コバルトブルー (RPM)
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01:REVIVER

 

 

マン島TTレース。

 

イギリスのグレートブリテンと、

アイルランドに挟まれているが、

イギリスではなく独立国でもない。

 

政治的には複雑な背景を持つ島、

マン島で開催されるレース。

 

毎年5月最終週から6月第一週にかけて、

バイクレースとサイドカーレースが行われる。

 

1907年から110年以上の歴史の中で、

240人以上の死者を出して来た。

 

伝統と危険の舞台。

 

それなのに、参加希望者は後を立たず、

ヒトの競争本能を思い知らされる。

 

 

コースの全長は60・7キロメートル。

 

しかしクラスにもよるが現代のバイクは、

およそ16分~20分で周回してしまう。

 

トップスピードは300キロ、

平均速度は200キロを越える。

 

400メートル近い高低差、

200を越えるコーナーの数。

 

コーナーの数が正確ではないのは、

島の地形に合わせた自然の道であり、

コーナーともストレートとも付かない、

曖昧な区間も多いためである。

 

それでいて道幅は二車線程度しかない。

ここでの失敗は、ほぼ死に直結する。

 

 

そこに挑む一人の日本人ライダー。

 

バイクに跨がり、

感覚を研ぎ澄まし、

スタートを待つ。

 

(前が出てから10秒、そろそろか)

 

・・・トントンッ

 

肩を叩くスタートの合図。

 

スロットルを全開にし、

鋼のじゃじゃ馬を開放する。

 

加速しながらアドレナリンが噴出し、

恐怖と理性のリミッターがはずれていく。

 

(来た来た、この感じだぜ。)

 

スタート直後のハイスピード区間を抜け、

木々が生い茂る区間へと入っていく。

 

(ここらで1/5過ぎたくらいか?)

 

木々の視界が開け住宅街の区間。

 

壁に挟まれているため、

見た目以上に狭く感じる。

 

ここでほんの一瞬、

それは一秒にも満たない時間。

 

僅かに体重移動が遅れた。

 

(クソッ、フロントが浮いちまっ・・・)

 

前輪が浮く事自体はマン島のような、

細かい起伏の多い場所では珍しい事ではない。

 

そのため事前に体重移動をして、

車体を持って行きたい方に行かせるのだ。

 

それが遅れたという事は・・・。

 

 

____

 

 

 

(あれ?ここは?)

 

直前の記憶は壁にシールドの当たる、

「コツン」とした音。

 

そして意識が途絶えた。

 

(つーか・・・生きてる?)

 

アドレナリンの過剰分泌で恐怖心が消え、

やけに客観的に自分を見れていた。

 

(起きてみるか?)

 

起き上がり回りを見る。

どうやら何処かの病室のようだ。

 

(何で首が無事なんだ?って、痛っ!)

 

あの事故り方では普通なら、

首の骨の粉砕骨折で即死だろう。

 

しかし痛みを感じるのは右足だった。

 

頭が追い付いていない状況だが、

誰かに話を聞く必要があるだろう。

 

(看護婦さん呼ぶか。って、日本語?)

 

イギリスの病院に運ばれたのなら、

ナースコール等の表記は英語の筈。

 

しかし書かれているのは日本語だった。

 

(・・・とりあえず話が先だな。)

 

看護婦と医師がやって来る。

 

「おはようございます。」

 

「記憶が曖昧なんですが、

交通事故ですかね?」

 

「ええ。バイクで出会い頭に、

跳ねられたようですね。」

 

淡々と怪我の状態を説明され、

医師は他の病室へと向かう。

 

看護婦に鎮痛剤を注射され、

安静を言い渡させる。

 

(あの耳と尻尾は何の冗談だ?)

 

今は5月か6月。

 

コスプレにしては時期がおかしい。

ハロウィンでもエイプリルフールでもない。

 

そしてなにより耳も尻尾も、

生きているかのように動くのだ。

 

(訳は分からないけど、

コスプレだったら手が込んでるな。)

 

イギリスとの時差ボケで、

変な夢でも見ているのかとも思ったが、

どうやら現実のようである。

 

どの道ベッドからは動けないので、

目覚ましにテレビでも見る事にした。

 

(ん?競馬中継?)

 

『快速自慢が集う東京マイル安田記念、

春のマイル王は誰の手に?』

 

『三番人気、ゴールドシチー、

二番人気はこの娘、タイキシャトル』

 

『本日の一番人気、オグリキャップ』

 

『各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました。』

 

「!!!・・・ウマ娘?」

 

違う世界に来ている事を、

男はようやく理解する。

 

(俺が異世界転生だと?)

 

そう、さっき見た看護婦はウマ娘だったのだ。

 

『ガシャン!』

 

『各ウマ娘キレイなスタートを切りました。』

 

(だいたい2ブロックぐらいに分かれたか?)

 

『残り1000メートルを通過。』

 

競馬の知識はないが、

短距離決戦であるらしい。

 

『第4コーナーカーブ、

ここから仕掛けどころだ!』

 

『最終直線。

オグリキャップとゴールドシチー、

二人のつばぜり合いだ。』

 

『残り200、オグリキャップ抜け出した!』

 

『一着はオグリキャップ!』

 

ついつい見入ってしまった。

彼女達は姿形は人間と大差ないが、

走行スピードはかなり速いようだ。

 

最終直線。

モータースポーツならエンジンが物を言う。

トップエンドから更に伸びるような加速。

 

(とりあえず・・・)

 

テレビを消して状況を整理する。

 

・男はマン島レースで死亡し、

この世界にやって来た。

 

・この世界にはウマ娘という種族が居る。

 

現状見える限りウマ娘以外は、

元の世界と大きい差はなさそうか。

 

とりあえず身辺調査。

 

枕元の免許証とスマホの電話帳で、

こっちの世界の自分を確認する。

 

監督やチームの名前を確認し、

自分は自分のままである事を知る。

 

とりあえずメッセージアプリから、

チームのグループを見つける。

 

目覚めた事とチームに迷惑をかけた謝罪、

後遺症でバイクに乗れない可能性等を伝える。

 

事故は男だけの責任ではない事、

今度見舞いに来る旨などが返信で来る。

 

もし自分でレースが出来なくなるのなら、

ウマ娘。彼女達に夢を託すというのも、

悪くないのだろうか。

 

(レースが生き甲斐だったつもりだけど、

俺も案外淡々としてるよな。)

 

普通なら落ち込んでいる状況なのに、

何故か生きていた事の驚きが勝っていた。

 

(生きてるだけで儲けモン。ってね。)

 

 




サブタイトルは、
MY FIRST STORYのREVIVERから。


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02:調べて、出会う

 

 

あるレーサーは言った。

「死ぬ事も契約の内」であると。

 

またあるレーサーは言った。

「真っ直ぐ走るならジャガイモの袋でも、

アクセルに乗せておけば良い。

ジャガイモは恐怖を感じないからだ。

だけどレースにはコーナーがあるから、

人間の判断力が必要になるんだ。

そして同時に恐怖も産まれる。」

 

またある文豪はこう言った。

「スポーツと呼べるのは登山と闘牛と、

モータースポーツだけだ。

それ以外は単なるゲームに過ぎない。」

 

(死線をくぐる場所にこそ価値がある。か?

今言ったら顰蹙を買いそうだけどな。)

 

ベッドにカンズメ状態のため、

スマホで様々な電子書籍を読み漁る。

 

レースの世界には、

恐怖や死に対する名言が数多い。

 

しかし形として残すのは、

マン島レースが唯一ではないだろうか。

 

マン島レースに出る者たちは、

事前に遺書を書いてレースに挑む。

 

「何があっても自己責任」

という覚悟が必要なのだ。

 

彼の遺言はシンプルだった。

 

ちゃんと日本式に火葬して、

骨壺に入れてさえくれれば良い。

 

という物だった。

 

(あとは好きにしてくれ、ってな。

年俸も残った連中で使って欲しい。

良い酒で献杯でもしてくれりゃいい。)

 

レーサーを「命を粗末にする仕事」とする、

家族との折り合いがあまり良くなかったため、

もしもの時の事はレース仲間に託してあった。

 

(しかし暇だなぁ。)

 

ケガは右大腿骨の複雑骨折。

 

バイクに乗る場合、

普通のツーリングでは問題ないが、

レースには使えない足になっていた。

 

素早いクラッチやリアブレーキの操作、

膝を路面に当てるハングオンコーナリング。

色々と支障が出てしまう。

 

(参ったねぇ。)

 

見舞いに来たチームメイトや関係者には、

医師を交えて説明をし引退する旨を伝える。

 

「そうか・・・残念だがこればっかりはな。

何か協力出来る事があったら言ってくれ。」

 

「ええ。その時はまた。」

 

バイクに乗り始めたのは16の時、

元々四輪志望でありカートからデビューした。

 

その後F4へのステップアップ。

 

テストには受かったものの、

レーシングスクールに行く金は、

家族もカートのチームも頼れなかった。

 

そして家族の元を離れて、

バイクレースへと転向したのだ。

 

カートまでは自由にさせてくれた家族も、

これ以上は危険と判断したのだろう。

 

(また四輪に戻るのも手かもしれねぇが、

治療のブランクを考えると難しいだろう。

契約した以上は結果を出さないとだからな。)

 

(ん?そういやバイクはどうなった?)

 

看護婦を呼び車イスに乗せて貰う。

 

「押していきますか?」

 

「いえ、自分で動けます。」

 

(随分軽々持ち上げられたな。

ウマ娘ってすげーんだな。)

 

驚きつつも通話可能エリアへ移動。

 

走り屋時代から世話になっていた、

バイクショップに問い合わせる。

 

『もしもし、ご無沙汰してます。』

 

『なんだ、意外と元気そうじゃねーか。』

 

『ええ、まあ。

俺のバイクどうなってますか?』

 

『怪我の割に軽症だな。あと、

アイツが持ってきてくれたから、

あとでお礼言っときな。』

 

『はい、分かりました、

お世話になります。』

 

電話を切り、

今度は走り屋時代の仲間にLANEを送る。

 

『バイク持って行ってくれたって?

度々世話になるな。ありがとう。』

 

『良いって事よ( ´∀` )b

俺はお前のファン第一号だぜ。

あと、着替えの方は足りてるか?』

 

『とりあえず足りてる。

また足りなくなったら頼む。』

 

『ああ、了解。

それと、これからどうすんだよ?』

 

『怪我が治らない事には分からねえが、

ウマ娘に興味が出てきたかな。』

 

『こっちの界隈に来るなら歓迎するぜ。

ウチの会社は娘達のジャージも作ってる。

搬入の仕事があるからまたな。』

 

(人間関係はあっちの世界のまま、

だけど所々変化もあるってわけか。)

 

仲間の男はスポーツウェアメーカーの社員。

 

ライダースーツのインナー等を、

彼のメーカーから提供して貰っていた。

 

それがこちらの世界では、

ウマ娘達にも関わる仕事になっていた。

 

(昔の人間関係に助けられる。

ってヤツかね。そういうのはもっと、

歳を取ってからだと思ってたけど。)

 

 

病室に戻りスマホに「月刊トゥインクル」

という雑誌のバックナンバーや、

ウマ娘の書籍を纏めてダウンロード。

 

ウマ娘という種族、

元の世界での競馬との相違点、

色々と知っておく必要がある。

 

その後数時間をかけて読む。

 

(目が疲れて来た。

一旦休憩して情報を整理しようか。)

 

ウマ娘は、

別世界の名と魂を受け継ぎ、

産まれて来る存在。

 

古くより人類と共存し、

モータリゼーションの発展までは、

物流や力仕事などで活躍していた。

 

元の世界における競馬、

トゥインクルシリーズは日本では、

第二次大戦後の時代に発展したが、

起源は平安時代にあるとも言われる。

 

また世界全土では、

紀元前のギリシャが最古とされる。

 

現代のように競技として形作ったのは、

16世紀イングランドとの事である。

 

またアメリカでは西部開拓時代。

 

インディアン達先住民や、

牛追いのカウガールウマ娘が、

直線のレースで競い合っており、

ドラッグレースの起源ともされる。

 

(ここにゼロヨンの起源があったとはねぇ。

何事も温故知新ってヤツかな。)

 

ウマ娘の起源はレビューの中には、

都市伝説だと一蹴する声もある。

 

しかし、

女性でありながら男性の定冠詞、

「ミスター」や「キング」

の名を持つ者も居る事等から、

別世界の存在についても、

議論の余地ありとの声もある。

 

別世界については自分の居た世界だが、

異世界などフィクションの物だと、

彼自身思っていたのだ。

 

(どうせ言った所で誰も信じねぇよな。)

 

(とりあえず種族の不思議はまだ、

解明されていない部分もあるって事か。)

 

様々な書籍を読む中で「トレーナー」

という職業を知りレースに関わるのなら、

その職を目指すべきだろうと思う。

 

経験しなければ分からないたろうが、

人間のアスリートで言えば、

インストラクターに当たる物と解釈する。

 

(セカンドキャリアには早い気もするが、

レーサーでもいつかは通る道だ。)

 

どんな世界でも世代交代は必ず訪れる。

彼もいつかは後輩を指導する立場になる。

それが違うレースになっただけの事だ。

 

(結局俺はどんな形でも、

レースに携わる仕事がしたいのか。

レース馬鹿は死んでも治らなかったってか?)

 

____

 

 

数ヶ月後、

トゥインクルシリーズの秋シーズン。

 

サイレンススズカが、

毎日王冠を驚異的な大逃げで制し、

その直後の天皇賞秋で骨折という、

波乱の幕開けで始まった。

 

 

彼の足は松葉杖で歩けるまで回復。

 

現役時世話になったドクターに、

トレーナーになる上で役に立ちそうな知識、

人間工学等様々な話を聞く。

 

人間とウマ娘では、

発生するパワーに大きな差があるが、

流用出来る部分もあるかもしれない。

 

参考までにサイレンススズカ。

 

1000メートル通過時のタイムから、

速度を計算してみる。

 

1000÷57.4=62.7

 

ラストスパートではさらに加速し、

骨折する直前は70㎞程出ていたと思われる。

 

(だいたいスポーツカートか、

原付の最高速と同じぐらいだな。)

 

その速度を、

人間とほぼ変わらない体で出すためか、

食欲旺盛なウマ娘も多いとのこと。

 

(消費するカロリーは走るためだけじゃなく、

骨格や筋肉が吸収してる部分もあるだろうな。)

 

まずは、

中央トレセン学園トレーナー試験。

 

受からない事には何も始まらないが、

自分がレースを経て得た物。

 

役に立つ物は何でも使っていく。

 

(かなりの難関って聞くけどどうかな。)

 

(色々考え事したからか、

腹減ったな。売店行くか。)

 

売店に行ってみると、

なにやら騒がしい。

 

制服姿のウマ娘達が、

差し入れがどうのこうのと言っている。

 

(女三人よれば姦しい。ってヤツかな。)

 

「いちご大福売ってませんか?

スズカさんの好物なんです。」

 

(ん?スズカ?)

 

「申し訳ありません。

和菓子は賞味期限が短いので、

取り扱ってないんです。」

 

「しょうがないだろスペ。

代わりに何か別の菓子にしよう。」

 

「すいません。ちょっと通して下さい。」

 

黄色いカッターシャツにベスト、

アシンメトリーヘアが特徴的な男と、

並んでいるウマ娘達に断り売店に入る。

 

すると、

 

「え?あの?」

 

「ん?俺がどうかしたか?」

 

「違ったら申し訳ないっすけど、

ライダーの芥瀬(あくたせ)さんっすか?」

 

「ああ、そうだけど、キミは?」

 

「ま、マジっすか!?

オレ、ウオッカって言います。

いつもレース見てました。」

 

「そいつはどーも。こんな状態じゃなきゃ、

もっと良かったけんだけどな。」

 

「えーと、その、足は大丈夫なんすか?」

 

「とりあえずバイクは引退だな。」

 

「そ、そんなぁ。」

 

「ん?ウオッカ、コイツは?」

 

「紹介が遅れました。

元ライダーの芥瀬流貴(あくたせるき)と申します。」

 

「ほう、ウオッカはバイク好きだもんな。

有名人に出会えて嬉しいんじゃないか?」

 

「まさかスズカ先輩と同じ病院だったなんて、

すげー偶然っすね。今度サイン下さい!」

 

「そいつは良いけど、

ちょっと落ち着こうか。」

 

「あはは・・・。」

 

「貴方は、彼女達のトレーナーさんですか?」

 

「ああ。沖野ってモンだ。よろしくな。」

 

「そうでしたか。

色々とお聞きしたい事があります。」

 

「ん?良く分からんが、

とりあえず一緒に来るか?

