猿人類となった男と見える子ちゃん (好きな領域は【誅伏賜死】)
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【第零視】とある寺院の長髪住職

みこちゃんカワイソウカワイイヤッター!
と言えたのは神社突撃の下りまで、どうも匿名作者です。
原作とは程々関係ない日常の一シーンでかなり短めなので気軽に読み飛ばしちゃって下さい。


 皆は「呪い」や「霊魂」を信じるだろうか?

 

 死者/生者

 

 人霊/動物霊

 

 生物/非生物

 

 村の大家の謀略によって滅ぼされた一族の怨霊、悪魔が乗り移りブリッジ歩きをしだす少女、事故や自殺などによって曰く付きの場所になったトンネルや山奥、個人の恨み辛みが籠った藁人形と鉄釘。

 

 挙げ始めればキリがないのでここで打ち止めとするが、この世にはそうした「呪い」や「霊魂」による仕業や影響があるとされる場所やアイテム・体験談などが山のように存在する。

 

 また得てしてこれらの事は「非科学的」「噂の独り歩き」「作り話やほら話の類」と一笑に付し信じない人の方が大多数だろう。

 

 しかし、これらの事は現実に存在する。

 

 寂れた村の地主の家を多種多様な殺され方をしたであろう呪霊達が取り囲み、少女の体には憑依し無茶な動きをさせることによる苦痛でエネルギーを得る性根の悪い悪魔が憑く。

 自殺の名所とされる場所では四肢の砕けた“先駆者”たちがまた一人また一人と崖下から手を伸ばし、その手の技術を持った者が藁人形に釘を打ち込めば対象の人物は体調不良や不可思議な不運…最悪死に至るケースも出て来る。

 

 だがこれらの事を行う【呪霊】達は大多数の人の目には見えないし、見える人だって何かしらの対抗手段を持っている。

 

 もし、そうした対抗手段を持っていないやつにソイツらが“見える”としたら……?

 

 半ば事故のような形でこの世界に来てそうした奴らを見る素質と対抗手段を持たせてもらった俺が言うのものなんだが、随分と生き辛いものだろうなと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フム…不眠ですか」

「は、はい。最近全然眠れてなくて…医者にも罹ったんですけど、異常はないと取り合ってくれないんです」

 

 町の住宅街にポツンと立つ寺院の僧坊。そこでは二人の男性が向き合って座っていた。

 片方は僧衣に身を包んだ男性の僧侶、身の丈は185以上と高く。また鍛え込んでいるのかかなりがっしりとした肉体をしておりまた髪型も基本坊主頭の僧にしては異様に長い。

 もう片方は…有り体に言えば中肉中背で、その背は猫のように曲がっている普通の男性。これと言った特徴は敷いて言うならば……最早特殊メイクの一種と言われても信じれてしまえそうな程の病的な“隈”を持っていることだった。

 

「コレのせいで最近仕事にも支障が出てきてしまいまして…最後の頼みの綱とばかりに、先生のところへ来ました」

「そうだったのですか…その苦労、お察しします」

 

 項垂れその視線を畳へと逸らした男性を尻目に、僧侶はふと男性の周りに目を滑らす。

 

 当事者の男性には心当たりがなかったが、彼の対面に座る僧侶はその原因をしっかりと()()()()()いた。

 

『オマエダケネルナン、テ。ユルサネエ…』

『ネムイ…ネエエエムウウウイイイヨオ!』

『オレトオソロイダナァソレエエ…』

 

 ボサボサの頭に乱れたスーツ姿の老若男女…しかし真っ白な彼ら彼女らの目下には男性と同じようなパンダの如き“隈”が刻まれた【呪霊】達が、男性の周囲を取り囲み浮遊していた。

 

(――“2級”半歩前の“準2級”。見たところ人が抱く不眠への不満・危機感から生まれたって所か…現代社会の闇だねこれは)

「少し失礼」

 

 そう言い座布団から立ち上がった僧侶は、淀みない歩調で男性へ近付き――

 

『『『クギュ』』』

 

 無造作に男性の周囲にいた呪霊を握り拳で薙ぎ払い、次の瞬間僧侶の手の中にはたこ焼き大の黒いボール状の球体が握られていた。

 

 風圧を感じた男性は、拳を横に振り切った僧侶の姿を不思議そうに見上げる。

 

「あ、あの…?」

「眠らずとも、目を閉じるだけでも随分と違うと聞きます。温湯で温めたタオルをもって来るので少々横になってはどうでしょうか」

「いやそういう段階の話じゃなくて――」

「こちら枕代わりの座布団です、では少々お待ちください」

 

 焦燥した顔でそう言う男性との会話を半ば強制的に打ち切り、数分後言葉通り湯気を上げるタオルを手に持ち部屋に入ると…

 

 

「おやおや…掛けるまでもありませんでしたか」

「スー…スゥー……」

 

 畳の上に横になった状態で男性は健やかに寝息を立てて寝入り、その顔は幸福感すら感じられる程だった。

 

「さてと――そんなに眠りたいなら好きなだけ眠るといいさ。ただし、私の中でだがね」ゴクリ

 

 男性の口元に垂れた涎を静かに拭き取った僧侶は、先程手に握った球を口元に運び勢いよく飲み込んだ。

 

「……マッズい。これだけは馴れそうにないな」

 

 眉を顰め口元をへの字にした僧侶は、その手に持った温タオルで今度は自分の口元を拭った。

 

 

 

 

「すみませんでした!!!」

「お気になさらず、不調が治ったようでよかったです」

 

 寺院の前で、目を閉じての休憩という名の爆睡をしていた男性が勢いよく頭を下げる。

 

 辺りはすっかりと紅くなっており、男性が来た時には真上にいた太陽は地平線の彼方へとその身を隠そうとしていた。

 

「ただでさえ不眠を解消してもらったのに、それにも関わらず寝てしまって本当に。本っ当に…!」

「貴方のそれが治るタイミングがこの日この時だっただけです。私はお話と、休む場を整えたに過ぎませんよ」

 

 恩人とはいえ他人の前で勉強に疲れた学生のように惰眠を貪ったことへの羞恥心と、悩みが解消されたことへの喜色が入り混じった男性のおかしな姿に、思わず漏れ出そうになった笑いを何とか抑え込んで僧侶はそう言った。

 

「それでも、ありがとうございます!」

「いえいえ…あぁ、では。次は参拝などでまた来て下さると嬉しいですね?」

「っ!是非そうさせていただきます!!」

 

 最後に僧侶の手を握り大きく上下に振るった男性は来た時とは真逆の晴れやかな様子で帰路へと着いていった。

 

「…まぁ、調伏させてもらった呪霊がお代替わりだったりするんだけどもね」

 

 それを最後まで見送った僧侶はそう呟くと寺院の中へと入っていった。

 

 ――(冬月水賀)は転生者である。

 

 それもただの転生者ではない…その身に幾百、幾千の“呪い”を使役し操る術式【呪霊操術】を持つ、言わば別世界の呪術師である。




読了ありがとうございます。
次回からは原作キャラが出てくるんです!本当なんです信じて下さい!!
今回のオリ呪霊は猿(非術師)の「不眠」によって生まれたんですけど自然とか人とかが特級なら不眠の呪霊も結構な等級ありそうですよね。


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【第一視】見られる男

どうも。もうミゲルみたいな助っ人外国人呼べよと上層部に思ってしまった作者です。
そう言えばみこってハナの生命オーラ的なアレって見えないんでしたっけ?あくまでアイツらがよく寄ってきてるから「憑かれ易い」って状況証拠から判断してるだけで。


 はいどーも、ターボ婆の撮影をしようと山中に籠もってたら崖から落ちてきたトラクターに『ロードローラーだッ!』されて異世界(実質現代社会)に転生した「冬月水賀」だよ。職業は三流オカルト雑誌のルポライター!

 

 承太郎さんの無敵のスタープラチナみたいな重機押し留めるスピードとパワーは持ってなかったので一瞬で圧死した俺の側に現れたのは、クソ長い顎髭を伸ばした白髪のローブ姿の老人という割りかしステレオタイプの神さんだった。

 

 転生する際に神さんから「オカルトホラーモノの世界だけど能力何がいい?」と言われたので畏れ多くも敬愛する。夏油傑様の姿と術式である【呪霊操術】を下賜され晴れて“猿”から“猿人類”にランクアップエクシーズ・チェンジしました。やったぜ

 

 ……え、そもそも夏油傑とは誰か?(聞かれてない)

 夏油様はあの現代呪術界最強と言われる五条悟の高専時代の同期であり良き親友だったが、とある出来事(0巻読んでね)でその思念から人に害を及ぼす呪霊を生んだり呪術師を迫害する非術師に嫌気が指し「非術師が呪霊を生み出すならソイツら皆殺しにすればエエやんけ!」と思い至り呪術界に宣戦布告。自らの思想に賛同した呪詛師と自らが従える数千の呪霊を持って本編開始前の大ボスを務め上げたお方です。

 

 因みに私達を「猿」と呼び蔑んで下さり尽くして尽くして尽くしまくった末にゴミのように捨てて下さる素晴らしい人間でもある(重要)。

 

