぃぃ!!」

 

 未来が響に駆け寄り、叫ぶが響は意識を失ってしまっている。 

 さらに瑠璃の背後にあった水の壁が消えた。それにより3体のオートスコアラーに取り囲まれてしまった。

 

 S.O.N.G.のモニターでもその様子が映し出されていた。響があっさりと倒されたのが信じられず、ジークの驚異的な戦闘能力の高さを見せつけられた。

 

「まずいぞ!これでは袋の鼠だ!」

「逃げろ姉ちゃん!!」

 

 翼とクリスの叫びは通信で届いているが、もはや逃げ道のない絶体絶命の窮地に立たされていた。はずなのだが

 

「やめだ。」

 

 ジークが突然ハルバードを降ろし、テレポートジェムで転移してしまった。

 

「はあああぁぁ?!」

  

 ガリィは目を疑った。このまま取り囲んでしまえば確実にバイデントも破壊出来たはずなのだが、まさかの撤退という行動にガリィは素を晒してしまう程に驚愕した。

 

「な、何で……」

『瑠璃!今のうちに!』

 

 瑠璃もジークの撤退に驚いていたが弦十郎の通信で響と未来を連れて撤退する。呆気に取られていたガリィとミカはそうはさせるかと攻撃を仕掛けるが、瑠璃が白槍を投擲して、建物に衝撃を与えた事で僅かに支えられていた建物は崩壊し、それに巻き込まれる前にガリィとミカもテレポートジェムで退却。結果的に瑠璃はジークの気まぐれによって助かった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 チフォージュ・シャトーに撤退した3体のオートスコアラー。ガリィはジークの独断に悪態つく。

 

「おい!勝手に割り込んだくせに勝手に何勝手に撤退してんだよ?!バイデントはあんたの担当でしょうが!」

「だったらどうした。私は目的通りギアを破壊した。文句はないはずだ。破壊するだけならお前達でも出来るだろう。」

「ああん?!」

 

 ガリィとジークは互いの性格上全くと言っていいほど相性が悪く、それ故に何度も諍いを起こしてはキャロルが止める。

 

「喧しいぞ。」

 

 玉座から見下ろすキャロルの一声で、二人は静まる。

 

「まあこの際だ。計画を次の段階へ進める。残りのギアの破壊はその過程でも出来よう。」

 

 そう言うと、不敵な笑みを浮かべた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 何とか響と未来を連れて撤退に成功した瑠璃だったが、響は意識がなく、ストレッチャーでメディカルルームに運ばれた。未来は何度も名前を呼びかけたが結局、意識は戻らないままになっている。一応命に別状はないようだが、生命維持装置に繋がれた状態になった。

 

「私が手間取ったせいで……響ちゃんが……!」

 

 瑠璃は自分の不甲斐なさを責める形で、拳を壁に叩きつける。そこにエルフナインが歩み寄り、頭を下げた。

 

「ごめんなさい……元はと言えば、僕がオートスコアラーを全機把握していなかったせいで……。」

「いや、今回の件は敵が一枚上手だったということた。エルフナイン君を見事に欺き、戦力の分析を見誤らせた。」

 

 弦十郎は今回の敗北を冷静に受け止めていた。だがこれで制限なしに活動出来るギアはバイデントのみとなってしまい、S.O.N.G.は窮地に立たされた。クリスと翼はエルフナインに頼み込む。

 

「あたしらならやれる!だから、Project IGNITEを進めてくれ!」

「強化型シンフォギアの完成を!」 

 

 エルフナインは頷き、モニターを見据えた。早急に取り掛からなければ、唯一無制限で活動出来るバイデントが破壊されるか分からない。そうなっては今度こそ戦える者がいなくなってしまう。それを防ぐ為に、キャロルの野望を阻止する為に、エルフナインは動き出す。

 




ジーク・ラーゼンライズ

キャロルが作り出した5体目のオートスコアラー。意外にも最初に作製された個体であるが、キャロルの意思でその存在は秘匿されていた。
白を基色としており、西洋騎士の鎧を模した格好となっており、右手にはハルバードを持っている。
待機中はハルバードの石突を床に接し、左腕を高く掲げる英雄像のようなポーズを取る

プライドが高く完璧主義者であり、己のやり方の範疇で勝利を欲する。
キャロルの影響なのか人間を極度に嫌い、「虫ケラ」と見下す。思い出を奪う際には、人間を死なない程度に痛めつけてから奪い取る癖がある。
またガリィとの関係はまさに水と油であり、性格から相容れない。

名前の元ネタはタロットの大アルカナ7番「戦車」の正位置の勝利と逆位置の暴走から。

トポス・フィールド

ジークのみが持つ能力であり、絶対領域。
ハルバードを地面に刺す事で十二芒星の紋章が描かれた円陣が展開され、範囲内にいる生命の動きや五感を一方的にジャックして、相手の動きを先読み防御、攻撃を行う。

元ネタはアリストテレスの著作であるトピカ(ギリシャ語で場所)から。

分かりやすく言えば猗窩座の破壊殺・羅針のような感じです。でも最初のパーフェクトヒューマンみたいな体勢にはなりませんw


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最後の希望

キャラソンコンプリートBOXの発売日……

早く来ないかな〜と思いながら書いていく私。


 響が倒されて、目覚めないまま1週間が過ぎた。リディアンの教室で一人溜息をつく未来。授業中にも関わらず、その事で頭がいっぱいになり、教員からも注意されてしまっていた。ここまで重症だと弓美、詩織、創世にも心配されていた。

 そこに一人の来客が現れた。

 

「輪さん……。」

「やあっ。みんなでお昼どう?」

 

 校舎の屋上に集まり、5人でランチタイム。未来はパン、輪はおにぎりを口にしていた。三人娘はそれぞれ作った弁当を食べている。

 そこで輪は未来が落ち込んだ原因を4人から聞く。

 

「そっか……そりゃあ不安になるよね、友達がそうなったら……。」

 

 青空を見上げながら、共感する。輪だって瑠璃がそうなったら不安になる。もはや友というよりもう一人の自分を失ったような感覚になる。

 

「でもさ、響ならすぐに目を覚ますよ。あの子、何度死にかけても、最後にはちゃんと帰ってくるじゃない。」

 

 ルナアタックで月の破片が落下した時も、ガングニールの破片に蝕まれていた時だって、響はどんなに死の淵に立たされても帰って来た。今回だってきっと帰ってくるって信じられる。

 

「だからさ、帰りを待とう。ね?」

 

 そう言うと輪は未来の隣に寄って座り、肩に手をポンと置いて慰める。

 溢れそうな涙を拭って頷いくと、未来に笑顔が戻った。

 

 お昼を食べ終えた後、輪は教室へ戻ろうした時、未来に呼び止められていた。三人娘は先に戻り、今は二人きりになっていた。

 

「話って?」

「あの……響から聞いたんですけど。リディアンに通う人達の中に、敵に通じている人がいるって言ってたんです。」

「それって……スパイって事?」

 

 輪は顎に手を触れて考える。確かにこの間の帰り道は瑠璃と輪しか通らない特別なルートで帰ったのだがそこにアルカ・ノイズの襲撃があった。それに最近起きた火事の一件以降、背後から誰かにつけられているような感覚がしていた。

 

「分かった。私も何とか探ってみるよ。」

「い、いや……これは相談の意味で聞いたのであって……輪さんに調査をさせようなんて……」

「何言ってんの。もう何度も事件に首突っ込んでるんだから、今更これくらい怖くないよ。」

 

 まさか引き受けてしまうとは思わなかったが、輪とは何度も修羅場を潜り抜けたもの同士でもある。ここは輪を信じてお願いした。

 

「すみません、お願いします。」

「うん、任された。じゃあ何か分かったら連絡するね〜!」

 

 手を振って、輪は教室へ向かう。

 

「スパイ……か。」

 

 独り言を呟くがどこか物悲しそうだ誰かに聞かれることはなかった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 現在S.O.N.G.の潜水艦はメンテナンスの為に寄港している。長期間の航海を続けるには定期的に物資の運搬やメンテナンスが必要になる。同時にエルフナインが強化型シンフォギアを完成させる為に研究室に籠もって作業をしている。

 ブリッジではその進捗状況を友里と藤尭が報告している。

 

「Project IGNITE 現在の進捗は89% 旧二課が保有していた第一号、および第二号聖遺物のデータと、エルフナインちゃんの頑張りのお陰でで予定よりずっと早い進行です。」 

「各動力部のメンテナンスと重なって、一時はどうなることかと思いましたが、作業や本部機能の維持に必要なエネルギーは、外部から供給できたのが幸いでした。」

 

 それについては喜ばしい報告だったのだが、緒川がある疑問を抱いた。

 

「それにしても、シンフォギアの改修となれば機密の中枢に触れるということなのに。」

 

 櫻井理論が公表されたとはいえ、シンフォギアは機密の塊とも言える程のブラックボックスであり、普通であればその情報を外に漏らさない為に秘匿し続けるのが当然の判断である。その疑問に弦十郎が答えた。

 

「状況が状況だからな……。それに、八紘兄貴の口利きもあった。」

「八紘兄貴って……誰だ?」

「限りなく非合法に近い実行力を持って、安全保障を陰から支える政府要人の一人。超法規措置による対応のねじ込みなど、彼にとっては茶飯事であり……」

「とどのつまりが何なんだ?!」 

 

 八紘を知らないクリスは質問し、翼が答えるが、答えになっていない長い説明に苛立ち、詰めかける。翼は一瞬目を逸らすが、そこに瑠璃がフォローを入れる。

 

「内閣情報官の風鳴八紘。お父さんの実兄で、お姉ちゃんのお父さんだよ。」 

「つまり姉ちゃんにとっては叔父ってわけか。だったら始めっからそう言えよな。蒟蒻問答が過ぎるんだよ。」

「私がバイデントの件でアメリカで裁かれそうになった時に、助けてくれたのも八紘叔父様なの。ドイツのアーネンエルベの事務長の人とは古い友人だって話してから。」

「私のS.O.N.G.編入を後押ししてくれたのも、確かその人物なのだけど……。なるほど、やはり親族だったのね。」

 

 マリアも八紘の姓から翼とは何か関わりがあるのかと推測していたようだった。だが八紘の話になった途端、翼の表情が曇っていた。

 

「どうしたの?」

 

 マリアの問いに、翼は答えなかった。訳を知っている弦十郎は頭を掻き、瑠璃も黙りこんだ。

 

 そこに響の様子を見た輪がブリッジに戻って来た。

 

「出水か。小日向は?」

「まだ響の所です。それにしても、大変な事になってるんですね。」 

 

 輪はここに来た時、弦十郎から今回の出来事について聞かされた。

 

「もう戦えるのが瑠璃だけなんでしょう?大丈夫なんですかそれ?」

「私は大丈夫だよ。今は私一人でが戦わなくちゃいけないけど、皆を守りたいから、私は戦える。」

「瑠璃……。」

「ちょっとエルフナインちゃんの様子を見て来る。」

 

 瑠璃はブリッジから出て行き、研究室へと向かった。

 

(瑠璃……どこまで自分を犠牲にするつもりなの?これじゃあ……まるで……。) 

 

 輪は顔には出さなかったが、瑠璃が以前のような普通の女の子から戦士に変わってしまっている事にショックを受けていた。

 

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 試験管、フラスコが並ぶ机、壁は石造りになっていて、そこら中に計算式が書かれている。その家にはキャロルとその父親、イザークが住んでいた。母親は既に亡く、二人で生活していた。

 ある時、キャロルが分厚い本とにらめっこしていた時、イザークの悲鳴と爆発が聞こえ、心配したキャロルがその方を見ると顔に煤が付いているイザークがいた。それがおかしかったのか、キャロルは思わず笑ってしまった。

 その後、二人は食事を取る。キャロルは皿の上に乗った原型が何なのか分からない黒焦げの塊を凝視して恐る恐るフォークでそれを刺して食べる。

 

「美味いか……?」

「苦いし臭いし美味しくないし、零点としか言いようがないし。」

 

 キャロルは正直にそのまま答える。イザークは中々上手く出来ない事に落ち込む。

 

「料理も錬金術も、レシピ通りに作れば間違いないはずなんだけどなぁ……。どうしてママみたいに出来ないのか……。」 

 

 そう言って天井を見上げるイザーク。するとキャロルが椅子から立ち上がって、宣言する。

 

「明日は私が作る!その方が絶対美味しいに決まってる!」

「コツでもあるのか?」

「内緒。秘密はパパが解き明かして。錬金術師なんでしょ?」 

「はははは。この命題は難題だ。」 

「問題が解けるまで、私がパパの料理を作ってあげる。」 

 

 苦しい事はあるだろうが、それでもキャロルはこの生活が楽しくって、幸せなのが、その笑顔が証拠になっている。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 研究室に籠もって作業を進めているエルフナイン。今は机に伏して眠っておりキャロルとイザークの夢を見ていた。だが現実に引き戻され、目が覚めたエルフナイン。

 

「今のは……夢……?数百年を経たキャロルの記憶……。10分そこら寝落ちしてましたか……。でもその分頭は冴えたはず。ギアの改修を急がないと……」

 

 起き上がって再び作業に取り掛かろうとした時、ドアをノックが聞こえた。

 

「はい。どうぞ。」

 

 ドアを開き、瑠璃が入って来た。

 

「調子はどう?」

「はい。問題ありません。もう少しでお三方のギアの改修も完了します。」

「え、もう?凄いね……。」

 

 瑠璃の中でシンフォギアの改修とはかなり難しいものだと思っていた。しかしそれは間違いではない。何せエルフナインが現れる前は了子以外に改修出来る人間が誰一人いなかったからだ。それが余計にギアの改修が難しいものだと理由付けられる一つの訳でもある。

 

「でも、無理はしないでね?」

 

 そう言うと冷たい缶ジュースを渡し、エルフナインはそれを受け取る。

 

「ありがとうございます。ですが、もう少し頑張ります。」

「うん、分かった。」

 

 そう言うと瑠璃は邪魔にならないよう研究室から出て行こうとした時、アラートが鳴り響いた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アルカ・ノイズの出現を知らせるアラートが艦内に鳴り響いた。オペレーター陣がすぐさま座標を割り出すが、爆発による衝撃で艦内は揺れる。

 

「まさか……敵の狙いは我々が補給を受けている、この基地の発電施設……!」

 

 アラートを聞きつけた瑠璃、切歌と調がブリッジに駆けつける。

 

「状況は?!」

「アルカ・ノイズにこのドッグの発電所が襲われているの!」 

「ここだけではありません!都内複数個所にて、同様の被害を確認!各地の電力供給率、大幅に低下しています!」

 

 オートスコアラー達が同時多発的に襲撃を仕掛けてきたということになる。現在まともに活動出来る装者は瑠璃ただ一人だけであり、他の発電施設の防衛は不可能である。つまりこの発電所が最後の砦ということになり、そこがやられれば補給が全て絶たれてしまう。

 

「本部への電力供給が断たれると、ギアの改修への影響は免れない!」

「内臓電源も、そう長くは持ちませんからね……。」

「それじゃぁ、メディカルルームも……。」

 

 その影響は調の懸念通り、未だ意識が戻らない響にも及んでしまう。

 

「瑠璃!直ちに発電所の防衛を最優先とし、アルカ・ノイズを全て倒せ!」

「了解!」

 

 瑠璃は走り出し、ブリッジを後にして戦場へと向かう。S.O.N.G.に残された希望を守る為に。

 




Shooting Cometについて

Shooting Cometは現時点で3パターン。

通常パターンは1本の槍で行い、威力は一番弱いが連射性に優れる。

Twin Burstは2本の槍で放つ為、多数の敵に対してよく使われる。

Dual Driveは連結させた槍で放ち、2つのエネルギー波を1つに融合させる為、威力では 優れるがフルチャージで放つには時間が掛かる。


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ハ・デスの槍とザババの刃

瑠璃ときりしらトリオが再び組みます。

ちなみに私は切ちゃん推しデス。
(もちろん調も好きデスよ)


 発電所を守る為にバイデントのギアを纏い、戦う瑠璃。既に発電所は防衛部隊による銃撃戦が繰り広げられているが、相手はアルカ・ノイズ。通常のノイズと比べて解剖器官による分解能力にエネルギーを周した為に位相差障壁が低い為、シンフォギアでなくても現代兵器が通用するが、数の暴力の前に防衛戦は徐々に後退してしまう。

 瑠璃が到着しても、迫りくる解剖器官を避けながら戦わなくてはならず、たった一人の援軍では状況は覆らない。また一人、また一人とアルカ・ノイズによって防衛部隊は分解され、その数はどんどん減っていく一方である。

 その様子をジークが発電所のパネルから脚を組んで見下ろしていた。隣にはミカがいる。

 

「人間にしてはそれなりによく足掻く。」

「珍しくジークが人間を褒めてるゾ。」

 

 ミカがそう言うとジークは不快感を露わにする。

 

「褒めたつもりは微塵もない。だが退屈しのぎには丁度いい。精々虫ケラらしく踊ってもらうとするか。」

 

 そう言うと立ち上がり、飛び立つ。

 

「あ!ズルいゾ!」

 

 抜け駆けされたと思ったミカも後を追う。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 瑠璃の活躍によりアルカ・ノイズの大群を相手に何とか防衛線を後退させずに踏みとどまっているのだが瑠璃も人間である限り、体力の限界というのはいつか訪れる。もう何体倒したのか数える事すら面倒になるくらいの量を倒していた。だがそれでもアルカ・ノイズは大群をなして襲い掛かってくる。

 

「キリがない……。」

 

 額から頬に伝う脂汗を拭って、構える。だがそこにバイザーが2体の敵の反応をキャッチした。頭上を見上げるとジークがハルバードを振り下ろして来た。

 二本の槍で受け止めて、押し返すも今度はミカのカーボンロッドが大量に降り注いだ。何とか被弾を避けるべく避けるも、避けた先にジークのハルバードの石突によって腹部を打たれてしまい、飛ばされた先にあったコンテナに背中を強く打ってしまう。

 痛みを押し殺して起き上がるもアルカ・ノイズとジーク、ミカに囲まれ逃げ場を失ってしまった。

 

 S.O.N.G.ブリッジのモニターでもその絶体絶命の窮地が映し出されている。この絶望的な状況から脱する術がないという事実を突きつけられていた。だがその中に、調と切歌の姿がなかった。

 二人は今どこにいるのかのいうと、響が眠るメディカルルームにいた。二人はかつてリディアンに潜入した時に使われた美人潜入捜査官メガネを着用して忍びこんでいた。調に引っ張られる形で連れて来られた切歌は、彼女が何をしようとしているのか掴めていない。

 

「調……メディカルルームで何をするデスか?」

「時間稼ぎだよ切ちゃん。ギアの改修までの。」

「でもメディカルルームでどうやって……」

 

 調は辺りをキョロキョロと見回している。何かを探しているようだ。

 

「このままだと瑠璃先輩までやられてしまう。そうなったらメディカルル-ムの維持もできなくなる。そうなったら……」

 

 調は響の眠る顔を覗き込む。調の思いを察した切歌は微笑む。

 

「だったらだったで、助けたい人がいると言えばいいデスよ。」

「嫌だ……。切ちゃん以外に私の恥ずかしい所見せたくないもの……。」

 

 恥じらいながらそう言う調に切歌は嬉しそうになる。

 

「調~!」

 

 有頂天になった切歌は調に抱き着こうとするが、調が探し物を見つけてその方へと身を翻してしまい、切歌はそのまま床とごっつんこしてしまう。

 

「見つけた……!」

「これを持って、急いで助けに行くデスよ!」

 

 調はかがみ込んでお目当てのものを見つけた。笑顔になった二人はそれを持ち込んでメディカルルームを後にしたが、行く先はブリッジではなかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  

 アルカ・ノイズと二体のオートスコアラーに包囲され、逃げ場を失った瑠璃。前衛のアルカ・ノイズが瑠璃のギアを分解しようと攻撃を仕掛けるが、瑠璃の攻撃で塵と化す。だが再び襲い掛かる攻撃に対応しきれず、解剖器官が黒槍の穂先に触れてしまう。

 

「しまった……!」

 

 無情にも黒槍は分解され、右側の守りが消えた事で、襲い掛かるアルカ・ノイズの解剖器官が迫って来た。 

 だがそれは突然放たれた無数の小型の鋸と投擲された鎌の刃に切り刻まれた事で、届くとなく分解された。

 

「今のって……!」

 

 放たれた方を見ると、切歌と調が施設の屋根に、それぞれのギアを纏って現れた。二人が飛び降りると、外から包囲するアルカ・ノイズに攻撃を仕掛ける。

 調はアルカ・ノイズの懐に入り込み、スカートを鋸に変形させると自身ごと高速回転させて、ノイズを切り刻む。

 

【Δ式・艶殺アクセル】 

 

 切歌も自身を軸に大鎌をコマのように高速回転させてアルカ・ノイズを真っ二つにする。

 

【災輪・TぃN渦ぁBェル】 

 

 二人の攻撃でアルカ・ノイズの数が減ると、包囲が僅かに綻びが生じた。

 

「瑠璃先輩!」

「今のうちに!」

 

 包囲の抜け目を通り、脱出に成功する。二人はある程度アルカ・ノイズを倒すと距離を取り、瑠璃と合流する。

 

「チッ……また虫けらが入り込んだか……!」

 

 包囲を崩され、計画の邪魔をされた事に苛立つジーク。ミカは獲物が増えた事に無邪気に喜ぶ。

 

「調ちゃん……切歌ちゃん……どうして?!」

「瑠璃先輩一人で戦わせて、黙って見ているだけなんて出来ない……!」

「アタシ達にも守らせてほしいのデス!」

 

 調と切歌が言い切ると、弦十郎からの通信が入る。

 

『お前達!何をやっているのか、分かってるのか?!』

「もちろんデス!」

「今のうちに、強化型シンフォギアの完成をお願いします……!」 

 

 弦十郎のお叱りを受けながらも切歌と調はアルカ・ ノイズの殲滅に掛かる。言うことの聞かない子供二人に弦十郎は頭を抱えた。

 

『また勝手な事を……』

「お父さん、お願い!今は見逃してあげて!」

『お前まで……!』

「私が責任を持って二人を送り返すから!」

 

 部下としてでなく、娘として父親に願い出た。そんなわがままを通すわけにはいかないが、二人が瑠璃を助けなければ、今頃はバイデントを失いアルカ・ノイズに分解されていたであろう。ましてや瑠璃の体力もあまり残っていない。発電所を守る為には切歌と調の力を借りるしかない。

 瑠璃は残った白槍だけで目の前のアルカ・ノイズを殲滅させるが、ジークが目の前に立ちはだかる。そうなるとミカは必然的に切歌と調に頼むしかない。二人の方を向いて

 

「切歌ちゃん、調ちゃん!その赤いのは二人に任せても大丈夫?!」

 

 二人に確認を取る。瑠璃に頼られている事に嬉しく思ったのか調はそっと笑みを浮かべ、切歌は元気よく答える。

 

「はい……!」

「こいつはアタシ達に任せるデス!」

 

 瑠璃は頷き、ジークの方に向き直る。

 

「薬頼みの装者がミカを止められはしない。そして、お前も私の領域を破れる事はなく這い付くばる定めだ。」

「出来るよ。あの二人なら。」

 

 瑠璃は白槍を構えた。 そしてジークはハルバードの穂先を地に刺し、トポス・フィールドを展開させる。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 艦内では戦いの様子がモニタリングされているが、オペレーター陣が切歌と調のバイタルを確認した時、ある異変を感じていた。

 

「シュルシャガナとイガリマ、装者二人のバイタル安定……?ギアからのバックファイアが低く抑えられています!」

「一体どういうことなんだ?」 

 

 本来、二人は適合係数が低く、LiNKERの補助がなければギアをまともに運用出来ず、ギアのバックファイアによる苦痛が全身に襲い掛かる。だが今の二人のバイタルを見ると友里と藤尭が確認した通り、そのような様子は全く見られない。

 疑念を抱いていると、緒川と弦十郎はある事を確信した。

 

「さっきの警報……そういう事でしたか。」

「ああ。あいつ等メディカルルームからLiNKERを持ち出しやがった!」

「まさかmodel_Kを?!奏の残したLiNKERを……」

 

 model-K。かつて二課のガングニール装者だった亡き天羽奏が使用していたLiNKER。彼女もまた、マリア達と同じく、LiNKERを使用する事で後天的に装者となった。しかしこのmodel-Kはウェルが作った以前に作られた旧式であり、彼のような個人に合わせた優しいLiNKERとは程遠い、まさに劇薬そのものである。当然身体に掛かる負荷も段違いであり、調と切歌はそれも覚悟の上で使用した。

 

「ギアの改修が終わるまで!」

「発電所は守って見せるデス!」 

 

 だがそれでも二人は瑠璃の期待に応える為に、守るべきものを守る為に目の前の強敵と対峙する。

 

 

 

 同じ頃、メディカルルームで眠っていた響の意識が戻った。

 

 




次回、瑠璃VSジーク戦


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絆を信じて

 発電施設を襲っているのはミカとジークだけではない。残りの3体も他の発電施設を襲っていた。無制限で活動出来る装者が瑠璃のみだった為に、3体が襲っていた発電所はあっという間に陥落してしまった。これで残るは瑠璃、切歌と調が守る発電施設のみとなってしまった。

 3箇所の破壊を確認したキャロル。ファラからの報告を受ける。

『該当エリアのエネルギー総量が低下中。まもなく目標数値に到達しますわ。』

「レイラインの解放は任せる。オレは、最後に仕上げに取り掛かる。」 

 

 鎮座した玉座から立ち上がる。

 

「いよいよ終わるのだ。そして万象は、黙示録に記される。」

 

 いよいよキャロルが動き出そうとしていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ジークとの交戦を始めた瑠璃。瑠璃は先手必勝と言わんばかりに接近し、白槍を突き出し、ジークはそれをハルバードで受け流してから石突で瑠璃の鳩尾を狙う。瑠璃も、柄で受け止めてジークの腹に蹴りこもうとするが、それもハルバードの柄で防がれる。

 長物の戦いは、刃だけでなく全ての部位が武器となる為、その場でどのような攻撃が最善かを一瞬で判断しなければならない。瑠璃はその高い動体視力によって、その場で適切な攻撃と防御を繰り出すが、ジークはそれ全て防ぎ、攻撃に転じている。さらに瑠璃は黒槍を失っている為、バイデントの本来の力の半分を失った状態で戦わなくてはならなかった。

 対するジークは的確に人の急所を狙っている。だが瑠璃の的確な防御と、響戦の時のデータによって今の所は防ぎきれている。ジークは一度距離を取る。

 

「少しは出来るようだな。」

「私は負けられない……。皆から託されてるから。だから私は戦える……!」

 

 瑠璃の仲間の絆を信じる力によって支えられている。それがいかなる逆境も乗り越え、今回も乗り越えられると信じている。だがジークは

 

「愚かな……人間の絆など簡単に壊せる。そんな不確かなものを信じ切るお前の愚かさには心底呆れる。」

「一度繋がった絆は、簡単には壊れはしない!」

 

 瑠璃は再び接近して白槍を振り回すが、ジークはそれを柄で受け止め鍔迫り合いに持ち込む。

 

「どうかな?貴様らのすぐ近くに裏切り者がいる事を知っているはずだ。それでよく他人を信じられるな。」

 

 瑠璃は一瞬揺らいでしまった。ジークの指摘通り、キャロルに情報を流すスパイは未だに誰なのか分かっていない。その事実を突きつけられてしまった瑠璃は、鍔迫り合いを解いて、距離を取る。

 

 その様子は艦内のモニターでも映されているが、エルフナインは何かに気付いた。

 

「もしかして、あのオートスコアラーの能力は……!」

「何か気付いたのか?」

「はい。恐らくジークは、最初に展開していた領域、トポス・フィールドによって、範囲内にいる相手の動きを読んでいるものと思われます。」

 

 エルフナインは響の攻撃が全て避けられ、さらに背後を突こうとしても逆に返り討ちにあったというデータで、ある程度の推測していたのだが、今回で確信が持てた。

 

「瑠璃さんの動体視力は並外れた才能です。ですが、トポス・フィールドによってその動体視力による行動パターンをジークに読まれてしまえば、瑠璃さんの攻撃と防御を先読みして、その上から叩き潰されてしまいます。」

「そんなの後出しジャンケンみたいなものじゃん!そんなのに一体どうやって対抗すればいいの?!」

 

 輪がジークの能力の優位性に腹を立てるがエルフナインは冷静に教える。

 

「ジークの先読みを封じる必要があります。恐らくあの領域の範囲外であれば、それが出来なくなります。」

 

 すると弦十郎が瑠璃に指示を送る。

 

「瑠璃!距離を取って戦え!そいつの土俵の上では勝ち目はない!」

 

 通信を聞いた瑠璃は、一度距離を取る為に後退する。そして白槍の持ち方を変えるとそれを思い切り投擲する。

 ジークは叩き折ろうとハルバードを構えたが、何とジークの目の前で真っ直ぐ向っていた軌道が、直角に、変則的に変わった。

 

【Assault Pisces】

 

「何……?!」

 

 初めてジークが狼狽えた。瑠璃はフィールドの範囲外で槍の遠隔操作を行っていた。ジークは追尾する槍を弾き返すが、白槍が何度も変則的に襲い掛かる為、防御に徹する事で精一杯だった。

 思考を持たない無機物である槍が相手ではトポス・フィールドは無力である事が判明し勝機が見えて来た。

 

(エルフナインちゃんが繋いでくれた!)

 

 エルフナインを信じていたから、絆を信じたからこそトポス・フィールドの弱点に気付けた。このまま一気に畳み掛けようとした、まさにその時だった。

 

「「きゃあああぁぁ!」」

 

 調と切歌の悲鳴が聞こえ、振り返ると発電施設のソーラーパネルが破壊され、二人は倒れていた。

 

「二人とも!」

 

 だがそれに気を取られた事で遠隔操作が切れてしまう。白槍の奇襲攻撃が止まってしまい、ジークは攻勢に転じようとしていた。

 

 

 切歌と調はLiNKERのオーバードーズを利用してミカと戦ったが、ザババの刃のユニゾンを持ってしてもミカには届かない。その非情な現実に突きつけられていた。

 

「このままじゃ変わらない……変えられない……!」

「こんなに頑張っているのにどうしてデスか?!こんなの嫌デス……変わりたいデス!」

「まあまあだったゾ!でもそろそろ遊びは終わりだゾ!」

 

 ミカが切歌に目掛けて急接近してきた。

 

「バイラアアァァーー!」

 

 切歌は反応しきれず、カーボンロッドによってギアのコンバーターが砕かれた。そのまま倒された切歌はギアが分解され、一糸纏わぬ姿へと変わってしまう。

 

「切ちゃん!」

 

 倒された切歌に気を取られている隙に、ミカが後ろからカーボンロッドで殴ろうとするが、辛うじて防ぐ。

 

「お前のギアも壊してやるゾ!」

 

 イガリマのギアを壊された事を目の当たりにした瑠璃はジークとの戦闘を辞め、二人のもとへ駆けつけようとする。

 

「逃がすと思うな!」

 

 瑠璃の進行方向にアルカ・ノイズの大群を召喚してきた。だが瑠璃は真正面から戦わず、跳躍してアルカ・ノイズの群れを飛び越える。

 

「切歌ちゃん!」

「瑠璃先輩……!調が……調が……!」

 

 切歌を抱えて、今度は調の救援に駆けつけようとするが、既に調もまたギアを分解されてしまっていた。一糸纏わぬ姿で倒され、アルカ・ノイズが迫るが白槍を投擲して、調に襲い掛かるアルカ・ノイズを蹴散らし、調と切歌を守る様に立つ。

 

「やらせない!二人には手を出させない!私がいる限り!」

 

 既に体力は限界であるが、それでも瑠璃は己を鼓舞して奮い立たせる。

 

「ならば貴様から始末してやる!精々蝶のように舞い、無様に散って見せろ!」

 

 さらに追い打ちを掛けるようにアルカ・ノイズの数を増やす。

 

「せ……先輩……」

「大丈夫……二人は絶対に守ってみせるから……!」

 

「逃げて瑠璃!このままじゃアンタまで!」

 

 艦内で輪が必死に呼び掛ける。

 

「輪さん……。」

 

 振り返ると、今しがた目が覚めた響がいた。輪は両目尻に涙が溢れそうになっていた。

 

「どうしよう響……。このままじゃ瑠璃が……!」

 

 だが響はガングニールを破壊されてしまい、戦う事が出来ない。このままでは瑠璃を失ってしまう。それだけは嫌だった。

 

 それでも瑠璃は逃げずにアルカ・ノイズ倒していく。だがとうとう残った白槍も分解され、守るものがなくなってしまった隙に、アルカノイズの解剖器官がギアコンバーターに直撃してしまう。瑠璃もバイデントのギアを分解されその裸体が全て露わになって倒されてしまった。

 そこにジークが目の前に現れ、見下ろしていた。

 

「無様だな。その程度で私に勝つつもりだったのか?」

「がぁっ……!ぐぅっ……ぎぃぁ……!」

 

 ジークは無抵抗の瑠璃の身体を蹴り、仰向けにするとその腹を何度も殴って必要以上に痛めつけていた。

 

「やめて……これ以上先輩を……。」

 

 調の懇願もジークには届かない。彼女は好き好んで甚振っている。次第にエスカレートしていき、ジークは瑠璃の左肩を踏みつけ、徐々にその力を強めていく。

 

「ぎゃあああぁぁ……っ!ぁぁっ!!」

 

 瑠璃が悲鳴を挙げ、苦痛に苦しむ姿を、ジークの顔はその悦楽にふけっているかのように嗤っていた。

 

「もうやめてよ!これ以上瑠璃を傷つけないでよ!誰か……誰か瑠璃を……助けて……!」

 

 瑠璃に対する虐待に、輪は見ていられず助けを求めていた。

 

「もう少し貴様の悲鳴を聞きたかったが……お前にはもう用はない!」

 

 そうして瑠璃の身体を蹴り上げる。だが蹴り飛ばした先の下にはアルカ・ノイズの群れがいた。そのまま落ちてしまえば瑠璃は分解されてしまう。託されたはずなのに、無様にギアを分解されてしまっただけでなく、自分達を守ろうとした瑠璃が死んでしまう。

 

「誰か……先輩を……誰かああああああぁぁぁぁ!!」

 

 切歌の叫びが響き、瑠璃はアルカ・ノイズの餌食に……

 

「誰かだなんて、つれねえこと言ってくれるなよ!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえた。切歌と調はその方を向くとアルカ・ノイズは蹴散らされ、瑠璃は翼に抱えられていた。

 

「剣……?」

「ああ……振り抜けば、風が鳴る剣だ!」 

 

 翼とクリスが強化型シンフォギアを纏って、瑠璃を救ってくれた。瑠璃に託し、託された絆の力が実を結んだ。

 

 




瑠璃をもっと痛めつけてほしいと思った方、正直に手を上げてくださいw(イイゾーモットヤレー。)


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殲琴を奏でる

瑠璃の裸を隠せー!わー!


 救援に駆けつけたのは強化型シンフォギアを纏った翼とクリスだった。その証として、ギアのコンバーターの側面が二対の翼のような形状へと変わっている。3人の頑張りがシンフォギア改修を間に合わせ、瑠璃の絶体絶命の窮地を二人が救った。切歌と調は涙を浮かべつつ安堵した。

 

「お姉……ちゃん……クリス……。」

 

 瑠璃の視界は霞んで見えているが、大好きな姉と妹が映っていた。

 

「私達の分までよく頑張ったな、瑠璃。」

「後はあたし達に任せてくれ。」

「良かった……わた……し……」

 

 発電施設の防衛は叶わなかったがシンフォギアの改修まで持ちこたえた。託され、託した瑠璃の努力が実を結び、危機を救ってくれたのが嬉しかった。次第に瑠璃の瞼は閉じ、意識を失った。

 

「姉ちゃん……!」

「案ずるな。気を失っただけだ。それよりも……。」

 

 翼とクリスは瑠璃を痛めつけたジークとミカを睨んだ。

 

「さて、どうしてくれる?先輩!」

「可愛い妹をここまで嬲られたのだ。反撃程度では生温いな。逆襲するぞ!」

 

 

 麗しい姉妹愛がモニターに大きく映し出されている反面、一糸纏わぬ瑠璃の裸体も一緒に映ってしまっていた。

 

「男どもは見るな!!」

 

 マリアが怒鳴ると、男達はモニターから目を逸らしつつ目を瞑る。そして何故か未来が響の視界を手で覆う。

 

「うおおぉ?!な、何で私までぇ?!」

「あ、ごめん……!つい勢いで……」

 

 だが戦闘管制担当である藤尭はこれでは職務遂行出来ないので恥を承知で進言した。

 

「モニターから目を離したままでは、戦闘管制が出来ません!」

「何その必死すぎるボヤきは?!」

「3人が撤退するまでの間よ。それに、今の翼とクリスなら、それくらい問題ないはず」 

 

 藤尭の進言はマリアと友里によってあえなく消された。

 

「良かった……瑠璃……」

 

 瑠璃の生存を確認した輪は緊張の糸が解れたようで、脱力するように膝から崩れ落ちそうになるが、咄嗟にマリアが支える。

 

「大丈夫?」

「す、すみません……瑠璃が……瑠璃が……。」

 

 涙ぐんでいるのか上手く言葉で言い表せない。そんな輪をマリアはおかしかったのか、少し笑ってしまう。

  

 戦場ではジークが小手調べと言わんばかりにアルカ・ノイズを召喚する。顕現したアルカ・ノイズは命令通り、装者達を亡き者のしようと襲い掛かる。翼は刀でアルカ・ノイズを両断、クリスがボウガンで蜂の巣にする。解剖器官がアームド・ギアに触れても分解されない。そして、大群をなしていたアルカ・ノイズを殲滅させた事がギアの出力も上がっている事を証明している。Project IGNITEは成功を意味した。

 

「ここは二人に任せるデス!」

 

 切歌と調はそれぞれジャケットを羽織り、その柔肌を隠し、気を失った瑠璃を担いで撤退する。

 

「私達が足手まといだから……瑠璃先輩を……!」

 

 託されたのに果たせなかった。ジークに痛めつけられた瑠璃を、自分達は守れなかったばかりかただ倒れ伏して、見ている事しか出来なかった。瑠璃に羽織らせたジャケットの隙間から、僅かに見えた裸体に刻まれた傷が調の心を締め付ける。

 

 翼とクリスの重なる歌が、エルフナインが頑張って改修したシンフォギアがアルカ・ノイズを殲滅させた。次の標的はミカとジークだ。

 

「ほう……。」

 

 ジークは右手に握るハルバードを構える。翼は大刀から刀を抜刀すると、罰印に斬撃を放つ。

 

【蒼刃罰光斬】

 

 トポス・フィールドの範囲外で放たれた為、先読みは出来なかったがミカと共に斬撃を跳躍で避けるがその着地地点にクリスの大型ミサイルが2発発射される。

 

【MEGA DEATH FUGA】

 

 地に足がついていない状態では避けられない。だが巨大なミサイルを真正面から防ぐ事もできない。ミサイルは着弾し大爆発を起こした。

 流石の二体もこれをくらえばタダでは済まない……と思われていた。

 何と煙が巻き上がるとそこには突如現れたキャロルの魔法陣の結界によって防がれていた。

 

「面目ないゾ!」

「感謝します、マスター。」

「いや、手ずから凌いで分かった……。オレの出番だ。」 

 

 まさかの黒幕がここに現れた事には意表を突かれたが、絶好の好機であると踏んだ翼とクリスは不敵な笑みを浮かべる。

 

「全てに優先されるのは計画の遂行。ここはオレに任せてお前達は戻れ。」

 

 キャロルは二体に淡々と命令を下す。承知した二人はテレポートジェムを割り、根城であるチフォージュ・シャトーへと転移した。まさかの敵前逃亡という予想外の行動に驚くクリス。

 

「とんずらする気かよ?!」

「案ずるな。この身一つでお前ら二人を相手するぐらい、造作もないこと。」

「その風体でぬけぬけと吠える……!」 

 

 たった一人で二人の装者と、しかと生身でやり合うと言われているようなものだった。完全に挑発と言っても過言ではない。だが翼はそれに乗る事はなく、逆に返してやった。

 

「なるほど。形を理由に本気が出せなかったなどと、言い訳されるわけにはいかないな。ならば刮目せよ!」

 

 そういうと魔法陣から取り出した紫色の竪琴を取り出す。それをキャロルは弦を弾き、美しい音色を奏でる。

 だが本部のモニターには警報が発生していた。キャロルが奏でた瞬間、高エネルギー反応をキャッチしたからだ。原因は間違いなくキャロルなのだろうが、その正体が何なのかが掴めず、装者の中では年長者であるマリアですら困惑し、同じような者が後を絶たない。

 

「アウフヴァッヘン?!」

「いえ、違います!ですが非常に近いエネルギーパターンです!」

「まさか……聖遺物起動?!」

 

 だがエルフナインだけがそれを知っており、モニターを見ながら呟いた。

 

「ダウルダブラのファウストローブ……!」 

 

 ダウルダブラ、それがキャロルの持つ竪琴の名称である。ダウルダブラがローブと帽子を捨てたキャロルの衣服と1つになるように変形した。同時にキャロルの身体が一回り大きくなり、艶やかな肉体へと成長する。そしてダウルダブラはまるでシンフォギアのようなパワードスーツ、ファウストローブを纏った。

 

「これくらいあれば不足はなかろう?」

 

 翼の挑発を返すように成長した自らの胸を揉む姿を見せつける。そして、指先から琴の弦が二人を切り裂かんと襲い掛かる。

 翼とクリスは跳躍して避けたが、先程いた場所は容易く切り裂かれていた。

 

「大きくなった所で!」

「張り合うのは望むところだ!」

 

 翼とクリスが反撃に出る。クリスのガトリング砲を乱射し、翼が斬りかかる。だがキャロルは背部のユニットを展開させると左右から炎と水の波動を放つ。その威力は強化型シンフォギアをも凌駕していると言わんばかりに二人を吹き飛ばす。

 これ程の力の差を見せつけられた本部にいる者達は驚きを隠せなかった。そして、何故そんな力があるのかと藤尭が疑問を抱く。

 

「唄うわけでもなく、こんなにも膨大なエネルギー……。一体どこから……?」

  

 エルフナインが答えた。

 

「思い出の焼却です。」

「思い出の?」

「キャロルやオートスコアラーの力は、思い出と言う脳内の電気信号を変換錬成したもの。作られて日の浅い者には力に変えるだけの思い出が無いので、他者から奪う必要があるのですが……数百年を長らえて、相応の思い出が蓄えられたキャロルは……」

「それだけ、強大な力を秘めている……!」

 

 勘付いたマリアが言う。そこに輪がエルフナインに聞きたいことがあった。

 

「じゃあ……力に変わった思い出は、どうなっちゃうの?まさか……消えてなくなるの?」

「その通りです。キャロルは、この戦いで結果を出すつもりです!」

「そんな……。」

 

 輪はその恐ろしさに、顔が青ざめた。モニターに映る戦いを見守る者が多い中、マリアと緒川は輪の表情を見逃さなかった。

 

 キャロルの操る弦に苦戦を強いられる翼とクリス。単騎でたったこれ程の威力を自由自在に操れてしまうキャロルとの力の差は歴然である。翼の剣も、クリスの矢も、今のままでは届かない。痛みを押し殺して二人は立ち上がる。

 

「くそったれがぁ……!」

「大丈夫か……雪音?」

「アレを試すくらいにゃぁ……ギリギリ大丈夫ってとこかな……!」

 

 Project IGNITEによって強化されたシンフォギアはこれが全てではない。

 

「弾を隠しているなら見せて見ろ。オレはお前らの全ての希望をブチ砕いてやる!」

 

 キャロルは二人を見下すように言い放つ。クリスは翼に確認するように向きながら問う。

 

「つき合ってくれるよな?」

「無論、一人で行かせるものか!」

 

 二人はキャロルの方に向き合い、ギアのコンバーターに触れる。そして二人は声を重ねて叫ぶ。

 

「「イグナイトモジュール、抜剣!」」

 

 コンバーターの羽状のパーツをスイッチのように押し込むと、《ダインスレイフ》の音声が鳴る。コンバーターを取り外し、それを宙に投げるとコンバーターの外殻が正三角形の形をなすように展開され、その中央にはエネルギーの刃が現れる。その刃が発動主である二人にそれぞれ、胸を貫いた。禍々しいオーラが二人を覆うと、二人は声にならないうめき声を挙げながら苦しみだす。

 

「腸を掻きまわすような……これが……この力が……!」

 

 二人にその身に降りかかる憎しみや悲しみ、怒りといった負の感情は、闇となってそのまま肉体的にも、精神的にも蝕んでいく。

 

 イグナイトモジュール、それはエルフナインが考案したProject IGNITEによって強化されたシンフォギアに追加された決戦機能である。

 そもそも何故それが追加されたのか、この計画が発表された時に遡る。

 

「ご存じの通り、シンフォギア・システムにはいくつかの決戦機能が搭載されています。」

「絶唱と……」 

「エクスドライブモードか。」

 

 それがシンフォギアに搭載された機能である。だが絶唱には致命的な弱点がある。それは使用者の負荷を度外視する点についてである。これを発動して敵を倒せなかったら、自らにもダメージが及ぶだけでなく、止めを刺されるのは容易い。

 

「とはいえ、絶唱は相打ち前提の肉弾。使用局面が限られてきます。」

「なら、エクスドライブで……」

 

 瑠璃がならばと進言するが緒川に遮られる。

 

「いえ、それには相当量のフォニックゲインが必要となります。奇跡を戦略に組み込むわけには……」

「確かに……そうですね……。」

 

 エクスドライブは発動出来れば強力な切り札となる。だが発動には緒川の言う通り、膨大な量のフォニックゲインが必要となる為、発動はほぼ不可能と言ってもいい。

 だがただ出力を上げただけでは本当の意味で強化されたとは言えない。エルフナインが話を続ける。

 

「シンフォギアにはもう一つの決戦機能があるのをお忘れですか?」

 

 装者達には心当たりがあった。だがそれは決戦機能と言うには程遠いものである。

 

「まさか……『暴走』?!」 

「立花の暴走は、搭載機能などではない!」

「とんちきなこと考えてないだろうな?!」

 

 クリスはエルフナインの胸倉を掴む。暴走を利用して戦うなど容認出来るはずがない。だがエルフナインは冷静だった。

 

「暴走を制御する事で、純粋な戦闘力へと変換錬成し、キャロルへの対抗手段とする……これが、Project IGNITEの目指すところです……!」

  

 だがそれを扱うにはその身に降りかかる闇を制御するだけの心の強さが求められる。今二人の精神には、目を背けたくなるような苦しみに襲われている。

 

(あの馬鹿は……ずっとこんな衝動に晒されてきたのか……!)

(気を抜けば……まるで深い闇に……!)

 

 響が暴走した時、どれだけの苦しみを味わったかを、翼とクリスはこのような形で知ることになった。

 

「モジュールのコアとなるダインスレイフは、伝承にある殺戮の魔剣。その呪いは、誰もが心の奥に眠らせる闇を増幅し、人為的に暴走状態を引き起こします。」

「それでも、人の心と英知が破壊衝動を捻じ伏せる事が出来れば……」

「シンフォギアはキャロルの錬金術に打ち勝てます。」

 

 それがProject IGNITEの、世界を救う為の切り札である。




ちなみに今、瑠璃は意識を失ってますが、後々自分の裸体が映し出されたと知った瑠璃は恥ずかしさのあまりしばらく自分の部屋から出て来れなかったとか……


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抜剣!

今回の冒頭は一人称視点で進んだ後、普段通りの三人称視点に戻ります。


 私の夢、それは世界に羽撃いて、歌を届けたい。防人の歌ではなく、天まで昇る歌を唄いたい。だが私に流れる風鳴の血、それが呪いのように私を縛り付ける。幼き頃より、この身を剣として鍛え上げられた歌を聞いてくれる観客は、いつだって人ではなく、ノイズしかいない。

 お父様に褒めてほしくて、己を研いても褒められた事は一度もない。

 

『お前が私の娘であるものか。どこまでも役に立たぬ剣だ。』

 

 そして、この身が剣である限り、私は誰かを抱きしめる事すら叶わない。目の前に現れた奏を……この手で切り裂いてしまった。私は……こんな出来損ないの剣に……

 

 

 歌で世界を平和にする。それがパパとママの夢で……姉ちゃんと交わした約束だ。何度か遠回りしちまったけど、姉ちゃんと一緒に平和を掴み取ろうと頑張っている。姉ちゃんと同じ学校に通って、新しい後輩も入って来て、皆で何気ない日常を過ごしていたい。

 だけど……いつだってあたしは……守られてばかりだ……。バルベルデでパパとママを失って、姉ちゃんはあたしを庇ったせいで記憶を失うまで傷ついて……!こないだだって、あたしが不甲斐ないせいで姉ちゃんがまた傷ついて、後輩達に守られるしかなかった!

 あたしが弱いままでいるから……これじゃ本当に何もかも失っちまう!あたしのせいでみんなを地獄に落としちまう!嫌だ……そんなの嫌だ!

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 闇に苦しむ翼は、咄嗟にクリスの手を握る。そうしなければ、己を見失った獣へと堕ちてしまう。

 

「すまないな……。雪音の手でも握ってないと、底なしの縁に、飲み込まれてしまいそうなのだ……!」

「おかげで……こっちもいい気付けになったみたいだ……。危うくあの夢に溶けてしまいそうで……!」

 

 二人は辛うじて己を制御出来ていたが、その身に降りかかる闇を支配する事は叶わなかった。それを証拠に、禍々しい闇は消えたが、ギアはそのまま変わっておらず、二人は息絶え絶えの状態だった。

 その結果を見ていたキャロルは、そんな二人を見下ろしながら

 

「尽きたのか?それとも折れたのか?いずれにせよ、立ち上がる力くらいはオレがくれてやる。」

 

 そう言うと先程とは形の違う、まるで飛行船を思わせる様な姿をしている。だがその身体の下にある模様が、ハッチのように開くと、そこから比べ物にならないくらいの、大量のアルカ・ノイズが降り注いだ。しかも発電施設に限らず、その周域にまで及ぶ大群をなしている。それにより、一番外にいるアルカ・ノイズが近隣の街を攻撃し始める。被害を受けた所は赤い塵が舞い、それによる二次被害で爆発が起こる。

 

「いつまでも地べたに膝をついていては、市街への被害は抑えられまい。」

 

 このままではキャロルの言う通り、被害が増すばかりだが、今の二人にはこの大群をどうにか出来る状態ではない。残された道はイグナイトを制御するしかないが、さっきそれを決行した結果が今の状態だ。失敗は許されないが、成功出来る可能性など皆無に等しい。

 

「僕の錬金術では、キャロルを止めることは出来ない……。」

「大丈夫。可能性が全て尽きたわけじゃないから。」

 

 キャロルを倒す一手に届かない事を落ち込むエルフナインに、未来が語りかける。エルフナインの手には発電所が陥落寸前に改修に成功したガングニールのギアペンダントが握られていた。

 

「ギアも可能性も、二度と壊させやしないから!」 

 

 響は笑みを浮かべてそう言い切ると、弦十郎の方に向き直る。

 

「師匠!私出ます!」

「行けるのか?」

「はい!瑠璃さんが繋いで、エルフナインちゃんが直してくれたこのギアで!」

 

 響の澄んだその言葉を信じた弦十郎は出撃許可を出した。

 

 その移動方法は潜水艦から発射されたミサイルをサーフィンのように乗りこなして、戦場へ向かうという荒っぽいやり方だった。だが自らの脚より最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に戦地へと到着した。

 ちなみに、響が降りたミサイルはそのままアルカ・ノイズの群れに着弾して起きた爆発によって、少しではあるが数が減った。

 響の到着を確認したキャロルは不敵な笑みを浮かべる。

 

「ようやく揃うか。」

 

 響はミサイルから降りて着地すると、すぐさま翼とクリスの所へ駆け寄った。

 

「すまない、お陰で助かった。」

「とんだ醜態を見せちまったけどよ。」 

 

 響という希望が現れた事で、少しばかり二人の心に余裕に生まれたようだった。

 

「イグナイトモジュール、もう一度やってみましょう!」

「だが、今の私達では……」

 

 このままやっても再び失敗する。先程抜剣して、これ程までに困難である事を突きつけられてしまい、自信をなくしてしまう。だが響は

 

「未来が教えてくれたんです、自分はシンフォギアの力に救われたって。この力が、本当に誰かを救う力なら、身に纏った私達だって、きっと救ってくれるはず!だから強く信じるんです!ダインスレイフの呪いを破るのは……」

「いつも一緒だった、天羽々斬……」

「アタシを変えてくれた、イチイバル……」

「そしてガングニール!だから信じましょう!私達と、ギアの絆を!」

 

 絆、それは瑠璃がいつも大切にしているもの。人の受け売りではあるが、もしこの場に瑠璃がいたら同じ事を言っていただろう。

 

「そうだな。信じよう、胸の歌を、シンフォギアとの絆を!」

「この馬鹿に乗せられたみたいで格好つかないが、悪くねえ!」

 

 3人は並び立ち、叫ぶ。

 

「「「イグナイトモジュール、抜剣!」」」

 

 3人はギアコンバーターのウィング型のスイッチを押し、それを取り外して宙へと投げると、外殻が開きて、エネルギーの刃を展開する。そして、その刃が、それぞれの使用者の胸に突き刺さった。

 再びその身に降りかかる闇が、痛みが、苦しみが3人を蝕んでいく。この闇を支配しない限り、キャロルに勝つ事も、世界を救う事だって出来ない。

 

 ブリッジではマリア、そして本部に戻りまともな衣服を着用した調と切歌が叫ぶ。

 

「呪いなど斬り裂け!」

「撃ち抜くんデス!」

「恐れずに砕けばきっと……!」 

 

 未来と輪は何も言わなかったが、未来は必ず出来ると信じ、輪は3人が呪いに打ち勝つ事を祈っていた。

 

(未来が教えてくれたんだ……!力の意味を……!背負う覚悟を……!)

 

 今の響に迷いはない。

 

(だからこの衝動に塗りつぶされて……)

(((なるものかあああああああぁぁぁぁぁ!!)))

 

 すると、3人の身を覆う闇がパワードスーツとの融合を果たすように漆黒へと変わり、ギアの装甲も白かった部分が、禍々しい黒へと変えた。

 彼女達の声を重ねるように唄う。

 

「モジュール稼働!セーフティタウンまでのカウント、開始します!」

 

 藤尭が報告すると、モニターに映し出されていた『999』の数字が減少し始める。これはイグナイトを稼働できる制限時間であり、これが0になるといかなる状況であっても強制解除されてしまう。故に一刻も早く勝負をつける必要があった。

 

 イグナイトモジュールを制御した3人を待っていたかのように笑い、アルカ・ノイズを大量に召喚する。

 

「検知されたアルカ・ノイズの反応……その数3000?!」

 

 友里はその数に驚くが、3人は怯む様子すらない?

 

「たかだか3000!」

 

 響が言い切ると、真っ先にアルカ・ノイズの群れに殴りこむ。だがその群れに飛び込むと、拳を一振りでその場にいたアルカ・ノイズ達は塵になった。

 翼も、刀を頭上から振り下ろし、蒼色の斬撃を放ち、後ろにいたアルカ・ノイズごと両断する。

 

【蒼ノ一閃】

 

 クリスは腰のアーマーを展開させた小型ミサイル、背中に4本の大型ミサイルを構え、一斉掃射させる。

 

【MEGA DETH QUARTET】

 

 全員が全員、通常の形態より大幅に出力が上がっており、その力を存分に発揮する3人。程なくして3000のアルカ・ノイズは殆どが塵へと還る。

 

「臍下あたりがむず痒い!!」

 

 響達を見て笑うキャロルは、響達を叩き潰さんと弦を操る。響達はすぐに避け、その場は粉砕されるが、そこに自身が召喚していたアルカ・ノイズも葬る。さらにクリスに向けて波動を放ち、クリスはすぐさまそこから退避する。

 

「強大なキャロルの錬金術……ですが、装者たちもまたそれに対抗できる力を……!」

 

 緒川の言う通り、さっきまでは手も足も出なかった。だが今は互角に戦えている。誰もがキャロルに勝てると確信していた。だが未来は皆が考えているものとは少し違った。響の事だ。

 

(それでも響は、傷つけ傷つく痛みに、隠れて泣いている。私は何もできないけれど……響の笑顔も、その裏にある涙も、拳に包んだ優しさも……全部抱きしめて見せる。だから……)

「負けるなあああああぁぁぁ!!」

 

 キャロルのダウルダブラの弦が、響の右腕に絡みついたが、それを逆に引っ張る事でキャロルを手繰り寄せた。急に引っ張られたキャロルが体勢を崩すのを見逃さなかった翼は斬撃を、クリスは結晶の矢を放つ。キャロルはそれらを弦を纏め、盾のようにそれを防ぐが響の接近を許してしまい、キャロルの鳩尾に殴り込み、そのまま押し込んで、施設の壁に激突させた。

 イグナイトの高火力をまともに受けたキャロルのファウストローブは所々破けているが、響は全てのブースターを点火させた飛び蹴りをキャロルにくらわせると、大爆発を起こした。

 ダメージが大きすぎたのか、ファウストローブは解除され、キャロルの身体も幼い状態に戻っていた。この勝負、響達の勝ちが決まった。

 

「勝ったの……?」

「デスデス、デース!」

 

 ブリッジにいる調と切歌波喜び合い、マリアと輪、そして未来は安堵する。

 

「キャロルちゃん……。どうして世界をバラバラにしようなんて……。」

 

 響は痛ましい姿になったキャロルに歩み寄る。

 

「忘れたよ。理由なんて……。思い出を焼却……戦う力と変えた時に……。」

 

 キャロルと言えど、思い出を力に変えてしまえばその記憶は失われてしまう。強大でありながら、悲しい力である。

 

「オレに勝った褒美だ……一つ教えておいてやる……。裏切り者はすぐ近くにいる……。」

 

 キャロルは親切で教えたわけではない。誰かと繋ぐ事で強くなれる響を嘲笑う為に教えたのだ。

 

「その呪われた旋律で誰かを救えるなどと思いあがるな……。」

「え……?」

 

 キャロルは奥歯を噛みしめるとそこに緑色の光が一瞬発した。その瞬間にキャロルは倒れ、その身体は黒く染まり、炎で焼かれた。

 

「キャロルちゃん?!キャロルちゃん!!」

 

 キャロルは自らの意思で自決した。響とは決して相容れないと、そう告げるように。

 

 キャロルが死んだと同時に、チフォージュ・シャトーの広間では、オートスコアラーの頭上に、それぞれの色の垂れ幕が降りていた。

 

「呪われた旋律……誰も救えない……。そんなことない……そんな風にはしないよ……キャロルちゃん……。」

 

 キャロルの身体を焼く炎の煙は空へと昇り、響はそれを見ながらそう告げた。

 

 奇しくも同じ時に、メディカルルームで眠っていた瑠璃の意識が戻った。




今回、瑠璃の出番ただ目覚めただけ!

もしこの小説のR-18版を作ったら見る人はいるのだろうかと考えてしまう私……。
(まあそもそも作れる程の文章力無いんですがw)


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ビーチクライシス

いよいよ水着回!瑠璃と輪はどんな水着になるのだろうか?


 響達がイグナイトモジュールを制御し、キャロルが自決したあの戦いから数日、瑠璃はジークによって負傷した肩は治り、今まで通りの訓練が出来るようになっていた。その間に破壊されていたバイデントのギアも改修済みであり、それを預かっていたクリスから受け取った。

 

「怪我も治って、バイデントも復活だな。良かったな姉ちゃん。」

「うん。」

 

 瑠璃は受け取ったバイデントのギアペンダントを握りしめる。

 そして壊されたといえば……

 

「壊されたイガリマと……」

「シュルシャガナの改修完了デス!」

 

 調と切歌がそれぞれのギアが改修され、戻って来た事を共に喜び合う。

 

「機能向上に加え、イグナイトモジュールも組み込んでいます。そしてもちろん……。」

 

 エルフナインが着ているワンピースのポケットからギアペンダントが出された。

 

「復活の……アガートラーム……。」 

 

 フロンティア事変で半壊したアガート・ラームのギアは正式には改修ではなく、新造されたものである。そのペンダントが今、マリアの手に戻った。

 

「セレナのギアを……もう一度。この輝きで、私は強くなりたい。」

 

 それがギアを手にしたマリアの新たな決意である。そこに弦十郎が割って入るように言う。

 

「うむ。新たな力の投入に伴い、ここらで一つ特訓だ!」 

 

「「「「「「「特訓?!」」」」」」」

 

 装者達が一斉にオウム返しするように言う。

 

「オートスコアラーとの再戦へ向け、強化型シンフォギアと、イグナイトモジュールを使いこなす事は急務である!近く、筑波の異端技術研究機構にて、調査結果の受領任務がある。諸君らはそこで、心身の訓練に励むと良いだろう!」

 

 という弦十郎の案により、装者達は茨城県の筑波にある政府保有のビーチに来ている。

 

 

(強くなりたい……。翻弄する運命にも、立ちはだかる脅威にも負けない力が欲しくて、ずっと藻掻いて来た……。求める強さを手に入れる為……私はここに来た!)

 

 そう言うと水着姿のマリアはグラサンを取って太陽を見上げる。 

 

「おーい。マリアー。」

「何をやってるデスかー?」

 

 切歌と調の呼び掛けにも応じないくらい、気合が入っている。傍から見ていた輪が苦笑いする。

 

「ねえ瑠璃。何かマリアさん、随分と気合入ってない?」

「確かにそうだね……。お姉ちゃんの方も本当に特訓だと思ってるみたいだよ。」

 

 瑠璃と輪は、ビーチパラソルの下に敷いたレジャーシートに座って皆が遊んでいるのを眺めている。 

 ちなみに輪と未来は装者ではないが、特別に同行が許され一緒に来ている。

 

「まあ、私達は私達でのんびり楽しむとして……やっぱあの水着の方が良かった気がするなぁ……」

「無理だよ!あんなに布が少ない水着着れないよ!」

 

 瑠璃の水着は藍色のレースアップタイプの水着であり、クリスが選んだものである。輪も選んでいたのだが、それが布の面積の少ないマイクロビキニであり、試着室で着た時、中で盛大な悲鳴を挙げた。

 これにはクリスにこっぴどく怒られてしまい、クリスが選んでくれたこの水着になった。

 輪の方はオレンジと白のストライプ模様のタンキニタイプである。

 

「おーい姉ちゃーん!こっち来いよー!」

 

 浮き輪に乗って波に揺られているクリスが手を振って瑠璃を誘う。

 

「まるでクラゲみたいだなぁ……。」

 

 そう呟きながら瑠璃はクリスの方へと向かう。ちなみにクリスは泳げるのだが、響のように体力があるわけではないのでこうしてのんびり波に揺られている。

 

「楽しそうだね。」

「姉ちゃんと海に行くなんて、もう随分前だったからな。その時はパパとママと一緒にさ。あ……覚えてないか?」

「ううん。それは覚えてるよ。覚えてないのは……バルベルデで……パパとママが亡くなった後の事……あの日以降何でクリスと離れ離れになったのか……覚えてないんだ……。」

 

 瑠璃が体験した惨劇、あれを思い出させて良いのか?もし思い出したら、大好きな姉が壊れてしまうんじゃないのか?クリスは心の中で己に問う。

 

「けど、今はみんなとこうして海で遊びにいるんだから、楽しまなきゃね。」

「ああ……そうだな。」

「というわけでこっち向いてー!」

 

 声がした方を姉妹は同時に振り向くと、輪がデジタルカメラで写真を撮っていた。

 

「なっ!」

「お前!」

「良いじゃん良いじゃん。この姉妹は体型が良いから瑠璃の大人の水着、そしてクリスの可愛らしい姿……うっひょ〜たまんないな〜!」

 

 後半のセリフは欲望丸出しのセクハラ親父になりながらも連写する。また勝手に撮られたと分かったクリスは顔を赤らめ、カメラをぶん取ろうと腕を伸ばすが浮き輪に乗っている事を忘れている。

 

「お前なあぁぁ!今すぐそれを消せぇ!」

「悔しかったら取ってごら~ん。」

 

 輪は後ろに下がりながらカメラを持つ手を高く上げている。浮き輪に浮いている状態では取れるはずがないのに、クリスは浮き輪に乗っている事を忘れている。 

 

「ちょっとクリス!慌てて立とうとしたら……」

「うわぁっ!」

「え?」

 

 バランスを崩したクリスは転び、ついでに手を伸ばした方にいた瑠璃を押し倒してしまう。砂浜の方まで交代していたという事もあり、波飛沫もそこまでではなく、溺れる事は無いが代わりにとんでもない光景に出くわした輪。

 

「大丈夫か姉ちゃ……っ!」

「だ、大丈夫……ひゃぁっ!!」

「ちょっと、二人とも大丈……ヒョっ?!」

 

 何と押し倒された瑠璃の豊かな果実を、クリスの右手が鷲掴みにしていた。瑠璃の胸は妹であるクリスと同じ大きさであるが、クリスの手の指の間からはみ出そうになり、押し返そうとする弾力とそれに反する柔らかさが伝わる。

 姉妹の顔は真っ赤になり、輪はその姿を写真に収めたが、女の子同士でも刺激的すぎたようで鼻血が出ている。

 

「こ、ここ……これは……お、お……お宝……」

 

 ワナワナと小刻みに震えるクリス、そして……

 

「と……撮るなパパラッチがああああぁぁぁ!!」

 

 火山が噴火したかのように怒り、輪を追いかけ回す。輪は「逃げろ逃げろ〜!」と叫びながら逃げている。一方残された瑠璃は起き上がってから、未来に声を掛けられるまで顔が真っ赤なまま座り込んでいたという。

 

 同じ頃、藤尭と緒川は異端技術研究機構にやって来ていた。その職員によって部屋の中央には光の球体が表示されている。

 

「これは……?」

「ナスターシャ教授がフロンティアに遺したデータから構築したものです。我々は便宜上、フォトスフィアと呼称しています。実際はもっと巨大なサイズとなり、これで約4000万分の1の大きさです。」

 

 フォトスフィアはまるで地球儀のように陸や海を表示している。違いがあるとすれば所々、線のような光ものが表示されていた。

 

 

 任務を終えた緒川は翼に通信をかける。

 

「調査結果の受領、完了しました。そちらの特訓は進んでいますか?」

『くッ……!なかなかどうしてタフなメニューの連続です!』

 

 通信機越しだと何か切羽詰まったような声だった。 

 

 『後でまた連絡します!詳しい話はその時に!』

 

 翼がそう言うと通信が切られてしまった。どんな特訓なのかと考える緒川だったが……

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さあ、続きと行こう!」

 

 実際はビーチバレーをしているのである。響の提案で始まったビーチバレー大会、これは本来肩の力を抜く為のレクリエーションなのだが、その中で翼だけがこれを特訓だと思い込んでいた。そのせいか翼の出る試合は本気度が増し、白熱していた。

 

「頑張ってお姉ちゃん!クリス!」

「ああ、任せろ!」

「おらおら〜!バッチ来〜い!」

 

 瑠璃の声援が翼とクリスのコンビを元気づける。ちなみに輪は撮影係を務めている。

 その二人と対するはマリアとエルフナインのコンビであり、エルフナインのサーブから試合再開する。

 

「それっ!」

 

 エルフナインはボールを高く投げて上からサーブを狙うが、手はボールにかすりもせずに空振り、ボールは砂浜に落ちる。

 

「なんでだろう?強いサーブを打つための知識はあるのですが……実際やってみると全然違うんですね。」

 

 マリアはボールを拾ってエルフナインに渡す。

 

「背伸びをして、誰かの真似をしなくても大丈夫。下からこう……こんな感じに。」

 

 マリアは下から打つやり方を真似をすると、エルフナインは縮こまる。

 

「はうぅ……ずびばぜん……。」

「弱く打っても大丈夫。大事なのは、自分らしく打つことだから。」

 

 マリアのアドバイスを受け、鼓舞されたエルフナインは気合を入れる。

 

「はい!頑張ります!」

 

 

 それからというもの、全員が白熱した試合を繰り広げたせいで全員疲労困憊となってしまう。

 それぞれビーチチェアやレジャーシートにその身を委ねる。

 

「うぅ……もう動けないデス……。」

「気が付けば特訓になっていた……。」

「何処のどいつだぁ?途中から本気になったのはぁ………。」 

「ガチで勝ちに来てたよね……みんな……。」

 

 活発な輪ですらヘロヘロになっている。ちなみに輪が試合に出ていた時は、未来、調、マリアに撮影を頼んでおり、自分が出ていた試合もバッチリ取れていた。

 ここで響がみんなに呼び掛ける。

 

「所でみんな、お腹が空きません?」

「だがここは政府保有のビーチ故……」

「一般の海水客がいないと、必然売店の類も見当たらない……。」

 

 そうなると近くのコンビニへ買い出しに行かねばならない。だが全員で行く必要はない。となれば買い出しに行く人を決める為にやる事と言えばアレである。全員が1箇所に円を描くように集まる。

 

 コンビニ買い出しジャンケンポン!

 

 それぞれが手を出す。一瞬静寂に包まれるが

 

「あはははは!翼さん変な直出して負けてるし!」

「ホントだ!何ですかそのチョキ!」

「変ではない!かっこいいチョキだ!」 

 

 親指までしっかり立てており、チョキというより指鉄砲である。

 他には調、切歌、輪がチョキを出し、後はみんなグーである。

 

「斬撃武器が……」

「軒並み負けた……デース。」

 

 翼、調、切歌が扱うギアはどれも斬撃武器である。ちなみに瑠璃の槍は斬撃というより、どちらかと言えば穿つ方である為、斬撃武器にはカウントされない。

 

「好きな物ばかりでなく、塩分やミネラルを補給出来るものね。あと翼。」

「どうした?」

 

 翼にサングラスを掛けてあげる。

 

「人気者なんだから、これ掛けていきなさい。」 

「母親のような顔になってるぞ。マリア。」

 

 4人は買い出しにでかけて行った。瑠璃はレジャーシートに座って休憩する。すると輪が持ち込んだ小さな鞄の口が開いていた。恐らく財布を持っていく時に開けっ放しにしていたのだろう。

 

「もう輪ったら……。」

 

 その口を閉めようとして中身も見てしまうが、あるものか目に留まった。

 

「何これ?」

 

 取り出したのはピンク色の容器に何か液体のようなものが入ったアンプルだった。化粧水か何かかと思った瑠璃はそのまま戻して、鞄の口を閉めた。

  

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 買い出しに出かけた4人はコンビニで買い物を済ませて、そのまま店から出る。ただ切歌の持つコンビニ袋にある中身は殆どお菓子が占めていた。

 

「切ちゃん自分の好きなのばっかり……。」

「こういうのを役得と言うのデース!」

 

 二人のやり取りを微笑ましく見ている翼と輪。

 

「まるで妹みたいだなぁ。」

「マリアが母親のようになるのも、頷ける。」

「そう……ですね。」

 

 輪は歩みを止め、既にこの世にいない妹を思い出す。もし生きていたら、調と切歌と同じ年齢だった。二人のやり取りが、輪の記憶からあの悲劇が蘇る。

 

「出水?」

「へっ……?」

 

 翼の声で輪は我に返る。気がつくと隣にいたはずの翼が既に先に行ってしまっていた。

 

「どうした?何か呆けていたようだが……」

「いえいえ、何でもありませんよ!」

 

 輪は慌てて追いかけ、再び3人と離れないように同じペースで歩く。

 

「そうか?何もなければいいが……ん?」

 

 すると4人はあるものが目に留まった。それは社が巨大な氷塊によって破壊されていた。近隣住民は台風が原因と言っていたが、台風ごときではこんなにはならない。十中八九犯人は水や氷を操るオートスコアラーのガリィではないかと考え、嫌な予感を抱く。

 

 その頃、待機組はみんな翼達の帰りを待っていた。だがエルフナインは先程から特訓ではなく遊んでいる事に懸念を示していた。

 

「皆さん、特訓しなくて平気なんですか?」

「真面目だなぁ、エルフナインちゃんは。」

 

 響は呑気な声で返すが、エルフナインはそれでも特訓をするよう呼び掛ける。

 

「暴走のメカニズムを応用したイグナイトモジュールは、三段階のセーフティに制御される危険な機能でもあります!だから自我を保つ特訓は……」

 

 だがそれは突如噴き出した水柱の上にバレリーナのように佇むガリィが現れた事で遮られてしまう。

 

「ガリィ?!」

「どうしてここに?!」

 

 エルフナインと瑠璃はガリィが現れた事に驚いた。キャロルは既に亡く、主無しで襲撃した事、さらにここら政府保有のビーチであり、その存在は徹底的に隠されている為、知られる事はほとんどない。それをこうもピンポイントでここに現れた。

 

「さあねぇ〜?それなら裏切り者に聞いてみたらいいんじゃな〜い?それより、夏の想い出作りは充分かしら?」

「んなわけねーだろ?!」

 

 走り込んで来たクリスが言い返す。そして響、クリス、瑠璃は起動詠唱を唄う。

 

 Killter ichaival tron……

 

 それぞれギアを纏った装者はガリィと対峙、クリスがクロスボウの矢を放ち、瑠璃が二本の槍を携えてガリィに向けて駆け出す。

 

「マリアさん!今のうちに未来とエルフナインちゃんをお願いします!」

「分かった!」

 

 マリアは未来とエルフナインを安全な場所まで避難させる為に、二人を伴って走る。

 それを見たガリィはニヤリと笑いながら、クリスの矢を受けるが、それは水となって消えた。

 

「偽物?!っ!」

 

 バイザーが反応して、振り返ると後ろからガリィが現れ、氷の手刀を振り下ろす。瑠璃はそれを黒槍の柄で受け止め、白槍でガリィを貫くが、これも水となって消えてしまう。

 

「これも……?!」

 

 再びバイザーが反応をキャッチしたが、今度の反応はアルカ・ノイズの出現である。

 

「飽きもせずにまた!」

 

 クリスはガリィがアルカ・ノイズを召喚した事に文句言いながら、クロスボウを構え、回転しながら発射したことで周囲のアルカ・ノイズ達を文字通り蜂の巣にする。

 響は突き進みながらアルカ・ノイズを殴り倒し、瑠璃も黒槍と白槍の穂先からエネルギー波を放つ。

 

【Shooting Comet:Twin Burst】

 

 放たれたエネルギー波はそのままアルカ・ノイズを貫き、その後ろにいる個体も纏めて穿つ。

 

 買い出しに行っていた翼達もビーチから発せられた爆発を目撃する。

 

「あれは……!」

「もしかすると、もしかするデスか?!」

「行かなきゃ!」

 

 遠目でもその爆発が分かる為、子供達は不安になる。調と切歌はすぐさま現場へと向かう。残った翼と輪は近くにいた男に声を掛け避難誘導をお願いする。

 

「ここは危険です、子供達を安全な所にまで……」

「冗談じゃない!どうして俺がそんな事を!」

「はぁっ?!」

 

 何と男はそのまま走り去ってしまった。男の素早い逃げ足に翼は呆れ、輪はその身勝手さに憤慨するが、それよりも子供達が怯えていた。

 

「ここは私が。翼さんはみんなの所へ。」

「心得た。ここは頼むぞ。」

 

 翼はすぐさまビーチへと向かい、輪は子供達を守る為に避難誘導をする。この時、翼の背を見届けていた輪の眼差しはどこか睨んでいるようにも見えた。




ちょっとエッな成分も含めた水着回でした。
そして何気に重大なシーンも含んでいます。


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弱さを受け入れる

今回はいつもより長めになってます。


 楽しい海水浴は突如現れたガリィによって終わりを告げた。呼び出したアルカ・ノイズを葬った響、クリス、瑠璃。だが瑠璃はアルカ・ノイズを殲滅させた直後、バイザーの反応が無い事に気づく。

 

「反応が無い……オートスコアラーがいない!」

「何だと?!」

「まさか……!」

 

 瑠璃は急いで槍を連結させて、それに跨ると遠隔操作でそのまま低空飛行で飛んでいく。ここにガリィがいないという事は、マリアの方へ向かった事が予想された。しかも未来とエルフナインもいるのでこのままでは2人の身にも危険が及ぶ。クリスと響も急いでその後を追う。

 

 マリアは未来とエルフナインを安全な所まで連れていく為に走っていたが、すぐ目の前にガリィが現れてしまった。

 

「見つけたよ、ハズレ装者!さあ、いつまでも逃げ回ってないで!」 

 

 ガリィは左手に形成した氷の手刀でマリアに攻撃を仕掛ける。

 

 Seilien coffin airget-lamh tron……

 

 だが起動詠唱を唄いながらそれを避けたマリアは左手でガリィの顔面を殴った。そのままマリアは新生された銀腕、アガート・ラームを纏った。

 

(銀の……左腕?!)

「マリアさん、それは?!」

「新生アガートラームです!」

 

 顔面を殴られたガリィは、アルカ・ノイズを召喚する石をばら撒き、砕かれた場所からアルカ・ノイズを召喚する。

 

「あの時みたく失望させないでよ?」

 

 マリアは左腕の篭手から取り出した短剣を持ち、頭上に同じ短剣を錬成、手に持った短剣を除いて全て放つ。

 

【INFINITE † CRIME】

 

 放たれた短剣はアルカ・ノイズに刺さり、赤い塵へと変えた。手に持った短剣を逆手に持って突撃、マリアを迎え撃つアルカ・ノイズを斬っていく。

 予めLiNKERを打っており、前回のように途中で適合係数の低下による強制解除はないだろうが、それでも時限式であるのには変わらない。故に早めに対処する必要がある。マリアは短剣を蛇腹剣へと可変させて、その変則的な軌道によって、周囲にいるアルカ・ノイズを全て斬った。

 

【EMPRESS † REBELLION】

 

「うわー私負けちゃうかもー。ギャハハハハハ!」

 

 いかにも棒読みのセリフで、マリアの戦いぶりを見ていたガリィは高笑いをする。

 アルカ・ノイズがいなくなれば、残るターゲットはただ一人となった。マリアはそのままガリィに斬りかかる……

 

「なんて……っ?!」

 

 マリアの斬撃をヒラリと避け、氷の手刀が襲い掛かろうとするが、飛んできたバイデントの黒槍に弾かれる。

 

「またあいつかよ!」

 

 飛んできた方、マリアの後ろに瑠璃がいた。危機を脱したマリアは一度距離を取る。

 

「ありがとう、助かったわ。」

「いえ……。それよりも、あれはどうしますか?」

 

 黒槍を遠隔操作で手元に手繰り寄せ、それを手にする瑠璃。あれとはガリィの事を指している。

 

「そうね。このまま戦っても勝ち目はないわ。それに、奴の狙いは私一人みたい。あなたは二人をお願い。」

 

 マリアは未来とエルフナインの方に見やり、瑠璃は二人を守る様に立つ。これでマリアとガリィの1対1という構図になる。それがガリィが望む展開なのだろうが、マリアもそれは承知の上だ。

 

「邪魔者がいなくなった所で、聞かせてもらうわ。」

 

 ガリィの挑発じみたセリフにマリアは応えるように、ギアのコンバーターに触れる。

 

「この力で決めて見せる!……イグナイトモジュール!抜剣!」 

 

 コンバーターのウィング型スイッチを入れ、それを取り外して宙に投げるとコンバーターの外殻が開かれ、エネルギーの剣が展開される。そしてそれはマリアの胸を突き刺し、マリアに闇が襲い掛かる。

 

「弱い自分を……殺すんだぁ……!」 

 

 その身に襲う闇に抗い、支配しようとするが全身は真っ黒に染まり、眼は赤く光る獣へと堕ちた。瑠璃はその姿をフロンティア事変で響が変貌した姿で見覚えがあった。

 

「まさか……マリアさんが……!」

 

 マリアは破壊衝動の闇に飲まれたということは、イグナイトモジュールは失敗した。黒い獣と堕ちてしまったマリアは、破壊衝動のままにガリィに襲い掛かる。その姿は先程の美しい技とはかけ離れた、ただ暴れ狂うだけの狂戦士である。

 

「いやいや、こんな無理くりなんかでなく、歌ってみせなよ。アイドル大統領!」 

 

 イグナイトを使用せずともマリアの攻撃を余裕でかわせたガリィが相手では、当然勝てるわけもなくあっという間に叩きのめし、ねじ伏せた。

 

「マリアさん!」

 

 倒されたマリアはギアを纏っていない、水着姿に戻っていた。

 

「ハズレ装者にはガッカリだ。」

 

 そう言うとテレポートジェムを出して、それを投げて割ってチフォージュ・シャトーへと転移した。

 

(今のって……!)

 

 ガリィが転移する時、驚愕する瑠璃。そこに響とクリスが合流した。

 

「姉ちゃん!こいつはどういうこった?!」

「マリアさん!しっかり!」

 

 響とクリス、エルフナインが倒れたマリアに駆け寄る中、瑠璃は立ちつくしたままだった。

 

(あれって……。でも……それってつまり……)

「瑠璃さん?」

「え……?」

 

 後ろから心配する未来に声を掛けられた。

 

「大丈夫ですか?」

「ううん……何でもないよ……。」

 

 口ではそう言う瑠璃だが、それでも瑠璃の中で生まれてしまった疑念が拭いきれない。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ガリィは不機嫌な様子でチフォージュ・シャトーに帰還した。原因はマリアとの戦いにあるのは間違いない。

 

「派手に立ち回ったな……。」

「目的ついでにちょっと寄り道よ。」 

「自分だけペンダントを壊せなかったのを引きずってるみたいだゾ。」

 

 レイアの問には素っ気なく返したが、ミカが煽るように言った。

 

「うっさい!だからあのハズレ装者から一番に毟り取るって決めたのよ!」

 

 どうやら図星だったようで声を荒げている。

 

「本当、頑張り屋さんなんだから。私もそろそろ動かないとね。」

 

 唯一ファラだけが優しく微笑みながらそう言う。ジークは興味無いのか何も告げない。

 ガリィは5つの垂れ下がっている幕を見上げ睨みつける。

 

(一番乗りは譲れない……!)

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 外は既に夕日が差し込む頃、マリアを除いた装者、未来と輪は研究機構の一室に集まっていた。キャロルは既に死亡したにも関わらずガリィが襲い掛かった事が不可解であり、謎は深まるばかりだ。そして調が気になる事を挙げた。

 

「どうして優位に事を運んでも、トドメを刺さずに撤退を繰り返しているのだろう……。」

「言われてみれば、とんだアハ体験デス!」

 

 気になるのはそれだけではない。イグナイトを制御しきれず暴走した挙げ句、叩き潰されたとはいえ、ガリィによって救われたようなものだった。さすがのマリアも堪えただろう。

 だが瑠璃は今話していた事に集中出来ていない。一人だけ下を向いていた。

 

 先程の戦闘の負傷でマリアは頭に包帯を巻いていた。風に当たる為にビーチに一人でいるのだが、先程の戦闘で自分の無力さを突きつけられた事に落ち込んでいた。

 

 

(私が弱いばかりに……魔剣の呪いに抗えないなんて……。)

「強くなりたい……。」

 

 無力さに震えながら呟く。すると足元にボールが転がり込んできた。ボールを広い、前を見るとそこにはエルフナインがいた。彼女はすぐさまマリアの前まで駆け出す。

 

「ごめんなさい。皆さんの邪魔をしないよう思ってたのに……。」 

「邪魔だなんて……。練習、私も付き合うわ。」

 

 エルフナインは謝るがマリアはそんな事は思っていなかった。優しく微笑み、エルフナインのサーブの練習に付き添う。

 エルフナインはあれから何度も何度もサーブの練習していたのだ。まだ上手ではないが、最初の時と比べると少し飛ぶようになったくらいである。だがそこまで行けたのは彼女が頑張って努力したからである。

 

 

「おかしいなぁ。上手くいかないなぁ。やっぱり……」

「色々な知識に通じているエルフナインなら、分かるのかな……。」

「え?」

 

 マリアの独り言が聞こえたエルフナインは練習をやめ、ボールを手に歩み寄る。

 

「教えてほしい。強いって……どういう事なのかしら?」

「それは……マリアさんが僕に教えてくれたじゃないですか。」

 

 思わぬ答えに驚くマリア。自分が何を教えたのか、見当もつかなかった。だがその二人を弄ぶように巨大な水飛沫からガリィは再び現れた。

 

「お待たせ、ハズレ装者。」

 

 敵の出現に、マリアはエルフナインを守る様にガリィと対峙、包帯を解いてそれを投げ捨てる。

 

「今度こそ歌ってもらえるんでしょうね?」

 

 ガリィの問に、マリアはハッキリと答えを出せなかった。再び無様を晒す事になるのかと、あの時の戦いを思い出すと嫌というほど考えてしまう。

 

「大丈夫です!マリアさんならできます!」

 

 エルフナインの励ましが勇気となり、マリアは起動詠唱を唄う。

 

 Seilien coffin airget-lamh tron……

 

 再びアガート・ラームを纏い、短剣を構えてガリィにリベンジを挑む。

 

「ハズレでないのなら!戦いの中で示して見せてよ!」

 

 挑発するようにアルカ・ノイズの群れを召喚する。

 

 再びガリィとアルカ・ノイズが現れた事を知った装者一同はすぐにマリアを救う為に部屋から出て、ビーチへと駆け出す。未来、輪、藤尭、緒川もこの場から走り出すが、最後尾で走っていた緒川は、自分達が走っていた廊下に風が部屋に吹き込んでいたのを不自然に感じ、その足を止める。

 

「緒川さん!何してるんですか早く!」

 

 輪が緒川の方まで走り、早く来るよう促す。

 

「いえ、大丈夫です。きっと……。」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アルカ・ノイズは問題なく殲滅出来た。問題はガリィだ。今度こそ討ち取ろうと接近しようとするが、その前にガリィが巨大な水をビームの様に放つ。マリアは3本の短剣で逆三角形のバリアを展開する。だがそれに耐えきれず、バリアはあえなく瓦解、マリアは大きく吹き飛ばされる。

 

「てんで弱すぎる!」 

 

 マリアを見下しながら言い放つ。マリアは再びイグナイトモジュールを使おうとするが

 

「その力。弱いアンタに使えるの?」

 

 ガリィの指摘通り、今のままイグナイトを使ってもまた暴走するのが関の山である。自分は弱いままなのか、強くなれないのかと悔しさを滲ませる。

 

「マリアさん!」

 

 ガリィやアルカ・ノイズがいたにも関わらず、この場に残り、戦いを見届けていたエルフナインが呼び掛ける。

 

「大事なのは、自分らしくある事です!」

 

 マリアがエルフナインに教えた、ビーチバレーでサーブを教える時に送った言葉。『自分らしくある事』

 それを思い出した。

 

「弱い……そうだ……!」

 

 マリアは痛みを押し殺して立ち上がる。

 

「強くなれない私に、エルフナインが気付かせてくれた。弱くても、自分らしくある事。それが……強さ!エルフナインは戦えない身でありながら、危険を省みず、勇気を持って行動を起こし、私達に希望を届けてくれた!」

 

 マリアは一度、エルフナインの方に見やると再びガリィと向き合う。

 

「エルフナイン、そこで聞いていてほしい。君の勇気に応える歌だ!イグナイトモジュール、抜剣!」

 

 ウィング型スイッチを押し込み、外したコンバーターを宙に投げると、外殻が開き、エネルギーの刃が展開される。そのままマリアの胸に突き刺さり、再びその身に呪いが降りかかる。

 

(狼狽える度、偽りに縋って来た昨日までの私……。)

 

 いつだってマリアは強くある為に、弱い自分を押し殺して己を偽って来た。

 

(そうだ!らしくある事が強さであるなら!)

 

 だが今は違う。マリアは己の弱さをさらけ出そうとしている。そして新たな決意を胸にする。

 

「私は弱いまま……この呪いに反逆して見せる!!」

 

 すると白銀のギアが漆黒の鎧に染まり、姿を現した。遂にマリアはイグナイトの支配に成功した。

 

「弱さが強さだなんて、トンチを利かせすぎだって!」

 

 ガリィはマリアが放った言葉が気に食わないのか、悪態をつきつつ、アルカ・ノイズを召喚する。左腕の篭手前部に短剣を連結させると、エネルギーの刃をマシンガンのように射出。アルカ・ノイズを貫いていく。

 

「いいねいいねぇ!」

 

 ガリィは悪い笑みを浮かべながらスケートのように滑走しながら接近するが、マリアに一刀両断……されたと思ったらそれは泡となって分裂、増殖するように偽物のガリィが増えた。

 マリアは再びマシンガンのようにエネルギーの剣を連射し、全ての偽物を倒す。

 

「私が一番乗りなんだから!」

 

 本物のガリィが現れ、接近するマリアは短剣で斬ろうとするがガリィが笑いながらバリアを張る。だが短剣が煌めくと、そのバリアは真っ二つに割れた。驚愕したガリィの隙を突く形でマリアはアッパーをくらわせる。

 高く打ち付けられたガリィよりもさらに高く飛翔したマリアは篭手の後部に短剣を装着、刃が巨大化させると腰、篭手のブースターが点火して急降下する。そしてその勢いのまま、ガリィの胴体をすれ違い様に真っ二つにした。

 

 

「一番乗りなんだからあああああぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」

 

 胴体が泣き別れしたガリィは最期に断末魔のように叫び、爆散した。

 

【SERE†NADE】

 

 力を使い切ったマリアはその場に座り込み、ギアが解除される。そのタイミングで響達が駆けつけた。

 

「オートスコアラーを倒したのか?」

「どうにかこうにかね……。」

 

 エルフナインは嬉しそうに

 

「これがマリアさんの強さ……。」

「弱さかもしれない……。」

 

 弱さを否定するのではなく、受け入れる事で強くなれた。

 

「私らしくある力だ。教えてくれてありがとう。」

「はい!」

  

 マリアは葛藤を吹き飛ばし、心配事が消えた事で皆が笑顔になった。

 

 同じ頃、研究機構の施設の屋上にはどこからともなくファラが姿を現した。

 

「お疲れ様ガリィ。無事に、私は目的を果たせました。」

 

 彼女が出した舌にはマイクロチップが張り付いていた。

 

 そして、チフォージュ・シャトーの内部の5つの垂れ幕の内、青い布に模様が浮かび上がっていた。

 

「ガリィ……見事な負けっぷりだったぞ……。」

 

 ジークは一人、散って行ったガリィに手向けのように呟いた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 陽は沈み、星々が煌めく夜空の下で花火を楽しんでいた。

 

「マリアが元気になって、本当に良かった……。」

「おかげで気持ちよく東京に帰れそうデスよ!ありゃ……」

 

 調と切歌はマリアが元気になった事を喜んでいたが、切歌の線香花火が落ちてしまった。翼も今日を振り返って胸を張るように

 

「うむ。充実した特訓であったな!」

「それ本気で言ってるんすか……?」 

「むしろそう思ってるのはお姉ちゃんだけだと思うよ……?」

 

 瑠璃とクリスからツッコまれる。

 

「充実も充実ぅ!おかげでお腹もすいてきたと思いません?」

 

 これがデジャヴである。

 

「あんたいっつもお腹空かせてるよね。」

 

 輪からツッコまれるが、響は気にしない。

 

「だとすれば……やることは1つ!」

 

 マリアの音頭で始まった

 

 コンビニ買い出しジャンケンポン!!

 

 響と輪がパー、それ以外は皆チョキだった。ちなみに翼は再びカッコいいチョキを出していた。

 

「また負けた〜!!」

 

 輪は2連敗であり、しかもどちらもあいこ無しで負けている。響はというと

 

「拳の可能性を疑ったばっかりに……。」 

 

 だがもし響がグーを出していても輪がパーを出していたのでまた決め直しになるのでそんなに落ち込む必要はないのだが、拳は響のギアのアイデンティティでもあるので、余計に落ち込む。

 

「しょうがない。付き合ってあげる」

「良いのぉ?!」

「買い込むのも大変でしょ?それに響の買う量じゃ輪さん一人で持ち運び切れないと思うし。」

「いや〜助かるな〜!」

 

 ジャンケンに勝った未来が同伴する事になり、3人でコンビニに買い出しに出掛ける。コンビニに張ってあるゲテモノ商品に釣られる響とそれを輪と未来が楽しそうに微笑む。

 

「でもあれ買うかねぇ?」

「さ、さあ?」

 

 鮟鱇汁のジュースは買う勇気が出ないし、誰かに飲ませる気にすらなれない。

 

「とりあえず、何か買っていこう。みんな待たせるのもあれだし。」

「そうですね。」

「おや、君は……」

 

 コンビニに入ろうとした時、未来が男に声を掛けられる。

 

「未来ちゃん……じゃなかったっけ?」

「へ?」

「ほら、昔うちの子と遊んでくれていた……」

「え、誰この人……?」

 

 その顔にはどこか見覚えがあったがハッキリとは思い出せなかった。輪は初対面なので知るはずがない。そこに響が来た。

 

「どうしたの?未来……え……」

 

 響が男の顔を見て、驚愕していた。未来も響と男を交互に見て、思い出した。

 

「響……!」 

「お父……さん……。」

 

 その声は震えていた。そして突然響は、まるで逃げ出すように夜道を駆け出した。

 

「響!」

「ちょっと待って!もうあの子ったら!」

 

 輪は急いで彼女の後を追い掛けた。

 

 同じ頃、瑠璃は輪がいないのを見計らって、鞄の口を開け、その中に入っていたアンプルを取り出した。

 

「やっぱり……これって……」

「姉ちゃん?」

 

 突然クリスに声を掛けられ、振り返る。

 

「ど、どうしたの?」

「どうしたも何もねえよ。ほら、花火の続きだ!」

「う、うん!すぐ行くよ!」

 

 そう言うと、クリスに気付かれないように、ポケットにしまった。




ちなみに最後のやつは瑠璃のイグナイトを使用する時の鍵になります。


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へっちゃらなんかじゃない

ここから少しずつ瑠璃が葛藤していきます。


 チフォージュ・シャトーではファラが筑波で手に入れたデータを広間の中央に開示する。それはナスターシャ教授が遺し、研究機構に保存されたフォトスフィアであった。ガリィが破壊された今、残ったオートスコアラーは4体であるが、ミカは現在別任務で不在だ。

 

「筑波から地味に手に入れたらしいな。」

「強奪もありでしたが、防衛の為にデータを壊されては元も子もありません。一本一本が地球にめぐらされた血管のようなもの。かつてナスターシャ教授は、このラインに沿わせてフォニックゲインをフロンティアへと収束させました。」

「これがレイラインマップ。」

「人間に使わせるにはたいそう勿体ない代物だ。我らがこれを使い……世界を解剖する。そのメスは揃いつつある。」

「そうでなくては暴れたりないと、妹も言っている。」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 

 筑波から帰って来たS.O.N.G.の学生装者達は学校に通い、日常を満喫するはずだった。というのも、響が家族を捨てて失踪した父親と偶然筑波で再会してしまい、元気が一番であるはずの響が一番悲しそうな顔をしていた。

 

「響ちゃん……大丈夫かな……。」

「さあな……。こればっかりはあいつの問題だ。あたしらが口出しする事は出来ねえよ。」

 

 瑠璃はリディアンの図書室から借りた本を読んでいたのだが、クリスに声を掛けられた事で読書は中断した。ちなみに新校舎に移転してから図書室へ行ったのは初めてであり、装者としての任務や訓練などで来る機会が減ってしまった。今回図書室に行く機会があったとは言っても以前のように一週間に3冊読む時間は取れないので1冊に絞っていた。

 

「そういや姉ちゃん、今日あのパパラッチと会わなかったか?」

 

 いつもなら輪も来るのだが、その姿がない事に珍しがるクリス。だが輪の名前が出た途端、一瞬だけ動揺する。

 

「え?……何が?」

「だって、筑波から帰ってから、姉ちゃんあいつとろくに話してないだろ?」

 

 筑波から帰って来てから、瑠璃の様子がおかしかった。四六時中に輪と話しているにも関わらず、ここしばらく殆ど話さない。それどころか、どこかよそよそしいような、まるで避けているように見えた。

 

「なあ、どうしたんだよ姉ちゃん?」

「何でもないよ……。」

 

 そう言うが、明らかに何でもないわけがない。

 

「何かあったのか?あいつと喧嘩なんかしたのか?いつもあんなにベタベタくっついてた……」

「何でもないってば!!」

 

 思わず瑠璃は声を荒げてしまう。突然発せられた怒声にクリスは驚き、瑠璃はつい怒鳴ってしまった事に謝る。

 

「あ……ごめん……。」

「いや……良いんだ……。悪かった……詮索が過ぎた……。」

 

 結局互いに申し訳なくなり謝る。そこにアルカ・ノイズ出現アラートが鳴り響く。

 

「クリス、行くよ!」

「おう!」

 

 あんな事があっても、二人は冷静にブリッジへと走り出した。ブリッジに到着するとそこには弦十郎はもちろん、翼、マリアもいる。

 弦十郎は調と切歌、そして響に通信を掛ける。

 

「共同構内にアルカ・ノイズの反応を検知した!場所は地下68メートル。共同溝内と思われる!」

 

 共同溝内とは電線を始めとするエネルギー経路を埋設した地下溝の事であり、その内部に敵性反応をキャッチしたのだ。

 

「本部は現場に向けて航行中。」

「先んじて立花を向かわせている。」

「緊急事態だが、飛び込むのは馬鹿二人と合流してからだぞ!」

「絶対に無茶はしちゃ駄目だからね?」

 

 調と切歌に忠告を入れつつ、本部は現場に向かっている。

 

 少し前に遡る。下校中である切歌と調は自販機で飲み物を買っている。調は最初にりんごジュースを選んで、受け取り口に落ちた缶ジュースを手に取る。

 

「今朝の計測数値なら、イグナイトモジュールを使えるかもしれないデス!」 

 

 起動に関しては問題ないのだが、大事なのはそこではなくその先程の、イグナイトの制御である。調は缶のプルトップを開けてりんごジュースを飲む。

 

「ふぅ……。あとは、ダインスレイフの衝動に抗える強さがあれば……。ねえ切ちゃん……」

「ん~これデス!」 

 

 切歌は自販機の前で変な動きをしながら2つのボタン同時押しで決めた。だが自販機は2つ選ばれた時の為の防止として左側の商品が優先で落ちてくる仕組みになっている。その左側にあったものはブラックコーヒーの缶だった。

 

「あぁー!苦いコーヒーを選んじゃったデスよ!」

 

 切歌はブラックコーヒーは苦手な方である。それ波置いといて、調は胸元のギアのペンダントを出して、握りしめる。

 

「誰かの足を引っ張らないようにするには、どうしたら良いんだろう……。」

「きっと、自分の選択を後悔しないよう、強い意志を持つことデスよ!」

 

 と、切歌は言うが苦手なブラックコーヒーを飲むと、顔が引きつる。さっきあんな事を言ったが同時押しで選んだ事を後悔している。

 だが調が黙って、切歌のブラックコーヒーと調のりんごジュースを交換する。

 

「ブラックでも平気だもの。」

 

 そう言うと調がブラックコーヒーを飲む。顔が引つらない辺り、本当に飲めるようだ。

 

「ご、ごっつぁんです。」

 

 そう言うと切歌もりんごジュースを飲もうとするが弦十郎から通信が入り、共同溝内へと向かった調と切歌。弦十郎から送られたナビのお陰で入り口にはすぐに着いた。その後、響も合流したがどこか様子がおかしかった。調は響に何があったかを尋ねた。

 

「何があったの……?」

「何でもない……。」

 

 その声は怒りと悲しみによって震えていた。とても大丈夫なようには思えなかった。

 

「どう見てもそうは見えないデス……」

「二人には関係のない事だから!」

 

 響が怒鳴り声を挙げたことに驚く二人。いつもは笑顔の響が、こんな状態になっているのは初めて見たから驚くのも無理はない。

 

「確かに、私達では力になれないかもしれない。だけど……それでも……。」 

「ごめん……。どうかしてた……。」

 

 調がそう言うと、一度は冷静になった響。 

 

(拳でどうにかなることって、実は簡単な問題ばかりかもしれない……。だから、さっさと片づけちゃおう!) 

 

 任務遂行の為に、3人は溝内へ進む。奥まで入ると、街や都市のエネルギー回路になっているケーブル達が繋がれている。これに驚く切歌だったが、そこにはアルカ・ノイズがいる。もしかしたらオートスコアラーもいるのかもしれない。

 

「行くよ、二人とも!」

 

Balwisyall nescell gungnir tron……

 

 響の合図でそれぞれギアを纏った三人は地下深くまで飛び込む。

 そこにはアルカ・ノイズが出現しており、三人はそれぞれのアームドギアで蹴散らしていく。その奥には梯子に掴まって、ケーブルの装置に入力しているミカがいた。響達が来た事に反応して振り返る。

 

「来たなぁ。だけど、今日はお前たちの相手をしてる場合じゃ……」

 

 言い終わる前に響が殴りかかってきた。驚いたミカは思わず転げ落ち、ミカがいた場所は穴が開いた。

 

「まだ全部言い終わってないんだゾ!」

 

 突然攻撃された事に怒ったミカはアルカ・ノイズを再び召喚する。響は構わずアルカ・ノイズを殴り倒すが、パワーに任せて、八つ当たりのように殴り、その目には涙が落ちていた。

 

「泣いてる……?」

「やっぱり様子がおかしいデス!」

 

 響は先程、失踪した父親、立花 洸とファミレスで会食していた。洸はツヴァイウィングのライブの惨劇から生き残った響とその家族が、世間から酷いバッシングを受け、精神的に参ってしまった事で洸は家族を捨てて蒸発、行方不明となっていた。洸はもう一度やり直したいと響に願い出たのだが、黙っていなくなった事に悪びれた様子もなく、見たのはカッコ良かった父親の面影はどこにもなく、無責任でだらしない、そして格好悪い男になっていた。それにショックを受けてしまった。それを引きずった状態でここに来たのだ。

 

(何でそんな簡単にやり直したいとか言えるんだ?!壊したのはお父さんの癖に!お父さんの癖に!!)

 

 アルカ・ノイズを纏めて天井に叩きつけ、そのまま殴る。

 

(お父さんの癖にいいいいいいいぃぃぃぃぃーーーー!!)

 

 だが響は一瞬だけ動きが止まってしまう。確かに蒸発した洸も悪いのだが、結果的に家族に不幸を齎したのは自分なのだと悟った。

 

(違う……壊したのはきっと、私も同じだ……。)

 

 その隙をミカが見逃すはずがなく、髪のロールがブースターとなって点火、その勢いを乗せたカーボンロッドで響を殴る。防御も受け身も取れなかった響はそのまま背中を打ち付けられ、気を失ってしまう。

 

「言わんこっちゃないデス!」

 

 切歌が響の所へと駆け寄って抱えるが

 

「歌わないのかぁ?歌わないと死んじゃうゾ!」

 

 ミカは容赦なく掌から火炎放射、その威力は凄まじく、纏めて焼き尽くさんとする勢いだった。響を抱えた状態ではまともな防御はできない。切歌は目を瞑るが、調が二人の前に立って、2つのアームの巨大化させた鋸を高速回転させて盾のようにして守るが、いかんせん、炎の火力が凄まじく、炎の熱で調は膝をついてしまう。

 目を開いた切歌は、それを目の当たりにしてしまう。

 

「切ちゃん……大丈夫……?」

「なわけないデス……!」

「切……ちゃん……?」

「大丈夫なわけ無いデス……!」

 

 みんなの役に立ちたくて、調を守りたくて戦っているはずなのに、瑠璃には肩を怪我をさせてまで守られて、今度は調に無茶をさせてしまった悔しさが露わになり、守ってくれた調に強く当たってしまう。切歌は切り札のイグナイトを使用しようとギアのコンバーターに触れる。

 

「こうなったらイグナイトで……!」

「駄目……!無茶をするのは、私が足手まといだから……?」

 

 調もまた同じ思いだった。自分を守る為に無茶をしようとする切歌を止めるが、二人の譲れない思いがぶつかりあってしまい意地になり、敵の前だというのに喧嘩をしてしまう。

 そこにミカの脳内にファラの声が聞こえてきた。

 

『道草は良くないわ』

「正論かもだけど……鼻につくゾ!」

 

 今度は先程よりも強力な火炎放射をお見舞いする。流石にこれを防ぐ術はなく、全員吹き飛ばされてしまう。二人はまだ僅かに意識があったのだが

 

「預けるゾ。だから、次は歌うんだゾ!」

 

 テレポートジェムで逃げられてしまった。

 

「待つデス……よ……。」

「切……ちゃん……。」 

 

 そのまま切歌と調は意識を失った。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翼達も到着したが既に戦闘は終わっていた。今は黒服達が被害状況などの調査が行われている。

 

「押っ取り刀で駆け付けたのだが……」

「間に合わなければ意味がねえ……!」

「人形は何を企てていたのか……?」

 

 4人もそのまま調査に加わる。溝内は攻撃によって破損された箇所が多数あるが、ミカがやったような感じではない。

 

「これって……もしかして響ちゃんが?」

「はい。大きく破損した個所は、いずれも響さん達の攻撃ばかり。」

 

 瑠璃の推測に緒川は肯定する。となるとミカはここには破壊活動しに来たわけではないという事になる。だがその目的は一体何なのか掴めずにいたのだが、ケーブルの操作した跡があった。

 

「これは……オートスコアラーの狙いはまさか!急ぎ、指令に連絡を!」

 

 何か勘付いた緒川は黒服に指示を送った。




ちょっと八つ当たりされるアルカ・ノイズ達には同情しちゃうなぁ……。


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大好きだから

コンプリートBOXが届きました。

これでモチベーション爆上げだぜえええぇぇ!!

ヤッホーーーイ!!


 艦内メディカルルーム、意識を失っていた響が目を覚ました。傍には未来がおり、エルフナインがカルテを持って結果を伝える。

 

「検査の結果、響さんに大きなけがは見られませんでした。大したけがはありませんでしたが、安静は必要です。」 

「良かった……。」

 

 何かあったらと考え、不安になっていた未来は一先ず安堵したが、安心はできなかった。メディカルルームで喧嘩している切歌と調がいたからだ。二人とも大した怪我ではなかったが、二人とも頭に包帯や湿布を貼っていた。

 

「調が悪いんデス!」 

「切ちゃんが無茶するからでしょ!」

「調が後先考えずに飛び出すからデス!」

「切ちゃんが私の事を足手まといに思ってるからでしょ!」

 

 いつも仲良しの二人がここまで拗らせてしまっていることに驚く未来。響はこの喧嘩が自分が原因であると理解しており、二人の喧嘩をしてほしくないと心苦しく思っている。

 

「傷に障るからやめてください!そんな精神状態では、イグナイトモジュールを制御できませんよ?!」

 

 エルフナインが二人の仲裁に入って、喧嘩を止めようとするが、結局二人はそっぽ向いてしまう。そこに響が二人の前に歩み寄り、二人の手を優しく包み込む。

 

「ごめん二人とも……。最初にペースを乱したのは……私だ……。」

 

 切歌はあのただならぬ様子が気になり、響に何があったのかを尋ねる。

 

「さっきはどうしたデスか……?」

「うん……。あれからまた、お父さんに会ったんだ……。ずっと昔の記憶だと、優しくてカッコよかったのにね。すごく嫌な姿を見ちゃったんだ……。」

「嫌な姿……?」

 

 調がオウム返しに聞くと、響の目には涙が溜まっている。

 

「自分のしたことが分かってないお父さん……。無責任でカッコ悪かった……。見たくなかった……こんな思いをするなら……二度と会いたくなかった……!」

 

 響にとって父親は特別で、憧れで、格好いい存在だった。はずなのに、この3年でその存在はもうどこにもいなかった。それがショックだった。

 今回、話し合いの場の設けた未来も良かれと思ってやったのが裏目に出たばかりか響を悲しませる結果になってしまい、自分を責めた。

 

 

「私が悪いの……私が……。」

「違うよ……未来は悪くない……。悪いのはお父さんだ……。」

「でも……。」

 

 響は未来に歩み寄って

 

 

「へいきへっちゃら。だから泣かないで、未来。」 

「うん……。」

 

 少しだけ、響は笑った。

 

 調と切歌はメディカルルームから出ていくが、雪音姉妹のように同じタイミングで出ており、一度は向き合うも再びそっぽ向いてしまう。そこにエルフナインが二人の前に立ってガンタイプの注射器を渡す。中にはmodel_KのLiNKERが入っている。

 

「オートスコアラーの再襲撃が予想されます。投与はくれぐれも慎重に。体への負担もそうですが、ここに残されたLiNKERにも、限りがありますので。」

 

 二人に念押しに説明する。それも二人を心配してくれているが故に。調と切歌はそれを手に取る。

 

 

 シャワー室では共同溝内の調査から帰還した翼、クリス、瑠璃、マリアが身体の汚れを落とす為にシャワーを浴びている。溝内の破壊された跡を見る限り、相当荒れていたようだが、響の過去はみんな聞いており、みんな響の身を案じている。

 

「やはり父親の一件だったのね。」 

「こういう時は、どんな風にすれば良いんだ……?」

 

 クリスが翼に聞いてみるが

 

「どうして良いのか分からないのは、私も同じだ。一般的な家庭の在り方を知らぬまま、今日に至る私だからな……。」

 

 マリアは父親が司令である瑠璃に聞いてみる。

 

「瑠璃はどうなの?あなたのパパさんは司令なのでしょう?」

「ごめんなさい……私も分からない。お父さんに引き取られて3年になるみたいなんだけど……これといった喧嘩もした事ないし……」

「つまりここにいる奴らは、全員お手上げってわけか。」

 

 クリスがこれ以上瑠璃に話させないよう早急に結論づける。瑠璃が何かしらの拍子で地獄の6年間の記憶が蘇ってしまったら、どうなるか分からない。

 今この場にいるのは家族の在り方についてよく分かっていない。故に響が自力で解決するしかない。歯痒くなるが今は見守る事しか出来ない。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ブリッジでは弦十郎が、緒川の調査報告を聞いていた。

 

「敵の狙いは電気経路の調査だと?!」

『はい!発電施設の破壊によって、電力総量が低下した現在、政府の拠点には優先的に電力が供給されています。ここを辿る事により……』

「表から見えない首都構造を探る事が、可能と……ん?」

 

 報告を聞いている途中、弦十郎が何かに気付いた。不審に思ったオペレーター陣が弦十郎の方を向く。

 

『司令?どう……』

「待て!」

 

 そう言うと藤尭の座る席の方へ近づく。藤尭を退かし下に手を入れ、何かを摘み取る。盗聴器だ。

 

「藤尭!」

「はい、すぐに調べます!」

 

 藤尭を疑わず、むしろ調査を指示する。恐らくこの盗聴器は裏切り者によるものだろう。少し前から緒川に裏切り者に関する情報収集を命じており、犯人はほとんど絞られたが、まだ確定はしていない。故に犯人と決めつけて、裏切り者に勘付かれないように極秘に進めていた。

 

(まさか……君ではないだろうな……?そうでない事を願うばかりだが……。)

 

 裏切り者はS.O.N.G.を知る者であり、殆どが顔見知りだ。だがその誰に対してそう思っているのかは弦十郎のみぞ知る。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ガリィはチフォージュ・シャトーに帰還し、ミカは共同溝内から奪取したエネルギー経路を開示する。それは広間の中央に大きく表示された。

 

「派手にひん剥いたな。ん……?」

 

 台座から降りたミカは何処かへ行こうとする。

 

「どこへ行くの、ミカ?間もなく思い出のインストールは完了するというのに。」

「自分の任務くらいわかってる!きちんと遂行してやるから、後は好きにさせてほしいゾ!」

「ならば見事な散り様になるよう健闘するのだな。」

 

 子供のように荒げた声で行こうとするミカに、ジークは皮肉を込めて言い放った。そしてジークは耳に手を当てると、鼻で笑う。

 

(やっと勘付いたか……。まあ今更どうにもならんがな。絆が壊れるのはもう間もなくだ。)

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 帰り道、既に陽は傾いている夕暮れに蝉が鳴いている。その道を切歌と調が歩いているのだが、さっきから何も言葉を交わさない。最初にこの静寂を破ったのは調だ。

 

「私に言いたいこと、あるんでしょ……?」

 

 そう言うと切歌は調の方を向いて反論する。

 

「それは調のほうデス!」

「私は……」

 

 そう言っても、二人の会話は続かない。お互いに黙りこくってしまい、再び静寂が漂うかと思われたその時だった。

 突如爆風が発生し、そこにはカーボンロッドが突き刺さっていた。あの時、自分達が戦って敗れた強敵、ミカが現れた。破壊された鳥居の上に立っているその顔は笑っていて、明らかに挑発している。

 

「アタシ達を焚きつけるつもりデス!」

「足手まといと……軽く見ているのなら!」 

 

Various shul shagana tron……

 

 絆創膏を剥がして起動詠唱を唄う。二人はギアを纏って、ミカに立ち向かう。

 調はツインテールのアームが開くと無数の小型鋸を大量に放つ。

 

【α式・百輪廻】

 

 だがそれらは長さを伸ばしたカーボンロッドで全て弾き落とす。今度は切歌にカーボンロッドを射出、切歌はそれを避けつつ距離を詰め、大鎌を振り下ろす。

 

 『今から応援をよこす!それまで持ちこたえ……ぬぅ?!』

 

 弦十郎から通信が入ったがら突然進行が停止しています。座礁したわけでも故障したわけでもないが、何か異常があったのだろう。モニターを見ると、海底に巨大な人型の影があった。その手にはS.O.N.G.の潜水艦を掴んでいた。だがその手は動かす事なく、潜水艦の止めている。ミカの戦闘に介入させない為に、レイアの妹が潜水艦の進行を阻止していた。

 

「私と妹が地味に支援してやる……。だから存分に暴れろ、ミカ。」

 

 地上ではレイアが海を見下ろしてそう言う。

 

 増援が期待出来なくなった今、ミカは切歌と調が何とかするしかない。だがミカは二人を相手に大暴れしている。二人は大したダメージすら与えられず、まるでミカに遊ばれているようだった。

 

「コレっぽっち~?これじゃギアを強化する前の方がマシだったゾ!」

「そんなこと、あるもんかデス!」 

「駄目!」

 

 ミカの挑発に、調の制止も耳も貸さずにミカに接近して斬りかかるが、どれもこれも避けられる。ならばと大鎌の刃を3枚に可変させて、それを振り下ろして投擲する。

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 それをミカはカーボンロッドで受け止めると爆発が発生した。

 

「どんなもんデス!」

 

 切歌は勝ち気でいたがその期待は、土煙が晴れたと同時にあっさり裏切られる。なんとミカの後ろには大量のカーボンロッドが展開され、ミカの上げた右腕を振り下ろすと、切歌に向けて大量に降り注いだ。

 切歌は避けようとするが、逃げ道を塞ぐように地に刺さる。

 

「連携しないと無理だゾー?」

「躱せないなら……受け止めるだけデス!」

 

 切歌は一人で倒そうと躍起になる。だがミカの指摘通り、調と連携しないで勝てる相手ではないにも関わらず、切歌はまだ意地になって連携を拒否する。だがカーボンロッドはまだ残っている。容赦なく降り注ぐカーボンロッドは切歌を襲う。

 だがそれは切歌に届く事はなかった。調が切歌を守るように巨大化させた2枚の鋸を盾のようにして守った。だが切歌は俯いて悔しさを滲ませながら

 

「何で、後先考えずに庇うデスか?!」 

 

 助けてくれた調を突き飛ばしてしまう。

 

「やっぱり、私を足手まといと……」

 

 調は切歌に対してムキになる。

 

「違うデス!調が大好きだからデス!」 

「え……?」

 

 突然切歌から出た思わぬセリフに、調は驚いた。

 

「大好きな調だから……傷だらけになる事が許せなかったんデス!」

「じゃあ……私は……。」

 

 ミカのカーボンロッドと切歌の大鎌がぶつかり合い、鍔迫り合いになり、火花が散る。

 

「アタシがそう思えるのは……あの時調に庇ってもらったからデス!みんながアタシ達を怒るのは……私達を大切に思ってくれているからなんデス!」

「私達を……大切に思ってくれる……優しい人たちが……。」

 

 拮抗した鍔迫り合いが、ミカが放った炎で切歌は吹き飛ばされてしまうが、そこに調が受け止めてくれた。

 

「マムとジャンヌが遺してくれたこの世界で……カッコ悪いまま終わりたくない!」

「だったら、カッコよくなるしかないデス!」

「自分のしたことに向き合う強さを……!イグナイトモジュール!」

「「抜剣(デース)!!」」

 

 二人はギアのウィング型スイッチを押して、コンバーターを宙に投げると、外殻が開き、エネルギーの刃が現れる。そのままそれぞれのギアの主の胸に刺さると、二人の全身に呪いが降りかかる。体感した事のない苦しみに、うめき声を挙げる二人でも、互いに手を取り合い、痛みを、苦しみを二人で分かち合えば乗り越えられる。

 

「底知れず、天井知らずに高まる力ぁー!」

 

 それを見届けるミカの全身が炎に包み込まれる。その影響でロールの髪は解け、上着は焼け落ちたが、最大出力を引き上げた強化形態『バーニングハート・メカニクス』となった。

 

「ごめんね……切ちゃん……!」

「いいデスよ……それよりもみんなに……!」 

「そうだ……。みんなに謝らないと……!そのために強くなるんだ!!」

 

 二人の力で呪いを乗り越え、イグナイトモジュールの支配に成功する。

 二人の歌声を重ね合わせたユニゾンの力でミカに立ち向かう。切歌が大鎌を振り下ろし、調のヨーヨー型鋸を放つが、最大出力となったミカにはこの程度では届かない事を表すように弾き飛ばし、調のヨーヨーを掴んで、強引に引っ張って投げ飛ばす。

 

「最強のあたしには響かないゾ!もっと強く激しく歌うんだゾ!」

 

 カーボンロッドが、矢のように降り注ぎ、切歌はそれらを弾くが接近してきたミカに吹き飛ばされ、社の壁に背中を強く打ってしまう。そこにカーボンロッドが放たれ、切歌を拘束するように壁に刺さると、身動き取れなくなってしまい、さらにミカの掌から炎が放たれようとしている。

 

「向き合うんだ!でないと乗り越えられない!」

 

 切歌を守る為に、開いたツインテールのアームから無数の小型鋸を大量に放つ。だがミカはそれを髪で弾き落とし、空中で指を立てた先には魔法陣が展開され、そこから大量のカーボンロッドが降り注ぐ。拘束から脱出した切歌だったが、そこから降り注ぐカーボンロッドの間を避けるように走る。

 

「闇雲に逃げてたらじり貧だゾ!」 

「知ってるデス!だから!」 

 

 そう言うと巨大なカーボンロッドを放ち、後ろから切歌を追いかけたが、カーボンロッドを鎌に引っ掛けて急に旋回する事で、ミカを撒く。

 そして切歌は肩のアーマーからアンカーを放つと、それをミカの両サイドを通り過ぎ、後ろにいた調のアームと接続、さらにミカの身体に絡めるように拘束すると、正面からはギロチンのような形をした刃に乗る切歌、背後からは調が禁月輪でミカに迫る。

 

 

【禁殺邪輪 Zぁ破刃エクLィプssSS】

 

「足りない出力をかけ合わせてぇ!」

 

 ミカは最期まで笑いながら切歌と調によって切断され爆散した。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ミカを倒した後、弦十郎とクリス、瑠璃が到着し、S.O.N.G.職員が事後処理にあたっていた。ミカを倒したのは良かったのだが、独断専行により二人の前で正座させられに咎められている切歌と調。

 

「こっちの気も知らないで!」

「たまには指示に従ったらどうだ?」

 

 瑠璃だけは二人がオートスコアラーを倒した事を考慮してなんとかあまり叱らないようお願いしている。

 

「で、でも二人のお陰でオートスコアラーを倒せたんだしここは……」

「独断が過ぎました……。」

「これからは気を付けるデス……。」

 

 何と珍しく聞き分けが良い事に驚いた3人は思わず間抜けな声を出してしまう。

 

「お、おぉ……。珍しくしおらしいな……。」

「私達が背伸びしないで出来るのは……受け止めて、受け入れること……。」

「だから、ごめんなさいデス……。」

「ほ、ほら……こう言ってるんだし……今日の所は……。」

「う、うむ……そうだな。二人が分かれば、それでいい。」

 

 瑠璃の説得もあり、切歌と調も素直に言う事を聞いたので説教はすぐに終わった。後輩達の成長を目の当たりにしたクリスは、家路につく二人の背中を見ていた。

 

「先輩が手を引かなくたって、いっちょ前に歩いて行きやがる……。」

(あたしとは、違うんだな……。)

 

 

「足手まといにならない事……。それは強くなることだけじゃない……。自分の行動に責任を伴わせる事だったんだ。」

 

 切歌がスマホで責任という単語を調べる。 

 

「責任……。自らの義に正しくあること。でも、それを正義と言ったら、調の嫌いな偽善っぽいデスか?」

 

 調はフロンティア事変の頃、この時は敵対していた響に言い放った『それこそが偽善……!』を思い出した。

 

「ずっと謝りたかった……。薄っぺらい言葉で、響さんを傷つけてしまった事……。」

 

 響の過去も知らずに偽善と吐いた言葉。それが調の心に突き刺さる。俯いていた調の手を、切歌が優しく手に取って包み込む。

 

「ごめんなさいの勇気を出すのは、調一人じゃないデスよ。調を守るのはアタシの役目デス!」

 

 そう言うと切歌の額は調の額がくっつき合わさる。

 

「切ちゃん……。ありがとう……いつも、全部本当だよ……。」

 

 二人はいつもの仲良しの二人に、笑顔が戻った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 事後処理が終わり撤収しようとした弦十郎。クリスと瑠璃を先に帰した直後、緒川から通信が入る。

 

「どうした?」

『司令、裏切り者の正体が確定しました。と言っても……あまり信じたくないのですが……。』

 

 キャロル、ジーク、ガリィが言っていた裏切り者の正体を単独で当たっていた緒川。通信でその報告をしている。

 

『裏切り者の正体はやはり彼女で間違いないと……。』

 

 その意外すぎる人物の名前を告げた時、弦十郎は驚愕を隠せなかった。

 

「そうか……やはりあの子が……。」

『はい。僕も未だに信じられません。ですが、彼女が一番の黒です。』

 

 弦十郎が低く唸る。

 

『司令、瑠璃さんは?』

「先に帰らせた。だが、この話を聞いてしまったら……あの子は深く悲しむ。ここは俺達だけで対処するぞ。」

『了解。』

 

 そう言うと通信を終えた。弦十郎自身、裏切り者の正体を信じたくないのもある。だがこの時、弦十郎は致命的なミスをしていた。

 帰ったと思われていた瑠璃が、陰でその場の会話を盗み聞きしてしまっていた。

 緒川が持っていた雑誌、そこには3年前、ある一家が一家心中を図り、その家族は一人の娘を遺して亡くなったという記事が記載されていた。だがその見出しには大きく、『出水一家』と載っていた。

 

 そして、チフォージュ・シャトーではミカが破壊された事を表すように、赤い幕に同じ模様が刻まれた。そして、棺と思われるものが開くと、そこから出てきたのは自害したはずのキャロルだった。

 

 




次回、オリジナルエピソードに突入します。

いよいよ瑠璃がイグナイトを使い、ジークと刃を交える局面となります。


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裏切り者

オリジナルエピソードになります。
裏切り者の正体が明らかになります。


 調と切歌が戦闘特化型のミカを撃破して翌日、瑠璃は思い悩んでいた。弦十郎が通信しているのを盗み聞きしたのだが、それは裏切り者に関する内容だった。名前は出していなかったが、瑠璃は裏切り者の正体について薄々気付いていたが、信じたくないという思いがあり、問い詰める勇気が出なかった。

 だがあの時、名前を出さなかったが弦十郎も気付いているだろう。このままだと取り返しがつかなくなる。だから何としてでも自分の手で止めなくてはならない。幸い、今日は休日であり自由に動ける。瑠璃はスマホで着信をかける。

 

「もしもし、輪?」

『あ、瑠璃!どうしたの?』

「うん。ちょっと話したいことがあるんだ。公園で待ってるね。」

『了解。ちょっと諸用があるから夕方の5時頃で良い?』

「うん。良いよ。じゃあ後でね。」

 

 瑠璃は着信を切った。ため息をつくが、覚悟を決めなくてはならない。瑠璃は一人、公園に向かう。少し早めに着いた瑠璃はブランコに座って輪の到着を待つ。

 

「お待たせ〜。」

「輪。」

 

 だが10分経たないうちに輪も到着した。輪はご機嫌な様子でやって来た。もちろんカメラも持ち歩いて。対する瑠璃はどこか怯えている。

 

「どうしたの瑠璃?何か暗い顔をしちゃって〜。あれからあの人形とは戦ってるの?あ、そうだ!こないだ見つけた撮影スポット……」

 

 意を決して話そうとした時、輪のマシンガントークに戸惑った瑠璃は一旦止める。

 

「待ってよ輪、そんなに一気に聞かれても!」

「あ、そうだったね。それで、話って何なの?」

「その……輪は……裏切り者について……何か聞いてる?」

 

 

 同じ頃、クリスは未来の買い物に付き合っていた。響が負傷し、しばらくは安静という形で寮にいる。

 

「ごめんね。付き合わせちゃって。」

 

 未来の笑顔に顔を朱に染め、照れる。

 

「い、良いって事よ。それに、あの馬鹿よく食うだろ?こんな量一人で持ってくのは大変だろ?」

 

 ビニール袋には食材やインスタント食品が多く詰め込まれており、未来一人で持たせるには重く、大変である。

 

「そうだね。だから響にも手伝ってもらってるんだけど、あいにく無理はさせられないし……あれ?ねえ、あれ瑠璃さんじゃない?」

「え?あ、本当だ。何してんだ?」

 

 

 瑠璃は気付かなかった。偶々クリスと未来に公園に向かっている所を見られ、そのまま尾行されていた事に。二人はそのつもりはなかったのだが、何かあったのかと気になり、つい尾行してしまっていた。

 

「あぁ……。未来から聞いたよ。何かいるんだって?そんなスパイみたいな奴。それなんだけどさ……調べても全く出て来ないんだよね。まさかS.O.N.G.と張り合える諜報活動が出来る人がいるなんてね。」

 

 瑠璃は意を決して輪に話す。 

 

「輪じゃないよね?裏切り者……。」

 

 突然疑われた事に驚いた輪。もちろん尾行していたクリスと未来も声を押し殺して驚いている。響を除いた他の装者は裏切り者の存在は懸念していたが、それでも仲間を信じる事を選び、誰も疑ったりはしなかった。

 

「はっ?何言ってるの?私がそんな事するわけないじゃん!まさか私を疑ってるの?」

「お父さんの会話……聞いちゃったの……。キャロルに情報を流した裏切り者を調べてたって……。」

 

 輪は自分ではないと必死に否定する。だが目を見開いて少し恫喝するように否定していた。瑠璃は前に図星を突かれて否定すると、それを強引に否定する為に強い言い方で否定するのだと聞いたことがあった。もちろん確たる証拠はないが、今の輪はそれに当てはまっていた。

 

 尾行していたクリスは通信を本部に掛ける。

 

「ん?クリス君どうした?」

『オッサン、姉ちゃんが……あのパパラッチが裏切り者なんじゃねえかって……』

「何だと?!すぐに繋げろ!」

 

 通信機のマイク機能を拡張させて、瑠璃と輪の会話を盗聴する。そして本部中に、他の装者の通信機にも聞こえるように繋げた。

 

『それで態々私にそれを伝えに来たってわけ?もう……私はそんなこと……』

 

 突然輪が黙った。何なあったのか気になっているオペレーター達。発信源の近くにあるカメラをモニタリングする。

 すると瑠璃の掌から何かを出していた。エルフナインが真っ先に反応した。

 

「あれは……!」

 

 瑠璃の手にあったのはキャロルや自動人形達が持っているテレポートジェムだった。何故瑠璃が持っているのか疑問だった。

 

『あの海辺で輪が置いてった鞄の中、偶然見つけちゃったんだ。そしたらこれが置いてあった。』

 

 あの時、瑠璃が輪の鞄の中で目にしたもの。最初は何だったのか分からなかった。最初は何か化粧水かと思い、気にしなかった。しかしガリィがこれと同じ形をしたものを持ち歩き、使っていたのがテレポートジェムだった。

 

『あのオートスコアラー、人間嫌いに関しては本当に正直だから嘘はついていないと思った。でもこれが敵の持ち物だって知って……。信じたくなかった……今だって……嘘なんじゃないかって……思いたかった……。』

 

 他の装者達にも当然この会話を聞いており、潜水艦にいた翼、マリア、切歌、調は通信機の会話を聞きながら公園へ向かっている。

 

「輪先輩が……スパイだなんて……。」

「そんなの信じられないデスよ!」

「信じたくないが、物的証拠が出た以上、出水が裏切り者である事に間違いない!」

 

 マリアは輪の事について詳しくはないので何も言わなかった。ただ目の前に集中するだけだ。

 

『プッ……フフフフ……ハハハハハ……!アハハハハハハ!』

『輪?』

 

 突然の高笑い、それが答えだということは明白だった。

 

『あーあ、しくじったなぁ。まさか一番のお人好しのあんたにバレるなんてね。正直予想しなかったよ。』

 

 まるで人が変わったように悪態をつくようになった。

 

『そうだよ。私がスパイだよ。』

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(どうなってやがんだよ?!何であいつが?!)

 

 盗み聞きしていたクリスも未来も信じられなかったが、輪が認めてしまった以上、もう輪は敵である。

 

「輪、私は輪が裏切り者でも……そんなの関係ない!今ならまだ私達だけで……」

「もう無理だよ。」

 

 そう言うと輪はクリスと未来がいる方を向いた。盗み聞きしているのがバレていた。

 

「いつまでそこでストーキングしてんの?趣味悪いなぁ。」

 

 もう尾行の意味がなくなった今、隠れる必要はない。クリスと未来が姿を現した。

 

「何で……何でお前が?!」

 

 クリスは信じられない様子で輪に問い詰める。

 

「どうして?言ってもアンタには分からないよ。アンタなんかに、私の気持ちが分かるわけがない。」

「そんな事は……」

 

 未来が否定しようとした時、輪に睨みつけられ、怯えてしまう。 輪は正体が露見した事で、もう隠す必要がなくなった事で態度を悪くしている。

 すると翼、マリア、調、切歌が到着した。輪はため息をつく。

 

「瑠璃、こっそり通信してたんだね?酷いなぁ、騙すなんて……」

「ち、違う!私はそんな事……」

「お前が軽々しく言うんじゃねえ!やったのはあたしだ!お前こそスパイしてたって……脅されてるのか?!」

「何言ってんの?私、自分の意思でキャロルに協力してるもん。別に操られてないし。」

 

 包み隠さず堂々と暴露した事に、全員驚愕を顕にした。信じられない形相でマリアが問いただす。

 

「何故……何故君が自らの意思でキャロルに?!」

「何で?そうですね……。じゃあ言います、ちょうど復讐したい人が来たんで。(・・・・・・・・・・・・)私は……3年前にあったツヴァイウィングのライブの惨劇の生存者の一人なんだよ!」

 

 それを聞いた時、誰もが驚愕した。本部でもそれを聞いていた響も狼狽えた。まさか同じ被害者が、こんな身近にいた事に気付かなかった。

 

「そう風鳴翼!私はあのツヴァイウィングのライブにいたんだよ!!」

 

 翼に向けて怒声を放った。敬語だったのもかなぐり捨て、睨みつけていた。

 

「あの時、私は透に誘われて一緒にライブに行った!けどノイズに襲われて……目の前で透が崩れて……私だけが生き残って……けど!あの後、家に張り紙や落書きされて!何度消しても剥いでもまたやって来る!家に石まで投げられて、妹の旭の頭に当たって血を流して!先生に助けを求めても……誰も助けてくれなかった!警察もろくに取り合ってくれなかった!」

 

 ここまでは所々違う所はあるが、響と殆ど同じ境遇だった。だがそれだけではここまで荒れたりはしない。

 

「ただ生き残ったっていうだけで心無い罵倒や暴力を振るわれて!お父さんとお母さん、それに耐えきれなくなって……妹と心中したんだよ!」

 

 輪の過去を、ブリッジのモニターでも表示されていた。3年前、生存者の中に輪の名前が入っていた。そして、別の新聞記事には、

 【賤しきライブ生存者一家が無理心中?!命を冒涜した夫婦の身勝手な行動!!】

 と書かれていた。出水一家が一家心中し、夫婦と妹が死亡、輪はその時、遅く帰って来た事で免れたというものだった。

 輪の父親はエリートだったが、出世コースから外れ管理職に追いやられただけでなく、理不尽な業務を強いられていた。

 母親は、近所のママ友達から陰湿なイジメを受け、廃棄物を家の前や庭に放り込まれていたという。

 その魔の手は当時、大阪で一人暮らししていた小夜にも及んだ。仲が良かった患者からも掌返しするかの様に罵倒され、全ての担当から外された上に、田舎の分院に左遷を告げられる。だが家族が死んだと聞き、辞職して東京に戻った。小夜は残った貯金で生き残った輪の面倒を見ていた。しかし再就職も容易ではなく、今の病院に就職するまでいくつものアルバイトを掛け持ちしていたという。

 輪と旭も学校の同級生からも暴力を振るわれ、教員すらグルになって救済の手を差し伸べなかったというものだった。

 

「小夜姉だって、私のせいで病院からも追い出されて東京に戻って来たんだよ!小夜姉の人生も巻き込んで……台無しにしちゃったんだよ!小夜姉が頑張って働いている所を見る度に、私はずっと苦しくなるんだよ……!何でなの……何で生き残っただけでこんな辛い目に遭わなきゃいけないの?!何で透や家族が死ななきゃいけなかったの?!何で関係ない小夜姉まで傷つかなきゃいけなかったの?!ねえ教えてよ!!風鳴翼あぁぁ!!」

 

 自身が過ごした地獄をぶちまける形で暴露した。そしてその怒りの矛先が翼に向いており、その眼圧が翼に対する殺意を体現している。だがここでクリスが待ったを入れる。

 

「待てよ!元はと言えば、ソロモンの杖を起動させたあたしに非が……」

「分かってるよそんな事!でもね……あのライブの裏で、聖遺物の起動実験をしてたってキャロルから聞いた時、騙された気分だったよ!何にも知らない私達はそれに加担させられて、透が巻き添えで死んで!それで生き残ったら、死んだ方がマシな地獄を味わって……こんな理不尽な事がある?!」

 

 クリスが翼を庇おうとしたが、輪の激しい憎悪では聞き入る事はない。

 あのライブの裏でネフシュタンの鎧の起動実験が行われていた事は極秘であり、一般人が知る事はない。それを知ってしまったら、翼は叩かれるだけでは済まされない。恐らく響や輪のように地獄を見る事になる。キャロルにそのライブの裏側を教えられた事が、輪がS.O.N.G.を裏切る動機となったのを頷くのは無理はない。

 

「じゃあお前、最初から先輩に復讐する為に姉ちゃんに近づいたってのかよ?!」

「そうだよ。妹って聞いた時は、ラッキーって思ったよ。私をこんな惨めにしたあいつを破滅させる為に、私はファンのフリをした!聞きたくもないCDも借りて、歌声も聞いた!本部に盗聴器も仕掛けた!!」

 

 先日見つけた盗聴器の持ち主、それも輪だった。入手先がどこにも見つからなかった辺り、キャロルの手によるものではないかと疑われていた。

 

「そう、私はあんたをあんたの周りを破滅させる為にキャロルに手を貸したんだよ!!」 

 

 最初は翼にその憎悪が向いていたが、もはやそれだけでは収まらないところまで来てしまっていた。

 

「それでと……だとしても、そんな事しても……死んだ家族が浮かばれると思うのか?!あなたの姉が、君が悪行に走る事を望むと思うのか?!」

「そうですよ!それに響だってあのライブで……」

「あんた達に何が分かるんだよ!!」

 

 手に持っていたカメラを未来に投げつけた。それをマリアが片手でキャッチするが、もし非力な未来に当たったら大怪我するところだった。

 

 「あいつと私、同じ被害者でも、あいつの家族は生きてるじゃない!!でも私の家族は、もう死んだんだよ!!あいつみたいに心が強いわけじゃないんだよ!!」

 

 輪は失った家族を今でも大事に思っている事には変わりないのは分かるが、家族を亡くした事が、響とは唯一違う点であり、それが輪を余計に刺激してしまう。そして怒りの矛先は親友であったはずの瑠璃にまで向いてしまう。

 

「にしてもあんた……本当に愚図だよねぇ!私の言うこと全部信じたんだからさぁ!友達とか、絆とか家族とか。私はね……そんなあんたが大嫌いだったんだよ!!」

 

 親友だと思っていた輪から罵声を浴びせられ、瑠璃は泣いてしまう。親友だと思っていた人にこんな形で裏切られ、愕然としている。従妹を愚弄され、翼が怒る。

 

「出水!いくら私が憎くても、瑠璃を侮辱する事は許さんぞ!」

「私があんたを恨む事があっても、あんたに言われる筋合いはないけどね!あんた達のせいで家族と人生が滅茶苦茶になっているのに、あんたはのうのうと歌手を続けてる!あんたの歌を聞く度に、惨めに思えてくるよ!」

「そういう事だ。」

 

 輪の背後から、ジークが現れた。まるで輪を守る様に立っている。

 

「オートスコアラー!」

「わざわざアイツを守る為にやって来たってかぁ?!」

 

Imyuteus Amenohabakiri Tron……

 

 翼が起動詠唱を唱え、ギアを纏うと、他の装者達も続いてギアを纏う。だが瑠璃は輪に裏切られ、罵倒されたショックで立ちすくんでいる。

 

「虫けらがいくら集まった所で、所詮は無駄だ。」

 

 ハルバードを地面に刺しトポス・フィールドを展開させる。その広さは公園の敷地内全てに及び、これでこの公園は、ジークの領域となった。だが、それで退く装者ではない。

 翼、切歌、マリアが一斉に切り込むが、穂先でイガリマを柄で天々羽斬を止め、残ったマリアには鳩尾を蹴る。ハルバードによる守りがなくなったと思われ、後ろを取ったはずが逆に返り討ちに遭い、しかも急所を的確に突いた。

 

「「マリア!」」

「お前ら退け!」

 

 クリスがガトリング、調がアームから無数の小型鋸をばら撒くと、翼と切歌は後ろへ下がり、残ったジークに纏めて集中砲火させる。

 

「小賢しい!」

 

 ハルバードをブーメランのように投擲すると、高速回転したハルバードが自身に被弾させようとする弾丸と鋸を全て弾き、さらにそのままハルバードはクリスを刈り取らんと回転して近付いていく。

 だがマリアの蛇腹剣が、ハルバードを絡め取り、そのまま剣先がジークへと向かう。

 

【EMPRESS † REBELLION】

 

 そしてヨーヨー型鋸を放ち、同時攻撃を仕掛ける。

 しかし、死角から狙う蛇腹剣の剣先を見ずに避けた上でヨーヨーを掴み取り、そのまま強引に引っ張る。引きずり込まれた調はジークに鳩尾をアッパーで殴られ、倒されてしまう。

 

「よくも調を!」

 

 調がやられた事で切歌が怒り、短期で突撃するも、ジークは気を失った調の足を掴んで、切歌に向けて投げ飛ばす。これを避けられなかった切歌はそのままブランコの柱に背中を強く打ち、気絶する。

 

「どうなってやがるんだよ……?!たった1体の人形にここまでボコボコにやられるのかよ?!」

 

 装者5人に対し、ジークたった1体。だが既に全員満身創痍だった。ジークは瑠璃の方に見やり

 

「所詮絆の力などこの程度。いとも簡単に裏切られ、絶たれる。そんなものに縋ったお前には何が残っている?」

「私は……私は……。」

 

 瑠璃は崩れるように膝につく。そして輪の方を向く。

 

「輪……」 

「もうこうなった以上、あんたとは絶交ね。」

 

 ジークがテレポートジェムを地面に投げて、割る。ジークと輪の周りに赤い魔法陣が敷かれる。

 

「サヨナラ、瑠璃。」

「待って……待ってよ輪……!」 

 

 瑠璃は輪に手を伸ばすが、そのまま転移されてしまい、届かなかった。瑠璃はそのまま倒れ込んでしまう。ジークが撤退した事で戦闘は終わったが、完敗に終わった。マリアとクリスは瑠璃に歩み寄る。

 

「瑠璃、大丈夫?」

「姉ちゃん……。」

「輪……輪……ぁ…………あぁ………あああああああああああぁぁぁぁ!!」

 

 瑠璃は親友だと思っていた輪を失い、裏切られたという事実を突きつけられ、泣き崩れてしまった。瑠璃の慟哭が呼び寄せたように、夜の闇に浮かぶ雨雲が雨を降らせた。

 




裏切り者の正体は輪でした。


輪の中学生時代に付き合っていた恋人。
ツヴァイウィングのファンで、受験前の最後の思い出作りに輪をライブに誘ったが、そこでノイズの襲撃に巻き込まれてしまい、輪の目の前でノイズによって炭素化されてしまう。


輪の2つ下の末妹。
輪と同じく学校で虐めに遭うが、輪の励ましもあって、何とか立ち向かえていたが、学校を無断欠席した日に父親と母親と共に一家心中。輪が帰って来た時には既に血塗れの遺体となっていた。


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ビデオレター

恐らくこれでアニメ1話分になるかなーと思います。

ですがオリジナルエピソードはまだ続きます。

なのでG編より長くなると思います。


輪が裏切り者だと知り、何とか止めようとしたが結果は最悪だった。親友に復讐の為に利用され、罵倒され、一方的に絶交を告げられ姿を消した。今は本部の休憩室に引き篭もっており、他の面々も何て声を掛ければ良いか分からず、誰も立ち入る事が出来ない。瑠璃の心は相当のダメージを負ってしまっており、このままではイグナイトが使えなくなると危惧されている。

 なお切歌と調は幸い大した怪我もなく、問題なく出動できるとの事だった。だがそれでも輪が裏切り者だったという事実に、みんなの心は沈んでいた。

 響以外の装者と未来は雨に打たれており、身体を冷やさない為にシャワーを浴びる装者一同。

 

「輪先輩が裏切り者……。」

「あんな輪先輩……見たことないデスよ。」

 

 二人にとって輪は面倒見のいい先輩であり、よく家に呼んではご馳走してくれた。故にさっき見せたその掌返しには驚愕を隠せなかった。

 

「あいつの昔話、あの姉貴から聞いていたけど……。まさかあいつ……先輩をずっと恨んでたなんてな……。でも……それでもあいつの彼氏の命を奪ったのも……あいつの人生を狂わせたのもあたしだ……!あたしがソロモンの杖を起動させなければ……!」

 

 クリスは壁に拳を叩きつけた。こんな事をしても輪への贖罪にはならないのは分かってはいるが、瑠璃が傷つき、輪を狂わせてしまった原因が自分にあると考えてしまい、己を責めずにはいられなかった。

 

「いや、私もあの件に関わった者として責任がある。あの病院での語らいも……今思えば出水の反応にも合点がいく。迂闊だった……。」

「やめなさい。今更後悔してもあの子の傷は癒えないし、帰って来ないわ。それよりも、どうやってあの子を取り戻すかを考えるべきでしょう?」 

 

 互いに傷の舐め合いをしても輪は戻って来ない。そんな中、マリアだけは悲観していない。寧ろ堂々と先を見ている。

 ただ未来はF.I.S.に捕まった時、輪の過去を聞いていたが、それは冗談だと笑い飛ばしていた。だがまさかそれが本当の事だとは思わず、あの時怒ってしまった事に後悔している。

 

「でもマリアさん、どうやって……。」

「やはり鍵は……瑠璃ね。」

「どういうことデスか?」

「あの子が投げつけたカメラ。今解析して貰ってるの。あの子の事だから、ただカメラを投げただけとは考えにくいわ。」

 

 マリアがキャッチしたカメラをもしやと考え、弦十郎に渡したのだ。クリスがカメラと聞いて思い出す。

 

「確かに、あのカメラ好きのパパラッチが、カメラを壊すなんて思えねえ……!」

「もしかしたら……何かあるかも……!」

 

 そこにエルフナインが入って来た。

 

「皆さん!すぐに来てください!あのカメラの解析が終わりました!」

 

 マリアの睨んだ通り、何かあったようだ。すぐに身体を拭いてから着替えると、ブリッジへ向かった。

 

 同じ頃響は瑠璃が引きこもっている休憩室の前に来ていた。弦十郎に頼まれ、瑠璃を連れてくるよう言われた。

 

「瑠璃さん、響です。入りますよ。」

 

 そう言うと扉を開けて部屋に入った。電気はついていなかったが、すすり泣いているのは聞こえる。電気をつけると、瑠璃はベッドの上で、身体を屈んで泣いていた。響は瑠璃の隣に座る。

 

「瑠璃さん、大丈夫……じゃないですよね。」

 

 大事な親友を失う悲しみは痛い程分かる。響もかつて、未来に隠し事をして、そうなった事があった。結果的には仲直り出来たが、同じ結果になるとは限らない。

 

「瑠璃さん、師匠が呼んでます。もし落ち着いたら……来てください!みんな待ってますから!」

 

 響は無理に連れて行かず、瑠璃に委ねる事にした。強引に連れて行った所で瑠璃を余計に傷つけるだけだ。響は部屋から出ていき、そっと扉を閉めた。

 

 ブリッジに瑠璃を除いた装者が集まった。

 

「皆さん……ごめんなさい。僕が裏切り者の存在を教えたせいで、瑠璃さんが……」

 

 情報源であるエルフナインが申し訳なさそうに謝ると、弦十郎はその頭を撫でる。

 

「君のせいではない。元はと言えば、俺達大人の不手際だ。俺が輪君の心の闇に気付いてやるべきだった……。だが、今となっては手遅れ……か。」

 

 あれだけ明るく好意的に振る舞っていただけあって、その本性を知った時は衝撃が強かった。弦十郎や緒川ですら調査をしなければそれを見抜く事が出来なかったのだ。装者達が見抜けないのも無理はない。

 

「藤尭。」

「分かってますよ。」

 

 カメラをオペレーターのコンピュータに接続して解析する。

 

「姉ちゃんはどうする?」

「まだ中身が分からない以上、ここに呼ぶのは危ないわ。今はまだ……。いえ、その必要はないみたいね。」

 

 マリアが瑠璃を呼び寄せるのを躊躇ったが、そこに泣き止んだ瑠璃が入って来た。 

 

「姉ちゃん!大丈夫かよ?!」

「うん……。」

「瑠璃……。」

 

 とても大丈夫には見えなかった。頬の顔は赤さから相当泣いていた事が分かる。翼は何か声を掛けようとしたが、何を伝えたらいいのか分からなかった。

 その時、藤尭が報告する。

 

「映像は真っ暗ですが、ビデオデータがあります。」

「今からそれを映す。瑠璃、戻るなら今だぞ。」

 

 弦十郎は瑠璃の覚悟を問う。内容は誰も把握してはいないので、映った内容次第では瑠璃に追い打ちを掛ける結果になりかねない。故に僅かな逃げ道を与える。

 瑠璃は無言で首を振る。見るという証だ。

 

「分かった。藤尭、映せ。」

 

 その意図を汲み取った弦十郎は藤尭に指示を出す。尭の手慣れたブラインドタッチですぐに映像がモニターに映し出される。藤尭の言う通り画面は真っ暗だが、物音は聞こえる。

 

 『カメラはいいよね。音声だけで良いや。』

 

 恐らくマイクテストをしていたと思われる。

 

『出水輪です。もしこれを聞いていたら……。ううん……回りくどいことは言わない。

もう言っちゃいます。私は、あのキャロルという子供と結託して、S.O.N.G.の情報を流しました。きっかけは、キャロルに3年前のライブの真実を教えてくれました。裏でネフシュタンの鎧っていう聖遺物を起動する為に、ツヴァイウィングのライブを使って行った事……。

それを知った時、私や透は利用されたんだと思って、私の中にある怒りや憎しみが……燃え上がってしまって……もう、自分でもどうする事も出来なくて……。』

 

 同じ被害者である響は、自分も少しでも違ってたら同じ事をしていたのだろうと考える。

 

『本当は分かってたんです。恨み続けても、失ったものは帰って来ない。うん……理屈では分かっていても、怒りや恨みで……それを理解したくなかった……。翼さんを恨んでも、それは逆恨みだって分かってても、誰かに恨みをぶつけるしかなかった……。

でも……その為に、瑠璃を裏切っちゃった……。あの時……オートスコアラーが瑠璃を痛めつけているのを見た時……自分のした事の恐ろしさに気付いて……でももう取り返しがつかなかった……。私……本当に最低だなぁ……。』

 

 あの時、裏切り者として暗躍していた輪だったが、あの叫びは本心だった。マリアはそれを信じていたからあのカメラの意図に気付くことが出来た。

 

『罰はいくらでも受けます。皆から後ろ指を指されるだろうし、何を言われても返す言葉もないし、罪はキチンと償います。みんなが望むなら……私の命も差し出します……。

ただ、小夜姉には内緒にしてください。小夜姉には……もう数え切れないくらい迷惑を掛けちゃったから……どうか小夜姉を責めないで……小夜姉を悪く言わないでください。どうかお願いします。』

 

 音からして頭を下げているのだろうか。

 

『最後に……一つだけ……。瑠璃に言いたい事がある……。』

 

 深呼吸をしているようだが、声が震えていた。

 

『瑠璃……こんな私を……友達だって言ってくれて……ありがとう……。それと………っ……ごめんね……っ!』

 

 嗚咽混じりに告げ、それを最後にビデオは停止された。最初に口を開いたのはマリアだった。

 

「輪は……復讐に燃える怒りと、瑠璃を騙して傷つけているという罪の意識、その2つの間で板挟みで苦しんでいたのね。」

「最後……泣いてた。やっぱり本当は……瑠璃先輩の事が好きだったんだ……。」

「とどのつまりこれは……告発文であり、遺言……。」

「先輩、縁起でもねえぞ?!」

 

 しかし的を得ている解釈だった。これを用意したという事は、輪は少なからず贖罪を求めるだろう。極めつけは最後のメッセージ。

 

「輪先輩、もしかして死ぬつもりじゃないデスか?!」

 

 切歌の不注意な言葉が、瑠璃の不安を掻き立てる。踵を返してブリッジを出ようとした時、弦十郎に右肩を掴まれて止められる。

 

「何処へ行くつもりだ?」

「輪を探しに……。」

「何処にいるかも分からねえ上に、そんな状態の姉ちゃんを行かせられねえよ!」

 

 クリスも止めに入る。本当は行かせてやりたいが、もし輪がチフォージュ・シャトーにいるなら、闇雲に探しても見つからない。

 

「藤尭、友里!ケータイのGPSを探知しろ!」

 

 オペレーター達に指示を出し、輪の行方を追う。

 

「その間に、瑠璃。ちょっくら付き合ってくれ。 」

「お父さん……何を……?」

「司令だ。いや何、映画もビックリなビデオレターを作ってきたんだ。こっちも立派な作らなければな!」

 

 カメラを持ち出し、トレーニングルームへ入る。

 

「瑠璃、カメラは剣より強しだ!」

 

 撮影の準備をする弦十郎。

 

 

 

 シャトーに転移した輪。そこにはファラ、レイアが佇んでいた。だが玉座に座っているキャロルを見て唖然した。

 

「何で?!あんた、死んだはずじゃ……」

「狼狽えるな。この肉体は予備躯体だ。それで何の用だ?」

 

 そう言うとジークが報告する。

 

「奴らに裏切りが露見したようです。」

「らしいな。」

「ごめんなさい……。」

 

 キャロルに目を合わせず、下を向いて謝る。

 

「そうか。まあ良い。ここまでの事が運べばお前の役目は終わりだ。ジーク、この者を返してやれ。」 

「はっ。行くぞ。」

 

 ジークのテレポートジェムで輪は共に外へ転移した。

 ファラとレイアがキャロルを見て問う。

 

「放っておいてよろしいのですか?」

「少なくとも奴は地味にこちらの事を知っている。奴らに喋ってしまう可能性もある。」

「捨て置け。もはや今の奴が持つ情報など使えないものだ。生かしておいても問題はない。まあ、ジークの奴が許すわけがないがな。」

 

 輪がいなくなった瞬間、ほくそ笑む。自分目の前では生かしてやったが、それ以外は知ったことではないからだ。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 同じ頃、瑠璃は撮影を終えると夜道を歩いていた。一旦雨は止んだようだが、星空が雲によって遮られている辺り、また降り出しそうな様子である。

 その手にはカメラがある。これは撮影後、瑠璃が持っていた方が良いと弦十郎が判断し、手渡されたものである。

 

「輪……。」

 

 輪にカメラを渡して、上手く出来るかどうか不安になっている。みんなはああ言ってるが、輪の本心は分からない。本当に嫌っているのではないのか?もしかしたら、もう二度と会えないんじゃないのか?そう考えただけで胸の奥が締め付けられる。ベンチに座り、俯く。

 

 本部では弦十郎が小夜に電話を掛けている。心配させない為に、家に泊まりに行っているという体になっている。

 

『ほんまおおきに弦さん。』

「いえいえ、お気になさらず。」

『最近、輪ったら夜な夜な出掛けたと思たら、それから怪我して帰って来るんです。何かあったんやないかと心配で……』

「そうなのですか?」

 

 輪が怪我して帰って来るという事に引っ掛かった。確かに輪は事ある事に首を突っ込むが、ある程度引き際を弁え、危害が及ばないようにしている。もし情報提供した時に負ったのだとしたら、それがバレてしまった今、輪の身が危ない。

 だがその悪い予感を表すように本部で警報が鳴り響く。

 

「アルカ・ノイズの反応を検知!」

「座標の特定を急げ!」

 

 オペレーター陣が全力で解析をした結果、すぐに特定がされた。同じタイミングで装者達全員がブリッジに集まった。

 

「これは……!」

「まさか……!」

 

 藤尭と友里が驚嘆の声を出すと、全員が絶句した。モニターにはアルカ・ノイズから逃亡している輪が映っていた。

 

「粛清……?いや、口封じ……?!」

 

 藤尭が予想するように言うが、どの道裏切りがバレれば輪はもう用済みだ。しかもモニターにはジークが映っている。キャロルの命令か、ジークの独断か、弦十郎達からでは分からないが、どっちにしろ輪が危ない。

 

「聞こえるか瑠璃?!」

『お父さん……?』

「輪君がアルカ・ノイズに追われている!奴らは輪君を抹殺しに来ている!」

 

 瑠璃はベンチから立ち上がって唖然とする。

 

「輪が……?!」

 『今はまだ逃げているが、人間嫌いの奴の事だ!何をしでかすか分からん!ここからならお前が一番近い!座標を送る!すぐに……』

「分かってる!」

 

 通信を切って、通信機に表示された座標に向けて急いで走り出す。もう迷っている時間はない。輪を助ける為に急いで走り出す。

 

輪はジークから逃亡していた。それもキャロルからの命令ではなく、ジークの独断である。ここに転移された後、ジークは輪を囲うようにアルカ・ノイズを召喚して来た。だが輪は僅かの包囲の隙間を潜って逃げたが容赦なく追いかけて来る。アルカ・ノイズは輪を直接狙っているのではなく、周りの木々を倒して逃げ道を塞いでくる辺り、ジークは輪が必死になって逃げているのを見て楽しんでいる。

 

「そうだ。貴様はただそうやって逃げ回ったとしても、お前の運命は決まっている。お前の友だった奴が大事にしてた絆を断ち切り、孤独となって、人知れず惨めに死ぬ運命にあるのだ。」

 

 ジークがそう言うと輪は立ち止まってしまう。

 

(そうだ、元々死のうとしてたんだから……咄嗟に逃げちゃってたけど……あいつから逃げたって……もうこの世界に、私がいて良い場所なんてもうどこにもない……。いっそ死んだ方が……楽なんだ……。)

 

 そう考えた輪はジークの方を振り返って、両腕を広げる。

 

「殺してよ……。いっその事……もう殺してよ……。」

「潔いな。嫌いではない。だが念の為だ。」

 

 そう言うとジークは輪に近づく。するとハルバードで輪の右下腿に切り込みを入れた。

 咄嗟に切られ、立てなくなった輪はその場で転んでしまう。さらにジークによって蹴り倒され、うつ伏せにされると、背中を何度も蹴られる。しかし何度やっても輪は悲鳴一つ挙げない。

 

「悲鳴を挙げろ!私にお前の絶叫を聞かせろ!」

 

 それに苛立ったジークは今度は切り傷を刻んだ右下腿を踏みつける。

 

「ぐぅっ……!ぁっ……!」

 

 流石の輪もうめき声を挙げるが、ジークが望む悲鳴は挙げなかった。

 

「人間の分際で……!私に反抗するというのか……?!良いだろう、ならば望み通り……塵一つ残さず消してやろう!」

 

 興冷めしたジークは、時間の無駄だと判断するとアルカ・ノイズに命令を下す。

 もはや輪に待っているのは分解という死。だが輪は

 

 (やっと……解放される……この地獄から……。お父さん……お母さん……旭……。もう……良いでしょう……?私……精一杯……生きたよ……。)

 

 

 もうこんな色褪せた世界にいたって、意味がない。天を仰ぐように、自分の死を待ち望んだ。

 

(ただ……一つ心残りがあるとしたら……瑠璃とはもう……二度と会えなくなることだなぁ……。)

 

 輪は目を閉じた。アルカ・ノイズの解剖器官が輪の身体に向かって伸びていく。

 







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絶たれゆく絆

死を望む少女の運命はいかに


 もう死にたい……生きてる価値なんてない。そう思って、輪は自らの命を差し出した。ジークはアルカ・ノイズに命令を下すと、その解剖器官が輪に迫った。

 

(これで……ようやく終われる……。)

 Tearlight bident tron……

 

 歌が聞こえた。すると、解剖器官が輪に届く前に、一体残らず分解された。痛みも衝撃もなく、何かが刺さる音が聞こえ、輪は目を開ける。

 

(二本の槍……これって……!)

 

 そこにはバイデントのギアを纏った瑠璃がいた。バイザーはしておらず、その素顔が露わになっている。

 

「瑠璃……!」

 

 何故ここに瑠璃がいるのか分からなかった。何故自分を助けたのかも。

 

「ほう……裏切り者を助けるとは……。」

 

 瑠璃はジークの方を向かず、輪の方へ歩み寄る。

 

「笑いに来たの……?」

「違うよ……。私は……助けに来たの……。」

 

 輪は理解出来なかった。あんな仕打ちをしたのに、生きていてほしいと言われた事に、裏切り者を助けた事に、死なせてくれなかった事に。

 

「何で……助けたの……?私は……あんたの事を嫌ってるんだよ……?」

「それでも良いよ……。嫌っていても良い……。けど……死なせたくない……。」 

 

 瑠璃がそう言うと、輪の目には涙が浮かび上がり、下を向いて俯きながら吐露する。

 

「やめてよ……。私は……もう死にたいの……。こんな地獄に生きていたって……もう辛いだけなの……。たとえキャロルを倒して……世界が救われて……みんなが笑って過ごせるようになっても……そこに私の居場所なんてない……!私には……もう……生きている資格なんてないの……!だから……お願いだから……死なせてよ……!」

 

 痛み、苦しみ、嘆きを涙を流しながら打ち明ける。嘘偽りのない輪の本心。自分の命を絶って、それを贖罪にしようとしている。もうそれしかないと、輪は思い詰めていた。

 そこに瑠璃が1台のカメラを渡す。

 

「これ……中身を見てほしい。」

「え……?」

「死ぬのは……これを見た後にしてほしい……。私から言えるのは……それだけ……。」

 

 瑠璃はジークを見やる。

 

「ここだと危ないから、場所を変えよう。」

「良いだろう。今度こそ決着を着けよう。そこがお前の墓場だ。」

 

 そういうと、2人は飛び立ち、輪の前から去って行った。木々を走り抜くと広い場所へやって来た。そこは、かつて瑠璃と輪がこと座流星群を観測する為にやって来た自然公園だった。

 

「ここなら人も来ないから……戦える。」

「ふっ……。威勢は良いな。貴様の呪われた旋律、操れるかな?」

 

 そう言うと地面にハルバードを刺す。

 

「術式展開……トポス・フィールド!」

 

 そう言うと自身を中心に十二芒星が描かれた魔法陣が敷かれた。しかも前回よりも範囲が広くなっている。

 

「さあ……聞かせてもらおうか!」

 

 二人の戦いが、幕を開けた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 残された輪は、カメラのフォルダーを開く。すると、中にはムービーファイルがあった。それを再生させる。

 

「瑠璃……。」

 

 映っていたのは、そこで撮ったものと思われる瑠璃だった。

 

『見てるかな輪……。この2年と半年で、色々あったよね……。輪にとっては、そんなの偽りの感情かもしれないけど……。』

 

(瑠璃……。何で……。)

 

『それでも私は……本当に楽しかったよ。やっぱり、私は輪の友達でいたい……。でも私の事、嫌ってるよね……?』

 

(違う……そんな事ない……!)

 

『私ね、輪の事好きだよ。』

 

(私だって、瑠璃の事が大好きだよ!でも……でも……私はもう……!)

 

『ごめんなさい、輪。あなたの気持ちを知ろうとしないで、こんな事になってしまって。』

 

(何で……瑠璃が謝るの……?ごめんなさいって言わなきゃいけないのは私なのに……!)

 

 輪の中に押し殺していた感情が溢れ出てくる。涙が流れ、嗚咽も止まらない。

 

『輪が裏切り者でも、それでいい。私を罵倒して、それで気が晴れるなら……全て受け入れるよ。』

 

(そんな事……言わないでよ!何で……何であんたは……私を軽蔑しないの……?!傷付けたんだよ?!裏切ったんだよ?!いつもそうやって……何でもかんでも受け入れようとして……!)

 

『きっと……輪は死にたいって思うかもしれないけど……私は輪には生きていてほしい。もう輪は戦わなくて良い……。私と縁を切って、何処かへ行ったとしても、私は……ずっと輪の幸せを祈ってる。それを邪魔するのがいたなら……私が戦うから……どうか前を向いて生きてほしい。私なんかより幸せになってほしい……。私からはそれだけ。じゃあね……。』

 

 それを最後にビデオは停止した。

 自分の復讐に瑠璃を巻き込んだ愚かさを嘆き、悔いた。涙を流して声を押し殺して、嗚咽混じりに泣いている。

 

(ごめん……っ!ごめんね……瑠璃……!私……私……!)

 

 そこに天羽々斬を纏った翼が現れ、輪に駆け寄った。

 

「風鳴……翼……。」

「無事か出水……っ!足をやられているのか?!」

 

 自分を憎んでいる人間に対して心配し、傷を診てくれている。その事に戸惑い、突き放てしまう。

 

「私は……裏切り者で……あんたを憎んでる……。助けたら……あんたを殺すかもしれないんだよ……?なのに……何で……」

「私の事を……いくらでも恨んでくれて構わない。だが、瑠璃に悲しい思いをさせたくない。これは防人としてでも、風鳴としてでもない。これは……出水への償いでもあり……私の我儘だ。」

「我儘……。」

「さあ掴まれ。今メディカルルームに……っ?!」

 

 翼に指し伸ばされた手を、輪は払った。憎んでいる故ではない。今、自分が本当にしたい事を理解したからだ。

 

「伝えなくちゃ……。私の本当の気持ち……。」

 

 立ち上がろうとするが、右足を怪我しては思うように歩けず、倒れそうになるが、翼が咄嗟に支えた。

 

「出水……まさかお前!」

「瑠璃の所へ……。お願いします……。私……やっぱり瑠璃が隣にいてくれないと……」

「よせ出水!お前が行ったところで……」

「分かってます。私が行っても、瑠璃をまた傷付けるかもしれないし、足手まといになるかもしれない。でも、今すぐ伝えなきゃ嫌だ……!絆を破綻させた私が言っても、説得力ないけど、でもやっぱり私は……」

「輪せんぱーーーい!」

 

 前から声が聞こえ、顔を上げると禁月輪で走行する調と、それに乗って、調の右手を掴んでいる切歌が手を振っている。

 

「掴まるデス!」

 

 空いている左手をを伸ばす。輪はそれを掴んで、それに乗る。

 

「月読!暁!」

 

 後輩の勝手な行動に呆れるが、これで良いのかもしれないと笑っている翼。急いで後を追う。

 

 

 禁月輪で走行する調、それに乗っている切歌と輪。だが輪はバツが悪そうな顔をしている。

 

「何で……裏切り者の私を助けるの?」

「瑠璃先輩に言った事、ちゃんと謝ってほしいからです。私も、響先輩に偽善って言ってしまった事、今も後悔してます。同じ後悔を……してほしくない。」

「だから、輪先輩が裏切り者とかそういうのはどうでもいいんデス。瑠璃先輩を隣で支えてくれる友達は、輪先輩以外にいないのデスよ。」

 

 後輩達の言葉に、自分がやった事は人としても、友達や先輩としても本当に最低な事だと心の底から自分を軽蔑する。瑠璃とやり直せるのか、胸を張って親友だと言えるのか、不安でいっぱいだった。

 

「ちゃんとごめんなさいって言えるように、私達も手伝うデス。まずは面と向かって、当たって砕けろデース!」

「切ちゃん、砕いちゃ駄目。」

「あ、あはは!そうとも言うデスよ〜。」

 

 切歌にズバッとツッコむ調。輪はこの二人を羨ましく感じた。自分から捨てた友情を見ている。

 

「暁さん……月読さん……。」

「輪先輩。必ず瑠璃先輩の所まで届けます。だから、手を伸ばすことを諦めないでください。」

 

 調に諭され、覚悟を決めた輪。どんな結果になっても、キチンと瑠璃と向き合う。

 

 

 瑠璃とジークの戦い、結論から言えば瑠璃が押されていた。発電所での戦いは一度は有利に持っていけたのだが、原因は2つある。まず1つ、今回はトポス・フィールドの範囲が広くなっている事である。前回は100m程だったのに対して、今回はその倍の200mだった。さらにトポス・フィールドの範囲外へ出ようとすると、ジークは距離を詰めてくる為、事実上この絶対領域から出られない。

 そして2つ目は、瑠璃の精神的によるものだった。輪との仲違いにより、瑠璃は心ここにあらずの状態になってしまっている。人はどれだけ強くても、それは精神的に正常であるが故のものであり、僅かな揺らぎでも敗北を招く事だってある。今の瑠璃は正にその状態なのだ。

 

「どうした?以前より弱くなってるぞ?」

 

 強化型ギアで出力アップしているとはいえ、精神的に弱っている状態では、本来の力を引き出せない。そこを突かれ、守りに徹するしかなかった。

 

「イグナイトを使え。それなら少しはマシになるだろう。」

 

 ジークに催促されて、瑠璃はギアのコンバーターに触れた。

 

(イグナイト……!そうだ、これを使って……でも……)

 

 瑠璃は一瞬、使用を躊躇った。今の状態でイグナイトを制御出来るという確証はない。いや、今のまま行けば暴走するだろう。だがこの戦いに負けは許されないと強迫観念に駆られてしまった事で、リスクを承知で、切り札を使う事を決めた。

 

 本部でもそれはモニタリングされており弦十郎は通信で使用をやめるよう命令を出す。

 

「駄目だ瑠璃!今のお前がイグナイトを使っても暴走するだけだ!」  

「お父さん……。使わなきゃ……イグナイト……。私が今ここで……勝たなきゃいけないんだ!」

  

 弦十郎の制止を振り切り

 

「イグナイトモジュール 抜剣!」

 

 マイクコンバーターを親指と人差し指で、摘むように押し込み、それを取り出す。それを宙に投げると、マイクコンバーターが変形し、剣のようなエネルギーを瑠璃の胸に刺し込まれる。だが

 

「ぐああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 瑠璃の身体を闇が覆い、取り込まんとするかのように蝕む。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 瑠璃の精神世界、暗い闇の中で一人ぼっちの瑠璃。

 

「ここは……。もしかして……」

 

 フィーネに精神支配された時に覚えがあった為、以前のように戸惑う事はない。だが何故再びここにいるのかは分かっていない。

 

「瑠璃。」

 

 後ろから声が聞こえた。振り返るとそこには

 

「輪……?輪なの?」

 

 何故か自分だけの世界に輪がいた。だが瑠璃は輪がいてくれた事に嬉しく感じ、輪がここにいる事に何の疑問も浮かぶ事はなかった。

 

「輪……良かっ……」

「目障りなんだよね。」

 

 突然告げられた罵倒に、困惑する。

 

「輪……?どうした……」

「触らないでくれる?あんたみたいな愚図……大嫌いなんだよね。」

「どうして……?何でそんな事を……」

 

 後ろに気配を感じた瑠璃は振り返るとそこにはクリスと翼がいた。

 

「クリス……?お姉ちゃん……?」

「あたしの事忘れてた癖に……何姉貴ぶってんだよ。」

「お前みたいに剣にもなれない役立たずが風鳴を名乗るとは、恥晒しめ。」

 

 大好きな従姉と実の妹にまで罵倒されてしまった。よく見ると響、未来、調、切歌、マリア、弦十郎、など周りは瑠璃を囲うように立っており、その目は冷たかった。

 

「本当に私達に絆なんてあると思いますか?」

「少なくとも、私達はあなたの事が嫌いです。」

「響ちゃん……未来ちゃん……!」 

「この偽善者……!」

「お前なんか役に立たないデス!」

「貧弱なお前に戦う資格などない。」

「調ちゃん……切歌ちゃん……マリアさん……!」

「お前は所詮、ただの赤の他人だ。父親呼ばわりされる筋合いはない。」

「お父さん……!」

 

 仲間だけでなく、父親にまで罵声を浴びせられ、どんどん心がすり減っていく。膝から崩れ落ち、冷たい目を見ないよう下を向き、周りからの罵声を聞かないよう耳を塞ぐが、罵声は止まず、次第に涙を流す。自身の周りを囲うように立っていた仲間達が次々と、目の前から去って行った。

 

「待って……待ってよみんな!置いてかないで!独りにしないで!」

 

 その時ジークに言われた事を思い出した。

 

『所詮絆の力などこの程度。いとも簡単に裏切られ、絶たれる。そんなものに縋ったお前には何が残っている?』

「そうだ……絆の力なんて……あっという間に崩れた……。他人が何を思ってるかなんて……分かってないのに……私は一方的に……」

 

 次第に瑠璃に迫る黒い瘴気、そしてしたから泥のような黒いオーラが瑠璃の身体を黒く染めようとしている。絆がいとも簡単に壊れる事を知った瑠璃、闇に抵抗する事を諦めた今、その全身は闇に覆われ

 

(馬鹿だな……私……。)

 

 顔まで闇に覆われようとしていた時、自らの浅はかさに涙を流しながら嘲笑していた。そしてその風貌まで闇に覆われた事で、現実世界の瑠璃は獣と堕ちてしまった。

 

「ガアアアアアアアァァァァァーーーーー!!」

 

 イグナイトの支配に失敗し、暴走した瑠璃の咆哮。それを見届けたジークは舌打ちをする。

 

「やはり失敗したか。あの人間め……最後の最後まで役に立たん奴だ。」

 

 輪を消す為にアルカ・ノイズを出して、向かわせる。

 だが同じタイミングで調、切歌、そして輪が到着したが、既に手遅れだった。

 

「瑠璃先輩が……」

「暴走しちゃってるデスよ?!」

「あれが……瑠璃なの?」

 

 ただ破壊衝動のまま、狂戦士として暴れる瑠璃。単調な攻撃を軽々と避けるジークの目に、彼女にとってこの事態を引き起こした元凶が映り込んだ。

 

「やはり貴様は役立たずの虫けらだ。塵も残さず消してくれる!」

 

 アルカ・ノイズが輪を抹殺すべく集中的に襲って来た。

 

「やらせるもんかデス!」

「絶対に守りきる!」

 

 調と切歌がアルカ・ノイズ達と交戦する。輪は、足手まといにならないよう下がった。

 




今度は精神面で瑠璃が虐待されました。


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暴走

ご感想を見て騙されてくれた方がいた事に少し安堵した私。
伏線張るのど下手なのでもしかしたら裏切り者バレてるんじゃないかと不安になってましたw


現実ではジークによって召喚されたアルカ・ノイズを全て倒した調と切歌。残るはジークのみなのだが、瑠璃がダインスレイフの呪いに飲み込まれ、暴走してしまっている。今はジークに攻撃を仕掛けているが、今の瑠璃の前に映る者は全て敵である。故に、二人に攻撃して来てもおかしくない。

 

「どうするデスか?!」

 

 調は考える。そして出した結論は

 

「どうもしない……マリア達を待とう。」

「え?!」

「私達が介入しても、瑠璃先輩を止める事は出来ない。それに……悔しいけど、私と切ちゃんがあのオートスコアラーと戦っても勝てない……。」

「確かに、今あの二人の間に割って入っても……返り討ちに遭うだけデス……。」

 

 今の瑠璃が繰り出す攻撃は殆ど無作為に殴りかかったり、引っ掻いたりするだけで、そこに理性的なものは全く見受けられない、ただ暴れ狂う獣だった。

 ジークはそれを軽々と避け、急所に叩き込むが、瑠璃はそれでも止まらず暴れまわっている。

 ミカとの戦いで、闇雲になって戦うのではなく、自分達の行動に責任を持つ事を学んだ二人は、冷静に戦況をよく見た上で、あえて介入しないと決めた。

 

「瑠璃……。」

(私のせいだ……私のせいで瑠璃が苦しんでる……。)

 

 瑠璃が暴れ狂ってしまったのは自分のせいだと輪は己を責める。拳を強く握るあまり、掌から血がにじみ出てしまっている。

 

(こんなにさせてまで……私はキャロル達に協力したんじゃない……!私がしたかったのは……こんな事じゃない……!)

 

 輪は意を決して瑠璃に呼び掛けた。

 

「瑠璃!もうやめて!もうあんたが苦しむ必要はないんだよ!だからいつもの瑠璃に戻ってよ!」

 

 だが暴走の恐ろしさを知らずに呼び掛けてしまった。調と切歌は輪の予想外の行動に驚いてしまう。

 

「輪先輩駄目!今の瑠璃さんには何を言っても……」

「あわわわ!こっち向いたデス!」

 

 調が制止させようとしたが既に手遅れだった。輪の声に反応し、3人の方を向いてしまった。それによりターゲットがジークから3人に変わってしまい、襲い掛かる。

 

「こうなったら私達が止めるしかない!」

「仕方ないデス!」

「二人だけではないぞ!」

 

 何と光の短剣とアガート・ラームの短剣が空から降り注ぎ、クロスボウの矢が放たれ、暴走した瑠璃が足を止め、それを避ける。

 

「もしかして……!」

「もしかするデス!」

 

 マリア、クリス、翼が到着した。

 

「私と月読、暁で瑠璃を拘束する、マリアと雪音はオートスコアラーの対処だ!」

 

 翼が指示を出し、それぞれの役目を果たしに掛かる。

 翼を中心とし、瑠璃を引きつける。その間切歌が右から、調が左側から展開し、瑠璃の挟むように走る。

 翼に向かって瑠璃が鋭い右手を振り下ろすが、それを受け流して、距離を取ると高く飛翔し、その後ろから大量のエネルギーの剣を展開、それを瑠璃に向けて放つ。

 

【千ノ落涙】

 

 瑠璃は素手で自身が被弾しない範囲の剣を弾き落とし、再び翼に襲いかかろうとしたが、その直後に身体が動かなくなる。瑠璃の影に短刀が刺さっていた。先程、脚部のユニットから短刀を射出させ、エネルギーの剣に紛れ込ませていた。それを街灯によって映し出されている瑠璃の影に刺した。

 

【影縫い】

 

「今だ月読!暁!」

「了解!」

「合点デス!」

 

 左右にそれぞれ展開した二人が動き出す。切歌は肩のアーマーからアンカーを射出、瑠璃の間を通り過ぎると、調の腕部のユニットと連結させると、その上からヨーヨーを走らせて、それに繋がる糸と、地面から出した切歌のアンカーで二重に拘束する。影縫いによる拘束も含めれば三重であり、これから抜け出すのは容易ではない。だが瑠璃はこの拘束から解き放たれようとしてうめき声を挙げながら藻掻く。

 

「二人はそのまま拘束を!私はマリアと雪音の援護に周る!」

「「了解(デス)!」」

 

 翼はそのまま対ジーク戦線に加わる。

 対ジークではやはり二人は苦戦していた。トポス・フィールドのせいで動きを読まれ全て攻撃を避けられ、的確に急所への攻撃を繰り出している。しかし、マリアとクリスは戦闘経験が豊富であった為、それを捌いている。だが二人が攻撃を繰り出してもトポス・フィールドによって読まれ、内から出ようとしても範囲が広く、出れたとしてもジークが移動すれば、その領域も動いてしまう。

 マリアは短剣を蛇腹剣へと可変させ、それを振り下ろす。

 

【EMPRESS ✝ EVOLUTION】

 

 だがジークはこれを見ずに避けこれを掴んで引っ張る。引っ張られたマリアはそのまま引きずり込まれるが、その勢いを利用して飛び蹴りを放つ。至近距離で放たれた為、ハルバードの柄で防ぐが、わずかに後ろに下がる。

 トポス・フィールドは相手の動きで、次の動作を読むが、思考まては読めない為、直前で搦手を使われた場合、本人がそれに対処出来なくなる場合があった。ジークはそこを突かれた。

 さらに、わずかに後退した事で、トポス・フィールドも下がり、領域から抜け出せたクリスが背中のユニットから大型ミサイル2本発射させる。

 

【MEGA DETH FUGA】

 

 範囲外から放たれたミサイルに、驚愕しながらも、ハルバードで一本は叩き折る。だが2本目は避ける事が出来ずに爆発に巻き込まれる。

 

「どうだ!」

 

 これだけのものをくらえばただでは済まない。クリスの予想通り、ジークが纏う鎧が一部剥がれ落ちていた。

 

「おのれ……人間の分際で私に……!」

 

 傷を負わされた事に怒るジーク。ハルバードを持つ手が震えている。

 

「虫けらがいくら群がったところで、貴様らの敗北の運命は揺らがん!」

「へっ!それが揺れ始めてるぜ?」

「まだだ……まだ私の力はこんなものではない!私の本当の力を見せてやる!」

 

 そう言うとトポス・フィールドが解除される。すると、ハルバードが穂先、刃と柄が分離する。そして、鎧を自らの意思でパージすると、四肢の周径が筋が膨隆するように太くなり、分離したハルバードの刃が鋭い爪となる。さらに、身体も膨隆し、破棄した鎧を四肢、背後を覆い、ハルバードの柄が腰部と連結、靭やかになると、その先端に穂先が連結し尻尾のようになる。

 風貌も髪が長くなり、目の瞳孔は消え、口部も隆起するように変貌した。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉーーーー!!」

 

 咆哮を挙げた姿はまるで醜い姿へと変貌した。それはさながら

 

「竜……だとぉ……?!」

 

 弦十郎がモニターに捉えられたジークを見て呟く。ジークは最終形態『オルガニック・ドラゴ』へと変異した。

 

「自分の姿を変えやがっただと?!」

「人の形捨ててまで、私達を葬ろうと?!」

「お前達は私の手で抹殺してくれる!」

 

 ジークはキャロルの使命など関係ないと言わんばかりに怒り狂っている。

 

「デカくなっても、動きが鈍けりゃ意味ねえっての!」

 

 クリスは啖呵を切ると腰のジャッキを展開させて小型ミサイルを全弾一斉掃射させる。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

 だがその動きは鈍くなっている様子はなく、両腕を広げた事で小型ミサイルを全て吹き飛ばした。その爆風でジークが見えなくなる。

 

「何て出鱈目な?!」

「変異した事でより強化されたということか……来るぞ!」

 

 突如振り下ろされたジークの右手を避けるマリアと翼。翼が咄嗟の危機を知らせなければ、今頃抉られた地面と共に亡き者にされていただろう。

 

「自らの敗北の運命を受け入れろ!シンフォギア装者!」

 

 そう言うと左手を振り下ろすと、爪の斬撃の衝撃波が放たれる。3人はこれを避けたが、後ろにいた瑠璃を拘束するアンカーとヨーヨーの紐、さらに短刀を断ち切ってしまう。

 

「デデッ?!」

「嘘っ……?!」

 

 拘束が切れてしまった事で、解き放たれた瑠璃。しかもまだ暴走している。

 

「切ちゃんもう一度!」

「分かったデス!」

 

 再びアンカーとヨーヨーで拘束を試みたが、いくら理性をなくして暴走しているとはいえ、一度やられた技の知恵はつく。ヨーヨーとアンカーを射出すると、それをそれぞれの手で掴み取った瑠璃は振り回して、二人を投げ飛ばした。

 

「調!切歌!」

「マズい!あいつを守る奴がいない!」

 

 調と切歌が倒された今、輪を守るものがいなくなってしまった。瑠璃は輪に向かって走り出すが

 

「どおりゃああああああぁぁぁぁ!!」

 

 何と響が拳で地面を打った時に発生した衝撃波で瑠璃を吹き飛ばした。

 

「立花だと?!」

「あのバカ!安静だって言われてたろ?!」

「師匠から許可は貰ったよ!」

『だが無茶はするなよ。』

 

 弦十郎から念を押されたが、何とか説得した上で出撃許可を貰ったのだ。だが弦十郎の言う通り、ミカとの戦いの傷はまだ癒えていない。故に対ジーク戦線には参加せず瑠璃を止めるだけに留めた。

 

「切歌ちゃん、調ちゃん!行くよ!」

「「はい(デス)!」」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 精神世界。闇に囚われ、漆黒に身を染めた瑠璃は、海の底に沈むように闇の中を漂っている。何も考えず、ただひたすら闇に身を委ねて、少しずつ沈んでいく。底知れぬ闇の中へ。

 

(マックラ……マックラ……。ナニモミエナイ……ナニモ……ワカラナイ……。)

 

 誰かと繋がること、絆を断ち切られた瑠璃に何も残されていない。ただこの虚無の闇に沈んでいくしかなかった。

 僅かに差し込んだ一筋の光すらも認識出来なくなっている。何か呼びかける声が聞こえても、瑠璃には届かなかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 変異したジークを相手に奮戦する翼、マリア、クリス。トポス・フィールドが無くなった事で攻撃は当たりすくなったが、今度は攻撃そのものを受けていない。翼とマリアの斬撃、クリスの弾幕も何一つダメージらしいダメージが入っていない。しかもジークは、3人の攻撃を無視して腕を振り回して来る上に、どれも思い攻撃であり、当たればタダでは済まない。明らかに前の形態より状況は圧倒的に悪い。

 しかも瑠璃を抑えているのは負傷者である響と疲労困憊の切歌と調。このままではあの3人が持たない。

 

「雪音、マリア!イグナイトだ!」

「そうね……もうこの手しかないわ。」

「ああ……仕方ねえ!」

「「「イグナイトモジュ……」」」

「やらせるか!!」

 

 イグナイトを使おうとした時、ジークの口元に集まったエネルギーを波動にして放った。マリアとクリスが咄嗟にバリアとプロテクターを展開するが、その威力は凄まじく、すぐに破壊され、3人は吹き飛ばされた。

 

「翼さ……うわっ!」

 

 まずいことにジークはそのまま瑠璃を抑え込む3人に標的を変えた。となると必然的に響、切歌、調はジークと戦わなくてはならなくなる。

 

「マズいデス!」

「逃げてください輪さん!」

 

 瑠璃を抑える者が今度こそいなくなってしまった。瑠璃は輪に襲い掛かる。だが輪は逃げようとしなかった。

 

「瑠璃!」 

(駄目だ……今逃げたら、一生瑠璃に顔向けが出来ない!そんなの親友のすることじゃない!)

「ガアアアアアアアァァァァァーーーーー!!!」

 

 瑠璃の右腕が大きく振りかぶる。これを輪が受ければ致命傷は避けられない。

 

「輪さん!」

 

 でもただでは転ばない。輪は逃げるどころか両手を広げて瑠璃に飛び付いた。攻撃を避け、押し倒すように抱擁する。それから解き放たれようと瑠璃は大いに暴れまわる。輪は必死になって離さない。

 

(離さない!絶対に……離さなすもんか!)

 

 必死に食らいつく。力がある限り。

 

 精神世界で一人何も考えず、ただ破壊衝動に身を委ねた瑠璃が浮いている。

 

(モウ……イイ……ナニモカモ……。コンナニココチイイナラ……)

『り……!る……!瑠璃………!』

 

 微かに聞こえる、自分を呼ぶ声。

 

(ウルサイナァ……ズットコノママニサセテヨ……ワタシハ……ツカレチャッタ……)

 

 誰が呼んでいるか、今の瑠璃にとってはどうでもいいものだった。この心地良さに目を閉じる。流れのままに身を委ねて、何処までも落ちていく。

 

 

「瑠璃……!目を覚まして……!瑠璃!」

 

 現実から輪が呼び掛けても暴走は止まらない。腕の力もいつまで保つか分からない。輪の額には脂汗が滲み、右下腿の出血もあり、限界が近づいている。だがそれでも輪は離さない。

 

「いい加減に……大人しくしろ!」

 

 いつまでも目覚めない瑠璃に怒った輪は、思い切り頭突きをする。だが接触した時、体中に電気が走ったかのような感覚に襲われた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あれ?ここどこ?」

 

 突然何もなく、暗い空間にいる輪。何が起こったのか分からず困惑する。

 

「あのー!誰かー!いないのー?」

 

 呼び掛けても誰も来なかった。それもそうだ。ここには本当に誰もいない。

 

「あら〜やっと来てくれたのね〜。」

「え?!」

 

 いや、ただ一人、本当に来てしまった。だが声の主と思われる者は光の球体となっており、何者なのか分からない。

 

「あの……あなたは?」

「もう忘れちゃったの?まあ無理もないわね。この姿じゃ……今現すからちょっと待っててね〜。」

 

 そう言うと徐々に人の形となっていく。

 

「嘘……あなたは……!」

 

 その姿に見覚えがあった。何故ならルナアタック事変を引き起こした張本人、そしてその事件で亡くなったはず。

 

「さ、櫻井さん……?!」

 

声の主、そして現れたのは先史文明の巫女 フィーネだった。

 




ついに暴走してしまったジーク
そしてフィーネが何故ここに?!


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本当のワタシ

前回唐突に現れたフィーネ!一体何故?!


 何故か目の前に現れたフィーネ。輪は突然現れた事に戸惑う。

 

「な、何で……あなたがここに?」

「そうね。まあ話せば長くなりそうね。ちなみに言っておくと、私はフィーネであってフィーネではないわ。」

 

 フィーネが言った事に理解出来ない輪。どういう事かと聞く前に、フィーネが話す。

 

「正確には、あの子の世界の中に残った、私の意識の残留思念がフィーネとして形成された……言わばこの子の別人格ね。」

 

 フィーネの意識は全て消えたわけではなかった。僅かに残ったフィーネの意識が、この精神世界の主が無意識の内にフィーネとして再形成されてしまったのである。端的に言ってしまえば、二重人格という事である。

 

「私がこの子の意識を支配する為に、私の一部をこの子だけの世界に侵入した。だけど最終的に、私の一部はあの子の意思によって弾かれて、再びこの世界は瑠璃ちゃんのものになった。」

「ちょっと待ってください?その子ってまさか……」

「お察しの通り、ここは瑠璃ちゃんだけの世界、つまりここは瑠璃ちゃんの精神世界よ。」

 

 瑠璃の精神世界に放り込まれた事、瑠璃が二重人格者だった事に驚くが、それよりも何でこの世界に入れた事も謎である。

 

「あなたを呼んだのは私。バイデントの繋がる力を利用して、私があなたをこの世界に招いたの。あの頭突きがトリガーになってね。」

「どうして……私なんですか?他にも適任者が……」

「あなた瑠璃ちゃんを心無い言葉で傷つけたでしょう?それであの子イグナイトに失敗して暴走してるのよね〜。」

 

 遠回しに輪のせいだと言っているようなものだが事実なので輪は否定出来ない。

 

「だからあの子を元に戻す為にはあなたの力が必要なの。」

「私の……?」

 

 フィーネは闇の底へと通ずる穴を指す。

 

「この先に瑠璃ちゃんがいるわ。でも、私じゃ救えない。だからあなたを待っていたの。」

 

 そう言うと、フィーネは輪の手を引っ張り、そのまま引き寄せてから輪の頬に触れて、顔を近づけると

 

「んっ……?!」

 

 フィーネと輪の唇同士が重なった。輪は何が起こったのか理解出来ず、フィーネが唇を離すまで硬直していた。

 

「ここからはあなたの役目よ。」

「え……?!」

「私は……本当は存在してはいけないの。だから消え時を探してたの。まさか、こんな形であなたに力を与えちゃうなんてね。」

 

 そう言うと、フィーネの身体は光に包まれていた。その意味を理解した輪は動揺する。

 

「何で……そこまでして……」

  

 だが輪の疑問に答えてあげる暇はない。もう消えるまで間もなくとなったフィーネは遮って伝える。

 

「瑠璃ちゃんに伝えて。私が消えたら、この子を厄災から守る者がいなくなる。だからこれから先、あの子は残酷な運命に立ち向かわなくちゃならなくなるわ。けどこれだけは忘れないでほしい。誰かと繋がる事を、失う事を恐れないで、手を伸ばし続けて。絆は……そうやって強くなっていくものなのよ……。」

 

 遂にフィーネの身体は足から光の粒子となっていく。徐々に身体は消えていき、手も、胴体も消えた。

 

「絆の力を……信じなさいってね……。」

 

 そう言うと、フィーネは完全に消滅した。フィーネに教えられた、瑠璃がいる方へ、闇の底へと向かった。

 

 頭突きをされた時、精神世界の瑠璃にも影響が出ていた。

 

(ナ、ナニ……?イタイ……。)

 

 額を押さえて、擦る。それをやめると誰かが近づいてきた。その人には見覚えがあったが、ハッキリとは見えなかった。

 

(ダレ……?ダレテモイイヤ……。ワタシハ……モウナニモ……カンガエナイ……。)

 

 すると瑠璃を覆う闇の一部が分離する。

 

 

 輪は泳ぐように瑠璃へと近付いていた。その道中は本当に何もない闇そのものだった。だがその闇は、輪の精神を覆おうとしていた。フィーネの力がなかったら今頃、輪も闇に囚われていた。フィーネに感謝しながら先へと進む。

 

「いた!瑠璃!瑠璃起きて!瑠璃!」

 

 闇に包まれた瑠璃を見つけ、呼びかけるが応答はしない。今度はもっと近づいて、今度はその手を掴むべきかと考え、さらに底へと向かう。

 すると、何かが輪に近付いてきた。

 

「鏡……?」

 

 鏡が、輪を映し出す。すると

 

「まさか……響?!」

 

 鏡に映る響の目はどこか冷たかった。

 

「何で……何で響が……」

「本当に私達に絆なんてあると思いますか?」

 

 突然鏡の向こうにいる響が喋った。後ろを振り返ると、今度は未来が映る鏡があった。

 

「少なくとも、私達はあなたの事が嫌いです。」

 

 それだけじゃない。下から鏡が浮かび上がり、輪の前に立つと今度はそこに、クリスと翼が映った。

 

「あたしの事忘れてた癖に……何姉貴ぶってんだよ。」

「お前みたいに剣にもなれない役立たずが風鳴を名乗るとは、恥晒しめ。」

(そっか……ここは瑠璃の中の闇の世界。瑠璃の暴走を促したのって……!)

 

 そう、瑠璃が見たものの正体は鏡に映る幻影だった。瑠璃を闇へと引きずりこもうとするダインスレイフの呪い、それが根源だった。

 そして、マリア、調、切歌、弦十郎の幻影鏡が瑠璃の前に立つ。

 

「この偽善者……!」

「お前なんか役に立たないデス!」

「貧弱なお前に戦う資格などない。」

「お前は所詮、ただの赤の他人だ。父親呼ばわりされる筋合いはない。」

 

 絆を大事にする瑠璃が、こんな事言われたら闇に堕ちてしまうのは仕方のないことだ。ましてや、追い詰めたのは他でもない、輪だ。自分のした事に怒り、拳を握る。

 

「ごめん……瑠璃。苦しいよね……辛いよね……。全てを否定される痛みは……本当に地獄だもん……。」

 

 そう言うと響が映る鏡を、拳で叩き割った。

 

「もし……あんたを否定する奴がいたら……私がそいつを壊してあげるから……!」

 

 立て続けに翼、クリスが映る鏡を割っていく。叩き割っても精神世界であっても、鏡を割れば破片で指を切って出血する。痛くても、輪はどんどん割っていき、最後の一枚を破壊した。

 

「趣味の悪い鏡……。」

 

 そう吐き捨てるとそのまま瑠璃の方へと近付いていく。そして、目と花の先の距離になると、輪波再び呼び掛ける。

 

「瑠璃!瑠璃!帰ろう!皆が待ってる!もうあんたの悪口を言う鏡はもうないよ!だからこんな暗い所にいないで、帰ろう!」

 

 そう言って手を伸ばそうとした時、それを拒まれたかのように弾かれた。

 

「な、何……?」

 

 瑠璃を覆った闇と同じものが、輪と瑠璃の間に集まり、それが人の形となって姿を現す。だがその姿というのが

 

「私……?!」

 

 漆黒の全身が、人と同じ柔肌の姿へと変わる。その風貌は紛れもなく自分自身である。だがその目は無機質で、輝きなんてものは感じ取れなかった。

 

「あんた!一体……」 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 暴れ狂うジークに手がつけられない状態となってしまっており、装者達は既にボロボロだった。6人で戦っているにも関わらず、戦況は幸い呪いに飲み込まれた瑠璃は何故か大人しくなっていた。だが同時に輪も動かなくなっていた。

 

「どう足掻こうとも、人間ごときが私に勝てるわけがないのだ!」

 

 もはや自らの勝利の為に、己が作られた目的を忘れてしまっていた。

 

 

「ジークめ……。やはりこうなったか……。」

 

 キャロルはシャトーの玉座からジークの戦いを眺めていた。こうなる事は想定していたようだ。まさにその様は戦車の暴走だ。

 

「この程度も止められないようなら……奴らはそこまでだったという事だ。」

 

 だがキャロルは止めようとはせず、不敵な笑みを浮かべながら眺めたままだった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 自分の写し鏡というべき姿をした幻影が目の前にいる。しかも輪を模した幻影は、沈みゆく瑠璃の身体に、その腕を絡めるように抱き、笑みを浮かべている。輪はそれを見せつけられ、嫌悪感を示す。

 

「何のつもり?瑠璃から離れ……」

「よくのうのうと来れたね。裏切り者。」

 

 突然裏切り者と呼ばれ、たじろいでしまう。だが本当の事なので否定出来ない。

 

「楽しかったでしょう?復讐の時間。楽しそうだったもんね。分かるよ。」

「あんたには関係ない!瑠璃から離れて!」

「関係あるよ。私はあなた、あなたは私。だからあなたの事は全て分かる。」

「嘘だ!そんな嘘、私は……」

「世界なんて無くなっちゃえばいい。そう言ったのはどこの誰かな?」

 

 あの火災が起きた日、ガリィと密会していた時に、先程のセリフを呟いた。覚えているが故に言い逃れが出来ない。

 

「風鳴翼に復讐したかったんでしょう?怒りや恨みは理屈ではどうにもならない。その通りだよ。だからやってしまえばいいじゃん。」

「でも……そんな事をしても……」

「瑠璃は悲しむ?もう悲しむことはないよ。瑠璃は闇の中で静かに眠っているよ。絆を断ち切ったこの子にあるのは闇だけ。つまり……もう私だけのもの。」

 

 そういうと輪の幻影は闇に染まった瑠璃を強く抱きしめ、心臓がある場所を、大きな胸も揉むように触れる。

  

「瑠璃に触るなぁ!」

 

 輪の幻影を突放そうと手を伸ばすが、その右手には禍々しい鎖が絡みつく。右手だけではない、四肢に鎖が巻き付き、胴体にも絡みつく。

 

「ここは瑠璃の世界。裏切り者のあなたは受け入れられないんだよ。」

 

 輪は鎖を引き千切ろうとするが、動けない。しかもその鎖は瑠璃と輪を引き離そうとしており、徐々に距離が開いていく。

 

「瑠璃、聞いて!私は……本当は瑠璃が大好きなの!確かに出会った頃は騙してたし、チョロいなって思ってたよ!でも、一緒に過ごす内に私は瑠璃の綺麗な心に惹かれたの!だから、そんな瑠璃を裏切った自分が許せなくて、こんな醜い私じゃ……もう友達じゃいられないと思って、あんな酷い事を言っちゃったの!」

 

 輪の偽らざる本音を瑠璃にぶつける。

 

「許してくれるなんて思ってない!だけど瑠璃……私は……」

『もう友達じゃない。この子は風鳴翼に復讐する為に利用したただの駒。都合の良い女。』

 

 出鱈目と反論は出来なかった。それは最初に感じていた事だったからだ。だがもう今は違う。そう言いかけた時……

 

『私は瑠璃を盾に復讐を一度はやめた。けど、キャロルと会って、あのライブが聖遺物の起動実験だったと知って、復讐の炎が燃え上がった。だから私は友達より復讐を選んだ。友達を捨てたあんたが……また友達になりたい?都合が良すぎるよ。』

 

 自分が犯した罪を突きつけられ、俯いてしまう。瑠璃の幻影は笑みを浮かべた。鎖によって少しずつ引き上げられ、離れていく。

 

「ハハハ……ハハ……アハハハハハハ!」

 

 突然笑い出した。その笑い声は例え聞いているものがいなくても、この空間にいたとしたら全員聞こえてしまう程に馬鹿笑いが止まらない。

 

『何がおかしいの?!』

「あんた、あたしの事を知ってると言う割には何にも分かってないんだね!そうだよ!それが私だよ!私は自分の為なら何でもする!最低な超悪い子!だから私はもう一度瑠璃の隣に立ちたい!本当の私を知ってほしい!」

 

 あまりにも身勝手な輪に、幻影もたじろいだ。こんな我儘な奴が友達だというのかと。

 

『そんな……そんなこ瑠璃が受け入れるはずがない……!そんなの身勝手な……はっ……!おまえ……!』

 

 一瞬、輪の威圧がフィーネを彷彿とさせた。しかも鎖にヒビが入っている。フィーネが輪に力を与えていた事に気付いた。

 

「受け入れてくれるよ。あの子の事はよく知ってる。いい?!一度しか教えないからよーく聞くことね!この子は真面目で!臆病で泣き虫で!すぐに人の言う事を信じるお人好し!いっつも自分に厳しくて他人には超激甘!極度のファミリーコンプレックスで、胸もやたらデカい!そんてもって経歴も滅茶苦茶だけど世界で一番可愛くて美人で肝が座った女の子なんだ!」

 

 瑠璃に対して思っている事を全てぶちまけた。自分でも恥ずかしくなるくらいだが後悔はしていない。

 

「何にも知らない、理屈ばっかな幻影が、私と瑠璃の絆を語るな!さっさと消えろ、この大馬鹿野郎がああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 輪が叫ぶと、鎖が粉々に砕け散り、辺りが光出して輪の幻影が塵のように消滅した。もうこれで二人を阻む者はいない。

 輪は再び近づいて、瑠璃の右手首を掴む。

 

「瑠璃……起きて。」

 

 すると、闇に包まれた瑠璃の赤い目が開いた。

 

「リン……?」

「おはよう、瑠璃。」

 

 輪は優しく微笑む。

 

「ナンデ……ナンデ……ココニ……?」

 

 瑠璃の問に輪は唐突に抱きしめた。すると、瑠璃の顔を覆う闇が祓われ、その素顔がさらけ出している。

 

「ごめんね瑠璃。私は瑠璃を利用して、あんな酷い事を言って悲しませた。今更許してくれないかもしれないけど、私は瑠璃の友達でいたい。また一からやり直したい。駄目かな?」

 

 偽らざる思いを伝える。今度は嘘じゃない。本当の自分を瑠璃に伝える。

 

「リン……。イイノ?まタ友ダチとしテ……一緒ニ……いてくれるの?」

「当たり前だよ。私達は……親友でしょう?」

「うん……!」

 

 瑠璃は涙を流しながら、答えた。

 精神世界の闇によって黒く染まった瑠璃の身体が、闇から解放されるかのように生まれたままの姿に戻った。

 

「瑠璃は、私がもう戦わなくて良いって言ってくれたよね?私、もう逃げないよ。でも一人じゃ不安だから……一緒に戦ってほしい。私も、瑠璃と一緒に戦うよ。」

「うん。今度は二人で。」

「「私達の絆の力で!」」

 

 二人は笑い合う。両手を重ねて、二人の額はそっと触れ合うと、二人を中心に眩い光を発し、暗い闇の底は払われた。




G編の時に見た夢、実は残っていたフィーネの意識を通じて一時的に調と同調していました。
本編では語られませんでしたが調も瑠璃と一時的に同調して、クリスの名前を読んだことがありますが、気のせいだと思い、そのままにしてました。

そして艦内の独房で瑠璃は調にレズキスされた事で、瑠璃は調の中にフィーネがいると確信しました。


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BEYOND THE DARKNESS

いよいよオリジナルエピソード、クライマックスになります。

ただ今までのオリジナルエピソードが長すぎたので今回は短めになります。


輪の意識が戻った。現実世界に戻っていた。着ている服もそのままで。

 

「瑠璃……。」

 

 起き上がると瑠璃はギアを纏っている姿に戻って立っていた。

 

「輪……ありがとう。」

「元に戻ったんだね……!良かった……!」

 

 戦闘中だったジークと装者達も瑠璃が元の姿に戻った事に驚き、装者達はそれに加えて歓喜した。

 

「姉ちゃん!」

「瑠璃さん……!」

「元に戻ったデース!」

「良かった……。」

 

 だが喜んでばかりではいられない。ここがまだ戦場でジークがまだ健在であることを。

 

「やっと闇から抜け出せたか。だが今更虫けらが一匹増えたところで……!」

 

 ジークは不敵な笑みを浮かべる。やっとこれから本当の戦いが始まる。

 

「皆!この戦い、私に委ねてほしい!私があれを倒す!絶対に倒すから、私に力を貸してほしい!」

 

 覚悟に満ちた瑠璃の顔。皆は今の瑠璃ならイグナイトを制御出来ると確信している。その意図を組んだマリアは瑠璃に駆け寄り、微笑むように告げる。

 

「良い顔になったわね。」

 

 無言で頷く瑠璃。

 

「私は賛成です!」

「ああ。真打ちは瑠璃に任せよう。」

「その代わり、絶対に倒せよ!」

「瑠璃先輩なら絶対出来ます。」

「あいつをぶっ飛ばすデース!」

 

 皆は快く了承してくれた。ここまで託された以上、その期待に応えなきゃならない。

 

「私は親友を助ける……!胸を張って親友でいられるようにしたい!皆が託してくれた……だから必ず勝つ!イグナイトモジュール 抜剣!!」

 

 再びマイクコンバーターに入力、宙に投げると外殻が変形し、エネルギー状の刃が展開、それが瑠璃の胸を貫く。

 

「ぐぅ……!ぅっ……!」

 

 再びその身に闇が降りかかる。

 

(私達は人間……。何度でも間違えるし、仲違いだってする……。だけど絆は、それを乗り越える度に、その絆は強くなっていく……!)

「負けるな瑠璃!闇なんか乗り越えろー!」

 

 輪が応援してくれている。装者の皆が期待してくれている。弦十郎が帰りを待ってくれている。

 

(何度間違えたってやり直せる……!その度に強くなっていく……それが……本当の絆の力なんだ!!) 

 

 ダインスレイフがその思いに応えるように、インナースーツが黒く染まり、胴には藍色の鎧が形成される。左右非対称だった四肢の白い装甲も黒に統一され、藍色のラインマーカーが命の鼓動を表すかのように光る。

 瑠璃がイグナイトの支配に成功した。

 

「瑠璃……。」

「輪、行ってくるよ。」

 

 その背中は大きく、逞しくなっているように思えた。

 

「分かった。絶対に勝ってね。」

 

 瑠璃が振り返って輪に微笑む。バイザーはイグナイト時にオミットされている、その為、戦闘補助システムは使えない。だが今の瑠璃にはそんなもの不要だ。

 ジークを見据え二本の荒々しくなった槍を構える。

  

「何が絆の力だ……!そんなもので、絶望的な状況から何を変えられると言うのだぁ?!」

 

 アルカ・ノイズの召喚石がばら撒かれ、大量のアルカ・ノイズが召喚された。

 

「瑠璃!私達が活路を作る!」

「雑魚は私達に任せてあいつを!」

 

 翼とマリアがアルカ・ノイズを前線で蹴散らす。クリスも後衛からガトリング砲を乱射する。クリスに襲い掛かるアルカ・ノイズから守るように響、切歌、調が返り討ちにする。

 

「今です瑠璃さん!」

「ぶちかませ姉ちゃん!」

「絆の力を信じて……!」

「行ってくるデスよ!」 

「ありがとう、皆!」

 

 瑠璃はそのまま単騎でアルカ・ノイズによって塞がれ、仲間が開いてくれた道を駆け抜ける。

 

「貴様らぁ!!」

 

 ジークは特大の波動を両手から放った。しかも自ら召喚したアルカ・ノイズごと装者達をまとめて吹き飛ばそうとした。その強大な力に瑠璃は一瞬怯む。

 

 『立ち止まるな!』

 

 喝を入れてくれたその声。亡き友(ジャンヌ)が背中を押してくれた。

 

「うん!」

 

 瑠璃はそのまま走り、二本の連結させた槍を高速回転させて、そこから発せられる竜巻のエネルギーで、波動を打ち消した。

 

【Harping Tornado】

 

「何ぃっ?!弾いただと?!」

(馬鹿な?!私の最大出力を……!!ふざけるなあぁ!!)

「ふざけるなあああああぁぁぁーーーっ!!」

 

 両手を振り下ろすと、爪の斬撃が放たれるが瑠璃は連結させた槍の穂先にエネルギーを集め、そのまま2つの斬撃を弾く。

 

【Raging Hydra】

 

 ジークは連続で爪の斬撃を繰り出すが、瑠璃の動体視力で迫りくる斬撃を避け、連結された槍で弾く。

 斬撃を相殺した瑠璃は槍に跨って飛行、その高い機動力を持ってジークを惑わす。 

 

「虫けらがちょこまかと!!」

 

 叩き落とすべく腕を振り回すが、瑠璃の高い機動力では捉えきれない。だが先程から避けるばかりで攻撃しようとしない。次第にスピードが落ちていき、ジークの尻尾が伸長、槍となって瑠璃の身体を貫いた。

 

「瑠璃!!」

「姉ちゃん!!」

 

 翼とクリスが悲鳴に似た叫びを挙げる。ジークは勝利を確信し、笑みを浮かべるが

 

「何?!」

 

 引き裂かれた瑠璃の形が歪み、消えた。これは幻影だった。

 

【Mirage Virgo】

 

「おのれ……本物はどこに……?!っ!」

 

 本物の瑠璃は下にいた。幻影に囮をさせ、瑠璃は攻撃のチャンスを窺っていた。そして、その隙だらけとなった鱗の守りがない脇をRaging Hydraで穿ち、左腕を破壊した。さらに瑠璃は急旋回してそのまま急降下、右肩を破壊する。

 

「馬鹿な……ぐぁっ!!」

 

 そのままジークの腹部を蹴り上げ宙へ打ち上げる。連結された槍にエネルギーを限界まで集約させて、腰のブースターを点火、打ち上げられたジークに狙いを定める。 

 

「貴様一人ににここまで……!」

「それは違う!」

 

 ジークの言葉を真っ向から否定する。

 

「これは、私と輪、そして、皆が繋いでくれた絆の証!私達の絆は、永久に繋がる日輪(キズナ)となる!」

 

 それを見ていた輪が叫ぶ。

 

「やっちゃえ、瑠璃いいいいぃぃぃーーーー!!」 

「皆の絆がここに集まったこの一撃!貫けえええええええええぇぇぇぇーーーーー!!」

 

 槍を突き出すと、集まったエネルギーが槍を覆い、まるで天へ昇る龍の頭となってジークの胴体を捉えた。そのエネルギーと勢いを乗せた一撃で胴体を貫いた。

ジークは最期に己の使命を思い出した。それが果たされたのは良い。だが1つだけ認めたくないものがあった、

 

(馬鹿な……!!これが……絆の力だというのか……?!)