スズカの見舞いに。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

そしてスズカの病室に向かう一行。

 

 



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03:それぞれの戦場

 

 

日本人MotoGPライダー、

芥瀬流貴(あくたせるき)

 

その名前とブレーキングを最小限にし、

アクセルの全開時間を長く取るドリフト、

スライドを駆使するアグレッシブな走り。

 

派手好きの観客に受け、

アクセルボーイと呼ばれていた。

 

彼のライティングスタイルは、

高い平均速度を維持出来るため、

予選でのスーパーラップに向いていた。

 

しかしタイヤへの負担が大きい弱点もあり、

彼自信タイヤマネジメントに課題があった。

 

特に柔らかい素材を使う、

レインタイヤとは相性が悪く、

雨のレースを苦手としていた。

 

 

____

 

 

売店で差し入れの菓子類を購入し、

スズカの病室へ向かう一行。

 

移動しながら話す。

 

「なるほどな。トレーナーになりたいのか。

俺は歓迎するし、紹介もしてやるよ。

トレーナーも人手不足なもんでな。」

 

生徒数およそ2000人。

と言われる中央トレセン学園。

 

生徒数に対して、

トレーナーの数が足りていないらしい。

 

(まぁそんだけウマ娘が居ればそれもそうか。)

 

「俺達はスピカってチームだ。

もしかしたら知ってるかもしれねぇが。」

 

「ええ、雑誌で拝見しました。」

 

「お前らも自己紹介しておけ。」

 

「はい、スペシャルウィークです。

よろしくお願いします。」

 

「こちらこそ、よろしく。」

(確か今年のダービーウマ娘だったな。)

 

「ボクはトウカイテイオー。

よろしくね、ルキちゃん。」

 

「ああ、よろしく。」

 

(人懐っこい娘だな、トウカイテイオー。

確か来年のクラシックの有力株か。)

 

「ゴルシちゃんだぞ!なぁなぁ、

オメェの足は改造でもされてんのか?」

 

「・・・は?」

 

「ゴールドシップさんの言葉を、

いちいち間に受けては身が持ちませんわ。」

 

「キミは?」

 

「メジロマックイーンですわ。

以後、お見知りおきを。」

 

(ゴールドシップは現在デビュー戦のみ、

メジロマックイーンは名門メジロ家か。

彼女もクラシックの有力株だったな。)

 

「さっきも聞いたけど改めてよろしく。」

 

「ウオッカっす。よろしくお願いします。」

 

「アタシはダイワスカーレットです。

よろしくお願いします。」

 

(この二人もまだデビュー戦のみ、

しかしティアラ路線にて有力株か。)

 

色々と会話をしながら、

スズカの病室に到着する。

 

「今日も来てくれたんですね。あら?

そちらの方は?新しいトレーナーさん?」

 

「はじめまして。芥瀬流貴ってモンだ。

一応これでも、バイクで世界を戦って来た。」

 

「レーサーの方ですか?」

 

「そうだな。今は引退した身だが。」

 

「その足はレースでのお怪我ですか?」

 

「いや、記憶が飛んじまってるが、

どっかで轢かれたらしいな。」

 

「それは、その・・・残念です。」

 

「まぁ、起きちまった事は仕方ねぇ。

そっちも似たような状況じゃないか。

中継で見させてもらったよ。」

 

「私も途中の記憶は曖昧なんです。」

 

「そいつは当日にも聞いたが・・・芥瀬、

そっちの世界でも似た事はあるのか?」

 

「そうですね。強い衝撃を受けた時、

意識と記憶が飛ぶのは一説によると、

防衛本能の一種だと言われています。」

 

「なるほどな。身を守るって訳か。

俺も時々コイツらに蹴られて意識が飛ぶが、

もうすっかり慣れちまったな。」

 

「・・・何したんすか沖野さん。」

 

「アンタはデリカシーがないのよ。」

 

「いつも一言多いんダヨネー。」

 

散々な言われようだが、

こういったイジり合いが起きるのも、

信頼があればこそだろう。

 

(まぁそんだけ懐かれてるって事か)

 

確かに沖野は無精髭や結んだ襟足等、

所々にだらしなさも見える。

 

しかしG1ウマ娘を教育してきた、

トレーナーとしての手腕は確かだろう。

 

 

するとそこに、

 

(コンコンッ)

 

「芥瀬さんに面会のお客様がおいでです。」

 

「わかりました。」(・・・誰かな?)

 

自分の病院に移動し始める流貴。

 

「・・・あれ?」

 

「どうした?ウオッカ。」

 

「なんかオイルの匂いがするんすけど。」

 

「ウマ娘は鼻がきくな。付いて来るかい?」

 

「良いっすか?じゃあ、

ちょっと行って来るわ。トレーナー。」

 

「ああ、わかった。」

 

____

 

 

流貴の病室には、

ツナギ姿の男が待っていた。

 

「お待たせしました、久しぶりです先輩。」

 

「久しぶりだな。すっかり出世しやがって。

街のならず者だった俺達からよ。」

 

「あれ?店長じゃないっすか。」

 

「なんでウオッカも居るんだ?」

 

「スズカ先輩のお見舞いっす。」

 

「へぇ、流貴と同じ病院だったのか。

意外と世間は狭いってヤツかね。」

 

「二人はどういう知り合い?」

 

「オレの父ちゃんのバイク見て貰ってます。」

 

「なるほどね。では今日はバイクの件で?」

 

「そうだ。流貴のバイクが直った報告だよ。

ちょいと年式が古い車種だったからな、

パーツを集めるのに時間がかかった。」

 

「ありがとうございます。

でもわざわざ来る程の事ですか?」

 

「ついでにツラ見とこうと思ってな。

しかし、その足じゃ満足に乗れないだろ。」

 

「そうですね・・・、

そういやウオッカ、免許は持ってんのか?」

 

「持ってますよ、普通免許っすけど。」

 

「それなら、大丈夫だな。」

 

「・・・え?」

 

「俺のバイク、ウオッカに譲るよ。」

 

「い、良いんですか!?」

 

驚きつつも耳と尻尾が嬉しそうに揺れる。

 

「俺も良いと思うな。ウオッカは、

バイクのためにお年玉貯めてんだろ?」

 

「なんで知ってんすか!?」

 

「オヤジさんから聞いたよ。

それだけ本気って事だ。良いじゃないか。」

 

「じゃあそのお金は、

維持費やガソリン代に回せ。

ちゃんと取っておくように。」

 

「当たり前じゃないっすか!」

 

「オヤジさんにも話を通しておいてくれ、

在学中は名義をオヤジさんにした方が良いと思う。」

 

「了解っす。」

 

「車検と保険関係の書類はウチにあるから、

流貴は実印の入った委任状と免許。

あと印鑑証明のコピーを取っといてくれ。」

 

「了解しました。」

 

「俺は用事が済んだから帰るけど、

ウオッカはどうするんだ?」

 

「スズカ先輩の所に戻ります。

芥瀬さんはどうしますか?」

 

「色々調べて疲れたから、

夕飯まで昼寝でもするかな。」

 

「じゃあまた今度っすね。」

 

「じゃあ流貴、またな。」

 

「ええ、また。」

 

____

 

 

「そういえば芥瀬さんのバイク、

車種はなんすか店長?」

 

「それは見てからのお楽しみだぜ、

とりあえずヤマハとだけ言っとく。」

 

「チームと同じメーカーっすね。」

 

「流貴はヤマハが好きなんだ。」

 

「あと、名義変更って意外と簡単なんすね。」

 

「本人がやる場合はもっと簡単だぜ?

紙切れ一枚だ。だけどそこから始まる色々、

乗り物と乗り手の絆は簡単なものじゃない。」

 

「父ちゃんもずっと長い間、

古いバイクをメンテして乗ってますね。」

 

「ウチとしちゃありがたいお客さんだ。

それと、紙切れ一枚で始まるのはお前ら、

ウマ娘のレース登録だってそうだろ?」

 

「確かにそっすね。」

 

「世の中だいたいのモンは、

たった一枚の紙切れから始まるが、

そこから始まる出来事は簡単なモンじゃない。」

 

「うーん、まだオレには分かんないっす。」

 

「ま。こういうのは、

経験してみないと分かんないよな。

・・・そんじゃ、またな。」

 

「はい、またお店で。」

 

____

 

 

それから数日。

 

お互いの暇潰しを兼ねて、

スズカと色々な話をする。

 

「私と同じ名前のレース場ですか?」

 

「ああ、ついでに市の名前も同じだぜ。

三重県鈴鹿市、鈴鹿サーキットだ。」

 

スマホで検索をかけるスズカ。

 

「面白い形をしていますね。」

 

「立体交差のあるサーキットは、

世界的にも珍しいからね。」

 

「そうなんですね。」

 

「世界選手権のトリになる事も多いけど、

俺が走ったのは全日本の時代だな。」

 

「えーっと?どういう事ですか?」

 

「キミ達ウマ娘のレースだと海外遠征は、

ある程度の戦績があれば自由に組めるだろ?

でもモータースポーツは選ぶ選手権によって、

スケジュールが決まってるんだ。」

 

「それは・・・ちょっと窮屈というか、

そんな風に感じた事は無いんですか?」

 

「俺にも苦手なコースはあるから、

色々面倒な事もある。けど逆に言えば、

早目に対策を考えられるって事でもある。」

 

「レーサーの方はそういう風に考えるんですね。」

 

「その辺は人によって変わるかな。

直感や感覚で走るタイプも居れば、

データを見て走りを変えるのも居る。

スズカは割と感覚で走ってないか?」

 

「そうかもしれません。

先頭で走ってレース中感じるのは、

風と自分の鼓動。それが気持ち良くて。」

 

「あと、コースの暗記はしてるか?」

 

「暗記・・・ですか?」

 

「ああ。そっちのレースだと、

もしかしてあまり意識しないかな?」

 

ウマ娘のレースは最長3600m。

周回数にして2周前後といったところ。

 

形もシンプルなオーバルトラックであり、

スプリントやマイルでは半周程度の距離。

 

サーキットレースのようにコースを覚える、

暗記する必要はほとんど無いのだろう。

 

「言われてみれば、考えた事ないかも?」

 

「やっぱりそうか。同じ競争競技でも、

自分の足で走るのと機械で走るのとじゃ、

色々と違う所も出て来るもんだな。」

 

(コンコンッ)

 

「夕飯の時間ですよ~。」

 

「おっと、もうそんな時間か。

じゃあスズカ、また今度な。」

 

「はい。楽しいお話、

ありがとうございます。」

 

____

 

 

またある日。

 

スズカに聞かれる。

 

「芥瀬さんは、どうして日本に?」

 

「終活って言ったら、大袈裟かな。

ヤバいレースに出る予定だったから。」

 

「・・・えっ?」

 

「MotoGPの事、調べたんだろ?」

 

「はい。5月~6月の間も、

レースの日程が入っていました。」

 

5月~6月。MotoGPにおいては、

スペイン、フランス、イタリア、

カタルーニャ、ドイツ、オランダでのレース。

 

さらに言えばこの年はドゥカティと、

流貴の所属するヤマハが好調であり、

星を分け合いつつの上半期終盤。

 

その重要なラウンド蹴ってまで帰国した理由。

 

それは向こうの世界と同じく、

マン島に向けての身辺整理や終活であった。

 

改めて持ち物を調べた所、

トロフィーやツナギ、ヘルメット等、

色々と保管していた貸し倉庫の鍵のコピー。

 

さらにスマホのメモ帳から、

遺書の下書きが出てきたのだ。

 

「マン島レースはサーキットじゃなくて、

整備されてない公道を走る。下手すりゃ、

バイクがどこに飛んでいくか分からない。

海岸を抜けるルートで事故れば、

崖から落ちる事だってありうる。」

 

「どうしてそんな危険なレースに?」

 

「仲間の夢だったし、

俺自信も憧れはあったレースだから。」

 

「怖くはなかったんですか?」

 

「まぁ、なんだ。死んだら死んだで、

俺に夢を託した仲間に会えただろうし、

生き残れたらハク付けになった。

どう転んでも納得する覚悟だった。」

 

「という事は、その、

お友達の方はもしかして・・・。」

 

「ああ、その通りだ。

そのうち話す事もあるかもな。」

 

「・・・。」

 

「話を戻そう。競争競技ってのは、

どうしても危険が付き纏うモノだ。

トゥインクルシリーズだって、

死亡事故がなかった訳じゃない。」

 

トゥインクルシリーズにおいて、

死亡事故の起こった例は多くはないが、

生身で走るためそれ相応の危険はある。

 

骨折による転倒時、

内ラチに頭から突っ込んでしまった場合。

 

同じく転倒時、後続のウマ娘が避け切れず、

多重事故になってしまった場合などが、

死亡事故の例として挙げられる。

 

「危険、と言われても、

私はあまり感じた事はありません。」

 

「逃げは競り合いが無いから、かな。

でも、後続に突っ込まれるリスクは、

他の脚質より増える。」

 

「じゃあ、あの時は・・・。」

 

「天皇賞の時は、上手く減速しながら、

アウトコースに避けて行ってたな。

キミは朦朧としてたようだけど。」

 

「思い出そうともしました。

でもやっぱり、記憶が曖昧なんです。」

 

「辛い所もあるだろうけど、

気になるならウマチューブとかに、

アーカイブが残ってるんじゃないか?」

 

はっとしたような顔になるスズカ。

 

「気が付きませんでした。」

 

「アーカイブでオンボードとかの映像見て、

自分の走りを見直すのは俺達はやるけど、

ウマ娘はやらない子が多いのかな?」

 

「言われてみれば確かに、

でも見返す子も居ると思います。」

 

「色々見てみると良い。

どうせ入院中は暇だしな。」

 

「そうですね。」

 

「そろそろ戻ろうかな。喋り疲れた。

んじゃあ、またな。」

 

「はい、また。」

 

____

 

 

その日の夜。

 

(なんか妙だな?)

 

ここ数日間、スズカへの見舞いが来ていない。

 

(そんなに薄情なヤツらとも思えないし、

学園の方で何かあったのか?)

 

するとスマホにLANEが届く。

 

度々やり取りしている、

走り屋時代の仲間からだ。

 

『学園の回りを、

パパラッチ共がうろついてやがる。

搬入の邪魔だクソったれ。(ーーメ)』

 

『もしかして生徒は外出禁止?』

 

『かもしれねぇな。

スズカの様子はどうだ?』

 

『あれ?なんで知ってんの?』

 

『先輩から聞いたし、

着替えの手配もウチでやってる。

伝票見りゃ分かるのよ。』

 

『なるほどね。

一応話し相手にはなってるけど。』

 

『まぁ形は違っても、

お前もスズカもレース馬鹿だから、

話が合う所もあるかもな。』

 

『馬鹿は褒め言葉として受け取っとく。

けどやっぱり二人じゃ寂しいかな。』

 

『もうちょい間を持たせてくれ。

なんとか対応を考えてみる。』

 

『分かった。

ほとぼり冷めたら教えてくれ。』

 

『ああ、またな。』

 

『おやすみ。』

 

 



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04:CHASE

この物語はフィクションです。
実際の運転では交通ルールを守り、
安全運転を心掛けましょう。


 

 

週末深夜。

 

首都高、代々木PA。

 

喫煙所で一服する男。

 

彼の名は洋谷江助(ひろやこうすけ)

 

芥瀬流貴の走り屋仲間で、

現在はトレセン学園にジャージ等を提供する、

スポーツウェアメーカーの社員である。

 

(そろそろ来るかな?来ないんなら、

日を改めるけど、軽く回って帰るかな?)