 正直彼の人が闇堕ちしたのは若者故の浅慮と思い込み、劇中でかなり腐り切っているとされる呪術界の上層部の陰謀。そして激情家でもあったことによる俯瞰して物事をみる能力の欠如にあるような気はするがそれは割愛。

 

 因みに名前は神さんには「そのまま夏油傑でええんじゃないの?」と言われたが、さすがに傑物である彼の名前を凡人である自分がそのまま騙る訳にもいかないので名字の「夏油」を「夏⇔冬」「油⇔水」と漢字を借り受け変換し、そこから名前辞書を引いてどこにでもある凡人的な名前に変えさせてもらった。

 

 そうしてトンチキな名前(凡的な名前にした筈なのに友人達にはそう言われる)となった私はそうしてこの世界に来たのだが――

 

 まずこの世界、ひたすらに呪霊が多い。

 

 特級相当(指標として丁度いいので流用させてもらってる)こそ生まれてから数度しか見た事ないが、呪霊自体の数がバカみたいに多い。

 

 ちょっと“そういう”噂のある場所に行こうもんなら通行があるにも関わらず人間よりも呪霊の方が多いのではないかと思う程いるし街中にも平然といる。

 

 その代わり人を積極的に襲う呪霊は余りいない……ある条件下の人間を除いてだが。

 

 だが余りいないというだけで、無差別的に人間に危害を加えようとする呪霊がゼロというわけではない。なので私は今転生した先で生まれた実家の寺院の住職をしながらも呪術師の真似事をして呪霊を祓っている。

 

 夏油様の呪霊を調伏し、また自身よりも数段階劣るモノは無条件に取り込む【呪霊操術】は低階級がべらぼうに多いこの世界の呪霊達とはかなり相性が良く。町を練り歩くだけで低級の呪霊が勝手に球になっていく

 

 散歩も出来て呪霊のストックも増えるなんて一石二鳥!という訳で現在定期的に行なっている町散歩の途中なのだが………

 

 

 

(何やら視線を感じる…)

 

 とある街の大通りを歩いているのだが、何故か私は視線を感じていた。

 仕事着でもある法衣を着ていないとはいえ間違いなく長身の部類に入る夏油様ボディ(驚きの185以上)なので視線を感じる事はそう珍しい事ではないが、この視線は数分前からずっと私に付き纏っている。殺意や害意はないが…困惑と、怯え?と人混みの間をすり抜けながら私は考える。

 

「…少し探ってみるか」

 

 そう思い大通りを外れ横道に入り暫く歩いた後、空中浮遊の特性をもった河豚の様な呪霊を操り即座に上空に移動する。下手に警戒されても困るので帳は貼らずにおく。

 

「あ、あのっ……!」

 

 暫く待っていると、少々息を切らせた様子の少女が私が来た道と全く同じ方向から入ってきた。少女だが、直後に「ヒュ」と押し殺すような悲鳴をあげた。

 

 その視線の先には“如何にも”な呪霊がいた。人間を遥かに超える巨体を持った3級相当の呪霊だ。彷徨いてるだけで反応しなければ大した害はないが――

 

『アレ…ネェミタ?』

「ッ……!」

 

 今回のように、「自分を知覚した存在」がいる場合は話は別だ。人間としての怨念/集合意識がそうさせるのかは分からないが彼らは自身が見える存在に強い興味と執着を示す。

 

 対抗手段としては真っ当に祓うか、現在少女がしているように見えないフリ…要するに“シカト”が効果的なのだが。アレでは手遅れだろう。というか……

 

「ひょっとして彼女は祓う手段を持っていない…“見える”だけの一般人なのか?」

 

 なら試すような悪い事をしたなぁと思い、浮遊呪霊から手を離し降下。呪力を込めた拳を呪霊へと向け……

 

 

 

 

(今日も、すごいいるなぁ…)

 

 黒いストレートの髪に少し陰気だが整った顔立ちをしている少女、四谷みこには見えてはいけないものがある日を境に見えるようになっていた。

 性別、身長、容姿や特徴はバラバラだが。一様に言えるのはみなドス黒いオーラと存在感を纏い。ひたすら自分に対して「見える?」と聞いてくる事だった……

 

 みこの生まれは退魔の家系でもないし、知り合いに霊媒師も悪魔祓いも…ましてや寺生まれのTさんもいない。

 札貼りもエイメンも「 破ぁ!! 」も出来ないみこに出来るのは、ひたすらに彼らを無視し普段通りに振る舞う事だけだった。

 

『ワタシヲミテ……』

「今日はなんか映画でも見に行こうカナー…」

 

 そして今日のみこは親友の百合川ハナや自身の弟とは別に、一人で休日の昼下がりの町を歩いていた。

 早速燃えでもしたのかボロボロのワンピースをきた女の霊が声を上げたが、みこは自身のスマホの地図アプリを見るふりをしてスルーした。

 

(でもやっぱり、このままじゃいつ反応しちゃうか分からない。……不勉強だけど数珠とかつけたり盛り塩とかやってみようかな)

 

 しかし流石に打開策が欲しいと考えたみこだが、そこでふとスマホをから目を離し視線を上にあげる。

 

「えっ」

 

 そこでみこの目に入ったのは、とある一人の男性だった。絹のような艶やかなに長髪に180は優に超えてるであろう巨躯。服装は簡素なパーカーとパンツで固めた簡素な物だが、問題は男性自体ではない。

 

(な、何アレ…!?)

 

 余談だが、みこの目に見えるのは幽霊だけではなく。「幽霊の発する黒いオーラ」も見えている。

 大抵幽霊の力量と直結した規模で発せられたソレはみこの幽霊をシカトする上で大事な要素の一つであった。

 

 閑話休題(はなしをもどすと)

 

 その男性からは、本来幽霊しか発せられない筈の黒いオーラが発せられており。しかもその規模はその男性の周囲だけ夜になったのではないかと思うほどに濃密なモノだった。男性も幽霊なのかと目を逸らそうとしたみこだが、その視界の端に驚くべき光景が写った。

 

(他の人たちが避けてく…!もしかして、生きてる人!?)

 

 男性とその周囲の人間は互いの通行の邪魔にならないように避け合っており、それは通常人間には見えない幽霊ではありえない事だった。

 

「…どうしよう」

 

 ここでみこは二つの選択肢を得た。

『明らかに危なそうなこの男性を避ける』

『ある程度の危険を承知で声をかけるか』

 普段のみこなら前者一択だが、現在のみこはかなり精神が参っている状態であり。話が通じそうな人間(幽霊?)がいるのであればこの事を相談したいという思いは秒刻みで強くなっていく。

 

「よし……」

 

 悩むこと数秒、「声を掛けてみよう」という結論に至ったみこは。男性に声をかけようとするが……

 

「………………」

 

 それまでゆったりとしたペースで歩いていた男性はふとその歩みを速め、横道へと逸れていってしまった。

 

「ッ…追いかけよう」

 

 その時点で男性を見なかったことにするという選択肢は既にみこの脳内にはなかった。意外と強情な子である。

 

 男性を追いみこは駆け足にその後を追い同じ横道へと入ろうとし、その直前で一瞬の躊躇から足が竦むが。そんな本能からの警告を理性で黙らせ意を決して踏み入れ、タイミングを逃すまいと胸に息を吸い込んだ。

 

「あ、あのっ……!」

『………?』

 

 しかし、緊張からか目を瞑ったのが災いとなったのかみこが目を開いた先には男性の姿はなく、代わりとばかりにそこには数日前のみこには見えなかった…しかし不幸にも今のみこには見える様になってしまった大きな幽霊の姿があった。

 あまりにもあんまりな不意打ちに、みこは己のポーカーフェイスが一瞬崩れる感覚を自覚し「あっこれは気付かれた」と自分のどこか冷めた部分でそう自覚した。

 

『アレ…ネェミタ?』

「ッ……!」

 

 幽霊はみこの顔を覗き込みながらそう譫言のように呟きながらもその目には昏い思念をありありと感じ取れた。

 顔が強張り意識が軽く遠のく、ふと自分がいかにも見えていないように振る舞える者はないかと目を動かすが、閑静な裏路地には地面に散らばったゴミ程度のものだった。

 

(どうやったら誤魔化せ…ダメ出来ない――)

 

 すわここまでかと、みこは目を瞑った。

 

「――試すような真似をして申し訳ない」

 

 ふと、みこの上から落ち着いた声音と共に男性が降り。幽霊の脳天に拳を振り下ろした。

 

『アグゴギュ!?』

「すまないね、緊急故祓わせてもらったよ」

 

 単語どころではない、出せる「音」をとにかく喉から絞り出したような断末魔をあげた幽霊は最初からいなかったように霧散し。男性は拳を振り下ろした形の体勢からゆっくりと普通の姿勢へと戻った。

 

「まずは自己紹介といこう、私の名前は冬月水賀だ。君の名前を聞いてもいいかな?」

「…よ、四谷みこ。です」

 

 自分と同じような呪霊が見えるだけではない。呪霊と同じオーラを発し、ましてや殴り殺した“殺霊犯”とも言うべき男にみこは辛うじて返答することが出来た。




ストックがそろそろなくなるので「これが俺本来の更新頻度だぁ!」になります。
感想・評価お待ちしています


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【第ニ視】人は未知に恐怖を抱く

この世界の霊的存在のあれこれについてです。呪術廻戦でも幽霊がいるかどうかは明言されていませんし見える子世界でもみこのお父さんと猫の守護霊、先生のお母さんの例もあるので独自解釈のものとなります。


