英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~ (黒やん)
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プロローグ

ども、はじめまして司です

 

早速で悪いんスけど一つ質問させてもらいます

 

「ここ…どこだ…?」

 

そう、気がついたら何か知らんけど真っ白な空間に 立っていた

 

…え?話し方急に変わった?

 

こっちが素だけど何?

 

まあ話を戻すと何で俺はこんな訳のわからん場所に いるのかってことだ

 

「オイオイオイオイ何ですか?目が覚めたら異空 間でした~って何のテンプレだよ。つーかそもそも 俺生きてるよ?お前死んだから転生しろ~ってフラ グは有りませんよ~?」

 

とか誰もいないのに言ってたら急激に虚しさが…

 

あっ、ヤベ。涙でそう。

 

そこ、ヘタレとか言うな。

 

暫くorzになっていると

 

「待たせたな~…って何しとるんじゃお主?」

 

と、明らかにイケメンな、だけどなんとなく胡散臭 ~い雰囲気を纏った人がいつの間にか背後にいた

 

「…お前いつの間にそこに?」

 

「『オイオイオイ…』のあたりから」

 

「いや声かけろやぁぁぁ!!めちゃくちゃ恥ずか しいじゃねーかバカヤロ―!」

 

「お主…仮にも神に向かってバカはないじゃろ…」

 

「知るか若爺!バカはバカだ!…って神!?」

 

「その通りじゃ北川司。 いや~すまんの~今回の事はこっちのミスでな~」

 

今回の事って俺がここにいる事か?

 

「そっちのミスなら俺は帰れるのか?」

 

「神ってわかっても敬語は使わんのじゃな… それは無理じゃ」

 

「こんなしょうもないミスするバカに敬語なんか 使えるか 何でだよ?」

 

「そりゃあお主死んだからのぅ」

 

「………………は?」

 

俺が死んだ?イヤイヤイヤイヤ無い無い無い無い

 

「冗談はその見た目と口調のミスマッチだけにし ろよ。 つか戻せ。今すぐ戻せ。さあ戻せ」

 

「無理」

 

「即答!?ちょっとは考えるとかしろや!」

 

「無理なもんは無理じゃ だってお主、隕石が頭に直撃してしんだから体は木 端微塵じゃもん。」

 

木端微塵って…マジかよ…

 

と、再びorzになっていた俺だったが

 

「ただお主はこっちのミスで死んだ事もあるから の、転生させて再び輪廻の輪に放り込むことに決ま った」

 

…何ですと!?

 

「爺、最初にそれを言え!」

 

「お主がワシの言葉をちょいちょい遮って質問す るのが悪い。で、転生先なんじゃがな…」

 

そこで一旦言葉を切る神

 

「実はの…お主に何個かの選択肢の中から選んで もらおうと「よっしゃ~!」」

 

転生先選べるとかテンプレじゃねーか!夢にまでみ たチート無双じゃねーかぁぁぁ!

 

「落ち着かんか!…さっきも言ったがあくまで“い くつか”の中からじゃ。あんまり有名な所は転生先 として人気じゃからな。世界が空いてないんじゃ」

 

「…どんだけミス多いんだよ神なのに」

 

「言うな。 それでお主の転生先じゃが…この中からくじ引きじ ゃ」

 

「イヤそこは選ばせてくれるんじゃねーのかよ! ?」

 

「贅沢を言うな。さあ、引くがよい」

 

そう言って神はごく普通の紐式のくじを俺に差し出 して来た

 

俺は諦めて大人しく引こうとしたが

 

「おおっと!忘れる所じゃった。お主に5つだけ 向こうに行ってからの特典をやろう。さあ言ってみ るが良い」

 

「マジで!?」

 

これは本格的にチート無双のチャ~ンス!

 

「じゃあまずはテイルズの術全部使えるように それと身体能力だな…これはあれだ、限界を無くし てくれ。鍛えたら鍛えただけ強くなるみたいな感じ に」

 

「ふむ…これだけでも十分チートじゃな…他には ?」

 

「これだけでも十分だけどなぁ…じゃあアレ、写 輪眼欲しい。使っても視力は落ちないやつで」

 

「もう戦闘面だと目も当てられんくらいチートじ ゃな…後二つじゃ」

 

「ん~…じゃあ見た目だな。黒猫のトレインみた いなのがいい。後は俺専用の武器がいい。小太刀と 太刀で、どんだけ切っても切れ味は落ちない、折れ ないやつ」

 

「やりたい放題じゃな…(くじとは言え流石に5 つは不味くないかの?最高神様よ…)」

 

「結構無茶言ったんだけどいけんのか?」

 

つーか今言った能力、戦闘無しの世界だとかなり意 味ないな

 

「無問題じゃ。じゃあ転生先を決めようかの」

 

「よし…これだ!」

 

「うむ…なになに?『英雄伝説空の軌跡』だそう じゃ」

 

なん…だと…?

 

「ネ〇まじゃなく?」

 

「空の軌跡じゃ」

 

「リリ〇のでもなく?」

 

「英雄伝説じゃ」

 

本日三回目のorzに苦しんでいると

 

「む?時間じゃな…良いか北川司?一応向こうで は記憶はそのままじゃが精神は肉体に引っ張られる からの。気をつけて行ってくるんじゃぞ?」

 

「行くってどうやっ…て?」

 

再び気がつくと、足元に穴が開いていた

 

「良い旅を~」

 

「てめっ、クソ爺!いつか覚えてろォォォォォォ !!…」



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『名前』

おっす!オラ司!

 

…前回と入りが一緒とか言うな。俺だってなぁ…

 

「おぎゃ~~~!(転生して目覚めたら赤ん坊で したとか予想してなかったんじゃぁぁ!!)」

 

何この羞恥プレイ。プライドも尊厳もあったもんじ ゃねぇよ…

 

首ブランブランだし、動けねぇし、おぎゃ~しか喋 れねぇし。

 

つーかマジで腹減ったんだが。ガチで餓死すんぞ? 赤ん坊って燃費最悪なんだぞ?

 

…いやその前に今目の前にあるのが城なのに一人と して通りかからないってどういうことだよ

 

「う~~~(頼むから誰か通れ!)」

 

…十分くらいじっと誰かが来るのを待っていたが、 いい加減どうしょうもないし暇なので、空腹を紛ら わすためにもとりあえず状況整理をする事にした

 

…まず、俺は神様のミスで死んだ。これは間違いな い。本人が言ったのだから。

 

それで何か知らんが転生する事になって、神様に5 つ願いを聞いてもらって『英雄伝説空の軌跡』なる 世界に転生した訳だけれども…

 

「(転生初日から死にかけるって何?)」

 

正直これはねぇだろ、と半ば諦めていたが…

 

「…え?子供?」

 

突然声が聞こえて抱き上げられる感覚があった

 

ふと見上げると、そこには11、2才くらいの男の子 ?がいた

 

…だって声は女の子だったんだもん

 

「城の前に捨て子とは…そこまで厳しい時代にな っ たのか…?」

 

はい、女の子でしたね。声が違うわ。

 

まあ、そんなこたぁどうでもいい!(←失礼)

 

今の俺の最優先目標は…腹を満たす事っ!

 

見つけてくれてありがとう!さぁ、俺を君のお母さ んの所に連れて行ってくれ!

 

「あ~、あ~」

 

秘技っ!

 

テンプテーション 誘惑 っ!

 

「///(か、可愛い!)」

 

こうかはばつぐんだ!

 

「どうしようか…このままここに置いて行く訳に は 行かないし…かと言っていきなり七耀教会の孤児 院 に連れて行く訳にも…」

 

何かかなり悩んでいる様子の女の子だが、俺はでき る事をした。後は運に任せるだけだ。

 

「…うん、とりあえず連れて戻って女王様や皇太 子 様にどうしようか相談しよう。 …君、一緒にお城に 行こう?」

 

女の子が笑顔で俺に言って来たので俺も笑顔で答え る

 

…やっと飯にありつけるぜ‥

 

…イヤ、ちょっと待て、今この子女王様って言った !?

 

sideアリシア

 

「よーしよしよし…ばぁ~」

 

「きゃっきゃっ!」

 

私は今つい先日生まれた孫のクローディアをあやし ている

 

これがまた可愛いのなんのって…目に入れても痛く ないとはこの事かしらね?

 

「女王様~!」

 

にしても、あの二人も私がクローディアにべったり だからって街に出掛けなくても…

 

「女王様~」

 

仲がいいのはよろしいのだけれど、いつまでも新婚 気分は考えものね…

 

「女王様!!」

 

「!?…ユリア?急にどうしたのですか?」

 

「急に、ではありません。何度もお呼びしました よ…」

 

「え?…」

 

ま、全く気づかなかった…

 

「…さてはまたクローディア様に夢中で…」

 

う…ユリアの視線が冷たい…

 

「そ、そんな事より!何かあったのですか?あな たが慌てて私を探すなんて珍しい…」

 

とっさに話を逸らそうと、話題を変える。実際この 子が慌てる姿なんてめったに見れないものね

 

「それが…」

 

ユリアが抱えている何かを私に差し出す

 

「?…って、子供!?何故!?…ユリア貴女まさ か …」

 

「違います。思考を変な方向に飛ばさないで下さ い」

 

「冗談の通じない子ねぇ…この子は?」

 

見たところ1、2才くらいのようだけど…

 

「城の正門の前に置かれていました。多分ですが … 」

 

「捨て子…ですか」

 

「恐らくは…」

 

こんなに可愛い男の子なのにねぇ…そうだわ!

 

「この子、この城で保護しましょう!」

 

「…………は?」

 

「だから保護しましょう。あ、教育係は貴女にま かせるわ。クローディア共々よろしくね」

 

「は、はっ!…しかし、この少年を保護するのは … 」

 

「あら、貴女も一応保護されている身なのだけれ ど?」

 

「私は軍を通じての保護です!王家が直接保護す るなど…」

 

固いわねー。全く、誰に似たのかしら?

 

「いいのよ。ちょうどクローディアより一つ上く らいだろうし。話し相手…いえ、友達になってあげ て欲しいの。」

 

「………」

 

「あの子はこの城の中では年の近く子もいないし … 貴女が姉のようになってくれて、この子が友達に なってくれれば退屈もしないでしょう?」

 

「…………」

 

ユリアはまだ納得していないような様子だったけど 、、はぁと溜め息をついて

 

「……わかりました。姉代わり、務めさせていた だ きます」

 

「よろしくお願いします」

 

また楽しくなりそうね

 

side out

 

…起きたら何かよくわからんが、この人…リ ベール 王国?の女王様、アリシアさんに保護される 事に なったみたいだ

 

「よーしよしよし…ばぁ~」

 

「きゃっきゃっ!」

 

「………」

 

「あら?笑わないわね…クローディアはこんなに 喜 ぶのに…」

 

ただ一つ思ったのは…

 

この人本当に女王ですか?

 

なんかごく普通の孫思いのおばあちゃん(多分50 くらい)にしか見えん

 

いや、そりゃあ女王様も人間なんだから当たり前な んだけどさ…俺のイメージってもんがあった訳です よ。

 

けど実際は実の両親が子供と触れ合おうとするのを 諦めるくらい孫にべったりなおばあちゃんだった訳 ですよ

 

何だかな~

 

「あ!そう言えばまだ名前を決めてなかったわね … どんなのがいいかしら?」

 

…ついにきやがったァァァ!

 

ヤバい。これはまたこれでヤヴァイ。どんくらいヤ バいかと言うとマジヤバい

 

今まで慣れ親しんできた名前が変わるって結構キツ い。反応出来ないかもしれない…

 

だから!できれば司で!いや、こっちだとツカサか 。ツカサにしてくれェェェ!

 

「…うん、決めたわ。貴方の名前は…」

 

ツカサだ!ツカサと言えェェェ!

 

「…ケイジ。」

 

ぐはっ(吐血)

 

グッバイ…司…!

 

「後はファミリーネームねぇ…どうしようかしら … 」

 

そこはせめてキタガワで!…望み殆ど無いけどな! (ヤケ)

 

「そうね…ルーンヴァルト。ケイジ・ルーンヴァ ル ト。貴方の名前よ?これからよろしくね、ケイジ 。」

 

俺の名前ェェェェ!!

 

せめて面影くらいは残して欲しかったァァァ!!

 

と、内心かなり落ち込んでいたのだが、アリシアさ んは全く気づいていないのか、嬉しそうに俺を抱き 上げていた

 

…すみません。俺精神年齢19です。これから下がる らしいけど、今は19なんです…

 

この扱いに慣れるまで、俺の精神がすり減っていっ たのは言うまでもない

 

…そういやクソ爺(神様)に頼んだ俺の武器ってど うなったんだ?



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『学園』

ガギィッ!!

 

剣戟の音が訓練場(という名目の中庭)に響き渡る

 

「………」

 

「………」

 

ギリギリギリ…ッ

 

同時に仕掛けたために、鍔迫り合いになるが…

 

「…せいっ!」

 

「ちっ…」

 

そこは経験の差か、ユリ姉に弾かれ、距離を取られ る

 

再び睨み合いになり、膠着状態になる。

 

ユリ姉はいつもの半身の構えで、俺は抜刀術の構え で隙を伺う

 

「………ッ!」

 

暫くその状態が続いたが、状況が進まないと見たの か、猛スピードで俺に接近するユリ姉

 

そのまま目にもとまらない速さで俺を斬った…よう に見えた

 

「(やったか…?)ッ!?」

 

ユリ姉が俺の姿を確認しようと首だけを動かして気 配を探る

 

…でも、もう遅い

 

「………なぁ!?」

 

「遅い。…鳳仙華(ほうせんか)ッ!」

 

俺は自身の戦技…クラフトの一つである鳳仙華の初 動、斬り上げをユリ姉に当て―

 

「ケイジ~、ユリアさ~ん、お茶の準備が出来ま したよ~!」

 

ズシャァァァ!

 

「…毎回思うが痛くないのか?」

 

「クローゼェェ!何でいつも決着がつくっていう ベストタイミングでストップかけんだよ!」

 

「ええ!?そんな事狙ってできないよ!?」

 

「いーや!狙ってるとしか思えねぇよ!もう三回 目だぞ!?」

 

「知らないよ!それに勝ちたいならもっと早く決 着つけなよ!」

 

「まあ、そのお陰で私にまだ負けがないんだがな … それにこれ以上ケイジに強くなられると私の立つ 瀬がありませんよ、クローゼ」

 

「…むぅ…でもユリアさん!ケイジったらいつも 模 擬戦が引き分けだからっていっつも鍛錬ばかりな んですよ!?」

 

クローゼがユリ姉に抗議している

 

い~じゃねーかよ、鍛錬くらい

 

それにちょいちょいクローゼも参加してんじゃねー か

 

するとユリ姉ははあ~と深い溜め息をついて、

 

「ケイジ…もう少し殿下を構ってやれ」

 

「そういう事じゃ…まぁ、構って欲しくない訳じ ゃ …(ゴニョゴニョ)」

 

?最後の方聞こえなかったんだが…

 

しかもユリ姉はなんか生暖か~い目でクローゼ見て るし…

 

「…気が向いたら」

 

「…はぁ~…どうせそんな返事だと思ってはいた け ど…」

 

「はぁ…どうしてそうお前は鈍感なんだ…どこで 育 て方を間違えたかな…?」

 

何か知らんが二人に溜め息をつかれた。…俺自分で 人より感覚は鋭い自身あるんだけどなぁ~

 

「「はあ~」」

 

…何か腹立つな~(怒)

 

sideクローゼ

 

「…………」

 

「…美味しい?」

 

こんにちは、皆さん。クローディアです。

 

今日はおばあ様にケイジ共々お茶に誘われました。 なので前々から作り方を教わって練習していたアッ プルパイをケイジに食べてもらっているのですが…

 

「…………」

 

「…ケイジ?ねぇ…」

 

「………」

 

「…反応しませんね(苦笑)」

 

ケイジが感想を言ってくれません

 

黙々と食べ続けてます

 

…食べてくれてるって事は不味くはないと思うんだ けど…

 

暫くして、ケイジが食べ終わった

 

「…………けぷっ(凄くご満悦な表情)」

 

「ケイジ」

 

「ん?」

 

「あの…どうだった?」

 

「………」

 

うう…何かいざ感想を聞くと緊張する…

 

ユリアさんは美味しいって言ってくれたんだけど…

 

「クローゼ…」

 

「う、うん」

 

「めちゃくちゃ美味かった」

 

「ほ、ホント!?」

 

「お、おう…」

 

「………♪」

 

やった♪ケイジが美味しいって言った~♪

 

「(何でコイツこんなに嬉しそうなんだ?…ああ 、 自分のお菓子が上手く出来たからか)」

 

「ふふふ…(クローゼったら…立派に青春してる わ ね。あの子達も15才になった事だし…そろそろい い かしら?)」

 

今度はケーキを作ってみようかな?

 

side out

 

「ねぇ二人共」

 

「なんですか?」

 

「?どうかしたのですか?おばあ様」

 

いつも通りに鍛錬の後にクローゼとお茶してだべっ て(今日はアリシアさんに誘われたらしいが)いた ら、今まで俺とクローゼのやりとりを静観していた アリシアさんが急に改まって俺達に話しかけてきた

 

「貴女ももう15才になった事ですし、城に籠も っ てばかりいないで、一度社会に出るべきだと思う のです」

 

「それは…」

 

「まあ、その通りですね」

 

むしろ15まで外に自由に出れないなんて、どんだ け箱入り娘だよ…あ、姫さんだったか

 

え?俺?基本出入り自由だよ?だからちょくちょく グランセルの闘技場とか行って修行ついでに小遣い 稼いでますよ?

 

…ちなみに闘技場に行く時はフードで顔隠してるか ら正体はバレてない

 

…何か話がそれたな。つまりはアリシアさんはクロ ーゼに一般常識とか社会の感じとかを実際体験して 欲しいんだろう。

 

それに関しては大賛成だ。城にいれば、家庭教師が いるから教養は身に付くが、一般常識となると、少 し勝手が変わってくる城にいて身に付くのは作法、 市民に対しての振る舞い方などだ。

 

とてもじゃないが一般常識なんぞ学べる場所じゃな い

 

俺は普通に接しているが、あくまでクローゼは王家 の人間だ。当然兵士やメイド達はクローゼを“クロ ーゼ”としてではなく“姫”として接する

 

…そんな環境で“常識”なんてわかるはずがない

 

アリシアさんもそれを危惧したのだろう

 

…となると、やっぱ年齢的にも、常識的にも行く場 所は…

 

「それでですね、クローゼ。学校に行ってみる気 はありませんか?」

 

そう、学校だ

 

まあ15って言ったら中3か高1だしな

 

「学校…ですか?」

 

「ええ。とある学園に知り合いがいましてね。そ こでなら貴女の素性を隠して通えます。それに全寮 制ですから、安全面でも心配ないでしょう」

 

「………」

 

何故かクローゼが俺をチラチラ見ている

 

…何でこっち見てんだ?

 

「それとも…嫌ですか?」

 

「いえ、そんな事は無いのですが…」

 

再び俺をチラリと見るクローゼ

 

だから何でこっち見んだよ

 

「(…ああ、そういう事ですか)心配ありません よ クローゼ。勿論ケイジも一緒ですから。」

 

爆弾発言をのたまいなさるアリシアさん

 

…今なんて言ったこの人?

 

「本当ですかおばあ様!?」

 

「ちょ、アリシアさん!?何で俺まで!?」

 

「あら、貴方だってクローゼと同い年じゃないで すか。それに貴方はクローゼを護るんでしょう?」

 

「うっ…」

 

それを言われると俺はもう反論できない

 

俺は数年前、ある誓いをした。他の誰でもない、俺 自身に。

 

それを破るのは俺のプライドが許さない

 

「…はぁ…わかりましたよ」

 

「ふふ、それではクローゼをよろしくお願いしま すね?(未来の旦那様候補として)」

 

…今なんか誰かに狙われた気がしたけど…気のせい か?

 

「わかりました。出来る限りサポートさせて頂き ます」

 

…まぁ、せっかく俺まで学校に入れてくれるって言 うんだから、お言葉に甘えて学園生活を楽しむとし ますか

 

「(ケイジと学校…つまりはケイジと…)」

 

…とりあえず隣でトリップしてるバカは放置しとこ う。何か幸せそうだし。もう黒ーゼは見たくねぇし 。

 

「…あ、そうだ、二人共、編入試験は一週間後で す よ」

 

「「………はい?」」

 

「編入試験はかなり難しいそうですよ。頑張って 勉強しなさいね」

 

「(一週間…なんとかなるかな…?)」 ケ「え~… 編入試験~…面倒くせぇ…」

 

「ふふふ…まあ、諦めてちゃんと勉強する事です ね 」

 

「は~い」

 

まあ、しませんけどね

 

~試験当日~

 

「用意は出来ましたね?それでは…始め!」

 

ついにただの一度も勉強する事無く試験当日を迎え た

 

クローゼの方はこの一週間みっちり勉強していたみ たいなのでまず通るだろう

 

ま、俺も試験くらいはやる気だしますか

 

「(なになに…問1、半径rの円と半径2rの円が一 辺 aの正方形の内部に~略~…これを解け…)」

 

…これ大学レベル、しかも多分東大入試レベルじゃ ねーか。

 

え?何?普通の学園じゃねーの?そりゃあ全寮制っ て聞いた時からおかしいな~とは思っていたけどさ ぁ…

 

「(まあいいか。余裕で解けるし。)」

 

転生前にハーバードを現役で主席合格した俺に不可 能はないぜ!

 

~試験終了~

 

「…………」

 

「お~いクローゼ~、生きてるか~?」

 

試験が終わった瞬間、クローゼが机に倒れ込んだ

 

まあ、そりゃあ半日丸々休み無しで試験受けてりゃ そうなるわな

 

「…ケイジは何でそんなに平然としてるの?」

 

「いや、簡単だったし」

 

「嘘だッッッ!!」

 

「うおっ!?ちょい待てクローゼ!その発言はな んかマズい!」

 

「…ケイジがいけないんだよ?あ んな試験を簡単な んて言うから…」

 

「ちょ、待て!レイピアを出すな!」

 

「クすくスくすクス…」

 

「笑いながら突くなァァ!正気に戻れェェ!ちょ 、警備員さーん!!」

 

~しばらくお待ち下さい~

 

「「ぜー、ぜー、ぜー…」」

 

あの後、俺の声に何事かとやって来た警備員と共に 黒ーゼをなだめる事に成功した

 

「…すみません、ご迷惑お掛けしました…」

 

「いや、大丈夫だ…しかし何があったんだ?」

 

「…とりあえずコイツがここに入ったら機嫌だけ は 損ねない事をオススメします」

 

「ああ…そうするよ…」

 

「すー…すー…」

 

クローゼは気が済んだのか寝てしまった…ったく、 誰がこの後グランセルまでおぶると思ってんだ。も のっそい目立って恥ずかしいだろうが

 

「じゃあそろそろ俺達は帰ります。定期便の時間 もありますし」

 

「そうか…君達ここに編入するんだろ?これから よ ろしくたのむよ」

 

「合格したら、ですけどね。こちらこそコイツ共 々お願いします」

 

「ははは、そうだったね。じゃあ合格してる事を 祈っているよ」ケ「ありがとうございます。じゃあ 俺達はこれで…」

 

「ああ、またね」

 

またね、か…試験、コイツも受かってたらいいな~

 

そんな事を考えながら俺はクローゼをおぶって帰路 につくのだった

 

…勿論、クローゼをおぶって定期便に乗った俺は凄 く目立ってしまい、ものすごい恥ずかしい目にあっ たのだった

 

「ふむ、クローゼ・リンツ…1000点満点中678点…5 00点で合格という事を考えるとかなり優秀な成績 じゃな… さて、もう一人の方は…ケイジ・ルーンヴ ァルト…1 000点満点中…1000点!?満点じゃと! ?ほぼ卒業 試験級の試験を…

 

……こやつ、ここに入る意味あるのかのぅ…?」

 

その日、やけに沈んだ学園長ともの凄く騒がしい職 員室が、生徒達の間で疑問に思われていたらしい…



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『生徒会』

「…ふむ。これで入学手続きは全て終了だね。…改 めて、ジェニス王立学園へようこそ。クローゼ君、 ケイジ君。」

 

「あ、こちらこそ。お世話になります。」

 

「………」

 

…ん?珍しいな。クローゼが挨拶されて何の反応も しないとは

 

「…クローゼ君、君はキチンと学園が課した編入試 験を合格した。もっと堂々と胸を張ってもいいので はないかな?」

 

「コリンズ学園長…」

 

…ま~たこの阿呆は馬鹿な事考えてやがったか

 

「…クローゼ」

 

「何?ケイジ…っていひゃいいひゃい!ふぁなふ ぃて~(痛い痛い!離して~!)」

 

俺はネガティブ思考をまた展開するクローゼの頬を 両側から引っ張る

 

お~よく伸びるな~

 

「どうせまたお前『自分が王家の人間だから~』 とか何とか考えたんだろ?」

 

「ふぁっふぇ…(だって…)」

 

何か言おうとしたクローゼの頬をさらに引っ張る。

 

…クローゼは手をばたつかせて逃れようとするが逃 がすわけねぇだろ(笑)

 

「ま~だそんな事を言うかその口は~?」

 

「いひゃいいひゃい!ふぉんふぉひいひゃい!ふ ぉめんなふぁい!ふぁふぁふぃふぁふぁふふぁっふ ぁふぇふ~! (痛い痛い!ホントに痛い!ごめん なさい!私が悪 かったです~!)」

 

ほぼハ行で構成された言葉を解読してクローゼの頬 から手を離す

 

俺から解放された瞬間、クローゼは俺から距離を取 って睨んでくる

 

…そんな涙目で睨まれても全く怖くないな

 

「うう~(泣)」

 

「…そもそもあのアリシアさんが贔屓なんかする 学 校に通わせる訳ないだろうが。」

 

「それは…そうだけど…」

 

正直、あの人以上に公平、平等、公正、誠実な人を 見た事がない

 

あの人が贔屓を認めるとか…天地がひっくり返って も無い

 

「ちょっとは自分に自信持てよ。自信過剰になる のはダメだが、お前は自信持たなさ過ぎだ。

 

一週間一生懸命勉強したんだろ?その成果が 出た って事でいいじゃねぇか」

 

「ケイジ…」

 

「その通りだよ、クローゼ君。私は女神(エイドス)に誓って 贔屓なんかはしていない。君はクローゼ・リンツと して正規に試験を合格したんだ。もっと自信を持ち なさい」

 

「…だそうだ。これでもまだ不満か?」

 

…これで不満だったら“お仕置き”喰らわしてやる

 

「(ビクッ!?) う、ううん。ありがとう、ケイジ。……学園長、これからよろしくお願いします」

 

ようやく納得したのか、学園長に頭を下げるクロー ゼ。

 

うんうん、人間素直が一番だな

 

「さて、それじゃあこれから君達は寮生活になる わけだが…」

 

あ、説明ですか。切り替え早いッスね

 

「君達の荷物は既に寮の前で待っている君達のル ームメイトになる人に預けてある。 寮生活は基本 的には自由だが、細かい事は彼らに聞 いてくれ」

 

「了解です」

 

「はい」

 

「それと、明日は朝にクラスメートたちに顔合わ せしたらその後はジル君とハンス君…君達のルーム メイトに学園を案内してもらいなさい」

 

「あ…ありがとうございます。」

 

「私からの説明は以上だ。君達の学園生活が実り のあるものになるように祈っているよ …ああ、女子 寮は正面玄関から真っ直ぐ中庭を抜け て右、男子 寮は左だ」

 

その後俺とクローゼは学園長にお礼を言って寮に向 かった

 

「…にしてもあの少年、本当に15か?教師として 雇 っても問題ない位の精神年齢だね…」

 

ケイジ・ルーンヴァルト、実質的年齢、30代の男

 

中庭を抜けた所でクローゼと別れて寮に向かう

 

何か残念そうな顔をしていたクローゼはスルーした

 

中庭を抜けた辺りから既に寮は見えていたので、時 間はそんなにかかっていない

 

「…おっ、アンタが新入生か?」

 

薄紫の神に少しそばかす?が散った顔の少年が寮の 前に立っていて、俺の姿を見つけるとすぐに近寄っ てきた

 

「ああ。ケイジ・ルーンヴァルトだ。これからよ ろしくな」

 

「おう!俺はハンス。歓迎するぜ! いや~今まで 一人部屋だったから寂しかったんだよ な~」

 

…うん、ノリはよさそうだな

 

「じゃ、とりあえず部屋に案内するよ。疲れてる だろ?」

 

まあそりゃあ。定期便の中でずっとクローゼのネガ ティブ思考を聞かされてたからな。

 

って言ったら一瞬で

 

「お仕置きされたいか?」

 

 

 

まあ

 

黙ったけど

 

その頃クローゼは…

 

「!?(ブルブル)」

 

「?どうしたのクローゼさん?」

 

「け…ケイジが…」

 

「ケイジ?」

 

「い、嫌!“お仕置き”はいやああぁぁ!」

 

「ちょ!?クローゼさん!?クローゼさぁぁぁん !?」

 

何故かケイジの思考を悪い方向にキャッチして軽く 錯乱していたそうな…

 

「ここだ。さあ入った入った!」

 

「ん。お邪魔しまんにゃわぁ~」

 

某貧乳貧乏神のセリフで部屋に入る

 

「…おお!?なかなか広い!」

 

「だろ?本来は三人部屋らしいからな」

 

俺は早速荷を解き始めるその途中

 

「ルーンヴァルト」

 

「ケイジでいいぞ?俺もハンス(笑)って呼ぶか ら」

 

「(笑)ってなんだ!?俺のなにがおかしいんだ よ!」

 

「存在」

 

「即答!?つーか初対面でここまで他人を弄り出 す奴初めてだよ!?」

 

「いや~何かハンスから“弄ってくれ”的なものが …

 

「出てねぇよ!?」

 

予想通り。コイツは弄られ役だ。

 

「まあ、冗談はさて置き…」

 

「真顔で冗談言うなよな…」

 

ハッハッハ、これくらいで疲れてたら俺のルームメ イトは務まらんぞ?

 

「これからよろしくな?ハンス。」

 

「…ああ、こちらこそよろしく頼むよ」

 

まあ、何だかんだで楽しくなりそうだ…

 

翌日、クローゼと一緒にクラスに顔を出して、ハン スとクローゼのルームメイトのジルに学園を案内し てもらった

 

…クローゼがやけに他人行儀だったのが気になった が…まあ、そのうち治るだろう

 

~1ヶ月後~

 

「zzz…」

 

「ケイジ、起きて…」

 

「zzz…」

 

「ケイジ~…」

 

「zz…ん~…後五年…」

 

「待てるかっ!!」

 

「ごっ!?」

 

いった~!めちゃくちゃ痛っ!?

 

せっかく気持ちよく寝てたのに…ん?

 

「あれ?会長どこいった?」

 

「わからない。ジル達も必死に探してるんだけど …

 

さっきまで隣でくつろいでいたんだがな

 

流石サボリ魔。逃げ足はもはやルパン並みだな

 

それはともかく、ここ1ヶ月でクローゼは固さが取 れた

 

…ちょっとだけ。

 

まだジルやハンス、生徒会の人達以外にはちょっと 固い

 

でもまだマシになったんだぜ?始めの二週間なんか 同級生と別れる時に「それではこれで失礼いたしま す」だぞ?

 

…しかもその時に「どこの召使いだよ。バカだろ」 って言ったらダイヤモンドダスト喰らいそうになっ た

 

このままじゃマズいって事であえてクローゼと距離 を置いてみたらこれが成功したようで、ジルとハン スは呼び捨てに出来る位仲良くなり、生徒会の人達 とも関わりを持ったみたいだ

 

ついでに、結構昔にクローゼ共々お世話になった孤 児院の院長先生、テレサさんとも再開。

 

残念ながらご主人は亡くなってしまったらしいが… テレサ先生に会えただけでも嬉しかった

 

…クローゼなんか泣きついてたからな

 

…そのネタでからかったら顔真っ赤にしてアクアブ リード連発された…いや~流石にあれは死ぬかと思 ったね、うん

 

その後、なんやかんやあって俺とクローゼは生徒会 にこそ入ってないものの、生徒会の手伝いをしてい る

 

…この生徒会、最重要にして最優先任務が

 

生 徒 会 長 の 捜 索

 

である

 

……今「それだけ?」とか思った奴、前に出ろ。今なら半泣かせで許してやる

 

現生徒会長…レクター・アランドール

 

生徒会長なのに、制服改造、授業のサボり、ギャン ブル、etc…

 

コイツ本当に生徒会長か?という生徒会長だ

 

特徴としてサボリ魔。しかも逃げ足はルパン並み。 さらに無駄に頭いいから裏掻きまくって捕まらない

 

…個人的にはノリがいい人、くらいに思ってる。後 サボり仲間とも。

 

…とりあえずクローゼが俺をわざわざ起こしてくる 用事って言ったら一つしかない

 

「…で?何か用事か?」

 

「うん。会長を捕まるのを…」

 

「だが断る」

 

「ええ!?いいじゃない!」

 

「やだよだりーよ面倒くせぇよ。いつも通りジー クに探してもらえ」

 

因みにジークって言うのはシロハヤブサで、軍の通 信ができない場所への連絡係だ。

 

飛空艇が使えなくなった時、ジークより速い連絡手 段は無い、と言われるくらいチートなハヤブサであ る

 

「もうお願いしたよ。でも建物の中に逃げ込んだ みたいで…」

 

「…はあ…」

 

あの人もまた面倒くさい事を…

 

…確かこの前が旧校舎、その前が中庭の木の上…そ う来れば今回は…

 

「…体育館。」

 

「え?」

 

「多分体育館だ。横の階段上がったとこら辺で本 でも読んでんじゃねぇか?」

 

「…行ってみる!」

 

「行ってら~」

 

さて、もう一眠りするか

 

余談だが、俺とクローゼが会長を探すのに参加した 事で会長の捕獲率が2割から6割に跳ね上がったら しい。

 

特に俺が手伝った場合の捕獲率は9割だとか。

 

まあめったに手伝わねーし、むしろ一緒になってク ローゼから逃げてる方が多いんだがな。

 

…つーか場所完全に読み当ててんのに逃げ切るとは …本格的にルパンⅣ世目指せんじゃねーか?



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『リアル鬼ごっこ』

「ムリムリムリムリ!!何ですかアレ!?完全に 狩る者の目じゃないスか!」

 

「バカヤロー!アレはそんな生易しいもんじゃね ぇ!アレに捕まったら…」

 

「捕まったら?」

 

「…死ぬな」

 

「「好き勝手に悪者にするな~!

 

!来たァァァ!

 

「「ギャァァァ!

 

どーも、ケイジです

 

とりあえず一言言わせて下さい

 

…何でこうなった?

 

―――――

 

そう、あれは今日の放課後…

 

「~♪」

 

俺は授業が終わってやっと何の気兼ねもなく昼寝出 来る!、と意気揚々とクラブハウスの屋根の上に行 こうとしていた時だった

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

確か同じクラスの…名前は忘れたからいいや。Aさ んに話しかけられた

 

「どうした?俺に何か用か?」

 

「ええと、その、あの…」

 

…何かじれったい

 

しばらく待っていると、心を決めた様子で

 

「うん、…あの…初めて会った時から好きでした! 付き合って下さい!」

 

告白してきた

 

…はい?

 

え~っと、この空気は冗談じゃないな。ガチだね。 うん。

 

とは言っても、俺からしたら名前も知らない一般人 Aさんからの告白だったわけで…

 

「…ごめん。」

 

断るしかねーじゃん。遊びで付き合うとか最低だと 思う

 

「…そっか。ごめんね。急に変な事言っちゃって」

 

「いや、こっちこそごめんな?せっかく勇気出し てくれたのに断って」

 

「いいの。何となくこうなるのわかってたから」

 

その後、少しだけ話して、そいつを慰めて俺達は別 れた

 

…俺もバカじゃないからアフターケアくらいはしま すよ

 

あ、そういや名前聞くの忘れた

 

そんな事を考えながら後ろを向くと…

 

「………」

 

ものっっっすごい笑顔のクローゼがいた

 

その笑顔を見たら十人が十人惚れるんじゃないかっ て笑顔なんだが…何故だろう。冷や汗が止まらない

 

そんな俺の心境を知ってか知らずか、普段より三割 増しの低さの声で

 

「…今の人、誰?」

 

と仰られました

 

「…多分同じクラスの奴。名前は忘れた。つーか 知 らん」

 

表面上は落ち着いて返答する俺だが、実際は冷や汗 ダラダラの足ガクガクだ

 

…そこ、チキンとか言うなら今すぐ俺と変わって下 さい。お願いします。マジで

 

だって殺気とかそんなんじゃねぇもん。無条件で土 下座したくなるとか初めての体験だぜ?

 

そんな中耐えてる俺を褒めてやりたい

 

「へぇ~知らない人なんだ~…だったらなんで… 告 白なんてされてたのかな?」

 

「俺が知るかよ…こっちが知りたいくらいだ」

 

「へぇ~…それじゃあ無意識であの娘落としたん だ 。凄いね~モテるんだね~ケイジは」

 

…最後の方が恐ろしく棒読みだった

 

「噂じゃケイジのファンクラブまで出来てるらし いしね~…」

 

「…とりあえずお前は何しに来たんだ?」

 

「べっつに~?何も無いけど~」

 

「じゃあブツブツ文句言うなよ~(怖いから)」

 

と、俺は恐怖の余りそう言った。言ってしまった

 

ブチッ

 

何かが切れる音がした(Dグレ風)

 

「フフフフフフフフ…」

 

「く、クローゼ?」

 

「ケイジ…ちょっとO☆HA☆NA☆SHI…しようか ?

 

「何故そのネタを知っている!?」

 

「問答無用!少しは反省しろ~」

 

「何にだァァァ!?」

 

やぶ蛇だったと、思わなかったんだ…

 

――――――

 

それから途中でこれまた何故かルーシーさん(生徒 会の対会長最終兵器)から逃げてる会長を発見、合 流して、魔王二人から逃げている

 

会長は廊下で女子とだべっていたら、何故か般若と なったルーシーさんに追い掛けられてるらしい

 

クローゼ共々謎だ。俺達が何をした!

 

「レクター、いい加減に捕まりなさい!」

 

「嫌だ!今お前に捕まったら俺の中の大切な何か を失う気がする!」

 

「ケイジ、何で逃げるんですか?」

 

「会長に同じ!」

 

「そうですか…あくまで抵抗しますか…」

 

「つーかお前絶対キレてるだろ!お前に敬語なん か使われたの初めてだぞ!」

 

「いやですねぇ…キレてるなんて…ケイジが捕ま っ てくれたら治る気がしますよ」

 

「嫌だ!諸々危険な予感しかしねぇもん!

 

俺が)」

 

「大丈夫ですよ。痛いのは一瞬ですから」

 

「それ何かお前が言ったらダメな気がする!」

 

会長は会長で同じような会話をルーシーさんとして いる

 

くそう、タイムリミット

 

切れば俺達の勝ちだというのに…まだ一時間もある

 

(因みに現在7時)

 

だと!?

 

 

 

「ちっ!切りがない!これは奥の手をきらないと …

 

お願いします。いつもの優しい先輩に戻って下さい 。そしてクローゼの暴走を止めて下さい

 

もちろんそんな儚い願いが叶う訳も無く…

 

「行きなさい!レオ!」

 

「こっちも出番ですよ!ハンス!」

 

ガサッ

 

「「うらぁぁぁ!」」

 

「「!?」」

 

クローゼ達が二人の名前を呼ぶと同時に草むらから レオ先輩とハンスが出てくる

 

「なっ!レオにハンス!?お前ら裏切ったのか! ?」

 

「そもそもお前についていた覚えはないんだが …す まんケイジ、大人しくアレに捕まってくれ」

 

「謹んで遠慮します。それより早くアレを止めて 下さい。」

 

「つーか何でオレには聞かねぇんだ!」

 

頃の行いの差だ」

 

「むしろ会長はざまぁみろって感じだからな」

 

「ひどっ!!」

 

今の状況を説明すると、二人が俺をスルーして会長 をとり押さえていて、その会長が俺の足に半端じゃ ない力でしがみついている

 

「そしてケイジ。すまん。ルーシーはコレを献 上 しなくても明日になれば止まってくれる気はする が…正直ああなったクローゼは止まると思えん。無 駄な抵抗は止めて捕まってくれ(俺達の平穏の為に )」

 

「そうだぜケイジ。ルーシーさんは会長が怒らせ てばっかりだから止める方法はよくわかるが、クロ ーゼは今までに本格的にキレた事がない。つまり止 める方法がわからないって事だ。…そう言う訳だか ら大人しく捕まってくれ(俺達の命の安全の為に)

 

二人共心の声がだだ漏れなんだがな

 

「絶対嫌です。俺の何かが確実に危ないんで。… と 言う訳で離して下さい会長。」

 

もう奴(魔王)がうっすら見える距離まで来てるん で

 

「後生だから助けてくれ!まだ捕まりたくない!

 

くらいの気概はねーのかア

 

「『俺に構わず行け』

 

ンタは!」

 

「お前こそ『お前を見捨てるくらいなら死んだ方 がマシだ』くらいの優しさは無いのか!」

 

「今までお世話になりました。骨くらいは拾って あげますんで潔く逝って下さい」

 

「ふざけんな!お前も道連れだ!」

 

「いやガチでふざけんな!もうクローゼの顔が見 える距離まで来てんだよ!」

 

「人生諦めが肝心だと俺は思う!」

 

「知らねーよ!つかアンタが手を離せば俺は諦め なくてもいいんだよ!」

 

そして仲間割れをした挙げ句、クローゼが後100m くらいまで来たときに思いっきり会長の手を蹴って 逃げた

 

…後ろから断末魔っぽい悲鳴が聞こえてきたが俺は 気にしない。俺のせいじゃない。俺は何も聞いてい ない

 

会長が「覚えてろケイジー!

 

華麗にスルーして俺は再び逃げ始めた

 

…さようなら会長、迷わず成仏して下さい。

 

死んでません)

 

~30分後~

 

…やべぇ…後30分もあるのに体力が…

 

あの危機を乗り越えてから、クローゼの手が容赦な くなった

 

…いくら人が周りにいない所だけとはいえ、アーツ もクラフト(ジーク)も使ってくるんだぜ?俺以外 なら間違いなくもう死んでる

 

「み~つ~け~た~!」

 

!」

 

 

 

 

「ギャァァァァァ!

 

 

 

しかもたまにこうやって角に隠れてるし!

 

レオ先輩とハンスには探させて自分は一つの場所に 隠れて待ち伏せって…

 

しかも何言われたか知らねーけど先輩とハンスが俺 を見つけると必死な顔で「頼む!捕まってくれェェ ェ!」って叫びながら追い掛けてくるようになった …本当に何言ったんだアイツ?

 

因みにジルはいち早く身の危険を感じて寮に逃げ込 んだらしい

 

「ケイジ…どうして逃げるの?私の事嫌いなの? 」

 

と、普通に言えばかなりキュンとくる台詞を言って いるが、実際は追い掛けながらアクアブリードと、 時々ダイヤモンドダストを溜め無しで連発してきて いる

 

物理的に無理だろその攻撃!

 

「嫌いじゃねぇけど、俺の本能が逃げろって言っ てんだよ!」

 

ていうか今日でちょっとクローゼが嫌い…というよ りトラウマになりそうです

 

「じゃあ…私の事どう思ってるの?」

 

アーツを放つのを止め、足も止めたクローゼがいつ もの声で問う

 

どう思ってるって言われてもな~…ん~…

 

「…大切な人、かな」

 

「大切な…人?」

 

「ああ。昔っから一緒にいるからかな?周りの奴 らより、一番大切な人だな(友達的な意味で)」

 

「…嘘じゃない?私が一番大切な人なの?

 

な意味で)」

 

「ああ(フレンドリィ的な意味で)」

 

「そっか…ふふ♪」

 

「?」

 

何かクローゼからプレッシャーが消えた?

 

…まあいっか。危険が去った訳だし

 

「じゃあ帰るか。そろそろ門限だぞ?」

 

「あ、ホントだ。」

 

「ほら行くぞ。」

 

「うん。…えいっ!」

 

ギュッ

 

何故かクローゼが腕に抱きついてきた

 

「何してんのお前?」

 

「いいじゃない。別に」

 

…まあいっか。またクローゼの機嫌が悪くなっても 面倒だし

 

そう考えた俺はそのままクローゼを送ってから寮に 帰った

 

そして帰って早々にハンスが秘密で保管している秘 蔵本を全て外に放り出し、イラプションで灰も残さ ずに焼却した

 

こういう時に指向性のある術って便利だよね

 

~その頃のハンス達~

 

「…なあハンス。」

 

「…何ですか先輩」

 

「俺達は何の為にこの一時間走り続けたんだ? 」

 

「…言わないで下さい。何か無性に悲しくなるん で

 

「「はあ…」」

 

溜め息を吐いた二人の目はどこか遠くを見つめてい た

 

「…では俺は生徒会室に荷物を取りに行ってか ら寮 に帰る。お前も早く帰れ」

 

「はい。…お疲れ様でした」

 

「お前もな」

 

ハンスはまだ知らない。帰ってからもまだ不幸が待 っている事を…

 

~そして数ヶ月後~

 

今生徒会室は結構騒然としている

 

「全く何を考えているんだアイツは!」

 

机を叩きつけ、怒りを露わにするレオ先輩

 

「…………レクター」

 

言葉は少ないが、見るからに悲しんでいるルーシー 先輩

 

「…あのバカ会長…」

 

「前々から何をするかはわからなかったが…」

 

なんとも言えない表情のジルとハンス

 

「会長…」

 

何かを思い返すように目を閉じているクローゼ

 

…こうなった理由は簡単だ。あのアホ生徒会長が卒 業まであと数日と言うタイミングで退学したからだ

 

自由人だ自由人だ言っていたがまさかここまでやる とはな

 

一つだけ言える事は、その日は、いつもは騒がしい はずの生徒会がやけに静かだったって事だ

 

そして卒業式は何の滞りもなく終わった

 

…物足りない何かを残して



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FC 編~The start of all ~
『修○チャレンジ!』


クローゼside

 

「クラム~!どこにいるの~!?」

 

私は今マノリア村に繋がる海道を歩いています

 

クラム…マーシア孤児院で引き取られている子供の 一人…が孤児院を抜け出してしまったので、先生に お願いされて捜索中です。

 

…本当にどこまで行ったんでしょう?流石にクロー ネ峠までは行っていないと思うんだけど…

 

後はクラムが誰かにイタズラしてなければいいんだ けど…

 

「クラム~!…まったく、ケイジがいない時に限 っ て問題ばかり起こすんだから…」

 

まあケイジがいるときにこんな事をすればお仕置き はまず間違いないんですけどね

 

だからってケイジがいない時を狙って孤児院を抜け 出すのはズルいと思います

 

「困ったな…どこに行っちゃったのかしら…」

 

そんな風に考え事をしながら歩いていたのがいけま せんでした

 

「ヨシュア!ほらほら早く!」

 

「ちょっとエステル…ちゃんと前見て歩かないと… 」

 

突然目の前に同い年くらいの二人組みが現れて…

 

「きゃっ!?」 「あうっ!?」

 

ぶつかってこけてしまいました

 

…結構痛いです

 

するとすぐに

 

「あいたた…ご、ごめんね、大丈夫?あたしが前を 見てなかったから…」

 

と、オレンジ色の髪の女の子が手を差し伸べてくれ ました

 

「あ、いえ。大丈夫です。私の方こそよそ見をし てしまって…」

 

「あ、そうなの?じゃあおあいこって事で!」

 

女の子が笑う

 

明るい人ですね。太陽って言葉がピッタリな感じで す

 

そんな事を考えていると

 

「まったく…エステル…何やってるのさ…………………」

 

「?」

 

横から男の子が女の子を注意してから私を見て固ま ってしまいました

 

…私の顔に何かついてるのでしょうか?

 

ハッ!?まさかクラムが!?

 

「ヨシュア、どうしたの?」

 

と、女の子が男の子の方を見ると、男の子は帰って きたようで

 

「い、いや…ごめんね?連れが迷惑掛けちゃって。 どこにもケガはないかな?」

 

「はい。大丈夫です。私も人を探していて…それ で よそ見をしちゃって…」

 

私がそう言うと

 

「え?誰を探しているの?」

 

「帽子を被った10歳くらいの男の子なんですけ ど… どこかで見かけませんでした?」

 

ケイジがいればすぐに…え~と、

 

ったかな?を使って見つけてくれるのに…

 

本人曰わく「一人一人の纏っているチャ…オーラは 個人によって違う」らしいです

 

「帽子を被った男の子…?ヨシュア、見かけたりし た?」

 

「いや、ちょっと見覚えがないな…」

 

やはりお二人共知らないようですね…

 

「そうですか…どこに行っちゃったのかしら……私 、これで失礼します。どうもお手数をお掛けしまし た」

 

そう言って私はその場を後にして孤児院に向けて歩 き出しました

 

本当に人に迷惑ばかりかけて…!

 

これはお仕置きが必要ですよね?

 

「ジーク!」

 

――ピューイ!

 

そんな鳴き声が聞こえたと共に、白い隼が私の腕に とまる

 

そしてそのまま私はペンと紙を取り出して手紙を書 くと

 

「ジーク、これをケイジに届けてくれないかな? 多分ハーケン門にいると思うから」

 

「ピュイ!」

 

任せて、と言うように一鳴きすると、ジークは手紙 をくわえて飛んでいきました

 

…ケイジが帰って来るまで一時間くらいですかね?

 

side out

 

~ハーケン門~

 

「は~い、後30分以内に5周な~」

 

『だぁぁぁぁ!!大佐の鬼~!!』

 

「………いいのか?そんな事言って…」

 

!』

 

 

 

『さーせんしたぁぁぁ!

 

 

 

「よし!後10周だ!」

 

『…くそォォォ!この鬼畜大佐ァァァ!』

 

はい、見ての通り現在訓練中です。

 

俺はクローゼの護衛(アリシアさん曰わく友達かそ れ以上…それ以上ってなんだ?)兼王室親衛隊大隊 長なもんだから、いくら学生とは言っても自分の隊 の訓練をしなけりゃならない

 

まあ俺の隊は全員で30人だから時間はかからない んだけどな

 

…え?大隊じゃなくないかって?

 

いいんだよ。30人で大隊分働けば

 

つー事で今ウォーミングアップをしていたんですが …

 

『…………』

 

―死~ん―

 

全員見事にくたばってますね~…まあ甘やかすつも りは一切ありませんが

 

「後休憩5分な」

 

「…なんで俺達と同じ時間、俺達の二倍以上の速度 で走ってんのに、一切疲れてないんですか?」

 

「鍛え方が違うからだよワトソン君(仮)

 

、休憩終了!一対一で組み手をしろ!」

 

『…イエス・マム』

 

「…不満なら全員対俺でやるか?」

 

『イエス・マム!!あ~、一対一楽し~な~!

 

 

…そんなに嫌か、全員対俺

 

そしてその後三対三、五対五をやり、時間が余った ので午前中の締めに何をしようかと考えていると…

 

――ピューイ

 

「…ん?ジークか?」

 

「ピューイ!」

 

突然ジークが何かをくわえて降りてきた

 

「どうした?」

 

「ピュイピュイ、ピュピュイ」

 

「ふむふむ」

 

わからん。何言ってんのかさっぱりわからん。

 

と言うか良く紙くわえたまま鳴けるな

 

「ピュイ!」

 

ジークがくわえている紙を突き出す

 

俺はそれを受け取り

 

「なんだよ………………ほぉ…」

 

そこには、急ぎで台も無しに書いたのか、少し雑な 字で「クラム イタズラ 先生が困ってる」と書いて あった

 

他の人なら何コレ?となる文章だが、俺にはコレで 十分だ

 

…流石幼なじみ、よくわかってらっしゃる。

 

「ジーク、クローゼに昼過ぎ位に帰るって言って おいてくれ」

 

「ピュイ!」

 

そう鳴くと、ジークはクローゼの所に戻って行った

 

「さて…嬉しいお知らせだ。今日の訓練は午前中 だ けになった。」

 

『よっしゃァァァ!!』

 

そう言っただけでめちゃくちゃ喜ぶ兵士達。どんだ け訓練嫌いなんだよ

 

「つー訳で、今日の締めは…やっぱり全員対俺だ 」

 

『…………』

 

一瞬で沈む。何か面白い

 

つーか今更だがコイツ等連帯感つきすぎだろ。戦闘 中なんかアイコンタクトで動くんだぜ?凄くね?

 

「まあそういう訳だ…今から正午の鐘が鳴るまで … 大体二時間か、俺に一撃入れれたらその場で終了 、治療班の5人がくたばっても続行、のルールで行 くから …そんじゃあ…掛かって来いやァァ!」

 

俺が開始を宣言すると

 

『オラァァァ!!日頃の恨みィィィ!

 

と、数人が突撃してくる。

 

「甘いわァァ!」

 

俺はそれを軽く避け、全員を巻き込んで吹き飛ばす ように横から蹴りを入れる

 

それで吹き飛んだ兵士達が壁に穴を開けて瓦礫に埋 もれている

 

「さあ…どんどん来いよ」

 

今の一瞬の出来事にビビったのか、残りの奴らは動 こうとしない

 

「来ねぇんなら…こっちから行くぞ?」

 

そう言って俺はいわゆる縮地を使って治療班を沈め る

 

『なっ!?』

 

反応出来なかったのか、はたまた見えてすらいなか ったのか、驚く兵士達

 

「甘い…クローゼのアップルパイに砂糖と蜂蜜か け て食うより甘い! …さて、これで治療班が消えた訳 だ…どうするお前 ら?」

 

『ち、チクショォォォォォ!!』

 

ヤケになったのか、全員が一斉に掛かってくる

 

ここはあの台詞を言うしかないだろ!

 

「もっと熱くなれよォォォ!!」

 

「まったく…もう少しまともに訓練できんのか… 」

 

「無理ですよ…ルーンヴァルト大佐ですからね…」

 

揃って溜め息をつくモルガン将軍とその副官

 

「年に二回とはいえ、毎回どこかしらを壊すのは どうにかならんものか… あ、また待機舎の壁が…」

 

「でもあの隊は実質王国の最強部隊ですから… あ、 執務舎の扉が…」

 

「他の隊と模擬戦をしても負けた所を見た事ない からな」

 

「せめて大して変わらない強さだったら何かしら言 えるんですがね」

 

「カシウスの奴でももう少し真面目に訓練はして いたんだがな…」

 

「ルーンヴァルト大佐に真面目を求めるだけ無駄で すよ。面白さと楽しむ事と姫殿下の事しか頭にあり ませんから、あの人は」

 

「「はあ………」」

 

モルガン将軍、今も昔も部下に苦労する人

 

因みに訓練は鐘が鳴る前にケイジ以外の全員が動け なくなって終了した

 

兵士達には罰ゲームとして、午後の他の隊の訓練中 ずっと走る事を命令された

 

その訓練を見ていた全ての人がケイジを『鬼教官』 と認識したのは言うまでもない…



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『仕置き』

sideクローゼ

 

とりあえず、ケイジに連絡はしたから、クラムが捕 まるのは時間の問題なので、私は孤児院に帰ってき ました

 

「ただいま戻りました~」

 

「あら、おかえりクローゼ。…クラムは見つかりま した?」

 

「あ、いえ…まだですけど、ケイジに連絡を入れ た ので多分昼頃には捕まって連れてこられると思い ます」

 

「そうですか…良かった…」

 

あ、因みにこの人はこの孤児院の院長先生のテレサ さんです

 

数年前まではテレサさんの夫さんが院長をしていた のですが…亡くなられたらしいです

 

私もおじさんにはお世話になったので、それを聞い た時は本当に悲しかったです…

 

「まあ、ケイジ君に任せたのなら安心ですね。ハ ーブティーでも飲みますか?」

 

「あ、ならアップルパイを作りますから、みんな でお茶にしませんか?」

 

「いいのですか?ならお願いします」

 

「はい♪」

 

そう笑って準備をし始めた時…

 

――ピューイ

 

「あ…ジーク!」

 

私が名前を呼ぶと、すぐに場所がわかったのか、キ ッチンの窓のへりにとまる

 

「どうだった?」

 

「ピュイ」

 

「そう…昼過ぎ位までには戻ってくるのね?」

 

「ピュイ!」

 

「ふふふ…だったらアップルパイはたくさん用意 し なくちゃ♪」

 

「ピュイ?」

 

「わかってるよ。ジークの分もあるからね。…後 は 焼くだけっと…」

 

と、ジークとお話していると…

 

――や、やめろよ!―――だろ!――!乱暴―!

 

と外から聞こえてきました

 

あれはクラムの声…?…………まさか強盗!?

 

そうだったらクラムが危ない!!

 

そう思った私は慌てて外に出ました

 

すると、クラムを持ち上げている人の姿が…!

 

「ジーク!」

 

「ピュイ!」

 

ジークが強盗(仮)の前を通り過ぎましたが、クラ ムはまだ持ち上げられたままです

 

とりあえずクラムを離させないと!

 

「その子から離れて下さい!それ以上乱暴をする のなら私が相手になりま……………………………あら?」

 

…何か見覚えがありますね…ええと…

 

「あ、さっきの…」

 

「マノリアでお会いした…」

 

私とクラムを掴んでいる女の子が同時に気付く

 

何故こんな所にいるんでしょうか?

 

「ピュイ?」

 

ジークも私の知り合いだと気付いたようで、敵なの ?みたいな視線を送ってきます

 

「助けて!クローゼお姉ちゃん!オイラ何もし て ないのにこの姉ちゃんがいじめてくるんだ!」

 

クラム…あなたに限って“何もしてない”は絶対あり えないよ…

 

「な、何が何もしてないよ!あたしの紋章を取った くせに!」

 

「へん!だったら証拠を見せてみろよ!」

 

…完璧に悪役の台詞よね

 

女の子はまたクラムを捕まえようとしたけど…

 

「あ、くすぐるのは無しだかんな!」

 

「ぐぬぬぬ…」

 

どうやらさっきはくすぐって自供させようとしてた みたいです

 

そんな漫才みたいな会話を見て半ば呆れていると

 

「やあ、また会ったね」

 

と、黒髪の少年が挨拶してきてくれました

 

「あ、その節はどうも…すみません、私てっきり 強 盗が入ったのかと思って… …あの、それでどういっ た事情なんでしょうか?」

 

と、男の子に聞くと、男の子が答える前に

 

「クローゼお姉ちゃん、そんなの決まってるわよ 。どうせクラムがまた悪さでもしたんでしょ」

 

と、マリィが言い切った

 

まあ、十中八九その通りでしょうけど

 

「ねーお姉ちゃん、もうアップルパイできたのー ?」

 

この子はどこからその情報を仕入れてきたのかな?

 

「もうちょっと待っててね。焼き上がるまで時間 がかかるの(主にケイジのせいで)」

 

ケイジがかなり食べるからどうしても大きくなっち ゃうしね…

 

「この悪ガキ!」

 

「乱暴オンナ!」

 

ああ、まだやってたんですか…

 

「全く、いつまで経ってもクラムはガキなんだか ら」

 

「アップルパイまだかな~」

 

…何だろう。このカオスな状況

 

「…何だかややこしい事態になってるね」

 

「あ、あはは…私もそんな気がします…」

 

と、私達は苦笑いするしかなかった

 

「ピュイ」

 

ジークが急にテレサ先生だ、と言ったと思ったら

 

「あらあら、何ですか?この騒ぎは…」

 

「テレサ先生!」

 

本当にテレサ先生が出てきました

 

「詳しい事情はわかりませんが…どうやらまたク ラ ムが何かしでかしたようですね…」

 

困った様子で言うテレサ先生

 

全くもってその通りです。流石院長先生ですね

 

「し、失礼だなぁ。オイラ何もやってないよ。 こ の乱暴な姉ちゃんが言いがかりをつけてきたんだ !」

 

「だ、誰が乱暴な姉ちゃんよ!」

 

…さっきと全く変わりませんね

 

「あらあら、困りましたね。…クラム、本当にや っ てないのですか?」

 

「うん!当たり前じゃん!」

 

毎度の事ですが、返事だけはいいんですよね

 

というかまだこの期に及んでやってないと言い切る のがすごい…

 

「女神様にも誓えますか?」

 

「ち、誓えるよっ!」

 

…今完璧に噛みましたね。テンパってるし

 

「そう…さっき子供部屋にバッジみたいな物が落 ち ていたけど…あなたの物じゃありませんね?」

 

「え?だってオイラズボンのポケットに入れて …… はっ!?」

 

「や、やっぱり~!!」

 

「まあ………」

 

「見事な誘導ですね…」

 

ゆ、誘導尋問(違)とは…流石です!テレサ先生!

 

私もアレが出来るようになれば…

 

………はっ!?私は何を!?

 

「クラム…もう言い逃れは出来ませんよ。取って し まった物をそちらの方にお返ししなさい」

 

先生が諭すように言うと

 

「うぅぅぅ~~~!わかったよ!返せばいいん だ ろ!?返せば!」

 

そう言って悔しそうにバッジみたいな物を女の子に 投げた

 

「わっと…」

 

「フンだ!あばよっ!」

 

と、その場から逃げようとしたけど…

 

「へぇ…どこに行くんだ?」

 

クラムにとっての魔王に防がれました

 

side out

 

俺が孤児院に戻って来たら、何か地味に修羅場だっ た

 

まあ明らかにクラムが悪いって事はわかったがな

 

それでクラムはイタズラがバレたらバレたで、謝ろ うともしないで逃げようとしたので…

 

「へぇ…どこに行くんだ?」

 

とりあえず謝らせる方向でいきますか

 

「け、ケイジ兄ちゃん!?」

 

「他人様の物を取った挙げ句、バレたら逆ギレし て逃げようたぁいい度胸じゃねぇか…」

 

…何か横で見慣れない奴らが震えてるけど…まあい いか

 

「え、あ、あのな、ケイジ兄ちゃん?これには 深 ~い理由が…」

 

まだ言い訳をするか…これは仕置き決定だな

 

俺は両拳をクラムのこめかみにセットする

 

「ケイジ兄ちゃん!?」

 

「理由があるなら遠慮無く言っていいぞ?…まあ 嘘 だってわかった瞬間にいつもの二倍の力と長さで お前のこめかみが抉れるけどな…」

 

「ひいっ!?嘘です!理由はイタズラでやっち ゃ いました!ごめんなさい!」

 

「よし!じゃあ…せいやァァ!」

 

「ギャアァァァァァァァァ!!!」

 

~しばらくお待ち下さい~

 

「反省したな?」

 

「サー!イエッサー!めちゃくちゃ反省しまし た !」

 

「じゃあ誰かに何か言うことあるよな?」

 

「………はい」

 

そう言ってクラムはオレンジ髪の女の子の所に行っ て

 

「………………………ごめんなさい…」 と、謝った

 

「…まあ、反省してるならそれでいいわよ」

 

「本当にすまんかったな。うちのバカが迷惑かけ た」

 

と、俺は女の子の連れであろう男の子の方に謝る

 

「別にいいよ。あの子も反省してるみたいだし。そ れにこっちの注意力不足って言うのもあるしね」

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

そんな感じでちょっとしんみりした空気になってい た時…

 

「まあ…こんな所で立ち話するのもなんですし… 家 に入りましょうか。お茶でも飲んで行って下さい 。そのついでに詳しい話を教えてもらえますか?」

 

と言うテレサ先生の一言でお茶をする事になった

 

家に入る途中に

 

「クローゼ。貸し一つな~」

 

「わかってるよ。今度は何がいいの?」

 

「ん~…じゃあスイートポテトパイで。」

 

「了解♪近いうちに作って寮に持って行くね」

 

「まあ、ほどほどに楽しみにしとくわ」

 

「何それ~!」

 

貸しを作るのは忘れない、それがケイジクオリティ !

 

~説明中~

 

「そうですか…そんな事を。あの子も悪気は無い の ですが…イタズラ好きに加えて無鉄砲で…本当に す みませんでした。保護者としてお詫び申し上げま す」

 

「もう1~2回お仕置きしてからよ~く言い聞か せ るんで…」

 

「「いや、お仕置きはいいです」」

 

何故かお仕置きはWで遠慮された

 

「あはは、お仕置きはともかく、もういいですよ 。紋章もちゃんと戻ってきたし、美味しいハーブテ ィーとアップルパイでチャラって事で」

 

「ふふ、ありがとう、エステルさん、ヨシュアさ ん」

 

女の子と男の子…エステルとヨシュアとはあの後自 己紹介をした

 

どうやら二人共準遊撃士で、正遊撃士になるために 王国を歩いて回っているんだとか

 

「でも本当に美味しいお茶ですね。街の酒場で淹 れてもらったのと同じような味がしますけど…ひょ っとして表で栽培されているものですか?」

 

「ええ、ハーブの栽培は私の趣味のようなもので してね。それを宿酒場のご主人がご好意で仕入れて 下さるんです」

 

「そうなんだ…さっき食べたアップルパイもすっ ご く美味しかったんですけど」

 

「ふふ…それは私でなくこの子が作ったものなん で すよ」

 

「え?クローゼさんが?」

 

エステルが驚いてクローゼを見る

 

「はははっ!意外だとよ」

 

「ちょっと黙ってて」

 

「ぐはっ!?」

 

冗談のつもりで言ったのに鳩尾に肘入れられた…理 不尽な…

 

「い、いや、そういう意味でビックリしたんじゃ ないの! ただ本当に美味しかったから…」

 

「ふふ…ありがとうございます。 あの…先ほどは本 当に失礼しました。私とんでもな い勘違いをして しまって…」

 

「気にしなくていいってば。私もあの子を捕まえ る時に荒っぽくしちゃったし。でも流石にあの白い 鷹には驚いたけどね。」

 

「鷹?ジークはシロハヤブサだぞ?」

 

いつの間に復活したのかって?…ついさっきだよ

 

結構ダメージがでかかったぜ…

 

「シロハヤブサ…確かリベールの国鳥だったね。 よ く訓練されてるみたいだけど君のペットなの?」

 

「いえ、私が飼っている訳じゃありません。仲の 良いお友達なんです」

 

…仲良いのはわかるけど…言葉までわかるもんか?

