大人には大人のやり方がある (パスタン)
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1話

「若者よ、お前の若さを喜ぶが良い。青春時代を楽しく過ごせ。心にかなう道を、目に映るところにしたがって行け。知っておくが良い。神はそれらすべてについて、お前を裁きの座に連れていかれると。」


旧約聖書1047ページ第11章9節『コヘレトの言葉』より


 上記の通り「ゲマトリア」なる正体不明の組織はカイザーコーポレーションなどの巨大企業やその他学園組織などを隠れ蓑に暗躍しており、その活動はキヴォトスの統治機構をも揺るがす可能性は極めて高いと推測される。ついては連邦生徒会発令の元、同組織についての情報を精査し各学園との綿密なる連携と情報共有の必要性をここに上申するものである。

           連邦生徒会捜査部シャーレ顧問 

                    山川 敬太

 

 

 

 

「ふー……」

 数回の修正を経て完成した報告書を連邦生徒会主席行政官である七神リンへ送信し、凝り固まった体をほぐしながら一息ついていた。

 書類仕事というのは大抵の業務においては切っても切れない存在である。だが、だからと言ってその業務が好きであるかというとそれはまた別の話だ。

 規定の書式に当てはめながら詳細を書き連ねる作業をそれこそ何千とこなしてはいるものの、とてもではないが慣れるものではないし、ましてや好きになるものではないと断言できる。しかしそんな作業も、大人の精神で取り組まなければいけないのも悲しい大人の義務だと言えるのではないだろうか。

 仕事を終えた後の脱力感から、天井を眺めながら益にもならない思いに耽っていると、ふと甘い芳しいにおいが立ち込めてきたことに気がついた。

 

「お疲れ様ですあなた様。お茶とお菓子をご用意いたしました」

 

 そう言って執務室に入ってきたのは、桜のヘイローを浮かべ狐耳とロングストレートの黒髪を靡かせ、黒色をベースに桜の紋様をふんだんプリントした制服を着こなす少女であった。これだけだと年齢相応の美しい少女という評価になるだろうが、背負った銃剣付き三十八式歩兵銃が彼女がただの女子高校生ではないことを物語っている。

 

「ありがとうワカモ、ちょうどひと段落したところだから一緒に食べようか」

 

 そう言葉を返すと少女、孤坂ワカモは嬉しそうに狐耳をパタパタさせながら開いている机にお茶とお菓子の準備を始めた。

 

 孤坂ワカモ、百鬼夜行連合学院所属であるが、無差別かつ大規模な破壊行為により通称『災厄の狐』と呼ばれ恐れられた。様々な罪から停学処分と矯正局へと送致された彼女は、キヴォトスの混乱に乗じて脱走。いくつかの偶然と紆余曲折を経て、このシャーレの唯一の専属部員になったのだ。そして現在私にとって良き相棒のような立ち位置にいる。詳細についてはこの場では控えさせてもらうが彼女のおかげで数々の窮地に陥り、またそれと同じだけ救われたのだ。

 ただ、趣味が破壊と略奪というのは本当にやめてほしい……。本当にやめて下さい先生からのお願い。

 

「今日はカフェ・ミルフィーユのフランクフルタークランツとダージリンティーですわ」

 

「あそこの人気スイーツ、しかもこれって新作じゃないか!連日行列が出来るのによく手に入ったな」

 

『カフェ・ミルフィーユ』は放課後スイーツ部がよく利用している人気店だ。その人気故に連日長蛇の列をなし、目的のスイーツが売れ切れてしまうこともざらにあるというのに…。

 

「うふふ、それはもちろん先生のため!このワカモ、数多の邪魔者を悉く鏖殺し、店員との交渉(略奪)を経て見事に手中に納めましたの!!」

 

「あれ?先生は今、聞いてはいけない単語を聞いたような?なんでスイーツ買いに行くだけで皆殺しになってるの?」

 

「これも偏に貴方様への愛がなせる技ですわね」

 

「いや違うから!いい風に絞めてるけど、だだの殺戮と略奪行為だからね!え?マジなの⁉︎本当にマジなの⁉︎ねぇ聞いてよ!ワカモさーーーん‼︎」

 

 こんな騒がしい日常風景が馴染みつつある『学園都市キヴォトス』でも生活は続くのである。

 

ああ、そうだった。自己紹介が遅れた。私の名前は山川敬太。学園都市キヴォトス連邦生徒会捜査部シャーレの先生である。

 

 

 

 

 

 

 

 




本当に久しぶりに書いてみたなー。
時間がある時に続きを書いていこうと思います。
感想と評価よろしくお願いします!


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2話

「何事が起こるかを知ることはできない。どのように起こるかも、 誰が教えてくれようか。人は霊を支配できない。霊を押しとどめる ことはできない。死の日を支配することもできない。」



旧約聖書1043ページ8章7-8節『コヘレトの言葉』より



 

「先生!こちらの報告書できましたので確認お願いします。」

 

「ありがとうワカモ。後で確認するから決済箱に回しといて。それとゲヘナ学園との合同捜査の計画案出来たから、あとでダブルチェックお願い!」

 

「分かりました。午後すぐに確認しましょう」

 

「先生!トリニティ自警団のスズミさんから応援要請です!不良生徒たちが暴れまわって手こずっているようです」

 

「OK!正義実行委員会に連絡して!確かハスミが待機しているはずだから即応できるはず!」

 

「先生!何ですかこの領収書は!一体なんの交際費ですか!!!!」

 

「先生!この件についてご相談が」

 