「お待たせ致しました。カフェラテとメロンソーダでございます」

「あぁ店員さん、メロンソーダは私だ。彼女がカフェラテだよ」

 

 その言葉に慌てて配置を変え「申し訳ありません」と軽く頭を下げ小走りに去っていく店員を見送る。

 そりゃあ立派な体格の大男に私服とはいえ一目で未成年と分かる女の子二人だ。自分でもさっきの店員と同じ間違いを犯す自信がある。

 

「遠慮せずに飲むといい。私の奢りさ」

「は、はい…いただきます」

 

 横道から出て程々の位置にあるカフェのチェーン店。その窓際の二人席にて私の対面に座る少女…四谷みこは湯気を上げるカフェラテを少し冷まし口に含み、ホッと息をついた。

 ――正面から改めて観察してやはり普通の女の子だ。

 

 この世界にて知り合った呪術師や呪詛師、また霊媒師や聖職者(どうぎょうしゃ)といった“呪い”に立ち向かう力を持った人間とは違う。

 喜怒哀楽をしっかりと持ち合わせたただの女の子だ。

 

「あの、先程はありがとうございます。もし助けてくれなかったらどうなってたか…」

「気にしなくていい。寧ろ呪霊が存在する場所に不用意に誘導した私の責任さ」

 

 事実その通り、取るに足らない3級呪霊とは言え流石に拙かった。「呪術は弱者(非術師)を守るためにある」とは夏油様の言葉。それを全うするのは私の義務だった筈なのに……“最強”を騙ることから起きた無自覚な驕りがこんな形で発露するとは――!

 

「いきなり不躾だとは思うんですけど…あなたにもその、“見える”んですか?」

「…っ、あぁ見えているさ」

 

 思考を進め思わず至らぬ自分を責めていたが、四谷みこの声で我に帰る…そうだ、今は彼女と話しているのだ。反省会は家で幾らでも出来る。

 

「!じ、実は私。数日前から急に見えるようになっちゃって…知り合いのみんなも見えないみたいだから相談できなくて」

「うん、見える人はそう多くはない。私にも知り合いはいるがせいぜい数十人ほどだね」

 

「見えるのは全部怖くって…でも、驚いたり逃げたりして何されるのか分かんからずっと無視してて…!」

「見える人が少ないように、彼らへの対抗手段もまたそう多くはない。今更ではあるが仕方ないさ」

 

 ぽつぽつと降るような言葉が、次第に堰を切った濁流へと変わっていく。

 

「街の至るところ…お店にも学校にも通学路にも、私の家にもいてずっと気が抜けなくて」

「人の感情はそこら中に渦巻いている。どこにいてもおかしくはないものだ」

 

「いつか見えてることがバレちゃうんじゃないかって考え出したら止まらなくて、でも気付かれないようにって泣けなくて…!」

「どこから見られているのか、分からないからね。君の心配はもっともだよ」

 

 今の彼女に必要なのは受容と共感…ようするに彼女自身を受け入れ相槌を打つことだと感じた。だからひたすらに肯定する言葉を投げかける。

 

「うぅ……」

「使うといい。飲み物も冷めないうちにね」

 

 吐き出し終えたのか、嗚咽混じりに声を上げる彼女にそっとハンカチを渡す。顔に前髪がかかっているため顔は見えないが、おそらく漸く溜め込んだものが涙腺の許容量を超えたのだろう。

 

 だが、顔こそ伏せているが声は噛み殺している。対面の俺には聴こえるが他の人間には聞こえていないだろう。その配慮/工夫は人目があるからか、それとも……

 

(あぁ、嫌になる)

 

 呪霊絡みの事件はいつもそうだ。元々がマイナスな感情から生み出される存在。それによって齎された事件はいつも多くの犠牲と深い爪痕を残す。

 そうして呪霊に対して恨み辛みを募らせ、己の中に呪力が生まれるのを自覚し。そしてこれでまた呪霊を祓うのだと生まれた呪力に静かに誓った。

 

「…ご、ごめんなさい、こっちから質問したのに。勝手に泣き出してしまって」

「気にしないさ――すみません、追加注文いいですか?」

 

 ふと近くにいる店員を呼び止める。

 

「ドリンクのおかわりと、この『極厚ピザトースト』を。一つはチーズ増しで」

「え……?」

 

 注文を復唱し下がっていく店員に会釈し、目をパチクリさせる彼女に夏油様らしい余裕のある笑みで悪戯っぽく微笑みかけてみる。

 

「泣くと腹が空くし喉も乾くからね、一先ずは腹拵え。詳しい話はその後さ」

 

 

 

 

 ドリンクやピザトースト(先ほどの店員がアドバイスしたのか最初から冬月にメロンソーダが配膳された)が届き粗方食べ進め終えたころ。

 冬月はその顔に似合わないメロンソーダを飲み干してから漸く呪霊…というか霊全体について語り始めた。

 

「まずこの世には主に二種類の霊的存在がいる」

 

「一つは幽霊。二つに呪霊」

 

「私が主に対応するのは後者だね。ここまではいいかな?」

「はい。あと、ご馳走様でした」

「ご馳走しました。最初に幽霊について説明しようか」

 

 結構な量があったピザトーストをペロリと食べ、ある程度憑き物が落ちたような顔をしている四谷みこの様子に安心し胸を撫で下ろした冬月は、外面上は和かに微笑んで教師のように指を立てる。

 

「幽霊は主に個人の未練などによって生み出されたり、幽体離脱してたり。発生要因はいろいろあるね。道端で呻いてるだけの無害な奴や誰かの守護霊もここに入る」

「害はないって…」

「対抗手段がなく反応してしまった場合は別だね。被害は大方憑依、体の乗っ取りだ」

「のっとり」

「乗っ取り。」

 

 驚き半分怯え半分といった様子でおうむ返ししたみこの様子を見て軽く微笑みながらも冬月は二本目の指…彼にとっては幽霊よりも馴染みのある存在についてだった。

 

「そして呪霊だけど…彼らは私や他の術師ではない君のような、辛酸・後悔・恥辱…非術師のマイナスの感情から生まれる。謂わば人の感情から生まれた災害さ」

「個人への害意、場所への執着。病魔への恐れ――あげ出すとキリがないよ」

 

 溜息を吐いた冬月は喋りっぱなしで乾いた喉をメロンソーダで潤す。見た目は高身長の彼がサイケデリックなミントグリーンの液体を飲む姿はかなりミスマッチであり、初めて聞く単語が満載され視覚と聴覚両方からタコ殴りにされているみこは取り敢えず頷き続ける。

 

「…すまないね、できるなら分かりやすくいってあげたいのだけど。どうしても()()()()が多くなってしまう」

 

「いやいやっ、説明してくれるだけでも…業界用語?」

「それについては追々。取り敢えず呪霊が厄介なのは――負の感情から生まれた故に人に危害しか加えない」

「……危害、しか」

 

「面倒なのは幽霊と違って見えてる見えてないの可否問わず襲う所さ。まぁ見えてる方が凶暴性増すけどさ」

 

 こともなげに呟かれた「見える方が凶暴性が増す」という言葉にみこは思わず身を竦める。

 今回こそ目の前の冬月に助けてもらえたが、もしいなかったら…そう考えると先程吐き出し終えた筈の恐怖がふつふつと湧き出てくるのをみこは感じた。

 

「あの…もしあのままだったらどうなってたんですか?」

「え?うーん…いやぁチョット君の年齢だと不適正な説明しか出来ないね。二年経ったら言うよ」

 

 戯けてそう言う冬月だが、ようするにR-18G的なアレなことになっていた可能性が高いということ。本当に自分はたまたま運が良かっただけなのかもしれないとみこは思った。

 

「要するに霊は幽霊と呪霊の二種類がいて危険度は呪霊の方が高いって覚えとけばいいさ。因みに呪霊と幽霊の見分け方は明らかに人を逸脱した姿だったり黒いオーラ出してたり…あぁそうだ。そう言えば君――()()()()()()

 

 ふと何かを思いついた冬月は自身の腹部を指さす。

 

「えっと…はい。なんかすっごい黒いモヤみたいなのが見えます」

 

 みこの目には、初対面の時と同様冬月の腹部を中心にこれまで見たどんな呪霊よりも濃いオーラが透けて見えた。

 

「うん。じゃあ今度はそんな私の力に因んで、呪術師や霊能力者について話させてもらうよ」

 

 冬月はそう言い微笑む。本人としては慈悲の笑みだが、みこからすれば親切にしてくれてるとはいえ未だに素性の知れない男が笑っても怖いだけだった。




という訳で呪霊だけにせずに呪霊と幽霊に分けました。二つをまとめて呼ぶときは「霊」または「霊的存在」とします。
冬月がメロンソーダ飲んでるのはまぁ…ネットミームということで、勿論あのTS腐脳お母さん系ラスボスと夏油様は別人なのは重々承知ですが。
次回も説明回となります。テンポも悪く読みづらいとは思いますがお付き合い頂ければ幸いです。
感想・評価お待ちしてます。