 

「は~、すごい友達もいたもんね。そういえばク ローゼさんってジェニス王立学園の生徒よね?なの に、ここに住んでるの?」

 

「いえ…私は学園の寮に住んでいます。あまり遠 く ないので、休日などについケイジと遊びにきてし まうんです。ご迷惑かとは思うんですけど…」

 

少しだけすまなそうな表情になるクローゼ

 

「あらあら、迷惑だなんてとんでもない。色々と 助かっていますよ」

 

「テレサ先生…」

 

流石先生、ナイスフォローです

 

「でもこちらに構いすぎて学業を疎かにしないよ うにね?まあ、“クローゼに限って”そんな事は無い と思いますけど」

 

「はい。肝に命じておきます」

 

「…先生、クローゼに限っての所に悪意を感じた ん ですけど?」

 

「気のせいです」

 

…チクショウ、何も言えねぇ

 

「学園生活かぁ…そういうのも一度経験してみた か ったわね」

 

「教会の日曜学校は週に一度しかなかったからね 。でも、王立学園の入学試験はかなり難しいって聞 くよ?」

 

「あう…私には逆立ちしたって無理か…」

 

「ふふ…そんな事無いです。遊撃士になる方がは る かに難しいと思いますよ。しかもその若さで…私 の 方こそ憧れてしまいます」

 

おーいクローゼ~?ここに同い年で王室親衛隊大隊 長+αの肩書きを持ってる人がここにいるんだけど ?

 

その後アップルパイ(エステル達が食べた三倍の大 きさ)を食べ終えた後、もう一度クラムに釘を刺し てから戻って来たら、どうやらエステル達をルーア ンのギルドまで送って行くらしい

 

…まあ色々世話になったみたいだし、少しくらい恩 返ししときますか



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『やっぱりそうだよね君は!』by ヨシュア

クラムのイタズラで迷惑を掛けてしまった新米遊撃 士のエステルとヨシュアにルーアンのギルドまで案 内をする俺とクローゼであった!」

 

「ケイジ、途中から口に出てるから(どうせわざ とだろうけど)」

 

「嘘っ!?」

 

「というか誰に喋ってたの?」

 

「さあ?何か天の声が…」

 

「はいはい」

 

何かクローゼにあしらわれた気がしなくもないが、 実際今かなり面倒くさい状況にはなっている

 

手配魔獣の…たしかジャバとかいうのが急に出てき て戦闘になってるからな

 

クローゼがこっちに近づいて来て

 

「(ケイジ、二人に手を貸さないの?)」

 

「(アホか。いくら何でも時期尚早だ。エステル はともかく、ヨシュアに俺の正体がばれそうな気が するしな。)」

 

「(でも…)」

 

二人を心配そうに見るクローゼ

 

「(大丈夫だって…いざとなったら…)って早速 か よ!?」

 

チラッと二人の方を向くと、周りのザコは潰してい たが、ジャバ本体に苦戦していた。

 

「あ。そういやアイツは倒せば倒しただけ強くな るヤツだった」

 

今まで何体潰したっけ?…五体は軽いな

 

「もう!早く手助けしてあげて!」

 

「あいさ~」

 

まあクローゼの周りのザコは一瞬で切り払ったしい けるか…

 

そう考えて俺はエステルとヨシュアが二人がかりで 押さえていたジャバに閃華を食らわせ、その追加効 果で葬った

 

「え…!?ケイジ!?」

 

「助かったよ。…というか戦えたんだね」

 

エステルは純粋に驚いた目で、ヨシュアはジト目で 俺を見て来る

 

「や~悪い悪い。アイツが倒したら倒しただけ強 くなる事忘れてたわ。しかももう五回以上は倒して たしな」

 

「「それを早く言え!!」」

 

ナイスハモりで~す

 

「もう…ケイジが始めから手伝ってくれてたらこ ん なに疲れなくても良かったんですけど」

 

「まあ…ドンマイ?」

 

適当にはぐらかしてさっさと先に進む俺とヨシュア とクローゼ

 

ヨシュアはどうやら言っても無駄だと割り切ったら しい

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ~!」

 

~ルーアン市~

 

「うわ~…ここがルーアンか。何て言うかキレイ な 街ね」

 

「蒼い海、白い街並み。まさに海港都市って感じ だね」

 

その前にエステル、お前機嫌治るの早いな

 

口に出したらまた怒るだろうから言わないが

 

「ふふ、色々と見所の多い街なんです。すぐ近く に灯台のある海沿いの公園もありますし」

 

「…クローゼ。何でそこで俺をチラチラ見るんだ お 前は?」

 

「もう…ケイジのバカ…」

 

「何が!?」

 

最近クローゼがわかりません。マジで

 

「(ねぇヨシュア、クローゼさんってケイジの事 好きだよね?)」

 

「(多分ね。…ケイジの方は気付いてないみたい だ けど)」

 

そしてクローゼは気を取り直して

 

「でもやっぱり一番の見所は“ラングランド大橋” か しら」

 

「“ラングランド大橋”?」

 

「この北街区と川向こうの南街区を繋ぐ橋だ。巻 き上げ装置を使った跳ね橋になってんだよ」

 

「跳ね橋か…それはちょっと面白そうだな」

 

「その前にギルドに行くんじゃねぇのか?」

 

「え?………あ、うん」

 

忘れてやがったなコイツ

 

「全く君って人は…」

 

「あはは…遊撃士協会は表通りの真ん中にありま す 。ちょうど橋の手前ですし、早く行きましょうか 」

 

「ああ、俺は橋ん所で待ってるな」

 

「わかったわ。それじゃあ後でね」

 

と、俺はギルドに向かう所で別れた。ぶっちゃけ面 倒だったからだが…

 

まあどうせこの後街を案内とかするんだろうし、今 のうちに休んでおくか

 

~15分後~

 

「やっと来たか…」

 

「あはは、ちょっと時間掛かっちゃって…それに し ても、これが“ラングランド大橋”かぁ…」

 

そう言って落ち着きなく周りを見渡すエステル

 

どうやら予想通りルーアン見物になったみたいだな

 

「やっぱり大きいわね。ヴェルデ橋の倍くらいは ありそう」

 

「この橋が作られたのは今から40年ほど前だそ う です それまでは渡し船で両岸を行き来していたん ですっ て」

 

「え?どうして橋を作らなかったの?」

 

「この川は湖と海を結ぶ唯一の川だからな…橋を 掛 けると船が通れなくなるだろ?」

 

「それも導力革命によって跳ね橋を作る事で解決 したんです」

 

「なるほど…」

 

エステルが納得した所で、次は南街区に渡る事にな った

 

しかもエステルはどんどん倉庫区画に進んで行った 訳で…

 

クローゼが倉庫区画について説明した後さらに奥に 進む

 

すると

 

「ど、どうしてこんな場所に若い女の子たちが…」

 

…やっぱりいたな

 

「やいやい、ここは立入禁止だ!て、てめえらみた いなガキ共が入っていい場所じゃねぇんだよ!」

 

と、若干震えた声で不良A君が言った

 

「いや、別に入りたいなんて一言も言ってないん だけど…ところで、なんでそんなに緊張しちゃって る訳?」

 

「あ、やっぱり緊張してるように見える…?」

 

やっぱりしてたんかい

 

「…じゃなくて!とにかくここは立入禁止だ!とっ とと向こうに行っちまえ!」

 

最後まで照れた感じで言う不良A…ここまで来たら 照れ隠しにしか聞こえねぇな

 

隣でヨシュアもクローゼも呆れてるしな

 

エステルは不良を見た事が無いのか興味津々だが

 

まだ話し掛けようとするエステルを引きずって、倉 庫区画の出口辺りに来た時に…

 

「待ちな、嬢ちゃん達」

 

「やっぱり来たか…」

 

倉庫区画の方から三人組の男がやって来た

 

「え、あたし達?」

 

「おっと、こりゃあ確かに当たりみたいだな」

 

「ふん、珍しく女の声が聞こえてきたかと思えば… 」

 

因みに上からディン、ロッコ。で、まだ喋ってない のがレイス。俺曰わく、“三バカトリオ”だ

 

「あの、何か御用でしょうか?」

 

「へへ、さっきからここをブラついてるからさ、 ヒマなんだったら俺達と遊ばないかな~って」

 

そう言って明らかににやけるディン

 

「おお、クローゼ良かったな。今モテてんぞ?お 前」

 

「全く全然微塵も嬉しく無いから黙ってて」

 

俺のジョークに即答で返してくるクローゼ

 

…流石に酷くねぇか?

 

ほら、ディン若干涙目になってるし

 

「何よ、今時ナンパ~?悪いけどあたし達ルーア ン見物の最中なの。他を当たってくれない?」

 

ここらへんは流石エステルだな。クローゼだけだっ たら「え、あの…」とか言ってどもりそうだ

 

「お、その強気な態度、オレちょっとタイプかも ~♪」

 

「ふぇっ?」

 

止めとけ。ヨシュアが睨んでるから

 

「見物がしたいんだったら俺達がしてやろうじゃ ねぇか。そんな生っちろい小僧共なんか放っておい て俺達と楽しもうぜ」

 

「………………」

 

もう止めて…ヨシュアが怖いから

 

しかも…

 

「あの~…クローゼさん?何故俺の腕に抱きつい て いるのでせう?」

 

「え?駄目だったの?」

 

「止めてくれ。主に周りの視線が痛いから。俺の 心に突き刺さってるから」

 

「いいじゃない。今更そんな事を恥ずかしがる関 係じゃないよ?」

 

「いやどんな関係だよ。ただの幼なじみじゃねぇ か」

 

と、クローゼと半分コントみたいな会話をしていた のだが…

 

「ちょっと!何が生っちろい小僧よ!あんた達み たいなド素人、束になってもヨシュアには…」

 

「いいよ。エステル。別に気にしてないから」

 

どうやら無視らしいです

 

「なに、このボク…余裕かましてくれてんじゃん 」

 

「ムカつくガキだぜ…上玉二人とイチャつきやが っ て」

 

俺の存在無視ですか?シバくぞ?

 

「世間の厳しさを教えてやる必要がありそうだね ぇ」

 

そう言って三バカトリオがじりじりと距離を詰めて くる

 

「ちょ、ちょっと…!」

 

「や、止めてください…!」

 

こいつら…調子にのるまえに潰すか…?

 

そこで俺とヨシュアが二人をかばうように

 

「…僕の態度が気に入らなかったなら謝りますけ ど …彼女達に手を出したら…手加減、しませんよ」

 

「まあとりあえず遊ぶ云々はまだ見逃すとして… 」

 

「「オイ」」

 

「これ以上クローゼを怯えさせたら…消すぞ?」

 

後ろでエステルが「あたしは!?」とか叫んでいる が気にしない

 

すると、俺とヨシュアの威圧感(俺の方は結構台無 しだが)に気圧されたのか、三バカトリオが後ずさ る

 

「なっ…」

 

「なんだコイツら…」

 

「は、ハッタリだ、ハッタリ!」

 

後ずさって言うセリフじゃねぇよな、それ

 

「へっ!女の前でカッコ付けたくなる気持ちも判 るけどな、あんまり無理をし過ぎると大ケガをする 事になるぜ…」

 

「いや、お前ら程度、1秒以内に無力化できるけ ど?」

 

「言うじゃねぇか…やれるもんならやってみろよ … 」

 

ロッコが凄む。プレッシャーも何もないが

 

「言われなくてもやってやるよ…ヨシュアがな! 」

 

「やっぱりそう言うよね!君は!」

 

「当たり前だ!面倒くさいしな!」

 

そう言いながら戦闘体制に入っていると…

 

「お前達、何をしているんだ!」

 

と、市長邸の方から青髪のいかにもキャリアですみ たいな男が歩いてきた

 

「げっ…」

 

「うるせぇヤツが来やがったな…」

 

どうやら三バカトリオにとって天敵らしい

 

「お前達は凝りもせずまた騒動を起こしたりして… いい年をして恥ずかしいとは思わないのか!」

 

「う、うるせぇ!てめぇの知った事かよ!市長の 腰巾着が…」

 

「なんだと…」

 

一触即発ですね~…あっはっは

 

「…おや、呼んだかね?」

 

突然、オッサンが口を挟んできた

 

「だ、ダルモア!?」

 

どうやらこのオッサンが市長らしい

 

ついでに青髪の方はギルバートと言う名前だとクロ ーゼが説明してくれた

 

…つーかいつまでコイツは腕に引っ付いてるつもり なんだ?

 

「ルーアンは自由が象徴の街だ。君達の服装や言 動についてとやかく文句を言うつもりはない。しか し他人に、しかも旅行客に迷惑を掛けるというなら 話は別だ」

 

そう市長が言うと、また三バカが文句を言ってギル バートが言い返す不毛な口喧嘩になるが、エステル 達が遊撃士だと言う事でとりあえずは落ち着いたら しく、三バカは去って言った

 

と言うか「覚えてろ」って…今時レアな捨て台詞だ な

 

「なんて言うか…めちゃくちゃ陳腐な捨て台詞ね 」

 

どうやらエステルも同じ考えだったらしい

 

「まあ、ああいうのがお約束なんじゃないのかな ?」

 

「済まなかったね、君達。街の者が迷惑を掛けて しまった」

 

「ああ、別にいいですよ。結果的に何も被害はあ りませんでしたし」

 

「そうか…申し遅れたが私はルーアン市の市長を 務 めているダルモアと言う。こちらは秘書のギルバ ート君だ」

 

「よろしく。君達は遊撃士だそうだね?」

 

「あ、ロレントから来た準遊撃士のエステルと言 います」

 

「同じく、ヨシュアと言います」

 

「そう言えば、受付のジャン君が有望な新人が来 ると言っていたが…ひょっとして君達の事かい?」

 

そんなに評判良かったのかコイツら?

 

そう言えばハーケン門に向かう途中に“凄く優秀な 二人組の新人遊撃士がいる”って聞いたような…

 

「えへへ…有望かどうかはわからないけど」

 

「暫くルーアン市で働かせて貰おうと思っていま す」

 

「おお、それは助かるよ。今、色々と大変な時期 でね。君達の力を借りる事があるかも知れないから 、その時はよろしく頼むよ」

 

「大変な時期…ですか?」

 

「まあ、詳しい話はジャン君から聞いてくれたま え。…ところでそちらの二人は王立学園の生徒のよ うだが…」

 

「はい、王立学園二年生のクローゼ・リンツと申 します」

 

「同じく、二年のケイジ・ルーンヴァルトです」

 

ヨシュアの真似をして自己紹介する

 

…今更だが、ルーンヴァルト性を名乗るのまずかっ たか?

 

「(ルーンヴァルト…ケイジ…やっぱりどこかで 聞 いた事が…?)」

 

「そうか。コリンズ学園長とは懇意にさせて貰っ ているよ。…そう言えばギルバート君も王立学園の 卒業生だったね?」

 

…………え゛

 

「ええ、そうです。クローゼ君とケイジ君と言っ たかい?君達の噂は色々と聞いているよ。ケイジ君 は万年主席で、クローゼ君はジル君と次席の座を争 っているそうだね。優秀な後輩がいて僕もOBとし て鼻が高いよ」

 

「そんな…恐縮です」

 

「…そりゃどーも」

 

クローゼに肘でつつかれたが気にしない

 

俺が主席なのはテスト限定だからな…テストで点数 稼がないと、自由に動けない訳だし

 

「はは、今度の学園祭は私も非常に楽しみにして いる。どうか頑張ってくれたまえ」

 

「はい。精一杯頑張ります」

 

「内容で頑張りたくなくなるんだけどな…」

 

うん、アレはねぇよ。何が楽しいんだ?アレで誰が 得するんだ?…ジルか

 

「…?まあ、それじゃあ私達はこれで失礼するよ 。 先程の連中が迷惑を掛けたら私の所まで連絡して くれたまえ。ルーアン市長として、しかるべき対応 をさせて頂こう」

 

そう言って市長とギルバートは去って行った

 

「うーん…なんて言うかやたらと威厳がある人よ ね 」

 

「確かに、立ち振る舞いといい、市長としての貫 禄は充分だね」

 

「ダルモア家はかつての大貴族の家柄ですから。 貴族制が廃止された後も、いまだに上流階級の代表 者と言われている方だそうです」

 

「まあ、俺からしたら胡散臭いだけだけどな。現 に今も借金を抱えているらしいし」

 

「そうなんだ…しかし、それにしてもガラの悪い 連 中もいたもんね」

 

「そうですね。ちょっと驚いちゃいました」

 

「でも良かったじゃねぇか。嫁の貰い手が見つか って」

 

「……………」

 

「冗談だからダイヤモンドダストは勘弁してくれ … 」

 

もう凍るのはごめんだ。

 

クローゼをからかう度に凍ってたら命がいくつあっ ても足りないな

 

「もう!…ごめんなさい、不用意な場所に案内し て しまったみたいです」

 

クローゼがエステル達に謝る

 

「君が謝る事はないよ。ただ、わざわざ彼らを挑 発に行く事はなさそうだね…倉庫区画の一番奥を溜 まり場にしてるみたいだからなるべく近づかないよ うにしよう」

 

「うーん…納得いかないけど仕方ないか」

 

この世で不良を叩きのめさないと納得いかない女は エステルだけだと思う

 

その後、またギルドに戻って、それからラングラン ド大橋の巻き上げを見て、エステル達がホテルにチ ェックインしたのを見届けてからクローゼと学園に 帰った

 

…途中あの我が儘放蕩キノコ頭を見た気がするけど …気のせいだよな?



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『怒り』

~エステル達にルーアンを案内した翌日~

 

「……ですから、この時は…」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…zzz」

 

「(寝るな!)」

 

「あたっ!?」

 

はい、察しの通り授業中です

 

でもな~低血圧の俺にとって朝の授業は地獄なんだ よな…

 

そんな感じで、時々クローゼにたたき起こされなが ら授業を受けていると…

 

「クローゼ君、ケイジ君!!」

 

突然学園長が血相を変えて教室に入ってきた

 

「学園長!?今は授業中ですよ!?」

 

「済まない。だが、クローゼ君とケイジ君に今す ぐ知らせなければならない事があってね」

 

「…何があったんスか?」

 

学園長は少し呼吸を整えてから

 

「二人共、落ち着いて聞いて欲しい…

 

マーシア孤児院が火事にあった」

 

「!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、クローゼは教室を飛び出し ていった

 

「クローゼ君!」

 

「心配しなさんな、学園長。行く場所はわかって ますから。…先生とガキ共は?」

 

「ああ…大丈夫だ。今はマノリア村にいるらしい 。 …君は流石に冷静だね」

 

「…いえ。これでもかなり動揺してますよ…」

 

あのテレサ先生が火の始末を怠る訳がない…

 

…もし犯人を見つけたら理性を保っていられなくな るくらい俺は腸が煮えくり返っていた

 

今の俺はかなり怖い顔になっているだろう

 

自分でもびっくりするくらい声が低くなってるから な

 

「…すみません先生。今日俺とクローゼは早退し ま す」

 

「え、ええ。わかったわ」

 

「じゃあ、学園長…」

 

「ああ。わかっているよ」

 

「お願いします」

 

学園長にある“お願い”をして、俺はクローゼを追い かけた

 

~マーシア孤児院~

 

「…………くそっ!!」

 

入り口に近づいただけでも何かが焦げた匂いが鼻に つき、火事の凄まじさを物語っている

 

「(落ち着け…今は現場検証と犯人特定が先だ… ) 」

 

怒りが精神を支配しそうになるが、自分に優先すべ き事を言い聞かせ、深呼吸して無理やり落ち着く

 

院の方に進んでいくと…

 

「………ひどいな」

 

「ケイジ……」

 

言葉に出来ないほどに酷い院と、今にも泣き出しそ うなクローゼ、そして調査に来たのかエステルとヨ シュアがいた

 

「ケイジ…孤児院が…」

 

「皆まで言うな。…大丈夫だ。先生達は全員無事 で マノリアにいるらしい。…見舞いに行ってやろう ぜ ?」

 

無言でコクリと頷くクローゼ。…ここまで弱ったコ イツを見るのは久しぶりだ…

 

「ケイジ…あたし達も行ってもいいかな…?」

 

「ああ…じゃあ行くぞ」

 

~マノリア村・蓮の木亭~

 

マノリアに着き、宿酒場の主人に先生達が二階にい ると聞いて、一も二も無くダッシュで向かう

 

「先生、みんな…!」

 

扉を開けると同時にクローゼが絞り出したような声 で言う

 

「あ、クローゼ姉ちゃん、ケイジ兄ちゃん!」

 

「来てくれたんだ…!」

 

思っていたより元気そうな声でクラムとマリィがク ローゼに答える

 

…見た所、全員ケガはしてないみたいだな…良かっ た

 

「良かった…本当に良かった…」

 

「全く…心配かけさせやがって…」

 

クラム達が俺とクローゼの周りに群がる

 

いつもならクラム辺りが生意気言って、俺が追いか け回すのだが、今はその生意気が聞けただけでもほ っとする

 

「ふふ…良く来てくれましたね。エステルさん達 も …」

 

「はい…ギルドに連絡があったから…」

 

「調査に来たついでに、お見舞いに寄らせて頂き ました」

 

「そうですか…訪ねてきてくれてありがとう」

 

先生が穏やかな笑顔で言う

 

「調査って…あの火事を調べに来たんだろ?何 かわ かった事あんの?」

 

「えっと…」

 

「なんと言ったらいいのか…」

 

言いにくそうに顔をしかめるエステルとヨシュア

 

まさか…な

 

そして二人で目を交わしてから、クローゼが大体察 したのか

 

「ねぇ、みんな?お腹はすいてないかしら?私、 朝ご飯を食べてなくて食堂で何か頼もうと思うの。 ついでだから、みんなにも甘い物をごちそうしてあ げる」

 

「え?ほんとぉ?」

 

「ポーリィ、プリン食べたーい!」

 

勿論、クローゼが朝ご飯を食べてないと言うのは嘘 だろう。…せめてコイツらに大人の汚い部分を見せ ないようにとの配慮だ

 

渋っていたクラムもマリィが言いくるめ、クローゼ と共に下に降りていった。…クローゼは後で詳しく 話すように、と目で俺に知らせながら

 

「ふう、助かっちゃった」

 

「まあ、好んで聞きたくなる話じゃねぇしな…」

 

その後、エステル達は一通り先生に事情を聞いてか ら、現在わかっている事を話し始めた

 

…勿論事情聴取の時は俺は下にいたぞ?

 

「まず、火災現場を調査した結果なんですが…」

 

「…放火、少なくとも人為的な原因…だろ?」

 

俺がそう言うと、ヨシュアはかなり驚いたが

 

「…その通りだよ。」

 

「そうですか…やはり…火には気をつけていたの で おかしいとは思っていたのですが」

 

「そこでお聞きしますけど…犯人に心当たりはあ り ませんか?」

 

「見当もつきません…ミラにも余裕はありません し 、恨まれる覚えも全く…」

 

「俺から見ても無いな。この辺りではマーシア孤 児院はかなり評判が良い。それに孤児院に放火して 得が有るわけが無いしな」

 

「つまり、強盗目的でも、怨恨でも無いってわけ ね」

 

「事件前に怪しい人物が孤児院の周りをうろつい ていたという事は?」

 

「そうですね…昼間にエステルさん達がお見えに な ってからは特に…あの方は関係無いでしょうし」

 

「あの方?」

 

「火に包まれた建物から脱出しようとした時、天 井の梁が落ちてきて、玄関から出られなくなってし まったんです。その時に扉を破って助けに来てくれ た方がいて、梁をどけて、逃げるのを手伝って下さ ったんです」

 

…なるほど、だから扉の蝶番が不自然に壊れてたの か(←何気に見てた人)

 

「そんな事が…それってマノリアの人なの?」

 

「それが、村の者を呼んで来ると言ってすぐに居 なくなってしまって…マノリアの方々に聞いても誰 も心当たりは無いそうです」

 

「…怪しいですね」

 

「先生達を助けた人を疑いたくないが…犯人は現 場 に戻ると言うしな…どんな人だったんですか?」

 

「象牙色のコートを着た20代前半の方です。悪 い 方には見えませんでした」

 

「…普通の人とは思えないけど、人助けをしたの は 事実だし…確かに犯人じゃなさそうね」

 

…そうなると、愉快犯の可能性がかなり高い、か… まあ一応他の線でも調べてみるか…?

 

そんな事を考えていると、いつの間にかクローゼが 入って来ていた

 

どうやら、ケーキをごちそうして、マリィに後を任 せたらしい…まあマリィなら大丈夫か

 

「あの…先生。お客様がいらっしゃいました」

 

「お客様?」

 

こんな時にか?

 

「お邪魔するよ」

 

そう声が聞こえたと思うと、市長とギルバートが入 って来た

 

「お久しぶりだ、テレサ院長。先程知らせを聞い て慌てて飛んで来た所なのだよ。…だが、ご無事で 本当に良かった」

 

「ありがとうございます、市長。お忙しい中をわ ざわざ訪ねて下さって恐縮です」

 

「いや、これも地方を統括する市長の勤めていう ものだからね。それよりも、誰だか知らんが許し難 い所業もあったものだ。ジョセフのやつが愛してい た建物があんなにも無残に…心中、お察し申し上げ る」

 

…このオッサンは何故かわからないが、信用できな い。

 

目が…相手を見ていない。コイツが見ているのは自 分の立場だけ…そんな気がする

 

「いえ…子供達が助かったのであればあの人も許 し てくれると思います。…遺品が燃えてしまったの が 唯一の心残りですけれど…」

 

「テレサ先生…」

 

「…遊撃士諸君、犯人の目処はつきそうかね?」

 

「調査を始めたばかりですから確かな事は言えま せんが…ひょっとしたら愉快犯の可能性もあります 」

 

「そうか…何とも嘆かわしい事だな。この美しい ル ーアンの地にそんな心の醜い者がいるとは」

 

「市長、失礼ですが…今回の件、もしかして彼ら の 仕業ではありませんか?」

 

「……………」

 

「ま、待って!“彼ら”って誰の事?」

 

話がわからなかったのか、ギルバートに聞くエステ ル

 

「君達も昨日絡まれただろう。ルーアンの倉庫区 画にたむろしているチンピラ共さ」

 

「あいつらが…」

 

「……………」

 

そこ、鵜呑みにすんな

 

「何であいつらが怪しいと?」

 

「昨日もそうだったが…奴ら、いつも市長に楯突 い て面倒ばかり起こしているんだ。市長に迷惑をか ける事を楽しんでいるフシさえある」

 

俺にはお前が勝手に突っかかって行ってるように見 えたがな

 

「だから市長が懇意にしているこちらの院長先生 に…」

 

「ギルバート君!憶測で滅多な事を口にするのは 止めたまえ!…これは重大な犯罪だ。冤罪が許され るものではない」

 

…俺はあんたらも怪しいと思っているんだがな

 

「余計な事をしなくてもこちらの遊撃士諸君が解 決してくれるだろう。…期待してもいいのだろうね ?」

 

市長が二人に聞く

 

「うん、任せて!」

 

「全力を尽くさせて頂きます」

 

「うむ、頼もしい返事だ…ところでテレサ院長、 一 つ伺いたい事があるのだが…」

 

「何でしょうか?」

 

「孤児院がああなってしまってこれからどうする おつもりかな?再建するにしても時間がかかるし、 何よりミラが掛かるだろう」

 

「………」

 

言葉を返せない先生

 

貯えなんざないだろうし、ましてや家一軒建てるだ けのミラとなればそう簡単には集められない

 

「どうだろう、私に一つ提案があるのだが」

 

「…なんでしょう」

 

「実は王都に我がダルモア家の別邸があってね。 たまに利用するだけで普段は空き家も同然なのだが …暫くの間そこで暮らしてはどうだろう?…勿論ミ ラを取るなどと無粋な事を言うつもりは無い。再建 の目処がつくまで幾らでも滞在してくれて構わない 」

 

…まるで始めから用意されていたように聞こえるの は俺だけか?

 

王都の別邸にしろ、この考えの早さにしろ、忙しい はずなのにわざわざ本人が訪ねてくる事にしろ…都 合が良すぎる

 

「で、ですがそこまで迷惑をお掛けするわけには … 」

 

「どうせ使っていない空き家だ。気がとがめるの であれば…屋敷の管理をして頂こう。勿論謝礼もお 出しする」

 

「………少し考えさせて頂けませんか?」

 

やはり少し頭の中がこんがらがっていたのか、あい まいに返事をした

 

それを聞いた市長は、また連絡してほしいと言って 去って行った

 

エステル達は市長を褒めていたが

 

「先生…どうなさるおつもりですか?」

 

「…あなた達はどう思いますか?」

 

「………」

 

「俺は反対だ」

 

「何で!?市長さんは再建する手伝いまでしてく れるんだよ!」

 

「今回の話…少し出来過ぎのように思える…始め か ら計画されていたようにな」

 

「………」

 

ヨシュアも同じ事を考えていたのか、目を閉じて俯 いている

 

「クローゼ、あなたは?」

 

「…常識的に考えて、受けたほうがいいとは思い ま す。でも、一度王都に行ってしまうと……いえ、 何 でもありません」

 

…また自分を偽ってやがるな

 

「ふふ…あなたは昔から聞き分けがいい子でした か らね。いいのよクローゼ。正直に言ってちょうだ い」

 

「………あのハーブ畑だって世話する人がいなくな るし…それに…それに…

 

…先生とジョセフさんに可愛がって貰った思い出が 無くなってしまう気がして…

 

ごめんなさい。愚にも付かない我が儘です」

 

「ふふ、私も同じ気持ちです。あそこは子供達と あの人の思い出が詰まった場所。でも思い出よりも 今を生きる事の方が大切なのは言うまでもありませ ん」

 

「先生!」

 

「…近い内に結論を出そうと思います。あなた達 は どうか学園祭の準備に集中して下さいね。あの子 達も楽しみにしていますから」

 

「…はい」

 

「…わかりました」

 

そしてその後ルーアンのギルドに戻る事になった… のだが

 

「クローゼお姉ちゃん!ケイジお兄ちゃん!」

 

マリィが慌てた様子で走ってきた

 

「どうした?」

 

「あのね!あのね!クラムの奴がどこかに行っち ゃったのよ!」

 

「…詳しく話してくれ」

 

「うん…あのオジサン達が来てからクラム、二階 に 上がったみたいで…すぐに降りて来て、真っ赤な 顔 して『絶対許さない!』とか言って…そのまま飛 び 出して行っちゃったの!」

 

「絶対許さない…もしかして…!」

 

「もしかしなくても《レイヴン》の所だね…秘書 の 人が話しているのを聞いてしまったんだろう…」

 

「あの青髪…余計な事を…」

 

俺達はマリィを蓮の木亭に返してから急いで倉庫区 画に向かった

 

~倉庫区画~

 

途中、ラングランド大橋が巻き上がってしまうと言 うハプニングがあったが、何とか倉庫区画にたどり 着いた

 

そこには、三バカに囲まれ、ディンに持ち上げられ ているクラムがいた

 

「止めて下さい!」

 

クローゼの声に反応してこっちを見るバカ共

 

「お、お前達は…」

 

あ、全員武器同じなのな

 

「クローゼ…姉ちゃん?」

 

オイコラ、俺は無視か

 

「子供相手に遊び半分で暴力を振るうなんて…最 低 です。恥ずかしくないんですか」

 

「な、何だとー!」

 

「ようよう、お嬢ちゃん。ちょっとばかり可愛い からって舐めた口利き過ぎじゃねぇの?」

 

…雰囲気がボケられねぇな

 

「いくら遊撃士がいた所でこの数相手に勝てると 思うか?」

 

確かに数の暴力は脅威だが…この場合練度が違いす ぎるから問題はないな

 

「クローゼさん、下がってて!」

 

「僕達が時間を稼ぐよ。その隙にあの子を助けて … 」

 

「いいえ…」

 

やっぱりな…

 

「大丈夫だヨシュア。コイツ…普通に戦えるから 」

 

「へ…」

 

「本当は使いたくありませんでしたけど…」

 

「少なくともそこらの魔獣なら一蹴できるくらい には鍛えられてるから(ユリ姉に)」

 

「剣は人を守る為に振るうと教えられました…今 が 、その時だと思います」

 

「ええっ!?」

 

「護身用の細剣(レイピア)…」

 

「その子を離して下さい」

 

「さもなくば…実力行使で返してもらう」

 

何かレイヴン側からカッコイイとか可憐だとか聞こ えたが、ディンの一喝で収まる

 

「こんなアマっ子にまで舐められてたまるかって んだ!」

 

俺達(レイヴン)の恐ろしさを思い知らせてやるぞ!」

 

あ、ザコキャラフラグ

 

そう言って飛びかかってくるレイヴンメンバー

 

…どうでもいいけどなんでリーダー格以外俺とクロ ーゼに狙い定めてんの?

 

「はあ…速攻で終わらせるぞ?ついて来いよ」

 

「わかってる」

 

まずは俺が正面の一人を吹き飛ばし、その隙を突こ うとした奴をクローゼが三連の突きで気絶させる。

 

そこでこっちが劣勢と見たのか、ロッコが加勢して くる

 

残った不良Cを威力を逃がさないように挟み込んだ 同時攻撃で挟み込んだ後、クローゼの背後に迫った ロッコを迎撃して、鍔迫り合いになる。

 

「ケイジ!」

 

「!」

 

クローゼの声で全てを察した俺は、ロッコを押し返 して後ろに下がる

 

その直後、ロッコの足元から強力な水流が現れ、ロ ッコを吹き飛ばして気絶させる

 

「…容赦ねぇな」

 

「ケイジ程ではないよ♪」

 

失礼な。これでも10分の1しかだしてねぇのに

 

「こ、こいつら化け物か…」

 

化け物はキレた時の黒ーゼだっての

 

「遊撃士共はともかく、こっちの奴らもただ者じ ゃねぇ…」

 

「ひゅー!二人共やるーっ!」

 

「その剣…名のある人に習ったものみたいだね」

 

「クローゼはな。俺は独学だよ」

 

「いえ、まだまだ未熟です」

 

「その割にはフェンシングの大会で大暴れしてた よな」

 

「それは言わないで…」

 

顔を真っ赤にして照れるクローゼ

 

その後、クローゼがレイスとディンを説得しようと するが、プライドの問題なのか、頑として受け付け ない二人に、気絶させた方が早くないかな~とか考 えていると

 

「オイ、そこまでにしとけや」

 

と、赤毛のトリ頭をした男が入ってきた

 

…ヨシュアとエステル、クローゼが三人掛かりで倒 せるくらいか…そこそこ強いな

 

「やれやれ、久々に来てみりゃ俺の声も忘れている とはな…」

 

「ア、アガットの兄貴!」

 

どうやらアガットというらしい

 

「き、来てたんスか…」

 

「ど、どうしてあんたが…ていうかこいつらの知 り 合いなの!?」

 

エステル達とも知り合いらしい

 

その後、アガットが二人をシメた事でクラムが解放 され、テレサ先生の登場もあり無事にこの件は解決 した

 

いや~あのパンチは思わず昇竜拳と言いそうになっ たわ

 

その後、ギルドに戻り、三バカが犯人ではないとわ かった

 

何か依頼を巡ったゴタゴタもあったが、面倒なので 我関せずを貫いた

 

しかしその延長でクローゼがエステル達に学園祭の 手伝いを申し出て、エステル達が学園に来る事にな った

 

かく言う俺も…

 

「(ちょっと待てよ?…もしかしたら“あの役”… ヨ シュアに押し付けられるかも…)」

 

「ケイジ…“アレ”からは逃げられないと思うよ? 」

 

「いーや!絶対に逃げ切ってやる!俺の全力をか けて!」

 

「…ジルが許すと思う?」

 

「あんな役やるくらいならクローゼに甘い言葉囁 くほうがマシだ」

 

「それ…どういう意味?」

 

「そーゆー意味」

 

そう言って俺は全力で逃げる

 

「あ!待ちなさい!」

 

クローゼが追いかけてくるのがわかってるからな

 

「はあ…クローゼさん、前途多難ね…」

 

「…何か嫌な予感がするんだけど…」

 

「気のせいじゃない?」

 

勘の良いヨシュアであった



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『お前もな!』by 冴えない男子代表

ギルドで依頼を済ませ、エステル達が報告するのを 待った後、俺達は学園に向かった

 

~ジェニス王立学園~

 

「は~、ここが王立学園か。何て言うか…落ち着 い た感じのいい場所ね」

 

「静かだし、勉強をするにはもってこいの環境み たいだね」

 

「まあ、今授業中だからな」

 

「もう少ししたら途端に騒がしくなりますよ。学 園祭まで間もないですし」

 

「なるほど。みんな準備に大忙なんだね」

 

「あはは…それもあるんですけど…」

 

「主に俺の捕獲に命かけてるからな…生徒会長が 」

 

ガチで全生徒仕向けてくるからな…あのバカは

 

「それは何と言うか…大変だね」

 

「大丈夫だ。そろそろ解放される(予定だ)から 」

 

「(ブルッ)!?」

 

俺の表情に思わず悪寒を感じたらしいヨシュア…い かんいかん、つい顔に本音が

 

「とりあえず、まずはコリンズ学園長に紹介しま す。ついて来て下さい」

 

~学園長室~

 

「学園長、ただいま戻りました」

 

「後、客を連れて来ました~」

 

「クローゼ君、ケイジ君、戻ったか。客人とはそ ちらの方々かな?」

 

相変わらずの落ち着いた態度で俺達を迎える学園長

 

「初めまして、学園長さん」

 

「遊撃士協会から来ました」

 

「ほう、まだ若いのにケイジ君同様大したものだ … 」

 

「学園長」

 

「おっと済まない。失言だったね。」

 

全く、くえないオッサンだ

 

まだ俺の正体はどっちもばらせない

 

エステル達は事情を察してくれたのか、深く聞いて くる様子は無い

 

「…孤児院で火事があったそうだが、もしやその 関 係できたのかね?」

 

少し顔をしかめる学園長…まあ、学園の中に事件に 関わった者がいるとは考えたくないだろうな

 

「はい、実は…」

 

クローゼが放火事件の事について説明する

 

「なるほど…私も何か力になれる事があればいい の だが…」

 

「ま、今は学園祭を成功させてガキ共を楽しませ る位しかできねぇわな」

 

「そうだな…そこから始めるしかないだろうな」

 

「はい…」

 

孤児院と深く関わりを持つ者が頷く

 

「そこでお芝居についてはエステルさんとヨシュ アさんに協力して頂こうと思いまして…」

 

「いい考えだと思うよ。 …おや?でも確か空き役は 1つしか…」

 

「“あの役”があるじゃないですか~」

 

「む?“あの役”は君がやると台本にあったが?」

 

「そんなもん、どうとでもなりますよ」

 

「でも私は個人的にケイジにやってほし…」

 

「だが断る。あんなのは恥以外の何物でもない! 」

 

この時の俺は内心必死だったと言っておく

 

「大体アレをガキ共に見せてみろ!ここぞとばか りに大爆笑だろうが!」

 

「え~…みんな見とれると思うけど…」

 

「無理。…という訳でヨシュア」

 

俺はヨシュアの肩に手を置いて、無言で頷く

 

「…激しく嫌な予感しかしないんだけど…とりあ え ずその頷きは何さ?」

 

「…直にわかる」

 

「もういいかい?」

 

「あ、はい」

 

律儀にツッコまずに待っていてくれた学園長に感謝

 

「コホン、エステル君とヨシュア君には劇の手伝 いをしてもらうと言う事でいいんだね?」

 

「はい」

 

「ならば劇の事は生徒会長のジル君に聞いてくれ 。劇については彼女に一任しているしね」

 

「わかったわ」

 

「…あいつさえ、生徒会長じゃなかったら…」

 

え?しつこい?お前らはあの役の恐ろしさを知らな いからそんな事が言えるんだよ!男子生徒ほぼ全員 による強制着替えを体験してから出直して来い!

 

「私からは…寮の準備をさせてもらうよ」

 

「え!?寮!?」

 

「学園祭まで時間がないからな…練習は多分夜ま で やるし、泊まり込みの方が色々楽だろ?」

 

「それはそうね…」

 

「助かります」

 

そうエステル達が納得した時、終業の鐘が鳴った

 

「ちょうど授業も終わりだな」

 

「(ヤベ…)じゃあ俺はこれで!」

 

俺は全力で部屋を出て、隠れる場所を探す

 

「あ!待って…って聞こえてないか…」

 

「ねぇクローゼさん…何でケイジはあんなに劇を 嫌 がっているの?」

 

「それはケイジの役が問題ですね」

 

「…ちなみにどんな役なの?」

 

「それは…私の口から言うのは…」

 

少し慌てた感じになるクローゼ

 

「言うのは?」

 

「恥ずかしい…です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いた!一班から三班はこのまま追って!残りは 裏に回るわよ!」

 

『応!』

 

「来んなてめぇらぁぁ!!」

 

現在リアル鬼ごっこ進行中です

 

…俺以外全員鬼とか言うイジメ設定だけどな!

 

「待てぇぇ!大人しく練習をしろぉぉ!」

 

「ふざけんな!二度とあんな格好してたまるか! 」

 

もう気付いた人もいるとは思うが、あんな格好とは …

 

女 装

 

である

 

「むしろ劇でやらなくていいからもう一回女装して !」

 

「ふざけんな変態共!」

 

そう言って俺は中庭の階段を全段飛ばしで降り、挟 まないように四方に逃げ道をつくる

 

そして案の定反対側から来た軍団を撒いて、旧校舎 の方へと逃げ込む…フリをしてクラブハウスの裏手 で術を使って屋根まで登る

 

「ハア…ハア…これで少しは…」

 

「甘い!」

 

「悪いな。ケイジ」

 

「なっ!?」

 

俺が屋根に登った瞬間、待ち構えていたかのように ジルとハンスがいて、ハンスが俺を拘束していた

 

「やぁっ~~~~っと捕まえたわ~。フッフッフ … もう逃げられないわよ」

 

「お前ら…指示を出した後は生徒会室で予算チェ ッ クとかしているはずじゃ…」

 

「もうおおまかには終わらせたわよ…気力で」

 

バカな…ギリギリまでかかるように情報操作したは ずだ!

 

「…こいつ3日間生徒会室に泊まり込みで終わら せ やがったんだよ」

 

「くっ…ジルの面白い事に関する時の根性…いや 、 執念を甘く見ていたか…!」

 

「そう言う事。さて、あんた以外にあの役が出来 そうな奴がいないんだからいい加減覚悟を決めなさ い」

 

「………?あれ?お前ヨシュアとエステルに会って ないのか?」

 

俺以外にいないって事はないはずだ…ヨシュアに会 っていれば

 

「会ったわよ?」

 

「なら…」

 

「本人が断ったんだから仕方ないじゃない(クロ ーゼにも悪いしね~)」

 

なっ!?ヨシュア…貴様裏切ったのか!?(違)

 

「さあ、逝くわよ。みんな待っているんだし」

 

「ち、ちくしょぉぉぉぉ!!!…」

 

ジルに引きずられて行く俺の目に手を合わせて見送 るハンスが印象に残った

 

…帰ったら秘蔵本人VOL.2燃やし尽くしてやる…!

 

~講堂~

 

「へぇ…エステルにクローゼ。なかなか似合って る じゃない」

 

「えへへ…そうかな?」

 

「なんか照れくさいです…」

 

講堂には、すでに騎士衣装に着替えたエステルとク ローゼ、…+普通の格好のヨシュア

 

その三人が談笑している所に

 

「や~め~ろ~や~!!」

 

「さあ、全員ケイジを着替えさせちゃって~」

 

『サーイエッサー!』

 

男子生徒全員に担がれた縄で拘束されたケイジが連 行されてきた

 

そしてそのまま奥の更衣室に連れて行かれて

 

「ちょっ!?待て!お前ら落ちつ…ぎゃあぁぁぁ ぁ !!!」

 

「だ、大丈夫かな…?」

 

「さ、さあ…?(ゴメン、ケイジ…)」

 

少し心配になる二人であった

 

~5分後~

 

『…会長~!準備完了で~す!』

 

「OK!じゃあ練習始めるわよ!」

 

ジルがそう言った事で更衣室の扉が開く

 

…超行きたくねぇ

 

しばらく渋っていたが、いつまでもじっとしていて も仕方ないので、扉を出る

 

始めに目に入ったのは、唖然としているエステルと ヨシュア、それと何故か見とれているバカ共(クロ ーゼ含む女子全員)だった

 

「嘘…ケイジ…?」

 

「相変わらず見事ですね…」

 

「…………」

 

ヨシュア、無言はキツい。主に俺の精神が

 

「チクショー、そんなにおかしいか!笑えよ!笑 えばいいだろバカヤロぉぉぉぉ!!!」

 

「(あ、ケイジが壊れた)」

 

暫くとち狂っていたが、少しすると落ち着いて、だ んだん色々恥ずかしくなってきた

 

「落ち着いた?」

 

「…見苦しい所をお見せしました…」

 

「よし、今度こそ始めるわよ!」

 

…せめて気持ちを切り替える時間が欲しかった…

 

それからかなり本格的な練習が始まった

 

余談だが、紅騎士の役が決まってなかった事と、姫 役の俺が逃げ回っていた事で、メインの練習が一切 できなかったらしく、脇役のみんなの完成度が異常 に高かった

 

…今回やる劇は『白き花のマドリガル』

 

簡単に紹介すると、平民の蒼騎士オスカーと貴族の 紅騎士ユリウス…この二人が国の姫のセシリアに恋 をしてしまう

 

その二人の恋をそれぞれの上役達が政治的に利用し ようとして、ゴタゴタに巻き込まれると言う話だ

 

…最後は結局ハッピーエンドの大団円だがな

 

そしてその日の練習が終わり…

 

「………」orz

 

「ケイジいつまでへこんでるんだ?」

 

「あはは…」

 

ヨシュアは元々三人部屋だった事もあり、俺とハン スの部屋に泊まる事になった

 

「でも何かいいね…」

 

「…?何がだ?」

 

「いや、僕はロレントにいた時に同期くらいの年 の男がいなかったから…何か羨ましいなって…」

 

ヨシュアが少ししんみりした様子で言う

 

…ヨシュア、ハンスの前で、特にお前みたいな奴は それを言うと…

 

「はあ!?お前本気でそれ言ってんのか!?」

 

ハンスがキレるぞ…って手遅れか

 

「え?」

 

「エステルみたいなかわいい女子と一緒に旅する どころか一つ屋根の下で暮らしていたってのに…こ のモテない男の敵が!」

 

全くだ!(←モテているが本人が鈍感過ぎる所為で 気づいてないだけ)

 

「いいか!?大体お前は…」

 

何故か正座のヨシュアに説教し始めるハンス…中年 の酔ったオヤジかお前は

 

…そういや今の内にさっきの恨みを返しておくか…

 

俺は二人をよそにハンスのベッドの下を探り、小包 くらいの木箱を取り出す

 

それを窓から放り出して、ゆっくりと詠唱を始める

 

ちょうどいいから新術の実験台にするか…範囲と威 力を100分の1に絞って…

 

「…祈り来たるは浄化の炎界、願い来たるは暗黒 の 氷河…」

 

第一詠唱だけでも、木箱が燃え出し、その燃えた場 所から凍っていく

 

「其は回天を表す刹那の痛み…今我が元にて具現 せ よ」

 

「…だから…ってケイジ何してんだ…まさか!」

 

そのまさかだ!

 

「『アーククリムゾン』…砕けろ!」

 

「俺の秘蔵書がぁぁぁぁ!!」

 

ガクッorz

 

「さて、ヨシュア…俺からも言わせてもらえば… こ のリア充が」

 

「お前もな!」

 

復活はやいな…というか俺の何処がリア充だ

 

その後少し騒いでから俺達は寝た

 

それからはまた、騒がしくも楽しい日々が始まった

 

授業に参加したエステルがバカさ加減を発揮して、 ヨシュアが秀才っぷりを見せたり…

 

昼休みに6人で談笑しながら昼食をとったり…

 

放課後は練習をかなり頑張ったり… (ヨシュアは結 局メイド長の役に決まり、女装する 事になった。… ざまあ(笑))

 

あっという間に学園祭前日がやって来た

 

「ヨシュア、いたか?」

 

「いや…寮にはいないみたいだ」

 

「じゃあ講堂じゃないか?劇の最後の練習してる とか」

 

「ありえそうだな…行ってみるか」 講堂に行くと、 案の定練習をしていた二人がいた

 

「ここにいたのか」

 

「ヨシュア!?」

 

「ケイジまで…」

 

「(俺は…?)予行演習は終わったのにまだ稽古 を やってるとはな」

 

「決闘シーンいけそうか?」

 

「ま、任せなさいっての!完璧に演じてみせるん だから!」

 

「そっか…うん、楽しみにしてるよ」

 

…桃色空間を展開するのは止めて欲しい

 

「そういえば、三人はどうしてここに?」

 

「ああ…ヨシュア達が寮に泊まるのも今日で最後 だ からな。明日の前祝いを兼ねて夕食でもと思って な」

 

「ケイジにしてはいい提案だね」

 

「一言余計だ阿呆。…そういやジルは一緒じゃね ぇ のか?」

 

「ジルならさっき呼び出されたみたいだけど…私 、 呼んでこようか?」

 

「ああ、頼む。俺達は先に食堂で席を取っておく よ」

 

「じゃあ、行こうか」

 

「「がってんだ、大将」」

 

「だれが大将だよ…」

 

そうやってヨシュアをからかいながら、食堂に向か った

 

暫くして、食堂に来たクローゼ達とほどほどに騒い で、最後にソフトドリンクで乾杯し、寮に戻って早 めに寝た

 

…明日の劇が成功する事を祈って



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『白き花のマドリガル』

~学園祭当日~

 

「…配置も照明もOK…うん、準備完了ね!」

 

俺達は講堂で劇の準備をしていた

 

「さて、劇の公演まで時間はあるから遊んできて いいわよ」

 

「そうこなくっちゃ!屋台とか片っ端から食べ尽 くすわよ~♪」

 

花より団子だね~

 

「食べるのはいいけど…食べ過ぎて劇の最中に動 け なくならないようにね」

 

「わ、わかってるわよ」

 

「…ヨシュア。くれぐれも頼んだぞ」

 

「任されたよ」

 

「あ!二人共信用してないでしょ!」

 

当たり前だ。食べ物に関してエステルを信用する事 は即ち死だ。

 

何も知らずにエステルとクローゼに昼を奢った時、 俺の財布が空になったからな!

 

…一万ミラは入れてたのに

 

「全く…みんなも行くんでしょ?」

 

「私とハンスは生徒会の仕事があるからね~」

 

「それって昨日言ってた?手伝おうか?」

 

「いいわよ。あんたはケイジと一通り回ってらっ しゃい。チビ達もすぐに来るんでしょ?」

 

「うん…ありがとう」

 

「ケイジ、ヨシュア。わかってるな?俺の好みの 女の人がいたらすぐに教えてくれよ」

 

「わかってるよ…」

 

「美人で背が高くて大人の魅力を兼ね備えたお姉 さん、だったか?」

 

「それでこそ親友だ♪」

 

…呆れて何も言えねえ

 

向こうでジル達がハンスをゴミを見るみたいな目で 見てるしな

 

「それより!ヨシュア、行くわよ!」

 

「ちょ、エステル落ち着いて…」

 

と、まだ開始のアナウンスもされてないのにエステ ルはヨシュアを引っ張って行ってしまった

 

「相変わらずの仲の良さだな…」

 

「ふふ…私達も行こう?」

 

「へいへい」

 

俺とクローゼはそんな二人を追いかけるのであった

 

「…ねぇハンス」

 

「どした?」

 

「あの二組…端からみれば完全にカップルよね」

 

「言うなよ…何か羨ましい通り越して虚しくなる か ら…」

 

「…何かゴメン」

 

よくわからない敗北感を抱くジルとハンスであった

 

『皆様、大変お待たせしました。只今より、ジェニ ス王立学園第52回学園祭を開催します』

 

「始まったな」

 

門が開くと同時にかなりの数の人が学園に入ってく る

 

「うわ~…凄い数のお客さんだわ」

 

「さすがは名高いジェニス王立学園だね。学園レ ベルの祭りとは思えないな」

 

ヨシュアが関心したように言う

 

「ふふ、今年は例年よりもお客さんが多いみたい です」

 

「ジルが宣伝に張りきってたからな」

 

「ふふ、じゃあ私達も回り始めましょうか」

 

そのクローゼの一言を皮きりに、俺達は学園祭を回 り始めたのだが…

 

「…はぐれたな」

 

「そうだね…」

 

見事にはぐれた

 

だってエステルがヨシュア引っ張ってどんどん先に 行くんだぜ?…屋台の食べ物一通り頼んでから

 

しかも食べるスピードが半端じゃないから…立ち食 いに慣れてないクローゼは大変だった

 

「ごめんね、ケイジ…私のせいで…」

 

ものすごい落ち込んでいるクローゼ

 

「気にすんな。どうせエステルの事だから、ガキ 共を探したら一緒にいるだろ」

 

そう言って、クローゼを復活させて、学園祭を楽し みながら先生達を探していると…

 

「あ!クローゼ姉ちゃん!ケイジ兄ちゃん!」

 

「ここにいたか」

 

案の定クラム達と一緒にエステル達もいた

 

「みんな…来てくれたのね!」

 

その後は暫くガキ共と喋っていたが、先生が来た事 で一旦区切りがついた

 

「今日は招待してくれて本当にありがとうね。子 供達と一緒に楽しませてもらってますよ」

 

「なあ、ケイジ兄ちゃん。兄ちゃん達が出る劇 っ ていつぐらいに始まるのさ?」

 

「あたし達、すっごく楽しみにしてるんだから☆ 」

 

ごめんな…今はお前らのその純粋さに俺のメンタル が…

 

「…ああ、まだもう少しかかるな」

 

何とか根性で乗り切って返事をした

 

「院長先生、まだマノリアにいるの?」

 

エステルが俺の心情を読み取ったのか話を変えてく れた

 

「はい、宿の方のご好意で格安で泊めて頂いてい ます。ですが…」

 

何か言いにくそうにする先生

 

…決めたのか

 

「…なあ、みんな。劇の衣装、見たいか?綺麗な ド レスとか騎士装束とかあるぞ」

 

「綺麗なドレス!?」

 

「騎士しょーぞく!?」

 

「ふふ、興味があるみたいだね」

 

…ヨシュア。「ふふ」みたいな笑い方をお前がする とオカマに見える。…劇の影響か?

 

「それじゃあ特別に見せて上げるよ」

 

「やったぁ!」

 

「ポーリィもいくー」

 

「(舞台の控え室にいるから、ゆっくり話せ)」

 

「(…ありがとう)」

 

「よし!んじゃ行くか!」

 

そうして俺とヨシュアはガキ共を連れて控え室に行 った

 

途中、銀髪の男…ってあれ《剣帝》じゃねぇか!

 

ヨシュアが目を丸くしていたから何か関係でもある のか?

 

「…ごめん、ケイジ。子供達を頼むよ」

 

「ん。わかった」

 

後で追いかけようか…

 

~控え室~

 

「さて、衣装は着れるんなら着てもいいぞ。…俺 は ちょっと外すから大人しくしてろよ?」

 

『は~い』

 

俺は急いでヨシュアを追う。

 

じゃないと《剣帝》は見失う可能性大だしな

 

裏道を走っていると、旧校舎に向かう二人を見つけ 、追いかける

 

ヨシュアは途中で見失い、エステル達も俺達を捜し に来た事で戻って行った

 

「行ったか…」

 

「残念でした~NO2《剣帝》」

 

「!?…何だ、《白刃》か…」

 

「それで呼ぶな阿呆。…久しぶりだなレーヴェ」

 

「お前もな、ケイジ」

 

そう、実は俺達は知り合いだ。…昔斬り合った、な

 

今も立場上は思いっきり敵同士だが

 

「俺を捕らえにでも来たか?」

 

「祭りの日にんな無粋な事するかよ…それに俺が か なり限定的な条件でないと仕事しないの知ってる だろ?」

 

「ふっ…違いない」

 

「俺が聞きたいのは…この前の孤児院放火にあの 組 織は関わっているのか?」

 

先生達を助けた銀髪の男はまずコイツで間違い無い …今はそれもどうでもいい

 

問題はあの組織が関わっているのかどうかだ

 

「直接は関わっていない」

 

「直接は…?じゃあ間接的には関わっているのか 」

 

「さあな。…一つだけ言うとすれば、偶には軍の 方 にも気を張っておけ。…ではな」

 

「あ、オイ!」

 

俺の制止の声も聞かずにレーヴェはさっさと行って しまった

 

…軍に気を張れ?何か起きているのか?

 

『…連絡します。劇の出演者とスタッフは講堂で準 備を始めて下さい。繰り返します…』

 

…まあ、いつまでも考えていても仕方ないし、戻る か

 

~講堂~

 

俺が戻った時には、既に大体の準備が終わっていた

 

すぐに着替えて、準備を終わらせると、それが合図 だったように客が集まってきた

 

「うっわ~…めちゃくちゃ人がいる~…あう~、 何 だか緊張してきた」

 

客席を覗き見していたエステルが言う

 

「大丈夫ですよ、エステルさん。あれだけ練習し たんですから」

 

「そう言って足がガクガクになってんのは誰かな ~♪」

 

クローゼの足を指でつつく

 

「きゃあっ!?…あう~…」

 

涙目で睨まれても怖くない

 

「大丈夫だよ。劇が始まったら他の事は気になら なくなるさ。特にエステルは1つの事にしか集中出 来ないタイプだからね」

 

ヨシュアがエステルをからかうように言う

 

「むっ、言ってくれるじゃない。でもまあ、その カッコじゃ何言われても腹は立たないけど♪」

 

「そうですね♪」

 

「「ぐっ…」」

 

俺とヨシュアの精神にかなりダメージが入る

 

「はいはい、痴話喧嘩はそのくらいで」

 

ジルは急に真面目な顔になって

 

「…今年の学園祭は大盛況よ。公爵だの市長だの お 偉いさんがいるみたいだけど私達が臆する事はな いわ。練習通りにやればいいだけの事。」

 

ウインクをしてジルが言う…こういう時の盛り上げ は巧いんだよな~

 

「俺達自身の手でここまで盛り上げた学園祭だ… 最 後まで根性入れて花を咲かせてやるとしようぜ! 」

 

そうして俺達は気合いを入れ直して

 

『…大変お待たせしました。只今より、生徒会が主 催する史劇、《白き花のマドリガル》を上演します 。皆様、最後までごゆっくりお楽しみ下さい…』

 

俺達の公演が始まった

 

(ここからケイジ→セシリア、エステル→ユリウス 、クローゼ→オスカー、ヨシュア→メイドに変換し ます)

 

―――――

 

ジ「時は七耀暦1100年代…100年前のリベールでは 未だ貴族制が残っていました。 一方、商人達を中 心とした平民勢力の台頭も著しく … 貴族勢力と平 民勢力の対立は日増しに激化して行っ たのです… 王家と教会による仲裁も功を奏しませんでした…」

 

舞台が明転して、俺の姿が見えるようになる

 

ジ「そんな時代…時の国王が病で崩御されて一年が 過ぎたくらいの頃… 早春の晩、グランセル城の屋上 にある空中庭園から 、この物語は始まります…」

 

そしてジルは退場する

 

セ「街の光は、人々の輝き…あの一つ一つにそれぞ れの幸せがあるのですね… ああ、それなのに私は… 」

 

ヨシュア登場

 

メ「姫様…こんな所にいらっしゃいましたか。そろ そろお休み下さいませ。あまり夜更かしをされては お身体に障りますわ」

 

セ「いいのです。私など病にかかれば…そうすれば 、このリベールの火種とならずに済むのですから」

 

メ「まあ、どうかそんな事を仰らないでくださいま し!姫様はリベールの至宝…よき旦那様と結ばれて 王国を統べる方なのですから」

 

セ「私、結婚などしません。亡きお父様の遺言とは 言え、こればかりはどうしても…」

 

メ「どうしてでございますか?あのような立派な求 婚者が二人もいらっしゃるのに…一人は公爵家の嫡 男にして、近衛騎士団長のユリウス様…もう一人は 平民出身ながら帝国との紛争で功績を上げられた猛 将オスカー様… はぁ~どちらも素敵ですわ♪」

 

ごめん、ヨシュア。キモイ…あ、俺もか

 

セ「………彼らが素晴らしい人物であるのは私が一番 良く知っています」

 

一歩前に出て

 

セ「ああ、オスカー、ユリウス… 私は…どちらを選 べばいいのでしょう…」

 

――――――

 

(中略…テヌキトカ、イワナイデ…)

 

――――――

 

ジ「二人の覚悟を悟った姫に、もはや止める手だて はありませんでした そして次の日…王都の王立闘技 場に二人の騎士の姿 がありました 貴族、平民、中 立勢力など大勢の人々が見届ける中 … セシリア姫 の姿だけがそこには見られませんでした 」

 

ユ「我が友よ…こうなれば是非もない…我々はいつ か雌雄を決する運命にあったのだ」

 

剣を抜くユリウス

 

ユ「抜け!互いの背負うものの為に!何よりも愛し き姫の為に!」

 

オ「運命とは自らの手で切り開くもの…背負うべき 立場も、姫の微笑みも、今は遠い…」

 

ユ「臆したか!オスカー!」

 

オ「だが、この身を駆け抜ける狂おしいまでの熱情 は何だ? 自分もまた、本気になった君と戦いたく て仕方ない らしい…」

 

オスカーも剣を抜き、構える

 

オ「革命と言う名の猛き嵐が全てを呑み込むその前 に…剣をもって運命を決するべし!」

 

ユ「おお、我ら二人の魂、女神もご照覧あれ! い ざ尋常に勝負!」

 

――――――

 

オ「くっ…」

 

ユ「オスカー!?」

 

オ「問題ない、カスリ傷だ…」

 

ユ「我々の剣は未だ互いを傷つけてはいないハズ… まさか!?」

 

「卑怯だぞ、ラドー公爵!貴公の謀か!?」

 

「ふふふ…言いがかりは止めて貰おうか。私の差し 金という証拠があるのか?」

 

ユ「父上…なんという事を」

 

オ「いいのだ、ユリウス。これも自分の未熟さが招 いた事。 …それに、この程度のケガ、戦場では当た り前のも のだろう?」

 

ユ「………」

 

オ「次の一撃で全てを決しよう。自分は…君を殺す つもりで行く」

 

ユ「オスカー、お前…わかった…私も次の一撃に全 てを賭ける」

 

二人が飛び退き、間合いが出来る

 

ユ「さらなる生と、姫の笑顔。そして王国の未来さ えも… 生き残った者が全ての責任を背負うのだ」

 

オ「そして敗れた者は魂となって見守っていく…そ れもまた騎士の誇りだろう」

 

ユ「ふふ、違いない…」

 

オ「………」

 

気合いの声を上げた後、お互いが雌雄を決する為に 斬り合う―

 

ハズだった

 

「だめーーーーっ!」

 

舞台が明るくなった後、そこにはセシリア姫がいた

 

セ「あ…」

 

ゆっくりと倒れるセシリア姫

 

ユ「ひ、姫ーーーっ!」

 

オ「セシリア、どうして…君は欠席していたはずで は…」

 

セ「よ、よかった…オスカー、ユリウス… あなた達 の決闘なんて見たくありませんでしたが… どうして も心配で…戦うのを止めて欲しくて… ああ、間に合 ってよかった…」

 

オ「セシリア…」

 

ユ「ひ、姫…」

 

セ「皆も…聞いて下さい… 私に免じて…どうか争い は止めて下さい… 皆…リベールの地を愛する大切な 仲間ではありませ んか…ただ…少しばかり…愛し方 が違っただけの事… 手を取り合えば…必ず分かり合 えるはずです…」

 

「お、王女殿下…」

 

「もう…それ以上は仰いますな…」

 

セ「ああ…目が霞んで… ねぇ…二人とも…そこに…い ますか…?」

 

ユ「はい…」

 

オ「君の側にいる…」

 

セ「不思議…あの風景が浮かんできます…幼い頃…お 城を抜け出して遊びに行った…路地裏の… オスカー も…ユリウスも…あんなに楽しそうに笑っ て… 私は …二人の笑顔が…だいすき… だ…から…どうか…いつ も笑って…いて…」

 

ユ「姫…?嘘でしょう、姫! 頼むから嘘だと言って くれええ!」

 

オ「セシリア…自分は…」

 

メ「姫様、おかわいそうに…ああ、どうしてこんな 事に…」

 

「殿下は命を捨ててまで我々の争いをお止めになっ た…その気高さと較べたら…貴族の誇りなど如何ほ どの物か… そもそも我々が争わなければこんな事に はならなか ったのに…」

 

「人はいつも手遅れになってから己の過ちに気がつ くもの…これも魂を肉体に縛られた人の子としての 宿命か… 女神よ…大いなる空の女神よ。お恨み申し 上げます ぞ…」

 

『まだ…判ってないようですね 確かに私はあなた達 に器としての肉体を与えました 。しかし、人の子 の魂はもっと気高く自由であれる はず。 それを貶 めているのは他ならぬあなた達自身です』

 

「おお…なんたる事!方々、畏れ多くも女神が降臨 なさいましたぞ!」

 

ユ「これが女神…」

 

オ「なんという神々しさだ…」

 

『若き騎士達よ。あなた達の勝負、私も見せてもら いました。なかなかの勇壮さでしたが…肝心なもの が欠けていましたね』

 

ユ「仰る通りです…」

 

オ「全ては自分達の未熟さが招いた事…」

 

『議長よ…あなたは身分を憎むあまり、貴族や王族 が同じ人である事を忘れてはいませんでしたか?」

 

「…面目次第もありません」

 

『そして公爵よ…あなたの罪はあなた自身が一番良 く判っているはずですね?』

 

「………」

 

『そして今回の事態を傍観するだけだった者達…あ なた達もまた、大切な物が抜けていたはず。胸に手 を当てて考えてごらんなさい』

 

「………」

 

『ふふ、それぞれの心に思い当たる所があったよう ですね。 ならばリベールにはまだ未来が残されて いるでしょ う 今日と言う日の事を決して忘れる事 のなきように… 』

 

メ「ああ…消えてしまわれた…」

 

セ「…ん…あら?ここは?」

 

ユ「ひ、姫!?」

 

オ「セシリア!?」

 

セ「まあ…ユリウス、オスカー…まさかあなた達ま で天国に来てしまったのですか?」

 

二人「………」

 

「こ、これは…これは紛う事無き奇跡ですぞ!」

 

メ「姫様ぁ~!本当に、本当に良かった!」

 

セ「きゃっ!…どうしたのです二人共… あら…公爵… 議長までも…私…死んだはずでは…」

 

それぞれが騒ぎ出す

 

セ「オスカー、ユリウス…あの…どうなっているの でしょう?」

 

オ「セシリア様…もう心配する事はありません。永 きに渡る対立は終わり…全てが良い方向に流れるで しょう」

 

ユ「甘いなオスカー。我々の勝負の決着はまだ付い ていないはずだろう?」

 

オ「ユリウス…」

 

セ「そんな…まだ戦うと言うのですか?」

 

ユ「いえ…今回の勝負はここまでです。何せそこに いる大馬鹿者が利き腕をケガしております故。しか し、決闘騒ぎまで起こして勝者がいないのも格好が 付かない。ならばハンデを乗り越えて互角の勝負を した者に勝利を!」

 

オ「待てユリウス!」

 

ユ「勘違いするなオスカー。姫を諦めた訳ではない ぞ。お前の傷が癒えたら、今度は木剣で決着をつけ ようではないか…幼き日のように、心ゆくまでな」

 

オ「そうか… ふふ、わかった。受けて立とう」

 

セ「もう、二人共…私の意志は無視ですか?」

 

オ「そう言う訳ではありませんが…」

 

ユ「ですが姫…今日の所は勝者へのキスを。皆がそ れを望んでおります。」

 

セ「…わかりました」

 

オスカーが近づいてくる

 

セシリアはその唇に…

 

って待て。俺が今ここでオスカー(クローゼ)にキ スをすればどうなる…?

