愛する恋人を救うには (アッシュクフォルダー)
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第一話 物語のはじまり

僕の名前は、吉川詩音

4月18日生まれのB型

 

身長177㎝ 体重66㎏

名門の男子校、城南学園高等部の二年生。

 

「はぁ…つ、疲れたな…」

 

「よぉ!詩音!彼女と上手くいっているか?」

 

と、クラスメイトが話しかけてきた。

 

「それなりに…かな?」

 

「またまた~お前とその彼女は、

昔っからの優等生カップルだから、

お似合いだけどな~」

 

「俺もお前とその彼女が羨ましいぜ~」

 

「アハハ…」

 

そんな僕には、朝比奈まふゆという恋人がいた。

 

 

ある日、学校の友達と会話をしていた。

 

「なぁ、この子が、詩音の恋人?」

 

「うん、そうだよ」

 

「へぇ~羨ましいな…恋人がいるって」

 

「う、うん…」

 

「それじゃあ、カワイイ恋人と遊んで来い!」

 

「あ、ありがとう…」

 

 

 

僕は待っている、まふゆに話しかけた。

 

「まふゆちゃん!」

 

「詩音くん!」

 

「今日も、学習塾に行くの?」

 

「うん、勉強のためにね」

 

「ふーん、熱心だね」

 

「詩音くんは、勉強しないの?」

 

「自宅で、ちゃんとやっているよ」

 

「詩音くんの方こそ、勉強熱心じゃないの?」

 

「うーん、どうだろ?

自分でも、あんまり、そう思わないな…」

 

「じゃあ、私 こっちから、行くから、

じゃあね、詩音くん」

 

「うん、またね、まふゆちゃん」

 

 

二人が恋人であることは、

周囲に秘密にしている、

優等生同士の恋は、非常に複雑で、繊細である。

 

僕と、まふゆが、出会ったのは、

幼稚園の時だった、

同じ小学校だったが、

中学の時から、違う学校に通い始めていたが、

それでも、時々出会ってからは、

高校一年生の時に、付き合うようになったのだ。

 

そんな、日曜日の事だった。

 

僕とまふゆは、公園のベンチに座っていた。

 

「このクッキー美味しいね、

自分で作ったの?」

 

「うん、そうだよ、美味しい?」

 

「うん、美味しいよ!」

 

「詩音くんのためにクッキー焼いたけど、

詩音くん、私の作る、クッキー好きだもんね」

 

「そうだね」

 

詩音はアクアリウムに気づく。

 

「アクアリウム…キレイ…」

 

「何も入っていないけどね。

、水と砂と草を入れただけで、

満足しているから」

 

「まぁ、インテリア的には、ありだね」

 

「フフ…ありがとう、詩音くん」

 

「あっ、そろそろ、時間だ!」

 

「もう、行くの?」

 

「友達と会う約束しているんだ」

 

「もしかして…私以外に、好きな人が出来たとか?」

 

「そんな訳ないだろ!

僕は、まふゆちゃんが好きだ!」

 

「ウフフ…ありがとう、詩音くん」

 

この時は、思いもしなかった、

彼女が、重い闇を抱えていることに、

気づくことさえ、出来なかった…



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第二話 誰もいないセカイ

それから、数日が経って、

僕は、まふゆと出会うことになった。

 

「まふゆちゃん」

 

「詩音くん!」

 

「どうかしたの? 元気がないみたいだけど?」

 

「ううん、大丈夫だよ、

そういう、詩音くんは、どうなの?

大学受験、進んでいるの?」

 

「うん、進んでいるよ、数学以外は」

 

「詩音くん、数学だけは、苦手だもんね」

 

「数学だけ、唯一B判定取る事が多くてね…」

 

「ふふっ、頑張ってね」

 

「まふゆちゃんは、どう?

こっちも、大学受験、進んでいる?」

 

「うん、特に、これと言って

変わっているところは、ないよ?」

 

「そっか…まぁ、まふゆちゃんは、

イイコだから、問題ないか…」

 

「イイコなんかじゃないよ…」

 

「えっ?」

 

「ううん、詩音くん、何でもないよ?」

 

「う、うん…」

 

「じゃあ、詩音くん、私 

塾に行かないといけないから、じゃあね」

 

「わかった、じゃあね」

 

僕は、まふゆと別れた

 

それにしても、いい子じゃないって、

どういうことだろう…

まふゆちゃん、普段から、いい子と言われても

おかしくないはずなんだけどな…

 

一体 まふゆちゃんに、何が起きているんだ…!?

 

 

後日、ある日の25時の事だった。

 

吉川詩音には、気になっていた事があった。

 

それは、謎の音楽サークルの事だった。

 

詩音自体、それほど、聴く訳では無いのだが、

どういう訳は、気になっていたのだった。

 

パソコンをしばらく見ていた、詩音。

パソコンが、急に白くて眩い光を放ち、

詩音の目を眩ませた。

 

 

そして、気絶して、気が付いたら、

見知らぬ場所へと、辿り着いた…

 

「こ、ここは…」

 

「いらっしゃい…」

 

「こ、ここは?キミは一体誰だ?」

 

「ここは、誰もいないセカイ、

そして、私は…ミク…」

 

「ミク…?ミクって、初音ミクちゃんの事?」

 

「うん…」

 

「!!??」

 

「まふゆちゃん!どうして、ここに!?」

 

「詩音くん、いたんだね」

 

「それにしても、ここは、どこなんだろう?」

 

「ここは、誰もいないセカイ」

 

「う、うん、そうだけど…」

 

慣れない雰囲気に、詩音は、戸惑っていた。

 

 

「まふゆの想いが、詩音を呼び出した」

 

「えっ?」

 

「まふゆにとって、詩音は、大切な人…」

 

と、ニーゴミクは、詩音に語りかけた。

 

「う、うん…」

 

 

すると、見知らぬ女の子が、

吉川詩音に近づいてきた。

 

「君が、吉川詩音くん?」

 

「そ、そうだけど…?君は?」

 

「私は宵崎奏、よろしく…」

 

「よろしくね、奏ちゃん」

 

「うん、よろしく…」

 

「あっ、聞きたい事がる、

どうして、僕が、その…誰もいないセカイに?」

 

「まふゆが、詩音くんを、必要としているからかな?

少ししか聞いたことがないけど、

詩音くんは、まふゆの恋人なんだね」

 

「うん…君は、まふゆちゃんの友達なんだね」

 

「うん」

 

「えっと…まふゆちゃんのこと、よろしくね」

 

 

ここは、誰もいないセカイ、

突如、謎の場所へとやって来た、彼にとっては、

戸惑うこと以外、何も出来なかった。



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第三話 まふゆの過去

気が付くと、元の場所に戻っていた。

何だったんだ?

 

そして、宵崎奏という、女の子、

彼女は一体…?

 

後日、僕は、まふゆちゃんに、

奏の事と、誰もいないセカイの事について、

話すのだった。

 

「と、いうことがあったんだ…」

 

「奏に会って、どう思った?」

 

「どう…って、うーん、まぁ…

いきなりそう言われても…初対面の人だから、

これから、何かと、関りがあるのかな?

って、思うくらいだね…

でも、奏ちゃんは、放っては置けない…

深刻そうな顔をしていたからな…

僕も、彼女の力になりたい」

 

「そうなんだね、詩音くんって、お人好しだね」

 

「う、うん…そう言われると、

まぁ…自覚はあると思う」

 

「これ…奏の連絡先」

 

「あ、ありがとう…」

 

と、まふゆは、詩音に奏の連絡先と、

メルアドが書かれた用紙を渡した。

 

「奏にも伝えてあるから、詩音くんの連絡先」

 

「うん、わかった、僕も、彼女の力になりたい」

 

(いきなり、連絡先渡されても…)

 

と、詩音は戸惑っていた。

まふゆに渡された、奏の連絡先を、

持っていた、メモ帳に、挟んで、

まふゆと別れた。

 

その後、家に帰り、

23時半頃になり、就寝しようとするが、

詩音は、悩んでいた、

まふゆには、何らかの悩みを持っているのでは?

と、推測するようになった。

 

(まふゆちゃん…何だか、

少し前から、様子がおかしい気がする…

彼女に一体何があったんだ?)

 

吉川詩音は、宵崎奏の存在も、気になっていた。

 

詩音は、まふゆに手渡された、奏の連絡先を、

スマートフォンに登録した。

 

これで、電話やメールが出来る…

と、言っても、何から話せばいいのか、全くわからなかった…

 

スマートフォンで、メールを通じて、奏と連絡をした。

 

(こんばんは、宵崎奏さん、吉川詩音です。

これから、よろしくお願いします)

 

(よろしくお願いします…詩音さんに聞きたいことがあるけど…

まふゆの事、何か知っている?)