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【第三視】歯には歯を、目には目を

過保護となる冬月(夏油)さん。実際みこちゃんがあぁなってたら誰だって助かると思います。マル


「まず、霊への対抗手段を持つ人間。君でいう【霊能力者】はそこそこ多い。道を歩けば…とは行かないが、それなりの根気を持って探せば一人二人は見つかる」

 

「それで一口に言っても色々タイプがある。生命力で浄化したり式神使ったり、お祓いの道具とか使ってと様々さ」

 

 この世界は冬月が持つ能力の登場元である世界とはかなり法則が異なっており、“呪霊(のろい)”は“呪い”でしか祓えない…ということはなかった。

 事実大学生時代「武者修行」と称してオカルトサークルのメンバーと共に幾多の地を巡る旅では、聖水ぶっ掛けて呪霊を蒸発させたシスターや生命力を乗せた一喝で複数の霊を足止めした老人。果てには如何にもな本片手に意味のわからない言葉の羅列を呟いたと思ったら地面から現れた触手が呪霊を捕らえ飲み込んでいく様子もみてきた。

 

 例によってこれらは全て呪術師とは異なる霊能力者であり、冬月の同業者でもあった。

 

「冬月さんはなんなんですか?」

「私は呪術師だね、イメージし易いのは藁人形釘打ちにするアレ」

 

 みこの脳内に冬月がヒステリックに人物の名前を書いた紙と藁人形を木に固定し釘とトンカチでぶっ叩くイメージが湧き出たが、あまりにも似合わなかった。

 

「呪術師は呪霊と同じ負の感情から生まれるエネルギー“呪力”を操り。身体能力を強化やそれぞれの“術式”…固有の能力のようなものを使って呪霊を祓う。“術式”の有無は生まれた瞬間に決まるから、数は極少ないけどね」

「じゃあさっき幽…呪霊を倒したのは。その呪力を使って殴ったから…って事ですか?」

 

「その認識で正しいよ、まぁアレは。私でなくとも呪術師であれば誰でも出来ることだが」

 

 冬月は自身の呪力を意図的に拳へと集め、より濃い呪力を作り出す。見た目としては虎杖悠仁の“逕庭拳”に近いものである。

 

「この青白い炎みたいなのが呪力。そして“術式”だが――」

「?、どうしたんですか?」

 

 これまで一度口を開けば説明がひと段落するまでぶっ通しで喋っていた冬月の突然の沈黙に、みこは疑問符を浮かべた。数秒迷うように口を閉じていた彼だが、口を開き続きを口にした。

 

「私の術式は【呪霊操術】。調伏した呪霊を取り込み自由自在に操る術だ」

「もしかして、冬月さんから出てるオーラって」

「そう、私が今まで取り込んだ呪霊達のものさ。10、20ではきかない数がいるから。濃さも一入」

 

 戯けた様子でそう締めた冬月だが、内心では少しピリついている。

 

(これで『呪霊を取り込むなんて…』とか言われたらちょっと不味いな)

 

 彼としては早めにみこに対処法を教えたいが、その前に冬月自身がみこに拒否されては不可能になる。

 

(何も教えないで私の呪霊を警護につける事も出来るが、無為に不安を煽るだけかもしれないな)

 

「呪霊を操るって…なんか凄いですね」

「……えっ、それだけ?」

「それだけとは…?」

「いや、なんかこうもっと…人と魔の間に生まれたハーフみたいな反応されると思ってたんだけど」

 

 夏油モドキ(羂索に非ず)としての口調を思わず解き“素”に近いモノで聞き返す冬月に、みこはキョトンとした顔で口を開いた。

 

「確かに体の中に呪霊がいるって言うのは恐いかもしれないですけど……冬月さんは助けてくれたじゃないですか」

 

 それだけで、信じるには十分すぎますよ

 

 

「あれ…冬月さん?」

「…………大丈夫」

(今時見ないぐらいに良い子だこの子。モンペになりそう)

 

 善性の塊のようなその言葉に冬月は思わず目頭を押さえ天井を向く。彼にとってただでさえ呪術師という表にはまず認知されない仕事を生業とし*1、対峙する呪霊は人間の恨み辛みの結晶。

 このような【感謝】とはほど遠い職種である冬月にとってはみこの言葉は最早劇毒にも等しかった。

 

「ど、どうしたんですか?」

「うん、平気だよ。さて君を助ける方法だが」

 

 冬月は、護衛につけようと目星をつけていた呪霊を一旦下げ。新たに取り繕うことにした。

 

 

 

 

 あぁ、救われた―――。

 

 と古いネタはさておき、みことは会計もそこそこに店を出てその後私達は夕暮れの寂れた公園へと来ていた。

 

「な、なんでここに?」

「実演した方がいいかと思ってね」

 

 老朽化が進んだ遊具に何故か公園一帯を覆うように植えられた枝垂柳のせいで見通しは極めて悪い。不気味な雰囲気と公園の外から目を向けられないこともあってご近所では「近寄らない方がいい」と評判らしい。

 

そしてこういう場所には得てして――

 

「やはりいるね、臨床に不足無くて結構」

 

 呪霊に見られないことを悟らせぬよう視線をぐるりと回すと。二四六八…この公園内だけでも9体の呪霊が発生していた。

 

(今まで現れなかったということは夕方から夜にかけて発生する呪霊…変に稚拙な姿からして子供達から発生した負の感情によって生まれた類いか)

 

 こうした曰く付きの土地に住み着いた呪霊は下手すれば土着信仰のように強力な呪霊へと成長するケースもあるのだが、大して強くなくて一安心…と思っていたのだが、ふと服の端を引っ張られる感覚を覚える。

 

「あの、早く離れた方が……」

「――大丈夫さ、こんなの私にとってはそこいらの石と同じだよ」

 

 そうだった、この子にとっては呪霊とは特級も蝿頭も関係ない恐ろしい存在であることをすっかり失念していた……どうにも価値観が呪術師寄りになってしまっているらしい。

 取り敢えず安心させるためにも普段よりも獰猛に笑ってみるが、それでも足は少し震えている。

 

「私の術式は【呪霊繰術】、降伏した呪霊を取り込み使役する。更に私よりも大きく強さに劣る呪霊の場合は調伏の必要なしに無条件で取り込める―――こんな風にね」

『『『『――ッ!』』』』

 

 術式の開示による縛りでも強化(必要ない、ぶっちゃけ雰囲気作り)し近くにいた呪霊四体を纏めて球に変える。この倍量以上を後々呑み込むことには気が滅入るが今更だ。

 

「これで少しは信じられるかな?」

「だ…大丈夫です」

 

 先ほどよりも血色の良くなった顔をみて少しだけ安心する。……そして今回の()()を果たすためにバッグからあるものを取り出す。

 

「さて、これは何に見えるかな?」

「えっと…()()()()()()()()()()()ですか?」

「正解。まぁ用事があるのはコレの中身なんだがね…っと」

 

 カプセルの蓋をパカリと回し開け、中から指でつまめる程度の。木の板に乗る黄金色に輝く真円状の物体と小さな木槌――そう。ボクシングの試合の合図として使われるゴングの超ミニチュアサイズだった。

 

「よし、これとこれを持ってくれ」

「あっはい。…えと、これは?」

「簡単に言うと呼び出すための触媒だね。これを鳴らせば君のボディガードが出て来る」

 

 私はそれをみこちゃんに渡す。ないとは思うがあとで悪用や事故を防ぐためとある縛りを設けるが今回は別だ。試験運用というだけなので()の姿を見てその力を見て貰えばいい。

 

「さぁ、そのゴングを」

「分かりました…えい!」カーン…

 

 本物に比べればかなり薄っぺらい音が周囲に木霊する。

 

ビュン!

「キャア!?」

 

URAAASHUAAAAA!!!

 

 その音と共に、みこちゃんのすぐ脇を風切り音と共に一体の呪霊が駆け抜ける。

 姿は見たままトランクスパンツにボクサーグローブと完全ににボクサーのそれだが…彼の体はあまりにも貧相で、あまりにも痩せこけていた。

 

『グギャア!?』

『SHIIIII…!』

 

 急に現れた呪霊に驚くが、彼はそんな彼らに驚愕から立ち直る時間も与えずに振りかぶる。

 まるで線の敷かれたような一直線のストレート。

 

べ ゴ ォ !

