どの道○される男 (ガラクタ山のヌシ)
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どの道○される男

鉄血は異世界オルガから知った口です。




木星圏にその実力を知られる武闘派組織、タービンズの船ハンマーヘッド。

そこに思わぬ来客があったのは、鉄華団がタービンズ傘下に入ることが確定した直後のことだ。

「おいおい名瀬よぉ、まぁ〜たガキこさえたそうじゃねぇかよ。オメェって奴は、オレを素寒貧にする気かぁ?んん〜?」

一見嫌味っぽいが、その言葉に棘はない。

どちらかと言うと身内をからかっていると言った方が正しいか。

そう言うと、黄色い帽子と同じ色のファー付きトレンチコートに身を包んだ男は懐から膨らんだ封筒を取り出し机の上に置く。

「それでガキにベビー服でもおもちゃでも買ってやんな。釣りはいらねぇよ」

「そ、そんな悪りぃですって兄貴」

名瀬が遠慮がちにそう言うと、彼は名瀬の肩をバンバンと叩く。

「年寄りのお節介ってのは聞いとくもんだぜぇ?」

それじゃ、邪魔したなぁ〜。そう言うと、彼は去って行った。

「誰なんです?あの人」

純粋に気になったのだろう、たまたまその場に居合わせた鉄華団団長・オルガイツカはこれから自分の兄貴分となる名瀬・タービンに問いかける。

「あの人か…あの人はスゲェ人さ」

「そんなにすごい人なんですか?」

今度はビスケット・グリフォンが問う。

「テイワズの事実上のNo.2って言えばわかるか?」

「!!じゃあ、あの人が……」

「なんだ、知ってんのか?」

「知ってるも何も、あの人は…」

 

□□□□□□□

 

あっっっぶねぇぇぇ〜〜!!

もうちょいで帰るとこだったよアイツら!!

ったく、わざわざここまで来るのも手間だってぇのに。

「いいんですか?」

オレが心の中でボヤいていると、不意に話しかけられる。

やめてくれや、心臓に悪りぃ。

「なにがだ?」

ツカツカと廊下を歩くオレに部屋の前で待機させていた部下の一人が問いかけて来たのだ。

「またあんなに渡して!!名瀬のヤツがまた増長したらどうするんです!?」

「まぁまぁ、若ぇ奴らが活躍してくれるのは喜ばしいことじゃねぇかよ」

語気を荒げる部下を、何とか宥める。

まだここ、ハンマーヘッドの中なんだけど。

「しかし!!それではオヤジの立場が…」

う〜〜ん…。この人らな〜んかオレにテイワズの次期トップになって欲しそうなんだよなぁ〜。

ぶっちゃけそんな器じゃないっての。

つーかなんだよ、何で鉄血?そしてなんでコイツ?

「聞いてるんですか!?」

「おうおう、聞いてる聞いてる」

まぁ顔見せ程度だが、これで鉄華団の連中の第一印象も悪くないだろう。

…若干嫌味な成金野郎みたいだったのは否めないけどもさ…。

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ。

オレは一期しか見てないが、オレが生まれ変わったコイツは知ってる。

というのも、結構名が知れた…というか、悪い意味で有名なキャラだからだ。

「ジャスレイのオヤジに何かあれば俺ァ…俺ァ…」

「まぁまぁ、そう泣くなって、オーバーだなぁ〜」

そう、ドノミチコロスさんことジャスレイ・ドノミコルスになっちまったのだった。

うわぁ〜…知らねぇ〜。どうしよぉ〜。なんて思いながらどうにかこうにか逃げ延び生き延びて、気がついたら原作と同じポジションに落ち着くというね。

当面の目的は…まぁ、あわよくば鉄華団との良好な関係。最悪敵対はしない程度の距離間は保たないとなぁ…。

頭バエルおじさんは……どうしよう?

「まぁ、名瀬のヤツに食われるんなら、このジャスレイ・ドノミコルスもその程度の男だったってだけのことさ。この世界じゃあよくある話だろ?」

「オヤジ…」

「そんな顔すんなっての。少なくとももうしばらくは現役だって。その間…着いてきてくれるか?お前ら」

不安顔の部下に真剣っぽい表情でそう言うと、泣きながらも黙って頷いてくれた。

「良い部下に恵まれたよなぁ、オレ」

って言うかアレ?オレ個人の活躍ってなんかあったっけ?

……まぁいいや。今日は帰って映画でも観よ〜〜。

 




一期は一通り見ました。
二期は評判があんまりだったので…。

せめて観てから書けってね!!

アホだね!!


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2話

続きが出来ました。

齟齬があったらごめん。


ズガァァン!!

銃声と共に、骸が地べたに転がる。

 

…………。

 

テイワズの本拠地でありお膝元、巨大艦歳星。

その路地裏のひとつに男たちはいた。

「テメェ!!誰の許しを得てここでウリなんぞしてる!!」

足元には十近い死体が転がり、一人生き残ったやせっぽっちの男は震え、はいつくばりながら申し開きをしている。

「へ、ヘェ、すいやせん。つい出来心で…」

ズガァァン!!

もう一発、今度は足元を狙って撃つ。

「おい」

発砲した男に片腕を上げて静止し、ガクガクと震える男に声を掛ける人影がひとつ。

「ヒャいい!!」

未だ恐怖が冷めやらぬのか、うまく言葉にできないようだ。

「この子らをどこで仕入れた。誰の差金だ」

人影…ジャスレイは視線を合わせるようにしゃがんで、親指で保護した『商品』達を指し示す。

まだ年端も行かぬ子ども、少女達を使って何をさせていたか、そんなことは聞くまでも無い。

「…………」

「だんまりか」

「しゃ、喋ったら殺されちまうよ….」

「今ここでお前を始末するのとどっちが簡単かな?」

立ち上がり歩いて近寄った次の瞬間。

「ヒィィィィ!!」

どこから取り出したのかナイフを持って突進して来る。

「オヤジィ!!」

ジャスレイは懐から拳銃を取り出し、足を撃って動きを封じる。

「ちくしょう……」

「生憎と、窮鼠には噛まれ慣れててな」

そう言いつつ、ゆっくりと拳銃を男のこめかみにゴリっと押し当てる。

「い、痛えよぉ…」

それは拳銃を押し当てられた場所か、それとも撃たれた脚か。

どちらであれ、ジャスレイには関係無い。

「そうか痛いか。だがあの子らの痛みはそんなもんじゃ無いぞ」

目配せをして、保護した少女達をこの場から離れさせるよう部下に指示を出す。

「な、舐めやがって、テ…テメェらだっておんなじだろうが!!」

どうせ死ぬならと思っていることをぶちまけることにしたのだろう。

そして、同時にジャスレイは悟った。

コイツは何も知らない。

でなきゃあ、やけっぱちに相手を刺激するようなことは言わない。

知ってるようなセリフも素振りも、ようはいざって時のブラフだ。

「あん?」

「そうだろう!!だって、ウリに許可がいるだなんて、結局お前らだっておんなじ事だ!!テメェらだってドブネズミだろうが!!」

その言葉にジャスレイは…。

「はぁ〜〜……」

とため息をひとつ。

「オマエ、まだ自分の立場がわかってねぇようだな」

「ヒッ、う…撃つなら撃てよ…正義気取ってたって、どうせお前も地獄行きだ」

その言葉に、ジャスレイは鼻で笑う。

「ハン…おまえ、メキメキカッコ悪くなってるぞ?」

「はぁ!?」

「オレはお前をネズミと言ったが、どうやらそれは違ったようだな」

「な、なんだよ?急に見逃してくれる気になったのかよ?」

希望があると錯覚した男が急に警戒を緩める。が、しかし

「バカか」と一喝するジャスレイ。

「地獄が怖くて悪党やれるか。オメェはオレをドブネズミと言ったが、実際はどうだ?そのドブネズミの巣の傍でチビチビ日銭を稼ぐしかできてねぇ寄生虫野郎だ」

不意に立ち上がり、ズカズカと更に男に詰め寄るジャスレイ。

「ヒィっ!!」

「オレにはなぁ、地獄の門をくぐるのも、自分ちの玄関くぐるのも同じなのよ」

チャッとトリガーに掛けた指に力を込める。

「もうお前に用はない。潔く地獄へ逝きな!!そして、オレのために門でも磨いてやがれ!!」

ズガァァン!!

「クっセェなぁ…こいつ寄生虫じゃなくて寄生虫のフンだったか」

そう言ってジャスレイはその場を後にした。

後片付けは別の奴の仕事だ。

「終わったぞー」

「お、オヤジ…肝を冷やしましたよ…」

「すまん、心配かけたな」

「い、いえ…」

「保護した子らのところへ行くぞ」

「あっはい…こっちです」

用意されたあばらやの一室。

そこには四人の保護された少女達がいた。

「おい、お前ら!!オヤジが来たぞ!!」

見張りが気づいて中にいる仲間に知らせるが

「いやいい、ご苦労」と労う。

ジャスレイはあばらやに入ると、一番話ができそうな少女の前にかがむ。

「お前達みたいな女を迎え入れてくれる男を知ってる。オレの弟だ」

「……」

沈黙。

それはそうだ。この男も自分達を商品として見ていない保証は無い。

弟というのも、今回殺された男達のようなロクデナシでないとも限らない。

故に警戒を緩めない。

「……オマエは賢いな。その歳で状況を判断できるのか」

「………慣れただけ」

ボソリと一言。

「これからどうする」

「………わからない」

「どうすれば信用してもらえる?」

「死んで」

即答。

「このガキ!!」

「ちょっと優しくされたからって……」

怒りのまま掴みかかろうとする部下を、ジャスレイは再び止める。

「まぁ待て」

そう言うと、再び少女に向き合う。

「オマエの怒りはもっともだ。だがな命はやれねぇ。オレにはまだ仕事が山とあるからな」

「じゃあ、その後に死んで」

「まだ言うか!!」

「落ち着け」

ジャスレイは腕を上げて静止する。

「それじゃあ、どうする?なんの後ろ盾もねぇガキが安全に暮らせるほどここは甘くねえ」

「……住み込みで働く」

「そのなりでか?」

「……紹介して」

「またウリか?」

冗談めかして言うが

「違う!!」と怒鳴られる。

「……悪かったよ」

「責任、とってもらって」

「それは出来ねぇな」

「じゃあ死んで」

埒があかない。

結局、その少女はジャスレイの養女に、他三人はタービンズに保護されることとなった。

「よーし、オマエら〜いつもの酒場向かうかぁ」

「おぉ〜!!」

「……おさけ、キライ」

 

□□□□□□□□□

 

あぁ〜、疲れた。なんだよめんどくせぇ。

ルールは守んなきゃだろー?

この後書類書かなきゃとかホント地獄だわ。

呑まなきゃやってられんてホント。

お膝元でこれだからなぁ〜。

他所と比べりゃあ少ない方なんだけど。

にしてもビビったわー。

刃物隠し持ってるとか先に言ってよ〜。

漏らしてないよね?ね?

「オヤジは歳星で仕事が終わるとあそこに行きますよね」

部下の一人が話しかけて来る。

これから酒が飲めるからか声は弾んでいる。

「まぁ、色々と行くのが面倒だしなぁ」

「またまたぁ〜」

「そうですよオヤジぃ〜」

悪ノリめんどくせっっ!!

まぁ、コワモテだけど慣れりゃあ気のいい奴らなんだけどもさぁ〜。

オレは酒場の入り口で帽子を被り直す。

この界隈、カッコつけてナンボだからね!!

「今日はトコトンまでやるぞォォォ〜!!」

オオオオ!!

……………。

 

え?てっかだん?




つづき…いつになるかなぁ。


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3話

なんかできた。


「ったく、なんて騒がしい連中だ!!」

酒場に入るなりジャスレイの部下はそう毒づく。

「まぁまぁいいじゃねぇかよ。若ぇ連中はああでねぇと」

そう言うとジャスレイは、バーカウンターに向かって歩く。

なお、保護した少女は酒が嫌いとのことで、車の中でしっかり者の部下に任せてある。

「よう」

見知った顔に声をかけるジャスレイ。

話しかけられたのに気がついた女性は振り返る。

「あら、ジャスレイさん」

「メリビット、元気してるか?」

「おかげさまで」

「隣、いいか?」

「どうぞ」

了承を得たところでジャスレイは腰掛ける。

「おう、オメェらも座れ」

隣の椅子を指差し腰掛けるよう促す。

「いいんですかい?」

「まぁまぁまぁ、とりあえず今日の仕事は終わったんだからよ」

「……またねずみ取り?」

訝しげな顔でメリビットと呼ばれた女性はそう言う。

「おぉよ」

「硝煙の匂い…まったく。相変わらずの現場主義ねぇ」

「そうなんすよ。オレらに任してくれって頼んでも部下だけ危険には晒せねぇって…」

「よせやい」

照れ隠しのようにジャスレイはバーテンにいつものを頼む。

「オメェらも好きなモン頼め」

そう言ってじっくりと酒がグラスに注がれる様を眺めるジャスレイ。

「ふふっ…」

その姿が、今か今かと好物を待ち続ける子供のようで、メリビットは不意に笑い声を漏らす。

「うん?どうした?」

特に不快感を感じさせない声で問いかける。

「ごめんなさい。気に障った?」

「いやいや、なんてこたぁねぇよ?」

「相変わらずですねぇ」

メリビットとジャスレイの会話に自然と入り込んでくるのはここのマスター。

ジャスレイからしても顔見知りだ。

「おっ、マスターじゃねぇか」

「すみませんねぇ。先程メリビットさんにもお伝えしましたが、火星からのお上りさんが来てまして…」

「ん。問題ねぇよ。むしろすまねぇなぁウチの弟共が…」

「えっ?ご兄弟なんですか?」

「いや、まだだが」

正確な日取りはマクマードから通達されていない。

が、近日中なのは確実だろう。

ジャスレイは懐から膨らんだ封筒を取り出して、バーカウンターに置く。

「迷惑料だ。とっといてくれ」

「あ、いや!そんなつもりじゃ!」

「オレの気がおさまらねぇのよ。もらってくれ」

「ですが……」

なおも受け取りを躊躇するマスター。

何もこのやりとりは一度や二度ではない。

それほどまでにこの男は義理堅く通っているし、また、マスターも真面目なのだ。

「じゃあアレだ。テイワズの野郎からぶんどったって自慢してやれ!!」

「テイワズのお膝元でそんなことできるわけないでしょうが!!」

「あだっ!!」

メリビットがツッコミながら後ろから頭を引っぱたき、パァンといい音が響く。

「変に律儀な方ですねぇ」

ムクリと起き上がりながらジャスレイは言う。

「こんな稼業だ。義理もんには義理で返すのが好きでね」

「それで?ちゃんと貯金は出来てるの?」

からかい気味にそう言うメリビット。

「おいおい勘弁してくれや…」

グサリと心に刺さったのか、誤魔化すようにグラスを煽るジャスレイ。

「ウチの船長もからかったんでしょ?お返しよ」

彼女はクスリと笑ってそう言う。

「名瀬のヤツ、泣きつくようなタマじゃねえだろうに…」

その様子を想像して、ジャスレイは苦笑いを浮かべる。

「えぇ、だから吐かせたの」

「ブッ!!」

その言葉に思わず噴き出すジャスレイ。

「女って怖えわ…」

汚れたカウンターをポケットから取り出したハンカチで拭きながらそうこぼす。

「まったくですな」

「おい、乗って来んのかよマスター」

「おや、いらぬ援護でしたか?」

「……いる」

そう言って、昔話やら仕事の話でもりあがったのだった。

「あぁ、そうそう紙とペンあるか?」

「?えぇ、お貸ししましょうか?」

「頼むよ」

マスターはカウンター裏からメモ帳と簡易的なボールペンを取り出す。

「どうぞ」

「悪りぃね」

サラサラサラッと軽く書き、キュポンとボールペンを蓋にはめる。

「んで、コイツを…」

先程の封筒の中に入れる。

「ほいっ」

「いや、ですから…」

「んじゃぁ奥さんか娘さんになんか買ってやんな」

そう言うと、この話はコレで終わりと言わんばかりに立ち上がる。

「オメェら、忘れもんすんなよ」

「へい!!オヤジ!!」

「んじゃぁなマスター。また来る」

「あ、ありがとうございました…」

「メリビットはどうする?」

「わたしはもうしばらく飲んでるわ」

「そうか。それじゃあな」

そう言うと、サッサと帰って行ってしまった。

「本当に、相変わらず……」

「風のような方ですねぇ……」

そう言ってマスターがカサッと取り出した紙には“この盗っ人に手を出すべからず J.D”と書かれていた。

 

□□□□□□□□□□

 

コソコソ…鉄華団連中に絡まれる前に帰らねーとなぁ〜。

まぁ、慣れねぇ酒でそれどころじゃねえか!!

って言うか、アレって確か名瀬・タービンがたまにはガス抜きも必要よ〜って言ったのが原因だよなぁ?

ってことは、それ教えたのオレなんですけど〜〜。

うわっはっは!!

ホントご迷惑おかけしましたマスター。

あ〜あとお土産もかってかねぇとなぁ〜。

出ないとあの子供、ま〜た悪態ついて来るだろうし。

世の親は偉大だねぇホント。

にしてもマスターといい、メリビットさんといい…、オレってそんなに威厳ないかねぇ…。

まぁいいけどさぁ…。

スネてねーし?




結構伸びてて嬉しいです。

気長に待っててもらえると嬉しいです。


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4話

筆が乗ったのでできました。


ジャスレイ・ドノミコルスという男の前半生は波瀾万丈に満ち満ちている。

彼は元々どこにでもいる浮浪児だった。

外見も赤みがかった茶髪にグレーの瞳とよくある風貌で、ついでにケツアゴでもある。

技量の方も近距離での早撃ちこそ目を見張るものがあるが、モビルスーツのパイロットとしてはてんでダメなうえ、元々は凡人に毛が生えた程度しかなかった指揮能力も今でこそ低くは無いとはいえるものの、それなりの経験によって裏打ちされていることを加味しても一流半程度と言わざるを得ず、少なくとも一流とは言えないだろう。

しかし、確かな仁義とその場その場でただならぬリーダーシップを発揮し、組織と組織の間を取り持つ上では人並み以上の才を持つ男だった。

彼の部下の中にはそれこそ、幼い頃に拾われヒューマンデブリにならなくて済んだという人間も一人や二人ではない。

「こんなゴミみてぇなオレらをオヤジは拾い上げてくれたんだ」

そう言う彼の部下たちの言葉は紛れも無い本心だろう。

忠義が重いなぁ…。なんてジャスレイは思っているだろうが。

そんなジャスレイは今、和服を纏った大男…テイワズのトップであるマクマード・バリストンの前に居る。

「オウオヤジ、話ってぇのはなんだい?」

夕陽が照らす執務室にはジャスレイとマクマードの二人きりだ。

「来たかジャスレイ。ま、掛けな」

促されるままソファに腰掛け、帽子を脇に置くジャスレイ。

「ちっと待ってろ」

そう言って、マクマードは奥からカンノーリとエスプレッソを持ってくる。

「お、カンノーリ。いいのかい?それいいヤツだろ?オヤジのお気に入りの店の、一日限定何個だったかの」

箱を見ると植物と横向きの人の顔を象った何かのエンブレムが刻まれた高級店のそれだ。

少なくとも一般家庭の子供の小遣いで毎日買えるような代物ではない。

「構わんさ。お前さんならな」

そう言うと目の前のソファに腰掛け、マクマードはコーヒーを啜る。

「…調子は、どうだ?」

話題は、マクマードから切り出す。

「おぅ、おかげさまで稼げてるさ」

「…貯めてるか?お前さんはすぐに散財するからな」

「ハッハッハ!!名瀬んとこのメリビットにもおんなじこと指摘されたよ」

そう答えるや、ジャスレイはカンノーリを一つ頬張る。

「ったく…食い意地は昔っから変わんねぇなぁ」

マクマードはため息をひとつつく。

「やっぱうめぇなコレ」

マクマードは脇に置かれた帽子にチラリと目を向けて言う。

「しっかし、その帽子も随分長いこと被ってるな」

帽子の草臥(くたび)れ具合は、まさしく堂々たる年季を感じさせる。

若かりしジャスレイの引き受けた中で、荒っぽい仕事も少なくなかったと言うのに、穴のひとつも空いていない。

それだけでも、これまで相当大事にされていたのが分かる。

「オウ、オヤジにもらったヤツだからな。オレの一番の宝モンさ」

ジャスレイがなんでも無いようにそう言うと、マクマードは表情をわずかに緩ませる。

「そうか……」

その一言に込められたのは、呆れか喜びか。

「それで、本題はなんだ?」

今度はジャスレイが話を振る。

「…やっぱわかるか?」

「そりゃあな。わざわざオッサン二人でお茶会なんぞガラでもねぇだろ。さしずめ、前に言ってたガキどものことか?」

つい先日、タービンズに喧嘩を売って実力を示し、見事その傘下に入ることとなった鉄華団。

その話題はテイワズの中でも広まっていた。

「はぁ〜…オメェはなんでそうも聡いかねぇ…」

「んなこたぁねぇさ。単に長い付き合いってだけだろ」

「で、どう思う?」

バレたのなら仕方ないと言わんばかりの潔さすら感じる単刀直入。

場の空気にも、独特の緊張が走る。

「鉄華団ってヤツらをテイワズの傘下に入れることがか?問題ねぇと思うぜ?しっかりもんの名瀬の下に入るんだろ?」

ジャスレイは気にせずカンノーリを食べ続ける。

「…連中、どこで拾って来たんだか、ガンダムフレームなんてモンも持ってやがった」

それにピタリとジャスレイの動きが止まる。

「骨董品…と呼ぶにゃ些か危険か」

ジャスレイにマクマードの懸念が伝わる。

数百年の昔に起きたと伝わる厄祭戦に於ける、人類最強の兵器。その逸話からも分かるように、万が一敵に回ると厄介この上ないだろう。

しかし同時に、作られたのは僅か七十二機しか無く、稼働も可能なものとなれば更に数は限られると言う貴重なモノでもある。

「まぁ、その監視も含めて名瀬の下に付けるんだがよ」

「なーんだよ。決定事項かよ」

ジャスレイが背もたれにもたれ掛かるとフカフカのソファがボスッと気の抜けた音を出す。

「スマンな」

謝罪の言葉を受けて、ズズッとコーヒーを啜るジャスレイは特に気にした風でも無い。

「ま、確かに連中の護衛対象のクーデリア・藍那・バーンスタインも含めて庇護下に加えるメリットはデカい。ここであのお嬢さんのご機嫌をとっとけば後で有利にもなろうさ」

「流石に耳が早いな。で…だ。まだ決まったわけじゃねぇが、ハーフメタルの利権がウチの担当になった暁にゃあ、その監督権の三割をお前さんに与えようと思う」

それは重い、とても重い信頼の言葉。

マクマードは組織の長だ。

そして、それはジャスレイも同様にそうだ。

故に、言葉は慎重に選ぶものだ。だが…。

「いやいいよ。今だけでも手一杯さ」

ジャスレイはあまりにもあっさりと即答した。

マクマードがその答えを聞いてか、場を支配していた張り詰めた空気がほどける。

「カマかけなくたっていいさオヤジ。オレはオレ自身の手のひらの大きさは理解してるさ」

そう真っ直ぐに見られると、警戒していたのも馬鹿馬鹿しくなったようで、今度は側から見ても安堵と分かるため息を吐く。

「ったく。出来のいい息子だよ」

「親の贔屓目ってヤツだと思うぜ?」

「抜かすようになったなぁ」

「で、いつにするんだ?」

「あん?」

「盃だよ」

それは、鉄華団が正式にテイワズ傘下に入るという儀式。

それが執り行われる日取りはテイワズに属する者には何を置いても重要なものだ。

「おう。明日だ」

「へ?」

「ま、オメェはオレの横で座ってりゃいいさ」

そう言うや、マクマードはガッハッハと高笑いを上げるのだった。

 

□□□□□□□□

 

え?マジで?ってことはちょっと待て。

鉄華団からすりゃあオレは自分の未来の兄貴分をアゴでこき使った悪もんってことになんない?

いやまぁ、確かにやろうと思えばできる立場だけどもさぁ?

それともオレの考え過ぎか?

い、今からでも好感度を上げる行動は…。

「オ、オヤジ?オレになんか手伝えることでも…」

「うん?別にねぇな」

オヤジはカンノーリを齧りながらそう答える。

そっかぁ無いかぁ。こんチクショウ!!

少しでも主人公勢力の好感度は上げときたい。

心象が悪いと話も聞いてもらえないって実感してるモン!!主に銃弾の嵐の中で!!

まぁ好感度を上げ過ぎて自滅したくもないけどさぁ。

それによくよく考えると前日にイベント内容を伝えるってことは事前準備も何から何まで終わってるってことじゃん!!

やっべー。

オレは落ち着くためカンノーリに手を伸ばし、食らう。

 

モグモグ…。

 

うめぇ〜〜……。

 

で〜、どーするかだけども〜〜………。

 

ん〜〜〜〜〜……。

 

ま、なんとかなるか!!




これからもマイペースにやっていきますねー。


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5話

なんかどんどん楽しくなって来たぞぅ。


「では、今日のよき日に!!乾杯!!」

桜の舞い散る下で、乾杯の音頭を取るのはマクマード・バリストン。

今日は鉄華団が正式にテイワズの傘下に加わる日だ。

故に、出席者たちは各々立場ある人間ばかり。

そして堅苦しい儀式も終わり、今は皆が楽しみにしていた祝いの宴の時間だ。

「お〜う、お前ら呑んでるか?」

ジャスレイが各組織に回って挨拶に行くなり呼び止められる。

「アニキ!!」

「アニキィ!!」

「みんな!!アニキが来てくれたぞ!!」

「聞いてくださいやアニキ!!」

「おうおう。聞く聞く、逃げやしねぇから一人ずつ話してくれや」

むくつけき男たちが周囲に集まって来ても、ジャスレイは慌てた素振りもない。

そして、彼らの聞いて欲しいことというのも愚痴だったり、武勇伝だったり、相談事だったりと多岐に渡るが、ジャスレイはそのひとつひとつに親身になって答えていた。

やっと話が終わったと思えば、今度は宴会恒例の喧嘩が始まったりなんだりで仲裁に走ったりと多忙な時間を過ごして、結局ジャスレイが鉄華団の所に行けたのはそれから数時間が過ぎた頃だった。

「お〜う。名瀬に手ェ焼かせたってぇのはお前さんらかい?」

「アンタ誰?」

そして、ジャスレイに気付いて対応したのは料理に舌鼓を打っていた三日月・オーガスだ。

「テメェ!!オヤジ相手にアンタだと!?」 

あまりに無愛想な物言いに、ジャスレイの部下が憤るが、当のジャスレイがそれを静止する。

「まぁまぁ落ち着け。別に悪気があった訳じゃあねぇだろうよ。すまんなぁウチのモンが」

そう言って帽子をとり、改めて名乗る。

「ジャスレイ・ドノミコルスだ。団長さんはいるかい?」

「三日月・オーガス。オルガならあっちだけど」

三日月は名乗り返すと、片手で方向を指し示す。

「おう。ありがとよ」

「ん」

ジャスレイの目的の人物、オルガ・イツカは三日月に教えられた通りの方角にいた。

尤も、こんなことで嘘をつく理由も無いが。

「な。スゲェ人だろ?」

「え、えぇ…」

袴姿のオルガが何やら困惑した様子で名瀬・タービンと話している。

当然だが、彼らの周りには鉄華団の団員たちも居た。

「ジャスレイ・ドノミコルスだ」

ジャスレイは三日月にそうしたように、帽子を取って挨拶を交わす。

「あ、オルガ・イツカ…です。よろしくお願いします」

オルガは慣れない敬語に四苦八苦しながら、自己紹介をする。

「おうよろしく。まぁ、まずは一献。ジジィの酌で悪りぃがね」

「あ、いえ…ありがとうございます…」

オルガは恐る恐ると言った様子でお猪口を差し出す。

「まぁそう固くなんなや。しっかし、なかなかの男ぶりじゃねえかよ。実はさっきもなかなか気骨のあるヤツに会ってな」

「え?誰です?」

酌を受けながら何か粗相があったのかとオルガは若干焦った様子だ。

「三日月・オーガスってヤツなんだがな…あぁ、別にヘッドハンティングしようってんじゃあねぇさ」

そう言うと、ジャスレイは付き添いの部下に声をかける。

「アレ、出してもらえるか?」

「はいオヤジ」

返事をすると、部下は手にした荷物をオルガたちに見えるように置く。

「すまんね」

オルガたちの目の前に置かれたのはアタッシュケース。

そして、鍵を使って開けた中には…。

「うわぁ〜…」

「スッゲェ〜大金…」

「お前さんらのことはそこの名瀬から色々と聞いてるよ。阿頼耶識を使ってて、モビルワーカー乗りが多いんだろう?これでヘッドギアなり、ボディアーマーなり買うといい」

「えっ、でも…」

「な〜んかウラがありそうだよなぁ〜…」

ライド・マッスが脇から怪訝そうにそう言う。

「ライド!!失礼だぞ!!」

すると、隣にいたチャド・チャダーンがまずいと思い、珍しく声を荒げる。

「ご、ごめん…」

「ま、これは先行投資ってヤツさ。だから気にすんなって」

「せんこーとーし?」

難しい言葉に首をかしげるライド。

「ま、要はそれだけお前さんらに期待してるってことさ」

ライドの頭をポンポンしながらそう言うとジャスレイは鉄華団の面々に背を向ける。

「おっ、兄貴。もうオヤジのとこに行くんですかい?」

何やら名残惜しそうに話す名瀬に、鉄華団の面々は驚く。

「おう。これからのことをちょっとな。ろくに挨拶も出来んで申し訳ない」

振り返ったジャスレイはそう言って軽く会釈する。

「あ、いえ…恩に着ます」

オルガは戸惑いながらも頭を下げる。

「いいんだよ。若けぇのは周りに頼れば。でなきゃ、潰れて終わるぞぅ」

そう言うとジャスレイは再び背を向け、その場を後にしたのだった。

「デケェなぁ…」

去りゆく背中にそう言ったのは誰だったか。

或いはそれが鉄華団の総意だったのかも知れない。

 

□□□□□□

 

鉄華団のいる場所から離れたオレは心の中でガッツポーズしていた。

ふっふっふ…。やったったぜ!!

これで好感度アップは間違いないねぇ!!

最初は「何もオヤジが出向かずとも、向こうを呼びつけりゃあいいじゃねぇですか」なんて言われたりもしたが、そこはお得意の『仁義』でゴリ押したね。うん。

って言うか、鉄華団にだけそうするのは不自然だから、前々から他の組織にも同じようにしてたら、み〜んなアニキアニキって言うようになってなぁ…。

へへ…手痛い出費だったぜ…。

金額?聞かないでもらえると助かる。

「しかしオヤジ、相手はガキですよ?なのにあんなポンと…」

「だからこそさ」

「は?」

「身勝手な話だがなぁ、ああ言う連中見てると昔のお前ら見てるみたいでほっとけなくってよ」

その言葉を聞くなり、鼻をすする音が聞こえて来る。

「オヤジぃ…」

「ったく、まぁた泣くんか?オレの周りにゃ涙もろい連中ばっかだねぇ」

「スンマセン…」

「謝んじゃねぇよ。男にゃ涙が必要な時もあらぁな」

オレなんていっつも泣きてぇもんよ。わかるわかる。

ま、なんにせよ今回は挨拶程度。

後はまぁ、ちょっとでも学をつけてくれりゃあなぁ…。

そこも含めてオヤジに報告するかねぇ。

 




ここのジャスレイさんは鉄華団より過労に殺されそう(白目)


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6話

バルバトス君すき。

特に第三形態超すき。

異論は認める。


えんもたけなわ。

皆が皆、思い思いに呑み、酔い、騒ぎがひと段落したところを見計らい、ジャスレイはマクマードの元へ戻って行った。

「どうだった?鉄華団は?」

マクマードは戻ってきたジャスレイにそう訊ねる。

調整して飲んでいるのと、元々酒豪なのもあるのだろう全く酔っている気配がない。

この辺は流石に大組織の長の器量だろう。

ジャスレイはマクマードの前に腰掛けて帽子を脱いで膝に置くと、自身の見てきた所感を訥々と告げる。

「一生懸命突っ張って背伸びしてる子どもってとこかね。ま、そうしなきゃあ生きていけねぇ事情もあったんだろうが」

そもそも、鉄華団が名を変える以前の組織であるCGSの時代にかなり劣悪な環境、条件下での労働を強いられていたこと、その際ギャラルホルンに盾ついてテイワズに身を寄せる必要が出てきたことから彼らは基本的に大人を嫌悪、敵視していることはマクマードも、そしてジャスレイも想像に難くなかった。

ただ、非人道的装置とされる厄祭戦の負の遺産たる阿頼耶識システムをよく思わず、途中から明らかに手を抜いたタービンズの面々および、名瀬・タービンには不思議と懐いている様子だった。

まぁこれは言ってしまえば拾ってもらった恩みたいなものだろうが。

尤も、普通の感性をしていたら子どもの脊髄に一体化させる装置を使おうなんて考えには至らないだろう。

心を許している人物、特に鉄華団内部の大人で言えば、話を聞く限りで親しそうなのは元々同じくCGSでモビルワーカーの整備士をしていたと言うナディ・雪之丞・カッサパくらいなもので、他はそれほどでも無さそうだ。

先日鉄華団に派遣されたタービンズ所属のメリビットも、正直あまり歓迎されていたとは言えなかったらしい。

「医療スタッフですらあの扱いだ。鉄華団の問題は学の有無以外でも根深そうだな」

腕を組みながらマクマードは悩ましそうに言う。

「オレたち大人がもっとしっかりしてりゃあなぁ…」

悔いるように、ジャスレイはうつむきうめく。

「アイツらの問題はアイツらの問題さ。お前さんが気に病んでも仕方なかろうよ。だが、そうだな。『学』か…」

マクマードは顎に手を当て考える素振りを見せる。

「あぁ、あの鍛えられた…いや、イジメ抜かれた体格からして、メンバーのほぼ全てが戦闘員だろうな。唯一メンバーで事務に理解があって、かつ団長のオルガのヤツに意見を出来そうなのはあの恰幅のいいヤツ…確か名前はビスケットだったか?くらいか。零細組織にしたって圧倒的に内務能力が足りてねぇよ。今みてぇに組織が小さいうちはまだいいが、ずっとあのままだと大きくなった途端に苦しくなるぞ」

小さい組織と大きな組織では求められる能力からして違う。

だからこそ学のある人間を入れたり、他所から引っ張って来たり、或いは組織内で教育したりするものだがそのいずれも現状は難しいだろう。

外から人間を入れるにせよ、少なくとも今はやめておいた方が良さそうだ。

手助けする筈が、却って軋轢になりかねない。

それほどまでに今の彼らは神経質だ。

「やっぱこればっかりは難しいもんだよなぁ……」

「ただでさえ、あの年頃は大人に対して反発したがるもんさ。だからこそほっとけねぇってのが名瀬の言い分だがねぇ」

「兄弟は似るもんだな」

ニヤニヤとそう言うマクマード。

「やめてくれや。名瀬に悪りぃよ」

ジャスレイは苦笑いを浮かべてそう答える。

「ま、お前さんに関しちゃ問題はねぇだろ」

「だといいがねぇ…」

とりあえず、当面の間、鉄華団は名瀬に様子を見させるだけに止めることとなったのだ。

 

□□□□□□□

 

はぁぁ〜〜。

まぁ〜た問題が山積みだよ〜〜。

オレは人ごみを離れ、静かなテラス席に座る。

「オヤジ。お疲れ様です」

「おう。ありがとよ」

部下が持って来てくれたグラスに氷と酒を入れロックで飲む。

「ふぅ…」

なんとなしに星空を見上げる。

自分の船に乗りながら見るのと、拠点で見る星とではやはり違うもんだなぁ。

仕事中はどうにも楽しむ余裕ってのが無いからなぁ…。

まぁ、余裕ぶっこいて大失態をかますよりはマシと考えたほうがいいか。

「少し休んだらまた仕事に戻らねぇとなぁ…」

「えぇ。今は休んでください。何時間も傘下の組織連中につきあってたんです。ちっとくらい寝たってバチは当たりませんぜ」

「だといいがねぇ」

そう言ってくれた部下としばし談笑をしていたところ、思わぬ客が来た。

「おういたいた。よう兄貴」

鉄血きっての色男こと名瀬・タービンだ。

今日もハンサムだなぁチクショウ!!

「おう、名瀬。どうした?」

まあ、話があるってんなら聞かないとなぁ。

「いや、ちっとばかし気になることがあってよ。あぁ、安心してくれ。仕事の話じゃねぇよ」

気になること?なんか変なことしたかな?

オレはもうお眠さんよ?

「確か兄貴って結婚してなかったよな?」

してないんじゃ無いです〜、出来ないんですぅ〜。

これだからモテ男は…って脱線しそうだったぞーいかんいかん。

「おう、まぁ独身だが」

どっかにいい相手いないもんかねぇ〜。

「さっき兄貴の娘を名乗る子どもがいて…」

ととととととと…。

「お嬢!!今はダメですって!!」

「じゃす、おそい」

そう言って、ぶすっとほっぺを膨らませてオレの足にしがみつく義理の娘…ニナがいたのだった。




ニナはヘブライ語で美しいと言う意味らしいですね。
付けてから知りました。


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7話

ユーゴーのhg買いました。


「オレは黙って金出すしか能がねぇ男だよ」

ジャスレイ・ドノミコルスは常々そう嘯く。

それは彼の包み隠さぬ本心であり、また自己に対しての評価であり認識だ。

つい先日、まさにジャスレイが再びの散財する羽目になるのだった。

「ん」

正式にジャスレイの養女となり、ニナ・ドノミコルスという名になった少女が本をこちらに向けて来る。

「うん?それが欲しいのか?」

「……」

ニナは黙ってコクリと頷く。

碧い瞳が期待に揺れている。

「お勉強…たのしい…」

「こないだ買った本はもう読み終わったのか?」

「うん」

再び頷く。

「それじゃ、気になる本いくつか持って来てもいいぞ」

「…いいの?」

「おうよ。いちいちここに来て買うのも面倒だろ?」

それを聞いて、早歩きで本棚を物色し始める。

幾つも持つのは重いだろうと、世話役の部下も一緒に書店の中へ入る。

その様子も、わくわくと言う音が聞こえて来そうなほどに生き生きして見える。

きっかけはジャスレイ邸に着いたニナが、なんとなしに差し出された本を僅か二、三日で読破したことだ。

最初からある程度の読み書きを出来ていたことから、元々の生まれはある程度上流階級のお嬢だったのかも知れない。

あばらやでの慣れてると言う発言も、小さい頃から誘拐され慣れているということだったのだろうか。

尤も、本人に直接確認したわけでもないので、これはジャスレイらの憶測の域を出ない話だ。

かと言って詳しく聞かずにいるのも、ヘンに聞いてしまった結果トラウマと言う地雷を刺激したらそれこそ今後埋まらぬ溝ができてしまいかねないからだ。

「オヤジもすっかり親バカですねぇ」

部下が和み顔でそう言う。

「ま、こんぐらいしかしてやれることもねぇからな」

ジャスレイは部下と一緒にニナが気になった本を物色し終えるのを待つ。

あの好奇心の塊が、いったいいくつの本を見つけてくるのか気になるところ。

「あれ、ジャスレイさんじゃん!!」

そんなジャスレイに声をかけて来る人物がいた。

「お、ラフタか。久しぶりだなぁ」

振り返ってみると顔見知り…というか、ジャスレイの弟の名瀬・タービン率いるタービンズのメンバーであり、モビルスーツのパイロットも務める女傑、ラフタ・フランクランドが居た。

「珍しいねぇ。ジャスレイさんが本屋に用事なんて」

「おう。ツレがちょっとな」

その言葉にラフタはニマニマし出す。

「……何だ?」

「いやぁ〜、ジャスレイさんにもついにそんなお相手が現れたなんてねぇ〜」

「うん?あぁいや、多分お前さんの想像してるもんではないぞ」

「またまたぁ〜〜」

何やら肘でツンツンされる。

「で?お前さんは何してたんだ?」

今度はジャスレイが問いかける。

「アタシ?アタシはホラ」

手にした紙袋を見せつける。

「新作の服とか〜、ネイルとか〜…」

ラフタはイキイキと手にした荷物の説明をし出す。

「ま、相変わらず元気そうで安心したよ」

「んで、ジャスレイさんは実際誰待ち?」

近くにあるベンチに二人で腰掛けると、ラフタは再び訊ねる。

今度は茶化す感じではなく純粋な興味からとわかる口調だ。

「ま、娘だな。義理のだが」

「へぇ、養子取ったんだ〜」

意外そうにそう言うラフタ。

「ま、こないだの仕事の時にな」

「あぁ〜………」

一瞬、ラフタの表情に影が差す。

「…スマン。お前さんにする話じゃねぇよな」

「いやいいよ。こっちから振った話題だし」

少し、場の空気が重くなる。

どちらがどう話題を振ろうかと四苦八苦していたところに、小さな救世主がやって来た。

「きまったー!!」

「おぉ、そうか」

「あっ、ジャスレイさん。その子が?」

「そうだ。ニナ、コイツはラフタ。オレの弟のコレだ」

「いやいや、コレじゃわかんないでしょ」

苦笑いを浮かべるラフタが、ニナに視線を合わせるようかがんで自己紹介する。

「ラフタ・フランクランドだよ。ヨロシクね!!」

そう言って右手を差し出す。

「にな。よろしく」

そう言うと、ニナはおずおずとラフタと握手するのだった。

 

□□□□□□□□

 

いやぁ〜、ニナもすっかり丸くなったなぁ〜。

最初の方はマジでツンケンしかしてなかったって言うか、口を開くなり短い罵声のオンパレードだったからなぁ。

本を買い与えるようになった時くらいからかなぁ?そういうのがなくなったの。

「じゃす、これ買って」

「おう。またけっこう持って来たもんだなぁ」

どっさりの本が台車いっぱいに載せられている。

いくつかって台車の数じゃ無いんだけどなぁ〜……。

呼び名もぱぱとかとーちゃんじゃなくってじゃすだしよぉ〜。

子どもにまでナメられるオレよ……。

いやまぁ?別に?いいけども?

「ジャスレイさんって結構いいパパじゃん」

「そうか?」

ラフタちゃんよ、それどの辺見て言ってる?

「あっ!!」

「うん?どうした?」

ふと、腕時計をみたラフタちゃんは、何やら慌てた様子だ。

「ゴメン、ジャスレイさん。アタシそろそろ行かなきゃ!!」

「あぁ、誰かとどっかで待ち合わせでもしてたか?」

「そーなの!!またアジーに怒られる〜!!」

うんうん。早く行ってあげたほうがいいぞ〜。

「そうか。それじゃ、そろそろお開きだな」

「らふた、はしる」

ニナが腕を振るジェスチャーをする。

「うん!!そうする!!」

「ケガすんなよ」

「心配ありがとーー!!」

そう言って、ラフタちゃんはあっという間に走って行ったのだった。

嵐みたいな子だったなぁ…。

さて、こっちもこっちでお会計…。

分かっちゃいたけどなかなかの額だなぁ…。




あの独特の形なんかすき。


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8話

伸びに伸びててびっくりしてます。

日間ランキング、今見たら三位でした。

読んでくださる方々、アイデアや情報を下さるコメント主様に感謝です。


「ま、こないだそんなことがあってな。近いうちにみんなに顔合わせしようとは思っちゃあいたんだが、色々と準備する前に今日の盃だろ?オヤジには一応報告はしてたんだが…」

ジャスレイは気まずそうにそう言う。

「あぁ、だからラフタはその娘のことを言わなかったのか」

名瀬も名瀬で納得した様子だ。

ジャスレイが既にニナを名瀬に紹介していたならラフタも話くらいは聞いていたはず。しかしそれが無いのは、その日に知ったことはまだ内密にしておくべきことなのかもしれないと。そう思い至ったのだろう。

ジャスレイは「たぶんな」と頷くとグラスをテーブルに置く。

カラン、と小さく氷が鳴る。

「ったく…酒嫌いっつってたのに、何で来るかねぇ?」

くしゃり、と髪を撫でると、蜂蜜のような金髪が少し乱れる。

「むー……」

ニナはジャスレイのズボンに顔を押し付け、拗ねたような声を出す。

「唸ってたてって分かりゃあしねぇよ。だいたい本ならあん時買ったのがまだどっさり残ってんだろ?」

ジャスレイにはニナが不機嫌になる原因に皆目見当がつかないようだ。

すると、ニナは顔を上げて言う。

「暗いと本、読めない」

「ぷっ…」

その言葉を聞いて、名瀬・タービンは思わず吹き出す。

帽子で顔を隠すように俯いてはいるが、表情は見るまでも無い。

「あぁ〜。なるほどなぁ、そりゃあ悪かったよ」

「………」

沈黙。

「どうすりゃあ許してくれる?」

「死んで」

久しぶりに聞いた毒舌だが、ふくれっ面でそう言われても全く怖くは無い。

「こりゃ手厳しい」

ニナはその言葉を受けてプイとそっぽを向く。

年のわりに大人っぽくても、こう言うところはまだまだ子どもだ。

「だが、この時間は寝るって約束だろ?デカくなれなくていいのか?」

「……」

ニナは今度は首を横に振る。

「じゃ、どうした?屋敷の鍵はお前さんにつけた部下が持ってるだろ?」

しっかり者の部下がまさか鍵を紛失したとは思えない。

仮にそうだったとしてもとっくに連絡はジャスレイに入っているはずだ。

「………」

無言。

「……………………」

無言。

「……………………………………………」

まだ無言。

ジャスレイが辛抱強く待っていると、意を決したように、しかしすこし恥ずかしそうに言う。

「ひとりで寝るの。いや」

「あん?」

「本を読むときは静かな方がいい。でも…あの部屋、ひとりで寝るには静かすぎる」

部屋の電気のスイッチはニナには少しばかり位置が高すぎる。

かと言って、手元を照らすライトは目を悪くするし、夜ふかしの元になるのでジャスレイが長時間の使用を禁止しているのだ。

「う〜〜ん……そうかぁ……」

理由を理解したジャスレイ。

しかし、ジャスレイが家を開けるのは基本的にほぼ毎日だ。

帰った時もたいてい書類の整理をしていたり、マクマードに頼まれた仕事をこなしているのであまりニナに構ってやれていない。

そして、それはニナ自身も分かっていたことのはずだ。

どうしたものかとジャスレイが頭を抱えていると、すぐそばで黙って話を聞いていた名瀬・タービンが口を開く。

「そんじゃあ、オレんとこで預りましょうかい?」

ジャスレイは顔を上げて弟分を見やり、そしてふむと考える。

「まぁ、たしかに名瀬のとこなら悪いようにはしねぇか…」

視線を再びニナに戻す。

「ニナ、どうしたい?」

「………」

ニナはうつむき沈黙する。

「なにもサヨナラするってわけじゃあねぇよ。オレが忙しい時は名瀬んとこに上がり込むってだけさ」

「や」

帰って来たのは断りの言葉。

正直言って余り好かれていないと思っていたジャスレイに、その反応は意外だった。

「でもなぁ…」

「や!!」

切り出す前に強く反発してくる。

しがみつく力も強くなっている。

「あ〜、どうやら余計なお節介でしたかね?」

名瀬は気まずそうにそう言う。

「いや、気持ちは十分伝わったさ。ありがとよ」

ジャスレイはニナの頭を今度は先ほどよりも努めて優しく撫でる。

「ならよかった…まぁ、これで兄貴も人の親になったってこってすよ」

「その点はお前さんの方が先輩だなぁ」

「ま、そうなりますかねぇ。子育てで分からなかったら聞いてくださいや。尤も、アミダやリジー達の聞きかじりになっちまうが」

「おう。頼れる弟を持つってのは嬉しいねぇ」

その言葉を聞くと、名瀬は用が済んだとばかりに部屋を出て行った。

 

□□□□□□□□

 

う〜ん。参ったなぁ〜〜。

正直ここまで懐かれてるとは思いもよらなかった。

オヤジに言って、仕事の量調節してもらうか?

いやでも今後も鉄華団と関わっていくんならある程度融通を効かせるためにもオヤジの心象はいいに越したことはねぇしなぁ〜…。

「……ニナ、取り敢えず今夜は一緒に寝るか?」

「うん!」

おおぅ。急に明るくなったなぁ。

子どもの気まぐれはわからんねぇ。

心なしか、部下たちのニナを見る眼差しも優しい気がする。

そうだよなぁ…。子供の頃の一人ぼっちの夜は寂しいもんだよなぁ…。

大人になるとすっかり慣れちまうもんだけども。

ましてあんな過去があったんだ。暗がりはまだ怖いか。

そこに考えが至らないオレの不甲斐なさよ……。

その後、意を決してオヤジにかけ合ってみたら少しだけ仕事は減った。

ちょうど若手に経験を積ませたかったからとかなんとか。

コレばっかりはテイワズ様々だなぁホント。




次は日常?回にしようかなぁなんて思ってます。


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9話

日間一位になってました。

見た時えっ?てなりました。

読んでくださるみなさんありがとうございます。


「お待ちしておりました。ジャスレイさん」

「おう。また世話んなるぜ」

今日はジャスレイが乗る船の定期点検の日である。

ドックに付けて乗組員を降ろし、後はテイワズ腕利きの整備スタッフに任せる。

この船はこれまで幾多の修羅場をくぐり抜けて来た影響で、所々傷や補修跡が目立つ。

「しっかし、我が船ながらよく持ってるもんだよなぁ」

ジャスレイはそう言いつつ、船の傷痕に触れる。

この船が数々のナワバリ争いや各種イザコザで生き延びて来たのは、ひとえに歴戦の部下たちの操縦技能に加え、ジャスレイ自身の命懸けの指揮も合わさり、追い込まれた時に異様に執念深く粘り強さを見せると言うのが大きく、して来た無茶も一度や二度では足りないほどだ。

それはある種、味方にも敵にも恵まれていたというのもあるだろうが。

「ところどころガタが来てるようなら乗り換えも検討しねぇとだなぁ…」

ジャスレイは点検を任せているスタッフから受け取ったおおまかな資料に目を通しながらそんなことを考える。

「で、でもオヤジ…この船にゃオレたちの思い出が…」

部下の一人が名残惜しそうにそう言う。

「馬鹿野郎。それでオメェらに危険が迫ってみろ。泣くぞオレは」

「オヤジぃぃぃ!!」

「あーあーもう。だからってオメェらが泣くほどのことかねぇ」

言いながら、ジャスレイが何かいい船は無いかと裏市場を覗いてみると何と鹵獲されたギャラルホルンのハーフビーク級戦艦が売りに出されていると言う。

これはギャラルホルン宇宙艦隊の主力艦もつとめる船で、堅牢さが知られており、滅多に出回るものでは無い。幸い状態も悪くは無さそうだ。

もちろんそのまま使おうものならばギャラルホルン連中に睨まれることは必然。

故に幾らかの改造案も添付されていた。

「ふむ。前装甲を堅固にする突撃仕様に全体的な装甲を増設した防御仕様。モビルスーツを搭載するためのペイロードの増設…」

「へぇー、結構充実してるんすねぇ」

「ま、流石に全部乗せみたくやり過ぎたら却って機能性に支障が出そうではあるがねぇ」

「難しいっすねぇ…」

「まぁすぐに買い換えるわけじゃあねぇしな。何なら名前も含めてオメェらも考えてくれや。オメェらが乗る船でもあるんだからよ」

「はい!!任して下さいよオヤジ!!」

その返事を聞いたジャスレイは、後を任せて次の仕事に赴いたのだった。

 

□□□□□□□□

 

点検を頼んでから数日が経った頃のこと。

オレは本格的に船の買い替えを考えていた。

まぁ、船自体も旧式になりつつあったしちょうどいい機会だし。

既にオレやクルーの主な私物や武器弾薬といった荷物はいつでも降ろせるようにはなっている。

後は改造案をどうするかだなぁ。

そんなことを思っていたら部屋の扉がノックされた。

「オウ、入んな」

オレが入室を促すと、数名の部下が入って来る。

何でも新しい船に関して一つ案があるというので、それを今日聞くことになっていたのだ。

「オヤジ!!こんな名前はどうすかね?」

部屋に入って来た数人の部下の内、一人が代表としてこちらに紙を渡して来る。

「どら、見せてみろ」

まぁ、確かに乗り換えるにしても、船の名前も決めかねてたし、丁度いいやーなんて思ったのが運の尽きだったよね。

ピラッとめくると、そこには…。

『黄金のジャスレイ号』

ご丁寧にイメージ図まで添付されとる!!

……………金ピカやん!!

うわぁ〜ゴージャス〜って無いわ…これだけは無いわ。

これはアレかね?ツッコミ待ちってやつなのかねコレは?

チラリと子分たちの顔を見る。

相変わらず晴れやかな表情だ。

しかし、心なしかみんな目もとが腫れぼったいような…。

「どうですかね?オヤジ?」

「オレたち、オヤジのために足りねぇ頭でカッコイイ名前を寝ずに考えたんです」

「まぁ、オヤジのセンスにゃあ及ばねぇとは思うが…できれば…」

「塗装は任してください!!」

うん…。

忠誠が重いんだけど!!

これあれじゃん!!断ったら完全に悪者になるやつじゃん!!

いやまぁ、テイワズ所属の時点であながち間違いでも無いけどもさぁ…。

でもコレは…。

この名前とか色が載るんだろ?色んな資料に…。

たっぷり十分は悩んだか。

オレは不安そうな部下たちに結論を告げる。

「い、イカすじゃねぇか!!」

「オヤジぃぃぃぃ!!」

あ〜もう。また泣く〜〜。

「良かったなぁ。頑張った甲斐があったなぁ!!」

イメージ図とにらめっこするオレの後ろでお祭り騒ぎを始める子分たち。

うん……。まぁいいけど。

「ただ、徹夜はやめな。オメェらの気持ちは嬉しいが、それで仕事中に怪我でもされちゃあオレが悲しむ」

埋め合わせって大変なんだぞ〜。さすがに分かれ〜。

「スンマセンオヤジぃぃぃぃ!!」

いやまぁ、そんな素直に謝られちゃあこれ以上追求も出来んて…。

オレのためって気持ちは素直に嬉しいしさぁ…。

だからオレは間違ってない…と思いたいなぁ〜〜……。

なお、その後船のことを報告した際、案の定と言うべきかオヤジに爆笑されたのは言うまでも無い。




これからもマイペースにやっていきたいです。


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10話

月鋼…コメントで勧められて近所の店に無かったので、Am○zonで頼みます。




「よ〜し。これで全員分配れたかぁ?」

ジャスレイは自身が代表を務める商社『JPTトラスト』で、集った部下を見回しながらそう言う。

「はい!オヤジ!!」 

それを聞いて部下の一人が代表して返事を返す。

他に反論が無いところから、どうやら全体に行き渡ったのは間違いなさそうだ。

「そりゃあ重畳だ。オレたちの船は姿形こそ変わったが、思い出はこのドッグタグと共にあるって訳さ」

ジャスレイは自らの首にかけたソレを手に取り、一度外して高く掲げる。

「おぉ〜〜!!」

すると、部下たちもジャスレイに倣いドッグタグを掲げて歓声をあげる。

それは、先代の船の装甲を業者に加工してもらって作ったドッグタグだ。

「へへ…そうっすね。デザインもみんな揃いでいいもんですね」

船を手放す時にしんみりしていた部下も、嬉しそうにそう言う。

「ま、オレたちにゃ『黄金のジャスレイ号』が新しくあるからな。オメェらが一生懸命に名前を考えてくれた船だ。そこに何の不安も不満もありゃあしねぇさ」

ジャスレイがそう言うと、部下の一人が問いかける。

「それで、残った船の後始末はどうしますかい?」

「ま、そうだなぁ…鉄華団の連中に餞別としてくれてやっても良さそうだな」

その言葉に、質問を投げかけた部下は納得するように頷く。

船などの大きなものは処分するにしてもそれなりに金はかかるもの。

売り払うにしても装甲がボロボロなため駆動部などに用いられる希少部品以外は二束三文にしかならないだろう。

かと言って二隻目として運用するにしたってはっきり言ってコストに見合わない。

結果赤字になるくらいなら、身内に役立ててもらった方がいいだろうというのがジャスレイなりの考えだ。

特に鉄華団は結成してまだ間もない新組織。

なんなら今受けている難度の高すぎる護衛任務が初仕事という有り様だ。

かと言ってそれを放り出すようなタマでは無いのは名瀬からの話からしても火を見るより明らかだ。

何にせよ彼らはこれから色々と入り用になるのはまず間違いないだろう。

これなら人員を送るわけでもなし、以前の金銭援助の件も併せて少しは信頼していい大人もいると言うことを分かってもらえるかもしれない。

もちろん、彼らの直接の上司に当たる名瀬・タービンには前もって話を通してある。

というか、流石に公の場では互いの立場的にそうしないとヘンに周囲から勘繰られかねないのだ。

「オヤジはよっぽど期待してるんですねぇ、あの連中に」

「まぁあの名瀬の野郎に目ぇかけられるってぇのはそれだけスゲェってことさ。もちろんオレは、オメェらが連中に劣るとは微塵も思っちゃあいねぇよ?むしろこれからも頼りにしてるさ」

「オヤジィ……」

その言葉を聞き、部下たちはジワリと涙を浮かべる。

ドッグタグを握りしめ、自分達の誇りとオヤジへの信頼を胸に抱く。

「そんじゃあ、諸々の準備に取りかかるかねぇ」

そう言って、ジャスレイは部屋を後にし、部下たちもそれに続く。

「オメェら!!オヤジの顔に泥塗るんじゃねぇぞ!!」

その言葉にジャスレイはただただ、はにかむのだった。

 

□□□□□□□□

 

いやぁ〜〜前々から思ってたけど、反対意見ってあんまり出ないもんだねぇ〜。

ドッグタグ作ることに関しても結構好意的だったし…。

船の買い替えも順調に決まったし。

まぁ、今にして思えばそりゃあギャラルホルンの船をすすんで欲しがるヤツはそうそういないかぁ。

バラして売るにしても費用がかかり過ぎるもんなぁ…。

あぁそれとあの件、名瀬に連絡入れとくかぁ。

ピッピッピッ…。と。

「おや兄貴。早速子育ての相談ですかい?」

「いや、その話は後でな。ホラ前話してたろ?鉄華団の連中に餞別をな…」

「あぁ、兄貴が使ってた船をやるって話ですかい?」

「オウそれそれ。その話。通してくれてあるか?」

「えぇまぁ。オルガのヤツはじめ、本人達は遠慮がちな反応してたんですがねぇ…」

ふぅむ…。そっかぁ〜……。

まぁ、確かに貰ってばっかだと申し訳ない気持ちになるのは分からんでもない。

ましてあの子らの境遇的にもまぁ、そうだわなって感じだよなぁ〜。

「にしても、兄貴は大丈夫なんですかい?」

「うん?何がだ?」

え、なんか大丈夫じゃなかった?

「ただでさえ蓄え無いのに、あんなほぼ船一隻ポンっと出しちまって…」

あぁ〜、なんだそのことかぁ。

ま、身の安全には変えられないしなぁ。

「なぁに、心配しなくても抑えるべきところは抑えてあるさ。それに会社のカネに手ェつけてるわけでもねぇしな」

って言うかそこまでしたら部下に慕われる以前の問題だしなぁ…。

鉄華団の前にすぐ隣で暴動が起きるだろうよ。

「そうですかい。それじゃ、オレになんかあった時は兄貴に全部任せりゃ大丈夫そうだ」

「馬鹿野郎!!滅多なこと言うんじゃあねぇよ!!」

オレはそれを聞くと思わず声を荒げてしまう。

ホント、オレじゃあの鉄華団は抑えられんて…。

まぁそのために今回みたいな機会にちょっとでも懐柔しようってハラなんだけどもさぁ…。

「あっはっは!!なぁに、流石に冗談ですよ。愛する女どもを残して死ねやしませんて」

なぁんだ冗談かよー。

心臓に悪りぃったらねぇわ。

「少なくとも、オレが生きてる間はオメェにも生きててもらうからな!!二度とそんなこと言うんじゃねぇ分かったか!!」

そのまま勢いに任せて電話を切る。

そしてそれから数日後、顔を腫らした名瀬に謝られたのだった。

え、だいじょぶ?




楽しみです。


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11話

過去編。多分二、三話くらいで終わるかなぁ。

妄想、オリキャラ登場注意報。


「おっ、これは…」

それはジャスレイが机の整理をしていた時のことだ。

「オヤジ、どうかしましたかい?」

「うん?いや、懐かしいもんが出て来てなぁ…」

鍵のついた引き出しから出て来たのは木箱である。

そして、その中身は懐中時計。

なにやら大仰な紋まで入っている。

「オヤジ、それは?」

「ああ…昔ちょっとなぁ…」

ジャスレイ・ドノミコルスの過去を知る人間はそう多くない。

それと言うのも、彼とほぼ同期にあたる人間はその殆どがテイワズという組織の黎明期に於けるその礎となった者達ばかりだからだ。

故にこそかジャスレイは、酒に酔ったとしてもそのことを口にするのは稀だ。

その本心たるや────。

 

 

アフリカ大陸の某国。土砂降りとも言えるほどの雨の降りしきる都市を駆ける二つの人影があった。

二人はバシャバシャと足音を立てて、入り組んだ路地を走る。

「クッソ!!アイツらまぁ〜だ追って来てやがる!!」

そういうのは若き日のジャスレイその人だ。

「くっちゃべってんなジャス!!死にてぇのか!!」

そう言うのはマルコ。ジャスレイの兄貴分の一人で、彼の世話役だ。

「出て来い盗人ども!!今なら苦しまないよう銃殺で済ませてやる!!」

二人の背後からそう怒鳴り声が聞こえる。

服装からしてギャラルホルンの兵士だろう。

「誰が出るかば〜か」

「殺されるって分かってて大人しく捕まる奴はいねぇだろうよ」

二人はあちらに聞こえないくらいの声でそんなことを言いながら逃げ隠れを繰り返す。

元々、二人は拿捕したギャラルホルンのモビルスーツであるグレイズを月のとある組織に売り、その足で地球に寄って次の指示を仰ぐべく行動していた。

そこを執念深く追って来たのが今怒鳴り声を飛ばしている男…つまりはそのグレイズの元のパイロットだった男である。

手抜かりは無かったはずだが、二人はどうやら網を張られていたようだ。

「出てこないなら、今ここで刑を執行しても良いんだぞ!!」

そう言って兵士は銃を取り出し、空に向かい一発発砲する。

どうやら相当に冷静さを欠いている様子。

それを他の兵士たちも流石になだめている。

「ちょ、こんな市街地で撃つか普通?」

「この悪天候じゃ、市民はほとんどウチの中だろうが短慮にもほどがあるだろうに」

そうやって二人は悪態をつきつつ逃げ続ける。

その途中、目の前には左右二方向の分かれ道があった。

「よし、二手に別れて撒くぞ!!落ち合うのは…そうだな」

少しの間キョロキョロしていると、大きな屋敷が目に止まったのでマルコはそこを指差す。

「あそこで良いか!!」

「了解だ、兄貴!!」

そう言ってマルコは右、ジャスレイは左に逃げる。

「待あてぇぇぇ!!」

そして、ギャラルホルン兵は分かれ道で半々に分かれる。

少なくとも、これで追っ手は半分。見つかるリスクも半分になった訳だ。

ジャスレイは茂みやぬかるむ泥の中、未だ多く無い人混みに紛れ、不自然で無いように追っ手への警戒もしつつ、目的地へと近づく。

向こう側からマルコも見える。

ホッとしたのも束の間、何やら片足を庇うように息を切らして走っている。

「兄貴!!」

ジャスレイは血相を変えて必死に駆け寄る。

「すまん…ヘマした…」

そう言うマルコは苦しそうにしている。

「兄貴…」

ジャスレイが心配そうにマルコを見つめていると追っ手の声が聞こえてくる。

マズイ。

「どこか隠れられる場所は…」

しかしここは待ち合わせ場所に指定した屋敷の前、よく手入れがされているのだろう。周囲は比較的開けている。

そのうえ、間の悪いことに雨も最初に比べて弱くなっている。

これでは見つかるのは時間の問題だ。

ジャスレイはマルコを担いで屋敷の陰に隠れようとする。

「ジャス…オレを置いて行け…」

「できねぇよ!!兄貴まで死んだら…」

そうこうしている内にも雨音に紛れて兵士たちの声も次第に近づいてくる。

ジャスレイが何かないかと慎重にさぐっていると、屋敷の生垣の間に人が一人入れそうな隙間を見つける。

ままよ、と思うがままジャスレイはなんとかその隙間からマルコと共に屋敷の敷地内に入る。

ほとぼりが冷めるまでとは言わず、少しばかり場所を借りるだけ。そう思って。

火事場の馬鹿力というものか、雨で冷え切った体にもかかわらずジャスレイはなんとか間に合った。かくして危機一髪。

「兄貴…大丈夫か?」

血を流したうえ、雨で体温まで奪われている。

それに自分もこのままでは…。

表では兵たちの騒ぎ声が聞こえる。

今出て行っても捕まるだけだ。

しかしこの傷を放置するわけにも…。

途方に暮れるジャスレイ。そこに……。

「おや?そこにいるのは…」

「アンタは…」

ジャスレイは突然声をかけられたことに驚きつつ、しかし大きな声を上げないように老人を見上げる。

「クジャン公、如何なさいましたか?」

側にいたメイドがこちらに近づいて様子を見て来る。

ギャラルホルンが誇る7つの名門、クジャン家当主は名君として知られている。

民を思いやり、慈悲深く、されど厳しく。

人々を愛し人々に愛される男だと言う。

当時、ただのチンピラ同然だったジャスレイも、そのことを知っていたくらいには有名な話だった。

「いやぁ、どうやらお客様のようだ。メイド長、彼らに部屋を」

「しかし…」

メイドはチラリとジャスレイと、そしてマルコを見てためらう様子を見せる。

泥と血に塗れたずぶ濡れの男二人。不審に思うなと言う方が無理な話だ。

「頼むよ」

そう言うと、クジャン公と呼ばれた彼は返事も聞かずにジャスレイの前に屈んで顔を覗き込む。

「大丈夫かね?」

そう言って声をかけてくる老人の目は優しく、そして澄んでいた。




過去話はたまに挟むくらいがいいんでしょうか?

塩梅が難しいですねぇ。


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12話

やっとラダーン倒せた…。

エルデンリングが一区切り出来たので投稿します。


ジャスレイが気がつくと、まず目に入ったのは見慣れない天井だった。

とっさのことにジャスレイはガバリと起き上がり周囲を見回す。

そして己がベッドに寝かされ、簡素ながらも肌触りのいい服に身を包んでいたことに気がつく。

「気がついたかね。キミはあの後気を失ったんだよ」

声が聞こえた方を見ると、そこには先ほどの老人がベッド脇の椅子に腰掛けていた。

しきりに周囲を気にするジャスレイを見て察したのか、老人は安心するよう優しい声音で言う。

「あぁ、もう一人の彼は別室に運んでもらったから安心なさい。ウチの専属医に見てもらったが、命に別状は無いそうだよ」

老人はジャスレイが聞き出したいだろうことを言い当てる。

「…なぜ、オレらを助けてくれたんです?」

ジャスレイは問う。それは当然の疑問だ。

自分達は所詮チンピラ。そのうえ身柄を拘束したところで身代金を要求できるほど偉くもない下っ端に過ぎない。

先ほどの兵士の件も併せて、はっきり言って抱え込むだけリスクにしかならないはずだ。

「……少し、外してもらえるかね?」

老人が扉の外に向けて声をかけると、足音と共に気配が遠のくのがわかる。

ジャスレイに向き直ると彼はぽつり。

「……償いさ」

老人はそう言うや目を伏せる。

「償い?」

ジャスレイがそう聞くと、老人は静かに頷く。

「まずは名乗ろうか。私はギャラルホルンを纏める7つの家門、セブンスターズのひとつ。クジャン家の当主を任されているバラクという」

その言葉を聞くや、ジャスレイは目を見開く。

「あの…名君と名高い…」

ジャスレイは気を失う前のやりとりは現実だったのかと、聞き間違いでは無かったのだと思い知らされる。

「私は世間では名君などと持て囃されているらしいがね、実際はそんないいもんじゃあない。本当に民を思うならば、今のセブンスターズの腐敗にこそ切り込むべきなのに私はそれを見て見ぬふりをしていた。私はただの臆病者の卑怯者さ…」

名君と聞くや、クジャン公は首を横に振ってそう自嘲する。

「だから君たちを助けたのはせめてもの償いなのさ。身内を、我が領民たちを…己の掌の中だけを守ると、そう思ってこれまでやって来た。金を使いコネを使い、そのために出来る限りのことをやってきた。しかし…運命とは因果なものだな。己の無力と、ギャラルホルンの腐敗を改めて思い知らされたよ。街中でさえ暴れ回るギャラルホルン兵士のことを聞いて市民を危険に晒したと思うとどうにもいたたまれなくてねぇ…」

クジャン公は政略に長け、周囲の信頼も厚い。 

ジャスレイはこの短期間に於ける情報収集能力ひとつとってもその能力の高さを垣間見た気がした。

「天はそんな私の心をお見通しらしくてね。だからこの歳になるまで世継ぎもいない。仮にこれから奇跡的に授かることが出来たとして、年齢的にも恐らく長くは共にいられないだろう」

その目に宿るのは後悔か、まだ見ぬ我が子を残して死ぬことへの不安か。

彼の澄んだ瞳は如実に遠くを見つめていた。

「しかし、だからってこんな危険を…」

「それに加えて私個人として話し相手が欲しかったからね。家の者は皆私をクジャン公と…公職でしか呼ばない。無論それに不満がある訳じゃあない。彼らは彼らでよく働いてくれているし、セブンスターズとしてそう言う役目を求められているのはわかっているからねぇ。かと言って他のセブンスターズとは互いに牽制し合ってばかりでね…せめて普通に話せる相手が欲しかったのさ」

勝手だろう?とそう言う老人はどこか疲れ切った様子だった。

今にして思うと、彼はきっと限界だったのだろう。

半世紀以上にわたって名君であり続けることに、ほとほと疲れていたのだろう。

屋敷の外では愛想を振り撒き、他家と鎬を削り、内では跡取りのことでせっつかれ…いや、跡取りは家の存続に関わることだから由々しきことであるのは確かだが。

それに加えて、当たり前のことではあるが政とは綺麗事だけじゃあない。権謀術数渦巻く坩堝を行くには非情の仮面を被らなければならないことだって少なくない。

彼はきっと、たまにでいいからその仮面を外す相手が欲しかったのだ。

今日まで彼が保っていたのも、彼自身が我慢強いからか、或いはセブンスターズとしての矜持が故か…。

そこにおあつらえ向けにも余所者がやって来た。

そして、その余所者にいま話し相手になれと言う。

なるほど勝手なことだ。

だが、ジャスレイはそんな老人を嫌いにはなれなかった。

ましてや貴族、それもセブンスターズクラスともなれば、その言動に常に誰かの思惑が絡むのは当然だろうし、それに対して敏感でなくてはやっていけない。

ジャスレイは政治には疎い…というかズブの素人だが、そのくらいは足りない頭でも想像することくらいは出来た。

「まぁ、そんな訳でね。気持ちが落ち着いてから、差し障りのない範囲でいい。キミらの事を教えておくれ。報酬はキミらの安全でどうかな?」

「なんで赤の他人にそこまで…」

「赤の他人だからこそ、話せることもあるだろう?」

「…もしも、オレがアンタを人質にするようなロクデナシだったらどうしてたんだ?」

ジャスレイは試すように言う。

「ハハハ、もしキミに本当にそうするつもりがあればわざわざその事を今この場言ったりはしないだろう?それに、そんな事をすればキミはキミ自身の首をしめるだけさ」

図星をつかれるジャスレイ。

不意に目を逸らして誤魔化そうと、とっさに言葉を発する。

「オレがやけっぱちになるかもとか…」

「であれば、大の男一人を抱えて屋敷に忍び込んだりはしないだろう?キミがそんな男ならもう一人の彼を置いて、雨に紛れてとっくに逃げてるさ。そして…」

「そして?なんです?」

素朴な問い。それに対するクジャン公の返答は…。

「そんな冷静で仲間思いなキミだからこそ、私はキミらを客人としてもてなそうと考えたのさ」

この時ジャスレイはああなりたいと思える二人目に出会えた運命に心から感謝したのだった。

 




先代の名前はオリジナルです。

名君って言われてたみたいだし、たぶんこんな感じじゃないかなぁって妄想。

齟齬があったら申し訳ない。


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13話

火の巨人が倒せないので、箸休め(?)に投稿。

攻撃範囲エグい…。

orz


「恥ずかしい話だがこれでも若い時分は少し…そう、ほんの少しだけやんちゃでねぇ。父や使用人の皆にも心配や迷惑をかけたものだよ」

屋敷の中庭でお茶を飲みながらそう言う老人…クジャン公はとても楽しげだ。

「生垣の抜け道も、実は昔私がこっそりと開けたものでね?よくよく見ないと分からないだろう?頭に血が上ってカァっとなると、すぐに家出をするすると言って用意したはいいものの、しばらくすると結局頭が冷えて謝るんだが…当時の執事長が容赦とか遠慮のない人物でね。私が癇癪を起こすとすぐに引っ叩いて来て…」

「そんなにおっかなかったんです?」

「それはもうねぇ…ああ言うのをオニというのだろうねぇ…いやぁ、若かった私のプライドはあの時ズタズタにされたなぁ…まぁ、勉強とか視察とか色々とサボろうとしてた私が悪かったんだがね?」

懐かしむようにそう言うクジャン公。

「にしても、いったい何者なんです?その執事長…」

「うん?他家の紹介でね。能力も非常に優秀で仕事もできるんだが、性格に難アリと判断されたらしくてねぇ…。現にウチに来てわずか二、三年で執事長にまでのし上がったんだが、その後あっさりとやめていってね。当時の私は安堵したやら少し寂しかったやら複雑な気持ちだったよ。『貴方が次期当主に相応しい振る舞いをして下さるなら何も言いませんし、何もしませんよ』だなんて言われたなぁ…。見た目の年頃は今のキミと変わらなさそうなんだが、それ以上に凄みというか、気迫のようなものを感じたよ。名前は確かホ…」

「クジャン公」

顎に手を当て、懐かしいという彼の名前を思い出そうとしたその時、メイド長が訪ねて来て、耳打ちする。

それを聞いたクジャン公は、顔を綻ばせてジャスレイに言う。

「キミの担ぎ込んだ彼が、目を覚ましたそうだよ?」と。

「兄貴に会いに行っても?」

ジャスレイは喜びを隠せず、クジャン公に問いかける。

「ああ、行ってあげなさい」

クジャン公も、微笑んで頷いてくれた。

長く、埃ひとつ落ちていない廊下をジャスレイははやる気持ちを抑えつつ進む。

もちろん、道順など知らないので当然ながらメイド長の同伴付きだ。

「スンマセン…」

ジャスレイは申し訳なさそうにそう言う。

「いえ、お気になさらず。クジャン公のご指示ですので」

振り返らず、立ち止まる事もなくそう答えるメイド長。

灰色がかった白髪に眼鏡と言う若くはない出立ちではあるが、背筋はピンと伸びておりハキハキとした受け答えもあわせてしっかり者なのが伝わってくる。

通りすがる侍従たちも、特に気にした風でも無くコソコソと話している様子も無い。

先のクジャン公の発言もあり、あくまで二人を客人として扱ってくれているのだろう。

「こちらです」

そう言って、メイド長はひとつの扉の前で立ち止まると、その扉をノックする。

数秒もせずガチャリと扉が内側から開けられる。

執事らしき人物が促すと、こんな時のマナーも礼儀もよく知らないジャスレイは頭を下げつつ入室する。

「では、ごゆっくり」

そういうと、メイド長と執事の二人は部屋を出る。どうやら二人に気を遣ってくれたようだ。

「兄貴…」

ジャスレイは感極まって、なんと言っていいか分からない。

「おう。心配かけたな」

「今回のことは…」

「わかってる。オレだって恩人がしてくれたことに仇で返すほど薄情でも恥知らずでもねぇつもりだよ」

それを聞くと、ジャスレイは再びホッとした。

それからは、マルコの回復を待ちつつ二人は代わる代わる、時には一緒にクジャン公の話し相手をしていた。

その際に「こう言うのを茶飲み友達って言うんですかね?」

なんてジャスレイが言うと、クジャン公は珍しくキョトンとして

「あぁ…あぁ…そうだなぁ…」

と噛み締めるように言っていたのだった。

それからひと月もせず、二人はクジャン公の取りなしで地球を去る日が来た。

「名残惜しいねぇ…」

用意された船の前で、そういうクジャン公。

「お世話になりました」

「この恩は必ず…」

そう言って頭を下げる二人をクジャン公が手で制すると、合図と共にマルコの世話をしてくれた執事がアタッシュケースを持ってくる。

中を開けて見ると、中には決して少なくない金額と、二つの懐中時計が。

「特別な客人の証さ。餞別に、受け取ってもらえるね?」

「いや、いやいやいや!!流石にこんなには…」

「そうですぜ!!いくらオレらでもそんな…」

「私の生涯で、初の友二人にどうしても贈りたいのさ」

ニコニコとそう言うクジャン公に、ジャスレイとマルコは顔を見合わせる。

さすがにこれ以上の遠慮は相手に恥をかかせるだけなのだとわかったからだ。

それに加えて、この短い間でクジャン公はこう言った時言葉を曲げない人物であるのが理解できていたのもある。

その後、死んだものと思われていた二人が思わぬ手土産を持って来たことにマクマードは度肝を抜かれたと言う。

 

□□□□□□□□

 

いやぁ〜、懐かしいなぁ〜。

あのネタにされてるイオク・クジャンの関係者だからどんな人かとちょっと警戒してたけど…。

良い人過ぎて一生ついて行きたくなっちゃった!!

って言うのはまぁ、半分くらいは冗談だけど。

いやぁ〜、ああ言うのをカリスマってんだろねぇ…。

まぁ断ったけどもさ。

だって仮に向こうについたとして、原作通りだとイオクくんが後継ぐじゃん?

色々やらかしてミカくんに彼ともども標的にされるじゃん?

死ぬじゃん?それが分かってて着いてくなんて出来ねぇじゃん?

かと言って、オレがイオクくんの世話役しようにも木星圏から地球ってどう考えても遠すぎるし…。

って言うか、今思うと忍び込んだ先がクジャン公の邸宅だったとは…偶然ってすごいなぁ…。まぁあそこは別荘だったらしいんだけど…。

我ながらムチャしたもんだよなぁ…。

あと、たまにで良いからって連絡先くれたし…。

なんなら実際、何度か連絡は取ってるし。

やっぱセブンスターズの名前と力はスゴいし。それ抜きにしてもお世話になったしなぁ…。

いやまぁ、あんまり高頻度でもあちらさんに迷惑だろうから回数は弁えてはいるけど…。

「それで、マルコのオジキは情報部に?」

「おう。弾が少しばかり当たった場所が悪かったようでなぁ…。かと言って治療も拒否してるみてぇでよ。不覚傷を一生忘れねぇためってなぁ…」

兄貴ヘンなとこ真面目っていうか、頑固な人だからなぁ〜…。

まぁ、そのおかげでくれる情報は確かなモンばっかなんだけどもさぁ。

あの後奇跡的にクジャン公の跡取りが出来たって聞いた時も、訃報を聞いた時も一緒に泣きながら呑んだなぁ…。

グスン…。

「オヤジ?」

「あぁ…、いやなんでもねぇよ…」

貰い物の懐中時計に涙落ちちゃった。

しょぼん。

 




とりあえず、過去編はここまで。

また、たまにやってみたいですね。


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14話

火の巨人は倒せました。嬉しい。
でも今度はマレニアに勝てへん…。

やっぱフ○ムは最高だぜ!!