 

府中から首都高に乗りC1に向かう場合、

国立府中ICから中央道を抜け、

高井戸ICから4号新宿線に乗る。

 

代々木PAは目の前にある、

代々木公園の木々を見て落ち着いたり、

待ち合わせにも使えるスポットなのだ。

 

コースに出ようか迷い始めた頃。

 

聞き覚えのある、

ランボルギーニサウンドが近付いてくる。

 

マルゼンスキーが乗る深紅のスーパーカー、

ランボルギーニ・カウンタックである。

 

(来た来た、相変わらず腹に響く音だなぁ。)

 

江助のクルマの横にカウンタックを付け。

歩いて来るマルゼンスキー。

 

「おまた~、ジャージ屋くん。」

 

「よう。調子良さそうな音してるな。」

 

「タッちゃんはバッチグーね。」

 

「本人は元気が無いって?」

 

「君も分かってるでしょ。

学園の回りに記者さん達が一杯で、

ちょっとした出入りにも気を使うのよ。

チョベリバだわ、疲れちゃった。」

 

「そうか、マルゼンは寮じゃないもんな。」

 

「私とシービーちゃんね。」

 

殆どの生徒が寮生活の中、

一人暮らしを選んでいるのは、

マルゼンスキーとミスターシービー。

 

門限や消灯時間を気にせずに、

自由に生活出来るのが利点だが、

今のように出入りし辛い状況では、

それらがデメリットになる。

 

「寮は色々制約もあるし、

気を使う事も増えるがこういう時は、

衣食住を全部出来るのが利点だな。」

 

「そうねぇ。でも私は、

タッちゃんでドライブしたいから、

この生活を変えたくはないわね。」

 

「そうか。んじゃ、

ちょっと提案だ。上手くいけば、

パパラッチを追い払えるかもしれない。」

 

「何をするつもり?」

 

「ちょっと付いて来な。」

 

クルマのトランクを開け、

体操着とジャージを取り出す江助。

 

「私達の体操着ね、それがどうかしたの?」

 

「こいつは予備在庫だ。これを汚したり、

傷つけたりして河川敷にでも置いてくれ。」

 

「どうして?」

 

「それから、

体操着泥棒が出たって嘘を付いて欲しい。」

 

「それは、記者さん達に?」

 

「そこはそっちの判断に任せる。

パパラッチでも警備員でも良い。ただし、

情報を広めるためにはある程度人数がいる。」

 

「噂をバラ撒くの?」

 

「パパラッチだって、

あること無いこと書くのも居るんだ。

こっちもそれなりの対応をさせて貰う。

毒は毒を持って制す。ってな。」

 

「そう上手くいくの?」

 

「まぁ確率は五分五分って所かもしれねぇが、

学園回りの警備が強化されりゃあ、

パパラッチは減るはずだからな。」

 

「なるへそ。」

 

「在庫が足りなきゃ搬入の量を増やす。」

 

「みんなには私から?」

 

「そうだな。こういう話は、

女子同士の方が通しやすいだろうし、

俺の仕事も校舎までは入らないからな。」

 

江助の仕事である体操着やジャージの搬入。

 

寮長と補填分と必要分を確認、

食料等と同じく学園裏の搬入口から入れる。

 

「人選はどうするの?」

 

「生徒会や寮長は当然として、

他には嘘が上手いっつーか・・・、

バレにくそうな子を選んでくれ。

あとはSNSで拡散が得意だとか。

伝達は早い方が良いと思う。」

 

「分かったわ。でも、大丈夫なの?」

 

「何が?」

 

「会社にバレたりしないの?」

 

「元々消耗品だし在庫管理も俺の仕事だ。

学園とウチで数が合ってればバレないよ。」

 

「了解したわ。」

 

「よろしく頼むぜ。

さて・・・もう一服して走ろうか。」

 

「ところでそのタバコって。」

 

「ああ、コレがどうかした?」

 

「あまり見かけないパッケージだけど、

クルマのスポンサーで見た事があるわ。」

 

ブラックのパッケージに、

ゴールドの重なり文字が特徴的な、

イギリスのタバコ。

 

かつて″音速の貴公子″と呼ばれた、

ブラジル人のF1ドライバー。

 

彼がロータスF1で雨のポルトガルにて、

初優勝した時のスポンサーであった。

 

「クルマと合ってない気もするわね。」

 

「そんな事はない。あの人が乗ってた、

F3はトヨタの2T-Gエンジンだったんだ。」

 

かのブラジル人ドライバーは、

マクラーレン・ホンダでの活躍が有名で、

F1以前の経歴は意外に知られていない。

 

その時代にトヨタエンジンのF3マシン。

「ラルト・トヨタRT3」で、

イギリスF3チャンピオン。

初のF3開催となったマカオでの優勝。

 

そこから彼は、

F1へのステップアップをしていった。

 

「そうなのね、初耳だわ。」

 

「まぁ、ちょっと世代が違うけど、

憧れるクルマ好きは多い。

だからってホンダに乗るのは、

あからさまな気がしてな。」

 

「キミって面白いわよね。」

 

「天の邪鬼なモンでね(笑)っと、失礼。」

 

一服する江助。

 

イギリスのタバコと聞くと、

ニコチンもタールも重たいイメージを持つ。

 

しかしこのタバコは比較的マイルドで、

ほんのり甘い味を持っている。

 

____

 

 

「よし、行こうか。」

 

「ええ、行きましょう。」

 

 

それぞれのマシンに乗り込み、

エンジンに火を入れる。

 

 

マルゼンスキー、

Lamborghini Countach

5000 Quatro Valvole

 

エンジン:水冷V型12気筒DOHC自然吸気

排気量:5167cc

出力:455ps/7000rpm

トルク:51.0kgm/5200rpm

車両重量:1490kg

ギア:5速

 

1974~1989年の15年に及ぶ、

カウンタックシリーズの中で、

最初に4バルブエンジンが搭載された、

クワトロバルボーレのキャブレター仕様。

 

 

洋谷江助、

Toyota Supra JZA80 Tuned

 

エンジン:水冷直列4気筒DOHCターボ

排気量:1998cc

出力:400ps

車両重量:1350kg

ギア:6速

 

JZA80スープラ改。

 

フロントヘビー解消を狙い、

3S-GTEにエンジンを載せ換えている。

 

ブースト圧の設定によっては、

さらに高いパワーを発生出来る。

 

 

マルゼンスキーの先行で、

代々木PAから4号新宿線合流。

 

マシンの調子を見つつ、

ウォームアップを兼ねて流して行く。

 

(タッちゃんとスーちゃんって、

元々の重さは同じ位のはずなのに、

ジャージ屋くんのスーちゃんって、

なんだか軽く動くのよねぇ。)

 

(キャブって言うと古いイメージがあるけど、

現役で使ってるレースもあるし、

自然吸気だと案外差は少ないんだよな。)

 

(今日こそ逃げ切っちゃうんだから!)

 

(今日も捕まえてやるぜ。)

 

 

千代田トンネル、

三宅坂JCTからC1外回り合流。

 

C1アタックはワンラップ。

それだけは絶対条件だ。

 

カメラで監視されているため、

パトカーがすぐに出て来る。

 

そして何より集中力が持たない。

 

激しいアップダウンに、

連続するブラインドコーナー。

 

それらは全てC1が、

急ぎで作られた道であることに由来する。

 

開通は60年代。東京オリンピックに向けて、

空港から都心部に抜ける道が必要だったのだ。

 

(サーキットやウマ娘のレース場は、

客席前のストレートがドラマを演出するが、

ここはそんな気の効いた場所じゃない。)

 

____

 

三宅坂からC1に入り、

千代田トンネル出口コーナー。

 

C1の難所の一つをカウンタックは、

スライドしながら抜けて行く。

 

カウンタックといえば、

スーパーカーブーム時代"300km"

を謳い文句にしている事で知られるが、

その実体はコーナリングマシンである。

 

(確か前後重量配分は48:52だったな。

まぁ個体差もあるだろうが。)

 

千代田トンネルを抜け右コーナー、

続いて代官町出口を左に下りながら減速、

北の丸トンネルを通過し再び登っていく。

 

5号池袋線分岐。

竹橋JCTを抜け神田橋連続S字エリア。

 

サーキットと違い目印が無いため、

自分なりのラインを作らなければ、

速く走れない場所である。

 

(普段サーキットを走ってるヤツほど、

こういった所では惑わされやすい。

そろそろ仕留めさせて貰おう。)

 

江助はスープラのブーストを上げ、

追い込み体制に入る。

 

(マルゼン。キミにはまだ、

色々と覚える事がある。

この場所で死なないために。)

 

マルゼンスキーは、

数々の重賞に勝って来たレース勘、

父から譲り受けたカウンタックの戦闘力。

 

サーキットや峠を攻めて得た走り、

それらに助けられてはいるが、

首都高ランナーとしては初心者。

 

複合コーナー等には不慣れである。

 

(少し先に走り出した者として、

伝えられる事は全部伝えたい。

それが努めってもんだろう。)

 

連続S字を抜けた後の直線で並ぶ。

 

後追いのクルマに並ばれるという事は、

相手の方が速い。という事を示すのだ。

 

(ウソでしょ、もう捕まっちゃうの?)

 

カウンタックを先導し、

江戸橋出口で降りる。

 

近くのコンビニにクルマを停めて降りる。

 

「今日も逃げ切れなかったわ・・・。」

 

「一般車と複合コーナーの処理、

あとアクセルワークも少しラフだな。」

 

「今まではこの走り方で良かったのに、

一体何が違うのかしら?」

 

「そうだな・・・、

例えばサーキットのシケインは安全性のため、

スピードを上手く殺すように計算されてる。

だけど首都高、特にC1は違うんだ。」

 

「どういう事かしら?」

 

「C1の開通はもう60年近くも前。

オリンピックに合わせて急いで作られ、

結果として走りにくい道になっちまった。

渋滞と事故が多いのもそれが理由だ。」

 

「なるへそ。」

 

「その分攻め甲斐もあるけどな。

キミは助手席が苦手だから、

先導して教える必要があるな。

あとはインカムも無いとかな。」

 

「どうしてそこまでしてくれるの?」

 

「トレセンを出てからも、

走りで食って行くかどうかはともかく、

引き出しは多いに越した事は無い。」

 

「それは、まだ迷ってるのよ。」

 

現在マルゼンスキーは、

トゥインクルシリーズから引退し、

ドリームトロフィー等に参戦している。

 

そして卒業後の進路の一つとして、

レーシングドライバーも考えてはいるが、

危険が伴う世界なのは分かっているため、

色々と決めかねている状態である。

 

「卒業までまだ時間はある。判断は焦らない事だ。

さて、今日はもうひとっ走り付き合って貰う。」

 

「何処に行くの?」

 

「着いてからのお楽しみだ。」

 

2台は再び走り出し、

夜の闇に消えていく。

 

 




サブタイトルは、
L'Arc~en~CielのCHASEから。


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05:再会と奇策

 

 

深夜、流貴の病室。

 

(どれが良いんだろうな?)

 

昼寝し過ぎて眠れないため、

Umazonでトレーナー試験の過去問題集や、

試験対策のドリル等を身繕っている。

 

(とりあえずレビューの評判が良いヤツ、

まとめて何冊か買っとくか。)

 

受け取りを近くのコンビニに指定し購入する。

 

(あとはクルマも探さなきゃな。)

 

流貴はロータリーマシンが好きであり、

現役時代もゼッケンを55にしていた。

 

マツダ伝説のレーシングカー、

「787B」のオマージュである。

 

(とりあえず年式の新しい固体、

後期型。あとは距離と修復歴か?)

 

(メーターは巻いてる可能性もあるか?

最近の中古車ってどうなんだかねぇ。)

 

車種はマツダRX-7、FD3Sの後期。

 

年式を2000年以降、

走行距離5万キロ以下、

MT、カラーはブルーで検索する。

 

(だいたい400~700万が相場で他は応談か。)

 

FDもそろそろ旧車に属するクルマとなり、

相場よりも価格が高騰していた。

 

(確か新車が500万ぐらいって考えたら、

エンジンの価値込みで妥当な所かね。)

 

 

するとその時、

2台のエキゾーストが聞こえて来る。

 

(走り屋か?昔に比べたら減ったよな。

あれ?こっちに近づいて来る?)

 

エキゾーストが病院の近くで止まり、

スマホにLANEが届く。

 

『よう、起きてるか?』

 

『起きてるけど、

アンタかいなΣヽ(゚∀゚;)』

 

『夜中に失礼、出れるか?』

 

『しょうがねぇなぁ┐(´∀`)┌』

 

やりとりを終了して、外へ向かう。

 

(正面は開いてなさそうだから裏から出るか。)

 

裏口から出て駐車場に向かうと、

スープラとカウンタックが停まっていた。

 

「久しぶりだな、ルキ。」

 

「何時だと思ってんのよ全く。」

 

言葉とは裏腹に嬉しそうな流貴。

 

「あら?アナタは確か?」

 

「ん?俺を知ってるのか?」

 

「えぇ。バブリーランドで何回か見てるわ。

スタッフさんだったのかしら?」

 

「そういやマルゼンは常連か、

ルキはウェイターとDJやってたんだ。」

 

「そうだったのね。」

 

(バブリーランド?

こっちの世界ではそういう名前なのか。)

 

流貴は下積み時代、

時給の良さと音楽好きから、

ディスコで働いていた。

 

それがウマ娘の世界では、

「バブリーランド」というらしい。

 

(ココはノリを合わせて・・・)

「また懐かしい話だな。」

 

「また退院したら、

あのDJプレイが見たいな。

ブース借りれんだろ?」

 

「そいつはどーも。

体が覚えてりゃ良いがね。」

 

「マルゼンはお立ち台で踊って、

回りを沸かせるのが得意だけど、

ルキのDJも負けてなかったよ。」

 

「あら、楽しみね。」

 

「ルキは何処でも、

ギャラリーを沸かせるのが上手い。

ステージでも、サーキットでもな。」

 

「え?サーキットってまさか?」

 

「ルキは本物のプロだ、2輪だったけどな。

その前にはカートも経験してる。」

 

「初めまして、芥瀬流貴だ。よろしく。」

 

「ありがとう、私はマルゼンスキー。」

 

「ああ、雑誌の方で見させて貰った。

結構ヤンチャな運転してるって?」

 

「おいおいルキ。お前も人の事言えないだろ。」

 

「まぁね(笑)」

 

「さて、二人を会わせた理由は色々あるけど、

まずは直近の問題を片付けなきゃな。」

 

「パパラッチの件だな。」

 

「ああ。」

 

そうして考えた作戦を話す江助。

 

「まずは学園に話を通すのが先だけど、

上手く仕事を使って追い払うには、

こんな方法しか思い付かなかった。」

 

「まぁ、とりあえずやってみようぜ。」

 

「ルキはウマッターで呟いてくれ、

タイミングはこっちで合図する。」

 

「了解。」

 

「あら、彼も巻き込むのね?

ルキ君って呼んでいいかしら?」

 

「好きに呼んでくれ。」

 

「ああ。一応外部の人間からも、

発信があった方が良いと思う。」

 

「外部からの拡散役って訳ね。

俺のフォロワー数で足りるかねぇ?」

 

「おいおい、お前も一応有名人だろうが。」

 

インフルエンサーとまではいかないまでも、

元国際レーシングライダー。

 

一部界隈では名の知れたアスリートであり、

ファンのフォロワーはそれ相応に居る。

 

「色々と話したい事もあるけど、

時間も時間だからな。」

 

「今度はマトモな時間に来てくれよ。」

 

「ああ、またな。」

 

「バイビー♪ルキ君。」

 

 

____

 

 

週明け、トレセン学園生徒会室。

 

午前の授業が終わりマルゼンスキーから、

シンボリルドルフに江助の提案が知らされ、

生徒会室には生徒会メンバーと寮長が集まる。

 

「偽の情報を流すというのは気が引けるが、

嘘も方便というヤツかな。」

 

「あまり私情を持ち込みたくはありませんが、

スズカとは個人的に親しくしていますし、

早く会いに行きたいのも確かですが・・・。」

 

「ワタシはどっちでも良いが、

ロードワークの出入りに気を遣うのがな。」

 

「ウマ娘同士なら、

タイマンで決着を付ける所だけど、

人間相手には出来ないからねぇ。」

 

「イタズラが過ぎる気もするけど、

ポニーちゃん達のために一肌脱ぐよ。」

 

「わかったわ。

そろそろジャージ屋くんも来るかしら?」

 

するとちょうど、

マルゼンスキーのガラケーに着信。

 

『ハァイ♪ジャージ屋くん。』

 

『話の方は進んでいるか?』

 

『だいたいみんな賛成みたいよ。』

 

『そうか、今どこに居るんだ?』

 

『生徒会室よ。メンバーも揃ってるわ。』

 

「マルゼンスキー。ちょっと良いかな?」

 

『ルドルフが話したいみたいよ。』

 

『了解。』

 

マルゼンスキーから、

ルドルフに電話が変わる。

 

『実際に話すのは初めてかな?

生徒会長。シンボリルドルフだ。

いつも世話になっている。』

 

『こちらこそ。お話出来て光栄だよ。

トレセンは大事なお客さんだ。』

 

『今は学園全体がピリついていて、

あまり一般の方を入れるべきではない。

しかし、直接話を聞かせて貰いたい。』

 

『・・・了解だ。

だけど、道案内を頼めるか?

