夏に恋する春と雪 (のんびり日和)
しおりを挟む

設定

人物

・桜木一夏

当小説の主人公で原作主人公。

最初は織斑千冬と共に暮らしていたが、家事やらなんやらいろんなことを押し付けられていて嫌気がさしていたが、ただの子供が何処かに逃げるなんて無理だと思いながら生活していた。

そんな時に雪奈の事件が起き、大きく人生が変わった。

桜木家の一員になってからは家族を守るために努力するようになり、体を鍛えたり武術を習うようになった。

桜木コーポレーションに何時の間にか就職していた束のラボでISに乗れることを知り、当初は雪奈と束の3人だけの秘密にしようとしていたが、一夏に好意を抱く雪奈と春奈の3人が幸せになるための道として冬真と秋江に報告、結果3人が結婚できる道が開かれた。

 

・桜木春奈(容姿:俺がいるの雪ノ下陽乃)

桜木家の長女。容姿端麗で成績も優秀。非の打ちどころがないように見えるが、妹や一夏の前では甘えた様子を見せる。

最初は一夏の事は可愛い弟の様に見ていたが、久世達に襲われそうになった時に一夏に救われたことがきっかけで惹かれるようになった。

だが雪奈が一夏の事を好きなことを知っていた為、諦めようとしたが雪奈の叱責に我慢することを止め、積極的に一夏に好意を見せるようになった。

それから一夏がISに乗れることを教えて貰い、その時に雪奈と二人で一夏と許嫁関係となった。それから一夏がIS学園に入ってくるときに苦労させないためにとIS学園に入学。一年で生徒会長に上り詰め、色々と準備を進めている。

 

・桜木雪奈(容姿:Reゼロのエミリア)

桜木家の次女。生まれた時から先天性白皮症を患っており、髪と肌が白い。小学生の頃はそれが原因で距離を置かれていたり、からかわれたりしていた。そしていじめの主犯格に伸ばしていた髪を切られそうになった時に一夏に助けられた。その際に一夏は頬に大きな傷を作った。

その後一夏が桜木家の養子として来てから一緒にいることが多かった。

当初は新しい家族の一人と言う認識だったが、いじめの原因である霧島に迫られ怖い目にあいそうになった時に一夏に助けられてから好意を抱くようになった。

それから春奈も一夏が好きなことを知り、諦めようとした姉を叱責し絶対に一夏を振り向かせると宣戦布告した。

それから一夏がISを動かせるという特例を使って重婚を許可させるという束たちの案に賛成し、一夏と春奈の3人とで許嫁関係となった。

 

・桜木冬真

桜木コーポレーションの社長で、春奈と雪奈の父親で、一夏の義父。

一代で世界屈指の企業を築き上げた手腕を有している。

お尋ね者の束も快く企業に受け入れ、身を隠す手伝いをするなど懐が深いところもある。

 

・桜木秋江

桜木コーポレーションの副社長で春奈と雪奈の母親で、一夏の義母。

高校、大学と付き合いのある冬真と一緒に起業し、世界屈指の企業に押し上げた。主に国内事業をメインに動いている。

 

・篠ノ之束

おなじみISを開発した博士。研究と開発が大好きで、あれやこれや作っては世間を騒がす人物。

本人は世間が騒ごうがどうでもいいが、一夏や親しい人に凄い!と驚かれたりするのは大好きで、驚かれるとその日はお祭り状態で研究室でバカ騒ぎを起こす。(そのたびに他の研究員を巻き込んでどんちゃん騒ぎする)

桜木家の事は一夏を養子として引き取ってくれたこと、そして追われる自分を快く匿ってくれた事に感謝している。

一夏の元姉である織斑千冬の事は毛嫌いしており、日本の代表から永久追放された際は大笑いしていた。

両親とはそんなに仲が悪い訳でもなく、自分の所為で迷惑をかけたことに負い目を感じていたが、夢の為頑張った結果だから気にするな。過去ではなく未来のために頑張りなさいと応援され、早く両親達が自由に暮らせる様頑張っている。

因みに妹の箒はその辺の石ころ以下と言う感情しかない。理由は自分の妄想で出来た一夏を、現実の一夏と照らし合わせ、違ったら暴力で妄想で出来た一夏にしようとした為。

 

・織斑千冬

一夏の元姉。一夏の養子の件で桜木家と対立したが、桜木家の有利となる証拠があれよあれよと出てきて結果、一夏を手放すことになった。いつか一夏を取り戻すつもりでいる。

第1回モンドグロッソで優勝しブリュンヒルデの称号を持っていたが、第2回で一夏が誘拐されたと聞き、自身のIS、暮桜で飛び出し、途中でドイツ軍のIS部隊と合流して犯人が潜伏している廃工場に突入して犯人たちを惨殺していき、カギのかかった部屋を見つけこじ開けて入るが、一夏ではなく別人が居り、千冬はすぐに生き残っていた犯人を尋問するも自分の納得のいく答えが出なかったため、生き残った犯人も殺す。そしてヒステリック状態の千冬は情報を提供してきたドイツ軍も誘拐犯とグルじゃないかと思い始め、その場にいたIS部隊に問い詰めるが、同じくほしい答えが出なかったため攻撃した。

その後到着したドイツ陸軍の部隊に一夏がドイツに来ていないことを教えられ、落ち着きを取り戻すも、拘束された。

暫くしてIS委員会からブリュンヒルデの称号剥奪、そして日本政府から日本代表から永久追放が伝えられ、抗議するも取り合ってもらえず無職になる。

その後日本に戻ってから、知り合いがIS学園に行くという事で、なんとか取り次いでもらい非常勤講師として雇ってもらえた。

 

企業

・桜木コーポレーション

日用品からブランド品まで様々なジャンルの仕事を展開しており、主に世界の物品などを貿易販売などしている。更に伝統工芸品の保護及び伝統を後世に残す事業も行っている。

技術・開発関係もあり、航空部門や最近できた宇宙部門が設けられている。

 

IS

・ダイモス

束が制作したISで、春奈の専用機。機体構成は地球防衛軍のコンバットフレームで、頭部だけフレームアームズガールの様に顔が見えるようになっている。武装は載せ替え可能となっている。

機動力が高く設計されており、近接を得意としている。

機体カラー:青

武装:近接武器【トンファー×2、大剣×1】

   射撃武器【アサルトマシンガン×1 グレネードランチャー×1】

   肩兵装 【左肩:リアクティブシールド 右肩:無し】

 

 

・グレイズ

束が制作したISで、一夏の専用機。機体構成は春奈と同様。

射撃と格闘、どちらも両立できる汎用機となっている。

機体カラー:深緑色

武装:近接武器【ロングブレード×1 アーミーナイフ×1】

   射撃武器【アサルトマシンガン×2 ロケットランチャー×1】

   肩武装 【左肩:拡散榴弾砲 右肩:ミサイルランチャー】



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1話

またまた新作です。
投票してくださった皆様大変ありがとうございました。




日が傾き始め、太陽がオレンジ色に染まりそうになろうとしている時間、一人の小学生が学校の中を駆けていた。

 

「はぁ~、うっかりしてた。全部入れたと思ってたのに」

 

そう呟きながら黒髪の少年、織斑一夏は学校の階段を上がっていく。彼が向かっているのは自身の教室で、宿題をするのに必要な教科書を忘れてしまいそれを取りに向かっていたのだ。

そして階段を上り終えた一夏は自身の教室へ向かおうとした瞬間

 

「―――きなのよ」

 

「ん?」

 

自身の教室に向かう途中にある教室から声が聞こえ、一夏は何事だと思い中を覗く。其処には3人の少女が1人の白髪の少女を囲って罵っていた。

 

「何時も霧島君に気に掛けてもらって、気に喰わないのよ」

 

「そんなの、知らないよ。私はそっとしてほしいのに勝手に向こうからくるんだから」

 

「なによその言い方。本当生意気!」

 

そう言うと少女の前に居た女性生徒が2人の生徒に目で合図をすると、2人は白髪の少女の腕を掴んで拘束する。

 

「な、何するの!」

 

「アンタのその髪を綺麗に切ってあげるのよ」

 

そう言い少女は何処からかハサミを取り出す。そして少女の髪を切ろうと近付こうとした瞬間

 

「おい、何やってんだお前等!」

 

と一夏が怒鳴りながら教室に入って来た。少女達は驚いた表情を浮かべている中、一夏はすぐに白髪の少女まで行き3人を睨む。

 

「お前等虐めなんかして楽しいのかよ?」

 

そう言った後白髪の少女に顔を向ける。

 

「荷物持って早くここから離れろ。こいつらは俺が見張っておくから」

 

「……えっと、あ、ありがとう」

 

そう言い少女はカバンに机の上や床に散乱したノートや筆箱を回収して入れて行く。

 

「お前等がこの子の事イジメてたこと先生に言いつけるからな」

 

そう言うと少女を取り押さえていた2人は狼狽えだし、前に居た少女はヒステリックになって叫びだす。

 

「こ、こんな事で先生に言いつけなくてもいいじゃない! ただの悪ふざけで、本気でやる気じゃなかっただし!」

 

「悪ふざけでも流石にやり過ぎだろうが!」

 

「う、五月蠅いわね!」

 

そう叫んだ少女はついカッとなって右手でビンタしようと振り上げた。だが彼女の右手にはハサミがあった。

 

「危ない!」

 

そう叫び声をした後白髪の少女が一夏を庇おうと前に出ようとする。一夏は前に出ようとする少女を庇おうと押し退けのけたら右頬にハサミが当たってしまった。

スパッと切れた一夏の右頬から血が流れ、しかもその量は多くびちゃびちゃと床に血が流れ落ちた。

 

「きゃぁあああっぁぁぁあ!!」

 

と白髪の少女が叫ぶ。すると廊下から走ってくる音が鳴り響きそして

 

「雪奈ちゃん!」

 

と叫んで黒髪のショートヘアーの少女が入って来た。その後に

 

「何をしているんだお前達!」

 

と教師も入って来た。混乱する状況の中、白髪の少女は慌ててポケットに入っているハンカチで一夏の出血している箇所を押さえる。

 

「だ、だいじょう「喋っちゃ駄目! ち、血が出ちゃうから!」」

 

そう叫んびながらも一夏の頬を押さえ続ける少女。だがハンカチは直ぐに真っ赤に染まり、抑えている指の間から血が漏れ出してきた。

すると

 

「雪奈ちゃん、このハンカチも使って!」

 

そう言い黒髪のショートの少女もポケットからハンカチを差し出す。雪奈と呼ばれた白髪の少女は慌ててそれを受け取り同じく赤く染まったハンカチの上から重ねる様にして抑えた。

そうこうしている間に救急車が到着し、一夏と雪奈と黒髪の少女、そして付き添いで女性教師が乗り込み発車した。

暫くして病院に到着すると、一夏は担架に乗せられたまま緊急治療室に運ばれていき、雪奈と黒髪の少女と教師は治療室前のベンチで待たされた。

 

「雪奈ちゃん、教室で一体何があったの?」

 

「…雪奈ちゃん」

 

女性教師と黒髪の少女が優しくそう聞くと、雪奈はその場であった出来事を震える唇で伝えた。

女性教師は、現場の状況を聞いて学校に伝えに電話してくるから此処に居てね。と言いその場を離れて行く。

雪奈は教室での光景を思い出したのか体をブルブルと震わせ、隣に座っていた少女はそっと雪奈を抱きしめ優しく肩を撫でて落ち着かせた。

 

「大丈夫、お姉ちゃんが傍に居るから。怪我した子も大丈夫だから」

 

「うぅう…、うん」

 

涙を流しながら震える雪奈に、少女は大丈夫と声を掛けながら落ち着かせ続けた。すると

 

「雪奈! 春奈!」

 

「無事か雪奈ッ?」

 

と黒髪で後ろで髪を纏めた着物女性と同じく黒髪のスーツ姿の男性が駆け足で二人の元にやって来た。

 

「お父さん、お母さん」

 

「あぁ雪奈。怪我とかしてない?」

 

「う、うん。でも、私を…助けてくれた子が…」

 

「大丈夫。此処のお医者さんは腕が良いから、きっと大丈夫よ」

 

そう母親が言い雪奈を落ち着かせる。

 

「春奈、一体何があったのか分かるか?」

 

「うん。雪奈ちゃんから聞いた話だと、クラスメイトの女子3人が嫉妬で雪奈ちゃんに突っかかって来たらしいの。そしたらいきなり腕とか掴まれて動けなくされてもう1人がハサミで髪を切って来ようとしたらしいの。その時運び込まれた男の子が助けに入ってくれたらしいの。早く逃げる様に言われてそれで逃げようとした時にハサミを持った女子が暴れてハサミを振り下ろしてきたらしいの。それで雪奈ちゃん、男の子を守ろうと前に出ようとしたんだけど、その前に男の子が雪奈ちゃんを庇おうと前に出たらしい。それで今の状態に…」

 

「そうか。その男の子にはしっかりとお礼をしないといけないな…」

 

黒髪のショートの女子、春奈はそう父親に伝えていると治療室の扉から医師とナース、そしてベッドに寝かされた一夏が出てきた。

出てきた一団に気付いた父親たちは医師の元に駆け寄る。

 

「先生、彼の容体は?」

 

「大丈夫です。頬の傷は深く入っておりましたが、生活には支障をきたさないはずです。ですが傷跡は残るでしょう」

 

「そうですか。娘の命を救ってくれた子なんで無事で良かったです」

 

「そうですか。…では、私はこれで」

 

そう言い医師は去っていく。その際母親は医師の顔に若干違和感を覚えた。

 

「あの先生、何か言いたげな表情だったわね」

 

「そうのか?」

 

「えぇ。…取り敢えず、今日はもう帰りましょう。明日なら彼も起きているかもしれないし」

 

「「…うん」」

 

そうして4人は後ろ髪を引かれつつも病院を後にした。

翌日、学校は臨時休校となった為雪奈と春奈は午前中に一夏のお見舞いに行こうと思っていたが、両親が仕事の関係で行けず午後から行くこととなった。

そして午後、雪奈と春奈そして両親は車に乗り病院へと向かった。

病院に到着すると、4人は事前に聞いていた一夏の入院している部屋へと向かう。

 

「彼、起きていると良いわね、雪奈ちゃん」

 

「…うん」

 

「さてもうすぐ彼の部屋『全くこの馬鹿者が』ん?」

 

もうすぐ彼の部屋と思った所で部屋の中から女性の声が聞こえ、4人は誰だろうと疑問府を浮かべる。

 

 

『でも、いじめられているのを『見て見ぬふりをすればよかっただろうが! そんな怪我をして! 家計が大変なのを分かっているだろ!』け、けど』

 

『けどもあるか馬鹿者が!』

 

中から少年の声と女性の罵声の様な声が響き続けた。それを聞いた雪奈と春奈の両親は顔をしかめる。

 

「一体何を言っているんだ?」

 

「全くです。しかも見捨てろだなんて、何てことを…」

 

そう言い聞くに堪えなくなったのか、2人は扉を思いっきり開ける。

開けると其処には黒髪の女性とベッドの上で上体を起こした一夏が居た。

 

「っ! だ、誰だお前等は!」

 

「その子が救ってくれた娘の親だ」

 

「貴女、さっきの言葉一体何なんですか?」

 

「なんだと?」

 

「いじめられているのを見て見ぬふりをしろなんて、なんてふざけた事を言っているの!」

 

「教師を呼びに行けばいいものを、コイツはカッコつけたいがために突っ込んだんだ! それを叱っていただけだ!」

 

女性がそう叫ぶと、雪奈が怯えながらも凛とした顔で口を開く。

 

「か、彼は私が本当に危ないと思って出て来てくれたんです!」

 

「こいつの事何も知らないくせしてほざくな!」

 

そう叫ぶ女性にひるみそうになる雪奈を春奈が支える。

 

「私の妹を怒鳴らないでください! 貴女が可笑しなことを言っているのが悪いんでしょ」

 

「生意気な小娘が!」

 

そう叫び女性が一歩前に出ようとした瞬間扉が開き医師とナースが入って来た。

 

「一体何を騒いでいるんですか!」

 

「織斑さん、すぐに此処から出て行きなさい」

 

「なっ! 私はコイツの姉だぞ!」

 

「姉であろうと、関係ありません! さっさと出て行きなさい! 出て行かないというなら警備を呼びますよ!」

 

そう言われチッ!と舌打ちを放ちそのままずかずかと部屋から出て行った。ナースは出て行った女性が本当に帰ったか確認するべく廊下へと出て行き、残った医師ははぁ。と重いため息を吐く。すると男性が申し訳なさそうな表情で口を開く。

 

「……申し訳ない先生、大騒ぎしてしまい」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

そう言い医師は一夏の傍へと向かう。

 

「すいません先生。騒がしくしてしまい」

 

「いやいや、君は謝らなくても良いよ。悪いのはお姉さんなんだから」

 

すると一夏は先程入って来た4人に顔を向ける。

 

「あの、所で貴方方は?」

 

「あぁ、自己紹介が遅れて申し訳ない。私は君が助けてくれた娘の父親で、桜木冬真と言う。此方は妻の」

 

「秋江と言います」

 

「姉の春奈です」

 

「ど、どうも。織斑一夏と言います」

 

そう自己紹介をしていると、雪奈がそっと一夏のベッドの傍に近寄る。

 

「あの、私、雪奈って言います。助けてくれて、ありがとう。あと、危険な目に遭わせてごめんなさい」

 

そう言い頭を下げようとする雪奈を一夏がそっと肩に手を置いて止めさせる。

 

「うぅん。あれは僕が自分の意思でやった事だから気にしないで」

 

「で、でも「ほら、女の子は顔が大事って聞くしさ。僕は男の子だから顔に傷があってもへっちゃらだよ。むしろかっこいいって思ってるから」けど…」

 

雪奈が謝ろうとするのを、一夏はあれこれ言って阻止するといった事が暫し続き、それを見かねた春奈が

 

「雪奈ちゃん、彼もこう言ってるんだから素直に受け入れよ」

 

そう言われ雪奈はまだ納得できない思いであったが、コクリと頷き受け入れた。

すると今度は冬真が口を開いた。

 

「所でご両親は何時頃来るかな? しっかりとご両親に今回の事を謝りたいのだけど」

 

「…うちには両親が居なくて、ずっと姉と二人で暮らしているんです」

 

「え、ご両親が居ない? 親戚もかい?」

 

「はい」

 

そう言い俯く一夏。

 

「もし差し支えが無ければ、お家の事聞いてもいい?」

 

秋江が優しくそう聞くと、一夏はぽつりぽつりと自身の家庭の事情を話し始めた。幼少の頃から親がいない事、強く生きられるようにする為にと無理強いさせるように剣道をさせられている事などを。

一夏の説明に冬真達は悲しそうな表情を浮かべていた。そんな中医師はというと

 

「……やはりあの傷は

 

と小さく零した。秋江はその言葉を聞き逃さず、すぐに医者に問う。

 

「先生、あの傷とは何ですか?」

 

そう聞かれた医師は口を閉ざす。しばしの沈黙が流れた後そっと口を開いた。

 

「分かりました、お話しします」

 

そう言い医師は一夏の傍に近寄る。

 

「一夏君、腕を見てもいいかい?」

 

「……はい」

 

一夏から許可を貰うと、医師は一夏の腕を取り服の袖を捲る。腕には細長い跡が残っており古い物だったり新しいものが付いていた。

 

「せ、先生これって…」

 

「恐らく彼が言っていた剣道によるものだと思います」

 

「ですがこれほどまでにはっきりつく様なことは…」

 

「恐らく力強く叩いた為だと思います」

 

「なんてひどい事を…」

 

そう零し悲しそうな表情を浮かべる秋江。冬真も出て行った一夏の姉に対し酷い怒りを覚えた。

一夏の傷に雪奈と春奈も悲しそうな表情を浮かべていた。

その後医師は一夏の怪我の状態を診察後退出していき、冬真達も部屋から退出し病院を後にした。

 

 

その夜、桜木家のリビングでは冬真と秋江がそれぞれソファに座りながら今日の事を話し合っていた。

 

「今日のあの子を見てどう思った秋江?」

 

「……率直な言葉でいいかしら?」

 

「あぁ、構わない」

 