 

(うーん…小学生の頃から、ずっと一緒にいたけど、

彼女は、ずっと、医者より、看護師になりたいって、

言っているんだ。

僕も、まふゆちゃんが、なりたい職業に就いてほしいって、

願っているから、

看護師を目指している、まふゆちゃんを、応援しているんだ)

 

(そうだったんだ…他には?)

 

(まふゆちゃんは、幼稚園や小学校の時から、人気者で、

お遊戯会や、学芸会でも、いつも、主役を取っていたんだ、

でも、まふゆちゃんのお母さんが、

衣装が気に入らないからという理由で、

まふゆちゃんのお母さんが、衣装を作り直した事があるんだって)

 

(他には?どうやって、その…まふゆと、どうやって出会ったとか?)

 

(僕がまふゆちゃんに出会ったのは、幼稚園の頃、

まぁ、言ってみれば、幼馴染みたいな関係で、

お互いの母親が、友達で、

それから、僕は、まふゆちゃんに出会ったんだ、

同じ幼稚園と小学校に通っていてね、

中学からは、別々になったけど、

そこから、本格的に、幼馴染から、恋人になったんだ)

 

(うん、色々とありがとう、

まふゆの事が、少しだけ、わかった気がする…)

 

(僕の方こそ、ありがとう)

 

(じゃあ、おやすみ)

 

(おやすみなさい)

 

奏と連絡を取り合った後、

僕は、しばらく、考え込むのだった…

 

まふゆちゃんの様子が、おかしい…

 

ひょっとすると、長い間、

まふゆちゃんの悩みに気づいて、やれなかったのか?



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第四話 詩音 絵名と瑞希に出会う

吉川詩音の所に、一通のメールが届いた。

 

(詩音さん、私の曲、聴きました?)

 

(うん、聴いたよ…

何て言うか…上手く言葉で表せないけど…

奏ちゃんの気持ちが、伝わってくると思ったよ…)

 

(うん、ありがとう、後、話が変わるけど、

OWNって、音楽家がいるけど、

その人の曲が、冷たくて、鋭くて、脆いんだ…)

 

(そ、そうなんだね…)

 

(誰もいらない、一人でいたいって、

思っているような、そんな曲…)

 

(…)

 

(一度、セカイに来てくれない?

紹介したい人がいるから、来てね)

 

(わかった)

 

(後、最後に…)

 

(どうかしたの?)

 

(OWNの曲…何となく、心当たりがあるような…)

 

(そ、そうなのか?)

 

(うん)

 

詩音は、奏に指示された、曲を再生して、

誰もいないセカイへ、やって来た…

 

「奏ちゃん、お待たせ」

 

「詩音さん、来てくれたんだね」

 

「あっ、この人が、詩音くん?」

 

「うん、この前話した、まふゆの彼氏…」

 

「アイツ、彼氏がいたんだ、

まぁ、あたしには、関係ない事だけどね」

 

「紹介するね、えななんこと、絵名と、

Amiaこと、瑞希だよ」

 

「よろしくね、詩音くん」

 

「よろしく」

 

「うん、よろしく、僕は吉川詩音、

君たちも、まふゆちゃんの友達?」

 

「友達って言うか…同じ音楽のサークルで…」

 

「うんうん、活動している、仲間みたいな感じかな?」

 

「そうなんだね」

 

すると、ニーゴミクが、

こっちを向いて、近くへとやって来た。

 

「みんな…待っていたよ…」

 

「待っていたって…」

 

「うん」

 

「それじゃあ、ボク達は、ミクに呼ばれて、

ここに来たの?」

 

「半分、そう…」

 

「ミクが、呼んだから、詩音くんも、誘ったんだ」

 

「そうだったんだね、でも、本当に、ここは、

どこなんだろう…」

 

「ここは、あの子の想いで出来た場所、

あの子のセカイ…」

 

「あの子のセカイ!?」

 

「想いで出来た場所?」

 

「ちょっと!詳しく説明しないと、わからないよ!」

 

「じゃあ、ここは異世界ってこと?」

 

「そう、セカイは、みんなの暮らす場所とは、違う…

このセカイと、みんながいる場所は、

ある曲で、繋がっている」

 

「ある曲?」

 

「アンタイトルで、繋がっている…」

 

「アンタイトル?」

 

「それって、共有フォルダに入っていた曲?

 

「ねぇ、今の状況って、夢なの?」

 

「お願い、あの子を見つけて、

あの子は、このままじゃ、ダメ、

本当の想いに気付かないと、あの子は…

あの子を見つければ、あの子を救える。

あの子をは、きっと、本当の想いに気付ける。

そうしたら、その想いから、あの子の歌が生まれる」

 

「難しくて、よくわからないけど…

あの子を救う…?もしかして…」

 

「ミク…」

 

「その声は…!?」

 

僕たちは、あの子と対面するのだった…



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第五話 消えたがっているくせに

詩音と奏、絵名と瑞希は、

ある少女の声を聴くのだった…

 

「その声は…まふゆちゃん?」

 

「ミク…どうして、ここに人がいるの?」

 

「…」

 

「まふゆちゃん!どうかしたの?

何だか、顔色が悪いみたいだけど?」

 

「詩音くん、うるさい」

 

「えっ?」

 

「このセカイに来ないで、一人にさせて」

 

「…」

 

「ひとりで…それは」

 

「まふゆちゃん…」

 

「なに?詩音くん?」

 

「じゃあ、まふゆちゃんは、

奏ちゃんが言っていた、OWNっていう、

ユーザー名で、曲を作っていたの?」

 

「え?OWN?OWNって、あの?…え?」

 

「まふゆちゃんが、OWNなんだ」

 

「まふゆが、OWN?何それ、どういうこと?」

 

「根拠は?」

 

「根拠はない、でも、わかる。

ニーゴで作っている曲と傾向は、全然、違うけど、

間違いない」

 

「うん、奏ちゃんの言う通りだ」

 

「そうだよね?」

 

「そうだよ、OWNは、私」

 

「マジですか…」

 

「まふゆが、OWN…?本当に?」

 

「そう言ってる」

 

「どうして、最初から、言わなかったの?」

 

「別に、言う必要が、無かったから、言わなかっただけ」

 

「私じゃない私と、話す必要が無いから」

 

「はぁ?それどういうこと?

いつも、どういう気持ちで見ていたの?

バカにして、思っていたわけ?」

 

「ちょっと!落ち着いてよ!絵名!

まふゆも、もうちょっと、ちゃんと話そうよ!ね?」

 

「私はもう、ニーゴや詩音くんの傍にいる必要はない」

 

「そんな…」

 

「ニーゴや、詩音くんの傍にいても、足りなかったんだ」

 

「足りなかったって…」

 

「…初めて、奏の曲を聴いた時は、少しだけ救われた気がした。

だから、奏の傍で探せば、見つけられるかもしれないって、思った。

詩音くんといると、私は、ちょっぴり、安心する気がしたんだ、

でも、それじゃあ、足りなかったんだ」

 

「あ…」

 

「救えてなかった…!?」

 

「奏や詩音くんと一緒にいても、見つからないなら、

もう、自分で見つけるしかない」

 

「でも、まふゆちゃんは!」

 

「詩音くんは、黙ってて」

 

「うぅ…」

 

「ミク、これ以上、この人たちと話すことはない。

ここから、追い出して」

 

「そう、まふゆは、本当に一人で見つけられるの?」

 

「ミクが…私が…まだ、私を見つけられるっていうなら、

全部捨ててでも、探し出す。

私には、もう、それしか、残されていない。

もし、それでも、見つからないなら、

私は…もう、消えるしかない」

 

「まふゆちゃん、変だよ!

じゃあ、僕が今まで見てきた、まふゆちゃんは…!?」

 

「変?私が変なら、詩音くん達だって、そうでしょ?

だって、詩音くん以外、

誰よりも、消えたがっているくせに…」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…っ!」

 

「どうして、私だけが変だって、言えるの?」

 

「どうしちゃったんだよ?まふゆちゃん!」

 

「ミク…このセカイに、この人達は、いらない」

 

「うん…さよなら…

でも、どうか、まふゆを…」

 

まふゆ以外の、4人は、現実世界へと、送還されるのだった…



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第六話 消えたい

吉川詩音と宵崎奏は、朝比奈まふゆがいる、

誰もいないセカイへと、またやって来るのだった。

 

「まふゆちゃん…」

 

「まふゆ…」

 

「なんで…また、来たの?

私は…一人にさせてって、言っていたよね?」

 

「わたしの曲を聴いてほしい、

だから、会いに来た」

 

「僕からもお願いだ、奏ちゃんの曲を聴いてほしい」

 

「曲…?」

 

「わたしの曲じゃ、足りなかったって、

まふゆは言っていた、

だから、もう一度、作ったの、

今度こそ、ちゃんと、まふゆを救える曲を」

 

「…もう必要ない」

 

「どうしてなんだ!?」

 

「まふゆ!」

 

「しつこい」

 

「まふゆ!僕たちは、まふゆちゃんを助けたい!