 

今は学園祭→確実にユリ姉がいる→見られてる→ユ リ姉激怒(頭カッチコッチだから)→俺死亡

 

…あれ?死亡フラグじゃね?

 

ちなみにここまでの思考時間は約0,05秒だった りする

 

オ「(もう…じれったいなぁ…えいっ!」

 

セ「んっ!?」

 

不意に唇をふさがれたと思ったら、何故か周りが光 り始めた

 

「(まさか…)」

 

『あ~、あ~…業務連絡~業務連絡~』

 

こ、この声は!

 

「(神!?)」

 

『御名答~。さて、報告だが…俺が大爆笑…もとい 劇を見ていた時に…』

 

やっぱり笑ってたのか!チクショー!

 

『ついつい、机を叩いちまってな~…パクティオー 発動させちゃった♪』

 

………

 

「(いや、大問題じゃねぇか!?)」

 

『てへ♪』

 

「(可愛くねーよ!キモイんだよ!)」

 

その後の事はよく覚えていないが、どうやら劇は成 功したらしい



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閑話『酒は呑んでも呑まれるな』

「どーしてこうなったかな…」

 

今俺は旧校舎の入り口の所で座り込んでいる

 

俺達が上演した劇、

 

功、学園祭は大盛況に終わった

 

…まあその劇で俺の体裁とか俺の命とかが終わりを 告げたんだけれども…今はそれはいいや

 

現在の俺の悩みの種は手の中に収まっている二枚の カード…神のミスで何故か仮契約の陣が発動した事 による仮契約カードだ

 

…これを渡すか渡さないか…渡しても別にいいんだ けども…どう渡すかって言うのがな…

 

「神さんが何か異世界の魔法陣を敷いちまったから 仮契約しちゃった」

 

 

そんなこんなでめちゃくちゃ悩んでいると…

 

「おお、ケイジ。お前こんな所にいたのか」

 

ハンスがやって来た

 

「どうしたハンス?」

 

「いや、ジル達が打ち上げ打ち上げうるさくてな … エステルとヨシュアは帰っちまったが結局打ち上 げは予定通りにやるらしい」

 

「そうか」

 

「特に劇出演者は全員出席!だそうだ」

 

…面倒くさ~

 

「悪いけど俺パスす…」

 

「欠席した場合、男子は劇の恥ずかしい写真をバ ラまくってさ」

 

「出席させて頂きます」

 

…ちくせう、逃げ道を作れない自分が憎い

 

~クラブハウス・食堂~

 

「ケイジ連れてきたぞ~」

 

『わあああああ!

 

俺が食堂に入った瞬間歓声があがる

 

…何故に?

 

「あんたが主役だったからよ」

 

「心読まれた!?」

 

後に聞いた所「乙女の勘」

 

「つーかエステル達本当に帰ったんだな」

 

見回してみたがエステル達の姿が無かった

 

「そうよ…参加していけば良かったのに」

 

一瞬残念そうにするジルだったが

 

「それよりクローゼを助けてあげなさい」

 

すぐにいつもの表情に戻り、ある方向を指さした

 

そこには、ものすごい多くの生徒(男:女=1

 

に囲まれているクローゼがいた

 

「…あれ助けに行けと?」

 

「なによ~キスした仲じゃない」

 

「劇の中でな」

 

「もう、ちょっとは慌てるとかすれば面白いのに …

 

俺がこの程度で慌てるとでも?十年早いわ

 

…まあ、しゃあないか クローゼ若干涙目だしな

 

「…逝ってくる」

 

「逝ってらっしゃ~い♪」

 

字は間違ってないと思う。多分

 

「あ、あの…」

 

「飲んで飲んで飲んで酒呑んで!」

 

…クローゼそっちのけで騒いでね?

 

むしろこいつら騒ぎたいだけだな

 

…も~どろっと。触らぬ神に祟り無しだ

 

「…あ!ケイジ!助けて!」

 

…何でお前はこういう時に名前呼ぶかなぁ!

 

「…ケイジ?」

 

周りで酒酒言ってた奴らが一斉にこっちに向く

 

心なしか目が妖しい光を放っている…気がする

 

「ケイジ…」

 

「さあ…」

 

じりじりと俺を囲んで少しずつ迫ってくる

 

「ちょ、待て!何かじりじり迫られると無駄に怖 いんだけど!?」

 

「確保~!!」

 

『しゃあぁぁぁぁぁ!

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!?」

 

あれ?なんかデジャヴ

 

そして案の定拘束され…

 

「それでは本日のメインイベント!」

 

「やっぱり元凶はお前か!

 

「…さあ、クローゼ!」

 

「ふぁ~い♪///」

 

「クローゼ!?お前酔ってんのか!?」

 

「酔ってないろ~?わらひぜんぜんへーきらもん ///」

 

「呂律回ってねぇじゃねぇか!誰だ!?クローゼ に酒呑ませたのは!?」

 

『会長です!!』

 

「やっぱりかぁぁぁぁ!

 

つーかジル!お前は何人酔わせりゃ気が済むんだ!

 

ハンスを皮きりにもう十人近く潰れてんじゃねぇか

 

「フッフッフ…ケイジを潰そうと画策する事幾星 霜 …ついに今まで一回も酔わせられず逆にこっちが 潰 れる始末… 今宵こそこの無念を晴らす好機!」

 

めっちゃ個人的な理由だなオイ

 

「対ケイジ戦汎用人間決戦兵器!出番よ!クロー ゼ!」

 

「あいあいさ~///」

 

そういうとクローゼは俺に近づいて

 

「じゃあ…」

 

「待て!何するつもりか知らんが落ち着け!」

 

「…召し上がれ&いただきま~す♪」

 

その言葉と同時に俺の唇はふさがれ、無駄に度の高 いアルコールが喉を通った

 

翌日、俺とクローゼを除く全員が二日酔いでダウン した

 

その日から生徒達の間である言葉が合い言葉になっ た

 

『ケイジとクローゼを同時に酔わせてはいけない。 ダメ、絶対』と



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『人が慌ててると自分は落ち着く』

あの魔の泥酔事件(ジル命名)から1日…

 

俺とクローゼは偶々学園に忘れ物を取りに来て、不 運にも生徒に見つかり半ば無理やり授業に参加させ られたエステルとヨシュアを送るため、そのついで にマノリアの先生達の所に泊まるためにメーヴェ海 道に来ていた

 

「さてと、ここでお別れだね」

 

「はい…この数日間本当にありがとうございまし た 」

 

「あはは、いいって。あたし達も楽しかったし。 それじゃあ…先生とあの子達によろしくね」

 

「覚えてたら言っとく」

 

そうして別れようかという時に

 

「おお、あんた達か!」

 

後ろから孤児院の片付けを手伝ってくれていた人が 慌ててやって来た

 

「オッサンは…確かマノリアの…」

 

「はあ…はあ…そこのあんた達は確か遊撃士だった な!た、大変な事になったんだ!」

 

「大変な事?」

 

「その前に落ち着け。はい深呼吸~」

 

「す~は~す~は~…ふう、 …テレサ先生と子供達 がマノリアの近くで何者かに 襲われた」

 

「あ、あんですって~!?」

 

「あ…」

 

その言葉に全員が驚き、クローゼに至っては膝を着 いて座り込んでしまっている

 

俺はそのクローゼを支えて

 

「落ち着け。…オッサン、詳しい事を教えてくれ ね ぇか?」

 

と、冷静に言えたが、俺も頭の中がかなりぐちゃぐ ちゃになっている

 

自分より慌てている…もとい、頭が真っ白になって いるクローゼを見て、何とか平静を保っているよう なもんだ

 

「あ、ああ。学園祭から帰って来る途中で変な連中 に襲われたみたいでな。子供達にケガは無かったが 先生と遊撃士の姉ちゃんが気絶させられたみたいだ 」

 

「カルナさんが!?」

 

「相当の手練れみたいだね…」

 

「………」

 

エステルとヨシュアは知り合いの遊撃士がやられた ようで驚いている

 

「ギルドに連絡するはずが宿屋の通信機が使えない んで走ってここまで来たんだ!」

 

「サンキュー、オッサン。悪いがここまで来たつ いでにルーアンのギルドにも知らせてくれ。俺達は 遊撃士と一緒にすぐにマノリアに向かう」

 

「ああ、わかった!」

 

そう言ってすぐに走って行った

 

「俺らも早く行くぞ!クローゼ!いつまでそこに 座り込むつもりだ!」

 

「!…うん。ごめん」

 

そうして俺達は一路マノリアに向かった

 

~マノリア村~

 

俺達はマノリアに着くなりすぐに酒場の二階に入っ た

 

「無事か!?」

 

「お姉ちゃん達…」

 

「みんな…」

 

子供達は俺達を見て緊張がほぐれたのか、すぐに飛 びついてきた

 

「わあああん!」

 

「怖かったの~!」

 

「良かった…あんた達は無事みたいね」

 

「すみません、先生達の容態は?」

 

エステル達はすぐに仕事に取りかかっている

 

「安心しなさい。二人共大したケガじゃないわ。た だ目を覚まさないからちょっと心配なんだけど…」

 

「ちょっと失礼します」

 

容態を聞いたヨシュアはすぐに先生達の様子を調べ る

 

すると、

 

「うん、間違いない。睡眠薬をかがされたみたい だ」

 

「す、睡眠薬ぅ!?」

 

エステルが過剰なリアクションをとる

 

「うん、微かに刺激臭がする。副作用がないタイ プだから安心していいと思うけど…」

 

それを聞いた俺はすぐに先生達に近づき

 

「…この匂いは…すんません、今から書く薬草を す りつぶした物を湯で溶かして飲ませてあげて下さ い」

 

そう言ってメモに数種類の薬草を書いてさっきヨシ ュアと話していた人に渡す

 

「この通りにすればいいのね?」

 

「はい」

 

そう答えるとすぐに部屋を出て行く

 

「…ケイジ、君は…」

 

「説明は後だ。クラム、何があった?」

 

俺はクラムに説明してもらおうとするが、クラムは 俯いて答えない

 

「…あたしが説明します… あたし達…遊撃士のお姉 さんと一緒に海道を歩いて いたんですけど…突然覆 面をかぶった変な人達が現 れて…遊撃士のお姉さん が追い払おうとしたけど… 覆面の人達にすぐに囲ま れて…先生もあたし達を守 ってあいつらに向かって 行って…それで…」

 

そこまで話すと、マリィが泣きそうになる

 

エステルがそれを慰めていると

 

「…あいつら…先生からあの封筒を奪ったんだ… オ イラ…取り返そうとしたんだけど…思いっきり突 き 飛ばされて… ケイジ兄ちゃん、

 

オイラ…守れ なかったよ…」

 

クラムまで泣き始める

 

「…そんな事はない。お前は守ろうとしたんだろ ? 今はそれだけでも大したもんだ。それに…誰もケ ガ してないだろ?先生はそれだけでも喜んでくれる さ」

 

「…でも…オイラ…」

 

気がつけば子供達全員が泣いていた

 

「許せない…!どこのどいつの仕業よ!」

 

ついに我慢の限界が来たのかエステルが叫ぶ

 

「…はっきりしているのは…犯人が手練れだと言 う 事です。遊撃士の方が為す術もなく気絶させられ た訳ですから…」

 

本来の冷静さを取り戻したクローゼが事件の分析を する

 

「そしてもう一つ…計画的な犯行だと言う事です 。 狙いは勿論先生の持っていた寄付金…」

 

「放火の件も十中八九そいつらが犯人だろうな」

 

「うん、その可能性が高そうだね」

 

「クローゼ…」

 

心配そうにエステルが言うが

 

「ようやく落ち着いたか。アホ」

 

「うん…いつまでも落ち込んでいても仕方ないよ ね 。今はともかく、一刻も早く犯人を捕まえないと … !」

 

「…そいつは同感だな」

 

ルーアンで見た赤毛…アガットがいきなり入って来 た

 

「あーっ!」

 

「アガットさん…」

 

「話は聞いたぜ。ずいぶんと厄介な事になってる みたいじゃねぇか」

 

「ひ、他人事みたいに言わないでよ!カルナさん だってやられちゃってるんだから!」

 

「わかってる…きゃんきゃん騒ぐな。確かにカル ナ は一流だ。相当ヤバい連中らしいな。大ざっぱで いいから今までの事情を教えて貰おうか」

 

「はい…」

 

物凄いくってかかるエステルを華麗に流すアガット

 

…なんかコイツとは気が合う気がする

 

その後ヨシュアがアガットに一連の事情を説明する と…

 

「ふん、成る程な。妙な事になってきやがったぜ 」

 

「妙ってなにがよ?」

 

「ああ、実はな…《レイヴン》の連中が倉庫から 姿 をくらませやがった」

 

「それってやっぱり連中が先生を襲ったんじゃ! ?」

 

エステルが騒ぐが

 

「アホ。あんな奴らに現役の遊撃士が負ける訳な いだろうが」

 

「それもそうよね…連中、口ばっかりで碌に鍛え て 無かったし」

 

「しばらく睨みをきかせて大人しくなったと思っ たが…今日になっていきなり姿をくらませやがって …そこに今日の事件と来たもんだ」

 

手のひらに拳をうちつけるアガット

 

「何か関係はありそうですね」

 

「ああ、だが今はそれを詮索している暇は無い。 新米共、さっさと行くぞ」

 

「何よいきなり。一体どこに行くの?」

 

そうエステルが言うと、アガットは呆れたように

 

「わかんねえ奴だな。犯行現場の海道に決まって るだろ。できるだけ手がかりを掴んで犯人の行方を 突き止めるんだ!」

 

「あ、成る程」

 

「分かりました。お供します」

 

エステル達が出て行くのに、俺達は子供達をあやし てから着いて行った

 

外に出ると、エステル達が辺りの暗さに面食らって いた

 

「はあ…計画もなしに行動するからだ」

 

「む。なら何かいい案でもあるの?」

 

「…ジーク!」

 

俺がジークを呼ぶ返事を返してジークがクローゼの 腕に止まった

 

「な、なんだコイツは」

 

「クローゼのお友達でシロハヤブサのジークよ」

 

「はあ…お友達ねぇ」

 

半信半疑のアガット。…まあ、普通はその反応だろ うな

 

「先生達を襲った犯人の行方…わかるか?」

 

「ピューイ!ピュイ、ピュイ!」

 

「…クローゼ、通訳頼む」

 

「判る。案内してあげる、だって」

 

「はは、面白いジョークだぜ!」

 

笑い飛ばすアガットだが

 

「やった!流石ジーク!」

 

「うん、お手柄だね」

 

「ピューイ♪」

 

「ちょ、ちょっと待て!お前らそんなヨタ話を信 じてるんじゃねぇだろうな!?」

 

普通にこの状況を受け入れているエステル達を見て 慌てだした

 

「…信じられないなら一人で海道を探せばいい。

 

ーか信じねぇんなら着いてくんな」

 

「行くわよみんな!」

 

全員がジークに着いて行き、その場に取り残された アガット

 

「…(ポカーン) …えーと…こ、

 

やがれ!」

 

結局後を追うアガットであった



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『灯台にて』

先生達を襲った犯人を見ていたジーク。

 

ークに頼んで犯人達のアジトに案内しても らうの であった」

 

「だから途中から心の声が表に出てるって」

 

「なにー!?

 

「漫才はいいから早く行くわよ!」

 

ちょ、漫才て…

 

そして気付けばマノリア間道まで来ていた

 

「確かに誘導しているみたいだが…オイ、冗談だ っ たら勘弁してくれよ?」

 

アガットは未だにジークを疑っているようだ

 

「こんな事で冗談なんか言うかよ。恩人がやられ てんだぞ」

 

「ち…仕方ねぇな。ダマされたと思ってここは乗 せ られてやるとするか」

 

「全くもう…素直じゃないんだから」

 

「とにかく急いでジークの後を追いかけよう」

 

ヨシュアの一言で再び無言でジークを追いかける

 

~バレンヌ灯台~

 

「あの建物って…」

 

「バレンヌ灯台…ルーアン市が管理する建物だな 」

 

「ここには灯台守のオッサンが一人で住んでる… ま あ、言っちゃ悪いがアジトにはぴったりだろうな 」

 

「間違いなくこの中に犯人達がいると思います」

 

「となると、犯人に灯台を占拠されていると考え た方が良さそうだね」

 

「入り口はあそこだけみたい…とにかく入ってみ る しかないか」

 

「はい…」

 

そうして灯台に突入しようとした時…

 

「ちょっと待ちな。お前らは…」

 

空気を読まずにアガットが俺とクローゼを引き止め ようとした

 

俺が言い返そうとすると…

 

「この目で確かめてみたいんです」

 

「何ぃ?」

 

「誰がどうして先生達をあんな酷い目にあわせた のか…だから…どうかお願いします」

 

「そ、そうは言ってもな…」

 

尚も渋るアガット

 

「…ここまで来ておいて今更帰れだぁ?一般人舐 め んのもいい加減にしろ。こっちはとっくに我慢の 限界越えてんだ。お前を叩きのめしてから灯台に殴 り込んでもいいんだぜ?」

 

「う…わかったよ!好きにしやがれ!」

 

一気にまくし立て、ついでに殺気まで当てるとアガ ットは大人しくなった

 

そしてその後すぐに突入すると《レイヴン》のメン バーがいた

 

「こ、こいつら…」

 

「あ、あの時の人達…」

 

驚くエステルとクローゼ

 

「まさかとは思ったが…オイてめぇら!こんな所 で 何してやがる!」

 

アガットが叫ぶが、

 

が消えて、まるで死人のようだった

 

「お、オイ…」

 

様子がおかしい事に気付いたアガットがディンに近 寄ろうとするが、ディンは突然刃物を取り出してア ガットに襲いかかった

 

「アガットさん危ない!」

 

ヨシュアが叫ぶ

 

間一髪背中に背負っていた大剣でディンの攻撃を防 ぐアガット

 

しかし

 

「こ、この力…!?」

 

どうやらディンの元々の力の数倍の力で攻撃されて いるようだ

 

「ディンてめぇ…」

 

「………」

 

「はっ!上等だ!何をラリっているのか知らねえ が…キツいのをくれて目を覚まさせてやるぜ!」

 

その声を皮きりに戦闘が始まる――

 

――ハズだった

 

「……邪魔だ。消えろ」

 

そう声が聞こえると共に、俺はその場を動く

 

「―曼珠沙華」

 

そして出来る限りのスピードで動きまわり、何度も 剣戟を食らわせる

 

…勿論峰打ちだが

 

俺が元の位置に戻った時には既にディン達は倒れ伏 していた

 

「…さっさと次行くぞ」

 

「す…すごい」

 

「待ってケイジ。…うん、やっぱりこの人達は誰 か に操られてるみたいだ」

 

ヨシュアが原因を判明させ、

 

晴らした所で俺達は上を目指した

 

VSレイス

 

「雷雲よ、我が刃と成りて敵を貫け…サンダーブ レ ード!」

 

ドガァァァン

 

「さっさと消えろ!…次!」

 

「…容赦ないわね」

 

VSロッコ

 

「古より伝わりし浄化の炎…消えろ!エンシェン ト ノヴァ!」

 

ズガァァァン

 

「ああ…人がゴミみたいに…」

 

「…何かレイヴンの人達が可哀想になってきたよ … 」

 

~最上階~

 

エステル達と最上階の手前まで来た時に人の話し声 が聞こえて、足を止めた

 

ゆっくりとバレないように中を覗くと

 

「ふふふ…君達、良くやってくれた。これで後は 連 中に罪を被せれば万事解決という訳だね」

 

ギルバートと黒い悪趣味な装束を着た男達が下卑た 笑みを浮かべながら話していた

 

「我らの仕事ぶり、満足して頂けたかな?」

 

…つーかあいつら、情報部の連中じゃねぇか。

 

レーヴェの言ってた事はこの事だったのか?

 

「ああ、素晴らしい手際だ。念の為に聞いておく が…証拠が残る事は無いのだろうね?」

 

「ふふ。安心するがいい。正気に戻っても我らの事 は一切覚えていない」

 

「そこに寝ている灯台守も朝まで目を覚まさないだ ろう」

 

「それを聞いて安心したよ。これであの院長も孤 児院再建を諦めるはず…放火を含めた一連の事件も あのクズ共の仕業に出来る…正に一石二鳥と言うも の」

 

「喜んで貰えて何よりだ」

 

黒装束が笑みを強くするギルバートに言う

 

「しかし、あんな孤児院を潰して何の得があるのや ら…理解に苦しむ所ではあるな」

 

「ふふ、まあいい。君達には特別に教えてやろう 。市長はあの土地一帯を高級別荘地にするつもりな のさ」

 

「ほう…」

 

「風光明媚な海道沿いでルーアン市からも遠くな い。別荘地としてはこれ以上無い立地条件だ。そこ に豪勢な屋敷を建てて国内外の富豪に売りつける… それが市長の計画なのさ」

 

…ヤバい。理性が崩れそうだ

 

「ほう、なかなか豪勢な話だ。

 

院を潰す必要があるのだ?」

 

「はは、考えてもみたまえ。豪勢さが売りの別荘 地の中にあんな薄汚い建物があってみろ?おまけに ガキ共の騒ぎ声が聞こえてきた日には…」

 

「成る程、別荘地としての価値半減か…しかし危な い橋を渡るくらいなら買い上げた方がいいのでは無 いか?」

 

「は、あのガンコな女が夫が残した土地を売るも のか。だが連中が不在の内に建物を建ててしまえば こちらの物さ。フフ、再建費用も無いとなれば泣き 寝入りするしかないだろうよ」

 

ギルバートが大笑いする

 

…もう限界だ

 

俺が連中の前に飛び出ると、クローゼも同じだった のか、全く同じタイミングで飛び出して来た

 

「「…それが理由か(ですか)」」

 

後ろからエステル達も慌てて付いて来た

 

「そんな…つまらない事のために…先生達を傷つ け て…思い出の場所を灰にして…あの子達から笑顔 を 奪って…」

 

「私利私欲の為か、それとも純粋に市の事を思っ てか…どっちにしろ許すつもりはねぇが…覚悟は出 来てんだろうなァ…」

 

「ど、どうしてここがわかった!?それより、あ のクズ共は何をしてたんだ!」

 

「全員下で仲良くのびてるよ…」

 

「しっかしまさか市長が一連の事件の犯人だなん てね…しかもどこかで見たような連中も絡んでるみ たいだし」

 

「ほう…娘、我々を知っているのか?」

 

エステル達が会話をしている間に俺は術の詠唱を始 める

 

しばらく集中して詠唱していたが

 

「き、君達!そいつらを全員皆殺しにしろ!か、 顔を見られたからには生かしておく訳にはいかない !」

 

見苦しくも黒装束…情報部に命令して証拠、いや証 人隠滅を図るギルバート

 

「先輩、本当に残念です…」

 

クローゼが憐れむように呟く

 

「まあクライアントの要望とあらば仕方あるまい」

 

「相手をして貰おうか」

 

「ふん、望む所だっての !」

 

「例え雇われていたとしても、あなた達の罪は消 えません…」

 

「《重剣》の威力…たっぷりと味わいやがれ!」

 

アガット達に情報部が襲いかかったが…

 

「―天光満つる所に我は在り、黄泉の門開く所に 汝 在り!…出でよ!神の雷!」

 

俺の詠唱を聞いて両者の動きが止まる

 

「………!アガットさん!急いで離れて下さい!」

 

俺のやろうとしている事にいち早く気付いたクロー ゼがアガットに向かって叫ぶ

 

その声を聞いて我にかえったアガットはすぐに部屋 の端に逃げる

 

情報部もすぐに外に逃げようとするが…

 

「逃がすかよ…インディグネイション!」

 

瞬間、閃光が部屋を包み、轟音が響く

 

目が開くようになってから辺りを見渡すと、情報部 が床に膝をついていた

 

…動けなくはないが、戦える状態でもないらしい

 

「…動くな!それ以上動けばこいつの頭は吹き飛ぶ ぞ!」

 

情報部がギルバートを人質にとる

 

エステル達は卑怯だの何だの叫んでいるが、俺の答 えだけは違った

 

「…だから?」

 

『なっ!?』

 

驚愕の声を上げるエステル達…うるさいな

 

「確かに犠牲は出ないに越した事は無いが、いち いちそんな物を気にすればチャンスを逃しかねない 。今みたいにな。それにソイツは俺の敵だ。何で情をかけ なきゃならない?…自業自得だろ 」

 

「…よく喋るな」

 

「じゃあお話は此処までにしようか」

 

俺はゆっくりと情報部に近づく

 

すると、俺が本気だと悟ったのか、舌打ちをして秘 書の足を撃ち抜いてから煙幕を使った

 

煙が晴れた頃には既に情報部の姿は無かった

 

その後、アガットが無言で連中を追い、エステル達 と秘書とレイヴンの連中をマノリアの風車に閉じ込 めた

 

その間、会話は一切無く、エステルは白い目で、

 

シュアは意外そうに俺を見ていた

 

閉じ込め終えた時

 

「…どうしてあんな事言ったの?」

 

突然エステルが俺に質問した

 

「…いちいち敵側の、しかも俺やクローゼ、ガキ共の大切な場所を売り払おうとした奴を助けようとする程俺は甘くない」

 

「でも…」

 

「確かに、助けられるなら助けるさ。でもな、あ の後もし秘書を盾に、そこから眠らされていた爺さ んを、調子に乗ってクローゼやお前、そこの爺さんの誰かが人質にされたらお前らは抵抗できるか?」

 

「それは…」

 

「加えて俺は遊撃士でもなければ、全てを守らな ければいけない義務も無い。…もしクローゼとその 他の100人を天秤にかけられたら、俺は迷わずクロ ーゼを取る」

 

「っ…!」

 

「全て救いたいと考えてる事はすげぇとは思う。

 

でもな、その考えがある限りはやっぱりお前は綺 麗なだけだよ」

 

…昔の俺みたいにな

 

「…それはどういう事?それに…君は一体誰なん だ ?」

 

…誰…か。

 

「…今は答える気は無い。だが、これだけは言える。俺は俺と俺の護る対象 に敵意が無い限りお前 らの敵にはならない」

 

「………」

 

「……今は…と言う事はいつか話してくれるのかい ?」

 

「時が来れば、な。今は奴らを追いかけるのが先だ」

 

「…そうね。行くわよ!」

 

元気に走って行くエステルと慌ててついて行くヨシ ュア

 

クローゼは俺を心配そうに見上げている

 

「…ケイジ…」

 

「『敵だから関係ない』…はは、何時から俺はこ ん な合理的になったんだかな…」

 

「………」

 

「俺は十を捨ててでも一を救うと決めた。…なの に 、何でかな…エステル達が眩しく見える…羨まし く 、な…」

 

「ケイジ」

 

突然クローゼが俺に抱きつく

 

「ケイジは、ケイジの考えでいいと思うよ…いつ も 護られてる私が言うのも変だけど…私もあなたを 護 りたい…だから… 無理は…しないで…」

 

「………」

 

俺はクローゼの言葉には答えずに手をほどき、市長 の下に走った。

 

後ろでクローゼが涙を流している事に気づかぬフリ をして…



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『追い込み』

「ふぅ…ちょっと熱くなりすぎたか…?」

 

今俺は学園の自分の部屋に戻って来ている

 

理由は自分の武器…蒼燕と仕事着を取るためだ

 

ハンス?生徒会だが?

 

クローゼには一足先にエステル達に合流して貰った

 

流石に二人だけってのは何か不安だったからな…

 

「…さて、こっちも急いで行きますかね」

 

俺はダルモア邸に瞬動を使って向かった

 

sideエステル

 

私達は今ダルモア市長のお屋敷に向かっている

 

あの黒装束の奴らのおかげで今回の黒幕が市長だっ た事がわかったからだ

 

自分のやりたい事をやるためだけに他人を不幸にす るなんて…絶対に許せない!

 

「…エステル?わかってるよね?僕達の役目はあ くまで時間稼ぎ。僕達じゃ市長を逮捕出来ないんだ からね」

 

「わかってるわよ。怒らせてもいいから市長を足 止めするんでしょ?」

 

「わかってるならいいんだ」

 

正直私が直接ぶっ飛ばしたいけど…こればっかりは しかたないよね

 

納得はいかないけど

 

~市長邸~

 

屋敷に到着。

 

「しっかし、大きな屋敷よね~。やっぱりあくど い事してるからこんな屋敷に住めるのかしら?」

 

いかにもお金使ってますって感じだしね~

 

「それは無いと思うけど…」

 

「ダルモア市長は元は大貴族の家柄ですから。こ の屋敷も代々の当主に受け継がれたモノだと思いま す」

 

クローゼが丁寧に説明してくれた

 

「そっか…確かに屋敷に罪は無いわよね。まあ、 いいや。なんとかあの市長を問い詰めてやらなくち ゃ」

 

待ってなさいよ!悪徳市長!

 

side out

 

やって来ました市長邸。

 

俺が庭に侵入したのと同じタイミングでエステル達 が入って来たが…なぁ?

 

ヨシュアあくどっ!!

 

よくあんな口からデマカセが出てくるもんだよ。し かもオマケにメイドさん落としてるしな

 

…この天然たらしが!!(←人の事言えない)

 

まあ、エステル達はヨシュアがいる限り大丈夫だろ うと判断してさっさと屋敷に侵入して市長を探す

 

…な~んかあのキノコ辺りが絡んでそうな気がする んだよな~…

 

まあ、いいや。この事件が終わったら一回帰って情 報部とキノコの事を調べて回ろう

 

そんな事を考えながら屋敷を探索していると、やた ら騒がしい部屋を見つけた

 

すぐさま扉に近づき、耳を当てると、中には既にエ ステル達がいて、市長と口論していた

 

…ついでに認識したくなかったけど、キノコの存在 も認識した

 

「な、何っ!?」

 

お、何か驚いてる

 

それにつられてかなりがっつりと会話を聞く

 

「今回の事件の犯人、それは…ダルモア市長!あ んたよ!」

 

エステルが声を張り上げて言うと、市長が物凄く慌 てた声を出す

 

「秘書のギルバートさんは既に現行犯で逮捕しま した。あなたが実行犯を雇って孤児院放火と寄付金 強奪を指示したという証言も取れています。この証 言に間違いはありませんか?」

 

「で、デタラメだ!そんな黒装束の連中など知る ものか!」

 

…馬鹿だね~このオッサン。自分で自分の首締めて ら

 

「あれ~?おっかしいな。あたし達、黒装束なん て一言も言って無いんだけど~?」

 

「うぐっ」

 

流石にそんな失言を逃す筈もなく、しっかり追い込 みにかかるエステル達

 

「知らん!私は知らんぞ!全ては秘書が勝手にや った事だ!」

 

「往生際の悪いオッサンねぇ」

 

全くもって同感だな

 

「高級別荘地を作る計画のために孤児院が邪魔だ ったと聞いています。それでもまだ容疑を否認しま すか?」

 

いいね~この徐々に追い込んで行く感じ。燃えるね ぇ~

 

「しつこいぞ、君達っ!確かに随分と前から別荘 地の開発は研究されている!だがそれはルーアン地 方の今後を考えた事業の一環にすぎん!どうして性 急に事を運ぶ必要があるのだ!」

 

まだ、あがくか…それも無駄だってのに

 

「そ、それは…」

 

…まさか、忘れてるのか?ちょっと前に俺が言った ぞ?

 

しゃあねぇ。助けてやるか

 

「借金…だろ?」

 

『ケイジ!?』

 

ふっふっふ、いい感じだな

 

「君は…」

 

「…答える必要はない。ダルモア市長…あんた、 市の予算を相当使い込んでるな?」

 

「それは…土地開発の費用として…」

 

「馬鹿かお前?そんな言い訳通る訳無いだろ。な んせまだ工事なんざ準備すら始まって無いからな~ …しかもあんた、ちょくちょく共和国に出掛けてん だろ?何してんだかな~」

 

「た、ただの観光だ…」

 

「あはははは!嘘はいけねぇなぁ!あんたは共和 国で相場に手を出して大火傷したんだ。取り返しの つかない程、な」

 

後ろでエステルが相場が何かヨシュアに聞いていた がスルーだ。

 

因みにわかりやすく言えば株の事だよ

 

「よくもまあ、つぎ込んだもんだな。一億ミラも 」

 

「い、一億ミラぁ~!?」

 

「ひっく…一億ミラとな。私もミラ使いは荒い方 だがお主には完敗だぞ」

 

黙ってろキノコ。誰も勝負なんざしてねぇんだよ

 

「くっ…」

 

逃げ場を失って苦い顔をするダルモア

 

「なに競ってんだか」

 

「ま、そういう訳で莫大な借金を抱えたあんたは ルーアンの予算に手を出した。でも返すアテが無く て別荘地を作ろうとしたが…まさか土地確保のため に放火や強盗までやるとはな。計画制皆無な上に市 長失格だな」

 

ダルモアはしばらく黙っていたが

 

「…ふん、そんな証拠がどこにある」

 

「あらま、開き直った」

 

「貴様らもそうだ!市長の私を逮捕する権利は遊 撃士協会には無いはずだ!今すぐここから出て行く がいい!」

 

「む、やっぱりそうきたか」

 

「流石に自分の権利はちゃんとわかってるみたい だね」

 

まあ、それがこの場でのコイツの切り札だからな。 俺がいる時点で意味ないけど

 

そんな呑気な事を考えていると、壮絶な悪寒が俺を 襲った

 

「…………市長、一つだけお伺いしてもよろしいで すか?」

 

こ、これは…

 

「なんだ君は!王立学園の生徒の癖にこのような 輩と付き合って…とっとと学園に戻りたまえ!」

 

「………」

 

「うっ」

 

クローゼが市長を睨むと、途端に市長の勢いがなく なる

 

…間違いないな。クローゼがキレてる

 

「どうしてご自分の財産で借金を返さなかったの ですか?確かに一億ミラは大金ですが…ダルモア家 の資産があれば返せない筈じゃ無いはずです。例え ばこの屋敷なんか一億ミラで売れそうですよね?」

 

「ば、馬鹿な事を…この屋敷は先祖代々から受け 継いできたダルモア家の誇りだ!どうして売り払う 事ができよう!」

 

「馬鹿はお前だ。カス野郎」

 

クローゼには悪いが、そろそろ俺も我慢の限界なの で割り込ませて貰う

 

「あの孤児院だってなぁ…沢山の思い出がある大 切な場所だったんだ。それこそ俺やクローゼ、孤児 院の子供達、先生…あそこで育った奴らなんかにと っては特にかけがえの無い程のな。お前は知ってん のか?何の力も持っていない子供がレイヴンの連中 が犯人だと聞いてかなわないとわかっていても戦い に行った事を…」

 

「そ、そんな事を私が知るものか!」

 

「だろうな。…だからこそお前は市長失格なんだ よ。 …逮捕する前に聞いておく。何故孤児院を襲った! 自分の屋敷を売ればそれで済む話じゃねぇのか!! 」

 

ダルモアは怯んで縮こまっていたが

 

「あ、あんなみすぼらしい建物と我が屋敷を一緒 にするなぁぁぁ!!」

 

ついに喚きはじめた

 

「あなたは結局自分自身が可愛いだけ… ルーアン市長としての自分とダルモア家の当主とし ての自分を愛しているだけに過ぎません。可哀想な 人…」

 

クローゼが心底憐れんだ目で市長を見る

 

するとダルモアは突然笑いはじめ…

 

「よくぞ言った、小娘が…こうなったら後の事な ど知るものか!」

 

俺を無視したような発言の後、壁のスイッチをダル モアが押すと、隠し扉が開いた

 

「ファンゴ!ブロンコ!エサの時間だ!出て来い !」

 

扉の奥から足音と何かの気配がしてくる

 

「な、なんなの…?」

 

「獣の臭い…!」

 

そして扉から現れたのは二匹の巨大な魔獣だった

 

「ま、魔獣ぅぅぅぅ!?うーん、ブクブク…」

 

「公爵閣下!?」

 

泡を吹いて気絶するキノコと駆け寄るフィリップさ ん

 

キノコがそのまま食われれば万々歳だが、フィリッ プさんがいるから無事なんだろうなぁ…チッ

 

そんなこんなで意識をキノコの方に向けていると、 急にダルモアが狂った笑いをし出した

 

「こ、こんな屋敷で魔獣と戦う事になるなんて… 」

 

「でもこれで市長を現行犯として逮捕できる」

 

「あなた達に恨みは無いけれど…人を傷つけるつ もりなら容赦はしません!」

 

「とりあえずはコイツらを片付けるのが先だ……… 来るぞ!!」

 

戦闘が始まった



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『市長邸の戦い』

ダルモアの放った魔獣…ファンゴとブロンコが同時 に俺達に襲いかかってくる

 

「ちっ…」

 

「このっ!」

 

コイツは…連携されると面倒だな

 

倒されはしないが倒せもしねぇ

 

「くそ…何か決定打があれば…」

 

…仕方ねぇ、か

 

「…俺が片方を抑える。その隙にお前らはもう片 方をやれ!」

 

「ケイジ!?無茶だよ!」

 

「クローゼの言う通りよ!4人で二匹を抑えてる のに!」

 

「だったらいつまでもこうしてるのか!?今は余 裕かましてのんびり突っ立ってるがいつダルモアが 逃げてもおかしくねぇんだぞ!」

 

「それは…」

 

言いよどむエステル

 

「…信じていいんだね?」

 

「ヨシュアさん!?」

 

「任せろ。あの犬に格の違いを教え込んでやる」

 

俺はニヤリと笑って魔獣を見る

 

それでヨシュアは心を決めたのか

 

「無茶はしないでよ?クローゼが暴走しそうだか ら」

 

「ちょ!ヨシュアさん!?///」

 

「おーおー、怖い怖い。こりゃあケガできねぇな 」

 

ヨシュアの軽口に俺も軽口で返す。クローゼは何故 か慌てていたが

 

…なんだかんだ言っても余裕あるじゃねぇか

 

「…じゃ、頼んだよ。親友」

 

「任せろ。むしろ俺がケリ着けてやるよ」

 

魔獣と対峙しているにも関わらず、俺とヨシュアは ハイタッチをして、そこから一気に作戦通りに別れ る

 

俺が相手する方…ファンゴだったか?はダルモアの 指示を待っているのか、身じろぎ一つしない

 

そしてその後ろにダルモアがいた

 

「悪徳市長の割には空気読めるじゃねぇか」

 

「何、最後の別れを邪魔する程私は無粋ではない さ。 …こちらに一人で来たという事は君は囮だな?仲間 に捨てられるとは…いやはや何とも哀れな事だ」

 

かなりハイになっているのか、やたら一方的に喋り 倒すダルモア

 

「はっ。勘違いすんなよ」

 

「何がかね?君が死ぬ。その後に彼女らも後を追 う。その事に変わりは無いよ」

 

「こっちに俺が一人で来たのはなぁ…俺一人で十 二分に戦えるからだ」

 

そう言った瞬間、ダルモアは高笑いをする

 

「ははははは!ついに気が触れたか!4人で抑え るのが精一杯だった魔獣の片割れを一人で倒すと! ?」

 

「…もう、面倒くせぇ舌戦は終わりだ」

 

実際、終わりそうにねぇし、何よりコイツの声を聞 くたびにイライラする

 

「そろそろかかって来いよ…その犬っころ共々ブ った斬ってやる」

 

「ははは!自ら死期を早めるとは愚かな!いいだ ろう!ファンゴ!やってしまえ!」

 

ダルモアの号令と共にファンゴが雄叫びをあげて襲 いかかってくる

 

「はっ…魔獣風情が… ケイジ・ルーンヴァルト…推して参る!」

 

side クローゼ

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「せいっ!」

 

「行きます…やぁっ!」

 

相手の魔獣…ブロンコは向こうのファンゴと違って 完全に自立して暴れ回っている

 

…そして、まずい事に、少し押されている

 

現に今もエステルさんとヨシュアさんの攻撃を避け 、私のアーツは当たったものの、あまりダメージが 無いのかそのまま二人に反撃していた

 

「くぅ…いつもみたいに棒を振り回しにくいわね …」

 

「エステル」

 

「ん?」

 

「君は後衛に回って欲しい」

 

「ええ!?何で!?」

 

…確かに、ヨシュアさんの言う通りですかね…

 

「エステルさん、私からもお願いします」

 

「クローゼまで…何か理由、あるんでしょうね? 」

 

「うん」

 

「…わかったわよ」

 

そう言ってエステルさんもアーツの準備にかかる

 

…理由は、エステルさんの武器。棒術具はいわば長 柄武器なので、突き、払い、薙ぎを主に戦う

 

けれど、今は屋敷の中で戦っている。突きはともか く、払いや薙ぎでは確実にどこかに引っかかってし まうからだ

 

「僕がアイツを攪乱するから、その隙に大きいの を頼むよ」

 

「了解!」

 

「はい!」

 

そう言ってエステルさんはダークマターを、私はダ イヤモンドダストを準備する

 

「行くよ…」

 

――漆黒の牙

 

ヨシュアさんがSクラフトを決め、その直後に私と エステルさんが同時にアーツを叩き込む

 

ブロンコは断末魔をあげて、ゆっくりと倒れた

 

「戦闘終了…」

 

「…そうだ!ケイジ!」

 

私は急いでケイジの援護に入ろうとしたけど…

 

「――鳳仙華!――閃華!」

 

「へ?」

 

目に入ってきたのは、ファンゴにトドメを刺してい たケイジだった

 

side out



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『白烏』

「――鳳仙華!――閃華!」

 

鳳仙華でファンゴを薙払い、その隙を閃華で突き、 追加効果によってファンゴを葬る

 

横を見るとどうやらエステル達も終わったようで、 一瞬呆けていたが、すぐにこっちに駆けつける

 

「ば、馬鹿な…私の可愛い番犬達が…貴様ら、よ くもやってくれたな!」

 

エステルもヨシュアも何か言いたげだったが、すぐ にダルモアに向き直り

 

「それはこっちの台詞だっての!」

 

「遊撃士協会規約に基づきあなたを現行犯で逮捕 します。抵抗しない方が身のためですよ」

 

しかし、ダルモアは俯いて震えるだけで返事は無い

 

再度ヨシュアが投降を促そうとしたその時

 

「ふ…ふふ…こうなっては仕方ない。奥の手を使 わせてもらうぞ!」

 

ダルモアが喚き、懐から杖を取り出す

 

あれは…マズい!!

 

「全員早く逃げろォ!!」

 

「え!?」

 

「遅いわ!『時よ、凍えよ!』」

 

ダルモアがそう唱えた瞬間、俺達は金縛りにあった ようにその場から動けなくなる

 

「クソ…まさかそんなモンを持ってやがるとは… 」

 

「ほう…これを知っていたか。賢しい事だな」

 

「な、何なのよこれ!?」

 

「身体が動かない…」

 

古代遺物(アーティファクト)…ゼムリアの遺産。古代遺物一つで国 を滅ぼす物さえある。古の技術の結晶…アレは多分 《封じの宝杖》と呼ばれるモンだ」

 

「そこまで知っていたか…まさかとは思うが七耀 教会の者か?」

 

「…さあな。仮にそうだとして、お前に教える訳 が無いだろう?」

 

「それもそうだ…なら、危険な芽は早めに摘み取 らねばな」

 

ダルモアが再び懐から拳銃を取り出す

 

「なっ…」

 

「拳銃!?」

 

驚くエステルとクローゼ。ヨシュアは無言でダルモ アを睨み付ける

 

「先ずは目障りな小僧からだ…」

 

「や、やめなさい!ケイジに手をだしたら許しま せん!」

 

クローゼが叫ぶが、ダルモアは毛ほども気にかけず に俺に近寄り、眉間に拳銃を押し当てる

 

「どうだ?怖いか?恐ろしいか?今すぐ土下座し て命乞いをするのなら助けてやらん事もないぞ?ま ぁ、《封じの宝杖》で指一本動かせないだろうがな ぁ!ふははははは!!」

 

絶対的優位に立ち、勝利を確信したのか、余裕の表 情で語りかけてくるダルモア

 

「はあ…アホだろお前」

 

「何だと?」

 

「アホかって言ったんだよ。ハゲが」

 

「貴様ァ!口を慎め!この状況を理解しているの か!?」

 

「…むしろお前が理解してんのか?お前の切り札 …ちょっとずつ消えていってんのによ」

 

「何!?」

 

ダルモアが慌てて封じの宝杖に目を向けると、封じ の宝杖の先に黒い雷がついていて、少しずつ、だが 確実に封じの宝杖を消滅させていっている

 

「な、なんだこの雷は!?」

 

「『天照』…ま、アレだ。切り札は最後までとっ ておくもんだよ」

 

ダルモアが顔を上げた時には、既に俺の渾身の一撃 (拳)が顔面に突き刺さっていた

 

「ぐはっ……」

 

「「………(ポカーン)」」

 

「………ってケイジ!早くダルモアを捕まえないと !」

 

「は?…………あ!」

 

完全に忘れてた

 

「…!!思い出した…!黒髪に変質する紅い瞳に ルーンヴァルト姓…かなうわけが無い!!」

 

ダルモアが叫んで逃げ出す

 

どうやら隠し扉があったようで壁が開き、そこから ダルモアが逃げ出す

 

「チッ…」

 

「舌打ちしてないで早く追うよ!」

 

「ケイジ早く!」

 

「わかってるよ…」

 

エステルはとっくにダルモアを追いかけているよう だ…せっかちな

 

―――――

 

隠し通路を抜けると、小さな船着場に出た

 

「あ!ヨシュア!」

 

「エステル!ダルモアは!?」

 

エステルは無言で指を指す

 

その方向を見ると、ヨットに乗って逃げているダル モアがいた

 

「ヨットまで用意してたか…」

 

「良いから早く乗って!」

 

言われて振り返ると、既に三人がボートに乗ってい た

 

「…もちょっと早く声掛けろよ…」

 

―――――

 

「ふう…このままだと、もうリベールには居られ んな…」

 

ダルモアは呟く。何故こうなってしまったのかと

 

秘密裏に孤児院を襲撃し、その罪を目障りな不良共 に押し付け、心優しい市長を演じつつ、何の疑問も 後腐れもなく別荘を建てて大金を手に入れる…

 

ただそれだけ。ただそれだけで借金を返す事ができ る。相手がよければ、浮いた金で相場にリベンジも できる…

 

そう考えていた

 

…あの遊撃士達と一人の男が来るまでは

 

「まさかかの《白烏》(びゃくう)が王立学園の 生徒だったとは…」

 

つい言葉に出してしまう

 

それだけ衝撃が大きかったのだ

 

「やれやれ…奴に見つかったのなら、やはり一度 『奴ら』をたよ…!」

 

ダルモアはそこまで来てようやく後ろの影に気づく

 

「くっ…しつこい遊撃士風情が…」

 

「大人しく捕まった方がいいんじゃねぇか?」

 

「逃がしません…!」

 

「くそっ!」

 

ダルモアはそう言うと、ヨットからマシンガンを取 り出し、ケイジ達が乗っているボートに向けて撃ち 始めた

 

「げっ。マシンガンなんざ持ってたのかよ!?」

 

「任せなさい!」

 

言うが早いかエステルがボートの船首に立ち、棒術 具を回転させて弾丸を弾く

 

「おぉぉー」

 

「ふっふーん!ザッとこんなもんよ!」

 

やたらと胸を張って誇るエステル

 

そしてもう少しでボートがヨットに追いつくという 所で…

 

追い風が吹き始めた

 

「な!?追い風!?」

 

「やべーな」

 

「ヨットは風が吹けばボートより格段に早くなる …このままだと逃げられる!」

 

「あ、あんですってー!?」

 

はい、あんですっていただきましたー

 

「こんな時にボケるな!」

 

「大丈夫だって。絶対…いや、多分。きっと。恐 らく」

 

「…だんだん信用が無くなっていくんだけど」

 

そんな緊張感のない会話をしていた時、不意に大き な影が俺達の上におりた

 

「やっとご到着か…」

 

水上に降り立つは、一隻の飛空挺

 

白き翼の名を冠する純白の機体

 

――アルセイユ

 

「なぁ!?王国軍!?まさか…こんなに早く来れ るはずが…」

 

見る間にダルモアを包囲し、逮捕する王国軍親衛隊 の面々

 

逮捕が済んだ後、全員が船のへりに一列で並び、そ の内の一人が前へ出てくる

 

「…ルーンヴァルト大佐。ダルモア市長汚職の証 拠掴み、ご苦労様でした」

 

「ああ。報告は後日、女王陛下に直接行う」

 

「わかりました。そのように伝えます」

 

ユリ姉と業務連絡を終えると…

 

「た、大佐ぁー!?」

 

ついにエステルが爆発した

 

「そうか…何か引っかかってると思っていたんだ …」

 

「その様子だとヨシュアは俺を知ってるらしいな 」

 

「まあね… ――ケイジ・ルーンヴァルト。リベール女王の懐刀 。百日戦没にて多大な功績をあげ、電撃作戦にも参 加。常に前線に在り続ける姿は味方に希望を、敵に 絶望を与え続けた。その姿から敵味方問わずこう呼 ばれた…

 

《白烏》(びゃくう)…味方を支えし純白き(しろ き)翼を掲げる悪魔、と」



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閑話『会話録』

『…で?どうなんだ?奴の動向は掴めそうか?』

 

「いや、わかんないッス。正直尻尾すら掴めてませ んね~」

 

『そうか…』

 

「まあ、そのうち暇を作って調べて回りますよ」

 

『…すまんな。お前も色々忙しいだろうに…』

 

「いえいえ。これも仕事ですし」

 

『それでもだよ。君が居てくれて本当に助かってい る。リースの修業にも集中できたしな』

 

「ああ、そう言えば…リースさんの修業はもう終わ ったんスか?」

 

『ああ。おかげさまでな。今はとりあえず騎士の仕 事をしているよ。無意識にケビンも探しているよう だけどね』

 

「ケビンさん見つけたらリースさんはびっくりする でしょうね~」

 

『ハッハッハ!何せ星杯騎士の守護騎士第五位だか らな!』

 

「そうですね~

 

…で?本当の用件は?」

 

『…バレていたか』

 

「子供と思って油断しない方がいいですよ?」

 

『怖い怖い…さて、用件だが…この任務、ケビンも 参加させる』

 

「!?」

 

『アイツがそっちに着くのは生誕祭が終わったあた りだろう』

 

「…理由は?」

 

『“塩の杭”…』

 

「はあ!?アレは危険すぎて使用不可になった筈じ ゃ!?」

 

『それがどうやら上が勝手に設計したらしくてな。 今回の件にどうしても試したいそうだ』

 

「…俺達は捨て駒って事ですか。実験を失敗しても またすぐに次の守護騎士が現れる…そいつにまた実 験させればいいってね」

 

『…すまない。私では止めきれなかった…ハハッ、 こんなザマで何が守護騎士第一位兼星杯騎士団総長 なんだかな。つくづく自分が嫌になるよ』

 

「気にしないでいいッスよ。今はまだ耐える時なだ け…足下をしっかり固めないと」

 

『…そうだな。今はどこまで?』

 

「司祭数人は。けれど教区長はリベールだけなら掴 んでます」

 

『ほう…どうだったんだ?』

 

「ロレント、ルーアンは白。その他は黒。…つくづ く腐ってますよ」

 

『そうか…』

 

「総長は引き続き星杯騎士団の“整理”をお願いしま す」

 

『わかっている。そっちも引き続き第二位と第五位 は情報収集を兼ねて任務、その他は今まで通りだ』

 

「承りました。…くれぐれも気を付けて下さいよ? 第一位《紅耀石(カーネリア)》殿」

 

『むしろそっちの方が危険度は高いぞ?第二位…《 氷華白刃》よ』

 

「わかってますよ~…それでは失礼します」

 

『ああ』

 

プツッ、

 

通信ガ終了イタシマシタ

 

通信先…アルテリア法国・星杯騎士団本部

 

通信元…

 

リベール王国・ルーアン地方・ジェニス王立学園敷 地内



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『隠密作戦……開始』

~アルセイユ・船橋~

 

「それにしてもよくアルセイユなんて使えたな~ 」

 

「ちょうど試験運転中にジークが来たんだ。まぁ 、リシャール大佐には偶然捕まえたとでも言ってお くさ」

 

ナイスタイミング、クローゼ!

 

「…それより、この前の…」

 

「『情報部に注意しろ』って件か?」

 

「ああ。情報部は王都では評判もいいし実績もあ げている。正直頼もしく思っているしな」

 

「まあ、それはそうだろうな…クーデターを起こ す前に問題は起こしたくないだろうしな」

 

「なっ!?」

 

驚くのも無理はない。実際、トップのリシャール大 佐の悪い噂なんかは一度も聞いた事がないしな

 

けどそれは明らかに不自然な事でもある

 

人間は生きている限り必ずミスをする。どんなに偉 い人でも、凄い人でも一度は必ず大ポカをしでかす

 

逆に言えば、ミスを一度もしていないのに優秀な人 間にはなりえない。そんなのは物語の中だけの話だ

 

「…あのリシャール大佐がか…?いくらケイジの 話とは言えど、信じられん…」

 

「今はまだそんな疑いもある、くらいの認識でい いよ。確信も持ててないし」

 

そう言ってケイジはニヤリと悪い笑みを浮かべる

 

「お前…まさか…」

 

「そのまさかさ♪」

 

「ハア…どうせ言っても聞かないんだろう?勝手 に行って将軍に派手に怒られて来い」

 

「そんじゃあ遠慮無く行ってくるわ」

 

そう言ってケイジはアルセイユを後にした…



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『mission !』

「え?依頼?誰のかしら?」

 

「俺」

 

「はいはい、冗談はほどほどにしなさいな」

 

「冗談じゃねぇよ!リアルだから!マジだから!」

 

カルデア隧道を抜け、すぐにレイストン要塞に行こ うとしたが、予想以上に警備が厳しいので、遊撃士 に協力を頼もうとしたが、受付のキリカさんの対応 がヒドかった

 

「いや、だって…あなたに手伝いが必要な仕事が想 像できないのだもの」

 

「俺は人外か何かか!?」

 

「それにあなたが人を頼るなんて…明日は嵐かしら ね…」

 

「俺だって人だからな!?無理な事だってあるから な!?」

 

そんな風にずっとからかわれながら進まない会話を 続けていると…

 

「キリカさ~ん!グランセルで受けた運搬の依頼終 わりました~♪…ってアレ?」

 

茶髪の溌剌とした女の子(つっても同い年くらいだ が)が入って来た

 

「あら、ご苦労様アネラス」

 

「あ、どうもです。この男の子は?」

 

「ああ、俺はケイジ・ルーンヴァルト。一応王国軍 に所属してる」

 

「アネラス・エルフィードだよ。よろしく~♪」

 

軽っ!

 

「それにしても王国軍の人がここにいるなんて珍し いね。何かあったの?」

 

「いや、依頼しに来たって言ってるのにこのオバ( スチャッ)…オネーサンガキイテクレナインダヨ」

 

やっべえ!この人マジでヤバい!

 

オバサンって言いかけたら何の躊躇いもなく輪刀首 に突きつけやがった!

 

「依頼?」

 

「…そうね。アネラス、この依頼あなたが受けなさ い」

 

「ふぇっ!?」

 

「そうね…ケイジが依頼するくらいだからまず難易 度はAランク以上。同行人は一人…でいいのよね? 」

 

「ああ。…後、難易度はヘタすりゃSまでいくぞ」

 

命懸けだからな

 

「ええっ!?Aランク以上!?そんな依頼私が受け て大丈夫なんですか!?クルツ先輩とかシェラ先輩 とかに任せた方が…」

 

「そうしたいのは山々なんだけど…どうも急ぎみた いだから。それに同行人が遊撃士ランクで換算すれ ば確実にA以上のチート野郎だから問題ないわ」

 

「チート言うな若作り」

 

「依頼…取り消しでいいのね?「すんませんでした 」」

 

ちくせう。人の弱味につけ込みやがって

 

「あの~…それで私の処遇は…」

 

「逝ってきなさい」

 

「ですよね~(汗)」

 

こうして、しばらくの間だが、コンビが見つかった

 

―――――――

 

~ソルダート軍事路~

 

「いいな、今回の依頼はレイストン要塞への侵入及 び内部調査だ」

 

現在任務内容をアネラスに説明中です

 

「内部調査って…何を調べるんですか?」

 

「………ま、気が向いたら話すよ」

 

流石に軍のゴタゴタに遊撃士を巻き込むのは申し訳 ないしな

 

「さて、行くか」

 

「どこから入るんですか?見た感じ猫一匹入る隙間 も無いっぽいですけど」

 

「え?いや、正面から死角を縫って適当に…」

 

「無理!!」

 

おお、ナイスツッコミ

 

「出来るって。人間成せば成るもんだぞ?後何か年 上に敬語とかむず痒いから止めてくれ」

 

「あ、うん…って無理無理!流石に限界あるよ!」

 

我が儘だな~…依頼者俺なのに

 

「じゃあ…とりあえず俺の後ろにピッタリ着いて来 い。つーかおぶされ」

 

「わかったよ…」

 

しぶしぶアネラスが俺の背中に乗る

 

それを確認した後、瞬動で一気に軍事路を駆け抜け る!

 

「ふぇぇぇぇぇぇっ!?速すぎぃぃぃぃっ!!」

 

「喋んなっての!!見つかるし何より舌噛むぞ!! 」

 

そのまま入り口の近くの茂みに隠れる

 

「…ふぅ、とりあえず接近成功っと…大丈夫かアネ ラ…」

 

「きゅう~…」

 

「………」

 

のびてるし

 

つーかこれ…依頼した意味なくね?

 

「…しょーがない。起きるまで待つか」

 

それから三時間くらいしてようやく起きたアネラス と、貨物車が通る隙に瞬動を使って中に入る

 

「さて…こっからが本番だぞ?気ぃ抜くなよ?」

 

「わかってる…そっちこそヘマしないでよ?」

 

…限りなく信用出来ないの俺だけなんだろうか

 

 



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『バレた!?』

「あのさ…」

 

「どうした?」

 

要塞内に侵入して、通路を歩いていると突然アネラ スが話し掛けてきた

 

「なんで中にいるのに人が一人もいないの!?」

 

そう。誰もいないのだ

 

情報部はおろか一般兵や将校階級の奴さえいない

 

「…確かシード中佐が遊撃士に訓練依頼を出すとか 言ってたような…」

 

「そうなの?というか軍の人って遊撃士を毛嫌いし てるってイメージあるんだけど」

 

「まぁ大半はな。俺とか例のシード中佐とか、有名 どころでいえばユリア中尉、リシャール大佐は遊撃 士肯定派だよ」

 

…軍のトップのモルガンの爺さんが否定的だからあ まり大々的に協力できないだけで

 

「ふーん、そんなものなんだ」

 

「そんなややこしいもんだと思ってたのか?…っと 、アタリか」

 

もはやいくつ扉を開けたのかわからなくなってきた 時、やっと目当ての部屋にたどり着いた

 

「ここなの?特に不審な所は無いと思うけど…?」

 

「そりゃあ自分の部屋をわざわざ怪しく見せる必要 なんざないからな」

 

そんなんするのはよほどの厨二病かただのアホだ

 

「ここはリシャール大佐の私室だ」

 

―――――――

 

「(…帝国の国境付近の…違う、新型飛空挺につい て…違う、クロスベルの近況報告…違う)」

 

アネラスを依頼完了として俺しか知らない抜け穴を 教えて脱出させた後、俺は大佐の私室の資料をひた すら読んでいた

 

…これで情報部とあの組織のつながりが無ければよ し、クーデターの疑いすら無ければなおよし…そん な甘い考えで資料を読んでいたのだが…

 

「(王都の地下の遺跡についての報告…?何だこれ ?)…………………っ!?」

 

…オイオイ、マジかよ。いくら探してもねぇハズだ

 

オマケにこれで情報部の疑いは無くなった…あいつ らは間違いなくリベールをひっくり返す気だ

 

「…とりあえず、王都に戻って…!!」

 

ガキィ

 

「勝手に人の部屋で私物を漁るとは…少しモラルに 欠けてはいないかな?」

 

…チッ、最悪のタイミングだな

 

「…どーも。ご無沙汰してます、リシャール大佐」

 

「久しぶりだね、ルーンヴァルトくん…で?君はこ こで何をしていたのかな?」

 

…話題はそらせないな。かと言って簡単に論破でき る相手でもない

 

…だったら

 

「いえいえ、ちょっと野暮用ですよ…そこ、通して もらいましょうか?」

 

「そんなつれない事を言わずにゆっくりしていきた まえ。…少し不自由はさせてしまうかもしれんが! 」

 

再び俺と大佐の剣が交わる

 

そしてそれは徐々に速度を上げていき、次第に二人 の剣は勿論、腕までが見えない域にまで到達する

 

「…流石は『白烏』と言った所か。まさかその年で 私と同じ域に達するとは…!」

 

「そっくりそのまま返しますよ。…流石『剣聖の後 継者』と呼ばれるだけはありますね

 

ま、今回は俺の勝ちですけどね」

 

瞬間、わざと追い込まれるようにして移動した窓か ら身を投げ出す

 

「なっ!」

 

「伊達に俺も大佐なんて役職に就いてないんですよ 」

 

このまま正面にあった要塞の壁に蹴り登り、飛び降 りて脱出…

 

チュン

 

「………っ!」

 

俺が壁に登った瞬間、狙っていたように導力銃の弾 丸が俺の腹を貫いた

 

大佐の方を見ると、口パクで

 

『なんの対価も無しに情報を渡す訳にはいかないの でね。今回は君の戦闘不参加を対価に頂いておこう 』

 

…図られた…!