「正直に言って信じられないわ。親が居ないからと姉一人であの子を育てたのは凄いと思うわ。でも、だからと言ってその弟に対して強くなる為だと言って無理矢理剣道をやらせて、その上防具無しなんて虐待以外何物でもないわ」

 

「そうだな、私もそう思う。それで思ったんだ」

 

「何をです?」

 

「あの子を、私達で引き取れないかとな」

 

「っ!?」

 

冬真の言葉に秋江は驚いた表情を浮かべ冬真を見つめる。

 

「それは…」

 

「勿論色々と問題があるのは分かっている。だが、娘と同じ年で、恩人でもある子が虐待まがいの事をされているのを黙って見ておくなど…!」

 

やるせない気持ちを吐き出すように話す冬真に、秋江は俯き暫しの沈黙が流れた。

どれ程の沈黙が流れたのか。最初に口を開いたのは秋江だった。

 

「…確かに引き取ろうと思うと色々と問題があります。私たちの子供たちにこの事をどう説明するか、そしてあの子の姉をどう説得するとか。あげればキリがないかもしれません。ですが、私も貴方と同じ気持ちです。あの子を救いたい、なら取るべき行動は一つしかありません。私達、これまでも多くの問題を乗り越えてきたでしょ?」

 

真剣な表情で伝える秋江に冬真はあぁ。と力強く返事を返した。

 

 

事件から数日が経ったある日、豪邸に一台の車が入り玄関前で停まった。運転席にいた執事服の初老の男性は素早く下りて後部座席の扉を開ける。

後部座席からは秋江と冬真、そして一夏が降りてきた。

そう、あれから一夏は姉の元から離され冬真達桜木家に引き取られたのだ。

勿論色々な壁が立ちはだかり困難を極めたが、2人は何とか一夏を引き取ることが出来たのだ。

 

後部座席から降りてきた3人。一夏は大きな家に驚いた表情を浮かべながら見上げていた。

 

「ほら一夏君、こっちが玄関よ」

 

秋江にそう呼ばれ一夏はその後に続く。冬真が扉を開けて2人が中へと入ると一夏もその後に続く。

 

「お、お邪魔します」

 

「あら、一夏君。お邪魔しますじゃないわよ」

 

「そうだ。此処はもう君の帰るべき家なんだ」

 

そう言われ一夏は今まで感じた事が無いような胸の暖かさを感じ、そしてずっと抱いていた思いを載せる様に口を開く。

 

「ただいま!」

 

「「「「おかえりなさい、一夏君」」」」

 

そう言い冬真と秋江、そして玄関で出迎えて待っていた雪奈と春奈が笑顔でそう答えた。

 

 

 

 

 

 

上空から一夏が桜木家の家に入っていく姿をモニター越しで見ていた一人の女性。

 

「良かった、良かった。これでいっくんは無事だ」

 

そう言いながら女性は携帯を取り出し何処かに掛けた。

 

「やぁやぁ! ご機嫌いかがぁ?」

 

『―――!? ―――‼』

 

「えぇ~。自分が悪いのに他人のせいにするのどうかと思うよぉ」

 

『――!?』

 

「はいはい、自分は悪くないって思ってるならそう思っておけばぁ。それと――」

 

一旦区切った女性は先程までのおちゃらけた雰囲気から殺意を混じらせた声質へと変える。

 

「いっくんはもうあの家の子供となった。つまりお前とはもう元姉弟で、同じDNAの血が流れている関係だけ。あの子にはもう近付くなよ? これは警告だ。破ったらどうなるか、お前なら分かるだろ? じゃあね」

 

そう言い女性は携帯の通話を切りポケットに仕舞い笑みを浮かべる。

 

「ふふん。いっくんはもうあの女の元から切り離された。ならこの天才博士、篠ノ之束さんもいっくんのご家族の会社にお邪魔しますかぁ!」

 

そう言いながら手に履歴書を持ってスキップしながら部屋から出て行った。




次回予告
怪我が治った一夏は雪奈と春奈の2人と共に学校へと向かう。
一夏と同じクラスに異動となった雪奈は一夏とその友人達と共に楽しい学校生活を始める。

次回
久しぶりの登校


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

桜木家の養子になってから数日が経った頃、鞄を背負い部屋から出て下の階へと降りてくる一夏。そして両隣の部屋から雪奈と春奈が同じく鞄を背負って出てくるとそのまま一緒に下の階へと降りて行く。

玄関には秋江と冬真が居た。

 

「それじゃあ3人共気を付けて行くようにね」

 

「それと雪奈、今日からは一夏と同じクラスになるから間違えないようにな」

 

「「「はぁい」」」

 

そう言い3人は2人に行ってきまぁすと言いながら扉を開け外へと出る。外では執事の沢木が車の横にて待機しており、3人が出てきたのを確認すると一礼する。

 

「おはようございます、雪奈お嬢様、春奈お嬢様、一夏坊ちゃま」

 

「おはよう沢木」

 

「おはようございます」

 

「おはようございます、沢木さん」

 

「坊ちゃま。私の事は沢木と呼び捨てで構いません」

 

「でも…」

 

そう言い一夏は申し訳なさそうな顔を浮かべる。すると玄関に居た秋江と冬真がクスクスと笑みを浮かべる。

 

「沢木、一夏はまだ慣れていないんですから無茶を言うんじゃありません」

 

「それは大変失礼致しました。坊ちゃま、どうかお許しを」

 

「いえ、沢木さんが悪い訳では無いので気になさらないでください」

 

「畏まりました」

 

そう言いながら一夏に一礼後、車の後部座席を開け3人を車へと乗せる。そして秋江たちにも一礼後運転席へと乗り込み学校へと向かって走り出した。

 

学校につくと3人は車から降りて昇降口へと入っていく。

 

「それじゃあ後でねぇ、雪奈ちゃん、一夏君♪」

 

「うん、また」

 

「はぁい」

 

そう言い春奈は階段を昇って上級生のクラスへと向かう。

 

「それじゃあ行こっか」

 

「うん」

 

そう言い二人は自分達のクラスへと向かって歩き出す。

2人が教室へと向かう途中、雪奈が元々通っていた教室の横を通っていく為、2人はチラ見で教室内を見る。

教室内に居る生徒達はあまり変わった様子も無く友人達と談笑に耽っていた。しかし4つの誰も座っていない席があった。

一つは雪奈の席で、残りは例の3人の席である。

あの事件後、3人は学校には来ていない。その為一夏が復帰するまでの間あの3人に絡まれない生活だった為雪奈は少しほっとした思いでいた。

それから2人は目的の教室に着き、扉を開け中へと入る。

入って来た2人に一斉に顔を向ける。一夏が中へと入ってくると、多くの生徒達から

 

「おかえりぃ!」

 

「怪我大丈夫か?」

 

「どんな傷? 見せて見せて!」

 

と言った感じで一夏を出迎えた。そうしているとチャイムが鳴り響きそれぞれ席へと付いて行く。

全員が席に着いたと同時に教師が中へと入って来た。

 

「はぁい皆さん、おはようございます! 今日から桜木君が復帰するので、授業に付いて行けない事などがあると思いますので皆さんその時は教えてあげて下さい。それと先ほど桜木君と言いましたが、ご家庭の事情で名字が織斑君から桜木君になりました。それと最後に1組に在籍されておりました桜木雪奈さんが本日から此処3組に編入されてきました。皆さん仲良くするように」

 

 

『はぁい!』

 

「それじゃあ今日の朝礼は以上です。起立、礼」

 

そう言い教師は教室から出て行った。出て行ったと同時に談笑を始める生徒達。一夏の元にも数人程友人達が集まり談笑を始める。

雪奈は鞄から本を取り出し読もうとすると

 

「ねぇねぇ雪奈ちゃん」

 

と声を掛けられ、顔を向ける。

 

「な、なに?」

 

「その本って、もしかして『あの日散った花弁を求めて』ってタイトル?」

 

「う、うん。そうです」

 

そう言い雪奈はおずおずと本の表紙を見せる。

 

「あぁ、やっぱり。その本すごく面白いよね!」

 

「は、はい」

 

そう言うと話を聞いていた女子たちも集まって来て雪奈が読んでいる本の事で盛り上がり始めた。雪奈もその輪に入って、オドオドしながらも楽しんでいた。

 

そして放課後、鞄に教材を入れているとクラスの男子が一夏に話しかける。

 

「なぁなぁ一夏。校庭でサッカーしねぇか?」

 

「あぁ~、わりぃ。先に行っててくれないか? お姉ちゃん待たないといけないから」

 

そう言っていると扉が開き、春奈が中へと入って来た。

 

「おっまたっせぇ!」

 

「あ、春奈お姉ちゃん。あのさぁ、今から友達と校庭でサッカーしに行ってきてもいい?」

 

「サッカー? うぅ~ん、良いんじゃない? 沢木からお母さん達に伝えれば帰りは少し遅くなっても怒られないと思うし」

 

「それじゃあ僕行って来るね」

 

そう言い一夏は友人達と一緒に校庭へと向かっていく。その後姿に少し寂しそうな顔で見送る雪奈。その顔を見た春奈は笑みを浮かべながらある提案をする。

 

「私達もベンチの所で座りながら一夏君のプレイ見ていよっか?」

 

そう言うと、え?とキョトンとした顔を浮かべた後暫く考えた後にうん。と返事を返し2人は一夏の後を追って校庭へと向かった。

校庭に着くと既に一夏達がサッカーをしていた。春奈と雪奈は近くにあったベンチに座って一夏達のプレイを見ていた。

暫く見ていると春奈が口を開く。

 

「そうだ、雪奈ちゃん。今日から新しいクラスだけどどうだった?」

 

「えっと、最初は前と同じクラスみたいに一人ぼっちになるのかなって不安だったんだけど、私が今読んでいる本が好きな子が数人いてその人達と談笑して、凄く楽しかった」

 

「そっか。それは良かったぁ」

 

春奈はそう言い安堵した表情を浮かべながら他にはどんなことがあったの?と聞く。雪奈は他にもこんなことがあったよ。と楽しそうに話し始めた。

 

 

暫く校庭でサッカーをして遊んだ一夏達はそろそろ帰ろっかと話し始め、帰り支度を始めた。

一夏は自身のカバンを持った春奈と雪奈の元へ駆け寄る。

 

「あぁ~楽しかったぁ」

 

「あんまり無茶しちゃ駄目だよ?」

 

「はぁい」

 

「一夏、頬に泥汚れがついてるよ」

 

「え、本当?」

 

そう言い一夏は袖で泥汚れを拭う。

 

「あぁ~あ、もう服汚れちゃってるじゃん。帰ったら即お風呂じゃない?」

 

「そうだね」

 

そう言いながら沢木が待っている駐車場に向かう。駐車場に着くと沢木が車の横で立って待っており、その手には一夏の替えの服を持っていた。

 

「お帰りなさいませ。一夏坊ちゃま、こちらは代えの服でございます。車の中でお着換えできるように手配しておりますので、どうぞ中へ」

 

そう言われ一夏は沢木にありがとうございます。とお礼を言い車の中へと入る。座席にはビニールが敷かれており傍にはビニールの袋も用意されていた。

一夏は汚れた服を脱ぐとその袋の中へと入れ、新しい服に着替えると外へと出る。

 

「では、中の清掃を致しますのでしばしお待ちください」

 

そう言うと沢木は慣れた手つきで手早く中にあったビニールなどを片付け3人が乗れるようにした。

そして3人は車へと乗り込み、沢木の運転で家へと帰って行く。

 

 

 

家に着くと3人はそれぞれ自分の部屋へと向かい、一夏は勉強の前にお風呂に入らないとと思い一階へと降りてきた。

すると玄関からスーツ姿の冬真が帰って来た。

 

「あ、お父さんお帰りなさい」

 

「あぁ、ただいま一夏。何処に行こうとしているんだ?」

 

「お風呂に行こうとしてたところ」

 

「そうか」

 

そう返すと、一夏は申し訳なさそうな顔を浮かべながらある提案を出す。

 

「お父さん」

 

「なんだ?」

 

「あの、一緒に、その、お風呂に入らない?」

 

「お風呂にか?」

 

「うん。その、家族と一緒にお風呂に入った事が無くて、その…」

 

冬真は一夏の言葉に少し感慨深い顔を浮かべる。

 

(そうか。誰かと一緒にお風呂に入った事が無かったからな。家族と入ることに憧れがあったのか)

 

黙る冬真に一夏は落ち込んだ表情を浮かべる。

 

「や、やっぱり忙しいよね。ごめん、また今度誘うね」

 

そう言い去ろうとする一夏に冬真は慌てて釈明する。

 

「あぁ、すまんすまん一夏。少し考えに耽っていてな。良いぞ、一緒にお風呂に入ろうか」

 

「え? 良いの?」

 

「当たり前だ。何だったらお父さんの背中を洗ってくれるか?」

 

「う、うん!」

 

そう言い笑顔を浮かべる一夏に、冬真も朗らかな笑みを浮かべながら靴を脱いで一夏と共に風呂場へと向かって行った。

 

一夏達がお風呂に入りに行っている間、勉強を終えた雪奈と春奈は秋江と共に居間で紅茶を飲んでいた。

 

「そう、クラスメイト達と仲良く出来ているのね」

 

「うん。まだ初日だから不安な事はあるけど、それでも仲良くしてくれる」

 

「私も話を聞いてる限り、良いクラスだと思うね」

 

「そうね。やっぱり前のクラスは問題のある生徒だけが集められていたのかしら?」

 

そう言いながら秋江はティーカップに入った紅茶を口に含む。

その後は3人は夕食の準備が終わるまで談笑をするのであった。




次回予告
学校に戻って数日後、一夏のクラスに1組の霧島がやって来た。
そして嫌がる雪奈に何度も話しかけてくる。一夏はそれを辞めさせるべく立ち上がった。

次回
家族の為に手を挙げる


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

一夏が復帰してはや数日が経ったある日の学校。

一夏と雪奈は一緒にクラスメイトと共に談笑をしていた。すると教室の後部の扉が開き一人の男子生徒が入って来た。

入って来た生徒に雪奈は嫌そうな顔を浮かべ、一夏の袖をそっと掴む。

その動作で一夏はそいつが雪奈が苛められる原因となった霧島だと分かった。

霧島はそのまままっすぐに雪奈の元へと近づく。

 

「あの、雪奈ちゃん。大丈夫?」

 

「な、何がですか?」

 

「此処のクラスの人達にいじめられたりして無いかと思ってさ」

 

爽やかそうな顔で言った言葉に、周囲に居たクラスメイト達、特に雪奈と仲良くしている女子たちがムッとした表情を浮かべる。

クラスメイト達は雪奈がどうして1組から3組に異動してきたのか、クラスに馴染んできた時に雪奈の口から聞いていたのだ。

その為

 

「ちょっと、私達が雪奈ちゃんを苛める訳ないじゃない」

 

「そうよ。そっちのクラスの子達と一緒にしないで!」

 

女子たちがそう言うと、同意するように頷く女子生徒達。男子生徒達は顔をしかめた表情を浮かべ霧島ににらみを利かせる。

 

「そりゃあ彼女達も悪いことしたかもしれないけど、話し合えばきっと仲直りできるはずだよ」

 

そう言い雪奈に顔を向ける。

 

「だから放課後彼女達の所に行って話し合おう。そうすれば仲直りできるはずだよ」

 

そう言ってきたのだ。すると傍に居た一夏が前に出る。

 

「おい」

 

「なんだい? 今僕は彼女と「お前は馬鹿か?」なに?」

 

「雪奈はお前の要らない行動の所為でいじめられたんだぞ。それに漸く雪奈は皆と楽しく学校に来れてるのに、それを台無しにする気かよ」

 

「そんなつもりは無いよ。ただ話し合いをすれば「それで解決するなら争いなんか起きねぇよ。もう雪奈に関わるな」これは彼女の問題だ。君が関わる理由が無いだろ」

 

「ある」

 

そう言い一夏は真っ直ぐに、そして堂々と口を開く。

 

「雪奈は俺にとって大事な家族だ。家族を苦しませようとするやつは誰だろうと許さねぇ!」

 

高々に宣言する一夏に女子たちはキャー。大胆宣言!と黄色い声を上げ、男子は流石男の中の男の一夏だ!と褒め称えた。

 

「そ、それじゃあ何の解決にも……」

 

「だったら本人がどうしたいかはっきり聞けばいいじゃないか」

 

そう言い一夏はそっと体をずらし霧島から雪奈が見えるようにする。雪奈は一夏が大胆に大事な家族と言ってくれたことに嬉しそうに顔を浮かべていたが、一夏が本人に聞けばいいと言う言葉にずっと胸に秘めていた思いを吐き出す。

 

「もう、私の事は放っておいて下さい。貴方に関わられたらまた苛められるから。だから、もう私に構わないでください!」

 

そう叫ぶように言うと霧島はうろたえた。だがまだ居座ろうとする霧島にクラスメイト達が口を開く。

 

「ほら、雪奈ちゃんが関わるなって言ってるんだから出て行きなさいよ」

 

「そうよ。アンタのクラスだとその顔でいちころかもしれないけど、此処のクラスはアンタの胡散臭い顔なんて気にもしないのよ!」

 

「出ていけ、出て行け」

 

と叫ばれ、苦虫を噛み潰した様な表情で出て行った。

漸く出て行った霧島にホッと一息を吐く雪奈に女子達は

 

「お疲れ様」

 

「本音が言えたね、えらい!」

 

「アイツの事は私達に任せてね、絶対に関わらせないから」

 

「男子、手を貸しなさいよ」

 

「「「「はい、姐さん!」」」」

 

「誰が姐さんよ!」

 

和気藹々と賑やかとなるクラスに雪奈は本当にこのクラスに異動出来て良かったと思った。

 

そして時間は経って放課後、一夏達は春奈が来るまで待っていようと教室で待っていた。

他にも数人の女子達も待って雪奈と談笑をしていた。

すると教室の後部扉が開きそれぞれそちらに顔を向けると、其処には霧島が居た。

霧島を見た女子生徒達はジト目を浮かべる。

 

「ちょっとまた来たの?」

 

「しつこいわよ」

 

そう言って来る女子に対し霧島は

 

「それじゃあ何の解決にもならないんだ。雪奈ちゃん、彼女達の所に行こ? 話し合ったら分かり合えるはずだから」

 

そう言い近付く。

だが一夏がそれをさせまいと立ちはだかる。

 

「おい、いい加減にしろよ。雪奈が嫌がってるのが分からないのか?」

 

立ち塞がる一夏に険しい表情を浮かべる霧島。

 

「だからと言ってこのままの方が良くないじゃないか! 以前いたクラスの方が雪奈ちゃんだって良いはず「私は、今のクラスの方がいいです。もう、関わらないでください!」そ、そんな」

 

「ほら、早く帰れよ」

 

雪奈の言葉で狼狽える霧島に一夏は帰るように言う。するとそれが気に喰わなかったのか

 

「…んで」

 

「?」

 

「なんでお前みたいな奴が雪奈ちゃんの横に容易く居られるんだよ!」

 

そう叫びながら霧島は一夏に向かって殴り掛かった。突然の攻撃で一夏は咄嗟に避けようと思ったが、背後に居る雪奈に攻撃が当たると思い体を若干ずらし、自身の頬で攻撃を受けた。

 

「きゃー!!???」

 

「ちょ、ちょっと何やってんのよ!?」

 

「五月蠅い! 雪奈ちゃん兎に角来るんだ!」

 

そうヒステリックに叫びながら雪奈に腕を伸ばす霧島。恐怖で動けない雪奈。掴まれると思い目をつぶってしまった。

掴まれそうになるも、その寸でで伸びた霧島の腕を掴む者が居た。

そう、一夏であった。

 

おい

 

ドスの利いた声量で一夏は霧島を睨む。霧島はヒッ!?と一夏の気迫に怯え逃げようとする。だが霧島の腕を掴んだ一夏はそうはさせまいと、力一杯に腕を掴む手に力を加える。そして

 

汚い手で、雪奈に触れようとすんじゃねぇ!