救いたいだけなのに!」

 

「そんな、バカみたいなことが通じると思っているの?

ミク、この二人を追い出して」

 

「…」

 

「ミク、聞こえないの?」

 

「聴いて」

 

「えっ?」

 

「この曲を…聴いて」

 

「ミクまで…なんなの?」

 

「お願い、まふゆ」

 

「僕からもお願い」

 

「…うるさい!私は一人で消えたいの!

もう放っておいて!」

 

「まふゆちゃん!」

 

「まふゆ!」

 

「詩音くんは、私の事、本当は何もわかっていない癖に!」

 

「そんな…」

 

「奏なんて、もう会いたくない!」

 

「まふゆ…」

 

「勝手に入って来ないでよ!」

 

「わかるよ…」

 

「…」

 

「まふゆ、私たちに言ったよね?

本当は消えたいんでしょって、

そうだよ、わたしも本当は消えたくて仕方がない」

 

「じゃあ、詩音くんは?」

 

「僕は…消えたい時もあったけど…

それでも、生きないとダメなんだ。

生きて、とにかく、生きないと、

親から授かった、この命を無駄にしたくない」

 

「詩音くんの、ばか、

わたしの命なんて、どうでもいい癖に」

 

「そんな訳ないだろ!

人の命を何だと思っているんだ!?」

 

「人間の命なんて、所詮は軽い、

不幸になるくらいだったら、死んだ方がいい」

 

「わたしは…自分の曲で、一番大切な人を、

不幸にしてしまった」

 

「え…?」

 

「わたし、作曲家だった、お父さんがいるの、

お父さんは、自分の曲で沢山の人を幸せにしたいって、

思って、ずっと頑張ってきた。

わたしはお父さんみたいになりたくて、

曲を作るようになった。

でも、私の曲がお父さんを追いつめた」

 

「奏ちゃんの曲が?」

 

「ずっと、苦しんでいた。

お父さんの作る曲は、古くて、受け入れられないって…

わたしは、それに気づかないで、

無理して笑っているお父さんに、

自分が作った曲を聴かせた。

それが、お父さんを余計に、追いつめた。

自分には、こんな曲は作れないって…思わせた。

お父さんは絶望して、もう曲は作れなくなった」

 

「それは…奏ちゃんのせいなの?」

 

「わたしのせいだよ、一番大切な音楽と、

未来を奪った。

だから、どうしようもないくらい、消えたくなった。

でも、お父さんは、わたしに曲を作り続けるんだよ、

って、言って、だから、わたしは…

誰かを救うために、曲を作らないといけないって、

思って、生きている。

どれだけ絶望しても、曲を作らないといけないって、

思うようになったんだ…」

 

「…」

 

「だから、わかるよ、まふゆの気持ち、

まふゆと少し違うかもしれないけど…」

 

「そう…奏は、お父さんに呪われているんだね」

 

「…」

 

「消せない呪いなんて、可哀想」

 

「まふゆ…奏に、今すぐ謝れ!

奏が、どれだけ苦労して曲を

作ったか、わからないのか!?

この子は、寝る間も惜しんで、

まふゆちゃんを救いたい一心で、

作ったんだ!だから…最初から決めつけるなよ…」

 

「詩音くんって、幼稚な人だね、

そうやって、感情に任せるから、困るんだよ」

 

「僕じゃ…まふゆちゃんを救えないのか…」

 

「うぅ…」

 

「でも、私は奏の呪いや、詩音くんのことなんて、

どうでもいい。

そんなものに、私を巻き込まないで、

奏は自分が救われたいから、

わたしを救おうとしているだけ、

必死になって、悪あがきをしているだけ、

そんなの、お互い、苦しいだけじゃない。

奏も本当は、消えたいんだから…」

 

「それは違う…」

 

「は?」

 

「まふゆに…わたしの曲が届いたって、知ったから、

だから、可能性が無くても、

わたしは、わたしの曲で、

まふゆを救いたい、絶対に救いたい。

例え、それが呪いだったとしても」

 

奏は呪いに立ち向かい、

まふゆを救おうと、自分の意思で語るのだった。



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第七話 呪いと希望

 

「呪いだとしても、私を救いたい…?

ふふ、認めるなんて、潔いね」

 

「…」

 

「…」

 

「でも、もしその曲を聴いても、

きっと変わらない。

少し救われて、また消えたいっていう、

想いが強くなるだけ…

だから、もういいの、放っておいて」

 

「まふゆちゃん…ふざけないでよ!」

 

「…」

 

「…!」

 

「ハッキリ言うけど、消えた方がいいとか、

自分を探せないとか、

グチャグチャいっている、まふゆちゃんは…

心底腹が立つ!

僕自身、何をしているんだって…思ってしまうくらい!」

 

「…」

 

「消えたいとか、平気で言えるわけ?

僕や奏ちゃんの気持ちを踏みにじるつもりかよ!

そりゃ、僕も、まふゆちゃんを責め過ぎたと思っている」

 

「何、言っているの?私は何もっていない、ずっと」

 

「何もない?僕にとっては、

まふゆちゃんと僕は違うって、感じている!

まふゆちゃんは、こんなに、すごい作品が出来る。

僕には、出来ないことが、出来るんだ。

 

期待してくれている人だって、沢山いる!

まふゆちゃんには、才能がある」

 

「じゃあ、詩音くんは、何がしたいの?

自分は正義の味方のつもりなの?」

 

「僕は正義の味方じゃない。

ただ、みんなと一緒に、

まふゆちゃんを救いたい、

消えるのは、絶対に許さないから」

 

「私の曲が、すごいだなんて、

そんなの、どうだっていい。

私が欲しいのは、すごい曲でも、誰かの賞賛でもない、

私は、ただ、見つけたいだけ、

でも、そんなのは、無理だってわかっていたら、

もう、どうでもいいの、

二人には、わからないかもしれないけど」

 

詩音は泣いた。

自分の頭の中が、全く整理が付かない状態だった。

 

「僕は…僕や奏ちゃん達じゃ、ダメなのか…」

 

「勝手なこと、言わないで」

 

「…!」

 

「勝手に共感して、救おうとして、嫉妬して…

やめてよ、もう、十分でしょう…

私は…消えたい…それが、私の本当の想いなの」

 

「まふゆ…それでも、わたしは、

まふゆを救いたい」

 

「…っ!もう疲れたの!

希望があるからって!まだ、見つかるって!

だったら、最初から見つからないって、

思っていた方が、楽だった、

だから…もう、もう…もう!

救われるなんて、思いたくない!」

 

「…!!」

 

「もう疲れたの!探しても、探しても、

探しても、探しても!違うって、絶望して…

もう、これ以上、どうしようもないじゃない!」

 

「わたしが作り続ける」

 

「え?」

 

「この曲で、まふゆが救えなかったとしても、

救えるまで、曲を作り続ける。

まふゆが自分を見つけられるまで、

曲を作り続ける」

 

「何言っているの?」

 

「わたしは、もう、目の前で誰かが、

消えるのは、嫌だから」

 

「でも…でも!奏も本当は消えたいんでしょ!」

 

「うん、そうだよ、

だから、もし、わたしが絶望して、消えそうになったら、

その時、まふゆは、まだ見つかっていないって、

言ってくれればいい。

そう言ってくれれば、わたしは曲を作れられる」

 

「何それ…自分が何を言ってるか、わかっているの?」

 

「わかっている」

 

「どうして、そこまで…」

 

「それは…わたしの、ただのエゴだよ、

だから、まふゆの分まで、増えたって、

なんてことはないよ」

 

「見つからないまま、終わるかもしれない・

それでも…本当に…やるの?」

 

「うん」

 

「はは、二人とも、そんなに必死になって、バカみたい。

はははは…もう少しだけ、探してみるよ」

 

「まふゆ…」

 

「まふゆちゃん…」

 

「本当に、二人とも、傍にいてくれる?

救ってくれるの?」

 

「もちろん」

 

「うん」

 

まふゆは救われたかもしれないと、

二人は、そう思うのだった。

 

 



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第八話 悔やむミライを変えたい

まふゆに問いかける、奏

 

「そういえば…OWNの曲、全部聴いたよ」

 

「そう…」

 

「やっぱり、全部、まふゆがいた、

まふゆの音がしたよ」

 

「そっか、今度、教えてくれる?」

 

「え?」

 

「私の音って、どんな音か」

 

 

すると、ニーゴミクが…

 

「よかった、これで、本当の想いが見つけられそうだね、

これで、やっと、一緒に歌が歌えるね」

 

「え?」

 

「本当の想いから、歌が生まれる。

ほら…」

 

(何か聴こえる…!)

 

「この歌が私の想い…?