「なに!?テッドの野郎が?」

その日、『JPTトラスト』の事務所で通話口越しに聞いた言葉に、椅子に腰掛けるジャスレイは珍しく困惑していた。

電話の内容は月に於ける一大企業『タントテンポ』の頭目にして、ジャスレイの取引相手であり、また若い頃からの友人でもあったテッド・モルガトンが何者かに暗殺されたと言うものだ。

ジャスレイは、タントテンポが持つ月を通しての地球への物資の運送路に何度も世話になっており、これを見逃せばジャスレイ率いるJPTトラストも傾きはしないまでも無傷ではいられないだろう。

その直後だ。タントテンポの連中から連絡が届いたのは。

「月の連中はなんと?」

心配そうに言う部下。

それに対してジャスレイは、額に手を当ててしばらくすると、あくまで落ち着いた様子で端末を見遣り、淡々と内容を要約する。

「あぁ…次の代表を決める幹部会を執り行うから見届け人として来て欲しい…ってな」

淡々と、事務的にそう話した相手は若い女だ。

幹部連中に話をさせろと言っても、今はいろいろと取り込み中で出来ないと言う。

まぁ、いきなりトップが死んだのだ。ゴタゴタは分からない話では無い。

しかし、それでも妙な話だ。

普通こう言ったことは内うちに処分したいことのはず。

交友があったとは言え、赤の他人であるジャスレイに是非に、と会議への立ち入りを許すのは怪しすぎる。

「連中…何を考えてるんでしょうねぇ?」

タントテンポという組織は、ギャラルホルンとの繋がりも薄くない。

木星圏とは違い、あのあたりは比較的地球にも近くギャラルホルン内でも最大戦力を保有するアリアンロッド艦隊の庭だ。

当然、アリアンロッド連中に睨まれないために、上納金として莫大な金を吸い上げられる事にもなる。

かと言ってそれである恩恵は後ろ暗い取引を幾分見逃してもらえるくらいなもので、それ以外に目立った融通を効かせてくれるわけでもないため、やっていることは本当にただの搾取だ。

要するに、タントテンポは権力を傘にきた連中にずっと煮え湯を飲まされ続けてきたわけだ。

「…それを面白く思わねぇヤツがテッドのオジキを…」

部下は拳を硬く握り、歯軋りをする。が…。

「いや、そりゃあねぇだろ」

ジャスレイは腕を組んで少し考える素振りを見せると、部下の言うその可能性を否定する。

「月ってぇのは、当たり前だがこの辺とは比べモンにならねぇくらいギャラルホルンの支配が強い。月の…特にタントテンポに属するヤツならそのくらいの現実は分かってるだろ。その文句でたまたまカァッとなってわざわざテッドを殺るか?そんな短絡的なヤツはいくら実績があってもまずテッドからの信頼は買えねぇし、テッドに近づけるほど出世も出来やしねぇよ」

事実、幹部の誰かと口論になることはあっても、ジャスレイの知るテッドはその後のフォローが上手い男だ。そんなポカをやらかすとも思えない。

「じゃあ、この招待は…。オヤジを次の代表の信頼を得るための生け贄にしようと…」

ハッとなったようにそう言う部下をジャスレイは手で制止する。

だがそれもあり得ない話ではないのだ。

ジャスレイは他所の方針に口を出す方ではないが、だからこそいてもいなくても同じ。と考えた幹部が、それならここでアリアンロッドの…ひいてはギャラルホルンの信頼を勝ち得たいというのも残念ながら無い話では無い。

が、連中はそんなことをした後のことまでわからないほど無知でも無謀でも無いだろう。

仮に月の近くで不穏な『事故』が起きたら、それで一人の男が行方知れずになったとしたら…それが圏外圏で、最も恐ろしい男の逆鱗だったなどと、醜聞どころかむざむざ我が身を危険に晒す行為でしか無い。

それほどにマクマードという男は張っている網を広く、深くまで周到に巡らせる人物だ。ナメてかかれる相手ではない。

少なくともその犯人くらいすぐに突き止める。

そして、苛烈な報復をするのだ。

「そこまではわかんねぇがな。ま、せっかくの招待だ。断るなんざ礼儀知らずのすることさ」

そう言うと、ジャスレイは「よっこいせ」と椅子から立ち上がる。

元より仁義に厚いことで有名なジャスレイだ。

ここで動かないのはそれこそ汚名だろう。

「手土産が必要だな」

そう言って立ち上がり、バサリとすっかりトレードマークとなったトレンチコートを肩にかけると、出立の準備をはじめるのだった。

 

□□□□□□□□

 

ヤッベー!!ヤッベー!!

確かあの辺ってオレの財源のだいたい…%くらい!?

流石に損切り出来る数値じゃねぇっての!!

「手土産って…いったい何を?」

疑問を投げかけてくる部下にオレは努めて冷静に答える。

「ま、色々さ。それと前に闇市で買ったパーツ類あったろ?」

「ええ、そんなに高くも無かったからって…」

ホントはミカくんへのお土産のつもりだったけど…マルコの兄貴からの話だと、どっから手に入れたのか近くにタントテンポ側の味方らしきガンダムフレームも確認してるみたいだし。

ブルワーズもグシオンに装甲付けてたし、それとおんなじ感じでつけらんないかなぁ〜って叩き売りしてたのをいくつか仕入れたんだけど、渡す機会逃しちゃったしなぁ〜…。

「それと、何人かにも連絡が必要だな。名瀬のヤツには入れるとして…」

残す言葉が文字通り遺言になんなきゃいいけどなぁ…。とほほ。




月鋼おもしろいですね。
贅沢を言えばもうちょい続いて欲しかった…。


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15話

大山羊装備、重量といい強靭といい、ハベルみあってすき。


「ヘェ〜?ブルワーズの連中がケンカ売って来たねぇ〜?」

 映像通信越しに名瀬から聞いたその情報にジャスレイは興味ありげにそう言う。

『ブルワーズ』

それは火星〜地球の間の裏航路を活動拠点とする武装組織…いや、宇宙海賊だ。

所持する船は強襲装甲艦二隻、輸送船一隻の合計三隻と十を越えるモビルスーツを有していて、決して小さくはないものの、それは一個の組織として見た場合で、その戦力は当然ながらテイワズに及ばない。

さらに、阿頼耶識システムをつけたヒューマンデブリを多く擁しており、それで人員を賄っていると言う組織の歪みきった体質からタービンズの側からしてもあまり仲良くしたい相手ではない。

しかも財源は人身売買ときた。

タービンズにしたらますます仲良くなれる理由が無いうえ、強者にはおもねるのだから始末に負えない。

そんな普段からタービンズやそのバックにいるテイワズ相手にへーこらして来ていたような連中が妙な事に急に強気な態度を取ってきたと言うのだ。

何かしらの裏があると思わない方が無理がある。

「兵隊もターゲットも自分より弱者ばっかなくらいにゃ臆病なカバヤンにそんな度胸があるとも思えんし…こりゃあ、きなクセェなぁ…」

月に向かいがてら新しい船の椅子に腰掛けるジャスレイは、顎に手を当て考え込む。

「ちなみに連中の要求はクーデリア・藍那・バーンスタインの身柄だそうで」

「ふむ…」

で、あればやはり何かしら裏に権力者の関与があるのは確実だろう。

それに加えてブルワーズの態度の変化は鉄華団をただの子どもの集まりと思って侮っているのも大きいか。

「大方、ギャラルホルンの下請けでもはじめたんじゃねぇですかい?」

冗談混じりに名瀬は言う。

「にしても安請け合いが過ぎるな。プライドの点で見りゃあ『夜明け』の連中の方がまだマシに思えてくる」

毎回毎回、会うたびに自身を引き抜こうとしてくる男の顔を思い浮かべるとジャスレイは頭が痛くなる。

「まったくで」

名瀬とジャスレイはそう話すと、その可能性も無いことは無いんだろうなぁと互いにため息をつく。

確かに、政治家連中にとってクーデリアという女はそれだけ目障りということなんだろうが…。

「それで、オレに手助けできそうなことはあるかい?」

わざわざ連絡して来たという事は、助言なり助力なり求められると思ったジャスレイは問いかける。

「いや、これはオレとオレの弟が売られたケンカなんで…」

まぁ見といて下さいよ。そう続けようとした名瀬に、ジャスレイは続ける。

「ならオメェもオレの弟だろ?心配せずともオメェの顔は立てるし、助けるって言ってもちょっとしたお節介くらいなもんさ」

「はぁ〜。アニキは何でそう言う人が嬉しくなる言葉をポンポンくれるんですかねぇ?」

呆れたように、しかし少し嬉しさを隠せない様子で名瀬がそうもらす。

「あん?そりゃオメェ、そんだけ見てるからに決まってんだろ?可愛い弟なんだからよ」

「可愛いって…オレもうそんなトシじゃねぇでしょ?」

「トシは関係ねぇよ。鉄華団だけじゃなく、お前さんもオレを頼ってくれていいからな。頼られねぇ兄貴分ほど情けねぇモンもねぇだろ?」

その言葉を聞くなり、名瀬はなにか思うところがあったのか帽子を深く被り言葉を続ける。

「ま、今回は大人しく見といて下さいよ」

改めてそう言う名瀬はなにやら自信ありげだ。

「うん?まぁオメェがそう言うんならそれは構わねぇが…。ま、荒事になるようならその後に積荷の確認くらいはきっちりさせとけよ〜?」

「はいはい。ま、伝えときますよ〜」

その後、幾らかの報告や相談をしたのち、通信を切る。

「いつまでも兄貴に甘えてばっかでもいけねぇよなぁ…」

切り際、ポツリとそうこぼす名瀬の声を拾ったのは、すぐそばにいたアミダと…。

 

□□□□□□□□

 

う〜む…。

モテ男の弟に釘を刺されてしまった…。ちょっとショック。

確かこの後、ざっくりとだけどブルワーズとのイザコザの後に寄るのがドルトって言う物資の中継コロニーで、そこで確か労働者達の反乱が起こって…それでクーデリア嬢が覚醒するって言う流れのはず……。

う〜ん。でも他ならぬ名瀬自身に手出しは無用って言われちゃったしなぁ〜…。

タービンズの面子的にもこれ以上オレが食い下がろうものなら過干渉になって立場的に却って危ないだろうし…。

さっきのそれとなく言ったアドバイスくらいが限度いっぱいかなぁ…。

それにここで手を出して鉄華団の試験をしようってハラのオヤジの顰蹙を買うわけには…。

そもそもオレ、これから月に向かう最中だってぇのに…。

「歯痒いねぇ…」

「オヤジ?」

おっと、部下の一人が異変に気づいたか。

オレってそんなわかりやすいかね?

「ま、言っても仕方のねぇことなんだろうけどよ。オレってヤツはどうにもお節介焼きでいけねぇや…」

「そんなオヤジのお節介に、オレらは助けられたんすよ」

「真っ直ぐに言ってくれるねぇ〜」

「真っ直ぐな人に育てられたもんで」

嬉しいこと言ってくれるなぁ〜。

「まぁ、とりあえずは祝いの言葉の練習でもしてるかねぇ…」

「いや、披露宴じゃねぇんですから」

部下にツッコまれてしまった。ショボン。

まぁそれもそっかぁ〜…。

「冗談はさておき…だ。向こうもこっちも、こっからが本番だなぁ」

オレは気を取り直して椅子に座り直す。

こっから月までまだまだ遠いからなぁ〜…。

背中痛くなりそ。

 




エルデンのことばっか言ってて申し訳ない。


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16話

鉄華団からの護衛のコメント、参考にさせていただきました。

ありがとうございます。


木星圏から月と言うのは当然ながらかなりの距離があるものだ。

その間に宇宙海賊に襲われたり、重要な道標を見失うことにも気をつけなくてはならない。

故にこそ、宇宙の旅とは常に警戒を張り巡らせ大事な船員や積荷を守るため、ほどほどに緊張感を保っていなければならないものだ。

尤もジャスレイ・ドノミコルスという男の圏外圏に於ける多くの場合は、その船体に刻まれたマークを見て道を譲られる場合がほとんどだが。

「すっげー!!オジキの船って分かった瞬間、みーんな道開けてるよ〜!!」

『黄金のジャスレイ号』の船室のひとつで外の景色を見てそうはしゃいでいるのは『鉄華団』所属のライド・マッスだ。

「こらライド、仕事中だぞ!!」

そして、そのライドに注意を促すのは同じく鉄華団所属のチャド・チャダーン。

二人とも鍛えてやってほしいという名瀬のたっての申し出で、こうして鉄華団より護衛として派遣されて来ている。

「ごめ〜ん…」

この二人、特にライドは初仕事を途中で投げ出すのは嫌だと言って最初は渋っていたものの、団長であるオルガの兄貴分である名瀬を通しての依頼という形式であるため、少なくとも鉄華団の名に傷は付かないと言われてやっと承諾。

チャドはそんなライドと一緒にいることが多いため、仲の良さも買われてそのお目付役としての抜擢だ。

鉄華団の内部に人を入れるのではなく、外部に派遣し学ばせる。

この辺りは名瀬らしい柔軟な発想だとアイデアを聞いた時のジャスレイも感心したものだ。

やってきた当初はガチガチに緊張していた二人だったが、言い付けられた内容に特にライドは辟易としている様子だ。

「でもさぁ〜…」

そう言って手元を見下ろすライド。

「なんだ?」

「仕事ったって来てからず〜っとベンキョーじゃん。名瀬のアニキの話も聞けなかったし、つまんねぇよ〜…」

そう言うライドは明らかに不満げな様子だ。

「バカ、そんなことオジキに聞かれたら…」

「お〜う、勉強はつまらんかぁ〜?」

ニコニコしながら船室に入って来たのはジャスレイ・ドノミコルス。この船の責任者であり、今回の依頼に於ける二人の護衛対象の人物だ。

「あっ、いや…その…」

聞かれてまずいと思ったのか、ワタワタと慌てだすライド。

チャドはそれを見て、自業自得だと言わんばかりに目配せで助け舟を求められても我関せずで目を合わせずにいる。

「ま、それ自体は分からんでもないさ」

「ホント?」

じゃあ…と続けようとしたライドにジャスレイは告げる。

「だがなぁ…いいのか?せっかくのチャンスをフイにして」

その言葉にライドは「チャンス?」と小首をかしげる。

「字の読み書きや社会常識ってぇのはなぁ、お前さんらが考えてる以上に大切なことさ。特にこう言う稼業ならなおさらな」

「でも…」

「……」

言い返すライド、それに反してチャドは目を閉じ噛み締めるように聞いている。

「オレもなぁ…昔は浮浪児だったから、お前さんらのその気持ちはよ〜くわかるさ。こんなもんが一体何の役に立つんだってな」

「えっ?オジキは最初っからすごかったんじゃないの?」

驚きながらそう聞くライド。こう言うところは子どもなのだなと感じさせる発言に、ジャスレイは微笑んで頷き、そして答える。

「そりゃあそうさ。ガキの頃、仲間と一緒に人買いに攫われそうになって散り散りになったところをオレだけはたまたま運良くオヤジに拾われてなぁ…」

遠い、どこか懐かしむような目は決して嘘をついてはいない。

そう確信させるだけの何かが、そのグレーの瞳の奥には光っていた。

「それで、その仲間達はどうなったの?」

自分達と似た境遇というのに親近感を覚えたのか、興味津々に問いかけるライド。

「死んだよ。後でわかったことだがな。皆結局人買いに捕まって、買われた先でさんざんにこき使われて最後はボロ雑巾さ」

「…………」

「…………」

あっさりとそう告げられた事実にチャドは目を逸らし、ライドは絶句する。だがそれも無理からぬことだ。

今の時代、ヒューマンデブリとはどこでも基本的にそう言う扱いなのだ。

「ま、護衛の任務は必要な時になれば伝えるさ。それまで、よ〜く勉強しときな。月の連中はギャラルホルンの影響もあってか表だってのルールにはうるさいからよ」

ブスッとするライドをいつかの宴の時のようにポンポンと撫でながらジャスレイは言う。

「一人でも、少しでも多くの学を身につけろ鉄華団。バカにされたくなけりゃあ相手を殴りつける以外の方法も身につけなきゃあならんもんさ」

「でも…」

「それに…だ。此処や月で学んだことは絶対に鉄華団にとってもプラスになるだろうさ。此処でお前さんらがつまらん勉強をするだけで、お前さんらの団長のためにもなるんだぞ?」

「ホントに?」

「ああ。それにお前さんらはスジがいい。此処で多少なりとも知識を身に付けりゃあ団長もそうだが、あのビスケットってヤツの助けにもなってやれるだろうさ」

「ビスケットを知ってるの?」

ライドは仲間の名を聞き、意外そうにそう問いかける。

「おう。見込みがあるヤツは覚えるようにしててな」

「なんで?」

「ふふっ…なんでもさ。いい結果出せたらこの船に積んであるモビルスーツのシミュレーター使っていいぞ」

「ホント?やった〜!!」

そう言うライドの目はキラキラと輝いている。

やはり、モビルスーツだとかそう言うのが好きな年頃なんだろう。

ジャスレイは二人が勉強に集中したのを見届けたのち、やって来た部下に後はよろしく、と短く告げると、もと来た道を戻っていくのだった。

 

□□□□□□□□

 

「ふぅ〜…」

とりあえずあの二人を勉強机に座らせることは出来たぁ〜…。

クーデリア嬢が文字を教えようとした時の苦労がわかるわぁ〜。

やっぱあのくらいの年頃って遊びたい盛りなんかねぇ〜。

「オヤジ、お疲れ様です」

そう言って、部下の一人が飲み物を差し出してくる。ありがたいねぇ。

「いんや?そうでもねぇさ」

「で、アイツら見込みはありそうですかい?」

「それは連中次第さ」

実際、地頭はそんな悪くなさそうなんだけどなぁ〜…特にチャドくんは。

「なるほど、これからに期待ですね?」

「おう。オメェらも色々教えてやんな。アイツらは若い。その間にしてやれる限りのことはしてやりてぇしな」

「任しといてくださいよ!!」

自信満々にそう答える部下達。

一応念押ししとこうかね。

「……荒っぽいのはナシだからな?」

「善処します!!」

まぁ、大丈夫…かなぁ?




毎度のことながら、齟齬があったら申し訳ない。


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17話

久々の短期投稿。

何故だかちょっとドキドキしますね。


机と椅子の並ぶ簡素な一室にて、一人の男が吠える。

「ブブリオ!!なんでヤツを呼んだ!!」

ドン!!と怒りに任せて机を叩く音が部屋に響く。

分厚いガラスで出来た灰皿が一瞬宙に浮き、ゴトッと小さくない音を立てるが二人ともそんなことを気にしている風でもない。

ここは月に聳えるビル群の、清潔感あふれるオフィスの一室。

夕焼けに染まるそこには二つの人影が向かい合うように座っている。

声を荒げるのはタントテンポの六幹部の一人であり、先代テッド・モルガトンの右腕として銀行部門をまとめた剛腕を誇る頭取ロザーリオ・レオーネ。そしてもう一人はかつてそのテッドの相談役も務めた男、ブブリオ・インシンナ。ロザーリオに勝るとも劣らない実績の持ち主だ。

「おかしなことを言う。彼は我々にとって特に重要なクライアントだ。それに加え先代との仲も我々の誰の目にも昵懇と呼べるほどだった。そんな彼に信頼され推してもらえるなら、誰がなるにせよ次期頭目も安泰だと他の顧客にもアピールができるだろう?むしろ、呼ばない事によって万が一にも彼の不興を買うことの方が問題ではないかね?」

はて、といった様子で不思議そうにそう言うブブリオ。

「だが、ヤツは木星圏で二番目に影響力のある男だぞ!!知ってるか!?ヤツが裏でなんて呼ばれてるか…」

ロザーリオは忌々しげにそう言うと、言葉を遮るようにブブリオは続ける。

「買収屋、だろう?」

涼しげに紅茶を飲みながらそう言うブブリオに苛立ったのか、ロザーリオは「そうだ!!」と続ける。

『買収屋』それは読んで字の如く。

まさに札束で殴りかかると言うシンプルにして最強の手。

彼はそれによって最低限の損害にて多くを手中にし、仁義によって内側の人間をあろうことか()()()()()()として纏め上げる。

その数は数百とも、千に届くのではとも噂されるほどだ。

それでいて、いざ戦うことになっても決して弱くはなく、むしろ彼の直属の部下達はひとりひとりがその辺のギャラルホルン兵よりも経験値は豊富なうえ、士気もとてつもなく高い。

もちろん弁えるべきところを弁えたり、引くべき点で引いたりするのも加味したうえでそうしているから、彼の持ちかける交渉そのものは比較的穏便に済むことの方が多いのだが、その背景に、彼自身の武力と影響力の大きさがあるのは言うまでも無い。

いずれにせよ、敵にまわしたくない男であることに違いはない。

現に、先代との付き合いの中で彼…ジャスレイに好感情を抱いている人間はタントテンポ内部にもかなりいる。

気前がいいし気取らない人柄、はたから聞けば下らないと思われるような愚痴もわざわざ親身になって聞いてくれたり、そうかと思えば事業方針にいちいち口を出さない気楽さと、ともすればどこにでもいるようにすら思えるこの男は幹部陣からみれば十分に化け物だった。

違いがあるとすれば、ブブリオはその名声を利用しようとしているのに対しロザーリオは今回の頭目の交代を機に、これ以上の影響が出る前に完全にジャスレイの関与を遮断したいと考えているところか。

「フゥ〜………。まぁ、いいか。不本意ではあるが呼ばれた以上ヤツは来るしかない」

一度大声をあげたことで冷静になったのか、ロザーリオは灰皿を自分の方に寄せると、葉巻に火をつけ、気持ちを切り替えて次の算段を立てる。

実際ロザーリオの言うように、今回の件ではジャスレイは来るしかない。

仁義という概念に重きを置いている以上、十年来の友人の跡取りを見届けるのはもはや半分義務のようなもの。裏を返せば多少妙に思うことはあれども、ジャスレイがこれを逃すことは不義理を働くということにもなりかねない。

そうでなくともここを逃せば木星圏の一大企業である『JPTトラスト』としても少なくない損害を被るのは確かだからだ。

どの道月の上空にはギャラルホルン、それも最高戦力と名高いアリアンロッド艦隊が網を張っている。

その重大な仕事に編成される兵も、不審な船が通れば一発で分かるくらいには経験豊富な兵達だ。

そこをひっ捕らえるか、あわよくば人質でもとって味方に引き入れれば…。

ロザーリオはそう思うなり、今度はチラリとブブリオを見遣る。

それにいざとなればコイツも…。

「フフフ…」

「ハァ…」

先ほどまでの態度とは一転して、下心からにやけるロザーリオにブブリオはため息で返すより無かった。

 

……………………………

 

「……って感じじゃないかねぇ?今のとこのタントテンポ連中の思惑は」

ジャスレイはマルコからの情報や、幹部陣の性格を鑑み、タントテンポ内部で今現在起きているだろうことをそう予想する。

その意味するところは…。

「派閥争い…ですかい?」

怪訝な顔をして、ジャスレイにそう問いかけるのは彼の部下の一人。

「ま、ある程度以上にデケェ組織にゃ派閥争い(そんなもん)なぞ珍しくもねぇさ。それ自体はオレらの所属してるテイワズだって例に漏れねぇだろう?」

人間というものは兎にも角にも安堵したい生き物だ。

安堵したいから徒党を組む、安堵したいからカネをかき集める、安堵したいから沢山喰らう。それが行き過ぎれば安堵したいから邪魔者を消す、安堵したいから全てを疑うというのもある。

その集まりの分かりやすい例が派閥というもので、その派閥の安堵のために他の派閥と対立し、そして排除しようと躍起になる。ざっくりとした説明にはなるが、それが派閥争いというものだ。

「まぁこれは例外的な話だが、派閥のトップ同士が個人的に仲が良かったり、対立するより共通した他の目的や目標がある場合はわざわざ直接ぶつかる必要もないんだがねぇ」

世知辛れぇもんさ。と苦笑いを浮かべるジャスレイだが、それもまた是としているようで、部下たちは沈黙するも、ジャスレイも知らぬ間に決意を新たにするのだった。

 

□□□□□□□□

 

「にしても、テッドの野郎め…どっちが長く生きるか勝負だって言って来たのはそっちだろうよ…」

まぁあの発言は酔った勢いと冗談半分なのもあるんだろうけどもさぁ…。

それとたしかアイツ一人娘がいたよな?無事だといいけども…。

確かテッド自身があんまり仕事に関わらせたくないとかで、たまたま小さい頃に二、三回会っただけだけど。

「オヤジぃ…」

「うん?」

チラリと横を見ると部下が涙を流している。

うぉうっ!?さっきの声に出てた?ちょっと恥ずかしいなぁ〜…。

話題変えよ…。

「まぁ、ともかくだ。タントテンポ本部に行く前に、アイツのとこに寄ってかねぇとな」

「アイツ…ですかい?」

そうそうアイツアイツ。

「オウ、ジャン坊だ」

アイツなんだかんだで結構融通してくれるのよなぁ。

「じゃんぼー?」

お、ライドくん。それにチャドくんも来てたんか。

「オウ、ちょうどいい。おまえさんらも紹介しとかねぇとなぁ〜」

「えっ、なんですか?っていうかいいんですか?」

よく分からないと言った表情のチャドくん。

「ま、問題ねぇだろう」

別に取って食われるわけでもねぇだろうし。

一目置いている新人として紹介すればテイワズの傘下として、将来的にこの子らのためにもなるだろう。

ポイント稼ぎには持ってこいってなぁ〜。

それに、この二人をちょっと揉んでもらうのも悪くないか。




次はちょっと間開くかもしれません。

ジャスレイの財布の底を知らない人にとって、ジャスおいたんは怖いかも…。

なんて思ってたらこんな感じに…。


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18話

結構早めに投稿できて嬉しい…嬉しい…。


「それにしてもアイツら…オヤジを利用しようだなんぞ、ふてぇことを……」

ジャスレイの部下は怒りに燃えた目で月の方角を睨む。

「目にモノ見せてやりましょうや!!オヤジィ!!」

その勢いは今にも噛み付いて行きそうなほどだ。

どうにも先ほどのジャスレイの言葉を聞き、月の連中にコケにされたように感じたようだ。

「まぁ落ち着け。月の連中が基本的にコウモリ野郎なのはある程度は仕方ねぇさ。立地が立地なんだからよ」

そもそも地球や月に於ける企業展開は、どうしたってギャラルホルンに媚を売るのが前提だ。

その中でどうやってより利益を上げるか、そう考えた時することは如何に他社を出し抜き、大口との契約を取り付けるか。そして、その大口と如何にして距離感を近づけていくか、要は色々な相手に対するご機嫌とりが大事になってくるわけだ。厳密に言おうとすれば他にもあるのだろうが、まぁ大まかにパッと思いつくのはこれくらいだろう。

「要は、月ってぇのは木星圏や火星圏なんかの他の惑星圏と比べてどうしても市場の自由がききにくいのさ。月内部で取引先を取捨選択する権利があるほどの力があんのはそれこそタントテンポクラスでもねぇと出来ねぇだろうしなぁ」

要するに月で大成したいなら必然的に、必要以上なまでに強かにならねば生き延びることができない訳だ。

まぁ、強かさそれ自体は商人である以上誰でも必要なモノではあるが。

無論、それと個人の感情は別問題だし、ジャスレイ自身もそれを面白いとはまったく思わないがそれはそれだし、いちいち駄々をこねていても仕方ない。

ただ、あっちについたりこっちについたり、目の前をウロチョロされてはいつコチラの情報をあちらに流されるとも分かったモノではないのは確かだが。

勿論、重要な機密情報などは向こうに渡してはいないし本社にハッキングされるようなヘマもしてはいない。

そういう意味で、ジャスレイと友誼を結んだテッド・モルガトンという男はその中でもやはり異質だったのだろう。

よく言えば一本通ったスジを通すと決めたら余程のことでもなければそれを曲げない硬骨漢、無論柔軟性もあるにはあったがそれも軟弱さゆえでは無く、付き合ってみれば商人としての抜け目無さ故のものと分かる。

テッド自身をよく知らない連中からはヘンな所ばかりにこだわる頑固オヤジとも取られていたようだが。

「ま、ともかく今はアイツに会うことを考えようや」

そう言うなり、ジャスレイは渡されたタブレットに出た目的地を指し示す。

道中も特にトラブルも無く、あと少しでたどり着けそうだ。

「ちょうど、兄貴からあの放蕩息子への言伝も預かってるしな」

ジャスレイは映像通信を部下に指示すると、目的の人物はことの他すぐに出た。

「オジキ!?なんか問題発生か!?」

通話に応じたのは上裸の男、タントテンポの六幹部がひとり、ジャンマルコ・サレルノ…ジャスレイの兄貴分であるマルコの実の息子だ。

「オイオイ、ジャン坊よぉ。聞いたぜ?オメェ、タントテンポの次期頭目候補なんだってぇ?やるじゃあねぇかよ」

ジャスレイは相手の顔を見るなりからかうようにそう言う。

その言葉を聞くなり、驚きと同時に呆れたようにジャンマルコは言う。

「げ…その耳の早さ、やっぱ親父が?」

「おうともよ。たまにゃあオメェから連絡してやんな。マルコの兄貴が意外とそういうの結構気にするタチなのは知ってんだろ?」

「あぁ〜…機会があれば、まぁ〜…」

返って来たのは何とも煮え切らない返事だ。

目も若干泳いでおり、これはやらないなとジャスレイが確信できるほどだ。

「その反応…はぁ〜…わぁったよ。心配はいらねぇって伝えとくわ」

「いやぁ申し訳ねぇ。なんつーか、家出同然に飛び出した手前気まずくってなぁ…」

アッハッハと笑い合う二人。

「って言うか、オレは別に頭目になる気なんぞ毛ほどもねぇんだがねぇ…」

「ま、そうだろうなぁ」

答えを聞くや案の定、と言ったふうにジャスレイは納得する。

長い付き合いの中で、ジャスレイはジャンマルコがそういうのをやりたがらないタイプであることを知っていたからだ。

ただ、ジャスレイからしてもジャンマルコを推したがる連中の気持ちも分からないでもない。

ジャンマルコは未だ二十代、その若さで幹部に上り詰めており勢いもある。

また好戦的な一面もあり、実際モビルスーツ戦でも相当に強い。

よって、その姿が頼りになるように映るのも無理は無い。

「で…だ。本題なんだが、オメェに頼みてぇことがあってよ」

茶化す空気から一転、ジャスレイの言葉に真剣みを帯びる。

「うん?まぁ普段から世話んなってるオジキの頼みなら別にかまわねぇが…」

「そうか。それじゃ、ちぃっとばかし見てやってほしい連中がいてよ」

「へぇ?」

その言葉を聞くなり、ジャンマルコの瞳は興味を示す。

「見てやって欲しいのはパイロット技術なんだが…ま、どんなヤツらかは会ってからのお楽しみってことでなぁ〜」

「そうかい。それじゃあ準備だけはしておくぜ」

「おう。そんじゃ、また後でなぁ」

そう言って、ジャスレイは通信を切るのだった。

 

□□□□□□□□

 

ふい〜…何とか約束を取り付けたぁ〜…。

「さっきのジャンマルコって、どんな人なんです?」

お、チャドくん気になったか。

「うん?まぁ、ざっくり言っちまえば家出息子さ。そもそもジャン坊にタントテンポを勧めたのはオレだしな」

当然兄貴からは怒られたけど、故郷から遠いとこでちょっとばかし失敗すりゃあ身の程を知って帰ってくるって思ったのが、まさか出世に出世を重ねてるとは…。

「ま、お前さんらもアレくらいにはなってくんねぇとなぁ」

オレは振り返り、二人を見やる。

「え?で、できるかなぁ?」

おぅライドくん。いつに無く気弱だなぁ…。

「オレにもお前らなら出来るって…そう無責任なことは言えんさ」

言って出来なかった時の後が怖いもん。

「オジキ…」

「だがまぁ…素質はあるって、オレはそう思うぜ?そのための勉強だろ?」

若干日和ったって言うかだいぶ濁した言葉だけど、まぁ嘘はついてねぇし?

「オレ、頑張るよ!!」

お、励まされてくれたな。良かった良かった。

「おうおう、頑張れ若人。オレにゃあ応援するぐれぇしか出来ねぇがよ」

頼むから敵対しないでね。

まぁ、そこはオレ次第なとこもあるけども…。




思ったよりもお話が進まなかった…。

う〜ん、この無能(自虐)。


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19話

ちょっと読みやすさ重視で改行してみました。

不評なようなら前の書き方にもどしますね〜。


通信を切ってしばらく、JPTトラスト保有の『黄金のジャスレイ号』はタントテンポが縄張りとしているコロニー群、アバランチにあるジャンマルコの本拠に到着していた。

船を誘導された通りにドックにつけると、ジャスレイとチャド、そしてライドを含む数名が降り、コロニー内に入る。するとジャンマルコとその護衛らしき二人組が一行を迎えたのだった。

 

「オジキ、待ってたぜ」

「オウ、ジャン坊。出迎え感謝するぜ」

 

ジャスレイは被っていた帽子を脱ぎ、そう言葉を返す。

ジャンマルコは一瞬チラリとジャスレイの後ろを覗き見て、興味深そうに目を細める。

 

「オメェらも歓迎するぜ。まぁまずは寛いでくんな」

 

廊下を歩きがてら、そう言われて案内された先は客間だ。

高そうな椅子に敷物、大型の映像パネルに凝ったデザインのテーブル。

まるでどこかの高級ホテルもかくやといった風だ。

各々旅の疲れを癒すこと数時間。ジャスレイとジャンマルコは向き合うように椅子に腰掛け、内容の確認を行う。

互いの護衛はその両脇に控えるように立っている。

 

「んで…見てやって欲しい奴らってぇのは、そこの二人でいいのか?」

 

ジャンマルコは再び値踏みする視線でチャドとライドの二人を見据えながらそう言う。

二人はタジタジした風だが、ジャスレイはそんなことは気にした風でも無く返す。

 

「オウ。話が早くて助かる。ほれ、挨拶しな」

 

ジャスレイが立ち上がり、二人の背中をバシッと叩いて促す。

 

「はっはい!!鉄華団所属、チャド・チャダーンです!!」

「え?えっとえっと…お、同じく鉄華団所属、ライド・マッスです!!」

 

たどたどしいながらも、二人は何とか挨拶を済ませる。

あちらの護衛の二人は、片方は何やら微笑ましいものを見る目をしており、もう片方はただただ無心でいようとしているのか、ただただ一点を見つめている。

 

「鉄華団?」

 

ジャンマルコはその言葉にピクリと反応を示すが、当の二人は小首をかしげる。

 

「ヘェ〜、お前さんらがねぇ〜…」

「おう。ビックリしたろ?」

 

ジャスレイのイタズラが成功した時の子どものような声に、ジャンマルコは何やら得心いった様子だ。

 

「だからあん時コイツらが何もんかさっさと教えなかったのか」

「まぁなぁ。だが、ヤル気は出たろ?」

「えっと…オジキ、どう言うことです?」

 

ライドは二人の会話を聞いて小首をかしげ、チャドがおずおずと挙手しながら質問を投げかけ、ジャスレイが答える。

 

「あぁ、お前さんらが火星で鹵獲したグレイズあったろ?アレを買ったのが目の前のコイツなのさ」

「えっ?そうなの?」

「そりゃあまた…」

 

それを聞くなり、目をパチクリとさせる二人。

確かに、こんな偶然もそうは無いが。

 

「ま、宇宙は広いが世間は意外と狭いってこったな」

「そんじゃあ、ますます手は抜けねぇなぁ〜…」

「いや、加減はしてやれよ。目的はあくまで手解きなんだからよ」

 

いつに無くやる気に満ちているジャンマルコに、ジャスレイは念押しするようにそう言う。

 

「分かってるって。いくらオレでもそこまで大人気なくは無いっての…」

 

その言葉に込められた明らかな格下扱いにライドは少しムッとするが、チャドが目で制する。

 

「で、機体はどうする?」

「おう。二人にゃウチの百錬を貸してやるよ。シミュレーターで操縦のやり方はだいたい分かってるだろうしな」

 

百錬とは、テイワズ製のモビルスーツでライフルにブレードと無難な兵装のため二人には持ってこいとの判断だ。

ちなみに一緒に運用されることの多い百里を二人のどちらにもあてがわないのは、その機動性ゆえに両者ともに扱いきれないというジャスレイの判断故だ。

 

「そうか。こっちの機体はもう準備できてる」

「あぁ、専用にカスタムしたって自慢げに言ってたなそういや」

「おう。楽しみにしといてくれや」

 

そう言うなり、ジャンマルコは客間を後にした。

そして数時間ののち、一行は次の近傍、通称『ルナズドロップ』と呼ばれる場所に集まっていた。

ここは三百年前に起こった厄祭戦の折り、砕けたという月の破片が漂うエリアで、近場に大型船を付けられる場所もかなり限られるため、ギャラルホルンもなかなか寄らないポイントらしい。

今回は決闘では無くあくまでも手解きのためか、特に障害物が比較的少ない場所での手合わせだ。

 

「大丈夫かなぁ?」

「今更弱音か?乗り込む前まではあんな不服そうだったのに」

 

百錬のコクピット内で不安そうにしているライドに意外そうにチャドは通信で問いかける。

普段のライドなら、実際にモビルスーツを動かせることに喜びそうなものだからだ。

 

「だってよぉ〜…超強い人なんだろ?あのジャンマルコって人…」

「だからいい機会なんじゃあないか。あの人はこの辺でも屈指の実力者なんだろ?むしろ幸運に思うなオレは」

「ポジティブだなぁ〜…オレなんて、オジキに恥かかせるんじゃあないかって気が気じゃないよ…」

 

その言葉を聞いてか、チャドは更に声をかける。

 

「オジキも言ってたろ?今回はオレらを鍛えてもらうのが目的だって。胸を借りるつもりで行かなきゃあ、相手にだって失礼だぞ?」

「おう、その通りだぜ?」

 

その通信に二人が驚いていると、正面から黄色いモビルスーツがやって来る。

二人とも、グレイズがベースと聞いてはいたが、見た目はモノアイ以外はまるで別物だ。

頭部には上向きのツノらしき二本のパーツが付き、背中には赤いマントがはためく。

手には独自のものだろう独特の形状の大型武装まで装備されており、見るからに近接戦特化なのが分かる。

 

「すまんな。ちぃっとばかし待たせたか?」

「いえ…むしろ助かりました」

「あん?助かった?」

「はい。少し、話せたので…」

「……そうかい」

 

そう言うなりジャンマルコは武器を構え、チャドとライドもそれに倣う。

 

「それじゃあ、軽く揉んでやる…ぞっ!!」

「うわぁっ!!とと…」

 

ガキィッッッ……!!

ジャンマルコはライドの方に不意打ち気味に一撃加えるが、なんの幸運か構えていたブレードで軌道を逸らすことに成功する。

 

「ヘェ〜、シミュレーターで特訓してたってぇのもまんざら嘘でも無かったか」

 

ジャンマルコは加減こそしたが、受け止められるとは思わなかったようだ。

鉄華団の二人は再び武器を構え直し、改めてジャンマルコの手解きがはじまったのだった。

 

□□□□□□□□

 

少し離れた場所に浮かぶ船の中、オレは座りながら手解きの様子を見守る。

いやぁ〜、さすがマルコの兄貴の息子っていうか、ところどころ動きに兄貴っぽい思い切りの良さがあるなぁ〜…。

ちょっと懐かしい…。

 

「オジサンあの二人が心配〜?」

 

んぉ?二人いた護衛の片方…護衛ちゃんがひょっこりと声かけてきた。

フレンドリーな子だなぁ〜。

 

「おい、ユハナ…」

 

護衛のもう片方…護衛くんの方が声をかけるも、護衛ちゃん…ユハナちゃんとやらは特に気にしてない。

図太いのか、人との距離感が近い子なのか…オジサンにゃ、最近の若い子はよーわからんね。

 

「いや…ジャン坊はそんな無茶はしねぇさ。ちゃんとした手解きをするって言う約束をした以上、わざわざそれを違えるようなことをしても互いにメリットはねぇだろ?」

「まぁ、それはそうだねぇ〜」

「お前さんらは操縦やるのか?」

「うん。これでも一応パイロットやってるしねぇ〜」

 

へぇ〜。まぁいろんな事情もあるんだろうし、あえて地雷を踏みには行かない方がいいかなぁ〜。

それよりも…。

 

「もしよけりゃあ、お前さんらも今度アイツらの相手してやってもらえるかい?」

 

いろんな相手とやった方がいろんな行動パターンも覚えられるだろうし、我ながらいいアイデアかも。

提案を聞いて一瞬意外そうな表情をするも、ユハナちゃんは悪戯を思いついたようなイイ表情を浮かべる。

 

「いいけど〜、ま、報酬次第かなぁ〜?」

「ユハナ…仕事中だぞ」

 

護衛くんが言うものの、ユハナちゃんは気にした風でもない。 

なかなかしっかりしてるなぁ〜。

ふぅむ…そうだなぁ〜…。

模擬戦一回あたりのパーツの消耗とか、推進剤、それと二人の上達でこれから得られるだろう利益なんかも加味すると〜…。

…こんな感じかなぁ〜。

 

「それじゃあ、こんなもんでどうだ?」

 

タブレットに金額を提示して、それをスッと差し出す。

 

「ど〜れどれ〜?へ?」

「……………………」

 

あ、固まった。

やっべ、少なかった?




エルデンリング…なんとか一周目クリアできました。

だからなんだって言われたらそれまでですけど…。


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20話

筆が乗ったので投稿しまっす。


ギインッ…ガキンッ…

ルナズドロップに、金属同士がぶつかり合う硬質な音が響く。

 

「このぉっ!!」

「まだまだぁ!!」

 

チャドとライド、二人がかりでもジャンマルコには届かない。

寧ろ、攻勢は徐々にジャンマルコの方に移りつつあった。

ガァァン!!

 

「しまっ…」

 

ライドの駆る百錬が、ジャンマルコの絶え間ない攻勢で片刃ブレードを手放してしまう。

 

「オラオラぁ!!さっさと武器を拾いなぁ!!ここが戦場なら敵は待っちゃあくんねぇぞォ!!」

 

語気は強いが、わざわざ落とした武器を拾うように促しているあたり、ジャンマルコも加減はしているのだろう。

 

「そこッ…」

「甘い!!」

 

ギイィンッ……。

 

隙を見つけて死角から攻撃を仕掛けるチャドだが、上手いこといなされてしまう。

 

「スジはいい。だが…」

「うっ…」

 

ガギイっ…

 

「経験の差が出たなぁ…」

「くぅっ伸縮する武器とは…」

「やんねぇぞ?」

「クセが強そうなんでいりませんって…」

 

ジャスレイは、護衛二人と共にそんな様子を船の中から見守っている。

 

「なっ、なんであたしらにこんな大金を?」

 

ユハナは思わぬ金額を提示して来たジャスレイにそう問いかける。

普段はかなり楽天家の彼女も、今回の金額はあまりに予想外だったようだ。

冷静になろうとしているためか、言葉こそ発しないがサンポ…彼女の兄もまた同様の疑念は抱いている様子ではあった。

世の中、上手い話には裏があるもの。

物心ついた頃から親も無く、二人きりの肉親で助け合って生きてきた二人には骨身に染みて分かっている世界の真実だ。

故にその疑念は当然で、身構えるのも無理はない。

まして、自分達はヒューマンデブリの傭兵稼業。

いきなり大金をチラつかせるのは怪しすぎる。

仮に先ほどの話が本当だったとして、考えられるのは余程の交渉下手か、相当に訳ありな人物かくらいだが…。

しかし、ジャスレイからはそんな人間特有の不慣れな感じだとか焦りだとか、そんな様子は微塵も感じられない。

もしや自分達はテストをされているとでも言うのか?

はたと、兄妹はそう思い至るのは半ば必然だったろう。

今更ながら、思い当たるフシはあった。

そう言えばジャンマルコもこの人物相手にだいぶ気を遣ってたような…。

場合によっては更にふっかけることも…。なんて考えはユハナの頭からとっくに吹っ飛んでいた。

思い出す限りでのここ数日のジャンマルコの様子だけでも、そんなことをしたらどうなるのか、ハッキリ言って後が怖すぎるからだ。

 

「あ、分かった〜!!これ何回分か纏めての金額なんでしょ〜!?もーオジサンったら人が悪い…」

「いや?それが一度分で合ってるぜ?」

 

モニターに目を向けつつ、ジャスレイは何でもないようにそう言い放つ。

 

「へ!?あ、あぁ〜…じゃあ、後から難癖つけて色々と天引きするとか…」

 

まぁそれも良くある詐欺師のテだが、本人の前でそれを言うあたり、ユハナも相当に混乱している様子だ。

 

「しねぇよ、そんなこすっかれぇこと。むしろ成果次第じゃあそれと同額ぐれぇのボーナスもつけようってぇのに…」

「…………………」

「…………………」

 

その言葉に兄妹は一瞬で言葉を失う。

と同時に目で会話する。

内容は…『サンポ、ボーナスってなんだっけ?』

『オレが聞きたい』と言ったところだろうか。

 

「な、なんで?どうしてあたしらをそこまで高く買ってくれるの?いや、嬉しいけどさ。オジサンとあたしらって初対面でしょ?」

 

まあ当然の質問だ。

それに対するジャスレイの解答は…。

 

「なんでってそりゃあ」

 

一拍、間をおいて

 

「ジャン坊がお前さんらを選んだからさ」

 

スッと、ジャスレイはそう言った。

 

「……は?」

「自分で言うのもアレだがね。オレぁそれなりに影響のある立場でな。そんなオレに一時的とは言え、ジャン坊がこうしてつけてくれたのがお前さんらだ。それだけでもお前さんらを信頼するにゃあ十分な理由だろ?その事実だけで相場だの常識だの、若さだの立場だのは関係ねぇのさ。この金額はオレからの心づけ…まぁ信頼の額だと思ってくれて構わねぇよ。ま、代わりと言っちゃあなんだが…」

 

ジャスレイは手解きの様子が映るモニターから目を離し、二人を真っ直ぐ見つめ、ニッと笑う。

 

「ジャン坊を…オレの可愛い甥っ子を、これからもよろしく頼むぜ?」

 

その目、その瞳は、二人の知る大人たちとは対照的に、とても優しい光を宿していた。

 

□□□□□□□□

 

ふぅ〜。どうにかこうにか誤魔化せたかなぁ〜…。

しっかし、こうも遠慮がちとは…。

律儀だねぇ。

まぁ、頼りにしてるのは本当だし、オレもジャンマルコくんといつもいっしょにいられるわけでもないしねぇ〜。

 

「おっ、そろそろ終わりそうだなぁ」

 

結果から見れば鉄華団の二人は終始押されてたなぁ。

でもところどころ反撃できてたり、光るものはあったし、初めてでこれならなかなか収穫があったんじゃあなかろうか。

まぁそのへん踏まえりゃあ当たり前と言えば当たり前の結果だけども。

結果的に善戦した方なんじゃあないかな。うん。

 

「ありゃぁ〜…惜しかったねぇ〜オジサンの連れ二人」

「世辞はいいさ。最初だしな。まぁこんなもんだろうよ」

「……ヤケにあっさりしてるねぇ〜…」

「まぁな。だが、いいモンは見させてもらえたさ」

 

コクピットから降りた二人はとても悔しそうにしている。

 

「自分より明らかな格上と戦って、負けて、悔しいと思えるんなら、アイツらにゃあまだまだ伸び代があるってこった」

「ヘェ〜、話しながらでもちゃんと見てるんだ〜?」

 

え?そんなに意外?

そりゃあねー。こう言うのは連れてきた本人が一番見てなきゃならんし。

しっかし…うんうん。鉄華団の子らってやっぱ素質あるのかもなぁ〜。

呼ばれてる期日までまだそれなりにあるし、ここまで来りゃあ、ほぼほぼ目と鼻の先だからなぁ。もうちょいこの寄り道しててもいいかもなぁ〜。

 

「お〜うオジキ〜、終わったぞ〜」

 

おっ、そうこう考えてるうちにジャンマルコくんがやって来たねぇ〜。

 

「おう、ジャン坊おつかれさん。そんでどうだい?あの二人は?」

「反応はそこそこいいが、まだまだ動きにもたつきがあるな。ありゃあまだ実戦レベルじゃあねぇや」

 

おおぅ、バッサリ言うねぇ〜。

 

「ま、だろうなぁ」

 

あいにくと、うちのモビルスーツにゃ阿頼耶識なんぞついてねぇしなぁ〜。

まぁでも、阿頼耶識ナシでも素である程度戦えた方がいいだろうし…。

って言うか、一番はあんなんに頼らないことなんだろうけど…。

まぁ、その辺りは名瀬ニキあたりにでも任せますかね。

 

「オジキ…」

「期待してもらっといてスンマセン…」

 

ジャンマルコくんが去っていった直後くらいに、今度は鉄華団の二人もやって来た。俯きながら、ライドくんとチャドくんは申し訳無さそうにそう言う。

別に気にしなくていいのになぁ〜。

 

「なぁに、はじめてであれなら上々さ。それにジャン坊も反応はいいって褒めてたぜ?」

「えっ?ホントに?」

 

褒めるニュアンスの言葉が聞けたからか、ライドくんはパッと表情が明るくなる。

子どもってコロコロ表情が変わって見てて飽きないなぁ〜。

 

「もちろん。これからも頑張んのが大前提だがな?」

「まっかせてよ!!」

「こらライド…」

「構わねぇよ。別にここは公の場でもねぇしな」

 

ナメられるのはアレだけど、だからって距離感が遠すぎるのもそれはそれで問題だしなぁ。

 

「ま、気張れよオメェら」

「あっ、はい!!頑張ります!!」

 

チャドくんも気合いあるいい返事をしてくれる。

いやぁ〜若い子って眩しいわぁ〜。

 




早いもんでもう二十話…。

読んでくださる皆さんに感謝しかないですはい。


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21話

再びのタントテンポサイドです。



「馬鹿な…ありえるか!?こんなこと…」

 

月のコロニー群、アバランチ1にあるウェスタバンク本店、その事務所にて、頭取ロザーリオ・レオーネは頭を抱えていた。

 

ロザーリオがジャスレイ・ドノミコルスという男に関して特に懸念しているのは、ジャスレイがかつてジャンマルコを送り込んだ際に見せた手腕だ。

まだ年齢的にも少年に過ぎなかった彼を、ジャスレイは事も無げにタントテンポの先代頭目…つまりはテッド・モルガトンに引き合わせ、下っ端仕事でいいからと言って紹介したのはタントテンポの内部でも有名な話だ。

結果としてジャンマルコは輸送部門のトップにまで上り詰めたことから、ジャスレイの人選を讃えたり、ジャンマルコの才覚を褒める意図で広まった話だが。

それにより、テイワズとの取引の際はジャンマルコがタントテンポ側の窓口となり、同時にジャスレイがテイワズ側の窓口として機能すれば円滑に取引は成され、その利益は二者間である程度コントロール出来る。

そして、それはまさに実現されたのだった。

思えば、これこそジャスレイの目論見だったのかもしれない。

なお、ジャスレイの弟分である名瀬・タービンもまたテイワズ内部の運送部門で名を挙げており、ジャスレイ自身もその前任を勤めていたことからかなりの知識、及び経験の蓄積があるのだろうことが伺える。

自分自身の経験を元に、あの頃からジャンマルコの才覚を見抜き、或いは送り出す前に薫陶を授けて指示を出し、長い時をかけて当然の如くジャンマルコを自身の実力で幹部に据えたのだとしたら…。

そしてそれが、ジャンマルコ以外にもいたのだとしたら…?

 

「クソっ…だがその証拠が見つからない…決定的な証拠…ヤツの弱みとも言える証拠が…」

 

ロザーリオという男は相手の弱みにつけ込むのを得意とする。

卑劣ではあるが、そうする事によって現在の地位にまで上り詰め、同時にその自らの地位を守ってきた。

だがそれは裏を返せば、彼に弱みらしい弱みを見せなければ大それたことができないということでもある。

現に、前々からジャスレイとの()()()()として彼の周囲に探りを入れてはいるものの、これと言った成果は出ていない。

かと言って媚びようにも大抵のものなら自力で揃えられるだろうジャスレイに贈り物はほぼ無意味。

 

「あり得るか?あれほどの実力、あれほどの影響力を持つ男が、まるっきり弱みがないなどと…」

 

もう、期日までさほど時間も無い。

まさかここまで調査の進展が無いのかとロザーリオは辟易すると同時に焦りに焦ってもいた。

こうなればもう、ギャラルホルン頼みにしかならない。

もちろん、その手引きをしている男にはそれだけ大きな借りを作ることにはなるが、この際やむを得ない。

 

「クラーセンめ…まさかこうなる事を分かっていたのか?」

 

ヴィル・クラーセン。

かつて主家であったウォーレン家取り潰しの主犯。

その証拠をでっち上げ、地位を横取りした裏切り者であり、今回のテッド暗殺の際のロザーリオの共犯者でもある。

その力はツテで、ギャラルホルンの一部隊を動かせるくらいには発言力を持ち、彼個人はというと、臆病かつ用意周到。

いけすかないが、最終手段として頭の片隅にくらいは彼を頼る算段も立てる。

 

「ジャスレイの野郎を殺すのは簡単だ。だが、その後のことを考えるとやっかいなことこの上ない」

 

何せ、テイワズはタントテンポにとってもギャラルホルンにとっても大口の取引先だ。

もし彼が周囲から嫌われるような成金野郎だったならともかく、耳にするのは彼の人望の厚さに関する話ばかりだ。

 

故に、殺せない。

 

「それにヤツを始末すれば内部からの反発も必至じゃあねぇかよ…」

 

ジャスレイの信奉者達が、ただ金を握らせれば、それだけでこっちに転がるような連中だったなら楽だった。

しかし、『仁義』がその邪魔をする。

 

「ブブリオのヤツも沈黙を保っていやがるし、もう少し取り乱すかと思ってたが、不気味な野郎だ…」

 

時間が、運命が、刻々と迫っていた。

 

□□□□□□□□

 

「それじゃ、オジサン。まったねぇ〜」

「おう。世話んなったなぁ」

 

ライドくん、チャドくんの二人とジャンマルコくんの最後の手合わせから数日、護衛についてくれた二人は、モビルスーツ…ロディ・フレームのカスタム機に乗って出発する。

どうやらお嬢様とやらを連れて来るのが目的らしい。

 

「そんで?まずはどうすんだい?」

 

出立する二人を見送りながら、オレは問いかける。

 

「おう。まぁまずはドルトに向かってたリアリナ嬢の保護だな。厄介な連中に担ぎ上げられちゃあたまんねぇからよ」

 

ほうほうなるほど。

しっかし、娘かぁ…。

確か十年くらい前と、五年くらい前の二回会ったことがあったっけなぁ。

まぁ、会ったって言っても夜中寝付けなくって父親のテッドに話しかけたそうに客間の扉から覗いていたのをたまたま同席してて見かけたくらいだけども。

 

「テッドの野郎は娘がテメェの仕事に関わることを望んじゃあいねぇしな。ま、妥当な判断か」

「おう。ことの次第が収まるまでこっちで保護すりゃあタヌキどもも手出しは出来ねぇだろうよ」

「ハッハッハ!!頼れるねぇ」

「オイオイ。あんまからかってくれんなよ」

 

ま、何事も起きなんだろうけどなぁ〜。

 

いやぁあんしん…

 

「オヤジぃ!!ドルトで…」

 

うん。できないね!!しってた!!




さて、鉄華団は上手くまとめたのか…。


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22話

今回は皆さん大好き(?)あのお方の登場です。


「何故ですか!!」

 

月外縁軌道統制統合艦隊、通称『アリアンロッド艦隊』の旗艦の一室にて、クジャン家現当主イオク・クジャンはラスタル家現当主にしてアリアンロッド総司令官ラスタル・エリオンに噛み付いていた。

 

なお、周囲には護衛がイオクと、ラスタルとでそれぞれ二人ずつついているくらいで一般の兵士にはこの話は聞かれてはいない。

 

「何故何の罪も無いドルトコロニーの労働者達を…」

 

睨むイオクにラスタルはふぅ、と一息つくと神妙な面持ちで語り始める。

 

「見せしめが必要なのだ。人間とは忘れる生き物だからな」

 

要はこれは示威行為なのだと、ラスタルはことのほかあっさりと、あっけらかんと告げる。

 

「だからと言って、娯楽も何も無いような所に低賃金で働かせるなど…そもそもあそこは、立地としても重要な中継地点のはず!!そこの住民達を切り捨てるような…」

「クジャン公」

 

ラスタルは聞き分けのない子供に言い聞かせるような口調で、短く言う。

 

「何故、ドルトコロニーにまともな娯楽が無いのかと、そう問うたな」

「えっ、ええ…」

 

今度はラスタルがイオクに言う。

 

「ならば聞かせてやる。それはな、彼らが元々我々ギャラルホルンの統治に対して懐疑的な連中だからだ」

 

「は?」

 

イオクにはラスタルの言っている意味が、分からない。

 

「そう言った連中を一ヶ所にまとめて、他のコロニーにその思想が広がるのを防ぎ、それと同時に彼らの不満を煽り爆発した頃合いを見計らい我々が制圧をすれば、ギャラルホルン内部での我々アリアンロッドの立場はより盤石なモノとなる訳だ。更に言えば、あそこは位置的にも各企業にとっても重要な中継地点。だからこそ我々も暴徒鎮圧の名目で兵を置ける訳だ。ああ、人員のことなら気にするな。職にあぶれた連中など探せばいくらでもいるからな。そして、そう言った連中ほど、ギャラルホルンの統治にいい感情を抱いてはいない。その場限りの感謝の言葉を述べこそすれ…な」

 

人の世に不平不満は当たり前だ。

ならば、それを少なくするよりも利用しようと、この男はそう言うのだ。

ラスタルはすっくと立ち上がり、唖然とするイオクにツカツカと歩み寄る。

そうして、一言。

 

「キミもまた、その恩恵にあやかっている自覚を持つのだな」

「………………」

 

無言の間、喉の奥から絞り出すように、うめくようにイオクは言葉を発する。

 

「見過ごせと…いうのですか…こんなもの、マッチポンプの生け贄以外の何ものでもないでは無いですか!!」

「そうだ」

 

慟哭するイオクに、ラスタルは冷たくそう言い放つ。

ふと、イオクから目を離して遠い目をしながらラスタルは続ける。

 

「青い理想を抱くのは結構だがな、セブンスターズの当主たるもの、清濁併せ呑む器量を備えねばならぬことも忘れるな」

「ッ……」

「イオク様!!」

「お待ちを!!イオク様!!」

 

イオクはその言葉に黙って退室するしか無く、彼の部下達もまた続くように退室する。

 

「クジャン公…この局面を越え、更なる難局を乗り切れれば彼もまたきっと、大きな存在になってくれるだろう。それこそ先代のように…」

 

イオクが出て行った扉を見つめながら、ラスタルは呟く。

 

「よろしいのですか?」

 

ラスタルの部下の一人がそう問いかける。

 

「まぁ、問題はなかろう。それに、ここで彼を更迭したところでどうなるものでもない。良くも悪くも彼に取って代われる人間はそうそういないからな」

 

不意に、ラスタルは懐からロケットを取り出す。 

 

「……………」

 

開けると、そこには若き日のラスタルと赤みがかった茶髪の男、そして優しい瞳で大事そうに赤子を抱く老人の姿が写っていた。

ラスタルはにわかに笑うと、それを再び懐へしまう。

 

「…先代は、本当に偉大だった」

 

ラスタルは知っている。イオクの父、バラク・クジャンの貢献を、ギャラルホルンへの献身を、そしてその政治手腕を。

 

同時に思い出すのは、かつての悪友。

度々連絡を寄越しては、先代の前でくだらない言い争いや、赤子だった頃のイオクを共に見守った。

最後は、恩師とも言える先代クジャン公が亡くなったおり、彼の常々口にしていた言葉の解釈を巡り、言い争いにまで発展。

それからほとんど絶縁状態になったうえ、数年後に再会した時以来、仕事以外での通信をまったくしなくなった男のこと。

 

「ジャスレイ、我々はどこで道を違えたのか…或いは、はじめから…」

 

その失意の言葉は室内にむなしく響き、彼の部下も俯いて聞かないふりをするのがやっとだった。

 

□□□□□□□□

 

やっぱりと言うべきか、部下からの話があって数分もせずに部屋までライドくんが来た。

 

「オジキ!!ドルトコロニーで異変があったって…」

 

あぁ〜…、やっぱり仲間の安否が気になるのね。

ライドくんてば、相当に取り乱してるなぁ〜。

まぁ、気持ちは分かるけども。

 

「おう。オレもその話は今聞いたぜ」

「みんなは…」

「安心しな。鉄華団の連中に死傷者は出てないそうだ」

「ほっ…よかったぁ〜…」

「ライド、勝手に行くなって言っただろう?」

 

おぉう。後ろからチャドくんも来たよ。

ライドくんを追いかけてきたのかなぁ?

でもチャドくんも、呆れ気味だけど、やっぱ表情的に安心してるっぽいなぁ。よかったよかった。

 

「それで、その後はどうなったんです?」

「おう。怪我人こそ出たが、労働者連中の無謀な革命はご破産。やけっぱちになって突っ込んだ奴ら以外特に怪我人も無かったそうだ」

 

まぁ、どこまで信じられる話なのかはまだちょっと疑念が残るけど。

だからって仕事に集中してもらうためにも不安を煽るのは得策じゃ無いよなぁ。

鉄華団に死傷者が出てないってのはホントだろうし。

 

「そっかぁ…」

「良かった…んですかね?」

「うん?チャドはなんか思うところがあんのかい?」

「あっ、はい…未遂とは言えこう言う事になってしまった以上、ギャラルホルン側は武力弾圧の大義名分を得てしまったんじゃあないかって…」

 

あぁ〜。確かにそれもそうだよなぁ〜。

 

「ま、問題の先延ばしにしかなってねぇのは確かだよなぁ…」

 

後はマスコミがどう報道するかだけども…、十中八九歪められるんだろうなぁ〜…。やるせねぇ。

まぁ後は名瀬ニキからの連絡待ちってとこかね。

ま、こっちはこっちでお仕事済ませちゃいましょうかねぇ〜。




ギャラルホルンサイド…はじめて書いたけど合ってるかな?

イオクくんの明日はどっちだ!?

毎度のことながら、齟齬があったら申し訳ない。


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23話

百錬のHG買いました。

ホントカッコいい。

箱の脇に書いてある設定って呼んでるとかなりワクワクしますね。


「貴方が頭目になる気が無いなら、私が幹部会に行って次期頭目になるわ!!」

 

ジャンマルコの自室で、そう決意の言葉を口にするのは、リアリナ・モルガトン。

先日、何者かに暗殺されて亡くなったタントテンポの先代頭目、テッド・モルガトンの実の娘だ。

 

「へぇ〜…オメェがねぇ〜…」

 

が、その言葉を聞いたジャンマルコは苦笑する。

それを馬鹿にされたと感じたのか、リアリナはムッとするが、実際それは無理もないことだ。

 

「まぁ、落ち着け。そもそも幹部連中が想定しているのは、すでに立場を確立している頭目候補何人かの内、誰がつくかということと、そいつらの動向なんだよ」

 

更に言えばその下、つまりは部下達としても自派閥の代表者や、その被推薦者を頭目に据えようと躍起になっているのが現状。

ロザーリオもそうだし、ジャンマルコ自身も、まぁ本人は不本意だろうが一応はそうだ。

 

「…各自がかなり好き放題しているのね」

「そんだけ、頭目の不在ってのは組織にとって一大事なのさ。特にデケェ組織であればあるほど、先代が有能であればあるほど、その時の混乱はデケェモンになっちまう」

 

だからと言って、何も先代の血縁者に魅力がないという訳ではないが、正直言ってそれを差し引いてもズブの素人に自分達のトップを任せたいか、と言う話だ。

例えば、元々先代が自身の後継者として前もって幹部一同の前で「娘をよろしく」と説明しつつ釘を刺していたり、或いは彼女自身が昔から現場を知っていたのならともかく、そうでは無い以上、側からみればぽっと出の、それも世間知らずのお嬢様でしか無いのだから。

特に一部の幹部達には、娘を危険な目に合わせたく無い、と言う先代の意向が伝わっているのも手伝って、それ故になかなか積極的に協力するわけにもいかない、と言うのもあると言えばある。

彼らとしても、どうにかこうにか中立を保つのがやっとと言ったところだが。

しかし、その態度を取っていられるのも時間の問題だろう。

担ぎ上げるにしても、こうしてジャンマルコが話してみただけで分かるこの我の強さは面倒でしか無いだろう。

 

「にしても、まさか一旦月に行ってるたぁ、大した度胸と言うか、無謀が過ぎると言うか…」

「うっ、うるさいわねぇ!?」

 

思うところがあったのか、リアリナは何やら赤面しつつ取り乱す。

年相応のその言動に、ジャンマルコのは微笑ましいものを感じていた。

 

「だが、まぁ…まずは無事なら何よりさ」

「…それはどうも」

 

調子が狂うのか、リアリナは何やらブツクサ言っている。

元々、リアリナを保護するつもりでサンポとユハナの二人を差し向けたジャンマルコだが、何やら途中で誤解を招いたらしく、逃げられた挙句にロザーリオに身柄を狙われると言う事態にまで発展。

 

彼女自身は先代の遺命により、娘を託された側近ヴォルコ・ウォーレンと、命を助けられたことで受けた恩義によってついた護衛のアルジ・ミラージの二人のお供を連れてはいたものの、戦力になりそうなのは悪魔の名を冠する厄祭戦の遺産たるガンダムフレーム…アスタロト一機くらいなもので、二人のうち一人は頭脳労働担当。

パイロットの代えもきかないという、派閥としては勢力以前の問題だ。

このままでは、誰かの支援を受けない限り自然消滅してしまうだろう。

この三人は現在、はっきり言って手詰まりの状況と言える。

 

「オレを説得してみせな。ただのお嬢じゃあねぇって、それだけふかすってんならな…」 

「……分かったわ」

 

ここさえ乗り切れないならお前らのバックに着く価値は無いと、そう言われたのを理解したが故に。

 

□□□□□□□□

 

「ねぇねぇオジサンって独身なんだって?」

 

ぐはぁっ…。

ユハナちゃん?言葉って凶器なのよ?分かってる?

 

「うん?まぁそうだが」

 

まぁ、この子結構マイペースなとこあるみたいだし、多分気まぐれに聞いてきただけかなぁ〜…。

 

「じゃあ、あたしお嫁さんに立候補する〜」

 

ほへ?いきなり何を言うのだねこの子は…。

 

「ユハナ!?いきなり何を…」

 

あっ、サンポくんがオタオタしてる。珍しいモン見たなぁ〜。

 

じゃあねえわい。

 

「えぇ〜!?このまま雇われで傭兵続けるより養ってもらった方が良くない?サンポもあたしをヨメに〜っていっつも言ってたし、ちょうど良いじゃん」

「いやそれは…」

 

すげぇや下心をまっったく隠そうともしてねぇ。

ここまで来るともはや清々しくて関心するわ。

お兄ちゃんたるサンポくんも、タジタジといった様子だし…。

 

「まぁまぁ、落ち着け。どうせ冗談だろうよ」

「えぇ〜?あたし結構本気だけど〜?」

 

えぇ〜…最近の若い子ってみんなこうなの?違うよねぇ?

 

「それに、こないだ言ったばっかだろう?お前さんらにゃジャン坊をよろしくってな」

「なら、結婚してからもモビルスーツ乗りは続ければいいじゃん?オジサンの弟の名瀬・タービンって人の奥さんも結婚してからも戦ってるんでしょ?」

 

うん。まぁ前例としてはあるけどもねぇ。

 

「ハァ…若ぇ女は若ぇ野郎とくっつくのが一番いいのさ。特に、お前さんみてぇないい女はな」

 

何とか相手を落とさないよう褒めつつ、話題を逸らそうとするも…。

 

「えぇ〜?いい女ならいいじゃ〜ん、モノにするチャンスよ〜?色々と高くはつくけど〜?」

 

めっちゃ食い下がってくるんですけど〜?

 

…けっこうどの子も、今の言葉で身をひいてくれたんだけどなぁ…。

 

 




ちょっと時系列飛んだかなぁ?

まぁ、月でのアレコレは一部除き、だいたい漫画版通りって解釈でオッケーです。


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24話

久々にランキング三位、嬉しくなったので投稿です。


ジャンマルコの自室では張り詰めた空気が支配する。

 

「…それで?オレがお前らのバックについたとして、それでお嬢さんが晴れて頭目になったとして…それで一体何するつもりだ?或いは、オレに何の得がある?」

 

問いを投げかけるジャンマルコの視線は鷹の如く鋭い。

 

「それはもちろん、父さんの仕事を引き継いで、頭目に恥じない働きを…」

「それを、どうするのかって聞いたんだがね?」

「うぐぅ…」

「それに仕事と言っても色々あるぞ?書類整理に取引先へのあいさつ、根回し。特に月でやってくならギャラルホルン相手に下手に出る必要がある」

「うっ…」

「景気がいい時も、悪い時も上に立つ者としての舵取りを忘れず、投げ出さず逃げ出さず、時として非情な判断も必要だ。さらに幹部や部下達の軋轢の調整に…」

「わ、分かったわ。ちょっと待って…」

「……………」

 

リアリナは額に右手を当て、左手をジャンマルコに向けてストップのジェスチャーをする。

 

少し踏み込むだけで容易くボロが出る。

尤も、これは先代の過保護による経験不足に端を発するモノだろうから当人を責めてどうなる訳でもない。

だが…。

 

「ハァ、悪かったよ。思えば世間知らずのお嬢さんにこのテの話は酷だったか」

「謝ってるの?バカにしてるの?」

「いや?別に?」

 

だが、今回見せたこの行動力は目を見張るものがある。

これが無知から来る無謀なのか、それとも肝が据わっている大器だからか。

いずれにせよ、確かめるよりほか無いだろう。

 

「それじゃあ、提案だ。こんなんはどうだ?」

 

数時間後、ハンガー

 

「で、オレらのどっちかが戦う事になったってこと?」

「おう。頼めるかい?」

 

ジャスレイはハンガー内でライドのその問いかけに頷きながら、そう答える。

なお、チャドは本人の希望により座学の最中だ。

 

「何でも、ジャン坊が言うところじゃ、本人の器はそのツレの力量によって測ることができるってんでなぁ。お前さんらの鍛錬にもちょうど良いってんで、お嬢さんいなくなった後にちいっと呼ばれてな」

 

実際、これからの事を考えればこの経験があるとないとではかなり大きい。

敵として相対した際のガンダムフレームの動きやパイロットのクセ、強さのほどを知る事ができるし、何よりライドやチャドにとってガンダムフレームとは、味方のそれしか知らない。

故に、その危険性やいい意味での緊張感を得るためにも必須だろうと、ジャンマルコに呼ばれた時にジャスレイは提案し、そしてその約束に漕ぎ着けた。

近接武器のみ使用可能で、殺し合いではないと前もって明言している以上、ある程度の力を示せればよし。

無論、それで手を抜き、無様に敗北するようならそこまでだったと言うだけのことだが。

 

「でも、いいの?」

 

ライドは不安そうに言う。

 

「うん?何がだ?」

「だって…もし負けるようなことがあったら…オジキの顔に、泥…塗るんじゃ…」

 

俯き、拳をぎゅっと握って、震える。

ジャスレイはそっと近づくとしゃがんで視線を合わせて頭にポンっと手を置き、なだめる。

 

「いいんだよ。それを考えんのはオレらの仕事さ。それにお前さんが勝っても負けてもいいのさ。それは別にお前さんらがどうでもいい存在だってことじゃあねぇ。大事なのは、お前さんらが成長したって事実なんだからよ」

 

「オジキぃ…」

「おぅ。さっ、シミュレーターで訓練でもしとけ」

「うん!!」

 

ぐしぐしと溢れた涙を拭うと、ライドは再び百錬のコクピットに向かうのだった。

 

□□□□□□□□

 

「あっ!!そうだ!!オジキ〜!!」

 

うん?まだなんかあるのかね?ライドくん。忘れモン?はねぇか。

 

「オジキって、なんでケッコンしないの〜?」

「うん?どうしたいきなり」

 

うわぁお。キミもかい!!

 

「なんか〜…ユハナの姉ちゃんがさっき言ってたのを小耳に挟んでさ」

 

あぁ〜…。なるほどねぇ〜…。

 

「なぁに。単純な話さ」

 

オレはハンガーの手すりに寄りかかり、目の前の百錬を見てたそがれながら言う。

 

「オレはなぁ、女を幸せに出来ねぇ男なのさ」

「ふ〜ん…なんで?」

「ま、オレ自身がヤクザ稼業で散財野郎だからってぇのと、あんまり家にいてやれねぇからさ。旦那としちゃあサイテーだろ?」

「ん〜…そう言うもんかなぁ〜?」

「そう言うモンさ。少なくともオレはな。参考にはすんなよ〜?」

「うん。じゃあそうする」

 

…なんか納得されちゃったんですけど。

ま、いいけどさぁ〜…。

 

実際、ニナも歳星に置いてく時ちょっとぐずったけど、最後は納得してくれたし…。

ん?あれ?もしかしてオレ、親としてもヤバイ!?

 

「まぁ、だからって訳じゃあねぇがな。オレはよ、ライド。心っっ底!!名瀬・タービンって野郎を尊敬してんのさ!!」

「え?アニキを?オジキが?」

 

そりゃあそうよ。

さて、このまま名瀬ニキの話題にシフトしようか。

 

「そうともよ!!アイツはスッゲェぞ!!しっかりモンで、人間出来てて、仕事もソツなくこなしてよ。その上で、女一人泣かせてねぇ!!オレとは…」

 

やばい、言ってて泣きそう。

ちょっと後ろ向こ。

 

「…オジキ?」

 

「オレとは…大違いなんだよ…」

 

ああ〜、情けなくって涙出るわぁ〜。

 

「すまねぇな。今のは…」

「…うん。黙ってるよ」

 

ホント、いい大人が泣いたって言いふらさないでよねー?

 




何度でも言いたい。

読んでくれてありがとう!!


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25話

久々の短期での三話投稿。

来月にはアスタロトのHG再販あるみたいで今からワクワクしてます。


ハンガーにて、左右非対称の装甲をつけたガンダムフレームを見上げていたヴォルコ・ウォーレンに、ジャスレイは声をかける。

 

「おうヴォル坊、久しぶりだなぁ」

「あ…ジャスレイさん、お久しぶりです。来られてたんですね」

 

ハンガーで出会ったジャスレイに、ヴォルコ・ウォーレンはペコリと頭を下げる。

が、ジャスレイが手で制止するそぶりを見せると頭を上げた。

 

「ああ、なぁんかタイミングが合わなかったみてぇでなぁ。船を変えた事も含めて、もうちょい早く挨拶したかったんだが…」

「船?ああ…あの…お気遣いありがとうございます。ですが…」

「おい、ヴォルコー!!」

「ちっ…なんだ?野良犬」

 

突然に後ろから話しかけられたヴォルコがクルリと振り向くと、そこにはガンダム・アスタロトのパイロット、アルジ・ミラージがいた。

それに気づいたジャスレイが、問いを投げかける。

 

「おぅ。お前さんがコイツのパイロットかい?」

「…なりゆきですけどね」

「何でお前が答えるんだよ!?」

 

ヴォルコは先ほどと打って変わりすげない態度だが、アルジの反応から察するに、このやりとりは少なくとも彼らにとってはいつもの事なのだろう。 

それを指摘するほどジャスレイは無粋でも空気が読めない訳でも無い。

むしろ、微笑ましいものを見る目で見つめていた。

 

「誰が答えても同じだろう。それより挨拶しろ」

「あ、おう…」

 

アルジはジャスレイと向き合い、一息入れて挨拶する。

 

「オレはアルジ・ミラージ。一応リアリナ…嬢の護衛やってます」

 

取ってつけたような敬語。

それに、宴の席のオルガを重ねたのか、ジャスレイは更に微笑む。

 

「おう。そんじゃ、こっちも名乗るのが礼儀だな」

 

少し緊張していたアルジとは打って変わり、ジャスレイはゆったりとした姿勢で

 

「ジャスレイ・ドノミコルスだ。よろしく」

 

と軽く、朗らかに言う。

 

「しかし、意外でした。ダディ・テッドの親友の貴方がお嬢…リアリナ嬢を止めないなんて…」

 

改めてヴォルコはジャスレイに問いかける。

 

「そりゃあなぁ。テッドの野郎は愛娘に危険極まる稼業を継いで欲しくなかったらしいしなぁ。かと言って、若人の道を勝手に閉ざすのも大人のエゴってぇモンだろう?」

「そう…ですね…」

「だが…」

「?だが…なんです?」

 

そう言うジャスレイに二人の視線が集まる。

すると、ジャスレイは一拍置いて

 

「だが、だからこそ今回の件でそこの坊主…アルジが相応の力を示せりゃあ、オレはお前さんらの背を押そう…とは思ってるな」

「え…本当ですか!?」

「何だよ、このオッサンそんな偉いのか?」

 

アルジは、ジャスレイを指差してヴォルコにそう聞く。

 

「バカ!!この人は….」

「ハッハッハ!!まぁ偉いかどうかはともかく、それなりの力にゃなれると思うぞ」

 

ヴォルコが慌てて周囲を見回すが、当のジャスレイは気にした風でも無い。

それを見るや、ヴォルコはホッとしたように胸を撫で下ろす。

 

「しかし…良いんですか?百錬はテイワズ内でも44機しか生産できていないフレームでしょう?それに子どもを乗せてガンダムフレームと戦わせるなど…」

「お、そうそうオレもそれ聞きたかった。少ないのは知らなかったけど…強いのか?あのパイロット。さっき見た感じ、片方は分かんなかったけど、もう片方はオレより年下っぽかったし…」

「ま、それはやってからのお楽しみってヤツだな。ご褒美もあるぞ?」

 

勿体ぶるような、しかし楽しそうな、そんな様子だ。

 

「気張れよ。あの子も、お前さんらもまだ若いんだからよ」

「なんで、そこまで肩入れして来るんだ?」

「そうだなぁ…」

 

ジャスレイはアゴに手を当てて少し考えるそぶりを見せると

 

「別に、親代わりなんて大それた事言うつもりはねぇがよ。ダチの忘れ形見ってぇのは、可愛いモンなのさ」

 

ジャスレイは数人の見知った顔を思い浮かべ、気がつけば頬をかきながら嬉しそうに

 

「お前ら皆んな、生きててくれて良かったよ」

 

そう、言っていた。

 

□□□□□□□□

 

さて、頑張んなよってエールも送ったし、そろそろ部屋で休憩でも…。

 

「おじ様!!」

 

うん?なんか死角から思いっきり何者かが飛び出して…。

 

「おぉっと…もしかしてリアリナか?」

 

あっぶねぇ〜……もし仮に傷モノにしたらテッドに呪い殺される…。

って言うか、よく覚えてるもんだなぁ。

 

「はい。お久しぶりです」

「本当に、デカくなってなぁ…」

 

どーしよ。年頃だし、どっかしらホメといた方がいいよなぁ〜…。

 

「強く、優しく、気高い目だ。アイツに似たのかな?」

 

うん。我ながら結構絶妙なトコだよなぁ。

まんま容姿とか褒めたら変な目で見てるぅ〜なんて嫌〜な誤解されかねないし。

 

「立派になれたでしょうか?」

「ま、そうだなぁ。立ち居振る舞いは、正にどこに出しても恥ずかしくないレディのそれだろうよ」

 

よく知らんけど。

 

「おじ様…」

「だが、頭目になるんならもうちょい強かさも必要だな」

「うっ…精進します…」

「ハッハッハ!!まぁこればっかりは経験を積むしかねぇんだがよ」

 

さて、そろそろ良い頃合いかな。

 

「そんじゃ、オレはもうそろそろ部屋に戻ろうかねぇ」

「送りましょうか?」

 

おぉヴォルコくん。気がきくなぁ。

 

「いんや。お前さんらはリアリナ嬢の側にいてやんな。今、この娘に必要なのはお前さんらみてぇな味方なんだからよ。安心させてやんな」

「はい…お気遣い感謝します」

「おう。ま、気負いすぎんなよ」

 

ふぅ〜…やぁっと部屋に着いた…。

シャワーでも浴びて…。

 

「ヤッホーおじさ〜ん♪」

「………クッキーでも食うか?」

「食べる〜♪」




う〜ん。どっちに戦ってもらおっかなぁ〜…。


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26話

ガンプラの組み立てってちゃんとやると結構時間かかるもんですねぇ。


ルナズドロップにて、二つのモビルスーツが向き合っている。

 

ひとつはテイワズの百錬。

そしてもうひとつは左右非対称のガンダムフレーム、アスタロトだ。

 

開始の合図は未だ鳴らず、パイロットの両者は緊張を解すためか、通信で仲間とのやり取りをしている。

 

「うぅ〜…なんか、こういうの慣れてないからかヘンにドキドキするなぁ〜…」

「ライド。まずは落ち着いて、ジャンマルコさんとの特訓を思い出すんだ」

「ありがとチャド。オレのわがままを聞いてくれて…」

「いや。それは別に構わないが…無茶はするなよ?」

「…うん」

 

「なぁヴォルコ。百錬って一体どんな機体なんだ?」

「優れた汎用性と、遠近バランスの取れた武装が特徴だ。だから熟練者の駆る百錬は正しく隙が無い」

「うげ…なんだそれ?半端ねぇな…」

「落ち着け野良犬。だから熟練者の場合って言ったろう?聞けば、相手はここに来てから百錬に乗り始めた子ども。油断はできないが、だからと言って必要以上に警戒することも無いだろう。それに今回は近接武器のみ使用可能ってルールだ。しかし…」

「しかし…なんだよ?」

「…いや、お前は勝つことだけを考えていろ」

 

力さえ示せば勝ち負けの如何を問わないという前情報に、相手は自分達よりもさらに幼いという。これではまるで、自分達はあちらの肝煎りの子どもに対する当て馬か、かませ犬のような扱いではないか。

かと言って、勝手な憶測を無責任に口にするほどヴォルコは不用心でも、浅慮でも無い。

伊達に…と言っていいかは分からないが、ドロドロとした経済圏が発端で帰る家を無くしたのだから、その警戒はヴォルコにすれば当然のことでもある。

とは言え、自身がダディ・テッドの下で働いていた頃からの付き合いで、それなり以上に世話を焼いてもらった男を疑うことには少なからず抵抗もあった。

 

「やはり、あの人の考えは読めないな…」

 

彼の額に埋め込まれた情報チップはその名の通り、あくまで過去起きた事実や情報をデータとして写すだけのもので、その相手の腹の内は本人が直接言う以外には憶測しかできない。

ヴォルコは心中で歯噛みしながらもそのままアルジとの通信を切って、他の人間のいる船室へと戻る。

 

戦いをある程度離れた場所にある船から見守るのはジャスレイとジャンマルコ、そして護衛のサンポとユハナの兄妹にチャド。

それに加えてリアリナ・モルガトンにヴォルコ・ウォーレンの七名と、クルーが数名。

 

「オジキはどっちが勝つと思う?」

「さてな。機体性能で言えばアスタロトの坊主だろうが、鍛錬とは言え乗ってきた時間じゃあライドに一日の長があるだろうな」

 

ガンダムフレームとそれ以外の機体とでは、性能差がかなり大きい。

無論、乗り手の技量次第ではその限りでも無い。

それこそヴォルコの言うような熟練の乗り手でも無ければそれも難しいのだが。

まぁ、それだけガンダムフレームというモノが別格の扱いを受けているのは想像に難くない。

 

「…時間だな」

 

ジャンマルコはそう言うなり、スックと立ち上がり、無線のスイッチを入れる。

 

「お前ら。準備はいいか?」

 

そう問いかけるジャンマルコに

 

「オレはオッケーだよ!!」

「同じく」

 

と答えるパイロット両者。

 

「そうか。それじゃあ…」

 

緊張の一瞬。

凍りつくように張り詰めた空気に、ライドは固唾を飲む。

 

「はじめ!!」

 

言葉と同時、両者共に武器を構えた…かに見えたが。

 

「先手必勝ォォォ!!」

 

ライドは大喝と同時に腰のブレードを抜いて斬りかかる。

自他の性能差は歴然。ならば相手がモビルスーツの性能を活かす前にケリをつける算段か。

しかし…。

 

ガキンッッ…!!