 

そう叫びながら一夏は思いっ切り右ストレートで霧島に殴った。

拳は霧島の顔のど真ん中に命中し、霧島の腕を放したために勢いよく吹き飛んで行った。

ドンガラガッシャーンと大きな音を立てながら倒れる霧島。それと同時に

 

「雪奈ちゃん、一夏君!」

 

と春奈が息を荒げながら飛び込んできた。その後には教師も居り教室内を見て何事だと驚いた表情を浮かべていた。

教師は一体何があったんだとその場にいた生徒達に事情を聴きに回る中、春奈は雪奈と一夏の元に駆け寄る。

 

「二人共、大丈夫?」

 

「う、うん。でも一夏が彼に頬を殴られたの…」

 

「えっ!? 一夏君大丈夫なの!?」

 

「うん、大丈夫。ちょっと痛いくらい」

 

「痛いって、傷口が開いてるかもしれないじゃない!? せ、先生すぐに救急車を!?」

 

「いや、其処まで「何言ってるの! 殴られて傷口が開いているのかもしれないのよ!」」

 

春奈はそう叫ぶ中、教師は携帯で電話をし始めた。数分後救急車が到着し一夏は雪奈と春奈に引っ張られる形で救急車に乗せられ、引率の教師と共に病院へと運ばれた。

その後病院の検査の結果、傷口は開いておらず軽い打撲が出来ている程度であった。

その頃学校では秋江と冬真、そして霧島の親が会議室で対面していた。

秋江と冬真は鋭い眼光で霧島両親を見つめており、対して霧島両親は冷や汗を流しながら暗い表情を浮かべながら俯いていた。

そして教師と校長が中へと入って来た。そして教室で何があったのか説明を始めた。

その内容を聴いた秋江と冬真はギロッと霧島両親を睨みつける。

 

「またお宅の子ですか? 一体うちの子に何の恨みがあるんですの! しかも息子にまで手を挙げるなんて!」

 

「全くだ。霧島さん、お宅には以前忠告したはずだと思うんだが? 2度とうちの娘に近付かない様にと息子さんに伝えてくれって言ったはずだよな? それなのにこれは一体どいう事だ!」

 

そう叫ぶと霧島両親は

 

「「大変申し訳ございません‼」」

 

と椅子から降りて二人に見える様に土下座をした。そして話し合いが行われ一夏の治療費は霧島家が持つ事が決まった。

そしてもう一つ決まった事があった。それは霧島の転校だった。

転校の理由は霧島の問題の解決の仕方だった。話し合えば解決できると信じている霧島のやり方に両親は頭を抱えた。実は霧島の父親は弁護士であった。その為霧島のやり方は最低な方法だとすぐ理解できたからだ。

このままだとまた一夏達に迷惑を掛けると思った霧島両親は厳格な兄がいる県外に送ろうと思い転校へと踏み切ったのだ。

こうして霧島の転校が決まったのであった。

 

そして時間が経ち病院での検査を終えた一夏達が家へと帰って来た。一夏は迷惑を掛けた秋江と冬真にごめんなさい。と深々と謝った。しかし二人は

 

「確かに人を殴った事はいけない事かもしれません。けど、一夏は雪奈を守る為にやったのでしょ? なら私は怒りません。むしろ良く雪奈を守りましたと褒めます」

 

「そうだな。一夏、お前は大事な家族を守る為にやったんだ。胸を張って良い」

 

そう言い一夏を褒めた。




次回予告
霧島が転校していき平穏となった学校。
そんな中雪奈にある心情の変化があった。

次回
雪奈思い


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

霧島が転校して行ってはや数日、まず学校内の状態について説明しよう。

まず霧島が所属していたクラスだが、霧島が転校して行った事でこれまで騒がしかったのが嘘みたいにシーンと静まり返っていた。

霧島がリーダーみたいなグループも自然消滅し、それぞれ新たにグループをつくったり、一人ポツンと過ごす生徒などとなった。

 

そんな静まり返ったクラスと打って変わって、一夏と雪奈のクラスはと言うと何時もと変わらず楽しい笑い声など賑やかなクラスであった。

 

霧島の襲撃以降、クラスの結束が強くなった。それと、雪奈を守る一夏の背に憧れた男子生徒は、一夏の様な男になろうと男磨きを始めた。

そのおかげかは分からないが、一夏達のクラスの男子は教師達や困っている人を見かけると積極的に助けに行くなど教師や地域住民からの評価が上々だった。

 

 

雪奈side

霧島君が転校してから本当に気が楽になった気がする。

霧島君に絡まれてから私の学校生活は楽しくない日々だった。

誰からも話しかけてもらえず、ただ気に掛けて貰えているという嫉妬で苛められて苦しい毎日だった。

けど、一夏のお陰でそんな辛い日から抜け出せた。

 

あの日、一夏が私を助けるために怪我をした時本当に苦しかった。自分のいじめに何の関係もない人が巻き込まれた事に。

彼が寝ている病室に行った時も、本当に苦しかった。巻き込まれた事に怒られるんじゃないかって。

けど、一夏は違った。怪我したのにも拘らず私の事を案じてくれた。それどころか怪我したのは私の所為じゃないって言って励ましてくれた。

一夏の言葉で、ずっと苦しかったものがゆっくりと消えていく感じだった。

それから一夏が私の家の子になって一緒に暮らすようになって、そして一緒に学校に通う様になって行く度に段々と学校が楽しいと思えるようになった。

周りの人達と関わることに怯えていた私に新しいクラスの子達は優しく話しかけて来て、私の趣味の本の話から色々と話題が広がって仲良くしてくれた。

 

それからつい先日、また霧島君が私のところに来た。私をいじめていた子が謝りたいと言っているから来て欲しいとのことだけど、もう関わりたくなかった。

すると一夏が私の前に立って霧島君に帰れと言った。

引き下がろうとしない彼に一夏や他の皆が帰れという。

その際一夏は、私の事を大切な家族と言ってくれた。その言葉が嬉しかった。やっぱり心の何処かでまだ後ろ髪を引かれていたのかもしれない。

けど一夏の言葉でそれは無くなった。一夏がはっきりと言ってくれたから、私もはっきりと霧島君に断った。もう関わって欲しくないから。

私の言葉を聞いて霧島君はうろたえていたけど、まだ居座ろうとしたからクラスメイト達から追い出された。

 

それから放課後になると、またやって来た。お姉ちゃんが来るまで一緒に居てくれた女子達にしつこいと言われても、彼は本当にしつこかった。

近付いてきた霧島君に一夏が直ぐに間に入って近づけさせまいとしてくれた。

彼はまた同じように会いに行こうと言って来るけど、一夏や仲の良いクラスメイトが防いでくれた。そして私もまた関わらないで。と言った。すると、何が気に障ったのか、突然声を荒げながら一夏に殴り掛かったのだ。

一夏は避けれたにも関わらず、避けずに殴られていた。その後霧島君は私を無理矢理連れて行こうとして来た。

私は恐怖で動けずにいたら、また一夏が助けてくれた。

捕まえようとして来た霧島君の腕を掴んで、それで

 

「汚い手で、雪奈に触れようとすんじゃねぇ!」

 

と怒鳴りながら霧島君を殴り飛ばした。

その後はお姉ちゃんと先生が駆けつけてくれて、殴られた一夏を病院に連れて行った。

病院の先生に軽い打撲と診断されて、お姉ちゃんと私はホッと安堵した。

その後は家に帰ると、お母さん達が玄関先で出迎えてくれて私を抱きしめてくれた。

私は其処でクラスでの恐怖がぶり返して、涙を流してしまった。

 

色々とあったけど、霧島君が居なくなったおかげで本当に気が楽になったような気がする。

けど最近体に変な感じを憶える様になった。

それは

 

ドクンドクン

 

「ま、まただ」

 

そう、時々胸が凄く高鳴るのだ。それも

 

「なぁ一夏。この前近所の人に男を上げるにはどうしたらいい?って聞いたら『体と心を鍛えればいい』って言われたんだけど、何かいい方法ないか?」

 

「えぇ。そんなもの急に言われてもなぁ。うぅ~ん、まず軽く筋トレとかするのは? 過度の筋トレは体の成長に悪いって前に病院の先生に言われた事があるし」

 

「そうなのか? それじゃあ軽い筋トレとかで力をつけるか」

 

「……」ポォー

 

一夏を視界に入れるとだ。一夏を見ると、何時も胸が高鳴るし、それに何だか落ち着かない。

な、何でだろう?




次回予告
月日が経ち中学校に入学する一夏達。一夏と雪奈は小学生時代で特に仲の良かった五反田弾と中国から転入してきた鳳鈴音と同じクラスになりながら楽しい学校生活を送る。

次回
中学校入学


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

あれから月日が経ち、一夏達は中学生となった。

 

一夏と雪奈、そして冬真と秋江は高級車であるリムジンで中学校へと向かっていた。

 

「一夏、答辞の文章ってこれで大丈夫かな?」

 

「見せて。……。うん、変な文章にもなってないし、雪奈らしい答辞になってるよ」

 

「そ、そう? だったら嬉しいな」

 

一夏の言葉に照れた笑みを浮かべながら差し出された答辞の紙を受け取る雪奈。

二人の姿に微笑みながら見つめる冬真と秋江。

そうこうしている内に2人が通う中学校近くまで来た。

 

「沢木、近くで停めてくれ。此処からは歩いて向かう」

 

「門前まで向かわなくて宜しいのですか?」

 

「今門前は多くの入学生達や親御さん達が溢れているだろう。それに門前で入学祝に写真を撮っている方達もいるかもしれん。折角の記念日だ。邪魔する訳にもいかんだろ?」

 

「確かに旦那様の仰る通りですね。では其処のコンビニで停車いたします」

 

そう言い沢木は中学校近くの駐車場にて車を停めた。そして4人は車を降り、徒歩で中学校の門前まで来た。

案の定冬真の言う通り門前では多くの人達が居り、中には門前にて記念撮影をしている親御さん達もいた。

 

「アナタの言う通り一杯おられたわね」

 

「そうだな。ほら、2人共門前に並びなさい。入学祝の写真を撮ってやる」

 

そう言われ二人は照れながらも学園名が書かれたプレート横に立つと、冬真は持っていたデジカメでパシャリと撮る。

 

「うむ、いい写真が撮れた」

 

「フフフ、それは良かったです。それじゃあ次はお母さんと雪奈の二人で撮りましょうか」

 

「はい!」

 

そして雪奈と秋江、そして次は一夏と冬真と交互に写真を撮って行った。

写真を撮り終えると

 

「あ、やっぱり一夏達じゃないか!」

 

「ん? おぉ、弾じゃないか」

 

声を掛けてきた赤髪でバンダナを巻いた少年、五反田弾と

 

「雪奈もいるじゃない。やっほー」

 

「あら、鈴さん。やっぱり鈴さんも此方の学校でしたんですね」

 

「まぁね」

 

茶髪のツインテールの少女鳳鈴音であった。

 

「あら、弾君に鈴ちゃん。ご入学おめでとう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ありがとうございます!」

 

秋江の言葉に2人は緊張しながらも返す。

そして秋江と冬真は体育館へと向かい、4人は教室へと向かう。

4人は自分達の教室を確認すべく教室割のポスターを確認する。

 

「俺達の名前はと…。あ、あった。俺と雪奈は2組だな」

 

「俺と鈴も同じく2組だ」

 

「やった。それじゃあまた一緒に遊べるわね」

 

「そうね」

 

同じ教室だったことに嬉しそうな顔を浮かべながら、教室へと向かった。中に入ると既に何人か教室内におり席に着いて本や友人と駄弁っていた。

 

「俺達も席を確認しようぜ」

 

「だな」

 

4人は黒板に掲げられているポスターへと向かう。其処には席と名前が書かれており、一夏と雪奈は窓側、弾と鈴は一夏達の一つ挟んだ隣であった。

座る場所を確認した後4人は一夏の席に集まって談笑を始めた。暫くして教室の前方の扉から教師が入って来た。

 

「はい、皆さん席に着いてい下さい」

 

その声に席を立っていた生徒達はゾロゾロと自分達の席へと付いて行く。

全員が着席をしたのを確認した教師を優しい笑みを浮かべながら教室内を見渡す。

 

「皆さんご入学おめでとうございます。私が皆さんの担任を務めます、岸田さわ子です。宜しくお願いしますね」

 

『宜しくお願いします』

 

「では入学式が行われるので皆さん体育館に行きましょう」

 

そう言われゾロゾロと教室からでて体育館へと向かう。体育館へと入るとステージ側には新入生たちの席が用意されており、後方には親達が席に着いていた。

入って来た新入生たちはそれぞれの組の席に着く。

そしてステージ上に校長と思われる男性が上がり新入生たちの入学祝の言葉を送ってきた。

そして次に生徒会長のお言葉ですとアナウンスされステージに一人の生徒が上がった。

 

「あれ? なぁ、あれって一夏の姉ちゃんじゃないのか?」

 

「あぁ。此処の生徒会長になってるって言ってたからな」

 

「はぁ~、やっぱり春奈さんは凄いなぁ」

 

「何でもそつなくこなしますからね、お姉ちゃんは」

 

「まぁ、偶に天然な所があるけどな」

 

そう呟く一夏に雪奈は苦笑いを浮かべる。

そうこうしている内に教壇前に着く春奈。持ってきた紙に一度目線を落とした後新入生たちの方に顔を向け口を開く。

 

「春の桜が咲き誇り、ヒラヒラと舞い踊る様に桜が目立ってきました。新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。在校生一同、皆様のご入学を心からお祝い申し上げます」

 

春奈はそれから新入生たちに学校の強みなどをはっきりとした口調で語り続けた。

 

「――以上をもちまして、歓迎とさせていただきます」

 

そう言い一礼し、ステージが降りて行った。その間新入生たちは拍手でそれを送った。そして次に新入生代表の雪奈が立ち上がりステージ上へと立つ。

 

「春風が頬を撫で、暖かな陽の光が降り注ぐ日。本日私たち新入生を温かく迎え入れた事に感謝します」

 

と答辞をスラスラと語る雪奈。そして答辞を言い終えると自分が座っていた席へと戻って来た。そして司会は入学式終了を伝えると、1組から席を立って体育館から出て行く。

一夏達も2組の順番になると席を立って体育館を後にした。

そして教室に戻り席に着くと、さわ子が大きな段ボールが載った台車を押してやってきた。

 

「それでは今から皆さんに教科書とかこれからの学校生活に必要な物を配りますね」

 

そう言い前から教科書を配っていく。そして全ての教科書などを配り終えた後再び笑みを浮かべながら口を開くさわ子。

 

「ではこれにて本日の入学式は以上になります。明日からは授業の流れや教師の自己紹介を行いつつ、軽く授業を行いますので本日渡した教科書等忘れない様にしてくださいね」

 

『はい』

 

「では、皆さんお疲れ様でした!」

 

そう言いさわ子は教室から出て行った。さわ子が出て行った後早速それぞれ自己紹介をしに色々と動き始める生徒達。

一夏達は一夏の席に集まって談笑をしていた。

 

「さて、どうする?」

 

「そうだな。一夏は雪奈ちゃんと一緒にお姉さんのとこに行くのか?」

 

「あぁ。朝学校に行くときに終わったら生徒会室に来てって言われているからな」

 

「うん」

 

「そう。それじゃあ弾とアタシは校舎を見て回ってくるわ」

 

「え? 俺も行くのか?」

 

「あら? こんなかわいいアタシを一人で行かせる気?」

 

「……自分で可愛いって言うとか自意識か「フンッ‼」ゴハッ!?!!?」

 

小言を言った弾に鈴は容赦なく脇腹に拳をぶち込み黙らせた。その光景に一夏と雪奈は苦笑いを浮かべる。

そして弾と鈴に別れを告げて2人は生徒手帳を見ながら生徒会室へと向かった。

 

「えっと…」

 

「あ、一夏此処みたい」

 

生徒手帳と睨めっこしながら歩いていると、目的の部屋に到着した。2人は扉に近付きノックすると

 

『どうぞぉ~』

 

と春奈の声がしたため中へと入る。

 

「「失礼します」」

 

「お、2人共いらっしゃ~い!」

 

一夏と雪奈が入って来たのを確認した春奈は笑顔を浮かべ、手を振りながら出迎えた。春奈の席は生徒会室の奥側に置かれており、その左右の机には真面目そうな眼鏡を掛けた男子とニコニコと笑みを浮かべたキリッとした目つきでショートツインヘアーの女子が居た。

 

「会長、此方が弟さんと妹さんですか?」

 

「えぇ。それと今日から生徒会(ウチ)の書記と会計補佐担当よ」

 

「「はい?」」

 

春奈の言葉に2人は唖然とした表情を浮かべる。

 

「え? 会長、マジで言ってるの?」

 

「マジマジだよ、望月ちゃん」

 

「二人は全く知らないと言った表情のようですが?」

 

「だって、サプライズの方がいいじゃん。真島君」

 

「いや、これは流石にサプライズの域を超えて嫌がらせだと思われる恐れがあるのでは?」

 

「其処まで行かないよ。そうだよね、一夏君、雪奈ちゃん」

 

そう聞かれ一夏と雪奈は

 

「「はぁ~~~~」」

 

と盛大な溜息を吐いた。

 

「もう、お姉ちゃんそう言う事は大事なんだから早く言ってよ」

 

呆れた様な表情で零す雪奈。

 

「全くだよ」

 

雪奈同様呆れた様な表情を浮かべる一夏。するとある事を思いつき仕返しとばかりにある事を口にする。

 

「黙っていた罰として昨日作ったプリン、お姉ちゃんの分は沢木さんにあげようかな」

 

笑みを浮かべながら告げた言葉に

 

「へっ?」

 

今度は春奈がキョトンとした表情を浮かべた。一夏の意図に気付いた雪奈は同じく笑みを浮かべながら相槌を打つ。

 

「それが良いわね。お姉ちゃんは私達に大事な事を黙っていたんだもの。これ位の罰は当然よね」

 

「はい?」

 

雪奈も同様の事を口にすると、暫し思考が停止する春奈。そして

 

「ま、まままま待ってよぉ! さ、流石にそれはあんまりよぉ!」

 

「だって俺達にそんな大事な事黙っていたじゃないか。だからこれ位は当然でしょ」

 

「一夏に同意。こればっかりはお姉ちゃんが悪いと思うよ」

 

「やだぁ! 一夏のプリンは私の物よぉ! 誰にも渡さないんだからぁ!」

 

と若干涙を浮かべながら駄々をこねる春奈。その姿に真島と望月は( ゚д゚)ポカーンと言った表情を浮かべた。

暫し春奈がやだぁやだぁ!と駄々をこねる姿を見た後満足したのか、一夏が口を開く。

 

「春奈お姉ちゃん、嘘だよ」

 

「ふぇ?」

 

「うん、お姉ちゃん嘘だよ」

 

2人から嘘だよと言われ、絶望していた顔から安心したような表情を浮かべパイプ椅子に深々と座り直す。

 

「もぉ~、やめてよぉ。一夏君の手作りお菓子が食べられなくなるなんて、私の死活問題なんだからねぇ」

 

「お姉ちゃんが悪いんだよ。大事な事黙っていたんだから」

 

「そうそう。次大事な事を黙っておいて当日に発表するなんてことをしたら、マジでお菓子を沢木さん達お手伝いさん達に回すからね」

 

「はい。二度とやりません」

 

深々と頭を下げながら謝罪をする春奈。その光景に遂に我慢が出来なくなったのか、望月が笑い声をあげる。

 

「アッハッハッハ! あ、あの会長が弟達にからかわれて涙流すなんて、可笑しすぎだろぉ!」

 

「確かにあんな絶望した表情を浮かべた会長は初めて見るかもしれませんね」

 

「……二人共、このことは内密にしておいてよ。恥ずかしいんだから」

 

顔を真っ赤にさせながら警告する春奈に2人は笑みを浮かべながら、分かりました。と了承する。

 

「それで、春奈お姉ちゃん。俺達に生徒会に入って欲しいの?」

 

「うん。勿論部活に入りたいとかなら諦めるけど」

 

「俺は特に部活に入る予定はないけど、雪奈はどうする?」

 

「私は…。別に所属してもいいかな?」

 

「そうか。なら俺も参加するわ」

 

「うん、ありがとうね。それじゃあ自己紹介をお願いね」

 

「分かりました。俺が副会長の真島健吾だ。生徒会と兼任で剣道部の部長もしている」

 

「アタシは望月加奈。役職は生徒会会計だ。宜しくな」

 