 

俺はリシャール大佐のいる部屋の下の階から出てい る銃と煙を見ながら、要塞の外へと落ちて行った



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『護るために』

「…ほいっ、と」

 

城壁から撃ち落とされたが、割と地面まで距離があ ったので体勢を立て直して着地する

 

…え?人間技じゃない?うるせぇバーロー

 

にしても…リシャールはアレを見つけてどうするつ もりだ…?

 

この国をひっくり返そうとしているのは間違いない

 

可能性としてはカルバードと組んでの帝国侵略…

 

「………」

 

とりあえず先に止血しようか ――――――

 

「…っし」

 

止血完了…

 

ん~…わりと時間喰ったかな

 

俺をこの程度の怪我で足止めしようってくらいだか ら間違いなくリシャールはひと月以内に行動を始め る

 

…結局、一旦王都に戻るしかねぇか…

 

俺はさっさと王都入りする事に決めた

 

――――――

 

「通行止め?」

 

「ああ。今なんか王都に帝国の密偵が侵入したとか でね。情報部のリシャール大佐が厳戒玲をしいてい るのさ」

 

ちっ…先を越された!

 

帝国云々はブラフ。実際はクーデターを成功させる ための時間稼ぎ…!

 

「お袋が病気で倒してんだ…何とか通してくれない か?」

 

「う~ん…………………ゴメンね、やっぱり無理だよ。 ある意味国民全員の命に関わる問題だから」

 

…仕方ない。一旦ツァイス…いや、エルモに隠れる か

 

「わかった…また出直してくる」

 

「ゴメンね…力になれなくて…」

 

そうして俺はエルモに向かった

 

「毎度の事だけど、厄介事に巻き込まれてるわね」

 

「いつもの事っスよ」

 

エルモに向かう途中でツァイスのギルドに寄り、依 頼の報酬を払うと、キリカさんに傷を見抜かれた

 

「あまり無理はしないでおきなさい。遊撃士も騎士 も体が基本なんだから」

 

「善処しやーす」

 

「………はぁ」

 

気の抜けた返事に、自重する気が無いのを確信する キリカ

 

「まあいいわ。あなたがケガをすればあのお姫様が 激怒するだけだから」

 

「…………」(汗)

 

「それが嫌なら気をつけなさい。ただでさえあなた は敵が多いのだから」

 

「…わかりましたよ。あとコレ、アネラスに」

 

「確かに受け取ったわ」

 

とりあえずこれ以上面倒な事にならない内にギルド を出ようとすると…

 

「待ちなさいケイジ。あなたに教えておかなければ ならない情報よ」

 

「…何ですか?」

 

首だけキリカに向ける

 

「王都が情報部に占拠されたわ。」

 

「!…詳しく」

 

「三日ほど前、王都のギルドとの連絡が途絶えたの 。その後、王都の遊撃士から王都占拠の知らせが入 った。アネラスに一度確認に行かせたのだけど検問 で追い返されたわ」

 

「そして今王国軍内で陛下と意見が真反対でかつこ んなことをしでかせる権力がある人物は…」

 

「リシャール大佐だけ。彼の軍拡思想は民の間でも 有名だから」

 

流石はキリカさん…こんな少ない情報で此処まで展 開できるとは

 

「…で?それを踏まえて俺にどうしろと?」

 

「全く…鋭いわね

 

…遊撃士協会から王国軍…いえ、あなた個人に正式 な依頼よ。内容は王都の調査、できるなら遊撃士協 会の解放、かつクローディア殿下の保護。 事前情報は一切なし。難易度はS~SSSよ」

 

「王都への侵入経路の確保は?」

 

「例の王都の遊撃士が手に入れた通行証があるわ」

 

「…ふっ、契約成立だな」

 

白き烏が王都に舞い戻り、太陽の娘と月の少年と交 わる時…歯車は動き出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――、準備の程は?」

 

「現在五割程完了しています。…しかし本当にこん なモノを人間が制御できるのですか?」

 

「やってみせるさ…例え出来なかったとしても

 

『たかが王都が消えるだけなのだから』」

 

歯車は動き出す

 

例えそれが破滅に繋がっていたとしても…

 



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『月と白烏と太陽と』

~王都グランセル・グランセル城前~

 

「…やっぱ閉鎖するよな、そりゃ」

 

ケイジ・ルーンヴァルト、現在王都潜入中

 

…早速手詰まりです

 

しょうがねぇだろ!?とりあえず城くらいは開放し てるだろと思ってたらまさかのテロの所為にして閉 鎖って…

 

そんな風に現実逃避していると…

 

「――、じゃあ田舎から出てきて城を見学したい。 出来るなら女王様を一目みたいって設定で」

 

「いつもの事だけど、よくそんなホイホイと思いつ くわね…」

 

懐かしい声が聞こえた

 

鴨がネギしょってキo(`▽´)oタ~~~!

 

…失礼、取り乱した

 

「その設定俺も混ぜろよ」

 

「うわっ!?」「きゃっ!?」

 

「「ケイジ!?」」

 

「久しぶりだな、エステル、ヨシュア」

 

「君はルーアンの学園にいるはずじゃ…」

 

「ちと野暮用でな…」

 

「クローゼは?」

 

「いや、わからん…というかセットみたいに言うな 」

 

「だって…ねぇ?」

 

「ねぇ?じゃねぇよバカ。ヨシュアも頷いてんな! !」

 

と、再会と同時に軽い掛け合い(一方的)をして、 本題に入る

 

「…それで、混ぜろって言うのはどういう事だい? 」

 

「言葉通りだ。中に用事があるもんでな」

 

「中?」

 

「ああ。ちょっと人に会いにな」

 

嘘は言ってない。嘘は

 

ただちょっと激しくスキンシップをとるだけだから

 

…周りが壊れるくらい

 

「…わかった。でも始めは僕とエステルだけで行く よ。成功したら呼ぶから待っててくれないか?」

 

「あいあい、わかった」

 

そう言って二人で門番の兵士に近づいて行く

 

しばらく話していたが、結局失敗したらしく戻って きた

 

「あ~…失ぱ「ちょっとケイジ!あんたが軍の人間 だったなんて聞いてないわよ!?」い………」

 

あの門番、いつかシメる

 

―――――――

 

「申し訳ないが、今グランセル城は関係者以外立ち 入りを禁止しているんだ」

 

「テロリストが捕まれば見学も許されると思うわ」

 

「なんだガックシ…これじゃあ女王様の姿を見るな んて夢のまた夢かしら…」

 

「そうだなぁ…生誕祭の当日には拝見できると思う けど…」

 

「最近陛下も体調を崩されていてね、今回はもしか したらお姿を拝見できないかもしれないわね」

 

「陛下は体調を崩されたのですか?」

 

若干驚いた様子で尋ねるヨシュア

 

「ああ…信頼していた親衛隊にテロの容疑がかかっ ていて、その心労が祟ったらしくて…」

 

「最近は女王宮で安静にしてらっしゃって、謁見の 間にも出られてないの」

 

「そうなんだ…」

 

「全く…私は前から親衛隊の奴らは怪しいと思って たのよ」

 

「で、でも親衛隊のユリア中尉やルーンヴァルト大 佐はみんなに優しく接してくれたじゃないか!俺達 みたいな一兵卒にも剣を教えてくれたし…」

 

「「(“ルーンヴァルト”?)」」

 

「そ、そりゃそうよ!きっとあの二人は部下の行動 に責任を感じてお姿をくらませているのよ!ああ… 可哀想なケイジ様…」

 

「「(ケイジィィィィィ!?))」

 

「はぁ、そうだね…とりあえず君たち、城には……ア レ?」

 

――――――――

 

「…まあ、そういう訳だ」

 

「どういう訳よ」

 

「かくかくしかじかまるまるうまうま」

 

「わかるかァ!!」

 

いかにも説明するのが面倒くさい様子で適当に返す ケイジ

 

「なるほど…つまり女王様のご好意で年相応の事も しなさいと学校に通わせてもらっていたと」

 

「あ、それだ」

 

「何でヨシュアにはわかるのよ!?何!?あたしが おかしいの!?」

 

「「これぞ同室の力!」」

 

「もうツッコむのも面倒くさい…」

 

「まあ、とりあえず正攻法で無理なのはわかった。 とりあえず遊撃士協会に行こう。キリカさんの依頼 の説明と協力者登録もしねぇとな」

 

「あ、じゃあ案内するわ」

 

とりあえず、遊撃士協会へと向かう一行であった



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『れっつ観戦』

「さて…とりあえずギルドには着いたんだが…」

 

「さあ!説明しなさい!大佐って本当なの!?」

 

「落ち着け馬鹿」

 

「あんですってー!!」

 

ああ、もう。面倒くさい

 

「まあまあ、エステル落ち着いて」 「あの…これは一体…?というよりルーンヴァルト 大佐。貴方指名手配中じゃ…」

 

「あ、やっぱり?」

 

案の定俺は犯罪者扱いらしい。大方、行方不明扱い のクローゼの誘拐、加えて監禁。それに伴う国家反 逆罪ってとこか

 

「エステル…一応俺前にお前に正体バレてるからな ?ヨシュアも」

 

ダルモアの下りで

 

「「…………あ。」」

 

どうやら忘れてたらしい

 

「…まあいっか。エルナンさん…でいいのか?「は い」これキリカさんからの紹介状。んで依頼の延長 で協力者登録したいんだけど」

 

「あ、はい。それじゃこの書類に…」

 

――――――

 

「…でだ。お前らはどこまで掴んでる?」

 

登録を終えた後にそのまま二階で作戦会議

 

「こっちは黒幕は情報部で裏に何かよくわからない 組織がいるって事よ」

 

「後はラッセル博士を誘拐しようとするくらい高度 な何かを作ろうとしている事くらいだね…そっちは ?」

 

「似たようなもんだな。…とりあえずどうにかして グランセル城内に入り込みたいんだが…」

 

最悪強行突破でもいけるけど

 

「…兎に角、情報が足りません。私の方で色々と調 べてみます。幸い、ルーンヴァルト大佐が持って来 てくれた装置でツァイスとの連絡は取れるようにな りましたから」

 

「なら俺も…」

 

「いえ、大佐は今は休んで下さい。サポートは私達 の真骨頂です」

 

「…わかりました。お願いします」

 

…こう言っちゃあなんだが…エルナンさんは黙って たら女に見えるな

 

ヒュッ

 

「何か不愉快なコト、考えてません?」

 

「イヤ、キノセイデス」

 

ここにも読心術が使える奴が一人…

 

――――――

 

『……多分、お前の考えは正しいだろう』

 

「そうすか。今話してやっと確信が持てたんですけ どね」

 

『よく言う。お前は証拠を揃えてからしか推測しな いだろう』

 

機械越しに溜め息が聞こえてくる

 

「…でもすみません。しばらくそっちの手伝いはで きそうに無いです」

 

『なに。構わんさ。元からそういう約束…いや、契 約だしな』

 

そう言ってすぐに切る相手先。全く忙しない人だよ

 

「さて…エステル達遅いなぁ~」

 

マーケット前で別れて約一時間。女の買い物は長い って知ってるけど…クローゼでももう少し短かった ぞ……

 

「お~い」

 

…ん?やっとか

 

「遅かったな」

 

「ごめんごめん、思ったよりエステルが楽しんでて 」

 

「それより武道大会!見に行きましょ!」

 

「…は?」

 

「グランアリーナでやっているアレだよ。どうも今 年はチーム戦らしいけどね」

 

「ああ…」

 

去年調子に乗っちまったアレか

 

「もうチケットは買って置いたから」

 

「お、悪いな」

 

「ルーアンの時のお礼だよ」

 

何の屈託もない笑顔のヨシュア。だが…

 

「お前ついさっきまで俺の事忘れてたよな?」

 

「さて、何の事やら」

 

ホントいい根性してるな

 

~そんなこんなでグランアリーナ前~

 

「今からだとほとんど最後の試合になりますが構い ませんか?」

 

「はい」

 

さて、今年は爺さんも不良中年もいねぇけど…どう なってんのかねぇ…



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『動き出す騎士団』

『これより、第7試合を始めます』

 

俺達が入ってすぐに試合が始まった

 

…つーか第7試合ってかなり最後の方だな

 

「あ…始まったみたい」

 

「なら空いている所に…」

 

「あっちが空いてる。早く行くぞ」

 

「南、蒼の組。国境警備隊第二連隊所属、バウル少 尉以下四名のチーム!」

 

なるほど。団体戦が例外措置か

 

「北、紅の組。遊撃士協会所属、クルツ選手以下四 名のチーム!」

 

「あっ!カルナさん達だ!」 「危うく見逃すところだったね」

 

「知り合いか?…ん?あれは…アネラスか?」

 

「あたし達は知り合いだけど…アネラスさん知って るの?」

 

「仕事でな」

 

そして試合は遊撃士チームが勝利した

 

―――――

 

「…じゃあ俺は先に行くぞ」

 

「え?」

 

遊撃士チームの試合が終わった直後、俺はそう切り 出した

 

「…何か進展があったら教えてくれ。夜中に西の喫 茶店に来てくれれば多分いる…それに、ここは目立 ちすぎる」

 

「ちょっと!…行っちゃった」

 

―――――

 

「…そうか。悪いな、そっちには協力できねぇのに こんな事頼んで」

 

『いいよ。ケイジはケイジで忙しいんでしょ?僕は ケイジの部下だから』

 

端末の向こうからソプラノボイスが聞こえてくる

 

『でも大丈夫なの?なんなら僕だけでもそっちに… 』

 

「大丈夫だ。必要になったらこっちから頼むって。 …で?そっちに問題は?」

 

『特に無いよ。三位も四位も動いてないし。…でも 、ケイジはもうちょっと僕達を頼ってくれていいと 思うけどな~』

 

「考えとく。じゃあなシャル」

 

『あ、ちょっ!?まっ』

 

無理やり通信を切る

 

「…怒っかな…怒ってんだろ~な~…」

 

通信機の向こうでほっぺた膨らまして怒ってるであ ろう相棒に苦笑しながら、モルガンの爺の家の屋根 から降りる

 

「(…さて、情報無し、内部に味方無し。どうする かな…)」

 

―――――

 

「もうっ!ケイジのばか!あほ!」

 

そして某騎士団本部では、ブロンドの髪を下の方で 結った15、6の女の子がリスのように頬を膨らまし て怒っていた

 

…擬音語をつけるなら「ぷんぷん!」といった感じ に

 

『(何だろうこの感じ…)』 『(ああ…抱きしめたい…)』

 

そして見事に周りは和んでいた

 

「全くもう…こうなったら僕もリベールに…」

 

「なんだ?またケイジに軽くあしらわれたか?」

 

「そ~ちょ~(泣)」

 

全力で女の子が長身の女性に泣きつく

 

「聞いて下さいよ総長!ケイジってばまた勝手に通 信切って!」

 

「まあまあ落ち着け」

 

「だから僕もリベールに行きます!」

 

「よし、行ってこい」

 

…そんな適当でいいのだろうか?

 

「そ~ちょ~!!」

 

「はっはっは!ただし!途中でケビンも拾っていけ !」

 

抜け目はないようだが

 

「…ケビンさんの居場所は?」

 

「知らん」

 

「じゃあ嫌です」

 

「総長命令だ」

 

騎士団における総長命令。それが意味するところは …

 

「まぁ要するに…さっさと行かないとクビだな♪」

 

「鬼!悪魔!聖痕持ちのアホ!」

 

泣きながら走り去る女の子…何故か周りの人を和ま せながらだが

 

「…アイツは体からマイナスイオンでも出している のか?…まぁいい。二位と五位はリベールに、八位 と十位、リースはエレボニアに、七位と十二位はカ ルバードにそれぞれ副官も含めて出した。後は…」

 

―粛正するだけだ

 

リベールに闇が蠢いているように、騎士団にも変革 が起きようとしていた



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『白烏の行進』

~三日後、夜~

 

「…ユリ姉。状況が動いた。親衛隊を集めてくれ」

 

「わかった。…いけるのか?」

 

「出来る出来ないじゃねぇ。やらなきゃ状況は何も 変わらない。…今はとにかく殿下の御身の無事が最 優先だ」

 

「御意」

 

―――――――

 

「親衛隊、アークス曹長以下10名、参上致しまし た」

 

「…俺の所の奴らばっかだな」

 

集まった親衛隊はメシュティアリカ・アークス―愛 称はティア―を筆頭に俺の部下ばかりだった

 

「はい。僭越ながら、ルーンヴァルト大佐の真意を お聞きする「あ~、いつも通りでいいって。んな堅 苦しい」…わかったわ。これでいい?」

 

「おう。で?」

 

「あなたの考えが何かわからないのに捕まるわけ無 いじゃない。それにケイジが女王様を裏切るわけがな いわ。単純思考なんだから」

 

「何で俺貶されてんの!?」

 

「だっていざあなたを探そうとしたらツァイスで撃 たれて行方不明?…毒吐きたくもなるわよ」

 

周りの奴らもうんうんと頷く

 

「…まぁ、いいや」

 

流そうと適当にごまかしたらティアのこめかみに青 筋がたったが気にしない

 

「とりあえず、この中で遊撃士とは協力出来ないっ て奴は帰れ

 

…今からエルベ離宮に殴り込みするから」

 

――――――

 

「いや、足りない戦力は我らが補わせていただこう 」

 

その頃、ユリアは遊撃士協会にいた

 

「おお、周遊道で会ったシスターじゃないか」

 

「お初にお目にかかる。王室親衛隊、中隊長、ユリ ア・シュバルツ中尉だ。君達の作戦に我々も参加さ せてほしい」

 

―――

 

「そういえばユリアさん、何で私達が救出作戦をた てているって知ってるの?」

 

「僕達、それを伝えようとして教会に行ったんです けど…」

 

「それはすまなかったね…実は我々には独自の連絡 手段があるのだよ。それに、いざとなったらケイジ に潜入してもらうのもできるからね」

 

「「ああ…」」

 

容易に予想できたようだ

 

「あれ?ケイジ君いるの?」

 

「君は…?」

 

「あ、私アネラス・エルフィードって言います!ツ ァイスでケイジ君の依頼を受けたので…」

 

「ああ…迷惑かけたね…ケイジの事だからまたムチ ャな依頼だったのだろう?」

 

「いえ!そんなことは………」

 

無いと言い切れない。軍の要塞に潜り込むのがムチ ャでなくてなんなのだろうか

 

「とにかく、いきなり来ておこがましいのだが…早 く作戦を立てよう」

 

「そうですね。では、陽動に…」

 

「ああ、陽動は必要ないよ」

 

『?』

 

「今頃ケイジが暴れてるだろうからね…副官が止め きれていればいいのだが…」

 

――――――

 

「腹減ったな…そろそろ交代か?」

 

「おい、気を抜くなよ。いつ親衛隊が現れるかわか らないんだからな」

 

「ははは!どうせ10人位しかいないんだ。たとえ 白烏がいると言っても数には勝てないさ。もし来た ら俺が捕まえてやるよ」

 

「じゃあやってもらおうか?できればだがな…」

 

「「へ?」」

 

完全に油断していたのか、俺の出現に若干呆けてい る

 

「ぼーっとしてると、風穴空くぜ?」

 

「はっ!おい!信号弾を!」

 

「ちっ!」

 

そして信号弾を打った直後、俺の刀によって気絶す る二人

 

「ちょっとケイジ!一人で行き過ぎないで!」

 

「悪いなティア…でも…」

 

かなり向こうだが、砂塵が見える

 

要するに、すんげぇ大軍がこっちに向かってるんで すね、ハイ

 

「ちょ!?何で潜入早々見つかってんの!?」

 

「潜入?俺言っただろ?…『殴り込みする』って」

 

「バカ!普通はちょっとでも隠れるものなの!」

 

「アホ。陽動が隠れてどうするよ。だから遊撃士と 協力するんだろうが」

 

俺がそう言うとティアは深~いため息をつく

 

「…もういいわ。どうせ全部片付けて早く離宮に入 ろうとしか考えてないだろうし」

 

「流石ティア。話が早い」

 

「そりゃ、ね。私は何気にシャルより付き合い長い から」

 

「じゃ、俺が今から何するかもわかるよな?」

 

―天地、鳴り動き

 

「え?………まさか」

 

「そ♪倒れたら後ヨロシク♪」

 

―光闇、相対にして合す

 

「ちょっと待ちなさい!アレは総長に禁止されて… 」

 

「俺を縛るなんて100年早ぇ!」

 

「ちょっとー!?怒られるの私なのよ!?」

 

「ガンバ」( ̄∀ ̄)

 

―我が捧ぐは此の魂

 

「―終焉は開闢、開闢は終焉。なれば何故(なにゆえ)滅すを畏 る」

 

「シャルにも怒られるじゃない!」

 

「どうせお前『可愛い…♪』とか言ってあやふやに なるだけだからいいだろ」

 

―我が身を糧に、我に力を

 

「響け!生命の唄!我の縛鎖を解き放つ唄よ!」

 

聖母ノ祈リ(グレイス・オブ・マリア)

 

詠唱が終わると共に、俺の体を白い光が薄く覆う

 

「大丈夫だって。2を使わなけりゃただ光るだけだ から」

 

「…はぁ。また総長に怒られる…」

 

「気にすんな!」

 

「誰のせいよ!」

 

ティアは本当に弄りやすいな

 

「…さて、とっとと姫様助け出すか」

 

「…そうね」

 

―聖なる槍よ、敵を貫け

 

「「ホーリーランス!!」」

 

俺とティアの術で向かって来ていた兵がかなりの数 吹っ飛ぶ

 

「さぁ…2対大量の戦争だ…!」

 

「全く…姫様とか女王様に関する事には性格変わる んだから…」

 

白烏の行進が始まった



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『死を奏でし者』

「すごいわね…」

 

何の気なしにエステルが呟く

 

そして全力で走っている彼女達の脇には、気絶しな がらも外傷のない情報部の兵士達が倒れていた

 

「…見た感じ、全員一撃で気絶させられてるね。そ れも、極力後遺症とかがないように」

 

「今はとにかく姫様を助けだすのが先決だ」

 

「それもそうね!」

 

エステル達は、より一層走るペースを上げた

 

――――――

 

「………」

 

「おらぁぁぁ!」

 

「…!!」

 

トン…

 

「……チッ、キリがないな」

 

「当たり前よ。国を相手してるようなものなんだか ら」

 

背中合わせになりながらティアが冷静に答える

 

「じゃあ何ですか?この国の兵士はゾンビかなんか ですか?」

 

「……どっちかと言うとキョンシーね。動き方とか そのものだもの」

 

そう。さっきから気絶させたはずの兵士が起き上が ってくるのだ

 

…しかもたまに白目むいて起き上がってくるのがい る。なんたるホラー映像

 

「こんな時シャルがいたら楽なんだがな…」

 

「あら、私じゃ不満?」

 

「ああ」

 

「………」

 

「ごめんなさい自分調子乗ってました。だから俺に 向かってホーリーランスだけは勘弁して下さい」

 

まぁふざける余裕があるだけマシだと思っておこう

 

「…それで、どうするの?

 

これは確実に“アイツ”の仕業よ?」

 

「わかってる」

 

だからこうやって話して時間稼ぎしてんじゃねぇか

 

…ただ、このままだと本当にマズい。“アイツ”がそ う簡単に姿を現すはずがないし、俺のフルパフォー マンスを出すのは…無理だ

 

「…とにかく、一点突破で離宮に入り込むしかない な。離宮に入れば目立つのを嫌うだろうから追って こないはずだ…多分」

 

「そこは言い切って欲しかったわ…」

 

うるせい

 

「さて…じゃあ、もう一踏ん張り?」

 

「行きますか!」

 

――――――

 

「それでエルベ離宮に着いた訳だけど…」

 

「敵が…一人もいない…」

 

エステル達が離宮に辿り着いた頃には、離宮はがら んどうになっており、人の気配すらなかった

 

「そりゃあ“白烏”が相手だからな。敵さんも必死な んだろうよ」

 

「ジンさんケイジの事知ってるの?」

 

「いんや、直接は知らんが、百日戦没の時に一緒に 人民避難誘導の依頼を受けた同僚が言ってたんだ。 何でも最初はただの少年救護兵だったんだとよ」

 

「へぇ~…でも何で“白烏”なのかな?」

 

「リベールの国鳥のシロハヤブサから来たんだと思 うよ…それより、そろそろ突入しよう。時間が無限 にある訳じゃないからね」

 

「そうね」

 

そうしてエステル達はエルベ離宮に突入していった

 

――――――

 

「ノクターナルライトッ!」

 

「――閃華!」

 

ケイジとティアが兵士に技を当てる。もちろんケイ ジは峰打ちだし、ティアも投げナイフではなく十字 架(相手は一応操られた魔の類のため)だ

 

「ティア!」

 

「わかってる!

 

――堅固たる護り手の調べ――!」

 

ティアの歌が辺りに響き渡る

 

「(…名前からもしかしたら、とは思ってたけど、 始めはまさか譜歌まで使えるとは思わなかったな… )」

 

「――フォースフィールド!!」

 

操られた兵士ごと周囲がガラスのような膜に覆われ る

 

すると、兵士達の影が生き物のように蠢き、兵士達 と同じ形をとった

 

「やっぱり“アイツ”か…」

 

「ええ、間違いないわ。…“影奏”よ」

 

「まぁいい。とにかく終わらせよう」

 

そうしてケイジは縮地で加速を始める

 

「――黄泉路に惑う罪人、我が剣を標にし、神の御 下へ還らん。彼岸の淵に散れ!」

 

次々と影のみを切り裂き、次第に立っている兵士が 少なくなってゆく

 

そして…

 

パキィィィン

 

「…曼珠沙華」

 

フォースフィールドの砕ける音と共に、ケイジとテ ィア以外の兵士は全て地に伏せた

 

…が

 

「…やっぱり囲まれますよね~」

 

「言ってる場合!?」

 

そこはしっかりと周囲を囲まれていた

 

「そろそろ観念したらどうだ?いくら白烏と言えど 、消耗した状態でこの数にはかなうまい」

 

自分達の絶対有利を確信したのか、輪から一人――おそらく隊長――が出てきて、降伏勧告をしてくる

 

「お前らさっきから数数言ってっけどよ…それしか 長所ないのか?」

 

「なんだと!?」

 

「火に油注いでどうするのよ!?」

 

「いや、すんげぇ単純に気になっただけなんだが… 」

 

天然の空気の読めなさの極致である

 

「もういい!やってしまえ!」

 

なんだかんだで兵士達が向かってくる

 

「……ティア?」

 

「無理」

 

「早くね?もうちょっと考えようぜ?」

 

「じっくり考えてたら死ぬわよ!!あなたこそ何か 無いの!?」

 

「え?無理無理。脚撃たれてから治ってないのに縮 地なんか使ったんだぜ?治療しなきゃもう微塵も動 かないって」

 

「もうなんか言いたいことは色々あるけど何でそん なに冷静なのよ!?」

 

そして二人に兵士の剣が襲いかかった瞬間

 

突然銃声が鳴り響き、兵士の剣が弾き飛ばされた

 

「「…は?」」

 

「はぁぁぁ!!」

 

と、思ったら鞭を持ったおば「(ギロッ)」…オネ エサンが兵士を吹き飛ばしていた

 

「…あんた達が親衛隊の人?」

 

「んあ?…ああ、そうッスけど。アンタは?」

 

「私はシェラザード・ハーヴェイ。遊撃士よ」

 

「あ~協力者…なら、しばらくここ任せてもいいッ スか?多分三分位したら殲滅しますんで」

 

そうケイジが頼むと、シェラは不思議そうな顔で頷 き、再び兵士達に向き合った

 

「ケイジ…三分ってまさか…」

 

「そ♪という訳で治療よろしく~」

 

「はぁ…わかったわ」

 

そしてその後、三分たつと、遊歩道に突如雷が落ち たという…



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『救出』

「「殺す気かっ!!」」

 

インディグネイションで敵を纏めて葬った後(注: 死んでません。気絶です)、さっきの鞭の人と、ど こにいたのか金髪のアホそうな人がキレて突っかか ってきた

 

「いや俺言ったじゃん。三分だけ稼いでくれって。 だから三分後に全部片付けた。Do you understand ?」

 

「僕は全く聞いてないよ!」

 

「確かに聞いたわよ。ええ、聞きましたとも。でも ね…せめて何するかとか危ないから退けとか言え! !」

 

「言ったぞ?『あぶね~ぞ~?』って」

 

「テンションんんんん!!もっとテンション上げて !?危険度が全くわからないから!!その感じだと ピコピコハンマーで叩くぞみたいなノリだから!! 」

 

全くもってうるせーなチクショー

 

「そんなことよか、今はさっさとエルベ離宮に向か ってくんねぇか?ちょっとくらいは戦力残してるだ ろうし、誰かが人質とかになってたらマズいぞ?」

 

「…それもそうだね」

 

「アンタねぇ~!!」

 

「シェラくん、今は彼の言うことの方が正しいよ。 エルベ離宮に向かおう」

 

「ぐぬぬ…」

 

「(ここら辺は流石エステルくんの姉貴分というと ころか…)ほら、エステルくん達が心配なんだろう ?」

 

「ぐぅ…アンタ、後で覚えてなさいよ!!」

 

「ごめん、多分忘れてる」

 

「~~~!!」

 

「シェ、シェラくん落ち着いて!!」

 

「ケイジも何煽ってるのよ!」

 

「はっ!ついつい反射的に…」

 

『無意識かい!!』

 

何をそんなにカッカしてんだ?

 

「…まぁ、とにかく早く行ってやってくれ。不動が いるとはいえ心配だし、俺はまだ治療に時間かかる し」

 

「わかってるわよ」

 

そう言って二人はエルベ離宮へと駆けていった

 

…にしてもあの金髪…どっかで見たような…

 

「あ~まだイライラするわね…オリビエ、一発殴ら せなさい」

 

「何故に!?…あ、でもデートしてくれるならいい かも」

 

「いいわよ?…夜中にアイナと三人で、酒場でなら 。良かったわね?両手に花よ?」

 

「ごめんなさい。僕が悪うございました」

 

…うん、気のせいだな。俺の知り合いにあんな変態 はいない

 

――――――

 

「茶番はそのくらいにしてもらおうか…」

 

「リアンヌちゃん!?」

 

一方その頃、エルベ離宮ではケイジの懸念通りモル ガン将軍の孫娘が人質に取られていた

 

「何で女の子が!?」

 

「モルガン将軍のお孫さんです…」

 

「女王陛下に対する君と同じということか…」

 

「やれやれ、腐った連中だな…」

 

苦々しくエステル達が言うが、兵士はあざ笑うかの ように

 

「ふん。なんとでも言うが良い。そろそろキルシェ 通りから巡回部隊が帰ってくる頃だ。遊撃士、親衛 隊諸共ここで一網打尽にしてくれるわ!」

 

勝ち誇る兵士。だが…

 

「あー、それは無理ってもんね。ここに来るまでに バカがぶっ飛ばしてたから」

 

パシュン

 

ドガッ

 

「ぐっ!?」

 

何処からか銃声がして、兵士の持っていた武器を弾 き、その兵士をシェラザードが壁に叩きつけた

 

「エステル、ヨシュア、久しぶりね」

 

「シェ、シェラ姉!?」 「来てくれたんですか…」

 

「それにさっきの銃声…まさかオリビエ!?」

 

「『ピンポン♪』いやいや、真打ち登場と言った所 かな?」

 

そんな感じで会話をしていると…

 

「な、何を悠長に挨拶しておるかぁぁ!!」

 

遂に隊長らしき兵士がキレて、気を失っていたリア ンヌに隠し持っていたナイフを突きつけた

 

「隠しナイフ!?」

 

「くっ…人質の怪我の確認をして警戒をオリビエに 任せたのが間違いだったわね…」

 

「シェラくん、地味に僕に責任を押し付けてないか い?」

 

「「「ダメだ。この二人は使えない…」」」

 

こんな時まで漫才が出来るこの二人。大物と言うべ きかバカと呼ぶべきか…

 

「いつまで無駄口を叩いている!さっさと武器とオ ーブメントを捨てて手を上げろ!」

 

「く…」

 

「ここは言う通りにするしかなさそうだね…」

 

言う通りに武器を捨てて手を上げる一同

 

「ふふふ…さて、では大人しく牢屋にでも入っても らうとしようか」

 

「なっ!?あんまり調子に乗るんじゃないわよ!」

 

「あっ!バカ!エステル!」

 

「おっと、この娘がどうなってもいいのか?」

 

「いや、困る。せっかく爺さんに借りを作れるチャ ンスだってのに」

 

「そうだろう、困るだろう!ならば…」

 

自分の後ろを振り返ると共に、兵士は物凄い勢いで 地に叩き伏せられる

 

「がっ!」

 

「将軍の孫っつっても市民に、しかも子供に武器を 突きつけるなんざ…恥を知れっての」

 

「ケイジ!」

 

「おう、久しぶりだな。エステルにヨシュア」

 

エステルがケイジに声をかけ、ケイジはそれに答え るものの、足取りは真っ直ぐクローゼの方へ向かっ ていた

 

「ケイジ…」

 

「…姫殿下。此度は参上するに多大な遅れをしてし まい申し訳ございません」

 

そのままクローゼの前で臣下の礼をとり、救出が遅 れたことを詫びる

 

それは非常に堂に入っており、どこか神々しくも見 えた

 

「いえ、来てくれただけでも十分です」

 

「御恩赦、感謝いたします………と、堅苦しいのはこ こまでにして」

 

シリアスムードをぶち壊すかのように、見つめ合う ふたり

 

「ケイジ…」

 

「クローゼ…」

 

無駄に甘い雰囲気が場に漂う

 

「知らん人には着いていくなってユリ姉共々あんだ け言ってただろうがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「いたいたいたいたいたいたいたいたいたい!!」

 

クローゼの顔をアイアンクローで掴みだした

 

…全部ぶち壊しである

 

『………』

 

当然、周囲は絶句。なにしろ自分の国の姫様が部下 にお仕置きされているのだから

 

「ケイジ!早すぎ……って何をしてるのよ!」

 

「殿下!ご無事ですか……ケイジ!?お前一体何を !?」

 

「お仕置き」

 

「「そう言う意味じゃねぇぇぇ!!」」

 

結局、ティアとユリアの二人からピコハンでツッコ ミを受け、周りの空気を置いてけぼりにしたそうな …

 

 



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『白き翼』

~エルベ離宮・紋章の間~

 

あれからなんだかんだで一晩がたって、俺達は改め てこれからについて話し合うことになった

 

まぁ…やることは一つな訳だが

 

「これより、グランセル城解放と女王陛下の救出作 戦を説明する」

 

…と言う訳だ。作戦会議自体は長いから割愛。

 

かいつまんで説明すると…

 

①ヨシュア、オリビエ、ジンさんの3人が地下水路 から城内に侵入、城門を開放

 

②その騒ぎに乗じてエステル、シェラさん、クロー ゼ、俺の4人が飛空挺(離宮の解放の時に盗った) で城に侵入、アリシアさんを救出

 

③ユリ姉とティア含む親衛隊で陽動、撹乱

 

…本来なら俺も③のグループなんだが、ユリ姉が頑 として譲らなかった

 

「ぐぅ…何故私は飛空挺の操作など殿下にお教えし てしまったのだ…!」

 

「まだ言ってんのかユリ姉…」

 

「当たり前だ!みすみす殿下に危険を負わせるなど …」

 

「何の為に俺がクローゼにつくんだよ…ちょっとは 信用しろっての」

 

「…そうだな。ケイジ、くれぐれも殿下を頼む」

 

「親衛隊大隊長に向かって何言ってんだか…」

 

そんなに信用ないんかな。俺…

 

「(ケイジは信頼してはいるが…いつふざけだすか わからんからな…)」

 

――――――

 

~エルベ離宮・前庭~

 

「ヨシュア、気をつけてよね。くれぐれも無理しち ゃダメなんだから」

 

「うん、気をつけるよ。君の方も自分の力を過信し ないようにね?」

 

「うん、わかってる。例の約束だってあるもんね。 お互い、元気な姿でグランセル城で会いましょ!」

 

「うん…必ず」

 

作戦開始直前なんだが…空気がピンクだ。今なら軽 く一袋くらい砂糖が吐ける気がする

 

「ヨシュア、地下水路の魔物は割と強いからな。気 をつけろよ?」

 

「うん、わかってるよ。君もあまりふざけすぎない ようにね?」

 

「流石にこの状況でふざける勇気はねぇって…」

 

「よく言うよ…昨日もふざけてたくせに…」

 

この野郎…痛い所をザクザクと…←自業自得

 

「ま、エステルのことは心配しなさんな。あんたと 今まで旅して色々成長したみたいだからね。遊撃士 としてだけでなく女としても、みたいだけど」

 

そう言って半笑いでエステルを見るシェラさん

 

「シェ、シェラ姉…」

 

「???………どういう事?ケイジ?」

 

「爆発してもげろ♪」

 

「何で!?」

 

「ヨシュアはまだ知らなくていいの!」

 

照れ隠しでヨシュアを軽く押すエステル

 

「(ねぇねぇお姫様にケイジ。やっぱりあの子達旅 先で何かあったのかしら?)」

 

「(さぁ?まぁ、ヨシュアはともかく、エステルは わかりやすいな)」

 

「(お二人共いい顔をされてますしね…ちょっぴり 羨ましいかな…)」

 

クローゼが俺の顔をチラチラ見てくる…何かついて るのか?

 

「(……お姫様も大変みたいね)」

 

「(…わかってくれます?)」

 

女二人で何故か意気投合していて、結局最後まで言 っている意味がわからなかった

 

「やれやれ…この非常事態に頼もしいガキ共だぜ」

 

「全くだな…さて、俺達はそろそろいくぞ」

 

「また逢おう、子猫ちゃん達」

 

「女神の加護を!」

 

そう言って離宮を後にする男三人衆……はっきり言 おう。すんげぇ肩身が狭いです

 

「…記者のオッサン」

 

「お前もか…」

 

「大佐もですか…」

 

「実は俺も…」

 

良かった。どうやら味方は残されていたようだ。残 ったのがオリビエじゃなくて本当に良かった

 

「…では私達も行こう」

 

「了解しました。…ケイジ、殿下のこと、よろしく 頼んだわよ?」

 

「わかってるって。偶には俺だって真面目にいくさ 」

 

――――――

 

~エルベ周遊道~

 

「情報部の飛空挺…まさかこんな形で乗ることにな るなんて」

 

「趣味は悪いが、機動性は御墨付きだ。こんな技術 、どこから持ってきたんだか…」

 

「う~ん、そうね…あの《ゴスペル》といい謎が多 いわね…」

 

「《ゴスペル》?」

 

「そう言えば言ってなかったわね。詳しくはわから ないけど、導力停止現象を起こすオーブメントよ」

 

「へぇ…(導力停止現象…アレと何か関係があるの か…?)」

 

そんな風に考え込んでいると

 

「あんた達!そろそろ出発するわよ!」

 

「え?もうそんな時間なの?」

 

「わかった。すぐ行く」

 

――――――

 

「今から城門の開閉装置を操作します!敵が来たら 撃退して下さい!」

 

「おお、任せとけ!《不動》のジンの名にかけて誰 一人として中には入れさせん!」

 

「フッ…今こそ天上の門が開く時…最終楽章の始ま りだ!」

 

――――――

 

「ふむ、正午だ。作戦を開始する!」

 

「行くわよ!王国軍最強部隊と呼ばれる理由を…存 分に見せつけなさい!」

 

『『イエス・マム!!』』

 

――――――

 

~グランセル城・空中庭園~

 

「さて…とにかく最優先事項は陛下の救出よ。慎重 に、そして確実に行くわよ!」

 

『応!!』

 

そして庭園に着陸すると、そこにカノーネ大尉と部 下数名がいた

 

「エ、エステル・ブライトに…クローディア殿下! ?しかも《白烏》まで!?」

 

「カノーネ大尉!またお邪魔するわよ!」

 

「お祖母さまを解放してもらいます!」

 

クローゼ達がそう言うと、顔を真っ赤にして怒りだ した

 

「な、舐めるなァ!小娘ども!」

 

「うっせぇよオバサン…」

 

「お、オバ…!?」

 

「こっちはとうにキレてんだ…

 

ごちゃごちゃ言わずにかかって来いやァ!!」

 

そう(ちょっと細工をして)一括すると、カノーネ 大尉と周りの特務兵が倒れた

 

「へ…?」

 

「達人の覇気は一般人には耐えられない…聞いたこ とはあるけど、まさかこの目で見ることになるとは ね…」

 

正確には覇気じゃないんだが…まぁいいか

 

「これでしばらくは動けないだろ…早く先に進むぞ 」

 

「そうね。早く女王宮に行きましょう!」

 

――――――

 

~女王宮・入り口~

 

「いたぞ!」 「こっちだ!」

 

「わわっ!また来た!」

 

「ふん、しゃらくさい!!」

 

エステル達が武器を構える

 

「邪魔だ…

 

――瞬桜!!」

 

全力の縮地で入り口付近の特務兵ごと全員気絶させ 、元の位置に戻る

 

今はこんなところで時間を食ってる暇はない!ここ まで侵入した以上、最悪アリシアさんが人質になる 可能性だってある!

 

「は、早い…」

 

「流石《白烏》ってところかしら?(仕返しはやめ ておいた方が良さそうね…)」

 

「今は早く進むぞ。最悪の事態にならないうちに… !」

 

そうして女王宮の玄関にたどり着くと…

 

「は、反逆者ども!のこのこと来おったな!私を新 たなる国王と知っての狼藉か!」

 

護衛をつけて長々とくっちゃべるバカがいた

 

「うっせぇキノコ。冗談は髪型だけにしろ」

 

「あんたまだ国王になった訳じゃ無いでしょ?」

 

「な、なぬぅ!?」

 

何驚いてんだこのカスキノコは。アリシアさんは死 んでないし、クローゼは今もリベールにいるし、そ もそもお前戴冠式をした訳でもないのに国王になれ る訳ないだろうが

 

「デュナン公爵閣下ですね?私達は遊撃士協会の者 です。クローディア殿下の依頼で女王陛下の救出に 来ました。大人しくそこを退いていただけると助か るんですけど」

 

シェラさんがキノコに丁寧に事情を説明する

 

…そんなことしなくてもキノコごときさっさとぶち のめしたら早いのに

 

「く、クローディアだと!?あの小娘、余計なこと をしおって!」

 

「デュナン叔父様…もう終わりにして下さい。あな たはリシャール大佐に利用されていただけなんです 」

 

「な、何だそなたは……」

 

デュナンがクローゼをじっ、と見つめる

 

「………ク、ク、ク、クローディアではないかっ!な んだその髪は!?なんだその恰好は!?」

 

「いや気づけよ!?」

 

「やっと気づいたか…こりゃルーアンで会った時も 気づいてなかった訳だわ」

 

会ったんかい…危なかったな…

 

「よく判らないけど、随分と抜けた人みたいね」

 

「いや、ただ単にバカなだけだ」

 

「王族相手にそんなストレートに言えるのはアンタ だけよ」

 

「あの、黙っていた私が悪いんだと思います…」

 

いや、クローゼは悪くないだろ

 

「よ、よくもこの私をはかってくれたな!」

 

「いや、お前が勝手に騙されただけだから」

 

「これだから女という生き物は信用ならんのだ!」

 

聞けよ

 

「小狡く、狭量で、小さな事ですぐ目くじらをたて て……そんな下らぬ連中に王冠を渡してなるものか !」

 

「「「……………………」」」

 

「あ~あ、俺知ーらねーっと」

 

よく女三人が敵の状況でそんな戯言言えたもんだな

 

…というかエステル達が怖い。クローゼすら笑って るはずなのにプレッシャーが半端ない。絶対般若超 えたってこの三人

 

「か、閣下…今のはマズいのでは…」 「あ、謝った方がいいかと…」

 

ホラ、敵のはずの特務兵までエステル達の味方して るし

 

「ふーん、下らない連中か…」

 

「いやはや見直したわ。このご時世に大した度胸の ある発言ね」

 

「ごめんなさい叔父様。今のはちょっと…弁護でき そうにありません」

 

…する気、無いくせに

 

そして、多分俺以上の速度で動く三人に護衛の特務 兵が速攻でボコボコにされた

 

…絶対にクローゼだけは本気で怒らせないようにし よう

 

「はい、一丁上がりっと!お次は公爵さんの番かし ら?」

 

「よ、寄るな!寄らないでくれぇ…!

 

くっ、こうなったら陛下を盾にするしか…」

 

…今コイツなんつった?

 

「オイキノコ」

 

「き、貴様!黙っていれば私のことをキノコキノコ と!私は国お「んな事はどうでもいい」

 

「テメェ今アリシアさんを盾にとかぬかしやがった な?」

 

「ひ、ひぃっ!?」

 

「あんまり調子に乗んなよ?………殺すぞ」

 

「ひぃぃっ!?…………ブクブクブク…」

 

殺気を飛ばしただけなのに、キノコは気を失った

 

――――――

 

その後なんだかんだでフィリップさんにキノコを預 けて、俺達は先へ進んだ

 

そして――

 

~女王宮・アリシア女王の部屋~

 

「アリシアさん!」 「お祖母さま!」

 

俺とクローゼが真っ先に部屋に踏み込む

 

…が

 

「…誰もいない?」

 

「奥のテラスかもしれないわね。急ぎましょう」

 

そしてテラスへ

 

「お祖母さま!大丈夫ですか?」

 

「助けに来ました。女王様」

 

「クローディアにケイジ…それにエステルさんも… 」

 

テラスには、アリシアさんが無事な姿でいらっしゃ った

 

「漸く来たか…待ちくたびれたぞ」

 

そして奥から、なんか変な仮面を付けた男が現れた

 

「ろ、ロランス少尉!?どうしてこんな所に…」

 

「フフ、私の任務は女王陛下の護衛だ。此処にいて も不思議ではあるまい」

 

「ふ、ふざけないでよね!いくらアンタが腕が立つ っていってもこっちは4人もいるんだから!」

 

「…誰だお前?」

 

「情報部、特務部隊隊長、ロランス・ベルガー少尉 。元猟兵あがりのリシャール大佐にスカウトされた 男よ!」

 

「ほう、そこまで調べていたか。流石はS級遊撃士 、カシウス・ブライトの娘だ」

 

「!!!」

 

「外部には知らされてないはずの先生のランクを知 っているなんて…」

 

へ~。エステルってオッサンの娘なのか

 

「フフ、お前の事も知っているぞ。ランクC、シェ ラザード・ハーヴェイ。近々ランクBに昇格らしい な」

 

なるほど、大した情報網だ。でも…

 

「俺が言ってんのはそう言うことじゃねぇ。お前が 王国軍にいるはずがないんだよ」

 

「………」

 

黙りか…

 

「え!?どういうこと!?」

 

「お前らで言うランクと同様に俺達軍人にも階級っ てランクがある。いくら腕が立つとは言っても始め は必ず低い階級だ。ましてや情報部は新設部隊…良 くて軍曹くらいのはずだ。猟兵あがりなら尚更な」

 

猟兵あがりは危険思考の連中が多いから、見極めも 兼ねて低い階級で三年は過ごす。これは昔から変わ りないはずだ

 

「…私が昔からいた、という可能性は考えないのだ な」

 

「お前みたいな奴がいたら真っ先に親衛隊に引き抜 いてるっての」

 

俺が今の30人を引き抜いたのは情報部設立の二年 前だ。その時に全部隊の全軍人を確認したから間違 いない

 

「フフ…流石、と言っておこうか」

 

「あの…お祖母さまを返して下さい。あなたが大佐 に雇われたなら、もう戦う理由はないはずです」

 

クローゼが仮面が雇われていると考えて問いかける が…

 

「この世を動かすのは目に見えている物だけではな い。クオーツ盤だけを見ては歯車の動きが判らぬよ うに…」

 

「え…」

 

「心せよ、クローディア姫。国家というのは巨大で 複雑なオーブメントと同じだ。人々というクオーツ から力を引き出す数多の組織、制度という歯車…そ れを包む国土というフレーム…その有り様を把握で きなければあなたに国王としての資格はない」

 

「!?」

 

「国家論…」

 

「面白い喩えをするものですね…確かにその通りか もしれません」

 

「フ…これは失礼した。陛下には無用の説法でした な」

 

…確かにアリシアさんには無用だな。政治云々に関 してこの人以上の知識人は見たことないし

 

「な、なんかイマイチよく判らないけど…女王様を 解放する気はないってことね!」

 

「ならば…どうする?」

 

「決まってる!力ずくでも返してもらうわ!」

 

「フフ…いいだろう。ならばこちらも本気を出させ てもらおう」

 

そう言って仮面をとる

 

そして出てきたのは…俺には割と馴染み深い顔だっ た

 

「なっ!?」

 

「銀髪…」

 

「いや、アッシュブロンドね。どうやら…北方の生 まれのようね」

 

「北であるのは間違いない…ここからそれほど離れ ていないがな」

 

そう言うことか…コイツが、レーヴェが今回リシャ ールに協力した理由は…

 

「真相の…追求か」

 

「…その通りだ」

 

「お前ら、下がってろ」

 

「な、なんでよ!4人で戦った方が確実に―」

 

「はっきり言ってやろうか?『足手まといだ』」

 

「なっ!?―」

 

「コイツは今までの奴らとは格が違う――」

 

…やるしか、ないか

 

―天地鳴り響き、光闇、相対にして合す

 

聖母ノ祈リが発動し、俺の身体を光が包む

 

…だが、今回はそれだけじゃない

 

「………」

 

「ケイジ…」

 

「あなた…それ、何?」

 

俺の背中には、純白の翼が出現していた

 

(TOSのミトスの天使化の翼の真っ白いverを想像 して下さい)

 

「…俺も、人非ざる存在だという事だ」

 

「……《白烏》の名の由来、ってところかしら」

 

「さて…今はロランスって言ったか?」

 

「フフ…よもやお前がここに来るとはな。陽動に回 っているものだとばかり思っていたが…」

 

「残念だったな。現に俺は此処にいる」

 

「それもそうだな…今は…」

 

「「ただ…斬り合うだけだ!!」

 

 



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『修羅』

「せいっ!!」

 

ケイジの剣がロランスを捉える

 

「フフ…何処を見ている」

 

「チッ…分け身か!?」

 

慌てて後ろを向くケイジ。だが…

 

「遅い!……何!?」

 

その隙に

 

・ 上からロランスが奇襲を仕掛けるが、ケイ ジの姿が陽炎のように消えていき、少し距離を置い た場所にケイジが現れる

 

「甘いのはお前もだったな」

 

「…そういえばお前も『そう』だったな」

 

「………」

 

――――――

 

「す、すごい……」

 

「とてもじゃないけど手を出せないわね…」

 

一方エステル達は、この二人の戦闘に入り込めない でいた

 

「…それだけじゃないわね。悔しいけど、本当に格 が違うわ」

 

「え?シェラ姉どういうこと?」

 

「あの二人、それぞれ陛下と私達を守りながら戦っ てるわ」

 

「えぇっ!?ウソでしょ!?」

 

自分の姉貴分が言った信じられないことに、つい否 定の言葉が口に出る

 

「間違いないわ。だってさっきから二人の位置が変 わってないもの。私達を気にしなければさっき距離 を取った時に奇襲をかけれたはずだしね」

 

ま、先生なら割って入れるでしょうけど、と付け足 してシェラザードは黙った

 

「………」

 

クローゼはただただケイジを見つめていた

 

自分が隣に立つ為の、その場所がどれほど高く、険 しいものかを確かめるように…

 

――――――

 

「燃え盛る業火であろうと、砕き散らすのみ……! 」

 

ロランスが剣を掲げると、雷のようなものが剣に纏 われる

 

「彼岸に佇む死の華よ…罪人の前に咲き乱れよ…! 」

 

同時に、ケイジが刀を鞘に収め、尋常ではない闘気 を刀に集中して纏わせる

 

「はぁぁぁぁ…!」

 

「黄泉路へ誘え!」

 

「「滅!!」

 

ロランスの炎を纏った一撃とケイジの神速の一閃が ぶつかり合い、凄まじい衝撃波がうまれる

 

「くぅ…!」

 

「ぐっ…!」

 

ちなみにこの二人、周囲に細心注意を払っているた め、エステル達やアリシアへの影響はほぼない(そ れでも多少は衝撃波が漏れる)

 

「……ふん、時間か」 しばらく睨み合っていたが、突然ロランスが構えを 解いた

 

「?どういうことだ?」

 

「簡単なこと。時間稼ぎの必要が無くなっただけだ 」

 

「!」

 

その言葉を聞いたケイジはついバルコニーから飛び 降りそうになるが、アリシアが人質に取られている ことを思い出し、ロランスを睨む

 

「フ…安心しろ。勿論女王は解放する。流石に直接 手を下すような愚かな真似はしないさ」

 

「…貴方は、一体…その瞳…なんて深い色をしている のかしら… まだ若いのに…たいそう苦労してきたようですね」

 

「………」

 

アリシアがロランスにそう言うと、ロランスは静か に目を閉じる

 

「…女王よ。貴女に俺を哀れむ資格などない

 

…《ハーメル》の名を知っている貴女には…」

 

「!?」

 

《ハーメル》。その名を聞くだけなのに、アリシア は一転して驚愕の表情になる

 

「レ…ロランス。お前は…」

 

「言っただろう。手を下すような愚かな真似はしな いと。…そんな真似をすれば、俺も奴らと同類にな るからな…」

 

吐き捨てるように呟くロランス

 

「…俺はもう行く。大佐を止めたいのならば地下に 急いだ方がいいだろう」

 

「ああ…お前ら、先に行け」

 

「え?……うん!!」

 

「お祖母さま、失礼します!!」

 

そう言ってエステル達はテラスを出て行く

 

「さて…《ハーメル》の真相だったか?お前の目的 は」

 

「ああ…だがどうやら無駄足だったようだがな」

 

本当に無念そうに言うロランス。この件に拘る執念 のようなものが感じられる

 

「……知らないのだろう?あの戦いの原因がハーメ ルにあったという事と、ハーメルが無くなったとい う事実以外は」

 

「……はい」

 

「…むしろ、こっちが聞きたいくらいだ。何故ハー メルが無くなったのか。ハーメルに何があったのか 。何故帝国が突然手を引いたのか」

 

「………」

 

再び目を瞑って黙るロランス

 

「悪いが…俺から話す事は無い」

 

「………」

 

「だが…お前が、お前達が《犯人》に至った時。そ の時は…《犯人》の情報と引き換えに全てを話すと 約束しよう」

 

「…ああ」

 

「フ…そろそろ俺は行く。今回の真相、大佐が地下 へと向かった意味…お前ならばすでにたどり着いて いるのだろう?」

 

「フン…それは流石に舐めすぎだろ」

 

「フ…愚問だったな。あの《剣聖》の娘…エステル と言ったか?彼女達を導いてやるといい」

 

ロランスはそう言うと、テラスから飛び降りて行っ た

 

「さて…ご無事ですか?陛下」

 

「え、ええ。乱暴はされていません。平気ですよ」

 

「それは良かった。後、これを…」

 

「陛下!!ご無事ですか!?」

 

そしてケイジがアリシアに何かを渡した瞬間、ユリ アがテラスに飛び込んで来た

 

「ちょうどいい。ユリ姉、陛下頼んだ!」

 

「え!?ケイジ!?」

 

ケイジは、ユリアの言葉には一切耳を貸さずにテラ スを飛び降りて行った

 

――――――

 

「(事前にクローゼには宝物庫の事と鍵は渡した。 後は…俺の仕事だ)」

 

物語の第一幕は、終焉へと向かっていく

 

 



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『王都繚乱』

「まさか王都の地下にこんな遺跡があったなんてな …」

 

今俺は地下遺跡を出せる限りのスピード(縮地なし )で進んでいる

 

…縮地は速いけど、直線限定なんだよ

 

とにかく、早くクローゼ達に追い付かねぇと……! ?

 

何かの気配を感じて横に飛ぶ

 

すると、飛んだ一瞬後にさっきまでいた場所に斧が 突き刺さった

 

「…ふぅ、古代の機械人形(オートマタ)か」

 

正体がわかればどうってことはないな

 

パッと倒してさっさと先に進もうとして、武器っぽ い頭(?)だけを斬る

 

すると…

 

ビー!ビー!ビー!

 

突然警報が鳴り出した

 

「な、何だ!?…ってウソぉ!?」

 

とにかくさっさと離れないとマズいと思って走って 先に進むと、角にさっきの機械人形が十数体待ち構 えていやがった

 

「…今日絶対厄日だろ俺…」

 

いや、ここ二日絶対厄日だよ。二日連続で命の危機 にあうって何なのさ。マジで

 

ビシュ

 

「のわっ!」

 

ってこんな悠長に考えてる場合じゃねぇ!何とか突 破しねぇと…!

 

と、そんな事を考えていた時だった

 

「せやぁぁぁぁ!!」

 

後ろから気合いの声が聞こえたかと思えば、目の前 の機械人形がバラバラになっていた

 

「この手の機械人形は一撃でバラバラにしてしまえ ば警報はでない…今回はお前の戦い方が仇になった な」

 

「はぁ…今まで何処でバカやってたんだよ…この不 良中年が」

 

そこには、《剣聖》カシウス・ブライトがいた

 

「やれやれ、久しぶりに会ったというのに罵倒とは …何処で育て方間違えたかな」

 

こっちは必死にビーム避けながら走ってんのに、何 でそんなに余裕そうなんだよ

 

「オッサンに育てられた覚えすらねぇんだが…まぁ いいや。とにかくさっさとエステル達に合流しねぇ と…」

 

「…何かあるのか?」

 

「いや、確かな事はわからない…でも、なんとなく 嫌な予感がする」

 

「ふむ…一大事だな」

 

「…言っておいてなんだが、そんな簡単に信用して いいのか?ただの勘だぞ?」

 

ちょっとチートな勘だけど

 

「そりゃあ信用するさ。お前が抱えてるモノがモノ だからな」

 

「!!」

 

なんで…

 

「ハハハ、俺はなんだかんだ出張が多くてな。アル テリアにも何度か行ったこともある。その時に星杯 騎士団とも関わりを持ったんだ」

 

「…そこで俺の事を聞いた、ってことか」

 

「正確には守護騎士の事だがな」

 

「………」

 

「ちなみに教えてくれたのはマイナスイオンの娘だ とだけ言っておこう」

 

シャルゥ…!!

 

「…まぁいいや。とりあえずさっさと先に…!」

 

機械人形に追いかけられたままとか本当に勘弁して 欲しい

 

そう思いながら走っていると、明るい広間のような 場所に出た

 

「ここは…?」

 

「暢気に言ってる場合か!とにかくさっさと突っ切 るぞ!」

 

「うむ?お主等は…」

 

「先生!」

 

「旦那!?何でここに!?」

 

「オッサン!?それにあんときのガキ!」

 

「うっせぇ赤毛!大して変わんねぇだろうが!」

 

広間を全力で突っ切っていると、端の方に前にルー アンで会った赤毛の遊撃士を含むエステル達の味方 っぽい人たちがいた

 

「おお、ラッセル博士!お久しぶりですな」

 

「ほっほっほ。お主も変わっておらんようじゃな」

 

「んな和やかに会話してる場合か!いいからさっさ と突っ切るぞ!」

 

感覚的にそろそろ追いつかれる!

 

「ん?それもそうだな。ではジン、アガット。それ にシェラザード。後はよろしく頼んだぞ?」

 

「「「……後?」」」

 

オッサンの言葉に三人が首を傾げる

 

「あ、あの~…何かがすごい速さで迫って来てるん ですけど…」

 

「あ?何かってなんだよ……って」

 

「機械人形!?」

 

「先生!?何を引き連れて来てるんですか!?」

 

「いや~…いわゆる成り行きってヤツ?」

 

「ま、頑張れ?」

 

「何故に疑問系!?」

 

「…行くぞオッサン!」

 

「おお!」

 

「あ、待ちなさい!逃げるな!!」

 

とにかく、俺とカシウスのオッサンでさっさと先に 進んだ

 

…後がすんごい怖いけど

 

――――――

 

「チッ…やべぇぞオッサン!」

 

ようやく最奥の部屋が見えたと思ったら、早速ピン チかよ!

 

エステル達は限界のようで地面に座り込んでいて、 ヨシュアが辛うじて立っているくらい。今はリシャ ール大佐が何とか耐えているが…時間の問題だろう

 

パキィィン

 

リシャール大佐の刀が折れる音がここまで聞こえて くる

 

「た、大佐!?」

 

「く…どうしたら!?」

 

「い、いいから行きたまえ!君達との勝負に敗れた 時…私の命運は…尽きていたのだ!」

 

後少し…!

 

「そ、そんな…」

 

「だから…気にする事はない。最期に君達を助けら れれば、後悔だけは…せずにすむ」

 

「やれやれ…諦めなければ必ずや勝機は見える。そ う教えたことを忘れたか?」

 

「!」

 

「というかこんだけ騒ぎ起こしといて何の罰も無し に逝くのは無責任過ぎるだろ」

 

「せいッ!」 「はぁッ!」

 

俺が左の青い腕を斬り、オッサンがリシャール大佐 を捕らえていた赤い腕を叩き落とす

 

「え…」 「あ…」

 

予想外だったのか呆けるクローゼとエステル

 

「何ぼさっとしてんだ!!さっさとやるぞ!!」

 

「あ…うん!」

 

「今だ!止めを刺せ!!」

 

オリビエが銃を乱射し、クローゼがアーツを連発し 、ヨシュアとエステルが連携攻撃を叩きこむ

 

すると、とうとうトロイメライが爆発して体が真っ 二つになった

 

…終わった、か

 

「か、勝ったぁ~…」

 

「みんな、ご苦労だったな」

 

「と、と、と……父さん!?」

 

…向こうはなんか親娘水入らずっぽいしとりあえず はスルーしとくか

 

「…ケイジ」

 

「クローゼ…無事か?」

 

クローゼは戦いが終わって安心したのか座り込んで いる

 

「終わったんだよね?…全部…」

 

「…いや、まだだ」

 

「…え?」

 

「ケジメがまだ…ついていない」

 

そして俺がリシャール大佐の方を向くと…

 

――――――

 

「モルガン将軍には厳重な監視をつけていた…シー ドは家族を人質に取って逆らえないようにしていた …どちらも、貴方の手によって自由の身になった訳 ですか…」

 

「俺の手だけじゃないが…まぁそんなところだ。だ がなリシャール、俺がしたのはその程度のことさ。 別に俺がいなくたって彼らは自分で何とかしたはず だ」

 

「いや…やっぱり貴方は英雄ですよ。貴方が軍を去 ってから私は…不安で仕方なかった…今度侵略を受 けてしまったら勝てるとは思えなかったから…」

 

「…何故そこまで俺に拘る?英雄というのならそこ にいるケイジだってそうだろう」

 

「ルーンヴァルトは…まだ少年です。いくら英雄と は言っても…貴方のような安心感が持てなかった… だからこそ私は軍拡を主張したのに…受け入れられ なかった。あんな不戦条約だけを信用して…」

 

「………」

 

「だから…頼れる存在を他に探した。貴方さえ軍に 残ってくれたら、私もこんな事をしなかったものを …」

 

「………」

 

カシウスのオッサンが静かにリシャール大佐に近づ いて…

 

バキッ

 

殴った

 

「ぐっ…」

 

「甘ったれるなリシャール!貴様の間違いはいつま でも俺という幻想から解き放たれなかったことだ! それほどの才覚を持ちながら何故自分の足で立たな かった!何故シードやユリアのように自らを磨こう と考えなかった!俺は…お前とケイジがいたから安 心して軍を止める事が出来たのだぞ!?」

 

「た、大佐…」

 

「俺は…そんなに大層な男じゃない。十年前も、軍 の全員が助けてくれたから勝つことができた…そし て、大切なものを守れずに逃げてしまった男にすぎ ん」

 

……逃げ、か

 

…俺も…そろそろ向き合う時…なのかな…

 

「だがな…もう二度と逃げるつもりはない。だから リシャール、お前もこれ以上逃げるのはよせ。罪を 償いながら自分には何が足りなかったのかを考える がいい」

 

そう言って、カシウスのオッサンはエステル達とゆ っくりとその場を出て行った

 

「………私、は…」

 

「オッサンの言う通りだろ」

 

「ルーンヴァルト…」

 

「オッサンが英雄なんて言われているのも、俺が《 白烏》なんて呼ばれてるのも…ただ単に成功した作 戦の中心にいただけなんだ。いくら強くても、いく ら頭が良くても…一人でやれることなんて限られて るんだよ…」

 

「………」

 

「ま、アンタはまだやり直せるさ。また光の道に戻 って来れたんだから」

 

俺の歩めない道を、また歩いていけるのだから…

 

そして俺は何故かまだ座り込んでいるクローゼのと ころに戻った

 

「って何でまだ座り込んでんだお前?」

 

「アハハ…全部終わったって思ったら気が抜けちゃ って…」

 

「だったら立てって。帰るぞ」

 

「その…腰、抜けちゃった…///」

 

…………ハァ

 

「…ったく…無茶して最後まで着いて行くから…」

 

「だって…」

 

「はいはい、わかってるわかってる。ほら、さっさ としがみつけ」

 

「……うん///」

 

そうしてクローゼを背中におぶり、部屋を出る。

 

その時入れ違いに王国軍がリシャールを逮捕。その まま護送し、この一件は無事解決した

 

――こうして、情報部によるクーデター計画は幕を 閉じた



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『光と陰』

~クーデター計画から一週間後~

 

生誕祭も無事始まり、王都もクーデター事件から少 しずつ立ち直って来ている

 

カノーネ大尉とか、数人の特務兵はまだ逃亡中で捕 まっていないが…時間の問題だろ

 

カシウスのオッサンも軍に戻るみたいだし

 

「………以上が、今回の事件の俺の知ってる範囲の全 容です」

 

『ふむ……“輝く環”の在処に“結社”の介入か…』

 

「はい。直接関わった者に聞いたところ、『環の守 護者“トロイメライ”』と自ら発したようで間違いな いかと。後“結社”の方も執行者NO,Ⅱ、《剣帝》の 介入を確認しました」

 

『そうか…』

 

「後…ワイスマンらしき人物も現れたそうです」

 

『!!…奴か…』

 

「で…どうするんです?騎士団の統一すらできてな いのに、結社と事を構えるのは無茶ですよ?」

 

『わかっているさ…とりあえずリベールには《外法 狩り》を送ってある。多分なんとかなるだろう』

 

ケビンか…まぁ、大丈夫か

 

「では俺は一度そっちに戻りますよ」

 

『……いいのか?お前ならまだ戻れるだろう?』

 

「……決めましたから。それに……

 

俺はもう、手遅れですよ」

 

――――――

 

~夜~

 

sideクローゼ

 

「ああ、そう言えば忘れていたわね」

 

私、ユリアさん、お祖母さまで久しぶりにお茶を飲 んでいると、突然お祖母さまがそう言った

 

「?何をですか ?」 「いや、ね?クーデター事件の時にケイジがロラン ス少尉と戦ったでしょう?その後に箱を渡されたの よ。『後で開けてくれ』って」

 

ああ、あの時に…

 

「って箱…ですか?」

 

「ええ…結構な重さがあるから、物が入っていると は思うのだけれど…」

 

そう言ってお祖母さまが箱を開ける

 

そこには、ケイジが何時も身に着けていた小太刀と 、封筒が入っていた

 

ドクン

 

何故か、心臓の鼓動が早くなる

 

「これは…蒼燕じゃないか」

 

「それってケイジの刀ですよね?」

 

「はい。これを使っている所は見たことがありませ んが…」

 

ドクン

 

何で…?何でこんなに嫌な予感がするの…?