でも、私はまだ、何も見つけられていないのに…」

 

「ううん、まふゆは見つけられたんだよ。

セカイが…そして、歌がここにあるのが、その証拠」

 

「ここに…私の想いが…?」

 

「うん、だから、一緒に歌おう」

 

「ミク」

 

「?」

 

「ありがとう」

 

「さぁ、みんなで、歌おう」

 

「え?みんなで?」

 

「本当の想いは、奏に詩音、絵名に瑞希が

いなければ、見つけることが出来なかった。

5人には、感謝しないとね」

 

「そうだね、絵名ちゃんや瑞希ちゃんにも、

後で、お礼を言わないとね」

 

と、詩音が言った。

 

「さぁ、歌おう、まふゆ、詩音」

 

「うん」

 

 

(そうか、私、見つけて欲しかったんだね、ミク)

 

 

後日、奏、まふゆ、詩音、絵名、瑞希の五人で、

ファミレスへと向かった。

 

そして、詩音は、絵名と瑞希に、

一件の出来事を伝えるのだった。

 

「と、言う事があったんだ」

 

「へぇ~まふゆ、何とか、見つけられたんだね」

 

「まぁ、よかったじゃん。

それにしても、リアルで五人で会うのは、

初めてだよね?」

 

「まぁ、セカイで会ったのは、

少しビックリしたけどね」

 

「うん、何だか不思議な気分だよ」

 

「瑞希は私の写真、見たことあるでしょ?」

 

「まぁ、そうだけど、

本物と会うと、印象が違うっていうか…」

 

「どう違うの?」

 

「そーだね、フィルターかけているな~って!」

 

「それじゃあ、自己紹介タイム!

行ってみよう!ボクは暁山瑞希!

瑞希って、呼んでね!

はい、次は絵名!」

 

「はいはい、東雲絵名、

何だか、改まっていると、変な感じ…」

 

「じゃあ、次は…詩音くんかな?」

 

「僕は吉川詩音、よろしくね」

 

「じゃあ、次は…」

 

「宵崎奏」

 

「朝比奈まふゆ」

 

「これからも、よろしく、まふゆ」

 

「迷惑かけて、みんな、ごめん」

 

「本当に悪いって思っているの?」

 

と、絵名が言い出す。

 

「どうなのかな…自分でも、よくわからなくて…」

 

「何それ?散々、色々な目に遭ったから、

もう少し、反省してよね?」

 

「あーはいはい!もう、そろそろ、注文しよう!

ボクも、お腹ペコペコ~!

ほら、みんなは、何する?」

 

「チーズケーキとアイスティー」

 

「僕は…ココアとカプチーノかな?」

 

「飲み物…好きなんだね…」

 

「まぁ…そうだね…」

 

「じゃあ、フライドポテトを五人分頼むね!」

 

「わかった」

 

こうして、五人で、食事を楽しむのだった。

 



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第九話 マリオネット

奏、まふゆ、絵名、瑞希、詩音の五人は、

人形展に行くことになっていた。

 

「ちょっと、早く来すぎたかな…?

あっ…詩音くんに、まふゆ…」

 

「お待たせ、奏ちゃん」

 

「あれ…?他の二人は?」

 

「絵名と瑞希は、まだ来ていないみたい」

 

「そう」

 

 

そして、少し時間が経って…

 

「お待たせ!三人とも早いね!」

 

「ちょっと瑞希、走らないでね」

 

「二人で来たの?」

 

「ううん、偶然ばったり会ったんだ。

寝過ごすかなって思って、ビックリしちゃった!」

 

「人を遅刻魔みたいに言わないでくれる?」

 

「ま、何がともあれ、みんなで人形展にレッツゴー!」

 

 

五人は人形展にやって来た。

 

「小さい会場かと思っていたけど、

案外、広いんだね」

 

「うん、驚いた、凄く立派だね」

 

「人形カワイイ~!」

 

「可愛い人形が沢山あるね」

 

「このサイズでパフスリーブとか作れるなんて、

神様?奏に似合いそうな服が沢山ある!」

 

「わたしに?」

 

「瑞希ちゃん、静かにした方がいいと思うけど…?」

 

「アハハ…ごめん!ごめん!

つい、興奮しちゃった…」

 

「でも、すごいな、どの人形にも世界があるね」

 

「僕もそう思うよ、それぞれの世界観が

溢れていて、魅力が伝わるよ」

 

「世界…?」

 

「うん、みんな、それぞれ、生きている世界まで、

見えてくると感じるよ」

 

「そう…」

 

「?」

 

「どうしたの?奏ちゃん?」

 

「今、ちょっとだけ、まふゆの表情が

変わった気がして…」

 

「僕もそんな気がする」

 

奏と詩音はこう感じた。

 

どうして、まふゆが、あんな顔をしたのか、と思った。

 

 

もっと、まふゆの気持ちがわかればいいと、

二人はそう思うのであった。

 

「どうすればいいんだろう…」

 

 

人形をしばらく見ていると…

 

「まふゆちゃんは、気になった物はある?」

 

「別にない」

 

「…」

 

「お手洗、行ってくる」

 

「うん」

 

 

数分後

 

「遅いね…」

 

「わたし、様子を見に行ってくる」

 

すると、まふゆが詩音と奏の近くにやってきて…

 

「まふゆちゃん、顔色がすごく悪い!?」

 

「まふゆ!?」

 

「まふゆちゃん…顔色が真っ白…!」

 

まふゆは詩音に抱き着いてきた。

 

「詩音くん…奏…人形が…」

 

「マリオネットのこと?」

 

「気持ち悪い…」

 

「え?」

 

 

「あ!いた!って、まふゆ顔色悪いよ!?」

 

「まふゆ、大丈夫!?」

 

絵名と瑞希も駆けつけてきた。

 

「ハァ…ハァ…もう、大丈夫」

 

「だとしても、予断を許さない…」

 

「もしかして、まふゆ、

あの人形に、何か感じたの?」

 

「え?人形?」

 

「どうして、あの人形を気持ち悪いって思ったの?」

 

「それは…わからない…

ただ、気持ち悪くて…」

 

「体調が悪そうだし、その話は、

また今度にした方がいいと思うけど…」

 

(まふゆの心を強く揺さぶっている…

でも、何かわかりかけている…そんな気がする…)

 

「わかった、ごめん…」

 

「今日は帰った方がいいよね。

駅まで送ろうか?」

 

「平気、詩音くんとだったら、帰れるから」

 

「わかった、僕が送ってあげるね」

 

その後、詩音はまふゆを駅まで送り届けて、

まふゆは家でゆっくり休むのだった。



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第十話 カーネーション

まふゆの体調が戻り、少し経った時の話だった。

 

雨が降っている中、歩いていたら、

偶然、奏が通りかかった。

 

「奏ちゃん?」

 

「詩音くん」

 

「僕が傘を貸そうか?」

 

「いいの?」

 

「うん、もちろん」

 

詩音は奏に傘をあげた。

 

「ごめんね…傘を家に忘れちゃって…

早く曲を作らなくちゃ」

 

「うん」

 

「このままじゃ、まふゆに響かない。

もっと、作らないと」

 

「まふゆちゃん…少しずつだけど、

前を向いている気がする」

 

「わたしも、そう思う。

ごめん、もう帰らなくちゃ」

 

「ちょっと、待って!

カフェで、ゆっくりしたらどうかな?

リフレッシュしたら、曲作りがはかどると、

思うけど…?」

 

「それは、そうかもしれないけど…わかった」

 

詩音と奏は、カフェへやって来た。

 

詩音は奏のために、チョコレートパフェを、

詩音は自分のために、カプチーノを注文した。

 

「どうかな?」

 

「温まるね。

傘を忘れて出かけたから、大変だった。

でも、ありがとう、詩音くん」

 

「どういたしまして。

他のメニューはどう?無理やり連れてきちゃったから、

何かおごるよ?」

 

「大丈夫、そんなにおなかが減っていないから」

 

「わかった、食べたくなったら、いつでも言ってね」

 

「わかった…あっ、

この前の曲、聴いてもらったと思うけど、

まふゆに全然、響かなかった。

だから、新しいのを完成させたけど、

響かない気がして…」

 

「響かないって…そんなのわからないよ!

一回、聴いてもらったらどうかな?」

 

「ううん、自分でも、これじゃ、ダメなの。

迷路から抜け出せれない、そんな感じ」

 

「なんとなく、わかりそう…」

 

「このままじゃ、いつまで経っても…」

 

奏は、だいぶ困っていた。

 

「うーん、じゃあ、どこかに遊びに行かない?