『ゲギャアアアア!!!』

 

 細い腕からは考えられないほどの重厚な音を響かせ風穴を拵えた彼は、次なる()()()()を見定め凶悪な笑みを浮かべグローブを顔の前で揃えるピーカブースタイルを取り一気に距離を殺した。

 

 そこからは唯の蹂躙である。

 

「まぁこんな感じさ…あぁ。ゴングを三回鳴らしてみてくれ」

「う、うわぁ…」カンカンカーン

『…………!』

 

 みこちゃんがゴングを三度鳴らすと、彼は両腕を天に突き上げ一頻り喜んだ後黒いモヤとなって消えていった。

 

「い、いまのは…」

「アレが今日から君のボディガード代わりになる1級呪霊【拳威】くんさ。

 呼び出す時はゴングを一回鳴らして、呼び戻す時は三回鳴らすんだよ」

「」

「あと彼には、

 『一回につき連続活動時間は三分』

 『その後一分間の休憩時間(インターバル)が必要』

 『所有者に敵対した霊にしか攻撃しない』

 っていう制約…縛りを設けてるから、そこだけは注意するように」

 

 彼の縛りについて説明すると、ようやく状況が飲み込めたのかみこちゃんが心配そうな顔で覗き込んでくる。

 

「い、いいんですか…?明らかに凄く強そうで、冬月さんが困っちゃうんじゃ」

「あーまぁ。使い勝手が良いって意味では痛いかもしれないけども、問題ないさ」

「そうですか…」

 

 実際【拳威】はかなり使い勝手のいい呪霊ではあるが、まだ私が肉弾戦をした方が強い。そもそもそうして調伏したのだし。

 

「何回か使ってみよう。ホラ…()()()()にはもってこいな数がいるだろう?」

「ガンバリマス…」

 

 そうして使い方をある程度習得したみこちゃんは、日も沈んだので帰るとの事だったので。近所まで送ることにした。

 少々顔は引き攣っていたが我慢してもらいたい。十種影法術とかならまだマシなのを付けられたかもしれないがあっちがポケモントレーナーならこっちはフロムトレーナーだからしょうがない。

*1
住職としてされた感謝は七割方呪霊目当てなため「感謝される謂れはない」と無意識に自虐している




【拳威】
等級:1級怨霊呪霊
発生源:拳を主とした暴力
嗜好・興味:シャドーボクシング
嫌いなもの:なし
概要:とある地下ボクシングで階級を落とすため狂気的なまでの減量をしたとあるボクサーが試合後(相手の頚椎損傷による死亡にて決着)に死亡し、その霊魂と凄惨な試合によって観客から発生した拳への恐怖感によって生まれた呪霊。
 簡易領域により相手からの飛び道具を無効化し、ひたすらに相手を殴り壊す。
 ゴングを依代とする形となっており、本来みこに渡されたゴングは血がベッタリと付着したショッキングなものだったが。【そうあれかしと思った姿形に固定する呪霊】によって劇中の様子となっている。
 冬月との戦闘時は【呪霊操術】が飛び道具と見なされ呪霊による質量戦を封じられるが、六合大槍の【呪具】による長大なリーチから刺殺された。

こういう感じで今後出てくるオリジナル呪霊には簡単か設定を書かせて頂きます。
本来なら準2相当を付ける筈が手が滑って1級呪霊をつけてしまう夏油(オリ主)様。みこちゃん可愛いから仕方ないね。

見える子世界の1級呪霊はトンネルのドラム缶や子供擬態などを想定しています。

感想・評価お待ちしています。


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【第四視】拳の意志と盲目と

どうも。みちるちゃんの触手がみこちゃんの眼目前まで迫り膨らんだ時に「変な液体でもかけるのか」と一瞬考えた自分はきっと邪悪。匿名作者です。
今回はツナギ的な話です。特に後半は強引な展開が目立つと思いますが、気にしないでいてくれると助かります!!!!
あと誤字脱字報告ありがとうございます。本当に感謝しています。
追加:タイトルの名前どころかレイアウトを派手に間違えました。

日間ランキング6位…6位!?!?!?ヒェェ……ありがとうございます。


『ヘギュウ!!?』

『――――ッ!』

 

 ガードを崩した()()()()に対してすかさずラッシュを叩き込む。

 顔面を打ち抜くと共に溜まらず弾けた対戦相手―準2級相当の呪霊―を他所に、彼は“セコンド”の方を振り向きグローブを掲げた。

 

「…………」ペコリ

 

 手を取って振り上げる訳でも歓声を上げることもなく、セコンドである四谷みこは軽く会釈をするだけだったが。それでも彼は満足そうに頷いた後三回のゴングと共に依代であるゴングの中へと入っていった。

 

 みこのボディガードとして貸し出されている1級呪霊【拳威】は、今現在の生活にかなり満足していた。

 一つ前のセコンドは自身よりも強く、また多くの対戦相手を用意してくれたが。彼が用意する試合は自身が望む一対一―せめて一対多―ではなく双方の勢力による乱闘が殆どであり。それでは不完全燃焼にて試合が終わる事が殆どだった。

 

「…そ、その。またお願いしますね」

「みこ、どうしたのー?」

「なんでもないよハナ」

 

 その点今のセコンド(彼女)は良い。

 試合する相手こそ少し格が落ちるが、そのぶん大した移動時間を取られずにかつひっきりなしの試合を設けて(マッチメイクをして)くれる。

 より良いのは……セコンドの隣で両手にクレープを持ち頬張っている友人の存在だ。

 

 一瞥しただけで分かる桁外れの生命力、溢れ出すオーラは否が応でも呪霊を引き寄せる。行き過ぎたオーラは低級の呪霊を容易く焼いてしまう炎。一種の誘蛾灯のようなモノだが、それはあくまで低級の話であり、みこ一人の際は滅多に見れない高階位の呪霊も現れてくれる。

 

(また来た…やっぱりハナは引き寄せやすいのかな……)カーン

「アハハ、みこのその()()()()()また鳴ってるね!」

「まぁゴング型だからね…」

 

『ミエ………』

『UWOOOOOOOO!!!』

 

 合図(ゴング)と共に飛び出し、セコンドの前に立つ。彼女のマネジメント能力は本物だが、前任者のような自衛能力はないためこうして彼女の目の前に立ち真っ向から戦う必要性…いや()()()()があった。

 

『ジャ、マァ~…!』

 

 乱雑な姿勢から放たれたテレフォンパンチをストッピング*1にて逸らしジャブを打ち込む。頬を押さえこちらを睨む呪霊(たいせんあいて)を負けじと睨み返す。

 彼は顔に肩を近付けフィリー・シェル*2の構えを取り、獰猛に笑った。

 

 

 

 

 夏油傑の術式、【呪霊操術】の強みとは何だろうか?

 

 

 

 神様から能力を借り受けてから数十年。この問いに結論が出たことはない。

 

 

 

 たぶん原因は【呪霊操術】があまりにも万能過ぎることにあると思うが…質も量もいけるこの術式は、確かに現代最強の呪術師とは別ベクトルで【最強】なのであったのだとしみじみと噛み締める。

 強いて欠点を挙げるとしたら強力な呪霊を一定数取り込むまでは自力で戦わなくてはいけないということだが、そもそも夏油様の恵体と呪力による基礎的な身体強化。それに【呪具】さえあれば余程理不尽な簡易領域でさえなければ1級と特級の間で反復横跳びしてるヤツまでなら祓えるので大したものではない。

 

 …なんでこんな現実逃避染みたことを言っているのかって?

 

 

「弟子にしてください!」

 

 

 目の前で頭を下げる一人の少女について困り、こうして自分のことについて考えていた。

 先日あったみこちゃんに比べるとだいぶ低い身長に金髪のツインテール。服装は軽い所謂……【地雷系】と言えばいいのか?をしていた。珍しい参拝客だなと箒を掃いていたら私の顔を見るなり近付いてきて先ほどの言葉である。

 

 

「あー…残念だけど今は巫女さんのアルバイト募集はしていないよ。新年だと入り用になるからそれまで待ってくれま」

「バイトの話なんかじゃないです!……アレ」

 

 一応とぼけてみたが、彼女はそこそこの大声で私の背後を指さす。

 

 そこには…やはりと言うか何と言うか、3級呪霊が二匹ほど屯っていた。

 私には伊地知さんが張っていたような呪い合いの隠蔽や部外者の侵入を防ぐ結界である【帳】を展開する結界術の才はなかったため。本拠地でもある寺院内にも呪霊は平然と入って………おっとっと、閑話休題(それはそれとして)

 

「見えるけど、それが?」

「だったら――!」バクン

 

 彼女が言葉を言い切る前に呪霊たちの上から覆い被さるように…いや、覆い被さると誤認出来る程に巨大な呪霊へと()()()()()()

 

 3級呪霊を呑み込んだ、15mを超える体躯の蛇型の準1級呪霊【山蛇】はチロロと爬虫類特有の長く細い舌を器用に操り。私の方に調伏した証である珠となった呪霊を投げて寄越した。

 

 そこらにいる雑魚呪霊と入れ替わるように現れた巨大な呪霊に驚いたのか固まる彼女を余所に珠を受け取り、飲み込む。

 相変わらず味・喉越し・気分ともに最悪だが、転生前神さんに言われた「元ネタだと珠の精神汚染とかもあったけど転生させて悪人になったら悲しいからその類の悪影響はナシにしといたよ」という言葉を信じる。別に非術師の一般人を人間ではないと考えたことはないので平気だと思う。

 

(――いやアレは精神汚染関係ないか。強いて言うなら九十九さんとの問答の時?)

 

「い、今のって……!」

 

 ショックから立ち直った彼女は、肩をワナワナと震わせながら此方を振り抜く。

 余程の命知らずか代々その手の家系でもなければ今ので呪霊に大して畏れを抱き、霊能力者になろうとは思わないだろうと…そう考えて一芝居打ったが流石に驚かしすぎただろうか?

 自分で勝手にやっといてなんだがフォローを入れようと声を掛けようとする。

 

「指をさしただけで“この世ならざる者”が消え去った…」

(この世…え、なんて???)