入るのは初めてなモンでね。』

 

『ああ、わかった。』

 

江助はマルゼンスキーの道案内で、

入校許可を取り、生徒会室に向かう。

 

道中出会ったウマ娘達に不思議がられるが、

名刺を渡し、会長と仕事の話をしに来た。

という事で納得して貰う。

 

 

名刺、

『WINNING MUSUME

営業・販売部 洋谷江助』

 

「俺はこういうモンだ。

ウチのジャージ使ってくれてありがとね。

これからもご贔屓に。よろしく(*ゝω・*)」

 

「「「はーい!!!」」」

 

「あら、営業トークも出来るのね?」

 

「バカにしてんのか(笑)

これでも一応大人なんだから。」

 

 

そして生徒会室に到着。名刺を配り、

お互いに自己紹介と挨拶をする。

 

「初めまして。

マルゼンスキーから色々話は聞いている。

クルマのレース仲間でもあるそうだな。」

 

「ああ、よく一緒に走ってる。

寮長以外は会うのは初めてか。

洋谷だ。よろしく頼む。」

 

「よろしく。」

 

「ああ。」

 

「そうだな。」

 

「さて。洋谷君、

まず私達がおかれている状況だが。」

 

「もちろん把握してる。

搬入の仕事の邪魔にもなってるからな。」

 

「ふむ。そうか・・・。

学園内にスズカ本人が居るならまだしも、

何故こんな状況になっているのだろうか?」

 

「他にやり方を知らないから。かな。

大方、チームメンバーやトレーナー、

あとは個人的に親交の深い娘から、

何か情報を引き出したいんだろう。

あくまで推測だけどな。」

 

「病院の方には行かないのかな?」

 

「行ったところで本人には会えないだろう。

基本面会出来るのは、身内や親しい者だけだ。」

 

「なるほど。確かに。」

 

「話を聞こうにも守秘義務があるし、

担当医が分かってないと意味が無い。

それにまだ秋天から半月ぐらいだ。

骨の経過には個人差も大きいだろうし、

リハビリや復帰どうこうなんてのは、

さらにもっと先の話になるからな。」

 

「「「・・・・・」」」

 

「今はお互い待つべき時なんだと思うけど、

どうもあのテの連中は功を急ぎ過ぎるからな。

そしてこういう混乱時はデマも飛び交う。」

 

「それで例の提案、か。」

 

「別にそれじゃなくても、

話題がジャパンカップや有馬に移るまで、

パパラッチを引き剥がせれば良いんだ。」

 

「しかし、騒動の納め方はどうするんだ?

警備に迷惑をかけ続ける訳にもいくまい。」

 

「そうだな。頃合いを見てSNSで、

『業者に汚れ物を回収されていたのを、

体操着泥棒と勘違いしていた』とでも言うか。

今はみんな疑心暗鬼になってる状態だ。

通らなくはないんじゃないか?」

 

「ふむ、納得出来ない部分もあるが、

私達には考え得ない事ではある。

検討してみようと思う。」

 

「俺に出来るのは、

仕入れの量を増やすだけだけどな。

言い出しっぺが申し訳ないが。」

 

「それは仕方のない所ではある。

生徒達を保護する意味合いもあるとはいえ、

トレセン学園も閉鎖環境的な所はある。」

 

「ありがとう。やる時は連絡をくれ。

話を聞いてもらったお礼と言っちゃなんだが、

スズカの病院に連れて行ってやろう。

トラックの荷台で良ければだけど。」

 

「良いのか?」

 

「行きの片道だけどな。

帰りまでは面倒見れないぜ。」

 

「夜なら記者達も居なくなっているはずだ、

ロードワークがてらジョギングして帰るよ。」

 

「そうか。んじゃ裏に、

お見舞い行きたいヤツを集めといてくれ、

全員は乗れないかもしれないけどな。」

 

「私はタッちゃんで行きたいけど。

どうしても目立っちゃうわよね?」

 

「そうだな。今は置いといてくれ。

駐車場にカウンタックがあった方が、

外出してるとバレにくい。」

 

「カモフラージュって訳ね。」

 

「その通り。」

 

 

ルドルフが生徒達にLANEを送り、

スズカの見舞いに行く者達が裏に集まる。

 

そして江助が搬入を終えて、

空荷になったトラックに乗り込む。

 

「みんな乗ったかな?」

 

「「「はーい!」」」

 

「カンノン閉めるぞー。」

 

 

HINO RANGER FT

 

エンジン:直列4気筒SOHC、

直噴ディーゼルターボ

排気量:5123cc

出力:210ps

車両重量:7590kg

積載容量:4150kg

 

WINNING MUSUME社の運搬トラック。

車両規格は俗に言う「4トントラック」。

 

元々は車種が統一されていなかったが、

トレセン学園との契約を機に、

「日野レンジャー」統一された。

 

日野レンジャーは日本車で唯一、

パリダカールラリーのカミオン(大型トラック)

クラスに長年参戦しておりレースのイメージが強い。

 

しっかりと戦績も残しており97年には、

カミオンクラスで総合優勝を飾っている他、

比較的安定して上位に入賞している。

 

 

____

 

 

レンジャーがトレセン学園を出発した頃、

流貴は外出申請を出してコンビニに来ていた。

 

ウオッカにバイクを譲るための書類のコピーや、

Umazonで買っていた物を受け取るためだ。

 

(ついでになんか、

スズカにおやつ買ってくか。)

 

LANEで聞いてみる。

 

『今コンビニ来てるけど、

いちご大福食べる?』

 

『良いんですか?』

 

『沖野さんから何か言われてる?』

 

『いえ、特には。』

 

『なら良いんじゃない?食欲が無いなら、

部屋の冷蔵庫に入れときなよ。

あんまり日持ちしなそうだけど。』

 

『分かりました。

ありがとうございます。』

 

買い物を終えて書類等も、

大きめの袋にまとめて入れてもらう。

 

コンビニの外の灰皿で一服付ける。

 

(もうそろそろ時効だろ。)

 

現役時代は、憧れていた先輩ライダー。

ゼッケン46のライダーが嫌煙家だった事や、

体調管理の面から禁煙していた。

 

流貴がピアス等のアクセサリーを、

身に付けるようになったのも彼の影響である。

 

(物理的に死んだ向こうの俺、

選手として死んだこっちの俺、

お前達への線香代わりだ。)

 

久しぶりに吸う、

日の丸のような赤い丸のパッケージ。

 

(確か由来は、鉱石を掘り当てる。だったか?

3回目は笑って死ねるといいよな。)

 

「さて、戻るか。」

 

 

運動がてら松葉杖で歩き、

病院に戻りつつ考える。

 

(そろそろ入院から半年。

だんだんと足の感覚も戻ってきてる、

年末までにはリハビリに入りたいな。)

 

松葉杖の金属音が響く。

 

(またウマ娘達来てないかなぁ。

沖野さんに試験の事も聞きたいし。)

 

遠くからディーゼルサウンドが聞こえる。

 

(あとはマルゼンスキーに、

公道の走りを教える。か?)

 

流貴を抜いていくトラック。

 

(色々と忙しくなりそうだけど、

これくらい刺激があった方が生きてて面白い)

 

笑みを浮かべつつ帰って行く流貴だった。

 

 



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06:集結、繋ぐ思い

 

 

流貴が病院に戻ると送迎バスや、

タクシーの駐停車するロータリーに、

見慣れないトラックが停車している。

 

(こんな所に4トン車?)

 

近付きながら見ていると、

江助が降りて来てカンノンを開け、

ウマ娘達がぞろぞろと出てきた。

 

(ああ、なるほど。そういう事ね。)

 

そして、

既に面識のある娘達に呼ばれる。

 

「ルキちゃーん!」「ルキくーーん!」

 

「芥瀬さーーーーん!!!」

 

「よう。いらっしゃい。

随分と大所帯で来たな。」

 

スピカとリギルの両チーム、

結局全員がやって来たようだ。

 

面識のないウマ娘達が困惑しているが、

とりあえず話を進める。

 

「スズカのためとはいえ随分と、

危ない橋を渡ったな、コウちゃん?」

 

本来、荷台に人が乗るのは違法であり、

乗る事が出来るのは荷物の監視員等、

特別に許可を受けた者だけである。

 

「お前に言われなくないわ(笑)

会社にトラック返して乗り換えて来るから、

適当に話をしながら待っててな。」

 

「ついでにコレをお願い出来るか?」

 

先ほどコピーした書類を渡す。

 

「ん。バイクの名変のアレか。

先輩から話は聞いてる。」

 

「待たせたな、ウオッカ。」

 

「芥瀬さん。ありがとうございます。

基本はとーちゃんに預かって貰いますけど。」

 

「まぁ、帰省した時の楽しみに取っときな。」

 

「そっすね。」

 

「んじゃコウちゃん、また後で。」

 

「ああ。」

 

____

 

 

トラックを見送り、

院内に入りつつお互いに自己紹介をする。

 

まずは流貴から話をする。

 

「初めまして、芥瀬流貴と言います。

元バイクレーサーで今はスズカの、

患者仲間とでも言いますか。」

 

「私はチームリギルのトレーナー、

東条ハナ。沖野から話は聞いてるわ。

トレーナーになりたいそうね。」

 

「よろしくお願いします。」

 

「人手不足なのは確かだけれど、

カンニングになるような事は出来ないわ。

わかっているとは思うけどね。」

 

「了解です。」

 

「初めまして、トレセン学園生徒会長、

シンボリルドルフだ。よろしく。」

 

その後も続々と、

リギルメンバーから自己紹介される。

 

アメリカ出身のウマ娘達が、

流貴の事を知っていた。

 

「ヒシアマゾンだ。

アンタのタイマンはアメリカに居た頃、

何回か見さして貰ったよ。」

 

「ハァイ、タイキシャトルデース。」

 

「エルコンドルパサー!

よろしくお願いしますデェス!」

 

「グラスワンダーと申します。

お初にお目にかかります。芥瀬流貴さん。」

 

「初めまして。これからよろしく。

こんな状態じゃなきゃもっと良かったけど。」

 

「あ、そういえば夏前に、

レースを棄権してたのって、

どうしてだったんすか?」

 

「中で話そう。スズカも一緒にな。」

 

スズカの病室前に着き、ノックをする。

 

「はい、どうぞ。」

 

病室に入りいくつか買っておいた、

いちご大福の一つを渡し残りは冷蔵庫に仕舞う。

 

「みんな来ると分かってりゃ、

もっと色々買っておいたんだけどな。

とりあえず話の続きをしようか。

スズカには一部話したけど、改めて。」

 

「はい。お願いします。」

 

「ウオッカはマン島レースを知ってるか?」

 

「名前は知ってるんすけど、

どんなレースなんすか?」

 

「イギリスにあるマン島を走るレースで、

バイクとレース用サイドカーが走る。」

 

「ゲーセンのバイクゲームで、

それっぽいの遊んだ事はあるんすけど、、

そんなにヤベぇレースなんすか?」

 

「そうだな、ほぼ毎年死人が出てる。」

 

「「「「「!!!!!」」」」」

 

(コンコンッ)

 

「確か今年も出てなかったっけ?

しかも結構なベテラン選手がさ。」

 

ノックをしながら江助が入って来る。

 

「随分早かったな。お帰り。」

 

「空荷だと気を使わなくて良いし、

平日の昼はすいてるからな。

飛ばしては来たが。話を続けてくれ。」

 

「ああ、確かにマン島はレースだけど、

競技よりは冒険に近いのかもしれない。

山で言えば、エベレスト登頂みたいな。

ベテランだろうと油断は出来ないんだ。」

 

「危険と呼ぶか、冒険と呼ぶか。か。」

 

「カイチョー?」

 

「URAが考えたキャッチコピーに、

こんな文言があってね。我々も思う所はある。」

 

「冒険心がくすぐられるから、

死者が出ようと希望者が居続ける。」

 

「なるほど・・・。」

 

「で、さっきの話。俺が帰国したのは、

もしものための終活。身辺整理って所だな。」

 

「俺に渡しに来るはずだったのが、

途中で跳ねられて今に至るって訳だ。」

 

「マン島に出る選手は遺言を残す。

遺書と色々保管してた倉庫の鍵だな。」

 

「ん?芥瀬の家族はどうしたんだ?」

 

「ガキの頃から祖父母の所で育ったんですが、

レーサーは命を粗末にするって言われてて、

途中から関係が悪くなりました。」

 

「両親は?」

 

「早くに亡くなったみたいですね。なので、

育ててくれた事には勿論感謝していますが、

レースで食っていきたい気持ちは譲れません。」

 

「夢だけは譲れない。か。

私達ウマ娘と同じだな。気持ちはわかるよ。」

 

「ウオッカの質問、答えはこれで良いかな?」

 

「そっすね。ありがとうございます。」

 

「さて、これからどうします?」

 

「ん?どうとは?」

 

「モータースポーツの話はマルゼンや、

ウオッカには面白いかもしれませんが、

他の娘達は退屈になりませんか?」

 

「ふむ・・・どうかな、みんな?」

 

「いや、ボクはもう少し聞きたいかな。

キミの冒険の、続きを聞かせてくれたまえ。」

 

「なかなか面白い事を言うな。

俺のレース人生を冒険と称するか。

歌劇のように面白いかは保証しないぞ。」

 

「私も同意する。モータースポーツへは、

興味は無い者も居るが形は違えど競走者同士。

近い視座を持っているかもしれない。」

 

他のウマ娘達も頷いているのを確認し、

続きを話す事を決める。

 

「了解だ。まずウオッカは驚くだろうけど、

俺はバイクを専門でやってた訳じゃない。」

 

「え?そうなんすか?」

 

「元は四輪でカートからフォーミュラへ、

ステップアップするはずだったんだけどね。」

 

「実家を頼れなくて金が無かった。か。」

 

「その辺りの制度というか・・・、

どうやってプロになるのかも教えて欲しい。」

 

「ん?マルゼンか?」

 

「ええ。まだ決めた訳じゃないけど、

知識として知っておきたいわね。」

 

「やり方としてはいくつかある。

まず一つは、カートからF4に上がり、

レーシングスクールを受けてメーカーと契約、

GTやスーパーフォーミュラに行く方法。」

 

「他には?」

 

「自分で車両の用意やチューニングをして、

フレッシュマン等のアマチュアレースに出る。

そのルートで本気で来るなら、

俺の伝手でチームを紹介する事も出来るぜ。」

 

「俺達も紹介して貰った身だもんな。」

 

「ああ、実はそうなんだ。」

 

「全日本時代のチームはその時っすか?」

 

「ああ、ある日パドックで、

話しかけて来たヤツが居てね。」

 

「そいつが俺達の同級生で、

吉室レーシング監督の孫。吉室聖人(よしむろせと)だ。」

 

「ヨシムロレーシングには、

そうやって入ったんすね。」

 

「俺達バイクで峠を走っていた何人かは、

運良くそこで走れる事になったんだ。

俺はすぐに抜けたけどな(笑)」

 

「どうしてなんすか?」

 

「体重移動で曲げる感覚に馴染めなくてな。

俺はバイク向きじゃなかったって事だ。

本気でモータースポーツをやるなら、

そういう適正も考えていく必要がある。」

 

「ヨシムロはバイクのイメージが強いけど、

昔ホンダS600でレースをしてたし今でも、

パーツメーカーとして色々やってる。」

 

「さっきみんなが乗って来たトラックの、

パリダカ仕様の吸排気はヨシムロだってな。」

 

「どの競技でもメーカーとの関係、特に、

色々手広くやってる所と仲良くなると、

モータースポーツをやる上で助かる。」

 

「なるへそ。色々ありがとうね。」

 

「俺のここからの活動については、

ウオッカも知ってると思うけど。」

 

「そうっすね。

でもクルマに行きたいって言ってるのに、

MotoGPの期間が長くねぇっすか?」

 

「俺も最初は、ある程度戦績を残したら、

四輪に移る気だったんだけどな・・・。

こっからはちょいと重い話も混ざるぞ?」

 

「もしかして、あのお話ですか?」

 

「スズカ?」

 

「マン島に出る理由を教えるのに、

スズカにはちょっとだけ話しました。」

 

「なるほどね。」

 

「セトはガキの頃からポケバイで鍛え、

ライダーとしてはエリート。俺とは真逆。

なのにどういう訳か仲が良くてね。」

 

「オヤッサンもう一人の孫みたいに、

ルキの事可愛がってたよなぁ。」

 

「走りのスタイルも真逆だったけど、

峠じゃツートップなんて言われてな。

ある日セトと約束したんだよ。」

 

「それは初耳だな。」

 

「公道レースの頂点たる、

マン島レースで決着を着けようってな。」

 

「下手すりゃ死ぬような場所で、

なんつー約束してんだお前らは。」

 

「ラップタイムは嘘を付かないからね、

真逆のスタイルの俺達どっちが速いか。

最高で最狂の舞台で確かめたかった。」

 

「順位じゃなくてタイムなんすか?」

 

「マン島はスタートも独特なんだ。

予選順なのは他のレースと同じだけど、

10秒ごとに一台ずつスタートを切る。

スタイルとしてはラリースタイルかな?」

 

「そういう事なんすね。」

 

「だからかなりラップタイムに差があるか、

温存のために前が抑えて走る。もしくは、

後ろが予選以上に飛ばす。条件が揃わないと、

追い抜きが発生しにくいレースなんだ。」

 

「完走するだけで“勇者“とか“英雄“

って言われるレースだもんな。」

 

「まぁ、俺は器じゃなかったって事だな。」

 

「命があるだけ良かったじゃないか。」

 

「そうだな・・・セトの最期を話そうか。」

 

「言葉にしたら、単純な事なんだけどな。」

 

「最後に卒業式のつもりで、俺達で峠を走り、

その途中でセトは対向車に突っ込んじまった。

すぐに救助を呼んだけど、間に合わなかった。」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

「それは、辛いわね・・・。」

 

「原因は分かってる。セトの走りは、

基本に忠実なグリップ走行。峠でも、

自分のラインを見つけるのが上手い。

どのコーナーでもアウト・イン・アウト。

一見理想的だが、この走りを公道でやると、

対向車線に全開で飛び込む事になるんだ。」

 