家に閉じこもるよりも、外で行動していた方が、

いいと思う、ヒントがあるかもしれない!」

 

「そっか、わかった」

 

「じゃあ、ここにする?」

 

 

やって来たのは、ドールショップだった。

 

「ドールショップ?」

 

「まふゆちゃん、人形に反応していたから、

ヒントがあるかもしれない」

 

「なるほど…」

 

すると、オルゴールの音がした。

 

「オルゴールの音?キレイな音色」

 

「うん、本当だね、いい音」

 

「そういえば、奏ちゃんは、

オルゴールっぽい音、入れているね。

この前の曲も、奏ちゃんらしい、そう感じた」

 

「オルゴールの音は、好き。

わたし、お父さん作った、オルゴールの音を、

よく聴いていたから、その影響かもしれない」

 

「素敵な曲だね、どんな曲?」

 

「とても、優しくて、聴いているだけど…」

 

「奏ちゃん?」

 

(もしかして、答えたくないことを、

聞いちゃったのかな…?なんてことをしたんだ…)

 

「…」

 

「あっ、えっと…ごめんね…」

 

「ううん、大丈夫…」

 

ドールショップから出て、

しばらく、歩いていたら、フラワーショップを見つけた。

 

「あ、カーネーション」

 

「奏ちゃん、カーネーションが好きなの?」

 

「お母さんが、好きな花だから、

白いカーネーション」

 

「赤のイメージが強いけど、

白もキレイで美しい」

 

「そうだね、お母さんのお墓参りに行くとき、

白いカーネーションを持っていくんだ」

 

「そうなんだ、花がいい、癒されるから」

 

「うん、花畑に行きたい」

 

「花畑…確か、ここら辺にあったな…」

 

「うん、小さいときに、お父さんと一緒に行った覚えがある、

だから、行きたい」

 

「うん、僕も行きくなった」

 

こうして、二人は花畑を探すのだった。



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第十一話 花畑

公園にやって来た、詩音と奏。

 

「この辺りに、花畑があるって、

わたしが思い込んでいるだけかもしれない。

ごめん、雨の中、付き合わせちゃって…」

 

「僕は大丈夫だよ。

でも、この雨…結構、続きそうだな…」

 

詩音は奏と一緒に傘の中にいた。

 

「雨が止んだら、いい曲が思いつくと思う。

奏ちゃんも、そんなに、悩まない方がいい。

何かあったら、また、遊びに行く?」

 

「そうだね、その時は、お願いしようかな?

でも、今日は詩音くんのおかげで、

気分転換になったかな?」

 

「ホント?よかった」

 

「実は今日、お見舞いに行っていたんだ」

 

「お父さんの?」

 

「お父さん、倒れてから、何度も混乱するようになって、

今日は、わたしが生まれる前の話をしていたの。

その顔がすごく幸せそうで、

そんな、お父さんの笑顔を奪ったって思ったら、

すごく、苦しかった」

 

「奏ちゃん…」

 

「その時、思ったの。

わたしは早くまふゆを救える曲を作らなくちゃって。

それが、できないなら、ここにいちゃいけないって、思っている。

だけど、詩音くんが色々な場所に連れてってくれたから、

気持ちが楽になった。

だから、ありがとう、詩音くん」

 

「ううん…」

 

(奏ちゃん…ずいぶんと、自分で攻めているみたい…

僕も彼女の力になりたい…だから、せめて…!)

 

「ねぇ、奏ちゃん」

 

「ん?」

 

「奏は、まだ誰も救えていないっていうけどさ、

少なくとも、僕は救われているのかもしれない」

 

「えっ?」

 

詩音は自分の醜さと悪い部分を、奏に語るのだった。

 

「僕はちゃんと人と接しているのか、

って、よく思っているんだ」

 

「そうだったんだ…」

 

「でも、奏ちゃんの曲を聴いて、

もう少し、人付き合いが上手になれるように、

努力したいって、思ったんだ」

 

「詩音くんって、そういう人なんだね」

 

「そう…かな?

あっ、雨が上がって来たから、

僕の好きなスポットに行ってみない?」

 

「行ってみたいかな?」

 

「近くの噴水広場でね、花壇がとってもキレイなんだ。

ほら、見えてきたよ」

 

「あの花壇…もしかして…?」

 

「奏ちゃん?」

 

「ここが、お母さんと一緒にいた、花畑」

 

「花畑っていうか…大きな花壇だね…」

 

「なんていうか…ありがとう…詩音くん」

 

「ここ、カーネーションが沢山咲いていて、キレイ…」

 

「うん、キレイだな…」

 

すると、奏が!

 

「どうしたの?奏ちゃん?大丈夫?」

 

「ごめん…」

 

「でも、そっか、ここが奏ちゃんが、大切にしている場所なんだね」

 

「えっ?」

 

「なんていうか…嬉しいんだ、少しだけ。

奏ちゃんは、いつも、自分を責めていると感じだったから」

 

「うん、ありがとう、詩音くん」

 

「ちょっと、嬉しい」

 

「詩音くんがいてくれたから、

昔の思い出を素直に受け止めることが出来たと思う」

 

「そんな…何もしてないよ、僕は…

うん、どういたしまして」

 

こうして、二人で、

しばらく、カーネーションを見るのだった。



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第十二話 出来ること以上のこと

(すみませんが、わたしからは、申し上げることが出来ません。

雪さんが、一緒に音楽活動をしたいと

言ってくれる限り、わたしも、そうしたいと思います)

 

メッセージが止まった…?

違ったみたいだ。

 

何か書いている様だ。

 

(それが、あの子の将来を狂わせるかもしれない、

としても、ですか?)

 

(雪さんが、やめることを望んでいないのであれば、

わたしからは、何も言えません。すみません)

 

まふゆのためなら…これでいいはず…

 

これで…いいはず…だよね…

 

(わかりました。

でも、お互いに少し誤解しているかもしれませんから、

もし、よろしければ、一度、会って話しませんか?)

 

「えっ?まふゆのお母さんと会う…?」

 

奏は悩むのだった。

 

ニーゴの活動が、まふゆの将来のためになるかって、

言われたら…わからない。

 

でも、今の、まふゆは、ニーゴで、

曲を作りたいと思っている。

 

それに、わたし達と曲を作ることが、

まふゆの本当の気持ちが見つけられるかもしれないから。

 

本当の、まふゆを見つける事にも、繋がっている。

 

だから、音楽活動を、辞めさせるのは、

ハッキリ言って、よくない。

 

けど…

 

奏は詩音と相談するのであった。

 

 

 

とある日、喫茶店にて…

絵名、瑞希は悩んでいた。

 

「まさか、奏が詩音くんと一緒に、まふゆのお母さんと、

会うことになるなんて…」

 

「奏と詩音くん、本当に大丈夫かな…?」

 

「心配だよね…私も一度、電話かけてみたけど…

何だか、嫌な感じだったし…」

 

「嫌な感じ…か」

 

「うん、優しい雰囲気なんだけど、

有無を言わせない感じだった」

 

「たしかに、そうだよね。

ボクが前に、まふゆのお母さんの会話を聞いた時も、

そんな感じだったな…

でも、きっと、まふゆは、もっと、つらいよね」

 

「この前も、家に帰りたくないような雰囲気だったし、

ニーゴの活動が出来なくなったら、

もっと、しんどくなるんじゃ…

私達に出来る事って、無いのかな…?」

 

「うん、でも、難しいよね。

ひとの家のこととか、まふゆの将来のことまで、

ボク達が口出ししたら…」

 

「あ、あれ?まふゆ?」

 

「ホントだ…予備校の帰りかな」

 

「ねぇ、まふゆを呼んでこない?

少しだけなら、話す時間があると思うし。

ボク達に出来ることは、無いかもしれないけど、

まふゆの気持ちが、ちょっとだけ、楽になるかもしれない」

 

「うん、そうだと思う」

 

「よーし!じゃ、ボクが行ってくるから、

絵名は、席見ててね!」

 

こうして、瑞希は、近くにいる、まふゆを

喫茶店の席にへと、呼び出すのだった。

 

「じゃじゃーん!まふゆを連れて来たよ!」

 

「そんなに、騒がなくてもいいでしょ」

 

まふゆは、一体、何を語るのか?

 

そして、奏と詩音は、まふゆの母と何を話すのか!?

 

 

 



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第十三話 詩音と奏 まふゆのママに出会う

詩音と奏は、まふゆの母親に会うため、

指定された時間で、その場所に訪れていた。

 

宮益坂のある場所。

待ち合わせ、10分前の事だった。

 

「ここ?」

 

「うん」

 

「待ち合わせ場所は、この辺りだよね…?」

 

「今日はちゃんと、話さないといけない」

 

「うん、わかってる」

 

奏は、いつもより、険しく、

そして、何かを思う表情をしていた。

 

「だから、わたしは…」

 

奏は詩音に、ありったけのことを話した。

 

「わかった。僕も協力する。

まふゆちゃんのためだから」

 

「ありがとう。詩音くん」

 

しばらくすると…

 

「この人だ」

 

「この人が…」

 

「あぁ」

 

「もしかして、Kさんかしら?