 

「………」

 

そんな思いを断ち切ろうと、封筒を開けて中身を読 む

 

いつもはそんな渡された本人の許可を得ずに手紙を 読むなんて絶対にしないけど、今回は本当にそんな 余裕がなかった

 

「………!!」

 

「殿下?一体何が…」

 

ダッ

 

「殿下!?」

 

「クローディア!?」

 

手紙を読み終えた瞬間、私は走り出していた

 

―――手紙の内容は、『辞表』だった

 

――――――

 

「僕のエステル…お日様みたいに眩しかった君。 君と一緒にいて幸せだったけど、同時にとても苦し かった… 明るい光が濃い陰を作るように… 君と一緒にいればいるほど、僕は自分の忌まわしい 本性を思い知らされるようになったから…」

 

「こんな風に、大切な女の子から逃げ出すことしか できない僕だけど…誰よりも君のことを想っている 今まで…本当にありがとう 出会った時から…君のことが大好きだったよ

 

――さよなら、エステル」

 

バタッ

 

ヨシュアが話し終えると同時に、エステルは地面に 倒れ込む

 

「…大事なら、側にいてやるって選択肢もあったん じゃねぇのか?」

 

突然、側の木に背中を預けるような体勢でフード付 きの白いコートを纏った少年が現れた

 

「……無理だよ。僕みたいな『人形』がエステルの… 彼女の側にいるなんて」

 

「…結社に一人で喧嘩を売る気か?」

 

「…うん」

 

「馬鹿かお前は…即刻死ぬぞ」

 

「そうかもしれない…でも、せめてリベールからは …彼女の近くからくらいは…」

 

俯いて手を強く握るヨシュア。握った手からは血が 一筋流れ出していた

 

「…ま、決めるのはお前だ。俺は何も言わねぇさ」

 

「…ありがとう」

 

そしてしばらく沈黙が続く

 

「…じゃあ、僕はエステルを部屋に運ぶよ」

 

「フッ…多分エステルはどこまでもお前を追いかけ るぞ?」

 

「捕まらないよ。僕はNO,ⅩⅢ《漆黒の牙》…隠形 に特化した執行者だからね」

 

「…そうだな」

 

「君こそ気をつけなよ?君はかなり狙われる立場だ からね」

 

「慣れてるよ」

 

「フフ…じゃあね、親友」

 

「ああ…達者でな」

 

そう言ってヨシュアは隠形を使って去って行った

 

――――――

 

走った

 

ただ走った

 

ケイジの部屋、女王宮のテラス、バーカウンター、 食堂…ケイジが普段いそうな場所を回って行ったが 、姿が全く見えなかった

 

不安になった

 

胸が痛くなった

 

涙が溢れそうになるのをなんとか我慢して私は走り 続けた

 

――――――

 

「……いた…!」

 

空中庭園。昔、いつも二人で星を見ていた場所

 

そこに、ケイジはいた。いつもとは全く違う格好な のに、何故かケイジだとはっきりわかった

 

「ケイジ…!」

 

「……クローゼか。どうした?」

 

いつも通り。そんな何でもないようなケイジの態度 が、今は無性に腹立たしかった

 

「どうしたじゃない!!これはどういうこと!?」

 

私は蒼燕をケイジの目の前に突き出す

 

普段あまり大きな声を出さない私が怒鳴ったのに面 食らったのか、ケイジは一瞬呆けていたが、すぐに ああ、と頷き

 

「お前も見たのか」

 

「質問に答えてよ!」

 

「答えるも何も…書いてあった通りだ」

 

ケイジがそう答えた瞬間、何か重たいものがのしか かってきたような、何か大事なものが体から抜けて 行ったような感覚がした

 

…心のどこかで、ケイジが私達を、私を置いてどこ かに行くはずがないと思っていたから

 

「どう…して…?」

 

もう、涙をこらえることなんて…できなかった

 

「………」

 

「ねぇ、どうして…?」

 

「……仮に理由があったとして、それを言えばお前 は納得するのか?」

 

「それは…」

 

きっと、できない。でも…

 

「理由も聞かずに行かれるより…ずっといいよ…」

 

「………お前は、『人を殺す』事って…どう考えてい る?」

 

「そんなの、絶対にしてはいけない事だよ」

 

当たり前だろう。多分どんな人間に聞いたって同じ 答えが返ってくるはずだ

 

「そうだな…でもな、俺はこうも考える。『本当に 最後の救いの手段』ってな」

 

「!」

 

「例えば…ある青年がいたとしよう。その人はもう 二度と治らない不治の病にかかっている」

 

「………」

 

「しかもその病はただ生きているだけでかなりの苦 痛が伴う。『殺してくれ』と叫んでしまうほどの、 な… そんな時、お前は剣を持っている。お前はどうする ?クローゼ」

 

「私…は…」

 

「私は、殺さない」

 

「今は治らなくても、絶対に治す方法は見つかるは ずだから」

 

「だから、私は…諦めない」

 

「…何年後になるかわからないのに?それまでずっ とその人を苦しめるのか?」

 

「確かにその時は苦しいかもしれないけど…その人 には苦しんだだけ幸せになって欲しいから…」

 

苦しむだけ苦しんで終わりなんて…悲しすぎるから

 

私がそう言うと、ケイジが初めてふりむいた

 

「やっぱり…お前は俺には眩しすぎる」

 

フードをかぶっていたから表情はわからなかったけ ど…ふりむいたケイジの瞳は、月夜でもはっきりわ かるような真紅に妖しく輝いていた

 

「ケイジ…その瞳…!?」

 

そして近付こうとして初めて私の体が動かないこと に気づいた

 

「悪いな…動けないようにさせてもらった」

 

「なんで…」

 

「お前は俺には眩しすぎる…俺と言う闇を焼き尽く すくらいに お前は光、俺は闇。どちらかが在れば、どちらかが 消える。だったら俺は喜んで消えるさ」

 

「やめて…」

 

「元々俺達は相容れぬ立場…それに、もう俺達は子 供じゃねぇんだ。そろそろ自分の足だけで歩かなき ゃいけない…お前も、俺も 元々俺は天涯孤独の身だ…何時までもここを居場所 にはできないさ」

 

「やめてよ!!」

 

自分でも驚くような叫び声が出た

 

「そんな…そんな事ない!ケイジが闇!?冗談はや めてよ!居場所なら私が作るから!!だから…だか ら私の…私の側にいて!!!」

 

「………」

 

沈黙が、その場を支配する

 

そして…

 

「…やっぱりお前は、綺麗なままだよ」

 

「え…」

 

「お前はそのまま真っ直ぐ進め。俺は堕ちたが…お 前なら、光の道を真っ直ぐ進めるさ」

 

そう言って私の正面まで来て、ゆっくりと頭を撫で る

 

いつもなら、子供扱いされているようで怒りたくな るのに、今は文句すらでてこないほど、ただ悲しか った

 

「クローゼ…俺の幻想(かげ)は追うな。お前には辛すぎる だけだ」

 

「!!」

 

そう言って、ケイジは去って行く

 

それを追いかけることも…引き止めることもできな くて…

 

体に力が入らなくて…座り込むことしか、できなく て…

 

自分の無力さが嫌だった。そしてそれ以上に…もう ケイジが隣にいないと言う事実が…どうしようもな く、ショックで…

 

「うぅ…ひぐっ…」

 

この気持ちをどうしていいかわからなくて…でも、 どうしていいかわからなくて…

 

「うぁぁ…んぐっ…うぅぅ…」

 

周りがみんな『姫』としか見てくれない中、私を『 クローゼ』として初めて見てくれたのは、ケイジだ った

 

初めて学園に行って、馴染めなかった私に、友達と いう付き合い方を教えてくれたのは、ケイジだった

 

城の中しか知らなかった私に、外の世界を教えてく れたのは、ケイジだった

 

気づけば、いつも私の中心には、ケイジがいた。知 らず知らず、中心にケイジを置いていた

 

そしてもうそのケイジは…いない

 

「うあぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

恥も外聞もなく、私はその場で泣き叫んだ。

 

そんな泣き方をしたのは、生まれて初めての事だっ た

 

「うあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

泣いたってケイジが戻ってきてくれる訳じゃない

 

そんなのわかってる

 

それでも…私は

 

――――――

 

~エルベ周遊道・外れの森~

 

「…良かったの?」

 

「…何がだ?」

 

「姫様の事に決まっているでしょう?あなた、確か 幼なじみだったわよね?」

 

「ああ」

 

「…大丈夫?私は最低限の人付き合いしかしなかっ たから大丈夫だけど…」

 

「嘘付け。お前生誕祭で写真集が出るくらい大人気 なくせに」

 

「嘘!?…ってそれあなたもでしょうが!」

 

「うるせぇな…とにかく、俺には俺の人生(みち)が、アイ ツにはアイツの人生(みち)がある。そして(アイツ)()の 道が交わる事はない」

 

「………」 「…さっさと行くぞ。もうじき…夜が明ける」

 

そう言ってケイジは白い飛空艇に乗り込んでいく

 

「…全く、また一人で全部溜め込んで…」

 

そしてもう一人――ティアも飛空艇に乗り込んでい った

 

――――――

 

白き姫君は翼を失い、太陽は月を失った

 

そして星杯の騎士達は彼女達の元へ

 

月は猫と結び、翼は闇へと堕ちてゆく

 

果たして、その先には何があるのか…

 

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SC 編~light and darkness ~
SC 編プロローグ『任務』


~アルテリア法国・封聖省・星杯騎士団本部~

 

「守護騎士第二位、只今帰還致しました」

 

「うむ。よく決断したな第二位よ。貴様の英断、教 皇様はもとより女神様もお喜びになられているだろ う」

 

「………」

 

よく言う…てめぇが半強制的に脅しを掛けたから俺 はここにいるんだろうが…!

 

今、俺の前には樽豚…もといアルテリア法国の封聖 省のトップが立っている

 

この豚は二年くらい前から上に圧力を掛けられてい たらしく、『軍を辞めて騎士団の一員になると誓え 』とやんややんや言って来ていた…

 

…終いに『リベールがどうなってもいいのか?』と 脅してくるくらいに

 

正直足蹴にしても良かったのだが、文献を調べてい た時に昔聖痕持ちであり、同時に王であった人を、 法国がその国を滅ぼして王を守護騎士にした、とい う記録を見て、渋々守護騎士の任務も請け負ってい たが…とうとう我慢できなくなったという訳だ

 

「では、戻るがよい。教皇様には私が伝えておく。 後の事は第一位から連絡するようにしておく」

 

「…大司祭殿、あの件は……」

 

「おお、それならば問題ない。確か…貴様が完全に 守護騎士に迎合するのと引き換えにリベール、並び に王家に関する情報と任務は貴様に一任する、だっ たか」

 

「はい…御恩赦、感謝致します」

 

「うむ、くるしゅうない」

 

何を偉そうに…今すぐこの場で挽き肉にしてやろう か…!

 

…自分でも青筋がひくついてるのがわかる

 

我慢だ俺。耐えろ俺…!

 

「…では、失礼します」

 

バタン!

 

「はぁ~~~~…」

 

「ははは…どうやら相当絡まれたらしいな」

 

「ほぼアンタのせいだけどな!なんだよ帰った瞬間 “樽豚ジジィが呼んでるから早く行け”って!」

 

そう、俺は帰るなり速攻であのジジィの所に送られ たのだ

 

…長旅の疲れもあるってのに

 

「お前はただ座っていただけだろう?」

 

「お願いだから地の文に突っ込むのやめてくれませ ん?」

 

「それは無理な相談だな」

 

止めようよ。マジで

 

「お久しぶりです。第二位」

 

「ん?お、アッバスじゃねぇか!いつ戻って来たん だ?」

 

総長の横に、昔馴染みの正騎士のアッバスがいた

 

「たった今です。クロスベルの近況報告をしに…」

 

「……何かあったのか?ここ数年の間に…」

 

「…はい。報告は二つ…まず、ガイ・バニングスが 殉職しました」

 

「「!」」

 

アイツが…

 

「犯人、動機は不明。…ただ、例の教団は関係して いないと思われます」

 

「そうか…もう一つは?」

 

「アリオス・マクレインが遊撃士に転向しました」

 

「ふむ…事件との関係は?」

 

「おそらくないかと」

 

「なら、調査はいい。とりあえずは現状維持だ。エ ラルダ大司教にバレないようにな」

 

「はい…そして“幻狼”の件ですが…現地に神狼伝説 というものがあること以外はまだわかっていません 」

 

「ん~…とりあえずその神狼伝説の中身だけわかっ たら教えてくれ」

 

こっちもそう簡単に見つかるとは思ってないし。俺 の立場が立場だからそうそうクロスベルに入れない し

 

「わかりました」

 

そう言ってアッバスはさっさと戻って行った

 

…相変わらず淡々としてんなぁ…

 

「んじゃ総長。俺もこれで」

 

「まぁ待てケイジ。そう慌てるな」

 

もう色々面倒になってさっさと自分にあてられた部 屋に戻ろうとすると、総長に引き止められた

 

「…なんすか総長。もう疲れてしゃーないんスけど 。さっさと寝たいんスけど」

 

主にあの樽豚のせいで

 

「いやいや、寝るのは鉄道に乗った後でも遅くない だろう?」

 

「…まさか」

 

ヤバい。冷や汗が止まらない

 

「そのまさかだ。お前には共和国に行ってもらう。 今すぐな」

 

マジかよ…どんだけスパルタだよ。毎日宿直の病院 よりキツいだろーが。過労死確定コースだろーが!

 

…と、ゴネた所でどうしようもないわけで

 

「…内容は?」

 

「最近活動が活発になっている教団を潰してもらう 。従騎士はティアと…リースを預ける」

 

「…大丈夫なんで?」

 

「…万が一の場合はフォローしてやってくれ」

 

「了解」

 

…この心配は人を殺せるか、という事ではない。耐 えられるか、という心配だ

 

新興宗教にしろ、何らかの教団にしろ…この七曜教 会が全面信仰されてる現在。そういう類はマニアッ クかつ残酷な類が多い

 

そういう問題には必ずと言っていいほど教会が介入 する。勿論制裁のために

 

そして、騎士団関係者の退団理由の九割五分は精神 的な問題だ

 

…ここまで言えばわかるだろう?この仕事の、騎士 団の“仕事”が、どんなものか。どれほど闇に近いか が

 

「…で?その教団の名前は?」

 

「“グラトニアス教団”。それがヤツらの名前だ」

 

“暴食”…?七罪の一つを教団の名前にするとはな…

 

「…あの時の少年の件のような輩ですか?」 「…それだったら、まだ救いようがあっただろうよ 。それに、わざわざお前を送ったりしないさ」

 

そこで一拍置いて、総長は再び口を開いた

 

――『カニバリズム』って…知っているか?



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『アルテリアから来た少女』

『ヒルダさん、殿下の様子は…?』

 

『ダメです…一向に立ち直る様子がありません』

 

『一度街にでも連れ出した方が…』

 

『それもいい考えですが…そっとしてあげるのも優 しさですよ?』

 

『『陛下!?』』

 

『ユリア、クローディアを街に送ってあげてもらえ ますか?その後はしばらく一人にさせてあげて下さ い』

 

『しかし…』

 

『大丈夫ですよ。クローディアなら自分で答えを出 すはずです。私達はその答えを精一杯支えてあげま しょう』

 

――――――

 

ケイジが姿を消してから2日。未だに私は立ち直れ ずにいた

 

それを見かねたのか、お祖母さまに街に出てはどう か、と言われて大人しくその通りに街に来たのだけ ど…

 

「…はぁ」

 

どうしても気分が沈んでしまう

 

こんなことじゃいけない…わかってる

 

でも…そんなに簡単には割り切れなかった

 

キュッ…

 

ケイジの残した刀…蒼燕を抱き締める

 

この2日、私はこれを肌身離さず持ち続けていた

 

「…はぁ」

 

街に来たのはいいけど…したいこと、ないなぁ…

 

そんなことを考えながら歩いていたのがいけなかっ た

 

「きゃ!」 「ひゃっ!?」

 

マーケットを出たところで、誰かにぶつかった

 

…あれ?なんかデジャヴ?

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ううん、僕こそ前を見てなくて…」

 

と、そこでぶつかった相手がフリーズした…という か、私を見て動かなくなった

 

「………」

 

「あ、あの~」

 

私この子と知り合いだったかな?

 

…少なくとも、一人称が僕って女の子は…それに、 こんなに綺麗な金髪、一度見たら忘れないと思うん だけど…

 

「ああ~~~!!」

 

「えっ!?何!?」

 

固まってた女の子が突然叫んだ

 

…さすがに不意打ちすぎると思うんだ…つい、飛び 上がっちゃったし

 

「ねぇ!その刀…もしかして蒼燕!?」

 

「ふぇっ!?」

 

何でこの刀の名前を!?

 

「何で知ってるの!?」

 

「ふぇ~…良かったぁ~…ケビンさんはどっか行っ ちゃうし、私リベールにケイジとティア以外知り合 いいないし…」

 

心底安心したようにその場にへなへなと座り込む女 の子…ってちょっと待って!

 

「あなたケイジの事知ってるの!?」

 

「ふぇ?そりゃ知ってるよ?だって僕ケイジに「ケ イジは今どこにいるの!?というか何でいなくなっ たの!?堕ちたって何よ!?」ふぇぇ!?何で僕が 質問責めされてるの!?揺らすの止めて!?吐く! 吐くってばぁ!」

 

これが私と、シャルことシャルロット・フィルレイ ンの出会いで、私の人生のターニングポイントだっ た

 

――――――

 

「ケイジがいない!?」

 

「うん…つい2日前だけど…」

 

「うーん…おっかしいなぁ…」

 

シャルちゃん(敬語で話されるのも話すのも嫌いら しい)の話しを聞くと、どうもケイジの居場所を知 っている訳ではなく、むしろシャルちゃんもケイジ を追っているらしい

 

「ケイジってここの大佐なんだよね?」

 

「?そうよ?」

 

「じゃあさ!ケイジの上司の人に聞いたらわかるん じゃない?」

 

――――――

 

「という訳でおじさま、ケイジの居場所を教えて下 さい」

 

「殿下…何と言うか…いらん所だけケイジに似て行 動的になりましたな」

 

「あら、そうですか?」

 

「ダメだ。物凄い図太くなっている…」ボソッ

 

ケイジの上司=おじさまorモルガン将軍

 

という訳でシャルちゃんとおじさまの執務室にお邪 魔しています

 

「お願いします!…ってカシウスのおじさん?」

 

「おじ…… ってアルテリアのマイナスイオン娘か?」

 

「むー!僕そんな名前じゃないもん!」

 

…何でだろう。シャルちゃん見てると…こう、ぎゅ ~~ってしたい

 

「……はっ!おじさま、それでケイジの居場所は? 」

 

「私が知ってるの前提で話してませんか!?」

 

「おじさまが知らないことなんてあるんですか?」

 

「ありますよ!?別に情報屋じゃないですから!」

 

「「………」」

 

「その『コイツ使えねぇな』見たいな視線止めてく れます!?結構傷つくんですが」

 

「それでおじさん、ケイジの居場所知ってるの?知 らないの?」

 

「……知ってどうするんだ?言っておくが…」

 

「大丈夫だよ。僕星杯騎士だもん」

 

…星杯騎士?

 

「シャルちゃん、星杯騎士って?」

 

「殿下、そ「んー…アルテリア法国の軍隊…みたい なものだよ」……」

 

おじさまが『あ~あ』って顔してるけど…今はどう でもいい

 

「ケイジの騎士ってどういう事?」

 

「僕がケイジの部下ってことだけど?」

 

「シャルちゃん…一応星杯騎士団の事って機密事項 なんだろう?」

 

「……あ″。」

 

『やっちまった』って顔をするシャルちゃん。でも もう遅い

 

「…さて、おじさま?シャルちゃん?全部話してい ただけますよね?」

 

「「…………(汗)」」

 

「…話していただけますよね?」ニコッ

 

「「は、はいぃぃぃぃ!!」」

 

久しぶりの、黒ーゼ降臨の瞬間であった

 

 



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『これから』

「…で、ケイジが星杯騎士団も例外的に兼業してい て、しかも十二人しかいない守護騎士の第二位で、 封聖省って所のトップの豚に半強制的に軍を止めさ せられた…ってことですね?」

 

「「………はい」」

 

あの後、おじさんと一緒に(というか主に僕が)ク ローゼ(そう呼んで欲しいって言われた)に星杯騎 士団について根ほり葉ほり聞き出された

 

うぅ…また総長とケイジに怒られちゃうよ…

 

それもこれも…全部ケイジのせいだ!

 

…いや、後が怖いからおじさんのせいにしとこ

 

「………」

 

「…で、殿下?そのレイピア…どうするおつもりで すか…?」

 

おじさんがそう言うと、クローゼは今日一番の笑顔 で

 

「いやですねおじさま…そんなの決まってるじゃな いですかぁ…

 

その豚コロス」

 

「「待ってェェェェ!!」」

 

もう僕の中のクローゼのイメージが粉々だよ!?す ごく優しいお姉さんみたいだったイメージがボロボ ロだから!

 

「ストップ!ストップ殿下!流石に国際問題ですか ら!」

 

「あら?軍からの強制的な引き抜きは国際問題じゃ ないんですか?」

 

「そうならないように仕組まれてたんです!」

 

「じゃあこっちも気づかれないように上手く殺りま すから。跡形もなく」

 

「止めて!?紛いなりにも僕の家だから!僕家無く なっちゃうから!」

 

「大丈夫。グランセルにケイジの別宅があったはず だから」

 

「そうなの?じゃあ別にいいや」

 

「シャルちゃぁぁぁん!!?」

 

だって僕もアイツ嫌いだもん。僕やティアを見る時 の目がなんかねっちょりしてるもん

 

――――――

 

「…すみません。少し取り乱しました」

 

ケイジの出て行った理由がその方のせいだって聞い て…ついつい体が反応しちゃった

 

「わ、わかってくれれば…いいです…」

 

「良かったよぉ~…元のクローゼに戻って良かった よぉ…」

 

なんでおじさまが疲労困憊になってるんだろう…? というかシャルちゃん!?泣かないで!?

 

「それで…全部聞いてこれからどうするつもりです か?」

 

「ケイジを追います」

 

間髪いれずにそう答えると、おじさまは『やっぱり か…』と言って頭を振った

 

「今のあなたにはそれは許可できません」

 

「え?」

 

「今、この状況であなたが外国に行くことの意味を 考えて下さい。拉致でもされたらどうするおつもり ですか?」

 

「それは…」

 

「ユリアだって先の事件で大隊長に昇進しました。 常にあなたの護衛に回す訳にはいかないのです…前 にあなたにケイジかユリアが必ず着いていたのはケ イジがいたからこそなんですよ」

 

「………」

 

「だったら僕が付こうか?」

 

「ケイジ並みの奴に対処できるのか?」

 

「それは無理だね…」

 

「姫殿下。今は学園に戻りなさい」

 

「でも…「当てもなく外国をうろつくつもりですか ?」……」

 

わかってる…それがどれだけ危険なことかも。それ が許されないことも

 

「わかり…ました…」

 

「………」

 

そして私はおじさまの部屋を出た

 

…後々、私はおじさまに感謝することになるとは、 この時は一切思わなかった

 

――――――

 

「おじさん…」

 

「シャルちゃん、殿下と一緒に学園に入ってくれな いか?」

 

「ふぇ?」

 

「あそこの学長とは面識がある。星杯騎士なら知識 は問題ないだろうし…短期留学とでもしておけばい い」

 

「でも僕、アルテリアに戻ってケイジに合流しない と…」

 

「…多分、アイツはリベールに戻ってくる」

 

「ふぇ?」

 

「ただの勘だがな…」



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『教団』

「グラトニアス教団…二年前にカルバードの首都で 始まった新興宗教…と、言うより始まりはとある違 法娼館の裏メニューに快感を覚えた男が始めたカニ バリズムの飲食店みたいね」

 

今現在カルバードに向かう鉄道の中(個室分けの一 等車。代金は樽豚につけてやった)で、ティアに騎 士団が掴んでいる情報を読んでもらっている

 

「…娼館始まりかよ。救いようがねぇな」

 

「全くね。しかも…どうも自分達の嗜好を満たすた めにかなりの犯罪を犯してるみたいよ」

 

「マジかよ…共和国軍は?」

 

「それが…議員の上役と軍将校の一人が教団の幹部 らしくて…政治的にも軍事的にももみ消しが入って いるらしいわ」 「…腐ってやがるな」

 

こういう報告を聞いていると、リベールは本当にい い国なんだなと思う

 

「犯罪って具体的に何やったんだ?」

 

「ええと…まず殺人と死体遺棄は確定ね。こっちは 憶測らしいけど、誘拐と監禁も」

 

「その心は?」

 

「東方人街の周辺で立て続けに若い人が行方不明に なっているらしいわ」

 

「………」

 

誘拐…そして教団の犠牲になるまで監禁ってか

 

「他には…」

 

「ああ、とりあえずはもういいや」

 

「でも…」

 

「後は現地に入ってから地力で調査すんぞ」

 

何もかも報告に頼ってたら、そのイメージがこびり ついてしまう

 

最低限連中の罪と成り立ち、構成がわかればそれで いい

 

そして俺達はカルバード共和国入りした

 

――――――

 

「あ……」

 

俺達が駅に降りると、ピンクブラウンの髪のシスタ ー…リースがベンチに座って待っていた

 

「よぉ。久しぶりだなリース」

 

「うん。三年前くらいにケイジがアルテリアに来た 時以来」

 

「総長に絞られたって?よく生きてたな」

 

「ホントよ…私はケイジに絞られた時、3日は筋肉 痛で動けなかったわよ?」

 

「多分ケイジの訓練よりはマシだったと思う。あれ は見てるだけでヤバかった…」

 

リースが口に手を当てて顔を青くする

 

ティアも思い出したのか、青い顔で俺を睨んでくる

 

…ちょっと始めの2日はひたすら走らせて中3日は 延々と1対1で模擬戦やって、最後の2日に俺から 逃げ切るっていう48時間耐久サバイバルリアル鬼 ごっこやっただけじゃねぇか

 

…確かに食事休憩の時もずっとフォンスロットの拡 張させ続けてたけど

 

*原作でルークもやってましたが、結構な集中力が 必要です

 

……でもな

 

「頼んできたのはお前じゃねぇか」

 

「それは…そうだけど…」

 

「…そこは謝ってご飯でも奢るべき」

 

「それはお前の願望だろ?」

 

「うん。お腹すいた」

 

クゥ~

 

キュクゥ~

 

バギュン

 

「「(…お腹のピストル!?)」」

 

おっと。そういや俺もティアも朝から何も食ってね ぇな。リースが腹ペコなのはいつもの事として

 

「…ティア、とりあえずどっか店入ろう。そろそろ 俺の腹が限界だ」

 

「そうね」

 

「(…ピストル?)」

 

という訳で、まずは腹ごしらえをすることになった

 

――――――

 

「…で?情報は?」

 

ティアが持っていた情報はいわばリースが共和国に 入る前に調べたやつだ。今はできるだけ新しい情報 が欲しい

 

総長が直々にしごいたらしいし、そこらへんの調査 はキッチリやってるだろう

 

「目に見える方は…私が共和国入りしてから今日ま で、行方不明が11件あった」

 

「「!!」」

 

11件…この一週間でか!?

 

治安が悪いとかそんな問題じゃねぇぞ!?

 

「行方不明者は全員12~17歳の女の子。しかも全 員この東方人街周辺に住んでる」

 

「周辺…」

 

「そう、周辺。東方人街自体に住んでる人には一件 も被害がないの」

 

…何かあるな。とりあえず気には留めておこう

 

「目に見えない方は…裏で教団が何か凄いものを手 に入れた、って噂が流れてる」

 

「凄いもの…なぁ」

 

「アーティファクトかしら?」

 

「多分違うな…最悪魔道具の類だろ」

 

魔道具。古の錬金術師達が自らの手でアーティファ クトを作ろうとして出来た道具。

 

アーティファクトには及ばないが、今の技術では再 現できないものを魔道具と呼ぶ

 

「まぁどのみち回収には変わりない。とにかく早く 調査をして早く教団を潰さにゃならん」

 

「そうね」

 

「うん」

 

「ティアは教団そのものを、リースは行方不明事件 の被害の詳細を調べてくれ。俺は東方人街で本当に 行方不明事件がないのか検証してくる」

 

「「ja(ヤー)」」

 

「とりあえず陽が沈んだら駅前の旅館に集合な。俺 が部屋取っておくから」

 

そうして、俺達は本格的な調査を始めた

 

「お会計、52000ミラになります」

 

「領収書貰えますか?ケビン・グラハムで」

 

…昼飯に万単位で払ったのは初めてだ



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『氷華白刃』

「そこの兄ちゃん!野菜買って行かないかい!?今 日入ったばかりだから新鮮だよ!」

 

「兄ちゃん!いい霜降りが入ってるよ!男ならガッ ツリどうだい!」

 

流石は天下の東方人街。物の流通がハンパじゃない

 

さっきから少し通りを歩いているだけなのだが、す でに数十回は客引きされている

 

…これだけ人通りも多いから誘拐もやりにくいのか と思ったら、夜はむしろ人が通ることが珍しいらし い

 

そして東方人街とそのはずれならば…明らかに東方 人街の方が人口が多い

 

「…さて、鬼がでるか蛇がでるか…」

 

できれば簡単に終わる理由がいいな~、と思いなが ら準備中であろう酒場に入る俺だった

 

――――――

 

「…今までにもあった?」

 

「ああ。ここ十年の間に二回ほど誘拐事件が多発し た時期があってね…ウチの息子はなんとか助かった んだけどな」

 

リースは少し前からここの協会に出向いていたこと もあり、少しではあるが地元の人達との繋がりもも っていた

 

そのため、地元の人達から聞き出していたのだが…

 

「詳しくは何年前?」

 

「う~ん…忘れちまったよ。俺も年かねぇ」

 

「じゃあ…今回の事件と何か違いは?」

 

「そうさねぇ…そう言えば今回のやつは東方人街に は被害がないみたいだな」

 

「…それだけ?」

 

「ん~…あ!今回は女の子しかさらわれてない!」

 

「男の子は全員無事なの?」

 

「俺が聞いた限りじゃ無事だな。いや~、こう言っ たら不謹慎だけど…ウチの孫が無事で良かったよ… 。一回目の時なんて酷かったからなぁ。なんせ子供 なら誰彼構わずかっさらって行かれたんだから」

 

「?おじいちゃんだったの?」

 

「まだそんな年じゃないんだけどな。というか気に する所はそこかよ…息子が早婚でな」

 

「そう」

 

「反応薄いなぁ…というか嬢ちゃん、何でそんなこ と調べてんだ?」

 

「気にしない気にしない」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

「そうだな!」

 

…恐るべしリースの天然オーラ

 

――――――

 

「…まだ準備中だよ」

 

「知ってる。けど酒場って酒を呑むだけの場所じゃ ないだろ?」

 

裏通りの酒場に入ると、いかにもベテランのオーラ を纏ったオッサンがグラスを磨いていた

 

「…ガキがこんなオンボロバーに何の用だ?」

 

「あはは、ただのガキがこんな場所に来るかよ……… マスターは?」

 

「俺がマスターだが?」

 

「?」

 

…あのジジイ…とうとうポックリ逝きやがったか?

 

だったらどうすっかなぁ…

 

「…なるほど。お前、親父の知り合いか」

 

「…アンタの親父の名前は?」

 

「ウェーバー」

 

ああ、間違いない。このオッサンはジジイの息子だ

 

「アンタは?」

 

「ウィルだ。そう言うお前は…ケイジ・ルーンヴァ ルトだな?」

 

そう言ってニヤリと笑うオッサン、もといウィル

 

「これはまた…親が親なら息子も息子か」

 

「使い方が違うと思うが…つーかリベールの王国軍 の大佐が共和国で何をしているんだ?」

 

「元だよ。今はただのしがない巡回神父さ」

 

「神父が酒場に来るのも大概だと思うんだが」

 

「気にすんな。俺は気にしない」

 

「…はぁ」

 

その『コイツ何言ってもダメだ』みたいなため息は 止めて欲しい

 

「で?その元軍人の神父サマが何の御用で?」

 

「言わなくてもわかってんだろ……」

 

俺が神父って言った時点で身分わかったクセに…ジ ジイ経由で

 

そして俺はミラをカウンターの上に置く

 

「…今起こっている誘拐事件の詳細。それと噂でも 構わないから裏事情も全部」

 

「毎度」

 

――――――

 

「まず詳細の方だが…ハッキリ言うなら奇妙の一言 に尽きるな」

 

「どういうことだ?」

 

「誘拐された奴らの条件…と言うか特徴が一致し過 ぎているんだよ」

 

「…女。十代半ば」

 

「加えて全員東方人だ。それなのに東方人街そのも のには一切手をつけない」

 

「へぇ…」

 

確かに奇妙だな。東方人しか襲わないのに東方人街 自体は襲わない

 

…何かあるのか?

 

「後、あの悪魔崇拝の教団と、四年前のアーティフ ァクトの教団は一切関係していない」

 

「…何割?」

 

「十割だ。両方ともお前も関わっていたんだろう? なら、滅んでいて当たり前だ。あれで生き残りがい たら相当の悪運の持ち主だろうよ」

 

「………」

 

「…ん?すまん。不謹慎だったな」

 

「…いや、気にすんな」

 

いい加減慣れねぇとな…でないと、体より先に心が 参っちまう

 

「次に噂の方だが…東方人街に被害がないのは“銀” の仕業だってのがあるな」

 

「“銀”?ここ数年姿を眩ませているんじゃなかった か?」

 

“銀”。東方人街の伝説の凶手。金を積めばどんな相 手でも殺すと言われ、また、気まぐれで行動を起こ すために神出鬼没であるらしい

 

一説でははるか昔から存在していて、不老不死では ないかとも言われている

 

「いや、去年かその辺りにまた活動し始めたらしい 。その“銀”が東方人街に入ってくる誘拐犯達を暗殺 してるんじゃないかと噂されてる」

 

「“銀”…なぁ」

 

「どうした?何か引っかかったのか?」

 

「ああ…本当に“銀”が暗躍してんなら依頼人は誰だ ってな」

 

「ああ、なるほどな。残念ながら噂だからそこまで 詳しくわかっちゃいない」

 

そりゃそうか。噂は所詮噂だからな

 

「…ごっそさん。多分カルバードに来たときにまた 来るわ」

 

「二度と来るんじゃね―ぞクソガキ」

 

「クソガキじゃねぇ。神父サマと呼べオッサン」

 

「オッサンじゃねぇ。マスターと呼べクソ神父。 …もし“銀”に会っても喧嘩売るのだけは止めろよ? アイツと殺り合って生きて帰ってきた奴はいねーっ て話だ」

 

「心配は要らねぇ。それに生きて帰って来た奴なら いるぞ?」

 

「は?」

 

「目の前にいるじゃねぇか」

 

多分この時の俺は相当腹立つ顔だったんだろうな~ と思った

 

――――――

 

「“銀”と戦って生き残った…なぁ。流石は白烏…い や、

 

“氷華白刃”(ひょうかはくじん)と言った所か」



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『騎士と凶手』

「(“銀”…もし噂が本当なら… ちょっと張ってみるか)」

 

俺はバーを出た後、これからどうするかを考えなが ら歩いていた

 

「(つーか張るにしても何するにしてもティア達と 連絡取らないと殺されるよなぁ…)」

 

「きゃっ!?」

 

「ん?」

 

突然女の子らしい短い悲鳴が聞こえ、自身に何かぶ つかったような感触があって、我に返る

 

すると、目の前に薄めの紫髪の女の子がいた

 

「あ~…悪い。大丈夫か?」

 

「は、はい。すみません…余所見をしてしまって… 」

 

「気にするな。俺も考え事してたから」

 

…そうだ!

 

俺はすぐに星杯手帳のページを一枚破って速記する

 

「あ、あの…」

 

「すまない、これを駅前の宿屋にいるピンク髪と栗 色の髪の女の子に渡してくれないか?」

 

「え?は、はい。いいですよ」

 

いきなりで面食らっていた様子だったが、すぐに笑 顔で了承してくれた。出来た子や~

 

「ごめんな。じゃあ頼んだ」

 

「はい」

 

そうして別れる

 

「(俺にぶつかる…ねぇ)」

 

――――――

 

「遅いわね…」

 

「はぁ…お腹すいた」

 

「リースが腹ペコなのは今に始まった事じゃないで しょう?」

 

スッ、とティアから目をそらすリース

 

「とにかく私達だけで情報を「あの…」…?」

 

整理しよう、と言いかけたティアだったが、突然話 しかけられてその方を向くと、紫髪の女の子がいた

 

「どうしたんですか?」

 

「あ…実は…さっきぶつかった男の人に頼まれて…」

 

女の子は二つ折りにされた紙をティアに渡す

 

「手紙…?」

 

「ケイジからみたいね」

 

「あ、じゃあ私はこれで」

 

一礼して女の子はすぐに去っていった

 

「………」

 

「ティア、なんて?」

 

「…私達が情報調べに行った意味、あったのかしら …?」

 

そこには、今回の事件の詳細、それにまつわる噂、 加えて教団の現在の拠点が書かれていた

 

――――――

 

時間は変わって夜。俺はとある店の屋根の上にいた

 

リースの調べが正しいなら、一日に一件以上は間違 いなく誘拐事件が起きている…そして、もし“銀”が 本当にこの街を守っているとしたら…

 

「何かしら起きない事はない…ってか」

 

そして俺の言葉と呼応したように、静かな夜の街に 銃声が響きわたった

 

「!来たか!」

 

すぐさま音の方向に全力で駆ける

 

「全く…ラッキーと言うか何と言うか…こんな早く 手掛かりが見つかるとはな」

 

“銀”…今度こそその仮面剥ぎ取ってやらぁ…

 

――――――

 

「…遅かったか」

 

俺が現場であろう場所にたどり着いた時には、すで に惨状が広がっていた

 

「こっちは…符術。こっちは剣。こっちも剣…あ~ あ、せっかくの情報源が…」

 

被害者…と言っていいのかわからないが、死んだの は四人。内二人は剣で斬られて失血死、一人は符で 体の中心が爆発して恐らく即死。残りの一人は首の 骨を折られていてこっちも即死

 

とりあえず教会式の祈りを捧げてその場を去ろうと すると…

 

『…何故祈りを捧げた?この者達は教会の意に反す る者達だろう?』

 

カモ…もとい情報源…もとい“銀”が現れた

 

「王族だろうと乞食だろうと死にゃあ全員同じ死人 だ。何ら違いなんてねぇよ」

 

『フン…』

 

というか何でコイツの声ってエコーかかってんだ? むしろどうやってエコーかけてんだろうか?

 

…ま、いいや。とにかく

 

「で?俺に何か用か?“銀”もとい紫髪の嬢ちゃん? 」

 

『ッ………何のことだ?』

 

はい正解~。カマかけてみるもんだな

 

「はい0点。動揺隠せないと半人前だろ」

 

『くっ…』

 

「あと『何のことだ』ってのもアウト。人の事言っ てんのに何のことだって…文脈考えような?』

 

『………』

 

キィン

 

突然“銀”が斬りかかってくる

 

『!?』

 

「危ねぇな…普通に話し合いで解決しようとか考え ろよ」

 

防がれるとは思っていなかったのか息を呑む“銀”

 

…その一瞬の隙が命取りになる

 

「はいチェック」

 

「あっ!?」

 

縮地で一気に背後に回って“銀”の面を取ると、案の 定昼に通りでぶつかった紫髪の女の子だった

 

「くっ……!?」

 

「舌噛み切って死ぬとか俺が許すかよ…一応これで も神父なんだけど?」

 

女の子が大きく口を開けた所にギャ〇ボールを入れ て自殺を阻止する

 

…なんで持ってんだとか聞かないで。こんな仕事や ってると舌噛み切って死ぬ奴多いんだよ…(遠い目 )

 

「さて…とりあえず質問に答えてもらいます」

 

「………」

 

女の子が睨んでくるが息苦しさのせいか涙目なので 全く恐くない。むしろ何かイジメたい

 

…ゲフンゲフン

 

「コイツ等を殺したのは…というか東方人街を守っ ていたのはお前だな?」

 

「………」

 

「答えず…な。まぁいい。答えないなら…視るまで だ」

 

――――――

 

銀side

 

いつものように、東方人街に入って来た誘拐犯達を 始末していたら、突然凄い速さで何かが迫ってきて いたのでついつい隠れてしまった

 

そうしたら男の人がやってきて…あれ?よく見たら 昼にぶつかった人だ…

 

その人が誘拐犯達に祈りを捧げていたので多分教会 の神父様か何かだと思って、ちょっと警戒した

 

…この誘拐犯達が自身を『グラトニアス教団』と名 乗っていたのを知っていたから

 

もし、教団の人だったら…そう思って話し掛けたの が間違いだった

 

あっという間に私が昼に会った人だとバレて、実力 の差を思い知らされ、しかも面まで外された

 

それでこれ以上“銀”の名を貶める訳にはいかなると 舌を噛み切って死のうとしたら、それも防がれた

 

…何でかわからないけど…無性に恥ずかしい状態に なってる気がするよ……うぅ…///

 

「さて…とりあえず質問に答えてもらいます」

 

「………」

 

答える答えないの前に喋れない状態でどうやって答 えろと?

 

その他にも色々な思いを込めて男の人を睨む

 

…何故かイジメられそうな気がしてすぐに止めたけ ど

 

「東方人街を守っていたのはお前だな?」

 

「………」

 

私は答えなかった。当たり前だろう。バカ正直に答 えていたら命なんかいくつあっても足りない。…捕 まった事自体ダメなんだけども

 

「まぁいい。答えないなら…視るまでだ」

 

そう言って私の顔だけ自分の方向に向けられた

 

その時に見た男の人の瞳は…紅かった

 

――――――

 

「!?~~~~!~~~~~!?」

 

ものっそい悶えてる“銀”。そりゃそうか。自分の頭 の中覗かれるとか気持ち悪くてしゃ~ないだろうし

 

…よく勘違いされるのだが、別に写輪眼は聖痕じゃ ない。勿論聖母ノ祈リも違う。

 

二つともティアの譜術みたいな先天技能だ…あ、俺 も譜術使えんじゃん

 

そしてなんやかんやの間に“銀”…いや、リーシャ・ マオの記憶は解析した

 

…なるほど

 

「俺がやり合ったのは先代だったのか」

 

「!?」

 

急に態度が変わり、何かを伝えようとするリーシャ

 

とりあえず口の拘束を外そうとしたが…

 

「…自殺しない?」

 

とれるんじゃないかってくらい激しく首を縦にふる リーシャ

 

それを確認してから拘束を外すと…

 

「お父さんを知ってるんですか!?」

 

「うおぅ!?ちょっと落ち着け!」

 

「どこで会ったんですか!何で私が銀だとわかった んですか!というかあなたは何者なんですか!私が 手紙を届けた二人は誰なんですかぁ!!」

 

「落ち着けェェェ!!」

 

~しばらくお待ち下さい~

 

「…ゴメンナサイ」

 

「わかればいい」

 

少しばかりOHANASHIして落ち着かせた

 

「とりあえず一個ずつ答えるとだな…俺はケイジ・ ルーンヴァルトって名前だ。お前の親父さんとは… まぁ、殺し合った仲だな。んでお前が銀だとわかっ たのはお前が俺とぶつかったから」

 

「…何でぶつかったら銀なんですか?」

 

「まぁ…なんて言ったらいいのか、俺の能力みたい なもんで俺の意志で人に認識されなくなったり、無 意識に俺をよけて通ったりするんだよ。んでその状 態の俺にぶつかれるのは符とか気とか…導力以外の 何らかの異能をかなりのレベルで使える奴だけなん だ」

 

…何故かクローゼには認識阻害が一切効かないんだ が。アイツ気も符も、ましてや譜も使えないのに

 

「そうだったんですか…」

 

「んで何者かってのは…見ての通り教会の者です。 あ、七曜の方な」

 

「見ての通り…?」

 

そこは聞かないお約束

 

「話続けるぞ?あの二人も教会関係。つーかシスタ ー服着てただろうが」

 

と、こっちの事情を(一部ぼかして)教える

 

「じゃあ次はこっちの質問に答えてもらおうか」

 

「え?」

 

「え?じゃねぇよ。世の中そう思い通りに進むと思 ってたら大間違いだぜぇ?」

 

「な、なんか怖いですよ?」

 

「ケッケッケ…さぁて…どうしてやろうか…?」

 

「ひ、ひっ…」

 

何か凄い怯えて涙目のリーシャ。コイツイジメたら 楽しいタイプの奴だ。

 

「…と、冗談はここまでにして」

 

「ふぇ?」

 

一瞬ポカンと呆けるリーシャ

 

けどすぐに顔を真っ赤にして

 

「ひ、酷いですよ!本当に何かされるかと思ったじ ゃないですか!」

 

「騙される方が悪い。というか俺始めに『質問に答 えてもらおうか』って言ったし」

 

「それでもですよ!何であんなに危ない雰囲気出せ るんですか!?」

 

「いや、俺演技派だし」

 

「知りません!」

 

「いや、俺神父だし」

 

「全く関係ない!?」

 

「何か腹減ったなぁ…なんか食いに行こうぜ?屋台 ならまだ開いてんだろ」

 

「どこまでマイペースなんですか!?あ!ちょっと !?待って!置いて行かないで~!!(泣)」

 

…つくづく楽しい奴であった



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『巻き添え?いえ、囮です』

~アルタイル市・とあるレストラン~

 

「ふぅ~…まぁまぁだったな」

 

「…着いてきた私も悪いんですけど…どうしてわざ わざアルタイル市まで来たんですか?」

 

「仕方ねぇだろ?東方人街の屋台全部閉まってたん だから」

 

あの後、屋台が並んでいる場所に行ったのだが、一 つとして開いてなかった。リーシャ曰わく、『みん な誘拐を警戒していて、夜に店を開けなくなった』 とのこと

 

「それに『置いて行かないで~』って半泣きになり ながら追いかけて来たのはどこの誰だっけなぁ~? 」

 

「ッ~///忘れて下さい!!」

 

ハッハッハ、何を言ってるんだこのチャイナは。そ んなもん脳内永久保存でイジリ続けるに決まってる じゃないか!」

 

「うぅ…ケイジさんイジワルです…」

 

あれ?声に出てたか?

 

「まぁいいや。…すみません、店長さん呼んでもら えます?」

 

「え?あ、はい」

 

落ち込んだリーシャは放っておいて、近くにいた店 員に店長を呼んでもらう

 

そして一分も経たない内に店長が来た

 

「何かございましたでしょうか?」

 

「いえ…『我らが主の贈り物』を頂こうと思いまし て…」

 

俺がそう言った瞬間、店長の笑みが嫌なものに変わ る

 

「わかりました…こちらへ」

 

そして俺はリーシャを俵担ぎして店長に着いて行っ た

 

――――――

 

「では注文がお決まりになりましたらお呼び下さい 」

 

連れて来られたのは地下にある個室。しかも窓があ り、その窓から下の闘技場のような場所を見れるよ うになっている

 

とりあえずまだ落ち込んで逝っちゃってるリーシャ を座らせ、この部屋自体に幻術をかける

 

「ん~…監視用の盗聴器が…あれ?ない? …無防備にもほどがあるだろ。色々やりやすいから いいけど」

 

ただ、扉の外に見張り役がいるので、そいつにだけ 幻術をかけておいた

 

…さて、とりあえず

 

「いい加減に戻って来い!」

 

「ふにゃっ!?」

 

軽く頭をはたいてリーシャを現世に戻って来させる

 

…つーか『ふにゃっ』って…猫かコイツは

 

いや、何となく犬っぽいな。半泣きになりながら追 いかけてくるあたり

 

「いきなり何するんですか!?」

 

「いや、俵担ぎされても気づかないお前が悪い。ど こまでトンでたんだよ」

 

「俵担ぎ…?ってここどこですか!?」

 

「今気付いたのかよ!?」

 

コイツ本当に“銀”の後継者か!?天然にもほどがあ るだろ!

 

「つーかあんまり騒ぐなよ…幻術で抑えるのも限度 があるんだから…」

 

「幻術…ってまさか!?」

 

…勘がいいのか、ただ単に天然なだけなのか…

 

「そのまさかだ。ここが…『グラトニアス教団』。 その本拠地にして事件の大元だ」

 

唖然とするリーシャ

 

「何でそんな場所に私を巻き込んだんですかー!? 」

 

「いや~…いわゆる成り行きってヤツ?」

 

「そんなわけあるかー!!」

 

ヤバい。リーシャが壊れた

 

オッサンの嘘つき。これで大体の事はごまかせるっ て言ってたじゃねぇか!

 

「どうするんですか!?どうしてくれるんですか! ?」

 

「あぁ~!もう、面倒くせェェェ!!」

 

~しばらくお待ち下さい~

 

「…うぅ…何かこんなのばっかり…」

 

「何か言ったか?」

 

「ゴメンナサイ!!」

 

例によってOHANASHIしてリーシャを落ち着かせる

 

…ま、とりあえず

 

「すみませ~ん」

 

ガチャ

 

「はい。ご注文でしょうか?」

 

いかにもマフィアですって感じのいかついオッサン が入ってくる。アンタ明らかに店員じゃねぇだろ… いや、見た目で判断しちゃいけないんだけれども

 

「“普通の”赤ワインを二本。料理はまた注文します 」

 

「かしこまりました」

 

そしてさっさと出て行く店員(?)

 

「…どうして“普通の”って強調したんですか?」

 

「お前も知ってんだろ?ここがどういう場所か」

 

頷く

 

「じゃあわかれよ…」

 

「?」

 

コテンと首を傾げるリーシャ

 

…あ、コイツ本当にわかってねぇや

 

「はぁ…お前本当にバカだな」

 

「何で私罵倒されてるんですか!?」

 

「お前人の血飲みたいのか?」

 

「!?」

 

「ここは『グラトニアス教団』の本拠地だぞ?……… 」

 

「ケイジさん?」

 

「失礼します。普通の赤ワインをお持ちしました」

 

「ご苦労」

 

「では、ごゆっくり」

 

さっさと同じでさっさと出て行く店員(?)

 

「…今、気配読んでたんですか?」

 

「ああ…ん?お前が読めなかったのは当たり前だぞ ?」

 

何かまたリーシャが暗くなり始めていたのでフォロ ーする

 

「え?」

 

「幻術をこの部屋全体にかけてるからな。基本的に 俺以外の奴が気配を察知するのは無理だ」

 

総長とかオッサン以外は…あの人達絶対人外だって

 

「そうなんですか?」

 

「そうだ…お前は“銀”にこだわりすぎなんだよ。ほ ら、飲めって」

 

「いえ…私お酒は…」

 

「弱いのか?」

 

「いえ、初めてなので…」

 

そりゃ良いこと聞いたな

 

「………」(ニヤァ)

 

「ケ、ケイジさん…?何か怖いですよ…?」

 

「いやぁ、別に何もないけど?」

 

さて…これが終わったらどうやってイジロウカ…

 

――――――

 

『お待たせ致しました。本日のメインイベントです !』

 

そんなアナウンスが聞こえると、途端に会場が歓声 で溢れかえる

 

「ひうっ!?何ですか!?」

 

「さぁ?…ただ、ろくでもない事なのは確かだな」

 

闘技場にリーシャと同じか更に幼い女の子が13人 入って来る

 

…これで誘拐事件の犯人はコイツらだと確定した。 そしてこの胸くそわるいイベントが二週間単位で開 催されていることも

 

「…リーシャ、とりあえず準備しておけ。何か出て きたらすぐ行くぞ」

 

「え?はい。」

 

そしてしばらく待っていると、闘技場の反対側から 妙な雰囲気を纏った女の子が三人出てきた

 

「行くぞリーシャ!」

 

「はい!」

 

窓を叩き割って闘技場に踊り出ると同時に、妙な雰 囲気の女の子達を吹き飛ばす

 

「リーシャ!あの変な雰囲気の奴ら足止めしろ!」

 

「はい!」

 

そして13人全員に認識阻害の幻術と眠りの幻術を かける

 

そして俺達がいた部屋にストーム(弱)で運び、部 屋そのものに認識阻害をかけてからリーシャのとこ ろに戻る

 

「無事かリーシャ!」

 

「大丈夫です!ですけど…」

 

「何だ?」

 

「この人達…斬ったそばから回復してるんです!」

 

「え~…それなんて無理ゲー?」

 

「ボケてる場合ですかー!!」

 

だって死なないとかチートじゃん。なんか特殊な装 備が無いと倒せません的なアレじゃん

 

まぁ装備あるんだけども

 

「わかったわかった…もうちょい粘れ。元に戻すか ら」

 

「え!?できるんですか!?」

 

「何回も言うけど、俺神父だからな?」

 

「…あ」

 

いかにも今思い出しましたみたいな反応だなオイ

 

「…いっそこのまま見捨ててやろうか」

 

「お願いだから助けて下さい!!(泣)」

 

「…チッ。仕方ない。この憂さ晴らしは後ですると して…」

 

「止めて!?」

 

知らんがな

 

「…動きを止めろ。とにかく、そこからだ」

 

「………縛!!」

 

リーシャがどこから出したのかは知らないが鎖付き の鉤爪で三人を拘束して、一カ所に集める

 

「…『我が深淵にて煌めく白銀の刻印よ。光となり て昏き障気を払い、哀れなる迷い子に救いの道を指 し示さん――!』」

 

拘束された三人が光に包まれる

 

「教会の聖句…」

 

「気ぃ抜くな!まだ助かったと決まってる訳じゃな い!」

 

リーシャがハッとして拘束を強めなおす

 

そして光が収まっていく

 

「………」

 

「………」

 

三人はピクリとも動かない

 

「成功…ですか?」

 

「…いや、『意味が無かった』」

 

そう。文字通り意味が無かった。コイツらは…

 

「『空の女神の名において、選別されし七曜ここに あり』」

 

「ケイジさん!?意味が無かったんじゃ…」

 

…そういう事じゃねぇ…そういう事じゃねぇんだよ… !

 

「『空の金耀、時の黒耀、識の銀耀…彼の三克を持 ちて其が姿を示したまえ――!』」

 

さっきとはまた違う光が三人をのみ込む

 

そして、その光が止んだ時、三人はその場に崩れ落 ちていた

 

「………」

 

「ケイジさん…これは一体…」

 

「………あ、言い忘れてたけど」

 

「はい?」

 

「さっさと逃げろよ?…アレに捕まりたくなかった ら」

 

「ふぇ?…ひゃわぁぁぁ!?」

 

ここの廊下はどうも直線らしく、まだかなり向こう だが物凄い数のマフィアがこっちに向かっている

 

「ちょっと!?ケイジさんなんとかして下さいよ! ?」

 

「何とかしてるよ?…俺だけは」

 

「どうやって!?」

 

「言ったろ?認識阻害かけてるって」

 

「私にもかけて下さいよ!?」

 

「無理。限界。俺含めて14人にかけるとか俺よく 頑張ったよ」

 

わざとらしく息を切らせる

 

「全然余裕じゃないですか!?」

 

「ま、あれだ。俺がただ単に巻き添えでお前を連れ てくると思ったか?」

 

「え?」

 

そして俺はリーシャの肩に手を置いて、(自分なり に)イイ笑顔でサムズアップ

 

「頑張って逃げろよ生け贄…もとい囮♪」

 

「いやぁぁぁぁぁ!!」

 

「居たぞ!あっちだ!」

 

「ほらほら。さっさと逃げろよ~。捕まったら喰わ れるぞ~(冗談抜きで)」

 

「ケ…ケイジさんの鬼畜ぅぅぅぅぅ!!」

 

ハッハッハ。最高の褒め言葉だ(泣)

 

「あそこの女だ!」 「クソが!捕らえて生け贄にしてくれるわ!」

 

「何かこんなのばっかりぃぃぃぃぃ!!」

 

そんな叫びを残してリーシャは全力で逃げて行った

 

…さて

 

「魔道具使って屍人形(グール)を造るとはな…」

 

そう。さっきの三人は屍人形…つまりは、もうとっ くに死んでいた

 

そして俺は三人を簡易版だが葬った後、歩き始める

 

「…誰が魔道具を持ったか知らねぇが…俺を本気で 怒らせた事を後悔させてやらぁ…」

 

この腐りきった教団の、主の所へと…



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『可愛いは正義!!』by ティア

カツッ…

 

カツッ…

 

「………」

 

「ガアァァァアア!!」

 

“また”屍人形が俺に襲いかかる

 

「………『空の女神の名において、選別されし七耀此 処に在り――』」

 

そして俺は素早く屍人形の首を刈り取り、聖句を唱 える

 

そして屍人形に封じられていた魂は天に還る

 

『………タス………ケ……………テ……』 『シ………ニタ…………ク………ナ……イ……!』

 

『………ッ!……」

 

その慟哭を、恨みを、最期の叫びを残して

 

――――――

 

「何!?侵入者だと!?」

 

「………」(コクリ)

 

男は、屍人形と一切言葉を交わすことなく会話を成 立させる

 

その様は異常と言う他に無かった

 

「ふむ…ならば早く仕留めよ!そのような異端者は 即刻贄にしてくれるわ!」

 

「………?」

 

「む?人形はいくら使っても構わん。これからいく らでも造り出せるからな」

 

そう言って男は屍人形を部屋から追い出す

 

「フハハ…誰だか知らんがまた都合よく良い人形が 手に入りそうだ……そうだ、私が主なのだ…女神では ない、この『血の継承(サクセシオン ・ヴァンパイア) 』を持つ私こそが… !」

 

男は、持っていた短剣を愛おしそうに撫でた

 

――――――

 

ドガァ!

 

リーシャが逃げて行った廊下の反対側の最奥。そこ にあった途中の扉の数倍豪華な扉を蹴り飛ばす

 

「ふむ…いきなり(しゅ)の部屋の扉を蹴り飛ばすとは… いささか礼儀知らずなのではないかね?」

 

「………」

 

俺は男に言葉を返さずただ男をじっと見据えた

 

「ふむ…私の問いに答えぬとは…さては君が侵入者 か」

 

わかってんだろ?扉だって蹴り飛ばしたんだ

 

「……名は?」

 

「…む?」

 

「名乗れと言ったんだ」

 

「フフ…やはり君は礼儀知らずだね。人に名を聞く 時はまず自分からと言うではないか」

 

「…“氷華白刃”」

 

あえて名前でなく渾名で答える

 

「…ふむ?それは渾名か何かかな? …まぁいい。私はクライフ・ロス・ルイクローム。 しがない元帝国貴族にして、我らが主の代弁者だ」

 

コイツ…星杯騎士団の事を知らない…?

 

まぁ知ってようが知らなかろうが…関係ないが

 

「…ケイジ・ルーンヴァルト。七耀教会の巡回神父 で、ただのしがない星杯騎士だ」

 

「七耀教会!?…フフ、ここにもあのエイドスに誑 かされた哀れな仔羊がまた一人…」

 

一瞬慌てるクライフだが、すぐに冷静なフリに戻す

 

「それで?教会が偽りの女神の名の下に私を粛清し ようと?」

 

「…別に女神の名の下に来た訳じゃない。そもそも 俺は女神なんざ信じてない」

 

“聖痕”なんかの為に人を殺す事を正当化するような 神なんざ…

 

「ほう!ならば…」

 

「だがな…お前は個人的に許せねぇんだよ…!」

 

御し易いと思ったのか、クライフが満面の笑みをこ ぼすが、次の俺の言葉にすぐに表情を堅くする

 

「簡単に屍人形を造って…しかもそれを使って見せ 物にしやがって…人を何だと思っている!!」

 

「ふむ…君はまだ理解していないようだね。彼女達 は我らが主への捧げ物さ」

 

「………」

 

「我ら人は他を虐げる事で成長、発展してきた…今 や人以外の生物が大きな顔で世に跋扈することはな い。なれば次の標的は何処へ向かう?人間だ。次に 人が人を虐げるのだよ! …だったら、人同士の無益な殺生を行うより、真の 神たる我らが主への生け贄とした方がより有益だと 思わないかね?」

 

「だったらアンタがまず生け贄になったらどうだ? 」

 

「それは出来ない相談だ。私には主の言葉を皆に伝 えると言う崇高な使命があるのさ!私がいなければ 真の神たる我らが主の言葉がわからない…実に、実 に不幸なことだ!」

 

何かの演劇のような口調で語るクライフ。ああ、わ かった。コイツは…

 

「語るな。クズが」

 

「何だと!?」

 

「自分に酔ったオッサンの世迷い言聞いてもありが たくもなんともねぇんだよ。要は『自分は偉い。自 分しか神の言葉は代弁できない。だから私に従え』 って言いたいんだろ?」

 

「違う!私は真なる神の…」

 

「ふざけんな。お前はその真なる神とやらと自分を 重ねて酔ってるだけだ。…いい加減本音を晒せよ。 なぁ?…魔道具持ちの妄想癖の変態爺」

 

「き、貴様ぁっ!」

 

クライフが激昂し、懐から短剣を取り出す

 

「それが魔道具か」

 

「ああそうだ!後悔するがいい!貴様はこれから主 の贄となることなく死んでいくのだからな!」

 

そんなもんこっちからお断りだっての

 

「来い敬虔なる僕達よ!」

 

クライフが短剣を掲げ、その短剣が光る

 

…だが

 

「な…何故だ!?何故人形共が来ない!?」

 

「ああ、屍人形の事か?あの子達なら全員お前の大 嫌いな女神の下に送ったよ」

 

俺は女神を信じちゃいないが…否定もしない。誰か が死んだとき、残された人が縋るのは…やっぱり女 神なんだろうから

 

「な、何ィ!?」

 

「さて…今更だが、貴様を“外法”に認定する」

 

「く、クソォォォォォォォ!!!」

 

今更クライフが自分を屍人形に変え始めるが…遅い

 

「祈りも懺悔も終えぬまま…」

 

すでにここは俺の…

 

「千の剣を持ってその身を塵と為し…」

 

射程圏内だ

 

「力無き者達の念に魂を喰らい尽くされるがいい! !」

 

瞬間、俺の瞳が紅く輝き、周囲が闇に包まれる

 

「な、何だこれは!?貴様!一体私に何をする気だ !?」

 

叫ぶクライフ。しかしその身は既に十字架に磔にさ れていて動けない

 

「…今から剣を千本、貴様の身に刺し続ける」

 

「や、やめ…」

 

「その後は…貴様に道具にされた者達が好きにする だろうな」

 

俺がそう言うと、クライフの周りに無数の鬼火が漂 い始める

 

「ひ、ひっ!来るな!来るなァァァァ!!」

 

「さぁ…お前の罪を数えろ…!!」

 

――――――

 

「待たんかいワレェェェ!」

 

「嫌ァァァァァァ!!」

 

一方その頃、リーシャは未だに逃げ続けていた

 

まぁ、“銀”の後継者とは言っても素顔は15歳の女の 子である。イカツいオッサンに集団で追いかけられ たらそりゃ逃げるだろう

 

「さっさと止まらんかい!そっちは行き止まりや! 」

 

「ふぇぇぇぇぇん!!」

 

そしてとうとう行き止まりに…

 

「その窓から降りて来なさい」

 

「ふぇ?」

 

そう、リーシャは必死すぎて気付いていなかったが 、地下から一階飛ばして二階まで逃げていた

 

「で、でも…」

 

「早く。捕まったら(冗談抜きで)喰われる」

 

「そうよ!(二つの意味で)喰われるわよ!?」

 

「それは嫌ァァ!!」

 

…流されやすいリーシャであった

 

そしてリーシャは普通に地面に着地し、すぐ隣を見 ると…

 

「あれ?あの時の…」

 

栗色のロングの女の子…ティアがいた

 

「話は後!準備いいわねリース!」

 

「おっけー」

 

そして数秒後、リーシャと同じようにマフィア達が 降りてくる

 

「…はいいーち!はいにぃぃぃ!はいさーん!!」

 

「「「ぎゃあああああ!!」」」

 

ティアが降りて来た男達を次々とホームランにして いく

 

…しかも、的確に股間の部分を

 

「ヤベェぞ!!ここ降りたら地獄だ!!」 「いや、ある意味天国だろうけども!」 「誰が上手いこと言えって言ったよ!!」

 

そして更に下っ端が一人落とされる

 

「はいよーん!!」

 

「あふぉう!?」

 

勿論ティアの犠牲になるが

 

「とんだドSだよあの女」 「ヤベェよあの女。悪魔の化身だよ」

 

「失礼ね。これでもシスターよ」

 

『ないないないない』

 

「全員で言うとは良い度胸してるわね。………潰すわ よ?」

 

どことは言わない。それが更に恐怖を煽る

 

…前例がある分特に

 

「ダメだ!普通に一階から出るぞ!」

 

そしてマフィア達は近い方の階段に向かうが…

 

「にがトマトが一個」

 

ベチャ!