 

「防がれた…っけど!!」

 

普段は銃を付けているホルスター部分からもう一本繰り出す。

 

「チイッ…硬いなぁ!!」

「この…好き放題しやがる…」

 

アルジは仕切り直しとばかりに距離を取る。

大型の剣は慣れてもいないなら、それだけで取り回しに難があるもの。

特に百錬のブレードよりもリーチがある分、自在に振り回せれば強いが、防戦一方になると途端に邪魔になる。

かと言って通常兵装のナイフで競り勝てるかと言われると些か以上に難しい。

 

フレーム強度、出力、反応、全てにおいてアスタロトの方が上。

 

もちろん、つけている装甲は本来のそれではないし、パイロットのアルジも未熟者も良いところ。

 

「だが、それでも…」

「させるかよ!!」

 

ライドは再び懐に潜り込むため突っ込んでいく。

無謀ではあるものの、銃器を使えない以上はやむを得ない策でもある。

 

「負けらんねぇ!!」

 

とっさに後ろに飛び、デモリッション・ナイフを構えようとするが、そうはさせじとライドもまたインファイトに持ち込もうと食い下がる。が…しかし。

 

「フレームの性能差が出たな」

 

そう漏らすのはヴォルコだ。

ギリギリの瀬戸際、ライドは振り切られてしまう。

 

「クッソ…」

「お返しだ!!」

 

ガキンッ…とデモリッション・ナイフが百錬の頭部にクリーンヒットする。

 

「うぐぁっ…」

 

ライドの乗る百錬はそれによってよろめき、尻餅をつく格好に。

すかさずアルジは武器を突きつけ、降参を促す。

 

「形成逆転…だな」

 

それを聞いたライドは俯き、そしてジャスレイとのやり取りを思い出す。

 

「オジキは…ああ言ってくれたけど…」

 

ライドは拳を握り、震わせる。

 

「やっぱ、オレは…」

 

次の瞬間、ライドは操縦桿を握り叫んでいた。

 

「負けたくねぇぇぇ!!」

 

仲間達のためにも強くならねば。

そして、初めて己を認めてくれた大人に報いるために。

 

□□□□□□□□

 

いやぁ〜、やっぱ強ぇわガンダム。

だけどやっぱ、悔しいとこもあったよなぁ。

 

「勝負あったな」

「いや…」

 

ま…まだ降参してないから…。

なんて、意地張ってる場合でもないよなぁ。

安全第一だよねぇ。

 

「…まぁ、オジキが目にかけてる子どもだしなぁ…ここで潮時ってぇのも野暮ってなもんか」

 

まぁ、怪我しなきゃ良いんだけど…。

 




次回はタントテンポ回…かなぁ。


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27話

戦闘回、後編になります。

ちょっと短め…。




「さてライド、こっからだぞ…」

 

ジャスレイは船室内でモニターを見ながらそうこぼす。

ジャスレイ以外の他の観客達も皆、言葉少なにその行く末を見守っている。

 

「人を見た目で判断しすぎたな。アイツは…ライドは仲間のために己を省みないヤツだ。良くも悪くもな。そんなヤツがタントテンポのまごうことなきエースに稽古つけてもらったんだ。強ぇに決まってんだろ。お前はどうだ?アルジ・ミラージ」

 

静かに、アスタロトのパイロットに問いかけるようにそう言う。

 

「それって、あたしらより強いってこと〜?」

 

いつの間にか近寄って来たユハナが、ひょっこりとジャスレイの顔を覗き込みながらそう問いかける。

が、当のジャスレイは最近ずっとこの調子だったユハナの言動に慣れて来たためか、特に気にしていない様子だ。

その無反応が癇に障ったのか、ユハナの少しむくれた表情を見たジャスレイが苦笑を浮かべながら振り返り

 

「いや、お前さんらの強みは兄妹ならではのコンビネーション技だろう?流石にあそこまで行くのは一朝一夕じゃあ無理だろうなぁ。ま、そこは誇っていいと思うぜ?」

 

と、フォローする様に言う。

そして、そう答えを聞くやユハナは満足げな表情をし、彼女の兄のサンポは何やら複雑な表情を浮かべている。

 

「相変わらず、よく見てるよねぇ〜」

「そりゃあな。お前さんにも、それにサンポにも、今もこうして世話んなってるしよ。短い付き合いではあるがな、これでもお前さんらのことはけっこう信頼してるんだぜ?」

「それに美少女だしねー?」

 

ユハナがからかいがちにそう聞くと

 

「そうだなぁ。さっきからこれ見よがしにピラピラとモビルスーツやらの維持費もろもろの書類を視界に入れて来なけりゃあ文句なしだなんだがなぁ〜?」

 

お返しとばかりにジャスレイは答え、ぶーたれているユハナを尻目に再びモニターに目をやるのだった。

 

「ちぇ〜、いけずだなぁ〜も〜…」

 

モニターに映される先、ルナズドロップにて、ライドの駆る百錬は瞬時に立ち上がるや、落としたブレードを拾い上げる。

 

「っとに、往生際が悪いんじゃあねぇのか?」

 

アルジはそう軽口を叩くが、背中に冷や汗をかいてもいた。

勝った気になっていたとは言え、武器を突きつけ有利な状況にも関わらず、相手の立ち上がり際に反応できなかったというその事実故に。

 

「…………」

 

ライドは答えず、沈黙と共に両手に持つブレードを逆手持ちに構え、百錬の姿勢を低くする。

 

先ほどまでのがむしゃらさとは打って変わって、不気味なほどに静かだ。

 

「……………」

「……………」

 

一秒…二秒…三秒…。

 

両者の動かない均衡状態が続く。

風も吹かぬ荒野で睨み合い、牽制しようとしては双方やめることの繰り返し。

 

そして瞬間、百錬が弾かれたようにアスタロトに迫る。

なんとか受け止めたアスタロトの装甲から、ギャリッと嫌な音がする。

 

互いに、攻撃を受けて、弾いて、いなして、攻める。

そのやりとりを数十かそこらして、気づけば振り出しに戻る。

いくらかしたのち、ふと一つの小惑星が二機の方に導かれたように通過する。

 

「ちっ…いいとこだったのに…」

「おっとと…」

 

パイロットの二人はそれに気づいて互いに距離を離すと、測ったようにその間をやって来た小惑星が通る。

 

そして、それが完全に通り過ぎた刹那。

 

「ッラァァァ!!」

 

ライドの百錬が、再度猛スピードで斬りかかる。

両者の間に伝わるひりつくような感覚。

アルジもほとんど感覚だけを頼りにアスタロトを動かしていた。

 

そして…。

 

「ちぇっ…届かなかったかぁ…」

 

アスタロトが立っているのを見るや、ライドは気の抜けた表情でそう言う。

すると、フッ…と糸が切れた人形のように、百錬は今度こそ動かなくなった。

 

□□□□□□□□

 

え、ちょっと待って?ライドくん、強くない?

いや、あんだけ自分で持ち上げただけに強いとは思ってたけど思った以上にさぁ。

 

「良いもんが見られたなぁ、オジキ」

「ああ、だが危なっかしくってなぁ…」

「ま、確かにそうだよなぁ。アレは…」

 

結果は負けたけど、まぁライドくんの成長は見られたし良しかなぁ。

モニターには悔しそうなライドくんと、緊張感や疲れどっと出たのか思いっきり緩んだ様子のアルジくんが映ってるなぁ。

 

「しかし、アルジ・ミラージにアスタロトか。なかなかどうして…」

「化けるだろうなぁ。あのパイロット」

「ま、だろうな。これなら問題はねぇだろう」

「では…」

 

んお、ヴォルコくん。聞いてたのね。

 

「おう合格だよ。お疲れさん」

「良いの?おじさま?」

 

リアリナ嬢も食いついて来たなぁ。

話に入ってくるタイミングが無かったのかな?

 

「おう。不安なようなら後で一筆書こうか」

「はいっ!!」

 

素直だなぁ〜。この子いい嫁んなるよたぶん。

 

まぁ言わねぇけどもさ。

 




つ、次こそタントテンポ回に…。

いやぁ〜、入ると思ったんですけどねぇ。

アホを晒しただけって言うね…orz


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28話

タントテンポ回。

やっとできたー。


「なるほどそうか。やはり彼はリアリナ嬢についたか」

 

アバランチコロニーにあるビルの一室と思しき部屋で、椅子に腰掛けて窓の外を眺める男はそう語る。

 

「如何なさいますか?」

 

そう問いかけるのは彼の秘書であり、優秀なスパイでもある妙齢の女性。

しかし…。

 

「何も」

「は?」

「彼には何も、しなくて良い。キミには引き続きロザーリオの監視を任せるよ」

「ですが…」

「…………」

 

微動だにせず、ただそれだけ言うと男は沈黙する。

もうこれ以上言うことはないと言外に伝えて。

 

「では、私はこれで…」

「ああ、ご苦労」

 

男は短くねぎらいの言葉をかけ、部屋の扉が閉まるのを音で確認し、更に足音と共に気配が遠のくのを念入りにチェックする。

スパイとして優秀な彼女に聞き耳を立てられると色々面倒だからだ。

それに、共有すべき情報は既に渡してあるのでその点は問題ない。

 

「さて、後はロザーリオか…」

 

男は振り返り、机に…厳密には机の上の幾らかの紙に目を落とす。

そこには数々の人名や企業名が連なることから名簿であろうことが伺える。

彼はそれをそっと持ち上げペラリとめくり、確かめるようにその枚数を数え、笑みを深めて満足げに頷く。

 

「中立派はすでにほぼほぼこちら側。そして、これを見越してロザーリオ自身には先代の遺産整理の名目で銀行に引きこもってもらっている。曲がりなりにも味方を欺くのは趣味ではないが、まぁ…致し方あるまい。身から出た錆と言うヤツだよ」

 

きっと、ロザーリオは嬉々としてデータを改ざんするだろう。

元より外部の何者かとの怪しい動きを見せてはいたし、彼もそれに気づいてはいたが、ロザーリオとしてもわざわざ弱みを見せることの愚は分かっているだろうし、外部の者としても痕跡を残すのを好むとは思わないため、どちらの利害を考えたとしても多少面倒なくらいでその者の手は借りないはずだ。

自身に有利なように、自らの懐に入るだろうカネを不自然で無い限度いっぱいまで抱え込むことだろう。

だが、それで良い。

それを以って、タントテンポの新たなる主人への最初の献上品とするのだから。

 

「ロザーリオ。キミは有能で…優秀で…才気に溢れた男だ。本当さ」 

 

ひょいと拾い上げた写真に、男はぽつりとそうこぼす。

 

「ただひとつ、たったひとつ…キミの短所を上げるとするならば…」

 

ゴソリ、と懐をまさぐり

 

「キミ自身の大きな野心に見合わぬほど、どこどこまでも小さいその器に他ならない」

 

ライターを取り出して、灰皿の上に置いた写真の角に火をつける。

燃え上がる写真。

火をつけた当の本人は感慨深そうに唸る。

 

「だからこそ…さよならだ」

 

それは若き日の思い出との決別とも、或いは未来のための枷を外す行為とも取れるだろう。

 

しかし

 

その顔はあまりに、晴れやかだった。

 

 

 

黄金のジャスレイ号内にある倉庫前にて、ジャスレイとヴォルコ、アルジにリアリナの四名がいた。

 

「さて、着いたぞ」

「ジャスレイさん。渡したいものとは?」

「おう。お前さんらのアスタロトあんだろ?アレ、そろそろ装甲がダメになってきてるんじゃあねぇか?」

 

これまで騙し騙しやって来ていたのを見抜いたかのような言い草に、ヴォルコは閉口する。

 

「あー、なるほど。それでご褒美ってのは…」

「おう。ウチの技術者連中の補償付きの装備品一式をくれてやろうってことさ。特に気になるパーツ類なんかのデータ取りはもう済んでるみてぇだしな」

 

ジャスレイはパスコードを入力して船内の倉庫を開ける。

ウイィィンと言う機械音によって二重、三重の扉が開いていく。

 

「ほれ、コレ全部持ってけ。元々次期頭目への手土産のつもりだったしちょうど良いや」

 

倉庫にあったのは見渡す限りの装備品の山。

モビルスーツ用の銃火器にブレード類、弾薬に装甲とより取り見取りだ。

 

「うわっ…すっげ〜」

「本当に…」

「そうだな……アレは…!!」

 

何かに気がついたのだろうヴォルコが目の色を変え、それに近づく。

 

「おい、どうしたんだよ?」

「ヴォルコ?」

 

ヴォルコの普段とは異なる様子にリアリナとアルジは困惑した様子だ。

 

「…間違いない。γナノラミネートソード…それにアスタロトの装甲も…ジャスレイさんが持っててくれたのか。良かった…本当に…」

 

何やら安堵の声を上げるヴォルコにジャスレイが近づいて言う。

 

「おう。それか。闇市で売ってたもんなんだが、売人が言うにゃあ使い道があんまねぇってんで、なんだかもったいなくってよ。もちろんそれもやるぞ?」

「いいんですか!?ガンダムフレームの専用装備ですよ!?そんなにポンっと…」

「だからだよ。使えるヤツが持ってた方がいいだろ?仮にオレがコレクションだなんだって言って、こんなとこに埋もれさせるよりは本来の使い方をされた方がずっといいさ」

「ジャスレイさん。この恩は必ず…」

「…なんか訳ありか?」

 

ジャスレイは何かを察したようにそう問いかける。

そして、気づけばヴォルコは己の身の上と、その目的を軽くだがジャスレイに話していたのだった。

 

「…そうか。そんなことがなぁ。苦労して来てんだなぁ」

「いえ、慣れましたから」

 

その言葉に嘘偽りは無い。

別にヴォルコとしても、ウォーレン家の復興など掲げてはいない。

ギャラルホルンが一度だした裁定を覆すとも思えないし、そこまでしてドロドロとした針のむしろのような経済圏には戻りたくも無かった。

 

「ああ〜…そうかぁ。すまねぇなぁ。事後承諾みたいになっちまって…」

 

ジャスレイは何やら気まずそうに言う。

 

「なんのことです?」

「ほら、さっきウチの技術者連中が調べてみたいってんで、その武装のデータ取りさせてもらったって…」

 

その言葉にヴォルコはなるほどと思い苦笑する。

そう言えばそんなことを言っていたなぁと。

ガンダムフレームの技術は未だにブラックボックスなところが多く、その兵装もまた現代からすればオーバーテクノロジーもいいところ。

まぁ作られた数の少なさからして、それは無理もない話。

テイワズの技術者からすれば、まさに垂涎の宝なのだろう。

まさか本来の持ち主が来るなどと夢にも思わなかったのも頷ける。

と言うか、普通はそんな主張は無視するか訝しむものなのだが。

 

「そのくらいなら別に問題はありませんよ」

「…そうか」

 

見るからに安堵した様子のジャスレイに、ああやはりこの人は変わらないなと、ヴォルコは心中で独りごちるのだった。

 

□□□□□□□□

 

いやぁ〜、まさか闇市で買った品が元とは言えギャラルホルン貴族の持ち物だったとは。

人生って、ホント何があるかわからんね。

って言うか、ガンダムフレームって結構あるのね。

覚えてる限りでも、バルバトスとグシオンと、キマリスとバエルくらいしか知らなかったからなぁ〜…。

おっちゃんビックリ。

 

「そんじゃ、後はここの技術者連中に任せておけば問題ねぇだろ」

「おじさま、ありがとう。お礼は必ず…」

 

お、リアリナちゃん律儀だねぇ。

 

「ま、今は自分たちのことだけ考えてな。貸しも借りも、まずは生きてこそなんだからよ」

 

いやホント、生き伸びるって大事よ。うん。

 




さて、いったい誰なのかなぁ〜?


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29話

ガンプラの箱、勿体無くて捨てられない…。

しかし場所はとるしなぁ…。

う〜む…。


「クラーセン!!一部隊くらい動かせるって話だろうが!!何故あの船が近づいて来てるんだ!!」

 

電話口で怒鳴るロザーリオのその言葉に、話し相手のヴィル・クラーセンはたらりと冷や汗を流す。

 

「無茶言わないで下さい。流石にセブンスターズ直々に出張られたら私じゃあどうしようもありませんよ」

 

クラーセンもセブンスターズに次ぐウォーレン家の力をほぼそのままに有しているとは言え、それは裏を返せばセブンスターズには力で届かないとも言える。

それだけ、セブンスターズとその他の家とでは権威でも実力でも、今なお開きがあるのだ。

それこそ天と地、或いは月とスッポンほどに。

腐敗極まったとはいえ、彼らとて伊達に三百年の長きに渡り君臨してきたわけでは無いのだ。

 

「くぅ…先代の遺産整理に時間を持ってかれ過ぎたか…」

 

報告を受ける前に、自分への褒美とすり減った心の癒しのために飲むはずだった酒の入ったグラスが、カラリと小さく音を立てるが、今のロザーリオはそんな音を聞いただけで苛つくようで、苦々しげにそちらを睨む。

流石に高い酒とグラスを投げつけるのを静止するくらいには理性が働いているようだ。

一息ついて頭を冷やすためか、或いはやけ酒なのか、グラスを持ち上げ、つがれた酒をあおる。

 

だが、ロザーリオはこれでリアリナと言う交渉のための手札を手にできなかったうえ、その時の様子を見られ、彼女らの助けに入った武闘派たるジャンマルコとの対立はほぼ確定。

更にその背後には間違いなくあの『買収屋』ことジャスレイ・ドノミコルスがいる。

目先の利益に釣られて頼まれた遺産整理を請け負ったことも今回はマイナスに働いてしまい、あの船の接近に気づくのもかなり遅れた。

結果、千載一遇の好機をモノに出来なかったツケはかなり高くついてしまった。

それに加え、ダメ押しとばかりに月の外縁宙域でジャスレイを足止め及び捕らえることは不可能になってしまった事実に、ロザーリオは歯噛みする。

もはや悪態をつくような余裕も無い。

苛立ちながら咥えていた葉巻を灰皿に押し付けると

 

「かくなるうえは、ウヴァルで…っ!?」

 

勢いよく立ち上がろうとしたロザーリオはグラリ、とバランス感覚を失う。

一服盛られた、そのことに気づいた時には既に遅かった。

 

「……これで、いいんですか?」

「ああ、ロザーリオには少し黙っていてもらおう。安心しろ。昔からの友人のよしみで殺しはしない。私はな」

 

電話口から聞こえるその言葉を最後に、ロザーリオは意識を手放したのだった。

 

同時刻、月の外周を警備するアリアンロッド艦隊の船の一隻に定時連絡の無線が入る。

 

「イオク隊、不審な船の影はありませんか?」

 

無線越しに、事務的にそう問いかける声が艦内に響く。

 

「ああ、こちらに異常はない。世話をかけるな」

 

労うようにそう報告するのはジャスレイの友人の一人息子であり、数年前に家督を継いだ若きクジャン家の新たなる当主だ。

 

「そうですか。それでは引き続き、そちらの監視をお願いします」

 

その言葉を最後に無線が切れると同時に、目の前を通り過ぎる黄金の船体を見ながらオペレーターの一人が返答した人物に問う。

 

「いいのですか?イオク様、彼らを見逃してしまって…」

 

それと言うのも、これが公になれば職務怠慢で責任問題になるのは明白だからだ。

クジャン家の跡取り候補が彼の他にまったくいない現状、退陣はなくともバレた際に何かしらペナルティーが課せられるのはほぼ間違い無い。

それこそ、かのイシュー家の当主代理のように厄介払いも兼ねて僻地に飛ばされるやも…前例がある以上、オペレーターがそう懸念するのも無理はない。

 

「構わん。万一の時はわたしが全責任を取る。それに、わたしには叔父上の道を邪魔だては出来んさ」

 

モニターを真っ直ぐに見据えて、イオク・クジャンはそう言う。

 

「しかし…」

 

なお心配そうにするオペレーターに、イオクは答える。

 

「それに、彼らがやって来ることになったのも元々はギャラルホルンのして来た無体な搾取が原因だ。ならばせめて、支払われた分の対価はこちらも支払うべきだ。わたしは…わたしの通すべき筋を通す!!」

 

キッパリとそう言い放つイオクに、周囲は頼もしいやら心配やら、さまざまな表情を浮かべる。

しかし、そこには一つとして不満げな顔は無かった。

 

□□□□□□□□

 

さ〜って、そろそろ目的のコロニーに着く頃かなぁ〜?

んぉ?あの船は…。

 

「懐かしいな…」

 

そういや、最近会ってねぇなぁ。

まぁ、会ったところでだけどもさ。

 

「ん?あれ、オジキの知り合いの船なの?」

 

ライドくんも興味津々と言った様子だ。

まぁ、似たような形の船だし、その疑問は尤もか。

 

「おう。ちぃっとあいさつでもするかねぇ」

 

いやぁ、イオクくん元気かなぁ〜?

 

おいちゃんのこと覚えてるかなぁ〜?




イオクくん再登場回でした。

ロザーリオおいちゃんの運命や如何に!?


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30話

もうちっとだけ、イオクくんフェイズです。


「ん?イオク様、ギャラルホルン外の回線から連絡が来ていますが…」

 

その言葉に、何事かとイオクは少し首を傾げる。

ジャスレイには自身がここにいることは伝えていないはず。

 

「うん?繋げてくれ」

 

画面が一瞬暗転し、一人の男が映し出される。

 

「よう、イオ坊。お疲れさん」

 

かくして相手は依然、目の前を通る黄金の船の主だった。

 

「お、叔父上…いったい何故…」

 

突如として入った無線通信に、イオクは一瞬困惑する。

 

「馬鹿やろ、恩人の家の紋を忘れるほどオレは薄情じゃあねぇつもりさ。わざわざ見送りに来てくれたんかい?」

「え、えぇ…まぁ…」

 

気づかれていたのかと、イオクは少し嬉しいやら恥ずかしいやら言葉に詰まる。

 

「元気してっか?メシは食ってるか?」

「えぇ。おかげさまで…」

 

その後、二、三話すうち、イオクの徐々に歯切れの悪くなる言葉に、ジャスレイは何かを感じ取る。

何やら話に身が入っていない。

浮かれているのとはまた別の理由で。

 

「…なぁんか悩んでんのかい?」

「…分かるのですか?」

「当ったりめぇだろ。こちとらオメェが赤ん坊の頃から知ってんだからよ」

「はは…叔父上に隠し事は出来ませんね」

 

イオクはそう言いつつ、それもそうかと苦笑を浮かべる。

 

「ま、この通信が続く限り…そうだな。あと5分かそこらの間なら、愚痴の一つでも聞けるってぇもんだぜ?」

「…………」

 

そう言われるなり、イオクは俯いて少しばかり話し出す。

内容は、先日ラスタルに指摘されたことだ。

 

「本当は…分かっているのです。青いことを言っているのも、私自身まだまだ未熟者で実績が足りていないことも」

 

イオクは俯き、ぽつりぽつりと話し出す。

 

「何言ってんだよ。オメェさんは良くやってらぁ。問題ってんならあの頑固モンの方が問題だろうさ」

 

どうにも、ジャスレイの言う頑固者…ラスタルは先代クジャン公を強く慕っていたフシがある。

それ故か、ジャスレイにはラスタルが先代の忘れがたみたるイオクを立派なクジャン公にするのをひとつの目的としているようにも思えるのだ。

無論、ラスタルの主観で。

 

「いいか?イオ坊よぉ。迷ったら原点に帰んな。オメェさんがなりてぇクジャン公ってぇのが何なのか。自分で考えるんだな」

 

投げやりなような、しかしどこか的を射ているような言葉に、イオクはハッとする。

 

「叔父上は、本当に厳しい…」

「そりゃあな。甘やかすだけが優しさじゃあねぇだろうよ。古今東西甘やかされて立派になったヤツなんぞ、少なくともオレは知らん」

 

キッパリとそう言いきるジャスレイ。

 

「ははは…」

「ただ…そうだなぁ。オレから言えることがあるとすりゃあよ」

「?なんですか?」

「先代は先代、オメェさんはオメェさんさ」

「………」

「無理して先代になろうとしなくてもいいのさ。人間どうしたって向き不向きってぇのがあんだろ?オレだってモビルスーツのパイロットとしての腕ははっきり言ってクソ雑魚もいいとこだしよ」

 

自虐的にそう言うジャスレイだが、その言葉や表情に陰は無い。

どころか、部下たちからも「知ってますわ、そんなん」とツッコまれている。

 

「それになぁ、本当に未熟なヤツは自分の未熟を自覚なんぞ出来てねぇもんさ。オメェさんはそれを自覚してる。それを恥と思う気持ちもある。だからまだまだ成長できるってこった。自惚れろってんじゃあねぇがな、ちったぁ自分と周りを信頼するこったな」

 

そう言われて、イオクはハッとしたように振り返ってみる。

イオクの部下たちは、うんうんと納得気味に頷きながらもその目は優しく温かい。

 

「そうですよ若様」

「はじめっから完璧なんて求めてませんや」

「もしそうならば、我らの役目も無くなってしまいますよ」

 

そう、先代からの部下たちが言う。

 

「みんな…」

 

ぐしぐしと、溢れて来た涙を拭う。

 

「これからも着いてきてくれるか…こんな不甲斐ない私に…」

「もちろんでさぁ!!」

「そもそも我々、先代関係無くイオク様に着いてこうって思ってたんですよ。でなきゃあ先代が亡くなったタイミングでほとんどやめてるでしょ?金払いの良い雇用主なんて、こう言っちゃあなんですけど他にもいますし」

「ぶっちゃけすぎだ、馬鹿者」

「あい、すいません」

 

先ほどとは一転し、船内は和やかな雰囲気になる。

 

「んじゃあ、そろそろ通信切る頃合いだな。お前さんら、オレの可愛い甥っ子を頼んだぜ?」

 

ジャスレイはそうキザったらしく言うと、返事も待たず通信を切ったのだった。

 

□□□□□□□□

 

いやぁ〜。覚えててくれて嬉しかったなぁ〜。

ただ…ギャラルホルンってあんな暑苦しかったっけ?

オレ、最後ほとんど蚊帳の外だったし…。

それにいつの間にやら悩みも解決してたっぽい…。

ちょっとでも力になれたかねぇ。

 

「ま、問題ねぇなら何よりかもなぁ…」

「えぇ、ありゃあ大物になりますぜ」

「当ったりめぇさ」

 

そりゃあねぇ〜、あの人の子だしなぁ〜。

血は争えんねぇやっぱ。

 

「さて、息抜きに和むのもここまでだ。盟友の跡継ぎに恥ィかかさんよう、気合い入れろォ!?」

「はいオヤジ!!野郎どもぉ!!オヤジの言葉ァ、忘れんじゃあねぇぞぉ!!」

「おォォォ!!」

 

声がデカい…。




あれ?イオクくん主人公だっけ?


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31話

ついに明日…ガンダムアスタロトリナシメント再販ですね。


「おい…見てみろよあれ…」

 

アバランチコロニー、その中心であるアバランチ1にて、衆目を集める()()が道を通る。 

 

「うん?うわっ…スゲェ量のトラック…」

「どこの企業…って、JPTトラスト!?」

「来たって言うのか…?あの木星圏の核弾頭『買収屋』ドノミコルスが?やっぱあの噂はホントだったってのか!?」

「噂?なんだよそれ?」

「知らねぇのか!?そりゃあお前…」

 

ざわつく周囲に、ジャスレイの隣に座る護衛であるユハナはふふん、と鼻を鳴らす。

 

「さっすが、あたしの旦那様!!有名人〜♪」

「だぁれがオメェの旦那だ、誰が」

「えぇ〜?でも、おヨメさんがいないとさぁ〜後継者問題とかぁ〜、遅かれ早かれ出てくるでしょ〜?」

「そうだとしてもお前さんにゃあ関係ねぇことさ」

「も〜相変わらずツレない…」

「ユハナ…仕事中だぞ」

 

サンポが釘を刺すように、静かにそう言う。

流石にその意味をわからないほど、ユハナは素人でもわがままっ子でも無い。

仕事の内容それ自体は同じでも、危険度はジャンマルコの本拠にいた頃よりも、今のほうが上なのだから。

 

「ちぇ〜、は〜い」

「すまんな、サンポ」

「いえ…」

「あたしには〜?」

 

アピールするように、ユハナがひょいと若干不満げに顔を覗かせる。

 

「おう。緊張する場を和ませようとしてくれたんだろ?ありがとよ」

「いえいえ〜、お礼は誠意で見せてくれればいいからさ〜?」

 

そう言うなり、ユハナは笑顔で例の書類の数々を取り出す。

 

「ま、そうだな。報酬は弾むさ」

「ふふ〜ん、期待してるかんね〜?」

「ったく…今の雇用主の前でする話かねぇ?」

 

ジャンマルコは呆れながらそう言う。

よく栄えた大通りをしばらく進んで行くと、タントテンポの本社ビルが目の前に見えて来る。

案内された駐車場を借りてジャスレイとジャンマルコ、そしてその護衛が車内から降りる。

続いて、リアリナが護衛のアルジとヴォルコを引き連れる形で車から降りる。

結果として移動中にスナイパーやらの刺客が狙ってくることは無かった。

やがて、ビルの中から部下数名を引き連れて杖をついた男が現れ、やって来た一行を見るなり深く頭を下げる。

 

「お待ちしておりました。ジャスレイさん」

「おう。久しぶりだなぁブブリオ。半年ぶりくらいか?元気そうで何よりだ」

「待たせたわね、ブブリオ」

「ええ、お嬢様もご無事で何よりです」 

 

ジャスレイはブブリオの対応に訝しむ。

普通、こう言う場合はリアリナの方に先に挨拶するものだ。

何故なら、六幹部の一人の支持に加え、先代との付き合いもある特大の取引先の代表の信任を得ている現状、リアリナがタントテンポの新たな主人に一番近い存在なのだから。

ただこれは考えようによってはジャスレイとの、ひいてはテイワズとの昵懇ぶりを周囲にアピールする意味合いも多分に含まれているのだろう。とジャスレイは己の内で納得もする。

それと言うのも、タントテンポは元々ダディ・テッドのカリスマによってほぼ一枚岩と言っていいほどに結束していた組織である。

だからこそ、今回のこの混乱を招いてしまったわけでもあるのだし、ロザーリオもそこに付け込もうと暗躍していたわけだが。

 

「木星圏よりのご足労感謝いたします」

「おう。ただオレぁダチの娘を応援しに来たってだけさ。別に気にしなくてもかまわねぇよ?」

「そう言うわけには…客人としてお呼びしておいて粗雑に扱うなど、ダディ・テッドに叱られてしまいます」

「ハッハッハ!!そりゃあおっかねぇや!!」

「ふふふ…ええ、本当に…」

 

互いに腹の探り合い。

わざわざ木星圏から呼びつけておいて本当に何も他意がないなどそれこそ嘘だ。

老獪。

貼り付けた笑顔の下、確かに二人は戦いを繰り広げていたのだった。

 

□□□□□□□□

 

も〜怖いんですけどこの人〜!?

なんだろ?すっげー針の筵って言うか…。

でも、ここを乗りきらねぇとウチの利益が無視できないレベルでヤバいし…。

いやまぁ、すぐに傾くってレベルじゃあないけどもさ。

放置したらしたで、後から絶対じわじわくるのは目に見えてるし…。

それに地球へのルートはやっぱ、確保しときたいし…。

じゃあ手を打つのはなるたけ早い方がいいじゃん?

クジャン家を頼ろうにも、イオクくんにあんま負担かけたくないのよなぁ〜。

若い子には絶対その辺の利権とか複雑すぎるだろうし。

少なくとも、あの若さでやらせる内容では絶対無いし…。

かと言ってラスタルのクソ野郎には絶対借り作りたく無いし…。

そこらあたりのこと考えると、結局タントテンポが最適解なんだよなぁ〜…。

オレはタントテンポの本社ビルを見上げながらそんなことを考える。

立派だなぁ〜こんちくしょー。

 

「ジャスレイさん?」

「テッドの…大馬鹿野郎がよ…」

「!!」

 

ちくしょー、こんなメンドーな事案遺しやがってよ〜!!

もっと生きろバカ!!おたんこなす!!

 

「オジキ…」

「おじ様…」

「遺すんならよ…もっと…他にあったろうがよ…!!」

 

思わず帽子で顔を覆う。

恐らくオレは今、悔しさに肩を震わせているところだろう。

恥ずかしいなぁもう…。

 

「それを…」

「ジャスレイさん」

 

んぉ?やべ、そろそろ中入る頃合いか。

護衛連中にも迷惑だよなぁ…。反省反省。

 

「すまねぇなぁ…ちぃっとばかし、昔を思い出しちまってよ…」

 

主にテッドのあれやこれやに振り回された記憶を…。

 

「やはり…貴方をお呼びしてよかった…」

 

え?なに?この人、さっきとは比べモンにならねぇくらい穏やかな顔なんですけど?

 




最近、まち○ドまぞくにハマってしまいました。

ごせんぞかわいい。


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32話

リナシメント…買えなかった…orz

まぁでも、マルコシアス買えたから…。


ブブリオ・インシンナはかねてよりの約束に思いを馳せていた。

 

「ダディ?どうしたんですか、こんな時間に?」

「おう、すまねぇなブブリオ。遅くに呼びつけちまってよ」

「いえ…それは構いませんが…」

 

行きつけの店のバーカウンターに腰掛けるダディ・テッドに、ブブリオは困惑しつつも愛用の杖を立て掛け、隣に腰掛けながら言う。

夜もふけ、稼ぎ時だと言うのに客は自分達だけ。

店側も、気心の知れた寡黙な店主ただひとり。

要は二人の貸切状態だ。

 

ダディ・テッドが喉を湿らせるためにグラスを持ち上げると、カラン…とウイスキーの入ったグラスが小さく鳴る。

 

「マスター。こいつにも同じやつを」

「…かしこまりました」

 

普段の陽気なダディとは打って変わった様子に、ブブリオは困惑しながらも、出された酒をチビチビと呑む。

 

「…それで、わざわざ店を貸し切ってまで話したい要件とは?」

 

その問いかけから十分経ったか、二十分経ったか…。

しばらくの時間が空き、ポツリポツリとテッドは話し出す。

 

「もし、オレになんかあったらよ…」

「なんか…とは?」

 

不吉な予感がブブリオの頭をよぎる。

それが間違いであってほしいと切に祈るように、あるいは、その不安を誤魔化すようにダディに問いかける。

 

「この界隈でなんかっつったら死ぬか、それに等しい状態に決まってんだろ?」

「それは…」

 

困惑に、言葉が詰まる。

こんな弱々しいダディを見るのは、如何な相談役のブブリオとてはじめてのことだった。

 

「オレになんかあったら…ある男を頼れ」

「ある男…ですか?」

 

テッドは、周囲を見回し安堵の表情を浮かべるや

 

「ジャスレイ・ドノミコルスさ。知ってんだろ?」

「ジャスレイさん…ですか?」

 

その名は地球圏にまで響く大組織テイワズの、それもNo.2の名だった。

 

「確かに、私も過去何度かお世話になりましたが…」

「おう、オレもさ。だがなぁ、オレはそれ以上に…」

 

懐かしむように、勿体ぶるように、一拍置くと

 

「アイツのことは、親友だと思ってるのさ」

 

自然と、そう言っていた。

 

「…たしか、二十年来のご友人でしたね」

「そうだな」

「それで、なぜ突然そのようなことを?」

「…オレへの反対派がよ。日に日に力をつけてってるって噂を耳にしてな。頼れるスジに確認取ったら…」

「本当だったと」

 

テッド・モルガトンという男は比較的穏健的な人物として知られる。

過激な行動をすると周囲の反感を買いやすいが、過激にやるばかりが周囲の反感を買うわけでは無い。

逆に穏健的なやり方でも、それはそれで不満というのは溜まり、いずれは噴き出すものだ。

だからこそ、テッドは常々その調整に配慮していた。

 

「ダディが、その調整を見誤るなど…」

「ああ、だが知っちまったもんは仕方ねぇ。オレもオレで動いちゃあいるが、どうにもな…」

 

テッドは、ボトルで出てきたウイスキーを自分で注ぎ、あおる。

 

「では、幹部をお集めにならないのも…」

「おう。そん中に扇動してるヤツがいるかもしれねぇからな。表立っては出来ねぇのさ」

 

その言葉に、自分は信頼されている嬉しさと、外の人間を頼ることへの不満、そして身内への不信感が募る。

 

「もちろん。お前さんにも不満はあんだろう。だからこそ、見定めて欲しいのさ。オレの友人をな。そんで、お前さんがダメだと判断したその時は…」

「…その時は?」

 

ゴクリ、と固唾を飲む。

酒を飲んでいたせいか、喉も渇く。

ブブリオは一度、チェイサーに頼んだ水を飲むと、再びテッドと向き合う。

 

「テイワズとの関係を絶ってもかまわねぇよ」

「…よろしいのですか?」

 

たらり、と嫌な汗がブブリオの背中をつたう。

 

「オレが許す。逆にそれ以外なら…」

「タントテンポを、テイワズの影響下に置いても…問題はないと?」

「ま、元々距離もあるんだしよ。最悪傘下になったって滅多なことじゃあ手を出しちゃあこねぇだろうよ。それにアイツは元々、よその方針に口はださねぇタチだしよ。乗っ取りの心配もほぼねぇんなら、バックとしちゃあこの上ねぇだろ?」

 

なるほど。魅力的な話だが、しかし懸念点もある。ブブリオはそれを問う。

 

「しかし、ギャラルホルンは…」

「いんや、アイツらは文句を言っちゃあこねぇよ」

 

元より、圏外圏からの輸入はテイワズ頼みなうえ、多くの信奉者を組織内にも抱えるジャスレイという男に睨まれたくは無い。

それに、後ろ暗い取引のあれやこれやだって、マクマードに弱みとして、その手に握られてしまっている。

結局、見て見ぬふりを決め込むしか無いわけだ。

むしろ、月のいち企業を影響下に置くくらいで済むならあちらとしても御の字なくらいだろう。

 

「事実上の身売りにはなっちまうだろうが、ま、ジャスの野郎なら上手いことやってくれんだろう」

「さては、初めから丸投げするつもりですか?」

 

いつの間にやら、いつもの調子を取り戻したダディに、ブブリオは苦笑しながらそう言う。

 

「お嬢様には…」

「言うな。少なくとも、オレが生きてる内は…な」

 

………………………………

 

「さて、皆様方。これより幹部会に御案内致します」

「おう。頼むぜ?ブブリオ」

「……ええ。お任せを」

 

ブブリオはジャスレイのその言い方に、知らず知らず、ダディの面影を重ねてしまっていた。

 




ブブリオのちょっとした過去回想でした。


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33話

ジャスレイ式交渉術。


一行はブブリオに案内されるがまま、ジャスレイとジャンマルコ、リアリナとその護衛達はエレベーターに乗り込む。

はじめに要人とその護衛を先に行かせて、他は荷下ろしや、各自の当面の仕事をこなす。

そしてそれらは滞りなく進捗していた。

 

「少々お待ちを」

 

無事、エレベーターに乗り込むと、そう言ってジャスレイ達に背を向け、階数ボタンを押すブブリオには、もはや敵意や警戒心は見受けられない。

しかし歩行に杖を要し、且つ、細くか弱く小柄なはずの男の背の大きさは、長年の経験と実績よる風格のようなものすら感じられる。

これが、目の前の自然体の老人の体から発せられていると言う異常。

どれほど苛烈で、過酷な人生を送ればそうなれるのか、或いはなってしまうのか。同じ場に居合わせる若者たちにはとんと見当がつかず。  

少なくとも、それを見て彼を侮る気などは客人達には毛ほども芽生えなかった。

 

「…随分と、デケェもんを背負ってんだな」

 

それを分かってか、ジャスレイはしみじみとそう言う。

 

「えぇ…ですが、約束ですので」

 

ブブリオは、顔だけジャスレイに向けてそう答える。

それは誰とのものなのか、どんな内容のものなのか。ブブリオは語らない。

しかし、ジャスレイはなんとなく察していたようだ。

 

「いいねぇ。律儀もんは好きだぜ?」

「フフ…勧誘ですか?しかし、私はダディに恩義のある身…これからも、何があろうとも、この身はタントテンポ所属のままですよ」

「わぁってらぁ。だからリアリナ嬢を任せられるって話さ」

 

拗ねたようにそう言うジャスレイに、ブブリオはクスリと温和な笑みを浮かべる。

 

「…やはり、あなたは先代に似ておられる」

「あん?別に似ちゃあいねぇだろ?」

「…でも、ブブリオの言いたいことは何となくだけど分かる気がする」

 

話を聞いていたリアリナが、不意にそう言う。

 

「なぁに言ってんだ…少なくともオレぁアイツほど気配りが出来るわけでも、要領良くもねぇっての」

 

直ぐ側で、ライドが何かを言いたそうにムズムズしているが、隣にいるチャドが手でそれを制する。

ジャンマルコはそれを脇目に見て苦笑を浮かべ、一方のサンポとユハナの傭兵兄妹は気を張り過ぎず、かと言って緩め過ぎず、平静を保っている。

二人がそんな軽口を叩き合ううち、エレベーターは目的のフロアへと辿り着く。

 

「さぁ。皆さん到着しましたよ」

 

ジャスレイ達にはここからが本番。

例えブブリオとジャンマルコの印象が良くても、他の六幹部を納得させなければならないからだ。

この先はさながら魑魅魍魎蔓延る魔窟。

月の曲者供を統べる連中の総本山。

まだまだ気は抜けず、一筋縄ではいかないだろうことは想像に難く無い。

 

「待たせたねぇ」

 

部屋に入るなり、ブブリオは揃った面々に向かいそう言う。

いくつかの、様々な思惑のこもった視線が入り口の方を向き、やがて驚きの表情となる。

 

「邪魔ぁするぜ」

 

そう言うのは、他ならぬジャスレイ・ドノミコルスその人だ。

 

「本当に来たのか…」

「やはりブブリオの言ったダディの遺言は真実だったと…?」

 

ざわつく室内。

パン!パン!と、手を鳴らす音が聞こえた方を見ると、ジャンマルコが

 

「まずは、話し合おうや」

 

と、静かに言う。

 

「しかし、ロザーリオがまだ…」

「問題無いさ。彼には後から来てもらう」

 

ブブリオはそう言って、立ち上がって異議を唱える幹部に着席を促す。

 

そしてぽつんと空いている上座に、リアリナを案内し、護衛の二人がその左右に立つ。

 

「しかし、ブブリオの言っていたことが真実だとするならば…」

「ダディの遺志を蔑ろには出来はすまい」

「なら…」

 

リアリナが期待を込めた視線を幹部達に向ける。

 

「しかし、それはそれ。キチンとこちらのメリットを提示していただかねば…」

「そうだ。後ろ盾としての力の程を見せてもらってはじめて信頼は築かれるものだ」

 

その言葉を聞くやリアリナは歯噛みし、何か言いたそうにしていた。が、しかし、彼らの言い分もまた納得いくものだった。

そもそも、事前に聞いたブブリオの言葉とて彼らにしてみれば情報の裏も取れていない不確かなもの。

友情も親愛も、カネの前には脆い。

その事実を彼らは何度も目にしてきたから分かる。

故に、その判断は慎重過ぎるまでに慎重。

彼らとて、何も個人的なわがままだけでゴネているわけでは無い。

要は彼を信じても良いという、その保険が欲しいのだ。

無論、組織のまとめ役が取り急ぎ必要なのは誰の目にも明らかなのだが…。

一転二転、なかなか落とし所の見つからない話し合いに気落ちして見せる周囲とは変わり、ジャスレイは開始当初の態度を崩さない。

どころか、場が煮詰まった頃合いを見計らって発言する。

 

「ま、アンタらの懸念はもっともだな」

 

そう言って、ジャスレイは部下に「アレを」と言うと、そこにはとある紙が握られていた。

 

□□□□□□□□

 

「ま、リアリナ嬢にはもう一部を見てもらってはいるがね。それはオレが持って来た手土産の目録だ」

 

オレは、それを部下の一人に配布してもらって、幹部たちにも内容を確認してもらう。

内容はまぁ、モビルスーツの武装やパーツ類、木星圏で取れる資源にその他諸々ってとこかねぇ。

 

「!!…こ…こんなに…ですか!?」

「さ…流石アニキと言うか…」

 

うわぉ、急な態度変更。

そんなにケチに見えたんかねぇ?

 

「おう。何ならおかわりもあるぜ?」

「おっ、おかわり!?」

 

あ、腰抜かしてる。

 

「まぁ、それでも足りないってんなら仕方ねぇ。祝い金も用意していたが何、いらねぇってんなら…木星圏に持って帰るまでさ」

 

その後の結果は…まぁ考えるまでも無かったかな。

でもくっそ〜!!やっぱ予想した通りの出費になったなぁ〜!!

まっ、まぁ後で取り戻せるし…。

しかしまぁ、オレもちいっとばかし覚悟を決めた。

もうこうなったら完っっ璧にリアリナ嬢のバックアップこなして、立派に育つのを見届けて、後であの世のテッドに墓参りがてら自慢してやるもんね〜。

クックック…絶対羨ましがるぞ〜アイツ。

 




さ〜て、幹部達はどっちを選んだんでしょうねぇ?


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34話

 交渉の結果や如何に!?


ジャスレイが()()を尽くした結果、幹部達はリアリナを次の頭目と認めることと相なった。

 

そして、議題は次から次へと変わり幾つ目かのそれへ。

 

「では、後はある男の処遇を決めておきましょう」

 

それが誰であるのか、リアリナはじめこの部屋の中にいるもので知らない者は無い人物だ。

 

ブブリオはそう言うなり

 

「入ってきてくれ」

 

と、入り口にむかって言う。

ガチャリ…とドアが開くと、そこには彼を連れて来たのだろう一礼する女性と、居並ぶ面々と同じタントテンポ六幹部の一人、ロザーリオ・レオーネの姿があった。

尤も、彼は縛り上げられた状態ではあるが。

 

「ブブリオ…テメェ…」

 

それに驚いたのは他の六幹部達だった。

 

「ロザーリオ!?ブブリオ、彼が一体何を?」

「それについては、お嬢…いや、頭目の口から聞かせてもらったほうが早いだろう」

 

問いかける幹部に、ジャンマルコが返す。

 

そして、次々と明るみになるロザーリオの黒い所業。

曰く、今回のダディ暗殺の首謀者は彼である。

曰く、自身の罪をジャンマルコに着せようとした。

曰く、それを察したリアリナ嬢に危害を加えようとした。

 

「更には我々に内密でガンダムフレームまで隠し持っていたうえ、数々の文書偽造。もはや言い逃れは出来ないかと」

 

最後にブブリオがそう付け加える。

 

「テメェ!!よくも抜け抜けと!!」

 

床に転がされながらもロザーリオが吠える。

 

「最初っからオレを売るつもりだったんだろうが!!」

「ロザーリオ、私は何もしてはいないさ」

 

一転、ブブリオは極めて落ち着いた様子だ。

 

「私はただ、キミに先代の遺産整理の仕事を預けた。私がしたのは本当にそれだけだろう?仮に私がキミをハメるつもりだったとして…そのために手を回していたとして…」

 

ゆっくりと、歩み寄りながらブブリオはロザーリオを見下ろす。

 

「以前のキミなら、あっさりと見抜けたはずだが?」

「ぐっ…」

 

ロザーリオは思うところがあったのか、ブブリオから顔を逸らす。

 

「…今あるのはキミがタントテンポに背信行為を行っていたと言う事実、ただそれだけだ。そして、それを裁けるのは…」

 

ブブリオは顔を上げ、リアリナを見遣り

 

「彼女だけだろう」

 

そう、静かに言う。

 

「ロザーリオ…キミは、何をそんなに焦っていた?組織内でのこれまでの功績で見ても、実力的にも、そして、お嬢様に後を継がせたがらなかったダディの性格を鑑みても…」

 

一拍置いて、告げる。

 

「あのまま順当にいくなら、何もせずとも次期頭目は他ならぬキミだったはずだ」

「ハッ!!どうだかなぁ!?」

「なに?」

「元々先代は外部の人間をひいきするような男だ。普段から酒が入る度にまず出てくるのはそこの男のことだ」

 

そう言うなり、ロザーリオはジャスレイを睨む。

 

「………それで?それがダディ・テッド暗殺に何の関係がある?」 

「決まってんだろ!?このままじゃあタントテンポはタントテンポじゃあ無くなっちまう!!そしてコイツの影響をタントテンポから完全に無くすにゃあ、内部の派閥を一新するっきゃねぇ!!元々ジャスレイ派の連中は、ダディ・テッドが半分容認する形で存在できてたようなもんだ。だが、奴らの影響力はオレの想定を大きく越えてやがった。だが、当のダディ・テッドは涼しい顔で『実害もねぇし放っとけ』の一転張りだ!!危機感を感じるなって方が無茶だろうが!!」

 

つまりは自分がつくはずの地位が、ジャスレイに脅かされることを危惧してのことだったようだ。

これはロザーリオ自身が野心家であり、尚且つ人並み以上の才覚を有するが故に、ジャスレイの地位や能力で出来ることを想像してその範囲の広さ、影響力の大きさを考えて、ゆくゆくは自分の席が無くなることを恐れての暴走だったのだと言う。

 

「ロザーリオ」

「…なんだよ?」

 

声をかけるリアリナに、ロザーリオはふてぶてしくそう答える。

自身は彼女にとって親の仇であるし、恨まれているのは分かりきっている。

今更猫を被ったところで処断は変わらない。

ある意味で、今のロザーリオは無敵の状態だった。

 

「計画を進めるうえで誰か、貴方の協力者はいた?」

 

その言葉に、ロザーリオは目つきを鋭くした。

 

□□□□□□□□

 

オレの知らないところでオレの派閥が作られてた件。

え、なにそれこわい。って言うか初耳なんですけど。

別になんか特別なことしたつもりは無いんだけど。

強いて言うなら…。う〜〜〜ん……。

 

タントテンポに寄る度に仕事終わりに希望者の社員くん達と連れ立って色々出かけたりしてただけなんだけど。

あと仕事とか家庭の愚痴聞いてただけなんだけど。

あ〜、あとちょっと何人か子供が誕生日近いってんで、幾らか出したような〜…。

 

うん?

 

オレは考えに耽っていると、窓から何かキラリと光る何かを見つける。

 

アレは…!!

 

「アルジ!!ヴォルコ!!リアリナのそばを離れんな!!ロザーリオ!!オメェは姿勢を出来るだけ低くしてろ!!」

 

スナイパーのスコープだ!!

 

「口封じかクソっ!!」

 

気がつけばオレは、床に転がるロザーリオめがけ駆け出していた。




波乱の予感…。


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35話

制服ごせんぞ、かわいいが過ぎる。

あ、新しいお話出来ました〜。


ロザーリオは床に転がされながらも、自身の運命をある意味で受け入れていた。

こうしている今、不意に目に映ったキラリと光るそれを、彼はぼうっと見つめる。

大方、クラーセンが雇った殺し屋だろう。とロザーリオは客観的にそして他人事のようになんとなくそう思っていた。

用済みになった上にこうして尋問までされた男が命惜しさに関係者の、そして協力者の名前を明かさない保証は無い。

自分でも同じ状況になったならそうするだろうし、それを見逃すほど彼も彼の協力者も甘くは無い。

そういう意味ではこの結末にも納得してもいた。

自分に相応しい裏切り者の末路として。

諦めながらも、後悔しながらも、ロザーリオはこれまでの人生を振り返って、かつてのボスの娘に質問を投げかけられた次の瞬間だった。

 

「ロザーリオ!!」

 

気がつけば、ひとりの男が自身を庇うようにして突き飛ばしていた。

狙撃手はサプレッサーを付けていたのだろう。

銃声はしなかった。

 

「オジキ!!」

「オヤジィィ!!」

「あの野郎…血祭りに上げて…」

 

血の気が増す周囲に、ジャスレイは冷静に言った。

 

「心配すんな。当たってねぇよ」

 

果たして、その言葉は真実だった。

ジャスレイがクイッと指差した方向を一同が見ると、芸術的なまでに先程ロザーリオが転がされていた所…更に言うなら頭部のあった辺りに銃弾が突き刺さっていた。

 

「警備班!!何やってた!!」

「いや!!あの距離、警備の外からだ!!」

 

周囲はざわつくがその後は数秒もせず、ジャスレイはじめ要人達の周りには人垣が出来上がり、その内の数人は無線で外部の警備班に連絡を取る。

先ほどのビルの屋上から、スコープの反射光はもう見えない。

狙撃手は仕事が失敗したと見るや逃げたようだ。

そこは流石プロと言ったところか。

鮮やかなまでに引き際を弁えている。

 

「落ち着け。こんくれぇの修羅場、テイワズが出来たばっかの頃なんぞゴロゴロあったぜ?」

 

ロザーリオを突き飛ばした拍子に落ちた帽子を拾い上げて、埃を払いながらそう話すジャスレイの声に震えはなく、それどころか心配そうに近寄って来たライドの頭を撫でる。その彼の恐るべき胆力に周囲が驚嘆する。

それと同時に理解できない、と言った表情を浮かべるロザーリオ。

 

「なぜ…オレを助けた?」 

 

それ故に、その問いかけは半ば必然のものだった。

 

「なぁに。単なるオレのわがままさ」

「わがままだぁ?」

 

予想外の解答に、呆気に取られて間の抜けた声を上げるロザーリオ。

 

「こんな稼業だ。命を狙われるなんぞオレもオメェも日常茶飯事だろうさ。だがなぁ…」

 

遠い目をして、そして過去を噛み締めるように目を閉じて、ジャスレイは言う。

 

「オレはオレの見知った顔が…理不尽に死ぬのが嫌なだけだよ」

「…なら、なおのこと余計なお世話だ。オレは殺されて当然のことをした。理不尽でもなんでもねぇ…ただの自業自得だろうよ。今、オレに出来るせめてもの償いの、邪魔をするな」

「あん?償いだぁ?」

 

そのロザーリオの言葉に、ジャスレイはピクリと反応したかと思うと、ロザーリオにズカズカと歩み寄る。

 

「ふざけんじゃあねぇぞ!!テッドもバカならオメェもバカか!?」

 

そして、ジャスレイはその胸ぐらを掴んでいた。

 

「悪いことしました。けど死んで償って、はいお終いですってか!?アア!?いいトシこいた野郎が、一番ラクな道選んでんじゃあねぇよ!!」

「……」

 

その言葉…いや、怒声に図星を突かれたのか、ロザーリオは気まずそうに黙る。

 

「ロザーリオ、オメェはテッドがオレの事ばっか話してたってつったよな?だがオレにはなぁ…会う度にお前らのことをいっつも自慢げに話してくれてたよ。そんなスゲェお前が、オレの…オレなんぞのためによ…」

 

俯き、うめくように言う。

 

「テメェの人生棒に振ってんじゃあ…ねぇよ…」

 

ジャスレイが胸ぐらを掴む手が緩むが、それを見たロザーリオは、息苦しさが止まることは無かったと言う。

 

□□□□□□□□

 

あっぶねぇぇぇ!!

死ぬかと思った!!

死ぬかと思った!!

 

いやまぁね?修羅場慣れしてんのはホントだけどさ?

だからってまた修羅場に飛び込みたいわけじゃあ無いよ!?

それに…。

 

「ロザーリオ、テメェ、償う気があるってんならこれからの働きで償いやがれ!!」

 

いやもうホント!!

今キミくらいの有能に死なれると困るの!!

主にオレの財布が!!

大がつくくらいの前提の計算が崩れちゃうから!!

 

「少なくとも、テメェに変われる人材が育つまでは、馬車馬のように働くんだな!!償うってんならそれが最低条件だろうが!!」

「しかし…いいのか、オジキ?」

「かまいやしねぇさ。リアリナ嬢も、それでいいか?」

「ええ。元々、命まで取る気は無かったから。おじ様に助けられちゃったわね」

「ま、貴重な経験ができたな?」

「もう…心臓が止まるかと思ったわよ…」

 

まぁ、今日頭目になったばっかの若い子にゃあキツイわなぁ〜…。

 

「こればっかりは慣れるっきゃねぇさ」

「…そうね」

 

素直な子だなぁ〜…。

いい頭目になるな。うんうん。




リコくん声といい、話し方といい、予想通りすぎてびっくりしました。


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36話

gw中色々回ったけど、辟邪が…辟邪がどこにも置いてない…(;ω;)


今回の狙撃を受け、タントテンポ内部は数日の間、厳戒態勢に入った。

あちらに雇われた殺し屋があの狙撃手一人だけとは限らないからだ。

その後数日の間、夜を徹しての警備体制に幹部達はピリピリしたり、不安げな様子ではあったが、最低限リアリナがダディ・テッドの跡を継ぐという話そのものが纏まったのは僥倖だった。

まぁ、それと言うのもジャスレイの提示したメリットの大きさからして当然と言えば当然の結果と言えるだろうが。

なお、ジャスレイに庇われてから放心状態のロザーリオは、彼自身の安全のためにも一度身柄をリアリナとジャンマルコ、そしてジャスレイの三者の意向によりジャンマルコの預かりとなった。

 

「も〜、今回ばかりはホントに心配したんだからねぇ〜?」

 

ジャスレイが今回の滞在用に用意したアバランチ1コロニーにあるホテルの一室にて、ユハナが珍しく怒った口調でそう言う。

 

「悪ぃな。だが言い訳させてもらえんなら、オレが位置的に一番あの野郎に近かったからよ。それにリアリナ嬢がヤツに聞き出してぇことだって少なくはねぇだろうし。今回の件の当事者で、尚且つ一番の重要参考人のアイツをむざむざ死なせることもあるめぇよ」

「あの時のオジサンは確かにカッコよかったけど…何のための護衛だと思ってんのさ〜」

「流石に驚き…いや、ヒヤッとしましたよ…」

 

子どものように…というか、ある意味年相応に頬を膨らませながらそういうユハナと、珍しく同意するように頷くサンポ。

周囲の部下達も幾らかは慣れているものの、大方は二人に賛同するような気まずい沈黙が広がる。

 

「ハッハッハ!!いやぁスマンスマン。あ、コーヒー取ってくれ」

 

これにはジャスレイも苦笑いしながら素直に謝る。

 

「オジサンが死んだら、誰がアタシらの報酬用意してくれるのさ〜?」

 

すぐそばにあったコーヒーを手渡しつつ、照れ隠しなのか本心なのか、よく分からない怒り方をするユハナにサンポは「ハァ…」とため息をひとつつく。

 

「いつものこととは言え、オヤジはもうちょい自分を大事にしてくだせぇや」

「そうですぜ。オレらが悲しむのはもちろんですがねぇ、万に一つでもオヤジが死んだりなんかしたら、木星圏…いや、圏外圏の経済が崩壊しかねませんぜ」

 

コーヒーを受け取ったジャスレイは、バツが悪そうな顔をして

 

「すまねぇなぁ。経済崩壊は…まぁ、大袈裟っつうか身内贔屓が過ぎるとは思うが…ま、オメェらを信頼してるからオレ自身ああやって無茶もできるってえモンさ。実際あの後も、その前だってオレが何をするより迅速に動いてくれたろう?これからも頼りにしてるぜ?」

 

そう言うなり、頭を下げて詫びるとニカッと笑う。

それは、ジャスレイからの嘘偽りない本心からの言葉だった。

付き合いの長い部下達はそれを分かるからこそ心配もするし信頼もできる。

そんなジャスレイの性質を反映してか、『JPTトラスト』という組織は上下でも、また横の身内同士でもギスギスすることはこれまでほとんど無かった。

 

「まぁ、オヤジらしくはあるっちゃあ…あるんだがねぇ…」

「おう。分かってくれるか?」

 

ズイッと賛同を求めるように前屈みになるジャスレイはどこか少年じみていて、思わず笑いそうになってしまう。

 

部下達から見て、どうにもジャスレイは自分が波乱の時代を生きたからこそ、その危険を知る自分が常に前に出なければと思っているフシがあるように思える。

所謂、背中で語るといった風に。

 

「オヤジが現場を大事にする人なんは分かりますがねぇ…」

 

それに加え、常に現場の危機感を意識して忘れないことも、部下達の視点に合わせる姿勢すら見えてくる。

 

「あまり無茶しねぇでくださいや。オヤジはこんなとこで死んで良い人じゃあねぇんですから」

 

部下からのいつになく真剣味のある言葉に、少し驚いた表情を見せるとジャスレイは再び微笑み

 

「あんがとよ」

 

と、それだけ返したのだった。

 

□□□□□□□□

 

あ〜…ノドかわいた…。

受け取ったコーヒー飲も…。

 

うん?ユハナちゃんがなにやらニヤニヤしてるんだが?

 

「どうした?」

「それアタシの特製だからさ〜。残さず飲んでくれると嬉しいなぁ〜♪」

 

え、特製?何その不穏な響き?

オレは不安になりつつ、部下達の方を見る。

 

「大丈夫ですオヤジ。毒やら下剤やらの変な薬は入ってませんから…」

「うん?なら問題はねぇか…」

 

そう言いつつ、オレはストローに口をつけ…。

 

にっっっが!!

ナニコレめっちゃ濃いんですけど〜!?

気合いで何とか吹かずに済んだ…。

 

「ソレ全部飲んだら許してあげる〜♪」

「ユハナ…」

 

えっなに、サンポくんもこのイタズラ知ってたの?

 

「な〜に?サンポも特に止めなかったじゃん?」

「いや流石に冗談かと…妹がすみません、ジャスレイさん…無理なら残して大丈夫ですから…」

 

うわぁ〜…すっごい申し訳なさそうにうなだれてる〜…。

真面目だなぁ。

 

「いや何、こんくれぇ濃い方がいい気付けにならぁ。ありがとよユハナ」

 

実際、話し合いも全部済んでるわけじゃあ無いしなぁ…。

ひと段落ついたら、今度こそロザーリオの処遇含めて色々決めないとだし…。

 

さて。

 

どうしよコレ(特濃コーヒー)。




クロ○レイズ、頑張るぞ!!

なお、投稿頻度…。


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37話

今回は過去掘り下げ兼、一方その頃…的な他人物視点になります。


「ヘェ〜…兄貴は上手く話をまとめたか…スゲェなぁ〜…」

 

ハンマーヘッドのデッキでその報告を受けるや、子どものように目を輝かせてそう言うのはジャスレイの弟分である名瀬・タービン。

 

「これで、兄貴は一部とは言え地球圏の入り口を手に入れたようなもんだねぇ」

 

受信したデータを隣で見つつ名瀬の座る椅子に寄りかかるのは彼の第一夫人、アミダ・アルカだ。

 

「今頃、(あっち)は夜か…」

 

時計を見遣り、名瀬はふとそうこぼす。

 

「なんだい?またかい?妬けるねぇ…」

 

名瀬とジャスレイの出会いはアミダと出会うよりも早く、時は十年以上前にまで遡る。

 

当時、オルガ達とそう歳の変わらなかった名瀬は、木星圏にあるさまざまな裏組織から物資を掠め取っては売ってを繰り返す当時としては少しばかり名の知れたごろつきだった。

 

あの夜までは。

 

「オラァ!!出て来んかい!!クソッタレがァァァ!!」

「誰の庭に土足で入ったと思っとるんじゃい!!ボケナスコラァ!!」

 

その場所は『JPTトラスト』第七十二倉庫。

ジャスレイのお膝元では無いものの、それなりに物資が貯蔵されている場所だ。

 

「ヘッ、だぁれが出ていくかってんだ…」

 

名瀬は勝ち気なことを言うものの、万策尽きている事に変わりはない。

はっきり言ってただの虚勢、強がりだ。

そもそも見つからないことが前提の計画だったのだ。

こう言う時はさっさと逃げるに限る。

嫌な汗が頬を伝う。

…だが、少し妙だ。銃声がまるで聞こえない。

 

「名瀬、どうする?まさか素直に名乗り出ようっててんじゃあねぇよな?」

 

当時の仕事仲間が、名瀬の方を振り返りながら問いかけてくる。

 

「ああ…ここでオレらが捕まっちまったら、きょうだい達が飢えちまう…」

 

薄汚れた少年少女数人が、倉庫の中をチョロチョロと動き回る。

捕まってたまるかと、彼らなりに綿密に計画を立て、腹の虫を鳴らしながら準備して、それが台無しになってしまった以上、もう後は意地だった。

途中仲間とバラバラになりながらも遮二無二逃げるが、ついにはサーチライトが名瀬達の隠れた物陰を照らす。

 

「見つけたぞ!!」

「コソコソしやがってからに…」

「こちらC班、犯人を確保…ええ、子どもです…はい…はい…では、そのように…」

 

何かを話している。

振り解こうとジタバタするも、しっかりと襟首を掴んだ手は離れそうにない。

 

「行くぞ」

 

抵抗できないように両側から腕を持って、倉庫から引っ張り出されると、その足で社内に入り廊下を通ってどういうわけかシャワールームに。

 

「石鹸もタオルも着替えも使っていいから、身綺麗にしとけ」

 

訳もわからないままシャワーを浴びて、二十分ほど経ってタオルの柔らかさに驚きながら着替えを済ませる。

一緒に行動していたもう一人は、まだシャワーを浴びているのか、それとも他のところに連れて行かれたのか…。

 

「意外と長かったな」

 

待っていた組織の人間に連れられて、今度は事務所の前に辿り着く。

 

「粗相だけはすんじゃあねぇよ?」

 

サングラスをかけた男が、それだけ言うと名瀬が心の準備も出来ないうちにドアをノックし、開ける。

 

「オヤジィ、連れて来ましたぜ」

「コイツら手間ァ取らせやがって…」

 

そして名瀬は、ある男の前に突き出される。

恐る恐る室内を見ると、一人の男が仕事机に向かっている。

どうやらこの男がここの責任者らしい。

 

「おうお疲れさん。下がってもらえるかい?」

「はい!!」

「失礼します!!オヤジ!!」

 

自身を連れて来た男達の声がやけに明るいのが若干気になるが、それ以上に名瀬は何が何やら分からないままに呆然と立ち尽くす。

痩せっぽっちのガキなぞ、なんて事ないとでも言いたいのかと腹が立った。

しかし、抵抗すればどうなるか…ヒューマンデブリとして売り飛ばされるか、文字通りバラされて売られるか…。

最悪のことばかり考えて青ざめてしまっていた名瀬に、男は仕事机から立ち上がり、ゆっくりと歩み寄る。

それに名瀬がビクッとすると、驚いたように立ち止まり静かに微笑む。

そして屈んで視線を合わせると帽子を取って

 

「オレはジャスレイってんだ。坊や、名前は?」

 

そう、優しく訊ねられた。

 

「オレを助けてくれたクジャン公の気持ちが少しだけわかった気がする」

 

いつだったか、当時のことを名瀬が不意に話題に出した時、ジャスレイは笑ってそう言った。

 

「オレは名瀬・タービン!!頼む!!仲間達は助けてやってくれ!!」

 

気がつけば名瀬は土下座していた。

せっかく綺麗にしたのが汚れるのも構わなかった。

が、ジャスレイが「顔上げな」と短く言ったことでパッと頭を上げる。

 

「いい目だ。こんな状況でも仲間を売らねぇ…強ぇ男の目だ」

 

当時の名瀬はフケと垢まみれでシャワーこそ浴びたものの洗い方も知らず、ゴワゴワな名瀬の頭を、ジャスレイは躊躇うことなく撫でる。

 

「他の連中のこたぁ心配すんな。悪りぃようにゃあしねぇよ」

 

ジャスレイは名瀬を安心させるように言うと、いくつかの質問をした。

 

「出身…生まれは?」

「分からない。多分木星圏の…どっか」

「家族は?」

「…アイツら以外、いない」

「オメェさんが、連中のリーダーか?」

「うん」

「随分と動きが手慣れてたが、アレもオメェが?」

「…オレが計画した」

 

緊張からか、名瀬は短くしか答えられなかった。

そして、うんうんと頷きながらジャスレイは立ち上がり、少し考える素振りを見せる。

 

「なぁ、名瀬よぉ…オメェさえよけりゃあ…」

 

なんだろう?と改まった物言いに名瀬は首を傾げる。

 

「オレに力を貸しちゃあくれねぇか?」

 

そう言って、ジャスレイは名瀬に手を差し伸べる。

 

「え?」

 

当時は困惑しきりだったが…。

 

それが、きっと運命だったのだと悟ったのは後になってからのことだった。




今回は名瀬ニキ視点でした。

齟齬があったら申し訳ない。


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38話

ジャスおじが感想欄でかなり親しまれててほっこりする昨今。

感謝しか無いです。


「どうする…どうすればいい…?」

 

ロザーリオ・レオーネの口封じは失敗に終わり、更に結果的にとは言え、よりにもよってテイワズのNo.2ジャスレイ・ドノミコルスを命の危険に晒してしまった。

普段の不気味なまでに落ち着き払った様子からは想像できないほどに珍しく男…ヴィル・クラーセンは隠れ家の一つである月の雑居ビルの一室で狼狽えていた。

 

「ヤツはギャラルホルンを統べるセブンスターズの一角たるクジャン家当主の逆鱗だぞ!?そうでなくとも、わたしの取引先の何割かもその影響下にある。ヤツに死なれるとその全てがパァになるんだぞ!?それだけならまだいい!!各企業に居るヤツの配下に報復なんてされてみろ!!死んだ方がマシなほどの苦痛を受けるに決まっているじゃあないか!!」

 

まさかあの男…ジャスレイが己が危険も顧みず、スナイパーの射線に割って入って来るとは…。

結果として彼は生きていたものの、最悪の場合はクラーセンの命が危うかったところだ。

 

詫びを入れる?いいや、そんなことをすればヤツの友人を殺すことを手引きしたのは自分だと言うのをわざわざ教えるようなもの…。かと言ってこのまま放置しても事態は好転なんてしない。むしろじわじわと真綿で首を絞められるが如く、ローラー作戦で追い詰められてしまうのは目に見えて明らか。

…地球圏の外に逃げる?いや、圏外圏こそ奴等の庭。

自分から周囲を固められてはそれこそ取り返しがつかない。

ギャラルホルンに助けを求める?いや、噂によれば確かギャラルホルン内部にもあの男の派閥があるとか無いとか…。

あり得ないと一笑に付すのは簡単だが、そもそもセブンスターズと繋がりを持つほどの男だ。侮れない。

万一にも噂が本当だったらそれこそ一大事。

連中は喜んで彼を差し出す事だろう。

いっそのこと虚偽の情報を流すか?

いや、相手は圏外圏から情報網を月にまで伸ばすほどの怪物。そんなちょっかいをかけるような真似をしたらただでさえ綱渡りな現状からますます道が閉ざされてしまう…。

一時的な混乱は招けるだろうが、その後が怖すぎる。本末転倒もいいところだ。

 

そもそも、今回の件はジャスレイに干渉されること自体計算外。そこを焦って強引に押し込もうとしたのは他ならぬロザーリオだ。

クラーセンは口惜しさに歯噛みする。

取引相手を間違えたか?

しかし、そんな後悔も今更だ。

疲れているのだろう。

クラーセンは頭を振って血迷った考えをかき消す。

ただ、それでどうなる訳でもなく。

 

「どうしたものか…!!」

 

そう言ってうなだれる。

彼とて、伊達にドロドロの経済圏という名の魔窟を生き延びてはいない。

しかし、今回は彼が得意とする排除というやり方が出来ない。

頭を抱える。

しばらくは姿を隠して、折を見て影武者を差し出せば…。

 

「あら?随分と弱っているのね?」

 

後ろから女の声がかけられる。

クラーセンは背中に嫌な汗が伝うのを感じるや

強張る表情を整え、出来る限り穏やかな顔で振り返る。

 

「…おや、貴女はたしかタントテンポの…何か御用ですか?」

「ええ。私の大事な取引相手を脅かしたんだもの」

 

クラーセンは、手にしたものを見やり、後ずさる。

扉はあちらの背にあり、かと言って、この部屋には窓は無い。

狙撃手対策が完全に裏目に出てしまった。

 

「死んで償ってくれるだけでいいわよ?」

 

そう言う女の眼は、貼り付けたような笑顔に反して全く笑っていなかった。

 

…………………………………………………

 

ジャスレイの宿泊するホテル。

その一室に、鉄華団の二人はいた。

 

「なぁ…オレ達、いつまでこうしてんだろうな?」

 

ジャスレイの隣の部屋でタブレットと向き合うライドがぽつりと漏らす。

 

「ライド、お前はまた…」

 

また愚痴かと思い、苦言を呈そうとするチャド。

しかしライドはそれを遮って話す。

 

「オレさ。最初はオジキのこと全然信用してなかった。CGSの大人連中と同じでさ。名瀬のアニキの言葉がなけりゃあ、たぶん今ここにも居なかった」

「ライド…」

 

その言葉に、チャドの語気は弱まる。

 

「でもさ。勉強してみて、コワモテだけどおっさん達にも良くしてもらって…かなわねぇなって…そう思ったんだよな」

 

殴られることも、理不尽に怒鳴られることも、彼らには日常の一部だった。

それが無いことで、どれだけ心が救われたことか…。

小さい頃の記憶やトラウマというのは、おとなになってからも傷として残るものだ。

それこそ、人格に影響を強く与えてしまうほどに。

 

「そりゃあな…オレ達とあの人達とじゃあ、体格も経験も何もかもが違うからな」

 

チャドは茶化すこともなく、そのまま聞き手に回ることとした。

 

「そんなオレがさ…オジキに出来ることって何だろうって考えた時さ…何にも思いつかなかった。オジキが飛び出したあの時も、何が何だか頭が追いついて来なかったんだ。そんでオレ…ああ、無力なんだなぁってさ…」

 

次第に、声が震える。

 

「ライド…」

「怖いんだよ!!いつか、本当に大切な時にも頭が真っ白になって!!何にも出来ないんじゃあ無いかって、その事ばっかり頭ん中グルグルグルグルしてて…」

 

ライドは頭を抱えていた。

恐ろしいものから身を守るように。

失敗からネガティブな思考に心を引きずられる。

よくあることだが、その衝撃はきっと少年には大き過ぎた。

 

だからこそ…。

 

「ライド!!」

 

泣きじゃくるライドの腕をチャドが掴む。

 

「だから、だからこそ!!ここで学んだんだろう!!鉄華団に知識という財産を持ち帰るために!!わざわざオジキが用意してくれたんだぞ!!きっと、今回の件も含めて!!」

「え?」

「予想外の出来事にも対処できるために、ただ勉強してるだけでもダメだって、きっと身をもって教えてくれたんだぞ!!」

 

その言葉に、ライドはハッとした表情をする。

 

「それを、お前は裏切るのか!?オジキの信頼を!!」

 

チャドの方を見る。

どこまでも真剣な眼差し。

そこに、自身をヒューマンデブリだと卑下していた青年の顔は最早無い。

 

「頼むよって、オレ達のことを部下の人らに教示してもらえるように取り計らってくれたオジキを!!」

 

そんな時だった。

 

「なんだ、聞かれてたんか。ま、別に構わねぇがね」

 

□□□□□□□□

 

何やら隣の部屋から物音が聞こえたから来てみたら…。

 

「オジキぃ…」

 

え?何で泣いてんの?

泣くほど暇だったの?

 

「オジキ、何でここに…」

 

何で?なんでって…ええっと…。

 

「オウ。ちぃっとお前さんらに頼みてぇことがあってよ」

「なになに?何でも言ってよ!!」

「こらライド…」

 

食い気味!!

テンション高いなぁもう。

 

「おう。本格的にオレの護衛の仕事を任せようってな」

 

って言っても、ジャンマルコくんと一緒の時にサンポくん達と一緒にってだけだけど。

いやまぁ、これまでも仕事してもらってはいたけど、これまでは研修生的な扱いだったからなぁ…。

 

「おお〜!!まっかせてよ!!」

「ライド!!すみません、オジキ…」

「いやなに、若ぇのが元気なのはいいことさ」

 

いやもうホント、いい子たちだなぁ…。




さて…クラーセンの運命や如何に!!