「弟の一夏です」

 

「妹の雪奈です」

 

そうして生徒会の仕事や必要な物等の準備をしていった。




次回予告
中学に入学して月日が流れた頃、一夏と雪奈が生徒会室に行くと春奈の姿が無かった。
望月曰く、ラブレターを貰ったからその返事をしに行くとの事。
すると一夏は弾や鈴から聞いたある事と引っ掛かり、春奈が居るであろう場所へと向かった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

一夏達が入学して日が経ったある日の事。

その日、一夏達は所属している生徒会に何時も通り仕事をしに向かっていた。

 

「さてと、今日は何かあったかな?」

 

「確か昨日書き上げた資料の見直しと部費の見直しだったはず」

 

「なるほど。そうなると今日も大変だな」

 

そう言いながら一夏と雪奈は生徒会室へと向かった。

そして生徒会室前に到着し、中へと入る。

 

「お疲れ様です。……あれ、会長は?」

 

「おぉ、一夏君と雪奈さんか。会長だったらまだ来てないぞ」

 

「そうなんですか。何処に行ったんですか?」

 

「なんかラブレターを貰ったとかで、それの返事をしに行ったらしいぞ」

 

加奈の説明に一夏と雪奈は驚いた表情を浮かべた。

 

「え? 春奈お姉ちゃんにラブレターですか?」

 

「おう。あぁ見えて会長って男女問わずモテるからな」

 

「へぇ、そうだったんですか」

 

「まぁ1年で生徒会に参加し、2年に上がったら即生徒会長に名乗りを上げたから」

 

「1年の頃からですか?」

 

「あぁ。あの頃の会長は前の会長の元で色々と手伝ったりと裏方で頑張っていたからな。その頑張りを身近で見ていた前の会長と教師達からの推薦で生徒会長になられたんだ」

 

「「へぇ~」」

 

健吾の説明に一夏と雪奈は声を揃えながら言い、姉の凄さに改めて驚かされていた。

すると一夏はふとある事を聞こうと加奈に声を掛ける。

 

「望月先輩、姉にラブレターを送った人って分かりますか?」

 

「ん~。それはアタシにも分からないかな。誰からって聞いても教えてくれなかったし」

 

「そうですか「でも」はい?」

 

「恐らくだけど、久瀬六郎だろうな」

 

「誰です、その久瀬っていうは?」

 

雪奈は聞いた事が無い人の名を聞き首を傾げつつ加奈に聞く。

 

「アタシたちと同じ2年で、顔はまぁイケメンと言う奴はいるんじゃないか?っていうような顔立ちの奴で、確か健吾と同じ剣道部じゃなかったか?」

 

「いたな、そんな奴」

 

と、過去形で話す健吾。

 

「いたなっていう事は…」

 

「あぁ、辞めたんだ」

 

「理由を聞いてもいいですか?」

 

「上下関係を無視するような奴でな。誰に対しても挑発的で、和を乱していたんだ。で、ある日突然俺に剣道の勝負を挑んできたんだ」

 

「それで、結果は?」

 

「奴の惨敗だ。一度も俺に打ち込むことが出来ずにだ。で、それから来なくなったんだ」

 

「……その人って、なんでまた真島先輩に挑んだんでしょう?」

 

「さぁな。大方自分の方が強いと自意識過剰していたんだろ」

 

なるほど。と返す雪奈。そんな中、一夏はある事を思い返していた。

それはほんの数時間前、一夏達が教室で弾達と談笑していた時の事だった。

鈴がある事を思い出したのか少し真剣な表情を浮かべる。

 

「そうだ、雪奈」

 

「なに、鈴ちゃん」

 

「実は別の中学に行った友達から昨日メールが来てね。なんか最近メールとか手紙で女子を呼び出して襲おうとするグループが居るらしいっていう内容だった」

 

「そ、そんな酷い事をしてくるグループがあるんですか?」

 

「うん、あくまでも噂らしいだけどね。でも、その友達の友達の下駄箱に知らない人からのラブレターが入ってたらしくてね。で、その子も噂を知っていたらしいから怖くて柔道部に所属してる男友達と一緒にその待ち合わせに行ったらしいの。で、男友達に隠れて見守ってもらってたら、ラブレターを出したと思う人が来たの。でその友達は告白を断ったらしいの。相手は諦められないのか、色々とその子のどこを好きになったのか言って来たらしいの。そしたら隠れていた男友達が数人の不審な人影がガサガサと近づく音が聞こえてきたらしいの。で、明らかにその現場に向かって歩いて来てるから、万が一その噂のグループだと自分一人では難しいかもしれないと思った男友達が、機転を利かせてある男性教師の物まねで『其処で何をしているんだ?』って言ったらしいの。そしたら近付いて来てたグループは足早にその場を去って、さっきまで色々と言って来た男子もパッと焦る様にその場から離れて行ったらしいのよ」

 

「怪しすぎますね、その人達」

 

「でしょ。まぁ他所の中学だから問題無いと思うけど、あんまり過信できないじゃない? だから雪奈も知らない人からラブレターとかもらっても一人で行っちゃ駄目よ」

 

「行かないよ。それに、ラブレターを貰うなら……」

 

と言葉を詰まらせチラチラと一夏をチラ見する雪奈。

 

「ん? 雪奈、俺の顔に何かついてるか?」

 

「べ、別に、何にもついてない」

 

「? そうか」

 

と首を傾げる一夏。その光景に鈴と弾は(・∀・)ニヤニヤと笑みを浮かべていたのだった。

 

 

と、そんな話をしていたのを片耳で聞いていた一夏は思い出していたのだ。

一夏は何だか嫌の予感がするな。と思い

 

「真島先輩、ちょっとお茶を買いに行ってきてもいいですか?」

 

「ん? 別に構わんが、遅くなるなよ」

 

「はい、直ぐに戻ります」

 

そう言い一夏は生徒会室から駆け足で出て行った。出て行った一夏に雪奈は不安を覚えた。

なにか、悪い事が起きようとしているのではないかと。

 

(どうしたんだろう。一夏があんな焦って出て行くなんて。もしかしてお姉ちゃんのとこかな? でもラブレターの返事を言いに行っただけで直ぐに……もしかして)

 

其処で雪奈は鈴が言っていたあの話を思い出し、まさか。と大きな不安に襲われた。

雪奈は自分も行って確認すべきかと思ったが、護身術は得意だが姉や一夏達と違い体が少し弱かった雪奈は体力が他の人より少なかった。その為行ってももしもの場合は足手まといになると考えつく。そして必死に考えた結果雪奈は

 

「あの望月先輩、真島先輩」

 

「ん、なんだ雪奈?」

 

「どうした雪奈さん?」

 

2人に頼ることにするのだった。

 

 

その頃一夏は人が余り近付かなさそうな場所は何処だと思いながら校内を走っていた。すると

 

「―――!? ―――!」

 

「――!」

 

「―――――!」

 

と複数人居るのか男性と女性の声が聞こえ、一夏は女性の声を聴いた瞬間声がした方に向かって走り出した。

すると男二人に取り押さえられた春奈とそれを取り囲む3人の男達。その内の一人が春奈に近付こうとているが見え、一夏は一気に走り出し春奈に近付こうとした男の側頭部に向かって思いっ切り飛び蹴りをかます。

蹴りを入れられた男はそのまま吹き飛び、土煙を立てながら転がって行った。

突如現れた一夏に男達は茫然と言った表情を浮かべていた。

 

時刻はほんの少し戻って一夏が生徒会室から出て探しに向かったくらいの事だ。春奈は手紙を出した人物が待っている校舎裏へと向かうと一人の男子生徒が居た。

 

「この手紙書いたの久瀬君?」

 

「おう、そうだ」

 

そう言い笑みを浮かべる久瀬。その笑みに春奈は

 

(うわぁ~、気持ち悪い笑みぃ。本当にどいつもこいつも外面だけしか見て来ないわね)

 

そう気持悪と思いながら返事を返す。

 

「悪いんだけど、私今恋愛とかそういうのはするつもりはないの。ごめんね」

 

そう言いその場を離れようとする。すると自分来た方から男子2人そして久瀬の背後からも2人の男子がやって来た。

そして2人を囲む男達はニヤニヤと汚い笑みを浮かべていた。

 

「これは一体何の真似?」

 

「いや~、素直に応じてくれるなら別に変な事するつもりは無かったんだが、断られたからこうするしかなくてね」

 

と言い首で合図を出す久瀬。春奈の背後に居た2人は春奈を捕まえようとするが、護身術を習っていた春奈はそれを華麗に躱して倒す。そしてもう1人も掴もうとしてくるも、直ぐに投げ飛ばした。

 

「チッ、何してんだよ。おい行け」

 

そう言い残りの2人も加勢させる。加勢してきた2人も何とか護身術で倒していくも、直ぐに腕を掴まれ2人に取り押さえれてしまった。

 

「放しなさいよ!」

 

「はいはい、ちょっと静かにしていてくださいよ。すぐに気持ち良くなって俺達無しじゃいられなくなりますから」

 

そう下劣めいた顔を浮かべながら近付く久瀬。

 

(いや! 助けて一夏君!)

 

近付く久瀬に涙を浮かべ一夏に助けてと懇願する春奈。そして怖くなって目を閉じた時、突然

 

「ぐげぇっ!!???!」

 

と久瀬の情けない声とズザザザ!と転がっていく音が鳴り響き、春奈は一体何がと思いながらそっと目を開けると其処には頬に傷を持った男子が立っていた。

 

「い、一夏、君?」

 

自身の家族である一夏が立っていた事に驚きながらもそう声を掛ける春奈。

 

久瀬を蹴り飛ばした一夏に春奈を掴んでいた男の一人が襲い掛かる。

 

「カッコつけが。無様に「うるせぇ」……は? ぐべぇっ!!???」

 

一夏に殴り掛かった男。だが一夏は背後からきた攻撃が見えているのか、さっと攻撃を避けると、男の後頭部を鷲掴みし、そして足払いをしてそのまま地面に向かって叩き潰した。

顔面を地面に叩きつけられた男はピクピクと痙攣し、男の顔付近の地面には血が流れ出てきた。

 

「て、てめぇ何しやが「おせぇよ」ごはぁ??!!!!」

 

春奈を掴んでいたもう1人も一夏に殴り掛かって来たが、一夏は殴って来た腕を掴み男を引き寄せそのままアッパーを喰らわせる。男の口から歯が2,3本折れたのか飛び出てきて、男はそのまま伸びてしまった。

すると一際体格の大きな男が一夏に襲い掛かって来た。

 

「てめぇなんざこの洞島隆吾様が叩き潰してやるよ」

 

そう名乗る洞島。

 

「こいつは柔道黒帯所持者だ。てめぇなんざ直ぐに殺されちまうぜ!」

 

もう一人いた男が息巻いてそう言って来た。一夏は襲い掛かってくる隆吾の攻撃を紙一重で避けながら後退する。

 

「はっははは! どうした? 手も出せないか? もう逃げられないぜ!」

 

洞島は壁まで追い詰められた一夏にそう告げ、一夏を殺せそうなほどの勢いある拳を繰り出してきた。だが一夏はそれに対して焦ることなく掌底の構えを取り、そして一気に洞島との間合いを詰める。そして洞島の丁度みぞおち付近に向かって勢いよく掌底を叩き込んだ。

 

「……かはっ」

 

掌底を喰らった洞島はグラッと体の力が一気に抜け倒れる。そして口から吐しゃ物を吐き出す。辺りに胃酸の独特な匂いが立ち込める中、もう一人の男は洞島が倒された事に心底驚き、そして次は自分の番だとさとり顔を真っ青に染める。

 

「た、頼む見逃してくれ! 俺は、そいつらに手伝うよう、脅されて…」

 

「さっきまでゲスイ笑み浮かべながら、其処で倒れている男の事説明してただろうが」

 

そうドスの利いた声で返し、一歩一歩男に近付く一夏。

近付く一夏に怖気ずいた男は後ずさるも小石に躓き、尻もちをついてしまう。

 

「お、お願いだぁ! 許してくれぇ! もう、彼女に近付いたりこんな事しないから、た、頼む!」

 

そう懇願するも近付く一夏。凄まじい殺気を放ちつつ近付く一夏に男は完全にビビってしまったのか、男の股間辺りから液体が漏れでてびちょびちょに濡らしてしまう。

すると其処に

 

「おい、其処までだ!」

 

そう叫ぶ男の声。春奈は声がした方に顔を向けると、真島と望月。そして数人の教師達がやって来た。

 

「一夏、其処まででいい! それ以上やればお前の立場が悪くなるぞ!」

 

真島がそう言い一夏を説得する。男を睨みつけていた一夏ははぁー。と息を吐き

 

「分かりました」

 

そう言い殺気を引っ込めた。

 

(かなり凄いプレッシャーを感じてきたが、まさかこいつが出していたとはな。それにしても…)

 

真島は一夏が倒した男達の中に倒れていた洞島に顔を向ける。

 

(まさか黒帯所持者の洞島を倒すとは、一体どうやったんだ?)

 

洞島とは圧倒的に体格差がある一夏がどのようにして洞島を倒したんだと気にする真島。すると

 

「てめぇ、ふざけんじゃねぇぞ!」

 

そう叫ぶ声が聞こえその場にいた全員が声がした方に顔を向ける。其処には一夏に側頭部を蹴られ飛ばされていた久瀬が居た。

 

「俺の大事な顔に蹴り入れやがって。絶対にぶっ殺す!」

 

さう叫びながら久瀬はポケットからナイフを取り出してきた。

 

「おい久瀬! そいつを棄てろ!」

 

「うるせぇ! お前らみんなぶっ殺してやる!」

 

そう叫びながらナイフを持って走って来た久瀬。

 

「まずはてめぇだぁ!」

 

そう叫びながら一夏に向かってナイフを突き出す久瀬。

 

「止めてぇ!」

 

春奈が一夏が刺されると思ったのか、大声で叫ぶ。

そんな中一夏は焦ることなく突き出されたナイフを避けて突き出されたナイフ側の手首を掴む。そして右手で拳をつくり久瀬の顔面を殴る。

 

「グフッ!?」

 

殴られた事で動きが鈍る久瀬に一夏はそのまま掴んでいた腕を外側に向かって勢いよく引っ張った。引っ張られた久瀬はまともに動く事が出来ずに引き摺り倒された。

そして一夏は掴んでいた腕側の手からナイフを奪い取り、腕を捻じ曲げ拘束した。

 

「いだだだだぁあ!!!」

 

一夏が取り押さえる光景に唖然となる真島達。だがハッと我に返った真島が動く。

 

「先生達、早く久瀬を!」

 

そう叫ぶと我に返った教師達が急いで一夏に加勢しに向かう。それから暫くして教師が呼んだ警察がやって来て久瀬達はパトカーに乗せられて連れて行かれた。

そして一夏も何があったのか事情を聞くべく警察官が別のパトカーに乗せて警察署に向かった。

 

それから暫くして

 

「―――では、お姉さんが襲われそうになっていた為彼等に手を挙げたんだね?」

 

「はい、そうです」

 

一夏は警察官の質問に対し嘘偽りなく全て話した。

 

「そうか。分かった、悪いけどもうしばらく此処で待ってもらっててもいいかい?」

 

「はい」

 

話を聞き終えた警官は席から立ち上がり部屋から出てきた。すると彼の上司の人物がやって来た。

 

「彼から聞いた話は?」

 

「姉が襲われそうになってて、人を呼んでいる暇など無いくらい緊急だった為やむなく手を挙げました。だそうです」

 

「そうか。「失礼、ちょっとよろしいでしょうか?」はい、何か?」

 

警官達が話しているところに一人の人物が話しかけてきた。その人物は黒髪のキリッとした目つきのスーツ姿の女性だった。

 

「私、こう言う者です」

 

そう言って差し出された名刺には『桜木コーポレーション顧問弁護士 綾里瑠璃』と書かれていた。

 

「此方に桜木一夏さんが連れて来られたと聞いて参りましたのですが、何方でしょうか?」

 

「あぁ、此方に居られます」

 

そう言い警官の一人が会議室へと案内する。部屋に入ると一夏が椅子に座っていて、入って来た綾里に気付くと申し訳なさそうな表情を浮かべ頭を下げる。

 

「綾里さん、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 

「いえいえ、迷惑など感じておりませんよ」

 

そう言い綾里は次に警官の方に顔を向ける。

 

「桜木一夏さんはこのまま連れ帰っても宜しいのですか?」

 

「そうですね。聞かないといけない事は全て聞けましたので、お帰り頂いても構いません」

 

「そうですか。では一夏さん、帰りましょう」

 

「はい」

 

そう言い席から立ち上がると一夏は警官に一礼して部屋から出て行った。

そして外に止められていた綾里の車に乗り込む。

車が発進し暫し無言が流れる車内。そして最初に口火を切ったのは一夏だった。

 

「綾里さん、本当に今日は「いえいえ、顧問弁護士としては当たり前の事をしに来ただけにですよ」そうですか。……相手に怪我させているから、お父さん達に迷惑かけちゃったな」

 

そう言い落ち込む一夏。すると綾里がある事を口にする。

 

「そのことですが、相手は訴えないそうです」

 

「え? どういう事ですか?」

 

綾里の口から出た内容に驚きの表情を浮かべる一夏。

 

「どうも彼等がこの周辺で起きてる女性暴行事件の犯人グループだという情報がマスコミなどに流れたらしいんです。おまけに彼等がやったっていう証拠付きでです。その結果マスコミは直ぐにこのことを速報ニュースで流したんです」

 

「えぇ!? 一体誰が、そんな情報を?」

 

「分かりません。それで話を戻しますが、その速報で捕まったグループの親御さん達が、桜木家に来ましてね。自分達の息子達が襲ったのが桜木家のご令嬢だと知るや否やその場で土下座して謝罪を行ったんです。それで自分達の息子が怪我したのは当然の報いなので被害届などは出すつもりはありません。とのことです」

 

「……」

 

一夏は何とも言えない表情を浮かべる中、車は桜木家に到着し一夏と綾里は車から降り家の中へと入る。そしてリビングへと入ると

 

「あ、一夏!」

 

「一夏君!」

 

ソファーに雪奈と春奈が居り、その奥には

 

「帰ってきましたね、一夏」

 

「……」

 

真剣な表情を浮かべた冬真と秋江が居た。一夏は4人の近くまで来ると、突然床に正座してそして

 

「本当にすいませんでした!」

 

と土下座をしたのだ。その姿に雪奈と春奈そして綾里が驚き、慌てて止めさせようとするも秋江が手でそれを制した。

 

「相手を怪我せずに制圧出来たにも関わらず、姉が襲われそうになっている光景を見て、我を忘れ相手に怪我を負わせてしまい、そしてそのことでお父さんやお母さんにご迷惑をお掛けして本当にすいませんでした!」

 

一夏は大声でそう言い土下座を続ける。しばしの沈黙が流れた後、

 

「一夏、顔を上げろ」

 

冬真の声が静まる部屋の中で響き、一夏はそっと顔を上げ冬真を見つめる。

 

「相手に怪我をさせた。それは確かに悪い事だ。だが一夏、お前は何のために手を挙げたんだ?」

 

「春奈姉さんを守る為です」

 

「……その言葉、嘘偽りないか?」

 

先程まで以上の眼光で一夏に問う。そのプレッシャーは傍に居る雪奈と春奈でも感じる程で若干怯えた様な様子を見せる。

それに対して一夏は真っ直ぐに冬真を見つめ

 

「はい」

 

と真剣な表情で深々と頷いた。互いに見つめ合う2人。どれ程の時間が経ったのか分からない程静寂が包まる中、フッと冬真が笑みを浮かべる。

 

「そうか、なら良い」

 

「…でも俺は相手を「相手は相当な悪者らしいじゃないか。それにナイフを隠し持っていたらしいじゃないか。そんな奴らから大事な家族を守ったんだ。誇っていい」…お父さん」

 

「そうですよ。一夏は大切な家族を守る為にやったんです。やり過ぎだと感じる方も居るかもしれませんが、自分の大切な家族を守る為なら非情にもならなければなりません。下らない事をほざいてくる奴がいたとしても無視しなさい。貴方は間違った事なんて何一つして無いんですから」

 