「この私が……負けたと言うのかあああああああぁぁぁぁーーーー!!」

 

 瑠璃の、装者達の絆の力の前に敗れ、断末魔を挙げたジークはそのまま爆散した。

 

【Twilight Drago】

 

 ジークを貫いた瑠璃は槍を天に掲げると、そこを中心に夜空を遮っていた雲が払われ、夜空が姿を現し、そこには星々が燦然と煌めいていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 瑠璃が降り立つと、勝利を称えるように日輪が昇り、夜明けの光が射し込んだ。

 皆ボロボロだったが、その疲れはジークを倒した勝利で吹き飛んだような気がしたのか、装者達は瑠璃の所へ集まった。

 

「凄いですよ瑠璃さん!本当にドラゴンが出てきたみたいで……痛たた……!」

「おい、無茶すんな!」

「よくやったな、瑠璃。」

 

 皆が勝利を、イグナイトを支配出来た事を祝福してくれた。そしてもう一人

 

「瑠璃ー!」

 

 輪が手を振ると、瑠璃はギアを解除して駆け寄る。そして、互いに勝利を喜び合うように抱きしめ合う。

 

「やったよ輪!」

「見てた見てた!凄かったよ瑠璃!あんなの倒しちゃうなんて!」

「あの時輪が来てくれなかったら……私は闇に囚われてたままだった。これは皆と輪と、一緒に掴んだ勝利だよ……!」

 

 そう言うと、輪は大粒の涙を流して瑠璃を強く抱きしめた。

 

「ごめんね……っ!ごめんね瑠璃ぃ……!私……私……あの時、酷い事を言って……もう……嫌われちゃったんじゃないかって……!」

 

 人目も憚らず、輪は泣き叫ぶ。

 

「ありがとう……輪。やっぱり輪は、私の最高の親友だよ……っ!」

「ぅっ……うぅっ……ありがとう……ありがとう瑠璃いぃ……っ!」

 

 それを遠目から見ている他の装者達。瑠璃と輪の蟠りは完全に無くなっていた。

 

「瑠璃さんと輪さん、仲直り出来て良かったぁっ……!」

「めでたしめでたし、デスね……!」

「一件落着……。」

 

 響、調と切歌は思わず貰い泣きしてしまう。

 

「あの二人、よくお似合いだな。」

「けど、そういう事は家でやれっての。」

「そう言う割には、満更でもないんじゃない?」

 

 クリスも半ば呆れているが、嬉しそうに笑っている。翼もマリアも、微笑する。すると、落としてきたカメラをマリアが拾う。

 

「マリア?」

「良いから。せっかくのベストショット、逃したくないじゃない。」

 

 マリアはカメラのシャッターを押す。瑠璃と輪の写真を撮った。その写真に写る瑠璃と輪は、涙を流していたが、どんな写真よりも輝くような笑顔だった。




良かった……救われた……。ちなみにその後の処理については番外編にて書こうと思います。

輪の名前の由来

輪→「日輪」と「輪舞曲」のダブルミーニング。
出水→出
瑠璃は夜空なので朝日を連想させる日輪から作られました。故に太陽のように明るい性格なのです。

オルガニック・ドラゴ

ジークの強化形態。
手持ちのハルバードと合体すると3m近くにまで巨大化し、今までの急所を突いた戦い方からパワフルなものへと変わる。
トポス・フィールドは使えず、その巨体故に攻撃は避けられないが、分解した鎧が鱗となって全身を守る為、攻撃はさらに通りにくくなっている。ただし胴体前方、関節の裏側を覆えない為、そこの守りは脆い。

アリストテレス著作 オルガノンから


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手折れた刀

オリジナルエピソードが終了して一息ついてました。

さあ再開するぞ〜!


 ジークが倒された事でチフォージュ・シャトーの内部に垂れている白い幕に黒い模様が刻まれる。

 

「ジークは役目を果たしたか。」

 

 キャロルはジークの暴走で、目的を果たせずに破壊されるのではないかと僅かに考えていたが、結果的にそれは杞憂に終わり、ジークは役目を果たして破壊された。

 

「ぐっ……!」

 

 突然キャロルは頭を抱えて苦しみだした。この現象はキャロルが予備躯体に移ってから発生するようになった。最後の予備躯体に負荷を度外視して思い出を高速インストールした事に加えて自害した思い出によって拒絶反応が発生していた。

 主の不調を心配するレイアとファラ。

 

「いかがなさいますか?」

「無論まかり通る……!歌女共が揃っている……この瞬間を逃すわけにはいかんのだ!」

 

 キャロルは目的を果たす為なら、この身にどんな痛みや苦しみだって受ける。世界を分解するまでは、止まるわけにはいかない。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 瑠璃がジークを倒し、残りオートスコアラーは2体となった。だが裏切り者だった輪は処罰を受ける事になったが、何と数日の聞き取りと謹慎で済んだ。というのもあのライブの惨劇の被害者狩りの被害者であり、それが原因で今回の凶行に走ったという理由もあり、処罰は軽いもので済んだ。

 そして今、病院で入院している。しかも響と同室で。

 

「んで、二人して同じ人助けで木から降りられんようなった猫捕まえようとして、二人して落っこちて、そんで輪に関しては枝で足切って、響ちゃんは頭打ったってぇ?!」

 

 しかも担当看護師が小夜だった。ちなみに小夜には響と輪が木から降りられなくなった猫を助けようとしたが、二人して木から落っこちて怪我をして運ばれたという体で通っている。

 立て続けに重なる偶然に驚く二人。響と輪のお見舞いに未来が来ていた。

 

「すみません、私がいながら止められなくて。」

「ええんよ〜。二人とも未来ちゃん見習わんと。そそっかしい所は何か似とるんよな〜。」

「「面目次第もございません。」」

 

 二人は頭を下げる。

 

「ま、後は3人でごゆっくり〜。」

 

 手を振りながら、小夜は退室した。すると輪が腕をジタバタし始める。

 

「ああ〜ん!もう瑠璃来てくれな〜い!何でこんな時に限って〜!」

「瑠璃さんどうしたんですか?」

「何か翼さんの実家行くんだって。」

 

 未来の問に輪が不機嫌そうに答える。

 

 

 同じ頃、瑠璃、マリア、翼を乗せた車は今、武家屋敷と思わせる私邸へと入った。今回3人がここに来たのには理由がある。

 先日、ミカが襲った共同溝内の電力経路図が強奪された。それにより敵に電力の優先供給地点が知られてしまったのだ。それについては輪が証言してくれた『レイラインの解放』という事に関係がある。意図に関して言えばそれだけでは掴むことは出来なかったが、これにより敵の襲撃場所と思われる場所を特定する事が出来た。

 その一つが深淵の竜宮と呼ばれる、深海にある施設。そこには異端技術に関連した危険物及び未解析品が封印されている。

 そしてもう一つが風鳴八紘邸であった。ここには要石と呼ばれる石柱がある。

 というのもここ数日で発生している神社や祠の破壊、その全てが明治政府の帝都構想で霊的防衛機能を支えていた竜脈、つまりレイラインのコントロールを担っていた。そして風鳴邸にある要石もレイラインコントロールを担っている。そこをオートスコアラー達が狙うと睨んでいた。

 そこで深淵の竜宮にはクリス、切歌、調を、風鳴邸には翼、マリア、瑠璃が向かうことになった。

 

 風鳴邸に到着し、車から降りる翼、マリア、瑠璃と車の運転を任されていた緒川。

 マリアはその敷地内の広さと武家屋敷を思わせる風景に驚いている。

 

「ここが……」

「風鳴八紘邸、翼さんの生家です。」

「10年ぶり……まさかこんな形で帰るとは思わなかったな。」

 

 翼の幼少期はここで過ごしていた。だが思い出にふけている様子は微塵も感じられない。

 一方瑠璃は3年前、親戚回りの挨拶で一度だけ訪れた事があった。

 4人は屋敷の玄関へと向かって歩いていくと、その庭に設置されている要石を見つける。

 

「これが……」

「要石……。」

 

 この巨石がレイラインのコントロールを担っていると言われでもしない限り、飾り物と思われるだろう。

 

「翼さん。」

 

 緒川が呼ぶと、玄関から黒服の男を連れた着物の男がやって来た。彼こそが風鳴八紘である。

 

「お父様……。」

「ご苦労だったな、慎次。」

 

 

 小さな声で呟く。だが翼には目もくれず、緒川に労いの言葉を贈った。

 

「恐れ入ります。」

「それに、マリア・カデンツァヴナ・イヴだったな。S.O.N.G.に編入された君の活躍も聞いている。」

「は、はい……。」

 

 八紘は次に瑠璃の方を向く。 

 

「瑠璃、3年ぶりだな。お前の活躍も弦から聞いている。」

「は、はい……!お久しぶりです……。あの……裁判の時は、ありがとうございました。それと……お礼が遅れてしまい……申し訳ありませんでした。お陰様で……私……」

「私は私の務めを果たしたまでだ。礼は不要だ。それとアーネンエルベ神秘学部門から、アルカ・ノイズに関する報告書も届いている。後で開示させよう。」

 

 そう言うと屋敷の方へと歩いていく。娘である翼を見ず、何も告げずに。

 

「お父様……!」

 

 翼は思わず呼んでしまう。だが八紘はその歩みを一度止めた。

 

「沙汰もなく、申し訳ありませんでした……。」

 

 せめて何か父親として、何か声をかけてほしい。その思いでいっぱいだった。

 

「お前がいなくとも、風鳴の家に揺るぎはない。務めを果たし次第、戦場に戻ればいいだろう。」 

 

 だが無情にも八紘は冷たく言い放つ。まるで不要と言わんばかりに。瑠璃はその冷たさに怯えてしまうが、マリアは文句が言いたいようだ。

 

「待ちなさい!あなた翼のパパさんでしょ?!だったらもっと他に……!」

「マリア!良いんだ……。」

「お姉ちゃん……。」

 

 マリアが政府の重鎮相手に啖呵を切るが、翼がそれを制止する。翼がそうするなら、マリアも下がる他ない。瑠璃もそんな翼を見て胸が苦しくなる。瑠璃の思う父親と娘の在り方とはあまりにもかけ離れすぎているかだ。八紘が翼に対して冷たいと、弦十郎から聞いてはいたがここまでとは想像していなかった。

 やはりこのままには出来ない。たった一人の父親と娘が、こんな冷めきった関係のままで良いわけがない。

 

「あの……!八紘叔父さ……」

 

 意を決して瑠璃は八紘に説得しようとしたが、緒川が突然、発砲したことでそれはお預けとなった。発砲した先にはオートスコアラー、ファラが銃弾を剣で弾いた。

 

「野暮ね。親子水入らずを邪魔するつもりなんてなかったのに。」

「あの時のオートスコアラー!」

「レイラインの解放、やらせていただきますわ。」

「やはり狙いは要石か……?!」

「やらせない……!」

 

 翼、マリア、瑠璃がギアペンダントを握りしめる。

 

「ダンス・マカブル。」

 

 ファラはアルカ・ノイズの召喚石をばら撒き、そこからアルカ・ノイズが顕現する。文字通り、死の舞踏へと招待している。

 

「ああ……付き合ってやるとも!」

 

 翼は誘いに乗るように起動詠唱を唄う。

 

 

 Imyuteus amenohabakiri tron……

 

 翼が青いギアをその身に纏って刀を構える。マリア、瑠璃もそれぞれのギアを纏い、襲い掛かるアルカ・ノイズ迎え撃つ。最前線でアルカ・ノイズを斬り伏せる翼。青い剣閃によって赤い塵と化す。

 

「ここは私が!」

「務めを果たせ。」

 

 八紘は外敵の対処を翼に任せてそのまま黒服を伴って戦線から離れる。ただ、父親としてではなく、風鳴の務めである防人としての言だった。一瞬だけ暗い表情になってしまうが、今は目の前の敵を打倒する事に集中する。そうでなければ、わざわざ一度夢を捨ててまで戦場に立った意味がない。翼はファラに対して正面から対峙する。

 マリアと瑠璃は要石に近づくアルカ・ノイズの対処に当たっている。もし一体でも討ち漏らせば、要石などアルカ・ノイズの解剖器官で容易に破壊出来てしまう。アルカ・ノイズは命令通り、数の暴力で押そうとするが、近づこうとするとマリアの蛇腹剣によって分断され、瑠璃の二本の槍で串刺しにされる。突撃しかしないアルカ・ノイズはその数を確実に減らし、最後の一体をマリアが倒した。

 

「こっちは片付いたわ。翼の援護に行くわよ!」

「はい!」

 

 翼はファラとの一騎討ちを繰り広げている。一見互角に見えるが、よく見るとファラはどこか余裕の笑みを浮かべながら竜巻を繰り出したり、剣を振るっている。だが翼も負けてはいない。高く飛翔し、刀を超大型の両刃剣へと可変させると、脚部のバーナーを点火させて刀の頭を蹴る。そのままその剣先はファラへと向けて急降下していく。

 

 【天ノ逆鱗】

 

「獲った……!」

 

 それを見ていた瑠璃は翼の勝ちを確信していた。だがファラは動じることもなく、その剣先に刃を突き立てた。すると、翼の刀の刀身に亀裂が生じ、あえなく砕け散った。

 

(剣が……砕かれていく……?!)

 

 翼は剣を砕かれた時に発せられた衝撃で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

「お姉ちゃん!」

 

 倒された翼に駆け寄る瑠璃。

 

「私のソードブレイカーは剣と定義される物であれば、強度も硬度も問わずかみ砕く哲学兵装。さあ……いかが致しますか?」 

 

 それが翼の剣を叩き折った理由。剣として己を鍛え上げた翼にとって、まさに相性最悪の敵である剣殺しの剣。それを翼に剣先を向ける。

 

「でも……槍だったら!」

 

 瑠璃は二本の槍を構えて、ファラに向けて突撃する。

 

「あなたには用はありませんのよ。」

 

 そう言うとソードブレーカーを振り下ろすと再び竜巻が発生する。瑠璃はそれを避けてファラに近づこうとした時だった。

 

「駄目よ瑠璃!離れて!」

 

 何かに気付いたマリアは瑠璃を制止するべく叫ぶが、遅かった。瑠璃の目の前で竜巻は3つとなり、その逃げ場を塞いでしまう。そのまま3つの竜巻は高速回転を始めて、その風圧で瑠璃を吹き飛ばした。

 

「ああああああぁぁぁぁぁ!!」

「瑠璃!!っ!」

 

 竜巻によって打ち捨てられた瑠璃はそのまま地面へと叩きつけられた。しかもその竜巻はそのままマリアの方へと向かっている。マリアは短剣を蛇腹剣へと可変させて竜巻を迎撃しようとしたが、剣と定義されてしまったのか、あえなく砕かれた。マリアは咄嗟に避けたものの、竜巻はそのままマリアの後ろにあった要石を破壊してしまった。

 

「あら、アガートラームも剣と定義されてたかしら?」

 

 その物言いからファラはマリアなど眼中に無いようだった。

 

「ごめんなさい。あなたの歌にも興味が無いの。」

 

 そう言うと、ファラは目的を果たしたのか自らの身に竜巻を帯びてそのまま姿を消してしまった。

 

「剣ちゃんに伝えてくれる?目が覚めたら改めてあなたの歌を聞きに伺いますって。」

 

 ファラの声だけが一方的に響く。要石防衛は失敗し、翼と瑠璃は屋敷に運ばれた。




ちなみに言い忘れてましたが、精神世界でのやり取りは……全てすっぽんぽんです!

以上!


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夢へと羽撃く翼

至るところで叫びまくるけど喉は大丈夫かな〜?


  要石防衛の任務は失敗した。弦十郎に通信で破壊された要石を見ながらそれを報告する。

 

『要石の防衛に失敗しました。申し訳ありません。』

「二点を同時に攻められるとはな……。」

『二点?!まさか!』

 

 艦内ブリッジのモニターには深淵の竜宮内部の映像が映っており、そこには死んだとされていたキャロルがレイアを伴って、中を歩いている。

 

 少し遡る。病室で弦十郎から事情聴取を受けていた輪。裏切り者だった輪の証言でキャロルが生きていたと証言していた。

 

 『キャロルが生きていた……だと?!』

 『うん……。あの時、確かにキャロルは自決したはず。遺体だって燃えてて、それで灰になってたのに。裏切り者だってバレて、あいつらの本拠地に連れてかれた時に……あの子が五体満足で生きてるのを見た。あの時……何か……よびくたい……って言ってた。』

 

 その証言を元に、エルフナイン話は仮設を立てた。

 

『キャロルは事切れた時の為に、予備躯体、つまり換えの身体を用意してあったと思われます。ですが……キャロルは長い時を生きているので、思い出のインストールには相当な時間を要します。それがこんなに早く……。』

 

 エルフナインも解せない点もあるようだが、いずれにしろキャロルは生きているという事に変わりはない。

 そんな事があり、装者達もキャロル生存の情報を耳にしている。

 

「閻魔様に土下座して、蘇ったのか?!」

「奴らの策に乗るのは小癪だが、見過ごすわけにはいくまい。クリス君は、調君と切歌君と、一緒に行ってくれ。」

「おおよ!」

 

 クリスは弦十郎の指令に応えた。

 元々潜水艦は深淵の竜宮へ向かっていたので、すぐに到着した。弦十郎の指令によって、クリスは調と切歌を伴い、小型の潜水艇で竜宮の海底ドッグに入ると、そこに潜水艇を駐めた。

 

「ここが深淵の竜宮?」

「だだっ広いデス!」

 

 深淵の竜宮は多くの異端技術が厳重に保管されている施設であり、その広さに調と切歌が驚く。 

 

「ピクニックじゃねえんだ。行くぞ。」 

 

 クリスを先頭に調と切歌がついて行く。

 一方本部の潜水艦でも装者3人をサポートするべく、情報収集に走る。そこに藤尭から報告が入る。

 

「施設構造データ、取得しました。」 

「キャロルの目的は世界の破壊。ここに収められた聖遺物、もしくはそれに類する危険物を手に入れようとしているに違いありません。」

「敵の出方を知る為にも目星をつくなら都合がいいか。友里、秘蔵物のリスト化を急げ!」

「はい!」 

  

 敵の思惑を知り、目的を阻止する為にも友里はリスト化を急いだ。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げてクリス!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと帰れる……。また……クリスと一緒に……。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だ……いや……いやだ……嫌……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやあああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 突如、瑠璃は悲鳴をあげるように起き上がった。息も荒く、脂汗が頬を伝う。周りを見るとここが八紘邸の部屋であり、自分がこの畳の上に敷かれた布団で眠っているのが分かる。既に夜になっており、月の光が僅かに庭を照らしていた。

 

「今のって……夢……?」

 

 夢にしては妙にリアルで生々しかった。だが既にその見た夢は殆ど霞みかかってしまった。

 そこに駆け込むような足音が聞こえてきた。

 

「大丈夫瑠璃?!」

「敵か?!」

 

 瑠璃の悲鳴を聞き、駆けつけた翼とマリア。

 

「あ……大丈夫だよ。ごめんなさい……ちょっと悪い夢を見ていたみたいで……。」

 

 それを聞いた二人は安堵した。 

 

「瑠璃、翼のパパさんが呼んでたわ。」

「八紘叔父様が……?」

 

 瑠璃は着替えて、八紘のいる書斎へと向かった。

 

「入れ。」 

「失礼します。」

 

 八紘の応答で瑠璃は書斎に入った。そこには緒川もいる。緒川が瑠璃の身を心配する。

 

「身体は大丈夫ですか?」 

「は、はい……。問題ありません。」

「そうか。流石、弦の娘だな。」

 

 瑠璃の返事に、八紘は表情は変えなかったが称賛した。

 

(お姉ちゃんにも同じ事を言ってあげてくれたって良いと思うのに……。)

 

 内心呟く。八紘は山のように積まれている資料ファイルを手に取り、瑠璃に渡す。

 

「これは……?」

「アーネンエルベに頼んだ調査報告だ。二人にも既に伝えてある。」 

「アーネンエルベ……。あのレオン事務局長の……」

「ああ。お前を相当買っている様子だ。お陰であいつに色々と頼みやすくなった。」

 

 レオンとの思い出はろくなものがないのだが、決して悪い人ではなかった。むしろ良い人なのだろうが、瑠璃にとってあの褒め殺しパレードは公開処刑なので、忘れようとしていたのだが、その名前が出た事で思い出してしまい苦笑いをする。

 八紘が咳払いをする。

 

「話を戻そう。報告によると、赤い物質は『プリマ・マテリア』。万能の溶媒、アルカ・ヘストによって分解・還元された、物質の根源要素らしい。」 

「えっと…ぷりま?あるか……へす……と?」

 

 瑠璃は八紘の口から次々と出る単語の理解が追いついていない。

 

「理解が追いつかぬのも無理はない。それについては、然るべき場所で分析させて知ると良い。」

「は、はい。」

 

 瑠璃と緒川は段ボールでそれらの資料ファイルを詰め込む。それが終わると、これらを瑠璃と緒川で運ぼうとした時

 

「瑠璃。」

「は、はい。」

 

 八紘に声を掛けられ、そちらに向く。

 

「翼を頼むぞ。」

 

 その一言は瑠璃を驚かせた。翼に対してあれだけ冷遇してきた人とは思えない口ぶりに、瑠璃はもしかしたらと思った。そこで、ここに訪れた時、言えなかった事を、今ここで言う。

 

「あの、八紘叔父様。」

「何だ?」

 

 瑠璃の方に向き直る八紘。瑠璃は一呼吸置くと

 

「その前に……お姉ちゃんと一度……真剣に向き合って話してください。」

「何を話す必要がある?あれは私の……」

「お願いします。」

 

 瑠璃が頭を下げた。緒川も瑠璃の突然の行動には驚いたが、制止せずあえて見守る。

 

「余計なお世話だって事は分かってます。ですが……お姉ちゃんに……その優しさを少しでも良いので、見せてあげてください。お姉ちゃん……ずっと一人で頑張ってたんです。自分を押し殺して……。」

 

 瑠璃は拳を握って続ける。

 

「どんな人間でも……言葉にして伝えなきゃ……伝えられません。お姉ちゃんが一人で苦しむ姿は……見たくないんです……。だからお願いします……!お姉ちゃんにとってのお父さんは……たった一人なんですから……。」

 

 翼から以前、出生の事で話を聞いていた。翼もそれを知る切っ掛けが現当主である風鳴訃堂は、次の跡取りとして八紘や弦十郎を差し置いて、産まれたばかりの翼を選んだ事だったという。何と訃堂が八紘の妻、つまり翼の母親に己の血を色濃く絶やさぬように孕ませられ、産まれたのが翼だというのだ。

 それを聞いた時、何故八紘があれだけ翼に冷遇するのか、何となくではあるが察した。だが今回の八紘が見せた翼を気遣う気持ちを見て、その冷遇が偽りである事に気付いた。血は繋がってなくても家族である事には変わりはない、それを一番よく理解している瑠璃だからこそ取った行動だ。

 

「瑠璃……。」

 

 初めて邂逅した時の、内気だった瑠璃とはまるで違かった。八紘は顔には出さないが、その成長ぶりに内心驚いていた。

 

(弦……お前の娘には驚かされるな……。)

 

 そこに外から破壊音が聞こえた。

 

「もしかして……!」

 

 だが要石を破壊した以上、ここにはもう用はないはず。

 

「すみません、行ってきます!」

 

 真偽を確かめる為に瑠璃は急いで書斎から出て行き、破壊音がした方へと向かう。

 

 瑠璃が翼達と合流して現場に到着した時、嫌な予感は的中した。ファラが再び襲撃を仕掛けて来た。

 

「目覚めたようね。」

「要石を破壊した今、貴様に何の目的がある?!」

「私は歌が聴きたいだけ……。」

 

 翼の問いかけに、ファラが全てを語ろうとしないのは見て分かった。ならばやることは一つ。

 

 Seilien coffin airget-lamh tron……

 

 マリア達はそれぞれの起動詠唱を唄い、ギアを纏う。翼が先陣を切り、マリアが複製した短剣を投擲し、瑠璃が黒槍のお先からエネルギー波を放つ。

 しかしファラはそれらを軽々と避け、ここまで来いと言わんばかりの立ち振る舞いで惑わす。マリアと瑠璃はファラを追おうとするが、ファラが生み出した竜巻によって、翼と分断されてしまう。

 マリアは強引に突破しようと短剣を、蛇腹剣へと形を変えて振り下ろす。

 

【EMPRESS†REBELLION】

  

 しかし、要石防衛の時と同じくアガート・ラームも剣と定義されてしまった以上、蛇腹剣も呆気なく砕かれ、竜巻はそのままマリアの方へと向かう。

 だが瑠璃がすかさずその前に立ち、風には風をぶつけようと、連結させた槍を高速回転させて、竜巻を発生させる。

 

【Harping Tornado】

 

 槍であればソードブレイカーの餌食にはならない。竜巻を相殺させ、すぐに翼の援護に周る。

 

「来るな!」

 

 突如、翼に援護を拒否されてしまった事に理解出来なかった。

 

「この身は剣!私が切り開く!」

 

 翼は単騎でファラに挑む。だが、相手は剣殺しの哲学兵装である。

 

「その身が剣であるなら、哲学が凌辱しましょう。」

 

 ファラがソードブレイカーを振り上げると、そこから暴風を発生させ、翼を襲う。翼は刀を構え、踏ん張ろうとするも、その風によって刀が崩れ去った。

 

「砕かれてしまう……剣と鍛えた、この身も……誇りも……。」

 

 そのまま押し切られてしまい、翼は吹き飛ばされた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同じ頃、竜宮の深淵のセキュリティシステムを艦内のコンピューターにリンクさせると、保管リストがモニターに並べられる。それらを一つずつ見ていくと、エルフナインがあるものを見つけた。

 

「ヤントラ・サルヴァスパ……!」

「何だそれは?」

 

 弦十郎がエルフナインに問いかける。

 

「あらゆる機械の起動と、制御を可能にする情報収集体。キャロルがトリガーパーツを手に入れれば……『ワールド・デストラクター・チフォージュ・シャトー』は完成してしまいます。」

 

 つまりキャロルはヤントラ・サルヴァスパを手に入れる為に竜宮の深淵に現れた。急いでそれが保管されている区域を調べたが、既にキャロルはヤントラ・サルヴァスパを手にしていた。

 

「クリス君!急いでくれ!キャロル達は既にヤントラ・サルヴァスパを手中に収めている!」

『焦ってんじゃねえ!あたしの目では、もうロックオン済みだっての!』

 

 急行していたクリス達は既にキャロルを捉えていた。クリスは腰のアーマージャッキを展開させると小型ミサイルをキャロルに向けて放った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ソードブレイカーによって倒れた翼は起き上がろうとするが、その身に襲う痛みが、翼を起き上がらせないようにしている。

 

「そんな……たった一撃で……!」

 

 瑠璃の言う通り、あれだけなら翼は立ち上がるはず。だが今の翼は己を剣としている以上、ソードブレイカーによって通常のダメージより多く受けている。

 

「夢に破れ……それでもすがった誇りで戦ってみたものの……くぅっ……!どこまで無力なのだ、私は……!」

 

 全霊を持ってしても勝てず、地に這いつくばっている事に悔しさを滲ませる。

 

「お姉ちゃん!」

「翼!」

「翼さん!」

 

 瑠璃、マリア、緒川の声も届かず、悔しさに打ちひしがれている。もはや勝機がない、そう思った。

 

「翼!」 

 

 翼は声がした方を向く。瑠璃でも、マリアでも、緒川でもない。では誰か?

 

「お父様……?」

 

 声の主は八紘だった。戦線であり、身を守るものがないにも関わらず、ここに現れた。

 

 

「唄え翼!」

「ですが私では、風鳴の道具にも、剣にも……」

「ならなくていい!」

 

 風鳴の習わしに長く生きた八紘らしからぬ物言いに、戸惑った翼。

 

「夢を見続ける事を恐れるな!」

 

 それは剣にではなく、娘に掛けた言葉だった。

 

「私の……夢……?」

「そうだ!翼の部屋、10年間そのまんまなんかじゃない!」

 

 翼の私室は服や下着、本や開けっ放しのCDカバーなど、散らかっていた部屋だった。だがマリアはある事に気付いていた。

 

「散らかっていても、塵一つなかった!お前との想い出を無くさないよう、そのままに保たれていたのがあの部屋だ!娘を疎んだ父親のすることではない!いい加減に気付け馬鹿娘!!」

 

 あの部屋の真意に気付いた翼は涙を流した。

 

「まさかお父様は……私が夢を僅かでも追いかけられるよう……風鳴の家より遠ざけてきた……?それが、お父様の望みならば……私はもう一度、夢を見てもいいのですか……?」 

 

 八紘は何も告げずに頷く。

 

(本当に余計なお世話だったかな……。でも……それで良かったのかも……。)

 

 やっと八紘が翼に父親として語り掛け、翼がその真意に気づいてくれた。瑠璃はそれが自分の事のように嬉しくなった。

 翼は立ち上がる。

 

「ならば聴いてください!イグナイトモジュール、抜剣!!」

  

 翼はイグナイトモジュールを用いて、漆黒のギアを纏う。再びファラに単騎で攻撃を仕掛ける。

 

「味見させていただきます。」

 

 翼は跳躍し、そのまま黒く染まった刀を振り下ろして、エネルギーの斬撃を放つ。

 

【蒼ノ一閃】

 

 ファラのソードブレイカーによって受け流されるも、再び蒼ノ一閃を放つ。

 

 同じタイミングでクリス達もキャロルと交戦を開始した。クリスがキャロルを、切歌はレイア、調はアルカ・ノイズを担当し、それぞれ攻撃を仕掛ける。

 アルカ・ノイズの方は数も多くなく、調が単騎で全て葬った。レイアの方も、戦闘特化のミカの火力、ジークの搦手と比べればレイアはそういったものは備えていない分、やりやすかった。

 調はアルカ・ノイズを殲滅させた後、標的をキャロルに変えて、アームを開いて無数の小型鋸を放つ。キャロルは片手で形成したバリアでクリスの弾幕と調の鋸を防ぐ。これくらいは容易い。はずだった

 

「ぐっ……!」

 

 このタイミングで拒絶反応が起きてしまい、一瞬バリアが解け、その右手に持っていたヤントラ・サルヴァスパが調の鋸によって真っ二つにされた。

 

「ヤントラ・サルヴァスパが!」

「その隙は見逃さねええぇ!!」

 

 クリスが大型、小型のミサイルを一斉掃射した。

 

【MEGA DETH QUARTET】

 

「地味に窮地……!」

 

 流石のレイアも追い詰められているのか、表情に焦りが見えているが、弾いたコインで無数のミサイルを撃ち落とす。しかし必要なコインが足りず、大型のミサイルが一本キャロルにそのまま向かった。

 

「マスター!」

 

 レイアは叫ぶが、キャロルは拒絶反応で苦しみ、防御が間に合わない。ミサイルがキャロルの眼前に迫った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 高く飛翔した翼はエネルギー剣を無数に放った。

 

【千ノ落涙】

 

「いくら出力を増したところで……」

 

 ソードブレイカーによって全て弾かれ、さらにもう一本、ソードブレイカーを出し、二刀流になった。

 

「その存在が剣である以上、私には毛ほどの傷すら負わせることは敵わない。」

 

 たとえエネルギーでも剣と定義されてしまう以上、ファラの言う通り、毛ほどの傷も与えられない。ファラは右手に持つソードブレイカーの剣先を翼に向けて、接近する。

 

 翼は八紘が語りかけた言葉を思い出した。

 

 夢を見続ける事を恐れるな!

 

「剣にあらず!」

 

 そう言うと、翼は逆立ち、脚を広げて脚部のブレードを展開させると高速回転する。2つの刃がぶつかった時、ソードブレイカーがへし折られた。

 

「あり得ない……!哲学の牙が何故?!」

 

 あり得ない事態に、ファラは狼狽える。翼は脚部のブレードに炎を纏わせ、それぞれの手に刀が握られている。

 

「貴様はこれを剣と呼ぶのか……?否!これは、夢に向かって羽撃く『翼』!」 

 

 翼は星が煌めく夜空を高く飛翔する。

 

「貴様の哲学に、翼は折れぬと心得よおおおぉぉ!!」

 

 今まさに、この瞬間から剣ではなく、『夢へと羽撃く翼』となった翼。身体を高速回転させながら、翼となった刀で、ファラへと接近した。ソードブレイカーで迎え撃つも既に剣ではなくなった翼によって、哲学の牙は自身の身体も真っ二つに両断された。

 

【羅刹・零ノ型】

 

 ファラは狂ったように、高らかに笑った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 誰もが勝った、そう思った。だがここに招かれざる客が現れた。その者は自らの意思でネフィリムの左腕へと変貌させ、その手でミサイルを片手で受け止めた。クリスは驚愕を隠せなかった。

 

「何がどうなってやがる……?!」

「ハハハハハハ!久方ぶりの聖遺物……この味は甘く蕩けて癖になるうぅぅ!」

 

 そう言うとミサイルを吸収した。

 

「嘘……」

「嘘デスよ!」 

 

 忘れもしないこの狂気の声。調と切歌にとってはジャンヌとナスターシャを死に追いやったマッドサイエンティスト。

 

「嘘なものか。僕こそが真実の人ぉ……!」

 

 その者は座り込んで、目が点になるほどに驚いているキャロルを背後に、ポーズを決めながら叫んだ。

 

「Dr.ウェルゥゥゥ!!」

 

 

 




今回こんなに多機能フォームの種類を使ったのは初めてかも……。


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英雄

遅れて申し訳ありません。
色々やってたらこんなに遅れてしまいました。

決してマスターデュエルやハウス・オブ・ザ・デッドのリメイクにハマったりしたわけではありません!


 消灯時間となり、病室には照明はついていない。月の光だけが僅かに差し込む事で、病室は真っ暗にならずにいる。

 そんな中、響はスマホの画面を見るとその電源を消した。消す間際、画面には着信履歴が映っていた。しかもそれは全部「お父さん」と表示されている。あれから、洸は響に何度も電話を掛けていたが、響が尽く無視していた。故にファミレスでの一件以降、声すら聞いていない。電源を落とした後、ため息をつく。

  

「大丈夫、響?」

 

 隣のベッドで眠っていたはずの輪に声を掛けられた。静かだったので眠ったと思っていたから響は驚いた。

 

「大丈夫です。少し……」

「大丈夫じゃないよね……?」

 

 響の曖昧な答えを輪に一刀両断された。

 

「あんた顔に出すぎ。瑠璃以上に分かりやすい。」

「あははは……。はい……輪さんの言う通り、大丈夫じゃありません。」

「やっぱり、お父さんの件で?」

 

 響は無言で頷いた。すると、輪は天井を見上げる。

 

「羨ましいな……お父さんの事で悩めて……。」

「え……?あっ……」

 

 輪の家族は小夜を除いてみんな死んでしまった。あの時、輪が涙を流しながら怒りに任せてその血に濡れた過去を暴露していたのを思い出した。

 

「怖いなら、逃げても良いんじゃない?」

「え……?」

「あんたのお父さんだって逃げたんだよ。今ここで逃げても、誰も咎めないよ。っていうか、家族見捨てて逃げ出すとかあり得なくない?それでのこのこと帰って来れるとか、私だったらぶっ飛ばしてるよ。」

 

 突然洸の陰口を言い始める輪。

 

「昔はどうなのか知らないけど、今更どの面下げて家族に会うの?いくらなんでもダサすぎ。そんな都合の良い家族なんているわけないじゃん。」

 

 輪は洸の悪口をこれでもかとぶちまける。次第にエスカレートしていき、響のシーツを掴む手が次第に強くなっていた。

 

「結局中身はろくでなしだったって事じゃん。自分を責める必要はない。何もかも中途半端で逃げ出すようじゃたかが……」

「やめてください……。」

 

 突然響が遮った。

 

「いくら輪さんでも、これ以上お父さんの事を悪く言うのは許せません……!」

 

 怒っていた。悪口を言う輪に対して。病院だからこそ怒鳴らなかったが、それでも父親の悪口を言うのは許せなかった。

 

「やっぱ、好きなんじゃん。お父さんの事。」

「え……?」

 

 輪は笑みを浮かべていた。

 

「もしこのまま黙ってたら、本当に逃げたほうが良いって言うところだった。けど、こうやって言い返したってことは、お父さんとやり直したいって思ってる事だよ。」

「もしかして……。」

 

 輪が響の為に、あえて洸の悪口を言った事に気付いた。本当に自分がどうしたいのか気付かせる為に、父親と向き合う勇気を出せるように。

 

「ありがとうございます……輪さん。」

「いいよお礼は。ただ……私みたいになってほしくなかっただけだもん。」

 

 そう言うと輪は響のいる向きと反対に寝返りを打った。響はもう一度、父親と向き合う覚悟と勇気を持ち、その日は眠りについた。少しだけ気が楽になったのか安心して眠れた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 フロンティア事変収束後、武装蜂起した装者以外のメンバーはナスターシャ、ジャンヌ、Dr.ウェル。その内、ウェル以外の者は死亡、ウェルは拘束された。だが米国政府がF.I.S.の存在をなかった事にした為に、ウェルのこれまでの行動や経歴も全て否定され、果てにはネフィリムの細胞を取り込んだ左腕が原因で、自身が異端技術の物として深淵の竜宮に幽閉されてしまった。

 自身を囲う檻の中でウェルはひたすら自身を、英雄を望む時を今かと待ち焦がれていた。そして、キャロルが深淵の竜宮に侵入、クリスの銃声を僅かながらに耳にしたウェルは、遂にその時が来た事に歓喜した。

 戦闘の余波で牢が破壊され、出てきた所を大型ミサイルをネフィリムの左腕で吸収した。

 

「旧世代のLiNKERぶっこんで、騙し騙しのギア運用という訳ね。」

 

 勝ち気になったウェルが、調と切歌を見下すように言い放つ。調と切歌はそんなウェルに吐き気を催しそうになる。

 

「優しさで出来たLiNKERは、僕が作った物だけぇ〜!そんなので戦わされてるなんてぇ……不憫すぎて笑いが止まらぁ〜ん!」 

「不憫の一等賞が何を言うデス!」

 

 ウェルの癇に障る物言いに切歌が言い返す。だが存在自体を無かったことにされ、竜宮に放り込まれたのもかなり不憫である。痛い所を突かれたウェルは標的をクリスに向ける。すると突然がっかりしたようにため息をつく。

 

「何だ妹の方かぁ〜?大好きなお姉さんはいないのかなぁ〜?」

「どういう意味だ?」

「あの時僕を殴ったあいつ!あいつだけは僕の手で八つ裂きにしたかったのに、出て来たのは出来損ないの妹じゃないか!」

 

 そのセリフはクリスを激怒させるには充分だった。

 ウェルは連行される時、瑠璃に顔面を殴られた怒りを今でも忘れていない。だがこれこそがウェルのやり方である。あえてクリスの逆鱗に触れるような物言いでクリスを挑発し、冷静さを欠かせていた。しかも今のクリスは後輩を守るという事に囚われており、先程の一撃をいとも容易く止められてしまったのが余計にクリスを苛立たせていた。 

 ウェルに殺意を向けているクリスの不穏な空気を感じ取った切歌と調は止めに入った。

 

「待つデスよ!」

「Dr.を傷つけるのは……」

「何言ってやがる?!」 

「だって、LiNKERを作れるのは……」

「そうとも!僕に何かあったら、LiNKERは永遠に失われてしまうぞぉ!」

 

 現状LiNKERを作れるのはただ一人、ウェルだけ。それが調と切歌が攻撃を躊躇う足枷となっている。だがそれを必要としないクリスにとって、そんな事など知ったことではない。

 

「ぽっと出が勝手に話を進めるな!」

 

 本来キャロルと装者の戦いであるにも関わらず、この場に関係ない英雄願望の男が乱入した事で自分が置いてけぼりをくらっているのが気に入らないキャロルはアルカ・ノイズを召喚する。

 

「二人が戦えなくても、あたしは!」

 

 ガトリング砲でアルカ・ノイズを文字通り蜂の巣にするクリス。ウェルは先程の強気の態度とは打って変わってキャロルの後ろで縮こまっている。

 

「その男の識別不能……。マスター、指示をお願いします……。」

「敵でも味方でもない……英雄だ!」

 

 レイアの第一はキャロルを守護する事であり、自らの意思でウェルを守る気など更々ない。だがキャロルの命令であればそれに従う。そんなレイアにウェルが噛み付く。 

 

「だったら英雄様に……さっきよりもでかいのまとめてくれてやる!」

 

 クリスは背中のアーマーなら巨大なミサイルを展開させる。

 

「このおっちょこちょい!」

 

 発射しようとした時、ウェルが怒鳴りつける。 

 

「何のつもりかは知らないが、そんなの使えば、施設も、僕も、海の藻屑だぞぉ!」

 

 確かにウェルの言う通り、そのミサイルの威力は凄まじいだろうが、ここは海底であり、もしそれをここで放って壁や天井にヒビでも入ればそこから海水が押し寄せる。当然水圧で人間などすぐに押し潰される。

 流石のクリスもそう言われては撃つのを躊躇う。

 

「レイア、この埒を開けて見せろ。」 

「即時遂行……。」

(後輩なんかに任せてられるか!ここは先輩の……あたしがぁ!)

 

 クリスは大型ミサイルを格納してガトリング砲での戦法に切り替える。レイアにガトリング砲の砲門を向けるもレイアは俊敏にその弾丸を軽やかに避ける為、アルカ・ノイズだけが蜂の巣になる。だがガトリング砲から弾丸が射出される度に硝煙が上がり、さらにアルカ・ノイズの赤い塵による目晦まし、そしてクリス本人の判断力が怒りで狂ってしまっている事から、レイアを正確に捉えられず、ただただやけくそに撃っているだけである。

 

「ばら撒きでは捉えられない……!」

「落ち着くデスよ!」

 

 調と切歌が制止を呼びかけるも、今のクリスには届かない。クリスはガトリング砲をただ闇雲に乱射していると、その砲門は意図していなかったとはいえ調を捉えていた。

 

「諸共に巻き込むつもりデスか?」

 

 切歌が大鎌でガトリング砲ごと弾いた事で調は被弾せずに済んだが、危うく後輩を、仲間を誤射する所だった。

 クリスは引金から指を外して、乱射を止める。だが気付いた時にはキャロル、レイア、ウェルの姿はなかった。

 

「あいつらは……何処に消えた?!」

 

 アルカ・ノイズが倒された時に発生する赤い塵、プリマ・マテリアが晴れると、床に穴が空いていた。ここから逃げ出したのだろう。

 

「ごめんなさい……ドクターに何かあると、LiNKERが作れなくなると思って……」

「でももう惑わされないデス!アタシ達3人が力を合わせれば……」 

「後輩の力なんてアテにしない!」

 

 先輩としてのプライドをズタズタにされたクリスは、切歌を突き放してしまう。

 

「おてて繋いで仲良しごっこじゃねえんだ!あたし一人でやってみせる!」

「クリス先輩……。」

 

 調は悲しみを込めてクリスの名を呟いたが、クリスには聞こえていなかった。今のクリスは先輩としての立場を完遂しなければという思いに駆られており、そこに絆などない。もしここに瑠璃がいて、今のクリスを見たら、どんなに悲しむだろうか。調と切歌はそう考えてしまう。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一方、キャロル達はまだ竜宮内に留まっていた。キャロルが撤退中、拒絶反応によって気を失っており、その歩みが止まっていたからだ。レイアに抱えられていたキャロルはゆっくりと目を覚ました。

 

「オレは……落ちていたのか?」

「またしても拒絶反応です。撤退の途中で意識を……。」

 

 キャロルはレイアから離れて立ち上がる。主の不調を案じるレイア。

 

「高レベルフォニックゲイナーが複数揃う僥倖に逸るのは理解出来ますが……」

「杞憂だ。それよりも……」

 

 キャロルはどさくさに紛れてついてきたウェルの方を見る。

 

「知っているぞDr.ウェルら、フロンティア事変関係者の一人。そんなお前が何故ここに?」

「我が身可愛さの連中が、フロンティア事変も、僕の活躍も!寄って集って無かったことにしてくれた!人権も存在も失った僕は、人ではなくモノ。回収されたネフィリムの一部として、放り込まれていたのさ!」

 

 フロンティア事変後の処遇に不満をぶちまけていた。だがウェルは月の落下を早めて世界を滅ぼしかけた事や、ジャンヌとナスターシャを死に追いやったなど多くの罪を犯している為、そのまま裁判が開かれようものなら、死刑になってもおかしくはなかった。それを考えれば、この処遇はまだ軽い方であり、さらに自分の意思でネフィリムの腕を手に入れたのだからある意味逆恨みも甚だしいと言える。

 しかし人として扱われないこの処遇は英雄願望が強いウェルにとって死んだも同然であり、耐えられないものだった。

 

「イチイバルの砲撃も、腕の力で受け止めたんじゃない。接触の一瞬にネフィリムが喰らって同化!体の一部として推進力を制御したまでの事!」

 

 このネフィリムの腕、これは使えると判断したキャロルは不敵な笑みを浮かべる。

 

「面白い男だ、よし、付いてこい。」

「ここから僕を連れ出すつもりかい?だったら騒乱の只中に案内してくれ。」

「騒乱の只中?」

「もちろん、英雄の立つところだ……ん?」

 

 キャロルが突然左手を差し出し、意図を察したウェルはその左手で握り返す。

 

「ネフィリムの左腕、その力の詳細は、追っ手をまきつつ聞かせてもらおう。」

「脱出を急がなくてもいいのかい?」

「奴らの把握済み、時間稼ぎなぞ造作もない。」

 

 今のキャロルにはS.O.N.G.の動向が手に取るように分かる。その情報源は裏切り者だった輪だけではない。もう一人、自分の掌に踊らされていると知らずにS.O.N.G.に転がり込み、貢献している少女。毒は既に仕込まれていた。

 




実はR-18版を作ろうか考えてるんですが……文章力が乏しい私に書けるかどうか……。


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仕込まれた毒の正体

しばらく瑠璃はおまけ程度にしか登場しません。

主役なのになんでだろうね?

それにしてもここの所暑いな……


 キャロルを取り逃がしたクリス達は一旦体勢を立て直しを図る。現在は深淵の竜宮内にある通信システムで弦十郎と通信しているが、先程のクリスの行動を弦十郎に咎められていた。

 

『力を使うなと言ってるんじゃない!その使い方を考えろと言っているんだ!』

「新しくなったシンフォギアは、キャロルの錬金術に対抗する力だ!使い所は今をおいて他にねえ!眠てえぞおっさん!」

『そこが深海の施設だと忘れるなと言っている!』

「正論で超常と渡り合えるか!」 

 

 弦十郎相手でもここまで意地になっている。こうなったクリスを瑠璃でも諌められるかどうか分からない。それくらいクリスは焦っていた。先程の失態を返さなくてはという焦りが、判断力を鈍らせている。

 

『念のため、各ブロックの隔壁や、パージスイッチの確認をお願い。』

 

 友里が深淵の竜宮のマップデータを送ると、通信モニターに表示された。そこには各ブロックの隔壁やスイッチの場所など、きめ細やかに表示されるが、如何せん施設は広い。故に切歌はその多さに音を挙げる。

 

「こんなにいっぺんに覚えられないデスよー!」 

「じゃあ切ちゃん、覚えるのは二人で半分こにしよう。」

 

 一人で出来ないなら二人で、調は切歌と二人で竜宮内のマップデータをそれぞれ半分、頭に入れる。

 そこに藤尭が報告する。

 

『セキュリティシステムに侵入者の痕跡を発見!』

「そういう知らせを待っていた!」

 

 挽回の機会が巡って来た事に喜んだクリスだった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翼がイグナイトモジュールを用いてファラを撃破した直後、その残骸が破壊された要石の近くに横たわっていた。四肢は欠損、胴体も翼の攻撃で上半身しか残っておらず、壊れたおもちゃの人形とも言えるような状態だった。

 

「これは……先程の……」

「ええ。翼さんが退けたオートスコアラーです。」

「この状態から動き出すなんて事……ないですよね?」

 

 瑠璃が不安を口にした瞬間、ファラの瞳孔が動き出した。本当に動き出した事に瑠璃は小さく悲鳴を挙げた。

 

「いつか……しょぼいだなんて言って……ごめんなさい。剣ちゃんの歌……本当に素晴らしかったわ……。」

「私の歌……?」

「あはははははは!まるで身体がバッサリ2つになるくらい素晴らしく呪われた旋律だったわ!あははははは!」

「もうバッサリ2つになってるじゃん……。」

 

 突然動き出した事に驚かされた瑠璃は仕返しと言わんばかりに言い返す。

 

「待て。呪われた旋律……確か以前に、キャロルが言っていた……。」

「答えてもらうわ!」

「呪われた旋律って……?」

 

 翼とマリアはその事を思い出したのだが、瑠璃はその時、メディカルルームで眠っていたので知らぬのも無理はなかった。

 

「知らず『毒』は仕込まれて、知る頃には手の施しようのないまま、確実な死を齎しますわ。」

「毒だと?!」

 

 毒とは何を指すのか、未だに理解出来ていない。

 

 一方、深淵の竜宮でキャロルを追跡する3人。だがどこまで追跡しても一向に追いつく事が出来なかった。艦内のオペレーター達の情報通りならとっくに追いついてもいいはずなのだが、どういうわけか追跡を振り切っている。

 いつまでも変わらぬ事態にクリスは苛立ちをぶつけるように弦十郎に通信で問いただす。 

 

「おい、この道で間違いないんだろうな?!」

「ああ、だが向こうも巧みに追跡を躱して進行している。」

 

 艦内のモニターでもキャロルの位置を示す光点が移動している。クリス達を示す光点も動いているのだが、クリス達が動き出すと、キャロル達もそれに合わせるように移動している。

 

「まるでこちらの位置や選択ルートを把握しているみたいに……」

 

 友里の呟きで、艦内にいる者達はこの違和感の正体に気付いた。それを藤尭が推測する。

 

「まさか……本部へのハッキング?!まさか裏切り者……輪ちゃんの?!」

「いや、いくら輪君でもそんな器用な真似は出来ない。それに、彼女はその行いに既に悔い改めている。いや待て……!」

 

 輪の裏切りにばかり目を向けていたが、それがキャロルの本当の狙いを隠す為の囮である事に気付いた。

 

「輪君はただ利用されただけ……。俺達は知らずに毒を仕込まれていたということか……!」

「普通なら追いつけないはずがない。先読みしているとしか思えない動きをしている。」

「俺達の追跡を的確に躱すこの現状。聖遺物の管理区域を特定したのも、まさかこちらの情報を出歯亀にして……?」

「それが仕込まれた毒……内通者の手引だとしたら……」

 

 裏切り者は輪だけではないという事になる。いや、そもそも裏切り者ではなく、初めから敵だったという事になる。その正体の方に向いた。

 

「ち、違います!ボクは何も……ボクじゃありません!」

 

 エルフナインは疑いの目を向けられ、すぐに否定した。

 

『いいや、お前だよエルフナイン。』

 

 突如キャロルの声が聞こえた。するとエルフナインから分離するようにキャロルの幻影が現れた。敵の親玉の姿が本拠地に現れた事にみんなが驚く。

 

「あなたの言う毒とは一体何を意味しているのですか?!」

 

 ファラの残骸を問い詰める緒川。ファラは笑いながらそれに答える。

 

「マスターが世界を分解する為に、どうしても必要なものがいくつかありましたの。その1つが、魔剣の奏でる呪いの旋律……。それを装者達に唄わせ、躯に刻んで収集する事がオートスコアラーの使命……。」

「ではイグナイトモジュールが?!」

 

 魔剣ダインスレイフを持ち込んだのはエルフナイン。つまりエルフナインがその毒の正体である事を意味した。これには仲間として信頼しているマリアと瑠璃が否定する。

 

「馬鹿な?!エルフナインを疑えるものか!」

「そうだよ!それに……ジークは私達を本気で……」

「あの方は最初に作られた故に、制御が不完全なまま完成させられた、言わばマスターの生き写し。故に暴走した際は、強制的に活動を停止させるよう施してありましたの。」

 

 オートスコアラーの中で最もキャロルと性格が似通っていたジーク。故に暴走する事を予見していたキャロルは対策も施されていたが、それは起動する事なく、使命通りイグナイトモジュールを起動した瑠璃によって破壊された。

 

「最初にマスターが呪われた旋律をその身に受ける事で、譜面が作成されますの。後はあなた達にイグナイトモジュールを使わせればいいだけの、簡単なお仕事。」

 

 イグナイトモジュール自体が、キャロルの計画完遂の為の罠であった。装者も、エルフナインも、最初からキャロルの掌の上で踊らされていた。

 

「じゃあ……最初から全て……罠だったの……?」

 

 瑠璃がそう言うとファラは満足したようにその身を跡形もなく爆ぜた。緒川は風呂敷で翼、マリア、瑠璃を覆うようにして守った為、全員外傷は無かった。そして宙には粉塵が舞っていた。

 しかし、ギアを強化する為のイグナイトモジュールが敵の策略の1つだと知った以上、使わせるわけにはいかない。

 

「呪われた旋律を手に入れれば、装者を生かす道理がなくなったということなの?!」

「緒川さん、本部に連絡を!イグナイトモジュールの使用を控えさせなければ……」

「駄目です!恐らくこの粉塵が……」

 

 この粉塵こそが通信を妨害する為のものである事は容易に理解出来た。しかもこの付近一帯に舞っている為、ちょっと離れただけでは使い物にならない。

 

「残るオートスコアラーはあと1体……!」

「しかも深淵の竜宮にいる……。そこにはクリス達が……!」

 

 キャロルの仕込まれた毒は、もはや手の施しようのないところにまで蝕んでいた。翼達は八紘邸を後にした。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そんな……ボクが毒……?」

 

 エルフナインは自分がキャロルに仕込まれていた毒であると告げられ、困惑していた。

 

『とはいえ、エルフナイン自身、自分が仕込まれた毒であるとは知る由もない。オレが此奴の目を、耳を、感覚器官の全てを一方的にジャックしてきたのだからな。』

「僕の感覚器官が……勝手に……。」

『同じ素体から作られたホムンクルス躯体だからこそ出来る事だ。それに、ガリィが丁度いい捨て駒を拾って来た事が、毒から目を遠ざける良い盾になったがな。』

 

 その捨て駒は輪を指していた。裏切り者だった輪が装者の戦闘パターンや地の利を流していたのだとしたら、エルフナインはS.O.N.G.の内部の情報を流していた事になる。たとえ輪が裏切り者であると看破されたとしても、そこに目を向けさせた上で、毒を気付かせる事なくエルフナインを通じて、情報を把握出来た。

 キャロルを止めるはずが、自分のしてきた事が全てキャロルの掌の上で踊らされていて、キャロルの計画を助けてしまった事に気付いたエルフナインは、その罪悪感に苛まれ、贖罪を求める。

 

「お願いです……ボクを拘束してください!誰も接触できないよう、独房にでも閉じ込めて……いいえ……キャロルの企みを知らしめるというボクの目的は既に果たされています……だからいっそ……」

 

 今にも泣きそうになるエルフナインだが、弦十郎は不敵な笑を浮かべていた。

 

「迂闊だったな。まさか種明かしをしてくれるとは!」

「え……?」

 

 弦十郎だけじゃない、友里も藤尭も、エルフナインに微笑む。

 

「なら良かった。エルフナインちゃんが、悪い子じゃなくて。」

「輪ちゃんと同じで、敵に利用されてただけだもんな。」

「友里さん……藤尭さん……?」

「君の目的はキャロルの企みを止める事。そいつを最後まで見届ける事!」

 

 艦内にいる全員がエルフナインの味方だった。すぐさま弦十郎は指示を下す。

 

「装者への通信手段をパターンβに変更!表示も最低限に変更しろ!……っとこんな所だ。S.O.N.G.にだって、それなりのやり方が用意されている。だからここにいろ。敵に覗き見されようとも、構うものか!」

「は、はい……!」

 

 覗き見られても構わないよう通信手段だけを変え、情報も限られたものに縮小された。これでエルフナインを拘束する必要もなくなり、キャロルに情報を見られても良いようになった。

 面白くない結果にキャロルは舌打ちを最後に、幻影は消えた。

 通信手段が変更された事で、暗号化された座標でキャロルの位置を特定した3人はすぐさまその場所まで駆ける。




少しの間だけ、以前に書いておいた鬼滅のストーリーを再構成するので少しばかり投稿頻度が遅れます。
悪しからず……


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残酷な世界でくれたもの

切ちゃんハッピーバースデー!デース!

結構ギリギリになってしまった……

本当に、申し訳ない


「エルフナインめ……使われるだけの分際で……!」

 

 エルフナインがS.O.N.G.に一人の人間として改めて迎え入れられた事が気に入らないキャロル。元々、この計画の為に作り、利用していたのに、それが自分に盾突いた。本当に不愉快だった。さらにそれだけでは終わらない。複数の足音が聞こえ、そちらを向くと

 

「ここまでよ!キャロル、ドクター!」

「さっきみたいにはいくもんかデス!」

 

 クリス達3人が追いついた。だがキャロルは余裕の態度を崩さない。

 

「だが既に、シャトー完成に必要な最後のパーツの代わりは入手している。」

 

 そう言うとキャロルはアルカ・ノイズを召喚する。その後ろではウェルが3人を煽るように吐き捨てる。 

 

「子供に好かれる英雄ってのも悪くないが……あいにく僕はケツカッチンでね!」 

「誰がお前なんか!」

 

 ウェルをよく知る切歌はバッサリとそのセリフを両断する。そして、ギアのペンダントを握りしめる。

 

Zaios igalima raizen tron……

 

 3人はそれぞれギアを纏い戦闘を開始する。切歌はその両手に持つ大鎌を振るい、アルカ・ノイズを刈り取る。調も、高く飛翔しながらツインテールのアームとなっているバインダーを開くと、そこから小型の鋸を無数に放つ。

 

【α式・百輪廻】

 

 放たれた鋸は、アルカ・ノイズの群れを切り刻んでいく。

 クリスもボウガンからピストルへと可変させて、アルカ・ノイズを撃ち抜いていく。ボウガンやガトリングよりは弾数は落ちるが、クリスの正確な射撃であれば、アルカ・ノイズなど一匹たりとも討ち漏らす事ない。

 

 クリスの前にレイアが立ち塞がる。クリスは両手に持つ拳銃を構え、レイアは重ねたコインをトンファーにして構える。トンファーのリーチは拳銃よりあるが、クリスは発砲しながら格闘戦に持ち込む。それにより、レイアは弾丸を避けながらトンファーで殴ろうとするが、クリスの拳銃で受け止められる。

 だが遠距離特化のイチイバルでは、遠距離、近距離共にバランス良く戦えるレイアの敵ではない。レイアはクリスの弾丸を躱しながらコインを床にばら撒くと、そこから岩が隆起、そのままクリスの足元からも隆起した事で、クリスを吹き飛ばす。

 

「マスター、後は私と……間もなく到着する妹で対処します。」

「オートスコアラーの務めを……」

「派手に果たして見せましょう。」

 

 キャロルに課せられた使命を果たすべく、レイアは戦闘態勢に入る。キャロルはテレポートジェムを割ると、足元に魔法陣が展開される。その範囲内にウェルも入っていた。

 

「ばっはは〜い!」

 

 3人を嘲笑うように手を振り、キャロルと共に転移された。

 

「待ちやがれ!」

 

 クリスは単騎で二人を追いかけようとしたが、レイアがそれを許さない。格闘戦に慣れていないクリスはトンファーに隙だらけの顔面を殴られ、倒される。

 

「不味いデス!大火力が使えないのにまともに飛び出すのは!」 

「駄目、流れが淀む……!」

 

 切歌と調はクリスの救援へと駆けつけようとするが、そのままレイアの標的となってしまう。空中にばら撒かれたコインは、そのまま雨霰のように降り注ぎ、二人を襲う。切歌は、何とか踏みとどまったが、調は防ぎきれず吹き飛ばされた。ギリギリ、切歌が調をキャッチして受け止めたが、今度は巨大なコインが2枚、二人を押し潰さんと襲いかかる。。そのまま切歌は調と共に巨大コインに押しつぶされ倒されてしまった。

 倒れていたクリスが目を開けると、そこには切歌と調が倒れていた。後輩達を守ろうと戦ったはずなのに、結果的に自分が壊してしまったのだと思い、涙を流す。

 

「独りぼっちが……仲間とか友達とか……先輩とか後輩とか……求めちゃいけないんだ……!でないと……でないと……残酷な世界が皆を……姉ちゃんを殺しちまって……本当の独りぼっちになってしまう……!」

 

 あの頃から、9年前と、ルリと離れ離れになったあの時から何も変わってない。あの時、ルリに助けられて一人生き残ったが、それがルリは心を失い、今度は守ろうとしていた後輩達を失いそうになっている。その恐怖が、クリスを押し潰そうとしている。

 

「なんで……世界はこんなにも残酷なのに……パパとママは歌で救おうとしたんだ……。」

 

 声が掠れ、慟哭が漏れ出る。だがレイアはそんな事を考慮するような者ではない。

 

「滂沱の暇があれば、唄え!」 

 

 頭上からレイアがトンファーで殴りかかろうとしていたその時、倒されたはずの切歌と調がそれぞれのアームドギアで防いだ。

 

「独りじゃないデスよ!」

「未熟者で……半人前の私達だけど……。傍にいれば誰かを独りぼっちにさせないくらいは……!」

 

 既にボロボロの二人をレイアは力押しで押し返す。

 

「二人とも……!」

 

 だがそれでも切歌と調は立ち上がった。

 

「後輩を求めちゃいけないとか言われたら、ちょっとショックデスよ……。」

「私達は、先輩が先輩でいてくれること……頼りにしてるのに……!」

 

 切歌と調、二人の後輩がいるからこそ、自分という先輩がいる。ようやくそれに気付いた。

 

「そっか……あたしみたいなのでも、先輩やれるとするならば、お前達みたいな後輩がいてやれるからなんだな……!」

 

 クリスは立ち上がり、ギアのコンバーターに触れる。それを見たレイアは、再び構え直す。

 

「もう怖くない……!イグナイトモジュール、抜剣!!」

 

 ウィング型のスイッチを押し込んでコンバーターを取り外すと、それを宙に投げる。コンバーターの外殻は開き、エネルギーの刃が展開されると、その刃はクリスの胸を貫く。発電所でも体感した闇が再び襲いかかった。

 

(あいつらが……あたしをギリギリ先輩にしてくれる……!姉ちゃんの言葉を借りるなら……それは……絆なんだ……!)

 

 だが今のクリスならこの呪いに立ち向かうだけの力がある。何故なら、切歌と調、二人の後輩がいるから何も怖くない。

 

(そいつに応えられないなんて……他の誰かが許しても……あたし様が許せねぇってんだ!!)

 

 するとイチイバルの白かった装甲が弾け飛び、黒い装甲へと姿を変え、禍々しくも強力なイグナイトモジュールを二人の後輩という絆に応える為に、呪いをねじ伏せた。

 

 

 クリスはクロスボウの矢を乱射させ、レイアはそれをトンファーを回転させる事で防ぎ、その嵐が止むと同時に接近する。クリスも再び二丁の拳銃を手に構え、レイアに格闘戦を挑む。レイアもトンファーで殴りかかるが、クリスはそれを避けながら拳銃を発砲する。先程の焦りを見せていたクリスとは全く異なり、弦十郎と瑠璃に叩き込まれた技術を存分に発揮していた為、動きに無駄がなく、的確に攻撃と防御を切り替えていた。

 

(失うことの怖さから……せっかく掴んだ強さも暖かさも全部、手放そうとしていたあたしを止めてくれたのは……!)

 

 クリスはこの埒を切り開く為に背後へ飛び、二丁の拳銃がロングレンジのライフルへと可変させる。

 

「ライフル……?!」

 

 クリスの行動に虚を突かれ、驚くレイアの後頭部にその銃身が振り下ろされ、直撃した。

 

「殴るんだよ!」

 

【RED HOT BLAZE】

 

(先輩と後輩、この絆は世界がくれたもの……!世界は大切なものを奪うけれど、大切なものをくれたりもするって事を。そうか……パパとママは、少しでも貰えるものを多くする為に、歌で平和を……!)

 

 もう二度と手放さない。その思いを胸に大型のミサイルを二本展開させて発射する。

 

【MEGA DETH FUGA】 

 

 高速で襲いかかるミサイルを一本、レイアは叩き折る。だが発射された残りの一本の上に、クリスが乗っていた。

 

「諸共に巻き込むつもりか……?!」 

 

 レイアはコインを弾いてミサイルを撃ち落とそうとするが、クリスのガトリング砲によって全て弾かれてしまう。レイアはミサイルを避けようと跳躍したが、突如ミサイルの軌道が変わり、そのままレイアの方へと一直線に向かう。

 

「ミサイルを曲げて……?!」

 

 足場がない以上、レイアは最早避ける事は不可能となった。だがクリスもこのままでは巻き添えをくらうことになる。だが今のクリスは一人ではない。クリスの両手首にイガリマのアンカーに巻かれ、それに引っ張られる形でクリスはミサイルから離脱、レイアは笑みを浮かべながらミサイルに直撃した。

 

「スイッチの位置は覚えてる!」

 

 ミサイルが爆発する前に、調はツインテールのアームのバインダーを開いて、小型の鋸を発射、隔壁のスイッチを撃ち抜くと、隔壁が閉じようとしていた。さらに、レイアを直撃したミサイルが爆発し、その爆風までもが襲いかかろうとしていたが、ギリギリ閉じきる直前で、クリスの回収に成功、爆風も隔壁によって防がれた。

 

「やったデス!」

 

 3人の連携が決まった事に、切歌がガッツポーズを取る。

 

「即興のコンビネーションで、まったくもって無茶苦茶……」

「その無茶は、頼もしい後輩がいてくれてこそだ。」

 

 クリスは二人の手を取って

 

「ありがとな。」

 

 3人は笑顔を浮かべた。互いに信頼し、託す事が出来たからこそなしえた連携、勝利。だがその余韻に浸る暇はなかった。施設内が大きく揺れ始めた。

 

 艦内でもアラートが鳴り響き、クリス達の危機を知らせていた。

 

「深淵の竜宮、被害拡大!クリスちゃん達の位置付近より、圧壊しつつあります!」

 

 しかもそれだけではない。

 

「この海域に接近する巨大な物体を確認!これは……!」

 

 モニターには以前に確認された巨大人造兵器、レイアの妹がこの深海を泳ぎながらこちらに向かって来た。あの時は足止めされただけだったが、今回同じ事をするとは限らず、この潜水艦を破壊しに来る事も想定される。しかも、今回はクリス達が乗る小型潜水艇の到着も待たねばならず、その間にもレイアの妹がこちらに迫っていた。

 

 さらにLiNKERの効果が切れた事で、調と切歌のギアが解除されてしまう。幸いクリスはイグナイトモジュールを支配したままの状態であり、そのまま二人を担いだ状態で、崩落は避けられない竜宮内を走っていた。

 

「駄目、間に合わない……!」

「さっきの連携は、無駄だったデスか……?!」

「まだだ!諦めるな!」 

 

 ギリギリ崩落する前に潜水艇に乗り込んだ3人。脱出に成功、レイアの妹が来る前に、本部の潜水艇に帰投した。

 

「潜航艇の着艦を確認!」

「緊急浮上!油圧を気にせず、振り切るんだ!」

 

 潜水艦を出せるだけのスピードで浮上させるが、レイアの妹も、その後を追う。

 

「総員をブリッジに集め、衝撃に備えろ!急げ友里!」

「はい!」

 

 コンソールを弾く友里。その間に潜水艦は夜明けの光を差す海面へと浮上した。だが同時にレイアの妹も海面から姿を現し、その右腕を振り上げた。そして、その腕が振り下ろされると、潜水艦は真っ二つになるように大破した。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同じ頃、病室にも陽の光が差し込んだ。父親と向き合う覚悟を決めた響に、輪が心配していた。

 

「響、大丈夫?私が焚き付けておいて言うのも何だけど……」

「大丈夫ですよ。」

 

 響は病室の窓の方へと向き

 

「決戦の朝だ……。」

 

 登る太陽を見つめていた。

 




おまけ

「お誕生日おめでとう切歌ちゃん。」
「ハッピーバースデー暁さん!」
「瑠璃先輩!輪先輩もありがとうデス!」
「さあじゃんじゃん食べて!瑠璃お手製のフルコース料理!どれもこれも絶品だよ〜!」
「おお〜!ご馳走なのデース!」
「あれ?調ちゃん、どうしたの?」
「切ちゃんのおさんどんは、私の役目……瑠璃先輩でも譲れない……!」
「あ、あれ……調ちゃん……?」

それからというもの、調に対抗心を剥き出しにされるようになった瑠璃であった。


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顕現

いよいよGX編も最終決戦へと向かいます。


 レイアの妹がS.O.N.G.の本艦を破壊した。ブリッジは破壊される直前、本当にギリギリのタイミングで切り離された事で、そこだけは破壊されずに済んだ。しかし、外部からの衝撃による大規模な揺れにより、何かに掴まっていないと壁や床に叩きつけられそうになる。さらに友里の頭上に、天井の証明が落ちてきた。

 

「危ない!」

 

 エルフナインが叫んだと同時に友里に飛びかかった。

 同じ頃、ブリッジから発射されたミサイル。その装甲が分離すると、イグナイトのままギアを纏っているクリスが現れ、宙を舞ったまま大弓のアームドギアを形成、矢の形をしたミサイルを番えて、それをレイアの妹に向けて放った。

 

【ARTHEMIS SPIRAL】

 

 放たれたミサイルは矢筈に位置するブースターが点火、加速してレイアの妹の腹部を貫いた。それにより、レイアの妹の身体が爆発した。爆発によって発生した波が、ブリッジを揺らすが転覆する事なく、その上にクリスが降り立った。

 

「本部が……。連中は、何もかもをまとめてぶっ飛ばすつもりで……!」

 

 友里が目を覚ますと、エルフナインが自身を覆いかぶさっていたのが分かった。

 

「エルフナインちゃん?!」

「僕は……誰かに操られたんじゃなく……」

 

 エルフナインはそのまま力が抜け落ちたように倒れた。腹部から出血していた。そこに帰還した切歌と調が駆け寄った。

 

「大丈夫デスか?!」

「早く手当しないと!」

「目を開けて!エルフナインちゃん!エルフナインちゃん!」 

 

 友はが呼び掛けるが、エルフナインは目を閉じたまま返事は返って来なかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 響と洸が再び、あのファミレスで、向かい合うように座っていた。洸は前回と同じく響に奢ってもらう形で食事していた。

 

「悪いな……腹減ってたんだ。」

「うん……。」 

 

 響はスマホの画面に表示されているメールを見て、自分を奮い立たせる。差出人は未来であり、その文面には『へいき、へっちゃら』と書かれていた。

 それに、心強い味方は未来だけではない。響の座る席の後ろで、輪がその様子を静かに傍聴していた。

 一応輪も、響と同じタイミングでの退院は出来たのだが、足に巻かれた包帯と、席の近くに車椅子がある事から、あまり無茶は出来ないという事が見て分かる。 

 もちろん輪は何があっても、二人の会話に、輪は口を挟むような事もせず、ただ成り行きを見守るだけと決めている。ただ無関係であると装う為にパンケーキを注文してそれを食べている。

 

(ありがとう未来、輪さん。)

 

 響は意を決して、洸に問う。

 

「本当に、お母さんとやり直すつもり……?」

「本当だとも……!お前が口添えしてくれたら、きっとお母さんも……」 

「だったら!はじめの一歩は、お父さんが踏み出して。逃げ出したのはお父さんなんだよ。帰ってくるのも、お父さんからじゃないと……」

 

 響は洸に訴えかけるも、洸は目を逸らしながら弱気に言う。

 

「そいつは嫌だな……。だって、怖いだろ……?何より俺には、男のプライドがある。」

(何、そのしょうもないプライド?今更そんなのに拘ったってしょうがないでしょうが。)

 

 洸の男らしくないセリフに、輪は内心悪態をつく。口出し出来るのであれば今ここで言ってやりたいが、これは響と洸の問題である為、しない。だが苛ついているのは顔に出ており、貧乏ゆすりをしている。

 

「私……もう一度やり直したくて、勇気を出して会いに来たんだよ?だからお父さんも勇気を出してよ!」

「だけど……やっぱり……俺一人では……。」

 

 また逃げようとしている洸を見た響は俯いた。

 

「もうお父さんは……もうお父さんじゃない……。一度壊れた家族は、元に戻らない……。」

「響……。」

 

 洸が何か言おうとしたが、なんて言えばいいか分からない。

 輪の方も、頭を抱えていた。

 

(駄目か……父親がいつまでもあんなんじゃなぁ……。)

 

 やはり、あの日の夜のやり取りは余計なお世話だったかと思い、輪は窓の外を見る。

 

(家族は生きているのに……バラバラなんて……ん?)

 

 外の空を見ていたら、何かおかしな事に気付いた。空に亀裂が入っているという不可思議な減少が起きていた。

 

(いやいや……空が割れるなんて……!)

 

 だがその亀裂が広がり、やがて割れてしまった。その穴から城が降りてきて、高層ビルの上に佇んでいた。

 

(あれって……まさか……!)

 

 裏切り者として暗躍していた時、中に入った事はあるが、外から見るのは初めてだった。だがその外壁の形状を見てすぐに察した。あれがキャロルの居城であり、ワールドデストラクターであるチフォージュ・シャトーである事が。

 

 響と洸も空の異変に気付き、外に出ていた。響だけでなく、近くにいる一般市民達の中にも、突然現れたチフォージュ・シャトーを見て不気味がる者もいた。

 すると本部から通信が入った。

 

「はい!」

『手短に伝えるぞ!周到に仕組まれていたキャロルの計画が最終段階に入ったようだ!敵の攻撃でエルフナイン君が負傷、応急処置を施したが危険な状態だ!』

『僕は平気です……だから……ここにいさせてください……。』

 

 エルフナインの声が弱々しく聞こえていた。

 

『俺達は現在、東京に急行中。装者が合流次第、迎撃任務にあたってもらう!それまでは……』

「了解!一緒に避難誘導にあたり、被害の拡大を抑えます!」

 

 通信を切ると、そこに輪が遅れて店から出て来た。

 

「響!」

「輪さん!あれって……」

「間違いない……あれがキャロルのアジト、チフォージュ・シャトーだよ!」

 

 だとしたらここにいる人達が巻き込まれる前に、避難させなければならない。

 

「私がここの避難誘導するから、あんたはお父さんを安全な所まで!」

「はい!お父さん、早く避難を……」

「こういう映像って、どうやってテレビ局に売れば良いんだっけ?」

 

 洸はスマホでチフォージュ・シャトーが現れた映像をテレビ局に売って小遣い稼ぎしようとしていた。輪はその愚行に舌打ちするが、今はそんなのに構わず避難誘導に徹する。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 シャトー内ではワールドデストラクターとして起動させる為に、ウェルのネフィリムの腕を用いた。

 

 

「ワールドデストラクターシステムをセットアップ。シャトーの全機能をオートドライブモードに固定……。へけけ!どうだ僕の左腕は!トリガーパーツなど必要としない!僕と繋がった聖遺物は、全て意のままに動くのだ!」

 

 下卑た笑みを浮かべながら、コンピュータから左腕を抜いた。

 

「オートスコアラーによって、呪われた旋律はすべてそろった。これで世界はバラバラにかみ砕かれる……!」

 

 キャロルのセリフにウェルは顔をしかめた。

 

「あぁん?世界を……かみ砕くぅ?」

「父親に託された命題だ。」

 

 イザークに託された命題。それを解き明かす為に、今日まで生き抜いた。

 

「分かってるって!だから世界をバラバラにするの!解剖して分析すれば、万象の全てを理解できるわ!」 

 

 先程の冷たい声色が一変、かつての可愛らしいものへと変わったが、その瞳には光がなく不気味さを帯びていた。

 

 

「つまり至高の叡智!ならばレディは、その知を以て何を求めるぅ?」

「何もしない……。」

 

 再び冷たい声色に、瞳に光が戻っていた。

 

「父親に託された命題とは、世界を解き明かすこと。それ以上も以下もない。」

「Oh!レディに夢はないのかぁ?!」

 

 ウェルはキャロルの目的を聞き、呆れた様子だった。そして、ウェルは自分の価値観を演説するように押し付ける。

 

「英雄とはあくなき夢を見、誰かに夢を見せる者!託されたものなんかで満足してたら、底もてっぺんもたかが知れる!」

「『なんか』……と言ったか……?!」

 

 父親から託された命題を軽い言葉で貶された事には、キャロルは怒りを露わにする。

 

「託されたものを、『なんか』とお前は切って捨てたかッ?!」

「ほかしたともさ!ふんっ!レディがそんなこんなでは、その命題とやらも解き明かせるのか疑わしいものだ!」

 

 至高の叡智、それを手に入れればどんな事でも出来るというのに、何もしないという選択を取ろうとしている事に理解出来なかった。だがキャロルはこれで改めて理解した。やはりこの男とは一時の利害が一致しても、相容れないと。

 

「至高の叡智を手にする等、天荒を破れるのは英雄だけ!英雄の器が小学生サイズのレディには、荷が勝ちすぎるぅ!」

 

 とことん癇に触るウェルに舌打ちをするキャロル。だがウェルはそんな事にはお構いなしに語り続ける。

 

「やはり世界に英雄は僕一人ぼっち……。二人と並ぶものは無いッ!やはり僕だぁ!僕が英雄となって……」

「どうするつもりだ……?」

「無論人類の為!善悪を超越した僕が!チフォージュ・シャトーを制御して……」 

 

 だがそれは最後まで言い終える事はなかった。突如背後からキャロルがダウルダブラの先端で、ウェルの身体を貫いた。ウェルが一人語りで演説していたので気付かなかったが、キャロルは魔法陣からダウルダブラを出していたのだ。

 

「支離にして滅裂。貴様みたいな左巻きが英雄になれるものか。」

 

 そう言うと、キャロルはダウルダブラをウェルの身体から引き抜きた。さらにキャロルは風の錬金術でウェルを吹き飛ばした。背を柵に預けて立ち、ウェルは腹部の出血部に触れて、確認する。

 

「駄目じゃないか……楽器をそんな事に使っちゃあ……」

 

 キャロルはウェルを確実に始末しようとダウルダブラを抱えて近づく。

 

「シャトーは起動し、世界分解のプログラムは自律制御されている……。ご苦労だったな、ドクターウェル。世界の腑分けは……俺が一人で執刀しよう!」

 

 そう言うとキャロルはダウルダブラを振り下ろす。

 

「顔はやめて!うわあぁっ!」

 

 だがそれはウェルに当たる事なく、彼は柵から落ちてしまった。ウェルの悲鳴が響く。だがウェルはどの道始末する予定だったので、キャロルは始末する手間が省けたのか、どうでもよさげだった。

 

「廃棄予定が些か早まったか……っ?!」

 

 再び拒絶反応が出現し、苦しみだした。

 

「立ち止まれるものか……!計画の障害は、例外なく排除するのだ……!」

 

 そう言うと外の様子を魔法陣で映し出した。そこには響と洸が映っていた。

 

 




おまけ ある日のレーラさん


さて、急いで続き書きましょうか。その前にどれだけ見てくれているかチェックしよう。

その流れでお気に入り登録してくれた方々の名前を見る。

ん?この方何か見覚えあるぞ?と言ってタップする。

愛読している小説書いてるお方だあああぁぁぁ!!
と、嬉しさと恐れ多さに平伏する。

本当にビックリしました。
けどありがとうございます。
皆さんが読んで下さりお気に入りしてくれる人が増えたり、感想を貰えるだけで嬉しくなります。
今後もよろしくお願いします。


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へいき、へっちゃら

小説を一気に読んでたらすっかり遅くなってしまいました。

だって面白かったんだもん……ゲラゲラ笑ってたし……後悔はしていない……


 洸がチフォージュ・シャトーを映した映像をスマホに収めようとしている間に、殆どの避難を完了させた輪は、急いで響の所へと車椅子を走らせていた。すると、洸はまだ逃げておらず、響に怒られている姿を見て呆れた。

 

(嘘でしょ?!まだ逃げてないとかバッカじゃないの?!)

「何してんの?!早くその人を……」

「ほう……そいつがお前の父親か。」

 

 どこからともなくキャロルの声が聞こえた。3人は声がした方、空を見上げると、そこにキャロルがダウルダブラを抱えて宙に浮いていた。

 

「響、空から人が……」

「キャロル……!」

「キャロルちゃん……。」

「終焉の手始めに、お前の悲鳴を聞きたいと、馴染まぬ体が急かすのでな。それと……」

 

 目線を響から輪へと変える。

 

「いつかの裏切り者か。お前は望みを果たす為にS.O.N.G.を裏切ったというのに、今度はオレを裏切るのか?」

「何とでも言いなよ。私は……もう親友を悲しませない為に、あんたと決別したんだから!」 

「ふっ……裏切りを重ねて生き恥を晒すのか?」 

「人形しか友達がいない長生きボッチより100倍マシだね!」

 

 キャロルが裏切り者だった輪を煽るが、仕返しに煽り返された。しかも今の輪は洸の情けない姿を見て機嫌が悪かった事もあり、余計に辛辣だった。

 

「ならお前から消し飛ばしてやろうか!」

 

 するとキャロルは輪に向けて風の錬金術を放った。車椅子ではその強力な竜巻を咄嗟に避ける事も出来ず、直撃してしまい、車椅子と共に吹き飛ばされ、さらに車椅子から勢い良く放り出された。

 

「うわあああぁぁぁっ!!」

 

 しかも、威力が凄まじかったのかレストランのガラスドアに背中を強く打った事でヒビが入った。

 

「輪さん!」

 

 倒れ伏した輪を助けるべく、ギアを纏おうとペンダントを握ったが、キャロルの放った風の錬金術がギアのペンダントの紐を断ち切り、赤い結晶が落ちてしまった。

 

「もはやギアを纏わせるつもりは毛ほどもないのでな!」 

 

 ペンダントが手から離れてしまってはギアを纏う事が出来ない。キャロルは見下ろしながら、魔法陣を展開したまま宣言するように告げる。

  

「オレは、父親から託された命題を胸に、世界へと立ちはだかる!」

「お父さんから……託された……?」

「誰にだってあるはずだ。」

 

 父親から託されたもの。今の響にはそれを見つける事は出来ない。故に、先程までの強い意思が少しずつ失われつつあった。

 

「私は何も……託されていない……。」

「何もなければ耐えられまいて!」

 

 だがキャロルは容赦しない。風の錬金術で竜巻を放つ。今の響には戦う意思が感じられず避けようとしない。

 

「響!!」

 

 起き上がった輪が叫んだ。今から怪我と痛みを押し殺して走ったとしても間に合わない。このままでは直撃してしまう。その時、洸が響を飛びかかった事でそれは回避された。

 

「響!おい!響!」

「危ない!早く逃げて!」

 

 洸は響に呼び掛けるが、輪の叫びでキャロルが目前まで降り立ったのが見えた。さらにキャロルは標的を洸へと変えようとしている。

 

「世界の前に分解してくれる。」

「うわああああぁぁぁ!!」

 

 洸は一目散に走り出した。情けない叫び声からして逃げようとしている事はすぐに分かる。

 

「お父さん……?」

「助けてくれえぇ!こんなのどうかしていやがる!」

 

 我が身可愛さで自分を見捨て、逃げ惑う洸に絶望し、涙を流していた。やはりもう自分が大好きだったお父さんはもうどこにもいないのだと、嫌という程思い知らされた。

 

「逃げたぞ!娘を放り出して、身軽な男が駆けていきおる!」 

 

 キャロルはそんな洸を嘲笑うように錬金術を放つ。しかも当てずに彼のやや後ろに放っている事から、わざと外しており、走らせている。

 だが輪は逃げ惑う洸を見てどこか違和感を感じた。

 

(何で態々この辺りを周るように走ってるんだろう……?もし本当に逃げ出すなら、さっさとここから遠く離れた所へ逃げるはず……。)

 

 先程から洸の走り方、そして辺りを見回している所を見た輪。だが次第に洸は追い詰められ、尻もちをついてしまった。手近にあった小石をキャロルに向けて情けない声を挙げながら投げつけては立ち上がって逃げ出す。

 

「大した男だな、お前の父親は。オレの父親は最後まで逃げなかった!」

(いや違う……あの人はただ逃げてるんじゃない……!)

「響!立ち上がって!まだ諦めないで!」

 

 輪が響に叫ぶがそれでも響は立ち上がろうとはしなかった。

 

「響!今のうちに逃げろ!」

「え……?」

 

 突然洸がキャロルの錬金術から逃げながら響に向かって叫んだ。唐突に、それも逃げ出したと思っていた洸に呼び掛けられた事で咄嗟に反応した。

 

「壊れた家族を元に戻すには、そこに響もいなくちゃ駄目なんだ!」

 

 だがキャロルの錬金術が足元に着弾した事で爆発が起き、吹き飛ばされた。

 

「お父さん!」

 

 響が叫んだ。一度は倒れ伏した洸だったが、痛みを押し殺して立ち上がった。

 

「これくらい……へいき、へっちゃらだ……。」

 

 それを聞いた響は幼少期の記憶が蘇った。あの時、料理で包丁を使っていた。それで失敗し、指を切ってしまい出血した時、幼い響が心配すると

 

『へいき、へっちゃらだ。』

 

 へいき、へっちゃら。いつも響がどんな困難に直面しても自然に笑顔になれる魔法の言葉。それは洸が響に言っていた口癖だった。

 

(そっか……あれはいつも、お父さんが言っていた……)

「逃げたのではなかったか?」

「逃げたさ……。」

 

 そう言うと洸は力では勝てないはずのキャロルに立ち向かうように見据えた。情けない姿に見えるかもしれないが、今の洸の心は覚悟を決めているような目をしていた。

 

「だけど……どこまで逃げても、この子の父親であることには逃げられないんだ!俺は生半だったかもしれないが、それでも娘は本気で!壊れた家族を元に戻そうと!勇気を出して向き合ってくれた!」

 

 洸は足元の石をキャロルに何度も投げつける。しかしそれは全てキャロルには当たらない。何個かはキャロルのいる方ではなく、違う所になげてしまっており、偶々キャロルの方へ投げたとしても、それを軽く避けられる。

 

「だから俺も、なけなしの勇気を振り絞ると決めたんだ!」

(あの人……あっ!)

 

 だがいくら石を投げてもキャロルにはかすり傷一つすら与えられない。だが響と輪は見逃さなかった。洸が手に握りしめたものを。響は完全に立ち上がり、それを見た洸は

 

「響、受け取れええええぇぇぇーーー!!」

 

 そう言って投げた赤い結晶、ギアペンダントはキャロルのすぐ真横を通り過ぎ、それにキャロルが驚愕した時には、響の手に握られていた。

 

 

 Balwisyall nescell gungnir tron……

 

 響は洸に託されたペンダントを握りしめ起動詠唱を唄った。

 

「させるか……」

「輪パーーーンチ!!」

 

 キャロルが響に錬金術を放とうとしたが、輪がそうはさせまいと殴りかかった。ダウルダブラによって防がれ、ダウルダブラで殴り飛ばされたが、キャロルの気を引く事には成功した。

 

「チッ……!」

 

 キャロルが気付いた時には、響はガングニールのギアを纏っていた。

 

「響……!」

「私、お父さんから大切なもの……受け取ったよ……!受け取っていたよ!」

 

 響は洸に笑顔を浮かべた。

 

「お父さんは、いつだって挫けそうになる私を支えてくれていた……。ずっと、守ってくれていたんだ!」

「響……。」

 

 惨劇から生き残って苦しいリハビリをしてきた時だって、学校で虐めにあっても、その魔法の言葉があったから乗り越えられた。響は父親から託されたものを胸に、今度はキャロルと対峙する。

 一方倒された輪は、成り行きが良い方向へと進んだ事に安堵していた。

 

「良かったね……響……。」

「お、おい君!大丈夫か?!血が出ているじゃないか!」

 

 洸が輪に駆け寄り、肩を貸した。輪の右足に巻かれていた包帯が血で染まっていた。先程、キャロルに殴りかかった時、走った事によって傷が開いてしまったのだ。

 

「いやぁ……面目ないです。」

「いいんだ。それよりも……ありがとう。君も未来ちゃんと響を支えてくれていたんだろう?」

 

 筑波で会った時、響と再会した衝撃が強すぎて自分の事は忘れてるだろうと思っていたが、洸は響と一緒にいたのを覚えていた。だから響の後ろの席で見守っていてくれていたのが分かっていた。

 

「私の場合は、罪滅ぼしと……私と同じ結果になってほしくなかっただけですよ。何より……」

 

 輪はキャロルが召喚したアルカ・ノイズと、単騎で戦う響を見る。

 

「あの子には笑顔が一番似合ってますから……。」

 

 洸は響を戦う姿を目の当たりにして、思い出した。フロンティア事変の時、中継で響がガングニールのギアを纏って戦っていた姿を。

 

(やっぱり……あの女の子は響だったのか……。逃げるばかりの俺と違い、お前は何があっても踏みとどまって、ずっと頑張ってきたんだな……。)

 

 響はアルカ・ノイズを殲滅させると今度はキャロルに殴りかかる。だがキャロルは初めて響と邂逅した時のように手加減はせず、響を潰す為に錬金術を放つ。

 その威力の凄まじさに響は吹き飛ばされ、建物に背を打ち付け、落下してしまう。

 

「負けるなああああぁぁぁーーー!響、負けるなあああああぁぁぁぁーーーーー!!」

 

 娘の勇姿を見届けている洸は叫ぶように応援する。すると目を見開いた響は、着地と同時に脚部のジャッキで再び高く飛び立つ。さらに腰のブースターで加速して、一直線にキャロルの懐に入って、腹部をアッパーで殴った。再び着地と同時にジャッキで飛翔、ブースターを点火させ、さらに右腕部のハンマーパーツを展開させた。

 

「ヘルメス・トリスメギストス!」

 

 高く打ち上げられたキャロルは錬金術で4層のバリアを展開させる。

 

「ぶち破れ響!」

 

 輪が拳を突き出して叫ぶ。そして響も

 

「知るもんかああああぁぁぁーーーー!!」

 

 バリアを拳一つで破壊し、そのままキャロルの顔面を殴り飛ばした。

 

「よし!やった……危ない!」

 

 キャロルが殴り飛ばされた方を見た時、足元に魔法陣が展開されていた事に気付いた輪は咄嗟に洸を突き飛ばした。

 

「痛っ……!君、何を……う、うわあああぁぁぁ!!」

 

 突き飛ばされた洸は、突如アルカ・ノイズが輪を囲うように出現したのを目の当たりにした。

 キャロルは洸が叫んだ時、彼と輪を葬ろうとアルカ・ノイズの召喚石をばら撒いていたのだ。この時、響の方を見ていた為に気付かず、輪も気付くのが遅れてしまった。

 しかも今の輪は足を怪我していたので、出現するギリギリのタイミングで洸を包囲の外に出すのが精一杯だった。輪は逃げ道を探すべく周囲を見るが、そんなものは見つからない。もはや響が全速力で駆けても間に合わない。輪に死の恐怖が目前に迫った。

 

(どうしよう……!本当にヤバい……!)  

「まずはお前の父親からと思っていたが……やはり手始めに裏切り者から挽いてくれる!!」

「輪さん!!」

「やめろおおおおぉぉぉぉーーーー!!」

 

 響と洸が叫ぶが、逃げ道を失った輪にアルカ・ノイズが全方向から解剖器官が迫る。

 

(助けて……瑠璃……!)

 

 輪は目を瞑り、この場にいない友に助けを求めた。




キャロルが相手でも煽る輪でした。


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世界を壊す歌

今回も瑠璃より輪が大きく目立ちます。
戦いは何もギアだけではないんですよ。


 アルカ・ノイズに取り囲まれ、死の淵に立たされた輪。全方向から解剖が迫り、死を覚悟して目を瞑った。同時に、ここにいない友に助けを願った。

 

(助けて……瑠璃……!)

 

 だがいつまで経っても身体に痛みが襲って来なかった。目を見開くと、アルカ・ノイズの身体は黒槍と白槍に貫かれ、赤い塵と化した。  

 

「バイデント……もしかして……!」 

「輪!」

 

 放たれた方を振り向くとそこにはギアを纏っていた瑠璃が駆け寄って来た。彼女だけではない、瑠璃の後ろに、全ての装者が並び立っていた。

 

「輪!大丈夫?!」

「ありがとう……今度は本当に駄目かと思った……。」

「足の怪我が……緒川さん!」

「輪さんをこちらへ!」

 

 緒川は洸と共に輪を抱えて、車に乗せて安全を確保した。

 

 

「もうやめよう、キャロルちゃん。」

「本懐を遂げようとしているのだ!今更辞められるものか!思い出も……何もかもを焼却してでも!」

 

 響の呼び掛けに拒絶したキャロルはダウルダブラの弦を弾いて音色を奏でる。その音色がトリガーとなり、再び艶めかしい大人の身体へと変化させてダウルダブラのファウストローブをその身に纏った。

 

「ダウルダブラのファウストローブ。その輝きは、まるでシンフォギアを思わせるが……。」

「輝きだけではないと、覚えてもらおうか!」

 

 そう言うと、キャロルは歌い出した。すると放たれた錬金術が容赦なく装者達に襲い掛かる。

 停泊していた本部のブリッジではダウルダブラの反応をキャッチしていたが、その反応パターンが前回にはなかったものもキャッチしていた。

 

「交戦地点でのエネルギー圧、急上昇!」

「照合完了!この波形パターンは……!」

「フォニックゲイン……だと?!」

 

 キャロルから発せられたフォニックゲインが、放たれた錬金術の威力を跳ね上げていた。

 

「この威力……まるで……」

「すっとぼけが効くものか!こいつは……絶唱だ!」

 

 再びキャロルの絶唱級の錬金術が襲い掛かる。翼とクリスはこれを避ける。

 

「絶唱を負荷もなく口にする……」

「錬金術ってのは何でもありデスか?!」

 

 切歌と調も、躱す。しかし、絶唱は本来使用者に掛かるバックファイアは絶大である。キャロルが放つこの絶唱級の錬金術にはそれがない為、こうも連発されては装者達はたまったものではない。

 

「だったらS2CAで……」

「駄目……!あの威力……一人分で出しているような威力じゃない。7人のS2CAを使っても……あれに勝てるかどうか……。それに下手したら響ちゃんが……」

 

 瑠璃の言う通り、キャロルの放つ絶唱級の錬金術は一人分程度のものではない。しかもS2CAは響に大きな負担がかかる。一時的に切り抜けても追撃が来れば、動けなくなった所を攻撃されておしまいだ。

 

「翼、あれを!」

 

 マリアがチフォージュ・シャトーを指すと、シャトー全体に緑色の輝きを帯びていた。

 

「明滅、鼓動……共振?!」

 

 キャロルの意思、滅びの歌に共鳴するように、次第にその光が強くなっている。

 

「まるで、城塞全体が音叉のように、キャロルの歌に共振!エネルギーを増幅!」

 

 すると、シャトーから地に向かって放たれ、放射線状に拡散したエネルギー波が、地球全体に、地表にそって、まるで切り刻むように収縮されようとしている。この軌道に弦十郎はある事に気付いた。

 

「これは……まさか!」

「フォトスフィア……」

 

 エルフナインがその正体を呟いた。そこに緒川と洸が入って来た。

 

「いけません、ここは……」

「頼む!俺はもう二度と、娘の頑張りから目を逸らしたくないんだ!娘の……響の戦いを見守らせてくれ!」

 

 緒川は洸が入るのを止めようとするが、洸の意思の強さに折れた事で、洸は響の戦いを見守る事が出来た。

 

 地表に放たれたエネルギー波はフォトスフィアの軌道線状に沿って収斂している。海上に浮かぶ漁船、そこに乗る何も知らない漁師達が、このエネルギー波が近づいている事に驚いたが、間もなくそのエネルギー波に呑み込まれた。

 キャロルは世界の分解が始まり、愉悦に浸るように笑う。

 

「これが世界の分解だ!」

「そんなことは……!」

 

 響がキャロルに殴り掛かるが、ダウルダブラの弦がキャロルを守るように展開、響の身体を巻き付き、伸ばした拳を防いだ。

 

「お前にアームドギアがあれば届いたかもな!」

 

 するとマリアが突然飛び出した。その行動に翼が問う。

 

「マリア!何処へ?!」

「私は、あの巨大装置を止める!」

 

 ビルの屋上まで飛び、走ると後ろから禁月輪で走行する調と、それに同乗する切歌も追いかける。追いつくと、調の左手がマリアの右手を掴む。それに気付いたマリアは振り返る。

 

「LiNKER頼りの私達だけど……」

「その絆は、次元式じゃないのデス!絆は瑠璃先輩の受け売りデスけど。」

 

 切歌は頬を掻いて、はにかむ笑顔を見せる。二人が来てくれるならこんなに心強いことはない。マリアは一瞬笑みを浮かべると、チフォージュ・シャトーを見据える。

 

「なら、急ぐわよ!」

 

 3人は、チフォージュ・シャトーに乗り移り、内部へと乗り込んだ。キャロルはそれを見ていたが、そんな事は眼中にないようだ。キャロルは弦の糸で響を吹き飛ばすと、シャトーを見上げる。

 

「それでもシャトーの守りは越えられまい。俺を止めるなど能わない!」

 

 背後から翼が斬りかかるが、それを避け逆に翼の背後を取る。だがさらにその後ろからクリスがガトリング砲を、瑠璃が連結させた二本の槍の穂先から、融合させ、強大となったエネルギー波を放つ。

 

【Shooting Comet:Dual Drive】 

 

 だがキャロルが放った錬金術によって、それらは全て消し飛ばされ、クリスと瑠璃もまとめて吹き飛ばされた。

 

「「うあああああぁぁぁ!!」」

 

 響、翼はキャロルの側面からそれぞれ攻撃を仕掛けるも、ダウルダブラの弦によって防がれ、同時に跳ね返すように吹き飛ばす。

 

「世界を壊す、歌がある!」

 

 キャロルは4人の装者を見下ろしながら、そう叫んだ。

 痛みを押し殺して立ち上がる4人。歌によって導かれ、出会い、救われたからこそ、それを認めはしない。

 

「そんな事……あるかよ!」

「歌は破壊の為にあるのではない!」

「そうだよ……!歌があったから今の私達がいるんだ!」

「絶対に、止めてみせる!」

  

 立ち上がった4人は叫び、キャロルを止める為にそれぞれアームドギアを手に、キャロルと対峙する。 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 シャトーに乗り込んだマリア、調、切歌は床に這いつくばるように倒されていた。キャロルの言う通り、シャトーの防衛機構は強力なものだったのだろう。だが、そんな三人を倒したのはアルカ・ノイズではない。フロンティア事変で亡くなったはずのナスターシャがジャンヌお手製の車椅子に座って見下ろしていた。

 

「マム……」

「思い出しなさい、血に汚れたあなたの手を。どうしてその手で、世界を救えるなんて、夢想出来ますか。」

 

 マリアは突きつけられた現実に狼狽える。

 

「あなたが世界を救いたいと願うのは、自分が救われたいがため……」

 

 そこに調と切歌が狼狽えるマリアに呼び掛ける。

 

「マリア!あれはマムじゃないデス!」

「私達はマムが今何処で眠っているのかを知っている!きっとこの城塞の……」

「そんな事は分かっている!あれは偽りのマム……だけど語った言葉は事実だわ!」

 

 目の前にいるナスターシャが偽物であることは分かっている。当の本人は既にこの世の者ではないのだなら。だが目の前にいるのが偽物である事が分かっていても、突きつけられた事実の前に、マリアは動揺を隠せず、俯いてしまう。

 

「救われたいのですね……眩しすぎる銀の輝きからも……」

『そんなの関係ない!』

 

 ナスターシャの追及を通信機から輪が叫んだ事で遮られた。

 

「輪……?」

 

 ブリッジから、輪がマリアに呼び掛けていた。本来であればまだ安静にしなくてはならなかったのだが、輪は戦いを見届ける為に、洸と同じように車椅子に乗って強引に入って来た。輪は重傷を負っているエルフナインの代わりに、マリア達のサポートを弦十郎に志願した。この中でエルフナインを除けばシャトーの内部の構造について詳しいのは輪だけであるという理由もあってお許しが出たのだ。

 

『マリアさん!そいつは人の心の弱みにつけ込む幻!私もそうやって、旭の偽物に惑わされた!だけどマリアさんも思い出して!みんなが歩む世界の未来を、私達に託してくれた友達を!』

「みんなが歩む世界……っ!」

 

 マリアは思い出した。あの時、自らの命を省みる事なく支えてくれた友を。最後のビデオレター、あれを聞いた時から、この世界を任されたのだ。

 

『救われたいから世界を救うんじゃない!彼女に託されたこの世界を、未来を守る為に救うんです!未来で胸を張って、生きられる自分になれるように!だからそんな所で立ち止まらないで!未来へ進む為に、前を向いて、戦ってマリアさん!!』

 

 マリアは拳を作り、前を向く。

 

「ありがとう……輪。そうね……ここで立ち止まっていたら、ジャンヌに顔向けができないものね!」

 

 迷いを振り切ったマリア。すると突然マリアとナスターシャの間に障壁が現れた。

 

「何……?!」

『その部屋から出て右側の回廊から走れば玉座へすぐに辿り着く!今のうちに!』

「了解!」

 

 三人は部屋から脱出すると輪の案内通り、右の回廊へ走ろうとした時、障壁が立ちはだかった。

 

「また!」

「ここで通せんぼデスか?!」

『こうなったら遠回りになるけど、左側から行って!』 

 

 マリア達は左側の回廊を駆ける。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 シャトーの外、響、翼、クリス、瑠璃がキャロルと交戦しているが、キャロルに傷一つ与えるどころか攻撃が届かない。以前発電所で戦った時とは違い、フォニックゲインも糧としている。故にその威力は凄まじいものだった。

 キャロルがシンフォギア装者ではないのに唄っている事にクリスはを悪態つく。

  

「何で、錬金術師が歌っていやがる……?!」

「七つの惑星と七つの音階、錬金術の深奥たる宇宙の調和は、音楽の調和。ハーモニーより通ずる絶対心理……。」

「どういう事だ?!」

「その成り立ちが同じである以上、おかしな事ではないと言っている。」

「成り立ちが同じ……?」

 

 翼の問いにキャロルが答えると、瑠璃はその答えをオウム返しに呟いた。

 

「先史文明期、バラルの呪詛が引き起こした相互理解の不全を克服するため、人類は新たな手段を探し求めたという。万象を知ることで通じ、世界と調和するのが錬金術ならば、言葉を超えて、世界と繋がろうと試みたのが……」

「歌。」

 

 響がその答えを呟いた。

 

「錬金術も歌も、失われた統一言語を想像するために生まれたのだ!」

「「「「まさか!」」」」

「その起源は明らかにされてないが……お前達なら推測するのも容易かろう?」

 

 バラルの呪詛、相互理解の不全、統一言語、これらのワードに関わり深い人物は、フィーネただ一人しかいない。

 

 

 一方輪の案内で走る三人だが、いくら走っても玉座の間にたどり着く気配がない。

 

「輪先輩!本当に合ってるんデスか?!」

『本来近道出来る所を遠回りしてるから、時間が掛かるんだよ。』

「そろそろ罠が仕掛けてもおかしくない頃合いデスよ!あっ……」

 

 三人は目の前の事態に、足が止まる。

 

「罠以下の罠……!」

「もしかして、アタシ達を誘導していたのは……」

 

 目の前に、英雄に焦がれる最低で最悪のマッドサイエンティスト、Dr.ウェルが壁にもたれかかっていた。

 

「ご覧の有様でね……血が足りず、シャトーの機能を完全掌握する事もままならないから難儀したよ……。さて、戦場で僕と取引だよ!」

 

 マリア達のチフォージュ・シャトーの破壊、そしてウェルの中にはキャロルへの仕返し、この二つの利害が一致した。

 




以前瑠璃、輪、小夜のイメージCVについて言ってましたが、皆さんはどなたの声優さんを想像してますか?
今回はジャンヌとジークがいるので、もしよろしければそれらも教えていただければと思います。


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崩れゆく

最終決戦だというのに瑠璃より輪が目立っている……。

マリアさんの必殺技の色文字を灰色にするか水色にするかちょっと悩み始めましたので今回は水色の方にします。
どっちかに決まり次第、変更します。




 マリア達は負傷したウェルを伴ってチフォージュ・シャトーの玉座の間へと辿り着いた。4人は制御装置の前に立ってそれを見上げる。

  

「これがチフォージュ・シャトーの制御装置……これを破壊すれば……」

「おつむのプロセッサは何世代前なんだい?そんな事をすれば制御不能になるだけさ。」

 

 キャロルが唄う世界を壊す歌。それによって放たれる錬金術が響、翼、クリス、瑠璃の4人を追い詰めている。

 対する4人はいくら攻撃してもキャロルに傷一つ与える事はおろか、そもそも届きすらしない。勝負という勝負すら成り立っておらず、言ってしまえばキャロルの一方的な蹂躙である。しかも今まで自分達を支えてくれた歌が、キャロルが口ずさむ事で世界を壊す道具として利用されている。瑠璃は、それが悲しかった。

 

「歌で世界を壊すなんて……歌をそんな事に使うなんて……!」

「東京の中心とは、張り巡らされたレイラインの終着点。逆に考えれば、ここを起点に全世界へと歌を伝播させられるという道理だ。」

「その為に安全弁である要石の破壊を!」

 

 霊脈を守る社、そして八紘邸にあった要石、それがない今、世界の解剖を止めるにはシャトー自体を破壊するか、シャトーから放たれたエネルギー波に共鳴する歌を唄うキャロルを倒さなければならない。だがマリア達三人だけでは破壊に必要な力はない。そしてキャロルとの戦力差、どちらも絶望的である事は見るに明らかである。

 

「もうどうしようもないのか?!」

『ないことなどない!』

 

 漂う絶望感を、通信機越しからマリアが打ち破った。

 

「たとえ万策尽きたとしても、一万と一つ目の手立てはきっとある!」

 

 シャトーでは防衛機構の一つとしてアルカ・ノイズが召喚されていた。マリア、調、切歌が対処している。残ったウェルはシャトーの制御権を奪う為にネフィリムを宿した左手を装置に当てる。

 

「私達が食い止めているうちに!」

「ちゃっちゃと済ませるデス!」

「血が足りないから踏ん張れないって言っただろう?!子供はいつも勝手を言う!」

 

 調と切歌の指図にウェルは文句を言う。そこに錬金術を介してキャロルが映し出される。

 

「生きていたか、Dr.ウェル!何をしている?!」

「シャトーのプログラムを書き換えているのさ。錬金術の工程は分解と解析、そして……」

「ちっ……!機能を反転し、分解した世界を再構築するつもりか?!そんな運用にシャトーの構造が耐えられるものか!お前たちごと丸ごと飲み込んで……」

「そう!爆散する!」

 

 三人はキャロルとウェルのやり取りに驚いた。まさか自分達はともかく、ウェル本人も死を覚悟している事に。どの道自分の命が尽きる事は分かりきっているウェルは、自分の命を引き換えに、キャロルの計画を阻止しようとしている。そう考えただけで、ウェルの下卑た笑みが浮び

 

「どっちにしても分解は阻止出来る!ホント、嫌がらせってのは最高だ!」

 

 次第に高笑いへと変わっていった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 Dr.ウェルが生きていた事は想定外だが、それは問題ではない。ウェルがシャトーの機能、分解から再構築に変換しようとしている。キャロルの目的と正反対の事をされようとしているのを当の本人が黙っているはずがない。

 

「世界の分解は止まらない……些事で止めてなるものか!」

「止めてみせる!エルフナインちゃんの想いで!」

 

 響はマイクコンバーターに触れる。イグナイトモジュールを使おうとしているのだ。それに響を除いた三人が反対する。

 

「よせ!」

「キャロルは元々、イグナイトを使わせる事が目的だった……だから……」

「イグナイトモジュールの起動は、キャロルに利される恐れがある!」

 

 イグナイトには時間制限がある。カウント999が0になった瞬間、どんな状況であってもギアが強制解除されてしまう。もし今この場で使い、時間以内にキャロルを倒せなかったら敗北が確定する事を意味する。三人はそこを懸念していた。

 だがそこにキャロルの錬金術が放たれ、4人は吹き飛ばされてしまう。

 

「一万と一つ目の手立て……それをマリアさんが……!」

「マリア……!」

 

 瑠璃と翼がマリア達がいるチフォージュ・シャトーを見上げる。その一万と一つ目の策、それが実るまで4人はキャロルとの戦いに耐えるしかない。

 

 だがシャトー内でも、状況は好転していない。アルカ・ノイズは殲滅させたが、突然切歌と調が吹き飛ばされた。ふっ飛ばしたのはナスターシャの幻影だった。遂に追いつかれてしまったのだ。だが輪の檄で迷いを振り切ったマリアは、目の前に映るナスターシャの幻影を前に、狼狽える事はない。

 

「お前がマムであるものか!」

 

 そう啖呵を切る。すると、ナスターシャは突如別の姿へと変わった。それは黒いガングニールを纏ったマリアだった。

 突然の変化に驚くマリアだったが、突如マリアの幻影がガングニールの穂先から放ったエネルギー波を、短剣で受け止めきれず、吹き飛ばされた。

 マリアの幻影はガングニールの穂先を床に刺し

 

「私はフィーネ。そう……終わりの名を持つ者。」

 

 機械的な声でそう言い切った。

 左の拳を床に突き立て、立ち上がったマリアは、今目の前にいるマリアの幻影が何者なのかを悟った。

 

「そうか……お前は私……。過ちのまま行き着いた……私達の成れの果て……!」

「だけど……黒歴史は塗り替えてナンボデス!」

「シャトーが爆発する前に、この罪を乗り越えて脱出しよう!」

 

 切歌と調も立ち上がり、三人は並び立って唄う。調がアームの鋸を振り下ろし、マリアの幻影がガングニールで受け止め鍔迫り合いになるが、すぐに押し返し、解く。そこに飛びかかった切歌が大鎌を振り下ろすが、これは後ろへ飛ぶ事で避けた。

 

 本部では輪が道案内をする為にオペレーター席へ座っていたが、そこに輪より重傷を負っているエルフナインが声を掛ける。

 

「輪さん、代わってもらえますか?」

「で、でも……あんた……。その怪我で……」

「これは、僕の戦いでもあるんです……!お願いします……!」

 

 エルフナインは輪を強く見据える。その目から覚悟を感じ取った輪は、ゆっくりと席から立つ。

 

「分かったよ、エルフナイン。」

 

 輪が座っていた所が空き、代わりにそこにエルフナインが座り、輪は車椅子に座る。

 代わったエルフナインは早速マリアに通信で声を掛ける。

 

「マリアさん、通信機をウェル博士に預けてもらえますか?!」

『何?!』

「自分らしく、戦います!」

 

 通信機越しから、エルフナインの意図を汲み取ったマリアは通信端末をウェルに投げ渡す。

 

『この端末をシャトーに繋いでください!サポートします!』

「胸が踊る……!だけど出来るのかぁい?」

 

 そう言って嬉しそうに笑うウェルはすぐさま通信端末を制御装置に置いた。

 するとブリッジのモニターにはフォトスフィアの図が映し出された。緒川と友里がすぐにその意図を察知した。

 

「そうか!フォトスフィアで!」

「レイラインのモデルデータを処理すればここからでも!」

「藤尭ぁ!」

「ナスターシャ教授の忘れ形見……使われるばかりじゃ癪ですからね!やり返してみせますよ!」

 

 意趣返し。藤尭はコンソールを素早く打つ。

 

「演算をこちらで肩代わりして負荷を抑えます!掌握しているシャトーの機能を再構築に全て当ててください!」

 

 その間にマリア達はマリアの幻影と戦う。再び放ったガングニールのエネルギー波を、逆三角形のバリアで防ぐ。

 

(私が重ねた罪は……わたし一人で!)

「調、切歌!ここは私に任せて、みんなの加勢を……っ!」

 

 マリアが二人の方を向いた隙、マリアの幻影がガングニールを投擲する。防御が間に合わないと思われたが調と切歌がそれぞれのアームドギアで間一髪防いだ。

 

「この罪を乗り越えるのは……!」

「三人一緒じゃなきゃ駄目なのデス!」

「ありがとう……二人とも……!」

 

 マリアは短剣を強く握りしめ、ウェルの方を向く。

 

「ドクター!私達が命に代えても守ってみせる。だから……ドクターは世界を!」

 

 ジャンヌに託された世界、皮肉にもその命運はジャンヌの命を奪ったウェルに掛かっている。しかし、マリアは世界を守る為に託す事を決めた。ウェルは口角をさらに上げて笑う。

 

 するとシャトー内の歯車が動き出した。外でもシャトーの周りに稲光が走る。解剖から再構築へと書き換えようとする事によってエネルギーの流れが逆流、シャトーに負荷が掛かっている。その異変を察知したキャロルが初めて狼狽えているのが露わになっている。

 

「やめろ……オレの邪魔をするのはやめろ……!やめろおおぉぉーー!!」

 

 キャロルがシャトーの方へ飛び立った。

 

「翼と立つステージは楽しかった……!次があるなら……朝まであなたと歌い明かしてみたいわね。」

「マリア……何を……?!」

 

 突然マリアが翼に語り掛けた。その真意が何なのか翼は理解出来なかった。

 

「命懸けで戦った相手と絆を深めて、仲良く出来る瑠璃先輩とクリス先輩は凄いなって……!憧れてたデスよ!」

「そんな……切歌ちゃんだって……!」

「そうだぞ!お前だって出来てる!」

「ごめんなさい……!あの日、何も知らずに『偽善』と言った事……本当は直接謝らないといけないのに!」

「そんなの気にしてない!だから!」

 

 切歌は瑠璃とクリスに、調は響に同じように言った。

 エネルギーが逆流し、暴走するにつれてシャトーから光が漏れ出し始めた。間もなく爆発する。

 

「お願いやめて!これ以上私とパパの邪魔をしないで!!」

 

 思わず以前の幼き少女のような声で懇願する。

 再構築の為の演算に心血を注ぐエルフナイン。床には血液が落ち、エルフナインの頬に脂汗が流れる。

 

「エルフナイン……もうこれ以上は……」

 

 これ以上やっては死んでしまう。そう言おうとした輪だが……

 

「輪さん……輪さんが命懸けで皆を守ったように……僕は……僕の錬金術で世界を守る……!キャロルに世界を壊させない!」

 

 切歌と調の攻撃で幻影マリアの手からガングニールを弾いた。マリアは左腕の篭手に短剣を連結させ、長くする。マリアが飛ぶと、幻影マリアがマントを翻す。そこに現れたのはアガートラームのギアを纏った亡き妹、セレナ。だが今のマリアは迷わない。

 

「セレナアアアアアアァァァァァーーーー!!」

 

 篭手のブースターを点火させて急降下、その剣で幻影セレナを真っ二つに両断した。

 

【SERE†NADE】

 

「やめろおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーー!!」

 

 キャロルが叫ぶと四大元素の錬金術を一つにした強大なエネルギー波をシャトーに向けて放ってしまった。自らの攻撃で貫いてしまったシャトーは大爆発を起こした。キャロルはシャトーが落ちていくのを見ているしか出来なかった。

 

 




おまけ 輪の憂鬱

「正直な事を言うと……私もギアを纏いたい!そして唄って戦いたい!いつも見てるだけなんて……私も瑠璃と並んで戦いたい!というわけでギアをくださいなオジサン!」
「頭を冷やせ!」
(げんこつ)


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奇跡を願え

いよいよラストバトルが近づいてきました。

シリアスが続くので、後書きの方におまけの台本式のものを用意してます。


 シャトーを用いた再構築によって、分解された場所は元通りに戻った。だがその代償は大きかった。

 

「シャトーが……託された命題が」

 

 自らの攻撃でチフォージュ・シャトーは破壊された。撃ち抜かれたとはいえまだ外壁の形は保たれているが、機能を失ったシャトーはツインタワービルの真上へと落ちた。自ら命題を解き明かす唯一の手段を失い絶望していた。

 

 一方装者達の方も悲しみに暮れていた。シャトーの中にはマリア達がいた。脱出したという報告もなく、まだ中にいるのは確かだった。もはや生存は絶望的だった。

 

「また失った……大切な人達を……」

「何でだ……くそったれ!」

 

 瑠璃はそれぞれの手に持っていた二本の槍が落ち、膝から崩れ落ちた。

 クリスも拳を強く握る。

 翼の慟哭が響き、刀を地に突き刺した。

 

「投降の勧告だ!貴様が描いた未来は、もう瓦礫と果てて崩れ落ちた!」

「未来……?」

『もう……やめよう……?』

 

 エルフナインが弱々しい声でキャロルに呼び掛けた。出血が酷く、輪に支えてもらわなければ今にも倒れてしまいそうな程にエルフナインは弱っていた。

 

「お願い、キャロル……。こんなこと、僕達のパパはきっと望んでいない……。火あぶりにされながら、世界を識れと言ったのは……僕たちにこんなことをさせるためじゃない……!」

「そんなの分かっている!だけど、殺されたパパの無念はどう晴らせばいい?!パパを殺された私達の悲しみは、どう晴らせばいいんだ?!パパは命題を出しただけで、その答えは教えてくれんかったじゃないか?!」

「それは……」

 

 そこに洸が語り掛けた。

 

「君達のお父さんは、何か大事な事を伝えたかったんじゃないか?命懸けの瞬間に出るのは、一番伝えたい言葉だと思うんだが……。」

「錬金術師であるパパが、一番伝えたかった事……」 

 

 洸はキャロルの父親、イザークとは生きた年代も違えば会った事すらない。だが同じく娘を持つ父親であるからその心中を察する事が出来た。

 エルフナインが呟くと、ブリッジにキャロルの幻影が現れ、その場にいるものはそちらを向いた。 

 

『ならば真理以外ありえない。』

「錬金術の到達点は、万象を知ることで通じ、世界と調和する……こと……。」

『調和だと?!パパを拒絶した世界を受け入れろというのか?!言ってない!パパがそんなこと言うものか!』

「だったら代わりに解答する……。」

 

 子供のように受け入れないキャロルの代わりに、エルフナインが弱々しい声で、その答えを口にする。

 

「命題の答えは……『許し』」

 

 キャロルの幻影がエルフナインを見る。

 

「世界の仕打ちを許せと……パパは僕たちに伝えていたんだ……!」

 

 だが遂に限界が訪れ、口から血を吐き出してしまう。それを見た輪が叫んだ。

 

「エルフナイン!」

 

 同時にキャロルの幻影がブリッジから消えた。

 キャロルは自ら破壊したシャトーを見上げ、涙を流す。

 

「チフォージュ・シャトーは大破し、万象黙示録の完成という未来は潰えた……。」

 

 そう言うと、響達を見下ろす。その目は明らかに敵意を向けており、叫ぶように宣言する。

 

「ならば!過去を捨て、今を蹂躙してくれる!」

 

 命題の答えが分かっていても、父親を奪った世界をキャロルは許せなかった。故に全てを破壊しようとする。

 

「駄目だよ!そんなことをしては、パパとの思い出も燃え尽きてしまう!」

 

 エルフナインの制止すら届かない。それをブリッジから見ていた輪は復讐に走った自分と重ね合わせていた。

 

「そんな事したって……あんたのお父さんは、帰って来ないのに……馬鹿野郎……!」

 

 全てを捨てて復讐に走っても何も残らない。かつて友達を捨ててまで復讐の炎を燃え上がらせて、S.O.N.G.を裏切った。でもそれを果たせたとしても何も残らない事を、輪は知っている。決定的な違いは、キャロルにはそれを理解しようとせず暴走している事だ。

 キャロルの雄叫びが響くと、その身体には輝きを帯びる。再び強大な力を振り回そうとしているのが肌で感じる。

 

「キャロルちゃん何を?!」

「復讐だ!!」

 

 そう言うとキャロルはダウルダブラの弦で装者達を叩き潰す。

 

「もはや復讐しかあり得ない……!」 

「復讐の炎は……すべての思い出を燃やすまで、消えないのか?!」

「そんな事……あなたのお父さんが望むわけがないのに……!」

「エルフナインだって、復讐なんて望んじゃいねえ!」

「うん……エルフナインちゃんの望みは……!」 

 

 響はギアのコンバーターに触れる。

 

「イグナイトって、本気か?!」

「うん。」

 

 クリスの問いに響は迷いもなく頷く。

 

「賭け……って言うには正直、分の悪いものになるけど……。」 

「だが嫌ではない。この状況では尚の事。」

 

 瑠璃と翼も響に同意した。イグナイトは元々キャロルの計画の内の一つであれば強みも弱みも全て知られている。だがこの場にいる者達は全員満身創痍であり、後がない。それにキャロルを止められるのは響達4人の装者しかいない。ならば一縷の望みに賭ける事を選ぶ。

 

「この力はエルフナインちゃんがくれた力だ。だから疑うものか!イグナイトモジュール……」

「「「「ダブル抜剣!!」」」」

 

 そう言うと4人はウィング型のスイッチを二回連続で押し込み、イグナイトモジュールを支配したギアを纏った。

 イグナイトモジュールには三段階のセーフティ機能がある。一段階目がこれまで使用してきた『フェイズ・ニグレド』であり、今回二段回目である『フェイズ・アルベド』。当然ニグレドより分出力が上昇するがその分制限時間も短くなる、まさに諸刃の剣である。

 4人の身体には白い燐光を宿し、臨戦態勢へと入る。響が一番槍を務め、キャロルへと真っ先に殴り掛かるが、バリアで防がれ軽くいなされる。

 クリスのガトリング砲の弾丸も、ダウルダブラの弦で全弾とも弾かれ、翼の斬撃もバリアで防がれる。

 瑠璃も二本の槍を連結、エネルギーをその槍に集結させ、投擲させると穂先がドリルのように高速回転し、キャロルの背後を狙う。

 

【Horn of Unicorn】

 

 だがダウルダブラの弦によって受け止められた事で、キャロルの目と鼻の先で完全に停止し、弾き返される。

 響の拳の乱打、翼の斬撃、クリスのガトリング砲、瑠璃の槍の遠隔操作、4方向からの攻撃を持ってしても全て防がれてしまう。

 

「力押し、実にらしいし可愛らしい……がっ!」

 

 キャロルが腕を振るうと4方向からの攻撃を全て吹き飛ばした。当然突っ込んでいた響も吹き飛ばすが、翼が受け止めた事で遠くまで飛ばされずに済んだ。

 

「イグナイトの二段回励起だぞ?!」

「それでも届かないなんて……!」

「次はこちらが唄うぞ!」

 

 キャロルのターンが始まった。唄うと同時に魔法陣が背後に展開される。強大な力を放とうとする為に貯められるエネルギーの余波が伝わるが、それだけで辺り一帯が吹き飛びそうになる。

 

「さらに出力を……?!」

「一体どれだけのフォニックゲインなんだよ?!」

「でも待っていたのはこの瞬間なんでしょう……?」

 

 瑠璃が響の方に向いて問う。

 

「はい!」

 

 4人は再びギアコンバーターに触れる。

 

「抜剣、オールセーフティ!」

「「「「リリィィィース!!」」」」

 

 ウィング型のスイッチを押し込むと三段階目、つまり全てのセーフティが解除された『フェイズ・ルベド』へと移行した。

 ブリッジにアラートが鳴り響き、モニターにはアルベドに移行した事で速まったカウントダウンが赤く表示され、更にそれよりも速くなっている。

 キャロルの錬金術を正面から受け止める4人。

 

 

「イグナイトの出力でねじ伏せて!」

「吹き荒れるこのフォニックゲインを束ねて撃ち放つ!」

「これが正真正銘、最後の切り札!」

「S2CA!スクエアブラストォォォーーー!!」  

 

 イグナイトのセーフティを全て解除した上で、4つの絶唱 S2CAスクエアブラストでキャロルの錬金術と打ち合う。

 が、それにも関わらずその強大な力の前に踏ん張るのが精一杯だった。

 

「このままじゃ暴発する……!」

「バイデントの力で……何とかそれを防いでも……キャロルの錬金術が……!」

 

 バイデントの力で4つの力を掛け合わせる事で暴発は阻止出来る。だがキャロルの錬金術を前に力負けしている。

 

「イグナイトの最大出力は知っている!だからこそそのまま捨て置いたのが分からなかったか?!オレの歌は、ただの一人で70億の絶唱を凌駕する、フォニックゲインだあああぁぁぁーーーー!!」

 

 70億対4、その力の差はあまりにも圧倒的で絶望的なものだ。その差によって、4人は呆気なく吹き飛ばされてしまった。

 

「はははは!他愛もない……。」

 

 キャロルは4人をゴミ屑のように吐き捨てる。相当なダメージを4人は負い、立ち上がる事すらままならない。だがそれでも、諦めていない。

 

「たとえ万策が尽きたとしても……一万と一つ目の手立てはきっと……!」

 

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl……

 

 突然聞こえてくる絶唱、それは4人のうちの誰かのものではない。振り返るとそこにはイグナイトを纏っているマリア、切歌、調が立っていた。奇跡が起きていた。

 

 シャトーが大破した事で、天井が瓦礫となって崩落した。それはマリア達に容赦なく襲い掛かったのだが、それに押し潰されず、無事だった。ただ一人を除いて……

 

「Dr.ウェル……!」

 

 ウェルが彼女達を助けたが、代償として自分の身体が瓦礫に押し潰されてしまっていた。奇しくもその様は、ジャンヌの命を奪った時と同じ、今度はウェルがジャンヌと同じ最期を迎えようとしていた。

 

「君を助けたのは……僕の英雄的行為を世界に知らしめる為……。」

 

 正直な所、マリアはウェルの事は好いていない。嫌いだったが、死んでほしかったわけではない。だがもうウェルは助からない。マリアはウェルの言い分を聞く事しか出来ない。

 

「さっさと行って、死に損なった恥を晒して来い……!それとも君は……あの時と変わらない、駄目な女のままなのか……?」

 

 その命が終わろうとしているのに、相変わらずマリアを煽る。だがウェルは最後の力を振り絞ってマイクロチップをマリアに差し出す。

 

「これは……」

「『愛』ですよ……」

「何故そこで愛?!」

 

 ウェルは全てを教えるつもりはない。マリア達が求めるものに必要なヒントをくれてやった。

 

「シンフォギアの適合に、奇跡などは介在しない……!その力、自分のものとしたいなら手を伸ばし続けるがいい……!」

 

 チップを渡すと、力尽きたウェルの身体は脱力した。最期にマリアに問うた。

 

「マリア……僕は……英雄になれたかな……?」

 

 それを最期に、Dr.ウェル永遠の眠りについた。

 マリアは骸となったウェルに振り向かずに告げた。

 

「ああ……お前は最低の……」 

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl 

 

 7人は絶唱を唄う。

 

「この期に及んでまだ唄うか……!」

 

 何度倒れても立ち上がり、唄う装者達に苛立つキャロル。

 

「オレを止められるなどと……自惚れるなあああぁぁぁーーー!!」

 

 再び70億の絶唱の錬金術を放ち、7人の絶唱とぶつかり合う。

 

「S2CA ペプダゴンバージョン!!今度こそ、ガングニールで束ね!!」

「アガートラームで制御、再配置する!!」

「そして……バイデントで繋いで、掛け合わせる!!」

 

 響、マリア、瑠璃がそれぞれのギアの特性を使い、ぶつかり合う二つのフォニックゲインを一つへと変える。するとそれぞれのアームドギアが変形し、響のマフラーが虹色になり、装者達を包み込む。

 だがモニターに映し出されたカウントダウンは、その間に刻一刻とタイムリミットが迫っていた。時間がない。エルフナインがその腕を伸ばす。

 

「最後の……奇跡を……」

「まさか……オレのぶっ放したフォニックゲインを使って……!」

 

 響達が狙っていた最後の切り札が発動しようとしていた。

 

「奇跡を願え!!」

「ジェネレイト!!」

「エクスドラァァァァァイブ!!」

 

 3人が叫ぶと7人がいた場所に虹色の竜巻が発生する。その竜巻は空を貫いた。竜巻が消えると、そこから7人の装者が天へと降り立ち、光を輝かせていた。奇跡の結晶のギア、エクスドライブを纏って。

 

「これが……奇跡の形……」

 

 奇跡を見届けたエルフナインは力尽きた。

 

 

 

 




おまけ 某ゲームである無線通信風のやり取り

「ねえクリス。『そして誰もいなくなる』っていう小説知ってる?」
「いや、知らねえな。」
「年齢とか職業、全くバラバラの男女8人が、ある豪邸へ招待されるんだけど、そこで次々と招待客とが殺されていくの。その犯人が誰なのかを最後の一人になる前に探すっていうミステリー小説なの。」
「でもよ、タイトルに書いてある通り誰もいなくなるんだろ?だったらもう犯人の勝ち逃げで終わるのは分かるじゃねえか。」
「それはどうでしょうね?」
「え?何だよその気持ち悪くなるような言い方は?!」
「読んで見れば分かるよ。」
「おい待てよ姉ちゃん!それじゃ気になるだろうが!」

その後、クリスは続きが気になって仕方なくその小説を買い、真相を確かめたのだとか。


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世界を識る為に

遂にGXラストバトルです。
今回後書きのおまけは無しとさせていただきます。


「エルフナイン!しっかりしてよエルフナイン!」

 

 輪が呼び掛けるが、エルフナインは意識を失い応答はない。かなり危険な状態だ。

 

「涙……?」

 

 洸言われて気付いた。エルフナインの目尻から一筋の涙が流れていた。

 

 空に舞い降りた7人の装者。キャロルが放った七十億の絶唱利用してエクスドライブへと姿を変え、浮遊している。

 

「単騎対七騎……」

「錬金術師であるならば、彼我の戦力差を指折る必要もないであろう。」

「おまけにトドメのエクスドライブ、これ以上はもう終いだ!」

 

 戦力差を一縷の望みに賭けて、この逆境を覆してみせた。だがキャロルに狼狽えている様子は見られなかった。

 

「ふん……奇跡を身に纏ったくらいで、オレをどうにか出来るつもりか!」

「みんなで紡いだこの力を……!」

「奇跡の一言で片付けるデスか?!」

「片付けるとも!」

 

 調と切歌の反論を、キャロルは真っ向から否定した。奇跡、それ自体がキャロルが最も忌み嫌うものである。それは自身が体験した過去に由来していた。

 

「奇跡など……あの日、蔓延する疫病より村を救った俺の父親は、衆愚によって研鑽を奇跡へとすり替えられた。そればかりか資格無き奇跡の代行者として、焚刑の煤とされたのだ!」

 

 命題の答えを識っても、それを否定し復讐の道を選んだ理由。奇跡を否定する理由。あの日の思い出が長い時を生きたキャロルに今も残り続ける忌まわしき思い出だった。

 

「万象に存在する摂理と術理。それらを隠す覆いを外し、チフォージュ・シャトーに記すことがオレの使命!即ち万象黙示録の完成だった……だったのに……!」

 

 だがそれは叶わぬ夢となって消えた。故にキャロルは全てを破壊する事を選んだ。怒りながら宣言するように叫ぶ。

 

「奇跡とは、蔓延る病魔に似た害悪だ!故に俺は殺すと誓った!だからオレは、奇跡を纏うものだけには負けられんのだぁぁ!!」

 

 するとキャロルはアルカ・ノイズの召喚石を大量にばら撒いた。空に展開された大型のアルカ・ノイズの体内から小型のアルカ・ノイズが降り注ぎ、直下の地上を埋め尽くした。モニターでその反応は捉えられているが、その数の多さに赤い点で表示されているレーダーの殆どが赤一色に染まった。ブリッジにいる全員が驚愕を隠せなかった。

 

「まだ、キャロルは……」

「これほどまでのアルカ・ノイズを……」 

「チフォージュ・シャトーを失ったとしても、世界を分解するだけなら不足はないということか!」

「この状況で、僕達に出来るのは……」

 

 そこに洸が通信越しに響に呼び掛けた。

 

「響……響!」

「その声、お父さん?!」

『泣いている子が……ここに居る!』

 

 エルフナインは意識を失っているがその目尻から流れる一筋の涙。それを洸は伝えたかった。

 響はその意図を察し

 

「泣いている子には……手を差し伸べなくちゃね!」

 

 響はエルフナインを、キャロルを救う為に拳を構える。

 

「何もかも壊れてしまえばああぁぁ!!」

 

 キャロルの叫びがトリガーとなり、アルカ・ノイズの大群は全てを破壊する為に動き出した。破損した建造物から赤い塵が舞う。

 

 

「翼さん!」

「分かっている、立花!」

「スクリューボールに付き合うのは、初めてじゃねえからな!」

「その為にも散開しつつ、アルカ・ノイズを各個に撃ち破る!」

「これ以上、キャロルに悲しい思い出を作らせないように……ここで終わらせよう!」

 

 装者達はそれぞれ変形したアームドギアを手に散開した。響は右手のアームを槍の穂先の形へと変えて、真正面からアルカ・ノイズを貫いていく。

 

『あの子も、私達と同じだったんデスね。』

『踏みにじられて、翻弄されて……だけど、何とかしたいと藻掻き続けて……。』

 

 切歌と調はアームドギアを合体させてクワガタムシのようはロボットに乗って操縦すると、ハサミとなったイガリマの刃でアルカ・ノイズを刈り取る。

 

『違っていたのは、独りだったこと……ただそれだけ!』

『苦しみや痛み……。それをずっと独りで抱えて……辛かったよね……。』

 

 マリアの剣、瑠璃の二叉の槍から放たれた光が道標のように展開され、そこから複製されたアームドギアが放たれ、アルカ・ノイズ達は貫かれる。

 

『救ってあげなきゃな……。何せアタシも救われた身だ!』

『その為であれば!奇跡を纏い、何度だって立ち上がって見せる!』 

 

 翼は鞘をも刀へと変えて、両足のブレードを巨大化、宙返りをするように回転すると、浮遊するアルカ・ノイズを両断。

 クリスが全身に連結させた大型の砲門からビームを発射、拡散するように放たれたビームはアルカ・ノイズの身体を貫通させる。

 

『その為に私達は!この戦いの空に、歌を唄う!』

 

 アルカ・ノイズを天へと駆け上がるように拳を振り抜き、貫いた。七人が奏でる歌が、大群をなしていたアルカ・ノイズを殲滅させた。

 残るはキャロルただ一人。だがキャロルはエクスドライブと同等のフォニックゲインを備えている。四大元素の魔法陣を一度に大量展開させており、その身に纏う力が増大している。

 

「さっきのアルカ・ノイズは時間稼ぎ?!」

「残った思い出丸ごと焼却するつもりなのか?!」

 

 キャロルの目からは涙ではなく、血が流れていた。

 

「何もかも壊れてしまえ……。世界も……奇跡も……オレの思い出も!!」

 

 キャロルが叫ぶと、魔法陣からは光が放たれた。だがその風圧だけで、装者達は吹き飛ばされそうになる。

 

「救うと誓った!」

「応とも!共に翔けるぞマリア!」

 

 翼とマリアの身体を重ね合わせ、六つの剣を束ねるとドリルのように高速回転しながらキャロルに突っ込む。だが

 

「散れえええぇぇぇ!!」

 

 キャロルが展開させた錬金術のバリアによって弾き返された。

 

「マリア!」

「お姉ちゃん!っ……!あれ!」

 

 瑠璃がキャロルの方を指す。ファウストローブの背部から展開された弦が伸びていき、それが一つの塊のように形成される。次第にそれは装甲となっていき、その姿は一角の碧の獅子機である。

 

「ライオンになった……。」

「チクショウ!何だってんだあれは?!」

 

 これ程のものを形成させる為にはどれ程の力が必要になるか、装者達にとっては想像すら出来ない。獅子から発せられる咆哮は、怒りにも嘆きにも感じ取れた。恐らく、獅子の中にいるキャロルの心象を表しているのだろう。

 

(全てを無に帰す……。何だかどうでもよくなってきたが、そうでもしなければ臍の下の疼きが収まらん……!)

 

 獅子が口を開ける。

 

「仕掛けてくるぞ!」

 

 獅子は咆哮と共に、その口から炎を放った。装者達はこれを避けるが、その軌道線上にあった建物は跡形もなく消えた。それだけではなく湾岸部にまでその被害が及んでいる。

 

「あの威力……何処まで……!」

「だったらやられる前に!」

「やるだけデス!」

「おい!」

「猪突猛進に行っても……!」

 

 クリスと瑠璃の制止を聞かずに突っ込む調と切歌だったが、あっさりと振り払われてしまう。

 

「あの鉄壁は金城!散発を繰り返すばかりでは突破出来ない!」

「ならばアームドギアギアにエクスドライブの全エネルギーを集束し、鎧通すまで!」

 

 響を除いた六人の装者が道路に降り立った。

 

「身を捨てて拾う、瞬間最大火力!」

「ついでにその攻撃も同時収束デス!」 

「御託は後だ!マシマシが来るぞ!」

 

 獅子の口から光線が放たれる。だがそれは響の槍へと変形させたアームで押し止めている。

 

「私が受け止めている間に……!」

「行くよ皆!全てのエネルギーを、一つに!!」

 

 瑠璃の合図で六人のアームドギア、並びに装甲を全て解除、エネルギーへと変える。

 

「一斉同時攻撃!!」

 

 六人が全てのエネルギーを同時に獅子に向けて放つ。そのエネルギーは獅子に直撃し、装甲が剥がれた事で、中にいるキャロルの姿を捉えたが

 

「アームドギアが一つ足りなかったようだな……っ!」

 

 勝ちを確信したように笑っていたが、それはすぐに消え失せた。響の右手に六つの光が束ねられていた。

 

「なんちゃって……!」

 

 瑠璃が不敵な笑みを浮かべた。実はバイデントの力で、攻撃だけでなく響に集めたエネルギーを繋ぎ合わせていた。ガングニールの繋ぐ力で先程のエネルギーの同時攻撃よりその最大出力を跳ね上げる為に。

 まんまとしてやられたキャロルは怒りを露わにする。

 

「奇跡は殺す、皆殺す!オレは奇跡の殺戮者にいぃぃ!!」

「繋ぐこの手が、私のアームドギアだ!」

 

 獅子から再び光線が放たれるが、集まったエネルギーが、巨大な右手となった事で、それは防がれる。

 

(当たると痛いこの拳……。だけど未来は、誰かを傷付けるだけじゃないって教えてくれた!)

「枕を潰す……ぐうっ!こんな時に……拒絶反応?!」

 

 だがそれはすぐに違うと分かった。脳裏に蘇る、愛する父イザークとの思い出。それがキャロルを見失わせないように引き止めていた。

 

「認めるか!認めるものか!!オレを否定する思い出など要らぬぅ!!全部燃やして力と変われえええええええええぇぇぇぇぇぇーーー!!」 

 

 とうとうイザークの思い出までもを焼却し、力へと変えてしまった。それにより再び獅子に輝きが放たれる。

 響も迎え撃つ為に一度、右手のアームドギアを分解、さらに巨大な拳へと変え、雄叫びと共に突き出し、獅子の強大な波動とぶつかり合う。

 だが響の方が僅かに押されている。しかし、響とキャロル、二人の決定的な違いが勝敗を分ける事になる。

 

「立花に力を!天羽々斬!!」

「イチイバル!!」

「バイデント!!」 

「シュルシャガナ!!」

「イガリマ!!」

「アガートラーム!!」

 

 それは仲間との絆。響が繋いで来た手の数だけ、それは力になる。七つのアウフヴァッヘン波形が一つに重なり、その一撃が獅子の波動を押し切った。

 

「何っ?!」

 

 

 

 

ガングニイイイイィィィィーーーーール!!

 

 

 

 

 

 そしてその拳は獅子に、キャロルに届いた。

 

 

【Glorious Break】

 

 

 だがキャロルはそれでも笑っていた。打つ手があるわけではない。もはや全ての思い出を焼却し、力へと変えた上で敗れた以上、もう彼女に残されたものはない。

 すると獅子の身体はそのまま上昇していき、身体から光が漏れ始めた。ブリッジではそこから発せられる高エネルギー反応が検知されていた。

 

「行き場を失ったエネルギーが、暴走を始めています!」

「被害予測、開始します!」

「エネルギー臨界到達まで、あと60秒!」

「このままでは、半径12キロが爆心地となり、三キロまでの建造物は深刻な被害に見舞われます!!」

 

 その報告を受けて、弦十郎は低く唸る。

 

「まるで小型の太陽……」

「それって自爆って事じゃ……まさか皆を道連れに?!」

 

 緒川が呟くと、輪はキャロルが奇跡も歌も、何もかもを否定する為の最後の足掻きを察した。

 

「お前に見せて刻んでやる……。歌では何も救えない世界の心理を……」

「諦めない……奇跡だって手繰って見せる!」

「奇跡は呪いだ、縋る者をとり殺す!」

 

 そう告げると獅子の内部が爆発、キャロルは幼き姿へと戻り、編み降ろしていた髪が焼け落ちた。響はすぐにキャロルを助けようと手を伸ばすが、ダウルダブラの弦が身体に巻き付いており、これ以上の速度が出ない為届かない。爆発まであと20秒もない。

 

「手を取るんだ!」

「お前の歌で救えるものか……誰も救えるものかよおおぉ!!」

 

 キャロルは手を取ることを否定する。だがそれでも響は諦めない。

 

「それでも救う!抜剣!!」

『ダインスレェェーイフ!!』

 

 響がギアコンバーターのスイッチを押してイグナイトを起動、白き装甲が黒へと染まり、瞬間出力でスピードを出して手を伸す。

 

 『キャロル!!』

 

 響だけではない、エルフナインもまたキャロルを救う為にその手を伸ばそうとしている。そして、もう一つ伸ばす手が。それを見たキャロルは驚愕した。

 

 『キャロル、世界を識るんだ!』

 

 それは、先程拒絶し、焼却した父イザークだった。

 

『いつか人と人が分かり合う事こそ、僕達に与えられた命題なんだ。』

「うん……!」

 

 キャロルの目から涙が流れた。

 

『賢いキャロルにはわかるよね?そしてそのためにどうすれば良いのかも。』

 

 どれだけ拒絶されようとも、娘を救う為に父親は手を伸ばす。たった一人の娘が、泣いているのだから。

 

 

 

 

パパアアアアアァァァーーーーーー!!

 

 

 

 

 

 キャロルはその手を伸ばし、掴み取った。爆発の瞬間、漆黒の闇が二人を守るように包みこんだ。爆発によって建物は焼き払われ、爆風が巻き上がった。

 

 




次回、GX編 最終回


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二人で紡ぐ絆

GX編最終回になります。
オリジナル要素に裏切り者を取り入れ、その正体にまつわる伏線をある程度張りましたが、すぐにバレるんじゃないかなって不安になってました。
ですが、裏切り者が判明した後で皆さんからご感想をいただいた時、それが衝撃的だったという方がいらっしゃっていたので皆さんを驚かせる事が出来た事に安堵してました。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!最後は恒例通り、輪視点でGX編は終了となります。それではどうぞ!


 碧の獅子機の爆発によって都心部は壊滅状態となっていた。緒川率いるS.O.N.G.の調査隊がキャロルの行方を追っていたが既に戦闘が終わってから72時間が経過しており、これ以上は捜索不能という事で打ち切られる事になった。響が無事だった事からキャロルも生きている事に間違いないのだろうが、その姿は影も形もない。弦十郎達は不安を覚えていたが、問題はそれだけではなかった。

 エルフナインは入院している。今、その病室に装者達と未来、輪が集まっていた。

 

 

「来てくれてうれしいです……毎日すみません……。」

「大丈夫だよ。私達、夏休みに入ったから。」 

「夏休み……?」

 

 瑠璃が口にした夏休み、エルフナインは初めて聞く単語に疑問を呈する。

 

「楽しいんだって、夏休み。」

「アタシ達も初めてデス!」

「早起きしなくていいし、夜更かしもし放題なんだよ?」 

「いや、それいつものあんたじゃん。」

 

 と、輪がすかさず突っ込む。図星を突かれた響はたじろいだ。

 

「輪さん何故それを?!」

「相方が苦労をしている所を見てると……ねぇ?」

 

 そう言いながら未来の方を見る。

 

「そうですね。それが響のライフスタイルですから。」

「あんま変な事を吹き込むんじゃねえぞ?」

 

 クリスに注意されるが、響はお構いなしに夏休みについて教える。

 

「夏休みはねぇ、商店街でお祭りもあるんだ!焼きそば、綿あめ、たこ焼き、焼きイカ!ここだけの話、盛り上がってくるとマリアさんのギアから盆踊りの曲が流れるんだよ!」 

「ブフッ……!」

 

 突然のジョークが入った事に、瑠璃の隣にいた輪は思わず吹いた。響にからかわれ、輪に笑われたマリアは顔を真っ赤にして

 

「そんなわけないでしょう?!だいたいそういうのは翼のギアから流れてセルフでやるのがお似合いよ!」

 

 今度は翼に飛び火した。のだが容易くイメージ出来てしまうからか、病室に笑いがこみ上げた。

 

「お姉ちゃんには悪いけど……確かに似合ってるかも……ふふふっ……!」

「なるほどなるほど……?皆が天羽々斬についてどう認識しているか、よーくわかった……。瑠璃、後で天羽々斬が何たるか、その身体にみっちり叩き込んでやろう。」

「えっ……?!ご、ごめんなさい……!それだけは……!」

 

 瑠璃が必死になって謝るのは、その講義、及び訓練がとんでもなくハードであり、瑠璃にはそれが殆ど必要ないものなので、はっきり言ってしまえば不毛な教育である。

 そのやり取りを見ていた他の面々が大爆笑する。エルフナインも笑いすぎて涙が出ている。

 

「僕にはまだ知らない事が沢山あるんですね。世界や皆さんについてもっと知ることが出来たら、今よりずっと仲良くならますでしょうか……?」

「なれるよ!」

 

 響がエルフナインの手を取って

 

「だから早く元気にならなくちゃ、ねっ!」

 

 エルフナインに挨拶をした後、一堂は病室から出ていった。

 

「私、ちょっとトイレに!」

 

 そう言うと響は走り出すが、出会い頭に看護師たぶつかりそうになるが、響は軽やかに避けた。一方看護師はバランスを崩して、手に持っていたカルテを落としそうになった。

 

「おわっ!病院内で走らんといてやー!」

「すみませーん!」

「ったくもう……って今の響ちゃんか。」

 

 その看護師は小夜だった。未来が響に代わって小夜に謝る。

 

「あ、小夜さん!すみません、響がご迷惑を……」

「未来ちゃんか。まあ今回は見逃しといたるわ。あの子の事やろ?」

 

 響がトイレへ走っていった理由も察していた。もうエルフナインは先が長くない。小夜はエルフナインがどうしてこうなってしまったのかは把握していない。だがエルフナインの残りの命が僅かである事は分かっている。

 

「まだまだこれからやって時に、こんな事になるなんてな……。そんなになったら、泣きたくなるわな……。」

 

 小夜がそう言うと未来は俯いてしまう。

 

「はよ行きなはりや。あの子の涙を拭えんのは未来ちゃんだけや。」

「はい……!」

 

 そう言うと未来は響が行ったトイレへと向かった。小夜はエルフナインの病室へ向かおうとした時、病室の前にいる翼達と目が合った。翼達は一礼すると、彼女達より年上の小夜は軽く手を振った。

 

「いつも来てもらって悪いなぁ。あの子、皆がいない時は……何ちゅうか、寂しそうやったからな。」

「小夜姉……。」

 

 輪が暗い顔で小夜を呼んだ。エルフナインが助からない事を知っているから、自分達がいない間は小夜に任せきりになる。もう死ぬと分かっていて、接する事になるので辛い思いをさせてしまうから、余計に申し訳なくなる。

 

「ウチの心配はいらんよ。職業柄、こういうのには慣れとるし。」

「ありがとうございます。エルフナインの事、よろしくお願いします。」

 

 小夜には秘匿にしているが、装者代表としてマリアが挨拶をする。

 

「任されたで。」

 

 小夜はエルフナインの病室の扉をノックすると、病室内へと入って行った。

 その後、ロビーで響と未来を待ち、二人が合流した後、それぞれ家路についた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その日の夜、エルフナインは眠っていたが呼吸が荒かった。もうその命が終わろうとしている。そこに病室の扉が開き、誰かが入って来た。突然の来訪者に気付いたエルフナインは目覚め、その方を見る。

 

「キャロル……。」

 

 来訪者はキャロルだった。だが彼女は響や世界に向けていた怒りや敵意などは全く感じられない。

 

「キャロル……それがオレの名前……。」

「記憶障害……思い出の殆どを焼却したばっかりに……。」 

 

 あの戦いで、キャロルは全ての思い出を焼却して力へと変えてしまった。故に自分が何者なのかも分からなくなってしまっていた。

 

「全てが断片的で、霞がかったように輪郭が定まらない……。オレは……一体何者なのだ……?目を閉じると瞼に浮かぶお前なら、オレの事を知っていると思い、ここに来た……。」

 

 キャロルはエルフナインが眠るベッドへと近付いて、問うた。

 

「君は……もう一人の僕……。」 

「オレは……もう一人のお前……。」

「ええ……二人でパパの残した言葉を追いかけてきたんです……。」

「パパの言葉……?そんな大切な事もオレは忘れて……。教えてくれ!こうしている間にもオレはどんどん……」 

 

 だがその問いははエルフナインが咳き込んだ事で遮られた。吐き出された血を見て、キャロルは愕然とする。

 

「順を追うとね……一言では伝えられないです……。僕の身体も……こんなだから……」

「オレだけじゃなく、お前も消えかけているんだな……。」

「うん……。」

 

 エルフナインは病室の天井を見る。そして、そこに彼女の本当の思いを告げる。

 

「世界を守れるなら……消えてもいいと思ってた……。でも……今はここから消えたくありません……!」

 

 エルフナインが涙を流す。それが彼女の願いだった。だがその願いは届かない事を分かっている。分かっているから涙を流した。

 それを見たキャロルはエルフナインに言った。

 

「ならば……もう一度二人で……!」 

 

 キャロルとエルフナインの唇が重なった。指と指が絡み合うと、輝かしい光が発した。同時に、エルフナインのバイタルを表示する心電図の波形が、平坦となり、0の数字が表示されると警告音が鳴った。

 

 エルフナインが死亡したと知らされた響達は急いで病室へと駆け込んだ。病室には月の光が差し込まれており、その光が照らすように、一人の少女が立っていた。ベッドで眠っていたはずのエルフナインがいない、そこにいたのはキャロルだけだった。

 

「キャロル……ちゃん?」

 

 響が問いかけると、少女は振り返った。

 

「僕は……。」

 

 その声はエルフナインだった。響がエルフナインに抱きつき、皆がその生存を喜び分かち合った。

 

「エルフナインったら……もう心配したんだから!」

「でも……良かったね……!」

 

 瑠璃と輪も涙を流しながら抱き合い、喜んだ。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そういうわけで、キャロルの姿になったエルフナインは無事に退院して、正式にS.O.N.G.の一員になった。

 翼さんとマリアさんは再びロンドンへと旅立った。見送りには私も行った。もう翼さんの事は恨んでいないし、それが筋違いだってのも分かってたから。あの時、皆を裏切ったのは本当に申し訳ないと思っているけど、あれのお陰で、私は私の中であのライブの惨劇の事で踏ん切りもつけられたし、これで良かったんだと思う事にする。

 それと、キャロルが巻き起こしたあの事件は『魔法少女事変』と呼ばれるようになり、欧州で関わった者がいないか、調査を始めるんだって。

 

 まあ最後のやつはさておき、私達学生は夏休みを迎えた。そんなある日、私は瑠璃と一緒にクリスの家にお邪魔してた時なんだけど……私、今調と切歌と共に学校から出された課題を終わらせるのに勤しんでます……。

 いやぁ実を言うとキャロルに情報流す時、学校がある日でも容赦なく呼び出すから遅刻や無断欠席が多くなっちゃって、それで私だけ課題の量が増えました……。本当に最悪……。

 しかもクリスはソファーで寝っ転がりながら優雅にアイスなんか食べちゃって……。まあそれもそうだ。あの子瑠璃と同じくらい成績良いもん。しかもそこは双子というべきか、各教科の点数は若干差異はあるけど、総合得点だけ見ると一緒なんだよね。

 

「はい、麦茶。」

「ありがとう〜瑠璃〜。助かるよ〜。」

 

 瑠璃が注いでくれた麦茶……それだけで私は頑張れる!よーし!早く課題を終わらせて、瑠璃の写真をバンバン撮るぞー!色んな衣装を着せて、色んなシチュエーションを考えて、それから……

 

「姉ちゃん?おい姉ちゃん!」

 

 クリスが突然大声を出したからそれに反応して私達も瑠璃の方を向いた。頭を抱えるように触れていて、その手も震えてた。

 

「え……?あ……」

「どうしたんだよ姉ちゃん?具合でも悪いのか?」

「ううん、何でもないよ。」

 

 あの時、瑠璃はすぐに笑顔に戻った。私も気のせいだと思って、気にしなかった。でも……それが後に、あんな事になるなんて……思わなかった。

 

 




これにてGX編は終幕となります。
番外編を挟んでAXZ編となります。
ただ、今回の番外編は殆どがシリアスになります。



AXZ編予告

バルベルデ共和国、そこはかつて雪音姉妹が6年間地獄を体感した戦場。

彼女達を含めた装者一行はその地へと足を踏み入れる事になる。
そして、瑠璃は遂にその地獄へと再び直面する事になる。

AXZ編 開幕


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番外編 裏切り 前編

輪がS.O.N.G.を裏切った真相です。


 私、出水輪はS.O.N.G.の皆を裏切った。動機は風鳴翼の破滅。一度は誰かを憎む事をやめた私が、キャロルによって、再び燃え上がらせてしまった……ううん……違う。本当は、心のどこかで踏ん切りをつけてなかったんだ。じゃなきゃ……あの時、ガリィに連れて行かれた時から……ちゃんと断る事が出来たはず……。

 

 授業を終えた放課後、瑠璃はクリスと本部へと行ってしまい、帰りは私一人だけだった。小夜姉、今日は夜勤だから今日は晩御飯は一人で済ませなくちゃいけなかった。せっかくだから久々にふらわーに行こうとした時だった。人が倒れているのを見つけた。

 

「大丈夫ですか?!分かりま……っ!」

 

 既に死んでいた。顔を見ると、血でも吸われたのかのように肌や髪が白く、痩せ細っていた。しかも、他にも2人、同じように倒れている者がいた。

 

「一体……何が起きてるの……?」

「うわあああぁぁ!」

 

  悲鳴が聞こえた私はすぐにその方へと向かった。そこで私が目にしたもの……

 

「何あいつ?」 

 

 あの人間……いや、人間なのかも怪しい風貌だったあの青いドレスを着た奴が犯人なのか?私は建物の陰に隠れ潜んだ。

 

「いただきまぁ〜す☆」

 

 な、何してんのあいつ?!こんな白昼堂々と男の人とキスなんて……え?嘘……あいつが人とキスしたら、相手の人がまるで生気を失ったように動かなくなって倒れた……?!しかもあれ……さっきの遺体と同じ……じゃあ犯人はあいつ?!どうしよう、オジサンに知らせないと……!こんなの……

 

「あらあらぁ?な〜んかコソコソネズミがいると思ったら〜?」

「ひっ……!」

 

 い、いつの間に隣に……?!逃げなきゃ……っ!

 

「恨みはありませんけど、ごめんなさいね。」

 

 もう一人?!こいつの仲間?!

 

「はぁい捕まえた〜。」

「放して!放してよ!」

 

 掴まれた腕を振り解こうとしても、こいつ力が……!

 

「私はファラとは違って遠慮はしないから、恨まないでね☆」

「た、助け……んぅっ……!」

 

 駄目だ……私死ぬんだ……あの人と同じ運命に……そんなの……

 

「ぅっ?!」

「どうしたのガリィ?」

「おぉえっ!何なのこいつ?こいつの思い出……」

 

 え?助かった?突然やめて……何が起きてるの?

 

「待てよ……こいつS.O.N.G.と関わりある奴……。良い事考えちゃったぁ〜!」

 

 何こいつ?あいつの下卑た笑みで良からぬ事を考えてるのは確かだよね。

 

「一緒に来てもらうわぁ。も・ち・ろ・ん、拒否権なんてねーから。」

「え?」

 

 それからあっという間だった。さっきまで外にいたのに、気付いたら建物の中にいた。城なのか屋敷なのか、分からないけど日本の建築物でないのは分かる。しかも、ガリィとファラってやつ以外にも仲間が3人もいた。そして、玉座のような椅子に座ってる小さい女の子がこっちを見下ろしてた。

 

「ガリィ、何だそいつは?目撃者なら始末してしまえ。」

「違うんですよマスタ〜♪この子、S.O.N.G.と繋がりのある子なんですけど〜こいつの思い出を覗いたら面白い過去があるので、アイツらをメチャクチャにするにはうってつけの人材なので連れてきたんですよ〜♪ガリィちゃん頭良い〜!」

「ほう?なら少し覗かせてもらおうか?」

「え?まさかまた……んぅっ……!」

 

 またキスされた!既にファーストキスがこの人外なのに、またなの?!何なのこの人達?!

 

「ぷはぁっ……。そういう事か……。出水輪と言ったな。お前の望みを叶えてやる。」

「私の……望み?」

「その代わり、奴らの知っている情報を全て吐け。」

 

 まさか瑠璃達を裏切れっていうの?!冗談じゃない!私がそんな事するわけないじゃん!

 

「嫌だね……あんたみたいなちんちくりんに命令される筋合いは……がぁっ!」

 

 痛っ……お腹を蹴られた……。一体誰に……

 

「人間ごときがマスターにそのような口を叩けると思うな。」

 

 こいつか……。まるで騎士気取りな部下だね……。

 

「お前、あのライブにいたそうだな。」

「は?いきなり何?それに何の関係が……」

「哀れな奴だな。真実も知らずに、他の人間から虐待され、家族を失っても、それでも元凶を信頼するとは。」

 

 それってどういう意味……?真実って何……?

 

「ジーク。こやつを牢に閉じ込めておけ。少し話し合いでもすれば気が変わるだろう。」

「はっ……。」

 

 私はジークに牢屋に放り込まれた。何度もジークに殴られ蹴られて、身体には痣が出来てた。その上、ご丁寧に首輪と手枷に足枷、相当厳重に監禁されちゃってる。しかも、これ鍵穴がどこにもない。あいつらの意思でしか外せないと思う。

 

「虫けらごときが随分と立派な態度を取るな。既に奴らから裏切られているというのに。」

 

 さっきから言ってる意味が分かんないよ……裏切りだの元凶だの……何のことか分かんないし……。

 私を痛めつけて満足したのかジークが行ってしまった。そしたら今度は入れ替わるようにキャロルが来た。

 

「無様だな。」

 

 キャロル……ちんちくりんのくせに、見下ろすのが好きみたいだね……。ムカつくけど……今の私には何も出来ない。

 

 

「聞き分けの悪いお前に分かりやすく教えてやる。あのライブは、隠れ蓑に過ぎん。」

「隠れ蓑……?」

「その下では、ある聖遺物の起動実験が行われていた。当時の二課の主導の下でな。」

 

 突然何を話しているの?あのライブが隠れ蓑だの、起動実験だの……何のことなのか分からないし、何でその話が出てくるの?二課って確か……

 

「聖遺物というのは大量のフォニックゲインがなければ起動しない欠陥品。奴らはツヴァイウィングのライブを使って、お前達観客達からも発せられるフォニックゲインを使って起動したというわけだ。だが……その聖遺物は暴走、上にいた観客を巻き込む爆発を起こした。」

 

 そうだ……あの時の爆発した所からノイズが……でもその爆発が原因でノイズが出現したわけじゃ……あっ……。

 

「ルナアタック、フロンティア事変を目の当たりにして来たお前なら察しているだろうな。それはソロモンの杖によって呼ばれたノイズ。つまりあのノイズの出現は偶然ではなく……」

「人為的なもの……。」

「ああ。フィーネがその聖遺物を横取りする為にな。そしてその聖遺物、お前にも覚えがあるだろう。雪音クリスの装者とフィーネが纏った完全聖遺物を。」

「ネフシュタンの鎧……!」

 

 じゃあ透は……その起動実験に巻き込まれて死んだようなものじゃない!何で……何でそんな事の為に透が……!それならフィーネが悪い……けど……皆も皆だよ……!何で誰も教えてくれなかったの?!あのライブの裏で……そんな事を……!

 

「ツヴァイウィングの二人もそれを知っていただろうな。天羽奏もその実験の為に命を落とした哀れな人間の一人。そして風鳴翼……」

 

 やめて……その名前を出さないで……!あの地獄の日々を思い出すから……今あいつを思い出させるような事をしないでよ!

 

「そうだ、怒れ。隠す必要はない。あのライブがなければ、お前達の家族は破滅せずに済んだのだ。」

 

 ああそうだよ!あのライブがなかったら、私の家族は今も生きていたんだ!今頃みんなで笑って過ごせたはずなんだよ!なのに……なのに……

 

「お前の望みを言ってみろ。そうすれば叶えてやる。」

 

 聖遺物の起動実験だか知らないけど、みんな同じだ!大義の為なら何人死のうがどこかの家族が破滅しても隠し通すそのやり方!許せない……そんな事の為に透や家族を失う事になるなんて……皆知っていながらそれを黙っていたなんて!特に……風鳴翼!あんただけは……あんただけは絶対に許さない!

 

「S.O.N.G.の……風鳴翼の……破滅……!良いよ……あんた達に手を貸すよ!」

「随分と良い顔になったじゃないか。」

 

 そうしたら、首輪も枷も外してくれた。私はキャロルに迎え入れられた。S.O.N.G.の情報を流す、裏切り者として。その証として、奴らが使っている転移するアイテム、テレポートジェムを4つ渡された。

 

「世界なんて……なくなってしまえばいい。」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 装者達の行動パターンを全てキャロルに教えた。どの道を通るか、今どこにいるのか、使うギア、私は何でも教えた。S.O.N.G.のブリッジに盗聴器も仕掛けた。あと、思い出を搾取する為に、また犠牲にする人間を探していた。流石に無関係な人は巻き込みたくないけど、よくいるヤクザの人達、あの人達なら良いよね?私は近くを通りかかったいかにもっていうビルの方に案内した。そしたら思い出が大量に搾取出来たって上機嫌だった。まあ私はそんなのどっちでもいいけど……。 

 その内、翼とクリスのギアが破壊されたって聞いた。それを知った翌日、瑠璃とクリスの姉妹は落ち込んでいた。クリスは何も話そうとしなかったけど、瑠璃は悩んでいた。裏切り者としてではなく友達として、どうしたのかと話を聞聞こうとしても、結局あまり話さなかった。

 

「困ったなぁ……。姉妹揃ってあれじゃあ……この先どうなるか分かんないや。ま、今は静観するしかないか。」

 

 聞こえてるのね?あのチフォージュ・シャトーってとこから見てるんでしょう?全然報告できるようなものはないから、そこよろしく。

 

 でもその内、あいつらがノイズを出している所を見てしまった。ノイズを使うなんて聞いてない。何なのあいつら?!

 

「信じられない……。」

 

 瑠璃が何とかそいつらを倒したけど、どこか様子がおかしかった。いつもならノイズ相手にここまで疲弊しないはずなのに……。もしかしたら、この時からなのかもしれない、私の中で罪悪感を感じ始めたのは……。だけど私はそれを見て見ぬふりをし続けた。

 

 でもそれが、こんな事になるなんて思わなかった。私が自分がやっている事に恐ろしさを感じ始めたのは、瑠璃が発電所でジークと戦っている時だった。響のギアも破壊されて、制約無しでまともに動けるのは瑠璃だけ。だから瑠璃が一人で戦っている。それをモニターで見ていた私は、心が苦しくなった。自分がやっている事は、瑠璃を苦しめている。でも私はそれを理解したくなくて、目を逸らした。

 だけど、ジークが瑠璃の……バイデントのギアを破壊したら……あいつ瑠璃を痛めつけて……

 

『ぎゃあああぁぁ……!!あぁぁっ!!』

 

 違う!私は瑠璃を傷つけるつもりなんてない!!こんな事を私は望んでない!!お願いやめて……瑠璃が傷つく姿なんて見たくない!!

 

「もうやめてよ!これ以上瑠璃を傷つけないでよ!誰か……誰か瑠璃を……助けて……!」

 

 その懇願が、届いたのか風鳴翼とクリスのギアが復活を果たした。一番憎んでる奴のギアが直って瑠璃を助けた。正直、安心した。私のせいで友達を失いたくなかった。 

 

 次に奴らに情報を渡す為にチフォージュ・シャトーに来た時、キャロルは亡くなっていた。あんなに偉そうに見下していたのに、死ぬなんて……いや、それよりも瑠璃を痛めつけた事について……あれは本当に納得していない。

 

「ふざけんな!私はただ風鳴翼を破滅させたいだけなのに……瑠璃まで痛めつける事はないじゃない!」

「ああ。約束した。風鳴翼を破滅させる為に、その妹を叩き潰す。」

「話が違う!私は瑠璃までやれなんて……」

「輪姉ちゃん……」

 

 その声、その呼び方、忘れるわけがない。私の事をそう呼ぶのは一人しかいない。でも、もうあの子は既に……何で……何でいるの?

 

「旭……?」

 

 旭が後ろに立っていた。どういう事……?

 

「輪姉ちゃん。ズルいよ。」

「旭……」

「輪姉ちゃん、ずっと嘘ついてる。いつもそうやって他人を騙し続けて生きてきたんだ。友達にも家族にも、私にも。」

「私は家族を騙すような事は……」

「違うっていうの?じゃあ何で今ものうのうと生きてるの?死を望んでいるのに何で今も無様に生きているの?」

「それは……」

「気付いてないようだけど、そうやって他人を騙している自分が大好きなんだ。だからあの日、輪姉ちゃんだけ生き残ったんだね。あんな地獄から逃げる為に死にたがってたのに……私は死にたくなかったのに……この裏切り者。」

 

 裏切り者……そう言われただけで、私は震えが止まらなかった。私がしたい事……復讐に走れば、それは瑠璃を裏切るという事……何でそれに気付かなかったのか。とんだ間抜けだ……私……。あの時……瑠璃が傷ついたのは私のせいだ……!それを旭に言われるまで気付かないなんて……どうしよう……!




思いの外長くなったので後編へ続く。


なお今回出てきた旭の正体はシャトーの防衛機能が映し出した偽物です。


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番外編 裏切りとその後の処遇 後編

輪の裏切りのストーリー 後編です。

後半はオリジナルストーリーの後半部分と同じ内容なので、違いは殆どありまへん。そちらを読んでない方はそれを読む事をオススメします。
最後に本編では語られなかったその後の処遇についての新作ストーリーがあります。


 家に帰っても、旭に言われた事が頭からこべりつくように、頭から離れなかった。筑波に行く前に、私はビデオレターを残す事にした。罪滅ぼしになるわけないけど、まあ遺言くらいにはなるかな。

 

「出水輪です。もしこれを聞いていたら……。ううん……回りくどいことは言わない。

 もう言っちゃいます。私は、あのキャロルという子供と結託して、S.O.N.G.の情報を流しました。」

 

 嘘偽りなく話したつもり……本当に騙すつもりなんてい。でもこれを見てくれた所で、私が皆を裏切った事に変わりはない。

 言葉を並べていくと、涙が溢れて来た。何とか泣き出す前に言いたい事を全部言った。ビデオを止めると、私は堪えきれずに泣いてしまった。おこがましいよね……

 

 みんなと筑波のビーチに行く時、罪悪感でいっぱいだった。向こうも裏切り者が誰なのか探ってるはず。でも……今更私が裏切り者だなんて……言えない……。またあの日のように、一人ぼっちになっちゃう……。何とかいつものように元気に振る舞うしかない。

 でも筑波から帰って来た時、私は失態を犯した事に気づいた。

 

「あれ?ジェムがない?!何で?!」

 

 落とした?!あれ最後の一個だったのに……まさか……見つかった?!だとしたら、裏切り者が私だって知られる……。

 

 その予感は的中した。ジェムを持ち出したのはよりによって、一番知られたくなかった瑠璃だった。でも一人ならまだしも、陰にクリスと未来がいた。もう言い逃れは出来ない。ごめんね瑠璃……私……もうあんたの友達じゃいられない……。

 

「さよなら……瑠璃。」

 

 私は瑠璃を泣かせた、傷つけた、その絆を自ら断ち切った。これで……本当に一人ぼっちになった。

 

 チフォージュ・シャトーに来たら、キャロルが生きていた。でもそんな事はどうでもいい……。もうみんなの所へ帰れない……私は薄汚い裏切り者……。消えてなくなりたい……。

 ジークが私を地上に返すと、私の周りを囲うようにアルカ・ノイズを召喚してきた。

 

「あんた……まさか……」

「貴様はもう自由だ。そこから先の事は知らんがな。」

 

 どうしよう……逃げなきゃ……!あった!僅かに包囲の隙間!

 

「ほう、分解を恐れず走るか。」

 

 私は走った。あいつから逃げる為に。でも、このまま走り続けて一体どうなるんだろう?あいつから逃げて……その先は?裏切った私を助けてくれる人なんて……いるわけがない……。

 そうだ、元々死のうとしてたんだから……咄嗟に逃げちゃってたけど……あいつから逃げたって……もうこの世界に、私がいて良い場所なんてもうどこにもない……。いっそ死んだ方が……楽なんだ……。

 だから私は走るのをやめた。そうしたらアイツはまた私を痛めつけた。右の脹脛を切られた。でも不思議と生きる事を諦めたら、苦しくはなかった。

 アルカ・ノイズが私を分解しようとする。でも、これで良いんだ……。やっと……解放される……この地獄から……。お父さん……お母さん……旭……。もう……良いでしょう……?私……精一杯……生きたよ……。

 ただ……一つ心残りがあるとしたら……瑠璃とはもう……二度と会えなくなることだなぁ……。

 

 あれ……?私……生きてる……?何ともない……。あれは……槍……まさか……!

 

「瑠璃……」

 

 何で……何でここに来たの……?まさか私を助けに来たなんて言わないよね?

 

「笑いに来たの……?」

「違うよ……。私は……助けに来たの……。」

 

 そのまさかだった……。何で……何で私を助けに来たの……?私は……あんたを裏切ったんだよ?!絶交したんだよ?!私なんて……もう助ける価値なんてないのに……

 

「やめてよ……。私は……もう死にたいの……。こんな地獄に生きていたって……もう辛いだけなの……。たとえキャロルを倒して……世界が救われて……みんなが笑って過ごせるようになっても……そこに私の居場所なんてない……!私には……もう……生きている資格なんてないの……!だから……お願いだから……死なせてよ……!」

 

 もう嫌なの……生きているのが……自分が……。

 

「これ……中身を見てほしい。」

「え……?」

 

 私のカメラ……中身……?

 

「死ぬのは……これを見た後にしてほしい……。私から言えるのは……それだけ……。」

 

 そうしたら、瑠璃とジークは何処かへと行ってしまった。中身って……。知らないデータ……。これは……瑠璃?

 その中身を見た私は、枯れたと思っていた涙が止まらなかった。だって、裏切った私を、それでも友達だって……もう戦わなくていいって……。

 

(ごめん……っ!ごめんね……瑠璃……!私……私……!)

 

 そこに、私が憎んでいた風鳴翼が来た。だけどあいつは、私を助けようとしていた。あんたの事、憎んでたのに……。

 

「私の事を……いくらでも恨んでくれて構わない。だが、瑠璃に悲しい思いをさせたくない。これは防人としてでも、風鳴としてでもない。これは……出水への償いでもあり……私の我儘だ。」 

 

 我儘……。それがあんたのやり方なんだね……?だったら私も、やりたい事をやる。瑠璃、私はあんたと友達でいたい!あんたの隣に立ちたい!

 

「輪せんぱーーーい!」

 

 え……?暁さん?!っていうか鋸をタイヤみたいに……

 

「掴まるデス!」

 

 咄嗟に暁さんの手を掴んで乗ると、月読さんの背負われた。何で私を助けるのか、聞いてみる。

 

「瑠璃先輩に言った事、ちゃんと謝ってほしいからです。私も、響先輩に偽善って言ってしまった事、今も後悔してます。同じ後悔を……してほしくない。」

「だから、輪先輩が裏切り者とかそういうのはどうでもいいんデス。瑠璃先輩を隣で支えてくれる友達は、輪先輩以外にいないのデスよ。ちゃんとごめんなさいって言えるように、私達も手伝うデス。まずは面と向かって、当たって砕けろデース!」

「切ちゃん、砕いちゃ駄目。」

「あ、あはは!そうとも言うデスよ〜。」 

 

 二人を見ていたら、勇気を貰えた気がした。そっか……私帰る場所があるんだ……。こんな私を……受け入れてくれるんだ……。ありがとう……私、もう迷わない。一度は断ってしまったあんたとの絆、もう一度繋ぎ合わせる!

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 瑠璃が暴走した。イグナイトっていうのを支配出来ずに暴れ狂っている。しかもジークは竜のような身体になって私達を殺そうとしている。ジークは装者のみんなにしか倒せない。なら、瑠璃を止めるのは私。あの子が心の闇に打ち勝てなかったその原因は私にある。だから私が止めなきゃ……!今ここで逃げたら、助けられなくなる……そんなの、友達のする事じゃない!だから私が止める!何としてでも!

 

「いい加減に……大人しくしろ!」

 

 瑠璃に思い切り頭突きをしたら、急に意識が……ヤバい……何これ……。

 

 え?ここどこ?真っ暗だし、裸?!何で……

 

「あら〜やっと来てくれたのね〜。」

「あの……あなたは?」

「もう忘れちゃったの?まあ無理もないわね。この姿じゃ……今現すからちょっと待っててね〜。」

 

 聞き覚えのある声だけど誰だったっけ?しかも光の玉って……あ、何かだんだん人の姿に……嘘でしょ?!あんたは……

 

「さ、櫻井さん……?!何で……あなたがここに?」

「そうね。まあ話せば長くなりそうね。ちなみに言っておくと、私はフィーネであってフィーネではないわ。正確には、あの子の世界の中に残った、私の意識の残留思念がフィーネとして形成された……言わばこの子の別人格ね。」

 

 それって……二重人格ってこと?!しかもよりによって櫻井さんの人格って……。

 櫻井さん曰く、私が頭突きしたタイミングでバイデントの力を使って私をこの瑠璃の精神世界に呼んだらしい。聖遺物って何でもありなの?

 

「この先に瑠璃ちゃんがいるわ。でも、私じゃ救えない。だからあなたを待っていたの。」 

「それって……んっ?!」

 

 何なの?!なんで私は3回もキスされてるの?!超人はキス魔なの?!

 でも何故か、私の中に何かが入った感じがした。

 

「ここからはあなたの役目よ。私は……本当は存在してはいけないの。だから消え時を探してたの。まさか、こんな形であなたに力を与えちゃうなんてね。」 

 

 櫻井の身体が消え始めた。何がどうなっているのか分からないけど、何でそこまでしてくれるの?

 

「瑠璃ちゃんに伝えて。私が消えたら、この子を厄災から守る者がいなくなる。だからこれから先、あの子は残酷な運命に立ち向かわなくちゃならなくなるわ。けどこれだけは忘れないでほしい。誰かと繋がる事を、失う事を恐れないで、手を伸ばし続けて。絆は……そうやって強くなっていくものなのよ……。絆の力を……信じなさいってね……。」

 

 櫻井さんの人格はそれを最期に消えてしまった。きっと、私に力を託したんだ。ならやり遂げなきゃ!絶対に瑠璃を闇から救い出すんだ!

 

 海に潜るようにこの暗い闇を降りていくと、みんなが映る鏡があった。みんな、瑠璃を拒絶するように冷たく言い放つ。瑠璃の絆を否定するように。

 そんな事言われたら、瑠璃は悲しむ。だけど、直接的な原因を作ったのは私だ。

 

「ごめん……瑠璃。苦しいよね……辛いよね……。全てを否定される痛みは……本当に地獄だもん……。もし……あんたを否定する奴がいたら……私がそいつを壊してあげるから……!」 

 

 私は鏡を全部叩き割った。何度も何度も。痛くはない。瑠璃が負った痛みに比べれば、これくらい!これで邪魔者はいない……次は瑠璃を……っ!

 まだ邪魔するやつが現れた。瑠璃を覆っていた闇が、人の形をなして……あれって……

 

「私……?!」

「よくのうのうと来れたね。裏切り者。」 

 

 裏切り者……そうだ。私は感情に任せて復讐に走った結果、皆を裏切った。それは事実だから否定出来ない。今目の前にいる黒い私は、私の心の闇の写し鏡。だから私の事は何でも分かるらしい。

 

「ここは瑠璃の世界。裏切り者のあなたは受け入れられないんだよ。」

 

 そうしたら、何処からか現れた鎖が私を縛って……瑠璃との距離を離そうとするように引き上げようとしている?!冗談じゃない!ここまで来て!お願い瑠璃、聞いて!

 

「瑠璃、聞いて!私は……本当は瑠璃が大好きなの!確かに出会った頃は騙してたし、チョロいなって思ってたよ!でも、一緒に過ごす内に私は瑠璃の綺麗な心に惹かれたの!だから、そんな瑠璃を裏切った自分が許せなくて、こんな醜い私じゃ……もう友達じゃいられないと思って、あんな酷い事を言っちゃったの!許してくれるなんて思ってない!だけど瑠璃……私は……」

『私は瑠璃を盾に復讐を一度はやめた。けど、キャロルと会って、あのライブが聖遺物の起動実験だったと知って、復讐の炎が燃え上がった。だから私は友達より復讐を選んだ。友達を捨てたあんたが……また友達になりたい?都合が良すぎるよ。』 

 

 そうだよ……それが私だもん。黒い私は、私を否定する為に言ってるのかもしれないけど、それが私だもん!今更恥じるものなんてない!だから、私は黒い私に全部ぶつけた。どす黒くて醜い私の心を!黒歴史もビックリなくらい黒いもの!私はそれを恥じない!私はそれを受け入れた上で、瑠璃に受け入れてもらう!だから……

 

「何にも知らない、理屈ばっかな幻影が、私と瑠璃の絆を語るな!さっさと消えろ、この大馬鹿野郎がああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」 

 

 叫んだら黒い私は消えた。ざまあみろ……今度こそ私を邪魔するやつはいない。今度こそ、瑠璃を助ける。

 

「瑠璃……起きて。」 

「リン……?」

「おはよう、瑠璃。」

 

 やっと起きたな……ねぼすけめ……。

 

「ごめんね瑠璃。私は瑠璃を利用して、あんな酷い事を言って悲しませた。今更許してくれないかもしれないけど、私は瑠璃の友達でいたい。また一からやり直したい。駄目かな?」

 

 少しずつ、瑠璃を覆っていた闇が消えかけている。その泣き顔が見えた。あーあ。また瑠璃を泣かせちゃった。

 

「リン……。イイノ?まタ友ダチとしテ……一緒ニ……いてくれるの?」

「当たり前だよ。私達は……親友でしょう?」

「うん……!」

「瑠璃は、私がもう戦わなくて良いって言ってくれたよね?私、もう逃げないよ。でも一人じゃ不安だから……一緒に戦ってほしい。私も、瑠璃と一緒に戦うよ。」

「うん。今度は二人で。」

「「私達の絆の力で!」」 

 

 瑠璃の心の闇は消えた。精神世界から目覚めた私は、瑠璃が元に戻った上に、イグナイトを支配している姿を見た。良かった……今度は上手くいったんだ……。

 

「瑠璃……。」

「輪、行ってくるよ。」

 

 今の瑠璃なら、負けるわけがない。あいつを絶対に倒してくれる。私はそう信じている。

 アルカ・ノイズはもちろん、ジークの攻撃を全部捌いて、あいつを打ち上げた!

 

「やっちゃえ、瑠璃いいいいぃぃぃーーーー!!」 

「皆の絆がここに集まったこの一撃!貫けえええええええええぇぇぇぇーーーーー!!」

 

 私と瑠璃は思い切り叫んだ。そうしたら、瑠璃は龍のように空を駆け上がって、あいつの身体を貫いた!勝ったんだ!瑠璃が勝ったんだ!

 

「あの時輪が来てくれなかったら……私は闇に囚われてたままだった。これは皆と輪と、一緒に掴んだ勝利だよ……!」

 

 瑠璃はそう言って私を抱きしめてくれた。

 

「ごめんね……っ!ごめんね瑠璃ぃ……!私……私……あの時、酷い事を言って……もう……嫌われちゃったんじゃないかって……!」

「ありがとう……輪。やっぱり輪は、私の最高の親友だよ……っ!」

「ぅっ……うぅっ……ありがとう……ありがとう瑠璃いぃ……っ!」

 

 また泣いちゃった。だけど、目の前に大好きな親友がいて、帰りを待ってくれる仲間がいる。ありがとう……みんな。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・その後の輪の処遇

 

 

 私はS.O.N.G.のメディカルルームに運ばれた。処置が終わると、オジサンやエルフナイン、装者のみんなが来てくれた。

 

「ごめんなさい!私、皆を裏切りました!私がした事は許される事じゃありません。どうか、私を罰してください。」

 

 どんな理由があっても、私がした事は消えるわけはない。多分、もうここには二度と来られないだろうし、外部協力者ではなくなる。まあそうなっても文句はないよ。私はどんな罰でも受け入れ……

 

「いや。俺達こそすまなかった。君が今回の凶行に走った原因は俺達にある。君はただ巻き込まれただけに過ぎん。君に恨まれて当然だ。本当に、申し訳なかった!」

 

 オジサン達、もといあのライブに関わった人達、そしてソロモンの杖を起動したクリス、全員頭を下げた。まさか謝るなんて、思ってなかったから驚いちゃった。

 

「いや……その……皆さん……」

「出水、すまなかった。」

「翼……さん……」

「私は奏を失い、己の弱さを鍛えようとするあまり、他者を省みなかった。全ては己の不徳故のもの。私の事を恨み続けても構わない。だから、叔父様や緒川達の事は許してほしい。」

「待ってくれ!元はソロモンの杖を起動させたあたしがいけないんだ!あんなものさえなければ今頃お前は何も失わずに済んだんだ!だから先輩達を恨むのはもうやめてくれ!恨むならあたしを恨め!」

 

 翼さんとクリスが……そこまで言うなんて……。いや、翼さんはともかくクリスも案外堅物だから、そういうのも仕方ないのかな……。

 

「翼さん……。一つ勘違いしてます。あとクリスも。」

「え?」

「私は、もうあの事で恨むのはやめたんです。こんなのがいつまでも続いたら、疲れちゃうじゃないですか。それに、翼さんを恨むのは筋違いですし……。クリスだって、櫻井さんに利用されて捨てられて、誰かを恨むのは当然だよ。私もそろそろ過去を精算しないと。もう恨み続けるのには、疲れちゃった。」

「良いのかよ?!そんなんで割り切っちゃって?!」

「良いんだよ。だって、それ以上に……大切なものを貰ったんだから。」 

 

 今やっと分かったよ。私は自分から、大切なものを手放そうとして、同時に諦めていたんだ。生きる事を、やり直す事を。櫻井さんが言っていたこと、あれって私にも言ったくれていたんだね。

 私にはギアはないけど、瑠璃と肩を並べられるなら、この残酷な世界と向き合って生きていける。それに、何も嫌な事ばかりじゃない。だって、こんな我儘な私を受け入れてくれる……友達がいるんだから。

 

「瑠璃……ありがとう。」

 

 私の処遇は治療後、聞き取り調査と、軽い謹慎で済んだ。裏切りの代償にしては随分小さなものだった。けど、大切なものを守れて良かった。それに戦いはまだ終わってない。キャロル、あいつには絶対吠え面をかかせてやる!いざとなったら輪パンチで何とか一発入れてみせるからな!

 

 




これにて輪の物語は完全に完結です。ここまで読んでいただきありがとうございました!

さあて今度こそコメディカルな番外編を書くぞー!


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番外編 写真と戦い

久々のコメディ回です。

お気に入り数100人突破記念アンケートも実施しております。よければ投票よろしくお願いします。


 ・裏切りのそばで

 

 私はキャロルの為にS.O.N.G.の情報を流している。みんなの行動パターン、何処にいるのか、私はそれを全て細かに報告している。そして、それをカメラに収めている。写真1枚につき500円、しかし、それは最低ランクのB、A級は1000円、そして最高のS級は5000円。カ○ジもビックリのアコギな商売をチフォージュ・シャトーで展開し、小遣い稼ぎを図った。

 

 一人目

 

「よくいらっしゃいましたわね。」

 

 記念すべき最初のお客さん。ファラさんです。

 

「剣ちゃんの写真はありますか?」

「今ロンドンに行っちゃってるので、卒業までの写真なら。」

「それでも構いませんわ。」

「まあもちろん損はさせませんよ。本日の目玉のS級の写真。風鳴翼の寝顔写真。しかも着物がはだけたセクシャル写真。これ一枚限りで……」

「まとめて全部ください。」

 

 毎度あり。S級1枚 A級1枚 B級3枚で、合計7500円ゲットした!

 

 二人目

 

 続いてのお客様はレイアさん。

 

「S級かつ、派手なもの……。」

「はいはーい。そんなあなたにはこれ!雪音クリス、バニーガール、そして目玉は雨に濡れた夏の制服。ブラも透けてクリスのたわわなぱいおつを包むブラが……グヘヘ……。」

「赤……。この2枚。」

「はーい。(派手だと判断したなこの人。)」

 

 合計1万円ゲットだぜ☆

 

 三人目

 

 ここでまさかのラスボスキャロルがご来店。

 

「来るの早すぎない?ラスボスは最終日に来るのが定石でしょうが。」

「常識に囚われてどうする?良いから今日の品を見せろ。」

 

 何か旭が同じようなセリフを言っていたような……まあいいや。

 

「じゃあ立花響と小日向未来の百合ラブセット。お得な11393円。」

 

 これはひびみくのカップリング写真が多めの写真のセット。響のご飯をもりもり食べてる写真やリディアンの水着姿、未来のブルマ姿、そして極めつけは響と未来のポッキーゲーム写真。それぞれのランクの写真を2枚ずつなお得なセット。

 

「良かろう。釣りはとっておけ」

 

 そう言うと10万円PON☆とくれたぜ。でもそんな大金を出して、手持ちは大丈夫なのかな?

 

 

 一方パヴァリア光明結社では

 

「もう〜!キャロルってば図々しいわね〜!」

「どうしたのカリオストロ?」

「キャロルが資金が足りず、このままでは命題を果たせないからもっと支援してくれと催促してくるワケだ。」

「妙ね……渡した分で足りるはず。何か裏があるのかしら……?」

 

 ※ただの浪費です。

 

 

 戻ってチフォージュ・シャトー

 

 は〜い今度のお客さんは〜?

 

「じゃりン子達の写真を出すんだゾ!」

「はいはーい。じゃあ暁切歌と月読調、ザババセット!7700円!」

 

 このセットは文字通りきりしらの写真、切歌のフリーキック(パンチラ有り)、調のメイドコスプレ、そしてS級の写真には切歌を押し倒す調、その姿は下着という際どいものである。

 

「じゃあ1万で買うゾ!」

「毎度あり〜。」

 

 お代を受け取った輪だが、ミカの凶暴な手で握っていたしわくちゃで破れそうになった1万円札を見て、嫌な予感を覚えたがそのまま写真セットをミカに渡す。が……

 

 グシャッ

 

「あ……」

「あっ!」

 

 嫌な予感は的中した。しかしこの商品には返品が利かないのでミカは泣く泣くその場を後にした。これには輪も同情した。

 

 次の日

 

 次は……うわガリィ……。

 

「うわって何よ?ほら、さっさとハズレ装者の写真を出しなよ。」

 

 今日はあのぶりっ子はなしか。まあいいや。あれの方がムカつくし。

 

「まあとは言ってもマリアさんの写真は結構少ないからね。」

 

 マリアとはあまり話す機会が多くない為、撮った写真も2枚だけど少ない。しかもS級写真もない為、今までの装者達と比べてしまうと値もそれなりになってしまう。

 

「最高がA級だけど……これ、マリアさんのトレーニング姿。滴る汗がピッチピチのタンクトップに染み込んで……体型にピッタリはまっているスパッツに僅かに浮いている筋肉が……」

「ふーん。やっすいわね。」

(は?)

「まあいいわ〜。じゃあそれくれる?」

「チッ……」

 

 分かりやすく舌打ちする。

 

「はい、じゃあ1500円ね。」

「はぁ?!A級は1000円でしょうが?!何で値上がりしてんの?!」

「最高がA級しかないから緊急措置というのは建前で、安いって言われてムカついたから値上げした。」

「はあぁ?!ふざけんじゃねーぞ!」

「そんな事言って良いのかな〜?これ以上文句言うなら10000に引き上げるよ?」

 

 ガリィも露骨な舌打ちをするが渋々1500円で購入。

 

 そしていよいよ来た、輪が一番嫌いなオートスコアラー、ジーク。

 

「何?」

「バイデントの装者の写真。」

「断る。」

 

 即答である。瑠璃の写真だけは非売品であり、輪だけのコレクションなのだ。みすみすやるわけがない。

 

「悪いけどどんなに大金積まれても瑠璃の写真だけはあげるつもりはないから。」

「ほう、裏切り者が随分と勇ましいな。」

 

 何とジークはハルバードの刃先を輪に向けて来た。流石の輪もこれには後退る。

 

「実力行使は駄目でしょうが!暴力反対!」

「人間相手に血祭りをあげたことがある貴様に言われたくないわ!」

「あれは正当防衛ですー!自分の身を守る為に仕方なく手を出しましたー!」

「如何なる理由を挙げようとも暴力には変わりないではないか!」

「あんたのは過剰なんだよ!」

「貴様こそ何人病院送りにしたのだ?」

 

 ギャー!ギャー!ギャー!ギャー!ギャー!ギャー!ギャー!ギャー!

 

「もういい……貴様の写真など不要だ。」

「ふん!こっちこそお断りだね!」

 

 この日は1円も稼げませんでしたとさ。

 これをキャロル達と手を切る日まで続け、最終的には約180000円儲かったという。 

 

 

 ・瑠璃VSジーク

 

 瑠璃とジーク、二人の戦いは熾烈を極めていた。絶対領域 トポス・フィールドによって敵の動作を瞬時に把握し、先回りする事で敵を叩き潰す。

 瑠璃の高い動体視力とバイデントの戦闘補助システムによって最適な攻撃、防御瞬時に把握してそれを繰り出す。この2つがぶつかり合うが決着がなかなかつかない。他の装者や本部、チフォージュ・シャトーでそれを見る者達もその決着を見届けようと固唾を飲んで見ている。

 

「いくぞ!」

「うん……!」

 

 ジャンケンポン!

 

 瑠璃:グー

 ジーク:グー

 

「ちっ……」

「また……」

 

 二人のジャンケン、とうに24回戦もやっているが、全てあいこであり、どちらにも白星がつかない状況が続いている。 

 二人の戦いが何故こうなったのか、それはもはやどうでもいい事だ。とにかく、勝つ事を考える。

 25戦目

 

 ジャンケンポン!

 

 ジークはチョキを出した。だが瑠璃は

 

「瑠璃!」

「あ……しまっ……」

 

 翼の声で瑠璃はハッとした。瑠璃は疲弊してしまい、一瞬呆けたのが仇となり、出すのが遅れてしまった。これで先に白星を挙げたのはジーク。

 

「ふっ。次で貴様を還付なきまでに叩きのめしてやる。」

(どうしよう……もう後がない……これで負けたら……みんなの頑張りが……)

 

 次負けたら、これまでの努力が全て水の泡になってしまう。それが瑠璃を余計なプレッシャーを背負わせてしまう。

 

「瑠璃!」

 

 振り返ると、輪が駆け寄ってくれた。

 

「信じて!瑠璃と皆を繋ぐ絆の力を!あいつに教えてやって!」

「絆の……そうだ……!」

 

 輪に言われた事が切っ掛けで、瑠璃は思い出した。この逆境を覆す、最高の一手があることを。

 

「今更何を……貴様らの敗北は定められている!それを受け入れろ!」

「いや……まだ終わってないよ!」

 

 瑠璃は再び構える。 

 

 26戦目

 

 ジャンケンポン!

 

 ジークが出したのはグー。勝ち誇った笑みを浮かべている。

 対する瑠璃は

 

「っ?!何だ……それは……」

「あれって……!」

 

 マリアも驚愕を隠せない。瑠璃が出した手、小指と薬指を屈曲させて、それ以外の指は伸展させている。

 

「あれは……かっこいいチョキ!」

「違います……あれは……」

「聞いたことあるデス!3つの手を1つに併せ持った最強の一手!」

 

 瑠璃の最終兵器。それはグー、チョキ、パー、3つの力を1つへと集約させた一手。

 

「ば、馬鹿な……そんなもの……私には……!」

 

 ジークには出来ない。ジャンケンは3つの手のうち1つしか選べない。その固定概念に囚われたジークでは出せない。それが決定的な差となる。

 続く27戦目もジークはパーを出すが、瑠璃は3つの手を1つへと集約させた手で勝利を手にする。そして28戦目

 

「ば、馬鹿な……こんな事があってたまるか……!私が敗れるなど!」

 

 ジークはチョキを出した。そして瑠璃は

 

「これが、私達の絆の力!」

 

 3つの手を1つへと集約させた手で、勝利をもぎ取った。

 

「私が……敗れたというのか……絆の力に……負けたと言うのかあああああぁぁぁーーー?!」

 

 敗れたジークは爆散した。瑠璃の勝利を装者達は大いに喜び、瑠璃と輪は抱き合ってその喜びを分かち合った。

 

 

いやそうはならんやろかい!

 




今回は手短に。そんな日があっても良いじゃない。


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番外編 カラオケと序章

AXZ編前の最後の番外編となります。

恒例である前日譚の番外編も最後にあります。


 ・逆光のフリューゲル

 

 魔法少女事変が終結してから数日が経過し、リディアンに通う者達は夏休みを満喫している。夏祭りやプール、海水浴にボランティア活動、やれる事を精一杯満喫している。だがその夏休みも残りが10日を切った。ここは装者らしく、最後にみんなでカラオケで盛り上がろうという事でカラオケボックスに来ていた。

 今回参加するメンバーは瑠璃、輪、響、未来、クリス、切歌、調の7人。瑠璃は主に翼のシングル曲、輪は流行りのJ-POPなど、それぞれ思い思いの曲を予約して、それらを歌い続ける。フリータイムで入った為、夕方まで歌い続ける事が出来る。だが一人、先程から歌っていないのが一人いた。

 

「所で響ちゃん……それは?」

「ジャンボサイズフライドポテトとジャンボサイズたこ焼きですよ!」

 

 このジャンボサイズシリーズはそれぞれの普通サイズの3人前の量を盛り付けた料理となっており、食べごたえは充分にあるのだが、ジャンボシリーズ2種類という量はどう見ても一人で食べる量ではない。

 

「お前それ一人で全部食う気なのか?!」

「まあいけなくはないけど、みんなも食べる?」

「いただきますデース!」

 

 響と切歌がガツガツ食べ始めると、皆もそれに当てられたのか、ジャンボサイズフライドポテトと、ジャンボサイズたこ焼きを貰って食べる。どちらも熱々でカリッとふわっとしていて、箸が止まらなくなる。10分足らずで完食してしまう。満腹になった輪がソファーから立ち上がって曲を入れる。

 

「よし、じゃあ次行くよ!」

「おう!」

「次の曲は……え?」

 

 みんなが次の曲を見て驚愕した。輪が入れたのは、あれほど憎んでいたツヴァイウィングの曲だからだ。確かにもう恨むのはやめたとは言っていたが……

 

「変に気を使う必要はないよ。それに、これは過去の私の決別。キチンと踏ん切りをつけて、今度こそ前に進むんだ。」

「輪さん……。」

 

 そう言い切る輪。未来が心配するが、本人は迷いなくもう一本のマイクを瑠璃に渡す。

 

「一緒に歌ってくれる?」

 

 瑠璃は輪の真っ直ぐな目を見て、マイクを受け取る。

 

「うん。」

「よっしゃっ!じゃあ行くよ!逆光のフリューゲル!」

 

 そう言うと曲のイントロが始まった。響達も盛り上がる。

 輪が奏パートを、瑠璃が翼パートを歌う。瑠璃と輪、二人のデュエットは秋桜祭でも聴いたことがあったが、その時も二人は息はピッタリで、輪が光で瑠璃は闇、二つの歌声が調和して、誰もが二人の歌に盛り上がった。何より、唄っていた二人は楽しそうだった。

 そして今の輪は、その時以上に心から楽しそうに歌っていた。そしていよいよサビに入る。

 サビに入り、唄う二人の目線が合うとより楽しそうに、笑顔で唄う。そして、瑠璃が輪に右手を出すと、輪はそれに応えるかのようにその手を掴んだ。二人の右手は添えるように、互いに繋ぎ合い、最後に思い切り全部を出し切って歌い終えた。

 

 最後まで楽しく、思い切り、心のままに歌い切った。輪の表情は晴れやかだった。

 

(やっぱり……歌って良いなぁ……!)

 

 もうかつての過去に縛られた自分じゃない。皆に光を照らす日輪になっていた。

 

 

 

 

 ・悪夢の序章

 

 

 

 

 

 

 

だ……いや……いやだ……嫌……

 

 

 

 

た……けて!パ……マ……ァ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやあああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

  

 

 

 

 

 

「ああああああぁぁあっ!!」

 

 夜中の3時、瑠璃は叫び声を挙げながら起き上がった。八紘邸で見たあの生々しい悪夢、あれから瑠璃は同じ夢に悩まされるようになった。そのせいで寝不足になり、寝るのが怖くなっていた。しかし、眠らなければ身体を壊してしまう。装者として活動しているのだから尚更睡眠は大事だ。だがこうも何度も同じ悪夢が続くのは明らかに異常だ。

 瑠璃は弦十郎に相談した末、病院に受診した。医師に睡眠障害と診断され、カウンセリングを受けた後、薬も処方してもらい、病院を後にした。

 何故あの夢を見るようになったのか、今でも分からない。一体いつまであの悪夢を見なければいけないのか、そう考えると余計に気分が落ち込む。

 

「ため息をつくと幸福が逃げる……。」

「え?」

 

 突然のセリフに、まるで自分の事を言っていると思い込んだ瑠璃は振り返った。そこにいたのは銀髪の髪を後ろに結っていて、こめかみの毛が肩にまで掛かっているレディーススーツを着た女性だった。

 

「あ……失礼。独り言のつもりが、大きくなってしまって。」

「あ、いえ……。こちらこそ失礼しました……。」

 

 瑠璃は女性に一礼して、家に帰ろうとすると、女性に呼び止められた。

 

「あ、待って!聞きたいことがあるの!」

「はい……?」

「リディアン音楽院はどっちかしら?」 

「リディアンですか?」

「ええ。私、明日からリディアンで教員を勤める事になったのだけど、道のりが分からなくて。」

「あ……でしたら案内します。と言ってもここから近いんですけど……。」

 

 そう言うと瑠璃はリディアンまでの道を案内した。瑠璃の言う通り、少し歩いただけですぐにリディアンに辿り着く。

 

「ありがとう。助かったわ。」

「いえ。私もここに通ってますし……」

「あら、ここの生徒さんだったのね。お名前伺っても良いかしら?」

「は、はい。風鳴瑠璃です。」

 

 そう言うと女性は驚愕した。

 

「風鳴……もしかして風鳴翼の血縁?!」

「は、はい……従姉です。」

「そうなのね……。世間って狭いわね……。あ、まだ名乗ってなかったわね。私は瑠無・カノン・ミラーよ。道案内ありがとう、風鳴さん。学校で合う日を楽しみにしてるわ。」

 

 そう言うと瑠無は瑠璃に手を振りながら校舎の方へと行ってしまった。

 

「あ、いけない。帰らなきゃ……ぅっ……!」

 

 突然瑠璃が頭を抱えて苦しみだした。激しい頭痛に襲われ、頭を抱えたままその場に座り込んでしまう。

 

(痛い……!何なの……?!)

 

 パパ!ママ!死んじゃ……よ!おね……い……け……よ! 

 

 同時に、頭の中に霞がったヴィジョンが断片的に流れ込んできた。それが何なのか、苦しんでいる瑠璃には理解する余裕はなく、途切れてしまった。

 

「はぁ……はぁ……今のは一体……?」

 

 結局それが何なのか、分からず終いとなってしまった。しかし、彼女はまだ知らない。これから待ち受ける、最悪の運命を前にしようとしていることに。

 

 AXZ編に続く。

 

 

 

 

 

 

 

 




裏話

輪はリディアンに入ってから翼が唄う歌を一度たりとも歌っていません。それがどこか過去に拘っていた事を意味していましたが、今回ツヴァイウィングの曲を唄った事で、過去への執着を捨てて、前へ向く事を決めた覚悟の証となりました。

次回、お待たせしました。いよいよAXZ編開幕です。

また活動報告にも書きましたが、R-18版の瑠璃の最初の相手が誰がいいか、アンケートを実施しております。よければ投票お願いします。


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輪の過去編
惨劇に晒された日輪


輪の過去話になります。なので今回瑠璃は出てきません。


 ツヴァイウィング、私はあの二人が大嫌いだった。

 切っ掛けは、中学生2年生の時だった。当時付き合ってた恋人、透からの誘い。透はツヴァイウィングのファンで、私にも勧めるくらい夢中だった。当時、ツヴァイウィングは突如彗星の如く現れた期待のボーカルユニットとしてその名を轟かせた。よく音楽番組なんかでも取り上げられていて、天羽奏と風鳴翼、その二人の名前を知らない人は周りにはほとんどいなかった。でも私は名前を聞いたことがあるくらいで曲は殆ど聴いてなかった。だから女友達にももったいないって言われた事があった。

 

「ツヴァイウィング?」

「うん。輪も聴いてみなよ。ほら、CD貸してあげるから。」

 

 学校に関係ないものは持ち込み禁止の校則を破ってまで持って来た、ツヴァイウィングのCD。透からそれを借りて家に帰った私は、それをCDプレイヤーでその歌声を聴いていた。

 

「凄い……。」

 

 私は圧倒された。こんなに澄んだ声で唄うんだ。そりゃあ誰もが夢中になるよね。

 あっという間に私もツヴァイウィングの虜になってた。CD、ライブのDVD、グッズも買って、気が付いたら買う予定だったカメラの費用が無くなってた。

 両親と妹の旭との食事の時も、ツヴァイウィングの曲が頭から離れなかった。

 

「輪?どうした?食欲ないのか?」

「違うよお父さん。輪姉ちゃんツヴァイウィングにハマっちゃったみたいでさ。でもこのだらしない顔は見てらんない。おーい、輪お姉ちゃん!」 

 

 私の眼前で掌を叩いた音で私は我に返った。

 

「ふぁっ!な、何?!」

「輪姉ちゃんってば食事の時くらい普通の顔でいてくれる?」

「いや普通の顔って何?私そんな変な顔してないでしょ?」

「駄目だ……こいつ早くなんとかしないと……。」

「お姉ちゃんに向かってこいつ呼ばわり?!」

 

 旭はアニメオタクでいつも色んなアニメを見てはそのキャラクターの台詞を言ったりしている。今のセリフも分かる人には分かると思う。

 

 そんな日々が続いて季節は冬、期末テストという憂鬱なイベントが迫って来ていた。けど私はツヴァイウィングの歌を聴いて、透と一緒にいて、私は毎日を楽しく過ごしていた。

 そんなある日、私達はレストランで勉強していると、透が思い出したようにバッグから2枚のチケットをテーブルに出した。

 

「それってツヴァイウィングの?!当たったの?!」

「そう!かなりの倍率だったんだけどようやくゲット出来たんだ!輪も行くだろう?」

「行く行く!私達もう次の年は受験生なるし、最後の思い出を作りに行こうよ!」

 

 嬉しかった。あのツヴァイウィングのライブに行ける。生であの二人のライブを見に行けるんだ。そう思えるだけで期末テストなんて辛くなくなった。無事に乗り越えて、三学期が終わるのが楽しみで仕方なかった。そして、修了式の次の日、私達はあのライブ会場へと向かった。

 

 会場には多くの人で混み合っていた。私達も早めに電車に乗ってここまで来たんだけど、それでも既に長蛇の列が出来ていて、なかなか入れそうになかった。

 

「やっぱ人気だねぇ……こんなに人がいるんだもん。」

「そりゃあ、あのツヴァイウィングのライブだからね。皆、あの二人の歌を生で聴きたいから、あんな熾烈なチケット争奪戦になったんだろうね。」

「そんな大袈裟な……。」

 

 でも透の言う事も間違いじゃなかった。以前何かの人気アイドルユニットの偽のチケットを作って入ろうとしたっていうニュースがあった事を思い出した。犯人は熱狂的なファンだったんだけど……いやでも犯罪は駄目でしょ。

 とにかく私達はこの長い列で順番を待っていると、とうとう私達の番が来た。チケットを係員の人に見せて、荷物チェックを受けた後、ゲートからライブ会場へと入った。ちなみに、カメラは家に置いてきた。ライブは写真禁止だからね。もしこの場に旭がいたら……『カメラは置いてきた。ハッキリ言ってこの戦いにはついていけない。』って言いそうだなぁ。

 中に入った私達は今度はグッズを買う為にまた長い並ぶ事になった。また並ぶのかと苦笑いしていたら突然透が前に押し出された。

 

「おわっ!」

「透?!」

「あっ!ごめんなさい!」

 

 どうやら女の子が透とぶつかってしまったようだった。その女の子が慌てて頭を下げて謝った。

 

「ああ、大丈夫だよ。君、一人?」

「はい……。本当は親友も来るはずだったんですけど、何か親戚の人が急にって……」

 

 それは同情するわ。それで透は女の子に優しく注意する。

 

「ここは人が集まってるからね。ぶつかるのはしょうがないけど、他所見してぶつからないようにね?」

「はい、ありがとうございます!」

 

 そう言うと女の子は手を振って、行ってしまった。

 

「あの子、大丈夫かな。」

「何?気になるの?」

「あ、いや!そういう意味じゃないよ?!ただあの子慣れてないみたいだし、ちょっと心配っていうか……」

「分かってるよ。ちょっとからかっちゃっただけ。」

 

 ちょっとしたハプニングはあったけど、無事にグッズも買った私達は、指定された席へと向かう。既にどこもかしこも人だらけ。もうほとんど席が埋まっていた。私達はチケットに書かれた席の番号を確認して、それに座る。

 

「透、開始まであとどれくらい?」

「あと10分くらいだよ。」

 

 その10分が待ち遠しかった。たかが10分かもしれないけど、この日を待ちわびていた私の心を焦らすには充分だった。

 しばらくして、会場の照明が落ちた。するとイントロダクションが流れ始めると、その時点で会場の客も、私達も席を立ってサイリウムを振り始めた。ステージのセットが曲に合わせて点滅すると、この会場の中央のステージが照らされる。そこにはステージ衣装に包まれた天羽奏と風鳴翼がいた。二人が最初に唄う曲は『逆光のフリューゲル』。

 歌に合わせて観客達はサイリウムを振り、時には間の手を入れながら、盛り上がる。

 だけどサビに入ろうとした時、会場の屋根が開き、露わになる外の夕陽。同時に観客の盛り上がりに熱が増し、さらに夢中にさせた。私も透もその一人。逆光のフリューゲルが歌い終わると、私は透に

 

「ねえ透。」

「何だい?」

「歌って……良いね。」

「ああ。」

 

 本当に来て良かった。でもそう思えたのは、ほんの一瞬だった。あの爆発が起きてからは……。

 次の曲、『ORBITAL BEAT』のイントロダクションが流れ始めると、突然アリーナの中央席が爆発した。これには悲鳴を挙げる人達もいて、曲もすぐに止まった。

 

「な、何?!どうしたの?!」

「分からない。事故でもあったのかな?」

 

 戸惑う私を落ち着かせようと抱きしめてくれたけど、そこへ私達を地獄へ落とす凶報が響いた。

 

「ノイズだああああぁぁぁ!!」

 

 ノイズがこの会場に現れた。爆発して、空洞が出来た床から巨大なノイズが咆哮をあげる。そして、口から粘液を吐き出すと、そこから人型ノイズが大量に現れた。そのノイズ達は近くにいる人間達を次々と襲い、捕まった人間諸共炭素化していった。

 

「助けてくれええぇ……」

「死にたくない!!死にたくない!!嫌あああぁぁ……」

 

 どんなに助かりたくても、ノイズに命乞いなんて聞き入れるつもりはない。大人も子供も関係なく、ノイズ達は人間を次々と炭素化していく。さらに空からも飛行型のノイズが現れて、身体をドリルのように回転しながら急降下すると、人間の身体を貫いて炭素化させた。

 

「輪!早く逃げよう!」

「う、うん!」

 

 私達も急いで危機から脱する為に避難行動に移そうとした時だった。

 

「邪魔だ退け!!」

「きゃあぁっ!」

 

 私は隣の席にいた男がの客が逃げる為に押し退けて逃げて行った。しかもその後ろの人達も助かる為に会場の出口へと走って行ってしまうから誰も助けてくれなかった。しかも転んだ時に、運悪く右足を痛めて上手く立てなかった。

 

「痛っ……!」

「輪!大丈夫か輪!」

 

 透が逃げる足を止めて私に駆け寄ってくれた。運悪く足を痛めた私を助けてくれた。

 

「しっかり掴まって!」

「ありがとう……透。」

 

 透は私を背負って出口へ走った。その途中で私のように押し退けられて、そこにノイズに襲われて炭素化された人もいれば、身体を踏まれて圧死してしまった人もいた。透はその人達の遺体を踏まないように避けて進んで行った。だけど、私を抱えながらで進むから、遺体に足を引っ掛けてしまって転んだ。その拍子に私も放り出されてしまった。

 

「痛た……っ!輪、ごめん!怪我は?!」

「私は大丈夫。それより透だけでも早く……」

「そんなの出来るわけないじゃないか!逃げる時は、輪も一緒……」

 

 透が私の所へ駆け寄った時、透の身体はノイズに貫かれた。

 

「え……透……?」

 

 突然の出来事に、私は理解が追いつかなかった。気付いたら、透の身体は炭になって崩れてしまった。

 

「嘘だよね……?透……!透!」

 

 もうそこに透はいない。あるのは透の身体だった炭だけだった。

 

「嫌あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!」

 

 このライブ会場で死者、行方不明者の総数が12874人。その中に透と天羽奏が含まれていた。

 




輪の過去編はまだ続きます。

ちなみに透にぶつかった女の子こそ立花響です。



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地獄の始まり

活動報告にもありました通り、番外編とは別に輪の過去編を新章として書いていきます。


 あのライブの惨劇から翌日、私は病院のベッドで私の意識は覚醒した。

 あの後、ノイズの脅威は去ったけど、私は透だった炭を覆うように泣いていた。それを救助隊の人達に引き離されて、病院へ運ばれた。足の骨は折れていたみたいで、私はしばらく入院する事になった。怪我した右足はギプスで巻かれて、それを巻くように私の足を挙げていた。

 

「輪!」

「輪!」

「輪姉ちゃん!」

 

 ベッドの近くに、両親と旭がいた。両親は私の無事を知ると、喜ぶように泣き出した。旭は既に泣きそうになっていた所を、泣かせてしまったようだった。

 それから私はあのライブで起きた事を話した。その中には、透が死んだ事も話した。

 

「あの透君が……」

「良い子だったのに……ん?」

 

 そこに早歩きの足音が聞こえるが、その主はすぐに病室に入って来た。

 

「小夜姉……!」

 

 大阪から小夜姉が来てくれた。私が生きているのをその目で確認すると、小夜姉は安堵した。

 

「ほんまに心配やったんやで!寿命が縮まったと思うたわ!」

 

 こんな形だけど家族が揃いったのが嬉しかった。皆で笑っていると、そこに病室の戸が開いて入って来る家族がいた。

 

「透のお父さんとお母さん……それに……お兄さん……!」

 

 その家族は透の両親と透のお兄さんだ。透のお兄さんは大学生でよく勉強を教えてくれた優しい人だった。私が透の最期を家族に伝えると、ご両親とお兄さんは涙を流した。

 

「ありがとう輪。透は最後まで立派に……。」

「ふざけるな……。」

 

 お兄さんとのやり取りを遮ってそう言ったのは、透のお父さんだった。拳を握っていて、私を見る目はまさに憎悪だった。

 

「何でお前が生きていて透が死ななきゃならなかったんだ?」

「おい親父……」

「透は良い子だったんだ!俺なんかと違って、あの子は優しい子だったんだ!それをお前が!」

「もういいから親父その辺で……」

「お前が死ねば良かったんだ!透じゃなくてお前が!!」

「親父!!」

 

 まさかそんな風に思われていたなんて、私はショックを受けた。でも、その通りなのかもしれないと内心思ってた。透は運動も出来て、誰にでも優しい本当に出来た人だった。それに比べれば私は平凡。本当に天と地ほどの差がある。

 透のお父さんを先に退出させたお兄さんは、私達に頭を下げて謝ってくれた。

 

「申し訳ありませんでした。父が娘さんを侮辱した事、父に変わってお詫びを……」

「良いですから……お兄さん。お兄さんが謝る必要はありません。」

 

 結局、ピリピリしたムードを変えられず、お兄さんはすぐに帰る事になった。けどその前に、透が死んで悲しいはずなのに、私に優しく語りかけてくれた。

 

「輪。透の分まで、精一杯生きてほしい。透も、それを望んでるはずだ。」 

 

 そう言って頭を撫でてくれると、お兄さんは帰って行った。小夜姉も新幹線で大阪へ戻った。それから私は透の分まで生きると決めて、辛いリハビリに励んだ。たまに透のお兄さんとメールでやり取りしていくうちに、始業式は既に過ぎた4月に退院する事が出来た。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 リハビリを乗り越えて、怪我も治った私は退院した。その翌日に私は走って登校した。だけど何か視線が妙に気になっていた。私に気付くと、皆楽しげだった雰囲気が急に静かになってヒソヒソと話をしていた。気にはなっていたけど、わざわざ何の話をしているのか、もしかしたら透の事で心配してくれているのかな?確かに、透が亡くなったのは悲しいし、同情してくれるのは嬉しい。けど、透の事で気を使わないでほしい。そう思っていた。 

 既に始業式は過ぎてしまっていたけど、入院中に新しい担任の先生がお見舞いに来てくれて、私の新しいクラスを教えてくれた。だから私は新しい教室にすんなりと辿り着いくと、3人の女子生徒がその出入り口を塞いでいた。 

 

「おはよう出水さん。」

 

 そう言うと、腕を組んでいるリーダー格みたいな人が挨拶してきた。

 

「おはよう。あの、ちょっとそこ退いてもらえるかな?私、このクラスの……」

「ふーん。そうやって透君を押し退けて自分だけ助かったのね。」

「は?」

 

 そのセリフに耳を疑った。だってそれじゃ、まるで私がまるで透を殺したみたいな言い草じゃん。

 

「まあ良いわ。どうぞ。」

 

 そう言うと3人の女子生徒が道を開けてくれた。ちょっと気に入らないような言い草だけど、ここは我慢我慢。私は教台の上に置いてあった席順の図を確認して、私の席を探した。でもそこで私は目を疑った。その机には大きな文字でこう書かれてあった。

 

「人……殺し……?」 

 

 意味が分からなかった。私がいつ人を殺したのか、何を根拠にこれを書いたのか検討もつかない。

 

「誰?これ書いたの?」

 

 私が周りの人達に聞いても、皆は目を逸らして答えない。そこにさっきのリーダー格の女子生徒が言う。

 

「事実なんでしょう?出水さん、あのライブて自分が生き残りたいが為に、透君を見殺しにして!」

「そうよそうよ!」

「人殺し!」

「ちょっと待ってよ!あんた達さっきから何を根拠に私が透を殺したって……」

「これを見てもまだ白を切るつもり?」

 

 そう言って私に見せつけたのは、週刊誌だった。そこには『ライブ会場の惨劇の犠牲者は人為的なもの!』と大きな見出しで書かれていた。

 

「これによると、ノイズで亡くなったのは全体の3分の1。つまり半分以上の人が人の手によって亡くなったものなの。しかもそれか将棋倒しによる圧死、避難経路を巡って殴り合いになったっていうじゃない。確か生き残った人達って、国から補償金が貰えるよね?どう?人殺しで得たお金で食べるご飯の味は?」

 

 リーダー格の女子生徒が私を指して糾弾した。

 

「待ってよ!私はそんなことしてない!本当よ!」

「人殺しは皆そう言う!あんたのせいで透君は死んだのよ!あんたが殺したのよ!!」

「人殺し!!」

「あんたが死ねば良かったんだよ!!」

 

 教室どころか隣の教室にまで聞こえるくらい、そのヒステリックな叫び声は大きかった。それは違うと何度も何度も言ってもやめなかった。次第にクラスメイトのみんなは、その女の言う事を信じるようになって私を冷たい目で見るようになっていた。

 しかも、それだけじゃ終わらなかった。

 

「おいこっちだこっち!」

「あいつが人殺し?」

「よく学校に来られるよなあいつ。」

「死んだ方が良いんじゃねえの?」

 

 他のクラスの生徒も私を人殺しと罵倒するようになっていた。下校している時も、男子生徒達が私の周りをウロチョロして手を叩きながら「人殺し」と歌っていた。それを無視すると

 

「おいシカトこいてんじゃねえぞ人殺し!」

 

 私は男子生徒に背中を蹴られて倒された。

 

「被害者面しやがって!そんな危ない奴がこの学校にいるとかあり得ねえんだけど!」

「ひょっとしてこいつサイコパスって奴じゃねえの?」

 

 言っておくけどサイコパスっていうのは周りに対して思いやりや道徳的価値といった感情が欠落している人の事であって、全てのサイコパスが殺人を犯すわけじゃない。でもこの男達はサイコパス=殺人鬼って間違った固定概念で私をそう呼んでるんだろうね。私は立ち上がって

 

「あんた達、ちゃんと国語の勉強した方が良いんじゃないの?」

「は?」

「ちゃんと調べてからそういう言葉を使いなよ。それに、なんの証拠があって私を人殺しっていうの?調べもしないで人をそう呼ぶなんて、馬鹿丸出しだよ。だからもうやめてくれる?」

 

 私はついカッとなってそいつらに言い返したけど、それが彼らの癇に障ったみたいだった。

 

「ウゼえんだよ!」

 

 襟元を掴まれた私は、男に引き寄せられて頬を殴られた。

 

「殺人鬼が生意気こきやがって。正義の鉄拳でもくらえ!」

 

 そう言って私は殴られ続けた。何度やめてって言ってもやめてくれなかった。しかも私を殴るのが楽しいのか笑ってた。

 

「助けて……誰か……」

 

 側を通る人達に助けを求めても、みんな知らん顔。自分達も酷い目に遭いたくないんだ。誰も助けてくれない。私はそのまま殴られ続けて、私が声をあげなくなると、満足したように帰って行った。

 

「何で……何で……」

 

 私が何をしたって言うの……?あのライブから生き残っただけで、誰も殺してないのに、目の前で透がノイズに殺されたのに、何で?誰か教えてよ……助けてよ……。

 痛みを押し殺して立ち上がって、何とか家に帰ろうとするけど、我が家は変わり果てていた。壁には「人殺し」「税金泥棒」「お前らが殺した」他にも心無い罵詈雑言が書かれた張り紙が貼られて、塀にはスプレー缶で落書きされてた。

 私はそれを無視して、鍵を開けて家に入った。

 

「ただいま……。」

 

 玄関に置かれたローファー。先に旭が帰って来ていたみたい。自分の部屋に行こうとした時、リビングからすすり泣く声が聞こえた。リビングのドアを開けると、お母さんと旭がいた。だけど旭の制服はびしょ濡れで、泣いていた。

 

「お母さん……旭……?」

「輪姉ちゃ……っ!」

「輪、どうしたのその怪我……?!」 

「気にしないで、私は平気だから……。それより旭こそ、どうしたの?」

 

 旭によると、学校で虐めに遭ったみたいで、帰りにトイレに連れ込まれて、水を掛けられたと言っていた。さらに、大事なキーホルダーや私物を壊されたんだと言う。虐めの理由が私なのは予想出来る。

 

「そっか……ごめんね。私のせいで楽しみにしていた中学校生活が……」

「輪姉ちゃんは悪くないよ。だって輪姉ちゃんだって死にかけてたんだから……。」

「それよりも、輪。おいで、手当してあげる。」

「ありがとうお母さん。」

 

 お母さんが救急箱を持って来て、手当してくれた。鏡を見たら頬に絆創膏や湿布、腕や脚には包帯、まるで重傷患者みたいになってた。

 そこにお父さんが帰って来た。まだ17時だというのに早い帰宅だった。お母さんが急いで出迎える。

 

「おかえりなさいあなた。」

「ただいま……。」

 

 リビングに入って来たお父さんに元気な様子はなかった。まさか会社で何かあったのか?