「俺達とオヤッサンも指摘してはいたけど、

なかなかクセってのは抜けないモンだからな。」

 

「俺の夢も実現したかったけど、

セトとの約束だけは消せなかった。」

 

「しかし数年間、結構長い時間かけたな?」

 

「コースとマシンへの慣れや、

セッティング変更からマシンに馴染むまで、

とにかく時短の訓練が必要だった。」

 

「マン島にはそれ用のバイクを用意するからか。」

 

「その通り。新しいマシンとコース。

慣れるまでの時間を短くする必要があった。

1周も長いし覚える事は山ほどあるからな。」

 

「どのくらいの距離なんすか?」

 

「60kmぐらいだ。島の周りを回るから、

一周が長く、コーナー数も200を越える。」

 

「うへぇ。とんでもない場所っすね。」

 

「それで他のクラスとの兼ね合いもあり、

練習に使える時間は意外と短い。

効率良く覚える必要があった。」

 

「今は全部で何クラスだっけ?」

 

「えーと、紙に書いた方が早いか。

沖野さん。メモ帳か何か持ってます?」

 

「ああ、どうぞ。」

 

沖野からノートを借り、

クラスを書き出していく。

 

『スーパーバイクTT:1000cc、改造可』

 

『スーパースポーツTT:600cc、改造可』

 

『スーパーストックTT:1000cc、改造範囲小』

 

『ライトウェイトTT:2気筒、650cc上限』

 

『TT Zero:無公害車両、電動バイク』

 

『セニアTT:スーパーバイクTTの、

予選通過者のみが参加可能な最高クラス』

 

「あとはレース用のサイドカーもあるけど、

そっちはパイプを溶接したフレームの三輪車、

2人乗りのレース専用サイドカーだ。」

 

「電動バイクも走ってんすね。」

 

「これも時代の流れかな。エコで言うなら、

ウマ娘のレースの方が良いと思うけど(笑)」

 

「芥瀬さんはどのクラスに出る予定だったんすか?」

 

「スーパースポーツTT。車両はYZF-R6だ。」

 

「リッターじゃないんすね。」

 

「マン島はエントリーも独特で、

複数のクラスにエントリーも出来るけど、

俺は最初なのもあって一つに絞ったんだ。」

 

「なるほど。」

 

「さて、オペラオーのいう、

冒険はこんな所かな。どうだった?」

 

「危険を省みない熱い約束。

素晴らしい君達の友情に乾杯さ!」

 

「そいつはどうも。」

 

(((((ぐぅぅぅぅー)))))

 

「腹減っちまったか(笑)」

 

「そういやスズカは大福食べたけど、

他のみんなはおやつまだか。コウちゃん。

買い出し行こうぜ。」

 

「了解、ついでに一服付き合ってくれよ。」

 

「オーケー。」

 

「んじゃ、行って来ます。」

 

「はーい。」「行ってらっしゃい。」

 

____

 

 

買い出しにでた二人を見送り、

松葉杖の音が遠ざかるのを確認して話す。

 

「スズカの見舞いに来たのに、

いつの間にか芥瀬の身の上話になったな。」

 

「でもマルゼンスキーの事もあるし、

あの子達程詳しい人は学園に居ないもの。」

 

「確かにな、スズカはどうだ?」

 

「芥瀬さんには皆さんが居ない間、

話相手になっていただいてました。

お陰で寂しくなかったんです。」

 

「まぁ、面倒見は良さそうだよな。」

 

「そうね。」

 

ルドルフが回りに流貴の印象を聞く。

 

「さて、彼は君達にはどう映ったかな?」

 

「タダ者じゃないとは思ってたけど、

あんなに色々経験してるなんて。

あたしに合ったレースを考えてくれそうね。」

 

「最初は何だコイツはと思ったが、

ワタシと同じ走りに飢えた目をしている。

なかなかに滾る。何かで勝負してみたい。」 

 

「私はまだ信用した訳ではありませんが、

走りに対する熱い意志は感じました。」

 

「仲間との約束背負って、

熱いタイマンが出来る。

なかなかに見所のあるヤツだね。」

 

「ポッケから聞いた、

伝説の走り屋って彼なのかな?」

 

「へぇ。そんな噂が立ってんのかい?」

 

「うん。フリースタイルのウマ娘の間では、

結構有名な話らしいよ。今度聞いてみようか。」

 

「彼の話はアヤベさんと重なるけど、

贖罪だけで終わらせないのは素晴らしい。」

 

「少しデスが寂しそうな顔をしてマシタね。

ワタシとスズカのような関係デショウカ?」

 

「・・・ああ。何処かタブらせてんのかもな。」

 

「沖野?」「トレーナーさん?」

 

「例えば海外の凄いレースだとして、

武者修行だとかボカして伝える事は出来たろ。

それを、つらい過去まで話してくれたのは、

そういう事なんじゃないのかな?」

 

「同い年の同期でライバル、エル、

スペちゃん。私達とも重なりますね。」

 

「そうだね。グラスちゃん。」

 

「ボクとマックイーン、ターボ、ネイチャもだね。」

 

「そうですわね。」

 

「オレ達だとマーチャンもそうか。」

 

「確かにそうね。マーチャンも放っておくと、

何処かに消えてしまいそうな雰囲気あるけど、

あの人にも少しそういう雰囲気があるわね。」

 

「終活の話聞いたからそう感じるのかもな。」

 

「アイツ、ナカヤマと同じ目をしてるな。」

 

「うむ。レースに出る者は形は違えど、

皆勝負師なのだろうと思うよ。」

 

「そういやアイツのタイマンは、

アタシらで言えば追い込みに近かったねぇ。」

 

「周回数の桁が違うから、

脚質に例えるのは違う気もするんすけど。

タイプで言えば確かにそうっすね。」

 

____

 

 

一方その頃、スープラの車内。

 

「済まないな。」

 

「ん?」

 

「いや、お前から言い出したとはいえ、

辛い語り部をさせちまったと思ってな。」

 

「まぁ仕方ない。スズカの事とも、

当たらずとも遠からずな話だし。」

 

「そりゃそうだけどさ。」

 

「ウマ娘は競走本能が強いって聞く、

今後もモータースポーツに興味を持つ、

ウマ娘が出てくるかもしれない。けど。」

 

「けど?」

 

「興味本位だけで世界に飛び込んで、

俺みたいにならないで欲しいんだ。

勝ち負けは適正やセンス、運なんかも必要だ。

が、ケガは気をつけてればある程度は防げる。」

 

「確かにな。」

 

流貴の事故はプライベートでの事故だが、

ケガでキャリアを絶たれた事実は変わらない。

 

「トゥインクルシリーズの時点で、

厳しい戦いを越えて来たのは分かる。

でもスズカの件に対する反応を見るに、

年相応の脆さも残っていると思う。」

 

「だから、釘を刺したのか?」

 

「ああ、その通り。それでも、

こっちの世界に来たいと言うなら、

教えられるテクニックは教え、

出来るだけ協力はする。」

 

「習うより慣れろって言葉もあるけどな。」

 

「そこは彼女達各々って所かな。

まずはリハビリと試験勉強頑張んないとな。

とりあえずの繋がりは出来たけど。

なるべく近くにいた方が何かと便利だ。」

 

「そうだな。」

 

「で、何処に向かってるんだ?」

 

「業務スーパー。あの娘達の食欲考えると、

お徳用をいっぱい買っとく必要があるからな。」

 

「確かにな。駄菓子屋じゃ潰れちまう。」

 

「スズカは割と少食だけど、

ああいう娘は少数派だからな。」

 

「食費がかかるとは聞いてたけど、

あの娘達見てたら良く分かるわ。」

 

そう言って流貴は車内を見渡す。

 

「意外と内装は普通だな。」

 

「多点式のロールケージ入れたいけど、

その分全体に歪みが出やすくなるからな。

ウレタン注入と屋根の潰れ防止バーだ。」

 

「あとはタワーバー?」

 

「そうだ。ツボは抑えつつ、

ある程度快適性を残してる。」

 

「なるほどね。それと気になったんだけど。」

 

「何が?」

 

「ウオッカがマン島のゲームって言ってたけど、

それってセガのマンクスTTだよな?」

 

「ああ、多分そうだろうな。」

 

「確か稼働開始は1995年。

俺達の産まれるより前だよな?

まだ現役で動いてんだな。」

 

「ああ、ルキはサトノの事を知らないか。」

 

「一応名前は知ってるけど。確か、

セガのアミューズメント部門だっけ?」

 

「ああ。ご令嬢のウマ娘達が、

トレセンの生徒であの辺のゲーセンは、

遊び場になる事も考えて古い筐体を、

レストアしたり綺麗に維持してるんだ。」

 

「そいつは良い。90年代のセガは、

レースやシューティングを多く出してる。

空間認知能力や反射神経の訓練に使える。」

 

「確かにな。きっちり荷重移動しないと、

コーナーひとつ曲がれないのもあるしな。」

 

「あのマゾゲーか。」

 

「セガは色々幅広く出してるから。

レースの適正を見るのにも使えるかもな。」

 

 

色々と話をしながら、

お菓子を買って病院に戻り、

日が暮れて帰りの時間。

 

 

「トレーナーのお二方は俺が送って行きます。」

 

「よろしく頼む。ええっと?」

 

「洋谷です。ジャージ屋でも良いですよ。」

 

「んじゃ、またなーみんな。」

 

「まったねールキちゃん。」

 

「あ、そうだ。ロードワーク中の注意を一つ。」

 

「何すか?」

 

「サーキットに無くて、

公道にあるモノの一つが対向車、もう一つは?」

 

「「「「「?????」」」」」

 

「傾斜か?」

 

「そう。ほとんど気が付かないけど、

実は一般道はセンターラインから路肩に、

水はけのための傾斜が付いているんだ。」

 

「みんなはロードワークから帰った時に、

蹄鉄やシューズが片減りしてた事はないか?」

 

「そういえば。」「あった・・・かも。」

 

「片減りが見え出したら反対車線の、

ウマ娘レーンを走るようにすると良い。

左右に段差が付かないようにするんだ。」

 

「そいつを放っておくとフォームの乱れや、

斜行の原因になるってワケか?さすが走り屋。」

 

「まだ試験前ですが、応用出来る事は、

どんどん使っていきますよ。」

 

「ルキはフィードバック機能男かよ(笑)」

 

帰りの車内にて。

 

「彼、色々経験してるのね。

元レーサーって聞いた時は不安だったのよ。」

 

「まぁ。世間的には命知らずとか、

色々言われてますし否定も出来ません。」

 

「トレーニングも過激そうと思ってたけど、

過負荷をかけるような事はなさそうね。」

 

「だと思います。」

 

「試験は自力で頑張って貰うけれど、

紹介と推薦ぐらいは出来るわ。」

 

「!ありがとうございます。」

 

「その礼は、合格した時にとっておきなさい。」

 

 

____

 

 

それから半月ほど。

 

江助の提案は学園から目を逸らし、

話題は有馬記念でぶつかる同期の二人、

スペシャルウィークとグラスワンダーへ。

 

 

流貴がリハビリとトレーナー試験勉強を、

している所に一本の電話がかかって来る。

 

「はいはい、えーっと?」

 

『着信 RS編集部』

 

それは月間レーシングスポーツ、

通称RSと呼ばれる雑誌の編集部からだった。

 

「引退して半年、今更何だ?」

 

 




マン島参戦計21戦。

ベテランスペイン人ライダー、
ラウル・トラス・マルティネス選手の、
ご冥福をお祈りいたします。


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07:リスタート

 

 

月刊レーシングスポーツ・年末総集編

 

特別インタビュー、

元・MotoGPライダー、芥瀬流貴。

 

『我がRS誌は、

6月にマン島レースへの参戦を発表し、

その直後に不慮の事故で引退したライダー、

芥瀬流貴の回復を待って取材を行った。』

 

RS編「本日はよろしくお願いします。」

 

芥瀬「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

RS編「怪我の具合はどうですか?」

 

芥瀬「ようやくリハビリに入れました。」

 

RS編「それは良かったです。ところで、

この半年間の生活はどうでしたか?」

 

芥瀬「秋頃までは物凄く退屈でして、

スマホの動画と電子書籍で凌いでました。」

 

RS編「秋に何かの変化があったんですか?」

 

芥瀬「松葉杖で歩けるようになって、

院内を散歩していたら天皇賞で骨折した、

スズカが入院してきたんです。」

 

RS編「それは興味深いですね。」

 

芥瀬「それでスズカのチームメイトの、

ウオッカが自分の事を知ってまして、

彼女達と色々話をしたりしています。」

 

RS編「具体的にはどのようなお話を?」

 

芥瀬「二つのレースの違い等ですね。

モータースポーツとトゥインクルシリーズ、

同じレースの形を取っていても周回数や、

昇格の制度等、色々違いがあります。」

 

RS編「他には?」

 

芥瀬「ウオッカには自分がこんな足なので、

バイクを譲ったり、夏前の期間棄権の事、

マン島レースのルールや歴史等ですね。」

 

RS編「確かに突然帰国したのは不思議でした。」

 

芥瀬「日本とイギリスは地球の裏側なので、

デカ過ぎる寄り道なんですが(笑)」

 

RS編「確かに言われてみれば(笑)」

 

芥瀬「でも、どうしても終活というか。

最悪の事態を考えて身の回りの整理は、

やっておく必要があったんです。

今は無駄に終わりましたが。」

 

RS編「我々ファンはホッとしていますが、

芥瀬さんはどのような思いでしょうか?」

 

芥瀬「色々な事を考えていました。

生き残ればハク付けに出来るかもとか、

もし死んでも後悔はなかったのかとか、

今は、肩の荷が降りたような感じです。

なんか矛盾している気もしますが。」

 

RS編「達観しているというか何というか、

死生感も我々とは違うような気がします。」

 

芥瀬「元々、色々と執着が無い方でして。

あとはカートの頃から自分を俯瞰で見る。

そういう感覚で走って来た影響ですかね。

チャンピオンとして無冠だったのは、

当然、悔しい思いもありますが。」

 

RS編「なるほど。ではこれからは、

どのような道、活動を考えていますか?」

 

芥瀬「今はトレーナーを目指して、

色々勉強しています。未知の世界ですが、

経験が役に立つ事もあるかもしれません。」

 

RS編「そういえばトレセン学園の泥棒騒ぎ、

結局は勘違いだったようですが。

芥瀬さんは何処で知ったんですか?」

 

芥瀬「知り合いに服飾関係者が居るので。

次の職場になるかもしれない場所ですし。

色々と安全面も気にしてはいます。」

 

RS編「確かにレースをする者の養成所。

という意味では厳重さが足りないような?」

 

芥瀬「色々と多感な年頃ですからね。

窮屈にし過ぎるのも考え物ではあります。」

 

RS編「話が本誌の方向性から逸れましたが、

その場に応じて臨機応変といった所ですね。

では最後にまとめとファンへのメッセージを。」

 

芥瀬「終活が就活に!?人生赤旗リスタート。

次はグリーンのサーキットで会おうぜ!」

 

RS編「本日は、ありがとうございました。」

 

 

読者プレゼント!

 

芥瀬流貴サイン色紙入り。

タニヤ製1/12スケールプラモデル。

「ネイルスターYAMAHA YZR-M1#55」と、

バイクやボブスレーを模したモーターホビー、

「ジュウダンレーサー」シリーズから、

「マッドスネーク ネイルスターEdition」

をセットにして応募者の中から抽選で、

555名様にプレゼントいたします。

 

奮ってご応募下さい。

 

 

____

 

 

(上手い事言うじゃねーか、ルッキー。)

 

トレセン学園の合宿所のある。

港町の一角。工業地帯にある、

自動車改造工場で記事を読む男。

 

彼の名は反幕尚三(そりまくなおみ)

 

流貴達と同時期にヨシムロ所属。

 

ヨシムロレーシングが、

サーキットでのレースとはまた別に、

パーツの開発・研究に力を入れていた、

ボンネビル最高速チャレンジに参加。

 

その後最高速やレース向けの車体作り、

エンジンチューニング等を学ぶ。

 

現在では地元の町でチューナー、

ウマ娘の蹄鉄職人をしている。

 

(ルッキーがトレーナーにねぇ?

受かるかどうかは分からんが、

なかなか面白くなりそうだ。

派手に出迎えてやらねぇとな。)

 

そして、今年の夏に開催された、

バイクのゼロヨンの覇者でもある。

 

(プラモ、応募してみっかな?