 

「にがトマトが二個」

 

ベチャ

 

「無理だ!こっちはにがトマトの嵐だ!」 「つーか何故にがトマト!?」

 

「昔…総長がケイジに私の訓練を頼んだ時だった… 」

 

「何か昔話始めた!?」

 

――――――

 

「一週間か…」

 

「私は何をすればいい?」

 

「そだな…とりあえずぶっ倒れるまでひたすら斬り かかって来い」

 

「…え?」

 

「だからとにかく斬りかかって来い。俺に一撃でも 当たったらお前のやりたい事に付き合ってやるよ」

 

「わかった………ご飯!!」

 

「あれ?聖職者って三大欲求抑えるモンじゃねぇの ?」

 

――――

 

「もう…無理…」

 

バタッ

 

「ふぅ…やっぱりこんなモンか… お~い!起きろ~!」

 

ボタボタボタボタ

 

「………苦っ!?」

 

「おお、流石にがトマト」

 

――――――

 

「そしてその後、体力切れで倒れる度ににがトマト シェイクを顔にかけられて起こされた…!!」

 

『いや知らねーよ!?』

 

「許すまじケイジ…そして何よりも許すまじにがト マト!!」

 

『何でやねん!!』

 

その後も泣きながらにがトマトを投げてくるリース

 

「仕方ねぇ!遠い方の階段使うぞ!」

 

「応!…って」

 

マフィア達(残り三人)が目を向けた先には…

 

「………」

 

涙目のリーシャ(フル装備)がいた

 

『標的戻って来ちゃった!?』

 

「…さっきから私ばっかり狙われて…ケイジさんな んか目の前にいたのに…!」

 

「じょ、嬢ちゃん…?」

 

「それに嬢ちゃん嬢ちゃんって何なんですか!?私 これでも15です!!」

 

「「「えっ?」」」

 

マフィア達の視線がリーシャの顔から少し下に移動 する

 

それからティアへ

 

『…?』

 

「私は16よ」

 

そしてリースへ

 

『……』

 

「私は17」

 

そして再びリーシャへ

 

『………………』

 

「…まぁ、その…なんだ」 「きっと…大きくなるさ」 「諦めたらそこで終わりだぜ?」

 

「下手な慰めなんて…いりませーん!!(泣)」

 

『ぎゃあああああ!』

 

『(だが…これはこれで…ご褒美!!)』

 

最後までどうしようもないマフィア達であった

 

「………可愛いは正義!!」

 

「ティア、それ何かが違う」

 

「うぅ…私だって…私だって大きくなるもん…」

 

こうして、マフィア達は一斉確保されたのであった

 

 



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『束の間の平和』

「…なるほどね。中でそんな事が…」

 

「酷くないですか!?ケイジさん絶対神父様じゃな いです!あの人絶対悪魔の使いです!」

 

「…よしよし」

 

ヒートアップするリーシャをリースが落ち着かせる

 

「…落ち着いた?」

 

「…はい。納得はしてませんけど」

 

「後…ゴメンね?私達…

 

リーシャが囮になるの知ってたんだ」

 

「ふにゃーー!!」

 

~しばらくお待ち下さい~

 

「…落ち着いた?」

 

「…はい」

 

「ケイジの手紙でさ~。私達に『手紙を届けた女の 子囮に使うから。フォローよろしく!』って書いて あったのよ。ゴメンね?」

 

申し訳なさそうに笑いながら謝るティア

 

「…もういいです。全部の元凶はケイジさんだって わかりましたから」

 

「まぁ、その分は後で仕返しすればいい」

 

「返り討ちにされる気しかしないんですけど…?」

 

「まぁあのバカに勝てるのは…総長かシャル、後殿 下くらいだものね」

 

「シャル?殿下?」

 

総長は上司だろうと何となくわかったリーシャだっ たが、聞き覚えのない名前を聞いて首を傾げる

 

殿下にしても、アルテリア法国のトップの呼び方は 、『教皇閣下』か『法王聖下』である

 

「ああ、シャルは私と同じシスターよ。ケイジを兄 みたいに慕ってるわね。殿下の方は…リベールのク ローディア姫殿下よ」

 

「お、お姫様!?」

 

「ええ。確か幼なじみだったかしら?」

 

「ケイジさん…凄い人だったんですね」

 

ほぇ~、と感心するリーシャと苦笑いのティア。リ ースはさっきから一心不乱に買って来ていたパンを 食べている(費用はケイジの指示でケビン持ち)

 

「(思えば彼の人脈ってチートよね…)」

 

「そういえば…ケイジさんを助けに行かなくて大丈 夫なんですか?」

 

「ああ、いいのいいの。リーシャの話を聞く限りケ イジキレてるから」

 

「?」

 

「ケイジがキレてる時に無理やり乱入しようものな ら…最悪殺されるわよ?」

 

―――精神も、肉体も、ね

 

――――――

 

パチン!

 

ケイジが指を鳴らした瞬間、周りの景色が元に戻る

 

「ジャスト一分だ」

 

「あ……あああ……ああ……」

 

「いい悪夢(ユメ)は見れたか…って聞くまでもないか」

 

クライフは茫然自失として震えている

 

当たり前だ。およそ一年に渡って剣を全身に突き刺 され、それが終わったと思えばまた一年間鬼火に灼 かれ続けたのだ

 

…その永い苦痛が、たった一分で行われたというの だから…

 

「さて…とりあえず魔道具は回収させてもらう」

 

「あは………あははは………ははは……」

 

「…聞こえちゃいねぇな」

 

流石にここまでくると哀れだな

 

どうしようもないクズ野郎だったが…いや、俺の方 がクズか

 

こんな人を“壊す”ようなことに慣れている俺の方が …

 

「…感傷に浸ってる暇はねぇな」

 

いや、正確にはそんな権利はない、か

 

…ダメだな。このまま行くとどこまでも自分を卑下 してしまう

 

「『我が身に宿りし蒼き羽…』」

 

背中に翼のような聖痕が広がる

 

「『その咎を持って氷河の礎と為し、淡き華となり て永久(とわ)の闇に落ちるがいい…』」

 

クライフの体が次第に氷に覆われる

 

そして一秒もかからないうちにクライフの全身が凍 りついた

 

「散れ…」

 

パチン

 

指を鳴らす音と共に、クライフの一生は幕を閉じた

 

…けど

 

「いつまでそこで見てる気だ?」

 

「…気付かれていましたか」

 

部屋の隅に目を向けると、空間が歪んで重厚な鉄の 鎧を着た金髪の女性が現れた

 

「…誰だ?」

 

「おや、さっき名を名乗る時は自分からと言われて いませんでしたか?」

 

「それを知ってるって事は聞いてたんだろ?それに 俺がアンタに今まで気付いていなかったとでも?」

 

この部屋に入った時点でコイツがいるのはわかって いた

 

…気配の消し方からコイツが“蛇”関係だという事も

 

「いえ、冗談ですよ」

 

薄く微笑む女性

 

「アンタが冗談言うとはな…見た目真面目一徹みた いなのに」

 

「人を見た目で判断しない事ですね」

 

「…で?何の用だ?」

 

そう、これが問題だ

 

NO,0みたいな見届け役ならどうでもいい。どうせ 尻尾切りの対象だろうから

 

だが、魔道具を狙って来たのなら…

 

「そう慌てないで下さい。敵対するつもりはありま せん」

 

「…じゃあ何しに来たんだ?」

 

「いえ…レオンハルトに貴方の事を聞きまして…少 し興味が湧いたので会いにきたまでです。ああ、私 のことはアリアンロードと呼んで下さい」

 

レオンハルト…レオンハルト……

 

「ああ、レーヴェか」

 

「はい」

 

…雰囲気だけなら敵対心は無い、か

 

「後一つだけいいか?」

 

「はい?」

 

「お前…“使徒”か?“執行者”か?」 「“使徒”です」

 

「…お前の所の第六柱に伝えてくれ」

 

「……何と?」

 

「『お前は俺が殺す』」

 

「わかりました…」

 

「…じゃあ俺は行く」

 

「それでは私も行くとしましょうか…」

 

「…せいぜい戦場で会わない事を願ってるよ」

 

「!ふふ…私もそう願っておきましょう…」

 

そう言ってアリアンロードは空間の歪みに消えて言 った

 

…アイツ……多分今は総長くらいしか勝てねぇな…

 

――――――

 

「彼の本当の力が目覚める時…私や他の“使徒”では 太刀打ちできなくなるかも知れませんね…」

 

アリアンロードは、ケイジが去った後、クライフの 部屋から何かを持ち出しながら呟いた

 

――――――

 

「ケイジさん!」

 

俺がレストラン(教団のアジト)から出ると、リー シャが突撃してきた

 

「とと…子供かお前は……ゴメン、子供だったか」

 

「良かった…無事で…」

 

あれ?予想ならここで『子供じゃない!』って言い 返してくるはずなのに…

 

「随分懐かれたみたいね」

 

「本当になんでだろうなぁ?」

 

「昔から子供に懐かれやすいものね」

 

ん~…俺はそんな子供に懐かれるような人間じゃな いんだがな…

 

そんなことを考えていたら、ティアに軽く頭をはた かれた

 

「…何すんだよ」

 

 

 

「また変なこと考えてたでしょ?」

 

「………」

 

俺が視線を逸らすとティアは大きくため息をつく

 

「全く…またシャルが泣きながら叩いてくるわよ? 」

 

「そいつは勘弁だな。アイツの機嫌とるの大変なん だぞ?」

 

「知ってる」

 

そう言ってティアと顔を見合わせて笑う

 

…少しだけ、ほんの少しだけだが気が楽になった気 がした

 

「ちょっと!私の話聞いてるんですか!?」

 

「悪い悪い、で、どうしたんだ?」

 

「まったく…」

 

ただ、今は。今だけは

 

この束の間の平和を抱きしめよう

 

そう、素直に思えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P.S. リーシャに酒を呑ませてはいけません。ダメ、ゼッタイ



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『リベールへ』

『クロスベル、クロスベルです。帝国方面にご用の 方はしばらくお待ち下さい』

 

「あ゛~…やっと着いた~」

 

教団を壊滅させてから3日。俺はリベールに戻るた めにクロスベルに来ていた

 

共和国…首都にくらい空港作ればいいのに…

 

「全く…半日くらい鉄道に乗ってただけで何でそん なに疲れてるのよ」

 

「うっせ。昨日が昨日だったんだから仕方ねぇだろ …」

 

「あれは自業自得でしょうが」

 

否定できない…

 

「…リーシャがあんな酔い方するなんて思わなかっ たんだよ…」

 

あれは…思い出したくない。クローゼが黒ーゼにな るのと同じくらいヤバかった

 

「…まぁ、私もまさかカクテル一杯で酔うなんて思 わなかったけど…」 そう、しかも極端に弱かったんだよ…

 

「…もう、この話題止めよう」

 

「……そうね」

 

ちくせう。何でクロスベルに来て早々こんな空気に なるんだ…

 

「ケイジさーん」

 

「リーシャ!ナイスタイミング!」

 

「?」

 

そして何故かリーシャが俺とティアに着いて来てい る

 

何故か聞いたら「ひ、秘密ですっ!!///」って顔 を真っ赤にして言われた

 

…そして何故かティアに睨まれた

 

え?リース?アイツならまだカルバードの東方人街 で食べ歩きしてるぞ?…ケビンの金で

 

「…リーシャ、それで次の便はいつだ?」

 

「三時間後らしいです」

 

「三時間なぁ…」

 

「じゃあ私はアルテリアに帰るわね」

 

「「え?」」

 

思わずリーシャと被ってしまった

 

「報告なら総長に導力通信すればいいんじゃ?」 「今回の任務はモース枢機卿の命令だったのよ…」

 

あ~、樽豚の任務だったのかよ…

 

「それ先に言われてたら断ったのに…」

 

「…総長の予想は正しかったわね」

 

やっぱり総長の仕業か。俺が樽豚の命令だったら何 が何でも断るって先読みしてやがったか

 

因みにリーシャには星杯騎士団の事は教えてある。 ぶっちゃけ将来リーシャが星杯騎士に手を出さない ようにするためだ

 

勿論口止めはしてあるし、リーシャもそれを納得し て了承している

 

…流石に守護騎士とか聖痕については教えてないが

 

「そんな訳だからそろそろ行くわね」

 

「おう、気ィつけろよ?樽豚がウザかったら金〇蹴 り飛ばしちまえ」

 

「考えとくわ」

 

「あわわわ…」

 

ティア苦笑い。リーシャ戦慄…うん、いつも通りだ

 

『まもなくアルテリア法国行きの列車が発車します 。お乗りの方は…』

 

駅内にアナウンスが流れる

 

「ヤバ…じゃあ、気を付けて。……というか殿下とは ちあわせて殺されないようにね?」

 

「ハハハ…」

 

現実になりそうで本当に怖い

 

…そしてリーシャ、さりげなく抓るな。地味に痛い

 

そんな感じでティアは先にアルテリアに帰っていっ た

 

「…さて、三時間なぁ…」

 

「どうしましょうか?」

 

「お前は何かしたい事とか無いのか?」

 

「そうですね…」

 

むむむと考え出すリーシャ

 

…俺も何かなかったっけなぁ…

 

「あ!」

 

「どした?」

 

「ミシュラム行きたいです!」

 

「三時間しか無いっつってんだろうが!」

 

リーシャの頭を軽くはたく。ミシュラムとか行くだ けでも半日かかるわ

 

…そういやテーマパーク出来たんだっけ?オープン 直後に言っても疲れるだけだろ

 

「むー…それじゃあケイジさん何か案あるんですか ?」

 

ん~…ワジとアッバスの所へ行くにもあんなとこに リーシャを連れてく訳にも行かねーしなぁ…

 

「もう個人行動でよくね?」

 

「わかりました」

 

リーシャも納得した事だし、上手い事個人行動にで きたし、早く…って

 

「何で付いてきてるんだお前?」 「ダメですか?」

 

いや、ダメじゃないが…

 

「…面白くねぇぞ」

 

――――――

 

~クロスベル大聖堂・共同墓地~

 

「………」

 

クロスベルの東通りで花を買い、そのままクロスベ ル大聖堂に来た

 

そして、目的の墓を見つけて花を供える

 

…ここはクローゼの両親のユーディス夫妻を弔って いる。

 

本当はカルバード領海での事故だったのだが…リベ ールの王家の墓をカルバードに建てる訳にもいかず 、やむなく事故現場に最も近いクロスベルに墓を建 てたらしい

 

…まぁ一応リベールにもあるんだけどな。墓

 

「………」 「………」

 

そのまま教会式の祈りを捧げている間、リーシャも 空気を感じ取っていたのか、こちらをチラチラ見て くるものの、見よう見まねで祈りを捧げていた

 

「……ご両親ですか?」

 

大聖堂から帰る途中、リーシャが恐る恐る聞いてき た

 

「いや…俺は孤児だから両親はいないぞ?」

 

「……すみません」 「謝らなくていいって

 

…でも、両親がいたらあんなんだったんだろうなー 、とは思うけどな」

 

俺は前世でも親父は俺が生まれる前に事故死、お袋 も俺を生むと同時に衰弱死して叔父夫婦に育てられ た

 

でも、やっぱりどこかよそよそしく…俺は中学校は 全寮制の学校を選んだ

 

「…立派な人達だったんですね」

 

「立派っつーか…万年新婚夫婦?部屋に俺て二人し かいなかった時にはいつもコーヒーのブラックが飲 みたくなったな」

 

当時赤ん坊だけどな。俺

 

「あはは…」 いや、冗談抜きで。しかも夜になるたびに妙に艶や かな声が聞こえるもんだから赤ん坊のクローゼが泣 き出すのを抑えるのに苦労したな…体だって思うよ うに動かなかったし

 

ドアを開けるのに一苦労、アリシアさんを起こすの に一苦労、アリシアさんにクローゼが泣いてること を伝えるのに一苦労…

 

あの時、改めて言葉って大事だと思ったんだったな …

 

「ケイジさん?」

 

黙り込んでいたのか、リーシャが心配そうに俺の顔 を覗き込んでいた

 

「フッ…あ~!もう暗い話は終わりだ!何か美味い モンでも食いに行くぞ!」

 

まだ次の便が来るまで二時間ちょい残っている

 

メシ食って、後はリーシャの行きたいところに付き 合ってやろう

 

「任せて下さい!さっき東通りで美味しいお店聞い ておいたんです!」

 

「お、マジか!じゃあ案内頼むぞ?」

 

「はい!」

 

そして昼飯を食べて、その後百貨店でリーシャにリ ボンを買ってやってからリベールへと向かった



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『銀』

「カルバードで人喰い教団一斉逮捕…ですか?」

 

「うん。さっき家から連絡が入って来たんだけどさ 。な~んか妙だったらしいんだよね」

 

クローゼとシャルロットはあの一件以来学園で情報 収集に勤しんでいた

 

後々わかったことなのだが、リベールは西ゼムリア 大陸において有数の独立中立国家であり、そのせい かジェニス王立学園には目的が何であれ様々な国か ら生徒が集まってくる

 

しかも一部を除いて生徒は良いとこの坊ちゃんやお 嬢

 

…まさに、情報収集にうってつけの場所であった

 

「…妙、ですか?」

 

「うん。主導者らしき人の部屋に踏み入ったら何故 か“溶けない”氷しか無かったらしいし、協力してた 猟兵団は全員裏庭で縛られてたらしいんだけど…股 間を押さえて苦悶の表情で気絶してるか、全身トマ トまみれになって気絶してるかだったんだって。… 一部は幸せそうな顔してたらしいけど」

 

「あ、あはは… (シャルちゃん…?)」

 

「変な事もあるものなんだね… (多分…いや、絶対ケイジ達だと思う…)」

 

目と目で会話をすませる二人。いくらなんでもこの 短期間で息が合いすぎではなかろうか…?

 

「教えてくださってありがとうございます」

 

「いやいや~。役に立ったかな?」

 

「十分だよ~!ありがと~!」

 

「どう致しまして。じゃあまた何かあったら教える ね?」 そう言って女学生は去って行った

 

「にしても『溶けない氷』ね…」

 

氷は溶けて水になる。これは自然の摂理であって覆 しようの無い事実

 

アーツで作った氷だって、作って数十秒もすれば完 全に消えて無くなってしまう。だから氷系のアーツ は作ってすぐ敵にぶつけるか、相手を閉じ込めてす ぐに砕くしかできない

 

『溶けない氷』なんてあるわけが無い…自身もオー ブメントが水の固定スロットを持つためずっとそう だと確信していた

 

「そういう風にできるんだよ。ケイジは」

 

「…?どういうこと?」

 

「…ゴメン。こればっかりは詳しい事は言えないん だ」

 

「そう…」 めちゃくちゃ残念そうなクローゼを前に『ティアと か総長とかリースとかが後で怖いから』とは言えな くなったシャルロット

 

「で、でもね!?ケイジは『自然の摂理?んなもん 知ったこっちゃねぇよ。俺は俺の考え通りに動かす だけだ』って言ってたよ?」

 

「…?」

 

「大丈夫だよ。僕もワケわかんないから」

 

真っ赤なウソである。星杯騎士団であり、更にケイ ジ直属の従騎士のシャルロットが知らないはずがな い

 

「…まぁ、とにかくケイジが今までカルバードにい たってことはわかったし…カルバード以外の場所を 探せばよくなったわね」

 

「そだね~…カルバードにはしばらくは近寄らない と思うから…クロスベルも外していいね」

 

というかケイジは元々クロスベルには入りにくい。 某頑固爺によって

 

「じゃあ後は…レミフェリア公国か帝国…」

 

「後アルテリアとリベールだね…後帝国は外してい いと思うよ?」

 

「どうして?」

 

「『何っか…堅苦しい』って愚痴ってたから。そっ から『なるべく帝国で仕事受けないようにしよ…』 って言ってたし」

 

「………」

 

クローゼ、絶句。 それでいいのか星杯騎士団

 

「イインダヨ~!!」

 

「急にどうしたのシャルちゃん?」

 

「いや…何かやらなきゃいけない気がして…」

 

「まぁいいけど…一回ジル達のところに行って休憩 しようか」

 

「わ~い!!おやつおやつ~!!」

 

――――――

 

「ふぇ~…やっぱり飛行船だと鉄道とは速さが違い ますね~」

 

「まぁな…この技術があるから今のリベールがある ようなもんなんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ」

 

飛行船の上ではしゃぐリーシャ

 

…こうして見ると本当に身長と性格・体型が合って ねぇな

 

「…何か失礼なコト考えてません?」

 

「ハッハッハ。ソンナアホナ」

 

やべぇ。本気で鋭い。流石は伝説の凶手(?)

 

「…全く」

 

リーシャは一度ため息をつく。心の中での考え事く らい自由にさせろよ…

 

…まだ心読まれないだけマシか

 

「…リベールってどんな国なんですか?」

 

「…リベールか?」

 

唐突にそう聞かれた

 

「はい」

 

「そうだな…簡単にいえば『調和の国』だな」

 

「調和?」

 

「ああ…女王は国民を愛し、国民は女王を敬愛して いる。軍は仕官制で強制なんざ一切していないのに 国の為にとどんどん集まってくる」

 

「へぇ…共和国とは真逆です…」

 

少し俯いて悲しそうな表情になるリーシャ

 

「…まぁな。あそこはお世辞にも一枚岩とは言えな いからな…汚職、裏工作、賄賂――

 

――暗殺」

 

「!!」

 

急にビクついて震え出す

 

「…私、いつも思ってたんです。何で“銀”なんか生 まれたのかって」

 

「………」

 

「“銀”なんて無ければもっとお父さんは長生き出来 たんじゃないか、“銀”なんて無ければもっとお父さ んは私に優しくしてくれたんじゃないか、“銀”なん て無ければ…って」

 

「…そうか」

 

「…でも、私は“銀”を継ぐ事を決めました。修行の 時だけ。その時だけでも父が一緒にいてくれたから

 

…でも、最期の時…父が死ぬ間際…私に言ったんです

 

『私を殺して“銀”を継げ』って」

 

「………」

 

驚きはしない。一度全てを視ているから

 

…視てしまったから

 

「…出来ませんでした。それまで父の言うことには 逆らったことがありませんでしたが…それだけは、 出来ませんでした…」

 

涙がリーシャの目から溢れ出す

 

「…泣き出す私を見て父はこう言ったんです

 

『それもまた、お前だ。

 

――お前の“銀”はお前が決めるがいい』

 

そして父が亡…くなり、私、は“銀”を継ぎ…まじだ… 」

 

とうとう本格的に泣き出してしまったリーシャ

 

…俺は視てしまった

 

だからこそ

 

「……あ…」

 

コイツの傷は、俺が癒やそう

 

俺はリーシャの頭を優しく撫でた

 

「全くよ…お前は“銀”に縛られすぎだ」

 

「………」

 

「…俺もさー、昔似たような事言われたことあるん だよ」

 

「!」

 

「…俺は百日戦没の時に少年看護兵として参加して てな…」

 

まぁ、アリシアさんに黙って行ったもんだから後で しこたま説教くらったけど

 

「…とは言っても兵と言うよりはただの医者みたい なもんだったけどな。 そこであるオッサンにこう言われた」

 

『運命が決まってる?もう命運は尽きた?コイツの 死は免れない? …馬鹿言っちゃいけねーよ。そんなもん誰が決めた 信じてたら女神が絶対に助けてくれんのか?ちげー だろ。んなもん待ってる暇があったらテメーで追い かけろや …別にどうしようと文句は言わねーよ。テメーの人 生だ。テメーの好きにすればいい

 

――テメーの運命はテメーで決めろ』」

 

「!!!」

 

一字一句残さずそのまま覚えてる

 

「多分だが…お前の親父さんが言いたかったのはそ ういうことじゃねぇのか?」

 

「……」

 

「だからよ…お前はお前でいいんだ。親父さんの幻影(あと)を追うのはやめろ。お前はお前のやりたいよう にやればいい」

 

「……いいんですか?」

 

「何がだ?」

 

「もう……人を殺さなくてもいいんですか?」

 

「!…何でそんな事を俺に聞く?」

 

「え?」

 

「言っただろ?…お前の好きにすればいい」

 

「………っ!」

 

それからしばらく、リーシャは静かに涙を流し続け た

 

その日、少女は『銀』から『リーシャ』になった

 

~おまけ~

 

「………むむっ!?」

 

突然シャルロットのアホ毛がピンと立った

 

「どうしたのシャルちゃん?」

 

「ん~…何かケイジが近くに来た気がする」

 

「………え?」

 

「あ、勘だからね?」

 

「わかってるけど…確かに何かこう…言い表せない 不快な感じはあるし」

 

「(ただ…シャルちゃんのアホ毛がどうやって直立 してるのかが…すごく気になる…)」

 

ちなみに、シャルロットのアホ毛が立った時は、ち ょうどケイジがグランセル空港に降り立った瞬間だ ったそうな…



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『迷子』

~ジェニス王立学園~

 

「エステルさん」

 

「クローゼ!」

 

王立学園の正門。現在エステル達とクローゼ達で感 動の再会がなされているのだが…

 

「……(う~ん、僕蚊帳の外だね…)」

 

一人だけ全く入っていけてなかった…

 

――――――

 

「―――と言うわけで、さっさと見回りと諜報を強 化しろ」

 

「いきなり『と言うわけで』とか言われてもわかる わけ無いだろうが…」

 

グランセルで降りた俺とリーシャはすぐにレイスト ン要塞に来た

 

まぁリーシャはツァイスにほっぽりだして来たが…

 

今頃半泣きになってオロオロしてたら………面白いの になぁ

 

それで今カシウスのオッサンと話してる訳だが…

 

「とりあえず理由を説明してくれ」

 

「かくかくしかじかまるまるうまうま」

 

「判るかァ!!お前ただ単に『かくかくしかじかま るまるうまうま』って言っただけじゃないか!!」

 

チッ……面倒くせぇ」

 

「オイ…声に出てるぞ…」

 

「あんれまぁ」

 

まぁワザとだけども

 

「全くお前は…俺をからかいに来たのか?」

 

「That's right!!」

 

「久しぶりに銃の訓練でもするかな~…お前を的に して」

 

そう言って机の下から銃を取り出すオッサン…って ストップストップ!!

 

「大人をからかってすいませんでした不良中年」

 

「分かればいい…って今ナチュラルに罵倒しなかっ たか?」

 

「気のせいだろ」

 

「本当に何しに来たんだお前」

 

「いや…そうだな。そろそろ本題に入るか…

 

帝国が新型戦車の大量生産を始めた」

 

「!!…詳しく」

 

「正確にはかなり旧式で燃費の悪い燃料式の戦車だ 。明らかにエステル達の報告にあったゴスペルの導 力停止現象の備えだろうな」

 

「………」

 

「そして『鉄血の子供達』数名がリベールに侵入し てる。まぁこれは結構昔からだが…」

 

「…帝国がリベールに攻め入る気だと?」

 

「それこそ昔からだろうが…不戦条約だって拘束力 は絶対じゃない。条約違反としてカルバードがこっ ちに味方すると決まってるわけでもない。アンタな らそのくらいわかってるだろ?」

 

「…近々リベールで大規模な導力停止現象が起きる ということか。まぁ、それはいい。諜報も強化する 方向で行く。だが…根拠くらいは教えてくれないか ?」

 

根拠、なぁ…

 

「結社。輝く環。最悪の破戒僧」

 

「なっ!?」

 

「まだ必要か?」

 

「いや、いい…どういうことだ?輝く環はどこかへ 飛び去ったはずじゃないのか?」

 

「飛び去ったんだろうさ。多分時空の狭間にでもな 」

 

「ならばどうやって「一つ良いこと教えておくよ」 …?」

 

「最近カルバードで解決した教団事件…あれの本拠 地に微弱だったがうっすら導力停止現象が起きてい た」

 

そうで無ければ俺の姿がクライフに見つかった訳が ない。認識阻害を“かけっぱなし”だったんだから

 

「俺の瞳は察知不能な幻属性の導力を放ってる。だ から認識阻害が成立してる…」

 

「だがカルバードの事件ではそれが効かなかった… か?」

 

「いや、ある部屋の中でだけ効かなかった。それと その時回収した魔道具は『血の継承』…水と時の魔 道具だ。とてもじゃないが認識阻害を破るなんてで きる訳がない」

 

写輪眼なんか一時聖痕扱いされかけた代物だしな

 

「ふむ…帝国はわからんが結社はゴスペルを完璧に モノにしていると言う訳か…」

 

オッサンがすぐに対策を考え始める。このあたりは 流石なんだよな…

 

「ああ、後…万が一アリアンロードとか言う金髪女 の使徒が出てきたら絶対にオッサンが相手しろ」

 

「……そんなにか」

 

「……今この国でヤツを倒せるのは多分オッサンだ けだ」

 

「お前は?」

 

「…追い込むまでは何とか出来ると思うが…倒すの は無理だ」

 

十中八九倒す前に俺が…死ぬ

 

「わかった」

 

「…頼むぜオッサン

 

―――“あの時”をもうくり返さないでくれよ…」

 

「!!」

 

そして俺は認識阻害を使ってレイストン要塞を出た

 

「アイツ…やはりまだ戦没の時の事を…」

 

――――――

 

「ケイジさーん!……困ったな…どこに行っちゃった んだろ…」

 

一方その頃リーシャはケイジの予想通り半泣きにな ってさまよっていた

 

……“ルーアン地方”を

 

「参ったなぁ…街で一番大きい建物の地下を探して たはずなのに…」

 

要するに、ZCF→カルデア隧道→街道に着いた訳で ある

 

…というか、隧道出た時点で気づけよ。門兵は何を やっているんだってな話である

 

「ケイジさーん……ケイジさーん……」

 

懸命にケイジを探し続けるが、やはりまだ15歳。 目に溜まる雫が少しずつ大きくなっていく

 