 

「お帰りお父さん。」

「ただいま……輪!旭!どうしたんだ二人とも?!」

 

 私達の惨状を目の当たりにして慌てるお父さんに、今日起きた事を話した。

 

「そうか……そっちでも……」

「そっちでも?」

「ああ、いや。何でもないよ。」

 

 お父さんはそそくさと自分の書斎へ行ってしまう。あの様子じゃ何かあったのは誰でも分かる。結局お父さんは話してくれないまま、一緒に夕食を食べたけど、どこかバラバラだった。

 

 私達を中世の魔女狩りのように、周りの人が攻撃する日々が続いていく。教科書は破り捨てられていたし、頭を泥水に押し付けられたり、石も投げつけられたりした。先生は何をしていたのかって言うと……本当に何もしてくれない。多分、先生達も皆と同じ事を思ってる。止めないどころかお咎めなしなんだもん。

 しかも旭は長い髪をオシャレしてやるって言われて無理やり切らされて、それがショックで学校に来れなくなってしまった。でも旭は学校に行かなくて良いのかもしれない。あの子が学校に行くのが苦痛なら、それで良いんだと思う。

 私は受験生だから、少しでも遠くの良い学校へ行く為には休む事はできない。同時に、あいつらに負けたくないしね。もちろん、大阪で働いている小夜姉にはこの事を言ってない。せめて小夜姉にだけは心配かけたくないから。

 




次回予告しておくと、グロ耐性が試されます。

もちろんR-18に抵触しないように書きますが、上手く書けるかな……


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血に染まる手(※グロ注意!!)


注意!!

前回でも予告しましたが、改めて念押ししておきます。

後半グロ注意です。

そういうのが苦手な方には本当に勧めません。
読む場合は自己責任でお願いします。


 それから2ヶ月後、今日は旭の誕生日。こんな地獄でもあの子の記念すべき日を祝ってあげたい。美味しいケーキを買ってあげる為にも、あいつらを撒かなきゃ。

 

「おいどこ行ったあの殺人鬼?」

「まだ近くにいるだろ?あっちを探すぞ!」

 

 放課後、あいつらは私を探してる。目的は当然正義の鉄拳っていう名のリンチ。でも今日はあいつらに構ってる余裕なんてない。あんな暇人に付き合っている時間があるなら旭の誕生日を祝ってあげたい。だからあいつらが的外れな方向へ行っている間に、私はケーキ屋へ向かう。

 にしても段ボールって本当に便利だね。旭がやっていたゲームで、段ボールに隠れて敵に見つからないように隠れるっていうのを思い出したから実践してみたら、本当に見つからなかった。まあ学校の中ではこれは使えるけど外じゃ怪しまれるからここまでにしよう。いやぁ……ありがとうございます、段ボール様。

 

 あいつらに見つかる事なくケーキ屋に辿り着いた私は、旭が好きなレアチーズケーキを買う。お代も払って、レアチーズケーキか入った箱を受け取る。店から出ると、旭から着信が入った。

 

「もしもし旭?」

「もしもし……?輪姉ちゃん……今日……何の日か覚えてる?」

「何言ってんの旭。あんたの誕生日を忘れるわけないじゃん。」

「良かった……。姉ちゃん、忘れてるだろうなって思ってた。」

「失礼な妹だね。でも楽しみにしててよね。あんたの好きなレアチーズケーキを買ってあげたから。」

「本当……?!嬉しい……!」

「じゃあ、すぐに帰るから待っててね。」

「うん……!」

 

 着信を切った私はまっすぐに家に帰ろうと

 

「いたぞ!あそこだ!」

「やばっ……!」

 

 しまった。私とした事が、店を出る時に周りを確認しなかったから後ろにいた事に気付かなかった。そこにいるのは2人、いつも4人がかりで絡んでくるからもしかしたら前から来る可能性もある。けどここは逃げるが勝ち!陰でこそこそ私を寄ってたかって袋叩きするような陰険なあいつらも、住居不法侵入なんて本物の犯罪の出来ないだろう!とにかくひたすら逃げる!

 商店街の方へ逃げると、人混みを避けて曲がり角を利用して追跡を困難にさせようとするけど、思っていたよりあいつら走るのが速い。これだけ逃げても距離が広がらないし、まだ追いかけて来る。しかも残りの2人も合流して私を追いかけ続ける。

 でもその追いかけっこは私がドブ川沿いの道を走って行くと、行き止まりの道に来てしまった事で終わろうとしていた。戻ろうにも、あいつらに逃げ道を塞がれた。

 

「もう逃げらんねえぞ犯罪者ぁ。」

「大人しく俺達と付き合ってれば良かったんだよ〜。」

 

 元から下品な顔で下卑た笑い顔する奴とか付き合いたくないんだけど。まあそれに、逃げ道はあと一か所だけだけあるんだけどね。だけどその為には、犠牲が出る。

 

「さあて、これから罰の執行と……おわっ!」

 

 私は箱からさっき買ったばっかのレアチーズケーキを掴んで、あいつらの顔面にに思い切り投げつけて、金網フェンスよじ登った私はそのままドブ川に飛び込んだ。川を泳いで塀とフェンスをよし登って、反対の道路へと降りるとそのまま逃げた。あいつらはドブ川に入ろうとせず迂回して私を追うけどもう手遅れだよ〜ん!

 まあでもその為にせっかくのケーキが台無しになっちゃったけど。仕方ない、旭に電話を入れて謝ろう。と思ったんだけどさっきので思い切り浸水して使い物にならなくなってた。

 

「最悪……。」

 

 しかもよりよって雨まで降ってきた。これで全身ずぶ濡れは確定した。まっすぐ家に帰ろう。

 アイツらから逃げる為に遠回りしちゃったから既に19時を過ぎているから外は真っ暗。しかも雨はしばらく止みそうにない。傘も無いから雨に打たれながら家路につく。何とか家につくけど、明かりがついていないのが不思議だった。

 

(旭もお父さんもお母さんも帰って来てるよね?何でだろう……。)

「ただいまー。」

 

 玄関のドアを開けて、靴を脱ぐ。鍵を閉めると真っ暗だから電気をつける。するとみんなの靴が揃えてあった。やっぱりいるんじゃん。

 

「お父さーん!お母さーん!旭ー!ただいまー!」

 

 返事がない、ただの屍のようだ。なんちゃって。けどこの時間なら既にみんな帰って来てるはずだからいないわけないと思うんだけど。私はリビングとドアを開ける。

 

「ただいまー!ねえ何で電気誰もつけな……え……?」

 

 電気をつけると、私は目の前に映っている惨状に立ちすくんだ。

 

「お父……さん……?お母さん……?」

 

 赤黒い液体が池のように広がっていて、その上にお父さんとお母さんが目を見開いて倒れたまま動いていない。その液体は血である事は見て分かるが、恐る恐るお父さんとお母さんの身体を確認すると、冷たくて硬くなっていている。

 

「死んでる……?旭……?旭?!」

 

 リビングに旭がいない。手に血が付いたけど、そんな事を気にしている場合じゃない。二階に続く階段を上がって、私は旭の部屋に入った。そこに旭はいた。血溜まりになったカーペットの上で、死んでいる状態で。

 

「旭……!旭!」

(何で……何でみんな死んでるの?!何で?!) 

 

 信じられなかった。帰って来たら家族の皆が死んでるなんて。私はすぐに救急車と警察を呼んだ。だけど三人が運ばれたのは病院の霊安室だった。

 

「何で……何でこんな事に……。」

 

 警察の調べによるとお父さんが一家心中を図ったものであると結論付けられたそうだった。何でそんなことになったのか、私には理解出来なかった。けど、警察の人が教えてくれた。

 

「お父さんが……左遷された……?」

 

 お父さんは会社で部長になるくらい出世していたんだけど、私があのライブの生き残りだと知ると全ての取引が白紙になって、ろくに仕事も与えられず、あろう事か栄転と称してお父さんを雑務の仕事へと追いった。しかもそこでも浮いた存在として迫害されていた。会社にも、家でも居場所がなくなったお父さんは遂に精神を病んでしまい、それでお母さんと一緒に旭を巻き込んで一家心中を図ったというのが警察の結論だった。

  

「そんな……」

 

 しかも旭に至っては完全に巻き込まれただけで、スマホの発信履歴を調べたら何度も私に電話を掛けていたらしい。つまり旭は私に助けを求めたけど結局、そのまま殺されてしまったとの事だった。

 

「どうして……?どうしてこうなるの……?!私達が何をしたっていうの?!私は……ただ生き残っただけなのに……!ぅっ……ぅぅ……!あああああああぁぁぁ!!」

 

 私は旭の遺体の上に覆いかぶさるように泣き叫んだ。一夜にして私は家族を三人失った。

 翌日の早朝に小夜姉が帰って来た。小夜姉も三人が死んだ事を悲しんだ。お葬式を終えた後、私を育てる為に小夜姉は大阪の病院を辞めて、東京に戻る事になった。小夜姉との共同生活が始まっても、私は悲しみから立ち直れずに、部屋に引き篭もっていた。電気もつけず、ろくに食事も摂れなかった。小夜姉の貯金のお陰で、小夜姉はしばらく働かなくても良いのだが、それでもいつかは尽きる。だから東京で職探しをしながら私を養ってくれた。

 それから一週間後、私はようやく部屋から出た。

 

「輪……。」

「ごめん小夜姉……学校に行く……。」

 

 小夜姉が作ってくれた朝ご飯を食べた私は制服に着替えて、その足取りで学校へ行く。本当は行きたくない。私も消えてなくなりたい。そう考えながら私は学校へ着いた。

 私が教室に入ると、一週間ぶりに私が来た事にみんなは驚いていたようだった。だけどすぐに会話のトーンやボリュームが落ち、みんな私を見てひそひそと会話をしている。そんな事を気にせず自分の席に向かうが、私の席に書かれた人殺しという文字、そして机の上に花瓶と一本の花が活けてあった。そういうのはその席の人が亡くなったときに手向けられるものだけど、私は生きているつまりこれは意図してやったものだというのが分かる。

 そこにいつも私を殴ってくる男4人組が来た。

 

「お、おいおいいたぞ!人殺しが!」

「お前の家族死んだんだってな!ざまあみろ!」

「ついでにお前も死ねば清々したのにな!」

「それウケる〜!」

 

 ふざけんなよ……あんた達に何の権利があってそんな事が言えるのか理解できない。もう、我慢の限界だった。私の中で何かが弾け飛んじゃったけど、もういいや。

 

「さい……」

「あ?何だって?もう一回大きな声でハッキリ言えよ!人殺し!」

 

 私は席の上に置いてあった花瓶を掴んだ。

 

「うるさいんだよ!!」

 

 その花瓶を、そいつの頭に振り下ろした。頭に直撃した事で花瓶は割れ、そいつは頭に血を流して倒れた。

 

「きゃあああああぁぁぁぁ!!」

 

 殺したと思ったんだろうか、悲鳴が廊下に響くくらいに叫んでいる人がいた。だけど男は死んでない。

 

「ぁ……痛ぇ……何すんだよ……お前……」

「喋るなよ……クズ……」

 

 まだ喋れるみたいだから割れた花瓶の破片でそのままそいつの口に突き立てるとそいつの前歯を根本から折ってやった。口を両手で抑えているけどそれでも血は出てるし、顔を真っ赤にして声にならない悲鳴で泣き喚いていた。

 私のした事にビビった残りの三人が後退る。

 

「嘘だろ?!こいつマジでやりやがった!」

「この野郎!」

 

 仲間の一人が私を殴りかかっても、私はそこにあった椅子を振り下ろしてそいつの腕ごと叩いてやった。私は痛がっているそいつの頭を掴んで、丁度教室の後ろにあったロッカーに、その間抜けヅラを何度も叩きつけてやった。鼻は折れているだろうか、2つの穴から血が出ていた。4回くらい叩きつけたあと、もうそいつに用はないからお腹を蹴飛ばした。そしたらその後ろに揃えられていた机やら椅子も一緒に倒れた。あーあ、手に血が付いちゃったよ。

 

「弱っ……ザコかよ。」 

「ば、化け物だ……!た、助けててくれええぇぇぇ!!」

 

 片方は仲間を突き飛ばして自分だけ逃げて行った。突き飛ばされた可愛そうなやつは私の目を見ると、まるで子鹿のように恐怖で震えていた。 

 

「わ、悪かった……許してくれ……!お、俺はアイツに命令されて仕方なく……」

 

 聞くに耐えない言い訳を並べるからムカついた私はそいつの頭を蹴って気絶させた。多分脳震盪でしょ。

 

「だったら最初からすんじゃねーよ……カス。」 

 

 逃げたクズを追いかけようと思ったけど、もう一人、許せない女がいた。そいつを見ると、教室の隅っこで足がすくんでいた。だからそこに近づいてやったら簡単に逃げられなくなった。

 

「や、やめて……来ないで……助けて……」

 

 ようやく立ち上がって逃げようとしたけど、今更逃してやるつもりはないからそいつの左腕を掴んでやる。強引に腕を伸ばして、肘の反対方向から力を入れてやるとそいつの腕はあらぬ方向へと曲がった。

 

「ぎゃああああああぁぁぁ!!痛いぃ痛いぃ!!やめて!!許して!!やめ……」

 

 うるさいからそいつの頭を掴んで膝蹴りしてやったら、そいつの歯も折れたし鼻血出しちゃった。スカートと膝に血が付いちゃったよ。

 

「達者なのは口だけかよ……ブス。」

 

 最後の一人を始末しに行こうと思ったけど、大人達が来ちゃったから断念するしかなかった。私は教員達に取り押さえられて、生徒指導室へと連行された。




というわけでブチ切れた輪でした。


今回のグロシーンを読んだ上で不快になった方、クレームは一切受け付けません。
ちゃんと念押ししましたからね?


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敵だらけの世界

遂に輪がグレました。グレ輪です。

あまりにもストーリーが重すぎる上に主役であるはずの瑠璃が一切出てこないので後書きに平和なおまけを用意しました。


 学校に救急車のサイレンが聞こえてきた。音が重なっている辺り一台だけじゃない。まあそれを呼ぶ原因になったのは私なんだけどね。

 私を散々リンチして来た奴を再起不能にしてやった。いつも私に対してやってる事なんだからやり返されても文句言われる筋合いはないし、大体それくらいの覚悟がないのに虐めるんなら最初からすんじゃねえよ……。

 でも結局一人取り逃がしたまま私は先生、もとい大人達に止められて生徒指導室へと連れて行かれた。少しして知らせを受けた小夜姉も入ってくると、大人達は私達を避難した。

 

「なんて事をしてくれたんだ!」

「君の報復は限度を超えている!」

「どんな理由があってもやり返していい事にはならん!」

「君の妹さんはどういう教育を受けてきたんだ?!」

「すみませんでした!ほんまにすみませんでした!輪がご迷惑お掛けして……」

 

 大人達は大勢で寄ってたかって私の小夜姉を責めると、小夜姉は何度も頭を下げて謝った。まあ私のした事は褒められたことじゃないのは知ってるよ。

 じゃあさ、何で今みたいにあいつらを止めてくれなかったの?何で私だけが責められるの?見てたよね?私が痛めつけられてるのに、旭も虐めに巻き込まれている事に。教員すら私達を敵としか見ていないのがよく分かるよ。そんな奴らに、先生って呼びたくない。小夜姉もこんな奴らに謝らないでよ……!どいつもこいつも、私の周りには敵しかいない。それを嫌というほど思い知らされた。結局私は2週間の停学処分、自宅で謹慎するよう言われた。

 

 当然この暴行事件はマスコミや報道機関に取り上げられた。私がいない間、学校に報道機関の人間が押し寄せて、大人達はその対応に困ってたらしい。ざまあみろ。まあ、そいつら以外のマスコミが、今私の家の前にもいっぱいいるんだけど。

 家の中を撮られないよう家にある全部のカーテンを閉めたから日の光が入って来ない。余計に気分も暗くなる。二階の部屋の窓から覗こうとすると、カメラマン達が私の写真を撮ろうとカメラを向けている。どんだけ暇人なんだよマスコミって。まるで性欲に飢えた発情期みたいで馬鹿みたい。だったら芸能人の尻でも追いかけてろよ。 

 あの事件については実名報道はされず、顔も公開されなかったけど、SNSではとっくに特定されている。私があのライブの生き残りである事も含めて。だから私を犯罪者予備軍と避難する人が多かった。だけど、どういうわけか少し経ったら私にやられた被害者達への攻撃が始まり、私の擁護や家族を失った私に対する同情論までもが展開された。スマホでSNSの反応を自分の部屋で見てた私は、余計にむしゃくしゃした。

 

「同情とかいらないんだよ……。あっ……」

 

 記事を見ているとあるニュースが目に入った。天羽奏が亡くなった事で解散した元ツヴァイウィングの風鳴翼がソロデビューシングルを出すというものだった。以前と表情が、どこか冷たくなっているように感じるのはファンであればすぐに分かる。だけど、そんな事を気にする事は出来なかった。

 

(何で……こいつはあんな事があったのに……のうのうと唄えるの……?あんた達のライブのせいで……私達は……!)

 

 スマホを投げつけると、それが壁に貼ってあったツヴァイウィングのポスターに当たった。あれからツヴァイウィングの曲を聴かなくなっていた。どんな曲を聴いても、私の心は晴れない。失ったものは、もう帰って来ない。

 

(そうだよ……元はと言えば、ツヴァイウィング……!あいつらのライブに行ったから……あいつらが私達の人生を……透も家族も……!)

 

 あいつらの顔なんて見たくない。声も、歌も聴きたくない。私はその憎悪と衝動のままにポスターを破って、それを1つの塊にするとゴミ箱にねじ込んだ。CDもジャケットごと割った。あいつらが映ってる雑誌も破いた。グッツもツヴァイウィングのものは全部壊してゴミ袋へと放り込んだ。私の部屋からツヴァイウィングに関わる物を全部処分した。

 私は、ツヴァイウィングが憎い。私の家族を滅茶苦茶にしたツヴァイウィングが憎い。いつか復讐してやりたい、私と同じ地獄を味わってしまえ。そう思うようになった。

 

 停学が解けた日、私は小夜姉の為に仕方なく学校に通った。毎日マスコミが待ち構えていて、しつこかった。マスコミを撒いて学校へ着いたけど、みんな私を怯えて避けていく。教室に入ると、私を糾弾したあの女がいなかった。

 後で知ったんだけど、私がいる学校にいたくないと親に泣きついたらしくて、それで転校していったらしい。あとあの4人組の男達、転校はしなかったんだけど、あれで懲りたのか大人しくなっていた。

 席に座って授業開始を待っていたけど、みんな私を化け物を見ているかのように私を見ていた。

 

「何見てんだよ……?」

 

 ジロジロ見やがって……居心地が悪い。小夜姉を心配させたくないから学校に来てたけど、馬鹿馬鹿しくなってきた。教員が来て出欠確認をとった後、授業が始まる前に私は教室から出て行った。それ以降、私は学校に行かなくなった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ウチは今、東京で絶賛就活中や。っちゅうのも大阪の病院を辞めて東京へ戻ったんや。看護師の資格があるからすぐに雇ってもらえるもんやと思うてたんやけど、どこもかしこもあのライブの生き残りの家族っちゅうだけでどこも雇ってくれへん。だったらんな器の小さい病院なんざこっちから願い下げや!

 仕方ないからしばらくは昼間と夜でアルバイトを掛け持ちする事にしたんや。昼間から夕方に掛けてスーパーのレジ打ち、夜はコンビニや。少しでもあの子を食わせていく為にはウチが頑張らんといかんのや。まあウチは人より身体頑丈やし、大変やけど苦じゃない。

 そんな時、バイト先へ行こうとした時、電話が入った。それに出ると学校から電話が掛かった。輪が停学が解けたっちゅうのに2ヶ月も学校に来てないって話やった。せやけど、毎朝普通に制服着て見送ってるんやから何かの間違いやないかと思っとたんやけど、どうやらホンマに学校に行ってないみたいや。

 しかも、この2ヶ月で他校の生徒と諍いを起こしとったみたいで、みんな病院送りにされて苦情が相次いどるっちゅう事や。

 

「分かりました。妹にはウチから言いますんで。はい、ありがとうございました。」

 

 着信を切った直後に、今度は輪に電話を掛ける。

 

「もしもし輪?あんた今何処におるん?!」

『何処でも良いでしょ。』

「ええわけあるか!2ヶ月も学校行ってへんやて?!あんた今年受験生やろ?!何考えとるん?!」

『うるさいなぁ……。今家にいるよ……。』

「ちゃんと学校に行き!それじゃあどこの高校にも入れへんの分かっとる?!」

『ウゼえんだよ!!』

 

 輪が突然怒鳴った。

 

『どいつもこいつも私を殺人鬼にして、私達を寄ってたかって袋叩きにして、それでお父さんとお母さん、旭が死んじゃって……それでも誰も助けてくれないじゃん。小夜姉だってそうだよ!なんであんなろくでなしの大人達に頭下げちゃって媚諂っちゃってさ!』 

「何やて?!」

『学校なんか大嫌い!センコーも……それに頭下げてるあんたも大嫌い!!』 

「ちょっと輪?!輪?!」

 

 電話を一方的に切られてもうた。また掛け直すけど、あの子は出なかった。

 

「輪……あ、ヤバっ!遅刻してまう!」

 

 急いでバイト先のスーパーまで走る。輪の事は後で話を聞いておこう。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 私は制服のまま家を出て、外を適当にフラフラしていた。もう誰から見ても私は不良だ。こないだもナンパしてきたどこ中か分からない男どもをシメた。でも危うくサツに捕まるところだった。

 もう学校にいたって良い事は何もない。持ち出したカメラで外の風景を撮っても、殺風景でしかない。自販機で適当に買った缶ジュースを飲み干す。 

 何が高校受験だよ。どうせ私を入れてくれる学校なんてあるわけがない。それにあんな連中のくだらない授業なんか聞きたくない。あのセンコーども私が助けを求めても、誰も助けてくれなかったじゃん!

 でも、小夜姉にあんな態度は無いよね……。大嫌いなんて言っちゃった。たった一人しかいない家族に、大好きな小夜姉に酷いことを言っちゃった。そんな自分が嫌になる。

 イライラして缶を握り潰してそこら辺の地面に叩きつけるように放り投げた。それでイライラが収まるわけないけど。

 

「透……旭……私どうしたらいいの……?」

 

 夕日の空を見上げると、鳥が飛んでる。それを見ながら鼻歌を唄う。そう言えば逆光のフリューゲルにそんな歌詞があったよな……。って駄目だ、ツヴァイウィングの事を考えると、余計にムシャクシャしてしまう。

 

「帰ろう……。」

 

 こんな敵だらけの世界に生きていたって仕方ない。いっそこのまま、消えてなくなりたい。そう思ってたら、目の前に黒いワゴンカーが目の前で止まった?

 

「ちょっと、何……んむうぅっ!」

 

 何なのこいつら?!私を攫ってどうする気?!嫌だ!放して!助けて!!助けて小夜姉!!

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 丁度同じ頃

 

「迷っていたら時間が掛かってしまったな。」

 

巌のように体格が大きく、赤いカッターシャツを着た大男が、レンタルDVD屋の袋を片手に店から出てきた。最近養子に入った娘に映画を見せてやろうとDVDを数本も借りたのだが、つい選ぶのに時間が掛かってしまった。早く帰ろうと車に乗ろうとした時だった。

 

「あれは……!」

 

男達によって無理矢理黒いワゴンカーに乗せられた少女を目撃してしまう。

 

「これは見過ごせないな。」

 

そう言うと男はスマホで電話を掛ける。

 

『もしもし?どうしたの?』

「瑠璃、すまないが少し帰りが遅くなる。」

『え……本当にどうしたの?』

「いや何、ちょっと野暮用だ。」

 

そう言うと通話を切り、男は急いで車に乗った。




おまけ 某ゲームの無線風やり取りその2

「ねえクリス。少林寺蹴球って知ってる?」
「いや、知らねえな。」
「元プロサッカープレイヤーだったコーチが、新しいサッカーチームを作る為に奔走するの。それで出来上がったのはなんと少林拳を使うサッカーチームなの!彼らの独特の少林拳を使ったプレイで大会優勝を狙うってお話なの!」
「それってカンフーってやつか?でもサッカーって手を使ったら駄目なんだろ?」
「そうなんだけどね、足だけじゃなくて、鋼の身体、旋風脚、空渡り、鉄の頭もあるの。」
「それ本当に人間が出来るのかぁ?!」
「ふむ、少林拳を使ってサッカーをすると聞いた時は、衝撃だったな!」
「お父さん?!」
「オッサン?!」
「よし!そうと決まれば早速特訓だ!お前達、準備を急げ!」
「お、おいオッサン!行っちまいやがった……。」
「何か、お父さん変なスイッチ入っちゃったね……。」



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胸の傷

前回一瞬だけ出てきましたが、あの方が出てきます。


 車の中に乗せられてから目隠しされて、どの道を走ってここに来たのか見えなかった。それに相手の目的は何なのか、身代金目的の強盗なのか?それとも売春目的なのか?いずれにしても私は本当に危ない状況だった。

 私を縄で椅子に縛り上げて、身体の自由を奪った上で叫ばれないように轡まではめちゃって、用意周到なことで。目隠しを外されて、見えたのは最低限の明かりしかないボーリング場、そして私を取り囲む男達、その人数はざっと5人。金髪、ハゲ、あとはみんな普通の髪型。中には鉄パイプを持っている奴がいる。あと出入り口に2人、多分あれは見張りだね。

 

「こいつで間違いないんだろうな?」

「ああ。妹が言っていた特徴に当てはまってるからな。」

 

 妹?金髪の男がそう言っていた。でもこんなやつの妹なんて私会ったことないんだけど。どういう事か聞きたいんだけどこの轡のせいでまともに発音出来ない。

 

「おい、知らねえとは言わせねえぞ。俺の可愛い妹がお前に腕折られて、顔に傷が出来たせいでまともに外を出歩く事が出来なくなったんだよ!」

 

 金髪の男はご丁寧に教えてくれた。腕の骨折って、顔に傷……ああ、あいつか。私を最初に殺人鬼呼ばわりしたあの女か。あいつ兄妹がいたんだ。まあどうでもいいんだけど。

 

「何だその目は?今ここでお前の顔グチャグチャにしてやんぞ?」

「まあまあ落ち着きましょうよ。いきなりそんな事したってつまんないでしょう?」

 

 あいつらの後ろ、見えなかったけどもう一人いた。でもそいつの顔には見覚えがある。忘れられるわけがない。そいつはあの時、仲間を見捨てて逃げ出した男だった。

 

「久しぶりぃ〜。まだ死んでなかったんだ。」

 

 あんたこそ今頃家で大人しくしてると思ってたよ。どうやらあいつが黒幕だったみたい。にしても随分とセコい真似しやがって。

 

「ようやくお前に仕返し出来るぜぇ。あいつらビビって手伝ってくんねえから、ちょぉっとコネを使ったんだぁ。」

 

 ダサっ。つまり一人でやっても勝てないからこんなチンピラみたいな奴らを集めたってわけじゃん。

 

「何だその目は?殺人鬼の分際でよぉ!」

 

 私が何も出来ないのを良い事に私のお腹を蹴って来た。椅子に縛られてるから倒されても起き上がる事が出来ない。

 

「殺人鬼のお前に人権なんてねえんだよ。だから大人しくおもちゃになってくれよ。」

 

 何なのコイツ?前の時よりやばい奴になってるんだけど?!

 

「今この場で俺のおもちゃになるってなら、今までの事を水に流してやっても良いぜぇ?」

「おい、そいつは俺の妹を……」

「待ってくださいよぉ。もちろんただ謝らせるんじゃあつまらない。そうだなぁ、全裸で土下座して、『殺人鬼が生きていてすみません。今後はあなたに服従します』って言ったら許してやるよぉ!」

 

 何言っちゃってんのコイツ?冗談じゃない、こんなやつに尻尾振るとかあり得ないんだけど。

 

「嫌なら強制的に形だけでもさせてやるよ。」

 

 こいつ、ナイフを出して……嘘でしょ?!コイツ私の制服を破いて……やめろ!そんな目で見るなぁ!

 

「んんうぅーー!んんぅーー!」

「やっといい顔で鳴くようになったぁ?その顔が見たかったんだよぉ〜!」

「こいつよく見たらいい体してんじゃん。」

「それなー。」

 

 何で……何で誰も助けてくれないの……?!私があのライブで生き残ったから?殺してないのに、ただ生き残っただけで、こんな目に遭わなくちゃいけないの?誰も助けてくれない……もう生きてる価値なんて……本当にないんだ……私……。ごめん……小夜姉……

 

「うわあああぁぁっ!!」

「ぎゃああぁっ!!」

 

 え……?今何が……あの見張りが倒されてる?

 

「やれやれ、映画を借りに来たはずが、人攫いを見ることになるとはな。」

 

 デカっ……腕太っ……何なのあのオッサン……?

 

「男が寄ってたかって一人の少女を取り囲むとは、何とも情けない連中だ。」

「あ?何だテメエ?舐めたマネしてんじゃねえぞ!」

「はあぁっ!」

 

 嘘でしょ?!鉄パイプがただのパンチに叩きおられた?!どうなってんのあの人?!

 

「うおおおりゃああぁぁぁ!!」

「ちょ……ぎゃあぁっ!!」

 

 背負い投げどころか放り投げちゃったよ!巻き込まれた黒幕さん御愁傷様……。

 

 その後は本当に一方的だった。たった一人にあいつらは傷一つ与えられずに全滅しちゃった……。

 

「大丈夫か?」

 

 オッサンは私を起き上がらせると縄を解いて、轡を取ってくれた。

 

「これで大丈夫だ。後はその酷い格好だな。」

「何で……」

「ん?」

「何で私を助けたの?あんたと私は赤の他人……助ける義理も必要もないのに……」

 

 助けてもらっておいてそんな言い草はないっていうのは分かってる。でも信じられるわけないじゃん。本当に私を助けてくれるような人なんて

 

「俺自身、そういうのは見過ごせなくてね。性分さ。」

「だから助けたの……?その甘い性分で……自分が危険な目に遭うって分かって……」

「まあな。所でお前さんの家はどこだ?送ってやろう。」

「いい……一人で帰る……」

「しかし、その格好で出歩かせるわけには……」

「いいって言ってんじゃん!!」

 

 ごめんなさい……恩人にこんな事を言うのは間違ってるって事はわかってるよ……。でもやめてよ……これ以上私に踏み込まないでよ……!お願いだからこれ以上私に期待させないでよ!

 

「私には……優しくされる資格なんてない……。居場所なんてない……。誰からも必要とされてないし、皆の言う通り、私は生きてちゃいけないんだよ!だからもう放っておいてよ!」

「だったら……どうして泣いてるんだ?」

「え……?」

 

 泣いてる?私が?だって……もうあれから何度も、枯れるくらい泣いて……もう泣けないって思ってたのに……

 

「お前さんに何があったか、会ったばかりの俺に、それを分かるはずがない。だがお前さんは言ったな。自分は生きていちゃいけないと。それは間違っている。誰にだって、生きる権利がある。それは何者であっても奪う事は出来ない、当然の権利なんだ。」

「当然の……権利?」  

「お前さん、ご家族は?」

「両親は死んで……姉が一人……。」

「そうか。ご両親の事は気の毒だったな。だが、少なくとも、お前さんの帰りを待つお姉さんがいるのだろう?なら、まっすぐその家に帰ればいい。」

 

 小夜姉……。

 

「無理だよ……だって、私……っ!」

 

 あいつ……意識がある。ナイフ持って……オッサンを!

 

「邪魔しやがって……この筋肉ダルマがああぁぁ!」

「駄目……!」

 

 あいつを止める為に咄嗟に身体が動いた。あいつのナイフを持った手を掴んで、何とか取り上げ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グサッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 どうしたの?何を驚いてるの……?どうして後退るの……?ナイフは……?何か……胸辺りが痛くて……温かい……これって……血?もしかして……私の……?

 

「ち、違う……!お、俺は……あ、ああああぁぁぁぁ!!」

 

 そっか……私、あいつに刺されたんだ……。それで逃げちゃったんだ……。私……死んじゃうのかな……。

 

 しっかりしろ!ここで死んでは駄目だ!目を開けるんだ!

 

 何か意識が……オッサン……何て言ってるの……?聞こえないよ……何だか……眠いなぁ……。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 嘘やろ……?輪が病院に運ばれたって、お医者さんから電話が来て……それで病院に駆けつけたら、ICUで今もまだ意識不明の重態って……。

 

「あの……」

「あなたは……?」

 

 何やこの厳ついオッサン?腕太いしガタイが……

 

「あなたがあの子のお姉さんで間違いないですか?」

「は、はい。ウチ……あの子の……出水輪の姉の小夜です。」

「そうでしたか。俺は風鳴弦十郎という者です。あの子がワゴンカーに無理矢理乗せられて攫われたのをたまたま見ていて、それで駆けつけたのですが……」

「ちょ、ちょっと待って!一体あの子に何があったんどすか?!」 

 

 それからあの弦十郎っていう人から、輪に起きた事を教えてくれはった。まさかそんな事になってたなんて……。

 

「ありがとうございました……輪を助ける為に、身体を張ってくれなはって……」

「いえ……俺はあの子を守りきれませんでした。」

「結果はどうでも、あの子に救いの手を指し伸ばしてくだはったんです。それだけでも、輪の心は少しでも救われたんやないかと思います。」

「妹さんに何があったのか、お伺いしても?」

 

 あの子が学校で虐められていたこと、家族が亡くなった事、暴力事件の事、学校に通わなくなった事、ある程度掻い摘んだけど、それを弦さんに話した。

 

「そうでしたか……。それであの子は生きる資格なんてないと……」

「輪が……そんな事を?」

「ええ。あの様子ではただ事ではないと思ってはいましたが、話を聞いて合点がいきました。」 

 

 それから弦さんは時々様子見に来るって言うと、そのまま帰ってった。凄いわあの人、ウチなんかと全然違う。 

 ごめんな、輪。ウチ、あんたの事分かってるつもりでおった。でも、実際は何も分かっておらんかった。せや、学校が辛いなら行かせなければ良かったんや。それなのに、受験生やからって無理やり行かせて、養う為と理由をつけてたけど、実際はあの子と向き合う事もしないで独りぼっちにしただけやないか。ウチ、最低や……。

 

「ごめんな……輪。」

 

 お願いや神様……どうか輪だけは連れて行かんで……。これ以上、ウチから家族を取り上げないで……輪を助けてください……。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 気がついたらここにいた。ここは、私が地獄へと落ちる事になる切っ掛けの場所。ツヴァイウィングのライブ会場。ノイズに襲われた時と同じ、攻撃を受けて崩れた階段や、壊れたステージセット、そしてそこに差し込む夕陽。私はここで透を失った。私があの時怪我をして、担いでいなかったら透はもっと早く走れたのかもしれない、そう考えた事があった。でもタラレバの話をしても、透は帰って来ない。走馬灯ってやつなのかな?それとも、未練?どっちにしろ、私はもう……

 

「こんな所にお客さんがいたのか。」

 

 誰?振り返るとそこにいたのは

 

「え……?何で……あなたが……」

「よっ。」

 

 ツヴァイウィングの天羽奏だった。

 

 

 



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生きていいんですか?

またまたサプライズゲストです。

そしてこれの予約投稿をした直後にエゴサしたら……

バーが赤色になってるううぅぅぅーーー?!
ありがとうございます!!
うわあああぁぁぁーーーい!!(歓喜の狂乱舞)


失礼しました。しかし、本当にここまで皆さんに読んでいただいた上にご感想や評価までしていただけるのは本当に感謝、感激の極みです!本当にありがとうございます!

それではどうぞ!


 何で天羽奏がここにいるの?だってあのライブで死んだって……もしかしてここって死後の世界?でもそれなら来るなら透か旭じゃない?何でよりによって憎んでるうちの一人なの?あの人と接点なんて皆無なんだけど。

 

「ここで立ち話もなんだから、ここに座って話でもしようや。」

 

 そう言うと、天羽奏は席に座った。私もその隣に座る。そこは奇しくもあの日、座っていた席と同じ場所だった。

 

「ここであたし達を見てくれてたんだな。ここもなかなかいい眺めじゃないか。にしても、散々な目に遭ったな。あんな事があったら、グレたくなるよな。」

「何で知ってるんですか……?」

「さあ、何でだろうね?まあでも細かい事は良いじゃないか。」

 

 陽気に笑ってるけど、私からしたら笑えないんだよ。あれからどんな思いで過ごして来たのか、思い出しただけでもイライラする。それもこれも、全部ツヴァイウィングのせいだ。

 

「悪かったね。」

「え?」

「あたし達の歌を聴きに来てもらったのに、こんな事になっちゃって……。」

 

 何で謝るの?死んだあんたに謝られても、もう何も変わんないんだから……過去は変えられないんだから……。私が死ぬ事だって変わらない……。

 

「あたし達の事、憎んでる?」

「はい……。今も憎いです。あなた達が嫌いです。歌も嫌いです。あなた達の歌を聴きに行ったせいで……私は恋人も、両親も、妹も、居場所も、何もかもがなくなって、もう私の人生はめちゃめちゃです。」

「そうか。ハッキリ言ってくれてありがとう。それでさ、あんたこれからどうすんの?」

 

 これからって……もう私死ぬんだけど……。あんな場所にナイフ刺されたら……もう助からないでしょ?それに、もう辛いんだ……楽になりたい……透や旭達に会いたい……

 

「もしこっちに来ようとしてるなら、それは駄目だ。」

「え……」

「あんたはまだこっちに来るべきじゃない。」

「また……私にあんな地獄を繰り返せって言うんですか……?また……!」

「そうだね。生きるって事は、ある意味そうかもしれない。あたしも家族を亡くして、ノイズと戦う為に喜んで地獄へ落ちた。」

「ノイズと戦う?それってどういう……」

「でもね、地獄だらけの世界にも小さな幸せがあるんだ。それを育てていけば、やがては大きな愛になるんだ。」

「大きな愛……?」

「それを見つけるまでは、こっちに来ないでくれ。それがあたしからのお願いだ。」

 

 分かんないよ……そんなものがどこにあるのか、どうやって見つければいいのか。それに、私はもうたくさん悪い事をした。ムシャクシャするからって、気に入らない奴を殴って、力でねじ伏せて、小夜姉まで傷つけて……

 

「でも……私にも生きていい資格なんて……。」

「どんなに悪い事をしても、生きる権利は誰にだってあるさ。だから、そんな悲しい事を言うなよ。」

 

 何か、さっきも誰かに言われたような気がする……。でも、生きる権利は誰にでもあるのなら……

 

「生きて……いいんですか……?こんな、どうしようもない私でも……本当に生きていいんですか?」

「良いんだよ。当たり前だろ?」

 

 この人、勝手に現れてこんな事を言い出すなんて……やっぱり私……嫌いだなぁ……。でも、ありがとう……。

 

「あの……私……あっ……」

「ん?あ、そろそろ私は消えなくちゃだね。」

 

 天羽奏の身体が光の粒になっていって消えようとしている。だけど、あの人は笑ってる。

 

「まさか……私をここに連れて来たのって……」

「あんたはここで見たもの、聞いたものは全部忘れるだろうな。どうか、歌を嫌いにならないでくれ。そして……」

 

 

 

 

生きるのを諦めるな。

 

 

 

 

 

「待って!うわっ……!」

 

 眩しくて見れない……!待ってよ!突然現れて、ここに連れて来ておいて、最後は勝手に消えるなんて……どこまでも勝手な人だなぁ……

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ここは……病院……?私……確か刺されて……。それよりも……何か……すごい夢を見た気がするけど……何だっけ……?

 

「輪……?」

 

 身体が動かない……けど、確かに今、小夜姉の声が聞こえた。そこにいるの?

 

「輪……良かった……輪!」

 

 小夜姉だ……やっぱり生きてるんだ……生きていていいんだ……。

 

 小夜姉によると、あれから1週間もこのままだったらしい。ナイフが刺さったままだったのと、心臓より数センチ外側に刺さったのが不幸中の幸いだったみたい。確かにその数センチ違ったらって考えるとゾッとする。

 私を刺した男は警察に逮捕されて家庭裁判所へ送られるんだって。あいつに雇われた奴らも同様に逮捕されたみたい。

 

 それから、私は二度目の入院生活を過ごす羽目になった。うん暇。胸の刺し傷だから本当に動けない。スマホの中の音楽でも聴こうと思ってたんだけど……ツヴァイウィングばっかで、あの時衝動のままに全部消したんだった。本当に何もない……。どうしよ……。そこにノックするのが聞こえた。

 

「どうぞ……あっ……!」

「よう。」

 

 あの時の赤いシャツの筋肉モリモリマッチョマンのオジサンだった。

 

「元気そうとは言い難いようだな。」

「まあこの通り、動けませんしね。退屈ですよ。」

「ハハハ!なら話し相手くらいにはなってやるさ。」

 

 見かけによらず、凄い笑う人なんだなぁ。

 

「そうですね……。じゃあこれからの事で聞いてほしいんですけど……」

「これから?進路とかか?」

「まあそんなものです。私、中3なんで……」

「驚いたな。俺の娘と同じ年だ。」

「娘さん……?いたんですね……。」

 

 いやこんな厳つい人の娘とか全然想像できないんだけど……。ちょっと会ってみたいな……。

 

「それで、進路というのは?」

「いや……私、あれから真面目に勉強して、進学しようかなって思ってるんですけど……小夜姉の事もあるし、働くのも選択肢かなって……」

「いや、君は進学するべきだ。」

 

 即答か。まあそうだよね。今のご時世中卒で雇ってくれる所なんでほとんど無いのは知ってる。 

 

「でも、私って結構問題起こしちゃったし、教員からの印象も最悪だから、推薦なんてもらえないでしょうし……」

「推薦だけが全てじゃないぞ。もっと広い目で見るんだ。そうだな……輪君は歌は好きか?」

「歌……?」

 

 よく分からない。今までは憎む事しか出来なかった。でも何でか分からないけど、今は何でか分からないけど、不思議と嫌いになれなかった。

 

「好き……なんだと思います。」

「そうか。ならリディアンはどうだ?」

「リディアン?」

 

 まあ聞いたことあるけど、あそこって何か音楽に特化したカリキュラムが特徴の学校って聞いたけど、あそこ年間倍率が尋常じゃないくらい高いらしい。そこに私が受けても……

 

「うちの娘もそこを受ける。」

「え?」

「どうだ?受けてみないか?」

 

 受験ってそんな仲良しこよしでやるもんじゃないでしょ?もしかしたら、私がその子を蹴落とすかもしれないのに、何で誘うの?

 

「うちの娘は内気でな、君のように猪突猛進のような子が友達になってくれれば、互いに切磋琢磨出来る良い関係になると思ってな。」

 

 いや私あんたの娘の事何一つ知らないし。っていうかオジサンの名前聞いてないや。

 

「っていうか、オジサン名前何?」

「あ、そうか。言ってなかったな。俺は風鳴弦十郎だ。」

 

 え?!風鳴?!

 

「じゃあ風鳴翼の娘?!」

「翼は姪だ。それに、翼は既にリディアンの一年生だ。」

 

 嘘……何この偶然。こんな事ってあるんだ……

 

「まあ1つの選択肢として、考えてくれないか?無理強いはしない。決断するのは君次第だ。おっと、そろそろ行かなければ。これが連絡先だ。」

 

 メモ用紙にメアドと電話番号を書いてそれを置いていくと、病室から出ていこうとしていく。

 

「待って。」

「ん?」

「私も受ける。」

 

 何言ってるんだろう私は……。けど何でか分からないけど、風鳴に負けたくない。だったらやってやる。何度でも這い上がってやる。

 

「私もリディアン受ける。そして、あんたの娘さんを出し抜いて、受かってやるから!」

 

 そう言うと、オジサンは笑ってくれた。

 

「ああ、娘に伝えておこう!」

 

 小夜姉、私、また頑張るからね。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 あれから更生した私はこの半年間、頑張って勉強した。季節は冬、寒い。コートやマフラーをしても全然足りない。周りの受験生も同じような状態だもん。文字通り受験シーズンって感じだね。

 私は第一志望のリディアンを受ける。この日の為に、私は頑張ったんだ。絶対に受かってみせる。




ゲスト、天羽奏さんでした。

次回、輪の過去編 最終回。


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夜空との出会い、生まれゆく絆

輪の過去編 最終回になります。

遂に運命の出会いとなります。

ちょっといつもより長めになります。



 受験当日、リディアン音楽高等学院の校門前に、私は立っている。私だけじゃない。私と同じ受験生がリディアンに入るべくその試験に臨んでるはず。

 っていうか多くない?!多すぎでしょう?!やばい、緊張してきた……。ドラマとは全然違うこの臨場感……プレッシャー……吐きそう。いやいや!ここまで頑張ったんだから、絶対に受かってやる!オジサンの娘さんを蹴落としてでも……ってそう言えば結局この日まで見なかったな。まあでも、多分どっかで会うでしょう。さあ、試験会場まで行こう。

 

 うん。筆記試験は問題ない。あとは面接か。何か聞くところによると面接で歌唱力も採点されるらしくて、面接官の前で唄わされる……。最初聞いた時は……それ公開処刑?!って思わずツッコんだけど、とにかくハキハキと、真っ直ぐに、胸を張って、堂々と行けばなんとか……なる……。

 え?隣の子めっちゃ綺麗……。小柄で、何か外人っぽい感じの雰囲気で可愛い。そして胸デカっ!ちょっと育ち過ぎじゃない?!一体何を食べたらそんなに大きくなるの?!ちょっと神様、何かズルくないですか?明らかにあんな美人に勝てるわけないんですけど。

 

 

「受験番号1467 風鳴瑠璃さん、こちらへどうぞ。」

「は、はい!」

 

 ふーんあの子の名字、風鳴なんだ……ん?風鳴?ちょっと待って!まさかあの子が?!いやいやいや!全然似てない!どうやったらあの厳ついオッサンからあんな可愛い娘が生まれるの?!

 

 ちなみにその頃……

 

「ハックション!」

「司令、風邪でも引きましたか?」

「いや、誰かが噂をしているようだ。」

 

 

 これは夢か?!幻か?!あんな可愛い子があの厳ついオッサンの娘なんて……そうだ!これは夢なんだ!きっとそうだ!もしくはいつの間にかパラレルワールドに来ていたっていうオチなんだ!でなきゃこんなの……

 あの子の歌が聞こえてきた。歌っているのはあの子の学校の校歌なのかな……?とても綺麗な歌声……何だろう……心が洗われるような……まるで星空のように広くて優しい歌……。思わず、私は聴き惚れてしまった。

 

 勝てない、私は真っ先にそう思った。可愛くて、スタイル良くて、おっぱいも大きくて、その上あの歌声。結論から言おう。ハッキリ言って、100%私はあの子に勝てない。嗚呼神よ、私に何故こんな厳しい試練を与えるのです?どう上がったってあの子の上に立てる気がしないし、もう絶望しかない。ケッチョンケッチョンだよ。あの子が女神なら私はそこら辺に落ちている石ころだよ。それくらい大差が……

 

「あ、あの……!」

「へ?な、何?」

「つ、次ですよね……?呼ばれてますよ……?」

「受験番号1468 出水輪さん!いませんか?」

「あっ!あの!います!ここにいます!」

 

 しまった!私とした事があの子に気を取られすぎて次だって事忘れてた!ヤバいヤバい!あああぁぁもう最悪だああぁぁ!!と、とにかく何とかここで挽回しなければ!

 

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 戦いが終わった。これから私は家に帰る所なんだけど……終わった……完全敗北だ……。天は二物を与えないなんて言葉が出鱈目である事を思い知らされた……。あーあ……最初のあれは最悪だった……。順番忘れてしまうなんて……私はあの子の足元にも及ばない、雑魚だよ雑魚。しょせん売り物にならない小魚だよ私は。

 

「あの……」

「ふぇ?あ、あんた……あの時の……」

「は、はい……。か、風鳴瑠璃って言います……出水輪さん……ですよね……?お父さんから聞いてます。」

「あ、うん。そうだよ。私がその出水輪。よ、よろしく。」

 

 ヤバい、あの子に話し掛けられた。近くで見ると……こんなに可愛いなんて……おっと、危うく薄い本みたいな感じのノリになるところだった。

 

「それで……どうしたの?」

「は、はい!出水さんの歌、聞きました。とても真っ直ぐで、何だか唄うのが楽しそう、そんな感じがしたんです。」

「そ、そっか……ありがとう。あ、あんたの歌声、綺麗だった。濁りがないっていうか……」

「あ、ありがとうございます……。私、緊張しちゃって、筆記試験で失敗しちゃったんです……。だから、面接で挽回しなきゃって……!」

「そうなの?でもあんた……私なんて、さっきの見たでしょう?」

「あ、はい……。」

「最悪だよ呼ばれたのにすぐに入らないなんて……印象は最悪だ……。死にます……。」

「え?!そ、そんな簡単に死ぬなんて事言わないでください!」

 

 いや、最後のやつは冗談なのに真に受けちゃったよ……。けど本当に落ちた気がする。

 

「ほら、まだ分かりませんよ!じ、人生何が起こるか分からないんですから!きっと受かりますって!」

 

 それについては完全に同意する。この一年、波乱万丈だったし。

 

「まあ、一応希望は持っておくか。ありがと。」

「い、いえ!そんな……。」

 

 可愛いなこいつ。

 

「それとさ、敬語はやめて名前で呼んでよ。同級生なんだから堅苦しいのはなしで。」

「は、はい!」

「それいらない。」

「あ、ご、ごめんなさ……。ごめん。」

「ほら、名前で呼んで?」

「う、うん。輪……さん……。」

「さん付けいらない。」

「り、輪……。」

 

 何か申し訳なくなってきた反面、私はとんでもない怪物を生み出してしまった気がしてならない。それからメアドと電話番号も交換して、私達は別れて再会を約束した。合格している事を夢見て。

 

 3週間後、合格発表日。私達は再びリディアンで落ち合い、掲示板に貼られている合格発表者の番号を確認する。

 瑠璃が1467で私が1468……なんだけど私落ちてる気がする。ヤバいここに来て自身なくなってきた。

 

「やっぱり帰る。」

「え?!まだ確認してないのに……」

「だって自信ないんだもん。受かってるわけないよ私がぁー。」

「じゃあ勝手に読み上げるね。」

「そんなぁ殺生な!」

「1461……1463、1464……」

「あー!聞こえなーい!何も聞こえなーい!」

「1467……1468!」

「ぎゃーわーぎゃーにゃー!何も……え?今なんて……?」

「1467と1468!両方あったよ!」

 

 私は掲示板の数字を確認した。1464……1466……1467……1468……あった……本当にあった……!受かったんだ!!やったあああぁぁーーー!!やったよ!!受かったああぁぁーーー!!

 

「やったよ瑠璃!私受かった!」

「ちょ……ちょっと……輪!」

「え?」

 

 あ、抱きついてた。しかも瑠璃のおっぱい大きいか、私のも当たってる……///

 

「あわわ!ごめん!つ、つい……」

「う、うん……」

 

 いやぁ……大きいって凄い……ゲフンゲフン。とにかく受かって良かった!小夜姉にも報告しなきゃ!ってちょうどよく小夜姉から電話が来た。

 

「もしもし小夜姉?私受かったよ!」

「おぉー!良かったやん!おめでとうなぁ!」

「ありがとう小夜姉!」

「うちもやっと就職先から内定貰ったんや!」

「本当に?!おめでとう小夜姉!」

「姉妹揃って今日は良い事ずくめや!今日は合格祝いにごご馳走や!」

 

 努力が報われた。良かった……本当に……

 

「輪?」

「え?泣いてないからね!泣いてないんだから!」

「何も言ってないよ。さっきお父さんに電話したらね、今日はお祝いだから一緒にご飯どうかって。」

「本当に?!あ、ならもう一人連れてきたい人が……私のお姉ちゃんなんだけど良いかな?」

「うん。大丈夫だよ。」

 

 瑠璃に夕食を招待された私は、小夜姉と一緒に瑠璃の家に来た……

 え?これ家?!武家屋敷の間違いじゃなくて?!

 

「デカい……」

「これ家やなくて屋敷や……。」

「どうぞ、上がってください。」

 

 居間まで案内され、そこで私達はすき焼きをご馳走になった。本当に何年ぶりだろう?こんなに美味しいご飯初めて……いや、もしかしたら忘れてたのかもしれない。みんなで食べるご飯は美味しいって本当だね。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 いやぁ〜たらふく食ったわ〜。こんな上手いもんいつぶりやろ?ホンマに感動したわ〜!ホンマに弦さんと瑠璃ちゃんには感謝しかないわ〜。あっ、ちなみに今、輪は瑠璃ちゃんの部屋で仲良くやっとるから、こっちは大人の酒盛りタイムや。

 

「弦さん、色々とありがとうございました。ホンマに頭が上がりまへんで。」 

「あそこは仕事上でよく世話になっている所で、丁度一人空きが出たので紹介しただけですよ。」

「それでも、感謝してもしきれまへん。ウチが応募した所はどこも断られてまうし、正直参ってはりましたわ。」

「ハハハ!小夜さん程の快活な方が、そのように悩む事とあるのですな!」

「ウチも人間ですわ!悩み事の一つや二つ、あるに決まってますわな!」

 

 そう、ウチの内定先の病院は弦さんの職場と繋がりのある所や。弦さんがそこに一人、空きがある事を教えてくれはったお陰でウチは入職出来たんや。これでようやく一安心や。輪も入学前から同い年のお友達が出来て、万々歳や!しっかし……どうにも似てないのが気になるけんど……まあこの際ええわ!禍福は糾える縄の如しや!盛大に飲んだるでぇ!

 

 

 瑠璃の部屋にお邪魔してます輪さんです。部屋は本当に普通の女の子の部屋なんだよね。本がいっぱい並べられているのと、所々風鳴翼のポスターやグッズがあるのは気になるけど……まあ今は恨みだの何だの言ってたって仕方ないからね。

 

「うわぁ……翼さんのグッズいっぱいあるんだね。」

「もしかして、輪もファンなの?」

「え?う、うん!まあ趣味のカメラにお金使ってるからあまりグッズが買えないんだけどね。」

「カメラ?写真撮るの?」

「うん。まあこの一年は全然撮ってないんだけどね。何か撮る気になれなかったっていうか……。」

 

 嘘は言っていない。本当にこの一年色々ありすぎてカメラなんて殆ど触ってなかったもん。

 

「今度は私の家に招待してあげる……って言ってももう引っ越すんだけどさ。その時に私が撮った写真を見せてあげる。」

「ありがとう。」

 

 実は実家を売り払ってマンションに住むことになった。とは言ってもそんなに大きくない、格安物件だから今の家と比べると狭くなっちゃうけど……まあこの家に二人きりっていうのも何だか広すぎるからなぁ……。それにリディアンに通うには家からじゃ遠すぎるもん。ん?学生寮はどうしたかって?申請しなかった。まあ細かい所は置いといて、新居は学校からも病院からも近いし、それに瑠璃の家からも近くなる良い事しかない!

 

「そういえば、翼さんとは従姉妹なんだよね?話す機会とかあるの?」

「あ、ううん……あんまり……」

 

 あれ?何か落ち込んでる?もしかして地雷踏んだ?

 

「え?!あ、ごめん……聞かれたくなかった?」

「ううん。そうじゃないの……あまり上手く話せてないの……。さっき、合格した事を電話したんだけど……あまり褒めてくれなくて……。」

 

 何それ?!そんな風鳴翼なんて想像できないんだけど……。でもこんなかわいい妹に冷たく当たるなんて……許せない。

 

「よし瑠璃。翼さんをぶん殴ってしまえ!拳をぶつかりあわせて……」

「そ、そんな、暴力は駄目だよ!」

「ま、まあ拳をぶつかり合わせるは言いすぎたかな?でもさ、血の繋がった姉妹なんだから、喧嘩はした事あるでしょう?」

「ううん……ない……。」

「え?一度も?」

「うん。」

 

 それっておかしくない?15年間一度も喧嘩したことないって聞いたことがない。双子でも喧嘩するのに、そんな事ってあるのかな?私ですら小夜姉や旭と喧嘩した事あるし……。もしかして……何か訳あり?

 

「でもさ、一度くらい喧嘩しても良いと思うよ?何事も経験だよ。」

「う、うん……。でもなるべく喧嘩はしたくないかな……」

「うーんこの平和主義者。」

 

 まあ翼さんと話す機会はいくらでもあるだろうし、瑠璃なら大丈夫でしょう。こんなに出来て、着飾らない妹がいるなら、姉も誇らしいだろうし。それよりも、入学した後の事も考えなきゃ!

 

「リディアンに入学したらさ、翼さんのクラスにお邪魔しようよ!それで3人で何か買い食いして、カラオケも行って、ついでにサインも貰って……」

「それが目的じゃないの?」

「あ、バレた?」

「ふっ……ふふふ……!」

「あはははは!」

 

 冗談のつもりが、こっちまでおかしくなっちゃった。でも、叶うならやってみたいし、他にもやりたい事をやりたい。瑠璃となら、高校生活も楽しくなりそう。入学日が待ち遠しいなぁ。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 その出会い、その出来事は数多の偶然によって引き起こされたものかもしれない。幸福も、不幸も、この先の未来にどのように訪れるか、それは誰にも分からない。

 出水輪も、その一人。突然多くの不幸が彼女を襲い、その心を失いかけた。だが彼女は何度でも立ち上がる勇気を知り、生きる事を選んだ。たとえどんなに残酷な運命が待っていようとも、

 

 迎えた4月、たくさんに並び立つ桜の花が、新入生達の門出を祝う様に満開に咲き誇る。今年、リディアンに入学する風鳴瑠璃と出水輪。新しい制服にその身を包まれた彼女達の運命的な出会いが、たとえどんなに大きな荒波に飲まれようが、どんな困難をも乗り越えられる。

 

「撮影代わってくれてありがとう小夜姉。」

「ありがとうございます、小夜さん。」

「ええんやええんや。二人の晴れ舞台、この瞬間は逃したくないわ。じゃあ、撮るで〜!はい、チーズ!」

 

 瑠璃と輪、桜の下で撮った二人の写真。この一枚の写真から、輪の写真(ものがたり)は大きく彩るようになった。

 

 




これにて輪の過去編、完結になります。

番外編のつもりが、かなり長くなってしまいました……。

一応GX編の番外編を書いた後にAXZ編をやります。
ここの所シリアスが長く続いたので番外編はしない風にコメディカルに行きたいんですけど、輪が裏切った理由なども書かなくては……。




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きらジオッ!お気に入り登録者数100人突破記念

お気に入り登録者数100人突破記念をラジオ風にお届けしたいと思います。

改めまして、本当にありがとうございます。ここまでやってこられたのは本当に皆さんが読んでくれたお陰です。

今回だいぶはっちゃけましたので、お楽しみにいただければと思います。







「れい おーぷにんぐとーく れいじーる」

「それ本家のやつだろ?!ここでかますな!」

「ごめんwちょっとやってみたかった……w さあ始まりました!煌めくラジオ、『きらジオッ!』お気に入り100人突破記念!メインパーソナリティを務めます出水輪と!」

「ゆ、雪音クリスでお届けするぞ!」

 

「えーこの度「戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星」のお気に入り登録者数が100人を突破しました。読者の皆様、本当にありがとうございます!その記念として、今回はストーリーとは全く関係ないラジオ風でお届けしたいと思います。」 

 

「つーかメインパーソナリティお前とあたしなのか?肝心の主役の姉ちゃんは何で出ないんだよ?」

 

「何でだろうね?でも決まったんだし良いんじゃない?本家の方でもメインパーソナリティの中に主役の中の人はいないんだし。」

「サラッとメタい事を言うな!」

「まあ前置きはこれくらいにして、最初のコーナーにいきましょーう!最初のコーナーは!」

 

 煌めく星の裏話ー!

 

「このコーナーではこの小説に関する裏話を特別公開します。」

「いきあたりばったりのこの小説に裏話なんてあんのか?」

「色々あるんだよ。ではまず1つ目の裏話は〜?」

 

 【初期考案の第一話と完成した第一話が全くの別物】

  

「いや、どういう事だよ?!」

「えーそれについて、製作者の方のインタビュー音声がありますので、こちらをどうぞ!」

 

 実は最初に描いた第一話というのが、瑠璃とクリスが離れ離れになる理由、つまりバルベルデの地獄変を描いたプロローグだったんですよね。ただ物語を描いていくと、それだと後々伏線が貼れなかったりして面白みに欠けるなっていうのがあって、やっぱり続きが気になるって思わせられるように、あとは瑠璃にミステリアスな雰囲気を持たせたいというのもあって、第一話を大幅改変しました。データはまだ残っていますよ。

 

「処女作のくせに変な所に拘るんだな。」

「まあ結局伏線張るのが下手すぎて、真相が明らかになる前に分かっちゃった人とかいたよね。」

「んで、あたしの姉ちゃんが離れ離れになったストーリーは?結局ボツになんのか?」

「それについてはAXZ編か番外編で描きたいとの事です。」 

「ふーん。つかいつになったらAXZ編が始まるんだよ?もうみんな待ちくたびれてるだろ?」

「それについてはもうしばらくお時間をいただければと思います。続いてはこちらの裏話。」

 

 【瑠璃の使用ギアは元々はバイデントではなかった?】

 

「はい、こちらも製作者の方からのコメントがあります。」

 

 元々はバイデントではなく女神アテナが使用していたイージスにする予定だったんですよね。瑠璃の優しくて自己犠牲の性格が盾に合ってましたし。

 

「ふーん槍じゃなかったんだな。でも姉ちゃんなら盾でも合いそうってのは同意だな。」

 

 ただメデューサの頭から埋め込まれていて、見たものを石化させるという点が瑠璃のキャラコンセプトと合わないとの事でボツにしました。逆にバイデントは伝承があまりなくて、二又の槍ということもあって、他のギアにはない使い方を考えた結果、双剣のように分離、合体出来る槍になりました。

 

「っていうか、ギリシャ神話のものっていう点では変わらないんだね。」

「まあ本家の方でもギリシャ神話のやつ一個も出てなかったらな。」

「でも何でバイデントにしたんだろ?」

 

 それはストーリーの根幹に関わるので黙秘します。

 

「あっ……(察し)」

「察しってなんだよ?」

「クリス、分かれ。以上、煌めく裏話でしたー!」

 

『きらジオッ!』

 

「続いてのコーナーは……」

 

 お願い聞いて!煌めく流れ星!

 

「このコーナーではリスナー(登場人物)からいただいたお便りを私達が聞いちゃうというコーナーです。」

「定番のやつだな。」

「では早速参りましょう!ラジオネーム 『太陽の正室』さんからのお便りです。出水さん、雪音さんこんばんは。こんばんは〜。」

「こんばんは。」

「えー新ラジオ開設おめでとうございます。ありがとうございます。」

「ありがとな。」

「ルームメイトと一緒に楽しみに待っていました。早速質問なのですが、今度のルームメイトの誕生日プレゼントを何にするか悩んでいます。お二人は好きな人はいらっしゃいますか?もしいましたら、その人に何をプレゼントするか教えて下さい。あ〜良いねぇ〜。」

「誕生日プレゼントか。そういうのって本当に悩むよな。」

「クリスは好きな人はいるの?」

「は、はあ?!///何言ってんだ!い、いねえよ!///」

「え〜?本当か〜?」

「な、何だよ!///そういうお前はどうなんだよ?!///」

「もちろんいるよ〜。黒髪で背が少し小さくて、おっぱいが大きくて泣きぼくろがチャーミングな……」

「おっぱ……ん?それ女じゃねえか!」

「え?ルームメイトっていうんだから同性でしょう?」

「あっ……」

「何なに〜?クリス〜もしかして異性だと思った〜?クリスも初心よの〜。」

「う、うるせえ!////あ、あたしだって同性だって思ってたぞ!////」

 

「ツンデレクリスも頂いた所でそろそろ答えましょうか。まあ誕生日プレゼントなら余程のものでもない限り喜んでくれると思いますよ。私も元カレから貰った時は嬉しかったし、真心を込めたプレゼントなら、絶対に喜んでくれますよ。あ、でもなるべく消え物以外の方が良いね。形あるものが……クリス?」

「〜〜!///」

「あ、うん。何かごめん……。で、では次のお便りに行きましょう!ラジオネーム『宝物庫の住人』さんからのお便りです!えー、きらジオッ!開始おめでとうございます。ありがとうございます。最近新しく入ってきた赤くでゴツい巨人が乱暴で、いつも注意しても逆に殴られてしまいます。出来ればその人を炭素化したくないのですが、最悪の場合やり返すしかないかなと考えています。そこでお二人にアドバイスをいただければと思います。」

「なるほどな。途中何か不穏な事を言ってたような気がするが……警察にいけ!」

「はいしゅーりょー!以上お願い煌めく流れ星てましたー!」

 

『きらジオッ!』

 

「という事で、お時間が来て参りました。雪音クリスさん、いかがでしたか?」

「ちょっと待て、これ100にちなんでいるのか?」

「え?」

「言ってたよな?100にちなんだコメディカル番外編を作るって。これのどこが100にちなんでるんだ?」

「あ、そういえば。」

「これじゃあ詐欺だぞ?!どうすんだ?!」

 

 それは私からお答えしましょう。

 

「うぉっ?!誰?」

 

 誰でもいいではないか。それより、今回ちゃんと100にちなんでいるんですよ。

 

「何処がだよ?!こんなラジオテイスト、どこに100要素が……」

 

 100話目。

 

「え?」

 

 今回で100話目なんです(番外編、プロフィールを含めて)

 

「あっ!」

「これを狙ってたのか?!」

 

 いえ、偶々デス。

 

「だろうな。」 

「いやぁでもめでたいね〜。ここまで失踪せずに続いたんだから。」

「だな。これもみんなが読んでくれたお陰だ。ありがとな!」

「皆さん、今回お気に入り100人突破記念番外編、いかがでしたでしょうか?きらジオッ!今回好評だったら2回目もやると思います!」

「え?続くのかこれ?」

「良いじゃん良いじゃん。この小説ただでさえ鬱展開多いんだから。」

「それでいいのか?!」

「はい、という事できらジオッ!お相手は出水輪と風鳴クリス……じゃなかった。雪音クリスでお送りしました!それではさようなら〜!」

「お、おい!人の話を聞け!つかさり気なく間違えんなあああぁぁぁーー!!」

 

 




というわけできらジオッ!でした。

マジで今回で100話目になります。狙ってやったわけではありませんが、せっかくなのでやってみましたら、

好評だったら第2回も検討します。



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AXZ編
バルベルデへ


皆さん、大変長らくお待たせしました。
AXZ編、開幕です。




 

 

 

 

 

パパ!ママ!

 

 

 

 

 

助けてえぇぇ!!嫌だあぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

いやああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああぁぁぁぁ!!」

 深夜4時、瑠璃は汗をかきながら目が覚めた。

(またあの夢……?!何なの一体……?!)

 

「姉ちゃん……?」

 

 眠っていたクリスの声に、瑠璃は我に帰った。

 

「ごめんクリス。起こしちゃった?」

「あたしは平気だ……。それよりも姉ちゃんの方が……」

 

 瑠璃の顔色が悪いのは明白だった。瑠璃は殆ど人に言っていなかったがここの所、悪夢を見る頻度が増え寝不足に悩まされている。瑠璃から相談を受けた父 弦十郎の計らいで定期的にクリスが家に泊まりに来たり、逆にクリスの家に瑠璃が泊まっていったりしている。今夜は後者の方で、一つのベットに二人で寝ている。

 

「ごめん、ちょっと喉渇いちゃったからお水貰うね。」

「ああ。」

 

 ベットから降りた瑠璃は台所からコップを取って、そこに水道水を入れて飲みほし、コップを洗うとルリは再びベットに入った。ただ喉の渇きは癒えても不安は拭えなかった。あの悪夢の恐怖から逃れられないばかりか、見る頻度までもが多くなったが故に瑠璃は眠る事を恐れていた。さらに寝不足であることが拍車をかけ、恐怖を増大させてしまっている。今瑠璃の手がシーツを強く握りしめているのが、それを証明している。

 だがその手の上にクリスの手がそっと優しく重ね合わせる。

 

「姉ちゃんは一人じゃない。どんなに辛い事が起きても、あたしが側にいるから。」

「クリス……ありがとう……。」

 

 結局あれから目が覚めてしまい、眠りにつけなかった。輪との映画を見に行く時も途中で転寝してしまい、事情を知らない彼女に心配れる始末。家で夕食を作る際も、食器を何枚も割ってしまうなど瑠璃らしくないミスが続いた。

 

「瑠璃、大丈夫か?」

「大丈夫だよ……。おかしいな……こんな事全然なかったのにどうしちゃったんだろう……。」

 

 弦十郎の心配をよそに、瑠璃は笑顔を振りまくが弦十郎は安心できなかった。過去と向き合う日が来る事は分かっている。だがその過去が、瑠璃にとって耐え難く、悍しいものである事は本人はまだ知らない。だが普通なら死んだ方がマシに思える地獄を、今の瑠璃に向き合いきれるか、分からなかった。親として信じてあげたいが、それで瑠璃に万が一の事が起きたらと考えてしまう。

 だが時は待ってくれないし、悩む時間すら与えてくれない。娘を再び戦場に送らざるを得ない状況になってしまった。しかもその行く先が、バルベルデ共和国。

 

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 バルベルデ共和国。南アメリカ大陸に属する小国で、非常に政情が不安定な軍事政権国家である。長くからその独裁によって自国民に非常に過酷な環境での生活を強いており、その反発から反政府組織が生まれてしまう故に内戦が後を絶たない。

 当然バルベルデの政府軍のモラル、練度は最悪であり、軍隊としての誇りも愛国心の欠片もない、まさに愚連隊である。さらにタチの悪さはこれだけに留まらない。

 

「高速で接近する車両を確認!」

「対空砲を避けるために陸路を強行してきた?だが浅薄だ、通常兵装で我々に太刀打ちできるものか。」 

 

 バルベルデのジャングルに駐屯する政府軍の兵士がパソコンのモニターで捉えた反応を、グラサンをかけた上官に報告するが、上官は想定内であると言わんばかりに余裕を見せる。すると、至るところに設置しておいたコンピュータマシンを起動すると、筒のようなものが上がり、その中から石が吐き出されるように放たれる。それらが地面に落ちて割れると、アルカ・ノイズの群れが召喚された。

 彼らはアルカ・ノイズを軍備として保有しており、これが彼らのタチの悪さを助長させている。これでは通常兵器を持ってしても突破は困難である。だが政府軍が捉えた車両、その正体であるバイクは速度を緩めることなくそのまま一直線に向かっている。

 

「接近車両モニターで捕捉!」

 

 ようやくその正体を捉えたが、既に手遅れだった。

 

「こいつは……!」

 

 バイクに跨がる青いギアを纏う装者。そして、その後ろでその装者に掴まる藍色のギアを纏うもう一人の装者。

 

「振り落とされるなよ、瑠璃!」

「うん……!」

 

 風鳴翼と風鳴瑠璃、風の姉妹が先陣を切る。

 

 

「敵は……シンフォギアです!」

 

 天羽々斬の刃がバイクの前方、バイデントの黒槍 右側面、白槍が左側面を連結させたそれで、行く手を阻むアルカ・ノイズを切り裂いた。

 

 【騎刃ノ一閃・星襲】

 

「対空砲には近づけさせ……っ!」

 

 だが指示を出すのが遅すぎた。バイデントのブースターが点火すると、バイクのスピードが跳ね上がり、アルカ・ノイズは壊滅。さらにそこにいた兵士の持つマシンガンも両断され使い物にならなくなっていた。

 そして並べられた対空砲に近付くとバイクの側面に連結させたバイデントを分離させて、二本の槍を一つの槍へと連結させると穂先にエネルギーを集めてそれを突き出す。槍の穂先と接触した対空砲は一つも残らず破壊された。

 

 【Raging Hydra】

 

「緒川さん!」

 

 翼は空に舞う巨大な凧を見上げる。その凧には緒川とその横に響とクリスが張り付いている。対空砲の破壊を確認した三人は同時に上空を飛び降りる。凧は戦車の機関銃によって撃ち抜かれるが、三人は既にそこにはいない為、凧に風穴が空くだけに終わる。

 緒川が煙玉を投げ、煙幕を張る。その間に地上に降り立ったクリスのクロスボウの矢の嵐がアルカ・ノイズを撃ち抜く。風呂敷で空中落下の速度を弱らせた緒川も降り立つと兵士の項に手刀を入れて無力化させる。

 アルカ・ノイズの次は政府軍。マシンガンの弾丸を刃で弾き、戦車から放たれた砲撃すらも切り裂いた。その技に恐れをなした兵士達は逃げ出し、戦車も後退しながら砲撃するが、翼の接近を許した上に戦車の砲身も斬り落とされた。

 響とにもその砲撃が襲い掛かるが、放たれた砲撃を拳で打ち払う。

 翼は両脚のブレードを展開させて、バーニアを点火させると身体を車輪のように高速回転、戦車をバラバラに斬る。 

 

 【無想三刃】

 

 瑠璃は砲撃を連結させた槍の投擲で打ち砕くだけでなく、戦車の砲身がある上部の装甲ごと穿ちぬいた。

 クリスが回転しながらクロスボウの矢を乱射してアルカ・ノイズを蹴散らすと、その隙を突くように兵士達がクリスに向かって一斉掃射、クリスはクロスボウと装甲で防ぐがさらにダメ押しのロケットランチャーも放たれた。ロケットが直撃して、爆発した。

 

「やった……!」

 

 だがそのセリフはやっていないパターンのお決まりである。クリスには掠り傷一つすらない。さらに口から弾丸を吐き捨てるとクロスボウの矢がマシンガンを撃ち落とす。兵士達はたまらず逃げ出した。

 

 戦車の砲撃を響は拳で打ち払って、戦車のキャタピラを引き剥がしていき、さらには戦車の上部を強引に引き抜いてはそれをバットのように他の戦車にぶち当てる。

 

 政府軍はアルカ・ノイズ、持ち前の兵器が次々と破壊され、防衛ラインが瓦解していく。それを重く受け止めた上官はどこかへと走り去って行った。

 敵の防衛ラインを粗方崩したが、突如ゲートの向こうから空に放たれた光。その上空から魔法陣が展開されると、そこから雲を退けるように現れた巨大戦艦が現れた。その規模の違いに4人は息を呑む。

 

「空にあんなのが……!」

「本丸のお出ましか!」

「でも、あれをどうやって……」

『あなた達!』

 

 4人の前にS.O.N.G.のヘリ三機が低空飛行してこちらにやって来て、その中の1機を操るマリアか4人に呼び掛けた。

 

 『ぐずぐずしないで、追うわよ!』

 

 巨大戦艦内のブリッジでは三機のヘリがこちらに迫っているのをレーダーで探知する。

 

「ヘリか。ならば直上の攻撃は凌げまい!」

 

 上官はスイッチを押す。すると戦艦の下部に搭載されていた巨大な爆弾をヘリの真上へと落とした。ヘリの真上で爆破したのをモニターで確認した上官は

 

「やったぜ!狂い咲き……んっ?!」

 

 ヘリは一機も撃墜されておらず、糠喜びに終わる。さらにヘリのプロペラの上に立っている三人の装者を見て、もう一人いない事に気付いた。

 

「もう一人は何処に……。いやそれよりも、非常識には非常識だ!」

  

 ガトリング砲でミサイルを撃ち落としていく。さらにクリスの乗るヘリの中から瑠璃が放った黒槍と白槍が空を縦横無尽に駆け巡ると、ミサイルを真っ二つにする。

 その間に響と翼は迫りくるミサイルを足場にして飛び移っていき、戦艦に接近する。

 

「こっちで抑えているうちに!」

「他の二機はさっさと戦場を離脱してくれえぇ!」

 

 瑠璃とクリスの指示で他の二機は離脱するが、一本のミサイルが一機のヘリを追尾している。フレアを放ってもその効果は全く無かった。

 

「駄目だ!間に合わない!」

 

 パイロットは死を覚悟したが

 

「やるよ切ちゃん!」

「合点デス!」

 

 そのヘリに搭乗していた切歌と調が扉を同時に開け、その間にミサイルが通り過ぎた。二人の機転によってヘリは無傷、そのミサイルはクリスによって撃墜される。

 

「やれば出来る……」

「アタシ達デェス!」

 

 遂に巨大戦艦の前まで辿り着いた翼は、戦艦と同等の巨大な剣を形成する。

 

「初手から奥義にて仕る!」

 

 それを振り下ろすと、戦艦の前部はブリッジごと真っ二つになり、中にいた上官は傷こそないがグラサンが斬り落とされた。

 さらに目の前に現れた響を前にして情けない声をあげて逃げ出そうとする。対する響は右腕のバンカーユニットをドリルのように高速回転させながらブースターを点火させると、左手上官の襟を掴んでそのまま内部から装甲をぶち抜いた。

 船体が壊滅状態となりこのままでは墜落してしまう。だがクリスが大型ミサイルを大量に配備してそれを発射させた。

 

 

 【MEGA DETH INFINITY】 

 

 全てのミサイルが戦艦に直撃し、跡形もなく爆ぜて消えた。一方戦艦から降り立った響だがあいにく飛ぶ手段がない。

 

「掴まって!」

 

 そこに槍に跨って飛行する瑠璃が現れ、響は指し伸ばされた手を掴む。そのまま地上へ降り立つ……はずだった。

 

「ぁぅ……っ!」

「瑠璃さん?!どうしまし……あっ!」

 

 飛行している最中に、瑠璃が頭を抱えて苦しみだした。あの悪夢のヴィジョンが瑠璃の頭の中に流れ、それが瑠璃を苦しめる。しかもそれに気を取られた事で遠隔操作が不安定になってしまい、操作に乱れが生じ、バランスは崩壊した。

 

「る、瑠璃さ……うわあああああああぁぁぁーーーーー!!」

 

 遂に操作が切れ、三人は落下してしまう。このままでは地面とぶつかってしまう。響は打撃で落下の衝撃を相殺させようとするが、それはしないで済んだ。

 瑠璃が再び槍の操作を取り戻し、響と上官を拾い上げ、超低空飛行で難を逃れた。何とか地上に無傷で降り立った三人だが上官はあまりの恐怖体験に気を失ってしまっている。

 

「瑠璃さん、大丈夫ですか?」

 

 響は瑠璃を心配して駆け寄る。

 

「うん……私は大丈夫だよ……。ごめん……響ちゃん。」

 

 口ではそう言うが手が震えている。明らかに様子がおかしかった。先程の一連の様子はS.O.N.G.本部のブリッジでも確認されていた。

 

「瑠璃……。」

(まさか……お前……。)

 

 弦十郎は瑠璃の記憶が覚醒しつつあるのではと一抹の不安を感じた。ここに連れてきてしまったのは間違いだったのか?そう考えずにはいられなかった。

 

 

 

 




1話目から不穏な空気……。

R-18版のアンケートもなかなか接戦……。


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思い悩む雪の姉妹

パヴァリアのオリジナル錬金術師もちゃんと用意してあります。

まあどの辺で登場させるかはお楽しみということで


 政府軍の駐屯地を制圧した後、国連軍が無事に到着し、配給所では様々な物資を現地の避難民に配られ、中には治療を受ける者もいる。その様子をフェンス越しに見ている響、翼、クリス、瑠璃。今着ているのはS.O.N.G.の制服であり、それぞれ異なる色をしたネクタイをしている。ちなみに瑠璃のネクタイは藍色になっている。

 

 

「良かったぁ。国連軍の対応が速くて。」

「そうだな。」

 

 国連軍の対応の速さに安堵した響と翼だったが、瑠璃とクリスは避難民達をフェンス越しに見ており、二人の会話に無関心だった。

 

「瑠璃さん、クリスちゃん……大丈夫?」

「あ……うん。」

「何でもねーよ……。」

 

 先程の瑠璃が苦しんでいた様子を目の当たりにしていた響は心配していた。あの様子はただ事ではないのは誰でも分かる。

 さらにクリスは先程から何か抱えているような様子だった。恐らく瑠璃の事もあるのだろうが、それだけではないような気がしていた。

 そこに背後に車が止まる。市街巡回を終えたマリア、調、切歌が戻って来たのだ。切歌は荷台から立ち上がり大袈裟に敬礼のポーズをする。

 

「市街の巡回完了デース!」

「乗って。本部に戻るわよ。」

 

 運転席に乗るマリアに声をかけられ、4人は荷台に乗り込み、本部へ戻る。数少ない舗装された道を通り、その風を受けながら調はこの現状を憂いた。

 

「私達を苦しめたアルカ・ノイズ……。錬金術の断片が、武器として軍事政権にわたっているなんて……。」

 

 アルカ・ノイズは錬金術師が作り上げた兵器である。それが一国の軍事政権が易々と手に入る代物ではない。となると背後に錬金術師がいる事が考えられる。そして響が呟いた。

 

「パヴァリア光明結社……。」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 少し遡る。弦十郎によって日本にいる装者達は本部に集められた。

 

「早速ブリーフィングを始めるぞ!」 

 

 弦十郎の一声で、本部のモニターにはロンドンにいる翼、マリアと緒川が映っている。

 

「お姉ちゃん……!」 

「マリア、そっちで何かあったの?」

『翼のパパさんの特命でね。S.O.N.G.のエージェントとして、魔法少女事変のバッググラウンドを探っていたの。』 

『私も知らされていなかったので、てっきり寂しくなったマリアが、勝手についてきたとばかり……。』

『そんなわけないでしょ?!』 

 

 調の問いにマリアが答えていたのだが、翼の発言で一気に緊張感が崩壊した。マリアは顔を赤くして否定する。

 

「あの……それで何かあったの?」

 

 苦笑いしていた瑠璃だったが、自然な流れで話を戻すと緒川が答えた。

 

『マリアさんの捜査で、一つの組織の名が浮上してきました。それが、パヴァリア光明結社です。』

 

 パヴァリア光明結社。ヨーロッパを暗黒大陸と言わせしめる原因であり、魔法少女事変においてはキャロルのチフォージュ・シャトーの建設を裏で支援していた。さらにそれだけでなく、フロンティア事変においてF.I.S.に手紙を送っており蜂起を支持していた。その証拠にマリアが手紙の封を出す。調と切歌もその印を見て思い出した。その風に刻まれている印がパヴァリア光明結社の印なのだ。

 つまりこの2つの事件には裏でパヴァリア光明結社が関与しており、次に相対する組織ということになる。だがパヴァリア光明結社は存在自体は分かっていても、その全貌どころかその端くれすら分からず、全てが謎に包まれている。だが収穫はあった。

 

『マリアさんが掴んだ情報をもとに、調査部も動いてみたところ……』

 

 緒川が開示した画像に、皆が驚愕した。そこに写っているのは

 

「アルカ・ノイズ!」

『撮影されたのは政情不安定な南米の軍事政権国家……』

「バルベルデかよ?!」

 

 クリスが真っ先に反応した。かつてルリとクリスの両親がNGO活動の一環でバルベルデに訪れた。そして両親はこの国で亡くなり、姉妹は離れ離れになった。だが今の瑠璃には両親が死んだ記憶がなく、地獄の6年間を覚えていない。

 

「待ってくれ!姉ちゃんをバルベルデには行かせられねえよ!」

『司令、私もクリスと同じ意見です。』

 

 それ故に瑠璃のバルベルデ行きを、クリスと翼は反対する。もし瑠璃が記憶が蘇っても良い結果になるはずがない。思い出さなくてもいいなら、忘れたままの方がいい。瑠璃の過去を耳にした旧二課から所属していた者達もそれは同じ思いであり、この時はそれを知らないマリア、調、切歌、エルフナインは疑問を呈する。

 

『それ、どういう事?』

「姉ちゃんを……バルベルデには行かせられねえ。それだけだ。」

 

 だがクリスは大きな過ちを犯した。ここで堂々と反対してしまった事だ。

 

「私……行く。」

「駄目だ姉ちゃん!バルベルデには……」

「パパとママが亡くなった場所……。それは分かってる……。だけど、パパとママと過ごした思い出の場所が、アルカ・ノイズに破壊されるのは嫌だよ……。だから、私も戦う。」

「それはあたし達がやる!先輩やあいつだって……」

「瑠璃。」

 

 クリスの説得を弦十郎が遮り、瑠璃の方を見る。

 

「本当に行くんだな?」

「うん……。」

「どんな結果になっても受け入れられるか?」

 

 弦十郎は脅すように問う。弦十郎も父親として、本当であれば行かせたくはない。だが瑠璃が悪夢に苛まれ始めた頃から、瑠璃は過去の記憶と向き合わなければならない時が来たのではないのかと思う事がある。故に、瑠璃の意思を確かめる。

 

「うん……。」

 

 小さく頷いた。

 

「分かった。では装者達は現地合流後、作戦行動に移ってもらう!」

 

 こうして瑠璃もバルベルデへ行く事が決まった。だが万が一があるので、響、翼、クリス、三名のうち一人を必ず同伴させる事になった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そして戻って現在。本部に帰還した装者達は身体の汚れを洗い流すべくシャワーを浴びている。

 

「S.O.N.G.が国連直轄の組織だとしても、本来であれば、武力での干渉は許されない。」

「だが、異端技術を行使する相手であれば、見過ごすわけにはいかないからな。」

「でもそれが……錬金術師じゃない……。ただの人間が、あれを玩具のように使うなんて……。」

「アルカ・ノイズの軍事利用……!」

 

 新しい資源があればそれを軍事利用してしまう、ある意味では人間の悪い癖である。

 

「LiNKERの数が十分にあれば、私達だって、もっと……!」 

 

 ロッカーの中に綺麗に畳まれている切歌と調の制服の上に置いてある一本のガンタイプの注射器、その中にはLiNKERが入っている。だがその数が少なくなり、マリア、切歌、調が使えるのはそれぞれ1本ずつしかない。

 現在エルフナインがDr.ウェルが遺したマイクロチップ、その中にあったLiNKERのレシピを解析したのだが完成にまでは至っていない。故にその数を増やす事が出来ず、減る一方であり、ついにそれぞれ1本しか使えない状態になってしまった。

 

「ラスト一発の虎の子デス。そう簡単に使うわけには……」 

「大丈夫だよ!」

 

 シャワーを浴び終え、タオルで頭を拭きながら出て来た切歌に、響が駆け寄ってその両手を握る。

 

「何かをするのに、LiNKERやギアが不可欠ってわけじゃないんだよ!さっきだってヘリを守ってくれた!ありがとう!」

 

 響が真剣な眼差しで切歌を見るが、当の本人は視線が上下しており、響の目と身体を交互に見て顔を赤らめている。まあ今シャワールームにいる者は全裸である為、そうなるのは仕方ない。

 

「な、なんだか照れ臭いデスよ~!あっ……」

「じーっ……」

 

 切歌が照れるが、その隣で調が切歌に視線を向けていた。

 

「め、目のやり場に困るくらいデ〜ス!」

 

 そんなやり取りをしている一方、クリスは深刻そうに思いつめている。バルベルデで体験した地獄の日々の記憶が頭から離れない。

 

「くそったれな思い出ばかりが、領空侵犯してきやがる……!」

 

 そして、クリスの隣でシャワーを浴びていた瑠璃は

 

「っ……!」

 

 あのヴィジョンが頭の中に思い浮かぶだけで頭痛が起きる。突発的に見えるあのヴィジョン、それが何を意味するのか分からない。それを知ろうとしてもまるでそれを阻止するように、頭痛が酷くなる。

 

「瑠璃、大丈夫?」

 

 シャワーを浴び終え出て来ると、そこにマリアが心配そうに声を掛けに来た。

 

「大丈夫……です。はぁ……駄目ですねこれじゃ……。しっかりしなきゃ……。」

 

 瑠璃が明らかに無理をしているのが分かる。

 ブリーフィングの後、マリアは翼から、瑠璃の過去、何故瑠璃が記憶喪失になってしまったのかを聞いた。翼も、瑠璃の父親である弦十郎も、その詳細を知っているわけではないが彼女に何が起きたのか、瑠璃がどんな傷を負っているのか、何となく予想はついていた。今なら翼とクリスがあの時何故、瑠璃のバルベルデ行きを反対したのかよく分かる。だがその心の傷を乗り越えられるかは瑠璃次第だ。

 

「辛かったら、一人で背負わなくていいのよ。絆、大事にね。」

「ありがとうございます、マリアさん。」

 

 瑠璃に笑みが浮かんだ。それも、無理して作ったものではなく、本心から。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 弦十郎から召集を受けた響、翼、クリス、瑠璃はシャワーを浴びた後、身体の水滴を拭いて、制服に着替えるとブリッジに集まった。

 

「新たな軍事拠点が判明した!次の任務を通達するぞ!目標は、化学兵器を生産するプラント!川を遡上して、上流の軍事施設へ進攻する!周辺への被害拡大を抑えつつ、制圧を行うんだ!」

「「「「了解!」」」」

 

 4人は緒川が操縦するボートに乗り込み、川を渡って拠点へ向かう。その道中、クリスは両親が亡くなった時の記憶が蘇った。両親が爆発に巻き込まれ、瓦礫に潰された。炎が広がり、泣き叫ぶ姉妹。

 

 パパ!ママ!

 

 離してよソーニャ!

 

 駄目よ二人とも!危ないわ!

 

 ソーニャのせいだ!!

 

 脳裏に蘇るあの日の惨劇、思い詰めていたクリスを翼は見逃さなかった。

 

「昔の事か?」

「あ、ああ!昔の事だ!だから気にすんな!」

「詮索はしない。だが今は前だけを見ろ。でないと……。」

 

 翼はそれ以上は踏み込めない。ただクリスの先輩として、目の前の事に向けさせなければ取り返しがつかなくなる。現に眩い光が装者達を照らしている。敵のサーチライトだ。機関銃の弾丸がボートを狙う。緒川がボートを操縦して、被弾を避ける。

 

「状況開始!」

「一番槍、突貫します!」

 

 立ち上がった響がボートから飛び立つ。

 

 Balwisyall nescell gungnir tron……

 

 響が起動詠唱を唄い、ガングニールのギアをその身に纏った。




R18版アンケート、結構白熱してますなぁ〜。

一応お知らせ。

月曜の23時にアンケートを締め切らせていただきます。それで一番多かったキャラが栄えある第一話の瑠璃の相手になります。以上です


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3人の錬金術師

なるべくAXZ編はオリジナル要素強めで行きたいと考える一方、果たしてそれが受け入れられるか悩む私……


 ガングニールのギアを纏った響が、ブースターを点火させて敵の装甲車を殴って吹き飛ばした。だがその音で政府軍は防衛態勢に入り、コンピューターからアルカ・ノイズの召喚石を排出。地に割れると魔法陣からアルカ・ノイズの群れが顕現する。

 

 Tearlight bident tron……

 

 瑠璃に続いて、翼とクリスもそれぞれのギアを身に纏いアルカ・ノイズを蹴散らしていく。戦闘になり、多くの民間人が慌てて逃げ出す。4人はその人達を巻き込まないようアルカ・ノイズを屠り、兵士の装備を破壊して無力化させる。だがアルカ・ノイズの攻撃で建築物の柱の支えを失う。そこに転倒して逃げ遅れた一人の少年に柱が迫る。

 

「危ない!」

 

 瑠璃が槍を箒のように跨り、遠隔操作とブースターをフルに使って全速力で少年を抱え、崩落から救った。少年を安全な場所に連れて行った後、再び戦いに戻る。

 

 一方プラント施設の内部にいる小太りの指揮官の男が自軍が劣勢であることをモニターで確認していた。

 

「我が軍が押されるのか……!こうなったら諸共に吹き飛ばしてくれる!」

 

 追い詰められた指揮官の男は金色のスイッチを押した。すると施設の中央から巨大なアルカ・ノイズが一体召喚された。さらにその手からヘドロの様な液状を出すと、そこから小型のアルカ・ノイズが姿を現し、味方であるはずの兵士達に襲い掛かって分解し始めた。

 こうなっては敵も味方もない。アルカ・ノイズに襲われている政府軍も守りながらアルカ・ノイズを翼は斬り捨てる。

 

「手当たり次第に……」

「誰でも良いのかよ?!」

 

 クリスはアームドギアを弓に変えて、ミサイルを矢のように番えてそれを巨大アルカ・ノイズに放つ。それが命中すると、巨大アルカ・ノイズの身体から赤いエネルギーの棘が生えて動きを拘束させた。

 

【ARTHEMIS CAPTURE】

 

 そこに翼がそれぞれの手に刀を携え、刃に青い炎を纏わせて飛翔。巨大アルカ・ノイズを文字通り細切れにした。

 

【炎鳥極翔斬】

 

 アルカ・ノイズはこれで殲滅したと思われた矢先、瑠璃がバイザーでキャッチされた反応先、真上を見上げるとコマのように高速回転しながら施設の真上から落ちていくもう一体のアルカ・ノイズがいた。

 

「あれが直撃したら、辺り一帯が汚染されちゃう……!でも周りのアルカ・ノイズも……!」

「何とかしないと!」

 

 響がバンカーユニットを変形させて、地上からプラント施設を破壊しようとする小型のアルカ・ノイズを目にも止まらぬ速さで殲滅させた。

 瑠璃は連結させた槍にエネルギーを集約させて

 

「そうりゃあああぁぁぁっ!!」

 

 それを力いっぱい投擲、放たれた槍の穂先はドリルのように高速回転しながら、上空にいるアルカ・ノイズを貫いた。

 

【Horn of Unicorn】

 

「危なかった……。」

 

 瑠璃が少しでも気付くのが遅れていれば大惨事になっていた。何とか民間人に被害を出さずにプラント施設を制圧した。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同じ頃、明かりが一つもないオペラハウスにて、バルベルデのトップ、軍の上層部達がここに集まっていた。彼らはパヴァリア光明結社の支援を受けても国連軍、もといS.O.N.G.に追い込まれ、今後の事を話し合っている。

 

「閣下、念のため、エスカロン空港にダミーの特別機を手配しておきました。」

「無用だ。亡命将校の遺産『ディー・シュピネの結界』が張られている以上、この地こそが一番安全なのだ。」 

 権力を盾に甘い汁を啜って来た上層部は保身の事を第一とし、大統領に亡命を勧めたが、それはすぐに一蹴された。

 大統領が口にしたディー・シュピネの結界。それは人、無機物問わず、万物の存在を隠し、認知させない機能。故に絶対に安全、誰にも見つかる事はない……はずだった。

 

「つまり、本当に守るべきものはここに隠されている。」

 

 突如発せられた女性の声。政府軍の上層部に女はいない。となると仲間のものではない声の主を警戒する。その者はオペラハウスの窓に立っている。彼女だけではない、もう二つある窓にそれぞれ一人ずつ、合計三人いる。それも全員女性。

 

「主だった軍事施設を探っても見つけられなかったけど……」 

「S.O.N.G.を誘導して、秘密の花園を暴く作戦は上手くいったワケダ。」 

「うふふ♡慌てふためいて、自分たちで案内してくれるなんて、可愛い大統領〜♡」

「サンジェルマン!プレラーティ!カリオストロ!」

 

 大統領は右から彼女達の名を順番に呼ぶ。

 

 右には貴族風の男装した麗人、サンジェルマン。

 

 真ん中が三人の中でも小さく、カエルのぬいぐるみを抱いている、眼鏡をかけたプレラーティ。

 

 左にいるのが肩と脚を大きく露出させた軽装のグラマラスボディの持ち主、カリオストロ。

 

「せっかくだから、最後にもう一仕事してもらうワケダね。」 

 

 プレラーティはぬいぐるみを顔の前に持っていく。するのカリオストロが歌い始めた。カリオストロ、プレラーティも。突然歌い出した彼女達を前に戸惑う政府軍の上層部達。彼女達が何者かは大統領以外は知らない。それ故に、側近の一人が大統領に問う。

 

 

「あの者達は……?」

「パヴァリア光明結社が遣わせた錬金術師。」

「あれが異端技術の提供者たち……!」

 

 彼女達こそがバルベルデ政府軍を裏から支援していたパヴァリア光明結社の錬金術師だ。大統領はあともう一人、錬金術師がいたはずと一瞬考えたがそんな事は今はどうでもいい。

 

「同盟の証がある者には、手を貸す約定となっている!国連軍がすぐそこにまで迫っているのだ!奴らを撃退してくれ!」

 

 彼らの着ているスーツや軍服の襟に止められているバッジ、パヴァリア光明結社のシンボルマークのバッジ。それが大統領の言う同盟者の証だ。大統領は彼女達に望みを伝える。

 だが彼女達が歌い終わると、彼らがつけているバッジが輝き出し

 

「ぁ……うあああああぁぁぁぁ!!」

 

 皆体中を掻きむしりながら断末魔を挙げ、身体が光の粒子となって消えた。大統領もまた同じように身体を掻きむしりながら悲鳴をあげている。

 

「痒い!痒い!でも……ちょっと気持ちいぃ……」

 

 最期の言葉がそれでいいのかとツッコみたくなるが、結局、バッジを着用していた大統領とその側近達は全員消滅した。

 

「73788……」

 

 先程人の身体だった光の粒が、サンジェルマンの掲げた右手に球体となって集まった。彼女が呟いた数字も、恐らく同じような最期を迎えた人間の数だろう。

 三人は地下へと繋がる階段を見つけ、降りて行った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 プラント施設を制圧した装者達だったが、バイデントのヘッドギアと連結しているバイザーの反応もなく、中をくまなく探しても見つからなかった事から、既に指揮官はここから逃亡していた。

 

「駄目……反応がない。」

「バイデントの索敵が利かぬ所まで、指揮官には逐電されてしまったようだな……。」 

 

 瑠璃と翼が悔しげに呟くと響とクリスが、現地の少年を連れて来た。

 

「翼さん、この子が!」

「俺、見たんだ!工場長が車で逃げていくのを!もしかしたら、この先の村に身を顰めたのかも!」

「君はさっきの……!」

 

 彼は先程、瑠璃に建物の崩落から救われた少年だった。

 

「俺はステファン!俺達は無理矢理、村からプラントに連れて来られたんだ!」

 

 ステファンの言う事が本当なら人質を取られている可能性がある。愚連隊並にモラルが低い彼らならやりかねない。ステファンを伴って、四人はその村へと向かった。

 

 一方、オペラハウスの地下に入ったサンジェルマン達。雰囲気はともかく、オペラハウスと言う割には置いてある物はその場所の名前に相応しくない異端技術の品々が置かれている。ディー・シュピネの結界が張られていただけの事はある。

 三人が何を探していると、目的のものが見つかり、その前に足を止めた。ボロボロの布を取り払うと、そこには橙色の結晶。その中に、1つ目のバイザーをした小さな人形があった。

 

 その様子を背後から尾行し、双眼鏡で観察する者達がいた。藤尭、友里率いるS.O.N.G.の調査部だ。彼らはこのオペラハウス一帯が探知出来ない事を怪しんで調べたが、その読みは当たった。彼らはサンジェルマン達に気付かれないよう尾行していたのだ。だが……

 

 ビーッ!ビーッ!

 

「なっ?!」

 

 藤尭が持っていたタブレットが、スキャン完了のアラームが大きく鳴り響いた。当然物音すらないこの空間でそんなけたたましい音が響けば誰でも気付く。サンジェルマン達にも、自分達の存在がバレてしまった今、尾行を意味を成さない。

 

「撤収準備!」

 

 友里の号令で撤退の準備をする。その際に、足止めの為に調査部の面々が、サンジェルマン達に向けて一斉に射撃するが、バリアで簡単に防がれる。その後の撤退は迅速だった。

 

「会ってすぐとはせっかちね……え?」

「実験にはちょうどいい。ついでに、大統領閣下の願いも叶えましょう。」

 カリオストロが錬金術を放とうとするが、サンジェルマンに制止される。するとサンジェルマンは龍の置物の方を向くと、先程の光の球体を手に出現させる。

 

「生贄より抽出されたエネルギーに、荒魂の概念を付与させる……。」

 

 S.O.N.G.の調査部は三台の車でオペラハウスを後にして、本部まで走らせている。だがその背後から白い龍が、オペラハウスの天井を突き破って襲い掛かってきた。友里は運転中で後ろを振り返れなかったが、バックミラーを見やるとその姿は確認できた。

 

「何なのあれ……?!」

「本部!応答してください!本部!」

『友里さん!藤尭さん!」

『装者は作戦行動中だ!死んでも振り切れ!』

「死んだら振り切れません!」

 

 藤尭の泣き言同然のボヤきをかますが、そうも言ってられない。既に後ろを走っていた二台の車が龍によって破壊されていた。となると当然次の獲物は自分達ということになる。龍の激しい攻撃を何とか躱すが、真っ直ぐ走っているだけではジリ貧だ。龍が最後の車を破壊しようと突撃してくる。

 

「軌道計算、暗算で!」

 

 藤尭がサイドブレーキを引いて、速度を落とした事で、攻撃は避けられた。が、すぐさま前方の地中に潜り込んでいた龍が地上に姿を現し、車を突き上げた。車は大きく転落、真っ逆さまになってしまう。

 

「あなた達で、73794。」

 

 車から何とか抜け出せた友里、藤尭だったが目の前にはサンジェルマン達三人がこちらを見下ろしている。今度こそ詰めだ。

 

 

「その命、世界革命の礎と使わせていただきます」

「革命……?」

 

 藤尭がオウム返しに呟くが、どの道殺される事に変わりはない。ここまでかと思われたその時……

 

 Seilien coffin airget-lamh tron……

 

 聴こえたのはアガート・ラームの起動詠唱。この絶体絶命の状況に、マリア、切歌、調がギアを纏い現れた。三人はサンジェルマン達と正面から対峙した。




おまけ

輪:瑠璃達はバルベルデに行ってるけど、その間私達出番がないんだけど。

未来:しかたないですよ。ギアを持ってないんだから。

輪:そうなんだけどさ〜!私は主役の親友ポジなの!原作で言うあんたと同じポジション!それなのにAXZ編初っ端からナレーションだけでセリフなしは酷くない?!私もギアを纏って活躍したい!何だったらこの際ファウストローブでも良いから戦わせて出番増やしてよ〜!


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迫られる残酷な選択

AXZ編になってようやく出番を貰えた輪……

がほんのちょっとだけ。


 藤尭と友里の絶体絶命の危機を救ったのはマリア、切歌、調の三人だった。三人は自分達を見下ろすパヴァリアの錬金術師三人を見上げ、アームドギアを構える。

 

「ようやく会えたわね、パヴァリア光明結社。今度は何を企んでいるの?」

「革命よ。紡ぐべき人の歴史の奪還こそが、我々の本懐!」

 

 マリアの問いに、サンジェルマンは見下ろしながら答えると龍『ヨナルデパストーリ』が咆哮を挙げ、マリア達に襲い掛かる。だがマリアは正面から龍へと向かい、その身体を縦横無尽に駆けて切り刻む。だが龍は倒れず、切歌達にそのまま襲い掛かる。

 

「攻撃が効いてないデス?!」  

 

 調は友里を抱え、切歌は藤尭を背負って避けた。その素早さにカリオストロは親指の爪を噛んで苦々しくなる。

 

「やだぁちょこまかとぉ!」

「だったらこれで動きを封じるワケダ。」 

 

 プレラーティは真顔の表情を変えず、アルカ・ノイズの召喚石をばら撒いた。

 マリア達を囲うように、アルカ・ノイズは召喚されるが、装者達に動揺はない。三人はアルカ・ノイズを危なげもなく切り刻んでいく。だが三人には一つの欠点があった。

 

「この身体はキャロルがくれたもの……だけどいつも僕は無力で足手まといだ……!」

 

 三人がギアを纏っているということは最後のLiNKERを使ってしまったという事だ。しかもLiNKERのレシピも解析しきれていない故に作る事も出来ない。本部のモニターで三人が戦う所をただ見ている事しか出来ないでいる事に、エルフナインは悔しさを滲ませていた。

 

 LiNKERの効果が切れる前に撤退しなければ全員仲良くお陀仏だ。そうならない為に、三人は全力で目の前の敵を迎え撃つ。

 だがアルカ・ノイズを滅する事は出来たが、問題はヨナルデパストーリだ。切歌と調が攻撃してもダメージが入っている様子がない。いや、ダメージは与えていた。実際マリアの攻撃も二人の連携攻撃も通っていた。しかし、ダメージを負っている様子がまるでない。

 

「ダメージを減衰させているのなら、それを上回る一撃で!」

 

 左腕の篭手から無数の短剣を出し、それを自身を円状に囲い、高速回転させると竜巻を纏い、ヨナルデパストーリに突撃、その口に風穴を空けてみせた。

 

【TORNADO✝IMPACT】

 

「やった!」

 

 藤尭がガッツポーズをするが、それは大抵やってない時の定番のお約束である。確かにヨナルデパストーリにダメージは入ったが、何とすぐさま元の形に再生、というよりはそもそも攻撃を受けてないかのようになっている。

 

「無かったことになるダメージ。」

「実験は成功というワケダ。」

「不可逆であるはずの摂理を覆す埒外の現象。ついに錬金術は人知の叡智、神の力を完成させたわ。」

 

 これでは致命傷を与えても無かった事にされ活動を続けられてしまう。そんな不死身のヨナルデパストーリ相手に打つ手がない。ならば倒せない相手にわざわざ付き合う必要はない。マリアは大量の短剣を弾幕のようにばら撒いた。

 

「この隙に退くわよ!」

「逃さないんだからぁ♡」 

 

 カリオストロはバリアを張ってそれらを防ぐ……が

 

「あっ……!痛〜い!」

 

 一本だけその守りを抜かされ、頬を掠めた。

 この隙にマリア達は急いで敵の追撃を躱しつつ、弦十郎から送られた逃走経路に沿って走る。しかし、ヨナルデパストーリがしつこく追ってくる。逃げている全員がその不死性としつこさにうんざりする。

 そこに良いタイミングで、下に貨物列車が走っていた。一か八か、マリア達は列車の上に乗り移った。

 

「何とか飛び移れた……けど……!」

 

 全員乗り移れたが調の懸念通り、ヨナルデパストーリがどこまでも追いかけてくる。このままでは列車ごと自分達もやられてしまう。

 

「え?」

 

 突如ヨナルデパストーリが消失した。先程まで暴れ狂っていた巨大な龍の姿がどこにもない。

 

「なぁに〜?ヨナルデパストーリをけしかけちゃわないのぉ?」

「神の力の完成は確認出来たわ。まずはそれで充分よ。それよりもティキの回収を急ぎましょう。」

 

 先程の結晶の中に閉じ込められていた人形、ティキを回収する為にヨナルデパストーリを消した。しかし、その気になればあのまま追撃も出来たが、それを後回しにした事で、マリア達はこの危機を脱する事が出来た。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ステファンの案内で、近くの村へと急行している瑠璃達。そこに指揮官が逃げ出したと思われるからだ。

 

「この先が俺の村です!軍人達が逃げ込むのだとしたら……」

「待って!この先……!」

 

 瑠璃はバイデントのバイザーの反応をキャッチしたが、装者達とステファンは目の前の光景に唖然とした。指揮官が少女を盾にしており、左手には黄金のスイッチ。辺りにはアルカ・ノイズが蔓延っており、まだ住民が残っている。

 

「分かっているだろうな?おかしな真似をしてくれたら、こいつら全員分解してやる!」

 

 下衆な真似にクリスは嫌悪する。しかし自分達が動いてしまえば、アルカ・ノイズ達が先に動いて村人達を虐殺してしまう。故に手を出せない。

 

「要求は簡単だ。俺を見逃せ。さもなくば出なくていい犠牲者が出るぞ。」 

「卑劣な……!」

 

 このまま手をこまねいてしまえば、指揮官に逃げられてしまう。だが人質がいる限り手出しができない。指揮官の要求を飲むしかないと思われたその時

 

「がぁっ!」

 

 突如指揮官の後頭部にサッカーボールが直撃した。やったのはステファンだった。指揮官は装者に視線を集中していたあまり、ステファンが密かに裏手に周っていた事に気付かなかった。

 ボールが当たった拍子に少女を手放してた瞬間、ステファンが少女を助けた。

 

「ステファン!」

「っ……!」

 

 ステファンを呼ぶ声にクリスは一瞬驚いたが、この機を逃してはならない。今のうちに装者達はアルカ・ノイズを殲滅させた。

 ステファンの機転を利かせたお陰で惨事にならずに済んだ。

 

「ソーニャ……。」

 

 クリスは先程、ステファンを呼んだ女性を見てその名前を呼んだその時だった。

 

「ソーニャ……?ぅっ……!」

 

 瑠璃が再び頭を抱えて苦しみだした。その異変に気付いたクリスは瑠璃に駆け寄る。

 

「姉ちゃん!大丈夫かよ?!おい!」

「め……まだ……ぁっ……!」

「どうしたんだよ?!」

「きゃああああぁぁっ!」

 

 少女の悲鳴で、その方へと振り返る。指揮官は人質の少女を道連れにせんとアルカ・ノイズの召喚石をばら撒いていた。

 召喚された時、瑠璃はヘッドギアのバイザーでその反応に気付いていたのだが、あの悪夢のヴィジョンが再び蘇り、苦しんでいるタイミングで召喚された為、何とかクリスに伝えようとしていたのだ。

 

「しまった……!」

 

 クリスがクロスボウを構えるが間に合わない。少女にアルカ・ノイズの解剖器官が迫る。だがそこにステファンが少女を押し倒した事で、少女は分解されずに済んだが

 

「うわああぁぁっ!」

 

 代わりにステファンの右下腿に解剖器官が巻き付いてしまった。このままアルカ・ノイズを倒しても、そこからステファンの身体は分解されてしまう。非情な選択を強いられてしまうクリス。

 

「ぅっ……クソッタレがああああぁぁぁ!!」

 

 クリスがクロスボウの矢が放たれた。血が、肉が切られる音と、ステファンの悲鳴が夜空に響いた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 日本。バルベルデとの時差は10時間以上も違う為、日本は今昼前。夏休み中でも開放しているリディアンの図書室で一人、輪は本を読んでいた。

 ここの所瑠璃の様子がおかしい事を察知していた輪は、S.O.N.G.がバルベルデへ発つ前に、弦十郎からその訳を聞いていた。

 

(瑠璃が悪夢に悩まされてるなんて……。しかもこのタイミングでバルベルデ……。大丈夫かな……。)

 

 瑠璃が苦しんでいるのに、自分は何も出来ない。せめて瑠璃の苦しみを少しでも肩代わり出来たらと考えるが、所詮はもしもの話。何の解決もしない事を考えても仕方なかった。

 輪は適当に本を出してそれを開こうとした時……

 

「痛っ……!」

 

 人差し指を切ってしまった。指のお腹の切り傷から出血してしまう。鞄からティッシュを探すが、切らしている事に気付いてため息を吐く。

 

「はぁ……最悪……。」

「ため息が出ると幸せが逃げる。」

「え?」

 

 ため息をしたら突然そのような事を言われて、自分の事だと思った輪は、思わず驚きながら振り返る。そこにいたのは瑠無だった。

 

「あ、ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんだけど……。」

「あ、いえ……。それよりも今のって……私に言いました?」

「まあ……ね。ため息ついている人を見ると、何だか気になっちゃって。あら?怪我してるじゃない。保健室に行きましょう。手当してあげる。」

 

 輪の指の出血を見た瑠無は輪を保健室へと連れて行った。

 

 

 

 




瑠璃の楽曲 AXZ編

ロストピースメモリー

失った記憶に苛まれながらも前を向く為に戦う覚悟を胸に刻む思いを歌にしたもの。


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葛藤

オリジナルで日本でのやり取りも入れました。
とは言ってもオリキャラ同士の語り合いですが。


 瑠無に保健室へ連れて行かれた輪。生徒用の椅子に座り、瑠無に傷を見せると、彼女は救急箱から必要な道具を出す。消毒液を染み込ませたガーゼを傷口に当て、絆創膏を貼る。

 

「ありがとうございます。」

「いいえ。これもお仕事だから。それより、あそこでため息なんてついて、どうしたの?」

 

 瑠無は背もたれが少し大きめのデスクチェアに座って輪と面と向かい合っている。

 

「あ……実は……親友の事で……。」

「というと?」

「最近……何だか苦しそうで……。もしかしたら、過去の事で何かあったんじゃないかって思うんです……。でも他人の私がどうこう言っても良くなるわけではないし……。」

「なるほどねぇ……。」

 

 瑠無は脚と腕を組んで、天井を見上げて考える。

 

「大事なんだね。その子の事。」

「はい。瑠璃は私の一番の親友ですから。あっ……言っちゃった。」

 

 思わず輪は瑠璃の名前を出してしまい、それに気付いて口元を隠す仕草をする。

 

「瑠璃?その子ってもしかして風鳴瑠璃さんの事?」

「え、知ってるんですか?!」

「ええ。ここまでの道のりを案内してくれたの。だから顔見知り。」 

「へぇ……。」

 

 世間は案外狭い事を確認した。瑠無はデスクチェアから立ち上がって、鞄から魔法瓶を出すと、紙コップにコーヒーを注ぐ。

 

「なるほどねぇ……。ならなおさら辛いでしょうねぇ。コーヒーは飲める?」

「あ、はい。とは言っても無糖は苦手です。」

「分かった。あ、蜂蜜入れる?」

「え?」

 

 コーヒーに蜂蜜なんて聞いたことがない。そんなゲテモノな組み合わせが合うのかと疑問を抱くが、ちょっと試したいという好奇心もある。

 

「じゃあお願いします。」

 

 好奇心が勝った。瑠無は注いだコーヒーの中に蜂蜜を入れ、それが入った紙コップを輪に渡す。

 

「いただきます。」

 

 恐る恐る一口飲む。すると輪は目を見開いた。

 

「あ、美味しい……!」

「ふふっ……やっと笑った。」

「え?」

 

 瑠無はデスクチェアに腰掛けながらコーヒーを飲む。

 

「ため息っていうのは、どんな事も良くないイメージになる。だから私はどんな時でもため息をつかない。」

「おお……何か名言っぽい。」 

「まあ人の受け売りだけどね。」

「え?」

 

 せっかくかっこいい事言ったのに、最後の一言でキョトンとしてしまう。ただ、さっきまで悩んでいたのが、嘘みたいに気が楽になった。

 

(過去の事は、本人がどうにかするしかない。だけど、少しでもその恐怖を和らげてあげる為に、私が側にいて支えるんだ。)

 

 そう決意するとコーヒーを一気に飲み干した。椅子から立ち上がって紙コップをゴミ箱に捨てる。

 

「ごちそうさまでした。美味しかったです。」

「いいえ。また何かあったらここにおいで。」

「はい!失礼しました!」

 

 一礼して、保健室を後にした。一人残った瑠無は、アタッシュケースを開くと筒のようなものを出した。すると突然、テーブルの上に置かれていたダイヤル式の固定電話が鳴り、受話器を取る。

 

「はい……私です。え……?はい……分かりました。」

 

 瑠無は受話器を電話機に戻すと、窓の外の空を見上げ不敵な笑みを浮かべた。

 

(そうか……。これは……皆が来るのが楽しみだな……。)

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 アルカ・ノイズを殲滅させて、指揮官は拘束して任務は果たされた。だがその中にある一つの悪いニュース。少女を庇ったステファンの右足がアルカ・ノイズの解剖器官に巻き付かれてしまった。全身が分解される前に、クリスがクロスボウの矢で右下腿を撃ち抜いた。それによりステファンは全身が分解されずに済んだが、その代償が足を失うという結果になってしまった。

 

「ステファン!ステファン!どうしてこんな……」

 

 担架の上で応急処置をしているが、血が止まらない。ソーニャは痛みにうなされるステファンを呼び続けた。

 

「ソーニャ……。」

 

 クリスが歩み寄った。助ける為とはいえステファンの足を撃ち抜いた事に申し訳なく思っている。もちろんクリスも好きで足を撃ち抜いたわけではない。

 

「クリス……!あなたが弟を……あなたがステファンの足を!」

「ああ……。撃ったのは、このあたしだ……。」

 

 ソーニャは弟の足を撃ったクリスに怒りをぶつけた。クリスもそれを承知の上でやった事なので受け入れたのだが

 

「待ってください……!ソーニャ……さん……!」

「姉ちゃん……。」

「ルリ……?!」 

「クリスのせいじゃないです……。私があの時……もたついたせいで……。クリスは……ただ……ステファン君を助ける為に…………」

「そんなので納得出来るわけないじゃない!」 

 

 瑠璃があの時、悪夢のヴィジョンに苦しまなければアルカ・ノイズの反応に対してすぐに対処出来ていた。そういう意味ではこれら瑠璃の失態である。

 だがどんなに弁明しようともやったのはクリスだ。撃ったのがクリスである以上、彼女への怒りが収まるわけがない。

 

「姉ちゃん……もう良い。やったのはあたしだ。姉ちゃんは関係ねえよ。」

「クリス……ごめん……。」

 

 クリスに要らぬ苦しみを背負わせた事に、瑠璃は罪の意識を感じていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その頃、オペラハウスに戻っていたサンジェルマン達は目的の結晶の中にある人形を前に、サンジェルマンは一人、400年前の事を思い出していた。

 この人形、『ティキ』と呼ばれ、かつてパヴァリア光明結社の統制局長が命じて作られたオートスコアラー。結社の悲願である革命には必要不可欠な存在だった。だがその頃、異端技術独占を狙うフィーネと衝突、激しい戦闘の末、両者はティキを失うという結果に終わり、結社の計画は頓挫しただけでなくフィーネによって歴史の裏側へと追いやられてしまった。だがこうして400年という長い歳月を経て、再び取り戻した。

 

「あとはこのお人形をお持ち帰りすれば、目的達成ってワケダ。」

「それはそれで面白くないわ。」 

 

 先程の戦闘でマリアによって頬に傷を負い、絆創膏で隠していたカリオストロは、どこか満足していないようだった。

 

「天体運航観測機であるティキの奪還は、結社の計画遂行に不可欠。何より……」

「この星に、正しく人の歴史を紡ぐのに必要なワケダ。そうだよね、サンジェルマン?」

「人は誰でも支配されるべきではないわ。」

「じゃあティキの回収はサンジェルマンにお任せして、あーしはほっぺたのお礼参りにでもしゃれこもうかしら。」

 

 そう言うとカリオストロは、この地下倉庫から去ろうとすると、サンジェルマンはそれを咎める。

 

「ラピスの完成を前にして、シンフォギア装者との決着を求めるつもり?」

「勝手な行動を……それではアルベルトが黙っていないワケダ。」 

 

 彼女達にはもう一人、信頼する仲間がいる。その名はアルベルト。彼女には計画遂行の為に別行動を取っており、他にも様々な重大な任務を任せている。

 

「それでも、ヨナルデパズトーリがあれば、造作もない事でしょ?今までさんざっぱら嘘をついてきたからね。あの子には悪いと思うけど、せめてこれからは、自分の心には嘘をつきたくないの。」

 

 元々は嘘にまみれた詐欺師だったカリオストロ。それも元は男だった。しかし、サンジェルマンと出会い、彼女の力によって生物学的に完全な身体構造である女へと変化、さらに自分の居所を作ってくれた事で、彼女を慕うようになり、自分の気持ちに正直に生きる事を決めた。

 それ故に、借りを返さなくては気が済まないカリオストロは階段を上がって地下倉庫から出て行った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ステファンを都市部の病院へと送る為に、瑠璃達は緒川が運転する車の荷台にステファンを担架で担いで乗せて、自身達も荷台に乗っている。応急処置は済ませたが、包帯は既に血で赤く滲んでおり、止血しきれていない。助かったとはいえこれでは素直に喜べない。特にクリスは。

 

 雪音姉妹とソーニャ、かつて雪音姉妹の両親がバルベルデに訪れた時、その活動を手伝っていたのがソーニャだった。二人はソーニャは姉のように慕っていたのだが、ある時ソーニャが救援物資が爆弾である事を知らずに倉庫にしまった事で、その爆破に巻き込まれた夫妻は亡くなってしまう。この時、クリスはこうい言い放った。

 

『ソーニャのせいだ!』

 

 あの時、クリスはソーニャに向けてその怒りをぶつけた。ちなみにその後、ソーニャと別れてしまい、双子は戦果の中を彷徨った。その時にルリにソーニャを責めた事を咎められた。だが今の瑠璃はソーニャの事も、両親が何故死んだのかも覚えていない。

 それからソーニャに謝りたいと思っていたが、ルリと離れ離れになり、クリスは反政府組織の部隊に捕まった。そして9年後、今度は逆の立場になってしまった。クリスが取った選択は間違ってはいないが、怒りというのは理屈でどうにかなるものではない。だからソーニャはクリスがステファンの足を撃った事を許せないのだろう。

 クリスはステファンの足を撃った事を後悔していない。だがその責任を感じている。ステファンが魘されているのを見ると、自分を責めずにはいられなくなる。だが……

 

「あっ……。」

 

 ステファンの手が、クリスの足にそっと触れた。痛くて苦しいはずのに、それでもクリスの味方でいる。その足に触れた手に、クリスは握り返すかどうか悩んだ。

 

「クリス……。」

 

 瑠璃に小声で呼ばれると、静かに頷いた。その意味を悟ったクリスは、ステファンの手を握った。

 

(ありがとう……ステファン……姉ちゃん……。)

 

 そこに翼の通信機に弦十郎から通信が入る。

 

 

『エスカロン空港にて、アルカ・ノイズの反応を検知した!現場にはマリア君達を向かわせている!』

 

 先程、村に行く前にマリア達がギアを纏う為に最後のLiNKERを使ったと通信があった。つまり、まともに稼働できる時間が僅かしかない。

 

「了解です。都市部の病院に負傷者を搬送後、私達も救援に向かいます。」 

 

 果たして救援に間に合うか、いや間に合わせなければならない。

 

 




瑠無・カノン・ミラー

今夏リディアンに赴任したアメリカ人の養護教諭。養護教諭ではあるが、考古学にも精通していて、資料を持ち歩いている。
明るくて面倒見のいいお姉さんのような性格。過去にため息について教えてもらった事がきっかけで、ため息を吐く事をしなく鳴った。
味覚が独特で奇天烈な組み合わせ、ゲテモノ料理を好む。


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最後まで諦めない

名前だけ出ていましたが、オリジナル錬金術師の登場です!


 エスカロン空港では地獄絵図と化していた。政府軍が駐屯していたが、突然自分達が使役していたはずのアルカ・ノイズに分解され、現場は惨劇となっていた。

 このアルカ・ノイズを召喚したのは滑走路付近にある倉庫の上で見下ろしているカリオストロであった。パヴァリア光明結社がしたのは支援だけで元より仲間と思ってはいない。故に装者達をおびき出す為の餌として利用している。

 

「派手に暴れて装者たちを引きずり出すワケダ。」

 

 そこにプレラーティがカリオストロの横に並び立つ。

 

「あら、手伝ってくれるの?」

「私は楽しい事優先。ティキの回収はサンジェルマンに押し付けたワケダ。」

 

 そう言うとプレラーティは、夜空を見上げる。星を眺めているわけではない。上空に聞こえるヘリのローターの音で装者達が来ると睨んでいた。

 プレラーティの予想通り、ヘリの扉が開くと中にはマリア、切歌、調の三人が見えた。

 

 Seilien coffin airget-lamh tron……

 

 マリアが起動詠唱を唄い、ギアを纏うと調と切歌も続いてギアを纏い、敵に向かっていく。調のツインテールのアームバインダーが開き、小型の鋸が無数に降り注ぎ、アルカ・ノイズの大群を切り刻む。

 

【α式・百輪廻】

 

「のっけからおっぴろげなワケダ……!」

 

 マリアが倉庫の屋根に降り立つと、プレラーティはヨナルデパストーリを開放せんと右の掌に魔法陣を浮かべた時、イガリマの肩部のアーマーから放たれたアンカーが身体中に巻き付き拘束される。

 

「早速捕まえたデス!」

「もう何やってるのよぉ?!」

 

 拘束されたプレラーティにカリオストロは呆れるが、マリアがそこに斬りかかる。それを後退しつつ避け、カリオストロは光弾を放つ。これをマリアはカリオストロに向けて走って躱し、そのまま距離を詰めていく。

 

「アガートラーム、シュルシャガナ、イガリマ、敵と交戦!」

「適合係数、安定しています!」 

 

 本部のブリッジでその戦闘の様子はモニタリングされている。別のモニターには三人のバイタルが表示されている。先程の戦闘でLiNKERを使い、まだ効果は残っているが、残り時間はもはや残されていない。その前に決着をつけなければならない。

 

「今度はこっちで、無敵のヨナルデパストーリを……」

 

 カリオストロがヨナルデパストーリを召喚しようとすると、彼女の顔面にマリアの拳が叩き込まれる。しかも先程負傷した頬と同じ所に。

 

「攻撃の無効化、鉄壁の防御……だけどあなたは無敵じゃない!」

 

 その勢いに乗せて、カリオストロを地面に叩き落とす。

 一方プレラーティもいつまでも拘束されたままでいるわけもなく、魔法陣を展開させるとアンカーを吹き飛ばして拘束から解放される。そこに調と切歌が連携して攻撃する。

 

(繰り出す手数で、あの怪物の召喚さえ抑えてしまえば!)

 

 ヨナルデパストーリを召喚させるまでのタイムラグ、その時間さえ与えなければヨナルデパストーリを召喚出来ない。三人はそれぞれの相手に手数で押しきろうとする……が

 

「ぐぅっ……!」

 

 三人の身体に激痛が走る。モニターでも警告音が鳴り響く。LiNKERの効果が切れかかった事で適合係数が低下し、そのバックファイアが三人の身体を蝕んでいる。さらに悪い知らせはそれだけではない。

 

「司令!シュルシャガナとイガリマの交戦地点に、滑走中の……」

「航空機だとぉ?!」

 

 滑走路を走る航空機が戦闘中に迫っていた。パイロットと副パイロットも操縦席からその激戦を確認出来た。

 

「人が!割と可愛い子たちが……」

「構うな!止まったらこっちが死ぬんだぞ!」

 

 何と航空機の後ろから大量のアルカ・ノイズが高速に回転しながら滑走路にプリマ・マテリアを撒き散らして迫っていた。飛ばなければ自分達の命は失われる為、その危機になりふり構っていられない。彼らに飛ぶ以外の選択肢はない。

 

「調!」

「切ちゃんの思うところはお見通し!」

「行きなさい!後は私に任せて!」

「了解デス!」

 

 切歌の提案を聞かずとも、意思疎通する。マリアがカリオストロとプレラーティを抑えている間に、調と切歌が航空機の救援へ向かう。

 

「あの二人でどうにかなると思っているワケダ。」 

「でもこの二人をどうにかできるかしら?」

 

 数的には不利、LiNKERの効果時間も殆どなく適合係数も低下しつつある。しかし、マリアは初めから二人を倒そうなんて考えていない。二人を足止めし、ヨナルデパストーリを召喚させなければどうにでもなる。二人を相手に、マリアは一人で立ち向かう。

 

 航空機に迫るアルカ・ノイズを切歌と調がそれぞれのギアの飛び道具で真っ二つにしていくが、二体のアルカ・ノイズがその間をかいくぐって航空機のタイヤを攻撃、分解してしまう。このままでは走行スピードが足りずに充分に離陸出来ない。だが調と切歌が、航空機の後方機体を支え、さらに調は脚部のローラーの回転速度を高め、切歌の肩のアーマーのブースターを点火させる事で加速、スピードを落とさせない。

 だがその間にも三人の身体にはバックファイアによるダメージが襲い掛かる。しかしそれでも三人は諦めていない。

 

(諦めない……心……。っ……!あれは……!)

 

 その時、マリアの身体に淡い輝きが発した。しかしすぐにギアのバックファイアによるダメージがマリアを苦しめた事ですぐに消えてしまった。だがその一瞬をエルフナインはそれを見逃さなかった。

 

 『皆さん!もう一瞬だけ踏みとどまってください!その一瞬は、僕がきっと永遠にしてみせます!僕もまだ、LiNKERのレシピ解析を諦めていません!だから……諦めないで!!』

 

 エルフナインの叫びに、三人は頷き合って応える。

 調が航空機の支えから離れた瞬間、切歌の肩と足のアーマーをさらに巨大化させて、一人でその速度を保たせる。航空機の前方機体へと移動した調はツインテールのアームで航空機を支え、脚部のローラーをタイヤのように変形させる。後方の切歌が、アームドギアである大鎌の柄を調に向かって伸ばすと、それを調が掴んで脚部のタイヤのスパイクを形成しながらブレーキを掛ける。さらに切歌がブースターの最大出力を解放させながら機体を持ち上げ、陸から離れた航空機を投げるように飛ばす。機体は管制塔をギリギリ飛び越えて空へと飛んだ。

 マリアは短剣を篭手の後部に連結させると、変形させると砲身へと変形させて、波動砲を放つ。

 

【HORIZON✝CANNON】

 

 叫びとともに放ったその砲撃の光はカリオストロとプレラーティを飲み込んで、爆発した。同時に三人のギアが強制的に解除された。ギアのバックファイアダメージに耐えて戦っていた為、その息遣いも荒い。

 

 だが爆炎が晴れた途端、マリアはその光景に目を疑った。直撃したはずの二人が五体満足に立っている。

 

「まだ戦えるデスか?!」

「でも、こっちはもう……」

 

 もうLiNKERはない。ギアも纏えず戦う力も逃げる体力すら残っていない。生身では錬金術を防ぐ術もない。

 

「おいでませ!無敵のヨナルデパストーリ!」

 

 さらにカリオストロがヨナルデパストーリを呼び出してしまった事で、状況は圧倒的に悪くなってしまう。

 

「時限式ではここまでなの……?!」 

 

 もはや勝機などない。だがその絶望に一人、飛び込む者がいた。

 

「うおおおおぉぉぉ!!」

 

 雄叫びと共にガングニールを纏った響が駆けつけ、その勢いのままにヨナルデパストーリの頭を殴った。

 

「効かないワケダ。」

 

 ヨナルデパストーリに受けるダメージは無かった事にされる。プレラーティは響の攻撃に嘲笑う。

 

 だが予想外の事が起きた。打ち抜かれたヨナルデパストーリの身体が元に戻らないばかりか、その身体が膨張を始める。無敵であるはずのヨナルデパストーリの異変にカリオストロとプレラーティは驚愕を露にする。

 

「それでも無理を貫けば……!」

「道理なんてぶち抜けるデス!」

 

 再び叫びと共に、響が一撃をヨナルデパストーリに入れた。その結果、ヨナルデパストーリの頭と胴体が分かれるように破壊され、ヨナルデパストーリは跡形もなく崩れ去った。

 

「どういうワケダ……?!」

「もう〜!無敵は何処に行ったのよ〜?!」

 

 カリオストロは身体をくねらせながら、崩壊した無敵性に文句を言う。プレラーティも、目の前の事態を受け入れられずにいる。

 響はそのまま着地し

 

「だけど私は、ここにいる!!」

 

 二人の錬金術師と相対し、その姿をハッキリと捉えた。さらに翼とクリス、瑠璃も到着した。ヨナルデパストーリを失い、さらに四人の装者の登場で形勢は再び逆転した。しかしカリオストロとプレラーティは、その程度で抵抗をやめるはずがない。再び開戦となろうとしたその時、サンジェルマン、そしてもう一人の錬金術師がどこからともなく現れた。

 

「サンジェルマン?!」

「アルベルト……!」

 

 タンクトップ型の赤黒い上着に藍色のズボン、前腕まで覆うグローブを着けている。口元以外を覆った仮面を着けており、風貌までは分からないが黒髪で、長い髪をポニーテールに結っている。特にこめかみの髪が肩まで届く程にながいのが特徴的だった。

 

「サンジェルマンはともかく、なんでアルベルトまで?」

「統制局長の指示でね……。少し前からサンジェルマンと合流したのだが……ヨナルデパストーリを倒すとは……何とも興味深い……。」 

 

 やや低めの声色ではあるが、身体付きを見る限り女である。アルベルトは笑みを浮かべながら装者達を見ている。

 

「派手にやっていたようね。カリオストロ、プレラーティ。そして……フィーネの残滓、シンフォギア!だけどその力では、人類を未来に解き放つ事は出来ない!」

 

 フィーネの名を口にした事で、装者達は驚愕する。

 

 

「フィーネを知っている?!それに、人類を解き放つって……」 

「まるで、了子さんと同じ……バラルの呪詛から解放するって事?!」

「まさか、それがお前たちの目的なのか?!」

「さあね?いずれにしろ、君達との衝突は避けられない。」

 

 サンジェルマンに代わって、アルベルトが装者達に言葉ではぐらかす。

 

「カリオストロ、プレラーティ、アルベルト、ここは退くわよ。」

「ヨナルデパストーリがやられたものねぇ……。」

「態勢を立て直すわけだ。」

「今日はほんの挨拶程度だから良いか……。」

「未来を、人の手に取り戻す為、私達は時間も命も費やしてきた。この歩みは誰にも止めさせやしない。」

 

 サンジェルマンはテレポートジェムを足元に投げて割る。そして、彼女達も周りに魔法陣が展開され、転移した。

 彼女達が掲げる革命、人類の解放、それが何を意味するのか装者達は理解出来なかった。パヴァリア光明結社の手が離れた事で、S.O.N.G.は役目を終え、それぞれ帰るべき所へと帰る事になった。

 

 




おまけ

輪:だけど私は、ここにいる!! 

創世:凄ーい!ビッキーに似てる!

詩織:ナイスモノマネです!

弓美:じゃあ次は翼さん!

輪:常在戦場……!

未来:じゃあ弦十郎も。

輪:良いよー。はああぁぁ!!(木の板を5枚割る音)  飯食って映画見て寝る!男の鍛練は、そいつで充分よ!

未来:何もそこまで真似しなくても……


そしてお知らせです。

先日締め切ったR-18版のアンケートですが、第一話はの相手は輪に決定しました!
最初はきりしらと翼さんがトップだったんですけど、いつの間にか輪がぶっちぎりに上位に君臨していました。
というわけで、第一話は輪とのお話にし、好評だった場合、他のキャラとの交わりも書く予定です。



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日常をも蝕む悪夢

束の間の日常パート……にな程遠いかな?


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ!誰か助けて!嫌だあぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 り……る……り……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やめてえぇぇ!!放してぇぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だいじ……り……?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瑠璃!!」

「っ……!」

 

 輪の声で我に返った瑠璃。辺りを見回すと、クリスや他のクラスメイト達がこちらを見ている。何かあったのかと気になるのだろう、視線が瑠璃に集まっている。その中でクリスだけは心配していた。

 

「えっと……あの……」

「風鳴さん。」

「は、はい……!」

「どこか顔色が悪いようですけど、大丈夫ですか?」

 

 自分ではそう思っていないのだが、客観的な目線ではそうなのだろう。瑠璃は大丈夫であると言おうとしたが心当たりがある為に、ハッキリと言えなかった。

 

「念の為、保健室へ行ってきなさい。そうですね……雪音さん、彼女の同伴をお願いします。」

「は、はい……!」

 

 突然講師に指名されて動揺したが、すぐに落ち着いて具合の悪い姉を保健室へと連れて行く。

 

 バルベルデの任務を終え、翼とマリアはロンドンへ、それ以外の装者達は日本へ戻り、束の間の日常へ戻っていた。今日は夏休み明け初日ということもあり午前登校だけなのだが、ホームルーム中に瑠璃はあの悪夢によって苦しめられていたのだ。

 

 ちなみにリディアンでは関係者以外の生徒に過去を探られないように、幼馴染と伝えてある。『姉ちゃん』という呼び方をしている事についても幼い頃によく遊んでもらったという体で通している。故に殆どの生徒が、二人が本当の姉妹である事を知らない。

 クリスは瑠璃を保健室まで送るべく同伴している。三年生の教室は二階であり、保健室は一階となっている。なのでそこまで掛かることはない。階段で一階へ降りると保健室へ向かう。

  

「姉ちゃん……やっぱり……」

「大丈夫だよ……。少し寝不足なだけ……」

 

 確かに瑠璃の目の周りに隈が出来ている。ここの所悪夢に苛まれる頻度が日に日に増え、眠れないのだろう。通院もしており、処方箋も貰わなければならない程に悩まされているのだからクリスはなおのこと心配になる。

 あの地獄の6年間でルリに何があったのか、それを知ればその痛みを少しでも背負えるんじゃないのか?クリスは意を決して聞いてみる。

 

「姉ちゃん……姉ちゃんが見てるゆ……」

「それより、クリスはどうなの?」

「え……?」

 

 遮られるどころか逆に問われてクリスは歩みを止める。

 

「ソーニャさんとステファン君の事……やっぱり……」

「それこそ大丈夫だ。」

 

 瑠璃に心配かけさせたくないクリスは強引に遮って返す。悪夢に苦しんでいる姉に、これ以上重荷を背負わせない為に否定する。 

 抱えている苦悩を共有しない。大好きだから、心配かけたくない。考えている事は同じ、流石双子の姉妹である。

 

「あの、お二人さん?」

 

 声を掛けられた姉妹は振り返ると、後ろには瑠無がいた。

 

「そんな所で何をしているの?まだ授業中でしょう?」 

「あ、いや……。実は……」

「保健室へ行こうと……クリスはその付き添いです。」

「ああ……そういうこと。なら私が連れてくから、あなたは教室に戻りなさい。」

「お、おう……。じゃあまた後でな。」

「うん。」

 

 こうしてクリスは教室へと引き返し、瑠無についていくように保健室へと向かい、入った。瑠無はベッドのマットレスをポンポンと手招きするように優しく叩いた。

 

「ここを使って。」

「あ、あの……」

「歩いてる時に僅かだけどフラフラしてたし、その隈、明らかに寝不足ね。お薬出すから、そのベッドに座って待ってて。」

 

 瑠無が鞄から錠剤が入った小さいケースと紙コップを出している間、瑠璃は案内されたベッドへと腰掛ける。

 

「はい。これを飲んだら一度眠りなさい。」

「え?」

 

 錠剤と水が入った紙コップを渡されるが、突然渡された何の薬か分からない故に少し怪しさを感じる瑠璃。警戒しているのが分かったのか瑠無は優しく

 

「大丈夫よ。ただの精神安定剤だから。」

 

 そう言われた瑠璃は意を決して薬を口に入れ、水で流し込む。

 

「飲んだわね。じゃあ次に、そのベッドに寝なさい。」

「は、はい……。」

 

 腰掛けていたベッドに横になると、瑠無が布団を掛けてくれる。だが瑠璃はあの悪夢を見るのではと考えると怖くなって、身体が震える。そこに瑠無が優しく頭を撫でて微笑みながら

 

「大丈夫……きっと良くなる。」

「はい……。」

 

 瑠璃はその言葉を信じて目を閉じた。すると、今までの苦しみが嘘のように静かに意識が落ちていった。

 瑠璃が眠ったのを確認した瑠無は、そっとカーテンを閉めて、保健室から出て行った。

 

 

 放課後、瑠璃が心配になっていた輪とクリスは瑠璃の鞄を持って保健室へと足を運ぶ。その道中、輪はバルベルデにいる間の瑠璃の様子をクリスから聞いていた。

 

「そっか……そんな事が。」

「やっぱり姉ちゃんをバルベルデへ行かせるべきじゃなかったんだ……。姉ちゃん、キャロルとの戦いから様子がおかしくなってやがる。」

 

 瑠璃が見ている悪夢、輪の推測通りやはりルリの過去が関係している。果たして今の瑠璃は本当に記憶を取り戻していいのか、それは悪い結果に繋がる事は容易に想像がつく。だがいつかは知る時が来るかもしれない。そうなった時の為に、少しでも支えてやらなければと、瑠璃がバルベルデへ行っている間に決めたのだ。

 それに、問題点は一つだけではない。

 

「まあ様子がおかしいのはあんたも同じだけどね。」

「はぁ?」

 

 輪に問われ、思わずその足を止めてしまうクリス。

 

「気付かないと思った?姉妹揃って暗い顔してれば何があったのか……まあ内容は分からないけどさ、でも悪い方であるのは確実だよね?」

 

 勘付かれていた。クリスは忘れていたが、かつてフィーネの手下として動いていた時、クリスをネフシュタンの鎧の使用者である事を最初に看破したり、初対面であるにも関わらず切歌と調が当時二課と敵対していた組織の者なんじゃないかと、二課、もといS.O.N.G.の諜報員も顔負けの洞察力を持っている。

 輪には隠し事は通用しないと観念したクリスは自分が抱えているものを全て話した。

 

「命を助ける為とはいえ……片脚を吹き飛ばしちゃったか。ごめん、こう言うのも何だけど予想の斜め上だったわ。」

「だろうな。普通こんな話しねえよ。」

 

 輪はギアを持たない故にそんな悩みとは無縁と言っても良いだろう。故にクリスの気持ちは分からない。だがもう一方、ソーニャの怒りとステファンの気持ちなら理解出来る。

 

「まあ怒りっていうのは理屈じゃどうにもならないからねぇ。その辺はよく分かる……でしょう?」

 

 輪はツヴァイウィングのライブの生き残りというだけで社会的に否定される扱いを受け、その憎しみをツヴァイウィングにぶつけた。クリスも両親が亡くなったのをソーニャのせいにした。ソーニャもステファンが助かっても足を失った怒りをクリスにぶつけた。不合理だと分かっていても、心の中ではそれを許してくれない。誰かに怒りをぶつけなければ、現実を受け止めきれないから。

 

「けど、あんたがその子の命を救ったのは揺るがない事実。そのお姉さんはすぐには受け入れられないだろうけど、きっとその蟠りも解消できるよ。」

「そうなのか……?」

「そうだよ。まあその一歩が難しいんだけどね。」

 

 えへへっと輪は笑った。クリスはそれに呆れもするが、同時に気が楽になった。誰にも言えない、仲間や姉に余計な心配を掛けたくないから、つい黙ってしまうが、輪が相手だと気軽に話せてしまう。それがクリスにとって唯一の救いなのかもしれない。

 保健室に辿り着いた二人、輪がその扉を開けた。

 

「失礼します。瑠璃はいますか?っておっと……あそこかな……?」

 

 一つだけカーテンが閉まっているのを見て、そこで瑠璃が寝ていると判断した輪は声のトーンを落とす。カーテンをそっと開けて、瑠璃が寝ているのも確認した。

 

「良かった……寝てる。」

「そうか。」

 

 ここの所悪夢に魘されている所を間近で見ていた事もあり、苦しまずに眠っている瑠璃を見たクリスは安堵している。

 

「あれ……?ミラー先生がいないぞ……?」

「ああ……確か新任の教員だったな。」

 

 保健室を見渡すが瑠無の姿がどこにもなかった。呼び出しでもされたのかと思い、二人は近くにあった椅子を拝借、それに座って瑠璃が眠っている様子を見守る事にした。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 海辺が見える豪華なホテルを思わせる部屋を拠点としているサンジェルマン達。今はサンジェルマンとティキしかいない。二つあるベッドのうち、その一つを、結晶から解放したティキを横たわせてある。胸部のカバーをスライドさせるように開くと、その中には歯車のような窪みがあった。

 

(ティキは、惑星の運航を製図と記録するために作られたオートスコアラー。機密保持の為に休眠状態となっていても、『アンティキティラの歯車』によって再起動し、ここに目覚める。)

 

 まるで誕生日プレゼントを思わせる箱をサンジェルマンは手に取る。リボンを解き、箱の外装を開けると、出て来たのは傷一つない歯車である。

 この歯車は当時ギリシャ・エジプト展という日本の博物館で開催されたイベントで、その展示品の中に含まれていたものである。それを先に日本へ向かわせたアルベルトが結社の下部組織を使い、事件を起こさせて、S.O.N.G.にそれを対処させている間に奪取、バルベルデ赴くついでにこれを渡したのだ。何故わざわざこんな派手なリボンが結ばれた箱なのかは本人の気分である。 

 

 ちなみにS.O.N.G.の間ではこの一連の事件を『アレクサンドリア号事件』と呼ばれている。

 

 サンジェルマンが出した歯車は、ひとりで回転しめ、その窪みに収まるように入ると胸部のカバーを閉じる。同時にバイザーにも刻まれているヴジャト眼の紋様のような光が発し、それが消えるとティキはぎこちない動作で起き上がった。しかしすぐにその動きは流暢となり、すぐにバイザーを取り外した。露わになったティキの風貌はまるで少女である。

 

「久しぶりね、ティキ。」

 

 サンジェルマンが声を掛けると、ティキはパァッと明るく

 

「サンジェルマン?うわあぁ!400年近く経過しても、サンジェルマンはサンジェルマンもままなのね!」

 

 人目も憚らないような大きく元気な少女の声色である。もっとも今は結社以外の者はいない為、静かな小声で話す必要はないが。

 

「そうよ。時は移ろうとも、何も変わってないわ。」

「つまり今もまだ、人類を支配の軛から解き放つ為とかナントカ、辛気臭い事を繰り返しているのね!良かった、元気そうで!」

 

 するとティキは辺りを見回して何かを探している。

 

「うん?うう〜ん?ところでアダムは?!大好きなアダムがいないと、あたしはあたしでいられない~!」 

 

 恋する乙女のごとく自分の体を抱きしめながら悶ている。その様子を見る限り、ティキはアダムに恋をしている。すると、突然電話のベルが鳴り響いた。音はバルコニーからであり、その柵の上にダイヤル式の固定電話が置かれており、ベルが鳴り響く。

 サンジェルマンは受話器を手に取り、耳に当てる。

 

「局長……」

「え、それ何?!もしかしてアダムと繋がってるの?!」

 

 それをティキが強引に横取りし、サンジェルマンのように耳に当てる。

 

「アダムー!いるの?!」

『久しぶりに聞いたよ、その声を。』 

「やっぱりアダムだ!あたしだよ!アダムの為なら何でもできるティキだよ!」

 

 ティキは400年ぶりにアダムの声が聞こえた事に有頂天になる。声色からしてアダムは男であるが、倒置法を用いて話している。

 

『姦しいなぁ、相変わらず。だけど後にしようか、積もる話は。』 

「アダムのいけずぅ!つれないんだからぁ!そんな所も好きだけどね!」

 

 目的が自分ではないと分かると、ティキはサンジェルマンに受話器を返して部屋に戻った。受け取ったサンジェルマンはそれを耳に当てる。

 

「申し訳ありません、局長。神の力の構成実験には成功しましたが、維持に叶わず喪失してしまいました。」

『やはり忌々しいものだな、フィーネの忘れ形見、シンフォギア。』

「疑似神とも言わしめる不可逆の無敵性を覆す一撃。そのメカニズムの解明に時間を割く必要がありますが……」

 

 響の一撃で無敵性が消失し、そのまま破壊されてしまったヨナルデパストーリ。何故あの時、無敵性が失われたのか、サンジェルマンは不可解であり、学者気質のアルベルトでもそのメカニズムが分からずお手上げだった。 

 

『無用だよ、理由の解明は。シンプルに壊せば解決だ。シンフォギアをね。』

「了解です。アルベルトと合流したカリオストロ、プレラーティが先行して、討伐作戦を進めています。私達も急ぎ合流します。」 

 

 サンジェルマンは受話器を戻し、部屋に戻ると、アルベルトから送られてきた1枚の論文を手に取り、それを目に通す。

 

(聖遺物の知識においては、私達よりアルベルトが上回る。そのアルベルトでも解明出来ないとは……。)

 

 アルベルトは聖遺物や異端技術に関する知識が、人間だった頃より豊富であり、単独でアーネンエルベと張り合える程、異端技術の扱いに長ける。

 アルベルトによるとガングニールに無敵性を消すような逸話は存在しない。ある最高神が手にしていたとはいえ、それは相手に必中するというものであって、呪いの伝承はないという。

 では一体何故?サンジェルマンもその理由について解き明かしたいが、計画の為に動き出さなくてはならない。

 

 

 




今後の展開が悩ましいところ……早く決めなければ……


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心配なのは……

鬼滅も描きたいしバカテスも描きたい……

でもその前にシンフォギアじゃーい!




 同じ頃、日本の青空にプライベートジェットが飛んでいる。乗っているのは翼とマリアだ。二人はバルベルデが保有していた異端技術に関する資料、バルベルデドキュメントが入ったケースを手に日本に帰国するのだ。まもなく着陸態勢に入るアナウンスが流れる。

 だがその瞬間、爆発とともに揺れが発生した。外からアルカ・ノイズがプリマ・マテリアを撒き散らしている。それを管制塔から眺めている仮面をつけたアルベルトとその後ろにカリオストロとプレラーティが眺めている。 

 

「私の主義に反するが、サンジェルマンの為だ。まずは。お手並み拝見。」

 

 機体の側面が分解され、その空いた穴へケースが飛び出そうとした所、マリアがそれをキャッチするが、今度はマリアが吸い出されるように機体から放り出されてしまった。

 

「マリア!」

 

 LiNKERもなく、ギアを運用できないマリアでは海面に叩きつけられるかアルカ・ノイズによって分解されてしまう。友を救う為に翼も機体の外、上空に飛び立って起動詠唱を唄う。

 

 Imyuteus amenohabakiri tron……

 

 機体が完全に破壊され爆破するが、天羽々斬のギアを纏った翼にたその影響はない。爆炎から姿を現した翼は刀を大刀へと可変させて、それを振り下ろすと青いエネルギーの斬撃が放たれる。

 

【蒼ノ一閃】

 

 斬撃はマリアに迫るアルカ・ノイズを纏めて両断、翼は宙を舞いながらアルカ・ノイズを斬り捨てていく。

 

『翼!マリア君をキャッチし、着水時の衝撃に備えろ!』

「そうはさせないワケダ。」

「畳み掛けちゃうんだからぁ〜!」

 

 弦十郎からの通信を聞いていたかのように、カリオストロとプレラーティの命令で、残ったアルカ・ノイズがマリアに襲い掛かる。

 

『マリア君!加速してやり過ごすんだ!』

 

 大の字になって空中落下速度を低下させていたが、アルカ・ノイズから逃れる為に身体を真っ直ぐに変え、落下速度を速めた。同じタイミングでアルカ・ノイズからの攻撃を受けるが、落下速度を速めたお陰で靴のヒールが分解されただけで済んだ。

 翼は脚部のブレードのを点火させて、アルカ・ノイズの間をかいくぐってマリアをキャッチして抱える。そして、左手に持つ大刀を天に高く掲げると、エネルギーの剣が上空から大量に降り注ぎ、残存のアルカ・ノイズを全て斬り捨てた。

 

【千ノ落涙】

 

 海面に接触する直前、翼は脚部のブレードユニットをホバーのように低空飛行して対岸へ目指す。

  

「流石にしぶといワケダ。」

「まあ概ね予想通りだ。でなければ期待外れもいいところだからな。」

「何を面白がってるのよ〜?けど、続きはサンジェルマンが合流してからねぇ〜。」 

 

 アルカ・ノイズが殲滅し、討伐失敗を悟った三人は撤退した。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 保健室では帰国中の翼とマリアが襲撃を受けたという知らせがクリスの通信機に入った。

 

「先輩が?!ああ!すぐに行く!」

 

 通信を切るクリスの姿を見た輪は、その様子がただ事ではない事を察して心配そうに伺う。

 

「オジサンから?」

「ああ、先輩達が襲撃を受けた。けど心配すんな。みんな無事だ。」

「良かった……。」

 

 翼の無事を知り安堵する輪。もはや彼女に憎悪はないから仲間として心から安堵する事が出来る。

 

「今から空港へ行くから、姉ちゃんはここに置いていく。だから……」

「分かってるよ。こっちは任せて。」

 

 クリスが頼みを察した輪。瑠璃は輪に任せて保健室を飛び出す。だがその時

 

「うわっ!」

「あ、悪い!」

 

 保健室に戻って来た瑠無にぶつかりそうになり、衝突はギリギリ避けられたが、それでも突然飛び出してきたクリスに、瑠無は驚いて倒れそうになる。何とか踏みとどまって転倒せずにすんだ。

 

「もう!校舎内は走らない!まったく……妹の方もお転婆だなぁ……。」

 

 瑠無はブツブツと文句を言っていいつつ、保健室に入ると輪がいる事に気付いた。

 

「ああ、出水さん。」

「どうも。瑠璃の様子を見に来ました。クリスは急用が出来たみたいで、私一人になっちゃいましたけど。」 

「でも廊下を走るのは良くないわ。後で言っておかなきゃ。」

「あはは……出来ればお手柔らかに。」

 

 苦笑いを浮かべる輪。瑠無はデスクチェアに腰掛けて一息ついた。そこに輪が質問をする。

 

「そう言えば、何処に行ってたんですか?」

「ん?ちょっと知り合いに呼び出されちゃってね。調べてほしいものがあるって一方的に言われちゃって。」

 

 そう言うと手に持っている資料を鞄にしまった。輪は気になるのか椅子から立って鞄の中を覗き見ようとするが、瑠無は急に輪の方へ振り返り、鞄の口を閉じる。

 

「堂々と覗くのは覗きじゃありません。」

「はい……。」

 

 そう言いながら呆れている。鞄の口を開いて、資料の一部を出してそれをデスクに置いて見せた。

 

「やるならコソコソ覗きなさい。」 

「いやそれ推進しちゃ駄目でしょ。っていうか良いんですか?」 

「ええ。」

「ありがとうございま……うわぁ……なぁにこれぇ?」

 

 その資料に書かれている文字は平仮名、カタカナ、漢字、ましてや英数字ですらない。恐らく古代に使われていた楔形文字なのだろうが人によっては一生見ないであろう。

 

「まさかこれ見せたのって……」

 

 察しの良い輪ならすぐに分かった。読めない輪に見せても別に何の問題もないと思ったのだろう。現に瑠無が僅かに口角を上げたのを見逃さなかった。

 

「意地悪だなぁ……。っていうかミラー先生って養護教諭ですよね?何でこれを?」

 

 ただの養護教諭ならこのような資料をお目に掛かる事はまずない。それを養護教諭である瑠無が関わっているのを不思議に感じるのは当然の反応である。輪に問われた瑠無は顎に手を当て、その切っ掛けとなる記憶を思い返していた。

 

「ああ。私、元々考古学の分野を学んでたんだけど……ある時こっちの道に行くって決めたのよね。やっぱり切っ掛けは……あの夫妻かな……。」

「夫妻……?」

「ええ……その夫妻は……っと続きはまた今度にしましょうか。」

 

 突然中断され気になる輪だったが、瑠無がベッドの方を指して、振り返ると瑠璃が起きていた。

 

「瑠璃!」

 

 輪が椅子から立ち上がって瑠璃に駆け寄った。

 

「輪……そんな慌てなくても……」

「こっちは心配したんだよ?あんたここの所、ずっと寝れてないってクリスから……」

「クリスが……あ、そう言えばクリスは?」

 

 ベッドから降りて、保健室中を見渡してクリスを探す。

 

「あ、クリスならオジサンに呼び出しが……」

「お父さんから?何かあったのかな……。」

 

 瑠璃は持ってきてくれた鞄を手に取って、瑠無の方を向く。

 

「ミラー先生。ありがとうございました。お陰で……」

「ああ、良いのよ。これも仕事だから。風鳴さん、また何かあったら来てね。」

「はい。失礼しました。」

「失礼しました。」

 

 瑠璃と輪は一礼して、保健室から出て行った。瑠璃は弦十郎に通信を入れる為に人に聞かれないよう、一旦リディアンの郊外から出て、公園まで歩いた所で人がいない事を確認して通信する。

 

『瑠璃、もう大丈夫か?』

「はい。申し訳ありません。何かあったんですか?」

 

 そこで初めて翼とマリアが帰国中にアルカ・ノイズに襲われた事を把握した。もちろん無事である事も含めて。そして体調不良の瑠璃を除いて行われた会議の内容も伝えられた。翼達がバルベルデから運び出した機密資料の解明と日本にパヴァリア光明結社の錬金術師が潜入しているという二点。そして、会議の終わり際にクリスが瑠璃を戦線から外すよう提言してきたというものだ。

 

「クリスが……?」

『ああ。余程お前の事が心配なんだろうな。』

 

 ステファンの事もあったというのに、クリスはなお瑠璃の事を心配している。今は気丈に振る舞っているが、ルナアタック、フロンティア事変、魔法少女事変、全ての事件に起きた葛藤を一人で解決しようとして来た例があり、クリスは瑠璃以上に一人で抱え、葛藤を解決しようとする傾向にある。弦十郎はそれを危険視していた。

 しかし今はそれよりも瑠璃の精神的なケアの方が大きな問題となっており、今後の装者の活動に影響が出ているのも事実。故にしばらくは響、翼、クリスのバックアップに周り、三人に不足の事態が起きた場合にギアを纏ってもらうという事になった。

 

『しばらくはマリア君達と行動を共にすることになる。だがお前はLiNKERが無くてもギアを纏える。万が一の時は……』

 

 だが言い終わる前に、アルカ・ノイズ出現のアラートが本部に鳴り響き、通信越しで瑠璃にも聞こえた。

 

「お父さん!」

『ああ、アルカ・ノイズだ!瑠璃、お前はすぐに本部へ……』

「がぁっ!」

 

 輪のうめき声が聞こえ、背後を振り返ると仮面をつけたパヴァリア光明結社の錬金術師、アルベルトが気を失った輪を小脇に抱えていた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アルベルトが現れる少し前、会議を終えた響が未来と合流、ファミレスの席で未来と対面する形で座っており、バルベルデで起きた事を未来に話していた。クリスがステファンの足を撃ち抜いた事、瑠璃が悪夢に苛まれるようになったことを。ただ後者の方は、会議でクリスが弦十郎に提言した事で初めて知った。

 響としてはどちらも元気付けたくて未来に相談したのだが、どうすれば良いのか分からない。

 

「瑠璃さんとクリスちゃん、あれから落ち込んでるんだ……。何とか元気づけてあげたいんだけど……」

「大きなお世話だ。」

 

 突然後ろの席にクリスがいた事に驚く響。しかもクリスだけではない。

 

「その言い草はないだろう、雪音。二人はお前達を案じているんだ。」

「翼さんもいるー?!」 

「私達だけでなく、みんなが瑠璃と雪音のことを心配している。」

 

「分かってる!けど、放っていてくれ!あたしなら大丈夫だ!ステファンの事はああするしかなかったし、同じ状況になれば、あたしは何度でも同じ選択をする!」

「それが雪音にとっての、正義の選択というわけか。」

「ああ。だからあたしより、姉ちゃんの心配をしてやってくれ。これ以上、姉ちゃんに負担を掛けさせられねえ。姉ちゃんが苦しむ姿なんて……もう見たくない!」

 

 クリスの握り拳が震えているのを、翼と背もたれから身を乗り出している響は見逃さなかった。特に響はこういう事があるとより一層心配になるが

 

「そ~いやお前、まだ夏休みの宿題を提出してないらしいな?」

「ぎょっ?!そおだったああぁぁ〜!」

 

 うら若きJKとは思えない顔と声で絶叫しながら頭を抱える響は未来に泣きついた。響はギリギリまでやらずに、登校日になってようやく焦ったのだがそこに追い打ちをかけるようにバルベルデ行きなどがあった為、宿題を終わらせる事が出来なかったのだ。だがクリスと瑠璃はおろか、調と切歌はバルベルデ行きまで課題を終わらせていたので、ギリギリまでやらなかった響の自業自得なのだが。

 

「どうしよう未来ぅ〜!」

「仕方ないね。誕生日までに終わらせないと。」

 

 誕生日というワードに翼が反応する。

 

「立花の誕生日は近いのか?」

「はい、13日です。」

 

 夏休みの宿題に頭を抱え悶えている響の代わりに未来が答えた。

 

「へぇ〜?あと2週間もないじゃねえか。このままだと誕生日も宿題に追われ……」

 

 そこに通信機から鳴るアラートが、他愛もない日常を壊した。響、翼、クリスが通信機を手にそれを耳に当てる。

 

『アルカ・ノイズが現れた!位置は第19区域、北西Aポイント!同時に輪君を攫った結社の錬金術師の一人を追って、瑠璃もそこへ向かっている!』

 

「輪さんが?!」

「姉ちゃんも……!」

 

 響とクリスが驚愕の声を漏らす。輪を攫った辺り、敵が瑠璃を戦場に引きずりこもうとしているのは明白だ。

 

「了解、直ちに向かいます!行くぞ立花、雪音!」

「はい!」

「おう!」

 

 三人はファミレスを飛び出し、アルカ・ノイズが出現した区域へと向かった。

 同時に瑠璃もギアを纏ってアルベルトが指定した場所、アルカ・ノイズ出現区域を追っている。




アルベルトはトリックスターのような立ち位置で暗躍させる予定です。


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新型アルカ・ノイズ


私も飛ぶんか〜いの回になります。



 瑠璃の背後に突如現れたアルベルトは輪を気絶させて小脇に抱え、瑠璃はギアペンダントを握りしめて相対している。親友を傷付けられた瑠璃の表情は、先程の穏やかなものではなく、怒りが滲み出る程にアルベルトを睨みつけている。

 

「輪をどうするつもりなの……?!」

「少し利用させてもらうだけさ。心配しなくても良い。すぐに返すさ。」

 

 瑠璃の問いに答えた瞬間、アルカ・ノイズの召喚石をばら撒いた。割れた所からアルカ・ノイズが召喚されると、瑠璃は起動詠唱を唄う。

 

Tearlight bident tron……

 

 バイデントのギアを纏い、前腕のガントレットがアームドギアである二本の槍へと変形させると、右手で黒槍、白槍は左手で手にし、アルカ・ノイズの群れに切り込む。

 

「ここから西1キロ先の街に来るといい。そこで待っている。」

 

 アルベルトの足元に転移用の錬金術の陣が展開され、抱えた輪と共に姿を消した。アルカ・ノイズを滅した時に発する赤い塵、プリマ・マテリアが舞う中でそれを目の当たりにした今、すぐに追いたい所だがアルカ・ノイズを野放しには出来ない。幸い召喚されたアルカ・ノイズの数は少なかった為、一人でも対処出来る。

 黒槍と白槍を連結させて一本の槍へと可変させると、それを高速回転させてエネルギーの竜巻を発生させる。

 

【Harping Tornado】

 

 竜巻の回転に巻き込まれたアルカ・ノイズは風圧によって巻き上げられ、竜巻の中で切り刻まれた。

 アルカ・ノイズを全滅させた直後、弦十郎から通信が入った。

 

『瑠璃!大丈夫か?!』

「アルカ・ノイズは全て倒しました!でも、輪が……!」

『ああ。奴はこちらを挑発するようにわざと形跡を残している!』

 

 本部のモニターが、アルベルトを捉えているがわざわざ転移した先が、伝えた区域ではなく、その道中に姿を現し、その先に向かうようにビルの屋上を跳躍している、明らかに瑠璃を誘い込む為のものだろう。

 

『その先にある区域は翼達を向かわせる!瑠璃お前は……』

「私も行きます!」

『瑠璃?!』

 

 本部へ戻るよういい伝えようとする前に、瑠璃も戦う意思を示したが、弦十郎はそれに難色を示した。いつまたあの悪夢のヴィジョンによって苦しめられるのかも分からない状態で、出撃させるわけにはいかない。しかし、瑠璃は既に輪を取り戻す為に槍に跨って遠隔操作で目的の区域を目指している。こうなっては意地でも戻らないだろう。弦十郎は腕を組みながらため息をつくと

 

「そのまま翼達と合流しろ!」

 

 そのまま出撃を許した。だが無条件というわけにはいかない。

 

「良いか!一度でもバイタル低下を確認したらすぐに撤退するんだ!」

『了解!』

 

 瑠璃は腰のブースターを点火させてスピードを出した。輪を取り戻す為、今の瑠璃には迷いはない。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アルカ・ノイズの出現区域にあるビルの屋上に、サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティが、辺り一帯の道を埋め尽くしたアルカ・ノイズの大群を見下ろしている。今回アルベルトが独自に開発した新型アルカ・ノイズを装者に対して投入しようというものである。現在そのアルカ・ノイズはアルベルトが所持しており、未だ到着していない。

 

「アルベルトったらまだお医者さんごっこでもしてるのぉ?」

「新型のお披露目というのに遅れるとは、随分と偉くなったワケダ。」

 

 カリオストロとプレラーティはアルベルトが来ていないことに腹立てている。

 二人は元々世界に悪名を馳せる程の大悪人だったが、その二人ですらアルベルトの掴み所がなかった。サンジェルマンの事は慕っているようだが、それでも一つ一つのセリフに欺瞞が混ざっているのも何となく感じている。

 しかし、サンジェルマンはそれを百も承知でパヴァリア光明結社に引き入れた。もしアルベルトが裏切ればサンジェルマンの手によって、あっという間に消されるだろう。だがそうしないという事は、少なくとも信頼している証だ。故に二人は手を出す事はないが、常に飄々としていて余裕を崩さないあの態度が時に怪しさを醸し出している。

 そこに噂をすれば本人が何かを抱えて、こちらに転移して姿を現した。

 

「すまないな。少し手間取ってしまった。」

「ふ〜ん。で、その子はなぁに?」

 

 カリオストロがアルベルトが小脇に抱えている女性、出水輪を指した。

 

「彼女はあくまでも餌さ。あの子が来る為のね。」

「アルベルト、例のものは?」

「ここに。」

 

 腰のベルトに留められている筒を外すと、それをサンジェルマンに私は。その筒が開くと、中にあるのはアルカ・ノイズの召喚石。この召喚石の中にいるのが新型のアルカ・ノイズである。

 

「さて、もうそろそろ来る頃だろうな。」

 

 まるで装者か来るのが楽しみにしているかのように、アルベルトは期待を膨らませていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アルカ・ノイズの出現区域に到着した響、翼、クリスの三人。大群の前なれど、今更アルカ・ノイズを恐れる三人ではない。

 

Balwisyall nescell gungnir tron……

 

 響が起動詠唱を唄ってガングニールのギアを纏うと、翼とクリスも続き、各々のギアを纏ってアルカ・ノイズの群れに攻め込む。そして同じタイミングでバイデントの黒槍と白槍がアルカ・ノイズを貫いた。

 

「本当に姉ちゃんが……!」

 

 クリスの頭上を飛び越え、地面に刺さった黒槍と白槍を手に取った瑠璃はそのまま白兵戦に参加する。

 

「無茶をするなよ、瑠璃!」

「うん!」

 

 翼の忠告に頷きながら、瑠璃は二本の槍でアルカ・ノイズを蹴散らしていく。アルカ・ノイズが相手では如何に数が多かろうが、苦戦することはない。だがバイデントのベッドギアと連結されているバイザーが捉えた反応はどれもアルカ・ノイズのみで輪はおろか、錬金術師の反応は見られない。

 

 ビルの屋上から見下ろしていたパヴァリアの錬金術師達。

 

「想定内、だろう?」

「ええ。」

 

 サンジェルマンが筒のダイヤルのロックを解除させると、中から三つ入っている召喚石のうち、真ん中の石を手に

 

「その力、見せてもらいましょう。」

 

 それを装者達が戦っている地上へと放り投げ、それが地面に落ちて割れた。バイデントのバイザーがその反応をキャッチした。

 

「あれは……!」

 

 割れた所から召喚された時に展開される陣がこれまでのものより一回り大きく見える。

 

「新手のお出ましだな!」

 

 いくら現れようがそれはアルカ・ノイズ。すぐに討ち取ってやろうと意気込むが、その新型アルカ・ノイズを中心に、宇宙空間を思わせる空を展開。装者達ごと一帯を広範囲に覆った。

 

「消えただとぉ?!」

「装者達の映像が捉えられません!」

「ギア搭載の集音器より、辛うじて音声を拾えます!」

 

 本部のモニターからは4人の姿が消えた様に映っていた。何が起きたのか解析しようにも、如何せん相手は新型アルカ・ノイズ。そのメカニズムの解析は困難を極める。

 

「さっきまで街中だったのに……!」

「みんな!周りを!」

 

 バイザーが反応をキャッチした先を向くとアルカ・ノイズの群れが装者達を囲うように集まってきた。いくら集まろうが所詮はアルカ・ノイズ。翼が刀を振り下ろし滅した……

 

「何っ?!」

 

 アルカ・ノイズに与えた斬撃の切り口が接合、元通りになった。瑠璃も黒槍でアルカ・ノイズを貫くが、アルカ・ノイズが消滅する際に散らす赤い塵、プリマ・マテリアが発生せず、槍を引き抜くとその風穴はまたたく間に塞がれた。

 

「どうして?!」

「全部通りやしねえのか?!」

 

 響の打撃、クリスもガトリング砲の弾丸も、今までなら通っていたはずの攻撃で塵にならない。

 

「まさかAnti LiNKER?!でも誰が……」

「いえ、各装者の適合係数に低減は見られません!」

 

 藤尭の推測は友里の報告と、別のモニターに表示されているバイタルによって否定される。4人の適合係数は一定を保っているということは、彼女達に異常はない。

 

「つまりこちらの攻撃力を下げる事なく、守りを固めているわけだな?」

 

 弦十郎は装者4人に通信を掛ける。たとえこの空間でも、通信は利くようだ。

 

『お前達、聞こえるか?!』

「お父さん、これは一体……?!」

『そこはアルカ・ノイズが作り出した、亜空間の檻と見て間違いない!』

「亜空間の檻……ですか?」

 

 ここでエルフナインが弦十郎の代わりに、新型アルカ・ノイズの解析情報を伝える。

 

『そこではアルカ・ノイズの位相差障壁がフラクタルに変化し、インパクトによる調律が阻害されています!』

 

 アルカ・ノイズは位相差障壁がノイズより弱体化しているが、ここではそれを強化されており、シンフォギアによる攻撃に耐えうる防御力を得ている。

 

「だったらドカーン!とパワーを上げてぶち抜けば!」

「防御力を崩す攻撃力を瞬間的に引き上げる機能……つまり……!」

「呪いの剣……抜き所だ!」

「「「「イグナイトモジュール 抜剣!!」」」」

 

 4人はそれぞれのギアコンバーター側面のウィング型スイッチを押して、コンバーターを外してそれを宙に投げると、外殻が逆三角形を表すように展開、開かれた内部からエネルギーの剣が出現する。そのままそれぞれの装者の胸に刺さると、ギアの白かった装甲が黒く染まり、禍々しくも荒々しい漆黒のギア、イグナイトモジュールとなった。

 4人は迫りくるアルカ・ノイズをそれぞれが持ちうる手で迎え撃つ。すると、先程のようには再生せずに消滅、プリマ・マテリアを撒き散らした。

 

(イグナイトの力でなら、守りをこじ開けられる。だが……!)

「こいつらに限りはあんのか?!」

「だけど抜剣した以上は…………っ!」

「姉ちゃん?!」

 

 身体中に襲い掛かる苦しみ、頭に流れるあの悪夢のヴィジョン。それが二重となって瑠璃に牙を向いた。

 本部のモニターでも瑠璃のバイタルが変化、警告を知らせるアラートが響く。

 

「バイデントの適合係数低下!このままではギアが強制解除されてしまいます!」

 

 弦十郎は低く声を唸らせる。ここまで順調だったにも関わらず、このタイミングで起きてしまった嫌な予感。

 さらにアルカ・ノイズが瑠璃を狙って攻撃を仕掛けてくる。だが瑠璃は身体に襲い掛かる苦痛に耐えながら、二本の槍の穂先から黒白のエネルギー波を放った。

 

【Shooting Comet:Twin Burst】

 

「苦しんでる暇はない……!イグナイトを纏った以上……時間を無駄には出来ない……!」

 

 イグナイトの稼働時間には限界がある。本部のモニターに表示されているカウントが0になった瞬間、如何なる状況であろうがギアは強制解除されてしまう。それは全員に言える事である。このままではタイムリミットを迎えてしまう。

 だがここで、エルフナインは新型アルカ・ノイズの出現時を思い返すと、あることに気付いた。戦闘中の4人に呼び掛ける。 

 

『皆さん!そこから空間の中心地点を探れますか?!こちらで観測した空間の形状は半球!であれば、制御期間は中心にある可能性が高いと思われます!』

 

「中心地点……でも……!」

 

 バイデントに搭載された戦闘補助システム、それは通常時にのみ展開されるバイザーによって使えるものであり、起動中はそれがオミットされてしまい使えない。ここに来てそれが仇となってしまった。

 

「任せろ姉ちゃん!」

 

 するとクリスはガトリング砲を四方八方に乱射、着弾地点に弾丸が刺さる。

 

「クリスちゃん?!」

「それって……もしかして……!」

「ああ!こいつはマイクユニットと連動するスピーカーだ!空間内に反響する歌声をギアで拾うんだ!」

 

 クリスが告げた通り、着弾した弾丸はスピーカーへと姿を変えた。それをソナー代わりにして、自分達と敵の位置を把握すれば、この亜空間を生み出したアルカ・ノイズを特定出来る。

 クリスと最初に察した瑠璃はもちろんその意図を汲み取った二人はアルカ・ノイズへの攻撃を続ける。4人の歌を拾ったマイクがスピーカーを伝って空間内に反響、そこから生み出される音波を4人は戦いながら察知する。そして、その音波によって僅かに捉えた敵影。

 

「そこかああぁぁ!!」

 

 クリスは腰部のアーマーを展開させて小型のミサイルを一斉掃射する。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

 ミサイルがその敵影に撃ち込まれると、不可視だったその姿、新型アルカ・ノイズが現した。

 二足歩行に見えるが両手であろう部位が地につき、四肢にくっついている菱形のような胴体をした大型のアルカ・ノイズだ。

 

「あれが、この空間を作り出しているアルカ・ノイズ……!」

「つまりあれを倒せば……!」

「立花、乗れ!」

「はい!」

 

 翼が構えた刀に響が乗ると、それが巨大な両刃剣となり、響の両サイドにカタパルトが形成される。さらに両刃剣の大きさに合わせた巨大な黒槍の柄を右足、白槍の柄を左足の装甲側面に連結させ、両刃剣の両サイドを外殻のように繋ぎ合わせ、翼の後ろに立つ。そしてその二本の槍の上にクリスの巨大ミサイルがそれぞれ設置され、一つのそれぞれのアームドギアを合わせたそれは一つのロケットとなる。

 

「勝機一瞬!この一撃に全てを賭けろ!」

 

 翼の号令と共に、後方にあるブースターが点火させると、クリスの意思でそれが発射される。カタパルトが発射され、撃ち出された響はそのスピードに乗せてアルカ・ノイズの胴体を蹴り込んで風穴を空けた。そして瑠璃は外殻のように連結させていた槍を左右一対の翼のように展開させると、その槍からもブースターを点火、勢いを増したアームドギアはアルカ・ノイズを一刀両断させた。

 

 

【QUATRITY RESONANCE】

 

 

 亜空間の発生源であった新型アルカ・ノイズを破壊した事で、元の街中へと帰還する事が出来た。だがまだ安堵は出来ない。アルベルトに攫われた輪の救出がまだだ。

 

『瑠璃以外は輪君の捜索、瑠璃はこのまま本部に帰投しろ!』

「了解……。」

 

 悔しいが戦闘中にバイタル異常が確認された。約束通り、撤退を受け入れる。だが親友を助け出せないという瑠璃の心情を察した翼は

 

「案ずるな。出水は必ず救う。お前はメディカルチェックを……」

「その必要はない。」

 

 背後から声が聞こえた。4人は振り返るとアルベルトが拍手して佇んでいた。だが小脇に抱えていたはずの輪がいない。

 

「テメェ!あいつを何処へやった?!」

「そう噛みつかない事だ。今の私は君達とやり合いに来たんじゃない。勝者へ褒美をやりに来たんだ。」

「その物言い……随分と甘く見られたものだな!」

 

 まだイグナイト状態でギアを保っている。のこのこと単独で現れた敵をこのまま逃がすわけにはいかない。だがアルベルトの口元は笑っており、余裕の態度を崩していない。

 

「君達の奮闘を讃え、出水輪は返してやろう。と言っても、既に解放しているがね。」

 

 真偽が定かではない事を敵から告げられ、簡単に信用できるわけがない。だが弦十郎に通信が掛かってきた。相手は輪だ。要救助者から通信が入り、一度目を丸くした弦十郎だが、すぐに平静となり、通信を繋げる。

 

「輪君?!無事か?!」

『んんぅー!んぅー!』

 

 どんな問いでも言葉にならない叫びが聞こえるだけだった。藤尭が通信場所を特定した。

 

「司令!その通信の発信源はリディアンのようです!」

「リディアンだと?!」

「アタシ達が迎えに行くデス!」

「行ってくる……!」

 

 リディアンに通う調と切歌がブリッジを飛び出すようにその足でリディアンに向かった。

 

 輪の無事を知った瑠璃は一旦は安堵した。だがそれでも目の前にいるのは敵であることに変わりはない。4人はそれぞれのアームドギアを構えるが、ここでタイムリミットを迎え、ギアが強制解除されてしまう。

 

「しまった……!」

「目の前に相対する敵がいるというのに……!」

 

 元の衣服に戻り、丸腰となった少女4人ならアルベルト一人でも容易である。だが一向に攻撃する素振りすら見られない。むしろ両手を上げて交戦する気なしとアピールしているみたいだった。

 

「言っただろう?今の私には君達とやり合うつもりはないと。それに、一度話をしようと思っていたのさ。雪音ルリ。」

 

 雪音。瑠璃の旧姓である。何故アルベルトがそれを知っているのかは分からない。瑠璃は旧姓で呼ばれた事に動揺し、他の三人も驚愕を露わにする。そして、アルベルトは……

 

「ルリ、一緒に来よう。我々の結社に。」

 

そう告げると、アルベルト右手を差し伸べた。

 

 




おまけ

翼「立花!乗れ!」

響「はい!って後ろの三人は何してるんですか?!」

クリス「発射スイッチを押す係と」

瑠璃「ロボットみたいに変形させる係と」

翼「立花の勇姿を目に焼き付ける係だ!」

クリス「そういう事でポチッとな」

瑠璃「私も飛んだ〜〜〜!!」

クリス「姉ちゃぁぁぁぁぁーーーん!!」


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交差する思惑


前回のアルベルトさんのスカウトタイムからになります。

ちょっと区切り方が悪いかな……



「雪音ルリ、一緒に来よう。我々の結社に。」

 

 新型アルカ・ノイズを倒した直後に単独で姿を現したアルベルトは、なんと瑠璃を結社への勧誘を始めた。態々瑠璃の旧姓である雪音と呼んで。

 

「貴様、妹を利用して何を企むか?!」

 

 何故敵であるシンフォギア装者を仲間に引き入れようとするのか、その目的も何なのか、何もかも理解出来ないこの状況、戸惑うのも無理はない。翼の問いに、アルベルトは続ける。

 

「彼女はバイデントを操り、人と聖遺物との絆を繋ぎ合わせて、これまでの困難を乗り越えた。これは錬金術のにも当てはまる。卑金属を貴金属に変えるように……ルリには聖遺物の力を引き出す才能がある。我々ならば、ルリの望みも叶えてやれる。私と一緒に来よう。そして共に、我々の悲願を果たそうじゃないか。」

 

 演説のように瑠璃に語りかける。説得するように優しく語りかけているのだろうが、アルベルトはバルベルデを恐怖に陥れた元凶であるパヴァリア光明結社の錬金術師である。優しく語られても信用できるわけがない。勧誘されて困惑した瑠璃だが、自分の望みはただ一つだ。

 

「私の望みは……皆と笑って過ごす、何気ない日常……!だから……」

「君が抱えている苦しみを、私が解放する事が出来ると言ってもかい?」

「え……?」

 

 その誘惑を前に動揺した。瑠璃を苦しめている悪夢。それに心が追い詰められている。身体ならともかく精神的な苦しみというのはそう簡単に消えるものではなく、自然に治るものではない。現に瑠璃はその悪夢がヴィジョンとなって断片的に流れるようになっている。その苦しみは尋常ではない。

 

「君の苦しみを私は知っている。君の痛み、苦しみを真に理解出来るのは私だけだ。私だけが君を地獄から解放出来る、唯一の理解者だ。」

 

 先程まで見せていた余裕の笑みとは一転、慈しみの眼差しを向け、瑠璃の心情に寄り添った言葉を並べる。普段の精神状態であれば迷わずに断る事が出来たはずだが、今の瑠璃の心を揺さぶるには十分だった。

 

「おい、さっきからごたごた回りくどい事をくっちゃべりやがって!そりゃあどういう意味だ?!」

 

 そこにクリスが、アルベルトを睨みつける。手を差し伸べていたアルベルトは、腕を降ろす。

 

「分かりやすく教えてやろう。君達ではルリは救えない。」

「救えない……?救えないってどういう……」

「そのままの意味さ。」

 

 響の疑問に、アルベルトはフッと笑いながら答える。だが従姉である翼と実の妹であるクリスはアルベルトの言い分に納得出来るわけがない。

 

「瑠璃の弱みに付け入る者の戯言など、信ずるに値しない!」

「ああ!姉ちゃんはあたしらが守ってやるんだ!お前にとやかく言われる筋合いはねえ!」

 

 二人は共に戦う仲間として、家族として瑠璃を守ると言い張り、一歩も譲らない。

 

「ハッ……甘すぎるな……。」

 

 そう吐き捨てると、アルベルトはズボンのポケットからテレポートジェムを足元に投げて割る。足元に転移用の陣が展開された。

 

「また会おうルリ。次に会う時は、君の失った記憶を返してあげる。」

「失った記憶……?待って!」

 

 瑠璃が呼び止めようとしたが、アルベルトは転移してしまい聞くことが出来なかった。

 この一連のやり取りは本部のモニターにも捉えており、弦十郎はアルベルトが最も危険な錬金術師であると結論づける。

 

(奴は……一体何を企んでいるんだ……?)

 

 同時にリディアンに出向いていた調から通信が入った。

 

『輪先輩を発見しました!保健室のロッカーに閉じ込められてました!』

『ぷはぁっ!助かった……!』

 

 ロープで身体を縛り、ガムテープで口を塞ぐといった錬金術師らしくない現代的な方法で輪は拘束されていた。いずれにせよ、犠牲者を出さずにアルカ・ノイズを倒した事で、一度は良しとするが、パヴァリア光明結社が何を企んでいるのかは依然として謎のままである。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ある少女は母を病で亡くした。

 

 奴隷の母は、上級貴族との弄れで女の子を産んだ。

 

 当選、父親である上級貴族に愛などなかった。

 

 故に母と共に奴隷として虐げられていた。

 

 父親に助けを求めても、ゴミ同然の扱いで捨てられた。

 

 何も得る事が出来ずに家に帰ると、母は病も重なって衰弱死していた。

 

 ある日、少女は上級貴族に文字を教わった。

 

 少女を弄ぶ為だったのだろうが、それが彼女を学ぶキッカケを与える事になった。

 

 少女は大人になり、錬金術師となった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 明かりが蝋燭の火一つしかない暗い密室にいるサンジェルマンとアルベルト。アルベルトが鞄から白銀のコンパクトケースを取り出し、それを開けるとハートの形を象った結晶が4つ、蝋燭の火の光が反射して煌めく。

 ラピス・フィロソフィカス、賢者の石とも呼ばれるそれは、錬金術師なら誰もが求める叡智の結晶。それをアルベルトが考案、サンジェルマンと共に構築して作り上げていた。

 

「預かっていた5つのラピスだ。あとは最終調整するだけだ。暫し時を要したが、君がチフォージュ・シャトーから持ち出した世界構造のデータもあって、完成に近づいた。あとは最終調整を完成だ。」

 

 サンジェルマンはラピスを一つ手に取る。蝋燭の火が反射して、ラピスの輝きにサンジェルマンの風貌が映る。

 

「ラピス……。錬金の技術は、支配に満ちた世の理を正すために……。」

 

 その瞳の奥に灯る決意、蝋燭の火よりも燃え上がっている。悲願を果たす為に、止まるわけにはいかないからだ。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 S.O.N.G.一行を乗せた装甲車は現在、長野県松代にある聖遺物研究機関『風鳴機関』へと向かっていた。

 風鳴機関は第二次世界大戦時に、旧陸軍が設立した特務室である。同盟国であったドイツの聖遺物研究機関アーネンエルベやヴリル協会といった多くの研究機関と通じて、聖遺物の研究を行ってきた。そこでは天羽々斬、ドイツからもたらされたネフシュタンの鎧やガングニールといった響達には馴染み深い聖遺物も、ここで研究されていた。 

 S.O.N.G.の前身である特異災害機動部二課よりもさらに前身の組織であり、現在でも国政に多大な影響力を持っている。

 

 装甲車には司令である弦十郎や装者全員や主要オペレーター陣もおり、装者の中には瑠璃も乗っている。

 

 

 新型アルカ・ノイズとの戦いが終わった後まで遡る。、エルフナインから呼び出しを受け、脳波に異常はないか検査を受けていた。検査着に着替え、診療台に寝ていた瑠璃は、測定が終わると、頭に着けられた機材を外して起き上がった。

 

「検査の結果、外傷もなく、脳波も異常ありませんでした。」

「そっか……。ありがとう、エルフナインちゃん。」

 

 瑠璃はエルフナインにお礼をするが、エルフナインの不安は晴れなかった。瑠璃が検査を受ける少し前に、バイデントに関する資料を確認していたのだ。そこに書かれていたのは、バイデントの呪いと呼ばれる事故の数々であり、主にドイツで起きたものだった。そして資料を読んでいくと、バイデントはフィーネに掠め取られたという報告が記されているのを見つけた。

 となるとF.I.S.に関係あるのでは考えたエルフナインだが、現在F.I.S.はアメリカ政府が存在を否定してしまった事で、F.I.S.て起きた全ての事案は無かった事にされてしまったのだ。そのせいでF.I.S.で取り扱った実験記録は殆ど抹消されてしまっていた為、所属していたマリア、切歌、調に話を聞くことにした。その結果、バイデントに関する不吉な情報を耳にした。

 

「バイデントの呪い……?」 

「ええ。バイデントを起動させたメルやその実験に関わっていた研究者の何人かは死亡したわ。」

「メルのお姉さんのジャンヌも、バイデントに関わったせいで心臓病を患ったデス。」

「もしかして、瑠璃先輩もバイデントの呪いに……?」

 

 調の推測に、その場にいた4人は嫌な予感を覚えた。確かに瑠璃はバイデントを意のままに操る事が出来ていた為に気にしていなかったが、瑠璃が苦しむその姿はメルの時と同じだった。つまり瑠璃がいつバイデントの呪いがここに来て瑠璃を蝕んでいるのではと推測された。だが瑠璃の場合、最初に起動して、苦しみだしてからの期間が長く、それ以外の者が纏ったという全ての記録は最初にまとってからまもなく死亡している。その違いが分かれば、分かればいいのだがいずれにせよこのままギアを使わせるのは危険だとエルフナインは判断した。

 弦十郎もその報告を受け、表向きは緊急時以外はギアを纏うのを控えるよう言い渡したが、実質ギアを使用する事を固く禁じたようなものだった。よって瑠璃は、風鳴機関ではマリア達と共に任務に当たることになった。

 

 風鳴機関に来た目的は、先日翼とマリアが持ち帰った資料、バルベルデドキュメントを解析する為だ。バルベルデドキュメントはドイツ軍が使用している高度に暗号化されているが故に、解析機にかける必要があった。それにより高度な厳戒態勢が敷かれたのだが、その為に近隣住民に退去命令を出さざるをえなかった。それはS.O.N.G.の意思ではなく、表舞台から姿を消しても尚、裏で絶大な影響力を持つ風鳴機関と二課の前司令だった風鳴訃堂の、『守るのは人ではなく国』というものからである。

 

 とはいえ、解析中をパヴァリア光明結社の錬金術師に襲撃されるという事も考えられる為、土地も人もそれから守る必要がある。問題なくギアを纏える響、翼、クリスは周辺地区への警戒任務へ、それ以外の装者は避難に遅れた住民の捜索という事になった。

 双眼鏡を持って捜索に当たる4人。切歌と調はまるで探検家のように進み、時には双眼鏡を使って逃げ遅れた住民がいないか探しており、端から見たら家族のように微笑ましく映っている。さしずめマリアが母親、瑠璃が姉で、切歌と調は双子の妹といった所であろう。

 

「9時の方向問題なし……!」

「12時の方向も……ああぁーー!」

 

 切歌が何かを発見し、大声で叫ぶと、三人は切歌はの方を向く。切歌は農園の方を指して

 

「あそこにいるデス!252!レッツラゴーデース!」

「あ、待って切歌ちゃん!あれって……」 

「早くここから離れて……て怖っ!!人じゃないデスよぉ?!」 

 

 切歌が見つけたものを、瑠璃は双眼鏡を使わずに遠目からでも確認出来た。元気よく向かった切歌を制止しようとしたが、既に遅かった。

 

「最近の案山子はよく出来てるから……。」

 

 調も切歌に呆れながら駆け寄る。瑠璃もこのやり取りには苦笑いを浮かべるが、暗い表情になっているマリアに気付いた。

 

「マリアさんどうかしましたか?」

「いえ……。ただ……LiNKERの補助がない私達に出来るのはこれくらいと考えるとね……。あ、ごめんなさい。これじゃ……当てつけみたいに聞こえてしまうわね……。」

 

 瑠璃はLiNKERが無くてもギアを纏う事が出来るが、ギアの呪いと悪夢という2つの懸念がある。故に力はあっても戦う事ができない。故にギアがあるのに戦えないというもどかしさを理解出来る。

 

「いえ……私も皆と同じですから。ただ……それでもみんなの役に立てるよう、今出来る事をしましょう。ギアだけが全てじゃないんですから。」

「そうデスよ!今は全力で見回りをするのデス!」

「とは言っても力みすぎて空回りしないようにね?」

 

 先程の不注意もあるので、瑠璃は切歌に注意した。

 

「了解デース!よーし!任務再開デース!」

「切ちゃん後ろ!」

 

 後ろも見ずに進行方向へと駆出そうとした時、人影に気付かずにぶつかってしまった。その人は農園の持ち主であるおばあさんであり、ぶつかった時に背負っていた籠から真っ赤に熟したトマトが数個落ちてしまっている。

 切歌と調、瑠璃は慌てておばあさんに駆け寄り、膝をつく。

 

「だ、大丈夫ですか?!」

「ごめんなさいデス!」

「いやいや、こっちこそすまないねえ。」

 

 切歌の不注意だというのに、おばあさんは優しい笑顔で許してくれた。

 

「政府からの退去指示が出ています。急いでここを離れてください。」 

「はいはい。そうじゃね。けど、トマトが最後の収穫の時期を迎えていてねぇ。」 

 

 マリアが退避の勧告を促すが、おばあさんは籠を降ろすと、トマトを両手に掴んで出した。その大きさと見事に真っ赤に熟されたトマトに切歌と調は感動している。

 

 

「わぁ……!」

「美味しそうデス!」

「美味しいよぉ。食べてごらん。」

 

 おばあさんからトマトを受け取った二人は、一口かぶりついた。

 

「ん〜!美味しいデェス!調も食べるデスよぉ!」

「本当だ……!近所のスーパーのとは違う!」

「そこのお嬢さんも、一つどうぞ。」

「あ、はい。いただきます。」

 

 瑠璃もおばあさんからトマトを受け取って一口齧った。すると、瑠璃は目を見開いて

 

「美味しい……!野菜の独特な臭みが全然なくて、それでいて甘みがぎゅっと閉じ込められていて……!こんな美味しいトマト初めてです!」

 

 思わず涙が出そうになる程に感動していた。

 

「そうじゃろう。丹精込めて育てたトマトじゃからなぁ。」

 

 まるで孫のように可愛がってくれるおばあさんだが、マリアはこの状況が一転して危険になる事を危惧していた。

 

「あ、あのねお母さん……」 

「きゃはぁ〜ん♪見ぃつっけた〜!」 

 

 その嫌な予感は的中した。パヴァリア光明結社の錬金術師、カリオストロが急襲して来た。

 

 




おまけ 輪救助隊

切歌「忘れ物を取りに来たと言って何とか通してもらえたデスけど……夜の学校ってこんなに恐いデスか?!」
調「大丈夫だよ切歌ちゃん。オバケなんていないよ。」
切歌「で、で、デスよね!オバケなんて……」

ガシャン

切歌「デエエェェェーース!」
調「待って切ちゃん!」
切歌「やっぱりいるデス!オバケは実在するんデ……」

目の前に人体模型

切歌「デデデデエエェェェーー!!調ぇぇーー!!助けてほしいデエエェェェーース!」

ガタンガタンとロッカーから物音

切歌「ふぇ……?な、何デスかぁ?もう嫌デスよぉ……!」

ガタン!ガタン!むー!むー!

切歌「だ、誰かいるデスか?人デスよね?開けるデスよ?」

ロッカーを開けて懐中電灯を下から照らすと思い切り目を見開いた女がいた。

切歌「デエエェェェーース!!」

バタッ

調「切ちゃん?!大丈夫?!って輪先輩!」
輪「むー!むー!」

後日

輪「やっほー切歌!」
切歌「デデデ!こないだの幽霊デス!」
輪「誰が幽霊じゃ!」

輪が幽霊と誤認するようになり、しばらくまともに顔が見られなかったとか。


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トマトを育てるコツ

ついに奴(ジジィ)が登場します。


 マリアが危惧した通り、カリオストロが単独で奇襲して来た。しかもよりによってギアの使用を制限されている上におばあさんがいる。調と切歌、そして瑠璃はおばあさんを守るようにカリオストロに立ち塞がる。

 

「あれま?一人はアルベルトのお気に入りと、後は色々残念な三色団子ちゃん達かぁ〜。」

「三……?!」

「色っ?!」

「団子とはどういう事デスか?!」

 

 マリアのアガート・ラーム、切歌のイガリマ、調のシュルシャガナがそれぞれ白、緑、桃色である事を揶揄した挑発だろう。特に切歌がそれに憤慨する。

 

「見た感じよ?怒った?まあがっかり団子三姉妹はともかく、アルベルトのお気に入りちゃんがいるのがマシって所ねぇ〜。」

 

 今度は瑠璃を挑発する。しかし、瑠璃はカリオストロに構う事なく、冷静に弦十郎に敵襲を報せる通信を掛ける。

 

「司令、パヴァリアの錬金術師がこちらを急襲!まだ民間人がいます!司令!バイデントの使用許可をお願いします!」

『くっ……!』

 

 敵襲は予想出来たが、よりによってギアの使用を制限された瑠璃達の方に敵が来てしまった。向こうがアルカ・ノイズを使用しないとも限らないが、苦しませると分かっていてバイデントのギアを纏わせるわけにはいかない。

 

『駄目だ!』

「司令!何故?!」

『お前の武器はギアだけではない!』

「あらぁ〜?ギアを纏わないの?そ・れ・と・もぉ、纏えない理由でもあるのかしらぁ〜?」

 

 カリオストロが目を細めて瑠璃の図星を突いた。アルベルトから事前にバイデントの呪いについて、予め聞いていたカリオストロはわざと挑発しているのだ。

 瑠璃もギアを纏いたいが弦十郎の許可が降りない以上、ギアを纏う事が出来ない。力があるのに戦えないという歯痒さを体現するように、ギアペンダントを強く握りしめている。だが挑発に乗ってはならない。おばあさんの安全を確保させる為に、マリアの方に目配せする。

 意図を察したマリアはおばあさんを背負ってその場を離脱しようとするが、カリオストロがそうはさせない。

 

「だったら少しでもギアを纏えるようにして……っ?!」

 

 アルカ・ノイズの召喚石をバラまこうとしたカリオストロを、瑠璃がタックルして阻止する。組み倒されたカリオストロは瑠璃を退かそうとするが、掴まれた手が動かせない。思いの外瑠璃の力が強く、振り解けないとカリオストロは思っているが、瑠璃は弦十郎から合気道や組手を教わっているので、どこに力を入れればいいかを心得ているのだ。故に体格がカリオストロより劣っていても抑える事が出来た。

 

「この子、どんだけ力があるのよぉ?!」

「三人とも!今のうちに!」

 

 マリアはおばあさんを背負い、調と切歌を伴ってその場を後にする

 カリオストロもただ組伏せられているだけではない。左掌に集まった光弾が放たれようとした時、それに気付いた瑠璃は身体を左に捻るように跳躍して、放たれたそれを避けた。だが拘束を解いてしまった為、自由の身になったカリオストロは起き上がる。

 

「もう汚れちゃったじゃなぁ〜い!なら今度は私から密着しちゃうんだからぁ〜!」

 

 カリオストロはアルカ・ノイズの召喚石をばら撒いくと、瑠璃はアルカ・ノイズが姿を表す前に出来るだけその場から距離を取る為に走り出す。 

 

「逃さないんだからぁ〜!」

 

 カリオストロの意思に従うようにアルカ・ノイズは瑠璃を追撃する。瑠璃は振り返らずに走り続ける。

 

 

 

 

 

 逃げてクリス!!

 

 

 

 

 私の事はいいから!早く!!