それと退院前に一回ツラ出しとくか。)

 

 

____

 

 

 

同時刻。

 

東前(あずまえ)撮影スタジオ控え室。

 

(おいおい、芝だけがレースじゃないよ。

まぁ、適正とか色々あるけどさ。)

 

記事を読みつつ、

突っ込みを入れる男。

 

彼の名は鳩斑時英(はとむらじえい)

 

流貴達と共にバイクで峠を攻めていた、

走り屋仲間であるが途中からオフロードへ転向。

 

ダートトライアルやモトクロス、

バイクスタント競技で鍛えて来た。

 

現在はキャロットマンにて、

スタントマンとスーツアクターを担当。

 

「もうすぐ本番で~す。

準備、よろしくお願いします。」

 

「了解です。」

 

(あっくんがトレーナーになるなら、

感謝祭で再会出来るかなぁ。)

 

キャロットマンのスーツ、

マスクを着用しつつ考える。

 

(今回もゲストに呼ばれるかは分からないけど、

とりあえず記事見た感想でも送っとくか。)

 

 

____

 

 

流貴やスズカの居る病院。

 

リハビリをこなしつつ空いた時間に、

トレーナー試験対策をしていく。

 

するとそこに、

 

(コンコンッ)

 

「はーい。どうぞー。」

 

「よう。調子はどうだ?」

 

江助がお見舞いに来た。

 

「まあまあかな。」

 

「頼まれてたモン持ってきたぜ。

ちょっと早いがプレゼントだ。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

「全くよ。クリスマスにダンベルと、

ボディブレード欲しがるとはな(笑)」

 

「足の筋肉はリハビリと自重で付くけど、

上半身は鍛えないとだからね。」

 

「確かにトレーナーも体力仕事だけど、

お前も自分を追い込むの好きだね。

あの記事だってそうなんだろ?」

 

「もう発刊されたんだな。

自分で言うことで改めて気付くというか、

まあ、半分は確認のためにやってる。」

 

「なるほどね・・・ん?」

 

 

何やら病室前から話し声が聞こえる。

 

(ガラガラッ)

 

「騒がしいな病室前で、何か取り込み中?」

 

「久しぶりだね、洋谷君。」

 

「ええ、セトの葬式依頼ですかね。」

 

「ジャージ屋くん、このおじさまは?」

 

「この間話したヨシムロレーシングの、

今は二代目監督。俺らが居た頃はマネージャー。」

 

「この娘たちが見舞いの順番を、

譲ろうと気を使ってくれているんだが僕は、

芥瀬君と話をしたいから後の方が良い。」

 

「あたし達もルキ君に聞きたい事があるの。」

 

「じゃあまとめて話した方が、

効率良いんじゃないっすか?」

 

病室内から流貴に突っ込まれる。

 

「譲り合いは大事ですが、

面会時間も限りがありますし。」

 

「まぁ、秘密にする事でもないか。」

 

 

病室内に入り、

お互いに自己紹介をして本題に入る。

 

「芥瀬君が引退した情報は、

すぐに回って来たけどシーズン中で忙しく、

お見舞いが遅れてしまって申し訳ない。」

 

「それは仕方ないでしょう。

バイク以外にも色々やってますし。」

 

「ネイルスターの関係者は来たみたいだが、

MotoGPもシーズン中だろうに。」

 

「元々マン島にも、

何人かのスタッフは同行予定でしたから、

日本にも付いて来てくれました。」

 

「なるほど。しかしトレーナーとはね。

四輪のレースに転向する気なら君に、

車両も用意する予定だったんだが。」

 

「まずは軽やコンパクトカーの、

アマチュアレースからですか?」

 

「さすがに詳しいね。」

 

「なぁマルゼン、右ハンは教習所以来乗ってない?」

 

「ええ、そうねぇ。」

 

「んじゃ、慣れるためにも乗ってみるか?」

 

「えっ!?ええっ!?」

 

「芥瀬君?まさか?」

 

「ライセンスのいらないレースでしょう?

だったらモータースポーツに興味のある、

若い人材を使うのも手ですよ。」

 

「確かにな、マルゼンはセンスもある。

まだ所々荒削りではあるけどな。」

 

「ちょっと。ジャージ屋くんまで?」

 

「どうせ俺とコンビ組まそうってんだろ。ルキ?」

 

「だいたいのレースは二人で組むからね、

よく二人は一緒に走ってるみたいだし。

お互いのクセも分かってるでしょ。」

 

「あんまり勝手に話を進めないで欲しい。

が、確かに利害は一致しているか。」

 

「ふむ。私も少し興味はある。

マルゼンスキーもやぶさかではないようだ。」

 

「んもぅ。ルドルフまで。

そこまで言われたら、走るしかないじゃない。」

 

「私の理想である“全てのウマ娘の幸福“

には君も当然含まれているんだよ?」

 

「すぐにレースがある訳じゃないよ。

今はオフシーズンで本格的な活動は春から。

大急ぎで決めなくても大丈夫だ。」

 

「その辺は監督とコウちゃん、

マルゼンで話し合って決めるんだな。」

 

「ルキくんは?」

 

「リハビリとトレーニングに試験勉強。

それと、車と住処も探さなきゃだし。

地味に色々忙しい。」

 

「え?」「ん?」「(笑)」

 

「貴様、ホームレスだったのか?」

 

「今は住所不定無職なんだわ(笑)

家族はレース活動に反対してたから、

高校の時からアパートで一人暮らし。」

 

「で、世界を転戦するのに、

家賃が払えないから引き払ったんだよな。」

 

「今まで帰国した時はホテル暮らし。

受かってトレーナー寮に入れれば良いけど、

試験まではホテル暮らしを続けるかな。」

 

「ルキくんも結構変わってるわねぇ。」

 

「いやホント。年俸結構稼いでんのに、

乗り物以外に金かけないんだもんなぁ。」

 

「トレーナーになったら食費になるかな(笑)」

 

「そこは相変わらずだね。

さて、僕の話は終わりだ。君達の話も、

差し支えなければ聞かせて欲しい。」

 

「スズカの骨折の原因についてだ。

色々な憶測が飛び交っているが、

違うレースの世界からの意見が欲しい。」

 

「色々年末業務で忙しいだろうに、

生徒会がここに集まったのはそのためか?」

 

「ああ、スズカとは個人的にも親しいし、

今回の件は世間に衝撃を与えている。」

 

「股関節炎とは違うだろうが、

ワタシも走れない苦しみは分かる。」

 

「あくまで一つの考え方としてだけど、

容量不足というか、スズカが速すぎたのか、

骨がスピードに耐えきれなかったんだろう。」

 

「容量が足りない・・・とは?

骨折とどう繋がるのだろうか?」

 

「心肺機能や筋肉はトレーニングで、

負荷をかける事で量を増やせる。が、

骨や関節はそれが出来ないんだ。」

 

「なるほど。言われてみれば確かに。」

 

「心肺機能をエンジンとするなら、

骨格は駆動・伝達。ギアボックスや、

ドライブシャフトに当たるか。」

 

「僕も芥瀬君と同じ意見かな。

耐久レースで故障が起きやすいのも、

ミッション回りが一番多いんだ。」

 

「それはあたしも知ってるわ。

タッちゃんのクラッチも、

慣れるの大変だったわねぇ。」

 

「クルマ談義はまた今度にしようぜ。

生徒会のみんなは分からないだろう。」

 

「そうね。面白い話も出来たし。

また遊びに来るわ♪」

 

 

____

 

 

夜。

 

トレセン学園生徒会室。

 

寮長達と冬休みの帰省組と、

学園に残る生徒達の情報を整理しつつ、

病院で話した内容を話す。

 

「なるほどねぇ。

骨にはトレーニングが効かないってんなら、

うんと栄養付けなくちゃだねぇ。」

 

「私の屈腱炎もそうだったのかな?

元々弱い部分ではあったみたいだけど。」

 

「怪我は走る以上付いて回る事だからね。

今日は一つ有意義な意見を聞けた。

体と機械では違うが彼の話は、

色々と参考になる部分もありそうだ。」

 

「しかしワタシの時もだったが世間は、

バ場やローテーションばかり注目していて、

体の方に原因があるとは言わなかったな。」

 

「やはり職業でレースをしている者と、

まだ学生である私達の違いもあるのだろう。」

 

「確かにあっちのタイマンだと、

コースの方に原因があっても、

事故るヤツは下手みたいな風潮があるねぇ。」

 

「なるほど。彼の居た世界の話は、

もっと色々知る必要がありそうだ。」

 

 

____

 

 

首都高。

 

流貴とインカムで通話しながら、

カウンタックで走るマルゼンスキー、

江助のスープラも追走している。

 

サーキットでの実戦を考え、

マルゼンスキーにグリップ走法を覚えさせ、

走りの引き出しを増やしていく。

 

『さて、一応実戦を想定した、

アクセルワークの訓練だ。』

 

『具体的にはどうすれば良いのかしら?』

 

『そうだな。元々カウンタックは、

トラクションコントロールが無いから、

立ち上がりでアクセルを小刻みに踏んでたろ?』

 

『そうね。』

 

『それをゆっくり踏むようにしてみてくれ、

タイヤを鳴らさずに立ち上がるイメージだ。』

 

『効果はどうなのかしら?』

 

『コンパクトカーはパワーが無いから、

無駄なく路面に伝えて行く必要がある。』

 

『なるへそ。』

 

『あとはコウちゃんに見て貰ってくれ。

一応説明はしてある。

こっちはもうすぐ消灯時間なもんでな。』

 

『了解したわ。おやすみ。良い夢見てね~。』

 

通話を終了して病室へと戻り、

布団に入りながら考える。

 

(こっちの世界に来た意味はまだ分からない。

もしかしたらただの神の気まぐれか。

けど何もしないのは面白くねぇ。

今までの経験と人脈を活用する事にする。)

 

学生時代からの友人である江助は、

スポーツウェアメーカーの社員という所は、

変わらないがウマ娘達に深く関わっていた。

 

自分もそれをなぞって行くことで、

何かが見えて来るのだろうと思う。

 

 



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08:挨拶

 

 

首都高C1、汐留PA

 

クルマを停めて休憩する、

マルゼンスキーと江助。

 

「この時間帯は一般車が多くて、

ちょっと窮屈だが、少しは感覚掴めたか?」

 

「うーん、まだ難しいわね、

どうしても物足りないっていうか。」

 

「確かに体感は遅く感じるだろうけど、

これが実は速かったりするんだぜ。

特にカウンタックみたいな大排気量の自然吸気はな。」

 

走り屋としてのマルゼンスキーの走りは、

カウンタックのパワーを生かした、

スライド・ドリフトを得意とする。

 

しかしこの走り方は後輪駆動、

大排気量車だから成立している所もある。

 

「多分レースに使うのはFF車だと思うし、

グリップ走法を覚えておく必要があるな。」

 

「FF・・・前輪駆動はドリフト出来ないのかしら?」

 

「前輪が車体を引っ張る関係上、

後輪駆動みたいな走りは難しいし、

タイヤへの負荷が大きいからな。

一応Fドリってのもあるが。」

 

「そういえばFF車が多いのって、

どうしてなのかしら?」

 

「多分、量産性と快適性だろうな。

エンジンと駆動輪を直結出来るから、

量産しやすく室内空間も広く取れる。」

 

「量産性と快適性?」

 

「マルゼンはカウンタックに慣れてるからいまいちピンと来てないだろうけど、専門的にスーパーカー作ってるメーカーの方が珍しいんだぜ。」

 

「言われてみればそうね。なるへそ。」

 

「日本は特にモータリゼーションの発展が諸外国より遅れていたから、各メーカーは色々と急いでいたのもあるだろうな。」

 

第二次世界大戦後、高度経済成長により、

それまで贅沢品とされていた自動車が、

必需品になり始めた日本。

 

世界のメーカーに追い付け追い越せ。

まずは乗用車を作って売り経済を回す。

その中でFF車は良い素材だったのだろう。

 

そしてメーカーが成長して来た所で、

モータースポーツへと進出していく。

 

「それが今じゃ、日本車題材の走り屋映画が世界的にヒットするまでになったんだ。ホントにすげぇよな。」

 

「歴史を追うのも楽しいわよね。ランボルギーニもタッちゃんを作る前は、トラクターメーカーだったのを知った時は驚いたわ。」

 

マルゼンスキーとクルマ談義に花を咲かせていると、PAに一台のクルマが入って来る。

 

鋭角的なデザインのオープンボディに、

ハードトップを装着している。

 

「ん。エスニのワイドボディか。」

 

するとS2000が2台の横に停め、

一人の男が降りてくる。

 

「久しぶりだね。ひろくん。」

 

「お前だったのか。ジェイ。」

 

「あら、このハンサム君はお友達?」

 

「昔一緒に走ってた仲間の一人だ。」

 

「初めまして、マルゼンスキー。俺はこういう者だ。」

 

名刺が手渡される。

 

『東前プロダクション、

スタントマン、鳩斑時英』

 

「あら、スタントマンなのね?

せっかくハンサムなのに勿体ないわ。」

 

「頭より体の演技が得意なモンでね。

何回か文化祭のゲストにもお邪魔してるよ。

キャロットマンとしてだけど。」

 

「また今度来た時はよろしくね。」

 

「ああ、よろしく。

・・・しかしいつもは深夜組の二人が、

どうしてこんな時間に走ってるんだ?」

 

「ちょっと色々あってな。」

 

首都高の走り屋達にも、

走る時間帯によって便宜上の呼称がある。

 

主に午後10時から午前0時辺りまで走る「夜組」午前0時から深夜2時まで走る「深夜組」深夜2時から早朝4時まで走る「早朝組」と呼ばれている。

 

 

____

 

 

「なるほど。レースでの実戦を意識した練習ね。」

 

「たまたまルキのお見舞い帰りに来たら、

この時間帯になったって訳だ。」

 

「確かに一般車が多くて走りにくいけど、

密集した遅いクルマを抜く練習にもなるんじゃないかな?」

 

「遅いクルマ?」

 

「どれくらいの規模のレースかは分からないけど、ピットとかの関係で周回遅れも出るだろうからね。」

 

「確かに、走行会とは規模が違うものね。」

 

「ここだと合流して来たクルマにラインを塞がれる事も多いけど、レースでもピットアウトして来るクルマに注意しないとだしね。」

 

「一応近いシチュエーションって訳か。

・・・んにしても、派手なエスニだな。」

 

「二人も人の事言えないでしょ(笑)」

 

「このグリーンは純正色か?」

 

「メーカーオプションのライムグリーンメタリック。カワサキっぽくていいかと思ってね。」

 

「相変わらずバイクも好きなんだな。」

 

「今も通勤はDトラッカーだよ。」

 

「物持ちが良いねぇ。

エンジンはターボ化してんのか?」

 

「見せようか。」

 

ボンネットが開かれる。

 

anuse ホンダ S2000 GT1

 

エンジン:水冷直列4気筒DOHCターボ

排気量:1997cc

出力:400馬力

車両重量:1180kg

ギア:6速

 

数多くS2000のチューンドカーを作って来たアニューズ社がリアルドライブシミュレーターゲーム「グランドツーリスト」とのコラボレーションによって製作。

 

まずゲーム上でバーチャルモデルが製作され、

その後に実車が製作されるという変わった経緯で産まれた。

 

「こりゃまた速そうなエンジンだな。」

 

「でしょ。そっちも見せてよ。」

 

「OK。」

 

スープラのボンネットが開かれ、

スワップされた3S-GTEエンジンが見える。

 

「確かGT選手権のスープラもこのエンジンだったよね。真似してるのかな?」

 

「まぁ参考にしちゃいるのかもな。

ショップは関西のTREILA。サーキットでのタイムアタックを突き詰めていったらこの仕様に辿り着いたらしい。」

 

「なるへそ。どうりで軽く動くと思ったわ。

タッちゃんがGTに出てた時のスーちゃんもこの仕様だったのかしら?」

 

「いや、確か94年は2Jのまんまだった。

次の年から載せ換えたらしい。」

 

「目的は重量バランスの改善かな?」

 

「まずはそれが第一だったんだろうが、

当時まだ新しかった2Jはチューニングパーツも少ないから、使い慣れてる3Sの方が信頼性が高かったってのもあるんじゃね?」

 

「確かに、ル・マンを走って来たエンジンだもんね。ブロックがスチールで頑丈なんだっけ?」

 

「ああ。GTに持って来たのは最初はCカーの2.1リッターだったけど途中からWRCに使ってた2リッターに変更されたって話だ。」

 

「エアロもトレイラのフルエアロか。

確かスーパーチャージャーのセリカとかも出してるショップだよね。」

 

「C1限定ならセリカもアリだと思ったんだけど、俺は首都高オールラウンドで速く走れるクルマを目指してんだ。こいつも一応600馬力までは許容してる。」

 

「なるほどね。このボディカラー純正にあったっけ?」

 

「いや。ワンオフのイエローだ、

彼のヘルメットを意識してる。」

 

「確かに、言われてみれば。」

 

「そういやマルゼンは何かチューニングしてるのか?」

 

「整備はパパの頃からの工場でマメに見てもらってるけどノーマルね。」

 

「ノーマルでもパワーは必要十分だと思うけど、少し軽量化した方がココじゃ動かしやすい。スチールフレームだから弄りにくいだろうけどな。」

 

「パパに相談してみたいんだけど、

具体的にはどうしたらいいのかしら?」

 