「「「「「「先生!!!」」」」」」

 

 

「まって⁉まって⁉先生一人しかいないから一遍には無理ですーーー!!!」

 

 

どうも皆さん、山川敬太(以下ケータ先生)です。ワカモや当番の生徒たちと一緒に今日も今日とて書類整理に勤しんでいるが、なかなかに終わる気配がない…。

 

 良くも悪くも注目度が高いシャーレには、日々生徒や学校からトラブルが舞い込みそれを解決して回っているが、いかんせん需要と供給が全く一致していないのだ。問題を1つ解決すれば10の問題が舞い込むという悪循環が完成している。各学校から優秀な生徒たちが当番制でシャーレの業務をおこなってくれているが、彼女たちも自分の学校の業務をしなければならないのでどうしても参加できないこともある。そうなると必然的に負担が私に一点集中する。ワカモを専属部員として入部させたのは我ながら英断と言わざるを得ない…。これでもし、私1人だったならブラック企業もびっくりな悲惨な状態になっていただろう。

 

 現実逃避も含め突然ではあるが、諸君らにも分かるように、先ずは私や彼女たちが存在するここがどの様な世界か、そしていくつかの事柄を説明する必要があるだろ。

 

 まずはこの世界、学園都市キヴォトスについてだ。およそ数千もの学園の集合した都市、非常に未来的なレベルでの文明が確立された超近代都市であり、その統治を連邦生徒会が行っている。住民の特徴として、女子学生の頭上に天使の光輪のようなもの『ヘイロー』が浮いている他、犬型や猫型の獣人、ロボットなどが生活しており、強盗、銃撃、爆破が日常風景になっている。個人的な第一印象ではあるが、なかなかに混沌としている印象を受けたものである。

 

 しかしそんなキヴォトスにも決して犯してはならない大罪がある。

 

 それが『ヘイローの破壊』だ。

 

 まず、諸君に予め説明しておくが、キヴォトスで生活している女子生徒たちは、現実世界なら有名アイドルたちが裸足で逃げ出すほどのレベルだ。

 容姿端麗、才色兼備、眉目秀麗と様々な表現方法があるが、等しく美しく可愛く可憐な存在である。そんな彼女たちには、決定的な違いが2点ある。まず彼女たちはもれなく全員、多種多様な銃火器で武装している。女性らしい細腕でにこやかにミニガンをぶちかましている光景を見て一人宇宙ネコになったのは記憶に新しい。次にこの世界の女子生徒たちは極めて身体的に頑丈なのだ。比喩なく銃弾の5〜60発当たったところで「痛い⁉」の一言で済んでしまうのだから、アヴェンジャーズもびっくりであろう。

 しかし、そんな彼女たちもヘイローの破壊=死に直結している。そうヘイローの破壊は文字通り対処の殺害を意味しているのだ。破壊を好むワカモもこれだけは決して犯してはならないものと己のルールとして縛っている。

 

 そんなとんでも世界で私が所属しているのが『連邦捜査部シャーレ』だ。

 本部所在地はサンクトゥムタワー、部室であるシャーレオフィスはこのタワーから30キロ程離れた外郭地に設置している。連邦生徒会長の命で設立された組織であるが特に目的の無い組織で、現在は生徒や学校のトラブル解決のために動いてる。

 最後に私という存在…。捜査部「シャーレ」の顧問をしている山川敬太についてだ。連邦生徒会長が外の世界から呼んだ存在でキヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく希望する生徒を部員として加入できる破格の権限を持つ超武闘派組織であろう。

しかし、以前にも話した通り私にはここに来る前に記憶というものが一切存在しない。文字通り、気付いたらここにいた状態だったのだ。おかげで当初はこの世界の常識やらなんやらを学ぶのに一苦労であった。

 

 マジで神、ブッコロである。

 

 幸いにも前世?で習得した剣術や銃の扱いについては一通り覚えているので、ある程度の戦闘はできる。その一方で肉体面は一般人同様のため、彼女たちのように銃で撃たれても痛いだけで済まず、かなり脆弱なのだ。現在はエンジニア部などの協力により私専用の強化装甲と防御機構を装備することで一応の解決はしているが、戦闘では常に死と隣り合わせなのは言うまでもないだろう。

 

 

「ケータ先生、各学校からの依頼を優先度別にする作業が終わりました!」

 

 脳内で振り返りを行っているとディスプレイから元気のよい女の子の声が聞こえてきた。

 

「ありがとうアロナ。それじゃ、いつも通り周辺地域の巡回監視をお願いするよ」

 

 そうそうこの子の存在を忘れてはならなかった。彼女の名は『アロナ』

 オーパーツ「シッテムの箱」の高性能AIにして、システム管理者であり、メインOSでもある。箱の所有者である私の業務サポートなどを主に行ってくれている。彼女にも他の生徒が持つようにヘイローのような部位があり、本人の感情に呼応して様々な形状・色に変化する。ただし、外見相応な知識しかないので、あまり高度な作業は頼めないのが玉に瑕であるが、わがシャーレには欠かせないマスコット的な存在なのだ。

 

「分かりました!何かあったらすぐに先生に報告しますね」

 

 そう元気な敬礼を決めてアロナはネットワークへとダイブしていった。と同時に学校でお馴染みのチャイム、ウェストミンスターの鐘が辺りに鳴り響いた。

 

「もうこんな時間か…みんなーそろそろお昼休憩にしようー!」

 




大変遅くなりました!
次回から色々と進めていきたいと思います。


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