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39話

今回は月鋼のとある人物が出てきますよー。


 

発端は、その日の朝のニュース番組だった。

 

ある者はコーヒーを淹れ、ある者は目玉焼きを作り、またある者は二度寝の背徳に身を委ねるそんな時間帯に、それは起きた。

 

「それでは、次のニュースです」

 

整えられた濃紺の髪の毛と、品の良さそうなスーツ姿の若い男性アナウンサーが次のニュースを読み上げようと用紙をめくる。

と、同時に画面外からそのアナウンサーに一枚の紙を手渡される。

どうやら速報が入ったようだ。

 

「えっ……………」

 

それを見た途端にアナウンサーはフリーズ。

その間、およそ三十秒の硬直。

 

「えっ?ちょっコレっ…マジですか?」

 

その言葉に、先ほどの速報が印刷されているのだろう紙をスタッフが回し読みをして、スタジオ内にはざわめきが起こる。

 

「嫌ですよ!!絶対ひんしゅく買う!!」

 

何故かアナウンサーはそれを読みたがらない。

 

しばらく画面には花畑の映像が流れ、その裏で

 

「へ?…読まなきゃクビ?」

 

という台詞が流れたのはきっと偶然では無いだろう。

 

放送局からの勧告に観念したのか、アナウンサーは恐る恐ると言った風に切り出す。

どこかげっそりとやつれた様子だが、気にしない方が当人のためだろう。

 

「え〜…先ほどは大変失礼致しました。それでは速報…です。先日未明…月を訪れていた…木星圏の一大企業『テイワズ』傘下『JPTトラスト』代表を務める実業家ジャスレイ・ドノミコルス氏が…」

 

わなわなと震えながら少しずつ、少しずつ読み上げる。

いたずらに問題を先延ばしにするかのように。

しかし、読み上げている以上、いつかは核心部に触れる。触れてしまう。

 

「何者かに、襲撃…されたとのこと…」

 

止まったような、凍りついたような時間が一分…二分と流れる。

そして、三分もせず放送局にはひっきりなしに問い合わせの電話がかかり、それは一日中鳴り止まなかったらしい。

 

なお、同じようなことが他のニュース番組でも頻発したとか、しなかったとか。

 

その確認は、当然ジャスレイ本人にも向くことに。

 

「それで…オメェ自身は無事なんだな?」

 

心なしか、その声は硬い。

 

「オウ、ピンピンしてらぁ」

「そうか…」

 

いつもと変わらないその言葉に、普段からは考えられないほどの安堵が感じられる。

 

「オヤジ、心配かけてすまねぇ…」

「まったくだ。オメェは相変わらず無茶ばっかしやがってからに…」

「ハハ…返す言葉もねぇよ」

「しばらくはオメェの分のカンノーリは取っとかねぇからな」

「マジかよ!?」

 

通信の相手はマクマード・バリストンはじめ

 

「アニキ!!ご無事ですかい!?」

「今からアニキを撃った野郎を特定して、カチコミましょうや!!」

「戦争じゃあああ!!」

「いや、それにゃぁおよばねぇよ。だが、心配そうにしてくれてありがとうな」

「アニキィィィィ!!」

 

各企業代表や幹部一同

 

「ジャスレイさん!!撃たれたって…」

「ウチの子の名付け親が名付けてすぐに死ぬなんてやめてくださいよホント!!」

「まだ何の恩も返せて無いんですから…」

 

世話をした各企業の社員達にまで及び、確認の通信だけで三日を要するという事態に。

 

「ったく…こんなオッサンひとりそんな心配かねぇ?いや、心配してもらえんのはありがてぇけどよ…」

「ジャスレイさん…またそんなこと言って…」

「おうサンポ。世話かけるなぁ」

 

通信を終えると、コーヒーを持ってきてくれたサンポ・ハクリに礼を言う。

 

「すまねぇな。小間使いみてぇな真似させちまってよ」

「いえ、自分から名乗り出ましたから…」

 

ジャスレイは今、大事をとって取り敢えずロザーリオが我にかえるまでの間はホテルの一室から出ないようにとタントテンポ側に懇願されたのだ。

必然的に関われる人間も限定されてしまう。

サンポがコーヒーを淹れていたのもそれが理由だ。

 

「ボーナスは期待してろよな?」

「ハハ…お手柔らかにお願いしますよ」

「アタシのコーヒーは〜?」

「自分で淹れろ」

 

にべもない兄のセリフにユハナはぶーたれる。

 

「ちぇ〜ケチぃ〜」

 

なお、鉄華団の二人は現在、腕利き数名と入り口付近の警備を固めていたのだった。

 

□□□□□□□□

 

まぁ大事な話自体はもう纏まってるし、阻止する理由も無くなった今、主犯さえ捕まればなんとかなるかなぁ…。

 

「ま、気長に待とうや」

「あら、それには及ばないわよ?」

 

うおう!!ゾクっとしたぁ!!

 

「っ!!」

「アンタどこから…」

「お久しぶり。ジャスレイ・ドノミコルス」

 

げっ…やっかいなのが…。

 

「オメェ…まぁた小遣い稼ぎしてんのか」

「ええ。わたしにも目的があるから」

 

ナナオちゃんかぁ…。

神出鬼没すぎて心臓に悪いんだよなぁ…。

 

「ジャスレイさん、お知り合いで?」

「おう。コイツはナナオ・ナロリナ。まぁ本名かどうかは怪しいが…少なくともこの辺じゃあそう名乗ってるんだと。知り合いっつうか…昔ちょいとな」

 

あんま思い出したく無いんだよなぁ…。

 

「え?なに?オジサンの昔の女?」

「そんないいモンじゃあねぇよ」

「そうねぇ…わたしはフリーランスの()()()兼情報屋。今はタントテンポのブブリオ・インシンナに世話になってるわ」

「そんで?何の用で来たんだ?生憎と茶は出せねぇぞ?」

「ええ。わたしとしても長居する気は無いから気にしなくてもいいわ」

 

ああ〜よかった…。

 

「今回の件のもう一人の主犯の情報…幾らで買う?」

「…なるほど」

 

そりゃあ…興味深いねぇ。

 




ナナオさん登場回でした。

次回からお話が動く…はず。

まち○ドまぞく…急にホラーテイストになるのやめれ。
面白いけど。


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40話

ガンダムで最初に惚れた機体はクイン・マンサ。

再販してくれないかなぁ…。


「ってか、さっきも聞いたけどアンタいったいどっから入ってきたんだよ?」

 

サンポはナナオに改めて疑問を投げかける。

 

「フフ…。イイ女には秘密がつきものなの。坊やにはまだ早いんじゃあないかしら?」

「ぼっ…」

 

ナナオのからかうような言動に狼狽えるサンポ。

 

「ぷ〜、サンポ言われてる〜」

 

ユハナはそれを見てケラケラと笑っていた。

 

「ユハナ…今はオレをからかってる場合じゃあ…」

「ま、別に教えてもいいけどね。どうせ調べればわかることだし」

 

妹をたしなめようとするサンポにそう言うと、ナナオは近くのソファに座り話す。

 

「このホテル、昔はとある貴族のお屋敷だったのは知ってる?わたしはその時の隠し通路を通ってきただけ。そこのおじ様は知ってたはずだけど?」

「えっ?そうなの?」

 

ユハナが意外そうな目でジャスレイを見る。

 

「ん?まぁな。ただ、知ってたっつっても本当に知識として程度だってぇの。そもそも、その抜け道自体かなり昔のモンで、途中で途切れてたり崩れてたりで、結構ひでぇ状態だって聞いたぞ?少なくとも普段から好き好んで通る道でもなけりゃあ、誰でも彼でも知ってるってわけでもねぇ。補修工事するにしても、そこそこデケェ機械が必要なレベルだって話さ」

 

ただ、それをしてしまうと『隠し』通路としての意味はほとんど無くなってしまう。

そもそも、ここをホテルにしようという案も、元々は歴史ある屋敷の保全というところから端を発しているので、一部ならともかく全部建て直しというのは論外。

故にホテル側も顧客に危険がないよう隠し通路の出入り口を塞いだり、いたずらに噂が広まらないよう配慮している訳だが。

 

「だからこそ、こうして入って来られた訳だけどね」

「そんで、この女はそう言う裏道をあらかた把握してるんだと」

「…なら尚更、この女は怪しんだ方がいいんじゃあ…」

 

サンポが訝しげにそう言うが

 

「いや、今回に限っちゃあそれはねぇよ」

 

ジャスレイはそれにそう即答した。

 

「へぇ?どうしてそう思うのかしら?」

 

その反応が気になったのか、ナナオは興味ありげに、そして試すように問いを投げかける。

 

「理由はまぁ、四つある。まず第一に、オレの知る限りコイツの情報を一番高く買ってんのはオレだ」

「まぁそうね」

「あぁ〜…」

 

なるほど、と二人は頷く。確かに金を多く落としてくれる顧客を危険な目に合わせる情報屋もそうはいない。

メリットが無いからだ。

 

「第二に、わざわざテメェの逃走経路を教えるヘマはこの女はしねぇよ」

「ブラフかもしれないわよ?」

「今それをする意味もねぇだろうよ」

 

ジャスレイはナナオの強かさを知っている。

油断ならない人物であることも。

見たところ丸腰だが、油断も過信もできない相手なのはよくよく分かっている。

 

「んで、第三にコイツらの仕事は信用が命なのさ。情報を買った顧客の情報を他所へ流してるんじゃあねえかって思われたらそれだけで立ち行かねぇシビアな世界だ。コイツがそんなリスクを冒すたぁ思えん」

 

世知辛いが、信用が大事なのはどの業界も同じ。

金払いがいい方にコロコロつく傭兵よりも、雇用主から受けた仕事を全うする傭兵の方が信用されるのと同じことだ。

 

「そして第四に、コイツは殺意も殺気も放ってねぇ。それに本気で殺りに来てんならとっくにこの女はお陀仏さ。何故なら…」

 

おもむろに懐から銃を取り出すや、ジャスレイの目が鋭さを増す。

 

「オレがこの室内(射程)で弾を外すことは絶対にねぇからだ」

「あら物騒だこと。それにその銃…随分と古い型式みたいだけど、暴発しない?大丈夫?」

 

興味深そうに取り出された銃を見つめるのは豪胆が故か、或いは絶対に撃たれない打算があるのか。

 

「なぁに心配にゃあ及ばねぇよ。手入れは十全だ。なんせテメェの身を守るモンだからな」

 

ジャスレイとて、別に護衛の二人を信用していない訳ではない。

しかしヤクザ者である以上、万が一には備えておくものだ。

 

少しばかりひりついた空気が二人の間に視線と共に漂う。

が、しかしそれも数分とせずフッ…と霧散する。

 

「…で、情報を買うの?買わないの?さっさと決めてくれない?」

「おう、買うともさ」

 

ジャスレイが肯定の意を伝えるや、ナナオは待ってましたとばかりに数枚の紙を取り出す。

 

「それじゃあ、ここにサインして…それと…」

「分かった分かった。小切手でいいか?部下はみんな今ピリピリしてっからよ」

 

取り出された小切手に書かれた金額に満足そうに頷くと、ナナオはやけに頑丈そうなカバンから封筒を差し出す。

 

「そこにとある男が眠って…いえ、もう起きてる頃合いかしら。まぁ行けば分かると思うわ。念のためにつけておいた発信機と盗聴機の反応からして、逃げてはいないから。まぁ貴方が部屋から出るのを気にするようなら、他に人をやってもいいと思うし」

 

カバンに書類をしまいつつ、帰り支度を整えるナナオがそう言う。

 

「ったく…相変わらず回りくどいことで…」

「当たり前よ、仕事なんだから。はい地図と受信機」

 

そう言うなり、ナナオは回転する壁の向こうへと消えて行った。

 

□□□□□□□□

 

ふぅ〜…なんとか切り抜けたかねぇ。

 

「ったく…相変わらずだな」

「しかし…信じてもいいんですか?あの女の思い違いってことは…」

「ま、なくは無いだろうがほぼゼロだろうなぁ」

 

まぁ、万が一にも渡された情報がガセだった場合はコトだしなぁ。

そこはロザーリオへの尋問の成果次第かねぇ…。

しかし、アイツが目を覚ますより前に情報を売りに来たのはうまいなぁ。

情報は生ものと同じく鮮度が命。

誰も知らないからこそ、その情報に価値がつくわけだ。

それに加えてその情報の真贋を見抜く眼力も必要。

さっさとロザーリオが吐いて情報が腐ることも考えると彼女の決断もわからないでもない。

むしろ、今ならロザーリオから得られた情報の確かな裏付けにもなる。

オレは感心しつつ早速先ほど渡された地図を広げた。

 




クロ○レイズ、気軽に始めたけどムズイ…。

ストーリーを振り返れるのは嬉しいですね。


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41話

某ゲームのガチャ動画を見て、石を貯めようと決意。

世知辛いですわぁ…。


 

ジャスレイはあの後、部下数名に地図を渡してそこへ行くよう頼んだ。

なお、流石に一緒に行くような事を言える空気ではなかった。

今はあてがわれた部屋の中で二つ返事で了承してくれた部下達の帰りを待っている最中だ。

 

「しかしあの女、誰の味方か分からないとか不安じゃあないですか?」

「いや?アイツは常に金払いがいい奴の味方さ。だからこそ商売相手としては一番信用できる」

 

実際、ナナオ・ナロリナという女の働きには目を見張るものがある。

そもそもあれだけ素早く、それでいて正確な仕事を身ひとつで、それもフリーランスでできること自体並大抵のことではない。

だからこそ、ジャスレイからしてみればナナオの提示金額は少々値は張るが、その成果を鑑みるに、十分に妥当なところだった。

 

「ヘェ〜、それってなんかアタシらと似てるねぇ〜」

「そうだな。誰であれ、自分を安売りしねぇヤツは嫌いじゃあねぇよ。オメェらもそれが出来るだけの実力がある訳だしな」

「え、それじゃあ今度の買い物の支払い負担してくれる?」

 

少し考える素振りを見せるとジャスレイは

 

「…オレが出せる範囲ならな」

 

と、そう返す。

 

「やったぁ〜♪」

 

目に見えて喜ぶユハナ。

 

「妹がすみませんジャスレイさん…」

 

それに反してサンポは申し訳なさそうだ。

 

「なぁに、甘えてぇ盛りにそれどころじゃあ無かったんだろう?親代わりってぇ訳じゃあねぇが…まぁ仕事に支障が出ねぇ程度になら、こんくれぇはかまいやしねぇよ」

 

そう言われるなり、サンポはホッとしたような、そうでもないような、複雑な表情をしていた。

ジャスレイは改めてそんな二人を見比べる。

 

冷徹で同時に心配性な兄と、無邪気でしかし打算的な妹。

 

過酷な時代が若すぎる二人を生きるために傭兵業へ駆り立ててしまった。

それに何も思わないジャスレイでは無いが、以前マクマードに言われたように、ジャスレイひとりが気にしてどうなるわけでも無い。

 

何より、彼ら兄妹がこれまで支え合って辿った足跡を、否定するような野暮はしたくなかった。

 

「しかし…いいんですか?オレが言うのもアレですけど、少しばかり甘いんじゃあ?」

「別に誰だって助けるわけじゃあねぇさ。こんな稼業だ。そりゃあこれまで性根がひん曲がってたり、心底まで腐り切った連中なんぞゴロゴロ見てきた。

だが、そん中でも死ぬ気で生きてる奴らがいて、真っ直ぐで腐れてもいねぇ連中がいて、オレにゃあそいつらを助けられるだけのカネも力もあった。だからそうしたってだけのことさ」

 

ごく当たり前のことのようにジャスレイはそう言う。

 

「要するにどこまで行ってもただの自己満。それ以上でもそれ以下でもねぇ。成金の気まぐれとそう変わんねぇだろ?」

 

っつうかそのまんまか。ジャスレイは自嘲気味にそう続けた。

そしてサンポは気づいた。気づいてしまった。

この人はきっと…。

 

「オレには先代のクジャン公みてぇな人徳もねぇ。オヤジみてぇなカリスマもねぇ。テッドみてぇに聡くもねぇ。名瀬のヤツみてぇな甲斐性もねぇし、ラス…バカの野郎みてぇに押し付けがましいまでに正義を割り切ることも出来やしねぇ」

 

かつての自分達と同じに…。

 

「だから、地道にしか出来ねぇんだよ。天才どもの何分の一しかねぇアタマで何年もかけて、何十年でも費やして信用を勝ち得るしか出来なかったのさ。だからこそ分かる」

 

自分自身が好きじゃあないんだと。

 

「ナナオもお前さんらも、オレからすりゃあどっちも十分過ぎるくれぇ信用に値すんのさ」

 

だからこそ、せめて他人を信じたいんだと。

哀しいくらいに、真っ直ぐに。

自分達兄妹が生まれるより以前からの友人の仇を、事実が判明したその場で、感情に任せて撃ち殺さずにいられるくらいに。

 

その後、彼の部下から男を見つけた旨の連絡が入るや

 

「な?」

 

と、朗らかにそう返すジャスレイに、サンポは…。

 

□□□□□□□□

 

なぁんか、途中から二人…っていうかサンポくんが暗いなぁ〜。

アレか。若い子にする話しじゃあ無かったか?

 

ま、まぁもうちょいすればもう一人の主犯とやらがやって来るし…。

 

やべーよ暇すぎて話し相手になってくれてる子達に自分語りするイタイ親父になってるよ。

絡まれるとめんどくせぇ上司みたく思われてないよね?

 

「ジャスレイさん…あの…」

「うん?どうした?」

 

お?なんだい?サンポくん?

 

「オレ…頑張りますから…」

「なぁに、もう十分頑張ってんだろ…」

 

もうナナオちゃんの突撃も無いだろうし。

もうちょい肩の力抜いていいのよ?

ある程度のリラックスはしてないといざって時に動けないし…。

 

「オヤジぃ!!連れて来ましたぜ!!」

「こんにゃろう、部屋入るなり怯え切った目でこっちを見てきてて…なんかあったんですかい?」

 

部下達ナイスぅ!!




さて、連れてこられた男とは…?

場面が変わり映えしなくてごめんなさい…。


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42話

まち○ドまぞく闇堕ち桃かわいい。

ステッキの桃が反転してハートになるとか言ってたひとマジ天才だと思う。


連れられた男は見た目30〜40代、細めの体躯だが、それとは別の理由があるのか、かなりやつれた様子だ。

 

しばらくするとジャスレイの部下達がその男へ尋問を始めた。

 

「テメェが黒幕か!!」

 

ジャスレイの部下の一人が、いきなり男の胸ぐらを掴み上げるが

 

「ち、違う…」

 

と、男は否定する。

 

「あん?じゃあなんであの女は…」

「落ち着け…これからロザーリオに引き合わせる以上、ここでそんな嘘をついても意味はねぇ」 

 

ジャスレイが言うと、部下は頭を冷やしたのか男を一度床に下ろす。

 

「オヤジ…じゃあなんで…」

「まぁ待て…オメェ…黒幕が誰か知ってんのか?」

 

ジャスレイは部下を一度静止すると、静かに問いかける。

 

「し…知ってる!!喋る!!喋るから…命だけは…」

 

この男、必要以上に恐れすぎている気もする。

 

「分かった分かった。オメェが話したことがロザーリオにも確認して事実なら考えてやるよ。そんで?黒幕の名前は?」

「ヴィ…ヴィル・クラーセンだ!!ただ、どんな野郎だったかは今日呼び出されたヤツの隠れ家で初めて知ったんだ!!本当だ!!」

「ほぉ…ソイツとはどこで知り合った?」

「安酒場で、職を失ったことをメソメソしてたら隣に座ってきて…割のいい仕事があるからって…番号を渡されて…」

「仕事を受けたのは今回が初めてか?」

「いや…前にも何度か…」

「業務内容は?」

「ふ…封筒をポストに入れたり…見るからにヤベェ真っ赤な袋を運ぶ仕事とか…明らかにマトモな内容じゃあ無かった…で、でも生きてくためだったんだ!!仕方ねぇだろ!!」

「なるほど…」

 

要するに、クラーセンなる男は赤の他人にカネで汚れ役をさせていたわけだ。

 

「今回呼び出された理由は?」

「し…しらねぇ!!そもそも呼ばれたのだってはじめてで、ただ…確かに身入りは良いけど危ねぇ仕事ばっかだし、今回を最後の仕事にするって言ってたら、こう…後ろからガツン!!と…」

「何だそりゃあ…」

「…あぁ、なるほど」

 

そう言うや、ジャスレイは合点の言ったような顔をする。

 

「えっと…どう言うことですかい?オヤジ」

「要するに、クラーセンって野郎はコイツを口封じついでに影武者に仕立てようって魂胆だったんだろうさ」

「っ…じゃあ本物は今頃…」

 

部下達が慌てふためき出しそうになったその時

 

「い、いや…それはねぇよ。断言できる」

 

そう、影武者は言う。

 

「なんでそう言い切れる?」

「い、いや…だって…」

 

男はなにやら言い淀む。

 

「言いにくいことか?」

「言いにくいっつーか…トラウマに…」

「いいから話せや!!オヤジの手を煩わすんじゃあねぇ!!」

「ひぃ!!」

 

声を荒げるジャスレイの部下にたじろぐ男。

 

「ありがとよ。だが落ち着け」

「何でそう言い切れるのか…教えてくれるか?」

「こ…殺されたからだよ。オレの目の前で…あの眼鏡の女に洗いざらい吐かされて…」 

 

そして、震える手で渡される証拠のディスク。

恐らくナナオ側もデータのコピーはしてあることだろう。

一同はそれを聞くために一度部屋を移動する。

 

「…なるほどなぁ。それでロザーリオを…」

 

録音された声の男が言うには、ロザーリオとは以前より面識があり、利があって今回の件の手引きしたとのこと。

 

今回のこと以外でも、叩けばいくらでも埃が出てきそうな男だが、ここからはギャラルホルンの領分。

ジャスレイがああだこうだ言うと要らぬ軋轢を生んでしまいかねないだろう。

影武者の男は死んだと言っていたが、ジャスレイにはどうにも腑に落ちない。

 

黒い仕事の後処理に他人を使って…話す時はいつも電話越し…。

そこまでする男が何故名を明かす?

いや、それは相手を信用させるためだとしても、明らかにきな臭い。

何かを見落としているような…もしかしたら、クラーセンとやらが関わっているのは…。

だがジャスレイは今回はまず、ロザーリオの件だ。と頭を切り替える。

 

「…とりあえずこのディスクはロザーリオ尋問の後、信用できるスジに預けることにする。異論は?」

 

□□□□□□□□

 

ナナオちゃん…結構バイオレンスなとこあるのね…。

まぁ、欲しかった情報は入手できたし、取り敢えずは良しとするかねぇ。

 

「だが、なんだろうなぁ…」

 

この…間違い探しで最後の一個がず〜っと見つからない時みたいなモヤモヤ感は…。

どっかで…。

いや、そもそも今回渡された情報だけが全部って決めつけるには…。

じゃあ仮に残りの情報があったとして…。

それを高く買い付けそうな奴なんて…ゆするネタが欲しいヤツか、さもなきゃあその情報が広まって困りそうなヤツ…!?

 

「まさか…」

「オヤジ?」

「お前らが向かった時、クラーセンの野郎の死体は!?」

「い、いえ…あの情報屋が片付けたのか、コイツ以外ホントにもぬけの殻で…」

 

あんにゃろう…。

 

その時思い浮かぶのは蛇の家紋の頑固バカだった。




あんにゃろう…いったい誰のことなんだ…?


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43話

あんにゃろう視点です。


ギャラルホルンが誇るアリアンロッド艦隊の、その旗艦。

普段はエリート兵達が行き交うそこには珍客が訪れていた。

 

「はい、ご注文のものよ。確認して」

 

兵士たちが周囲で目を光らせる中、その女は平然と振る舞う。

手渡されたチップを確認するや、男はそれを懐にしまう。

中身は聞かずともわかる。

以前より経済圏を掻き乱していた男、その裁けぬ罪のありかだ。

 

「礼を言うナナオ女史。これで我がアリアンロッドの領域がまたひとつ清められた」

「アリアンロッドの…ねぇ?」

 

ナナオは意味ありげに笑みを深める。

 

「何か?」

「てっきりわたしは、あのお友達の気苦労を減らすためかと思ったのだけど?」

「まさか」

 

ナナオのカマ掛けにも男はそう、即答する。

 

「私はいつでも、ギャラルホルンによる正義と秩序を信じている。そのために多少の犠牲が出ることはあるがね」

 

それはギャラルホルン内部に於けるセブンスターズの重責故か、それとも彼の人間性故の発言か…。

 

「思ったんだけど…」

「何かね?」

「あなた達って、別方向に不器用よね」

 

「別方向に器用とも言えるけど」と、ナナオはそう続ける。

 

「………」

「そう睨むこと無いじゃない。別にあなた達の過去を詮索しようなんて思ってないわよ」

「女史、あまり紛らわしい言動はするものでは無い。特にここは我が庭も同然なのだから」

「ご忠告どうも」

 

ナナオはそう言うなり、背を向け特に躊躇うこともなくさっさと立ち去る。

それを見送るなり、男…ラスタル・エリオンは椅子に腰掛ける。

 

「フゥ〜…」

 

目を閉じ、ラスタルが思い出すのは十年かそこら前の出来事。

 

先代クジャン公の葬儀がつつがなく終わり、しばらく後のその年のイオクの誕生会の時ことだ。

 

……………………

 

ガシャァァァン!!

立食パーティーの会場に、用意された贅を凝らした料理が床に散らばる。

ジャスレイは一人の男…久々に会った親友の頬を思い切り殴りつけていた。

 

「口を開きゃあ先代先代…なんで今のイオクを見てやらねぇ!?」

 

殴られたラスタルは机に寄りかかりながら、立ち上がって吠える。

 

「根なし草には分かるまい…セブンスターズの家に生まれると言う、その意味を…ギャラルホルン三百年の歴史を背負うその重荷をな!!」

「ああ、知らねぇなぁ!!テメェのエゴのために子供まで振り回す連中のことなんぞ知りたくもねぇわい!!」

 

双方、興奮冷めやらぬ様子。

珍しく本気で睨み合う二人に、周囲はオタオタと戸惑うばかり。

文句を言おうものなら殺されかねないほどの威圧感に何を言うのも、何をするのも出来ずにいる。

結果論ではあるが、親を亡くして間もないイオクの心情を鑑みて内内の集いにしたのは当時の二人にとっても、来客達にとっても僥倖だったろう。

 

「お前こそ分かっているのか!!先代が最後の最後、イオクを頼むと…そう仰っていた意味を!!」

「そんで、頼まれた結果が籠の鳥かよ!?そんなこと先代が望んだことじゃあねぇだろうが!!過保護か!!もっと広く、大きく、世界を知ってこそ当主の器ってぇのは育つもんだろうがよ!!」

 

ラスタルは俯き、噛み締めるように目を瞑る。

そして、静かに自身の腹の内を語る。

 

「…イオクは無知でいい。無垢でいい。

イオク自身が何もせずとも、私が彼の道を作る。

成長も、私がその都度促し剪定しよう。

我らが恩人の子を、むざむざ危険な目に合わせる必要もなかろう」

 

ラスタルはジャスレイを真っ直ぐに睨みながら、ただ静かにそう言う。

しかし、その言葉はジャスレイには逆効果だ。

 

「そりゃあ本気で言ってんのか!?テメェの言ってることは一見アイツのことを考えてるようでいて、要はテメェの押し付ける都合に全肯定する操り人形にしようってことじゃあねぇかよ!!先代がそんなことのために、イオクを遺した訳じゃあねぇこたぁ、ちっとでも考えりゃあ分かるだろうが!!」

「…全ては先代の理想がため。『恒久的な平和な世』のためだ。

そのために、私もギャラルホルンも、より一層強くなければならぬ。

先代のなし得なかった夢の実現のため、その大義のために!!」

「なぁにが大義だよ。ギャラルホルンの内部の腐敗具合見てみろや!!側から見てもひでぇぞ!!そん中に何も知らねぇ、何も教えられてねぇ幼子ひとり放り込もうってぇのか!!まさか毎回毎回、金魚の糞よろしく近くにくっついてようってわけじゃあねぇよなぁ!?」

 

言い争いは徐々にヒートアップし、とうとう掴み合いにまで発展。

最早食事をする空気でも無く二人が睨み合う傍ら、落ち着きを取り戻した使用人たちによって客人は別室に案内される。

 

「ならば、私がギャラルホルン内部での立場を確立し、その腐敗した奴原をまとめて一掃するまでのこと!!」

「そりゃあテメェのエゴってモンだろうが!!先代はなぁ…ただイオクが健やかに育って、そんでちっとでも世界を良い方に持ってってくれたらって…叶うならオレらにも内から外からその手伝いをしてやって欲しいって、そんだけだろ!!仰々しい流血の上の平和なんぞ、あの穏やかな先代が望むと本気で思ってんのか!?」

「先代には出来なかった。だから、私がやるのだ」

「テメェ…それが本音か!?昔、優しい顔で大事そうに赤ン坊の頃のイオクを抱いてたのは…アレは嘘だってぇのか!?」

「世界は優しさだけで出来ているわけでは無い!!多くの欲望があり、葛藤があり、悲哀があり、絶望があるのだ!!そしてそれらはどうしても消せぬ!!ならばせめて力で以って、その管理をしようと言うのだ!!私は!!」

「泣いてた当のイオクはほったらかしか!!」

 

その言葉に、ラスタルは一瞬ハッと驚いたような表情をすると、先ほどまでの威勢はどこへ行ったのかただ呆然とする。

それを見たジャスレイもまた、驚いた表情をしたかと思うと、気が削がれたのか怒りも鳴りを潜める。

 

「…もういい、イオクはオレが預かる」

 

そう言うなり、ジャスレイは散らかった部屋を後にした。

 

「そんなわけだ。イオ坊、ここを出るぞ」

 

いつの間にやら、扉の外にいた幼き日のイオクは、ジャスレイが先代に似たその優しい目を覗くと静かに首を横に振る。

話していた内容は子どもにはよく分からなかったが、扉の奥で落ち込んでいる優しい叔父御は自分が離れてはきっと泣いてしまうと、そう言外に言っていたから。

 

「…そうかい」

 

ジャスレイは、そのイオクの意を汲んだようにそう短く返す。

そして、ラスタルが覚えている最後に聴いた言葉は

 

「悪りィな」

 

と、誰に向けてかも分からぬ謝罪だけだった。

 

……………………

 

「不器用など…とうの昔に分かっている」

 

ぽつりと、そう言った言葉は誰の耳に届くでも無かった。




過去編もちょびっと。

齟齬があったら以下略。


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44話

太閤立○伝5 Switchで出てたの知らなかったです。

DL版でやっていきます。


その日、しばらく使われてていなかったプライベート回線に通信が入る。

それに出る男…ラスタルは懐かしさを噛み締めると同時に髪と髭を軽く整え、毅然と格好を正して護衛の兵にも外で待機するよう命じる。

 

そして、勿体ぶるように少しだけ間を開けると意を決したように回線を開いた。

 

「よう。元気そうで何よりだ」

 

果たして、目の前の画面に映った相手は思った通りの男だった。

 

「手間ぁかけさせたな」

 

それが何のことか、問うまでもない。

 

「驚いたな」

 

ラスタルはとぼけること無く率直に思ったことを伝える。

 

「あん?」

 

その言葉に相手…ジャスレイは顔を顰める。

 

「お前のことだから、てっきりあの男の身柄を寄越せと乗り込んで来るかと思ったが」

「フン。そこまで馬鹿じゃあねぇつもりだよ」 

 

ジャスレイもまた、そんなことかと鼻を鳴らす。

 

「オレだって越えちゃあいけねぇ領分を勝手に踏み越えて駄々こねて、目に見える面倒な揉め事を起こすほど短慮じゃあねぇつもりだよ。だが…」

「だが…なんだ?」

「一つ聞かせろ。あのクラーセンって野郎…何で泳がせてた?」

「………」

 

沈黙。

 

「ダンマリは無しだぞ?」

 

念を押すように、問い詰めるように、そう聞く。

 

「こちらとしても、あの男は以前よりマークしてはいた。いたのだが…」

「あいつの証拠処理能力の高さを甘くみてたと?」

 

それには答えず、ラスタルは続ける。

 

「今回、あの男の足跡を見つけられたのは本当にたまたまだった」

 

何せ、まさかジャスレイに彼の協力者が噛み付く事態になるなど流石のラスタルでも予想だにできなかったのだ。

ただ、そのおかげもあって裏で暗躍していたろう彼の影が少しばかり浮き彫りになった。

そして、その千載一遇の機会を棒に振るラスタルでは無い。

決して安くは無い金を払って月に潜入させていた最も有力な情報屋数名に、騒ぎに乗じて密かに動くよう依頼し、それをどこで聞いていたのか、ブブリオの側にいたナナオからも話を持ちかけられ、それを了承した。

結果、彼女が大物を釣って来たわけだが。

 

「元々こちらでは黒い噂の絶えなかった男だ。…お前が相手だから言うが、実のところギャラルホルン傘下の家も、幾つかヤツとその一味と思しき連中の餌食になっていてな。ならば、あれ以上あの男を放置していたらそれこそギャラルホルンの名折れ。年寄り連中が過去に一度つけた結論は変えられずとも、せめて黒幕を法をくぐり抜けた先で処分するのはお前たちの言うところの通すべき当然のスジだろう?」

「要するにオレは釣り餌にされたってぇわけかよ!?」

「結果としてそうなっただけだ。それに…」

「それに何だよ?」

「お前はあの程度では死なんさ」

「嬉しくねぇ信頼のされ方だなぁオイ!!」

 

だが、先の証言に加えてラスタルの言葉によって疑念のいくつかは解消される。

まずロザーリオがジャスレイ相手に焦ったこと。これがクラーセンにとってのケチのつきはじめなのは間違いない。

その対応が遅れたのも、ラスタルが裏で幾らかの手引きをしていたから、と考えれば合点もいく。

 

「ま、この借りはいつか返すからよ、首を長くして待ってな」

「勘違いするな。私はアリアンロッド艦隊を預かる者としての責務を果たしたに過ぎん。まぁ…お前たちのことがなければクラーセンの尻尾は掴めなかったのでな。こちらとしてもその点は感謝してやってもいいが」

 

あくまで上から目線な物言いに、ジャスレイもムッとして返す。

 

「カァ〜!!感謝の言葉くれぇ言うのも受け取るのも素直に出来ねぇのかオメェは!!」

「当たり前だ。私にも立場というものがある」

「オレだってそれなりに立場があるっつぅの!!そもそもこれプライベートの回線だろうが!!ヘンな見栄張ってるんじゃあねぇよ!!」

「公私共に優れてこそ、セブンスターズ当主としての…」

「もうそういう談義はいいわ!!この石頭!!」

 

そういうなり、ジャスレイは勢いよく通信を切ったのだった。

 

□□□□□□□□

 

黄金のジャスレイ号内の通信室、通信を切ったオレは椅子に体重を預ける。

 

ったく…。

せっかくリアリナ嬢に無茶言って一人にしてもらったってェのに、格好も何もつきゃあしねぇなぁ…。

まぁ欲しい情報や合点のいくことも幾らかはあったし、他にもなんかあるようなら仕事ってことでそっちの回線に連絡も来るだろうし。

 

「ま、昔っからそういうところはあるヤツだったがねぇ…」

 

まぁ、イオクくんの手前そこまで揉めるわけにはいかんし…。

 

いい格好しぃはお互い様だよなぁ…。

 

「オヤジィィ!!」

 

うおう!?いきなりドア開けるのビックリするんだけど!?

 

「おう?すまねぇな。心配になるまで待たせちまったか?ちょうどいま通信も終わったとこだぜ?」

「それは、別に構わねぇですけど…あっ!!ロザーリオの野郎が目ェ覚ましましたよ!!」

 

…タイミングもいいなぁ。

 

「にしても、ナナオのヤツ…ホンット、油断なんねぇなぁ…」

 

やっぱ女って怖いわぁ…。




でも…コレって6は出ないよって事なんですかねぇ…。


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45話

アスタロトオリジン…買えなかったですわ…。


「ここか」

「ええ」

 

ジャスレイは部下と短いやりとりをすると、スッとドアに軽く握った手を向ける。

コン…コン…。

ノックの音が室内に転がり込む。

 

「入ってくれ」

 

短くそう返す声に、ジャスレイは

 

「邪魔ぁするぜ?」

 

と言って入室する。

 

「オウ、目ェ覚ましたんだってな?」

「…………」

 

無言で返すのは、ロザーリオ・レオーネ。

ジャスレイに命を助けられたタントテンポ六幹部の一人。

心なしか、その眼光はだいぶ和らいでいるように思える。

 

「オレがここに来た要件は分かってんだろ?」

「まぁ…そうだな」

「そんじゃあ起き抜けに悪りぃが、改めて、オメェの知ってることを喋ってもらおうか?嫌だとは言わねぇよな?」

 

脅しをかける、と言うよりは念を押すような物言い。

それにロザーリオはハァと一息つくと

 

「…もともと、オレはあの時死んだようなモンだ。構いやしねぇさ」

 

そう返したロザーリオに、ジャスレイとその部下達が幾つかの尋問をした結果、襲撃時に得られた動機と、ナナオによってもたらされた情報とのすり合わせ、今回の件のおおよその実像が見えて来た。

そして、その報告と情報の共有のためにジャスレイが護衛を連れてタントテンポ新頭目に就任したばかりのリアリナを訪ねる。

だが…。

 

「リアリナ嬢?」

「…なによ?」

 

タントテンポ本部ビルの最上階、その最奥部の部屋にて、リアリナはむっす〜〜と不機嫌そうに細められた勝ち気な瞳がジャスレイを見据える。

まぁ、それも当たり前と言えば当たり前だろう。

何せ、やっとの思いで頭目になって、さあこれからだという第一歩からいきなりジャスレイにおんぶに抱っこだったのだ。

それに加えて、先ほどのラスタルとの通信も「こっからは大人の時間さ」と、あからさまな子供扱いを受け、自分では何も出来なかったのだ。

元より、リアリナ・モルガトンという少女は意外と言うべきかやはりと言うべきか人一倍気位が高い。

更に…。

 

「せっかくおじさまに恩を返せると思ったのに…」

 

と、気落ちしていたのも大きいだろう。

口には出さないが。

 

「そうむくれんなって」

「別にむくれてなんてないわよ…」

 

リアリナはそう答えるが、ぶーたれた表情でそう言っても説得力は無い。

こういうところは年相応というか、微笑ましいものがあり現にジャスレイもその対応に怒るよりも親戚の子どもを見守るように微笑んでいる。

尤も、両脇に控える二人…特にヴォルコは終始ヒヤヒヤしている様子ではあったが。

 

「まぁ、今回ばかりはしゃあねぇさ。まさかギャラルホルンも絡んできてるなんてよ」

 

ジャスレイは真面目な顔をしてフォローに入る。

正直言って、こればかりは今の彼女の手には負えないものだ。

それは当人の才能云々よりも経験がモノを言う事柄だからだ。

仮に、いきなりこの急場を凌ぐ案を示せるのならそれこそ天賦のものだ。

普通は持ち合わせていないし、彼女もその例には漏れなかったというだけのこと。

そもそも一人で、或いはたったの二、三人で何でもできるようなら部下も組織も端っから必要は無いのだ。

 

「ま、あとはこれからのことだな」

 

これからリアリナのすべきことはごまんとある。

各方面への挨拶回りに始まり、新たに雇用希望者が出て来れば、その把握と斡旋はもちろんのこと、管理職としての目を通すべき資料も少なくない。

また、ジャスレイが後ろ盾についているとは言え、その本人がいつまでも月にいられない以上、彼に頼らない幹部達との信頼関係の構築も欠かせない。パッとあげただけでもこれだけあるのは、以前ジャンマルコが言っていた通りのことだ。

 

「ま、無理のねぇ範囲で頑張んな。なんなら、オレのところからも頼れる部下を数人置いてくからよ」

「オジキは、これからどうすんだ?」

 

ジャンマルコがそう、問いかける。

 

「そうさなぁ…まずは鉄華団の二人を地球に届けて…」

「えっ?」

 

その言葉に、ライドは驚きの表情を浮かべると、焦るようにジャスレイに突っかかる。

 

「オジキ!?そんなこと聞いてねぇよ!?」

「うん?なにも不思議なこたぁねぇだろ。お前さんらの当初の仕事はオレを月まで護衛すること。それが済めば、地球で他の面々と合流するってのは当然のことだろ?」

「ライド、知らなかったのか?」

 

チャドも、驚いたようにそう言う。

 

「だけど…」

 

ここを離れがたいのか、言葉に詰まるライド。

その頭をポンポンと撫でながらジャスレイは言う。

 

「ま、これで今生の別れって訳でもねぇ。それに、手土産はタントテンポに向けてだけじゃあねぇさ」

「え?」

 

部下に目配せすると、そのひとりがタブレットを持ってやってくる。

数度の操作の後、出て来たのはジャスレイの言っていた『手土産』だ。

 

「コレは…」

「おう。コレを届けてやって欲しいのさ。あの三日月ってヤツによ」

「三日月さんに?」

 

そう言うなり、ジャスレイは頷く。

 

「おう。きっと役に立つはずさ。これが、オレからお前さんらへの次の依頼さ。頼まれてくれるかい?」

「でも…」

「ライド、オジキの信頼を裏切るのか?」

 

チャドのその言葉にハッとすると、ライドはしばし目を泳がせ…。

意を決したように、自らの頬をパンパンと叩く。

 

「まっかせてよ!!オレ、頑張るからさ!!」

「おう。頼りにしてるぜ?」

 

満足げに頷くライドの頭を再びくしゃりと撫でるとジャスレイはリアリナに向き直り問いかける。

 

「リアリナ嬢…」

「なによ?」

「お前さんの親父…テッド・モルガトンの背中はデケェぞ?恐らく、お前さんの考えてる以上にな」

「……分かってるわよ」

 

親を誉められた嬉しさからか、或いはまだまだ未熟な己を恥じてか、リアリナは複雑な表情を浮かべる。

 

「長年ダチやってたオレが言うんだ。ま、信じるも信じねぇも自由だがな?」

 

そして、ジャスレイにはそれがとても懐かしくまた、眩しく見えたのだった。

 

□□□□□□□□

 

ふぅ…。とりあえず、これで月の件はひと段落ついた感じかねぇ。

 

問題は…思った以上に出費が嵩んだことだけど。

まぁ、今更オレのサイフはどうでもいいか!!

 

アレだから、どうせ忙しくって遊んでる余裕とか無いから。

 

全然個人的な買い物とか出来てないけど、気にしてないから。いいモノを長く使いたいってだけだから。

 

しばらくはまた安酒の日々よ…。

ヘヘッ…。

 




かち○ドまぞく、もんもかわええですなぁ。


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46話

鉄華団視点。

多分初かな?

時系列はちょっと前です。


鉄華団の保有する強襲装甲艦イサリビ。

その船内の食堂にて、数名の若者達が休憩がてら話し込んでいた。

 

「そういやぁ…チャドとライドの二人、そろそろ帰ってくるんだっけか?」

 

そう言うのはノルバ・シノ。

鉄華団内でも比較的明るく、ムードメーカーのような立ち位置にいる。

なお、モビルワーカーの操縦も達者で、CGSの頃は三日月・オーガスに及ばずとも十分に参番組のエース格と言える実力者だ。

 

「あぁ、予定通りにことが運べばオレらが地球に着くのと同じくれぇで合流出来るはずだ」

 

淡々と返すのは昭弘・アルトランド。

寡黙で、多くを語らないタチではあるが、シノ、三日月の二人と同じく元CGS参番組エースであり、現在ジャスレイのところで世話になっているチャドと同じくヒューマンデブリ…要はカネで安く売り買いされる人間ではない道具として消耗品の扱いを受けていた。

 

「しっかし…あのオッサン、信用していいもんかねぇ…」

 

スプーンを片手に持ち、机に肘をついてそう疑念を口にするのはユージン・セブンスターク。

基本的な能力こそ高いものの思慮に欠け、鉄華団現団長であるオルガに意見することも多い。

 

「名瀬のアニキが心配ねぇって言ってたんなら、大丈夫なんじゃあねぇの?」

「いやぁ、実際わっかんねぇだろ?案外アゴでこき使われてるかも…」

 

机に身を乗り出してそんな事を言うユージンだが、それも無理もないことだ。

何せ、彼の知っている大人と言えば、CGS時代の自分達を常日頃イライラの避け口にした挙げ句に見捨てようとした最低の連中でほぼ固定されてしまっているのだ。

急に例外的な大人がやって来たから態度を改めろと言う方が無茶な話だ。

 

「そういやぁ、三日月のヤツはあのオッサンと話したんだよなぁ?」

 

シノが思い出したように、この場にいないもうひとりの仲間の名前を出す。

 

「そうだったっけかぁ?」

「ほら、オレらがテイワズの傘下に入った儀式のあとの。あの宴の時の…」

「あぁ〜!!あの帽子の…全っっ然偉そうに見えなかった…」

「なら、なおのこと怪しいよなぁ〜…案外、今の地位もカネで買ったもんだったりして…」

 

ユージンがそういうと

 

「……あんまり憶測でモノを語らねぇ方がいい。年少組連中が鵜呑みにしてデマが広がれば、せっかく仕事を紹介してくれた名瀬のアニキにも迷惑をかけることになる」

 

たしなめるように、静かに昭弘はそう言う。

 

「うっ…だけどよぉ…」

 

図星をつかれたのか、ユージンが言い淀んだちょうどそのタイミングで、彼らの団長から声がかかる。

 

「お前らぁ!!メシ休憩そろそろ終わんぞ〜!!」

「わぁってるよ〜!!」

「さ〜て、仕事仕事〜♪」

「…………」

 

その後すぐに三人は食堂を出て行った。

 

「ったく…アイツら…」

 

入れ替わりに食堂に入るオルガとビスケット。

 

「でも、あの三人の懸念は尤もだと思うよ?」

 

「よいしょっ…」と、オルガの向かいの席に着くなり、そう言うビスケット。

 

「ビスケット…」

 

そのことには、オルガ自身思うところはあった。

鉄華団は現状、オルガを中心によくまとまっている。

それ自体はとてもいいことだ。

しかし、それは裏を返せばオルガ一人にかかる負担がかなり大きいと言うことでもある。

鉄華団の現状は良くも悪くも、一枚岩といえる。

しかし、内務面…鉄華団のサイフはCGS時代の会計士デクスターと、彼から学んでいるビスケット、そして助っ人で外部からやって来たメリビットでどうにかと言ったところだ。

実際、ここ数ヶ月でオルガは鉄華団に足りないものが何なのか、薄々とだが見えてはいた。

しかし、自身の学の無さからどうしたらいいのか分からなかった。

勢いに任せて一足飛びにたまたま成功を収めたところで結局後から飛ばした分の埋め合わせはしなければならない。

今回の依頼はかなりの千載一遇だったから飛びついたが、オルガの目の前に座るビスケットはそもそもこの仕事を受けることも最初は渋っていたくらいだ。

 

「せめて、ジャスレイさんのところに向かってくれたあの二人がちょっとでも学をつけてくれればねぇ…」

 

食事をしつつも、ビスケットは考えを巡らせる。

 

「どうだろうなぁ…。そんなことしたって少なくともあっちにゃあメリットはねぇだろ?」

「あはは…全く無い訳じゃあ無いと思うけど…」

 

ビスケット、そしてオルガから見ても、決して少なくない金銭援助をしてくれた以上、感謝しているし、信じたいと思う気持ちはある。

そして、それを分かっているからか、鉄華団内部にもジャスレイに対して露骨に悪感情を抱く者はそうは居ない。

だが、そうでない者達も居ないわけではないのだ。

 

「だが…」

「なに?」

 

急に真剣味を帯びるオルガの言葉に、ビスケットは苦笑を止めて視線をそちらに向ける。

 

「もし、オレの家族も同然の鉄華団団員をこき使おうってんならそん時は…」

「…オルガ」

 

短くそう呼ぶビスケットの声に、オルガはハッとする。

 

「悪リィ…」

「まぁ、まずは信じようよ。ジャスレイさんとあの二人をさ」

「…そうだな」

 

ジャスレイ襲撃のニュースが鉄華団のところに飛び込んできたのはその直後のことだった。




そう言えば、鉄華団から見たジャスおじを書いてなかったなぁと思い書いてみた所存。

齟齬があったら申し訳ない。


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47話

一番○じ…バルバトス…出なかったです…orz

バルバトスのMG…買おっかなぁ〜…。


タントテンポ本部のあるアバランチコロニーのドックにつけた『黄金のジャスレイ号』船内に、ジャスレイ・ドノミコルスの声が響く。

 

「そんじゃあオメェら、出発準備は出来たかぁ?」

「もちろんですぜオヤジ!!」

「いつでも出られまさぁ!!」

「抜かりはありませんや!!」

 

部下達は我先にと言葉を返し、それにジャスレイは満足げに頷く。

 

そうして、ジャスレイが『黄金のジャスレイ号』の入り口で諸々の確認も終えてドックの方を振り向くと、見送りに来たタントテンポの代表数名が名残惜しそうにしている。

他にも来たがっていた連中も居たようだが、時間的にいつもの数名だけでの挨拶になった。

 

「行かれるのですね…」

 

ヴォルコは、少しばかりくたびれた様子でそう言い、リアリナはまたもやブスッとした顔をする。

そしてアルジはその様子を苦笑しつつ、眺めていた。

 

「おう。わざわざ見送り感謝するぜ」

「別に、もうちょっといてくれても全然…」

「すまんな。こっちの都合でなぁ…ま、機会があればまた寄らせてもらうからよ」

 

ぐずるリアリナを宥めつつ、ニコニコとそんなことを言うジャスレイ。

 

「それによ。もしなんかトラブルが起きても、お前さんらなら問題無く切り抜けられるさ。自信持ちな」

「おじさま…」

「リアリナ嬢…なぁんか、いつもよりしおらしくねぇか?」

「シッ…これ以上お嬢の機嫌を損ねるようなこと言うな…」

 

アルジがこれ以上変なことを言う前に、ヴォルコはアルジを杖を持たない方の肘で制する。 

 

「なんだよ?」とアルジが突っかかるも、ヴォルコは呆れたようにため息をひとつ。

いつものちょっとしたじゃれあいを一同が見守っていると、ジャンマルコが前に歩み出て確認するようにジャスレイに話しかける。

 

「オジキ、後のことは…」

「おう、任せた。頼りにしてるぜ?ジャン坊」

 

ニッと笑ってそう答えるジャスレイに、ジャンマルコも

 

「任されたぜ!!」

 

と、自信家な笑みで返す。

 

「え〜〜……オジサン行っちゃうの〜?」

「悪りぃなユハナ」

 

いつになく落ち込んだ様子のユハナにジャスレイは詫びを入れるが…。

 

「へへ〜ん。そんなに悪いと思うんならこの代金全部支払って〜♪」

 

いつの間に出したのか、ユハナはニッコリしつつ書類の束を見せつける。

 

「お前さんら兄妹への報酬分はもう滞りなく支払っただろ?ったく…ユハナもいつも通りで何よりだよ」

 

ジャスレイはつい帽子を抑えて、苦笑い。

 

「す…すみませんジャスレイさん…」

 

それに釣られるように謝罪の言葉を述べるサンポ。

もはやその流れはいつの間にやら一種の様式美になっていた。

 

「いや、しんみり見送られるよりはいつも通りの方がいいさ。互いに、ヘンに気取らねぇで済むからよ」

 

そうして、ジャスレイとタントテンポの面々が別れを惜しみつつ二、三談笑していると

 

「オジキ〜〜!!早く早く〜〜!!」

「こらライド…もう少し待つってことをだな…」

 

早く仲間に会いたいのか、急かすように船入り口に立つジャスレイに駆け寄るライド。

 

「オウ。もうちょいだけ待っててくれなぁ」

 

ジャスレイはライドの方を向いてしゃがむと、わしっと軽く頭を撫でる。

 

「そんじゃあ、オメェら達者でなぁ」

 

ジャスレイがすっくと立ち上がり、軽く手を挙げるのとほぼ同時、入り口のハッチが閉まりはじめる。

そうして、テイワズのNo.2を乗せた『黄金のジャスレイ号』は、一路地球へと舵を切るのだった。

 

□□□□□□□□

 

ふぅ〜…どっこいしょ。

 

さ〜て、こっからだぞ〜?

待ちに望んだ鉄華団との友好関係構築の鍵は。

ふっふっふっ…。

この時のために一体いくら出費がかさんだことか…。

鉄華団にだけすると不自然だからテイワズの傘下が増える度に資金援助をし…。

万が一にも人員に取りこぼしがあると嫌だから各地の『JPTトラスト』の支社やその倉庫に食料や物資目当てに忍び込む孤児達やチンピラの内、やる気のある子らをウチで抱え込んでイチから教育して…。

 

「ねぇねぇオジキ!!団長達、今のオレ達見てビックリするかなぁ〜〜!?」

 

いやぁ〜ライドくん。側から見ても分かるくらいワクワクしてるなぁ。

 

「おう。きっと立派になったって褒めてくれると思うぜ?」

「ヘヘッ、そうかなぁ〜」

「こらライド。あまり調子に乗って、痛い目見ても知らないぞ」

「そう言うチャドだってそわそわしてんじゃ〜ん」

「なっ…いやオレは…別に…」

 

年相応に仲良くケンカする二人を、部下達も微笑ましそうに見守ってるしなぁ…。

いやまぁ、ホント。

二人とも立派になってなぁ…。

本人の努力って大事ねやっぱ。

 

……三日月くんもお土産気に入ってくれるといいんだけどなぁ…。

 




まぁ、そんなこんなで月鋼編はここまでです。

まだまだイベントは盛りだくさんですが、全部やると地球の鉄華団に追いつけないからね。しょうがないね。

なお、月鋼のキャラ達は普通にちょいちょい再登場するとは思います。


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48話

フラウロスとレギンレイズジュリア…そしてキマリスヴィダールにバエルと…楽しみすぎますねぇ。


月を出発した『黄金のジャスレイ号』は、特に大きなトラブルも無く地球へとたどり着くことに成功した。

 

「チャド・チャダーン、只今帰還しました!!」

「同じくライド・マッス!!帰還しました!!」

 

背筋をピシッと伸ばしてそう言うのが意外と様になっている様子に、鉄華団のメンバー達は何やら驚いた様子だ。

二人が仲間達に囲まれてアレコレ質問の嵐を受けている間、先に到着していたのだろう『タービンズ』の代表、名瀬・タービンと、『鉄華団』団長オルガ・イツカに声をかけ、そちらへの挨拶も済ませる。

 

「名瀬、相変わらず仕事が早ぇなぁ〜」

「まぁ、兄貴の頼みだからな」

 

そう即答する名瀬に対し、ジャスレイは嬉しそうに返す。

 

「嬉しいこと言ってくれるねぇ〜。鉄華団の面々もお疲れさん。大変だったなぁ〜」

「いえ…オレらが自分たちで引き受けた依頼なんで…」

「そう固くならんでいいさ。オレは要件済んだらいったん歳星に帰っからよ。オヤジに色々と報告しねぇとだからなぁ…」

「まぁ、今くらいは羽根伸ばしてもいいんじゃあねぇですかい?」

 

名瀬がジャスレイを労うようにそう言う。

 

「ま、後進の仕事の邪魔だけはするつもりはねぇからよ。一・二泊して部下達の疲れとったら…うん?」

 

チラリ…とジャスレイの視界の端に見慣れた影が写る。

 

「おっ?おぉ〜!!久しぶりだなぁ()()()()ぁ〜」

 

そして、それが目に入ったのだろうジャスレイは鉄華団の二隻のうち一隻の船を見るや、その片方…鉄華団に譲った方の船の装甲をバシバシと懐かしむように軽く叩く。

形状こそ随分とコンパクトになりはしたが、それでも長年苦楽を共にして来た船だ。ジャスレイには一目で分かる。

心なしかその名を聞いた周囲の『JPTトラスト』のメンバーも涙目になっている様子だ。

なお、ブルワーズから接収したと言うもう一隻の船は、ここにくる途中盾として活用したようで、影も形も無い。

 

「コイツのこと、大事にしてくれてるみてぇでオレは嬉しいぜぇ?」

 

驚く鉄華団に向かいニッと笑う。

オルガは急に礼を言われてなんと言ったら良いのか分からないと言った風で

 

かろうじて「は、はぁ…どもです…」とだけ返せていた。

 

「それでこそ、アレを任せられるってぇモンさ」

 

そのセリフとちょうど同時くらいにジャスレイの部下達がその荷物を載せたトラックに乗ってやって来た。

 

「お…オジキ!?」

「なんだなんだぁ!?」

「任せるって…なんかくれんのかなぁ?」

 

トラックから慎重に降ろされるなにやら大きな荷物に集まる鉄華団一同を脇目に、ジャスレイはその贈り物に被せていたシーツをバサリと取り外す。

 

「兄貴…まさか、ソレ完成させてたのか?」

「おうよ。名付けてγナノラミネートアックス…ってぇとこかね。お前さんらへの餞別にと思ってよ」

 

名瀬はそれを見るなり、驚きの声を上げる。

 

「ま、完成つっても急造もいいとこの試作品止まりだがな。そのための予備三本もあるのさ」

「そりゃあまた…」

 

なんと言ったものか…と苦笑している名瀬。

 

しかし、それも無理からぬこと。

三百年前の失われていた技術を、ジャスレイの研究費投資と『JPTトラスト』の総力をもってかき集めた文献のゴリ押しで成功させたのだから。

 

それをよくわかっていない様子の鉄華団一同はスゲェだのデケェだのとワイワイ騒いでいる。

そして、いつの間に来ていたのか興味深そうにまじまじと見つめる三日月・オーガス。

 

「別に復活ってほどでもねぇさ。ちゃんと使えば暴走こそしねぇが出力もいいとこオリジナルの七割ちょいくれぇだしよ。一度の戦闘での消耗も…一振り当たり十回耐えれば良い方で…まぁ消耗もデケェのさ」

 

ジャスレイは肩をすくめて不満げにそう言う。

 

「できりゃあ、もっと頑丈で安定してて、出力も出せるヤツを渡してやりたかったんだがねぇ…」

「いやぁ…これでも充分なんじゃあねぇのか?なぁオルガ?」

「えぇ、充分ありがてぇです。恩に着ます!!」

 

少なくとも普段使いならともかく、これだけでもいざという時の切り札としては十分に過ぎる。

モノもそうだが、深々と頭を下げるオルガにジャスレイの隣に立つ名瀬は苦笑するしか無かった。

 

そしてその晩。

ジャスレイが部下達に混じって食事を取っていたところを、懐かしい顔に会う。

 

「あっジャスレイさん!!ひっさしぶりだねぇ〜!!」

「ちょっとラフタ…」

「うん?ラフタにアジーか。久しぶりだなぁ」

「えへへ、だぁりんに言われて鉄華団のお手伝いにねー」

「流石に表立ってテイワズのモビルスーツってバレるとコトだからね。名前も漏影にして、見た目もリアクターの反応も別のパターンに変えて地上戦仕様にしてはあるけど」

 

アジーは説明のため、タブレットを片手にスペックを見せる。

 

「ほほ〜う。流石名瀬の野郎だ。宇宙戦を想定した機体を見事に地上戦仕様に切り替えて、百錬の使い勝手の良さも変えちゃあいねぇのか…」

「乗れないのによくわかるねぇ〜」

「ラフタ…」

 

嗜めようとするアジーを、ジャスレイはスッと片手で制する。

 

「いや、構いやしねぇさ。それ自体は事実だしよ。それに…」

「それに?」

「オレの大事な部下達が乗るかも知れねぇ機体の、その命を預かってくれるモンに対して、なんの知識もねぇんじゃあ…いざって時に困んだろう?」

「オヤジィィ…」

「一生着いて行きますぜ!!」

 

さらりと言われたその言葉に、部下達は改めて感極まっていたのだった。

 

□□□□□□□□

 

ふひ〜…。大気圏突破って、何度やっても緊張するんだよなぁ…。

尤も、信頼する部下達がミスするとか考えてないけどもさぁ…。

まぁ、渡すモンも渡せたし…後はオレは帰るだけ。

ギャラルホルン…っていうかラスタルのヤツも、オレが今ここにいる事は分かってるだろうから、ヘンに手ェ出しちゃあ来ねぇだろうし…。

一番警戒すべきカルタ・イシューの部隊も同じ理由で手をこまねいてる状況かねぇ。

図らずも二日ほど休暇みたいになったなぁ…。

もちろん、完全に気は抜けないだろうけども。

 

「さぁ〜て、そうと決まりゃあ久々に晩酌でも…」

「オジキィ〜!!」

 

うん?

 

「どうしたんだ?ライド…そんなに慌てて」

「あのさ…」

 

何やら真剣そうな眼差し。

ここで追い返すのも心象悪いよなぁ…。

 

「うん?」

「オジキの話…みんなにしてもいい!?」

 

へ?どゆこと?

 

 




もうちょっと宇宙の旅してても良かったかなぁ…なんて思いつつ、冗長なのもなぁ…と思い、地球に来てもらいました。

届け物の正体はγナノラミネートソードの廉価版みたいな感じですね。

ちなみにサカマタとはシャチの別名だそうです。

カッコよかったので、鉄華団に譲った船の名前にしてみました。
もし既出の名前だったら申し訳ない…。


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49話

グレイズ…量産機と思って舐めてましたが、組み立ててみるとカッコいいですねぇ。


それは鉄華団の面々が夕飯に出された慣れない魚をなんとか食べ終え、ひと段落し、少し落ち着いた頃合いの食堂でのシノの一言にあった。

 

「にしても、ライドォ…オメェ大変だったんじゃあねぇのか〜?」

 

肩をバシバシと、軽く叩きながら笑顔でそう言うのはシノことノルバ・シノ。

 

「へ?なにが?」

 

ライドはその質問の意図が分からず、きょとんとする。

確かに慣れない勉強や、緊張感溢れる現場に図らずも遭遇したりもしたため、色々と立て込んではいたが、困ったことがあればジャスレイをはじめとした『JPTトラスト』の面々にチャドともどもよく可愛がられていたため、大変よりも楽しかった思い出の方が多く、また、印象も強かったからだ。

近くにいたユージンが気になったろうことを問いかける。

 

「いや、だからよぉ〜…あのオッサンに散っっ々こき使われたり…」

「え?いや、オジキは別にそんなこと…」

「それマジかぁ?幸い当人もいねぇし、遠慮なくホントのことぶちまけちまってもバチはあたらねぇと思うぜぇ?」

「シノ…ユージン…それ以上は…」

 

流石に悪ノリが過ぎたように感じたのか、近くに座っていたチャドはじめ、数名が二人を嗜める。

元々二人…特にシノは物言いに遠慮のないタイプではあったが、再会の喜びでテンションが上がっているのだろう。現に、無言で震えるライドに気づいていない。

 

「オジキは…JPTトラストのみんなは…CGSの…マルバ達とは違うよ…」

「んん?なんだぁ?」

「…ちょっと、トイレ…」

「おぅ?気ィつけろよ〜?」

 

そのまま席を外し、幾度かの逡巡を経てジャスレイの部屋の前まで来ていたという訳だ。

 

「ほほ〜う。そんなことがねぇ」

 

取り敢えず、ジャスレイの案内で窓辺の椅子に腰掛けて話す二人。

机の上にはお茶の入ったカップが二つ用意されている。

座りながらも、顎に手を当て考える素振りを見せるジャスレイ。

 

「オレ、悔しくって…でも、シノに悪気がないってのもよく分かってるから…だから…」

「せめて見返すためにオレの話をしても良いかって、わざわざ確認しに来たってぇ訳か」

「……」

 

ライドは涙ぐみながらも、黙ってコクリと頷く。

それを見るや、ジャスレイは「ふぅ」と一息つくと、ライドの方をまっすぐ見つめてゆっくりと話し出す。

 

「ま、お前さんらの境遇を考えりゃあ、そのシノってヤツと、ユージンってヤツが大人を信じられねぇってぇのも無理はねぇさ」

「…怒んないの?」

 

ライドは納得した様子のジャスレイに、恐る恐ると言った風に問いかける。

 

「怒る?なんでだ?怒るどころか、むしろ嬉しいくれぇさ」

「えっ?嬉しいの?」

 

訳がわからずライドは困惑する。

 

「だってよ、ソイツらはそんだけライドとチャドの二人のことが心配で、大事な仲間だって、離れててもそうだって、ずぅ〜っと信じてくれてたんだろう?仲間を大事にするヤツはそれだけでも信用出来るってぇモンさ」

 

「もちろんオレのために本気で悔しいって思ってくれたお前さんもな」と、ポンっ…とライドの頭の上に手を置く。

 

「そこまで思い詰めてたのを、気づいてやれなくってゴメンなぁ…オレァ大人失格だなぁ…」

「そんな!!オジキはいつだってカッコよくって、ピンチの時も落ち着いてて…」

「あんがとよ。世辞でも嬉しいや」

 

ニコリと笑うと、ジャスレイはわしゃわしゃとライドの頭を撫でる。

 

「ま、話すのは構わねぇがな。だが…ひとつ条件を出させてもらうぜ?」

「え…じょ、条件?」

 

思わず身構えるライド。

窓の外を眺めていたジャスレイは振り返るなり

 

「仲間たちは、お前さんを仲間と思って、信じて、そんで心配してそう聞いて来たんだろう?ならよ、お前さんも仲間を信じてやんな。それが条件さ」

 

ただ、そうとだけ言った。

 

□□□□□□□□

 

え?なになに?みんなに話すの?オレのこと?

正直かなり気恥ずかしいって言うか…。

いやでもライドくん、割りかし真剣な表情してるし、ここで水を差すのもなぁ…。

何より子どもたちのコミュニティ内でのアレコレに大人がちょっと手を貸すならまだしも、口を出すのも違うと思うし…。

って言うか、直接の上司は変わらず名瀬ニキだしなぁ…。

構いすぎてギクシャクしたら今後に響くだろうし…。

まっ…まぁ、話を聞いた感じ報復とかはないやろし…。

とりあえずオッケーだけ出して…。

 

「オジキィ…その…ライドが…」

「チャド!?」

 

んぉ?あれ?チャドくんも?

 

「おう。ちょうどいいや。今話終わったとこだからよ。ライドも連れてってやってくんな」

「え?えぇ…」

「出来るな?ライド…」

「え、うん!!オレ、頑張るよ!!」

 

…そこまで気合い入ることかなぁ…。




相変わらず話の進み方が牛歩過ぎる…orz


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50話

(本日再販のガンプラについて)何の成果も!!得られませんでした!!



「ええぃ!!面倒な!!」

 

そう言って座っていた椅子の手すりを殴りつけ、歯噛みするのはセブンスターズが一角、イシュー家の当主代理、カルタ・イシュー。

 

「カルタ様…どうか気をお鎮め下さい」

 

見かねた部下の一人が嗜めるようにそう言う。

 

「分かってるわ!!けれど、この機を逃せば我が地球外縁軌道統制統合艦隊の名折れよ!!」

「しかし…件の『買収屋』に手を出したと知れれば、鉄華団どころでは…」

「くぅ…歯がゆいわ」

 

ヒステリック気味になってしまっているカルタではあるが、しかしそれも仕方のないこと。

ただでさえ、この近辺の宙域で問題行動を起こす輩は自分達の領域にやってくる前にアリアンロッドの手柄となってしまうため、するべき仕事も周囲の警戒や、見回りと言った地味な内容ばかり。

故に閑職と言っていいくらいには形骸化し、実態はほぼお飾りの部隊と言える。

さらにイシュー家自体は現当主が病に倒れ、その一人娘たるカルタは老人たちにより、政治の場から遠ざけられて…言葉を選ばずに言えば、ほぼ干されているのが実情。

それでも腐らないでいるのは立派なことだし、だからこそ彼女自身部下たちに慕われている訳だが。

ただ、それに加えてやっと訪れたこの千載一遇の好機も目の前にジャスレイがいるせいで下手に行動を起こせない。

 

「かと言って、今軽々に動くのは武器も策も無く寝ている虎を起こすようなものよ…」

 

いざ戦闘になったらなったで、あちらに全く武装が無いことは無いだろう。

最低限自衛出来るくらいの武力は持っておくのが圏外圏で航行する際の常識であるし、何より彼ら船員は皆歴戦の猛者と聞く。

カルタの部隊も武装や練度が低いわけではなかろうが、何分実戦経験に乏しいという欠点がある。

 

「幸い、彼も暇ではないでしょうし、しばらくすれば何らかの動きはあると思われますが…」

 

慰めのつもりなのか、場の空気を多少なりともよくしようと言う配慮か。

彼女の部下の一人がそんなことを言うが…。

 

「その間にクーデリア・藍那・バーンスタインを逃せば元も子もないわ!!」

 

頭に血が上っているのか、それとも焦りからか言葉が荒くなってしまう。

何より、この場で何もしないと言うのはカルタの、ひいては地球外縁軌道統制統合艦隊の面子に関わる。

面子、と聞くと一見してしょうもないように思うだろうが、それは個人的なプライド云々だけでは無く、周囲にどう思われるかと言う点においても決して軽いものでは無い。

ましてや、彼女はセブンスターズ。

ギャラルホルンを黎明期より支えた由緒ある名門中の名門の生まれ。

彼女自身その自負はあるし、誇りもある。

それに相応しい己足ろうと、ここまで努力に努力を重ねてきたのだ。

だからこそ、現状を看過できない。

しかも鉄華団はただの子どもの集まりでは無い。

侮れる相手ならば、周囲の助けがあったところでそもそもここまで来ることも出来なかったはず。

それに加えて、付近に所属不明のモビルスーツまで確認されているのだ。

十中八九テイワズか、それか彼らの上役の所属なのか、そこまでは定かではないが…。

しかしそれでも、そうであったとしても…

 

「…あの船が地球圏外に出たら、即座に連中を追うわよ」

 

その目は、決して諦めてはいなかった。

 

□□□□□□□□

 

マルコの兄貴の情報によれば…。

あっちの戦力は…まぁ、オレの知るそれとそう変わんないかぁ。

グレイズリッター…まぁ、グレイズを純粋に強化した感じの機体か。

シュヴァルべみてぇにクセがある訳でもない。

 

「しかし、良いんですか?」

「うん?何がだ?」

「いや…ライドにあんなに吹聴させて…」

 

あ、そのことね〜。

 

「あぁ、それ自体は別に問題じゃあねぇさ」

「と、言うと?」

「この件において、肝心なのはオレ自身の鉄華団内での評判じゃあ無く、二人の成長と、今後の鉄華団の伸び代を見ることさ」

 

ま、それも同時進行で上げていけりゃあ世話無いんだけどねぇ。

そもそも名瀬ニキの狙いは鉄華団内部の人間、特にオルガくんやビスケットくんに外部に学ばせ、その恩恵の大切さを教えると同時に、彼らの意識の変化を促す事。

ライドくんとチャドくんの二人はその映えある第一号ってぇわけだねぇ…。

他に懸念点があるとするならば、学んだことを鉄華団側に吸収できるかと言ったところだが…。

まぁ、そこも含めて伸び代だよなぁ…。

 

「それに、あんな真剣な顔されて首を横にゃあ振れねぇっての…」

「オヤジ…」

「悪りぃなぁ、カルタ嬢。テイワズのため、タービンズや名瀬達のため、そして鉄華団のため…子どもらの踏み台になってくれや…」

 

まぁ、バエルの人のブレーキ役になってくれることをちょっとだけ期待して、生きててほしくはあるんだけど…。

 

現実問題、そこまで甘くはないよなぁ…。

 

はぁ…。




っかしーなぁ〜。

カルタ様がちょっとカッコいいぞ〜。


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51話

ライドくんたちの作戦会議…。

こんな感じで良いのだろうか?


その晩、鉄華団の面々は食堂に集まり真剣な面持ちをしていた。

 

「では、団長は三日月さんと、モビルワーカー全体への指示出しをお願いします」

 

やっていることは今回の護衛の仕事の作戦会議だ。

護衛対象はアーブラウの代表も務めたほどの有力政治家、蒔苗東護ノ介。

当初の護衛対象、クーデリアの火星ハーフメタル資源に関する交渉相手でもあったのだが、贈収賄の嫌疑により失脚し亡命。

クーデリアとの話し合いのためにも再び自身が代表に返り咲く必要があると、エドモントンへの護衛依頼が新たに入ったという次第。

とは言っても、今回は鉄華団によくあったオルガとビスケットによる簡単な作戦の説明と、最後に気合を入れるざっくりとしたやり方では無い。

ライドとチャドの二人に、どこからか持って来たホワイトボードに描かれた図と短期間でよく作られた資料を見比べて理詰めの説明をされている状態だ。

 

「ここで、敵がこう来るようなら…オレらがこうしてそれをカバー…中継しつつ細かな動きを指示します。本来ならこう言った動きは長い時間をかけて浸透させていくものなんですが…阿頼耶識があるなら急な対応もそう難しくは無いでしょう」

「お、おぉ…」

 

ライドとチャドからの言葉に、オルガとビスケットは目をパチクリさせている。

 

「あちらは正規軍。練度も装備もこちらより上と考えるべきかと。ただ、オジキの話を踏まえると、あちらは実戦経験に乏しく、動きが固くなるかもと…勝機はそこにあるでしょう。それにタービンズのお二方からも、援護はしていただけるでしょうし…」

 

続いて、チャドも淡々と説明するが…。

 

「ちょちょちょちょっと待て!!」

 

それに待ったをかける声が上がる。

 

「うん?どうしたの?ユージン」

 

きょとんとした様子でライドが取り乱し気味なユージンに問う。

 

「ど〜したのじゃあねぇよ!!なんだぁ!?オメェらヘンなモンでも食ったのかぁ!?」

「そうだぜ!!夜にメシ食ったら集まって作戦プランを練りましょうだなんて、特にライド!!前までのお前ならとっくにハラいっぱい〜っつって寝こけてる時間だろ!!いったいどうした!?」

 

そしてやはりと言うべきか、他のメンバーも、おおむねユージンに同調するような反応が大半だった。

 

「ユージン」

「な…なんだよ?」

 

短くそう呼ぶ声に、そしてその真剣な眼差しに、ユージンは改めて驚く。

 

「オレは…オレたちは、こんな所で終われないし、終わりたくない。だからこうやってオレに、オレ達に出来る最大限で団長を支えたいって…そう思ったんだ」

 

それに思うところがあるのか、ユージンが噛み付く。

 

「なんだとぉ?オレたちが終わるってかぁ!?」

「落ち着けって。な?」

 

それをシノが抑えつつ嗜める。

 

「今のままなら、間違い無く」

 

そう断言する言葉に、食堂は再度ざわつく。

 

「落ち着けお前らぁ!!」

 

しかし、団長であるオルガの一喝で今度は水を打ったように静かになる。

 

「…何か、あるんだよな?ライド」

 

その問いにライドは頷く。

 

「団長。今向こうが手を出して来ないのは十中八九、オジキの船が近くにあるからだよ」

「…どう言うことだ?」

「今回は名瀬の兄貴の指示で別々のルートで出港してたから、みんなは見てなかっただろうけど、オジキは少なくとも圏外圏じゃあ船を見ただけでその辺のチンピラに道を開けられるくらいにはスゲェ人なんだよ」

「は!?」

「え?」

「冗談だろ?」

「ありえねぇ…」

 

などなど、再び食堂はざわつく。

 

「みんな、話が進まないからちょっと黙ろう」

 

その一言に再びシン…となる食堂。

静かになったのを確認すると、今度はビスケットが声をかける。

 

「それで…君たちはジャスレイさんのところで色々と学んだんだね?」

 

優しく話しかけるビスケットに、ライドは頷く。

 

「そうだよ。そんなオジキに、そんなスゲェオジキに…オレらは教えてもらったんだ!!この世界で生きてくために必要なことを!!」

 

ライドはギュッと、拳に力を入れる。

 

「だから、オジキが時間を稼いでくれてる間に、こうして詰めた作戦と、その確認のためにみんなを集めて…」

「そうかぁ…」

 

それを聞いて、オルガはうんうんとひとり頷いたり、考え込むそぶりを見せたかと思うと、ビスケットを呼んで話し込む。

 

「なぁ、ビスケット…こりゃあもしかすりゃあ…」

「もしかするかもね…」

 

そして、しばらくが過ぎた頃…。

 

「よし。チャドとライドの作戦で行くぞ」

「マジかよ!?」

「うん。だけど、出来るだけ内容をもう少し詰めて…」

「分かった!!それでここなんだけど…」

 

………………………

 

「これなんだよなぁ…」

 

食堂の端で弟分を見守る名瀬はぽつり、とこぼす。

 

「コレって〜?」

 

気になったラフタが問いかける。

 

「兄貴は頼りになりすぎるのさ。油断してるとその場に居ねぇのに、コロッと甘えたくなっちまうくれぇに…」

「ああ…それは…」

 

アジーも、思うところがあるのか納得した様子だ。

 

「あぁ〜…なぁんか分かるかも…そっかぁ〜…そりゃあねぇ〜…」

「ましてや、鉄華団連中は大人への甘え方なんぞ知らねぇだろうしなぁ…」

 

その反目と捨て身も彼らの武器と言えばそうなのだが。

しかし、それではライドの言った通り破滅するだけだ。

見たところオルガかビスケット、そのどちらが欠けても鉄華団は破滅に突き進みかねない。

自分達大人がどれだけフォローしようとした所で、差し伸べられた手を前に頑なにプイと顔を背けられては却って険悪になってしまいかねない。

それほどまでに子どもというのは繊細だし、難しいところがあるのだ。

だから、名瀬としても極力彼らのしたいようにさせているのだが…。

 

「やっぱ、兄貴はすげぇなぁ…」

 

子どもに好かれやすい、と言うのはなんてことないようでいて大事なことなのだと実感する名瀬だった。

 




書いてて思った。今回ジャスおじの出番ねぇ!!
まぁでも、次回は普通に出てきます。
戦闘描写はどうしよっかなぁ。



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52話

わぁい、ジムスナ2ゲットできました〜!!
連邦で多分一番好きな量産機。


イサリビ船内のモビルスーツ格納庫。

そこにあるのは地上戦に対応するため第五形態に換装を済ませた鉄華団の象徴とも言えるモビルスーツ、ガンダムバルバトスが鎮座する。

そして、そのコクピット内に三日月・オーガスはいた。

 

「どうだ、ミカ?」

「…うん。どう言う訳かしっくりくる」

 

シミュレーター空間で、バルバトスがその手に持つのは手土産にと渡されたγナノラミネートアックス(仮名)。

大きさはグレイズの武装であるバトルアックスを一回りほど小さくしたくらいか。

愛用のメイスに比べて随分と可愛らしくも思えるほどに小さいが、その取り回しのしやすさはいざという時頼りになりそうだ。

軽く振り回して振り心地を確認し、間合いや勘を養う。

そうして、しばらくの後腰部のラックに一本を戻す。

切り札として頼りにはなるが、しかし過信も出来ない。

何せジャスレイが言うには、コレらはあくまでも消耗品。

だからこそ、予備も含めて渡されたわけだ。

依頼完遂まであと一息ではあるが、だからこそ敵の攻勢もより激しさを増すだろうことは想像にかたくない。

 

「いくら阿頼耶識があるからってぶっつけ本番で使うより、ある程度武器の特性を知っておいた方がいいからなぁ。付け焼き刃だとしてもやんねぇよりはマシだろうしよ」

「それもライドが言ってたの?」

「おぉ。アイツといい、チャドといい…一皮剥けるってぇのは喜ばしいよなぁ」

 

その成り立ちからして仕方ないことではあるが、基本的に戦闘要員しかいない鉄華団にとっては身内が作戦考案能力や内務能力を身につけてくれることはとてもありがたい。

取れる選択肢が増えるということは、それだけオルガやビスケットの負担が減ることにも繋がる。

その意味でも大きな変化と言えるだろう。

若さに任せて無理を通せば遠からず必ずボロが出るものだし、かと言って大人への不信感というのはオルガ含めまだまだ拭い切れてはいない。

だから…と言うわけでは無いが、オルガとしてはユージンの気持ちもわかるし全体のバランスを考えなければならない立場上、一人の意見を理由も無く特に強く支持するわけにもいかない。

 

最初は二人…特にライドは慣れない環境でちょっと甘いことを言われて絆されただけかとも思ったが、先日の比較的記憶に新しいニュースのことを鑑みるに、ジャスレイという男は少なくとも影響力は本物なのだろうことはわかった。

もちろん、それが彼の能力を買うものでこそあれ、人格まで示す内容ではなかったためまだ信用出来るかの判断までは出来なかったが。

だが、実際会って見るとなるほど、と思わされるところも多々あった。

気兼ねせず話せるラフな態度に相反し、まるで隙のない立ち居振る舞いは自分達よりも遥かに歴戦を思わせる貫禄があった。

そして恩を売る目的があるにせよ、手土産と称して最先端技術が用いられているだろう試作品をポンと渡せる精神性。

周囲の部下の態度や彼らへの対応、そして何より、直接盃を交わした自身の兄貴分たる名瀬・タービンの彼への態度から窺える人柄。

 

「…ああなりてぇって思ったのは…たぶんはじめてのことだ…」

 

ぽつり、とそう零すオルガに、三日月はよく分からなそうに首を傾げる。

 

「オルガ?」

「っと…悪りぃ悪りぃ」

「一通り武装の確認は済んだよ」

 

外に出て動作確認ができればいいが、状況が状況だけにそれは難しい。

ジャスレイは明日、ここを立つ。

ならば、勝負は明日だ。

 

「応えねぇとなぁ」

 

兄貴分である名瀬の信頼に、そして、更にその兄貴分であるジャスレイにここまでお膳立てされて、失敗しましたでは格好もつかないうえ鉄華団の信頼にも傷がつきかねない。

オルガ・イツカは改めて、皆を引っ張る難しさを思い知っていた。

 

□□□□□□□□

 

「いよいよだなぁ…」

「あぁ…」

 

いよいよオレが明日動くと言う日の晩、名瀬ニキが酒を持ってオレの部屋までやって来た。

昼頃、名瀬ニキが格納庫の入り口でオルガくんと三日月くんの二人をこっそり見守っててびっくりしちゃったけども。

なんとか顔には出さずにすんだなぁ…。

 

さっそく持参された酒を飲みながら、オレと名瀬ニキは色々と話をした。

入り口にはいつも通り護衛を頼んであるため問題はない。

 

「しっかし…オメェが鉄華団連中にそこまで入れ込むたぁなぁ…」

「いや、まぁ…なんつぅか…」

「うん?」

「昔のオレ見てるみてぇでさ。放っとけねぇっつぅか…」

 

珍しく照れ臭そうにしてる名瀬ニキ。

こう言うところは昔っから変わらんねぇ。

 

「ま、頑張ってる連中ほど応援したくなるって気持ちは、分かるがねぇ」

「それによ、今回の件についてはオレが言い出しっぺだしなぁ。その成果も含めて見ときたいってのもあるしよ」

「なるほどなぁ…」

 

それもそうか。

何せ、鉄華団が活躍してくれればそれだけ彼らを連れて来た名瀬ニキの評価も上がる。

彼らの成長ってのも、その前段階として大切なモンだしなぁ…。

 

「こりゃあ…」

「なんだよ、兄貴?」

「いや、いよいよオレも楽隠居させてもらえるなって…そう思ってよ」

 

ちょっと寂しくはなるけども、まぁ…悪か無い。

鉄華団には一応恩は売れただろうし…後はバエルの人をなんとかすれば良い。

幸い、ラスタルのバカとは対立する立場っぽいし、それとなぁく釘を刺すように言っとけばなんとか阻止してくれるやろ!!