「構造は変えらんねぇからな・・・、

手っ取り早いのだと窓をアクリル化するとか、トランクの内張りを外すとかだろうな。窓はワンオフになるかもしれねぇが。」

 

「効果はどうなのかしら?」

 

「一応20kgぐらいは落とせるだろう。

たったそれだけでも結構変わるモンだぜ。」

 

「なるへそ。今度聞いてみるわね。」

 

「あと、キャブは冬用になってるか?」

 

「冬用?どういう事?」

 

「冬は空気の密度が高くなるから、

キャブ車はそれ用の調整が必要なんだ。」

 

「今度工場に持って行った時に聞いてみるわ。」

 

「もし予定が空いてたら、正月に三人で走らないかい?」

 

「お正月に、なにかあるのかしら?」

 

「一年に一回、首都高がクリアになる日だよ。」

 

「C1でタイムアタックをしたいヤツはこの日を狙う。日々走り込むのもこの日のためだ。」

 

「それじゃあお正月までに、

セッティングをバッチグーにしておくわね。」

 

そうしてクルマ談義をしていると、

結構な時間が経っているのだった。

 

「おっと。明日も早いし帰ろうかな。今日は挨拶だけしたかったんでね。あっくんにはお見舞い行けなくて申し訳ないってよろしく言っといて。」

 

「色々撮影とか大変なんだろうな。」

 

「稽古とか打ち上げもあるし、

面会の時間に間に合わなくてね。」

 

「分かった。んじゃ、またな。」

 

「またね~。」

 

____

 

 

クリスマス。

 

トレセン学園も冬休みに入り、

週末に迫った有馬記念。

 

中山レース場に前乗りする前に、

スズカの見舞いに訪れるウマ娘達。

 

その頃流貴は、電子書籍で小説を読んでいた。

 

(異世界転生は食傷とか言われてだけど、

まさか自分がそうなるとはねぇ?今更だけど。)

 

今読んでいるのは害虫・害獣駆除業者の男が生前の経験を生かして冒険者の世界を生きていく話だ。

 

(前世の経験を生かすなら、合同トレーニングの教官ってのも手かもしれないけど、やっぱり実戦に出たいよねぇ。)

 

そろそろ自分も挨拶回りに行こうとしたその時。

 

(コンコンッ)

 

「どうぞー。」

 

「ちゃお。ルキくん。」

 

「こんにちは。と、その子は?初めて見るね。」

 

「ライスちゃん。自己紹介して。」

 

「えっと、ライスシャワーです。

よろしくお願いしましゅ!」

 

「よろしく。そんなに緊張しないでよ。」

 

「ライスちゃんはね、あたしの助手席でも酔わなかった強い子で、走りの変化にも気付いたわ。」

 

「内臓が強くて鋭いって訳か。すごいねキミ。」

 

「えへへ・・・。」

 

小柄で軽い(ボディ)に強い内臓(エンジン)

スポーツカーならば理想的な組み合わせである。

 

「んじゃ逆に弱い子は?」

 

「チヨちゃんかしらね?

コーナー3コで失神しちゃったわ。」

 

「やすらかなねがお?」

 

「だったわね。」

 

「まぁ、生身で走るのとクルマじゃGのかかり方も変わるしな。で、俺と引き合わせたのは?」

 

「ライスちゃんまだトレーナーが居なくてね、

ルキくんがトレーナーになったらスカウトして欲しいの。」

 

「気が早ぇな。まぁ書類も何もないけど、

気持ちだけ仮契約で良いかい?ライスちゃん。」

 

「ひゃい。よろしくお願いします。」

(ぐううぅぅ~)

 

「あわわわ!お腹さん!しーだよ、しー!」

 

「内臓が強い分燃費も悪いかな?

とりあえず売店のお菓子で良きゃ奢るよ。

それからスズカの所に行こうか。」

 

「そうしましょ。」

 

 



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09:クリスマス①

 

 

スポーツウェアメーカー、

WINNING MUSUME社内。

 

トレセン学園が冬休みに入った事もあり、

殆どの社員が仕事納めをして年末休みに入る。

 

「今年も無事に業務を終える事が出来ました。

では、体に気を付けて冬休みに入りましょう。

一年間お疲れ様でした。良いお年を。」

 

「「「「「お疲れ様でしたー。」」」」」

 

「レース場スタッフとして参加される社員の方は、そちらで仕事納めとなります。よろしくお願いします。」

 

「分かりました。お疲れ様です。」

 

レース場スタッフの仕事とは、

G1以外のレースでウマ娘が着る体操着や、

ゼッケンに不備が無いかを確認する仕事である。

 

特にゼッケンがレース中に落下した場合、

後続者が踏んで滑り転倒、多重事故に繋がる可能性もあるため目立たないながらも大事な仕事である。

 

しかし多くの人数は必要ない仕事であり、

出向という形でレース場に行く。

 

スタッフとして参加するので、

ウマ娘達のレースを間近で観戦出来る役得はあるが、北海道等遠くの地方へは行きたがらない者も多い。

 

今回は江助が中山レース場スタッフとして参加する事になっていた。彼の仕事納めである。

 

(とりあえずお見舞いに行ってから、千葉に行くか。)

 

レース場近くのホテルを会社側で手配され、体操着も既に運び込まれているので、あとは手ぶらで行くだけだ。

 

スープラのエンジンに火を入れ、

暖気しつつクルマにもたれかかり、一服付ける。

 

するとそこに漆黒の大型バイクが近付いてくる。

 

(あれはもしかして・・・ブラックバード?)

 

 

ホンダCBR1100XXスーパーブラックバード

 

エンジン:水冷直列4気筒DOHC

排気量:1137cc

出力:164馬力

車両重量:256kg

ギア:6速

 

ホンダが世界最速を目指して作った、

ハイスピードツアラー。

 

ノーマルではわずかに300kmに届かなかったが、タイヤを変更した車両が303kmを記録。

 

バイクでは世界で初めて300kmの扉に手を掛け「スズキGSX-R1300隼」の出現まで世界最速のバイクとして君臨した。

 

バイクとしては車重が重いため、サーキットや峠を攻めるよりはハイウェイクルージング向きである。

 

名前は24000メートルの高高度をマッハ3で飛ぶアメリカの超高速偵察機「SR-71」から取られ、某湾岸線のポルシェと同じ由来である。

 

江助はそのバイクに見覚えがあった。

 

バイクが横付けし、

ライダーがヘルメットを脱ぐ。

 

切れ長の目付きと港町の男らしく日焼けした肌が特徴のかつてのヨシムロの仲間。反幕尚三だ。

 

「よう。合宿ぶりだな、ハン。」

 

尚三(なおみ)という名前が女子っぽいため名字の上を取り親しい人間には「ハン」と呼ばせている。

 

「どうもスケっち。名刺貰った会社に居てくれて助かったぜ。居なかったら交番で聞くとこだ。」

 

「ルキの見舞いに来たのか?

わざわざ寒い中単車でご苦労なこった。」

 

「ツラ出すついでに、

色々話したい事もあるんでね。案内を頼む。」

 

「りょーかい。」

 

____

 

 

その頃。流貴とマルゼンスキー。

 

ライスシャワーのお腹は売店のお菓子だけでは収まらず、スピカメンバーや黄金世代等他のウマ娘でちょっとしたクリスマスパーティー状態になっていたスズカの病室に預け、ウーマーイーツの追加注文を受け取るため外に出ていた。

 

「ねぇルキくん。」

 

「ん?何だ?」

 

「この間、お友達に首都高で会ったわよ。」

 

「名前は?」

 

「これ、名刺ね。」

 

「ジェイちゃんか。日本でスタントマンとはねぇ。てっきりバイクスタントでドル箱スターにでもなってるかと思ったよ。」

 

「お見舞いに行けなくごめんって言ってたわ。」

 

「まぁそりゃしょうがない。スタントも演技の一つだからな。喋らないからこその表現もあるし、裏で相当な練習がある筈だ。」

 

「良く分かるわね?」

 

「裏で山ほど練習してんのは、俺達のレースもキミ達のレースも同じだ。畑違いの世界でもなんとなくは分かるよ。」

 

「なるへそ。キャロットマンは見た事ある?」

 

「ああ、時々ニチアサは見るぜ。もしかしてそのスーツアクターなのか?」

 

「そう言ってたわよ。何回か学園の感謝祭にも来た事あるって。」

 

「再会すんのが楽しみになって来たな。

頑張ってトレーナーになんねぇとな。」

 

「お手伝いは出来ないけれど応援してるわ。あたしもルキくんに学園に来て欲しいから。」

 

「そりゃどーも。」

 

「それと、ルキくんの目から見てライスちゃんはどうかしら?」

 

「まだ会ったばかりだからな・・・でも前提として、中央トレセンに居る時点で才能はあるだろ。超高倍率のレーシングスクールに受かるようなモンだからな。」

 

「でも、性格が大人し過ぎる気がするのよね。」

 

「まぁそこは、あの子なりのスイッチがあるかもしれない。それを見つけたい所かな。」

 

「スイッチ?」

 

「俺達走り屋には多いが、ハンドルを握ると性格が変わるヤツが居るのと同じように、引っ込み思案が開き直って覚悟を決める。そういうスイッチが、あの子にもあるんじゃないかな?それを見付けんのもトレーナーの仕事かもしれねぇ。」

 

「確かにそうね。レース前に何かしらのルーチンを入れている子もいるわね。」

 

「なるほど。そういうのを考えんのも面白いかもな。」

 

「ルキくんは何かやってたの?」

 

「うーん・・・強いて言うならルーチンっていうよりゲン担ぎだけど新品のツナギで走るとコケるってジンクスがあったから、新品着る時はバイク乗る前にわざと地面に寝っ転がってた。はたから見りゃただのアホだろうが(笑)」

 

「なんだか、とってもシュールねぇ(笑)」

 

____

 

 

数十分後。

 

出前バイクがパレードの如く列をなして到着。

ちょうど江助達も合流し、厨房が戦場と化していたのか、帰還兵のようになっているウーマーイーツ配達員とピザーヤスタッフ達をねぎらう。

 

「お疲れ様です。よければこれをどうぞ。」

 

「「「「ありがとうございます。またよろしくお願いします!!!」」」」

 

缶コーヒーの詰め合わせを渡し帰っていくのを見送る。

 

「久しぶりだなルッキー。元々あんた用に買ったコーヒーだったんだけど悪いね。」

 

「まぁしょうがない。来たついでに運ぶの手伝ってくれよ。」

 

「りょーかい。しかし多いな。」

 

「台車借りれねぇかな?」

 

結局台車を借りてスズカの病室へ運び込み、

挨拶をしながら料理やデザートを配っていく。

 

「ライスちゃんにリンゴのタルトね。」

 

「わぁ、ありがとうマルゼンさん。」

 

「お礼はルキくんに言って。お金はルキくんが出してくれたから。」

 

「えへへ、ありがとう。ルキさん。」

 

「良いよ良いよ。いっぱい食べて大きくなれよ。」

 

そして、尚三が改めて挨拶をする。

 

「こんにちは、合宿ぶりですね。皆さん。」

 

「おう。」「ああ。」「うむ。」

 

「まさかゼロヨンのお兄さんもルキくんのお友達だったとはね。」

 

「ゼロヨン?」

 

「ああ。トレセンの合宿所近くの埠頭の走り屋が集まって色々やってんだぜ。特に夏場は盛り上がる。」

 

「なるほどね。そりゃ面白そうだな。」

 

「ルッキーは走りの世界じゃ有名人だからな。今度来た時は港町の全員で歓迎するぜ。」

 

「荒っぽい歓迎になりそうだな(笑)」

 

「それと、俺の今の仕事についても話をしておこう。」

 

「ん?そんなに特殊な仕事してんの?」

 

「まぁ、鉄工所兼ボディチューナーって所か。」

 

「それだと、スポット溶接のボディ補強とかロールケージ組んだりとかかな?」

 

「あとはエンジンも弄る。ボンネビルで得たノウハウを街のヤツらに伝えたくてな。」

 

「蹄鉄のあんちゃんは少し工場も見せてもらって、他にも色々やってるとは思ってたが、クルマの方が本業かい?」

 

「そうですね沖野さん。色々兼業でやってる感じです。そもそも蹄鉄メーカーも他業種との兼任が多いですから。」

 

「確かに鉄を加工するって意味では同じか・・・ちょいと教えてもらえるかい?」

 

「元々その話もする予定でした。ルッキーもこれからトレーナーになる上で必要になるかもしれない知識だし、聞いてくれ。」

 

「ああ、頼むわ。」

 

「まず、元々蹄鉄は職人が鉄を炙って熱して曲げ、手作業で一つ一つ作っていました。」

 

「ふむ。」

 

「しかし、戦後の経済成長に応じてトゥインクルシリーズが興行として大幅に発展、各地にトレセンが設立され競技人口が増加し、段々と需要に対して供給が遅れがちになります。」

 

「そういう時代もあったんだな。」

 

「ボク達も教科書で見たよ。」

 

「勉強熱心だなテイオー。良い事だ。」

 

「では続きを・・・。それに対応するために、金属加工を得意とする他事業のメーカーが職人達を雇い入れ、技術を継承しつつ、より量産性に優れた鋼材の削り出しによる蹄鉄が出来ました。そして現在に至ります。」

 

「なるほどねぇ。ハンちゃんありがとう。」

 

「どういたしまして。ここからは現在URAに蹄鉄を供給しているメーカーだ。これを見てくれ。」

 

そういって書類が渡される。

 

・AHI

正式名称、Asian(アジアン)Heavy(ヘビー)Industries(インダストリーズ)

または東洋重工とも呼ばれている。

 

1850年代に造船所としてスタートし、

そこからタービンメーカーへ。

 

現在は蹄鉄とタービンメーカーを兼業。

 

・MSC

正式名称、南見(みなみ)Steel(スティール)Corporation(コーポレーション)

 

1920年代に銃器メーカーとしてスタート。

1958年に銃刀法が始まり、需要が軍や警察関係者のみとなったため蹄鉄事業に乗り出す。

 

・NPM

正式名称、中篠(なかしの)プリンセスメタル。

 

1910年代に飛行機・戦闘機メーカーとしてスタートし、その後自動車メーカーとなるが、他社に吸収合併され、蹄鉄メーカーはその一部門となる。

 

 

「面白いね。元々物騒なモン作ってたのが蹄鉄メーカーになってるとは。」

 

「まぁ似たような話は世界中にある。アメリカじゃ自動車メーカーのプレス技術を借りてマシンガン作ってたりもしたし、ドイツじゃ自動車メーカーの人間が戦闘機作りに借り出されてんだからな。」

 

「まぁ、レースもある意味戦争だしな。興行が発展出来るくらい平和になったって事でもあるか。」

 

「そういう事さ。」

 

 




蹄鉄メーカーのモデルはIHI、
南部、中島飛行機・プリンス自動車。


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10:クリスマス②

 

 

「・・・以上が蹄鉄の戦後から現在までの歴史だ。メーカーに関しては書類を回して読んでくれ。」

 

そして書類が一巡する。

 

「なにか質問はある?」

 

「はい。」「はいデェス!」

 

「ん。エルコンドルパサーとグラスワンダー。」

 

「海外の蹄鉄メーカーは取り扱っていないんですか?」

 

「ああ。ウチでやってるのは国内3メーカーの物と形状や材質を合わせたコピー、メーカーにはストック分として送る。」

 

「ん?予備在庫って事かい?」

 

「そうですね。さっきも言った通りウマ娘の競技人口は多いですし毎年新入生も居るでしょうから。在庫が少なくて困る事はあっても多くて困る事は無い訳ですが、発注が結構こまめに来ますね。」

 

「ふむ、なるほど確かに。」

 

「他には何かありますか?」

 

「蹄鉄は加工っていうか、セッティングみたいなのはあるのかしら?」

 

「削ったり逆に接地面を増やしたりか。ウチはメーカーじゃないからそこまでは手を付けない。バランスはメーカー純正の方がちゃんと出る。」

 

「なるほどね。」

 

「車ならバネ下・・・足元は軽いほど良いとされてるが、蹄鉄はある程度重いほうが踏み込み時安定してトルクを発生出来る。ただし当然ながら摩擦抵抗も増える。脚力や脚質に合わせて考える事だ。」

 

「タイヤサイズも同じよねぇ。」

 

「まぁ理屈は同じだな。俺の仕事で分かる範囲はここまでだけど、大丈夫かな?」

 

「分かりました。」「はい。」「ああ。」

 

「んじゃあ、メシ食いながら色々話をしようぜ。」

 

「そうだな。」

 

「それと、ルッキーとスケっち。二人に頼みがある。」

 

「ん?」「なんだ?」

 

「まずはルッキー、アンタが俺らの街にトレーナーとして来る前提で話す。皮算用かもしれねーがな。」

 

「そうならねぇように頑張るさ。で、何だい?」

 

「ゼロヨンのスターターを頼みたい。」

 

「へぇ。トーキョードリフトみたいな感じ?楽しそうじゃん。」

 