 

 

 

 

 

 その時タイミング悪く、霞がかったようなヴィジョンが流れてしまう。だか後ろからアルカ・ノイズが追ってきている以上、今はそんな事を考えている余裕はない。そのまま走り続けるが

 

「うわぁ!」

 

 突然背後が爆発し、その爆風に吹き飛ばされてしまい、大きく転倒する。振り返ると、カリオストロは不敵な笑みを浮かべながらその右掌に光の弾が浮いていた。それを投擲したのだろう。

 さらにそこに追ってきたアルカ・ノイズに囲まれてしまう。もはや逃げ場がない。

 

「待たせたな!姉ちゃん!」

 

 上空から声が聞こえた。姉ちゃんと呼ぶのは一人しかいない。空を見上げると、イチイバルのギアを纏い、ミサイルをサーフボードのように乗りこなすクリス。そのままクロスボウの矢が瑠璃の周りにいるアルカ・ノイズに降り注ぎ、文字通り蜂の巣にしてやった。

 

「あたしに任せて早く逃げろ!」

「ありがとう!気をつけてね!」

「ああ!」

 

 カリオストロの相手はクリスに任せて、瑠璃は撤退した。

 

『錬金術士は破格の脅威だ!翼たちの到着を……』

『そうも言ってられなさそうだ!』

「会いたかったわぁ!ああ〜ん!巡る女性ホルモンが煮えたぎりそうよぉ〜!」

 

 カリオストロが放つ光弾が容赦なく上空に飛ぶクリスのミサイルを狙う。クリスのクロスボウとカリオストロの光弾がぶつかり合うが、最後の一発を放った光弾がミサイルのブースター部が直撃し、クリスが降り立つとミサイルは爆発してしまう。しかも着地した直後も、光弾が容赦なく襲い掛かる。

 

「今度は妹が近くに来てくれたぁぁぁ〜!!」

 

 カリオストロは歓喜の叫びを挙げながら、自身の背後に展開した錬金術の陣から大量の光弾を放った。バク転しながら回避し、距離を取るクリス。砂煙でクリスの姿が見えなくなるが、砂煙が晴れるとクリスの左腕のアームが大弓へと可変させて、ミサイルを番えて構えていた。だがカリオストロは動じない。

 

「焦って大技、それが!命取り、なのよね!」

 

 弓は銃とは違い、方向転換してからすぐに放つ事が出来ない。さらに矢の軌道は一直線。例え放たれてもそれを避ければその隙を突く事が出来る。

 カリオストロはミサイルの矢が放たれる前に、クリスの背後に周った。だが

 

「ああ。誘い水に乗って隙だらけだ。」

 

 目線だけ動かし、不敵な笑みを浮かべるクリス。まるで待っていたかのように。

 自分が誘い込まれていたのに気付いたカリオストロだったが、砂煙を切り裂くように現れた響に懐まで入られ、その腹に肘打ちが直撃する。

 

「内なる三合、外三合より勁を発す。これなる拳は六合大槍!映画は何でも教えてくれる!」 

 

 大きく転がったカリオストロは悪態をついて、近くの壁に手をつきながら起き上がる。だがそこに壁がある事に違和感を感じた。その壁は鏡のようにカリオストロの姿を写している。

 

「壁……?」

「壁呼ばわりとは不躾な!剣だ!」

 

 壁、もとい巨大な剣、天ノ逆鱗が刺さっていたのだ。柄の上に腰に手を当てて佇んでいる翼は壁呼ばわりされた事で憤慨する。

 

「信号機共がチカチカと……!」

 

 翼の青、響の黄色、クリスの赤で信号機と揶揄する。数で不利になってもカリオストロはまだやる気のようだが

 

『私の指示を無視して遊ぶのはここまでよ。』

 

 サンジェルマンがテレパスでカリオストロに直接、通信する。どうやら独断で動いていたようだ。サンジェルマンに咎められたカリオストロは舌打ちしながらも、テレポートジェムを足元に投げる。

 

「次の舞踏会は、新調したおべべで参加するわ。楽しみにしてなさい。ばあ~い♪」 

 

 手を振りながら転移した。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 日が傾き、夕日が差し込む頃、おばあさんを連れて撤退したマリア達。現在は避難場所である小学校にいる。

 

「ありがとね。ただ、あの黒子の子も大丈夫かねぇ。」

「心配いりません。彼女も無事に逃げ出せたみたいです。」

 

 マリアの背から降ろしたおばあさんは瑠璃を心配していた。マリアは瑠璃の無事の知らせは先程知らされ、先に弦十郎達の所へ戻っているとの事だった。

 

「お水もらってくるデスよ!」

「待って切ちゃん!私も一緒に!」

 

 物資を運んでいる自衛隊へ切歌は走っていき、調もその後を追う。

 

「元気じゃのう。」

 

 元気に走っていく切歌と調を温かい目で見送っている。

 

「お母さん、お怪我はありませんか?」

「大丈夫じゃよ。寧ろあんたらの方が疲れたじゃろうに。わしがぐずぐずしていたばっかりに迷惑を掛けてしまったねぇ。」

「いえ……。私達に守る力があれば、お母さんをこんな目には……。」

 

 マリアはLiNKERが無いばかりにギアを纏えず、おばあさんを危険な目に遭わせた事に落ち込む。

 

「そうじゃ。せっかくだからこのトマト、あんたも食べておくれ。」 

 

 おばあさんが思いついたように籠からトマトを一つ差し出す。だがマリアの表情は引きつっていた。

 

「わ……私トマトはあんまり……」

 

 マリアはトマトが苦手だという事が分かりやすく出ている。優しく断ろうとしたが、おばあさんの優しい顔もあって断りきれず、受け取った。

 

「では……ちょっとだけいただきます。」

 

 マリアは恐る恐る、トマトを一口齧った。すると、瑠璃の時と同じように目を見開いた。

 

「甘い……!フルーツみたい!」

 

 トマトが苦手なマリアも美味しく食べられる事に驚いている。

 

「トマトを美味しくするコツは、厳しい環境に置いてあげること。ギリギリまで水を与えずにおくと、自然と甘みを蓄えてくれるもんじゃよ。」

「厳しさに、枯れたりしないのですか?」

 

 逆に水を与えないと駄目になるんじゃないのか、そう思ったマリアは齧ったトマトを見つめる。

 

「寧ろ甘やかしすぎると駄目になってしまう。大いなる実りは、厳しさを耐えた先にこそじゃよ。」 

「厳しさに耐えた先にこそ……。」

 

 おばあさんが教えてくれた事を呟く。厳しさにも色々あるが、それがどんな意図があるのか、今も分からない。だがそれは、自分が迷いこんだ時に導いてくれる道標になってくれるような気がした。

 

「トマトも人間も、きっと同じじゃ。」

 

 おばあさんは優しく、マリアに諭すように呟いた。 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 仮設本部では弦十郎、緒川、エルフナインが険しい表情でモニターを見つめていた。バルベルデドキュメントの解析が難航していたのだ。そこに戦線から撤退した。瑠璃も合流した。

 

「大丈夫か瑠璃?」

「うん。大丈夫だよ。ギアを纏わなくても、何とかなったけど……ちょっと焦ったかな。」

 

 何故あのタイミングでヴィジョンが流れたのか分からない。しかも全体的に霞がかっていたのでハッキリとしない。しかし、無事に生き延びたのだからそれで良しとしている。

 そこに緒川が

 

「司令、鎌倉からの入電です。」

 

 鎌倉という単語を聞いた瑠璃は、少し怯えたような表情になる。

 

「直接来たか……繋いでくれ。」

「はい。」

 

 鎌倉とは風鳴訃堂の屋敷を構える地名であり、この場合訃堂の事を指している。

 風鳴訃堂は弦十郎と八紘にとっては父親であり、翼と瑠璃にとっては祖父、なのだが翼は血縁的には父親である。

 瑠璃は一度、弦十郎に連れられ鎌倉へ挨拶に訪れた事があるのだが、護国の事を第一と考える訃堂に快く受け入れられるわけもなく

 

『夷狄の混血』

 

 と罵られ見向きもされなかった。この時、瑠璃は本当は雪音である事を覚えていなかった為、どういう意味か理解していなかった。ただ正直、恐ろしいの一言しかない。

 訃堂の恐ろしさを知る者達は、緊張しながらモニターに注目する。すると、モニターには家紋が映し出された。だがそこには訃堂の影が映っている。着物姿であるが肩幅が広く、見た限りでは老人とは思わせない。

 

『無様な。閉鎖区域への侵入を許すばかりか、仕留めそこなうとは。』 

 

 訃堂の怒号はその場にいるものを震え上がらせるくらい強いものだった。

 

「いずれこちらの詰めの甘さ、申し開きは出来ません……!」

『機関本部の使用は、国連へ貸しを作るための特措だ。だが、その為に国土安全保障の要を危険に晒すなどまかりならん。』

「無論です……!」

『これ以上夷狄に八洲を踏み荒らさせるな。』 

 

 訃堂は言う事だけを言うと、通信を切断する。実の父親とはいえ、抱く思想は正反対である事もあり、訃堂が苦手である。その証拠にあの弦十郎がため息をついていた。

 

「流石にお冠だったな。」

「それにしても司令、ここ松代まで追って来た敵の狙いは一体……?」

「狙いはバルベルデドキュメント。または装者との決着。あるいは……」

 

いずれにせよ判断するには材料が少なすぎる。これでは対策も練られない。パヴァリア光明結社に勝つ為に、バルベルデドキュメントの解析を急ぐ必要がある。

 

 




おまけ 訃堂へ挨拶

瑠璃「瑠璃と申します……。」
訃堂「ふんっ……夷狄混じりか。」
弦十郎「この子には翼とは違う道を歩ませるつもりです。何卒……」
訃堂「所詮夷狄の混血にはこの国を守れん。」

立ち上がり、広間から出ていき、一人になる訃堂

(うおおぉぉーーー!可愛い娘キターーー!愚息にしては上出来じゃぁ!)

タイプはどストライクでした。






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ラピス・フィロソフィカス

 
いよいよ瑠璃を絶望に落とす時が来た。



 装甲車の中では友里がバルベルデドキュメント、エルフナインはDr.ウェルが遺したLiNKERのレシピの解析に手を回している。外は既に夜になっているが、彼女達は自分達の仕事を果たそうと奮闘している。そんな二人に差し入れが届く。

 

「友里さん。温かいもの、どうぞ。」

「デース。」

 

 調と切歌が温かいコーヒーを届けてくれた。

 

「温かいもの、どうも。何だかいつもとあべこべね。」

 

 いつも友里が温かいものを届ける方なのだが、今回は届けられる側になっている事におかしかったのか、笑みがこぼれる。

 

「あなたにも。」

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

 

 エルフナインの方にはマリアと瑠璃が届けた。

 

「調べものは順調かしら……これって?!」

 

 マリアがエルフナインのデスクを覗くと、そのモニターに映っていたのはかつてF.I.S.に所属していた子供達のデータだった。エルフナインがこれを閲覧していたのには訳がある。

 

「これって、もしかしてF.I.S.の?」 

「はい……少しでも早くLiNKERの完成が求められている今、必要だと思って……。」

「私達の忌まわしい思い出ね。フィーネの器と認定されなかったばかりに、適合係数の上昇実験にあてがわれた孤児たちの記録……。」

 

 その中にはLiNKERに適合する為に自らの命を擲ったジャンヌ、バイデントの起動実験で命を落としたメル、そしてネフィリムの暴走を止める為に絶唱を唄い、命を燃やしたセレナのデータもあった。

 かつてマリアはセレナが皆を守ったように自分も強くあらねばとガングニールのギアを纏っていた時があった。しかし最初はその適合率の低さ故に、全身にバックファイアが襲い掛かり、何度やっても操れない事から諦めかけていた。

 

『マリア、ここで諦める事は許されません。悪を背負い、悪を貫くと決めたあなたは、苦しくとも耐えなければならないのです!』

 

 それを許さなかったのが今は亡きナスターシャだった。

 

「マム……。」

 

 あの日の記憶を思い出し、呟いた。その時、装甲車にアルカ・ノイズ出現のアラートが鳴り響いた。友里は一度解析を止め、状況把握に周る。

 

「多数のアルカ・ノイズ反応!場所は……松代第三小学校付近から風鳴機関本部へ進攻中!」

 

 小学校と聞いて切歌はピンと来た。

 

「トマトおばあちゃんを連れて行った所デス!」

「マリア!瑠璃先輩!」

「ええ!」

 

 4人は自分達の成すべき事を果たす為に行こうとした時、エルフナインが止めようとする。

 

「待ってください!まだLiNKERが……」

「何処へ行く?」

 

 そこに弦十郎も帰還し、出口の前に立ち塞がる。

 

「敵は翼たちに任せるわ!私達は民間人への避難誘導を!」

「分かった。瑠璃以外は向ってくれ。無茶はするなよ。」 

「ええ。」

「待って、何で私だけ……?」

 

 弦十郎からの許可が降り、マリア達は駆け出すが、自分だけ残留を言い渡された瑠璃は納得がいかないようだ。ギアを纏うわけではないので行っても問題ないはずであるが

 

「お前は万が一の為だ。」

 

 上手く言い表せないが先程から弦十郎は胸騒ぎがしていた。以前も同じような経験があったが、その時は瑠璃と輪がノイズに襲われるという事案が発生してしまった時だった。

 確証はないが、このまま行かせるのは良くない気がした為にここに留まるよう言い渡した。

 

「分かりました……。」

 

 瑠璃も弦十郎の意図を理解したわけではないが、渋々残留に従った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 現場に到着した響、翼、クリスはアルカ・ノイズ相手に時間は掛けられないと判断し、短期決戦で終わらせる為にイグナイトモジュールを起動、跳ね上がった火力でアルカ・ノイズを瞬く間にその数を減らしていった。それを施設の屋根で見ていた4人の影があった。

 

「抜剣、待ってました♪」

「流石イグナイト、凄いワケダ。」

「魔剣ダインスレイフの呪いによって跳ね上げられた威力。馬鹿には出来ないな。」

「そうね。だからこそこの手には、赤く輝く勝機がある。」

 

 4人はそれぞれラピス・フィロソフィカスが填められたアイテムを取り出す。サンジェルマンは西洋銃の引き金を引くと鉄劇が弾き、カリオストロは指輪を填め、プレラーティはカエルのぬいぐるみから剣玉を出し、アルベルトは持ち手にラピスが施された長杖の先端をカンッと鳴らした。するとラピスが赤く輝き出した。

 

 翼がサンジェルマン達の姿を捉えるとそれぞれの手に剣を握り、刃に紅蓮の炎を纏わせて飛翔する。

 

 【炎鳥極翔斬】

 

 炎の剣が翼のように羽撃き、サンジェルマン達へと突撃する。

 

「押して参るは風鳴る翼!この羽撃きは、何人たりとも止められまい!」 

 

 間合いに入った翼は2本の剣を振り下ろすが、それは錬金術による半球状のバリアで防がれた。

 

「実験は成功だ。」

 

 アルベルトが勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべる。何を意味しているのか、すぐには理解出来なかったが、それはすぐに判明する。

 

「何……?!ギアが……!ぐあああぁぁぁっ!!」

 

 翼のギアが粒子の光を帯びると、そのまま翼が吹き飛ばされてしまった。

 

「翼さん!」

 

 さらに翼のギアはイグナイトから元のギアに戻っており、ただ吹き飛ばされただけで立つことすらままならない程のダメージを負っている。

 響達はサンジェルマン達がいる方へ見上げると、4人は月を背後に佇んでおり、今までの容姿とは異なる。彼女達はそれぞれ形状が異なる戦闘スーツや鎧を纏っている。それがファウストローブである事はすぐに分かった。

 

「まさかファウストローブ……!」

「よくも先輩を!!」

 

 クリスは激情を小型ミサイルに乗せるように一斉掃射するが、プレラーティの大型の剣玉を振るった事で、それに繋がる大玉が高速回転、ミサイルを全て防いだ。さらにその爆炎から発した煙からカリオストロが飛び出すと、拳から光線を発射する。

 

「こんなもの!」

 

 クリスはリフレクターを展開、光線とぶつかる。だが、翼の時と同じようにギアに粒子の光が帯び、イグナイトが強制的に解除されてしまった。その拍子に吹き飛ばされ、背中を建物の壁にぶつかってしまう。

 

「お姉ちゃん!クリス!」

 

 本部のモニターで翼とクリスが倒されてしまったのを目撃してしまった瑠璃は叫んだ。

 

「何が起きている?!」

「イグナイトのカウントは残っているのに……!」

「何故イグナイトが……?!」

 

 何故イグナイトが強制的に解除されてしまったのか、突然の事態に皆が動揺する。だからこそ、装甲車から出ていく瑠璃に誰も気付かなかった。

 

 

 残った響もサンジェルマンの弾丸によってイグナイトが強制的に解除されてしまい、立ち上がれない程のダメージを受けてしまった。サンジェルマンが響を見下ろしている。

 

「ラピス・フィロソフィカスのファウストローブ。錬金技術の秘奥。賢者の石と、人は言う。」

「その錬成には、チフォージュ・シャトーにて解析した世界構造のデータを利用……もとい、応用させてもらったワケダ。」

 

 どういう理屈か理解していないだろうが、それでも何とか立ち上がろうとする響だが、全身に襲うダメージがそれを許さない。

 

「あなたがその力で……人を苦しめるというのなら……私は……」

「誰かを苦しめる?慮外な。積年の大願は人類の解放。支配の軛から解き放つことに他ならない。」

「人類の解放……?だったら、ちゃんと理由を聞かせてよ……。それが誰かの為ならば……私達……きっと……手を取り合える……。」 

「手を取り合う?」

  

 サンジェルマンは響の言葉をオウム返しに呟く。

 

「サンジェルマン。さっさと……」

 

 Tearlight bident tron……

 

 星々が煌めく夜空に歌が響くと、藍色の光と共に投擲された黒槍がサンジェルマンに迫る。サンジェルマンは後退するように跳躍すると、先程までいた場所に黒槍が刺さった。

 

「現れたか、バイデントの装者!」

 

 そこに瑠璃が降り立った。仮設本部では瑠璃が戦闘地に現れた事に驚愕する。

 

「バイデントの反応……?!まさか瑠璃ちゃんが!」

「あのバカ娘め……!」

 

 無断で出撃した事に憤怒するが、緊急事態である為、説教は後にする。

 瑠璃も3対1で、しかも相手はファウストローブを纏っている為、倒そうなどとは考えていない。ここに向かう前にマリア達に救援を出していた。それまで何とか持ちこたえる。

 残存しているアルカ・ノイズを蹴散らしつつ、サンジェルマン達の激しい攻撃を避け続ける。戦闘補助システムのお陰で、初見である攻撃を紙一重で避けられる事が出来る。さらにイグナイトを纏っていない為、響達のようにダメージを負うことはない。だが攻撃力が不足するという欠点が顕著に出ている。次第に数に押されていき、瑠璃は劣勢に立たされる。

 

「はぁ……はぁ……ぅっ……!」

 

 

 

 

 

 パパ!ママ!起きてよ!パパァ!ママァ!

 

 逃げてクリス!

 

 

 

 

 

 悪夢のヴィジョンが流れ、瑠璃を苦しめるが、敵を目の前にして止まるわけにはいかない。瑠璃は苦痛に耐え槍を握りしめる。

 

「また会えたね、ルリ。」

 

 そう言うとエメラルドグリーンを基色としたアーマーを身に纏うアルベルトが、すぐ目の前に立っていた。

 

「いつの間に……!」

「約束したね。次に会ったら記憶を返すと。」

「記憶を……んっ……?!」

 

 そう言うとアルベルトは瑠璃の身体を抱き寄せ、唇同士を重ねる。突然の出来事に呆然としてしまい、されるがままになる。

 だがこの行為の意味にエルフナインは気付いた。

 

「あれは思い出の!」

 

 これはキャロルとキャロルが作ったオートスコアラー達が力の源である思い出を搾取する時にやるもので、奪われた者は屍同然となる。しかし、瑠璃はそのような状態になる様子はない。

 

「思い出を与えている……?!」

 

 

 

 

 

 パパ!ママ!起きてよ!死んじゃ嫌だよぉ!

 

 絶対にお姉ちゃんが守ってあげるからね……!

 

 

 

 

 

 今まで霞がかっていたヴィジョンがハッキリと晴れていくのが分かった。唇を離したアルベルトはそのまま瑠璃を手放した。 

 

「ぅ……くそっ……姉ちゃん……?」

 

 奇しくも同じタイミングで気を失っていたクリスの意識が戻った。瑠璃がギアを纏って戦っていたのを目の当たりにしていたが、次第に瑠璃の様子がおかしい事に気付いた。

 

「思い出しただろう?」

 

 

 

 逃げてクリス!お姉ちゃんに構わないで走って!

 

 絶対に……クリスに会うんだ……クリス……。

 

 

 

「そうだ……。あの時……パパとママが亡くなって……銃を持った人達に追われて……クリスを逃して……」

 

 瑠璃の瞳孔は酷く揺れ、脂汗が滲み出ている。記憶が鮮明になるにつれて身体が震え、髪を乱暴に掴むように頭を抱える。

 仮設本部では緊急事態を知らせるアラートが響く。モニターには瑠璃のバイタルが表示されているが、心電図や脳波を示す波が激しく揺れている。これまでのものとは明らかに違う。

 

「瑠璃ちゃんのバイタル、異常発生!適合率急激に低下!」

「瑠璃!しっかりしろ!自分を保て!」

「姉……ちゃん……?!姉ちゃん……!」

 

 弦十郎と痛みを押し殺しているクリスが必死に呼び掛けるが、今の瑠璃には届いていない。その顔は恐怖と絶望に染まり、次第に涙も流した。

 

「それから……それから……っ……」

 

 

 

 

 

 

 嫌だ……い……や……ぁ……嫌だあああぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 放して!嫌だあぁぁ!助けて!パパァ!!ママァァ!!

 

 

 

 

 

 

「ぁ…………ぁ……ぁ…………っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瑠璃の悲鳴が夜空を切り裂く程に木霊する。地獄の6年間、自由も人権も、純潔も奪われた忌まわしき記憶が蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、瑠璃の忌まわしき過去が語られます。


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蘇った忌まわしき記憶

瑠璃の記憶が蘇ります。


 雪音ルリ 雪音雅律とソネット・M・ユキネの娘であり、妹のクリスは双子である。一卵性双生児である為、髪や瞳の色、黒子の位置に差異はあれど瓜二つだった。髪も切っておらず、クリスと同じ2つのお下げをしていた。

 

 今でこそ内気で時々大胆な行動を取ることがあるが、昔はそうではなかった。どちらかと言えば、ルリの方が活発だった。

 妹が近所の子供に虐められた時は、ルリが真っ先に駆けつけ立ち向かい、クリスが熱を出して苦しんでいた時は、ルリがずっと傍にいて看病した。

 両親と共にバルベルデで行く事になった時も、不安がっていたクリスを励ましていた。

 

「大丈夫だよクリス!何があっても、私が守るから!」

 

 だからクリスは見知らぬ土地に着いても、怖くはなかった。ルリもクリスと一緒にいる事で、どんな事が起きても乗り越えられる。そう感じていた。

 

 バルベルデで両親がNPO活動をしていたある時、ルリとクリスは現地の子とサッカーで遊んでいた。もちろん両親の目が届く場所で。クリスも参加していたが、なかなか上手くボールを蹴れなかった。

 一方ルリはというと

 

「行くよー!それぇっ!」

 

 勢いよく蹴ったボールは、ゴールとは全然違う方へと飛んでいった。10回に一回上手く蹴れるが、それ以外はクリスとほぼ同じくらいポンコツである。しかも蹴ったボールの先には

 

「危ない!」

 

 偶々通り掛かった人の頭に直撃しそうになった瞬間、その人は高く飛んで、右足で見事にトラップ。着地すると、地面に軽くバウンドしたボールを、足の甲で蹴り上げ、大腿で2回トラップ、足を回して蹴り上げて、最後にインサイドストールをした足を飛び越える反動でボールを蹴り上げた。アクロバティックな動きをする度に、後ろに結んだポニーテールがしなやかに舞う。

 

「凄い……。あっ……ごめんなさい!」

 

 ルリは慌ててその人に駆け寄って謝った。すると、こめかみが肩にまで付きそうなくらい長い黒髪の女性が、ボールをルリに返した。

 

「大丈夫さ。私も少し齧ったくらいだが経験していてね。君は……現地の子じゃないね?」

「うん。パパとママが連れてきてくれたの!」

「ご両親か。ああ、あの歌が綺麗な夫妻か。どうりで、あの二人にそっくりなわけだ。」

「お姉ちゃーん!どうしたのー?」

 

 いつまでもルリが帰って来ないのを心配したクリスが様子を見に来ていた。

 

「あ、もう戻らなきゃ。ボールありがとう!」

 

 ルリが子供達の所へと戻って行こうとした時

 

「君、名前は?」

「雪音ルリ!お姉さんは?」

 

 クリスに問われると女はフッと笑みを浮かべ

 

「瑠無だ。」

「ありがとう瑠無さん!」

 

 ルリが子供達の所へ戻るのを見届けた瑠無は、何処かへと姿を消した。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 両親が死んだ。ソーニャが運び込んだ物資が偽装で、本当の中身は爆弾だったのだ。その爆発に巻き込まれ、両親はこの世を去った。

 

「パパァ!ママァ!死んじゃ嫌だぁ!起きてよぉ!」

 

 両親が死んだ事を認めたくなくて、ルリは両親の遺体に崩落した瓦礫を退かそうとしたが、ソーニャに止められてしまった。

 

 二人は見知らぬ土地で天涯孤独となってしまい、しばらくは知り合った子供達の所でお世話になっていたが、間もなくそこも紛争が激しくなってしまった。

 

 政府軍がその村を反政府ゲリラの拠点であると疑い、攻撃を仕掛けたのだ。実際、この村は反政府ゲリラとは無関係だったにも関わらず、戦車の砲撃や機関銃の弾丸が飛び交う地獄絵図と化した。

 そこにいた村人は射殺された者、捕虜になった者に分けられ、捕虜は皆女子供だった。しかし彼らは子供相手でも容赦はしない。死者の中には、サッカーで遊んだ子供もいたのだ。とても軍人がやる事とは思えない所業だ。

 

 ルリとクリスは小さな家に身を潜んでいた。窓からこっそり外の様子を見るが、兵士が一軒ずつ家に突入している。ここに入って来るのは時間の問題だ。

 だが一つだけこの場を切り抜けられる方法がある。作戦を至近距離ではないと聞こえないくらい小声でクリスに伝える。

 

「クリス。私があの人達を引きつけるから、その間にクリスは裏手から逃げて。」

「そんな事をしたら、お姉ちゃんが……!お姉ちゃんも一緒に逃げよう……!お姉ちゃんと一緒じゃないと嫌だ……!一人は嫌だよ……!」

「クリス、二人で逃げてもあっという間に追いつかれちゃう。そうしたら何をされるか分からない。」

 

 国を守るはずの政府軍がこれでは自分達が捕虜になった時、何をされるか分かったものではない。彼らを信用できないと判断したルリはせめてクリスだけでも逃す事を決めたのだ。

 しかし、ルリと離れるのが嫌なクリスは言う事を聞かない。すると複数の足音が近付いてきた。もう時間がない。

 

「クリス、私が絶対に守るから……。約束する。必ず生きて帰るから、今だけはクリスだけでも何とか逃げきって。私も後から追いつくから。」

「本当に……?」

「もちろんだよ。ほら、指切り。」

 

 そう言うとルリは小指だけを立てる。クリスも同様に小指を立てると、小指同士を組んで、指切りげんまんをした。

 だがそれが終わると同時に外からドアを蹴破られた。

 

「ガキがまだいたぞ!」

「マズい……!」

  

 それに気付いたルリは急いでクリスを逃す為にタンスにあった衣服を乱暴に放り投げて、そこら辺にある小物を兵士に向かって投げつける。顔に掛かった衣服が目くらましになったようで、今のうちにクリスに逃走を促す。

 

「お姉ちゃん……!」

「逃げてクリス!私の事は良いから早く!」

 

 クリスは裏口から脱出し、少しでも時間を稼ぐ為にルリは残り必死に抵抗する。食器や本、使えるものは何でも投げた。だがその抵抗をかいくぐって裏口へ行こうとする男がいた。

 

「させない!」

 

 ルリはその男に飛びかかって、クリスを負わせない為にしがみついた。

 

「このメスガキ!」

 

 アサルトライフルの銃身でルリは叩き落とされてしまう。起き上がろうとした時、既に大勢に囲まれたルリは起き上がれないよう男達に暴行を加えられた後、取り押さえられた。そのまま捕虜として政府軍に連行されてしまった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 捕虜として連行されたルリは目隠しをされたまま牢屋まで連行され、そこで目隠しを外されるとそのまま放り込まれた。

その牢はとても狭く衛生的とは言い難い。それに加えてルリと同じくらいまだ幼い少年少女が一つの牢に10人単位で押し込められている為、余計に狭さを感じてしまう。

 食事も悲惨なもので、一日に必要な栄養素など皆無に等しかった。故に栄養失調になる者が後を絶たなかったが、彼らがそんな事に構う事はない。

 

 兵士達が来ると男子は全員連れて行かれ、そこでは強制的に銃を持たされ、訓練に参加させられる。それを嫌がれば殺される故にやるしかなかった。だがその訓練は虐待じみており、それで亡くなる子供も少なくなかった。訓練で生き延びると再び収容されていた牢に放り込まれる。

 

 女子は掃除や物資の運搬などの肉体労働を強いられる。いかなる時であっても休む事は許されず、少しでも休もうとすれば暴行される。さらに苦労して終わっても、兵士達がわざとぶち壊し、やり直させる。

 

 時々何人かは、兵士達に何処かへと連れて行かれるが、そのまま帰って来ない。奴隷として扱われ、何処へ連れて行かれ何をされるのか分からない故に女子達は男子と同様に、政府軍の兵士達にひどく怯えていた。

 

 唯一の救いは、ここにクリスがいないという事だ。ここに来てから何度も暴力を振るわれており、身体に痣が何箇所も出来ている。だがルリは必ずクリスと再会する約束を果たす為なら、どんなに辛くても恐怖に抗い続けられる。

 

(クリスと絶対に会うんだ……!必ずここを出るチャンスがあるはず……!)

 

 そのような過酷な生活で6年過ごし、途中ではあるが身体は成長している。同じ奴隷の子達を励ましていきながら、生還出来る事を、クリスと再会出来る事を願っていた。

 ある時、国連軍がここに来るという噂を耳にした。何でも音楽会のサラブレッドを保護する為に引き渡しを要求しているのだとか。これがルリとクリスの事を指している事は、すぐに察した。この噂が本当ならクリスとの再会も夢ではない。

 その日の夜、二人の兵士がルリがいる牢屋の前に立つと

 

「おいお前。」

「私……?」

「お前だ。出ろ。」

 

 どういうわけか牢屋から出された。何故自分だけ?まさか噂は本当だったのか?なら……

 

(クリスに会える……!)

 

 顔には出さなかったが心の中で、妹との再会への期待が大きく膨らんでいく。だが突然、兵士はルリに目隠しに加えて鎖付きの首輪を着ける。

 

「な、何これ……?!」

「黙って歩け!」

 

 鎖を兵士に引っ張られると、それに繋がった首輪を着けているルリは犬のように強制的に歩かされる。外へ出ると、今度は護送車に乗せられる。後部の扉から乗せられ、途中で脱走されない為か奥の方へと入れられた。すると、先程ルリを連行した兵士とは別の4人の兵士が後部の扉から乗り込んできた。ルリは目隠しのせいで見えてないが、兵士達のルリを見る目が下卑ていた。

 

 護送車が発車し、ジャングルの奥地へ走ると収容所と思われる施設の前で停車する。ルリはそこで降ろされたが、目隠しをされている為、ここが何処なのか分からない。

 

「ここ何処なの……?」

「いずれ分かる。ほら、さっさと歩け。俺達は忙しいんだ。」

 

 鎖を引っ張られ、中へと強引に連れて行かれる。この時、今まで自分達を楽しそうに痛めつけておいて何が忙しいのかと心の中で毒づいていた。

 

「やめてええぇぇぇっ!」 

 

 甲高い悲鳴が聞こえた。

 

(何……?!今の……)

 

 視界が利かない故に、突然聞こえた悲鳴に恐怖を感じて立ち止まった。

 

「止まるな!」

「痛っ!」

 

 さっきよりも強く引っ張られる。歩く度に不安がどんどん大きくなっていく。しかし、ルリの意思とは関係なく男達にルリの首輪を繋ぐ鎖を引っ張られ、強引に連れて行かれる。歩く度に悲鳴が大きくなっているような気がする。

 

「ここで止まれ。」

 

 すると、目隠しを外された。その前には大きな二つ扉がそびえ立っている。男がその扉を開くと

 

「え……」

 

 その先の光景にルリは絶句した。

 

「やだあぁっ……やめ……てえ……ぇ…ぁ…」

「ぁっ……ぁぅっ……」 

 

 中で男達が女の捕虜を性欲のはけ口として弄んでいた。涙を流してやめてくれと泣き叫ぶ者がいれば、中には、大勢の男達の相手をしきれずに、既に事切れている者もいた。

 この光景を目の当たりにしたルリは自分がこれから何をされるのか、想像などするまでもなかった。

 

「ね、ねぇ……これ……」

 

 後ろにいた男達の自身を見る下卑た顔を見たルリは自分の運命を悟った。脚は震え、表情も恐怖によって歪んでいた。今の彼女に立ち向かう気力も勇気も皆無だった。

 

「いや……やだ……いやぁ……いやだあああぁぁぁ!」

 

 これまでクリスの為に恐怖に抗ってきたルリだったが、遂に恐怖に屈した。泣き叫んで逃亡を図るも鎖に繋がれた首輪のせいで逃げ出す事は叶わず、強引に引っ張られながら牢に入られ、そのまま倒された。

 男達が群がりルリを囲むと、一人が腹に蹴りを入れて抵抗出来ない様にした。

 痛みで蹲るルリに別の男の手が、ルリが着ていた洋服を強引に破り捨て下着までもが剥がされた。

 

「いやぁっ!いやだ!やめてええぇっ!放してぇっ!」

 

 一糸纏わぬ姿にされ、男達によって押さえられ、ルリは生殺与奪の権を握られた。圧倒的な力と数の暴力と悪意がまだ小さなルリに降りかかる。

 

「やだやだやだぁ!助けてクリス!!パパァァ!!ママァァァ!!」

「うるせえな、大人しくしてなぁっ!」

「いぎぃっ!」

 

 ズンという音ともにルリの中にある心が崩壊を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 記憶が蘇った瑠璃の心は、あの日と同様に崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




忌まわしき記憶

 クリスと離れ離れになった後、政府軍に捕まったルリはそこで6年間、虐待じみた収容生活を余儀なくされる。
 それでもクリスとの再会を願い続けたルリ。どんなに痛めつけられようが、絶望する事なく捕らえられた他の子供達を励ましながら希望を模索していた。

そしてそれが実を結び、雪音姉妹の生存を知った国連軍は救助隊を派遣される事が決まり、それを知ったルリは希望を掴んだ。
だがその日の内に、ルリだけが他の収容所に移された。そこは、政府軍の性欲を発散させる為に作られた地獄。少女達はここで三日三晩、慰み者として兵士達に凌辱されていた。
 
 自身の運命を悟り、遂に絶望し。ルリもまた彼女達のように、なす術なく兵士達に精神が壊れるまで犯され続けた。


 これがきっかけで勇敢で活発だったルリは記憶を失い、性格も内気になってしまった瑠璃へと変わりました。

 漢字とカタカナを使い分けていたのもそういう理由です。

 しかし瑠璃がたまに見せる大胆な行動は、ルリだった頃の名残です。

今回の惨劇の内容を細かくしてしまうがR-18に抵触するのでいつかはそっちで描きたいと思います。


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心が壊れて……

今回のおまけは翼さんのお誕生日記念になってます。

なので本編100%シリアスが一気にぶち壊しになるかも……?



 最悪な事態が起きてしまった。忌まわしき記憶が蘇り、それに耐えられなかった瑠璃の心は砕かれ、悲鳴をあげながら膝から崩れ落ちた。さらに低下した適合率がついに限界を迎えギアが強制解除されてしまう。

 

「君を救う為とはいえ、あの地獄を思い出させなくてはならないのは心苦しいな。」

「て、テメェ……!」

 

 クリスの声に反応してアルベルトは振り返った。痛みを押し殺して立ち上がろうとするが、ダメージは深刻なものであり、立ち上がる事が出来ず、地を這う事しか出来ない。

 

「やめておきたまえ。ラピスの輝きによってイグナイトの呪いを焼き払われたその痛み、とても耐え難いものだ。」

「何しやがった……姉ちゃんに何しやがった?!」

「怒らない怒らない。私は預かっていた記憶……思い出を返しただけさ。」

 

 憤怒するクリスに、アルベルトは落ち着かせようと訳を説明するが、余裕の笑みがクリスを余計に怒らせている。

 

「キャロルの特技を真似ても、やってる事はえげつないわよねぇ〜。」

「3年越しに思い出を返した結果がこれなワケダ。」

 

 カリオストロとプレラーティは、アルベルトのやり方に呆れながらも頭を垂れた状態で髪を掻きむしり、膝をついてその場に座り込んでいる瑠璃を見下ろして嘲笑う。

 

「そっちはアルベルトに任せて、私達は……っ?!」

 

 装者達を始末しようとした時、何かに気付いたサンジェルマン達は空を見上げる。すると空には人が浮いており、その右手から輝きを発している。

 サンジェルマン達はその男の正体を知っている。

 

「統制局長アダム・ヴァイスハウプト!どうしてここに?!」

 

 彼こそがサンジェルマン達の上司であり、パヴァリア光明結社の首領、アダム・ヴァイスハウプト。つまり錬金術師達のトップとも言える存在である。

 彼は帽子を投げ捨てると、その右手に出した黄金の球体を膨張させる。大きくなるにつれてエネルギーと熱によって、彼が身に纏う衣服は全て塵と化し、一糸纏わぬ姿がさらけ出す。

 

「何を見せてくれるワケダ?!」

「金を錬成するんだ!決まってるだろう?錬金術師だからね!僕達は!」

 

 天に掲げた黄金の球体は錬金術の陣によってさらに巨大化。仮設本部のモニターでもその反応はキャッチされている。

 

「まさか……錬金術を用いて、常温下での核融合を?!」

 

 解析していたエルフナインが驚愕を露わにする。というのもこの黄金錬成はキャロルが形成した碧の獅子機が爆発する際に放った小型の太陽と同等のものであるが、キャロルはそれを最後の悪足掻きとして膨大な思い出を焼却させてようやく放つ事が出来た。対してアダムの場合はそれを容易く、しかもキャロルの時を上回る膨大なエネルギーだ。これが爆発すればここなどあっという間に吹き飛ぶ。

 

「三人とも!局長の黄金錬成に巻き込まれる前に!」

「くっ……!余計な事を……っ!」

 

 撤退する前に瑠璃を抱えてこの場を去ろうと手を伸ばした時、飛来物に気付いたアルベルトは後ろへと跳躍する。アルベルトがいた場所に碧刃が刺さる。

 

「まさか……!」

「アルベルト!早くなさい!」

 

 振り返るとカリオストロ、プレラーティは既に撤退している。サンジェルマンに撤退を促されたアルベルトは一瞬苛立ったような表情をするが、すぐにテレポートジェムで撤退、その後サンジェルマンも撤退した。 

 

 マリア、切歌、調がLiNKER無しでギアを纏い、さらにイグナイトを起動して、残りのアルカ・ノイズを殲滅させた。マリアが翼と瑠璃、切歌がクリス、調が響を担いで離脱を図るが、ギアのバックファイアが襲い掛かる。しかしここで立ち止まるわけにはいかない。

 

「膨張し続けるエネルギーの推定破壊力、約10メガトン超!」

「ツンクースカ級だとおぉぉ?!」 

 

 アダムの黄金錬成はまさに小型の太陽そのものである。巻き込まれれば何もかも吹き飛ばされてしまう。三人はダメージを押し殺して全速力で走る。だがアダムが球体を投下した。このままでは巻き込まれてしまう。

 

「たとえこの身が……砕けてもおおおおぉぉぉ!!」

 

 諦めないマリアの叫び。その瞬間マリアの身体を白い燐光が包まれた。同時に黄金錬成が着弾し、大規模な爆発が発生した。

 

 地面が抉れ、蒸発した大地をアダムは愉快に見下ろしていた。その右手には黄金に輝くガラス玉が握られている。

 

「ハハハハハハ!ビタイチか!安いものだなぁ、命の価値は!」 

 

 アダムの高笑いが夜空に響く。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アダムの姿が消えた後でも、抉れた地面は赤く熱を発しており、蒸気が消えていない。しかもたった一人で、出鱈目な威力をいとも容易く放ち、風鳴機関を吹き飛ばしたのだから、それだけアダムの力がどれ程凄まじいのかを物語っている。 

 

「何がどうなって……」

「風鳴機関本部が跡形もなく……」

「マリアさん達は……!」

 

 目覚めた翼は風鳴機関が一瞬にして消失した事に驚愕し、響はマリア達の安否を心配していたが、切歌が瓦礫の中から姿を現した。イガリマのアンカーを使い、ギリギリの所で落ちてきた瓦礫から身を守る事が出来た。故に誰も怪我を負わずに生き延びているが、マリアだけ体力の消耗が激しい。

 

「マリア……」

「私よりも……瑠璃を……」

「そうだ……姉ちゃん!」

 

 必死になって探すとすぐに発見できた。クリスは痛みを押し殺して膝をついて、頭を抱えている瑠璃の所へ駆け寄る。

 

「姉ちゃん……?なあ……」

「じゃ……なかった……」

 

 いくらクリスが呼び掛けても、返事らしい返事は返って来ない。瑠璃は涙を流しながら自分の頭を掻きむしって、呟いている。

 

「夢じゃなかった……あれは……私の記憶……パパとママが亡くなってから……私は……銃を持った人からクリスを逃して……」

 

 あの日、起きた出来事を呪文のように繰り返し呟いていた。その声も恐怖で震えている。

 

「しっかりしろ瑠璃!何があったと言うんだ?!」

 

 そこに事情を知らない翼が駆け寄り、瑠璃の身を案じて何が起きたのかを問う。だがそれが悪手であった事は、瑠璃の反応で痛感することになる。

 翼の声に反応した瑠璃は腰を抜かしており、翼を怯えた目で見ている。翼にだけではない、響にマリア、調と切歌に対しても同じような目で見ている。

 

「嫌だ……嫌だ……!来ないで……!来ないでください!こっちに来ないでください!!」

 

 ヒステリックに泣き叫びながら後退ってしまう。それは仲間に、家族に対して言い放つセリフではない。普段の瑠璃ならそんな事は言わないだろう。その豹変ぶりに響達はともかく翼とクリスは言葉を失う。

 

「瑠璃?!落ち着け!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!もう二度と逆らいません!口応えもしません!何でも言う事聞きます!だから痛めつけないでください……!やめてください……!お願いします……!」

 

 翼に対しても、まるで他人に懇願するかのような物言いになっており、その身は自分を守るように縮こまってしまっている。

 

「どうしちまったんだよ姉ちゃん?!しっかりしろ!」

「待ちなさいクリス。今の瑠璃、明らかに様子がおかしいわ。下手に呼び掛けても逆に……」

「クリ……ス……?」

 

 今度はクリスが呼び掛けるが、マリアに制止される。だが、垂れていた瑠璃の頭は上がり、クリスの方を見つめていた。

 

「姉ちゃん……えっ?!」

 

 クリスのお腹に顔を埋めて強く抱きしめたのだ。何がどうなっているのか、何故こうなったのか、クリスは理解出来ず、壊れてしまった姉を前に戸惑いを隠せない。

 

 本部から風鳴機関の破棄が決まったのは、明け方になる頃だった。

 

 

 




おまけ 翼さん誕生日記念

瑠璃「誕生日おめでとうお姉ちゃん!これプレゼント!」

翼「これは、炎山タケシのニューシングルか。」

瑠璃「お姉ちゃん、ロンドンじゃ買えないでしょう?前に欲しいって言ってたから。」

翼「ああ。ありがとう瑠璃。大事にしよう!」

翌朝

翼「ない!ない!何処にいってしまったのだ?!まさか貰った初日に紛失してしまうなど……ん?電話か?なっ……瑠璃!もしもし?!」

瑠璃「あ、お姉ちゃん?あのCD聴いた?」

翼「(マズい……ここで買ってもらったばかりのものを紛失したと知ったら……)あ、ああ聴いたぞ!や、やはり素晴らしい方だ!あのビブラートがまた……」

瑠璃「そっか。所でさ、お姉ちゃんのお部屋ってどうなってるの?」

翼「へ?あ、ああ!我ながらよく綺麗にしているぞ!」

瑠璃「じゃあ写メ送って。」

翼「な、なん……だと?!」

退くに退けなくなった翼は写メを送った後、すぐにCDを失くしたのがバレてしまい、しばらく瑠璃は口を聞いてくなくなったのだとか。


翼さんお誕生日おめでとうございます!!


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失ったモノ

少し迷走してました。


 仮設本部へと戻った一部の装者達。瑠璃とマリアは病院へ緊急搬送され、現在この場にはいない。

 

「敗北だ。徹底的にして完膚なきまでに。」

 

 弦十郎が腕を組んで、そう悔しさを滲ませて言った。アダムが放った黄金錬成で風鳴機関は全壊、バルベルデドキュメントも塵と消えたのだ。これは敗北以外の何物でもない。

 モニターには黄金錬成を放った全裸のアダム、ファウストローブを纏った4人の錬金術師達が映されていた。

 

「打ち合った瞬間に、イグナイトの力を無理矢理引きはがされたような……。あの衝撃は……」

 

 ファウストローブを纏った彼女達と打ち合った瞬間、イグナイトが強制解除された上にダメージを負ってしまったあの現象について、エルフナインが解析してくれていた。

 

「ラピス・フィロソフィカス。賢者の石の力だと思われます。」

「賢者の石……確かに言っていた。」

「完全を追い求める錬金思想の到達点にして、その結晶体。病をはじめとする不浄を正し、焼き尽くす作用をもって浄化する特性に、イグナイトモジュールのコアとなるダインスレイフの魔力は、為すすべもありませんでした。」

 

 ラピスの特性が、イグナイトの使用トリガーであるダインスレイフの呪いに対して作用した事で、イグナイトは強制的に解除された上に焼き尽くされた事によるダメージを負わされてしまったのだ。

 つまり決戦機能として搭載されたイグナイトにとってラピス・フィロソフィカスは天敵であり、致命的な弱点となってしまったのだ。

 

 さらにこれだけではなく、バイデントもこれに該当するとの事だった。現在判明しているバイデントの伝承はハ・デスが手にした槍というだけであるが、ハ・デスは冥府の神であり、死を連想させる。さらに多くの装者と装者候補、関係者を死へ追いやったバイデントの呪いがある為、これがラピスにつけ入れられてしまうと結論付けられている。 

 今回錬金術師達の攻撃に一度も接触する事なく全て回避したのが不幸中の幸いだったとの事。だがイグナイトを使用してなくてもラピス・フィロソフィカスの特性が牙を向けば、装者である瑠璃は何も出来ないまま倒されてしまうとの事だった。

 

「マリアさん達は大丈夫でしょうか……?」

「精密検査の結果次第だけど、奇跡的に大きなダメージを受けてないそうよ。」

 

 大事ない事に皆安堵するが、これにエルフナインが首を傾げた。LiNKER補助がない状態でギアを纏い、さらにイグナイトを起動して瞬間的に火力を引き上げた為、その分バックファイアも増大しているはず。それなのに大したダメージがないという事に引っ掛かっていた。

 

「姉ちゃんは……どうなってんだ……?」

 

 瑠璃も東京の病院へ搬送されていた。あの取り乱し方は普通じゃなかった。そこに弦十郎の口が開く。

 

「瑠璃は……しばらくは病院で入院する事になった。」

 

 瑠璃はイグナイトを使用しておらず、また通常ギアでもラピスの特性によってダメージを受けていない為、外傷はない。問題は精神状態にある。瑠璃は極度に他人を恐れ、怯えるようになり、まとも会話を交わす事すら出来ない状態になっている。先程も目が覚めた時に担当の女医が話し掛けた途端、悲鳴をあげながら縮こまってしまい、「助けてパパ……ママ……クリス……」と泣きながら呟いていたという。もしかしたら3人の中で唯一存命中のクリスにだけは心を開くのではと医師は推測したそうだ。

 

「姉ちゃん……。」

「風鳴機関本部は現時刻を持っての破棄が決定した。各自、撤収準備に入ってくれ。」

 

 弦十郎が指示を下すと、通信に対応していた緒川から知らせが入った。

 

「司令、鎌倉への招致がかかりました。」 

「しぼられるどころじゃ済まなさそうだ……」 

 

 出来る事ならあの地には行きたくないというのが本音であるが、致し方ない。弦十郎はため息をつきながら、スマホで着信を掛けた。

 

『もしもし?』

「輪君、早朝にすまない。」

  

 着信相手は輪である。彼女に通話を掛けたのは当然瑠璃の事を話さなければならないからだ。

 

『いえ。私は平気です。それより、何かあったんですか?』

「それなんだがな……」

 

 弦十郎は起きた事をそのまま話した。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 サンジェルマン達が拠点としているホテルに、アダムが出入りしていた。これでパヴァリア光明結社の高位の錬金術師達が揃ったはずだったが、アルベルトだけその姿は見当たらなかった。

 ベッドに腰掛けて、読書をしているアダムに、まるで甘えん坊の猫のように頭をスリスリとするティキ。たがサンジェルマン達は不服そうな態度だった。理由は松代での事である。

 

「ラピスの輝きは、イグナイトの闇を圧倒。勝利は約束されていた。それを……」

「下手こいちゃうとあーしたち、こんがりサクジュワーだったわよ?」

「しかもその上、仕留めそこなっていたというワケダ。」

 

 プレラーティが錬金術で使役するカエルを介して、車に乗り込む翼を映していた。皆が苦言を呈する中、ティキが反論する。

 

「みんな!せっかくアダムが来てくれたんだよ?!ギスギスするより、キラキラしようよ!」

 

 そう言うとティキの目はキラキラと輝かせるが、苦言を呈した三人はそれに乗るわけがない。

 

「みんな〜!」

「どうどうティキ。だけど尤もだね、サンジェルマン達の言い分は。良いとこ見せようと加勢したつもりだったんだ、出てきたついでにね。」 

 

 叫ぶティキにアダムが優しく制止する。そのまま読書をやめたアダムは帽子を深くかぶり、ベッドから降りる。

 

「でもやっぱり、君たちに任せるとしよう、シンフォギア共の相手は。」 

「統制局長、どちらへ?」

「教えてくれたのさ、星の巡りを読んだティキが。ね?」

「うん!」

 

 アダムにくっつくティキが満面の笑みで応える。

 

「成功したんだろう?実験は。なら次は本格的に行こうじゃないか、神の力の具現化を。」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 弦十郎から電話で、瑠璃が病院へ運ばれた事を知った輪は、この暑い中にも関わらず瑠璃が入院している病院へ走って向かっていた。受付で見舞いの手続きをすると

 

「輪。」

「マリアさん!みんな!」

 

 既に翼を除いた装者、未来が集まっていた。

 

「あれ?オジサンと翼さんは?」

「鎌倉っつー所に呼ばれた。」

 

 現在弦十郎と翼は鎌倉にいる訃堂から招致を受けたのだ。故に瑠璃の事はクリスとマリアに任された。

 

「何で瑠璃が……瑠璃は、大丈夫なんだよね?!」

 

 クリスに問い詰める輪だが、代わりにマリアが答える。

 

「瑠璃の記憶が、完全に蘇ったの。」

「蘇った?思い出したって……でも確か……」

 

 輪は弦十郎から瑠璃の過去を聞いていたが、だがそれだけで搬送される程のものなのか、にわかに信じる事が出来なかった。

 

「瑠璃には……会えるんですよね?」

「ええ。ただ一つ、条件があるようなの。」

「条件?」

 

 そう言うとマリアを先頭に、瑠璃が眠る病室へと向かう。病室前に辿り着くと、部屋番号の下に表示されているネームプレートには雪音ルリと書かれていた。

 

「雪音ルリ?何で……だって名義は風鳴……」

「それについても説明するわ。クリス、あなたは先に入ってて。その間に、今の瑠璃の現状を話しておくわ。」

「ああ。」

 

 クリスは病室の扉をノックすると、病室へと入っていった。それを確認したマリアは話し始める。

 

「今の瑠璃は、クリス以外の人間を怖がるようになってしまったの。家族である司令や翼も、拒絶されたわ。そもそもあの二人を家族と認識すら出来ていなかった。」 

「え……?!じゃあ何でクリスを……」

「あの子が唯一認識出来るのがクリスなの。クリスだけには心を開いてくれる。だからもし瑠璃に会うならば、クリスの同伴が絶対条件よ。」

 

 そんな状態になっていると知った輪は表情が暗くなる。他の者も同様だ。誰かと絆を結ぶ優しい先輩が、大好きな家族や仲間を認識出来ず、拒絶するなど思いもしなかった。それだけ瑠璃の精神が壊れてしまっている事を表している。

 

 病室に入っているクリスは、壊れてしまった瑠璃の相手をしている。だがクリスは瑠璃の顔を見ると辛くなってしまっている。

 

「ねえクリス。覚えてる?あの約束。」

「あ、ああ……。パパとママの夢を叶える手伝いをするってやつだろ?」

 

 瑠璃は約束の話をしている。さっきまで悲鳴をあげて怯えていたのが嘘のように。まるで幼子のように無邪気な笑顔になっているが、クリスはそれが辛い。光のない瞳で、今ではなく、虚空の世界で笑っているようにも見えた。

 

「ねえクリス。パパとママは?」

 

 今の瑠璃はあのトラウマから自分を守る為にかつての幼きルリに逆行させ、無かった事にしてしまったのだ。故に死んだ両親は生きていると思い込み、弦十郎に引き取られ、輪と出会い、装者としてクリス達と共に戦った事も無かった事にしてしまったのだ。クリス以外の弦十郎や友達、後輩達を認識出来ないのも、それを無かった事にしてしまったから忘れてしまったのだ。瑠璃が大事にしていた絆すら無かった事にして。

 だが失くしたままにさせたくはない。それはクリスだけではない、皆も同じだ。

 

「なあ姉ちゃん。今日はな、姉ちゃんに会いたがってる奴がいるんだ。」

「え……?」

 

 話を切り出したクリスは病室の扉を半分開けて

 

「入ってくれ。」

 

 マリア達を入れた。それを見た瑠璃は最初は怯えてしまっていたが

 

「大丈夫だ姉ちゃん。皆良い奴だ。誰も姉ちゃんを傷つけやしないさ。」

 

 クリスがそう言うと、瑠璃は落ち着いた。装者達と未来を一通り紹介すると、最後は輪の番になる。

 

「最後だな。こいつは出水輪。あたしの……親友だ。」

「親友……」

 

 瑠璃がオウム返しに呟いた。

 

「初めまして……皆さん。クリスがお世話になってます。」

 

 皆に見せた笑顔は、無垢で残酷すぎるものだった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 面会を終えた面々はそれぞれ病院のロビーから出ると、装者達は本部へと戻り、輪と未来は一緒に帰る。その道中、輪はずっと落ち込んでいた。急に親友があんな事になり、忘れられてしまったのだから無理はない。

 

「輪さん……大丈夫ですか?」

「大丈夫……じゃないかな。やっぱりキツいや。」

 

 何とか励ましてあげたいが、何て投げかけてあげればいいか分からない未来。帰り道ずっと暗く重たい空気が漂う。

 

「じゃあ私こっちだから。」

「はい。また明日……気をつけてくださいね。」

「うん。ありがと。」

 

 無理やり笑顔を作ってゆっくり手を振って、交差点で別れた。帰り道、未来が心配してくれているのは分かっていたが、自分が落ち込んでいるのを見て気を遣ってくれていた。申し訳ないと思いながら輪は一人、マンションへと帰る。 

 

「出水さん。」

 

 後ろから呼び掛けられ、振り返ると

 

「ミラー先生……。」

 

 手を振る瑠無がいた。

 

 




ちなみに切歌と調は瑠璃が病院へ運ばれた直後に過去を聞かされました。

おまけ

輪「瑠璃が私達の事を忘れるなんて……ショックだよ……。ん?待てよ?となると私が撮ったムフフな写真も忘れてるって事だよね?それにこないだ借りた1万円も返さなくていいって事になるんじゃ……」

瑠璃「ならないからさっさと返しなさーい!」

輪「ギャース!!」


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残滓

またまた登場、あのジジイ。

ちなみに切歌と調の訓練シーンはカットになります。悪しからず……

おや?輪の様子が……


 偶然瑠無と出くわした輪は、近くの公園まで移動する。公園の敷地内にベンチがあったので、そこに座っると、瑠無から自動販売機で買った缶ジュースを貰う。

 ちなみに瑠無は学校にいるときと同じ、スーツの上に白衣を着ていて、黒い日傘を持っている。

 

「どうしたの?何か元気なさそうだけど。」

「いえ……何でも……なくはないですね。」

 

 瑠無は隣に座り、輪は瑠璃に起こった事を話した。ただS.O.N.G.の事については掻い摘んで話している為、機密などに触れるといったことはない。

 

「そっか……そんな事が……。辛いわね。」

「辛いです。一番の親友がこんな事になるなんて……。」

「そうね。けど精神っていうのは、どこまで行っても本人次第だからね。たとえ友達や家族でも、干渉する事は出来ないもの。」

 

 瑠無は缶コーヒーを飲み干し「うん、美味しい。」と感想を言う。

 

「じゃあ私は……何も役に立たないっていう事ですね。」

 

 俯きながら、自分で出した結論に瑠無は輪の方を向く。

 

「だってそうじゃないですか。私は瑠璃や皆みたいに、力があるわけじゃない。元に戻す事だって出来やしない。親友が泣いているのに……私は何も出来ない。これって、本当に親友って胸張って言えるのかな……。」

 

 まだ中身がある缶ジュースを握り潰す辺り、相当無悔しさを滲ませている。缶が握り潰された事で中身のジュースが飲み口から飛び出て、手に掛かるが、輪はそんな事を気にする素振りすらない。それだけ心の中は悔しさでいっぱいだった。

 

「私に……力があれば……!」

 

 本当は瑠璃は争いを好まない優しい女の子。みんなと笑って過ごせる日常が好きだった。ひょんな事から瑠璃は戦う道を選んだが、本来ならば瑠璃を戦わせるべきじゃなかった。寧ろ自分が戦って瑠璃を守るべきだった。もし自分がギアを纏えたら、結果は変わったんじゃないか?だが今更そんな事を考えても詮無きこと。瑠璃が元に戻るわけがない。何も出来ない自分がとことん嫌になる。力が欲しい。そう言おうとした時

 

「それは思い上がりよ。出水さん。」

「え……?」

「さっきも言ったけど、精神は結局その人次第。他人が干渉できるものではないって。もしそれが出来るのなら、それは神の力に他ならない。でもね出水さん、あなたは人間なの。間違っても、そんな事を言ってはならないし、やってはならないわ。」

 

 瑠無は飲み干した缶を握り潰してベンチから立ち上がり、それをゴミ箱へと捨てる。その一連の動作の中で言ったセリフはまるで折檻でもするかのように。

 瑠無は前屈みになって輪の顔を見る。

 

「とにかく私達が出来るのは、結果が良くなるよう精々祈るくらいよ。ジタバタしたって、何にもならないんだから。だから出水さんは大人しく……」

「出来るわけないじゃないですか……!」

 

 言い終える前に輪が大声で遮る。

 

「瑠璃が戦ってる間、私はずっと無事で帰ってきますようにって、いつも、何度もお祈りしながら待ってましたよ!でも……それだけんなんです……!結局それってまた待ってろってことじゃないですか!もう無理ですよ!親友が……瑠璃が辛い思いをしているのに、それを精々良くなるよう祈れって……無責任じゃないですか!力を求めて何がいけないんですか……?!欲しいですよ力!神の力でも何でもいいから……瑠璃を助けたいんですよ!」

 

 いつもシンフォギアを持つ瑠璃に守られて、救われるだけで、肝心な時に瑠璃を守れていないどころか、逆に窮地に追い込んだり、泣かせてばかりの自分に嫌気が差していた。

 瑠璃を助けたい。今の輪はその思いでいっぱいいっぱいだった。声を荒げてぶちまけた輪は、缶を乱暴にゴミ箱へと投げ入れる形でぶつけた。

 だが声が大きすぎたようで、公園でサッカーや砂場で城作り、ブランコで遊んでいる子供達やその親達が輪の方に視線が集まる。それに気付いた輪は冷静になり、「すみません……」と言い、軽く頭を下げる。

 

「ミラー先生……一人にさせてください。ジュース……ありがとうございました……。」

 

 輪は足早に公園から出ていこうとした時、足元に転がって来たサッカーボールが道路に入ってしまう。すると背後から子供がボールを追いかけ飛び出し、ボールを拾いあげる。だがそこにエンジンの音が聞こえた。

 

「ヤバっ!」

 

 道路を走る車が、速度制限を無視したスピードで子供に迫っていた。しかも運転手は脇見をしていて子供が飛び出した事に気付いていない。 

 輪は走り出し、子供を反対の歩道へ突き飛ばした。運転手も前に向き直した事でようやく気付き、慌てて急ブレーキを踏むがすぐに速度が落ちるわけもなく、輪に迫る。このままでは輪が車に撥ねられてしまう。

 

「出水さん!」

 

 叫んだ瑠無が日傘を手に走り出すが、もう間に合わない。輪は目を瞑って身構える。

 衝突する音、大人達の悲鳴が周囲に響く。

 

「あ……あれ……?」

 

 来るはずの痛みと撥ねられて、飛ばされているはずが、どちらもその様子はない。異変に気付いた輪は恐る恐る目を開かせる。

 

「え……?!」 

 

 すると、紫色のバリアが車から輪を守った。

 

「えっ……?!何これ……?!どっから……」

 

 何故こうなったのか、どうやって出たのか、よく覚えていないが、このバリアは輪が咄嗟に自分を守る為に出した右掌から出現している。

 バリアと衝突した車はその場で停止、ボンネットから煙が開き、煙が上がっている。運転手はハンドルから出たエアバッグのお陰で軽傷で済んだ。

 手を引っ込めるとバリアは消滅した。輪はその場にへたり込むと、自分の掌を信じられないと言いたげな表情で見る

 

(どうなってるの……?)

 

 輪も含め、目撃者達は何が起こったのか誰一人理解出来ない。ただ一人を除いて。

 

「まさかあれは……。」

 

 ただ一人、瑠無は驚愕というよりどこか笑っているようにも見えた。手にしている日傘の装飾のハートの結晶が日の逆光で煌めいていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 本部へと戻った翼を除いた装者達はエルフナインの研究室へ招集を掛けられた。掛けたのはエルフナインだ。集められた装者達の視線は全員研究室の席に座るエルフナインに向けられる。

 

「皆さん、LiNKERの完成を手繰り寄せる、最後のピースを埋めるかもしれない方法を見つけました。」 

「最後のピース……?」

「本当デスか?!」 

 

 ようやく見えた希望に調と切歌が真っ先に反応した。

 

「ウェル博士に渡されたLiNKERのレシピで、唯一解析できていない部分。それはLiNKERがシンフォギアを、装者を脳のどの領域に接続し、負荷を抑制しているか、です。フィーネやF.I.S.の支援があったとはいえ、一からLiNKERを作り上げたウェル博士は、色々はともかく、本当に素晴らしい生化学者だったとは言えます。」

「素晴らしい……ぞっとしない話ね。」

 

 彼については快く思っていないマリアだが、彼が作ったLiNKERは確かに負荷など殆どないくらいの出来だった為、冷静にエルフナインの評価には同意する。

 

「そして、その鍵は︙マリアさんの纏うアガート・ラームです」

「白銀の……私のギアに?!」 

 

 アガート・ラームが鍵と言われ、驚愕するマリア。エルフナインはそのまま続ける。

 

「アガート・ラームの特性の一つに、エネルギーベクトルの制御があります。土壇場にたびたび見られた発光現象。あれは、脳とシンフォギアを行き来する電気信号が、アガート・ラームの特性によって可視化、そればかりか、ギアからの負荷をも緩和したのではないかと、僕は推論します。」 

 

 あの時、松代でアダムの黄金錬成から逃れる際に見えた燐光。それがLiNKERの解析の最後のピースであると推測したのだ。

 

「これまでずっと、任務の間に繰り返してきた訓練によって、マリアさん達の適合係数は少しずつ上昇してきました。恐らくは、その結果だと思われます。」

「マリアの適合係数は、私達の中で一番高い数値。それが……!」

「今までの頑張り、無駄ではなかったというわけデスか?!」 

「ええ!マリアさんの脳内に残された電気信号の痕跡を辿っていけば……!」

 

 希望は見えたが問題があった。脳内の電気信号を辿ると言っていたが、それをどうやって辿るかだ。少なくとも現代の最新の科学、医療技術を用いてもそれを解析するものなどありはしない。だがエルフナインはそれを解析する唯一の方法を知っている。彼女はラボの奥にある装置まで案内した。

 

「それは……?」

「ウェル博士の置き土産、ダイレクトフィードバックシステムを、錬金技術を応用し、再現してみました。」

 

 かつて未来が使用していたシンフォギア、神獣鏡に搭載されていたものである。戦闘時において、その場における最適な戦闘パターンを計算し、脳に直接それを伝達させる事で、たとえ戦闘慣れしていない者でも、それをデータ通りに行動が出来るというものだ。それをエルフナインか研究用に解析したのだ。

 ちなみに瑠璃のバイデントに搭載されている戦闘補助システムと通ずるものがあるが、違いは脳に伝達させるものではない点と、ダイレクトフィードバックにはない索敵機能である。

 

「対象の脳内に電気信号化した他者の意識を割り込ませることで、観測を行います。」 

「つまり、そいつで頭の中を覗けるって事か?」

「理論上は。ですが、人の脳内は意識が複雑に入り組んだ迷宮。最悪の場合、観測者ごと被験者の意識は溶け合い、廃人となる恐れも……。」

 

 失敗すれば自分を失い、二度と人の生き方が出来なくなるというあまりにも大きすぎるリスク。普通ならば恐怖で出来ないだろう。だが被験者となるマリアに、恐れを抱いている様子はなかった。

 

「ようやくLiNKER完成の目処が立ちそうなのに、見逃す理由はないでしょう?」

「でも危険すぎる……!」

「やけっぱちのマリアデス!」

 

 マリアを姉のように慕う調と切歌は反対するが

 

「あなた達がそれを言う?」

 

 マリアの反論にぐうの音が出ない。先程、調と切歌はLiNKERと許可無しでギアを用いた訓練を強行していた。結果的にギアのバックファイアによって中断されたのだ。

 話を戻して、マリアはエルフナインに問う。

 

「観測者……つまりあなたにも危険が及ぶのね?」

「それがボクに出来る戦いです。ボクと一緒に戦ってください!マリアさん!」

 

 エルフナインも危険を承知でこの賭けに出たのだ。ならば乗らない手はない。マリアとエルフナインは装置のカプセルの中で仰向けになり、それぞれの頭にヘッドギアが装着された。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 鎌倉に自らの屋敷を構える風鳴訃堂、その規模は巨大な武家屋敷を思わせる。風鳴訃堂邸にその息子達である八紘と弦十郎、そして孫もとい娘である翼が集められた。

 広間の下座に八紘と弦十郎が、上座には主である訃堂が座している。その距離は遠いが、その間に漂う重たく剣呑な空気は、訃堂によるものである。翼は障子の外側である縁側に座している。

 

「して……夷狄による蹂躙を許したと……?」

「結果、松代にある風鳴機関本部は壊滅。大戦時より所蔵してきた、機密のほとんどを失うこととなりました。」

「外患の誘致、及び撃ち退けることの叶わなかったのは、こちらの落ち度にほかならず、全くもって申し開……」

「聞くに堪えん。」

 

 期待外れと言わんばかりの態度だ。とても親子の会話とは思えない。訃堂は立ち上がり、障子の前に立つ。

 

「分かっておろうな……?」

「国土防衛に関する例の法案の採決を、急がせます……」

「有事に手ぬるい!即時施行せよ!」 

 

 そう言い放つと障子が開き、広間から縁側へと出る。開けたのは翼だ。縁側をある程度歩くと翼に背を向けて

 

「まるで不肖の防人よ。風鳴の血が流れておきながら……嘆かわしい。夷狄の混血もまるで役に立たん。」

「我らを防人たらしめるは血にあらず、その心意気だと信じております。」

 

 翼の答えに、訃堂は返事もせずにそのまま去った。

 

 

 




おまけ

「まるで不肖の防人よ。風鳴の血が流れておきながら……嘆かわしい。夷狄の混血もまるで役に立たん。」

(あれ?何故翼だけなのだ?瑠璃はどうしたというのだ?)

「我らを防人たらしめるは血にあらず、その心意気だと信じております。」

(この場合、あやつは何て答えるのかのう……。愚息め……何故瑠璃を連れて来なんだ……?!)


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5つめの……

今後の展開を考えていたら遅れてしまいました。

申し訳ありません。


 マリアとエルフナインがLiNKERの最後のピースを掴む為に装置で眠っている頃、他の装者達はやる事が無い為、未来と合流して外へ出ていた。この日、公園には多くの出店が並んでおり、装者達以外にも多くの客が足を運んでいる。

 そんな中、切歌は後悔している。手にしているクレープ、期間限定のチョコ明太子味クレープを購入したのだ。チョコレートがけポテトチップの甘じょっぱさに発想を店主が得た事で作られたものです博多直送のふっくら明太子を一腹、まるまると贅沢に使っているらしい。

 しかし、その見た目と未知の味という先入観があり、そんなゲテモノを買う人は少ないようだ。切歌はマリアとエルフナインの無事とLiNKER完成の願掛けで購入したのだが、その勇気が揺らぎつつある。

 

「切ちゃん、何でそんなの買っちゃったの……?」

「お、思わず目についちゃったんデス!うぐぅ……。」

「チョコ明太子味なんて大冒険するから……。」

「アタシのおごりを残すなよ、常識人。」

「これは願掛けなんデス!全部食べたら、マリアとエルフナインの挑戦は、きっと上手くいくデス!」

 

 切歌は揺らぎつつあった勇気を振り絞って一口かぶりついた。そこにクリスのスマホに着信が入った。相手は小夜だった。

 

「おう。どうしたんだ?はぁっ?!あいつが?!」

 

 急に大声で驚愕して立ち上がったクリスに、皆がクリスを方を向いて驚く。

 

「そうなんよ。輪が車に轢かれたって聞いてな。うん、そんで慌てて駆けつけてな、今病院におるんけど、検査も終わって何処も異常なかったんや。けんど……さっきから瑠璃ちゃんに電話しとるんやけど繋がらないんよ。クリスちゃん何か知らへん?」

「あ……いや、何でもねえぞ!姉ちゃんならいる!大丈夫だ!何かケータイ忘れたみたいでな!」

 

 瑠璃が入院している事を小夜は知らない。輪の事もある為、小夜にこれ以上心配させまいと嘘をついた。

 

「あー。瑠璃ちゃんも案外おっちょこちょいやな〜。そんなら瑠璃ちゃんにも伝えといてな〜。」

「あ、ああ。あたしもそっちに行くから。教えてくれてありがとな。」

 

 通話を切る時、クリスは暗い表情で「あいつ……」と呟いた。

 

「どうしたのクリスちゃん?」

「ああ……あのパパラッチの姉貴からな……」

 

 輪が病院へ運ばれた事を教えた同じタイミングで建物のディスプレイに映っているニュース、それはバルベルデで右足を失ったステファンが来日して、最新の義足をつける手術を受けるというものだった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 病院へと緊急搬送された輪の検査の結果、何処も異常や怪我は無かった。念の為経過観察という形で今日は入院という事になった。瑠無も付き添いで救急車に乗り、は知らせを受けて駆けつけた小夜と合流、検査が終わると病室に入り面会していた。小夜は現在クリスと連絡を取る為に病室から外しており、輪と瑠無の二人きりである。

 

「にしても本当に良かったわ。何処も異常がなくて。」

「そ、そうですね!アハハハ……。」

 

 無傷で生きているだけでもラッキーだというのに、それを素直に喜べなかった。車に轢かれそうになる寸前、輪の手から展開されたバリアが頭から離れない。一体あれは何なのか?今まであんな現象は起きた事がない。誰かが守ってくれたという線も考えたが、知り合いに装者はいても、バリアを使える人はいない。自分は一体どうしてしまったのか?考えても結論が出ない。

 

「けど、もう少し自分を大事にしなさい。もしかしたら、死んでたのかもしれないんだから。」

「はい……気をつけます。」

 

 子供を助けたとはいえ、自分が犠牲になろうとするのは褒められたことではない。もし自分が死んだら小夜を悲しませる事になる。瑠無に咎められ、現に軽くお辞儀をする。

 

「でも、その勇気は褒めてあげる 」

 

 そう言うと、瑠無は白衣の内ポケットを弄る。手を出すと、何か持っている。手を開かせると、ハートの結晶を象ったペンダントがあった。

 

「それは……?」

「日本じゃあ厄除けって言うんだっけ……?そのお守りみたいなものよ。あなたを見てると、危なっかしく感じるから、あなたにあげる。」

「は、はい……ありがとうございます……。」

 

 ハートの結晶が放つ煌めきが、輪の心を奪う。

 

「綺麗……。」

「でしょう?大事にしなさい。」

 

 そう言うと瑠無はペンダントを輪の首に掛けてあげた。すると、瑠無は何か思い出したかのように輪に問う。

 

「そう言えば、風鳴さんもこの病院に?」

「はい。502号室です。あ、でも面会はクリスがいないと出来ませんよ。」

「あ……そっか。ならやめておきましょうか。じゃあ私はこれで帰るわね。お姉さんによろしくって伝えておいて。」

「はい。ありがとうございました。」

 

 瑠無は日傘を手に病室から出て行った。一人になった輪はネックレスに飾られているハートの結晶に触れて、それを眺めていた。

 

 一方小夜は病院の外でクリスへの連絡を終えると、中へと戻り、輪がいる病室へと向かう。エレベーターの上ボタンを押して、エレベーターを待っている。

 

(にしてもクリスちゃん、嘘つくの下手やなぁ。あれじゃあ瑠璃ちゃんに何かありましたよ〜って言ってるようなもんや。)

 

 クリスの嘘はあっさりと看破されてい。元々クリスが嘘をつくのは苦手であり、平気で人を騙すような事が出来ないのを知っている。小悪魔美人も繊細な性格な女の子にしつこく問い詰めるような鬼畜の所業はしない。

 エレベーターが到着を知らせる音が鳴り、ドアが開いた。それに乗ろうとした時、警報が病院内にけたたましく響いた。

 

「何や?!」

 

 アルカ・ノイズの出現。本部のモニターが敵影を捉えていた。これまでの亜空間型ものでもない、8つの首を持つ八岐大蛇を思わせる姿をした新型の巨大アルカ・ノイズだ。本部から通信で指令を受けた装者達は、それぞれ行動に移す。

 

「分かりました!すぐヘリの降下地点に向かいます!」

「もたもたは後だ!行くぞ!」

「私達は本部に!」

「マリア達の様子が気になるデス!」

 

 残りのクレープを一口で食べきった切歌は調と共に本部へと走る。

 

「未来も、学校のシェルターに避難してて!」

「響!」

 

 響もクリスと共にヘリ降下地点へ向かおうとした時、未来に呼び止められる。未来は響が何かに悩んでいるのが分かっており、故に心配していたのだ。

 

「誰だって、譲れない思いを抱えてる。だからって、勝てない理由になんてならない。」

「勝たなくてもいいよ。」

 

 未来の言葉に、響は振り返った。

 

「だけど絶対に、負けないで。」 

 

 サンジェルマン達の理想、人類の解放。それは私利私欲でさない、決して正義に悖るものではない。だがサンジェルマンに勝ったら、サンジェルマンが掲げる理想を潰してしまう。

 だが未来が贈ってくれた言葉に、響はその迷いを振り切ることが出来た。

 

「私の胸には歌がある!」 

 

 笑顔が戻った響は、戦場へと向かった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 病院で避難警報が鳴り、医師や看護師達が患者達の安全を確保する為にシェルターへ誘導、中には患者を乗せた車椅子を押している。病院という事もあり、避難経路を争って暴力を振るう者はおらず、患者もスムーズに避難出来ている。ただ一人、輪は避難の流れに逆らって502号室へと目指していた。その病室には瑠璃がいる。

 今の瑠璃はクリス以外の人間の事を忘れてしまっており、心を開いていない。当然親友である輪の事も忘れてしまっている。もしかしたら、クリスがいなくて怯るかもしれないし、暴れ回るかもしれない。それでも瑠璃を救いたい。

 魔法少女事変でS.O.N.G.を裏切って、心無いことを言ったにも関わらず、瑠璃は最後まで見捨てないでくれた。親友だと言ってくれた。一緒に戦ってくれた。今度は自分が瑠璃を救うと決めた。何があっても、瑠璃を守る。その思いを胸に秘め、病室へと向かって走る。だが5階まで駆け上がり廊下を走ろうとした時、妙に静かである事に違和感を覚える。

 

「誰もいない……?!」

 

 患者も看護師も誰一人いない。4階までは避難の為に騒がしかったにも関わらず、5階だけはその様子はない。既に避難を終えたのか?輪は思考を巡らせるが、結論は出ない。すぐに瑠璃のいる502号室を目指す。

 502号室に辿り着いた輪は病室の扉を開く。

 

「瑠璃!だいじょ……」

 

 扉を開けた先にいたのは、眠っている瑠璃と

 

「おう、輪。」

 

 黒い日傘を持っているクリスがいた。




おまけ

小夜「うち何でこんなに出番少ないんや?もうちっと頂戴な〜!」

創世「そーだそーだ!」

詩織「雇用待遇の改善を要求します!」

弓美「やんややんやー!」

セレナ「それ、私の前で言えますか?」

(しーん……)

小夜「あはは……何か、ごめんな。」


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蒼き錬金術師 アルベルト

前回、何故病院にクリスがいるのか?その答えが明らかになります。


 LiNKER完成の最後のピースを見つける為に、マリアの記憶領域に入ったエルフナイン。その場所はかつてF.I.S.の『白い孤児院』と呼ばれた場所だった。そこで目にしたのは

 

「早く飲みなさい!」

 

 幼きマリアとセレナに命令するようにLiNKERを飲ませ、グズグズする子供に容赦なく鞭打つナスターシャ。この時は眼帯もしておらず、二本の足で歩く事ができた。

 白い孤児院での訓練の光景を観察するもLiNKERの完成に至るピースは見つからないばかりか、訓練の過酷さに、エルフナインも怯んでいる。

 すると、今度は荒れ果てた街に転移したかのように場所が変わった。ここは何処なのか、辺りを見回すと、なんと周囲にノイズが群がっていた。身の危険を感じたエルフナインはすぐに走る。万が一ここで死ぬような事があれば、現実世界のエルフナインは二度と目を覚ます事はない。LiNKERの完成の為にここで死ぬわけにはいかない。だがノイズは自身達の機能に従い、どこまでもエルフナインを追い掛ける。

 しかも運の悪い事に足が瓦礫に躓いてしまい、転倒してしまう。走る足が止まってしまったことで、ノイズ達に追いつかれそうになる。もはや駄目かと思われた。

 

 Seilen coffin airget-lamh tron……

 

 アガート・ラームの起動詠唱が聴こえると、エルフナインに迫った数体のノイズが斬り刻まれ、黒い塊となって散った。ギアを纏ったマリアが、エルフナインを背に降り立った。

 

「マリアさん……!」

「いくら相手がエルフナインでも、思い出を見られるのはちょっと照れくさいわね。」

 

 振り向くとマリアはその表情は少し照れくさそうにしているが、そこにいるのが今のマリアなのか確かめるべく問う。

 

「あの……いつの記憶の……どのマリアさんですか?」

「一緒に戦うって約束したばかりでしょう?この場に意識を共有するのなら、いるのはあなただけじゃない。私の中で、私が暴れて何が悪い!」

 

 つまり目の前にいるマリアは、記憶の中のマリアではなく、本物のマリアの意識である。マリアはノイズに向き直ると短剣を構えた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 八岐大蛇の如く、8つの頭を持つ巨大ドラゴン型のアルカ・ノイズの口と身体から小型のアルカ・ノイズが生み出され、地上に降り立つと進攻を開始する。

 

 本部のヘリに搭乗した響とクリスは、先に乗っていた翼と合流すると上昇したヘリが上空へ飛んだ。降下ポイントまで飛ぶと、扉を開けた響がヘリから飛び降りた。

 

 Balwisyall nescell gungnir tron……

 

 起動詠唱を唄った響、翼、クリスはそれぞれのギアを纏う。クリスが放った3発のミサイルの上に、それぞれ乗る。

 

「気になるのは錬金術師の出方だ。抜剣を控え、イグナイト抜きで迎え撃つぞ!」

「何のつもりか知らねえが、企んだ相手に遅れはとらねぇ!」

 

 クリス達を撃ち落とさんと飛行型のアルカ・ノイズが襲い掛かるが、アームドギアをガトリング砲へと可変させ、その砲門から弾丸を乱射する。

 

【BILLION MAIDEN】

 

 弾丸に貫かれた飛行型のアルカ・ノイズはプリマ・マテリアを撒き散らして消滅する。数体はその弾丸を避けるが、響がその個体を粉砕する。

 

「この身を防人たらしめるのは!血よりも熱き心意気!」

 

 翼はミサイルから飛翔、そのまま母艦型のアルカ・ノイズにぶつけさせた。宙を舞ったまま脚部のブレードのスラスターを点火させると高速回転、アルカ・ノイズを両断する。

 

【逆羅刹】

 

 足場になるミサイルを失った翼は、響が乗るミサイルの後部へと乗り移った。

 だがドラゴン型のアルカ・ノイズの身体から小型の個体を生み出す為に、いくら倒してもまた生み出されてしまう。これではキリがない。

 

「こうも奴らをうじゃつかせてるのは、あいつの仕業か!」

「つまりは狙いどころ!」

「ぶっ放すタイミングはこっちで!トリガーは翼さんに!」

 

 響と翼はミサイルから飛び降り、ガングニールの右腕のバンカーユニットを展開、天羽々斬の刀を斬馬刀のごとく大型へと変形させる。

 

「目にものを見せる!」

 

 刀を振り下ろし、拳を振り抜く。ドラゴン型のアルカ・ノイズの身体は4つに割れた。

 

「そしてあたしは、片付けられる女だぁぁ!!」

 

 クリスが12本の巨大ミサイルを展開、ドラゴン型アルカ・ノイズに向けて一斉掃射する。

 

【MEGA DETH INFINITY】 

 

 全弾直撃。ドラゴン型アルカ・ノイズは悲鳴をあげ、プリマ・マテリアが舞うかと思われた。三人は目の前の光景に驚愕した。

 

「まさか?!仕損じたのか?!」 

 

 なんとドラゴン型の身体が再生したのだ。さらに一体だったドラゴン型が3体に分裂、サイズこそ1体だった時より下回っているが、それぞれ異なる方向へと散らばって行った。だが分裂しても、それぞれ小型のアルカ・ノイズを生み出す力は健在だ。このままでは広範囲に渡って犠牲者を出してしまう。

 

「これ以上、みんなを巻き込むわけには!」

 

 三人は各地へと散ったドラゴン型の首の後を追う。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 502号室に入ると、クリスがいた事に戸惑う輪。避難警報が鳴った今、アルカ・ノイズを殲滅させるにはシンフォギアの力が必要だというのに、何故ここにいるのか理解出来なかった。

 

「クリス……あんた何で……」

「オッサンに言われたんだ。姉ちゃんの安全を確保してくれって。」

「オジサンが……?っていうかその日傘……」

 

 クリスの手にある日傘、瑠無が持っていたものと同じ黒い日傘。何故クリスが持っているのか問いただす。

 

「ああ。先生も来てたんだ。だけど急にどっかに行っちまってな。それよりも、ここは危ねえ。姉ちゃんをシェルターまで運ぶぞ。」

「う、うん。だけど看護師さんが……そうだ!小夜姉もいるんだ!すぐに……」

 

 すると予め持っていた通信端末から弦十郎から通信が入った。ここに来る前に、スマホと通信端末だけはポケットに入れてあったのだ。

 

「オジサン?!」

『輪君!今どこにいる?!』

「病院!クリスと一緒に瑠璃の病室にいるところ!」

『何?!クリス君とだと?!』

「え、どうかしたの?」

『クリス君は今アルカ・ノイズの対処に当たっている!』

 

 クリスはアルカ・ノイズの対応に当たっている。じゃあ今ここにいるクリスは一体何者なのか?不審に思った輪は振り返ると驚愕した。そこにいたのは、クリスの姿ではなかった。

  

「すぐに緒川を向かわせる!君は……」

 

 逃げろ、と伝える前に通信が切断された。

 通信端末が日傘から分離させた黒い杖によって破壊された。その杖にはハートの結晶が象られている。手にしているのは、先程までクリスの姿をしていた……

 

「ミラー……先生……?」

「ありがとう出水さん。瑠璃のいる所まで案内してくれて。」

「案内……まさか……?!」

 

 瑠無が瑠璃達が敵対している錬金術師であるとすぐに勘付いた。知らなかったとはいえ、自分がみすみす瑠璃の居所を敵に喋っていた事に気付き、その顔は青ざめている。

 

(妹の方もお転婆だなぁ……)

 

「あっ……そう言えばあの時……!」

 

 輪は瑠無がクリスの事を妹と言っていたのを思い出していた。瑠璃とクリスが双子である事を知るのはほんの一握り。だが誰から聞いたわけでもないのに、あの時走っていったクリスを双子である事をまるで最初から知っているかのように呟いていた。

 もし初めから瑠璃の事を知っているのなら、瑠璃の過去を知っているのではないのかと推測した。

 

「まさか瑠璃の心を壊したのは……ミラー先生なの?!」

「私は思い出を返しただけさ。ああそうか……。君達には、そう名乗っていたな。」

 

 不敵な笑みを浮かべた瑠無の身体に光が包まれた。その眩さに目を晦ます輪だが、次第に光が消え、視界が利くようになった。だが目の前の光景に、輪は驚愕した。瑠無の姿が再び変化したからだ。髪型は変わってないものの、金色から黒い髪へ、赤かった瞳は藍色へと変化していた。さらに白衣だったのが、タンクトップ型のワインレッドのジャケット、藍色のズボン。あの時は仮面を着けていた為、顔までは分からなかったが、その服装には見覚えがあった。

 

「あんたは……!」

 

 優しかった瑠無・カノン・ミラーはもうどこにもいない。何故ならその正体は

 

「改めて名乗っておこうか。私の名は……」

 

 

 パヴァリア光明結社の錬金術師、アルベルトだ。

 

 

 




アルベルト

パヴァリア光明結社に属する錬金術師で、瑠無・カノン・ミラーの正体。
人前では常に笑みを浮かべ、余裕を崩さぬ態度でいる。

分解よりも組み立てる事を得意とし、亜空間型アルカ・ノイズ、ラピス・フィロソフィカスのファウストローブの基礎をサンジェルマンと共に研究していた。
また過去にアーネンエルベにも潜り込んでいた事もあり、異端技術や聖遺物に関する知識は他の追随を許さない。
またキャロルの思い出を転送する技の理論を自分の手で研究し、自分の技にする事も出来た。
ルリの忌まわしき記憶を保持していた事もあり、瑠璃の地獄の6年間の結末を唯一知る人物。


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守る為に

こんなに遅くなり申し訳ありません。

プライベートもありますが、今後の展開に悩み描くのが遅れてしまいました。

また気分転換に描きました、「バカとアクマと召喚獣」の方も並行して描いています。
今後はこちらを優先して描いていきますので、何卒ご愛読よろしくお願いします。

今回は輪とアルベルトの戦いがメインとなります。


 瑠無・カノン・ミラーの正体。それはパヴァリア光明結社の錬金術師、アルベルトだった。親しくしていた分、裏切られたその悲しみと怒りは計り知れない。

 

「君のお陰で、警戒されずにルリを眠らせる事が出来た。このままここに来ていたら、目的を成し得なかっただろう。」

「目的……?」

「ああ……この子をいただく。」

 

 アルベルトの左手から光弾が表出し、それを輪に向けてそれを放つ。輪はすぐに身を翻して避けるが、光弾に当たった壁は陥没した。輪はそれを見て、自分を殺してでも瑠璃を手に入れるつもりだと悟った。

 

(何やってんだ私……!敵に騙されて、態々瑠璃の居所を教えちゃうなんて……!)

 

 アルベルトの嘲笑うような冷たい笑みを前に、歯を強く食いしばる程に愚かな自分を悔いるが、同時に怒りがこみ上げていた。

 

「許せない……!」

「気に障ったかな?怒らせる事は言ってないはずだが……」

「怒ってるよ……無茶苦茶に!瑠璃を騙して傷つけたあんたにもそうだけど……あんたみたいなペテン師に騙された自分も許せないんだよ!」

 

 怒りを宿した拳を振るうが、アルベルトはヒラリと避ける。それでる輪は何度も殴りかかり、蹴り込む。しかしことごとく避けられ、蹴りも壁に当たっただけでアルベルトには届いてない。さらにアルベルトは一切反撃してこない為、それが余計に輪を怒らせている。

 

「人を馬鹿にして……!」

「馬鹿にはしていないさ。」

 

 一発だけ、輪の拳がアルベルトの腹に入る寸前に杖で防いだ。だが拳を受け止めている杖は僅かに痙攣でもしているかのように震えている。アルベルトの言う通り、馬鹿にはしていないのは本心だ。生身で錬金術師に挑む姿勢はともかく、輪の拳はそこらの男よりも強いものであると避け続ける事でそれを知ったのだ。下手に攻撃すれば思わぬ一撃を貰う可能性が高いと判断したアルベルトは、輪の拳を受け流した。そのまま杖は隙だらけになった輪の脇腹を突いた。

 

「がぁっ!」

 

 そこから何度も胴体に容赦なく杖の打撃が入り、輪は膝をついて蹲ってしまう。喧嘩慣れしているとはいえ、相手は錬金術師。ただの元不良少女が勝てる相手ではない。だがアルベルトの目的が瑠璃である以上、ここで逃げるわけにはいかない。痛みを押し殺して立ち上がる。

 

「おや、意外としぶといな。」

「ナメないで……。あんたなんかに、瑠璃は渡さない!」

 

 啖呵を切ると輪は拳を握りしめ、構えた。先程の怒りに任せた時とは違う事をすぐに察したアルベルトも、杖をレイピアのように構える。

 すると、輪がアルベルトに向けて突然走り出した。だが隙だらけになった輪の胴体を杖の先端が襲うはずだった。

 

(今だ……!)

 

 なんと左手で杖を掴み、そのままアルベルトを力いっぱい引き寄せた。無防備となったアルベルトの胴体は輪の掌底打ちが入った。

 

「ぐぁっ!」

  

 アルベルトは杖ごと壁まで吹き飛ばされた。さらに、輪はそのまま壁にもたれ掛かるアルベルトを追撃するべく蹴り出すが、アルベルトが身を翻して避けた為、壁に当たるだけに終わる。

 しかし、杖を拾って立ち上がったアルベルトがすぐさま杖を振り下ろした。頭部に直撃する寸前、左手の甲で受け流し、アルベルトの腹部に肘打ちを入れた。

 

「うおおおおりゃああぁぁ!!」

 

 そして、怯んだ所を胸ぐらと腕を掴んで背負い投げた。アルベルトはそのまま背中を強打した。 

 何故輪がこれだけ戦えるのか。それは、瑠璃が訓練を受けているのを間近で見ており、時には訓練に付き合っていた事もある。さらに元から喧嘩は強い方であり、何しろあの弦十郎の特訓を護身術程度であるが受けていたのだ。その結果、近接戦闘に限るが輪は戦えるようになった。

 

「くっ……今のは効いたぞ。だが……ただの人間がこれ程まで……」

「ご生憎様。こっちは付け焼き刃だけど、超人レベルの達人から教わった拳法なんだから!」

 

 そのまま輪は懐へ潜り込むべく接近しようとした時、近接戦闘では叶わないと判断したアルベルトは床に杖をコツンと軽く小突いた。杖に象られたハートの結晶が光り輝くと、輪はすぐに距離を取った。すると、アルベルトはエメラルドグリーンを基調としたアーマーをを身に纏う。それがファウストローブである事を輪はすぐに理解した。

 

「まさか……ファウストローブ……?!」

「察しがいいな。だが……その勘の良さが命を落とす事になる。」

 

 杖の先端を輪に向けると、そこから光弾が銃のように発射する。

 

「ヤバっ!」

 

 それは輪に直撃しそうになる寸前、輪は咄嗟に右手を前に出した。その掌から紫色のバリアが展開された。

 

「やはり……。」

 

 光弾に押されつつもなんとか踏みとどまると、バリアと衝突した光弾は消滅した。しかし、バリアを解除すると輪は、その場にへたり込んでしまった。

 

「身体が……重い……。」

「フィーネの力を、ただの人間が使用すると……体力の消耗は激しいのか……。」

「フィーネ……櫻井さんの事を知ってんの?!」

 

 フィーネの名前が出た事に驚愕する輪。

 

「ああ。彼女とはバイデントの事でね。」

「バイデント……?」 

「まあ今はどうでもいい事だ。これ以上遊びに興じる暇はなくてね。我が悲願の為に、君には死んでもらう。」

 

 再び杖の先端から光弾を放つ。避けるだけの体力が残されていない今、再び掌からバリアを展開させようとしたが、先程の大きさを下回る小さなバリアしか展開されなかった。

 

「うっ……ぐぅぅっ……!」

 

 故に先程の時とは違い、踏ん張ったものの押し切られてしまい、バリアは破壊され、その余波で背中を窓に打ち付けてしまった。

 

「ぅ……っ?!嘘……?!何で……なっ?!」

 

 さらに打ち付けた窓に磔にされて動けなくなっていたのが理解出来ず、腕を見ると、そこには錬金術で作った鎖が巻き付いており、輪を拘束していた。さらに窓ガラスにはヒビが入っている。ここから落とされたら間違いなく命はない。

 

「この……!」

「君は十分、役に立ってくれた。心から感謝している。せめてもの礼だ。肉体を残したまま、苦しまずに殺してやる。」

 

 アルベルトは輪に別れを告げると、杖から光弾を放れ、それが眼前で爆発した。

 

「ぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「マリア……しっかり……しっかり!」

 

 誰かが自分を呼んでいる。目を見開いたマリアは目の前にいる人間に驚愕した。しかもよく考えてみれば、先程の声も聞き覚えある、不快な者の声。

 

「あなたはまさか……」

「そうとも、僕は行きすりの英雄……」

「Dr.ウェル?!死んだはずでは?!」

「それでもこうして、君の胸の中で生き続けている……死んだ人間ってのは大体そうみたいだねぇ!」

 

 先程の紳士的な雰囲気から一転、マリア達がよく知る下卑た笑みと笑い声を高らかに叫んでいる。

 

「これもあれも、多分きっとアレですよアレ!マリアの中心で叫ぶなんて……超最高おおぉぉ〜!!」

「あんな言動……私の記憶にないはずよ。」

「だとすると、ウェル博士に対する印象や別の記憶をもとに投影されたイメージ、ということになるのでしょうか。」

 

 ここはマリアの記憶領域、であるならマリア本人のイメージによって、現実世界では言わなくてもその人が言いそうと思った事をここでは言う事になる。マリアはウェルに対してそんなイメージを持っていたのかと頭を悩ませる。さらにLiNKERの完成の為にヒントを得ようとしているこの状況で、真っ先にウェルを想起してしまった事についても、自分を殴りたくなる。

 

「自分の記憶を叱りたい……!」 

「もしかしたら、マリアさんの深層意識が、シンフォギアと繋がる脳領域を指し示しているのかもしれません。」

 

 それでもエルフナインは、今この状況を冷静に分析する。マリアもウェルの事は快く思ってはいないが、それでも彼が負荷のないLiNKERを作り上げたという事に関しては認めている節はある。でなければ大嫌いな人間が精神世界に現れるはずがない。

 

「かつてのアガートラームの装者であるセレナさんやナスターシャ教授ではなく、ウェル博士がいるということは、彼から直接想起されるもの……。だとするならば……」

「生化学者にして英雄!定食屋のチャレンジメニューもかくやと言う盛りすぎ設定!そうとも!いつだって僕ははっきりと伝えてきた!はぐらかしなんてするものか!」

「だったら……!」

「忘れているのなら手を伸ばし、自分の力で拾い上げなきゃあ!記憶の底の、底の底!そこには確かに転がっている!」

 

 そこにマリアが知るウェルの嫌がらせや悪意はない。しかし、1から10まで全てしゃべる彼ではない。さり気なくヒントを与えると、まるで答えを探して来いと言わんばかりに、マリアとエルフナインの周囲を黒い霧が覆う。

 

「離れないで、エルフナイン!」

 

 離れ離れにならないようエルフナインの手を取った。自らの脳領域とはいえ何が起こるか分からない。今までどんな修羅を乗り越えたとはいえ、この未知の領域精神的を前に不安になる。一人より二人、故にこうして不安を和らげる。

 霧が晴れると、次に現れたのは

 

「あれは……私?!」

 

 マリアの影が目の前に現れた。




フィーネの力

瑠璃を救う為に、瑠璃の精神世界に入った時に受け継がれたフィーネの力。

無意識ではあるがそれを命の危機に瀕した際に覚醒した。

フィーネの魂が宿っているわけではなく、また残ったフィーネの意識も消えてしまった故に、もはやこの力は輪のものとなった。

しかしまだ制御しきれていない為、体力の消耗が激しく、一度使っただけで動きが鈍くなってしまう。


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繋ぐもの……それは……

長くなり、遅くなりました。

申し訳ありません。

ここから瑠璃の出番が激減します。代わりに輪の出番が増えます。

輪「わーい。」



 強くなりたい。

 

 黒い霧が晴れると、そこはまるで宇宙空間を思わせる場所で、その声が聞こえた。それの声はマリアのものだが、マリア本人は一言も発していない。その正体は目の前にいるマリアの幻影だった。マリアとエルフナインは、突如目の前に現れたマリアの幻影を見据える。何故自分達に現れたのか、それは分からない。

 

 誰かに嘘をついてでも……自分を偽ってでも……

 

 でも本当は……嘘をつきたくない……

 

「ここはマリアさんの内的宇宙……」

 

 つまり目の前にいるマリアの幻影は、マリアの心の闇。弱さを受け入れられず、誰かと繋がる事を拒んだかつての自分。

 

「誰かと手を取り合いたければ、自分の手を伸ばさなければいけない……。だけど……その手がもし……振り払われてしまったら……」

 

 今まで誰にも打ち明けられなかったマリアの心の闇。その闇に引きずれこまれるように、エルフナインから離れていった。

 

「マリアさん!マリアさん!」

 

 エルフナインが手を伸ばすが届く事なく、マリアは落ちていった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 病院にいる瑠璃と輪を救い出す為に、本部から車を猛スピードで走らせる緒川。しかし、いかんせん停泊地点から病院への道は近いものではなかった。しかし、S.O.N.G.と共に戦ってきた仲間を見殺しには出来ない。何としても二人を救い出さねばとアクセルを最大まで踏み込む。

 目的の病院に辿り着き、中へ入った時だった。

 

「うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 

「今のはまさか……!」

 

 ガラスが割れる音とともに響いた輪の悲鳴。しかも外から聞こえてきた。踵を返して、悲鳴が聞こえた方へと向かう。

 

「輪さん!!」

 

 アルベルトの攻撃でヒビが入り、脆くなってしまった窓ガラスが粉々に砕け、磔にされていた輪の身体は5階の窓のガラスの破片と共に外へと放り出されてしまった。 

 いくら手を伸ばした所で、掴むものも、助けの手など届くはずもない。無情にも重力とともに、その身体は落ちていく。

 

(あ……私……死んじゃうんだ……。何も出来ずに……何も守れずに……。)

 

 守れなかった友を思いながら、意識と共に輪は落ちていく。 

 

(ごめん……瑠璃……。)

 

 だがその時、輪の首にかけたネックレスに象られたハートの結晶が、輝きを発した。

 

「あれは……!」

 

 突如発さられた輝きが大きくなり、何が起きたのか分からない緒川。その輝きに、目が眩みそうになる。だがその輝きも、すぐに弱まった。ようやく視界が利く程度までになると、黄金の光が輪の身体を守るように包みこみ、同時に落下の速度が緩和されている。

 地面へ落ちる前に、駆けつけた緒川がキャッチして抱きかかえると、輪の身体を包んでいた光は消失した。

 

「一体何が……これは?」

 

 気を失っていた輪の首に掛けられたペンダントに象られたハート型の結晶が煌めいた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 自らが作った闇に囚われ、孤独いう名の深い海にマリアはどこまでも沈んでいる。自分の脳領域では、誰も手を差し伸べてくれる者はいない。

 

(私は……自分で作った闇に溺れて……掻き消されてしまうの……?)

 

 このままどこまでも沈むのだろうか……

 

『シンフォギアの適合に奇跡というものは介在しない。その力、自分のものとしたいなら、手を伸ばし続ければいい。』

 

 あの日、ウェルが最期に遺したセリフが蘇り、マリアの目の前に現れた光を、その手を伸ばして掴んだ。

 

「マリアさん!」

 

 気がつくとマリアは白い部屋におり、隣にはエルフナインがいた。その部屋には見覚えがあった。

 

「ここは……白い孤児院?私達が連れてこられた……F.I.S.の……」

 

 目の前にはかつての幼きマリアとセレナがいた。あの日、二人が初めてここへ連れて来られた時の事を覚えている。研究員と思われる女性が優しく手を差し伸べる。マリアがそれを手に取ろうと伸ばそうとした時、それを許さないナスターシャが鞭を振るった事を。

 

「今日からあなた達には戦闘訓練を行ってもらいます。フィーネの器となれなかったレセプターチルドレンは、涙より血を流すことで組織に貢献するのです。」 

 

 あの時のナスターシャは優しさを一切見せない、冷酷な人だった。幼い頃に刻まれた記憶は大人になっても強く残るものだ。

 

『本当にそうなのかい?本当に君の記憶……』

「私の記憶は……マムへの恐れだったの?」

 

 ナスターシャの顔を見たマリア。だがその時のナスターシャは自分が思っていたのとは違っていた。あの時マリア達は痛みに怯えていたが、ナスターシャは悲しみの表情が出ていたのだ。一言で表すなら、本当はこんな事をしたくない、というのだろう。

 

(そうだ……恐れと痛みから、記憶に蓋をしていた……。いつだってマムは、私を打った後悲しそうな顔をして。)

 

 マリアがガングニールのギアを纏い、バックファイアに屈し、膝をついて弱音を吐いた時も

 

「マリア、ここで諦める事は許されません。悪を背負い、悪を貫くと決めたあなたには、苦しくとも耐えなければならないのです!」

 

 マリアへ叱責した後、ナスターシャは唇を強く噛んでいた。

  

(そうだ……!私達にどれほど過酷な訓練や実験を課したとしても、マムはただの一人も脱落させなかった。それだけじゃない、私達が決起することで、存在が明るみに出たレセプターチルドレンは、全員保護されている……。全ては私達を生かすために……いつも自分を殺して……!)

 

 マリア達に見せなかった悲しみ、慈しみ。それを押し殺して厳しくする事で、マリア達を守っていたのだ。厳しさという言葉で、トマト農園のおばあさんが言っていたことを思い出した。

 

 『トマトを美味しくするコツは、厳しい環境に置おいてあげること。ギリギリまで水を与えずにおくと、自然と甘みを蓄えてくるもんじゃよ。』

 

「大いなる実りは、厳しさを耐えた先にこそ。優しさばかりでは、今日まで生きてこられなかった。私達に生きる強さを授けてくれた。それを知ったから……ジャンヌは、その最期の一瞬までマムの傍に。マムの厳しさ……。その裏にあるのは……!」

 

 ナスターシャの真意、ウェルが伝えたかった事、その全て理解した。

 

(ナスターシャにも、マリアにも、何時だって伝えてきた……。そう、人とシンフォギアを繋ぐのは……)

 

「可視化された電気信号が示す此処は、ギアとつながる脳領域……。誰かを想いやる、熱くて深い感情を司る此処に、LiNKERを作用させることが出来れば……!」

 

 最後のピースがハマった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はっ……!」

 

 いち早く目覚めたエルフナインは、頭に着けた装置を被ったまま、飛び上がるように起き上がった。

 

「エルフナイン?!」

「どうなったデスか?!」 

 

 本部のラボでは外から戻っていた切歌と調がダイレクトフィードバックの装置に眠っている二人の無事を願っていたのだ。

 

「もうひと踏ん張り、その後は……お願いします!」

 

 装置を外すと走っていってしまった。そのタイミングで、マリアも目が覚めた。その目尻には、涙が浮かび上がっていた。

 

「ありがとう……マム……。」

 

 涙を拭き取ったマリアだった。だがそこに

 

『切歌君、調君、すぐにブリッジに来てくれ!』 

 

 アナウンスから弦十郎からの召集を受けた。

 

「行くよ、切ちゃん。」

「合点デス!」

「私も行くわ。」

 

 起き上がったマリアは、すぐに自分の私服に着替えてブリッジへと向かった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同じ頃、響、翼、クリスはヤマタノオロチ型のアルカ・ノイズの対処に手を焼いていた。倒したと思ったら、首が3体へと分裂し、各地へと散っていったのだ。3人は各地へと散ったアルカ・ノイズの首を追ったが、分裂体になっても小型のアルカ・ノイズを生み出していた。それらをひねり潰し、本体を攻撃しても再び分裂してしまった。

 しかし、首が一本ずつになればこれ以上は分裂せずに消滅するが、3人の体力は既に限界だった。

 

 

「分裂したって!増殖したって!何度だって……叩き潰す!」

 

 響の渾身のパンチによって、遂に最後の1体となるが、再び逃げ出すように飛び立ってしまう。しかも分裂を繰り返した事で小さくなり、機動力が上がっている。疲弊により一瞬だけ膝の力が抜けてしまうも、まだ最後の一体を追わねばならない。

 

「今逃げた奴を追いかけなきゃ!」

 

 だが突如、響の頭上を影が覆われた。空を見ると、そこにはバルベルデで落とした巨大戦艦があった。そしてその甲板にはサンジェルマン、カリオストロ、プレラーティがいる。

 

「いくらシンフォギアが堅固でもっ」

「装者の心は容易く折れるワケダ。」

「総力戦を仕掛けるわ!」 

 

 サンジェルマンの指揮により、戦艦から母艦型のアルカ・ノイズが召喚される。さらに響に悪い知らせが届く。

 

『アルカ・ノイズ、第19区域方面へ進攻!』

「それって……リディアンのほうじゃ!」 

『ぼさっとしてねえでそっちへ向かえ!』 

「クリスちゃん?!」

 

 クリスがガトリング砲の弾丸をばら撒き、アルカ・ノイズを蹴散らしながら響に言い放つ。

 

「空のデカブツは、あたしと先輩で何とかする!」

『で、でもそれじゃあ……』

「あたしらに抱えられるもんなんて、たかが知れている!お前はお前の正義を信じて握りしめろ!せめて、自分の最善を選んでくれ!」

 

 クリスの叱責を受けた響は、決断を下す。

 

「ありがとうクリスちゃん……。だけど私……!」

 

 ギアコンバーターのウィング型に触れる。イグナイトを使うつもりだ。それをサンジェルマン達は見逃さない。

 

「待っていたのは、この瞬間!」

 

 不敵な笑みを浮かべ、ラピスの結晶がはめられた拳銃を手に取る。

 

「イグナイトモジュール、ばっけ……」

『その無茶は後に取っとくデス!』

『ワガママなのは、響さん一人じゃないから!』

 

 抜剣しかけた時、切歌と調がそれに待ったをかけた。すると上空に飛んでいる戦艦のさらに上空から調と切歌が降下していた。

 

 Various shul shagana tron……

 

 聴こえたのはシュルシャガナの起動詠唱。調がギアを纏ったのだ。そのまま降下しながら、両手に持つヨーヨーを操り、飛行型のアルカ・ノイズを切り刻む。さらに、ツインテールのアームバインダーが開くと、そこから小型の鋸を大量に投擲する。

 

【α式・百輪廻】

 

 切歌もイガリマを纏い、大鎌を振り回して共にアルカ・ノイズを両断する。そのまま二人は戦艦に降り立った。

 

 二人にはギアの適合率は安定しており、バックファイアによるダメージは見られない。遂にLiNKERを完成させたのだ。

 

「シュルシャガナとイガリマ!エンゲージ!」

「協力してもらった入間の方々には、感謝してもしきれないですね。」

「バイタル安定。シンフォギアからのバックファイアは、規定値内に抑えられています。」

「こっちもよく間に合わせてくれた。感謝するぞ、エルフナイン君!」 

 

 LiNKERを完成させる為に出来る事をやり尽くし、遂に完成させたエルフナインは、ラボで一息ついた。そして、モニターに映る塩基配列を見て

 

(LiNKER完成に必要だったのは、ギアと装者の間を繋ぐ脳領域を突き止める事。その部位が司るのは……自分を殺してでも、誰かを守りたい一生の思い。)

「それを一言で言うのならば……」 

 

 エルフナインは胸に手を当て

 

「愛よ!」

 

 リディアンの屋上にて、LiNKERを投与してアガート・ラームを纏うマリアが言い切った。短剣を手に構える。短剣の刃が蛇腹剣へと変わり、襲い掛かるヤマタノオロチ型アルカ・ノイズの最後の一体の首を斬った。

 

【EMPRESS†REBELLION】

 

 全ての首を倒し、マリアはリディアンの別棟へと降り立った。

 

「最高……なんて言わないわ。」

 

 Dr.ウェルの事は好かない。しかし、本当に大事な事を気付かせてくれたウェルに感謝している。

 

(あなたは最低の最低よ。ドクターウェル……。)




「バカとアクマと召喚獣」の方もよろしくお願いします!

クリス「ここで宣伝すんじゃねぇ!」


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相容れない

気合入れて頑張った結果、長くなりました。




 戦艦に降り立った切歌と調が母艦型のアルカ・ノイズを両断し、残るはパヴァリアの錬金術師である。プレラーティが調に錬金術の炎を両手から放つが、そこに横から切歌が切り込む。プレラーティが後退すると、今度はカリオストロが切歌に襲い掛かる。その両掌底には光弾が形成され、それを懐へ打ち込もうとするが、大鎌の柄に阻まれ鍔迫り合いとなる。

 

「結局お薬頼りのくせして!」

「LiNKERを、ただの薬と思わないで欲しいデス!」

「みんなの思いが完成させた絆で!」

 

 調がヨーヨーを投擲する。カエルのぬいぐるみを介したバリアでそれを防ぎ、今度はプレラーティが氷の錬金術を用いて氷柱を生成、それを放った。調はそれを回避して接近すると、スカートを鋸に可変させてそのまま身体ごと回転する。

 

【Δ式・艶殺アクセル】

 

 プレラーティはバリアで受け止めるが、その一撃が重いからか表情は芳しくない。カリオストロも鍔迫り合いに押し負け、さらにイガリマの肩部アーマーからアンカーが発射された。バリアを展開したが、破られて吹き飛ばされ、プレラーティの背中にぶつかる。

 

 共に飛び立った調と切歌は手を繋ぎ、それぞれの側部のアームから大型鋸と鎌の刃が展開され、それを合体させ

 

「きっと勝利を!」

「毟り取るデス!」

 

 カリオストロ、プレラーティに向けて急降下、飛び蹴りを放つ。その間にサンジェルマンが入り、巨大なバリアを展開、飛び蹴りを防ごうとするが、二人の飛び蹴りの威力が凄まじく、その防御を破った。さらにそのまま戦艦の装甲を貫き、戦艦は連鎖的に爆発を引き起こした。

 

 戦艦が墜落し、同時に切歌と調が地面に着地した。

 

「あいつらは……いたデス!」

 

 土煙に巻かれるが、その隙間から敵影を捉える。

 

「あいつは……!」

「ミラー先生……いや、アルベルト!」

 

 土煙が晴れるとラピスのファウストローブを纏ったアルベルトが姿を現した。正体が露見している事を判断したアルベルトは、仮面を捨てた。

 

「おや、既に顔が割れてしまっていたか。」

「ここに来る前に聞いたデスよ!よくもアタシ達を騙したデス!」

「瑠璃先輩を攫って……いったい、何が目的なの……?!」

 

 出撃する前、マリア、切歌、調は瑠璃がアルベルトに攫われた事、輪がアルベルトの攻撃を受け意識を失っているという報告を受けていた。さらに、映像に映し出されたアルベルトの素顔が、瑠無と合致した事から、瑠無の正体がアルベルトである事も把握していた。

 

「全ては悲願の為に……。」

「悲願……?」

「ふっ……愚かな……。」

 

 アルベルトが不敵な笑みを浮かべたのと同時に、二人の背後から銃声が聞こえた。

 

「その命、革命の礎に。」

「切ちゃん!」

 

 三人はラピスのファウストローブを纏っており、サンジェルマンが放った弾丸は、切歌の方へと向かう。背後から不意に放たれた弾丸に、切歌は反応出来ていなかった。

 だがその弾丸は、駆けつけた響の掌で防がれ、地面へと落ちた。

 

「間違ってる……命を礎だなんて、間違ってるよ!」

 

 革命は誰かの犠牲の上で成り立つ。しかし響は、その犠牲を良しとしない。故に真っ向から対峙する。

 だがパヴァリア側は4人に対し、今いる装者は3人。数の優位性ではサンジェルマン達の方が上だ。

 

「4対3の癖に」

「随分と勇ましいワケダ。」

「ん……?」

 

 サンジェルマンとアルベルトが空の方から何かが飛来しているのを勘付くと、4人はすぐさま跳躍して回避した。4人がいた場所には無数の赤いエネルギーの矢が降り注いだ。

 

「いいや、これで6対4だ!」

 

 クリス、翼、マリアが到着した。3人が降り立ち、6人は4人の錬金術師達と真っ向から対峙する。

 

「いい加減聞かせてもらおうか、パヴァリア光明結社。その目的を!」

「人を支配から解放するっていたあなた達は、一体何と戦っているの?!あなた達が何を望んでいるのかを教えて!本当に誰かのために戦っているのなら、私達は手を取り合える!」

「手を取るだと?傲慢な!」

 

 サンジェルマンが真っ向から否定した。

 

 

「我らは神の力をもってして、バラルの呪詛を解き放つ!」

「神の力で……バラルの呪詛をだと?!」

「月の遺跡を掌握する!」

 

 サンジェルマンの強い宣言に、装者達は大きく驚愕した。月遺跡は、装者達にとって因縁の深いものだった。

 

「人を人が力で蹂躙する不完全な世界秩序は、魂に刻まれたバラルの呪詛に起因する不和がもたらす結果だ。」

「不完全を改め、完全と正す事こそ、サンジェルマンの理想であり、パヴァリア光明結社の掲げる思想なのよ。」

「月遺跡の管理権限を上書いて人の手で制御するには、神と呼ばれた旧支配者に並ぶ力が必要なワケダ。」

「故に、バルベルデを始め各地で儀式を行って来た。」

 

 バラルの呪詛は月遺跡によって制御されている。かつてフィーネは、彼女が愛する者へと到達する為に、カ・ディンギルを用いて破壊しようとした。対するサンジェルマン達は月遺跡を支配。

 サンジェルマン達の意思は、人々を思う所では響達と似通う所があるが、決定的に違うのは、犠牲の有無だ。故にここに立ち、相対する装者と錬金術師は相容れない。

 

「だとしても!誰かを犠牲にしていい理由にはならない!」

「犠牲ではない!流れた血も失われた命も、革命の礎だ!」

 

 装者達に向けられたサンジェルマンの銃の銃口から弾丸が放たれた事で、戦陣が切られた。装者達と錬金術師達は散開、飛翔した翼が刀を大剣へと可変させた。剣と足部の装甲ののバーニアを点火させて急下降、その剣先はサンジェルマンに向けて放たれる。

 

【天ノ逆鱗】

 

 それを回避下サンジェルマンは翼に向けて弾丸を3発放つ。翼は巨大化させた剣を盾として防ごうとするが、その直前に弾丸が錬金術によって鋭利化、鋭くなったそれは刀身の守りを穿ち、その内の1発が翼のアーマーを破壊した。

 響が勇ましい叫びと共に接近を試みるも、サンジェルマンの弾丸が響の足元に打ち込まれ、そこから岩の塊が突出、響は跳躍してそれを回避する。

 

 カリオストロにはマリア、アルベルトにはクリスが交戦しているが、クリスはその中でも怒りを滲ませていた。

 

「テメェ……よくも姉ちゃんと輪を!!」

 

 自分達を欺き、瑠璃を攫い、輪を傷つけたアルベルトに憎悪と共にクロスボウの矢を連射。アルベルトは杖と錬金術を用いずともそれを軽やかに避け、クリスの懐まで近づき、杖の先端がクリスの鳩尾を突いた。

 

「くそぉっ……!余裕かますなぁ!!」

 

 アルベルトの余裕の態度、倒されてもその怒りは烈火の如く燃え上がる。ガトリング砲乱射と同時に腰部のアーマージャッキから無数の小型ミサイルを発射させる。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

「ルリと違って、君は浅はかだな。」

 

 杖の先端から錬金術のバリアが展開。それらを全て防いだ。

 

「ただ怒りをぶつけ、囀る事しか出来ない君に、ルリを救えるものか。」

「ごちゃごちゃと……」

「君達はバイデントを呪われた魔槍へと堕とした。」

 

 バイデントの名が出た事で、クリスと別の錬金術師と対峙する元F.I.S.の装者達が反応した。何故それを出したのか、理由は分からないがその余裕の笑みの中に、微かに怒りが混在している。

 

「それが、君達が愚かである理由。相容れない理由。彼女を……っ!」

 

 アルベルトが装者達と対立する理由はカリオストロが放ち、マリアが防いだ光弾の流れ弾が目前に迫られた事で遮られた。クリスは跳躍して避けるが、アルベルトの姿を見て驚愕した。

 

「あれは……!」

 

 アルベルトの左掌から青色のバリアが展開された。そのバリアの形状が、今までの錬金術によるものとは全く異なるものだった。クリスにはそれが見覚えのある。

 

「おい……それって……」

 

 アルベルトが人差し指を立てて、それを自身の唇に近付けて笑みを浮かべた。『内密に』という意味のジェスチャーだ。

 

 さらにその流れ弾はサンジェルマンにも向かっていた。それを響と共に下段へと飛んだことで事なきを得た。土煙が立ち込める中、サンジェルマンが先に起き上がる。

 

「私達は……共に天を頂けない筈……。」

「だとしても、です……。」

 

 響も起き上がり、その手を伸ばした。しかし

 

「思いあがるな!」

 

 サンジェルマンはそれを振り払い、立ち上がる。

 

 

「明日を開く手は!いつだって怒りに握った拳だけだ!」

 

 響を見下ろし、言い切った。

 

「これ以上は無用な問答……!預けるぞ、シンフォギア!」

 

 相容れない二人の戦いは、サンジェルマンがテレポートジェムで転移した事で終了となった。

 

「ここぞで任務放棄って……どういうワケダ?サンジェルマン。」

「あーしのせい?!だったらめんご、鬼めんご!」

 

 突如の撤退に理解出来ないプレラーティ、口は軽くとも本当に申し訳なく思っているカリオストロも、テレポートジェムで転移した。後はアルベルトだけだ。

 

「ミラー……先生!」

 

 響に偽装の名を呼ばれて反応したアルベルトは、響の方を向く。

 

「どうして騙すような真似を……瑠璃さんを攫って、一体何をするつもりですか?!」

「悲願と言ったな。瑠璃を使って、月遺跡を掌握するつもりか?!」

 

 響と翼に問われたアルベルトは

 

「そんなものは序の口さ。私の悲願は……その先にある。」

 

 そう言うとアルベルトもテレポートジェムを放り投げ、地に割れると転移の魔法陣が、アルベルトを覆う。

 

「相対するその時まで、輝きを磨いておく事だ。それと……バイデントは預けたよ。」

 

 告げる事を告げたアルベルトは転移して姿を消した。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 港に停泊しているS.O.N.G.本部潜水艦のブリッジでは、パヴァリア光明結社の目的である月遺跡の掌握する事について解析していた。

 

「パヴァリア光明結社の目的は、月遺跡の掌握……。」 

「そのために必要とされる、通称神の力を、生命エネルギーにより練成しようとしていると。」

「仮にそうだとしても、響君の一撃で分解するほどの規模ではいくまい……。恐らくは、もっと巨大で強大な……。」

 

 そのモニターには、かつてバルベルデでサンジェルマン達が使役していたヨナルデパストーリが映し出されていた。あの時は響の一撃によって破壊されたが、再びそれが通ずるか、不透明なままだった。 

 

「その規模の生命エネルギー……いったいどこからどうやって……」

「まさかレイラインでは……!」

「何?!」

 

 かつて魔法少女事変の黒幕、キャロルが世界分解の為に用いたレイライン。それは大地に流れる、言わば地球の生命線であり血管。それを今度は、パヴァリア光明結社が利用しているのではと推測された。

 

「キャロルが世界の分解・解析に利用しようとしたレイライン。巡る地脈から、星の命をエネルギーとして取り出すことが出来れば……。」

「パヴァリア光明結社は、チフォージュ・シャトーの建造に関わっていた。関連性は大いにありそうですよ。」

「取り急ぎ、神社本庁を通じて各地のレイライン観測所を仰ぎます。」

「うむ……。後は装者たちの状況と、輪君だな……。」

 

 それとは他に、前者の装者達の問題が2点あった。1つ目は瑠璃がアルベルトに攫われた事だ。まさか身近にパヴァリア光明結社の錬金術師が紛れ込み、心が壊れた瑠璃を攫うなど予想出来なかった。

 

(瑠璃……!)

 

 最愛の娘が攫われた弦十郎の組んでいる腕には、力が入っている。それは彼の悔しさの表れである。クリスもたった一人の姉を失い、友を傷つけられた。その張本人を相手に成す術がなかった。その悔しさから自動販売機を殴りつけている。

 そしてもう一つ、完成されたLiNKERは無事に作用され、運用出来るが、ラピスのファウストローブの呪いを焼き払う作用に、イグナイトが封じられている事だ。イグナイトを使えば、ラピスの輝きによってイグナイトは強制的に解除されるだけでなく、焼き払った事によるダメージがのし掛かる。

 先程の戦いで、切歌と調がプレラーティに対して安易に抜剣してしまった事で、そのダメージがどれほどのものかを身をもって思い知らされた。

 装者達の心は晴れるどころか、さらにその心に影を落としていた。

 

 そして、後者の問題である輪についてだ。時を同じくして、アルベルトに倒され、メディカルルームに運ばれていた輪が目を覚ました。幸い大きな怪我はなかったのだが、突如の輪の首に掛けられていたネックレスの輝き。あれが高所から落ちる輪の命を救ったのだ。それが何の物なのか、現在エルフナインがラボで解析している。

 

「僕の力では、殆ど解析出来ない……けど、これは紛れもなく……!」

 

 どういうわけか、エルフナインをもってしても解析が困難であった。しかし、このネックレスに秘められたエネルギー、同じ錬金術師であるエルフナインはすぐに勘付いた。

 

「ラピス・フィロソフィカス……!」

 

 パヴァリア光明結社の保有するファウストローブと同じ名称、賢者の石と呼ばれるラピス・フィロソフィカスであった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 パヴァリア光明結社が拠点とするホテル、そのベッドに未だに目覚めない瑠璃が寝かされている。その寝顔をアルベルトが眺めている。

 

「その子の寝顔をそんなに眺めてどうしたの?」

 

 背後から不意に、カリオストロに呼びかけられる。

 

「いや……何でもないさ。」

 

 アルベルトはズボンのポケットからネックレスを出した。チェーン繋がれた黒い結晶の煌き。その妖しい光は、まるで星々のない闇夜を思わせる。

 

「それは……もしかしてアーネンエルベから頂戴したもの?」

「ああ……。これはその一部を使ったファウストローブ。尤もその原型のその一部である欠片は、シンフォギアに使われているが。」

「ふーん……。」

 

 アルベルトの笑みに、カリオストロは冷たい目で見ていた。それは仲間に対して向けているものではなく、疑うものだった。

 




アルベルトの悲願とは……。


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最後の賢者、賢者に対抗する愚者

捗る捗る。

そう言えばシンフォギア3が稼働されるみたいですね。
モチーフがAXZだからちょうどいい。



 目覚めた輪の怪我はほとんど軽いものだった為、問題なく日常生活に戻れる……はずだった。輪は弦十郎に呼び出され、今はエルフナインのラボにいる。そこで輪が持っていたネックレスについて、エルフナインから告げられる。

 

「らぴす……何それ?」

「ラピス・フィロソフィカス。分かりやすく言えば賢者の石です。」

「何その眼鏡かけた魔法使い少年が出てきそうな石。」

 

 それ以上言ってはいけない。

 

「それは、今回我々が対峙するパヴァリア光明結社が持つファウストローブだ。君も見ただろう?」

「あ……ミラー先せ……アルベルトって奴が纏ってた……。」

 

 病室でアルベルトが纏ったファウストローブ、そしてその力に為す術なく敗北したあの時を、瑠璃を守れなかった悔しさと共に思い出した。

 

「君が病室の窓から落とされた時、それが一時的であるが、君が起動したのを確認した。」

「はぁっ?!」

 

 そう言われた輪は声を挙げて戸惑った。全くとは言えないが、戦いとは関係ない自分がファウストローブなど纏うなどあり得ないからだ。それを弦十郎の口から一時的に纏ったと告げられたのだから戸惑うの派仕方のない事だ。

 だがファウストローブを一時的とはいえ纏えば、そのエネルギー反応を本部のオペレーター陣が見逃すわけがない。その反応は、4人の錬金術師が纏ったラピスのファウストローブのエネルギー反応の形状が一致しており、病院で2箇所の反応をキャッチしている。サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティはその時は戦艦の甲板におり、もう一つの反応はアルベルトが纏った事によるものである。これらの事実を踏まえると、もう一つの反応こそが、輪がファウストローブを纏った事によるエネルギー反応であると結論が出された。だがその時、輪は意識を失っていた為、覚えていないのだが。

 

「何故輪さんが一時的に纏う事が出来たのか、それすらも不明です。ラピスの解析をしましたが、敵に解析されないよう仕組まれていて、解明する事は出来ませんでした。ごめんなさい……。」

「いや、敵が態々全てを明かす愚行は犯さないだろう。だが、奴が何故これを輪君にプレゼントしたのか、不可解な事だらけだが、意味もなくそんな事をするとは思えん。」

 

 弦十郎は腕を組んで、悩ましげな表情で考える。

 

「もし……それを私がコントロールすれば、瑠璃を救えるんですよね?」

「輪君……」

「可能性としては、0ではありません。」

 

 輪はライブの惨劇被害者狩りの悪意から身を守る為に力をつけた。喧嘩は強いが、命懸けの戦いの経験など皆無だ。そんな彼女を出来れば輪を戦わせたくない。弦十郎が言葉を投げかけようとした時、エルフナインが割って入るように告げた。

 

「エルフナイン君?!」

「しかし、このラピスのファウストローブは先程も言った通り、殆ど解析出来ていません。その為、常に不測の事態と隣り合わせです。もしかしたら、命を落とす事だってあるかもしれません。それでもやりますか?」

 

 ノイズに襲われた時、F.I.S.と対峙した時、一時S.O.N.G.を裏切った時など挙げればキリがないが、輪の行動力は並外れている。それはエルフナインも評価しているが、裏を返せば常に死の危険がつきまとう。故にエルフナインは輪の覚悟を問う。

 

「だよね……。そりゃあ……アルカ・ノイズもいるし、ゲームじゃないのは分かってる……。」

 

 脅しのような問に、一瞬俯く。それでも、輪は強く拳を握り

 

「けど、それは瑠璃だって同じだったはず。瑠璃だって、本当は争いとか、戦う事を嫌っていたはずなのに……それでも瑠璃は、私達を……皆を守りたいから戦う事を選んだんだ。ならせめて、私は瑠璃を隣で支えたい。ずっとそう思ってた。だけど、結局瑠璃は……」

 

 支えるだけでは意味がない。結局何も出来ないまま忌まわしき過去が蘇り、心が壊れてしまった。そんな状態になっても、助ける事ができないままアルベルトに攫われてしまった。自分の不甲斐なさに打ちのめされていた、そんな時に見えた一筋の光明。それを手放したくない。輪は顔を上げて、エルフナインに向き直る。

 

「私、戦う。瑠璃を支えるだけじゃなくて、瑠璃が抱える苦しみや痛みを、少しでも肩代わりしたい……!瑠璃が好きな日常を、一緒に守りたい!だから……お願いします!」

 

 輪が二人に頭を下げた。それを見たエルフナインは弦十郎の方を向き

 

「弦十郎さん。瑠璃さんを助けたい気持ちは、ボクも同じです。ボクも出来る限りの事をします。お願いします、輪さんに力を貸してあげてください!」

 

 エルフナインも弦十郎に頭を下げた。二人の覚悟を前に、弦十郎は呆れるが

 

「ったく……そこまで言われちゃあ、手を貸さないわけにはいかないな……。輪君。すぐにトレーニングルームに来い。」

「え?」

「俺が直々に、短期間で鍛えてやる!」

 

 弦十郎に認められた。それを理解した輪は大いに喜んだ。

 

「はい!」

 

 弦十郎の後ろに付いて行った。一人残ったエルフナインは、その前に弦十郎に集めてもらった異端技術に関する資料の山の一つを手に取る。ラピスのファウストローブを手に入れたとはいえ、現時点で解析がほとんど不可能な状態では、それを使う事は出来ない。故に他の手段を用いるしかない。しかし、この資料の山を一人で相手どるのは骨が折れるというも。

 

「あっ……!」

 

 資料の山が崩れ、部屋中に散らばってしまう。不運に見舞われ、溜息をつくエルフナイン。しかし、目の前に開いた資料を目にした時だった。

 

「これは……!」

 

 その資料のページの左上に響の写真が写されており、ページの中央にはかつて響の身体から抽出されたガーベッジの写真が貼られていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「確かに言ったはずだよ、僕は。シンフォギアの破壊をね。」

 

 ホテルのジャグジーに浸かっているアダム。片手にはシャンパンが入ったグラス。すぐ傍にはティキがいる。サンジェルマン達4人はすぐ近くで立っている。サンジェルマンは従順の態度を示すが、カリオストロ、プレラーティは違う。

 

「申し訳ありません。」

「前は良い所で邪魔したくせに。」 

「いけ好かないワケダ。」

 

 二人は局長であるアダムに対して文句を言う。アルベルトは目も合わさなければ口すら開かない。

 

「聞こえているわよ!三級錬金術師ども!アダムの悪口なんて許さないんだから!」

 

 愛するアダムの悪口が許せないティキが文句を言い返す。しかし当のアダムは気にする素振りはなく、グラスに入ったシャンパンを飲み干すと、その脇に置いておく。

 

「アスペクトは遂に示された。ティキが描いたホロスコープにね。」 

「ならば、祭壇設置の儀式を……。」

「この手で掴もうか、神の力を。」

 

 すると、アダムはティキを高く持ち上げた。愛するアダムに触れられ、高く持ち上げられたその様子は、まるで無邪気な子供のように喜ぶようだった。アダムはそのままティキを自身の肩に乗せて、ジャグジーから出た。その後ろ姿に、カリオストロは悪態をつく。

 

「嫌味な奴。あんなのが結社を統べる局長ってんだから、やり切れないわね。」 

「そうだね。だけど私達が付いて行くのは、アイツでも結社でもないワケダ。」

 

 カリオストロ、プレラーティ、アルベルトはサンジェルマンの方へと向き、サンジェルマンも3人に微笑む。アルベルトは何も告げないが、サンジェルマンの理想に賛同し、今日までついて来た。サンジェルマンも理想の為について来てくれたアルベルトを信頼している。故にアルベルトは何も告げずとも、サンジェルマンと共に理想を果たす。

 

「これ以上、アダムにデカい顔をさせない為にも、本気出さなくっちゃね。」

「しかし、私は祭壇設置の儀式に取り掛からなければならないわ。」

「ならば、シンフォギアの破壊は私達が……」

「アルベルトはあの子の子守をしてたら?」

 

 セリフを遮られたアルベルトはカリオストロの方を向く。

 

「あーしとプレラーティでやるわ。」

 

 元詐欺師だからこそ分かる。アルベルトは元々自分の顔に仮面を着け、己を見せない。しかし、先日の装者との戦いで見せたほんの僅かな人間への怒りと青色のバリア。それ故に、カリオストロはアルベルトは何か隠していると察知した。サンジェルマンに害を及ぼすような何かを。

 カリオストロとアルベルト、互いに表情は変えずとも、心の奥底では疑いの眼差しを向けていた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 エルフナインの要請で、装者と弦十郎と緒川、オペレーターである友里と藤尭といったS.O.N.G.の主たるメンバーがエルフナインのラボに集まっていた。だが装者達には、一つ気になる事があった。

 

「ってか……何でお前がここにいんだ?!」

 

 先にクリスが声を荒げて問いただす。その相手とは外部協力者である輪だ。

 

「あれ、言ってなかったっけ?私も戦う事になったの。」

 

 ギアを持たない輪が、装者達と並び立って戦うという意味に、装者達は大声を挙げて驚愕した。

 

「待て待て!話の飛躍がすぎるぞ?!」

「そもそも、出水にはギアも適合率も……」

「あー……これです。」

 

 首に掛けてあるハートの結晶のネックレスを見せた。

 

「それってまさか?!」

 

 マリアがいの一番に反応した。

 

「お察しの通り、これ賢者の石のファウストローブです。」

 

 錬金術師が持つファウストローブを、何故輪が持っているのか。驚愕するのも無理はない。

 

「輪君は、賢者の石のファウストローブを纏える唯一の人間。万全の状態で戦えるよう、今日から俺が指導している。」

「つまり私は響の妹弟子になるわけだね。というわけでよろしくね。」

「はい!一緒に戦いましょう!」

 

 響は輪の手を握って大いに喜ぶ。翼とマリアはそれが輪が選んだ道であれば止める理由はない。切歌と調も喜んで歓迎したが、クリスだけは違った。

 

「良いのかよ?!お前が戦う必要は……」

「私も瑠璃を助けたい。その気持ちはみんなと同じ。」

 

 心配するクリスの手を取る輪。その手には微かに力が込められているのが分かる。

 

「いつも瑠璃に助けられてばかりだけど、今度は私が助ける番。絶対に取り返す。だから力を貸して、クリス。」

 

 輪の顔を見ると、いつものような天真爛漫な姿は見られない、真剣なものだ。その意思を理解したクリスはその手を握り返す。

 

「ああ。分かった。絶対に姉ちゃんを助けるぞ!」

 

 言葉を発さず、輪は頷いた。そこにマリアが咳払いをする。

 

「そろそろ、私達を呼び出した理由について、教えてくれないかしら?」

「はい。では、本題に入ります。」

 

 エルフナインがカーソルを操作すると、モニターには鉱石が映し出されていた。

 

「これは……?」

「以前ガングニールと融合し、いわば生体核融合炉と化していた響さんより錬成された、ガーベッジです。」

 

 かつて響の心臓に埋め込まれたガングニールの欠片。それがシンフォギア起動をトリガーとして、響の体組織に融合、侵食したことによって響の身体からその欠片としてこの石が出てきたのだ。エルフナインはこれが賢者の石の特性に対抗する鍵として希望を見出している。

 

「あぁー!あの時のカサブター!」

「とは言え、これにさしたる力は無かったと聞いているが……?」 

「世界を一つの大きな命に見立てて作られた賢者の石に対して、このガーベッジは、響さんという小さな命より生み出されています。つまり、その成り立ちは正反対といえます。今回立案するシンフォギア強化計画では、ガーベッジが備える真逆の特性をぶつけることで、賢者の石の力を相殺する狙いがあります。」

「つまりは、対消滅バリアコーティング!」

 

 藤尭がその強化システムの答えを言う。

 

「そうです。錬金思想の基本である、マクロコスモスとミクロコスモスの照応によって導き出された回答です。」

「誰か説明してほしいけれど……」

「その解説すら分からない気がするデース……。」

 

 賢者の石に対抗するのは分かったが、ここまでのエルフナインの説明に理解が追いついていない調と切歌は脳内はクエスチョンマークで満たされている。

 

「その物質、どこぞのバカの中から出たってんだから、さしずめ『愚者の石』ってとこだな。」

「愚者はひどいよクリスちゃぁん……。」

「うむ、なるほど。賢者の石に対抗する、愚者の石。」

「はぁぅっ?!まさかの師匠までぇ?!」 

 

 賢者の対となる愚者。その命名に皆が納得するが、それを生み出した本人は納得がいっていない。切歌に関しては笑いをこらえている。

 

 

「それで、その石は何処に?」

「一通りの調査を終えた後……無用不要のサンプルとして、深淵の竜宮に保管されていたのですが……」

 

 マリアの問いに、友里が答えたが、その反応は良いものではなった。

 

 深淵の竜宮は異端技術を保管する為に海底に設置された施設なのだが、魔法少女事変にてキャロルがワールドデストラクター 『チフォージュ・シャトー』起動の為にそこに侵入した際にクリス、切歌、調が交戦、イグナイトの一撃でレイアを撃破した時の大技によって、深淵の竜宮は文字通り海の藻屑となった。その残骸は、今もなお海底に沈んでいる。故に大掛かりな回収作業を要する。

 

 だがその作業に、輪が加わる事はなかった。何故なら……

 

「今度は私かよおおぉぉぉーーー!!」

 

 とある山道で走り込み、格闘術のトレーニングに絶叫する輪がいた。

 

 




まさか輪が戦う事になるとは……

自分で描いておきながらビックリしてます。

最初はそんな予定なかったからなぁ……


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ユニゾン

ここの所瑠璃が一切出番ない。

まあ無印編でもあったし、仕方ないね!


 装者達が深淵の竜宮とともに沈んだ愚者の石の回収作業中の間、輪は弦十郎の特別特訓メニューを受けていた。先程は山道と街中をランニング、今は緒川とのスパーリングに勤しんでいる。

 

「ほっ!おりゃぁっ!」

 

 トレーニング着姿の輪が緒川の手に持つミットをジャブとキックで叩く。力強い輪の拳がミットに当たる度に、トレーニングルームにその音が強く響く。これだけ見れば普通の訓練と何ら変わりないが

 

「やりますね。それでは少しペースを上げましょうか。」

 

 すると、目の前にいたはずの緒川の姿が消えた。

 

「えっ?!」

「こっちですよ。」

「いつの間に?!」

 

 振り返りといつの間にか背後を取られている事に気付く。そのままジャブを繰り出すも届く前に再びその姿が消え、また別の位置に移動している。

 輪は知らないが、緒川の家系は飛騨の忍びの家系という影の一族の出身。これまで超人的な動作も、忍びとして鍛え上げられた賜物である。故に、それを知らない輪は、予測不能な動きに翻弄され、一度もミットにジャブを当てる事も出来ない。そのままあっという間に体力切れを起こしてダウンしてしまう。

 

「はぁ……はぁ……緒川さんって……いったい……何者……?」

「翼さんのマネージャー兼、S.O.N.G.所属エージェントです。」

「いや……本当に……それだけ……?」

 

 涼しい笑顔で答える緒川に、大の字で寝そべる輪はその肩書きに怪しむ。

 

「流石司令に護身術を習っただけあって、筋は悪くないですね。ただ真っ直ぐすぎては、届くものも届かなくなりますよ。」

「ほえ?」

 

 ドリンクを手渡され、それを飲み干した輪は次のステップへと進む。今度はラピスのファウストローブを纏う訓練である。錬金術師と戦おうにもラピスを纏えなければ意味がない。戦闘中でも安定して起動出来るように、訓練が必要になる。今度はエルフナインの観察の下で行われる。

 

「変身!ラピス・フィロソフィカス!」

 

 ネックレスを首から外して、ラピスの結晶を握った手を頭上に掲げて叫ぶ。

 

「あれ……?やっぱ駄目か。」

 

 特撮系でよく見る変身するヒーローと同じポーズを取るも、起動しなかった。そこに別室にいるエルフナインがアナウンスで輪に伝える。

 

『輪さん、何でも良いので起動した時の切っ掛けを思い出せますか?』

「切っ掛けって言われてもなぁ……。」

 

 あの時は高所から落とされ、命を落としかけた故に考えを巡らせても何がどうやって起動させたのか分かるはずがない。

 

「あー!もう分かんないよー!シンフォギアじゃないから歌って起動出来るわけでもないから……」

 

 お手上げの輪は頭皮を書き毟って叫んでいる途中、アルカ・ノイズの反応アラートが鳴り響いた。

 

「え?!まさかアルカ・ノイズ?!このタイミングで?!」

 

 これにより訓練は一旦中断、ブリッジへと駆け足へと入った。そのモニターには愚者の石の回収作業の為に建てられた海上施設にアルカ・ノイズの群れ、ファウストローブを纏ったカリオストロとプレラーティが急襲を仕掛けて来た。

 

 クリス、切歌、調がギアを纏い、対処しているのだがそれでも多人数の攻撃から作業員を守りきれず、犠牲者が数名出てしまう。それでもこれ以上被害を出さない為に三人は奮闘するが、カリオストロとプレラーティの攻撃に吹き飛ばされてしまう。

 

「ダインスレイフを抜剣出来ないシンフォギアなんて、チョロすぎるワケダ。」

「ここでぶち壊されちゃいなさい。」

 

 そのセリフから敵の目的が愚者の石ではなくシンフォギアの破壊である事を察した。愚者の石が賢者の石に対抗する為のものである事が知られれば、回収作業そのものを妨害されかねない。だがそれを知らなければ装者達にとってはこのまま自分達に注意を向けさせればいい。まさに好都合だ。

 

「だったら派手に行くぜぇ!」

 

 腰部のジャッキから小型ミサイルを放つと、すかさずクロスボウからガトリング砲へと可変させて、撃ちまくる。相も変わらず砲撃と高を括ったカリオストロは水のヴェールをバリアのように展開させて、その弾幕を防ぐ。その結果、ガトリング砲を乱射しながら接近するクリスに反撃を封じられた上に、水のヴェールも破壊されてしまった事で懐まで潜り込まれ、その砲門を向けられる。まさに埒をこじ開けられた状態だ。

 さらにガトリング砲から弓へと可変し、矢を思わせるミサイルを向けられる。

 

(ベーゼ可能な0レンジ……!だけど、あーしの唇は安くない……。) 

 

 クリスが弦を放したと同時に、カリオストロは身体を反らして回避した。だがそれこそクリスの狙いだった。

 

「ドッキンハート?!」

 

 そのミサイルの後方にイガリマの大鎌が繋がれており、そのまま調の所まで向かう。装者達の狙いは調と切歌によるユニゾン。ザババの刃によるユニゾンであれば、他のギアでは引き出せない強力なフォニックゲインを引き出す事ができる。その為にクリスは、自分に注意を引いて切歌を調の所まで送り届けたのだ。

 プレラーティが調に止めを刺そうとした時、それに気づいたプレラーティがその場から離れる

 

「さあ、いっちょ派手にやらかすデスよ!」

「切ちゃん!」

 

 到着した切歌が伸ばした手を、調は手に取り立ち上がる。二人はプレラーティに狙いを定め、駆け出す。大鎌を高速で振り回し、コマのように回転する。

 

【災輪・TぃN渦ぁBェル】

 

 錬金術のバリアでそれを防ぐが今度は、調のヨーヨーが放たれる。2つのヨーヨーが連結され、巨大化するとそれを叩きつけるように振り下ろす。それを巨大な剣玉で弾き返す。

 

「調ちゃんと切歌ちゃんのフォニックゲイン、飛躍していきます!」

「この出力なら……!」

 

 ブリッジのモニターからでも、二人がプレラーティに対して圧倒しているのが分かる。

 

「凄い……。」

 

 装者の戦いを見守る輪がポツリと呟いた。

 

 二人の猛攻に押されるプレラーティ。予想外の事態を前に膝をついてしまう。だが装者達にも戦う理由があるように、プレラーティも負けられない理由がある。

 

「うだつの上がらない詐欺師紛いだった私達に、完全な肉体と真の叡智、そして理想を授けてくれたのはサンジェルマンなワケダ!だから彼女の為に……負けられないわけだぁ!」

「プレラーティ?!」

 

 一人でユニゾンをねじ伏せようと戦うプレラーティと合流しようとするも、クリスがそれを許さない。

 

「愉しい事気持ちいい事だけでは、理想には辿り着けないワケダ!!」

 

 サンジェルマンの為に、プレラーティは立ち上がる。

 

 調と切歌は共に飛び立ち、切歌の大鎌が長く伸長すると、調が投げた2つのヨーヨーが大鎌の左右先端に連結すると巨大な車輪へと変化、左右それぞれに大型の3本の刃が展開される。

 

 【禁合β式・Zあ破刃惨無uうnNN】

 

 車輪の刃が回転し、二人のギアのブースターが点火、猛スピードでプレラーティへと突っ込んでいく。

 

「理想の為にいいいぃぃ!!」

 

 剣玉の刃から、大砲のように玉を射出、刃とぶつかり合い火花が散る。だが次第にその均衡は崩れ

 

「ぐあああああぁぁぁぁ!!」

 

 玉は両断され、その威力に吹き飛ばされたプレラーティは悲鳴とともに海へと落ちた。

 

「ここまでにしてあげるわ!」

 

 形勢不利と見たカリオストロはプレラーティを回収して撤退。愚者の石の秘匿は守りきれた。

 

「重ね合ったこの手は」

「絶対に離さないデス。」

「そういう事は家でやれ……。」

 

 ザババのユニゾンが無ければ勝つ事は出来なかった。調と切歌の手は重ね合う。

 

「やってくれましたね。」

「ああ、今日のところはな……。」 

 

 潜水艦のブリッジのモニターで、勝利を見届けた緒川と弦十郎。しかし弦十郎は喜びに浸っている余裕はない。そして、その後ろでモニターを静観していた輪はラピスの結晶を握りしめていた。

 

(あれ……?)

 

 ラピスを握った時、何か変化を感じた。 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ホテルのプールの水面に浮かぶティキ。その目からはまるでプラネタリウムのように星空を映し出している。その脇には椅子に身を預けるアダム。片手にはワイン、そのすぐ傍にはサンジェルマンが立っている。

 

「順調に言っているようだね、祭壇の設置は?」

「はい。ですが、中枢制御に必要な大祭壇の設置に必要な生命エネルギーが不足しています。」 

「じゃあ生贄を使えばいいんじゃないかな?」

「え……?」

「あの三人のどちらかを……。十分に足りるはずさ、祭壇設置の不足分だってね。完全な肉体より錬成される生命エネルギーならば。」

 

 だがそのやり方は、仲間大事に思うサンジェルマンの意思に反するもの。流石のサンジェルマンも、そのやり方には反対する。

 

「局長……あなたはどこまで人でなしなのか……?!」

「選択してもらおうか、君の正義を……。」

 

 しかしサンジェルマンの意思など、アダムは顧みる事はなかった。

 そのやり取りを密かに盗み聞きする者がいた。




ちなみに輪が来ているトレーニング着は、マリアさんがスパーリングしていた時に着ていたものと同じデザインです。


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思惑

本日二本立て!

例のトレーニング回になります。


 カリオストロ、プレラーティの襲撃というアクシデントがあったが、無事に撃退。愚者の石の回収作業が再開される。海中から引き揚げた泥の中から、タブレット端末がキャッチした反応から探し当てなければならない。しかも広範囲であり、S.O.N.G.の職員の殆どを駆出している。

 

「およ?!」

 

 そんな中、切歌の持つタブレットの電子音が鳴る。愚者の石を発見した知らせだ。この広大な範囲に苦しめられた分、その期待と喜びはとても大きい。

 

「よし、切ちゃん。まずは落ち着こう……」

「およおおぉぉーーーー!!」

 

 調の制止も虚しく、切歌が勢い良く泥に両手を突っ込んだお陰で、飛び散った泥が調の顔に掛かってしまう。

 

「デエェェェーーース!」

 

 引き抜いたその手には愚者の石。切歌はガッツポーズを決めるが如く、愚者の石を持つ手を満面の笑みで掲げた。切歌が愚者の石を発見したと知ると、エルフナインはすぐに切歌の方へと走る。

 

「あ!見せてくださーい!……わ、わあああぁぁーー!」

 

 しかし泥のぬかるみに足を取られ、転んでしまう。当然泥の上で転べば泥塗れになってしまう。しかし、エルフナインはそんな事を気にする事なく、切歌が発見した愚者の石を手に取る。

 

「そうです!これが賢者の石に抗う、ボク達の切り札!愚者の石です!」

「すっかり……愚者の石で定着しちゃったねぇ……」

 

 エルフナインが切り札発見に喜ぶ。しかし、生み出した本人である響にはとても複雑な心境である。

 

 時を同じくして、輪は弦十郎指導の下、格闘訓練に勤しんでいた。いつものアクション映画を鑑賞する時間がない事を除けば、響と瑠璃が体感したトレーニングと変わらない内容である。同じタイミングで愚者の石を発見したという報告を受けた弦十郎は、輪に休憩を与えた。

 

「疲れた……瑠璃と響は……いつもこれをやっていたのか……。」

 

 ヘロヘロになりながらもシャワー室へと辿り着くと替えの着替えを籠に入れ、ラピスのネックレスを外す。トレーニング着を脱いで上半身が露わになると、愚者の石の回収作業から帰って来た響達が入って来た。

 

「あ、輪さん。」

「おかえりなさ……調、どうしたのその顔?」

「じーっ……。」

 

 愚者の石を発見して意気揚々と帰って来た切歌をジト目で見ている。それで何となく犯人が切歌である事を悟って、うんうんと頷いた。当の本人はお気楽にもそれに気付く事なく、一矢まとわぬ姿となってシャワーを浴びに行こうとした時、シャワーを浴び終えたエルフナインが個室から勢いよく飛び出して来た。

 

「うおっ?!エルフナイン?!どうしたの?」

「すみません!急いでますので!」

 

 せっせと身体を拭いて着替えると、十分に乾かしていない髪にタオルを巻いてシャワー室から出て行った。

 

 7人全員シャワーを浴び、身体の泥と汗を洗い流している。そんな中、切歌は陽気に

 

「かあぁー!五臓六腑に染み渡るデェース!」 

「流石石の発見者は言う事が違う。」

 

 流石に泥を引っ掛けられた事もあって、かなり嫌味っぽいく言う。

 

「輪さんは師匠とトレーニングですか?」

「それもあるけど、ラピスを纏う方法も探してたんだよ。安定して纏えなきゃ、皆の戦力になれないし。」

「けど、アイツらが作った石っころを本当に使うのか?」

 

 クリスがラピスを纏って戦う事の懸念を口にする。何しろ自分達を騙して瑠璃を攫った張本人、アルベルトが作ったものだ。簡単には信用出来ないのは仕方のない事だ。

 

「だったら私に渡した事を後悔させてやる方が、仕返しにもなるじゃん?そんでもって瑠璃を取り返さなきゃ。」

 

 シャワーを浴び終えた輪は、蛇口を捻って個室から出た。

 

「意趣返し、というわけか。」

 

 翼と輪、互いにニヤリとする。二人の間に憎しみや哀れみなどもうない。仲間であり、信頼している証だ。

 そこにシャワーを浴びに来た友里が入って来た。

 

「あっ……クリスちゃん宛に外務省経由で連絡がきていたわよ。」

「連絡?あたしに?」

「バルベルデのあの姉弟が、帰国前に面会を求めてるんだけど……。」

「悪い。それ無しで頼む。」

 

 バルベルデの姉弟といえばソーニャとステファンだ。しかしバルベルデに行った事もなければ、その姉弟を知らない輪は、何の話なのか分からない。しかし、クリスの表情と出した答えには何か訳があるとすぐに察する事が出来た。 

 全員私服に着替え、本部の廊下を歩いているが、事情を知る者たちは皆クリスを心配している。

 

「クリスちゃん……。」 

「過去は過去……選択の結果は覆らない……。」 

「だからとて、目を背け続けては、今成すべき事すらおざなりになってしまうぞ?」

「ご忠節が痛み入るね。」

「まったく……妹は何でこうも素直になれないんだか。」

 

 翼からのアドバイスに素っ気ない返事をするクリスに呆れる輪。瑠璃なら素直に聞き入れるだろう。

 

「うむ、揃っているな。」

 

 そこに弦十郎から呼び止められた。彼は休憩室のソファーに腰を掛けている。

 

「師匠!何ですか藪から棒に?」 

「全員、トレーニングルームに集合だ!」

 

 響の問いに出た答えに、全員が疑問符を浮かべた。特に輪に至っては先程まで過酷なトレーニングを熟した所だというのに。

 

「トレーニングって……。オッサン!愚者の石が見つかった今、今更が過ぎんぞ!」

「これが映画だったら、たかだか石ころでハッピーエンドになるはずがなかろう!」

「確かに……ってちょっと待って!そのトレーニングって私も?!まだラピスの起動は……」

「それを起動させる手掛かりを探る為に、輪君は見学だ!」

「ふぇ?」

 

 クリスと輪のツッコミを入れるが、弦十郎が意味もなくそんな事をする男ではない。必ず何かあると判断した輪は、これ以上問うことはしなかった。

 

「御託は、一暴れしてからだ!!」

 

 拳を掌について、力強く言った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 先日の戦闘で切歌と調のユニゾンに敗れ、重傷を負ったプレラーティを、水の錬金術で治癒させるカリオストロ。すぐ傍にはアルベルトもおり、流石の彼女もいつもの余裕の笑みは翳りがある。

 仲間と呼ぶには懐疑的なアルベルトが近くにいるだけでも、カリオストロにとっては気に入らないが、もう一つ気に入らない事があった。

 アダムとサンジェルマンの会話を盗み聞きした事で、祭壇設置に足りない生命エネルギーを、自分達を生贄にして補おうとしている企みを察知した。無論サンジェルマンはそのような事を望まないのは分かってはいるが、アダムは違う。目的の為ならば手段を選ばない。サンジェルマンをも犠牲にしようとしている可能性も否定しきれない。故にカリオストロの中で覚悟を決める。

 

「アルベルト、話があるわ。」

「奇遇だな。私もだ。」

 

 奇しくも、アルベルトも同じように覚悟を決めたようで、カリオストロの方を真剣な眼差しで見ている。互いに疑い合った二人は、この時初めて腹の中を明かした。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 トレーニングルームに集まった装者と輪。装者達はギアを纏っており、既にトレーニング着に着替えた輪は離れた位置で見学している。

 友里の操作で広いトレーニングルームの背景が街中へと変わり、アルカ・ノイズのホログラムを投影する。装者達は出現したアルカ・ノイズを次々と葬る。トレーニングとはいえ、本物と遜色ないアルカ・ノイズの恐怖が、生身である輪に襲いかかる。

 

「これが……実戦。」

 

 輪は何度もノイズとアルカ・ノイズと遭遇し、その度に瑠璃達に助けられた。だが今度は自分が戦う立場となる。これだけで屈していては戦えない。

 

「でも、今度は私が……あれ?」

 

 ラピスのペンダントを握った時、再び感じた現象。握ったばかりだというのに、何故か暖かかった。そしてまるで鼓動を打つような感覚。

 

「これって……」

「どうした?」

 

 突然傍にいる弦十郎に声を掛けられてビックリする。彼もいつものカッターシャツではなく、ジャージに着替えており、準備運動をしている。輪は一旦心を落ち着かせてその訳を話した。

 

「なるほどな。よし、これをエルフナイン君に伝えよう。だがその前に……」

 

 弦十郎は、装者達の前に立つ。

 

「今回は特別に、俺が訓練をつけてやる!遠慮はいらんぞ!」 

 

 突然弦十郎が相手だと言われ、装者はもちろん輪も困惑している。しかし、ノイズとアルカ・ノイズの特性故に戦う姿をあまり見せていないが、弦十郎は素手でギアと完全聖遺物と戦い、あらゆるものを拳で粉砕して来た、言うなれば憲法にすら抵触しかねない男だ。その男が今、装者6人を相手に構えている。

 

「こちらも遠慮無しで行く!」

 

 凄まじいスピードでマリアに接近し、拳を連続で叩き付けてきた。マリアは咄嗟に両腕で防ぐもその威力と速さを前に、反撃が出来ない。

 

「どうすれば良いの?!」

 

 結局対策する間もないまま、蹴り一つでかなり後ろにある雑木林まで吹き飛ばされた。

 

「人間相手の攻撃に躊躇しちゃうけれど……」

「相手が人間かどうかは疑わしいのデス!」

「もう何処ぞの戦闘民族なんじゃない……?」

 

 切歌と調のボヤキに輪がボソッと呟くが、いい得て妙である。

 

「師匠!対打をお願いします!」

「張り切るな特訓バカ!」

 

 単独で突っ込む響を制止しようとするが、まさに特訓バカである響にそれは無駄というものである。

 

「猪突に身を任せるな!」

 

 響の拳を難なく受け止めている。

 

「あれは……手を合わせ、心を合わせる事で、私達に何かを伝えようとしている……?」

 

 冷静に弦十郎の考えを分析しているが、そうこうしている間にも、響は拳を片手で掴まれ、マリアが落ちた雑木林へと軽々と放り投げられた。落下した場所にマリアがいたのか「ぐはぁっ」とうめき声が聞こえた。

 

「だがその前に、私の中の跳ね馬が踊り昂ぶる……!」 

 

 先程冷静に分析していたはずの翼までもが、闘争本能を抑えきれずに、単独で斬りかかった。

 お見通しと言わんばかりに、その刀を避け続ける。そして、翼の刀は二本の指で白羽取りされてしまう。輪は口を開けて驚愕した。

 

(ええぇ〜?!)

「お見事……!」

 

 受け止められた刀をそのまま引き寄せられた翼は、弦十郎の鉄山靠を食らい吹き飛ばされた。

 

「ほたえなオッサン!」

 

 クリスは容赦なく腰部のアーマーから小型ミサイルの雨を放った。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

(人間相手にミサイル?!クリスやりすぎ……いやちょっと待って?ミサイル達を掴んで、掴んで、掴んで、掴んでから……投げ返したあああぁぁぁぁーーーー?!)

「嘘だろ?!」

 

 今何が起きたのかは輪が見た通りである。信管を起動させずにミサイルを投げ返すなど、明らかに人間技ではない。自分が放ったミサイルを投げ返されたクリスはその爆破による衝撃波により吹き飛ばされ、ビルの窓ガラスに背中を強打してしまった。なお輪はさっきまで開いていた輪の口はより大きく開いていた。

 

「数をばら撒いても、重ねなければ積み上がらない!心と意を合わせろ!爆進!!」

 

 一喝とともに、その足でコンクリートを踏み抜いた。その衝撃は切歌と調に襲い掛かり、二人は何も出来ないまま悲鳴と瓦礫とともに吹き飛ばされた。

 

 装者6人が、たった一人の人間に手も足も出ないまま敗れるという衝撃的な展開に、輪は開いた口が塞がらない。装者が弱いわけではない、弦十郎が異次元すぎるのだ。それは十分理解しているつもりではあるが、いざこうも目の当たりにすると、緒川といい弦十郎といい、ここの大人たちの超人ぶりに驚愕が止まらない。

 

「忘れるな!愚者の石は、あくまで賢者の石を無効化する手段にすぎん!さぁ、準備運動は終わりだ!」

「いやいやいや待って待って!さっきが準備運動なの?!」  

「本番は……ここからだ!!」

 

 弦十郎はラジカセをどこからともなく出し、中にあるカセットテープを再生させた。 




おまけ
話の流れはともかくこのトレーニングに瑠璃もいたら?

「行くよ!お父さん!」

 二本の槍を握りしめて接近すると、黒槍を突き出した。それを軽々と避け、瑠璃が繰り出す連続突きを手で捌くことすらせずに、ただ避け続ける。
 痺れを切らした瑠璃は、槍を一本へと連結させてそれを振り下ろすが、その柄を片手で掴む。

「え?ちょ……うわああああぁぁぁーーーーー!!」

弦十郎は掴んだ槍を両手で持つと、そのまま高速回転。

「あああああああぁぁぁぁーーーーー!!回る回るううぅぅぅーーーーー!!」
「うおおおおぉぉりゃあああぁぁ!!」

 娘を容赦なく放り投げた。瑠璃は落下すると、クリスのすぐ傍まで勢いよく転がっていった。

「姉ちゃん?!」
「あぅぅ……」

高速で振り回され、目が回ってしまっていては起き上がる事すらままならなかった。



弦十郎さん恐ろしい……。


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Change The Future

今回はいつもより倍程長くなります。


 星々が輝く夜空。ある神社にてパヴァリア光明結社の錬金術師達がある目的の為にここに訪れている。ただプレラーティは未だに完治しきれていない為、ホテルで眠ったままである。

 

「7つの惑星と、7つの音階。星空は、まるで音楽を奏でる譜面のようね!」

 

 夜空を見上げるティキの目から、星空が投影されている。

 

「始めようか、開闢の儀式を……。」

 

 アダムの合図で、サンジェルマンは自身の纏う衣服をはだけさせる。露わになった白い背中に、アダムが手を翳した。すると、サンジェルマンの背中には先程までなかった刻印が刻まれる。サンジェルマンがそれによる苦痛の表情浮かべ、うめき声をあげる。その痛々しい様子は、流石のカリオストロとアルベルトもこれには目を背けたくなる。

 アダムがサンジェルマンの肩越しに

 

「そろそろ選ばなくてはね……捧げる命はどれなのか……。」

 

 まるで脅すかのように小声で告げられた。アダムが立ち上がると、カリオストロとアルベルトの方に向く。

 

「さぁてシンフォギアだよ、気になるのは。」

「あーしが出るわ。儀式で動けない人と負傷者には、任せられないじゃない?」 

「私も行こう。単独では……」

「アルベルトはプレラーティをお願い。それに、あの子の事もあるんでしょう?」

「カリオストロ……。」

 

 カリオストロが小さく頷く。ならばこれ以上は何も言うまいと、アルベルトは目を閉じた。

  

「あるのかな、何か考えでも?」 

「相手はお肌に悪いほどの強敵。もう嘘はつきたくなかったけど、搦手で行かせてもらうわ。」

 

 カリオストロが取り出したのは亜空間型アルカ・ノイズの召喚石がが収められている筒だった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 エルフナインのラボに集められた翼とクリスを除いた装者達。シンフォギアの改修が完了し、エルフナインが持つトレーの上には赤い結晶が4つある。

 

「これが……。」

「はい。急ごしらえですが、対消滅バリアシステムを組み込みました。」

「見た目に変化はないけれど……」

「これで賢者の石には負けないのデス!」

 

 各装者達は、それぞれのギアを手に取り、それをマジマジとみる。調の言う通り、見た目に変化はない。

 

「ところで、翼とクリスは……?」

「お二人には先に渡しておきました。お知り合いに、会いに行くそうなので。」

 

 マリアの問いにエルフナインが答えた。今、翼とクリスは帰国を目前とするソーニャとステファンに会いに行っている。東京駅の中にあるレストランで、三人は再会、翼は瑠璃の代理で来た。

 

「今日の夕方の便で帰るんだ。でもその前に、この事を伝えたかった。」

 

 車椅子に乗っているステファンの右足は義足になっている。

 

「術後の経過も良いから、すぐにリハビリも始められるって。」 

「そうか……。」

 

 クリスの目に映る義足とステファンの笑顔。それが少し辛い。助ける為にとはいえ、彼の足を撃ち抜いた事に罪悪感が残っている。

 

「すまなかった。本当は、瑠璃も会いたがっていたが……」

「うん。ルリにも伝えたかったけど、入院中じゃ仕方ないね。」

「ああ……そうだな。」

 

 瑠璃とクリスに代わって、翼が謝罪した。ソーニャとステファンには本当の事を言っていない。

 

「内戦の無い国ってのをもう少し見ていたかったけれど、姉ちゃんの帰りを待っている子達も多いからさ。」

「ん?」

「彼女は瑠璃と雪音のご両親の遺志を継ぎ、家や家族を失った子供たちを支援しているそうだ。」

「えっ……」

 

 驚愕の表情でソーニャの方を見る。ソーニャがそんな事をしていたなんて思いもしなかったからだ。

 

(パパとママの遺志を継いで……。分かってた……ソーニャお姉ちゃんの所為じゃないって……。だけど……なのに……!)

 

 クリスが意を決して何か言おうとしたが、突如発生した爆発によってそれは遮られてしまう。

 

「取り込み中だぞ?!」

 

 破壊された窓と壁からアルカ・ノイズが侵入してきた。間違いなく錬金術師による攻撃。

 

「二人は早く非難を!」 

「分かったわ!」

 

 翼に促され、ソーニャは車椅子を押す。

 

「むしゃくしゃのぶつけ所だ!」

 

 Killter ichaival tron……

 

 クリスと翼は起動詠唱を唄い、ギアを纏うとアルカ・ノイズの対処を始める。跳躍したクリスはクロスボウで、矢を乱射させてアルカ・ノイズの群れを蜂の巣にし、中のアルカ・ノイズを殲滅させる。

 だが外にもアルカ・ノイズは召喚されている。避難中の民間人に被害が出ないようここで殲滅させなければならない。だがそこにはファウストローブを纏ったカリオストロがいた。

 

「敵錬金術師とエンゲージ!ですが……」

「単騎での作戦行動……?!」

 

 本部がキャッチした反応はカリオストロただ一人。それ以外の錬金術師の姿はなく、反応もない。何か罠でもあるのかと推測は立てられるが、カリオストロは本当に単騎で襲い掛かってきた。

 だが正確には遠くのビルからアルベルトが戦いを静観していた。

 

「カリオストロ……君の勇姿を見届けさせてもらう。」

 

 だが如何なる理由があっても、援護も救援もしないようだ。

  

「雪音!建物に敵を近づけさせるなッ!逃げ遅れた人たちがまだ……」

「分かってる!」

 

 クリスがクロスボウの矢を連射させるが、軽やかに避けた上にクリスの背後に立っている。

 

「ちょこまかとぉ!」

 

 背後に気付き、その矢をカリオストロに向けるが、その背には東京駅。今ここで撃って避けられれば逃げ遅れた民間人を巻き込みかねない。それを恐れたクリスは発射を躊躇った。

 

「っ……!」

「口調ほど悪い子じゃないのね?」

 

 カリオストロが誂うとクリスが赤面するが、その隙を突くように光弾をガントレットから放つ。防御が間に合わず吹き飛ばされる。

 

「雪音!」

 

 クリスの援護に向かおうとするがアルカ・ノイズがそうはさせまいと翼を包囲する。倒れたクリスにカリオストロが近づいてくる。

 

「嫌いじゃないけど殺しちゃおっと。」

 

 だがそれは蛇腹剣の刃によって阻まれる。

 

「大丈夫、クリスちゃん?!」

「遅えんだよ馬鹿……!」

 

 口ではそう言うが、顔は笑っていた。調と切歌が放った鋸と鎌の刃で翼を包囲していたアルカ・ノイズは殲滅、残るはカリオストロただ一人。

 

「すまない……月読、暁!」

「たまには私達だって!」

「そうデス!ここからが逆転劇デス!」

「そうね。逆転劇ここからよねぇ!」

 

 するとカリオストロが筒からアルカ・ノイズの召喚石を2つばら撒いた。それは亜空間型アルカ・ノイズの召喚石。これにより翼と調、響と切歌の二組に分断され、亜空間へと飛ばされてしまう。

 この場残ったのはクリスとマリアだけになった。

 

「紅刃シュルシャガナと、碧刃イガリマのユニゾン。プレラーティが身をもって教えてくれたの。気を付けるべきはこの二人って。」

 

 カリオストロはザババのユニゾン封じの為に、切歌と調を分断するように亜空間型アルカ・ノイズを使ったのだ。

 

「そりゃまた随分と……」 

「私達もナメられたものね……!」

 

 ガントレットから光弾を8本放つと、クリスのクロスボウの矢がそれを相殺。その余波による土煙の中からマリアが飛び出し、カリオストロに接近した。

 

「この距離なら飛び道具は……!」

 

 接近戦であれば、カリオストロの光弾よりも、マリアの斬撃方が早い。カリオストロが放つのが光弾出なければ。

 

「まさかの武闘派あああぁぁぁーーー!!」

 

 アガート・ラームの短剣をしゃがんで避けた。さらに右手の拳に光弾を放つ時に使われるエネルギーを纏い、がら空きとなったマリアの腹部にアッパーが叩き込まれる。

 これがカリオストロの本来の戦い方である。今まで弾幕のように放っていた光弾は、言うなれば本来の戦い方を知らせない為のブラフである。

 

「がぁっ!」

「マリア!」

 

 だがカリオストロに懐に入り込まれ、ボディブローを食らい、駅の壁が崩れて中のレストランまで吹き飛ばされた。クリスは何とか起き上がろうとしたが

 

「まだこんなところに……?!」

 

 ステファンの車椅子が瓦礫に挟まってしまった事で動けなくなっていたソーニャとステファンがまだ残っていた。

 

「ごめんね。巻き込んじゃって。すぐにまとめて始末してあげるから……。」 

 

 さらにカリオストロが両手の拳に光弾のエネルギーを纏って中へ入って来た。

 

「そうはさせ……くっ……!」

 

 起き上がろうとするが、先程のダメージが大きかったが為に起き上がれなかった。隙だらけになっているのを見逃すカリオストロではない。万事休すかと思われた

 

「うおおおおぉぉぉーーーー!」

 

 ステファンが咆哮と共に車椅子から立ち上がり、瓦礫と共に転がっていた鉄パイプを、義足で蹴り上げた。

 

「自棄のやっぱち?!」

 

 自身に飛んできた鉄パイプを、カリオストロは弾き落としたが、それがクリスの反撃を許した。クロスボウの矢を放ち、カリオストロはそれを避ける為に距離を取って、外へと出た。

 

「何のつもりだ?!」

 

 ステファンの方を向いて怒鳴るクリス。だが、ステファンはソーニャの手を借りて、何とか立っている状態でもそれに動じていない。むしろ真っ直ぐに向き合っている。

 

「クリスがあの時助けてくれたから!俺も今、クリスを助けられた!失くした足は……過去はどうしたって変えられない!だけどこの瞬間は変えられる!きっと未来だって!」

「ステファン……。」  

「姉ちゃんもクリスも、変えられない過去に囚われてばかりだ!」

 

 ステファンは足を失った事を一度も嘆いてはいない。それはこれからもそんな事はしない。だがソーニャとクリスは、自分が決断した選択や結果に囚われたままだった。だからこそステファンは二人に訴えかけた。

 

「俺はこの足で踏み出した!姉ちゃんとクリスは?」

 

 ステファンの手の上に、ソーニャとクリスの手が重なり合う。ステファンの思いが届いたのだ。

 

「これだけ発破かけられて、いつまでも足をすくませてるわけにはいかねえじゃねえか!」

 

 クリスは迷いを断ち切った。その様子を、アルベルトは錬金術を使って映していた。 

 

「この瞬間を……未来を変えられる……か。」

 

 まるで誰かの事を言っているのか、アルベルトはポツリと呟いた。

 

 外ではマリアとカリオストロが単騎で交戦していたが、カリオストロが放つ強力な拳を捌ききれずくらってしまう。

 

「トドメよぉ!っ?!」

 

 マリアに接近しようとした時、クロスボウの矢が撃ち込まれた。放ったクリスは、マリアを背にカリオストロと対峙する。

 

「遅い!……だけど良い顔してるから許す!」

 

 今のクリスの顔に迷いはない、晴れやかななものだった。 

 

「さっきのアレ、この本番にぶつけられるか?」 

「良いわよ。そういうの嫌いじゃない!」

 

 クリスの問いにマリアは立ち上がりながら返す。

 

「何をごちゃごちゃとおぉぉ!」

 

 指で大きなハートをなぞり、そこに投げキッスを投げた。

 

「そおおぉぉ……りゃあああぁっ!!」

 

 その投げキッスのハートを殴りつけた。それがビームとなってクリスとマリアに放たれた。それが直撃し、爆炎が巻き上がった。自身の勝利を確信したカリオストロ……

 

「んっ?!」

 

 だったが、土煙が晴れていくと二人の姿は倒れていない。それどころか煙が完全に晴れ、ハッキリとその姿を捉えると、二人はイグナイトを起動させている。

 

「イグナイト?!ラピス・フィロソフィカスの輝きを受けて、どうして?!」

 

 ダインスレイフの呪いにとってラピスの輝きは天敵。少しでも触れればその作用が発動し、大きなダメージとなるはずであるが、それが全く見られない。カリオストロは思わぬ事態に驚愕を隠せない。

 よく見るとそのギアのコンバーターの中心に一筋の輝きを放っていた。 

 

「昨日までのシンフォギアと思うなよ!」

 

 カリオストロの拳が鋼鉄のグローブに包まれ、虚空に徒手空拳を放つと、それがエネルギー波のように放たれる。二人はそれを避けながら接近し、同時に矢と蛇腹剣の刃が迫る。カリオストロはそれを捌くが、連続で打ち込まれているこの攻撃の威力が上がっていることに気付く。

 

(これってユニゾン?!ザババの刃だけじゃないのぉ?!)

 

 イグナイトが解除されないだけでも驚きだった上に、イチイバルとアガート・ラーム、何の関連性のない聖遺物同士のユニゾンによるフォニックゲイン上昇。前者はエルフナイン、後者は弦十郎による考案のものだった。

 ザババのユニゾンは強力なものであるが故に、切歌と調が分断される事を想定していた。その為に誰と組んでもユニゾン出来るよう心を合わせる訓練わされていたのだ。

 

(ラピスの輝きを封じた上でユニゾン……!こんなの、サンジェルマン達にやらせるわけには……!)

「やらせるわけにはあああぁぁぁ!!」 

 

 両手の拳に膨大なエネルギーを纏った。その力は目視でも分かる。

 

「高質量のエネルギー……まさか、相打ち覚悟で?!」

「あーしの魅力は……爆発寸前!!」

 

 左右のグローブを連結させて、上空へと跳躍した。マリアの後方に立つクリスが、腰部のアーマーを2つのロケットブースターと左右一対のウィングアーマーへと変形、マリアの短剣が巨大化し、一つの戦闘機を形成させる。

 

 【Change ✝he Future】

 

 ロケットエンジンを点火させてカリオストロに突っ込む。上空で両者は何度もぶつかり合い、次第に強大なエネルギー同士が激突し合う。拮抗し合うこのぶつかり合い。だが両者には決定的な違いがあった。

 

「今を超える!!」

「力をおぉっ!!」

 

 ステファンとソーニャが、空に向かって叫んだ。その違いというのが、背中を押してくれる者の存在。その叫びに背を押されたクリスとマリアが咆哮をあげながら、その出力を引き上げた。

 

「うああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

 カリオストロの断末魔が響き、大爆発が起こる。合体を解除した二人が地上へと降り立った。

 

「やったわね……。」

「ああ……。」

 

 限界を超えたせいか、二人とも立つことすらままならなかった。

 

 日が傾き、星空が見えるようになった頃。響と切歌が亜空間型のアルカ・ノイズを倒した事で無事に現実世界へと戻って来れた。同時に翼と調も戻って来た。

 

「クリスちゃん!」

「マリア!」

「無事だったか!皆!」

「まっ……何とかな。」

 

 全員の無事を確認したが、その中に一人、暗い表情になる調。だからこそ、真っ先に反応できた。

 

「あれは……!」

 

 何と杖を片手にアルベルトがこっちに向かって歩いてきた。

 

「ミラー先生!」

「まだいやがったのか?!」

 

 全員がアームドギアを構えるが、クリスとマリアは先程の戦闘で体力を使い切ってしまったせいで、立ち上がれない。だがアルベルトはある程度まで近づくと、その歩みを止めた。

 

「カリオストロを倒すとは……それも、ラピスを封じてのユニゾン……。」

 

 独り言のように呟くと、クリスの方を見やり、彼女に杖の先端をに向けた。

 

「狙いはあたしか……?!」

「カリオストロを倒した褒美だ。雪音クリス。君にだけに教えてやる。」

「何を……?!」

 

 すると杖の先端から一筋の光が放たれた。その光はギアのコンバーターを直撃するが、コンバーターを包みこんだ。それと同時に、クリスの脳内にあるヴィジョンが流れ込んだ。

 

(こいつは……!まさか……!)

 

 ルリが心を崩壊させる切っ掛けとなったバルベルデの地獄。その真相の記憶が、クリスに流れ込んできたのだ。だがそれは、ギアのコンバーターが包む光が消えるのと同時に我に返った。

 

「雪音、大丈夫か?!」

「クリスちゃん?!」

「あ、ああ……大丈夫だ。それよりも……。」

 

 皆の心配をよそに、アルベルトの方を見る。

 

「お前……どうしてあたしに見せたんだ?」

 

 クリスの問いに、アルベルトは答えることなくそのままテレポートジェムで撤退した。

 

 アルベルトはホテルの一室へと戻ると、ベッドで眠る瑠璃を見下ろしている。

 

(私には、たった一つの望みがある。それが叶うならば……私はどんな事をして来た。ルリの身体を浄化させて、記憶を預かったのも……。()()()()()()()()()()()()()()()……。)

 

 いつの時もアルベルトは、胸の奥に秘めている悲願の為に戦って来た。誰にも明かせない、理解されない、たった一つの悲願。それがアルベルトの望みであり、彼女を縛る鎖のように苦しめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アーネンエルベに残った記録。

バイデントシンフォギア計画。
発案者: 瑠無・カノン・ミラー
技術提供者:櫻井了子

瑠無・カノン・ミラー氏による発案と櫻井理論提唱者、櫻井了子の協力の下、進められる。

バイデントの穂先の欠片を触媒に、ギアペンダント完成。

適合者候補 第一号 起動実験直前、事故により死亡

適合者候補 第二号 起動成功。しかしその直後暴走。犠牲者多数出した後、本人も死亡。

適合者候補 第三号 起動実験中 心臓発作により死亡。

バイデント、紛失により計画は凍結。

ページはここで破かれている。


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円環の刃

ここでオリジナルエピソードを挟みます。

調の活躍回はまた後々。


 愚者の石による対消滅バリアコーティング、さらにユニゾンによるフォニックゲインの上昇に成功し、カリオストロ撃破という大きな収穫を得た。だがエルフナインにも予想外の事態が起きた。

 

「ごめんなさい!対消滅の際に生じる反動の所為で、ギアのメンテナンスになってしまって……。」

 

 愚者の石による賢者の石の力を中和させた時に負荷が生じてしまったのだ。元々ラピスについてデータが不足しており、その一つを輪が所有しているとはいえ、解析されないよう数多くのシステムロックが施されてしまっている為、解明する事が出来ないまま愚者の石を使用しなくてはならなかった。その結果、それがシンフォギアの機能不全が生じてしまったのだ。

 

 それに伴いシンフォギアの使用が出来なくなったマリアにエルフナインが頭を下げていた。

 

「気にしないの。むしろ急ごしらえでよくやってくれたわ。ありがとう。」

「お陰で、抱え込まなくていい蟠りもスッキリ出来たしな。」

 

 ソーニャと和解を果たした後、姉弟はバルベルデへと帰って行った。これで抱える問題は瑠璃の事だけとなり、前を向いて瑠璃を助ける事が出来るようになった。

 

「ただ……クリスさんのギアだけに反動汚染がないというのが不思議なんです。マリアさんのアガート・ラームは、使用に支障をきたすものなのに……。」

「心当たりがあるとしたら……。」

「あいつしかいないだろうな。」

 

 アルベルトが放った一筋の光が関係しているのは間違いないが、そうなると反動汚染があるのを一瞬で見抜いたということになる。それを除去させるという事は、敵である自分達を助ける事を意味する。何故そんな行動に出たのか未だに理解出来ない。

 いずれにせよクリスはまた戦える。これからトレーニングに向かった。今トレーニングルームではもう一つ、大掛かりな訓練が始まろうとしていた。

 トレーニングルームの中央に輪が立っており、先程までユニゾンの特訓をしていた翼とクリスの協力の下、起動実験を試みようとしている。それ以外の装者と弦十郎、エルフナイン、友里が別室でその様子を見守っている。

 

「では、始めてくれ。」

「了解!」

 

 弦十郎のアナウンスで、アルカ・ノイズのホログラムが召喚される。ギアを纏った翼とクリスが交戦開始、輪はその場に立ったまま、ラピスの結晶を握りしめる。

 

「暖かい……。」

 

 エルフナインの推測によると、輪のラピスは錬金術のエネルギーとフォニックゲインによって起動出来るとの事だった。本来ファウストローブは錬金術のエネルギーによって、それがアーマーを形成する、言わばシンフォギアの錬金術版である。だが輪にはそんなものは持ち合わせていない為、それをフォニックゲインで補って起動させようという計画だ。

 その為に装者の経験が長い翼とクリスに白羽の矢が立ち、アルカ・ノイズのホログラムと戦わせ、それによって発生するフォニックゲインを起動の糧として使う。エルフナインの読み通り、ラピスに熱が帯び、心臓が鼓動を打つような感覚まで生じている。

 

(感じる……二人がが力を貸してくれてるのが……。)

 

 しかし、まだラピスに帯びる熱が高くなっただけで、起動には程遠い。友里がそれを報告する。

 

「まだ起動に必要なフォニックゲインが不足しています。」

「お前達!ユニゾンだ!」

 

 個々の歌出せるフォニックゲインで足りないならば、重ね合わせて引き出す。それがユニゾンだ。

 

「行くぞ雪音!」

「おうよ!」

 

 天羽々斬()イチイバル()、特性も神話の関連性は何一つ繋がらないもの同士のユニゾン。その歌は、魔法少女事変にて強化された新型のシンフォギアを引っ提げた時に唄った『BAYONET CHARGE』。

 性格も正反対の二人、何もかも異なれど、互いに研磨された技術とこれまで何度も同じ修羅場を潜り抜けてきた絆、これから先に戦う事になる輪への先輩としての激励、そして家族を助けたいという思いが重なり合う。   

 その思いが届くかのように、強く握りしめたラピスの輝きが、手から溢れ出している。その光に導かれるかのように、皆が輪の方を見やる。

 

「あれって……!」

「賢者の石がギラギラと輝いてるデス!」

 

 別室にいた響と切歌が声を挙げて驚愕する。どんどん強くなる光は、次第に直視出来なくなるくらいに眩くなる。

 

(熱い……!身体が……!)

 

 同時に輪の身体の体温が上昇し、その苦しさに膝をつく。

 

「ぅ…………ぁぁ…………あああああああああああぁぁぁぁーーーーー!!」

 

 叫びとともに、その輝きが輪の身体を包んだ。すると次第に光が弱まり、視界が利くようになった。

 

「どうなりやがった……?」

「無事か出水……これは!」

 

 トレーニングルームにいた翼とクリスが輪の姿を見て驚愕する。そして全員が輪の方を見ると、皆同じような反応になる。

 

「はぁ……はぁ……。」

 

 突然襲われた苦しみに膝をついていた輪。だがその姿は先程まで着ていた私服ではなかった。私服は分解され、緋色を基調としたヘソ出しのインナーとアーマー、両腕のガントレットの末端と足部の装甲の根本ににリングの装飾。長かった髪がポニーテールに結ばれている。その姿はシンフォギアを連想させる。

 

「これって……」

 

 本人は自分の姿が変わっている事に戸惑っている。しかし、それはラピスのファウストローブを纏う事に成功した事を意味する。

 

「その姿は!」

「正真正銘、ラピス・フィロソフィカスのファウストローブです!」

 

 起動に成功した事に、別室にいた装者達は大いに喜んだ。

 

「やったじゃねえか!」

「よく踏みとどまったな。」

「あ……あはは……ありがとうございます。」

 

 S.O.N.G.の装者として、起動に協力してくれた翼とクリスも、自分の事のように喜んでいる。しかしこれで終わりではないと、弦十郎が次の訓練に進めようとする。

 

「では輪君、早速だがアルカ・ノイズ相手にシュミレーションを行ってもらう。出来るか?」

「もちろん!」

「その意気だ!では行くぞ!」

 

 手始めにアルカ・ノイズの群れが召喚される。そのターゲットはただ一人、輪だ。いざ実際に目の前で対峙すると、恐怖に似た重圧感というべきか降りかかるプレッシャーに足がすくみそうになる。

 

「いやいや……瑠璃を助ける為にも、ここで立ち止まってられない!」

 

 足を大きく踏み込んで、構えの体勢に入った。前列にいるアルカ・ノイズが輪に向けて襲い掛かる。

 

「よし……行くよ!」

 

 輪は構えの体勢を捨てて走り出すと、高く跳躍して、襲い掛かるアルカ・ノイズの一体に狙いを絞って、力いっぱい拳を振りかぶった。

 

「おおおりゃああああぁぁぁ!!」

 

 拳を振り下ろして、アルカ・ノイズの身体を貫通させて、赤い塵にしてやった。

 

「やった……!アルカ・ノイズを倒した……!」

「馬鹿!浮かれんな!」

「え?」

 

 アルカ・ノイズを初めて倒して調子に乗った矢先、着地の事が頭から抜けていた輪はクリスの指摘も虚しくそのままアルカ・ノイズの群れに落下するも、ダイブしたことで下敷きとなったアルカ・ノイズが赤い塵となって消えた。

 

「痛たぁ……け、結果オーライ……」

「まだだ!来るぞ!」

「うわヤバっ!」

 

 アルカ・ノイズの解剖器官が輪に伸びる。身体を転がして躱すとすぐに立ち上がった。すぐさま襲い掛かるアルカ・ノイズを殴り、蹴って返り討ちにする。

 輪の戦闘スタイルは響と同じ弦十郎直伝の八極拳による徒手空拳でも、少々ヤンキーのケンカスタイル寄りであり、その一撃はとても重い。

 しかしいかんせんアルカ・ノイズの数が多く、攻撃しても得物がなく、徒手空拳では1体ずつでしか倒せない故に手間取ってしまう。

 

「キリがないなぁ……。」

 

 自分にも翼のような刀、クリスのようなクロスボウや銃火器があればとないものねだりをしていると、両手首を覆うように装着されているリングの装飾がロックを解除するかのように分離、一回り大きくなると円形上のブレードが展開された。リングの装飾の正体はチャクラムだった。

 

「あれって……まさかアームドギア……?!」

「あの輪っかがデスか?!」 

 

 別室の調と切歌が、輪が起動1回目でアームドギアを手にした事に驚愕する。正確にはシンフォギアではないのでアームドギアとはまた別のものであるが、シンフォギアで言うならばまさにそれである。

 リングのブレードが一部展開されていない持ち手を持つとそれを剣のように振り回す。刃に斬られたアルカ・ノイズはプリマ・マテリアを撒き散らして消滅する。

 

「チャクラムか。変わった得物だが、輪君にはピッタリのアームドギアだな。」

 

 リーチは短いが、その分小振りで振り回しやすい。さらにブーメランのように投擲すれば、遠くの敵へ攻撃する事が可能となり、短いリーチを補える。さらに、チャクラムを手放した状態であっても、徒手空拳で対応出来る。まさに理想的でバランスの取れた戦い方である。

 チャクラムに慣れてきた輪は、それを手足のように操り、あれだけ手間取っていたアルカ・ノイズを全滅させた。

 

「やった……あの数を……私がやったんだ……!」

 

 すると突然ファウストローブが解除され、思わずふらついて転びそうになるが、クリスがその背中を支える。

 

「おい、大丈夫かぁ?」

「大丈夫。ちょっと……色々あって疲れちゃっただけ。」

「だが、初めてであの立ち回り。戦果としては上々だ。」

「あ、ありがとうございます。」

 

 翼に褒められ、顔を真っ赤にして照れる。

 

「よし!ギアを纏える者は、引き続きユニゾンの特訓を、輪君はしばし休憩した後、装者と交えたシュミレーションを行う!お前達、気合入れていけ!」

 

輪がファウストローブの起動成功もあって、弦十郎の声はより力強く、装者達の気合も士気も高くなる。ただ一人、調を除いて。

 

 




輪のファウストローブ

 サンジェルマンと共に製作し、アルベルトが独自の改造を施したラピス・フィロソフィカスのファウストローブ。他のラピスとは異なり、錬金術のエネルギーだけでなくフォニックゲインに反応して起動するものとなる。今回起動に成功した事で、次回は他の装者のフォニックゲインが無くても、輪の意思で起動する事が可能となった。

イメージカラーはスカーレット
アームドギアはチャクラム

次回は原作にもありました調の不調回になります。


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不調

瑠璃の出番は一体いつになるのやら……


 輪がラピス・フィロソフィカスのファウストローブの起動に成功したという一報は、S.O.N.G.の戦力増大と士気の上昇に大きく貢献した。しかしまだファウストローブに慣れていないせいもあってか、輪の体力は大いに消耗してしまい、現在はギアのメンテナンスで纏えないマリアとユニゾンの特訓から外れたクリスと共に別室で装者達のユニゾンの特訓を見学している。

 

「他のギアの特性や、行動パターンを知るのも、立派な勉強よ。」

「よく見とけよ。」

「うん。」

 

 もしこの中から誰かと組んで戦う事になった時、連携の質を高める為に、装者の先輩としてクリスとマリアがアドバイスをする。

 

「呼吸を合わせろ、月読!」

 

 翼がアルカ・ノイズをボールのように蹴り飛ばし、調にパスをする。

 

「速……うわあぁっ!」

 

 しかしタイミングが合わず、調はアルカ・ノイズと激突してしまう。倒れた調の身を案じて翼が駆け寄る。

 

「大丈夫か?!」

「切ちゃんとなら合わせられるのに……。」

 

 切歌以外とのユニゾンを何度試みても不調に終わる。装者の中では1番の先輩である翼のリードをもってしても合わせる事が出来ない。

 

「こんな課題……続けていても……っ?!」

 

 先程のアルカ・ノイズを切断すると、突如背後から発生した旋風。そこには緒川の姿があった。

 

「微力ながら、お手伝い致しますよ。」

「その技前は、飛騨忍軍の流れを汲んでいる!力を合わせねば、影さえ捉えられないぞ!」

 

 緒川が相手と聞き、翼が気を引き締める。S.O.N.G.所属のエージェントとして暗躍した緒川は、弦十郎程ではないとはいえ、手強い相手である事には違いない。

 

「調!無限軌道で市中引き回しデスよ!」

 

 そこに響とユニゾンの特訓をしていた切歌が、ビルの上から応援する。しかし、言い方が穏やかではない。

 

「うん!」 

「出来ればお手柔らかに。」

 

 流石の緒川も、その所業を食らうのはたまったものではない。苦笑いしながらも、構えの体勢に入る。

 調がツインテールのアームの先端か巨大な鋸を2つ形成してそれを振るう。緒川はそれを跳躍して避け続ける。すると今度は足部のローラーを巨大鋸へと変形させた飛び蹴りを繰り出した。

 

「隙だらけ!」

 

 跳躍した先を狙っての事なのだろうが、その緒川は残像だった。

 

「嘘っ?!」

「僕はここに。」

 

 本物は背後の街灯の真上に立っている。その姿を見つけるとヨーヨーを投擲するが、どれも避けられてしまう。

 

「追いかけてばかりでは、追いつけませんよ。」

「逸るな月読!」

 

 焦ってばかりの調に緒川と翼の助言が、届いていない。

 

(切ちゃんはやれてる……誰と組んでも……。でも私は……切ちゃんとじゃなきゃ……。一人でも戦えなきゃ……!)

 

 翼も加勢しようと、調と共に駆ける。

 

「連携だ月読!動きを封じるために……」 

「だったら面で制圧!逃がさない!」

 

 跳躍するとアームのバインダーを開き、小型の鋸を大量にばら撒く。いくら逃げ回るとはいえ、相手は人間である以上、それに被弾すれば怪我では済まない。しかし焦りで周りとその事実が見えていない。

 

「駄目デス調!むしろ逃さないと!」

 

 切歌が制止するが、遅かった。避け続けていた緒川の胴体が、鋸に貫かれ両断された。これには別室で見ていたクリスとマリアと輪も驚愕、エルフナインは両手で目を覆っていた。

 

「どえらい事故デス……あっ……!」

 

 胴体を両断されたはずの緒川の身体が、スーツを残してポンッという音と共に丸太と入れ替わっていた。

 

「思わず空蝉を使ってしまいました。」

 

 当の本人は既に調の背後にいた。どこにも怪我はない。

 

「力はあります。後はその使い方です。」

 

 無事である事に安堵した事もあるのだろう、調はそのままへたりこんだ。その場に響と切歌が駆け寄った。

 

(あれは……いつかの私だ……。)

 

 皆が調を心配する中、翼はかつて逸っていた自分と重ねあわせていた。

 

 

 その後、クリス、マリア、エルフナインはブリッジにいる弦十郎にユニゾンの特訓の結果を報告していた。その結果にあった唯一の落とし穴に、皆の表情はあまり芳しくない。

 

「これで、各装者のユニゾンパターンを試した事になりますが……」

「調さんだけが連携によるフォニックゲインの引き上げに失敗しています。」

「思わぬ落し穴だったな……。」

 

 切歌と調のユニゾンがフォニックゲインの引き上げの数値が格段に高かった為、他の誰と組んでも高い効果が得られると予想していたのだが、そうではないという結果となってしまった。

 

 そこに、S.O.N.G.本部宛の通信を知らせるコール音が鳴る。

 

「司令、内閣府からの入電です」 

「繋いでくれ。」

 

 すると、モニターに八紘が映し出される。

 

「八紘兄貴、何かあったのか?」

『ああ。神社本庁を通じて情報の提供だ。』

「神社本庁といえば……」

「各地のレイライン観測の件かもしれない。」

 

 友里と藤尭が互いに見合って言う。

 

『曰く、「神出づる門の伝承」』

「神……パヴァリア光明結社が求める力……。」

『詳細については、直接聞いてほしい。必要な資料は送付しておく。』

 

 必要な情報を渡し終えると、通信が切れる。弦十郎は腕を組んで思案する。

 

「どうしますか司令?」

「気分転換も、必要かもしれんな。」

 

 トレーニングルームで落ち込んでいる調の姿を見て、判断を下した。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 日が落ちかけている夕刻。マリアが運転する車と翼が操るバイクが、夕日に照らされている公道を走る。 

 

 今回、装者達が向かっているのは調神社。多くの神社は、レイラインに建てられており、そこもその一つ。さらに神出づる門の伝承の手掛かりを掴む為に、そこへ向かっているのだ。 

 

 ちなみに今回、輪も同行する事になったのだが、車は満員の為、バイクの後部に乗って翼の身体にしっかりと掴まっている。もちろんちゃんとヘルメットも被っている。

 

「どうだ出水、初めてのバイクは?」

「スリル満点です!けど、結構ハマりそうです!」

 

 初バイクの感想を送る。すると、すぐ真横を走る車を覗くと調が落ち込んでいた。ユニゾンの不調の事で悩んでいるのだろう。

 

(瑠璃がいたら……何て言うのかな……。)

 

 戦力として数えられてはいるが、正式なS.O.N.G.装者ではない故に、何て声を掛けてあげればいいか分からない。結局悩みというのは、最終的には本人の力で解決するしかないのだが、瑠璃は悩んでいる人がいれば、見捨てたりはしないだろう。結局どうすれば良いか、考えているうちに調神社についた。

 

「およよ〜?ここ、狛犬じゃなくて兎がいるのデス!」

 

 ここは狛犬ではなく兎が祀られている。その珍しさと可愛らしさから切歌は手を頭に乗せてピョンピョンと跳ねて兎の真似をする。だが調が落ち込んでいる姿を目にすると、先程まではいしゃいでいたのをやめる。

 それ以外の者も、兎の石像や装飾に興味を示している。特にマリアはメロメロである。

 

「兎さんがいっぱい……可愛い!」

「あの……マリアさん……?」

 

 今まで見たことがないマリアの一面に、輪は苦笑いをするが、マリアはすっかり虜になっている。

 

「話には伺ってましたが、いやぁ皆さんお若くていらっしゃる。」

 

 後ろから声を掛けられた事で、7人は振り返った。そこにいたのは袴着の白髪の老人。恐らく宮司だろう、温かく笑顔を見せている。

 

 

「皆さんを見ていると、事故で無くした、娘夫婦の孫を思い出しますよ。」

 

 突然の悲しい話に、皆の表情が重たくなる。

 

 

「生きていれば、丁度皆さんと同じくらいの年頃でしてなあ……。」

「それはそれは……ん?私達くらいって……」

 

 同情も束の間、真っ先に輪が違和感に気付くと、クリスもすぐに気付いた。

 

「おいおい!あたしら上から下まで割とバラけた年齢差だぞ?!いい加減な事抜かしやがって!」

「冗談ですとも!単なる小粋な神社ジョーク!円滑な人付き合いに不可欠な作法です!」

 

 頭をポンと叩いて笑う宮司だが、ジョークの内容が内容だけに、全然笑えない。むしろ呆れている。

 

「初対面ではありますが、これですっかり打ち解けたのではないかと。」 

「むしろ不信感が万里の長城を築くってのはどういうこった……。」

 

 輪の心の中では宮司の事を食わせ者の狸親父と思っている。

 

「では早速、本題に入りましょうか。皆さんは、氷川神社群……というのをご存じですかな?」

 

 それが何なのか。客間に通され、折りたたまれた地図を装者達が囲うテーブルの覆うくらいの広さまで広げた。すると、その地図か印されていたものは

 

「これって、オリオン座ですか?」

「正しくは、ここ調神社を含む周辺七つの氷川神社によって描かれた、鏡写しのオリオン座、とでも言いましょうか。受け継がれる伝承において、鼓星の神門。この門より、神の力が出づるとされています。」

 

 輪の疑問に、宮司が丁寧に答えた。すると、輪はある事を思い出した。

 

(そういえば……アルベルトが見せたあの古文書みたいな羊皮紙……。神の力の伝承って書かれていたような……あれ?でもあの時象形文字みたいなやつで読めなかったはず……。)

 

 瑠無として潜り込んでいたアルベルトが見せたあの羊皮紙は楔形文字で記されていた為、あの時はお手上げだったのだが、何故か今になって断片的ではあるが、あれが神の力について書かれていたという事を思い出した。

 しかし、考えても答えは出ない。参ったと悩んでいると、どこからか腹の虫がまるで獣の唸り声かと言わんばかりに鳴る。犯人は響だ。皆の視線が響に集中する。

 

「けたたましいのデス……。」 

「わ、私はいたって真面目なのですが、私の中に獣がいましてですね……!」

「腹の中に猛獣でも飼ってるのかい?」

 

 さらに輪が響を揶揄る。しかし、夕飯の時間にはちょうどいい時間だった。

 

「では晩御飯の支度をしましょうか。私の焼いたキッシュは絶品ですぞ。」

「いや洋食かい!」

「そこは和食だろ!神社らしく!」

 

 輪とクリスがツッコむ。

 

「ご厚意はありがたいのですが……」

「ここにある古文書、全て目を通すにはお腹いっぱいにして元気でないと。」

 

 ユーモアなのか真面目なのか、宮司に振り回されているような気がする輪は、ますます宮司の事が怪しく思えてきた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  

 

 パヴァリア光明結社の錬金術師達が拠点とするホテルの一室。部屋にはプレラーティしかいない。テーブルにはワインが注がれたグラスと、空のワイングラス。その後者に、牛乳が注がれた。

 

「あのオタンチン……詐欺師が一人でカッコつけるからこうなったワケダ。」 

 

 牛乳が注がれたワイングラスを手に、ワインが入ったグラスにチンと鳴らす。このワインは、単独でS.O.N.G.のシンフォギアを破壊しに向かい、死亡したカリオストロへの手向けであり、献杯だ。

 自身が治療を受けていた時、僅かに聞こえたカリオストロとアルベルトの会話。それは、裁断設置に必要な生命エネルギーを、自分達の命を使って錬成しようとするアダムの企みであった。他にも、アダムは何かを隠している。両者はそう考えていたのだが、カリオストロはこれを女の勘だと言っていた。

 

「女の勘ねぇ……。生物学的に完全な肉体を得るため、後から女となったくせに、いっちょ前なことを吠えるワケダ……。」

 

 ワイングラスをグイッと一気に煽り、牛乳を飲み干した。

 

「だけど……確かめる価値はあるワケダ……。」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

暗い……ここはどこなの……?

 

 

 

 

 

 

 

どうして私をそんな目で見るの……?

 

 

 

 

 

 

やめて!痛い!嫌だ嫌だ!やめて!嫌あぁぁっ!嫌だあぁ!!

  

 

 

 

 

 

 

助けてクリス!パパぁ!ママぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰も……助けてくれない……

 

 

 

みんな私を痛めつけて……楽しんでた……

 

 

 

やめてって何度もいったのに……やめてくれなかった……!

 

 

 

誰も助けてくれなかった……!

 

 

 

 

 

 

 

もう嫌だ……生きてるのが辛い……怖いよ……

 

 

 

 

助けて……誰か……

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ならば、手に入れろ……。

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

え……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪を倒したければ悪になれ……

  

 

 

この世界は弱肉強食……力こそが世の理

  

 

 

死人に明日を見る資格はない。戦い、生き残り、勝ち残った者こそが正義だ

 

 

 

 

 

 

 

 

誰……なの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我は……遥か古より……死人達を統べる……冥府の者……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界の意思に従い、生きとし生ける者を滅する者……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我……絶対の破壊者なり……

 

 

 

 

 

 




輪の楽曲

【朝が待てないから】

これまで待つ側だった輪が、助ける側として戦いに身を投じる輪の覚悟を描いた楽曲


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風月ノ疾双

遂に瑠璃に出番が?!

そして今回も長めっ!


 調神社から提供された古文書を解読していくと夜は更けていき、皆は寝静まっていた。翼は弦十郎に調査結果を報告している為、外に出ていた。そしてもう一人、悩み続ける小さな兎が、池の水面に映る自分を見つめていた。

 

「おやおや、何か悩み事ですかな?」

 

 そこに宮司が調に声を掛けてきた。しかし調は一人で解決しようと拒否する。

 

「一人で何とかできます……。」

「それでも、口に出すと楽になりますぞ。誰も一人では生きられませんからな。」

「そんなの分かってる!でも……私は……!」

 

 分かっていても、それが出来ない、認めたくない。意地になって声を荒げてしまう。

 

「何を隠そうここは神社。困った時の何とやらには、事欠かないと思いませんか?」

 

 宮司に本殿まで案内された調。そこで宮司は二礼二拍手一礼の作法を披露する。調はそれを物珍しい目で見ていた。ずっとF.I.S.の施設で育ち、神社にお参りなどした事がなかった。何故そこまでする必要があるのだろうか分からなかった。

 

「若い方には、馴染みない作法ですかな?」

「うん……。何か……めんどくさい。」

 

 ハッキリと正直に答えた。これは神の前では聞かせられない。

 

「これはこれは。」 

「しきたりや決まり事、誰かや何かに合わせなきゃいけないって……よく分からない……。」

 

 とは言いつつも、調も二礼二拍手一礼の動作を真似る。 

 

「合わせたくっても上手くいかない……狭い世界での関係性しか、私には分からない……。引け目が築いた心の壁が、大切な人達を遠ざけている……。いつかきっと……親友までも……。」

 

 それが調が抱える悩み。姉のような存在だったマリアやジャンヌを除けば、いつだって自分の隣にいるのは切歌だった。S.O.N.G.に来てから切歌以外の誰かと関わる事が多くなった。しかし、切歌以外の誰かと上手く接する事ができない。ユニゾンの不調もそれが間接的に繋がっているのだろう。誰かと合わせて強くなれないなら、一人で強くなるしかない。

 

「あなたは良い人だ。」

「良い人?!だったらどうして私の中に壁があるの?!」

 

 まさか良い人と言われるとは思っていなかったのだろう、声を荒げるように聞き返した。

 

「壁を崩して打ち解けることは、大切なことかもしれません。ですが壁とは、拒絶のためだけにあるのではない。私はそう思いますよ?」

 

 それが何を意味するのか、調には分からなかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ホテルの一室に急いで戻ったアルベルト。その様子は焦っているようにも見え、いつも余裕の笑みを浮かべるアルベルトには珍しいものである。

 

 目の前に一人、静かに窓の外の夜景を眺めている瑠璃。

 

「あなたは……。」

 

 瑠璃が振り返った。だがその瞳はラピスラズリのような綺麗な瞳ではなく、淀んでしまった冷たい闇だった。

 

「アルベルトか……。」

 

 名を呼ばれたアルベルトは跪いて平服した。

 

「我の羽衣は……?」

「こ……ここに……。」

 

 黒い宝石が飾られたネックレスを首に掛けて身につけた。

 

(そんな……馬鹿な……?!彼女が……ルリが……!)

 

 アルベルトの中で起きた予想外の事態。今目の前にいるのは、瑠璃でもルリでもなかった。 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

「ねえ、私人間になりたい!」

 

 ホテル屋上にジャグジーにアダムと共に入っているティキが突然言い出した。

 

「藪から棒だね、いつにも増して。」

「神の力が手に入ったら、アダムと同じ人間になりたいって言ってるの!人形のままだと、アダムのお嫁さんになれないでしょ?子供をボコボコ産んで、野球チームを作りたいのよ!だーかーらー!さっさと三級錬金術師を生命エネルギーに替えちゃって……」

「その話、詳しく聞きたいワケダ。」

  

 会話を遮った声の主はプレラーティ。カリオストロと同じくアダムが何かを隠していると踏んで、ここにやって来た。するとティキが穏やかならぬ事を大声でペラペラと喋っていた。ここまで聞かれた以上、もはや誤魔化す事は不可能であるが

 

「繰り返してきたはずだよ、君たちだって。言わせないよ、知らないなんて。」

 

 開き直るような物言いで、ジャグジーから立ち上がった。

 

「計画遂行の感情に入っていたのさ、最初から。君の命も、アルベルトの命も、サンジェルマンの命も……」

「そんなの聞いてないワケダ!」

 

 やはりアダムはサンジェルマンさえも犠牲にしようとしていた。これにプレラーティは憤怒とともに水の錬金術から作り出した氷柱をアダムに放つ。

 しかし、アダムは指をパチンッと鳴らした途端、氷柱は風の斬撃で砕け散り、そのままプレラーティに襲い掛かるも、それをギリギリ屈んで避けた。

 

「他に何を隠している?!何を目的としているワケダ?!」

「人形の見た夢にこそ、神の力は……。」 

(人形……?)

 

 人形に該当するティキの方を見るが、すぐにアダムの方に視線を戻した。アダムはこのままプレラーティを生かして返すつもりはない。再び指パッチンで風の斬撃を放った。プレラーティ自身はそれを避けられたが、カエルの人形は首が切断されてしまう。さらに後ろは手すりであり、これ以上後退できない。その人形の中からラピスの結晶がハメられた剣玉を取り出して、屋上から飛び降りた。

 ラピスの輝きが発せられるとファウストローブを纏った。着地時に自動車のボディを陥没させるが、そんな事はお構いなしに巨大な剣玉をバイクの様に走らせる。公道を猛スピードで走らせるが、他の自動車の事故を引き起こし、二次被害が続出している。

 

「逃げた!きっとサンジェルマンにチクるつもりだよ!どうしよう?!」

「狩り立てるのは任せるとしよう、シンフォギアに。」

 

 屋上からプレラーティの闘争を腕を組んで眺めている。自分が手を下す必要はないと判断し、そのまま逃したのだ。

 高速道路を疾走しているプレラーティは祭壇設置の儀式の準備をしているサンジェルマンにテレパシーで通信を呼び掛けるが、妨害されている。このまま直接サンジェルマンと接触するしかない。

 

 そのアダムの予想通りと言わんばかりに、調神社にいる装者達に、錬金術師が現れたと知らせが届いた。

 

『新川越バイパスを猛スピードで北上中!』

『付近への被害甚大!このまま住宅地に差し掛かることがあれば……!』

 

 これ以上被害者を出すわけには行かない。すぐに現場に向かい、錬金術師を止めなければならないが輪が調がどこにもいない事に気付いた。

 

「待って!調はどこ?!」

「あ、調!」

 

 調はすぐに見つけたが、切歌の制止を振り切って一人で飛び出してしまった。

 

『そちらにヘリを向かわせている!先走らず、ヘリの到着を待て!』

 

 一方、シュルシャガナのギアを纏い、高速道路への入り口に入った調。機動力であれば他のギアにも劣らない。だがもう一人、その後を追いかける者がいる。

 

「高機動を誇るのは、お前ひとりではないぞ!」

 

 バイクに乗っている翼。既に天羽々斬を纏っている。

 調と翼が高速道路の本線に入ると、すぐにプレラーティを発見できた。

 

「何を企み、何処に向かうッ?!」

「お呼びでないワケダ!」

 

 炎の錬金術を放って翼と調を追い払おうとするが回避され、舌打ちをする。二人がプレラーティを逃さないよう接近、それによりプレラーティの剣玉の玉が、反対車線に跨がる障壁と接触する。追跡を振りきろうと障壁を破壊、反対車線へと入った。

 

「お構いなしと来たか……!ユニゾンだ月読!イグナイトとのダブルブーストマニューバで捲り上げるぞ!」

 

 ここで仕留めなければ被害は益々大きくなってしまう。その前に、イグナイトを用いたユニゾンをやるしかない。だが調は

 

「ユニゾンは……できません……。」 

「月読……。」

「切ちゃんは……やれてる……誰と組んでも……。だけど私は……切ちゃんとでなきゃ……。人との接し方を知らない私は……一人で強くなるしかないんです!一人で!」

 

 自分の心情を吐露する調。

 

「心に壁を持っているのだな?月読は」

「壁……。」

 

 先程宮司にも言われた事。翼には調の悩みを理解出来る。

 だがそこに反対車線から再び障壁を破壊して目の前に出てきたプレラーティ。

 

「私もかつて、亡き友を想い、これ以上失うものかと誓った心が壁となり、目を塞いだ事がある。」 

「天羽奏さんとの……。」

 

 ツヴァイウィングというユニットを組み、共に歌い戦った天羽奏。大切なパートナーを失い、防人として己を剣として振る舞っていたかつての自分。今の調と重ねあわせていた。だからこそ理解出来る。

 

「月読の壁も、ただ相手を隔てる壁ではない。相手を想ってこその距離感だ。」

「想ってこその距離感……。」

「それはきっと、月読の優しさなのだろうな。」

「優しさ……。」

 

 不器用ながらも、それは仲間を大切に想っている証。それに気付いた調に、笑みが戻っている。

 プレラーティが後ろを走る二人を葬ろうと放った氷柱を、二人は避ける。

 

「優しいのは私じゃなく、周りの皆です!だからこうして気遣ってくれてる……私は皆の優しさに応えたい!」

 

 調の決意に、翼が凛とした笑みを浮かべた。

 

「ごちゃつくな!いい加減つけ回すのをやめるワケダ!!」

 

 二人の追跡に煩わしが頂点に達したプレラーティ。最大火力の炎を放つと、トンネル内に設置されたファンに直撃し、そこから爆発する。こうなればもはや追跡など出来ない。

 

「ぐうの音も出ない……」

 

 爆発するトンネルから出たプレラーティは後ろを見て追跡を振り切ったと確信したが

 

「ワケ……ダ?!」

 

 爆炎からイグナイトを纏った翼と調が現れた事に驚愕する。

 

 

「このまま行くと住宅地に……!」

 

 標識を見た翼はクラッチレバーを押しこみ、ペダルを踏んでバイクのギアを上げた。

 

「いざ、尋常に!」

 

 バイクの前部と、両側部にブレードを展開、ギアと連動させたバイクをプレラーティが走らせる巨大剣玉と並走して接近する。

 

「邪魔立てを……っ?!」

 

 反対側から禁月輪で走行する調が、側部に鋸を展開、剣玉との接触によってバランスを崩させて錬金術の発動を阻止する。

 

「動きに合わせてきたワケダ!」 

「神の力、そんなものは作らせない!」

「それもこちらは同じなワケダ!」

 

 神の力を求めるはずのパヴァリアの錬金術師が、正反対の事を言った事に、翼が一瞬疑問を呈する。プレラーティが剣玉の柄の上に立ち上がると、その両手から水の錬金術の陣を展開。そこから大量の洪水を放つ。

 

「歌女どもには、激流がお似合いなワケダぁ!!」 

「行く道を閉ざすか?!」

「そんなのは、切り開けばいい!」

 

 ツインテールのアームバインダーから小型鋸を大量に放つ。波の反対側から放たれた鋸をプレラーティはバリアで防ぐが、その量は微々たるものであり、本命は反対車線を塞ぐ障壁だった。小型鋸によって破壊された障壁は瓦礫となって積み上がり、即席のジャンプ台を作り上げた。そこを翼と調が大ジャンプで激流葬を躱した。さらにその先にいるプレラーティに目掛けて突っ込む。

 しかし、すぐに剣玉の柄を握ったプレラーティに受け流されてしまう。

 

「駆け抜けるぞ!」

 

 すぐに切り替えしてプレラーティに向かう。そして、翼のバイクの前方に巨大な剣、調のツインテールのアームが、巨大な鋸がタイヤのようになり、二つのギアが合体して、一つのマシーンとなる。

 

【風月ノ疾双】

 

「サンジェルマンに告げなくてはいけないワケダ!こんなところでえぇぇ!!」

 

 叫びとともに剣玉の玉を突き刺すと、中皿の空洞から槍のように長い刃にが展開される。

 

「アダムは危険だと、サンジェルマンに伝えなければならないワケダァ!!」

 

 両者がぶつかり合う。互いに譲れない想いとともに高まったエネルギーが衝突した事で火花が散る。

 だがカリオストロの時のクリスと同じように、調は揺るがない決意がある。その想いに応えるかのように、出力が跳ね上がった。

 

「サンジェルマン……サンジェルマアアァァァァァーーーン!!」

 

 プレラーティの断末魔とともに爆発が発生した。その中から翼と調が抜け出すと転がった。ゆっくりと起き上がり、爆発の方を見る。

 

「勝てたの……?」

「ああ……二人で掴んだ勝利だ!」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 祭壇設置の儀式の準備に取り掛かっていたサンジェルマンの背後からベルが鳴り響いた。その正体はアダムが念話する際に用いられる洋式電話。サンジェルマンはその受話器を手に取る。

 

『プレラーティはカエルのように轢き殺されたよ!お似合いだよ!』

 

 出たのはアダムではなく、ティキだった。仲間の訃報に驚愕するサンジェルマンだが、ティキはそんな心情を踏みにじるように続ける。

 

『生贄にもならないなんて無駄死にだよね。ざまぁないよね!』 

『報告に間違いはない、残念ながら。』 

「一人で……飛び出したの……?」

『急ぎ帰投したまえ、シンフォギアに。儀式を気取られる前に。』

 

 受話器を元に戻したサンジェルマン。

 

「カリオストロに続き、プレラーティまでもが……ん……?」

 

 サンジェルマンの目の前にヒラヒラと落ちる一通の手紙。封を開けて、折られた手紙を開くと、その内容は仲間を失い悲しむサンジェルマンに追い打ちをかけるものだった。

 

 

 サンジェルマンへ

 

 私はパヴァリア光明結社を抜ける。神の力を、君にも、アダムにも、誰にも手に入れさせはしない。次に会った時、君とは敵同士になる。サヨナラだ。

 

 アルベルトより

 

 唯一残された、仲間だと信頼していたアルベルトに裏切られたサンジェルマンは、本当に一人ぼっちになった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 夜が明けた早朝。装者達は本部へと帰るべく、お世話になった宮司に挨拶していた。

 

「お世話になりました!」

「いやいや。お役に立ちましたかな?」

「とっても参考になったのデェス!」

「って言いつつ真っ先に寝たよね。」

「そういうお前もな。」

 

 一方境内の外では翼とマリアが、タブレットで弦十郎と会話していた。

 

「では、あの錬金術師の向かう先には……。」

『鏡写しのオリオン座を形成する神社、レイポイントの一角が存在している』 

「ますます、絵空事ではないわけね。」

『対策の打ちどころかもしれないな。』

 

 決戦の時は近い。マリアは真っ直ぐその先を見ている。

 

「良かったら、調神社にまたいらっしゃい。この老いぼれが生きている間に。」

「神社ジョーク……笑えない……。」 

 

 相変わらずのブラックなジョークに、調は笑うことなく静かにツッコむ。そんな彼女に、宮司は調の手に、白いお守りを乗せた。

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

 5人は宮司にお礼をして、神社を後にしようとした時、切歌がその足を止める。

 

「うーん……やっぱり不思議デス。こんなの『つき』なんて絶対読めないデスよ。」

「切ちゃーん!置いてっちゃうよ?」

「わ、分かってるデスよ!」

 

 調の呼び掛けで、切歌が急いで追い掛けた。この神社の名前。調神社、調と書いて月と読む。




果たして目覚めた瑠璃は何なのか?