チラリと窓の外を見遣る。

今日は月が一段とよく見えるなぁ…。

 

「なぁに感傷に浸ってんだぁ?兄貴?」

 

呑み始めて幾らか経ったからか、少しばかりふらりと立ち上がる名瀬ニキ。

 

「兄貴にゃあ、オレもオレ以外の皆もこれから勉強さして貰うことがいっぱいあるんだからよ。それに…」

「あん?」

「オレはまだ、オヤジの跡継げんのは…アニキだけだと…」

 

酔いが回って来たのか、ぽろりと言葉が漏れる。

 

「……ま、その話はまた今度、な?」

「…わぁったよ」

「そう拗ねんな。オレはオメェを頼りにしてるんだからよ」

 

大丈夫大丈夫。

名瀬ニキがトップになったらちゃんとフォローはするし…。

 

嵐の前、それは確かに静かなものだった。




やっぱ、一番のネックはバエルおじさんなんですよねぇ…。


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53話

いやぁ〜。遅くなって申し訳ない…。


動く。動く。

黄金の船が動く。

 

「カルタ様…」

「ええ…降下の準備をなさい!!」

 

それと同時に地球の衛星上のギャラルホルンの船内も騒がしくなる。

 

「しかし…カルタ様」

 

訝しむように、カルタの部下のひとりが声をかける。

 

「なによ?」

「何にせよ、相手はあの『買収屋』の関係者…ですよね?それが本当に何もしないで時間だけ稼ぐというのは…」

「確かに、何かしらの入れ知恵はあるかも…」

「なら、その入れ知恵ごと粉砕するまで!!ちょうど良い機会だ。ヤツの顔に泥を塗ってやるわ!!」

 

カルタはおもむろに立ち上がり、号令をかける。

 

「各員、出撃準備!!」

「はっ!!」

 

同時刻、地上にて鉄華団は着々とギャラルホルンを迎え撃つ罠を張り巡らせていた。

実戦経験のまるで無い、若者ばかりの正規軍部隊が何を頼るか?

それは教本だ。

無論、教本通りをそのまま馬鹿正直に使わずとも、せいぜいがちょっとしたアレンジを加える程度だろう。

実戦で場数を踏めないことのデメリットは恐らく当人達が思っている以上に危険なことだ。

何故ならそれは、教本の外のことにはてんで弱いということに他ならないからだ。

逆に鉄華団は学こそ無いものの、場数だけで言えばこの短期間でかなりの数と濃度をこなして来た。無論、どちらが欠けていても、或いは揃っていたとしても油断はできない。

元々ギャラルホルン側が優勢なのは鉄華団としても分かりきっていること。

だからこそ、その戦術もいくらか限定出来、一番に考えられるのは数に任せた包囲戦法。

こんな降って湧いたチャンスは恐らくしばらくは望めないのに加え、上からの評価のためにもあちらは明確な手柄が欲しいし、ギャラルホルン故の正義感にも疑いも無く執着する。

であるなら、彼らはまず確実な手を選ぶはず。

モビルスーツの相手はモビルスーツでしかできないのが常識と言われている昨今、バルバトスおよびグシオンリベイク二機のガンダムフレーム、そして流星号(ピンク色のグレイズ改弍)を含めた三機のモビルスーツと、幾らかのモビルワーカーを擁する鉄華団をモビルスーツの数の有利で押し潰すというのは当然の選択。

助っ人で所属不明機としている漏影もあるが、連携の関係上、出来るだけ分断しようとして来るだろう。

それらを鑑みても明らかに自分達が有利ならば、正面切って戦った方が連携に齟齬も出ないし、却ってやりやすい。

あわよくば訓練代わりにしようという算段もあるだろう。

しかし、前述のように鉄華団側にジャスレイの助言や援助もあるだろうことは明らか。

それが如何程のものか分からない以上、多少は慎重になる。

 

「そして、そう言う相手は得てしてこう言う絡め手に弱い…」

 

オルガとビスケットの二人とライド、チャドの策のすり合わせも出来た。

前者二人は今回の作戦の基礎部分を、後者二人はその確実性を増すための補強と、万一のための保険の部分を練りに練った。

 

「あちらは恐らく綺麗に勝ちたいはずです」

「うん。その方が彼らの名誉にも繋がるだろうしね」

 

ライドのその言葉にビスケットが頷く。

 

「戦いに綺麗も汚ねぇもねぇだろうによ…」

「それだけギャラルホルンという組織が世間ズレしているのか、或いは汚いものを隠されて生きて来た本当に良いとこの生まればかりのか…」

 

オルガが呆れ気味に言うなり、チャドが冷静に思考する。

生まれは環境と同様、性格に密接に関係している。

親に何でも買ってもらえた家庭の子どもは比較的わがままになりやすく、親に盗みを教えられた子どもが泥棒行為に罪悪感を覚えないようなもの。

そこから指揮官の性質を割り出せれば優位に戦闘を進めることも容易い。

いずれにせよ、鉄華団は油断も慢心も出来はしないのが現状。

それに、そうこうしている内に仕掛けは既に整った。

相手はただでさえジャスレイの存在を警戒している。

ジャスレイの黄金の船が見えなくなっても万に一つでも引き返してくる可能性がある以上、長期間にわたっての戦闘は避けたいはず。

それは裏を返せば、一度でも追い返すことができれば二度目の接触は難しいと言うことでもある。

そして、一度敵を追い返した後は、エドモントンへ向かって蒔苗氏を堂々と護衛する計画だ。

 

「指揮系統がやられるのが今後のことも見据えると一番痛い。モビルワーカー隊は出来るだけバラけて、団長とビスケットの位置を悟られないように」

 

通信でそう伝えられ、頷く鉄華団メンバー。

 

「あとは…あっちが作戦通りに動いてくれるか…モビルワーカー隊の誘導次第だな…」

「数の不利はあるとは言え、出鼻を挫ければ後はこっちのペースでやれるからね」

「それはいいけどよ…そんな綺麗に決まるモンかぁ?」

 

訝しげにユージンがそう言うも

 

「大丈夫さ。そのための話し合いも済んだんだから」

「……」

 

ビスケットがそう返すなり、沈黙する。

それはユージンを含めたCGS時代からの団員達の信頼故だろう。

 

「ユージン」

 

オルガはユージンに落ち着いた声で声をかける。

 

「な、なんだよ?」

 

答えるユージンの声は、少し固い。

 

「頼りにしてるぜ?」

「なっ…何だよ急に!?当ったりめぇだろ!?」

 

照れたのか、声が上ずるが先ほどまでの固さはなかった。

 

ギャラルホルンの艦隊が迫るのは、それから数時間の後のことだった。

 

□□□□□□□□

 

窓の外に地球が見える。

ギャラルホルンの船は見当たらないし、既に鉄華団への攻勢に入ったんだろう。

 

「オヤジ、どうしますか?」

「うん?」

「いえ、今ならまだ引き返せますが…」

 

部下の一人が問いかけて来る。

何やかんや、あの二人を可愛がってたからなぁ〜…。

う〜ん…とは言え、これ以上は明らかに過干渉だし、彼らの成長の妨げにもなりかねない。

相談しようにも、名瀬ニキは自分の船に戻ってったし、疲れたところに追い討ちするように通信を入れるのも酷だろうし…。

 

「いや、それよりも…」

「なんです?」

 

……はぁ、仕方ない。

 

「あの女に連絡を入れといてくれ」

 

念には念…ってほどでも無いけど、ダメ押しくらいはしとくかねぇ。




戦闘描写どないしよ…。

それと展開遅くて申し訳無い‥。


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54話

久々にジョ○ョ三部、アニメ見ました。

なお、自分はダー○ー兄が好きです。


オセアニア連邦領、ミレニアム島。

 

よく晴れたその日に、ギャラルホルンから鉄華団への形ばかりの降伏勧告の後、その戦闘は沈黙をもって始まった。

 

「………」

「………」

 

ギャラルホルンの部隊は海上に艦隊、そして少し後にフライングボードに乗ってやって来たモビルスーツが七機。

しかし、ギャラルホルンからすれば意外なことに鉄華団は陣形を乱すことはなく、その戦力の大半は周辺の森にバラけて伏せたままだ。

こう言ったことは小回りのきくモビルワーカーだからこそできる芸当だろう。

やがて、様子見とばかりにギャラルホルン部隊がライフルで威嚇しつつ距離を詰める。

 

「バルバトス接敵します!!」

「グシオンリベイク、同じく誘導の通りに接敵!!」

 

モビルワーカー隊の通信がオルガの下に集まる。

 

「海上方面はタービンズの助っ人二人に任せるとして…各自、連絡は逐一入れてくれ」

「ええ、あのお二人なら間違い無いでしょうね」

 

モビルワーカー隊は付かず離れず、通信の届く範囲でやり取りを繰り返す。

 

「全車、バラけつつ向かって来る敵機はできる限りカメラや関節を狙え!!下手に逆上されて被弾覚悟で突っ込んでこられたら面倒だ!!ミカもレンチメイスを使って出来る限り腕や脚の破壊を優先してくれ!!お荷物が増えてくれりゃあ、そんだけオレらの護衛任務の安全度も増すからよ!!」

「…了解、やってみる」

 

通常、モビルスーツのインナー・フレームは装甲によって防護され、滅多なことでは破壊は困難だ。

だが、レンチメイスは通常の打撃武器としての使い方とは別に、敵を挟んで内部のチェーンソーで切断するという戦い方をするために、それを可能にするかなり珍しい兵装だ。

取り扱いに難もあるだろうが、そこは阿頼耶識と三日月・オーガスの戦闘センスからして問題は無い。

人型の兵器には、メリットとデメリットがかなり顕著にあるもの。

メリットとしては剣や銃器などの多種多様な武装が使えること。

そしてデメリットはその分メンテナンスも操縦も複雑で、四肢のいずれかを失えばパイロットの腕にもよるが、大抵は弱体化すること。

それに、相手は動かない木偶ではなく、実際に中に人間がいて、動き回っているわけだ。

正直言ってかなり難しい注文だが、阿頼耶識を装備している鉄華団ならギリギリ不可能とも言い難いラインの注文。

ビスケットは苦笑いを浮かべていたが、その指揮に対して悲観的な返答はない。

 

艦砲射撃は漏影に牽制され、思うように動けず、それに加えてグシオンリベイクの射撃に痺れを切らしたのか、モビルスーツの部隊が時代がかった口上と共に突っ込んで来る。

 

グレイズリッターと、ガンダムフレームの距離が正に縮まろうという、その次の瞬間…。

 

ドォォォォン……!!

ドドォォォォン……!!

 

 

響くのは地鳴りのような爆発音。

 

「地雷?」

 

立ち止まる機体もあるが、続けて幾つか爆発が起こる。

 

「地雷原か!!」

「しかし…出来るものなのか?この短期間に…」

「いいや…やりかねん…仮にそうでなくとも出来かねん…あの噂の『買収屋』なら!!」

 

幾らかが転倒し、残る部隊も急な爆音に気圧されたのか後ずさる。

その様子を見たギャラルホルン部隊にも徐々に動揺が広がる。

瞬間、陣形にも間隙が開く。

 

「よしよし…対モビルスーツ用に調整された特製地雷の味はどうかな?とは言っても…そこまで期待は出来ないけど。ほんの少しの間だけ恐慌状態にするならこれ以上無く持ってこいだ」

 

チャドはそう言うなりモビルワーカーのハッチを少し開け、双眼鏡で現状を確認する。

そして、にわかに思い出していた。

自分にイチから勉強を叩き込んでくれた人たちのことを。

 

「いいかぁ、チャド。戦場の策士ってぇヤツはなぁ…勝てると思っても気を緩めねぇし、負けると思っても決して焦らねぇ。気の緩みは油断に繋がるし、焦りはいざって時のミスの温床だからだ。あと一歩ってとこであっさり死んだ策士気取りのヤツらをオレ達はたくさん見て来た。敵も味方も、山ほどな」

 

ジャスレイをオヤジと慕う彼らは、普段の可愛がってくれる様子とは打って変わって真剣な表情だ。

 

「周りが焦り散らかすような状況でもオメェだけはただ平静を装え。この短ぇ間で分かったことだがなぁ…オメェの強みは、引くべきところで引き、攻めるべきところで攻める判断をする、その見極めが抜群に上手いとこだ」

 

褒められることに慣れていないせいか、萎縮した様子のチャドに、彼らは続ける。

 

「あとは…まぁちぃっとばかし経験を積みさえすりゃあ大抵のヤツなら手のひらの上で転がせるだろうさ」

 

ふと、彼らに気になったことを問いかける。

 

「経験って…どのくらいですか?」

 

彼らは顔を見合わせるや、考え込むように腕組みをすると

 

「そうさなぁ…あと二十年か…三十年か…ま、すぐだろうよ」

 

ニカッと笑ってそう言った。

 

「よし…見えてきたぞ。地球外縁軌道統制統合艦隊隊長の性格…」

 

指揮官の性格を知れば対策も容易い。

 

習ったことは最低限。

 

文字の読み書きが半分を占めた勉強時間ではあったが、チャド・チャダーンにはそれで十分だった。

 

「見ててくださいよオジキ、先生方…」

 

一瞬、双眼鏡を握る手に力がこもるが、教えを思い出し気を引き締める。

森の土の独特の湿った匂いが、いやに鼻につく。

さほど深い訳ではないが、モビルスーツの視界を遮る分には十分。

 

「あの人たちに報いるためにも…これから団長達の負担を減らすためにも…ここでオレ達の実力を示すんだ…」

 

その闘志は静かに、しかし確実に、目前のギャラルホルン部隊に牙を突き立てんと燃えていたのだった。




戦闘描写に結構四苦八苦してて投稿遅れましたー。

ガバがあっても許して…許して…。


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55話

久々のジャスおじサイドのお話です。


鉄華団がギャラルホルンと戦闘をしていた頃、ジャスレイの方にも動きがあった。

鉄華団へのフォローにひと安心してマクマードへの報告のため、『黄金のジャスレイ号』に乗る『JPTトラスト』の面々が木星圏へと船を進める帰り道、ちょうど圏外圏に入った頃にそれは起きた。

 

ザザッ…

 

ザザザッ…

 

「ん?」

「どうした?」

 

その異変に、最初に気がついたのは通信士だ。

 

「いや、いきなり通信に乱れが…」

 

そして、その原因が外部から通信がジャックされたことに気がついた。

 

「よォ〜、ジャスレイ・ドノミコルス。会いたかったぜぇ〜!?」

 

モニターに現れたのは、額に特徴的なタトゥーを入れた大男。

ギャラルホルンも手を焼く宇宙海賊の頭目。

 

「テメェは『夜明け』の…」

「何の用だ!?」

「オイオイオイオイオイ…オレはいまテメェらと話してるんじゃあねえ…テメェらの上司と話してんだ。すっこんでろ!!」

 

男…サンドバル・ロイターはジロリ…と睨んでそう言い放つも、それで引くジャスレイの部下では無い。

 

「そう言うわけにはいかんなぁ…」

「オヤジと話したけりゃあ、まずアポをとれやこの不作法者の唐変木が!!」

 

埒があかないと思ったのか、文句を言うジャスレイの部下たちをハン…と横目で見遣るなり、本題を切り出す。

 

「ジャスレイ、オメェはいつまでマクマードの老いぼれの犬なんぞやってる気なんだよ!?」

「……言いてぇことはそれだけか?ならどきな。邪魔だし迷惑だ」

 

ジャスレイはウンザリした表情でしっしっ、と手を払う。

 

「釣れねぇこと言うなよ。せっかくの感動の再会じゃあねぇかよ」

「いつ、オレがオメェに会いてぇって言ったよ?」

 

売り言葉に買い言葉。

ある意味でいつもの光景だ。

 

「何度も何度も言うがなぁ…ジャスレイ。オレはオメェを高く、高く、高ぁぁ〜〜く買ってるんだぜ?」

「そりゃあ結構なこったなぁ。こっちこそ何度も何度もいうがな、勧誘なら受けねぇよ」

 

呆れた表情でそう返されるも、サンドバルにこりた様子は無い。

 

「ニュース見たぜ。オレなら、オメェをあんな危険な目にあわせたりはしねぇ。ふんぞりがえって指示だけ出してりゃあ安泰な地位にしてやることだって可能だ。それに、オレとオメェが組みゃあ…それこそ敵無しだ!!デケェツラしてるギャラルホルンにひと泡もふた泡も吹かせることができる!!オレたちの誇りと、自由とが体制に鉄槌を下せるのだ!!」

 

興奮気味にそう言うサンドバルに対し、ジャスレイは

 

「アホか」

 

冷めた様子で短く、それだけ返す。

 

「危険を共有出来るからこそ、部下は上司を信頼してくれるんだよ」

「それは分かるぜ?オレだって船団を率いる立場なんだからよ」

 

一理ある、サンドバルはコクリと頷く。

 

「だがなぁ…世の中には適材適所ってぇのがあんだろう?オメェはあきらかに後方でどかっと腰を据えて支援をする方が向いてる…いや、そうすべき男だ。そんな奴がどうして前線に出張るのか…オレァ理解に苦しむねぇ…」

 

ヤレヤレと、わざとらしくため息をつくサンドバル。

こう言うところが食えないのだと、ジャスレイは心の底で舌打ちをする。

 

「オレはなぁ…ロイター。信条として自分より弱え奴ら…特に女子供に手ェ出すやつはクソ野郎だと思ってんのさ。それでどんだけの未来が潰えてきたか…想像すらしたくねぇ」

「あん?海賊相手に説法でもたれんのか?アウトローのオメェに、そんな資格があるとでも…」

「分かんねぇのか?オメェらはオレらより弱えって、これまで散々見逃してきてやったって、そう言ってんだよ」

 

そう言うなりジャスレイの纏う雰囲気が変わる。

 

「三度は言わねぇ。どけ、デカブツ。さっきの話だが、体制に一泡吹かせるって?仮に出来たとして、その後はどうするんだよ?大方、そん時にオレの首でも差し出す気だったんじゃあねぇのか?」

 

ジャスレイからじわり…と滲むような殺気が漏れ出す。

画面越しでも息が苦しくなるような、逃れられないような、そんな殺気が。

 

「ハッハ!!」

 

しかし、それを見るなりサンドバルは嬉しそうに笑う。

 

「そうだよ!!それだ!!その目だよ!!『圏外圏の虎』ァァァ!!牙も!!爪も!!鋭いまんま…いや、寧ろ増してんじゃあねぇかよ!!嬉しいねぇぇぇ!!」

「…勘違いすんじゃあねえぞ?オレはかつての野心も、望みも、とうの昔にオヤジに捧げてんのさ」

 

だから…邪魔ぁすんなや

 

ゴクリ…と生唾を飲む音が画面の向こうとこちら側の双方から聞こえてくる。

しばしの沈黙ののち、口を開いたのはサンドバルの方だった。

 

「いやいや…収穫だったなぁ!!腑抜けたと思ったオメェが、まるで健在なんだからよ!!」

 

ジャスレイの部下達が舌打ちをこぼすも、サンドバルの上機嫌は変わらず

 

「用事は済んだ。構ってもらえて楽しかったぜぇ…あばよ!!」

 

と、それだけ残して去っていった。

 

□□□□□□□□

 

サンドバル・ロイター…久しぶりにちょっかいかけて来たけど、相手にすんの疲れるんだよなぁ〜アイツ。

 

「ったく…オヤジに報告することが増えたじゃあねぇか」

「オヤジ…ありがとうございます」

 

んお?どしたんだ急に。

 

「なぁに、礼を言われるようなことでもねぇさ」

「しかし…アイツ、オヤジを差し出すって、そんなことをしたらどうなるか、考えが及ばないんですかねぇ?」

「いや、ヤツは海賊。混沌こそを望み、混乱を糧とする。だからその後のことなんぞ知ったこっちゃあねぇんだろうよ」

 

っていやぁ何やらカッコいい気もするが、要はただのハイエナ野郎だよなぁ。

しかも、それを誇りだ何だと言って悪びれねぇんだからタチが悪いったらねぇわ。

 

「ったく…きな臭くなってきやがったなぁ…」

 

これが、鉄華団…主人公勢力を抱え込んだから起きたことなのか、それ以外に要因があるのか…或いは、サンドバル…夜明けの地平線団に、何かしらの変化があったのか…。

 

ともあれ、様子見しかできねぇかねぇ〜。

 




次回は一応鉄華団サイドで予定してます。


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56話

鉄華団サイドです。


 

「ええい!!猪口才な!!地雷原など迂回して回りなさい!!」

「はっはい!!カルタ様!!」

 

カルタの喝が入ったからか、膠着状態に陥っていたギャラルホルンの部隊は、陣形を整えて射撃に専念していた鉄華団モビルスーツ…グシオンリベイクと流星号の方へと向かう。

 

「やっぱ、モビルスーツから潰しにくるよなぁ…」

「だが、だからこそ誘導も容易いな」

 

無論、油断もできはしないが。

 

「オジキは…三日月さんに武器を渡した以外は本当にただ居座っただけだ」

 

それは、言葉にすればただそれだけのこと。

しかし、大切なのはその事実。

 

「そうとも。オジキはここにいた…いてくれた…。それでいい。その事実だけで、奴らの思考を鈍らせるには十分な毒となった。入れ知恵はここに来るより前に、既に終わっていたんだよ」

 

鉄華団からすれば、ジャスレイの整えた舞台で存分に力を振るえることで士気の向上に繋がり、逆にギャラルホルンはジャスレイの影に常に警戒しなければならない。

 

そして、その意味するところはまるで逆だ。

 

観察の末、オルガ達策士組は敵隊長の性格を見極めて、そしてその情報の共有もしていた。

 

「あの機体…頭のトサカからして多分隊長機だよなぁ。常に前線に出ている…と言うことは、乗り手はかなりの見栄っ張りか、或いは相当責任感が強いのか…」

「だが、前者にしちゃあ部隊の統制がかなり取れてる。相当に慕われているのか、教練だけは上手いのか…」

「…たぶんだけど、それなり以上には慕われてるんだと思うよ。部隊の動きもキビキビしてるし」

 

そうしてチャドはカチリ、と合図の狼煙を上げる。

それを見つけたオルガが、すぐさま反応する。

 

「ミカァ!!今だ!!突っ込め!!」

「了解」

 

三日月・オーガスはオルガの指示に短く返すと、ショートカットするようにそこを通って今まさにグシオンリベイクとモビルワーカーに攻撃せんとし団子状態の敵部隊を急襲する。

 

「なっ…馬鹿な!!そこは…」

 

驚きと共に吹き飛ぶ脚部。

なんとか立て直そうとするも、急なことでもたつき、更に二機が無力化させられる。

 

「馬鹿な…」

「そこは地雷原じゃあ、無かったのか…」

 

空気を読む、とよく言うようにその場の雰囲気や印象は誰がいたか、どれだけいたか、その時の彼、或いは彼女の機嫌はどうだったか…等々で幾らでも変わるものだ。

 

例えば、誕生会で主役が思いっきり不機嫌な時にクラッカーを鳴らしたりする人間が好意的な反応をされないように。

野球で九回裏、ツーアウト満塁で一打サヨナラ逆転ホームランが望まれる状況で空振り三振してしまう選手が、バッシングを受けるように。

場を支配する空気というのはそれだけ目に見えない強い力を有するものだ。

ライドとチャドの二人はジャスレイがこの場にいないと言うことを利用し、数度の爆発でもって疑念の種を蒔いていた。そこが、さも危険極まりないかのようにそのエリアそのものをギャラルホルンにとっての心理的な地雷原と化した訳だ。

 

元々あちらの、特に隊長はそのプライドの高さ故か、自分達の部隊だけで鉄華団を捕らえることにかなり強く執着している。

この期に及んでモビルスーツ戦の経験者たる他部隊を増援として頼もうともしていない時点でそれは明白だ。

これが他部隊…特にアリアンロッドの熟練兵なら見抜けたのだろうが、地球外縁軌道統制統合艦隊は、ここに来て少しずつ…しかし確実に経験不足のボロが出始めてきた。

 

「くぅぅっ…」

 

カルタはギリっと歯噛みする。

 

「海上部隊はどうした!!」

 

上陸予定の部隊からなかなか報告が来ないことにも腹を立てている様子だ。

 

「も、申し訳ありません…それが…」

「例の所属不明のモビルスーツが予想以上に手強く、防戦がやっとです…」

「ちぃ…」

 

こうなれば、カルタ・イシューに取れる手はかなり限られてしまう。半壊したモビルスーツ部隊で無理やり突っ込むか、それともこれ以上実害が出る前に退却するか…。

幸いと言うべきか、自分達の部隊に重傷者はいない。

もたもたしてこれを好機と、ジャスレイがやって来ればそれこそ台無しと言うものだ。

 

「カルタ様!!」

「なんだ!?」

 

「地球外縁宙域に、船舶反応!!中型船舶、複数確認しました!!」

「なんですって!?」

 

これはカルタにとって最悪の報告だ。

恐れていた事態、招かれざる客が再度やって来るということだ。

更にタチが悪いことに、状況的にここで引くのも憚られる。

それは別に功名欲しさだけでは無い。

真に問題なのは、自部隊の損害があまり無い状態で引けば、それは臆病者の誹りも免れないということ。

嫌がらせのような散発的な攻撃こそあれ、決定的な打撃はあちらもこちらも出来てはいない。

今まさに切り込んできた敵モビルスーツも、浮き足立っていたところへの機体破壊がメインの嫌がらせばかりで、ちょこまかと鬱陶しい。

『買収屋』が近づいて来ていたから仕方がなかったんです。なんて言う言い訳を現場もろくに見ていない上層部が容認するのか?

疑念はただ、深まるばかりで

 

「くぅ…」

 

カルタ・イシューの決断の時は、刻々と迫っていたのだった。

 

□□□□□□□□

 

彼女に協力してもらう手筈も整い、木星圏へと近づきつつある船内で、オレは部下に話しかける。

 

「心配性だねぇ…一体誰に似たんやら」

「すんません…」

「謝んじゃあねぇよ。オレにとってもアイツらは可愛い甥っ子分なんだからよ」

 

協力をとりつけたのは、オレの中で五本の指に入るだろう出来れば世話になりたく無い人物、ナナオ・ナロリナ。

 

今回頼んだのはナナオの船とレーダーに反応する大型のデコイを用いたいわゆる欺瞞作戦だ。

オレはその時のやりとりを思い起こす。

 

「それじゃあ、いつもの口座に支払いヨロシクね〜♪」

「おう。世話んなるなぁ」

 

ってかなんですぐ出たんだ?

 

「…も〜、張り合い無いわねぇ…」

 

何故だかぶーたれたような反応を返して来るナナオ嬢。美人だなぁ…怖いけど。

 

「そりゃあな。さっきも言ったが、可愛い甥っ子分の依頼達成がかかってんだからよ」

「叔父馬鹿…で、ホントにいいの?レーダーに映るだろう距離まで近づくだけで」

「おう。映像に映るとこまで近づいちゃあ目的がバレて本末転倒だしなぁ。指定したポイントでしばらく止まって、適当に頃合い見て退散してくれれば良いさ」

 

途中ギャラルホルン部隊に遭遇するリスクもあるだろうが、まぁ彼女なら問題無いだろうさ。

 

「さて、ここを抜けりゃあ、懐かしの木星圏だ」

 

しっかし…こりゃあしばらく晩酌もお預けだよなぁ〜。

 

ガックシ。




さて、カルタ様は生き延びるのか、否か。

ガバはお見逃しいただければ…。


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57話

ちと物足りなかったので鉄華団サイド補足します。


その日地球に於いて、重大な出来事が起きていた。

 

「おい!!ギャラルホルンの連中、引いて行くぞ!!」

 

モビルワーカーのハッチを開け、そう叫ぶのは鉄華団副団長ユージン・セブンスターク。

 

「やった!!オレ達勝ったんだ!!」

「見たか!!ギャラルホルンめ!!」

 

続々と喜びに震える声が上がるが…。

 

「お前ら!!まだ仕事は終わっちゃあいねぇぞ!!」

 

そう言うのは鉄華団団長、オルガ・イツカ。

 

「今のうちに蒔苗先生を送り届けねぇと、連中今度は援軍連れて戻って来るかも知れねぇ!!そうなりゃあ今回の作戦もパァになんだぞ!!」

 

その一喝にハッとなった鉄華団一同は、先ほどの浮き足だった空気も引き締まり、再び作戦行動に戻る。

用意された列車に乗り、一行は一路エドモントンへ。

 

今度は警戒体制を維持したまま、代わる代わる番を立てる。

そして、車両のひとつに、策士組が集まり今後の方針について話し合っていた。

 

「ビスケット、あのギャラルホルンの連中来ると思うか?」

 

まずはオルガがそう問いかける。

 

「そうだね。三日月のおかげで機体の損傷が激しいとはいえ、あの執念深さだ。用心に越した事はないと思うよ」

「チャドとライドも同じ意見か?」

「ええ。引いた理由が明確にわからない以上、安心しきるにはまだ早いかと」

「だね。ただ、モビルスーツのインナーフレームは現場の応急処置で修理してもすぐに動けるようにはならないと思うよ。いわば人体で言う骨が折れてる状態だからね。一度装甲を外して本格的に修理をするなら…普通は一機だけで、数週間はかけるモンだからなぁ…。もちろん、フレームの種類にもよるけどさ」

「なるほどなぁ…。そんな悠長にはしてられない…か」

 

かと言ってほぼ無傷な機体をかき集め、ニコイチ、サンコイチで修理したとしてもせいぜい二〜三機が限度だろう。

そうなれば、後は単純なモビルスーツそれ自体の性能の勝負になる。

 

「賭けってレベルじゃあないね」

「だが…あの隊長のめんどくささは実際目にしてるからね」

 

団員達は各々で暖をとり、雪の中を進む列車の窓の外を警戒する。

普通なら見たことのない銀世界に心躍らせるものなのだろうが、今の鉄華団にとってこれは自分達の体温を奪う敵であり、敵からの視認を妨害してくれる味方だ。

 

「オジキが資金をたくさん用意してくれててよかったぜ…」

「うん。そのおかげでオレ達は寒さの中でも暖をとれて、飢えずに生きられる」

 

オルガ達が今回の依頼に当たって、用意したものは多い。

携帯食料や、暖房具が買えたのも、あの宴の時にある程度まとめてもらえたからだ。

 

クーデリアとアトラは一時的でも緊張感から解放されたためか、昼の戦闘が終わってから列車に移動して、今は毛布にくるまって寝ている。

クーデリアと同じく護衛対象の蒔苗氏も同様、一番安全な車両で休んでいる。

 

「さてと…こっからが正念場だなぁ」

 

気合い十分という様子のオルガを見るや

 

「オルガは三日月のところにいってあげて」

 

と、ビスケットは優しく言う。

 

「え、でも、いいのか?」

「いつ敵が来るとも知れない状況なんだ。作戦を伝える意味でも、オルガは三日月といた方がいい」

「……分かった。恩に着るぜ!!」

 

そう言うなり、オルガは三日月の所へ走って行った。

 

「でもいいの?」

 

オルガの背中が見えなくなって、すぐに疑問を口に出したのはライドだ。

 

「オルガは最近、オレ達とばかり話してるからねぇ〜」

 

ビスケットはそれで少し物寂しさを感じているのだろうと予測しているようだ。

 

「そういやぁ、あの二人、CGSに来るより前からの付き合いだったっけ?」

「ああ。しかし…」

「うん。三日月も、少しずつだけれど変わっていってるような…そんな気がするんだ。それが良いことなのか悪いことなのかはわからないけど…」

 

夜はふける。

 

鉄華団と、その護衛対象の二人を乗せて。

 

一路、エドモントンへ。

 




気持ち短めに。

一応アインくんは出すつもりです。

カルタ様は…どないしよ。


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58話

ジャスレイサイドのお話しです。


『黄金のジャスレイ号』と共に、無事テイワズのお膝元『歳星』に到着したジャスレイは、襲撃の件で心配したのだろう人混みをかき分けて、早速マクマードに今回のことの一部始終の報告をおこなっていた。

 

「…とまぁ、以上が鉄華団連中の出した成果と、それに対してのオレの所感だな。まだまだ改善できる点も多く見られはしたが、それもおいおいやっていけば良いだろうよ」

 

マクマードは事務所でソファに腰掛けつつ向かい合うジャスレイからの報告を聞くや「ふむ…」と顎に手を当て、考える素振りを見せる。

テイワズの新入り組織たる鉄華団は腹心たるジャスレイ、そして名瀬・タービンから見ても比較的好印象。

そして、名瀬の意見を取り入れた育成計画。

未だに危なっかしさは残るし、それなりにジャスレイやタービンズの面々が手伝ったとは言え初仕事…それもかなりの高難度の仕事で成功という結果を残した。

これは控えめに言っても評価に値する内容だ。

 

「なるほどなぁ…」

 

資料を手にして考え込むマクマードに反し、ジャスレイは机に帽子を置いて皿の上のカンノーリを頬張る。

なお、これはジャスレイが自腹で買ったものだ。

なにせ、襲撃事件以来しばらくは取っておいてもらえないのだ。食べたくなったら自分で買うより他ない。

ただ、マクマードの分も買って来ているのは律儀と言うべきか。ご機嫌取りと言うべきか。

 

「それによ。オレとしても、必要以上に資金を出したつもりはねえよ?」

「オメェの()()()()は感覚が麻痺しそうで怖えからなぁ…」

「オイオイ…ちゃんと採算は取れる分までしか使っちゃあいねぇさ」

「そう言って、どうせオメェのポケットマネーからも幾らか出してんだろう?」

 

その言葉に、ジャスレイはギクリと少し硬直する。

 

「ハハハ…バレてら…」

 

ジャスレイは誤魔化すように笑うと口の中が甘くなったのを、コーヒーを飲んで調和させる。

 

「ったく…何度も言うがなぁ、ちったぁ貯金しろっての…」

「だがよ。このデータを見てくれや」

「どれどれ?」

 

マクマードは新たに取り出された数枚の書類をジャスレイの対面に座りつつ読む。

そこには、タントテンポを配下に置いた影響により得られるだろう利益の目算が細々と書かれていた。

 

「…なるほど。確かにこれなら問題はねぇか…」

「おう。分かってもらえたんなら何よりさ」

 

ジャスレイはそう言うなり、帽子を持ってソファを立つ。

 

「なんだ。もう行くのか?」

 

少し驚いた風に、ジャスレイにそう話しかけるマクマード。

 

「おう。なんせ長く家を開けたからな。ニナのヤツにも顔を見せてやりてぇしよ」

「そうか。なら早く行ってやれ」

 

マクマードはなるほど。と納得した様子で帰宅を促す。

 

「おう。そうさせてもらうさ」

 

そう言って扉のドアノブに手をかけたジャスレイが、思い出したように振り返る。

 

「ああ…それと…」

「…なんだ?」

 

振り向いたジャスレイはフッと真面目な表情をしており、マクマードもそれを察する。

 

「『夜明け』の連中が何やらきなくせぇ動きを見せてる。情報部から何人か探りを入れさせてもらえねぇか?」

「お前がそう言うならそうなんだろうなぁ…わかった。対処しよう」

 

その言葉を聞くなり、ジャスレイは安心した様子で部屋を後にした。

 

「ったく…あれで嫁がいりゃあなぁ…」

 

ボソリとそう零したマクマードは、ジャスレイが買って来た自分の分のカンノーリにかぶりついたのだった。

 

□□□□□□□□

 

さ〜て、オヤジに報告も済んだし、久しぶりの我が家だ。

数人の部下と車で移動し、家の敷地に入る。

家の玄関前で降ろしてもらい、待っていた部下に入口を開けてもらう。

 

「帰ったぞ〜」

「おかえりなさいませ、オヤジ」

 

ニナのこともあり、屋敷を任せることにした部下達数名が揃って頭を下げている。

 

「おう。ただいま」

 

いちいちやらなくって良いって言ってるんだけどなぁ…。

 

「じゃす!!」

「お嬢!!いきなり走ったら…」

 

たたたたた…と本を抱えたニナがやって来る。

お付きの部下は顔を青くしているが。

歩み寄って目で追うと、ボフッと足に抱きついて来る。

 

「おうおう。転んだら危ねぇぞ?」

「にな、お勉強してた。えらい?」

「そっか。偉いなぁ」

 

普段の寡黙な様子とは打って変わってお喋りさんだな。

しっかし、ここまでやんちゃな子だったか?

 

「それじゃあ、部屋で勉強の成果を見せてもらおうかな?」

「うん」

 

部屋まで歩いて行くと、部下は幾らかホッとした様子で部屋の前で警護に戻る。

 

「じゃす、しばらくおうちいる?」

「そのつもりだが」

 

なんせ、全然かまってあげられてなかったからなぁ。

流石に拾っといてこれはないよなぁ…。

部下たちが世話をしてくれているとはいえ、それだけじゃあ足りないだろうし…。

 

「それじゃあ、好きな本持って来な」

「……うん」

 

コクリと頷くと、世話役の部下に重かったり高いところの本を取ってもらったりして戻ってきた。

 

「ちゃんとお礼は言ったか?」

「うん」

「よし、いい子だ」

「ん…」

 

ったく…こうしてると最初の毒舌っぷりが嘘みたいだなぁ。

 

「それじゃ、今日は特別だ。夜まで起きていっしょにいるか?」

「……うん!!」

 

……可愛いなぁ。




次回、マクマードのオヤジに動きが…?


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59話

ジャスおじサイドです。


『圏外圏の虎』

 

数あるジャスレイの呼び名の中でも、それはジャスレイが最も暴れ回っていた時代につけられたあだ名だ。

誰よりも勇猛に敵陣に切り込み、そして、退却の時にはいつもしんがりを進んで務めていたことから、いつしかそう呼ばれるようになっていた。

その功績はそのままテイワズにとって栄光の歴史であり…。

 

「オヤジ…」

「おう」

 

何より、ジャスレイ自身にとっては苦い思い出だ。

だから、マクマードはそのことを、その傷を、ジャスレイの前で誇ることはない。

何よりジャスレイ自身が、過去をあまり話したがらないタチであるのも大きいだろう。

酒に酔った勢いで、己の武勇伝を長々と語る事もない。

部下達が思い切って聞いてみても

 

「たぶんオメェらが思ってるよりかはつまんねぇモンさ」

 

と、ごまかすように、はぐらかすように曖昧に笑う。

それ故か…特に罰則も無いにも関わらず、いつしかジャスレイに過去を訊ねるのはテイワズ内でも禁句とまでは言わないまでも、それに近いものとなっていった。

 

サァっと小雨が降る中、ジャスレイは部下に渡してもらった傘を差し、とある石の前に部下達と共に来ていた。

毎年、この時期の『JPTトラスト』の恒例だ。

 

「毎度毎度すまねぇな。お前ら」

「いえ…オレらが勝手に着いて来てるってだけですから…」

 

部下達といっしょにその石の周囲を掃除し、幾分か綺麗にする。

そしてそっと…そこに花束を供える。

石の正体は簡素な墓だ。

そして、その下に骸の入った棺はない。

だが、ジャスレイはそれがアイツららしいとも思っていた。

 

「じゃす、誰のお墓?」

 

傍らでニナがそう問いかける。

 

「…昔、一緒にバカやった…そんなバカ連中のだよ」

 

ジャスレイは不思議なことに、彼らに最期「助けてくれ」とも、「置いていかないで」とも言われなかった。

恨み言も何も無く、むしろ「早く行け」だの、「信じている」だの、そんな青臭いことばかり言われていたものだ。

 

「いやぁ…案外みんな、青クセェトシだったのかもなぁ…」

 

あの時は今よりも遥かに危険が渦巻いていて…一寸先で大小さまざまなマフィアが抗争を繰り返していた。

騙し騙され、殺し殺されは当たり前。チンピラや人買いの闊歩する巷で、力の無い女子どもはそんな連中に媚びるか目をつけられないように隅で震えているしか出来やしなかった。

その様相は正しくこの世の地獄。

だからこそ、そんな地獄を生き抜くためには…誰もが等しく『悪』にならねば生きていけなかった。

こんなところで身綺麗なまま死ぬか汚れてでも生きるか、そんなもの考えるまでも無かったのだから。

そして、そんな時代の必然か…みんながみんな、己を導いてくれる存在を求めていた。

そうして、そんな時にジャスレイのオヤジ…つまりはマクマード・バリストンがそのカリスマでもって路頭に迷ったチンピラや不満を持つ若者達をまとめ上げた。

 

後に圏外圏随一の勢力を誇るテイワズの幕開けだ。

 

「ギャラルホルンはそん時からリスクの割に金にならねぇ戦いにゃあ参入しなかった。今みてぇに大きな取引先がありゃあ話も違ったんだろうが、そうまでしてやる旨みが無かったのさ。当時はな」

「今とおんなじ…」

 

ニナは呆れたような、やっぱりと言うような…そんな渋い顔をする。

 

「ま、そんなモンさ。それでも一部ちゃんとした連中もいるにはいるんだろうが…生憎ときれいごとだけじゃあ人の世はできちゃあいねぇ」

 

そう言って、見知った幾人かの顔を思い浮かべ…嘆息する。

 

「オウ。オメェ…まだ死んでねぇな?」

「う…」

 

ゴミ溜めのようなカビ臭いスラムの傍らで、人買いに追われるガキ一匹に、そう言って雑に放り投げて寄越したのは、そのごみごみとした周囲に対して上等なパンひとつ。

 

「スンっ…食い物…」

「それ食ったら着いてこい。運が良けりゃあ…オレの右腕にしてやる」

 

どうせ死んでも惜しくない命ひとつ。このまま路頭に迷ってまた人買いに追われるよりはマシだろうと、気まぐれにかけられたその言葉に、ジャスレイは否応無くすがるより無かった。

 

それから何度も即席チームを組んでの鉄砲玉同然の使いっ走りから、わずか二十年足らずで木星圏をまとめ上げ、ジャスレイ自身も幹部にまでのし上がった事実から、当時の壮絶ぶりも分かるだろう。

 

「だからだろうなぁ。きっと…アイツらはオレを責める余裕も無かったんだろうさ」

 

本人達に届くとも分からない不器用な、若造が宣うような憎まれ口。

ニナはそんなしんみりとした義父の顔が気になり覗こうと顔を見上げるや、ぽすっと帽子を被せられてしまう。

 

「む〜…」

「悪りぃな」

 

人間とは慣れて、忘れて、そうして心の平穏を保つ生き物だ。

薄情で、無責任で、だが…いや、だからこそ。

その傷を隠しながらも、しかし忘れたがらないのは果たして…。

 

□□□□□□□□

 

ついこないだのロイターのセリフを聞いて、何となしに昔のことをぼんやりと思い出す。

別におセンチな気分になるほど若くもねぇけども…。

にしても『圏外圏の虎』…ねぇ…。

それオレが一番ヤケクソになってた頃のあだ名だよなぁ!?

未だに五体満足なのが不思議なくらいヤバかったからなぁ〜。

 

「じゃす、ないてる?」

「…いや、そこまで若くもねぇさ。ただ…まだついてねぇ心の整理を、ちっと…な」

 

あん時はどうせ鉄華団以外にゃあやられねぇんだ!!って無理くり突っ込んでなぜか生き延びてて、同時に運命的なアレの存在もあるのか無いのかなんて考えたり考えなかったり…。

ぶっちゃけオレよりスゲェ奴らも何人もいたし、いい感じになった女も…大抵ほかの野郎のお手つきでなぁ…。

それが三回も続いたもんで…今じゃあすっかり露骨にすり寄ってくる女にゃあ警戒ばっかで…って今はそれはいいか。

にしても…いやぁ〜!!凹んだ凹んだ!!

みんなも気を遣ってくれてるのか触れないでくれてるし…。

出来た部下を持ったよなぁ、ほんと。

 

「退屈だったか?」

「………」

 

見下ろして聞いてみると、ニナはブンブンと首を横に振る。

 

「ホントにお前は賢いな…」

「ん」

 

んって…なんだそりゃあ…。




鉄華団側のお話はもうちょいお待ちを……。


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60話

プロヴィデンスのMG…カッコいいですねぇ。
でも、ドラグーンシステムってファンネルとどう違うんでしょうね?


 

ギャラルホルンが誇るセブンスターズのひとつ、イシュー家当主代理を務めるカルタ・イシューは苛立っていた。

決して、あのニヤケ面に焚き付けられたから…では無い。

どちらかと言えば外野に正当な力の行使に水を差されたことに対して憤っているのだ。

ジャスレイ・ドノミコルスが戻って来たかと思って急いで引き返してみれば、反応があったと言う場所には何も無く、十中八九あちらの妨害行為だろうことは誰の目にも明らか。

だが、理由も証拠も無く手を出せば手痛いしっぺ返しを喰らうのは必然。

ならば公文書なりなんなりで、鉄華団だけでも拘束したいところだが…今からとなるとどうしても時間がかかる。

連中の目的地は特定した列車の種類、そして走行経路からしてエドモントンだろう。まず間に合わない。

それでは本末転倒だ。

しかし、カルタはハッとする。

 

「ん?文書?」

「カルタ様?」

 

隣で機体の修理を見てみた部下達が心配そうに声をかける。

 

「…よし。これならば、あちらも乗ってくるかもしれん」

 

思いついた案は正直言って賭けもいいところだが、何もしないよりはマシだ。

思い立つなり、カルタは行動に移ることとした。

 

「機体は必要最低限の数を残して修理を後回しにしても構わん。私含めて三…いや、四機あれば良い。着いてくるパイロットに関しては後ほど伝えるのでしばし待て」

 

そう伝え、自室に戻った。

 

 

「ふむ…」

 

ギャラルホルンの研究施設。

長いこと実験が凍結されていた黒い大型のグレイズ・フレームを用いた阿頼耶識の実験用モビルスーツの前で、データと睨めっこしている男が一人。

外見は金髪碧眼。容姿も端麗で美男子と言って差し支えなく、それでいて若く仕事面でもかなり有能と評判の彼はギャラルホルン特務三佐、マクギリス・ファリド。

 

「カルタの方は、上手くいきそうだが…」

 

そう言って顔を上げる。

 

「しかし…ジャスレイ・ドノミコルス…か」

 

『買収屋』と称され、同時に圏外圏でも屈指の影響力の大きさで知られる男の名を呟く。

つい先日も、月の企業の事実上の買収を成立させたと言うことから、それなり以上に経営者としての手腕もあるのだろうことは想像に難くない。

 

「モンタークとして接触するのは…些か尚早か?」

 

その声には、少なからず警戒の色が宿る。

なにぶん、彼がいるからこそ彼は未だに鉄華団とコンタクトが取れていないのだ。

それと言うのも、鉄華団はテイワズ傘下の組織という扱いであり、ならばまずは上に話を通さねば組織の横紙破りに当たる。

そして、テイワズはそう言ったことにかなり敏感だ。

彼らの直接の上役である名瀬・タービンもそうであるし、もし鉄華団団長、オルガ・イツカが相談を持ち掛ければ、まず間違いなくジャスレイにまで話が行くだろう。

他組織の方針に口を出さないからこそ、ジャスレイは忌憚なく意見を言うし、それを踏まえても組織のためになるのならば受け入れるよう名瀬はオルガを説得するだろう。

 

「まぁ…最悪カルタが生きていても計画に支障はない」

 

元より幼馴染二人に関して、利用するつもりと友情…と言えるかは分からないが、それに近い何かが混在しているのは確かだ。

それに加え、二人の実家…イシュー家とボードウィン家はセブンスターズ内でファリド家よりも発言力こそあるものの、次期当主たる二人はマクギリスのことを強く信頼している。

まして、ガエリオの妹、アルミリアとマクギリスとは婚約関係にある。

長い目で見て、ここで目先の目的を達成できずともそれはそれでいい。

己の背を押す逸る気持ち、胸の内に渦巻く様々な感情もあるが、計画は準備こそが重要。

「ふぅ…」と気持ちを落ち着け、マクギリスは再び思案する。

 

「しかし、ちょうどいい機会だ…」

 

マクギリスは見ていたデータを閉じると、用事は済んだとばかりにツカツカと、出口に向かって歩き出す。

 

「生ける伝説か、三百年前の英霊か…どちらが勝利するのか…その行く末を見守るのも悪くはない」

 

ジャスレイのことは彼個人としてはなんとも言えない。

厄介だとは思うが、しかしその実績は確かだ。

それは事実として素直に認められる。

それ故に…興味も向くというもの。

部下に調べさせ、かつてラスタル・エリオンと友人関係にあったことは知っているが、疎遠になって以降は、少なくとも個人としては険悪だと聞く。

であれば、厄介な二人が手を組むことはまず無いだろう。

そこはまずひと安心か。

自分は今、人生に於いても歴史に於いても岐路に立っている。

その自覚があるからか、歩む足取りはどこか重く、しかし確かなものだった。

 




はい。

マッキー登場回でした。

齟齬があったら申し訳ない……。


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61話

鉄華団サイドです。


それは、新たに護衛任務を請け負った鉄華団がオセアニア連邦の領土を抜け周囲が一面の銀世界に変わってしばらくしてからの出来事だった。

 

「後方にエイハブリアクターの反応アリ!!ギャラルホルンのモビルスーツ、来ます!!」

 

鉄華団通信手、ダンテ・モグロのその言葉をきっかけに、空気がいっそう引き締まる。

流石にギャラルホルン。立て直しも早い。

油断はしていないつもりだったが、やはり対応の迅速さには驚かされる。

 

「よし!!各員戦闘体制に入れ!!」

「応!!」

 

オルガの指示で鉄華団の団員達がバタバタと騒がしく動き出し、列車内の緊張感が高まる。

列車を止め、周囲の警戒に入る。

確認できたモビルスーツは四機。

どうやら修理できないものは後回しにしたらしい。

しかし、どうにも様子が変だ。

既に敵の射程内に捕捉されているというのに、敵側に一向にこちらを攻撃してくる気配がない。 

ガンダムフレームを警戒してのことだろうか。

団員達が違和感を感じていると、少し離れたところに降り立ったあちらのモビルスーツからの呼びかけがあった。

 

「列車内の総員に告ぐ。我らが隊長からの書簡を持って来た。ついてはその内容をあらためていただきたい」

 

そう言うなり、蒔苗氏の別荘で攻撃してきた見覚えのあるモビルスーツ三機から、それぞれパイロットが降りて来る。

団員達は銃口を向けるも、彼らはそれに怯むこともなくその目の前で銃を投げ捨て、先程述べていた書簡を持ってやって来た。

なんの目的があるのか分からない相手を撃つわけにもいかず、団長であるオルガ、その参謀的相棒でもあるビスケット。そしてライドとチャドの計四名がその受け取りに向かう。

クーデリアは自分が行くと言っていたが、流石に依頼主を敵兵の前に出すわけにはいかないと言う判断故の選出だ。

無論、パイロット達はいつでも動けるようスタンバイ済みだ。

 

ちょうど列車とモビルスーツの中央辺りで両陣営の使者と代表は落ち合った。

 

「まずは、我らを撃たずにいてくれたこと…その賢明な判断に感謝する。そして…これが先ほど述べた書簡だ」

 

そう言って簡素な飾りと、リスの紋様を描いた蜜蝋が付いた封書を持ち、その中から一枚の紙を取り出す。

ギャラルホルン兵は、鉄華団側の全員が目を通したのを確認するや再び仕舞い、代表として来たオルガに手渡す。

 

「刻限は三時間でよろしいか」

 

オルガはビスケット、そしてライド、チャドとそれぞれアイコンタクトをとり、頷く。

 

「ああ、問題無い」

「では色良い返事を待っている」

 

そう言って敬礼をすると、ギャラルホルン兵は再び背を向けて自身のモビルスーツに向かい歩き出した。

 

「…なんだぁ?」

 

列車内に戻ったオルガが渡された封書を開け、ライド達がそれを覗き込む。

 

「えっと…決闘の申し出?」

 

内容としてはあちらの隊長の名と、隊員達の署名及び血判があり、この文書のギャラルホルンの公文書としての正当性を謳う文句が続く。

そして、肝心の鉄華団がこの決闘に勝利した際のあちらが呑む条件として挙げられているのは……

 

ひとつ。

隊長であるカルタ・イシュー以下、地球外縁軌道統制統合艦隊はこれ以上貴公ら鉄華団を追い回すことはしない。

 

ひとつ。

なんなら、勝者への敬意としてそちらの望む支援もある程度は検討する。

 

ひとつ。

全責任は地球外縁軌道統制統合艦隊隊長、カルタ・イシューが負うものとし、その責任下に於けるこれまでの鉄華団側の一切の咎を免ずる。

 

そして、敗北したり決闘を拒んだ場合の条件も目を通す。

 

ひとつ。

こちらの勝利決定後、速やかに投降すること。

 

ひとつ。

その際、無駄な抵抗をすれば命の保証はない。

無論、大人しくしていればセブンスターズとその家門に誓って手荒な真似もしない。

これは、そちらを侮っているからでは無く、そちらの勇気を讃えるためである。

 

ひとつ。

仮に決闘を拒否したり、こちらの待機中に不意打ちをしたならば、叛逆者として周囲のギャラルホルン部隊がこちらに向かう手筈になっている。了承されたし。

 

追伸

余計な血を流したくなければ、潔く投降するか決闘を受け入れることを推奨する。

 

ざっとこんな感じだ。

 

「なんの義理でこっちが乗ってやる必要があんだよ…」

 

不満げにオルガは言うが、ビスケットが「いや…」と考えるそぶりを見せる。

 

「でもこれはチャンスかもしれないよ」

「チャンス?」

 

訝しげに言うオルガにビスケットが頷く。

 

「うん。地球外縁軌道統制統合艦隊ってことは、簡単に言えばこの地球の周囲を鎮護する部隊ってことだよね?」

「まぁ、長ったらしいが…名前からするとそうなるのか」

 

その返答に、ビスケットは頷く。

 

「その隊長が、これ以上追わないって言ってるんだ。ご丁寧に署名と血判、そして家紋の蜜蝋までしてね」

 

そう言って封を指し示す。

書体といい、内容といい、堅苦しくそして古めかしくはあるものの、わざわざ血判までして来られるところからして誠実さは伝わってくる内容だ。

わざわざ書面で『セブンスターズに誓う』と言う旨の文言を使っている以上、それを反故にして恥をかくのは向こうだ。

であれば、こちらが勝利した際のメリットも「やっぱり無し」とはならないし、その誠実さ故に引っ込められない可能性が高い。

尤もそれは裏を返せば、書面にある他部隊が周囲に控えていると言うことの真実味が増す結果にもなる訳だが。

焦れてここを強行突破して更に別部隊を敵に回すより、敢えて今ここで相手の提案に乗る方が手間も時間的にも後々楽になるかも知れない。

三日月・オーガスはじめ、鉄華団のパイロット達の技能と、これまでの実戦に裏打ちされた実力は確かだが、だからこそ必要以上の消耗は避けたくもある。

阿頼耶識というシステムはそれだけ使用者を蝕むものだし、そのリスクがあるからこそ、メリットもまた大きいのだ。

加えて、こちらには切り札としてγナノラミネートアックスもある。

手の内を晒すリスクや強度の問題もあり、何度も使えるものではないが、勝機自体は十分にあると考えていいだろう。

 

「…どうする?」

 

幸い刻限までにはまだ猶予はある。

真っ先にクーデリア及び蒔苗氏に確認を取ったが、どちらも「そちらの判断に任せる」とのこと。

クーデリアはこれまで鉄華団と行動を共にしていたが故の信頼であろうが、蒔苗氏はテイワズ…特に名瀬やジャスレイと言ったビッグネームへの信用故のものだろう。

 

「だが、これ以上アニキやオジキに頼るわけにもいかねぇ…」

 

あの二人ならばどうするか…?

そんなことを考えても詮無いが、しかし考えずにはいられない。

自分は…自分達は今、運命の分かれ道に立っている気がしてならない。

一団を背負うと言うことの重責を、オルガは今ひしひしと味わっていた。

しかし…決断の時はゆっくりと、しかし残酷なまでに刻一刻と迫っているのだった。

 




受ける?受けない?
どっちが正解なんでしょうね。

バエルおじさんはいっそのことギャグ要因にするのも面白いかも…。


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62話

ジャスおじサイドが書きたくなったので、一話はさませて…。


パチン…パチン…。

 

静寂な室内で、交互に石を置く音が響く。

碁盤を挟んで対局しているのはジャスレイの見様見真似でやっているニナと、テイワズの首領、マクマード・バリストンのふたり。

そして、先程までマクマードと対局していたジャスレイが義娘の初対局の様子を見守っている。

戦況は白…マクマードがやや優勢といったところ。

そもそもこの囲碁自体が仕事の合間の息抜きであることと、相手が初心者の子どもと言う事もあり、マクマード側はそれなりに加減もしているが、一方でニナは真剣な表情を浮かべている。

 

「っ…ここ!」

 

パチンっ…

 

「うぉっ?ニナ、よく気付いたなぁ…」

「ふふん…」

 

その一手を見て、お茶を飲もうと持ち上げたカップを手に驚いているジャスレイを傍目に、ニナは誇るようにマクマードの用意したカンノーリを頬張る。

 

「ほぉ…なかなかやるようだな」

 

とは言え、その後は熟練の打ち方を見せたマクマードが勝利し、ニナはその悔しさからか囲碁の本を読み込んでいるところだが。

 

「それで…どう思う?」

 

実の孫娘のように可愛がっているニナが本に集中している間に、マクマードは対面のソファに腰掛けるジャスレイに問いかける。

二、三世間話を挟んで、マクマードが切り出す。

 

「うん?何がだ?」

「今鉄華団が相手取ってるだろうイシュー家の跡取り娘さ」

「ああ…それか…」

 

地球外縁軌道統制統合艦隊の隊長を務めるカルタ・イシュー。

セブンスターズの一角を担うイシュー家の一人娘。

とかくプライドが高く、年寄り連中の傀儡となることを良しとしない反骨精神の持ち主。

そんな性格故か、ほぼ干されているような現状にある。

セブンスターズの動向とは、どれだけ隠そうとしてもわかる人間にはわかるもの。

地面に落ちているスズメの羽根と大鳳の羽根が同じはずも無く、ミミズの這いずった跡よりも大蛇のそれの方が目立つのは必然。

ことに、ジャスレイが手にしていたギャラルホルン内部からの情報からその人となりは、ともすれば危うさすらあることに気づいていた。

というか、少なくともあの場からジャスレイが居なくなればすぐさま鉄華団を追いかけるだろうことが分かるくらいには自身の使命感に忠実だ。

まぁその後のナナオの策で一度は離れるだろうが、壊れたモビルスーツに鞭打って鉄華団の乗る列車を遮二無二追いかけるのは些か骨だ。

であれば、まず何かしらのアクションを仕掛けるだろうことは想像に難くない。

それも、ある程度の妥協を含んだ形で。

 

「良くも悪くも世間知らずで正義感の強えお嬢さんってとこか。危ういねぇ…」

 

ジャスレイは一度どこかのお嬢さんを思い浮かべるも「だが…」と続ける。

 

「だが?」

「だからこそ、鉄華団連中の初交渉の相手にゃあ持ってこいだろうさ」

 

ニヤリ、と笑みを浮かべるジャスレイに、マクマードは呆れた様子で

 

「おめぇ…最初っからそのつもりだったのか?」

「名瀬に提案された時にちょいと思いついてな。まぁ、アイツらには少しでも成長してもらわねぇと。その名瀬も報われねぇだろう?」

 

名瀬自身は自分のメンツを気にするタチではないが、しかしだからこそ兄貴分として顔を立ててやりたくもなる。

まして今は同じく子を持つ親なのだから。

ジャスレイはおもむろに隣に座って本を読むニナの頭をくしゃりと撫でる。

余程集中しているのか、それとも気付いた上で放置しているのか、ニナはそれを払いのけようとはしない。

 

「アイツらが成長してくれりゃあ、その分オレもラクさせてもらえるしなぁ。特にライドとチャドはあの二人の勉強の成果を色んな側面から見せてもらわねぇと」

 

武器とは銃火器やモビルスーツだけでは無く、戦いとは何も銃弾や干戈を交えることだけをいうのではない。

知恵や弁舌もまた戦場に於いては立派な武器であり、交渉もまた組織をまわす上で必要な戦いなのだ。

そのことに、鉄華団は気づかねばならない。

そうでなければ、待っているのは中身のないゴム風船のように膨張した末の破裂といった末路だからだ。

 

「ったく…分かってるだろうが、あんま贔屓し過ぎんなよ?」

 

念のため釘を刺すマクマードにジャスレイは頷く。

 

「おう。心配してくれてありがとうなぁ、オヤジ」

 

そう言うと、ジャスレイは改めてお茶を口にしたのだった。

 

□□□□□□□□

 

よしよし…色々と手ェ回した結果、ビスケットくんも生きてくれてるだろうし、側にはライドくんにチャドくんもいる。

鉄華団のブレーキ役…と言うか軍師?が増えた以上、オルガくんも急に進み続けるマンにはならない…はずだ。

 

「ニナ、面白ぇか?」

 

そう言うなりニナは本を読みながら

 

「ん…いろいろしってて…損はない」

 

と返してくる。

この知識への貪欲さは本当に凄いと思うなぁ。

そう思いつつ、カンノーリを食べようと皿に手を伸ばすが…。

 

「しばらくオメェの分はねぇって言ったろ?」

 

そんなことを言われ、皿ごとカンノーリをヒョイと持ち上げられてしまった。

くぅ…マジメ腐った表情でそんなこと…いや、まぁオレが全面的に悪いんだけどもさ…。

 

「じゃす。自業自得」

 

…相変わらずウチの娘が冷たいんだが。




ドラグーンについて詳しい方々、わざわざありがとうございます。
いやぁ…己の無知さがお恥ずかしい限りです。

それとマクマードのオヤジ、なんとなく囲碁出来たらカッコいいだろうなぁって。勝手なイメージですはい。
囲碁に関してもど素人です。はい。


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63話

お久しぶりです…。


雪原にて待つ四機のモビルスーツに乗るパイロット達は、万に一つが起きないように見張りを立てて警戒しつつ、代わる代わる暖をとっている。

 

「しかし、カルタ様」

「なんだ?」

 

部下からコーヒーを受け取りつつ、地球外縁軌道統制統合艦隊隊長カルタ・イシューは答える。

 

「連中、本当に乗ってくるのでしょうか?」

「さてな。それはあちら次第だ。だが…」

「だが?何ですか?」

 

問いかける部下にカルタは思案し、鉄華団の乗る列車の方を見遣る。

 

「奴らが最初にあそこを目指して降り立ち、そして此度の調べで目的地がわかった以上、何がしたいかも…あそこに誰がいて、今がどんな世情か考えてみれば自ずと分かる。であれば連中がすることは二つに一つ。ここで交渉に応じるか、さもなくば…」

「さもなくば?」

 

グッ…と質問を投げかけた隊員のカップを持つ手に力が入る。

 

「これ以上の時間の浪費を嫌い、力づくで推し通るかだ」

 

周囲に伏せた兵達はいわば証人。

カルタ・イシューの実力の、あるいは失態の。

それはメリットであると同時にリスクでもある。

 

「それは…」

 

先の戦闘から、隊員達には、相手が子どもだからという敵への侮りはもう無い。

ガンダムフレームの性能も、もはや噂で聞いたと言う程度の眉唾では無く実際に肌で感じた。

だからこそ、こうしてわざわざ回りくどい真似をしてまでこちらの土俵に引き出す算段を立てたのだ。

こうして釘付けになってくれていれば、それだけこちらには有利に、あちらには不利になる。

仮にやけっぱちになって突っ込んで来て、再び自分達を退けたところで、その後から数に任せて周囲の軍勢から連日連夜攻め立てられれば、エイハブリアクターを二つ装備しているガンダムフレームと言えど、ひとたまりもないだろう。

若く、勢いのある名を売りたい集団が次にどんな手を取るか…カルタは見ものだと言わんばかりに目を細める。

 

「いずれにせよ…戦いの趨勢とは、戦場で決まることの方が稀だ。重要なのは事前の準備に根回し…戦場はそれを再現する場に過ぎん。如何なる戦いもギャラルホルンにとっては結局、政治の延長線上にあるものなのだからな」

 

今は更迭されたとは言え、セブンスターズとして相応しい教育は受けているカルタだからこそ、一度受けた屈辱は忘れず奮起する。

産み育ててくれた父母には感謝しているし、だからこそイシュー家のためになることをしたいという純然たる思いもある。

そして、その姿を見ていたからこそ、彼女と彼女の部下達との間の信頼は不動のものといえる。

 

「カルタ様。先ほどの四名がこちらに向かい歩いてきています」

「……来たか」

 

カルタはすっくと立ち上がり、歩み寄ってくる使者たちを見遣った。

 

時は少しばかり遡り……。

 

「交渉?」

 

鉄華団の幹部陣…とは言っても本当に形ばかりだが…が集う列車内で、そう訊ねるビスケットにライドは頷く。

 

「うん。この文章は一見、これで完結してるように思えるけど、よくよく見るとおかしな点も少なくないよね」

 

そう言って渡された封書を示す。

そして、ライドがそう思う根拠を順々に並べる。

 

「まず、明確な決闘の内容が記されてない。次に、ある程度の支援って言っても食糧や物資の支援くらいなのか、それともエドモントンに駐在しているだろうギャラルホルン部隊に根回ししておいてもらえるのかって言うのも気になる」

 

さらに言えば決闘がつつがなく終わったとして、仮にあちらに死者が出た場合ギャラルホルン側は本当に遺恨無く立ち去ってくれるのか。

逆にこちらに欠員が出た場合の補填…というと言い方は悪いが、その分の埋め合わせもしてくれるのか。

パッと思い浮かぶだけでもこのくらいの不確定事項、不安要素がある。

 

要は、ここに記されている事柄はあくまでも交渉のスタートライン。

三時間以内というのは団内の意見をまとめるというだけで無く、あちらへの交渉の制限時間でもあるのだろう。

裏を返せば、やはりそれだけあちらが功績を求めていると言うことでもあり、交渉の余地はこちらが思っている以上にあるだろうことは明白。

元より個人対個人では無く、組織間でのやり取りである以上、はいそうですかと丸呑みして、後出しでこちらの思惑と違うと知ってから後悔しても遅いのだ。

 

「なるほど。あっちは刻限を聞いてはきたが、だからって交渉してくるなとも言っちゃあねぇな…」

 

オルガは顎に手を当て思考する。

 

「ちょっと待てよ!!」

 

そう食ってかかるのはユージン・セブンスタークだ。

 

「どうしたの?ユージン?」

 

ユージン以外の全員の視線がユージンに向く。

 

「どうした?はこっちのセリフだ!!交渉するってぇのか!?よりにもよってギャラルホルンを相手に!?」

 

眉間に皺を寄せ、険しい表情を浮かべるユージン。

 

「百歩譲ってジャスレイのおっさんが信用できる人なのはまぁ分かったさ。オレだっていつまでもいじけてるほどガキでも恩知らずでもねぇし、実際それで結果だって出たわけだからな。だがなぁ!!アイツらに…ギャラルホルンの兵隊に火星でどんだけ仲間をやられたと思ってる!!お前らまさか忘れたわけじゃあねぇよなぁ!?」

 

ユージンのその怒りは至極尤もなものだ。

それと言うのも、彼はオルガがCGSにやって来る前から、不器用ながらも仲間思いで、弟のように純粋に自分を慕ってくれた連中をなんやかんやいいつつ世話を焼いていたのだ。

オルガやビスケットもそれを微笑ましく見てきたし、なによりその子どもたちがそう話していたのを知っている。

ユージンが怒ったり、意見をするのはいつでも団員たちの言いにくい気持ちの代弁だ。

だからオルガも彼を副団長に据えているわけだし、シノ達も文句…というか小言を言いつつも彼を見放さないのだ。

 

「だが、何にせよこの文言に対する問合せはするべきだ。こっちの勘違いで後から文句言われても面倒だしな」

「それは…まぁ、そうだけどよ…」

 

今度はオルガから尤もなことを言われ、徐々に尻すぼみになっていくユージン。

そんなユージンを見て、オルガは確信めいた笑みを浮かべる。

 

「ありがとな。ユージン」

「はあ!?オレなんか礼を言われるような事したかよ!?」

「いや、みんなのこと、本気で心配してくれてんだろ?それが嬉しくってよ」

「そ…そんなんじゃあねぇよ!?」

 

アワアワとするユージンをよそに、話し合いは進む。

 

そして、時は今に戻り…。

 

「ギャラルホルンさんよぉ…いくつか聞きてぇんだが…応じてもらえると助かる」

 

「無論」

 

…鉄華団の、タービンズ以外では恐らく初の直接交渉が今、はじまった。




久々の投稿なのに、話の進みが遅くって申し訳ない…。


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64話

出来上がりに少しばかり時間が掛っちゃいました。
分けて書こうと思ったけども、後半部分が思ったより短かったのでそのまんまくっつけることに…。

ちゃんと考えて書けよ自分…。

orz


 

「まず、聞きてぇことがいくつかある」

「ふむ。聞こう」

 

簡易的ではあるがギャラルホルン側に用意された席につき、オルガは話を切り出す。

なお、双方の護衛は立って後ろに控えている。

 

この話し合いの席に着くに際し、鉄華団の団長であるオルガ・イツカにはいくつかの疑問、懸念点があった。

 

「まず組織同士のやりとりとは言え…そもそもの話、鉄華団とギャラルホルンとでは歴史背景も、その規模も、何もかもが違う」

「まぁ、そうだな」

 

カルタはそう相槌を打つ。

 

「にも関わらず…だ。アンタら何故交渉をしようと思った?」

 

両者の間には、例えるなら矮小なネズミと巨大なクジラほど…特にギャラルホルン全体で見るならそれ以上の差があり、開きがある。

その時点で最初から対等な交渉など望めないだろうことは分かりきっていた。

 

「次に、包囲したオレらをさっさととっ捕まえねぇのは何故だ?」

 

最初の油断していたろう頃ならばいざ知らず、こちらよりも多い兵力をわざわざ周囲に伏せている旨を書面で伝えるよりも、それだけの兵達で鉄道を通行止めするなり、待ち伏せして強引に引っ捕えることだって出来たはずだ。

自分達は確かにテイワズの傘下とは言え、言ってしまえば使いっ走り。

上層部からすれば潰しの効く程度の小勢がいいところだ。

手柄が欲しいのならなおのこと、正面切って決闘だなどと非合理極まるのは明白。

阿頼耶識とガンダムフレーム、この二つこそ鉄華団のアイデンティティであり強みだが、それを分かった上での決闘などと無謀にも程がある。

そもそも、何故依頼主に直接ではなく、テイワズ内でも新参のわざわざ鉄華団を交渉役に名指しで選んだのかも不明だ。

彼らの組織内での立ち位置だって、せいぜいがジャスレイに資金援助してもらったり、兄貴分の名瀬ともども可愛がってもらっているくらいで…。

 

「…ん?」

 

まさか…と思い至る。

しかし、同時に疑念も湧いて出る。

ジャスレイとの接触が目的ならば、何故チャドとライドの二人を届けに来た時にしなかったのか。

 

「或いは…オレらがいたから出来なかった?もしくは…」

 

オルガは考え込むように口元を押さえて小声で呟く。

 

「大丈夫?オルガ」

 

隣で心配そうな顔をするビスケットに「ああ」と短く返す。

 

「そもそも…何でわざわざ決闘ってしち面倒なことをしてぇのか、それに関係して、決闘っても方式はどんなモンなのか聞きたい」

 

なるほど、とカルタは頷き答える。

まとめて答えるつもりだったのか、相槌を打つ事はあっても、途中に言葉を遮ることは無かったため、比較的スムーズに話は進んだ。

 

「なに単純なことだ。我々の手を煩わせる貴公らのその実力を評しただけのこと。それに組織の大小、生まれの貴賎、そんなものは関係無い」

「…ハァ?」

 

その言葉にオルガは困惑する。

 

「我々は、我々の脅威なり得る存在に敬意を表したと言うだけのこと。一息に踏み潰すのは簡単だ。だが、そちらの実力が惜しいと言うのも事実」

 

それはある種の傲慢なのか。

それとも余裕の現れなのか…。

もしくは、挑発のつもりなのか。

ギャラルホルン側はオルガの反応を観察しつつ、言葉を続ける。

 

「改めて言おう。その研鑽、その実力、賞賛に値する」

 

なればこそ、正々堂々と決着をつけようと、そう言うことなのだと言う。

 

……なるほど。そう言う建前か。

オルガは内心何かがあることを察しながらも、再び納得したように僅かに頷く。

あちらが多少…いや、かなり上から目線なのは気になるが、今のところあちらが数でも地の利でも有利なのは事実である以上、必要以上に刺激するのはよろしくない。

 

「また、決闘に関してはそれぞれ三名ずつ選出しての一対一を三度行う。先に二度負けたら三戦目はやらず、二連敗した方の敗北だ」

「仮に人的損害が出た場合は…」

「その場合も後腐れないよう取り計らおう。我らは軍人。死を賭して戦うは当然のこと。そちらの損害分の補填も、必ずすることを約束しよう」

「…なるほど。理解した」

 

カルタの隣にいる部下が、時代がかった羊皮紙を取り出し、約束事をひとつひとつそれにしたためる。

 

「次に、支援の内容についてだが…」

「ああ。食料でも服でも医療品でも、出来うる限り手配しよう」

「そうか…それじゃあ…」

 

一拍置き、オルガはカルタに問いを投げかける。

 

「エドモントンの軍への根回しは出来るか?」

「エドモントン…ああ、なるほど」

 

何が言いたいのか分かったように、カルタは返す。

 

「貴公らの考えているようなことは恐らく難しいだろう。そもそも管轄が違うのでな」

 

ひとくちにギャラルホルンと言っても色々な家や部隊があり、例えば地球外縁軌道統制統合艦隊の場合はそれこそ地球圏の入り口の守護と、そのための武力行使の許可、そして侵入者の排除のための各貴族への協力要請が権限としてある。

逆に言えば、その範疇の外に於いては協力を取り付けるのは難しいということでもあるわけだが。

 

「流石にそれはそうか…」

 

話を聞いたライドは顎に手を当て思案する。

しかし…カルタはだが、と続ける。

 

「時間稼ぎくらいならば或いは、出来るやもしれん」

「…なんだと?」

 

少し考える素振りを見せると

 

「今エドモントンを影響下に起きたがっているファリド公の倅と私は昔馴染みでな。多少の根回し…というより、貴公らのことを伏せつつ、多少伺いを立てる程度ならば…」

 

その発言にオルガはガタリ、と立ち上がる。

 

「いや、いやいやいや!!それが本当だったとして、何でオレらにそのことを教える?そっちの内部情報だろうが!!」

「……そのことについては、黙秘させてもらう。こちらもこちらで事情があるのだ」

「それが口約束だけじゃあねぇってこと、証明してもらえるか?」

「貴公らが我らに勝利を収めた暁には必ず」

 

そう言って差し出された誓紙には、再びリスの印が捺されていた。

 

 

カルタ・イシューが鉄華団が地球に迫って来たという報告を受けた時、最初に思ったのはチャンスだということだ。

手柄を立てるチャンス…でもあるが、同時にギャラルホルンの内部でコソコソとした動きを見せる勢力への牽制にもなると考えてのことだ。

故に、ジャスレイの船から鉄華団の人間が降りて来たと言う情報はカルタにとって、それだけで万金の価値があるものだった。

『JPTトラスト』の内情を少しでも知っているかもしれない者達がいるという、その事実だけで十分。

無論ほとんど知らされてはいないだろうが、彼らの身柄を確保しさえすれば、あとは救出を試みるなり、拉致しようとする連中が出てくるのを待って引っ捕え、そこから芋づる式にその勢力…ジャスレイ派の根拠地を見つけ出せばいい。

わざわざ決闘を持ちかけたのも、武人としての血が騒いだのもそうだが、大部分はそのための方便だ。

ただ、気をつけなければならないこともいくつかある。

まず当のジャスレイに知られないこと。

彼の情報網に引っかからないようにするのはギャラルホルンで力を持つセブンスターズでも骨が折れるし、外部の人間に事情を話して借りを作るのも憚られる。

そもそも、組織外の人間の派閥が出来るというだけでもかなり異常なうえ、ましてやそれが暗躍しているなどと言っても鼻で笑われるのがせいぜいだろう。

次に、内部…特に事前の査定で怪しいと思われた連中に知られないこと。

これは彼女の昔馴染みの監査官からのタレコミのため、信用性はかなり高い。

ギャラルホルンの内部は、側から見ればわからない程度にだが、ここ最近幾らかに割れている。

まぁ、それ自体はいつものことだ。

どこかの家が別のどこかの家へ、自分達の利権のために謀略を仕掛けたり、或いは結託してそれに備えたり…程度を弁え、さりとて突っ込みすぎないよう…ギャラルホルンという器を壊さないよう、細心の注意を図りながらセブンスターズやその傘下がマネーゲームを続ける様は最早見飽きるほどに見てきた。

そんな中で噂程度でしかないにせよ、ジャスレイ派なるものが新たに出来ているという。

カルタはセブンスターズの次代を担う者としてその動きは看過できない。

ただ、その噂が広まった時期というのもジャスレイ当人が地球圏から離れていた頃なため、わざわざ本人が蒔いた種、と言うことはない。

…そこまで計算されていたと言うのなら、その限りではなかろうが、しかしやったところで割に合わないのが実情。

鼻のきく商人であり、裏社会の住人でもあるジャスレイがそれをわからないはずもない。

そもそも彼は既にギャラルホルン内部に協力者を得ており、それが一部とは言え半ば公然ともなっているのだから、わざわざそんなことをする必要もない。

そもそもそのような狼藉を働けば、他のセブンスターズが黙ってはいないうえ、如何なジャスレイとて、セブンスターズと関わりを持っている以上、他の家の怖さや面倒臭さはわかっているだろうし、それだけの面倒ごとは抱え込みたくはないのが本心だろう。

であれば、何者かがジャスレイの名を使い密かに暗躍している可能性がある。

ならば、大事になる前に不安のタネは取り除いておくに限る。

 

いずれにせよ、ここまでやった以上は勝利せねば。

 

カルタは自然、手に力がこもるのを感じていた。




なんか長くなりました。
ちょっと説明っぽすぎたかなぁ…。

齟齬があったら申し訳ないです。


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65話

アニメの邪○ちゃんXまでイッキ見しました。

ぺこらが不憫かわいい…。


悲劇がもてはやされるのは決まって豊かな時代、或いは裕福な層に対してだ。

いつの世も、人というのは自分のことで手一杯なら周囲を見回す余裕など無くなり、必然的にその視野も狭まってしまうもの。

要は、それだけ周囲を見るだけの余裕のある人物、時代でなければ、悲劇と呼び称されるそれらはただただありふれた不幸でしかないのだ。

幸福を幸福と、不幸を不幸と感じることのできる精神的健全性は結局、豊かさの中でしか育たない。

その結果として、相手と己の双方の価値観の違い故にそうでない幸福にも不幸にも理解が及ばない堅物になることも珍しくはない。

 

人の数だけ幸福があるのなら、人の数だけ不幸が溢れているのもまた自明。

土壌が豊かでも水をやらねば種が枯れて死ぬように、もしくは痩せた大地に蒔いた種にいくら水をやっても育たぬように、人間と周囲の環境は切っても切れないもの。

そういう意味では、クーデリア・藍那・バーンスタインもまた、現れるべくして現れたのだろう。

 

彼女は善良で、しかし無自覚に傲慢なところがあった。

彼女の生家は裕福で彼女自身も十六歳で大学修学と教養もあり、しかしそれ故に現実には無知だった。

まあ彼女に限らず、生まれついての豊かさに無自覚な人間ほど憐れみから来る見下し、情から来る甘やかし、それらを優しさと言って憚らないものだが。

生きるために生ゴミを漁り、泥水を飲んで腹をくだす。そんな人間の気持ちは分からない。

金持ちと貧しさは相容れないとは、そういうことだ。

理想を利用され、現実に打ちひしがれて、彼女は強くならねばならなかった。

善意に善意で返されるとは限らない。その当然を気づかねばならなかった。

幼い頃から深く信頼していた侍女のフミタンの死や、鉄華団の面々が流した血などを実際に目の当たりにして、それらを無駄にしないためにも今回の依頼を通して彼女は成長せねばならなかった。

今回の旅路の最初のように鉄華団への興味本位や同情だけでなく、他を利用する強かさが無ければ振り回されるだけ振り回されて、使い道がなくなれば捨てられるだけだったから。

 

「わたしは…ろくでもない人間なのでしょうね」

 

彼女と蒔苗東護ノ介のいる車両の出入り口を固める鉄華団員達を労い、列車の窓からモビルスーツ同士が居並ぶ様子を見てポツリとこぼす。

敵方の狙いは間違いなく自身と蒔苗の身柄だろう。

以前は、自身が矢面に立てば矛をおさめられると思っていたし、実際そうだった場面もあった。

しかし、今回はそう言った手の通じる相手では無い。

むざむざ彼らの前に躍り出て引っ捕えられればそれで終わりだ。

 

「政治屋とは…いや、人間とはそういうものだ。どれだけその人間の掲げる理念や理想が正しくとも、己の利権を害されるのを快く思う者などいない。ある程度以上に立場のある人間ならなおのことだ」

 

フォローするように向かいの席に座る蒔苗がそう言うや、クーデリアはかすかに、自嘲するように笑む。

ふと、火星でのギャラルホルンの襲撃後、それを自分のせいだと言ったクーデリアが三日月に「オレの仲間を馬鹿にしないで」と言われたことを今になって思い出す。

思えば自分は最初、押し付けてばかりだったと自嘲する。

自分に出来ることをしようと文字を教えようとしてもすぐに飽きられ、世間知らず故のズレた発言だって数知れず。

それでも鉄華団やアトラはそんな彼女に助力してくれた(前者は仕事と言う面もあったのだろうが)。

そして、自身の無知を、小ささを、何度も何度も思い知らされた。

頭で分かったふりをしていても、結局自分は甘ちゃんだったのだという事実を否応なく直視させられる。

その日の食事も食うに食えず、何もできずに飢えて死ぬ子どもたちの未来を守りたい。

大人達にいいように道具として使い捨てられるいのちを無くしたい。

その理想(ユメ)には偽りは無い。

それだけは胸を張って言える。

今回のハーフメタルの貿易自由化も、そのための活動の一環だ。

元より『ノアキスの七月会議』を成功するなど、素養や度量はあったのだ。

 

…だからこそ、身内からも危険視されているわけだが。

 

「……そろそろはじまりそうだな」

 

クーデリアは蒔苗に促されるがまま再び窓の外を見遣る。

 

ガァァァンンンン………!!