「お母さん。……ありがとう、ございます」

 

そう言い一夏はまた涙を流しながら深々と頭を下げた。

 

「さ、夕飯にしましょう。綾里さんもご一緒にいかが?」

 

「お邪魔しても大丈夫なんでしょうか?」

 

「えぇ。その為に沢木に頼んで夕飯を一人多めに作ってもらっているもの」

 

「そうですか。ではお邪魔致します」

 

それから時刻は進み夜。一夏は部屋で勉強をしていた。すると扉をノックする音が鳴り響く。

 

「はい、どうぞ」

 

そう声を掛けると、扉を開けて入って来たのは春奈だった。

 

「ごめんね勉強中に」

 

「いや、いいよ。春奈お姉ちゃんの方こそ大丈夫なの?」

 

「うん、手首に少しかすり傷が出来たくらいで、大丈夫」

 

「そっか」

 

それから沈黙が流れる部屋。すると春奈が口を開く。

 

「あのね、一夏君」

 

「なに?」

 

「少しお願いがるんだけど、いい?」

 

「いいけど何?」

 

そう聞くと春奈は一夏の傍にやって来てギュッと抱き着いてきた。抱き着いてきた春奈に一夏は驚きの表情を浮かべていると、ある事に気付く。それは春奈の体が震えていたのだ。

 

「あの時ね、本当に怖かったの。あのまま一夏君が来なかったらと思うと怖くて……」

 

震える口で告げる春奈。震える春奈に、一夏は左手を春奈の頭の上に乗せてポンポンと弱く叩き、右手を背中に回してギュッと抱きしめる。

その行動に春奈は一瞬驚くも、落ち着かせようする一夏の行為に心の中で感謝しながらそっと涙を流す。

 

 




次回予告
久瀬達がやった事が学校中に知れ回っている中、春奈はあの日の事、そしてある感情を芽生え始めている事に気付く。

次回
春奈の思い


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

久瀬達の強姦未遂事件から2日後。

一夏達の学校では久瀬達の起こした事件に驚きと恐怖と言った雰囲気が最初流れるものの、少しずつその雰囲気は薄れていた。

 

久瀬達は警察に連行された後、一夏達の街周辺で起きていた強姦事件の犯人だろと警察に問われた。久瀬達は当初否定していたがはっきりと顔が写った監視カメラの写真に、被害女性達から聞いた証言や久瀬達の特徴など数々の証拠が挙がっている事を言われ、逃げられないと感じた久瀬達は自供。捕まった4人以外の仲間の名前を話し、逮捕者は7人となった。

 

~生徒会室~

「それにしても警察からの説教だけで済んで良かったな、一夏君」

 

「はい、本当に良かったです」

 

そう言いながら一夏は書類の選別を続ける。

 

「それにしてもよ、どうやってあの洞島を倒したんだ? あいつって確か黒帯持ちじゃなかったか?」

 

「あぁ。あまりに暴力的だったから柔道部から追い出されたらしいがな」

 

望月と真島が洞島についてそう話している中、一夏が口を開く。

 

「まぁ、確かに強そうでしたが掌底一発で倒せましたよ」

 

「あ? 掌底?」

 

「掌の手首の近い部分で相手を叩く技だ。だが、それだけで一体どうやって?」

 

「掌底で胃の部分に向かって思いっ切り叩き込んだんですよ。グーだと臓器を傷付けると思ってね」

 

「なるほど。それで奴は動けなくなったうえに胃液をまき散らしていたのか」

 

「あの酸っぱい匂いはそう言う事か」

 

「……」

 

一夏と真島、そして望月が談笑しているなか、春奈はそんな光景をぼぉーと見ていた。

 

「お姉ちゃんどうかしたの?」

 

「えっ。う、うんん、何でもないよ。さぁて仕事、仕事ぉ!」

 

そう言いながら仕事を始める春奈。

 

春奈side

ふぅ~、危ない、危ない。

此処最近一夏君の事を目で追いかけちゃうことが多くなったなぁ。

昔は雪奈ちゃんを助けてくれた強くて優しい子だと思ってた。そして私たちの家族になってもそれは変わらなかった。

けど、久瀬君達の事件で一夏君の見る目が変わった気がする。ううん、確実に変わった。

あの時、一夏君が切れてくれたから私は助かった。怖かった。でも、一夏君の事を思った瞬間に現れた彼は本当にヒーローのように感じた。

そしてたった一人で久瀬くん達全員倒した。それから警察が到着して久瀬くん達と一緒に一夏君も連れて行かれた。

その時私は自分の所為で一夏君を犯罪者にしてしまった。と思い、ボロボロと涙を流してしまった。

それからお父さん達が来てくれて家まで送ってくれた。

其処で顧問弁護士の綾里さんが一夏君の事を迎えに行ってくれたことを教えてくれた。

家で一夏君達が帰って来るのを待っていたら、家の門前に捕まった久瀬くん達の親達が来ていると沢木さんが報告してきた。

お母さんとお父さんは鋭い気迫を纏いながら門に行ったら、久瀬くん達の親全員がお母さん達の顔を見た瞬間に土下座しだしたのだ。

久瀬くん達の行いについての謝罪と、久瀬くん達に怪我を負わせた一夏君の事は絶対に訴えない事を言いに来られたらしい。

それから謝罪金やら治療費が入っている封筒を渡そうとして来たけど、お父さん達は今後一切私達に関わらないのであれば、その封筒は不要ですと言って受け取りを拒否したのだ。

向こうは渋ったけど、何度も言って納得してもらい帰ってもらった。

それから一夏君が帰って来て、私と雪奈ちゃんは嬉しさから駆け寄ろうとした。けど、お父さん達の前だからそれを堪えた。

そしたら突然一夏君はお父さん達に向かって土下座をし始めた。相手に怪我を負わせたこと、お父さん達に迷惑を掛けた事などでだ。

一夏君は何も悪くないのに、何でそんな事するの!?

私や雪奈ちゃんもそう思ったのか一夏君の土下座を止めさせようとしたけど、お母さんがそれを制した。それからお父さんが一夏君に手を挙げた理由を聞いた。

一夏君の答えは私を守る為、そうはっきりと答えてくれた。私はそれが何故無性に嬉しかった。

そしてお父さんの鋭い威圧を受けながらも真っ直ぐにお父さんを見つめる一夏君に、お父さんとお母さんは笑みを浮かべて一夏君の事を許したのだ

それから夕飯をすました後、部屋で寛ごうとした。けど、あの時の光景がフラッシュバックするかのように目の前に現れる。

私はそれが怖かった。そしたら気付いたら一夏君の部屋の前に来ていた。それで部屋に入って一夏君にお願いして抱き着かせてもらった。

一夏君に抱き着いたら、さっきまであった恐怖心が薄れていき、安心していった。

それで気付いてしまったんだ、私は何時の間にか彼に惹かれていたんだって。

 

 

きっと雪奈ちゃんも一夏君の事が好きだと思う。もし、そうだったら私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この恋を…諦めないといけない。妹の幸せを願うのは、姉の一番の願いだから。

 

 

春奈side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――う、うぅん。っ!? ど、何処だ此処?」

 

突如見知らぬ真っ暗な空間で目を覚ました久瀬。

 

「な、何だよ此処? な、なんで縛られてるんだよ!?」

 

そう久瀬の体は縄で雁字搦めに拘束されて身動きが取れなかった。久瀬は何とか逃げ出そうと藻掻くが縄は解けずただ時間だけが過ぎて行った。

 

 

ウィーン、ウィーン、ガガガガガガ

 

突如空間の外から機械の音が鳴り響く。そして

 

メキメキ、バキバキ、メシッメシッ

 

と金属の潰れる音が鳴り響く。それは着実に自分の近くで来ていた。

 

「な、何なんだよ一体!? 此処から出してくれぇ!?」

 

そう泣き叫ぶ久瀬。だが遂に久瀬が入っている空間もメキメキと音を立てながら縮まっていく。

 

「い、嫌だぁ! 死にたくないぃ! 助けて」グシャ

 

空間が完全に潰れ、久瀬も一緒に潰れてしまった。

 

「先輩、今プレス機からなんか聞こえませんでした?」

 

「お前何言ってんだ? 廃車の中に何もいなかったのは確認済みだろうが」

 

「まぁ、そうすっけどぉ。なんか聞こえた様な?」

 

「大方事故車の亡霊とかじゃないのか?」

 

「ちょっ!? 先輩止めて下さいよぉ、俺ホラーとか駄目なんすからぁ」

 

「わりぃ、わりぃ。ほら、次の廃車入れろ」

 

「へぇ~い」

 

そう言いながら作業員は次の廃車をクレーンで掴みプレス機の中へと放り込んでいった。

 

 

 

 

 

「うっさっさっさ。はーちゃんを襲い、いっくんに要らぬ責任を感じさせた罰だ。地獄で苦しめ、凡人以下のゴミ野郎」




次回予告
事件から数ヵ月が経ったある日、一夏達は職場見学の為実家の桜木コーポレーションにやって来た。実際に会社がやっている事などを見学後、一夏と雪奈は束の研究室にやって来た。
其処で事件が起きた。
その事件がその後の物語の始まりの鐘の音とは知らずに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

あれから数か月が過ぎたある日のこと。

一夏たちの学年では社会勉強を兼ねてそれぞれが希望する会社に訪問し、その会社で行っている仕事など見学させてもらい、時には質疑応答の時間を作ってもらい色々なことを聞いたりする職場見学が学校行事であった。

一夏は雪奈とともに自身の父親と母親が営んでいる会社、『桜木コーポレーション』に職場見学を依頼したのだ。

そして二人は両親が働いしている桜木コーポレーションのビル前へとやってきた。

 

「本当にうちの会社って大きいよな」

 

「そうですね。それだけお父さんやお母さんが頑張ってきたのかわかりますね」

 

天高くそびえたつビルにそう漏らしながら歩く二人。

ビルの中へと入ると一人のスーツ姿の女性が背筋を伸ばしながら立っていた。

 

「おはようございます。本日お二方をご案内することを仰せつかりました、鬼塚紫音と言います」

 

そうお辞儀しながら挨拶する紫音。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「お願いします」

 

「それではご案内いたしますね」

 

そういい紫音の後に二人は付いていく。

 

「まずこちらが海外事業本部です。他国に設けられている事業部と連携をとって事業展開を素早く行い市場情報から流行情報を入手し利益獲得に動く部です」

 

「なるほど。それでいろんな国の人がいるんですね」

 

「はい。アメリカやイギリス、果てには中東の者もここで働いており、他の事業部ですともっと多くの者が在籍しております」

 

「へぇ~」

 

せわしなく動く回る海外事業部の社員達の邪魔にならないよう、一夏たちは静かに見て回った後、その場を後にして次へと移動した。

 

「こちらはインテリア部です。伝統工芸品などに使われる歴史的価値のある技術を後世まで残していくために知識や技術を勉強させてもらう部署です」

 

「へぇ~。あ、あれって提灯ですか?」

 

「はい。歴史的に古い提灯作りを行っている工場に社員を派遣して作り方など勉強させてもらい作成しております。むろん一つ一つ手作りです」

 

「昔から受け継がれている技術ですから、下手に機械は入れられませんよね」

 

そう言って一夏たちは次の場所へと移動した。

 

「こちらは航空・宇宙開発部です。航空開発事業部は以前からありましたが、最近新たに宇宙部門も作ったのです。ここでの仕事はヘリから飛行機の新たな技術の開発や既存技術の改善といったものです。宇宙部門はISといった新たな宇宙での活動可能なスーツが世に出ましたので、民間で宇宙開発を行えるのではということでその先駆けとなる部門です」

 

「宇宙部門といったら…」

 

「はい、彼女が主任をしている部門です」

 

「大丈夫ですか? あの人根は良いんですけど、思いついたら即行動っていう人ですから」

 

「まぁ、何とか『篠ノ之主任!? それどうする気ですかぁ!?』『束さんの天才脳が囁いている! これを合体させれば新たな電気エネルギーができるとぉ!』『それは漏れたら甚大な環境汚染になるって言って主任自ら封じたエネルギーでしょうがぁ!』『おい、主任は今日で何日徹夜したんだよぉ!?』『知るわけないでしょ! それよりも早く主任を取り押さえて仮眠室に放り込みに行くわよ! これ以上徹夜されたらもっと恐ろしいものを創り出すわよ!』……駄目のようです」

 

「ですね」

 

「( ゚д゚)」

 

紫音は遠い目をし、一夏はわかりきっていたのか苦笑いを浮かべ、雪奈はあまりの光景に唖然とした表情を浮かべ、その三人の前を布で簀巻きにされた束が同僚の人達には担ぎ上げられながら運ばれていった。

それから暫くして一夏と雪奈は紫音の案内の元、ほかの部署を見て回っていった。

 

「――それでは以上を持ちまして職場見学は以上になります」

 

「紫音さん案内ありがとうございました」

 

「ありがとうございました」

 

「いえ、それで私の仕事ですので。あ、そうだこれをお二人に」

 

そういい紫音はポケットから2枚のカードキーを手渡してきた。

 

「これは?」

 

「先ほど篠ノ之主任が目を覚ましましてね。お二人が来ていることを聞いてぜひ研究室に遊びに来てほしいとのことで頼まれたのです」

 

「そうだったんですか。それはわざわざありがとうございます」

 

「いえ。それでは私はこれで」

 

そういい紫音は一礼して去っていった。一夏と雪奈は束の研究室がある部屋へと向かう。

カードキーを使いながら会社の奥に設置されている束専用の研究室へと到着した2人。

 

「束さん、来たよぉ」

 

『はぁ~い、カギは空いてるから入ってきていいよぉ~』

 

そう部屋から声を掛けられ、一夏と雪奈は中へと入る。束の研究室には研究用のISや宇宙開発に使うための物か、色々な機械から大型道具がおかれていた。

 

「いらっしゃ~い、二人ともぉ」

 

「うん。それより束さん、寝不足のほうは大丈夫なの?」

 

「さっきぐっすりと寝たから大丈夫!」

 

「す、数時間しか寝てないと思うんですけど…」

 

「束さんは数時間寝たら、2日かは寝ずに動けるよ!」ドヤァ

 

「「ちゃんと寝てください!」」

 

束のドヤ顔に一夏と雪奈はそう突っ込むのであった。

それから一夏と雪奈は束の仕事のことを聞いたりした。新しい宇宙開発の道具だったり、将来的に建造する予定の大型コロニー計画のことだったりと。

 

「そしてここに鎮座しているISがその宇宙開発に活躍してくれる機体だよ」

 

そういい束が見せたのは3機のISだった。

 

全面装甲(フルスキン)型で、換装とか整備とかやりやすい設計になっているんだぁ」

 

「へぇ~、これがそうなんだ」

 

「凄い」

 

束が紹介するISに二人はかっこいい機体だなと感じる。

近くでもっと見てみようと思い一夏が近づいた瞬間、足元に張られていたコードに引っ掛かり、前のめりに倒れそうになる一夏。

一夏はとっさに近くにあったISを掴み、バランスを取ろうとした瞬間突如まばゆい光が部屋を包む。

そして光が収まると

 

「え? 一夏が…」

 

「うぇ?」

 

「はい?」

 

雪奈と束の目の前にこけそうになった一夏はおらず、鎮座したISを身にまとう一夏がいた。

一体どういうことなのかわからず、焦る一夏に束も内心驚きを浮かべるもまずは一夏をISから降ろさねばと思い一夏にISの降り方を教え、一夏を解放した。そして一夏の体に異常がないか調べた。

結果は異状はなく、特に問題はなかった。なぜ一夏がISを動かせたのかは現状わからないと思った束は兎に角このことは3人だけの秘密でと言い2人を帰したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束が開発したIS

見た目は地球防衛軍のコンバットフレーム




次回予告
一夏がISを動かした日から数日がたったある日のこと。
秋江と冬真は一夏達の将来の夢とかを聞く。
そこで春奈と雪奈、2人の思いを聞くことに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

一夏がISを動かせたという驚愕の出来事から数日がたったある日のこと。

学校が休みであった一夏達は家で茶菓子を家族全員で摘まみながら団欒していた。

 

「この茶菓子中々旨いな」

 

「そうでしょ。紫音さんがこの前伊勢の方に出張に行った際に見かけた和菓子店で見つけたらしいの。店主さんにおすすめを聞いたらこれをおすすめされたらしくて、試しに食べたらおいしかったからお土産で買ってきてくれたの」

 

「紫音さんのお土産に関する目利きは本当にすごいよねぇ」

 

「はい。これまで買ってきてくれたお土産はどれもおいしかったです」

 

「本当だね」

 

そんな会話をしながら家族の団欒を楽しむ一夏達。すると秋江があることを口にする。

 

「そういえば3人は誰か好きな人とかいないの?」

 

「「「うぇ?」」」

 

「おいおい、そんな恥ずかしい話はよさないか」

 

「そうですけど、もう3人とも中学生ですしそういった方が居てもいいじゃない?」

 

「そうかもしれんが、流石にこの子たちにとってそんな恥ずかしい話はできんだろ」

 

そういい苦笑いを浮かべる冬真。

 

「それでどうなのかしら3人とも?」

 

「俺はいないかなぁ」

 

「私もいないね。てか、声かけてくる人のほとんどが家柄とかただ有名になりたいとかそんなよくまみれの奴ばっかだもん。だから別に好きな人はいないかなぁ」チラチラ

 

「私も、その、好きな人は今のところは…」チラチラ

 

春奈と雪奈は好きな人はいないと言いながらも一夏の方をちらちらとみる。

その姿に秋江と冬真はすぐに察し、笑みを浮かべる。

 

「あらあら、そうなの」

 

「はっははは、そうかそうか」

 

「? どうしたの2人とも?」

 

「いやなんでもないぞ」

 

そういい茶菓子を頬張る冬真。一夏は首をかしげていると突然トゥルトゥルと着信音が鳴り響き、一夏がポケットに入れているスマホを取り出す。

 

「あれ、弾からだ。ちょっと出てくる」

 

そういい椅子から立ち上がり廊下へと出ていく。

 

『もしもし、どうしたんだ弾? はぁ? 昨日の数学の公式を教えてくれ? 教科書に書いてるだろ。学校に忘れた? たっくぅ、わかった。ちょっと待てよ』

 

そういいながら二階に上がっていく一夏。

一夏が二階に上がっていった後、秋江が口を開く。

 

「それで? 貴方達、一夏の事が好きなの?」

 

「「えっ!?」」

 

秋江からの言葉に思わず声を上げしばしの沈黙が流れる。そして

 

「う、うん。私は一夏の事が好き。最初は気になる程度だったけど、段々と好きになったの」

 

「まぁ、その…。あの事件からかな。目で追うようになって気づいたら私も好きになってたわ」

 

雪奈、そして春奈がそれぞれ一夏が好きなことを告白した。

 

「そう。それじゃあ「でもね、お母さん」なに、春奈?」

 

「私、一夏君に告白する気はないよ」

 

「「「え?」」」

 

秋江の言葉を遮る様に春奈は告白しないと告げた。その言葉に3人は面食らったような表情を浮かべる。

先に我に返ったのは雪奈だった。

 

「お、お姉ちゃん何を言ってるの?」

 

「ん~? だから私は一夏君に告白しないって「そうじゃないよ! しない理由だよ!」 そりゃあ私がお姉ちゃんだからだよ」

 

「どういうこと?」

 

「お姉ちゃんは妹の幸せを願うもの。だから妹と弟が幸せになるなら私はそれで幸せなの」

 

そういい笑みを浮かべる春奈。

春奈の思いに秋江と冬真は何とも言えない表情を浮かべる中、雪奈はというと

 

「ふざけないでよ!」

 

「ゆ、雪奈、ちゃん?」

 

憤怒に染まった表情を浮かべ、目には涙を浮かべていた。

 

「姉だからとかそんな理由だけで身を引くなんて、ふざけている以外何物でもないじゃん! お姉ちゃんが抱いている思いは好きとかそんな思いじゃない!」

 

そう叫び雪奈。春奈はそれに対して冷静に返す。

 

「いや一夏君が好きなのは本当よ。でも雪奈ちゃんの幸せを考えたら「それよ! 自分も好きなのに簡単に身を引くってことは本当に一夏の事が好きじゃないって証拠じゃない!」…っ」

 

「本当に好きなら、例え恋敵が身内()でも挑むはずよ! そんな簡単に身を引く位なら一夏の事が好きって口にしないで!」

 

雪奈がそう叫ぶと

 

 

バチン!