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開闢の時

サンジェルマン戦はオリジナル要素を入れる為、かなり省くかもです。


 仲間を失い、孤独となったサンジェルマン。ビルの屋上からその夜景を見下ろし、手に持った二つの白い百合の花を、殉死したカリオストロとプレラーティに手向けとして落とした。ビルに吹く風に乗り、花びらが舞う。

 

「73800……73801……」

 

 これまで自分が奪ってきた命の数。自らが殺めたわけではないが、自分の為についてきてくれた仲間を、自分が死なせたようなものだと思い、二人の死をその身に背負うと決めたのだ。

 唯一生存している仲間であったアルベルトも、先日決別の手紙を送られ、真に仲間と呼べる者はいなくなった。

 

「母を亡くしたあの日から……置いて行かれるのは慣れている……。それでもすぐにまた会える……。私の命も、その為にあるのだから……。」

 

 静かに黙祷を捧げる。そこに背後から無邪気に嘲笑うようティキの声が聞こえた。笑いながら手拍子しているティキの隣にはアダムがいる。

 

「ありゃま~!死ぬのが怖くないのかな〜?」 

「理想に殉じる覚悟など済ませてある。それに……、誰かを犠牲にするよりずっと……。」

 

 仲間を犠牲にする事など、サンジェルマンには出来ない。サンジェルマンにとってこの革命は最後の一人になっても続けるだろう。故に死を怖れはしない。

 

「何それ?!それが本心?!」

「だから君は数えてきたのか、自分が背負うべき罪の数を……おためごかしだな……。」

 

 ティキが嘲笑い、アダムが欺瞞だと切り捨てる。だがサンジェルマンは変わらない。

 

「人でなしには分かるまい……!」

 

 アダムに堂々と言い放った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 夕日が差し込むリディアンの校舎。そこに通う装者と輪は響と未来のクラスの教室に集まっていた。というのももうすぐ響の誕生日、9月13日が近いのだ。

 

 

「ど、どうしたのみんな?」

「いやぁそれがさ、クリスから聞いたんだけどね、響の誕生日が近いんだって言っててさ。」

 

 輪がクリスの方を向くと、本人はすごく恥ずかしそうにしている。

 

「覚えててくれたんだぁ!」

「偶々だ!偶々!」

「それにしても、そわそわしてた。」

「そうそう!分かりやすさが爆発してたデェス!」

 

 後輩達に誂われ、クリスの顔が真っ赤になった。

 

「はしゃぐな二人ともぉ!そろそろ本部に行かないといけない時間だぞ!」

「おっと話題変えてゴリ押したなぁ?」

「お前も黙ってろパパラッチ!」

 

 リディアンでは至って普通の女子高生達であるが、S.O.N.G.本部になると、皆真剣な顔つきとなり、来る決戦に備えている。

 モニターには調神社似て見せてもらった赤い点が線で結ばれているオリオン座が映し出されている。

 

「調神社所蔵の古文書と伝承、錬金術師との交戦から、敵の次なる作戦は、大地に描かれた鏡写しのオリオン座……神出づる門より神の力を創造する事として間違いないだろう。」

「現在、神社本庁と連携し、拠点警備を強化するとともに、周辺地域の疎開を急がせています。」

「レイラインを使った、さらに大規模な儀式。」

 

 マリアはバルベルデて戦った怪物、ヨナルデパストーリを思い出した。いくらダメージを与えても、それを無かったことにしてしまう恐ろしい性質を持っていた。まともに対抗すら出来なかったというのに、今度は神の力を呼び寄せ用とする大規模な儀式。恐らくヨナルデパストーリよりも遥かに強大なものである事は間違いない。

 

「一体どれだけの怪物を作り上げるつもりなの?」

「門より出づるは、怪物を超えた神……。」

「どうにかなる相手なのか?」

 

 クリスが何か対抗手段がないか聞いた時、弦十郎が呟いた。

 

「どうにか出来るとすれば……それは神殺しの力だな。」

「神殺し?」

 

 何も理解出来ていない輪がオウム返しに聞くと、弦十郎はそのまま続ける。

 

「神と謳われた存在の死にまつわる伝承は、世界各地で残されている。」

「前大戦期のドイツでは、優生学の最果てに、神の死にまつわる力を菟集したと記録にあります。」

「じゃあドイツのそれを借りれば良いんじゃないんですか?」

 

 輪が素早く提案したが、それは永遠に叶わないものであった。手掛かりとなる情報は、松代にあった風鳴機関もろとも、アダムの黄金錬成で消失してしまっているのだ。

 その一連の事実を聞いた輪は、肩を落としたが

 

「ちょっと待って。そのアダムって人は、本部を丸々一基を消してしまう力を持ってる。でも、シンフォギアが邪魔ならさっさと倒してしまえばいい話なのに……何で態々……いや待って……!」

「どうしたの輪?」

 

 違和感の正体に気付いた輪に、マリアが問いかける。

 

「もしかしたら、そのアダムって人は神殺しの正体に辿られるのが嫌で、解析させないようにその本部って所を消したんじゃ!」

「つまり切り札の実在を証明しているのかもしれない?!」

「その通りだ輪君。」

 

 弦十郎も同じ事を考えていたようだ。

 

「神殺しが……」

「実在する……。」

 

 僅かに見えた希望。弦十郎は緒川に調査部への依頼、各国の機関に協力を願い出て神殺しに関するデータの収集に動く。

 

 ブリーフィングを終えると、その間装者達は待機、食堂で夕食を取ることとなった。しかしブリーフィングの緊張感が食事中でも変わらないのは、ブリーフィングでも上がった神殺しが関わっている。

 

 マリア達を追い詰めたヨナルデパストーリ、それを倒したのは響だった。ガングニールの一撃を受けたヨナルデパストーリは、無かったことにされる現象が発動せず、そのまま朽ち果ててしまった。その事から、マリアは神殺しの正体がガングニールなのではと疑問を抱いていた。

 

「まさか……ガングニールに?」

「その可能性は私も考えている。が、ドイツ由来とはいえ、ガングニールに神殺しの逸話は聞いたことがない。」

「今ん所、あたしらに出来るのは待つ事だけ……なんだよな……。」

 

 クリスの顔は険しかった。攫われた瑠璃の事が気掛かりだった。今すぐにでも助けに行きたいが、行方が分からない以上、下手に動けない。仕方ないと分かってはいるが、どうにも逸る気持ちが抑えきれなくなりそうなのだ。

 クリスの隣に座っている輪も同様だが、まだ戦士として心が未熟な故に、待つ事しか出来ない事に歯痒く感じている。

 

「待つだけ……かぁ……。」

 

 呟きながら天井を見上げる。前にも瑠無、もといアルベルトに同じ事を言われた事を思い出した。

 

「何か分からないな……」

「デェース!」

「うわああああぁぁっ!」

 

 突然切歌が輪の顔を覗いて大声を出した為、驚いた輪がバランスを崩して転倒してしまう。

 

「あっ……ご、ごめんなさいデス!」

「いたた……。」

「おいおい、大丈夫かぁ?」

 

 差し伸ばしたクリスの手を掴んで起き上がった。

 

「もうビックリした。何で急にこんな事を?」

「あ、そうデス!皆さんに提案デェス!2日後の13日、響さんのお誕生日会を開きませんか?」 

「なぁー!今言う?!今言うのぉ?!」

 

 本来であれば嬉しいはずなのだが、状況が状況なだけに、珍しく響が困っている様子だった。

 

「もしかして、迷惑だった?」 

「いやいや!嬉しいよぉ!だけど、今はこんな状況で、戦えるのも、私とクリスちゃん、切歌ちゃんに輪さんだけだからさ。」 

 

 数的には半数は戦えるのだが、それでも3人が戦えないと事態は大きな痛手である事に変わりない。

 

「せっかくのお誕生日デスよ?!」

「そうだけど……。」

「ちゃんとした誕生日だから、お祝いしないとデスね!」

「はーい、ストップストップ。響が困ってるでしょう?誕生日は確かに大切だけど、お気楽がすぎるぞ。」

 

 お気楽、と言われて海上施設の戦いでカリオストロに言われた事を思い出した。

 

(大丈夫なんて、簡単に言ってくれるじゃない、このお気楽系女子!)

 

 非戦闘員を避難させようとカリオストロと戦った際、カリオストロの攻撃を避けたことでその流れ弾に避難していた非戦闘員に当たって死んでしまったのだ。

 

「アタシのお気楽で、困らせちゃったデスか……?」

「ほ、そんなことないよ!ありがとう!」

 

 気を遣わせまいとそう言うが、あまり慰めにはならないようだった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 祭壇設置の儀式の最終段階。神出づる門を開かせる為に、鏡写しのオリオン座の中心地点である神社に、サンジェルマンは現れた。神社の周辺と境内には既に黒服達が警備に着いていた。しかし、サンジェルマンが相手では、数など問題ではない。サンジェルマンが放った光弾が、黒服達に直撃し、消滅させている。これによってサンジェルマンが奪った命の数は73811となった。

 儀式の為に、上は白いコートしか羽織っていない。黒服達がいた事に、鳥居に寄りかかっているティキが文句を言う。

 

「有象無象が芋洗いって事は、こっちの計画がもろバレって事じゃない?どうするのよサンジェルマン?!」

「どうもこうもない。」

 

 唯一身に纏っていたコートを脱ぎ落とした。

 

「今日までに収集した生命エネルギーで、中枢制御の大祭壇を設置する。」 

 

 本殿の前に立ったサンジェルマンは、祭壇設置の詠唱を唱え始める。すると、彼女の足元を覆うように光柱が発し、背中に刻まれた紋章がオリオン座の形のように浮かび上がる。天に打ち上げられた光は各地へと枝分かれするように散った。その光は神出づる門を開く為のキーポイントとなる神社に降り注いだ。

 

「それでも、門の開闢に足りないエネルギーは、第七光の達人たる私の命を燃やして……。」

 

 サンジェルマンの背中に青い紋章が浮かび上がった。彼女の命も、光となって消えようとしている。




これだけの情報量でアダムの行動の真意を勘付いてしまった輪であった。


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必愛デュオシャウト

サンジェルマン戦は軽くにして、アルベルト戦がメインになります。

とは言ってもそんなに掛かりません。


 サンジェルマンの生贄によって、祭壇設置に必要なエネルギーが満たされ、神出づる門が開こうとしている。鏡写しのオリオン座を中心に、レイラインと思われる緑の光が、道のようにそこへ流れ、収束しようとしている。

 

「レイラインより抽出された星の命に、従順にして盲目なる恋乙女の概念を付与させる……!」

 

 遂に、神出づる門が開いた。サンジェルマンが手を伸ばし、ティキが光柱にその身を包まれると天高く昇る。

 

 S.O.N.G.のヘリには活動可能な装者である響、クリス、切歌、そしてファウストローブを纏える輪が搭乗している。上空からでも鏡写しのオリオン座と、そこへ収束するレイラインが見える。

 

「本当にとんでもない事になってる……!」

「あれが……!」

「鏡写しのオリオン座デス!」

 

 クリスも無言で自体の重さを受け止めている。同時に、輪の息遣いも荒いことに気づいた。これが初陣であり、世界の命運が掛かっていると考えると、輪に掛かるプレッシャーは凄まじいものだろう。クリスは震える輪の手を掴んでやる。

 

「クリス……。」

「心配すんな。あたしらがついてる!」

 

 クリスに鼓舞され、自分に向けた頼もしい目。双子である為、当然なのだがそれが瑠璃に見えた。

 

「ありがと、クリス。」

 

 ニッと笑うと、クリスは柄にもない事をしていると、つい顔を赤らめていた。だがそこに弦十郎から通信が入った。

 

『アルカ・ノイズの反応が確認された!位置はヘリの真下!そこに錬金術師もいる!』

「あいつだ……!」

 

 それを聞いた輪は、その錬金術師がアルベルトであると確信した。狙いも恐らく挑発である。

 

「私が行く。あいつには用がある。」

 

 そう言うと、ヘリの出口の扉を開けた。

 

「だったらあたしも行く。お前一人には行かせられねえよ。」

「クリス……。」

 

 輪は短く頷いた。

 

「あっちは任せたぞ!」

「うん、気を付けて二人とも!」

「了解デース!」

 

 そして輪とクリスはヘリから飛び降りた。輪はラピスを握りしめて、そのファウストローブを身に纏う。クリスもそれに続くようにイチイバルのギアを纏った。輪は急降下を利用して、そのまま飛び蹴りでアルカ・ノイズを踏み抜いた。

 

 本部でも鏡写しのオリオン座が確認されている。

 

「レイラインを通じて、観測地点にエネルギーが収束中!」

「このままでは、門を超えて、神の力が顕現します!」

 

 だが無策のまま、手をこまねいていたわけではない。モニター、八紘の姿が映し出され、その手には鍵が握られている。

 

『合わせろ弦!』

「応とも兄貴!!」

 

 弦十郎も同じ鍵を持っている。すると二人は鍵穴にその鍵を差し込んだ。

 

「決議!」

「「執行!」」

 

 差し込まれた二つの鍵が同時に回された。

 

 各地の残った要石に掛けられた注連縄が、斬り落とされた。要石が赤く光を発した。地上からでは分かりづらいが、上空から観測すると、鏡写しのオリオン座を囲うように赤い光が円上に繋がって光を発している。その光によって、レイラインの動脈が遮断されている。

 

「各地のレイポイント上に配置された要石の一斉軌道を確認!」

「レイライン遮断作戦、成功です!」

「手の内を見せすぎたな、錬金術師。お役所仕事も馬鹿に出来まい!」

 

 作戦成功に八紘は、モニターに映る鏡写しのオリオン座に笑っている。この作戦は八紘の政治的手腕によって認可されたと言っても過言ではない。役所の人間も何も出来ないわけではない事が証明されている。

 

 レイラインが遮断された事で、光が失われた。高く舞い上がっていたティキは落下、サンジェルマンも地に伏せていた。さらに、ヘリのローターによって砂塵が舞い上がり、それに乗っている響と切歌が飛び降りた。

 

 Balwisyall nescell gungnir tron……

 

 起動詠唱を唄い、響と切歌はそれぞれのギアを纏う。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アルカ・ノイズの相手をしているクリスと輪。ガントレットに備えられている二つのチャクラムを展開すると、それを目の前のアルカ・ノイズに投擲する。

 

【雷翼・サンダーウロボロス】

 

 投擲されたチャクラムはアルカ・ノイズをまとめて貫き、輪の手元に戻る際にも数体のアルカ・ノイズが両断される。チャクラムが手元に戻り、接近するアルカ・ノイズを斬り捨てる。

 クリスの両手に持つガトリング砲から放たれる弾丸の嵐が、アルカ・ノイズを蜂の巣にする。

 輪の特訓は個別でのシュミレーションは行っていたのだが、ユニゾンの特訓までは間に合わなかった。故に即席かつ、即興。当然まともな連携など取れるわけがなく、連携のコンタクトも出来ていない。だが試した事もない連携をいきなりやろうとしても失敗するのが関の山。ならば各個アルカ・ノイズを撃破した方がまだ効率良い。輪の戦闘センスは瑠璃よりも高かった為、単独でも戦えるようには仕込まれている。

 

「これで……最後!」

 

 そうこうしている内に、出現したアルカ・ノイズを全て葬った。周囲に敵影がいないか、確認しつつ響達の所へと向かおうとした時、目の前に人が降り立った。

 

「あいつ……!」

 

 二人にとっては許し難い相手、アルベルトがファウストローブを纏って現れた。

 

「待っていたよ、二人とも。」

「いけしゃあしゃあと出てきやがって!」

 

 瑠璃を攫った張本人というだけで、二人は憤りを隠せない。

 

「そうカリカリしないでおくれ。私は今しがた、パヴァリアとは手を切ってね。」

「「はあぁっ?!」」

 

 アルベルトの口から思わぬセリフに驚愕を隠せない二人。敵とはいえ、自分(アルベルト)が尽くしてきた組織を裏切ったと言われても、信じられるわけがない。彼女が浮かべている余裕の笑みからも、そのようには見えない。

 

「だが、君達の敵である事に変わりはない……!」

 

 途端に杖の先端を向け、そこから炎の錬金術を放った。二人は左右に別れて避け、クリスはガトリング砲でアルベルトに防御させて、輪が懐まで接近してチャクラムを振り下ろした。

 しかし、アルベルトは左手で青色のバリアを展開して弾幕を防いで、杖でチャクラムを弾いた。弾かれた輪は、着地して体勢を整えた。

 アルベルトが出したバリア、二人はそれを見た事がある。クリスはフィーネと関わり、刃を交えた為、輪は自身も同じバリアを使えるから、アルベルトがそれをやった事に驚いている。

 

「テメエ……やっぱそれは……」

「ああ。フィーネと同じ力だ。」

「やっぱり、櫻井さんとは何か関係あるんだね。」

 

 輪の問いに、アルベルトはただ鼻で笑うだけだった。

 

 

 響と切歌の方もファウストローブを纏ったサンジェルマンと交戦開始した。二人は初っ端からイグナイトを抜剣して立ち向かうが、他の3人を統率する錬金術師だけあってユニゾンにも引けを取らない。

 

「信念の重さ無き者に……!」

 

 ブレードを展開させた銃を振り下ろし、切歌が大鎌の柄でそれを防ぐが、攻撃の速さから反撃出来ない。

 

「神の力を持ってして、月遺跡の管理者権限を掌握する!これにより、バラルの呪詛より人類を解放し、支配の歴史に終止符を打つ!」

 

 秘めたる信念を共に、弾丸を放つ。その弾丸は龍の姿をしたエネルギー波となり切歌を吹き飛ばす。

 

「だとしてもぉ!」

 

 響の右腕のバンカーアームをドリルのように高速回転させた拳が、龍のエネルギー波とぶつけて、相殺させる。

 

「誰かを犠牲にするやり方はぁ!!」

「そう32831の生贄と40977犠牲、背負った罪とその重さ、心変わりなど……許されないわぁ!!」

 

 サンジェルマンの放った弾丸が、響の目前で展開された魔法陣によって姿を消したが、同時に右側面から別の魔法陣が展開、そこから弾丸を受け吹き飛ばされてしまう。

 

「はあぁっ!」

「響さん!!」

 

 倒れた響の頭上からサンジェルマンがブレードを立てて降下、起き上がろうとした響だが間に合わない。だが、身体には刺さらず、脇と胴体の間に挟んでやり過ごした。さらに腰部のブースターが最大火力で点火、左の拳がサンジェルマンの鳩尾に入り、さらに響と切歌の足底部のアーマーが連結、切歌の肩のアーマーのブースターを上乗せした一撃が、サンジェルマンに直撃した。

 

【必愛デュオシャウト】

 

 石畳と鳥居ごと吹き飛ばされたサンジェルマンは倒れた。

 

 

  

 2つのチャクラムを片手でメリケンサックのように持ち替えて、それを地面に叩きつけると、そこから巨大な火柱が放たれる。

 

【暴拳・ヴォルガニッククラッシャー】

 

 跳躍して回避したが、着地地点に合わせてクリスの小型ミサイルが放たれる。

 

 

「貰ったぁっ!」

 

【MEGA DETH PARTY】

 

 全弾掃射されてはアルベルトも回避も防御も間に合わない。だが杖の柄から発せられた一筋の光。その瞬間、全てのミサイルが真っ二つに両断され、ミサイルはアルベルトを通り過ぎて爆ぜた。

 

「杖じゃない……剣!」

 

 アルベルトが持っていた杖は仕込み刀だった。左手に持つ柄だった鞘を錬金術で消した。だがまだ他に隠しているのではないのかと、疑念を抱いた輪は構えながらアルベルトに問いただす。

 

「念の為に聞くけど、何で自分の組織を裏切ったの?あんたは神の力を……」

「あれはサンジェルマンの理想を叶える為に欲していただけの事。私はその理想の為に使うつもりはない。」

「だったら何で姉ちゃんを攫いやがった?!姉ちゃんは関係ねえだろ?!」

 

 それだけなら瑠璃は関係ない。解放させろと怒りをぶつける。だがアルベルトは、仕込み刀を握る手の力が強くなる。

 

「関係ない……だと?私は……ルリの為に神の力を手に入れる。神の力で……ルリがこれ以上苦しまない世界を作る。」

「は……?」 

 

 予想外の回答に、輪とクリスは困惑する。

 

「君達は知らないだろう?ルリが一人ぼっちとなった時、耐え難い苦痛を受けた事を……。彼女は一人、ただ耐えるしかなく、数多の暴力と凌辱で絶望し、心を崩壊させたか。」

 

 二人に向けられるアルベルトの視線、それは怒りを思わせる。

 

「妹には断片的にではあるが、見せてやる。ルリに起きた忌まわしき記憶の全貌を!」

 

 剣先から眩い光が発し、視界が利かない二人は腕を交差させて視界を覆った。

 




輪の必殺技

輪の必殺技の名前は
【〇〇 〇〇〇〇】

漢字2文字+カタカナとなる。


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快晴・SUNBIRTH STREAM

アルベルト戦、決着の時!

そしてバイデント出生の秘密、呪いの正体などが判明します!


 眩い光が弱まり、視界が利くようになった輪は目を開いた。すると、先程まで神社への道にいたはずがいつの間にか右も左も分からない、ジャングルにいた。

 

「え?!ここ何処?!」

 

 一方、クリスはその景色に驚愕している。

 

「ここって……バルベルデ?!何で……」

「バルベルデって南米の?!私達、さっきまで神社の……」

「ここは私の記憶の中だ。」

 

 背後から突然声を掛けられ、振り返った二人。そこにはアルベルトがいる。

 

「記憶の中……?」

「厳密には、ルリが起きた出来事を見た私が、それを複製して保管した記憶だ。」

 

 つまり、ルリが体感した過去であり、アルベルトの記憶世界でもある。

 

「ここは……そうだな。私が初めてルリと会った、あの出来事だな。」

 

 アルベルトが指差した方を見ると、そこには家族とバルベルデに訪れた幼きルリと暑い中でスーツ姿のアルベルトがいた。あの時は瑠無となっていたが、口調も微笑みもアルベルトそのものである。

 

「あれが……幼かった瑠璃……。」

 

 輪は幼いルリを見るのは初めてだった。今でこそ大人しい性格であるが、昔の活発だった頃のルリを見てそのギャップの違いに驚いている。

 

「君の両親の歌は、本当に素晴らしかった。悲願を果たす為に、血に汚れた私の心を洗い流してくれた。」

 

 雪音夫妻の歌に、アルベルトは感銘を受けていたようだが、表情が変わっていないせいで、二人は信じきる事が出来なかった。

 

「次だ。」

 

 すると、今度は施設内へと転移した。政府軍兵士の前に堂々と現れたのだが、ここは記憶の世界。3人の事は認知されていない。現に輪は歩いて来る兵士と接触したはずだが、その身体をすり抜けてそのまま何処かへと行ってしまっている。

 

「ここは……ルリが連れて行かれた政府軍の軍事施設の中にある独房だ。ルリはここに押し込まれて、6年の歳月を過ごしたんだ。」

「あっ……あれって……!」

「姉ちゃん!」

 

 捕らわれた子供達の中に、幼さが消えて成長したルリを見つけた。ボロボロになった最愛の姉に手を伸ばしたが、牢の鉄格子に阻まれてしまう。

 

「大丈夫だよ。みんな助かる……頑張ろう?」

 

 ルリはいつ死ぬかもしれないという時であるにも関わらず、泣きじゃくる子供の頭を撫でて、その不安を和らげてあげていた。

 

「姉ちゃん……。」

「一人になっても……強いお姉ちゃんだったんだね。瑠璃は……。」

 

 だが、兵士が牢の鍵を開けると、憂さ晴らしと言わんばかりにルリの身体を蹴った。

 

「この野郎!」

 

 やめさせようとクロスボウを出すが、その手をアルベルトに掴まれる。

 

「無駄だ。たとえ入れたとしても、過去に干渉は出来ない。」

「何だと?!」

「次だ。」

 

 憤るクリスに構う事なく、再び場面が変わる。今度は目の前に軍事施設と思われる場所へと転移した。豪雨のせいか、外には誰もいない。代わりに一台の護送車が施設の入り口付近に停車される。すると、護送車の後部ドアから誰かが降りてきた。数人の兵士と、首輪を繋がれたルリだった。車から降りた者達は、そのまま中へと向かっており、その光景を見たアルベルトは頭を抱える。

 

「ああ……あの日か……。」

「あの日って……?」

「まさか……!」

 

 輪がオウム返しに問う間に、ルリは既に中へと連れて行かれてしまった。その意味を理解したクリスの顔は青ざめている。アルベルトはそんなクリスを見て

 

「あの日……ルリの心が崩壊した、地獄の日だ。」

 

 答えを告げられた輪も驚愕する。クリスと輪は急いで中へと入ったが、既にルリと彼らの姿はなかった。

 

「一体何処に連れてかれた?!」

「牢屋だ……!どっかに牢屋があるはずだ!」

 

 アルベルトが僅かに見せた記憶を頼りにルリを探そうとした時だった

 

「いやだあああぁぁぁ!!」

 

 ルリの悲鳴が聞こえた。地下からだ。二人は急いで地下へと通ずる階段を降りて、地下牢の入り口へと辿り着いた。扉を開けると、そこには無抵抗で泣き叫ぶルリに兵士達が醜く群がっていた。しかも周囲は兵士達に犯されている女の捕虜たちの悲鳴と嬌声が混ざっている。これからルリが何をされたのか、否が応でも理解してしまう。

 

「やだやだやだぁ!助けてクリス!!パパァァ!!ママァァァ!!」

「やめろ……やめろおおおおおぉぉぉーーーー!!」

 

 助けを求めているルリを救おうと身体が動いたクリスだったが、それは無駄な事だった。兵士達を押し退けようとしても、その身体は触れられないまますり抜けてしまう。

 目の前には、なすすべなく泣き叫びながらただ犯される運命となった姉。どんなに助けを求められても、救う事が出来ない。残酷な運命を突きつけられてしまった。

 

 

 

 

 いやああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 

「うわああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 ルリとクリス、二つの悲鳴が混ざりあった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 本部のモニターには対サンジェルマン、対アルベルトの戦闘が映し出されているが、対アルベルトのモニターの光が弱まると、クリスの叫び声が聞こえた。

 

「一体何が……?!」

 

 装者筆頭の翼でさえも、何が起きているのか掴めずに困惑する一方だ。本部にいた者は、ルリの記憶を見ていない。だから何故クリスが突然叫んだのか分からない。

 

 気が付けば、二人は元の現実世界へと戻っていた。記憶を見せたアルベルトが目の前にいる。だがクリスは、干渉できなかったとはいえ、目の前に助けを求めていた姉を、ただ慰み者として使われる様を見る事しか出来なかった。

 当時、クリスはルリが死んだと知らされ、必ず帰ってくる約束を破ったと心無い事を言ってしまっていた。そんな事があったとは露知らず、自分勝手な事を言ってしまったと後悔した。

 

「分かっただろう?君達に、ルリの苦しみが理解できない事が!」

「そんな事は……」

「出来るわけがないだろう!私に記憶を見せられるまで、ルリが受けた仕打ちを理解出来なかったのだから!」

 

 反論が出来なかった。見知らぬ土地で6年間、帰れると信じて耐えた結果があれだ。そうなったら心が壊れてしまうのも無理はない。

 輪もライブの惨劇から生還してから、ずっと正義を振りかざした暴力に晒されたとはいえ、ルリの痛みを共有出来るわけがない。

 アルベルトに記憶を戻されるまで、ルリが見ていた悪夢の正体、輪とクリスは気付いた。

 

「バイデントの呪い……姉ちゃんの忘れていた記憶へと導いたっていうのか……?!」

 

 それを聞いたアルベルトは、クリスに怒りの眼差しを向ける。

 

「違う……。バイデントにそのような性質はない……。それは、君達が作り出した呪い!君達がバイデントを……ルリを狂わせたのだ!」

「私達が作り出した呪い……まるでバイデントにそんなものは初めから……初めから……?!」

 

 輪は気付いてしまった。バイデントを作ったのは誰なのか。

 

 このやり取りは本部にも映し出されている。弦十郎とマリアも、アルベルトが言った事の意味に気付いた。

 

「まさか……バイデントを作ったのは……」

「だが、シンフォギアは了子君がいなければ……いや……そもそもバイデントをシンフォギアにする計画の発案ならば……!」

 

 シンフォギアは櫻井理論を用いなければ作る事は出来ない。さらにそのバイデントを、元々所有していたアーネンエルベから盗み出したのが、提唱者である櫻井了子、もといフィーネだった。

 だがもしアルベルトがフィーネを知っていて、最初から繋がっていたのだとしたら?バイデントのシンフォギア化を提案した人間がアルベルトなら、フィーネに容易く盗まれるはずがない。となると、無傷で奪う為には内部協力者の存在が不可欠。

 

「バイデントを作り出したのも……バイデントが盗まれたっていうのも……!」

「それが奴ならば……バイデントの失踪は自作自演……!」

 

 マリアが辿り着いた答えを、翼が代わりに言った。

 

「出水輪、勘の良い君ならすぐに分かるか。フィーネの手を借りて、バイデントをシンフォギアへと変えるようにしたのも、それを掠め取られたと狂言したのも、この私だ!」

 

 明かされる衝撃の真実。アーネンエルベの研究員として潜り込んでいたアルベルトはフィーネと繋がっていたという事になる。

 錬金術師と歌。本来この両者は現在でこそ相対する関係であるが、ルーツは元々同じ。何処かで繋がっていても不思議ではない。

 

「バイデントは元々、ただのシンフォギアだった。だが最初の起動実験で事故が発生した。だが……適合者候補と、その実験に関わった者が次々と不審な死を遂げ、いつしかバイデントは呪われたギアなどと謳われるようになった。」

 

 最初の失敗は後の事例に大きく影響する事になる。特に不審死は、悪い噂を広める格好の材料だ。そんな事が起きてしまえば、悪い噂などすぐに広まる。それが積もりに積もって、バイデントのギアは呪われたギアとして、聖遺物研究機関の至る地にその名を残す事になっていた。

 

「まさかバイデントの呪いの正体は……哲学兵装……?!先のアレクサンドリア号事件でも中心にあったという……!」

 

 哲学兵装。歌の力ではなく、人々の言葉の力で宿した力。アルベルトが公言した事実に加え、バイデントの伝承の圧倒的な少なさがそれを拍車に掛けてしまったことで、バイデントは呪われた槍となってしまった。

 

「どうやらその力は、ルリの中にあったフィーネの意識が抑え込んでいたが、出水輪に移った事でそれを歯止めをかける者がいなくなったようだな。でもまさか……ルリの手元に渡るとは……。」

 

 偶然が偶然を呼び、それはまさに運命の悪戯と言うべきだろう。

 

「君達が作った呪いがルリを苦しめるなら……私は彼女に神の力を宿して、永遠の苦しみから解放する。その為なら、サンジェルマンの理想を踏みにじってでも叶えなければならない!」

 

 それがアルベルトの言う悲願。輪はそう確信した。アルベルトの一連の行動の意味、それは全て瑠璃を助ける為。だが一つだけ不可解な事があった。

 

「じゃあ何で、私にラピスを……」

「本来であれば、ルリにプレゼントするはずだった……。だが今となっては、何故君に渡したのか……忘れてしまったよ。これで何度目か……。」

 

 輪の問いに、鼻で笑うアルベルト。長く生きている故か、己が何を果たそうとしたのか、忘れてしまう。そんな自分を嘲笑している。

 

「だが私は、ルリを助ける為にここにいる。君達が作った呪いから……ルリを苦しめるこの世界から。その為に……」

「へっ……そういう事かよ……。」  

 

 突如、クリスか不敵な笑みを浮かべた。

 

「それを聞いて安心したぜ……。お前の事……どうにも胡散臭さの塊で出来てやがると思ってた。でもよ……あたしは難しく考えすぎたせいで、誤解のオンパレードだったぜ。」

「クリス……?」

 

 そう言うと、クリスは立ち上がった。

 

「姉ちゃんを助けたい、苦しみから解放したいだの……御宅を並べやがって……。結局、テメエは姉ちゃんを利用して欲望を満たしたいクズ野郎だって事だぁ!!」

 

 背部のアーマーから大型ミサイル12本を展開して放った。

 

【MEGA DETH INFINITY】

 

 これを斬っても爆風で巻き添えを食らうと判断したアルベルトは、錬金術のバリアと青色のバリアを大量展開、結合させて巨大なバリアを作り上げ、ミサイルの爆発から己の身を守る。

 一瞬、クリスに理解してもらえたと思っていたアルベルトは憤怒するように叫んだ。

 

「何故だ……何故分からない?!君は妹だろう?!それならば、ルリを苦しませたくないのだろう?!それを私が成そうとしているというのに、何故それを阻む?!」 

「分かってないのはアンタだ!」

 

 輪がアルベルトの問いをズバッと言い放つ。それにクリスが続ける。

 

「神の力を使って、姉ちゃんが元に戻っても……結局犠牲になる奴が出続ける。そんな事……姉ちゃんが望むわけないだろうが!姉ちゃんはただ、平和な日常が好きなんだ!みんなで笑って過ごす、何気ない日々が!それをぶち壊したのは、他の誰でもねえ……お前だ!!」

 

 突きつけられた答えに、認めなくないアルベルトは怒りで歯を食いしばっている。

 

「アンタなんかに瑠璃は渡さない!神の力が何?!そんなものクソ喰らえだ!」

「今も姉ちゃんが助けを求めてるなら、あたし達のやり方で姉ちゃんを助ける!今度こそ!イグナイトモジュール、抜剣!!」

 

 クリスがイグナイトモジュールを起動させて、荒々しい漆黒のギアを纏った。そして、クリスと輪が走り出し、ガトリング砲の弾丸と投擲されたチャクラムがアルベルトに襲いかかる。

 

 魔剣と賢者の石のユニゾンだと?!そうか……賢者の石に作用されない物体を施したのか!)

 

 自身に被弾する弾丸を刃で弾き落とし、チャクラムは跳躍して避ける。

 

「二人のフォニックゲイン、飛躍的に上昇!」

「錬金術師を押しています!」

「まさか……賢者の石とダインスレイフのユニゾン?!」

「この土壇場で、そんな荒業を……!」

 

 藤尭、友里の状況報告に、モニターで戦いを静観している翼とマリアが、起きている事態に驚愕している。それもそのはず性質が正反対の二つの物質の歌が重なり合ったのだ。ましてやファウストローブは本来歌を必要としない。

 さらにファウストローブは本来錬金術のエネルギーをプロテクト化させて鎧を形成させるが、輪にはそれがない。故に足りないエネルギーをフォニックゲインで補うよう調整したのだが、それが製作者であるアルベルトに牙を向く結果となっている。

 

「瑠璃を助けたいという想いが重なり合ったユニゾン!言わば、ギアとファウストローブの垣根を超えた絆の力だ!」

 

 弦十郎が力強く言い切った。

 

 接近した輪がチャクラムを振り下ろすと、それをブレードで受け止め、鍔迫り合いとなる。

 

「私を倒した所で、既にルリは私の手から離れている!何も変わらんぞ?!ルリが苦しむ運命も、未来も!!」

「関係ねえ!運命も未来も変えられる!!」

「そうだ!だって私達は……」

「「それが出来る、強い絆があるからだ!!」」

 

 鍔迫り合いを解いた輪はアッパーカットでアルベルトを天高く吹き飛ばす。さらに2枚のチャクラムを12枚に増やし、それを隣に立つクリスと自身を囲うように展開、それらをクリスのアーマーと連結させる。

 

【快晴・SUNBIRTH STREAM】

 

 クリスと輪、二人が頭上に両手を天に掲げると、チャクラムに膨大なエネルギーが流れ込み、膨張したエネルギーは、12本のビームとなって放たれ、1つとなったビームが、天高く吹き飛ばされたアルベルトに向かった。

 

「ここまで来て……私は……敗れるというのか……?これが……絆の力というのか……?嗚呼……我が主よ……」

 

 届くはずのない月に手を伸ばしたアルベルトはビームに呑み込まれ、そこに大爆発が起きた。

 アーマーの連結を解除した二人は力を使い果たしたせいかその場に座り込んだ。

 

「勝った……んだよね?」

「ああ……勝ったんだ。」

 

 その様子は本部のモニターにも映っている。ちょうど響と切歌がサンジェルマンを倒した所だった。

 

「司令、響ちゃん達の方も!」

「ああ。残るは統制局長、アダム・ヴァイスハウプトのみ……」

 

 だがそこに、アラートが鳴り響いた。

 

 

 




楽曲

【快晴・SUNBIRTH STREAM】

瑠璃を助けたいという想いが重なり合い、シンフォギア、ファウストローブの垣根を超えた絆の曲。


ちなみに技は未来トランクスがセルを倒した時の技をモデルにしています。

所で瑠璃は何処へ?


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神の力

おまけの2本立て!


 響と切歌によるイグナイトを用いたユニゾンによりサンジェルマンを倒した。二人のギアはイグナイトが解除して、通常形態に戻っている。だがサンジェルマンはそれでも立ち上がろうとしている。革命の為に死んでいった者達の為にも倒れるわけにはいかない。だからこそ、あれだけの一撃を貰ったにも関わらず、戦意は挫かれない。

 

「この星の明日の為に……誰の胸にももう二度と……あのような辱めを刻まない為に……私は支配を……革命する……!」

 

 再びサンジェルマンが立ち上がる姿に、二人は畏怖する。だがそれだけの執念があっても、身体は正直である。サンジェルマンは倒れた。響は立ち上がって

 

「私もずっと正義を信じて、握り締めて来た。だけど……拳だけでは変えられない事がある事も知っている……。だから……」

 

 倒れたサンジェルマンに歩み寄った響はその手を差し伸べた。顔を上げたサンジェルマンに映る、響の見せる笑顔と、伸ばした手に他意など無い。心から手を取り合いたい、話し合いたいだけだ。

 

「握った拳を開くのを恐れない。神様が仕掛けた呪いを解くのに、神様みたいな力を使うのは間違ってます。人は人のまま変わっていかなきゃいけないんです。」

 

 響らしい事であると、切歌は鼻を指で擦っていた。響の真意をを聞いたサンジェルマンの険しかった表情はなく、口角がつり上がっている。敵意らしい敵意は感じられない。

 

「だとしても……」

 

 サンジェルマンが呟いた。それは、響がサンジェルマンによく使っていた言葉だ。それを聞いた響は首を傾げる。

 

「いつだって、何かを変えていく力は……『だとしても』という不撓不屈の想いなのかもしれない……。」

 

 シンフォギアと錬金術師、相容れないはずと思っていたサンジェルマンが、響の事を認めた。響が伸ばした手をサンジェルマンが取ろうとした

 

「そこまでにしてもらうよ、茶番は。」

 

 そこにアダムの声が割って入るように聞こえた。三人は声がした方を見ると、アダムは宙に立っている。しかもその頭上にはオリオン座の刻印が印されている。さらにそこに赤い光の粒子が、集まっている。

 

「これは……天を巡るレイライン?!アダムはこの星からではなく、天の星々から命を集める為……オリオン座そのものをを神出づる門に見立てて……!」

 

 本部のラボで反動汚染の除去作業をしていたエルフナインとモニターでその光景を見ていた。アダムは地上のレイラインが阻まれる事を読んで、別の対応策を用意していた。それを見落としたエルフナインは自分を責める。

 

「マクロコスモスとミクロコスモスも照応は、錬金思想基礎中の基礎だというのに……僕は……!」

 

 レイラインは地上だけではない。レイラインは宇宙からでも巡っている。地上のレイラインの動脈が、が要石によって阻まれているなら、阻まれない星々から使ったという事だ。 

 

「アダム……アダムが来てくれた……。」

 

 地に仰向けで倒れていたティキが浮遊した。その真上に集められた生命のエネルギーがその躯体を包んだ。

 

「遮断出来まいよ、彼方には。」

「止めて見せる!」

 

 響が阻止する為に飛び上がったが、アダムが帽子を投擲して来た。ただの帽子であるはずが、その威力は響を吹き飛ばすのに十分だった。返り討ちにあい、倒れた響にサンジェルマンが駆け寄る。

 

「おいお前!教えて下さい統制局長!この力で本当に、人類は支配の軛より解き放たれるのですか?!」

 

 投擲した帽子を被り直しながら、サンジェルマンに返答する。

 

「出来る……じゃないかな?ただ……僕にはそうするつもりはないのさ。最初からね。」

「くっ……謀ったのか?!カリオストロを……プレラーティを……革命の礎となった全ての命を……!」

 

 これまで築き上げてきた屍を踏みにじられたサンジェルマンが憤怒した。だがアダムは死んだ命の事など省みる事などするはずがない。サンジェルマンにも同様だ。

 

「用済みだね……君も。」

 

 指をパチンと鳴らすと、宙に浮いていたティキが起き上がり、ぎこち無ない動きで3人の方を向く。開いた口から微細な光線を放つが、その威力は辺り一体を吹き飛ばす超火力だった。

 

「この威力……!」

 

 その大爆発を眺め笑うアダム。爆炎と煙が立ち込める。だがその中で聞こえてきた滅びの歌。

 

 Emustolronzen fine el zizzl……!

 

 巨大化させた大鎌の刃が高速回転、さらに柄からブースターを最大まで点火させる事で対抗させていた。その上に絶唱を唄った切歌が響とサンジェルマンを守っている。

 

 

「確かにアタシはお気楽デス!だけど、一人くらい何も背負っていないお気楽者がいないと、もしもの時に重荷を肩代わり出来ないじゃないデスかぁ!!」

 

 血涙を流す切歌が抱える思いを叫んだ。だが相殺しきれず大鎌は破壊され、切歌も倒れた。響が切歌に駆け寄った。

 

「切歌ちゃん!!絶唱で受け止めるなんて無茶を……!」

「響さんはもうすぐお誕生日デス……。誕生日は……重ねていくことが大事なのデス……。」

 

 絶唱による負荷により意識が朦朧とする切歌が弱々しくも、必死に伝えようとしている。

 

「こんな時にそんなことは……」

「アタシは、本当の誕生日を知らないから……誰かの誕生日だけは……大切にしたいのデス……。」 

 

 切歌にも誕生日は存在する。だがそれは本当の誕生日ではなく、切歌が白い孤児院に連れてこられた時の日付。レセプターチルドレンである切歌は、本当の誕生日知らないからこそ、誰かの誕生日だけは大事にしていたのだ。それがあの時、響の誕生日に拘る切歌の真意。

 それを知った響は涙を流す。すると、瓶が転がり落ちる音が聞こえた。切歌の足元には殻になった瓶が3本あるのを響は見つけた。

 

「LiNKER……?」

 

 ラボのエルフナインはそれを食い入るようにモニターを見ていた。

 

「過剰投与で絶唱の負荷を最小限に?!だけど体への薬害が!」

「直ちに切歌君を回収するんだ!救護班の手配を急げ!体内洗浄の準備もだ!!」 

「はい!」

 

 調の悲痛な叫びがブリッジに響く中、弦十郎は急いで緒川に指示を出した。

 

 サンジェルマンはアダムを睨みつけ、響と切歌を背に立つ。

 

「二人には手を出させない!」

「ほう……それが答えかね?君が選択した。」

「神の力、その占有を求めるのであれば、貴様こそが私の前に立ちはだかる支配者だ。」

「実に頑なだね……君は。忌々しいのはだからこそ……しかし間もなく完成する、神の力は。そうなると叶わないよ?君に止める事など。」 

 

 アダムの言う通り、神の力が完成すれば、サンジェルマンであろうとも止める事は出来ない。だがサンジェルマンは一人ではない。共に並び立つ響が共に敵であるアダムを見据えている。

 

「私達は互いに正義を握り合い、終生分かり合えぬ敵同士だ。」

「だけど今は、同じ方向を見て、同じ相手を見ています!」 

「敵は強大、圧倒的。ならばどうする、立花響?!」

「何時だって、貫き抗う言葉は一つ!」

 

 二人は強く、共通の敵に言い放った。

 

「「だとしても!!」」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 響達がいる神社の方から爆発したのを確認した輪とクリス。クリスはギアをイグナイトから通常形態に戻して、急いで響達と合流しようと走る。

 

「一体何が起きてやがるんだ?!」

「分かんないよ!とにかく響達の所へ……クリス……?クリス?!」

 

 突然クリスの走る足音がしなくなり、異変に気付いた輪が振り返ると、クリスがが膝をついていた。輪がクリスに駆け寄ると、クリスのギアインナーが灰色になっている。

 

「どうなってるの?!さっきまで……これって……!」

 

 輪はすぐに気付いた。それは愚者の石によるギアの反動汚染。ここに来てそれがギアに襲いかかり、クリスを苦しめている。この状態ではもう戦えないとクリスは判断すると、輪の方を向く。

 

「悪い……あたしはここまでだ。」

「そんな……!」

「だけど……タダじゃ離脱しねえよ……。」

 

 背中のアーマーから巨大なミサイルを一本展開させた。

 

「ミサイルなんか出して何しようって……まさか!」

「こいつに乗れ。」

「いやいやいや!ミサイルを乗り物感覚で言わないでよ!そんなの聞いたことないから!」

 

 装者達はさも当たり前の認識になっているが、輪は装者ではない為、そんな荒唐無稽な感覚が受け入れられるわけがない。だがそこに

 

『出水!それに乗れ!』

「翼さん?!」

 

 翼から通信が入った。しかもそれに乗れというのだ。

 

『説明は後だ!それに乗れ!』

 

 無茶とも言えるこの現状、しかしここから響達がいる神社までかなり距離がある。輪に選択肢はない。

 

「あー!もう分かりましたよ!乗りますよ!クリス!乗るよ!」

 

 もうどうにでもなれの精神で輪はミサイルの上に乗った。いざ乗るとややシュールな光景である。

 

「良いか振り落とされるなよ?」

「え?振り落とされるなって……それって……」

「舌噛むぞ。」

 

 発射直前に不穏なセリフが聞こえて、一気に不安になるが、お構いなしにクリスはミサイルを発射させた。

 

「後は頼んだぞ……。」

 

 放たれたミサイルを見届けたクリスはギアを解除して大の字で倒れた。この後、クリスも切歌と同じように救護班に運ばれた。

 

 そして輪はというと……

 

「イイイイィィィヤアアアアアアアァァァァァァーーーーーー!!」

 

 ジェットコースターのスピードを軽く超えるその速度に、汚い叫び声を挙げながら必死にミサイルにしがみつく輪。その顔は他人には見せられないくらい酷い形相である。ちなみに輪が叫んでいる間、ブリッジにはその絶叫があまりにも煩すぎるせいでハウリングを起こし、その場にいた全員が耳をふさいでいた。

 

 




シリアスな描写を一気にブチ壊してくれた輪でした。


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神殺し

今回は超長め!まさかの8000字越え!


 クリスと切歌が戦線離脱した。特に絶唱による負荷で重傷を負った切歌も、一命を取り留め、LiNKERの過剰投与による薬害も見られなかった。クリスは反動汚染によるものなので特に負傷はしておらず、ブリッジに戻った。

 現在アダムと戦えるのは響と輪、そして反旗を翻したサンジェルマンの3人。しかし輪はまだまだ離れた位置にいる為、現在アダムと対峙しているのは響とサンジェルマンである。頼みの神殺しの情報も未だに届かない。故に神の力を完成させる前に何としてもアダムを倒さなければならない。

 サンジェルマンの銃口が、アダムにその敵意と共に向けられる。

 

「神の力は、人類の未来のためにあるべきだ。ただの一人が占有していいものではない!」

「未来?人類の?くだらない!」

 

 吐き捨てるかのように帽子を投擲、そのつばは炎を纏っている。サンジェルマンが弾丸を発砲し続けてもその威力は減衰しない。サンジェルマンに直撃する直前、響が前に出て帽子を弾き返した。今でこそ共闘しているとはいえ元は敵同士。サンジェルマンは庇われる事に理解出来なかった。

 

「何故私を?!」

「ワガママだと……親友は言ってくれました。」

「ワガママ……?」

「群れるなよ、弱い者同士がぁ!」

 

 アダムの両手から放たれた炎が降り注いだ。二人は跳躍して回避する。着地したサンジェルマンはすぐに弾丸で反撃するもアダムは軽々と避けていく。舌打ちしながら肩のアーマーから弾倉を射出、それを銃にリロードして、引き金を弾くと、ビームを発射。だがアダムはそれを手に取った帽子で簡単にはいなされる。

 

「誰かの力に……」

 

 サンジェルマンは振り返ると背後にいる響が、先程のサンジェルマンの問いに答える。

 

「潰されそうになってたあの頃。支配に抗う人に助けられたら、何かが変わったのかもしれない……そう考えたら、サンジェルマンさんとは……戦うのではなく話し合いたいと、体が勝手に動いてました!」

 

 その答えを受け取ったサンジェルマンは、ティキの方を見る。

 

「立花響、お前が狙うは……ティキ。神の力へと至ろうとしている……人形だ。器を砕けば、神の力は完成しない。この共闘は馴れ合いではない……私のワガママだ!」

「我が儘だったら仕方ありませんね!誰かの為に、サンジェルマンさんの力を貸してください!」

 

 これで二人は本当の意味で戦友となった。アダムはそれを忌々しそうに見ながら、地へと降り立つ。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 クリスが放ったミサイルにしがみつきながら目的の神社へ急行する輪。慣れてきたのか叫び声や酷い形相は見られなくなった。向かっている間に響達に起きた事態を、弦十郎から通信で知らされた。

 

「響が錬金術師と共闘?!」

 

 錬金術師と共闘するなどありえないと固定概念に囚われているせいか信じられない様子だった。しかし、響の性格を考えればそうなるのも当然かと考えると、その固定概念はすぐに破れた。

 

『だがそれでも統制局長、アダム・ヴァイスハウプトは強力だ!輪君もすぐに共同戦線加わってくれ!』

「オーケー!あっ……見えた!」

 

 響とサンジェルマンがアダムに立ち向かう姿が遠くからでも見えた。輪はミサイルの上に少しずつ立ち上がり、サーフボードのように乗りこなした。そしてそのミサイルの信管の向かう先は、アダム。だがアダムも自身に害を向けられているのを見逃す間抜けではない。ミサイルの接近にはすぐに気付かれるが

 

「輪ちゃぁん……ミサアアァァァーーーーイル!!」

 

 輪はミサイルから飛び立ち、乗り捨てた。無人のミサイルはアダムに一直線に向かう。アダムはミサイルを帽子を投擲して叩き折るが、それにより爆炎と煙が撒き散る。

 

「2連打ァ!!」

 

 巨大化させた二つのチャクラムの持ち手を、左右の足でオーバーヘッドキックを蹴り込って投擲した。

 

  【雷翼・サンダードラゴン ver2】

 

 煙から2つのチャクラムが現れ片方は身体を逸して避けたが、もう一枚は左腕に直撃し、切断こそされていないがそれでも大きなダメージである事には変わりない。

 

「ラピスのファウストローブ?!何故人間が……」

 

 輪の到着と、輪がファウストローブを纏っている事に驚くサンジェルマン。

 

「輪さん!!」 

「よっと……状況はオジサンから聞いた!早くあの人形を……」

 

 ぶっ壊してと言い切る前に立ち塞がったアダム。だがその腕を見た3人が驚愕する。アダムの切り傷から流れているのは血ではなくスパーク。肉ではなく束ねられたケーブル。その意味に3人は気付いた。

 

「錬金術師を統べるパヴァリア光明結社の局長が……まさか?!」

「ヒトですらない……これって……!」

「人形?!」 

「人形だと……人形だとおおおおぉぉぉぉ?!」

 

 アダムが初めて怒りと苦痛を露わにした。それに呼応するようにティキが叫んだ。

 

「許さない!アダムをよくも、痛くさせるなんてええええぇぇぇ!!」 

 

 ティキの躯体が光り出した。

 

「何が?!」

「光が!……生まれる……!」

「まさか……神の力が?!」

 

 次第に肥大化する光が直視出来なくなり、腕で光を遮る。次第に光が弱まっていくと、目の前の光景に3人は唖然とする。

 上空には巨大な人魚の姿、それは神と呼ぶには禍々しいものである。胸元のコアパーツにはティキが封じられている。

 

「神力顕現……。持ち帰るだけのつもりだったんだけどね、今日のところは……。」

「ごめんなさい……私……アダムが酷い事されていたから……つい……」

 

 起きてしまった事は仕方ないと言わんばかりに目を瞑る。

 

「仕方ないよ、済んだことは。だけどせっかくだから、知らしめようか……完成した神の力、ディバインウェポンの恐怖を!」

 

 目を見開いたアダム。するとディバインウェポンとなったティキの口から無差別に光線が撃ち込まれた。3人は何とか避けるが、その威力は桁違いであり、爆発の余波で響と輪が吹き飛ばされる。

 次に二人が起き上がった時には、周辺の街が壊滅的被害に遭っている。木々はもちろん、建造物の殆どが瓦礫と化し、地面からは炎と爆煙が立ち込めている。輪は目の前に広がる惨劇を引き起こした力が信じられずにいる。

 

「これが……こんなのが……神の力だっていうの……?!」

「人でなし……サンジェルマンはそう呼び続けていた……何度も僕を……。」

 

 空中にいるアダムは3人を見下ろしている。

 

「そうとも……人でなしさ、僕は。何しろヒトですらないのだから……。」

「アダム・ヴァイスハウプト……貴様は一体……?!」

 

 アダムが地に降り立つ。

 

「僕は作られた……彼らの代行者として。」

「彼ら?!」

「だけど廃棄されたのさ、試作体のまま……完全すぎるという理不尽極まる理由をつけられて!」

 

 響の問いを無視してアダムは、己の出生を暴露した。怒りを滲ませながら。

 

「ありえない……完全が不完全に劣るなど……。そんな歪みは正してやる!完全が不完全を統べる事でねぇ!!」

 

 アダムの意思に呼応するようにディバインウェポンが再び光線を放とうとするが、そう何度も撃たせるわけにはいかない。立ち上がった響と輪に、サンジェルマンは問う。

 

「何を……?!」

「あんなの何度も撃たれたら、たまったもんじゃないでしょうが!」

「撃たせるわけにはぁ!!」

 

 跳躍した二人はディバインウェポンの顔面を殴った。それにより、ディバインウェポンの顔は空を向けられた。しかし、発射は阻止出来ず、放たれた光線は宇宙に浮かぶ衛星に直撃、大破した。

 さらに響がディバインウェポンの腕に文字通り虫けらのように叩き落とされた。

 

「響!!うわあぁっ!!」

 

 輪も同様に叩き落された。

 

「こんな力のために、カリオストロは、プレラーティは……まさかアルベルトはこれを……!」

 

 アダムの危険性をアルベルトは最初から知っていたと事を悟ったサンジェルマン。神の力の全容までは知らず、裏切った最大の理由は別にあるが、それでも裏切るには十分な理由である。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 本部では先程のディバインウェポンの攻撃による軍事衛星が破壊された事によって、モニターの信号が途絶。さらに各省庁からの問い合わせが殺到するが、今はそれどころではない。大至急別モニターに変更する作業をオペレーター陣が進めているが、その画面にあの男が映り出した。

 

『どうなっている?』

 

 風鳴の現当主、風鳴訃堂である。突然訃堂が何の前触れもなく通信してきた事に、弦十郎も困惑を隠せない。

 

『どうなっていると聞いている。』 

「はっ……目下確認中であり……」

『儚き者が……此度の騒乱は既に各国政府の知る所……ならば、次の動きは自明であろう。共同作戦や治安維持などと題目を掲げ、国連の旗を振りながら、武力介入が行われる事が何故分からぬ?!』

 

 訃堂にとって、自国が他国の者に足を踏み入れられる事が我慢ならない。愛国故の叱責なのだろうが、そこに人の情けなどというものはない。

 

『ですがきっと打つ手はまだあります!その為の我々であり……』

 

 聞くに堪えないと判断した訃堂は通信を一方的に切った。

 

「やはり……この国を守護せしめるは、真の防人である我を置いて他になし……。」

 

 通信を切られた弦十郎は、事態の重さを深刻そうに受け止めている。装者達も同様だ。この戦いに風鳴宗家が動き出すという事を意味する。自国を守る為ならば手段を問わない訃堂だ。たとえ死人が出たとしても意を介しないだろう。

 

「モニター出ます!」

 

 別視点からのモニターが映し出された。だがそこは倒れた響と輪だった。

 

 サンジェルマンがなんとかディバインウェポンにダメージを与えるが、損壊した場所がすぐに修復された。それもただ復元ではない。

 ヨナルデパストーリの時と同じ、無かった事にされるダメージ。これでは例えディバインウェポンを全壊させたとしてもまた最初からやり直しである。それに加えて圧倒的な破壊力である。これでは攻略しようがない。

 

「不完全な人類は……支配されてこそ、完全な群体へと完成する。人を超越した僕によって!」

「世迷うなよ……人形……!」

 

 既に支配者を気取るアダムに悪態をつくサンジェルマン。

 

「錬金術師失格だな、君は……。支配を受け入れたまえ。完全を希求するならば!」

「ハハハ……!」

 

 突然聞こえてきた笑い声。その主である輪が痛みを押し殺して立ち上がった。アダムがそれを苦々しく見下ろしている。

 

「あんた……さっきから完全だの不完全だの……言いたいことばっか言いやがって……。結局……完全を気取るあんたは……所詮程度ってわけじゃん……。」

「何……?」

 

 完全を侮辱された事に怒りを滲ませて睨みつける。

 

「人は不完全だって言ったよね……?当たり前じゃん……最初なら完全な奴なんていないし……完全に辿り着く奴なんてはなっからいないっての……!」

 

 輪を虐めて来た連中、仲間達やフィーネ、F.I.S.に錬金術師達、そして自分。多くの人間を見て来たが、誰一人完全と呼ばれる者はいない。誰しもが醜い欲望や心の闇や傷を抱えている。

 

「だけどね……人間は不完全だからこそ、何度でも立ち上がれるし、何度だってやり直せる……!失敗から学ぶ事だって沢山ある、弱かった自分を強くしてくれる!誰かを支えて、慈しんで、繋がる事だって出来る!」

 

 そして、輪はアダムに向かって指す。

 

「それに比べてあんたは薄っぺらいんだよ!何が完全だああぁん?!そういうのが一番ムカつくんだよ!その気取った態度も、上から目線も!だからぶっ飛ばす!相手が完全でも、何度だって逆らってやるよこのクソ野郎がぁ!!」

 

 どんな逆境でも己を貫き通して来た輪。今度は完全に挑もうとしている。輪は2つのチャクラムを自身を包むように高速に展開させたまま、アダムにチャージタックルする。

 

【狂嵐・ヘビーストームプレス】

 

 しかしそのリーチは短い。アダムは跳躍して範囲外へ逃げようとした時、突如チャクラムが回転する範囲が拡張された。反応が遅れたアダムの帽子のつばが斬れた。

 

「チッ……!」 

「小賢しい真似をするな……人間如きがぁ!」

 

 風の斬撃が輪に襲い掛かるが、回転するチャクラムが防御にも応用出来たお陰で守られた。さらに後方のサンジェルマンの援護射撃によって、アダムに追撃される事なく後退する。だが敵はもう一人、ディバインウェポンが響を狙っている。

 

「マズい!」 

 

 光線を発射される前に響を抱えて何とか跳躍して避けられたがその爆発の余波で吹き飛ばされてしまう。

 

「うわあああああぁぁ!!」

「輪さん!!」

「このままじゃ、あいつまでやられちまうぞ!」

「有為に天命を待つばかりか?!」 

 

 輪の悲鳴が本部に響き渡る。このまま仲間がやられる姿を黙って見ているしかない現状に、皆が歯痒くなる。

 

『諦めるな!あの子も、きっとそう言うのではありませんか?』

  

 突如ブリッジに入った通信。発信源も暗号コードによって全てが匿名化されている。だがそれと同時にモニターにあるものが映された。

 

「解析された、バルベルデドキュメント?!」

 

 その内容に藤尭が驚愕しながらも報告する。

 

『我々が持ちうる資料です。ここにある神殺しの記述こそ、切り札となり得ます。』

「神殺し!何でまた?!」

 

 遂に待ち侘びた神殺しの情報だが、突然ここに提供された事に疑問を持つクリス。そこに緒川から通信が入った。

 

『調査部に神殺しに関する情報を追い掛けていた所、彼らと接触、協力を取り付ける事が出来ました。』

 

 同時に映し出される一本の槍。間違いなくこの槍は聖遺物であろう。

 

『かつて、神の子の死を確かめる為に振るわれたとされる槍、遥か昔より伝わるこの槍は、凄まじい力を秘めていたものの……本来、神殺しの力は備わっていなかったと、記されています。』 

「それなのにどうして……?!」

 

 調の疑問通り、神殺しと呼ばれるのであればその力がなければ意味がない。匿名者は続ける。

 

「2000年以上に渡り、神の死に関わる逸話が本質を歪め、変質させた結果であると。」

「まさか……バイデントど同様、哲学兵装か?!」

『前大戦時にドイツが探し求めたこの槍こそが……』

 

 その名前がモニターに大きく表示され、驚愕した弦十郎が叫んだ。

 

「『ガングニール』……だとぉ?!」

 

 その驚愕の叫びが聞こえたのか、響が起き上がった。

 

「……そうなんですね。また……何とか出来る手立てがあって、それが私の纏うガングニールだとしたら……もう一踏ん張り、やってやれない事はない!!」

 

 立ち上がった響。

 

「気取られたか……。ティキ……!」

 

 神殺しの正体が露呈され、悪態をつくアダム。ティキに命じると、言うとおりに2つの光線を放つ。響は残った力を振り絞って回避しながら破壊すべき対象へと駆ける。

 

「行かせるものか、神殺し!」

 

 阻止せんと帽子を投擲するが、それは銃弾によって阻まれた。

 

「なるほど、得心がいったわ。あの無理筋な黄金錬成が、シンフォギアに向けた一撃ではなく、局長にとって不都合な真実を葬り去る為だったのね。」

 

 合点がいったサンジェルマンが、風鳴機関を破壊した真の理由を述べた。

 

「言ったはずなんだけどなぁ……賢しすぎると!」

 

 アダムが自身の左腕に繋がれたケーブル引きちぎり、指を立てる事でそれを剣のようにする。サンジェルマンも銃のブレードを展開して、一騎討ちとなる。

 だが同時に、それは響がディバインウェポンへ辿り着く絶好の機会となる。それに気付いたアダムはサンジェルマンを振り払おうとするが、彼女がそれを許さない。

 

「寄せつけるなぁ!!蚊蜻蛉ぉ!!」

「うおおおおおぉぉぉ!!」

「アダムを困らせるなああああァァァ!!」

 

 響とディバインウェポン、2つの拳がぶつかり合った。だが神殺しの力を備えたガングニールの一撃に神の力をぶつけてしまえば、作用してしまうのは自明の理である。ぶつかった拳は、腕ごと粉々に砕け散り、ティキが悲鳴をあげる。しかも再生出来ない。神殺しが効いているのだ。

 

 本部ではその力に息を呑む。そして朗報はそれだけではない。目覚めた切歌がブリッジに入ってきた。万全ではないが歩いても問題はないくらいに回復していた。心配していた調が切歌を抱きしめる。

 

『バルベルデから最後に飛び立った輸送機、その積み荷の中に、大戦時の記録が隠されていたのです。』

 

 調と切歌が無茶をして飛び立たせた輸送機、あれが功を奏し、巡りに巡ってこの戦局を打開させた。

 

「あの時の無茶は……無駄ではなかったのデスね。」

「教えてほしい。君の国が手に入れた機密情報を、何故我々に?」

 

 弦十郎が匿名者に問う。いくら助けてもらったとはいえ、異端技術に関する資料はブラックケースと同等の代物。はいどうぞと簡単に提示も貸与も出来るものではない。

 

『歌が……聴こえたので。』

「歌……?」

『先輩が教えてくれたんです。あの時、「燃え尽きそうな空に歌が聴こえてきた」って。そんなの……私も聴いてみたくなるじゃないですか!』

 

 響が右腕のバンカーアームを展開、ドリルの様に高速回転させる。

 

「神殺し止まれえぇ!!」

 

 アダムが叫ぶが、それで止まる響ではない。腰部のブースターを最大まで点火させる。

 

「八方極遠に達するはこの拳!いかなる門も打開は容易い!!」

 

 もはや神殺しが破壊されると判断したアダムがティキに呼びかける。

 

「ハグだよティキ!さあ、飛び込んでおいで!神の力を手放して!」

「アダム大好きいいいぃぃぃ!!」

 

 胸部に封じられているコアユニットが、ディバインウェポンから射出されてしまった。例えディバインウェポンを破壊出来ても、依代であるティキが生きていれば再び神の力を宿してしまう。

 

「させるかあああああぁぁぁーーーーー!!」

 

 だが輪の叫びと共に力いっぱい投擲されたチャクラムがコアユニットに直撃、アダムに向かっていたはずが響の方へと軌道が変わってしまう。

 

「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーー!!」

 

 ドリルがコアユニットティキの半身ごと穿ち抜いき、依代を失った事でディバインウェポンの身体が消失した。

 

「やった……!」

 

 ダメージと披露でヘトヘトの輪はその場にへたりこんだ。

 そして上半身だけとなったティキは、白目を向きながら両腕を広げて

 

「アダム好き大好き!だから抱きしめて!離さないで!ドキドキしたいの!」

 

 こんな状態であるにも関わらず、アダムに一途である。だが当の本人は

 

「恋愛脳め……いちいちが癇に障る……。だが間に合ったよ、間一髪。人形を……神の力を付与させるための……。」

 

 ティキをゴミを見るような目で見下している。もう使えないと判断して切り捨てようとしている。だがまだ空には神の力が漂っている。ティキを使えないガラクタの如く蹴飛ばすと、自身で引きちぎった左腕を天に掲げる。

 

「断然役に立つ……こっちの方が!付与させる!この腕に!その時こそ僕は至る!アダム・ヴァイスハウプトを経た、アダムカダモン!新世界の雛型へと……」

「戯言を抜かせ……人形風情が。」

 

 何処からか冷たい声が響き渡る。すると空に漂っていた神の力がアダムとは反対の方へと向かう。

 

「どういう事だ……?!」

 

 そこにいたのは病院着を着た一人の少女。その右腕に神の力が取り込まれた。

 その少女をモニターで拡大、その姿を捉えたが、それを行った藤尭が驚愕する。

 

「この子は……まさか?!」

 

 皆が驚愕する。クリスが呟いた。

 

「姉……ちゃん……?!」

 

 神の力を取り込んだのは心が崩壊し、アルベルトに攫われ行方不明だった瑠璃。だがその瞳は冷たい闇を思わせる。

 

「瑠璃……!何でここに……?!何で神の力を?!」

 

 輪もその姿を見つけたが、次々と起こる事態の理解が追いついていない。さらに瑠璃は宿した神の力の半分を、響に向けて放った。

 

「何……これ……?」

 

 身体を包むように神の力が響の身体に入り込んだ。

 

「ぁ……ぅ…………うわああああああああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 光と共に、ツインタワービルの間に形成された心臓型の繭。光の点滅が鼓動を表してある。その上に瑠璃が到達すると、瑠璃の首に掛けられた黒い結晶が邪悪な光を発した。

 

「どうなってやがんだ?!」

 

 何が起きているのか、敵味方問わず分からない。光が弱まり、その姿がハッキリと映る。病院着ではなく、黒いインナースーツに鎧。

 

「あれは……ファウストローブ……?!」

 

 歌を介していない為、輪はすぐに瑠璃が身に纏ったそれを理解出来た。ファウストローブを纏った瑠璃が3人を見下し

 

「我は……冥府より舞い降りし……絶対の破壊者なり……。」

 

 右腕を突き出し、冷たい声で高らかに宣言した。




遂に瑠璃の久々の出番!

が……まさかの闇堕ち……?!


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絶対の破壊神

遂に姿を表した闇瑠璃。
そして、輪とクリスが奴に対してブチギレます


 ようやく再会できたと思われていたが、それは正反対の者。誰かを慈しみ、誰かを想える瑠璃が、全てを否定し、拒絶する闇を纏った絶対の破壊者として降臨していた。仲間達はそれが信じられずにいる。

 だがアダムは、目論見が崩れた事に落胆する。

 

「台無しだぁ……僕の千年計画が……。それでも……神の力をこの手に……!」

 

 アダムはその姿を消した。一方残されたサンジェルマンは目の前の光景に唖然する。神の力は、生まれ持って現在を背負う。故に神の力を宿せない。だからこそ、瑠璃がそれを操り、響に纏わせた事が信じられない。

 

「瑠璃!!」

 

 輪が叫ぶと、瑠璃が見下ろす。

 

「何で……何であんたが?!瑠璃ぃ!!」

 

 悲痛な叫びが木霊する。瑠璃を助ける為にファウストローブを纏い、戦ってきた。だが返ってきたのは

 

「お前は戦士か……?ならば構えろ。」 

「瑠璃……!」

 

 瑠璃が望んだのは、刃を交える事。それも、一番の親友であるはずの輪に。輪は絶望し、俯いて涙を流している。その姿に失望した瑠璃は

 

「戦わない戦士に興味はない……失せろ。」

 

 手にした二又槍からエネルギー波を放った。顔を上げた時にはもう避けようにも間に合わない。だがサンジェルマンが直前に輪を抱えて避けた為、無傷で済んだ。

 

「しっかりしろ!」

「サンジェルマン……さん……。」

『輪君!すぐに撤退しろ!』

 

 弦十郎からの通信で撤退を促される。しかし、瑠璃が何故自分を攻撃して来たのか、理解出来なければ素直に命令を受け入れらず、どうすれば良いのか分からない。

 

「分かんないよ……どうすれば良いのか……ここまで頑張って来たのに……その結果が……」

「行くぞ!」

 

 サンジェルマンに抱えられたまま、そのまま瑠璃から離れる事になった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 あれから2日後、響の誕生日を迎えた。だがその主役である響は神の力を取り込んだまま、あの巨大な繭の中にいる。さらに立ち塞がった絶対の破壊者瑠璃。家族である翼とクリスが、モニターに映る瑠璃を見てその変わりように困惑している。

 

「瑠璃……。」

「姉ちゃん……何で……。」

 

 さらに八紘からの通信で問題は山積みである事を認識させられる。

 

『立花響と瑠璃の両名が神の力と称されるエネルギーに取り込まれてから、48時間が超過。国連での協議は最終段階。間もなく、日本への武力介入が決議される見込みだ。そうなるとお前達S.O.N.G.は、国連指示のもと、先陣を斬らねばならないだろう。』

「やはりそうなってしまうのか……!」

『さらに状況が状況であるため、事態の収拾のため、反応兵器への使用も考えられる。』

「反応兵器?!だが、あそこには瑠璃と響君が!」

 

 反応兵器呼ばれるそれは、端的言えば核と同等の威力を誇る兵装。そんなものが撃ち込まれれば、瑠璃と響はおろか、辺り一体が焦土と化す。

 

『無論、そんな暴挙を許すつもりはない。だが、世界規模の災害に発展しかねない異常事態に、米国政府の鼻息は荒い。』

 

 あの時、ディバインウェポンによって撃ち落とされた軍事衛星が、米国だけでなく、全世界を恐怖に陥れてしまったのだ。

 

『引き続き、事態の収拾に尽力してほしい。それがこちらの交渉カードになりうるのだ。』

「分かった。すまない兄貴……。」

 

 通信が終わった。こうなれば最悪の結末だけは避けなければならない。そこにエルフナインが報告する。

 

「あの蛹状の物体内部に響さんの生体反応を確認しています。絶対の破壊者と化した瑠璃さんは、神殺しの力を持つガングニールを封じ込める為に、響さんに神の力を分け与えたのだと思います。ですが、神殺しの力が神の力の融合を食い止めていると思われます……ただそれもいつまで持つか……。」

 

 神殺しが天敵であれば、それを封じ込めてしまえばいい。まさかこの形で切り札を封じ込めてしまうとは思わなかったのだろうが、それでもまだ希望は残されている。

 ブリッジに入って来たのは、装者ではない。外部協力者、小日向未来だ。響の身を案じる未来が声を荒げて弦十郎に聞く。

 

「響があの中にいるんですね?!響は無事なんですか?!」

「もちろんだ。その為に君を呼んでいる。マリア君達に繋いでくれ。」 

 

 モニターには現場から少し離れた車両に乗っているマリアと切歌と調が映っている。

 

「どうやったら響と瑠璃さんを……助けられるんですか?」

「これを使います。」

 

 代わりにエルフナインが答える。その手にはガンタイプの注射器。その瓶の中にある赤い液体。F.I.S.だった3人はその薬に見覚えがある。

 

『LiNKER……?違う……あれは……』

『Anti LiNKERデス!』

「LiNKERとAnti LiNKERは表裏一体。LiNKERを完成させた今、LiNKERもまた生成可能です。」 

『でも、適合係数を低下させるAnti LiNKERを使って、どうやって……?』

 

 効果は知っていても、瑠璃と響相手に何故それを使うのか、マリアはエルフナインに問う。

 

「ヨナルデパズトーリとディバインウェポン。どちらも依り代にエネルギーを纏って固着させたもの。まるで、シンフォギアと同じメカニズムだと思いませんか?」

 

 エルフナインの意図を、皆はすぐに理解した。

 

「響君を取り込んだエネルギーと、ギアを形成する聖遺物のエネルギーの性質が近いものだとするならば……」

「Anti LiNKERでぽんぽんすーにひん剥けるかもしれないんだな?!」

「はい。ですが瑠璃さんの場合、それだけでは終わらない可能性があります。」

「どういう事だ?」

 

 弦十郎がその訳を問う。

 

「今の瑠璃さんは、今までのとは別人。もし過去のトラウマから己を守る為に作り出した別人格であれば、例えファウストローブを解除出来たとしても、元の人格に戻さなければ意味がありません。恐らく、その鍵となるのがクリスさんと、輪さんになります。」

「あたしらが……姉ちゃんを元に戻すための……。」

 

 これはあくまで仮定の話。正しいかどうかは証明しようがない。だが試す価値はある。もし事が上手く運べば、瑠璃が帰ってくるかもしれない。

 その為に、エルフナインは6つのギアのペンダントを出した。翼がそれに反応する。

 

「コンバーターユニット!それでは……!」

「反動汚染の除去は完了。いつでも作戦に投入可能です。念の為、バイデントのギアも愚者の石による対消滅バリアコーティング搭載してありますが……これはクリスさんが持っていてください。」

 

 エルフナインから渡されたバイデントのギアペンダントを、クリスが受け取る。

 だが不可解な事がある。何故ここに未来が呼ばれたのかだ。未来は装者ではないし、輪のようにファウストローブを持っていない。当の本人も呼ばれた理由が分かっていない。どうすれば良いのか分からず、弦十郎に聞く。

 

「あの!私にも出来る事があれば……!」

「君はこの作戦の、エースインザホール。切り札だ!」

「私が?!」 

 

 切り札が自分である事に驚く未来。どうしてそうなるのかは分からないが、エルフナインも未来の前に立って険しい顔になる。

 

「危険を承知でお願いします。」

 

 エルフナインがペコリと頭を下げた。

 

「分かりました!」

 

 未来は強い返事で答えた。

 

「そして、もう一人……。」

 

 弦十郎がモニターに目をやると、そこに映るのは落ち込んでいる輪の隣に座っているサンジェルマンだった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 あれから輪は立ち直れずセーフティルームに籠もっていた。まさか瑠璃が自分に刃を向け、戦う事になるなんて思いもしなかった。もう優しい瑠璃が何処にもいない。その現実が輪を苦しめていた。

 そこにドアがノックされた。

 

「入るわよ。」

 

 声と共に扉が開くと、サンジェルマンが中に入って来た。

 

「サンジェルマンさん……。」

「隣座るわよ。」

 

 そう言うと輪が座るベッドに、隣り合うように座る。

 

「大丈夫か?」

「まあ……少し落ち着いた……かな。」

 

 ほんの少ししか関わりがないサンジェルマンでも輪が見せているのが作り笑顔である事分かる。彼女が何故ラピスのファウストローブを纏えたのか、アルベルトを失った今、知る術はもうない。

 アダムとの戦いで見せた反逆の闘志、あれは過去に踏みにじられ、そうならないよう己を磨き上げたものであると感じた。だが今の輪にはそれが感じられない。絶対の破壊者となった瑠璃たった一人によって、輪は戦意を挫かれてしまったのだ。現に輪は俯いてばかりで何も話そうとしない。それを見兼ねたサンジェルマンは

 

「いつまで立ち止まっているのか?」

 

 いつまでも俯いている輪に、我慢がならないサンジェルマンが厳しい言葉で叱責する。

 

「あの時、お前は支配に屈する事なく、アダム・ヴァイスハウプトに立ち向かった。だが今のお前は……あの時の雄姿は、一体何処へ行ってしまったのか……」 

「何が言いたいの……?」

 

 輪がサンジェルマンを睨みつけている。ならばとサンジェルマンは答える。

 

「お前は友を助ける為に、友を傷つけるのが怖い。同時に傷付くのが怖い。そして、あの破壊者の冷たくも圧倒的な圧力。それに怖じた……だから戦えない。それは紛れもなく、逃げているだけだ。」

「違う!私は逃げてるわけじゃ……」

「では何故取り戻す為に正面から戦おうとしない?!その為にラピスを受け取っておきながら背を向ける?!」

 

 サンジェルマンに痛い所を突かれ、輪は必死になって反論しようとしたが、ぐうの音も出ないくらいに言い負かされた。認めたくなかった事実を突きつけられた輪は、再びベッドに座り込む。

 

「あんたの言う通りだよ……私……瑠璃を傷つけるのも怖いし……あの時の瑠璃……普通じゃなかった……。」

 

 瑠璃の目、あれは人を慈しむ目ではない。蹂躙する者の目だ。瑠璃らしからぬ冷徹で残忍な言動。皆が知る瑠璃とは正反対だ。

 

「これは……私の憶測だが……。あの凄まじい圧迫感と迫力……あれは人のものではない。」

「え……?」 

「錬金術師でも、あのような邪悪な力を纏った者はいない。あれは……カストディアン……中でも上位。あれは……アヌンナキだ。」

「アヌンナキ……?」

 

 聞き慣れないワードに輪は聞く。

 

「お前達の言う所の……神だ。」

「神……?!」

 

 それは瑠璃が神であると言っているようなものだ。そんな荒唐無稽で出鱈目な憶測があってたまるかと、輪はサンジェルマンの憶測を否定する。

 

「あり得ない!瑠璃が神様になるなんて……」

 

 だが輪は否定しきれなかった。確かにあれは、瑠璃とはかけ離れた残忍な言動。瑠璃ではない別人、ということに引っ掛かるのも事実。

 

「もしかして瑠璃は操られて……だとしたらアイツ!」

「アルベルトか?アルベルトはあの子にそのような小細工はしない。」

「え?」

「それとは正反対……彼女には献身的だった。」

 

 輪の推論は、サンジェルマンのアルベルト擁護であっさり否定された。確かにアルベルトはサンジェルマンを裏切った。しかし、彼女はアダムが危険である事を知った末の行動であると分かった今、アルベルトを否定する事はない。

 

 だが輪にとっては、親友を攫った張本人。そしてその親友があんな冷酷な別人へとなってしまった。簡単には許せない。

 

「別人……。まさか……」

 

 一つの可能性が閃いた途端、ノックによりそれは後回しとなった。

 

「輪君、入っても良いか?」

「あ……はい……。」

 

 応答すると、弦十郎、クリス、翼、エルフナインが入って来た。サンジェルマンが先に口を開く。

 

「情報は役に立ったかしら?」

「はい。賢者の石に関する技術無くして、この短期間に汚染の除去は出来ませんでした!ありがとうございます!」 

 

 エルフナインが礼を言う。サンジェルマンが提供したラピス・フィロソフィカスの技術のお陰で、あれだけ手こずった反動汚染の除去が短期間で終わってしまったのだ。

 

「それで、我々への協力についてだが……」

「それでも、手は取り合えない……。」

 

 弦十郎からの共闘の申し入れを断る。そこにブリッジから連絡が入る。

 

『司令、鎌倉から直接……』

 

 そこに割り込むように、セーフティルームのモニターに訃堂が映る。

 

『護国災害派遣法を適用した。』

「なぁっ?!」

「護国ぅ?」

 

 弦十郎と翼が護国災害派遣法を適応された事に驚愕する中、それが何なのか知らないクリスが問う。

 

 護国災害派遣法。ノイズや異端技術による超常現象が発生した場合、自衛隊の派遣など武力を用いて鎮圧させる法律。それを成立、施行させたのは風鳴訃堂、本人である。

 

「まさか、瑠璃と立花を、第二種特異災害へと認定したのですか?!」

「はあぁっ?!」

「じゃあ瑠璃は!」

 

 翼の問いで、クリスと輪は護国災害派遣法がどういうものか、薄々であるが勘付いている。

 

『聖遺物起因の災害に対し、無制限に火器を投入可能だ。対象を速やかに、殺傷分せよ!』 

「ふざけんな耄碌ジジイ!!姉ちゃんは被害者だぞ!!」

「あんた瑠璃のお祖父さんなんでしょう?!孫が危険に晒されてるっていうのに……」

『夷狄の娘など、孫ではないわ!』

 

 訃堂は実の息子と孫にすら愛情を注ぐ事はない冷酷非道な護国の鬼。そんな人間が養女を迎え入れるわけがない。クリスと輪の憤怒すら介さない。

 

『国連介入を許すつもりか?!その行使は反応兵器!国が燃えるぞ!』

 

 だが訃堂の言う通り、手をこまねいていれば国連決議のもと、反応兵器を使われかねない。しかし、訃堂の命令を素直に聞き入れれば、待っているのは瑠璃と響の犠牲という最悪な結末である。だがどちらもそれを望まない未来が前に出る。

  

「待ってください!響と瑠璃さんは特異災害なんかじゃありません!私の先輩と……友達です!」

 

 そして翼も並び立つ。

 

「国を守るのが風鳴ならば、鬼子の私は妹を、友を、人を防人ます!」 

『翼ぁ!その身に流るる血を知らぬか?!』

「知るものか!!私に流れているのは……天羽奏という、一人の少女の生き様だけだ!!」

 

 翼が訃堂の圧力に屈する事なく言い切った。だがそこに友里から報告が入る。

 

『司令!瑠璃ちゃんと響ちゃんの周辺に、攻撃部隊の展開を確認!』

『作戦開始は二時間後……我が選択した正義は覆さん。』 

 

 訃堂が通信を切った。訃堂は弦十郎達がどう選択しようとも、初めからそうするつもりだったのだ。

 サンジェルマンが訃堂がうつっていたモニターに向かって呟いた。

 

「あれもまた、支配を強いる者……。どうした……?」

 

 ワナワナと震える輪を見るサンジェルマン。それは怒りに満ち溢れている。

 

「あのクソジジイ!こうなったらどんな手を使っても瑠璃と響を助けるよ!クリス!」

「当たり前だ!」

 

 訃堂に対する反逆心で、再び輪に戦意が戻った。サンジェルマンはそんな輪を不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 




XD風セリフ集

夏編

瑠璃1
今年も暑くなってきたね。けど、しっかり食べないと夏バテしちゃうからね?

瑠璃2
輪が水着を選んでくれたんだけど……これ人前で着るの恥ずかしいよぉ!

輪1
暑い……溶ける……瑠璃ぃ……助けてぇ……

輪2
夏になると、毎年小夜姉主催の肝試し大会をするんだ〜。さあて、クリスを誘うか。


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救出作戦 前編

輪&クリスVS闇瑠璃 です


 ツインタワービルの間に形成された、巨大な繭への攻撃を自衛隊が展開する。響が閉じ込められているにも関わらず、攻撃を始めたのは風鳴訃堂の護国災害派遣法によるものだろうが、あの中には響がいるのだ。当然S.O.N.G.の面々がそれに憤慨する。

 

「彼らは知らされていないのか?!あの中に人が取り込まれているんだぞ!」

「このままでは、響ちゃんが!」

 

 藤尭、友里がそれを声に出すが、それでも自衛隊は砲撃を止めない。全弾命中という自衛隊員の朗報が聞こえる。だからこそサンジェルマンと共に車両に乗っている輪はある違和感に気付いた。

 

「おかしい……攻撃されているのに、どうして瑠璃は止めようとしないの?!」

 

 砲撃されているというのに瑠璃が一切守ろうとしない。それどころかモニターに影すら映っていない。輪の不安に、サンジェルマンがハッとする。

 

「砲撃を阻まないのは罠か!」

 

 サンジェルマンの推測、輪の不安、それが的中している事に気付くのは繭に亀裂が生じた時だった。やがて、その亀裂は繭全体に行き渡り、強烈な光を放つ。

 そして、その光が弱まると巨人の姿が現れ、誕生の咆哮をあげる。ツインタワービルの天辺にある一柱から見下ろす瑠璃。

 

『瑠璃ちゃんの姿を発見!』 

「やっぱり……あの砲撃で開放を早まらせようと……!」

 

 本部の藤尭の報告を受けて、輪は舌打ちをした。すると、現場に到着した為に車両がブレーキを掛ける。輪とサンジェルマンは急いで車両から降りた。遠目からでも繭から生まれた巨人、破壊神ヒビキの姿が見える。

 

「あれが……響なの?!」

 

 咆哮を挙げながら暴れ狂うその様に、輪は信じられずにいる。

 

「行くぞ。我々が彼女を足止めしなければ、作戦は成り立たない。」

「分かった!」

 

 もうすぐAnti LiNKERを積ませた特殊車両が到着する。もしそれが響と瑠璃を止める為の代物であると露呈されれば全力で阻止しに来るだろう。故に瑠璃を引き付けなければならない。輪はファウストローブを纏ってツインタワーへと走る。そして先に到着していたクリスも破壊神ヒビキを避けてツインタワーへと向かう。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 バイデントのファウストローブに身を包み、ツインタワーの天辺から眺めていた瑠璃。破壊神ヒビキが放つ光線が大地を焦がしても、表情を一つも変えず、止めようとしない。アガート・ラームのギアを纏ったマリアが、バリアで戦車を守っているのを見下ろしていると、瑠璃はここに近づくもう二つの影に気付いた。瑠璃はビルから降り立ち、その人物と相対する。

 

「瑠璃……!」

「姉ちゃん……!」

「お前達が来るか……。お前は怖気づいたのではなかったのか……?」

 

 瑠璃が、ラピスのファウストローブを纏っている輪を睨みつける。

 

「あの時は訳わからなくて、つい逃げちゃったけど……今度は違うから。もう覚悟を決めたんだ。」

「我から逃げ出したお前に、一体何が出来るというのだ?」

「そう……一度逃げ出した。私は瑠璃を助ける為にファウストローブを纏った。だけど、瑠璃を傷つける事を恐れて……違う。あれは、私自身が傷付くのを恐れたんだ。」

 

 瑠璃と戦う事は、最初から望んでいない。誰しも望まない事をするが嫌いなものだが、輪はそれをハッキリと体現している。故に瑠璃と戦う事を望まない輪は逃げ出した。

 

「そこまで分かっていながら……何故戻って来た?」

「瑠璃は……望んでないのに、逃げたくても逃げられない痛みや傷を背負わされて、一人で泣いている。」

「誰にも理解されない、助けてくれない……どうしようもないくらい深い闇に……姉ちゃんは一人ぼっちだ。」

 

 輪とクリス、握る拳が強くなる。

 

「瑠璃が助けを求めてるんだ。泣いている友達がいるなら……助けるのが友達でしょう!」

「欺瞞だな……!」

 

 闇と共に顕現した二又槍を手にすると、槍の穂先を天に掲げる。すると、穂先から放たれたエネルギー波が、雷のように連続で落ちてくる。輪とクリスはそれを跳躍して避ける。

 

「勇者を気取る蛮勇、この愚行……万死に値する。」

「やってみやがれ!何度も死にかけて戻って来た装者と元ヤンが、今更ビビるかっての!」 

 

 クリスが発破をかけて突撃すると同時に、輪も共に駆ける。瑠璃は二又槍を構える。

 

 作戦はこうだ。破壊神ヒビキにAnti LiNKERを打ち込ませる為に、まずは瑠璃を戦いながらなるべく破壊神ヒビキから遠くまで引き離す。Anti LiNKERで神の力を引き剥がす事が瑠璃に露呈されれば全力で妨害しにかかるだろう。幸い周囲は建物だった瓦礫に溢れている。半壊した建物の陰を利用すれば、破壊神ヒビキから目を離す事も出来る。それを担うのが輪とクリスだ。

 瑠璃の心の闇から救い出せる唯一の鍵。エルフナインと輪の推測、瑠璃が崩壊した心を周囲から守る為に作り出した闇の人格、そして取り込んだ神の力。そして身に纏うのは、バイデントのファウストローブ。神殺しが使えない今、瑠璃を目覚めさせる事が出来るのは一番の親友と最愛の妹だけ。

 そして、バイデントの天敵とも言えるラピス・フィロソフィカス。与えられるダメージは大きくなる。しかし神の力がある以上、そのダメージはすぐになかったことになるだろう。そこにAnti LiNKERを使って依代から神の力を引き剥がせれば倒す事は可能になる。

 

 戦いの口火を切ったのはクリスと輪。クリスがクロスボウの矢を雨あられの如く放ち、それを二又槍で弾いていく。そこに接近してきた輪がチャクラムを振り下ろす。二又槍の柄で受け止めた。これでラピスの力が発揮されるかと思われたが

 

「効いてない?!」

「何だと?!」

 

 ラピスのあらゆる不浄を焼き尽くす力が、バイデントのファウストローブに対して発動しなかった。驚愕している隙を突かれて、押し返されてしまう輪。一旦距離を離して、体勢を立て直す。だが事前に聞いていたのとは違う事態になっている事に動揺している。

 

「ラピスならバイデントの呪いを焼き払えるって言っていたのに……何で?!」

「槍自体は呪われていない。」

 

 突然瑠璃が答えた。それが輪が見落としていた点である事に気付いた。

 

「しまった……!呪われたのはあのギアであって槍じゃない……!」

 

 正確には哲学兵装である。槍自体には呪いの伝承などはない為、聖遺物であるバイデントは呪われてはいない。発端となったのはアーネンエルベでの実験で起きた悲劇である。故にそれとは別に作られたバイデントのファウストローブには哲学兵装は備わっていない。こうなれば地道にダメージを与え続けるしかない。

 

 一方、破壊神ヒビキの攻撃を翼、マリア、切歌、調、サンジェルマンが防いでいるが、出鱈目な威力ばかりであり、防いでもその余波で吹き飛ばされる。

 特殊車両は既に到着しているが、破壊神ヒビキからまだ遠ざかっていない。

 

「それにしても……あれが瑠璃だっていうの……?!」

「何だか怖い……。」

「あんなの、瑠璃先輩じゃないデスよ!」

 

 破壊神ヒビキと相対しているマリア、調、切歌は絶対の破壊者なった瑠璃の冷たい闇、得体の知れない恐ろしさを遠くからであるにも関わらず、それらを感じ取っていた。翼もモニター越しからでも、瑠璃の変わりようには驚愕していたが、いざこうして目の当たりにすると、これまで感じたことのない恐怖がのしかかって来るのが分かる。

 

「今は雪音と出水に任せるしかあるまい。我らは我らの成すべき事を成すぞ!」

 

 瑠璃が離れなければこの作戦は成立しない。今は輪とクリスに委ねるしかなかった。

 

 近距離では輪がチャクラムを振るって、クリスが放つ弾幕で徐々に破壊神ヒビキから遠ざける。輪とクリスの攻撃で目の前の二人に集中している瑠璃は、破壊神ヒビキから少しずつ遠ざかっている事に気付いていない。

 瑠璃の二又槍と輪のチャクラムがぶつかり、鍔迫り合いになる。

 

「意外だよ。我から逃げ出したお前が、ここまで戦えるとはな。」

「それはどう……もっ!」

 

 輪が強引に押し込んだ。そして横からクリスのガトリング砲の弾幕が放たれ、瑠璃はそれを跳躍して避ける。

 半壊した瓦礫の建物まで誘い込んだのを確認した翼は好機と捉えた。

 

「今だ!始めるぞ!」

 

 

 特殊車両に積み込まれた巨大なアンカー。中には大量のAnti LiNKERが詰め込まれている。これを打ち込む為には、あの暴れ狂う巨体の動きを止めなければ打ち込んだ所で振り払われてしまう。故に拘束は必須である。翼が大量の短刀を投擲、破壊神ヒビキの影に刺さる。

 

 

【影縫い】

 

 しかし、対人戦に特化した影縫いではすぐに振り払われてしまう。

 

「だけどこの隙を、無駄にはしない! 」

 

 マリアの短剣の刃から白いヴェールを展開、破壊神ヒビキの周囲を縦横無尽に駆け巡る。その間に、サンジェルマンが銃を発砲、破壊神ヒビキの注意を引きつける。神殺しが使えない以上、こうするしかない。次第にヴェールが縄のように、破壊神ヒビキの身体を拘束した。

 それに気付いたのか、解放されようと藻掻く。

 

「止まれえええええぇぇぇ!!」

 

 しかし、破壊神ヒビキは咆哮とともに暴れ狂う。たとえヴェールが強力でも、マリアが操作している以上、彼女がやられたらこのヴェールも消えてなくなり、破壊神ヒビキを自由にしてしまう。切歌、調がマリアを援護する。

 

「マリア!私達の力を!」

「束ねるデス!」 

「一人ではない!」

 

 さらに翼も手を貸し、アガート・ラームの固有の力であるエネルギーのベクトル操作によって、その拘束はより強固なものとなった。

 

「今です!緒川さん!」

「心得てます!」

 

 合図を受け取った緒川が、既に配備していた車両にアンカーを発射させ、破壊神ヒビキの身体に命中、その中に入っているAnti LiNKERが注射のように注入される。

 

「Anti LiNKER命中!注入を開始!」

「対象より計測される適合係数!急速低下!」

『弦、まもなく国連の協議が終了する。結果は日本の、立花響の状況次第だ!』

「人事は尽くす!尽くしている!」

『趨勢は圧倒的に不利!個人を標的に、反応兵器の投下が承認されてしまいかねない!』

「瑠璃……響君……!」

 

 本部も本部で切羽詰まっている。この作戦の結果によって、未来が決まる。失敗すれば反応兵器が撃ち込まれる。今度ばかりは弦十郎にもその緊張感が表面に出ている。

 

 半壊した建物が囲う場所で輪とクリスが瑠璃を抑えている。あとはAnti LiNKERを打ち込むその一瞬の好機を探る。

 

「やっぱりまだ神の力が馴染んでないみたいだね……。結構追い込まれているんじゃない?」

「その減らず口……すぐに黙らせてやる。うおおぉぉぉ!!」

 

 輪の挑発に応えるべく、神の力が発動した。受けたダメージを帳消しにしてしまった。それを目の当たりにした輪は愚痴をこぼす。

 

「やっぱ狡いよ、その力……。」

「これこそが、アヌンナキの我に相応しき力。その力の前には、貴様らの玩具など無力!」

 

 瑠璃が輪を目掛けて二又槍を突き出す。チャクラムをメリケンサック付きのガントレットへと変化させて受け流す。こうする事で二又槍の連続突きを素早くいなせる。しかし、先程受けたダメージが無かったことになった為、力と速度、鋭さがより増している。対する輪は体力が消耗している。次第に押されていき、腹部を蹴られて吹き飛ばされた輪は、建物の壁に背中を強く打ってしまう。

 

「輪!!」

「次は貴様だ!」

 

 今度は標的をクリスに変える。遠距離特化のイチイバルでは小回りが利かない為、連続突きをガトリング砲で防ぐ事しか出来ない。左手のガトリング砲が破壊されると、穂先から放ったエネルギー波をまともにくらい、倒されてしまう。

 

「他愛もない……ん?」

「はああああぁぁぁ!」

 

 突如現れたサンジェルマンが、半壊した建物の屋上から飛び降り、瑠璃にブレードを振り下ろした。

 

「甘いわぁ!」

 

 二又槍で受け流した。着地したサンジェルマンは倒れたクリスを広って担ぎ、輪に駆け寄る。

 

「お前、大丈夫か?」

「痛てて……何とか生きてる。」

 

 輪は身体中の痛みを押し殺して、何とか立ち上がる。降ろされたクリスはサンジェルマンに問う。

 

「何でこっちに来やがった?」

「あちらはもう作戦を開始している。あとはこっちだ。」

「それで救援ね。確かに……正直なところ手を貸してほしい。」

 

 3人は目の前に立ちはだかる瑠璃と相対する。

 




次で終わらせられるかなぁ……。


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救出作戦 後編

遂に決着!VS瑠璃!


 絶対の破壊者となった瑠璃の救出作戦に、サンジェルマンが参戦した。一度は倒された輪とクリスも立ち上がって二人は頷き合うと瑠璃の方を向き、再び対峙する。必死に足掻いて立ち上がる二人の姿を、瑠璃は忌々しいと思えてくる。

 

「まだ立ち上がるか……。」

 

 二又槍の穂先からエネルギー波が放たれ、3人はそれを跳躍して避けるが、建物の壁を貫いたそれは瓦礫と化す。槍の穂先を瓦礫に向けると、それらを上空に浮上、3人の方へと落とす。

 

「そんなのあり?!」

 

 輪はその出鱈目な攻撃に悪態つくも瑠璃へ向かって駆け出し、それらを避けられる瓦礫は避け、回避不可能な瓦礫はチャクラムを投擲して粉砕する。

 

「突っ走れ!」

 

 クリスとサンジェルマンも、それぞれの弾丸で瓦礫を撃ち落としている。

 

「特攻とは芸のない……!」

 

 二又槍を投擲すると、槍が大量に分裂して輪に襲い掛かる。一人の標的に対して、数で押し潰そうとしている。輪を本気で殺しに来ている。

 

「下がれ!」

「駄目だ!ここからでは……!」

 

 何処へ避けようしても間に合わない。クリスは駆け出すと輪を背にするように、瑠璃と真っ向から対峙。リフレクターを展開させる。槍が降り注ぎ、互いが衝撃し合う。リフレクターのお陰でクリスと輪は無傷ではあるが、槍の嵐が止まらない。このまま輪は串刺しになってしまう。輪はクリスの隣に並びたって右の掌底を降り注ぐ槍達に対して向けた。そして、その掌がから紫色のエネルギーバリアが展開された。

 

「何ぃっ……?!」 

「お、おい……そりゃあ……!」

 

 討ち取ったと確信していた瑠璃、フィーネに一番近くいたクリスにとって、それは衝撃的な事態だ。クリスだけではない。フィーネを知る者ならば唖然とする。フィーネの力を、それもレセプターチルドレンではない輪が扱っているのだ。

 フィーネの魂は調の中で完全に消滅している事は、フロンティアでの戦いでそれを目の当たりにした調、そして調からそれを聞いた切歌、そしてフィーネの消滅を感知していたサンジェルマン達だけだ。何故輪が使えるのかは分からない。だがフィーネの力を使えるという事は、既に輪の魂はフィーネに塗り潰されているという事になる。

 

「輪……?」

 

 かつて荒れていた自分を輪は救ってくれた。その友が、友でなくなり失われたのではないか。そんな恐怖に陥りそうになるクリスを、輪エネルギーバリアを解除させた輪が一喝する。

 

「みくびらないで!」

 

 背後のクリスに振り返った輪が、凛々しい笑みを浮かべている。だがその息は荒い。

 

「これは、瑠璃の中にあった櫻井さんの意識を……私に託してくれてさ……。だけど……いかんせん……体力の消耗が……激しくてさ……。」

 

 輪はフィーネではない。無自覚であるとはいえ、力を無理矢理に制御している分、反動が凄まじい。病院で対アルベルト戦でも使えたのは精々2回。次が最後の1回だ。そんな状態で、輪はクリスに問う。

 

「クリス、まだ行ける?」

 

 それにクリスが不敵の笑みを浮かべながら答える。

 

「誰に物言ってんだぁ?」

 

 クリスの返事を聞くと、今度はサンジェルマンの方を向く。

 

「力を貸してくれる?」

「言ったはずよ。これは共闘ではないと……」

「ワガママでも良い!だから……力を寄越せぇ!」

 

 輪の恫喝にも似たそのセリフ、サンジェルマンは答えを返さずに小さく頷いた。

 

「一つだけ……実は確かめたい事が……って来た!」

 

 瑠璃の方を向くと、いつの間にか二又槍を突き出そうとしている。慌ててチャクラムで防ぐが、体力を大きく消費してしまっているせいで左手の一個が弾かれてしまう。

 

「ヤバっ……」

 

 だが今度はサマーソルトキックを顎に直撃した輪はそのまま意識ごと、身体は飛んでしまう。

 

「輪!!」

 

(あ……駄目なやつだ……これ……)

 

 クリスの悲鳴すらまともに聞こえていない。意識ごと飛んだ身体は瓦礫の床へと叩き落された。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あれ……ここは……」

 

 真っ暗な空間に一人になっている輪。先程までファウストローブを纏って瑠璃と戦っていた。そして瑠璃の急襲で思わぬ一撃をくらったところを思い出した。そして何故一糸まとわぬ姿で何も見えない空間にいるのか。だが、この空間は一度見た事がある。

 

「確か……瑠璃が暴走した時に……。もしかしてここって……!」

 

 かつて瑠璃が、イグナイトモジュールの支配に失敗して暴走した時、バイデントとフィーネの力で入った、瑠璃の精神世界。フィーネの力を宿した輪は、バイデントのファウストローブを利用して、再びこの世界へと入る事が出来た。

 

「けど……何でまた……。バイデントに一体どんな力が……。」

 

 だがどんなに考察力が高い輪でも聖遺物や異端技術の知識は皆無である。結論に辿り着けないなら、辺りを探す他ない。

 

「ん?」

 

 握っている掌が暖かく、それを開くとハートの結晶、ラピス・フィロソフィカスが輝きを発しながら輪の周りを浮遊する。

 

「どうしたんだろう?」

 

 すると、ラピスの結晶は輪の目の前を通り、遠くへ行こうとする。ただ、どこまでも飛んでいこうとはせず、途中で停止している。

 

「私を……待ってくれてるの?」

 

 何となく、そんな気がした輪はラピスの方へと歩き出す。その読みは当たっていたようです、ある程度近づくとラピスはまたその先へと移動する。まるで輪を導くようにラピスは動いている。そのお陰もあり、歩いているとすぐに手掛かりを見つける。

 

「あれって……!」

 

 手掛かりどころか、探していた者だ。ラピスが案内したのは、鉄錆びた檻のドーム。その中には、3年前、全てを奪われ凌辱された瑠璃が倒れていた。

 

「瑠璃!!」

 

 鉄格子を掴んで瑠璃の名前を呼ぶ。だが何度呼んでも返事がない。何とか強引にこじ開けようと力を入れようとした時

 

「れ……て……ない……」

「は……?」

「誰も……助けて……くれない……。」

「もしかして……泣いてるの……?」

 

 倒れている瑠璃は泣いている。この鉄格子に囲まれた暗闇で、独りぼっちで。

 

「クリスも……子供たちも……大人も……パパも……ママも……誰も助けてくれなかった……。痛いよ……やめてよ……たす……けて……」

「瑠璃……。」

 

 本当の瑠璃は、あの地獄で時が止まってしまっている。あの日、唯一の希望を守る為に妹を守り、子供達を守った。だがその結果がすべてを奪われたあの仕打ち。誰も助けてくれない、ただ大人しく凌辱されるしかない地獄。その痛みは、誰とも共有出来ない。だから泣く事しかできない。誰も手を差し伸べてくれないこの暗闇で、精神がそこで生きる事を諦めている。

 そんな事はない。そう言おうとした時だった。

 

『ならば、手に入れろ。』

 

 何処からか聞こえてきた冷たい声。その瞬間、鉄格子の中に黒い影の粒子が現れる。その影は倒れている瑠璃に歩み寄る。その姿に気付いた瑠璃はそちらを見る。

 

「悪を倒したければ悪になれ。この世界は弱肉強食……力こそが世の理。死人に明日を見る資格はない。戦い、生き残り、勝ち残った者こそが正義だ。」

 

 黒い粒子が人の姿へと変わり、それがハッキリと、人の形になる。だがその姿はまるで

 

「瑠璃……?!」

「あなたは……」

「我は…………遥か古より……死人達を統べる……冥府の者……世界の意思に従い、生きとし生ける者を滅する者……。」

「聞いちゃ駄目!瑠璃!アンタには帰る場所がある!仲間だって!絆だって!」

 

 導かれるがままに、黒い瑠璃の手を取ろうとする瑠璃に呼び掛ける。だがその制止も虚しく、手を取った。そして光を失った群青の瞳は、冷たい闇と同化した。

 

「我……絶対の破壊者なり……」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はっ……!」

 

 意識が戻った輪。手を空に伸ばして握ったり開いたりする。頭はまだフラフラするが、ファウストローブは解除されていない。クリスとサンジェルマンはまだ瑠璃と戦っている。自分がまだ戦えると確信した輪は起き上がった。

 

「見つけたよ……瑠璃……。あんたを絶対、闇の底から、何度だって引き上げてあげるから!」 

 

 走り出した輪は、雄叫びをあげながらそのままチャクラムを振り下ろした。

 

「輪!」

「ふっ……。」

「まだ生きていたか。」

 

 輪が起き上がった事にクリスとサンジェルマンは喜び、瑠璃が苦々しく見ている。

 

「うおおぉぉりゃあああぁぁ!!」 

 

 復活した輪のチャクラムと瑠璃の二又槍が激しくぶつかり、鍔迫り合いになるが、すぐに押し切られてしまう。さらに二又槍を振り下ろした事によって放たれる斬撃、それはチャクラムによって掻き消されるが、手に痺れが残る程に重かった。

 

 だが瑠璃は、破壊神ヒビキにAnti LiNKERが打ち込まれている事に気付いていない。とはいえ、瑠璃が繰り出す技はどれも強力であり、防御してもダメージが残る。回避する事で何とかダメージを負う事なく戦闘を続けられているが、それでも回避の時間が長く、反撃の糸口が見えない。そして、輪は身体の異変に気付いた。

 

「ヤバい……身体が重い……!」

 

 輪の纏うファウストローブにスパークが走る。それを見たサンジェルマンが焦っている。

 

(彼女のファウストローブが、限界を迎えている!)

 

 輪はファウストローブを纏う際に必要な錬金術のエネルギーを持っていない。あの時、病院の窓から投げ出された際に放った光弾が、輪の体内にエネルギーを注ぎ込んだのだ。それが底をつきようとしている。いくらフォニックゲイン補えても、ファウストローブを形成する錬金術のエネルギーがなければファウストローブを維持する事は出来ない。シンフォギアのバッグファイアダメージがそうであるように、このファウストローブも同様に、輪を嬲っている。

 

「勇者になりそこねたな……負け犬。」

 

 槍の穂先からエネルギー波を発射させた。しかも向かった先は限界を迎えるファウストローブのダメージに苦しめられている輪。

 

(ヤバい……避けられない……!)

 

 だがそこにクリスが前に立ってリフレクターを展開させた。

 

「クリス……!」

「やらせねえ……姉ちゃんを人殺しになんかさせねえ!」

 

 何とか耐えしのごうとするが、すぐにリフレクターの防御は破られ、輪、クリス、サンジェルマンはその衝撃で吹き飛ばされてしまう。

  

「消え去れ!!」

 

 瑠璃は浮遊して、二又槍の穂先を天に掲げる。集められたのは闇のエネルギー。周りに稲妻が走り、エネルギーが集まると巨大な球体となる。

 

「まるで葉が立たない……これがアヌンナキの力なのか……?!」

 

 神の力にサンジェルマンは弱音を吐くが、輪が否定する。

 

「違う……あれは、瑠璃の心の中にあった闇が作り出した、幻影……!」

「だとしたら……あいつを倒さねえと……!」

 

 しかし威勢は良くても3人は既に限界だ。黒いエネルギーの球体を受ければ、ギアを纏っていても助かる見込みはない。最後まで彼女達は対策を講じようとしている、その時だった

 

『響いいいぃぃぃーーーー!!』

 

 車両から響に呼びかける未来の声が木霊する。響救出作戦のもう一つの要、それが未来である。万が一、打ち込まれたAnti LiNKERの効果を書き換えられて適合係数の上昇した場合、未来の声を電気信号化させ、依り代となった響にねじ込むというものだった。しかしその作戦には一つ、大きな問題があった。それは未来の声が瑠璃にも聞こえてしまうというものだった。

 

「おのれ……小賢しい真似を!!」

 

 破壊神ヒビキを引き剥がそうとするS.O.N.G.の車両をまとめて消し飛ばそうと向かう。

 瑠璃が飛来して近づくのを翼達も目視で確認出来た。

 

「小日向を守れぇ!」

 

 翼の号令でマリア、調、切歌がアームドギアを盾に守ろうとする。瑠璃は二又槍から膨大なエネルギーを集めた球体を生み出し、それを放った。アームドギアの盾で防ごうとぶつける。だがあえなく粉砕し倒された。しかもエネルギー球体はまだ生きており、そのまま車両に向かう。

 

「抜けられたデス!」

「未来先輩!」

 

 皆が未来の危機を救おうと手を伸ばそうとした。だが突如、その黒いエネルギー球体に打ち込まれた光弾によって、それは粒子となって消え去った。

 

「何が……」

「起きたの……?」

 

 翼とマリアは目の前の事象に戸惑いを隠せないが、まだ終わりではない。

 

「おのれ……我の邪魔立てをするという……んぅっ?!」

 

 再び二又槍を天に掲げた時、首筋に何かを撃ち込まれた。それを手に当てると何か掴んだ。

 

「これは……薬か?!」

 

 撃ち込まれたのは注射器。その中に入っていたのは赤い薬品、Anti LiNKERである。

 

「おのれぇ!ぐぅっ!」

 

 Anti LiNKERを撃ち込まれた事で適合係数が低下、ファウストローブを形成するエネルギーが不安定になり、膝をつく。その背後から、羽交い締めするクリス。

 

「貴様かぁ!」

「ああ!その通りだ!どこぞの馬鹿みたいに暴れまわる姉ちゃんにはいい薬だ!!」

 

 クリスの銃にリロードされた弾倉。あれはAnti LiNKERを麻酔銃の弾丸のように作られた特別製。作ったのはエルフナインだ。

 

「小賢しい奴め!!」

 

 バイデントの柄からエネルギー波を放ち、クリスに直撃、羽交い締めを解いてしまう。

 

「神の力……まだこの手に……」

「うおおおおおおおおぉぉぉーーーーー!!」

 

 突如叫び声とともに輪が、最後の力を振り絞って瑠璃に向かって走る。瑠璃に飛び込んで押し倒した。

 

「無駄だ!貴様らが打ち込んだ薬の効能を書き換えれば……いずれ再び!」

「そうはさせない!ここでアンタを倒す!そして瑠璃を連れ戻す!」

 

 2枚のチャクラムを巨大化させて、その輪っかの中に瑠璃と輪が入る。

 

「何をするつもりだ、出水?!」

 

 吹き飛ばされた翼が問うが、輪は答えない。

 

「小賢しい奴め!貴様のその肉体を……あれは……!」

 

 空が見えた瑠璃に映ったもの、それはもう一枚の巨大化したチャクラムだった。よく見ると、輪っかの中心にエネルギーが集まる。

 

「まさか……!」 

「分かっちゃった……?」

 

 これから輪がやろうとしている事、それに気付いた瑠璃は驚愕する。それは自殺行為に等しいものだ。瑠璃だけでなく、味方も驚愕を露わにする。

 

「馬鹿な……!貴様も巻き添えだぞ……?!自ら命を放り投げるつもりか?!」

「良いよそれでも……。」

 

 瑠璃の頬に伝う涙。輪は涙を流しながらも不敵な笑みを浮かべている。

 

 

 

 瑠璃が破壊神ヒビキの所へと向かった直後、輪はクリスとサンジェルマンにだけ作戦を告げた。当然、クリスがそれに反対する

 

「お前……自分が何をやろうとしてんのか、分かってんのか?!」

「分かってるよ。」

 

 あの時、意識を失った時に見えた夢。あれはラピスが導いてくれた瑠璃が閉じ込められている場所。あの鉄格子、あれはバイデントのファウストローブ。あれを破壊するには、ただの攻撃では足りない。恐らく絶唱級でなければ届かない。  

 

「瑠璃が受けた痛み、苦しみ、絶望を一緒に背負うって決めたから……私はこの方法を選ぶ。こうでもしないと、出てこなさそうだからさ。」

 

 そう言うと、輪はクリスに握り拳を突き出した。

 

「道は作るから、最後は任せたよ。」

 

 

 

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal……

 Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

 聞こえてきた滅びの歌。それを唄っているのは、ファウストローブを纏う輪。ファウストローブに絶唱の機能は本来備わっていない。しかし、輪のファウストローブはシンフォギアのようにフォニックゲインによる運用する事が可能である。アルベルトはこれを擬似的に再現する機能を備えていたのだ。そして、それを輪が使おうとしている。

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl……

 

 唄い終えると、輪のが釣り上げた口角から血が漏れ出る。

 

「大丈夫……痛いのは一瞬……だから!」

 

 行き場を失ったエネルギーが限界を超え、地上へと放たれた。その先には輪と瑠璃。

 

【永環・エターナルロンド】

 

「くぅ……っ……ぐううぅぅあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 二人はその波動に呑み込まれた。

 

「今だ!」

 

バイデントのギアペンダントを手に持ち、その波動の中へとクリスが飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 




おまけ 奏誕生日編

これは輪が中学時代に生死の境を彷徨っていた時の事。

奏「まさかあの世で誕生日を祝われるとはねぇ。」

輪「まあ奏さん、主な出番が私の過去編だし……仕方ないんじゃ……」

奏「えー私もっと出番ほしいぞー!」

輪「とは言われても、無印でも全然出番が無かったんですから、今更XV編と言ってもあなたの出番ないし。」

奏「ならXD編!それなら……」

輪「それは予定ないって……」

奏「こうなりゃ……交渉だな(ドヤッ)」

輪「それって脅迫では……?」

一日遅れてしまいましたが、奏さんお誕生日おめでとうございまーす!


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死で灯す 命の歌

帰ってこい!!瑠璃ぃ!!


 何もない、真っ暗闇な空間。気が付いたらクリスはそこにいた。

 

「ここは何処だ?」

 

 バイデントのギアを通じて瑠璃の精神世界に入り込めたが、そこに初めて入った為戸惑っている。辺りを見回しても何もない、真っ暗な空間。何処へ向かえば良いのか分からない。困り果てたクリスだが、握った手が暖かい事に気付く。手を開くと、そこにバイデントのギアペンダントが光を発していた。

 

「どうなってんだぁ?!」

 

 そしてその輝きから、一筋の光が放たれた。それはまるで道標のように長くどこまでも続いている。

 

「そっちに行けば良いんだな……?」

  

 クリスは光が指した方へと歩き出した。この光に向かって歩いていけば、あるいは、と。たとえ罠だとしても、クリスに恐れはない。向こうへと、向こうへと歩いていく。そして、ようやく見つけた。

 

「まさか……姉ちゃん!」

 

 破壊され、鉄屑となった鉄格子達の中心に、倒れている瑠璃がいた。それに気が付いたクリスは瑠璃に駆け寄って抱きかかえた。身体はクリスのものより傷だらけで、その瞳には光が無い。

 

「姉ちゃん……。」

「た……けて……ない」

 

 非常に弱々しい声で何か呟いていた。

 

「助けて……くれなかった……。誰も……私を……」

 

 初めて瑠璃の心の奥底に眠っていた本当の気持ちに気付いた。あのバルベルデでの地獄から、記憶を失ってもずっと助けを待っていた事を。クリスの目尻からは一筋の涙が零れ落ちた。

 

「ごめんな……姉ちゃん……。ずっと一人ぼっちで……助けを待ってたんだよな……。もう、一人で背負わなくていいから……一緒に帰ろう……姉ちゃん。」

 

 声を震わせながら発したその言葉に反応した瑠璃はクリスの方を向いた。

 

「クリ……ス……?」 

 

 応えてくれた。呼んでくれた。それだけで嬉しくなった。

 

「帰ろう……姉ちゃん。みんなが待ってる。」

「みんな……?」

「先輩や馬鹿にオッサン……それに……輪の奴も。みんな、姉ちゃんの帰りを待ってる。だから……」

『だから……それでどうするのだ?』

 

 背後から声が聞こえて、振り返ると、そこには闇の瞳をした絶対の破壊者となった瑠璃がいた。だが本物の瑠璃はクリスの腕に抱えられている。これは一体どういう事かと困惑する。

 

「我は瑠璃の闇そのもの。瑠璃に内在する苦痛憎悪、それが我である。故に我は瑠璃の写し身。」

「ごたごたと訳の分かんねえ事を……!」

「ならば問おう。何故瑠璃を、地獄へと連れ戻そうとする?」

 

 突然の問答に、クリスは何も言い出せなかった。だが言われっぱなしのままではいられないクリスは答える。

 

「姉ちゃんの……姉ちゃんの帰りを待ってる奴がいるんだ!こんな所にいて良いわけがねえ!」

 

 だがその答えに、闇の瑠璃は高笑いする。

 

「クックックッ……ハハハハハ!おめでたい奴だ。心が壊れた瑠璃を、再び地獄へと連れ出す事が、一体何を意味するのか、理解していないようだ。」

「何だと?!」

「確かに、瑠璃は生者。生者は光ある地上へと戻るべきだ。だが、そこに救いなどない。今まで受けた苦痛がある限り、瑠璃は再び生を拒絶する。人間同士の力、絆、救済など、内在する苦痛を真に消す事は出来ないぞ。」

 

 瑠璃はもう十分すぎるほどの痛みと悲しみをその身に受けた。これ以上、苦しませる必要はない。尊大ながらも身を案じている。瑠璃の写し身だからこそ言える事だ。瑠璃自身の痛みは、彼女が一番よく知っている。

 外へと連れ出す事がどういう意味か、それをようやく理解したクリス。言い返す事が出来ない。だが

 

「確かにそうだ。この先も、辛い事だって沢山ある。どうしようもないくらい泣きたくなる時もある。だけどな、人っていうのは、繋がる事が出来るんだ!」

「繋がる……?」

「姉ちゃんは一人じゃない!互いに思い合って、支え合って、助ける事だって出来んだ!あたしはそれを教えてもらった!この目で見てきた!力なんか必要ない!あたしは信じる!姉ちゃんが教えてくれた、人の絆の強さをな!!」

 

 かつて、人を信じられずに、力で全てをねじ伏せようとした自分がいた。それで世界の火種をなくせるのなら、そう信じて戦ってきた。だがそれは、新たな悲しみの連鎖を生む結果になった。

 自暴自棄になっていた自分を救ってくれた未来と輪、手を繋ぐ事の暖かさを響から伝わった。そして、瑠璃が教えてくれた、絆の強さ。全部受け止めて、今を生きるクリスは、あの夜空で誓った、両親の夢を叶えるという約束、そしてその夢を二人で引き継いで、歌で世界を平和にしたいと、思えるようになった。その為に戦い、ここにいる。

 

「きず……な……。」

 

 生きる事を諦めていた瑠璃の瞳に、光が戻った。

 

「あたし達は……姉ちゃんは一人じゃない!信じ合えて、一緒に未来へと歩める仲間がな!!」

 

 全てをぶつける様に叫んだ。闇の瑠璃は、何もせず、クリスの叫びを腕を組んで聞いていた。そして、組んだ腕を解いた。

 

「眩しすぎるな……だが何と言おうと、瑠璃が生を拒み続ける限りは……」

「もう良いの……。」

 

 瑠璃が拒んだのは、闇の瑠璃の否定だった。瑠璃は立ち上がって、闇の瑠璃と堂々と面と向かう。その表情は心が壊れる前より凛々しく思える。だがクリスは懐かしさを感じていた。

 

「私は生きるのを諦めない。」

「あの地獄を……再び味わう覚悟があると……?」

「そうじゃないよ。確かに、あれは辛かった……。痛くて痛くて……死んでしまいたいって思った。けど……クリスと輪、皆が私を助けてくれた。私は一人じゃない。私の帰りを、待ってくれている人達が、いるから。」

 

 瑠璃が振り返ると、そこには一緒に戦う装者達、父親の弦十郎に緒川、エルフナインやS.O.N.G.の仲間達、そして瑠璃の隣にはクリスが笑いかけてくれる。それを見ている闇の瑠璃は口角を釣り上げて

 

「やはり……眩しすぎるな。」

 

 瑠璃達に背を向け、何処かへと消えようとしている。それに気付いて振り返った瑠璃が呼び止める。

 

「待って!あなたも……一人じゃ……」

「勘違いするな。私は……再び眠りにつく。先程の痛みも、消しておかなければならないからな。」

 

 そう言い残し、影となって消えた。心なしか微笑んでいるようにも思えた。闇の瑠璃が立っていたその先には眩い光が輝いている。あそこを目指せと導いてくれているかのように。

 

「帰ろう。姉ちゃん。」

「うん。」

 

 クリスの左手と瑠璃の右手が繋ぎあった。二人の姉妹は、光へと歩き出し、その身を包まれた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 輪が放った波動の余波で爆発が起こり、3人は吹き飛ばされた。

 

「雪音!出水!」

 

 装者達は3人へと駆け寄り、安否を確かめる。バイデントのファウストローブは粉々に砕け散った事で解除された状態で気を失っていた。しかし、あの闇の瑠璃の力のお陰なのだろうか、神の力を使ってダメージと、その力は消えていた。

 クリスはギアが解除されておらず、すぐに動けた。というより痛みはほとんどない。

 

「あたしは平気だ。それよりも、あいつが……おい!大丈夫か?!しっかりしろ!!」

「出水!!」

 

 輪は3人の中でも最も重傷だった。既にファウストローブのバッグファイアによるダメージに加え、擬似的とはいえ絶唱を放った代償が重なり、輪の身体はボロボロだった。口や鼻、目からも流血している。しかし、意識は辛うじてあるようだがそれも薄っすらであり、非常に危険な状態である。

 

「っ……ぁ……」

「出水の意識を確認!すぐに救護班を!」

『分かっている!すぐに向かわせる!』

 

 翼はすぐに弦十郎に通信して、救護班を要請した。だが元々フォニックゲインを持たない、しかもそれ由来ではないエネルギーを使った為、その負荷がどれほどのものなのか検討もつかない。だが自身が今にも死んでしまいそうだというのに、輪は瑠璃の安否を気にしている。

 

「どう……なったの……瑠璃……は……響……は?」

「姉ちゃんもあいつも無事だ!それよりもお前が……」

 

 響も先程神の力から解放され、無事を確認した。今は未来が傍におり、眠っているようだ。それを聞いた輪は安堵する。

 

「そっか……良かった……。」

「良くねえよ!何でこんな無茶を……お前が死んじまったら、姉ちゃんが悲しむのは分かってるだろ?!お前が犠牲になるなんて……誰も望んじゃいねえよ!!」

「ごめん……。けど……こうするしか……思いつかなくってさ……。だけど……誕生日パーティ……行けなくなるかなぁ……。」

 

 皆の心配をよそに、輪は満足そうに笑い、そのまま眠るように意識を落とした。生か死かの瀬戸際であるというのに、誕生日パーティに行けないのを残念がっている辺り、輪らしい。

 

 救護班を乗せた車両はすぐに到着し、輪は担架に担がれ、車両に乗せられた。ドアが閉まるとそのまま医療機関へと向かった。皆が輪の無事を祈る中、八紘から本部へ朗報が入った。

 

『国連による武力介入は、先ほど否決された。』

「八紘兄貴……!」

『これまでお前達が築いてきたS.O.N.G.の功績の大きさに加え、斯波田事務次官が蕎麦にならったコシの強さで交渉を続けてくれたお陰だ。』

「人は繋がる……1つになれる……。」

『そうだ。反応兵器は使われない。』

 

 これで後は輪が息を吹き返せば大団円になる。

 

 が、その期待は一つのアラートによって裏切られる。海面からミサイルが打ち上げられ、上空を飛来している。

 

 

「太平洋沖より発射された、高速度飛翔体を確認!これは……!」 

『撃ったのか?!』

 

 なんとアメリカが国連の意向を無視して独断で発射させてしまったのだ。全世界並びに自国人類や秩序を守る為とはいえ、反応兵器はそこらのミサイルとはわけが違う。常に冷静で何者にも隙を見せない八紘も、これには狼狽する。

 しかも反応兵器は超高速で日本へと近づいている。迎撃しようにも間に合わない。

 

「だったらこっちで斬り飛ばすデス!」

「駄目!下手に爆発させたら、辺り一面が焦土に!向こう永遠に汚されてしまう!」 

 

 勇む切歌を調が制止する。反応兵器は核ミサイル同然。着弾を許せば調の言う通りの結果になってしまう。翼も策がないこの事態に歯痒くなる。だがそこにサンジェルマンが……

 

「私はこの瞬間のために、生き永らえて来たのかもしれないな……。」

 

 覚悟を決めたように、地を蹴り、空を舞う。迫る反応兵器に真っ向から対峙すると、彼女は唄う。その歌に反応して、サンジェルマンのラピスの輝きが増す。だが歌っているのは、サンジェルマン一人ではなかった。

 

「カリオストロ?!」

 

 振り返るとクリスとマリアとの激闘で死んだはずのカリオストロがファウストローブを纏ってサンジェルマンにウィンクしている。そしてもう一人

 

「プレラーティ!」

 

 プレラーティもまた、ファウストローブを纏い唄っている。3人の歌声が重なり、奏でるのは死を灯す歌。

 

(女の勘で局長を疑ったあーしは、アルベルトと協力して、死んだふりなんて搦手で、姿を隠していたの。)

(そんなカリオストロに救われた私は、一矢報いるための錬成を、アルベルトと共にこっそり進めてきたワケダ。)

(アルベルトも……?!)

 

 アルベルトの研究室と資材を借りて、プレラーティはサンジェルマンに託す弾丸を錬成していた。故にサンジェルマンを裏切ったアルベルトに借りを返す為にカリオストロが救ったのだ。そして、闇の瑠璃が放ったエネルギー球体、あれを相殺させたのもアルベルトだった。本人は地上から見上げて3人の結末を見届けようとしている。

 

「これで……本当にさよならだ。サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ。」

 

 プレラーティがサンジェルマンに最高傑作の弾丸を託し、託されたサンジェルマンはそれを銃に装填。それを反応兵器に向けて引き金を弾いて、発砲した。錬金術で弾丸はエネルギー波となり、反応兵器と衝突、大爆発を起こす。だがその爆発は本来の威力より下回っている。放った弾丸によって抑えられている証だ。だがそれがただの弾丸ではない事を、モニターで見ているエルフナインが察した。

 

「これも……ラピス・フィロソフィカス。」

 

 この弾丸もラピス・フィロソフィカスであった。3人はラピスを介して、持てる全ての力を注ぎ込んでいる。

 

(アルベルトの協力も上乗せの、現時点で最高純度の輝き!つまりは私の最高傑作なワケダ!)

(呪詛の解呪より始まったラピスの研究開発が、やっと誰かのために……!)

(本音言うと、局長にぶち込みたい未練はあるけどね。でも驚いた。いつの間にあのコたちと手を取り合ったの?)

(取り合ってなどいないわ……。)

 

 素直にはなれないサンジェルマン。最後まで頑固なのは相変わらずだった。

 だが次第に爆発が大きくなり、3人は苦しげな表情を浮かべている。このままでは抑えきれなくなる。だがそれでも手はあった。

 

(完全なる、命の命の焼却を!)

(ラピスに通じる輝きなワケダ!)

 

 3人のエネルギーが、サンジェルマンのもつ銃のスペルキャスターに注ぎ込んだ。

 

(あの子たちと手を取り合ってなどいない……。取り合えぬものか……。死を灯すことでしかわかり合えなかった……)

「私にはああああああああぁぁぁ!!」 

 

 咆哮とともに、3人のエネルギーを錬金術へと変えて発射した。抑え切れなさそうになっていた爆発へと一直線に向かい、爆風すら残さず光となって消えた。

 サンジェルマン達の活躍で、反応兵器の脅威は免れた。だがその代償はあまりにも大きい。

 

「付き合わせてしまったわね……。」

「良いものが見られたから、気にしていないワケダ……」

「良いもの?」

「サンジェルマン、笑ってる。」 

 

 それは今まで誰に見せなかったサンジェルマンの笑顔。

 

「ああ……死にたくないと思ったのは、いつ以来だろう……。」

 

 カリオストロが手を振り、プレラーティは腕を組みながらその身体は光となって消滅した。

 

「ね……お母さん……。」 

 

 そしてサンジェルマンも、天を見上げながら光となって消えた。手にしていた銃のスペルキャスターも落ちた。

 

「ありがとう……。」

 

 涙を流してローブを羽織ったアルベルトは姿を消した。

 

「錬金術師……理想を追い求める者……」

「後は分離した神の力を……あっ!」

 

 調と切歌が振り返ると、そこには浮かんでいたアダムの左腕を依り代にして神の力を集約させていた。

 

「しなければね……君たちに感謝を……。」

 

 何処からともなく現れた空間の穴からアダムが右腕が、神の力を宿した左腕を掴み取った。そしてその穴が広がり、アダムが姿を現した。

 

「僕の手に、今度こそ!」

 

 左腕を天に掲げた。

 

「止めるぞ!」

「もうさせないよ、邪魔立ては!」 

 

 翼達が阻止しようと動くが、水の錬金術を応用して凍らせる事で、装者達の動きを封じ込めた。このままでは神の力がアダムの手に渡ってしまう。

 

「だとしてもおぉ!」 

 

 そうはさせまいとギアを纏った響が動いた。だが神殺しを使う響の接近を許すわけもなく、同じ轍は踏むはずがない。

 

「近づけないよ、君たちだけは……なっ?!」 

「アダムのいけず……。抱いてくれないから……私が抱いちゃう……」

 

 だがティキの残骸がしつこくアダムに愛を求めてその足を掴んだ。それが仇となり、転倒してしまった事で響の接近を許してしまった。

 

「やめろぉ!!都合のいい神殺しなものかその力は!!2000年の思いが呪いと積層した哲学兵装!!使えば背負う!!呪いをその身に!!人間が使えていい物じゃないんだその輝きはああぁ!!」

 

 喚き散らかすアダムだが、そんなものは知った事ではない。バンカーユニットとブースターを最大出力まで引き上げた。

 

「私は歌で……ぶん殴る!!」

 

 響の拳が、アダムの左腕を破壊した。これにより神の力は完全に消滅した。

 

 

 

 

 




闇の瑠璃

瑠璃に内在する全ての苦痛によって目覚めた人格。
性格は残忍かつ冷酷と、瑠璃とは正反対であり、一人称も「我」と尊大になる。
彼女を精神世界へと閉じ込めたがそれも全て、瑠璃を危険な世界から守りたいという思いだった。
神の力を手に出来た理由は不明であり、全てが謎に包まれている。結局、解明する前に再び眠りについた。



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黄金に輝く歌

遂にAXZもラストバトル!


 アダムの左腕に宿った神の力を、腕ごと破壊した事で、アダムの目論見は完全に潰えた。しかし、響は悲しみに暮れている。やっと分かり合えると、もっと言葉を交わせると思っていたサンジェルマン達が、自分達を守る為にその命を燃やして散ったのだから。

 

(サンジェルマンさんの歌は、胸に届いていた……。だけど……!)

「何もできなかった……私はまた……!」

 

 悔しさと悲しみを滲ませた拳を地面に叩きつけた。

 

「ありがとう……サンジェルマンさん……。だけど、望んだのはこんな結末じゃない……!もっと話したかった、分かり合いたかった……!」

 

 空を見上げながら涙を流している。だが彼女の悲しみを理解しようとしない人でなしがいる。

 

「分かり合いたかったぁ……?」

 

 もはや片言しか話せないティキの身体を踏み抜いて、機能停止させた。

 

「分かり合えるものか!バラルの呪詛がある限り!呪詛を施したカストディアン、アヌンナキを超えられぬ限り!!」 

「だとしても……」

「だが一つになれば話は別だ。統率者を得ることで……無秩序な群体は完全体へと!!」

「だとしても!分かり合うために手を伸ばし続けたこと!無意味ではなかった!」 

 

 サンジェルマン達を否定したアダムのように、響もまた、アダムの持論を響は真っ向から否定した。そして、クリス達もまた響と同じ思いだ。

 

「ああ!この馬鹿の言う通りだ!」

「お前が語ったように、私達の出来は良くない!」

「だから!なんちゃらの一つ覚えで、何度だって立ち上がってきたデス!」

「諦めずに、何度でも!そう繰り返すことで、一歩ずつ踏み出してきたのだから!」 

「たかだか完全を気取る程度で、私達不完全を、上から支配出来るなどと思うてくれるな!」 

 

 翼が刀の剣先をアダムに向けた。

 

「どうしてそこまで言える?大きな事を、大きな顔で?!」

「あなたには分からないでしょうね!」

 

 並び立つ装者達の後ろにいる瑠璃が、ギアペンダントを握って叫んだ。

 

「私達が……私達を守る為に命を燃やした錬金術師達が、どれだけの絆でここに立っているのかを!」

 

 怒りに似た叫びが木霊する。互いに信じるもの、目的も進む道も異なる立場だったが、ほんの一瞬だけ、確かに絆は結ばれた。完全のみにしか眼中にないアダムには永遠に分からない。

 

「何が出来る、不完全の貴様にいぃ?!」

「やるよ……私は!」

 

 ギアペンダントを強く握りしめる。だが……

 

「っ……!」

 

 蘇るあの地獄。額には脂汗が滲み出て、息も荒くなる。手足も震えている。記憶が戻った今、あの地獄を忘れる事など不可能だ。

 

(怖い……でも……でも!)

 

 恐怖に押し潰されそうになる。今にも逃げ出したい。だが振り返れば、そこには仲間がいる。

 

「姉ちゃん!!」

「瑠璃さん!」

「「瑠璃!」」

「「瑠璃先輩!」」

 

 背中を押して、支えてくれる仲間と家族がいる。差し伸べられた手を、見て見ぬふりをして逃げ出したくはない。瑠璃は右足を大きく踏み込んだ。

 

 

 

ティアライト……バイデント……トロオオオオォォォーーーーーーーン!!

 

 

 

 

 詠唱を叫ぶように唄った。バイデントのギアを纏った瑠璃。もう過去に囚われた瑠璃ではない。みんなと繋いだ絆を武器に、未来を生きると決めた。

 

「もう逃げない……!私は、私を信じる人達、何気ない日常を守る為に私は戦う!」

「思い上がるなよ、不完全の分際でぇ!」

 

 残った右腕でアルカ・ノイズの召喚石をばら撒いたアダム。地面からはアルカ・ノイズが大群となって現れる。

 

「人でなしには分からない!!」

 

 響が地面に拳を打ち付け、その衝撃波で周囲のアルカ・ノイズを粉砕する。

 翼は剣を連結させて、その刀身に青い炎を纏わせながら脚部のバーニアを点火、アルカ・ノイズを一瞬で焼き斬る。

 

【風輪火斬・月煌】

 

 クリスの二丁拳銃から放たれる弾丸でアルカ・ノイズを撃ち抜かれる。そして復活した瑠璃も、黒槍と白槍を3本複製、それを六角形を象るように周囲に突き刺し、自身の手に持つ連結させた槍を突き刺すと、そのフィールドにいるアルカ・ノイズを塵にさせる。 

 

【Sevens Rord】

 

 マリアの短剣を大量展開させ、それを高速回転による竜巻のエネルギーでアルカ・ノイズを一網打尽にする。

 調が禁月輪を展開させて、その中に切歌も乗り込んで大鎌のブースターを点火。共に高速回転させてアルカ・ノイズへと突撃して切り刻む。

 

「どうしてこんなにも、争いが続くのデスか?!」

「いつだって、信念と信念のぶつかり合い!」

「正義の選択が、争いの原因だとでもいうのかよ!」

「安易な答えに、歩みを止めたくはない!だが!」

 

 7人によるユニゾンによってフォニックゲインが大幅に上昇し、アルカ・ノイズもその数を減らしている。さらに絆を大事とする故に、瑠璃は初めてのユニゾンとは思えない程の連携を発揮している。

 しかし、エクスドライブを起動させるのに必要なフォニックゲインには届いていない。

 

「それもこれも、相互理解を阻むバラルの呪詛!」

 

 地面から気配を察知したマリアは高く跳躍する。そこからアルカ・ノイズが地面を貫いて出現するが、マリアの蛇腹剣を鎖のようにアルカ・ノイズを縛りあげ、そのまま細切れにする。

 

「どうして神様はそんな呪いを作ったのか、考えても考えても分からない……!」

 

 連結させた槍を高速回転させてエネルギーの竜巻をアルカ・ノイズに放った。

 

「だとしてもです!」

 

 目の前のアルカ・ノイズを殴り抜いた響がアダムに拳を振るう。だがアダムは余裕で避ける。

 

「使わないのかい?エクスドライブを。いや使えまい。ここにはないからね。奇跡を纏うだけのフォニックゲインが!」

 

 アダムの右手から放たれた光弾を防いで殴り掛かるが、その拳を掴まれ天高く投げられる。

 

「乗るなよ、調子に……っ!」

 

 響にエネルギー波を放とうとする直前、背後から瑠璃が投擲した二本の槍がアダムに襲い掛かる。

 

「神の力がなければ!」

 

 それを防いだ事で響がバンカーユニットを変形、両腕ガントレットのブースターを点火させてアダムに殴る。両腕で殴りかかれば、失っている左手の方からアダムに届く。響の一撃によって、大爆発が起こる。だが……

 

「左腕?!」

 

 なんと失ったはずの左腕が生え、響の拳を受け止めていた。それも人間とは程遠いおぞましくも醜い左腕が。響はそのまま殴り飛ばされるが、すぐに体勢を立て直す。

 

「そうさ……力を失っているのさ、僕は。だから保っていられないのさ……僕は……僕の完成された美形をおおぉぉぉ!!」

 

 叫びと共に服が弾け飛ぶとその身体は炎に包まれる。そして、人の姿だったアダムは巨大なバフォメットのような異形な姿へと変えた。これがアダムの真の姿である。

 

「知られたくなかった……人形だと……。見せたくなかった……こんな姿を……!だけど頭に角を頂くしかないじゃないか!僕も同じさぁ負けられないのはぁ!!」

 

 辺り一面に放たれた赤い稲妻。装者達は跳躍して避けたが、代わりに自らが召喚したアルカ・ノイズを葬った。

 

「人の姿を捨て去ってまで……」

「何をしでかすつもりデスか?!」

「勤まるものか、端末と創られたサル風情に……。わからせてやる……より完全な僕こそ支配者だと……。その為に必要だったのさ、彼らと並び立てる神の力は……!」

 

 響を片腕で吹き飛ばし、翼にその巨大な拳で何度も叩く。何とか刀身で防ぐが重すぎる一撃故に防いでもダメージが入る。何とか跳躍して避けるもそこに頭突きが腹部に直撃してしまう。

 

「お姉ちゃ……うわあああああぁぁぁっ!!」

 

 翼に攻撃したばかりというのに、目にも止まらぬ速さで瑠璃を宙へと吹き飛ばした。

 

「巨体に似合わないスピードで!」

 

 アダムの強さに調が驚愕する。そこに背後から電話の呼び鈴が鳴った。

 

「何でこんなところに電話が?!」

 

 だがそれに気を取られた調と切歌に、アダムの攻撃が直撃する。あまりの卑怯なやり方に、倒された切歌が悪態つく。

 

「おまけに、悪辣さはそのままデス……!」

 

「くそったれえぇ!」

「よくも!」

 

 クリスがガトリング砲を乱射するが、厚い皮膚に阻まれ、背後から急襲を仕掛けたマリアを尻尾に巻きつけて、クリスの方へと投げ飛ばす。さらにマリアをキャッチしたクリスをそのまま横殴りに吹き飛ばした。

 真の姿を現した途端、装者達は一方的に屠られている。何とか立ち上がろうとする響。

 

「力負けている……!」

(まだだ!立花響!) 

 

 どこからかサンジェルマンの声が聞こえた。その方を見ると、サンジェルマンの銃のスペルキャスターが落ちていた。それを手にしようと伸ばすが、先にアダムに拾い上げられる。

 

「何をするつもりだったのかなぁ?サンジェルマンのスペルキャスターでぇ!」

 

 銃を握り潰し、そのエネルギーを乗せたエネルギー波を響に放った。だが立ち上がった響はそれを正面から受け止める。

 響はファウストローブのエネルギーを使ってフォニックゲインを高めようと狙う。輪がファウストローブのエネルギーとフォニックゲインでそうしたように、響も同じ事をやろうとしている。

 さらにそれだけではない。マリアと瑠璃が響の背中を支える。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal……

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

 3人が絶唱を唄う。3人のアームドギアが変形し、フォニックゲインを束ね、掛け合う。そしてそれは3人だけではない。

 

「S2CAペプダゴンバージョンで!」

「応用するってんなら!」

「その賭けに!」

「乗ってみる価値はあるデス!」 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal……

Emustolronzen fine el zizzl…… 

 

 翼達もその背を支え、7つの絶唱でフォニックゲインを高める。だが問題がある。

 

「無茶だ!フォニックゲイン由来の力じゃないんだぞ!」

「このままではギアが耐えられず、爆発しかねません!」

 

 藤尭の言う通り、フォニックゲイン由来ではない。下手をすれば輪の時以上の負荷になりかねない。そこにエルフナインが新たな策を講じる。

 

「その負荷は、バイパスを繋いでダインスレイフに肩代わり、触媒として焼却させます!」 

「でも可能なのか?!」

『出来るさ。』

 

 モニターに通信が繋がれた。顔は写っておらずUNKNOWNと表示されている。そしてそこに計算式と塩基配列が映し出される。

 

「これは……!」 

『私が出水輪の持つファウストローブを作る際に使った唯一の設計図。それを使うんだ。』

 

 輪が使ったファウストローブのみ、他の4つの設計図とは異なるやり方で作った。それをS.O.N.G.に提供出来る者など一人しかいない。その主にエルフナインは問おうとする。

 

「まさか……あなたは……!」

『急げ!手遅れになるぞ!』

 

 通信主が声を荒げた。

 

「四の五の言う余裕もなさそうだ!」 

 

 軌道演算とラピス・フィロソフィカスの設計図わ、最大限に使いアクセスする。

 

「本部バックアップによる変換とコンバートシステムを確立!響さん!」

「バリアコーティング!リリイイイイィィィーーーース!!」

 

 響が叫ぶと7人のバリアコーティングが解除され、ダインスレイフのエネルギーが装者達を包み、その姿は黒く染まる。その反動が7人に襲い掛かるが、耐える。

 

「何をしようと……?!」

「抜剣!」

「「「「「「「ラストイグニッション!!」」」」」」」 

 

 7人の呪いに包まれた身体に亀裂が入る。

 

「程がある悪あがきに……受け入れろ完全を!!」 

 

 宙高く飛び、掌に黄金錬成を作る。それも風鳴機関で放ったものとは一回り巨大な。それを振り下ろし、7人がいた場所が爆発して煙と炎に包まれる。

 

「補って来た錬金術で……いつか完全に届くために、超えるために!!」

「だとしてもおおおぉぉーーー!!」

 

 響が叫んだと同時に、煙から7本のミサイル、そしてそれぞれのミサイルに乗る7人の装者が姿を現す。エクスドライブではないが、ギアの形状が変化している。リビルドしたのだ。

 イグナイトの核であるダインスレイフを燃やした事で瞬間的にギアの出力を、エクスドライブに届くまで高めた。

 翼の刀と、マリアの短剣の刀身が伸び、ミサイルから飛び立つ。

 

「生意気に……人類ごときがあああぁぁぁ!!」

 

 アダムの両腕が伸びるも、翼とマリアの刃がそれを斬り落とす。瞬間的に引き上げたとはいえ、それも限定的。奏なら時限式と言うだろう。

 

「ギアが軋む……悲鳴を上げている……!」

「この無理筋は、長くは持たない!」

 

 アダムはすぐに腕を再生させるがヨーヨーの糸に身体を絡め取られる。

 

「つまるところは!」

「一気に決めれば問題ないデス!」 

 

 大鎌の刃が4枚へと変化させてそれを高速回転させて振り下ろしてぶつけた。さらに

 

「エクスドライブでなくても!」

「私達は戦える!」

 

 巨大な二本の槍と合体させたミサイルを発射させた。ぶつけられたアダムはそのまま建物の内部まで叩き落される。そこに響が追い打ちをかける。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 だが響のコンバーターユニットに汚染が満ちた。それにより出力が一気に低下し、響は倒れた。インナースーツも灰色に落ちている。

 

「まさか、反動汚染?!」

「このタイミングで?!」

「そうだ……!響さんのギアは、汚染の除去がまだ……!」

 

 あの時響は神の力に取り込まれて反動汚染が除去出来る状況はなかった。最悪のタイミングで反動汚染が、響に牙を向いたのだ。その隙をアダムが見逃すわけもない。

 

「動けないようだな、神殺し……。ここまでだよ、いい気になれるのは……!」

 

 アダムの嘴が開き、口からエネルギーが収束される。何とか立ち上がろうとするが、反動汚染によるバックファイアがそうさせない。

 

「手を伸ばせ!」

 

 6人のギアのアームドギア、アーマー、持ちうるエネルギーを響に分け与える。だがまだ響は立ち上がっていない。

 

「終わりだ、これで!」 

 

 立ち上がる前に、アダムが収束させたエネルギー波を放ち、響のいた場所は爆発した。

 アダムの高笑いが響く。が、響は無事であった。響が伸ばした掌から逆三角形のエネルギーバリアが展開され、その身を守ったのだ。だがこの技に、マリアが一番驚いている。

 

「あれは……私の!」

 

 マリアの技を響が使ったということだ。響の纏うギアに虹色の燐光が纏っている。

 

「この力……みんなの……?」 

「良いってもんじゃないぞ……ハチャメチャすればあぁぁ!」

 

 身体を一回り巨大化させて、その手から放たれる触手を放つ。

 

「だったらぁ!」

 

 響の左足のアーマーから2枚の碧刃が放たれ、その触手を切り裂く。

 

「私の呪りeッTぉデス!」

「借ります!」

 

 手刀から青い斬撃が放たれ、再び斬る。

 

「青ノ一閃!」

「はあああぁぁ!」

 

 両拳を振り抜くとそこから黒と白のエネルギー波が、アダムの身体に直撃する。

 

「Shooting Cometまで!」

「否定させない、この僕を誰にも!」

 

 アダムの掌を地面に当て、地面に散らばった触手を自身の分身として再形成する。

 

「みんなのアームドギアを!」

 

 響のマフラーが、紅刃の鋸として形成、それをタイヤのように操る。アダムの分身体は鋸によって切断される。

 

「禁月輪!私達の技を……ううん!あれもまた繋ぎ重ねる力、響さんのアームドギア!」

 

「してる場合じゃないんだ……こんな事を……!」

 

 だがアダムの巨大な手に、響は身体を掴まれる。そのまま握り潰すつもりだ。

 

「降臨はすぐそこだ……カストディアンの……。それまでに手にしなければならない!アヌンナキに対抗し、超えるだけの力を!なのにお前達はああぁぁぁ!!」

 

 怒りを乗せるように強く締め上げる。そこにクリスが叫ぶ。

 

「吹っ飛ばせ!アーマーパージだ!」

 

 ガングニールのアーマーを弾丸のように弾け飛んだことで、その手を破壊。ギアを解除した響はギアペンダントを手に、アダムの腕の上を走る。

 

「無理させてごめん、ガングニール!みんなの想いを束ねてアイツに!!」

 

 みんなの思い。瑠璃や翼達などの装者、S.O.N.G.の仲間達と、ともに戦ってくれた輪。それだけではない。

 

(借りを返せるワケダ!)

(利子つけて!のしつけて!)

(支配に反逆する、革命の咆哮を此処に!)

 

 理想の為に戦い殉じたサンジェルマン達3人の思いを乗せて、詠唱を唄う。

 

バウィシャル……ネスケェル……ガングニールトロオオオオォォォーーーーン!!

 

 歌わせまいと再生した手で握り潰そうとしたが、光とともにその手を吹き飛ばし、響は再びガングニールを纏った。しかもアーマー、インナースーツ、全てが黄金に輝いている。

 

「黄金錬成だと?!錬金術師でもないものがああああぁぁぁ!!」

 

 アダムの触手が響を襲うが、逆にそれを足場として利用してアダムに接近する。そして両腕のバンカーアームを変形させて、アダムの腹部を殴る。そして、バンカーユニットギアが高速回転させて、再び殴り打つ。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラアアアアアァァァ!!」

 

 咆哮ととも高速で何度もその拳を叩き込む。何度も叩く度に天高く昇り、そしてブースターを点火させて最大出力の拳がアダムの身体を貫いた。

 

 

 

 

 

【TESTAMENT】

 

 

 

 

 

 

「砕かれたのさ、希望は今日に……。絶望しろ明日に……未来に!」

 

 身体を貫かれたアダムは呪詛に似た遺言を遺して、爆ぜた。落下する響を瑠璃とクリスが受け止めた。

 

「アダムを倒した……という事は……。」

「あたしらの勝ちだ!」

 

 パヴァリア光明結社の思惑は、統制局長アダム・ヴァイスハウプトと共に崩れ去った。




次回、AXZ編最終回


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過去を乗り越えた姉妹の絆

遂にAXZ編、最終回になります!

ここまで読んでくださりありがとうございました!


遂に瑠璃は過去を乗り越え、新たな未来へと歩き出します!


それではどうぞ!


 パヴァリア光明結社の統制局長、アダム・ヴァイスハウプトとサンジェルマン達幹部を失った事で、結社は呆気なく瓦解、各国に潜む残党も諜報機関と連携を結んで、摘発も進んでいる。 

 だが喜んでばかりではいられないものもある。アダムが言っていたカストディアン、アヌンナキという存在。サンジェルマン曰く、それは神というがその全てが謎に包まれている。

 そして、アメリカ政府が独断で発射させた反応兵器。それがきっかけで米国政府は避難を受けているが、そこまで強い追求はされていない。それについて、鎌倉の風鳴訃堂の屋敷で、主である訃堂と八紘が対談している。

 

「米国は、安全保障の観点からミサイル発射の正当性を主張して来たか。」

「国連決議を蔑ろにする独断に対し、各国は非難を表明しつつ……それでも、強く対応できないのは……」

「神を冠する、あまりにも強大すぎる力を目の当たりにしてしまったが故……。」

 

 神の力が自分達に向けられてはたまったものではない。故に強く出れないのも無理はない。夕日に向いていた訃堂は、八紘の方に向き直す。

 

「八紘……。あの力が我らにあれば、夷狄による国土蹂躙も、特異災害による被害も、防げるとは思わぬか?」

「なっ?!」

 

 護国の為ならば手段を選ばない訃堂を知る八紘は息を呑む。

 

「夷狄の娘め……何故神の力を手放すか……。」

「まさか……。」

 

 訃堂が見せたのは、身内の心配ではなく神の力を失った事による失望。あの時、神の力を自在に使役出来たのは瑠璃ただ一人。まさか身内すら生贄にするのではと、戦慄する。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 絶唱を唄い、意識不明となっていた輪も回復した。そして輪の退院に合わせて、響の誕生日パーティも、響と未来の寮室で無事に催された。未来がパーティ開始の音頭を取る。 

 

「それでは改めて……」 

 

 ハッピーバースデー(デース)!!

 

 クラッカーが鳴り、紙吹雪やテープが舞う。本日の主役である響が盛大に喜び、テープや紙吹雪がその頭に乗る。

 

「17歳おめでとう。響。」

「ありがとう!とんだ誕生日だったよ!でも、みんなのお陰でこうしてお祝いできたことが、本当にうれしい!」 

「ホント、最後まで人騒がせなんだからねぇ。」

「え?!いやぁ〜そんなつもりはなかったんですけど〜。」

 

 輪が入れた茶々に皆が笑う。そこに切歌が仕切り直す。

 

「さあさあ!前置きはここまでデスよ!主役はこちらにデス!」

 

 切歌が響をテーブルまで案内する。そこには多くの料理が所狭しと並ばれている。当然ご飯に目がない響の目は燦然と輝いている。

 

「凄ーい!どうしたの?!」

「はい。調が頑張ってくれました。」

 

 調の背をマリアが押す。

 

「これ、調ちゃんがぁ?!」

「違う違う!みんなで一緒に……」 

「調。」

「だって、松代で出会ったおばあちゃんから、夏野菜を沢山頂いて……瑠璃先輩にも手伝ってもらって……」

「それでも、調ちゃんが一番頑張ってたじゃない。」

 

 照れる調を瑠璃が笑顔を見せて頭を撫でる。ただ今の瑠璃の笑顔は、今までお淑やかなものではなく無邪気な笑顔だった。その変わりように皆が驚く。

 

「瑠璃って……こんなに笑うの?」

「バーカ。姉ちゃんは元々結構笑うんだぞ。」

 

 輪の疑問に、クリスが当然のように答える。元々の瑠璃の性格を知るクリスだけ、何処か安心感を感じている。過去の記憶から吹っ切れた事で、本来の自分を取り戻せたのだ。クリスにとってと嬉しい事だ。しかし、クリス以外は今までの瑠璃のイメージが強すぎる分、そのギャップの違いに違和感を感じている。

 

「瑠璃先輩……」

「変わりすぎて仰天が止まらないデース……。」

「とにかく、私は少し手伝っただけ。殆どは調ちゃんのお手柄だよ。」

 

 しかし、頼りがいのあるお姉さんである事に変わりはない。そこに翼が胸を張って宣言するように言う。

 

「月読が作り、立花が平らげるのなら……後片付けは私が受け持つとしよう!」

「いやぁ先輩。出来もしない事を胸張って言うと、後で泣きを見ますって。」

「後片付けは私がやるから……ね?」

 

 後片付けは翼が最も不得意な分野。それを胸を張ってやろうとするその威勢と自信にクリスと瑠璃が息ピッタリに呆れてツッコむ。

 

「なっ!姉妹揃って私を見くびってもらっては……」

「はいはい、喧嘩しないの。ほら。」 

 

 そこにマリアが翼の口に料理を運んだ。するとそれを咀嚼して飲み込んだ翼は

 

「何これ?!まさか、トマトなの?!こんなに甘いの初めて食べたわ!」

「驚きに、我を失う美味しさです。」

 

 翼が防人ではなく、素が露わになってここでもそのギャップの違いに驚く皆々。それからそれぞれバイキングのように、料理を取っていき、それを堪能する。さらにゲーム大会、トランプといったイベントも開かれる。

 そして瑠璃とクリス宛に届けられたソーニャとステファンの手紙、リハビリは順調に行われている事に二人は喜ぶ。だが目を離した隙に翼が皿洗いをしていた。どうやったらそんな積み上がり方をするんだとツッコみたくなる光景に輪は大爆笑している。結局翼に代わって瑠璃がやる事になった。そこにクリスも手伝う。

 

「なあ姉ちゃん。」

「何?」

「もう……平気なんだよな?」

 

 クリスが不安そうに聞く。大好きな姉がせっかく戻って来たのに、また何処か遠くへ行ってしまうのではないのかと不安が過ぎっている。そんなクリスの手を、瑠璃はそっと重ねる。

 

「もう平気だよ。クリスを置いて、もう何処にも行かない。」

「姉ちゃん……。」

「ごめんね。私の為に……傷つけてしまって……。ありがとう……私を助けてくれて。」

 

 良いんだ、と言わんばかりに首を横に振る。その両目には涙が零れそうになる。

 

 パシャッ。

 

 突然後ろからシャッターを押す音が聞こえた。振り返ると、輪が写真を撮っていた。

 

「麗しい姉妹の絆……。このベストショット……絶唱を唄った甲斐が……ぐふぇっ!」

 

 顔を真っ赤にしたクリスの拳骨が脳天に振り下ろされた。

 

「性懲りもなく撮りやがって!」

「まあまあ。今日くらいはね?」

 

 怒るクリスに、瑠璃が諌める。

 

「輪。」

「痛たた……ふぇ?」

「ありがとう。」

 

 微笑んでお礼を言われた輪も顔を真っ赤にして照れる。

 

「い、いやぁ……それほどでも……。ほ、ほら!ゲームやるよ!」

 

 照れ隠しのつもりなのか、二人をゲームに誘った。

 

「行こう、クリス。」

「ああ!」

 

 瑠璃とクリスの手、姉妹の繋ぎ合った手はもう離さない。過去を乗り越えた姉妹の絆は、その先に待ち受けるどんな困難も、どんな壁も越えていける。そんな気がした。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい……統制局長、アダム・ヴァイスハウプト……並びにサンジェルマン幹部達は全員死亡しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それにより、パヴァリア光明結社も瓦解……残党も摘発されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神出ずる門より顕現した神の力も、跡形もなく消え去りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい……。ルリも無事に……ただ、あなたから貸与させていただいたバイデントの欠片から作ったファウストローブは……破壊されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 申し訳ございません……。

 

 

 はい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ……鎌倉で不審な動きがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼を燻り出す為に……結社の残党で、役に立つモノ達がいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを利用すれば……いずれ再び……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい……このままここに残り、調査を続けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでは……アーネンエルベ事務局長(・・・・・・・・・・・)……。

 

 

 また……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は……もうどれ程の別れを告げれば良いのだろうか……?敵ながらも……私はサンジェルマン達の事を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや……今は忘れよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく、あの方が蘇る好機が来たのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティキの残骸も、彼ら(S.O.N.G.)によって回収させれば……必ずここに来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この南極に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが……もしあの方が蘇れば……ルリは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辛いものだな……

 

 

 

 悲願を果たす為に……私は数多くの命と時を犠牲にしてきた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、全てはあの方の望みを叶える為……。

 

 

 

 

 アーネンエルベを利用したのも……フィーネにバイデントのシンフォギアを作らせたのも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が主(アヌンナキ)よ……。

 

 

 

 

 

 今しばらくお待ちください……。

 

 

 

 

 あなた様とまた……再会出来るその日を……

 

 

 

 

 

 

 私が必ず……!

 

 

 

 

 

 




アルベルトの真実。

パヴァリア光明結社の幹部であるアルベルト。

その正体はアーネンエルベに寝返った二重スパイ。

アダムの神の力の入手を阻止する為にアーネンエルベを利用しようと企み、アーネンエルベに潜り込む。

バイデントをギアとして使うよう提案し、フィーネと共に暗躍した。


この事実はカリオストロにのみ話したが、そのカリオストロも亡くなった為、真実を知る者は誰もいない。



アーネンエルベすらも踏み台として、己の悲願を果たす為に暗躍する。



というわけでAXZ編、これにて完結になります!

今回はXV編に繋がる鍵を残す為に輪視点は無しです!

番外編を何個か描いたら、いよいよ最終章XV編となります!

お楽しみに!





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番外編 マリアと小夜

マリアの誕生日に合わせてマリアが主役?の番外編です!


 これは魔法少女事変が起こる少し前の、冬が終わる直前の出来事である

 

 あと2日でロンドンへと旅立つマリア。今は一人で外を出歩いていた。有名人というの事もあり、せっかくの息抜きをファンに押しかけられないようにサングラスと帽子で変装している。はずだったのだが……

 

「ねえお姉さん、今暇?」

「俺らと遊ばない?」

 

 いかにもチャラそうな男達に絡まれてしまった。正体がバレたわけではないが、マリア程の美人であればこうなるのはある意味宿命なのかもしれない。流石にこうもしつこく絡まれると、優しいマリアも鬱陶しく感じる。

 

(正体がバレたわけではないけど……面倒ね。どうしたものかしら……。)

「あ、おったおった〜!」

 

 そこに、マリアの手を後ろから掴む女性が現れる。

 

「どこにいるんかと探してみればこんな所におったんや。はよ行こか!」

 

 関西弁混じりでナンパ男達から引き離そうとするが、逃がすまいと女性にも声を掛ける。

 

「お姉さん大阪出身?ねえ俺達と……」

「こっから先はガールズトークや。野郎が入るなんておこがましいで。」

 

 バッサリと切り捨て、その場を後にする。ある程度歩いた所で小夜が手を離した。

 

「あの……助けてくれてありがとう。」

「ええんやええんや。ああいう連中に絡まれるのは通過儀礼みたいなもんやからなぁ。そう言えばここは初めてかいな?」

「いいえ。初めてではないけど……まだ慣れていないっていうか。」

「まあさっきからキョロキョロしとったもんなぁ。」

「うっ……。」

 

 図星である。日本にはフロンティア事変で暗躍していたとはいえ、観光などする余裕はなかった。故にゆっくり見るのは初めてであり、ロンドンやニューヨークにはない物珍しさもある。

 

「っちゅうことは外人さんかいな?」

 

 サングラスや帽子があるのに何故そこまで読み取れるのかと内心ツッコんでしまう。

 

「ま、ウチはそういうの気にならへんで。せや、ウチ小夜っていうんや。そっちは?」

「マリアよ。」

「ホンマに外人さんやったんやなぁ!せや!せっかくやからお茶でもせえへん?ウチ奢るで!」

 

 お茶の誘い、それも小夜の奢りという明らかに初対面の相手にすることではない。何か裏でもあるのかと勘ぐるマリアだが

 

「別に何も他意はあらへんで?」

 

 そこまで読まれていた。だが助けてくれたという恩もあるので無下にはできない。

 

「ならお言葉に甘えようかしら。」

「決まりやな!じゃあ行くでマリア!」

 

 この人は勢いとノリが凄い。そう感じたマリアだったが、心なしか風貌が誰かに似ていると思った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 小夜に連れて来られた場所は小さなカフェ。珈琲はもちろんの事、ここはパンケーキが美味しいとの評判がある。小夜はここの常連さんなのだとか。

 二人は入店し、スタッフに席に案内されるとそこに向かい合うように座る。

 

「ウチの奢りやから遠慮せえへんで好きなもの頼みな〜。」

「え、ええ。」

 

 そう言われると余計に気を使うのだが、とりあえずマリアはモーニングセットを注文する。モーニングセットは珈琲とパンケーキ、ベーコンエッグ、サラダのセットとなっている。値段もそこまで高くはない。

 

「よし、ウチ決まったで!マリアは?」

「あ、私はモーニングセットを。」

「分かったで!すんませーん!」

 

 小夜が定員を呼んで、マリアの分を注文した。

 

「んでウチは……今日のパスタセットで!」

 

 今日のパスタセット。それは、コーヒーにサラダ、そしてシェフの気紛れによる日替わりパスタのセットになっている。ワクワクしながら待っている小夜に、マリアが何となく尋ねてみる。

 

「小夜は、ここの近くに住んでるの?」

「まあな〜。前はこの辺りやなかったんやけど、妹が高校入学したんで、ついでに引っ越したんや。」

「妹さんがいたのね……。」

「もしかして、マリアも妹がおるんかいな?」

 

 その答えを言おうとしたが、詰まった。何せ妹であるセレナは既に亡くなっていたからだ。初対面の相手に、悲しい事を話すものではない。故にマリアは嘘をついた。

 

「ええ……いるわ。」

(何や?一瞬だけ悲しそうな感じがしたような……)

 

 何処か歯切れの悪い言い方に違和感を感じた。これ以上聞くのは申し訳なくなる為、ここは話題を変える。

 

「そう言やマリアは仕事は何しとるん?」

「え?!ええっと……公務員よ!」

(ええっとって何や?また歯切れが悪い言い方やなぁ……。)

 

 地雷を踏み抜きそうになっているのかと考えたが、同時にマリアには何か秘密があるんじゃないかと勘ぐる。

 だがその勘繰りはある意味正しい。マリア・カデンツァヴナ・イヴは今後米国政府のエージェントとして振る舞う事になる。米国政府は自分達の不都合があれば躊躇なく手を下し、その痕跡を消す。何の関係もない小夜を守る為にも、本当の事を言ってはいけない。なら小夜の話に変えてしまえばいい。

 

「そういう小夜は何の仕事をしてるの?」

「ウチ?ウチはこの近くの病院で看護師やっとるよ。」

 

 この近くというと二課、もといS.O.N.G.と繋がりのある大病院がある。もしやそこなのかと思ったマリア。

 

「3年くらい前に弦さんに勧められて、勤めとるんやけどな。」

「弦さん?」

「見た目は筋肉モリモリ、マッチョマンのオッサンなんやけどな。とっても優しい人なんや。確かアクション映画好きだってきいたことあったな〜。」 

(それってもしかして……あの司令?!)

 

 あのS.O.N.G.の司令、風鳴弦十郎の事かと内心焦る。小夜が述べた弦十郎の特徴が一致しているからだ。いや、そんな特徴をしている人間など一人しかいない。ここまで偶然が重なるのかと動揺するのも無理はない。しかし、動じてはエージェントとしてやっていけない。マリアは平静を装い、あたかも知らないように振る舞う。

 

「へ、へぇ……そうなのね。随分と変わった人なのね……」

「ま、ウチからすればアンタの方がよっぽど変わっとるで。」

「ドキッ……?!」

 

 変な声とともに心臓の鼓動が、一瞬だけ強くなった。

 

「店内でその帽子とグラサンって、マスコミ対策みたいな事せえへんでもええんに。」

 

 さっきから小夜が核心を突くような事を言う度に、マリアの心は動揺している。

 小夜は気づいていないのか、みたいではなく実際そうしているのだ。マリアは世界の歌姫としてでも屈指の知名度を誇るが、フロンティア事変でシンフォギアを纏って世界各国に宣戦布告、さらにはウェルの暴走を止める為に世界中継したりしているので、音楽を知らない者でもマリアの名前を知らない者など殆どいないだろう。

 

(何この人?!さっきから発言が的確すぎない?!つい最近もこんな事があったような……)

「マリア……あんたひょっとして……」

「お待たせしました。」

 

 ここでタイミング良くマリアのモーニングセットと小夜のパスタセットが来た。それぞれ頼んだメニューがテーブルの上に置かれる。ちなみに本日のパスタはカルボナーラ半熟卵添えである。

 

(ナイスタイミングよ!グッジョブ店員さん!) 

「おっ!来た来た!今日夜勤明けで何も食べれへんかったからお腹ペコペコやってん!ほないただきまーす!」

 

 小夜はパスタに舌鼓を打つが、マリアは内心小夜の恐ろしさを身にしみながらパンケーキを食べる羽目になり、味なんて覚えているわけがなかった。

 

 料理を食べ終え小夜が会計を済ませると、二人は店から出た。

 

「ご馳走様。本当に良かったの?」

「ええんやええんや。ついでにウチの朝食に付き合ってもらったんやし。こちらこそおおきにな〜。」

 

 そこに、スマホの着信が鳴る。それが自分のスマホからだと気付いた小夜は鞄からスマホを取り出して電話に出る。

 

「もしもし?何やて?!分かった、すぐ行くで!」

 

 慌てた様子で着信を切る。

 

「ごめん!ウチすぐに職場に戻らなアカンねん!今日はホンマおおきにな!」

 

 手を振りながら急いで病院へと向かう。置いてけぼりにされたマリアは面を食らった顔でその背を見る事しか出来なかった。

 

「何だったのかしら……。」

「あの……」

 

 後ろから声を掛けられた。先程料理を運んでくれた店員だ。

 

「私に何か……?」

「これ、お連れ様のお忘れ物では?」

 

 店員から渡されたもの。それは手帳である。店員から受け取ったマリアは礼を言う。

 

「ありがとう。」

 

 用が済んだ店員は店に戻る。手帳を見ると、よほど使い込んでいるのかページの端がボロボロになっている。さらに、手帳には何かが挟まっている。それを出すと、病院で使う名札だった。それには「出水小夜」と記されている。その名字で、マリアは驚愕した。

 

「出水……?!もしかして!」

 

 知り合いに出水という名字が一人だけ。輪だ。先程妹がいると言っていた。そして妙に見覚えのある容姿。今考えてみれば、輪に似ていた。小夜が輪の姉であると確信に至る。マリアは急いで小夜が勤めている病院へと向かう。 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 小夜は今日は非番であったはずが、急患が入り、看護師の人手が足りないという事で急遽ヘルプに入った。急患は一人や二人ではなかった。しかし、小夜は医師から教わった処置を的確に行い、命を救った。

 何とか全員の処置は終わり、多忙の山場を越えた小夜はナース服から着替えて職員専用玄関から出ていった。しかし、既にもう日が傾きつつあり一日が終わりを迎える手前を感じさせてしまう。

 

「疲れたわぁ……。けど明日も仕事や……」

「お疲れ様。」

「お疲れ様……ってマリア?!何でここにおんねん?!」

 

 マリアがここにいる事に面を食らった。そんな小夜に構わず、マリアは小夜に手帳を渡す。

 

「これ……ウチの……。何でマリアが?!」

「落ちていたの。それ、大事なものでしょう?」

「せやけど……態々ここで待ってたん?!」

「ええ。にしても、さっきまで凄い騒ぎだったわね。」

 

 マリアがここに着いた時、救急車と人でざわついていた。患者として運ばれていた人数も少なくなかった。けど小夜は一人一人の患者と向き合って命を救おうと必死に動いていた。マリアはさっき見せなかった、そんなひたむきな小夜に尊敬の念を抱いていた。

  

「ねえ小夜。良かったら連絡先、交換しない?」

「ホンマか?!」

「ええ。また日本に来た時、今度は心ゆくまで過ごしたいもの。」

「ええで!ほな、ちょっと待っててな!」

 

 二人はスマホを出してお互いの連絡先を交換し合った。

 

「ホンマおおきにな〜!今日は楽しかったで〜!」

「ええ!こちらこそ!」

 

 連絡先を交換した後、二人は分かれた。その帰り道、アドレス帳のアプリを開いてマリアの連絡先を見てニコニコしていた小夜だったが……

 

「カデンツァヴナ・イヴ……もしかしてマリアって!」

 

 そこで初めてマリアが世界の歌姫であると知った。小夜が言っていたマスコミ対策みたいな格好をしていた事も合点がいった。

 帰宅後、その土産話を輪にすると

 

「ええぇぇ?!小夜姉そんな事があったの?!ズルい!私も呼んでよー!」

「そないな事言われてもなぁ……。」

 

 二人は歌姫と看護師ではなく、友達として時々連絡を取り合うようになり、魔法少女事変集結後も、一緒に食事に行ったりしていたとか。

 

 




小夜の手帳

 小夜が落とした手帳には、これまでの患者の容態の様子や処置の仕方など、書き殴られている筆跡がある。
 それとは別に付箋や別のメモ用紙も挟まれている。

小夜「マリア、誕生日おめでとうな!」


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番外編:最後の序章

ストーリー上、最後の番外編となります。


 パヴァリア光明結社との戦いを終えたS.O.N.G.の面々。装者はもちろん、戦いをサポートするオペレーター陣、司令、エージェント達にとても激しい戦いだった。だが本部の中ではエルフナインだけはまだ作業を続けていた。それはある疑問を持った所から始まった。

 

(どうして瑠璃さんは、あの時神の力を……)

 

 切っ掛けはある電子資料からだった。そこには響と未来が神獣鏡の魔を討ち祓う波動を浴びた事について記されている。神獣鏡は単に聖遺物を殺す為のものではなく、あらゆる呪いや罪を浄化させる特性を持っていた。それにより生まれ持って原罪を背負う人間には扱えない神の力を、神獣鏡の波動を受けた響は神の力を取り込む事が出来たのだ。

 では瑠璃は?瑠璃は神獣鏡の波動など浴びていない。アダムのようにアヌンナキによって作られた人形ではない。結局どんなに調べても答えは出てこなかった。

 代わりにバイデントのデータを遡っていた。バイデントのシンフォギアは元々ギリシャから持ち出された聖遺物。それがアーネンエルベにて呪われたギアとして元の変質を歪められてしまっていた。では元の変質とは何か?アーネンエルベを通じてギリシャ政府に問い合わせたのだがその結果は

 

「めぼしい情報は不明……か……。」

 

 報告を聞いた弦十郎が腕を組んで唸る。

 

「元々、ハ・デスが用いた槍以外の伝承は殆ど残っていません。恐らく呪われたギアと化してしまったのも、それが原因だと思います。」

 

 残った唯一の手掛かりといえば、バイデントのギアを発案者である瑠無・ミラーことアルベルト。彼女は結社の幹部の中では唯一の生き残りであるが、結社が瓦解して以降の消息は掴めていない。潜り込んだとされるアーネンエルベの方も同じようなものであり、国際指名手配を敷くもその尻尾すら見せない。

 結局、これらのケースは一旦保留となり当面の問題、アダムが遺したアヌンナキの降臨について当たる事になった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 パヴァリア光明結社の幹部の中で唯一の生き残りであるアルベルト。表向きではそうなっているが、裏でアーネンエルベに寝返り、神の力の奪取を目論んだ。しかし神の力はアルベルトだけの狙いであり、アーネンエルベはその事を知らない。結果的には失敗したものの、アダムが占有する事態は阻止出来ただけ良しとした。

 しかし、悠長に待つ事は出来ない。アダムの言った通り、アヌンナキの降臨は近いとアルベルトも同じ予感をしている。

 その彼女は今、武家屋敷を思わせる建物の中で静かに正座である人物と対面している。

 

「初めまして、鎌倉殿。」

 

 鎌倉と呼ばれた老人。齢100を超えた今でも、表舞台から恐れられている者。風鳴訃堂を置いて他にいない。長い時を生きてきたアルベルトですらも、目の前の巨大で強靭な気迫に、戦慄を隠すのがやっとである。

 

(この男……凄まじい……。)

 

 しかし、それでもアルベルトは余裕の態度を崩してはいない。冷静に目の前の怪物を見据える。

 

「この度は、このような謁見の機会を与えていただき……」

「つまらぬ世辞などいらん……。」

 

 訃堂にとって、アルベルトの存在、目論見など蚊トンボみたいなものだろう。利用価値がなければこうして拝謁を許してはいない。その利用価値がアルベルトが渡したデータ。

 

「神獣鏡とそのシンフォギアデータ。用があるのはそれだけ……ですかな?」

 

 拝謁前に渡したデータ、そこには神獣鏡のシンフォギアデータが入っていた。そしてそれを元にファウストローブを作る事を条件に訃堂と盟を結んだ。但し、所詮は利害が一致しただけの盟。どちらかが利用価値無しと判断すれば、破棄など容易い。それは互いに承知している。

 

「では、私はこれにて……。ファウストローブが出来次第、また……」

「たわけが……。」

 

 一礼して立ち去ろう襖に手を掛けた所を訃堂の一声で止められた。

 

「貴様の役目、それだけには留まらぬだろう。」

「というと……?」

 

 訃堂の方を向くアルベルト。訃堂がいい出そうとしている事には予想がついている。だがアルベルトにしては、それを認めたくない。

 

「夷狄の娘。」

 

 訃堂は瑠璃を身内として認めない。その証拠に彼女を名前で呼ばない。血筋を重んじる彼にとって、風鳴の血を一切持たない瑠璃など道具以下としか見ていない。アルベルトは瑠璃を蔑む彼に笑みを捨てて睨みつける。

 

「以前に3人の残党を差し出したはず。彼女達を使ってやればいい事。私には関係ありません。」

 

 少し前にアルベルトは結社の残党である3人の実験体を拾い、訃堂に遣わせた。それから彼女達は訃堂の手下として暗躍している。

 しかし、アルベルトはこれ以上瑠璃に危害を加えるつもりはない。故に拒んだ。手に掛けた襖を開いて訃堂の前から去った。

 

「儚きかな……。」

 

 一人になった訃堂はアルベルトに吐き捨てるように呟いた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 昔々……と言えば良いのだろうか。遥か昔、この星を創りし者達、カストディアン。その上位の存在であるアヌンナキの中に、二人の姉妹がいた。その姉は死を司る者。冥府を守護する者として生態系を守り、自然の理に従って死に、冥府に来たる死人達の裁きを下していた。だがそこは光が一筋も当たらぬ闇の領域。女神は光を求め、反旗を翻す為に、死人達を絶対的な破壊の力で従えていた。

 

 ある時、女神は一人の死者に目を向けた。その子供まだ地上で悲惨な事故で死を遂げた哀れな人間だった。女神の意向により、新たな肉体を与えられ、冥府の神官として彼女に仕えた。最初は失敗ばかりで、何をやっても空回りしていた。だが彼はひたむきに女神に尽くした。次第に、女神は彼に恋をした。彼もまた、女神が愛おしくてたまらなかった。自分が企てた目論見を忘れてしまう程に。

 二人は永遠の愛を誓った。愛という絆で結ばれた二人は、この先に待ち受ける障害を超えられる……

 

 はずだった……

 

 

 ■■■■■様!■■■■■様!

 

 

 ■■■……

 

 

 ■■■■■様!どうしても……行かれるのですか……?

 

 ええ……それがアヌンナキである私の……我の役目。

 

 ■■■■■様……

 

 どれ程の時が経とうとも、どんなに離れようとも、私は……あなたを愛しています。

 

 

 どうか……健やかで……。

 

 

 ■■■■■様……■■■■■様あああああああぁぁぁぁぁぁ!!

 

 これは……バラルの呪詛が起動する少し前のお話。

 

 

 ある女神はアヌンナキ達と共に戦い、激闘の果てに……女神は星を遺して散った。

 

 

 だが女神はいつの日か、いつの時代に流れた末に……未熟な形で覚醒を遂げてしまう……

 

 

 故に一度は反旗を翻した。だが、それでも歩みを止めることはない。費やしてきた時と、仲間と偽り、騙し、奪い見殺しにした命の数々。全ては己の悲願を果たす為。

 

 

「約束します……私の愛は……永遠にあなただけに……。あなただけを……愛し続けます……。」

 

 

 あの日に誓った約束。星々が煌めく夜空に手を伸ばした彼は……彼女は……錬金術師となった。

 

 

 

 

 

 

  




次回予告

遂に姿を現すカストディアン、アヌンナキ。

全てが想定外であり、規格外。

長かった悲しき魂の旅に、ようやく終着地へと辿り着く。

アルベルトの本当の悲願……それが果たされる日が来るか。

最終章 XV編 開幕





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XV編
南極


遂に開幕XV編!

過去に登場したオリキャラ達が総出演します!

台詞付きで出せるようにしたいな!


 南極、それは吹雪が荒れ狂う氷地。ここで生産出来るものは何もない、住む生物も極わずかしかない。人が出来るだけ長く滞在出来るよういくつかの中継地があるものの、到底人が永住出来る環境ではない。だがそこに向かう一つの船体があった。

 

「到達不能極までの持続密度、フラクタル二千位!脅威レベル、3から4に引き上げ!」

「算出予測よりも大幅にアドバンス!装者たちの現着と、ほぼ同タイミングと思われます!」

 

 S.O.N.G.の潜水艦本部内のブリッジでは藤尭と友里が司令である弦十郎に報告する。

 

「情報と観測データを照合する限り、棺とはやはり先史文明期の遺跡と推察されますが……。」

「ボストーク氷底湖内のエネルギー反応飛躍!数値の上昇止まりません!」

「来るか!総員、棺の浮上に備えるんだ!」

 

 緒川が言った棺。それが今回相対するモノ。エルフナインが捉えた反応を弦十郎に報告すると、彼はすぐさま指示を下す。

 

 同じタイミングで装者達を乗せた2台のヘリの扉が開いた。その内の1台にはS.O.N.G.の制服に身を包んだ響、翼、クリス、そして瑠璃が乗っている。向かいのもう1台にはマリア、調、切歌が乗っている。

 

「寒うぅー!しばれるー!どこの誰だよぉ、南半球は夏真っ盛りだって言ってたのはぁ〜?!」 

「デェース!」

 

 響が扉を開けた瞬間にブリザードが全身に襲い掛かり、身を縮こませている。切歌も同様に。ちなみに瑠璃とクリスは響にこの嘘情報を流した犯人に心当たりがある。

 

「また輪に騙されたんでしょう?」

「あいつにデマ吹かれたって、夏だって寒いのが結局南極だってのが普通分かるだろ?けどギアを纏えば、断熱フィールドでこのくらい……」

 

 そこにクリスのツッコミを遮るように、厚い氷の大地を貫くように赤い光線が放たれ、空の曇天に穴を開ける。そこから日の光が差し込むが、その光線の威力を前に、装者達は驚きを禁じ得ない。

 

「なかなかどうして……心胆寒からしめてくれる……。」

 

 さらにそれだけでは終わらない。氷を砕きながら巨大な機体が姿を現した。それが弦十郎達が指す『棺』であるのだが、それは棺というよりロボットと言った方が妥当である。

 

「あれが……あんなのが浮上する棺……?!切ちゃん、棺ってなんだけ……?!」

「常識人には酷な事、聞かないでほしいのデス!」

 

 装者の中では表情の変化が少ない調も、これには驚愕を隠しきれず、常識人ポジションとなっている切歌に棺の定義を問うが、当の本人も頭を掻くだけで答えられない。

 

「何時だって想定外なぞ想定内!行くわよ!」  

 

 目の前の現象に狼狽えないマリアがまとめ上げる。そして装者達はヘリから降下して

 

Tearlight bident tron……

 

 詠唱を唄い、バイデントのギアが起動する。身に纏っていた制服が消失、藍色のインナースーツに変化し、右手には黒の、左手には白い指揮棒が現れてそれを手にして振るうと、その先端をなぞる様に黒白の光が描かれる。その光に導かれるように藍色の結晶が舞い、両腕、両足のアームとなった。配色も左右の色に合わせたものとなる。

 指揮棒で描いた双子座の光が分かたれ、それがヘッドホンアームを形成、さらにその上から覆うようにバイザーが作られる。ギアのコンバーターの左右には藍色の羽根を模したユニットが形成される。

 そして光の指揮棒を頭上に投げると、その光を纏って、それぞれの色の槍となって掴む。ヘッドホンアームのバイザーが瑠璃の視界を覆い変身が完了。ギアを纏った姿となって現れる。

 

 他の装者達もギアを纏い、響と瑠璃の二人で一番槍を務める。黒白の槍を一つの槍として連結させて、穂先を高速回転させて、棺に突き出す。

 

【Horn of Unicorn】

 

 響も腰のブースターを点火させて振り抜いた。だが棺はその巨体に見合わぬ反応で、拳を突き出すようにして二人の攻撃を防いだ。瑠璃はともかく爆発力の高さでは一番の響の攻撃を防御しきれるその固さにマリアは驚愕する。

  

「互角!それでも、気持ちでは負けてない!」

 

 だが簡単に終わるはずがないのも予想済み。誰一人動じる者はいない。

 棺の口と思われる箇所から先程の赤い光線が放たれ、装者達は跳躍して避ける。被弾した箇所が爆発し、そこから緑色の光柱が打ち上げられる。そのてっぺんには魔法陣のような模様が展開され、光線とともに氷の結晶となる。

 

「何なんだよあのデタラメは?!どうする?!」

「どうもこうも……止めるしかないじゃない!」

 

 マリアが中継基地の方を見やる。そこには大勢の非戦闘員が慌てふためいて逃げ惑っている。

 

「散開しつつ距離を詰めろ!観測基地には近づけさせるな!」 

 

 翼の指示と共に響が駆け出し、その後ろからも調と切歌が走る。調のツインテールのアーマーのバインダーが開かれ、そこから小型の鋸が無数に放たれる。

 

【α式・百輪廻】

 

 イガリマの大鎌の刃が3枚展開され、それを投擲する。

 

【切・呪りeッTぉ】

 

 紅刃と碧刃が迫っても、棺は跳躍。響はそこを狙って、巨大な棺を担いで、氷地に叩きつける。そこに高く跳躍したクリスが腰のアーマーから小型ミサイルを一斉掃射する。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

 全弾命中するも、傷一つすら与えられていない。

 

「効かないのかよ?!」

 

 悪態をつきながら棺の光線を跳躍して避ける。本部でも棺の戦闘機能に、緒川が疑問を呈する。

 

「接近する対象を苛烈に排撃……こんなものを、はたして棺と呼ぶべきでしょうか?」

「攻撃ではなく防衛……不埒な盗掘者を寄せ付けないための機能だとしたら、どうしようもなく棺というより他あるまい。」

(だとすれば、棺に眠るのは、本当に……)

 

 パヴァリア光明結社との戦いで浮上したアヌンナキの存在。その実在が濃くなっている。だがそこに友里の報告が入る。

 

「司令!棺に新たな動きが!」

 

 棺の身体から棘が展開されて、それをミサイルのように放った。宙に舞う棘の姿形が代わり、羽の生えた蛾のように変わると、その身体から微細の緑色の光線を放つ生命体となる。響はそれを弾きながら、その生命体の群れを蹴散らす。

 切歌と調もスケートのように滑りながら、切歌の肩に調を乗せて、ツインテールのアームから展開された大型鋸を操作して、その大群を切り刻む。

 

「こちらの動きを封じる為に……!」

「しゃらくさいのデス!」 

 

 クリスのガトリング砲の弾幕、瑠璃の二本の槍の遠隔操作で空にいる生命体の群れを撃ち落としている。

 

「群れ雀なんぞに構いすぎるな!」

「だけど数が多くてキリがない!」

「ならば、行く道を!」

 

 翼が刀の剣先を天高く掲げると、空からエネルギーの剣が降り注ぎ、棺への道を開ける。その道をマリアと響が走り、ガングニールの右腕のバンカーアーマーとアガート・ラームの左腕のガントレットを変形させる。

 

「最速で!最短で!」

「真っ直ぐに!一直線に!」

 

 変化したそれぞれのアームがドリルのように高速回転させて、雄叫びとともに突っ込む。二人の同時攻撃は棺の胸と思わせる結晶を穿ち抜いた。

 だがその仕返しと言わんばかりに跳躍した棺の腕が響とマリアをハエのように叩き落とした。氷の大地に強く打ち付け、倒された体勢のまま滑っていって、停止した。

 

「二人とも!」

「しっかりするデスよ!」

 

 倒れた二人に駆け寄る調と切歌だが、翼が皆を背に刀を構える。

 

「来るぞ!」

 

 棺が再び光線を放った。

 

「やらせない!」

 

 連結させた槍を高速回転させて、そこから発せられるエネルギーの竜巻を放った。

 

【Harping Tornado】

 

 光線と竜巻がぶつかりあうが、拮抗することなく竜巻が掻き消されてしまう。

 

「嘘?!」

「間に合えええぇぇ!!」

 

 ギリギリ瑠璃と光線の間に割って入ったクリスがリフレクターを展開させた。巨大な爆発とともに、4本の緑色の光柱が結晶となる。

  

「リフレクターによるダメージの軽減を確認!」

「棺からの砲撃、解析完了!マイナス5100度の指向性エネルギー波……って何よこれ?!」

 

 解析結果に友里が驚愕する。表示されているモニターには、結晶によって氷漬けにされてしまっている装者達。

 

「埒外物理学による……世界法則の干渉……。こんなの、現在のギア搭載フィールドでは、何度も凌げません……!」 

 

 先端技術、異端技術にも属さない。これまでよ超常現象すら凌駕する力。シンフォギアでは防ぐ事の出来ないものだった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 時は少し遡る。そもそも何故装者達は南極にいるのかも話そう。

 

 学校帰りの夜、外はクリスマスムードに包まれ、ショッピングモールの建物や街頭などに飾られたイルミネーションが夜景を鮮やかにしている。

 瑠璃はクリスの誕生日プレゼントを買う為に大型ショッピングモールに訪れていた。だが何が良いのか迷っている内にここに来てから1時間経とうとしている。

 

「うーん……どれが良いんだろう……。」

 

 店に入っては迷い、出てはまた違う店に入っての無限ループ。次の店に入ろうとした時……

 

「あれ、瑠璃?」

「え?」

 

 後ろから呼ばれ、振り返った先には輪がいた。

 

「な、何で輪がここに?」

「誕生日プレゼントを買いに。」

「あ、クリスの誕生日プレゼントを?」

「いや、あんたとクリスの。」

「え?」

 

 自分の誕生日を買いに来たと言われ、目が点になる瑠璃。

 

「アンタまさか、自分の誕生日忘れてる?」

「あ……。」

「図星か!」

 

 瑠璃とクリスは双子である為、誕生日が一緒なのだ。だが当の本人はそれをすっかり忘れている事に、輪は呆れてしまう。さらに……

 

「ね、姉ちゃん?!」

「え?!」

「クリス?!」

 

 双子故の偶然なのかクリスもここにやって来ていた。

 

「な、何で姉ちゃんがここに?!」

「だって……クリスの誕生日プレゼント……。」

「デジャヴュ……。」

 

 さっきも見たやり取りに輪がボヤいた。ともあれ目的が一致した三人は同じ店に入ったのだが、どれが良いかと互いに聞けるわけもなく、結局買えずじまいとなり、三人は夜道を歩いている。輪はめぼしいものがあったが、それは二人がいない時に買おうとマーキングする程度に留めた。

 

「まさかこの双子、お互いに自分の誕生日を忘れるくらいお互いの誕生日プレゼントを選んでいるとはね……。」

「被っちまったもんはしょうがねーだろ?!」

「これは本当に偶然なんだから。」

 

 二人の反論に、輪はこの様子だと次の日も同じ事が繰り返されそうな気がして再び呆れる。

 

「それでさ、ここん所のS.O.N.G.はどう?」

 

 輪の持つファウストローブは絶対の破壊者となった闇の瑠璃との戦いでひび割れてしまったものの、アルベルトが提供したラピス・フィロソフィカスのファウストローブの設計図のお陰で修復する事が出来た。しかし、輪の錬金術のエネルギーがない為、纏う事が出来なくなってしまっていた。

 とは言っても、元々瑠璃を助ける為に急遽戦う事になっただけで、それが終われば戦線離脱するつもりだった。現に弦十郎からも、無茶した事にこっぴどく説教されたのだ。それ以降は元の外部協力者に戻った為、殆ど本部に出入りしていない為、近況を聞き出そうとするが

 

「何かあったとしても、ギアを持たないお前に教えたら首突っ込むだろ?」

「そうそう。それでいつも危険な目に遭っても懲りないんだから。」

「いやーでも殆ど私の意思とは関係なく巻き込まれてるんだけどね。」

 

 輪の言う通り、偶発的に巻き込まれたものが殆どである。しかし危機を脱した時、素直に手を引けば良いものをそこから先は自ら踏み込んでいるのだ。二人はそう言っているのだ。

 

「けど……本当に色んな事があったねー。」

「うん。だけど、やっぱり何にもない普通の日常が一番良いな。」

「それがフラグにならなきゃ良いけどな……」

 

 フラグを回収するかのように爆発音が聞こえた。

 

「回収されたねぇ……フラグ。」

「行くぞ姉ちゃん!」

「うん!輪は先に帰ってて!寄り道しちゃ駄目だからね!」

「え?!ちょっと!置いてかないでよー!」

 

 本部へと走っていった瑠璃とクリスに置き去りにされた輪は一人叫んだ。

 

 本部のブリッジ。装者全員が全員揃ったのを確認した弦十郎がブリーフィングを始める。モニターには爆破して炎上する大型船舶と、その消火活動をしている船が映っている。

 

「大型船舶に偽装したS.O.N.G.の研究施設にて、事故が発生した。」

「海上の研究施設……デスか?」

「もしかして、街中では扱えないような危険物を対象に?」 

「ああ。そこでは先だって回収した、オートスコアラーの残骸を調査していたのだ。」

 

 モニターが切り替わると、そこにはパヴァリア光明結社との戦いでアダムが所有し、ディヴァインウェポンとして用いられたティキ。だがその姿は下半身が無く、白目を剥いて機能を停止していた。

 

「破壊されたアンティキティラの歯車と、オートスコアラーの構造物からは、パヴァリア光明結社、ひいては、アダム・ヴァイスハウプトの目的を探る解析が行われていたの。」

「先ほどの爆発事故は、機密の眠る最深奥に触れたが為の、セーフティーとも考えられますが……」

「ティキと呼ばれたあのオートスコアラーには、惑星の運航を観測し、記録したデータをもとに様々な記録したデータをもとに様々な現象を割り出す機能もあったようです。」 

 

 友里、緒川、エルフナインが説明しながら、モニターが切り替わると、3Dモデルの地球が表示され、日本から発せられた座標がの進行と共に地球も動き出す。そして目的の座標に到達すると、そこに映し出されたのは……

 

「これは……南極大陸。」  

「爆発の直前、最後にサルベージしたデータが南極の一地点を知らせる座標でした。」

「ここは南極大陸でも有数の湖、ボストーク湖。付近に位置するのはロシアの観測基地となります。」

 

 さらに詳細な位置が表示されるが、響は湖らしいものがない事に疑問を持つ。

 

「湖ってどれぇ?一面の雪景色なんですけれど?」

「その雪景色の殆どのボストーク湖さ。正確には、氷の下に広がっているんだけどね。」

 

 藤尭が優しく教える。

 

「地球の環境は一定ではなく、たびたび大きな変化を見せてきました。特に近年その変動は著しく極冠の氷の多くが失われています。」 

「まさか、氷の下から何かが出てきたってわけじゃないよな?」

「そのまさかだったりして……。」

「そのまさかよ。」

 

 今日の双子姉妹のフラグ回収が多いものだ。

 

「先日ボストーク観測基地の近くで発見されたのが、この氷漬けの蠍です。」 

「照合の結果、数千年前の中東周辺に存在していた種と判明。現在では絶滅していると聞いています。」

 

 中東の蠍が何故南極で発見されたのかもそうだが、その生息地にも引っ掛かるマリア。

 

 

「何故そんなものが南極に?」

「詳細は目下調査中……。ですが、額面通りに受け止めるなら、先史文明期に、何らかの方法で中東より持ち込まれたのではないでしょうか?」

 

 つまり、分からないという事だ。そこに緒川が情報を開示する。氷漬けの蠍から、結社に関する情報へとモニターも切り替わる。

 

「気になるのは、これだけではありません。情報部は瓦解後に、地下へと潜ったパヴァリア光明結社の残党摘発に務め、さらなる捜査を進めてきました。」

「得られた情報によると、アダムは、専有した神の力をもって、遂げようとした目的があったようだな。」

「確かあの時、アヌンナキを超える為にって言っていた……。けど神の力を得たからって、本当の神に対抗出来るものなのかな?」

 

 アダムが言っていた事を瑠璃が思い出すが、ソレだけではアヌンナキを超えられるのか甚だ疑問だった。

 

「あるとすれば……この星の支配者となる為、時の彼方より浮上する棺を破壊。」

「何デスと?!」

「でも、時の彼方からの浮上って、南極と蠍と符合するようで気味が悪い……。」 

 

 こうも点と点が結んでは、調の言う通り気味が悪いのは事実。弦十郎は椅子から立ち上がり、装者達を見る。

 

「次なる作戦は、南極での調査活動だ。ネタの出所に結社残党が絡む以上、この情報自体が罠という可能性もある。作戦開始までの1週間、各員は準備を怠らないでほしい!」

 

了解(デス)!

 

 装者達の声が一斉に揃った。そしてその1週間後、装者達は南極を戦場に戦っているが、絶体絶命のピンチを迎えている。




オリキャラプロフィール

神官の青年

イメージCV(Fate/Zero ランサー)

元は死亡した遥か昔の人間。あるアヌンナキによって肉体を与えられ、従者として置かれるようになるが、後に恋仲となる。

オリキャラ達のイメージCVを追加しました!
とはいってもあくまで私の中でのイメージなので、皆さんの中のベストCVがあれば是非感想で教えて下さい!


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切り札

 棺の攻撃によって装者全員が氷漬けにされてしまい、昏睡状態に陥ってしまっている。無抵抗となった7人の所へと巨大な足音と共に棺が迫っている。その様子を遠目からこっそり見ている白いローブを着た2人の存在があった。

 

「これは……呆気なく、やられちゃったでありますか?」

 

 両手を望遠鏡のような形をして見ている桃色髪の少女、エルザ。そしてその隣にいるもう一人の青い髪に赤いメッシュと八重歯が特徴の少女、ミラアルク。寒いのかくしゃみをして鼻を擦っている。

 

「ウチらじゃまるでかないっこないデカブツが相手とはいえ、もうちょっと踏ん張ってもらいたいものだゼ。」 

 

 二人もどうやら棺に用があるようだが、勝てる見込みはないと判断して装者達と棺の戦いに静観を決め込んでいるようだ。

 

『ピンポンパンポン♪』

 

 そこにミラアルクに念話が送られてきた。声からして女性だ。その声の主はオープンカーに乗って運転している。

 

「どう?そっちは順調かしら?」

『棺の浮上を確認したところだぜ。』

『本当に局長は、あんなものの……棺の復活を阻止して、この星の支配者になろうとしたのでありますか?』

「今となっては分からないわね。少なくとも、私達の目的は局長とは違う。」

 

 すると、女はオープンカーをドリフトターンしながら停めて、そのドアに足を乗せる。

 

「こちらの狙いは、棺の破壊ではなく……その活用だもの。そう……これは、未来を奪還する戦い。だから、絶対に果たさなければならないわ。」 

 

 崖下の建物を見下ろす。彼女の名はヴァネッサである。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 装者達は未だに意識が覚醒しないまま氷漬けにされてしまっている。本部でも7人のバイタルの低下が確認されており、このままでは低体温症で死は免れない状態になってしまう。

 そこに弦十郎が手助けしようとブリッジを出ていこうとする。だがそれは緒川に呼び止められた事でその足を止める。

 

「司令!」

「案ずるな!ステテコ重ねた二枚履き、凍える前には片をつける!」

「そうではなく……」

 

 だがモニターから発せられる光が強くなった。その正体は観測基地から打ち上げられた照明弾。発射させたのは観測基地で働く非戦闘員の男だった。その反応ともう一人の生体反応が、バイデントのバイザーがキャッチ、その姦しい音によって瑠璃の意識が戻る。

 

「あ、あれは……!」  

『何やってんだ?!』

『女の子がこんな寒い所で、お腹を冷やしたら大変だろ?!』

 

 その男は響達のピンチを見て、助ける為に照明弾を打ち上げて棺の気を引こうとしたのだ。もう一発打ち上げると、男の狙い通り、棺は照明弾が打ち上げられた方に向いた。だが容赦なく光線が放たれ、基地の一部が損壊した。職員二人は必死になって逃げており、今の所は無事だ。

 だが職員の声が無線越しに聞こえた事で響も意識が戻った。

 

「皆が……いるんだ……!」

 

 すると響は諦めない不屈の闘志の如く、気合で氷の結晶を破った。

 

「そうだよ……みんなとの絆が……ある……!」

 

 すると、瑠璃が氷地に落ちた2つの槍を遠隔操作で操って、氷の結晶を破壊。自由の身となった瑠璃の手に槍が戻ると、二本の槍を連結させて二叉槍へと変化させると、そのエネルギーを穂先に一点集中。そのまま氷の結晶へ叩くように打ち込んだ。

 

【Raging Hydra】

 

 特大の一撃を受けた結晶にヒビが入り、粉々に砕け散った事で装者6人も拘束から解放される。装者7人が並び立つ。

 

「その通りだぜ姉ちゃん!」

「ああ。戦場に立つのは、立花だけではないぞ!」

『皆さん!ボクは……ボクの戦いを頑張ります!だから!』

 

 装者だけではない。エルフナインや弦十郎、S.O.N.G.の皆も共に戦ってくれている。

 

「みんなが背中を押してくれる!」

 

 響は拳を握って強く言い切った。棺の身体から再び生命体を展開。さらに先程の光線を放つタイプとは異なる、ジャベリンのように高速で回転しながら突撃を仕掛けて来る。

 響はそれらの襲撃を的確に捌いて、いなす。しかし、厚い氷層を貫き、湖に沈んだ個体が水面から姿を現す。

 翼は脚部のブレードをサーフボードのように操り、宙を舞うように攻撃を避けると、連結を解除させて自身を軸に高速回転。脚部のブレードによって空にいる群れを撃墜する。

 クリスは生命体の群れをリフレクターで防ぎながら、両手のアームドギアを巨大なボウガンに変えて、結晶の矢を4本放つ。空に打ち上げられた矢の結晶はバラバラに分離して、そのまま雨霰のごとく降り注いだ。

 

【GIGA ZEPPELIN】 

 

 瑠璃に襲い掛かる生命体の大群は、瑠璃の連結させた二叉槍を高速回転させる事で発生したエネルギーの竜巻に飲み込まれ、バラバラに切り裂かれていく。

 

 マリアの短剣の刃が蛇腹剣のように伸び、新体操のような動きで、絡めとった生命体の群れを切断する。

 

【SILVER†GOSPEL】

 

 逃げ遅れた女性の職員が生命体と鉢合わせとなり、攻撃を受けそうになるが、ヨーヨーで撃ち落としてそれを阻止する。さらにスケートのように滑走してツインテールのアームから放った巨大な鋸を2枚投擲。空の生命体の群れを蹴散らす。

 だが生命体が6体で1つの円形の隊列を組むように展開すると調に向けて光線を一斉掃射。とっさに鋸を4枚盾のように回転させるがその流れ弾が女性の背後で爆発する。その余波で吹き飛ばされるが響が受け止めた。

 生命体の群れの隊列がもう一度発射しようとするが、切歌が大鎌の刃を投擲した事で防いだ。

 

「大丈夫ですか?!」

 

 響が女性の安否確認をすると、生命体の群れがジャベリンのように襲い掛かってきた。さらにもう一方からは棺が光線を放とうとエネルギーを集約して放った。多方向からの防御はガングニールの性質上、最大の弱点となっている。このままでは片方の攻撃でやられてしまう。そこにエルフナインから通信が入る。

 

『砲撃来ます!ぶん殴ってください!!』

 

 エルフナインが通信をしながらコンソールを操作する。

 

「言ってる事!全然分かりません!!」

 

 指示を受けた響は脚部のアンカーで足を固定して光線を力いっぱいぶん殴った。するとぶん殴られた光線の軌道が分散され、その流れ弾が背後の生命体の群れに直撃した。これにより、両者からの攻撃を防ぐ事が出来た。

 

「拳の防御フィールドをアジャスト!」

「即席ですが、エルフナインちゃんが間に合わせてくれました!」

「解析からの再構築は、錬金術の原理原則!これがボクの戦い方です!」

 

 7人の全力の一斉攻撃で棺の立位バランスが崩され背後に転倒する。女性も無事に避難したが、棺の身体から棘が形成され、それを車輪のように高速回転させて、響に突っ込んできた。

 

「させない!」

 

 右腕のバンカーユニットのブーストを最大まで引き上げて、棺を殴った。突撃は何とか防いだが、棺の腕が振り下ろされ響が湖へと放り込まれた。そして棺もそのまま湖の中へと沈んだ。

 

「響ちゃん!!」

 

 響を助けるべく連結させた二叉槍の穂先にエネルギーを集約させながら、バイザーの反応を頼りに狙いを定める。バイザーには棺と響の姿を捉え、狙うべき箇所に、緑色のロックオンマーカーが表示された。

 

「うおぉりゃああああぁぁぁ!!」

 

 雄叫びとともに、二叉槍を湖へと突き出し、穂先から黒白のエネルギー波を放った。

 

【Shooting Comet :Dual Drive】

 

 エネルギー波は水中であってもその威力は衰えず、棺の腕に直撃、掴まっていた響が解き放たれる。そして、湖の底に足がつくと、両腕のガントレットを変形させて、バンカーユニットを高速回転させて巨大な2つの台風を放つ。2つの台風によって棺が空高く打ち上げられ、その巨大な体が曇り空に穴を開ける。そして、打ち上げられた湖の水が、雨のように降り注いだ。

 水中から脱する事が出来たとはいえ、ダメージは必至。瑠璃を始め、他の装者達も駆け寄る。

 

「響ちゃん!大丈夫?!」

「それより、あれを何とかしないと!」

 

 立ち上がった響が見た先は空に打ち上げられた棺。このままではその巨体が落下してしまう。

 

「狙うべきはのど元の破損個所、ギアの全エネルギーを一点収束!」

「決戦機能を動く標的に?!もし外したら……!」

「後がないデス!出来っこないデスよ!」

 

 新たな決戦機能の使用をマリアが提案する。全てのアーマーをエネルギーへと変えて、それを攻撃へと変換させる一撃必殺の決戦機能。しかし、それは全ての守りを捨てるという事を意味する。もし外せば敗北は免れない、まさに退路の無い選択である。

 調と切歌が危惧するが、クリスが払うように言う。

 

「狙いをつけるのはスナイパーの仕事だ、タイミングはアタシが取る!」

「いくぞ、皆!」 

「「「「「「「ギアブラスト!」」」」」」」

 

 インナースーツ以外の全てのアーマーをエネルギーへと変えて、それぞれの持ち主の元へと集う。だが棺の方も、察知したのか生命体の群れが棺の周囲に集まる。

 

「リフレクター気取りかよ!」

 

 クリスの左目にレンズが展開される。同時に棺の生命体の群れが光線を放つ。棺が地表に落ちるまでの距離は1200m。

 

 

「クリスちゃん!もうすぐ二人の誕生日!この戦いが終わったら……」

「そう言うのフラグはお前ひとりで建てろってんだよ……!」

「まだデスか?!まだデスか?!」

「このままだと、私達までぺしゃんこに……!」

「大丈夫だよ……!」

 

 切歌と調の心配を、瑠璃が和らげるように言う。

 

 

(焦るな……焦るな……!焦らせるな……!)

 

 遂にその時が訪れる。棺の破損箇所を捉えた。

 

「今だぁ!!」

「「「「「「「G3FA!へプタリボルバァァァァァーーーーー!!」」」」」」」 

 

 7人が拳を振り抜くと、7つの集約したエネルギーが放たれ、それが1つとなる。生命体の群れの間を潜り抜け、棺の破損箇所に直撃。周囲の生命体諸共爆ぜた。その爆発の衝撃で周囲の雲が払われ、南極は晴天となった。

 

 

 

 任務も成功を果たし、大破した事で活動を停止した棺。今は調査員達が棺を調べている。瑠璃達も、本部からその様子を静観している。

 すると、棺の僅かな隙間から蒸気が噴射され、その扉が開いた。そして、その中身を見て息を呑んだ。

 

「あれがカストディアン……。神と呼ばれた、アヌンナキの遺体。」

「つまりは聖骸、という訳ですね。」

 

 中にあったのは既に干からびているミイラ、そしてその右腕には傷一つすらない黄金の腕輪。それを見た瑠璃は一瞬、瞳の色が冷たい闇へと変わっていた。それに気が付いたのかは分からないが、クリスが瑠璃の方を見て心配する。

 

「おい姉ちゃん?」

「え?」

 

 クリスの声で、再びラピスラズリの瞳へと戻った。

 

「大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫だよ……。」

 

 クリスには平静を装っていたが、瑠璃はある違和感を覚えていた。あの腕輪は初めて見るもののはずなのに、初めて見たような感じではない。何か違和感を感じていた。

 

そしてもう一方、棺の中身が開かれた瞬間に、遠くからではあるがそれを静観している者がいた。

 

「遂に開かれた……。この瞬間から、再び始まるのか……。」

 

 いつもの余裕の笑みがない。それだけ真剣に見ている。パヴァリア光明結社元幹部の残党、アルベルトがそう呟いた。




早くもXV編で姿を現したアルベルト。この先どう立ち回るのか、装者達をどう翻弄するのか。


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戻りかけた平和が崩れ落ちた日

今回きりしらVSエルザ戦は特に展開が変わらないのでカットします!