 

低く、重いものがぶつかる音がここまで響く。

 

理想のために戦う覚悟。

彼女は改めて鉄華団を信じ、それを再認識せねばならなかった。

 

「今更だが…やはりワシかお前さんがギャラルホルン連中と交渉しなくて良かったのか?」

 

蒔苗から当然の質問が飛んでくる。

わざわざ本人が直接行かずとも、あちらがやったように書面でのやり取りもやろうと思えばできたろう。

 

「…ええ」

 

クーデリアはすこし沈黙し、しかし迷う事なく短く返す。

 

「彼らには、成長してもらわなくてはなりませんから」

 

今後数日先で無く、数ヶ月先でも無く、それよりも長く数年、数十年彼らが、そして彼らに続く人々が歩み続けることができるように。

だからこそ、ここで今一度見ておきたい。

どのみち避けられぬ戦闘ならば、今見られるギャラルホルンの実力、そして、ジャスレイの教育のほどを客観視できるところから見ておきたかったのだと言う。

尤も、彼女の目的がそれだけで無いのは蒔苗の目にも明らかだったが、敢えて聞くのも無粋に思えたのか、藪をつついて蛇を出したくなかったのか、彼はそれ以上を問うことは無かった。

 

「…利用できる力は大きいに越したことはありませんから」

 

思わず手に力が入る。

その中にはキラリと光る何かがあり…

 

彼女はそれを、そっとポケットに仕舞い込んだのだった。

 

□□□□□□□□

 

オレが仕事のためあちらこちらを奔走し、休憩をとろうと思った時、不意に部下の一人が話しかけてきた。

 

「そういやぁ、オヤジ…」

「オウ、どうした?」

「いや、ホントついさっき思い出したんですけど…」

 

特に深い意味もなさそうに聞いてくる。

 

「地球での別れ際、クーデリア嬢に何渡してたんです?」

 

ああ、あれかぁ…。

 

「オウ。アレは通信機さ」

「通信機?」

 

部下は小首をかしげる。

まぁ、通信機ったって常設のもあるしなぁ…。

 

「マルコの兄貴が作ったモンでよ。通話距離は長ぇんだが、登録できんのがひとつふたつくれぇっていう、かなりピーキーな品でなぁ…」

 

まぁ、それで役に立てばなぁ〜…なんて思って帰り際渡したんだけども…。

 

「それで、その相手ってぇのは…」

「シクラーゼのヤツさ」

「えっ、あの『狂犬』シクラーゼですか?」

 

えぇ〜?そこまでかなぁ〜?

 

「なぁに、アイツは確かに荒っぽいが、基本はいいヤツさ」

「そう言えるのはオヤジが…」

 

そういやぁ、最近会ってないなぁ〜〜…。




なんやかんや、続いて良かったです。

読んでくださる方々には感謝してます。

エタることだけは無いよう頑張りたいです。

あと、いつものことながら、齟齬があったら申し訳ない。


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66話

久々の2日連投。

やっぱりちょっと緊張しちゃいますね。



「オイ坊や。こんなとこで寝てると体壊すぜ?」

 

圏外圏にあるとある街。

降りしきる雨の中、路地裏にあるゴミ捨て場で見るからに腹を空かせて倒れているボロボロの少年に、たまたま通りがかったのだろう傘を持った男が近寄って声をかける。

その少年は見たところ随分と痩せているし、身なりも綺麗とは言い難い。

家出したというわけでは無く、そもそもこの少年には帰る場所がないのだろう事は男には経験則で何となくだが分かった。

少年はガバリと起き上がると「ヴゥゥゥ〜〜…」と獣のように男を威嚇する。

男は一瞬驚いたような表情を浮かべると立ち止まり、何かを察したように優しく言う。

 

「わかるぜ。腹ァ減ってると気が立っちまうモンだよなぁ…」

「ヴゥゥ〜…」

 

未だ警戒をする少年に、男はどう言ったわけかポツリポツリと語りかける。

 

「まぁそれ自体はいいことさ。そんだけオメェが本能で必死に生きようって思ってるってことなんだからよ」

 

それは、意外にも肯定の言葉だった。

これまで否定され、拒絶され続けてきた少年に、その言葉は信じ難いものであると同時に……最もかけてほしい言葉でもあった。

 

「だがな。人として生きていくんなら、それを堪えなきゃあならねぇ時もあるってなモンさ。でなけりゃあ…オメェはその辺のケダモノ…野良犬と何ら変わりゃあしねぇぜ?」

 

知ったようなことを…と憤るよりも、厳しくも優しい助言が少年の心に染み入るようで…言われた当の本人も何が何やら分からないと言った風な様子だ。

だが、あいにく少年はそれ以外に生き方を知らない。

持たざる者同士で奪い奪われる日々。

それこそが少年にとっての日常だったのだから。

 

「オメェはこれまで飢えてきたんだろうさ。食いモンだけじゃあなく、それこそ色んなモンに…わかるよ。オレもそうだったからな」

「う…」

 

言うなり、男は改めて少年に近づき、傘を差し出す。

少年が恐る恐ると言った様子で傘を受け取ったのを確認すると、男はクルリと背を向ける。

ギャラルホルンのところに連れて行ったところでありふれた孤児の面倒をきちんと見てもらえるかは怪しい。

そもそもその辺がきっちりしているなら目の前の少年のような存在は今頃もっと減っているはずだ。

 

「ギャラルホルンに連れてってもラチはあかねぇだろうし…そうだなぁ…」

 

すこし考える素振りを見せると、男は

 

「何なら、着いて来てみるか?」

 

と、軽い感じで問いかけた。

意外な発言に少年は思わず身構える。

それが気に障ったと思ったのか、男は誤解を解くため言葉を続ける。

 

「別にオレの部下になれたぁ言わねぇよ。余計なお世話だってんならこれ以上オメェに関わることもしねぇとこの場で約束するさ。ただまぁ…メシを食いに行きたけりゃあ着いて来な。尤も…まずは身綺麗にしてもらわなきゃあならんがね」

 

それが、シクラーゼとジャスレイの初対面での出来事だった。

 

シクラーゼ・マイアーという男は、圏外圏の出身者であり、ラスタルとジャスレイの仲が良好だった頃にジャスレイの紹介という形でギャラルホルンに入隊すること…厳密にはギャラルホルンの士官学校の入学…を希望し、結果としてそれは叶えられた。

何故わざわざジャスレイがラスタルを通したのか、それは彼が当時からギャラルホルンでそれなりに地位があったことともう一つ事情があった。

それというのも、当時ギャラルホルンの士官学校の入学条件に『親族に入学者当人を含め前科者がいないこと』というものがあったためだ。

確かに治安を維持する組織に入らんとする人間の身内に犯罪者がいることが世間的にいい顔をされないのは分かる。

しかし現実問題として、未だ大人も子どもも生きるのに必死な世情もあり、結果として圏外圏出身者は一部のある程度以上に裕福な家庭の人間を除いてほぼ落とされていた。

必然、圏外圏出身者はギャラルホルンの一般兵卒こそいることはあれど、発言権のある立場にまでなれる人材はなかなか出てこなかった。

 

ただ、シクラーゼはラスタルの前で披露した類稀なる操縦技能の才覚を買われてギャラルホルンの士官学校に入学が叶った。

そして、卒業後は地球圏内の遊撃部隊に所属することとなった。

とは言え、生来荒っぽい所のある彼は平和な後方よりも前線で暴れる方が向いている自覚もあり、そのことを踏まえ、アリアンロッド艦隊への異動を望んで上官に具申するも「わがままを言うな」と聞き入れられなかった。

いっそのこと脱退して傭兵稼業に乗り換えることも考えないことも無かったが、幼い頃より己を推してくれたジャスレイに恥をかかせる訳にもいかず、これまで彼なりに真剣に任務に従事して来た。

その裏で、とある活動に意欲的に取り組んできた事は一部を除き知られてはいない。

そして、何の因果か地球外縁軌道統制統合艦隊の命令で援軍として鉄華団なる組織を包囲する任務を承った際には、後々心底驚くことになるとは思ってもいなかった。

 




HGクスィーガンダムとなかなかご縁が無いです…(´;ω;`)


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67話

ジャスおじサイドになります。


テイワズのお膝元、歳星にある地下通路をツカツカと歩く複数の足音がする。

その正体はジャスレイ・ドノミコルスと、その護衛として付き従う彼の部下数名だ。

テイワズの本部ビルのエレベーターで地下まで降り、照明によって真昼の如く照らされた通路をジャスレイ達は進む。

彼らは一番奥の無機質な色合いの扉の前で立ち止まると、決められた暗証番号を入力したのち、懐から取り出したカードキーと網膜、次いで指紋をスキャンする。

二度手間…いや、三度四度手間なようだが、この部署の性質上用心するに越したことはない。

ジャスレイもその部下達も、それを分かるからブツクサと文句を言うことも無い。

ピピピ…と無機質な電子音が響くと、見るからに分厚い扉が横にスライドして開く。

 

中には幾つもの巨大なコンピューターと少なくない人とが忙しなく動き回っており、ジャスレイとその部下たちは彼らの邪魔をしないよう、その間を縫うようにして奥に進む。

時折気付いた人間が立ち上がって挨拶しようとしても、ジャスレイの「忙しいんだろ?掛けててくんな」のひと言で再び仕事に取り掛かる。

やがて辿り着いた一番奥の部屋で、ジャスレイが上部に備え付けられたカメラに向かって「兄貴、来たぜ」と言うと入口よりも更に厳重な扉が二つ、三つと開く。

立ち入った部屋で、ジャスレイが複数の表示画面を見ていた男に声をかけるや、その人物は椅子ごと振り返る。

 

「よう兄貴」

「おう、来たかジャス」

 

椅子ごとクルリと振り返るのは歴戦を思わせる傷に、角刈りの金髪。

歩行に必要なのだろう杖も手を伸ばしてすぐのところに置いてある。

年相応の落ち着きのある雰囲気と、若干刻まれた皺。

年季の入ったパイプを口に咥えて、ジャスレイ達を見つめる様は正に風格を感じさせる。

彼の名はマルコ・サレルノ。

彼はタントテンポ所属の六幹部まで上り詰めたジャンマルコ・サレルノの実父であり、ジャスレイの兄貴分にして、数少ないテイワズ黎明期の生き残りであり、これまでのテイワズを支え、守り続けた重鎮の中の重鎮。

そして、テイワズの情報部長を務める大物でもある。

これまでもちょくちょく連絡を取り合ってはいたが、こうして直接会うのは互いの仕事が忙しかったこともあり本当に久方ぶりだ。

世間話もそこそこに、マルコは本題を切り出す。

ジャスレイも相変わらずだと思いながらも、話を聞くために用意された椅子に腰掛ける。

 

「オメェさんが言ってた『夜明け』の情報だが…どうにもキナ臭ぇ動きを見せていやがるな」

「やっぱりか…」

 

陽動か隠す気が無いのか、それともあえて挑発しているのか…。

マルコの話によれば『夜明けの地平線団』は、テイワズの領域をかすめるように、連中のモビルスーツ…ユーゴーが行ったり来たりを繰り返しているとのこと。

今のところ、テイワズのナワバリへの襲撃やそれによる実害も無いため放置してはいるものの、ナメられっぱなしは性に合わないと、現場からは武力行使の許可を求める声も届いているらしい。

 

「次に連中の支援者だが…部下達が調べて浮上してきた名の中にコイツもいた」

 

カタカタカタ…とマルコはとある人物を中央の一番大きな映像に映し出す。

映像に映る男を見たジャスレイはピク…と眉根を寄せる。

心なしか、彼の背後に控えている部下達も顔には出さないが不機嫌そうな雰囲気を醸し出す。

 

「……ノブリス・ゴルドンか」

 

低く、うめくような声でジャスレイは呟く。

 

「おう。正解だ」

 

ノブリス・ゴルドン。

 

彼は海千山千の武器商人で、それこそ圏外圏にその名を響かせるほどの富豪だ。

個人の資産という点で言うならば、恐らく圏外圏でも五本の指に入るのは確実だろうほどの。

それだけでも彼がとても利に聡い男だと言うのが分かる。

さりとて、その本質は必要とあらば誰とでも組むし、用済みとなればあっさりと切り捨てることも厭わないという、良くも悪くも強かで、何より商人らしい商人だということ。

そんな男がクーデリアのパトロンを買って出たのは、まかり間違っても彼女の理念に共感、賛同したからでは決して無いだろう。

そんなものはよくある口先三寸のおべっかに過ぎない。

ろくに世間の悪意に晒されたこともない良いとこの小娘など、利用価値が無くなれば手放すに躊躇わないだろう。

少なくともジャスレイの知るノブリス・ゴルドンという男はそう言う人間だ。

むしろ、彼女の死を引き金にさらなる戦乱を画策して一儲けしようと言う算段をしていたとしても不思議では無い。

尤も、肝心のクーデリアは果たしてその目論みのどこまで分かっていたのか。

或いは初めて本格的な協力者ができたことに喜んで彼と言う人間を盲信してしまったのか。

世渡りのコツは他者を適度に信じ、同時に適度に疑うこと。

信じすぎては足元を見られるし、信じなさすぎても相手は気を許したり、積極的な協力などしてはくれないのだから。

ただ相手の腹の内を探り、正しく人を見る目を養うには、それこそ人生経験を積むより無いのだが。

商売のやり方からして、義理も仁義も節操もない男のため、ジャスレイからは個人的に避けられているが、しかし今のところは他ならぬオヤジの客だから…という理由から放置されている。

無論、個人的な好き嫌いで取引相手を選ぶほどジャスレイも子どもではない。

それにマクマードの方も滅多なことはしないよう目を光らせてはいるだろう。

とは言え、あちらはあくまでも取引相手。

マクマードとの契約外のことでああだこうだと指図される謂れもあちらにはない。

 

「いずれにせよ、あのタヌキはどっかでなんとかしねぇとなぁ…」

 

ジャスレイの声に震えが洩れる。

それは怒りか、それとも失意によるものか。

 

「アホ。今は妙な事考えんじゃあねぇぞ?」

「……まぁ、そりゃあそうだな」

 

マルコの釘を刺すような言葉に我を取り戻したのか、ジャスレイは「フゥ…」と落ち着きを取り戻す。

彼らにとって、自分達は世間の弾かれものだ。

少なくともジャスレイ達にはその自覚がある。

だからこそ守るべき掟やルールがあり、それに従うことで秩序を維持している。

特に仁義は必要なものだ。

それはここにいる人間の共通認識と言ってもいい。

なのに写真のこの男は、自身の利益のためにそれを悠々と飛び越え他者を害する。

しかし、実力があるのもまた確か。

でなければマクマードほどの大人物と仕事上の手を組むなど出来はしない。

 

「連中の行動範囲や運んでる物資の量からして、すぐに動くこたぁねぇだろうが…」

「ここ数年が勝負か」

 

『夜明け』とノブリス・ゴルドン。

両者のつながりを示す明確な証拠はまだ幾分か必要なのだった。

 

□□□□□□□□

 

ほへー、普通は尻尾掴めないだろう相手の情報まで引っ張り出すとか、やっぱマルコの兄貴はやり手なんだなぁ〜…素直に尊敬できるわ。

しっかし、ノブリス・ゴルドンかぁ〜…。

何度か会ったことあるけど、結構調子がいいっていうか、明らかに腹芸タイプというか…うん。ぶっちゃけオレ的には苦手なタイプだわ!!

 

「にしても相変わらずだなぁジャス」

「何がだ?」

「いや、また仁義で他人様ばっか助けてんだろう?あん時みてぇに…」

 

あん時?ああ…クジャン公の時のことか。何を言うかと思えば、そんなことかい。

 

「兄貴、そりゃあ買い被りってやつさ。オレはただ…オレが救われてぇだけなのさ」

 

バツが悪りぃや。

オレは思わず帽子で顔を隠す。

いやぁ〜.恥ずかしい。

そりゃあ、精神的に擦り切れたとこもあるけども…。

 

「オレが誰かを助けんのはいつだってオレのため、オレが嫌な思いをしないため…そういう意味じゃあ、オレほどのエゴイストもそうはいねぇだろうさ」

 

ただでさえ恨み買いやすいお仕事だからね。

だったら恨まれるよりは好かれた方がいいよね〜って考えるのはむしろ自然って言うか…。

まぁ、ある意味保身よね。

 

「ジャスよぉ…オメェはやっぱ変わんねぇなぁ」

 

それって、いつまでもガキってことかぁ?

いやまぁ、否定できないとこはあるけどもさ…。

 

「たぶん…たぶんだがな…オメェはオメェ自身が思ってるよりはいい奴だと思うぜ?」 

 

兄貴が背中向けてそう語る。

シブイなぁ〜…カッコいいなぁ〜〜!!

 

「だといいがね…」

「ま、そんなわけだ。これから付き合え」

 

そう言うなり、兄貴は足元をゴソゴソし出す。

え、ちょっまさか…。

 

「いい酒が入ったんだ。部下ともども俺の私室で呑もうや」

 

…出た。

兄貴ってばいい酒手に入ると取られまいとしてこっちに隠すんだよなぁ〜…。

まぁ、仕事中は飲んでないらしいから、オヤジからも特にお咎めは無いんだけどもさ…。

 

「えぇ〜…兄貴昔っから絡み酒なんだもんよぉ〜…」

「まま、娘っ子のためにもそう長居はさせねぇからよ」

 

ほんとかね…。

渋るオレに兄貴はズイッ…と顔を近づけ…。

 

「…カンノーリも出すぜ?オヤジのお気に入りの一番いいヤツだ」

「お供しますぜ兄貴」キリッ

 

付き合いは大事だからね。仕方ないね。

 




けっこう入手に苦労したガンプラって、なんか組み立てるのがもったいなくなる…ならない?


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68話

運良くhgザクIII改買えました〜。
やっぱりザクは緑が一番な気がする筆者です。




歳星のとある工廠。

厳重な管理のもと、粛々と用意が進められているそこには新型機の試作実験が執り行われていた。

 

「オーライ!!オーライ!!」

「その機材はこっちだ〜〜!!」

「手ェ挟まないようになぁ〜!!」

 

大掛かりな重機が動く中、ジャスレイは邪魔にならないようその様子を離れたところから護衛数名と興味深そうに見守る。

 

「いやぁ〜、『百錬』や『百里』のデータとジャスレイさんの出資のおかげで予定よりも早く完成しそうですよ」

 

ホクホク顔でジャスレイに話しかけるのはテイワズ所属の技術班班長を務める男。

彼もまた、ジャスレイとはそれなり以上に長い付き合いだ。

 

新しい機体は名を『辟邪』と言う。

元々は古代の神話に出てくると言う二本のツノを持ち、邪悪を退けるという動物であり、正にテイワズの守護者たるに相応しい名だ。

 

ジャスレイは先ほどの説明の折り、手元のタブレットに送信された資料に目を落とし、スペックや武装を実物と交互に見比べつつ確認する。

ヒットアンドアウェイから、近接戦まで幅広くイケる汎用性の高さ、肩と背中のスラスターによって実現される旋回性能と機動性。

ジャスレイはなるほど、と身内ながら凄まじい技術力に感服していた。

 

「ふぅむ…データを見るに機体性能は百錬と百里を更に洗練した感じだな。パッと見武装もクセがねぇし、取り回しもラクそうだ。少し前に見せてもらった『獅電』といい、相変わらず良い仕事だな」

 

ジャスレイは満足したように労いの言葉をかける。

 

「ええ。更に脚部のデータをご覧いただければお分かりになっていただけますが、ここを変形して更に機動戦を仕掛けることも出来るようになっております」

 

ニコニコと自慢の我が子を紹介するようにそう言う技術者。

嬉しそうな彼の様子に、ジャスレイも釣られて若干破顔する。

 

「そりゃあいいな。名瀬んとこのラフタあたりが好きそうだ」

 

実際、素人にはじゃじゃ馬の高機動機、百里を自在に乗り慣らす彼女なら諸手を挙げて喜びそうな情報だ。

 

「そうですねぇ。それでは生産の暁にはタービンズに先行して一機は回しましょうか」

 

ジャスレイの言わんとしたことを察したのか、そんなことを言う。

とは言え、これもただの身内贔屓ではなく、あくまでタービンズの実績を判断してのことだが。

なお話では、まず先行試作で三機〜五機が予定されているそうだ。

 

「おう。そうしてくれると助かるぜ」

「そして…こちらはごく一部の機体に限っての試作構想なんですが…」

「うん?」

 

ジャスレイは促されるまま、画面を次の資料へと移行。

極秘、と勿体ぶるように挟まれた赤いページを更にフリックすると……

 

「おぉ…ついに実用段階になったのか?」

 

そこには『γナノラミネートブレード(トビグチ)』の文字が。

 

「ええ、とは言っても…以前ジャスレイさんに解析を頼まれて作った武装の更に廉価版ではありますが…」

 

男は「申し訳ない」と言わんばかりに肩をすくめるが、ジャスレイはそれを責めるどころか

 

「いや、この性能なら充分すぎるさ」

 

と素直に称賛する。

 

「とは言えここに実物がない以上、まだまだ机上の空論ですが…」

「なぁに、構想があるだけでもすげぇってなモンさ」

 

何せ元々はガンダムフレームに採用されていたロストテクノロジー。

それを現代の技術で実用可能なところまで漕ぎ着けただけでもここの部署の優秀さはわかろうというもの。

 

「いやぁ〜、幸い鉄華団の所有する現物のガンダムフレームを整備班と調べることができましたので」

 

言って思い出したのか、彼は年甲斐もなく目を輝かせている。

 

「なるほどなぁ…」

 

ジャスレイはそんな彼の様子を見てウンウンと頷く。

用途や目的は違えど、やはりガンダムフレームは失われた技術の宝庫。

技術者として参考になる点は多々あるのだろう。

 

「ま、オレはそっちの話は素人だから悪りぃが丸投げさせてもらうさ」

「ハハ、ご期待に応えられるよう努力致します」

 

堅苦しい発言にジャスレイは苦笑する。

 

「別にそうまで畏まらなくってもよ…ただな。思うんだよ。こんだけの機体ならよ…」

「なら…なんですか?」

 

技術者は、ふと問いを投げかける。

するとジャスレイは資料の表示されるタブレットを見てポツリとこぼす。

 

「いや、阿頼耶識頼りじゃあなくてもこんだけの性能の機体が出来上がったんならよ…わざわざ若ぇ連中が無茶ァしなくっても良いってこったろ?それが嬉しくってなぁ…」

 

その彼の言う若い連中を想像し、そして思い至った技術者は

 

「……そうですねぇ」

 

と、しみじみ言ったのだった。

 

□□□□□□□□

 

ふぃ〜、テスト実験も見終わったし、用事も済んだ部外者は端っこで様子見でもさせてもらおうかなぁ。

にしても…スゴい機体見ちゃったなぁ〜。

ちょいちょい資金援助してた甲斐はあったかも。

とは言え、操縦してみた感じとかは流石にパイロットとしてはズブの素人のオレには正直よく分からないわけで。

その辺詳しく聞くためにも……。

 

「せっかくだしよ、このまま仕事終わりに呑みにでも行くか?」

「えっ?わ、私などが、いいんですか?」

 

あれ?なんかまずった?

とりあえずフォローしとかないと…。

 

「別に構いやしねぇよ。むしろ色々と教えてほしいことばかりでなぁ…」

 

流石に職場で仕事の話するよりは、酒の席に誘った方が色々と言いたいこと忌憚なく言えると思ったんだけどなぁ…。

それに、このテの話はやっぱり盛り上がるしなぁ〜!!

いやまぁ、オレは知識だとか操縦の方はからっきしダメなんだけどさぁ〜…。

でもこう言う専門家の話って聞くだけでも結構面白いモンだし…やっぱ迷惑だったかなぁ〜。

あんまり気を遣わせすぎるのも問題だし、どうしたもんかと悩んでいると…。

 

「オヤジィ!!客が来てますが…」

「うん?客?」

 

誰だろ。今日は特に来客の予定は…。

 

「あら?随分と楽しそうにしてるじゃない?」

 

ってこの声は…。

声のした方へ視線を動かすとそこには…。

 

「…ナナオか?」

 

え、なんでナナオちゃんがここにいんの?

 




Z系の可変機って、なんかロマンを感じる…。

メッサーラとかアッシマーとか…。

まぁどっちもガンプラ持ってないんですがね( ;∀;)


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69話

エタるわけがなかろうて!!

あ、クスィー買えましたー。(^ω^)

そしてサイコザク買えませんでした〜。( ;∀;)

しかも目の前で買われた…

大切にしてもらうんじゃよ…。


ジャスレイは人目を気にした様子のナナオと別室で二人きりになる。

真っ白天井にはシンプルな照明が等間隔で並び、窓の外には先ほどの工廠が見える。

無機質なまでにモノが無いその空間は人によってはかなり居心地が悪いだろう。

せいぜい中央に置かれたガラス製のテーブルと、それを挟むように向かい合うソファが二つあるだけだ。

無論、万が一のために扉や窓といった部屋の出入り口には『JPTトラスト』の護衛が張り付いているが。

 

情報屋が顧客と直接会って話し合いを望むのは理由がある。

盗聴を恐れてのことであったり、プライベートな付き合いであったり、或いは、顧客との関係解消のためであったり。

ともあれ、ナナオは今回その形をとり、ジャスレイはそれに了承した。

 

「お前さんの望んだ通り、必要最低限だけの部屋に二人きりだ。この部屋なら盗撮盗聴の心配もねぇ。防音だって完備さ。思う存分言いてぇこと言いな」

 

いつもの通りに余裕のある様子のジャスレイ。

 

「まずはおめでとう…と言うべきかしら。鉄華団が勝ったわよ。カルタ・イシューの部隊を退けて、そう遠くない内にエドモントンに入るらしいわ」

 

それを聞くなり機嫌良くジャスレイは言う。

 

「おう。そりゃあ景気がいいなぁ。だが…」

 

意味ありげに間を置くと

 

「本題はそれじゃあねぇんだろう?」

 

ソファに腰掛けながらもお見通しと言わんばかりの眼差し…。

ナナオは意味ありげに口角を少し上げる。

そうして、別の話題を切り出す。

 

「…随分と、新フレームの開発が早まったようね」

「おう。『夜明け』の連中への備えでなぁ」

 

ジャスレイはすんなりと答える。

その声色からして、それもまた嘘では無いだろう。

しかし、それがジャスレイの知る真実の全てでは無いのは明白。

 

「それで?いったいどこまであなたの掌の上なのかしら」

 

ナナオは少し身を乗り出し、試すような口調でそう問いかける。

 

「藪から棒に…一体どうした?」

「今回の貴方の動き…まだ火星のハーフメタル利権が確定していない段階での新フレームの開発支援…まるで鉄華団がカルタ・イシューの部隊を退け、仕事を完遂することをはじめから見越していたみたいじゃあないの?」

 

そうで無いならばあまりに迂闊だろうと、そう言外に含める。

『夜明けの地平線団』への警告くらいならば、それこそ現行の百錬、百里でも充分なはず。

無理をおしてまで新型を開発するメリットは正直薄い。

モビルスーツの動力源に用いられる半永久機関、エイハブリアクターとて、製造方法を独占しているギャラルホルンの機体からの鹵獲や、その横流しで賄うのがやっとなのだから。

ナナオはメガネ越しに目を細めて、返答を待つ。

とはいえ、さまざまな情報をすり合わせ吟味することで、ある程度先の未来を予見する位なら、それなり以上の慣れと才能さえあれば出来ないことではない。

尤も、それは確実な情報と、その提供者への絶大な信頼ありきなところもあるし、時勢や資源、組織や勢力間の確執や融和などなど、パッとあげただけでもその全ての把握が難しいだろうことは想像に難く無い。

ましてや情報は生もの、と言われるくらいに刻一刻とその姿を変えるものだ。

だからこそ、信頼できる筋の情報には相場以上の価値がつくわけだが。

 

なにより、それほどの情報源があるのならナナオとしても出来ることなら、あわよくば一枚噛みたいという思惑もあった。

 

「いや?オレとしては鉄華団連中なら出来ると踏んでたってだけの話さ。阿頼耶識とガンダムフレーム…この二つを有している時点で大抵の戦闘はこなせる」

 

なるほど。それもあながち間違いでは無い。

 

「だとしても妙よね?だって彼らは本当にごく最近立ち上げたばかりの言ってしまえば下っ端も下っ端の火星の零細組織よ?テイワズの傘下に加わったのもギャラルホルンから身を守るためって言う、言ってしまえば半端な理由…正直彼らの相手をしたのが子どもに甘い名瀬・タービンじゃあなければまず間違いなく潰されていたでしょうね。そんな組織の構成員に教育を施したうえ、中古の船一隻と試作兵装をポンとあげるなんて、俄かには信じられないじゃあないの。それならまだブルワーズの方が可能性があるんじゃあ無くって?」

 

確かに、ジャスレイが提示した条件ならばブルワーズの方がまだマシだ。

 

「いや、連中じゃあダメさ」

 

ジャスレイは思いのほかあっさりと返す。

 

「あら、それはどうして?」

「そりゃあなぁ…連中は根本からして弱者を虐げ強者に媚びるタチだからな。子どもらに教育を施して力にしようってよりは、ヘンに知恵をつけられると自分らの立場を脅かすって考えるだろ。そんな連中に未来はねぇよ」

 

だからダメなのさ。と答える。

確かにブルワーズは以前より評判が良かったとは言えない。

それなり以上に規模があり、ガンダムフレームの力もあって他の中小規模の組織に睨みが効いていたというくらいがせいぜいだ。

現に鉄華団に敗北し、エースパイロットとガンダムフレームを失った後は他の組織から助けの声もかけられなかったと言う。

 

「だがな。鉄華団…少なくともチャドとライドの二人は、ちょっと教えれば自分に何が足りねぇのか、それを真剣に考えられるようになった。テイワズの将来を思えばこそ、そんくれぇの投資は安いってモンだろうよ。まぁ、ライドは面倒くさがってたが、まぁそれは年齢的なこともあるんだろうがな。ま、それはそれで健全だろうさ」

「そう…」

 

若手の育成に戦力の拡大、それがナナオが考えているよりも、更に先を見据えてのことならば、考えられるのは…。

 

「…貴方、ギャラルホルンとでも矛を交えるつもりなの?」

 

まさか、と思いつつ浮かび上がった疑念を口にするナナオ。

たらり…と嫌な汗が頬を伝う。

そして、ジャスレイからの返答は……。

 

「さてな。少なくとも今それをすんのは無謀ってやつだろうさ」

 

こちらが含みを持たせたことへの意趣返しか、曖昧に答えてニヤリと笑うジャスレイ。

 

食えないが面白い男。

その評価に間違いが無かったことに、ナナオは安心するのだった。

 

□□□□□□□□

 

いやぁ〜、流石になぁんかちょっとヒヤッとしたなぁ〜。

まあ、鉄華団が勝ち抜くのはアニメ一期で見た通りだし、オレの過去の出来事からしてちょっとくらい外れても大抵歴史の修正力的なアレでなんとかイケると思ったんだけども…。

でもそれを言うのも何言ってんの?って言われてまともに取り合っちゃあもらえないだろうし…。

でも現にこうして鉄華団は勝ってるわけで。

少なくとも原作を無視していいわけでは無いだろうしなぁ…。

むしろ、乗れる勝ち馬には乗りたいじゃん?みたいな感じで色々と先行投資してたわけで。

 

「それにしても…」

「うん?」

「相変わらずからかい甲斐がないわねぇ〜」

 

ナナオちゃんは若干呆れた様子だ。

でもそうかなぁ?

 

「そこまで堅物なつもりもねぇんだが…」

「そういう意味じゃあ…まぁ、良いわ。それでこれが本当の本題」

 

そう言うなり、ナナオちゃんは封筒を差し出す。

蜜蝋に紋は無く、全体的に質素というか、簡素な感じだ。

 

差出人は…書いてない。

 

「…誰からの依頼だ?」

「それは開けてからのお楽しみ」

「引き受けた理由は?」

 

そう言うや、ナナオちゃんは薄く笑う。

怖いんですけど。

 

「私の個人的な興味…って言ったら信じるかしら」

 

えぇ…なにそれぇ…。




お待ちくださった方々には感謝しかないです。

それと、齟齬があったら申し訳ない。


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70話

気がつけば七十話ですね…。

いつも読んでくださる方々、ありがとうございます。


「あれが、ガンダムフレーム…」

 

シクラーゼと部隊員達は目の前の光景に驚き、愕然すると同時に言葉を失っていた。

 

「噂には聞いていたが、聞きしに勝る性能だな」

 

ガンダムフレーム…その大半が使用不能なレベルで壊れたか、現在進行形で行方知れずとなっているという厄祭戦の忌むべき遺産。

その所以の最たるは人間をモビルスーツの一部として扱うと言う人としての倫理に背く阿頼耶識の使用を前提に組み上げられたオーバーテクノロジーだろう。

ただその割に、ギャラルホルンでの扱いもいまいち雑と言うか、せいぜいがいくつかの家の蔵で埃をかぶっているくらいという。

少なくともセブンスターズに縁もゆかりもない一般兵が普段からお目にかかれるモノでも無い。

老人達の真意としては、かつてあった厄祭戦そのものを忘れたがっているのか。もしくは単純にその維持費を面倒に思ってのことなのか。

当人達の口から説明されない限り、その実際の程は想像するより他ないが、少なくとも先述の阿頼耶識の使用は非人道的故に表立っては不可能なのも、それらが表に出ない理由の一つだろう。

 

「まぁ、老人達としては、ギャラルホルンの象徴はバエルさえあれば事足りるとの考えなのだろうさ」

 

『ガンダム・バエル』

 

最初のガンダムフレームにして、ギャラルホルン設立の立役者、伝説が児童向けの書籍に残るほどの偉人たるアグニカ・カイエルの駆ったという逸話を持つそれは、まさにギャラルホルンの正義の象徴ともいえよう。

 

セブンスターズ…特に老人達としては、偶像はそれ(バエル)に任せて現場での使用はグレイズやそのカスタム機で事足りると思っているのだろうが…。

 

「こうも実物を見せつけられると、その認識も改めて然るべきなのかもしれんなぁ」

 

壮年の部隊長はボソリと呟く。

 

誤解無く言えば、グレイズはいい機体だ。

そしてそれを純粋強化したようなカスタム機であるグレイズ・リッターもまたそうだ。

その事実に変わりはない。

無論、乗り手の操縦技能如何にもよるが、少なくとも組織だっての反抗勢力の鎮圧に実戦レベルのパイロットの駆るグレイズを数機送れば問題ないくらいには強いし、何よりクセがない機体なのだ。

それを、ああも倒すとは。

 

「しかし、いいのかねぇ?」

 

シクラーゼの同期が不意に疑念を口にする。

 

「なにがだ?」

「いや、だってよ。今ああして戦ってるイシュー家の跡取り娘、ただでさえ閑職に回されてるってぇのに、今回鉄華団連中を取り逃したら今度こそ実家に謹慎させられるんじゃあ…」

 

それに対して、部隊長は少し考える素振りを見せ、私見を述べる。

 

「どうだかなぁ。むしろあれだけの性能差を見せつけられて敵前逃亡しなかっただけ立派なんじゃあねぇのか?むしろガンダムフレームの危険性を伝えるためにオレらを集めたなんて噂まで広まるかもしれねぇぞ…」

 

カルタ・イシューの部隊は決して弱くは無い。

むしろ、後方で安穏としている部隊からして見れば、「どうしてそこまで」と言いたくなるくらいには訓練にも真面目に取り組んでおり、少なくとも平和ボケしている他部隊とは一線を画するくらいには精鋭と言える。

そんな部隊が敗北を喫したのだ。

無論、他部隊の彼らとて軍人ゆえに命令されれば戦うだろう。

だが、それだけだ。

いつの時代もプロの軍人の敵前逃亡は大罪であるし、それに比べれば「頑張りましたけどダメでした」というのは、まだ良い…いや、よくは無いが、それでも敵に背を向けて逃げ出すよりは殊更に糾弾されるものでも無い。

何より今回は、その敵の前提からして異なっていたのだから。

 

「それはつまり…」

「我々の意識改革の一環だとでも?」

「わからん。わからんが…オレたちには言われていない何かがあるとしても不思議じゃあねぇよなぁ」

「…まぁ、ともあれまずは本隊と合流しねぇとだなぁ」

 

そう言うなり、シクラーゼの小隊は森の方へ向かう。

 

「おぉい、行くぞ」

 

立ち止まり、鉄華団の方を向くシクラーゼの機体に、部隊仲間のひとりの乗るモビルスーツが近寄って声をかける。

 

「…ああ、先に行っててくれ」

 

そう返すなり、部隊の仲間たちは「早くしろよ」とだけ言って、本隊の方へと戻って行った。

 

そして、その時シクラーゼの思ったことといえば。

 

「アレさえあれば…もっとオヤジの役に…」

 

その時、通信が入る。

コードは監査局のもので、近頃は心当たりも無いし何よりなぜ今?と少し妙に思ったがシクラーゼはそれに出ることにした。

 

そうして、出たのは…。

 

「やあ、シクラーゼ・マイアーニ尉。はじめまして」

 

男の声だ。

それもかなり若い。

三十…いや、二十代か?

 

「それで、急に連絡を入れて来たアンタは?」

 

訝しげにそう返すシクラーゼ。

 

「そうだな。まずは自己紹介をしよう。私の名は…」

 

少しの間を置く相手。

勿体ぶるような物言いに若干疑念を抱きながらも通信を続ける。が…。

 

「監査局特務三佐、マクギリス・ファリドだ」

 

その相手がまさかセブンスターズの一門であったことに、驚きが勝っていた。




マッキー、再登場ですね。


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71話

オジキの過去。

そのひとつです。


マクギリスがジャスレイを知るきっかけは、彼がまだ幼少の頃のこと。

正確には、テイワズが名を挙げる少し前くらいか。

当時、圏外圏でも特に影響力を持つ一大勢力が若かりしジャスレイ率いる新進気鋭の組織『JPTトラスト』に敗北を喫した。

これを重く見た上層部は慌てふためいていた。

それと言うのも、その一大勢力と言うのが当時ギャラルホルンの圏外圏に於ける秘密裏の取引相手だったのだ。

しかしそれが倒された以上、ギャラルホルンの不祥事が表沙汰になるかもしれない。

それを恐れてか、ギャラルホルンのセブンスターズを牛耳る老人達はジャスレイに(サー)の位を与えてなんとか懐柔出来ないかと躍起になっていた。

ギャラルホルンとしては、格別の引き立てをするとことと引き換えに、後ろ暗い取引を黙ってもらう事と、それによってジャスレイに好印象を与え、あわよくば抱き込もうと言う算段もあった。

 

しかし、当のジャスレイは突如としてやって来た使者に対し不機嫌な様子。

訝る使者を前に、装甲艦『サカマタ』の甲板で戦闘員に守られるように囲まれながら言う。

 

「おう。そんなら年寄り連中が土下座しろや」

 

強気な姿勢を見せるジャスレイに、流石にトサカに来たのか、傲慢だの、王にでもなったつもりかだのと抗議の嵐が年寄り連中の使い達から飛び交う。が

 

「いつ、誰が、オレに対してそれをしろっつったよ」

 

その言葉に、ギャラルホルン側は困惑しきりな様子。

 

「オレが言ってんのはなぁ…テメェらの勝手な都合で振り回されて、テメェらがぶくぶく太ってた時に痩せて、弱って、無念の内に死んでいった子どもらの墓前に、詫び入れろってんだよ」

 

静かな物言い…しかし、そこには沸々と煮えたぎるような怒りが含まれていた。

 

確かにギャラルホルンは、交渉相手の勢力による搾取に見て見ぬ振りをしていた。

当時は特に無力な子どもへの扱いは今よりもっと酷かったらしい。

ヒューマンデブリとして売り買いされたり、夜の店で働かされるのは勿論、口に出すのも憚られるようなことの数々まで平然とされていたのだ。

ギャラルホルンは、それを知った上で何もしなかった。

有力者の多くが保身に走ったためだ。

 

「あの連中は最後の最後まで詫びなかった。だから連中の非道に知らぬふりを決め込んでたテメェらが代わりに詫びろ。話をすんなら…それからだろうがよ。違うか!?」

 

ギロリ…と数十の眼に睨まれた使者達は生きた心地がしなかっただろう。

 

結果、その交渉は決裂。

ただ、ギャラルホルンとしても結局は圏外圏の物資や独自の技術やらといった収入源を断たれる訳にもいかず、それから数年の後、結果としてだが『JPTトラスト』の手引きの元、テイワズと極秘裏に手を結ぶに至った。

武力行使や、マスコミによる印象操作をするには、圏外圏に住まう虐げられた人々にとって、彼はあまりにも英雄的でありすぎたのだ。

無論これは、表立って話される内容では無い。

当時、ファリド家の跡取り候補として育成されつつ、養父イズナリオの夜の相手までさせられていたが、ある時から、はたと後者が途絶えた期間があった。

気になり様子を見に行く。

いつものように、他の養子候補からの嫌がらせもあったが、それらが気にならないくらいには、その理由に興味があった。

 

「マフィア風情が…」

 

自室でそう毒づきつつも、弱った様子のイズナリオにマクギリスは疑問に思い、こっそりと泥のように眠る彼の手元の端末を覗き見た。

 

それが、当時の使者からの圏外圏での出来事の報告、もっと言えばその会見の録画であった。

そして、それに目を通した時に、ふとマクギリスの頭に疑問が湧いた。

 

「アグニカ・カイエルと、どちらがすごいのだろうか?」

 

それは、子どもならば誰でも抱くだろう純粋な疑問であり、彼がのちにジャスレイ派と呼ばれる一派とコンタクトを取るに、十分な理由だった。




次回、ジャスおじ視点に戻る予定です。

話の進みが遅くて申し訳ないです。


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72話

ジャスおじサイド。

ちょい短めです。

前話にくっつけたら冗長になりそうだったので…。


ジャスレイが、ナナオに手渡された手紙の内容を要約すると、差出人はモンタークと名乗っており、商人をしているという。

彼がやっているという『モンターク商会』は二百年前の厄祭戦後の復興期からの歴史があり『人々の生活の質の向上』をキャッチコピーとしているためか、食料品や機械類など多岐にわたって取り扱っているとの事。

そして、ジャスレイの力になるために、タントテンポ経由で幾らか支援物資を送らせてもらったのでよろしくとの事。

 

「う〜ん…オヤジ、この手紙怪しくねぇですかい?」

「な〜んかきなクセェ気がしますぜ」

 

手紙の内容を伝えられたジャスレイの部下が警戒するように身構える。

 

「ま、確かにな。だがわざわざタントテンポを挟むって言ってるってことは、月やギャラルホルン方面にもツテがあるってことを遠回しに言いてぇんじゃあねぇか?なら手を結ぶかどうかの判断は送られてくるっていう荷物を見せてもらってからでも遅くはねぇさ」

 

はっきり言って怪しい事この上ないが、あのナナオが持ってきた手紙だ。

それだけでその差出人とやらがある程度は話せる人物であることがわかる。

 

「あの女は善意でも悪意でも無く利益で動く。だからこそアイツは情報屋として信用できんのさ。それに…だ。自分で言うのもなんだが、わざわざ太客を危険な目に合わせるようなヤツの手紙を持ってきたりはしねぇだろうよ」

 

モンタークとやらがなぜ急にコンタクトを取ってこようとしたのかは気になるところではあるが、何かしらの目論みがあってのことか、それとも…。

 

「いずれにせよ、調べる必要はありそうだな…」

 

□□□□□□□□

 

え、バエルおじさん早くない?

なんで鉄華団じゃあなくってこっちに…。

そもそもこれまで特に接点も無かったよね?

 

っていうかタントテンポを通して来る荷物って確か…。

 

「その荷物って、次回のヤツのことですかねぇ…」

「そりゃあそうだろ。次回のやつは数日後だが、その次ってなればもうひと月待つことになんだからよ」

 

部下達のそんな会話が聞こえてくる。

 

えぇ?それって随分前から準備してたってこと?一体なんのために?

いやでも、セブンスターズに一枚噛んでもらえるってメリットっちゃあメリットか?いやでも取引先がデカいとその分仕事の量が一気に増えるし、いいことづくめって訳にもいかんわなぁ…クジャン家との折り合いなんかもあるし。

いやでも商人としての取引には応じるのが正解か?

セブンスターズの名前は出さずにあくまでもモンターク商会として来ている以上、ファリド家の思惑は関係ないと見るべきだろうし…。

いやでもここで鉄華団の乗った路線に踏み切るのは厳しいぞ。

ウチは仁義を重んじる気風だし、でもここでセブンスターズの名前を出すわけにも…。

そもそも手紙からして何の匂わせもないし…。

もう犯人をとっくに知ってる推理小説を読んでる時ってこんな気分なんかねぇ…。

すっごい歯痒いわこれ。

 

「なんにせよ…だ。マルコの兄貴にもう一回頭ぁ下げにいかねぇとだな」

「お供しますぜオヤジ!!」

「オレもでさぁ!!」

 

頼れるなぁ〜。オレには勿体ないくらいの連中だ。

 

「お前ら…」

「なんです?」

「どうかしましたかい?」

 

なんとなく、こう言うのは思った時に言ったほうがいいと思うんだよね。

 

「いや…いつもありがとうよ」

 

よし。兄貴のとこに急ごうか!!

逃げるように背を向けるぜ。

多分いま顔赤いんだよなぁ…。

 




次回、タントテンポのあのキャラ再登場です。


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73話

出来ました。


今日は『JPTトラスト』に向けて『タントテンポ』からの荷物が届く日だ。

頭目がテッドからリアリナに代わって初の仕事という事で、気合いも入っているのだろう。

そのためか、護送パイロットはジャスレイの見知った顔だった。

 

「あっ、オジサ〜〜ン!!ひっさしぶりだねぇ〜♪」

 

ドックの無重力を利用して笑顔で突っ込んでくるユハナをジャスレイはひょいと躱して声をかける。

 

「おうユハナ、お前さんが今回の荷物の護送についたのか」

「むぅ〜…オジサン、相変わらずいけずぅ〜…」

 

壁までたどり着いたユハナはぷくぅ〜と頬を膨らませて恨めしげにそう言うが、何かを思い出したのか「まぁいいや」とパッと表情を明るくする。

 

「ねぇねぇそう言えばオジサン。アタシね〜…」

「ユハナ!!一人で行くなとあれほど…」

 

そう言うなり、彼女の兄、サンポが現れる。

するとユハナはげぇ〜…と言う顔をして

 

「げ、サンポ…ごめ〜ん」

「まったくお前ってヤツは…すみませんジャスレイさん」

 

以前の時のようにペコリと頭を下げるサンポ。

 

「いや、かまいやしねぇよ。しっかしなんでお前さんらほどのパイロットが荷物の護送なんぞについてんだ?」

 

確かに荷物の護送は重要な仕事ではあるが、雇い主の護衛を務めるくらい腕利きの兄妹がやるほどかというとそうでも無いだろう。

それこそ、ある程度以上に信頼できて腕の立つパイロットなら極論誰でもいい。

そして、タントテンポならばその辺の人材も確保は出来ているだろう。

 

「お嬢の命令でねぇ〜。最近はここらも物騒らしいし」

「まずオレらを派遣して危険のほどを確認しつつ、今後の判断材料にしようってことらしいです」

 

ユハナは相変わらずへらへらしているが、サンポは真剣な目をしている。

 

「『夜明け』の連中か…」

 

ジャスレイはそれを聞いて頭を抱える仕草を見せる。

 

「はい。どうにも最近は特に動きが活発化しているらしく…」

「そそ。ジャンマルコから直々にお願いされたんだよ〜?スゴいでしょ〜」

「おう、そりゃあスゴいな。長旅だったろ?部屋も部下に用意してもらってあるから、そこで疲れを癒してくれ。それと、機体はそのままドックに入れとけ。テイワズ(ウチ)の整備班は優秀だからな」

「えぇ〜…アタシはオジサンの家に泊まりたいなぁ〜?」

「オレの?やめとけやめとけ、散らかりっぱなしでとてもじゃあねぇが、他人様に見せられるような状態じゃあねぇからな」

 

それを聞くなり、ユハナはニンマリとイタズラっぽく笑う。

 

「じゃあ、しょうがないからアタシが掃除したげる〜♪」

「ユハナ…」

 

サンポはその言葉に悩ましげに頭を抱える。

 

「そしてあわよくば既成事実を…ぐふふ…」

「オイ、本音漏れてんぞ」

 

目をギラギラさせながらそんなことを言うユハナ。それを見て再び頭を下げるサンポ。

 

「すみませんジャスレイさん…」

「いや、強かな女は嫌いじゃあねぇよ?少なくとも、分かりやすく下心隠してすり寄って来るような連中よりは遥かに印象はいいさ」

 

そう、フォローするように言うジャスレイに、サンポは何やらホッとした様子だ。

 

「それじゃあ、オジサン。ドックにアタシの機体入れてくるね〜♪」

 

当のユハナも好感触と捉えたのか、ご機嫌で自身の機体の方へと戻っていく。

 

「…それじゃあ、オレも失礼します」

「おう。積荷の確認はお前さんらがひと段落ついてからでかまわねぇよ」

「いえ、そこまで気を回していただくわけには…」

「いいんだよ。良い仕事するにゃあ、疲れた状態じゃあキツイだろ?」

「ありがとうございます…」

 

サンポは控えめにそう言って再び頭を下げると、彼もまた自身の機体の方へと向かって行った。

 

□□□□□□□□

 

さてと、荷物の確認の前にちょいとばかし休憩でも…ってうん?あそこでチョイチョイと手招きしてるのは…。

 

「オジサンオジサン」

「うん?ユハナか。どうした?」

「ふふ〜ん…まぁ着いて来ればわかるよ〜♪」

 

そう言うユハナちゃん。

こっちは、ドックの方か?

 

「オヤジ、オレらもついてったほうが…」

「いや、あの娘っ子はふざけてるようで頭はいい。少なくともここで問題を起こしてどうなるかわからねぇほど馬鹿じゃあねぇさ」

 

実際、人目も多いし怪しいことをすれば真っ先に疑われる立場なのは百も承知だろうし…。

何よりあの子、お兄ちゃん子っぽいから、サンポくんの不利になるようなことはしないだろうし。

なんとか部下に納得してもらい、ユハナちゃんの後を追ってみる。

行き先は思った通り整備ドックだ。

そして、そこでオレが見たものは…。

 

「おぉ…コイツは…」

「どうどう?スゴいでしょ〜?」

 

黒いガンダムフレームかぁ…。

整備班が目を輝かせながら仕事してるし、見間違いじゃあ無さそうだ。

とは言え、アニメじゃあ見たことが無い機体だなぁ…。

いやまぁ、アニメ一期だけで全部出し切ったとは思って無かったけどもさ。

 

「オメェが自慢したかったのって、もしかしてコイツのことか?」

「ふっふ〜ん。ガンダムウヴァル。ロザーリオのオッサンに譲ってもらったんだよ〜♪」

 

まぁ確かに、リアリナ嬢の許可も降りてるんだろうし、ガンダムフレームを任されるってことはそれだけパイロットとしての技量を買われてるって事だろうからスゴいことなんだが…。

それとどうでもいいけどロザーリオはオッサン呼びなのか。

 

「これでオジサンに相応しい女に一歩近づいたかな〜?」

 

えぇ〜?まだ諦めてなかったのこの子。

わざとらしくチラチラこっち見て来てるし…。

そして、その手に持った書類は…はいはい武装やら何やらの諸経費ね。

 

「別に乗ってる機体が何かでそいつがどんな奴かなんぞ判断はしねぇよ…心配はしてもな」

 

まぁ、量産機でも強い奴は強いし。

オレはたぶんガンダムフレームになんぞ乗ったらカモられる自信しかねぇし。

 

「え〜?オジサン心配してくれるんだ〜?」

「そりゃあそうだろ」

「即答なんだ〜」

 

なんでそこでニヤニヤを深めるんだ?

まぁ…ただでさえ、『夜明けの地平線団』みたいに、ある程度以上の勢力にとっちゃあガンダムフレームはその希少性と高性能ぶりから、商品としても戦力としても魅力的に映るもんで、だからこそ鹵獲されるリスクもある。

っていうか、連中はそれがメシの種みたいなとこあるし…。

ましてやパイロットがこんな若い子だもんなぁ…。

オジサン、心配になっても仕方ないと思うんだ。

 

「ま、ダイジョーブダイジョーブ。サンポもいるし」

 

ううん…こう言うところは子どもだなぁ〜…。

いやまぁ、腕利きではあるんだろうけどもさ…。

 

「それになんかあったらオジサンが助けてくれるもんね〜」

「できりゃあ、そうならねぇことを祈るよ」

 

ホント、フリーダムだなぁこの子。




ハクリ兄妹再登場回でした。

ウヴァルカッコいいんだこれが。


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74話

間が空いてすみません…。
ちょっと長いです。

先日サンダーボルトのアニメを初めて見ました。

リユース・サイコ・デバイス…エグい…。
阿頼耶識とどっちがマシなんだろうか…。
そして、それと生身で渡り合うイオくんよ…。


ハクリ兄妹が『JPTトラスト』へとやって来た翌日、ジャスレイは彼らと部下を連れてドックで会うことに。

それというのも、自らが部屋まで迎えに行こうとするも、流石に気を遣わせては悪いという部下の進言にジャスレイが頷いたからだ。

ドックで待つジャスレイがよっ、と軽く挨拶をする。

 

「よく眠れたか?」

「はい、お陰様で。わざわざ気を回していただき、ありがとうございました」

 

深々と頭を下げて礼の言葉を述べるサンポ。

しかし、ジャスレイは特に気にした風でもなく返す。

 

「別にそんくれぇかまいやしねぇさ。気を張る仕事だからな。休める時に休むのも仕事のうちさ」

 

ジャスレイは、サンポに手渡された目録と船の積荷を見比べてひとつひとつ確認し、そのいずれも問題はなかった。

 

「それにしても…これ全部でどれくらいの価値になるんだろうね〜?」

 

船から降ろされ、ドックに並べられるコンテナを見て目を輝かせ、そんなことを言うユハナ。

『タントテンポ』を通して、それだけ多くの企業が『JPTトラスト』ひいてはテイワズに多大な信頼を置いているという証でもある。

 

「さてなぁ、いずれにせよ地球圏の連中は少なくともこんくれぇはこっちに出資しても世話ねぇくれぇにゃあ豊かなんだろうさ」

 

積荷を前に、ジャスレイは複雑そうにそんなことを言う。

 

「案外オジサンのご機嫌とりとかもあったりして〜?」

「……ま、そういうのもねぇこたぁねぇんだろうがなぁ」

「ユハナ、仕事中だぞ」

 

流石に私語が過ぎると判断したのだろうサンポの一言に、ユハナは

 

「はぁ〜〜い……」とだけ返す。

 

仮に見栄を張るしても、自社が苦しくなるほどは出せないだろう。

それこそ、代表者であるジャスレイ当人に袖の下でも渡した方が早い。

尤も、ジャスレイがそれを受け取るかどうかは別にして…だが。

 

「これで、最後ですね」

 

そう言われ、目の前に運ばれて来たコンテナは通常のそれよりも大型で重厚な作りとなっており、なんならちょっとした小型船くらいはある。その横には先日手紙で確認した『モンターク商会』の文字がアンティーク調で書かれている。

 

「おう、頼んだ」

 

ジャスレイの言葉に、サンポはひとつ会釈すると、預かっていたのだろうカードキーをスッと取り出してスキャンすると、ピピっ‥と言う高い電子音と共に扉が開く。

 

「おぉ〜、豪勢だねぇ〜」

 

広々とした空間に、まず目に入ってきたのは折り畳まれたタオルに積み上げられたティッシュ、歯ブラシ、洗剤、石鹸類や乾燥させた宇宙食…などと言った日用品の数々。

それらが所狭しと並べられていた。

とは言え、コンテナ全体から見ればここも複数ある部屋のひとつ。

恐らくは他の部屋にも同じように荷物が積まれているのだろう。

 

「思ってたより普通ですね…」

 

サンポが訝しげにそう言う。

 

「あ、コレ好きなヤツだ〜♪もらってもいい?」

 

いつの間にやら、めざとく気になったものを見て目を輝かせるユハナ。

 

「ユハナ…そう言うのは後に…」

「いや、ひとつ二つくれぇならかまいやしねぇさ…後の確認はこっちでするから、お前さんらは部屋で休んでてなぁ」

「…わかりました。行くぞユハナ」

 

何かを察した様子のサンポからカードキーと目録を受け取り、ハクリ兄妹を見送るジャスレイとその部下達。

文句を言いたそうにしていたものの、ユハナは珍しくその言葉に従ったのだった。

 

□□□□□□□□

 

さて、ここからはお宝探しの時間だなぁ。

まぁそれって言うのも、やっぱ秘密裏の贈り物ってやつは隠してあるのが常だし…。

場所教えてくれるのが一番ラクなんだけどねぇ…。

 

「よし、お前ら。準備は?」

「ヘイオヤジ」

「いつでも出来まさぁ」

 

…って、もう取り掛かれるのか。

我が部下ながら準備がいいなぁ。

 

「しかし、よかったんですかい?」

 

よかった?ああ、あの二人ねぇ。

 

「ま、アイツらも一応は外部の人間だしなぁ」

 

形としては一応傘下の雇われだし、個人的にも別に信頼してないわけじゃあないんだけど、少なくともバエルニキからあの二人に積荷のことが伝えられていない以上、本当の手土産とやらは少なくとも外部の人間に知られたくはない程度には重大なものなのだろうことが想像できるし。

あの二人は現状、タントテンポに雇われの傭兵と言う形だろうし。

万が一にも情報が流れる可能性は避けなくっちゃあならない。

 

「よし、探してくれ」

 

そんなこんなで、連れて来た部下達と手分けして荷物をまとめたり、どけたりしていると…。

 

「オヤジ!!見つかりましたぜ!!」

 

開始から数時間のち、やっとなことで見つかった。

 

「おう。すぐ行く」

 

そう言って、部下の一人が高く掲げてたのはなにやらディスクが。

すぐにコンピュータで読み込むと、案の定データが入っていることがわかる。

 

「罠の可能性は…シロです」

 

何度もスキャンを終えた部下が、どうぞ、とオレをコンピュータの前を譲ってくれる。

まぁ、場合によっちゃあ中身を調べようとしてドカン!!とかも無いとは言い切れないしなぁ…。

 

「コイツは…映像データか」

 

画面の中には室内で仮面をつけた男…まぁ、マッキーなんだけども…が室内で座っているのが見える。

彼はしばらくするとこちらに一礼し、挨拶を始める。

 

「はじめまして、ジャスレイ・ドノミコルス氏。贈り物の在処はこの映像データを最後まで見てもらった後に分かるようになっています。回りくどいようで申し訳ないが…それだけ重要なモノを貴方に贈ろうとするこちらの意図を知っていただきたかった」

 

櫻○ボイスで名前を呼ばれるとなにやらむずがゆい感覚がするなぁ。

 

「さて、ここだけの話、我々はとあるギャラルホルンの貴族の家との繋がりがありまして…その次期当主となるだろう男が是非に…と言うのでこうして贈らせていただいた次第です」

 

次に、パッと映像が切り替わる。コレは…。

 

「モビルスーツ?」

 

たしかヘキサフレームとか言うタイプのやつだ。

『夜明け』のユーゴーなんかがこのタイプだな。

 

「そう。モビルスーツです」

 

怖っ!?今会話成立した!?

いやまぁ、偶然なんだろうけどもさ…。

 

「このモビルスーツをはじめ、多くの機械の駆動に必須とされるもの…。『厄祭戦』以後は各星に散り散りとなったモビルスーツくらいでしか民間で入手する術はない、エイハブリアクター。コレを贈らせていただきたい」

 

え?いやいやいや…ギャラルホルンはエイハブリアクターの製造方法を独占してるんだよね?

それなら絶対管理だって厳重だろうし、そこから盗ろうとか命知らずってレベルじゃあ無いんだけど!?

足がついたら厄介なことに巻き込まれるのは分かりきって…。

 

「ご心配無く。先ほど述べたエイハブリアクターですが、ギャラルホルンの貴族家の彼の部隊がたまたま遭遇した敵モビルスーツから鹵獲したものなので目はつけられません。ああ、それと…そのコンテナは返却しないで結構。好きにしていただきたい。もし何かあれば、お手元の連絡先に入れていただければ」

 

あぁ〜…そう言う…なら大丈夫かなぁ〜。

コンテナも返さなくても良いって…まぁそう言うことだよなぁ…。

 

「最後に本題ですが…我々はあなた方との()()を望んでおります。今回はその心付け…願わくば、今後も良い取引を願っております。……では、パスコードをお送りします」

 

パスコード…ああ、たぶんあの奥にあったあれか。

あそこだけ何故か開かなかったし。っていうか、明らかに意図的に隠されてたし。

それにコンテナの見た目からしてもっと奥行きはあるはずだし…。

って言うかよくコレで港のチェック通った…って、そうかマッキー自身は監査局の人だからある程度はゴリ押せるのか。

それなら扉を隠す必要は…念には念ってことかね。

まぁ、実際エイハブリアクター自体そんなに市場に出回らないモノだから二、三基もらえるだけでもありがたいはありがたい。

たしか鉄華団の前身の組織『CGS』もバルバトスのリアクターで動力を賄ってたみたいだし…。

そうしてパスコードを入力した場所から出てきたのは…

 

「オヤジィ…コイツは…」

 

実に十機ものエイハブリアクターだった。

ふぅん…十基ねぇ…十基!?

バエルおじさんや…一体なぁにを企んでいやがるんですかねぇ…?




ぬぐぐ…相変わらず話の進みが…。

こんな拙作でも気長に待ってくださった方々、本当に感謝です。




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75話

続きできました。

今回は別視点です。


「団長!!一体アンタ、いつになったら動くってんだ!!」

 

映像通信越しにもビリビリと響くような大声で、荒くれた様子の小男は言う。

かつてそれなりに豪華だったろう服装は煤け、頬もこけて眼はギラギラと怪しく光っている。

しかし、そんな彼の様子を見てもなお、その通信相手に動じている様子は無い。

悠々と自身の椅子に腰掛け、黙ってそれを聞いている。

しばし考えるような沈黙を挟み、そして口を開く。

 

「まぁ落ち着けよ。何事にも準備は肝要だろう。何度も言うようだが、今は動く時じゃあねぇんだよ。ガマンしな。先走ってもいいことなんざねぇさ」

「またそれか!!オレは奴に復讐する機会をまだかまだかと待ち侘びてるんだぞ!!」

 

子どもが癇癪を起こしたように、小男は叫ぶ。

それを見るなり、ふぅ…と呆れたようにわざとらしくため息をつくと、一拍おいて男は凄んでみせる。

 

「なぁ…ウィニーくんよぉ…オレが待てって言ってんのがわかんねぇのか?別に行きてぇなら止めねぇがよ。その場合オメェにゃあココを抜けてもらうことになるぜ?」

「くっ…そうかよ、それじゃあこっからは勝手に動かせてもらうぜ」

 

ウィニーと呼ばれた男は言いたいだけ言って映像通信を切り、側につけていた船から徐々に徐々に離れて行く。

その様子を危惧してか、男の腹心が耳打ちする。

 

「よろしいのですか?本当に勝手に動きかねませんよ。何せ奴は…」

「なに、組織内の意識統一にゃあちょうど良い。どうせ奴も過去に囚われただけのつまらねぇ男さ。わざわざ自滅してくれるってんならわざわざこっちが手を下す必要もねぇ…むしろ願ったりさ」

「それでもここじゃあ新入り扱い…報われませんなぁ」

 

同情するような口調とは相反し、船内の空気はそこまで重苦しくも無い。

 

「しかし…本当にアイツを向かわせてよかったんですかい?」

 

今度は別の部下が不意に問いを投げかける。

 

「ん?どう言う意味だ?」

「だって、アイツ今じゃあ落ちぶれてあんなナリしてますが、昔はあの辺りでもそれなりに鳴らしてたって言うじゃあねぇですか。万が一にもヤツがあの男の首を取って来るなんて…」

「できやしねぇよ」

 

即座に飛んでくる否定の言葉。

 

「え?」

 

それに呆気に取られる部下に、男…ロイターは続ける。

 

「アイツは…ジャスレイの野郎はあの程度の野郎にやられるほどヤワじゃあねぇさ。仮に変装して、バカみてぇに多い警備の網をくぐれればそれだけでも御の字。部下の警護を縫ってジャスレイを討ち取って、あまつさえ生きて帰ってくるのなんぞ、無償でエイハブリアクターを五個やら十個やらポンとくれる奴に会うくれぇありえねぇ話さ」

「ハハハ…そりゃあ砂粒の欠片ほどもありゃあしねぇですねぇ」

「だろう?まぁせいぜいヤツがテイワズのナワバリを掻き乱してる間に、こっちはさっさと牙を研がしてもらうとするさ」

 

彼らは『夜明けの地平線団』

地球と火星の間をナワバリとし、十隻を数える艦隊と、多数のモビルスーツ、そして三千人の構成員を持つ大所帯の宇宙海賊。

 

そして…。

 

「待ってろよジャスレイ」

 

団長のサンドバル・ロイターと、『JPTトラスト』代表ジャスレイとは、因縁浅からぬ間柄で知られる。

 

「あの野郎の目ェ覚させるにゃあ、まだ足りねぇんだ」

 

ロイターは今でも鮮明に覚えている。

かつての己の羨望の対象を、容易く打ち砕いた漢のありようを。

冷酷無比にして、栄華を誇った裏組織の人間に「地獄の悪鬼よりもなお恐ろしい」とまで言わしめ、木星圏を震え上がらせた『圏外圏の虎』の、燃えるような瞳を。

しかし、それを語るロイターの目に宿るのは恨みや憎しみなどではなく…。

 

「あの男の暴れっぷり…今でも夢に見る」

 

少年のような、澄んだ色をしていた。




思ったより早めに投稿できました。

でもちょっと短め…。


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76話

ジャスおじサイドです。



ジャスレイは木星圏にある巨大艦、歳星のテイワズ本社にて、マクマードとの話し合いをしていた。

その話題とは無論、つい先日贈られて来たエイハブリアクターのことだ。

 

「そんなわけで、こんだけのリアクターが贈られて来てな。どうしたモンかとオヤジに指示を仰ぎに来たってぇわけさ」

 

珍しく改まった様子のジャスレイを前に、ふむ…と考え込むマクマード。

机の上には湯気の立つエスプレッソとカンノーリが二人分置いてある。

映像通信ではなくわざわざ顔を突き合わせ、護衛も部屋の前に待機させて、二人だけで話しているのは通信傍受されることへの対策のためだ。

尤も、ジャスレイはまだ誰にも話していない以上杞憂とは思うが、念には念を入れておくに越したことはない。

ジャスレイは用意された椅子に腰掛け、帽子を脱ぎながらふぅ…と一息つく。

 

「悪りぃなオヤジ、急な話でよ…」

「いや、オメェのことだ。オレを頼るくれぇのなんかがあったんだろう?」

「ハハ…当たり」

「ったく…」

 

若干おどけた様子で軽くそう言うジャスレイに呆れるようにそう返すと、マクマードはその向かいに腰掛ける。

それを見届けたジャスレイは『モンターク商会』なる組織の資料を取り出して机に並べていく。

 

「エイハブリアクターをこんなに…確かに怪しいなぁ」

「だろう?」

「なるほど…だからオレに相談に来たというわけかい」

「オウ、オヤジに指示を仰いどきゃあ取り敢えず間違いねぇしな」

「相変わらず調子がいいなぁオメェは…」

 

少し頬の緩んだマクマードだが、再び真剣な表情になり資料を読む。

普通エイハブリアクターを贈られると言ったことは滅多に無いし、だからこそ、下手に握りつぶそうとれば認識の齟齬を生む。

それこそテイワズやひいてはマクマードへの叛意を疑われてしまいかねない。

無論周囲の信頼などもあるが、それはそれとして根も葉もない噂というのは目に見えないところで広がるもの。故に過信は禁物だ。

それで得をするのはテイワズによる圏外圏の支配を面白く思わないチンピラや『夜明けの地平線団』くらいなものだろう。

 

「唯一の手がかり…って言っていいかはわからねぇが…なんでも件の商会はギャラルホルン内部の貴族家との繋がりがあるとか言ってたな」

 

つい先日、映像データ内で男が言っていたことを、ジャスレイが告げる。

が、しかし…マクマードは更に眉間に皺を寄せる。

 

「だが…それも取っかかりとしちゃあ弱ぇなぁ。ギャラルホルンにはセブンスターズは元より規模の大小問わずその下の連中の家系だったり、分家やその分家、更に分家まで数えたらそれこそ数十じゃあ足りねぇし…現状、その情報だけじゃあ特定まではほぼ不可能だろうなぁ…」

 

存外、汚名を着せられたりして財産を没収されて没落したかつての貴族連中がギャラルホルンへのやっかみと嫌がらせのためにわざわざ結託してかき集めたリアクターを『モンターク商会』を通じてこっちに流したとか…。

歴史ある商会故にそちら方面へのツテもあるにはあるだろうし、何より映像データ内で男は「我々」と言っていた。

それならこれだけ送ってきておいて、肝心のギャラルホルン側が特に何か文句を言って来ないのも納得は出来る。

とは言え、それだってかなり無理のある話だが…。

何にせよ、半永久機関で知られるエイハブリアクターはたとえ一基であっても「はいどうぞ」と軽々しく差し出せるものでは無い。

その価値をわからないほど彼らは歴史が浅かったり、知識に乏しいわけでも無いだろう。

それこそ、彼らの憎っくき相手の内、誰か特定の重要人物の弱みをモンタークを通してリークでもした方がまだ安上がりだろう。

残る疑念としては、仮に目的がギャラルホルンへの嫌がらせにしても、なぜより力のあるマクマードでは無くその配下のジャスレイなのか。そこが気になる所だ。

 

「まぁ、話は分かった。向こうの意図するところは未だ判然とはしねぇが…」

「かと言って突っ返そうとしたところでなぁ…」

 

わざわざあちらの目録にない品を返します。というのは流石に無謀。はっきり言って下策だ。

かと言ってジャスレイ…『JPTトラスト』で運用しようにも設備を整えるので却ってカネも時間もかかってしまうのは明白。

いつ『夜明け』が本格的に動くかもわからない現状、手を離せなくなる人員が増えるのは出来る限り避けたいのが組織としての本音だ。

であれば現状の最上策は……。

 

□□□□□□□□

 

「なぁオヤジこのリアクター、オヤジが預かっててくんねぇか?」

 

たぶんもうこれしか無いんじゃあないかなぁ〜。

これなら結果としてテイワズの利益にも繋がるし、何より管理がなぁ…。

 

「ま、それが妥当だろうな」 

「そうか。そんじゃあ、後でこっちに運ぶよう手配しておくぜ?」

 

ああ〜よかったぁ〜。

これで何とか肩の荷が一つ降りた気分だなぁ。

いやまぁ?正直バエルおじさんには悪いとは思うけどもさ?流石にオレ一人にリアクター十基は難しいって。

モビルスーツに組み込もうにもフレームだって有限だし、その予備として遊ばせておくのはあまりに勿体なさすぎる。

それにこういうのもアレだけど、もらった以上は誰に渡そうとこっちの自由なわけで…。

 

「ま、オレとしてもちょうど新しい事業を始めようと思っててな。早速それに充てさせてもらうさ」

「うん?なんだ藪から棒に?」

「オウ。モビルスーツ開発の拡充と、新装備の開発やらその他諸々のためにな。それで…だ。モノは相談なんだが…」

 

あっ、なんかヤな予感…。

 

「オメェがその責任者になっちゃあくれねぇか?」

 

真っ直ぐにこっちを見据えてそう言って来るオヤジ。

 

「………あぁ〜なるほど」

 

ってこれもしかして……。

 

オレの仕事…また増えた?