 

と叩く音が鳴り響いた。

それは春奈が雪奈の頬を叩く音だった。

 

「春奈!」

 

秋江が春奈に怒鳴り、彼女の方に顔を向けると春奈の目からは涙が流れていた。

 

「本当に、本当に一夏君の事は好きよ! 雪奈ちゃんも一夏君の事は好きだってことは知ってた。だから諦め様とした。でもどれだけ思いを消そうとしてもずっと一夏君の事が好きっていう気持ちが溢れ出てくるのよ! 自分の幸せをとるか妹の幸せをとるかどれだけ苦しんだか雪奈ちゃんにわかるわけないじゃない!」

 

自身の思いを泣きながらも叫ぶ春奈。そんな春奈に対して雪奈は

 

 

バチン!

 

とお返しとばかりに春奈の頬を叩く。

その顔は春奈と同じ怒った表情を浮かべながら涙を流していた。

 

「わからないわよ! でも、自分の気持ちを告げずに身を引くなんて卑怯なことしないでよ! いつもの姿勢はどこやったのさ! 堂々とどんなことに対しても自信たっぷりな表情を浮かべている癖に!」

 

頬を腫らし、涙を流しながらにらみ合う2人。

しばしの沈黙の後、春奈が口を開く。

 

「……わかった。だったらもうお姉ちゃんも容赦しない。絶対に一夏を私に振り向かせるから」

 

「私だって負けない。一夏を振り向かせるのは私なんだから」

 

そういい二人はがっしりと握手を交わす。

その光景にずっと冷や冷やしながら見ていた秋江と冬真は安堵したようにふぅーと内心息を吐く。

 

 

 

 

 

 

「……俺、一体どうしたらいいんだよ」

 

 

二階から一階へと降りてきていた一夏は廊下からリビングへと繋がる扉の陰からそう零していた。




次回予告
春奈と雪奈の思いを知り、一体どうしたらいいんだと悩む一夏。
時間だけが過ぎる中、悩む一夏を救うべく束が動き出す。

次回
束、一肌脱ぐ!

「任せんしゃい、いっくん! この天才束さんがいっくんの悩みをどどんと解決してやるぜぇ!」

「……すんげぇ嫌な予感」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

雪奈と春奈が一夏の彼女になるべく互いに正々堂々と戦うことを誓った日から数日が経った。

 

その数日間、一夏は二人から色々なアピールを受けるようになっていた。

春奈は事あるごとに一夏に抱き着いたりと体を密着させるアピールをし、一夏をドギマギとさせ、雪奈は春奈のように突然抱き着いたりしないが、一夏の服の袖を掴んだり、できるだけ一夏の後ろについて行ったりと小さくも可愛く一夏にアピールをしていた。

二人から様々なアピールを受けるようになり、あの日2人の気持ちを知ってしまった一夏は苦悩の日々を送り続けていた。

 

学校が終わり家に帰った後2人から様々なアピールを受け続けていた一夏は、二人に気付かれないようにこっそりと家を出て近くの公園へとやってきてベンチに腰かけていた。

そして重い溜息を吐く。

 

「はぁ。一体、俺はどうしたらいいんだ…」

 

そう暗い表情を浮かべながら零す一夏。

 

「どしたどしたぁ? 暗い表情を浮かべちゃってぇ?」

 

と声が掛けられ、声の主の方に顔を向ける。

 

「…束さん。どうして此処に?」

 

「ゆーちゃんからいっくんが家から居なくなった。って慌てて電話してきてね。で、いっくんが悩み事とか考え事をするときって、決まって公園のベンチに座って頭の中を整理したりしてるでしょ? だから恐らく家から近いこの公園だろうなぁと思ってね」

 

「そう、だったんですか」

 

そう言い物思いにふける一夏。束はそんな一夏の隣に腰掛ける。

 

「それで、いっくん。一体どんなことで悩んでいるのかなぁ?」

 

「もう、知っているんじゃないんですか?」

 

「いやいや。束さんにだってわからないことや知らないことはこの世には沢山あるよ。だからいっくんの口から聞きたいの」

 

そう言われ一夏はしばし口を閉ざす。束は無理に聞かずただ一夏の隣に腰掛けたままでいた。

そして暫くして一夏が口を開いた。

 

「実は、最近知ったんですが、雪奈と春奈お姉ちゃんが俺の事が好きらしいんだ」

 

「ほぉほぉ。それはlikeの方?」

 

「ううん。loveの方」

 

「なるほどね。で、いっくんはどう思ってるの?」

 

「そりゃあ2人の気持ちはうれしいよ。でも…」

 

「二人の気持ちに答えるのが怖い?」

 

「……うん」

 

小さく頷く一夏にそっかぁ。と返す束。

 

「自分の選択一つで姉妹の仲を壊す。そう思うと怖くて…」

 

「そっかぁ。確かにいたたまれない気持ちになるかもねぇ。でもそれが恋愛っていうものじゃないの? まぁ束さんは恋とかしたことが無いからわかんないけどさぁ」

 

「そうだけど…。自分の気持ちと、姉妹の仲。どちらが大切かと考えると自分の気持ちを告げない方が2人にとっていいんじゃないかと思って…」

 

そう零す一夏。

 

(やっぱりいっくんは優しいねぇ。けどいっくん。その選択は二人の気持ちを否定しているのと同じだと思うんだけどねぇ。けど、いっくんはそこまで考えられるほど余裕はないんだろうなぁ。仕方ない、此処は束さんが一肌脱いでやりますかぁ!)

 

そう思いながら束は悩める一夏、そして振り向いてほしい2人の為に動き始めた。

 

次の日、束はタブレットを片手にとある部屋に向かっていた。

そして目的の部屋近くに向かうと

 

「あれ、篠ノ之博士。社長に何か御用ですか?」

 

部屋前のデスクで仕事をしていた女性が束に声をかけてきた。

 

「うん。今いるかなぁ?」

 

「はい。今副社長と一緒におられますが」

 

「じゃあちょっと話があるから取り次いでくれない?」

 

「畏まりました。少々お待ちください」

 

そういい女性は立ち上がると社長室の扉をノックし中に入る。

暫くして女性が出てきて

 

「今でしたらお会いできるとのことなので、どうぞ中へ。お飲み物はお茶でよろしいですか?」

 

「うん、それでいいよぉ」

 

そういい束は扉を開け中へと入る。

 

「失礼しまぁす」

 

「やぁ篠ノ之博士」

 

「博士が此処に来るなんて珍しいわね」

 

秋江と冬真が笑みを浮かべながら束を出迎えた。冬真は束をソファーに座らせて、その対面に秋江と冬真が座る。そして持ってこられたお茶を啜りながら冬真が口を開く。

 

「それでどういった御用かな?」

 

「実はいっくんの事で少し…」

 

「一夏の事で? 何かあったの?」

 

「二人ははるちゃんとゆきちゃんがいっくんに振り向いてもらえるよう色々アピールしていることは知ってます?」

 

「えぇ。春奈が熱烈にアタックして、雪奈が控えめながらもしっかりとアピールしてたわね」

 

「そうだったな。一夏は困惑していたが」

 

「実はそのことでいっくん、すごく悩んでいるみたいなんですよぉ」

 

「それは二人のアピールに?」

 

「うんん、二人の好意に答えるのが」

 

「「っ!?」」

 

束の言葉に二人は驚きのあまり言葉を失う。

 

「どういうことなの? 一夏が二人の好意に答えるのがって」

 

「実は―――」

 

束は秋江の問いに一夏から聞いた事を伝えた。

 

「―――ということ」

 

「そう。本当にやさしい子ね」

 

「あぁ。だが、いささか優しすぎると思うのだが」

 

「そのことなんだけど、恐らくいっくんの中でまだ自分は桜木家の人間ではないというしこりが残っているんだと思うんだよねぇ」

 

「でもあの子がうちの子になってから随分経つわよ」

 

「時間が経っても心の隅っこの方ではまだ残ってたんだと思う。だから…」

 

「血のつながりのある二人のどちらかを悲しい思いをさせることになる。だから身を引こうとしている訳か」

 

冬真の言葉に束は恐らくね。と言い頷く。

 

「けど、一夏がやろうとしていることは…」

 

「二人の気持ちを拒否するやつだよ。でもいっくんにはそのことに気付けるほど余裕がない状態だね」

 

「そう…」

 

「しかしどうしたものか。一夏の願いは2人の幸せ。春奈と雪奈の願いは一夏とお付き合い。答えの無い問題だな」

 

冬真がそう零すと

 

「一つだけ解決策はあるよ」

 

そう言い束は持っていたタブレットを操作してある映像を二人に見せる。

 

「束さんその解決策って、この映像?」

 

「これは博士の研究室か?」

 

「うん、しばらく見てて」

 

そう言い2人は束がいう解決策とは何か知るべく映像を見続ける。

タブレットの映像には研究室の扉から一夏と雪奈が入ってきたところだった。

 

「これは一夏と雪奈か?」

 

「もしかして職場見学の時の映像?」

 

「うん。で、見てほしいのはこの後」

 

そう言い続きを見るように促す束。そして2人が映像を見続けると、なんと映像には一夏がISを身に纏う瞬間が映し出されていた。

 

「えっ!? どういうことなのこれ?」

 

「一夏が、ISを身に纏っているのかこれは?」

 

「うん。どう言う訳かいっくんはISを起動させることができるみたい。どうして動かすことができるのかは束さんでも情報不足でさぁ」

 

「そ、そう。それでこの映像の何処に解決策があるの?」

 

秋江の問いに束が口を開く前に

 

「いや十分すぎるほどの解決策が映っていた」

 

「えっ? っ!? 男性にも係わらずISを動かせた事?」

 

「そうだ。男性にも係わらずISを動かせた一夏はある意味特別だ。そうだろ博士?」

 

「うん。今まで現れなかった男にもかかわらずISを動かせたいっくんは本当に特別な存在。だからこれを使うんだよ」

 

「どういうこと?」

 

「いっくんがISを動かせるという特別な存在だから、特例として()()を認めさせるんだよ」

 

束の口から出た重婚という言葉。そう日本は一夫一妻と法律で決まっている。

 

「なるほど。一夏がISを動かせるというのは確かに貴重な存在ね」

 

「そう。だから政府にちょっとお願いすれば特例として3人の結婚は認められると思うよ」

 

「確かにな。しかし重婚を認めさせれば他の者や、他国の政府も自分たちの国の者も結婚させろと言ってくるのではないのか?」

 

「あると思うけど、そこは条件を合格できた者しかできないって決めておけば大丈夫でしょ。なんせ桜木コーポレーションは世界屈指の大企業の一つだよ? 政府だって下手に動けないでしょ」

 

「そうね。けど「それにこの束さんだっているし、その条件に『束さんも認めないといけない』って入れておけばほぼ不可能に近いでしょ」確かにそうね」

 

「それならば問題はないな。ならすぐにでも政府に「いや、今言うのは早計だと思うね」どういうことだね?」

 

「いっくんはまだ中学生。おそらく今政府に言えばいっくんは中学生の身でありながらIS学園に放り込まれる恐れがあるからだよ」

 

束の口から出たIS学園という言葉。其処はISが登場し暫くして建造されたISについて学ぶために日本政府が運営する国際学園だった。

 

「確かに今発表すれば一夏一人でIS学園に放り込まれる恐れがあるわね」

 

「うん。だからまずその下準備をする必要があるんだぁ」

 

「下準備?」

 

束の言葉に2人が首をかしげる。そして束はその下準備とは何かを二人に説明すると、二人はなるほどと納得した表情を浮かべる。

 

「確かにそれは事前に準備しておくのがいいな。しかしこればかりは本人の意思の確認も必要だ」

 

「そうね。博士、申し訳ないけど今日一緒に我が家まで来てくれるかしら? 貴女の説明もあればあの子達も納得しやすいと思うし」

 

「いいよぉ。それじゃあ早めに仕事を片付けておくよ」

 

そう言い束も湯呑に残されたお茶を啜るのであった。




次回予告
夜、家のリビングへと集められた一夏と春奈と雪奈。其処で冬真と秋江、そして束の3人がある提案をする。
そして其処で束の言っていた下準備について語られる。

次回
幸せになるための前準備


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話

その日の夕方、学校から帰ってきた一夏達は何時もの日課通り予習復習を行い、部屋でくつろいでいた。

そして家のお手伝いが夕食の用意が出来たことを告げに部屋にやってきて、一夏達は下へと下りリビングへと入ると

 

「あれ、束さんどうしたの?」

 

「あ、こんにちは」

 

「ありゃ、本当だ。珍しい」

 

「やっほ~、3人ともぉ。ご飯にご招待されたから来たんだぁ」

 

と、3人にそう言いながら自身の席で「どんなご飯が出るんだろうなぁ」と楽しそうにつぶやく束。

 

「今日は訳あって束さんをご招待したの」

 

「訳って?」

 

「それは夕食を食べた後に説明するから、3人ともほら席に着きなさい」

 

冬真にそう言われ3人はそれぞれ席に着き夕食を食べ始める。

夕食を食べ終え、それぞれお茶を飲みながら一息つく。

そして冬真が最初に口を開く。

 

「さて、それじゃあ束さんを呼んだ訳を話そうか。沢木、すまないが暫くこの部屋に誰も近づけさせないでくれ」

 

「畏まりました」

 

部屋の隅で待機していた沢木がそう言い部屋から出ていく。

 

「それでお父さん、束さんを呼んだ理由って?」

 

「まずは一夏。お前は春奈と雪奈の2人がお前に好意を向けている。それは自覚しているな?」

 

「っ。…うん」

 

一夏の言葉に2人は驚いた表情を浮かべ一夏を見つめる。

 

「束さんから貴方が二人の好意に気付いているけど、それに答えるのが怖いって聞いたの」

 

「まだ自分が桜木家の人間じゃないって心のどこかで思っているかもしれないとも言われた」

 

秋江と冬真の言葉に一夏は暫しの沈黙の後小さく頷く。そしてゆっくりと一夏が口を開く。

 

「……二人のどちらかの好意に答えたら、二人の仲をギクシャクさせる。それだったら俺が身を引けば、二人の仲がこじれることはない、そう思っていたんだ」

 

「一夏…」

 

「一夏君…」

 

一夏の言葉に春奈と雪奈は悲しそうな表情を浮かべる。

 

「そうか。だがな一夏。その行為は二人の好意に気付きながらも、無下にする卑劣な行為なんだぞ?」

 

そう言われ一夏はあっ。と声を漏らし顔を青くさせる。

 

「けどそれは一夏がそれだけ追い詰められていたから気づけなかったのでしょ? だからお母さんたちはそのことで責めたりしないわ。むしろ一人で苦しい思いをさせてごめんなさい」

 

そう言い謝る秋江。

すると一夏はぽつぽつと涙を流し始め

 

「そ、そんな、ことない。俺が、俺がつまらない事で悩みを抱えたせいだから。お父さんやお母さん、みんなが悪いわけじゃない」

 

そう言い訳をする一夏。

そして震える一夏の手を雪奈と春奈はそれぞれ手を取りぎゅっと握りしめる。

 

「私たちもごめんね。振り向いてほしくてアピールしたのが、逆に一夏君を苦しめることになっていたなんて」

 

「ごめんなさい、一夏」

 

そう言い二人も涙を流す。

 

そしてしばしの沈黙が流れた後、冬真が口を開く。

 

「一夏、お前の本心を聞かせてほしい。法律云々とか関係なく二人の事をどう思っている?」

 

「……俺は」

 

冬真の問いに一呼吸置く一夏。二人は心配そうに見つめていた。

 

「俺は、二人の事は好きだ。その、兄妹とかではなく一人の女性として」

 

そういった。

 

「一夏の気持ちは分かった。それで、二人はどうなんだ?」

 

「私は変わらないよ。一夏君の事が好き」

 

「私もです。一夏の事が好きです」

 

そうはっきりと伝える春奈と雪奈。

3人の真剣な表情に秋江と冬真は顔を見合い頷く。

 

「3人の気持ちは分かった」

 

「なら、私達は貴方達が幸せになるのを手伝うわ」

 

そう告げた。

 

「けど、お母さん。私たちが結婚しようにも…」

 

「そうね、日本は一夫一妻制。けど何事にも例外が存在するわ。そうでしょ束さん」

 

そう言い秋江は束の方に顔を向ける。

 

「そのとぉり! そしてその例外の第一号が君達だ!」

 

束の言葉に一夏達は首を傾げる。

 

「あの束さん。どういうことですか? 俺たちが例外第一号って?」

 

「そのままの意味だよ。いっくん、君のISに乗れるという特例があればその例外になれるのだよ!」

 

束の言葉に一夏と、そして同じく一夏がISを動かせるという事を知っていた雪奈は驚いた表情を浮かべる。ちなみに春奈ははい?とどういうこと?と言った疑問の表情を浮かべていた。

 

「えっ? 束さんそれ、秘密にしておくって…」

 

「うん。そのつもりだったけど、3人が幸せになるためにはこれしかなかったからね。だから君たちのご両親に暴露しちゃった」(^^)v

 

「「( ゚д゚)ポカーン」」

 

躊躇いもなく秘密を暴露したぜという束に一夏と雪奈は呆然と言った表情を浮かべていた。そしてようやく事情を呑み込めた春奈はというと

 

「え? つまり一夏君は、男性にも関わらずISを動かせるっていう事ですか?」

 

「そうだよぉ! なぜ動かせたのかは分からないけどね」

 

「な、なるほど」

 

「まぁ、いっくんが男にもかかわらずISを動かせるという前代未聞の事が出来るからある程度の無茶を政府に言っても聞いてもらえるって言う訳」

 

「なるほど。でも、束さん。それだと、私や姉さん以外の女性も来るんじゃ?」

 

「そこはだいじょうブイ! 2人以外のお嫁さんを増やす場合は社長達が見定めて合格をもらい、更にこの束さんに認めてもらわないといっくんとお付き合いできないって条件を突きつけるからね」

 

「そうなんですね。それだったら、安心かな」

 

「うん。でもまだ安心できないことがあるんだぁ」

 

おちゃらけながらも真剣な雰囲気を出す束。3人は何だと首をかしげる。

 

「いっくんがISを動かせるという情報は、いっくんが中学を卒業した頃に発表しようと思ってるんだぁ」

 

「どうして、あっ! IS学園ですか?」

 

春奈がそういうと、束は笑顔でその通り!と返す。

 

「今言うとすぐに放り込まれる恐れがあるからね。ある程度下準備が必要なのさ」

 

そう言いジッと春奈の方に顔を向ける束。

 

「で、その下準備にははるちゃん、君の力が必要なのさ」

 

「私のですか?」

 

「そっ。なんでかというと―――」

 

「君が先行してIS学園に行ってもらいいっくんが入学しても問題ないようするためさ」

 

「…なるほど。確かに私は来年受験生。私が先にIS学園に入学して、その学園で生徒の中で一番位の高い生徒会長とかになって一夏君が来ても過ごしやすいようある程度環境を整えておくっていう訳ですね」

 

「ザッツライトぉ! これは君の人生が関わっているからね。私達大人が勝手に決めるわけにはいかなかったからね」

 

「そうだったんですね。配慮してくださってありがとうございます」

 

気にしないで!という束。そして秋江と冬真が口を開く。

 

「それじゃあ3人とも。私と母さんの考えとしては一夏と春奈と雪奈、3人を許嫁関係にしようと考えている。無論一夏がISを動かせると発表するまでは他言無用だ」

 

そう言われ3人は顔を見合わせ、頷き

 

「「「はい!」」」

 

と答えた。




次回予告
秘密の許嫁関係となった一夏と春奈と雪奈。
月日が経ち、一夏達が中学2年生となったある日の事、
突如一夏の元姉、千冬から手紙とチケットが届いた。

次回
今更の連絡


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話

一夏と雪奈、春奈が許嫁関係となって早一年が経った。

あの日の話し合いによって一夏達は以前よりも仲が良くなり、春奈や雪奈からの好意に対しても一夏は笑顔を浮かべながら対応するようになった。

その姿に鈴や弾達、3人の事をよく知っている者達は良かった良かったと朗らかな顔で見つめていた。(但し、一夏がISを動かせるという事はまだ知らない)