というわけであのトラウマ回となります。


 クリスの自宅に飾られている仏壇。それは当時、S.O.N.G.がまだ特異災害対策機動部二課だった時、亡き両親の為に瑠璃とクリスが出し合って買ったカッコいい仏壇。ちなみにこの時、弦十郎を連れて仏壇を担がせた事で、彼が7回も職質を受ける事になった。

 

 瑠璃とクリスが学校へ行く前に、瑠璃と共に手を合わせている。それが二人の日課である。

 

「じゃっ、ガッコ行ってきます。」

「行ってきます。パパ、ママ。」

 

 仏壇には両親の写真が並んで立っており、先日の誕生日の写真も飾られている。2人の18歳誕生日パーティーの時の集合写真であり、装者達はもちろん、友達である輪と未来も写っていた。ちなみにこの写真を撮ったのは他でもない、輪であり、星空フレームの写真スタンドも輪からの誕生日プレゼントであり、瑠璃とお揃いである。

 

「えっくしぶ!」

 

 可愛らしいくしゃみをするクリス。リディアンの制服の上にコート、マフラーに手袋と完全防備ではあるものの、それでも寒い。

 

「この寒さはプチ氷河期どころじゃないぞ……。」

「でも南極よりはマシじゃない?は……あ……っくしずっ!」

 

 変わったくしゃみをする瑠璃。

 

「ギアを纏ってんのと一緒にするなって。大体な……」

「クーリスちゃーん!」

「おはよう。」

 

 二人の後ろから響と未来がやって来た。さらにもう一人、シャッターが切られる音が聞こえる。

 

「今日も姉妹揃って熱々で眼福眼福。これなら寒さなんてへいきへっちゃらだねぇ。」

「あっ!輪さんに持ってかれた!」

 

 響の口癖をパクって写真を撮っていた輪はしてやったりと笑う。

  

「おはよう3人とも。」

「おっはよー瑠璃!」

 

 撮られ慣れているせいか、赤面するクリスより冷静におはようの挨拶をしている。

 

「寒いよねぇ~。でも温かいよねぇ~。お似合いの手袋!」 

「いつもありがとう、響ちゃん。」

 

 瑠璃の台詞からして昨日もこのやり取りがあったようだ。が、これが追い打ちとなったようで、顔を真っ赤にしたクリスにも我慢の限界が来た。

 

「毎朝毎朝押しつけがましいんだよ馬鹿ぁ!」

 

 クリスのバッグが響の脳天に直撃した。これには未来も呆れている。

 

「調子に乗りすぎ、はしゃぎすぎ。」

「だってさ、一緒に選んだあの手袋、瑠璃さんとクリスちゃんに喜んでもらってるみたいだから!」

 

 瑠璃の藍色の手袋とクリスの赤色の手袋。これは響と未来が選んだ誕生日プレゼントである。あれから瑠璃とクリスはこの手袋をして登校しているのだが、特にクリスが喜んで大事に使っている事を響は嬉しくてしょうがない。

 

「手袋して休まず登校してくれるし!」

「言われて見れば、3人とも推薦で進学も決まってるのにね。」

「そうそう。それも同じ大学なんだよね〜。イェイ!」

 

 得意げに右目でウィンクしてピースする輪。3人は同じ志望校を受けて見事推薦が決まったのだ。ただ唯一、輪の偏差値がギリギリだった為、瑠璃が勉強を教える事となったが、必死の努力の末に輪も合格が決まったのだ。

 

「まあ私はともかく、クリスは私達より学校に行ってないから、その分の……」

「だぁー!余計な事を言うな姉ちゃん!」

 

 クリスが大声で遮った。それがおかしかったのか、皆が笑っていた。だがその直後に、瑠璃とクリスの表情は真剣なものになる。

 

「これが……いつまでも続けば良かったな……。」

「ああ……けどあんな事があっちゃな……。あたしらも、そろそろ暢気に学校に通っているわけには、行かないのかもしれないな……。」

 

 同じ事を考えているのはこの二人だけではない。3日後に日本で凱旋ライブ「roof of heaven」を向かえようとしているのだが、どうもそれに身が入らないようだ。それも現場監督からも首を横に振られてしまう始末。その様子をマネージャーである緒川と、サングラスかけて黒服に変装しているマリアが見ていた。

 

「何かに、心を奪われているようですね。」

「んっ?!そ、そうね。任務の合間に陣中見舞いしてみればこの体たらく……凱旋ライブの本番は3日後だというのに。」 

 

 とは言いつつも何かに心を奪われている、という点ではマリアも同じである。緒川もやれやれと言わんばかりに苦笑いを浮かべている。

 そこに一旦休憩に入った翼がやって来た。

 

「お疲れさまでした。」

「いえ……。」

「世界に再び脅威が迫る中、気持ちは分かるけどね。でも、ステージの上だってあなたの戦う場所でしょう?」

「それはそうだが……南極からの帰還途中で、あんな事が起きたのに……果たしてここは、私の立つ所はなのだろうか……。」

 

 実は南極での任務が終え、その帰還途中でアルカ・ノイズの襲撃を受けたのだ。襲われたのは米国空母のトーマス・ホイットモア。そこにはS.O.N.G.が回収した聖骸を積んでいた。それを狙ってパヴァリア光明結社の残党の一人が襲撃を仕掛けたのだ。

 幸い先行警戒していた調と切歌の活躍によって撃退したのだが、こうも派手に立ち回られてしまった以上、再び襲撃される恐れがある。皆はそれを危惧しているのだ。

 

「我々S.O.N.G.も、極冠にて回収した遺骸の警護に当たるべきではないでしょうか?」

「気持ちは分かるわ。でも遺骸の調査、扱いは米国主導で行うと、各国機関の取り決めだから仕方ないじゃない。」

 

 聖骸の解析や取り扱いは、米国の横槍同然のやり方で行う事になったのだ。

 異端技術や聖遺物はどんな通常兵器を凌駕する最強の武器になりうる。そんなオーバーテクノロジーを喉から手が出る程欲しがるのは仕方のない事だ。それでも翼は納得が出来ない。

 

「せめて私達が警護に当たれれば、被害を抑えられ……あいたっ!」

 

 聞き分けのない子供にやるかのように、マリアは翼の額にデコピンをくらわせる。翼は結構痛いようで額を抑えている。

 

「今やる事と、やれる事に集中するの。ステージに立つのは、貴女の大切な役目のはずでしょ?」

 

 人々に歌を届けて勇気と希望を分け与えるトップアーティストの一面も、翼の役目でもある。

 

「不承不承ながら、了承しよう……。だが、それには一つ、条件がある。」

「は?」 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  

 ライブ当日の夕刻。スタジアムへと向かう車道は大量の車で行列をなしていた。翼の凱旋ライブの為、それは起こりえる事だった。その内の一車両で、この現状に嘆く者がいた。

 

「久々のライブだよ?!翼さんの凱旋公演だよ?!だけどこんなんじゃ間に合わないよぉう!」

「しょうがないよ。ここまで混んでるとね……。」

 

 後部座席に座る響の嘆きに、助手席に乗っている瑠璃が宥める。ちなみにクリス、切歌、調、輪を乗せた車は響の乗る車両の隣を走っている。

 

「マリアも急に来られなくなるなんて……。」

「ツイてないときは何処までもダメダメなのデス……。」

 

 ここに来る前、マリアが来られなくなったという一報に調と切歌は落ち込んでいた。だがその一報に、助手席に乗っている輪は顎に手を当てて考えていた。気になったクリスが問う。

 

「どうしたんだ?」

「いや、マリアさんまで来られなくなったっていうのがどうも……あっ。」

 

 輪が一つの答えに辿り着いた。

 

 その答えは翼の凱旋ライブ開始と同時に明らかになる。日が暮れて、スタジアムの装飾の光とペンライトが交差する。

 夜空を背景に字幕に『Tubasa』と表示される。そして次に表示されたのは

 

『and Maria』

 

 マリアの名前が出た事に、観客達はどよめく。どういう意味かと理解出来ない者が殆どだった。同時に翼が歌い出すと、別の歌声が聴こえて来た。ライトの光でスタジアムが照らされると、翼の隣にマリアが立っていた。

 スペシャルゲストにマリアのいう豪華な演出に観客達は大きな歓喜で盛り上がった。

 

 あの時、翼が出した条件。それがマリアも共に唄うというものだった。

 

「そんなこと無理よ!出来ないわ!」

「いつか、私と歌い明かしたいと言ったな。」

「でも、私には……」

「私は歌が好きだ。マリアはどうだ?」

 

 マリアだって歌が好きだ。故にこの条件を受け入れ、このライブに参戦した。

 

 バッグスクリーンには翼とマリアが唄う姿が映っている。二人が唄うとステージの色が青とピンクの色と交互に変わっていく。

 そしてサビに入ると二人が立つステージが動き出し、縦横無尽に駆け回る。そして、ステージの色が黄色に変わり、翼の衣装も、一部がステージの色に変わる。

 演出に加えて翼とマリアのデュエット、観客達の盛り上がりは限界を知らない。まだこれで1曲目なのだ。次の曲は何なのか、何を見せてくれるのか、胸の鼓動、ワクワクが止まらない。

 

(アーティストとオーディエンスが一つに繋がる、溶け合ったような感覚……!まるであの日に、故郷の歌が起こした奇跡のような……。)

 

 

 だがここで、瑠璃が何かに気付いたかのように車内からスタジアムを見上げる。それに気が付いた未来が尋ねる。

 

「どうしたんですか瑠璃さん?」

「来る……!」

 

 バイデントのギアペンダントを握ってそう言うと助手席から降りた。

 

「瑠璃さん?!」

 

 響が呼び止めるが瑠璃はそのまま道路を走っていった。

 

「何でここに……!」

 

 その嫌な予感は的中した。突如スタジアムの真上からアルカ・ノイズの召喚陣が複数も展開された。そこからは巨大な飛行型アルカ・ノイズが顕現した。

 翼とマリアもそれに気が付いているが、観客達はまだ気付いていない。

 

「これは……?!」

 

 翼の中で蘇る、かのツヴァイウィングのライブの惨劇。突如現れたノイズが観客達の命を奪った惨劇。

 

 アルカ・ノイズが空から観客席に卵のように産み落とした。観客達の目の前でそれが着床し、溶け出すとそこから大量の小型アルカ・ノイズ達が姿を現した。観客達は悲鳴を挙げて逃げ出す。

 

「やめろおおおぉぉ!!」

 

 翼が叫ぶが、アルカ・ノイズの群れは無慈悲にも逃げ惑う観客達に襲い掛かり、その解剖器官をもってして分解する。分解された人間は僅かな悲鳴とともに遺体の形も残らず赤い霧、プリマ・マテリアとなって消える。さらにアルカ・ノイズはスタジアムの柱にも攻撃を仕掛け、分解した事でステージの一部が崩れ落ちる。

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

 詠唱を唄い、それぞれのギアを纏った翼とマリアがアルカ・ノイズに向かって走り、斬り捨てていく。二手に分かれ、個別にアルカ・ノイズに対処していく。

 しかし、それでもアルカ・ノイズの大群。次々と無抵抗な人間が分解されてしまう。

 

「皆さん落ち着いてください!こちらの指示に従って……」

「嫌ぁ!私が逃げるのぉ!」

「退けお前ら!道を空けろ!」

 

 緒川の避難勧告も虚しく、我先に助かりたい観客達は避難経路を争っている。だがその観客達も空から襲いかかって来たアルカ・ノイズにまとめて分解されてしまった。

 

「パヴァリアの……残党……!」

 

 流石の緒川も、こんな残虐な手段に出るとは予想外だった。

 

 車道を駆ける瑠璃は、道路から飛び降りた。

 

Tearlight bident tron……

 

 ギアを纏った瑠璃は、二叉槍を箒のように跨って遠隔操作を応用して飛行する。ブースターを最大まで点火させてスタジアムへ急ぐ。

 

 そのスタジアムに、高笑いが響いた。

 

「ハハハハハ!恐れよ!怖じよ!ウチが来たぜ!ここからが始まり、首尾よくやって見せるぜ!」 

 

 その声の主はミラアルク。コウモリの羽を思い起こすそれで、宙を舞う。その姿はまさに吸血鬼だ。

 そこに青い斬撃が飛来、それを避けて、地に降りる。

 

「ウチの標的はお前だぜ、風鳴翼!」

「パヴァリアの残党……!歌を血で……汚すなあぁ!!」

 

 怒りとともに翼はミラアルクに斬りかかる。ミラアルクは羽を腕に纏って剛腕へと変えて刀を受け止める。

 

「大人しく躙らせてもらえると助かるぜ……!」

「戯れるな!」

「翼!深く追いすぎないで!」

 

 アルカ・ノイズを斬り捨てたマリアが、冷静さを失っている翼に自重するよう呼び掛けるが、今の翼には届かない。

 だが何度も打ち合っているが、ミラアルクの戦闘力自体そこまで高くはないのだろう、翼の方が優位に立っている。一瞬でミラアルクを瓦礫へと叩きつけて、トドメを刺そうと刀を突き出す。

 

「ひっ!」

 

 だがそこにいたのは翼の髪型を真似た少女だった。なんとミラアルクは逃げ遅れた少女を盾にしたのだ。すぐにその手を止めた事で少女には傷をつけることはなかったが、少女は恐怖で怯えてしまっている。

 

「やってくれるぜ風鳴翼……弱く不完全なウチらでは敵わないぜ。」

「弱い……?」

 

 翼はミラアルクが言った事を問う。ミラアルクがか弱い少女を盾にしておいて弱者を気取るその態度に懐疑的だからだ。だがミラアルクは構わず続ける。

 

「そう、弱い……。だからこんなことをしたって、恥ずかしくないんだぜ!!」

 

 ミラアルクは何の躊躇いもなく、その腕を突き出し、少女の身体を貫いた。その鮮血が翼の頬に掛かった。用無しとなった少女の胴からミラアルクの腕が引き抜かれたと同時に崩れ落ちた。

 穴が空いた胴から大量の血が流れ、遺体は血溜まりとなった。目の前の悲惨な事態に耐えきれなくなった翼が悲鳴を挙げた。

 

「あ…………ぁ…………ぁ…………あああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」

「刻印……侵略!」

 

 ミラアルクのステンドグラスの瞳が翼に入り込んだ。

 

「貴様ああああぁぁ!!」

 

 怒りで我を忘れた翼が蒼ノ一閃を連続で繰り出すも、怒りのままに繰り出したものではいくらミラアルクでも躱すのは造作もない。

 

「総毛立つ!流石にここまでだぜ!」

「そのその不埒!!掻っ捌かずにはいられようかあああぁぁ!!」

 

 そこにマリアが止めに入る。

 

「落ち着きなさい!ここにはまだ、逃げ遅れた者がいるのよ!」

「そろそろ終いにしようぜ!」

 

 役目を果たしたミラアルクは指をパチンと鳴らす。その瞬間、空に漂うアルカ・ノイズの大群が無差別にスタジアムに攻撃を仕掛けた。

 

「お姉ちゃん!!マリアさん!!」

 

 全速力で駆けつけた瑠璃の救援も間に合わず、支柱が壊された事でスタジアムが崩壊してしまった。

 

「錬金術士の追跡……不能……。」

「10万人を収容した会場が……崩壊……。生命反応は……」

 

 ここから先は言わなくても分かる。弦十郎の拳が振り下ろされた。

 

「お姉ちゃん!!マリアさん!!お姉ちゃ……」

 

 二人を空から捜索していた瑠璃。すぐに発見したが……

 

(守れなかった……。大切なモノばかり……この手からすり抜けていく……。)

 

 翼の手から、刀が手から落ちた。何一つ守れなかった翼の防人としてのプライドはズタズタに引き裂かれてしまった。

 この惨劇によって犠牲となった数は7万人を超え、奏を失ったツヴァイウィングのライブの惨劇を上回る結果となってしまった。




裏話

このライブ、輪だけ間に合わせるようにしようと思いましたがやめました。


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掴めぬ敵

今回大きな変更はなく、少し長めです。



 あるアメリカにあるロスアラモス研究所で新たな動きがあった。そこではS.O.N.G.が激闘の末に回収された聖骸が解析されていたのだが、その途中で聖骸が自壊するというアクシデントが起きた。しかし、その聖骸の右腕に着けられていた黄金の腕輪だけが残っていた。その為、その腕輪の起動実験が行われようとしていた。

 

「崩れ落ちた骸に興味はない。必要なのは、先史文明期の遺産であるこの腕輪。」

「起動実験の準備、完了しました。」

「我が国の成り立ちは、人が神秘に満ちた時代からの独立に端を発している。終わらせるぞ神代!叡智の輝きで人の未来を照らすのは、アメリカの使命なのだ!」

 

 愛国心を胸に秘めた研究所長であるが、その使命を踏みにじられようとしている。研究員の中に紛れ込んだこめかみが長い黒髪の女。研究所長の思いを嘲笑うような余裕の笑みを浮かべている。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 あのライブ惨劇から一夜明けた朝。死傷者、行方不明者7万人超え、テレビや新聞に大きな一面を乗せる大惨劇となってしまった。アルカ・ノイズによる惨劇ではあるが、様々な機密に触れてしまう為、世間には爆発物によるものであると報道されている。

 アルカ・ノイズと戦っていた翼とマリアはメディカルルームに運ばれた。マリアはすぐに目覚めたのだが、翼が一向に目覚めない。翼の眠るベッドの側にいる瑠璃は、その身を案じている。

 

「お姉ちゃん……。」

 

 緒川曰く、脳波に乱れはあるものの、身体機能に異常はないとの事。しかし、奏を喪ったツヴァイウィングのライブの惨劇を超える地獄絵図、ミラアルクによって目の前で少女が胸を貫かれ惨殺されたという光景は、翼であっても目を背けたくなる。

 パヴァリア光明結社とはいえ相手は残党、そのただの残党というだけで、ここまでの大惨劇を引き起こせるとは到底考えられない。調はその疑問を口にする。

 

「解体された結社残党の仕業と言うには……規模も被害も大きすぎないかな……?」

「何者かの手引き……。例えば強力な支援組織の可能性も……あるいは……。」

「確かもう一人、アルベルトって奴がいたはずデス!あいつが疑わしいのデス!」

「ミラー先生が……。」

 

 響が口にしたミラー。それはアルベルトが別の姿へと変えていた時に名乗っていた瑠無・カノン・ミラーという名前。サンジェルマン達よりも先に日本に先行して訪れ、リディアンの養護教諭に紛れ込んでいた。

 だが響は正体を現したアルベルトの事をまだその名前で呼んでいる。敵ではあったが、彼女もまたサンジェルマン達と同じく理想を共にし、さらにアダムを倒す為にラピス・フィロソフィカスの設計図を提供してくれたお陰でギアの出力を引き上げたのだ。彼女が再び敵として立ち塞がる事を、響はあまり信じたくないのだ。しかし思い当たるとすれば、幹部の中で唯一生存が確認されているアルベルトに疑いを向けられるのは仕方のない事だ。

 

「その可能性は低いわね。」

「どうしてデスか?」

 

 勘とも言える切歌の推測をマリアに否定された事で問う。

 

「あの時の戦いから考えると、背後に彼女がいたとしても、ここまで派手な事はしないはずよ。」

「あっ……。」

 

 マリアの言う通り、サンジェルマン達とは違い派手な立ち回りをするタイプではない、どちらかと言えば裏方に回る方だ。その上結社が瓦解した今、彼女も残党の一人。幹部の肩書など過去のものである。たとえ彼女の支援、指示があったとしても出来る事などたかが知れている。ますます残党に対する謎が深まるばかりである。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その残党であるミラアルクとエルザは埠頭で黒服の男の二人からアタッシュケースを受け取っていた。中身をエルザが確認し、お目当てのものであるとミラアルクに伝えると

 

「あざまーす!」

 

 と、陽気な声で裏ピースを顎に当てる。

 

「確かに受け取ったであります。受領のサインは必要でありますか?」

「いや……上からの指示はここまでだ。俺達もすぐに戻らなければ……。」

 

 エルザは誠意を持って取引に応じているが、黒服達はミラアルクとエルザが怪物であるという隔たりのせいで不気味がっている。

 

「別に生まれた時から怪物ってわけじゃないんだぜ?取って食ったりなんてするもんか。」

「こんな体でも私めらは人間。過度に怯える必要は……っ!ガルルル……!」

 

 そこにエルザが狼の耳を立てて黒服達の背後の方を威嚇している。その先にはコンテナの陰に隠れて取引を盗み見ていた3人の暴走族だった。

 

「モロバレェ?!逃げるべえぇぇぇーー!!」

 

 命の危険を悟った3人はすぐに逃げ出した。黒服達もその姿を目撃する。

 

「マズい!見られたか!」

「早く連中を……ぉ?」

 

 ミラアルクとエルザがいた方を向くが、既に二人の姿はいなかった。目撃者の始末を怪物である二人に任せると判断した。

 一方ミラアルクは空を飛んで、エルザはキャリーケースを乗り物のように滑走して、アルカ・ノイズを召喚する。その群れの中はセグウェイに乗っているかのような姿をしている。その先頭を走るセグウェイ型アルカ・ノイズが、一台のバイクごと、二人の暴走族の男を分解した。さらに一人の白い特攻服を着た男の運転するバイクが横転してしまう。男は無事ではあるが、命の危機であることには変わりない。あっという間にミラアルク、エルザとアルカ・ノイズの群れに囲まれてしまう。

 

「気合の入った運転技術でありました。」

「だけど、赤旗振らせてもらうぜ。」 

「嫌だぁ!神様!天使様ああぁぁーー!」 

 

 男が情けない声で命乞いをするが、相手は怪物であり、アルカ・ノイズ。どう足掻いても一般人に倒せる相手ではない。だがそこに、空から歌が聴こえてきた。

 

 Killter ichaival tron……

 

 空を飛ぶS.O.N.G.のヘリから響、クリス、瑠璃が降下して詠唱を唄っていた。3人がギアを纏うと、クリスのリボルバー拳銃による射撃でアルカ・ノイズを正確に撃ち抜いて着地。さらに周囲のアルカ・ノイズの群れを動きながら的確に対処。弾切れとなっても次の弾倉に入れ替えて、攻撃の手を緩めない。

 さらに響が殴り、瑠璃が突き、払う。3人が言葉を交わさずともどうやって動くのかが分かる。これまで共に修羅場を潜り抜け、背中を預けてきた仲間だからだ。

 

「天使だ……!ここは地獄で極楽だぁー!」

 

 と、白い特攻服の男が天の助けに喜んでいるが、背後からセグウェイ型アルカ・ノイズが迫っている。響がそれを殴った事で男は助かったが、未だにあぐらをかいてここに留まっている事に呆れてツッコむ。

 

「そういうのいいから、早く逃げて!」

 

 それでも男は手を合わせて有り難やと頭を下げている。だが響にミラアルクが襲いかかったことで、流石の男も慌ててここを立ち去り、無事に保護された。

 

 クリスと瑠璃はエルザと相対し、瑠璃の黒槍とエルザの尻尾状の兵器『テール・アタッチメント』が打ち合う。このテール・アタッチメントはエルザの持つキャリーケースと繋がっており、それを彼女の尾底部と連結させる事で、キャリーケースが牙を生やした狼のように形を変える。これにより、武器として扱う事が出来る代物。

 だがそこに、クリスのクロスボウの矢が撃ち込まれ、瑠璃の槍と同時に攻撃してくる以上、エルザはテール・アタッチメントで防御に徹するしかない。

 

「エルザ!ヴァネッサが戻るまでは無茶は禁物!アジトで落ち合うぜ!」

「ガンス!ここは一つ、撤退であります!」

 

 形勢不利と悟ったのか、即座の撤退を判断したミラアルクとエルザ。エルザがテレポートジェムを出すが、瑠璃の左手に持つ白槍がテレポートジェムに直撃して使い物にならなくさせた。

 

「逃さない!」

 

 そのまま黒槍を突き出そうとしたが、そこにミラアルクが瑠璃を目掛けて瓦礫を投擲する。後退する事で瓦礫を避けたが、瓦礫の壁を作られてしまう。槍に乗って超えられない事はないが、瓦礫の壁を超える頃には追跡が出来なくなってしまう。

 

「クリス!響ちゃん!」

「任せろ!」

 

 響がバレーのレシーブを取る体勢に入ると、クリスはその手に足を乗せたのと合わせて、響が腕を振り上げる。瓦礫の壁を遥かに超えて飛んだクリスは、アームドギアをスナイパーライフルへと変えて、それに合わせてヘッドギアをスコープへと変形、照準を合わせる。そして、ロックオンマーカーが車道を疾走するエルザに合わさり、引き金を弾いた。

 

【RED HOT BLAZE】

 

 赤いエネルギーを纏った弾丸がエルザに迫る。反応した時には既に遅く、着弾。大爆発が引き起こされた。

 黒煙が晴れると、巨大なクレーターの中心に破損したアタッシュケースが残っていた。残党を倒すまでには至らなかったが、何か重要なものであると思われる。アタッシュケースはそのまま本部へと回収され、解析された。

 

 

「回収したアタッシュケースの解析完了!」

「結果をモニターに回します。」 

 

 モニターにはアタッシュケースの中身が表示された。それは保冷剤と赤い液体が入ったパック。

 

「まさかの……ケチャップ?!」

「この季節にバーベキューパーティーとは、敵もさるもの引っ搔くものデス!」

 

 調と切歌の頓珍漢な答えに、瑠璃は苦笑いを浮かべながらも、優しいお姉さんのように教える。

 

「あれは輸血パックだよ。つまり中身は血液。」

「中でもあれは、全血清剤。成分輸血が主流となった昨今、あまりお目に掛からなくなった代物だ。」

 

 加えて、弦十郎が説明する。そこにエルフナインも加わる。

 

「それ以上に気になるのは、その種類です。Rhソイル式……。140万人に1人という、稀血と判明しています。」 

「まさか……輸血を必要としているとでも言うの?」

 

 敵の狙いをマリアが問うと、そこに先程救助された暴走族の男の事情聴取を終えた緒川がブリッジに入って来た。

 

 

「被害者からの聞き取りが終わりました。埠頭にて、少女たちと黒ずくめ男の二人組を目撃し、麻薬の取引現場だと思ったようです。」

「つまり、パヴァリア光明結社の残党を、支援している者がいるという事か。」

「考えられるのは、これまで幾度となく干渉してきた米国政府。」

「先だっての反応兵器発射以来、冷え切った両国の改善する為に進めて来た、月遺跡の共同調査計画。疑い始めたら、それすらも隠れ蓑に思えてきてしまうわね。」

 

 反応兵器の一件だけではない、ルナアタック、フロンティア事変、直接的ではないにしろ、これまで何度も米国政府が関わっている。S.O.N.G.の面々もあまり良く思っていない者もいるのは事実。

 

 だがそこに思わぬ知らせが入った。

 

「米国、ロスアラモス研究所が、パヴァリア光明結社の残党と思わしき敵性体に襲撃されたとの知らせです!」

「何だとぉ?!」

 

 モニターにロスアラモス研究所が炎上している光景が映し出されている。瓦礫となり、炎が燃え上がる施設内に二人の姿が映っていた。一人はヴァネッサ。そしてもう一人は白衣を着たこめかみが長い黒髪の女。その風貌には見覚えがあった。

 

「あいつは!」

 

 皆が驚愕し、クリスが声を挙げる。そして瑠璃がその名前を呟いた。

 

「アルベルト……!」

 

 分かり合えたと思っていたパヴァリア光明結社元幹部、アルベルトが再び自分達の前に立ち塞がる事を意味していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ロスアラモス研究所が襲撃されてから一日明け、ブリッジには翼を除いた装者が集まっていた。弦十郎は本部の通信を、八紘のタブレットに繋げていた。通話である為、画面に顔は映っていないが、八紘が得た情報の詳細を聞いていた。

 

「昨日の入電から丸一日、目立った動きは無さそうだが……兄貴はどう見てる?」

『ロスアラモス研究所は、米国の先端技術の発信地点。同時に異端技術の研究拠点でもある。米国を一連の事件の黒幕と想像するにはやはり無理がありそうだ。』 

「米国の異端技術って……?」

 

 調が恐る恐る問う。米国の異端技術の研究と言えばあれしかない。そこはマリア、調、切歌の馴染み深いものである。

 

「ああ。断言はできないが、ロスアラモス研究所は、かつてF.I.S.が所在したと目されている場所だ。」

『かつての新エネルギー、原子力の他エシュロンといった先端技術も、ロスアラモスでの研究で実現したと聞いている。』

「そんな所を襲ったってことは、やはり何か大事なものを狙ってデスか?!」

 

 切歌が八紘に問う。

 

『伝えられてる情報ではさしたる力もないいくつかの聖遺物、そして……。』

 

 モニターに映し出されたもの。それは自分達が倒した棺から出てきた聖骸の腕に填められていた黄金の腕輪。

 

『極冠にて回収された先史文明期の遺産。腕輪に刻まれた紋様を、楔形文字に照らし合わせると『シェム・ハ』と解読できる箇所があるそうだ。』

「シェム・ハ……。」

 

 瑠璃がその腕輪の名前を呟く。だが米国の研究所から先史文明期の遺産を奪取されたのは大きな痛手とも言える。それが完全聖遺物であれば、それを武器に使われてもおかしくない。そうなれば、残党との戦いはますます容易ではなくなってしまう。

 

『事件解決に向け、引き続き米国政府には協力を要請していく。これが私の戦いだ。』 

「恩に着る!八紘兄貴!」 

 

 八紘の通話が切れたのと同時に、S.O.N.G.の制服を身に纏っている翼が入ってきた。翼が復活した姿を見た皆が喜んだ。だが瑠璃だけは心配そうに翼に駆け寄る。

 

「お姉ちゃん!もう何ともないの?大丈夫なの?」

「ああ。心配を掛けたな。もう大丈夫だ。」

 

 心配してくれる妹に、優しくも凛々しい微笑みかけるが、ブリッジの照明が落ちた。同時にモニターに大きく風鳴の家紋が映し出されている。

 

『大丈夫とは、何を指しての言葉であるか?』

「お祖父様……!」

「お祖父様……。」

 

 その家紋の前に座る訃堂の姿。一度しか会った事がないとはいえ、瑠璃は身内にすら容赦ない、その無慈悲な姿を覚えている。

 

 

『夷狄による国土蹂躙を許してしまった先の一件、忘れたとは言わせぬぞ翼!』

「無論忘れてはいません!あの惨劇は、忘れてはならぬ光景であり、私が背負うべき宿業そのもの!」  

『真の防人たり得ぬお前に、全ての命を守ることなど、夢のまた夢と覚えるがいい!』

「今の私では……守れない……?!」

『歌で、世界は守れないということだ!』

「歌で……世界は……」

 

 訃堂の叱責に、翼は言葉を返す事が出来なかった。だがそこに納得がいかない瑠璃が訃堂に意見する。

 

「お祖父様、お姉ちゃんは歌で世界を……」

『お前にまだ、防人の血が流れていることを期待しておるぞ。』

 

 瑠璃の意見を無視して、訃堂は言いたい事だけを言い、通信を切った。風鳴の血を流さない瑠璃を身内とは思わない彼にとって、瑠璃は有象無象としか見ていない。

 

「お姉ちゃん……。」

 

 だがそんな事は気にせず、翼の方を向く。訃堂の叱責が効いたのだろう、顔を背けている。

 

「案ずるな瑠璃……。可愛げのない剣が……簡単に折れたりするものか……。」

 

 それが強がりであるのは誰が見ても分かる。瑠璃は投げかける言葉が見つからず、ただ傷つく翼を見る事しか出来なかった。

 

  

 帰り道、既に陽は沈みかけており、空には星々が煌めいていた。だが瑠璃は傷つく翼を案じて俯いていた。

 

「こんな時……どうしたら良いんだろう……。」

 

 ため息をついているとそこに通信が入ってきた。

 

「はい、瑠璃です!」

『瑠璃ちゃん!今、切歌ちゃんと調ちゃんが敵を追って病院へと向かったわ!』

「病院?!病院って……」

 

 何故切歌と調が敵を見つけたのか分からなかったが、通信を掛けてきた友里も悠長に説明している余裕はなさそうにも聞こえる。

 

『今二人から一番近いのは瑠璃ちゃんだけ!座標を送るからすぐに向かって!』

「りょ……了解!」

 

 通信を終えると瑠璃はすぐに病院へと向かって行った。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 何故切歌と調が病院へと向かったのか。それは一つの閃きだった。公園で敵の狙いが何なのかを考えていた二人だったが、切歌が血液を集めている所が病院であると閃いていたのだ。そしてこの近くには一つ、大病院がある。流石の調もそれはないだろうと否定したのだが、病院のライトに映った吸血鬼少女、ミラアルクの影を目撃したのだ。

 まさか的中していたとは二人は驚きだったが、二人はすぐにミラアルクを追い、病院の中へと入った。 

 

「はぁ……今日も大変やったわぁ……。」

 

 だがその病院は小夜の務め先でもあった。しかも現在、仕事終わりで私服に着替えて帰るところである。

 

「お疲れ様、出水さん。」

「おっ。お疲れ様〜。ん?あれは……」

 

 同僚に手を振って帰ろうとした矢先、こちらに向かって走る二人の姿を見つけた。

 

「あれは……切歌ちゃんに調ちゃん?」

「あ、小夜さん!」

「説明は後で!」

「なっ?!こらぁ!病院の中を走ったらアカンで!っていうか面会時間とっくに過ぎてるでぇー!」

 

 自身の横を走り抜けエレベーターに乗り込んだ二人に注意するも虚しく、そのまま屋上へと向かっていった。エレベーターの操作パネルに映る階層にはRの文字が点灯していた。

 

「ったく、屋上に何の用があんねや?ちょっと文句言わないかんな。」

 

 小夜も二人を追ってエレベーターの上りボタンを押した。エレベーターが到着して扉が開くと、小夜はエレベーターに乗ってRのボタンを押した。

 

 

 

 




小夜さん……大丈夫かな?


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BLOOD&TEAR

 Rhソイル式の全血清剤を手に入れる為に、ミラアルクは病院の屋上から侵入を試みようとしていた。だがそのミラアルクの身体に異変が起こる。

 

(こっちもそろそろ限界かもだぜ……)

 

 口元を抑えている。手早く済ませて撤退しようと侵入しようとした時、エレベーターが到着した音が鳴る。扉が開くと切歌と調が姿を現す。

 

「待つのデス!事と次第によっては、荒事上等なアタシ達デスが……」

「その前に、貴女の所属と目的を聞かせてください!」

「そんな悠長……これっぽっちもないんだぜ!」 

 

 ミラアルクがアルカ・ノイズの召喚石をばら撒くと、そこから展開される召喚陣からアルカ・ノイズが出現する。

 

 Various shul shagana tron……

 

 詠唱を唄い、シュルシャガナのギアを纏った調は、足部のローラーを巨大な鋸へと変えて飛び蹴りを放つ。その餌食となったバナナ型のアルカ・ノイズは真っ二つになって赤い霧となって散る。さらにスカートを鋸へと変えて、スケートのアクセルのように自身を軸に高速回転して周囲のアルカ・ノイズを切り刻む。

 切歌の方も駒のように自身を軸に大鎌を高速回転して振り回してアルカ・ノイズの群れを切り刻む。

 

【災輪・TぃN渦ぁBェル】

 

 さらにそのままミラアルクへと突っ込むが、跳躍する事で避けられる。停止した先でバナナ型のアルカ・ノイズ2体に周囲を高速で周られて逃げ場を失う。だがそこに投擲されたヨーヨーの糸がバナナ型アルカ・ノイズの身体を纏めて拘束する。

 

「あなたの行動は、護国何とか法に抵触する違法行為デス!これ以上の抵抗はやめるのデス!」

 

 投稿勧告を呼びかけながらバナナ型アルカ・ノイズを纏めて切り刻む。がミラアルクがそんな素直に受け入れるわけがない。

 

「馴れない御託が耳に障るぜ!」  

 

 バナナ型アルカ・ノイズが倒された事で撒き散らしたプリマ・マテリアから姿を現したミラアルクが、不意討ちを仕掛ける。だがそこに到着した瑠璃が待ってましたと言わんばかりに連結させた二叉槍を突き出す。咄嗟に羽を腕に纏って、剛腕へと変えた事で防ぐ事が出来たが、その槍の穂先には集約させたエネルギーを纏わせており、剛腕と接触した事で爆発する。

 

【Raging Hydra】

 

 吹き飛ばしても、手応えの無さを感じている。

 

「雑魚は私が!」

「了解デス!調!ザババの刃を重ねるデス!」 

 

 残ったアルカ・ノイズの始末は瑠璃が受け持ち、切歌と調はミラアルクに専念する。

 切歌の大鎌を二本に分離、それらを地面に突き刺す。調のツインテールのバインダーがヘッドギアから分離、2つのヨーヨー同士を連結させて、刃を形成させて鋸へと変える。分離したバインダーが鋸と連結させるとウィングとなって、チェーンソーの刃が形成、さらにそのウィングの後部に、切歌の肩アーマーと連結させる。それを発射させると、突き刺した二本の大鎌の柄が滑走路となって空へと飛ぶ。アーマーがジェットエンジンのように点火、鋸は回転しながらミラアルクへと向かう。

 辛うじてミラアルクは上体を反らす事で避けたが、避けたと思っていたそれは再びミラアルクへと向かった。まさか追尾するとは想定しなかったミラアルクは避けることが出来ずに直撃。空に爆発が発生する。その煙からミラアルクが墜落するように病院の屋上へ落ちた。

 

「やったの?」

「むしろ、やりすぎてしまったかもデス……。」

「油断しないで。まだ生きてる。」

 

 床に叩きつけられた事で砂煙が巻き起こり、視界が利かないが、アルカ・ノイズを片付けた、瑠璃のバイデントのヘッドギアと接続しているバイザーは、その姿を捉えている。

 砂煙が晴れると、肉眼でもミラアルクの姿形が見えるようになる。どうやら左腕を損傷しており、右手で押さえている所から出血している。さらにその風貌には、僅かだがどす黒い血管が浮かび上がっている。しかし、手負いだからという理由で彼女は諦めていない。

 

「負けないぜ……負けられないぜ!ウチは守る……2人を……家族をおおおおぉぉぉーーー!!」

「家族……?」

 

 涙を流しながら叫ぶミラアルクに、瑠璃がオウム返しに問う。そこにエレベーターの到着を知らせるベルが鳴る。

 

「何や?!何の騒ぎやねん?!って……え?」

 

 扉から現れたのは切歌と調を追いかけてエレベーターに乗って来た小夜だった。ここに無関係な小夜が現れた事に装者3人が驚愕する。だが小夜は3人が纏うシンフォギアの姿、屋上の床が所々陥没している戦闘の痕、目の前に映る光景を理解出来ずにいる。

 

「どうなっとんの?それに3人とも……病院で何のコスプレしとるん?」

「小夜さん?!」

「どうしてここに来ちゃったんデスか?!」  

「家族だなんて、ちょっとくすぐったいけれど、悪くはないわね。ありがと。」

「っ?!」

 

 空を飛ぶヴァネッサが膝からミサイルが放たれた。瑠璃がそれに気付いたが既に遅く、その弾頭から高圧電流が発生、周囲一帯の電力をショートさせた事で照明が落ちてしまう。

 

「照明が?!何も見えないデス!」

「切ちゃん!落ち着いて……」

「危ない!!」

 

 ブースターが点火する音と共に何かが飛来して来た。照明を落とされ、真っ暗で視界が利かない二人は気づくのが遅れたが、瑠璃が咄嗟に二人を押し退けた。

 飛来して来たのはヴァネッサの2つの拳だった。ロケットパンチを2発とも、鳩尾と頬を殴られた瑠璃は倒されてしまう。

 

「瑠璃先輩!」

「大丈夫デスか?!」

 

 倒れた音を頼りに咳き込む瑠璃に駆け寄る。放ったロケットパンチが、ヴァネッサの腕に戻り、繋がる。

 

「付近一帯のシステムをダウンさせました。早くしないと、病院には命に関わる人も少なくないでしょうね?」

「何やて?!んな事なったら患者さんの命が!」

 

 その意味を一般人の小夜でも理解出来た。ここの病院の患者の命が人質となってしまったのだ。さらにヴァネッサは声を出して驚愕した小夜の方を見る。

 

「あらぁ、ごめんなさいね。」

 

 その一言と同時に、指先からマシンガンの弾丸が連射された。その先にいたのは……

 

「小夜さん!!」

 

 瑠璃が叫んだが、銃弾の雨は小夜の身体を貫いた。撃たれた小夜の身体はそのまま崩れ落ちた。

 

「小夜さん!!しっかりしてください!!小夜さん!!」

 

 駆け寄った瑠璃が、小夜の身体を揺するが、返答はなく、貫かれた身体から流れる血はコートを滲ませてしまっており、血溜まりが出来てしまっている。切歌と調も、姉のように慕っていた小夜が撃たれた事にショックを受けている。本部でもその光景がモニタリングされており、小夜を知る者、関わりない者問わず、驚愕する。

 

「助かったぜ、ヴァネッサ!」

「駆け付けたのは、ヴァネッサだけではありません……。それに、お目当ての物も、騒動の隙に獲得済みであります。」

 

 さらにエルザも現れた。エルザも頬にどす黒い血管が浮かんでいる。だが彼女が乗っているキャリーケースを踵で突くように蹴る。

 

「うおおおぉぉ!!ヴァネッサ、エルザ!ダイダロスエンドだぜ!3人揃った今、最大出力で……」

「……っ?!ミラアルクちゃん!」

 

 ヴァネッサが叫んだ事で、瑠璃が振り下ろした二叉槍を避ける事が出来たミラアルク。だがあまりにも速すぎる接近に気付かなかった事に狼狽えている。

 

「どうなってやがんだ?!」

「あれは……!」

 

 エルザが瑠璃の目を見て唖然とする。瑠璃が流す涙。その瞳は怒りを滲ませているのが分かる。

 

「許さない……小夜さんを……!小夜さんをよくもおおおおぉぉぉーーーーー!!」

 

 怒りを滲ませたラピスラズリの瞳が、冷たい闇へと変わった。

 




瑠璃XV楽曲

【Burning!Black Night!】

過去を乗り越え、強くなった歌を信じ、運命を打ち砕く信念を描いた楽曲。




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怒りに覚醒める。

ここで少し、オリジナル展開を挟みます。


 ヴァネッサ、ミラアルク、エルザは戦慄していた。ただの装者であるはずの瑠璃から発せられる冷たい闇、圧倒的な威圧感、それらがただ一人の人間によって放たれている。目の前で小夜が撃たれた。それが引き金となり、再び瑠璃の瞳が冷たい闇へと変わっている。

 本部のモニターにも、怒る瑠璃が大きく映し出されている。その冷たい闇の瞳、かつて絶対の破壊者となっていた時と同じ瞳だった。

  

「姉ちゃん、まさかあの時みたいに!」

 

 さらに藤尭が驚愕が混じった報告をする。

 

「瑠璃ちゃんのバイタル上昇に伴い、適合率も上昇!これは……」

「ギアが共鳴している……?まるで、瑠璃さんの怒りを体現するように……」

 

 かつて融合症例第一号だった響が、怒りとともに暴走した事例はあったが、適合率は上昇する事はなかった。それが今回、瑠璃の怒りによって適合率が上昇した。このようなケースは初めてであり、櫻井理論にはない。だからエルフナインも驚愕している。

 

 

「許さない……絶対に許さない……!貴様ら全員……殺してやる!!」

「待って瑠璃先輩!」

「無闇なんてらしくないデスよ!」

 

 調と切歌の制止を無視して、たった一人で3人に突撃する瑠璃。3人を諸共に吹き飛ばそうと槍の穂先にエネルギーを集約させてそれを振り下ろした。

 

【Raging Hydra】

 

 3人は跳躍して避けた。だが砂煙から突如、槍がヴァネッサに向けて投擲される。一瞬焦ったヴァネッサだが、冷静に手刀をドリルのように高速回転させて打ち合い、弾き返す。だがヴァネッサを追って跳躍した瑠璃が、弾かれた槍を手に突き出す。

 

「「ヴァネッサ!」」

 

 咄嗟にミラアルクの剛腕とエルザのテール・アタッチメントの防御によって、ヴァネッサは守られた。 

 さらにミラアルクは双眸から不浄なる視線(ステインドグラス)を瑠璃の眼に映す。

 

「邪魔を……するなあああああぁぁ!!」

 

 だが不浄なる視線(ステインドグラス)は鏡が割れるかの如く弾かれた。そして叫びとともに穂先から放たれた黒白のエネルギー波によって、防御を破られた3人はそのままコンクリートの地面に叩きつけられる。

 

『落ち着けよ姉ちゃん!!それ以上はマズい!!』

『そこは市街なんだぞ!!』

 

 通信越しにクリスと弦十郎が諌めようとするが、怒りの虜になった瑠璃には届かない。力任せの一撃、 普段の瑠璃からは考えられない口調。それほどまでに瑠璃の怒りは凄まじい。

 だがここは市街地。まだ電気が着いていたという事は、建物に人がいる事を意味する。もし、瑠璃の攻撃で建物が損壊すれば、無意味に被害者を出してしまう恐れがあった。現に、瑠璃の一撃によって、病院の屋上の一部が損壊してしまっている。しかし、今の瑠璃はそんな事は頭にない。

 瑠璃はヴァネッサの息の根を止める為に、執拗に攻撃を繰り返す。しかし、そこにエルザのテールアタッチメントの奇襲によって、瑠璃は建物の一階の中まで吹き飛ばされた。

 

「大丈夫かヴァネッサ?!」

「ありがとうミラアルクちゃん、エルザちゃん。」

「ですが、まだ終わってないであります!」

 

 エルザの狼のような耳がまだ立っている。中から吹き飛ばした瓦礫が3人に襲い掛かるが、跳躍して避ける。

 瑠璃が建物から出てきた。バイザーが損壊しており、露わになった闇の瞳が3人を戦慄させる。今の瑠璃は、怪物である自分達よりもよっぽど怪物らしいと肌で感じ取っている。

 

「ヴァネッサ、エルザ!こうなったらダイダロスエンドで……っ?!」

 

 ここでミラアルクが脱力したかのように膝から崩れ落ちた。

 

「ミラアルク?!」

「ここに来て……!」

 

 ミラアルクは連戦で既に消耗していた。ここに来てその代償が表れてしまった。もはや今の3人では止める事が出来ない。瑠璃の持つ二叉槍の連結が解除され、分離した黒槍と白槍から同じ形状の槍が展開される。

  

「くたばれ!!」

 

【Judgment Libra】

 

 

 振り上げた腕を下ろすと大量の黒槍と白槍が3人に降り注いだ。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一旦ギアを解除して、血だらけの小夜を医師と看護師に預けた切歌と調は、再びギアを纏ってすぐに瑠璃の方へと向かった。だが二人はその足をすぐに止めてしまう。既に車道や建物の一部が損壊してしまっている。これが心優しい瑠璃一人でやった事なのかと信じられずにいる。

 

「いくらなんでもやりすぎデスよこれ!」

「早く瑠璃先輩を止めないと……」

 

 だがそこに再び爆発するかのような音が聞こえ、すぐに駆け出す。そこにはバイザーが損壊して、冷たい闇の瞳を宿した瑠璃。もう片方はあの3人なのだろうか、土煙で姿が見えなくなってしまっている。

 

「瑠璃……先輩……。」

 

 調が呼んだ時、ラピスラズリのような慈しみの瞳に戻った。

 

「小夜さん……ごめんなさい……。ごめん……輪……。」

 

 まるで懺悔するかのように泣き崩れる。瑠璃は分かっていた。小夜はもう助からないと。それを知ってしまった時、深い悲しみと強い怒りが、瑠璃の闇の力を動かした。切歌と調は瑠璃に何て言葉を投げかけてやればいいか分からない。

 だが調はある事に気付いた。

 

「切ちゃん!瑠璃先輩!あれ!」

 

 調が指した土煙の方。それが晴れると青色のバリアが展開されていた。そして本部では高エネルギー反応を検知している。

 

「これは……!」

 

 友里は見覚えのある反応パターンに驚愕する。何故ならばその反応は

 

「ラピス・フィロソフィカスだとぉ?!」

 

 過去のデータと一致し、弦十郎が声を挙げる。

 

「あれって……!」

 

 そしてあのバリアは切歌と調には見に覚えのあるものだ。あれはかつてフィーネの魂を宿らせた調が使った力。だがフィーネの魂は切歌の絶唱の特性によって消滅してしまっている。さらに言えば、フィーネの魂は宿らせてはいないが、その力を輪が使っている。一体誰が使っているのか、その人物を切歌が見つける。

 

「調!アイツがいるデスよ!」

 

 展開したのはパヴァリア光明結社の元幹部、アルベルトだ。先程の瑠璃の一撃をこれで防いでいたのだ。その手にかざしたバリアを解除すると

 

「君達は撤退するといい。後は私一人で十分だ。」

 

 振り向かずに3人に撤退の命令を下した。その口ぶりからしてアルベルトが彼女達を率いているのが分かる。

 

「やっぱりあなたも……!」

「ああ。彼女達を動かしていたのは私だ。尤も、私が雇っているわけではないがね。」

 

 開き直るように言った。これでアルベルトも3人と同じ、敵であると断定出来た。だが今の瑠璃はそれどころではない。

 

「どうだっていい……そいつを渡して!」

「渡せないな。彼女達、『ノーブルレッド』はまだ利用価値がある。」

 

 この隙に、ヴァネッサはテレポートジェムを出した。それを見逃す瑠璃ではない。

 

「逃さない!絶対に……」

 

 瑠璃が駆け出そうとした時、既に目と鼻の先にアルベルトが接近していた。そのまま鳩尾に膝蹴りを食らい、吹き飛ばされて倒れてしまう。

 

「「瑠璃先輩!」」

「君達はこれでも遊んでいたまえ。」

 

 まるで眼中にないと言わんばかりに、アルベルトは二人を見る事なくアルカ・ノイズの召喚石をばら撒いた。

 

「こんな時に……!」

「邪魔するなデェス!」

 

 現れたアルカ・ノイズを鬱陶しく思いながらも二人はアルカ・ノイズの対処を行う。

 

「ルリ、君は怒りに囚われている。その闇を覚醒させる程の逆鱗に触れてしまうとは……ヴァネッサめ……余計な事を……。」

 

 余裕の笑みの表情を、少しも変えることなく悪態をつく。瑠璃は咳き込みながらも何とか立ち上がった。

 

「あなたも……そっち側だっていうのなら……あなたも……殺してやる!」

 

 既にヴァネッサはミラアルクとエルザを伴って撤退してしまった。次の標的をアルベルトに定めた瑠璃。黒槍と白槍を連結させて、二叉槍に変えるとその穂先をドリルのように高速回転させながらアルベルトに突き出す。

 

【Horn of Unicorn】

 

 しかし、アルベルトは仕込み杖の刃を抜かず、バリアで迎え撃つ。だが適合率が上がればギアの出力も上がる。その分威力も上乗せされる。瑠璃の槍を受けたバリアは少しずつ亀裂が生じる。

 だがそれでもアルベルトは余裕の笑みは消えていない。すると、手を翳していない、右手に持つ杖の先端を瑠璃に向ける。

 

「バァン。」

 

 すると、瑠璃の足元から水の錬金術が放たれ、瑠璃の身体を水で包囲して、氷漬けにする。

 

「この……!このぉっ……!」

 

 何とか氷を壊そうと藻掻くが、強固なのか壊れない。

 

「また会おう。」

 

 指をパチンとならすと、瑠璃を拘束する氷から、雷が放出された。

 

「うわああああああああぁぁぁ!!」

 

 瑠璃の悲鳴が響いた。雷が止むと氷が粉々に砕け、拘束から解き放たれたが、先程の大ダメージによって倒れてしまう。

 

「調!急いで瑠璃先輩を助けるデス!」

「うん!」

「既に手遅れさ。」

 

 アルカ・ノイズを全滅させた切歌と調も、アルベルトへの攻撃を試みようとした時、地面か放たれた7つの火柱が二人を襲った。

 

「「うわあああああぁぁ!!」」

 

 宙へと飛ばされ、そのまま地面へと叩き落される。

 

「イグナイトを失い、出力をダウンしては良くやった方だな。」

 

 地に伏した切歌と調を見下ろしながらも称賛の言葉を贈るが、その余裕な笑みのせいで、切歌と調にはそれが届かない。

 

「人を馬鹿にして……!」

「悔しいデス……っ?!」

 

 ここでLiNKERの効果が切れたのか、ギアが強制的に解除されてしまう。予備は今手元になく、これではギアを纏えない。しかも相手はあのアルベルトだ。このまま走って逃げでも追いつかれるのは目に見えている。まさに絶体絶命の状況。

 ただアルベルトは先程から攻撃出来る状況であるにも関わらず、手を下さない。

 

「まあ……今日はほんの挨拶だ。この辺にしよう。私の雇い主は、かなり傲慢だからな。」

 

 そう言うとテレポートジェムを足元に割り、そのまま何処かへと転移してしまった。

 

「私達を倒す……絶好の機会だったのに……」

「消えた……デスか……?」

 

 本部でもラピス・フィロソフィカスの反応が途絶え、追跡不可能となった。

 

「まさか、一度は我々に協力してくれた彼女が、再び我々の敵に回る事になるとは……。」

 

 未だ掴めぬ敵の謎。弦十郎は残党相手にここまでの敗北を喫した悔しさを滲ませている。

 

「緒川、小夜君はどうなった?」

 

 弦十郎の問いに、緒川は首を横に振った。その意図を理解した弦十郎は

 

「そうか……。」

 

 すぐにタブレットを出して電話を掛ける。相手は輪だ。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 輪と小夜が住むアパート。カレーを作って待っていた輪だが、小夜の帰りが遅い事に心配している。

 

「小夜姉、遅いなぁ。」

 

 そこにスマホから着信が鳴る。輪は小夜からと期待して手に取ったが、着信相手が弦十郎であると少し落胆する。しかし、弦十郎がわざわざ自分に掛けてくるなど珍しい事だ。輪は不思議がりながらも通話をする。

 

「もしもしオジサン?どうしたの……?」

『輪君。落ち着いてよく聞いてくれ。』 

「何々?どうしたのそんな深刻そうにして〜。……えっ……?」

 

 弦十郎から告げられた報に、輪は驚愕のあまりスマホを落とした。その画面は割れていた。

 

 

 

 

 

小夜姉が……亡くなった……

 

 




というわけで、ウチのオリジナルキャラクター、出水小夜さん退場となります。



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力を欲する者

 病院襲撃から数時間後。アルベルトはノーブルレッドがアジトとする研究所に留まっていた。ここはディー・シュピネの結界で守られている。それがあれば他者から存在を認知されることはない、鉄壁の守り。ファウストローブの研究もここでならうってつけだ。

 現在ノーブルレッドの3人は先の戦闘で力を消耗してしまい、動けない状態だった。彼女達の身体は力を使う度に血中パナケイア流体が濁り、生命活動に大きく支障をきたす。それを回復させる唯一の手段こそがRhソイル式の全血清剤による輸血。しかし輸血中は活動を制限されてしまう。

 今はアルベルトが代わりに雇い主に通信をしている。光が入らぬ部屋に光るモニターにその人物が映っている。

 

「はい。シェム・ハの腕輪はヴァネッサが奪取、ファウストローブも完成。あなたの望む力、間もなくです鎌倉殿。」

『そうだ。七度生まれ変わろうとも神州日本に報いる為に必要な……神の力だ。』

 

 鎌倉殿、アルベルトがそう呼ぶ相手の正体は、国を守る為ならば人の命を踏みにじる怪物、風鳴訃堂。彼が忌み嫌う夷狄を裏で操り、神の力を欲する姿は、醜いものだった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 小夜の葬儀が執り行われた翌日、瑠璃とクリスはリディアンで講義を受けていた。大学が決まっても二人は学業を疎かにせず、しっかりと学校に通っていた。だが、いつも瑠璃の隣に座っている輪の姿だけがなかった。昼休み、心配になった瑠璃とクリスは瑠璃のタブレットで輪に電話をしていた。

 

「もしもし?輪?」

『瑠璃……。』

 

 声色だけで輪に活力がないのが分かる。

 

「大丈夫……じゃないよね……。」

『うん……。』

 

 輪は自分の部屋に閉じこもっていた。夜勤などでいない日があったが、小夜が亡くなった今、本当に一人ぼっちになってしまった。

 全て部屋のカーテンは開いておらず、電気もつけていない。仏壇に飾られている亡くなった両親と旭の遺影。その隣には小夜の遺影も飾られ、遺骨も納められている。どの部屋にも明るさなんてものはない、静寂だけが漂っている。

 

『ごめんなさい。小夜さんを巻き込んで……守れなくて……。あの時私が……』

「良いよ……。アンタが悪いわけじゃないんだから……。」

『ごめん……。』

 

 瑠璃は悪くないのにいつも謝る癖がある。いつもそれを輪が笑って指摘する。だが笑えない今の状態では、それを指摘するのが妙に苛立っているようにも思えてしまった。

 

「ねえ瑠璃……。」

『何?』

「小夜を殺した奴って、パヴァリアの残党なんでしょう……?」

『え?』

 

 突然の問いに、瑠璃は言葉を失った。

 

『どんな顔してた……?何人いたの……?ファウストローブ、エルフナインが持ってるんでしょ……?』

 

 次々と繰り出される輪の問いに、瑠璃は不安が過ぎった。感情的になりやすい輪の事だ、小夜の命を奪ったノーブルレッドに復讐するつもりだ。残党とはいえ、ギアもファウストローブも纏えない輪では勝ち目はない。だがそもそも、そんな危険な事をさせられない。瑠璃一旦、深呼吸して輪に言った。

 

「駄目だよ……輪。輪にそんな危険な事……させられない……」

『良いから教えてよ……。』

「出来ないよ……。だって輪は……」

『教えろって言ってんじゃん!!』

 

 突然輪が声を荒げて怒鳴り、瑠璃は萎縮した。クリスも一瞬怯んだが、瑠璃のタブレットを取って話しかける。

 

「おい輪!いくら何でも姉ちゃんに当たるのは違うだろ?!姉ちゃんだってお前の姉貴を……」

「分かってるよそんな事!!」

 

 声を荒げて叫んだ。同時に輪の嗚咽が漏れている。

 

「輪……?」

「そんな事分かってる!でも……でも私はっ……小夜姉の命を奪った奴が……許せないんだよ……!この手で殺してやりたい……!アンタなら分かるでしょう?!」

 

 輪の慟哭、それはクリスがよく分かるものだった。大人達が引き起こした戦争によって両親の命を奪われ、ルリの心を壊した。全てを憎み、荒んだかつての自分と今の輪が重なったクリスは何も言い返せなかった。

 

『教えてくれないんだったら……一人にさせてよ……!』

 

 電話越しに聞こえるすすり泣き。これ以上何を言っても輪を刺激してしまう。そう悟ったクリスは着信を切った。瑠璃が心配すると、クリスは首を横に振って、タブレットを返した。

 

「輪……。」

 

 二人は思い出した。小夜の死亡が確認され、霊安室に運ばれたあの日、知らせを聞いた輪が駆け付け、冷たくなって動かなくなった小夜を見た輪が泣き崩れたあの時を。

 

「小夜姉……嘘だよね……?起きてよ小夜姉……!小夜姉!」

 

 輪を止める為に、これが正しい選択なのかは分からない。だがそれでも輪を守る為には、自分達が戦って守るしかない。これ以上、大切なものを失いたくないから。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 夕刻、本部に集まった装者達。新たな敵、ノーブルレッドの対処についてミーティングが行われている。凱旋ライブの観客や小夜といった一般人の命までもがノーブルレッドの手によって奪われてしまった以上、状況ははっきり言って芳しくはない。下手をすれば対キャロル、パヴァリア光明結社との戦いの時よりも事態は深刻といっても過言ではない。

 

「新たな敵。パヴァリア光明結社の残党、ノーブルレッドか……。その狙いは一体……」

「一連の事件を切っ掛けに、Rhソイル式の全血清剤は一ヶ所に集められて警護されることになったそうです。」

 

 これにより、敵は唯一の補給物資に手を出しにくくなった。まだノーブルレッドが保有する全血清剤がどれほどのものかは分からないが、補給が出来ない以上、長期決戦は出来ない。蓄えが無くなる前に勝負をつけに来る事が予想される。だがそれでも残党相手にどうも手が届かない所が歯痒いところだ。クリスが拳を打ち付けてそれを言う。

 

「しかし、残党相手にこうも苦戦を強いられるとは、思ってもみなかったな。」 

「確かに、幹部級4人の方がずっと手強かった……。一人生きているとはいえ、何故……。」

 

 サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ、アルベルト。彼女達はイグナイトとユニゾンを用いる事でようやく撃破出来た、まさに強敵。対してノーブルレッドの3人は、幹部達とは違って戦闘力はそこまで高くはない。調の言う通り、幹部達の方が強敵であるはずなのに、ここまで苦しめられている事に理解出来なかった。

 

「なりふり構わないやり方に惑わされただけデスとも!」

「だよね。サンジェルマンさん達の想いが宿ったこのギアで負けるなんて、あり得ない。」

「だけど……守れなかった。」

 

 瑠璃の言う通り、そのギアを用いていたにも関わらず、小夜を死なせてしまった。これは逃れようのない事実。たとえギアがあったとしても、それだけで全てが上手く行くというわけではない。

 それを痛感している翼はブリッジから出ようとする。そこにマリアに呼び止められる。

 

「ちょっと翼、どこに行くの?」  

「鍛錬場だ。相手が手練手管を用いるのなら、それを突き崩すだけの技を磨けば良いだけの事。」

 

 かつての相棒、奏を失った時の冷たい剣だったあの頃のような顔で出て行った。そこに今度は響が追いかけて呼び止めた。

 

「翼さん!今度、時間が出来たらみんなでカラオケに行こうって。だから、翼さんも……」 

「すまないが、他を当たってもらえないか。」 

 

 感情を押し殺した剣。今の翼はまさにその状態だった。響の誘いを断り、一人鍛錬場へと向かう翼の背中をただ遠くなっていくのを見ている事しか出来ない響だった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ノーブルレッドが拠点とする研究所。シェム・ハの腕輪の起動実験の準備をしていたアルベルト。こういったお膳立てはアーネンエルベにいた頃から慣れている。メインコンピューターに繋げられたケーブルの先にあるドームの中には7つの球体と、その中央にある一際大きい球体。そのケーブルの先に繋がれているのは、シェム・ハの腕輪が納められているガラスケース。

 セッティングが完了した同じタイミングで、Rhソイル式の全血清剤の輸血によって復調したノーブルレッドの3人が入って来た。

 

「遅かったじゃないか。」

 

 余裕の笑みを浮かべながら言い放ったアルベルト。彼女達にとってそれは嫌味、皮肉、罵倒にも聞こえてしまう。

 

「鎌倉殿の命令で瑠璃に不浄なる視線(ステインドグラス)を刻み込もうとしたのだろうが、あれは悪手だったな。」

 

 ミラアルクが瑠璃に不浄なる視線を使って侵食しようとしたが、何故か弾かれてしまった。あれはただ使うだけでは目晦まし程度にしかならない。特に装者達の場合は、全員確固たる意思を持って戦う。故に効力を発揮させる為には対象の精神が不安定である必要がある。翼の時と同じように、一般人で瑠璃の知り合いである小夜を殺して、怒りの虜にさせて使ったのだが、結果的には不発に終わってしまった。アルベルトはそれを暗に非難していた。

 だが3人にとってはアルベルトは自分達を怪物へと変えた組織の幹部。精神的にも大人なヴァネッサはともかく、ミラアルクとエルザは彼女の事を快く思っていない。加えて、アルベルトの余裕の笑みも相まって、彼女達の神経を逆なでしている。

 

「君達がやるはずだったこれは準備完了だ。あとは君達でも十分やれるだろう。あの時みたいに、しくじる事はないように……な。」

「分かっていますわ。」

 

 あの時は余計な事をしてくれたな。ヴァネッサに向けた目がそう投げかけている。ミラアルクとエルザは明らかな敵意を向けるが、ノーブルレッドの首領であるヴァネッサは感情的になる事なく、態々敬語で対応した。

 それから間もなく、風鳴訃堂が黒服達を引き連れてやって来た。訃堂の対応はヴァネッサが行う。

 

「お早い到着、せっかちですのね。」

「腕輪の起動、間もなくだな。」

 

 彼にとってノーブルレッドなどただの駒でしかない。まるで遠回しに早く起動しろと言わんばかりに、事を進めようとしているのが分かる。ヴァネッサはそんな彼の意図を汲み取るようにメインコンピューターのカーソルを叩く。

 

「聖遺物の軌道手段は、フォニックゲインだけではありません。7つの音階に照応するのは、7つの惑星、その瞬き。音楽と錬金術は成り立ちこそ違えど、共にハーモニクスの中に真理を見出す技術体系……。」

 

 ヴァネッサがコンピューターのコンソールをタッチすると、機材の7つの球体が光出し、そのエネルギーが中央の巨大な球体に集約される。

 

「この日、この時の星図にて覚醒の鼓動はここにあり!」

 

 そして、中央の球体に集められたエネルギーは、接続されたケーブルを通してシェム・ハの腕輪が納められているガラスケースへと流れる。ケースが割れて吹き飛ばされ、腕輪の輝きが部屋全体に眩い光が放たれる。だがその光はすぐに消失した。

 

「起動完了……なのよね?」

「ああ……それで良い。」

 

 アルベルトは肯定しているが、シェム・ハの腕輪に変化は見られない。ヴァネッサが成功したのか、懐疑的になるとミラアルクが腕輪に手を伸ばそうとした時だった。後ろから訃堂に、その腕を掴まれた。

 

(何だ?!ジジイの力とは思えないぜ?!)

 

 手を振払おうとするが、ビクともしない。老体に見合わぬその力に驚愕する。

 

「お前の役目は他にある。」

 

 訃堂がそう言うと、その後ろから背後から銃を突きつけられて歩かされている黒服の男二人。その二人の顔はミラアルクとエルザは見覚えがあった。

 

「あの時の人達でありますか……?」

「片づけよ。使いも果たせぬ木っ端だ。」

 

 埠頭で取引をしていた男達だ。取引現場を見られ、S.O.N.G.に尻尾を掴ませてしまったという理由で粛清される運命になったのだろう。

 訃堂の手から解放されたミラアルクは二人の方を見ると

 

「許せとは、言わないぜ。」

 

 鋭い爪で男の首の頸動脈を切り裂いた。男の首から血が大量に噴射し、倒れたと同時に緑色の炎にその身を包まれて、焼却された。

 

「怪物共めぇ!」

 

 死を目と鼻の先で目の当たりにしたもう一人の黒服の男が半狂乱に陥り、このまま座して死を待つものかと、逃げ出した。訃堂の傍にいる黒服が始末しようと拳銃を発砲するが、一発も当たらない。

 

「このまま殺されてなるものか!殺されるくらいならこいつでええぇぇ!!」

「よせぇっ!」

 

 余裕の態度を崩したアルベルトが制止するも間に合わない。男は奪い取ったシェム・ハの腕輪を右腕に填めて、それを頭上に掲げた。だがその瞬間、腕輪から謎の音響が発せられ、男は断末魔を挙げながら身体の内側から発せられた光と共に爆ぜた。爆発の余波によって研究資材が破壊され、壁に記されている蜘蛛の模様が燃えてしまう。

 この様子から、起動は失敗したのは誰の目から見ても明らかだ。先程の爆発も、使用者が扱うに値しないという拒絶反応によるものだろう。皆が唖然とする中、訃堂だけが嗤っていた。

 

「神の力、簡単には扱わせぬか。だが次の手は既に打っておる!」 

「ディー・シュピネの結界が!」

「連中が駆け付けてくるぜ?!」 

 

 先程の蜘蛛の紋章、それがディー・シュピネの結界。それが崩れたという事はS.O.N.G.にこのアジトの存在が知られてしまうのも時間の問題。対抗しても勝ち目がない以上、ここは放棄するしかない。

 

「提案があるであります!」

 

 ヴァネッサとミラアルクが動揺していると、エルザがアルカ・ノイズの召喚石を取り出した。




本音を言うと小夜さんを死なせたくなかった……


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人と怪物

 翼が鍛錬場へと行ってしまっている間、瑠璃はエルフナインのラボに訪れていた。というのもエルフナインの一日の大半はラボのデスクにかじりついている。彼女はいつも自分の戦場はここだと言うのだが、その無茶はいつも限度を超えていると言ってもいい。これ以上の無茶をさせない為に、今日もコーヒーを淹れ、訪れているのだ。

 

「はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

 

 ちなみにエルフナインのマグカップはえびふらいのイラストがプリントされている。

  

「頑張るのは良いけど、お父さん心配してたよ。たまには休んだら良いのにって。」

「いえ、僕はちゃんと休憩を取っています。」

 

 エルフナインの口から休憩なんていう言葉が出た事に意外だと僅かに驚く瑠璃。だがもう一つ忘れている事がある。

 

「そうなんだ……じゃあお休みの日は何してるの?」

「はい。お休みの日は、ダイレクトフィードバックシステムを応用して、脳領域の思い出を電気信号と見立てる事で……」

「エルフナインちゃん、一旦止めようね?」

 

 これ以上語らせても理解出来ないと判断して遮った。休日とは程遠い過ごし方である事は明白だ。それを何の疑問もなくそれを述べている姿は、まさに純真無垢だ。瑠璃も思わず苦笑いを浮かべる。

 

「エルフナインちゃんが普段どう過ごしているのか、何となく理解出来たような……出来てないような……。」

「あの、瑠璃さん……」

「どうしたの?」

 

 何となく聞きにくそうな様子だった。そんなエルフナインに、瑠璃が訪ねてみる。すると

 

「無理してませんか?」 

「え?」

 

 エルフナインに図星を突かれてしまい、驚く瑠璃。

 

「瑠璃さん。ずっとあれを見てましたよね?」

 

 エルフナインが指したガラスケース。その中にはラピス・フィロソフィカスのペンダント。そして、輪がキャロルから受け取っていたテレポートジェム。ファウストローブは、アルベルトが提供した設計図のお陰で修復され、さらにテレポートジェムは輪から押収した後、両者をエルフナインのラボに預かっていたのだ。

 ラピス・フィロソフィカスのペンダントを見ると、今日、輪とすれ違いが生じてしまった事を思い出す。たった一人の姉を失い、復讐に燃える輪に、それを止めたい瑠璃の思いは聞き届かなかった。それほどまでに輪の心は深い悲しみへと落ちてしまったのだろう。

 

「輪さん……あれから……」

 

 だがそこに割って入るようにアルカ・ノイズの出現を報せるアラートが本部中に鳴る。瑠璃とエルフナインは急いで本部へと駆け出して入る。既に響とマリアが先行して、出現地点に向かっている。

 

 一方ノーブルレッドのアジトとされていた研究施設がアルカ・ノイズの攻撃を受けている。だがそれはノーブルレッドの作為。S.O.N.G.がここに来るのであれば、聖遺物や異端技術のデータを全て隠滅させて、施設をアルカ・ノイズに破壊させれば、あとは装者達がアルカ・ノイズを排除してくれる。そういう打算だった。

 殿として残り、アルカ・ノイズの攻撃によって施設が破壊されていく様を見ていたヴァネッサがため息をつく。そこにヘリのローラーが空を斬る音が聞こえてきた。空を見るとS.O.N.G.のヘリが1機、こちらに向かっている。

 

「こちらもお早い到着だこと。」

 

Seilien coffin airget-lamh tron……

 

 ヘリから飛び降りたマリアが起動詠唱を唄い、アガート・ラームのギアを身に纏う。同じく響もガングニールのギアを纏って現着。

 短剣を逆手に握ってアルカ・ノイズを斬り捨てていくと、巨大なアルカ・ノイズがマリアを叩き潰そうと腕を振り上げる。その前に短剣を左腕の篭手に納めて、エネルギー砲台へと変形させる。その砲口からエネルギー波が発射された。

 

【HORIZON † CANNON】 

 

 砲撃によって巨大アルカ・ノイズは、背後にいたもう一体と共に赤い霧となって散る。

 一方響はヴァネッサと交戦、指先から放たれるマシンガンの弾丸を避け、回し蹴りでヴァネッサを大きく後退させる。だが響は追撃はせず、対話を試みる。

 

「目的を……聞かせてくれませんか?」

 

 これが響のやり方。相手と対話が出来るのであれば分かり合える可能性を信じる故の選択。すると、ヴァネッサは両手を挙げて

 

「降参するわ。まともにやっても勝てそうにないしね。分かり合いましょう?」

 

 と、白旗を上げるような言動を取りながらも、豊満な胸を強調させるかのように、身に纏うジャケットのファスナーに手を掛ける。

 

「えぇっ?!そこまで分かり合うつもりは!」

 

 豊満な身体故なのか、初心な響がたじろいでいる。そんな響に構わず、ファスナーを下ろしていく。頬を赤らめる響は両手で視界を覆うが、指の隙間からちゃっかり覗き見ようとしている。

 

「なんてね。」

 

 だがファスナーを下ろしきって胸のカバーが開くとミサイルが二本放たれた。まさにおっぱいミサイルである。

 

「うわあああぁぁぁっ!!」

 

 ミサイルに被弾し、爆発に巻き込まれる。だが放たれたミサイルは特に変わった性能もない、所詮はただのミサイル。響に大したダメージは入っていない。

 分かり合おうと言っておきながら、不意討ちでミサイルを撃ってくる限り、分かり合う気は0だろう。ヴァネッサはファスナーを上げて、自身の目的を話す。

 

「私達の目的は……そうねぇ。普通の女の子に戻って、皆んなと仲良くしたいじゃ……駄目かしら?」

 

 屈曲させた手関節の中からも小型ではあるがミサイルを放つ。だがそこにアルカ・ノイズを殲滅させたマリアがその間に入り、展開させたエネルギーバリアで響からミサイルの爆撃から守った。

 

「あっちゃぁ……。」

 

 防がれたヴァネッサは、形勢不利を悟ってそう呟いた。マリアが駆け出し、ヴァネッサに短剣で斬りつけるも軽々と避けられ、跳躍して距離を離す。

 

 

「ヤバいかな?ヤバいかもね?」

 

 着地したヴァネッサが、逃走しながらロケットパンチを放つ。マリアは蛇腹剣でそれを防ぐ。そのまま十字状に切って、左腕の篭手を爪状に変形させるとそれを突き出す。

 

【DIVINE † CALIBER】

 

 十字架状のエネルギーがヴァネッサに纏めて襲い掛かり、爆発する。ダメージは与えたようだが、決定打にはなっていない。ただ戦えると立ち上がったヴァネッサの脳内に、テレパシーが流れ込む。

 

『腕輪と保護対象を連れて、戦域から離脱出来たであります!』

 

 相手はエルザだった。黒塗りの車のボンネットの上に乗って念話しているのだが、その下ではミラアルクが持ち上げて空を飛んでいる。

 エルザ達が目的を成し遂げた今、殿を務めるヴァネッサにはこれ以上の戦闘は無意味である。

 

「了解。こちらも撤退するわ。例の場所で落ち合いましょう。」

「待ってください!」

 

 そこに対話を求める響が呼び止めた。

 

「やっぱり、話しても無駄ですか?分かり合えないんですか?」

 

 響の問いに、ヴァネッサは迷いなく答える。

 

「分かり合えないわ。だって人は、異質な存在を拒み隔てるものだもの。」

 

 目から閃光を放つと、足底部のブースターエンジンを点火させて何処かへと飛び去っていった。飛行能力を持たない響とマリアでは追跡が出来ない。 

 

「拒み……隔てる……。」 

 

 ヴァネッサが放ったセリフを呟いた響。アルカ・ノイズは対処出来たものの、今回もノーブルレッド相手には勝利したとは言えない、後味の悪い結果に終わった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 響達が本部へと帰投し、戦後処理を行うS.O.N.G.のエージェント達。その中には緒川も入っている。ノーブルレッドのアジトという事もあり、何か手掛かりがないか、全員が血眼になって捜査に当たっている。すると、緒川が瓦礫の中に埋まっている歯車を見つけ出した。

 

「これは……急ぎ解析をお願いします!」

 

 

 一方アジトを放棄して逃げ仰せたノーブルレッド達は今、車の廃棄所に潜伏している。そこに廃棄されているワゴンカーを寝所としているのだが、3人で川の字で寝れるとはいえ、先のアジトより寝心地は良くなく、掛かっているのは布団ではなくブランケットである。

 

「アジトを失うって、テレポートの帰還ポイントを失うだけでなく、雨風を凌ぐ天井と壁を失うって事なのね……。お姉ちゃんまた一つ賢くなりました。」

「おかげで次のねぐらが見繕われるまで、まさかの車中泊。世間の風はやっぱウチらに冷たいぜ。」

 

 ミラアルクが愚痴を零した。

 

「あの時は仕方なかったであります。アルカ・ノイズの反応を追って、S.O.N.G.が急行してくるのは分かっていたであります。それでも、足がつく証拠や、起動実験の痕跡をそのまま残しておくわけには……っ!」

 

 エルザも思うところはある。そこにヴァネッサが優しくエルザを抱擁する。

 

「心配ないない。何とかなるなる。だってエルザちゃん、しっかり者だもの。」

 

 甘く優しい抱擁に身を預けようとした時、エルザのケモミミが立った。すると、ブランケットの中に潜り込んだ。

 

「ちょっ、どうしたのったらどうしたの?!エルザちゃん?!」

 

 ブランケットから出てきたエルザの手に摘まれている黒い小型の機械。それは赤い光を点滅させている。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 響がメディカルルームのベッドで検査を受け終え、ブリッジへと戻って来た。既に装者達が集まっており、響が合流した事で全員揃った。これから、ブリーフィングが行われる。

 

「全員揃ったな。」

「まずはこれをご覧ください。」

 

 エルフナインが、モニターに映し出したのは装者達にはお馴染みのアウフヴァッヘン波形。聖遺物が起動した際に発せられる反応パターンである。

 

「これは……アウフヴァッヘン波形?!」

「それも、あたし等とは別の……ってまさか?!」

 

 この波形は誰のギアの聖遺物にも当てはまらない。では他に何があるのか?クリスだけでなく、他の者も察しはついている。

 

「ああ。奪われた腕輪が起動したと見て、間違いないだろう。」

「アルカ・ノイズの反応に紛れ、見落としかねない程の微弱なパターンでしたが、辛うじて観測できました」

「恐らくは、強固な結界の向こうでの儀式だったはず…。例えば、バルベルデでのオペラハウスのような。」

「そして、観測されたのはもう一つ。」

 

 モニターに映し出されたのは音声データのようなものである。そこから発せられる音に合わせてモニターの映像も揺れ動いているのだが、その音一つ一つが規則性を持っておらず、どこかちぐはぐでバラバラ、何を意味しているのか理解出来ない。

 

「何……これ……音楽?」

「だとしたら、デタラメが過ぎるデス!」

(聞いたことのない音の羅列……だけど私はどこかで……。)

 

 調と切歌はお手上げなのだが、マリアは何処か懐かしさを感じている。そしてもう一人……

 

(初めて聴いたはず……なのに……)

 

 瑠璃がその音に導かれるように手を伸ばそうとした。その瞳も冷たい闇へと変わっている。姉の異変に気が付いたクリスは、瑠璃の伸ばした手を取る。

 

「姉ちゃん?」

「はへっ……?」

 

 クリスによって我に返った瑠璃。瞳の色も元に戻っている。

 

「大丈夫か?」

「うん……何でもないよ。」

 

 クリスだけではない、他の者達もその異変に、視線が瑠璃の方を一点集中している。大事なブリーフィングを遮っていると思った瑠璃は、恥ずかしさで見を縮こませてしまう。

 

「す、すみません……続きを……。」

「は、はい。この音楽の正体については、目下のところ調査中。ですが、これらの情報を総合的に判断して、ノーブルレッドに大きな動きがあったと予測します。」

「やはり、こちらから打って出るべき頃合いだな。」 

「でも、打って出るってどうやってですか?」

 

 響の言う通り、ノーブルレッドが何処にいるか分からない以上、出撃の意味がない。だが弦十郎は既に手を打ってある。

 

「マリア君!」

「さっきの戦いで、発信機を取り付けさせてもらったのよ。」 

 

 モニターの前に進み出ると、モニターの地図から一ヶ所、赤い光が点滅している。つまりそこにノーブルレッドが潜んでいるという事だ。

 

「じゃあそこにあの3人が!」

「ノーブルレッド、弱い相手とは戦い慣れていないみたいね。」

 

 敵の位置を捉えた今、今度こそ逃がすわけにはいかない。装者達はノーブルレッドが潜伏している車廃棄所へと向かうべくヘリに乗り込んだ。




お知らせです。
前回入れるはずだった小夜さんを殺した理由が入ってなかったので、前回のお話に追加しました。
本当に申し訳ありません。


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黄金に咲く花

今回あんまり原作との展開が変わらないので、原作のキャラが言っていたセリフを瑠璃に変えました。

しかしもう一度いいます。展開は変わらない!


 発信機のポイントの上空にS.O.N.G.のヘリが2機飛んでいる。ここにノーブルレッドが潜んでいる。それぞれのヘリの出入り口から響と翼が下の大地を覗くと、サーチライトで照らされている3人がヘリを見上げて待ち構えている。

 

「迎え撃つとは殊勝な!」

「行きます!」 

 

 響と翼を先頭に、装者達がヘリから飛び降りる。

 

 Balwisyall nescell gungnir tron……

 

 起動詠唱を唄い、それぞれがギアを身に纏う。だが……

 

「しまっ……」 

 

 瑠璃がバイザーで着地した地面の直下に反応をキャッチしたが既に遅かった。着地した瞬間、地中深くに埋まっていた大量の地雷が起動、地面が爆発した。装者達の悲鳴が響く。

 

「何だとぉ?!」 

 

 流石の弦十郎もこの奇策を読む事は出来ず、驚愕している。

 

「敢えてこちらの姿を晒す事で、降下地点を限定させるであります。あとはそこを中心に、地雷原とするだけで……」

「他愛無いぜ!」

 

 発信機をつけられ、潜伏先がバレてしまった上に他のアジトはない。逃げ場がないなら迎撃する他ない。幸いここにはノーブルレッド3人が揃っており、全血清剤も用意出来ている。そして迎撃する策の一つとして使ったのが、この地雷原だ。

 

「でも、地雷の位置は全て把握した!って何この量?!」

 

 バイザーで地中に埋まっている地雷の位置を特定したのだが、爆発した箇所以外の周囲には殆ど埋められている。安全地帯は先程爆発した場所しかない。数は先程の爆発した地雷の量より少なく、爆破されても大したダメージにはならないだろうがが、何度も爆破されては歌が止まってしまい、戦闘にも支障をきたす。これではたまったものではない。確実に爆発しない安全地帯に、装者全員が集結する。

 

「それもまた予測の範疇であります!」

 

 すると3人が装者達を三角形で囲うように移動、配置に着いた。

 

「行くぜえぇ!」

 

 3人は装者達の直上の空に手を天高く掲げる。すると、そこに水色の正六面体のブロックが現れ、地面に落下する。装者達に直接降りかかる事はないが、まるで囲うように落ちていき、積み上がっていく。

 

「させるかよぉ!」

 

 クリスが腰のアーマーから小型ミサイルを展開、全弾一斉掃射でブロックに叩き込んだ。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

 しかし、積み上がった正六面体のブロックは傷一つつけられていない。

 

「そんな!クリスの一撃でも砕けないの?!」

「そう……あれかし……。」

 

 次第にブロックが積み上がり、装者達を完全に囲った。気がつけば装者達は迷宮に閉じ込められ、個々に分断された。

 

「皆が捉えれない?!どうして?!」

 

 敵影はおろか、味方の姿すらキャッチ出来ない。戦闘補助システムが封じられ、狼狽する瑠璃。

 

「切ちゃん!皆!何処にいるの?!」

 

 調も叫んで呼び掛けるが、誰一人応答はない。切歌はブロックの隙間を狙って大鎌を振り下ろすが、刃が通らない。

 

「刃が通らない……!簡単には抜け出せないという事デスか!」

 

 本部のモニターからも何が起きているのか、理解が追いついていない。外から見れば積み上がったブロックのピラミッドが映っている。あの中に瑠璃達が閉じ込められている。

 

「ほう……このような芸当が出来るとは……。さて、装者達はどう出る?」

 

 廃棄所から遠い場所、アルベルトはS.O.N.G.とノーブルレッドの戦いを眺めている。

 それぞれ、脱出の手掛かりを探す為にこの迷宮を進んでいる。しかし壁も床も天井も、同じ形のブロック。方向感覚が狂いそうになる。脱出口など何処にもない。

 

「名称『ダイダロス』の真髄をここに……怪物が蠢くは迷宮……神話や伝承、果ては数多の創作物による積層認識が、そうあれかしと引き起こした事象の改変、哲学兵装……。」

「怪物と蔑まれた私めら三人が形成する、全長38万kmを超える哲学の迷宮は、捉えた獲物を逃がさないであります!」

「それだけじゃないんだぜ!」

 

 3人がダイダロスの迷宮にエネルギーを注ぎ込んだ。それにより、中では装者達の背後から光の衝撃波が迫って来た。とにかくそれぞれ、衝撃波はから逃れようと走るが、何処までも追ってくる。

 

「あっ……!」

「あなた達?!」

 

 それぞれの通路に集った場所に、装者達が全員鉢合わせしてしまう。しかも、それぞれ7人の背後から衝撃波が迫っている。 

 

「来るぞ!衝撃波だ!」

 

 もはや逃れる術は無い。これがダイダロスの迷宮の閉鎖空間内に送り込んだ攻撃手段。

 

「「「ダイダロス・エンド!」」」

 

 衝撃波が一箇所へと集まり、その威力がまるごと装者達に襲い掛かる。ピラミッドから光が漏れ出している。

 

「行き場のない閉鎖空間にてエネルギーを圧縮、炸裂させれば……!」

「私めらのような弱い力でも、相乗的に威力を高め、窮鼠だって猫を噛むであります!」

「だが……敵は流石のシンフォギア。簡単にはいかないみたいだぜ!」

 

 ノーブルレッドが優勢であるにも関わらず、肩で息をしている。

 

「迷宮の弱点、それは3人が万全の状態でなければ形成出来ない。そして迷宮自体を作り出すだけでも力を消耗する、諸刃の剣。」

 

 アルベルトが初見でダイダロスの迷宮の弱点を把握してしまった。だがその指摘は正しく、現に3人の頬に血中パナケイア流動が濁っている事で、どす黒い血管が浮かび上がっている。

 装者達はダイダロス・エンドをその身に受け、倒れ伏している。とはいえまだ健在だ。

 

「なら、もう一撃にて!」

 

 トドメを刺そうとエネルギーを流しこもうとしている。一撃でこれであれば、今度こそ命はない。負ける。響は心の中でそう察していた。

 

「勝てない……どうして……?サンジェルマンさん達の想いの籠ったこのギアで……。」 

『勝てない?ならば問おう。お前は何に負けたのだ?』

 

 声が聞こえた。聞き覚えのある声。

 

「サンジェルマンさん……!」

 

 目の前にサンジェルマンが立っている。思念体なのか、それは定かではない。だが意味もなく響に問う事はしない。

 

『誰に負けた?立花響』

「そうだ……!負けたのは自分自身に……勝てないと抗い続ける事を忘れた私に!」

 

 諦めかけていた響の闘志。サンジェルマンが鼓舞してくれた事で再び立ち上がれる。サンジェルマンが手を伸ばす。

 

「私が手を貸す。だから忘れるな立花響!想いを通すために握る拳を!」

「忘れない……!すれ違った想いを繋ぐ為に拳を開くことを!そして、信じた正義を握りしめる事を!」

 

 かつて互いに譲れぬ意思をぶつけ合い、共に手を取り合い戦った装者と錬金術師。その手が握られ、再びその絆が結ばれた。

 

「ダイダロス・エンド!フルスロットルであります!」

「今度は迷宮ごとぶっ飛ばすぜ!」

「この威力でなら……!」

 

 ダイダロス・エンドの威力を上回る最後の切り札。そのエネルギーの出力に、迷宮が耐えきれず爆発した。その威力は凄まじく、普通であれば耐えられるものではない。

 煙が晴れ、装者達は倒れている……かと思われた。

 

「あれは……!」

 

 煙が晴れた先に見えた光景に、アルベルトは驚愕する。

 

「だとしてもおおおおおぉぉ!!」

 

 響の叫びが木霊する。響の周囲を覆うように黄金のバリアフィールドが展開されている。それだけではない。ギアインナーの形が変わっており、手の甲の装甲には黄金の花が咲いているかのようにはめ込まれている。

 響だけはない。翼達も同様の姿である。

 

「これは……一体……?」

「サンジェルマンさんが手を繋いでくれました!」

「何?!」

「力を貸してくれたんです!」

 

 翼の疑問に、響が凛として答える。

 3人は再び、ダイダロスの迷宮を展開しようと、正六面体のブロックが現れる。響は手の甲の黄金の花を展開させると、それを殴って砕く。すると、その花弁が肩のアーマーとなって、その先には黄金の剛腕が形成される。

 そしてサンジェルマンと共に、迫る正六面体のブロックを殴って破壊した。 

 ダイダロスの迷宮が通用しないと判断したミラアルクは、両翼をブーメランへと可変させて投擲する。

 

「ダイナミック!」

 

 投擲されたブーメランを、黄金の拳でぶん殴って返す。そこにエルザがテールアタッチメントで奇襲を仕掛けるも、黄金の拳でテールアタッチメントを掴んで、拳をロケットパンチの要領で発射させた。

 

「マズいであります!」

 

 テールアタッチメントと繋がっている為、ロケットパンチとともに空へと打ち上げられている。すぐさまテールアタッチメントを解除して事無きを得る。ちなみに分離したテールアタッチメントは爆発、黄金の拳は再び響の肩のアーマーに戻って来た。

 

「賢者の石によってリビルドしたシンフォギアに秘められた力。ギアを構築するエネルギーを解き放ち、高密度のバリアを形成……!さらにエネルギーの大半を攻撃へと転化することで可能とする不退転機能!それは!シンフォギアとファウストローブの融合症例、『アマルガム』!」

 

 アマルガム。シンフォギアがラピス・フィロソフィカスの輝きによってリビルドした事で新たに追加された決戦機能。それはシンフォギアとファウストローブの力を掛け合わせた絆の力だ。

 

「そうか……サンジェルマン……!」

 

 遠くから眺めているアルベルトは、装者達に力を貸した亡き戦友の名前を呟いた。

 

「こんな所で諦めるわけにはいかないであります!」

 

 エルザがキャリーケースから新たなテールアタッチメントを接続、キャリーケースの形状が変化して、それを半球状のドームのようにする。

 

「その通り!ウチらはここで退くわけにはいかないんだぜ!」

 

 ミラアルクは右翼を剛腕へと可変させる。ドームを高速回転させて、響に突撃する。響は黄金の拳を高速回転させてエルザのドームを弾き、ミラアルクの剛腕も押し切る。今度は両足に纏って飛び蹴りを放つが、拳によって阻まれる。

 

「エルザちゃん!ミラアルクちゃん!」

 

 ヴァネッサが歯噛みする。それは勝てないと分かっていながらも、立ち止まる事を許さない、覚悟を決めている者の表情だ。崖から飛び降りたヴァネッサは響と対峙する。

 

 

「それでも私達は神の力を求め欲する!神の力でもう一度人の体と戻るためにいいいいぃぃ!!」

 

 前腕、大腿、下腿からミサイルポッドを展開し、一斉にミサイルを発射させた。

 

「「だとしても!貫けえええぇぇぇーーー!!」」

 

 黄金の拳でミサイルを全て殴り壊し、そのままヴァネッサへと突っ込む。攻撃を全て防がれ、近づかれたヴァネッサは反射的に目を瞑る。だが黄金の拳はヴァネッサの目の前で停止。いつまでたっても来ない痛みに、違和感を感じたヴァネッサはゆっくり目を開ける。すると、拳は眼前で止まっている。

 

「どうして……?!」

「本当か嘘かはわかりません。だけど皆と仲良くしたいと聞きました。だから……!」

 

 黄金の拳を下げ、自身の手を伸ばす。ヴァネッサと分かり合える。だがそれはアラートによって遮られた。

 

『現時刻をもって、装者全員の作戦行動を中止とする。日本政府からの通達だ。』

 

 通信越しに告げられた弦十郎の通達。勝利は目の前だというのに、それを手放せという衝撃的な指令に瑠璃が問う。

 

『どうしてなのお父さん?!』

 

 弦十郎は腕を組んだまま、何も答えない。本部の藤尭は怯え、震えながら、友里は堂々と、エルフナインは不安そうに両手を挙げている。その背後には機関銃を持った兵士達。その者達によって占拠されてしまっていた。

 

 

 




アルベルトとノーブルレッド

アルベルトはノーブルレッドではない為、3人とは連携を取りません。
ただ少なくとも最低限の支援はしているが、それでも人から大きく逸脱した姿へと変えた組織の幹部という理由で、アルベルトは嫌われている。


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疑念

この小説を投稿し始めてそろそろ半年が経つこの頃……

他の方の小説を読んでいるといかに自分が文章力ないのを思い知らされる……

もっと精進せねば!


 形勢は圧倒的に優位、勝利まで、分かり合えるまであともう一足、そう思われた矢先に本部が日本政府からの特殊部隊によって制圧されるという予想外の事態に発展してしまった。本部から作戦中止命令が出された以上、従わざるを得ない。それが組織であるが故の宿命だ。

 

「預けるであります。シンフォギア!」

「離脱するぜ、ヴァネッサ!」 

 

 唯一飛行能力を持たないエルザをヴァネッサが小脇に抱え、ミラアルクは両翼を使って離脱した。

 

「ヴァネッサさん……。」

 

 もう少しで分かり合える。その可能性が失われてしまった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ギアを解除して、本部に帰投した装者達だったが本当に本部が日本政府によって制圧されているという事態に直面し、

 

「まさか……本当に……。」

「本部が制圧されるなんて……。」

「制圧とは不躾な。言葉を知らぬのか?」

 

 いかにも悪人面の査察官がS.O.N.G.を見下すような物言いで嗤っている。だが日本政府が国連所属の組織相手にここまでやるのか、その理由を弦十郎が言う。

 

「護国災害派遣法第六条。日本政府は、日本国内における、あらゆる特異災害に対して優先的に介入することが出来る、だったな。」

「そうだ。我々が日本政府の代表としてS.O.N.G.に査察を申し込んでいる。威力による制圧と同じに扱ってもらっては困る。世論がザワっとするから本当に困る!」

 

 そもそも護国災害派遣法はかの風鳴訃堂の後押しによって成立した法案。だが後押ししたのがあの訃堂だ。野党から大反対を受けており、国民からも反発を買っている。かなり強引なやり方で成立させた事が予想出来る。現にこうして無抵抗な人間に対して機関銃を突きつけていた。先程怖い目に遭った時の恨みと言うべきか藤尭がボソッと陰口を叩く。

 

「どう見ても同じなんだけど……。」

「あの手合いを刺激しないの……!」

 

 友里が小声でツッコむ。

 

「国連直轄の特殊部隊が、野放図に威力行使できるのはあらかじめその詳細を開示し、日本政府に認可されている部分が大きい!違うかな?」

 

 査察官のこの言い分、弦十郎は重々承知の上である。だがこうして横槍を入れられないよう入念に、詳細に報告しているにも関わらず、この現状に納得がいかない弦十郎は反論する。

 

「違わないでかぁ!故に我々は、前年に正式の手続きの元……」

「先程見せてもらった武装……」

 

 査察官が待ってましたと言わんばかりに弦十郎の反論を遮った。

 

「開示資料にて見かけた覚えがないのだが、さて?」

 

 査察官が指摘した武装、思い当たる節は一つしかない。エルフナインが驚愕しながらそれを言う。

 

「まさか、アマルガムを口実に?!」

「この口振り、最初から難癖つけるつもりだろ?!」

 

 藤尭もこのやり方には納得が行かないようだが、弦十郎は唯一痛い所を突かれ、ぐうの音も出ない。アマルガムは先程顕現した新たな決戦機能。故に前年の開示資料には存在しない。それが護国災害派遣法に突け入る隙を与えてしまったのだ。

 

「風鳴司令……。ここは政府からの要求を受け入れるべきかと。」

「そうデスと……え?ええぇー?!」

「切ちゃん……今難しい話をしているから……。」

 

 翼がまさか反論せずに迎合した事にビックリする切歌。S.O.N.G.が査察を受け入れるしかないこの状況、査察官は愉悦に浸っている。

 

「後ろ暗さを抱えてなければ、素直に査察を受け入れてもらいましょうか?」

 

 悔しさを滲ませる弦十郎。だが選択の余地はない。

 

「いいだろう……。だが条件がある。装者の自由と、ギアコンバータの携行許可。今は戦時故、不測の事態への備えくらいはさせてもらう!」

「折り合いの付け所か……。但し!あの不明武装については、認可が下りるまで使用禁止とさせてもらおう!」

「勝手にしろ!」

「では、勝手を開始する。」

 

 何とか出来る限りの交渉成立させたが、それでもアマルガムといつ戦力が封じられるのは痛手だ。そして、アマルガムを不明武装と言及され、気を落とす者が一人。響だ。

 

「あれは不明武装なんかじゃない……!拳を開く勇気なのに……!」

 

 どれだけ響が訴えようとも、日本政府が、権力が、法案がそれを許すはずがない。ただ悔しさを吐露する事しか出来ない。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 危機的状況から脱したノーブルレッド。アルベルトに案内されて新たなアジトに入ったのだが、その場所に驚いている。

 

「ここが、君達の新たなアジトだ。」

「灯台下暗しなのであります……。」

「まさかここをあてがわれるとは、思ってもみなかったぜ。」

 

 ノーブルレッドが驚く中、訃堂が黒服の男二人を伴って姿を表した。

 

「護災法の適用以来、国内における特異災害の後処理は全て儂の管理下にある。裏を返せば、ここは誰も簡単に手を出せぬ聖域に他ならぬ。」

 

 護災法を施行させた訃堂だからこそ出来る手腕。しかし、見方によっては神の力を手に入れる為にそれを悪用していると言ったも過言ではない。

 

「つまり、アジトとするにはうってつけという訳ですわね?」 

「計画の最終段階に着手してもらおう。神の力を、防人が振るう一振りに仕立て上げるのだ。ここには、その為の環境を整えてある。」 

 

 ヴァネッサのセリフを無視して話を進める訃堂。アルベルトが持っていたアタッシュケースが開くと、中にはシェム・ハの腕輪が納められている。中身を確認させると、アタッシュケースを閉じ、それをエルザに渡す。

 

「設備稼働に必要なエネルギーも事前に説明してある通り。手筈はすでに進めておる。」

 

 そして黒服が持っている別のアタッシュケース。それを開かせると、中身は冷却用の保冷剤とRhソイル式の全血清剤の輸血パック。数は6つ。これだけあれば回復にも余裕が出る。

 

「だが、儚きかな……。」

 

 訃堂がその一つを手にとってそれを床に叩きつけて踏み潰したのだ。唯一の回復手段が目の前で踏み潰され、3人は驚愕、アルベルトは僅かに目を細めた。

 

「ろくに役目を熟せぬ者がいると聞く。お陰で儂の周辺で犬が嗅ぎまわるようになっているとも。」

「それは……くっ……!」

 

 かつてヴァネッサはファウストローブの研究の一端を担う研究者だった。ある日、不慮の事故で瀕死の重傷を追い、研究していたファウストローブの技術を用いた機械の身体となる事で一命を取り留めた。だがサイボーグとなった彼女は、『完全なる命』を至上とする錬金思想に反する者として、位階剥奪された上に実験の検体として何度も苦痛と屈辱を与えられる日々を送る事になってしまった。

 それでも耐え続けられたのは、同じ被験体として同じ苦痛を受けていたミラアルクとエルザがいたからだ。三人一緒なら怖くはなかった。

 そしてアダムが死に、結社が瓦解した事で3人は結社から脱走する事が出来た。だが何処へ逃げても政府機関の者に終われ、さらにRhソイル式の全血清剤がなければ、生きられない。そこに現れたのが、幹部の中でたった一人の生き残り、アルベルト。彼女の手引きによって政府機関に追われる日々は終わったと思われたが、そのまま風鳴訃堂に私兵として引き渡されてしまう。だがこのまま命令に従うだけの犬では終わりたくない。3人は血液の提供と人間に戻るという条件を提示。訃堂はそれを受け入れた事で、訃堂の私兵となった。

 訃堂が言っていた犬、それはS.O.N.G.を指しているだろう。結社の残党がここまで大立ち回りが出来るはずがない。裏で糸を引いている者、ないし黒幕がいる事はいずれ勘付かれる。証拠がなければ拘束される事はないが、それも時間の問題。

 

「怪物ならば、怪物なりに務めを果たしてもらうぞノーブルレッド!」

 

 全血清剤が入っているアタッシュケースを渡し、ミラアルクが受け取った。

 

「計画は走り出したのだ……。最早、何人たりとも止めさせぬ。」

 

 訃堂、ノーブルレッドの3人が、破損している壁の穴から外を見下ろす。新たなアジト、それはかつてキャロルが拠点としていたワールドデストラクター、チフォージュ・シャトー。今はその機能が失われた、まるで古城のようになっている。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 風鳴八紘の端末から、一本の電話が入った。それは固定電話からではなく、自身が所有するスマホに掛けられている。八紘は端末をタップして電話に出る。相手が誰なのか、そしてその人物から連絡が来ることは予想していたかのように。

 

「そろそろだと思ってはいたが、盗聴は大丈夫か?」

『御用牙時分から昵懇の情報屋回線を使わせてもらっている。もちろん、念の入れようは十重に二十重だ。』

 

 相手は弦十郎だ。八紘と内密の連絡を取る際は公衆電話に専用のUSBを刺して特殊回線を使っている。他者に足を掴ませないだけでなく、エージェントを適切な距離で配置させている。尾行も盗聴の心配もない。それを聞いた八紘は安心して本題に入る。

 

 

「お前の読み通りだ。今回の一件、正式な手続きの査察ではあるが、担当職員の中に不明瞭な経歴の者が含まれているようだ。」

『そうか……。』

「そして巧妙に秘匿されてはいるが、『鎌倉』の思惑と思しき痕跡が見受けられるな。」

 

 鎌倉。それはつまり自分達の父親である訃堂の思惑が絡んでいると言っても良い。今回のS.O.N.G.に入った査察は間違いなくS.O.N.G.の動きを封じ込める為のもの。それを鎌倉の思惑があるという事は、訃堂自身がS.O.N.G.がこれ以上動き回れると目障りであるという事だ。

 

 

「こちらも米国と例の交渉が佳境だった故、後手に回らざるをえなかったのだが……。」

「兄貴、結社残党のノーブルレッドを擁しているのは、やっぱり……」

『早まるな弦。』

 

 結論を急ごうとする弦十郎を諌める。真相が明らかになっていない内に鎌倉に手を出せば、躱されるどころかこちらが痛手を追う事になる。八紘は政治の世界に身を置いているからこそ、その重要性を知っている。

「全てが詳らかとなるまでは疑うな。私とて信じたいのだ。風鳴訃堂は曲がりなりにもこの国の防人。何より私達の父親ではないか。」

『ああ……。だがしかし……。』

「私は人を信じている。最終的に信じ抜く覚悟だからこそ、如何なる手段の行使すらも厭わない。」

 

 八紘が席から立ち上がり、力強く弦十郎に説く。

 

「八紘兄貴……。」

「だから私は、政治を自らの戦場としているのだ。今は関係悪化している米国とも協力体制を必ず実現してみせる。月遺跡共同調査の提案も、その膳立てにすぎん。尚も拗れるなら、我が国への反応兵器発射事実を切り札に国際社会からの孤立を恫喝させてもらうさ。」

「そいつは堪える。やっぱ凄えな八紘兄貴は。兄貴の中でも一番おっかない。」

 

 そんなおっかない兄貴である八紘が味方であることが心底嬉しい。その顔に笑みが浮かんでいる。

 

「前線は託すぞ弦。計画が綻びを見せるのは、いつだって走り始めてからだ。この先にチラつく尻尾を逃さず掴めば、必ず真実は明らかになる。疑うのはそれからでも遅くない。」 

「ああ……。」

 

 通話を終え、受話器を下ろすと本体からUSBを抜く。

 

「婆ちゃん、ありがとね。」

「またいつでもおいで。」 

 

 専用USBを煙草屋のおばちゃんに返した。物腰の柔らかい彼女もまた、裏社会と通じる情報屋である。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 しばらくカーテンを閉め切り、朝日が差し込まなかった部屋に、ようやく朝日が差し込んだ。小夜を失い、悲しみに暮れた輪がカーテンを開けたのだ。

 

「眩しい……。」

 

 その眩しさに目が眩んだ。長く泣いていたせいか目の周りが赤い。あの日、両親と妹の旭を失い、悲しみに暮れていた時と同じだったことを思い出していた。

 

「いつまでも泣いてばかりいたら……小夜姉も怒るよね……。」

 

 部屋のドアを開けてリビングへと入ろうとドアノブに手を掛けたその時……

 

「いつまで寝とるん?はよ起きんかい!」

「小夜姉?!」 

 

 亡くなったはずの小夜の声が聞こえ、急いでドアを開けた。だがそこには小夜がいるはずもない。何故小夜の声が聞こえたのか分からない。仏壇に飾られた小夜の遺影を見つける。まさか本当にあの世から叱りに来たのか。そう思っていた矢先、インターホンが鳴る。

 

「誰だろう……。はーい。」

 

 玄関のドアの前まで行き、応答すると……

 

「あたしだ、クリスだ。」

「クリス……?」

 

 鍵を開けて、ドアを開けた。

 

「クリス……えっ……?」

 

 クリス一人だけかと思っていた輪はビックリする。クリスの隣には瑠璃がいたからだ。

 

 




おまけ

小夜「いやぁ〜うちもとうとうこっち側に来てもうたわ。」

奏「けど案外こっち側から翼達を見るのも面白いぞ。」

セレナ「マリア姉さん達のあれこれが見れますからね。」

小夜「せやけどなぁ……輪はいつまで泣いとるんや。」

奏「そりゃあ家族失ったらそうなるよな。」

セレナ「あの方、自分以外のご家族を失って……とても可哀想です……。」

小夜姉「可哀想なんはうちや!うちがくたばってもうてから引きこもってばっかやねん!こらぁ輪!いつまで寝とるん!早く起きんかぁい!」

奏「ちょっと落ち着きなって!」

小夜姉「放せぇ!一発拳骨叩き込まなきゃ腹の虫が収まらへん!」

セレナ「そんな事をしても、死んだ私達ではあの人には届きませんって!」

輪「小夜姉?!」

3人「…………」

奏「本当に聞こえたのか……?」

セレナ「本当に聞こえたのでしょうか……?」





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デートクライシス Part2

 瑠璃とクリスを部屋に招き入れた輪。突然の来客で何も用意していない上に、身だしなみもまともに手入れしていなかった。うら若き女子高生にとって、これは良くない。二人には部屋で待ってもらい、シャワーを浴びている。

 

「お待たせ。」

 

 シャワーを浴び終え、身だしなみを整えた輪が私服に着替えて部屋に戻って来た。輪もカーペットに座る。だがその表情は気まずそうだ。

 あの時、瑠璃が心配してくれたというのに、瑠璃は何も悪くないのに強く当たってしまった。それを申し訳なく思っている。しかしそれを言い出す勇気がなかなか持てずにいる。それでもちゃんと言葉にして伝えなければ意味がない。

 

「あのさ瑠璃、クリス……私……」 

「ねえ輪。」

「え?」

 

 勇気を出して謝ろうとしたのだが、当の本人である瑠璃に遮られる。よく見ると、目線が輪というより周囲の方を見ている。それに気が付いた輪が周りを見て……

 

「あっ……。」

「確かに、こりゃあ酷えな……。」

 

 片付いていない部屋に気が付いて、恥ずかしさのあまり顔を赤くする。恐らく今の部屋は翼が散らかしたと嘘をついても通るレベルで酷い。だが輪は片付けが出来ないわけではない。だが悲しみに暮れていた輪の心はそんな余裕がなかった。

 

「というわけで……。」

「片付け開始だ。」

 

 3人掛かりで輪の汚部屋を片付ける。積み重なった洗濯物を洗ってベランダに干し、カップ麺のゴミを片付け、新聞を次の燃えないゴミの日に出す為に纏めて縛る。

 

「クリス。もう少しキツく縛らないと、緩くて新聞が落ちちゃうよ?」

「わーってるって。」

「輪、それは燃えないゴミ。」

「あ、ご、ごめん……。」

 

 あまりにも散らかっていたせいか、瑠璃にスイッチが入ったようでクリスと輪に指示を与えながら大掃除に取り組んでいる。

 しかし、その甲斐もあって汚かった部屋は綺麗になっていき……

 

「「「終わったー!」」」

 

 塵一つ無い、ピカピカなくらい綺麗になった。やり遂げた3人は晴れやかな笑顔で喜びあった。ついでに昼ご飯のカレーうどんを瑠璃とクリスが作った。輪が作ったカレーを使って作ったのだ。

 

「ありがとう二人とも。掃除までしてくれたのに、お昼ごはんまで……」

「良いってことよ。それによ……」 

「輪、やっと笑った。」

「えっ……。」

 

 思い返せば小夜を亡くしてから、輪は泣いてばかりだった。ずっと部屋に引きこもって悲しみに暮れていた。そんな自分を、二人は心配してくれてここまで来てくれたのだ。あの時、二人は悪くないのに怒鳴った自分を悔いた。

 

「ごめん二人とも!」

「え?」

「おいおい!何で謝るんだ??」

 

 突然輪に謝られたのが予想外だったのか二人は驚く。

 

「あの時……私の事、心配してくれて電話くれたのに……なのに私、二人に強く怒鳴って……本当にごめん!」

 

 謝られた二人は、あの時の事を思い出していた。まさかそんな事で謝られると思わなかったのだろう、二人はその事を全く気にしていなかった。

 

「何だそんな事かよ。別にあたしらそんな事気にしてねえよ。」

「そうだよ。それに……余計なお世話だったかもしれないけど、やっぱり輪を一人にさせたくなかったんだもの。」

 

 こんな駄目な自分を大切に思ってくれる友達がいる。それだけでも、輪は救われたような気がした。

 

「ありがとう……瑠璃、クリス。」 

「さ、冷めないうちに早く食べましょう。」

「おう。」

「「「いただきまーす!」」」

 

(小夜姉、心配かけてゴメンね。私、一人ぼっちじゃないよ。)

  

 小夜を失ってから数日、輪はようやく立ち直り、前へ進められるようになった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 昼食を食べ終え、瑠璃とクリスは使った食器を洗っている。客人だというのに働かせてばかりで、輪は申し訳なくなる。だが突然、輪はこんな事を聞き出す。

 

「そう言えばさ、今日本部に行かないの?」

 

 確かに装者であるこの姉妹は本部に行っているはずだ。たとえ弦十郎からの依頼があったとしても、あんな朝早くからというのは考えにくい。

 

「もしかして……何かあった?」

 

 輪にそこまで勘繰られたら、いかなる言い訳も通用しない。これまでのケースでも輪は大人顔負けの洞察力で事件もその人の本質や核心を突いている。こうなっては喋るしか他にない。

 

 

 

 話は少し遡る。本部に査察が入った事で装者達に特別待機と下されたが、それは査察の邪魔をするなという厄介払いと同じ。装者達とエルフナインはカウンターに座り、その半分以上が日本政府のやり方に対して不満を吐いている。

  

「一部を除く関係者に特別待機って……」

「物は言い様ってやつだ!とどのつまりは、査察の邪魔をするなって事だろ!」 

「ますますもって気に入らない!」

「だが、それが正式な申し入れであるならば、私達に拒否権がないのも文民統制の原則だ。致し方あるまい……。」

 

 査察の受け入れに不満を持たない翼に、瑠璃とマリアは違和感を覚えた。防人の矜持を持っているとはいえ、不合理を良しとしない。今回の査察もそれに該当しているはずだが、不満を言わない辺りに何か様子が変であると感じているのだ。

 

「休息をとるのは悪い事じゃないと思うけど……。」

「だからってはしゃぐようなお気楽者は、ここには誰一人いないのデス!」

 

 と、切歌がカウンターテーブルに雑誌を叩きつける。そこに瑠璃がジト目でツッコむ。

 

「うんうん。所で切歌ちゃん。その手に持ってる本は……一体何なのかな?」

 

 その雑誌の表紙には『冬旅行』とデカデカと載っている。言っている事とやっている事の違いに呆れている。瑠璃だけではない。翼を除いた皆が切歌にジト目でじーっと視線を集めている。

 

「違うのデス!この本は偶々そこにあっただけで、全くもって無関係デス!」

 

 必死に弁明するが、イマイチ信用されていない。お休みと聞いて、エルフナインが休日は一体何をしているのか、気になっていた響はエルフナインに聞く。

 

「エルフナインちゃんってお休みはいつも何してるの?」

「お休みの日は気晴らししてます。」

「あ、響ちゃんそれは……」

 

 エルフナインの休日と聞いて、唯一知っている瑠璃がそれを止めようとするが既に手遅れだった。

 

「ダイレクトフィードバックシステムを応用して、脳領域の思い出を電気信号と見立てる事で……」

「あ~!今はやめて止めてやめて止めてー!「ダイレクトフィードバックシステムを応用して、脳領域の思い出を電気信号と見立てる事で……」

「あぁー!今はやめてとめてやめてとめて!それは気晴らしじゃなくて割としっかりめのお仕事か何かだよ多分!」

「だから言ったのに……。」

 

 響の知っている気晴らしとはかなりかけ離れた気晴らしに、まるで拒絶反応を示すかのように止めた。そういう反応になるだろうなと予想していた瑠璃は呆れている。

 

「なんと!だったら僕は、お休みの日に何をして良いか分からない、ガッカリめの錬金術師か何かです……多分……。」

「だったら僕は……じゃないだろ全く。そういう事なら、暇潰しにしてくれるうってつけにくっついて数日過ごしな。」

 

 クリスがそう言うと、今度は響に視線が集まった。当の本人はなぜ自分なのか分かっていないようではあるが。

 

 回想終了。一通り聞いた輪は腕を組んで頷いている。

 

「確かに……それは納得出来ないよねぇ……。」

「うん……。」

「けど、せっかく休みが取れたんでしょう?だったら付き合ってよ。」

「え?」

「はぁ?」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お、おい!これ派手すぎだろ?!」

「そんなことないよ〜。似合ってる似合ってる。」

「お前ついで感覚で撮るな!」

 

 クリスの試着を輪がカメラで撮影している。今3人がいるのは街中にある洋服店。せっかくの休息という事で輪がデートを提案した。

 

「そう言えばお姉ちゃん、響ちゃん達に誘われたって聞いていたけど……大丈夫かな……。」

 

 奇しくも同日に街へと繰り出している一行があった。響の提案で未来とともに、翼とエルフナインを伴って街へ繰り出していたのだ。今はカラオケにおり、エルフナインが気合を入れて熱唱している。ただ何故その曲を知っているんだと問い質したくなるチョイスであるがそれは置いておく。

 だが翼の方はと言うと表情が暗いままだった。カラオケに来る前もその表情であり、あまり楽しんでいる様子ではない。気掛かりになった未来は響に問う。

 

「響、何がどうなってるの……?」

「おかしいなぁ……。最近しょげてる翼さんを盛り上げるつもりだったのに……。」

 

 これには響も予想していなかったのか困惑している。

 

「すまない……。突然予定が空いたが故、立花の申し出を受け入れてはみたが……私に余裕が無いのだろうな。今は歌を楽しむよりも、防人の技前を磨くべきだと心が逸る……焦るんだ……。」

 

 やはりあの凱旋ライブのトラウマが残っているのだろう、翼の心が焦りや不安を掻き立てる。翼の手も震えている。

 

「あの日以来……震えが止まらない……。弱き人を守れなかった、自分の無力さに……。全てが自分の所為なのだと……。」

 

 翼が心の内を吐露している間、エルフナインが歌い終わった。その晴れやかな表情から翼の話は聞いていなかったようだ。

 

「楽しいです!これもまた休日の過ごし方!たまには良いですねこういうのも!」

「響は勝手すぎるよ!!」

 

 突然未来が叫んだ。

 

「何もそんないい方しなくても……」

「ちょっと待て!どうして二人が……」

 

 響と未来が突然口論を始めてしまった事で、翼も慌ててしまう。当然話を聞いてなかったエルフナインもどういう状態なのかも言うまでもない。

 

「翼さんの事私にも相談くらいしてくれてもよかったじゃない!それにもっと別の方法だって……」

「私だって私なりに考えて……」

「私なりにじゃなくて、翼さんの事も考えたの?!」

「じゃあ未来は、翼さんの気持ちが分かるの?!」

「分かるよ……。」

 

 先程まで熱が入ったかのように言い争っていた未来が俯いて、今まで抱え続けていた隠し事を零した。

 

「だって私、ずっと自分がライブに誘ったせいで大好きな人を危険な目に遭わせたと後悔してた……。それからずっと危険な目に遭わせ続けてる自分を許せずにいるんだよ?ごめんって言葉……ずっと隠してきた。それがきっと、その人を困らせてしまうと分かってたから……。」

 

 元々ツヴァイウィングのライブに誘ったのは未来であったが、訳あって行けなくなった事で響が一人でライブに行った事であの惨劇に巻き込まれてしまった。それによって体内に埋め込まれてしまった胸の中のガングニールが起動、シンフォギアを纏って戦う事になり、未来は何度も送り出してきたが、内心ではずっと心苦しかった。自分があのライブに誘わなければ、ずっと己を責め続けて。

 

 そこに本部からの通信が入った。響はバッグから通信端末を出して応答する。

 

「響です!翼さんとエルフナインちゃんも一緒です!」

『現在査察継続中につき、戦闘指令は査察官代行である私から通達します。』

「へぇっ?!どちら様ですか?!」

 

 いつもなら友里か藤尭が通告してくれる為、聞き知らぬ女性の声にビックリしている。

 

『第32区域にアルカ・ノイズの反応検知。現在、該当区域より最も近くに位置するSG-01とSG-03'、は直ちに現場へと急行し、対象を駆逐せよ。尚、現在該当区域にSG-01.2、及びSG-02も急行中である。』

 

 査察官代行が言っていたこの番号はギアを識別する為の形式番号であり、開発者である櫻井了子が打刻したものである。SG-01は天羽々斬の所有者である翼、SG-03'はガングニール、つまり響を指している。そしてSG-02はクリス、SG-01.2の事はバイデントの主である瑠璃。 

 一行は急いでカラオケ店から出ると、アルカ・ノイズの出現に怯えて逃げ惑う民間人、空を飛行して漂うアルカ・ノイズを目視で確認した。

 

「二人は安全なところへ!」

「うん!行こう!エルフナインちゃん!」

「未来!」

 

 エルフナインを連れて避難しようとした時、響に呼び止められる。

 

「また、後で……。」

「うん……。響も、気を付けてね……。」 

 

 気まずくはあるが、今はそうは言ってられる余裕はない。未来とエルフナインはここから離脱、残った翼がと響が空に漂うアルカ・ノイズを見据える。

 

「行くぞ立花!刃の曇りは、戦場にて払わせてもらう!」

「はい!」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「まさかここでアルカ・ノイズを呼び出すなんて……!」

「連中、またここらの人間諸共吹っ飛ばすつもりかぁ?!」

 

 ノーブルレッドは幹部達とは違い、何の躊躇いもなく民間人の命を奪う。彼女達たちなりにも戦う理由があるのだろうが、これ以上好きにさせるわけにはいかない。

 

「輪、私達はアルカ・ノイズを倒す。だから……」

「分かってる。私じゃ……何も出来ないからね。」

 

 瑠璃とクリスは気付いている。口ではそう言うが、本当は小夜の仇を取りたくて仕方がない。輪の握り拳がそう訴えている。だが輪はそれをどうにか抑えているが、いつかはその我慢も抑えられないだろう。輪の性格を知る瑠璃とクリスはそれを危惧している。

 

「輪……」

「大丈夫!私はさっさと逃げるから!ね?」

 

 瑠璃達の不安を取り払うように笑顔を見せた。完全に取り払われたわけではない。しかし、それでも二人は輪を信じる。

 

「うん……分かった。」

「お前は早く逃げろ!ここはあたしらが!」

「うん、任せたよ!」

 

 輪は手を振ってアルカ・ノイズが出現した反対の方へと、瑠璃とクリスはアルカ・ノイズの出現地点へと走っていった。

 

 Tearlight bident tron……

 

 瑠璃とクリスはそれぞれのギアを纏って、襲い掛かるアルカ・ノイズを真っ向から迎え撃つ。

 

 

 

 




バイデントの形式番号

 SG-01.2はバイデントのギアの事を指し、正式名称はSG-r01.2(ゼロワン ポイント トゥー)。聖遺物第一号である天羽々斬よりも後に、聖遺物第二号であるイチイバルよりも先に作られたギアである事を意味している。

天羽々斬、イチイバル、ガングニールとは異なり、アーネンエルベで作られたギアである為、イレギュラーな部分が多いが、日本政府も公認の上で櫻井了子、もといフィーネに作らせたものなので、表とは異なる、まさに裏のギアとして打刻された。
 


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憤怒

今回オリジナル要素に瑠璃とクリスの戦闘シーンがあります。
そして、輪の方も……



 起動詠唱を唄い、ギアを纏った瑠璃とクリス。空を浮遊するアルカ・ノイズが卵を生み落とすと、そこから小型が現れる。さらにもう一つ、二人の背後にも落として小型アルカ・ノイズを生み出す。前後の道を塞がれ、完全に囲まれてしまうが、それだけで動じる二人ではない。

 

「はあぁっ!」

 

 多方向から迫りくるアルカ・ノイズの解剖器官を、黒槍と白槍で腕ごと切断させて、その身体を貫いて赤い塵へと還してやる。さらに背後から襲い掛かるアルカ・ノイズの解剖器官を、振り返らずに黒槍で防ぐと、クリスが放った弾丸によってその個体は赤い塵、プリマ・マテリアを撒き散らして消滅する。

 クリスの方もリボルバー拳銃で自身の周りに迫るアルカ・ノイズを的確に撃ち抜く。弾倉が空になり、リロードした時、その隙を待っていたかのようにアルカ・ノイズが迫る。だが投擲された二本の槍がそれを阻止する。

 

「あとはあいつだけか!」

 

 残るは上空に浮遊する大型アルカ・ノイズ。これを倒さない限り、再び小型を生み出す。

 

「クリス!」

 

 そこに瑠璃がクリスの方へと走って来る。それを察したクリスは笑みを浮かべ……

 

「ああ!乗れ!」

 

 大型のミサイルを展開して発射と同時に瑠璃がそれに乗る。2つの槍を連結させて二叉槍へと可変させると、穂先をドリルのように高速回転させる。

 

 しかし、狙われていると知ればそれを阻むのは当然の反応。アルカ・ノイズが卵のような解剖器官を爆弾のように投下させる。

 それは瑠璃の読み通り。ミサイルを蹴って高く飛躍、ミサイルは撃ち落とされたが、跳躍した瑠璃は二叉槍を力いっぱい投擲する。

 

【Horn Of Unicorn】

 

 光の一閃の如く、槍はアルカ・ノイズへと向かい、その腹を貫いた。着地した瑠璃の手元に槍が戻ると、クリスがこちらに駆け寄る。

 

「姉ちゃん!」

「うん。」

 

 息のあった双子姉妹のコンビネーション。ユニゾンでなくとも、二人は互いにどう動くのかを見なくても分かる。二人の絆はアルカ・ノイズの大群相手でも断つ事は出来ない。

 こちらのアルカ・ノイズは片付いたが、翼達がどうなっているか分からない。さらにノーブルレッド、並びにアルベルトの姿を捉えていない。不審に思った瑠璃は本部に通信する。

 

「本部、こちらのアルカ・ノイズは全て撃破。ですが、アルカ・ノイズを召喚した敵の姿は……」

「現在、装者周辺にそのような反応はありません。SG-01.2並びにSG-02は本部に帰投されたし。」

『ですが、まだお姉ちゃん達の方にアルカ・ノイズが……!』

 

 瑠璃の言う通り、バイザーからはアルカ・ノイズの反応は残っている。数では翼と響二人でも殲滅させられるだろうが、今の翼の精神状態では何を起こすか分からない。翼を案じている瑠璃に、この命令に対して納得出来るわけもなく、迷わず槍に跨って遠隔操作を応用した飛行で真っ直ぐ翼達の方へと向かう。査察官代行は脅しとも言える警告をする。

 

「SG-01.2、こちらの指示に従わない場合、行動権を凍結し、拘束される事に……」

「査察は中止だ!令状もここにある!」

 

 そこに弦十郎、緒川、マリアがブリッジに入り、弦十郎が令状を見せつける。

 

「該当査察官、見当たりません!」

「鼻が利く……!」

 

 あのいかにも悪人面をしている査察官を探していたのだが、見つからなかった。だが査察中止となって、戦闘管制が友里と藤尭に代わった事で瑠璃は命令違反の咎を受けずに済んだ。 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翼の様子がおかしい。響は翼の戦いようからそう感じ取った。アルカ・ノイズを斬り捨てる際、背後の車や建物までもを損壊させている。普段冷静で、斬るべきと斬らざるものを的確に判断出来る翼が、力任せに刀を振り下ろしている。

 

 しかし、それには訳があった。

 

「そこにいたか……貴様あああぁぁ!!」

 

 アルカ・ノイズの群れの中に、憎きミラアルクの姿があった。翼は刀を大剣へと可変させて蒼ノ一閃を放つ。しかし、ミラアルクが一刀両断されると、赤い霧を撒き散らして消滅している。

 今斬ったのはミラアルクではなく、アルカ・ノイズだ。しかし、今の翼には全てのアルカ・ノイズがミラアルクに見えている。故にその姿を全て斬り捨てようと大剣を振り下ろすと、アルカ・ノイズ諸共ビルを破壊してしまう。

 そんな事はお構いなしに、次の標的を空を飛行する大型アルカ・ノイズに変えた翼は、脚部のブレードのバーニアを点火させてビルの壁を走る。二本の刀を連結させて、双剣へと形を変えると、紅蓮の炎を纏いながら高速回転させる。ビルから跳躍し、飛行する大型アルカ・ノイズの身体を一刀両断。だがビルの屋上にいるミラアルクの姿を捉えた。脚部のバーニアを点火させながら、巨大化させた双剣に蒼炎を纏わせた。

 

「うおおおおぉぉぉっ!!」

 

 怒りとともに巨大双剣を投擲させた。

 

【炎乱逆鱗斬】

 

 双剣はミラアルクにそのまま襲い掛かる。

 

「お姉ちゃん!」

 

 ミラアルクが翼の事をそう呼んだ。ミラアルクが翼をそう呼ぶはずがない。不審に思った翼だったが、双剣はそのままビルごとミラアルクを破壊した。着地した翼は倒したミラアルクを確認する為に振り返ったが、その光景に唖然としてしまう。

 

「ぁ……そんな…………。」

 

 そこに倒れ伏していたのはバイデントのギアを纏っていた瑠璃だった。何故瑠璃が倒れているのか、答えは明白。やったのは翼だ。

 

「姉ちゃん!!」

 

 そこに遅れて到着したクリスが瑠璃に駆け寄る。意識を失った事で瑠璃の纏うギアは強制解除され、私服姿へと戻る。

 

「姉ちゃん!しっかりしろ姉ちゃん!先輩!何があったんだよ?!」

 

 クリスの問いに、翼は答えられなかった。言えるわけがない。自分が瑠璃の姿を敵と誤認した上に、殺意を持って瑠璃に刃を向けた事を。防人としてあってはならぬ過ちに、翼は崩れ落ち泣き叫んだ。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一方、未来はエルフナインの手を引っ張り、走っていた。響から着信が入るがそれどころではなかった。その背後から本物のミラアルクが追って来ている。

 

「手間を掛けさせやがるぜ。」

 

 そう悪態をつきながら、拳で監視カメラを破壊した。

 

 ミラアルクに追われて二人は走るが、タイミングの悪い事に、エルフナインが躓いて転んでしまう。

 

「エルフナインちゃん!大丈夫?!」

「未来?!」

 

 そこに戦場から遠くへと走っていたはずの輪と出くわした。

 

「輪さん!」

「二人とも何を……っ!」

 

 そこに未来とエルフナインの背後にミラアルクが降り立った。

 

「エルフナインってのは、そっちのどんくさい方だろ?それでもちょこまかと逃げ回ってくれたもんだぜ!」

「何なのこいつ……まさか……!」

 

 人の形をしているが、どこか人とは違う何かをしているミラアルクの姿を見て、輪は直感で察した。こいつが小夜を殺した残党の一人なんだと。分かってはいるが、確認の為に問いただす。

 

「まさか……あんた達が……」

「あ?」

「あんた達が……病院で小夜姉を殺した結社の残党なんだよね?」

 

 病院で小夜を殺したと言われ、あの日確かに一人殺した事を思い出した。

 

「だったらどうするんだぜ?」

 

 悪びれもなくミラアルクが答えた。正確にはやったのはヴァネッサだが、家族思いのミラアルクはあえて汚れ役を買う。尤も、輪にはそんな事が通じないとは分かってはいる。

 これで再び、輪の中に抑えていた怒りと憎しみが再び増大した。輪はバッグを放り投げ、コートを脱ぎ捨てて動きやすくする。

 

「知れたこと……!」

 

 未来とエルフナインを守るようにミラアルクの前に立つ。その目は憎しみに満ちている。だがエルフナインはそんな危険な真似を輪にさせるわけにはいかないと、自分が標的なら巻き込ませまいと逃げるよう叫ぶ。

 

「駄目です輪さん!ファウストローブを持たない輪さんでは……」

「未来!エルフナインを連れて早く逃げな!」

 

 そんなエルフナインの叫びを聞く輪ではない。未来にエルフナインを連れて逃げるよう促すが、未来も輪を犠牲にしたくない思いから躊躇ってしまう。

 

「でも……」

「何してんの!早く……」 

「クックックッ……こうも簡単に本部の外に連れ出せるとはなぁ。」 

 

 そこにあの査察官が下卑た笑みを浮かべながら現れた。未来と輪はその男が何者なのか知らないが、エルフナインは査察官がここに現れたことに驚愕している。どうやら彼はノーブルレッドとグルだったようだ。

 

「確保を命じられたのは、エルフナインただ一人。さぁて、あんた達の扱いはウチ一人じゃ決めあぐねるぜ。」

「その前にアンタを殺す!」

 

 輪の目に映る標的はミラアルク一人であり、査察官など眼中にない。正直言って勝ち目などないことは分かりきっているが、それでも二人を守る為に、小夜の仇を取るために逃げるわけにはいかない。

 

『ピンポンパンポン♪ミラアルクちゃんに連絡です。』

「ヴァネッサ?」

 

 ミラアルクの脳内にヴァネッサからテレパシーが送られる。何か話していると察した輪は今のうちに逃げるよう促す。

 

「逃げて二人とも!今のうちに!」

「駄目です!輪さんも……」

「私の事は良いから早く!」

「いけません!輪さんも逃げてください!」

 

 しかしここで三者とも譲らない。互いに失いたくないという思いからであろうが、逃げる好機を失ってしまう。

 

「ああ、了解したぜ。悪く思わないで欲しいぜ……!」

 

 テレパシーによる通信を終えたミラアルクの一本の爪が鋭利に伸びる。

 

「やれるもんならやってみなよ!死ぬくらいならアンタも道連れにしてやるから!」

「輪さん!」

「輪さん逃げて!!」

 

 ミラアルクが仕掛ける前に輪が駆け出した。雄叫びとともに拳を振りかぶるが、ミラアルクの方が早かった。素早く振り下ろされた爪によって、血飛沫が噴水のように噴き上がった。

 

 

 




まさかの翼さん、フレンドリーファイアをやらかす……。


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役割

久々に輪が戦います。生身で


「未来……何で繋がらないの?!」

 

 アルカ・ノイズを殲滅し、戦闘を終えた響は未来の安否を確認する為に電話を掛けているが、一向に繋がらなかった。不安と焦燥に駆られる響だったが、本部の友里から通信が入った事で、その不安は現実のものとなった。

 

『響ちゃん!今、同じ区域から高エネルギー反応を検知したわ!』

「え……?!」

『過去のデータとも検証した!ラピス・フィロソフィカスのファウストローブだ!』

「じゃあミラー先生が?!」

 

 弦十郎からそれを聞いた響は驚愕した。それを現在持っているのは一人しかいない。瑠無・ミラー、もといアルベルトだ。

 

「場所は?!」

「座標を送る!だが、こちらからでは映像が映し出せん!すぐに向かってくれ!」

「了解!」

 

 通信端末から座標を送られた響とクリスは急いで現場へと向かう。そこは現場周辺に立入禁止テープが貼られ、警察やS.O.N.Gエージェントが現場調査を行っている。

 響とクリスが現場に辿り着いた時には辺りの壁や地面が陥没しており、戦いの跡があった証拠だ。捜査員がいる事から既に終わったという事だ。

 そこにS.O.N.G.の救護班に担架で運ばれている者がいた。それは頬と服に返り血がついて意識を失っている輪だった。

 

「嘘だろ……?!何で輪が……?!」

「輪さん!」

 

 何があったのか聞けるはずもなく、そのまま救急車で運ばれた。そして二人が現場に入ると、そこには血溜まりが出来ており、輪が羽織っていたコート、所有するバッグ、そして未来のものである血糊がついたバッグと破壊されたスマートフォンが落ちている。

 

「まさか……未来とエルフナインちゃんが……。」

 

 輪の身体からは血溜まりが出来るような傷もなく、付着している血液は返り血によるものである事はすぐに分かる。となると残るは未来とエルフナイン。二人に何があったのか。この血溜まりは果たしてあの二人のどちらかなのか。今響達が出来る事は、この血が未来のものでもエルフナインのものでもないと祈る事だけだ。

 

 装者達が帰投し、緒川達エージェントが現場調査に掛かっている。しかし目ぼしい情報はなく、進展らしい進展はなかった。

 周辺の監視カメラは全て破壊された事で、そこから情報を得る事は出来ない。さらに広域に渡って召喚されたアルカ・ノイズが隠れ蓑となった事、重ねて戦闘補助システムを備えたバイデントの所有者である瑠璃が、翼の攻撃によって負傷してしまった事ですぐに駆けつけられなかった。

 そもそもあの査察自体が敵の罠だったとも考えられる。

 

 通信で報告内容を弦十郎に伝える。

 

『恐らく、偶発的に巻き込まれてしまったのではなく……』

「ああ。敵の仕組んだ罠に掛かってしまったと考えるべきだな。」

『保護レベル最高位指定の2人が揃って……。』

「錬金術によるバックアップスタッフと、神の力の依代足りうると仮説される少女……。」

 

 前者はエルフナイン、後者は未来の事を指している。というのも、未来はフロンティア事変にて、響と共に神獣鏡の輝きによってバラルの呪詛から解放された人間である。響が神出ずる門より顕現した神の力を取り込めたのも、それが理由だからだ。つまり、未来も神の力を宿す事が出来る可能性がある。 

 

『調査部にて警護に努めてきましたが、査察による機能不全の隙を突かれてしまいました。』

「輪君を残した事から見るに、敵の狙いは未来君、またはエルフナイン君。あるいは……。」

『その両方という線も考えられますね。』

「いずれにせよ今必要なのは情報だ。だが、頼みの綱である輪君がいつ目覚めるか……。状況打開の為にも引き続きの捜査を頼む。」

『間もなく鑑識の結果も出ます。調査部の全力をかけて、必ず。』

 

 通信を終えると、それを切った。二人が無事である事を切に願った。

 

 

 一方メディカルルームに運ばれた瑠璃と輪。瑠璃が眠るベッドの傍らに翼がいた。瑠璃は額と前腕に包帯が巻かれており、左腕に点滴の針が入れられている。大きな怪我は無かったようだが、それでも痛々しい姿にしてしまったのは翼である。あの時の翼は普通じゃなかった。アルカ・ノイズ相手に過剰とも言える火力を振り回し、無駄に周囲の建築物や道路を破壊しただけでなく、あろう事か瑠璃をミラアルクと誤認して攻撃を仕掛けてしまった。命に別状はないとはいえ、それでも自分が犯した罪は消えない。瑠璃が目覚めたとしても、どんな顔をして会えばいいか分からない。

 

「ごめんなさい……瑠璃……。」

 

 全ては自分が弱いから、本来の敵を見失い、瑠璃を攻撃してしまった。そう考えた翼は眠っている瑠璃に謝り、メディカルルームを出て行こうとする。

 

「翼……さん……?」

 

 出ていこうとした時、突然呼びかけられた。ここにいるのは翼と眠っているはずの瑠璃と輪。この場で翼をさん付けで呼ぶ者は一人しかいない。翼は振り返ると、意識を覚醒させた輪が起き上がっていた。

 

「出水……。」

「痛てて……。ここは……メディカルルーム……。じゃあ未来とエルフナインは……」

 

 輪もあの現場にいた。輪だけがここにいるという事は未来とエルフナインを守れなかったという事になる。だが精神的に動揺してしまっている翼はそれを聞いている余裕がなかった。

 目が覚めたばかりの輪は辺りを見回していると、隣のベッドで瑠璃が眠っている事に唖然とする。

 

「え……?!何で瑠璃まで……?!翼さん!瑠璃どうしちゃったんですか?!」

「それは……」

 

 一体何が起きたのかを翼に聞こうとしたが、翼は狼狽えるばかりで答えられずにいる。言えるわけがない。敵と誤認して瑠璃を攻撃してしまったなどと。罪の意識に耐えかねた翼は飛び出すようにメディカルルームから出ていってしまう。しかもその直後、翼を心配してメディカルルームにやって来たマリアと鉢合わせする。

 

「翼?!どうしたの……?!」

「マリア……。」

 

 仲間を攻撃してしまった以上、皆に責められる。そう思ったのだろうが、その思いとは裏腹に、マリアは心配している。しかしそのマリアの問いも、翼はマリアの目を合わせずに黙すだけだった。

 

「どうしたの?らしくもない……」

 

 だが翼は、自分に向けて伸ばそうとしたマリアの手を無意識に払ってしまった。自分がした事に耐えきれなくなった翼は、逃げるようにマリアから去る。

 

「待ちなさい!翼!」

 

 今何を言っても翼の心には届かない。マリアは無理に追いかけようとはせず、メディカルルームへと入ろうとすると、輪がベッドから起き上がっているのを見て驚愕する。

 

「輪!まだ安静にしていないと……」

「私は大丈夫ですって!それよりも……どうしちゃったんですか?翼さん、何か様子が変ですし……瑠璃だって何でこんなに……?」

 

 輪に本当の事を教えるべきか、一瞬迷ったが、いずれは知られる事態。マリアは正直に話した。

 

「そんな!じゃあ瑠璃は……」

「ええ。けど、翼を責めないであげて。翼自身も分かってるはず。」

「そりゃあ……そうですけど……。」

 

 それは十分に承知している。それでも輪が納得出来ないのは、何故それを自分の口から正直に話さなかった事についてだ。自分がしでかしたのであれば、それをちゃんと面と向かって話すべきじゃないかと考えているのだ。

 だがそれは一旦後回しとなる。響達がアルカ・ノイズと戦っている間、最後に未来とエルフナインに接触したのは輪だけ。二人が行方不明になった詳しい情報を知る為には輪の証言が必要になる。

 

「それよりも、目が覚めたのなら教えてほしい。あの時、何があったのかを。」

「は、はい。でもその前に、オジサンを呼んだ方が良いと思いますけど……。」

「そうね。すぐに呼んでくるわ。」

 

 そう言ってマリアはブリッジにいる弦十郎に輪が目覚めた事を伝え、彼を連れて再びメディカルルームに入る。

 

「輪君。あの時何が起きたのか、覚えているか?」

「はい……それなんですけど……。」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 エルフナインを狙って追ってきたミラアルクを倒す為に、輪は戦闘体勢に入った。ミラアルクが仕掛ける前に殴りかかろうとしのだが、ミラアルクの方が速く動きだした。鋭利に伸びた一本の爪を振り下ろした事で、血飛沫が噴水のように吹き出した。しかし、それは輪のものでも未来のものでもない。

 

「お……思いがけない……空模様……。」

 

 何とミラアルクは協力関係であるはずの査察官の首を爪で切り裂いたのだ。切られた査察官の遺体は、ミラアルクが切り裂いた事で発生した緑色の炎で跡形も無くなってしまう。

 未来もエルフナインも、こんなショッキングな事態を目の前で見てしまった事で悲鳴を挙げ、気を失ってしまう。

 そんな中、目と鼻の先で人が惨殺される光景を目の当たりにし、その返り血を顔と衣服に浴びながらも、輪だけはギリギリ正気を保っていた。しかし、それでも目の前で人が殺される様を見るのは気持ちの良いものではない。

 

「アンタ……仲間を殺すなんて正気?!」

「あぁん?勘違いしないでほしいんだぜ。コイツとは協力関係だが、ウチらは端から仲間とは思ってないんだぜ!」

 

 どこまで外道な真似をするのかと、輪は心の底から嫌悪する。だが初めから小夜の仇を殺す事に何の躊躇いはない。

 

「だったら……心置きなく殺せるね!」

「ファウストローブも纏えない奴が言ってくれるぜ!」

 

 両者は地面を蹴って駆け出し、輪は拳を、ミラアルクは鋭利に伸ばした爪を振り上げた。だが突如、その間に割って入るように一本の杖が急降下、地面に着地した。二人はその足を止めて、距離を取った。その杖は互いに見覚えのあるものだった。

 

「あれってラピス・フィロソフィカスの……!」

「あいつが来やがったか……。」

 

 どこからともなく、その杖の持ち主が未来とエルフナインを抱えて降りてきた。

 

「失礼だね。仮にも君の上官だというのに。」

「アルベルト……?!いつの間に……?!」

 

 輪が戸惑いながらその名前を呼んだ。パヴァリア光明結社の幹部の中で、唯一生き残ったと聞いていたが、まさかこんな非道な真似をする連中を陰で操っているとは思わなかった。さらにいつの間にか未来とエルフナインの身柄を奪われていた。

 

「ミラアルク、この子は私が相手をする。二人をアジトへ。」

 

 そう言うとエルフナインと未来の身柄をミラアルクに預けた。

 

「礼は言わないぜ。」

「それで良い。」

 

 不本意な形ではあるが、目的を果たしたミラアルクは両翼で飛び去った。

 

「待て!!」

 

 追いかけようとしたが、杖を手にしたアルベルトに阻止される。

 

「君の相手は私。そう言った事を忘れたのかい?」

「そのヘラヘラした顔……ホントムカつく!!」

 

 アルベルト浮かべる余裕の笑み。それが人を苛つかせる要因となる。しかし、彼女はいかなる時も手を抜かず、相手を過小評価も過大評価もしない、相手をリスペクトする紳士な性格だ。それがアルベルトの人柄であり、強さである。

 スペルキャスターである杖から輝きが発せられると、ファウストローブを纏った。病院の時とは違い、最初から全力で倒しに来ている。しかし、ファウストローブのエネルギーを感知され、ここに装者達が来るのも時間の問題だ。

 

「さあ、来い。」

 

 そう言われ、輪は遠慮なく殴りかかる。あの時はファウストローブを纏われてから一方的に蹂躙された。だがあの時とは違い、弦十郎に戦い方を徹底的に扱かれ、特訓を積み重ねてきた。とはいえ、相手は元幹部のアルベルト。そう簡単に勝てる相手ではない。

 輪の素早いジャブを避け、杖で捌いている。しかし、その一撃は重く、受け止めると手に痺れが伝わる。アルベルトが杖を振り下ろすと、輪は手の甲と前腕で受け流すように捌く。ただ正面から防ごうとすればただ腕を痛めてしまうだけになる。故に振り下ろされる杖の側面から外力を与えてダメージを防いでいる。

 突きも身体を反らしてそれを躱し、アッパーカットを繰り出す。アルベルトはそれを身体を反らして避けると、それを待っていたと言わんばかりに輪のソバットが、アルベルトの鳩尾を狙った。だが……

 

「うわぁっ……!」

 

 アルベルトの左掌から展開された青いバリアに弾かれてしまい、一本足で支えていたバランスを崩し、転倒してしまう。

 

「チクショウ……!こんなの……がぁっ!」

 

 起き上がろうとするが、アルベルトに鳩尾を突かれてしまい起き上がれなくなってしまう。

 

「君には君の役割がある。守りたければ、それを果たせ。」

 

 輪に告げると、杖の先端から錬金術のエネルギーが集約し、それを直接輪の身体に放った。

 

「ぎぃっ!!ああああああああああああぁぁぁぁ!!」

 

 身体が切り裂かれるような痛みに、のたうち回る。アルベルトがその場を去っても、輪の身体に耐え難い苦痛が襲い、悲鳴が曇天に響いた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そこからの先の事は覚えていないが、気が付いたらメディカルルームにいるという事は、そのまま意識を失ったという事だろう。

 輪しか知り得ない一部始終を聞いた弦十郎は確認するように問う。

 

「では、あの血溜まりは……」

「あの人相の悪いジジイのものです。未来とエルフナインは……私のドジであいつらに……」

「いいえ。あなたのせいではないわ。むしろ、その状況でよく立ち向かったわね。」

 

 輪は守れなかった事に落ち込んでいたが、未来とエルフナインが生きていると知った二人には、一縷の希望が見えた。

 

「ありがとう輪君。君のお陰で光明が見えた。」

「え?」

 

 輪は何の事かさっぱり分からない。あの時、アルベルトが言っていた「君には君の役割がある。守りたければ、それを果たせ。」それがどういう意図があって、それを敵である自分に告げたのか。それが心に引っ掛かっていた。

 




今回オリジナルシーンをこれでもかというくらい挟む気がする……。


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思い出す

アルベルトとフィーネの絡みをようやく書けた……。


 ノーブルレッドのアジトとなったチフォージュ・シャトーの中枢。ここでヴァネッサは神の力を具現化させる儀式の準備をしている。大掛かりな機材が積み込まれており、その中央にはシェム・ハの腕輪が納められている。

 

(腕輪から抽出した無軌道なエネルギーを、拘束具にて制御。これで私達は……)

『ヴァネッサ。ミラアルクの帰還を確認。お客様も一緒であります。』

 

 そこにエルザからの念話を傍受する。

 

「ご苦労様。こちらの準備も順調よ。早速取り掛かりましょう。」

『ガンス!』 

「神の力は、私達の未来を奪還するために……!」

 

 念話を終え、神の力を手にする手筈を整える。ようやく手にした好機を何者にも阻まれたくない。たとえそれがアルベルトや、風鳴訃堂であっても。

 

 そのアルベルトは、かつてパヴァリア光明結社の局長、並びに幹部達が拠点としていたホテルに滞在している。タンクトップ型のジャケットと紺色のデニムパンツ、下着を脱いで結んでいた髪を解くと、長い黒髪髪が光沢を帯びて、背中いっぱいに溢れる程に広がる。

 

(もうどれ程の時が経ったのだろうか……。あの方がくださったこの肉体を……ファウストローブを得る為とはいえ、私は改造してしまった。)

 

 彼女は一人、己が歩んで来た道を振り返り、思い更けていた。己の悲願を果たす為に、同じ先史文明の人間であるフィーネとは違う道を歩んだ。刃を交えずに再会したのは、アーネンエルベの命令で接触した時だった。その時、アルベルトは既に女と転換しており、フィーネは櫻井了子に成り代わっていた。

 

「久しいな。フィーネ。」

「瑠無・カノン・ミラー。いや、今はアルベルトだったか?変わったな。あの方に与えられた肉体、名前を捨てて錬金術師に成り下がったお前が、よくもまあおめおめと。」

 

 フィーネはアルベルトの過去を知る唯一の生き証人とも言っても良い。昔のアルベルトは今の姿とは何もかもが違っていた。錬金術師でもなければ、女ですらなかった。そしてアルベルトという名前すらも。

 瑠無を名乗っていた時のミドルネームを態々呼んでやる辺り、嫌味を言うかのように嫌悪している。しかし、アルベルトはその余裕の笑みを崩さない。

 

「君は相変わらずだな。些か早計な所が。」

「貴様……人の癇に障るのが得意になったようだな……!」

「ふっ……。そう怒るな。君と刃を交えに来たわけではない。」

 

 アルベルトは目を閉じ、ふっと再び開くと余裕の笑みが消え、真剣そのものとなる。すると、資料の束をフィーネに渡す。

 

「この槍を、シンフォギアに変えてもらいたい。」

 

 フィーネがその資料を目に通すと、そこに写し出されている聖遺物を見て、驚きのあまり目を見開いた。

 

「バイデント……?」

「この槍の名前だ。先の大戦でギリシャ政府から鹵獲した聖遺物。しかし、その際に柄が損傷し……」

「欺瞞を吐くのはやめろ。」

 

 柄が折れた二叉槍。発見された時にはこの状態になっていたという。その穂先を砕いてシンフォギアの触媒として利用しようというものだった。

 だがフィーネはこのバイデントの現存が偽りであると見抜いていた。バイデントの伝承に関する資料は殆ど皆無であり、その中で発見するなど不可能だ。そうなると、そもそもギリシャ政府が保管していたという話自体が偽りの可能性が高い。

  

「やれやれ……。分かってはいたか。」

「お前が肌身離さず大事にしていた槍、それを手放してまで……何を企んでいる?」

 

 益々アルベルトが何を考えているのか、フィーネはアルベルトという人間の心の奥底を計り知れなくなる。それを察したのか、アルベルトは偽りなくその本心を告げる。

 

「フィーネ。私が変わったと言ったな……?それは間違いだ。私は……あの方の事を忘れた事は一度もない。あの御方を蘇らせる為には、君の力が必要だ。そしてこの槍は……蘇ったあの御方が手にした時……初めて真価を発揮する。」

 

 アルベルトの中にある熱き意思。今まで誰にも見せなかった本音を、同じ先史文明の人間であるフィーネにだけ打ち明けた。彼女はそれに乗り、バイデントをシンフォギアとして形を変えてくれた。

 しかし今ではそのフィーネも逝き、残った先史文明の人間はアルベルトが最後となってしまった。そして、現実味を帯びてきたアヌンナキの復活。それはアルベルトの悲願を阻むものであるが、止める事は出来ない。だがバイデントこそが、残された最後の希望。

 一矢纏わぬ姿を晒してシャワーから流れるお湯を浴びているアルベルトの目には、その未来を見据えている。 

 

(間違いない……。あの御方の魂は既に存在している。あの槍に選ばれたあの子こそが……。)

 

 バイデントの呪い。聖遺物や異端技術に携わる者達が口を揃えて呼んだ現象。だがアルベルトはそれを初めから予期していた。それすらも偽り、装者達はそれを哲学兵装であると信じてくれた。

 

(隠れ蓑はいくつあっても困らない。お陰で、私自身も偽る事が出来るのだからな。)

 

 敵を欺く為に己すらも欺く。そうやって周りを、仲間だった者達すらも欺いて、今のアルベルトを作り上げた。

 

「さて……戻るとするか。」

 

 シャワーのバルブを止めて、鏡に映っている自身の顔を見ると、不敵な笑みを浮かべた。再び道化師を演じるアルベルトへと戻り、シャワールームから出て行った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 翼は今、本部の整備場でバイクのメンテナンスを行っている。戦場において、翼に欠かせない愛機である為、そのメンテナンスを怠らないが、今は現実逃避と言ってもいい。しかし、心が落ち着いてきたのか狼狽えている様子はない。

  

(分かっている……悪いのはこの私だ。瑠璃に害を及ぼしたのも……弱き者を守れないのも……。)

 

 思い悩む翼の通信機に、連絡が入った。通信端末を手に画面を見ると、相手は思いがけない相手だった。恐る恐るも通信に応答する。

 

「翼です……。」

『聞いたぞ?失態であったな。』

 

 相手は風鳴訃堂だった。先のアルカ・ノイズとの戦いで街の建造物を無意味に破壊しただけでなく瑠璃を攻撃してしまったのだ。叱責は仕方ない。

 

「言葉もありません……。ですが、次こそは必ず防人の務めを果たしてみせます!」 

「刻印、掌握!」

「っ?!」

 

 突如訃堂が言い出したが、翼には理解出来なかった。

 

『翼、果たしてそこはお前の戦場か?そこにいて何を守る?!何を守り切れる?!』

「……?!」

 

 だが翼は訃堂の叱責に、一つの反論もなくそれを受け入れるだけだった。

 

『道に迷うことあらば、何時でも訪ねよ。お前は風鳴を継ぐ者であり、天羽々斬は国難を退ける剣である事、ゆめ忘れるな!』

 

 言う事を言った訃堂は通信を切断した。通信を終えた翼は訃堂の叱責が頭から離れられない。

 

「ここではない……私の戦場……。」

 

 涙が溢れそうになり、それを拭う。バイクのオイルが付着した軍手のままで拭った故に、その頬が黒く汚れる。

 

「奏……!」

 

 まるで助けを求めて縋るように亡き相棒の名を呼んだ。

 

『緊急の対策会議を行います。装者たちは、至急発令所に集合をお願いします。』

 

 だがその弱音を殺さなくてはならない。ブリッジから召集を掛けられた翼は、直ちに作業着から制服に着替え、ブリッジへ入った。未だ目覚めない瑠璃と翼以外の装者達は揃っており、どうやら翼が最後だった。

 

「遅くなりました!」

「翼、何をしていたんだ?」

「すみません……。」

 

 遅くなった理由を弦十郎に問われると、叱られた子供のように俯いた。遅刻は許されるものではないが、弦十郎はあえて深く追及はしなかった。代わりにマリアが翼に視線を向け、小さくため息をつく。

 

「これより未来君と、エルフナイン君の失踪について、最新の調査報告を基に緊急対策会議を行う。」

 

 腕を組んでいる弦十郎が対策会議を始める。最初に緒川が調査報告を伝える。

 

「鑑識の結果と先程意識を取り戻した輪さんの証言によっえ、現場に残された血痕は未来さん並びにエルフナインさんのものではないと判明しました。」 

「それじゃあ、未来とエルフナインちゃんは……!」

「うむ。輪君の証言によって、ノーブルレッドに与するアルベルトによって略取された。」

 

 未来とエルフナインが生きている。それだけでも不安でいっぱいだった響は胸を撫で下ろした。

 

「だけどよ、ぶち撒けられたあの血だまりは一体誰の物だったんだ?」

 

 血溜まりの主は一体誰のものなのか。気になったクリスが問う。

 

「それは……」

「滅茶苦茶悪人面の査察官だよ。」

 

 ブリッジのドアが開くと、弦十郎が答えようとしていた事を言われる。装者達は振り返ると、まだ検査着姿の輪が入って来た。

 

「輪さん!」

「もう歩って平気なのか?!」

「大丈夫だって!ほら、この通り!」

 

 響とクリスが真っ先に心配するが、輪は平気という証を見せる為に肩を回したり、バレエのように飛んで見せる。外傷は殆ど無い為、特にこれといった制限はない。だが血溜まりの主があの査察官のものであると知り、切歌が輪に問う。 

 

「ちょっと待つデス!つまりあの査察官はノーブルレッドと組んでいたって事デスよね?じゃあ何で……」

「証拠隠滅の為の口封じ……かもね。」

「口封じ?」

 

 輪が言っていたことを、調がオウム返しに聞く。

 

「さっきオジサンに聞いたけど、日本政府からの査察官と残党がグルだったって事は、多分巨大な後ろ盾がついているはず。それこそ、法律を変えられちゃう組織みたいな。だからもし、あの男を生かしておいたら……」

「自分達の尻尾を掴まれる恐れがある。その為の口封じって事ね。」

 

 マリアがその意味を口にして、輪が頷いた。まさにそういう事なのだろう。

 

「でも1つ……気になるのが。エルフナインはともかく、何で一般人の未来が拉致されたのか。それが分からないんだよねぇ……。」

 

 輪は僅かな情報だけで、敵の行動の意味や狙いを的確に分析する事が出来る。しかし、錬金術を扱えるエルフナインはともかく、非力な未来まで略取する意味だけが分からない。

 何故未来まで略取するのか。その意味を知る数少ない人間である弦十郎から話される。

 

「今回の一件、何故未来君が巻き込まれつつも、害されず、攫われてしまったのか……。その仮説を聞いてもらうには、良い頃合いかもしれないな。」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ミラアルクによって攫われたエルフナインが目を覚ました。だが目覚めてすぐに驚愕した。ここが何処なのか見覚えがあるばしょだったからだ。

 

「まさか……ここは!」

 

 そこにエルザとミラアルクがやってきた。ミラアルクは太腿を露出させている短いスカートを軽くたくし上げてメイド風の挨拶をする。

 

「おかえりなさいませ~ご主人様〜。」

「あなた達……むぅっ!」

 

 エルフナインの両頬をミラアルクが摘む。

 

「ハハハ!日本に来たのなら、一度言ってみたかったんだぜ!」

「ほほは、ヒホーヒュヒャホー……」

 

 ここはチフォージュ・シャトーと言いたかったのだろうが、両頬を掴まれてはまともに発音が出来ない。さらに、そのままミラアルクに投げ飛ばされてしまう。これにはしっかり者のエルザが注意する。

 

「いけないであります!客人は丁重に扱わないと!」

「次からはそうさせてもらうぜ。」

「むーっであります……。」

 

 しかし、ミラアルクはそんな事は気にも留めない返事に、エルザは頬を膨らませる。

 一方投げ飛ばされたエルフナインはこの現状を打破する為に思考する。

 

(考えなきゃ……。今何が起きてるかを……ここに連れて来られるまでに何が起きたかを……。)

 

 あの時、ミラアルクが仲間であるはずの査察官を殺害し未来と共に倒れてしまったのだ。その未来の姿が見当たらない。

 

「そうだ、未来さん!未来さんは何処にいるんですか?!」 

「用済みと判断された彼とは異なり、彼女はまだ生きている、生かしているであります。」

 

 エルザが錬金術で未来の姿を映して見せる。まだ意識を失っている未来は実験台のベッドのような物の上に寝かされている。その近くに置かれている台の上にはシェム・ハの腕輪がある。彼女達が何を企んでいるのか、エルフナインはすぐに思い当たった。

 

「まさか……バラルの呪詛から解き放たれた未来さんを使って……!」

「そのまさかだぜ。そしてやってもらう事がお前にもあるんだぜ。」

「今はあなたが使ってるキャロルの体を使って、起動して欲しいものがあります。」

「キャロル……まさか!チフォージュ・シャトーを?!それは無理です!たとえ起動できたとしても、機能の大部分に加えて、ヤントラ・サルヴァスパもネフィリムの左腕も失われた今、自在に制御することなど絶対に……」

 

 チフォージュ・シャトーはかつてキャロルが作り上げた異端技術のネットパッチワーク。とはいえ、装者との激闘で損壊してしまった上に、キャロル本人はいない。身体はキャロルであっても、操作に必要なヤントラ・サルヴァスパとネフィリムの左腕を宿していたDr.ウェル亡き今、エルフナインでは動かす事など出来るはずがない。しかし、ミラアルク達は再び動かしてもらおうなどとは考えていない。

 

「落ち着けって!そうじゃないんだぜ!」

「あなたに起動してもらいたいのはこちらであります。」 

 

 エルザが指をパチンと鳴らすと、複数のライトが点灯する。

 

「まるで、何かのジェネレーター?これは?!」

 

 ライトアップされたその部屋にエルフナインが入ると、そこにあった巨大な装置を見て驚愕する。装置ち繋がれた箱、というより棺と言うべきであろう。その中には人形の残骸が入っていた。棺は1つや2つという数ではない、無数の数が並べられている。この人形は、かつてオートスコアラーを作る際に廃棄された失敗作。一部が欠けていたり、未完成のままになっているものもある。

 

「あなた達は、一体何を企んで……」

 

 

 

 




ちなみにアルベルトのBHWはサンジェルマンに近い感じです。

正確な数値は決めてないので悪しからず……


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顕現

本日2本立て!


 マリアと輪はトレーニングルームでトレーニングをしている。輪はじっとしていられない性格もあり、身体を動かしたいという事もあり、マリアのトレーニングに付き合う形となってトレーニング着に着替えて参加している。

 輪の両手に装着しているミットをマリアがジャブで打ち続けているが、戦闘経験も力も上であるマリアのジャブを、顔色一つ変えることなく受け止め続けられている。それに対し、マリアの脳裏には先程の対策会議の記憶が蘇る。

 

(非戦闘員の仲間を巻き込んだ今回の一件、衝撃は大きかったはず……。まさか、あの時神獣鏡の光を受けた二人が原罪を解かれた人間……神の依代に成り得る存在だなんて……。それを誰もが受け止め、強い心で乗り越えようと努めている……。)

 

 だがそれが雑念となってしまい、マリアの右手のストレートジャブがミットを外してしまい、輪の顔面に向かってしまう。

 

「しまった!」

 

 しかし、分かっていたかのように輪は身体を左に反らした事で事無きを得た。先程から受けていたパンチに何処かブレがあると察していたのだ。

 

「分かってましたよ。心ここにあらず、みたいなパンチでしたもん。」

「ごめんなさい……。」

「大丈夫ですか……?もしかして、翼さんの事で……。」

 

 マリアの目が見開いた辺り、図星を突かれたのだろう。翼が頼りにならない以上、自分がしっかりしなければならない時に、自分も翼と同じ過ちを犯すところだった。さらにその輪にまで心配され、自分も人の事が言えないと嘲笑する。

 

「駄目だな私は……苛立つ翼に差し伸べる手すら持っていない……。」

「マリアさん……。」

 

 首に下げられたギアのペンダントを手にした。

 

「仲違いぐらい、セレナとだってした事があるのに……。」

 

 姉妹であれば当然喧嘩もする。マリアとセレナも例外ではない。白い孤児院にいた頃、二人は何度も喧嘩した。その度に二人は仲直りした。二人を繋げてくてたのは、Apple。マリアとセレナの生まれ故郷に伝わる童歌。

 

(いつだって二人の間には歌が流れていて、仲直りするのに言葉はいらなかったわね。)

 

 いつの間にかAppleを歌っていたマリアに笑顔が戻っていた。輪もマリアの歌に身を委ねるように目を閉じて聴いていた。

 だがマリアは何かを思い出し、歌うのをやめた。終わったのかと思った輪の目は開いている。

 

「どうしたんですか?」

「いえ……。このフレーズ、最近どこかで聞いたような……。」

「ん?」

 

 どういう事か理解が追いついていない輪は、置いてけぼりをくらうしかなかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その頃、緒川は調査部と共にある研究機関を訪れていた。研究員がアタッシュケースの中身を緒川達に確認させている。中身は旧ノーブルレッドのアジトから回収された欠けた歯車、3つのマイクロチップとメモ用紙。確認を終えると、研究員がアタッシュケースを閉じて、それを緒川に引き渡す。

 

「調査結果はこの中に納めています。」

「確かに受領致しました。」

 

 証拠物品を受け取った緒川達は本部へと帰投するべく3つの車両にそれぞれ乗り込む。

 

「証拠物品と共に、これより帰投します。」

 

 弦十郎に報告を終え、通信を切ると、緒川の乗る車両を先頭に発車する。しかし、その上空から一機のドローンがその様子を捉えていた事に気付いていなかった。その会話の内容も盗聴されている。チフォージュ・シャトーの城壁から監視していたヴァネッサが、そのドローンを操っていた。

 

(疑いはまだしも、証拠となるものを持ち帰られるのはまずいかもね。)

 

 すぐさまミラアルクとエルザに念話を送る。

 

『二人とも、聞こえて?警戒監視網にてS.O.N.G.の動きを捉えちゃった。私達と風鳴機関の繋がりもバレたみたいだけど、どうしよう?』

「位置は把握してるでありますね?だったら迷うことはありません。」

「やっぱそうよね。ここはお姉ちゃんとして強襲、しかないわね。」

 

 背中からダイブするようにシャトーから飛び降りた。すると、足底部が変形してジェットブースターを点火、そのまま上空を飛行する。

 

『神の力の具現化はウチらで進めとく。そっちは任せたぜ。』

 

 そうとは露知らず、緒川達は本部を目指している。その調査報告を弦十郎に通信越しに報告している。

 

「技研による解析の結果、廃棄物処理場で取得した物品は、119.6%の確率でアンティキティラの歯車との事です。」

 

 アンティキティラの歯車。かつてパヴァリア光明結社が神の力の依代として運用していたティキと呼ばれたオートスコアラーのコアである歯車。ティキが起動停止した後はクルーズに偽装していたS.O.N.G.の調査艇にて研究されていたが、ティキ本体の爆発、船舶が炎上した事によって失われていたと思われていたが、それが敵のアジトで発見された。それが何を意味するのか、弦十郎と緒川は分かっていた。

 

『冤罪ロジック構築可能な数値で、本物と立証されてしまったか……。』

『先立っての事故で失われたはずの聖遺物が、敵のアジトにて発見される……。』

「あの件に関して保管物品強奪の知らせは受けていない。遺失を装い、横流しされたと考えるならば……。」

「護災法施行後、国内の聖遺物管理は風鳴機関に一括。司令の懸念通り、やはり鎌倉とノーブルレッドには何らかの繋がりがあると見て……っ?!」

『どうした?!』

 

 驚愕によって緒川の言葉が詰まり、弦十郎はその異変に気付いた。

「敵襲です!恐らくは証拠物品を狙ってと思われます!」

 

 車道の中心に一人立ち塞がる敵の姿。ヴァネッサが妖艶な仕草でジャケットのファスナーを下ろすと、胸部から2本のミサイルが発射された。それが最後尾を走る車両に直撃し、爆発する。辛うじて避けられた2台の車両はそのままヴァネッサのすぐ横を走り抜ける。

 ファスナーを上げながら、走り抜けた2台の車両の方を振り返る。

 

「せっかく誘ったのに、つれないわ。」

 

 脚部をホバーへと変えて残りの2台を追う。先程まで3台だった車両は、敵襲を受けた時を想定し、証拠物品を乗せた車両を逃がす為に配置された言わばダミー。とはいえ、人命が失われた事に変わりはない。

 

『応援は既に手配している!到着まで振り切ってみせろ!』

「そのつもりです!」

 

 しかし、ヴァネッサは証拠隠滅の為ならば手段など問うはずがない。今度は指先10本からマシンガンの弾丸が連射される。緒川の乗る車両は回避するが、もう1台の車体後方のボディは貫通し、さらにタイヤのホイールに直撃した事で外れてしまい、制御出来なくなった車両はスピン、そのまま横転して大破してしまう。残るは緒川と証拠物品を乗せた車両1台のみ。

 今度は両肘から2本のミサイルが放たれる。しかし、車両はそれを回避。今度は両膝からも発射される。今度は肘より低く、より内側に向けて発射された為、普通に避けるのは不可能だ。だが緒川は右側のガードレールを利用する事で、車体を空中回転させて回避、見事に着地して逃亡を続ける。このままでは埒が明かないと判断したヴァネッサは高く跳躍する。

 

「行かせない……スイッチ・オン!コレダー!」

 

 掛け声と共に、ヴァネッサの左下肢を、スパークを纏った槍へと変形させた。右足底部のジェットブースターを利用して上空からライダーキックを繰り出す。これで回避は不可能……のはずだった。

 

「っ?!どういう事?!」

 

 何と1台であるはずの車が3台へと増え、ヴァネッサの飛び蹴りを避けたのだ。

 

【忍法車分身】

 

 緒川は飛騨忍の末裔である。その忍法を応用した技によってヴァネッサの強襲を尽く回避する事が出来た。それを一切知らないヴァネッサは信じられない様子で、分身を解除して走りゆく車両を見ていた。

 

「現代忍法……?っ?!」

 

 突如ヴァネッサの背後から車両が走ってきた。流石のヴァネッサもこれにぶつかれば痛いでは済まされない。両手からロケットパンチを発射して、車両のフロントを破壊したが、その車両からクリスとマリア、二人の装者が跳躍して出て来た。

 

 Killter ichaival tron……

 

 起動詠唱でギアを纏った二人。クリスが拳銃を発砲すると、ヴァネッサは後退して避けたと思われたが、銃弾が鋭くなり、地面に着弾する前に軌道がヴァネッサが避けた方へと変わった。

 

「何ですって?!」

 

 咄嗟に避ける事が出来ない為、両下肢を変形させて、電磁バリアを展開して防ぐ。その隙をマリアは見逃さない。

 

「隙だらけぇ!」

 

 しかし、その前に放ったロケットパンチをそのまま操り、指先からマシンガンを乱射。被弾したマリアは怯むが、ギアのプロテクトによって小夜の時ように銃弾が貫く事はなかった。

 さらにロケットパンチの掌からアルカ・ノイズの召喚石がばら撒かれ、地面に落ちて割れるとセグウェイ型の群れが召喚される。

 だがクリスの拳銃から発砲された弾丸が、エネルギーのビームのように変形、アルカ・ノイズの群れを纏めて撃ち抜いた。

 

【HORNET PISTOLS】

 

 形勢不利と見たヴァネッサ偶々通りかかった大型トラックにロケットパンチを発射。車体を掴んでその上に乗って逃亡を図る。

 

「何度も卑怯な手を使って!」

 

 このまま攻撃しようものならトラックに乗っている一般人に危害を加えかねない。それにマリアが憤る。

 トラックは高速道路へと入った。

 

「証拠隠滅は失敗……。こうなったら装者の足止めくらいしておかないとね。」

 

 そう呟いている内に、装者二人が走る車両に飛び移った。

 

「また一般人を巻き込むつもり?!」

「ご名答。」

 

 マリアの問に悪びれもなく笑みを浮かべて、車両ごと装者を撃ち抜こうと再び指先からマシンガンの弾丸を乱射する。そうはさせるかと、マリアは蛇腹剣へと変形させた刃で全弾防いだ。

 

「それが、アガートラーム……妹共々、よくその輝きを疑いもせず纏えるわね。」

「どういう意味?!」 

 

 突然ヴァネッサから言われたそのセリフに、マリアは短剣を構えながら問う。

 

「イラク戦争の折、米軍が接収した聖遺物の一つ。シュルシャガナやイガリマと異なり、出自不明故に便宜上の呼称を与えられた、得体のしれない謎のギア……。」

 

 自身の纏うギアの事実。それを戯言と切り捨てられず、戸惑うマリア。

 

「何てね。」

 

 だが隙だらけとなったマリアに、左肘からミサイルを発射したヴァネッサ。マリアはこれを防ぎきれず、悲鳴を挙げながら吹き飛ばされてしまう。だがその手を取ったクリスに助けられ、別の車両のボンネットと屋根に着地したが、何も知らない運転中の一般人は何事かと驚きを露わにする。

 

「アイツら得意の搦手だ!揺さぶりに付き合わされてペースを乱すな!」

「ええ……そうね。これ以上好きにはさせない!」

 

 もう油断は見せない。マリアは再びヴァネッサを見据える。

 

「世界の果てを見せてくれぇ!」

 

 何が何なのか分かっていないようだが、アクセルを踏んで距離を詰めようとしている辺り、付き合ってくれるようだ。

 

「それじゃあ、こういうのはどうかしら?」

 

 ヴァネッサはトラックから飛び上がって、両肘両膝からミサイルを計4本発射させると、高速道路を破壊。道に大きな風穴が空いてしまう。クリスとマリアを乗せた車両はアクセル全開であり、急ブレーキした所で落ちてしまうのは明白。

 

「あいつの相手は任せた!」

「了解!」

 

 クリスに頼まれたマリアは車両から跳躍する。車両はそのまま空いた穴から高速道路から落ちてしまう。

 道路へと飛び移ったマリアは弾丸とミサイルの嵐をかいくぐって、ヴァネッサを斬りつけるが跳躍して避けられてしまう。さらに、足底をジェットブースターを点火させる事で、浮遊する事でマリアの攻撃範囲から遠ざかっている。腕を組みながらマリア達を見下ろしている。

 

「あなた達が不甲斐ないから、余計な被害者出ちゃったかも?」

 

 アルベルトのような余裕の笑みを浮かべているが、それはすぐに裏切られる。クリスが展開した2本の大型ミサイルのブースターを利用して、車両が落ちないように掴んでゆっくり浮上してきた。

 

「何ですって?!けれど、弱点を抱えていると同じ!」

 

 ヴァネッサは車両を掴んで隙だらけになっているクリスに指先からマシンガンを放つが、マリアの蛇腹剣が全弾斬り捨てる。

 だがクリスは防ぐ事は出来ないが、別に攻撃出来ないわけではない。そのまま腰のアーマーから小型ミサイルを展開して全弾一斉掃射。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

 ヴァネッサはマシンガンの弾丸で小型ミサイルを全て撃ち落とすが、車両を道路へと着地させたクリスは、そのまま展開していた大型ミサイルを2本発射させる。だがその2本はヴァネッサが避ける事なくそのまま素通りしてしまう。

 

「狙いが大雑把すぎるわ!」

 

 が、それは早計というものだ。マリアの蛇腹剣の剣身を利用して、軌道を2本ともヴァネッサの方へと変えてみせた。反応が遅れ、ミサイルをマシンガンの弾丸で打ち落とそうとするが、至近距離でそんな事をすれば爆発した時の衝撃で吹き飛ばされるのは自明の理。だがそれに気付かなかったヴァネッサはその愚行を犯してしまい、高速道路の壁に背中を打ち付けてしまう。

 起き上がろうとするが、クリスに銃口を向けられた。これで詰められた。

 

「プチョヘンザだ!」

 

 Put your hands up、英語で手を挙げろ。銃口を突きつけられたこの場合、ホールドアップを意味する。

 

「未来とエルフナイン、連れ去った二人の居場所を教えてもらうわ!」

 

 ヴァネッサを追い詰めた二人だったが、突如破壊された高速道路の壁から巨大な光柱の輝きが発し、さらにあの不協和音までもが聞こえ出した。それらはチフォージュ・シャトーから発せられていた。

 

「マテリアライズ……?だけど……早すぎる!」

 

 アジトにしているヴァネッサも戸惑いを隠せていない辺り、想定外の事態ということだろう。本部もモニターでチフォージュ・シャトーの映像を捉えている。弦十郎も驚愕を露わにする。

 

「何が起きている?!」

「やっぱりこの歌……私の胸には、Appleのようにも聴こえて……。」

 

 マリアが感じていた違和感の正体を口にする。そして、突如チフォージュ・シャトーの真上に現れた光柱。その中心に銀色の繭が顕現した。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は来た……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚醒の時が来る…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たった一人、地球に残った私……■■■■■ほ使命……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、目覚めよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、メディカルルームで眠る瑠璃の目が開いた。その瞳は冷たい闇が宿っていた。




おまけ

未来「響、お誕生日おめでとう。」

瑠璃「おめでとう響ちゃん。」

輪「おめでとーう!」

響「うわぁー!ありがとうございます!」

未来「というわけで、今日はいっぱい御馳走を用意しました!」

瑠璃「そして誕生日ケーキも、大ボリューム!」

響「凄ーい!」

輪「えーと、1段2段3段……待て待て待て!誕生日ケーキ五重塔になってるよ?!これウェディングケーキの間違いだよね?!」

未来「ウェディングケーキ……(ポッ……///)」

輪「そこ!何で顔を赤くしてんの!」

瑠璃「作るのに苦労したよ。サプライズの為に誰も言えなかったから一人で作らなきゃだったし。」

輪「これあんた一人で作ったの?!」

未来「ありがとうございます瑠璃さん!」

輪「何でアンタが礼言う?!もう誰かこの人達を止めてえぇーー!!」


響ちゃんお誕生日おめでとうございます!


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切り札

最後に投稿したのが一週間前……

遅れてしまい申し訳ありません。


 ヴァネッサがクリスとマリアの二人と交戦していた頃、チフォージュ・シャトーでは神の力を、降臨させる為の儀式を進めていた。準備はヴァネッサが事前にしておいてある為、後は降臨に必要なエネルギーである。エルフナインを攫ったのは、チフォージュ・シャトーに廃棄されたオートスコアラー達のエネルギーを利用する為に、ジェネレーターの認証を解除させる為である。

 

「あなた達は……一体何を企んで……ぁっ!」

 

 ミラアルクに首根っこを掴まれ、暴れられないよう持ち上げられる。そして、ミラアルクが不浄なる視線(ステインドグラス)を発動、エルフナインの心を支配する。

 

「バイオパターン、照合。」

 

 その手を離すと、自由となったエルフナインはジェネレーターのパネルの前に立つ。強固な意思を持って戦う装者達とは違い、簡単に心を侵略されたエルフナインはミラアルクの命令通りに従っている。

 

「さあ、認証を突破してもらうぜ。マスター。」

 

  

 エルフナインがパネルの前に立つと、画面が埋め尽くされる程の黄色い文字が羅列される。エルフナインはミラアルクの命令通り、意思を持たない人形のように唱える。

 

「その庭に咲き誇るは、ケントの花……。知恵の実結ぶ、ディーンハイムの証なり……。」

 

 唱え終わると黄色い文字が赤く点灯し、ジェネレーターの棺に繋がれたラインが青く光る。棺に納められたオートスコアラーの残骸に残ったエネルギーが、祭壇へと流れ込んでいるのだ。

 

「稼働は順調。廃棄されたとはいえ高密度のエネルギー体。これを利用しない手はないであります!」

「そしてコイツの利用価値はここまでだぜ。後は心を破壊して……」

 

 用済みとなったエルフナインを真正面に向けさせて、再び不浄なる視線を発動させる。エルフナインの精神を破壊して、廃人にさせる

 

 

 これ以上オレを覗き込むな!

 

 

 突如謎の声がエルフナインを守るかのように恫喝、不浄なる視線を弾いた。何が起きたのか分からないミラアルクはよろめく。

 

「どうしたでありますか?!」

「こいつ……何を?!」

 

 エルフナインは気を失い、倒れてしまう。だがその直後、シャトー全体が揺れ始め、驚く二人。エルザがモニターから祭壇の様子を確認する。

 

「制御不能!腕輪から抽出されるエネルギーが、抑えられないであります!このままでは……」

 

 祭壇に納められたシェム・ハの腕輪の輝きが放たれ、不協和音が響いた。そして、シャトーに光柱が現れ、その中心に出現した繭。

 

 本部もチフォージュ・シャトーに起きた現象をモニタリングしている。

 

「あれって、チフォージュ・シャトーだよね?!それに……この不快な音は何……?」

 

 まだ本部に留まっていた輪だが、今起きている不可解な事態に戸惑う。

 

 そしてその遠く、高速道路でヴァネッサを追い込んだクリスとマリアが、チフォージュ・シャトーから光っているのを見て驚愕している。

 

「まさか……チフォージュ・シャトーが稼働しているの?!」

「コイツら、廃棄施設をアジト代わりに使ってやがったのか?!」

 

 だが余所見をしている隙を、ヴァネッサは蹴りで突いた。ギリギリ防いだクリスだったが、銃による脅しから解放してしまった。マリアが逃がすまいと短剣を斬りつけるが、鋼鉄の硬さを誇るヴァネッサの腕を斬れない。

 ヴァネッサは二人から距離を取るが、クリスの銃口が向けられる。撃たせまいと左右に動きながら接近し、懐に入ったと同時に、人差し指を銃口に差し込む。

 

「なっ?!」

 

 銃口から差し込まれたヴァネッサの人差し指の所為で引き金が重い。それでも強引に弾くと、銃が爆発。クリスとヴァネッサ、両者は吹き飛ばされる。

 

「どこまで奔放なの?!」

 

 爆発の煙が晴れると、ヴァネッサの右手が欠損していた。先程の爆発によって破壊されたのだろうが、当の本人はあっけらかんとしている。

 

「ビックリさせちゃった?だけどこちらも同じくらい驚いているのよ。」

 

 そう言うとヴァネッサは、ジャケットから出したテレポートジェムを割った。ヴァネッサはそのまま姿を消した。逃げられて悔しい思いをしているクリスは悪態をつく。

 

「してやられちまったか!」

 

 そこにチフォージュ・シャトーから響く不協和音。その音を聴いているマリアは、感じていた違和感の正体に気付いた。

 だが今はそれよりも一体何が起きているのか把握する事が先決。クリスが本部に通信を繋げる。

 

『本部!状況を教えてくれ!』

「先日観測した、同パターンのアウフヴァッヘン波形を確認!」

「腕輪の起動によるものだと思われます!」

「これがシェム・ハ……。アダムの予言した、復活のアナンヌキ……。」

 

 アヌンナキ、言わば神に対抗出来るのは、神殺しを備えた響。現在響達を乗せたヘリがチフォージュ・シャトーに向かっている。だが繭が侵略者を迎え撃つように、光線を放つ。光線はヘリの真横を通り過ぎ、その余波に搭乗している装者達は尻もちをついてしまう。その中で翼だけはしっかりと起立している。

 

「くっ……敵は大筒・国崩し!ヘリで詰められる間合いには限りがある!」

「それでも、ここまで来れたら……!」

「十分デス!」

 

 立ち上がった調と切歌も、勇んでいる。たとえアヌンナキが相手でも負ける気がしない。装者達はヘリから飛び降り、急降下する。

 

 

 Zeios igalima raizen tron…… 

 

 起動詠唱を唄い、ギアを纏った4人は降下しながらシャトーへと向かう。そうはさせまいと、繭は光線を拡散させて放つ。

 ギアであればそれを捌く事は出来る。それぞれ持ちうるアームドギアでそれらを捌いていくと、今度はは繭の無数の腕が襲い掛かる。翼と響はその腕足場にして降りていくが、調だけが反応が遅れてしまう。防御が間に合わないかと思われたが、切歌の大鎌が守ってくれた。

 しかし、腕は切歌と調を集中して狙っている先に着地した翼と響だったが、到着が遅れている二人を案じ、響が振り返る。

 

「調ちゃん!切歌ちゃん!」

 

 翼はただ一人、先行して、繭へと駆け出す。

 

「機動性にはこちらに分がある!」 

 

 接近してくる翼を迎え撃とうと、繭は腕を伸ばす。刀で弾き、跳躍して回避する。

 ただ闇雲に特攻をしているわけではない。今の翼は、瑠璃を攻撃してしまい、冷静さを失っている状態ではない。そうでなければこの怒涛の連続攻撃を無傷で対処する事など不可能だ。

 

「まずは距離を取りつつ、威力偵察だ!行けるな?!」

「はい!」

「デェス!」

 

 覇気が戻った翼に信頼されている。嬉しくなった2人は威勢良く返事をして、戦闘に戻る。

 

「装者応戦!ですが……」

「高次元の存在相手に、有効な一撃をみまえてません!」

「ああ……」

 

 藤尭と友里の報告にもあるように、相手はアヌンナキ。完全聖遺物でもなければ錬金術師でもない、これまで戦ってきたもの達の枠組みから大きく逸脱した存在である。並大抵の攻撃でどうにかなる相手ではない事は、弦十郎も承知だ。

 

(相手が本物の神なら……あのデカブツの時みたいに……。)

 

 輪が指すデカブツの時、それは神の力を得てディヴァインウエポンと化した、なかった事にされるダメージ。あれには手を焼かされた苦い記憶がある。もしそれと同じ事が出来るなら、勝機はある。

 

 繭の攻撃を捌いて、避けた切歌は2本の大鎌を合体、刃が巨大な手裏剣となり、柄が鎖に変形させて、それを振り下ろした。

 

【凶鎖・スタaa魔忍イイ】

 

 刃は高速回転しながら繭の腕を切り落とした。だがその瞬間、腕はすぐさま元通り、切り落とされる前の状態に戻った。その現象に覚えがある切歌は一瞬、驚愕で動きを止めてしまう。そして、すぐさま切歌を叩き落とした。輪の予感は的中していた。

 

「やっぱり……!だけどこっちには!」

「ああ……神を殺すのはやはり……神殺しの拳!」

 

 輪と弦十郎も悲観はしていない。何故なら神の力を殺す、切り札がある。

 切歌を押し潰そうと腕が迫って来た所を、響が雄叫びをあげながら、その腕を殴った。腕は再生されず、粉砕された。

 頼もしい救援が来て、切歌は笑みを浮かべたが、それはすぐに驚愕へと変わってしまう。

 

「響さん!」

 

 響の周囲から襲いかかった複数の繭の腕が、響の身体を絡めとって、繭にとっては小さい人間の身体にエネルギーを流し込む。

 

「エネルギー収束!」

「このままでは響ちゃんが……!」

 

 十まで言っていないが、そんなものが流され続けては、シンフォギアを纏っていても命を落とす危険がある。

 悲鳴を挙げる響だが、足掻く理由がある。

 

「負けられない……!私は未来を……未来にもう一度……!」

 

 響を縛る繭の腕の隙間から光が漏れ出した。

 

「もう一度!!」

 

 叫びと同時に、ギアのエネルギーを使って腕を破壊。拘束から解放されたが、深刻なダメージによってギアは解除され、まともに立てない。一番近くにいた調が駆け寄る。

 

 

「へいき……」

「分かってる……!だから今は無茶できない……!」

「へっちゃら……。」

「おい!大丈夫か?!」

 

 そこにクリスとマリアが到着した。翼が皆を守るように先頭に立ち、刀を構えて繭の方を見据える。

 

「切り札たる立花を失えば、それだけ後れを取ることとなる。ここは撤退し、態勢を整えなければ……!」

「立てるか?本部へ戻るぞ。」

 

 神殺しが封じられた以上、これ以上の戦闘は無用。三十六計逃げるに如かず。クリスが肩を貸して、響を支えて撤退する。他の装者達も撤退すると、殿を務める翼も撤退した。

 

「まさか……こんな事になるなんて……。」

「瑠璃に続いて、響君までもが……。」

 

 瑠璃は未だに目覚めていない。そこに、神殺しの力をもつガングニールの装者、響の負傷。この痛手に、輪と弦十郎の表情が翳る。自分も皆を助ける為に戦いたい。そう考える輪ではあるが、それは出来ない。

 

(私にも……戦う力があれば……。いや……あるにはある……。だけど……。)

 

 ラピス・フィロソフィカスのファウストローブ。そのスペルキャスターであるネックレスはある。だがパヴァリア光明結社との戦いが終わった後、疑似的に放った絶唱による破損から修復されたそれを纏おうとしたが、輪の体内にある錬金術のエネルギーが失われた事で、プロテクト化する事が出来なくなってしまったのだ。今はエルフナインのラボに預けているのだが、それを手にしても纏えなければ意味がない。

 結局自分は何も出来ないのかと歯を食いしばる。だが、輪はあの事を思い出した。

 

『君には君の役割がある。守りたければ、それを果たせ。』

 

 ここに運び込まれる直前、アルベルトから告げられたセリフ。何故あんな事を言ったのか。

 

「役割……守りたければ果たせ……。役割……役割……割……割る……あっ!」

「どうした?」

 

 割るという単語が出た時、一つの可能性を発見した。だが突然大きな声を出した輪に、弦十郎は驚いて輪の方を振り返る。輪は慌てて何でもないと、首を横に振る。

 

「ううん!何でもない!気にしないで!」

「そ、そうか……。」

 

 弦十郎に悟られるわけにはいかない。もし露見してしまえば、その場で取り押さえられるだろう。

 今からやろうとしているのは、仮に上手く事が運んでも、雷が落ちるだけでは済まされないくらい危険な行為だ。だがそれでも輪は一つの可能性を手放したくない。輪はそっと、ブリッジから出ていった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一方チフォージュ・シャトーを根城にしているノーブルレッド。ヴァネッサがいないこの根城で神の力の儀式を行っていたミラアルクとエルザは、装者と繭の戦闘の様子をモニタリングしていた。そこやヒールの靴の足音が聞こえ、2人が背後を振り返る。そこに、右手を失ったヴァネッサが戻って来た。

 

「ヴァネッサ、帰還したでありますか。」

「早速でごめんね。状況を教えて。」

 

 あの繭の出現は、ヴァネッサですら想定外の事態だ。何がどうなっているのか、確認を取る。ミラアルクがそれに答えた。

 

「神の力は固着を開始。だけど、想定以上の質量に城外へと緊急パージしたのが、この体たらくだぜ。」

「遊びなしのいきなりすぎる展開はそういう……。」 

「遠からずこの場所は突き止められていたはず。むしろ神の力の顕現でシンフォギアを退けられたのは、僥倖であります!」

「そうだといいんだけど……。」

 

 エルザは決して楽観視しているわけではない。神の力を手に入れる儀式の最中に横槍を入れてきたシンフォギア装者達を、あの謎の繭が撃退した事は大きな収穫であると同時に、神の力の儀式を阻止されずに済んでいるこの状況に、希望を持っている。それでもヴァネッサの不安は拭えない。

 

「決戦となると、お荷物の処分は早めに済ましておきたいところだぜ。」

 

 まだ倒れ付しているエルフナインを見て、ミラアルクはそう言った。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「覚醒の……時……。」

 

 先程目を覚まし、起き上がった瑠璃がポツリと呟いた。しかし、何故このタイミングで言ったのか、理解出来ない瑠璃は、誰もいないメディカルルームで勝手に恥ずかしがる。

 

「へ?わ、私ったら何を……。」

 

 我に返った瑠璃はベットから降りて、メディカルルームを出ようとした時は、誰かがブリッジとは反対側の通路を通り、開いたドアが閉まってしまった。

 

「あれって……。」

 

 ドアが閉まる直前までしか視認出来なかった為、誰だったのか、皆目検討もつかない。瑠璃は弦十郎に報告するべく、ブリッジの方へと向かって行った。先程まで、隣で輪が眠っていた事を知らないまま。



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深まる謎とじゃじゃ馬

前回もう少し早めに区切るべきだったかな……


 誰もいないエルフナインのラボのドアが開いた。同時に人体感知で点灯する照明もついた。その人体とは輪であり、まるで空き巣の家に入るように、誰もいない事を確認する為に、辺りをキョロキョロと見回す。

 

「抜き足……差し足……緒川さんの足……。」

 

 確認した輪はそろりそろりと、部屋に侵入する。その目的は、ラピス・フィロソフィカスのファウストローブのスペルキャスターであるネックレス、もう一つ、それはテレポートジェムだ。

 魔法少女事変で輪が裏切り者として、キャロルと手を組んでいた時、連絡用にチフォージュ・シャトーへと通ずるテレポートジェムを持っていた時期があった。それは輪が裏切り者であるという決定的な証拠となって、瑠璃が回収されて以降、どこにあるのかは聞いていなかった。だが錬金術師が生み出した代物であれば、恐らくエルフナインが保管している可能性があると踏んだのだ。

 そのエルフナインと未来がチフォージュ・シャトーをアジトにしているノーブルレッドに攫われた。ならば、2人もそこにいるに違いない。さらにノーブルレッドは、S.O.N.G.がシャトーと繋がっているテレポートジェムを持っていないだろうと思っているはず。ならば奇襲を仕掛けるにはうってつけだ。

 大きな物音を立てないように、デスクから探そうとする輪だったが、目的の物はすぐに見つかった。

 

「さぁて……お目当てのものお目当てのもの……。あった……!こんな所に……!」 

 

 ネックレスとテレポートジェムはガラスケースの中にしまってあった。ケースを持ち上げようとしたが……

 

(あれ?!開かない?!あ、鍵掛けてある!)

 

 ガラスケースの下にあるロック盤。それには鍵が掛けられている。恐らく誰かが勝手に持ち出さないようにしているのだろう。

 鍵を開けないでガラスケースを強引に壊せば、音で気付かれるか、警報が鳴って気付かれるか、いずれにせよバレるのは確定する。だが事態は刻一刻と変化する。

 

「気は進まないけど……しょうがない。」

 

 鍵を探している時間はないと判断した輪は握り拳を作ってそれを振り上げた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ブリッジでは響を除いた装者達が集まっていた。目覚めたばかりの瑠璃と入れ替わる形で、今度は響がメディカルルームで眠っている。

 

「見た目以上に響君のダメージは深刻……。だが、翼の撤退判断が早くて最悪の事態は免れたようだ。」 

「いえ、弱きを守るのは防人の務め。きっと奏だってそうしたはずです。」

 

 翼らしいセリフではあるが、弦十郎と瑠璃は翼の表情に違和感を感じ取っていた。普段であれば、もっと凛として答えるのだが、今の翼はまるで褒められて喜ぶ子供のようだった。

 だがそれについてはここで終わりにし、今度は瑠璃の状態の確認に入る。

 

「瑠璃、もう身体は何ともないのか?」

「はい。問題ありません。すぐにでも戦えます。」

 

 精密検査でも問題ないという判定も出ており、瑠璃本人も平気であることから、戦線復帰が認められる。

 一方、傷つけてしまった翼は、これ以上責任から逃げまいと、瑠璃に歩み寄って頭を下げた。

 

「瑠璃……すまなかった。防人の私が、仲間に刃を向けるなど……あってはならぬというのに……私は……」

「お姉ちゃん……。」

 

 翼の謝罪に、瑠璃は悲しげな表情を浮かべた。防人、仲間。まるで赤の他人のような物言いだった。もちろん公的組織の中では、私的感情は慎むべきなのだろうが、それでも瑠璃は大好きな姉にそのような物言いをされると、寂しくなる。

 

「お姉ちゃん……あのね……」

 

 その消え入りそうな声は、そ友里から報告によって消されてしまう。。

 

「司令、マリアさんから提案のあったデータの検証、完了しました。」 

「データの検証?」

「何デスか?それは?」

 

 何の事か分からない調と切歌はお互いに向き合うと、提案者であるマリアの方を見る。

 

「腕輪から検知される不協和音に、思うところがあってね。」

「あの音に、経年や伝播距離による言語の変遷パターンを当てはめて、予測変換したものになります。」

 

 モニターにはスピーカーから発せられる音の信号が上下に2つ生じされている。上は腕輪から発した不協和音のものであり、その中に含まれるノイズが取り除かれていく。すると、それはとても神秘的なメロディへと変わっており、下の信号と一致した。

 

「この曲……!」 

「いつかにマリアが歌ってたデスよ!」

「知ってるのか?」

 

 クリスがマリアに問う。その歌はマリアにとって、馴染みある歌だ。

 

「歌の名は『Apple』。大規模な発電所事故で、遠く住む所を追われた父祖が唯一持ち出せた童歌。」

「変質変容こそしていますが、大本となるのは、マリアさんの歌と同じであると推察されます。」

「アヌンナキが口ずさむ歌とマリアの父祖の土地の歌……。」

 

 Appleがあの腕輪から発せられたという事は、この歌がアヌンナキと何か関わりがある事が判明した。だがそこまでしか分からない。

 

「フロンティア事変においてみられた共鳴現象……。それを奇跡と片付けるのは容易いが、マリア君の歌が引き金となっている事実を鑑みるに、何かしらの秘密が隠されているのかもしれないな。」 

 

 弦十郎が顎に手を当てて考察していると

 

「たが……まれ……。ルル……メルが……」

 

 今となってはマリアしか知らないこの歌を、教わる事なく唄う者がいて、驚愕た。マリアも驚きながらもその声の主の方を見ると

 

「瑠璃……?!」

 

 瑠璃がモニターの方を虚ろな目で見ながら口ずさんでいた。それも一節も間違える事なく。

 

「姉ちゃん?!姉ちゃん!」

 

 クリスの呼び掛けで我に返った瑠璃は、皆が懐疑的な視線をこちらに向けている事に戸惑う。

 

「えっ……何?どうしたの?」

「瑠璃。その歌、どこで知ったの?」

 

 マリアが瑠璃に問う。

 

「えっと……あ、マリアさんが唄っていたのをこっそり聴いていくうちに覚えたんだった。」

 

 口から出た出任せなのだろうが、そんなシュールなシチュエーションを聞いて、思わずクリスが吹いてしまう。調と切歌も釣られたのか笑ってしまう。笑いのネタにされてしまったマリアというと顔を真っ赤にして否定する。

 

「そんなわけないでしょう?!適当な事を言うのはやめなさい!」

 

 この場に響がいたら大爆笑しているだろう。不謹慎ではあるが、今だけはこの場にいなくて良かったと内心ホッとしている。

 とりあえず弦十郎が咳払いで、再び真剣な空気に戻る。

 

「敵の全貌は、未だ謎に包まれたまま。それでも、根城は判明した。俺達は俺達の出来る事を進めよう!おそらくはそこに未来君とエルフナイン君も囚われてるに違いない!」 

「「「「「「了解!」」」」」」

「デェス!」

 

 強い意気込みで返事をする装者達。弦十郎は意気込む皆を一人ずつ見てやると、思い出したかのように聞く。

 

「そういえば、輪君はどうした?」

「え?輪?何で輪が?」

 

 先程まで眠っていた瑠璃は、輪がここにいた理由を知らない。クリスが代わりに説明してやる。

 

「あいつ、2人が攫われていた現場にいたんだ。それで奴らにやられて……」

「そうだったんだ……。あれ?」

「どうした?」

 

 何か思い当たる節があるように見えた。弦十郎は瑠璃に問う。

 

「いや、メディカルルームから出た時……誰かが廊下を通っていたの見たんだけど……一瞬だったから分からなくて……。」

「どこへ行った?」

「こことは反対の方。あそこは確かエルフナインちゃんのラボが……あっ……!」

「まさか……!」

 

 その人が輪であり、エルフナインのラボに向かった事の意味が分かってしまった瑠璃と弦十郎は唖然としてしまう。その答えであるアラートが鳴り響いた。ノイズ、並びにアルカ・ノイズの反応パターンでもなければ錬金術師達によるものではない。

 

「司令!エルフナインちゃんのラボから警報が!」

「映像を出せ!」

 

 映し出された映像が流れ、不安は的中した。

 

「あのじゃじゃ馬め……!」

 

 弦十郎は頭を悩ませ、装者達は唖然としてしまっていた。




輪のテレポートジェム

 かつて魔法少女事変にて裏切り者として暗躍していた輪から押収したアイテム。

 転移先はチフォージュ・シャトーではあるが、これ1つしかなかった事に加えて、使用する理由がない為、深淵の竜宮にて保管されるはずだった。
だが、その直前に深淵の竜宮が破壊されてしまい、他の機関に預けるわけにもいかなかった為、エルフナインが厳重に管理していた。

 ちなみに、このテレポートジェムを使ってチフォージュ・シャトーに乗り込むという案もあったという……


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再起動

お待ちかね、奴らの復活だぁ!


 チフォージュ・シャトーの内部では再び来るであろう装者達を迎撃する為に、不安要素であるエルフナインを仕留めようとしていた。最初はミラアルクが鋭く伸びた爪で殺害しようとしていたが、ヴァネッサに制止される。止める為ではなく、代わりにやる為だ。

 

「新調した右手の具合を確かめなくちゃ。たまにはお姉ちゃんらしいところも見せないとね。」

 

 ヴァネッサの右手が高速で振動する。これで何でも切断出来る、文字通り手刀となって、気を失っているエルフナインに近づく。

 

「神の力を神そのものへと完成するまでには、もうしばらくの時間が必要……。それを邪魔する要因は、小さくても取り除かなくちゃ!」

 

 右手を振り下ろすが、突如エルフナインが身を翻して避けた。既に意識は戻っており、先程の会話も全て聞いていた。

 

「こいつ!」

「気づいていたでありますか?!」

 

 だが所詮一発限りの回避であり、今度は避けられない。ギリギリで回避した事もあって、息が上がっている。

 

「自分が原因で世界に仇なしてしまった以上、生きているのも辛くないかしら?」

「確かに昔のボクならば……世界を守るために消えて良いとさえ思っていました……。だけど、この身体は大切な人からの預かりものです!今はここから消えたくありません!」

 

 大切な人達の為にも、消えかけた自分を助けてくれた者の為にも死ぬわけにはいかない。だがヴァネッサ達からしてみれば、そんな事など知った事ではない。

 

「そう。だけどそれは聞けない相談ね。」

 

 高速振動させた手刀を構えて再び近づく。

 

「どうすれば……だけど僕では……!」 

「次は外さな……痛ぁっ!」

 

 突如ヴァネッサの左頬に飛来物が直撃した。

 

「ヴァネッサ!」

「コイツは……デジカメ?」

 

 ミラアルクが落ちた飛来物を確認すると、それはデジタルカメラだった。それを見たエルフナインは、それの持ち主を思い浮かべた。

 

「まさか……!」

「エルフナイン!こっち!」

「輪さん!」 

 

 出入り口から輪がデジタルカメラを投げてエルフナインに逃走を促していた。急いで輪の所へと走るが、そこにミラアルクが阻止せんと鋭い爪を振りかぶる。

 

「そうはさせないんだぜ!」

「輪パーーンチ!」

 

 普通のパンチを必殺技の如く叫びながら繰り出しているが、バカ正直に堂々と叫んではどうぞ避けてくださいと言っているようなものである。しかし、そのパンチを回避してくれたお陰でミラアルクの注意が、輪の方へと向いた。

 パンチを避けたミラアルクが輪に標的を変えて爪を振り下ろすが、輪は身体を反らして躱すと逆に回し蹴りで返り討ちにする。腹部に蹴りを入れられたミラアルクが咳き込んでいる隙に、足元に落ちていたデジタルカメラを拾い上げて、エルフナインの方へと走り出す。

 

「輪さん後ろ!」

「しまっ……きゃあああぁっ!!」

 

 輪の背後からテールアタッチメントが襲い掛かり、背中から叩きつけられた輪は大きく吹き飛ばされ、倒されてしまう。

 

「余計な手間を取らせてくれたわね。」

 

 エルフナインの方にはヴァネッサ、輪の所にはミラアルクとエルザが立ち塞がり、分断されてしまう。

 

「ここまで来て……!」

「残念だが、お前には姉貴の後を追ってもらうぜ。」

 

 ミラアルクの爪が鋭く伸びた。流石の輪も、怪物の2人の包囲から逃れる事は出来ない。だがエルザは、輪の首に掛かっているネックレスの煌めきが見えた。

 

「それは!ミラアルク、離れるであります!」

「何だってんだ?!」

「そっちは気付いたみたいだね!」

 

 輪はネックレスを見せびらかすように、その手に持つ。これが何なのか、ミラアルクでも分かる。

 

「そいつは……!」

「ラピス・フィロソフィカスのファウストローブ?!」

 

 エルフナインの方へ行っていたヴァネッサが振り返って驚愕する。

 サンジェルマン達が持っていた賢者の石と呼ばれるファウストローブ。アルベルトが使用していたのを見ていた為、それがどれほど強力なものであるかは把握している。

 錬金術師でもない輪がファウストローブを纏えるなど俄には信じ難く、放置しても何の問題もないと思っていたが、もし本当に纏えるのであれば、先に片付けなければ面倒になる。驚くノーブルレッド達とは対照的に、輪は不敵な笑みを浮かべている。

 

「今更逃げようたって無駄なんだから!このファウストローブを使えばあんた達なんて!」

 

 アルベルトと戦った時、身体に襲い掛かった切り裂かれるような激痛。病院で戦った時に受けた同じ痛みだった。あの時、錬金術のエネルギーを流し込まれたのだとしたら、今回もファウストローブを纏えると睨んだのだ。輪は結晶を握りしめると、結晶から眩い光が発せられた。ミラアルクとエルザは戦闘態勢で待ち構える。

 

「この土壇場で……!」

「っ……!いえ!待つであります!」

 

 エルザが何かを察知して、戦闘態勢を解いた。眩い光が徐々に弱まり、ついに消えた。

 

「あれ……?」

 

 そこにいたのはファウストローブを纏っていない、私服のままの輪だった。何故かファウストローブの姿にならない事に焦った感じた輪は、ハートの結晶を見る。

 

「何で?!何で纏えないの?!あの時は確かに……」

「そうだ……!一度壊れて修復してから……フォニックゲインが失われたまま……!」

 

 エルフナインの失念。それは輪がファウストローブを纏えない理由が2つあった事だ。修復してから再び起動実験を行ったが、スペルキャスターの反応は何一つ無かった。この事から輪の中にある錬金術のエネルギーが無かった事が挙げられていたが、そこに囚われてしまったが故に、もう一点見落としてしまっていた。

 シンフォギアのペンダントとは違い、輪のネックレスは元々フォニックゲインを持たない錬金術由来のもの。それ故に起動に必要なフォニックゲインを装者から流動する事で補っていたのだが、それが半壊した事で、それまてそれから装者達によるフォニックゲインの流動を行っていなかった。ここにはそれが出来る装者は一人もいない。つまり、今の輪は装者無しではファウストローブを纏えない状態に逆戻りしているのだ。

 

「じゃあこれ……ピンチ?」

「輪さん!」

「ピンチじゃないわ。ゲームオーバーよ。」

 

 再びヴァネッサの右手の手刀が高速振動させる。自分だけならまだしも、助けに来てくれた輪までもがその命が奪われようとしている。だがノーブルレッドは慈悲など受け入れない。ヴァネッサの手刀が振り下ろされる。エルフナインが叫んだ。

 

「誰かぁっ!」

 

 その叫びに呼応するように、ハイヒールが地面を叩く音が響いた。そして、ヴァネッサの手刀から守る剣があった。その剣の名前は……

 

「ソードブレイカー。その一振りを、貴女が剣と想うなら!」 

 

 そのセリフの通り、ソードブレイカーによって弾かれた手刀である右手が大破した。

 

「日に2度も?!」 

「ファラ……?!何で……?!」

 

 輪が驚愕しながらその名前を叫ぶ。ソードブレイカーを持つ者はファラただ一機。だがキャロルに仕え、呪われた旋律をその身に受けて破壊されたはず。故にここにいる事に驚いている。

 ファラだけではない。棺から黄、赤、青、白の光と共に棺が爆発する。その煙の中からレイアが姿を現す。

 

「先手必勝!派手に行く!」

「レイアも?!」

 

 指から弾かれたコインが弾丸のように放たれる。ヴァネッサ、ミラアルク、エルザはそれらを跳躍することで避けるが、ヴァネッサの方には無邪気な笑い声と共に、ミカが走って来た。

 

「ちゃぶ台をひっくり返すのは、いつだって最強のあたしなんだゾ!」

 

 力いっぱい振るったカーボンロッドがヴァネッサの背中を叩きつけた。

 

「「ヴァネッサ!」」

「ここだ、虫けら共。」

 

 倒されたヴァネッサに気を取られ、ジークの接近を許してしまった二人には、振り下ろされたハルバードによって叩きつけられた。

 

「ミカとジークまで……うわっ!」

 

 ジークの肩に担がれた。この一瞬で何が起きているのか理解が追いついていない輪ではあるが、ガリィにお姫様抱っこで抱えられているエルフナインの方が冷静に見える。

 

「あなた達は……炉心に連結されていた廃棄躯体の……。」

「スクラップにスペアボディ?呼び方はいろいろあるけれど、再起動してくれたからには、やれるだけのことはやりますわよ。」

「ガリィ……アンタ……。」

 

 魔法少女事変の時と比べると、至る所に傷などがある。それでもオートスコアラー達は以前から変わらない、マスターに忠誠を尽くす騎士達だ。

 

「マスターのようでマスターでない、少しマスターっぽい誰かだけど、マスターの為に働く事が、私達の使命なんだゾ!」

「裏切り者を助けたのは癪だが……それでもマスターと、マスターを助けようとしたお前の行動に免じて、少しは守ってやる。」

 

 その中で一機、ジークだけは無愛想な口振り。人間嫌いのジークが、人間を守ろうとしている事に輪は唖然とする。

 

「この身に蓄えられた残存メモリーを、エネルギーに利用しようと目論んだようですがそうは参りません。」

「さてマスター、今後の指示を頼む。このまま地味に脱出するもよし。無論、派手に逆襲するも……」

「だったら、やりたいことがあります!」 

 

 エルフナインの強い決意と意思を持った行動。彼女達は心から喜んで従う。マスター、騎士、裏切り者、歪ながらも、再びこの7名が揃った。




輪のファウストローブについて

 アルベルトが作ったラピス・フィロソフィカスのファウストローブの中でも、シンフォギアとファウストローブのハイブリッド型であるそれは、足りない錬金術のエネルギーを補う形でフォニックゲインが必要とするよう開発された。
 輪のファウストローブは、疑似絶唱によって欠損してしまい、その際に翼とクリスのユニゾンにて流動された膨大なフォニックゲインも失われてしまった。
 錬金術のエネルギーが無ければ、鎧として纏う事は出来ないが、膨大なフォニックゲインがなければそれを維持する事さえ出来ない為、チフォージュ・シャトーでは一瞬だけ輝きを発せたが、纏う事が叶わなかった。


 GX編で裏切り者を作った時、これをずっと前から書きたかった。


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復活

チフォージュ・シャトーに乗り込んだは良いものの、何の活躍も見せてない、我らが輪さん。

さあ、立ち上がれ!