 

 振り返った彼女の表情に畏れはなく、寧ろ喜色がその多くを占めているような顔だった。

 

「まさかここに来て、ワタシのチカラが一気に上がった…!?」

 

 震えが止まると同時に、彼女は「ふふふ…」と笑いだす。不敵な物が多分に含まれるその含み笑いに私はいやな予感を覚えた。

 

「すまない、もしかして今の「弟子入りの話、聞かなかったことにしてもらえるかしら?」…うん?」

「勝手な事だとは思うわ。ゴメンなさい……でもワタシは、ワタシだけの道を行きたいの」

「えっと……」

「さようなら。ワタシはいつかきっとアナタより……いえ、“絶対”にアナタよりも凄い霊能力者になってみせるわ!」

 

 心なしか先程より4割増しで輝いているような金髪をかきあげ、彼女は颯爽と去っていった。

 

「ハッ……えっーと、つまりは…」

 

 ふと反射的に振っていた手を引っ込め、ようやく再起動した私は彼女の言動から状況を整理し始める。

 

(言動と反応からして間違いなく3級呪霊は見えていた筈。山蛇が見えなかった原因はなんだ?)

 

(だが山蛇に隠蔽能力はない。アレは【拳威】と同じ身体能力で相手を倒すタイプ……山蛇を自分の能力だと誤解した?しかし「突如として消えた」と言っていたからないな)

 

 思考を重ねた結果、夏油ボディの私の脳内CPUが弾き出した答えは――

 

「…まさか彼女。高位の呪霊は見えていないのか?」

 

 ……!

 

 …………?

 

 ………………。

 

 なら、別にいいのでは…?

 …うん。よくよく考えたら高位呪霊は見えてようが見えてまいが危険度は変わらない。謂わば地雷のようなものである。みこちゃんのように「全部見える」ならまた別だが…

 

「今度来た時注意勧告すればいいだけ…かな、これは」

 

 常人としてはアレかもしれないが、術師としては別段間違っていない思考の筈だ。

 

 私はそう自分に言い聞かせながら、再び境内の掃除へと戻った。

*1
掌で相手のパンチを受け止める技術。キャッチとも言われる

*2
相手に対しほぼ真横に向き右腕で頭部、左腕でボディを守る。俗に言うL字ガード




【山蛇】
等級:準1級仮想怨霊
発生源:山岳地帯特有の山が一気に隠れるような影の降り方から
嗜好・興味:食事
嫌いなもの:強烈な日射
概要:巨大な蛇のような形の呪霊。読み方は「やまへび」では無く「やまばみ」見上げる程の体躯から繰り出す大質量の攻撃を得意とする。自身を拡大する術式を保有する。
 現在は50m程が限界だが。調伏前の人による信仰ブーストを最大まで発揮した際は文字通り山の名前を冠するに相応しい巨大蛇、又は山を飲む邪龍のようなスケールにまでなる。
 前述通り土着神のような存在でもありその存在は余り広まってなかったが、【巨大蛇伝説】を態々追ってきたオカルトサークルと、そのメンバーである冬月によって調伏された。

 ユリアちゃんは大体3級まではくっきりと、準2級から急に輪郭がぼやけて見えるということにしました。

追加:みちるちゃんそれ普通に犯罪や。


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【第五視】不意な遭遇(エンカウント)はアクションでもホラーでも心臓に悪い

~ある日の匿名作者~
「日間ランキングで新鮮な秀作に出会う瞬間が、一番生を実感するゥ!」
「ん?なんか見覚えのあるタイトルあるな?」
【日間ランキング3位】
「」
【 日 間 ラ ン キ ン グ 3 位 】
「何らかのスタンド攻撃を受けているッ!」

と言うわけでどうも。ランキングに滑り込んだ物の二日で引きずり下ろされてある意味泡沫の夢だから実質シーザー、匿名作者です。
推しが復帰したり推しのグループ曲がカラオケ配信されたり推しが復活したり某ゲネイオンに菓子言葉で「あなたが嫌い」を不法投棄したり推しの誕生日グッズが届いていたので投稿が遅れました(威風堂々)

いつもよりちょっとだけ長いから許して。あと今回のは本二次小説の仕様上原作とは展開の前後が異なるのでご注意ください。


 私は今日、街の中でも“下町の商店街”に区分される箇所へと来ていた。目的は最近姿を見ていないとある同業者の顔を見に行くことと…追加でみこちゃんについての見解を聞きに行く。

 

時折声をかけてくれるご年配に挨拶を返しながら暫く歩き、簡素な文字で【占い・お祓い ゴッドマザー】机上に如何にもに水晶玉を乗せ。これまた如何にもな紫のローブを羽織った老婆の前で止まった。

 

 商売道具である水晶玉には目もくれず、老婆は今どき珍しい便箋の手紙を読んでいるようだった。

 名前は見慣れないものだったが、苗字は覚えのあるものだったので老婆が手紙の人物とはどのような関係性なのかはすぐに察しがついた。

 

「息子さんからの手紙かな?」

「…覗き見かい、趣味が悪いねぇ」

「アコギな商売してるなんちゃって占い師に言われたくはないよ」

「その口調も、目上に対しての物だとは思えないが?」

「厳しいな。だがこれが私のキャラ付けみたいなものだから」

 

 久々な気もする夏油様の口調を意識しながら対面早々毒を飛ばしあうが、元々この老婆――下町のゴッドマザーことタケダミツエさんは毒舌なのが常のようなものなので特に気にしない。

 

「そっちは相変わらず“駆け込み寺”の真似事してるようじゃないかい。儲けてるのかい?」

「評判が広まって偶に取材が来るので、意外と貰ってますよ?」

 

 アハハハハと互いに乾いた笑い声を出す。

 

「…やめましょうかこの話」

「そうさね。虚しいだけさ」

 

 生々しい話は多少は心の健康にいいが過剰摂取は体に毒、塩と同じであるからこのぐらいにしよう。

 

「で、なんの用だい?」

「顔を見に来ただけだよ。怨霊の類になっていないか心配だったからね」

「こんな歳になったら未練なんてそうあるもんじゃないし、まだ死ぬ気はないよ」

 

 『霊能力者は死後強力な怨霊となる』

 この話は霊能力者に取っては避けて通れないことであり、常に頭を悩ませる問題だ。…まぁ確かにタケダの婆様は早々死にそうにないが。

 

「そういえば最近霊が見えるような子に会ったんだ」

「へぇ、親に相談でも受けたのかい?」

「いや…実はここ最近見えるようになったらしい」

「…それは珍しいな」

 

 興味が湧いたのか、タケダの婆様は雰囲気ありげに手を翳していた(因みに特筆してパワー的な何かを注入していた訳ではない)水晶玉から手を離して私の方に向き直る。

 

 そして、そう。みこちゃんのように生まれてすぐではなく高校生から急に見え始めたというケースは非常に珍しい……というか少なくとも私は見たことがない。タケダの婆様もそれは同様らしく、疑問よりも困惑の方が多いような顔をした。

 

「呪物でも取り込んだかい?」

「聞いてみたが、覚えはないようだ。しかも本人は呪力の類は生成出来ないようだしね」

「変な呪い(まじない)か…()()()()()とかは」

「それもナシ。私より数段上の存在なら知覚できない可能性もあるけどね」

「オマエよりも数段上か…もしいたらそれは本当に神かナニカなんだろうね」

「神が居たら取り込んでみたいけどなぁ」

「縁起じゃないこと言うもんじゃないよ」

 

 全盛期では準1級一歩手前の2級相当、現在は3級程度まで落ちているが。その深い見解と経験則に頼ったのだが……どうやら空振りに終わったらしい。神様は…本物の神様は神さんしか見たことがないから実力は測れないが、少なくとも荒神や祟り神といった仮想怨霊や土着信仰ブーストを受けたヤツらは倒してきたので大丈夫だろう。

 

 ともかく、望んだ情報や推測は得られなかった。

 

「ではこの辺で失礼。次も生きていることを祈りますよ」

「この水晶玉、割れると案外鋭いぞ?」

「せめてそこは呪い殺すとか言わないかい?」

 

 刻んだ歳を表すように皺が目立つ指先でコンコンと水晶玉を叩いてみせるタケダの婆様に思わず一歩下がる。流石に水晶玉でぶん殴られる訳にはいかない。

 

「…ったく、相変わらずヘンな所で肝っ玉が小さいヤツだねオマエは」

「用心深いと言ってもらいたいね」

「ほら帰った帰った。営業妨害でサツ呼ぶよ」

「サクラ使ってるから逆にしょっ引かれるのでは?」

 

 最後まで毒を吐きながらも私はその場を離れる。そもそもタケダの婆様はついでだ。早く()()()()()()()まで急がなければ――

 

 商店街を抜けて指定の場所まで早足で歩く。

 夏油様ボディは身長が高いし某現代最強の術師ほどではないが腰の位置も高い。まぁ本来なら走った方がいいのだが、仮に夏油様が必死の形相で走っているのは一人称視点だとしても見たくはない。

 

 という訳で走りはしないが全力の早歩きだ。まさか前世含めれば60行きかねない歳で先生に言い訳する学生みたいなマネすることになるとは思わなかった。

 

 多少の羞恥心を抱きながらも道を進む。

 

 

 

 ―――因みに数日後みこちゃんから覚えのある数珠の欠片を受け取ったため様子を見に行き、案の定“閉店のお知らせ”という張り紙を見かけたのは完全に余談。

 