そしてそんな時だった

 

~~~~♪

 

突然楽器の音が鳴り響く

 

「ふっ……嬉しいことだね。まさかこんな所で迷子 の仔猫ちゃんに出逢ってしまうとは…」

 

リーシャが声の方を向くと、ボートに乗って川を流 れながらワケのわからない事を言っている危ない人 (←リーシャ視点で)がいた

 

「やぁ、何かお困りかい?人捜しなら不肖ながらこ のオリビエ・レンハイムが力を貸そうじゃないか! 」

 

「………」

 

「だからとりあえずこのボートを陸に上げるのを手 伝ってくれたまえ…」

 

「………」

 

「ん?どうしたんだい?さぁ、僕をこの矮小なる檻 から解き放って「…ケイジさーん」くれたまえって どこに行くんだい!?ちょっと待って!いや、待っ て下さいお願いします!!」

 

――――――

 

「いや~助かったよ」

 

結局、最終的には見てられなくなったリーシャがオ リビエを救ったのであった

 

「…で、何であんな所で遭難してたんですか?」

 

「いや~…実はエステル君達に見捨てられてね。ア ガット君まで『別に放っておいても問題ないだろ』 と言い出してね」

 

「要するに見てみぬフリされたんですね」

 

「はっはっは、面白い事を言うね。ただの彼女達の 照れ隠しさ!」

 

超ポジティブ発言の後、別に頼んでないのにポーズ をとるオリビエ。心なしかリーシャの視線も冷たい

 

「よしたまえ…そんな目で見られると…

 

ゾクゾクしてしまうよ…」

 

「すいませーん!兵隊さーん!!」

 

「ちょっと待って!?そんな迷いなく兵隊呼ばなく ても!?」

 

「だってケイジさんが『危ない人を見たらすぐに軍 に頼れ。リベールの軍人は市民の味方だから』って …」

 

良くも悪くもケイジ中心のリーシャであった

 

「それはそうとケイジ君とやらとはどこではぐれた んだい?」

 

なんだかんだできちんとケイジ捜索を手伝っている オリビエ

 

「いえ…ZCFって所のフロントロビーで待ち合わせ をしていたんですけど…」

 

「ZCF?ならツァイスに戻らないと」

 

「へ?ここはツァイスじゃ…」

 

「ここはルーアンだよ?」

 

「………え?」

 

「………え?」

 

…果たしてリーシャは無事にケイジと合流できるの だろうか



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『弱いこと』

「…で、待ち合わせの時間になっても俺が来ないか らツァイス中を探し回ったと」

 

「ゴメンナサイ…」

 

どうも皆さんおはこんばんちわ。ケイジです

 

現在…説教中です

 

「で、街中探し回ってもいないから俺が迷子になっ たと思って嬉々としてZCFの中に探しに入ったと」

 

「ゴメンナサイ!!」

 

「何でそんなに涙目なんだ?俺は別に怒ってないぞ ?わざわざ人に聞き回ってカルデア隧道まで来させ られたなんてきにしてないぞ?」

 

「だったらなんで私の膝の上に石畳を乗せ続けてる んですかー!!」

 

「はっはっは…お仕置きに決まってんだろうが」

 

今のリーシャの状況を説明しよう

 

下から…地面(凸凹。小石もそこらに転がっている )、リーシャ(正座)、そしてその膝の上に石畳× 4(一個2キロ)

 

つまり…OHANASHI中である

 

「はっはっは、ケイジくん。そのくらいにしてあげ たまえよ。そして僕も解放してくれないかい?」

 

「黙ってろ逆さ吊りの変人。

 

…リーシャ、俺が怒ってんのはなぁ…何でこのバカ でナルシな演奏家気取りの諜報員拾って来てんだァ ァァァ!!」

 

「ゴメンナサイぃぃぃぃぃ!!」

 

リーシャの仕置き完了…さて、

 

「さぁ…キリキリ吐いて貰おうか。情報的にも物理 的にも」

 

「やだなぁケイジくん。僕と君の仲じゃないか。ほ ら、世界はラブ&ピースでまとまるんだよ?」

 

「そうか、喉渇いただろ。水をやろう」

 

「ちょっと待ってちょっと待っ…痛っ!いった!何 コレ懐かしい感覚!昔ミュラーと水遊びした時に溺 れた時の感覚!」

 

ミュラーって誰だよ

 

――――――

 

「…なるほど、お前庶子の皇子だったのか」

 

「はい。その通りでゴザイマス」

 

「嘘吐け」

 

「いや、本当!本当に皇子なんだって!皇位継承権 は無いに等しいけど皇子痛っ!いった!何コレn(r y」

 

「…とにかくお前は『鉄血の子供達』じゃねぇんだ な?」

 

「むしろ敵対関係…かな?」

 

…嘘は吐いてないみたいだな

 

「…うん、ちょうどいいか。オリビエ、お前割と頭 回ったな?」

 

「自分じゃそれなりに回ると思っているけど…どう したんだい?」

 

「何、ちょっとした遊撃士の真似事だ

 

――亡霊事件とその調査ってな」

 

――――――

 

「――と、言う訳で、亡霊の目撃者は4人。それぞ れ飛び去った方角が違うくらいしか違いはありませ ん」

 

オリビエの尋問中、リーシャに情報収集させていた が、想像以上によく集めていた

 

…流石元暗殺者

 

「…オリビエ、何かわかったか?」

 

俺こういう謎解き苦手なんだよな。軍事関係の推理 なら頭回るんだけど

 

「ふむ…どうやら亡霊はジェニス王立学園から飛ん で来ているようだね」

 

「?なんでですか?」

 

「亡霊の飛び去った方角さ。それを線にすると…ほ ら、王立学園で交わるのさ」

 

あ、本当だ

 

「…王立学園に亡霊の噂なんてあったっけなぁ…」

 

よくクローゼとジルに集められて怖い話してたけど 聞いた事も無いんだが…

 

「あれ?ケイジさん王立学園に通ってたんですか? 」

 

「ちょっと前までな」

 

…何かリーシャがキラッキラした目でこっち見てる んだが

 

………なんか照れる

 

「とにかく、早く行こうじゃないか!花も恥じらう 乙女達が咲き乱れる、嬉し恥ずかし青春の学び舎へ !!」

 

野郎もちゃんといるっての…てか

 

「「オリビエ(さん)来んの(来るんですか)?」 」

 

「流石にちょっとひどすぎやしないかい!?」

 

――――――

 

「何かあるとしたらこの旧校舎だと思うんだが…」

 

その後なんだかんだで学園に潜入しました

 

ちなみにリーシャとオリビエは運悪くエステルとク ローゼがいたので遊撃士の協力者って言って合流さ せた

 

…一応認識阻害かけといて良かった。学園に入った 瞬間クローゼと鉢合わせるなんて誰が予想できただ ろうか

 

で、とりあえずエステル達の後から旧校舎に入った んだが…

 

「見失ったな…」

 

結局はぐれてとりあえず学園祭の時にレーヴェがい た場所に来た

 

…校舎に入る前に何か音がしたから何か見つけたん だろうが…

 

「とりあえずリーシャが戻ってから何があったか聞 き出すか…?いや、それだとイマイチ…」

 

「もう遅いと思うぞ?」

 

小さな、本当に小さな殺気を感じてすぐさま刀で首 と心臓を守る

 

すると、まさにガードした瞬間に小さな氷のナイフ が刀に当たって砕け散った

 

「あれ?バレちまったか」

 

「…何者だ?」

 

「何者って…そりゃ敵だよ。見ての通り」

 

構えてすぐさま敵の姿を探すが、どこにも見当たら ない

 

いや、今はそんな事より…

 

「…どうやって俺の認識阻害を…」

 

俺は認識阻害を解いていなかった。ゴスペルの気配 も感じない

 

つまりどこにいるかはわからないが今俺が対峙して る奴は自力で認識阻害を破ったってワケだ

 

「さぁな。わざわざ敵に手の内晒すバカはいないっ ての」

 

「ごもっともだな」

 

…ヤバいな。会話で何とか位置を特定しようともし てみたがエコーがかかったような響き方をしていて 全くわからない

 

写輪眼も使ってみたが四方八方に同じくらいの導力 があって本体がわからない

 

「ははは!会話で俺の位置を探っても無駄だ!お前 とは認識妨害の年季が違うよ!」

 

「………」

 

やっぱり…バレてたか

 

「先輩のよしみだ。一つ教えてやる。お前の認識妨 害は素直すぎんだよ」

 

「…ご忠告どうも」

 

「何だよかわいくねぇなぁ。まぁいいか。今回は挨 拶がわりだしな」

 

「………」

 

「俺は執行者NO,ⅩⅣ“

 

るいひょう 涙氷”だ。“影奏”共々よろし く頼むぜ?」

 

「できればアンタとはよろしくしたくねぇな」

 

「まぁそう言うなよ。…そろそろ向こうも終わった 頃だ。じゃあ今日はこの辺で失礼するわ!」

 

“涙氷”がそう言った瞬間、周りに充満していた殺気 が一気に消え去る

 

しばらくは警戒したままだったが、ほんのわずかな 殺気も感じなくなっていたので警戒を解く…どうや ら寝首をかくタイプじゃないみたいだが…

 

「…っざけんな…執行者であのレベルの奴がいんの かよ…」

 

レーヴェと対峙した時は強い奴がいると思っただけ だった “影奏”の時は姿を見つけられれば勝てるとも思えた

 

「…執行者で勝てねぇと思ったのは初めてだな」

 

俺は…まだ、弱い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PS)オリビエにライバルができました

 

変態仮面がクローゼに惚れたそうです

 

シャルとエステルは幽霊がめっちゃ苦手らしいんや …

 

 



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『決断』

「………」

 

「ああ、おかえりNO,ⅩⅣ」

 

「番号で呼ぶんじゃねぇ…」

 

「ふふ…君は番号で呼ばれるのが嫌いだったっけ? それは失礼」

 

「……前から言ってんだろうが。馴れ馴れしく話し かけんじゃねぇ。俺はお前らの仲間になったつもり は無い」

 

「いいよ別にそれで。君が僕らの計画に携わってく れている…その過程があればそれでいいのさ」

 

「………」

 

「ただね…第二位への助言はいただけないね。アレ は僕の獲物なんだ。狩人が獲物に狩られるなんて格 好つかないじゃないか」

 

「獲物…?アイツが…?ハハハハハッ!!」

 

「…何かおかしな事を言ったかな?」

 

「ああ言ったな!アイツが獲物でお前が狩人!?ケ イジが獲物でおわるタマかよ!!」

 

「…もう一度殺してやろうか?」

 

「おーおー…やれるもんならやってみろや。『アレ 』はもうねぇがお前に負けるほど落ちぶれちゃいね ぇよ…」

 

「ッ…君が次に出るのはロレントだ。それまでは好 きにするといい」

 

「言われなくても好きにすらぁ…」

 

「…何であんなバカをわざわざ蘇らせたんだ盟主様 は…」

 

――――――

 

「やぁ、よく来てくれたね」

 

「…話ってなんなんだオリビエ」

 

日付が変わった頃、俺はオリビエに呼び出されてバ ーに来ていた

 

「イヤァ、実は君に愛の告白を…」

 

「冗談言うだけなら俺は帰るぞ」

 

ただでさえ今はそんな気分じゃねぇってのに…

 

「やだなぁケイジくんってば照れちゃって……って 待って!?結構真面目な話!結構真面目な話だから !!」

 

「…次ふざけたら帰るぞ」

 

仕方なしにオリビエの横の席に座る

 

「…僕が皇子って事は前に説明したよね」

 

「ああ」

 

「実を言うと帝国ではすでに皇帝に力は無い状態な んだ」

 

「…どういう事だ?帝国では国事事業の全てに皇帝 の承認が必要なんだろ?」

 

現代で言う絶対王政のちょっと緩い版みたいな感じ だったはずだ

 

「ああ…だが今それが形骸化しつつあるんだ…かの 鉄血宰相の手によってね」

 

「…なるほどな」

 

三国志の司馬イ、日本の宇喜多直家、松永久秀…

 

国のトップで無かったにも関わらず国を操った宰相 や軍師はたくさんいる。それがこの世界では鉄血宰 相だったという事だろう

 

「そこで僕のリベール訪問の目的が…“剣聖”カシウ ス・ブライトと君…“白烏”ケイジ・ルーンヴァルト との接触だったんだよ」

 

……ああ

 

「つまりは“皇帝に立候補した際の国外からの後ろ 盾”が欲しかったと」

 

「流石だね。その通りさ。僕は皇帝に立候補する。 けどそうなればきっと国外へ出る機会なんて数える 程度になるだろうし、パイプを作る時間なんて勿論 無いだろう。だからこそ今、行動を始めたんだ。庶 子の皇子なんて誰も注目しないだろうしね」

 

「驚いたな。ただのバカかと思ってたが…とんだ曲 者じゃねぇか」

 

ただのバカでナルシで女好きで変態のバイセクシャ ルかと思ってたぜ

 

「ふふ…お褒めに預かり光栄至極。それでどうだい ?協力してもらえるかな?」

 

「…条件だ」

 

「ほう…?」

 

「リベールに危害を与えない…これを守る限り俺は お前の味方になろう」

 

「ふふ…交渉成立かな」

 

オリビエと握手をする

 

…だが…もし鉄血宰相に結社がついていた場合…俺は アイツ等に勝てるのか…

 

「…さて、仕事の話はここまでだ。…君は何を悩ん でいるんだい?」

 

「………」

 

「黙っていてもバレバレだよ?さぁ、恋患いだろう が愛しい人ができたのだろうが何でも話してくれた まえ!」

 

「恋愛ばっかりじゃねぇか…」

 

つーか本当に曲者だなコイツ。シリアスと普段の切 り替えが半端なく早ぇ

 

「さぁ話してごらんよ!さぁさぁさぁ!」

 

………ウゼェ

 

だが、あまりにもしつこいのでとうとう話すハメに なってしまった

 

「ふむ…僕から言える事は一つだね…

 

自惚れるな」

 

「!?」

 

「君一人で全部背負おうなんて自惚れもいいところ だ。クローゼくんは護る対象か?確かに君が大佐だ った時は護衛対象だっただろうさ。しかし今君は大 佐じゃない。それに彼女はずっと護ってあげなけれ ばいけないほど弱くない」

 

「………」

 

「それは僕らだって同じだ。僕は一人じゃ何もでき ないと思った。だから今味方を増やすためにこうし て行動している。エステルくんだって一人でヨシュ アくんを連れ戻せるなんて思っていない。だからた めらいなく仲間に頼み事ができる」

 

「………」

 

「君はどうだ?この数ヶ月で何かが変わったのか? 」

 

俺は…

 

「もういいんじゃないのかい?本当に君が必要なら 彼女達から追って来るさ」

 

「……そうだな」

 

確かに…少し過保護になってたかもしれない

 

護られるだけじゃない…か

 

「そうだな…

 

俺は…アルテリアに“帰る”よ」



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『アルテリアにて』

「はぁ…はぁ…」

 

「……ぐっ」

 

「げほっ…」

 

目の前に、数百人の男達が恥も外聞もなく地面に大 の字でぶっ倒れている

 

「…立てよ。まだテメェラの命は尽きてねぇだろう が」

 

唯一この場で立っている俺が全員に立つように告げ るが、未だに誰一人としてピクリとも動かない

 

「…ぐっ…貴様、何が目的だ……?」

 

「目的だ?んなもん決まってんだろうが…テメェラ の主人の粛清だ」

 

そこまで話した瞬間、俺に話しかけた男の人生は幕 を閉じた

 

――――――

 

「…終わったぞ。総長」

 

「ああ、ケイジか。おかえり」

 

「報告は後で出す。次の仕事は何だ?」

 

俺が総長にそう聞くと、総長は深いため息を吐いた

 

「……お前なぁ…この二日でもう三件も任務を終わら せているだろうが。流石にオーバーペースだ。今日 は休め」

 

…多分だが総長なりに俺の事を気にかけてくれてい るんだろう

 

…だが

 

「どこまで行くか、限界は俺が決める。そして俺は まだいける」

 

「………」

 

総長が諦めたように俺に書類を一束渡す

 

……次はレミフェリアの違法薬物シンジケートか。 マフィア、又は猟兵団を雇っている可能性大、と…

 

そして書類を読みながら俺は総長の執務室を出て行 …

 

「…ティアが心配していたぞ」

 

「………」

 

かずに足を止めた

 

「お前が自分で決めた従騎士だろう。少しくらい気 にかけてやれ。それとリーシャと言ったか?お前に 着いて来てここに滞在している娘もお前の執務室か ら頑なに動かないらしいじゃないか」

 

ティアは先にアルテリアに帰ってからずっと話して ないし、リーシャは何故か俺に引っ付いて離れない ので渋々ここまで連れて来たが、俺が一切構わない 事がわかると、俺の執務室に引きこもってしまった

 

「…関係ないな」

 

「!?…お前…このままあの子達が壊れてもいいと 言うのか!」

 

「…その時は、アイツ等がその程度の女だったとい う事だ」

 

「ッ!」

 

「じゃあ俺は行くぞ」

 

再び足を進める

 

総長が何かを言っていたが、聞こえないフリをして そのまま執務室を後にした

 

――――――

 

「くっ…!アイツは何を焦っているんだ!」

 

一方、ケイジに無視を決め込まれたセルナートは言 い知れぬ怒りを覚えていた

 

確かに今までのケイジは全ての面にかけて甘かった 。甘すぎると言っていいほどに

 

『一人でやれ』とはちょくちょく言うが、その実は 確実に危険が無い、又は危険があってもケイジが対 処可能な領域で任せるだけだった

 

今回のケイジが急に厳しくなった事はある意味良い 方向に向かうと思う…が

 

「(あまりにも急すぎる…このままではティアはま だ大丈夫だが…リーシャとやらが確実に壊れてしま う…)」

 

既にリーシャの生い立ちや行動についてティアから 報告は上がっている

 

…その生い立ちの所為でリーシャがケイジに依存と 言っていいほどの愛情を抱いている事も

 

……かつてのケビンのように

 

「それだけは何とか防がないとな…」

 

騎士だ総長だと言う前に一人の人間として、十年も 経たずに同じような人間を二人もつくりたくない

 

だが…この件はケイジが自分で間違いだと気付かな い限り決して解決はしない

 

「気付けよケイジ…お前の選択は正しいが間違いだ と言う事に…」

 

今はセルナートには、ただただ女神が自身の弟のよ うな少年を導いてくれるよう祈りを捧げる事しか出 来なかった

 

――――――

 

ガチャ

 

「…リーシャ」

 

「………」

 

ティアの呼びかけに全く反応しないリーシャ

 

その目は光を失っており、虚ろに宙を見つめている

 

その姿にかつての天真爛漫な弄られキャラの面影は 全くなく、人形としか呼べない姿だった

 

「…ほら、何か食べないと病気になるわよ?」

 

「…ケイジさんと一緒に食べます」

 

「…ケイジなら後で来るから。ね?冷めちゃうから 先に食べてましょう?」

 

「……ケイジさんと一緒に食べます」

 

…やっぱりか

 

ティアはそんな考えを抱いていた

 

ケイジはリベールから帰って来て以来、執務室に戻 る事もなく、ひたすら任務をこなしている

 

…それに着いて来たリーシャは流石に封聖省の中を 自由に歩き回れる訳もなく、半ば監禁のような形で ケイジの執務室に滞在する事になった

 

街には自由に出る事は出来るが、専用の廊下を使い 、何も無い道を延々と進まなければならない

 

そんな状態であるにも関わらず、リーシャは文句一 つ言わなかった

 

…始めこそリーシャは元気に振る舞っていたが、次 第にその元気は無くなっていき、とうとう今のよう な状態になってしまった

 

何も口にせず、外にも一切出ない。流石に水は飲ん でいるようだが、それ以外はずっとただ宙を見つめ るだけの状態に

 

「リーシャ、本当に何か食べないと…!」

 

「…ケイジさんは」

 

突然ティアの言葉を遮ってリーシャが言葉を紡ぐ

 

「ケイジさんは…お父さんみたいに居なくなったり しませんよね…?」

 

「!!」

 

忘れていた。総長に報告したのは自分なのに

 

リーシャの生い立ち…即ち、“銀”の事を

 

“銀”という仕事…その特性や技量…間違いなくリー シャの父は激務であったはずだ。それこそ体を壊し ても仕方ないほどに

 

免疫と体力が落ちた体では流行り病に罹るのも当然 だろう

 

だが当時“銀”としての修行をしていたとはいえまだ 幼い少女。リーシャに何故父が病に罹ってしまった のかはわかるはずもない

 

突然病気に罹り、突然亡くなってしまったと感じる のも無理は無いだろう

 

…それに、今回のケイジを重ねてしまったのだ

 

突然亡くなってしまった父親と、突然自分から離れ て行くケイジを

 

それがわかった瞬間、ティアはリーシャを抱き締め ていた

 

「…………あ…」

 

「大丈夫。大丈夫だから…」

 

――ケイジは、私が連れ戻すから

 

――――――

 

「…何の真似だ?」

 

俺が任務のための荷物を持って騎士団本部を歩いて いると、何故か完全武装したティアが唯一の出口の 前で仁王立ちしていた

 

「…リーシャと会ってあげて」

 

「…何故?」

 

「あの子にはまだ誰かが必要なのよ。全てをさらけ 出せる誰かが」

 

「ならお前が側にいてやればいいだろうが」

 

「…それが出来るならわざわざ貴方に言いに来ない わ。今それが出来るのは貴方だけなの」

 

「………」

 

黙った俺を了承したと捉えたのか、ゆっくりとこっ ちに歩いて来る

 

「……知らねーよ」

 

「!?」

 

だが俺はそのままティアの横を通る

 

今はリーシャに構っている暇なんて無い…一刻も早 く力が欲しい…!

 

「……ッ!?」

 

しかし後ろから何かが飛んでくる気配がして、無意 識に体を右にそらす

 

するとさっきまで左半身があった場所を投げナイフ が通過していった

 

「…何のつもりだ?」

 

「…見ての通りよ」

 

――わからないなら、一発殴ってでも連れ戻す

 

振り向いた際に見たティアの目は、そう語っていた

 

 



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『vs ティア』

ガギィ

 

「チッ…お前が俺に勝てる訳ねぇだろうが!」

 

「そんなのわかってる!!それでも…それでも!! 」

 

ナイフを握るティアの力が一段と強くなる

 

くっ…ティア自身がなりふり構ってない所為で動き が読み辛い…いつものコイツなら接近戦なんて絶対 に仕掛けて来ないだろうしな

 

「もう見てられないのよ…!あんなリーシャも!無 理して片意地はってる貴方も!」

 

「…昔の自分を見てるみたいで…か?」

 

「!!」

 

「笑わせんな。当時自分すら救えなかった奴がリー シャはともかく俺を救うだと?冗談もほどほどにし やがれ」

 

「それでも!私は!」

 

「まだお前は過去から先に進めてないだけだ。そん な奴に何が救える?まして…

 

お前は俺を何から救うつもりだ?」

 

「…貴方を縛るその元凶からよ」

 

「縛る?別に俺は縛られちゃいねぇよ。俺はただ力 を欲した。それだけだ」

 

「その考えが既に縛られてるのよ! ――エクレールラルムッ!!」

 

ティアの無詠唱の中級譜術が発動し、聖なる刻印が その上に在る邪なるものを焼き尽くす

 

その直前にティアを弾き飛ばして距離を保ったため 、事なきをえた

 

「聖なる槍よ、敵を貫け…!ホーリーランス!!」

 

「雷雲よ、我が刃となりて敵を貫け…サンダーブレ イド!」

 

俺の雷の剣とティアの聖なる槍が同時に発動し、真 ん中で爆発する

 

…相殺された?今までのティアなら耐えきれないレ ベルの譜と導力を込めたはずだ…

 

……ここに来てティアの術の威力が上がっている?

 

「違う。貴方の譜が弱くなってるの」

 

「ッ!…言うじゃねぇか。 ――零の名を冠すものよ、ソイルの下にて具現せん …」

 

「(!!あれは…ヤバい!) ――其は聖光、祝福にして破滅の調べ…」

 

「受けよ!無慈悲なる白銀の抱擁!」

 

「穢れなき風、我らに仇なすものを包み込まん…! !」

 

「アブソリュート!」 「イノセント・シャイン!!」

 

絶対零度の凍雪と、聖なる天風がせめぎ合う

 

「俺は…俺の往く路は俺が決める!誰にも介入なん てさせはしない!」

 

「私は貴方の人生なんて否定してない!だけど…今 まで抱えたものを貴方の都合で放り出さないで!! 」

 

「!!」

 

放り出す…何を?

 

俺は…何を抱えていた…?

 

俺は…何故強くなろうとしている…?

 

………ぐっ…

 

「自分の事も救えないのに誰かを救うなんてふざけ るな?そっくりそのまま返してやるわ!」

 

「…もう、遠慮はしない…決めにいく!!」

 

「上等!!」

 

四の五の考えるのはもう…やめだ!!

 

今はティアを…進む路を遮る奴を…斬る!!

 

「おおおぉぉぉ!!」

 

「数多の刃よ此処に集え…」

 

ティアが真っ直ぐナイフを投げたかと思えば、それ がいつの間にか無数に増えて滞空している

 

「汝が見る夢、刹那と消える…」

 

ナイフが俺に向かってその先端を向ける

 

……が、関係ねぇ。ナイフ諸共斬り伏せてやる!!

 

「斬空刃…」

 

「奥義!百花繚乱!!」

 

「無塵衝!!」

 

縮地にさらに加速を加えたままナイフの雨に突っ込 み、落とす落とす落とす落とす落とす落とす落とす 落とす!!

 

そのままティアに斬りかかる寸前にふと、気が付い た

 

――何故ティア自身は何も動いていない

 

「――破邪の天光煌めく神々の歌声――」

 

「なっ!?」

 

ぬかった!?

 

なら…術の発動前に潰す!

 

「グランドクロス!」

 

そしてティアに俺の斬撃が届き、ほぼ同時にグラン ドクロスが俺を飲み込――

 

「…何をやっているんだ貴様等はァァァ!!」

 

――まなかった

 

物凄いスピードでナニカが俺とティアの間に入って 来たかと思えば、その瞬間には俺は壁まで吹き飛ば されていた

 

「ぐっ!?」 「きゃ!?」

 

「馬鹿共が…今お前達が何をしたかわかっているの か?」

 

さっきまで俺達が立っていた場所には、総長が立っ ていた

 

「ケイジ…お前、本気でティアを斬ろうとしていた な?」

 

「………」

 

「ティア…お前は守護騎士に、しかも第二位に挑む など、自殺願望でもあるのか?この馬鹿が本気なら お前は死んでいたんだぞ?」

 

「………」

 

俺達は何も言い返せない

 

…全部、図星だから

 

確かに俺は今の今までティアを斬ろうとしていた

 

そしてティアは俺が聖痕や万華鏡写輪眼を使ってい れば間違いなく息絶えていただろう……使ってない が

 

「………はぁ、まぁ今は言うだけ無駄だろう。細かい 事は言わないが…ここの修繕費はお前達の給料から きっちり引いておくからな」

 

…まぁ、仕方ない

 

「それとティア…私に着いて来い。任務だ」

 

「任務…ですか?私が?」

 

ティアが若干戸惑っているが、それも当然だ

 

ティアは基本的に俺やシャルがこなした任務の報告 書を纏める事が多く、俺達の任務の付き添いくらい しか動かない

 

正直、一人の任務をしたのは片手で数えられる程度 しか無いのだ

 

「ああ。この任務は“今は”お前にしか頼めないから な」

 

…やたらと“今は”を強調して言ったな

 

「……リーシャ嬢が誘拐された」

 

「「!?」」

 

さらわれた…?リーシャが…?

 

「犯人は元守護騎士第三位のジュリオだ。要求は自 分の守護騎士復帰と、それに伴う第二位のイスだ」

 

「……俺か」

 

ジュリオ。元三位の名前・出自が不明の男。

 

信仰心はそれなりだが、野心が強く、さらに女癖が 悪かった

 

俺がティアを連れてアルテリアに来た時、ティアを 寄越せと脅しを掛けて来た男でもある

 

また、シャルの時も同じような事があり、初めは能 力の高さから許されたが、流石に『女神に仕える身 で女に現を抜かすとは何事か!』と、強制的に聖痕 を剥奪され、正騎士に降格された

 

…確かにアイツとは敵対していたが、まさか聖痕が 得られないのに二位の座を求めるとはな

 

「両方無理だろ。第一その条件に必要な聖痕がもは や奴には無い」

 

「そうだ。それに奴が聖痕を顕現させたのはたった 一回のみ。深淵にも至っていないしな」

 

…俺も至ってないがな。どっちも

 

「…どこだ?」

 

「何がだ?」

 

「奴の居場所だ!」

 

「お前には任務があるだろう?…ティアを斬ってま で行こうとした大切な大切な任務がな」

 

「!!」

 

…そういうことかよ。“今は”を強調した意味がよく わかったぜ

 

「ホラ行くぞティア。私の執務室で任務について説 明する」

 

「え?あ、は…はい」

 

そうして、総長とティアは去って行った

 

「……行くか」

 

自分で自分にティアなら無事にこなせると言い聞か せ、俺は任務に向かった

 

…心のどこかに、何か言い知れない重さを感じたま ま

 



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『空の支配者』

「………」

 

「…よかったの?」

 

「…何がだ?」

 

「リーシャの事」

 

「………」

 

鉄道に揺られながら窓の外を見ていると、ふいにリ ースがそう聞いてきた

 

「大丈夫だ。ティアなら…聖痕の無い相手くらい余 裕で出来る…出来るはずだ」

 

「…ケイジは変わった」

 

「?」

 

変わった?俺が?

 

「以前なら真っ先にリーシャを助けに行ったはず。 他にどんなに重要な任務があったとしても」

 

「…以前の話だろ。今とは違う」

 

今はただ、強くなる…強くならないといけない

 

「そう。今の貴方はシャルが懐いて、ティアに慕わ れた貴方じゃない」

 

「………」

 

「一つだけ言っておく。今回の任務…別に私だけで も簡単にケリがつく」

 

「………」

 

俺、は…

 

――――――

 

「ここね…」

 

現在ティアはアルテリアの国境付近にあるやたらと 大きな屋敷の前にいた

 

屋敷はいかにも伝統のある佇まいであったが、端か らみてやたらと装飾過多で、その荘厳な雰囲気を台 無しにしてしまっていた

 

「全く…どうしてどいつもこいつも無駄に自分の力 をアピールしたがるのかしら…」

 

何だかんだでケイジの件をまだ怒っているティアだ った

 

そして屋敷の敷地内に足を踏み入れると…

 

『ようこそ、我が庭へ。歓迎するぞ我が伴侶よ』

 

「!?」

 

突然どこからともなく声が聞こえ…いや、頭に直接 伝わってきた

 

得体の知れない感覚ではあったが、それは確かに元 守護騎士第三位のジュリオの声であった

 

『む?何を驚いているのだ?貴様とて元二位の副官 だった女であろう?我が力はよく知っているはずだ 』

 

もう自分が第二位の座に座ったつもりで話を進める ジュリオ。

 

『して、そこからでよい。元第二位の無様な亡骸を みせよ』

 

「…ある訳無いでしょう。私がケイジを殺すなんて それこそ貴方が第二位に復帰するくらいありえない わ」

 

『ぬ…約束が違うではないか。我は小娘を解放する 。貴様等は元第二位の亡骸とその座を我に献上する 。そういう取引であったはずだが?』

 

「調子に乗らないで。聖痕も無い貴方がどうして守 護騎士に戻れるの?まして今でもルフィナさんに遠 く及ばない貴方が」

 

『ふん、あんな木っ端と我を同列にしないでもらお うか。我が妻となるならば言動に気をつける事だな 』

 

「…さっきから伴侶だの妻だの好き勝手言ってるけ ど…私は貴方の妻でも婚約者でも無いのだけれど」

 

『愚問だな。我が貴様を妻にしたいのだ。貴様は大 人しく運命に従えばよい。喜べ、貴様には正妻の座 をくれてやろう』

 

ちなみに話しながらも段々と屋敷の本館に近づいて いる

 

「寒気がするわ」

 

『ふっ…嫌よ嫌よも好きの内と言う事か。とんだツ ンデレ娘だ』

 

「違う!!」

 

『フフン、ならば力ずくで我が物にするまでだ。さ ぁ、目の前の扉をくぐるがいい!そして我に跪け! 』

 

「貴方に跪くくらいなら死を選ぶ…それに私は…負 けるつもりはない!!」

 

ティアは目の前の門を開いた

 

――――――

 

「………ここは…?」

 

「ようやく目覚めたか」

 

「!!」

 

ティアが目覚めると、よく絵本で見るような玉座の 間のような場所にいて、その玉座にジュリオが座っ ていた

 

「ジュリオ!?……!?」

 

とっさに譜術を展開しようとするティアだが、どう いう訳か“譜の力が感じられない”

 

そして恐らく何らかの術で眠らされていた間にナイ フを取られていたのだろう。ティアの手元にナイフ が一本も無かった

 

「無駄だ。この場は既に我の支配下にある。この場 には我が許可しない限り貴様等の言う“譜の力”も貴 様が持っていたであろうナイフも存在しない」

 

ジュリオの力…即ち彼の聖痕は『空属性』

 

聖痕を持つ彼の付近の空間そのものを彼自身が望む ように操作できる

 

が、しかし

 

「…どういうこと?貴方の聖痕は強調剥離されたは ずよ。まして三位だった頃ですら自分の意志で使え 無かった聖痕を自由に使えるの…?」

 

そう、ジュリオの聖痕は剥奪されたはずなのだ。そ れなのに聖痕の力を使っている…不思議どころか不 気味で仕方なかった

 

「ふん、それがどうした?現に我は力を使っている 。聖痕の剥奪などが本当に出来ると思っているのか ?」

 

「何ですって…!」

 

思わず身構えてしまうティア。譜術も使えない、ナ イフも無いと言うだけでも相当な劣勢なのに、ジュ リオの聖痕がまだ存在しているとなると元々勝ち目 が無いのに加えて逃げる確率すら限りなく0に近く なるからだ

 

…勿論リーシャが人質となっているために逃げるの は元から選択肢に無かったが

 

「…まぁ、今の我は機嫌がいい。特別に教えてやろ う。 確かに我は聖痕を封聖省の老害共に聖痕を奪われた 」

 

「なら…!」

 

「人の話は最後まで聞くものだぞ…そして実に腹立 たしい話だがその時に我は自分の内に在ったモノに 気付いたのだ。そしてその欠片が我の中に残ってい たのもな」

 

つまりは聖痕を剥奪する行程の途中でジュリオは自 分の聖痕に気づき、その欠片をコントロールするこ とが出来るようになったのだ

 

「まぁ、聖痕そのものでは無い為に我は『聖痕の欠 片』(スティグマピース)と呼んでおるがな

 

…まぁ、お喋りはここまでにしよう」

 

そしてジュリオが指を鳴らすと、ジュリオのすぐ横 に寝台に乗ったまま眠らされているリーシャが現れ る

 

「リーシャ!!」

 

「おっと、そこを動くなよ?動けば…この小娘の首 が無くなるぞ?」

 

そしてジュリオがもう一度指を鳴らすとリーシャの 寝ている寝台が一瞬にして断頭台に変わる

 

「くっ…!」

 

明らかにジュリオにアドバンテージがあるため、大 人しくその場に立ち尽くすティア

 

そんなティアを見てジュリオは満足げに頷くと

 

「うむ…さぁ貴様に許された選択肢はただ二つ。大 人しく我に忠誠を誓い、この小娘と引き換えに我の モノとなること。 もう一つは我に刃向かい、この娘の命と引き換えに 逃亡のチャンスを得ること」

 

「………」ギリッ…

 

「さぁ、どちらを選ぶ?まぁ後者を選んだとて逃げ 切れる道理は皆無だがな!ふはははははは!!」

 

勝ち誇るように高笑いをするジュリオ

 

…ティアは心を折られかけていた

 

自分がジュリオに服従すれば、自分の全てと引き換 えにリーシャの命は助かる

 

だが、ジュリオに服従するのはティアの何かが許し はしない

 

……いっそこの場で命を絶ってしまえば楽になるの ではないか?

 

そんな不穏な考えがティアの頭をよぎった

 

…だが、目の前のリーシャの存在がティアのその行 動を止めさせていた

 

付き合いはシャルよりかなり短いものの、ティアの 中でリーシャはすでに大切な妹のような存在となっ ていた

 

「さぁ、選べ。我に跪くか、小娘の命と引き換えに 一時の抵抗を選ぶか」

 

ジュリオとていつまでも待つ気は毛頭ない。いつの 間にかその手に握られた荒縄はリーシャの上で鈍く 輝くギロチンに繋がっている

 

…文字通り、リーシャの命はジュリオに握られてい た

 

「………」

 

「早く答えぬか。我とてそう気の長いほうではない 」

 

「……私は―――」

 

ティアは、苦々しい表情のままその重い口を開く

 

…ジュリオの口元が、醜く歪んだ

 

 



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『力の意味』

「私は――」

 

ジュリオは自分の勝利を確信していた

 

――かつて自分に屈辱を与えたケイジについに自分 と同じ屈辱を与えることができる…!!

 

ジュリオの心の内はそんな歪んだ歓喜で満ちていた

 

その時だった

 

『じゃあ俺は3つ目を選ぶわ』

 

「「!?」」

 

突然ジュリオの時と同じように、だが伝わるのでは なくしっかり声が響いて聞こえてきた

 

そして突然ジュリオの後ろの壁が吹き飛び、そこか ら物凄いスピードで何かが入って来ると同時にリー シャが断頭台から消えていた

 

そしてその何かはティアのすぐ側にリーシャを抱え て姿を現した

 

「貴様は…」

 

「俺がティアとリーシャを取り返してお前は御用… ってのはどうだ?」

 

「ケイジ……ルーンヴァルトォォォォォ!!」

 

ジュリオの忌々しげな叫びが部屋を包む

 

だが、その一方でケイジは(スティグマ) を展開して、飄々と 、しかし堂々とティアを庇うように仁王立ちしてい た

 

「ようジュリオ。ウチの副官が世話になったみたい だな」

 

「貴様が我の名を軽々しく呼ぶな!貴様如き木っ端 が我の名を口にするなど百年早いわ! …それより貴様どうやってここに入った!?ここに は我とこやつら二人以外は入れぬようにしていたは ずだ!!」

 

「あ~あ~…喚くんじゃねぇようるせーな… そんなもん簡単な話だろうが。」

 

「………」

 

それでも憤怒の表情でケイジを睨むジュリオ

 

それに対しケイジはうっすらと笑みすら浮かべてい る

 

欠片(ピース)如きが本物(オリジナル)に勝てると思ったのか?三下が」

 

だが、その目は一切笑っていない。見た目と口調の 軽さに反して相当キレているようだ

 

「……フ……フハハ…」

 

「あ?どうした?とうとう気が触れたか?王様気取 りのクズ野郎」

 

「フハハハハハハハハ!!!」

 

突然笑い始めたジュリオ。こちらも目は一切笑って いない

 

「貴様如き木っ端が我を三下扱いだと!?これが笑 わずにいられようか!!」

 

「事実だろうが」

 

「…女神を信じぬ不届き者が守護騎士を拝命するな ど赦されると思っておるのか?」

 

「今まで戦闘の度にピンチになっては聖痕に護られ ていた奴に二位が務まるとでも?」

 

「「………」」

 

ただ睨み合う。それだけ、それだけのはずなのだが …周囲の温度が下がって行く…そんな気がした

 

「…やはり、我と貴様は相容れぬな」

 

「何だ今更気付いたのか?」

 

その瞬間二人の姿が消え、ちょうど二人の中央に鍔 迫り合いの形で現れる

 

ケイジは勿論刀を、ジュリオはその華奢な体躯に似 合わない大剣を操っている

 

「力在る者が力無き者を使役して何が悪い!!」

 

「ある奴が無い奴を虐げるんじゃねぇ!導いてやる のがある奴の義務だろうが!!」

 

一旦お互いに弾き合い、再び元いた場所まで下がる

 

「ケイジ、貴方、どうして…」

 

「知らねーよ。わかんねーんだよ。俺だって」

 

「……?」

 

「気付いたら列車から降りててよぉ。頭で戻ろうと してても体が言う事聞かねぇんだ。何度戻ろうとし ても足が前に進みやがる。何度戻ろうとしても…絶 対に止まってくれねぇんだよ」

 

「…!」

 

「何やっても勝手に足が進むもんだからその間に考 えたんだ。……お前が言ってた事の意味を。

 

…それで気付いた。俺が欲した力の意味を。思い出 したんだ。俺の闘う理由を」

 

「!!」

 

そう言って再び駆け出すケイジ

 

「闘う理由だと!?そのようなものを思い出した所 で何が変わる!!」

 

「さぁな…でも俺の中の何かが変わったことは確か だよ!!」

 

「ならばその変わったものを我に見せてみるがいい !!」

 

「言われなくてもそのつもりだ!!」

 

ケイジの翼がより一層輝き始め、その色が白から蒼 に変わっていた

 

「…『我が身に宿りし蒼き羽根』…!!」

 

「フン…聖痕か。だが!」

 

突然ジュリオが距離を取り、何か集中し始める

 

「…はぁっ!」

 

かと思えば、突然その場で大剣を振り下ろした

 

「(何を…!?)」

 

右半身に焼け付くような痛みがはしる

 

ジュリオから意識を逸らさないように痛みがはしっ た場所を見ると、刃物で斬られたような傷がついて いた

 

「ケイジ!!」

 

「いいから下がってろ!(チッ…深いな)」

 

「…フン、やはりまだ誤差があるか。良かったな。 今一時死期が遠のいたぞ」

 

「…にゃろう」

 

一時的に右半身の切れた血管の部分を凍り付かせて 止血する

 

こうする事で致命傷は避けるが…運動能力はどうし ても下がってしまう

 

「フハハハハ!!これが我の力!全てを統べる王の 力よ!!」

 

「………」

 

「どうした!?最早打つ手が無くなったか!?」

 

「…“凍てつけ”」

 

「!?」

 

ケイジの言葉…言霊に反応するように部屋そのもの が氷に包まれていく

 

それと同時にジュリオの足元が凍り付き、その氷が 宙に浮かびまるで十字架のような形をつくる

 

…あたかも、磔の刑に処された死刑囚のように

 

「き…貴様ァァッ!!何故だ…何故譜の力を使える のだ!!」

 

先ほどまでの余裕が嘘のように狼狽え始めるジュリ オ

 

無理もない。絶対だと思っていた自分の力…聖痕の 欠片の空間支配をあっさり破られたのだから

 

「聖痕は聖痕でも所詮は欠片だと言ったはずだ。後 …お前は驕りすぎた。自分の力を過信しすぎた事が お前の敗因だ」

 

「止めろ…やめろォォォォォォ!!」

 

「そして何より…テメェは俺の大切な繋がり(モノ )に手を出した。断ち切ろうとまでしやがった」

 

「我はこんな所で朽ちる器では無いのだ!!我は全 てを統べる王となるまで…死ぬ訳にはいかぬのだ! !」

 

「テメェの都合なんざ知ったこっちゃねぇ…テメェ の器がでかかろうが小さかろうが、それが他人を支 配していい理由にはならねぇだろうが!!」

 

「他人などどうなろうが知った事か!!我は王だ! 王となるのだ!そして貴様は我に屈辱を与えた!! それに罰を与える義務が我にはあるのだ!!」

 

血走った目で狂ったように自分の野心を吐き出すジ ュリオ。その姿は先ほどまでの余裕に満ち溢れた態 度は完全に消え失せ、ただ人を見下し自身を神聖化 している態度に変わった

 

「…罰でも何でも与えりゃ良かっただろうが。何故 直接俺に来なかった?…何故こいつらを巻き込んだ !!」

 

「そんなモノ貴様により深い屈辱と罪悪感を刻むた めに決まっているだろう!!」

 

「…そうか。改めてテメェがどうしようも無いクズ だって事がわかったよ

 

…もういい、消えろ」

 

ジュリオの下半身を覆っていた氷が、再び今度はジ ュリオの全身を凍らせようと動き出す

 

「なっ…貴様ァ!我にこのような事をしていいとで も思っておるのか!」

 

「…『天光満つる処に我は在り、黄泉の門開く処に 汝在り…出でよ!神の雷!!』」

 

ジュリオの頭上に幾重にも重なった譜陣が現れ、そ の全てがケイジの譜によって一つのまとまりとなっ ていく

 

「まさか…貴様…や、やめろォォォォォォ!!……」

 

そしてジュリオが完全に氷の彫刻と化す

 

「さよならだ…お前との因縁とも、意味の無い力に ばかり執着していた自分とも。俺は…ただ、護る力 があればいい!!!

 

―――インディグネイション!!!」

 

聖なる神の雷がジュリオの頭上に堕ちる

 

その衝撃波は凄まじく、その余波だけで部屋の氷が 全て吹き飛んでいく

 

「………ぐっ」

 

「ケイジ!!」

 

辺りを支配していた譜を妨害する力が消えると同時 にケイジが地に膝をついた

 

それを見たティアが慌ててケイジに駆け寄り、すぐ さま治癒を施す

 

全てが終わったはずだった

 

…が

 

パチパチパチ…

 

「「!」」

 

「いや~すごいね~。流石は守護騎士の第二位って 所かな?」

 

どこから現れたのか、氷付けのジュリオを抱えた赤 い服の少年が玉座に座っていた

 

「お前は…」

 

「ああ、僕?君と会った事は無かったね」

 

そう言うと少年はおもむろに立ち上がり、恭しく礼 をする

 

「執行者NO,0。“道化師”カンパネルラだよ。以後 お見知りおきを」

 

「…やっぱり蛇と繋がってやがったか。で?お前も 戦るのか?」

 

「いや?僕は今回は全般的に見届け役だからね。変 に手出しはしないよ」

 

そう言うと、カンパネルラとジュリオの周りに炎が 出現し、カンパネルラ達を包んでいく

 

「…ああ、そうだ。早くリベールに行った方がいい よ?ロレントに“涙氷”が向かったらしいし。下手す るとみんな死んじゃうんじゃない?」

 

「!!待て!どういう事だ!」

 

「別に?僕はただ親切心で情報を教えてあげただけ だよ?信じるか信じないかは君次第♪」

 

飄々と愉快そうに答えるカンパネルラ。その姿はま さに道化師そのものだった

 

「それにそっちの娘…心が壊れかけじゃないの?早 く治療しないと本物の人形になっちゃうよ?」

 

「…っ!」

 

ケイジはカンパネルラの言葉に恐る恐るリーシャの 顔を見る

 

その目に光はなく、また、縛られたり抱えられたり していたのに一切の表情の変化が無かった事からリ ーシャの心へのダメージがどれほど大きかったのか が伺える

 

『本物の人形』…その寸前にまで追い込んでしまっ ていた自分に改めて怒りを覚えていた

 

「それでは皆さん、ごきげんよう。またの機会にお 会いしましょう♪」

 

再び恭しく礼をして、カンパネルラ達は消えて行っ た

 

「…ケイジ」

 

「俺の事もリベールの事も後だ。今は…リーシャを 救うのが最優先だ」

 

「けど…」

 

そう、今回のは外傷でも病でもない、心の傷

 

どうやって治せばいいのか、どうすれば治るのか。 魔を討つ騎士の二人にわかるはずもない

 

「…俺がやる」

 

「できるの?」

 

「わからねぇ…けど、リーシャがこうなったのは俺 の所為だ。俺がやらねーと筋が通らねぇだろうが… ただぶっ倒れるかもしれないからその時は頼むな」

 

そう言うと、ケイジはリーシャの頭に手を当てた

 

「『我が深淵にて煌めく白銀の刻印…』」

 

そう言うと、ケイジはその姿勢のまま意識を遠のか せた

 

「ぶっ倒れるって…元に戻ったら戻ったで相変わら ず自分の事を犠牲にしようとするんだから

 

………ばか」

 

ティアのつぶやきは、剥き出しになった夜空に溶け ていった

 

――――――

 

「………」

 

小さいような、大きいような、ただ黒が広がる世界

 

そこでリーシャは、ただ縮こまっていた

 

――どうしてお前の周りから人がいなくなる?

 

…私が、“銀”だから。人殺しだから だから、みんな私の側からいなくなる

 

――どうして、お前は人を殺した?

 

…私が“銀”だから。お父さんを失望させたく無かっ たから。…お父さんに褒められたかったから

 

――何故お前の大切な人はお前の側を去っていく?

 

…もうわからないよ。やめてよ。聞きたくないよ…

 

――何故お前は…

 

止めて

 

――何故…

 

止めて

 

――何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何 故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故 何故何故…

 

もう嫌だ…何で私がこんな目に会うの?私が何をし たの?聞きたくないよ。もう嫌だよ。責められるの も、避けられるのも、怖がられるのも、罵られるの も…もう嫌だよ…

 

――『なら、お前はどうしたい?』

 

…楽になりたい。出来る事なら、もう一度一からや り直したい

 

――『…罪を無くすなんてそんな都合のいい事は出 来ないぞ?』

 

それでも…私の側から人がいなくならないなら。み んなで笑っていられれば。それで充分

 

――『全く…それはお前の本当の思いか?何か取り 繕おうとしてないか?』

 

それは…

 

――『もう一度聞くぞ?お前はどうしたい?…お前 の願いは何だ?』

 

…私は。私は…誰かに側に居てほしい。私を包み込 んで、優しくしてほしい…

 

私を…助けてよ…

 

「その願い…俺が聞きとどけてやるよ」

 

「え…」

 

誰かが後ろからリーシャの頭に手を置いて、乱暴に 撫でる

 

リーシャが振り向くと、柔らかい笑みを浮かべてケ イジが立っていた

 

「どうして…」

 

「お前がうじうじメソメソして引きこもってっから 迎えに来たんだよ。ま、ついでに本音も聞き出した けどな」

 

その言葉を聞いて真っ赤になるリーシャ

 

「せ…責任取って下さいーーー!!?」

 

「(…何の?)とりあえず文句は後だ」

 

ケイジが一度目を閉じて、もう一度目を開くと、目 の色が紅く変化しており、さらに目に二重の三枚刃 の手裏剣のような紋様が浮かび上がっていた

 

「とにかく、さっさとここから出るぞ。お前はこん な暗い所にいていい奴じゃない。今まで暗い、昏い 場所にいたんだ。今度は日の当たる場所を歩いてみ ろよ」

 

「ケイジさん…

 

でも、どうやってここからでれば…」

 

「イメージしろ。自分が元に戻る姿を…後は俺が導 いてやる」

 

「でも…」

 

「俺を信じろ」

 

その言葉に再び真っ赤になるリーシャ。しかし、意 を決したのか目を閉じてイメージを始める

 

「そのイメージをそのまま続けろ…

 

――イザナギ」

 

そしてケイジとリーシャは光に包まれ、黒の世界か ら消えた

 

――――――

 

「ん…」

 

強い光が目に入り、意識が徐々に浮かび上がるリー シャ

 

「リーシャ!」

 

「…目が覚めたか?」

 

「ケイジさん…?ティアさん…?」

 

目を開くと、今にも泣きそうなティアと左目から血 を流しているケイジがいた

 

「…ケイジさん、その目…!」

 

「…気にするな」

 

「気にするなって…まさか見えないんですか!?」

 

現に今の所一度もケイジは左目を開けていない

 

「………」

 

「見えないんですね…何で私のために…私なんかの ために…」

 

「あ~…泣くな泣くな!お前がああなったのは俺の 所為でもあるからな。それに…いま言うのは『ごめ んなさい』じゃねぇだろう?」

 

リーシャが涙を拭って二人を見ると、二人とも優し く微笑んでいた

 

「………ただいま」

 

ちょっと照れたようで、顔を背けながらそう言った

 

そんなリーシャを見て、ケイジとティアは顔を見合 わせて笑う

 

「「おかえり」」



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閑話『ケイジとレーヴェのワクテカQ&A』

「ケイジと!」

 

「…レーヴェの」

 

「「ワクテカQ&A~」」

 

「ってワクテカするかァァァァ!!相方レーヴェと か静かにもほどがあるわ!リーシャは!?ティアは !?」

 

「…リーシャとやらは知らんがメシュティアリカな ら…裏でカリンとプロデューサーをしているぞ?」

 

「弄られキャラかツッコミをよこせよ!!オチが無 くなるだろうが」

 

「…なんでやねん」

 

「そんなローテンションのツッコミはいらん!リー シャの必死ツッコミは!?ティアの真面目ツッコミ は!?」

 

ガサガサ

 

「ん?」

 

『たまには真面目にやりなさい』(ティアがガラス の向こうからカンペに書いて見せている)

 

「マジかよ…」

 

「…まぁ、諦める事だな」

 

「というかレーヴェ…お前なんでそんなにテンショ ン低いんだ?」

 

「…誰も」

 

「ん?」

 

「誰も…俺をレオンハルトと呼んでくれない…本名 なのに」

 

「ああ…」

 

「最近ではアリアンロード以外は全員レーヴェレー ヴェと!俺の本名はレオンハルトだ!」

 

「ああ、あの武力さえなければ金髪美人の残念な人 か…」

 

ガチャ

 

「…レーヴェ?そのアリアンロードって人について …しっかり説明してもらいましょうか?」

 

「か…カリン?待て!待ってくれ!誤解だァァァァ …」

 

レーヴェ&カリン、退室

 

「………」

 

『話進まないから早く説明して』

 

「お前はお前で容赦ねぇのな…

 

はい、軽くトラブルが入りましたがこのコーナーは 作者が返信はしていますが『わざわざ感想に何回も 入って見る人っていんのかな~』と思ってこの小説 に寄せられた感想での疑問質問に答えるコーナーで す。尚、ここは本編とは一切関係ない別次元なので メタ発言なんて当たり前だと思って下さい!

 

では、第一回Q&A、スタートです!」

 

――――――

 

ガチャ

 

「………」

 

「あ、おかえりレーヴェ…って大丈夫か…?」

 

「…死ぬかと思った」

 

「…何があった?」

 

「…聞きたいのか?」ガタガタブルブル

 

「…いや、ヤメとく(この小説で最強なのカリンさ んかも知れねーな…)

 

とにかくさっさと質問いくぞ?」

 

ダダン!

 

『ケイジは何時守護騎士になったの?』

 

「今のBGMは何だ?」

 

「あんま気にすんなレーヴェ。俺は気にしない

 

…ん~、聖痕云々で言うなら生まれつき?」

 

「そういう問題じゃないと思うぞ?多分何時封聖省 に入ったか、と言うことだろう」

 

「ああ、そういうことか。確か…百日戦没が終わっ た辺りに封聖省に目を付けられて…その1ヶ月後ぐ らいか?」

 

「…お前何歳の時だ?」

 

「7か8」

 

「…つくづくチートだなお前。何で7か8で聖痕が 覚醒するんだ…」

 

「ぶっちゃけ今使ってる聖痕の方は貰いもんだしな …」

 

ピピー!

 

『これ以上はネタバレだからダメ!』

 

「…だそうです」

 

「とにかくケイジが封聖省に入ったのは大体8くら いらしいな」

 

『何で守護騎士と大佐を両立できたの?』

 

「これは確かに矛盾だな。確か守護騎士には何か盟 約があったのでは?」

 

「ああ、『その血肉を七耀の理に、魂を女神に捧げ よ』的な奴か?…あれ?逆だっけ?」

 

「…うろ覚えなのか」

 

「だって俺別に女神信じてねぇもん。元々王国軍に いた時にあの樽豚が無理やり引き抜こうとしてアリ シアさんが何かしたらしい」

 

「お前8歳で軍にいたのか…」

 

「いや~…百日戦没でやらかしすぎたから…」

 

「成る程、逆に一般人としておくとお前が危なかっ たわけか」

 

「ま、そういう事。詳しい事はアリシアさんに聞か ねーとわかんねぇな」

 

『シャルロットって…ISの?』

 

「そうだな。ちなみにティアもTOAのティアだ」

 

「…俺が話せる事はないな」

 

『何故クローゼの両親がクロスベルに?』

 

「…さあ?」

 

「それでいいのか…?」

 

「だって…なぁ?

 

ティア~?」

 

『作者に聞いてみた所…なんか原作の碧でクローゼ がクロスベルの墓地にいたから何かあるんじゃねぇ か?だったら仕様でいってみよう!…って感じでや っちゃったらしいわ』

 

「…だそうですよ」

 

「作者…もっと後先考えろ」

 

『万華鏡写輪眼…いつ開眼したの?形は?』

 

「…いつかはノーコメントで。話したくない理由は …わかるだろ?」

 

「形は…『イタチのかオリジナルかで迷った挙げ句 、カカシのに決定しました』だそうだ」

 

『シャルのアホ毛って触角なの?』

 

「本人曰わく、『ケイジが近くに来たらなんとなく わかる』らしいぞ?」

 

「…それ触角と言うよりレーダーと言うのではない か?」

 

「まぁ…昔認識阻害使っててもアホ毛は反応するの か実験したら、部屋に入る前に気付かれたからな」

 

「何だその無駄な高性能は…」

 

「本人に言ってくれ…」

 

『リーシャ誘拐しちゃダメじゃね?』

 

「してねぇよ!!!」

 

「ケイジ…お前…」

 

「その危険人物を見る目止めてくんない!?結構傷 つくから!」

 

「いや…お前、昔俺がレンを結社に連れて行こうと した時同じ事をしただろう?」

 

「根に持ってた!?」

 

『百日戦没について』

 

「これは疑問の声が多かったな」

 

「ん~…あんま詳しく言うとネタバレになるんだが な…」

 

「言える所だけ言ってしまったらどうだ?」

 

「そだな。

 

まず俺は軍の医療部隊に参加したんじゃない。所謂 NGO的なものに参加してたんだ。始めは『子供に何 が出来る』みたいな感じで舐められてたけど。で、 すんげぇ端折るけど…電撃作戦のちょっと前くらい に聖痕使ってやらかして…気付いたら軍にいた感じ だな その後はさっき話したと思うけど、普通に暮らすの も危ないから軍に入った。んでその生活に慣れたく らいに不戦条約が結ばれて、今更辞めんのもなぁ… ってなった」

 

「この『希望を与え続けた』と言うのは?」

 

「…ティア~?」

 

「そこ人任せなのか!?」

 

『ケイジは某型月で言う“カリスマA”のスキル持ち らしいわよ。だから軍の混乱が一気に無くなったか らそれで士気が上がったんじゃない?』

 

「俺カリスマスキル持ちだったのか~」

 

「…何だろう。割と重い話題の筈なのにこのフワフ ワ感は…」

 

『ケイジの本当の力って何なの?』

 

「…完璧ネタバレ質問来たな」

 

「これは…な」

 

「感想でも書いたらしいが、ヒントは俺の聖痕の詠 唱らしいぞ?」

 

『イザナギって…失明するの?』

 

「使ったの三秒くらいだったから、本当に少しずつ だけど視力は回復していってるぞ?」

 

「…というかイザナギって自分に使う術だって昔に 言ってなかったか?」

 

「そだよ?自分に不利な現象を夢にして、自分に有 利な現象を現実にする。幻術だけど、現実に作用す る禁断の瞳術。…まぁ、制限時間があってそれ越え ると完全に失明するけどな(wiki参照)」

 

「勝てないじゃないか。それ使われると」

 

「けど、正直二度と使いたくねぇよ。三秒くらいし か使ってないのに目から血が出るわ、ものっそい痛 いわ…」

 

「まぁ、強い力はそれなりの代償がいるという事だ な」

 

――――――

 

「終わったぁ!!」

 

「現時点の疑問だけだがな」

 

「増えたらまたやるらしいぞ?次やる時にまたレー ヴェが相方かどうかはわからないらしいけど」

 

「大丈夫だ。カリンがプロデューサーならまた俺が 来る」

 

「…ガラスの向こうでカリンさんがすんげぇキラキ ラした目してんだけど

 

…レーヴェ、何か言っときたい事あるか?」

 

「…出番がほしい!」

 

「作者に直接言え

 

…さて、今回はこれで終わりです。これからもこの 小説をよろしくお願いします!」

 

「「それでは、また!」」

 

 



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『休日』

「…どう?見える?」

 

「いや…まだ無理だな。というか目開かねーし」

 

リーシャ救出から三日。俺は治療と言う名目で監禁 されていた

 

「だったらまだ外には出せないわね …リーシャ、今日も頼むわよ?」

 

「はいっ!」

 

「って待てリーシャ。お前ただの見張り役だろうが !何で毎日毎日俺の膝の上に乗る!?」

 

軽いから始めはまぁいい。でも何時間も座られたら 足が痺れてしゃあねぇんだよ!

 

…羨ましい?じゃあ変われコノヤロ―。あのティア でさえ遠慮しやがったってのに

 

「…駄目…ですか…?」

 

「…ケイジ?まさかリーシャを泣かせたり…しない わね?」

 

「………」(汗)

 

止めろリーシャ!そんな捨てられた子犬みたいなウ ルウルした目でこっち見るな!!ティアが怖いから !子犬の世話する鬼に睨まれてる気分だから!!

 

だがしかし!俺はNOと言える日本人(元)!ここ はきっちり…

 

「…もう好きにして下さい」

 

「よろしい」

 

…言えませんでしたが何か?

 

というか俺上司だよな?何か最近うだつの挙がらな い亭主みたいになってんだけど

 

「~~~♪」

 

「良かったわね、リーシャ」

 

「はいっ!♪」

 

…ま、今まで迷惑かけた分、しばらく好きにさせて やるか

 

「…ってリーシャ!お前好きにしろとは言ったけど 抱きつくのは止めろ!流石に絵的に…」

 

ガチャ

 

「………」

 

「…そ、総長?」

 

「あ~…ケイジ?お年頃なのはわかるが…流石にリ ーシャは年齢的に犯罪になるんじゃ…」

 

「違ぁう!!」

 

「?私15ですけど?」

 

「なっ!?…成る程、洗脳か」

 

「だから違うって!?」

 

「む~…何か失礼な事考えられた気がします…」

 

「…まぁ、双方が合意しているなら文句は言わない が…… 避妊はしっかりな?」

 

「だから違うって言ってんだろうが!ちょ!?待っ て!?そーーちょーーー!!」

 

「ティアさん、ひにんって何ですか?」

 

「リーシャにはまだちょっと早いかな?」

 

「むー…ティアさんまで私を子供扱いして…」

 

「(どっからどう見ても子供だしな…体型的にも、 精神的にも…はぁ、総長思い込み激しいからな…ど う説明したもんか…)」

 

「(そういう所が子供っぽいんだけどね…今回は流 石にフォローしてあげよう)」

 

――星杯騎士団、第二師団。現在活動休止中

 

――――――

 

「………」ムスッ

 

「?どしたのクローゼ?」

 

「いえ…何故か無性にこう…イライラして…」

 

「…?」

 

「…いえ、すみません。何でもないです」

 

「そう?」

 

…何とも勘の鋭いクローゼであった

 

――――――

 

ピーン!←アホ毛が立った音

 

「むむっ」

 

「どうした?」「む~…何か最近どんどん僕のポジ ションを誰かに取られてる気が…」

 

「何の事だよ」

 

アガットとティータは全く訳がわかっていない。む しろ二人共何故アホ毛が立ったのか、と考えている

 

「だって最近僕の出番ないし!ティアなんて最近主 役並みの登場率なんだよ!?リーシャなんてクロー ゼ抜かして正ヒロインの座奪ってんじゃないかって くらいのイベント率なんだよ!?」

 

「いや知らねーよ!?それにリーシャってあのリー シャか!?」

 

「というかメタ発言ダメー!!」

 

…上には上がいるものであった

 

――――――

 

「ああ…何とか疑惑は晴れたな…」

 

「総長ってあんなに思い込み激しかったのね…」

 

リーシャを何とか部屋に置いて来て、総長に全力で 弁解すること一時間。やっと総長の誤解を解く事に 成功した

 

…アイツがついて来たら確実に背中に引っ付いてく るからな。それで俺の精神がガンガン削られんだよ …周りの奴らの生温かい目によって

 

「ま、誤解も解けたことだしよしとするか」

 

「そうね…貸し一つよ?」

 

「はいはい…で?今日は?」

 

「そうね…リーシャの好きなものにしましょうか」

 

「じゃあさっさと部屋に戻るか」

 

――――――

 

『…と言う訳さ。今回はミュラーもしてやられたよ うだね』

 

「だからミュラーって誰だよ…」

 

現在俺の執務室の前。ティアとリーシャが今日の昼 飯をどこで食うか相談してる間にオリビエにリベー ルの様子を説明してもらっている

 

…この前逆さ吊りにした時に色々条件つけて解放し た。これもその一つだ

 

『僕の護衛さ。普段はなんやかんやで撒いて好き勝 手させてもらっているけどね』

 

「護衛の意味なくね? …まぁ、とにかくヨシュアはやっぱり結社には戻っ てないと」

 

『そうだけど…君はどうやらヨシュアくんの動きを 知っていたようだね』

 

「別に知ってた訳じゃない。アイツがやろうとして る事を知ってただけだ」

 

『…やっぱり戻って来てあげてはくれないかい?空 元気を見せてはいるけど、エステルくんも、シャル くんも日に日に弱っているように見えるんだよ。 …それに、何よりクローゼくんが誰より待ちわびて いるよ?』

 

「………そうか」

 

『そうかって…』

 

「何もアイツらまで闇に引き込むことも無いだろ。 それとも…死の危険を犯してまでこっちに連れて来 いと言うのか?』

 

『………』

 

「…どうやらティア達の相談が終わったらしい。そ ろそろ切るぞ」

 

『え?ちょっ!?』

 

プツッ

 

「…通信?」

 

「ああ、ちょっとな…決まったか?」

 

「はい!ちょっと前に私の故郷の料理専門店を見つ けたんですけど…ちょっと高くて手がでなかったん です」

 

「…え゛」

 

「でもケイジさんが奢ってくれるんですよね?あり がとうございます♪」

 

「ごちそうさま。先に言っておくわ」

 

ニヤリと腹立つ笑みを浮かべるティア

 

…コノヤロー…確信犯だ

 

「てめ、ティア!お前あえて高い店選んだだろ!? 」

 

「さて、何の事かしら?文句なら店を見つけたリー シャに言いなさい」

 

「リーシャぁぁぁ!!」

 

「えぇ!?結局私なんですか!?」

 

「黙って大人しく捕まれ!今ならウメボシと悪夢三 十分で許してやる!」

 

「絶対嫌ぁぁぁぁぁ!!」

 

俺がリーシャを捕まえにかかり、リーシャが必死に 逃げ回る そしてそれをティアが薄く微笑んで見ている

 

「ほらほら、先にご飯食べに行きましょう?早くし ないと混んじゃうかもしれないし」

 

「くっ…リーシャ、命拾いしたな」

 

「ほっ…助かりました…」

 

「けど残念だったな!帰ったらウメボシと石畳三時 間だ!」

 

「更に刑が重くなってる!?ティアさん!助けて下 さい!」

 

「もう何でもいいから早く行きましょ?私昼から書 類仕事あるのよね」

 

「ティアさぁん!?」

 

「ならさっさと行くか…ククククク…これで昼から は暇つぶしのネタができたな…」

 

「私暇つぶしで処刑されるんですか!?」

 

「ほ~ら、ワガママ言ってないでさっさと行くぞ~ 。ティアも行っちまったし」

 

「ワガママ!?私が悪いんですか!?私が悪いんで すか!?」

 

俺がリーシャをいじり、リーシャが必死になって逃 げ回り、ティアが止めたり止めなかったりする

 

こんな何でもないような一日に…俺は安らぎを感じ ていた

 

願わくば、また、こんな日が訪れるように…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「私(僕)は!?」」

 

「きゃ!?…突然叫んでどうしたのよ?」

 

「「いや、何か捨て置けないくらいの嫌な感じが… 何か仲間外れにされた感が…」」

 

つくづく感のいい女の子達だった

 

 



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『ロレントにて』

「後はエリーズ街道だけだったっけ?」

 

「そうね。ついでに家の様子も見に行くんでしょう ?」

 

現在、エステル、シェラザード、クローゼ、シャル ロットの四人で街道の調査をしている

 

霧の発生範囲を調べているのだが、今の所唐突に霧 の濃さが変わる以外の異常は見られていない

 

「エステルさんの家ですか…少し楽しみですね」

 

「散らかってるイメージしか無いけどね~」

 

「シャ~ル~?どういう意味よ!」

 

「だってエステルおおざっぱだもん。料理とか修理 とか」

 

「確かにエステルは大体勘で片付けようとする所が あるものね」

 

「シェラ姉まで…」

 

「ほら…僕の勝ち♪」

 

「勝ち負けの問題なのかしら…って」

 

ロレントの街を出てすぐ、霧が急激に引いた

 

「ここで霧は切れてるみたいですね」

 

「そうみたいね…エリーズ街道、ロレントから南に 約60セルジュと…」

 

「これで全部の街道を見て回ったわね…じゃあ悪い けど、家の様子を見て来てもいいかな?」

 

「いいよ~!僕達も行くけどね…!」

 

突然シャルのアホ毛が直立し、シャル自身、何故か 警戒し始めた

 

「シャル?」 「シャルちゃん?」

 

シャルの雰囲気が完全に変わる。今は淡々と獲物を 狙う鷹のような目をしている

 

「…何か…来るよ」

 

「…そうみたいね」

 

シャルロットは双銃を、シェラザードは鞭を構えて 何かに備える

 

「な、何なの?」

 

「エステルさん、私達も!」

 

「え?で、でも…」

 

「シャルちゃんの勘は外れた事が無いんです!少な くとも私が見てる限りは!」

 

「何その天然チート!?」

 

「二人共!後ろ!」

 

シャルロットの声とほぼ同時にエステルとクローゼ の後ろに氷の彫刻のような魔獣が現れる

 

「何こいつ!?」

 

「彫刻…!?」

 

「何のん気な事言ってるの!迎撃するわよ!」

 

「「「応!!」」」

 

魔獣の初撃を避け、早速とばかりにエステルが一撃 入れる

 

…が

 

ガキィ

 

「弾かれた!?」

 

「くっ…」

 

シャルロットがすかさず双銃を連射するが、やはり 弾かれる

 

「…これ、氷かと思ったけど…水晶と金剛石の混ざ ったやつだね」

 

「水晶?」

 

「鉱石の一種ですね。水晶はそれ程硬い訳ではない ですが…金剛石は鉱石でも屈指の硬さを誇ります」

 

「私達の武器じゃ通らないわね…」

 

恐らくアーツでもそうダメージを与えられないであ ろう装甲の硬さ。しかしここを撤退しては、街が目 と鼻の先となるため撤退もできない…

 

「…我求めるは集いし清水。集い来たりて敵を討て ! ――スプラッシュ・ブレイド!!」

 

魔獣の頭上で高圧で圧縮された水が剣の形を取って そのまま魔獣を真っ二つに切り裂く

 

そしてそのまま魔獣は消滅していった

 

「な、何あのアーツ!!」

 

「あれはアーツじゃありません…ケイジが使う技で 『譜術』と言うらしいです」

 

見た事のない魔法にエステルが仰天するが、事情を 知っているクローゼが説明する

 

「技…?って事はクローゼも使えるの?」

 

「そうね。私達も使えるのなら使ってみたいし」

 

「お二人が使えるかはわかりませんが…私は使えま せん。ケイジ曰わく『譜に対する適性と属性に対す る適性が無いと使えない』だそうで…」

 

「じゃあシャルは適性があったの?」

 

「僕は中級までならあるみたい」

 

いつの間にか戻って来ていたシャルロットが会話に 加わる

 

「あるみたいって?」

 

「譜の適性は今のところケイジ以外にはわからない んだよ…僕は中級までなら全属性使えるけど、治癒 系と上位は使えないんだ」

 

「「(あれで中級なのか…)」」

 

明らかに上位のアーツ並みの力があった譜術。上位 ってどうなるんだ…というのがエステルとシェラザ ードの内心だった

 

…もっともシェラザードは一回見ているのだが

 

「それより…まだお客さんがいるみたいだよ?」

 

シャルロットが銃をある一点…すぐ側の木の中心を 撃つ

 

すると、一瞬で氷が盾のように広がり、弾丸を弾い てしまった

 

「「「!?」」」

 

「やれやれ…せっかちな嬢ちゃんだな…」

 

「影からコソコソ覗き見するような変態さんにはち ょうどいい罰じゃない?」

 

無邪気な笑顔で毒を吐くシャルロット

 

…何となく隠れていた奴がどんな表情をしているか 予想がつく

 

「…可愛い娘にそんな事言われたら割とマジで傷つ くんだけど」

 

「…ドンマイ」 「(ケイジ…シャルちゃんに何教えたのかしら…) 」

 

何故か敵なはずなのに同情される。何とも哀れな光 景である

 

「…ありがとう嬢ちゃんその二。けどその気遣い逆 に傷つくからな?」

 

そして男が姿を現した

 

「「………」」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

男の姿を見たクローゼとシャルロットが固まる

 

無理もない。男の姿は二人が探し続けているケイジ によく似ていた。いや、似すぎていた

 

これではまるで…

 

「あの…名前を教えてもらえますか?」

 

「あん?そういや名乗ってなかったか

 

“身喰らう蛇”が執行者、NOⅩⅣ“涙氷”リーヴ…そう だな、ただのリーヴだ」

 

「「「ッ!!」」」

 

何かを言いかけたような歯切れの悪い返事だったが 、身分を明かしたリーヴ

 

そしてそれに反応したエステル達は身構える

 

が、シャルロットだけは全く違う反応を示していた

 

「…リーヴ…?」

 

リーヴの名前を聞いた時から、何か考え込んでいた

 

「シャル!構えて!」

 

「…シャルちゃん?」

 

「っ!…ごめんなさい。(そうだよね…あの人はも う死んでるらしいもん…)」

 

しかしエステル達の呼びかけですぐに気を取り直し 、双銃を構える

 

「…なるほどな、あんたらが剣聖の娘に姫殿下。そ れと…白い()の愛弟子ってとこか」

 

「「「ッ!!!」」」

 

「…私達の事をよく調べているご様子で」

 

「いやいや、本職の人間に調べてもらっただけだか らな…“銀閃”殿」

 

当然のごとくシェラザードの事も当ててみせるリー ヴ

 

その事にさらに身構える四人であったが…

 

「…ああ、そんな身構えんでもいいぞ?俺今戦う気 ねぇし」

 

「「「「…は?」」」」

 

「いや~、ぶっちゃけ呼ばれたはいいけどやること ないんだわ。今回はカンパネルラの阿呆に見届け役 の代わり頼まれただけだしな …まぁ、ある奴が入って来た時だけは手ェ出すけど 」

 

かなりやる気なさげに言うリーヴ。雰囲気的にも殺 気的にも全く戦う気配がない

 

「なら何で…」

 

「いや、あんな氷人形(ゴーレム)ごときにやられたんじゃとて もルシオラには勝てねぇからな。そん時はちと稽古 つけてやろうかな~と「ルシオラですって!?」

 

「シェラ姉!?」

 

「…人の話は最後まで聞こうぜ姉ちゃん」

 

「いいから早く教えなさい!ルシオラ姉さんがここ にいるの!?どうしてあなたが知っているのよ!」

 

「ちょっとシェラ姉!落ち着いて!」

 

「そうだよ!いつものシェー姉っぽくないよ!」

 

必死にエステルとシャルロットが止めるが、尚もリ ーヴに食ってかかるシェラザード

 

「…ああ~!お前が…なるほどな」

 

「いいから答えなさい!」

 

「いや~悪いな。アイツに口止めされてんだわ。悪 いが教えることはできない

 

…ただ、これだけは言える」

 

「………」

 

「この事件を追っていれば自然とルシオラに辿り着 くだろうさ」

 

「…!」

 

「じゃあそろそろ俺は行くわ。なんだかんだでうる さいからな…あんま干渉しすぎると」

 

そう言ってケイジの認識阻害のように周りの景色に 溶け込んでいくリーヴ

 

「ああ、それと姫さんに金髪毒舌少女」

 

「…何ですか?」 「なに?」

 

「アイツを頼むわ …ほっといたらどんどん負のループに突っ込んでい きそうだからな」

 

「「…!!」」

 

そう言った瞬間に完全にリーヴの気配が消える

 

「「………」」

 

「アイツ…誰の事だろ…?」

 

「…さぁ、誰ですかね?」

 

「…誰だろうね(やっぱりあの人…)」

 

色々波乱を残したまま、エステル達はロレントでの 執行者とのファーストコンタクトを終えた



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月の扉『白烏の唄~序編~』

ケイジの過去のさわりです


これやらないとこの先イマイチ分かりにくくなると思ったので…


~リベール王国・ハーケン門付近~

 

~王国義援隊・医療部、キャンプ~

 

「…ここか」

 

帝国が攻めて来ると言う噂が流れてから早一週間。 俺は生前で言うNGOに参加するためにハーケン門ま で来ていた

 

…当然アリシアさんやユリ姉には反対された。それ どころかカシウスさんまで俺を止めようとしていた

 

…でも、俺には知識がある。せめてそれを治療に役 立てるくらいはしたかった

 

「すみませーん!誰かいますかー!」

 

当たり前だがキャンプの入り口は閉まっているので 大声で誰かを呼ぶ

 

…だけども返事が一切ない

 

「すみませーん!!」

 

さっきよりも大きな声で呼ぶが…やっぱり誰も出て 来ない

 

いや、気配っぽいのは感じているんだが、『何だ子 供か』みたいな感じですぐに奥に引っ込んで行って いるようだ

 

………子供だと思って舐めてんだったらいてまうどワ レぇ…

 

そう思ってもう色々面倒だし全部ぶっ壊して入ろう かと考えていると…

 

「…ん?ガキがこんな所に来るなんて珍しいな」

 

「わひゃい!?」

 

「何言ってんのお前?」

 

突然後ろから声を掛けられ、つい飛び上がってしま った

 

というか今からこの門ぶっ壊そうとしてたから本気 でビビった

 

「というかガキがこんな所に何の用だ?面白いモン なんて何もねぇぞ?」

 

「いや、俺はここに参加しに来たんだ」

 

一瞬ポカーンとした表情になるオッサン…いや、オ ッサンって言うにはちょっと若いが…まぁオッサン でいいや

 

「だっはっはっはっは!!コイツは傑作だ!!お前 まだガキだろうが!?」

 

しかし大爆笑するオッサン。一瞬カチンときたが我 慢する

 

「…ガキでも薬なら作れるぜ?」

 

「…!」

 

ピクリと反応するオッサン

 

…うん、掴みは良い感じだ

 

「例えば?」

 

「麻酔系、強心剤、抗生物質、etc、etc…」

 

次々と薬の名前を挙げていくごとにオッサンの口が 歪んでいく

 

…ここが最近レミフェリアで提案された外科医療の 医療部だと聞いておいて正解だったな 必要な薬や処置は知っているものの、生産手段の目 処が立っていないらしい

 

その点俺には『前世』と言うアドバンテージがある 。元々は俺は医学部志望だったためにその手の知識 は充分にある

 

…MITに入ってからアメリカの医大に入るつもりだ ったが、叔父が日本に帰るのとかぶってしまって結 局日本の医大に約四歳年上で入っていたが

 

「なるほど、俺らの知らない知識は渡す。その変わ りにお前を参加させるってか」

 

「悪くない話だろ?」

 

「全く…ちんまいガキの癖に頭が回るな…」

 

そしてオッサンは面白いものを見つけたと言わんば かりの笑顔で

 

「お前名前は?」

 

「ケイジ。ケイジ・ルーンヴァルト」

 

「良い名前だ」

 

そう言うとオッサンは門を開いてからこちらに向き 直り…

 

「ようこそ地獄の入り口へ!」

 

めちゃくちゃイイ笑顔で物騒な事を言い切った

 

――――――

 

「ただいま~」

 

「ん?…おやおや、貴方どこからそんな子供を攫っ て来たんですか?」

 

「攫ってねぇよ!!変な事言うなジェイド!!」

 

「冗談です…貴方の息子ですか?この目のふてぶて しいところとかそっくりじゃないですか」

 

「悪かったなふてぶてしくて」

 

「なっ!?喋った!?」

 

「何で喋ったことに驚いてんの!?俺人形じゃない からな!?」

 

「いや~いいツッコミですね~…ますますそっくり じゃ無いですか」

 

「「誰がこんなオッサン(ガキ)と!」」

 

「まず自分達で墓穴掘ってることに気付きましょう ね」

 

くっ…!やっぱりジェイドって名前の奴にいい奴は いねぇ…!案の定コイツもドS鬼畜眼鏡だ!

 

*全世界のジェイドさん、本当にすみません!

 

「…さて、冗談はここまでにしましょう」

 

「相変わらずいい性格してやがんな…」

 

「…サンクチュアル、貴方どうしてここにこんな子 供を?」

 

そうジェイドさん(呼び捨ては何となく身の危険を 感じるため)がオッサンに言うと、オッサンはニヤ リと笑い

 

「喜べジェイド。薬の生産ラインゲットだ!」

 

「!本当ですか!?」

 

「…言っておくが今の状況で量産は不可能だからな ?」

 

「「なっ!?」」

 

「ちょっと待て!ジェイドさんはともかく何でオッ サンがびっくりしてんだ!?ここに来るまでに説明 しただろ!?」

 

「いや~…聞き流してたから…」

 

「死ね変人」

 

「酷くね!?」

 

「ちなみに私はノリで…」

 

「「知ってる」」

 

「本当に貴方達色々似てますね…容姿といい性格と いい言動といい…」

 

「「だから誰がこんなオッサン(ガキ)と!」」

 

「何で同じ間違いを何度も繰り返すんですか…」

 

「いや…」 「お約束だし」

 

「………」スタスタ

 

「「ツッコミ放棄!?」」

 