それに、詩音くんまで」

 

と、まふゆの母が、話しかけてきた。

 

「あ…はい。宵崎奏です。

えっと、まふゆさんには、

いつも、お世話にいます。

今日は、よろしくお願いします」

 

「ふふ、まふゆの母です。

よろしくね、宵崎さん。

それに、詩音くん。久しぶりね」

 

「お久しぶりです」

 

「この間は、ごめんなさい。

チャットで文章を書くのは、慣れていなくて、

冷たい印象を与えてしまったかもしれないわ」

 

「いえ、そんな、わたしも、チャットは、

あまり、得意じゃなくて…」

 

「それより、宵崎さんは、まふゆの名前を、

知っているのね」

 

「はい、何度か会って話をしていて、

後、詩音さんからも、まふゆさんのことを、

よく、聞いています」

 

「あら、そうだったの。

それじゃあ、今日は、色々な、話が出来そうね。

ゆっくり、座れる、場所を探しましょう」

 

「はい」

 

「は、はい…」

 

 

ホテル内のカフェにて…

 

 

「ふふ、そんなに緊張しなくても、大丈夫よ。

ここは、信頼できる店だから」

 

(奏ちゃん、僕がついている)

 

(うん、ありがとう、詩音くん)

 

「でも、私も最初、来た時、緊張したわ。

とっても、豪華で、何から何まで、

立派な場所ですもの。

だけど、大丈夫よ。すぐに慣れるから」

 

「そ、そうなんでしょうか…」

 

(どうしよう…詩音くん)

 

(大丈夫、僕がついている、落ち着いて話そう)

 

(うん)

 

「のんびり、くつろいで、ちょうだい。

まふゆのお祝い事は、いつも、このホテルに来るの。

家族みんなの特別な場所よ」

 

「…」

 

「…」

 

「あぁ、ごめんなさいね。

まふゆの友達に、会うのが楽しみで、

つい、喋りすぎちゃったわ。

ええと、ケーキセットでいいかしら?

それを、3人分。

ここの、ケーキは、すっごく、美味しいのよ。

ぜひ、食べてちょうだいね」

 

「あ、はい…ありがとうございます」

 

「それで、何だけど…宵崎さんは、

いつ頃から、まふゆと、お友達になったの?」

 

「いつから…えっと…大体、2年位前です」

 

「そう…普段、まふゆは、どんなことをしている?」

 

「音楽サークルで、一緒に曲を作っています。

まふゆさんには、作詞を担当してもらって…」

 

「詩音くんは?」

 

「僕は…その、補助的な役割ですね…」

 

「あぁ、あれね、悪いとは思っていたけど、

少しだけ、見させてもらったわ。

とても、素敵だったわ」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「ふふ、私も、よくクラシックを聴いたりするけど、

自分で、作る、という発想は無かったから、

まふゆが、音楽やっているって、知った時は、驚いたわ。

あぁいう、曲を作る時、結構大変じゃない?」

 

「あ、いえ…そこまでじゃないですけど…

インスピレーションが無い時は、

詩音くんに、手伝ってもらったりしています。

まふゆさんに、いつも、助けてもらっています」

 

「そうなのね。

ふふ、まふゆが活躍しているようで、嬉しいわ。

でも、そろそろ、来年、大学受験で忙しくなるんじゃない?

まふゆから、聞いたけど、同い年の子達で、

集まっているんでしょう?

宵崎さんも、勉強と音楽を両立させるのは、

大変じゃないかしら?」

 

(空気が変わった…)

 

(恐ろしいのは、ここから)

 

一体どうなる!?

 

 

 



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第十四話 偏見と押し付け

ホテル内のレストラン。

奏と詩音は、まふゆの母と会話をしていた。

 

「そうですね…受験は、全員じゃないですけど…」

 

「それに、わたしは、その…受験勉強していないので…」

 

「あら、そうなのね。

それなら、宵崎さんは、大学受験をする気はないのかしら?」

 

「今は、まだ、考えていません。

わたしは、受験や勉強より、音楽が大事なので…」

 

「そう。

自分のやりたいことがあるなんて、素敵ね」

 

(思ったより、好意的に受け止めている)

 

(まふゆちゃんの母は、猫かぶりしている)

 

(うん…わかった、背中が冷たい)

 

「でも、この前、メッセージで伝えたけど、

まふゆには、夢があるのよ。

医者になる、素敵な夢が」

 

「それは違う!」

 

と、詩音は、反論した。

 

「どうしてなのかしら?」

 

「まふゆちゃんの夢は、看護師です」

 

「…はい、まふゆも、言っていました…」

 

奏と詩音は、まふゆのことを、思い返した。

 

(この人は、まふゆちゃんのことを、

何も考えていない)

 

(うん、見ただけでわかる)

 

「そうね、今日は、まふゆの夢の為に、

もう一度、お願いしたいことがあるの。

あの子の為にも、せめて、受験までには、

距離を置いて欲しいの」

 

「勉強は、非常に大事なことだ。

だが、今の、まふゆちゃんは、

音楽が必要だと思います」

 

「わたしも、まふゆには、

音楽が必要だと思います」

 

「えぇ、勉強には、息抜きが必要ね」

 

「それも、そうですけど…

そうじゃなくて…私は、まふゆから、

音楽をやりたいって、言っていたのを、

聞いていたんです」

 

「だから、僕からも、お願いです。

勉強の合間でもいいので、音楽をやる事を、

許してあげてほしいんです」

 

「それが、きっと、今の、まふゆちゃんにとって」

 

「えぇ、もちろんよ」

 

「?」

 

「私も、さっき言ったでしょ?

息抜きも大事だって。それに、受験が終わる間だけで、

ずっと、音楽を禁止にするつもりはないわ」

 

「そう…ですか…」

 

「でもね、音楽サークルは、辞めて欲しいと思うの。

詩音くんからも、言ってくれないかな?」

 

「えっ?」

 

「それは…

 

「私は、あんまり、音楽サークルに詳しくないけど、

締め切りとか、あるんでしょう?

歌詞を作るのも、時間がかかるし、

自分のペースで楽しむならいいけど、

活動を気にして、勉強に集中できなかったら、

って、こともあるから。

特に、まふゆは、優しいから、

それを言えなかったのかもね」

 

「それは、ダメだ」

 

「それじゃ、ダメなんです」

 

と、二人は、否定した。

 

しかし、まふゆの母親が手ごわい相手であることは、

詩音は、昔からわかっていた。

 

だからこそ、奏には、負けないで欲しいと、

思い、祈り、願っていた。

 



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第十五話 本当にやりたいこと

「今まで、貴女を見てきたが、

娘を思う気持ちが、一切、伝わってこない」

 

(詩音くん…なんか、言い過ぎだと思うけど…

まぁ…いいや…)

 

「わたしたちと曲を作る事が、

まふゆにとって、必要だと思うから…!」

 

「あら、二人とも、どうして、そこまで、必要なのかしら?」

 

「まふゆちゃんを救うためです」

 

「えっ?」

 

「僕には、感じるんです。

ずっと、一緒にいたからこそ、わかるんです。

まふゆちゃんには、音楽が必要だと、

彼女のやりたいことが、ここにあるって、

僕は思うんです」

 

「でも、この際だから、言っておくね。

音楽もサークル活動も、

あの子の人生に必要ないと思うのよ」

 

「…!」

 

「だから、二人とも、

あの子のことを、思うなら、サークルを辞めるように、

勧めて貰えるかしら?

二人の口から、聞いたら、

きっと、あの子も、納得いくはずよ」

 

「少し待ってください」

 

「何かしら?」

 

「まふゆは、以前、私と詩音くんの前で、

消えたいって、言っていたんです」

 

「まふゆが…消えたい…?」

 

「はい、それに、自分が何をやりたいのか、

わからない、状態なんです」

 

「みんなと曲を作りたいと、そう言っていた」

 

「そんな、まふゆが、わたし達と、

音楽活動がやりたいと、言ってくれたんです」

 

「だから、サークル活動を、許してやってください。

僕からも、お願いです」

 

「…」

 

「お願いします!今の、まふゆから、

音楽をとったら、まふゆは…!」

 

「あの子…そんな風に思っていたの」

 

「そうなんです、だから!」

 

「そうだったのね、きっと、まふゆは、

いい子だから、まふゆからも、聞いてみるわ」

 

「本当に…本当に、そう思うなら、

今の、まふゆの、本当の気持ち、

本当に、やりたいことを、聞いてあげてください」

 

「そうすれば、きっと、サークル活動が、

必要だなんて、わかってもらえると思います」

 

「それに、どうして、まふゆが苦しんでいるのかを…」

 

「そうね、本当にありがとう。二人とも、

ちゃんと、まふゆの気持ちも、聞かないとダメよね。

ちゃんと話し合って…

サークル活動や音楽をするよりも、

看護師を目指すよりも、医者になる方が良いって、

改めて、わかってもらえないと」

 

「すみません、それは、違うと思います」

 

「何が違うの?」

 

「あなたは、まふゆのことを、何も考えていません。

まふゆの気持ちを、抑え込んでいるように、

見えたから」

 

「あら…心外ね。どうして、そう思われるのかしら?」

 

「…」

 

すると、詩音が、ブチ切れる。

 

「アンタは、お前は、母親失格だ。

考え込んでいるだけだ!