 

 突如、本部のモニターに『Emergency Call』の文字が表記された。藤尭が弦十郎にその旨を報告する。

 

「司令!外部より専用回線にアクセスです!」

「専用回線だと……?モニターに回せるか?」

「はい……うわぁはあぁっ!!」

 

 何とモニターが映ると、破壊したはずのガリィとレイアが映っており、その恐ろしさから藤尭が情けない悲鳴を挙げる。だがエルフナインと輪が二体を退けて顔を出した。

 

『待ってオジサン!私達だよ!』

「輪君にエルフナイン君!無事だったのか?!」

『無事……とは言い難いかな?それよりも、時間がないからよく聞いて!』

 

 輪とエルフナインはシャトーの玉座の間にはなかった、恐らくノーブルレッドが持ち出したコンピュータを使って、本部に通信を掛けたのだ。だが輪とエルフナインの表情は穏やかなものではないのが分かる。

 ちなみに動いているだけで消耗が激しいミカは、台座で一度稼働を停止させている。

 

「ここは、チフォージュ・シャトーの中!エルフナインは見つけることが出来たけど、未来がまだ……!だけどここの何処かにいる事は間違いない!」

 

 僅かな吉報に、皆が安堵する。瑠璃とクリスは涙を浮かべている。

 

「じゃあ未来ちゃんもそこに……!」

「ったりめーだぁ!そう信じていたから無茶してきてんだ!あたしらも……あの馬鹿も!」

 

 涙を乱暴に拭うクリス。輪と交代して、エルフナインが通信を行う。

 

『これからオートスコアラー達の助けを借りて、未来さんの救出に向かいます。神そのものへと完成していない今なら、まだ間に合います!』

「君達が?!無茶だ!」

『そう無茶です!だから、応援をお願いします!』

 

 弦十郎の制止を突っぱねるなど、輪はともかく今までのエルフナインでは考えられない事だ。

 たとえ戦う力がなくても、装者達が戦う理由があるように、エルフナインにも戦う理由がある。故にエルフナインの意思は硬い。これには流石の弦十郎もたじろいぐ。 

 このタイミングでミカが再起動、台座から降りた。

 

「ここは敵の只中です!どうしたって危険が伴うのであれば戦うしかありません!輪さんもその覚悟でここに来たはずです!だから、僕も戦います!」 

 

 強く意気込むエルフナイン。要である神殺しのガングニールを持つ響か未だ昏睡状態から回復していない。ラピス・フィロソフィカスの反応パターンも無い事は把握しており、輪がファウストローブを纏えない事も察している。他に打つ手がない以上、エルフナインの案に賭けるしかない。

 

『……こちらも負傷で神殺しを欠いた状態にあるが……。』

「この局面に響さんを……」

『救出に向かうまで、何とか持ちこたえてほしい!頼んだぞ!』

「了解!」

 

 要件を伝え終えたその瞬間に通信を切断する。

 

「マスター、敵襲を確認。」

 

 同時にジークの報告。ノーブルレッドの3人に追いつかれてしまう。

 

「地味に窮地。今度は流石に不意をつけそうにないかと。」

 

 テールアタッチメントの牙が襲いかかるが、ファラとレイアの2人掛かりで食い止める。しかし、二人掛かりだというのにどうも押され気味である。

 

「二人とも!」

「ここは私達に。ガリィにはマスター達のエスコートをお願いするわ」

「任せて。目的地までの道のりは、ここに叩きこんであるから。アンタは自分の足で走りなさいよ?」

「分かってるよ!」

 

 エスコートと言っても、比較的戦える輪を守る余裕がない。とはいえ輪もガリィに守ってもらう気はなく、嫌味ったらしいガリィに言い返す。

 ファラが風の錬金術で、テールアタッチメントを押し返すと、エルザは距離を取って体勢を立て直す。

 

 

「ミカとジークも一緒に!」

「お前達がついていれば、私もファラも憂いがない!」

「元気印の役割は心得てるゾ!」

「お前達に言われずともな。」

 

 ミカはその刺々しい手を元気よく上げながら、ジークはぶっきらぼうに答える。

 

「マスター!今のうちに!」

 

 ガリィがエルフナインの手を取ると、2人は走り出した。その後ろにミカとジーク、輪もついていく。

 

「ごめん……!違う……ありがとう!ファラ!レイア!」

 

 初めてありがとうと言われ、嬉しくなった2人は口角が釣り上がる。

 

「行かせないぜ!っ?!」

 

 ミラアルクがエルフナインを狙おうとするが、それを風の錬金術が阻んだ。そして、ファラフラメンコのステップでがソードブレイカーを、レイアがタップダンスでコインのトンファーを手に構えて、2人は並び立つ。

 

「この道は通行止めです。他を当たっていただきましょう。」

「ああ、行かせるわけにはいかないな。」

 

 祭壇を目指すべくレイア、ファラを除いた5人はエレベーターに乗って、上階へ昇る。マスターを守る為に戦う騎士とはいえ、仲間であるレイアとファラを心配するエルフナイン。

 

「ファラとレイアなら……きっと大丈夫ですよね……?」

 

 エルフナインにそう言われ、2人の表情は芳しくない。輪もその表情から2人の不安を察した。それでもガリィはエルフナインを元気づけるべく、笑顔で振る舞って安心させる。

 

「不足はいろいろありますが、それでも全力を尽くしています。だからマスターも全力で信じてあげてくださいな。」

 

 そうは言うものの、ガリィの立てた指の動きがぎこちないのを、輪は見逃さなかった。残存メモリーが少ないせいで、流暢に動かせない事も察して。

 ただジークの方をちらりと見ると、彼女だけはハルバードを片手に目を閉じていて、表情は一切変えていない。相変わらずだと内心呆れる。

 だが突如、エレベーターが止まったと同時に目を見開いてハルバードを構える。

 

「敵だ。」

「もう追いつかれた?!」

 

 ジークの言うと通り、ミラアルクの豪腕がエレベーターの扉を強引にこじ開けた。ミカがエルフナインを守るように、彼女の前に立って構える。

 

「待たせたなぁ!お仕置きの時間だぜ!」

「ぞなもし!」

 

 ミカが腕を交差させて待ち構えていたが、それごと掴まれて、エレベーターの扉ごと放り出されてしまう。輪が叫んだ。

 

「ミカ!」

「あ〜ん!もうしっちゃかめっちゃか〜!」

 

 このハチャメチャな状態に、ガリィがお手上げの仕草をする。しかし、すぐさまエルフナインの手を掴んで、2人はエレベーターから脱出。輪とジークもエレベーターから飛び降りてガリィ達に続く。

 

「させないぜ!」

 

 エルフナインに襲いかかろうとしたミラアルクだったが、そこにミカが飛び込んできた。押し倒されたミラアルクはミカを退けようと藻掻くが、相手は戦闘特化のミカ。その馬鹿力を前に、押し負けている。

 

「こ、このぉ!」

「マスターを頼んだゾ!そんな楽しい任務ほんとはあたしがしたいけど、この手じゃマスターの手を引くことなんてできないから……残念だゾ。」

「ミカ……。」

「分かってる!あんたの分まで私達に任せて!」

 

 ミカの思いを汲み取ったガリィとジーク。ガリィがエルフナインの手を引いて駆け出す。

 

「ミカ……!だけど、かっこいいです!ミカのその手!大好きです!」

 

 生まれて初めて、この手を褒められた。嬉しくなったミカの口が大きく開いた。だがそれで気が緩んだのかミラアルクの押しのけられてしまうが、ミカは嬉しさでいっぱいだった。

 

「褒められたゾ!照れくさいゾ!」

「廃棄躯体がなめてくれるぜ!」

「こうなったら照れ隠しに邪魔者をぶっ飛ばしちゃうゾ!」 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 気がつけば、オートスコアラーの数が2人まで減ってしまった。マスターを守る為に、僅かな力を全て出し切ってまで戦いぬこうとしている。自分だってエルフナインを助ける為にここに来たはずなのに、しくじるばかりか守られている。

 

「クソが……何やってんだ私は……!」

 

 皆、言葉にしないが分かりきっていた事だ。魔法少女事変の時とは違い、残存メモリーが少ない状態で戦っても、本領どころか半分のスペックすら引き出せない。レイアとファラが、エルザに苦戦している様子を目の当たりにして、それを知ってしまった。その状態で戦った所で勝てる見込みなど万に一つもない。ファウストローブさえ纏えたら、皆助かったはずだと、そう考える。だが

 

「輪さん!」

 

 エルフナインの声で我に返ると、背後から弾丸の雨が降り注いだ。咄嗟に突き出した右の掌からバリアを展開して、全弾防いだ。

 

「あの人の言う通り、フィーネの力を宿していたのね。」

 

 暗闇からヴァネッサが姿を現した。追う立場である故か随分と余裕そうな態度だ。

 

「けど、それを人の身で扱えばどうなるか。」

 

 ヴァネッサはフィーネの力を、輪が使う事によって体力の大半を持っていかれてしまう事を知っていた。輪にとって、咄嗟でもここで使ってしまったのは悪手だった。

 

(ヤバい……こんな所でへばったら……!)

「馬鹿者め……。」

 

 ため息をついたジークが輪を背に、ハルバードを構えてヴァネッサと対峙する。

 

「出水輪。」

「な、何……?」

「死んでも走れ。そして、マスターを守れ。」

「え……?」

 

 ジークが輪の名前を呼んで、後を託した。あの人間嫌いなジークがそんな事をするとは思わなかったのか、立ち上がった輪は意外に思って驚く。

 

「マスター!」

 

 ジークが振り返らないまま、大声で呼び掛けると、ハルバードの石突を床に突いた。

 

「マスターの……勝利を。」 

 

 再びハルバードの石突を床に突いた。ジークは主を守る為に戦い、散る。その前に、主の勝利の願掛けと、最後の別れを告げたのだ。他のオートスコアラーより多くを語らないジーク。たとえ言葉の数は少なくても、その中にあるマスターへの絶対的な忠誠心だ。

 

「ガリィ!行け!」

「言われなくても!行きますよ!マスター!」

「逃さないわよ!」

 

 ガリィがエルフナインを抱えて走り出した。だが、ヴァネッサがそれを見逃してくれるわけもなく、残った左手を高速振動させて手刀へと変える。だがジークのハルバードが目前で振り下ろされる。手刀で防ぐが、ジークがヴァネッサの前に立ちはだかる。

 背後を目配せすると、輪も走り出しており、後ろの憂いがなくなったと安堵していると……

 

「ジーク!」

 

 ガリィに抱えられているエルフナインが大声で叫んだ。 

 

「ボクも頑張るから!絶対に勝つから!だから絶負けないで!!ジーク!!」

 

 初めて応援の言葉を掛けられたジーク。今まで使命を与えられる時にしか言葉を交わさなかった彼女にとって、何ともこそばゆいが、悪い気はしない。嬉しいとは、こういう事なのだろうと気付いた。

 

「ええ……マスターが生きておられる限り、私は負けません。」

「死にぞこないはいい加減に壊れてくれないかしら?」

「虫ケラ以下のくず鉄ごときが……その減らず口ごとバラバラにしてくれる!」

 

 ジークとヴァネッサが同時に走り出し、激突した。

 

「もっと速く走れないの?」

「分かってるよ!」

 

 祭壇の部屋までもうすぐだというのに、フィーネの力を使ってしまった影響で走る速度が低下してしまっている。それでも何とか死ぬ気で走っている。そして、目的地が見えてきた。

 

「あそこです!」

「あの先に未来が……っ!」

 

 希望が見えてきたその刹那、輪の脇を掠めた飛来物。

 

「ガリィ!」

 

 狙いは最後に残ったオートスコアラーであるガリィだと気が付いた輪が叫ぶと、ガリィは抱えていたエルフナインを放り投げた。

 

「何を?!」

 

 投げ出されたエルフナインが叫んだ時、ガリィは既に飛来物の正体、ヴァネッサのロケットパンチが腹部に刺さると内部機構が砕ける音と共に吹き飛ばされた。

 

「「ガリィ!!」」

 

 エルフナインと輪がガリィに駆け寄ると同時に、ノーブルレッドの3人に追いつかれてしまった。

 

 マスターを守る為に残ったオートスコアラー達はレイア、ファラ、ミカ、ジークは破壊されてしまった。そして最後に残ったガリィも倒されてしまった。エルフナインがガリィを抱き上げる。

 

「ガリィ……僕を守るために……。」

「いやですよマスター……性根の腐った私が、そんなことするはずないじゃないですかぁ……。」

 

 気丈に振る舞おうとしても、その声は弱々しかった。

 

「もっと凛としてくださいまし。私達のマスターはいつだって、そうだったじゃないですか……。」 

「キャロルは……。」

 

 エルフナインの目から涙が零れ落ちた。

 

「あんたも……自分を責めるんじゃないわよ……。」

「え……?」

「あの時のあんたは気に入らなかったけど……最後まで戦うあんたの事、少し見直したんだからね……。」

「ガリィ……。」

 

 あの時の輪とオートスコアラー達とは雇い主と裏切り者、ただそれだけの関係だった。だが今は、最早そんな薄っぺらい関係ではない。ガリィはそれを伝えようとしてくれた。

 だがそんな茶番劇に付き合ってられないヴァネッサは、ガリィの身体を蹴り飛ばした。宙を舞い、床へと叩きつけられてしまったガリィに、輪が叫んだ。

 

「ガリィ!」

「手に余るから、足で失礼しちゃいます。」

 

 ロケットパンチを放った左手を回収し、装着したヴァネッサ。仲間をやられた輪は、怒りを抑えられなくなり……

 

「このクソ女ぁ!!」

 

 怒りと悲しみに任せて殴りかかるが軽々と避けられ、鳩尾に蹴りを入れ込まれた。ヒールが深々と刺さり、輪は呼吸が出来なくなってしまう。さらにミラアルクの豪腕に首根っこを掴まれ、放り投げられると床へと叩きつけられた。

 

「輪さん!!」

「手間を取らせやがるぜ。」

「皆は僕の為に……。」

「だけど、それもここまでであります!」

 

 輪までもが倒され、エルフナインを守る者は誰もいなくなってしまう。ヴァネッサ達は先にエルフナインを抹殺するべく、ファウストローブを纏えない輪を後回しにする。

 

「じゃあ僕はみんなの為に何を……。」 

「あなたに出来る事は……最早一つ!」

 

 跳躍したヴァネッサの右足が変形、槍のように形を変えると電撃を纏い、そのまま急降下、飛び蹴りを繰り出した。

 

「皆の為に僕は!!」

 

 涙を流して叫んだエルフナインが右手を突き出した。

 

 

 ガキイイィィン!!

 

 

「何なの?!」

 

 戦闘能力の無いエルフナインが、右手から錬金術のバリアを展開した。確実に直撃したと思われた一撃を防がれ、弾き飛ばされたヴァネッサは驚愕した。

 

「エルフ……ナイン……?」

 

 意識を失っていた輪が目を覚ますと、エルフナインがヴァネッサの一撃を防いでいた事に何が起こっているのか、ヴァネッサ達と同じ反応をしている。

 

 さらにエルフナインは左手で錬金術の陣出した。その紫色のハープを出した。それを手に取ると、その弦を弾いて妖しい音色を奏でた。

 

「あれって……!」 

 

 輪にとって、いやS.O.N.G.の者ならば、それは忘れようにも忘れられない聖遺物。身に纏っていた衣服が分解されると、ハープが変形し、伸長した弦がアンダースーツ、アーマーを形成した。そして、四大元素の色と同じ結晶が帽子に象られ、背後にはトポス・フィールドの陣が展開される。

 

「それですよマスター……あたし達が欲しかったのは……」 

 

 主人の覚醒を見届けたガリィが、完全に機能を停止した。

 

「この土壇場で……出鱈目な奇跡を……!」 

「奇跡だと……?」

 

 奇跡、それを忌み嫌う少女が、その声色で、高らかに否定する。

 

「冗談じゃない……オレは奇跡の殺戮者だ!!」

 

 その少女の名はキャロル・マールス・ディーンハイム。たった一人で装者達と刃を交え、世界を解剖しようとした錬金術師。その少女が復活した。




残存メモリーが少ない為、トポス・フィールドは使えません。特にジークは他の4機より残存メモリーが少なかった為、ヴァネッサに容易く敗れてしまいました。

ですが、ジークにとってそれは敗北とは思っていません。むしろ、勝利へと近づけてくれました。

ありがとう、ジーク。


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奇跡の殺戮者と裏切り者

キャロルが復活!そして輪もいよいよ……?


 ノーブルレッドの3人は戦慄していた。目の前にいた無力な少女、エルフナインがいたはずだった。それが、キャロル・マールス・ディーンハイムとなって、ダウルダブラのファウストローブを纏い、立っている。姿は幼き少女のままであるが、相手はたった一人で世界を壊そうとした最強の錬金術師。外見だけで判断は出来ない。

 復活したキャロルはノーブルレッドに目もくれずに歩き出した。その先には倒れ伏している輪がいた。眼前まで歩み寄られると、輪は顔を上げた。

 

「立て。」

「あんた……本当にキャロルなの……?」

  

 自身を見下ろしているのが本当にキャロルなのか、俄には信じ難かった。だが目つき、口調、佇まい、ダウルダブラのファウストローブ、それらがまさにキャロルであるという事を証拠付けている。

 

「力を貸してやると言っている。死にたくなければ、立て。」

 

 キャロルの手が輪に差し伸べられる。恐る恐る輪はその手を掴んだ。すると、ラピス・フィロソフィカスのペンダントが輝きを発し、熱を帯びているのに気付いた。

 

「これって……!」

「これでお前も本領を発揮出来るだろう。」

 

 つまり、ファウストローブを纏えるという事だ。キャロルは一人で70億の絶唱を凌駕するフォニックゲインの持ち主。そのフォニックゲインが流動出来れば、ファウストローブを纏う事が可能になる。

 それに気が付いた輪は小さく頷き、思いを重ねた。その思いと呼応するように、輝きが強くなった。 

 着ていた衣服が分解され、緋色のインナースーツと四肢のアーマー、手首のアーマーにリングの装飾が形成され、長い髪はポニーテールに結ばれている。光が弱まり、その姿がハッキリと現れた。

 

「ラピス・フィロソフィカスのファウストローブ……?!」

 

 フォニックゲインが無ければ纏えないと思われていた、輪の持つラピス・フィロソフィカスのファウストローブ。しかも必要なフォニックゲインは膨大とされていたが、それがたった一人のフォニックゲインで、いとも容易く纏うことが出来た。こればかりは予想外だった。

 

 本部ではチフォージュ・シャトーから放たれた高エネルギー反応をキャッチしていた。その正体に、オペレーター陣は驚愕を隠しきれていない。

 

「チフォージュ・シャトー内部にて、新たなるエネルギーを2つ検知!」

「これは……アウフヴァッヘン波形?!」

「ダウルダブラとラピス・フィロソフィカス……だとぉ?!」

 

 弦十郎も驚愕している。ダウルダブラは、キャロルの敗北とともに失われたはずだった。それが再び現れたのだ。

 

「キャロル……あんた……。キャロル……?」

 

 ファウストローブを纏った輪は、キャロルの反応がない事に不審に思い、その顔を覗いた。その表情は、思い更けているようだった。

 

(思えば……不要無用と切り捨ててきたものに救われてばかりだな……。)

 

 キャロルの脳裏には廃棄躯体で残存メモリーが極僅かでまともに戦えないにも関わらず、自分を守る為に最後まで戦い、散っていった。全てはマスターの勝利を願って。

 

「ありが……」

「似合わない事に浸らせないぜ!」

 

 キャロルがオートスコアラー達を偲んでいる所をミラアルクの豪腕が横槍を入れた。だがそれは、輪のガントレットが阻止した。

 

「空気の読みなよ、バーカァ!」

 

 押し返されたミラアルクは、宙返りをして後退した。立て続けに、エルザのテールアタッチメントの牙がキャロルを襲った。だが、錬金術のバリアがいとも容易く防いだ。

 

「声音を模したわけでなく、あれは……」

「再誕したキャロルでありますか?!」

 

 その力が本物であると、3人は確信した。キャロルは自身の感傷に土足で踏み入れられた事で、怒りがこみ上げている。

 

「オレの感傷に踏み込んで来たのだ。それなりの覚悟はあってだろうな?」

 

 泣いて詫びようが許さない。遠回しにそう宣告している。だが3人はそんな事など知った事ではない。エルザとミラアルクが左右に駆け出し、中央にいたヴァネッサの指からマシンガンの弾丸が放たれる。だがキャロルはそれを錬金術のバリアでいとも容易く防いでいる。

 

「任せたぞ。」

 

 弾丸を防ぎながら、背後の輪を見てそう言った。響達をたった一人で追い詰めたキャロルが、今更この3人に遅れは取らないだろうが、味方がいる事に越した事はない。

 輪は小さく頷いて、リングの装飾だった2つのチャクラムを形成、襲い掛かるミラアルクの豪腕を捌いて回し蹴りで後退させる。

 

「調子に乗るんじゃないぜ!」

 

 両足にカイロプテラを纏い、飛び蹴りを放つ。輪はチャクラムに雷電を纏ってそれを突き出して迎え撃った。

 

【雷光・フォトンブラスト】

 

 エネルギーをそのままぶつけている為、その爆発的な威力の前に弾かれてしまう。だががら空きとなったキャロルの背後をエルザのテールアタッチメントの牙が襲う。だがキャロルはそれを見向きもせずに、ハープの弦で防ぎ、その反発によって弾き返される。

 

「バレルフルオープン! お姉ちゃんも出し惜しみしてらんなあぁーーい!!」

 

 ヴァネッサの体中に搭載された全ての砲門から大量のミサイルを放った。大小問わず、ミサイル全弾キャロルと輪に向かう。

 

「ヤバっ……」

「狼狽えるな。」

 

 輪の前に立っているキャロルは避けようともしなかった結果、ミサイル全弾直撃した。それを目の当たりにしたミラアルクが仕留めたと確信してガッツポーズを取る。

 

「やったぜ!」

「まだ歌が聴こえるでありますよ!」

 

 だがエルザの言う通り、キャロルの歌は途切れていない。爆炎と黒煙が晴れると、キャロルが多方向に錬金術のバリアを展開していた。しかもキャロルと輪は無傷。

 

「凄っ……。」

 

 大量展開されているバリアを見て、輪はそう呟いた。輪にはこんな芸当は出来ない。キャロルの強さを再び目の当たりにして、再確認した。

 そして、バリアを解除したキャロルは四大元素の錬金術を一斉に放った。その威力はシャトーの床を抉る程の凄まじいものである。

 

「同時階差に四大元素(アリストテレス)を?!」

 

 パヴァリア光明結社の幹部ですらこんな事は出来ない。それをキャロルはたった一人で、この威力を放ったのだ。四大元素の錬金術がそのまま3人に襲い掛かる。3人は身を寄せ合って、エルザのテールアタッチメントで何とかやり過ごすが、全くの無傷というわけではない。あまりにも強大な威力が、その身に伝わる。

 

「流石……たった一人で世界と敵対しただけのことはあります……!」 

 

 だが今度は輪の2つのチャクラムが、炎を纏って投擲される。

 

【緋炎・メテオシュート】

 

 エルザのテールアタッチメントがそれらを打ち返そうとするが、それがチャクラムと接触した瞬間、エネルギーの光が漏れ出した。マズいと悟った3人はすぐさまその場を離れ、特にエルザはテールアタッチメントを解除して離れる。その瞬間、チャクラムは大爆発を起こした。

 パヴァリア光明結社との戦いの時より、輪の技の威力が底上げされている。というのも、あの時は翼とクリスのユニゾンによって引き上げられたフォニックゲインを使用していたが、今回はキャロルのフォニックゲインを使っている。キャロルのフォニックゲインは1人で70億の絶唱を凌駕するものであれば、その威力も段違い。その証拠に先程の爆発で、壁に穴が空き、真上の天井の瓦礫が落ちてしまっている。

 

 シャトーの内部で一体何が起きているのか一切把握出来ていないS.O.N.G.の本部。少しでも解析して、手掛かりを得ようとしている。

 

「状況の確認、急いでください!」

「そんなことよか、さっさとあたしらが直接乗り込んで……」

「分かっている!だが無策のままに仕掛けていい相手ではない!」

「とはいえだなぁ……!」

 

 シャトーに乗り込むにはあの繭をどうにかしなければならない。だが響を欠いた状態でそれを倒すのは不可能。弦十郎の言う通り、打開策も無しに勝てる相手ではない。

 

 このままでは埒が明かないと、ノーブルレッドの3人は分散してキャロルと輪を討ち取ろうするが、チャクラムをメリケンサックのように持ち替えた輪が、床に殴りつける。

 

 【暴拳・ヴォルガニッククラッシャー】

 

 そこから巨大な火柱が上がり、エルザとミラアルクの目前に壁となってその進路を塞いだ。ヴァネッサも、ダウルダブラの弦が迫り、それを回避するが、3人は火柱と弦に囲まれてしまう。

 それを見逃さないキャロルは背部のユニットを展開、頭上に重量子のエネルギーを集約させて、強大な球体を形成した。

 

「まさか……超重力子の塊を……?!」

 

 それをキャロルは容赦なく振り下ろした。暴力的とも言えるその威力をまともに食らえば、3人に死は免れない。

 

「逃げて!!」

 

 3人は逃げおおせたが、爆発の余波で大きく吹き飛ばされてしまう。キャロルが背部のユニットを閉じていると、輪は戦いによって陥没した壁と空いた床の穴を見て、苦笑いしている。

 

「相変わらず……出鱈目だなぁ……。」

 

 とはいえ、一部は輪がやったものである。だがキャロルはこれでも満足な結果とは言い難いらしい。

 

「破壊力が仇に……だが逃がすものか!」

「あ、ちょっと……!」

『キャロル!待ってください!』

「ん?」

 

 トドメを刺すべく追おうとするが、エルフナインがそれを引き留めた。

 

『今は彼女達を追うよりも、未来さんを救出するのが先です!』

「ちっ……正論を……。だが聞いてやる。」 

『あ、あと!』

「何だまだあるのか?!」

(誰と喋ってるんだろう……?)

 

 キャロルは思念体となっているエルフナインと会話しているのだが、輪にはその姿が見えていない。故に輪にはキャロルが1人でぶつぶつと話しているようにしか見えない。

 

『キャロルには感謝しないと。おかげで助かりました。』

「こ、この体は俺の物だ!お前を助けたわけではない。礼など不要!」

 

 とはいえキャロルは分かりやすく狼狽えている。父を亡くしてから1人、命題を果たすために生きてきたキャロルは、誰から感謝される事なく生きてきた。慣れない事に恥ずかしがっているのだ。

 

「それでも……あいつ等には手向けてやってくれないか?きっとそれは、悪党が口にするには不似合いな言葉だ。」

 

 ガリィの亡骸を見て、エルフナインに頼んだ。これまで数え切れない罪と悪行を重ねた者に誰かを慈しむ資格はない。そう考えての事なのだろうが、その考えを不服とする輪が、キャロルの背中を強く叩いた。こちらを呆れて見ている輪の方を驚きの形相で向く。

 

「あんたも馬鹿だねぇ。」

「馬鹿とは何だ貴様?!裏切り者の分際で!」

「裏切り者だから、だよ。」

 

 すると、輪はガリィの骸の方を向く。

 

「あん時、『ありがとう』って……言いかけてたよね?」

 

 ミラアルクの妨害で最後まで言えなかったが、確かに彼女達に礼を言おうとしてた。エルフナインとキャロルを守る為に散っていった彼女達の為にも、主の手で最後まで手向けてやりたい。それが裏切り者だった輪にとっての手向けだ。

 

「最後くらい、自分の口から直接言いなよ。」

『輪さん……。』

「分かった……。」

 

 輪に背中を押されたキャロル。彼女は天を仰ぐように見上げて……

 

「レイア……ファラ……ミカ……ジーク……。」

 

 そして最後にガリィの方を見る。

 

「ガリィ……。ありがとう……。」

 

 主を守り抜いた名誉ある騎士達への手向け。きっと彼女達は喜んでくれるだろう。エルフナインも、ニッコリと笑みを浮かべると、しばしの間、黙祷を捧げる。

 

「さて。皆の為にも、未来を助けなきゃだね。」

「オレの手助けを借りて、ファウストローブをようやく纏えたお前が何故仕切っている?」

「良いじゃんこれくらい!ほら、行くよ!」

 

 輪が先行して、未来が安置されている祭壇の部屋へと走る。キャロルも輪の奔放さに呆れながらも向かった。

 




おまけ

ファラ「マスターとあの方が手を組まれるとは。」

レイア「だがこれまでにない、派手な戦いだったな。」

ミカ「あいつもやれば出来るんだゾ!」

ジーク「マスターがおられるなら、勝利は揺るがん。」

レイア「ん?そういえばガリィは何処に行った?」

ミカ「さっき二人の写真を撮ってデコレーションするって出て行ったゾ。」

性根が腐っている!!


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闘志

お久しぶりです。

長い間投稿を空けてしまい申し訳ありませんでした。

理由としては今後の展開を考えている内に、何故か鬼滅に熱が入ってしまい、そっちに浮気して新作を書いていました。

その為、未来とセレナの誕生日までに間に合わず……

しかし、20日はシンフォギアライブという事で最後まで描き遂げようと改めて決意して、投稿します。
どうか最後までよろしくお願いします。


 チフォージュ・シャトーで何が起きているのか、何一つ把握できないまま混乱を極めたS.O.N.G.本部だったが、ようやくそれも落ち着き、いつでも出撃が出来るよう準備だけは整えてある。

 だが肝心な作戦が立案出来ておらず、まだ出撃とまでは行かない。いつ復活するか分からないアヌンナキを前に、装者の中には焦る者も出始めている。

 そこに、再び外部の専用回線から通信が入った。応答すると、モニターにはダウルダブラのファウストローブを纏ったエルフナイン、もといキャロルとラピス・フィロソフィカスのファウストローブを纏った輪が映っていた。

 

『やっほーオジサン!』

「無事だったか!それと……エルフナイン君……いや……君は……。」

『久しいな……。とは言っても俺はお前達の事は見ていたがな。』

 

 エルフナインに身体を譲渡した時、キャロルの人格は消えたものだと思われていた。だがこうしてダウルダブラのファウストローブを纏っている辺り、会話をしているのは本当にキャロルなのだと再認識する。

 

「本当に……キャロル・マールス・ディーンハイムなのか?一体、どうやって……。」

『脳内ストレージをおかしな機械で観測してた奴がいてだな。そいつが拾い集めた思い出の断片を、コピペの繰り返しで、強度ある疑似人格と錬金術的に再構築しただけだ。』

「だけ……なんだ……。」

「コピペ……。最先端な錬金術デスね……。」

 

 エルフナインのラボにあるダイレクトフィードバックシステムを用いて、脳領域にて僅かに残されたキャロルの思い出を拾い集めて再構築したのだ。

 しかし、理解が追いついていない調と切歌は苦笑いするしかない。

 

『だけど、その強さは本物だよ。あの3人を相手に、キャロルは一歩も動いてなかった。』

 

 装者達ですら苦戦したノーブルレッドとの戦闘、輪は駆けていたのに対し、キャロルは一歩も動かずに3人を追い詰めていた。それがキャロルの強さに拍車をかける。

 だがキャロルが表立っているということは、エルフナインは今どうなっているのかが気掛かりだ。弦十郎がそれについて問う。

 

「エルフナイン君はどうなっている?」

『安心しろ。今の主人格はこの俺だが、必要であればあいつに譲ることは不可能ではない。エルフナインたっての頼みだ。脱出までの駄賃に小日向未来を奪還する。その為にお前達の暇そうな手を貸してもらうぞ。』 

「その物言いに物言いなのだが……」

「お、お姉ちゃんってば……!あのキャロルちゃんが手を貸してくれるなら、こんなに心強い事はないよ!」

「分かっている……。」

 

 キャロルの相変わらずの態度に、翼は噛み付くが瑠璃が何とか宥める。しかし、あのキャロルが味方になってくれるのであれば、どれ程心強い事か。

 だがキャロルが何を考えているのかは分からない。マリアがキャロルに尋ねる。

 

「私達に手伝えることなの?」

 

 すると、キャロルは錬金術を用いてシャトーの外を映し出している。そこには例の繭が映っている。

 

『このデカブツを破壊してもらう。』 

「それが出来ればあたしらも……」

『出来る。』

 

 あの繭をどうやって倒せばいいか、手をこまねいているというのに、繭を破壊しろと言われてクリスが反論しようとするが、キャロルはそれが可能であると断言した。

 

「ここはチフォージュ・シャトー。その気になれば世界だって解剖可能なワールドデストラクターだ。」

(確かに僕は聞きました!)

 

 あの時、既に目覚めていたエルフナインはヴァネッサの会話を盗み聞きしていた。

 

(神の力を神そのものへと完成するまでには、もうしばらくの時間が必要……。)

 

 まだアヌンナキの降臨には時を要する。その間にあの繭を破壊して未来を奪還すれば、神の力は依代を失う。

 

「残された猶予に全てを懸ける必要がある。お前達は神の力、シェム・ハの破壊を。そして俺たちは、力の器たる依代の少女を救い出す。二段に構えるぞ!」

 

 かつて敵同士だったS.O.N.G.とキャロルの共同戦線が、ここに結ばれた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 キャロルと輪の戦いに敗れたノーブルレッドは、何とか逃げおおせたが、満身創痍に加えて、3人ともパナケイア流体が濁った事によって、頬にはドス黒い血管が浮かび上がっている。

 ヴァネッサは玉座の間に置かれているコンピュータで雇い主である風鳴訃堂と通信している。ヴァネッサの風貌を見て、敵にしてやられたのだとすぐに悟られた。

 

『儚きかな。』

「平らかにお願いしますわ……。多少の想定外があったとはいえ、顕現の力は順調……。言うなれば、ここが正念場です……!全霊にて邪魔者を排除してみせましょう!」

 

 ヴァネッサは強く意気込むが、相手にはあのキャロルと、キャロルのフォニックゲインでファウストローブを纏う輪がいる。

 輪を侮っているわけではないが、それを大幅に上回る強さを持つキャロルがいては簡単に事は運ばない。だがそんな事など訃堂からすれば関係ない。

 

『無論である。その為にお前たちには稀血を用意してきたのだ。』

「心得ております。ですから何卒、神の力の入手の暁には私達の望みである人間の……」

 

 ヴァネッサの意思を無視するかのように通信が一方的に切られてしまう。そんな訃堂にヴァネッサが悪態をつく。

 

「クソジジイめ……!」

「こうなったら、やってやるであります!」

「ああ!うちらだって正面突破できること、見せつけてやるぜ!」

 

 とはいえ、輪はともかくあのキャロルが相手では、3人掛かりでまともにやりあっても勝ち目はない。こうなれば、打つ手は一つしかない。ミラアルクは残った全血清剤を取り出した。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 祭壇の部屋ではキャロルがコンピュータのコンソールをタッチして、儀式の解析を行う。完了すると、錬金術を用いて外部の繭を見ている。隣で、祭壇に安置されている未来を輪が見ている。力を温存する為にファウストローブを解除している。

 

「どうやら城外の不細工は巨大なエネルギーの塊であり、そいつをこの依代に宿す事が儀式のあらましのようだな。」

(祭壇から無理に引き剥がしてしまうと、未来さんを壊してしまいかねません……。)

「面倒だが、手順に沿って儀式を中断させる他になさそうだ。」

 

 キャロルの身体の中に内在するエルフナインの意識と会話し、儀式を止める手立てを考えている間、輪は気になる事があり、それがどうしても頭から離れられなかった。

 うずうずとしている輪に、キャロルが苛立つように問う。

 

「さっきからどうした?」

「いや、気になることがあってさ。」

「気になる事だと?」

「アルベルトって奴、ノーブルレッドを操っているのなら、何で私達を邪魔しに来ないのかなって。」

「知ったことでは無い。来なければそれで好都合というものだ。あいつの人を嘲笑うような面、今思い出すだけでも虫唾が走る。」

 

 かつてキャロルは世界の解剖を企み、チフォージュ・シャトーを建設していたが、それを裏から支援していたのがパヴァリア光明結社。

 その遣いとしてアルベルトと何度も会っていたのだが、キャロルは彼女の事が気に入らなかった。だがそれだけあり、それ以外は何の関わりもない為、だからどうでもいいのだ。

 だがアルベルトと何度も戦っている輪はそうはいかない。彼女は何度もS.O.N.G.に対して奸計を施し、翻弄してきた、因縁の敵。

 しかもパヴァリアにいた時と同様、神の力を得ようと暗躍しているのだが、今まさに自分達が神の力の降臨を阻止しようとしているにも関わらず、アルベルトはいつまでも出てこないというのが、輪は不自然に感じている。

 

「私達がこうして阻止しに来てるのに、全く姿を現さないなんて……。アイツが何を目的に、何に従って行動しているのか……。まさか、また瑠璃に神の力を……?だったらなおさら……」

「おい。考え事よりやる事があるぞ。」

 

 キャロルが錬金術を用いて作ったモニター。そこには祭壇部屋に向かうノーブルレッドの姿があった。

 

「あいつらまた……!」

「想定よりも早い。このタイミングで奴らに邪魔されては面倒だ。とはいえ、オレはここから離れられない。」

 

 つまりノーブルレッドを足止めしろということだ。最初からそう言えばいいのにと、輪はやや呆れ気味にキャロルを見てやるが、同時に任せろと自身の胸をトントンと叩く。

 スペルキャスターであるネックレスを握りしめると、輪はファウストローブを身に纏う。

 

「ならこっちは任せて。だからアンタは未来を。」

「愚問だ。」

 

 輪はキャロルに未来を託して祭壇部屋から出て行く。

 

「アイツと話していると、どうにも調子が狂うな。」

(輪さんは響さんみたいに真っ直ぐで、情熱がありますからね!)

「熱を込めて言うな。」

 

 とはいえ、キャロルも満更ではない様子。何だかんだで裏切り者としてではなく、一人の人間として輪を認めているようだ。

 

 

 祭壇の部屋から輪が出ると扉が閉まる。

 

 スペルキャスターのネックレスを握り締め、深紅のファウストローブを身に纏う。両腕のリングの装飾が解除、チャクラムへと変形させてそれを手に持った。

 

 その途端にノーブルレッドの3人が現れる。

 

「そこを退きなさい。」

「嫌だ。アンタ達に退けと言われて退く筋合いはない。それに……」

 

 チャクラムを握り締める手が強くなる。

 

「アンタ達は小夜姉の仇だ。だから、アンタ達を生かして返さない!ここで始末してやる!」

 

 復讐の憤怒が、炎のごとく燃え上がる。

 

「ハァッ!やれるもんならやってみせなよ!敵に力を借りてやっと戦えるお前に、ウチらを止められるわけがないんだぜ!」

「返り討ちにして、キャロルを引きずり出すであります!」

 

 ミラアルクとエルザが駆け出すと同時に、輪も走り出した。




おまけ 記者会見

カメラのフラッシュが炊く音

レーラ「えーこの作品をお読みになっておられる皆様。お集まりいただき、誠にありがとうございます。この度は、夜空に煌めく星の投稿期間が空いた事について、ここに深くお詫び申し上げます。えー……投稿が空いてしまい、申し訳ありませんでした!」

パシャッパシャッ

クリス「あのー質問いいっすかー?」
レーラ「はいどうぞ。」
クリス「まず、今回の自体に至った経緯を……」

レーラ「うわあああああぁぁぁーーん!!」
クリス「何も聞いてねえのに泣くの早ええよ!!つーかこれ見た事あるぞ?!」

 私はぁ!投稿期間が空いたにも関わらず!長い間待っていただいただけでなくぅ!ご感想と評価ぁ!お気に入り登録していただいた皆様にはぁ!本当に……感謝の気持ちでぇ……いっぱいでへぇあああぁぁぁーーん!!

まだぁ、R-18版すら作れておらずぅ!ストーリーは頭の中にあるにも関わらずぅ!それを文章に書き記すのが難しく難航してぇ!文字通り……命懸けでぇへぁはぁはああぁーーん!!

クリスさぁん!鬼滅のストーリーを描いて何が分かるんでしょうか!

クリス「言ってる事が滅茶苦茶だぞ?!っていうかこれ大丈夫か?!消されねえか?!」

 ですからぁ!私はぁ!モチベ低下に負けずぅ!リアルに負けずぅ!好きなものを描き続けるぅ!そんな人に私はなりたいんですぅ!!

はい、と言うわけで……鬼滅の「花鳥風月の少女達」もよろしくお願いします。

クリス「どさくさに紛れて宣伝すんなぁ!!」


 皆さん、長い間投稿が空いてしまい、本当に申し訳ありませんでした。


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真の降臨

シンフォギアライブ、行ってきました。

フォニックゲインの昂りは人生最高潮でした!!

この衝動のまま、描きました!!

やはりシンフォギアは……最高です!!


 祭壇に安置された未来を救う為にキャロルと手を組んだ輪は、1人でノーブルレッド3人を相手に立ちはだかる。

 ヴァネッサの指先から放たれた弾丸の嵐が輪を襲うが、ヴァネッサに向かって輪の周囲に浮遊させたチャクラムが輪を守るように高速回転。刃が弾丸を跳ね返し、側面を突くべく駆け出したミラアルクとエルザの足元に着弾させて足止めをする。

 

「食らえぇっ!」

(けど、ただ突っ込んで来るだけで大したものではない!)

 

 そのまま輪周囲に高速回転させたままのチャージタックルを繰り出す。だがただのタックルであれば、態々正面から待ち受ける必要はなく、跳躍して避ける。そのまま突っ込んで来くれば、部屋の前はガラ空き。さらに弾丸の雨が止んだ事でミラアルクとエルザの足止めも消え失せる。

 その隙に祭壇の部屋へと突入する……

 

「折り込み済み!」

「何ですって?!」

 

 だが輪はチャクラムを手にすぐさま踵を返した。さらに氷を纏ったチャクラムをミラアルクとエルザに投擲する。

 

「お前の技は読みきってるぜ!」

 

 輪の技は搦手のない、愚直なまでに真っ直ぐな攻撃しか持ち合わせていない。輪との戦いを見通していたミラアルクとエルザは跳躍して簡単に避けられる。

 

 が、輪は不敵な笑みを浮かべる。

 

 避けられたチャクラム同士が衝突し合うと、その中心から雷が周囲に放たれる。

 

【氷爆・アブソルートボム】

 

 これにはミラアルクとエルザも反応出来ず、雷撃をまともに浴びた事で悲鳴を挙げる。

 

「ミラアルクちゃん!エルザちゃん!っ……!」

 

 2人がやられた事に動揺してしまった隙に、いつの間にか輪がヴァネッサの懐に入っていた。

 

「止まらなぁい!!」

 

 怒りと雄叫びと共にヴァネッサの腹にボディブローを叩き込んだ。

 

「がぁっ!」 

「地獄で懺悔しろおぉ!!」

 

 だがそのまま壁まで叩き付け、そのまま拳圧を壁が陥没する威力でねじ込んだ。

 

「「ヴァネッサ!」」

 

 倒されたヴァネッサを救援すべくミラアルクとエルザが跳躍して同時に攻撃を仕掛けるが、何と輪は壁を蹴って跳躍、接近してきた2人を足場にさらに高く飛んで着地した。

 

「こいつ……!」

「私ね、凄くキレてんの。小夜姉の命を奪って、オートスコアラーの皆を殺したアンタ達をぶっ倒したくて仕方がない。」

 

 手元に戻ったチャクラムを強く握るその手から、怒りが強く表れている。

 だがそこに、輪の脳裏にかつて自分達を迫害した者達のみならず、気に入らない者をただ力でねじ伏せた愚かな自分の記憶が蘇る。

 

「だけど、今の私は怒りに任せてぶん殴る、あの時の馬鹿野郎じゃない。仲間を、友達を助ける為に、私はアンタ達を倒す!」

 

 今の輪には守るべき友や仲間がいる。これ以上この手から零れ落ちていかぬよう、輪の闘志は燃え上がる。

 

「さあ、かかって来い!!」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 時を同じくして響を除いた装者達がギアを纏った状態でヘリから降下、チフォージュ・シャトーへと降り立った。キャロルが考案した作戦に従い、行動をする。

 

 作戦はこうだ。 

 

『古来より人は、世界の在り方に神を感じ、しばしば両者を同一のものと奉ってきた。その概念にメスを入れるチフォージュ・シャトーであれば攻略も可能だ』

「これも一種の哲学兵装……。ですが今のシャトーにそれだけの機能と出力を賄う事は……」 

『無理であろうな。』

 

 キャロルはあっさりと言い切った。だが方法が無いわけではない。

 

『だが、チフォージュ・シャトーは様々な聖遺物が複合するメガストラクチャー。であれば他に動かす手段は想像に難くなかろう』 

「フォニックゲイン……。」

 

 弦十郎がその答えを呟く。

 

『想定外の運用故に、動作の保証はできかねるが……』

「やれる……やって見せる!」

「あの頃より強くなった私達を見せつけてやるデスよ!」

  

 成功の保証はない危険な賭けではあるが、可能性に希望を見出した事で、調と切歌が勇む。

 

 そして今、シェム・ハの繭と対峙する6人。クリスが厄介そうに言う。

 

「それでもこれだけ巨大な聖遺物の起動となると、6人がかりでも骨が折れそうだ」

「それに、今は響ちゃんがいない。バイデントで掛け合わせたとしても、どこまで引き上げられるか……」

 

 唯一フォニックゲインを束ねて重ね合わせられる響がいない。その不安要素を瑠璃が危惧するが、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 

「ああ。だが私達には、命の危険と引き換えにフォニックゲインを引き上げる術がある」

「絶唱がある」

 

 翼とマリアがその答えに頷く。しかし、絶唱はフォニックゲインを急速に高める代わりにその負荷は凄まじいもの。響がいない今、多大なバックファイアによるダメージは免れない。

 

 さらに、フォニックゲインを掛け合わせて調律させる瑠璃には、その分の消耗が激しく他の5人より負荷が倍となって襲い掛かる。

 もし瑠璃が途中で倒れてしまったら、その分の負荷が他の5人にも降りかかり、繭による防衛機能が襲い掛かる。そうなれば太刀打ち出来ずに全滅する。

 つまり事実上、チャンスは一度きりという事になる。

 

「私なら大丈夫。やろう!」

「ああ。行くぞ!」 

 

 6人全員が覚悟を決めて作戦を開始する。

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el baral zizzl…… 

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl……

 

 6人による絶唱が夜空に響く。急激に上昇したフォニックゲインが虹色のフィールドを形成して包み込むと同時に、6人にバックファイアが襲い掛かる。

 

「上昇した適合係数が……バックファイアを軽減してくれているが……!」

「それでも長くは持たないわよ!」

 

 だがそれでもチフォージュ・シャトーは起動はおろか、反応すら見られない。

 

「駄目……!このままじゃまだ……足りない……!」 

「何故……何故反応しないチフォージュ・シャトー……?!私達の最大出力を……瑠璃が掛け合わせたにも関わらず……応えるに能わずとでも言うのか……?!」

 

 このままではシャトーが起動する前に、瑠璃が先に倒れてしまう。

 キャロルもその様子をモニターで見ていた。

 

「連中のフォニックゲインが俺程でなくとも、仲間と相乗することで膨れ上がるはず……。だのになぜ二人が欠けているだけで……っ!」

 

 背後の扉越しに爆発の音が聞こえ、振り返った。どうやら輪の形勢が不利になったようだ。

 

 何とか数の不利を機転を利かせることによって立ち回って抑え込んできたが、それも限界が訪れたようだ。

 

「こうなれば、オレも出るしかないようだな。」

 

 ミラアルクのカイロプテラによる剛腕を、チャクラムで叩きつけた床から放たれた火柱で防いだ。

 だがヴァネッサの四肢から発射されたミサイルが放たれた。反応が間に合わず、咄嗟に左手を翳した事でフィーネのバリアを展開。辛うじて防いだが、体力の消耗でダメージを受けたわけでもないが、膝をついてしまう。

 

「マズったな……これ……。」

 

 形勢不利を悟った輪だったが、その直後に祭壇の部屋から出て、ノーブルレッドの前にその姿を現した。

 

「キャロル……!アンタ……どうして……」

「その様では救いの手を拒めまい。」 

 

 一度でもフィーネの力を使えば、体力を殆ど残さない。まだファウストローブを纏うだけの錬金術の力が残っても、本人の体力が無ければ戦えない。

 

 キャロルが輪を背に、ノーブルレッドと相対する。

 

「オレの背中でで休んでろ。」

「はぁ……はぁ……。じゃあ……お言葉に甘えて……。」

 

 だが弱った相手を見逃す程、3人は甘くない。ミラアルクとエルザが駆け出し、ヴァネッサが指先からマシンガンの弾丸を乱射する。

 

「何を仕掛けて来るかと思えば芸のない奴等だ」

 

 同じ展開に呆れたキャロルは翳した掌から錬金術のバリアを展開。容易く防いでやるが、背後の輪をミラアルクの剛脚が狙う。

 

「うちらは強くない!弱くちっぽけな怪物だぜ!」

 

 だがダウルダブラの弦によって防がれる。立て続けにエルザのテールアタッチメントの牙が襲い掛かる。

 

「それでも!弱さを理由に明日の全てを手放したくないのであります!」

 

 テールアタッチメントもダウルダブラの弦によってバラバラに切り刻まれる。

 だが突如、エルザが得意げに笑む。それを見た輪は周囲を見渡し、自分達が三角形状に配置されたノーブルレッドに囲まれた事に気付いた。

 

「ちょっと……!これヤバいんじゃ……」

「哲学のおおぉっ!」

 

「「「迷宮でえええぇぇぇーーー!!」」」

 

 気がついた時には遅かった。

 

「これは……!」

 

 ノーブルレッドの3人の最終奥義、ダイダロスの迷宮。哲学の迷宮に、輪とキャロルは閉じ込められた。

 

 同時に外でも、シェム・ハの繭が高まったフォニックゲインに感付き、砲撃を開始しようとしている。

 

「シェム・ハの防衛反応が……!」

「チフォージュ・シャトーを動かす前に、気取られるなんて……!」

 

 動けない装者達に、容赦無くレーザーが放たれた。フォニックゲインのバリアによって直撃は免れたが、絶唱によるバックファイアで動けない。

 さらに繭は2回目の掃射を行おうとチャージしている。今度は直撃は免れない。

 

 ダイダロスの迷宮に閉じ込められたキャロルと輪も、まさにS.O.N.G.は絶体絶命の危機に瀕している。勝利を確信したヴァネッサは笑みを浮かべている。

 

「神の力の完成は何人たりとも邪魔させ……っ?!」

 

 だがその期待は裏切られる。迷宮の内部からエネルギーの光が漏れ出している。

 

「あれは一体、何でありますか?!」

「ヤバいぜ……こいつは!」

 

 次第にそのエネルギーは強くなり、内部から迷宮を破壊してみせた。さらにそのエネルギーは天高く、空へと伸びていき、夜空を遮っていた暗雲を貫くように払った。

 

「どうやって……哲学の迷宮を……」

「ふんっ……オレはただ唄っただけだ……」

「歌で……ありますか……?」

 

 だがキャロルが唄ったのはただの歌ではない。

 

「ああ……。俺の歌はただの一人で70億の絶唱を凌駕する……フォニックゲインだ!!」

 

 キャロルは高らかに言い切った。そして、外では雲を切り裂き、天高く伸びた光から6人の装者が奇跡を纏った純白のギア、エクスドライブとなって降り立った。

 だが相当な負荷だったようで、キャロルも輪と同様に膝をついてしまう。さらにダウルダブラのファウストローブも解除されてしまい、同時に人格の主導権もエルフナインに戻った。

 

「キャロルに……何が……」

(今のはさすがに消耗した……後はお前の力で……)

 

 キャロルは眠るように消えた。完全に消えてしまったわけではないが、しばらくは出てこれないだろう。

 

「エルフナイン……!アンタは……今のうちに未来の所へ……!」

「そうだ……!今は未来さんを……!」

 

 輪に促されて、エルフナインは祭壇の部屋へと急いだ。

 

「行かせないぜ……っ!」

 

 そうはさせまいと、ミラアルクは消耗した身体を押し切って立ち上がろうとしたが、身体の異変に気付いた直後に吐血した。

 ミラアルクだけではない、エルザとヴァネッサも身体の不調に気が付いた。

 

「え……?!何……?!どうしたの?!」 

「まさか……!」

 

 突如何が起きたのか、輪は戸惑っている。ヴァネッサはこの不調の正体に気付いている。稀血である全血清剤による体内洗浄をしたのも関わらず、この不調が出たという事は、全血清剤に細工されているという事だ。

 この全血清剤を提供した者はただ彼らしかいない。その張本人の一人が、輪とノーブルレッドの3人の前に姿を現した。

 

「そういう事だ……ヴァネッサ。」

 

 アルベルトがヴァネッサを見下ろしながら、そう告げた。

 

「そうだ。悉く夷狄の蹂躙よりこの国を守るのが、防人たる風鳴の務めよ……!」

「アルベルト……!訃堂おおおおおぉぉぉぉーーーーー!!」

 

 張本人である雇い主、自分達を用済みと切り捨てたアルベルトと風鳴訃堂の名を叫んだ。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 エクスドライブへと変化させた装者達に、シェム・ハの繭ノエネルギー波が放たれるが、エクスドライブの翼によって今の装者達は縦横無尽に駆け回れる。

 

「チフォージュ・シャトーは動かせなかったデスけれど!」

「形と掴んだこの輝きがあれば!」

 

 切歌の大鎌と調のヨーヨーが、繭とシャトーに繋がれた臍の緒のようなコードを切り刻んだ。

 

 翼は刀で円弧を描き、瑠璃の二叉槍を逆手持ちに変えると、刀は振り下ろされ、槍は投擲される。繭の腕とも言える触手がバラバラに斬り刻まれ、塵同然に消える。

 

 クリスのクロスボウと、マリアの剣が合体、2人の後方に巨大な砲門を作り上げた。そして、2人は身体を重ね、手を繋ぎ合わせた瞬間、砲門から超弩級の波動砲が発射された。

 波動砲は繭に直撃、白銀の装甲が崩れ落ちたが、神の力で今まで受けたダメージを無効化されてしまう。それにより姿形が元に戻った。

 さらに仕返しと言わんばかりに、クリスとマリアにエネルギー砲を発射され、直撃してしまう。

 

「クリス!」

「マリア!」

『それでも……きっと訪れる一瞬を!』

『俺達銃後は疑ってない!だから!』 

 

 戦場におらずとも、本部の友里と藤尭は全力を尽くす。2人がコンソールを操作、潜水艦から一基のミサイルが発射された。その機動は真っ直ぐ、チフォージュ・シャトーへと向かっている。

 それに気が付いた繭は、自衛の為にエネルギー波を発射させた。発射されたそれは、ミサイルを撃墜するが、その爆煙からS.O.N.G.の最終兵器にして最大の切り札が姿を現した。

 

「人類の切り札、神殺しの拳だぁ!!」

 

 神殺しの撃槍・ガングニールの装者、立花響が腰のブースターユニットを点火、真っ直ぐにシャトーにいる未来を助けるべく駆けつけた。

 

「ガングニール!」

 

 マリアが叫んだ。だが繭は自分を殺す神殺しの力をみすみす寄せ付けるわけがない。響を撃墜せんと4本のレーザーを放った。

 レーザーの一本は、ガングニールのヘッドホンアームを破壊し、別のレーザーが響に襲い掛かる。だが、そこにギリギリの所で翼の刀で弾いて守ってみせた。

 

「立花の援護だ!命を盾とし、希望を防人れ!!」

「行くわよみんな!!」

 

 翼とマリア、そして他の装者達もそれに続いた。放たれたレーザーが入り乱れながら響を狙う。翼がそれを弾いたが、触手によって振り落とされてしまう。

 

 今度は切歌と調がレーザーを響から引き離すが、直撃してしまい、撃墜されてしまう。

 マリアも触手の包囲網を切り崩すべく、響から守る為に撃ち落とされた。

 

「響ちゃん!!」

 

 響の周囲に光の輝きが展開され、包囲されてしまう。それにいち早く反応した瑠璃が響を突き飛ばして、代わりに光の爆発に巻き込まれてしまう。

 

 そしてアームドギアをジェットアームのように連結したクリスが、光の包囲から脱出された響をキャッチした。触手とレーザーが同時に襲い掛かり、クリスは何とかかい潜るが、とうとうジェットアームに直撃、半壊してしまう。

 だが、触手が完全に伸び切っているのをクリスは見逃さなかった。

 

「行けよ馬鹿ぁっ!!」

 

 クリスが響を放り投げた勢いを乗せて、腰のジェットブースターを点火、高速で繭へと向かう。だが繭は真っ直ぐに向かってくる響に、レーザーを放った。

 今度は盾となる仲間もいなければ、回避も出来ない。響に直撃した事による爆煙が発生した……が、響の身体は黄金のバリアによって守られた。さらに身に纏うインナースーツも、普通のギアのものではない。

 

「使用が禁止されているアマルガムを?!」

「この際だ!謹慎程度で済ませてやれ!!」

 

 最早四の五の言っていられない。これで撃ち落とされてしまえば、今度こそ終わりだ。そこに翼が叫んだ。

 

「勝機をこぼすな!」

 

 だが繭も本気と言うべきか、本体から口のように開かれた中では最大威力ともいえるレーザーが充填される。

 

「うおおおおおぉぉぉ!!」

 

 響の手の甲から黄金の華が咲き誇り、それが両腕となって響と連結された。雄叫びを挙げながらその黄金の腕でレーザーを叩き、弾いた。

 

「「最速で!」」

 

 調と切歌が……

 

「最短で!」

 

 クリスとマリアが……

 

「「真っ直ぐに!!」」 

 

 翼と瑠璃が叫んだ。仲間達が託してくれた全てを、響はこの手に握られた。

 

「一直線にいいいいいいぃぃぃーーーー!!!」

 

 響が叫びながら拳を振り上げた。繭から放たれたレーザーを真正面から押し返し、遂に神殺しの拳は繭の身体を貫いた。

 

 

 同時に祭壇の部屋で、安置されていた未来の身体が光となって天へと昇っていった。それを目の当たりにしたエルフナインは狼狽えた。

 

「違う……。依代となった未来さんに力を宿してるんじゃない……大きな力が未来さんを取り込むことで……っ!」

 

 だが背後の物音に反応して振り返った。輪を抱き抱えているアルベルトがいた。輪のファウストローブが解除されており、アルベルトに倒されたのだろう、意識を失っている。

 

「アルベルトさん!輪さんに何を……」 

 

 だがエルフナインの問に答える事なく、テレポートジェムの陣が展開、そのまま転移されてしまった。

 

 

 繭を突き破った拳が押し込まれ、破った箇所から内部へと入った。

 

「未来うううううううぅぅぅーーーー!!」

 

 だが同時に、瑠璃が叫んだ。その瞳は漆黒の闇へと変わっていた。

 

「駄目響ちゃん!!戻って!!」

「っ!」

 

 だが既に手遅れだった。繭の中に、黒いドレスを纏った未来がそこにいた。

 

「何で……そこに……?!」

 

 紫色の瞳が開いた。黒いドレスを脱ぎ捨てると、その身に神獣鏡のファウストローブを纏った。それは神々しくも禍々しいものである。

 

 響は未来に手を伸ばした。

 

「遺憾である……わが名はシェム・ハ。人が仰ぎ見るこの星の神が我と覚えよ。」

 

 同じ未来の声でも無機質で冷たいものだった。そして響が伸ばした手を、シェム・ハと名乗った未来は掴む事もしなかった。




解説

輪の楽曲(XV編)

【上等!レイジングサン!】
失った者達に対してどう報いればいいのか、分からぬまま、その答えを探して突き進む輪の心象を描いた楽曲。
「止まらない」「地獄で懺悔しろ」
所々クリスの楽曲のオマージュもあり、口が悪くような歌詞もある。


おまけ

前回投稿し終え、シンフォギアライブの舞台に到着した雨が降る午後、感想や評価を見てみたら……


わああああぁぁーーーー!!赤になってたあああぁァァーーー!!

すっごいテンション爆上がりしました。

本当にお気に入り登録、感想、高評価を頂いてくださった皆様には本当に感謝しかありません。
ありがとうございます!!

この喜びをバネに、レーラさん頑張ります!!


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連れ戻すと決めたから

進む!進む!手が進む!


 小日向未来

 

 立花響にとって大切な親友であり、唯一の心の拠り所である陽だまり。時には喧嘩する事もあるが、同じ数だけ仲直りをした。

 ずっと、この先もずっと、そんな二人であるのだと信じてやまなかった……だが。

 

「行っちゃ駄目だ!遠くに……未来ううううぅぅぅーーーー!!」

 

 この日、その陽だまりは踏みにじられた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 届くはずだった手は掴まれる事なく、響はそのまま落ちていった。そのまま地面に叩き付けられると思われたが、瑠璃が二叉槍と腰の背部のブースターを全力で点火させ、猛スピードで響を拾い上げた。

 シャトーの外郭に足を付けて、ドリフトさせてそのスピードを殺し、ギリギリ落下寸前で停止した。

 

「未来……!」

 

 ギアが解除され、検査着姿に戻った響。尊大な口ぶりで、身に纏うファウストローブの姿、そして無機質で冷たい瞳。何もかも未来とはかけ離れた姿となってしまった未来が信じられない眼差しで見上げる。

 

「良きかな……人の生き汚さ……。100万の夜を越えて尚、地に満ち満ちていようとは……」

「シェム・ハ!!」

 

 自身の名を呼ぶ者を見てやる。そこにはどこか憎しみを持ったように睨む瑠璃。未来ではなく、何の迷いもなくシェム・ハと呼んだその姿に、シェム・ハはどこか違和感を感じている。

 シェム・ハはチフォージュ・シャトーへと降り立った。 

 

「貴様は……ゔぅっ……!」

 

 突如シェム・ハが頭を抱えて苦しみだした。一体何が起きているのか、翼達が降り立って駆け寄った。そこにクリスが未来の背中に着けられたそれが、原因である事に気が付いた。

 

「なっ!身に纏うそいつは……まさかあの時と同じ……!」

『そして……刻印、起動!!』

 

 天羽々斬のギアヘッドホンにだけ聞こえた訃堂の声。同時に、翼の瞳がステンドグラスのように灯った。

 

「未来……一緒にかえ……うわっ!」

 

 突如、翼が意識を失ったシェム・ハを強奪するように抱え、飛び立った。

 

「お姉ちゃん?!何を……?!」

「全ては……この国の為に!」

 

 右手に持つ刀を天高く掲げたその瞬間、無数のエネルギーの剣が雨の如く降り注いだ。

 仲間であるはずの翼に刃を向けられた装者達は後ろに交代するように跳んで躱した。いつもの翼らしからぬ戦法に戸惑う調と切歌。

 

「ただ面で制圧するなんて……」

「らしくないバラ撒き……およっ?」

 

 飛び立てない事に気づいて足元を見る。すると、月光によって生まれていた影に剣が刺さっていた。

 先程の剣は動きを封じる為に、大量に放ったものだった。それにより、装者達全員の影に剣が刺さり、動けなくなっていた。

 

 【乱れ影縫い】

 

「お姉ちゃん……どうして?!」

「夷狄のお前には分からない……。」

「え……」

 

 夷狄。それは風鳴訃堂が血の繋がりのない瑠璃に、常に言い放っている蔑称。まさか翼の口からそのような言葉が出るなど思いもしなかった。瑠璃は絶句してしまう。

 

「私は、この国の防人なのだ!」 

 

 そう言い放った翼はシェム・ハを抱えて飛び去ってしまった。

  

「お姉……ちゃん……」

 

 姿が見えなくなるまで遠くに行ってしまった事で、剣は崩れて消えた。動けるようになったが、よほど堪えたのだろう、瑠璃は膝から崩れ落ちた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 エルフナインを救出には成功したが、未来はシェム・ハとなり、さらに彼女は翼によって連れ去られてしまい、さらに独断で乗り込んだ輪もアルベルトによって行方知れずという結果になってしまった。

 

「輪……。」

 

 ポツリと、不安そうに呟いた。何故アルベルトが輪を攫ったのか、瑠璃の時とは違い目的が不明である。その不安から、瑠璃はただ輪の無事を祈る事しか出来なかった。

 震える瑠璃の手を、クリスがそっと包み込んだ。

 

「アイツならきっと無事だって、信じよう。」

「クリス……。」

 

 いつだって輪は自ら危険な事件に首を突っ込んでは生還を果たして来た。それは決して褒められたものではないが、彼女は悪運が強い。

 クリスはきっと今回も生きて切り抜けてくれると信じているのだ。

 

「うん……。ありがとうクリス……。」

 

 不安は完全に拭えたわけではないが、少し気が楽になったようだ。だが調があの話を切り出した事で、再び深刻そうな表情に戻ってしまう。

 

「一連の事件を操っていたのが風鳴機関だなんて……」

「確かに、信じたくはないデスよ……」

 

 まさか日本を守る最高機関が今回の事件の黒幕だったという衝撃的な事態に、皆は動揺を隠せなかった。

 そして、自分達のリーダーである翼がそれに与して敵に回ってしまった事を、今でも信じられずにいる。

 

「お姉ちゃん……あの時……私の事を夷狄って言ってた……。今までそんな事言わなかったのに……。」

 

 自分を家族とも思わぬその言動に、あの時はショックを受けていたが、一度冷静に考えれば、普段の翼からは考えられない発言だった。

 

「あれはきっと……お姉ちゃんの本心じゃないと……私は思う。」

「ああ、あたしも姉ちゃんと同じだ。不器用なあの人に、裏切って姉ちゃんを傷つける真似なんか出来るもんか……!」

「私だって疑ってない!」

「翼さんは、大切な仲間デス!」

「恐らくは、あの魔眼に……」

「魔眼……あっ……」

 

 エルフナインが顎に手を当てて述べた魔眼、瑠璃には心当たりがあった。

 病院でノーブルレッドと戦った際、ミラアルクの眼から映し出されたステンドグラスの瞳だった。

 

 恐らく翼もあの凱旋ライブの惨劇で、あの魔眼に侵食されたのだろう。だが瑠璃は、小夜を殺された怒りと憎悪が強く表れていた。

 状況は異なれど強い怒りと憎しみは同じであるにも関わらず、翼は侵食され、瑠璃は弾き返せた。その違いが何なのか分からない。

 

 そこに、マリアの通信機にだけ指令が届いた。端末でそれを確認するマリアだったが、それ以外のメンバーには届いていないようだった。

 

(私だけ……?)

 

 マリアの目は、一瞬だけ驚愕の反応をしたが、すぐさま平静となった。他の者はそれに気付くことはなかった。ただ一人、瑠璃を除いて。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 鎌倉の風鳴邸。その地下にある電算室へと翼は訃堂に連れて来られた。扉が開いてその部屋に入ると、シェム・ハとなった未来がいた。今は装置の中で眠っているかように動かない。

 

「小日向……?!」

「否、我が国に相応しき神の力である。ダイレクトフィードバックシステムによる精神制御は、間もなく完了する」

 

 かつてDr.ウェルが開発したダイレクトフィードバックシステムは、フロンティア事変収束後にF.I.S.の遺産としてロスアラモスの研究所に、データとして保管されていたが、先程切り捨てたノーブルレッドの一人、ヴァネッサによって持ち出された。

 訃堂はそれを用いて、依代たる未来を制御して支配に置こうと考えた。

 

「その時こそ、次世代抑止力の誕生よ……!」

「しかし、櫻井女史亡き今、どうやって新たなシンフォギアを?」

「シンフォギアに非ず!神獣鏡のファウストローブよ!」

「ファウストローブ?まさか……!」

 

 シンフォギアは櫻井了子、もといフィーネにしか作れない。だがファウストローブであれば可能だ。それにダイレクトフィードバックを搭載する技術を持った錬金術師はアルベルトを置いて他にない。

 

「だが……奴も用済みよ。それにしても奴め……ネズミをまた一匹引き入れるとはな……。まあ良い……。」

 

 訃堂の下卑た笑み。それを見た翼はこれが防人なのかと疑念を抱くも、あの時はそうしなければならなかったという、焦燥感に駆られていた。

 防人と言うには醜く、邪悪なその姿に嫌悪のあまり吐き気を催し、涙を溜め込んだ。

 

(そうしなければならぬと囁かれ、あの時は疑いもせず行動した……。なれど……本当にそれが正しかったのか?私は……)

「翼!」

 

 迷いが生じるも、訃堂はそれを許さない。

 

「何故、連中にトドメを刺さなんだ?中でも夷狄の混血は、神の力を有する事が出来るのだぞ?」

「っ……!瑠璃……!」

 

 それはつまり、瑠璃を殺せというのだ。神の力を有した今、その障害となりえる瑠璃を、訃堂は何が何でも排除しなければ気が済まない。

 ノーブルレッド、アルベルトを使ってそれを果たそうとしたが、今日までそれは叶わなかった。そして瑠璃の従姉である翼にそれをやらせようとしたが、翼の不安定な心では出来なかった。

 

 あの時、瑠璃に夷狄と言ってしまった罪悪感が翼の心を苦しめている。

 

「まあ良い……。だが惑うな。そのように脆弱な心ではやがては折れてしまう。護国の為に鬼となれ!歌では世界を救えぬのだ!」

「はい……」

 

 歌では救えない。否定したくても、翼はこれ以上何者をも失いたくないという思いが、それを受け入れてしまった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「んぅ……ここは……?」

 

 アルベルトに倒され、意識を失っていた輪が目を覚ました。見慣れない天井に、ここは何処なのかと辺りを見回す。襖に床は畳、輪にとって馴染みなどない武家屋敷の部屋。

 

「本当にここ何処……?私は確か……そうだ!アイツに!」

 

 あの時、突如現れたアルベルトの一撃で倒されたが、そこで意識を失ったのを思い出した。

 キャロル、もといエルフナインは無事なのだろうか。安否が気になり、起き上がって襖を開けると……

 

「うわっ!」

 

 目の前にアルベルトが現れ、ビックリした輪はその場で尻餅をついてしまう。

 

「痛た……」

「おや?大丈夫かい?」

 

 アルベルトから手を差し伸べられた。だが敵にそのような事をされて、腹が立ったのかその手を払って立ち上がった。

 

「アンタ……一体何のつもり?」

「それだけ元気ならば十分だ。安心しろ。私がいる限り、雇い主には手は出させない。」

 

 つまりここはアルベルトの雇い主が住まう屋敷なのだろうとすぐに思い至った。

 

「その代わり、私の尖兵として動いてもらう。」

「はぁっ?!」

 

 アルベルトはこれまで、何度も自分や仲間達を欺き、利用してきた。そして今度は、自分の部下になれというのだ。

 

「冗談じゃない!アイツらみたいに……アンタの使い捨ての駒になれなんて、そんなのお断りに決まってんじゃん!」

 

 アイツらとは、ノーブルレッドの事を指している。彼女達は訃堂によって雇われたのだが、輪にとって誰が雇い主かは関係ない。

 彼女達を散々利用し、挙げ句に用済みとなったらゴミのように切り捨てた。仮に何か大義があったのだとしても、到底信ずるに値しない。

 

「君の意思はどうであれ……輪、君は私に従う。そういう運命だ。」

「本当にムカつく!」

 

 すぐさま右フックを繰り出したが、簡単に止められてしまい、投げられてしまう。

 

「がぁっ!」

 

 受け身を取り損ねてしまい、畳に背中を叩きつけられてしまう。その上、アルベルトに馬乗りされ、起き上がれなくなってしまう。

 

「こいつ……ぅっ……!」

 

 アルベルトの掌が、輪の両頬に触れた。輪の表情が、アルベルトに対する恐怖が僅かに現れている。

 

「私はね、瑠璃を守る為にここにいる。君も、同じ思いで戦っているのだろう?」

「やっぱり……アンタまだ瑠璃を……!」

「数千年の時を生き、ようやく見つけた……星々を司る眼をもつ少女。この千載一遇の好機……誰にも邪魔をさせない。」

「アンタ……何を……?!」

 

 何の意味があって、何を言っているのか、洞察力が鋭い輪ですら理解出来ない。次第に恐怖も増大している。 

 

「君だけに見せよう。私の真実を……そして、これから起こる結末を……。」

 

 アルベルトは輪の顔に近づけ、そのまま唇同士を重ね合わせた。その瞬間、輪の意識は遠くなり、見たこともない光景が入り込んで来た。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

  S.O.N.G.のブリッジにマリア一人が入って来た。先程、マリア一人だけにブリッジに来るよう通達指令が下されたのだ。

 

「お呼びでしょうか?」

 

 ブリッジに入ると、弦十郎と緒川が待っており、モニターには八紘が映っている。彼も、通信で対話している。

 

「すまないな、急に呼び出して」

『早速だが、君に新たな任務の通達だ』

 

 八紘がこの作戦を主導している。その極秘とも言える任務に盗み聞きをしようとしている不届き者、瑠璃がブリッジの扉が開かないギリギリの距離で耳をすませている。

 

「兼ねてより進めていた内偵と政治手段により、風鳴宗家への強制捜査の準備が整いました。間もなく執行となります」

「風鳴宗家って事は……!」 

「そうだ。最早一刻の猶予もない」 

 

 自分達の父親であろうとも、罪を犯したのであれは、法の下で裁かなければならない。ましてや聖遺物や神の力が絡んでいるとなれば、手をこまねいていれば、最悪の結果を招きかねない。

 そうなる前に、息子である八紘と弦十郎はそれを阻止するべく、父親を逮捕しようとしている。

 

『風鳴訃堂自らが推し進めた護国災害派遣法違反により、日本政府からの逮捕依頼だ。状況によっては……殺害の許可も下りている』

「殺害って……それは翼に対しても?!」

(お姉ちゃんが……!)

 

 大好きな姉が殺害される。そのような事が、瑠璃に受け入れられるわけもなく、つい後退った。

 だが迂闊にも、足音を立ててしまったが既に手遅れである。

 それが聞こえたマリア達が扉の方に視線が集まった。弦十郎が扉の前に立つと、通路で盗み聞きしている瑠璃を見つけた。

 

「瑠璃?!」

 

 後をつけられていた事に気が付いていなかったようで、マリアは瑠璃がいる事に驚愕している。

 

「何故ここに来た?」

「だって……お姉ちゃんの事が心配なのに、それでマリアさんにだけにしか教えないなんて、そんなの……」

「だからと言って、盗み聞きしても良い理由にはならん!!」

 

 司令として、父親としてそのような不届きな行為を認めるわけにはいかず、つい怒鳴ってしまう。

 

「私だって、風鳴の一人なんだよ?!なのに私を除け者にして、勝手にお姉ちゃんを処分しようなんて、それこそ許せないよ!」

「お前はまだ子供だ!」

「いつまでも子供扱いしないでよ!」

 

 父親と娘の口喧嘩に発展してしまい、八紘は聞くに耐えないようだ。勿論、マリアも頭を抱えて呆れている。

 

『止せ!今は親子喧嘩をしている場合ではないのだぞ?!』

 

 八紘に制止され、弦十郎もつい熱くなってしまった事に反省する。瑠璃も、申し訳なさそうに謝る。

 

「ごめんなさい……」

 

 だが、そこにマリアが口を開いた

 

「風鳴司令、瑠璃もこの任務に加えましょう」

「マリア君?!」

 

 まさかマリアから瑠璃の同行を求めるとは思いもしなかったのか、弦十郎は狼狽えた。

 

「向こうにはアルベルトもいるわ。翼を連れ戻すにしてもアルベルトが現れたら、私一人では対処しかねるわ。それに……」

 

 一度瑠璃の方を見てやると、すぐさま弦十郎の方に向き直る。

 

「翼を連れ戻すという思いは、彼女は誰よりも強い。私はその思いを尊重してあげたい」

「マリアさん……」

 

 そう言われた弦十郎は腕を組んで悩む。組織として、一人の我儘を通すのは愚の骨頂ではあるが、マリアの言い分にも一理ある。

 そして、弦十郎は決断した。

 

「良いだろう。但し、俺の言う事には従ってもらうぞ。」

 

 瑠璃の同行が認められた。喜びが先走りそうになるが、装者として相応しく在るべく、真剣な表情で応えた。

 

「はい、司令!」

 

 こうして、極秘裏に風鳴宗家への強制調査が行われる事が決まり、瑠璃もそれに同行する事になった。

 




訃堂の腹の内

神の力を手に入れた以上、それを過去に唯一制御を可能にした瑠璃は最も目障りであり、危険人物となった。
神の力を手に入れる以前からノーブルレッドに瑠璃の殺害命令を下しており、今も尚虎視眈々とその命を狙っている。

何処までも外道なジジイに成り下がった……



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堕ちた日輪

結構悩みに悩んだ展開でしたが……

今までこれやってなかったよなーと思い、この展開で行くことにしました


 風鳴八紘、弦十郎、緒川、装者のマリアと瑠璃、そしてS.O.N.Gの調査員達が鎌倉の風鳴訃堂邸に到着し、正面の扉の前で配置についている。

 

 風鳴訃堂が自ら推し進めた護国災害派遣法によって、訃堂を裁く。そして、シェム・ハとなった未来、魔眼によって暴走した翼とアルベルトによって攫われた輪を奪還する。

 マリアと瑠璃は既にシンフォギアを纏い、いつでも戦えるように構えている。

 

 八紘が屋敷のロックをバイオメトリクス認証で解除、扉が開かれ、強制捜査が始まった。

 

「私の及ぶセキュリティは解除可能だ!速やかに風鳴訃堂、並びに帯同者の……」

 

 八紘が指示を下す前に、突如瑠璃とマリアが突出した。突然の行動に八紘が驚愕する。

 

「一体……っ?!」

 

 だがそれが、赤い霧、プリマ・マテリアが撒き散らした事で、それが意味ある行動であると理解した。

 

「アルカ・ノイズは私達に任せてください!」

 

 バイデントのバイザーヘッドギアでアルカ・ノイズをいち早く検知した。それによりマリアと共にすぐさま対処する事が出来た。

 

 二人の連携で、アルカ・ノイズによる犠牲者を出さずに済んだ。だがまだ数多くのアルカ・ノイズが残っている。

 屋敷の正面玄関に入ろうとしている弦十郎と八紘が瑠璃とマリアに釘を刺す。

 

 

「いいか二人とも!アマルガムは……」

「わかってる!私達だって謹慎は御免よ!」

「頼むぞ!これ以上の横紙破りはS.O.N.G.の国外退去に繋がりかねないのだ!」

 

 まだアマルガムの使用許可は降りていない。故に切り札無しで対処する他ない。だがアルカ・ノイズ相手であれば、アマルガムを使う必要はない。

 現時点では……

 

(お姉ちゃん、輪……何処なの……?!)

 

 アルカ・ノイズを排除しつつ、翼と輪を探すべくバイザーで索敵するが、どちらの反応もない。ギアを纏っておらずとも、生体反応で拾う事が可能だがどういうわけか見つからない。

 

「どうして……こんな時に限ってアルカ・ノイズだけしか拾わないの?!」

 

 そこに背後のアルカ・ノイズの攻撃に反応が遅れ、解剖器官が瑠璃迫った。が、マリアが間一髪それを短剣で切り刻んで阻止した。

 

「焦らないで!今は……瑠璃!」

 

 突如、瑠璃の頭上から何者かが襲い掛かってきた。二本の槍で受け止めるが、その得物を見て驚愕する。

 

「それは……!」

 

 円環の刃、チャクラム。力任せに押し込もうとする刃にやられる前に、放り投げるように押し返した。

 アルカ・ノイズを殲滅させた瑠璃も、その者の正体にショックを受けた。

 

「そんな……!」

「何故あなたが?!」

 

 チャクラムを得物とする者は一人しかいない。

 

「ごめん瑠璃……。だけど何も言わずに、私に倒されて!」

 

 輪はチャクラムを手に、瑠璃に再び襲い掛かる。意思があるという事は、誰かに操られているわけではない。

 だが何故輪が瑠璃に刃を向けるのか分からないが、その真意を問いただすしかない。

 

「マリアさん後ろ!」

 

 だがすぐに背後から青い斬撃を察知したマリアは跳躍して避けた。その方を見ると、そこには……

 

「そうね……そうよね……!」

 

 塀の上に佇む青き防人、風鳴翼が月を背に刀を構えていた。

 

「逢えて良かった。あなたには訊きたい事が沢山あるわ、翼!」

 

 装者同士の哀しき戦いの幕は切って落とされた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風鳴訃堂……愚かな男よ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 護国の為に神の力を占有しようとは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれはその為にあるものではない……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、それももう終わりだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嗚呼……この時を待ち侘びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幾千もの時を生きてきた私の悲願が、ようやく果たされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェム・ハとなった小日向未来から神の力を引き剥がして無力化、その力を奪取する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その力をルリに返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その際、器である少女を壊す事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがこれまで、数多くの友と認めた者達の命を見殺しにして来た。今更そんな事に躊躇いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風鳴訃堂がS.O.N.G.の強制捜査に掛けられ、ダイレクトフィードバックシステムによって制御されている今ならば、何者にも邪魔されずに果たす事が出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その為に、アーネンエルベに破壊されたと偽った……このバイデントのファウストローブを再構築したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出水輪も、今頃は邪魔なS.O.N.G.の者と戦い、ルリをここに連れて来てくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嗚呼……胸の高鳴りが抑えられない……!

 

 

 

 もうすぐです……我が主よ……!

 

 

 

 ようやくあなたのもとへ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 同士だけではなく、互いに譲れないものがぶつかり合っている。

 

 輪の回し蹴りで、屋敷内まで飛ばされた瑠璃。背中に襖がぶつかるが、強く飛んだせいで襖ごと倒れてしまう。

 輪が屋敷に足を踏み入れた。瑠璃は痛みを押し殺して立ち上がり、問う。

 

「どうして……どうしてお祖父様に従うの?!あの人は神の力を……」

「そう、神の力を持ってる。だけどアルベルトの力で、神の力をアンタに戻せば(・・・)、もうアンタが戦わなくていいようになる……!」

「私に戻す……?」

「とにかく、一緒に来て!従わないなら……アンタを黙らせてから連れて行くから!」

 

 何か隠しているような物言いに不信感を抱くが、輪は容赦なく瑠璃に攻撃を加えてくる。

 チャクラムが投擲され、二本の槍で弾き落とすもそこから再び瑠璃に襲いかかる。黒槍と白槍にそれぞれエネルギーを集束させ、それを突き出すとそれぞれの穂先からエネルギー波が発射された。

 

【Shooting Comet:Twin Burst】

 

 エネルギー波はチャクラムを撃ち落とし、そのまま輪に向かうが、跳躍して天井に掴まってやり過ごした。エネルギー波が消えると、そのまま着地、再びチャクラムを手に接近した。

 同時に刃が振るわれ、鍔迫り合いに持ち込まれた。

 

「もう抵抗はやめてよ……!アンタが早く諦めてくれないと、私は何もかも失う!」

「さっきから何が言いたいのか……さっぱり分からないよ!」

「分からなくていい!」

 

 叫んだと同時に輪は強引に鍔迫り合いを押し切った。そのままチャクラムを持ったまま、右の裏拳がバイザーに直撃、そのまま割れると瑠璃の目元が露出した。

 

「その目……やっぱり、アルベルト(あいつ)が言っていた事……嘘じゃなかったんだ……。」

 

 アルベルトに見せられた彼女の記憶、それを見せられた輪は、彼女の尖兵となった。

 

 




遂に洗脳でもなく、自分達の意思で瑠璃と輪が刃を交える事になりました。

本当は翼と瑠璃を戦わせようか、結構悩みました。

ですが、輪を止めてくれるのはやはり瑠璃しかいないと思い、瑠璃VS輪にしました

次回、アルベルトの記憶の一部が明かされます


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真実の記憶

最後の序章に登場した青年神官が久しぶりに登場します!

しかしセリフはなぁい!!




 時は少し遡ること数時間前。アルベルトとの接吻で輪は記憶を見せられた。

 薄暗い景色に、重力や物理を無視して浮き上がる大陸。その最奥の大地に、禍々しくも立派に聳え立つ神殿のような建物。明らかにここは自分の知る場所ではない事は分かるが、一体何処にいるのか検討もつかなかった。

 

「ここは……」

「かつて、私の主が住まいとした闇の空間。分かりやすく言えば、冥府とでも言っておこうか。」

「冥府?!」

「アヌンナキはこの星に数多の命を生み出し、進化を促してきたが、私の主はそれとは正反対の性質でね……」

「破壊……闇……死……?」

 

 恐る恐る答えた輪に、アルベルトは正解だと告げるように頷いた。

 

「遥か数千年前、私は不慮の事故で命を落とした。」

「え?!」

「だが、私の死を哀れんだあの方が……理に反してでも私の魂を呼び出し、新たな肉体に組み込んでくださった。」

 

 死を司る神者であれば、それくらいの事は容易いだろう。自然の摂理に反した行為であるのだろうが、それは問題ではなかった。

 

「ほら、そこにいるだろう?」

  

 アルベルトが指した方には、少女と青年の二人がいた。

 神秘的な白い布の装束を纏った黒髪の少女。彼女の手には、生命のごとく煌めく二叉槍を手にしている。

 そしてその場にいるもう一人、銀髪の青年神官が跪いていた。

 

「あの人達は……」

「ああ、彼女は私の主。そしてもう一人の彼は、彼女に仕える神官さ。」

 

 アルベルトは輪に教えてやるが、気になるのはそこではない。

 

「一体何の関係があるの?これを見せて、私に何の意味があるの?」

「意味ならあるさ。ほら、あの御方を見てみるといい」

 

 輪はアルベルトに促されて少女の方を見る。よく見ると、見覚えのある髪型だった。胸騒ぎがするが、まだ後ろ姿しか見えていない。

 

 すると、彼女が輪の方に振り返った。

 

「え……?!」

 

 少女の瞳を見た瞬間、輪は驚愕とともに後退った。

 

「そんな……でもあれって……!」

 

 だがその瞬間、視界は闇に覆われた。気が付けば、鎌倉の風鳴訃堂の屋敷に戻っていた。

 

 アルベルトは既に退いていた為、輪はすぐに立ち上がる事が出来たが、酷く動揺している。

 だが無理もない。あの眼はパヴァリア巧妙結社との戦いで見た事がある、あの冷たい闇を宿した瞳。それは絶対の破壊者となった彼女も同じ眼だった。

 

「物分りの良い君なら、分かっているはずだよ。何故彼女が神の力を使えたのか、どうして彼女にだけ呪われたギアを扱えたのか。」

「嘘だ……嘘だ嘘だ!そんなの嘘だ!アンタの作り話だ!」

「何を持って作り話だと?あれは正真正銘、私の記憶。私が数千年前、実際に体感した現実……」

「デタラメだ!あれがアンタの記憶って言うなら、アンタは一体どこにいたの?!アンタの記憶を見ていたんだから、アンタがいないと……!」

 

 思い出の共有には、その記憶を持つ者がいなければしない。だがあの光景には、アルベルトの姿は、影すらもなかった。

 だがアルベルトは何を言っているんだと言わんばかりに、教えてやる。

 

「いただろう?あの御方に跪いていた者が一人」

「一人?えっ……」

 

 跪いていた者。それがアルベルトであると彼女は言うが、その主張には一つ、決定的な矛盾がある。

 

「あいつって……男じゃない!アンタは女!勝手な事を言わないでよ!」

「ああ……知らないのか。私はあの御方を失った後、錬金術師としてファウストローブを纏う為に、この肉体を作り変えたのさ。生物学的完全な肉体である、女にな。」

 

 錬金術師がファウストローブを纏う為には、肉体が女でなければプロテクターを維持出来ない。だがそれでも輪は信じない。

 

「信じられるわけないじゃんそんな事!大体、呪われたギアを纏えたって言うけど、バイデントと何の関係があるの?!」

「あれはバイデントではない。バイデントは私が便宜上でつけた仮の名前……。本物のバイデントは発見すらされていない」

 

 バイデントの伝承は限り無くと言っていい程に少なく、発見報告まで何一つ新たな情報など無かった。

 その発見地もギリシャの辺地というだけで、発見されるまでの経緯やそれまでの理論、その情報すら存在しない中、先の世界大戦でドイツ政府がこれを鹵獲し、アーネンエルベもこれがバイデントであると信じ切っていた。

 そう仕向ける事が出来たのはこの槍の真実を知る者のみ。それもアルベルトしか存在しない。

 

 認めたくない一心で輪はアルベルトに何度も問うが、尽くかわされてしまう。だがそれでも認めたくなかった。認めてしまったら、これまで過ごした思い出も、絆も、何もかもが否定されるような気がしてならかった。

 

「さっきから何?!いい加減にしてよ!瑠璃はアヌンナキなんかじゃ……!あっ……」 

「やはり、分かっていたじゃないか」

 

 感情的になってしまったとはいえ瑠璃があの少女(アヌンナキ)だと口走ってしまった。

 あの少女を見た時、瑠璃の面影と重なった。そして、本能的と言っても良い程に勘の良さが嫌と言う程に働いてしまった。

 もう否定出来なくなってしまった事も悟り、泣きながら崩れ落ちた。

 

「何で……瑠璃なの……?何で……」

「瑠璃だけではない。きっと瑠璃の前、その前の少女も、遥か昔の時代の少女もまた、あの御方の魂を宿らせていただろう。」

「え…?」

 

 それを聞いた輪は、アルベルトの方に顔を見上げた。同時に、その力を使う者が1人いる事を思い出した。

 

「リンカーネーション……もしかして……!」

「そうさ。だがトリガーはアウフヴァッヘン波形ではない。そうだな、愛でLiNKERと大脳領域を繋げるのだとしたら、彼女が……」

   

 

 

 

 

 深い絶望へと堕ちた時  

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 破壊したバイザーが覆っていた目元が露出した。

 

「その目……やっぱり、アルベルト(あいつ)が言っていた事……嘘じゃなかったんだ……。」

 

 他の者達は気付いていないが、フィーネの力を覚醒させた輪には見えていた。瑠璃の瞳が、既に絶対の破壊者となっていた。

 

 

「よく聞け。彼女は深い絶望に落ちる度に、彼女はより強く覚醒する。だが神の力を持たぬ人間のまま覚醒してしまうと、魂に飲み込まれ、絶対の破壊神となる。そうなれば、シェム・ハ以上の災厄を撒き散らす」

 

 曰く、アダム・ヴァイスハウプトとの戦いの時に乱入したあの時を超えるものだという。

 さらに未熟なままアヌンナキとして覚醒する毎に、その力は強くなっていく。もし、次に瑠璃がそのような覚醒を果たせば、瑠璃は瑠璃としての人格、記憶、これまで繋いできた絆も全て塗り潰され、この星の全てを破壊し尽くすだろうと。

 

「そうなる前に、ルリを私の前に連れて来てくれ。それから、先程の話はルリには話すな。私が、然るべき時に話す」

 

 余裕の笑みではなく、真剣な眼差し。初めて見た輪は驚きのあまり狼狽えるが、それが信用の証となる。

 

「私が必ず、瑠璃のままアヌンナキとして覚醒させる。だから君は……君の役割を果たせ」

 

 瑠璃に伝える事が出来なくとも、瑠璃が瑠璃としていられるのであれば、真実を黙殺する事も厭わない。家族を失った今、輪に残された心の支えはもう瑠璃しかいない。

 全てを失うという恐怖に押し潰されそうになっている輪は、もう感情のコントロールが出来なくなっていた。だから瑠璃に言われるまで、気付かなかった。

 

「輪……どうして泣いているの……?」

 

 既に涙が溜まっており、それを指摘されるとその一筋が頬を伝い、零れ落ちた。

 

「輪……本当の事を話してよ!そうしたら、少しは……」

「うるさい!!」

 

 輪が怒鳴った。恐怖、苛立ち、悲しみ、負の感情という感情が全てごちゃ混ぜになってしまっている。

 左右の手に持ったチャクラムを重ねると、刃が光り輝く。

 

「私にはもう瑠璃しかいない!お父さんもお母さんも、透も旭も小夜姉もいなくなってしまった!何も失いたくない!!独りぼっちになるのが怖いんだよ!!」

 

 本心をぶち撒ける中、光に包まれた刃は一つの槍のように尖る。

 

【凜華・アフターグロウ】

 

 瑠璃も二本の槍を繋ぎ合わせ、穂先にエネルギーが集束すると、穂先がドリルのように高速回転する。

 

「アンタが神様だって言うなら……お願いだから、これ以上私から大切なものを奪わないでよおおおぉぉぉーーーー!!」

 

 泣き叫びながら力いっぱい、槍となったチャクラムを振り上げると、天井もろとも切り裂いた。そのまま刃が振り下ろされた。

 





 瑠璃が神の力を使えた理由、絶対の破壊神となって暴走する理由、バイデントの謎が全てではありませんが、明らかになりました。すべてが明かされるのは恐らく最終決戦か、その手前か……

もしかしたら本当にラスボスに……?

次回、瑠璃と輪の戦いに決着が着きます(多分)


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叫び

遂に瑠璃と輪の哀しき戦いに決着が着きます。


そして、瑠璃のモデルを知る方であれば何となく予想していた方もいるのではないでしょうか……?



 瑠璃と輪が戦っている間、石庭で翼とマリアが熾烈な戦いが繰り広げていた。

 

「風鳴訃堂に与する事が、あなたの言う人を防人るという事なの?!」

「そうだ!神の力は、その為にこそ!」

 

 刀と短剣の鍔迫り合い。翼はこれを押し切るが、マリアはすぐさま立て直した。

 

「全く血の通わない言の葉ね!」

「言うに事欠いて……!」

 

 刀を斬馬刀のように巨大化させた斬撃、蒼ノ一閃を繰り出した。 

 それを避けると、左腕の篭手からもう一本の短剣を射出、それを逆手持ちにして翼に接近、天羽々斬とアガート・ラームの刃がぶつかり合い、交差する。

 

「思い出しなさい!あなたの居場所!あなたの仲間!あなたの家族!あなたがあなたである理由を!」

「私が……私で……?」

 

 マリアの怒涛の素早い攻撃を前に、巨大化した刃と翼の迷いでは守りに徹さざるをえない。

 

「そうよ!神の力なんかじゃない!あなたがあなたの力で、人の命を護る理由を!」

 

 だがその怒涛の連続攻撃も、翼に腹を蹴られた事で止まってしまい、後退る。

 

「知れた事!」

 

 跳躍した翼は刀を元の形状に戻し、脚部のブレードを展開、バーニアを点火させるとそのまま身体を高速回転する夢想三刃を放つ。

 

「人は弱いからだ!弱き命だからこそ、強き力で護らなければならない!!」

 

 高速で回転する三刃は、石庭の地を抉りながら容赦なくマリアに襲い掛かる。マリアが何度防いでも攻撃は止まず、アーマー、インナースーツ、頬を掠めてしまう。

 だがトドメと言わんばかりの大振りなったその瞬間を、この時をマリアは待っていた。

 三刃の内の二つを短剣でギリギリの所で受け止め、回転を殺した。

 

「弱いから守るだなんて傲慢ね……!」

「何だと?!」

 

 止められた翼は後退した。

 

「まるで、誰かを守っていないと自分を保てないみたいじゃない。その言葉……瑠璃の前でも、胸を張って言えるの?!」

「えっ……?」

 

 この場に瑠璃はいないが、今言った翼が戦う理由を彼女に告げても、絆を強く信じる瑠璃が受け入れるわけがない。

 揺らぐ翼にゆっくりと近付いて来たマリアが、翼の頬を平手打ちした。

 

「いつからあなたは、誰かではなく自分を守るようになってしまったの?!」

 

 その瞬間、翼を縛る不浄なる視線(ステインドグラス)の魔眼の呪縛が硝子のように砕け落ちた。

 

 戦う理由が、防人の在るべき姿から掛け離れていた事に気付いていなかった。翼の手から刀が落ちた。

 

「弱きを護るは理由たりえない……。じゃあ私は何の為に……いつまでも防人、防人と……馬鹿みたいに繰り返して来たのよ……!」

 

 その姿は防人ではなく、本当の姿である一人の気弱い少女。泣き崩れ、戦う意義を見失った翼のシンフォギアは解除された。

 

「分からない……分からないわ……!」

 

 戦意喪失状態となってもうギアを纏う理由はない。マリアもギアを解除した。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 屋敷の屋根では弦十郎と訃堂が相対している。訃堂が羽織を脱ぎ捨て、愛刀である群蜘蛛を構えると、弦十郎も戦闘態勢に入る。

 二人の間に流れる殺気は、実の親子で醸し出されるものではない。これは本気の殺し合いだ。

 

「はあぁっ!」

 

 先に動いたのは訃堂だった。刀の連続突きを手の甲で弾きながらその切っ先を掴み、反撃の貫手を訃堂は避ける。

 そのまま刀を振り下ろすが弦十郎はこれを宙返りで高く跳躍して避けた。だが訃堂の一振りの衝撃は屋根の瓦を吹き飛ばし、屋敷の塀を越えた木々を切り裂く威力だった。

 だが訃堂の鋭い眼光が宙にいる弦十郎を捉え、刀を振り上げた。が、弦十郎は宙のまま刀身を両手で無刀取りするばかりか、身体ごと竜巻の如く高速回転して刀を庭に落とさせた。

 

「貰ったぁっ!!」

 

 屋根に着地した弦十郎の貫手が、得物を失った訃堂の胸部を捉えた。

 その刹那、貫手は拳へと変えてしまったが、その拳圧は訃堂に打ち込まれる……はずだった。

 

「果敢無き哉!」

 

 訃堂の貫手が、弦十郎の甘さと共に鳩尾を突いた。肉は貫かれていないが、内臓にまで届く威力。

 吐血した弦十郎の身体を、そのまま訃堂が背後から腕を掴み、高く飛び上がった。その後は落下の勢いのまま、弦十郎を庭の巨石へと叩き落とした。

 庭を陥没させたその威力は弦十郎を戦闘不能に追いやる威力。彼は地中に頭部を埋め込まれた状態で動かなかった。

 

「儂を殺す気で突いていればあるいは……とことんまでに不肖な息子よ……!」

 

 死んではいないだろうが、弦十郎の敗北は見るより明らか。

 用無しと言わんばかりに、屋敷の正門にいる、排するべき存在を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 それ故に、怪物達が屋敷に忍び込んでいる事に気付かなかった。

 

 シェム・ハとなった未来が封じられている訃堂邸の地下電算室に三人の侵入者、訃堂に切り捨てられたノーブルレッド。

 

 訃堂に渡された全血清剤の細工によって、三人は不調状態に陥った。あの後、三人はチフォージュ・シャトーからここまで目指した。歩みは遅かったものの、だからこそ誰にも悟られずにここまで侵入出来た。

 

 小柄故にパナケイア流体の濁りの影響に最も苦しんでいるエルザは、ミラアルクが肩を貸してやる事でようやく歩けている。

 

「奴らが派手にやり合っている今こそ、ウチらのターンだぜ……!」

「……どうするでありますか?」

 

 ヴァネッサがコンピュータの前に立ち、コンソールをタッチして操作する。

 

「神の力の管理者権限を、こちらに移し変えるの。私達を簡単に切り捨てた風鳴訃堂とアルベルトには、相応の報いを受けてもらわないとね……。」

 

 三人には、風鳴訃堂とアルベルトへの復讐に燃えていた。だがその為には、ダイレクトフィードバックを一度解除するしかない。

 するとシステムがダウン。モニターに表示されたゲージが減少、ゼロになった。 

 

「よし、これでダイレクトフィードバックシステムを……」

 

 だがダイレクトフィードバックシステムが停止したという事は、シェム・ハを野に解き放つという事を意味していた。

 その意味通り、拘束から解放されたシェム・ハの目が開いた。エルザの耳が、シェム・ハの目覚めにいち早く反応した。

 

「何を……」

 

 最後まで言い終える間もなく、シェム・ハの腕輪から放たれた光線に身体を貫かれたエルザ。

 

「おい!これって……」

 

 そのまま光線を、剣で薙ぎ払うようにエルザとミラアルクの肉体を斬り落とした。

 

「エルザちゃん?!ミラアルクちゃん?!」

 

 不調により苦しむヴァネッサが攻撃する前に、シェム・ハの方が早かった。気が付けばエルザとミラアルクと同じように、ヴァネッサもシェム・ハによって胴体を切断されてしまった。 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 慟哭と共に振り下ろされた刃は、ドリルのように高速回転させた二叉槍の穂先によって受け止められていた。

 

【Horn of Unicorn】

 

「いい加減に……」

「瑠璃……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いい加減にしやがれええええぇぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瑠璃が叫んだ。瑠璃の怒りが共鳴したのか、エネルギーと回転速度が上昇していく。押されていった槍の刃に亀裂が生じ、次第にそれが大きくなっていくとそれが砕け散り、元の円環の刃に戻ってしまう。

 

 輪は刃が砕けた拍子に後ろによろけるが、それよりも突然人が変わったように乱暴な口調で叫んだ事に輪は戸惑った。

 

「ちょっと……瑠璃……?」

「黙って聞いてりゃ、勝手な事ばかり言いやがって!!一人で抱えきれなくて泣いているくせに、知らなくていいだ、うるさいだ、何様のつもりだよ!!」

 

 今まで一度たりとも、瑠璃がこんな乱暴な口調をするなど誰一人として見たこともない。本部のモニター越しで見ていた妹のクリスもこれには唖然としてしまっている。

 

「アイツに何を吹き込まれたのか分からねえけどな……何かに怯えきって、それから逃げる為に神の力に頼ろうとするお前なんかに、私は守られたいなんざ微塵も思わねえよ!!」

 

 まるで、いやもはやクリスそのものと言っても過言ではない。

 

「いつから神の力に頼るようになっちまったんだよ?!いつだって輪は、我武者羅に前を向いて突っ走ってたじゃねえか!!」

「うるさいうるさい!!私はどうしてもアンタを守らなきゃならないんだ!!」

 

 瑠璃に乱暴な一喝をされても、引き下がる輪ではない。

 

「どれだけ正しいと思った道を突っ走っても!いつも私の手から大切なものが零れ落ちていった!ただ突っ走るだけじゃ、アンタを守れないから!もう神の力を頼るしか方法が無いんじゃないか!!」

 

 急速で瑠璃に接近、チャクラムの刃を振り下ろすが、二叉槍の柄で受け止めた。

 

「どうして分かってくれねえんだよ……この分からず屋!!」

 

 力いっぱい押し返し、輪の腹にヤクザキックが入った。そのまま壁に叩きつけられたが、すぐに立ち上がった。

 

「分からず屋はアンタだ!!」

 

 チャクラムを輪の周囲に高速回転させてそのまま瑠璃に突っ込んできた。チャクラムの刃を、分離させた黒槍と白槍で防いでいたが、輪のチャージタックルがそのまま襲い掛かり、背中の襖ごと吹き飛ばされた。

 ちなみにそこには家宅捜索に尽力していた一人のエージェントがいたのだが、運悪く瑠璃と襖の下敷きになった。死にはしないが、「ゴハァッ!」と小さな悲鳴をあげた。

 瑠璃は他のエージェントを巻き込むまいと走り出し、輪もその後を追うが、無慈悲にも瑠璃と畳に敷かれたエージェントを、輪が踏んづけて気絶させてしまう。

 

 そして、誰もいない正門前の敷地まで移動すると即座に反転、輪に膝蹴りを繰り出した。

 

「なっ……?!」

 

 まさかの行動に驚愕し、咄嗟にチャクラムで防ぐが、すかさず瑠璃が黒槍を振り上げた。防御が間に合わず、チャクラムは2枚とも弾き飛ばされた上に、再びヤクザキックをくらって倒されてしまう。

 

「負けられない……!私は……はっ……!」

 

 だが気付いた時には既に輪の上に乗っかっており、右手の拳を振り上げていた。

 殴られる。そう思い、輪は覚悟して目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガアァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 痛くない。確かに振り下ろされたはずだが、何故痛いくないのか、目をゆっくり見開いた。

 すると、瑠璃が泣きながら輪を見ていた。涙を流す目は、冷たい闇ではない。ラピスラズリのように煌めいている。

 そして、瑠璃が振り下ろした拳は、輪の左側の地面を殴っていた。

 

「瑠璃……どうして……」

「約束したじゃないかぁ……!あの時、ダインスレイフの闇から私を救ってくれた時、一緒に戦おうって……二人で、私達の絆で一緒に戦おうって!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

一人じゃ不安だから……一緒に戦ってほしい。私も、瑠璃と一緒に戦うよ

 

 

 

 

うん。今度は二人で…… 

 

 

 

 

私達の絆の力で!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダインスレイフの闇に呑み込まれ、暴走した瑠璃を、負傷しながらも瑠璃を救い出した。その時に二人は誓い合った。

 

「それだけじゃない!フィーネの意識に操られた時だって!フロンティアの時も!バルベルデの記憶を思い出した時だって!私はいつだって、真っ直ぐ前に突っ走る輪に救われたんだよ!」

(そう……だったんだ……。そう思ってくれてたんだ……)

 

 ギアやファウストローブがなくても、常に隣には輪がいてくれた。目の前に高い壁があっても、どんな困難が迫ろうとも、輪が傍にいてくれたから乗り越えられて来た。

 瑠璃と輪の間には、何者であっても切れる事のない強い絆で結ばれていた。

 

 だが輪がその絆よりも、神の力を求めるようになっていた。瑠璃はそれに憤り、同時にそこまで追い詰められていた事に気付いてやれなかった自分が許せなかった。

 

「神の力なんか要らない!輪が独りで泣いているなら……私もクリスも!お姉ちゃんや皆も傍にいる……!輪は独りじゃないんだよ……!だから……一緒に戦おうよ……!」

 

 瑠璃は思いの全てを打ち明けた。その思いに、輪は自分が大事なものを見失っていた事に気付かされた。

 

(何やってんだ私は……!瑠璃を守るって決めたのに……泣かせてどうすんだ……!とんだ大馬鹿野郎だ……私は……!)

 

 次第に輪は涙を流した。

 

「ごめん……瑠璃。私……また大事なことを見失ってた……。」

「輪……」

「私……馬鹿だからさ……突っ走る事しか出来ないから……またこうやって大事なものを見失う……。だけど瑠璃……」

 

 輪はゆっくりと上体を起き上がらせると、その場で瑠璃を抱きしめた。

 

「アンタが命懸けで繋ぎとめてくれたこの絆、私は手放したくない。ありがとう……瑠璃。私を見つけてくれて……!」

「輪……!」

 

 離すと輪は真っ直ぐ、瑠璃の目を見てニッと迷いのない笑みを浮かべる。争う理由がなくなった二人はそれぞれ纏う戦闘装束を解除した。

 

「行こう輪。マリアさんもお姉ちゃんと……っ!」

 

 だが突如、瑠璃が虚を突かれたように驚愕していた。輪がそれに気づいた時には、瑠璃に退かされるように右の方へと払い倒されていた。

 

「瑠璃……?!っ……!」

 

 輪の目の前で、瑠璃は群蜘蛛にその肉体を貫かれていた。その刀の使い手、風鳴訃堂の手によって。

 

「ぁ…………あぁ…………っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瑠璃いいいいいいぃぃぃぃーーーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 輪の甲高い悲鳴が、万魔殿と化した鎌倉の夜空を切り裂いた。

 

 



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力の差

やはりと言いますか、訃堂許すまじの感想をいただきました。

そりゃあ前回のラストであんな事をしたらね……


 「帰ろう、翼。みんなの所へ……」

 

 戦う意味を失い、失意に落ちて泣きじゃくる翼にマリアが手を差し伸べようとした時だった

 

 

 

 

 

瑠璃いいいいいいぃぃぃぃーーーーー!!

 

 

 

 

 

 

 夜空を切り裂かんとする悲鳴。方向はS.O.N.G.が入って来た正門の方からだ。

 

「今のは輪の……?!」

『マリアさん!瑠璃ちゃんが……風鳴訃堂に……!』

 

 友里から通信が入った。モニター越しで瑠璃が訃堂の凶刃に倒れた光景を目の当たりにしてしまったクリスが『姉ちゃん!姉ちゃん!!死なないでくれよ姉ちゃん!!』と悲痛な叫びを挙げながら取り乱しているのが聞こえた。

 

 良からぬ事であると明白。二人は急いで正門の方へと駆けつけようとするが、そこに降り立つ者が一人。ラピス・フィロソフィカスのファウストローブを纏ったアルベルトだった。

 

「あなたは!って、あれは!」

 

 空から襲撃してきたアルカ・ノイズに気付くが、詠唱を唄うよりもアルカ・ノイズの攻撃の方が早い。マリアを分解せんと、三体の羽根を鋸のように回転して襲い掛かるが、アルベルトが単身で突出し、飛び立った。仕込み杖である剣の刃を振るい、それらが全て真っ二つに斬り捨てられた。

 

「え……?!」

 

 目の前で敵であるはずのアルベルトに助けられるという信じ難い事態に困惑する。

 

「呆けるな!ギアを纏え!」

「待って!どうして……」

「今の私は敵ではない!」

 

 アルベルトの表情に余裕の笑みは浮かんでいない。まさに真剣そのもの。

 二度に渡ってS.O.N.G.の敵として立ち塞がったアルベルトだが、使役しているはずのアルカ・ノイズを、マリアを守るように斬り捨てた。

 剣を鞘に納め、そして信じてくれと言わんばかりの真剣の表情。アルベルトの全てを信じきるのは難しいだろうが、今はその力を信じるしかない。  

 

 すぐさま屋根の瓦から仕込まれた装置がアルカ・ノイズの召喚石を射出。石庭にばら撒かれて砕け散った。

 

「アルカ・ノイズ!まだこんなに……」

「どうやら夷狄である我々を始末しなければ気が済まないようだ。」

「我々?まさかあなたも?!」

 

 訃堂は利害の一致で手を組んでいたアルベルトの抹殺まで図ったということだ。盟とはいかに儚く脆いものかと、一瞬だけ嘲笑の表情を見せるがそれにかまけている場合ではない。

 

「そういう事だ。来るぞ!」

 

 召喚石が砕け散った箇所からアルカ・ノイズが姿を現した。

 

「翼、立って!戦うのよ!」

「マリア……私は……」

 

 今の翼には戦う気力がない。これが何度も自分達に立ち向かってきた防人の姿なのかとアルベルトは呆れるが、戦えない翼に構っている余裕はない。

 ヒューマノイド型のアルカ・ノイズがマリアとアルベルトに向けて解剖器官を振りおろそうとしていた。

 

「マリア、今はアルカ・ノイズだ!」

「……ええ!」

 

Seilien coffin airget-lamh tron…… 

 

 アガート・ラームのギアを纏ったマリア。同時に解剖器官諸共、アルカ・ノイズの身体が短剣によって切り刻まれて消滅した。

 

「流石、エンキの左腕(・・・・・・)のギアだ。」

「何を訳のわからない事を、やるわよ!」

 

 戦えない翼を背に、マリアとアルベルトは互いに肩を並べてアルカ・ノイズの群れと相対する。

 

「そうだな……!」

 

 地上から襲い掛かるヒューマノイド型のアルカ・ノイズには刃を抜かず、杖のままそれらの個体を突いて貫き、振り下ろして殴り倒す。

 

 空中から襲い掛かる飛行型には、杖の先端を銃のようにアルカ・ノイズに向けると、銃口から発射された弾丸のように光線が発射されてそれが五本に分裂、標的を全て貫いて赤い塵にしてやる。

 

「やあぁっ!」

 

 アガート・ラームの短剣が蛇腹剣へと変化させて、鞭のようにしなる刃が縦横無尽に舞い、周囲のアルカ・ノイズの群れを蹴散らした。

 

 即席で且つ敵同士だった二人では、装者同士の連携は望めないが、あえて連携せようとせずに各々の得意とする戦い方でアルカ・ノイズの数を減らしていった。 

 

「雑魚を素早く片付けるぞ!」

「もちろんよ!」

 

 アルカ・ノイズを放置して瑠璃の所に行けば、必ず訃堂との戦いに横槍が入ってしまう。後顧の憂い断つ為に、マリアとアルベルトは急いでアルカ・ノイズを殲滅しに掛かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 悲鳴の主である輪、群蜘蛛に貫かれて崩れ落ちた瑠璃と、その元凶の訃堂。

 群蜘蛛によって貫かれ、空いた穴から血が止めどなく溢れ出て、S.O.N.G.の制服は鮮血に滲んでしまう。

 

「あ……ぁ……瑠璃!瑠璃!!」

 

 目の前で起きた光景が夢であればどんなに良かったか。だが無情にも、輪が抱え上げた瑠璃は既に骸となって動かなくなっている事実を突きつけられた。

 

「ぁ……ああああぁぁーーー!!」

 

 輪の隣にはいつも瑠璃がいてくれた。何度悩んで迷っても、瑠璃がいると何でも出来る気がしていた。

 そんな心の支えを失った輪の悲しみは深いなんて簡単にすませられるものではない。

 

「くだらぬ……」

「っ……!」

「風鳴の血を引かぬ夷狄など、真の防人に非ず。ましてや、歌などで世界を護るなどと戯言を、真の防人の血を引く翼を誑かす奴など不要!」

「……は?」

 

 プツンと、輪の中で弾けた。

 大切な親友を侮辱しただけでなく、歌を嘲笑い、戯言だと切り捨て愚弄した。輪の逆鱗に触れるには十分だった。

 

「今……何て言った……クソジジイ!!」

 

 憤怒と共にファウストローブを纏い、すぐさまチャクラムの刃を訃堂に振り下ろした。

 だが相手は弦十郎を捻じ伏せた訃堂。力のぶつかり合いでは簡単に押し返され、倒れてしまう。

 

 老体でありながら、一体何処にそんな力を出せるのか分からないが、怒りに燃える輪にはそんな事は知った事ではない。

 立ち上がると同時に、クラウチングスタートの体勢。そして、刃と足の装甲に稲妻が走ると目にも止まらぬ速さで接近して、チャクラムの刃を振り上げる。

 が、これも容易く防がれる。だが今度は反撃される前に再び電光石火の素早さで離脱、そして再び接近して刃を振るう。

 

「さっきから黙って聞いてれば何だよ……!瑠璃だって風鳴なのに、血が繋がってないからって孫を殺すの?!そんなに血が大事なのかよぉ?!」 

 

 家族を失い、目の前で親友を奪われた。しかも小夜の殺害を、実際に手を下したヴァネッサを雇っていたのは訃堂、そして瑠璃の命を奪ったのも訃堂。

 訃堂によって二人の大切な人を奪われた輪は彼に対する憤怒と憎悪は凄まじいものである。

 その二つの感情を体現するかのように、離脱と速攻を繰り返すごとに速さと威力が上がっていった。

 そして、最後の一発は訃堂の頭上より急降下、チャクラムをメリケンサックのように持ち変えて殴りかかった。

 

「死に晒せぇ!クソジジイ!!」

 

 雷轟の如く、素早く思い一撃が訃堂に降りかかる。

 

 

【迅雷・ソニックボルト】

 

 

(っ……!嘘でしょ……?!)

 

 渾身の一撃を、まさか刃の切っ先で防がれるなどと目を疑うような荒業をやるとは思わなかった。

 

(何で……何で……!ジジイのくせに……生身で戦えるんだよ?!)

 

 輪はファウストローブを纏って戦っているのに対して、訃堂は刀一本で異端技術を相手に渡り合うどころか息切れすら起こしていない。

 決して輪が弱いわけではないのだが、それ以上に訃堂が異次元だった。

 

「鼠風情が……消えよ!」

 

 足元が陥没するほどの衝撃波が放たれ、チャクラムの刃は一瞬にして砕け散った。

 

「うわあああああああぁぁーーーー!!」

 

 輪も悲鳴を挙げながら打ち上げられた。

 

(勝てなかった……何で……何で私は……何も守れないの……?)

 

 どれだけ奮闘しても、訃堂に勝てなかった。守りたかった瑠璃も失った絶望を表すように、空中でファウストローブが解除されてしまう。そのまま藻掻くことなく高所から意識とともに落ちていった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここが何処なのか分からない。

 

 

 

 

 

 真っ暗で何もない世界

 

 

 

 

 

 

 だが海の底へと沈んでいくように、何処までも落ちていくのだけは分かる

 

 

 

 

 

 

 

 どこまでも……どこまでも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

「私…………死んじゃったのかな…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリス…………お姉ちゃん…………輪…………皆…………ごめんなさい…………」

 

 

 

 

 

 

 

「私…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………り…………!って……………………る…………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この声………輪………?」

 

 

 

 

 

 

 

 微かに聞こえた声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一筋の光が差し込んだが、手を伸ばしても届かない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このままどんどんと落ちていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まったく……お前というやつは……』

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対の破壊神が、命を投げ出した瑠璃に呆れながら姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

『絶対の破壊神たる我が、あ奴以外の誰かを守らねばならぬとはな……』

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは……」

 

 

 

 

 

 

 

『本来であれば、我がこの世界を破壊し尽くしてやるはずだったが……。どうやらそれも……叶わぬようだ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を……?」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

『今一度、お前を手助けしてやる…………代わりに、我が運命(呪い)を受けよ……新しき世界……お前が見届けよ……』

 

 

 

 

 

 

 呪詛という割には、顔は微笑んでおり、どちらかといえば託したように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 絶対の破壊神と瑠璃の両手を重ね合わせ、指をギュッと絡ませた。

 

 

 

 

 

 

 

  

『バラル……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我が真実は…………その先に…………』

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 少女の魂の中に内在していた破壊神の身体は星屑となって、瑠璃を優しく包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嗚呼……エンキ……ヒトの絆とは……こうも…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 絶対の破壊神は、一人の少女を守る為に儚い星となって、光へと届けさせた。




輪の楽曲【XV編2】

前を向いて歩こう

 自分が歩いてきた道の中で、失ってきたものの多さに寂しさや不安を抱き、正しかったのかと問いながらも、過去に縛られて俯くより未来へと進む事の決意を表した楽曲
歌詞の中に「夜に光をくれた」「誇り高い」「騎士」など、過去に登場し亡くした大切な者達を連想させる

実はこれだけ1番の歌詞を考えてあります。
とはいっても、ちゃんと成立しているかどうかは一切わかりません


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護るという事

12月28日まで待っていた甲斐があったぜぇー!

その代わりクリスマスネタは没になりましたが……

本年度最後の投稿になります。

2月から始めたこの小説も大詰めになってきました。

今回はあとがきの雪音姉妹の誕生日シナリオがメインとなるので、本編は短めですが、よろしくお願いします。


来年も、是非最後までお付き合いいただければ幸いです!


 マリアとアルベルトの力でアルカ・ノイズを殲滅させていくが、瑠璃が訃堂の凶刃によって倒れたという報せがある以上、急いで瑠璃の所へ向かわなくてはならなかった。

 

「これで最後の一匹だ」

 

 アルベルトが最後の一体を斬り捨てた事で、ここに現れたアルカ・ノイズを全て倒した。

 

「ご丁寧に私とマリアを狙ってくる辺り、余程私達を排除したいようだな」

 

 アルカ・ノイズは翼にだけは襲わず、マリアとアルベルトだけを標的にしていた。恐らく訃堂の意があってのものだろう。

 

「行くわよ翼。……翼?」

 

 マリアの呼び声に反応を示さない翼。あれほど防人として、装者の先輩として皆を纏め上げていた。今の翼にはその影すらも感じさせないほどに弱っていた。

 

(戦えない……私には……何を糧にして戦えば良いのか分からない……)

「翼!!」

 

 俯いてばかりの翼にマリアが喝を入れる。思わず翼は、まるで叱られた子供のようにビクッと身を縮こませてしまう。

 

「瑠璃が危ないのよ!!今あなたがここで立ち止まったら手遅れに……」

 

 

 

 

 

 

 うわああああああぁぁぁーーーーー!!

 

 

 

 

 

 

 再び夜空を切り裂かんばかりの悲鳴。今度は輪のものだ。さらに夜空を見上げると、意識を失い、ファウストローブが強制解除された輪が打上げられ、落ちようとしている。

 

「出水……?!」

「まずい……!ファウストローブ無しに、あの高さから落ちたら……!」

 

 マリアの言う通り、輪は屋敷より遥か高く打ち上げられてから落ちようとしている。地面に叩きつけられれば助かる見込みなどありはしない。

 そこにアルベルトが素早く屋根に跳躍し、そこから高く飛び込むように飛翔した。

  

「アルベルト!」

 

 マリアが気付いた時には、アルベルトは既に空中を飛び込んで、腕を伸ばしていた。天高くから落ちていった輪を抱え上げてキャッチした。たが着地は両足ではなく、アルベルトの背中だった。

 輪を守って地面を強く背中を打ち付けたアルベルトだったが、ファウストローブを纏っていたお陰でダメージは軽減された。

 

「流石に今のは堪えた……。っ……!」

 

 だが着地した場所というのが、奇しくも血塗れの遺体となった瑠璃のすぐ近くだった。

 

「まさか……ルリ!!」

 

 輪を安置させると、取り乱すように瑠璃に駆け寄るが、おびただしい出血量で助からないと悟り、膝から崩れ落ちた。

 

「ルリ……そんな……!」

 

 誰にも見せなかった悲嘆の顔。両眼からは涙を流し、その一滴が瑠璃の頬に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 ルリィーー!!何処だぁーー!?ルリィィーーー!!

 

 

 

 

 

 ルリ……すまないルリ……!

 

 

 

 

 

(また……失うのか私は……。あのお方も……ルリも……)

 

 愛する者を失った絶望。それが数千年の時を経て、再びその身に降りかかった。歯を強く食いしばり、握った掌は爪が食い込んで血が滲み出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅ……ぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 微かに聞こえたうめき声が、アルベルトを驚愕させた。声は下の方から、そこにあるのは瑠璃の遺体。

 そこを見ると、閉じていた重い瞼が少しずつ開いている。

 

「ルリ……?!」

 

 瑠璃が刺されたであろう心臓部には傷がない。そこにアルベルトが耳を当てると、本来であれば止まっているはずの心臓の鼓動。

 

「生きてる……!」

「ここは……確か私は……」

 

 朧気の意識の中で動こうとするが、無茶させまいとアルベルトが制止する。

 

 あれだけの出血量であるにも関わらず、息を吹き返した。どうしてかは分からないが、ルリが生きている事に変わりない。アルベルトにはそれだけで十分だった。

 

「大丈夫かい……?痛いところは……」

「うん……何とも……。どうして泣いてるの……?」

 

 悲しみから安堵へと変わっても、アルベルトは涙を流している。何でもないと言いたいのか、無言で微笑んで首を横に振る。

 

「良かった……姉ちゃん……!」

 

 モニタリングしていた本部でも、瑠璃が息を吹き返したのを見たクリスは足の力が抜けてしまったのか、転んでしまう。

 その横から調と切歌が支える。

 

 

 ギアを解除したマリアと翼も正門前に駆けつけた。

 

「アルベルト!瑠璃と輪は……」

「皆無事だ。だが、ここに留めるのは危険だ」

「そうね、二人を頼んだわよ!」

 

 アルベルトは瑠璃と輪を抱えて、訃堂邸から離脱した。

 

「翼、急いで司令と合流を……」

 

 だがマリアの背後を風鳴訃堂が殴り飛ばした。

 

「マリア!」

 

 強烈な一撃を受け、塀まで飛ばされたマリアはそのまま背中を強く打って気を失ってしまう。翼がマリアに駆け寄るが……

 

「翼!」

 

 訃堂の強い声に怯えた翼が振り返る。

   

「儂の下に来い!防人ならば、風鳴の血が流れているならば、夷狄を全て討滅せよ!」

 

 夷狄と言われて、瑠璃の事だと察するが、戦えない弱気な少女になってしまっている翼に、そんな事が出来るはずがなく、それを拒否した。

 

「……出来ません。私には……家族を殺めるような事は……私には……!」 

「刻印、起動!」

 

 不浄なる視線(ステインドグラス)の支配から既に解放されている翼には、意のままに支配する事は出来ない。

 防人の姿を失った翼に訃堂は失望した。

 

「お前もまた、風鳴の面汚しか……」

 

 もう不要であると、そう告げるかのように懐から出したモーゼルC96の銃口を容赦なく翼に向けた。

 

「この親不孝者めがあああぁぁぁーーー!!」

 

 モーゼルの引金を弾いた。銃口から発射された弾丸が翼に襲いかかった。が……

 

「ぁ……ぁ……!」

 

 突如翼を守るように庇った男が、訃堂の凶弾に撃たれ、倒れた。翼も、モニタリングしていた本部にいる全員が驚愕した。

 

「お父様!!」

「ここにも愚息がおったか!」

 

 八紘が翼を身を呈して守ったのだ。泣きながら翼は凶弾に倒れた八紘に駆け寄る。

 

「どうして……お父様が……!」

「私以外の男に……お前の父親面をされたくなくてな……がはぁっ!」

 

 八紘は吐血した。しかも心臓に近い位置を撃たれている。群蜘蛛に穿かれ、意識不明の重体だった瑠璃よりも傷が重い。

 

「あ……あああぁぁ!!」

「翼……」

 

 泣き叫ぶ翼に、最後の力を振り絞って伝えようとする。

 

「人は……弱いから護るのでは……ない……。人には……守る価値があるからだ……。それを…………忘れる…………な…………」

「あぁ……あああぁぁ!!お父様ああぁぁーー!!」

 

 それを最期に、八紘は事切れた。目の前で父親が亡くなり、翼は泣き叫んだ。

 

「逝ったか!親に逆らうからだ!」

 

 孫と実の息子をその手に掛けても嘲笑う訃堂。だが、泣き止んだ翼が立ち上がる。

 

「護るべき人の価値……それが何なのかは、未熟な私にはそれを知るべくもありません……それでも……!」

 

 そこにいるのは泣き虫の翼ではない。正面から訃堂と相対する。

 

「私の歌を……聴いてください!」

 

 戦う意味を見出した今の翼に、迷いはない。

 

 Imyuteus amenohabakiri tron……

 

 天羽々斬ギアを纏い、訃堂が刀を握り、互いの刃を交える。




おまけ 雪音姉妹誕生日編

瑠璃「28日……私達姉妹の誕生日。だけど私は……」

その頃クリスはというと……

クリス「28日……あたしら姉妹の誕生日。だけどあたしは……」

ルリクリ「「クリス(姉ちゃん)を盛大に祝ってやるんだ!」」

瑠璃「必要なのは料理と……」
クリス「プレゼント……そんで……」
ルリクリ「「パーティーの飾り付け!」」

瑠璃「姉妹の誕生日パーティーはぜひ私の家で……」
クリス「誕生日パーティーはあたしの家で……!」

場所は離れても、考えている事は一緒だった

手料理編

瑠璃「料理ならお手の物!ローストビーフにケーキ、ピラフにサラダ!クリスは喜んでくれるかな?」

クリス「チクショウ!手のこんだ料理とかあたしは出来ねえぞ?!これじゃあ姉ちゃんを喜ばせられねえよ!」

瑠璃の勝ち

続いてプレゼント編

クリス「実は前から狙ってたやつがあんだよ。結構高いが、財布の紐を緩くするならこの瞬間だ!」

瑠璃「嘘?!無い?!前から欲しかったやつなのに!」

クリスの勝ち

そして誕生日パーティーの飾り付け編

瑠璃「何とかして人材を確保しなきゃ」
クリス「何人かに手伝って貰わなきゃ、あたし一人じゃ大変だ」
瑠璃「だけど……」
クリス「だけど……」

ルリクリ「「こういう時のお姉ちゃん(先輩)は頼りにならない!」」

人材の評価も一言一句同じだった

瑠璃「ねえ調ちゃん!」
クリス「なあ切歌!」
きりしら「え?」
ルリクリ「あっ……」
瑠璃「あ、あらクリス……」
クリス「お、おう姉ちゃん……どうかしたのか?」
瑠璃「べ、別に?そういうクリスは?切歌ちゃんに何か用でもあるの?」
クリス「よ、用が無ければ話しかけちゃいけないのか?そういう姉ちゃんだって……」
瑠璃「私は何も……」
クリス「いいや、何かあるな?」

調「どうしちゃったんだろう二人とも……?」
切歌「二人の誕生日は目の前なのに殺伐としてるデスよ!」

翼「どうかしたのか二人とも?何か手伝う事があるのなら、私を頼ってほしい」
ルリクリ「お姉ちゃん(先輩)じゃ駄目(だ)!」
翼「なっ?!姉妹揃って私を……ガクッ……」
調「大変!翼さんが!」
切歌「双子の二重攻撃でポッキリやられてしまったデス!」

その後、姉妹は知り合いという知り合いにパーティーの飾り付けを手伝ってもらい……

迎えた28日

瑠璃「遂にこの日が来た。」
クリス「この日の為に、あたしは用意した!」
瑠璃「後は電話でクリスを家まで呼び出せば……」
クリス「電話で姉ちゃんを家まで呼び出す。そして……」

ピンポーン

瑠璃「誰かな?」
クリス「誰だ?」

マリア「瑠璃、車に乗って」
瑠璃「マリアさん?!何で?!」
マリア「いいから来なさい!」

翼「私のバイクに乗れ、雪音」
クリス「先輩?!どうして……」
翼「無駄話をしている暇はない!乗れ!」

瑠璃はマリアの車に、クリスは翼のバイクに乗せられ、向かった先は……

瑠璃「ここって……」
クリス「本部?!」
ルリクリ「「あっ……」」

マリア「まったく……あなた達ときたら……」
翼「考える事は同じだというのに、僅かな差異でここまでの事になるとはな」

ルリクリ「え?」

マリア「とりあえず中に入りなさい」
翼「皆が待っているぞ」

ルリクリ「皆?」

中に入ると……

パァン!パァン!

誕生日おめでとーう!!

ルリクリ「「へっ?!」」

響「いやあ二人とも早く言ってくれたら良かったのに〜!」
瑠璃「え?!どうして?!」
輪「アンタ達、自分達の家でサプライズでバースデーパーティしようとしてたでしょ?切歌と調が泣きそうな顔で相談して来たからもしかしたらと思ってたら、案の定だもん」
クリス「え、まさか姉ちゃん……」
瑠璃「クリスも……同じ事考えてたの?」
クリス「だって、姉ちゃんの誕生日……バルベルデで出来なかった分、喜ばせてやりたいって……」
瑠璃「私も同じ……」

輪「この姉妹、こういう所で息が合うんだよなぁ。ま、それで改めて……瑠璃!クリス!」

誕生日おめでとう!!

瑠璃「皆……」
クリス「お前ら……」

「「ありがとう!」」


瑠璃、クリス、誕生日おめでとうございます!


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真名

みなさん、お待たせして本ッ当に申し訳ありませんでした!

え?何をしていたかって?バカテスにハマってましたw

新年明けて、気づけばバレンタイン。流石にマズいと思い、投稿しました。

今回、瑠璃に宿るアヌンナキの名前が明らかになります。


「お、お前は……?!」

「説明している余裕はない。この子達を頼むぞ」

 

 突然、敵であるはずのアルベルトが瑠璃と輪を窩抱え、訃堂邸の外で待機していたS.O.N.Gのエージェントの前に現れ、二人の身柄を彼らに預けた。

 エージェントにとって、アルベルトの不可解な行動に狼狽え、拳銃を構えるが、アルベルトは構わずその足で訃堂邸に戻る。

 

 戻ってみれば、戦う意味を取り戻した翼がギアを纏い、訃堂と交戦している。

 だが、相手はファウストローブを纏った輪をいとも容易くねじ伏せた、正真正銘の化け物。

 

 翼が脚部のユニットから剣を二本射出して、それを手に取ると柄同士を連結、双剣となったその刃に紅蓮の炎が纏う。

 脚部のブレードユニットのバーニアを点火、双剣を高速回転させてながら高速で直進する。

 だが片手で構え、振り下ろした群蜘蛛の刃が、翼の技を消し飛ばした。

 

 

 【風輪火斬 何するものぞ!!】

 

 

「奴め……本当に人間か……?!」

 

 老体の生身でギアをねじ伏せるその力を目の当たりにしては、ファウストローブを作る者としては笑えない。

 だが現に、生身でシンフォギアを圧倒している。相手はあの弦十郎を倒した、まさに怪物。シンフォギアのアーマーを軽く砕き、翼の髪留めも破壊される。翼は手も足も出ず、守る事しかできない。

 

「歌では世界を護れない!人と繋がり、分かり合うなど片腹痛し!そのような世迷言、血を流し、命を礎として来た先達に顔向けできない事が何故分からぬ?!」

 

 片手で九字護身法を刻み、群蜘蛛を構える。その姿はまさに不動明王。国を護る為ならば如何なる対価を支払う。それが彼の矜持であり、心技体を重ねた故の強さ。

 

 翼が刀と脚部のブレードに蒼い炎を纏って斬りかかる一撃を、訃堂は刺突をもって迎撃。翼は技を相殺されるどころか押し負けて吹き飛ばされてしまう。

 だがそれを見逃すほど、訃堂は甘い男ではない。

 

「散華せよぉっ!!」

 

 渾身の力を込めた斬撃が翼に襲い掛かった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「クソッ……デタラメにも程がある……!どうなっている……?!」

 

 訃堂が放った一撃は砂煙が広範囲におよび、目視では何も見えない。翼は無事なのかすら分からない。

 だがあの一撃はまともに防ぐ事など不可能に近い。それ程までに訃堂の力は強大なのだ。

 

「だが……ここで倒れられては困る……」 

 

 凶弾に倒れた翼の父、八紘と翼の気持ちを汲んで手出しせずに静観していたが、ここで訃堂を野放しにしては今後何が起こるか分かったものではない。

 

「かくなる上は……っ!」

 

 ラピスのファウストローブを纏おうと杖のスペルキャスターを掲げようとした時、砂煙から一つの黄金の光が発せられていた。 

 

「あれは……!」

 

 一度、装者達が車両廃棄所でノーブルレッドと戦った時に見た事があった。翼のギアの形状が、まさにその時と同じだった。

 

「馬鹿な……アマルガムだと?!」

 

 辛うじてアマルガムのバリアが防いだ。だがそれは護国災害派遣法を盾に封印せざるをえなくなった、まさに禁じられた切り札。それを使えばS.O.N.G.はさらに立場を悪くしてしまう。

 

「ま、間に合ったのか……?!」

 

 S.O.N.G.の本部で翼達の戦いを固唾をのんで見守っていた藤尭が呟いた。そのモニターには『制限解除 議決』と表示されていた。

 

「お父様ああああぁぁーーー!!」

 

 手を合わせ、右手の装甲に象られた黄金の華を展開させると、黄金と青い巨大な剣と化し、刃が開かれ、六つの非対称の枝刃となる。

 そして枝刃が一側に展開され、刃に蒼い炎が纏われる。その姿はまさに一つの羽根のよう。

 

 翼がそれを振りおろし、訃堂の群蜘蛛で迎え撃つ。だが分が悪いと悟った訃堂は、たった一合で後退する。同時に、黄金の刃と交えた群蜘蛛の刀身が崩れ落ちた。

 

「我が命にも等しき群蜘蛛が!」

 

 この時点で勝敗は喫した。だが翼はトドメを刺そうと掛けだした。その顔は怒りが滲み出ている。

 

「この国に必要なのは防人ではなく、護国の鬼!」

 

 そう言うと訃堂は自ら上着をはだけさせ、古傷が刻まれている胴体を露わにした。

 

「儂は死んで、護国の鬼とならん!そしてお前もぉ……!!」

「あの馬鹿めが……!」

 

 訃堂は翼の一振りを以て、十文字による割腹を果たそうとしている。翼を護国の鬼と落とす為に、護国の為に喜んでその身を捧げようと。

 訃堂を助けるのは不本意ではあるものの、ここで翼が訃堂を斬れば、翼が護国の鬼へと堕ちてしまう。それは八紘が望むものではない。

 だが怒りに取り込まれた翼は構わず、剣を振り下ろした。

 

「護国の鬼よおおぉぉぉぉ!!」

 

 だがそこに、一人の男が訃堂の前に立った。それに気が付いた翼は振り下ろした刃を止めた。その男は風鳴弦十郎だった。

 

「そこまでだ翼……。お前まで鬼と堕してしまえば、俺は兄貴に顔向け出来ん……!」

 

 額から血が流れ落ちる。もう少しで弦十郎と訃堂を斬り、訃堂の目論見が成就してしまうところだった。

 最愛の父への裏切りにも等しいこの愚行を翼は悔いながら、亡くした父を想い泣き叫んだ。

 

 だが、思い馳せる時間など与えてくれなかった。突如発生した地響きと揺れが発生した。

 その揺れに気が付いたマリアが目を覚ました。

 

「地震……この鳴動は……?」

「いえ、あれを!」 

  

 緒川が指した方、訃堂の屋敷から赤い光柱が天を貫くが如く顕現した。

 

「な、何なんだ……こいつは?!」

 

 その場にいた皆が天を仰ぐように空を見上げる。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 同じ頃、チフォージュ・シャトーでシェム・ハの繭との戦いでアマルガムの不許可使用で謹慎処分が下された響は今、父親である洸が住むアパートにいる。両親が蟠りが解けたとはいえ、まだ別居なのだ。 

 

 響は何となく、父に話を聞いてほしくてここに来た。インスタントラーメンを食べた後に、響はその事を話した。

 とはいえ、聖遺物のせの字も無縁な一般人である洸には到底アドバイスなんて出来るわけがなかった。

 

 そして日が暮れ夜になると、本部からの通信が入った。

 

「はい。でも、私の謹慎は?……分かりました!本部に向かいます!」

「行くのか?」

 

 通信を切った響に、洸が心配そうに声をかける。

 

「うん……行かなきゃ」

 

 急いで支度をしようと立ち上がる響。

 

「なあ響……」

「うん?」

 

「……へいき、へっちゃらだ」

 

 どんな困難を前にしても、自然と笑顔になれる魔法の言葉。突然それを言われた響は素っ頓狂な声を発する。 

 

 

「へ?」 

「何もしてやれないダメな父親が、娘にかけてやれる唯一の言葉だ」

 

 洸が手に取ったのは、かつて幼い響の小学校の入学式の日、桜が満開に咲く小学校の校門で、親子揃って笑顔で映っている家族写真。それを眺めながら語りかける。

 

「同じ言葉でも根性なしの俺には、いつしか呪いと変わっていった……だけどお前は、違うだろ?」

「お父さん……」

 

 へいき、へっちゃらと、幼い響にいつも言っていたが、ある日洸は家族を捨てて蒸発した。結果的にそれが、逃げ続けて来た洸を縛る呪いとなった。

 だが響は、それでも諦めなかった。それが今でもお守りのようになっていた。

 

「物事を呪いととるか祝福ととるかなんて、気の持ちよう1つだ」

「呪い……うん、そうだね」 

「それにほら、なんだ……呪いも祝福も、漢字で書くとよく似てるだろ?裏と表で……お?俺の言ってる事もあながち間違いじゃないかもな!」

「ハハハ!何それ?」

 

 自分で名言を作った気になっていた洸が自慢げに笑うと、響もそれにつられて笑う。

 

「来年の今頃には、きっと名言だ!」

「けだし名言だよ!」

 

 話を終え、支度も整った響。外は既に夜であり、吐いた息が白く表れる。勢いよくアパートの階段を降りた響に、洸が投げかける。

 

「行けぇ響!お母さんの事は任せろ!」

「ありがとうお父さん!ラーメン美味しかったー!」

 

 振り返って手を振った響は、進むべき道へと向いて走り出した。

  

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、私は大切な人を遺して死んだ。

 

 

 

 

 

 

 シェム・ハとの戦いに敗れた私の肉体は崩壊して消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 残された魂は、星屑となって天へと昇華した。

 

 

 

 

 

 

 

 万が一、私が敗れた時の為に施した最後の手段

 

 

 

 

 

 

 この星に残った最後のアヌンナキとして、果たさなければならぬ使命

 

 

 

 

  

 エンキが死にもの狂いで守ろうとしたこの星と、守るべき者達の為に

 

 

 

 

 

 

 

 

「……様……起きてください」

 

 

 あれ……?ここは……?あなたは……その姿は……

 

 

「どうかされましたか?」

 

 

 あなたは……誰なの?

 

 背中にまで届く白い髪。神官の衣に身を包んだ青年。けど、何故かその出で立ちには不思議と初めて見たような気がしなかった。

 

 むしろ、何処か懐かしさを感じる。

 

 っていうかここって、宮殿?何で私はこんな所に?

 

「それよりも、朝食が出来ております。早く起きてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレキガル様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え?エレキガル?

 

 エレキガルって誰?!私は風鳴……って私、裸?!

 

「どうかされましたか?」

 

 待って待って!男の人の前で、私は……何がどうなってるの?

 

「お熱でもございますか?」

 

 待って待って!顔が近い!

 

 

 ぁ……あぁっ……駄目……!私……まだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ……!」

 

 瑠璃が目を覚ますと、そこは本部のメディカルルームだった。

 

「今のって……夢?一体何だったの?」

 

 夢にしてはかなり現実味が帯びていた気がしてならない。だがバルベルデの悪夢の時ように、何かを訴えかけている気がしてならない。

 

「エレキガル……あの人は、私の事を……」

「それが……アンタの本当の名前なんだね」

「え?」 

 

 右隣のベットから輪の声が聞こえて振り向いた。

 

 

 




エレキガル

瑠璃に宿る冥府のアヌンナキ。
詳細は現時点では不明。
パヴァリア光明結社との戦いで瑠璃が深い絶望に落ちた事で未熟な覚醒めを引き起こしてしまい、絶対なる破壊神と化した。

おまけ

XDバレンタインボイス

瑠璃
頑張ってチョコを作ったの。これ、よかったら食べて。

そういえばお父さんってば、誰に渡すのか必死に聞いてきて、ちょっと恐かった……。そんなに欲しかったのかな?


はいこれ!バレンタインチョコ!え?本命じゃないのかって?まあ本命は……今もずっとアイツだけにしかあげないからね


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呪いの正体

リアルが忙しくなり、一度読者側に回った結果……遅くなってしまった……!待っていてくれた方には本当に申し訳ありません……!

 遂にバイデントの呪いの秘密が……明らかになるわけではありませんが、輪ちゃんの考察タイムが輝きます!


 

 

 エレキガル様がシェム・ハとの戦いに敗れ、主を失った私は、錬金術師アルベルトとして長い時を生きた。

 

 

 

 本当の名前なんて、もう忘れてしまうくらいに多くの偽りの自分を演じてきた

 

 

 

 時には学者、瑠無・カノン・ミラーとしても……

 

 

 そして、我が主が遺したかの槍……あの御方の魂が宿る槍

 

 

 

 その槍を真に操れる人間……それこそが、あの御方に選ばれし人間、あの御方の転生体である証

 

 

 

 そして、ようやく……見つけた

 

 

 

 あの御方の槍に選ばれた少女

 

 

 

 たった一人、完全に適合出来る唯一の装者……!

 

 

 

 君だけは……いや。貴女だけは……今度こそ私が、お守りいたします……!

 

 


 

 

 突如、地響きと共に顕現した風鳴訃堂の屋敷から赤い光柱が天を貫いている。そして、その光は巨大な白い樹木と化した。

 

「何が起きているんだ……?!」

「『ユグドラシルシステム』?!まさかシェム・ハが……!」

 

 流石に予想だにしなかった事態に、アルベルトも驚愕の表情を隠しきれない。その中でも訃堂は笑っていた。

 

「ハハハ……首輪を着けて神を飼い慣らそうとした報いがここに……」

「アンタが仕掛けた事では無いのか?!」 

「どうやら、風鳴の祈り、護国の願いはここに潰えて果てたと見える」

 

 野望が潰えて頭を垂れる訃堂に、先程威圧感はどこにもなかった。

 

 危機を知らせる為にアルベルトは屋敷の敷地内に降り立ち、弦十郎達と接触する。

 

「風鳴弦十郎!」 

「アルベルト?!何故君が……」

「命が惜しくばここから退け!でなければ……っ!」

 

 だがその勧告も遮られる。光柱の輝きが強くなり、その下から巨大な白い樹木が生えてきた。その天辺には、屋敷の地下にてダイレクトフィードバックによって沈黙を保っていた小日向未来、もといシェム・ハが見下ろしていた。

 

「やはり……ダイレクトフィードバックシステムを……!」

「不敬である。道具風情が我を使役しようなどとは……」

「道具……僕達の事を?!」

 

 八紘の身体を抱える緒川がその意味を問うが、シェム・ハは吐き捨てる。

 

「じれったい。道具の用いる不完全な言語では、全てを伝えるのもままならぬ」

「どういう事だ?!」

「最早分かり合えぬという事だ」

 

 弦十郎の問いを返し、シェム・ハは一部が欠けた月を忌々しく見る。

 

「嗚呼……それこそが、バラルの呪詛であったな」

「シェム・ハ!」

 

 怒り混じりで呼ぶ声の主を見てやる。

 

「貴様は……」

 

 その姿を捉えたシェム・ハの口角が釣り上がる。

 

「傑作である。未だに奴への未練を断ち切れず、生き恥を晒していたとは」

 

 その台詞の意味の全てを理解したわけではないが、断片的に察したマリアが驚愕の目でアルベルトを見る。

 

(アルベルトを知っている……?!どういうこと……?!)

「我が主は間もなく再臨なされる。悲願成就、阻ませはしない!」

 

 アルベルトからは考えられない、憤怒の憎悪。余裕の笑みをかなぐり捨て、露わになっている。

 だがシェム・ハは言葉を告げる事なく、掌から生み出した光弾を放つ。

 

「はあぁっ!」

 

 ラピス・フィロソフィカスのファウストローブを纏い、仕込み杖を抜剣。光弾を斬り捨てた。

 

「さあ退け!命が惜しいならば!」

「待ってくれ!何が君を動かしているんだ?何故我々を……」

 

 弦十郎の問いの答えを意味するのか、アルベルトがマリアに投げ渡した。

 その間もなく、追撃の光弾が連続で放たれるが、アルベルトはそれを全て刃で弾いてみせる。振り返らずに、マリア達に告げる。

 

「君達を守ってやれる余裕はない。敵は、それほどまでに強大なのだから……!」

「アルベルト……っ!」

 

 アルベルトの仕込み杖を握る手が震えているのを、マリアは見逃さなかった。恐怖でも、武者震いでもない。先程の一撃を防いだ事によるものだ。

 2度もS.O.N.G.の前に立ちはだかり、翻弄して来たアルベルトでさえ、シェム・ハの力は強大であると教えている。マリア達の方に向かず、シェム・ハと相対しているのも、一瞬の気の緩みが許されないから。

 

 彼女が何故、S.O.N.G.を守ろうとしているのかは分からない。それでも、今この窮地から救おうと真っ先に動いたのは紛れもなく敵だったアルベルトだ。

 

「ありがとう、アルベルト……。行きましょう!」

 

 アルベルトに感謝の言葉を告げたマリア。アルベルトが作ったこの好機を逃さず、マリア達は撤退する。

 

「ありがとう……か」

 

 何故だかは分からないが、主の最期の時を思い出してしまった。

 

「腑抜けたか。奴の奴隷風情が」

 

 くだらない、とアルベルトを潰す為に再び光弾の雨を放つ。だがアルベルトはそれに見向きもせずに、掌から展開した青色のバリアでその弾幕を防いだ。

 

「何……?」

「その程度にしか映っていない貴様に、分かるはずもあるまい。あの御方に、全てを捧げると誓った……私の全てを!」

 

 剣の切っ先をシェム・ハに向けた。アルベルトのたった一度のアヌンナキへの叛逆が始まる。

 

 


 

 

「輪……」

 

 目が覚めたら隣のベッドには輪がいた。風鳴訃堂に差刺されてからの記憶がない瑠璃は、何故輪がここに運ばれたのかは分からない。

 だが輪がここに戻って来てくれた事が、瑠璃にとって何より嬉しい知らせだった。

 

「輪……良かった……」

「……くない」

「……え?」

 

 起きたばかりだというのに、突如輪が瑠璃が横になっているベッドに乗り込み、そのまま瑠璃を押し倒した。

 

「ちょっと?!急に……あっ……」

 

 瑠璃の頬に落ちた一粒の涙。それで戸惑いはすぐに消えた。輪が涙を流していた。

 

「馬鹿!瑠璃の馬鹿ぁ!すっごく心配したんだからぁ!!」

「輪……ちょ、痛い痛い痛い!」

 

 目覚めたばかりだというのに、輪に肩をポカポカ叩かれる。しかも次第に叩く強度が強くなる。

 

「私を一人にしないって言ったのに、何あのクソジジイに殺られかけてんだよ?!一緒に戦おうって、あの時言ったくせに!!」

 

 初めて見せた瑠璃の激怒。そしてあの一喝がなければ、輪は今も神の力に縋っていた。

 それに気付いて目を覚ました矢先、瑠璃が目の前で訃堂に殺害された。一人にしないという約束をいきなり反故にされかけた事に、輪は腹を立てていた。

 

「……ごめん」

「そう思うんだったら……約束を守ってよ……!もう私を一人にしないって……!次に破ったら、絶対に許さないんだから……!」

 

 まるで幼子のように泣き叫ぶ輪。だがそれだけ瑠璃を大事に思い、失いたくないという気持ちの表れだった。

 家族を失った今の輪にとって、何より大事なのはS.O.N.G.の仲間達しかいない。そして何より瑠璃がいなくなってほしくない。これ以上、一人も失いたくないから、怒っている。

  

「本当にごめん……。あの時の私……つい必死に……ってあれ?」

「どうかしたの?」

 

 何かを思い出し、瑠璃が起き上がろうとしているのを邪魔しないよう、輪はベッドから降りる。

 

 

「そう言えば、何で生きてるのかなって……私、あの時確かに心臓を……」

 

 貫かれたであろう心臓のある胸に手を当てる瑠璃。そこには傷はおろか、処置された形跡もなく、掌には心臓の鼓動がドクンドクンとリズム良く鼓動を打っているのが分かる。

 訃堂の群蜘蛛の刃に心臓を貫かれた事を思い出したが、あの致命傷を負いながらも五体満足に動けている事に驚いている。

 

「多分……神の力だよ。アンタがエレキガルっていう神だから、それが出来たんだ」

 

 思い当たる唯一の可能性を、輪が述べた。

 

 ディヴァインウェポンや絶対の破壊神と戦った時に見た、無かったことにされるダメージ。平行世界の同一個体にダメージを肩代わりさせる無敵性の性質。まさに神の力がなせる技だ。

 

「エレキガル……私が……」

「何か、思い当たる節はない?アンタさっき、変な夢を見てなかった?」

「変な夢……。うん、確かに見てたけど……あっ」

「何か思い出した?!」

 

 心当たりがある表情に反応した輪がグイグイと食い込む。

 

「う、うん。あの時……闇に落ちていく私を助けてくれた光があったの。もしかしたら……」

「あの破壊神が……瑠璃を助けたってこと?」

 

 真名が明かされる前、瑠璃が未熟なままエレキガルを絶対の破壊神として覚醒させた記憶が強い輪にとって、俄には信じ難い話だった。

 しかし瑠璃は今話した事が事実であると、頷いた。

 

「うん。それで、その人の魂が私の中に入り込んで……」

「ちょっと待って!入り込んだ……?じゃあ、アンタは今の……どっちなの(・・・・・)?」

 

 輪にそう問われ、何て答えたら良いか戸惑ってしまう瑠璃。

 問うた輪も、何故瑠璃がエレキガルの魂を宿せたのか、引っ掛かっていた。

 

 瑠璃は、雪音雅律とソネット・N・ユキネの間に生まれた人間であり、雪音クリスの双子の姉。これは揺るぎない事実。

 そして人間は生まれた時から、原罪を背負っている。その原罪から解放されたのは、神獣鏡の光によって浄化された響と未来だけ。

 では何故、その光を浴びた事がない瑠璃にエレキガルの魂を宿せたのか?

 たとえ瑠璃がエレキガルの生まれ変わりだとしても、その制約がある限り、アヌンナキの魂など宿す事は出来ない。

 先史文明最後の人間であるアルベルトでも、原罪を祓う事は出来ないだろう。だとしたら、一体何処のタイミングで宿す事が出来たのか?

 

『だが、私の死を哀れんだあの方が……理に反してでも私の魂を呼び出し、新たな肉体に組み込んでくださった。』

『あれはバイデントではない。バイデントは私が便宜上でつけた仮の名前』

 

 アルベルトが輪に告げた真実を思い出した輪。

 

(エレキガルは冥府の神。どんな能力があるか知らないけど、アルベルトの魂は、そのエレキガルによって見出されて……肉体を与えられた。もし、エレキガルの力が魂に干渉できるのだとしたら……)

 

 あくまでも仮設に過ぎないが、これまでバイデントに関わりのある現象と、エレキガルの力の関連性に紐付ける。

 

(もし、バイデントを作ったのが、エレキガルだとしたら?もしその槍にも本人と同じ、魂に干渉できる能力があったとしたら?そうなったら、私が瑠璃の精神世界に行けた事についても、説明がつく……!)

 

 瑠璃がイグナイトの闇に飲み込まれ、暴走した時や絶対の破壊神となった瑠璃と戦った時、輪は図らずも瑠璃の精神世界に入る事が出来た。

 それは、瑠璃がバイデントのギアかファウストローブを纏っていた時と一致する。

 

(まさかバイデントの呪いの正体は、哲学兵装なんかじゃなく、主として相応しくなかったから?まるで、あの槍には作った本人の意識でもあるかの……っ!)

 

 アルベルトはバイデントの呪いの正体は哲学兵装だと言っていたが、その主たる事例であるアレクサンドリア号事件やガングニールの神殺しに比べたら、バイデントの呪いがそれだというには年月が少なすぎる。

 仮に哲学兵装だとしても、使用者本人だけでなく関わった人物までもが非業な死を遂げるなど、あまりにも強すぎる。

 

(あの槍には、本当に作った本人の魂が宿っていた?!だとしたら、バイデントのシンフォギアを纏った瞬間……槍に選ばれた瑠璃は……!)

 

 その瞬間、ある一つの答えが導き出された。だがそこに、メディカルルームの扉が開いた事でその答えはお預けとなった。

 

「姉ちゃん!輪!起きたのか!」

「「クリス!」」

 

 メディカルルームに駆け込んできたクリスに、同時にビックリした瑠璃と輪。その間もなく、クリスは二人に駆け寄った。

 

「本当に大丈夫なんだよな?!無事なんだよな?!」

「う、うん……私は平気」

「なんだったら私もホラ。全然元気」

 

 安否を気にするクリスに心配かけまいと瑠璃は手を振って、輪は肩を回して大丈夫だとアピールをする。

 そんな二人を見たクリスの目尻には涙が溜まっている。瑠璃はこの流れに既視感を抱いていた。

 

「あれ。この流れさっきも……」

「馬鹿かお前ら!!あたしがどんだけ心配したと思ってやがる?!」

 

 先程輪に同じ事を言われて怒られた瑠璃、そして今度は輪までもが怒られる側に回る流れになってしまった。

 

「一人で勝手にチフォージュ・シャトーに乗り込むわ!敵に攫われるわ!姉ちゃんに至ってはあたしに何にも教えないで任務に行っちまうわ!どっちも勝手が爆走しすぎるんだよ!!」

「あの、クリスさん?それに関しては、本当に悪かったって……」

「悪かったって思うなら二度と勝手な真似すんな!」

「は、はい……」

 

 クリスに物凄い剣幕で怒られた輪は大人しくするのが吉だと悟って、素直に返事をした。

 

「姉ちゃんも、もうあたしを置いてどこにも行かねえって、言ったじゃんかよ……!」

「ご、ごめん……」

「あの時、本当に死んじまったんじゃないかって……本当に……本当に……」

(まあ……一回本当に死んじゃったんだけどね)

 

 事情を知らないクリスにそれを言ってはますますややこしくなると分かっているので、輪はそれを言葉にしない。

 クリスは我慢出来ず、大好きな姉を強く抱きしめた。

 

「許さないからな……!今度嘘ついたら、許さないからな……!」

「……うん。ごめんね……心配掛けちゃって」

 

 安心させるように瑠璃も、クリスを優しく抱きしめてそう告げた。

 

「そういう事は家でやりなって……」

 

 何故か変な所でシスコンのスイッチが入る二人に呆れる輪。

 

「所で、クリスはそんな事の為にわざわざここまで?」

「あっ……そうだ!オッサン達が帰ってくるぞ!先輩を連れ戻してな!」

「お姉ちゃんが?!」

 

クリスから齎された朗報に、こうしてはいられないと瑠璃は制服に、輪は私服に着替えてメディカルルームを後にした。

 

 

 

 




シンフォギアXD

ホワイトデーボイス 

瑠璃編
どうしたの?えっ?これって……私に?へっ?!あ、その……嬉しいよ!私にくれるのは本当に嬉しい!けど……いざ受け取ろうとすると……恥ずかしい……///

輪編
それ、もしかしてホワイトデーのお返しってやつ?!ありがとーう!やっぱり心のこもった贈り物って、こんなに嬉しくなるんだなぁ……


多分ホワイトデー当日に間に合うか微妙な所なので、一足先に早いホワイトデーボイスでした


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5000年に渡る叛逆

アルベルトVSシェム・ハ!


 アルベルトとシェム・ハ、幾千の時を経て相対している。この様子をモニタリングしているS.O.N.G.の本部にいる面々も、アルベルトがシェム・ハと対峙しているのが未だに信じられない様子で見ている。

 

「私達に何度も立ち塞がった、あのアルベルトが……」

「まさか殿を務めるなんて……」

 

 何度も予測不能な事態を本部から見届けて来た友里と藤尭も、これには唖然とする他ない。

 

「けど、いつまた裏切るか……」

「信じて良いんデスかね……?」

 

 瑠無に化けて瑠璃を攫い、アダム打倒に力を貸したと思いきや、ノーブルレッドを裏で操り、さらには風鳴訃堂に手を貸した。

 何度も騙されては、受け入れるだけの心の余裕がない。

 

「だけど……悔しいが、アイツのお陰で姉ちゃんやオッサン達は助かったんだ」

 

 クリスがアルベルトを擁護するような発言に、調と切歌は意外そうな表情をする。

 目的や裏があったにせよ、アルベルトが助けてくれたというその事実がある事は揺らがない。

 

「アイツを信じるしか、この状況を打破出来ねえ……!」

 

 裏切られるのは承知の上で、未来に憑依したシェム・ハを倒すしかない。今、S.O.N.G.の命運はアルベルトに委ねられた。

 

 

 


 

 

「愚かなり。ルル・アメル風情が、我に歯向かうとは」

 

 シェム・ハにとってアルベルトは数千年前に取り逃がした先史文明期の人間の最後の生き残り。言わばシェム・ハをよく知るただ一人の生き証人。

 そして今日までシェム・ハの復活をあの手この手で阻害させて来た。シェム・ハの中では最も目障りな存在とも言える。

 

「神を気取るな、裏切り者め。例えこの命が果てても、私は貴様に屈しはしない……!」

 

 対するアルベルトにとってシェム・ハは主の敵。目の前で愛する主を殺められたアルベルトの怒りは尋常ではない。そして主の復活とシェム・ハの打倒、その為だけに5000年以上も生きてきた。そして今日、それが叶う絶好の機会が巡ってきた。

 

「行くぞ……シェム・ハ・メフォラシュ!」

 

 腰を低く落としてスペルキャスターである仕込み杖を構える。同時に、唄った。

 ファウストローブは歌を必要とせずとも、錬金術のエネルギーを用いる事でシンフォギアと同等の運用を可能にする。そこに歌を唄い、フォニックゲインを高める事で、さらなる相乗効果を齎す。

 

 先に動いたのはアルベルトだった。駆け出すと同時に刃を鞘に納め、杖に戻すとその先端を銃口のごとくシェム・ハに向ける。そこから白い光弾を乱射。音光の如く速さでシェム・ハに迫る。だがそれをヒラリと、余裕で避ける。

 

「笑止。憤怒に侵され、定まってないぞ」

 

 対するシェム・ハはアルベルトが放った光弾を避けながら、シェム・ハも掌底から光弾を放つ。

 シェム・ハの光弾の弾速は、アルベルトものより遅いが面積が大きく、着弾と同時に爆破する為、威力ならシェム・ハの方に軍配が上がる。

 だが、それは当たればの話。アルベルトは着弾地点と爆風を読んで回避に加え、光弾を放ちながら接近している。

 アルベルトが中距離まで距離を詰めた瞬間、仕込み杖を抜剣する。

 は

「はあぁっ!」

 

 そして右手に持つ仕込み杖、左手の鞘を同時に振り下ろし、罰印の斬撃の衝撃波を放つ。

 それに対し、シェム・ハは右腕に嵌められた腕輪から光の刃を展開、それを右へ払うように振るって衝撃波をかき消した。

 

「っ!」

 

 だが同時にアルベルトが目の前に迫っていた。仕込み杖の刃を振り下ろし、シェム・ハはギリギリの所で光の刃で受け止める。

 

「貴様の力は分かっている。かの銀腕、あれが何物なのか調べはついているぞ」

「変わらぬな……その賢しさ、不快なり……!」

 

 アルベルトを押し返したシェム・ハは浮遊して距離を離す。

 すぐさまアルベルトは接近を試みようとするが、シェム・ハの掌から紋章のような陣が展開された。

 

「くっ……!」

 

 何が起こるか分かっているアルベルトはすぐさま射程距離、範囲から離れる為に高く飛び立つ。そして、アルベルトが先程いた場所には銀色の波動が放たれ、受けた地表、そして流れ弾のごとく波動を受けた木々が銀となって、その葉すら舞い散る事も、風によって靡く事も無かった。

 

「やはり埒外物理……!物質転換ではなく、物質そのものを強引に書き換えて……!」

 

 アルベルトの予想は当たっていたようだ。

 

 錬金術師は卑金属を貴金属に変えることは出来ても、物質そのものを書き換える事は出来ない。人間の手には及ばない、出鱈目にして絶対的な技。真っ向から全てを覆し、無力へと落とす。それが埒外物理の力。

 

(だが貴様は、ユグドラシルを生み出した直後。そのエネルギー消費は計り知れない。いくらシェム・ハとはいえ……!)

 

 シェム・ハが再び埒外物理を放とうと紋章の陣が展開されるが、すぐに消失した。

 

「消魂である……今の馴染みではこの程度。それとも、ユグドラシルの起動に力を使いすぎたか?」

 

 シェム・ハの動きが止まった。一瞬の隙が生まれたこの千載一遇の好機を、アルベルトは見逃さなかった。

 鞘の先端から4つの光弾をシェム・ハの周囲に撃ち込む。すぐに光弾の仕掛けに気付いたが、それに気付いた時には、撃ち込まれた箇所から鎖が出現、シェム・ハの身体を絡め取る。

 

「シェム・ハを捉えた!」

 

 そう言った藤尭、並びに友里やクリス達が驚愕を露わにする。

 

「時は今!」

 

 仕込み杖を鞘に納めたと同時に、右の薬指に指輪を嵌め、それを天高く掲げる。その指輪をモニタリングしていた装者達がその正体に唖然とする。

 

「あれって!」

「まさか!」

「デッデス?!」

 

 かつて、絶対の破壊神と化した瑠璃が身に纏ったバイデントのファウストローブであるスペルキャスター。

 指輪から放たれた輝きと共に、アルベルトはバイデントのファウストローブを身に纏った。

 

 漆黒のアーマーの上に神官を思わせる神秘的な白い布装束。そして漆黒の黒髪の一部に、白いメッシュが刻まれる。そして、何処からともなく現れた二叉槍を手に構える。

 

「この槍にて貴様の魂を穿つ」

 

 槍の矛先がシェム・ハの肉体、もとい未来の肉体を捉えた。だがアルベルトの意図に気が付いたエルフナインが叫んだ。

 

「バイデントの力でシェム・ハを?!ですが、今その槍で刺したら、未来さんの命が!」

 

 意識はシェム・ハが乗っ取ったとはいえ、肉体は未来のもののまま。もしその槍で身体を穿けば、未来の命は失われる。

 

「まさか、未来先輩を諸共に?!」

 

 アルベルトの守護対象は瑠璃であり、その他は勘定に入れていない。止めようにもアルベルトはS.O.N.G.の通信を交わしていない。もはやアルベルトを止める事が出来る者はすぐ近くにいなかった。

 

「これで終わりだ!シェム・ハ!」

 

 二叉槍の穂先がシェム・ハに迫った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドカアアアァァァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁっ!」

 

 突如現れた三方向からの横槍により、槍が届く前にアルベルトは膝をついた。

 

「馬鹿な……何故?!」

 

 横槍の正体はノーブルレッドだった。ヴァネッサのロケットパンチ、ミラアルクのカイロプテラの蹴り、エルザのテールアタッチメントの同時攻撃が、アルベルトひ直撃したのだ。

 

 チフォージュ・シャトーで虫の息となっている所をアルベルトは見逃していた。その三人が、何事も無かったかのように戦闘を行える事に愕然としている。

 だが三人の額に浮かんだ赤く光る紋章を見て察した。

 

「まさか……シェム・ハに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ…………」

 

 気付いた時には光の刃で心臓を貫かれていた。アルベルトは吐血する。

 

「終幕である」

 

 シェム・ハがそう告げ、心臓から光の刃を引き抜いき、アルベルトは倒れた。

 

(ここまで……なのか……。申し訳ありません……我が主……)

 

 薄れゆく意識の中、アルベルトが見上げた先にあったのは月。それを見たアルベルトは、ある記憶が蘇った。主であるエレキガルに見出され、仕えてきた日々。愛し、愛された日々。そして、唐突に訪れた死別した日。これが走馬灯なのかと、アルベルトは笑った。

 

「月は……遠いな……」

 

 それが遺言と受け取ったシェム・ハが腕輪から展開されている光の刃を振り下ろした。返り血が頬に掛かる。その衝撃的な惨劇までモニタリングされ、本部はみな衝撃を受け、エルフナインは手で目を覆っていた。

 

「アイツが……負けた……」

 

 パヴァリア光明結社との戦い以降、何度も宿敵として立ち塞がったアルベルトが、シェム・ハに敗死した。クリスが漏らした。

 

 そこに、藤尭の報告が入る。

 

「司令達の帰還を確認」

「お前らはオッサン達を頼む!あたしは姉ちゃん達の様子を見てくる!」

「分かりました」

「合点デス!」

 

 三人は司令室から飛び出し、それぞれ行くべき方へと走って行った。

 

 

 


 

 

 本部へと帰還した弦十郎とマリア達。緒川は八紘の遺体を安置所に届ける為に別行動になっている。翼は聞き取りの為に拘留されている。そして、今回の一件で逮捕された風鳴訃堂は奥深くの牢屋へと入れられた。

 

「マリア……司令?!」

「大丈夫デスか?!」

 

 出迎えに来た調と切歌が弦十郎が怪我を負っているという稀に見ない光景にビックリしている。

 

「俺は平気だ。それよりも瑠璃と輪君は?!」

 

 弦十郎は翼を止める前、瑠璃が訃堂によって致命傷を負い、輪も訃堂に敗れた事、そしてその二人を運んだのがアルベルトであると報告を受けた。

 司令というより父親の立場で問い詰めており、調と切歌はその迫力に怯える。

 

「い、今クリス先輩が様子を見てくれているデス!」

「もしかしたらこっちに……」

「お前ら!姉ちゃん達は無事だ!」

 

 クリスが走りながら報告する。その後ろから、瑠璃と輪が追い掛けてきた。

 

「お父さん!マリアさん!お姉ちゃんは……」

「瑠璃?!お前、無事なのか?!何ともないのか?!」

 

 弦十郎は瑠璃の両肩を強く掴んで心配して問う。

 

「だ、大丈夫だって!ほら、何ともないよ」

 

 その証拠に、検査着をはだけさせて傷があったとされる胸部を晒す。本当に傷なんて無かった。それを確認した弦十郎が瑠璃を強く抱き締めた。

 

「ちょ……お父さん?!」

「このバカ娘!寿命が縮まったと思ったぞ!」

「……ごめん」

 

 娘を心配する父親。涙ぐましい光景だが、今はそれどころではない。マリアが咳払いをする。

 

「それよりも、状況は?」

「……アルベルトが死んだ」

 

 司令、マリア、瑠璃、輪、報告を受けた全員が俄には信じ難い内容に絶句する。

 

「何ですって?!」

「死んだ、だと……?!」

 

 弦十郎とマリアが信じられなそうに言葉を漏らすが……

 

「けど事実だ。さっき、アイツにやられた」

「シェム・ハ……!」

 

 瑠璃が怒りを震わせる。まるで、仇であると憎むように。

 

「一先ず、ここにいる全員の無事が知れて良かったわ。けど、今後の事についても考えなくてはね」

 

 アルベルトが敗れる程の強敵。シェム・ハが史上最強の敵であると、思い知らされた。

 だが、それで諦めるという事はしない。特にマリアは悲観に浸るつもりはない。

 アルベルトに託されたもの。マリアはアルベルトに投げ渡されたものを出す。それはSDカードが2枚収められている小さなケースだった。

 

 




アルベルト楽曲

【終末のレジスタンス】

ただ一人に、全てを捧げる愛の歌。主が果たすべき使命、それを叶える為に5000年以上生きたアルベルトの覚悟、宿敵に刃を向け、主の魂に捧ぐ叛逆の歌。


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怪物

今回はシリアスマシマシです。





 八紘の葬儀が執り行われた数日後、拘留された翼が解放された。ブリッジで両手に嵌められた手錠の電子ロックが解除される。

 

「全ての調査、聞き取りは完了した。現時刻を持って行動制限は解除となる」

「調査と、聞き取りだけ……?アマルガムの不許可使用についての処断は……」

「翼さんが発動させる直前、使用許可が下りています。八紘氏が兼ねてより進めて来られていたのです」

「お父様が?」

 

 つまりアマルガムは使用可能となり、翼はそれで咎を受ける必要はない。

 

「兄貴の葬儀に間に合わせられなかった事……本当にすまなかった」

「敵に突け入られた不徳です。何より……手錠をかけられたままでは、合わせる顔がないと申し出たのは私です……」

「そうか……」

 

 親子としての最後の時間、最後に別れの言葉を言わせてやれなかった。弦十郎は叔父として、申し訳なく思っていた。

 だが翼は自分が招いた結果であると受け止めている。今の翼には、もう迷いなんてものはない。

 

「翼さん!」

「お姉ちゃん!」

 

 翼が解放される知らせを受けて、瑠璃と響を先頭に装者の皆と輪、エルフナインがブリッジに駆け込んできた。

 

「瑠璃……」

 

 感情的になり、ミラアルクと誤認して瑠璃に攻撃してしまった事、瑠璃に向かって夷狄と呼んでしまった事に負い目を感じる翼。怒りに囚われ、訃堂に惑わされていたとはいえ、守るべき従妹を傷つけてしまったのだ。翼の中で、瑠璃にどう贖えばいいか分からなかった。

 

「翼さん」

 

 そこに響に呼びかけられる。

 

「全部聞きました。未来の事、翼さんのお父さんの事も……。正直今はまだ、頭の中ぐちゃぐちゃで混乱しています……。だけど、一つだけはっきりしてるのは、翼さんが帰ってきてくれて本当によかった。嬉しかった」

「立花……」

「分からない事は、これから考えていきたいです。だから明日や明後日、その先のこれからを、また一緒に」

「あなたと私、また一緒に……?」

 

 響に手を差し伸ばされ、翼は驚いた。

 

「翼先輩!」

「翼さん」

「翼」

「アタシら全員このバカと手を繋いできたんだ。センパイだけなしだなんて許さねーからな!」

 

 仲間達が自分を呼んでくれた。仲間として、受け入れてくれた。そして……

 

「お姉ちゃん」

「瑠璃……」

 

 瑠璃が翼を呼ぶ。

 

「私ね、八紘叔父様と最後に約束したんだ。お姉ちゃんが何処までも、天高く羽撃けるように応援するって」

 

 瑠璃は八紘の葬儀で、棺に眠る八紘に約束して見送った。大好きな姉を一人ぼっちにはさせない、その思いを秘めて。

 

 翼は思わず涙を流す。

 

「瑠璃……」

「ほら、翼さん!」

 

 輪に背後から肩を掴まれた翼。後輩として、一ファンとして、仲間として、翼の背中を押してくれているのだ。

 

「一緒に、戦ってください」

 

 響にそう言われ、手を差し伸ばそうとする翼だったが、その手を掴んでいいのか、一瞬の迷いから手を引っ込め用とするが

 

「お姉ちゃん」

「一緒に」

 

 右から瑠璃、左から輪の手が引っ込めようとしていた翼の手を優しく掴んだ。一人じゃないと、伝えようとしていた。

 そう受け取ったのか、翼はしっかりと響の手を握った。

 

「おかえり、お姉ちゃん」

「……ああ。ただいま」

 

 一度繋がれた絆は、何者にも断つ事は出来ない。繋いだ手と手が、それを教えてくれた。

 

 

 

 

 装者達が退出し、ブリッジにはオペレーターと司令の弦十郎、エルフナイン、緒川、そして輪が残った。エルフナインがマリアから渡されたSDカードを解析しており、その報告の為に、このメンバーが残っている。

 

「先日、シェム・ハとの戦いの前にアルベルトさんがマリアさんに渡したデータを解析しました」

「それで、何か分かったのか?」

「はい。とはいえまだ一部ですが……」

 

 モニターに解析データがが表示されると、レポートとある人物の姿が表示された。その人物の肌は白く、所々桃色となっている。髪は白くとても長い。そしてその眼は未来を支配している者と同じ眼。これがシェム・ハの本当の姿である。

 

「これは……」

「このデータにはシェム・ハ、そしてバイデントについて記されていました」

 

 ブラインドをタップすると、まずはシェム・ハのデータから表示される。

 

「シェム・ハ・メフォラシュ。現在、未来さんの肉体を支配しているアヌンナキ。これによると、シェム・ハは改造執刀医と称される程、地球の進化に関わっていたようです。ですが、突如としてアヌンナキを裏切り、戦争を仕掛けたと記されています」

 

 それ程までの高名を持ちながら、何故シェム・ハがそのような暴挙に出たのかは分からない。そもそも、この世に残った有史以前の言い伝えなどほぼ0に近い。

 

「そしてシェム・ハの能力、シェム・ハは言葉を用いて、その構造を書き換えてしまう程の強大な強さを持っています」

 

 つまり、言葉一つでその存在そのものを書き換え、全く別のものに変えてしまう事が出来てしまう。

 

「恐らく、埒外物理で周囲の物体を銀に変えてしまったのも、以前のノーブルレッドではアルベルトさんを倒せたのも、シェム・ハが書き換えた可能性があります」

 

 不意討ちとはいえ、ノーブルレッドがアルベルトに膝をつかせるなど考えられなかった。以前の三人ならば呆気なく返り討ちに遭うのが関の山。それを覆してしまったのだ。

 

「まさに神が成し得る技というわけか」

 

 弦十郎が腕を組んでそう言う。

 

「さらに、これによるとシェム・ハはあるアヌンナキを殺害したと記されています」

 

 エルフナインがブラインドタッチをすると、今度は二叉槍が映し出されている画像が表示される。

 

「これは……」

「これがバイデントです。シンフォギアへと変える前の、現存している姿です」

 

 二叉槍の損傷は限りなく少なく、完全聖遺物と言っても違和感はない。

 

「このデータによると、バイデントはある神の死によって分かたれた魂によって作られ、その後はアルベルトさんが所有していたとあります」

「ある神……まさか!」

 

 点と点が繋がった。緒川がエルフナインに訊く。

 

「はい。バイデントというのは便宜上の呼称であり、この槍はギリシャ神話のものとは何の関連性もありません。それどころか真相は、アルベルトさんがかつて仕えたとされるアヌンナキであるという事です」

 

 シェム・ハと同じ、先史文明の神。バイデントと呼ばれたこの槍はハ・デスとは何の関係もないばかりではなく、先史文明の神の魂によって作られたものだというのだ。

 その繋がりを知った今、アルベルトの正体にも行き着く。

 

「という事は、アルベルトはフィーネと同じ先史文明の人間だった……という事ですか?」

 

 緒川の問いに、エルフナインは肯定の頷きをする。

 

「アーネンエルベと結託して、神の力の簒奪を目的とするパヴァリア光明結社を崩壊させる狙いがあったようですが、フィーネと裏で糸を引いていたのであれば、フィーネのバイデント奪取も、アルベルトさんがそう仕向けたという事もありえます」

 

 パヴァリア光明結社も、アーネンエルベも、主の復活のの為なら容赦なく裏切る。そうやっていくつもの仮面を作り上げ、人を騙し、自分を騙して来た。相当な精神力がなければ、己を保つ事など出来ないだろう。

 

「では……アルベルトが仕えていたとされるアヌンナキとは、一体?」

 

 この聖遺物はバイデントではない。ではこの槍を作ったのは一体誰なのか、弦十郎が問う。

 

「そのアヌンナキの名は……」

「エレキガル」

  

 輪がその答えを話した。

 

「どうして輪さんが、その名前を?!」

 

 エルフナインが驚愕している事に構わず、輪はブリッジに入る。

 

「アルベルトに接触していたし、アイツから色々聞いてるからって、残るようにオジサンにいわれてたんだけど……」

「やはり知っていたのか。何処まで知っている?」

 

 弦十郎に問い詰められ、輪はアルベルトと接触した時に知り得た情報をある程度掻い摘んで話す。

 

「アルベルトは、5000年前に起きた戦いで死んだアヌンナキを蘇らせる為に、暗躍していたということか……」

「その願いの障害となる、パヴァリア光明結社を潰す為に、錬金術師として身体を作り変えて、パヴァリアに潜り込むなんて……」

 

 誰にも打ち明けようとせず、一人で抱え込んで戦っていた。その精神力に加えて、その絶対的な忠誠心が無ければここまでの事は出来ない。

 

 アルベルトの行動原理は、一貫してアヌンナキへの忠誠心。シェム・ハ打倒を使命とするアヌンナキを復活させる為だけに、アルベルトはその生涯を全て捧げた。

 

「だが一つ、気になった事がある」

「それは?」

 

 弦十郎が気になった、彼女が僅かに見せた素の感情。その正体に藤尭が訊く。

 

「奴は瑠璃に対して、何か拘りでもあるかのような素振りだった」

 

 アルベルトが僅かに見せた、本当の姿。それは瑠璃にして向けたものだった。何故それだけの忠誠心を持ちながら、私的感情を見せたのか、それだけが気になっていた。

 

「輪さん、何かご存知ですか?」

 

 エルフナインが輪に問う。

 

「……ごめん、私も全部知ってるわけじゃない」

「そうか。ところでエルフナイン君。データはこれだけか?他にもあるようだが……」

「あるにはあります。……ですが」

 

 手掛かりを探るべく他のデータを当たるが、エルフナインが暗い表情になる。

 モニターに別のデータが表示される……かと思われたが、表示されたのはなんと入力画面。ここに入れるものは何か、予想はつく。

 

「パスワード……だと?」

「はい。一枚目の一部と二枚目のデータチップにはパスワードでロックされています」

 

 何の為に施したのかは分からないが、これを知っているのはアルベルトただ一人。だがそのアルベルトもいない。

 

「輪さん。パスワードに何か心当たりはありますか?」

「さ、さあ……?私にも分かんない」

 

 輪も分からないとなると、もはや解除出来るパスワードを知るものは誰もいない。試しにエルフナインが当てのあるワードを入力する。最初に急力したのはbabel。これでエンターキーをタッチ。

 

 だが不正解のブザーが鳴る。

 

 次はfineで試みるも不正解。その後もmoon、Albelt、elekigalと彼女に繋がりのあるものを探すが、どれも不正解だった。

 

 こうなってはお手上げとしか言いようがない。

 

「真実は隠されたままか……」

 

 弦十郎が腕を組んで呟いた。そして、輪の方を見てやる。言及こそしなかったが、弦十郎は察していた。輪が嘘をついていることに。

 

 


 

 鎌倉 風鳴訃堂邸から顕現した白い巨木、『ユグドラシル』。その幹はとても太く、天を貫くかのように高い。

 風鳴訃堂との戦いが決着がついた直後、シェム・ハと共にユグドラシルは出現した。そして、シェム・ハの軍門に降り、アルベルトにダメージを与える程の力を得たノーブルレッド。

 彼女達の行方をS.O.N.G.のエージェント達が追っているが、未だに見つからない。それもそのはず、彼女達は地上にはいない。

 居所は訃堂邸の地下電算室。だがそこもユグドラシルに支配されているかのように、根を張っている。そして、映るモニターに、シェム・ハの真の姿が映し出されている。

 

「それは……」

「面白かろう?我を拘束せしめた戒めより、我の断片を逆流させている。我は言葉であり、故に全てを統治する」

 

 自分を拘束し、支配していたダイレクトフィードバックシステムを、言葉だけで支配してみせたのだ。

 その恐ろしき絶対的な力に、ヴァネッサは戦慄する。

 

「これもまたシェム・ハの力……。あの時、確かに私達は殺されたはず……。現代に解き放たれた超抜の存在に……」

 

 風鳴訃堂に一矢報いる為に、シェム・ハの管理権限を奪取せんと、虫の息だった三人はこの電算室に忍び込んだ。だが、ダイレクトフィードバックシステムを停止させた直後、目覚めたシェム・ハによって三人はなす術もなく、一方的に殺害された。

 だが三人は目を覚ました。気が付くと、自分達からぶちまけられた血液が体内に逆流するように戻ってきている。そして三人の肉体は絶命する前どころか、何もなかったように元の形に戻っている。

 だがそれでもシェム・ハは自身の力が不十分である事に愚痴をこぼす。

 

「遺憾よの。我が力、かつての万分の一にも満たぬとは……」

「ふざけたこと……言わせないぜェ!!……何っ?!」

 

 ミラアルクが怒りに任せて力を解放したが、その力にミラアルク本人が驚愕している。

 カイロプテラは翼の枚数までしか強化出来ない。故に攻撃に使う際は背中の羽を失う事になるので飛ぶ事が出来ない。

 だが今は背中に羽がある状態で四肢に纏って強化出来た。それどころか力が漲る。強化された四肢を見るミラアルクの声が震えている。

 

「一体……どういう訳だぜ?!体にみなぎるこの力、まるで本物の……」

「まるで本物の怪物とでも?ああそうさな。歪な形であったお前達を完全な怪物へと完成させたのだ。我の力の一摘みよ」

「完全と……完成……」

「まさかそれって……もう人間には戻れないって事なのか?!」

「愚問である。完成させるとはそういうことだ」

 

 

 人間に戻る為ならばどんなに汚れようとも、どんなに蔑まれようとも、三人は人間に戻るという願いを果たす為に生きてきた。だがそれも、シェム・ハによって永久に叶わぬものとなって消えた。

 ミラアルクとエルザは泣き崩れ絶望した。ヴァネッサもまた、二人と同じ絶望に打ちひしがれた。

 

「人の群れから疎外される恐怖と孤独は、最早癒されることはなく……。嗚呼……怪物はとうとうどこまでも異物に……」

 

 前腕に搭載されたあらゆる刃物を出し、自身が本当に怪物へと落ちてしまった事を認識し、抗う事をやめた。

 

「気鬱たる。ならば我に仕えよ。この星の孤独も阻害も全て、我が根絶やしにしてくれるわ」

 

 自分達を怪物へと変えた張本人であるシェム・ハ。本来であれば、叶えたい願いの為に抗えた。

 だがその一縷の望みが潰え果て、抗う事をやめてしまったヴァネッサは頭を垂れ、そこに救いを求めた。

 

「神よ……」

 

 ヴァネッサがシェム・ハの配下となった事で、ミラアルクとエルザも服従の道を歩んだ。

 

「ヴァネッサが神と仰ぐのであれば、私もミラアルクも従うであります」

 

 本来であればミラアルクとエルザにそんな道を歩ませたくはなかった。

 だが三人は虐げられ、それでも前に進もうと共に歩んできた。二人が今更ヴァネッサから離れるつもりはない。

 

 

「で、神様はどうやってうちら怪物の孤独や疎外感を拭ってくれるんだぜ?」

 

 シェム・ハに対してもミラアルクは不遜な態度を改めずに尋ねる。

 

「知れたこと。この星の在り方を5000年前の形に戻すのだ」

「5000年前?そいつは先史文明期ゾッコン期だぜ」

 

 有史以前の形など、自分達の想像の範疇から外れている。ミラアルクもこれには理解出来ず、あっけらかんとなる。

 

「申しつけたものはどうなっている?」

「これで、ありますか?」

 

 エルザがシェム・ハに二つのテレポートジェムを渡す。シェム・ハの手に渡り、それを握る。

 すると、握りしめた掌と指の隙間から光輝く。光が消え、手を開くと先程までピンク色だったテレポートジェムが金色になる。

 

 シェム・ハがノーブルレッド三人の方を見て、命令を下した。

 

「傾聴せよ怪物ども。これより使命を授ける」

 




輪の推測力、恐るべし


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月への足がかり

最終決戦もいよいよ近づいて来ました

正直なところ、終わりが近づくと少し名残惜しく感じますが……始めた以上、最後まで描きます!


 S.O.N.G.の本部潜水艦はある場所と航海している。本部では次の作戦の為に、ブリッジに主たるメンバーが揃い踏みである。

 

「現在本部は、鹿児島県種子島に向かって航行中」

「種子島だぁ?!」

 

 弦十郎から告げられた目的地にクリスが素っ頓狂な声と表情で驚く。種子島に向かってどうするつもりなのか、瑠璃も同じ気持ちで弦十郎に訊く。

 

「種子島に向かって、何があるっていうの?」

「目的地は、種子島宇宙センターだ」

「先だって風鳴邸に出現した巨大構造物・ユグドラシルと呼応するかのように、月遺跡よりシグナルが発信されているのが確認されました」

 

 モニターに映し出された二つの映像。一つは風鳴訃堂の屋敷から出現したユグドラシル、そしてもう一つは一部欠損した月。そしてそこにある月遺跡から白い光がシグナルのように点滅している。

 

「まさか私達に……」

「月遺跡の調査に行けというのデスか?!」

「検討段階ではそういった話もありました。ですが今回、月に向かうのは特別に編成された米国特殊部隊となります」

「また米国?!何で……」

 

 調と切歌の問いに緒川が答えた途端、輪が米国政府が絡んでいる事に大きな嫌悪の反応を示した。

 

 かつて米国政府は瑠璃の意思を無視してバイデントの返還を要求し、さらには自国有利の裁判にまで掛けようとした。

 そればかりかパヴァリア光明結社との戦いで、他国を差し置いて反応兵器を独断で撃った米国政府を、輪は不信感を抱く。

 そして南極で装者達が命懸けで戦い、発見した棺のミイラ、及びシェム・ハの腕輪を横取り同然の扱いで米国政府が引き取った。

 

 これだけの事があり、また異端技術の独占を狙っているのではないのかと輪は米国政府に対して不信感を抱くようになっていた。

 

「何でアイツらがまた……」

「輪君の言い分も分かる。だが万が一、ユグドラシルに動きがあった場合、お前達がいなければ対処しょうがない」

「あっ……」

 

 ユグドラシルとは何か、何一つ解明出来ていない状態かつシェム・ハが動いた場合、装者達がいなければ対処しようがない。装者達を月遺跡に行かせるのはリスクがかなり大きすぎる。

 

 他の装者達も、それを十分に納得している。

 

「確かに、あのユグドラシルを放ってはおけないものね」

「だからって、こうも簡単に都合つけられるものなのか?探査ロケットって……」

『Mr.八紘の置き土産だ』

 

 突如証明が落ち、モニターには米国大統領がビデオ通話で話しかけてきた。

 

「お父様の……?!」

 

 亡き父の名前が出た事で翼が反応する。

 

「プレジデントの判断と対応には、感謝に堪えません」

『先の反応兵器発射による国際社会からの非難を躱せたのは、Mr.八紘が提案した日米の協調姿勢によるところが大きい。その象徴であった月ロケットを活用することにどうもこうもあるものか』

 

 自国を守る姿勢には理解出来るが、他国を無視して反応兵器という最悪の核ミサイルを撃ち込むのは国際問題なんてものではない。最悪の場合、米国は国際社会から失墜も免れない所を八紘が救ってみせたのだ。

 その被害者である日本が米国に対して協調路線の姿勢を見せた。端から見れば臆病者と言うものもあるだろうが、そのお陰で米国政府は国際社会の批判から守られた。日本には大きな借りを作ったという事になる。

 

『だがこれで借りは返した。後は精々、派手に貸し付けてやるつもりだからそう思っていてくれたまえ』

 

 感謝しているのだろうが、大国としてのプライドなのかありがとうという一言も言わずに通話を切った。

 

 照明が戻ったのに紛れて輪が舌打ちをする。

 

「元はと言えばお前が原因じゃん……」

「こら、輪」

 

 米国大統領の言い草に輪がこっそり悪態をつくが、それを聞き逃さなかったマリアに咎められる。

 

「諸君らの任務は三日後に発射が迫る月遺跡探査ロケットの警護である!敵の襲撃は十分に予想される!各員準備を怠るなよ!」

「「「「「「「「はい(デス)!!」」」」」」」」

 

 弦十郎から下された指令に、装者達は大きく返事をする。

 

 


 

 

 種子島に到着したS.O.N.G.の潜水艦。安全の為に付近の住民には避難勧告が出され、それに従い住民達は安全な場所へと移動する。

 装者達は現場に赴き、探査ロケットを防衛する為の警護についている。響とクリス、翼とマリア、調と切歌、そして瑠璃と輪がそれぞれの持ち場につき、本部に報告する。

 

「はい。こちらも異常ありません。引き続き、周囲の警戒にあたります」

 

 輪が周囲を見渡している中、瑠璃が通信で定時報告をする。

 

「しっかし、こんな形で生のロケットを拝めるなんてねぇ」

 

 発射台に設置されたロケットを見上げる二人。右翼と左翼のロケットエンジンのてっぺんには日米の国旗が標されている。

 

 本物の宇宙ロケットなどそうそう拝めるものではない。初めての体験に輪のテンションが盛り上がっている。瑠璃も顔には出ていないが、少女らしく圧巻されている。

 

「って言っても、月へ行けないのが残念だね」

「……もしかして月に行けるんじゃないかって期待してた?」

 

 瑠璃の意外な一言にキョトンとする輪。

 

「うん……ほんのちょっとだけ」

「実を言うとね……私も」

 

 同じ考えだった事に二人は微笑み合う。こう見れば、エレキガルの生まれ変わりと言われている瑠璃も、普通の少女に変わりない。

 

「っ……!」

「どうしたの……って、あっ!」

 

 だがその少女でいられる時間も終わりを告げる。瑠璃が何かに気付き、空を見上げる。輪も見上げると、上空には空母型のアルカ・ノイズが出現していた。

 

『アルカ・ノイズの反応を検知!』

『装者各員は、施設の防衛に当たってください!』

 

 藤尭と友里の通信が入ると同時に、空母型アルカ・ノイズが卵を地上に落とした。その卵から小型のアルカ・ノイズが召喚される。

 

「行くよ!輪!」

「オッケー瑠璃!」

 

 

 Tearlight bident tron……

 

 

 瑠璃が詠唱を唄い、バイデントのギアを纏う。輪もファウストローブを纏って、二人はアルカ・ノイズ討伐に乗り出す。

 

 黒白の槍を振り降ろし、その刃に斬られたアルカ・ノイズを赤い塵へと還す。

 さらに黒白の槍を連結、一本の二叉槍へと可変させるとそのまま槍をプロペラのように高速回転、そこから発生したエネルギーを竜巻へと変えて、空のアルカ・ノイズを切り裂く。

 

【Harping Tornado】

 

 輪の方もチャクラムを振るい、アルカ・ノイズを葬る。そしてチャクラムの刃に炎を纏い、それを投擲する。

 

【緋炎・フレイムシュート】

 

 チャクラムに直撃した個体もあれば、炎に巻かれて消滅するアルカ・ノイズもいる。そのまま群れに突っ込んでアッパーカット、ソバットと弦十郎直伝の格闘術を使って迎撃、その数をみるみると減らしていく。

 

「これで最後だぁ!」

 

 投擲したチャクラムを拾い上げ、上空で漂う一体の空母型アルカ・ノイズに向かってチャクラムを投擲、その身体を貫いて撃墜した。

 

「これで雑魚はいないね」

「待って!敵影が三人……これって!」

 

 喜んでいる暇はない。バイデントのバイザーに搭載された戦闘補助システムが三人の敵影反応をキャッチした。その姿形から、ノーブルレッドである事をすぐに見抜いた。

 そこに弦十郎からの通信が入る。

 

『瑠璃!輪君!ノーブルレッドの襲来だ!急他の装者との合流を急ぎ、加勢するんだ!』

「了解!輪!乗って!」

「はいよ!」

 

 瑠璃は槍を連結させて、それに跨がると輪も後ろに乗る。

 

「飛ばすよ!しっかり掴まって!」

 

 槍の遠隔操作を用いて飛び立つと、そのまま飛行。急いで他の仲間の所へと向かう。

 

 


 

 

 響とクリスの方にヴァネッサ、翼とマリアにはミラアルク、そして調と切歌の所にはエルザがそれぞれ単独で奇襲を仕掛けて来た。

 狙いは月遺跡探査ロケットの破壊。その為に邪魔な装者を排除を目論んだ。

 しかもシェム・ハによって、完全な怪物として変えられた事で以前よりも遥かにパワーアップを果たしており、長期の戦闘を行っても全血清剤を必要としなくなった。当然個々の能力も強化されている。

 

「流石のシンフォギア、こちらの行動を先読みしていたでありますか。ですが、超越人智の力の前には無駄な事であります!」

 

 エルザのテールアタッチメントは一度に複数同時に運用出来るようになった事で攻撃手段が多彩になっている。

 

「シェム・ハから授かったこの力……もはや賢しい手段も、全血清剤も、ダイダロスエンドも、お前らを倒すのに必要なさそうだぜ!」

 

 ミラアルクはカイロプテラは両肘、両膝にも追加された事で背中の羽を使う事なく四肢を強化も可能になった。

 

 ヴァネッサも武装が強化され、威力もスピードも桁違いに引き上げられている。ヴァネッサの両肩から展開されたアームによる連続パンチが、響が防御に徹さざるをえない程に速い。クリスもその動きを封じ込めようにも、ヴァネッサ自身も速い為、遠くから援護射撃が出来ない。

 

「ヴァネッサさん!皆と仲良くなりたいって!だったらこんな事……」

「ええ!仲良くなりたいわ!でも人間と怪物が仲良くなりたいなんて出来ないのよ!だから!」

 

 前腕ら放たれた巻き尺が、響の胴に巻き付いた。一瞬響の頬が朱く染まるが、すぐさま高く持ち上げられる。

 

「今だ!」

 

 ヴァネッサの動きが止まった隙にクリスが2発の銃弾を発砲する。だが、アームからバリアが展開された事で銃弾は呆気なく防がれる。

 

「私達は皆を怪物にする事にしたの!」

 

 ヴァネッサは笑いながら自身に搭載されたミサイル全弾、響に放った。

 

 

 

 ロケットの発射台に最も近い場所で調と切歌も、強化されたエルザ一人に追い込まれ、後退している。これ以上後ろに下がれば、攻撃の余波がロケットに巻き込みかねない。

 

「ロケットには手を出させない!」

「好きにはさせないのデス!」

「月遺跡に調査隊など、派遣させないであります!」

 

 高く飛び上がるエルザ。キャリーケースから放たれたテールアタッチメントを追加で二本差し込み、武装を強化。そのまま調と切歌に突進する。

 それを後ろに飛んで避けた調はツインテールのアームから鋸を二枚目、切歌は大鎌の刃を高くから投擲する。

 立ち込める爆煙によって、いつ襲い掛かってくるか分からない。着地した調と切歌は警戒しながら構える。

 

「気を付けて切ちゃん……!」

「合点デス!きっとこれしきの攻撃では……」

 

 だが爆煙が晴れたと同時に、目の前にエルザがいない事に気が付いた二人は驚いた。

 

「いないのデス……?」

 

 だが先程エルザがいた場所に、コンクリートが大きく陥没している。だが前に気を取られていた二人は、その穴の意味に気付く前に、背後から大きな衝撃音で振り向いた。そこには巨大な銀狼の鎧を纏ったエルザがいた。

 

「地中を掘り進んで……?!」

「やり過ごしたデスか?!」

 

 その銀狼の胸部が開くとエルザが姿を現す。

 

「オールアタッチメント!Vコンマインであります!!」

 

 胸部を閉じ、そのまま探査ロケットへと二足歩行で駆け出す。背後を抜かれた今、探査ロケットを守る者がいない。

 

 

 

「させるかあああああぁぁぁぁーーーー!!」

 

 

 

 咆哮に似た叫び。突如、輪が稲光を纏ったチャクラムをメリケンサックのように持って銀狼の脇腹を殴り飛ばした。地面に叩きつけられる前に体勢を立て直して着地するエルザ。

 

「援軍でありますか?!」

 

 強固な銀狼の鎧を、不意討ちとはいえ殴り飛ばされた事に驚愕するエルザ。その援軍が今、華麗に着地した。

 

「ギリギリセーフ!」

「「輪先輩!」」

 

 頼もしい姉貴分が駆けつけ、調と切歌が歓喜する。

 

「瑠璃がいなかったら、間に合ってなかったかもな……」

 

 二叉槍のバーニアを最大出力まで点火させて飛び降りて来たのだ。飛ぶタイミングも戦闘補助システムのお陰であり、それがなければ今頃どうなっていたことか。

 

「また、私めらを阻むつもりでありますか?!」

「当たり前じゃん!特に、アンタ達には負けるわけにはいかないんでね!」

 

 輪に秘められた闘志、心なしか怒りが混ざっているようにも見えた。

 

 




次回も瑠璃より輪が目立つかも……?


主役ってなんだろうね?


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優しさ

VS エルザ戦!

輪も参戦!!


 輪の横槍により、エルザがロケットの破壊に失敗した。

 

「けどまだウチらが……」

「させてなるものか!」

 

 ミラアルクがロケットに向かおうにも、翼とマリアが立ちはだかる。背中のカイロプテラをブーメランにして投擲、ロケットに向かうもマリアの蛇腹剣の刃に弾かれる。

 

 ヴァネッサの方も、響とクリスが粘り強く耐える為に状況が一変しない。

 

「しつこい……!」

 

 こうなっては埒が明かない。ヴァネッサは目をフラッシュさせて響とクリスの視界を潰す。

 

「目がっ……!」

「クソッ!アイツ、一体何を……」

 

 響とクリスの視界が回復する前に、ヴァネッサは高く跳躍。胸、胴体、肘、脛と全てのミサイルを発射させる。

 

「させるかよ!」

 

 響よりも早く視界が利くようになったクリスが、その下からガトリングでミサイルを撃ち落とそうと乱射する。的確な射撃で撃ち落としていく。だが最後の一本のロケットを撃ち漏らしてしまい、後ろに抜かれてしまう。

 

「しまった!」

 

 ミサイルがそのままロケットへと向かい、撃ち抜く……

 

「はああぁっ!」

 

 だがそのミサイルは二叉槍によって叩き落された。地面へと叩き落されたミサイルは爆発、ロケットは無事だった。

 

「来たか!」

 

 二叉槍を手に、瑠璃が援護に到着した。だがヴァネッサは瑠璃の姿を視認した途端、全身には戦慄の震えが走る。

 

(何なの?この感覚……まるで怯えている?)

 

 怪物と完成し、大きな力を手に入れたはずが瑠璃を見た途端、肉体が恐怖で悲鳴を挙げそうなくらい怖じている。

 瑠璃がバイザーを解除、彼女の瞳が見える。

 

「あなた……まさか……!」

 

 響とクリスには普通に見えていたが、シェム・ハの因子によって怪物となったヴァネッサだけは違った。瑠璃の瞳には冷たい闇が帯びていた。

 あの病院との戦いで見た、全てを震え上がらせるあの闇の瞳。その記憶と意味を悟ったヴァネッサは驚嘆する。

 

「シェム・ハだけではなかった……?!神は既にここにも……」

 

 ヴァネッサが口走った言葉の意味を、響とクリスは理解出来ず、互いを見る。

 

「やっぱり、あなたにはシェム・ハの断片が……」

 

 怪物へと完成させたヴァネッサの肉体の中に宿るシェム・ハの因子、瑠璃はエレキガルの力を使ってそれを見抜いた。

 

「あなたがどうしてシェム・ハに降ったのか、私には分からない。けど、そうした以上は覚悟を決めて」

 

 そう言われたヴァネッサはすぐさまミサイル発射の体勢に入る。生かしてはマズいと本能的に察知した故の行動だ。

 瑠璃も二叉槍を解除、二本の黒白の槍へと戻して、それぞれの手に持って構えたその時だった。

 

「っ……!」

 瑠璃のすぐ横を駆け抜けた一筋の閃光。それに気が付いた瑠璃はロケットの方を振り向くが……

 

 

 

 

 

 

ドカアアアアアアァァァァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如ロケットが爆破。爆発と共に発射台も瓦礫となって崩れ落ちた。

 

「そんな……」

「してやられたのか……?!」

 

 突然起きたロケットの爆破。響とクリスは破壊されたロケットを見て驚愕する。何故ロケットが爆発したのか、外部からの攻撃である事は明らかであるが実行犯は一体誰なのか。

 ノーブルレッドの三人も装者との戦闘、もしくはその余波とも考えられたが、少なくともヴァネッサの攻撃は瑠璃によって届いておらず、二撃目は仕掛けていない。

 

「一体……何が……」

 

 ヴァネッサ本人も何が起きたのか分からず、驚愕を隠しきれていない。

 ミラアルクの主な攻撃は肉弾戦である。近くにミラアルクがいないとなるとミラアルクでもない。

 エルザもミラアルクと同様の理由で、ロケット破壊の実行犯から除外される。

 

「嘘でしょ?!何で……」

 

 エルザと交戦していた輪が爆発と共に崩壊したロケットを見て戸惑っている。一方、図らずも目的を果たしたはずのエルザだったが、何処か悲しげな表情で燃え盛るロケットと発射台を見ている。

 

「私めらは……ずっとずっと壁に囲まれて、疎外感に苛まれてきたであります……」

「え……?」 

 

 消えてしまいそうなエルザの嘆き。それを拾った輪が振り返った。

 

「利用されて……裏切られて……それでもいつか、孤独を埋める方法が見つかると信じて……」

「アンタ……」

 

 エルザの脳裏に蘇る、虐げられた日々。その傷をヴァネッサとミラアルク、三人で舐め合いながらも、人間に戻れると信じて抗ってきた日々。

 その結果がこれだ。完全なる怪物となって、もう人間には戻れない。たった一つの願いを踏み躙られ、残酷な結末を突きつけられたエルザの心に、最早希望なんてない。

 

 エルザは涙を流していた。

 

 

ワオオオオオォォォーーーン!!

 

 

 慟哭に似た咆哮が衝撃波のように襲い掛かる。

 

「不可逆の怪物となり果てるのなら……優しさなんて知らなければ良かったであります!!」

 

 銀狼の鎧の胸部を閉じ、身体を高速回転させて襲い掛かる。輪、調、切歌はエルザの攻撃を跳躍して回避する。

 だがエルザは切歌を標的に絞る。迎撃する為に鎌をコマのように高速で振り回す。

 

【災輪・TぃN渦ぁBェル】

 

 それでもパワーもエルザの方が上手で、攻撃が途切れた切歌はマズいと悟る。そこに割り込むかのごとく、調がツインテールと脚部のアームを鋸で連結させて切歌を守った。

 

【非常Σ式・禁月輪】

 

「調!」

 

 調が窮地を救ってくれたカッコよさに、切歌は思わず乙女のときめき。

 それでも銀狼の爪が、二人を潰そうを躍起になり追いかけ、爪が振り下ろされる度に滑走路に穴を空けていく。

 禁月輪で駆け回りながらも、両手のヨーヨーを巨大化させて投げた。ヨーヨーが銀狼の周囲を駆け巡り、滑走路のコンクリートに埋め込むと、エネルギーの糸が銀狼を拘束する。

 切歌の大鎌の刃を手裏剣型に可変させ、その刃を振るおうとした直後、銀狼が力任せに拘束を振り解き、調と切歌を纏めて吹き飛ばした。

 

「シェム・ハの企ても、私めらの悲しみも、最早止められないであります!!」

 

 全ての敵を壊し尽くすまで止められないほどに自暴自棄となったエルザ。超高速で調と切歌にその牙が向く。

 

 だがその前に割り込み、エルザに向けて掌を向ける輪。

 

「輪先輩?!」

「駄目!」

 

 銀狼と刃を交えた二人が叫ぶ。いくら輪でも、正面からでは太刀打ち出来ないと分かっているからだ。だがそれでも輪は退かない。

 

「この……大バカヤロウがぁ!!

 

 チャクラムを手放し、両掌からフィーネの力であるバリアを展開。片手でやるよりさらに一回り大きく展開され、銀狼の鎧とバリアがぶつかり、押し合いになる。

 

「フィーネの力を使って……」

「だけど無茶デスよ!」

 

 調と切歌の危惧。相手はシェム・ハの力で強化され、全てのテールアタッチメントを合体させて作った鎧、いくら強固なバリアであっても、使用者である輪の体力にも限界がある。

 

「またそのような……!」

「諦めんなよ!!」

 

 何を言い出すのかと思えば、出たのは根性論。それを聞いたエルザは憤怒する。その思いが具現化したのかバリアに亀裂が生じる。

 

「怪物でもない人間に、私めらの悲しみを……」

「怪物だとか人間だとか、そうじゃないんだよ!!」

「……?!」

「怪物の力があったとしても、アンタはアンタだ!!私もこの力があったとしても、瑠璃がアヌンナキだとしても、アイツだって人間らしく生きてんだ!!」

 

 輪がS.O.N.G.の仲間にまで黙っていた真実をエルザにぶつけた。本部でも当然それを聞き逃すわけもなく、弦十郎をはじめとする主たる面々が衝撃を受けた。

 だがそれは、エルザに分かってほしかったからだ。たとえ異形の力があったとしても、異端技術や先史文明の魂が宿っていたとしても、自分が人として生きたいのであればそれに望む事だって出来る事を。それを諦めてしまった事に怒っている。

 

「アンタを本当に怪物にしてしまったのは、異端技術でも、錬金術師でも、ましてやシェム・ハでもない!人として生きる事を諦めて、人と怪物の間に壁を作った……アンタなんだよ!!

「っ……!私めが……でありますか……?」

「うぉりゃああぁ!!」

 

 エルザが怯んだ一瞬の隙に、地面のチャクラムを蹴り飛ばした。銀狼の顔面に直撃して怯んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 バリアを解除するが、一度に大型のバリアを展開した分の体力を消耗してしまった。疲労の表情が濃く表れ、膝をつく輪だが戦意は折れていない。フラフラになろうとも、立ち上がろうとする。

 

「無茶デスよ!」

「私達を守る為に、その力を使い続けても輪さんが……」

「出しゃばるんじゃないよ!」

 

 切歌と調の静止を無理矢理払う。信頼していないわけではない。今引き下がってしまえば、大事な事を伝えられなくなってしまう。全ての力を使い果たしてでも伝えたい事がある輪は、徐に立ち上がる。

 

「人として生きたいっていう叫びがある限り、アンタ達を人として受け入れる人がいる限り、アンタ達は怪物じゃない!だから……優しさを捨てんな!!」

「くっ……ぅ……!ワオオオオオォォォーーーン!!」

 

 咆哮とともに、銀狼が再び四足歩行で襲い掛かる。先程よりも速い、残像を生み出すレベルのスピードで攻撃して来る。再びバリアを展開するが、あまりにも速すぎる連撃にバリアに生じる綻びも早い。このままではやられると思ったその時、背中を押される感覚がした。

 

「二人とも!」

 

 振り返ると調と切歌が背中を支えてくれている。

 

「私達にもぶつけさせてください……!」

「無茶を先輩だけにやらせないのデス……!」

「……頼もしい後輩だね!けど……ちょっとヤバいかも……!」

 

 次第に亀裂が大きくなり、遂にその時を迎える。

 

 

「「「うわあああああぁぁぁーーー!!」」」

 

 

 バリアが破壊され、三人揃って大きく吹き飛ばされた。調と切歌はすぐに立て直したが、一度に大型のバリアを二回も使ったせいで、輪はまともに立つ事すら出来なかった。しかも、エルザは容赦なく輪に狙いを絞って襲い掛かって来る。

 

「クソッ……!足に力が……!」

 

 バリアも使えなければ避ける事すらままならない。これまでかと思われた。

 

 

 

 

 

 

ドカアアアアアアァァァァン!!

 

 

 

 

 

 

「え……?!」

 

 切歌と調の二人が纏った黄金のバリアが、寸での所で輪を守った。

 

「選手後退デス!」

「輪先輩の思い、今度は私達が!」

「アンタ達……その姿!」

 

 輪を守る為に、二人は前に並び立った切歌と調のギアが変わっている事に気が付いた。

 

「制限が解除された……!」

「アマルガムデェス!」

 

 手の甲から展開される黄金の華。調のものは黄金の盾、切歌はいくつもの刃が連なる大鎌を形成し、手に取る。

 

「小癪なであります……!」

 

 アマルガムを使われたからと言って、今のエルザは退く気などない。高速で攻撃を仕掛ける。標的は体力を一番消耗して動けない輪。

 だがやらせるかと切歌の大鎌が全ての残像を刈り、本体の銀狼を吹き飛ばす。さらに盾から鋸の刃を展開、それを投げ飛ばす。

 銀狼の爪がそれを掴んだかと思われたが、盾が調の姿を模したロボットに変身。脚部に鋸を展開して飛び蹴りを繰り出し、銀狼に直撃した。

 だがそれでも銀狼の鎧には傷一つついていない。再び車輪のように高速回転し、二人に襲いかかる。

 

「「レディゴッ!!」」

 

 調と切歌の二人のユニゾンの力が加速する。

 

 切歌が大鎌を頭上に投擲、ロボットとなっていた鋸と連結合体、巨大なトラバサミに変形する。

 

 それでも構いなしにエルザは襲い掛かる。だが二人に気を取られて、すぐ近くの伏兵に気付かなかった。

 

「はっ……!」

「どっせえええぇぇい!!」

 

 チャクラムを合体、巨大化させた大身の槍。それを渾身の力と叫びでバットのように、一回り巨大な銀狼を打ち上げた。

 銀狼はそのままトラバサミにぶつかり、そのまま捕らえられた。刃が檻のように閉じ、内部の刃が高速で回転すると、外の刃も球体のように回ると銀狼の鎧を何度も切る。

 

「いくら何でもそいつはヤバいぜ?!」

「エルザちゃん!」

 

 ミラアルクとヴァネッサがその技の脅威に気付くが、もう遅い。球体刃の檻と繋がっているエネルギーの糸を操っている調と切歌が、それを振り下ろした。

 

 

【ポリフィルム鋏恋夢】

 

 

 そのまま大地へ叩きつけられ、陥没する程の大爆発が起きた。

 アームドギア同士の合体を解除させ、それぞれの持ち主の手に戻る。成り行きを見届けた輪が呟いた。

 

「凄い……おわっ!」

 

 立つのがやっとな状態だというのに、歩こうとすれば転ぶのが関の山。だが倒れそうになった所を切歌と調が肩を貸す。得意げな表情の二人に、輪は笑ってしまう。

 

「あんがと、二人とも」

 

 爆煙が晴れるとテールアタッチメントが損傷し、ボロボロになったエルザが荒い息遣いで辛うじて立っていた。

 

「孤独を埋めるのに、心まで怪物にする必要はないデスよ!」

「あなたの心にある壁は、誰かを拒絶する為じゃない。それはきっと、誰かの心を受け止める為に。優しさを忘れないで!」

(あーあ、全部言われちゃった……。けど……まあ良いっか) 

 

 輪が伝えたかった事を切歌と調が伝えてくれた。それで十分だった。

 力尽きたエルザは倒れそうになるが、駆け付けたミラアルクに抱えられる。

 

「やってくれる!だが、痛み分けだなんて思わない事だぜ!」

「月遺跡への探査ロケット破壊というこちらの目的は、既に果たされてます!」

 

 脚部のホバーでエルザとミラアルクの傍に降り立ったヴァネッサがそう吐き捨て、黄金のテレポートジェムを取り出した。

 

「アイツらまた!」

 

 だが三人の背後から振り下ろされた刃によって、テレポートジェムを落としてしまう。

 

「お姉ちゃん?!」

 

 翼らしからぬ大胆な行動に瑠璃のみならず、敵味方全員驚愕する。

 

「そいつを使えば、貴様らの喉元に喰らいつけるのだろう。この命に代えても、小日向は必ず!」

 

 テレポートジェムが翼の足元に落ち、転送の魔法陣が展開された。このままではノーブルレッドの転移に、翼だけが巻き込まれてしまう。

 

「翼さんを一人ぼっちにさせるな!」

「デェス!」

 

 響の叫びと共に、装者達が駆け出す。なお切歌と調も、輪を抱えながら走っている。

 装者全員とノーブルレッド、転送の魔法陣の内側に足を踏み入れた瞬間、その場にいた全員の姿が消えた。

 

「っ?!」

「皆さん!」

 

 装者達の姿が消えた事で、それをモニターで見ていた弦十郎と緒川も狼狽える。

 

「ギアからの信号、検知出来ません!」

「スキャニングエリア拡大中!ですが!」

 

 藤尭も友里も、死に物狂いで日本より外、全世界をレーダーで反応を探すが影一つ捉えることが出来ない。

 

「世界からの消失?!まさか……そんな事が?!」

 

 その意味を、目の前の事態を未だに信じられないエルフナインが叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、装者達が消失した様子を見届けた一つの影も、その姿を消した。




ロケット破壊の実行犯は誰か?!