 

それと春奈だが、IS学園に入学するべく普段より多めの勉強量をこなすようにしていた。

 

「あの学園で歴代最高点位叩き出せば余裕で生徒会長に近づけるでしょ?」

 

とのこと。

それから月日が経ち、春奈が3年生、一夏達が2年生に上がったある日の事。

その日桜木家は全員家である話し合いを行っていた。

 

「それで今年の夏休みは熱海にある別荘で過ごそうと思うんだが、皆どうかね?」

 

「いいわね。私は賛成だけど、3人はどう?」

 

冬真、秋江の二人から問いに春奈、雪奈、一夏はと言うと

 

「私は賛成かな。勉強ばっかだったから息抜きしたいし」

 

「私も賛成。喧騒から離れた場所でゆっくりと読書したい」

 

「とか言いながら、貴方達本音は?」

 

「「一夏とイチャイチャしたい!」」

 

「はっ、はっはっはっ(^▽^;)」

「えっと、俺も賛成かな。勉強やらなんやらで大変だったしゆっくりしたいからね」

 

「そうか」

 

冬真は笑みを浮かべながらカップに入った冷たい紅茶を飲む。すると秋江があることを思い出し口を開く。

 

「そうだ。束さんも呼んでもいいかしら?」

 

「篠ノ之さんを? どうしてまた?」

 

「実はこの前、開発部の社員達から嘆願書が届いたの」

 

「嘆願書? どういった内容なの?」

 

「『最近博士は研究室にずっと籠って研究やら開発ばかりしていてほとんど部屋から出ていません。息抜きも必要ですと言ってもなかなか出かける様子もないので、どうにか外に出して息抜きさせてあげてください』とのことよ」

 

「あぁ、なんというか」

 

「束さんらしいというか…」

 

秋江の説明に苦笑いを浮かべる4人。

 

「そういうことなら彼女も招待して行くか」

 

「だね。そうと決まれば」

 

そう言い一夏はスマホを取り出しメッセージアプリを起動する。

 

『今度の夏休みに熱海の別荘に行くんだけど、一緒に行かない?』

 

そうメッセージを送ると、突如ドドドドと地響きのような音が鳴り響き、スンと鳴りやむと同時にピンポーンと呼び鈴が鳴り響く。

 

「まさか…」

 

一夏の言葉に全員扉の方に顔を向ける。そしてしばらくして沢木が部屋へと入ってきて

 

「旦那様、篠ノ之様がお越しになられましたが如何いたしましょう?」

 

「えっと、通ししてくれ」

 

「畏まりました」

 

そう言い部屋から出て暫くして今度は

 

「お邪魔しまぁす!」

 

と束が元気よく入ってくる。

 

「いやぁ、いっくんからお誘いを受けて嬉しくて、直接言いに行こうと思って飛び出してきちゃいましたぁ!」

 

束の説明に5人はあっははは。と苦笑いを浮かべる。

 

「それじゃあ篠ノ之さんも熱海に一緒に来るでいいかね?」

 

「もっちぃ!」

 

「うむ、それじゃあ夏休みは熱海でゆっくりするとしようか」

 

冬真の言葉にはぁいと返事を返す5人。その後束も交えて雑談を始める一夏と春奈と雪奈たち。

すると扉をノックして沢木が入室してきた。

だが、その顔は少し困ったといった表情だった。

 

「どうした沢木?」

 

「実は先ほど配達員から郵便を受け取ったのですが、その中に坊ちゃま宛の手紙がございまして…」

 

「…沢木、その手紙こちらに」

 

沢木の表情に何かあると感じた秋江は一夏宛の手紙を自分にと言い手を差し出す。

沢木はスッと秋江の前に一夏宛の手紙を差し出す。

差し出された手紙は茶封筒の物で、宛先には確かに一夏の名前が書かれていた。そして差出人の名前には

 

「…織斑千冬ですって!?」

 

秋江の言葉に一夏以外全員鋭い目つきになる。

 

「今更になって、どうして彼女から…!」

 

「本当よ! 今更一夏君に何の用なのよ!」

 

雪奈と春奈は今更連絡を取ってきた千冬に対して怒りを表す。

そんな中一夏は呆れた表情を浮かべながら手を差し出す。

 

「お母さん、その手紙俺に渡して」

 

そう言われ秋江は一夏に差し出す。一夏は手渡された手紙の封を開ける。

中には手紙と思われる折りたたまれた便箋と、一枚のチケットが入っていた。最初にチケットを取り出し、確認すると

 

「これは、モンドグロッソのチケットか?」

 

「確か、今年はドイツで行われる予定だったな。あれのチケットか?」

 

「みたいだね。てか、一枚しか入ってねぇ」

 

そう、入っていたチケットはドイツで開かれるIS同士で戦う競技大会、『モンドグロッソ』の入場チケットであった。

 

「恐らく一夏だけ招待するつもりなんでしょ。それで、便箋の方は?」

 

「えっと…。……は?」

 

折りたたまれた便箋を開いた瞬間、一夏は呆けた顔を浮かべた。

 

「どうしたのいっくん? アイツ変なこと書いてたの?」

 

そう言いながら束は横か顔をのぞかせ便箋に書かれたものをのぞき込む。其処には

 

『今年のモンドグロッソの日本代表に選ばれたから来い』

 

としか書かれていなかった。

 

「はぁ? アイツ頭おかしいんじゃないの? てか、近づくなって警告したのに無視しやがって

 

「ん? 束さん何か言った?」

 

「うぅん、何も言ってないよぉ」

 

「それでどうする一夏? 確かモンドグロッソが開かれるのは夏休み中だったはずだが…」

 

行くとは思えないが、一応と思い冬真は一夏にどうするか問う。一夏の答えは

 

「束さん、このチケットキャンセルできる?」

 

「キャンセル? それならすぐできるよぉ」

 

「じゃあよろしく。沢木さん、束さんがチケットのキャンセルが完了したら、チケットと手紙完全に焼却して廃棄しておいてください」

 

「畏まりました」

 

そう言い一夏から手紙を受け取る。それと同時に

 

「ほい、キャンセル完了!」

 

そう言い束は持っていたチケットを沢木に渡す。沢木は「失礼します」と言い、手紙とチケットを細かくちぎり灰皿に入れ火をつける。火のついた紙はメラメラと燃え最後は真っ黒な灰となった。その後、沢木は灰皿に入った灰を懐から取り出した小袋に入れ、底にある灰を手でわしゃわしゃと揉んで灰を細かく崩し、そのまま廃棄物袋に入れた。

 

「ありがとうございます」

 

そう言い一夏はお茶を口にする。一連の行動で一夏の意図がどういう訳か検討をついているが一応確認と思い、雪奈が口を開く。

 

「ねぇ、一夏。夏休みは…」

 

「もちろん熱海に行くにきまってるじゃん。一人でドイツに行くより、家族で旅行に行った方が有意義じゃん」

 

そう言い笑顔を浮かべる一夏に4人は笑みを浮かべ、束にいたっては

 

「だね! てか、今更連絡してきて来てもらえると思ってるアイツはお馬鹿だね!」

 

と、大笑いしながら千冬の事を馬鹿にするのであった。




次回予告

千冬からの手紙から日にちが経ち、夏休みに入ると一夏達は当初の予定通り熱海に旅行へと出かけて行った。
そんな中、モンドグロッソではあることが起きていた。

本来の歯車が崩れ、新たな歯車が回りだそうとしていた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話

~熱海~

 

「着いたぁ!」

 

大きな声で腕を伸ばす春奈。その後ろには一夏や雪奈、そして秋江と冬真と束が居た。

 

「ずっと座りっぱなしだったから体が固まっちゃたよ」

 

「ハッハハハ。まぁ、家から遠いからね」

 

「さぁ、家に入りましょうか」

 

そう言いながら家の中に入っていく。

一夏達もその後に続き中へと入っていく。家の中に入った後、それぞれ割り当てられた部屋に荷物を置いて、リビングへと出てくる。

そして冬真が口を開く。

 

「さて、それじゃあ熱海観光に行くがお前たちは束さんと一緒に回ってきなさい」

 

「私とお父さんは一緒に行動するから、4人は楽しんできてね」

 

「「「「は~い」」」」」

 

そう言い一夏達と冬真たちは出かける準備をして家を出ていった。

家から出た一夏達は駅近くにある商店街に向け歩を進めていた。

暫くして多くの人でにぎわう商店街に到着し、その中へと進んでいく。

商店街には食品売り場や金物屋、海に近いからか水着やパラソルなどレジャー用品を取り扱っている店が立ち並んでいた。

 

「お! ねぇねぇ雪奈ちゃん、束さんあの水着可愛くない?」

 

「うぅ~ん、確かに可愛いけど、束さんの胸にはきつすぎるかな?」

 

「……確かに可愛いですね。オオキイヒトヨウ……チッ」ムネサスサス

 

「……」(雪奈から黒いオーラが漏れ出てるんだけど(汗))

 

キャッキャッと賑わう春奈と束は店に入ろうと言い一夏と雪奈を引っ張って店の中に入っていった。

店の中でそれぞれ春奈と束はお姉さんという事でビキニの水着を買い、雪奈はあまり肌をさらしたくないからとフィットネスタイプの水着を購入した。

それからウィンドショッピングをしながら店を巡りをした後、熱海で有名なパスタ料理店で昼食をとった後家へと帰ってきた。帰ってくると冬真と秋江も丁度帰ってきたところなのか家の前で合流し家の中に入り買ってきたものなどを見せ合いを始めた。

すると冬真の携帯が鳴り響き、スマホを取り出し画面を見た冬真は神妙な顔を浮かべる。

 

「ん、海外番号? いったい誰からだ?」

 

そう言いながら冬真は通話ボタンを押し耳に当てる。

 

「もしもし」

 

『もしもし、久しぶりだな冬真』

 

「あぁ、慎二か。久しぶりだな」

 

『実は今俺モンドグロッソでドイツに来ているんだ』

 

「政府の高官だからな。で、それがどうしたんだ?」

 

『いや、確かお前の息子って織斑千冬の元弟だよな?』

 

「……あぁ。それがなんだ?」

 

ドイツ(こっち)に行かせてるか?』

 

嘉納の言葉に冬真は怪訝そうな顔を浮かべる。冬真の様子に気付いた5人はどうしたんだろう。と神妙な顔を浮かべる。

 

「いや、今家族と熱海旅行に来ていて、息子なら目の前にいるぞ」

 

『…そうか。それならいい』

 

「何でそんなこと聞いたんだ?」

 

『済まんが、訳は話せない』

 

「…わかった。深くは聞かないよ」

 

『済まんな。あと熱海の旨い酒を頼む。こっちは旨いソーセージ買ってくるからよ』

 

「全く。わかったよ」

 

『恩に着る。じゃっ!』

 

そう言い電話が切れた。

 

「お父さん誰だったの?」

 

「父さんの中学時代からの友人の嘉納と言う奴からだ。お前がドイツに行ってるのか聞かれてな」

 

「何でまた俺が行ってるのか聞いたんだろ?」

 

冬真の言葉に一夏や春奈、そして雪奈や秋江達は首をかしげていた。

 

「まぁ、詳しい事は言えないようだったし気にしなくてもいいだろう」

 

そう言われ、そうだねと無理やり納得することにした一夏。春奈や雪奈たちも納得した様子を見せるのであった。

 

 

その日の夜一夏達が床に就いた後冬真と秋江、そして束がリビングでお茶を啜りあっていた。

そして束が口を開く。

 

「そうだ。夕方ぐらいにかかってきた電話の事で、わかったことがあるんだけど聞きたい?」

 

「っ。まさか調べたのかい?」

 

「うん、気になったからね。で、聞きたい?」

 

束の問いに冬真と秋江は顔を見合わせ暫くし後静かに頷く。

 

「えぇ、ぜひ聞かせて」

 

「ドイツで何かあったのか?」

 

「うん。実は―――」

 

そう言い束はドイツで起きていたことを口にし始めた。

 

時間は数時間前まで遡り、そして場所はドイツのモンドグロッソが行われている会場へと移る。

その日は本戦から勝ち抜いてきた選手たちの最終試合、そう準決勝と決勝が行われようとしていた。

そして事件は決勝戦開始数時間前に起きた。

日本政府高官がいる部屋に設けられている固定電話に着信が入った。

 

「はい、日本政府ルームです」

 

『ニホンダイヒョウノオリムラチフユノオトウトヲラチシタ』

 

「な、なに?!」

 

『コロサレタクナケレバ、オリムラチフユヲキケンサセロ。ムロンユウカイジケンノコトハダレニモイウナ』ガチャリ

 

「もしもし! もしもし!?」

 

大声で叫ぶ高官に周りにいた高官たちも何事だと集まる。

 

「どうしたそんな大声をあげて」

 

「今しがた織斑千冬の弟を誘拐したと電話が来た。織斑千冬を棄権させなければ弟を殺す。誘拐事件をばらした場合も殺す。って言ってきた」

 

「な、なに!?」

 

「誘拐だと!?」

 

部屋内が騒然としている中、嘉納が口を開く。

 

「おい、一回お前等静かになれ!」

 

「嘉納さん、しかし…」

 

「騒がしくして誘拐事件が外に漏れたら、犯人は宣言通り誘拐した子を殺すかもしれないぞ」

 

そう言われ高官たちは冷静になり鳴りを潜める。

 

「よし、それじゃあまず誘拐されたのが、本当に織斑千冬の弟なのか調べるんだ」

 

「それだったら確か彼女からチケットを一枚予約してくれと頼まれた」

 

「よし、それじゃあすぐにその部屋番号を調べてくれ」

 

「わかった」

 

そう言い政府高官が数人部屋から出ていく。

 

「いたずら電話とかであればいいんですが…」

 

「そうですね。……嘉納さんどうかしたんですか?」

 

高官二人が話していると一人が嘉納の顔が疑問に満ちた顔を浮かべていることに気付き声をかける。

 

「いや、気になることがあってな。少し電話を掛ける」

 

そう言い嘉納はスマホの電話帳を調べ、ある番号を引っ張り出すと部屋の固定電話の番号を押して呼び出す。

暫くして相手が出たのか口を開く。

 

「もしもし久しぶりだな」

 

『―――』

 

「実は今俺モンドグロッソでドイツに来ているんだ」

 

『―――。――――?』

 

「いや、確かお前の息子って織斑千冬の元弟だよな?」

 

『……――――?』

 

ドイツ(こっち)に行かせてるか?」

 

『―――、――――――』

 

「…そうか。それならいい」

 

『―――――?』

 

「済まんが、訳は話せない」

 

『――――』

 

「済まんな。あと熱海の旨い酒を頼む。こっちは旨いソーセージ買ってくるからよ」

 

『――――』

 

「恩に着る。じゃっ!」

 

そう言い電話を切る嘉納。

 

「嘉納さん、今どちらに?」

 

「調べに行った奴が戻ってきたら話す」

 

そう言い口を閉ざす嘉納。すると扉が開き部屋を出ていった高官2人が戻ってきた。

 

「わかりました。チケットはSの25の部屋をとっていました」

 

「そうか。で、いたのか?」

 

他の高官からの質問に調べた高官たちは困惑の表情を浮かべていた。

 

「いや、それがそのチケットはキャンセルされていたんだ。で、部屋も調べたんだが別の日本人客の一家が来ていた」

 

その報告に驚きの困惑の表情を浮かべる高官たち。

 

「どういうことだ? チケットはキャンセルされていただって?」

 

「それじゃあ弟さんは今どこに?」

 

そうつぶやきながら困惑する高官たちに嘉納が口を開く。

 

「元からドイツには来てなかったんだよ」

 

「え? どういうことですか?」

 

「今しがた電話した相手は俺の友人であの世界5大企業に入るとまで言われている桜木コーポレーションの社長、桜木冬真で、俺の友人だ。で、最近子供を一人養子として引き取ったらしいが、その子供が織斑千冬の弟の一夏だ。今あの一家は日本の熱海に行っていて、冬真の目の前に息子がいることは確認できている」

 

「なっ!? それじゃあ誘拐は狂言ですか?」

 

「いや、わかんねぇ。もしかしたら奴らは織斑千冬の弟と思って赤の他人を誘拐した恐れがある。すぐにドイツ政府に連絡して軍と共同で誘拐された子を探すぞ」

 

「「「はい!」」」

 

嘉納の言葉に高官たちは声をそろえ返事を返す。すると突如扉が勢いよく開く。全員驚いた顔を浮かべながら扉を開けた人物を見つめる。開けた人物は大会の運営を担っているスタッフだった。

 

「た、大変です! 今しがた織斑選手がISを身に纏った状態で大会会場から飛び出していきました!」

 

「な、なんだって!?」

 

スタッフの言葉にその部屋にいた全員が驚いた表情を浮かべる。

 

「飛び出していった理由は?」

 

「わかりません。突然待機室から飛び出してきてそのまま補給と整備を終えた暮桜に乗り込んで壁を破壊していきました」

 

「おいおい、まさか…」

 

嘉納の言葉にその場にいた全員が思った。

 

“織斑千冬が誘拐の事を知った。そしてISに乗って飛び出していった”という事を。

 

「い、一体誰が話したんだ!?」

 

「それよりも織斑はISを纏って外に出ただと!? 何を考えているんだ奴は!」

 

高官たちは怒声や驚愕の声を上げる中、嘉納は奥歯をかみしめ怒りの爆発を抑えつつ、頭の中で冷静に状況を考える。

 

(織斑に教えた奴が誰であれ、国際問題待ったなしだ。兎に角ドイツ政府と話をして軍に救援を要請しねぇと)

 

そう考え嘉納はすぐさま動くぞ!と慌てふためく高官たちをどやしつけ、部屋を出てドイツ政府高官が居る部屋へと向かう。

部屋の前に到着すると、扉をノックする。するとドイツ政府の役員が出てきてやってきた嘉納たちを中へと招き入れる。

 

「Mr.嘉納、これは一体どういうことですか!? なぜMs.織斑は突然ISを身に纏った状態で会場から飛び出したのです?」

 

嘉納に質問したのはドイツ政府の役員の一人で防衛大臣を務める、ロドリゴ・サンチェスであった。

 

「実は―――」

 

嘉納は千冬の弟が誘拐したという電話、そして目的は千冬の優勝阻止。そして弟はドイツには来ておらず、まったくの赤の他人が誘拐された可能性があるという事をロドリゴに説明した。

全て話し終えた後ドイツの大統領、カールハインツ・ザンダーが口を開く。

 

「そういう事だったんですか。わかりました、すぐに軍に動くよう連絡します」

 

「助かります」

 

「いえ、この一件は我々ドイツ政府、そしてドイツ軍の警備の甘さが招いたものですので」

 

そう言いカールハインツはロドリゴにすぐに警備主任に連絡をと言うと、ロドリゴはすぐさま携帯を取り出し、電話を掛ける。

 

「私だ。すぐに警備主任のマッチェス大佐に繋いでくれ。…マッチェス大佐、ロドリゴだ。緊急事態が発生した。あぁ、その件も関係している。どうやら誘拐事件があったらしい。それで彼女が何処からかそのことを知って飛び出していったらしい。兎に角すぐに怪しい者、そして不審な車を調べ上げるんだ。頼むぞ」

 

そう言い電話を終えるロドリゴ。

 

「これでいいはずです」

 

「だといいのですが…」

 

そう零す嘉納。するとロドリゴの携帯に着信が入る。

 

「うん? もう見つけたのか?」

 

そう言いながら電話に出るロドリゴ。

 

「発見したのか?………なに!? 誰がそんな指示を出した! ……わかった。兎に角急いで君の信頼できる部下たちを向かわせろ。それと、保安部隊に連絡して急ぎレイチェル少佐を拘束しろ。良いな!」

 

怒声を上げた後、通話を終えるロドリゴ。そして重い溜息を吐き、困った表情を浮かべた。その表情に更に厄介なことが起きたんだなと捉えた嘉納は口を開く。

 

「ロドリゴさん。何かあったのか?」

 

「……今しがたの連絡は警備主任のマッチェス大佐からなのだが、ドイツ空軍のIS部隊の一部が勝手に我が軍の監視衛星を使って犯人の居場所を見つけ出したんだ」

 