まふゆちゃんの気持ち、何も考えていない、

クズ親だ!ゲス親だ!

まふゆちゃんのこと、何もわかっていない。

お前は、ただの毒親だ!」

 

「詩音くん!?」

 

「僕は、アンタを許さない。

僕からも、一つ言っておく、

お前の思い通りには、させない!」

 

「…わたしは、あなたに、どう言われようと、

まふゆの傍から、一切離れません」

 

「そう、詩音くんもだけど、残念ね」

 

まふゆの母に、怒った詩音は、

奏を連れて、その場を後にした。

 

 



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第十六話 まふゆの断罪

ある日の朝比奈家にて…

 

「失敗だったわ。

あなたに、パソコンを買い与えたのも、

楽器を使わせたのも!」

 

「おかさ、さん…?」

 

「知らないうちに、音楽なんか初めて、

2年間も、私に隠し事をして、

勉強を怠って、ネットで、

よく知らない子達や、

遂には、詩音くんに、たぶらかされて!

こんな事になるなら、

何も与えるんじゃなかった!」

 

「…あ…」

 

「よく聞いて頂戴。まふゆ。

あなたのことを想っているのは、

詩音くんでも、あの子達でも無い。

この私よ!お母さんなのよ!」

 

「…っ!」

 

(私を、本当に想ってる…?)

 

(お母さんは、本当に私のことを、想って、

…こう言っているの…?)

 

(わからない…)

 

(わからない…けど…)

 

絵名、瑞希、奏、詩音、

そして、ミク達が脳裏に浮かんだ。

 

(みんなといる時が、あたたかい…)

 

(わたし達は、ちゃんと、ここにいるから…

まふゆの想いを守って…)

 

と、ミクの声が微かに聞こえたような気がした。

 

(心が落ち着く…だけど…ここは…この場所は…)

 

(お母さん)

 

(お母さんは、本当は、私を…)

 

(わからない…わからない…?)

 

(でも、無理だ…)

 

(これ以上は…もう…っ!)

 

「…?」

 

ミクの歌声が聴こえる…そんな気がした。

 

(奏の曲…それに、ミクの歌声まで…)

 

(あたたかい…この、あたたかさに、

ずっと、触れていたい)

 

(もっと、聴きたい…)

 

「ごめんなさい。大声を上げちゃって…

でも、まふゆは、わかってくれるでしょう?

まふゆは、本当は、いい子で優しい子だと、

お母さん、信じているから」

 

「…っ!」

 

まふゆの瞳が漆黒に染まった。

もはや、光が存在しなかった。

 

(…お母さん…おかあ、さん…

オカアサンって、ダレダッケ…!?)

 

(そうだ、でも、苦しい、辛い、痛い、疲れる、

醜い、憎い、嫌だ…ナンダロウ、コノ、カンジョウ…!?)

 

(ごめんなさい。私が悪い…?

でも、もう、ここには…)

 

(ここには…っ)

 

(ニゲテモ、イイ…!?)

 

(でも、本当にそれでいいの…?)

 

(私がいなくなったら、お母さんは…?)

 

(お母さんを置いて…?

そんなの、私には…でもっ…)

 

「もう一度、頑張りましょう。

お母さんも、頑張るから!

ね?お願い。まふゆ」

 

「…っ!」

 

まふゆは、家を飛び出し、逃げ出した!

 

「まふゆ!」

 

まふゆは、奏の家にやって来た。

 

そこで、泣いていた。思いっきり…

 

冷たい雨の中、まふゆが走りながら、

宵崎家のドアを何度も叩き、泣き叫んでいた。

それを聞いた、奏が、走って、

まふゆを宵崎家の中へと入れ込み…

 

「奏、私!

私、ちゃんと、伝えたの!お母さんに!

でも…でも…!」

 

「…まふゆ…」

 

「どうして、私、ここにいるんだろう…

お母さん、すごく、怒っていて、悲しんでいて…

それなのに…私!

全部、私が悪いのかな…?

もう…死にたいよ…」

 

「…大丈夫だよ、まふゆ。

大丈夫…大丈夫だから…」

 

奏は、まふゆを温かく抱きしめた。



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第十七話 まふゆの家出

まふゆが家出して、数日後。

 

「お父さんは、心配しているよ」

 

「まだ、帰りたくない…」

 

「…そうか、わかったよ」

 

まふゆの父が、宵崎家にやって来ていた。

 

「…ごめんなさい」

 

「体調や具合に、変わりは無いか?

必要な物があったら、持ってくるよ」

 

「…大丈夫。間に合っているから…

ありがとう」

 

「わかった。宵崎さん。

まふゆをよろしくお願いします」

 

「はい」

 

「まふゆ、また日曜日に来るからね」

 

と、まふゆの父は、宵崎家から、出ていった。

 

その後。

 

「はい。まふゆ、お茶を淹れたよ」

 

「ありがとう…いい香り」

 

「よかった」

 

「えっと…ロイヤルミルクティーと、

レモンティー、望月さんが、持って来てくれたんだ」

 

「そうなんだ。少し、落ち着いた。ごめん」

 

「ううん、大丈夫だよ。気にしないで」

 

「ありがとう。それじゃあ、部屋に戻るね」

 

「わかった」

 

「うん」

 

「わたしは、外に出るから、すぐに帰って来るから」

 

「いってらっしゃい」

 

まふゆは、部屋に戻り、寝ていた。

 

(足がもつれて…!)

 

母の顔が、急に脳裏に浮かんだ。

 

(…!進めない…!

詩音くん、助けてくれるかな…?)

 

まふゆは、眠りについていた。

 

(お父さん、来てくれたけど…何もなかった。

お父さんに心配かけている。ずっと…

私のせいで…きっと…私が奏の家にいる限り、

勉強しないと…!帰りたくない。

胸が冷たい…苦しい…!

詩音くんに電話しようかな…?)

 

まふゆは、詩音に電話した。

 

(家出しちゃった…奏の家に)

 

(奏ちゃんの家に?)

 

(うん…)

 

(わかった。まふゆちゃんの力になる。

困ったら、僕が助ける)

 

(わかった。ありがとう。詩音くん…)

 

まふゆは、電話を切った。

 

(ミクなら、何て言うんだろう…)

 

(まふゆ)

 

(ミク…?)

 

ニーゴミクが、ホログラムとして、現れた。

 

「ミク…奏の曲に合わせて歌ってる」

 

(うん…)

 

「私、奏の家にいる。家出…しているの…」

 

(そう…これ)

 

「これは…絵本…?」

 

(何故か、出てきた…)

 

「どうして…?苦しい…怖い…

お母さんが…」

 

(まふゆ…また、来て)

 

「うん」

 

(この場所には、きっと意味がある。

そんな気がするから…)

 

「うん」

 

まふゆは、再び、眠りについていた。

 

お母さんを思い出すたびに、苦しくて怖い思いをしていた。

 

(何も考えたくない…今は…眠りたい…)

 

と、まふゆは、敷布団と掛布団と枕で寝ていた。

 

しかし、妙な夢ばかり見ていた。

お母さんに襲われ、虐げられ、圧をかけられる、

非情な悪夢。

 

助けてよ、支えてよ、詩音くん、奏…それに…ミク。

 

 

 



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第十八話 まふゆと奏

宵崎家のキッチンにて。

 

ある日、まふゆの父が、宵崎奏の家に、

やって来た。

 

「どうぞ、お茶です」

 

「あぁ、どうも。

いつも、お気遣い、ありがとうございます」

 

「…」

 

まふゆは、暗い表情をしていた。

 

「それで、最近はどう?

体調を崩していないか?」

 

と、まふゆの父は娘を心配していた。

 

「大丈夫だから…」

 

「そうか、よかった。

あぁ、そうだ。宵崎さんとまふゆの為に、

ショートケーキを買ってきたから、

食べないか?」

 

と、まふゆの父は、ショートケーキを入れた袋を、

机に置いた。

 

「ありがとう」

 

「まふゆ、思っていることがあったら、言って欲しい」

 

「え?」

 

「もちろん、無理にとは言わない。

だが、お父さんが、宵崎さんの家に行くのは、

まふゆの気持ちが知りたいからだ。

だから、何でも言って欲しい」

 

「本当は…」

 

「うん、なんだ?」

 

「ケーキ、食べたくないの」

 

「そうだったのか…すまない、勘違いしていた。

じゃあ、好きな食べ物は?

買ってきてあげるよ?」

 

「わからない」

 

「え?」

 

「前から、あんまり、味覚が無いんだ…

何を食べても、同じ味だと思うんだ」

 

「あ、味が…!?」

 

と、まふゆの父は困惑する。

 

「そうだったのか、いつからか?