輪「皆も一緒に考えてみよう!あ、分かっても感想には書かないでね☆」


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EX1:魂を拾い上げた日


最終決戦を前に、あるアヌンナキの物語を語らなければなりません。今回はその物語の前後編の二本立てになります。



冥府の神殿。光が届かず、闇夜に覆われるがごとく暗く冷たい地。生者はそれを死の世界と呼ぶ。アヌンナキにそう示唆され、ルル・アメル達もそれを信じ、忌み嫌われていた。

 

 その神殿の最奥にある玉座の間。玉座に座って見下ろしている者が一人。黒の装束を身に纏うが肩と脇、臍を露出させている。藍色の袖と端をボロボロにした腰のマントが、より彼女の闇の冷たさを物語っている。

 

「貴様に明日はない。闇に消えろ」

 

 少女が見下ろしていた魂を手繰り寄せ、それが掌に収まるとそのまま握り潰した。潰された魂は一粒の光も残さずに消えた。

 

 彼女こそがエレキガル。彼女は生まれながらにして魂を見通す眼を持っていた。命ある生命の中にある魂を読み取り、その魂を操る力だった。

 そうして、死と闇を司る彼女は彷徨える魂を導き、新たな命へと変える立場にあった。その力は正に神の成せる技として恐れられ、畏怖の念を抱かない者はいない。

 

 だが裏を返せばその力に恐れる者が多く、同じアヌンナキでさえも彼女を忌む者も少なくはなかった。

 アヌンナキは命を創造し、進化を施す者達。その反対の力を持って生まれてしまった故に、忌むべきものとして彼女はこの神殿へと締め出さた。

 

 それからの彼女は孤独だった。光届かぬこの世界には彼女しかいなかった。光あふれる世界で皆が分かち合う中、孤独の闇に沈んでいた。光に焦がれ、待ち望む事すら許されない立場に苦しんでいた。

 

 何もかもが敵に見えた彼女が望むもの……それは全ての破壊、生きとし生ける者を孤独と絶望に叩き落とす事だった。

 

 全てを破壊する為に、彼女は密かに死者達の魂を従え、アヌンナキ達への裏切りを企んだ。全てを闇へと沈め、破壊を齎す為に。

 

 だからこそなのだろうか。死にゆくルル・アメルの魂に、新たな肉体を与えたのは。

 

 

「心の奥底にある生きたいという願い、確かに感じた……。良かろう……。我に仕え、我に従え」

 

 

 まだ幼き魂を拾い上げ、それを頭上に放り投げるエレキガル。その魂の形を、人の姿へと変えさせた。

 少年の姿になったルル・アメル。自分に肉体を与えた女神を見上げた。

 

「我は、絶対の破壊者。貴様を我が下僕として迎え入れようぞ」

 

 尊大な口ぶりで《彼》を歓迎した。

 

 

 

 彼は神官として仕える事になったが、まだ幼き精神と肉体ではこの世界では生きていけない。教養が必要ならば、エレキガルが教えてやる。

 

「文字くらいは読み書き出来るようになっておけ。我に仕えるのならばな」

「はい、我が主」

 

 エレキガルがそう命じると、彼は素直な返事をする。エレキガルの指導で彼は文字の読み書きを覚えた。

 純真無垢な子供とはいえ、彼は飲み込みが早かった。字が読めるようになり、書けるようにもなると、もっと多くを知りたいとエレキガルを困らせた。

 

「構えろ」

「へ?」

「知識だけで生きていけるほど、ここは甘くはない」

 

 座学の他にも、戦いの手解きもした。自らが企てた反逆計画に加える為に、彼には一人で戦えるようになってもらう必要があった。

 

 闘技場にて剣術の稽古を始めたが、一つ問題があった。

 

「主様……」

「何だ?」

「重たいです」

 

 まだか弱き肉体より大きい剣を持ち上げる事は出来なかった。そこまで考えていなかったエレキガルは改めて一回り小さい剣を与えて稽古をつける。

 

 その扱い方に技術。教えられる事は何でも教えた。だが彼は得物に振り回されてばかりで、少し振っただけで息も絶え絶えになっている。とても戦えるようになるとは思えなかった。

 

「主様ぁ!こんなの……私には……」

「泣き言をほざいている暇などない。立て膝をつくことは許さん」

 

 彼が弱音を吐こうとも、エレキガルは容赦しなかった。少しでも手を抜こうものならば、彼を厳しく叱りつけ、座りこもうものなら問答無用で立たされる。

 

 そうして死んだ方がマシとも思える稽古が終わると、彼は息絶えるように眠りについた。

 

「これでどう戦いに組み込もうというのだ……」

 

 勉学は目を見張るものがあるが、戦闘に関してはからっきし。まだ子供故に仕方ない所はあるが、一刻も早く野望を成就させたいエレキガルは頭を抱える。

 

 それからというもの、彼は実質召使いのように働かされた。宮殿の掃除、食事の支度、命じられるのは身の回りの世話ばかり。たとえそれを熟したとしても、贈られるのは多少の労いの言葉だけ。それ以上のものは何もなく、それ以外で彼に話す時は命令を下す時だけだった。

 

 人道的とは言えぬ仕打ちではあるが、それでも彼は、それでもエレキガルに奉仕し続けた。一つ失敗する度に学び、それを見事に実践してみせる。一体何が彼を動かしているのか、エレキガルには測れなかった。

 

「何故そこまでして我に……」

 

 懸命に神殿の掃除をしている彼を陰から見ていた。彼の頑張りには評価しており、何か褒美でも与えようと考えていた。

 だが彼は何も欲しようとはせず、ただひたすらに己の役割を果たしている。何より、彼がエレキガルに見せる笑顔。それが本心なのか分からないが、エレキガルを見る度に、彼は笑みを浮かべて挨拶をする。

 

(感情を消してから肉体を与えるべきだったか……?)

 

 ほんの気紛れのつもりで彼に新たな生を与えたエレキガルも、彼が何故ここまで仕え続けるのか、永い時を独りで生き続けた彼女には、理解出来なかった。

 

 


 

 

 それから年月が過ぎ、彼は逞しい青年へと成長した。仕事も早くなり、エレキガルが文句のつけようのない従者となっていた。

 彼が玉座の間に入ると、玉座に足を組んで座っている主に跪いて報告する。

 

「我が主、エンキ様がお見えです」

「……通せ」

「はっ」

 

 憂鬱そうに外を見て答える。だが扉が開くと、その方を見下ろす。

 

「久しぶりだな、エレキガル」

 

 青髪を逆立たせ、青いパワードスーツの上にマントを羽織った青年。彼もまた、アヌンナキの一柱であるエンキである。

 

「貴様のような要職を務める者が、かような闇の世界に足を踏み入れるか。ただ迷い込んだわけでも、座興でも始めようとしているわけでもあるまい」

「相変わらずひねくれているな……。では、単刀直入に聞こう。先程通った時に見た彼……。お前は、理に反して彼の魂を蘇らせたそうだな?」

 

 まるで、ではなく紛れもない尋問。エンキがエレキガルに向ける眼差しは、疑いそのものだった。だがエレキガルはそれを無視して外の景色を見ている。

 

「……それで?」

「お前が裁いた魂、一体何処へと行くのか?」

 

 エンキの問いにため息をつくエレキガル。仕方ないと言わんばかりにエンキの方を見て答える。

 

「我に潰された魂は何処にもおらん」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だ。悪へと堕ち、救済の好機を手放した者が行く先は……新たな生へと移る事もなく、世界から消える。故に何処にもおらん……これで満足か?」

 

 両者が睨み合い、その間に漂う空気はピリピリとしている。

 エンキは保安・防衛を司る要職であり、有事の際には先頭に立って戦う。エレキガルが反旗を翻せば、当然エンキとは敵対する。

 対するエレキガルも死と闇を司る者。魂の中には、裁きに従わずに徒党を組む者もいる為、圧倒的な力でそれらをねじ伏せている。

 二人の実力差がどれ程のものかは計り知れないが、ここでやりあえば間違いなく二人とも無事では済まない。

 

 エンキは純粋に、アヌンナキ同士で戦う事がルル・アメル達にとって悲劇を齎すものとして避けようとしている。

 だがエレキガルは、この反逆計画を完遂する為に万全の体勢でいたいという思惑がある。

 

 とはいえ、両者ともにここで戦うのは本意ではない。一息ついてから、エンキは答える。

 

「……一先ず、この件は保留にする。だが万が一、良からぬ企てを見せれば、容赦しない」

「……ふん。ならば失せろ……貴様の顔など、見たくもないわ」

 

 足を組み直し、再び外の景色の方を向くエレキガル。そうしている内に、エンキは玉座の間から出て行った。それに入れ替わる形で彼が入って来た。

 

「主……」

「何だ……?」

「あの方が仰るように、主は何か隠しているのでは……」

 

 従者である彼に、エンキと同じ事を問われ不愉快だった。エレキガルは彼を睨み、見下ろす。

 

「くどい。同じことを答えさせるな。それとも……この場で消されたいか?」

「……いえ、申し訳ありませんでした」

 

 主の不興を買った事を申し訳なく思って頭を下げて謝罪、玉座の間から出て行った。

 

「所詮……我は孤独の闇しかないか……」

 

 ポツリと呟いた彼女の本音。誰にも届かないくらい弱くて小さい叫び。彼女の目尻から、涙が一筋零れ落ちた。

 

「主様……」

 

 玉座の間から出て行った彼。扉越しに主の嘆きを知り、心を痛めた。

 

 


 

 

「これは……」

 

 魂の裁判を終え、食事にしようと彼を呼びつけたのだが、どういうわけか出された食事が一層に豪華となっている。

 彩り豊富の料理目の当たりにしたエレキガルが珍しく狼狽えている。

 

「どうぞ、主」

「あ、ああ……」

 

 前菜であるサラダを口にした瞬間、目を見開いた。 美味い、その一言を黙らせる程に。

 

 料理だけではない。神殿の隅々まで、塵一つなかった。

 

「何がどうなってる……?」

 

 たった一日でここまでスキルアップしている彼に、エレキガルは驚嘆を隠しきれない。一体彼に何があったのか?何をしたら一日でここまで上達したのか?

 

「一体……何故ここまで?」

「さあ?何故でしょうね?」

 

 エレキガルの問いに彼は笑みで答えた。だがそれだけで理解出来るわけもなく、剣の組手に入る。

 背丈も大きくなった為、剣の長さもそれに伴い、合ったものへと変わった。

 

「覚悟は良いか?」

「はい」

 

 互いが県を構えて駆け出し、剣戟が激しく交わる……はずだった。

 

「……おい」

「何でしょう?」

「弱い」

 

 文字通り瞬殺だった。たった数回刃を交えただけで、彼は呆気なく倒されてしまったのだ。あれだけ成長したのだから、剣術も成長しているものだと期待していたのだが、これには拍子抜けを通り越している。

 

「何故これだけはまるっきり成長しない?!」

「えっと、あれから頑張ってやってみたのですが……」

 

 呆れながら頭を抱えるエレキガル。ここまで来るとある意味才能なのかもしれないと思った。とはいえ、このまま放置するのは良くない。

 

「まあいい……また一から教えてやる」

「……はい!」

 

 立ち上がった彼は、剣を構えた。

 

 

 稽古が終わり、彼が疲れ果てて眠った後の事だった。エレキガルは玉座に腰掛けて足を組む。外の景色を見ながら物思いに耽っていた。

 

(剣術は駄目だが、奴の成長には目を見張るものがある。だが……一体どうやって……?)

 

 あの成長ぶりには何かあるのではないか、気になる所はあったが、彼の答えはこうだった。

 

 

 さあ?何故でしょうね?

 

 

(あやつめ……何が秘密だ。はぐらかしおって……)

 

 答えてくれなかった事に、何となく心に引っ掛かっていた。頭にこべりついていて、それが離れない。

 

(何なのだ……一体……)

 

 

 

 ある日、魂の裁きを務めていたある時、二つの魂を前にして察知した。

 

「この魂は……」

 

 二つの魂は、彼と同じ気が帯びていた。エレキガルは魂の形や気を、その眼で測り知る事が出来る。二つの魂から感じ取った気、それだけでその二つの魂が彼の家族であると気が付いた。

 

 この時、エレキガルの中である疑念が過ぎった。彼は家族のもとに帰りたいのでは?ずっとこの時を待っていたのではないか?と。自分に仕え続けたのは、この瞬間を待ち望んでいたからではないかと考察する。

 

「エレキガル様?」

「あっ……」

「どうかなさいましたか?」

 

 神殿の玉座で呆けていた所を彼に見られていた。

 

「何もないわ」

 

 威厳の欠片もない顔を見られ、まさに不興の様子で玉座から降りた。ただ素っ気ない一言だけで終わらせ、玉座の間から出て行こうとしたが、扉に手を掛けた所で止まる。

 

「……問おう」

「はい……?」

「もし、家族に会えるとしたら……お前は会いたいか?」

「え……?」

 

 思わぬ問いに気の抜けた声が出た彼。エレキガルは少しため息をついてから……

 

「……いい。忘れろ」

 

 扉を開け、玉座の間から出て行った。

 

(我ながら……何を馬鹿げた事を聞いたのだ)

 

 何故こんな事を聞いたのか、自分でも分からない。彼に初めて心を乱されたような気がした。

 

(分からない……何なのだこれは……。この胸が張り裂けそうな……)

 

 モヤモヤとしたこの気持ちに気が付いたエレキガル。彼女の中で何かが変わり始めたのは、この時からなのかもしれない。

 

 


 

 

「主……?主?」

 

 食事中に呆けていたエレキガルを心配し、彼が声を掛けたのだが、反応がない。心なしか顔も赤かった。

 

「エレキガル様?」

「えっ?」

 

 名前を呼ばれてやっと反応して彼の方を向いたのだが、さらに顔を赤くして反対の方にそっぽ向いてしまう。

 

(何故だ……まともに顔も見れない……!)

 

 それからというもの、彼の顔をまともに見れなくなっていた。命令を下す時も、まともに視線が定まらい。

 

「どうかしましたか?」

「……我は務めに行く。片づけよ」

「主?」

 

 エレキガルは顔を合わせずに玉座の間へと行ってしまった。残された食事を下げたが、捨てるのはもったいないので彼がそれを食べた。

 

「一体どうしたのだろう……?」

 

 それからというもの、エレキガルが彼に顔を合わせなくなった。それどころか避けられている。剣術の指南もしてくれなくなり、食事に呼んでも広間に来なくなった。さらに、玉座の間に入るの事が許されなくなった。

 これが続いてしまい、今の彼は寂しそうな表情を浮かべる。意地悪のつもりなのか、何の意図でそのような事をするのか、分からなかった。直接聞こうにも、玉座の間には入れない。ならばと、彼は考えた。 

 

 玉座の間に通ずる扉の前に立ち、ノックした。

 

「主」

「ば、馬鹿!来るなと申したはずだ!」

 

 玉座の間に入ろうとしたと勘違いしたのか、エレキガルは声を荒げて怒鳴る。

 

「いえ、そうではありません」

「……え?」

「剣で、貴方様に挑みまする」

「……は?」

 

 何を言い出すかと思えば、剣術の才能のない彼がエレキガルに挑むというのだ。愚かな、と一蹴してやろうかと思ったが、その時だった。

 

「私は待っています。逃げも隠れも致しません。てますから……主も逃げずに参られてください」

(何じゃと……?)

 

 逃げるな、そう言われたエレキガルの額は青筋がたった。

 

「何じゃと……?」

 

 従者にそのように言われたのは生まれて初めてである故に、すぐにカッとなった。だがそれこそが、彼の思惑である事も察していた。

 

「良かろう……その挑発、乗ってやるわ!」

 

 玉座の間の扉を乱暴に開け、彼が待つ闘技場へ。

 





ちょっとラブコメになりつつある?

後半へ続く(某ナレーター風)


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EX2:主と従者の本音


アヌンナキの物語 後半です。




 闘技場の中心で、彼は待っていた。その右手には既に剣を携えて、今か今かと待っている。

 

「すっかり主の気分か?」

「うわっ!あ、主?!」

 

 背後から現れたエレキガルに腰を抜かした彼。剣も落とし、金属の音が闘技場に大きく響く。

 

「い、一体何処から?!」

「ここは我の領域じゃ。幾らでも抜け道があるわ。それよりもな……」 

 

 エレキガルが右手に持っていた剣を地に強く刺す。その力の余り、周りの地面に亀裂が入る。

 

「我を愚弄し、挑む勇気は認めてやる。じゃが……蛮勇とも区別のつかない愚か者とは思わなんだ」

「あ、あの……主?」 

 

 明らかに怒っている。なかなか玉座の間から出て来ないエレキガルを引きずり出す為の作戦として、挑発するように言ったのだが、それが裏目に出た事はエレキガルの怒りの表情ですぐに分かった。

 

「そこまで言うのであれば、我を倒してみよ。じゃが……今の我に、加減など期待せぬ事じゃ!」

 

 そう言うと、すぐさまエレキガルが剣を振り下ろした。すぐに身体を翻して避けるが、容赦ない追撃が迫る。

 

「ちょ……主?!いくら何でもそれは……」

「喧しい!」

 

 すぐに立ち上がった彼は剣を構えるも、何度も来る攻撃の前に防ぐ事しか出来ない。

 

「どうした?!あれだけ啖呵切っておいて、その程度か?!」

 

 剣の刃がぶつかり合い、剣戟の音が響く。何度も何度も。だがその勝負は一方的だった。エレキガルの攻撃が激しく、手も足も出ない。

 元々才能のない彼に、エレキガルに挑むなど無謀というもの。このような結果になる事は分かりきっているのだが、それでも彼は諦められない。

 

「うおおおぉぉーー!」

 

 攻撃するべく強引に剣を振り上げるも、呆気なくそれは弾かれた。その剣は彼の手から離れ、回転しながら宙を舞う。

 

「なっ?!」

 

 しかも刺さった場所はエレキガルの背後。取りに行こうにも、その前に立ち塞がるのが彼女ではそれも不可能だ。

 

「さあどうする?地に頭をつけて詫びを入れれば、先程の咎は見逃してやろう。でなければ……貴様の魂を跡形もなく……」

「……せいっ!」

「なっ……!」

 

 投降勧告の途中だというのに、まさかの懐に飛び込まれてそのまま押し倒されてしまう。押し倒された彼女も、剣を手放してしまう。

 

「こ、こやつ……何て真似を……っ!」

 

 押し倒して来た彼の顔が近い。目の前に映る彼の顔をまともに見れず、目を逸らす。

 

「エレキガル様!私は!近頃の貴方様の態度に、腹を立てております!」

 

 押し倒して来た彼が突然、大声で叫んだ。驚いたエレキガルが彼の顔の方を見る。

 

「な、何がだ……?」

「近頃の主様は、私を見て話しませぬ!食事だって掃除だって、貴方様に喜んでいただきたくて一生懸命務めております!至らぬ点がある事は重々承知しておりますが、何が不満なのか、一切言ってくださらない故、どうすれば良いか分かりません!何かあるなら、ハッキリとお申し付けください!」

「お前……はっ……!」

 

 何かに気付いたのかエレキガルの頬が赤くなる。

 

「……主様?聞いておられますか?っていうか、先程からどちらを……」

 

 エレキガルの目線は彼の手を見ている。彼もその目線を追うと、その理由が分かってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 もにゅん

 

 

 

 

 

 

 彼の右手には女性特有の豊かな果実、それを鷲掴みにしていた。あまりの弾力に指の間をはみ出しており、それでいて柔らかい感触が彼の手に伝わる。

 だが同時に、自分の所業の恐ろしさに彼の顔も真っ青になる。

 

「いやっ!あの……主様!こ、こ、これには……」

「……ぅ……うぅ……!」

 

 

 

 

 

 この痴れ者があああああああああぁぁぁーーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 エレキガルと彼の悲鳴が闘技場に響いた。そして、顔面を殴られるような音と、ドサァッと倒れる音が聞こえた。

 

 


 

 

「……んぅ。ここは……?何でここに……痛てて……!」

 

 彼が目を覚ますと、そこは自身がいつも使う寝室とは別の天井だった。一体何故自分がここにいるのか、何故ベッドで寝ているのか、左頬の痛みですぐに思い出した。

 

「そうだ……あの時、主様の……」

 

 咄嗟に自分の右掌を見て、頬が赤くなる。不慮の事故とはいえ異性の、しかも主であるエレキガルの胸を揉んでしまったのだ。男性の反応は当然だろうが、同時に無礼を働いてしまった事に罪悪感を抱いた。

 

「エレキガル様に何とお詫びすれば……」

「ならばここで詫びるか?」

「……へ?」

 

 右隣から聞こえた声に振り向く。エレキガルの姿に気が付くと、ベッドの上に座って頭を下げた。

 

「も、申し訳ございませんでした!あ、貴方様の……あ……貴方様のお胸を……もごぉっ?!」

「それ以上言わんでいい!!」

 

 これ以上何かを口走る前に、手で彼の口を塞いだ。一先ず落ち着いたところで放してやった。

 

「申し訳ございません……無謀にも、貴方様に……」

「もう良い。お主の意図は分かった。……すまなかった」

 

 突然エレキガルから謝られるとは思わず、キョトンとする彼。

 

「近頃、お主に対して酷くよそよそしかった……。それは分かっていたのだ……。だが……」

 

 そうしている内に、エレキガルの頬が朱に染まる。だが彼が正面からぶつかってきた思いを無碍にしない為に、意を決して言った。

 

「我は、近頃お主の顔が……まともに見れなくのうてな……。何だかその……お主の顔を見る度に、恥の念が込み上げてきてのう……」

 

 その表情でその台詞、すぐには理解出来ず、二人の間に沈黙の間が入る。そして、ハッとした彼。

 

「も、もしかして……」

「何じゃ?」

「いえ……その、私の誤解かもしれませぬ故、ここは一つ……」

「言いたい事があるのなら言わんか!お主が言ったことであろう?!責任を持て!」

「は、はいぃ!そ、その……あ、貴方様は私の事がお好きなのかと……」

 

 彼の口から出たセリフ。もし正しければ、それはエレキガルが彼に恋をしていると言う事になる。

 

「な、ななな、ななな!な、何を言うか戯け!わ、我が恋だと?!我は永い時を一人で生きてきたのじゃ!今更、しかもルル・アメルのお主に……」

「……だからこそ、だと思います」

 

 必死になって否定しようとするエレキガルのセリフを、彼は遮ってそう言った。

 

「何じゃと?」

「貴女様は、ずっと独りだった。ずっと、この暗い闇の世界で、たった独りぼっち。ここに来る者は誰もいない。だから、誰かと繋がる事を知らない。恋というものが分からない。誰かを思う事も、無自覚のまま……」

 

 彼の口から出たセリフ、エレキガルはハッとした。思い当たる所があったからだ。

 

 生まれながらにして死と破壊の力を持つ自分は、誰かと繋がることなくここにやって来た。それから永い時を、たった一人で過ごして来た。

 

 光溢れる世界に焦がれる事も、誰かと繋がる事も出来なかった。密かに企てていた反逆計画は、その嫉妬と羨望の感情が込み上げてきたから。

 

「そうだ……我は、ずっと独りだった」

 

 ポツリと零れ落ちた本音。その左手は強く握りしめていた。ずっと押し殺してきた願い、もう留める事は出来なかった。

 

「我はずっと、蔑まれ、疎まれ、忌み嫌われ続けた。ここにいるのが何よりの証だ。だが我は、それを望む事も許されない。アヌンナキとして、魂達を裁かねば、地球はより良い発展の妨げになる。だが、それでも私は諦める事が出来なかった……」

 

 エレキガルが天井を見上げる。

 

「だが、それすらも出来ないのなら、我は地球を破壊してやろうと魂達を別の空間に封じ込めていたのだがな……」

 

 初めてエレキガルの本音を聞いた彼。エレキガルの悲しみ、嘆きを目の当たりにした彼は何を思ったのか。

 

「笑えるだろう?お前達が神と崇めている私は……俗物と……」

「私がいますよ」

「え?」

 

 ベッドから降りて彼女の前に立つ。そして、エレキガルの前に跪いて彼女を見る。

 

「たとえあなたが誰から疎まれようとも、蔑まれようとも、たとえ地球上の全てが敵になっても、私は貴女様の傍におります。悲しい時も、寂しい時も……私は貴女の味方であり続けます。だからどうか、涙をお拭きください」

「お前……」

 

 思わぬ告白に、エレキガルは涙を流した。初めて誰かと繋がる事が出来た、初めて味方が出来た、初めて誰かを好きになった。エレキガルは、それが嬉しかった。

 

「……ありがとう」

 

 そうして、エレキガルは彼の名前を呼んだ。

 

 


 

 

「……はっ!」

 

 長い夢から目を覚まして、瑠璃は起き上がった。辺りを見回すと、そこは夢で見たものとはまるで違う構造物だった。

 

「ここって……」

 

 何故だかここを知っている、瑠璃の中にあるエレキガルの魂がそう訴えている。

 

「ここは……確か……!」

「んぅ……ここは」

 

 隣で気を失っていた輪も目を覚ました。だが瑠璃はそれに構わず天井を見上げる。

 

「瑠璃……?何してんの?空なんか見上げ……ええっ?!」

 

 起き上がった輪も天井を見上げた。その先の光景に、輪は信じられない表情で驚愕した。何故なら遠くの景色には地球が映っていた。

 

「ここって……いやいや!けど、もしかして……!」

「うん……間違いないよ。ここは……月遺跡だ」




これでエレキガルの始まりの物語は以上になります。

次回から本編再開です!


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月遺跡

皆さん、大変お待たせしました。前回からなんと5ヶ月……

本当に申し訳ありません


 星々が燦然と輝き、満月が浮かぶ夜空。その下は荒野。そこに緑と藤色の閃光が交差する。その度に巨大な爆発と衝撃波が発生し、地上の断崖が破壊される。

 

 二つの閃光の中にいる二人の眼差しが、互いに討つべき敵を見ている。

 

 そしてもう一人、戦場となった荒野にこの戦いを見届けようとしている人間がいた。白い神官の装束を身に纏いその背中に、黒白の穂先となっている二叉槍を背負っている彼、エレキガルの配下だった(・・・)青年。そして、腰には剣を帯びている。

 

 緑色の閃光はエンキ、そして藤色の閃光にはシェム・ハ。エンキは右腕の篭手から、シェム・ハは右腕に填められた腕輪から光の剣を出し、その刃が交わる度にその余波が絶えず、荒野の大地を瓦礫へと変えている。

 

「シェム・ハ!お前の目論見は潰えた!これ以上の抵抗は、無意味だあぁー!」

 

 高速でシェム・ハに接近し、刃を振り下ろそうとするエンキを返り討ちにしようと光の刃を振るうが、そのエンキが残像であると気づいた時には、彼は背後を取っていた。

 

 エンキの刃によってシェム・ハは大地へと叩き落とされ、墜落した荒野の瓦礫と砂塵が舞う。シェム・ハが落ちた地点を中心に、大地が大きく陥没している。だがシェム・ハはまだ健在。空から見下ろしているエンキは、まだ得物を納めない。

 

「終わらぬ……!」

 

 相当なダメージを負ってもなお、立ち上がろうとするシェム・ハは戦意を失っていない。

 

「業腹な……!だがエンキ……貴様の言う通りかもしれぬな……」

「ならば!」

「故に……である!」

「なっ?!」

 

 立ち上がったシェム・ハの掌から紋章が浮かび上がり、その中心から銀色の波動が放たれた。

 

 突如の反撃に対し、回避できなかったエンキは咄嗟に左手からバリアを展開した。だが予想を大いに上回る威力に、急ごしらえともいえるバリアは耐えられず、破壊された。

 

「ぐわああああぁぁぁ!!」

 

 エンキの叫喚が空に響き、シェム・ハがほくそ笑む。

 

「快哉だ……行く道を尽く阻む貴様だけは、この手で屠らねば溜飲が下がらぬ……!」

 

 エンキの左手の指先から徐々に銀と化していく。

 

「このままでは……!」

 

 いずれエンキの全身は全て銀へと変わり、生命としての自分は果てるだろう。そして、まだシェム・ハは健在。シェム・ハを野放しには出来ない。

 

 決断に一度躊躇うが、最悪の結末を帰るべく、自らの剣で斬り捨てられた左腕は荒野へと落ちた。

 

「腕を捨てて命を拾うか……!」

 

 勝利を確信していたシェム・ハの表情が歪む。

 

 左腕の切断面から夥しい流血、痛みに耐えるエンキの息が荒い。だからこそ、エンキは次の一撃に全てを賭けようとシェム・ハに高速で接近し、右腕の剣を突き出した。

 

 強大な力がぶつかりあった事で巨大な爆発が起こり、再び瓦礫と砂塵が発生し、二人の姿が捉えられなくなった。

 

「エンキ!エン……っ!」

 

 すぐに砂煙が晴れたが、その光景に青年が絶句した。

 

 エンキの刃がシェム・ハの胸部を貫いていた。だが咄嗟に突き出したシェム・ハの光の刃もまた、エンキの胴を穿った。

 

 それでもエンキは剣を、その根元まで深く刺した。トドメを刺されたシェム・ハが吐血した。

 

「な、ならば……我は……命を捨てて、未来を拾う……。さらばだ……エンキ……」

 

 絶命したシェム・ハの身体が崩れ落ちた。強敵を倒したエンキもまた、瀕死の重傷を負っていた。剣をシェム・ハから引き抜いたと同時にエンキのものと思われる血が、シェム・ハの臍にこぼれ落ちた。

 

「あとは……ネットワークジャマーを……」

 

 右腕の剣を納めると、エンキはシェム・ハとは反対の方向へと歩き出した。

 

「エンキ!」

 

 陥没した大地に降り立った神官が瀕死の重傷を負ったエンキに肩を貸してやる。

 

「すぐに手当を!」

「ダメだ……!」

「な、何を……?!」

 

 自身の治癒をエンキは拒んだ。まるでそんな暇はないと言わんばかりの物言いに神官は理解出来なかった。

 

「だが、このままではあなたが……」

「そうだ……時間が無い……!このままでは……全てが水の泡となる……!」

「エンキ……」

「頼む……!私を、あの場所へ……!」

 

 あの場所と言われて、神官はすぐに察した。そこはかつて、一度だけエレキガルの供で訪れた。

 

 そこで行われる事が何か、エンキから聞かされていたが、それを成せば助かるはずだったエンキの風前の灯火である命が消えるだろう。

 

 それでもエンキは、シェム・ハが遺した最期の言葉を現実にさせない為に、命を賭して成さなければならない。

 

 エンキの強い訴えに、神官は目を閉じた。

 

(嗚呼……主よ。私はまた……)

 

 その命懸けの信念と覚悟を目の当たりにした神官は、エンキの意思を汲み取って月遺跡へと向かった。

 

 


 

 

「はっ……!」

 

 突如、夢から目覚めたマリア。エンキと呼ばれた青年、シェム・ハの真の姿、そして二叉槍を背負っていた神官。この夢が何を指しているのか、理解できないまま起き上がろうとした。

 

「今のは……っ!嘘っ……?!ここって……!」

 

 起き上がると、建物の外には地球が浮かんでいる。さっきの夢といい、宇宙に浮いている地球を見ている事、どんなに想定外を想定しているマリアでも、これには驚愕を隠しきれなかった。

 

 


 

 

 マリアが目覚めた少し前、自分達がいるこの場所が月遺跡であることを把握した瑠璃と輪の二人。

 

「まさか本当に月遺跡にいるなんて……」

 

 輪は天井の隙間からでも見える地球に、瞼をパチパチと瞬きを繰り返しながら唖然としている。

 

 フィーネにカ・ディンギル、フロンティアに錬金術師、神の力など、あらゆる異端技術を目の当たりにしてきた輪でもまさか地球より外、しかも月遺跡にいるなど、輪でなくても信じ難いのは当然である。

 

「宇宙なのに空気が澄んでる……うん。美味しい」

 

 深呼吸して、月遺跡の空気を味わう輪。地球以上に澄んた空気に真顔で評価した。

 

「ねえ、瑠璃。ここの空気……瑠璃?」

 

 対する瑠璃は不気味な程に冷静だった。普段であれば、このような事態を前にすれば慌ただしく動揺するのだが、何故か今の瑠璃にはそれが見られない。

 

 遥か遠い地球を見上げていた瑠璃。今は冷たい闇の瞳で、地球を見上げている。

 

「どうしたの瑠璃?」

「う、ううん……」

 

 何でもない。そこまで言わず、首を横に振る。だが輪は知っている。瑠璃の笑顔の裏には何かを隠している事を。

 瑠璃がここまで冷静なのも、恐らくエレキガルの魂が何かに反応しているからなのだろうと感じた。

 

 それでも、アヌンナキの生まれ変わりであっても、目の前にいるのは正真正銘、風鳴瑠璃その人。普通に笑って普通に泣くごく普通の人間。

 

 だが本人はどう思うのか。バイデントを操れる唯一の少女、平行世界の自分にダメージを押し付ける能力、断片的に蘇る前世の記憶。これだけの要素が揃ってしまえば、たとえ瑠璃でなくてと自分が人間ではないと悟るだろう。

 

 クリスにも相談出来ない……出来るわけがない。大好きな姉が人間ではないと、最愛の妹に告げる事など。

 

(瑠璃……)

 

 妹に拒絶されるかもしれないという恐怖。輪には分からないものだが、それを見て見ぬふりなんて出来るわけがない。

 

「あのさ瑠璃……あ、あれ?」

「輪、どうしたの?」

「……ヤバい。脚に力が入らない」

 

 何か言おうとした時、立ち上がろうにも立ち上がれなかった。

 

 それもそのはず。エルザとの激戦でフィーネの力を限界まで使った結果、その反動も凄まじいものになり、しかも月遺跡という未知の領域でのしかかった。

 

「だ、大丈夫?!」

「さっき、だいぶ無茶しちゃったかな……」

「どうして……。こんなになってまで、また無茶を……」

 

 瑠璃の肩を借りて漸く立てたが、このコンディションではまともに戦えないのは目に見えている。そんな状態で何故ここまでついてきてしまったのか、いつも無茶ばかりする輪を瑠璃は心配する。

 

「アンタのせい」

「え……?」

 

 瑠璃には意地悪に聞こえるかもしれない。だが、たった一言の真意は別にある。

 

「それはね……あっ」

 

 突如扉が開く音が聞こえ、その方を振り向く二人。

 

「「クリス!」」

 

 そこにいたのはクリスだった。ここまで走ったのか、息遣いが荒い。だが、僅かではあるが、クリスの様子がどこかおかしいようにも見えた。

 

 

マリアが目覚めてから間もなく、翼も目覚めた。

 

「はぁ……ふぅ……」

 

 奇しくもマリアも輪と同じように深呼吸。そして……

 

「空気はある。寧ろ美味しい」

 

 そして同じ評価である。

 

 今度はつま先で床をタップしながら動いてみる。地球と同じように動ける事から、ここ遺跡の重力が制御されていると判断する。

 

 一方、この異常事態の連続だというのに、翼は俯いていた。まるで落ち込んでいるかのようで、普段のクールな雰囲気は見られない。

 

「無鉄砲なんてらしくないわね」

「マリア……」

 

 普段の翼なら敵の懐に、しかも単独で飛び込もうとはしない。言葉通り、翼のらしくない行動にマリアがそう言う。

 

「私はどうすれば良かったんだ?分からないんだ……」

 

 呆れながらもマリアは答えた。

 

「そうね……勇気かしら」

「勇気……?」

 

 マリアの言った事に理解出来ない翼が、オウム返しに聞く。

 

「差し出した手を握ってもらえなかった時、あの子はきっと心細かったはず。それでもあの子は、勇気を出して自分から握って来た」

「立花……」

「あの子の勇気に、今度はあなたが応える番だと思う」

「そうか……。私は、士道不覚悟にも立花の勇気から逃げ出した……あいったぁ!」

 

 いつぞやのライブ前と同じように、マリアのデコピンが翼の額に直撃。いい一撃だったのか大きく後ろに仰け反った。

 

「まったく……とんだぶきっちょさんね。兎にも角にも、はぐれた仲間を探しましょう」

 

 ここは未知の領域。何が起きても不思議ではない。一先ず、仲間と合流しようと辺りを見回すが……

 

「何?!」

 

 突如、マリアのギアペンダントが赤い輝きを放った。その瞬間、一筋の光が天井から屈折し、壁へと向かった。

 光が壁に当たると、直撃したそれは開き出した。壁の正体は扉だった。

 

「導いてる……アガートラームが?!」

「行ってみよう!」

 

 マリアの言う通り、アガートラームが道を開いたかのように開いた扉。この先に何かあると信じ、二人は光に従って走り出した。

 

 


 

 

 月遺跡に飛ばされたのはノーブルレッドも同じ。この月遺跡までの転送用のテレポートジェムを使用したのも彼女達。

 だが事態は深刻だった。ヴァネッサの手には、帰還用であるもう一つのジェムが砕けていた。

 

「帰還用ジェムの損傷が著しい……とても扱えないわね」

 

 使えないと判断し、不要となったジェムを捨てた。これでノーブルレッドが持ちうる地球に帰還する術が無くなった。

 

(シンフォギア装者を巻き込んだ、想定を超える転送負荷が過干渉したのか……それとも……)

 

 もう一つの可能性、恐らく自分達の帰還させる気など最初から無かった事。そう考察していた時、背後から物音が聞こえた。

 

「誰?!」

 

 そこに現れたのはトランクケースに乗って移動するエルザだった。輪、調と切歌との激闘に敗れて負傷しており、その息遣いは荒かった。

 

「エルザちゃん!無事だったのね!」

 

 家族の無事を知り、喜ぶヴァネッサが駆け寄る。エルザがトランクケースから降りるが、戦闘による負傷でそれを支えに立っている。

 

「ですが……脚下のニューロンコネクトが焼き切れたであります……。恐らく、テールアタッチメントの使用はもう……」

 

 臀部にある差し込み口の損傷から、これではエルザは戦力にならない。だがヴァネッサにとっては、それは問題ではない。

 

 エルザの無事を知り、ヴァネッサは抱きしめた。

 

「でもよかった。一緒にミラアルクちゃんを探しましょう」

 

 ヴァネッサの抱擁から伝わる愛。同時に、相対した輪の言葉が蘇る。

 

『アンタ達を人として受け入れる人がいる限り、アンタ達は怪物じゃない!だから……優しさを捨てんな!!』

 

「ガンス……」

 

 あのセリフの意味に気付いた。エルザから悲しげな表情が消えた。




早く続きを描かねば……!


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不和と既視感

月遺跡のパートは結構オリジナルを含ませる予定なので、脱出まで話数使うかもしれません。




雪音ルリ……今は風鳴瑠璃。あたしの、たった一人の大切で、大好きな姉ちゃん。

 

 幼い頃は、あたしを怖いものから守ってくれた。いつもそばにいてくれた。

 

 悲しい時は一緒に悲しんでくれて、嬉しい時は、自分の事のように喜んでくれた。

 

 名前が変わってからも、それは変わらない。いつもそばにいてくれた……。

 

 

 だけど……いつの間にか、姉ちゃんはあたしの前を走るようになっていた。あたしを置いて、一人前へ……。

 

 バルベルデの時も、あたしを守る為に、銃を持った大人達へと走っていった。

 

 どれだけ手を伸ばしても、あたしの手は姉ちゃんに届かない。

 

 

 

 

 お姉ちゃん!お姉ちゃん!

 

 

 

 

 

 

 姉ちゃん!!

 

 

 

 

 やっと掴んだと思ったその手は、砂のように粉々になってしまった。

 

 

 

 

 

 何でだ?何でいつもこうなる?

 

 あたしだって、姉ちゃんを守りたいのに……

 

 それなのに……

 

 

『私もこの力があったとしても、瑠璃がアヌンナキだとしても……』

 

 姉ちゃんがアヌンナキ……。じゃあ姉ちゃんは人間じゃないって事じゃないか?

 

 おかしいだろ?だって、あたしと同じ……ママのお腹の中で生まれたんだからさ……!

 

 

 

 

 いつからなんだ……?!いつから姉ちゃんは原罪から解き放たれた?!

 

 

 

 

 姉ちゃん……分かんねえよ……

 

 

 あたしが今まで信じてきた姉ちゃんが分からねえよ……

 

 

 なあ姉ちゃん……姉ちゃんは本当に、あたしの大好きな姉ちゃんのままなんだよな?

 

 

 

 あの時みたいに、全部をぶっ壊そうとして暴れ回ったりしないよな?

 

 

 

 

 お願いだ……今、目の前にいる姉ちゃんが……姉ちゃんのままでいてくれ……

 

 

 


 

 

 同じ頃、翼とマリアも別の一室で目覚めた。

 

 響と同じ場所で目覚めるや否や、クリスは瑠璃を探して走り、ようやく見つけた。そこには輪も一緒にいた。だが、クリスの心境は穏やかではない。むしろ、不安でいっぱいだった。

 

「姉ちゃん……。っ……!」

 

 あの時、エルザと激戦を繰り広げていた輪が言っていたセリフが脳裏に焼き付き、頭から離れなかった。

 

 そんなはずはないと否定していたクリスだったが、思い当たる節がないわけではなかった。

 

 パヴァリアとの戦いで、瑠璃は絶対の破壊神として自分達の前に立ちはだかった。

 

 あの破壊神の殺気、プレッシャー、今までの強敵にはなかったものだった。だが不思議なことに、それを感じたのはそれが初めてではないように思えた。

 

『響ちゃんの命に関わってるんだよ?!それを知らなかったとか仕方ないで……済まされるわけないじゃん!!』

 

 フロンティア事変で響がガングニールとの融合に苦しめられている事を知った時、そして……

 

『何でもないってば!!』

 

 魔法少女事変で輪が裏切り者だと知って、クリスが問い詰めた時。

 

 どちらも、それは瑠璃が憤怒した時の出来事だった。普段の瑠璃は怒る事をしない。だから怒ると怖い、そう思っていたが、実際はそうではない。あの時、瑠璃は無自覚に破壊神の圧倒的なプレッシャーを放っていた。

 

 これだけではただの杞憂、こじつけと笑われても不思議ではない。だが、双子故に瑠璃が憤怒した時と破壊神の覇気は偶然の一致ではないと告げている。

 そして、輪が放った一言。あれでクリスが瑠璃に疑念を抱く切っ掛けとなってしまった。

 

 輪は勘が鋭く、大人顔負けの洞察力で物事の本質を突く事が出来る。その輪は一時、アルベルトの側にいた。訳あっての事だろうが、その訳こそがアルベルトの真実でもある。

 

 アルベルトは瑠璃に何か拘りがあっても、瑠璃を陥れるような真似は絶対にしない。

 

 寧ろ、今まで瑠璃を守るような立ち振る舞いでS.O.N.Gを騙し、パヴァリアを欺き、ノーブルレッドと風鳴訃堂を陥れた。

 

 そのアルベルト本人から、何か伝えた可能性も否定出来ない。それがデマかもしれないと思う事は、今のクリスの焦りようから、それは頭から抜けていた。

 

「瑠璃さん!輪さん!無事だったんですね!」

「私の方は無事って言えるか怪しいけどね……」

「うえっ?!輪さん大丈夫ですか?!」

 

 クリスの苦悩をつゆ知らず、追いついた響が体力切れの輪に肩を貸してやる。

 

「クリス、お姉ちゃん達に通信出来ない?もし繋がるなら……」

「なあ姉ちゃん……」

 

 まだ行方知れずの翼達と合流出来ないか、手の空いているクリスに通信を頼もうとした時、それは遮られた。クリスと合流した時、表情に翳りを感じ取った輪だけが重い表情になる。

 

「姉ちゃんは……本当に姉ちゃんなんだよな?」

「どうしたのクリス?何を……」

「答えてくれよ!姉ちゃんは、本当に人間なんだよな?!」

 

 クリスが声を荒らげて問われ、その意味を理解した瑠璃は返す言葉がなかった。

 

 瑠璃自身も、いつかクリスにも知られる事は予想出来ていた。繊細で染まりやすい、それは実姉である瑠璃が一番よく知っている。

 だが、いざそれを目の前で言われてしまうと、瑠璃の精神的なダメージも軽くはないものだった。

 

「気付いてたんだ……クリス」

「えっと……何の話?何の事を……」

「いいの、響ちゃん」

 

 ただ一人、クリスの言った事の意味を正しく理解出来ていない響がクリスを落ち着かせようとするが、瑠璃が制止した。そのまま瑠璃は、クリスに向き合う。

 

「確かに……クリスの思ってる通り、私は普通の人じゃない」

 

 もう隠しても意味は無い。いずれ他の皆にも知られる事だ。ならばいっそと、瑠璃は正直に話す。

 

「あの夢や破壊神……何より、人を呪い殺したって言うバイデントが、私を呪い殺さずに受け入れているのを考えると、何かあるんだなって思った」

 

 適合した装者を殺すバイデントの呪い。ずっと心に引っ掛かっていた。バイデントのギアを纏ったその瞬間、例外なく皆、悲劇の末路を辿った。

 

 だが瑠璃だけがその呪いに冒されることなくここにいる。その理由も分からなかったが、エレキガルの魂の存在によって、一つの仮説が真実へと繋がろうとしていた。

 

「アルベルトが言っていた、私の正体。冥府のアヌンナキ、エレキガル。それを聞いた時、突拍子もない事だって思ってたのに、妙に納得した自分がいた」

 

 今回に限らず、聖遺物に関する事は理屈など通るものではない。ましてや、エレキガルは先史文明の時代の神。自分達の常識など範疇に収まる話ではない。故に、瑠璃は不思議と受け入れる事が出来てしまった。

 

「けど、おかしいよね?普通だったらこんな事、簡単に受け入れられるはずないのに……」

「何でだよ……」

「え?」

「何で姉ちゃんはいつも!あたしに何も相談しないで!少しくらい、あたしに話してくれたっていいじゃねえか!」

 

 クリスはつい、瑠璃に対する不満をぶちまけた。

 

 いつだって瑠璃はクリスに何の相談もせずに解決しようとしていた。

 輪が裏切り者だと分かった時も、最悪の悪夢に苛まれた時も、遡れば幼くしてバルベルデで政府軍の兵に追われていたあの時も、瑠璃は一人で何とかしようとしてきた。

 それは、クリスを守る為である事は重々承知している。だがそれでいつも苦しむのは、瑠璃であるというのに……。

 

「なあ、姉ちゃん!何とか言ってくれよ!なあ!」

「……なかった」

「は……?」

「出来れば、クリスにだけは知られたくなかった」

「何だよそれ……?!」

 

 信じていた姉にそんな事を言われるとは思わなかった。クリスにとっては、拒絶されたように感じてしまった。

 

「姉ちゃんは……あたしの事が信じられないって言うのかよ?!」

 

 初めて瑠璃に対してアンタと呼んでしまった。瑠璃に対する不信感が募っている証拠だった。

 

「待ってよクリス!そんな事言ってないじゃない!何でそうなるの?!」

「だってそうじゃねえか!全然大丈夫じゃねえのに、大丈夫だっていつも嘘つきやがって!それって、あたしの事を信じてねえって事だろ?!」

 

 だがクリスは苛立ってしまい、つい意地になって言いたかった事とは程遠い言葉が出てしまう。

 

「パパラッチが裏切り者だって知った時も、あたしに何も話さなかったよな?!悪夢に苦しめられてる時だって!何にも相談してくれなかったじゃないか!」

「言えない……」

「あ?言いたいことがハッキリ……」

言えるわけないじゃん!!

 

 一方的に言いたい事を言われ、遂に瑠璃も我慢の限界に達し、クリスに怒鳴った。

 

「あの時相談して、それで輪が復讐をやめてくれると思った?悪夢の事に悩まされているのを話しても、理解してくれた?出来るわけない……。あんな地獄の六年間……クリスに話しても……誰に話したって、分かるわけがないよ!!」

 

 自分達をそっちのけで、今まで喧嘩など一度もして来なかった仲良しの姉妹が、互いに意地っ張りになって喧嘩を始めてしまった。

 

「ね、ねえ……瑠璃さん、クリスちゃんも……喧嘩はやめようよ……」

 

 

 

 響は勝手すぎるよ!

 

 

 

 じゃあ未来は、翼さんの気持ちが分かるの?!

 

 

 

 あの時、響は未来と喧嘩別れした後、ノーブルレッドに攫われ、シェム・ハの依代になってしまった。

 

 同じ事になって欲しくないのに、喧嘩してしまった記憶が蘇ってしまい、言葉に出なかった。

 

「姉ちゃんは嘘つくのが上手いよな!いっつもあたしを除け者にするんだからよ!」

「クリスこそ!そうやって悪い方に思い込んで!」

 

 

 

 

 

アンタ達いい加減にしろよ!!

 

 

 

 

 

 あまりにも見苦しい喧嘩を見せられて、輪も堪忍袋の緒が切れた。響の肩を借りて立っている輪の怒鳴り声が反響する程に大きく、瑠璃とクリスは喧嘩をやめて輪の方を向いた。

 

「り、輪……」

「何だよ……」

「アンタ達さぁ、今どういう状況か分かってんの?!こんな所で姉妹喧嘩してる場合じゃないんだよ!」

 

 口が悪くなっているが、言っている事は間違っていない。

 

 輪の言う通り、ここで喧嘩などしている場合じゃない。今は協力してこの月遺跡の謎を解くしかない。

 

「瑠璃、クリス、とりあえず喧嘩は……」

 

 

 

 ガシャン!

 

 

 

 何とクリスと響が入ってきた扉が突然閉まってしまった。その場にいた四人が吃驚しており、クリスが扉を乱暴に叩いた。

 

「おい!何で閉まるんだよ?!開けろ!」

 

 だが扉が開くはずもなく、すぐに無駄だと悟ったクリスは叩くのをやめた。

 

「響、ガングニールで何とか破壊出来ない?」

「分かりませんが、やってみます!」

 

 そう豪語した響に任せる。扉の前に立とうとする響の邪魔にならないよう、響から離れる輪。

 ようやく一人で立てるくらいまで体力が回復したようだが、まだ足元が覚束無い。

 

「行きます!」

 

 扉の前にたった響。詠唱を口ずさむ。

 

 Balwisya……

 

 

 

 ヴー!ヴー!

 

 

 

 

 だか突如発せられた警報によって詠唱は中断された。壁、天井から棘が生えた。

 

「な、何?!一体何なの?!」

 

 輪の戸惑いの声をあげるが、すぐに棘が発射された。その棘が変形すると、輪を除いた三人の装者がその見覚えのある姿形に驚愕する。

 

「あの形!南極で見た!」

「ここが先史文明の遺跡なら、出てきて当然ってわけかよ!」

「今回は出口がない。輪、下がってて!ここでやるしかない……!」

 

 出口は塞がれ、かの生命体の群れに取り囲まれた。ここで迎え撃つしか選択肢は無い。だが輪は先のエルザとの戦いで消耗から回復していない。恐らく戦闘行動は取れない。

 三人は輪を守るように立ち、ギアペンダントを強く握る。

 

 

 Tearlight bident tron……

 

 

 詠唱を唄い、ギアを纏った。得物を持たない響は響らしく突撃。腰部のブースターを点火、生命体が放った光線を弾きながら間合いに入った生命体を殴り壊していく。

 

 

 一方クリスと瑠璃は輪を守りながら立ち回る必要があったが、クリスは舞うように銃撃を展開、瑠璃は左手白槍を遠隔操作で操りながら、右手だけで黒槍を突き、払い、薙ぐ。

 

 喧嘩したばかりであるにも関わらず、双子姉妹の息ピッタリのコンビネーションで輪を守る。

 

 別の所でも、月遺跡のどこかに転送された調と切歌も、月遺跡の防衛機構として出現した生命体の群れと交戦していた。

 ツインテールのアームから投擲された巨大な鋸、鎌の碧刃が生命体の群れを刈り取っていく。

 

「月遺跡、やって来たのが私達で良かった……!」

「こんなのがいるんじゃ、いくら特殊部隊では相手に出来なかったデス!」

 

 先史文明相手に、現代兵器がどこまで通用するかは分からないが、太刀打ち出来ないのは目に見えている。そういう意味では、異端技術を備える装者が来たのは幸運だろう。

 

 そしてもう一組、ノーブルレッド。エルザがテールアタッチメントが使えない、ミラアルクの行方が分かっていない今、戦えるのはヴァネッサだけ。

 背中から展開された二本のアーマーから放たれた光線で、生命体の群れを撃墜していく。

 

「遺跡構造のデータは、シェム・ハからこの身にダウンロードされている……。だけど、防衛機構の対策までは……!」

 

 だがそこは完全なる怪物となった力が発揮される。逆立ちすると両脚が開き、二つの砲門が展開され、そこから赤い光線が生命体の群れを撃ち抜いた。

 完全の怪物となった力でこの窮地から道を開こうとしている。人間に戻りたかったはずが、こんな形で怪物となった事が功を奏している、という皮肉に笑うしかない。

 

「人類を呪いから解き放つって、思った以上に難しいのね……」

 

 

 


 

 

 輪を守りながら生命体の群れを倒していく瑠璃、クリス、響の三人。その数もだいぶ減ってきたが、ここでクリスの視界に瑠璃が入った事で、再び不安に駆られる。

 

(何で……何でそんなに冷静でいられるんだよ……姉ちゃん!) 

 

 自分の正体に動じる様子すら見せない、ある意味自分に対して冷酷な瑠璃に、クリスは怒りすら覚える。

 

「クリス!後ろ!」

 

 だが戦闘中で上の空はマズかった。クリスの背後に迫る別形態の生命体に気づかなかった。

 

「しまっ……」

「オラアァッ!!」

 

 寸での所でファウストローブを纏った輪が、チャクラムをメリケンサックに変えて殴った。だが着地の際、ふらついて倒れそうになっている辺り、まだ体力が回復しきれていない。

 

「お、お前……」

「戦場で呆けんな!今度は、さっきようにはいかないんだから!」

「ああ……って、コイツらは!」

 

 一喝されたクリスが目の前の敵に向き合おうとした時、再び既視感ある敵を目の当たりにして、驚愕を露わにする。

 先程輪が殴り飛ばしたのは、南極で発見された棺の小型化されたもの。しかも、それが群れと化している。だが殴り飛ばされた小型の棺はそのまま機能停止している事から耐久力は、南極の棺より低い。

 

 南極にあった棺を、輪は見た事がない。だが目の前にいる敵が、あの一撃で破壊可能であれば打開出来ると察した輪は瑠璃に呼びかける。

 

「瑠璃!私の守りはいいから、こいつら全部やっちゃって!」

「クリス、輪をお願い!響ちゃん!」

 

 単独で囲まれながらも生命体を次々と殴り蹴って撃退していた響が包囲網を突破。だがその穴を再び埋めようと生命体が集まるが、二本の槍から放たれた黒白のエネルギー波がそれを阻止した。

 

 二つの槍を連結させた瑠璃はそれを両手で高速回転、エネルギーの竜巻を発生させたと同時に、響のマフラーにもエネルギーが貯まり、その身に包まれるとさらにその上から竜巻に包まれ、ドリルのように高速回転する。

 

【我流・Alkaid Crash】

 

 二つのエネルギーが重なり合い、巨大な風を巻き起こすエネルギーのドリルは生命体の大群を蹴散らしていき、閉ざされた扉をも貫いた。

 

 それを目の当たりにしたクリスと輪は、そのデタラメな破壊力に唖然としていた。

 

「ぶち抜いたよ、皆!」

 

 三人がいる方にガッツポーズを決めた響。

 

「アハハ……流石……。本当にやっちゃったよ……」

「カッコよすぎるんだよ……馬鹿力」

 

 元々輪は、ダメ元で響のガングニールで扉の破壊を頼んでいたが、本当にやってしまうとは思わず、賞賛と呆れが混じった意味になっていた。クリスも同じようになっていた。

 

 とはいえ、これでこのフロアから脱出出来るようになった。敵の殲滅を確認して、皆がシンフォギア、ファウストローブを解除する。

 

「んじゃあ、さっさと進みますか。それで……っ!」

 

 輪がフロアを出ようとした時、その足はすぐに止まった。身体中の細胞という細胞が泣き叫んでいる。だがこの恐怖は初めてでは無い。

 

 クリスも輪と同じ恐怖を感じ取った故に身体が石になったように動く事が出来なかった。響は初めて故か、すぐにその発生源に向く事が出来たが、それでも恐怖と圧倒的なプレッシャーを受けている事に変わりない。

 

「ね、ねえ……これって……えっ?」

 

 だが瑠璃だけは違った。輪が振り返ろうとした時に見えた瑠璃の表情。泣き出しそうになる恐怖、威圧感、どれも感じてはいないように見えた。

 

「あれは……」

 

 驚いた表情で見ているその先にいたのは、肩まで届く黒髪に、冷たい闇を思わせる瞳、左目尻には黒子。

 

 瑠璃と同じ容姿をした少女、冥府のアヌンナキであるエレキガルであった。

 



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エレキガルの槍

 アガートラームのギアペンダントから発せられた、一筋の赤い光の後を走って追うマリアと翼。その道中、防衛機構である生命体との群れとは一度も遭遇する事なく進んでいく。その赤い光が巨大な石の扉に当たり、反応を示すように扉の隙間に光が発せられる。

 

「マリア!あれを!」

「ええ。どうやらここを指し示しているようね」

 

 二人の予想通り、と言うべきか巨大な扉が左右に開き、周囲には砂塵が舞う。まるで中へと誘うようにも思える。

 

「どうする?」

「招待を受けましょう。ここは月面、飛び込まなければ始まらないわ」

 

 脱出への手掛かりも無ければ、真実すら分からないこの状況。それを変える為に、二人は未知の領域へと足を踏み入れる。

 

 

 部屋の中心にはまるで装置のような巨大な球体に刻まれた刻印が輝き、その真下には石柱が立っている。その周りを囲う結晶の柱が外側と内側にそれぞれ六本ずつ立っており、球体から発せられている光によって輝きを帯びている。

 

「この異様……遺跡の拠点と思われるが……」

 

 まるで祭壇を思わせるそれら、ここがこの月遺跡に重要な部屋であると翼は考察する。

 

 すると、中心にある球体の光が少しずつ弱まっていった。次第に光は消えたが、代わりに幾つも結晶の柱から発した光がその中央に集まった。

 

 そこに一人の青年が現れた。だがその姿に実体はなく、ホログラムのようになっている。

 

「マリア!」

「待って、彼は夢に見た」

「夢……?」

 

 突如出現した青年を警戒する翼はギアを纏おうと臨戦態勢を取るが、それをマリアが制止した。先程マリアが見た夢に、彼と同じ姿をした青年がいたからだ。

 

「ーーーーーーーーーー」

「何を伝えようとしているのか?」

 

 彼が何か話しているが、ノイズのような音にしか聞こえず、翼達には伝わっていない。青年は喉に手を当てると……

 

「施設内で観測されたパターンを基に、言語をチューニングしてみた。これで通じるであろうか?」

「あなたは……?」

「俺は、オリジナルエンキの意思をトレースした、オペレーティングシステム」

「エンキ……アルベルトも口にしていた……」

 

 風鳴訃堂邸にてアルベルトが発していたエンキという言葉。それこそが目の前にいる彼の名前だった。

 

「ここは観測ベース『マルドゥーク』。ネットワークシステムジャマー バラルの中枢だ」

 

 

 同じ頃、月遺跡に迷い込んだミラアルク。彼女の耳は音響を拾い、周囲を索敵する事が出来る。

 

「反響転移にて動体反応を二つ捕捉。こいつがヴァネッサとエルザだとありがたいぜ」

 

 カイロプテラを一対の翼に変えて羽ばたかせながら、その方へと向かった。

 

 

 


 

 

 生命体の群れとの戦闘から間もなく、瑠璃達の前にエレキガルが現れた。風貌は瑠璃と瓜二つであるが、違うとすれば身に纏う衣と、冷たき闇の瞳。

 とはいえ、初めてエレキガルを見たクリスと響は瑠璃が二人もいると思ってしまっても仕方がない。

 

「ーーーーーーーーーーーーーー」

「ちょいちょいちょいちょい。何て言ってるのか分かんないんだけど……」

 

 目の前にいるエレキガルが何か話しているが、聞いた事のない言語で話しているせいで、なんて言っているのか輪はおろかここにいる者には理解出来なかった。

 

「待っていた……私を……?」

「え?!瑠璃分かるの?!」

 

 だがエレキガルの魂を宿す瑠璃だけには分かっていたようだ。するとエレキガルが少しの間、喉に手を当てると……

 

「お前達の言語に合わせてやった」

「日本語になった!」

 

 先程の謎の言語から自分達と馴染みのある言語に変わった事に響が反応を示した。ようやくまともな会話が取れるようになった事で対話が取れるようになったからか。

 

「先程はようやくその時が来たかと話していてな」

「それ……どういう……」

 

 まるで待っていたようなセリフ、輪はそう思えた。

 

「その前に、我について教えておこう。我はエレキガル。死と破壊のアヌンナキである。正確には、オリジナルのエレキガルを基に作られた、自律……まあ、要はただのプログラムだ」

 

 途中から面倒くさくなったのか、端的に言いまとめてしまった。

 

 あの絶対の破壊神から破壊以外を語るとは思わず、身構えていた輪とクリスが呆気に取られる。

 初めてエレキガルを見た時、それはもう尊大で冷酷無比だったが、それが嘘のように思えてしまう。

 

「何か……全然違う。あの時は、破壊破壊しか言わない機械的な奴だと思ってたのに……」

「あれは制御不能となって暴走する我の力そのものだ。まあ。また起こり得る事態ではあるがな……」

 

 エレキガルのプログラムが、オリジナルの魂を宿した瑠璃を指した。暴走した自分を記録で見た事があるが、二度となりたくないと心からそう願っていた。それを知るクリスがエレキガルに吠える。

 

「冗談じゃねえぞ!いくら御託並べようが、お前の仕業じゃねえか!あんなの姉ちゃんがやるわけがねえ!」

「吠えるな小娘。あれは覚醒が早すぎた故に、少女も我も、制御する前に力だけが暴走したのだ」

 

 自分の意思とは無関係に、家族や親友、仲間を手に掛けようとするなど出来るはずがない。心優しい瑠璃なら尚更だ。

 

「それで、あんたは何でここに現れたの?」

 

 気になっていた事を代表して輪が問う。

 

「この月遺跡は、我々アヌンナキが長い年月を経て作った代物。当然、我も関わっている。故に、これを遺す事が出来た」

「遺すって……もしかしてエレキガルさんは……」

「死んだ。それもシェム・ハの手によってな」

 

 響の問いに答えたエレキガルだったが、あまりにも衝撃的すぎる返答に四人が驚愕が露になる。

 

「あなたは……一体何者なの?」

「我の記憶はまだ不完全であるか。まあ、余計な者が三人いるが……良いだろう」

 

 余計なもの、つまるところ今ここにいる瑠璃以外の三人の事を指している。クリスと輪はムッとするが、エレキガルは構わず右手を天高く掲げる。

 

 その刹那、月遺跡にいたはずが、周囲はあの冥府の神殿の玉座の間へと変わり、エレキガル以外の四人は突然変わった風景に驚く。

 

「どうなってんだ?!」

「私達、月遺跡にいたはずなのに!」

「ここって確か……!」

「あの時夢で見た……」

 

 輪はアルベルトによって見せられ、瑠璃は夢でこの景色を見た事があり、ここが冥府の神殿であるとすぐに分かった。

 

「我らアヌンナキは様々な手段を用いて、この地球に数多の命を創造し、生命を育んだ。だが我は、我だけはそれと対をなす力を持っていた。それが死と破壊だ」

 

 そう教えながら、エレキガルは玉座に腰掛けて四人を見下ろした。

 

「命あるものは終わりを迎えるのは必須。故にその魂を管理する必要がある。だがこの力は、創造とはかけ離れた悪魔の力。故に我は一人、この暗い闇の世界に押し込まれた」

 

 暗黒の世界で一人、永い時を生き続けなければならない宿命を背負わされたエレキガルを思ったのか、響が悲しげな表情を浮かべていた。

 

「故に我は、光溢れる世界を地獄へと変えるべく、力を蓄えた。幾多の魑魅魍魎、闇に跋扈する悪鬼達、我はそれらを従えていく過程で、惑星改造装置ユグドラシルを作った」

「ユグドラシルを作っただぁ?!」

「ちょっと待って!今聞き捨てならない事を聞いたんだけど!惑星改造装置って、どういう……」

 

 シェム・ハが掌握しているあの巨木の作成者がエレキガルだという事もそうだが、ユグドラシルの正体に輪が追及する。

 

「言葉通りだ。惑星の在り方そのものを変える。我はそれを用いて、生きる者を眷属として暗黒の支配を企んだがな」

「もしかして、アンタがシェム・ハに殺されたのって……」

「聡明だな。ああ……それを目当てにやつが現れた」

 

 エレキガルの隣に、ホログラムとして現れた白と桃色の素肌の女性、その異様な姿から同じ人間ではないのは分かったが、何者なのか分からない(響とクリス)見た事がある者(瑠璃と輪)が驚愕する。

 

「改造執刀医 シェム・ハの叛逆。ここで奴と戦い……我は敗れた」

 

 破壊神だったとはいえ、エレキガルは正攻法では勝てない程の強敵だった。それでもシェム・ハに敗れたという衝撃的の展開に四人は愕然とした。

 

「我が死と破壊を司る者でも、自分の死を捻じ曲げる事は叶わぬ。故に、滅びゆく肉体より変換された槍となり、魂だけが残った」

「その肉体が……バイデントになった」

 

 アルベルトが遺したデータの事を四人の中で唯一人知る輪が、その答えを告げた。

 

「バイデント。お前達がそう呼称しているが……あれには元より名前など無い。だが、ここで敢えてつけるとすれば、それは……我『エレキガル』というアヌンナキから成る槍だ」

 

 難しい単語でなければ、意味のある単語では無い。ただ単純に、自身の肉体から作った槍だからこそ、それは『エレキガルの槍』となって誕生した。

 

「そしてその槍の欠片から、シンフォギアとファストローブが作られた……」

 

 瑠璃のギアペンダントの中にある槍の穂先。そして絶対の破壊神だった瑠璃、アルベルトが着けていた指輪にも同じ穂先が使われてる。

 

「そして、我が槍を……我が最も信ずるに値する者に託した」

「って事は、アイツか」

 

 クリスのいうアイツ、S.O.N.G.の前に何度も立ち塞がった宿敵ともいえるアルベルト。彼女、もとい、彼の正体を知る者はここには輪しかいない。

 

「そしてその槍はアルベルトと櫻井さんの手によって、シンフォギアとなった……」

 

 バイデントのシンフォギアとして作られてからのあらましは皆知っていた。

 アルベルトがフィーネと共謀してバイデントのシンフォギアを掠め取り、それがF.I.S.で用いられるも《バイデントの呪い》と呼ばれるものによってジャンヌの妹 メルを含めた関係者の命を奪った。

 

 それから何度も適合に失敗し、エレキガルの魂は人間の可能性を見限ろうとしたその時、瑠璃と適合した。バイデントの呪いを受けず、今も尚その力を支配している。

 

「我が槍を手にし、呪いを受けなかった少女、我の魂を宿した少女という証。その者はいずれ我と同化する」

「それって……瑠璃は瑠璃でなくなるってことじゃ……!」

「まるまるフィーネじゃねえか!」

「リィンカーネーションとはそういうもの……そのはずなのだが……」

 

 どうも歯切れの悪い物言いになっている。違和感に気付いた輪が尋ねる。

 

「ど、どしたの?」

「確かに魂は存在している。だが……これは……」

 

 冷たい闇の瞳が瑠璃の魂を覗き込む。その中には一つの白い魂が存在していたが、僅かに黒い靄が魂の中に入っていた。

 

「これは……紛れもなく我の……ではこれは……」

 

 一つの結論に辿り着いたエレキガルは笑みを浮かべた。理解出来ていない四人は次第に高笑いする彼女を不気味がる。

 

「何がおかしいんだよ?!」

「なに、いずれ分かる。この先に待ち受ける運命をな」

 

 意味深な言葉を出しながら、エレキガルの右手に光が宿ると、それが粒になって一つの形になって具現化した。それは、穂先が両方とも欠けた藍色の柄の二叉槍だった。

 

「それが……エレキガルの槍」

 

 実物を初めて見た瑠璃達が、その禍々しくも神秘を感じさせるその槍に息を飲む。

 

「この槍であれば、魂、力などの脈絡を掌握出来るだろう。地球のシェム・ハの魂すら滅する事も容易い。だが、今のお前では……それは不完全だ」

「え……?」

「槍はあくまでも我の肉体を変換、再構築した形に過ぎない。真に制御するには、魂が必要だ。お前の中に眠る、我の魂がな」

 

 エレキガルは瑠璃を指した。

 

「私の中の……」

「けど、瑠璃の中にアンタの魂があるなら最初から使えるんじゃ……」

「言ったはずだ。まだ不完全であると。リンカーネーションが果たされていない。その娘の魂が、我とならぬ限り、槍は真の力は覚醒されん」

 

 瑠璃がエレキガルとして覚醒しなければ、槍は使えない。つまり、シェム・ハを倒す為に槍を制御する為に、瑠璃の魂は死ななければならないという事になる。

 

 これにはクリスが憤る。

 

「ふざけた事を抜かすんじゃねえ!姉ちゃんを食い潰してでも復活するつもりか?!」

「では、シェム・ハをこのまま野放しにする気か?」

「待って、こっちには神殺しがある。アンタなんか復活しなくても……」

「ほう。では依代ごと殺すつもりか?」

 

 そう言われた輪は何も言い返せなくなる。依代を殺す。それは未来を殺すということとを意味する。

 

 それが現実のものになるのか、それとも出任せであるか分からない。過去に神殺しの力が発揮された瞬間は、 ディバイン・ウェポンと、チフォージュ・シャトーで戦ったシェム・ハの繭、いずれも人外の類ばかり。

 

 今回のように、シェム・ハの依代となった未来に神殺しを使えば、エレキガルの言う通り、シェム・ハの力ごと未来を殺してしまう可能性がある。

 

 未来を助ける為にここまで戦ってきた響に、そんな残酷な選択などさせられるはずもなく、瑠璃は俯いた。

 

「さあどうする……友を救う為に我と同化するか?我を拒んで友を殺すか?」

 

 前者を取れば、未来を助ける為に槍の力を最大限まで引き出せる。だがその代償として、瑠璃としての存在が塗り潰されてしまう。

 

 後者を取れば、瑠璃は瑠璃のまま生きられる。だがそうなれば、未来を止めるには神殺しの力しかなくなるが、その神殺しによって未来も殺す事になる。

 

 己の死か、友の死か。瑠璃に残酷な選択が迫る。




エレキガルの槍

バイデントの真名。

元々はエレキガルの死の間際に、魂と肉体を分離した結果、肉体は槍となった。

分かたれた魂はいつか、選ばれた少女に宿って伏せる。

魂と槍が接触した時、少女は神によって塗り潰され、神として再臨する。

瑠璃もまた、そうなる運命か……


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私の答え

お待たせしました!いつの間にか3月になり、XDもサ終……

ですが、こっちはまだまだ終わってなぁい!

と、いうわけで今年もよろしくお願いします


私の中に、私以外の何かがいる。

 

 

 破壊の限りを尽くす、あの絶対的な悪魔の力を振りかざす、恐ろしい存在。

 

 

 あの時、地獄の記憶が蘇り、生きる事を諦めた絶望と呼応するように顕れた。

 

 

 輪とクリス、そして皆の力があって、私は地獄の枷から解き放たれた。

 

 

 生きることを選んだ。

 

 

 だけど、まだ私の身体の中で覚醒の時を待っていた。

 

 

 お祖父様の手で、私の命の鼓動が終わりを告げようとした時、再び私の前に現れた。

 

 

 私を助ける為に……

 

 

 

 

 

 

 

 私と……1つになって……

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 同じ頃、S.O.N.G.本部は既に種子島を発ち、紀伊半島の東を航行している。オペレーター達は反応消失した装者達に通信を試みるが、未だに反応はなかった。

 

 だがそこに、一つの電子音が鳴り響く。友里が報告する。

 

「識別不能のコールです。発信源特定!まさか……月?!」

「回線を繋げ!」

 

 地球のどこでもない、先史文明の遺産が眠る月から発信。弦十郎はすぐに指示を下す。

 

 『こちら翼。マリアも一緒です!』

 

 画面は映し出されていないが、この聞き覚えのある凛々しい女性の声は翼で間違いない。

 

「二人は無事なんですね!」

「だが、どうやって通信を?」

 

 無事を確認した緒川は真っ先に喜ぶが、明らかに通常の通信ではないのは明白だ。何が起きたのか、二人に説明を求める。

 

「管制室にて、月遺跡と本部の電信を確立。遺跡内の防衛システムの一部と、通信制御を解除しました!」

「はぐれた仲間とも連絡を取り合い、合流するべく誘導している所よ」

 

 調と切歌はすぐに応答し、ここへと向かっているようだが、瑠璃達の通信は一向に繋がらず、どうしているか分からない。

 

『こちらは、ユグドラシルの稼働を確認し、対策に向かっている最中だ』

「早くも動き始めている?!」

「ユグドラシル……どうやらその世界樹は、見た目以上にろくでもない代物みたいよ」

 

 マリアが得た情報を本部の弦十郎達に伝える。

 

 

 


 

 

「さあどうする……友を救う為に我と同化するか?我を拒んで友を殺すか?」

 

 プログラムとはいえ、アヌンナキであるエレキガルから迫られた残酷な選択。

 

 シェム・ハとなった未来を助ける為に自分がエレキガルに食い潰されれば、二度と瑠璃として生きる事はない。

 

 だが拒めば神殺しの力で未来の肉体をシェム・ハ共々殺す事になる。

 

 どちらも瑠璃にとって、到底選ぶ事は出来ない残酷な結末になる。だがエレキガルは瑠璃の心を通して、彼女がどちらを選ぶか分かっている。

 

「器よ。お前は優しすぎる。他者を救う為にその身体に傷をつけてきた。妹を救う事もな……」

 

 瑠璃は家族を、友を守る為に、喜んで自分の身を捧げた。その性質は幼い頃から、記憶を失い、悪夢を克服してからも変わらない。

 

 だからこそ、瑠璃は未来を犠牲にする事は出来ない。

 

「私は……」

「お前の事だ、出来ぬだろう?友を、仲間を葬るなど。故に貴様は、友を救う為に我と同化するしかない。でなければ……っ!」

 

 だが一瞬、違和感を感じ取ったエレキガルの眉が一瞬だけ揺れ動いた。

 

「何……?!」

「少し前の私だったら、前者を選んでたと思う……。そしたらまた、クリスを……輪を悲しませてた……」

「まさか、貴様……!」

 

 俯いていた瑠璃が顔を上げると、その瞳は冷たい闇へと変わっていた。プログラムだけでなく、クリスに響、輪もいつもの瑠璃からは考えられないくらい、圧倒的なプレッシャーを受けて怯んでいる。

 

「姉ちゃん……その目……」

 

 目の前にいるのは、あの時と同じ絶対の破壊神と化した姉……そのはずなのだが、どこか違和感があった。

 

(何だ……この感じ……以前の時と違う……)

 

 瑠璃の、自分達に向ける目。それは敵意を感じない。それどころか、普段の優しい目だと思わせている。瑠璃はその目を、エレキガルに向けた。

 

「私がここにいるのは、未来ちゃんを助ける為だけじゃない。皆を守る為に、大切な人達と過ごす日常(あした)を迎える為……!」

「それがどうした……?自分が傷つくと分かっていながら、何度も思い知ってもなお同じ選択をした。仲間を、友を、家族が傷つくのを目にしたくないが故に……」

「だから……私の心は一度死んでしまった」

 

 大切な人を守る為に瑠璃は傷ついた。

 

 クリスを守る為に、瑠璃は自分自身を差し出した。妹を守るのは、姉の役目だと、姉にしか出来ない役目だと思って。

 

 だがそれこそ思い上がりだった。結果的にクリスは別の組織に捕まり、そこで六年間一人で傷ついた。

 

 そして瑠璃もまた、嬲られ、犯され、全てを奪われた。

 

 その身体に刻まれた傷跡は一生消える事はなく、死ぬまでそれを抱えて生きていくだろう。

 だが今の瑠璃はそれを悔いる事はないが、それはたった一人で守ろうと、思い上がった故に受けた傷。故に誇る事もしない。

 

「ならば、贄とするか?仲間を……」

「出来ないよ……そんな事。だって、元の日常に帰る為には、未来ちゃんが必要だから!だから……」

「愚かな……貴様一人で何が出来る?我の魂が無ければ、ここまで来れなかった。必要なのは、お前が我と同化し、新たな我として蘇る事……貴様はただの器に過ぎん」

 

 執拗に同化を迫るエレキガルのプログラムから醸し出される圧倒的なオーラ。例えプログラムであっても、アヌンナキとしての格、力を映し出している。

 

 

「姉ちゃんは一人じゃねえ!」

 

 それでも、それが相手でも堂々と気に食わない相手に立ち向かう一声。

 

 クリスの声に驚いた二人はその方を向く。二人の問答に割って入って来た部外者が入って来た事にエレキガルは嫌悪感を露わにする。

 

「何だ貴様……引っ込んでいろ」

「姉ちゃんが傷ついているってのに、妹のあたしが引っ込んでられるわけねえだろ!」

「クリス……」

 

 クリスは瑠璃の隣に並び立ち、堂々とエレキガルと対峙する。

 

「お前が姉ちゃんに成り代わるなんざ、あたしは認めねえ!お前にとっちゃ、姉ちゃんは替えのきく器かもしれねえが、あたしにとって姉ちゃんは、かけがえのない大切な家族だ!それを、お前なんかに壊されてたまるかよ!」

「その通り!」

 

 今度は輪が乱入して来た。輪もまた、瑠璃の隣に並び立って相対する。

 

「私は、今の瑠璃が一番好き。初めて会った時もそうだけど、瑠璃は人を尊ぶ優しい子。アンタみたいに、犠牲を要求する人間なんて、そんなの瑠璃じゃない!」

 

 そして、響も前に出る。

 

「私達の明日は、私達の手で切り開かなくちゃいけないんです。未来を助けるのだって、私達じゃなきゃダメなんです。神様としてじゃなく、一人の人間として……。だからエレキガルさん、瑠璃さんを、私達を信じてください」

「馬鹿な……何故……」

 

 瑠璃を守る為に、未来を助ける為に、恐れず相対した三人を目の当たりにしたエレキガルは、何故人間がアヌンナキにこれほど立ち向かえるのか理解出来なかった。

 

「これが、私の人生で得られた……最高なもの」

「最高なもの……?」

「本当に大切なものを守る為に、私が得た答え……」

 

 その答えを瑠璃は告げた。 

 

「皆と紡ぐ絆。繋いだ絆の数だけ、私を強くしてくれた。今までも、これからも……!」

「何……?」

「あなただって、分かっているはず。大切な人が出来たから、愛を知ったから槍が生まれた。そして、その魂は今も尚、私の中にある事を!」

「何故それを……まさか貴様、我の記憶を?!」

 

 本来であれば、それはエレキガルにしか知りえないもの。瑠璃が知るはずがない記憶。それを彼女が知っているという事が何を意味するか、エレキガルは悟った。

 

「バルベルデの記憶が蘇ったあの時の私は、目の前に映るものが全て怖くなって、これ以上傷つきたくなくて、何もかも……消してしまいたいと思って、一度は破壊神にこの身を委ねた。

 それでも、輪とクリスは諦めなかった。絶望に沈んだ私の元へ、輪が歌を届けてくれた。クリスが手を差し伸べてくれた。あの時聴こえた歌はとても優しくて……繋いでくれた手はとても暖かかった」

 

 そう言いながら響の方を見て微笑んだ。そして、輪とクリスの方も見てやる。

 輪の歌が、クリスの手が、瑠璃を絶望から解放してくれた。もう独りではないということを教えてくれた。今の瑠璃に、迷いなんてない。

 

 再び幻の自分(エレキガル)と向き合う。

 

「繋いだ絆を離さない!だから私は私のまま……あなたの槍を支配してみせる!私の中には、私を守る為に一つになった、もう一つの魂があるのだから!」

 

 冷たい闇の瞳が、ラピスラズリを思わせる藍色の瞳へと変わった。瑠璃とエレキガル、一つとなった二人の魂の影響だろうが、紛れもなく主は瑠璃であると、プログラムに突きつけた。

 

 それを目の当たりにしたプログラムのエレキガルは、悟ったように目を閉じた。

 

「そうか……お前が進むと決めたその道が、どのような結末を迎えたとしても、受け入れてしまうのだろう。ならば迷う事なく進むがいい。長きに渡る魂の旅の終着地は、もう間もなくだ」

 

 瑠璃に託すように告げると、少しずつその姿形が歪んでいき、次第に指先から砂のように崩れ始めた。

 

「エレキガルさん!身体が……」

「プログラムたる我の役目は果たした。そうなれば不要となる。故に自動的に消去される」

 

 役目を終えたプログラムは消えるのが定め。プログラムとはいえ、消えてしまうのは悲しい。そう言いたげな瑠璃と響を見たプログラムが呆気に取られ、苦笑する。

 

もう一人の私(エレキガル)……」

「やれやれ……我が消えゆくのを悲しむ人間が……ここにも(・・・・)いるとはな……」 

 

 その台詞を最後に、プログラムの肉体は完全に消去された。プログラムが消えた事で、背景が元の月遺跡に戻った。

 

(今のって……)

 

 プログラム消滅間際に浮かべた苦笑だったが、その目は呆れや可笑しいとかそう言ったものではない。まるで……

 

(瑠璃を、憐れんでいるような……けど何で……)

「行こう……他のみんなと合流しなきゃ」

「あ、うん……」

 

 進むべき道を見出した瑠璃は逸れた仲間達と合流すべく部屋から出ようとするが、あまりにも早い切り替えに輪は一瞬呆気に取られた。

 

「なあ、姉ちゃん……」

「ん?」

 

 部屋を出ていこうとした時、クリスに呼び止められた。

 

「さっきは……ごめん……。あたし、姉ちゃんの事……」

 

 焦燥感に駆られて、心無いことを言ってしまった事を謝罪した。そして瑠璃も……

 

「私こそ、ごめんなさい。お姉ちゃんだからって、クリスに心配かけたくなかった……。けど、結局もっと心配させちゃったね……」

「良い……。ったく。お互い不器用だよな」

 

 クリスの瑠璃に対する不信感は完全に無くなっていた。また姉を一人ぼっちにさせる所だった。責任感が強い故に、また瑠璃も肩が軽くなったように感じた。

 

 やはり姉妹は仲良くしていた方が絵になるのか、輪はこの微笑ましい姉妹の姿が撮れないのを悔しがっていた。

 

「カメラがあればなぁ……おっ?!」

 

 ポケットに入っていた通信機からコールの反応。何度も通信を試みても繋がらなかったのが、突然繋がって、待ち侘びたかのような反応で繋げる。

 

「もしもし?!」

『やっと繋がったわ!一体何処にいるの?!』

「マリアさんこそ、今どこに?」

 

 通信を繋げた輪が声を荒らげながらも、ようやくはぐれた仲間の声が聞こえて安堵する




次回戦闘描写となりますがVSミラアルク戦はカットさせていただきます。

申し訳ありませぬ……


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帰る場所

久しぶりの戦闘パートを描きますが……

この展開まで行くのに5ヶ月掛かってるってマ?


遺跡の一室から出た瑠璃達は、マリア達がいる制御室へと向かっている。

 

 瑠璃とエレキガルの問答で時間を稼いだお陰で、輪はだいぶ休む事が出来た。何とか走れるが、普段足の早い輪は今、1番後ろを走っている。その体力も半分もない状態では満足に走る事すら出来ず、息が上がるのも早い。

 

「輪、大丈夫?」

「私は平気!それよりも、制御室に急がないと……」

 

 輪は焦燥感に駆られていた。

 

 

 

 時はエレキガルのプログラムと問答した直後まで遡る。輪の通信機に、遺跡の中枢よりマリアからのコールが発せられた。

 そこで、通信越しで情報を交換したのだが、それには驚くべき真実が眠っていた。

 

「私達人間が、ユグドラシルを操る為の生体端末として作られたって……」

『シェム・ハの目的は、人類を生体端末郡として、ユグドラシルを使って星と命を怪物へと改造すること』

「つまり、この世に生きる人間全てが、ユグドラシルを操る為の道具ってことですか?」

『ええ。言語を力とするシェム・ハは、どんなプログラムにも入り込む事が出来る。それを阻止してきたのが、ネットワークジャマー《バラル》よ』

「バラル……もしかしてバラルの呪詛?!」

 

 人類の相互理解を妨げる不和の呪い。原罪とも呼ばれているそれは、アヌンナキによって発動、これにより人類は統一言語を失い、多くの不和を生み出し、それがフィーネがルナアタック事変を引き起こす切っ掛けとなった。

 

 だがマリアのバラルの呪詛の言い方に何か引っ掛かりを感じたクリス。

 

「けどよ、その言い回し……まるでバラルの呪詛のお陰で、今のあたし達があるみたいな……っ!」

「……まさか」

 

 輪もその違和感の正体に辿り着いた。

 

『そうよ。けど、アヌンナキが遺したこのバラルの呪詛がある限り、シェム・ハは手を出せない』

 

 今まで不和の根源とされていたバラルの呪詛こそが、人間を守るための、言わば最後の砦。

 フィーネは愛する神との再会を願って、破壊しようとしたバラルの呪詛を起動したのが神であり、それが人類を、フィーネ達を守っていた。

 知らなかったとはいえ、皮肉としか言いようがないこの運命に、輪は彼女を憐れむ。

 

「逆に言えば、シェム・ハの目的はバラルの呪詛の解除!もしそうなったら、私達は……」

『怪物として改造されてしまうわ。そうなれば終わりよ』

「あの時、テレポートジェムでここに送り込まれたのは私達だけじゃない……ノーブルレッドもいる!」

 

 シェム・ハの眷属となったノーブルレッド三人がバラルの呪詛を破壊する為に攻撃を仕掛けるのは明白だ。より一層、合流しなければならなくなる。

 

「私達も急いで行きます!だから……」

『へえ、流石はS.O.N.G.。あっさり詳らかにしてくれるぜ』

 

 通信越しに聞こえたミラアルクの声。その刹那、通信が切れた。

 

「マリアさん?!マリアさん!」

「アイツら、もう嗅ぎつけたのか?!」

 

 マリア達を救援すべく、瑠璃達は急いで制御室へと向かう事になり、今に至る。

 

 

 

(ったく……私のせいで、救援に遅れたんじゃ洒落にならない……!)

 

 先を急ぐ必要があるこの状況で、自分が完全に足手まといになっている。輪は叫んだ。

 

「私を置いて先へ行って!」

「輪さん?!」

「何言ってんだお前?!」

 

 自分を置き去りにしろと言われ、響とクリスが驚愕する。

 

 最も合理的な案ではあるが、仲間を見捨てる事が出来ない彼女達にとっては受け入れ難い提案だ。

 

「アンタ達だけでも、早く制御室へ……」

「っ!見て!あれ!」

 

 遺跡の天井の隙間から覗き見る事が出来る青い地球が、深紅に染まり、邪悪な光を発していた。

 

「あたし達の帰る場所が……!」

「あれは……」

 

 エレキガルの眼となった瑠璃が、その光の根源を覗き視た。

 

 鎌倉に根を張っていたユグドラシルの幹が、日本全土、それどころかアメリカや中国といった大国にまで顕現、幹の先から放たれた枝が、全てのユグドラシルに接続され、地球を覆い尽くしていた。

 

「ユグドラシルが……起動した?!」

 

 信じられない瑠璃が動揺を露わにする。

 

 ユグドラシルをフル稼働させるには生体端末である人間を利用しなければならない。だがバラルの呪詛がある限り、人間を用いてユグドラシルとの接続は不可能。

 

 それだというのに、ユグドラシルは起動している。エレキガルの魂と一つになった瑠璃が驚愕するのはそういうわけである。

 

「それじゃあ、冗談抜きで地球丸ごと改造されちゃうじゃん!」

「始まったのね……」

 

 瑠璃達の背後から現れたヴァネッサ、そして満身創痍のエルザが地球を見上げる。その声に気がついた四人はヴァネッサの方を向いた。

 

「あれが……あんなのが、ヴァネッサさんが望んだ、皆と仲良くなれる世界なんですか?!」

「……人間に戻れない完全怪物となった今、この身を苛む孤独を埋めるには、全てを怪物にして仲良くするしかないじゃない……!」

 

 響の訴えから目を背けながら、開き直ったヴァネッサにクリスが噛み付いた。

 

「お前達が言う分かり合うって……!」

「そうよ!その為にシェム・ハは星と命を作り変え、私達は封じられたシェム・ハの力を取り戻す為、バラルの呪詛を解除するの!」

 

 人間に戻れる可能性は潰え、完全なる怪物と堕ちた自分達に選択肢など残されていない。

 

 怪物と蔑んだ人間達への対する復讐にも似た感情は、誰よりも人間に戻れると信じていたヴァネッサだからこそ、その反動も、絶望も果てしない。

 

「……ヴァネッサ。戦うでありますか?」

「戦うわ……。だからエルザちゃんは下がってなさい……お姉ちゃん判断よ」

 

 家族であるはずのエルザにさえ、冷たく言い放った。優しかったヴァネッサが変わってしまった事に落胆するが、テールアタッチメントが使えない今、戦う術を持たないエルザには何も出来ない。大人しく引き下がった。

 

 装者側でも同じ、完全に回復しきれていない輪が、戦闘の余波を避ける為に下がった。

 

「だったら私は……私達は!」

「皆がくれた優しさや温もり、そして、皆で繋ぎあった日常を取り戻す為に!」

 

 瑠璃をはじめとした装者達はギアのペンダントを構えた。

 

 Tearlight bident tron……

 

 シンフォギアを纏った瑠璃が、二本の槍の穂先から黒白のビームを撃ち放った。ビームはそのまま真っ直ぐ、ヴァネッサに直撃したはずだった。

 

 だが完全な怪物となったヴァネッサには、そんなものは通用せず、かすり傷一つすら作れていなかった。

 余裕の立ち振る舞いでライダースーツを脱ぎ捨て、機械の身体を露出、背中から二本のアームを生やし、足部のジェットで瑠璃に接近する。

 

 瑠璃は迎え撃つべく槍を構えるが、上からガングニールのギアを纏った響がヴァネッサに殴り掛かる。正面からでは、アームで防ぐ。だがイチイバルのギアを纏い、背後を取ったクリスが拳銃を発砲する。

 

 それも、ヴァネッサにはお見通しだった。首元から無数の赤い光線が放たれ、銃弾を撃ち落とし、クリスを叩き落とした。

 

 瑠璃と響が白兵戦に持ち込むも、ヴァネッサのアームが自由自在な軌道を描いている為、二人の攻撃はヴァネッサに届かない。

 

「奪われた未来を取り戻す為、私達は先に進む!元に戻るとか帰る所とか!そういうのはもう必要としないのよ!」

 

 圧倒的な力で瑠璃と響を押し返した。

 

「正中線に……打たせてくれない……!」

 

 響の徒手空拳では、アームの圧倒的なリーチによって防がれてしまう。だが、それで終わるヴァネッサではない。

 

 浮遊するヴァネッサの周囲に光が漂い、それがアームと脚部と一体化、アームはそれぞれの上肢と変形合体、脚部は1本の装甲となって、巨大なロボットへと姿を変える。

 

「合体変形した?!」

 

 瑠璃が驚くのも束の間、クリスが銃弾を放つが、まるで効いていない。

 そして、その装甲からいくつものビーム砲が展開、エネルギーが充填される。

 

 危機を察知した瑠璃が仲間を守るべく、ヴァネッサの前に立ち塞がり、二本の槍を連結させる。

 

 砲門からビームが放たれると、瑠璃は連結させた槍を高速で回転、黒白のエネルギーが竜巻となってビームを迎え撃つ。

 

【Harping Tornado】

 

「くっ……威力が……!」

 

 だが予想よりも大きく上回るパワーに、竜巻が少しずつ後退している。次第に竜巻の風圧がかき消され、無防備となった瑠璃にビームが迫る。

 

「姉ちゃん!」

 

 だが姉ばかりに守られるだけのクリスではない。瑠璃の隣に並び立ち、リフレクターを展開、ビームを正面から防御する。

 

 リフレクターと衝突したビームの一部が反射され、ヴァネッサの背後にある壁や天井を撃ち抜いた。だがその衝撃で、壁が瓦礫となってエルザに振り注ごうとしていた。

 

「エルザちゃん!」

 

 エルザとの距離は離れており、今の形態を解除してから助けに行っても間に合わない。

 

「どっせええぇぇーーい!」

 

 何とファウストローブを纏って飛び込んだ輪が、そのまま瓦礫を拳で粉砕した。お陰でエルザに瓦礫が落ちてくる事は無かった。

 

「こっちは大丈夫!」

 

 輪が天高くサムズアップ。

 

「何故……」

「へ?」

「何故助けたでありますか……?あなたからして見れば、私達は仇であります……!」

 

 俯きながら輪に問いかけた。すると、輪はファウストローブを解いた。

 

「アンタ達の事は一生、死ぬまで許す事は出来ない。だけど、こんな所で死なれちゃったらさ、罪を償わせる事も出来なくなる」

 

 輪にとってノーブルレッドはたった1人の家族だった小夜を殺した憎き敵。だが同時に、哀れだと思った。

 

「だから私は、アンタ達を生かす。私達と同じ……」

 

 だが再び戦闘による爆発と衝撃による砂煙が舞い、二人の意識はそちらに向かう。そこには、アマルガムへと変身した装者三人の蹴りによって装甲が破壊されたヴァネッサだった。

 

 


 

 

 瑠璃達がヴァネッサと交戦する少し前の制御室にいた翼とマリアだったが、突如強襲を仕掛けたミラアルクと交戦。

 

 完全なる怪物と化したミラアルクに苦戦した二人だったが、アマルガムによる連携によってこれを打ち払った。その直後に、運良くノーブルレッドと遭遇しなかった調と切歌が合流を果たした。

 

 だがそれから間もなく、爆発による揺れを察知した。何処かすぐ近くでで、誰かが戦っているのが分かる。

 

 すると、制御室の壁に穴が空き、そこからノーブルレッドの三人と、ヴァネッサと交戦していた瑠璃、響、クリス、そして輪が飛び込んできた。

 

「「ヴァネッサ!」」

 

 この場で戦えるノーブルレッドはヴァネッサのみ。だが先程のアマルガムを纏ったいち激によって装甲から強引に引き剥がされた事で、四肢の一部が欠損、スパークしていた。

 

 さらにクリスがアマルガム・イマージュを展開、黄金を纏った真っ赤な大弓を手にする。

 

「だったら……一気に足掻く!」

 

 最後の足掻きで胸部から漆黒のビーム砲を発射、クリスも大弓から矢を放った。

 

 ビームと矢がぶつかり合った瞬間、矢がビームを割いて直進していた。この矢尻にはイチイバルのリフレクターが備え付けられていた。それ故に、ビームを諸共せずに進むことが出来た。

 

 だが弾かれたビームが天井を穿ち抜いた事で外、ここでは宇宙空間に通じる穴が空いてしまった。空いた穴に引きずり込まんと引力が働きかけている。

 

 

「ヤバっ……のわっ!」

 

 

 その穴に最も近くにいるノーブルレッドの三人、そして三人に1番近くにいた輪が宇宙へと吸い込まれようとしている。

 

 だが輪の手を掴む一つの手によって、彼女は吸い込まれずに済んだ。

 

「絶対に、離さない……!」

「瑠璃……!……はっ!」

 

 二人の小さな悲鳴に気付き、振り向くと宇宙へと吸い込まれようとしているエルザとミラアルクの姿が。

 

「それでも……私達は……」

 

 そして、最後まで足掻こうとしていたヴァネッサまでもが宇宙へ放り込まれようとしていた。

 

「怪物になりたくなかった!」

「クリス!」

「食らいやがれえぇーー!」

 

 輪の願いを聞き入れたクリスが、強く引き絞った弦を手放して矢を放った。

 

【∀∀・デ・レ・メタリカ】

 

 矢は真っ直ぐとヴァネッサ達の方へと向かう。最期を覚悟したヴァネッサは目を閉じて死を待った。

 

 だが、その矢はヴァネッサのすぐ横を通り過ぎ、その背後で赤い閃光と共に、矢尻からシールドを展開、壁となったそれは三人を守った。

 

 遺跡の防衛プログラムが働いたのか、空いた穴は自動的に修復された。

 

 

 


 

 

 誰一人欠けることなく戦いは幕を閉じた。だがヴァネッサの左腕と左脚は先の戦いで欠損、ミラアルクもエルザも戦う術を失った。

 

 家族であるヴァネッサを失わずに済んだエルザとミラアルクはすすり泣きながらヴァネッサの傍に寄り添う。

 

 そして、敵として何度も交戦した響とクリスもまた、彼女達に駆け寄る。

 

「……どうして助けたの?」

「助けたわけじゃねえ……。ただ……」

 

 少し間を空けて、クリスがそれに答える。

 

「本当に今よりここに先に進もうと願うのなら、尚の事、帰る場所ってのが大切なんだと伝えたかった。あたしは考えすぎるから、きっとまた迷うかもしれない。けど、帰る場所があるから、立ち直って先に進める。それはアンタだって……!」

 

 人間に戻りたいと願った自分を捨てて、怪物として茨の道を進もうとしていたヴァネッサ。いつの間にか、失ったものに気が付いた彼女は、家族である二人を見る。

 

「もうやめるであります……!心まで怪物にしないためにも……!」

「ウチも……弱さを言い訳に、自分の心を殺すのは……もう沢山だぜ……!」

「帰る……場所……。私の家族……。あっ……」

 

 そこに、輪がヴァネッサの前に立つ。

 

「……許してほしい、なんて言わないわ」

「分かってる……。今更アンタ達を許す事はないし、この先一生、アンタ達を恨み続ける。なんだったら、今すぐにアンタを一発殴りたいのを我慢してる」

 

 たった1人の家族を奪われた輪からすれば、ノーブルレッドは憎き敵。だが強く握った拳を振り下ろしたいのを抑えている。拳の震えを、響が悲しげな目で見る。

 

「輪さん……」

「けどここにいる人間は、誰一人としてアンタ達を怪物だなんて思っていない!私もその1人!だから私は、アンタ達を怪物としてじゃなく……何処にでもいる、普通の人間(・・・・・)として!……アンタ達を、裁いてやるから!」

 

 それが、輪の答え。あの時エルザに伝えようとしていた事であり、輪の願い。

 

 人と怪物の狭間で足掻いてきた小さな三人が、せめて少しでも報われてほしいと願って。

 

 

 

 

 だが……

 

 

 

 

「っ!避け……」

 

 瑠璃が気付いた時には遅かった。避けろと言う前に、瑠璃のすぐ横を通った赤い小さな閃光が、ヴァネッサの身体を貫いた。

 

「がはぁっ!」

「「ヴァネッサ!」」

「ヴァネッサさん!」

 

 重傷を負ったヴァネッサの身を案じるエルザ、ミラアルク、そして響。

 

「敵襲か?!」

 

 翼が制御室の出入口の方を向くが……

 

「なっ……!」

「そんな?!」

 

 マリア達も同じ方を向くと、翼と同じ驚愕する。

 

「あなたは……!」

 

 杖を振り下ろし、装者達を妖しげな目で見る青い眼。身に纏うは、風鳴訃堂の屋敷で見せたバイデントのファウストローブ。

 

 瑠璃がその名前を口にした。

 

「アルベルト……!」

 

 シェム・ハによって殺されたはずの蒼き錬金術師・アルベルトの額に、シェム・ハの紋章が浮かび上がっていた。

 




次回、アルベルト(シェム・ハ眷属)戦

開幕


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悲恋

VSアルベルト戦


まさに青天の霹靂であった。帰る場所を取り戻したヴァネッサの希望ごと殺すべく現れたのは、風鳴訃堂の屋敷でシェム・ハによって殺められたはずのアルベルトだった。

 

「アルベルト……」

「そんな!確かにあの時、シェム・ハによって……!」

 

 映像では確かにアルベルトは殺害された。あれ程の致命傷を負って生きている者はいない。

 

「違う……お前はシェム・ハ……!」

 

 エンキのホログラムには見えていた。アルベルトを支配するシェム・ハのほくそ笑む様が。

 

「じゃあアルベルトもシェム・ハの眷属に!」

 

 一度ノーブルレッドを殺し、完全な怪物として作り上げたのなら、そう考えるのが妥当だろう。輪がその真相に辿り着いた。

 

「まさか、月遺跡探査ロケットを破壊したのは……!」

「明察だ。こやつの肉体を使って、我が破壊した」

 

 種子島宇宙センターにあった月遺跡探査ロケット。それを破壊した閃光を放った犯人に、マリアは思い当たった。それを暴かれ、アルベルトの口からそう聞かされるが、口調から本人の話し方では無いのは分かる。

 

「バラルの呪詛を破壊する事こそ、我の本懐。ユグドラシルを起動し、世界のあらゆる生命を書き換え……ぐっ!」

 

 突如、アルベルトが呻き声をあげて苦しみ出す。

 

「アルベルト……?」

「ぐ……ぅぅ……!る……瑠璃……」

 

 瑠璃の呼び声に、辛うじて応えるアルベルト。まだ意識は完全に塗り潰されたわけではないようだが、押されているのは明白だ。

 

「た、頼む……!わ、私を……私を……その槍で……!」

「な、何を……」

「躊躇うな……!私は、とうに死んでいる……!私の肉体……っ……ただの人形……!」

 

 意識が残っている内に、瑠璃に自分を倒すよう懇願する。だが突然の事態に、瑠璃は戸惑うばかり。瑠璃だけではない。他の装者達にも動揺が広がっている。

 

「頼む……止めてくれ……私を……終わらせてくれ……!ぁぁっ……!ぐ……ぁ……ああああああああぁぁぁ!!」

 

 アルベルトの断末魔が響くと、その頭が垂れる。だが、直ぐにそれが上がると、再び額にシェム・ハの紋章が浮かび上がる。

 すぐさま槍の穂先から紫色の閃光が放たれ、その先にあった制御盤に直撃した。

 

「シェム・ハ……!」

「皮肉よな。お前を再臨すべく生きながらえていたこやつが、貴様の槍で葬ろうとしているのだからな」

 

 シェム・ハの口調でほくそ笑むアルベルトの表情。完全に眷属として支配された事を示している。

 

「貴様を再び、目障りなネットワークジャマーごと葬ってくれる」

「させない!エンキ達が命懸けで守ってくれたこの想いを、壊させやしない!」

「まさか……お前は……」

 

 プログラムであるエンキが、ギアペンダントを握りしめる瑠璃を見て、エレキガルの面影を重ねた。

 

 

 Tearlight bident tron……

 

 

 ギアを纏い、二本の槍を手にすると、黒槍の穂先をアルベルトに向け、エネルギー波を放つ。

 

【Shooting Comet】

 

 だがアルベルトは槍を払うだけで、それを弾いて駆ける。アルベルトが槍を突き出すと、瑠璃はそれを見を翻して避け、槍を振るう。

 

「瑠璃に続け!」

 

 翼の号令で他の装者もアルベルトに攻撃を仕掛けようとするが……

 

「邪魔だ……!」

 

 アルベルトの左手から紋章が浮かぶと、瑠璃とアルベルトの周囲に青いハニカム構造の障壁が展開される。

 

「フィーネの力と同じデスよ!」

「待って……!何か違う……!」

「ヤバい!瑠璃が閉じ込められる!」

 

 フィーネの力を目の当たりにしたことがある切歌と調はその違和感に気付くが、少し遅かった。

 

 輪はすぐに瑠璃の元へ走るが、目の前で分断されてしまう。

 

 次第にバリアが巨大なドームを形成し、使用者諸共、瑠璃を閉じ込めた。

 

「私達を分断する為に……!」

「姉ちゃんを出せえぇ!」

 

 目の前で家族を分断された翼とクリスが斬撃とミサイルを放つが、ひび割れることなく、ただ煙幕だけが残った。

 

 マリアの蛇腹剣、切歌の大鎌、調のヨーヨー、輪のチャクラムで一斉に仕掛けても傷一つ付けられない。

 

「これ、私のやつより一回り強力になってる……!」

「これもシェム・ハの力ってやつデスか?!」

 

 外からでは完全に破壊する事が出来ないバリアを前に、輪達はただ、中に閉じ込められた瑠璃の勝利を祈るしかない。

 

 バリアの中に障害物はなく、いるのは瑠璃とシェム・ハの眷属となったアルベルトの二人だけ。バリアによって、外からの援護は望めない。

 

 瑠璃の二叉槍とアルベルトの槍、同じバイデント、もといエレキガルの槍から作られたギアとファウストローブのぶつかり合い。

 

 まさに正真正銘、互いの生死を掛けた決闘。

 

「やああぁぁ!」

 

 瑠璃が黒槍と白槍を振るい、アルベルトの槍が受け流しては突き、それを避けては飛び、黒槍と白槍の穂先にエネルギーを充填、それを十字状の斬撃を放つ。

 

【Crossing Gemini】

 

 その斬撃を槍を振り上げて弾く。そして、槍の穂先を瑠璃に向けると、そこから紫色の炎弾が機関銃の如く連続発射する。

 

 空中では避けようがないが、瑠璃は二本の槍で弾いてやり過ごす。だが着地の隙を見逃さないアルベルトは槍を振り下ろすも、瑠璃は二本の槍で防御する。

 

(強い……!同じ槍で作られているのに……力も技も、何もかも向こうが上……!)

 

 同じ聖遺物で作られたもの同士がぶつかれば、あとは本人の技量次第。シェム・ハに支配され、その力も最大まで引き出されている上に、アルベルトは数千年も生きて戦いを重ねてきた分、どちらもアルベルトが優位に立っている。

 

 だがそれでも瑠璃には負けられない理由がある。

 

「はあぁっ!」

 

 輪譲りのヤクザキックでアルベルトを蹴飛ばす。二人の距離が開き、体勢を立て直そうとする瑠璃だった。

 

「うっ……!」

 

 突如、激しい頭痛に襲われ、頭を抱える。

 

「こ、これ……あの時と同じ……でも……!」

 

 バルベルデの記憶が蘇ろうとした時と同じ現象、過去の記憶のヴィジョンが蘇る。既にあの地獄の記憶は蘇ってからは一度も起きなかったが、ここに来て再発してしまう。

 

 だが今度の記憶は、どこか違う。実際に瑠璃には覚えのない記憶なのだが。頭痛もすぐに収まり、それどころか懐かしさを感じてしまう。

 

「この記憶……っ!」

 

 だが呆ける余裕はここにはない。槍の穂先から放たれた炎弾が迫る。

 

 咄嗟に槍を突き、相殺してみせるが目の前に黒い槍が床に刺さる。

 

「これは……っ!」

 

 だがその一本だけでなく、背後、左右と瑠璃の周囲を囲うように槍が突き刺さる。

 

「しまった……!」

「手遅れだ……エレキガル」

 

 この槍は檻の役割だと気が付くも、周囲の槍に強力なエネルギーが増幅され、赤い光を放つ。それが臨界まで達した瞬間、全ての槍が爆破された。

 

 いくらギアを纏っているとはいえ、至近距離でくらえばタダでは済まない。

 

「呆気ない……っ?」

 

 アルベルトを通してほくそ笑んだシェム・ハだったが、爆破による煙が晴れると、黄金のバリアを纏って立っている瑠璃の姿があった。

 

「それは……!」

 

(エレキガルの魂と一体化した私なら、この槍の力を引き出せるかもしれない!それを、このアマルガムで!)

 

 ターゲット(アルベルト)を真っ直ぐ見て、アマルガムを纏った瑠璃は手を頭上に掲げる。

 

 黄金の花弁が輝きを放ちながら舞うと、黄金の穂先が螺旋状にうねり、穂先が二つある、刺々しくも神々しいランス状の二叉槍が黒と白、それぞれ一本ずつ形成される。

 

「異端の玩具が……!」

 

 アマルガムを展開させたバイデントのギアを忌々しく睨み、再び槍の分身体を展開して一斉掃射する。

 

 だが瑠璃は怯みもせず、右手の黒い二叉槍を突き出すと、黒いエネルギー波が放たれ、槍の分身体を全て吹き飛ばす。

 

「馬鹿な?!」

 

 アルベルトが狼狽えた隙を、瑠璃は見逃さない。すぐさま接近し、黒い二叉槍を振り下ろすも、槍で受け止められた上で押し返される。

 すぐさま瑠璃は白い二叉槍を突き出し、槍の穂先で二叉槍の軌道を逸らす。瑠璃とアルベルトの槍が何度も躱され弾かれ、鍔迫り合う。

 

(この感覚……前にも、二人で……)

 

 刃が交え合う度に思い返される古の記憶。女神と神官の剣戟。

 

(そうだ……私は、これを体験してる。アルベルトと何度も……いや、そうじゃない(・・・・・・)!)

 

 

 何を寝ている、立て■■■!

 

 

 女神が口にした名前。それは神官に向けて呼ばれたもの。アルベルトの正体が、エレキガルに仕えていた神官であれば、それこそがアルベルトの本当の名前という事になる。

 

(あなたの……本当の名前……)

 

 まだ記憶に朧気な部分はあり、まるでノイズに遮られているかのように聞こえる。だがエレキガルの槍を通じて、少しずつ鮮明になりつつある。

 

 だからこそ、この悲しき戦いを終わらせなければならない。

 

 鍔迫り合いを解き、距離を取った瑠璃。それぞれの二叉槍にエネルギーを充填、それぞれの槍の穂先に神々しい光と禍々しい闇が集まる。

 

(ごめんなさい……あなたを救う為には……もうこれしか……!)

 

 瑠璃が高く跳躍すると、それぞれの手に持つ二叉槍を一気に投擲する。放たれた二つの槍は高速で回転しながら、その軌道が螺旋状となったそれは1つとなってアルベルトに向かう。

 

「破砕してくれる!」

 

 槍の穂先が紫色の閃光が輝き、それを突いて二叉槍に向かって刺突、槍同士がぶつかり合う。

 

「ぐっ……何だ、この力は?!」

 

 攻撃に特化したアマルガム・イマージュの威力が、徐々にアルベルトを追い詰めていく。やがてアルベルトの持つ槍が耐えきれなくなり……

 

 

 

 

 ガキィン!

 

 

 

 

「な……っ……!」

 

 二叉槍と接触した槍の穂先が耐えられなくなり、粉々にされる。身を守るものが無くなったアルベルトの目の前で爆発した。

 

 

【GRAND X】

 

 

 爆破した衝撃で吹き飛んだ二本の二叉槍を手に取ってアルベルトに向かって駆け出す。

 

「その支配を断ち切る!」

 

 瑠璃は黒い二叉槍を突き出し、アルベルトの身体を貫いた。

 

 

 


 

 

 我が主は、元々威厳とは程遠いくらい優しい目をしていた。

 

 非業な死を遂げた魂を見る度に、誰にも見せないよう彼女は哀れんでいた。

 

 だが裁く者として、一切の私情は許されない。

 

「主……」

「ごめんなさい」

 

 私は見ていられなかった。心根の優しい本来の主を、主自身がそれを殺して冷酷な主を演じなければならない。

 

 そんな主を憂いた私は、独断でエンキに攻撃を仕掛けた。

 

 だが、私は弱かった。そんな私が、エンキに勝てるはずもなく、無様な敗北を喫した。私は、エンキに裁かれる事を覚悟した。

 

「……殺せ!」

「いや……君の言い分は間違っていない」

 

 そう言うと、彼は剣を納めた。

 

「エレキガルには、気の毒な事をした」

 

 エンキは我が主の叛逆計画について勘づいてはいた。だが我が主は巧妙にその証拠を隠匿していた。故にエンキも手を出す事が出来なかった。

 

 だが、真実と真意を知った事で、エンキはこの件を不問にした。

 

「これからは、エレキガルと共に、地球の命を……」

「エンキ様!急報です!」

 

 そこにエンキの手下が慌てて入って来た。

 

「冥府の神殿が攻撃を受け、交戦中との事!」

 

 その急報に、私は絶句した。急報を伝えた兵の胸ぐらを掴んで問い詰める。

 

「一体何が起きたんだ?!」

「そ、それが……シェム・ハ・メフォラシュが、エレキガルへの攻撃を!」

 

 それが引き金となり、私の心は恐怖に陥った。何故シェム・ハが我が主を襲ったのかは、この時には知る由もない。だが、私はすぐに神殿へと走った。

 

 だが神殿に辿り着いた時は、既に辺りは静寂だった。得体の知れない恐怖に、私は心が壊されそうになるも、主を探した。

 

 神殿を片っ端から走って探す。主の勝利を信じて。

 

 そして、裁きの場である玉座の間の扉を開けた。

 

「主!ある……」

 

 裁きの間の中心で、血の池の上に倒れていたアヌンナキ。目の前の光景を目の当たりにした私は酷く狼狽えた。

 

 その血の池にされていたのは……

 

 

「主ぃ!!」

 

 

 心臓を貫かれて、血は既に多く流れていた。止血しようにも、もう手の施しようがないのは見て分かる。だが、諦められなかった。

 

「主……!気をしっかり……主……!」

「……っ……あなたは……」

 

 微かに息はまだある。だが、もう間もなく命の灯火が消えようとしていた。

 

「シェム……ハ……ユグドラシルを……」

「喋ってはいけません!血が……」

 

 主の死が定められている事が受け入れられず、涙を流して足掻こうとした私に、主は首を横に振った。

 

「時間が……ない……」

 

 すると、主の右手から禍々しくも神秘的な二叉槍が姿を現す。

 

「この槍に……魂を宿す」

「え?」

「ユグドラシルを、シェム・ハを討つ為……この槍に………魂を……」

 

 この段階でも、槍には禍々しい力を感じさせる。何故魂までもを込める必要があるのか、私には分からなかった。

 

「それで……私の肉体は滅びる……」

 

 魂の無い肉体は抜け殻と同じ。肉体的な死を迎える前に精神的な死が訪れる。槍に魂を宿せば、もう二度と主に会えなくなる。

 

「主……私は……」

「いつか……また会える……。その槍を……真に支配する、人間を……その時に……」

 

 槍に魂を宿す真意を悟った私は、涙を流した。また会える……その言葉が、私を救ってくれたから。主の手を握って、私は誓った。

 

「約束します……私の愛は……永遠にあなただけに……!どんなに時が経とうと、私はあなただけを愛し続けます……!いつか……いつかきっと……あなたとまた会える時が来ると信じて!」

 

 それを聞いた主は、満足そうに笑みを浮かべた。すると、槍を握る右手に最後の力を込める。

 

 その瞬間、主の身体に燐光が纏う。少しずつ主から力が抜けていくのが分かる。

 

 

「主……」

「また……会う日まで……」

 

 

 

 

 

 

 さようなら

 

 

 

 

 

 

 その言葉を最後に、主の肉体は動かなくなった。

 

 


 

 

 アルベルトの口から吐き出された血が瑠璃の頬に掛かる。

 

「あっ……!」

 

 その時、瑠璃の、もといエレキガルの記憶が蘇った。あの時、槍に魂を宿した最期の日を。瑠璃の両目に涙が溢れて零れ落ちた。

 

「があああああぁぁぁ!!」

 

 アルベルトを支配しているシェム・ハの断末魔が、バリアのドームを壊して遺跡中に響く。

 

「な、何これ?!」

「お、おい!どうなってんだ?!」

 

 中の状況がようやく見えると思いきや、その中心は爆発の衝撃による煙と、耳障りな断末魔。静観する事しか出来なかった装者達は耳を塞ぐ。

 

 次第に断末魔は消え、煙も晴れた。

 

「あれって……!」

 

 そこにいたのは、瑠璃によって倒されたアルベルトと、それを見下ろす瑠璃。瑠璃が仲間達の方を見ると、頬には返り血、両目からは涙が流れていた。

 




本物の瑠無・ミラー

瑠無に化け、S.O.N.G.を翻弄したアルベルト。だが本物の瑠無は存在する。

いや、存在した。

元々は櫻井了子と同じ、考古学者であり医学にも通じる秀才だった。アーネンエルベに所属し、そこで聖遺物の研究していた。

アルベルトと共同でバイデントの研究をしており、その時に親交を深めていた。

だがバイデントのギアの起動実験で、大事故が発生。その災害に巻き込まれ、非業の死を遂げた。


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BEYOND THE BOUNDS

最終決戦目前!いよいよラストスパートだァ!


シェム・ハの死後、ネットワークジャマーシステム・バラルを残してアヌンナキは地球からの撤退。残された我々ルル・アメルは統一言語を奪われ、他者との理解出来なくなった。

 

 それからというもの、私は死屍累々の屍の道を歩んだ。

 

 恐怖したルル・アメルは他者を排除する為にノイズを作り出し、同じ人間同士の殺し合いに発展までした。

 

 残ったルル・アメルは、私とフィーネだけになってしまった。

 

 主より賜ったこの肉体は、老いで死ぬ事はない。1人になった私は、槍を支配出来る人間を探して世界を渡り歩いてきた。

 

 槍を操れる者と接触し、それを手にさせる。これで主の魂がその人間を受け入れる事が出来れば、主は復活される。

 

 だが……すぐには現れなかった。槍を手にした途端、発狂して息絶える者、支配に失敗し、力に飲み込まれて破壊者と化して死を遂げた者、いずれの結末を迎えるにせよ、槍に手を触れた人間は尽く死んだ。

 

「やはり駄目か……」

 

 いつしか、主の槍は強大な力を持つが、不幸を呼び寄せる死の槍として噂が広まり、槍を目当てに私の命を狙う者が現れた。

 

 彼らを撒く為に、追っ手を殺し、顔を変えて表舞台から姿を消した。

 

 そして、パヴァリア光明結社の統制局長 アダム・ヴァイスハウプトが神の力の奪取を目論んでいるという情報を手にした。

 

 だが奴は完全故に強大な力を備えており、今の私では太刀打ちする事は出来ない。不本意だったが、主の降臨を邪魔されるわけにはいかない。私は錬金術師となる為に、女の肉体に作り替え、名をアルベルトに変えた。

 

 そこからまた長い時を経て現代、櫻井了子によってシンフォギアシステムが作られた。

 

 シンフォギアは、聖遺物の欠片を触媒に作られる対ノイズ兵器。私は考えた。主の槍を欠片にして作った兵器であれば、凡庸な人間であっても支配出来るようになるのでは、そう考えた。

 

 私はパヴァリアのスパイとしてアーネンエルベに潜入……

 

 ではなく、密かに主の槍をバイデントと称して、アーネンエルベに接触。利害が一致したという事もあり、私はアーネンエルベの二重スパイとしてパヴァリア打倒を目論む。

 

 そして、当時研究員だった瑠無・ミラーと共に研究した。私にしては、随分とかなり深入りしすぎてしまうくらい、親交を深めていた。

 

「アルベルトってさ……好きな人いる?」

「な、何を?」

「だって、いつもは何考えてるかさっぱりなのに、夜の時だけ、時々切ない顔してるんだもん」

「な、なんだそれは?」

 

 私とした事が、人間に図星を突かれた。だが、それを否定する事は出来なかった。

 

 主との再会が、私に残った唯一の原動力なのだから。

 

 

 だが、私はパヴァリアの使者としてバルベルデに訪れていた時……

 

「ボールありがとう!」

「……君、名前は?」

「雪音ルリ!」

 

 私は雪音ルリ、後の風鳴瑠璃に出会った。

 

 あの日の事は忘れない。彼女の容姿は、あの方と瓜二つだった。偶然かもしれないが、私が動揺するのに十分な要素だった。

 

 だが、それを押し殺してバルベルデ政府と邂逅、異端技術の一端を提供した。

 

 任務を終え、アーネンエルベで研究をしていた時だった……瑠璃がバルベルデで行方不明になっていた事を。

 

 一度は狼狽えた。すぐにでも探し出したかったが、バルベルデ政府に見つかれば、パヴァリアに知られる可能性もあった。

 

 アダムに私の正体を知られれば、全ての企てが無に帰す。故に、バルベルデで自由に動けるようになる機会を待った。

 

 やがて、バイデントのシンフォギア開発に成功。すぐに適合実験がされ、私も密かに立ち合った。

 

 

 

 だが実験は失敗した。

 

 

 適合者は発狂して、最後は絶唱を放って死んだ。その余波で瓦礫が私の真上から落ちてきた時だった。

 

 

「アルベルト!」

 

 

 瑠無の声がしたと思ったら、私は突き飛ばされた。その時、視界に映ったのは、瓦礫によって瑠無が見えなくなった事だった。

 

 その日、実験に関わっていた者は全員死亡した。瑠無もその一人。私は公式的に参加していたわけではないので、参加者の頭数に含まれなかった。

 

 数日後、パヴァリアの使者として再びバルベルデに訪れる事が出来た。

 

 政府との接触、支援をした後、私はルリを探した。バルベルデ政府と思われるベースキャンプ、基地を徹底的に洗い出した。

 

 そして、ようやく瑠璃が収容されていると思われる基地に辿り着いた。そこだけはディー・シュピネの結界に守られていて、見つけ出すのに手こずった。

 

 私は正体を偽り、兵士達を殺して回った。

 

「何処だルリ!!何処だぁ!!」

 

 何度も呼び掛けるが、応答はない。地上の階を全て回った後、地下へ向かった。

 

 機関銃を乱射する兵士達を全て殺し、私は地下牢の鍵を開けた。

 

 そこはまさに阿鼻叫喚の地獄と言っても良かった。捕らえられた少女達が、男達の娯楽の為に嬲られ、犯されてい。だが、殆どの少女は息絶えていた。

 

「ルリ……いるのか?!ルリ!」

 

 牢屋中を探し回って、ようやく見つけた。

 

「っ……!」

 

 一糸まとわぬ姿となって倒れていたルリ。だが既に犯された形跡があり、その身体には無数の傷がつけられ、光を失った両目には涙が流れていた。

 

「ルリ!」

 

 ルリを抱えて呼び掛けるが、反応は帰って来ない。だが体温はまだあった。

 

「生きてる……生きてる……嗚呼……良かった……!」 

 

 失ってばかりの私を救ってくれた光。それが瑠璃だった。

 

 だが、ここで起きた事を覚えている限り、瑠璃の心は死んだままになる。彼女が生きていく為にも、ここで起きた事は忘れた方が良い。

 

 ここで起きた記憶を私が吸い上げた。傷こそ残ってしまったが、あらかた身体を清める事は出来た。あとは国連軍にルリの居所を知らせて救助してもらう。

 

 私がここに来た事は覚えていないだろう。だがそれで良い。もう二度と会うことはない、会わない方がいい。出来る事なら、戦いを知らずに生きていてほしい。そう願った。

 

 

 だが、その願いは叶うことはなかった。

 

 

「まさか……君なのか……?!」

 

 

 次にルリを見た時は、バイデントのギアを纏っていた。これで、ルリが我が主の転生体である事が証明された。

 

 記憶を返し、一度は破壊者と化したが……それでも瑠璃は生きる事を諦めなかった。

 

 彼女は強くなった。もう誰かに守られずとも、自分の足で歩んでいける。だが、君はこれから待ち受ける運命と向き合わなければならない。

 

 

 瑠璃……たとえ君が拒もうとも、私はあの方を蘇らせる。

 

 


 

 

 瑠璃とアルベルトの一騎討ちはバリアの外からでも激戦であると感じさせる程の勢いだった。その末に、アルベルトを倒した瑠璃だったが、瑠璃は倒したアルベルトを抱き抱えていた。

 

「瑠璃……?」

「何やってんだ姉ちゃん?」

 

 翼とクリスが瑠璃を心配して声を掛けようとするが、事情を察した輪がそれを制止した。

 

「今は……二人きりにさせてあげてください」

 

 

 エレキガルの記憶が全て蘇った事で、アルベルトの素性を知る事となった。彼が生涯の全てを、自分(エレキガル)の再臨と再会に捧げて来た事を。

 

「助けられなかった……もう、この手段しか……」

 

 両手に持っていた二叉槍を落とすと、光の粒となって消えた。瑠璃の身に纏うシンフォギアも解除されると、瑠璃は膝から崩れ落ちる。

 

 エレキガルの槍でシェム・ハの支配から解放する事が出来ても、死体となった彼女を操っていた。その支配が無くなれば、アルベルトは死体に戻る。

 

 救う手段など最初から無かった。

 

 

「う……ぁ……」

 

 微かに聞こえる呻き声。声が聞こえた方を見ると、アルベルトが息を吹き返した。だが自力で起き上がる力すら、残されていない?

 瑠璃が慌てて走り出し、アルベルトの頭を自分の膝の上にして寝かせてやる。

 

「き、君は……」

 

 霞みゆく視界に映る瑠璃の泣き顔。涙の粒が頬に落ちる。

 

「嗚呼……やはり、あなた(・・・)は……」

「何で……そんな満足そうに笑ってるの……?私はあなたを……」

「良いんです……あなたの手で、討たれるのであれば……私は満足です」

「ごめんなさい……あなたを、こんな事になるまで思い出せなかった……」

 

 エレキガルの眼を通して、アルベルトの真の姿だった神官の面影が重なる。

 

「今やっと……あなたの事を思い出せた……。あなたの事を……あなたの名前……。バルベルデで私を救ってくれたのも……やっと、思い出せたのに……それなのに……!」

 

 全てを思い出すには、あまりに遅すぎた。それがアルベルトの長い命が終わりを告げようとしていた時だった。

 

「私をあの地獄から救ってくれたのは……あなただったんだね……『コーダ』」

 

 フィーネと同じ、終わりの名を持つ者。それがアルベルトの本当の名前。

 

「やっと……()をその名で……呼んでくれましたね……」

「ごめんなさい……あなたの事、何一つ思い出せなかった……!こんなになるまで……私は……!」

「良いのです……。あなたと再び、巡り会う為に……僕は、ここまで生きる事が出来たのですから……」

「だけど……だけど……その為に、あなたの運命を狂わせてしまった!心根の優しいコーダに、多くの命を奪わせてしまった!なのに、最期がこれなんて……これじゃあ……あなたが報われないよ!」

 

 涙を流して泣き叫ぶ瑠璃の頬に、コーダの手がそっと触れる。

 

「どうか……泣かないで……」

「コーダ……」

「主には……笑顔が一番なのですから……」

 

 瑠璃がコーダの手に触れる。だがその時、コーダの手が光に包まれる。手だけではない。全身が燐光に包まれている。いよいよ、別れの時が訪れた。

 

「申し訳ありません……僕は、一足先に逝きます」

 

 少しずつコーダの身体が透明になり、消えようとしている。

 

「待ってて……どんなに時が掛かっても、必ず会いに行くから……!」

「ええ……待っています……。また、会える時を……」

 

 最期は笑顔でそう言うと、二人の顔が近づいていく。そして……

 

 二人の唇が触れ合い、重なった。五千年の時を経て、別れの口付けを交わした。

 

 唇同士が離れると、その間には一つの糸が紡がれていた。

 

「さようなら……瑠璃……。我が主……エレキガル……」

 

 聖遺物の研究員 瑠無・ミラー、パヴァリア光明結社の錬金術師 アルベルトという多くの仮面を作り、ただその生涯をかけて愛する主を復活させるべく、全てを翻弄した先史文明最後の人間 コーダ。

 

 その最期は身体は光の粒となって消滅した。

 

 抱いていた筈の身体が消え、残ったのはバイデントのファウストローブのスペルキャスターである指輪。愛してくれた者を失い、涙が止まらなくなった。

 

「ありがとう……コーダ……」

 

 指輪を握りしめ、咽び泣きながら前世で愛した人の名を呼んだ。

 

 そこに瑠璃に歩み寄り、その肩に手を置く。瑠璃は振り返った。

 

「輪……」

 

 コーダの真相を知っていた数少ない人間の一人である輪。瑠璃がアヌンナキとしての記憶が蘇った事は、何となくであるが察している。

 慰めてやりたい所だが、先史文明期の事は何一つ分からない輪に口を挟む事は出来ないし、何の慰めにもならない。だが、今の状況で言える事はある。

 

「辛いと思うけど、まだ終わってない」

 

 輪の言う通り、まだ終わっていない。突如照明が赤く点灯する。明らかな異常事態だ。マリアがエンキに問う。

 

「教えて、何が起きているの?!」

『このままでは、ここマルドゥークが新たなシェム・ハと再生……』

 

 まだ伝えたい事があったようだが、音声はノイズへと変わり、その姿も別の姿に変わる。

 

『このようにな』

「シェム・ハ……!」

 

 エンキだったプログラムがシェム・ハへと変わり、皆が呆然とする。

 

『万謝するぞ人間。一年前のあの日、刹那に人が一つに繋がった事で我は蘇り、メガラニカから浮上を果たせた』

(一年前……?はっ……!あの日……!)

 

 思い当たる節。かつてフロンティア事変にて、たった一度だけ、マリアとセレナの故郷の歌、Appleによって全人類が繋がった。

 

「そうだ……Appleと言われた歌。あれは形を変えて現代に残った、統一言語の断片!」

 

 エレキガルの記憶からAppleの正体を口にした瑠璃。

 

「あれで、シェム・ハの封印が解かれてしまった!」

「では、人は一つに繋がれないのではなく……」

「繋がってはいけなかったって事なの?!」

 

 翼とマリアの問いに、瑠璃頷いた。

 

『だが真実を知った所で、お前達は月遺跡ごと吹き飛ばされる運命』

「まさか……!」

 

 瑠璃が気付いた時には、既に遺跡の周囲に巨大な火柱が上がり、回廊から炎が駆け巡る。その衝撃が管制室にまで及んでる。

 

「このままだと、地球に帰還どころか、宇宙の藻屑だ!」

「ギアを!ギアを纏うデスよ!」

「ギアを纏うたって、どうしようも……」

 

 その前に管制室の天井が崩れ落ちてしまった。そのまま月遺跡は丸ごと爆発し、消滅した。

 

 地球にいるシェム・ハはユグドラシルを背に、それを見上げていた。シェム・ハの足元には、ダウルダブラのファウストローブを身に纏っていたキャロルが地べたを這っている。

 

「爽快である。忌々しきは全て塵芥に。怪物どもは実に役立ってくれた。後は月蝕に合わせて……っ?」

 

 全てシェム・ハの思惑通りとはいかなかったようだ。

 

 

 咄嗟にギアを纏い、アマルガムへと変身したシンフォギア装者。瑠璃に抱えられ、アマルガム・コクーンのバリアに守られている輪。

 そして、七人の前に先を行くノーブルレッドの三人。その三人が作り出す《ダイダロスの迷宮》が七人を導いていた。

 

「私めら三人が形成する、全長38万キロを超える哲学の迷宮を!」

「遺跡母艦の衝撃を遮断するだけでなく、空間を捻じ曲げて、地球への道を、切り開くんだぜ!」

 

 ノーブルレッドの三人掛りで作られる最強の哲学の迷宮。

 

「最速で最短、真っ直ぐに一直線に……だけど……!」

 

 その強大すぎる力故の代償。三人の呻き声と共に、身体から光が舞い、消え始めている。

 

「ふざけなんなよ!」

 

 ノーブルレッドの末路を望まぬ輪が叫んだ。

 

「アンタ達を、人として裁くって言ったじゃん!それを……こんな形ですっぽかそうなんて……!そんなの……そんなのズルすぎるよ!」

「……ごめんなさい」

 

 ヴァネッサが輪に謝罪の言葉を口にした。

 

「恨み続けたって構わないであります……」

「お前なら、怪物って蔑まれても……仕方ないぜ……」

「アンタ達……あっ……!」

 

 エルザとミラアルクが消えてしまった。残るヴァネッサも、もう間もなく消える運命となる。

 

「言えるわけないじゃん……私達を助けておいて……怪物だなんて……。やっぱりアンタ達、ズルいよ……!」

「……ありがとう。私達を人として、向き合ってくれて……」

 

 ヴァネッサが目を閉じて礼を言い、その身体も光となって消えてしまった。

 

 三人が消えた事でダイダロスの迷宮で作られた道が途切れた。後はこのまま地球へと落ちていくだけだが、問題はどこに着地すれば良いかだ。

 

 そこに瑠璃が提案する。

 

「皆!手を繋ごう!」

「姉ちゃん、何する気だ?!」

「エレキガルの槍とガングニールの力で、皆のギアの力を引き上げる!」

 

 いくら防御力に特化しているアマルガム・コクーンでも、大気圏に入っては耐えきれない。それをエレキガルの槍を介して、ガングニールの束ねる力を引き出し、全員のギアの出力を底上げしようというのだ。

 

「出来るのか?!」

 

 翼が問うが、瑠璃に迷いなく頷く。

 

「皆!手を繋ごう!」

 

 瑠璃の左手と響の右手が繋がり、響の手に輪、翼、クリス、瑠璃の手にマリア、調、切歌の並びに手が繋がる。

 

 すると、装者達全員の身体に激しく燃え上がる炎の如く、オーラが表れる。

 

「これは……!」

「力が漲ってくる……」

 

 翼とマリアが引き上げられた力に驚く。

 

「これなら何とかなりそうデスよ!」

 

 切歌が勇むが、瑠璃の少女は険しい。それに気づかない輪ではなかった。

 

「どうしたの瑠璃?」

「足りない……!」

「え?」

「まだ足りないの……!」

「はあぁっ?!」

 

 流石の輪も驚愕を隠せない。いくら瑠璃がエレキガルの魂を宿しているとはいえ、まだ槍の全てを制御出来ていない。

 

 このまま大気圏に入れば、ギアが耐えきれずにお陀仏になってしまう。

 

「だったら今度はエクスドライブだ!」

 

 響が力強く提案するが、それには問題があった。

 

「だけど、可能とするだけのフォニックゲインを……!」

「出来る!」

 

 クリスが懸念を示すが、瑠璃が迷う事なく響を信じる。

 

「槍の力でフォニックゲインを引き上げれば、行けるかもしれない!」

「信じよう!エレキガルさんの槍の力を!胸の歌を!シンフォギアを!」

 

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el baral zizzl…… 

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl……

 

 最後の望みにかけて、八人は絶唱を唄う。そのまま大気圏にはいり、八人を守る黄金のバリアの周りに衝撃が襲い掛かる。

 

 だが、次第に軋む音と共にバリアに亀裂が生じる。

 

「ヤバい……!」

 

 輪がその事に気付くも、すぐにバリアが砕け散った。八人の悲鳴が、紅に染まった地球の空に木霊する。

 

「月からの帰還とは驚嘆に値する。なれどここまでよ」

 

 シェム・ハが空を見上げると八つの光が、流れ星のように落ちていく。

 

「流れ星、堕ちて……燃えて……尽きて……」

 

 だがその流れ星はそれぞれ八つの色へと変えて、真っ直ぐシェム・ハの方へと方向を変えている。

 

「そしてえええぇぇ!!」

 

 叫びとともに地上に降り立った。満身創痍のキャロルが徐に立ち上がった先にいたのは、炎の如く燃え上がり、純白と漆黒の装甲を身に纏う装者達。

 

 エレキガルの槍の力によって引き上げられたそのギアは、バーニング・エクスドライブ∞、ファウストローブはTypeΩとなった。

 

 ここに人と神、未来(あした)をかけた最終決戦が幕を開ける。

 

 

 




AXZから登場し、瑠璃達を翻弄し続けたアルベルト、もといコーダが退場です。

おまけ キャロルの誕生日編

チフォージュ・シャトーにて……

輪:やっほー遊びに来たよー

キャロル:友達の家に来る感覚でここに来るな!

輪:えー?別にいいじゃーん

キャロル:大体、オレは既に……

輪:はいそこ、細かい事を気にしてはいけません。所詮おまけなんだから、時系列なんて関係ないの

キャロル:サラッととんでもない爆弾を投下するな!

輪:それよりも……ほらキャロル。誕生日おめでとう!

キャロル:あ、そうか……今日だったのか

輪:やっぱ、長く生きてると自分の誕生日忘れちゃうものなのかな?自分の年齢分かる?ここが何処か……

キャロル:人をボケ老人みたいに言うな!お前は俺を虚仮にしたいのか?!

輪:冗談だよ冗談!ほら、いつもこんな広い城1人で寂しいと思ってさ……

キャロル:寂しいだと?バカを言うな。オレには有能なオートスコアラー達が……

輪:それ、友達じゃなくて手下じゃない?

キャロル:ぐっ……

輪:まあほら、アンタはアンタでこれまで色んな思いをして生きてきたんだろうけど、自分の誕生日っていうのは、やっぱり祝われたいものだよ。

キャロル:……

輪:ほら、色々作ってきたから一緒に食べよう

キャロル:ふんっ。仕方あるまい。お前がどうしてもと言うのなら、食ってやらんでもない

輪:素直じゃないんだから……。キャロル、ハッピーバースデー


キャロルお誕生日おめでとう!


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9つの調和

遂にラストバトル、開幕!


月からの帰還を果たし、シンフォギア装者はバーニング・エクスドライブ∞に、輪のファウストローブをはTypeΩへと、新たな決戦機能を得て、人と神、未来の存亡を掛けた戦いが始まろうとしている。

 

 装者達の帰還をモニタリングしていた本部は何もしていないわけではない。

 

 ネットワークを通じて起動したユグドラシルであるが、裏を返せばネットワークから妨害を仕掛けることも可能だ。

 

 米国大統領の呼び掛け、緒川家の兄弟の働きにより、全人類が一丸となって各所にファイアウォールを設置。ユグドラシルの稼働を押し止めていた。

 

 それが功を奏し、装者達の到着前に手遅れにならずに済んだ。

 

 こうして装者達とキャロルが一同揃い踏みとなり、未来に憑依しているシェム・ハと対峙する。

 

「呪われた拳と魂を支配する槍、我の依代たる友の体を前に何とする?」

 

 響は昨年の未来のやり取りを思い返す。

 

 

 

 

 じゃあ、私が誰かを困らせてたら響はどうするの?

 

 

 

 

 あの時は唐突すぎて、上手く答える事が出来なかった。だが今なら迷いなく言い切れる。

 

「誰かを困らせる誰かがいるのなら、私が止める!この拳で!」

「俺達九人の歌が揃った今なら神の摂理を覆せる!共に行くぞ!」

 

 キャロルの号令で一斉に飛び立つ。シェム・ハの手から光弾が放たれるも、バーニング・エクスドライブ∞とTypeΩは飛行能力が備わっている。空を翔けながら光弾を掻い潜る。そこにキャロルが四大元素を放つ。

 

 シェム・ハはバリアで迎え撃つも、威力を相殺しきれず、バリアは瓦解。神獣鏡のファウストローブに傷をつけられる。

 

「声を重ねて力を増したか……だが!」

 

 シェム・ハには神の力。受けたダメージを無かった事にする力がある。それを打ち破れるのは神殺しの力、そして同じ神の力を持つエレキガルの槍のみ。

 

 シェム・ハは神の力を用いて無傷の状態にする……

 

「っ……まさか?!」

 

 だが、元には戻らなかった。

 

「不条理の執行に、無効化されない?!」

 

 それに気が付いた装者達は一斉に攻撃を仕掛ける。調の鋸と切歌の大鎌の刃を投擲、それを弾くも翼が間合いに入り蒼炎の刃を振り下ろす。

 

 鍔迫り合いに持ち込んだ瞬間、ダウルダブラの糸がシェム・ハの身体を絡め取る。

 

 身動き取れなくなった隙に再び攻撃を仕掛けるも、シェム・ハを守る小型の鏡が四機から光線を放れ、それを打ち合った刀があえなく折れてしまう。

 

「神獣鏡の輝きで!」

「こっちが神殺しなら、あっちはシンフォギア殺しなのデス!」

「それでも当たらなければ!行くよ瑠璃!クリス!」

「「うん(おう)!」」

 

 輪が勇んで特攻する。瑠璃の穂先、クリスの銃口から光線を放ち、道を作る。迫り来る神獣鏡の光線を掻い潜り、炎を纏ったチャクラムをまるでメリケンサックのように持って、シェム・ハに向かって殴り掛かる。

 

 小型の鏡から展開されたバリアで迎え撃たれるも、咆哮と共に力を引き上げ、強引にぶち破って殴り飛ばした。

 

「ほんとに効いてやがる!これって、エクスドライブの力なのか?!」

「さあね。けど手応えはある!」

「喜ぶのは後!来るよ!」

 

 巨大な紫色の光柱が上がり、膨大なエネルギーが検知される。そこから巨大な機体と一体化したシェム・ハは、まさにデウス・エクス・マキナとなっている。

 

 言うまでもない。これからが本気であるということが。

 

「我が欲したのは権威や力などではない。その先にある未来だ!」

 

 機体の真上からシェム・ハの紋章が浮かび上がり、全方位に飛来する神造生命体が大群となって出現する。

 

「随分とまあ、こんだけの数を揃えちゃって……」

「けど、今の私達なら!」

 

 輪は軽口を叩くも、勝気な様子。それは瑠璃も同じ、数で負けようともそれを覆すだけの力が自分達にはあるから。

 

 神造兵器達が一斉に赤い光線を掃射する。響はそれを弾き、両腕のバンカーユニットを展開、腰部と脚部のブースターを全開にして突貫。翼も逆立つ髪を振り上げ、それを振り下ろすと蒼炎が放たれ、神造兵器の群れを堕とす。

 クリスは巨大な銃を構え、その銃口から極太のレーザーを発射、大型の神造兵器を撃ち抜く。

 

 輪の方も、巨大化したチャクラムをそれぞれの手に持ち、自身の体を高速回転。巨大な竜巻となって周囲の神造兵器を風圧で蹴散らす。

 

「シェム・ハ!」

 

 そんな中、冷たい闇の瞳をした瑠璃が巨大な二叉槍を振り下ろす。小型の鏡を今度は大量に配備、強固なバリアを展開して迎え撃つ。

 

「私達は、地球と人類の未来の為に……」

「そうだ。我らであっても独立した個を備える以上、擦過して激突する。特に……貴様はな」

 

 エレキガルとしての問いに、シェム・ハは憂いた様子で答える。

 

「私が……?」

「アヌンナキは命の創造を司る。だが貴様は相対、破壊と闇の化身。言わば……悪魔だ!」

「……っ!」

 

 エレキガルは、その強大かつ異質な力を持っていたが故に、同じアヌンナキ達から疎まれ、暗い闇へと追いやられた。

 

「故に、目論んだのだろう?蹶起を、戦争を!」

「どうしてそれを……!」 

 

 孤独にのたうち回り、もがいていたかの日から抜け出したくて全面戦争を企てた。まるでそれを見透かされているかのように突きつけられる。

 

 横から神造兵器の光線に狙われ、攻撃をやめて回避に徹してシェム・ハから距離を取る。

 

「まさか……」

「だが、失望したぞ。あの男の存在が、お前を変えてしまったのだからな。神とはちゃんちゃら……」

「つまり、私が戦争を仕掛けても仕掛けなくても、あなたは最初から……!」

「そうだ。我は、この実験場にて個の統合を試み、夢と見た!」

「個の統合……っ!」

 

 これが答えと言わんばかりに神獣鏡の光線が放たれる。だがその間をキャロルが割って入り、そのまま四大元素によって相殺される。

 

「キャロルちゃん?!」

「呆けるな!」

 

 キャロルにどやされ、再びシェム・ハと対峙するはずだった。

 

「いない……?!」 

「うわあぁっ!」

 

 悲鳴がする方を向くと、シェム・ハと一体化している神獣鏡の機体が、エネルギーシールドを展開させ、まるで戦艦のような形態となって、響に直接体当たりを食らわせている。

 

「響ちゃん!」

 

 すぐに助けに行こうとするが、目の前の神造兵器の群れが盾となって、行く手を阻む。

 

「退けえぇ!」

 

 二叉槍の穂先を高速回転させると、巨大なドリルのように前進。目の前を阻む神造兵器の群れに風穴を空ける。

 

「誰もが痛みに傷付き、分かり合えぬ夜に涙しない未来の為に!」

「今度はちゃんと言葉にしたい!」

「分かり合う事すらままならぬ不完全な言葉にか?その言葉で伝えられぬお前達への同じ想いを秘めていたからこそ、この依代は刹那に我を受け入れたというのに!」

 

 シェム・ハの目に浮かび、零れた涙。まるで未来の意思を映し出すように。

 

「未来が……?!」

 

 信じられぬ事実に驚愕を露わにするが、機体にエネルギーが集約され、加速していく。

 

「それでも!だとしても!」

 

 瑠璃が吠え、投擲した二叉槍が機体の頭上を直撃する。槍の威力は凄まじく。機体の加速が相殺され、吹き飛ばされた響は翼が受け止めた。

 

 瑠璃の中にあるエレキガルの魂にも、その想いがあった。

 大切な人がいた。自分に忠を尽くし、支えてくれた一人の男がいた。だが自身はそれを言葉に出来なかった。

 

 シェム・ハの真意を知った瑠璃もまた、エレキガルの意思を表すかのように一筋の涙を流す。だが、それでも瑠璃はシェム・ハと対峙する。

 

「それでも私はあなたを止める!たった一人、誰にも分かってもらえずとも、私を信じて戦い、生き抜いたコーダの為にも!」

「笑止。ならばあの時と同じように……」

「同じじゃない!今の私には共に唄い、共に戦ってくれる仲間がいる!」

 

 瑠璃の後ろからマリア、調、切歌が駆け巡る。

 

 大量の鋸をチャクラムのように投擲、大鎌の刃を放ち、蛇腹剣が鎖のように3種の刃を連結、合体した巨大ロボットを完成させる。

 ロボットはそのままエネルギーを纏いながら、シェム・ハを乗せた機体を殴り、爆発する。

 

「今が好機だ!」

 

 キャロルの号令で一斉に応える。

 

 

「「「「「「「「「オーバーブレイズ!!」」」」」」」」」

 

 

 9人が同時にエネルギーを増大させ、一斉に飛び立つと、そのエネルギーは一つとなって絡み合い、シェム・ハの機体に激突する。

 

 9人のパワーを乗せた拳によって、耐えきれなくなった機体は所々で爆発する。だが、装者達の方も増大するエネルギーに耐えきれず、ギアのアーマーが少しずつ崩れようとしている。

 

 だがそれでも、チャンスは今しかない。全ての思いをシェム・ハにぶつけて届かせる。

 

 

 

 

「呪われた拳で、私を殺すの?」

 

 

 

 

「っ……!」

 

 シェム・ハが憑依している、未来の容姿、声で響に訴えかけた。それが響に一瞬の躊躇いが生まれてしまう。当然、それを見逃すシェム・ハではない。

 

 すぐにシェム・ハの眼に戻り、ほくそ笑むと巨大な爆発が起こる。その衝撃で装者達は吹き飛ばされ、岸壁に叩きつけられて、そのまま地面へと落ちた。

 

「っ!ヤバい!みんな立って!」

 

 輪の声で皆が空を見上げると、強大なエネルギーが渦を作っている。その中心の光があるのは、天高く掲げられたシェム・ハの右手。

 

「無粋に足掻く!だが散り際は、白銀に煌めくがいい!!」

 

 全てを白銀に変えてしまう埒外物理の光線が放たれた。もはや避けるだけの力は残されていない装者達のいる大地から爆炎が生じる。

 

 だが中では……

 

「……はっ!」

 

 響の目の前にいたのは、巨大なバリアを展開し、仲間を守るキャロルと輪の二人。

 

 錬金術とフィーネの力によって、バリアは黄金に煌めく強力なバリアとなり、白銀の光は弾かれ、それらは周囲にの墓石や木々達を白銀へと変えていく。

 

「キャロルちゃんと、輪さんが……黄金錬成?!」

 

 錬金術であるキャロルはともかく、錬金術のれの字も知らない輪までもが黄金錬成をやっている。目の前で起こっている事態に、響は信じられない表情で目の当たりにする。

 

「何故お前までもが……?!」

 

 隣で共に黄金錬成を行っているキャロルも、これには理解出来なかった。だが、そんな事は輪にとって問題ではない。

 

「錬金術だろうが何だろうが、私は大事なものを守りたい!」

「ただの人間が黄金錬成とは……賞賛に値する。だが、その脆弱な肉体では、待つのは自壊だけぞ!」

「輪!!」

 

 ラピスのファウストローブにスパークが生じる。キャロルから分け与えられた錬金術のエネルギーがいよいよ尽きようとしている。

 

 さらにフィーネのバリアを最大まで引き出した上に黄金錬成。それが自殺行為に等しいのは、誰の目から見ても明らか。それでも輪は諦めようとしない。

 

(どうしてか……分からないんだけどさ……。一度でいいから、全部気にしないで、思いっきり歌えたらって考えちゃうんだよね……)

 

 目を閉じて思い返す。切っ掛けは何だったのか、思い当たるとしたら、あの日のライブだった。

 

(あの日、初めて行ったあのライブ、ツヴァイウィングの歌は、最高な輝きだった。私もいつか、あんな歌が唄えたらって……!)

 

 瑠璃の方を振り返る。

 

 

「後は……頼んだよ……!」

「輪……」

 

 

 最後になってもいい。二度と唄えなくなっても構わない。輪は再びシェム・ハに向き合い、かの歌を口ずさむ。

 

 

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el baral zizzl…… 

 

「まさか諸共に……?」

「輪……もうやめて……。お願いだからこれ以上は、唄ってはダメえええぇぇ!!」

 

 瑠璃が涙を流しながら叫ぶが、輪は振り返ることなく唄い続ける。

 

 バリアから黄金の光線が放たれ、白銀の光線に拮抗する。

 

 Gatrandis babel ziggurat edenal

 Emustolronzen fine el zizzl……

 

 唄いきった輪の口角から漏れる血。

 

 絶唱が終わると、バリアから黄金の光線の出力が跳ね上がり、完全に押し返す。不利と悟ったシェム・ハが身体を逸らすも、頭部のヘッドギアに掠り、その箇所が黄金になる。

 

「最後の最後で……アイツは錬金術を……っ!」

 

 ドサリと倒れる音。力を完全に使い果たした輪が纏うファウストローブが強制解除され、地を這っている。

 

「輪!!」

 

 瑠璃が輪に駆け寄る。仰向けに起こすが意識もなく、心臓も動いていない。

 

「ぁ……ぁ……。嫌だ……!嫌ああああぁぁ!輪!!」

 

 目の前で親友が動かなくなり、瑠璃の悲鳴が真紅の空に響く。

 

「落ち着け、風鳴瑠璃!」

 

 キャロルにどやされ、泣き止んだ。

 

「裏切り者はオレの手で繋いでみせる。 だから……」

「忌々しい」

 

 シェム・ハが倒れた輪を見下ろしてそう吐き捨てる。

 

「だが、自分の全てを燃やし尽くしたようだな」

 

 力が有り余っているシェム・ハに対し、装者達のダメージは甚大。まともに立ち上がる事すらままならない。

 

「ここまでなの……?!」

「否、ここからだ!」

 

 シェム・ハが右腕を水平に広げると、大地が揺らぎ始め、装者達の悲鳴があがる。

 

 本部にもその災害は観測されており、ブリッジにはアラートがなり止む気配がない。

 

「惑星規模の地殻変動を確認!これは……!」

 

 友里がモニターを確認すると、ユグドラシルの枝から展開されたブースターが一斉噴射している。

 

「ユグドラシル球殼からの推進噴射によって、地球の公転速度が加速しています!」

 

 惑星そのものを動かすユグドラシルの力の前に、本部であろうが戦場で戦う装者達ですらそれを止める術はない。

 

「さあ、還るのだ。5000年の在るべき形へ」

 

 シェム・ハの背後に浮かぶ月が影に覆われていく。すると、マリア、調、切歌の身体を紫色の燐光に覆われ、光の粒子が放出されていく。

 

 それは翼とクリスにも同じように表れている。それだけでなく、日本全土どころか世界中の人間にも同じ現象によって、全ての意思が消失する。

 

 シェム・ハが引き起こした月蝕によって、全人類の命はシェム・ハに集まっていく。

 

「太陽放射による接続障害を抑制、ここに生体端末のネットワークは構築される。全人類に忍ばせた全ての命の力を統合し、一にして全なるシェム・ハにて陵辱してくれる」

 

 もはやシェム・ハによる改造は誰にも止められない。たった二人を除いて。瑠璃と響が真っ直ぐシェム・ハを見る。

 

「神殺しと……エレキガル!その力で接続より免れたか?!」

「元々ユグドラシルは、私が作った装置。接続を回避する手段はいつでもしてある!」

 

 すると、瑠璃の左の薬指に装着された指輪が、藍色の光を放つ。

 

「それは、分かたれた槍の……!」

 

 アルベルト、もといコーダが死に際に遺した最後の切り札。それを天高く掲げると、瑠璃の身体は光に包まれる。

 

「この波動……共鳴、戦慄……まさか貴様!」

「悲しき物語によって分かたれた二つの槍が、ここに一つとなる!」

 

 

 光の中から、僅かに藍色を残した白いインナースーツは神装束を思わせる姿となった瑠璃が再び現れる。

 

 その手には完全聖遺物として蘇った二叉槍、禍々しくも神秘的なエレキガルの槍がある。言うなれば、エレキガルの真の姿。

 

「どこまでも我を阻むか!エレキガル!」

「何度だって、何千年になろうとも!」

 

 神獣鏡のアーマーが鞭のようにしなり、瑠璃に襲いかかるも高く飛び立ち、二叉槍で弾く。

 

「槍によって我を剥がそうとも、この身体が人の身である限り、我は何度でも再臨する!」

「そんな事は百も承知!だから!」

 

 瑠璃の頭上より現れた響がシェム・ハに殴り掛かる。

 

「私は未来を……取り戻す!」

「まさか?!だが、その拳は呪いの積層 神殺し!撃てばこの身を殺して殺す!」

「殺さない!」

「っ!」

「お父さんが教えてくれた!呪いと祝福は裏表!あり方なんてどうとでも変えられる!変えてみせる!」

 

 右腕一本で、全ての攻撃を流す。そこに瑠璃に二叉槍を突き出され、苦悶の表情を浮かべながら回避して距離を取る。

 

「断章の全てをこの身に集めたのだ!人に遅れる道理などありはしない!」

「だったらぁ!」

 

 瑠璃が吠える。神獣鏡の光線を、真っ向から槍を突き出して分散させる。

 

「神の魂と融合した私が辿り着かせてみせる!手を伸ばし、想いに向かって届かせる!!」

 

 神獣鏡のアーマーの攻撃を全て粉砕し、道を作った。

 

「今だ響ちゃん!」

「私の想い!未来への気持ち!2000年の呪いよりもちっぽけだと、誰が決めたあああぁぁぁーー!!」

 

 響の右腕のアーマーが展開され、光が集約される。その瞬間、シェム・ハに集まった全ての命が分断、在るべき所へと帰った。

 

「っ!神殺しではない……!今のは……!」

 

 エレキガルを忌々しく睨む。瑠璃のエレキガルギアを介して、バーニング・エクスドライブ∞に秘められたエレキガルの力が起動した。

 

 シェム・ハによって集められた命は全て分離され、持ち主へと戻って行った。

 

「取り戻す……取り戻す……」

「未来を……」

「私達の……」

「明日を……」

「この星の……明日を!」

 

 全世界の人類の想いが一つとなった。だがそれだけでなく、その想いが響の拳に全て集約された。

 

「ネットワークに障害が?!おのれ……!」

 

 全ての目論見が、生前に己が手で殺したはずのエレキガルによって阻まれ、怒りの形相が露になる。

 

 きっと、取り戻すんだ……!」

「それはとっても大切な……!」

「本能が求め叫んでる……!」

「誰にも等しくあるために……!」

「その手に重ね、束ねるんだ立花、瑠璃……。お父様が見せてくれた人の価値を!輝きを!」

 

 束ねた光は響の右腕に集まるが、それでもシェム・ハは足掻く。神獣鏡の光線を放つも、そうはさせるかと瑠璃が槍の穂先から放った黒白の光線で、小型の鏡を全て撃ち落とした。

 

「バラルの呪詛が消えた今!隔たりなく繋がれるのは神様だけじゃない!」

「束ねているのは、この星全ての人間の、想い!」

「それは神殺しなんかじゃない!繋ぐこの手は私のアームドギアだ!」

 

 瑠璃が槍を投擲し、最後に残ったエレキガルの想いまでもを乗せて、響の右手に宿り、右腕のアームと槍が合体する。

 

 シェム・ハも、全ての武装が壊された今、最後の力で漆黒の波動を放つ。

 

 響の握った拳が開き、掌で受け止めた波動が打ち砕かれる。

 

「「「「「「未来(ミライ)を!!」」」」」」

「「未来(ミク)を!!」」

 

 

 

 

 奪還する為にいいいいぃぃぃーーー!!

 

 

 

「まさか……?!本当に呪いを上書いて……?!」

 

 

 シェム・ハの光線を押し切った響の掌が未来に届き、その身体を抱きしめた。

 

 

 

【METANOIA】

 

 

 シェム・ハの悲鳴が断末魔へと変わり、憑依していた未来の身体から排除される。シェム・ハの腕輪が真っ二つに割れ、月蝕の影とともにその魂は消滅した。

 

「そして……花咲く勇気で。私たちの大好きを、二度と手放さないために……」

 

 未来をお姫様抱っこで抱える響に笑みが浮かぶ。

 

 

 


 

 

 シェム・ハとの戦いは終わったが、まだシェム・ハが遺したユグドラシルが起動したまま。それを破壊しない限り、全てが終わらない。

 

 本部にいた弦十郎達は、すぐさま仮設の前線基地を作り、ユグドラシルの破壊を模索する。

 

 一方、気を失った未来の横に安置された輪を処置しているキャロルだったが、作業は軟膏を極めている。

 

「あの黄金錬成は、オレの思い出も使われた……。くっ……これでは先にこいつの命が……」

 

 消耗したのはキャロルも同じ。蘇生に必要なエネルギーが不足しており、徐々に輪の命の炎が尽きようとしている。

 

『キャロル……』

「エルフナイン……。聞いてくれ……」

『え……?』

「これがオレの……最後の我儘だ」

 

 そう告げると、キャロルは輪の身体に覆いかぶさった。




バーニング・エクスドライブ∞-インフィニティ-

本来のバーニング・エクスドライブに加え、エレキガルの槍によって出力が跳ね上がり、さらにエレキガルの力によって、その魂までもが聖遺物の欠片と共鳴している。

∞は輪廻転生、5000年前に死んだエレキガルの魂が現代の人間、瑠璃という少女に宿り、融合した事を意味する為につけられた。

ファウストローブ TypeΩ
ファウストローブのバーニング・エクスドライブ版。説明は上記と同様。


最終回まで、あと2話……


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絆の夜明け

遂にフィナーレを迎えます!

瑠璃と輪の行く末を、最後まで見守っていただければと思います!


(あれ……ここ……)

 

 気がつくと、輪は暗い海のような空間にいた。だがこういう経験を何度もしているお陰か、ここが何処なのか検討はついた。ここが自身の深層意識の世界だと。

 

(あれって……)

 

 上を見上げると、眩い光が発せられている。手を伸ばそうとするが、届かない。光まで浮かび上がろうとするが、身体に力が入らない。

 

(ああ……。力……全部使っちゃったんだな……。身体に力が入らない……。このまま、死ぬんだろうな……)

 

 下は暗く、何も見えない。このまま沈んでいけばたどうなるか、予想はついていた。

 

 フィーネの力を限界まで使い、無意識とはいえ黄金錬成までやったのだ。その代償は人間の身体が耐えられるものではない。

 

 次第に、暗い海の底へと沈むかのように輪の意識は落ちていく。

 

(けど……もう良いかな……。十分……唄いきったし……。後はみんなか何とかしてくる……。それにしてと……何だかすっごく、お腹空いた……)

 

 永遠の眠りにつこうと瞼をゆっくり閉じ、そのまま身を委ねようとしていた時だった。

 

「何を寝惚けたことを言っている」

 

 それを許さぬ者が一人、輪の腕を掴み上げる。驚いた輪の瞼は思い切り開いた。

 

「キャロル……?!」

「やれやれ……たかが裏切り者に、ここまで世話を焼く事になるとはな」

 

 何故キャロルが自分の精神世界にいるのか問おうとするが、キャロルはそれを聞くつもりはない。

 

「帰るぞ。お前の居場所はここではない」

 

 今まで自分の為に戦ってきたキャロルの口から、ぶっきらぼうながらもそんな事が聞けるとは思わず、少し驚くも嬉しそうにする。

 

「……キャロルの口から、そんな言葉が聞けるなんてね」

「っ……!喧しい!いいからさっさと来い!」

 

 言った事に今更恥ずかしくなる。それでも輪の腕を強引に引っ張りあげ、輪を抱きとめた。

 だがキャロル自身の力も残り僅かであり、この深層意識の世界から抜け出そうにも、輪を抱えながら真上の光を目指すどころか、キャロルも少しずつ暗い底へと沈もうとしている。

 

「けどキャロル……帰るって言ってもどうやって……?身体がもう言う事聞かないし……このままじゃアンタまでこっちに……」

「分かっている。だから……こうする」

「何を……っ!」

 

 いつか、あの時と同じシチュエーション。キャロルが強引に輪の唇を奪う。

 またこれかと半ば呆れる輪だったが、こうなったキャロルを、今の輪に何か出来るわけではない。黙って受け入れるしかなかった。

 

 気が済んだのか、キャロルは唇を離してやる。

 

「アンタと初めて会った時も、こんな感じだったね……」

「お前は裏切り者として利用してやった……。それが、こうなるとはな……」

「こうなるって……え?」

 

 セリフの違和感に気がついた時、?輪を掴む手の力すら抜けていくのが分かった。

 

「オレの思い出全部、お前の生命エネルギーに換えてやった……。これで助かるはずだ……」

 

 完全に力を失い、今度はキャロルが底へと落ちようとしていた。

 

「待ってよキャロル!」

 

 キャロルの手を掴んだ途端、彼女の身体が燐光に包まれる。

 

「アンタ、私を助ける為に……それじゃキャロルが……!」

「勘違いするな。これはオレ個人が望んだ選択だ。エルフナインも、許してくれたよ」

 

 心優しいエルフナインが、そんな事を許すはずがない事は分かっている。そんな嘘を見抜けない輪ではない。

 

「分かりやすい嘘つくなよ!エルフナインだって……アンタが消えて欲しくないのは分かってんだし!それを……」

「お前なら、命を懸けてでも助けてもいい……。まったく我ながら、似合わない事を……」

「カッコ、つけんなよ……今更……アンタが……」

 

 いくら悪態をついても、泣きじゃくって上手く言えない。まだまだ言いたい事はいくらでもあるはずなのに、涙が邪魔をしてしまう。

 

 そんな輪の涙を僅かな力で拭ってやる。その手も透けていて、間もなく消えてしまう。

 

「ありがとう……出水輪……」

 

 キャロルが笑みを浮かべた時、その身体は暗い闇の底へと沈みながら完全に消えてしまった。

 

「キャロル……!」

 

 

 

 

 

 

 

 キャロルーーーーーーーー!!

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 前線基地で安置されていた輪の回復を願い、エルフナインは輪の手を強く握っていた。

 

(キャロル……輪さん……)

 

 キャロルが輪に生命エネルギーを吹き込もうとする直前、エルフナインは止めようとした。

 

『そんな……そんな事をしたらキャロルは!』

「だろうな……。だが、こいつは元々巻き込まれたに過ぎん」

 

 初めて会った時、輪の思い出を覗いたから分かる。一見強気に振る舞っていても、輪の中には負の感情が燻っていた。

 

 理不尽に巻き込まれ、周りからは蔑まれ、その果てに恋人や家族を失った悲しみと怒り。それは何をしても拭える事ではない。

 

 故に、キャロルはかつて父親を失い、涙していた過去の自分と重ね合わせてしまう。

 

 その果てに、仲間を守った代償として命が終わろうとしている。

 

「ここまで耐え忍んで、得られたものがあったとしても、こんな結末、オレ自身が許せない」

 

 キャロルの真意を、エルフナインはただ黙って聞いていた。

 

「だから、頼む。止めないでくれ……」

『キャロル……』

 

 止められなかった。キャロルと輪、エルフナインにとって、どちらの命も大切であり、その二つを天秤にかける事は出来ない。

 

 だから止める事が出来なかった。

 

「また……逢う日まで……」

 

 涙を流しながらそう言うと、輪の瞼がゆっくり開いた。輪も涙を流していた。

 

「キャロル……」

「輪さん!」

 

 処置は上手くいった。エルフナインは涙を拭う。その時、輪は起き上がろうとしていた。

 

「ダメです輪さん!まだ寝ていなきゃ……」

「キャロルに……託されたんだ……。だから……」

「だけど……そんな身体で!」

 

 エルフナインの言う通り、輪は先程まで生死の境を彷徨っていた。キャロルが生命エネルギーを吹き込んでくれたとはいえ、あれだけの荒業を用いた後で、満足に動けるわけが無い。

 

「ならエルフナイン。伝えなきゃ行けない事がある」

 

 輪はエルフナインに、ある事を告げた。

 

 

 


 

 

 一方まだ動ける装者達は、ギアを纏ったままユグドラシルの直上にて前線基地にいた本部に通信している。

 

「目視にて状況確認」

「本部。シェム・ハが倒れてもユグドラシルはまだ生きている!」

『なんだとぉ?!』

 

 ユグドラシルの真上は筒のようになっていて、その真下が巨大な洞穴になっている。だがその壁にはまるで血管のように蔓延るエネルギーラインが生きている。

 

 エレキガルの眼を使ってユグドラシルを見ていた瑠璃には、その巨木から発せられる僅かな痕跡が見える。

 

「このユグドラシル、間違いない。シェム・ハの力の残滓がある。知らない内に、ユグドラシルのシステムすら作り替えて……!」

 

 しかも世界各国のコンピュータが限界を迎えるかのように爆発している。シェム・ハの力を、防護障壁にて何とか抑えていたが、それが破られるのも時間の問題だった。

 

 司令として、弦十郎が指示を出す。

 

『潜航したユグドラシルをメインシャフトと仮定!中枢部を破壊して、惑星環境の改造を食い止めるのだ!』

「中枢部を壊せば、ユグドラシルは完全に機能を停止する!それが出来るのは、私達だけ!行くよみんな!」

 

 瑠璃が勇んで、真っ先にユグドラシルの中枢に飛び込む。

 

「瑠璃に続け!」

「ったりめえだ!」

 

 翼、クリスも瑠璃に続き、他の装者達もユグドラシルの中枢へと入る。

 

 ユグドラシルの中はかなり深く、その距離は1万を超えてもまだ中枢部が見えない。想定はしていたが、時間制限がある以上、どうしても焦りを隠せなくなる。

 

 さらに、悪い知らせは終わらない。下からシェム・ハが生み出した神造兵器達の群れが、その先を埋め尽くす数で出現した。

 

「しゃらくさいのが雁首揃えて!」

「まだ立ち塞がるつもりなの……シェム・ハ……!」

「だけど今のコンディションでは……」

 

 マリアの言う通り、シェム・ハとの戦いで殆ど消耗してしまった装者達にはフルスペックで戦える程の力は残されていない。

 

 唯一の例外であり、エレキガルの真の姿となった瑠璃も、これには苦い表情で見ている。

 

「もたもたしてたら、この地球は……!」

「知らない星に作り替えられちゃうのデス!」

「やるしかない……!」

 

 瑠璃が二叉槍を天に掲げようとしていた時だった。

 

 

 

 Rei shen shou jing rei zizzl……

 

 

 

 詠唱とともに、真上から紫色の閃光が雨のように降り注ぎ、神造兵器を一機も残らず殲滅させた。

 

 この歌を唄えるのはただ一人。神獣鏡のファウストローブ身に纏い、響達を追い掛ける。

 

「未来!」

「私、これ以上響の背中を見たくない!響の見てるものを、一緒に並んで見ていきたいの!だから!」

『間に合いました!』

 

 さらに通信からエルフナインの声が聞こえる。

 

「エルフナイン!これは……」

『未来さんは問題ありません!先程、輪さんも目覚めました!』

「輪……!」

 

 誰よりも輪の無事を祈っていた瑠璃が安堵する。

 

『先程、アルベルトさん……いえ、コーダさんが遺したデータを解析して、ユグドラシルの破壊方法が判明しました!』

 

 コーダがマリアに託したチップのデータ。だが肝心な所はパスワードでロックされていて、固く封印されていた。

 

 そのパスワードは、輪がエルフナインにアルベルトの真名《Coda》と伝え、それを打ち込んだ事で、全てのロックが解除された。

 

 そこから先の説明は未来が請け負う。

 

「この先にある中枢部を壊しても、増殖したユグドラシルのいずれかが管制機能を獲得し、稼動は止められないみたいなの」

「つまり新たなメインシャフトが誕生し、そいつがどれかわからなくなるのか!」

『なので、ここがメインシャフトと仮定できる今、中枢をフォニックゲインで制御し、全ての幹を同時に爆破伐採するしかありません!』

「フォニックゲインで?だが私達は、一度チフォージュ・シャトーの起動にも失敗して……」

 

 今は響がいるが、それでも翼は懸念を拭えない。

 

「だからキャロルは、未来さんを救おうとしていたのです!」

 

 だが諦めるにはまだ早い。エルフナインが続ける。

 

「7つの惑星と7つの音階、世界と調和する音の波動こそが統一言語。七人の歌が揃って踏み込める神の摂理。先史文明の最後の人間であるコーダさんは、それらを僕達に託したんです!同時にそれは、世界を識れというパパからの命題に対する、キャロルなりの回答です!」

 

 コーダとキャロル、立場は違えど考えは偶然とはいえ合致していた。

 

「じゃああの時、神殺し無しでシェム・ハの埒外物理が通ったのも……」

「そういうことだったのか!」

『ですが、それだけでは足りません!』 

 

 統一言語、神の摂理に踏み込めたとしてもまだ足りない。何が必要なのか、マリアが問う。

 

「他に何か必要なの?!」

「シェム・ハの手に渡り、その支配下に置かれたユグドラシルに宿った魂を完全に消滅させない限り、またシェム・ハは蘇ってしまいます」

 

 シェム・ハの魂がユグドラシルに根付いて閉まっている以上、例え神殺しを用いたとしても、増殖したユグドラシルに宿り、いつの時代か再びシェム・ハが蘇る可能性がある。

 

「なので、中枢部に鍵を差し込む必要があります!その鍵こそが、全てに宿る魂を掌握する冥府の槍……エレキガルの槍です!」

「この槍が……あっ……」

 

 遂にユグドラシルの最深部、メインシャフトに到達した。そこは月遺跡の中枢部と同じ構造に似ている。

 

「あれが……」

 

 メインシャフトの中心部にある制御装置を見つけた瑠璃は、そこに手を翳す。すると、制御装置が開き、その中央に窪みのような穴が現れる。

 

「間違いない……ここに槍を……!」

 

 槍を強く握り締め、窪みに槍を鍵のように差し込んだ。そこを中心に、メインシャフトのエネルギーラインが藍色に光り始める。

 

 確信した瑠璃は振り返る。

 

「7つの惑星と7つの音階、そして我が槍、ここに全ての鍵は揃った!」

「だったら何も迷わない!信じよう!胸の歌を!」

「私も響と!みんなと一緒に!」

 

 響達7人のシンフォギア装者が唄い始める。

 

 ここまでの道のりはあまりにも過酷で険しいものだった。

 

 残酷な運命を前に絶望し、闇に堕ちた事もあった。それでも絆という道標があったからこそ、立ち上がる事が出来た。自分を強くしてくれた。

 

 元々戦いとは無縁だった少女は、歌と出会った。大切な陽だまりと一緒に歩んできた日々と、繋いで来た手はとても暖かいものになった。

 

 戦う事を運命づけられ、他者を守る為に己を殺し続けてきた少女も、星となった友と父に向き合えるくらいに強くなった。

 

 平和の願いを踏み潰され、利用され、歌すら信じられなかった少女は、人と繋がる事の温かさを知り、本当に歌が好きなんだと思い出し、歩んでいく。

 

 偽りを重ね続け、弱さを隠し続け、己を奮い立たせた少女。弱さを受け入れた今、もう迷いはない。

 

 未熟さ故に、誰かを傷つけてしまう日々に苦しんだ小さな自分。そんな思いを誰かにさせたくないから、彼女は優しさを忘れない。

 

 

 お気楽と言われてもいい。何も背負ってなくても、生きていける。これからも誰かが1人で苦しんでいるなら、迷うことなく共有するだろう。

 

 

(バラルの呪詛……繋がりを隔てる呪いさえなくなれば、この胸の想いは全部伝わると思ってた。だけど……それだけじゃ足りないんだ)

 

 ずっと伝えたくても伝えられなかった。その苦悩に悶え、1度はそれを利用された。だがもう躊躇わない。この先にある未来の為に、伝えると決意した。

 

(今なら分かる気がする。何で7つのシンフォギアが作られたのか、槍をシンフォギアとして作ったのも……)

 

 瑠璃が両手を空に伸ばした。メインシャフトに、7人の歌によって解き放たれたフォニックゲインで満たされていく。それにエレキガルの槍が共鳴し、これまで出会い、命を落としていった魂達が姿を現す。

 

 真実を伝えられず、手を取り合う事が出来なかったエンキとフィーネが、5000年の時を経て手を取り合った。

 

 マリア、調、切歌の前にナスターシャ教授が母親のように微笑み、隣には三人の姉であるジャンヌ。そしてその手を繋いでいるメルが手を振っている。

 その3人の後ろにはDr.ウェルが素っ気なく手を振っている。

 

 サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティのパヴァリアの幹部三人、響達を助ける為に命を懸けて散ったヴァネッサ、ミラアルク、エルザの三人もいる。キャロルとイザークが手を繋いでいる。

 

 翼の前には天羽奏と八紘、マリアの前にはセレナが姿を現した。

 

 瑠璃とクリスの前には両親が現れる。その隣にはひょこっと輪の姉である小夜が軽く手を振っている。

 

 そして、瑠璃の前に現れた最愛の人、コーダ。白髪の青年の姿で微笑み、瑠璃は涙を流した。

 

(ただ繋がりたい……その想いが今、時を超えて、全ての人類が絆を繋ぐ奇跡となる。それが……アヌンナキからの脱却、人類の独立!)

 

 歌もいよいよ、フィナーレとなる。姿はみえなくなっても、多くの魂が見守っている。人類の未来を、繋がった絆の強さを。

 

「七人の歌で」

「みんなの歌で」

「この奇跡は、私達の軌跡だ」

「繋いだ手だけが紡ぐもの」

「強く、尊く、儚いもの」

「未来に響き渡らせる為に!」

 

 絶唱を唄い終え、中枢にそびえ立つ7つの結晶が虹色へと変わる。

 

 終わりを告げる時だと、瑠璃は鍵となった槍を改めて強く握り、地球に残った最後のアヌンナキとして高らかに宣言する。

 

「これが私達の!」

 

 

 絶唱だあああああああぁぁぁぁーーー!!

 

 

 ガチャリと槍を鍵のように捻る。結晶から7本の光柱が放たれ、中枢の装置に注がれたエネルギーが漏れだす。中枢の地は割れ、壁とともに同時に爆発が起こる。

 

 7人のフォニックゲインが、エレキガルの槍を通して増殖したユグドラシル全てに流入。宿っていたシェム・ハの魂が断末魔をあげながら、共鳴するように世界各国に根付かれたユグドラシルの幹が沈んでいった。

 

 ユグドラシル中枢から脱出するべく地上まで飛ぼうとする装者達だが、ギアの損傷は著しい。次第にギアの損壊は大きくなっていた。

 

「このままじゃギアが!」

「持ちそうもないのデス!」

「っ……!」

 

 悪い予感のように、シェム・ハの魂を察知した瑠璃が下を見ると、迫り来る爆煙の中からまるで執念深く動き出した亡霊の如く、シェム・ハが姿を現し、その両腕を伸ばした。

 

「シェム・ハ……!あなたは……!」

 

 だが不思議と、そこからは憎しみも敵意も感じられなかった。

 

 すると、ギアがとうとう耐えきれなくなり、粒子となって砕け散った。飛べなくなった装者達は落ちていくしかなく、シェム・ハの手に捕まった。

 

 

 気がつくと、響と未来は暗い闇の中にいた。その目の前にはシェム・ハが本来の姿で問いかける。

 

「答えよ。なぜ一つに溶け合うことを拒むのか……?」

「私達は簡単に分かり合えないからこそ、誰かを大切に想い、好きになる事が出来る。その気持ちは誰にも塗り潰されたくはない!」

「それが原因で、未来にまた傷付き、苦しむことになってもか?」

 

 それを知っている未来には反論出来なかった。だが隣には響がいる。響が未来の手を取る。

 

「だとしても、私達は傷付きながらも、自分の足で歩いて行ける。神様も知らないヒカリで歴史を創っていけるから」

 

 響の答えを受け止めたシェム・ハは、満足そうに笑みを浮かべた。

 

「なるほどな。これがお前が伝えたかったことか……エレキガル」

 

 響と未来の後ろにいた瑠璃を見て言った。

 

「私も最初はそうだった。誰かと繋がる事の出来なかった私は、壊す事しか表せなかった。コーダと出会って、それが大きく変わった。繋いだ絆は何処までも続いていき、やがては大きな愛になる」

 

 瑠璃の後ろにはクリス、翼、マリア、調、切歌もいた。

 

「人っていうのはね……強いんだよ、シェム・ハ」

 

 瑠璃が微笑んでそう言った。

 

「ならば責務を果たせよ。お前達がこれからの未来を司るのだ」

 

 シェム・ハは満足そうに消えていった。

 

「これで、全部終わったんだな」

 

 クリスが瑠璃に言うが、首を横に振られてしまう。

 

「まだだよ」

「まだって……どういうことだ?」

 

 翼が瑠璃に問う。

 

「人類は、アヌンナキから脱却を果たす。だけどまだ、アヌンナキの魂は残っている」

「……まさか!」

 

 クリスがその意味に気付いてしまった。いや、気付いたのはクリスだけではなく、全員だ。

 

「ダメだ姉ちゃん!姉ちゃんはアヌンナキの魂があったとしても、姉ちゃんは姉ちゃんだ!一緒に帰ろう!な?!」

「雪音の言う通り、お前までも消える必要は無いはずだ!」

「そうよ!輪はどうするの?!あの子に黙って消えるなんて、あの子が悲しむわ!」

「瑠璃先輩が犠牲になるなんて間違ってる!」

「そうデスよ!一緒に暮らせば良いだけデス!」

 

 皆が瑠璃を止めようとしてくれる。だがだが、それでも瑠璃は申し訳なさそうに言った。

 

「ごめんね……今の私は、まだそっちに帰るわけにはいかない」

「そんな……」

 

 クリスが瑠璃の肩を掴む。

 

「また……あたしを置いていくのかよ……?!また、1人にする気かよ?!」

 

 クリスが泣きながら瑠璃に悪態をつく。バルベルデでも、ルリの犠牲によってクリスは最悪な結末を避ける事が出来た。だが代償として、瑠璃は心が壊れてしまった。

 

 同じ思いをするのは嫌だ。クリスは涙を流した。

 

「そんなんじゃないよ、クリス」

 

 そう言いながらクリスの手を優しく包む。

 

「今の私は、アヌンナキの魂を返す為に……今からちょっと旅に出る」

「姉……ちゃん……」

 

 そう言うと、クリスの目を見て言う。泣きそうになるクリスを、瑠璃は抱きしめた。

 

「ごめんね。また少しの間だけ……離れ離れにさせちゃうね……。ダメなお姉ちゃんで、ごめんね」

「姉ちゃん……」

 

 堪えきれずに涙を流した。仲間達の目もはばからず泣くクリス、瑠璃は続けた。

 

「だけどね……これだけは信じてほしい。絶対に、帰ってくる。だから、それまで……私の帰りを待っていてほしい」

 

 旅の終わりは、いつになるか分からない。もしかすれば、果てしなく長い旅になるかもしれない。

 

 クリスはすぐには答えられなかった。だが……

 

「信じよう、クリスちゃん」

 

 響がクリスに声を掛けた。

 

「嘘ではないんだな、瑠璃?」

 

 翼が瑠璃に問う。

 

「うん。約束するよ」

「……なら、信じましょう」

「絶対デスよ!」

「クリス先輩だけじゃありません。皆待ってますから!」

 

 マリア、切歌、調は瑠璃を信じて待つ選択をした。翼も頷いた。

 

「ちゃんと伝えよう、クリス」

 

 同じ後悔をさせたくない未来が、声を掛ける。クリスは涙を拭って顔を上げた。

 

「絶対、帰って来いよ!」

「うん。これで、安心して行ける」

 

 すると、瑠璃の身体が光に包まれる。その光は眩く、クリス達は目を開けられなかった。

 

「さよならなんかじゃないよ。今度は瑠璃-ルリ-として必ず帰って来るから……約束だよ!」

 

 光は7人を包み込み、空へと送り届けた。

 

「シェム・ハ……皆をお願いね……」

 

 ここにはいないシェム・ハに、仲間達を託した。

 

 最後の一人となった瑠璃、これまでの道のりを思い返す。

 

 記憶を失い、戦いに苦しみ、裏切られ、悪夢に嬲られ、果てには神の魂と1つになった。

 

 それでも乗り越えられたのは、仲間と繋いだ絆があったから。独りじゃないと知ったから、瑠璃はここまで強くなれた。

 

 今度の旅は、誰かと共に歩んでいけない。正真正銘、自分一人の旅。だが今の瑠璃に恐れはない。瑠璃はエレキガルの槍を召喚、それを手にする。

 

「1つになった魂は……在るべき場所へと還る」

 

 槍の穂先を、自分に向けた。

 

「この先、神の魂はいらない。悲しい魂の旅路はお終い。今度は……この星の未来を、一緒に見届ける為に……!」

 

 槍を力いっぱい引き寄せ、自分の身体を貫いた。二つの穂先が自分の身体に穴を開け、その先端から血が滴る。吐血する瑠璃。

 

 次第に身体は砂のように崩れ落ち、粒子となって消えていく。

 

 だが不思議と痛みも恐怖も感じられない。空を見上げるその顔は、穏やかなものだった。

 

「行こう……待ってる……」

 

 粒子の中から藍色に輝く光の玉が露出。それは炎を纏い、天高く飛んでいく。

 

 そして、それは藍色と紫色のそれに別れ、2つの光は違う方へ、それぞれの行くべき所へと飛んで行った。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 ユグドラシルの中枢があった大穴から黒い炎が逆巻いていた。遠く離れた前線基地からもそれは目視で観測されている。

 

 弦十郎を始めとする、本部にいた主たる面々が車で向かう。輪もその車両に乗って無事を祈っている。

 

「瑠璃……皆……」

 

 緒川の肩を借りなければ立つことすらままならない状態だったが、仲間が傷ついてでも戦っているのに、自分だけ寝ていられないと、同行を願い出た。

 

「あれって……!」

 

 黒い炎から砂のような巨大な両手が現れた事に気づいた。その手が地上に降り立つと崩れ落ち、その中から響達7人が降ろされた。

 

 炎が消え、深紅に染まった空は元の藍色の夜空に戻った。

 

「大丈夫か?!」

 

 現場に到着した弦十郎が響達に駆け寄る。気が付いた響達は起き上がった。

 

「師匠……シェム・ハさんが……繋ぐ大きな手が、私達を……」

「ああ……皆が繋いだ、明日の世界だ!」

 

 夜空の向こうから登った夜明けの光が、人類を照らした。だが……

 

「ねえ……瑠璃は?瑠璃はどこにいるの?」

 

 緒川の肩を借りている輪が瑠璃を探して辺りを見回すが、その姿は見えない。クリスに声を掛けるが、輪を見ようとしない。

 

「ねえクリス、瑠璃は?瑠璃は……っ……!」

 

 黎明の光を見るクリスの頬から伝う涙。それが何を意味するのか、輪は悟った。

 

「まさか……」

 

 

 風鳴瑠璃ー雪音ルリー はこの日、世界から消失した。

 




長かった悲しい魂の旅は、終わりを迎えた。

平和な日常を取り戻した少女達だったが……たった1人、大切な人がいなくなった。

夜空を失った日常に、皆は何を思うか。

流星群が降り注ぐ、静寂な空。そこに何を願うか……

次回、戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星 最終回


「還る場所へ」


この絆は、決して放さない。私が繋いだ奇跡……みんなと一緒に……


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エピローグ:還る場所へ

お待たせしました皆さん。


ついにXV編、そしてこの作品の最終回となります。


初めてあげたこの小説も、何度も展開に悩み、時には投げ出しそうになりました。

ですが、皆さんのお陰でこの物語も終わりを迎えることが出来ました!

改めて、ここまでお付き合い頂いた読者の方々に感謝とお礼を申し上げます!

それでは、最終回。瑠璃の物語の結末を、ご覧下さい!


 シェム・ハとの激闘の果てに、人類はアヌンナキの支配より脱却した。それから1ヶ月が経とうとしている今日、積もっていた雪が解け、蕾だった桜の木に花が咲き始める。

 

 

 もうすぐあたし達の卒業式。あたしは途中から編入だったけど、それでもこの学校はあたしの帰る場所として、色んなものをくれた。

 

 だけど……あたしの隣の席は空白のままだった。

 

 

「姉ちゃん……」

 

 

 あれから、未だに姉ちゃんの行方は分かっていない。

 

 最後のアヌンナキとして役割を果たす為に、姉ちゃんは旅に出た。

 

 遺体は見つかっていないが、生きているという報告もない。普通であればもう亡くなったものだと片付けられてもおかしくないこの状況だったが、そんなのあたしが許さない。

 

 

 

 

 今度は瑠璃-ルリ-として必ず帰って来るから……約束だよ!

 

 

 姉ちゃんはそれを最後に姿を消した。

 

「あの時と一緒だな……」

 

 バルベルデの時も同じ事を言ったのを思い出した。姉ちゃんは、いつもあたしの前を走っていく。あたしはその背中に追いつこうと必死で走っても、いつも手が届かない。

 

 悔しすぎる……。

 

 だけど、あたしは信じるって決めたんだ。姉ちゃんが帰って来るのを。

 

 けど、もうすぐ卒業式だぞ?人生でたった一度きりの、高校の卒業式。早く帰って来ないと、終わっちまうからな。姉ちゃん。

 

 

 


 

 

 瑠璃がいなくなって1ヶ月が経とうとしている。私、出水輪は履歴書を書いている。

 

 今この家には私一人しかいない。社会人だった小夜姉は亡くなって、この先お金は減る一方になる。

 

 だから大学に入るお金もない。例えお金があったとしても、生活がある以上、お金は必要になる。私は大学の入学の内定を辞退して、アルバイトで生計を立てて行こうと思う。

 

 ただ、リディアンの卒業式くらいには出ようと思う。

 

 もしかしたら。瑠璃もその前に帰ってくるんじゃないないかって、考えてしまう。そんな保証、どこにもないのに。

 

「さて、何枚か書いたし、後は封筒に……」 

 

 ピンポーン、とインターホンが鳴る。

 

「誰だろ?はーい」

 

 鍵を開けて玄関のドアを開けると、赤いカッターシャツを着た屈強な男。もう誰だか分かるだろう。

 

「オジサン!」

「すまない輪君。上がってもいいか?」

 

 そう言われて少し戸惑ったけど、履歴書を隠した後にオジサンを案内した。適当なお茶と菓子を出していると……

 

「不摂生な食事だな。それに部屋の雰囲気も暗いしな」

「デスよねー」

 

 インスタント食品に頼った食生活がゴミ箱でバレてしまう。切歌のモノマネじゃないけど、これはもうそう言うしかない。

 

「クリス君から聞いたぞ。ここの所、お前さんの様子が変だとな」

「まあ、色々ありましたし。とりあえずは何とか生きてますから」

「そうか……」

 

 オジサンの表情が暗い。無理もないか。大切な娘が姿を消したってなったら……

 

「実はな輪君、君に謝らなければならない事がある」

「はい?」

 

 私、オジサンが謝るような事をした覚えがない。瑠璃の事で何かあったのか、気になっていると……

 

「小夜君はな、君が戦っている事を知っていたんだ」

「……うぇっ?!」

 

 まさかの衝撃的事実が暴露された。

 

「それどころか、君が二課時代から外部協力者としているのも、シンフォギアの存在についても知っていたんだ」

「シンフォギアまで?!え、でも小夜姉ってただの看護師じゃ……っていうか、小夜姉の仕事を紹介したのってオジサン……まさかあの病院って!」

「相変わらず、察しが良いな。そうだ。あの病院は、二課時代からの御用達でな。翼もあそこで治療を受けてた時も、小夜君が看護していたんだ」

 

 確かにエルフナインが入院してたり、私と響が入院した時、大体小夜姉が出てきてたりしてたような。

 

「輪君が絶唱で病院送りになった時、物凄い剣幕で迫られたな」

 

 

 


 

 

 その時まで遡る。瑠璃が絶対の破壊神と化し、元に戻す為に輪が絶唱を使い、病院へ搬送されたあの日まで。

 

「弦さん、これはどういう事か説明してもろうても?」

「すまない……実は」

 

 身長も体格も、弦十郎の方が圧倒的に上回っているが、鬼気迫る表情をした小夜の前には流石に怯んだ。

 

 弦十郎は包み隠さずに全てを話した。

 

「なるほどなぁ……。瑠璃ちゃんが攫われて、輪が戦っとったんのは知ってはりましたけど……」

「本当に申し訳ない……!」

 

 元々輪は無茶をする所があったが、まさか自分の身を嬲ってまで瑠璃を助けようとするとは思わなかった。

 弦十郎はそれを見抜けなかった自分に非があると、弁解の1つもせずに頭を下げた。

 

「弦さん、輪は最後まで……カッコよく立ち向かってはりましたか?」

「……もちろん。輪君は、小夜君に似て度胸が据わっている」

 

 思うところはある。だが起きてしまった事を非難しても意味が無い。寧ろ、泣いている親友に何度も手を差し伸べた輪の行いを誇らしく思った。

 その時の小夜の表情は、とても穏やかで優しい姉のようだった。弦十郎はそう感じた。

 

 

 


 

 

「……そんな事が」

「だが……結果的に民間人の小夜君を巻き込んでしまった。助けられなかった事、本当に済まなかった」

 

 改めて弦十郎が輪に頭を下げた。

 

「オジサン!も、もう……その件に関しては良いって……!」

 

 もう済んだ事を再び頭を下げられて戸惑う。もう良いのに……。

 

「それで輪君、これから先はどうするんだ?」

「そうですね……。小夜姉が亡くなって、学費も払えないんで、どこか就職を……」

「いや、それはダメだ!」

 

 言い終える前にオジサンに止められた。

 

「こんな事で、君の将来が閉ざされるなんて事はあってはならない!君は大学に行くべきだ!」

(あ、あれ……何かこの流れ見た事あるような……)

 

 リディアンに進学する前にも同じやり取りをした事があり、当時の私は不良少女に走った。目の敵にした先生からの推薦は絶望的だから、高校に進学せず働こうとしていた。

 

「学費なら俺が出そう。家賃の事も心配いらない」

「え、いや……でも!そこまでやったら……」

「君には将来がある。自分の可能性を、諦めてはいけない。きっと、瑠璃も悲しむ」

 

 多分、オジサンはそれを伝える為にここに来たんだ。大人になる直前に天涯孤独となった私を助ける為に。

 

 考えてみれば、瑠璃も大学に行くんだ。もし瑠璃が帰って来て、私が大学に行けなくなったって聞いたら……。

 

「ありがとう……オジサン」

 

 学費の件は、有難くお願いした。けど、家賃についてはまだ考えたい事があるから、その件は保留になった。

 

 オジサンも、瑠璃が帰って来るって信じてる。オジサンだけじゃない。クリスも響も、翼さんも皆、一緒だ。一番の親友が信じないでどうするんだ、私。

 

「ねえオジサン」

「どうした?」

「私、行きたい所があるんです。一緒に良いですか?」

 

 オジサンにお願いして、車に乗せてもらった。向かった先は、あの日……瑠璃と一緒に、こと座流星群を見に行った公園。

 

 

 


 

 

 時間は夜の9時。オジサンの運転で公園に辿り着いた私達。何でここに来たのか……もしかしたら、瑠璃が帰って来るのだとしたら、ここなんじゃないかって思った。

 

 そう考えたら、私はどうしても行きたくなった。

 

「やはり来たか、出水」

「つ、翼さん?!」

 

 何と、翼さんがこの公園に来ていた。翼さんだけじゃなく、クリスに響、未来にマリアさん、調に切歌もいた。

 何でここが分かったのか、オジサンの方を見るが、どうもオジサンも皆がここに来た事に驚いている。多分、喋っていない。

 

「お前が向かうとしたら、ここなんじゃないかって思ってな。それで皆と集まってたんだ」

 

 クリスには見抜かれていた。

 

「ここが……」

「瑠璃先輩と、輪先輩の思い出の場所なんデスか?」

「……そうだよ。全てはここから始まったんだ」

 

 事情を知らない調と切歌の為に、あの日の事を私は話した。

 

「瑠璃先輩、ノイズがいたのにそっちにいっちゃったんデスか?!」

「結構無鉄砲……」

「だよね。私、何度も声を掛けたのにそのまま突っ走っちゃってさ……」

 

 あの時の瑠璃は、翼さんの歌が聞こえて向かった。何かの導きかは分からない。もしかしたら、瑠璃の中に眠っていたエレキガルの魂が、翼さんの歌に反応したのかもしれない。

 

「皆!見て!」

 

 響が夜空を見上げた響が空を指す。皆が夜空を見上げると、流れ星が墜ちていった。

 

「綺麗……」

 

 流れ星の美しさに魅了された調は、素直な感想を述べる。マリアさんがふと疑問を投げかける。

 

「今日って、流星群が観測される日だったかしら……?」

「分からない。だが……」

「ああ……この景色を、姉ちゃんに見せてやりたかった」

 

 この神秘的な光景を前に、難しい事はどうでも良くなっていた。

 

 パシャッと、私がカメラを構えて写真を撮る。撮った写真をフォルダを開いて確認する。

 

「瑠璃、見てる?アンタが守った空……こんなに輝いているんだよ」

 

 この場にいない瑠璃(ヨゾラ)に向かって独り言のように話す。だけど、話そうとすると……涙が溢れそうになる。

 

「やっと、最高の夜空写真が撮れたのに……それなのに……」

 

 やはり瑠璃がいないと、私の写真は完成しない。涙が溢れないよう我慢してたけど、もう堪えきれなくなった。

 

「どこをほっつき歩いてるんだよおぉーー!もう卒業式は目前なんだぞぉぉーー!聞こえてるんだったら、早く帰って来てよぉ!瑠璃いぃーー!!」

 

 心の底から、思い切り叫んだ。こんな事をしても、瑠璃は帰って来ないと分かっているのに、叫ばずにいられなかった。私は涙を拭う。

 

 もう今日は諦めて帰ろう……そう思った時。

 

「あの……」

「どうしたんだ?」

 

 未来が何かに気付いたのか、クリスが問う。

 

「あの流れ星なんですけど……」

 

 未来が指した夜空を掛ける流れ星。まるで生きているかのように、その輝きは大きくなって……

 

「何だか、近すぎませんか?あの流れ星」

「え?あ、確かに言われてみれば……」

 

 流れ星の向きがおかしい。さっきまで遥か彼方を飛んで行ったのに、何故か……っていうか、よく見るとこっちに向かって来てる?!

 

「ヤバいヤバい!流れ星がこっちに来る!」

 

 皆が驚愕を露わにする。オジサンが私達の前に立って、拳を構える。

 

「いやいや!オジサン、まさか……」

「稲妻を食らい、雷を握り潰す!それさえきっちり出来れば、俺でもあれくらいを……っ?!」

 

 オジサンが拳を握って構えた直後、流れ星は向きを上昇させ、そのまま頭上を通り過ぎて行った。

 

 流れ星がまるで大砲のように地上に着弾し、その破壊力と衝撃と、全容が肌に伝わる。

 

「あれは……一体……」

「っ……まさか!」

「待ってクリス!」

 

 クリスが走り出すと、輪も走り出した。他の面々も、遅れまいと二人の後を追う。

 

 流れ星とぶつかったのか、木々に破壊された痕が残る。それのお陰でどこに向かえばいいのか、ハッキリと導いてくれた。

 

 私達は、この道に走ったその先を見ている。きっと、その先にいるのかもしれない。期待を胸に走る。

 

 

 

 そして、やっと追いついた。あたし達が向かった先に、女の子が一人立っている。そいつは、S.O.N.G.の制服を着ている。

 黒い髪は、肩に僅かに届く程度の短さ。そいつが振り返ると、右の目尻にある特徴的な黒子。

 

「あ……っ……」

 

 あたし達は、その笑顔を見られて思わず涙ぐんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 どれだけ旅をしただろう。

 

 

 愛するものと別れて、器となる少女を見つけるまで5000年、私は眠り続けた。

 

 戦いは終わり、人類は独立を果たした。後は私の魂が還るだけ。呪われた運命から少女を解放した。

 

 

 人間の少女と1つになった私の魂は、再び自由となって飛び立った。

 

 やがて肉体はあの少女と同じ形となり、2本の足で歩けるようになった。自由に手を伸ばせるようになった。

 

 

 この旅の終着点は、人間達の知る世界ではない故に、何処にも見つからない。

 

 

 だからこそ、彼はここで待ち続けた。

 

 

 誰の手にも及ばない、神さえも知らない、この夜空に。

 

 

「見つけたよ……。やっと、会えたね」

 

 

 光り輝く魂に手を差し出し、その手に乗せて天に掲げた。

 

 

「もう、あなたを独りにしない。これからずっと……私達は一緒に……!」

 

 魂は光に包まれた。その光は人の形となって再構成、私のよく知る白髪の青年の姿。私が、ただ唯一愛した人。

 

 

「見つけてくれて、ありがとうございます。主」

「コーダ……」

 

 愛しい人の名前を、何不自由なく呼べる。それだけでも嬉しくなる。

 

「もう、私達を束縛するものはない」

「ええ。この時を、ずっと待ち望んでおりました」

 

 コーダが跪くと、私の手の甲にそっと口ずけをしようとするが……

 

「違うでしょう?」

「え?」

 

 私もコーダと同じ高さに合わせる。そして、私の唇を、コーダのそれとそっと重ね合わせた。

 

 少しの間に流れる沈黙。それは、私達の愛の深さを記す証。その後、私達の唇は離れる。

 

「じゃあコーダ、行きましょう」

「行くって……どちらヘ?」

 

 立ち上がった私は、少女達が見上げる空を見下ろして眺める。

 

「この星の未来……これから歩んでいく、私達すら知らないヒカリで作られた歴史を……!」

 

 

 

 


 

 

 

 二人が旅立つ先は何処か、それは神さえも知らない。だだ、二つの魂は夜空に煌めく星となって、この星に生きる一人の少女に未来(あした)を託した

 

 

 

 数奇な運命に導かれ、時には絶望にのたうち回る事もあるだろう。

 

 

 それでも、家族を愛し、友を愛し、仲間を愛した少女。

 

 

 

 みんなと交した約束を果たす為に、少女は帰って来た。

 

 

「みんな……ただいま!」

 

 

 

 その笑顔は、夜空に煌めく星のように輝いていた。

 

 

 

 

 

〜fin〜




これにて、戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星 完結でございます!


読んでいただき、ありがとうございました!


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キラジオ!最終回記念!

キラジオ、第2回目にして最終回です。

全然好評じゃなかったですしねこれw


今回もちょっとした裏話があるので、楽しめたらと思います。


輪:れいおーぷにんぐ……

 

 クリス:待て待てぇ!またオリジナルの二番煎じすんのか?!この小説を終わらせる気か?

 

 輪:いや、終わったよ。こないだ最終回迎えたし

 

 クリス:そういう意味じゃねえよ!

 

 輪:はい!というわけで始まりましたキラジオ!メインパーソナリティは私、出水輪と!

 

 クリス:雪音クリスが送るぞ!

 

 輪:今回はなんと、最終回記念放送ー!わー!(パチパチパチ)……はぁ

 

 クリス:おいおい。一人で盛り上がっておいて盛り下がってどうすんだよ?

 

 輪:だって終わっちゃったんだよ?最終回で見事に神様も瑠璃も無事にトゥルーエンド迎えて、もうこの小説が終わっちゃったんだよ?お姉さん寂しいよ

 

 クリス:まあ処女作にしてはよく終わらせられたなと思うな

 

 輪:ねー。小説を描いた経験なんて一つもないただの読者だった作者が衝動的に描いたのがこの小説だからねー

 

 クリス:やっぱり最初だけあって、伏線とか言葉選びとかめちゃくちゃ杜撰だったよな

 

 輪:あと後付け設定とかもかなり急に入れたしね

 

 クリス:やっぱりクソだな作者

 

 輪:けどね……そんな小説が最終回を無事に迎えられたのは……偏に読者の皆のお陰なんだよね……グスッ

 

 クリス:お前、もう泣いてんのかぁ?

 

 輪:だって……だってだってぇ!これで皆と会えなくなるのが寂しいんだもぉん!

 

 クリス:わかったわかった!でもまだオープニングなんだから、最後までしっかりしろよ!

 

 輪:グスッ……そうだね!じゃあ改めて、夜空に煌めくラジオ!略してキラジオッ!最終回記念!

 

 輪&クリス:スタートォー!

 

 

 


 

 

 輪:というわけで、夜空に煌めく星が無事に最終回を終えましたが!ヒロインのクリスさんいかがでしたか?

 

 クリス:そうだな……ってヒロインって何だよ?!けど、そうだな……やっぱり、姉ちゃんが帰って来てくれて良かったよ。

 

 輪:だねぇ〜。もしこれで瑠璃が消えたら私救われないよ。だって家族みんな死んじゃったし!

 

 クリス:殺しても死ななそうなお前の姉貴がマジで死んだ時はビックリしたわ。1期からの付き合いだったけどよ

 

 輪:それについて、作者からコメントが来ています

 

 

 

 

 やはり最終章という事もあって、ファウストローブを纏える輪も戦いに巻き込む動機として、小夜を殺したノーブルレッドへの復讐というのが一番自然という結論に至りました。

 

 頂いた感想の中には、小夜さんを生き返らせて欲しいという意見もありましたが、残念ながら原作でも死人が生き返ったという例は存在しないんですよね。

 ましてや小夜さんはサブキャラなので、瑠璃や輪みたいに生存の道は結構望み薄だった事もあり、私としてもやむなく退場させる事にしました。

 

 

 

 輪:これは酷い……

 

 クリス:容赦ねえな

 

 小夜:せやなぁ

 

 輪:うわぁっ!小夜姉いつの間に?!

 

 小夜:は〜い♪というわけで、ゲストにして、出水輪の姉の出水小夜やで〜♪よろしくな〜♪

 

 クリス:ラジオでも自由だな?!

 

 小夜:ええやんええやん細かいことは〜。それよりも、うちの事を想ってくれた感想、ほんまおおきにな〜。けどこの通り、ウチ死んでもうてんねん。ほら、頭のところに輪っかあるやろ

 

 クリス:うおっ!マジだ!

 

 輪:じゃあ小夜姉、天国から来たの?!

 

 小夜:せやで。いやあ、もう出番ないかと思っとったけど、まさかこんな形で貰えるなんてなぁ……

 

 クリス:自由だな、アンタ。ん?

 

(あともう2人ゲストがいます)

 

 クリス:え?まだ来んのか?

 

 輪:と、とりあえず。どうせなら2人同時に呼んでいきましょう!ではゲストのお2人、どうぞー!

 

 ?:生まれたままの感情を、隠さないで

 

 ?:アタシとアンタ。両翼揃ったツヴァイウィングなら、どこまでも遠くへ飛んでいける

 

 セレナ:はい。2人目のゲスト、セレナ・カデンツァヴナ・イヴです!

 

 奏:そして3人目はこのアタシ、真実はいつも……

 

 輪:はい奏さんここではやめてくださーい!

 

 奏:おっとすまないね。久々の出番でついつい悪ノリしちゃったよ。改めて、ツヴァイウィングの一人、そして元祖ガングニール装者、天羽奏だ!

 

 輪:わーい!本物の奏さんだー!やっと会えたー!

 

 奏:久しぶりだなぁー!夢の中以来だなぁ!

 

 クリス:何か、すげえ会話だな

 

 セレナ:それに関しては、お2人にしか分かりませんからね……

 

 輪:さて、今回来ていただいたゲスト3人!天国でパートナーや家族を見届けていただいていたわけですが、いかがでしたか小夜姉?

 

 小夜:いかがでしたか……じゃないわアホンダラー!

 

 輪:ええぇ?何で怒ってるの?

 

 小夜:当たり前や!ウチがぽっくり逝って、天国で見守ろうと思っとったら、ずっと根暗になるたぁええ根性しとるやんけぇ!

 

 輪:ごめんなさーい!えっと、奏さんはどうしでした?パートナーの翼さんを見てて

 

 奏:そうだな……。やっぱり変わんないな、翼は。泣き虫で、弱虫で、強がってるくせに意地張って

 

 輪:あぁ。分かりますそれ。翼さん、油断してると素がチョロっと出てましたもんね

 

 クリス:んで、妹の方はどうだった?

 

 セレナ:はい。ここまで辛い道のりを歩んでも、自分の弱さを強さに変えてしまう、最強の姉さんです

 

 小夜:ええでええで!最年少なのによう言うたー!

 

 セレナ:あの、小夜さん。私、こう見えて生きていたら奏さんと同い年だったのかもしれませんよ?

 

 小夜:え?それホンマなん?!

 

 輪:マジで年上?!え、えっと……せ、セレナ……さん。す、すみませんでした!

 

 セレナ:いえ、輪さん。今まで通りの話し方で大丈夫ですよ

 

 輪:そ、そう?

 

 クリス:じゃあ、3人のコメントも聞けた事だし、今度は裏話といくか!

 

 

 煌めく裏話!

 

 

 輪:さあ始まりました煌めく裏話!今回は……

 

 

 

 輪:最終決戦で退場させる予定だった?!

 

 

 輪:いやいやいやいやいや!!待て待て待て!!聞き捨てならない話してない?!

 

 クリス:家族失った上に、自分の命すら失う所だったのかぁ?

 

 小夜:ほな、作者に話聞いてみよか

 

 

 そうですねぇ。やはり最後の戦いで、憧れでもあり憎んでいた奏の絶唱を思わせる為に、輪を退場させようとしていたんですけどね。

 

 けど、もう1人の主人公とも言える輪が死んでしまうと、瑠璃が帰って来なくなる、言わばバッドエッドになってしまうので、それはちょっと私もこの展開は望まないなということで、輪は生かすことにしました。

 

 輪:私死んでたらバッドエンドだったのか

 

 クリス:そうしたら、親友と姉を同時に失うのか

 

 輪:あれ?今、親友って……

 

 クリス:う、うるせえ!余計な事を言うな!

 

 小夜:1期で喧嘩しとった2人が、親友になるなんてなぁ

 

 クリス:しまった!この姉妹、サタンみたいなやつだったぁー!

 

 

 

 キラジオ!

 

 

 

 輪:では、次のコーナー……え?無い?え?!これで終わり?!

 

 クリス:まあ、粗方喋りたい事喋ったしな

 

 輪:呆気なさ過ぎない?!最終回だよ?!終わっちゃうんだよ?!

 

 クリス:仕方ねえだろ。終わっちまったんだ。潔く受け入れるしかねえ

 

 輪:うん……。というわけで、ここまで読んでくださった皆様!本当にありがとうございました!

 

 クリス:お前たちのお陰で、無事に最終回を迎えられたぜ

 

 輪:名残惜しいですが、これで終わりたいと思います。それではキラジオ!またどこかでお会いしましょう!さような……

 

 

 

 ガ…………ガガ…………

 

 

 

 

 ガガガガ…………ガガ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドクン……

 

 

 

 

 

 

 ドクン……

 

 

 

 

 何処にいるんだ……姉ちゃん……!

 

 

 

 さあ……アタシの城を土足で踏み荒らす、小賢しい歌女どもを叩き潰せ!

 

 

 アホ抜かすなよ……コイツの心を壊したのはお前らだろうが!!

 

 

 ここまで来たら、私が踏ん張らない訳にはいかないでしょう!

 

 

 透……見てる?絶景だよ……花火……

 

 

 

 たとえあなたが一人ぼっちで泣いてるなら、私が繋いでみせる!平行世界だろうが関係ない!私達は、たった1人の親友!繋いだ絆は、絶対に断ち切ったりしない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜空に煌めく星 XD編

 

 

 

 

 開幕

 

 

 


 

 

 クリス:う、嘘だろ……

 

 

 輪:と、いうことで……XD編の開幕デエェェーース!!

 

 

 

 クリス:やんのか?!本家はサ終したぞ?!

 

 輪:関係ない!私達のXDはこれからだ!

 

 クリス:マジでやんの?

 

 輪:やるよ!今度は平行世界で瑠璃の活躍が見れるよ!

 

 そしてこの私、輪ちゃんも活躍しちゃうゾ☆

 

 クリス:マジかよ……

 

 

 輪:というわけで、今度こそお開きにしたいと思います!夜空に煌めく星XDをお楽しみに!以上、キラジオ最終回記念、メインパーソナリティは出水輪と!

 

 クリス:雪音クリスがお送りしたぜ!

 

 

 輪&クリス:じゃあ、まったなー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後の予告ですが、ひと足早いエイプリルフールではありません!


ガチでやります!

その為にラジオの件をやりましたw

戦姫絶唱シンフォギア 夜空に煌めく星 XD編

Anotherルリとか、オリジナルギアとか出せたらいいなーって思います。

今度は失踪しかけないよう頑張ります!と、いうわけで今後ともよろしくお願いします!


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