「ああ。盛り上がるぜ、今まではバイクのゼロヨンを埠頭でやってたけど、来年からは4輪も開催予定だ。」

 

「んじゃあ、俺への頼みもゼロヨン絡みか?」

 

「ああ。スープラに載ってた2Jエンジンを使わせて貰いたい。」

 

「別に乗り潰す気でいるし、そんな珍しいエンジンでもないから良いぜ。どのボディに載せる気だ?」

 

「90スープラだ。BMWのエンジンも決して悪くはないんだ、コンピュータとブーストアップで500~600馬力はイケるらしいからな。」

 

「なるほどね。しかしゼロヨンってなるともっとさらにパワーが欲しいって事か。」

 

「ああ。」

 

「あのー、ちょっといいッスか?」

 

「どうしたウオッカ?」

 

「車とバイクって、そんなに違うもんなんスか?」

 

「ん、というと?」

 

「いやぁ、バイクはデカくても200馬力あるか無いかって感じなんスけど、さっきからとんでもない数字が聞こえるから聞いてみたんス。」

 

「それはだな、車重が全然違って来るから、パワーもそれだけ必要になるって事だ。」

 

「あたしのタッちゃんでも450馬力ぐらいはあるわよ。車重も結構あるけどね。」

 

「確かカウンタックは初期モデルで1300kg、マルゼンのモデルは1500kg近くあったかな?」

 

「そうねぇ。でもそんなに感じないのよねぇ。どうしてかしら?」

 

「きっと重心って言うか、動きの軸が良いんだろうな。」

 

「うーん・・・どういう事?」

 

「カウンタックは乗員やエンジンを車体の中心に集めるように設計されている、ギアボックスもドライバーの真横だ。動きの軸がドライバーと近いから乗りやすいんじゃないかな。」

 

「この間ジャージ屋くんの言ってた、軽量化はどうかしら?」

 

「もちろんそれもバランスを崩さないように考えてる。窓のアクリル化やドアのFRP化。外側だけ軽くして重心は変わらないように軽量化するんだ。」

 

「なるへそ。」

 

「キミ達ウマ娘の走行フォームも、姿勢を下げる事が多いだろ?アレは重い頭脳の位置を下げる事で重心を下げる意味もあるって言われてる。」

 

「ふむ。一見すると全然違うようで、ウマ娘とあんちゃん達のレース、繋がる部分もあるって訳か。」

 

「そうですね。何処までフィードバック出来るかは分かりませんが、働く物理法則や走りの理屈は同じはずですから。」

 

「ハンちゃんは、アメリカに住んで色んなレースを見て来たんだよね?」

 

「ああ、元々はユタ州にあるボンネビルでバイクの最高速チャレンジをするためだった。けど年に一週間しかないスピードウィークのためだけに移動するより、他にアメリカで見たいレースも多かったし、いっそ移住しようってね。」

 

「モータースポーツ留学ってか。」

 

「まぁそんな所か。さて・・・何人かアメリカって聞いて耳が立ったな?まずはアメリカ出身の二人に聞こう、ボンネビルに行った事は?」

 

「名前は知っていますが、行った事はありません。」

 

「エルも無いデスね。」

 

「んじゃ、どういう場所か説明しとくか。」

 

「お願いします。」

 

「はいデェス。」

 

「ボンネビル・ソルトフラッツ。塩湖が干上がって出来た広大な平原。」

 

「ボンネビルって名前はバイクのグレードで知ってるんスけど、えんこってなんスか?」

 

「読んで字の如く、塩分を含んだ湖だ。どうやって出来たのかは海の一部が地殻変動で移動したとか、バクテリアの働きだとか諸説ある。」

 

「なるほどッス。」

 

「地面が塩だけどアスファルトと同じぐらいのμ(摩擦)を発生出来るから、1912年から最高速を競う舞台として使われて来た。公式な記録とはされない事が多いがな。」

 

「そうなんスか?」

 

「環境があまりに特殊過ぎるからな。標高1282mの高地、さらに摂氏40度を越える高温になる事もある。見た目はバカでかいゲレンデみたいでキレイなんだけどな。」

 

「となると、燃調も難しいのかしら?」

 

「さすがにキャブ車乗りは分かってんね。最高速狙いのエンジンチューンは基本的にドラッグレース、ゼロヨンと似通ってくるが、空気と燃料の比率が平地と変わる。」

 

「日本車の記録で、残ってる物は?」

 

「ルッキーの興味ありそうなのだと、80年代にRX-7で383kmを記録してる。それとウオッカ、バイクではCBR600RRが274kmを記録してるぞ。割りと最近だ。」

 

「スッッゲェ!」

 

「俺がロータリー好きなの覚えてたのか。と、600ccが300kmの大台を見据え出したか。恐ろしいね。」

 

「さすがに専門的な話になってしまったが、ゼロヨンの起源にはキミ達ウマ娘のご先祖様が関わっている事も忘れないで欲しい。」

 

「それは俺も知ってる。確か西武開拓時代に牛追いのカウガールウマ娘が直線で速さを競ったんだっけか?」

 

「そう。自動車ってモンが発明されるよりも昔の話だ。さて、ボンネビルの説明はもういいかな?」

 

「ありがとうございます。」

 

「次はキングヘイロー。キミは合宿の時もウチに来てくれたけど、アメリカは確かお母さんがケンタッキーオークスを勝ってるんだっけ?少し家の事も聞いたし、ある意味因縁の地かな?」

 

「ええ、でも私は私の道を行く。お母様は関係無いわ。トレーナーと話合って、決めたのよ。何を言われても曲げるつもりはないわ。」

 

「良いじゃないか。昨日のブーイングは明日の金になる・・・。キミ達のようなオーバルトラックを走るレースの、とあるレーサーの言葉だ。」

 

「もう宣言しているけれど、私の次走は高松宮記念よ。」

 

「1200m、オーバルトラック半周。その短い競り合いの中で。俺達に答えを見せて、いや魅せてくれよ。」

 

「ええ。覚悟なさい。」

 

「楽しみにしておくよ。」

 

「ところで、私達と同じコースを走るレースって?」

 

「何年か前に日本人が勝ってたアレかい?」

 

「惜しいですね。確かにインディもシンプルなコースで走りますが、俺が言ったのはNASCARって言うカテゴリーです。ストックカーって呼び方もあります。」

 

「なるほどね。」

 

「ブーイングが金になる、ねぇ。確かにそのぐらい図太くなきゃレースの世界はやってらんねーよな。」

 

「まぁ、彼はアウトローとか、よく映画ネタの悪いニックネームを付けられてたけど、ある意味NASCARの起源を象徴する男だと思う。」

 

「というと?」

 

「また歴史の話になるけど、さっきのボンネビルでのスピードチャレンジが始まったのと年代的には近い。今から100年ぐらい前のアメリカの法律、何か分かるかい?」

 

「もしかして、禁酒法か?」

 

「その通り。NASCARの起源は禁酒法時代、マフィアが密造した酒を運ぶため、ポリスから逃げるために腕を磨いたアマチュアレースって話がある。」

 

「ほう。そりゃまた面白い(笑)」

 

「夜な夜な首都高走ってるヤツが言うかね。」

 

「くくくっ。知ってたか。」

 

「俺らだって埠頭ばっか走ってる訳じゃねぇのよ。色々噂は聞いてんぜ?」

 

「ハンはいつまでこっちに?今度隣乗らねぇか?」

 

「そうだなぁ。んじゃ正月ぐらいまで居るか。」

 

「仕事は大丈夫なの?ハンちゃん。」

 

「そこは自営業だから自由が効くんだ。もうちょい色々話したいが、今日はもう結構良い時間だろ?」

 

「おっと。」「マジだ。」「あらあら。」

 

結構な時間話し込んでしまい。

急いで帰宅準備をする面々。

 

流貴がエントランスまで見送り解散となった。

 

「んじゃあ、今度は中山で。」

 

「俺はスズカと中継を見せて貰う。」

 

「おう、またな。」

 

「ああ。」

 

____

 

 

その夜。

 

中山レース場近くのホテルの一室。

缶の酒を持ち寄り、大人達が飲んでいる。

 

「あんちゃん達。今日は色々聞けて楽しかったぜ。」

 

「いえいえ。自分の見て来た事が、少しでも役に立てば良いな。と。」

 

「そこは俺達の共通認識です。流貴?」

 

LANE通話で流貴が喋る。

 

『もう消灯時間過ぎてんだけど。俺も飲みてぇぜ。』

 

「退院した時に取っとけよ。酒は逃げないぜ。」

 

『まぁ、そうなんですが。リハビリ頑張るしかないですね。』

 

「さて、走りの世界を見て来たあんちゃん達は、有馬をどう見る?」

 

『やっぱり坂ですかね。厳密にはポケットでしょうか?』

 

「ポケット?」

 

『ええ。中山の坂は登りの急さばかりが取り上げられますが、その前にちょっとだけ下る。ちょっとしたポケットです。』

 

「なるほどなぁ。なかなか良い目の付け所だ。早く上がって来いよ、芥瀬。俺達は待ってるぜ。」

 

『ええ。頑張ります。』

 

「ルキは誰が、勝つと思う?」

 

『さっきのポケット、無意識にブレーキをかけた状態からの登り。頭の切り替えが早い娘が勝つかな。問題はそれがゴール直前にあるって事だ。』

 

「って言うと?」

 

『2キロ以上走って、酸素がどれだけ頭に回せるかって事さ。スタミナとペース配分、失敗したらポケットは蟻地獄になるだろうな。』

 

「なるほどね。」

 

「ルキって時々、怖えー事言うよなぁ。」

 

『ま、今回はまだ傍観者として楽しませて貰う。コウちゃんは?』

 

「俺の仕事で気になったのは、再採寸が多かった事かな。」

 

「再採寸?」

 

「本格化したウマ娘の成長はヒトよりも早い。が、今年は例年よりもジャージの再採寸が多かったんだよ。」

 

『それは良い事じゃないの?』

 

「いや、体が急に伸びている裏で関節は悲鳴を上げてるかもしれねぇ。今回俺が現地まで来たのは無事を見届ける意味もあるんだぜ。」

 

『なるほど、確かに。』

 

「どうしても、ダブってしまうんだな。お前ら。」

 

「せっちゃんの事?もう話したのか。」

 

『乗り物が好きな二人、マルゼンとウオッカと話すうちにな。確かにレースは楽しいさ。でもそれだけじゃない。今日言ってたNASCARの彼もそうだろ?』

 

「ああ。分かってたか。」

 

『2001年の死亡事故。やっぱりアメリカンにとって衝撃だったんだろう。未だにあのゼッケンは永久欠番だ。』

 

「ああいう事故はNASCARではよくある事で、運転席回りもスチールパイプで頑丈だから、多くの観客はまさか死ぬとは思ってなかった。」

 

「という事は、その籠の中で何かが起きた?」

 

「はい。どうやらハーネスの固定が甘く、ドライバーがジェットヘルを被っていたのが原因とされ、死因は顎をハンドルに強く打ち付けた事による頭蓋骨骨折でした。」

 

『ジェットヘルにサングラス、そして蓄えた口髭。あれは一つのアメリカンレーサーのアイコンだった。しかしそれは安全面に配慮した物ではなかった。カッコ良さと安全面、何処で折り合いを付けるのかです。』

 

「なるほどなぁ。」

 

「俺達は車とウマ娘、両方のレースに携わる者として、色々フィードバックを考えています。」

 

『モータースポーツの理論で、ウマ娘のレースを科学するってか?』

 

「それで何処まで事故を防げるかは、分からないけどな。」

 

『結局、安全面と楽しさは相反する物だからな。俺達が走り屋やってて、楽しめばそれだけ警察に目を付けられるのと根本は似てるのかもな。』

 

「でも、レース場ではそれが合法になる。ある意味社会の外側かな。」

 

「俺達トレーナーも、色々新しく知っていく必要があるのかもな。芥瀬がトレーナーになって新しい風を吹き込んでくれたら良いな。」

 

『何処まで出来るか分かりませんが。役に立てるのなら幸いです。さて、俺はそろそろ寝ます。見回りの看護婦にドヤされたくないので(笑)』

 

「ああ、おやすみ」

 

「おやすみ。」

 

 

それぞれの思惑を胸に、有馬が来る。

 

 




NASCARドライバーの言葉はデイル・アーンハートが言ったとされる「日曜のブーイングは月曜の金になる。」から。


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PIT IN①

登場人物、企業、オマージュ元等。
進行に合わせて加筆・修正します。


 

芥瀬流貴(あくたせるき)

 

主人公。

 

マン島レースにて事故死、

ウマ娘の世界に異世界転生する。

 

元々は四輪志望でカートからレースデビュー。

F4へのステップアップテストは合格したが、レーシングスクールに通う資金が無く断念。

 

同級生で親友の吉室聖人の助けを借りて2輪へ移り、世界レベルのライダーまでに成長。

 

ブレーキングを最小限に抑えたスライド・ドリフト走法を得意とし、アクセルボーイの異名を持っていた。

 

転生には戸惑いもあったが、取り巻く人間関係は変わらず、事故でライダーを引退しトレーナーを目指す事になる。

 

名前はアクセルとビジュアル系バンド「the GazettE」のボーカル、RUKIから。

 

 

洋谷江助(ひろやこうすけ)

 

スポーツウェアメーカー、

「WINNING MUSUME」社員。

 

所属部所は営業・販売部であるが、運搬トラックを用いてトレセン学園へのジャージの搬入等も行い、生徒達とはジャージ屋として顔見知りも多い。

 

流貴や聖人とは学生時代からの親友で走り屋仲間でもある。

 

バイクの体重移動でのコーナリングに馴染めず4輪に移る。

 

免許取得まではレンタルカート等で鍛え、

現在は首都高ランナーとして夜な夜なC1を攻める。

 

同じく首都高ランナーのマルゼンスキーと流貴を引き合わせる。

 

名前は漫画「湘南爆走族」の主人公、江口洋介から。

洋介が手芸部であり服飾繋がりでジャージ屋という設定になった。

 

 

吉室聖人(よしむろせと)

 

故人。

 

流貴と江助の学生時代の同級生、走り屋仲間であり、祖父が監督を努めるヨシムロレーシングに彼らを誘う。

 

幼少の頃からポケバイで鍛えた生粋のライダーであり、流貴とは対照的なグリップ派でタイヤマネジメントが得意。

 

流貴と共に全日本ライダーとして走り、世界への切符を手にするが、最後の峠攻めの際に事故死。

 

流貴とは峠で最速を争っており、いつか「最高で最狂」の舞台マン島での決着を望んでいた。

 

人物像は漫画「バリバリ伝説」の一ノ瀬みゆきと聖秀吉から。名前も秀吉から取っている。

 

 

反幕尚三(そりまくなおみ)

 

トレセン学園の合宿所がある港町の男。

 

幼少の頃より埠頭の走り屋達を見て育ち、

彼にとって車やバイクが身近な存在だった。

 

流貴達と同時期にヨシムロレーシングに所属。

 

ヨシムロがパーツの開発に力を入れているアメリカ・ボンネビルでの最高速チャレンジに参加。車やバイク弄りのノウハウを学ぶ。

 

さらにアメリカに一時移住し、本場のドラッグレースやNASCAR等も見てきた。

 

現在は地元の走り屋達にノウハウを伝えつつ自身も埠頭ゼロヨンに参加する他、兼業で蹄鉄作りも行う。

 

なおみという名前が女子っぽいとして、ハンと呼ばれる事を好み、さらに仲間の呼び方も独特。

 

名前はワイルドスピードのハン、ヴェイルサイド代表の横幕宏尚氏、ハン役の俳優サン・カンから。

 

 

鳩斑時英(はとむらじえい)

 

流貴達と共に峠を走っていた仲間の一人。

 

徐々にオンロードからオフロードへ転向し、

エア(ジャンプ)やターン等のスタント技も身に付けレーサーよりもパフォーマーとして名を上げる。

 

現在はキャロットマンにてスタントマン・スーツアクターを担当。

 

また首都高ランナーでもあり、撮影と稽古で忙しい中走り込んでいる。

 

名前は漫画「D-LIVE!!」の斑鳩悟とジェームズ波戸から。

 

 

 

____

 

 

ヨシムロレーシング

 

2輪・4輪問わず様々なレースに参戦。パーツ開発・供給等を行っている大型プライベーターのレーシングチーム、パーツショップ。

 

モデルはヨシムラレーシング。

 

____

 

 

第2話冒頭の言葉はそれぞれ、

 

フランソワ・セベール(F1ドライバー)

マリオ・アンドレッティ(F1ドライバー)

アーネスト・ヘミングウェイ(小説家・詩人)

 

の言葉を元にしている。

 

 

第4話「毒は毒をもって制する。」

 

漫画・映画の「ワイルド7」より。

元犯罪者の特殊警察部隊ワイルド7の結成理由から。

 

またサブタイトルのL'Arc~en~Ciel「CHASE」は映画版ワイルド7のタイアップ曲でもある。

 

 

 



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