もし、良かったら、教えて欲しい」

 

「それは…生まれた時から、ずっと」

 

「えっ?」

 

「まふゆ…」

 

「物心がついた時から、全然、味覚が無くて」

 

「そうだったのか…わかった。

今日は時間だから、お父さん、帰るね」

 

「うん」

 

「それでは、宵崎さん、まふゆをお願いします」

 

と、まふゆの父は帰っていった。

 

「まふゆ、大丈夫?」

 

「大丈夫。でも、少し疲れたから」

 

「わかった」

 

「うん」

 

まふゆが、部屋を出た後、

固定電話が鳴った!

 

「あれ?電話が鳴っている?」

 

声の主は、奏の祖母だった。

 

「大丈夫だよ。おばあちゃん。

今日はどうしたの?」

 

祖母が、まふゆのことを話していた。

 

「元気だよ。まふゆ、元気にしているよ」

 

祖母は安心していた。

 

しかし、今後について、言及していた。

 

「わたしのこと…?」

 

奏は、今のことしか考えていなかったのか、

祖母も、無理にとは考えなくても良いと、語った。

 

「わかった」

 

奏は、ハッキリ言って、何も考えてなかった。

 

「詩音くんなら、何を考えているんだろう…?」

 

と、奏が詩音のチャットに、連絡した。

 

(詩音君、突然だけど、

今後、どうしたいの?)

 

(そうだな…僕は、まふゆちゃんと、

奏ちゃんの支えになりたい)

 

(そうなんだね)

 

(何かあったの?)

 

(ううん、何でもない)

 

(わかった)

 

チャットを終えて…

 

「わたしとまふゆを支えたいか…

うん、助けてくれる人もいるんだね」

 

と、奏は感じるのだった。



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第十九話 まふゆと奏の秘密の夜

夕方5時頃。宵崎家にて。

 

「奏」

 

「まふゆ。どうしたの?」

 

「一緒にお風呂に入りたい」

 

「わかった。入ろう」

 

奏とまふゆは、一緒にお風呂に入り、

身体を洗った後、湯船に浸かった。

 

奏は、まふゆのスタイルの良さに関心を寄せていた。

 

「まふゆって、スタイル良いね」

 

「そう…かな?」

 

「うん。わたしと比べると、ずっと」

 

「触って欲しい」

 

「えっ?そ、そんな…

わたし、他の人の身体なんて、触ったこと無くて…」

 

「触って欲しい」

 

「う、うん…」

 

奏は、まふゆの胸をプニプニと触った。

 

「柔らかい…これが、女の子の、おっぱい…」

 

「奏も、女の子でしょ?」

 

「そ、そうだけど…

あっ、身体、洗ってあげる」

 

「ありがとう」

 

奏は、まふゆの身体を、石鹸で、きめ細かく洗った。

 

「くすぐったい」

 

「女の子って、スキンシップが好きなのかな…?」

 

「よくわからない」

 

「わたしも、わからない」

 

「でも、気持ちがいい。

奏と一緒にお風呂に入れて、幸せ」

 

「そっか」

 

夕方6時。

 

「まふゆ、実は…料理、作ってみたの」

 

「料理?」

 

「うん。望月さんに教えて貰って、

ハンバーグを作ってみた」

 

まふゆは、奏の作った、チーズハンバーグを一口、食べた。

 

「美味しい。私のお母さんよりも、ずっと、優しい味がする」

 

「そうなんだ…」

 

「奏。私、気持ちが辛い。だから、一緒に寝たい」

 

「えっ?」

 

「何だか…寂しいから」

 

「わかった。一緒に寝よう」

 

と、奏とまふゆは、二階に上がり、

一緒のベッドで、

一緒の布団で寝ていた。

 

「暖かい」

 

「そうだね」

 

「奏…暖かい」

 

と、まふゆは奏をギュッと抱きしめた。

 

「ちょっと、まふゆ!?」

 

「私、奏のことが好き。詩音くんと同じくらい」

 

「えっと…」

 

「このまま、ずっと、奏と一緒にいたい。

詩音くんとも、一緒にいたい」

 

「そうだね」

 

「発情しちゃった」

 

「えっ?ははは、発情!?」

 

と、奏は発情の意味を知らないようだ。

 

「その…私、奏とイケナイことがしたい」

 

と、まふゆが、突然、奏の前で脱ぎだす。

奏は思わず、目を手で隠そうとするが…

 

「ダメ、ちゃんと見て」

 

「うぅ…女の子同士でも、それは…ダ、ダメだよ…」

 

「私も、奏のこと、誘惑できるから」

 

と、ブラジャーとショーツ姿のまふゆを、

奏の目に映ってしまい、奏は赤面になっていた。

 

「触って」

 

「う、うん…」

 

奏は、まふゆの、胸をホニュホニュと触れていた。

 

「柔らかい…女の子って、柔らかいのかな?」

 

「そうだよ?柔らかいよ?抱いて」

 

「えっ?あっ、えっと…女の子を抱いたことが無くて…」

 

「奏が、思うように抱いていいから」

 

「うん」

 

と、奏は、まふゆをギュッと抱きしめた。

 

「いい香りがする。奏の香りがする」

 

「わ、わたしの香り!?」

 

「奏から、いい匂いがする」

 

「そ、そんな」

 

「私は、女の子なら奏と、男の子なら詩音くんとケッコンしたい」

 

「えっ?ええええええっ!?」

 

「驚くことなの?こんなに好きなのに?」

 

「うん…そんなに、わたしのことが、好きなんだ」

 

「すごく好きだから。詩音くんと同じくらい」

 

と、まふゆからのアプローチがすごいと、

奏は感じた。



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第二十話 まふゆの女の子の日

まふゆが目を覚ますと、異常な倦怠感に悩まされていた。

 

「うぅぅ…」

 

唸り声をあげる。

周期と体調的に、気分が和らいだり、

マシになったりすることは、欠片だってありはしない。

このまま一切動きたくはない。寝たい、一心だった。

 

その痛みが、去ろうとするまでは、異常に時間がかかる。

 

時刻は朝の七時半。すぐ手が届く範囲に、ペットボトルの水と、

小物類だとかを詰め込んだポーチを置いてあった。

緩慢な動きでそれを手に取り、

中をごそごそと探る。すぐにそれを掴み取った。

 

しかし、中には何もなかった。

 

「…最悪」

 

「まふゆ!?」

 

と、タイミングよく、奏が、まふゆの元へ。

 

「あぁ…」

 

言葉ですらない唸り声が止まらないのは、ただでさえ、最悪な気分が、

その更に下まで落ちて行ったから。

床に落ちてから、更に抉ってめり込んでいる。

 

底の底まで落ちた気持ちは、億劫どころか、

こんな痛みと気分の悪さで、一体何を学べるというのか。

 

唯一の救いは、まだ、比較的…本当に、比較的に痛みが軽いことだけ。

頭痛はすれど、猛烈な吐き気は襲ってきてはいない。

この後、悪化しないとも言い難いけれど、今ならば手を打てる。

 

好転しないとはいえ、動かないといけない。

 

奏に頼むしかない。まふゆは、そう考えるのだった。

 

「か、奏…」

 

「まふゆ!ど、どうしたの!?」

 

「きちゃったんだ…」

 

「えっ!?」

 

「女の子の日…」

 

「どどど、どうしよう!?」

 

「私を…助けて!」

 

「よーし!私が看病する!」

 

と、奏が、女の子の日の、まふゆを看病することになった。

 

「詩音くんを呼んできて」

 

「わかった…」

 

奏は詩音に電話して、まふゆの元へに来て欲しいと、

スマートフォンで連絡した。

 

そして、10分もしないうちに、最愛の彼氏である、

吉川詩音が、やって来た。

 

「だ、大丈夫!?まふゆちゃん!?」

 

「手を握らせて、詩音くんの手」

 

「えっ?こ、こうかな…?」

 

「冷たい…優しんだね」

 

「うぅ…」

 

「私は、詩音くんと奏のことが好き。

三人でケッコンして、幸せな家庭を築きたい」

 

「僕は、まふゆちゃんが幸せなら、それでいいから」

 

「ありがとう、詩音くん」

 

「あっ、そろそろ、学校だから!」

 

「いってらっしゃい」

 

と、入れ替わりのタイミングで、

もう一人の最愛の人物、宵崎奏が、部屋に入った。

 

まふゆを襲っているのが、

数年前から、月に一度訪れる、女の子の日。

 

とはいえ、まふゆのソレは特段強く、行儀も悪い。

ひと月、ふた月、来ないこともあれば、

予定を繰り上げて来ることもある。

 

ともあれ、月の物だと分かれば、手馴れたもの。

奏は、床に寝そべっている、まふゆを優しく抱き起こすと、

そのままベッドへと座らせる。

まふゆが机近くを指差すと、そちらに顔を向けてから、

すぐに心配の二文字を顔に貼り付けながら、お腹をさすってくれる。

 

「今日は休む?」

 

「うん…」

 

「わかった」

 

奏に着替えを取ってもらってから、

サニタリーショーツへと履き替えるところを、

奏にマジマジと見られても、奏だけに見られるなら、

まふゆは別に気にしていなかった。

 



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