 




絶対多忙なのに時間作ってくれるオヤジ…流石やでぇ。

齟齬があったら申し訳ない。


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77話

待っててくださった方、投稿遅れて申し訳ありません。

中古で何となしに買ったパワ○ケが面白くて…。

ナオっち超可愛い。



「ねぇ〜、オジサンまだ時間かかるの〜?」

「ユハナ、文句を言うな」

「ま、あとちょっとだからよ。我慢してくれや」

 

ある日の夕暮れ時のこと。

『JPTトラスト』のナワバリにあるとあるコロニー、そこに護衛たちと共に歩くジャスレイの姿があった。

それと言うのもジャスレイは部下たちと、そしてしばらく滞在すると言うタントテンポの客人二人と共に、そこにある施設を訪れていたからだ。

 

「おぉ〜い、イングリッド〜〜!!」

 

ジャスレイが施設前で箒がけをしている女性に対して親しげに手を振りながら声をかける。

修道服に身を包んだ小太りの中年女性は一瞬驚いた顔をし、何かを察したようにため息を一つ。

 

「ジャス…あんた、まぁた来たんかい?」

 

少々呆れ気味な口調ではあるが、そこに拒絶の色はない。

若干口も悪いが、それも早い話が昔馴染みとの挨拶みたいなものだ。

 

「オジサン、この人は?」

 

親しげに歩み寄るジャスレイに、ユハナは純粋な疑念を投げかける。

 

「おう、紹介するぜ、コイツは人呼んでマザー・イングリッド。こう見えても、この辺じゃあ評判のいい修道女なんだぜ?」

 

ここは『JPTトラスト』が資金援助をしているいくつかの孤児院のひとつ。

主に大人に慣れていなかったり、かつてのトラウマから立ち直ったものの、ある程度の社交性を学ぶ必要があるような子ども達を預かってもらっていると言う。

何故ジャスレイが会社のカネを使ってまでわざわざそんなことをするのかといえば早い話、孤児院と言うのはかつてと比べて減りこそしたものの、未だにヒューマンデブリで商売する連中の隠れ蓑にされていることが多いからだ。

十数年前、ジャスレイは自身のナワバリからそう言った悪徳孤児院を一掃し、信頼できるイングリッドなどの数名の人物に、孤児院の管理や子どもらの世話を任せている。

子ども達が心身共に健全に育つにはそれなりの出費は不可欠であり、ここを卒業する年齢になれば、より専門的なことを学ぶために学校へ行くなり、少しでも稼ぐために就職を決めるなり各々好きな道を行くことを決める。

その斡旋まで含めて『JPTトラスト』の仕事だ。

 

「生憎、子どもらはさっき寝たばっかだし、アタシもアタシでまだ仕事が残ってるからね。茶も出せやしないよ」

 

ぶっきらぼうにそう言うイングリッドだが、ジャスレイもそれにひとつ頷く。

 

「おう。別にかまいやしねぇさ。それに起きてたら起きてたでアイツら群がって来るからなぁ…その分オメェの負担も増えんだろう?この時間に来たのも、一応こっちなりに気遣ったつもりだったんだがなぁ…」

「ふん…今更気を遣ったって何にも出やしないよ」

 

そう言うと、イングリッドはおもむろに彼の引き連れた部下達を見遣る。

 

「にしてもアンタ、この子らにちゃんとメシは食わしてるんだろうね!?アタシが世話した子らを飢えさせたりなんかしてたら承知しないよ!!」

「イングリッド先生…ご無沙汰です」

「オレらのことは気にしねぇでくだせぇ」

 

苦笑するジャスレイの部下達に、イングリッドは優しく微笑む。

 

「全くこの子たちは…コイツに気をつかうこたぁ無いんだよ?」

 

そう言うなりチラリ、とジャスレイの方を向くイングリッド。

その反応にジャスレイは「相変わらずだな」と微笑む。

 

「おうおう。口酸っぱくしてまでオレの部下達を気にかけてくれてありがとうよ。肝に銘じておくさ」

「ふん。アンタのためじゃあないさね。アンタら?嫌になったらいつでも来ていいんだからね?人手はいくらあっても足りないしね」

「あはは…」

「えぇ…その時があれば、よろしくお願いします」

 

元気な子どもの相手をするのは、大人の方にもそれなりに体力がいるものだ。

それをイングリッド含め数名でやりくりしているのだから、彼女が経営者として、また教育者として相当にやり手なのが分かる。

 

「それで?要件は何だい。資金の方はまだ足りてるし、必要以上は要らないよ」

「なぁに、新しい仕事の関係でこの辺に立ち寄る用事があったからついでにな。挨拶は大事だろ?」

 

それを聞くなり納得し、また呆れ返ったと言った風に眉間に皺を寄せ、ため息をつくイングリッド。

 

「また仕事増やして…体壊しても労ってなんかやんないからね」

「ははは…相変わらずだなぁ」

 

それにイングリッドはふん、と鼻を鳴らし

 

「気に入らないかい?恨むんならアタシにここの管理を任した自分を恨みな」

「恨む?それこそ筋違いだろうさ。むしろ、良かったとすら思ってんだ。そうやって誰が相手でも折れないし曲げない、強い信念を持った女だからこそ、子どもらを任せられるんだからよ」

「はいはい、おべっかはいいよ」

「はは…相変わらずだねぇ…」

 

ピピピピピ…ピピピピピ…

 

その後も二、三話していると、ジャスレイの持つ携帯端末から着信音が鳴った。

 

□□□□□□□□

 

「港の外れに怪しい小船が?オウ分かった。すぐ向かう」

 

はぁ〜…やぁっと挨拶済んだと思ったらコレかぁ…。

いやまぁ、トラブルそれ自体は慣れっこなんだけどもさ…。

にしてもなぁ〜…。

 

「そんじゃあ、邪魔ぁしたな」

「はいはい…ったく、次来る時は先に連絡くらい寄越しなよ」

 

うんまぁ…そこは、ゴメン。

 

「ねぇねぇ、オジサンオジサン」

 

孤児院に背を向け、心の中でため息をつくオレに話しかけながら、ツンツンと肩をつつくユハナちゃん。

 

「うん?どうした、ユハナ」

「オジサンとあのオバサンって、けっこう仲良さそうだったけど〜、もしかして…」

 

なにやらキラキラと期待の眼差しを向けられる。

アレか、恋バナってやつか。好きだねぇ。

 

「いや、生憎とそんな仲じゃあねぇよ。そもそも曲がりなりにもアイツは聖職者だろ」

 

いやまぁ確かに昔はここらで評判になるくらいには美人だったし、疲れた時は相談に乗ってくれたりなんかしてくれてたこともあって、まったく期待してなかったって言えば嘘になるけどもさぁ…。

出会った当初はちょうどハニトラ引っかかって傷心してた頃で軽く女性恐怖症みたくなってて、何より色々な後処理のゴタゴタやらドタバタで忙しすぎてこっちから何かすることも、オレ自身のイメージ的な意味でも誤解を招くようなことをするのも嫌だったし…。

ぶっちゃけヘタレたね、うん。

 

「曲がりなりにもは余計だよ!!」

「おう悪りぃ悪りぃ。そんじゃあまたなぁ」

 

うへぇ〜、地獄耳ぃ……。

思わず帽子落としそうになっちゃったよ。

さて、連絡にあった港の方に向かいますかねぇ〜。




パワポ○…新作でないかなぁ…。


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78話

続き出来ました〜。


 

連絡を受けたジャスレイ達が港に向かうと、不審な小型艇が港の裏手に接収されているところだった。

余計な混乱を招かないようにするため、そこにいるのは港を任されている『JPTトラスト』の部下達をはじめ、ジャスレイとその護衛、そしてサンポとユハナの兄妹と、極少人数だ。

 

「アレです」

 

ジャスレイはそう案内されるなり歩み寄る。

外観は宇宙空間で目立たないようにするためか黒く塗装されている。

装甲は見るからに薄く、内部の機器も最新の小型ステルス装置を除けば、ジャスレイが見てすぐに分かる程度には年代物だ。

 

「随分と古い船ですねぇ」

「船っつっても、一人用の小型艇なんて久々に見ましたぜ」

「だが、手入れは随分と行き届いてるな」

 

ジャスレイとその部下たちがそんなことを話していると、ひょっこりとユハナが現れ

 

「なになに?レアもの?コレクターに売ればどれだけの値段になるかなぁ?」

 

そう現金なことを言いながら船体の表面をペシペシと軽く叩く。

 

「いや、生憎とこのタイプは量産型だな。昔はそれなりに流行ってたんだが、大型船の技術が上がってきて、それと同時に廃れた安モンさ。売っても二束三文、バラしてみて状態のいいパーツがありゃあ、ちったぁマシになるレベルのシロモンだなぁ」

「ちぇ〜、な〜んだ…」

 

そう言うユハナをたしなめつつ、ジャスレイは船の一部分…もっと言えば船体に刻まれたうねる蛇のマークを睨む。

 

「このエンブレム…どっかで…」

「オヤジ、この船の持ち主らしき野郎の目撃情報が…」

 

ジャスレイが思案していると、彼の部下の一人がそう声をかける。

 

「おうそうかい。そんで…どっちの方に向かったか分かってるのか?」

「いえ、それが…」

 

振り返ったジャスレイが訊ねるなり、部下は少し言い淀み…。

 

「あの…オヤジが寄った孤児院のある路地の方に向かっていったと…」

 

その言葉を聞くや、ジャスレイは血相を変える。

 

「オメェら!!今すぐ戻るぞ!!」

 

そう言って、裏口から外の夜の闇の中を走り出す。

 

「え、ちょっとオジサン!?危ないよ〜!?」

「この辺なら土地勘もある!!心配はいらねぇよ!!」

「オヤジぃ!!お供させてくだせぇぇ!!」

「オウ!!着いて来い!!」

 

駆けるジャスレイ、そしてその部下たち。

それに戸惑った様子のユハナとサンポが続く。

孤児院への道は存外入り組んでおり、それなりに時間がかかる。

未だ侵入者がそこまで辿り着いていないことを願いながらジャスレイ達は向かう。

そしてもう少しで孤児院に着く、と言ったところで、道中にひとりの男が立っていた。

 

「ヒッヒ…やぁっと見つけたぜぇ?ジャスレイ・ドノミコルス」

「テメェは…」

 

相手は小柄で、酒灼けしたような濁った声に、煤けたような格好をしていた。

頬は痩せこけ、丸目のサングラスから覗く瞳は狂気と憤怒を感じさせる。

 

「オレの船が人目につきゃあ、呼ばれると思ったぜ?オメェは昔っから徹底して現場第一主義だからなぁ…」

 

ニタニタと笑みを浮かべるその男に、

 

「オジサン…知り合い?」

 

引き気味にユハナがジャスレイに問う。

するとジャスレイはユハナを庇うように前に出て、男を睨む。

 

「そうらしい。嫌われモン『蛇蠍』のウィニー…ディアブロ兄弟のコバンザメが、今更ノコノコ出てきて何の用だ?」

 

ディアブロ…若い二人には聞いたことの無い名だ。

しかし、ジャスレイの部下達がその言葉を聞いて身構えているのを見るに、昔それなりに有名だった人物だったようだ。

しかしコバンザメ、という言葉に何やら思うところがあったのか、ウィニーと呼ばれた男はカチンと来たようだ。

 

「こっ、コバンザメだと?」

「あん?金魚の糞の方が良かったか?オメェ、上に媚びるばっかで同輩やら下からの人望なんぞ見るからに皆無だったじゃあねぇかよ。連中がいなくなった今、オメェひとり出てきても別に怖くも何ともねぇんだよ」

 

しかし、その言葉とは裏腹に、警戒は解けていない。

当然だ。本拠点で無いとはいえ、警備の目を潜り抜けた手腕は本物なのだから。

 

「テメェ…ナメてんじゃあねぇぞ!?オレ様を天国から地獄に突き落としてくれたツケ、ここで返させてもらうぜぇ!!」

 

そう言うなり、物陰から何やらグイッと持ち上げる。

その正体は…。

 

「う…ジャスかい…」

 

恐らく不意をつかれたのだろう、額から血を流すシスター・イングリッドだった。

暗がりだが、足元で散らかっている荷物からして、買い物の最中に襲われ、道案内でもさせられていたのだろう。

尤も、まだ辿り着けていないことからして、かなり時間を食わされている様子だが。

 

「イングリッド…」

 

ジャスレイはそれに気づいて、彼女の強かさや、とっさの機転に感心し、しかし同時に心配もしていた。

そしてそれは、彼の部下達も同様だったようだ。

 

「先生!!」

「テメェ…その人を人質にするたぁ、いい度胸してんなぁ!!」

 

ジャスレイの部下たちが憤るも、ウィニーはそれを見て得意満面になる。

 

「ククク…不覚だよなぁ…?テメェともあろう男が…だがこれもテメェのせいなんだぜ?テメェがあの時、兄貴達を仕留めてくれやがったから…」

 

それを聞くなり、ジャスレイは皮肉のように言葉を発する。

 

「…要は仇討ちかい。そんなことをするオメェとは思えねぇが…随分と根性あるじゃあねぇかよ」

「あぁ!?仇討ちだぁ?別にそんなんじゃあねぇよ…ただ、アイツらの側にいりゃあ美味しい思いが出来たってぇだけのことさ。ウメぇモン食って飲んで、女だって向こうから寄って来た!!それをぶち壊しにしてくれやがって!!お陰でオレァ」

 

如何にも小物、と言ったふうなことを言うウィニー。

 

「ハンッ…なんだい。そんなのただの自業自得じゃあ無いのさ」

「ンだとぉ!?状況わかってんのかババァ!!」

「哀れなモンだね。結局、過去に縛られて他者を貶めるやり方しか出来ない。見下げ果てられて当然じゃあ無いのさ!!」

 

その言葉に頭に来たのか、懐から何かを取り出そうとするウィニー。

ニヤリ、と笑みを浮かべる刹那…。

 

パンっ……。

 

「痛つっ…!!」

 

低く、抑えられた銃声が一発。

恐らくサプレッサーをつけていたのだろう。

その直後、キィンっ…と路地の暗がりに小さく金属音が鳴る。

よくは見えないが、恐らくは刃物なのだろう。

武器を吹き飛ばされ唖然とするウィニー。

 

「テメ…昔より早ェな…」

 

後ずさりながらも、咄嗟に予備を取り出そうとするが……。

 

「……オイ」

「ヒッ!?」

 

発せられるのは短い言葉。

しかし、それにはまるで質量があるかのようにズシリ…とウィニーを襲う。

 

「オメェは本当に昔っから変わってねぇなぁ、えぇ!?女子供人質にしてよォ…」

 

武器が無くなり、遠慮する必要がなくなったからか、ズカズカとジャスレイが歩み寄る。

 

「お…オレを殺せば…『夜明け』の情報も何も聞けねぇぞ?」

 

要は上から目線の命乞いだ。

 

しかし……。

 

「生憎と、こっちにゃあ情報のスペシャリストがごまんといる。オメェ一人いなくなったところで、別段困るわけでもねぇさ」

 

元より計画的とは言い難い犯行。

言ってしまえば、怒りに身を任せた突発的な、一度限りの特攻。

しかしそれも、死の恐怖の前に揺らぐ程度の覚悟でしか無かったのだから滑稽も良いところだ。

 

「た…頼む!!見逃して…!!」

 

ウィニーはイングリッドから手を離し、地べたに手をつけ懇願する。

 

「やかましい。こんな時間にデケェ声出したんじゃあねぇよ」

 

冷めた言葉。

それと同時に、再びパンっ…と短い銃声が響く。

 

「子どもらが起きちまうだろうが」

 

硝煙をゆらしていた銃を懐にしまうと、ジャスレイは近くのふらついているイングリッドに歩み寄り、支える。

 

「カッコつけ…」

「るせぇ…肩ァ貸すぜ」

 

そう言って、サンポに目配せする。

両脇をサンポとジャスレイに支えられ立ち上がるイングリッド。

 

「重っ…」

「悪かったねっ!!」

「オイオイ…思ったよりも元気じゃあねぇかよ」

 

再びフンッ…と鼻を鳴らすイングリッドを、今度は部下たちが守るように固まって、孤児院まで無事送り届けたのだった。

 

□□□□□□□

 

さて…肝心の侵入者くんの処遇だけども…。

 

「オヤジ、コイツどうしますか?」

 

足元への威嚇射撃で失神しているウィニーくんを蔑むような目で見下ろす部下達。

控えめに言ってめっちゃ怖いよぉ……。

 

「ま、とは言え…実際色々と聞きてぇこともあるしなぁ…」

 

なんせ、このコロニーは元々コイツらの庭だったわけだし。

隠し通路の類は粗方把握して潰したり、警備もつけてる。

にも関わらず、ここまで侵入して来られたのは純粋に驚きだね。

 

「まだ他にコイツの仲間がいるかもしれねぇしなぁ…」

 

まぁ、人望が壊滅的だった彼に着いてくる連中がいるとも思えないけどねぇ。

 

「それじゃあ!!オレらに尋問やらせてくだせぇ!!」

「ぜってぇ吐かせます!!」

 

血の気が多い…いやまぁ、気持ちは尤もって言うか、分かるんだけどもさぁ…。

大丈夫?勢い余って殺しちゃわない?

 

「まぁまずは…イングリッドの手当てだなぁ」

 

医務室に連れて来たはいいものの、未だにプリプリしているイングリッドを見遣る。

ホント…いつからこんな風になっちゃったのかなぁ…。

 




色々と書き足したら長くなっちゃった…。

齟齬があったら申し訳ない。


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79話

続き出来ました。


「申し訳ありませんでしたオヤジィィィィ!!」

 

ウィニーを捕え、港に戻ったジャスレイ達を出迎えたのは信頼する部下達の土下座姿だった。

 

「オヤジにここを任されておきながらこの失態…かくなる上はオレら全員エンコを…」

 

身を震わせる部下に対し、ジャスレイは静かに話しかける。

 

「いや、それは別にかまわねぇよ」

「でもオヤジぃ…それじゃあ、オレらはどう償えば…」

「せめてケジメはつけさせてくだせぇ!!」

 

部下達はガバリ、と顔を上げて、まるで迷子になった子どものような声でそんなことを言う。

 

「あの孤児院はオレらにとっても守るべき家なんです。それを危険に晒してこれまで通りのうのうとしてるなぞ…」

 

その言葉を手で制し、黙ったのを見るや、ジャスレイは言葉を発する。

 

「反省してんなら儀礼じゃあなく行動で示せ。それに…」

「それに?」

「今のこの情勢からして、ここを治めることに慣れてるオメェらを処分する行動はテメェの首をテメェで絞めるに等しい。そうなりゃあ喜ぶのは『夜明け』の連中だ。オレはわざわざ敵を喜ばせてやるつもりはねぇよ」

 

そう言って、見上げてくる部下達に手を差し伸べる。

 

「さ、立ちな。膝ァ痛めると後がキツイぜ?」

 

冗談めかしてそう言うなり、部下達は一人ずつジャスレイの手を取り立ち上がる。

 

「オヤジィィ…」

「ったく、泣くかぁ?そこでよ」

 

………………………………

 

「ったくジャスのヤツ、またあの子ら泣かせて…」

「え〜?いつもああなの〜?」

「まぁねぇ…」

 

男連中の話し声が聞こえる医務室で、寝そべるイングリッドの背中をマッサージしながら世間話に花を咲かせるユハナ。

なぜ、そんなことをしているのかと言うと、ウィニーに人質にされた際、イングリッドが無理に起きあがろうとして強か腰をぶつけてうまく動けないため、無理をしないようにとの配慮と、暇つぶしの話し相手も兼ねている。

 

「はぁ〜…やっぱり歳かねぇ〜」

「おろ?随分弱気なんだね〜」

 

気分が沈みそうになるイングリッドに、ユハナはわざとかそれとも天然なのか、明るく振る舞う。

やがて聞こえてくる声に嗚咽が混じり出すと、イングリッドは呆れたようにため息をひとつつく。

そんな彼女を見かねたのか、ユハナは再び話題を振る。

 

「うぅ〜ん…サンポもそうだけどさ〜、男連中は色々考えすぎだと思うんだけどねぇ〜」

「…ま、立場ってモンがあるしねぇ」

「それにしてもだよ〜」

 

ケラケラと、愉快そうに笑う。

 

「オジサンもこ〜んな可愛いユハナちゃんにユーワクされてもノって来ないなんてさ〜?ちょっとだけショックだったかも〜?な〜んて」

「そうかいそうかい。ま、本気ならその内気づかれるさね」

「アタシはいつだって本気だよ〜〜?」

 

ニコニコと、子どもらの話を聞くようにうんうんと頷きながらユハナの話を聞くイングリッド。

しかしそれも無理からぬこと。裏社会のそれも重鎮であるジャスレイにとって、色恋とは罠であり、警戒の対象だ。

そんなジャスレイからすれば、ユハナのそれは良くも悪くも小動物がじゃれついて来ている感覚なのだろう。

だから警戒もしないし、ジャンマルコという旧知のツテが間にいるという安心感もあってか、ある程度の気心も知れている。

何よりそばに置いている事からして少なくとも嫌ってはいないだろうことも分かる。

 

「アイツは昔っから、ヘンなのにモテるからね…」

「ちょっと〜〜?まるでアタシがヘンなコみたいじゃ〜ん?」

 

ぶーたれるユハナにクスリと穏やかに笑う。

そっと、瞼を閉じて初対面の時を思い出す。

 

「ようオレはジャスレイ。ジャスレイ・ドノミコルス。覚えなくてもいいぜ」

 

あの地獄に燦然と輝く炎のような男が現れた、その時のことを。




次回、過去編。

若かりしジャスおじ(イングリッド視点)を描いていけたらなぁなんて。


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80話

ジャスおじの過去編です。
次回からまたお話進みます。


とあるコロニーの外れにある廃教会。

かつて敬虔なる祈りの場であったそこは、今宵大いに賑わっていた。

とは言っても、その賑わいは祈りとは程遠いモノではあるが。

仄暗い空間に、ざわめきと嫌な熱気と妙に甘ったるいような、嫌な匂いがたちこめている。

 

広い礼拝堂には祈りのために用意された椅子は無く、その代わりに雑に仕切りがされ、そこで修道服を着た女達がキセルを片手に下品な笑いを浮かべる、見るからにカタギでない男どもを接待している。

 

まあ、要するに外見だけ教会の()()()()店だ。

元々はそこのオーナーとなった男が廃教会を取り壊して新しくソレを建てるはずだったものの、思った以上にその教会が頑丈だったのと、取り壊しにかかる費用、そして建築にかかる時間が割りに合わなかったから、それなら少し修繕した方が安上がりだ。との考えかららしい。

まったく罰当たりなことこの上ないが。

チンピラ達にとって、そんなことはどうでもいいらしい。

そんなどんちゃん騒ぎがされている店の裏手で、酔っ払いどもに絡まれる少女がひとり。

洗い物と、ほんの少しの休憩、そして現実逃避のためにやってきたはずが、ここにきて絡まれる羽目になるとは皮肉な話だ。

 

「なぁなぁねーちゃん。一杯奢るからよ、ちょ〜っとお酌してくれや」

「な〜な〜いいだろ〜?」

「え…いえ、でも…」

 

彼女はここで働く商売女の身の回りの世話を仰せつかっていた。

そんな彼女が主人たちの客である彼らを自分の客にするなどもってのほかであるし、そもそもそう言った権限は彼女には無い。

しかし、客の機嫌を損ねて暴れられるのも問題だ。

店に迷惑を掛ければ、ただでさえ少ない給与がその補填に充てられてしまう…。

普段はこう言ったトラブルが起きないよう、わざわざ分かりにくい裏手に来て、仕事に取り組んでいたと言うのに…。

かと言って、うまく相手を言いくるめられるほど、少女は口が上手い訳でもない。

せいぜいが掃除中にたまたま拾った埃を被った聖典を辞書片手に気まぐれに読むくらいで、特に教養豊かと言うわけでもなかった。

 

「その辺にしときな」

 

どうしたものかと考えていた最中、耳にしたのは聞きなれない声。

不意に、その場にいた全員がその方向を見やる。背格好からして若い男。

卸したてなのだろう帽子に、さほど高級そうでも無い地味めの色合いのトレンチコート。

少なくとも少女の知る限り、店の関係者ではない。

かと言って、見栄っ張りな小悪党のように嫌味ったらしく高級品に身を包んでいる訳でも無いので、酔っ払い達と同じく店の客とも思えなかった。

なにより、面倒な客の意識をそちらに持っていってくれたことから、普段は警戒しただろう少女も、この時ばかりはこの見知らぬ男に内心感謝していた。

 

「オメェら、その子にフラれたんだよ」

「ンだぁ!?テメェ!!」

「何モンだぁ!?オレらを誰と心得て…」

 

かなり酔っているのだろう。

よくよく見れば、手には酒瓶が握られている。

酒臭い息に無駄に大きい声を出して、相手を威嚇する客達。

 

「おう。カチコミに来た」

 

ニッと笑うと、男は懐が銃を取り出した。

瞬間、店の表と、そしてこの裏手から爆音と銃声がこだまする。

後世に語られる伝説の幕を開ける。

その合図だ。

 

「何事だァァァ!!」

 

店の奥からオーナーである男が異変に気づいて現れる。

即座に部下に周囲を固めさせ、その一番後ろでキョロキョロと震えながら周囲を見回す様は、その小心ぶりを如実に物語っていた。

 

「よう。随分な馬鹿騒ぎしてるじゃあねぇかよ」

 

店の入り口から涼しげな声が聞こえる。

 

「な、なんだ貴様。オレを誰か知ったうえでの狼藉かァ!!」

 

部下達は威嚇の意味を込めて銃口を向けるが、男はなんてことのないようにふぅ…とため息をつくや、言葉を続ける。

 

「知ってるさ。ディアブロ兄弟三男、マルチェロだろう?孤児やら浮浪児の子どもらに随分と悪どいことを仕込んでたって話じゃあねぇか」

「あん?ンなこと誰だってしてんじゃあねぇか。幸いギャラルホルンからのお咎めもねぇしな。やりたい放題よ!!」

 

褒められたと思ったのか、訝しげにしていた先ほどとは打って変わり、ガハハと得意げにそう言うマルチェロ。

 

「……まぁいい。今宵の要件はたった一つ…」

 

ざわり…と、男の纏う空気が変わったような気がした。

溢れる熱気が一気に冷え込むような、そんな嫌な感覚。

 

「テメェの首を貰いに来たんだよ」

 

男がそう言うや否や、その背後に男の仲間らしき人間が二十名ほどぞろぞろと現れる。

各々手には武器が握られ、物騒な雰囲気を醸し出していた。

その光景に、客達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。

それを待っていたと言わんばかりに、逃げる客と客の間を縫うように、刺客たる男達はズカズカと近寄る。

その仲間達もまた、彼に続いて近づいてくる。

そして、マルチェロと呼ばれた男は応援がなかなかやって来ないことから見張りが全員やられたという事実をようやく察したようだ。

 

「えぇい!!何をぼーっとしてやがる!!撃て!!」

「し、しかし客がまだ…」

「かまいやしねぇ〜〜っ!!敵をぶち殺すのが先だぁ〜〜!!」

 

いくつもの銃声、そして爆音が響く。

しかし、男達はそれに気圧されることも、ビビることなく死にものぐるいで突っ込んで来る。

それは狂気か、それとも積もりに積もった恨み辛みの故か。

 

「ハハハハハ!!()()()()()()()()()!!」

「アニキに続けぇぇ!!」

「ディアブロのクソ野郎を生かして帰すなァァァ!!」

 

小一時間もやり合えば、如何な精鋭とて疲れが見える。

一人、また一人と用心棒が倒れていく様を見て、マルチェロは舌打ちをひとつつくや、悪態と共に逃げの算段をつける。

 

「畜生!!こうなったら裏口から逃げるぞ!!」

 

そう言うや、マルチェロが扉を開けるが…。

その先から銃口がヌッと出てくる。

ヒッ…と後ずさりするも、それとほぼ同時についに最後の護衛まで倒れてしまう。

 

「懺悔しながら死んじまいなァ」

「たっ…たすっ…」

 

パァンッッッ……!!

 

幕切れは、ことのほかあっけないモノだった。

その後は弟をやられたディアブロの兄達がジャスレイ達に復讐を果たそうと躍起になっていたものの、結果は今が物語っているので、言うまでもないだろう。

 

……………………

 

「ま、中にゃあ人伝に聞いた話もあるけどね。コレがアタシの知ってる限りのアイツの過去さね」

 

思いの外、喋っていたのだろう。

気がつけば時計の針が一周半ほどしていたことにイングリッドは驚く。

 

「へぇ〜!!そんなことがあったんだぁ〜」

「アイツは自分のことを、まるで伝説みたいに語られるのは好きじゃあないからねぇ…」

 

まぁ…そんなアイツだからこそ…

 

そう続けようとした時、医務室の扉が開いた。

 

□□□□□□□□

 

「お〜う。腰はどうだぁ?」

 

はぁ〜…部下達の説得が大変だったぁ〜…。

まぁでも待たせた二人は退屈してなさそうだし、まぁいいか。

…….ユハナちゃんがやけにニマニマしてるのが気になるけど。

 

「取り敢えず、無茶はすんなよ」

 

肝っ玉すわってんのは分かるけど、何かあったら子どもら悲しむし…。

 

「フンっ!!アンタにゃあ言われたか無いね!!」

 

えぇ〜〜………。

 

ニナといい、イングリッドといい……オレの周りって口の悪い女性が多いのはなんでなんだろ?




なお、本人的にはやけっぱちになってた時期の模様。
八十話とか、我ながら続きましたねぇ。
その割に進まない話よ…orz

これからも拙作を読んでもらえると嬉しいです。


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81話

続きができました〜。


ジャスレイ達は襲撃のあった翌日に、ウィニーを港の部下達に預けてマザー・イングリッドを護衛達と共に孤児院に送り届けた。

前もって連絡しておいたのもあって、まだ子ども達の起きていない早朝に、若いシスター数名が頭を下げていたが、ジャスレイはそれをやめるように「頭ァあげてくんな」と、ひとこと言う。

詫びの言葉も要らないと、それはむしろこちらが言うべきことだと、そう言って孤児院で働く大人達の心労をかけまいとしていた。

それを察してか、イングリッドはつまらなそうに言う。

 

「ったく…仁義だなんだって厄介なモンだねぇ…」

「ま、それがオレらさ。たまにゃあ見栄のひとつも張らせてくれや」

 

事もなげに飄々と返すジャスレイ。

 

「本当はあなた方のためにお祈りの一つでもさせていただきたいのですが…」

 

イングリッドを隣で支えるシスターがそう言うが、ジャスレイは軽く首を横に振る。

 

「なぁに気持ちだけもらっておくさ。それによ、ここで言うことでもねぇだろうが…オレにゃあいるかもわからねぇ神サマなんぞよりも、今確かにオレなんぞを慕ってくれてる連中の方が…そいつらの未来の方が、遥かに大事にきまってんだろうがよ。それを守るためなら…オレぁ何だってするのさ」

 

格好つけなクサいセリフ。

それにイングリッドがまた返す。

 

「フン…確かにアンタらしい罰当たりな言葉だね。子どもらが寝静まってなきゃあぶん殴ってるとこさ」

 

いつもの如くそう言うイングリッドは慣れ半分、呆れ半分と言った様子だ。

 

「そりゃあなぁ…確かにオレは善人たぁ程遠いさ。引き返す道なんぞもうありゃあしねぇ。だが…だからこそ…」

 

そっと瞼を閉じて、遠い日に大人にすらなれず無念のうちに死んでいった友を、きょうだいを想う。

己の無力ゆえに何も出来ず、逃げて逃げて…せめてそのかつての償いにと大立ち回りを演じて今の地位にまで上り詰めたジャスレイにとって、今自分を支えてくれている部下達や子どもたちは何にも変えられないもの。

たとえ取り戻せない過去だとしても、いや、だからこそ……。

 

「オレの仁義は何より子どもらのため、その未来を守るためにこそあんだよ」

 

ふんっ…といつものように鼻を鳴らすが、それ以上は言うだけで無駄と思ったのか、それとも何か思うところがあったのか…クルリと背を向け去る男に、それ以上何かを言うでもなかった。

 

□□□□□□□□

 

さ〜て、ウィニーくんは預けたし、あとは守りを固めて、つい昨日起こったトラブルのことと到着したことをオヤジとマルコの兄貴にも伝えて〜。

 

「オッジッサ〜ン♪」

「うん?どうしたユハナ」

 

急に隣にやってくるユハナちゃん。

イヤにテンション高いなぁ…。

 

「あの人、いい人だね」

「あの人?ああイングリッドのことか」

 

まぁ、家事全般とか諸々ベテランだしなぁ〜。

肝っ玉も据わってて、まさに頼れる母ちゃんって感じだよなぁ…。

 

「お母さんって、あんな人なのかなぁって…」

 

えっ…なんで急にそんな重い話を?

いやでも…そんだけ心開いてくれてるのかもしれないし…。

 

「さてなぁ…親子っつっても人によりけりだろうよ。きちんと愛情を注いでもらえるかもわからねぇ。双方無関心が当たり前の家庭だったり、毒親なんてのも中にゃあいるしなぁ」

 

日和った返事ですねぇ〜はい。

 

「アタシさ…親の顔って覚えてないんだ〜…。物心ついた時にはサンポしか頼るあてがなくって…それで、色々と生きるために悪いこともして…それで…」

 

あれ?今度は俯いて肩が震え出したぞ?

もしかして…泣いてる!?

と、取り敢えず落ち着かせよう。

一番頼りになりそうなお兄ちゃんのサンポくんも、こんなことあんま無かったみたいで部下達と一緒になってアワアワしてるし…。

かく言うオレもどうしたもんかわからないモンで、ニナにしてるみたく頭をくしゃり、と撫でる。

 

「ユハナよぉ…そん時ゃあ…楽しいこと、なりてぇ自分を思い浮かべてみな…それで過去が変わるわけじゃあねぇが、それでもずっと沈んでるよりはマシだろうさ」

「…オジサンは?」

 

えっ?オレ?

オレは〜…う〜ん…。

 

「オレはなぁ…カッコいい男になりてぇのさ」

 

名瀬ニキとか、オヤジとか、マルコの兄貴とか、もう死んでるけどテッドとか…オレの周りにはカッコいい漢が多くってなぁ〜…。

今でもたまに凹むからなぁ…。

って、コレなんか関係ある?

 

「まぁ…まだまだ道は長えがなぁ…」

 

しばらくして気持ちが落ち着いたからか、徐々にユハナちゃんの震えは止まる…と同時に…

 

「‥プッ」

 

うん?吹き出した?

 

「あははっ!!オジさんヘンなの〜!!」

 

そう言うなり、またご機嫌に戻って走り出した。

 

相変わらず、女心は分からんなぁ…。




次回、あの男再び?


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82話

久々の二日連投ですね。


「ここは…?」

 

シクラーゼが監査局から呼出の名目で案内されたのはギャラルホルンの一般部隊に知らされていないような、ファリド領内にある工廠だった。

一見すると廃墟のようで、表面には植物が鬱蒼と群生し、とても稼働しているようには思えない。

 

「お待ちしておりました。では、こちらへ」

「あぁ…」

 

警備の兵士に入り口まで連れられるシクラーゼ。

素直に工廠前に案内されるがまま進むも、そこに現れたのはマクギリスとその側近だろう人物のみ。

先ほど案内してくれた兵士はマクギリスに敬礼するや、再び持ち場に戻ってしまった。

つい先ほど通りがかった工廠の入り口にも目立たないようにするためか、警護の兵が四つあるそれぞれの入り口に二人ずつ配備されているだけだった。

何でも古い建造物だから足元が危ないので、という名目らしい。

しかし入ってすぐのエレベーターで降りて、一歩内部に踏み入ると、表の姿とは裏腹に、最新鋭の技術が用いられているのが分かった。

しばらく歩いて、現れた幾重もの電子ロックを抜けた先にある長いエスカレーターを降りて、迷路のような道を案内人の二人は迷う事なく、むしろ慣れた様子で進んでいく。

 

「ついて来られていますか?」

「問題ない」

 

途中、そう度々振り返って確認してくるので、幸い道に迷うようなこともなかったが。

 

「これが、キミに見せたかったものだよ」

 

手すりの近くまで歩いて、マクギリスは振り返る。

同時に照明がついて、それが姿を現す。

 

「これは…」

 

シクラーゼは目を見開いて、思わず歩み寄る。

そこに鎮座するのは、モビルスーツ。

しかしギャラルホルンの軍人であるシクラーゼにも見覚えのないモノだ。

グレイズとも、シュヴァルベとも、ゲイレールともつかない。

むしろ、この見た目はまるで…。

 

「なぁマクギリスさんよ。もしかしてコイツは…」

「ああ…キミの欲する力であり、私からの餞別だよ」

 

そう言うなり、マクギリスはすぐそばにある手すりに近づいて片腕だけ寄りかかり、ガンダムフレームを見上げながら微笑む。

 

「調査中にたまたま状態の良いものが見つかってね。必要なメンテナンスは既に済んでいる。まぁ阿頼耶識は取り払ってあるがね、是非、キミに使ってもらいたい」

「…何が、狙いだ?」

 

その言葉に、当然シクラーゼは訝しむ。

と言うか、こんな状況は誰でも怪しむと言うモノだろう。

タダほど高いものは無い。

それなり以上の価値のあるものをくれる、ということはくれてやる側の相手には大抵それを手放してなお、メリットが残るということ。

その打算が如何程か…シクラーゼにはおよそ憶測がつかない。

マクギリスはしばらく目の前のモビルスーツを見つめ、しばし後シクラーゼに向き直ると再び意味ありげに微笑む。

 

「コレは…いや、彼の名はガンダム・アスモデウス。その名の示す通りガンダムフレームを採用された機体で、その三十二番目に位置するれっきとした厄祭戦当時を知る存在だ。しかし…」

 

マクギリスは言葉を選ぶかのように、一拍置く。

 

「何の因果か彼は実戦を前にして厄祭戦が終結してしまったようでね。存在を忘れられ、役目も果たせず、ただ侵入困難なデブリ帯で見つかった歴史に忘れ去られしモノなのさ」

 

その言葉に、シクラーゼは遠回しにこのガンダムアスモデウスと己は似たモノ同士、と言われたような気がした。

痩せ細り、あわや死んでしまうかも知れなかったところを拾ってくれたジャスレイへの恩義も返せず、自分を人間として、兵士として認めてくれたラスタルへの義理も果たせず…安穏と、しかし、何もなさすぎる世界で腐っていくのを待つだけのような、そうしてやがて誰からも…それこそオヤジたるジャスレイや恩師たるラスタルからも自分という存在を忘れられてしまうのではないか…そんな想像しただけでも恐ろしい未来が頭をよぎった。

 

「…そんなこと、認められるかよ」

 

シクラーゼはうめくように呟く。

ふと気がつけば己の拳に力がこもっていたのに気がついた。

 

「キミはこれから形式上は私の部下という形になるが、公務以外では基本的にはこれまでと同じようにしてくれて構わない」

「要は引き抜きってわけかい?これからなぁんかデケェことでもしでかす気か?」

「さてね、ただキミの腕を買っているのは事実だ。そして念のために言っておくが…」

 

シクラーゼの隣に歩み寄り、不意にアスモデウスを見上げる目は、なんとも晴れやかで……。

 

「私は、()()()()の敵じゃあない」

 

イヤに含みのある物言いにシクラーゼは眉を顰める。

 

「味方、とは言わないんだな」

「それは今後のキミ次第だとも」

 

マクギリス・ファリドは強かに笑う。

 

「そうそう。それとこれは独り言だが…」

「どうした急に?」

 

問いかけるシクラーゼの言葉を無視するようにマクギリスは言葉を続ける。

 

「『夜明けの地平線団』に不穏な動きがあるそうだ」

 

いやはや、と少々わざとらしくそう言って見せるマクギリス。

 

「アンタ…最初っからそれが狙いか?」

「さてね。キミの訓練でのデータは知っているが…素晴らしいな。控えめに言っても、アリアンロッド艦隊のトップエースクラスだ。試運転には持ってこい…だろう?」

「ハン…それこそアリアンロッドの領分だろう?」

「ならば行かないと?」

「……アンタ、意外といい性格してるな」

「お褒めにあずかり光栄だよ」

 

謀略が、ゆっくりと…しかし確かに動き出そうとしていた。

 




マッキーは何を企んでるんだろうなぁ〜。


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83話

でけました〜。


 

ジャスレイが報告のために歳星へと通信を繋げ、事情を説明するや以前の如く安否を確認され、一息ついた頃にマクマードが話し出す。

 

「ったく…流石にこりろよ?オメェはその辺のチンピラに殺されていいヤツじゃあねぇんだからよ」

 

映像通信越しに若干の呆れ顔で「いつものことだがよ」と聞こえよがしのため息をつく。

 

「ハッハッハ!!いやぁ〜まぁた心配かけちまったかい?」

「ハァ…ったく、オレの寿命が縮んじまったら半分はオメェのせいだぞ?」

 

両者、冗談を返せるくらいには落ち着いた様子。

 

「オウ、オレもこれ以上親不孝はしたかねぇや」

 

言い方こそ軽いが、流石に反省した様子のジャスレイに、マクマードは本題に移る。

 

「…そんで?『夜明け』の連中は動きそうなのか?」

「いんや、今回のは無関係の組織か、もしくは『夜明け』の内部で先走って独断した野郎の暴走だろうさ。少なくとも今回の件で連中が動くこたぁ十中八九ねぇさ」

「ほう?…その根拠は?」

 

試すように目を細めるマクマード。

まぁ確認がてら、心配をさせられた意趣返しと言ったところか。

 

「仮にも三千の頭を務める人間が、こんなチグハグな策を弄するとも思えねぇからさ」

 

ちょくちょく見かけるようになったユーゴーが囮なのだとしても、そもそもなぜ人望もないウィニーに重要な仕事を任せたのか。

それが分からないほどロイターは無知でも世間知らずでも無いはず。

『蛇蝎』…つまり、嫌われ者と呼ばれる男に重大な仕事をさせるほどに特別な事情がある訳もない。

それこそ人格が問題にならないほどに優秀であったり、逆に弱みでも握られてでもいなければ彼ほど向いていない人選もないだろう。

如何に能力主義とはいえ、人からの評価や評判はどうしたって気になるもの。

ともすれば己の評判さえ落としかねない。

評判の下落はそのまま利益の散逸にも繋がりかねず、だからこそ、大組織のトップほど賭けの決断には慎重になるものだ。

何よりそのリスクを冒してなお、有能とされる人間はかなり限られる。

そしてウィニーは事情を知る人間のうち、誰がどう見てもその枠の内にはいない。

 

「と、まぁ…これがオレの憶測さ。マルコの兄貴の情報、そして現状を加味して考えりゃあ妥当じゃあねぇか?」

「そんで…そっからの奴さんの動きやら対策は立ててんだろうな?」

「そりゃあもう。ウィニーの野郎が吐いた唯一有益な情報によりゃあ…連中、ひと月ほど前まで圏外圏と地球圏のちょうど中間…アリアドネでいやぁ、ここいらにいたって話さ」

 

宙域図を画面に表示して、その一部分からピコンっとマーカーが反応する。

アリアンロッドの偵察域とのスレスレ…距離にして100kmもない正しく目と鼻の先の地点だ。

 

「ま、もう移動はしてるだろうが…行き先は大方絞れる」

 

そう言うなり、ジャスレイは更にマーカーを二、三点滅させる。

 

「ほう…」

「兄貴とウィニーの吐いた情報、そして経過した時間からして、連中は…ディアブルの残党にコンタクトを取る可能性が高いと見るぜ」

 

更に言えば、連中の背後にノブリス・ゴルドンの支援金があるとするならば、時間はかかればかかるほど面倒になる。

かと言って急いては事を仕損じる。

何よりこう言った水面下での交渉はマクマードが得意とするところ。

そして、それを言葉にしなければ分からないほどマクマードは耄碌してはいない。

 

「そんで?オメェはオレに何を求めてんだ?」

 

マクマードはズイ、と前のめりになって画面に顔を寄せる。

 

「なぁに、オヤジにゃあ()()()()()()どっかりと腰を据えてて欲しいってだけさ」

 

その言葉を聞いた際の彼の雰囲気は、とても上機嫌なものだった。

 

□□□□□□□□

 

ふぅ〜…。

オレ、オヤジを頼ってばっかだなぁ〜。

いつか見放されるんじゃあなかろうか。

 

「しかしオヤジ。これで勝ったも同然ですね!!」

 

あ〜…それねぇ〜…。

だったらよかったんだけどねぇ〜…。

 

「いんや、アレはあくまでも推察の域を出ねぇモンさ。穴だって探しゃあ幾らでもある。それをこれから詰めようってのさ」

 

実際オレはマルコの兄貴からの情報を元に組み立ててるだけだし。

そもそもウィニーが嘘をついてないとも限らないわけで…。

そう考えると今回の憶測もなかなかガバいよなぁ…。

 

「それに、サンポとユハナの二人だっていつまでもここにいるわけにゃあいかんだろ」

 

あの二人…特にユハナちゃんはガンダムフレームに乗ってる訳で…。

敵からすれば垂涎モノだよなぁ…。

安全を保証できるのもテイワズのナワバリを出るまでの間だけだし。

 

「あっ、それならダイジョーブだよ〜!!」

 

後ろからやけに元気な声が聞こえてくる。

 

「オウ、ユハナ…大丈夫っつぅのは?」

「アタシは残るから〜!!」

「ユハナ!?」

 

えぇ〜…。

ユハナちゃん…お兄ちゃんも困惑してるんだけど。

 




いつもの如く、齟齬があったら申し訳ない、


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84話

久々。

しかし短め…。ごめんよぅ…。

それとなんとかスタークジェガン買えました。(隙自語)


「ユハナ…わかってるとは思うが、ここに来たのはなにも遊びのためじゃあ無いんだぞ?それにここから帰ってタントテンポの次の仕事を請け負わないとオレ達の信用にも関わるんだからな?」

 

港に停められた『黄金のジャスレイ号』にて兄、サンポからの真っ当な意見にユハナは頬を膨らませ反論する。

 

「む〜…そんなに怒らなくてもいいじゃん。それに…ちゃんと理由だってあるんだからね〜?」

「ほう?それじゃあ、その理由とやらを聞いてみようか?」

 

ジャスレイが興味ありげに質問を投げかけるユハナは助け船と思ったのか待ってましたとばかりに自分の考えを述べる。

 

「まずはこのまま月まで無事に帰れる保証がないってこと」

「まぁそうだな」

 

椅子に座ったジャスレイと、その側に立つサンポが頷く。

二人が如何に卓越したパイロットとは言え、それも数の暴力で押されてしまえば帰還は難しいだろう。

普通ならばジャスレイの客分に手を出すなどと言う不届きは誰もしないだろうが、現状の『夜明けの地平線団』は何をするか不透明な以上別と判断するしかない。

 

「次にタントテンポは形だけとは言えオジサンの会社の傘下ってことになってるでしょ?さっきの理由も含めれば、あちらさんはアタシ達を人質として狙って来るかもしれないし、そうなるくらいならここでアタシとサンポが留まることで活躍することができれば、今後のためのポイント稼ぎにもなるじゃん?」

「ふむ…納得はいくが本人の前でする話じゃあねぇよなそれ?」

「そこはほら〜。ね?」

「ね?っつってもなぁ〜…」

 

ジャスレイは少し呆れ気味に笑うとアゴに手を当て、サンポもまた同様に考える素振りを見せる。

確かに臨機応変は傭兵のキモだ。

先に受けた荷物を送り届ける仕事はすでに終わっている以上、報告は通信でもできる。というかしていた。

ここに残留したい旨も、これから説明すればジャンマルコ、リアリナの両者ならば義理も利益も加味したうえで納得するだろうし、結果として許可も出すだろう。

 

「それから〜…」

「うん?まだなんか理由があんのか?」

 

ジャスレイからのその問いかけに、ユハナは意味ありげに笑い

 

「えへへ、ナ〜イショ♪」とだけ返した。

 

内緒ならば仕方ない、とジャスレイは思い至った考えを告げる。

 

「にしても、意外と色々考えてんだなぁ?」

「ふふ〜ん。ホメてもいいよ〜♪」

「おう。えらいえらい」

「へっへ〜♪」

 

得意満面のユハナ。

その表情は年相応に感じられるものだった。

 

□□□□□□□□

 

「それじゃあオジサン、また契約更新の時にね〜♪」

「すみません…ホントに…」

「また後でなぁ〜」

 

あの二人…特にユハナちゃんは何やらご機嫌な様子で部屋から出ていった。

 

「ったく…元気すぎんのも考えモンだなぁ…」

「ハハ、まぁ良い子じゃあねぇですかい」

「そりゃあなぁ…」

 

にしても、あんな素直な良い子達が苦しまにゃあならん世の中ってなぁ理不尽なモンだ。

 

まぁ…それでも昔よりはかなり平穏だし、ロイターもそれを分かってるだろうに…。

いやまぁ、色々とトラブル起こったほうが都合のいい連中も居るっちゃあ居るけども。

やっぱギャラルホルンってク○だわ(一部除く)。

 

「何だっていたずらに掻き回そうとすんのかねぇ連中は…」

 

まぁ、オレの言えた義理じゃあねぇんだけどもさ〜…。

 

「せめて、ああいう若けぇ芽は守ってやらなきゃあな…」

 

そんなこんな、考えを巡らせていると…。

 

「オヤジ…」

「無理だけはしねぇでくだせぇや…」

 

部下達から心配そうに声をかけられた。

あれ?みんななんでそんなにしんみりしてんの?

そもそもそんなに無理してないし…。




次回から多分お話が動きます。
多分…(二回目)。


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85話

続きできましたです。


「しっかし…ディアブルとはまたイヤな名前を思い出しちまいましたねぇ…本当に連中が今頃息してるってんですかい?」

 

そう投げかけられた部下の疑問も尤もなものだ。

ディアブル…即ち『悪魔』と呼ばれた兄弟による恐怖の傷は、『JPTトラスト』や、その他テイワズ傘下の企業の働きによって少しずつ、しかし確実に回復していた。

だが、やはり当時を知る人間がその名を聞けば顔を顰める者の方が多い。

しかし、かつては圏外圏の最大勢力を誇ったとは言え、トップや幹部クラスは既に全員の死亡を確認しており、しかも壊滅からゆうに二十年以上が経過している。

正直表立って活動するだけの余力があるとはとても思えない。

中にはスネの傷を隠して、苦労しながらもカタギになった人間も少なくないらしく、そう言った人間の一助となったのが圏外圏屈指の大富豪ノブリス・ゴルドンをはじめとした資産家達の資本だ。

職を得たことで彼らに恩義を感じているから従う者、或いはそれはそれとして無関係でいたい者、別に頼んだわけじゃあないし、そもそも自力で立ち直り、何より「今更忘れたい過去を掘り返すな」と突っぱねる者…反応は三者三様であり、それぞれ思惑こそあれど、実際カネの恩義は大きいのが現状。特に前者二つはその大半が断るに断れないのだろう。

だからこそ、ジャスレイの今後の方策としてはそこから崩すことを第一の目的としている。

わざわざマクマードに連絡を入れたのも、その確認のためというのがあった。

つまるところ…最悪の場合、ゴルドンと敵対することも含めて裏方にまわってもらったというわけだ。

 

「ま、そうなる前に気づかれちまえばトカゲのしっぽよろしくゴルドンの方から連中を切るだろうが…」

「だからこそ、動きは慎重に…というわけですかい」

 

元々、ノブリス・ゴルドンという男は金の亡者として知られる。

そうなるまでに若かりし頃にどんな経緯があったのか、もしくは単純にそう生まれついているだけなのか、それともかつての貧しさと、その過去への嫌悪からくる執着なのか…その一切は不明だが。

しかも己の欲をあまり隠そうとせず、時として邪魔者を消すことも厭わない。

そんな男をいきなり逃げ隠れ出来ない袋小路に追い詰め過ぎればどうなるか…。

十中八九、なりふり構わず暴れるだけ暴れて、周囲を荒らすだけ荒らして、自爆することだろう。

そしてそれは可能な限り避けなければならない。

ならば逆にギリギリで気づける範囲内で詰められるだけ詰めてしまえばいい。

そうすれば自ずとあの男はディアブル残党及び『夜明けの地平線団』を見放すことだろう。

こちらが数で有利とはいえ、元よりジャスレイの側には正面切ってやり合うつもりは無い。

ロイターには悪いが、それなり以上の規模の抗争の場合はジャスレイが現場に赴くのはそれがダメ押しになって勝利が確実となった場合のみ。

あちらが事前の準備をしようというのなら、こちらにも考えがある。無策で部下に被害を出すなど、少なくともジャスレイには若かりし日の苦すぎる過ちだけで充分だ。

 

「もう新事業のシステムなんかは出来てんだよな?」

 

確認のためにジャスレイが質問する。

 

「えぇもちろんです」

 

問われた部下が資料を取り出す。

 

ジャスレイは「ありがとよ」と受け取った資料に目を通しながら話を聞く。

 

「後は発注した機材が入っちまえばすぐにでも仕事に取り掛かれまさぁ」

「そうかいそうかい。そりゃあ何よりだ」

 

何せ期待の新事業、それも組織のNo.2が取り掛かる仕事ということで、テイワズの本部からもいくらか人員が回されている。それで遅いなら責任者が余程呑気者か無能かのどちらかだろう。無論、マクマードが相手にそれだけ期待していることの証明とも言えるわけだが。

先日の映像通信の時もそうだが、マクマードは気に入った人間に何かと突然試験じみたことをさせたがる節がある。

直近の例で言えば鉄華団の護衛依頼の時もそうだったし、過去にも名瀬やジャスレイに対して何かとそう言ったことをしたがる面が見られた。

ジャスレイはそんな自身の過去を思い出してか、苦笑いを浮かべる。

 

「せっかく貰ったエイハブリアクターなんだ。それにオヤジからのお達しもあったことだしよ、どうせならフルに使わせてもらおうじゃあねえか」

 

ジャスレイは景気良くパシンっ…と資料を軽く叩くと、不敵に笑う。

こう言う時のジャスレイは、異常に勝負強いのを部下達はよく知っていた。

 

□□□□□□□□

 

って…言ったはいいものの…。

書類仕事ってのはやっぱ大変だなぁ〜…。

それと…新事業と同時進行で買収もかけていかないとなぁ〜…。

手始めにはバレないように極々小さなところから、正確に的確に嫌味ったらしくやっておかないと…。

 

「それで?買収をかける企業の目星はついてんのか?」

「えぇ…ちょうどゴルドンに良い感情を抱いておらず、しかし独立も出来ない企業をリストにしておきました」

 

仕事早いなぁ。

オレは手渡された新しい資料を見る。

にしても…うへ〜結構あるなぁ…。

 

「特にこの企業の社長なんかは、ゴルドンの部下からかなり陰湿な嫌がらせを受けているとか…」

 

あぁ〜そうなの。

 

「そうか、ならそっち方面から崩して行こうか…」

 

マルコの兄貴からの情報だし、間違いはまぁ無いだろうしなぁ〜…。

ただ…ノブリス・ゴルドンみたいなタイプはオレの経験上二つのタイプに分けられる。

単純に金銭をかき集めるのが好きなタイプか、かき集めるにしても目的があるタイプか。

前者だったら企業のひとつふたつ寝返りそうになっても特に気に留めないだろう。

大局的に見れば意味の無い買収工作と、一笑に付してそれで終わりだ。

ただ後者の場合が厄介で…。

 

あぁ〜…ずっと書面と睨めっこだったからか目がしょぼしょぼする…。

時間は…うげ、こんな時間かぁ…。

ちょっと休憩…。

 

「オヤジ、どちらに?」

 

おもむろに立ち上がったオレに、頼れる部下達が声をかけてくる。

 

「あの二人のとこさ。息抜きも兼ねてな」

 

オレの言葉に恐らくだが最近やけに元気な娘っ子と、そんな彼女に振り回される兄を思い浮かべたんだろう。

部下達は穏やかに笑う。

 

「お供しても?」

「オウ、頼まぁ」

 

さ〜て…ちょいと休んだら、これからはスーパー買収タイムだな。

ホント、オレってばコレくらいしか能がないからなぁ〜…。

 

へへ…またサイフが軽くなるぜ。

 

…まぁいいんだけどね〜。




いつもの如く、齟齬があったら申し訳ない。


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86話

ギャラルホルン視点です。



その日、アリアンロッド艦隊総督、ラスタル・エリオンとその配下であるイオク・クジャンは、ギャラルホルンを牛耳る貴族たちに呼び出されていた。

会議のための広間と思しき部屋にて、ラスタルは幾つもの目に睨まれることとなる。

 

「…………」

 

しばしの重苦しい沈黙ののち、貴族の一人が話し始める。

 

「話はわかるな?昨今、圏外圏でコソコソと動き回っているあの海賊共のことだ。貴公らの働きはよくよく分かってはいるが…あまり好き放題されるのも我らギャラルホルンの沽券に関わるのでな」

「『夜明けの地平線団』のことならば、私も聞き及んではおります」

 

ラスタルが如何にセブンスターズとは言え、今回は軍人として招聘を受けた身である以上は相手に頭を下げるより他ない。

そもそもアリアンロッドは規模の大きさに比例して、その任務や責務もまた大きい。

かけられる期待も、負担もまた然り。

 

「そうか…ならば話は早い」

 

痩せ細り、長い眉と髭を生やした男はバラクザン家現当主、ネモ・バラクザン。

家門の上ではエリオン家と同格の、頑固な老人のひとりだ。

 

「早急に部隊を編成し、即刻奴らを殲滅せよ」

「うむ。民草に危険が及ぶのを見過ごすわけにはゆかぬ故」

 

それに同意するのは整えられた髭と、善良そうな雰囲気がトレードマークのボードウィン家の当主であるガルス・ボードウィン。

その他様々な家柄の代表達がそうだそうだと捲し立てる。

しかし、いざ作戦を立てるとなれば綿密な計画や情報収集、使用する武装やらモビルスーツの整備やら武器弾薬の確認やら何やらと、準備が必要がある。

無謀な策や半端な装備では却って兵達の危険は増すし、それは当然指揮にも関わる。

彼らもそれを分かっているはず。

 

にも関わらずこうも急かすとは…。

現状によほど焦っているのか、それとも……水面下で誰かにせっつかれているのか。

ラスタルは彼らの様子を観察して、何か得心を得たように少しだけ目を細める。

 

「しかし!!お歴々方…」

 

軍人の苦労も知らず、上から目線で言いたい放題の貴族たちに我慢の限界なのだろう若きクジャン公の前に、ラスタルが庇うようにグイと出る。

 

「なに、任せておけ」

 

ボソリと告げられる言葉にイオクは唇をかみしめて小さく頷く。

 

「かしこまりました。では…後のことは全て私めにお任せいただければ…」

 

恭しく、礼儀を持って機嫌を伺うラスタルに、貴族達は満足げに頷く。

 

「うむ。では、今回の一件に於いては貴公に全ての権限を一任しよう…では頼んだぞ」

 

そう返事を聞くなり、ラスタルは頭を上げるや、イオクを連れてツカツカと部屋を後にする。

 

「よろしいのですか?何故エリオン公が、年寄りの小間使いのような扱いを…」

 

廊下を歩きながらラスタルの後をついて歩き、困惑と悔しさを滲ませるイオク。

その言動に青さと、今後の伸び代を感じたのか、ラスタルは微かに笑む。

 

やがてギャラルホルン本部にある私室に辿り着くなりラスタルは口を開く。

 

「本質を見誤るなよイオク」

 

イオクを公職の『クジャン公』では無く名で呼び、口ぶりも若干砕けた口調となる。

つまり、この部屋ならば盗み聞きされる恐れは無い、ある程度の安全圏であるということだ。

 

「『夜明けの地平線団』とジャスレイ・ドノミコルスの争いは最早時間の問題だ。恐らくは裏で手引きしている男の目論見があるのだろう。まずはそれを見極めることこそ肝要。ここで迂闊に動けば、それを知る機会すら失われかねん」

 

ラスタルはあくまでも冷静に、そして諭すようにそう告げる。

元々下げたくも無い頭を下げて、それでも懐柔できなかった男のことをよく思っていない年寄り連中は多い。

あわよくば共倒れを狙おうと言う魂胆もあるのだろうが…そこまで頭が回らないほどジャスレイは愚かな男では無いことをラスタルは知っている。

本人に直接告げることこそないものの、マクマードやジャスレイをはじめとしたテイワズという組織が圏外圏で睨みを利かせ、或いは傘下に置いているからこそ、そこに蔓延る賊徒がやぶれかぶれになって地球圏にやって来ないのだということも理解している。

良くも悪くも、ラスタルは嫌と言うほどに現実というものを知っていた。

 

「では…彼らがラスタル殿を急かしていたのは…」

「大方、どこぞの二枚舌の古狸が年寄りの誰かの不安でも煽って唆したのだろうよ」

 

ラスタルは呆れがちにそう答える。

 

「っ…では、やはり…」

 

そこまで言ったところでラスタルは片手を上げてイオクを静止する。

 

コンコン…。

扉がノックされる音が室内に響く。

瞬間、室内は緊張に包まれる。

護衛の兵士は部屋の前にいる。下手な真似はできないだろうが、用心するに越したことはない。

 

「入れ」

 

入り口に目を向けたまま、ラスタルは告げる。

 

「失礼致します」

 

そこに現れたのは一人のメイド。

ティーポットと、スコーンやサンドイッチの乗ったティースタンドの乗ったティーワゴンを押していることから、単に時間の通りに来たと言うだけだろう。

現にイオクは時計を見遣り「こんな時間になっていたか」とこぼす。

 

「…紅茶は自分で淹れるからいいぞ」

「かしこまりました」

 

メイドは二人に再び恭しく礼をするなり、パタン…と扉を閉めた。

…彼女に怪しい動きはなかった。

尤も、これから面倒ごとへの使い走りに使おうと言う男にわざわざ一服盛るマネは早々しなかろうが。

誰が暴走するともしれぬ昨今、権謀術数というのは厄介なことこの上ない。

 

「…いずれにせよ、裏で手引きしているだろう男は捕えねばならん。地球圏の恒久的な平和のためにも…な」

「それほどまでなのですか…?ラスタル殿が顎で使われてまで…そもそも、圏外圏のギャラルホルンの腐敗は誰の目にも明らかではないですか!!それを放置して、何のための沽券なのですか!!」

 

青い怒りに燃えるイオクに、ラスタルは優しく微笑みかける。

 

「なに、私が年寄り連中に顎で使われることで、一時であっても平和が保たれるのなら安いというものだ。それに…私とて、ただで使われてやるわけではないさ」

 

含みのある物言いに、イオクは小首をかしげる。

 

「連中め、私に今回の作戦行動の全ての権限を任せると、そう言ったな?」

 

ラスタルは用意された紅茶のカップを手にすると、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「その言質さえ取れればあとはどうにでも出来る。この作戦の範疇ならば、たとえ誰と手を組むことになろうとも…な」

 

言うと不機嫌になるから黙っているが、不敵に笑うその姿は、もう一人の叔父御にそっくりだと、そう思うイオクなのであった。

 




間が空いて申し訳ないです。

それと、齟齬があったらごめんなさい。


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87話

続き出来ました〜。



さて、新事業の合間を縫って水面下でジャスレイが行った買収工作だが…結果としてそれなり以上の成果を挙げていた。

無論、それにも理由というものはある。

まず、テイワズという組織それ自体が裏・表共に多くの商売を行なっている関係上、新事業を立ち上がること自体は珍しくも何ともないし、そのためにこれまでさほど関係もなかった業界の企業にジャスレイ自らが出張るのも、普段の彼のポーズ故に特段訝るようなものでも無かった、というのも大きい。

無論、己の領域に立ち入られて、黙して見ているだけのゴルドンでは無いが…明確な証拠も確信できるだけの理由も無く、ただ感情のままに突っかかるのは悪手と分かっているが故か不気味なまでに動きは無い。

ジャスレイとしても、彼をただの守銭奴などと侮るつもりは毛頭ない。ゴルドンの利に聡く、カネと危険の匂いを嗅ぎわけるその嗅覚は年老いてなお鋭い。

でなければジャスレイもこんな回りくどく、薄氷を渡るようなやり方などしない。

今は傘下を幾つか吸収させたことで、テイワズに貸しをひとつ作れるくらいに思わせておいた方がいい。

 

「とは言え…やった甲斐はあったな」

 

歳星の『JPTトラスト』本社、その社長室で椅子を揺らすジャスレイ。

実際、これでゴルドンの包囲網はほぼほぼ出来上がったようなものだ。

 

「あとはあの男の目端にチラリチラリと見えるように少しずつ網を狭めていきゃあ良いのさ。言うなりゃあ、丸々と太ったタヌキをゆっくりと穴の空いた塀まで追い立てるようなモンだ。

まぁその結果として、ヤツの影響力が幾分目減りするだろうが…なに、命にゃあ変えられねェだろうよ」

 

ゴルドンは賢い、そして生き汚い。だからこそ次にどうすればいいのか経験則から分かっている。

 

即ち…ゴルドンと『夜明けの地平線団』との手切れの時は近いと言うことだ。

資金源さえ断てれば後は煮るなり焼くなり…仮に火中の栗が苦し紛れに飛び出して来ることはあっても、喜ぶべきか悲しむべきか…それをかわせぬ程ジャスレイは平和ボケしていない。

テイワズの幹部たる者、常に最悪を想定して、更に最悪が来ても備えてこそだ。

 

「オヤジ…お疲れ様でした」

「おう。お前さんらも悪りぃな、あっちにこっちに連れ回しちまってよ」

 

上司からの労いの言葉に、部下達は慌てた様子で、しかし真っ直ぐに答える。

 

「いえ、このくれぇ苦じゃあねぇです!!」

「ちっとでも恩返しさせてくだせぇ!!」

「ったく…オメェらはそうやって…念のため言っとくが、無茶だけはすんじゃあねぇよ?」

 

呆れ気味に返すと、ジャスレイは背もたれに軽く体重をかけるように寄りかかる。

 

「っかし…こう言うのはやっぱ疲れんなぁ…」

 

短時間で方々を回ったからか、流石のジャスレイも疲れが一気に出たようだ。

 

「それじゃあ、仕事の方の調整はこっちでしときやしょうかい?」

「オウ頼まぁ。オレァちょいと仮眠をさせてもらうぜ?」

 

三十分経ったら起こしてくれと、そう言うなり、ジャスレイはソファに横になり、顔を覆うように帽子を置く。

 

「オヤジ、仮眠ならベッドで…って、もう寝てらぁ…」

 

無防備に寝息を立てるジャスレイ。

それを見る部下達は、それだけ深く信頼されていると言う事実に内心喜びつつ、同時に気を引き締める。

 

「それじゃあ、オレらも護衛として気張らねぇとなぁ…」

「だな。今オヤジを守れんなぁ他でもねぇ、オレらなんだからな」

 

部下たちは軽く気合いを入れ直して、彼らのオヤジの側を固める。

 

それは、ユハナが不恰好な手料理を手に突撃して来る二十分前のことであった。

 

□□□□□□□□

 

こうして疲れて寝ると、いつも見る夢がある。

とは言っても、起きると大抵忘れてるんだけど。

まぁなんて事のない昔の夢だ。

友人と、家族と、きょうだい達と出会い、死に別れた…ゴミ山の夢だ。

 

「ジャス」

 

勝ち気に、しかし優しく呼ぶその声は嬉しそうに、寂しそうにオレの鼓膜を揺らす。

そうして、いつも思い出す。

子どもらが蹂躙され、荒れる世の中を憎む気持ちと、オレ自身のエゴの醜さを。

 

「姉ちゃん…兄貴達…オレァ…オレを信じてついてきてくれてるアイツらに何をしてやれる?何を残してやれる?」

 

すり抜ける風を掴むように、通り抜ける幻に縋るように手を伸ばす。

が、それらに触れることは当然叶わない。

………デスヨネー。

そりゃあ夢の中でくらい、縋れるものは欲しいさ。

夢から醒めたら、今度は自分が支える側だから。

でも今更キャラ変なんてできない。なぜなら大人だから。チクショウ。

それに今まで築き上げてきた信頼が……。

 

「なぁ〜んて、いいトシしたおっさんが考えるモンじゃあねぇわなぁ…」

 

多分コレは明晰夢ってヤツなんだろうけどもさ〜。

まぁいいか。起きればどうせ忘れてるんだろうし。

あぁ〜…もう少しだけ寝てたい…。

我ながらダメな大人のだなぁ、オレ………。

ホロリ…あ、情けなくってなんか涙が…。

げ、現実の方では流れてないよね?流れてたらなんか恥ずかしい…。




あんまお話進んでないね。申し訳ない。


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88話

つづきできました〜。

遅くなって申し訳ない…。orz


「ホ〜ラ、オジサンあ〜ん♪」

 

突如として社長室にやってきたユハナが、スプーンを持つ手をジャスレイの口元に近づける。

ドロリ…としたシチューのようなものがポタポタと器に垂れている。

 

「なんだぁ?わざわざ用意して持ってきてくれたのか。ったく…自分で食うから大丈夫だよ」

 

そう言うなりジャスレイはもう一つのスプーンを手に持ち、目の前の黒コゲ料理を口に含む。

 

「も〜、こ〜んな若くって可愛いコが食べさせたげるってんだから、遠慮しちゃダメ〜♪」

 

グイグイと露骨な態度をする妹にサンポは釘を刺す。

 

「ユハナ、あまりジャスレイさんに迷惑は…」

「え〜?別にそんなことないでしょ〜?ね〜?オジサ〜ン♪」

 

ユハナは分かりやすく甘えた声を出す。

 

「ったく…今日は何だってそんな急に距離が近けぇんだ?」

「え〜?だって孤児院のオバサンが…」

「あん?イングリッドがどうかしたのか?」

「……ううん。何でも〜♪」

 

 

時を遡ること数日前。

ユハナは例の孤児院に電話をしていた。

 

「そんなわけで〜、オジサンの好きな食べ物とか知ってたら教えて欲しいなぁ〜…って」

「何でそれを、わざわざアタシに聞くんだい?」

 

イングリッドは医務室で念のため横になっているため今出来る仕事は無い。

…まぁとは言っても、それはほとんど建前であり、実際は普段働きすぎるほどに働いているイングリッドを心配した若いシスター達が彼女を気遣ってのこと。

イングリッドもそれを分かっているから、それを無碍にすまいと思って多少甘えているのだ。

 

「え〜?だって結構付き合い長いみたいだし〜…参考にできるかなぁって…」

「フンッ!!大方アイツにアピールしようって魂胆なんだろう?だが、残念だったね。アイツの鈍さは筋金入りだからね…若い頃のアタシがわざわざ夜中にひとりで送り迎えしてもらったり、ちょっと勇気を出して夜遅くに雨の中傘忘れて泊めてもらおうとしたら本当に何事もなかったり、自信作の手料理を持ってったりしたけどねぇ…」

 

徐々に声が震えているのを見て、あぁ怒ってるんだなぁと察するユハナ。

多分ジャスレイも相手が聖職者で、普段子どもらの相手をしていたということで遠慮していたところもあったんだろうが、それはそれ。

女心はいつの時代も複雑怪奇なのだ。

 

「はぁ…まぁ良いさね。レシピは教えたげるから、アイツの胃袋を掴んでごらんよ」

「やた♪」

 

 

そうして数日間にわたる練習の末、味見役をサンポに任せて、なんとか人の食べ物にはなった。

 

「まぁとにかく食べて食べて〜♪」

「ユハナ…こんな時に…」

「こんな時だから、でしょ〜?オジサンは打てるだけの手を打って、これからその確認をしようってんでしょ〜?ならさ、それを支えるのが未来の奥さんの役目でしょ〜♪」

「だぁれが誰の奥さんだって?」

「も〜、言わなくっても分かるでしょ〜?」

 

□□□□□□□□

 

…何でこの子こんなに距離感が近いんですかね。

 

「……にしても、ユハナ…お前さん、料理出来たのか」

「え〜?そんなに意外〜?」

「まぁな」

 

オレはシチュー?らしきモノを乗せたスプーンを口に運ぶ。

う〜ん、これはちょっと焦げてる…。

けど、別に食べられないレベルでひどいわけじゃあない。

それとなく視界に入った手の絆創膏を見る限り、結構頑張ったのは本当だろうし。

何より厚意で持ってきてもらった以上、残すのもなんだかなぁ…。

 

「いや、あの…ホントに無理はしなくて大丈夫ですから…」

 

サンポくんは優しいなぁ…。

 

「いやせっかくだ。別に量自体はそれほど多いわけでもねぇし、ありがたくもらうさ」

 

幸い半分はもう胃の中だ。

残しそうになったらコーヒーで流し込めばなんとか…。

 

「そう言えばオヤジ、そろそろお見えになる頃かと…」

「うん?誰が見えるって?」

「無論…あの方々がですよ」

 

いやまぁ、うん…このタイミングでやって来るって言えば、大方分かってるけども…。

でも、そうだよなぁ〜…非常事態だし、招集かければ文字通りみんな飛んでくる…というか、今現在来てる最中だろうけど…暑苦しくなるんだよなぁ〜…。

いやでも、不用心って怒られるのもなんだかなぁ…。

実際めっちゃ優秀だし、すごくいい子達なんだけどさ…。

ただちょっと…ほんのちょっとばかり、忠誠心が熱烈?っていうか?強烈?っていうか…?

一緒にいると常時気を遣われまくって、却って疲れるって言うか…。

 

みんなオレが直接盃を交わした相手ってだけあって、それを誇ってくれるのは嬉しいんだけど…それ込みでも重いっていうか…。

 

「そうだな…それじゃあ、これ食い終わったら、準備にでも取りかかるとしようか」

「んん〜?誰か来るの〜?」

 

あ、そうか。ユハナちゃん達はまだ会ってなかったっけ。

 

「あぁ…ウチの幹部連中が来るからな。それに備えねぇとって話さ」

 

まぁでも、そこまで心配はしなくていいかなぁ…ギャラルホルンに目をつけられないように、戦力としても最低限で来てくれるはず…。

 

「オヤジ!!幹部の皆さんが艦隊を組んでやって来てくれるそうですぜ!!」

「しばらくはオヤジの周りを警護するって息巻いてまさぁ!!」

 

………………………………マジで?

 

 




次の更新は…たぶんもうちょい早い…はず…。


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89話

つづきできましたわ〜。

今回もそんなに進まない…申し訳ないです…orz


 

その日、歳星の港に集まる船団を一目見ようと、住民達の人だかりが出来ていた。

その熱気といい、興奮具合といい、まるでお祭り騒ぎの様相だ。

 

「スゲェ…まるで大行軍じゃあねぇかよ…」

「オレも長げぇことここで暮らしてるが…こんなことは滅多にねぇぞ」

 

その日、歳星は活気とざわめきに満ち満ちていた。

 

船から降り、神妙な表情の彼らの向かう先にはひとつのビルが聳えている。

そのビル…『JPTトラスト』本社に向かう人の群れはいずれも歴戦の名だたる漢たち。

普段は各々その手腕を買われ、それぞれに支部を任されている正しくジャスレイの信任厚い実力者達だ。

 

「ここの空気も何やら久方ぶりですね…」

 

そう言うのは黒髪を肩あたりで纏め、軍服然とした服を身にまとい、整えられた口髭を指で撫でながら歩く男。

痩身であるがその足取りはちゃきちゃきとしており「コイツがいれば事務は安泰だな」とジャスレイに言わしめた『大参謀長』ティアンユ。

 

「オヤジ、会えるの久しぶりだな…」

 

スキンヘッドの大柄で暴れん坊だが、ジャスレイの前では従順で、聞かん坊も鳴りを潜める『愛すべきバーサーカー』レオパルド。

 

「そこ、点検もちゃんと済ませとけよ」

 

持って生まれた豪運故にか、抗争の耐えなかった頃から常に最前線で指揮を取り続けて、一度も負傷したことがないというテイワズ屈指のエースパイロットである『黒羽根』ゲパード。

 

「……………」

 

小柄ながらも若き日には傷だらけになりながらも常にジャスレイの側に付き従い、鋭い眼光を放ちながら、立ちはだかる敵を蹴散らしたという『寡黙なる』オールソ。

 

その他にも様々な圏外圏の実力者達が集まっていた。

それは言わずと知れたテイワズの牙、その鋭さは依然として衰えてはいないことの証左でもあった。

 

そして、その中には…。

 

「オジキびっくりするかなぁ〜?」

「ライド、またオジキに会えて嬉しいからってお偉方の前で粗相はするなよ?」

「分かってるよ〜!!」

 

鉄華団よりわくわくした様子のライド・マッス、及び彼を咎めるチャド・チャダーンが再び派遣されて来ていた。

 

「あの子らも元気なのは良いけど、やらかさなきゃあいいけどね…」

「まぁ、良いんじゃあねぇの?堅っ苦しいのは息が詰まんだろ?兄貴だってそう言うさ」

「そう言うアンタもソワソワしてんじゃあないかい?ったく…」

 

そして、それを見守るのは彼らの兄貴分である名瀬・タービンとその妻のひとりで、彼のハーレムのまとめ役、アミダ・アルカだ。

 

「まぁ、兄貴はああ言う子どもの失敗くれぇは笑って許してくれるさ」

「そう言う問題じゃあ…にしても、ウチの旦那はなぁんで兄貴関係だとちょっとユルくなるのかねぇ…」

 

『JPTトラスト』及び、その傘下の組織は基本…子どもに甘い。

それと言うのも彼らのほぼ全員が元々孤児だったことから、苦労がわかると言うのもあるし何よりジャスレイの方針的に「子どもに罪はねぇだろうよ」とのことで、明らかな悪意を持っていたり、度がすぎる悪戯をした時でもなければ基本親戚の子供に接するような対応なのだ。

何より今は…。

 

「やっと久しぶりにオヤジに会える絶好の大義名分を得られた……」

 

と、内心喜んでいるのがほとんどなのだから…。

 

□□□□□□□□

 

社長室の窓から入り口の辺りを見ると、そこには見慣れた顔がちらほら見える。

ついでに船なんかも遠目に見えたんだけど…。

 

「にしても、やっぱ派手な登場だなアイツら」

「まぁ、そんだけオヤジに喜んで欲しいんじゃあねぇですかい?」

「別に…元気にやってくれてりゃあオレはそれだけで良いんだがねぇ」

 

やっべーやっべー。

どーしよどーしよ。

 

もうガチやん。

ガチガチのガチやん。

あの船!!あの武装!!あのモビルスーツ!!

やっべーよ。オメーら戦争する気かってギャラルホルンに見咎められたらもう何にも言い返せねーよ。

かと言ってせっかく来てくれた手前、今更帰れなんて言えないし…。

オレはチラリと、手渡された名簿に目を通す。

 

「お、鉄華団のふたりも来てんのか」

 

しかも何で名瀬ニキまで…って、まぁそうですよねぇ〜兄貴分に恩を売る絶好の機会ですもんね〜。そりゃあ来ますわ。オレでも来ますわ。

 

って、そんな子じゃあ無いってことはまぁ分かってんだけどさぁ…オレ、自分でもわかるくらいにテンパってるわ。

いやぁ〜にしても、新進気鋭の甥っ子分まで連れてくるとか…。

まぁ、彼らに恩を売りたいがための新事業でもあるし…ポイント稼ぎ的な意味でもちょうど良い機会なのかねぇ…。

 

「ついでに皆さん手土産もあるそうでさぁ!!」

「何でも大型船三隻分の資材だとか!!」

「新事業に充てて欲しいとのことで…」

 

えぇ……。

 




ジャスおじの胃に、ダイレクトアタック!!