「それは良い事ではないんですか?」

 

「問題はこの後です。その一部のIS部隊が、勝手に織斑千冬と合流してその場所に向かったんです」

 

「なっ!?」

 

「それはまずいのでは?」

 

「えぇ、一機で首都をも落とせると言われるISが数機、しかもそのうちの一機はあのブリュンヒルデだ。大問題ですよ。兎に角今はマッチェス大佐の部下たちが犯人のいる場所に向かわせているので大丈夫だといいのですが…」

 

そう話し、何事もなく無事に事件解決が出来ればいいのだが。と願うロドリゴ。嘉納や他の高官たちも同様といった思いなのか、神妙な顔を浮かべていた。

 

 

それから暫くしてドイツ政府と日本政府が居る部屋に一人の男性が入ってきた。

 

「失礼いたします」

 

「マッチェス大佐、どうだった?」

 

「はい、信頼できる部下たちに彼女達が向かったところに向かわせました。そしたら……」

 

マッチェスは困惑のような信じられないといった表情を浮かべながら続きを語り始める。

 

「廃工場跡地に到着し、中に入ると犯人たちと思われる死体と、その、負傷した我が軍のIS部隊をまず発見したそうです」

 

「負傷したIS部隊だと?」

 

「それも気になりますが、それよりも人質は?」

 

「はい、そちらも無事に発見しました。怪我はしておらず、念のため病院に搬送しました」

 

マッチェス大佐の言葉に日本政府の高官たちは皆安堵した表情を浮かべ、ホッと息を吐く。

 

「良かったですね」

 

「はい。そうだ、織斑は?」

 

「……人質が居た建物には居りませんでした。それで周辺を探したところ、別の建物から出てきた彼女を発見し、捕縛したとのことです」

 

「捕縛だと? なぜそうした?」

 

「彼女はISを使って人を殺しております。それに我が軍のIS部隊をも負傷させているため、事情を聴かねばならない為と判断したからです」

 

「しかしよく捕縛できましたね。彼女はISに乗っていたのでは?」

 

「えぇ。我々の前に現れた時にも、ISに乗った状態でした。なぜか我々ドイツ軍が誘拐した子を隠しているとか訳の分からないことを述べて危険な状態でしたが、小隊長が弟さんはドイツに来ていない事、そして確認したところ本当にドイツに来ていないことが確認できたことを告げました。そしたらようやくおとなしくなってISに降りたところを捕縛しました」

 

「そうですか。兎に角ありがとうございます」

 

「いえ、我々ドイツ軍がしっかりと警備していればこのような事態は起きなかったので。大変申し訳ありません」

 

マッチェス大佐はそう言いながら頭を下げる。

すると突如部屋の扉が開き、3人ほどの人物が入ってきた。入ってきたのは大会委員会の役員たちだった。

 

「突然入ってきて申し訳ない」

 

「いえ、どうしたのですか?」

 

「我々が来た理由だが、これを見たらわかる」

 

そう言い役員の一人が部屋に備えられているテレビの電源を入れる。其処では緊急ニュースと表示されたニュース番組が流れていた。

 

『繰り返しお伝えします。モンドグロッソから突如姿を消した日本代表の織斑千冬氏がドイツ軍所属のIS部隊と共に郊外にあります廃工場跡地にて殺人を行ったという情報が入りました。当該の工場には既に軍の手によって規制線が貼られており、情報の信憑性が高いという事が分かりました。更に調べたところ観戦に来ていた日本人家族の一人息子が行方が分からず、つい今しがた病院にて治療を受けていることが分かりました。このことから誘拐事件があったのではないかと推測されています。何かわかりましたら、引き続き報告します』

 

と流れていた。流れている内容に日本政府、そしてドイツ政府は驚きの表情を浮かべ固まっていた。

 

「このニュースに流れていることは本当ですか?」

 

委員会の問いに嘉納や日本の高官達とドイツの高官達は顔を見あった後、ゆっくりと口を開く。

 

「……はい、事実です」

 

「そうですか。では第3者委員会を立ち上げ、この事件が起きた原因、そして解決となった流れを調べなければなりません。よろしいですか?」

 

「……日本政府は構いません」

 

「ドイツ政府も然りです」

 

「分かりました。では皆様は急ぎホテルにお戻りください。第3者委員会が出来上がりましたらご連絡差し上げますので」

 

委員会の言葉に了承の言葉を口にし、それぞれ解散となった。

 

 

そして時間は戻り

 

 

「―――って、事があったみたいだよ」

 

「なるほどな」

 

「そんなことがあったのですね」

 

束の報告に冬真と秋江はそういう事だったのか。と納得の表情でうなづく。

 

「織斑千冬は今後どうなるんだ?」

 

「さぁ? まぁ、確実に言えるのは日本代表からは追い出されるだろうね」

 

「そうね。勝手な行動したみたいだから当然よね」

 

そんな会話を3人も暫くして床へと着くのであった。




次回予告
事件から数日後、日本政府、そしてドイツ政府は今回の事件を一体どのように処理をするのか。
そして千冬は一体どうなるのか

次回
堕ちたブリュンヒルデ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話

誘拐事件から数日が経った日の事。

その日、とある会議室には日本政府、そしてドイツ政府と大会委員会と国際IS委員会の役員たち。そして事件の事を詳しく調べるための第三者委員会のメンバーも集まっていた。

 

 

「本日はお集まりいただき感謝します。第三者委員会の委員長に選ばれましたアイヴァン・サザーランドと言います。これより誘拐事件の調査報告をさせていただきます」

 

挨拶代わりの自己紹介をしたアイヴァンはそう言ってそれぞれの顔を見る。日本、ドイツ、そしてIS委員会の面々はコクリと頷く。

 

「まず事の始まりである誘拐事件についてですが、犯人グループの目的が日本代表の織斑千冬氏の大会連覇の阻止で、その方法が彼女の弟の誘拐でした。其処で疑問が生じたのがどうやって彼女の弟が来る情報を入手したのかです。こちらは調べたところどうやら大会委員会に所属するチケット担当者が情報を売ったことが分かりました」

 

「なっ!? それは確かなのか?」

 

「はい、皆様にお配りしました資料をご覧ください」

 

大会委員会そして管理、運営している国際IS委員会の役員たちは驚き、手元にある資料を凝視する。其処には確かに大会委員会に所属するスタッフが情報を売っていたことを証明する資料が載っていた。

 

「なんてことを…。それで、このスタッフはどうなったのだ?」

 

「犯人グループに情報を売っている以上、グループに加担している事なので警察に逮捕されました」

 

そう言い、続きを話します。と続けるアイヴァン。

 

「その後グループは大会に入場できるスタッフに紛れ、目的の人物を探し誘拐した模様です。ですが、誘拐した子は織斑氏の弟とは全く違う別の家族の男子でした。その事を知らない犯人グループは日本政府に脅迫の電話を入れました。日本政府からはこのことはまだ織斑氏には伝えておらず、織斑氏は知らなかった。そうですね?」

 

「えぇ。ですが…」

 

そう言うと日本政府側の表情が険しくなる。特に役員の一人である大場敦史の顔が他とは違い暗かった。

 

「はい。織斑氏が何処からかその情報を入手し、ISを使い無断で大会を飛び出した。この情報をもたらした者ですが、調べたところMr.オオバ、貴方の秘書官ですね?」

 

「……はい」

 

そう言い申し訳ないといった表情で落ち込む大場。

 

「大場、お前の責任じゃない。あの秘書官だって良かれと思って行動したんだ」

 

「Mr.カノウの言う通りです。それに、彼だけが問題ではありません」

 

「どういうことですか?」

 

「実は余りに早すぎるんです」

 

アイヴァンの言葉に全員が首をかしげる。

 

「一体何が早いんですか?」

 

「ドイツ軍のレイチェル少佐の動きです」

 

「……確かに。まさか、彼女が今回の首謀者なのか?」

 

ドイツ政府のカールハインツがそう言うと、他の役員たちも険しい表情を浮かべる。

それに対してアイヴァンは首を横に振る。

 

「残念ながら犯人グループと彼女に繋がる証拠は何もありませんでした」

 

「そうですか」

 

そう言い項垂れるカールハインツ。

 

「さて続きを話します。ドイツ軍のレイチェル少佐によるドイツ空軍IS部隊の独断指示、そして日本代表の織斑氏の独断行動。その結果、織斑氏は犯人グループを虐殺、そして狂乱状態に陥ったのかドイツ軍が今回の首謀者と思い込みIS部隊を壊滅させた。その後駆け付けたドイツ陸軍によって拘束された。以上が我々第3者委員会の調査結果です」

 

そう言い締めるアイヴァン。

 

しばしの沈黙後、カールハインツが口を開く。

 

「今回の一件は我々ドイツに責任があります。それに既に報道されている以上真実を公表するしかありませんからね。そのため今回独断行動をしたレイチェル少佐及び指示に従った者に法的措置をとります」

 

そして次に口を開いたのはドイツでの事件を知り急ぎやって来た日本の総理、久保隆総理。

 

「我々日本政府としても独断で行動した織斑千冬、そして大場さんの秘書官を法で罰します。それと、織斑千冬は日本国家代表、そして代表候補生から永久除名とします」

 

重い顔で告げる久保。そして次に口を開いたのは国際IS委員会のオーストラリア国籍の女性委員長、シャロン・リー。

 

「国際IS委員会代表としてもお二方の処罰に賛同いたします。そしてMs.オリムラに与えられているブリュンヒルデの称号を剝奪と致します」

 

『っ!?』

 

シャロンの口から出た称号の剥奪と言う言葉に両国は驚いた表情を浮かべ、シャロンを見つめる。

 

「理由をお聞きしても宜しいでしょうか?」

 

「はい。知っての通り昨今はISに乗れるからと女性が男性を虐げるなどの女尊男卑の風潮が激しいです。我々国際IS委員会としてもこの問題には悩みの種でした。そして最も彼女達が祭り上げているのがMs.オリムラなのです。そのため、今回の一件で彼女から称号を剥奪し、間違ったISの使い方をすれば例え初代優勝者であろうとも容赦しないと世間に見せつけます」

 

真剣な表情で告げるシャロンに両国、そして第三者委員会のアイヴァンは納得と言った表情を浮かべた。

そして報告は終了となり、解散となった。

 

その後第三者委員会、日本、ドイツ、国際IS委員会は記者会見を開き、事件の調査結果の報告、そして事件に関与した人物の処罰などを告げた。

そして千冬の永久除名、そして称号剥奪は世界中に激震が走った。無論女性の憧れである千冬が処罰されたことに納得のいかない女性権利団体や一部の女性たちが抗議活動を行ったが、正当な処遇だ。として取り合わなかった。

 

そして当の本人は、告げられた処罰に呆然と言った表情を浮かべ、その後抗議をするもこちらも同じく取り合われなかった。

 

 

 

 

 

 

そんな大きなニュースをいち早く入手していた束は口角をこれでもかと言わんばかりに上げながら笑っていた。

 

「いい気味だねぇ。自分たちはまだ家族だなんて夢を見続けた代償がこれとは、束さんもにっこりだよ」

 

そうつぶやき、束は空間ディスプレイを閉じると、遠くで束に向かって手を振る大事な人達(一夏達桜木一家)のもとに向かうのであった。




次回予告
事件からはや1年が経ち、遂に一夏達も卒業の時がやって来た。無論一夏と雪奈はIS学園へと通う為、世間に一夏がISに乗れることを公表した。
様々なことがありながらも一夏達はIS学園の門をくぐった。

次回
ようこそIS学園へ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話

誘拐事件から1年が経とうとしたある日の事。

その日は一夏達の中学卒業の日であった。

卒業生である一夏と雪奈、そして弾は教室で駄弁りあっていた。

 

「それにしても遂に卒業かぁ。なんか、短かったような、長かったような中学生活だったな」

 

「そうだな。そう言えば鈴とは連絡取り続けてるのか?」

 

「あぁ。夕方くらいになるといつも電話がかかってくるぜ。向こうでも元気にやってるらしいぞ」

 

そう言いながら懐かしむような弾。

そう、今一夏達の周りには鈴が居なかった。

鈴は2年生の半ばで中国に戻ることになったのだ。戻ることになった理由は鈴の両親が日本の本社から中国の支社に戻ることになったからだ。

本当は鈴が卒業するまで残れる予定だったが、中国支社の上役に父親が昇進、母親は中国支社と日本の本社とのパイプ役として選ばれたため急遽戻ることになったのだ。

中国に戻ることが決まった時、鈴は一夏達にいの一番に報告し、別れを惜しんだ。

其処で弾が一夏達と共にお別れ会を開いた。

プレゼントを渡したりゲームをしたりと楽しんだ。それから3日後、鈴は中国へと帰っていったのだ。

 

因みに空港に見送りに行った際、鈴は弾に

 

「…いつか。いつか、美味しい中華料理作れるようになるから。その、その時は毎日食べてくれない?」

 

と言ったのだとか。

 

 

「そう言えば、一夏達の方こそお姉さんどうなんだ?」

 

「こっちも同じ感じだ。それと最近生徒会長になったんだと」

 

「うへぇ。相変わらず凄いなぁ、あの人は」

 

そう、一夏と雪奈の姉、春奈は無事IS学園に入学を果たしたのだ。

春奈は束が作成したIS、『ダイモス』の企業所属のパイロットとしても務めており、入学するまでに一夏と共にISに乗る練習をしていた為、入学時には試験官の教師をものの数分で撃墜判定をとったり、入学試験の結果も歴代最高点を叩き出すなど、本気を出しまくっていた。

無論妹の雪奈、そして世界初の男性操縦者として世間を驚かせる愛する一夏が何不自由なく学園生活を送れるようにするために。

 

そして卒業式の時間となり一夏達は体育館前へと集まる。そして司会の入場の合図とともに中へと入る。

中には在校生たちと親達が入ってきた一夏達を拍手で出迎えた。

そして卒業生たちは体育館前に設置された椅子へと座っていく。そして卒業証書授与や校長の話、そして雪奈の答辞が行われた。

 

そして卒業生たちが全員体育館から出た後、教室に戻り担任からお別れの言葉をもらい、それぞれ自由時間となった。

一夏と雪奈は弾と共にそれぞれの家族が来るまで、校門前で談笑していた。

 

「さてと、それで一夏達はこの後打ち上げに参加するのか?」

 

「いや、この後予定があってな。打ち上げには参加できそうにないんだわ」

 

「私もそれに付き添うので難しいです」

 

「そうか。まぁ、仕方ないわな。それじゃあ次の高校で会おうな」

 

そう言い弾は迎えに来た母親と共に帰っていった。一夏と雪奈も冬真と秋江が乗った車が迎えに来たためそれに乗って家へと帰っていった。

 

そして卒業式から3日後、とあるホテルのホールにて新聞記者やテレビクルーなどが集まっていた。彼らの前には机と椅子が並べられており、壁には『桜木コーポレーション重大発表』と横断幕が掲げられていた。

 

「一体何の発表何だろうな?」

 

「さぁな。前は桜木コーポレーションが作成したISのお披露目だったから、また新しいISの発表ととかじゃないか?」

 

記者たちはそう言いながら今から始まる発表を準備して待った。そしてステージ横に司会と思われる男性が現れる。

 

「皆様大変お待たせしました。これより桜木コーポレーションより重大発表をさせていただきます。まず社長及び副社長のお二人のご入場いただきます」

 

そう言うとホールの横の扉から警備員と共に冬真と秋江が入ってきた。

そして二人は記者たちに一礼後前の席へと着く。

席に着いた冬真は目の前に置かれているマイクの電源を入れ口を開く。

 

「えぇ、皆さん。お忙しい中お集まりいただき感謝します。これより我が桜木コーポレーションの重大発表をさせていただきます」

 

そう言い冬真はあれを。と伝える。するとスタッフが大型のモニターを持ってきた。

 

「今からお見せする映像は、加工も合成もされていない真実です」

 

そう言い冬真はスタッフに向け頷くと、意図を察したスタッフは再生ボタンを押す。

モニターに映し出されたのは、どこかの実験施設の広場と思われる場所だった。そして中央には一人の少年が映っていた。

 

「今モニターに映っているのは私の息子、桜木一夏です」

 

冬真はそう説明し、映像の続きを流す。

 

『これより〇月△日午後3時20分、IS稼働実験を行います。一夏さんお願いします』

 

『はい』

 

映像から流れた音声にホール内の記者たちがどよめきだつ。

 

「おい、今IS稼働実験って言ったか?」

 

「あぁ、間違いねぇ。そう言ってた。だが、ISは男だと起動しないだろ?」

 

そう言い合っている間にも映像は流れ続ける。

 

『始めます』

 

そう言うと一夏の体が一瞬光に包まれると、次の瞬間一夏はISを身に纏っていた。そこで映像は停止となった。

そして冬真が口を開く。

 

「これが我が社の重大発表です」

 

その言葉で更にどよめきを起こす記者団。

 

「ではこれより質問時間を設けます。一人一問での質疑応答とさせていただきますので、連続して質問をしないようお願いします」

 

そう言うと多くの記者たちがこぞって手を上げる。その中から司会は適当に一人の記者を当てる。

 

「○○社の□□と言います。先ほどの映像で映っていたのは社長の息子さんで間違いありませんか?」

 

「はい。私と副社長の秋江との子供で間違いありません」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「では、次にそちらの方、どうぞ」

 

「△△新聞社の☆☆といいます。先ほどの映像は加工や合成は無いとおっしゃっていましたが、何故映像での公開に至ったのでしょうか? 我々の前で披露するという事も可能ではなかったのでしょうか?」

 

「理由はいまだ起動できた理由が解明されておらず、下手に皆さまの前で披露した場合、暴走などがあった場合皆様の身の安全が確保できない恐れがあったからです」

 

「…そうですか。わかりました」

 

「ではそちら方、どうぞ」

 

「××社の▽▽と言います。今後彼をどうするのかお聞きしてもよろしいですか?」

 

「ISを動かせる男性は現状一人だけです。そのため我が社の専属パイロットの一人としてIS学園へと入ってもらう予定です。このことは本人にも伝えており、本人も承諾しております」

 

「貴重な男性操縦者なら研究所などで「申し訳ありませんが、質問は一人一回までです」まだ聞いているんだぞ!」

 

司会が止めに入ったことに怒りを見せる記者。すると司会は

 

「先ほど言いました通り、質問は一人一回までです。席にお座りください」

 

「さっきの質問の答えを聞いてないんだ。それを聞くまでは座らんぞ!」

 

そう言い頑なに座ろうとしない記者。周りの記者はその記者に対し睨んだりするものがチラホラといた。

すると司会は

 

「最後の警告です。席にお座りください」

 

「いいからさっきの質問答えてくださいよ」

 

司会を無視して言う記者。すると冬真がマイクを手に取り

 

「えぇ、こちらの指示に従っていただけない記者が居りましたので、現時刻をもって質疑応答を強制終了とさせていただきます」

 

そう言うと冬真と秋江は席を立ち、さっさと出ていこうとする。

 

「えっ! 社長、お待ちください!」

 

「まだ聞けていないことがあるんです!」

 

そう記者たちが言うも、そのままホールから出ていった。

出ていった後、記者たちの多くは××社の記者を睨みつける。

 

「な、なんだよ! 記者として多くの事を聞こうとして何が悪いんだよ!」

 

「そうだな。だがな、相手はあの桜木コーポレーションだぞ。その気になれば俺たちなんて簡単に潰されるかもしれないんだ。それを余計なことしやがって!」

 

「仕方ない。少ないけど、この情報で記事を書くか」

 

「映像も何とか撮れたから、すぐに流せるようにしないと」

 

そう言いホールから出ていく記者たち。そのうちの何人かは××社の記者に恨みをぶつけるようにわざとぶつかりながら出ていった。

 

「糞が。なんなんだよ」

 

そう言い記者もホールから出ていく。

 

 

その背後からうさ耳の女性が見つめていることに気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

次の日、××社の▽▽は忽然と行方知れずとなり、更に××社も倒産となった。




次回予告
一夏がISを動かせるという情報が世界に公表され、世界は驚愕で包まれた。
それから日にちが立ち、遂に一夏と雪奈はIS学園へと降り立った。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。