 

 

 

 あの後無事に目的地に着いた冬月は、その後みこと無事合流。二人は歩きながらも話を続けていたが、みこは冬月にとある相談していた。

 

「数珠かい?」

「はい。勿論守ってくれてる【拳威】さんは強いんですが…」

「…正直に言うと、あまりオススメは出来ないね」

 

 今のところ【拳威】の自衛能力によって問題はないが、一匹の呪霊に執着する特性もあるのでもし複数の呪霊に囲まれた際の予備の自衛手段が欲しいという話だった。

 手首の辺りを撫でるみこに対し、冬月は苦笑しみこのリュックにストラップとして付けられていたゴングを見てそれに対しての意見を述べ始める。

 

「…どうしてですか?」

「先ず、市販の数珠じゃ効果が全然ないからだね。それに壊れた数珠に対して呪霊が反応することもある。そもそも――

 

 

 

 

 

 

 ――君のすぐそばに強力な呪霊、いるよね?」

「あっ……」

「確かに拳威は今君のボディガードだけど、強力な呪霊であることには変わりないよ?そこら辺の線引きはしっかりしといた方がいい」

「そうですね…」

()が遠くに離れている状況ならまた話は別だけどね。まぁそれはさておき――今日は君の家にいる呪霊の除霊だっけ?」

 

 二人が今日集まった理由はこれであった。

 

「…昨日今日で助けてもらって図々しいとは思うんですけど」

「気にしなくていいよ?なんならそれが本来の仕事だからね」

「本当に無料でいいんですか?」

「高校生からお金取るほど落ちぶれてないし、ご家族にも内緒なんでしょ?なら無料(タダ)でやるのが都合がいい」

 

 冬月にとってみこは既に「無償でも助けるべき存在」となっており、既に脳内ではどう家族に誤魔化しながらどうみこの家族に悟られぬよう呪霊を祓うかを考え始めた。階位の低い呪霊なら無条件での調伏が可能ではあるが、もし準1級以上であれば彼自身が戦闘し調伏する必要性がある。

 

(私一応長モノが得意なんだけど…室内なら最悪肉弾戦か。みこちゃんにはなるべく呪霊操術での呪い合いを見せたくはない)

 

 ショルダーバッグに通常の日用品に潜ませるようにそこに配置された呪具を意識しながら、みこの家へと案内される冬月。

 拳威が護衛につくようになってからみこは以前ほど悲壮な顔は幾らか軽減され、さらに今回は冬月がいることもありみこはかなり和らいでいた。

 

「ご家族は家に?」

「いえ…うん、今日はみんな出かけてるはずです。恭介も買い物に行くって言ってたしお母さんもその筈…」

「………そう。分かった」

 

 冬月は弟、母親と来て父親の名前が出てこなかったことに一介の推測と寂寥を覚えるも声には出さずみこについていく。

 

(態々言わなかったのはそういうことなんだろうな……仏壇でもあればいいが)

 

 流石に線香をあげることは出来ないが手を合わせご冥福を祈るぐらいは出来るだろうとみこに案内されるまま住宅街に入った冬月は、ふと立ち止まったみこに合わせて立ち止まり、目の前の良くある一軒家に眼を向ける。

 

「ここが我が家です」

「あー…成る程。数はそれほどでもないね」

「5――いや4人位いるんですけど」

「猫の過密飼いからの飼育放棄かました廃屋の猫呪霊群とか凄かったよ。本来憑いてる筈の家から漏れ出て近隣に迷惑かけてた」

「ウチの近所の話ですか!?」

「? いや、いくつか県を跨いだ片田舎だよ。違法販売業者の仕業だったかな…」

「そ、そうですか…」

(猫関連でなにかあったのか…?)

 

 大きく胸をなで下ろし、直後大声を出した事を謝るみこを手で制しながらそんな彼女を不思議そうに見る冬月だが、察しの良さに定評がある彼でも流石に覚えがなく首を傾げた。

 せいぜい猫が主要因となった出来事で恐い目にでもあったのかぐらいしか推測出来なかった。

 

 考え込んでいる内にみこは既に玄関のドアを開け始めており、彼女が振り向く前に冬月は玄関前に移動しようとし、ふと()()()()()

 

「ただいまー」

 

 防犯の一環なのかクセとして染みついているのか、『家には(呪霊以外)誰もいない』と自身が言ったのにも関わらず挨拶を発する。

 

 

 

 

 

 

 だが、家にいるのは呪霊だけではなかった。

 

 

 

 

 

 

「おかえり姉ちゃん」

「きょ、恭介!?」

 

 誰もいない筈の家の廊下からひょっこりと出てきたのは、彼女の弟でもある【四谷恭介】だった。

 

「なっなんで家に!?出かけたんじゃ」

「途中で止めた」

(そもそも昨日急にオレと母さんに「明日は家を出る?」って聞いてきて…怪しすぎる)

 

 普段から猫のように細く気弱な人からはそれだけで威圧感を与えかねないその目を六割増しで細めてみこを見つめ、彼女がドアの外に視線を向け、直ぐさま外したことに気付いた。

 

「友達でも連れてきた?」

「なんでもないよっ!それより何買ってきたのか見せ」

「………!」

 

 早急に恭介の興味を逸らそうと靴を脱ぎ距離を詰めようとしたみこ。しかし恭介は『靴を脱ぐ』という数秒とは言えないが数瞬と例えるには十分なその“隙”を縫ってみこのわきを通り過ぎる。

 

「ちょっと待って――」

 

 動こうにも脱ぎかけの靴によって行動を阻まれる。ドアの取っ手に手を掛けた恭介を何も出来ずに見送るみこは、思わずこのまま冬月と恭介が鉢合わせた場合を脳内でシミュレーションする。

 

 身分上女子高生であるみこと、以前訪ねた時に着ていた僧衣ではなく。かといってプライベートな祓除なためスーツでもなんでもないラフな格好をした冬月。

 

 …第三者から見たら完全に事案である。

 

 仲を邪推される程度ならまだマシ、姉に対する思いが人一倍強い恭介の場合玄関前で大声を出し閉め出す程度はやる。というか以前「恋人が出来たかもしれない」という推測だけで姉を尾行しキスマークの有無を確認するため風呂に乗り込んでくる彼は確実に殺る(ヤル)

 

 尾行の件をみこ自身は知るよしもないが、それでも彼女はせめて恭介がマイルドな反応と対応を祈るのみだった。

 

「さぁ姿を表せ!」

(冬月さん……!)

 

 ……

 

 ………

 

 ……………

 

「なんだよ姉ちゃん、だれもいねーじゃん」

「へっ…?」

 

 恭介の言葉に釣られてみこも玄関の外に眼をやると、確かにそこには冬月の姿はいなかった。

 急いで靴を履き直し外に出てその姿形を探す。最初は生垣やブロック塀に身を隠したのかと考えたが、既に恭介は人が隠れられそうな場所に顔を突っ込んでいるが。みこは表情を見た限り人を見つけたような顔ではなかった。

 

「なんだよ紛らわしいな……今度こそカレシでも出来たのかと思っちまった

 

 ボソリと呟いた言葉―特に後半部分―はみこの耳には届かず風へと消えていったが、呆然とするみこを余所に恭介は再度みこを見る。その顔は早とちりした自分が恥ずかしいのか、その後発せられた言葉もぶっきら棒なモノだ。

 

「なんかもう一度買い物行きたくなってきた。騒いでゴメン姉ちゃん」

「う、うん。いってらっしゃい」

 

 驚きの連続によってここ数千文字真面なことを言っていないみこはまたもや生返事と単語の組み合わせ単品という非常に簡素な文章を発声し弟を見送った。

 

(一体にどこに……?)

 

 みこは冬月を探すために周囲を見渡す。しかし周りには彼はおらず、みこは「もしかしてあの一瞬で遠くに行って帰ってしまったのか」と考える。

 

 そしてそんな彼女の頭上に影に落ちる。みこは「天気が悪くなったのか」とふと空を見上げた。

 

「やぁ」

「うひゃあ!??」

 

 頭上にはつい先ほどまで自分と恭介が探していた冬月その人。よく見るとその手には二人が初めて会ったとき彼が持っていた河豚のような形の呪霊がおり、かつてと同じように頭上を取り己の姿を隠していたらしい

 みこがその場から飛び退いたのを見届けた彼は呪霊から手を離し地面へと着地した。

 

「離れるまで屋根に避難してた。一応傷とかは付けてないけどなんかあったら言って…んぅ~~!」

 

 少しの音も出さないためにジッとしていて体が強張ったのかゆっくりと伸びをする冬月。その顔は急な弟の奇襲に対して、特に何か不快・憤りといった感情を持っているようには見えなかった。

 

「さっきはその、恭介がすみませんでした」

「気にしなくていいよ?あくまで君を思っての行動だろうからね」

 

 『寧ろ非があるのは咄嗟に隠れた私だよ』と続けた彼は眼を細め恭介が走って行った方向を見つめた。彼自身は「ちょっと姉好き(シスコン)のケがあるけどいい弟だな」程度にしか思っていない。

 

「さて、さっきは諜報員のまねをしたがここからが本業だ。私の後ろでいいから呪霊の場所を教えてくれないかな?」

 

 みこの方を振り抜き少々茶目っ気を含んだ顔でそういった彼に対し、みこはすぐ頷き今度こそ無人となったみこの家にお邪魔した。




【河豚型浮遊呪霊】
等級:準2級呪霊
発生源:特筆する程の感情なし。自然発生
嗜好・興味:特になし
嫌いなもの:特になし
概要:少し液状化した河豚に立派な長髭が生えたような姿の呪霊。浮遊能力は上下の移動に特化しており空中での移動手段というよりかは即席エレベーターとして使っている。髭を掴む事が多いが複数人で移動する場合は髭が千切れることも(前科二犯)

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【第六視】呪霊の攻撃は物理的なものである

はいどうも。三回目のワクチンを接種し微熱で一回休み、匿名作者です。
原作通りにいくと神社に行くイベントをオリ主を見逃すわけないので別イベを発生させ別行動してもらうぜ!!