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90話

ギャラルホルンフェイズです。

肉おじ結構難しい…。


ギャラルホルンを束ねるセブンスターズがひとつ、ファリド家の屋敷に来客が訪れていた。

使用人に通された客間で待たされる男…ラスタル・エリオンは終始落ち着き払っていた。

 

「これはエリオン公、ご健勝のようで何よりです」

 

背後からかけられるのは若い男の声。

 

それに振り向いて挨拶を返そうとすると、ラスタルは手で制された。

男は机を挟んだ向かいのソファに座り、この若い、セブンスターズの新たな当主は告げる。

 

「いや申し訳ない。先代が()()()()()()()()、思いのほかゴタゴタしておりまして…」

 

貼り付けた笑顔でラスタルを迎えた男…マクギリスは苦笑する。

 

「遠路よりお疲れでしょう。紅茶でもお出ししましょうか」

 

そう言ってマクギリスはテーブルの上の呼び鈴を鳴らし、やって来た使用人に慣れた様子で申しつける。

 

やがて別の使用人がティーセットを持って来て淹れ終わると、当事者二人に一礼して出て行った。

 

双方護衛を外に待機させて、二人きりでしばし談笑し、紅茶の湯気も引いて来た頃合いを見計らったように、マクギリスが切り出す。

 

「さて、それでは改めて…本日は当家にどう言ったご用件で?」

 

この顔はラスタルも見覚えがある。即ち…貴族間での交渉用の顔だ。

ラスタルは見知った顔の成長に内心笑みを浮かべると牽制球を投げる。

 

「…貴公の所業について、報告があった…と言えば分かるかな?」

「さて…なにぶん私は浅学なうえ若輩の身ゆえ、何をしようにもこれからですので…」

 

マクギリスはラスタルの言葉をのらり…とかわす。

額に汗もかいておらず、視線も逸らさず、言動の端々に固い雰囲気も無く…あくまでも余裕ある態度を崩さない。

正しく貴族の見本のような対応だ。

ラスタルは「そうか」と軽く返すと、ならばと次手を出す。

 

「『モンターク商会』…知っているか?」

「ええ。それは無論存じ上げております」

 

少しの逡巡も無く答えるマクギリス。

それも当然だろう。

何せモンタークというのは彼の旧姓。

ならば、その一族が経営しているのだろう商会について全く知らないわけはない。

むしろしらばっくれた方が怪しまれることを理解している。

わざわざラスタルが来ていることも踏まえて、粗方の調べがついていることも分かっているのだろう。

無論、重要な証拠は既に手元には無いか、処分済みだろうが。

 

「ですが…彼らが今何をしているのかまでは…」

「…ほう?何も?」

 

ラスタルはここで少し切り込む。

彼が実家を掌握しているにせよ、そうで無いにせよ、ここで彼の動かせる金銭や人員の程度がわかる。

貴族にとって実家というのは往々にして勢力の基盤ともなり得るのだ。

そして、モンターク商会のもつ資産規模は表向きだけでも長年の歴史に裏打ちされているだけあってかなりのもの。

やすやす手放すとも思えない。

 

「えぇ、何分私が幼い頃ファリド家に養子に入れられたもので詳しいことは…」

「…なるほど」

 

この目の前の男は遠回しに言っている。

旧家の名を利用し、ギャラルホルンの技術の結晶たるエイハブリアクターや、その他資源をテイワズに横流ししていることも、あくまで知らないと。

ここでこうしてセブンスターズとして振る舞うので精一杯の、若造に過ぎないと。

 

だからラスタルは…釣り針を用意することにした。

未だ確証は得られない。

決定的な証拠は見つかっていない。

そもそも旧家連中を唆したのも、あくまでも可能性の話。

だが、だからこそ聞く価値があると直観したラスタルはそこに…たっぷりと餌をつけてマクギリスの心の水面に垂らした。

 

「そうか…では、もしキミが実家と連絡を取ることがあれば伝えて欲しい」

 

そう言うなり、ラスタルはすっくと立ち上がる。

さも急用を思い出したかのように、自然に。

 

「…内容によりますが」

 

それでもマクギリスは未だに余裕の表情を崩さない。

ラスタルは扉に向かってゆっくりと歩きながら手袋をした右手の人差し指を立てる。

 

「ひとつ、別にエイハブリアクターを横流ししたことを咎めるつもりは無い。圏外圏の抑えのためにも何かしら対策は不可欠だったからな。

下手に悪用するだろう組織に渡さなかったのは寧ろ称賛に値する。ひとつふたつくれてやったところで誤差というものだ」

「……他にもなにか?」

 

問いを投げかけるも、マクギリスは動かない。

ラスタルは人差し指に次いで、中指を立てる。

 

「ひとつ、私に協力するならば…私の名を使える範疇でひとつだけ、願いを叶えよう」

「……………」

 

ここで、マクギリスが真顔になる。

大方、自身の利益と本能的欲求とを天秤にかけて考え込んでいるんだろう。

ラスタルに恩を売れるのはそれだけ大きな意味を持つからだ。

 

一方でラスタルは確信を得るが、今一歩足りないのを感じる。

そうして…ダメ押しの一手に出る。

 

「そしてもうひとつ…今回協力すれば、今後ジャスレイ・ドノミコルスと直接接触する場を用意する機会が増えるかもしれん…とね」

 

それだけ伝えて、ドアノブに手をかけると…。

 

「……少々お待ちを」

 

ラスタルが振り返ると、マクギリスが先ほどとは打って変わって、ギラギラとした目を向けていた。

 

「…分かりました。では後日、()に繋げましょう」

 

その後日、約束の通りに本題を切り出したラスタルによってマクギリスの部隊は『夜明けの地平線団』攻めの先鋒を務めることとなったのだった。

 




次回、再び本編ですはい。

ガバや齟齬があったら、申し訳ないです…。


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91話

ネ○フリでおすすめに出て来たぼっちざろっくにどハマり中…。

ちなみに虹夏推しです(聞かれてない)。


『夜明けの地平線団』その母艦に、ロイターは部下達と共に集まって、情報説明を受けていた。

 

「報告!!『JPTトラスト』本社に多数の艦隊が集合!!その数…三十隻を越えて、なお増えているとのこと!!」

「なんだって!?」

「クソっ…こっちはゴルドンの野郎からの資金援助が手切りにされたばっかだってぇのに…」

 

その報告に、艦内をざわめきが支配する。が……

 

「…静かにしろ」

 

一言で、その場の喧騒がピタリ…とやんだ。

 

「何のために、あんないけすかねぇ古狸と組んだと思ってる?遅かれ早かれ旨みが無くなりゃあ手切れされることなんぞ、元より百も承知よ。それに…準備は充分に整ったんだ。今更めそめそしてんじゃあねぇや」

 

どうせ金だけの関係なら、遠からず手切れになるのは見えきっている。

それならば初めからある程度は割り切って、騒ぎを鎮圧しようとこちらに向かってくるだろうギャラルホルンの初動を遅らせるための鼻薬になってくれさえすればそれでいい。

 

どの道、この規模の動きならばテイワズにもギャラルホルンにも気づかれてしまうのは必然なのだ。

ある程度割り切るのはむしろ当然だ。

 

周囲を見回し、部下達が落ち着きを取り戻したのを確認すると、ロイターは、ふぅ…とひと息つく。

 

「だが…流石はジャスレイ、その危機察知の嗅覚は依然健在か…それでこそだ…」

 

ロイターはグッ…と拳を握り、嬉しそうに笑みをこぼす。

 

「そうさ。虎であるオメェにゃあ安穏なんぞ必要ねェのさ…」

 

瞼をギュッと閉じ、かつての出来事を思い起こす。

 

…………………

 

それは、どこにでもある貧民街にある孤児院。

そこで一人の男と、少年が話をしていた。

 

「おれ、しょーらいはジャスのお手伝いする!!」

 

若き日のジャスレイにそう言うのは孤児の少年。

学業で優秀な成績をおさめ、既に圏外圏でも有名な企業の幹部社員の養子入りも決まっている。

 

「……………」

 

ジャスレイは無言で近づくと、少年の頬をぎゅむっとつねる。

 

「ひてててて…あにふんだよじゃす〜!!」

 

その子どもは突然のことに訳がわからず、ジタバタしながら疑問を投げかける。

 

「つねられて痛てェか?訳がわからなくて怖ェか?…だがなぁ、それがヤクザモンの日常ってヤツだ。もっと痛えし、もっと怖え思いだってする時もあらぁ」

「でも!!それでもおれは、ジャスの…」

 

そこまで言ったところでジャスレイは少年の頬から手をパッと話す。

 

「でももだってもありゃあしねぇさ。オレのとこに限らず、ヤクザモンってのはカタギでやってけねぇって連中の最後の砦なんだよ。わざわざテメェの選択肢狭めてどうするバカ」

 

愛情ゆえか、いつになく厳しい言葉をかけるジャスレイ。

少年も、子どもながらにそのことを分かっているからか、拳を握りしめこそすれ、それをジャスレイに向けることはしない。

 

「おれはただ…ジャスの役に、たちたくって…」

 

少年は俯き、地面を見つめる。

 

「ふぅ…」

 

ジャスレイは呆れたように、しかし優しく諭すように、できる限り噛み砕いて説明する。

 

「いいか?こっち側はな…生半可な憧れやら一時的な反骨心で足ィ踏み入れて良い世界じゃあねぇんだよ。スネに傷負うってのはなぁ…一生そこで生きてく覚悟があるからこそできることだ。悪りぃこた言わねえ…オメェはカタギで生きな」

 

「な」と今度は帽子を脱ぎ、しゃがんで視線を合わせ、いつもの笑顔で優しくポンポンと少年の頭を撫でる。

 

「それになぁ…仮にオメェがオレの弟なり部下になるんなら、今の話し方もできなくなっちまう。周りに示しがつかねぇからな。まぁ…今はよく考えな。なんかあれば、相談くれぇにゃあ乗ってやれるからよ」

 

ジャスレイは立ち上がりざま、少年にホレ、と一枚の紙を手渡すと帽子を被り直し、少年に背を向ける。

 

少年が手渡された紙に目を落とすと、それはジャスレイ自身の名刺だった。

 

ふざけんなよ…。

 

オレも連れて行けよ…。

オレが憧れたのはカタギじゃあねぇんだ。

道があるだと?ふざけんなよ…。

 

オレは…他でもねぇお前に!!憧れたんだよ!!

でなきゃあ、全部…全部全部クソ同然だ!!

なんのために勉強を頑張ったと思ってんだ?

誰のために努力をして来たと思ってんだ?

 

見ろよ…お前が向いてないって言った仕事で、オレは大組織のトップに立ったんだ…。

認めろよ…あの時、オレを連れて行くべきだったって…。

こっちを見ろよ…オレを認めろよ…!!

 

『買収屋』だなんて…みっともねぇ名で呼ばれるアンタを、オレは見たかぁねぇんだ…。

 

だから…圏外圏を再び混沌に落とすことに決めた…そうすりゃあきっと…。

 

思い出してくれんだろう?

 

…………………

 

「それで、どうするんで?」

 

部下の問いに、目を開けたロイターは答える。

 

「いいか。今回は鹵獲しようなんぞ考えんな。最初っから本気で潰す気で行く」

「では…()()も?」

「ああ…出し惜しみは無しだ。ハナっから全力で叩くぞ」

 

その目に、野心の火を灯して。




本編は本編でも、夜明けサイドでした…。

次回、ジャスおじサイド…の、はず…。


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92話

ベギルペンデのHG組んでみたらなんか好きになっちゃいました。



『JPTトラスト』大会議場。

 

それは、ジャスレイと幹部達の会議に用いられる特別な部屋だ。

とは言え、その室内はちょっとした掛け軸や花の生けてある以外に何かゴテゴテと飾り立ててあるわけでも無く、ジャスレイの要望の通りあくまで幹部たち全員が入るくらいに広く、清潔感もあるシンプルな和室だ。

そこが今、和装姿の幹部達が正座で待機する満員の状態となっていることが、今回の事態の重要性、重大性を示していると言えるだろう。

 

「オホンッ…では、我らがオヤジが来る前に決定しておくべきこととして…司会進行を務めさせていただくのはこの私、ティアンユということでよろしいですかな?」

 

ジャスレイの座るだろう上座の近くで、ティアンユは大仰に咳払いをすると、そう言って先に集まっていた幹部一同を見回す。

 

「ま、良いんじゃあねぇの?適材適所でよ」

 

まず、ゲパードがそう返す。

 

「反対する理由もねぇだろうしな」

 

駆けつけた弟分である名瀬も、異論はなさそうだ。

 

「時間を無駄には出来めぇよ」

「んだな。せっかく久々にオヤジの言葉が聞けるってぇのに、無駄はいらん」

 

レオパルドも、他幹部に続いて返答する。

 

「……………」

 

オールソもまた、言いたいことはなさそうだ。

 

その他幹部陣からも特に異議の申し立てはない。

ティアンユも同意見であるのか、それに静かに頷くのみ。

 

「えぇ、それでは…皆の意見の通り…むっ?」

 

ティアンユは何かしら報告があったのだろう。

片耳につけたイヤホンに手を当て、そこから伸びるマイクに恭しく応答している。

 

「ハイ…ハイ…では、そのように…」

 

慇懃な口調に反し、口元は嬉しそうに若干吊り上がっている。

その様子に、周囲は何かを感じたのか、一瞬ざわつく。

 

「喜びたまえ諸君、オヤジの方の準備も整ったそうだ」

 

その言葉に、場は沸き立つ。

 

入り口の襖が開き、中に入って来るのは一同が見慣れた人影。

いつもと変わらぬ姿、いつもと変わらぬ声色。

服装こそ場に合わせて和装であるものの、トレードマークの帽子は忘れていない。

そのミスマッチがまた、程よく緊張をほぐしてくれる。

幾ら歳を重ねたとて、それを忘れられる者などこの場には居ない。

 

「おうオメェら。久しぶりだなぁ」

 

襖を開けた部下に軽く礼を告げ、両隣に部下を引き連れたジャスレイが居た。

その一言で、大会議場は割れるような歓声に揺れる。

 

「みんなァァァ!!オヤジが来たぞ!!」

「お久しぶりですオヤジィィ!!」

「オレらも来ましたぜ!!」

「オジキ〜!!オレたちも来たよ〜!!」

 

沸き立つ歓声にジャスレイはニコリと微笑んで手を挙げ、応える。

 

「オウオウありがとうよ。元気そうで何よりさ」

 

彼は声をかけて来た幹部ひとりひとりと握手をして周り、それぞれ労いの言葉をかける。

そうして一番奥の席に座ると途端に神妙な面持ちになる。

それを感じ取った一同は先ほどの騒がしさとは打って変わって今度は水を打ったように静かになる。

皆が皆、ジャスレイの言葉を聞こうと躍起になっているのだろう。

 

「オメェら。オレは嬉しく思う。まずはこうして集まってくれたことに礼を伝えさせて欲しい」 

 

そう言うなり、ジャスレイはそのまま頭を下げる。

その間の数秒、部下たちは黙ってジャスレイが頭を上げるのを見守る。

 

「そして本題だが…『夜明けの地平線団』に、いよいよもって怪しい動きがあったとの情報があった」

 

ざわつく一同に、ティアンユが目配せをすることで、再び静かにさせる。

 

「連中が何を目的としてんのか、未だ判然とはしねぇが…確かに言えることは、明らかに数で劣る連中が何かしでかそうってのは、何かしら勝算あってのことだろうな」

 

そうして周囲を見回し、一拍置いてジャスレイは続ける。

 

「とは言え…だ。これは明らかに、仁義を欠いた愚行に等しい。そうだろ?」

 

ジャスレイは震えている。

それは恐れからくるモノでは断じてないことはここに集った一同はわかっている。

 

「オヤジが、オレらが、そしてオメェらが何十年かけて築き上げて来た圏外圏の秩序を、平穏を乱そうなんてふてぇヤツらは放っちゃあおけねぇ…そうだろ?」

 

その言葉に、場は熱気が支配する。

 

「当っったり前っスよ!!」

「たとえ命に代えてでも、連中を追い出してやりましょうぜ!!」

「バカヤロォ」

 

シン…と熱気が冷めるのを感じる…が。

 

「命に変えられるモンなんざありゃあしねぇさ。オレらは勝つ。だが…間違ってもオレより先に死のうなんていう親不孝な考えはやめな。オレが悲しむ。まぁそんなモンはオレのエゴでしかねぇって、分かってんがな…」

 

自嘲気味に、しかし同時に柔和にはにかむジャスレイ。

 

「オ…オヤジィィィィ!!」

「一生着いてくぜ〜〜!!」

「オジキィィ!!」

 

今度こそ、場のボルテージは最大にまで盛り上がった。

 

□□□□□□□□

 

う、うぅ〜ん…。

どうにかこうにか話し合って今後の方針が固まったはいいけど…。

 

やっぱこの子らテンション高いなぁ〜。

 

いやまぁ。確かにそんなに会えてないけどもさ。

そんなに上司と会いたいモンなんかねぇ?

オレはそう言うのなぁんか詰められそうで苦手なんでなぁ…。

だから傘下連中も基本やりたいようにやってもらってるし…。

 

「では、情報の精査や警備艦隊の編成、そして非常事態の発生時には常に駆けつけられるように幾重に策を巡らせましょう」

 

ティアンユのヤツが得意げに整ったヒゲをいじっている。

やっぱデキるヤツは頼もしいなぁ〜。

 

「おう。頼んだ。とは言え…だ」

「ハハ…無論、無茶は致しませんとも。とは言え…」

 

うん?なんかあんの?

 

「やはり、再びオヤジと共に戦える歓喜は…皆等しいのでしょうなぁ…」

 

目を細めて何かを思い出し、懐かしそうにそう言うティアンユ。

 

え、マジで言ってる?

そう思い、オレは動揺を隠しつつそろりそろりと周囲を見やる。

 

「いやぁ〜またオヤジの指揮で戦えるなんぞ、夢みてぇだなぁ〜」

 

「一番槍はオレらだかんなぁ〜」

「バカ言うない!!オレらがオヤジに褒めてもらうんだよ!!」 

 

「オヤジの指示通りにやってりゃあ問題はねぇだろうよ」

「えっ?オジキってやっぱスゴかったの〜?」

「おうともよ!!アレは忘れもしねぇ…」

 

…………………

 

マジかこの子達。

 

いや、信頼してもらえてるのは嬉しいんだけど…。

 

クッソ〜、ロイターめ!!

なぁ〜に考えてやがるんですかね。

 

オレの胃に穴が空いたらどうしてくれるってんだ!!

いやまぁ、今まで一度も開いたことないんだけど‥。

 

はぁ〜…オレにゃあ平和が一番なのになぁ〜。

こりゃあもう、全力で取り掛かってさっさと終わらせよう。

 

「平穏を乱されりゃあ、こんなことすら出来なくなっちまう」

「……オヤジ?」

「ティアンユ。何があっても勝つぞ。ここにいる全員でな」

 

そんくらいしないと、ロイターのアホはまぁた挑んで来そうでなぁ。

 

「…!!そうですなぁ」

 

うん?ティアンユくん、なんでそんなしみじみしてんの?

 



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93話

続きができましたです〜。


「よろしいのですか?せっかくのガンダムフレームをこのような場で…」

 

ギャラルホルン、ファリド隊の旗艦にある司令室の扉の前でシミュレーターによる訓練に向かうシクラーゼを見送り、なかなか動こうとしないマクギリスに、彼の腹心…石動・カミーチェが声をかける。

 

「石動、優れたモビルスーツには優れたパイロットが乗ってこそ価値があるというものだろう?仮に彼がガンダムフレームに乗っていたからと言って、それを理由に糾弾するなど、如何なラスタル・エリオンとてしないし、出来ないさ。アレは元よりセブンスターズのどの家のものでもないのだから」

 

石動はその言葉に目を細める。

 

「で…あれば、やはりバエルを?」

「私はね、石動…正直言ってどちらでもいいと思っているのさ。あくまで傍観者でいるのも、或いは己が手で改革を成すのも」

 

マクギリスは見送った時のまま、扉の外を見て黄昏れるようにそう言う。

 

「失敗した時のことは仰らないのですか?」

 

意地の悪い質問だが、しかし石動は聞かずにはいられない。

この上官はそういった言葉をこそ常に望んでいるからだ。

 

「なに…いつの世も革命には成功か死しかない。かつての歴史を紐解けば、そんなことは分かりきっているだろうさ。そして、革命を成した英雄こそ罰せられるべき次の悪となり得ることもな」

 

狡兎死して走狗煮らる。

偉大なるアグニカ・カイエルの子孫やそれを自称する家が現存しないのは、つまるところそういうことだろう。

 

「だからこそ、ガエリオ殿は巻き込めない…と?」

 

その言葉にマクギリスは昔馴染みの顔を浮かべ、困ったように笑む。

 

「或いは、身勝手で恥知らずなことだが…そうなった時には心のどこかで彼に止めてほしいのかもしれんね。私は」

 

アグニカ・カイエルへの憧れは青年となった今もなお色濃く、心に焼き付いている。

或いは、辛く苦しかった幼少の頃の記憶を、鮮烈な英雄譚で塗り替えたかっただけなのかもしれない。

 

なまじマクギリス自身がパイロットとしても優秀だからこそ、シクラーゼに共感する所もあったのかもと、思うところもある。

 

迷いは未だ晴れず、しかし、少し立ち止まることの大切さもまた知った。

 

「ジャスレイ殿なら何と答えるのかな?」

 

ラスタル・エリオンの走狗となるわけでは無いが、しかし、ある程度の結果も出さなければならないのは事実。

 

あの時ラスタルを呼び止めない選択もあったが、そうすると却って不信感を与えてしまいかねず、そうなればそれこそ蛇の如く執拗にこちらの隠したい証拠を探し出し、突きつけてくるだろう。

それこそ証拠をでっち上げ、捏造してでも。

 

ならば、あちらに自分は子どものようなところのある人間と思わせ、表向き従順なフリをしていれば少なくとも当面の間は問題は無い。

どのように動こうとも、多少怪しまれはするだろうが…それも貴族故の後ろ暗さ故のことと、余程のことがなければ深く追求される事もないだろう。

 

ラスタル・エリオンは政戦両略に長けた傑物だ。

調べれば調べるほどそれは分かる。

今後も騙すにせよ、或いはおだてて後ろ盾にするにせよ生半可では駄目だ。

 

少なくともこの場で実力を示さねばそれこそずっと使い捨てで終わる。

 

「ご報告です!!」

 

その言葉と同時に若い兵士がやって来る。

服装を見るに、所属はアリアンロッドだろう。

 

「うん、頼む」

「ハッ!!エリオン公はじめ、アリアンロッド艦隊は未だ準備に時間がかかるため、貴官らに先行していただきたいとのこと!!」

 

教科書に載せていいだろう綺麗な敬礼をして、そう告げる伝令兵。

通信で直接いって来るのでは無く、わざわざ人を遣わしたということは本当に準備で手一杯なのか、それとも……。

 

「なるほど…」

 

マクギリスは顎に手を当て数秒思考し、再び兵士に視線を向ける。

 

「了解した。任せて欲しいとエリオン公に伝えてくれるか」

「ハッ!!失礼致します!!」

 

伝令兵はお手本のような敬礼をして、そのままデッキを後にする。

 

「…さて、この一戦で時代は変わるのか、或いは…」

 

小さくそう呟くマクギリスの口角は少し上がっており……。

 

「皆、聞こえていたな!!出航の準備を整えろ!!」

 

デッキの部下達に指示を出す様は良くか悪くか、とてもセブンスターズらしい在り様であった。

 

 

少々時はズレて、木星圏某所…。

 

圏外圏の宇宙の闇の中で、ユーゴー数機とここいらではなかなか見ない珍しい機体が隊列を組んで飛んでいる。

彼らは昨今圏外圏を賑やかす『夜明けの地平線団』所属の部隊だ。

 

「しっかし、まさか本当に火星くんだりにこんないいモンが眠ってるたぁなぁ…あのタヌキ親父め、一体どこまで調べてあんだ?」

「まぁいいだろ?こうしてオレらのトコに来てくれたんだ。大事にしようぜぇ?」

 

ユーゴーでない機体のパイロットは上機嫌な様子で鼻歌まじりに操縦桿をコンコンと軽く叩く。

 

「それに阿頼耶識ナシでもこの性能…頼もしいを通り越して恐ろしいまであるな」

「ま、どの道正攻法じゃあ勝てねぇんだ。禁じられた兵器でも悪魔の力でも何でも借りますかね」

「おーおー、コエーコエー。せいぜい無駄撃ちすんじゃあねぇぞ?」

「わぁってらぁ〜、わざわざこの弾作んのと、それを悟らせねぇためにあっちへこっちへ忙しかったんだからよ…」

 

隊員隊はおどけた様子でそんな冗談を言い合う。

 

「っと…目標発見」

 

彼らが無駄口を叩いている間に、モビルスーツの特注レーダーに反応が複数。

 

「いたいたぁ…巡回船とその護衛艦、かなりの数集まってたってぇのは本当らしいなぁ」

 

モビルスーツの小回りと、そしてある兵装の射程ゆえに、部隊は艦船のレーダー外で一度動きを止める。

 

「よぉ〜し…連中の下に回れ、気取られんなよぉ…」

「はいはい…わぁってますよぉ〜っと…」

 

隊長と思しき男の指揮のもと、モビルスーツの大きく円を描く様にして艦隊の下へと入り込む。

 

そして、隊長パイロットは自分たちの親玉に連絡を入れる。

 

「よぉ〜サンドバルのおやっさん。所定の位置についたぜぇ?」

 

「おう。それじゃあ指示通りにな」

 

「くくく…圏外圏の最大勢力の、それも主力格にケンカ売るって、燃えるなぁ〜」

 

「厄祭戦の伝説…とくと見せてもらおうか」

 

そして、その日放たれた槍は、圏外圏での最大規模の戦闘が開始される狼煙となったのだった。




齟齬があったら申し訳ない…。


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94話

続き出来ましたです。


部下たちからの報告を待つ間、『JPTトラスト』本社にいるジャスレイは久方ぶりにあった部下たちと旧交を温めていた。

そして、その中にはわざわざ鉄華団から出張ってくれたふたりの姿もあった。

 

「オジキ、久しぶりだね〜!!」

「オウオウ、久しぶりだなぁ」

 

ジャスレイはソファに腰掛けながら、駆け寄って来るライドを軽く受け止め頭を撫でる。

なお、チャドはその様子をなにやらハラハラした様子で見守っている。

 

「ごめんね。ホントは団長とか三日月さんが来られたら良かったんだけど、地球支部を作るのに時間がかかってるみたいで…」

「いやなに。気持ちだけでもありがてぇってなモンさ。それによ、今まで何の縁もなかったところに組織の地盤を作るってぇのは一筋縄じゃあいかねぇしな。まずは基礎の勉強から、焦ったって綻びがデカくなるだけさ」

 

申し訳なさそうにしょんぼりした様子のライドを、そういって慰めるジャスレイ。

 

「ほれ、オメェらはカンノーリでも食って落ち着け」

 

ジャスレイは明るくそう告げる。

なんて事のない日常の一ページのように。

 

なお、生憎とアミダやラフタ、名瀬と言ったタービンズの面々はビル周辺の警護にまわっているため近くにはいない。

少なくとも歳星に於ける網はタントテンポで狙撃をされた時の比ではない。

 

しかし…話に花を咲かせていたところに部下の一人が飛び込んでくる。

 

「はぁ…はぁ…オヤジィィ!!大変でさァ!!」

 

息を切らして駆け込んでくるのは彼の部下のひとりだ。

 

「オウ、一体どうしたい?」

 

その様子からただ事でないのを理解したジャスレイは先程より顔を引き締め、ソファから立ち上がる。

 

「ご歓談中申し訳ねぇです!!しかし、ご報告が!!」

 

ライドはその緊迫感に固唾を飲む。

チャドは何も言わずに、硬い表情を浮かべている。

 

「巡回船からの定期連絡が途絶えました!!」

 

その言葉に、ジャスレイは慌てるでもなく部下に状況の確認をとる。

 

「…船の乗組員は無事か?」

「え、えぇ…こんな時なので備えがあったのが生きまして、ほぼ全員の生存は確認済みです」

「ほぼ…か。そうかい、それならよしだ」

 

その言葉に頷くとジャスレイはおもむろに席を立ち、周囲の部下達に指示を出す。

 

いよいよ本格的に売られたケンカ。

買わなければそれこそ侮られる。

故にジャスレイとしては、どうしても受けねばならない。

 

「各員、戦闘配備につけ。オレも出るぞ」

 

突然の事態にも、あくまで冷静に判断を下すジャスレイ。

その言葉に、側に控えるティアンユが手を挙げ具申する。

 

「それでしたら…出来ればオヤジには後方にて…」

「おう。だが、部下ばっか危険にゃあ晒せねぇよ。戦うなら…一緒にだろ?」

 

不敵に笑うジャスレイに、幹部達は意気揚々と頷く。

 

「ハッ…そこまでおっしゃるのであれば、このティアンユ止めは致しません…ですが、せめて護衛はおつけください」

 

その返事が分かっていたかのように、頷くティアンユ。

 

「オウ、昔っからオレのワガママを聞き入れてくれてありがとうよ。やっぱオメェらは頼れるなぁ」

 

それから続々と歳星付近の宙域に艦船が集結、展開し、その中心には当然と言うべきか…見る者の目を惹く黄金の船の姿があった。

 

□□□□□□□□

 

「各員、指示は追って伝える!!各々奮起せよ!!」

 

流石はティアンユ。

 

オレのやりたいと思ったことを、オレが指揮するより早く伝達してる…。

 

「こちら護衛団!!いつでも行けますぜ!!」

 

ゲパードも凄まじい速度で漆黒のモビルスーツ部隊を展開してるし…。

 

「オヤジに危害を加えるヤツ…ぶっ潰す…」

「おおぉぉぉ!!」

 

レオパルドは部下ともども、なんかブチギレてるし…。

 

「……………」

 

オールソは当たり前のようにオレの背後に控えてるし…。

 

やっぱ、みんな優秀なんだよなぁ〜。

 

あれ?これオレいる?

 



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95話

続きができましたです。はい。


圏外圏、デブリ帯…。

火星と木星の中間に位置するかつての抗争の跡が生々しく残る場所に、『夜明けの地平線団』本隊はいた。

 

「偵察機より通達。目標勢力、急速に展開中とのことです」

 

旗艦デッキにて、オペレーターの言葉にロイターは満足げに頷く。

 

「よしよし、流石はジャスレイ率いる精鋭連中だ…。こっちのモビルスーツの特性を理解していやがるな」

 

彼らの主力モビルスーツ、ユーゴーは何より機動力を重視しているために、他モビルスーツと比べても装甲がかなり薄く、厄祭戦当時も大量に作られたが、その大半が落とされたと言う。

 

それをわかっているからこそ、船を密集させ、隙間を減らして近づいてきたユーゴーを艦隊の集中砲火で確実に仕留めようと言う魂胆だろう。

 

これまでは度々ちょっかいをかけていた程度とはいえ、戦闘経験を活かしているのはさしもの『夜明けの地平線団』としても油断ならない。

 

「連絡を聞く限り、艦隊の動きひとつとっても無駄がねぇんだろうよ…尤も、成金クセェ金ピカの船はいただけねぇがな」

 

ロイターは腕を組み、満足げに目を細める。

 

「やはり油断なりませんね…」

「ああ…アイツらに、かつての兄貴分が何人やられたか知れねぇよ…」

「…その割には嬉しそうですが」

 

振り返るオペレーターに緩む口元を見咎められるが、ロイターはむしろそれに肯定的に頷く。

 

「ったりめぇだ。連中の本気が衰えてねぇんだ。むしろそうじゃあねぇと困んのさ」

 

配下の指揮能力、戦力、士気、そして忠誠心…

 

そのどれをとっても、彼ら『JPTトラスト』は圏外圏トップクラス。

 

かつてはマクマードの秘蔵っ子にして、『虎豹の部隊』とまで評され、その辺のギャラルホルン部隊ならば一網打尽にできるだろう戦力が結集しているのだ。

 

真正面から突っ込もうものならば、鎧袖一触に蹴散らされて終わるだろう。

 

「…例の弾頭は?」

「この戦いで使う分には十分事足りるかと」

「よぉし、それなら問題はねぇな」

 

そうして、偵察隊からの連絡から艦隊がこちらに近づいているのが分かる。

 

「来たか…」

 

ロイターは前のめりになって、口角を上げる。

目視でわかる位置に現れたるは、一騎当千の伝説そのもの。

 

連絡にあった黄金の船はなるほど、下品に光っているかと思ったがなかなかどうして品のある輝きをしている。

大方、アレが旗艦…と来れば、乗っている人物はロイターの想像通りだろう。

 

互いの距離はギリギリ艦砲射撃が当たらない程度の位置取り。

ここから少しでも近づけば文字通り蜂の巣にされるだろう。

 

両者の艦隊は一触即発、と言った様相を呈している。

 

無論、その隙にモビルスーツを展開するのは忘れない。

 

が、その均衡を崩したのは意外にもと言うべきか、それともやはりと言うべきか…『夜明けの地平線団』であった。

 

「そんじゃあ景気付けに一発…いってみようかァァァ!!」

 

その言葉が終わるや、何かが高速で飛来し、『JPTトラスト』艦隊の一隻が爆音と共に沈んだのだった。

 

□□□□□□□□

 

えっ?ちょっ?今のなんなん?

 

「敵砲撃!!被弾艦半壊!!」

「慌てるな!!まずは人命を優先!!モビルスーツ隊は守りを固め、次撃に備えよ!!」

 

こんな時も的確な指示出しをしてくれるティアンユ…頼りになるぅ。

 

「先ほどの砲撃…船からじゃあねぇな?」

 

煙が晴れると同時にこの狙撃の犯人であろうモビルスーツが映り込む。

コレだけの射程、威力…まさか…ねぇ?

 

「アレは…」

 

そのモビルスーツは、『夜明けの地平線団』が主に運用しているユーゴーと同様のカラーリングを施されてはいるが、内部フレームは見るからに異なる。

 

独特のエイハブウェーブに、鉄華団の有するバルバトス、グシオンとほぼ同型の頭部パーツ。

肩部にある二門の大型の砲塔…。

 

え?嘘?なんでアイツがこんな所に!?

 

「アレはまさか…」

「三日月さんのバルバトスと同じ…!?」

 

鉄華団の二人は驚愕の表情で映像を見る。

 

「コイツは…」

 

嫌な汗が頬を伝う。

何せコレが見間違いでないのなら、『夜明けの地平線団』が引っ張り出して来たのは、悪魔の名を冠する伝説そのものだ。

 

「オヤジ!!敵艦が通信を求めていますが…」

「…繋いでくれ」

 

やっぱりだが、そこにはオレが今一番見たく無いドヤ顔が映り込む。

 

「どうだジャスレイ!!こいつがオレらの切り札…厄祭戦の遺産であるガンダムフレームのひとつ、ガンダム・フラウロスだ!!」

「ハンっ…わざわざそんなことの自慢のために通信まで繋いだのか?ご苦労なこった」

 

とは言え、まさかガンダムフレームかぁ…全然想定してなかったぞぅ…。

 

一番はやっぱアレだけど、どうにもキナ臭くってなぁ〜。どうしよ…。

それと、一番解せないのが……。

 

「さぁジャスレイ。切り抜けて見せろ。オメェなら出来んだろう?」

「敵モビルスーツ部隊展開!!こちらに向かってきます!!」

 

コイツ…オレをどうしたいんだよ!?



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96話

久々の二日連投〜。



挑発の意図があるのか、悠々とこちらを見下ろすガンダムフレームを睨んで、ジャスレイは思案する。

とは言え、コレほどの威力…ジャスレイには聞いた覚えがあった。

 

「たしか…ダインスレイヴ…だったか?」

 

いつだったか、生前の老クジャン公から聞いた話に、そんな名前が出てきた。

尤も、その当時はあくまでも談笑のネタのひとつに過ぎなかったが…。

 

その圧倒的な破壊力ゆえに、ギャラルホルンによって禁じられたそれを、使おうなどと…。

 

到底正気の沙汰とは思えない。

そして、それと同時に確信もした。

間違いない…『夜明け』は…サンドバル・ロイターは後先なんて考えちゃあいないと。

 

「ハッハァ!!正解だ!!」

 

未だ繋がっていた通信で、嬉しそうにそう答えるロイター。

それにジャスレイは声を荒げる。

 

「テメェ…バカか!?こんなモン使うなんぞ、ギャラルホルンが黙っちゃあいねぇだろうが!!わざわざ逮捕してくださいって言ってるようなモンだぞ!!」

「うるせぇ!!ギャラルホルンが怖くて、テメェと喧嘩が出来るかよ!?」

 

吠えるジャスレイに、更にロイターが喰らいつく。

 

「見ただろ!?わかっただろ!?理解しただろ!?コレが!!オレの覚悟だよ!!オメェとの、このただ一度の喧嘩のためなら…オレは…オレ達は!!全てを失ったってかまいやしねぇのさ!!」

「テメェ…」

 

ジャスレイが反論を返そうとすると、もう一度ダインスレイヴの発射音が聞こえてくる。

どうやらもう一隻やられたようだ。

しかしこんなもの、分かっていてもどうしようも無い。

 

「これ以上撃ち込まれたくなけりゃあ、フラウロスを止めて見せなぁ!!」

 

ロイターが言いたい放題言うなり、ブツンと回線は切れる。

幸い、歴戦ゆえか精鋭達が浮き足立つことはない。

それと言うのもティアンユはじめ、『JPTトラスト』の指揮官が展開して来た敵モビルスーツ部隊の対応を適切にしてくれているためだろう。

 

とは言え、開けられた風穴は決して小さなものでは無い。

 

フラウロスへの対応も含め、ジャスレイも必死に各方面への指揮を行なっていたその時だった。

 

「オジサン!!アタシがアイツを止めに行くよ!!」

「いや、待てユハナ!!」

 

ジャスレイが呼び止める暇も無く、ガンダム・ウヴァルユハナを駆るユハナは飛び出す。

それに釣られるように、サンポがその後に続く。

 

この宇宙では常識として、モビルスーツに対抗できるのはモビルスーツのみ。

同じように、ガンダムフレームに対抗できるのは、同じくガンダムフレームのみとされている。

 

その理屈から言って、ユハナの判断は決して間違いではない。

 

だが、同時に嫌な汗がジャスレイの頬を伝う。

 

「サンポ!!絶対にユハナの側を離れるんじゃあねえぞ!!」

「すみません!!ジャスレイさん!!」

 

サンポは通信越しにジャスレイに一言謝意を告げると、そのままユハナの所へと向かった。

 

「コイツを叩けば!!」

「ユハナ!!先行しすぎだ!!」

 

ガンダムフレームの加速力のおかげか、ユハナはフラウロスを射程内に収めることは出来た。しかし…フラウロスのパイロットはその追撃を読んでいたかのように背後を向けると、護衛のユーゴーと共にさっさと逃げを打つ。

 

「逃げた!?そうか…あの弾頭はいちいち装填しなくっちゃあならないのか。なら、尚更今叩かなくっちゃ…」

 

そうして、ガンダム・ウヴァルユハナがフラウロスに近寄ると、ジャスレイにはデブリの影からユーゴーが近寄るのが見える。

 

「サンポ!!そのままユハナを突っ込ませるな!!」

「はっ、はい!!ユハナ!!下がれぇ!!」

 

ジャスレイからの通信に、サンポはユハナに向かって警句を放つ。

 

「だけどサンポ!!このチャンスを逃したら、また船が沈むんだよ!?オジサンの味方の船が!!」

 

そう言って、視線を脇にそらしたその時だった。

 

「ユハナ!!前だ!!」

「え?きゃっ!?」

 

正面には先ほどまでデブリの陰に隠れていたのだろう複数のユーゴーが展開している。

 

「ようこそォ。お前らの死地へ!!」

「何のためにオレらがデブリ帯なんつぅ、ややこしいところに布陣したのか分かってねぇのかぁ!?」

「ユハナ!!マズイ…」

 

如何にガンダムフレームとは言えども、数的不利に真正面から突っ込んで無事に済む訳も無い。

 

「このぉっ…妹から離れろォォ!!」

 

サンポのその言葉も空しく、ワイヤークローがユーゴーから伸びて、サンポのモビルスーツまでも絡め取られ、その動きを封じられる。

 

「こんなの…腕のチェーンソーで…ッ!!」

 

無論、ユハナとてそのままじっとしているわけもない。

しかしワイヤーが頑丈なのか、それとも締め付けがキツすぎて武装を展開出来ないのか、なかなかチェーンソーが起動してくれない。

 

「くそっ…こんなとこで、終われないってのに…」

 

焦りと苛立ちから顔を上げ、索敵を行おうとする。

このままフラウロスをフリーにしてしまう危険性を分かっているからこそレーダーを念入りに確かめる。

 

しかし、意外なことにその反応はごく近くであり…。

ハッとなって顔を上げたユハナには、既に弾頭を装填してあるガンダム・フラウロスが、自身のウヴァルに狙いをつけているのが見えたのだった。

 



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97話

久々過ぎる…三日連投じゃ〜い!!


 

「馬鹿野郎、遮二無二突っ込みすぎだ…」

 

その言葉に、ユハナは閉じかけた瞼を驚きに開いた。

そこにはテイワズが誇る最新鋭の機体である辟邪が、フラウロスをはがいじめにして、その動きを封じていたからだ。

 

時は少し遡り……。

 

「ティアンユ」

「は…」

 

『黄金のジャスレイ号』内で、ジャスレイは己の腹心に問いかける。

 

「ユハナ達から一番近い部隊は救援にどのくらいかかりそうだ?」

「オジキ…?」

 

ライドが疑念を口にするも、それは耳に入っていない様子だ。

事態が急がねばならなかった状況ゆえに、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが。

 

「短くて十五分、急いでも十分はかかりますなぁ」

 

淡々とそう告げるティアンユに、ジャスレイは頷く。

 

「そんじゃあ間に合わねぇな…。じゃあよ、仮にこっから辟邪を飛ばしたとしたら…どうだ?」

「そうですなぁ…。辟邪の大型ブースターを、帰りのことまで度外視して、限度いっぱいまで使えば…理論的には最短で三分程度かと…」

 

それにジャスレイは笑顔で答える。

 

「そうか。そんだけ聞けりゃあ十分だ」

 

ティアンユの肩を叩き、ジャスレイが視線で言葉なく語ると、ティアンユは黙って頷く。

 

ジャスレイはライド、チャド両名の頭を軽く撫でると、その横を通り過ぎて、デッキから出る。

幸いと言うべきか、それを止められる部下達は皆部隊を組んで戦闘中。

 

護衛団はティアンユからのなんらかの指示によって、しばしそのままであった。

 

「だぁぁ!!ジタバタすんな!!アブねーだろうが!!」

 

ユーゴーのパイロット達は突然の乱入に驚いたのか、ユハナとサンポを縛るワイヤーが一瞬緩み、それに気づいたユハナは咄嗟に腕部のチェーンソーを用いて、ワイヤーを切断。

間一髪のところでダインスレイヴをかわした。

 

「オジサン…」

「なるほどなぁ…ユハナとサンポをエサにして、オレか幹部連中を引っ張り出そうって算段かよ?そんなら大成功だ、クソッタレ!!」

 

元より、あの距離から救援に入れるのはジャスレイかその近くにいた幹部陣のみ(それでも間に合うかはギリギリの賭けだったが)。

それ以外は敵艦隊やモビルスーツ部隊を相手に大立ち回りを演じているため、その場から手が離せない。

最新鋭である辟邪の速度と、ジャスレイの判断力があってなんとか見える光明。

 

しかし、放っておいても策に引っかかったガンダムフレームをひとつ潰せるうえに、運が良ければ幹部も道連れにできるという算段。

 

捨て身かと思えば…いやだからこそ、こうして策を弄するロイターの嫌らしさに、ジャスレイは内心舌打ちする。

 

とは言え、流石にジャスレイが直接やってくるのは想定外のことだったろうが…。

 

「っちぃ…」

 

形勢逆転を恐れてか、フラウロスのパイロットはなんとか辟邪の拘束を抜け出そうとする。

 

「サンポォォ!!コイツを使え!!」

 

そう言って、無重力空間に腰部から取り外した武器を放り投げる。

 

「えっ?はい!!ジャスレイさん!!」

 

サンポはγナノラミネートブレード(トビグチ)を何とか受け取る。

 

「無駄だ!!伝説のガンダムフレーム様に、そんなおもちゃが効くかよォォ!!」

 

油断か慢心か、それとも敵艦を沈め続けたことによって、テンションが悪い意味で高くなっていたのかそれはわからない。

 

そのためか、周囲のユーゴーも殊更に止めようともしなかった。

ガンダムフレームに対抗できるのはガンダムフレームのみ。

その常識が頭から抜けていなかったが故に。

 

しかし、サンポは迷わずそれを受け取り…フラウロスを切りつけた。

 

瞬間、空間に赤い稲妻が走ったのだった。

 

□□□□□□□□

 

うお〜、コエー!!

イヤ〜な予感がしたから指揮をティアンユに丸投げして、コッソリ辟邪に乗り込んだはいいものの…。

 

このワイヤー掴んでなかったら今にもバランス崩しそうだっつーの。

クセの無いって評判の機体でこんだけとか、パイロットの皆んなには頭が下がるなぁ…。

実際、ここに来るまで何度デブリにぶつかりそうになったことか…。

 

「オジサン!!」

 

ユハナちゃんがこっちに寄ってくる。

そんな焦りなさんなって…。

『夜明け』の連中は…半壊状態のフラウロスを回収して一時撤退かぁ。判断早えぇな。

って、オレはもっと焦れって話だよね!!分かってるよ!!うん!!

 

ただなぁ…ロイターの野郎の思う壺になるのがどうにも腹に据えかねてなぁ〜…。

 

「ジャスレイ。そんな小娘は放っておけばよかったろうに」

 

って、いつの間にやらモビルスーツの通信まで割って入ってくるとか…オレのこと大好きかぁ?あん?にしても、なぁに言ってんですかねコイツは。

 

「それとも何か?そのガンダムフレームがそんなに惜しかったってのか?」

 

いやまぁ…それもぶっちゃけゼロでは無いんだけどもさ…。

 

にしても、何で今回はいつになくこんなに突っかかって来てんですかね。

それとも挑発のつもりとか?

もしくは、ガンダムフレームを割とあっさりやられた腹いせ?

 

「フン…愚問だろ、ロイター」

「あん?」

「逆だよ。こんな時に、ついこないだちぃっと知り合った程度の小娘ひとり守ってやれねぇで、こんだけの大所帯の大将張ってられるほど、オレぁ落ちぶれちゃあいねぇつもりさ…」

 

いやまぁ、最低限大人の男としてね?

船はやられたけども、それだって人命には変えられないわけで。

矛盾してるようだけど、オレに今できることってぇとこんくらいしか無いし…。

って言うか、これ後がヤバいんだよなぁ…。

 

一応味方に分かるように、一定感覚で信号出しながら来たけども、ほぼ無断で突っ込んじゃったからなぁ〜…。

後で幹部たちからのお説教コースだぁ…。

 

「テメェ…」

「それによ…オレは信じただけだぜ。オレについて来てくれた…いや、今でもついてきてくれてる連中をよ」

 

ご機嫌取りご機嫌取り…。

まぁ無駄なんだろうけどもねぇ〜。

 

「オヤジィィ!!」

「兄貴ィィィィ!!」

「ご無事ですかァァァ!!」

 

って、あれぇ〜?思った以上に突っ込んできてるぅぅ〜!?

 

「流石だ、ジャスレイ・ドノミコルス…」

「あん?今なんか言ったか?」

 

オレがそう聞き返そうとすると、もう回線は切られていた。

ともあれ、連中自慢の砲塔は潰してやった…。

コレでだいぶ楽になった…はずだ。

 

 




いつものことながら、齟齬があったら申し訳ない…。


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98話

連投連投〜。


「ククク…」

 

『夜明けの地平線団』旗艦にて、サンドバル・ロイターは笑う。

 

「ボス、ユーゴーの準備が完了しました」

「オウ、ご苦労さん」

 

ロイターはやおら立ち上がり、船内ハンガーへと向かう。

 

「ジャスレイ…やっぱオメェはやってくれたなぁ…」

 

切り札であるフラウロスは半壊し、ご丁寧にもレールガンの部分はその片方が潰されている。

こうなっては、修理にかなり時間が必要となるだろう。

 

しかし…その割には『夜明けの地平線団』メンバー達のその目はまったくもって死んでいない。

寧ろ…より一層、爛々と輝いているようにさえ見える。

 

「それから…例の弾頭はまだあるな?」

「ええ。幾らでも」

「そうか。なら………」

「………よろしいので?」

 

部下の耳元で何かを告げると、問いかける部下に片腕をあげて返答した後、ロイターは乗り慣れた自身のモビルスーツの元へと向かう。

 

「さぁて…小手調べは終わった。こっから先は…オレが直々に行こうか」

 

ロイター達はモビルスーツに乗るためのノーマルスーツを着込む。

 

彼らは『夜明けの地平線団』でも、更に選りすぐりである屈指のパイロット達だ。

 

「さぁ、今からオメェらの『敵』が行くぞ、ジャスレイ!!」

 

デブリ帯より、少し離れたところにある『黄金のジャスレイ号』にその情報が伝わったのは、ジャスレイが帰艦して、ほんの少し時が過ぎた頃のことだった。

 

「レーダーに感!!距離600!!左舷方向敵機九!!」

「来たか…ロイター」

「見えたぜェ…金ピカ…」

 

ロイターの駆るユーゴーが、JPTトラスト旗艦『黄金のジャスレイ号』に近づく。

 

「見せてんだよドアホ…」

 

レーダーに反応があるや、ジャスレイはすかさず檄を飛ばす。

 

ユーゴーは速度を重視するあまり装甲が薄い。

であれば、十分に近づけてから蜂の巣にするのが上策。

 

奥の手であろうガンダムフレームが早々に使用不能になった以上、『夜明けの地平線団』の戦法は普段と同じ、もしくはそれを多少アレンジした程度のモノだろう。

 

『夜明けの地平線団』が、ガンダムフレームを使用していた時でさえジャスレイの部下達の歴戦は伊達では無く、さほどの揺らぎは無かった。

 

距離を詰められる前に即座に船を旋回させ、船団による砲撃とモビルスーツの百錬や百里による壁を形成する。

 

「ハハァ!!スゲェなぁ!!即席の艦隊でそこまでの指揮ができるモンかよ!!」

「コイツらの練度が高けぇだけだっつぅの!!ってか、いい加減しつっけぇんだよ!!そもそもオレぁ、テメェが解せねぇ!!何が目的だ!?交渉も脅しも何も無く、唐突にこんなドンパチの戦端を開くなんつぅ馬鹿げたことをするなんぞ!!圏外圏をまた戦乱に戻してぇのか!!」

「あぁそうさ!!それが必要だとオレは感じたからなぁ!!」

 

ジャスレイはその言葉に、困惑と憤りを覚えたのか、強く歯噛みする。

 

「テメェ…何が目的だ!!『ディアブロ』の真似事でもしようってぇのか!!」

 

ジャスレイのその言葉を、ロイターは鼻で笑う。

 

「ハンッ!!目の前にバカみてぇにデケェ鳥がいて、その飛翔を見たくねぇ奴がいるか!?目の前にとんでもねぇ猛獣がいて、ソイツが暴れてるとこを見たくねぇ奴がいるか!?オレはオメェがもう一度!!無遠慮に力を振るうのが見てぇだけさァァァ!!」

 

隊列を組んだ百錬や百里がロイター達の駆るユーゴーを取り囲むが、先ほどとは打って変わった練度の高さに、なかなか苦戦を強いられている様子だ。

 

「ガキかオメェは!!無闇矢鱈暴れるのは獣のすることだろうが!!そもそも組織のトップになったらそれこそ力を振るうなんざできねぇっての!!」

「獣上等!!それでテメェの本気引き出せんなら、オレァ喜んで獣にならァ!!」

 

円月刀で百錬を両断しつつ、狂ったようにそんなことを宣うロイター。

しかし、恐ろしいことに、その言葉には嘘偽りはないように思えてしまう。

徐々に『黄金のジャスレイ号』との距離も縮まっている。

最早死兵と化した『夜明け』の猛攻は、執念すら覚えるほどだ。

 

「ンなことのために…」

 

気がつけば、ジャスレイは強く拳を握っていた。

 

「そんなくだらねぇことのために!!未来ある子どもらを巻き込むんじゃあねぇよ!!ゲス野郎!!」

 

□□□□□□□□

 

アイツ、ふざけやがって。

オレの暴れる様が見てぇだって?

ンなモン死んでもゴメンだね!!

また昔みたいなカオスに逆戻りなんてしたら、鉄華団周りとか絶対色々ややこしくなって、絶対心臓に悪いことになりかねんし。今度こそ命が幾つあっても足りなくなるっての!!

 

 

「ティアンユ!!状況は!?」

「は…我ら艦隊全五十七隻の内、現在十七隻が沈黙。その内、要救助者の回収は、およそ十二隻分です」

 

大分やられたな…。

 

でも妙だな。

 

普通戦闘ってのは多少の保険を効かせておくって言うか、最低限戦力は取っておくモノだし…。

けど、この数…本当に後先考えてないのがよく分かるなぁ。

オレが暴れる姿が見たい?だったら尚のこと保険として幾らかの戦力は残しとくもんなんじゃあ無いのか?

コレが全部向こうの演技だったり?

 

それとも…。

 

いずれにせよ、どうにもキナクセェなぁこりゃあ。

 




久々に戦○ァル3やったけどたのちい。

イ○カちゃんが好きです(唐突)。


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99話

続き出来ました。

ちょっと短めですが、名瀬ニキサイドのお話です。


歳星にある『JPTトラスト』本社ビル内にて、ジャスレイの弟分である名瀬・タービンが和室の中を不安げにウロウロとしている。

 

「ちょっと名瀬〜?落ち着き無さすぎじゃない?」

「仕方がないよ。ジャスレイさんの力になりたくて来たのに、留守番を言い渡されたんじゃあね…」

 

そんな話をするのは、名瀬の妻のひとりであるラフタ・フランクランドと、そんな彼女をたしなめる同じく妻のアジー・グルミンだ。

 

「ったく…いくら心配だからって…いい加減シャキッとしないかい!!」

 

やがて、名瀬は痺れを切らしたアミダにバシィン!!と背中を叩かれる。

 

「お、おぉう!!す…すまねぇなぁ三人とも…」

 

いつに無く気弱というか、ヘンに緊張している名瀬に、アミダは呆れたように言う。

 

「ったく…兄貴との約束、忘れたのかい?」

「ああ…もちろん覚えてるさ…」

 

アレは、ジャスレイが出陣する少し前のこと…。

 

 

「兄貴ィィ!!」

「名瀬」

 

船に乗ろうとするジャスレイを呼び止めた名瀬に、ジャスレイは優しく応じる。

 

「兄貴…」

「言いてぇこたぁなんと無くわかるが…」

「なら兄貴!!オレらも…」

 

連れて行ってくれ、と繋がるだろう言葉を、ジャスレイは手で遮る。

 

「馬鹿野郎。こいつはオレが….オレ達が売られたケンカだ。なら、オメェは最低限仕事をこなしてくれりゃあそれでいい」

 

たとえ、お義理の参加だとしてもタービンズのネームバリューは大きい。

それだけでも面目を保つには十分だと、言外にジャスレイは言っていた。

そしてそれは、決して名瀬達のことを軽んじたからで無いことも分かっていた。

 

「それに…どの道、オレかオメェのどっちかは歳星に残ってなくっちゃあならねぇ…だろ?」

 

不吉な言葉を紡ぐジャスレイに、思わず名瀬の顔色は曇る。

 

「そんな暗れぇ顔すんな。別にあんちくしょう相手に死んでやるつもりもねぇし、何よりゴルドンの野郎が何にもしてこねぇのが不気味でなぁ…オレが留守の間になんかねぇとも限らねぇ…分かるか?これはオメェだからこそ任せられる仕事だ」

 

そう言うと、ジャスレイは名瀬の肩に手を置き、穏やかに微笑む。

 

「オレの留守は任せたぜ?可愛い弟よ」

 

 

「一応、マルコのオジキにも話を通してもらえてるからな。何か変化がありゃあすぐにでも分かるさ」

 

とは言え…今回の件にきな臭さを覚えているのは名瀬とて同じだ。

 

警備は十全。準備も万全に万全を期した。

しかしそれでも予測できない事態というのはやって来る。

 

「ご…ご報告!!所属不明の多数の小型船が、例の宙域に近づいていると…」

 

そしてその予感は…皮肉にも、的中してしまうこととなった。

 




次で百話…全然話が進まなくて申し訳ない…。


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100話

続き出来ました〜。

100話続くとか…自分も思ってませんでした。

読んでくれる皆さんに感謝です〜。


「くだらねぇ…か。確かにそうかもなぁ…だがよ」

 

迫り来るモビルスーツの群れを払い除けながら、ロイターは言う。

 

「だが、それでも…オレには耐えられねぇんだよジャスレイ」

 

震える声でロイターはそう言う。

 

「かつて、誰も勝てなかった…誰も殺せなかったあの悪魔共を喰い殺した猛獣が!!あんな老い先短けぇ年寄りに首輪に鎖で繋がれて、飼い慣らされてんのがよぉ…!!」

 

ロイターを支配する震えの正体、それは怒りだ。

やり場のない、この上なく身勝手で理不尽な怒りだ。

 

「オレはよジャスレイ…人としての在り方の全てをオメェに教わったんだよ。畏怖と恐怖、嫉妬と羨望、尊敬と憎悪を一身に受けていたあの頃のお前の背中になぁ…」

「……………」

 

ジャスレイはいつになく、沈黙で以って答える。

 

「だってぇのに…今のオメェは何だ?腑抜けに腑抜けて、今やってる事っていやぁガキどものお守りか!?挙げ句小娘一人のためにテメェの命まで投げ打つたぁ…そんなんじゃあ!!そりゃあ反応も後手後手になるよなぁ!!」

 

ロイターの搭乗するユーゴーが、その一団が近づいて来る。

しかしジャスレイは何を思ってか眉ひとつ動かさない。

 

『JPTトラスト』の側も本格的にモビルスーツ部隊で迎撃する構えを見せる。

新たに投入された辟邪に、数機のイオフレーム。

それらは戦場を大いに、そして散々にかき乱した。

 

しかしその不意をついてか、それとも執念なのか…怯むこともなく突っ込んで来たロイターの駆るユーゴーは『黄金のジャスレイ号』に幾分か肉薄する。

が、それもまた弾幕に凌がれる。

舌打ちまじりにロイターは更にこぼす。

 

「テメェジャスレイ!!オレ程度にすら苦戦してんじゃあねぇよ!!オメェは今までも…そしてこれからも!!圏外圏最強の男だろうがよぉ!!」

 

ロイターはユーゴーの円月刀を振り上げながら近づいてくる。

 

…が、その次の瞬間、護衛なのだろう漆黒の辟邪数機が急速に近づいたかと思えば接近戦に持ち込み、その攻撃を弾き返す。

 

「誰が…誰に苦戦してるって?」

 

この程度の修羅場には慣れっこだと言わんばかりに、パイロット達の操縦には一切の狂いがない。

 

「ありがとうよ、オメェら」

 

その言葉に、辟邪のパイロットは言葉を返す。

 

「まぁ、戦力差的に大将首狙ってくんのは分かってっからね」

 

褐色にドラゴンタトゥーの伊達男が言う。

 

「アイツらみてぇな雑魚共にオヤジのタマはやすやす持ってかせねぇっての」

 

髭面の巨漢が言う。

 

「ウチらエースをナメんじゃあねぇぞ。やけっぱちになった野郎が、まぐれでここまで来るなんぞ別段珍しくもねェんだよ」

 

そしてそんな彼らを率いる、テイワズの撃墜王…『黒羽根』ゲパードが言う。

 

「あの左肩部の羽根のエンブレム…噂に聞くジャスレイ麾下の最古参、三羽烏(トレ・クァールヴォ)か」

 

『JPTトラスト』所属のパイロットとしての技能を実戦で伸ばした歴戦の猛者達。それこそが三羽烏。

ジャスレイと親睦あるクジャン家の紋章たる烏の羽をエンブレムに使うことを、今は亡きクジャン家先代当主、バラク・クジャン直々に許可された正真正銘のエースの中のエース。

 

普段はジャスレイに信頼されて方々で様々な仕事をこなし、有事になれば途端にその盾となり刃となるという、正しくジャスレイの最も信を置く懐刀達。

 

テイワズの誇る精鋭たる『JPTトラスト』護衛団の中でもその更にトップスリーを張る、堂々たる実力者だ。

 

「ハッハァ!!そうじゃあねぇと面白く…あン?」

 

まるで測ったようなタイミング。

双方のモビルスーツが激突する直前に、ロイターの駆るユーゴーは、飛び退くように距離を開けた。

隙を突いて攻撃しようにも、脇にいる数機のユーゴーが邪魔になってしまう。

 

「ッチ…コレからだって時に…」

 

どうやら、思わぬ相手から通信が入ったようだ。

 

「ンだテメェ!!一方的に手ェ切っといて、今更ゴチャゴチャ抜かす気か!?」

 

ロイターは楽しみを奪われた子どものように、通信相手にそう告げる。

 

「なに、そう言えばキミたちに別れ際の餞別を贈っていなかったことを思い出してね…」

 

変声機を使っているのだろうその相手は、まるで世間話でもするかのように彼にそう告げる。

 

傍受されるのも構わないことから、特定されない自信もあるのだろう。

寧ろ…ジャスレイ達に向けてさえ発信しているような、そんな不気味さを感じさせる。

 

「上手く使え。尤も…キミらが何かをせずとも『JPTトラスト』は戦陣を乱すだろうがね…」

 

そんな最中、ジャスレイの方にも連絡が入る。

 

「オウ、どうしたい?」

「兄貴!!大変だ!!そっちに…」

 

連絡をしてきた名瀬・タービンはかなり慌てている様子だ。

ジャスレイの部下が異変に気づいたのは…それとほぼ同時のことだった。

 

「オヤジ!!アレを!!」

 

その異変に、現場で一番に気づいたのはジャスレイの部下だった。

 

「どうした?って…ありゃあ、輸送船か?」

 

宇宙空間に浮かぶそれは、小型の輸送船。

拠点から拠点へのちょっとした荷運び作業に使われる程度の大きさのものだ。

 

「今、拡大します…」

「ありゃあ…子どもか!?」

 

痩せ細り、最早抵抗する体力も無いのか、力のない目で窓の外を見つめるのは他でもない子ども達だ。

しかも、その数は一人二人では無い。

 

「ククク…私としたことが、うっかりヒューマンデブリを乗せた船が、たまたま戦場と化した宙域に迷い込んだ…いやぁ困った困った」

 

通信先の相手は、これはあくまでも事故だと言い張るつもりのようだ。

 

「嘘をつけ!!狙ったように女子供ばっかりじゃあねぇか!!」

「嘘じゃあないさ。現に私とて懐を痛めている。手ひどい出費になったものだ…。ああ、ソレらはどうぞご自由に…」

 

飄々と冗談めかしてそんなことをいうとは…。

 

「それも反応を見る限り、一隻や二隻じゃあねぇ…この野郎…血も涙もねぇのか?」

 

思わずジャスレイがそうこぼしてしまうくらいに、それは異常で、異様な光景だった。

 

「男の勝負に水差しやがって!!ふざけんじゃあねぇぞ…!!こんな結末、あっていいはずがねぇ!!」

 

そして…当のロイターもまた、苛立ちを隠すこともなくなっていた。

 

□□□□□□□□

 

誰だか知らねぇ…いや、大方予測はつくが…此処らでヒューマンデブリを見なくなったと思ったら…わざわざ他所で買い漁ってたってか?クソッタレ!!

 

っつーかコレ、思ってる以上に不味い!!

 

ウチの方針的に彼らを見捨てるのはナンセンス…。

まして今は鉄華団の二人の手前もあるし…今後のことを考えればこの二人の心象はいいに越したことはないから見捨てる選択はマジで最終手段だし…。

 

かと言って放って置いたところでいつ弾が当たるとも知れない最前線うえ、向こうは絶対にその隙を突いて来る…。

 

わざわざガンダムフレームまで引っ張り出してきた以上、一時休戦なんぞ望むべくも無いだろうし…。

 

「こんな…まるで生き餌じゃあねぇか…」

 

生かさず殺さず…。

法の上じゃあ確かに彼らに所謂人権は無い。

あったとしてもかなり黒寄りのグレーだ。

ロイターの矛先が通信相手に向いてる内に何か考えないと…!!

 

「オヤジィィ!!」

 

うん?誰だこんな時に…って、えぇ!?

なんか見たことないモビルスーツが突っ込んできたァァ!?

 




水星のガンプラ、シャディク隊揃えたいけど、置き場所に困る…。困らない?


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101話

ちょっとばかり難産だったぜ〜!!

コッソリ投稿…。


 

「オヤジィィィィ!!」

「ぐっコイツ…まさか…」

 

その叫び声と共に、一機のモビルスーツが『黄金のジャスレイ号』の近くに迫ったユーゴーの一機を体当たりで弾き飛ばした。

 

無重力空間で思わぬ攻撃をもらったロイターは少しの間困惑していたが、即座にブースターを使ってバランスを取る。

 

同時に、一瞬あっけに取られたジャスレイはしかし、その声に聞き覚えがあったようだ。

 

「待たせちまってすまねぇ!!先遣隊の中で、オレだけ先行させてもらったんだ!!間に合ってよかったぜ!!」

「その声…お前さん、シー坊…いや、シクラーゼか!?」

 

うっかりかつての呼び名で呼ぼうとしたジャスレイに、シクラーゼは懐かしいと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「おうよ!!大体の話は聞かせてもらった。今ギャラルホルンの部隊がこっちに向かってる。アリアンロッドの精鋭達もだ。そいつらが集まりゃあこんな賊ども目じゃあねぇ!!あとはコイツらがやけっぱちになって、パンピーを撃たねぇように見張るくれぇさ」

 

こちらに向かって来るユーゴーを睨みつつ、そう言ってシクラーゼの駆るモビルスーツは大型の武器を構える。

 

「テメェ…そりゃあガンダムフレームか…味な真似をしやがるじゃあねぇか」

 

ユーゴーのパイロットであるロイターは、割り込んできたガンダムフレーム…ガンダム・アスモデウスと睨み合う。

 

「オジキ方は下がってて下さいや。さぁ…ガンダムフレームの力ァ…見せてやろうか!!」

「おう、ムチャはすんじゃあねぇぞ!!ティアンユ、アイツがロイターを抑えてくれてる間にこっちも動くぞ。人命優先、できる限りのモビルスーツを輸送船の回収に回してくれや」

 

その言葉を待ってましたとばかりに、ティアンユは頭を下げる。

 

「了解しました。全部隊に通達、手の空いた者は輸送船の回収に回れ。人命救助を急ぐのだ!!」

 

ジャスレイはシクラーゼから聞いた情報を元に各部隊への指示を出し、ティアンユがそれを中継する形で通達する。

 

ガンダムフレームの性能と、シクラーゼのパイロット能力を高く買っているからこその判断だろう。

 

「三羽烏は付近のモビルスーツの掃討、及び遊撃に回ってもらう。いいな?」

「ったりめぇでさァ!!」

「オヤジの指示に従うさ」

「ったく…援軍が来ることが分かったからって、気ィ抜くんじゃあねぇぞ?オメェら」

 

二つ返事する部下二人に、リーダーであるゲパードは念を入れる。

 

三羽烏も流石と言うべき切り替えの速さでジャスレイの指揮に従う。

 

幸い、数の上では『JPTトラスト』が依然上であり、そこに援軍の希望があるともなれば当然パイロット達のモチベーションも違ってくる。

あちらが狙ってくるとすれば、やぶれかぶれになっての一点突破だが…それも舵取り役のロイターがシクラーゼにかかりきりになっている以上はまだ無いと見ていいだろう。

 

「っちぃ…もうこうなりゃあヤケだ!!」

 

時折、輸送船を直接狙おうとする輩が現れても…

 

「させるかよォ!!」

「よし、こちらは船の回収に完了した。カバーに入ってくれ」

 

ジャスレイの部下の連携により防がれる。

 

「オヤジの敵、近寄らせない…」

「おうともよレオの兄ィ、ここいらで一発カマそうやぁ!!」

 

レオパルドとその部下達数名、他幹部たちもまた意気軒昂を保っている。

そして、その様子を見まわしたライターはと言うと…。

 

「ククッ…流石だ…」

「あぁ!?こんな時に何笑ってんだテメェ!!」

 

シクラーゼとロイターが近接戦を演じて、少々ばかりが経過した。

しかし…それがどれだけ異常なことか、シクラーゼは分かっていた。

なぜならばロイターは…ヘキサフレームであるユーゴーで、未だガンダムフレームと渡り合っているからだ。

 

「やはりなぁ…思った通り、奴は戦いの中でこそ輝く」

「何が言いたい?」

 

近距離で激しく打ち合いながらも、ロイターは笑っている。

その様子に、シクラーゼは訝しむ。

 

自分は先遣隊で、更に特別早くやってきた。

その情報はあちらとて聞いていたはず。

それを、こうも悠長に構えているとは…。

 

そこまでしてジャスレイの首が欲しいのか、それとも…。

少なくとも、彼の一部の部下のようにやけっぱちになったようには思えない。

 

「だから…もっと確かめさせてくれや!!」

 

そう言うなり、ロイターのユーゴーはとある信号を発信した。

 

□□□□□□□□

 

ふぅ〜…これでなんとか持ち堪えてくれそうだなぁ…。

輸送船も徐々に回収できてるし、後はギャラルホルン待ちかなぁ。

尤も、気は抜かないけどもさぁ〜。

 

「オヤジ…あの子どもら…大丈夫でしょうか?」

「なぁに…人質にするつもりなら、わざわざ死ぬ間際の連中をよこさねぇだろうよ」

 

途中で死なれたらそれこそおじゃんだし…。

 

「オヤジ!!オレはアイツらを助けてやりてえ」

「オレもだ!!」

「ここで行かなきゃあ、オレはオレじゃあ無くなっちまう!!」

 

まぁ…そうなるよねぇ…。

特に若い衆はこういう時にガス抜きしとかないと暴発しかねないし…。

それに、ヒューマンデブリとか、この子ら的にも特大の見えてる地雷だしなぁ…。

 

「馬鹿野郎」

 

オレの護衛をむざむざ減らしてどうすんのよ?

 

はぁ…しゃあないかぁ…。

 

「いちいちオレに伺いなんぞたてなくてもかまわねぇさ。こっちにゃあ最低限の護衛だけで十分よ。助けてやんな。昔のオメェらをよ」

 

「オヤジィィィィ!!」

 

声でっか!!

 

「ただし、一つだけ条件がある」

 

みんなの視線が集まる…。

いやまぁ、こういうのも慣れたんだけどもさぁ…。

 

「オメェらも無事に生きて帰って来い。オレにとっちゃあオメェらも子どもらと同じく替えのきかねぇ存在なんだからよ」

 

でなきゃあ本社でああ言った手前、カッコつかないし…。

まぁ、今更だけどもね!!

 

「うおおおォォォ!!!」 

 

…なんか最高潮の盛り上がりを見せてんだけど。

 

ヘヘッ…だが、伊達にヤクザモンの世界で生きとらんわ!!

オレみたいな小物、ちょっとしたことでもすぐ死ぬかんな!!

こうやって部下を鼓舞し続けないと…。

 

それと…またイングリッドに頭下げなきゃなぁ…。

 

……………

 

アレ?死亡フラグ?




齟齬があったらごめんです。


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102話

お久しぶりにこっそり投下…。

ギャラルホルン視点ですはい。


圏外圏へと向かい進むギャラルホルンの月外縁軌道統制統合艦隊…通称アリアンロッドの旗艦にて、一人の男が粛々と準備を進めていた。

 

「ふむ…」

 

司令室ながら比較的シンプルな船室にて、部下に出した指示が終了するのを待っているのはこの艦隊の提督であるラスタル・エリオン。

周囲には同じくセブンスターズであるイオク・クジャンと、それぞれの側近たる兵士が数名いるくらいか。

 

「ラスタル様。ご指示の通り、航行中に我らの準備の程は終わりましたが…」

 

やってきた部下の報告に、ラスタルはひとつ頷く。

 

「うむ。では…先遣隊を待たせすぎるのも良くはないな…速度を上げよ。彼がファリド公の所にいるとは言え、それでも念には念を入れなくてはな…」

「ラスタル様、その…彼というのは…?」

 

部下がおずおずと質問をする。

それを無視するのは簡単だが…かと言って変に誤解や勝手な憶測を招かないためにも、ラスタルは律儀に答える。

それに、別に隠すほどのことでも無い、というのも大きいか。

 

「シクラーゼ・マイアー…あの男が拾い上げ、私が手ずから育て上げた兵士だ。先日、地上部隊からファリド公が引き抜いたらしくてな。まぁちょうどいい機会だ。多少血の気は多いが…まぁ、あの男なら問題無かろう」

 

あの男…それがジャスレイのことを指していることにイオクが気づくと、彼は心中に思った言葉を投げかける。

 

「やはりエリオン公は叔父上のことを、その…心配されて?」

「心配?ハン!!冗談では無いわ!!」

 

ラスタルはその発言に思うところがあったのか、それとも単純に我慢ならなかったのか…くわっと目を見開いて、抗議するかのように言葉を荒げ、立ち上がる。

 

「あの男は昔からそうだ。自由人がすぎると言うか何というか…!!こっちが家督を継いだばかりで重責を背負う立場になったばかりの時でさえ、我が物顔でクジャン邸に遊びに来ては茶を飲んで書類に潰されそうになる私をわざわざからかいに来おって…!!その度にヤツについて行きたいなどと馬鹿を抜かす部下を嗜めるのにどれだけ苦労したとっ…先代の言葉と差し入れの肉がなかったら十や二十は殴り倒していたところ…」

 

いつもの落ち着きのあるラスタルとは異なる様子に、伝令の兵士が唖然としている。

それを見たラスタルはハッとなった様子で、我に帰り、軽く咳払いをする。

 

「んっんん!!ともあれ…私はただ、世界の治安を乱す者を排除するだけだ。そこには私情などないし、あっていいはずもない」

 

ラスタルがいつもの真剣な表情に戻ったことに周囲は安堵する。

 

「相手をただの宇宙海賊と侮るな。とある財界人との黒い繋がりも噂されるほどの連中だ。構成員は可能な限り捕えるように。それと…」

 

「テイワズもそうだが…『JPTトラスト』にはまだまだ利用価値がある。奴の上役とも関係が拗れると後々面倒だからな。奴らのナワバリでは、出来うる限り勝手な行動は許さんと伝えよ」

「はっ!!」

 

そうして出発して、いざ艦隊が戦闘域に入ろうと言うところで…その報告は入った。

 

「ほ…報告致します!!」

「ん?どうした?まさかファリド公の部隊がやられたか?」

 

冗談めかしつつ、しかし仮にそうだった場合も鑑みた問いを投げかける。

ジャスレイがチンピラ集団にやられるとは微塵も思っていないのが見て取れる。

それに、伝令の兵士はいえ…と濁すように返しつつも、その顔から焦りは消えていない。

 

「それが……」

 

そして、その報告を聞いたラスタルは驚きに目を見開き…気がつけば一も二も無くジャスレイへと連絡を入れていたのだった。




短めですはい。

その分次は割と早めに投稿できるかもです。


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103話

続きできましたです。はい。


ロイターの駆るユーゴーからの合図を境に『夜明けの地平線団』のモビルスーツからの攻撃が、まるで息を吹き返したように激しくなった。

人質はすでにほぼほぼ回収され、アリアンロッドの援軍がやって来るのも時間の問題…普通であれば戦意を喪失していてもおかしくは無いと言うのに……。

 

『黄金のジャスレイ号』の艦内にて、ジャスレイは眉を顰めて訝る。

 

「アイツら…なぁんか狙ってやがんなぁ…」

「しかし…あの通り、ロイターは指示を出せる状況では……」

「それだよ」

 

ジャスレイは振り向いてティアンユに向けて言葉を続ける。

 

「あの野郎。なんだってわざわざ、ガンダムフレーム相手にタイマンなんざはってる?あんな分かりやすく突出して、さも狙ってくださいって言ってるようなモンなのによ…」

「もしかしたら〜…なんかトッテオキがあるのかもよ〜?」

 

ケラケラと笑うユハナがなんとなしにそう言ったことで、ジャスレイと、そしてその側に控えるティアンユがハッとした表情をする。

 

「おいこらユハナ…」

 

サンポが妹を咎めるが、ジャスレイはそんなサンポを制止する。

 

「いや、かまわねぇさ。ありがとうよサンポ。それよりもユハナ…」

「なぁに〜?オジサン?」

 

ジャスレイはユハナの方を向き、真剣な面持ちをしている。

 

「ちぃっとばかし、頼まれて欲しい仕事があんだが…それとティアンユ。もうあらかた子どもらの回収も済んだところだろうしよ。念のためアレの準備も頼んどいてくれや」

「はっ、すぐに連絡致します」

 

それが、今から少し前のこと。

パイロットスーツに身を包んだユハナとサンポは各モビルスーツのコクピット内で、ジャスレイからの指示を思い出していた。

 

「いいか?もし、オレらの予想が当たってんなら…この船団から少し離れたところに部隊が陣取ってるはずだ」

 

ジャスレイはそう言うなり、近辺の宙域図を表示する。

 

「しかし…この広い範囲からどの辺りかなんて、憶測は…」

 

サンポの言葉を遮ると、ジャスレイは宙域図を睨む。

 

「いんや可能さ。例えばだが…まずここはねぇ」

 

そう言うなり、とある一帯を指し示す。

 

「こう言う作戦は性質上、デケェ船は連れられねぇ。仮にいたとしても、補給用の小型艇が一つ二つあるくれぇだろうな。だからこの辺りの開けた場所もありえねぇ。兵力の分散を避ける意味合いでも、見つかりにくさを重要視する意味でも、護衛兼索敵役が二、三機いるくらいだろうよ。ユーゴーのスピードなら、ある程度はレーダーの誤魔化しも効くだろうしよ」

 

そうして、ジャスレイが宙域図に幾つかの×マークをつけ、最終的に幾つかの候補場所に○で目星をつける。

 

「そう考えりゃあ、思いの外あの野郎が兵力を伏せてる場所は絞れんのさ」

 

そう言ったジャスレイは油断なく、しかし不敵に笑う。

 

「恐らく、例のガンダムフレームが修理中か、もしくは…考えたくねぇが、それが無くてもあの矢を使える算段がついててその準備待ちか…ともかく時間との戦いになるだろうよ」

 

だが…と、ジャスレイは続ける。

 

「ただ暴れてぇだけなら、こんな回りくどいやり方なんぞしねぇはずだがな…」

 

これではまるで、ジャスレイを試そうとしているかのような……。

 

□□□□□□□□

 

ふぅ〜…取り敢えずこれでひと心地つけるかなぁ〜…。

 

「オヤジ、アリアンロッドの回線から通信が入っていますが…」

 

うん?アレか?ま〜たラスタルのアホが見逃してやるから手柄寄越せよ的な?

めんどくせぇなぁ〜…。

 

かと言って無視すんのも色々と大義名分与えちゃいそうでなぁ〜…。

 

しゃーない出るとしますかね。

 

「おう。繋いでくれや」

「ジャスレイ!!今すぐ退避しろ!!」

 

うぉっ、声デケェな!?

ってか、ラスタルの野郎焦ってんな珍しい。

 

「あん?どう言う風の吹き回しだ?」

「あの愚か者共…まさかとは思っていたが…」

 

焦ってんのか、かなり一方的に言ってくれるな…まぁ水さす雰囲気でもねぇけどさー。

 

「ひとまず落ち着けよ。何があったんだよ?」

 

リラックスリラックス…。

 

「何があったどころではない!!奴らは…」

「オジサ〜ン。見つけたよ〜」

 

んお、別回線でユハナちゃんからも連絡きた…。

 

「おいこらユハナ。まだ油断するんじゃあ…」「って…何アレ?」

「ユハナ、聞いてるのかって…」

「よもやダインスレイヴを賊に提供するなど…!!」

 

ああ…なんだ。そのことかよ。

 




間を開けての投稿…ちょっとドキドキしますね。
齟齬があったら申し訳ない…。


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104話

続きができましたです〜。


「やっぱオメェ…坊っちゃんだなラスタル」

「なんだと貴様!?」

 

憤って思わず椅子から立ち上がるラスタルだが、そんな彼をジャスレイはまあ落ち着けよと片手で制する。

 

「確かにダインスレイヴそれそのものは脅威さ。存在自体が厄介極まりない。だが…」

 

ラスタルが席に着くのを確認し、一拍間を置くと、ジャスレイは続ける。

 

「例えばだがよ…その辺の乞食に銃を投げて寄越して、それ使ってどこそこの誰それを殺してこいなんて言っても、その成功率はたかが知れてんだろ?」

「それは…確かにそうだが」

 

だろう?と相槌を打ち、ジャスレイはさらに続ける。

 

「連中が火星付近でチョロチョロしてたのが大体半年前。

ガンダムフレームを掘り起こすのにかかったのがひと月として、稼働やら調整その他諸々…どんなに早くても三ヶ月はかかったろうさ。つまりマトモにアレに触れる期間は二ヶ月程度しかなかったってことだ」

「……………」

 

ついにラスタルは沈黙して、ジャスレイの考えに耳を傾ける。

 

「ガンダムフレームの操縦も…少なくともズブの素人のオレの不意打ちでやられる程度にはおぼついてねぇ。そこにギャラルホルンの年寄り連中がこれを使えって投げてよこしたダインスレイヴ…連中に上手く扱えると思うか?アリアンロッドの訓練期間はどんなモンだよ?」

「確かに…普通ならば年単位で訓練を積ませるものだな」

 

ジャスレイの言葉に冷静さを取り戻したのか、考えるような素振りを見せるラスタル。

 

「そもそもああ言うのは視認もされねえような超長距離からの精密射撃か数を任せての一斉掃射が基本だろ。

だが今回はユハナ達に見つかる程度の距離で、しかも見つかりにくさを重視したからかデブリ帯に邪魔されて横に展開できねえ程度の数しか用意されてねぇ。なら…対策なんぞ幾らでもしようはあんのさ…」

 

ジャスレイはピンチの時ほど不敵に笑う。

ラスタルはそれを思い出していたのだった。

 

□□□□□□□□□

 

ふはははは!!残念だったなぁ!!

このオレの器と肝っ玉の小ささ舐めんなよ〜?

 

オメェみてぇなやつが追い込まれて何するかなんてなぁ…こちとら何十遍と見とんじゃいボケ!!

 

特にダインスレイヴくんは鉄華団ボロッカスにした爪楊枝なこたぁ分かってんだよ!!主にMAD動画でなぁ!!

存在そのものが死亡フラグだもんなぁ!?

当然生き延びるために警戒するさ、対策だってするさ!!

だってそうじゃあねぇとこっちの商売に支障が出るからなぁ!!

カネが無いと部下へのお給料も払えないし…

かと言って減らしまーすってのも面子的にイヤだし…。

 

「ユハナ…連中の使ってるダインスレイヴの数は?」

「えっと…見た感じ三機…かな?」

 

うんまぁ、そんなモンよね…。

ラスタルの奴はダインスレイヴって聞いてちょっとばかり冷静さを欠いてたみたいだったしなぁ…いやまぁ気持ちはわかるけども…。

 

そもそも向こうの計画自体、どうにもチグハグ感が拭えなくってなぁ?

原作の鉄華団よろしく複数のガンダムフレーム持ってますってんなら強気に出るのもわかるんだけども…フラウロス単体でああも大上段に構えられるのも妙って言うか…。

でもダインスレイヴを撃つ手段が他にもあるってんなら話は変わるよなぁ。

 

「ハン…まぁやっぱンなこったろうと思ったぜ…味な真似考えんじゃあねぇかよ」

 

でもここにフラウロスが復活されると厄介だな…ボヤボヤしてたら蜂の巣確定だ。

 

これはもう…本格的に…。

 

「速攻でカタをつけるっきゃあねぇな…」

 

アレを使うのが一番なんだよなぁ…。

パイロット連中に無茶を強いることにはなるけども…。

まぁそこは後から補填すればなんとか…。

 

「『スヴェル』を投入する。オメェら…こっからが正念場だ、気張れよ?」

 

ウォォォォォ!!

 

……盛り上がり過ぎじゃね?

 




次回、多分決戦。


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