「ッ!」

『チコクスルワヨオオオオオ!!』

 

 爪による薙ぎ払いを身を屈めることで避け、反対側の腕での振り下ろしを体を翻し動物型呪霊と距離を縮める。躱す際体の動きについてこれなかった髪が何本か切られ、周囲に舞い散った。

 

「これでも手入れは大変なんだけどな!シィっ!!」

『ハヤクオキナサアアアイ!』

 

 懐に飛び込み、拳に装着した鈍く光るメリケンサックの呪具を強く握りしめ強烈に穿つ。

 何とも形容し難い感覚に打ち込んだ冬月は顔を顰めるが、だからといって攻撃の手は緩めない。

 

「動き回れないのはそっちも同じじゃないかい!?」

『コワイイイッッ?』

 

 手を地面に突き頭部へ向かって蹴り上げを放つ。呪具を使っていないが、威力は充分。仰け反った呪霊に対し再びメリケンサックでのボディブローを打ち込む。

 

 最も得手とする呪術戦を(自主的に)封じられて尚、冬月は1級と思わしき動物型呪霊を体術で圧倒していた。そも彼の体のモデルとなった夏油傑も特技・趣味の欄に態々格闘技と書く程に武術に秀で、相方の五条悟に至っては体術のみで特級を手玉に取り殴り飛ばした人がビルを貫通するほどである。

 

 正直天与呪縛(フィジカルギフテッド)とは?とはなりかねない程に人間離れしている彼ら。そんな“最強”の片割れの体の写身を持つ彼も必死こいて努力を重ねそれなりの体術と身体能力を会得した。

 

(術式の類はない、シンプルにフィジカルに偏った呪霊。室内なのは予定外だが想定内だ!)

「フゥゥウウ…ッ!」

『オキテヨオオオオ』

 

 床材が壊れない程度に踏み込み体の捻りも加えて体の勢い全てを掌底に集約。痛みによって苛立っているのか呪霊は四肢を縮め飛び掛かり、冬月の首筋にその牙が合わさる寸前。

 

「噴ッッッ!」

『オフロガワ――』

 

 カウンター気味に突き刺さった僧兵が使ってそうな打撃技ナンバーワン(作者調べ)の掌底打ちが呪霊の体を浮かせゆっくりと崩れ落ちた。

 

「久しぶりにちょっとは骨のある呪霊だったよ。じゃあ入ってもらおうか」

『』

 

 調伏と相なった呪霊は冬月の手の中で球となり、それを飲み込んだ。

 

「もう大丈夫だ。あとは3、4級しかいないから手を出すまでもない」

 

 不恰好になった髪を少しでも見せられるようヘアゴムで結びながら冬月はリビングに声をかけた。

 

「………」

「どうだい?初めて見た祓除の感想は」

「なんというか…思ったより殴ったり蹴ったりでイメージと違うって感じでした」

「札と呪文で戦うイメージ?」

「はい。なんかTVで見たのもそんな感じでだったので」

「私達呪術師が使うのは生命力や霊力といった“正のエネルギー”じゃなくて“負のエネルギー”だからね。打ち消すんじゃなくて強い方が押しつぶすからああいう肉弾戦になるのさ」

 

 そう言うと床や壁をつぶさに観察し始める冬月。廊下で見ていたみこからはその長い長髪で本人の顔が隠れ見えなかったが、もし彼女が回り込んでその顔を見れば呪霊との一連の戦いで汗一つかいてなかった彼が僅かにだが冷や汗を流している場面を見ることが出来ただろう。

 

(フローリングがハゲてたり、壁に罅入ってたりしないよね…!?)

 

 普段は()()()理由で廃棄となった学校や病院などの廃墟、人里離れた山奥などの箇所で戦う彼にとって今回の人の生活圏で戦うのはかなり神経を使うことだった。呪霊繰術による数で押す戦法をしなかったのは家や家財が傷つくことを厭がったからだった。

 

 本編では商業ビルだろうが一般生徒が通っている学校だろうが、果てには新宿や京都といった大都市で総力戦をかますなどして派手にやっている彼らだが。この世界では一部の依頼を除いて基本自己責任であり、もし冬月が浮ついてみこにいいとこ見せようと【うずまき】でもぶっ放した場合彼は多大の金銭を吐く羽目になっただろう。

 

「……よし、無事だね」

「えっと、どうしたんですか?」

「何でもないよ!さぁ一番の大物は終わったからここからは消化試合だ」

 

 声を掛けられたため急ぎ取り繕いなんでもないように振る舞う。みこは少し不思議そうだったが「戦って疲れてしまったのだろう」と彼女は納得し、他の呪霊の場所を伝えるため家の案内を再開した。

 

 そして、彼の言葉通りその後はほぼ消化試合同然だった。

 みこの家にいたほかの呪霊はいずれも低級呪霊であり、その場合は手を翳すだけで終わるものだった。強いていうなら一体みこの部屋の布団の中という一種の強ポジに居座っていた者がいたが、部屋の主に許可を取り布団を引っ剥がし終わった。

 

「家の警護についてだけど、鴉の呪霊を何体か上空に置いておくよ」

 

 最後の点検のため庭にでた冬月は、そういい上空を指さす。

 そこには鴉というには些か巨大な呪霊がその大きな羽を広げて飛び回っている。霊的存在が見える人にしか見えないのが幸いだがもし普通の人に見られたら「庭か家に死体でも埋まってるのか」と邪推されてもおかしくはないだろう。

 

「何から何まで…本当にありがとうございます」

()()()()()()については害意もないし、暫くしたら自然消滅…呪霊ではないからこの場合は成仏・昇天って言えばいいのかな?するから大丈夫だよ」

「あっ……」

「…話しかけるとか目を合わせるとかはしないようにね。下手に未練を持たせると呪霊に変異しかねないから」

 

 リビングでこちらを見つめる眼鏡をかけた男性――二階の仏壇の顔からしてまず間違いなく四谷みこの父親――の霊に聞こえないようにみこに耳打ちする冬月に、みこは少しだけ辛そうな顔をしたが頷いた。

 

 死者と生者、そして呪霊の均衡はそこに他意がないならともかく意識的に崩すものではない。というのが冬月の信条である

 

 やってきた冬月に対して『だめだぞ!?そんなヤンチャそうな人、父さんは認めないぞ!!』と言っていた彼も呪霊になってみこや恭介、そしてその母親に襲い掛かるなんてことはしたくないだろう。と冬月は心中で呟きみこにそう注意したのだった。

 

 

「そうですよね…折角“仲直り”出来たんですし、このまま大丈夫だってみせないと」

「その調子その調子。……あぁそうそう、私明日から数日間ここから離れるから」

「え?」

「みこちゃんと同じで『本業』としての仕事が入ってね。話を聞く限り結構な大物らしくて、移動も含めると数日かかるのさ」

「なるほど…頑張って来てください」

「どうもありがとう――まぁ元より負ける気はさらさらないけどね」

 

 勝気に笑って見せる冬月に、頼もしさを覚えたみこは「この人は大丈夫だ」と確信し。二人はその後互いに頑張ろうとエールを再度送りあいその日は別れる。

 ―――みこはその数日間の間最大級の呪霊と遭遇し、更に強力な何かに魅入られる羽目となったが、それを冬月が知るのは随分後となってからだった。

 

 

 

 

 ガタンゴトン、ガタンゴトン――

 

 定期的に体を揺らすそのリズムに思わず目を閉じ睡魔に身を委ねかけたが、手元のペットボトルの茶を呷りギリギリで吹き飛ばす。

 日常的に利用する駅だというなら最悪寝ても体内時計が働くが。今回向かうのは立ち寄ったことが一度もない土地のため確実に寝過ごす危険性が高い。さすがにビジネスとして行っている祓除で時間通りに行動できないのはまずいだろう。

 

「地方都市か…都会とも田舎とも言えない場所で、呪霊の質は如何ほどのものかな……?」

 

 そんなわけで私こと冬月水賀はとあるローカル線に乗って依頼主の元へと向かっていた。依頼は当然呪霊絡みの事件である。

 メールと電話では簡単な話しか聞いてないが、依頼主曰く―――

 

「――――【コクデイ様】ね」




ここの原作話見返すとみこちゃんお父さんの霊と一回も話してないんですよね。まぁ下手に反応したら今回祓った霊が襲ってくる可能性もあったからなのかもしれませんが……

あと特に意味ないんですけど1D3のダイス振りますね。


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