これが俺とオッサン…リーヴ・サンクチュアル(つ いでにジェイド・ハルファス)との出会いだった

 

 



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『三度めの正直』

~星杯騎士団所属、特務飛行艇メルカバ弐号機~

 

「………」

 

「…何か静かなケイジさんって…違和感ありますね… 」

 

「どういう意味だコラ」

 

普段から俺は冷静沈着なクールボーイだ

 

「リーシャ、気を抜かないで。ただでさえ人手不足 なのにさらにシャルもいないのよ?」

 

「あ、すみません」

 

「ティア?普通ここは俺をフォローするところじゃ ね?」

 

「ケイジも余所見しない。三人でメルカバを動かす のも無理があるのに…これ以上人手が減ると…」

 

「「減ると?」」

 

「ガチで墜ちるわよ」

 

「リーシャ、絶対気ィ抜くなよ!」

 

「了解です!」

 

一瞬にして真面目になる俺達。当たり前だろ!命か かってんだよこっちはよォ!

 

「全く…貴方がこんな時にリベール強行を決めたん でしょ?ならきっちり働きなさい!」

 

「アイ・マム!」

 

…最近、割と切実に上下関係をきっちりしようか悩 んでんだ…

 

俺達が何故ずっと使ってなかったメルカバを使って までリベールに向かってるのか、説明すると長くな るが…

 

――――――

 

案の定退屈な書類まみれの療養生活。俺はいつもの ように…

 

「はい、革命」

 

「うにゃああ!!」 「ちょっと待てケイジ!お前ここでそれは無いだろ !」

 

リーシャと総長と大富豪をして過ごしていた

 

「いや仕事しろォォォォォ!!ていうか総長まで何 やってんですかァァァ!!」

 

「総長…私に押し付けて遊ぶなんて許さない…!」

 

「「げっ、ティア(リース)!」」

 

そして大富豪を始めてから一時間、ティアがリース を引き連れて部屋に踏み込んで来た

 

「ほら!早く戻るわよ!ただでさえこんな時くらい しか仕事しないんだから…」

 

「書類仕事嫌いなんだから仕方ないだろ」

 

「……何か文句が?」

 

「ナンデモナイデス」

 

…何でだろ。あれから一向にティアに勝てる気がし ない

 

「ほら総長。早く戻って下さい。みんな困ってます 」

 

「後二時間!後二時間だけ!な!?」

 

「ダメです」

 

…総長、あんた一応リースの師匠だよな?それでい いのか?

 

…今の俺が言うのもなんだけど

 

「…こう見ると星杯騎士団ってこれでいいのか?っ てなりますね」

 

「「お願いだから言わないで…頭痛くなるから」」

 

ティアとリースが同時に溜め息をつく

 

…ストレスか?

 

「原因は多分ケイジさん達ですけど…」

 

「リーシャ、心を読むな」

 

「口が動いてました」

 

…声に出さなかっただけ頑張ったんだと思ってくれ

 

「さぁ、ケイジ、総長。早く仕事に戻って下さい」

 

「はっ!そんな脅しに屈すると思うなよ!」

 

「そうだ!私達は仕事から逃れて自由な日々を掴み 取るんだ!」

 

「(このニート共が…!)」 「そんな駄目人間宣言はいらない。早く行きますよ 」

 

俺達の必死の抵抗虚しく、ゆっくりと連行されて行 く

 

しかしちょうどその時…

 

PPPPP!

 

「導力通信…?」

 

「番号は?」

 

「………?どこにも所属してない番号ですよ?」

 

リーシャが不思議そうにみんなに告げる

 

「…多分大丈夫だろ。ティア」

 

「わかってるわ…もしもし?」

 

ティアが俺を解放して通信に出る

 

番号がわからないって事は…多分オリビエだろうが 、油断は出来ない

 

もしオリビエ以外の奴で敵対戦力の通信だった場合 、俺が二位と言う事が露呈してしまう

 

…今までなんやかんやで記憶いじったりして俺が二 位ってのはあまり知られないようにしてたからな…

 

『もしもしティア?』

 

しかし、警戒してたのとは裏腹に、聞こえてきたの は金髪天然娘の声だった

 

「シャル!?」

 

『うん!久しぶりだね!…色々話したいけど今は置 いとくね。ケイジにどうしても聞いておきたい事が あって…』

 

そして本当に今更だが騎士団の通信設備は基本的に 今で言うスピーカーフォンだ

 

そのため会話は部屋にいる全員に筒抜けだったりす る

 

「…俺に何を聞きたいんだ?」

 

『あっ!ケイジ!久しぶり~!何で本部に帰ってる のさ~!』

 

通信を変わってそうそう文句を言われる俺

 

「いや、俺大人しくアルテリアで待ってろって言っ てただろ?」

 

『そんなの知らないもん!』

 

理不尽だ

 

「まぁそれは置いといて…」

 

『置いとくな~!』

 

「聞きたい事って何だ?」

 

『あ、そうだ!すっかり忘れてたや…』

 

忘れてたのかよ…

 

『…ねぇ、前にケイジが話してくれた人の名前って“ リーヴ”だったよね?』

 

「…ああ、そうだが」

 

『…あの、ね?今日結社の人間と接触したんだ』

 

「?それがどうした?」

 

定期報告で既に三人の執行者と闘ったのは聞いてい る。今更結社の人間と接触したって聞いてもな…

 

『うん…その人の名前が…“リーヴ”だったんだよ』

 

「「!!?」」

 

「け、ケイジさん!?」

 

「…総長?」

 

「シャル!そいつのファミリーネームは!?」

 

『え!?いや…“ただのリーヴだ”って言ってたけど …』

 

チッ…わざと名前以外を明かさなかったな…!

 

「総長!」

 

「駄目だ」

 

「!」

 

俺はすぐにでもリベールに行こうとするが、総長が ダメ出しをする

 

…くっ、総長の許可無しに“アレ”の使用は出来ない …かといって今からクロスベルに行って飛行艇に乗 り換えたんじゃ時間がかかりすぎる!!

 

「頼む総長!」

 

「…駄目だ」

 

「何で!?」

 

「…もしそいつが本当に奴だった場合、今のお前が 勝てるのか?片目が開かないお前が」

 

「………」

 

一気に何も言えなくなる俺

 

「そんな状況のお前を総長として送り出す訳には行 かない…気持ちは痛いほどわかるがな」

 

「………っ!」

 

それでも…俺は…

 

俺は…!

 

「…だが、お前に勝ち目があるなら別だ」

 

「…!」

 

「冷静に、客観的に自分を評価しろ …守護騎士第二位、ケイジ・ルーンヴァルト。お前 は仮に今奴を相手にしたとして勝てる見込み…いや 、確信はあるか?」

 

…さて、チャンスは得たんだ。落ち着いて整理しよ う

 

…今の俺は片目が使えない。そして図らずも天照も 使えない

 

譜術や剣術はいつも通りに使える。聖痕も問題ない

 

問題は如何にして左目をカバーするかだが…

 

……カバー?

 

「…行ける」

 

「本当にか?」

 

「ああ」

 

むしろこんな簡単な事に気づかなかったのが不思議 だ

 

…俺が何で片目の視力を失ったのかを考えればすぐ にわかっただろうに

 

「そうか…なら私が言う事は何もない。思う存分に ケリを付けて来い!」

 

了解(ヤー)!!」

 

そして俺はリーシャとティアを連れて部屋を出た

 

…ただ、総長。リースに首根っこ掴まれながら良い こと言われても…

 

――――――

 

ってなわけで、今俺達はメルカバを使ってリベール へ向かっている

 

「ロレントが見えました!…霧がすごい濃いですけ ど」

 

「センサーを使って人気の無い場所を洗い出せ!そ こに降りるぞ!」

 

「…出たわ。最寄りの場所で…マルガ山道の僻地…翡 翠の塔の近くよ!」

 

「じゃあそこに着陸するぞ!リーシャ!準備してお け!」

 

「わかりました!」

 

「…また私サポートなのね」

 

…今度どっかに遊びに連れていくんでそれまでスト レス解消は我慢しといて下さい

 

そうして、この短期間で三回目のリベールに降り立 つ俺だった



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『望まぬ再会』

「じゃあ私は一旦自動操縦でアルテリアに戻るわね 」

 

「ああ」

 

「ありがとうございます」

 

俺とリーシャを山道に降ろして、ティアは再びメル カバの中に戻っていく

 

…つーかアルテリアに戻る自動操縦があるなら目的 地指定できる自動操縦機能付けてくれればいいのに

 

「ケイジさん、ここからどうするんですか?」

 

「ん~…とりあえずはロレントに入ろう。クローゼ 達に見つかる可能性はあるが、シャルに詳しい事聞 いておきたいからな」

 

まぁ、認識阻害使えば気付かれないんだけども…シ ャル以外には

 

「リーシャもなるべく見つからないようにしてくれ 。色々面倒だから」

 

「はい!」

 

――――――

 

そんなこんなでロレント到着

 

魔獣?弱すぎて話にならなかった

 

「――では、鍵はこちらになります」

 

「ん、どうも」

 

そして現在は宿をとっていた。さっきクローゼ達の 気配を探ったのだが、ロレントの中にはいないよう だった

 

…奴を見つけ出すのに何日かかるかわかんねーしな 。偽名で宿をとっておくのは常識だ

 

ちなみに二部屋とれるほど俺の懐は潤ってないので 、リーシャは妹で通した

 

…本人はすんごい不服そうだったが…何でだ?

 

――――――

 

「リーシャ、ちょっとこっち来い」

 

「…何ですか」

 

非常にムスッとしながら渋々俺の隣に来るリーシャ

 

…何故かさっきからこの調子だ。俺なんかしたか?

 

「まぁいいや。じっとしてろよ?」

 

「?」

 

「『我が深遠にて煌めく白銀の刻印』…」

 

俺が聖句を唱えるとリーシャの体に白銀の光が纏わ れる

 

「な、何ですかコレ!?」

 

「さっき受付の人に聞いたんだが、ここ最近鈴の音 が聞こえた後に何故か人が昏睡状態に陥るって事件 が続いてるらしくてな。保険だ」

 

「鈴の音…ですか?」

 

「ああ…霧が出てからの話らしいからな…奴はとも かく、確実に結社絡みだろ」

 

そう言うとリーシャは何か考え込む

 

「…心当たりでもあるのか?」

 

「え?…いえ、確か鈴を使った幻術の噂をカルバー ドで聞いた事があったな~って」

 

「思いっきり心当たりじゃねぇか」

 

何をボケに回ってんだお前

 

…まぁ、それは兎も角…良いこと聞いた

 

「け、ケイジさん…?笑顔が凄く怖いんですけど… ?」

 

「アハハ、何をボケた事を言ってんだ?……さて、 知ってる事キリキリ吐いてもらおうか…?」

 

「ちょ!?それ絶対味方に言うセリフじゃないです よね!?…って待って待って!?何で写輪眼にして るんですか!?もう悪夢を見るのはイヤァァァァァ ァ!!」

 

さぁ、全国何人いるか全くわかんないけどSの皆さ んお待たせしました

 

これより、O☆HA☆NA☆SHIを始めます

 

…今までの書類仕事で溜まったストレス…全部晴ら させてもらおうかぁァァ!!

 

――――――

 

「どこから鈴の音が聞こえて来たか?…うーん、ち ょっとわからないかな」

 

「そうですか…」

 

リーシャからある程度情報を絞り出し、解放した瞬 間に気絶しやがったので、俺一人で情報収集に来て いる

 

…ちょっとやりすぎたか?でもリーシャ(子供)が いないから夜の情報収集がはかどってるしチャラっ て事で

 

…にしても情報が少ない。ただの鈴なら聞こえて来 た方向くらいすぐに判るはずなのに…

 

…やっぱり“誘って”やがるのか?

 

「お客さん、何か悩み事かい?」

 

「え?いや、別に…」

 

「そうかい?悩み事なら軍の人か遊撃士に言うんだ よ?きっと力になってくれるから!」

 

そう言って俺の前に料理を置く主人っぽい人

 

…やっぱリベールは軍人も信頼されてんだな

 

「…ああ。悩みができたらそうするよ」

 

「アハハ、なかなかガードの固いお兄さんだね」

 

まぁ長い間騙し合いとかに触れてきてるしな

 

そしてその後宿に戻って拗ねたリーシャの機嫌をと るのにかなり苦労した

 

――――――

 

「………」

 

「…むにゃ……ケイジさ~ん…」

 

さて、皆さんは寝起きに妹的な体格の女の子が自分 の上に覆い被さっていたらどうしますか?

 

二度寝ですか?それともそのまま襲いますか? …後者の人、今からでも遅くありません。警察に逝 きましょう

 

…え?俺?俺は…

 

「起きれねぇだろうがボケぇぇぇぇぇ!!」

 

「うにゃああぁぁぁぁぁ!!?」

 

全力でお仕置きしますね

 

「…で?何で俺のベッドに入って来たんだお前は? 」

 

「え~っと…怒りませんか?」

 

「怒らない」

 

「ケイジさんと一緒に寝たくて潜り込みました」

 

「そうか…歯ぁ食いしばれ」

 

「今怒らないって言ってたのに!?」

 

当たり前だろう

 

「俺は怒ってないぞ?これはお仕置…じゃなくて調 きy…でもなくてしつk…でもなくて…」

 

「私はペットか何かですか!?」

 

何だったっけアレ…え~っと確か…そう!

 

「情操教育だ!」

 

「何で私調教と情操教育を間違える人を好きになっ たのかな…」ボソッ

 

…?リーシャは何をボソボソ言ってんだ?

 

「…まぁいい。そんなこと置いといてさっさと行く ぞ」

 

「私そんなことで済まされることで私刑されそうに なってたんですか!?」

 

うるせーな。結局しなかったんだからいいだろうが よ~

 

「あ~もう、細かいことでギャンギャン言うなや… とにかく行くぞ」

 

「細かいことって… というかどこに行くんです?」

 

「この霧の発生地点…ミストヴァルトだ」

 

――――――

 

「どうしてここだと思ったんですか?」

 

ミストヴァルトの入り口まで来た時、不意にリーシ ャがそんな事を聞いてきた

 

「まずはお前が昨日シャルと接触して得た情報だ。 霧が唐突にきれているって情報だな これによって自然発生の説をまず消せた。その後は 俺が独自に集めた情報… 一つは人の意識を奪う鈴の音。これは結社が自分達 の犯行だと示す意味と見つけてみろという誘いの意 味だろう そしてお前が拗ねてる間に行った店でのここ数日に 怪しい人は見ていないという情報。これでロレント の街中に結社の人間がいるというのが消える

 

最後は教区長の情報。『ロレントは盆地だから霧が 出る事自体はそう珍しくない。だがこう何日も濃霧 が続く事はそう無い』ってやつ。 そしてその後すぐにロレントの気象記録を見た。そ したら一カ所だけ一見自然のように見えて不自然に 濃霧が続いてる場所があった」

 

「それが…ミストヴァルトだった」

 

「まぁ、そういうこと

 

……だろ?リーヴ」

 

「…流石だな。大体はその推理で正解だぜ」

 

「!?」

 

リーシャが突然背後に現れたリーヴに警戒態勢をと る

 

「…リーシャ、下がってろ」

 

「でもケイジさん…まだ目が…「いいから下がって ろ」…はい」

 

多分俺の声が珍しく威圧的だったのだろう、リーシ ャが大人しく引いた

 

「オイオイ、あんまり女の子を怖がらせるもんじゃ ねぇぜ?」

 

「アンタには関係ねぇだろう」

 

「ケイジさん…この人一体…」

 

「ああ、嬢ちゃんにはまだ自己紹介してなかったな 。執行者NO,ⅩⅣ、“涙氷”リーヴと言う」

 

「あなたに聞いてません。敵だと言うことは重々承 知しておりますので」

 

「おや、残念」

 

何故かリーシャまでリーヴに辛口である

 

「…で?ケイジさん。この人本当に誰なんですか? …いや、“何”なんですか?」

 

…そこまで見抜いたか。流石は“銀”を継ぐ者と言っ た所か…いや、過去形か

 

「リーヴ・サンクチュアル。元星杯騎士団の守護騎 士第二位。そして俺のかつての師匠であって…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怨敵だ」



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『夢か現か幻か』

「怨…敵……?」

 

黙って頷くケイジ。自然とその場の空気も重くなっ ていく

 

「怨敵とまで言われるとは思わなかったぜ…」

 

大袈裟に頭を振ってみせるリーヴ

 

「…アンタにはいくら返しても返しきれないほどの 大恩があるよ。けどなぁ…

 

それ以上にアンタに対する怒りの方がでかいんだよ !!」

 

一喝し、瞬時に片目を万華鏡写輪眼に変化させる

 

また、リーシャは今まで見たことがないほどのケイ ジの怒気に唖然としていた

 

「へぇ…あれから少しは成長したみたいだな」

 

「…やっぱり学園で襲ってきたのはリーヴ…アンタ だったか」

 

「御名答♪まぁ正確には俺の氷人形(ゴーレム)だけど」

 

「通りで気配が薄かった訳だ…」

 

吐き捨てるように言うケイジ

 

対してリーヴはケイジの怒気(プレッシャー) なんぞどこ吹く風と 言うように飄々としている

 

「やだなぁそんなピリピリしちゃって~。そんなに 俺ばかり見てると…

 

死んじゃうぞ?」

 

「「!?」」

 

前方にいたはずのリーヴの声が背後から聞こえる

 

そしてケイジが振り向いた瞬間…

 

ドスッ

 

ケイジの腹にナイフが突き刺さった

 

「ケ……ケイジさん!!」

 

「ぐっ…」

 

「…ほら、致命傷喰らっちゃった♪」

 

やたらニコニコしながらそう言うリーヴ

 

しかし…

 

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ…」

 

「!」

 

「サンダーブレード!」

 

譜で形どられた雷の剣がこれまた背後からリーヴを 貫く

 

そしてケイジがリーシャの頭に手を置いた状態で姿 を現した

 

「大丈夫だ…心配すんな」

 

「…はい!」

 

「やっぱり成長してんのなぁ…オッサン年の差感じ るぜ…」

 

「!」

 

「…やっぱりアレも氷人形だったか」

 

気付けばリーヴは再び初めにいた位置に戻っていた

 

そして先程ケイジにナイフを刺して、サンダーブレ ードで貫かれたリーヴは氷に戻って溶けていた

 

「年の差発言は無視かよ…姉さん、弟子の反抗期だ よ…あ、俺姉さんいねぇや」

 

「何でこの空気でボケられるんですか!?……あ゛ 」

 

不意のリーヴのボケについつい反応してしまうリー シャ

 

「嬢ちゃん…」

 

「リーシャお前……なんか…ごめんな?」

 

「そんな憐れみの目で見ないで下さい!?」

 

二人から憐れみの視線を向けられて半泣きになるリ ーシャ。まさかツッコミが反射レベルまでなってい たとは…

 

「…兎に角、お前も“理”に至ったみたいだな」

 

「“理”になんか至ってねぇよ…ただ俺が闘う理由を …あの時誓った信念を思い出しただけだ」

 

そういうケイジを見てリーヴは薄く笑みを浮かべる

 

その笑みは、敵対している者とは思えないほど慈愛 に充ちていた

 

「それでいい…そうあることでお前はどんどん強く なる」

 

「………」

 

ケイジの返事は、幻術を用いた背後からの斬撃だっ た

 

「だが惜しいな…背後からばかりだとわかりやすい んだよ!」

 

「ハッ…言ってろ。“もう一度”女神行きにしてやる よ…!」

 

刀とナイフが、交差した

 

――――――

 

「(…私、夢でも見ているの…?)」

 

リーシャは、未だに一歩も動けずにいた

 

何故なら…

 

「「――!!」」

 

ガギィ!

 

「チッ…また氷人形か…」

 

「そういうお前も幻覚じゃねぇか…どうやって実体 化させてんだよ。それにお前目開かないんじゃなか ったっけ?」

 

「敵に手の内を見せるバカはいないんだろ?」

 

「…ま、それもそうだ」

 

単純に、二人の戦いのレベルが異常だったのだ

 

実体かと思えば幻覚(氷人形)。幻覚(氷人形)か と思えば実体。

 

また、様々なダミーを用いながら時折致命傷になる 一撃を放ち、防ぐ

 

「(まるで…御伽噺の戦いみたい…)」

 

リーシャは、幻想的な戦いに魅せられていた

 

――――――

 

…打ち合いが始まって以来、どうやったのかは知ら ないがケイジの左目が開いている

 

「……チッ」

 

「…?はっは~ん、さてはお前…左目を開けてられ る時間に制限があるな?」

 

「………」

 

リーヴの言った事はケイジにとって図星であった

 

イザナギを使って“左目が開く”と言う幻覚を現実に 変えている事で左目を使っているのだが…いかんせ んイザナギは禁術と言われるだけあってダメージが 大きかった

 

現に徐々にケイジの左目の視界はぼやけてきていた

 

「大丈夫か?そんなんじゃ俺には勝てねーぞ、と! 」

 

そしてそれを見抜いたリーヴがここぞとばかりに攻 勢にでる

 

「………!」

 

「ほらほらホラホラァ!守ってばっかじゃ勝てねー ぞ!」

 

そしてリーヴは一旦距離をとったかと思うと、氷人 形を使い、前後左右からナイフを無数に投げてきた

 

「(――避けられない!)」

 

「(さて…何もできなきゃ本当に死んじまうぞ?) 」

 

ケイジに無数の刃が襲いかかり、その衝撃で土煙が 舞う

 

「ッ!……!?」

 

「動くなよお嬢ちゃん?動いたら首から上が体とオ サラバだぜ?」

 

何時の間にかリーヴの氷人形がリーシャの後ろにい て、リーシャにナイフを突きつけていた

 

リーシャは涙目ながらにリーヴを睨むが…

 

「嬢ちゃんに殺気飛ばすのはまだ早いなぁ…痒い痒 い」

 

リーヴは全く気にしておらず、逆に挑発される始末 であった

 

「…まぁ、この程度で死んだんなら奴も「勝手に殺 すな」…!」

 

リーヴが再びケイジのいた方に視線を向けると、そ こには骸骨のようなものに覆われているケイジがい た

 

「…なんだそれは」

 

「…『須佐能乎』」

 

ケイジが手を動かす動作に連動して、骸骨が動く

 

「お前本当に何個能力持ってんだよ…!」

 

「さぁな…どうでもいいが時間がねぇんだ…速攻で 終わらせてやる…!」

 

ニヤリと笑って余裕の表情を見せるケイジだったが 、内心はかなり焦っていた

 

「(イザナギをかけてる分、須佐能乎でどんなフィ ードバックがくるかわからねぇ…感覚的に持ってあ と五分…!)」

 

戦いは、まだ終わらない



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『夢幻の如く』

「…ぐっ」

 

「…その技?も相当の負担がかかるみたいだな。満 身創痍のお前に勝ち目があるとは思わねーが…」

 

「うるさい…来ないならこっちから行くぞ!!」

 

「おっと」

 

須佐能乎の右手でリーブを潰すように攻撃するが、 あっさり避けられる

 

…今の俺に、アイツの挑発に乗れる余裕なんて無い

 

ただひたすら攻撃する。それ以外に俺に勝ち目は… ない

 

俺が須佐能乎の左手で薙払うと、周りの木々は吹き 飛んでいくものの、肝心のリーブには当たらない

 

「オイオイ…自然は大切にしろっての」

 

「うる…さい…!」

 

正拳、避けられる

 

手刀、避けられる

 

天照を込めた薙払い、氷で周りへの被害を防がれつ つ避けられる

 

そして…そんなことを繰り返して、三分が過ぎた頃 だった

 

フォッ…

 

「…!?」

 

突然、須佐能乎が消えた

 

いや、それだけじゃない。俺の両目から光が消えた

 

「!?…やっと気力が尽きたか!」

 

そこで恐らくリーブが好機と見たのだろう。気配が こっちに猛スピードで向かって来る

 

「ケイジさん!!」

 

同じように、リーシャらしき気配も俺の方に来るが 、いかんせんリーブよりも遅い

 

「終わりだぁぁぁぁ!!」

 

「イヤァァァァァァァ!!」

 

リーシャ…泣くなよ

 

…結局、シャルとはリベールで会わなかったな…テ ィアにも最後まで迷惑かけっぱなしだったし

 

……悪いな、クローゼ

 

そして抵抗する術の無い俺に、リーブが接触し、死 を覚悟したその瞬間

 

『仕方ないなぁ…今回だけは(わたし)がやってあげるよ』

 

そんな声が聞こえて、俺の意識は遠のいていった

 

――――――

 

sideリーブ

 

勝った

 

ケイジの周りにあった邪魔な骸骨が消えたと思った 瞬間に俺はそう直感した

 

骸骨が消えた瞬間、何故かケイジは目を閉じ、アイ ツ自身その事に動揺しているのが伝わってきた

 

それを見て、俺の全力で奴に接近する。奴に引っ付 いていた娘が慌ててこっちに向かってくるが、明ら かに俺の方が早い

 

…ようやく、ようやく俺の力がこの手に戻ってくる 。奴が勝手に(・・・・・)ケイジに与えた俺の力 が今、ようやく俺の手に…!

 

「終わりだぁぁぁぁ!!」

 

「イヤァァァァァァァ!!」

 

今までの思いを全てナイフに込めて、奴の首に突き 立てようとする

 

娘の悲鳴をBGMに、ケイジは血飛沫をあげて地面 に倒れ伏す

 

………はずだった

 

『祓ひ、清めよ』

 

俺がナイフを突き立てる寸前にそんな声がしたかと 思うと、いつの間にか俺の手からナイフが弾かれ、 俺自身は見えない何かに弾き飛ばされた

 

「…やれやれ、まさかまた逢うとは思いませんでし たよ。…リーブさん」

 

俺の目の前には、相も変わらずうっすら笑みを浮か べてアイツが立っていた

 

sideリーブ? end

 

――――――

 

「…ケイジ……さん?」

 

リーシャはかなり困惑していた

 

一時は、ケイジがリーブに殺されたように見え、大 粒の涙がリーシャの頬を流れたが、それも一瞬のこ と

 

ケイジのいた場所から透き通るような声が聞こえた かと思うと、リーブがナイフを弾かれ、更にリーブ 自身が吹き飛んでいた

 

そしてケイジが無事だと、安堵に包まれてケイジの 方を見たのだが…

 

「ん~…あはは、そりゃそうか。びっくりするよね ~」

 

「貴女誰ですか!?」

 

言っておくが誤字ではない。『貴方』ではなく『貴 女』だったのだ

 

ケイジのいた場所には、ケイジの背を縮めて髪を腰 より長いくらいまで伸ばし、スタイルと雰囲気を女 らしくしたような銀髪の美女が立っていた

 

「て言うかケイジさんは!?何で貴女こんな所にい るんですか!?て言うかケイジさんは!!?」

 

「ちょっと落ち着きなさい」

 

「ひゃわっ!?………~♪」

 

容姿がケイジに似ている所為か、頭を撫でるだけで リーシャに癒やしを与えてしまう…日頃の扱いとの アメとムチと言うのもあるだろうが

 

「~~~♪…っは!!にゃ、にゃにするんですか! ?」

 

「噛んだわね♪」

 

「うぐっ!…」

 

正論を言われて黙り込むリーシャ。結構自業自得で ある

 

「これだから胸のある女は……!」

 

「あら、胸なら簡単に大きくする方法がある「教え て下さいマイマスター!!」早っ!?」

 

瞬時に土下座の体勢をとるリーシャ…なんか泣けて くる光景である

 

「まぁ、いいや。じゃあ頭こっちに出して」

 

「?何を………っ!?」

 

リーシャの頭に何かの知識が流れ込む

 

「…この通りにすればいいんです?」

 

「そ♪…ああ、(わたし)はケイジであってケイジじゃない よ。そうだね…ウル、とでも呼んでくれると嬉しい な♪」

 

そう言って微笑むウルは、同性のリーシャが顔を赤 くするほど綺麗だった

 

「それと…そろそろ避難してくれないかな?」

 

「へっ?」

 

リーシャがポカンとしていると、ウルは手をリーシ ャの後ろにかざして、

 

『崩き、滅せむ』

 

パリン

 

「なっ!?」

 

「こういうこと♪」

 

リーシャが後ろを向くと、既に形はとどめてはいな いが、ナイフの残骸があった

 

「さっきので祓ったと思ったのになぁ…」

 

「そう簡単に……やられて、たまるか……!!」

 

茂みから姿を現したリーブは特に外傷は無いのに、 何故か疲弊していた

 

それを見て、すぐにその場から飛び退くリーシャ

 

…残念だが、リーシャはリーブには今は絶対に勝て ない。それを勝てると思い込むほどリーシャは馬鹿 ではなかった

 

「……前から思ってたけど、貴方…何?」

 

「何って…俺はリーブだ」

 

「嘘だね。確かにリーブと全く同じ容姿だけど、中 身が全く違う。昔のリーブもリーブじゃない何かが いた感じはあったけど今ほど気配は強くなかった」

 

リーブ?の言葉に即答で嘘だと返すウル

 

そしてそれを見たリーブ?は…

 

「………ククク…」

 

「………」

 

「流石だな。まさかこんなに早くバレるとは思わな かった」

 

「前置きはどうでもいいの。さっさと正体と目的を 話しなさい」

 

先程のリーシャに対する態度とは180°違う、冷徹と も言えるような態度でリーブと対峙するウル

 

おかしな動きをすれば、消す…ウルの目は、言外に そう語っていた

 

「怖い怖い、流石に二回も殺されたくはないな」

 

「…消されたいの?」

 

「おっと…仕方ないな。今は大人しく答えようか… 俺はお前と同じような存在だと言っておくよ」

 

「……!!」

 

「ああ、違う違う。あくまでも『ような』だ。アン タみたいに高位な存在じゃない」

 

「何の目的で…?」

 

「そうだな…面白そうだから。誰だって退屈は嫌だ ろう?」

 

リーブ…いや、リーブの形をした何かは怖気のする ような笑みを浮かべてウル達を見た

 

「…名前は」

 

「…フン、アガレスだ」

 

「アガレスだって!?」

 

アガレス。農耕の神にして悪魔の第2柱。さらに時 の神とも言われる大悪魔

 

農耕、それが表すのは乃ち水と土

 

「なるほど…あの無限に出てくるナイフは…」

 

「錬成に決まってんだろ?」

 

そう言うと、ウルは納得したような表情でアガレス を見る

 

「それはとにかく…リーブさんをどこへやった?貴 方の容姿がリーブさんである限り、貴方が憑依した のはリーブさんで間違いないはず」

 

「ああ、野郎か…ちょっと眠ってもらってるよ。眠 らせる前に俺の力をお前の主に譲渡しやがったがな 」

 

「それでケイジを…」

 

「当たり前だろ?俺の力だ。俺の元に戻すのが道理 だろ?」

 

確かに正論だ。だが、もしアガレスに元の力が戻れ ば…

 

ウルの額に冷や汗が流れる

 

…コイツは、ここで始末しなければならない。世界 の為にも、何よりケイジの為にも

 

決意をするウル。だが…

 

「おっと、時間だな」

 

「なっ!?」

 

アガレスの足元が突然光り始め、彼の姿が少しずつ 薄れ始める

 

「全く…この(おれ)が何の思惑も無く貴様と話すと思う たか?実に浅はかなことよ」

 

「…それが本当の話し方か」

 

「ふっ…また逢うこともあるであろう。せいぜい(おれ) の暇つぶしになるがいい。さらばだ…かつて失せし 虚を統べる識の(みかど)よ」

 

そう言葉を残して、アガレスは完全にその場から消 え去った

 

「………」

 

これは…本格的に力を貸すしか無いみたいだね。で も…ケイジが気付いてくれるかどうか…

 

そんな事を考えていたウルだが…

 

「ウルさん?」

 

リーシャが呼びかけた事で、我に帰る

 

…今は時間が無い、か。とにかく…

 

「…リーシャ」

 

「はい?」

 

「…ケイジをよろしくね?後、この事はケイジに秘 密にしておいて」

 

「はい?…って、え!?」

 

突然ウルが倒れ始め、その身体が地面についた時に は、元のケイジの姿に戻っていた

 

リーシャは、暫く有り得ない光景にポカンとしてい たが、すぐに気を持ち直し、倒れているケイジをロ レントへと運ぶのであった

 

 



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『こころのせかい』

気がつくと、俺は一面真っ白な空間に倒れていた

 

「ここは…どこだ…?」

 

というか出来るだけ早く出たい。何時までもこんな 何もない白一色の空間に居ようもんなら間違いなく 気が狂う

 

『あ、気がついた?』

 

「ん?…のわっ!?」

 

声が聞こえたのでその方を見ると、すぐ側に俺とよ く似た女の人が立っていた

 

…近かった。驚いた

 

『のわって…反応がちょっと失礼じゃない?こんな 美女を前にして』

 

「うん、自分で自分のこと美女って言う馬鹿初めて 見た」

 

いるんだな~こういう馬鹿

 

『ヒドいよ~…』

 

わざとらしく地面に手をついてシクシクと泣き出す 馬鹿

 

「で?お前は誰でここはどこだ?俺はミストヴァル トにいたはずなんだが…」

 

(わたし)が泣いてるのはスルーなんだね…』

 

当たり前だ。その程度も見抜けないんじゃ一々任務 で騙されるし

 

『まぁいいか。ここは…説明難しいなぁ、簡単に言 うならキミの心の中だよ』

 

「………」

 

その説明を聞いた俺は、その女に哀れみの視線を向 けた

 

『ちょ!?何その視線!?すんごい不本意なんだけ ど!?』

 

可哀想に…その年で精神を病むとはな…

 

『止めてぇぇ!そんな哀れんだ目で(わたし)を見ないでぇ ぇぇぇぇ!!』

 

そう言って床をゴロゴロして悶える馬鹿。本当に哀 れな奴だ…

 

――――――

 

『ゼェ…ゼェ…』

 

ひとしきり悶絶した後、気を取り直したようで、息 を切らしながら立ち上がった

 

「大丈夫か?」

 

『何とか…というか大半はキミのせいなんだけど? 』

 

そう言ってジト目でこっちを見る

 

「そうだな…悪かった。初対面の人を勝手に可哀想 な人と決めつけるのはダメだったな…」

 

『何か急に優しくなった!?』

 

「本当にすまない。許してくれ」

 

そう言って俺は頭を下げる

 

『ちょっと止めて!?なんかわかんないけど泣きそ うになるから!ちょっとウルっときてるから!』

 

「いや、今回は本当に俺の過失だ。本当にすまなか った」 『だから止めて!?何で急にそんな優しくなるの! ?』

 

そんなの決まってる

 

俺が本当に悪いと思っているから

 

…ではなく、

 

「だってこういう時って優しくされた方が辛いだろ ?」

 

『やっぱりかァァァ!!』

 

当たり前だ。それ以外で俺がお前に優しくする理由 なんて無い

 

「ほら、よく言うだろ?アメとムチって」

 

『その優しさアメじゃないから!結果だけ言うとム チとムチだから!!』

 

「それに、謝ってるのこっちだから怒る方法も思い つかないだろうし」

 

そう言って顔だけあげてニヤリと笑みを浮かべる

 

『鬼だ!この人生粋のドSだ!!』

 

「人聞きの悪い。俺はただ、誰かを弄ってその反応 を見て楽しむのが大好きなだけのノーマルだ」

 

『それを世間ではドSって言うんだよ!!』

 

そう言ってちょっと涙目でこっちを見る馬鹿……う ん、ごちそうさまです

 

「…で?結局何の用?」

 

『ここで話元にもどすの!?』

 

だって話進まねーし。それに何よりそろそろ飽きて きたし…

 

それに、こっからは割と真面目な話だ

 

「わからない事が多すぎるんだよ。何故俺がここに いるのか、ここはどこなのか、お前は誰なのか」

 

そして…何故俺が死んでいないのか

 

「そんな状況でのんびりする程、俺は馬鹿じゃねぇ よ」

 

嘘は言っていない。現に気が付いて以来一度として 気は抜いていない

 

『それでも人は弄るんだね…』

 

それはそれ、これはこれ

 

それに、空気を俺主導にするっていう便利な役割も あるし……十中九は俺の個人的な楽しみだけど

 

『まぁいいや。とりあえず説明はするよ

 

まずさっきも言ったけど、此処はキミの心の中。キ ミがわかりやすいように言うと…心象世界ってやつ だね』

 

「心象世界?」

 

『そ。キミの心をキミ自身が現した世界。此処では 全ての支配権がキミにある』

 

「じゃあお前も俺が創り出したっていうのか?」

 

そうだったら嫌すぎる。心の中で女の子を創るとか どんだけ飢えてんだよ俺

 

『あはは、残念だけど違うよ。(わたし)(わたし)で確固とし た存在だから。…キミが死ぬと消えちゃうけどね』

 

「俺が死ぬと死ぬ?何その面倒くさい設定」

 

『設定じゃないよ!本当に消えちゃうから!

 

それと、(わたし)の名前は…言えないんだ。ゴメンね?』

 

そう言って本当に済まなさそうに謝る馬鹿

 

「そうか。じゃあ“ポチ”で」

 

『止めて!?』

 

割と必死に俺の手を握ってくる馬鹿…もといポチ

 

「仕方ねぇだろ。お前名前言わないんだから」

 

『それでもポチはヒドいよ!?というか言わないん じゃなくて言えないんだって!!』

 

「んな事ぁどうでもいい。次は何で俺が此処にいる かだ」

 

俺が次の説明を求めると、ポチは『理不尽だ…』と ぼやきながら説明を始める

 

『…何でキミは此処にいるのかだけど…キミは今た だ単に寝てるだけなんだよ』

 

「…ようするに、此処は夢の世界って訳か?」

 

『ちょっと違うよ。夢は見た瞬間に世界が固定され てるけど、此処はキミの心象世界。世界観を決める のもキミ自身だから』

 

へぇ~……………

 

『?急に黙ってどうしたの?』

 

不思議そうに俺を覗き込むポチ

 

「……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お手」

 

『わんっ♪…………って何すんのさーーーーーー!! ?』

 

おお、これは面白いな。本当に俺がルールらしい

 

「おかわり」

 

『ちょっ!?』

 

「伏せ」

 

『きゃうっ!?』

 

「ほれ捕ってこ~い」

 

『もう止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

それから数十分、俺はポチで遊んでいた

 

――――――

 

『うぅ…もうお嫁に行けない…汚された…』

 

「そうか。まぁそれはどうでもいいからさっさと続 きを話せ」

 

『キミホントにドSだね!?』

 

ポチが割とガチ泣きしてるが、その顔でそこらの男 引っ掛けてみろ。多分嫁入り先は引く手数多だ

 

『うぅ…だからキミは眠ってるだけなの。イザナギ だっけ?それで左目開かない状況で無理やり開けて あの黒い雷使ったでしょ?それとあの骸骨みたいな のも。それにキミの身体が耐えられなかったんだ。 (我がその状態で無理やり動かしたのもあるけど) 』

 

…なるほどな。ダメージがでかすぎて昏睡状態と

 

……ヤバくね?

 

「俺って無事なの?」

 

『今はロレントのホテルにいるけど?』

 

「いや、そうじゃなく」

 

『…ああ、大丈夫。もうすぐ目は覚める。此処での 事は覚えてるかどうかはわからないけどね…むしろ 忘れて欲しい』

 

「そうなのか?」

 

せっかくリーシャに匹敵するツッコミを見つけたと 思ったのに

 

『そろそろ時間だね…とにかく、出来るだけ早く(わたし) に気付いてね?』

 

「は?気付くも何も今目の前にいるだろうが」

 

そうじゃなくて、とポチは首を横に振る

 

(わたし)の名前。キミに気付いてもらわないと意味が無 いんだ』

 

気付く…?どういう事だ?普通名前って教えてもら って初めてわかるもんじゃないのか?

 

俺がしきりに首を捻っていると…

 

『その様子じゃまた暫く逢えないみたいだね…

 

忘れないで。(わたし)はいつもキミの中にいる。キミの側 にいる。それを受け入れるか拒絶するかはキミ次第 だよ』

 

…よくわからん

 

「…早い話、お前の名前を思い出せばいいんだな? 」

 

『思い出すんじゃなくて気付くんだよ?それがキミ 自身の力になるから…

 

早く気付いて。(わたし)の名前は―――』

 

そう言いかけた時に、俺は白の世界から弾き出され た

 

 



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『またまた』

「………ここは?」

 

気が付くと、一面真っ黒だった

 

…あれ?何かつい最近同じような状況にあったよう な…デジャブ?

 

どうやらずっと寝ていたらしく、身体が重い…なん とか身体を起こしたが、依然として目の前は真っ暗 だ

 

さっき身体起こした時に下がベッドってことは確認 したから現実には違いないはずだが…

 

新月の深夜か?だったらこんなに暗いのも説明がつ く

 

俺はそう結論づけてゆっくりと伸びをする

 

ガチャ……パリン

 

ちょうどその時に、扉の開く音と、何かが割れる音 がした

 

勿論、光が無いのでそれが誰かわからない

 

「誰だ?」

 

「………」

 

返事なし。…困ったな…敵意も殺気も全く無いから 敵じゃねぇのはわかるんだが…いかんせん誰だかわ からない

 

「………」

 

「本当に誰「ケイジ……?」

 

「…クローゼ?」

 

「ケイジ……っ!!」

 

軽い衝撃とその反対側に何かが巻きついた感触…多 分、抱きつかれたんだろう

 

…よく寸分違わず俺の所まで来れたな。真っ暗だっ てのに

 

………抱きつかれた!?WHY!?←今更になって事 の重大さに気付いた人

 

落ち着け、俺。びぃくーるだ。

 

…よし、とりあえず状況を整理してみよう

 

俺、起きる→クローゼに見つかる→抱きつかれる

 

………何故に?関連性は何処?

 

つーかとにかく

 

「離せ」

 

「…嫌」

 

「…痛い」

 

「嫌」

 

「……クローゼ」

 

「嫌!!」

 

駄々っ子かお前は

 

「クローゼ…あまり我が儘言うな」

 

「嫌…」

 

俺の身体に負担がかからない程度に、かつ俺が引き 剥がせないくらいの絶妙な力で抱きつかれているの で、俺からはどうしようもない

 

「離したら、またどこかに行っちゃうでしょ…?」

 

「………」

 

「また、私を置いて、一人で危ない事して…今回み たいに大怪我して…」

 

…否定…出来ないな

 

「わかってるの!?ケイジ死にかけたのよ!?ロレ ントの教区長様がいなかったら死んでたんだよ!?

 

……お願いだから…お願いだから……もう、行かない で…

 

……私を、置いて行かないでよ……!!」

 

左の肩が冷たくなる

 

物音一つしない部屋に、ただ、クローゼの嗚咽が響 く

 

「………」

 

俺は、クローゼの言葉に答える事が出来なかった

 

――――――

 

「…落ち着いたか?」

 

「…うん」

 

そう言うものの、クローゼは一向に離れようとしな い。どんだけ俺信用無いんだ

 

「…少し、痩せたね」

 

「そうか?」

 

「うん…前はもうちょっとガッシリしてた気がする 」

 

「そうか…」

 

会話が続かない

 

……そういえば…

 

「お前こんな時間に何で俺の所に?」

 

「…………え?」

 

物凄い『何言ってんの』的な声音のクローゼ

 

「いや、今真っ暗だから深夜だろ?こんな時間に何 しに来たんだ?流石に寝ないと「ちょっと待って」 ……?」

 

やけに真剣に俺の言葉を遮る

 

そして…

 

「今……朝だよ…?」

 

クローゼの言葉に、俺がイザナギを重ねがけした事 を思い出した

 

…なるほど、そりゃ暗いはずだ。見えてないんだか ら

 

「……まさか…見えないの…?」

 

「大丈夫だ」

 

「嘘!見えてたら朝と夜を間違えるわけないもの! !」

 

「大丈夫だ」

 

「だったら私を見て!私の顔を見てよ!」

 

そう言われて、(多分)クローゼのいる方向に顔を 向ける

 

…が

 

「やっぱり見えてない…」

 

「………」

 

「やっぱり見えてないじゃない!見えてたら今のに 『見てる』って言い返したはずだもの!!」

 

ハメられた、気付いた時には、もう遅い

 

*ケイジは相当パニクってます

 

「何で…何で私の知らない所でいっつも無茶するの !?私はそんなに頼りない!?私はそんなに信用出 来ないの!?」

 

「…違ぇよ」

 

「ならどうして頼ってくれないの!?…もう、嫌… 勝手に私の側からいなくならないで…お願いだから …側にいてよ…

 

もう、ひとりは…いや…!!」

 

そう言って、力無く俺をすがりつくように抱き締め てくるクローゼ

 

…クローゼの本音を初めて聞いた気がするな

 

俺の脳裏に、何故かクローゼの両親の事故を聞いた 瞬間が蘇っていた

 

俺は、クローゼを引き離す事が出来なかった

 

――――――

 

「………」

 

リーシャはケイジの部屋の前で静かに立っていた

 

「…あれ?リーシャ?」

 

「エステルさん」

 

「何かあったの?さっきケイジの部屋から何か割れ る音が聞こえたけど…」

 

「ああ、ケイジさんの目が覚めたみたいです」

 

「ホント!?」

 

つい大きな声をあげてしまうエステルだが…

 

「しー……」

 

「あ…」

 

慌てて口を塞ぐエステル。なんとか間に合ったよう だ

 

「…クローゼ?」

 

「はい」

 

それでエステルは中に誰がいるのか理解したらしく 、リーシャに聞くと、そうだと答えが返ってきた

 

「…リーシャは入らなくていいの?ずっと心配して たんでしょ?」

 

「………」

 

そう、リーシャもクローゼと同じ、いや、もしかす るとクローゼ以上にケイジの側に付きっきりだった

 

「…今は、いいです」

 

「……本音は?」

 

「今すぐに部屋に入って飛びつきたいです」

 

「やっぱりね…」

 

今や自覚し、リーシャやクローゼと同じく恋する乙 女……(笑)のエステルには、リーシャの気持ちが よくわかった

 

だからこそ…何故部屋に入らないのかが疑問に思っ た

 

「だったら行ったらいいじゃない?うかうかしてる とクローゼにケイジ取られちゃうわよ?」

 

「それは…困りますけど…」

 

「だったら…」

 

「でも…」

 

そこでリーシャは、エステルの方を向いて微笑む

 

「私がクローゼさんと同じ立場だったら…きっと、 二人だけにしてほしいと思いますから…」

 

「(………乙女っ!!)」

 

エステルは、そんなリーシャにキュンときていた…

 

――――――

 

「ティータちゃん」

 

「?どうしたんですか?」

 

その日の朝食後、不意にクローゼがティータに話し かけた

 

「あ…そのトレー…」

 

「ええ、ケイジにね…それより、一つお願いしても いいかな?」

 

「あ、はい!いいですよ?」

 

ティータの了承を得ると、クローゼはティータの耳 元に近づいて…

 

「―――って…作れる?」

 

「?それってどんなのなんですか?」

 

「ええっと…―――――――って機能みたいだけど…」

 

そう言うと、ティータの目はキラキラ光り…

 

「面白そう!やります!いえ、やらせて下さい!! 」

 

「じゃあお願いね?」

 

「はい!任せて下さい!」

 

 



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『最新の……』

前回のあらすじ

 

回収された

 

目が覚めた

 

確保された←今ココ!

 

「はいケイジ、あ~ん♪」

 

…(精神的に)ピンチなう

 

現在、ベッドに寝たきりの状態でクローゼに介g… いや、かi…………いや、か……………

 

もういいや、介護されてます

 

須佐能乎の副作用だか何だか知らんが…指一本動き ません、はい

 

ちなみに今はヴァレリア湖の宿屋に泊まってます

 

……どうやら俺は相当な時間意識が戻らなかったら しく、ロレント→ボース→ヴァレリア湖と、意識が 無いまま移動してたらしい

 

…え?どうやって移動したか?

 

…聞くな。理由は察しろ

 

と、言う訳でクローゼとか時々リーシャが俺のいる 部屋に篭もりっきりになる訳で…

 

「あ~ん♪」

 

「…いや、だからなクローゼ?俺は別に飯抜いても 「あ~ん♪」いや、だから「あ~ん」話を聞「あ~ ん」………あ~ん(泣)」

 

そのせいで最近の食事はずっとこんな感じだよ…( 泣)

 

逃げるにしても身体動かないわ、身体が動いたとし ても目が見えないわ…

 

わかってるよ?こうしなきゃ飯食えないって事くら い…でもこう…何かこれ以外の俺(の精神)に優し い療養生活の仕方は……え?ない?ソウデスカ…

 

……あれ?詰んでね?

 

そんな感じで軽く色々諦めていると…

 

「クローゼさん!ケイジさん!」

 

「?」

 

「どうしたんだリーシャ?」

 

突然リーシャが部屋に乱入してきた

 

…声音からして嬉しそうだな。何か良い事でもあっ たのか?

 

「ティータちゃんが『アレ』完成させたみたいです !」

 

「本当!?」

 

「…アレ?」

 

アレって何だ?何か軽く面倒な予感がするんだが…

 

「あ、そうか…ケイジには言ってなかったっけ」

 

「ああ…で、『アレ』って何だ?」

 

「昔ケイジが言ってたでしょ?病気とかで動けない 人でも負担なく外に出れる機械…」

 

まさか…

 

「…『車椅子』か?」

 

「正解♪」

 

…俺あの時結構冗談半分で言ったのに

 

「とにかく、クローゼさん車椅子をここまで運ぶの 手伝って下さい。今シャルちゃんが階段の下に運ん でくれてますから」

 

「あ、はい。わかりました……ケイジ、くれぐれも 安静にしててね?」

 

「心配しなくても動けねぇっての…」

 

俺がそう言うと、二人は(多分)一緒に部屋を出て 行った

 

――――――

 

結局、三分くらいでシャルが+された状態で戻って きました

 

「ケイジ…大丈夫?」

 

「精神的なダメージを除けばな」

 

「「それどういう意味かな(ですか)♪」」

 

Oh…殺気が凄まじい

 

今視覚が無い分余計に殺気を感じるしな…

 

「まぁまぁ、二人とも落ち着いてってば」

 

「「………」」

 

何かジト目で見られてる気がする

 

「それで?車椅子持って来たのはわかるが…どうす るんだ?」

 

「そうよね…」

 

「とりあえず、外に出ませんか?」

 

そう言うリーシャの言葉で、俺達は外に出る事にな った

 

――――――

 

カラカラカラカラ…

 

「………」

 

「………」

 

今、クローゼと二人で湖畔を散歩している

 

…二人で

 

シャルは一階に降りた瞬間に運悪くシェラさん(あ の感じは多分飲んだくれモード)に捕まり、リーシ ャは誰か(聞いたことがない声だった)に拉致され てった

 

「………」

 

「………」

 

正直、気まずい。別れ方があんなだったからか、何 話したらいいかが全くわからない

 

…俺が目覚めた時はクローゼから話してたから楽だ ったが…今になって恥ずかしくなったらしい

 

さて…どうしたもんか…

 

「…ねぇ、ケイジ」

 

「………ん?」

 

そんな事を考えていると、不意にクローゼが話しか けて来た

 

「私の気持ち、変わってないから」

 

「………」

 

違う。漠然とそんな答えが頭をよぎる

 

…クローゼの好きは“LOVE”ではなく“LIKE”…言わば 家族に向ける親愛に近い

 

身近に異性がいなかった事、話し相手が俺かユリ姉 しかいなかった事、そして何より家族や他人に甘え る事が少なかった事…

 

そんな色々な事象が重なって…近くにいた俺を“そう いう対象”として見てしまった

 

まぁ…簡単に言えば、お年頃特有の“恋に恋した”っ てやつだ

 

…だからこそ、俺にはその勘違いを晴らす義務があ る

 

「クロー「ケイジ」

 

俺の声に被せてクローゼが泣きそうな声で言う

 

「…もう、どこにも行かないよね?」

 

「………」

 

「ねぇ…答えて?」

 

「………」

 

「行かないって言ってよ…」

 

ぐすぐすと鼻をすする音が聞こえる…クローゼの泣 くとき特有の音だ

 

『泣くなよ…』

 

『だって…』

 

『大丈夫だ。俺がお前を守ってやる。お前を泣かせ る奴は全員俺が叩っ斬ってやるよ』

 

『え…』

 

『だから泣くんじゃねぇよ…結局ユリ姉に怒られん の俺なんだぞ?』

 

『ふふ…わかった。でも…』

 

『…あ?』

 

『ちゃんと私の事、守ってね?』

 

『ああ、約束だ』

 

何故か昔の事が俺の頭をよぎった

 

…泣かせない、か…何言ってんだかな

 

今、クローゼを泣かせてるのは…他でもない俺なの に

 

――――――

 

???side

 

「ぐぬぬぬぬ…」

 

「何で私まで…(本当に真顔でぐぬぬって言う人、 いたんですね…ケイジさん、鼻で笑ってすみません でした…)」

 

今俺は茂みからリーシャと一緒に(ここ重要!)野 郎とクローゼを見ている

 

「野郎…!俺のクローゼに迷惑かけやがって…!何 様のつもりだ…!!!」

 

「…はぁ(あなたの方が何様ですか…)」

 

…ん?リーシャがこっちを見てるな…何だ?嫉妬か ?

 

「どうした?」ニコッ

 

「…こっちを見ないで下さい(気持ち悪いです…目 線が)」

 

一瞬で目を逸らされた。…ふっ、また一人俺に惚れ た女の子を増やしてしまった

 

「ああ、悪い悪い。ゴメンな?」

 

「どうでもいいですけど…私戻ってもいいですか? 」

 

「ああ、悪かったな、つき合わせて。今度何かお礼 を…」

 

「いりません」 そう言って早足で戻って行くリーシャ…全く、恥ず かしがり屋だなぁ

 

まぁそういう所も可愛いんだが

 

「まぁとにかく…あのクソ野郎に俺のクローゼから 手を退かせねぇとな…」

 

仕方なく俺は野郎に声をかけてやる事にした

 

――――――

 

「はい、あ~ん♪」

 

re;(精神的に)ピンチなう

 

「あのさぁ…もう食わされんの自体は諦めたから何 も言わんが…せめてそのあ~んって言うの止めてく んない?」

 

「……あ~ん♪」

 

「無視か!?」

 

いくら何でも酷いと思います

 

「だから本当に「あ~ん♪」いや、「あ~ん」本当 に「あ~ん…」わかった!わかったから泣くな!」

 

…俺、クローゼに勝てる日って来るのかな…

 

そんな感じで泣く泣く(泣けないけど)クローゼの あ~んを受け入れて、精神をガリガリ削っていると ……

 

バタン

 

「ケイジ・ルーンヴァルト!話が………何て羨ま…も といけしからんことを!!」

 

突然何かよくわからんが誰かが部屋に入って来た

 

「………誰だ?」

 

「なっ!?…俺はお前の“元”!部下のリク・クレシ ャナだ!!」

 

リク?…………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………… …………………………………ああ!

 

「ティアの後釜か!」

 

「そうだ!何故貴様俺を隊長に推さなかったんだ! いや、そもそも俺はお前が隊長だと言うのも不満だ ったんだ!実力、容姿、その他諸々俺の方がお前の 数倍は実力があると言うのに!!」

 

好き放題喚き散らすリク

 

…正直面倒くさい。俺の隊にいたなら間違いなく俺 の訓練受けてたはずだよな?

 

「俺確か訓練で俺に勝ったらその中から隊長を選ん でいいって言ってたよな」

 

「ぐっ…あの時はたまたま体調が悪かっただけだ! !」

 

確か一年に二回くらいはあの訓練やってたような…

 

それに容姿って必要か?

 

「…まぁ隊長は結構前からシオンにするって決めて たしなぁ…」

 

「「前から!?」」

 

クローゼ…何故にお前が反応した?

 

「ケイジ!前からってどういうこと!?」

 

「そうだクローゼ!もっと言ってやれ!」

 

「前から私の側からいなくなる事計画してたの!? 」

 

若干涙声で怒るクローゼ

 

…リクが「そっち!?」とか言ってたが…まぁいい や

 

「あ~…悪かったから泣くなって…」

 

指一本動かないから頭撫でる事もできん

 

…早く治さねぇとな…そういやジンさんいるんだっ たか?気で治癒とかできねぇのかな?

 

「…ケイジ、また後で来るから…覚悟してね?……私 、リク苦手だから…」

 

クローゼがそう俺に呟いて部屋を出て行く…ああ、

 

俺オワタ\(^o^)/

 

「…ふぅ、クローゼは行ったか…オイ!」

 

そう言うと、リクは何か急に偉そうに―割と始めか らだが更に―なって俺に話しかけてきた

 

「…なんだ、今ちょっと絶望してるから後にしてく れ」

 

「はっ…クローゼに嫌われたからか?ざまぁねぇな 」

 

それだけだったらどんだけ良かったか…!命かかっ てんだよ畜生!!

 

するとリクは声を低くして…

 

「単刀直入に言うぞ…クローゼを解放しろ」

 

「……はぁ?」

 

解放?何から?

 

「いい加減クローゼを解放してやれって言ったんだ よ!!無理やりあ~んとかさせやがって!滅茶苦茶 嫌がってただろうが!」

 

見られていた…だと…?

 

…いや、待て。鬱るのは後でも出来る。今は何かこ の不名誉な誤解を解く方が先だ

 

「とぼけんじゃねぇ!!クローゼだけじゃ無くリー シャやシャルもお前が何か洗脳して好意を抱かせて るのはわかってんだよ!!」

 

「してねーよ」

 

洗脳って…やれんことは無いがやるわけねぇだろ。 馬鹿か

 

「じゃあ何でクローゼはお前に付きっきりなんだ! 」

 

「俺が聞きたいわ!!」

 

いや、割とマジで。毎日あ~んとか耐えられるか! !その内精神が擦り切れる自信があるぞ!!

 

「往生際が悪いぞ!!お前が転生者だってことはと っくにわかってんだよ!!」

 

「あ、お前もなのか?」

 

「…は?」

 

何びっくりしてんだ?聞いたのお前だろうが…

 

と言うか転生者を見たのは初めてじゃない。シオン もそうだし、今まで騎士団にも何人かいた

 

……全員が全員ティアとかリースにやらしい視線送 ってたからティアにボコボコにされた後に〇玉マジ で潰されたり、ケビンに訓練と言う名の処刑(魔槍 ロア使って)されたり、総長に守護騎士用の任務に 行かされてそのまま帰って来なかったりしてたしな ~…

 

「…で?何でそんなにつっかかって来んの?」

 

俺クローゼにどうやって詫びいれるか考えるのに忙 しいんだけど

 

……指一本くらいで許してもらえっかな?

 

「俺の容姿とニコポとナデポが通用しないからだ! !」

 

……何自慢気に言ってんだこの阿呆

 

「お前…そんな変な能力貰ったのか」

 

声の方向を頼りに軽蔑の視線(だから送れないけど も)でリクを見る

 

「はっ!…羨ましいか!」

 

全く。むしろキモい

 

「とにかくだ!俺のクローゼ達にこれ以上近寄るな !!」

 

そう好き勝手言い切った後、リクはこれまた勝手に 部屋を出て行った

 

達って…アイツハーレム願望でもあるのか?

 

…にしても『俺の』…ねぇ

 

面倒なことにならなきゃいいがな

 



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『治療』

ガチャ

 

「ジンさ~ん」

 

「ここにもいないね…」

 

俺はクローゼに車椅子を動かしてもらってジンさん を探している

 

と、言うのも…昨日リクの襲来の時にふと『ジンさ んに気功治療みたいなのやって貰えば割とすぐに治 んじゃね?』と言う考えに行き着いたからだ

 

……え?昨日の件?

 

クローゼに必死で、とにかく死に物狂いで謝ったら 何とか許してくれた。…その代わり何か買ってやる 事になったが。何故だ。

 

「二階にはいないみたいね…」

 

「悪いけど一階探して来てくれねぇか?後いたらケ ビン…さんも」

 

「いいけど……逃げない?」

 

何故か不安そうな声で言うクローゼ

 

…お前状況わかってんのか?

 

「車椅子ナシじゃ移動もできない俺にどうやって逃 げろと?」

 

「それもそうか…ちょっと待ってて」

 

そう言うと、クローゼは軽快に階段を下りて行った

 

――――――

 

「…で?俺に用って何だ?」

 

大体十分後、クローゼがジンさんと何故かシャルを 連れて戻って来た

 

どうやらケビンは見つからなかったらしい

 

「いやその……というか何でシャルが?」

 

「駄目なの!?」

 

ガーンって効果音がつきそうなくらいびっくりした 声が返ってきた

 

「いや、別にいいけど…」

 

「ホッ…ケイジが僕の事嫌いになったかと思ったよ ぉ……」 安心しろ。基本的にお前を嫌いになるような奴は心 が腐ってるから。お前心真っ白だから

 

「まぁとにかく…ジンさん、確か気功使えますよね ?」

 

「ああ、使えるが…それがどうかしたか?」

 

「気功で治癒とかってできます?」

 

これでできないなら…非常に不本意だが奥の手を使 うしかない………ただ、本っ当に嫌なんだが

 

「できんこともないが…」

 

「マジっすか!?」

 

「まぁ落ち着け…俺は確かに

 

クンフー 功夫使いだが、それは 武術に関してだ。治癒に関してはあんまり詳しくな いんだ」

 

「それでも使えるには使えるんでしょう?」

 

「まぁそうだが…効くかどうかは保証できんぞ?」

 

「やらないよりはマシです」

 

そうして、気功による治癒をしてもらえる事になっ た

 

――――――

 

「まずはお前さん自身の事だが…気功は使えるか? 」

 

気…って俺基本的に譜だけど同じようなもんか?

 

「俺の場合は譜って力を使ってるんですが…」

 

「譜?」

 

まぁそりゃ聞いた事無いよな…この世界で使ってる の俺とティアとシャルだけだし

 

…カルバードって現世で言う東アジアに似てるよな …なら

 

「言霊を五行に変換して使う感じ…って言えばわか ります?」

 

「ああ、そういうもんか」

 

普通に通じた。……探せば日本みたいな島とかあり そうだな

 

「ふむ…それなら大丈夫か…

 

…よし、一度気をお前さんに流すからおかしな感じ がしたら教えてくれ」

 

「はい」

 

そういうと俺の足にチクリとした感覚が来る

 

…鍼治療か?

 

「じ、ジンさん!?どうしてケイジに針を!?」

 

「痛いよ!!なんか見てるだけで痛いよ!!」

 

どうやらクローゼ達には馴染みのない治療法だった らしくえらい騒いでいる

 

「まぁまぁ落ち着けって…これは俺の故郷の伝統的 な治療法で鍼灸って言うんだ」

 

「治療法?」

 

「ああ…人体にはツボって場所があってな。具合の 悪い所に対応するツボに針を刺して気を流し、治療 するんだ」

 

「…でも、刺さってるよ?」

 

「刺さなきゃ気を体内に流せないからな。それに俺 は資格が無いからあまりツボは知らないんだ。だか ら直接患部に刺して気を流すしかできない」

 

「シャル、大丈夫だから安心しろ。クローゼもな」

 

「「………うん」」

 

そういうとおとなしくなる二人

 

「さて…いくぞ?」

 

少しずつ、足が暖かくなっていく……譜で足を強化 するのと同じような感覚だな

 

「痛いとか気分が悪いとかは無いか?」

 

「大丈夫です…譜を足に流した時と同じ感覚ですね 」

 

「そうか。なら反対の足にも治療を始めるぞ?」

 

「はい」

 

そして、その日は両手両足、それから目は流石に危 ないので、目に対応するツボに治療をして貰った

 

…それでもクローゼとシャルは一回一回針を刺す度 にキャーキャー言っていたが

 

――――――

 

「治ったー!!」

 

治ったよ、治ったぜ、治りましたー!!

 

身体は動くし目は見える!!復活じゃああああああ !!

 

「興奮しないの!まだ左目見えないんでしょ!」

 

「うっ…」

 

そう、まだ完治では無い。まだ左目は治らないのだ

 

……イザナギで見えない目無理やりこじ開けた挙げ 句、須佐能乎とか天照とか調子乗ったからかな…

 

まぁ、昨日までと違って光はわかるからその内治る 気はする

 

「とにかく安静にしなさい!左目が治るまで無茶は 許さないからね!」

 

「お前は俺の母さんか」

 

いや、母さんいないけど。母さんどんなんか知らん けど

 

「いいから!今からご飯持って来てあげるからじっ としてなさい!」

 

「いや、俺も下に行くからいい」

 

……オイ、何だその「コイツ何言ってんの」的な視 線は。当たり前だろうが。誰が好き好んであんな精 神ダメージイベントこなさなきゃならんのだ

 

「じゃあ…はい」

 

「…何故に車椅子?」

 

「これが無いと移動できないでしょ?」

 

「だから治ったって言ってんだろうが!?」

 

何コイツ!?何でこんなに俺を恥ずかしい目に遭わ せようとすんの!?何か俺に恨みでもあんの!?

 

……恨み、買ってたな。割と

 

「そんな!?じゃあ私はケイジの何を世話すればい いの!?」

 

「まさかのペット扱い!?いらねぇよ!?だからも う身体も動くし目も(片方だけ)見えるって!」

 

そう俺が言うと床に手をついてorzのポーズをとる クローゼ

 

…もう訳がわからん。コイツに何があった?

 

「……こうなったらせめてケイジの目をもう一度潰 すしか…」

 

「オイコラ」

 

少し見ない間にコイツに何があったんだ

 

…って本当に目に指向けてんじゃねぇよ!?…ちょ !?目に光が無いんですけど!?イっちゃった奴の 目なんだけど!?

 

そんな感じでクローゼとじゃれて(?)いると…

 

「クローゼ!無事か!?」

 

馬鹿がやってきた

 

…この際もう誰でもいい!!とにかく…

 

「助けてくれ!このままだと俺の目が!」

 

「貴様!クローゼに手を出すな!?」

 

「お前の目は節穴か!?」

 

この状況でどうやったらそう見えるんだ!?重力振 り切ってんじゃねぇの!?精神が!!

 

「早くクローゼから離れろ!!」

 

「じゃあコイツさっさと引き剥がせや!!」

 

「貴様ァ!!引き剥がせるものならやってみろだと ォォォォォォォ!!?」

 

「ダメだコイツ役に立たねェェェェェェェ!!」 結局、朝飯は食べ損ねた…というかシャルに食われ ていた(泣)

 

そしてひとしきり落ち込んでいた後…

 

「おい」

 

「あん?」

 

この機嫌最悪な時に、馬鹿が急に話しかけてきた

 

「俺と勝負しろ!!俺が勝ったらクローゼを解放し ろ!」

 

「………は?」

 

「俺が負けたらクローゼは好きにするがいいさ…ま ぁ、勝つのは俺だがな!! 場所は紺碧の塔の前、時間は一時間後だ!!」

 

そう何時も通り好き勝手に言うと、馬鹿は勝手にズ カズカ歩いていった

 

……え?何この超面倒くさそうなイベント

 

…え?やらなきゃダメ?マジで?

 

とりあえず、リハビリだと無理やり自分に言い聞か せせて、嫌々紺碧の塔に向かう俺だった…



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『すれ違い』

「………」

 

「何故こうなったし」

 

紺碧の塔に行く前に白龍取りに部屋に戻ると、何故 か部屋にいたクローゼに抱きつかれてます

 

………本当に何故だ

 

「ハッハッハ、いいじゃないか。役得とでも思って おくといい」

 

「この体勢だと何故か恐怖しか湧かないんだが…」

 

「…一体何があったんだい?」

 

アレはトラウマだからな…いや、マジで。

 

まさか七歳でバックドロップをあそこまで完璧に決 めるとは…クローゼ、恐ろしい娘!

 

………と、オリビエと漫才してても仕方ないので

 

「何でいんの?というか何で抱きついてんの?」

 

「行っちゃダメ」

 

わけがわからないよ

 

「オリビエ、翻訳プリーズ」

 

「幼なじみの君でさえわからないのに、僕にわかる とでも思っているのかい?」

 

こんな時だけ正論で返すなよ

 

「…クローゼ?」

 

「行っちゃダメ」

 

「詳しく、かつわかりやすく」

 

「リクなんかと戦う為に無理しちゃダメ」

 

なるほど

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「それ死亡フラグだよね?」

 

何故オリビエが知っている

 

「ケイジ、真面目に聞いて」

 

…割と真剣な顔をしていたので、オリビエとのネタ を止める

 

「…で?行くなってのはどういう事だ?」

 

「どういう事って…!ケイジ昨日まで寝たきりだっ たんだよ!?ロクにリハビリもしてないのに試合な んて無茶だよ!!」

 

「大丈夫だって。さっき確認したけど特に鈍ってな かったからな。唯一不安なのは勘と実戦での誤差く らいだ」

 

「それが不安なの!もし打ち所が悪かったらどうす るの!?」

 

…そんな事言われるとキリが無いんだがな

 

兵士とか騎士なんてもんは常に死と隣り合わせだ。 だからこそ、死なない為に必死に訓練をする。死に たくないから必死に生き延びる術を身に付ける

 

「クローゼ、離せ」

 

「嫌」

 

「……離せ」

 

「嫌!!」

 

子供のように俺にしがみつくクローゼ

 

「…また、どこかに行くんでしょ…?」

 

「………」

 

「リクと戦ったら、またアルテリアに行っちゃうん でしょ」

 

「!!」

 

何故クローゼがアルテリアの事を……!シャルか!

 

…ここで詳しく聞いておきたい所だが、あいにく時 間が無い

 

…………仕方ない

 

「クローゼ」

 

「………」

 

俺の服に顔を埋めたまま動こうとしないクローゼを 、半ば無理やり顔を上げさせて………瞳を見つめる

 

そして、クローゼはそのままその場に眠りこけた

 

……全く、コイツは…俺の心を読んでるんじゃねぇだ ろうな?アルテリアに戻る事は誰にも言ってねぇの に

 

……けど、俺は絶対にアルテリアに戻らなきゃなら ない。左目を完全に治して身体の感覚のブレを無く すために

 

「…良かったのかい?」

 

先程まで一切口を挟んでこなかったオリビエがよう やく口を開いた

 

「君だって本当は気づいているんだろう?クローゼ 君の好意に」

 

「……アレは“LIKE”の類だよ。箱入り娘なばっかり に俺しか年の近い男がいなかったからな… まぁ…『恋に恋した』ってやつだ」

 

「…君は……いや、君がそう思っているならそれでい い …ただ、君は…」

 

「オリビエ、クローゼ頼んだぞ」

 

俺はその先を聞かないまま、部屋を出た

 

「“LIKE”か…なら、どうして学園で“LOVE”の対象が 見つからなかったのかな」

 

そう言うと、オリビエはクローゼをケイジのベッド に寝かせる

 

…クローゼの目には、涙が一筋伝っていた

 

「…全く、二人とも不器用だね。だが…」

 

オリビエは、その場で静かにリュートを弾き始めた

 

――――――

 

~紺碧の塔~

 

「………」

 

「やっと来たか!逃げ出したかと思ったぜ!!」

 

紺碧の塔の前で、リクが腕を組んで待っていた

 

「最後のチャンスをやるよ。今すぐクローゼを解放 して負けを認めろ!!そうすれば「…前置きはどう でもいい」

 

奴のうっとうしい口上を遮る

 

…何故かオリビエに何かを言われかけた時からイラ イラして仕方ない…

 

今は、とにかくこのイライラをどうにかしたかった

 

「…フン!!あくまで俺のクローゼを盗もうとしや がるか!!…だったら力ずくで取り返すだけだ!! 」

 

コイツがクローゼの名前を呼ぶ度に何故かイライラ が更に強くなる

 

…何でだ?前に同じような事を言ってた時には何と もなかったはずだ

 

「…さっきから黙って聞いてりゃクローゼを物みた いに言いやがって…お前何様のつもりだ?」

 

「はっ!!お前こそ何様だ!!お前がクローゼを洗 脳何てしなけりゃ、とっくに俺とクローゼは両想い だった!!」

 

そう言いながら、両手にどこから出したのか、中国 剣の双剣を握るリク

 

……投影?だとすれば奴の能力はまず間違いなくエ ミヤの能力…

 

多分今は遠き理想郷(アヴァロン)は無いが

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

気合いと共に突っ込んでくるリク

 

…ただ、ぶっちゃけ隙だらけだ

 

しかし、俺はあえて攻撃せず、避けた

 

連続して斬りつけてくるのを避ける避ける避ける避 ける避ける…

 

…素人以外の何者でも無いな。身体能力まかせの素 人剣術…これならクローゼの方がよっぽど筋がいい

 

「クソッ!!いい加減当たれ!!」

 

「当たれって言われて当たる馬鹿がどこにいるんだ …よっ!」

 

「ぐあっ!」

 

そして隙を見てリクの腹を蹴り飛ばし、距離を取る

 

「集え氷槍……鋭く空を駆け抜けろ!」

 

「譜術!?」

 

――フリーズランサー!!

 

「くっ…織天覆う七つの円環(ロー・アイアス) !!」

 

リクの前に七つの花弁が展開されるが、フリーズラ ンサーの直撃によって一瞬で全ての花弁が砕け散る

 

「なっ!?」

 

「やっぱりな…」

 

「何がだ!!というよりお前今何をした!?」

 

「単純にフリーズランサー撃っただけだ」

 

「嘘をつくな!たかが中級の術で宝具が壊される訳 がない!!」

 

……はぁ

 

「お前…投影の訓練とかしたのか?」

 

「はぁ?するわけねーだろ。そんな事よりこっちの 質問に答えろ!!」

 

……もういいや、こんなもんか

 

譜力を使って縮地を使い、峰打ちをリクの腹に叩き 込む

 

「がっ………!?」

 

「スカスカなんだよ…お前の剣は」

 

確か投影は…それの骨組み、構造、その他諸々を完 璧に理解して投影。それでやっと原典(オリジナル)より1ランク ダウンだったはずだ

 

それをコイツは何の努力も無しに使った。普通に使 う分には問題ないだろうが…

 

「確かに中級譜術くらいで宝具が壊れる訳がない… だが、それはお前が投影を使いこなしていれば、の 話だ」

 

「俺が…投影を使いこなせていないだと…?」

 

リクが気を失う寸前になって俺に話しかけてくる

 

…プライドだけは一人前だな

 

しかしもう俺はリクに一切の興味を失っており、さ っさとボースへと歩を進め始めていた

 

「おい…待てよ」

 

ザッ…ザッ…

 

「まだ終わってないだろ……」

 

ザッ…ザッ…

 

「待てって…言ってんだろうがよォォォォォォ!! 」

 

そう叫ぶと、リクは最後の力か、立ち上がって剣の ような何かを投影した

 

天地乖離す(エヌマ)…」

 

そしてそれをそのまま振りかぶり…

 

開闢の星(エリシュ) !!!」

 

そのまま俺に向けて打ち出した

 

力の奔流が唸りを上げて俺に向かってくる

 

…が

 

「…八汰之鏡(やたのかがみ)

 

俺の背後に出現した女神の持つ鏡が奔流を全て吸収 し、そっくりそのまま反射した

 

「…努力もしないようなクソ野郎に負ける訳にはい かねぇんだよ。でないと…アイツ等に申し訳がたた ねぇんでな

 

…血反吐吐くほど訓練してから出直して来い 今のお前に力を力として奮う権利は…無い」

 

そして、俺は、背後を振り返る事無く、今度こそボ ースへと歩を進めた

 

 



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『三者三様』

「…………!!」

 

「やぁ、起きたかい?」

 

「ここは…?」

 

クローゼが辺りを見渡すが、オリビエ以外誰もいな い

 

「ケイジ君の部屋だよ。いや、部屋だったと言うべ きかな」

 

「ケイジ……そうだ!?」

 

気絶する前の事を思い出し、飛び起きるクローゼだ が、オリビエに手を掴まれて止められる

 

「どこに行くつもりだい?もう深夜だ。不用意に外 に出るのは感心しないね」

 

「でも!」

 

「落ち着きたまえ」

 

いつになく真面目なオリビエに渋々従い、近くにあ った椅子に腰掛ける

 

「…どうして止めるんですか?こうしている内にも ケイジは…」

 

「…今からボースに行ってまだ間に合うと?ケイジ 君があの慢心君にそれほど時間を取られるとでも思 っているのかい?」

 

「………」

 

確かに、ケイジがその気であればそれこそ瞬殺でき るだろう

 

「…ケイジは、私の事が嫌いなのでしょうか…?」

 

「………」

 

「今思えば、ケイジはいつも私から一歩距離を置い ていた気がするんです… 城にいた時も、学園にいた時も…側にはいてくれた けどそれだけでした…」

 

ただ、目を閉じてクローゼの独白を聞くオリビエ。 そこに普段のようなおちゃらけた感じは無かった

 

「やっぱり…お祖母様に頼まれていたんですかね… ?

 

…そんな、形だけの優しさなら…初めから、私の側 にいなかったら良かったのに……!!」

 

クローゼの独白。今までの旅の中で一度も吐き出さ なかったその弱音が、ここに来てとうとう爆発した

 

「…それで、君はどうするんだい?」

 

「………」

 

「君がそう思うならケイジ君を諦めて別の人を探す のもいい。今まで通りケイジ君を追いかけるのもい い

 

……全てを踏まえて、君は今何をしたい?君の求め るものは何なんだい?」

 

涙を流すクローゼを真っ直ぐに見つけて問う

 

「…わたし、は…私は……

 

それでも、ケイジを追います…!!」

 

かすれた、けれど力強い声

 

「拒絶されるかもしれないのにかい?」

 

「それでも、私の心は変わりません。拒絶されるな ら、拒絶されなくなるまで側にいるだけです!」

 

それはそれで何か危ない感じのしたオリビエだが、 空気を読んだのか何も言わなかった

 

「フッ…なら、思う存分彼を追いかけるといい。生 半可な気持ちでは捕まらないと思うけどね?」

 

いつものように茶化し始めたオリビエ

 

「生半可だなんて誰にも言わせません。 …もう私の世界にはケイジがいないなんて考えられ ないんです…そんな事になった分の責任は取っても らいますよ」

 

そう言うと、涙を拭って決意の表情を見せるクロー ゼ

 

「(フッ…余計なお世話だったようだね…しかしケ イジ君、残念ながら彼女は君の思っていた以上に心 が強かったらしい。…覚悟しておいた方がいいかも しれないね?)」

 

「……だから今から行った所で間に合わないよ」

 

「………あう」

 

変な所でアホの子なクローゼであった…

 

――――――

 

「………」

 

リクは今“川蝉亭”の屋根の上で横になっていた

 

本来なら結社の拠点に自分も踏み込むつもりだった が、どうもそんな気にはなれず、結局エステルとケ ビン、シェラ、アガットに任せることになった

 

リクは起き上がって目を閉じ、昼間のケイジとの闘 い…いや、一方的な敗戦を思い出す

 

…投影した宝具は、ことごとく破壊された

 

…神に頼み込んでつけてもらった切り札のエアすら も、軽く返された

 

…自前の剣術―剣術と言っていいのかはわからない が―は勿論通じる所か防がせることすら叶わなかっ た

 

ケイジに負けた その事実だけはリクに重くのしかかる

 

体調が悪かった、油断した、たまたま運が良かった 、たまたま運が悪かった…

 

言い訳はいくらでもできるが、1対1で負けた挙げ 句、そんな言い訳で事実から逃れようとするほど、 リクは腐ってはいないし、弱くも無かった

 

「……『今のお前に力を力として奮う権利は無い』… 」

 

ケイジに言われた言葉。それこそが今リクの頭を悩 ませている最大の原因であり、頭痛の種であった

 

確かに、自分の弱さには腹が立ったが…

 

「(力を奮う権利…?何だ?何をすれば力って奮っ ていいことになるんだ?そもそも力って奮うのに権 利か何かが必要なのか?)」

 

考えれば考えるほどわからなくなる

 

ただ、負けた。その事実だけがリクの頭を駆け巡り 、力を奮う権利という問いの答えをわからなくして いた

 

「…あ~!!もう!!頭使うのは俺のキャラじゃね ーんだよ!!」

 

全てを投げ出して、再び屋根の上で横になるリク

 

「……その内、絶対にリベンジして俺の方が上だっ てことをわからせてやる…!」

 

リクの辞書に、“撤退”の二文字は存在しなかった

 

――――――

 

~メルカバ弐号機・後部テラス~

 

「…………」

 

カシュ

 

「……シャルか」

 

「どうしたの?作戦会議だってみんな待ってるよ? 」

 

「いや…」

 

言葉を濁すケイジを置いといてシャルがケイジの見 ていた方向を見る

 

それは…やはりというかリベールの方向だった

 

「…やっぱり心残り?」

 

「……んなもんねぇよ。自ら望んで、自分の意志で 騎士団(こっち)に来たんだ。

 

後悔も迷いも……全部振り切ったさ」

 

嘘だ

 

シャルは直感的にそう感じた

 

「振り切ったなら…何でそんなに悲しそうなの?」

 

「何のことだ?」

 

シャルはそう言うが、ケイジは完璧なポーカーフェ イスである

 

「わかんないけど…そんな気はするよ。それに振り 切ったならタルブさんにあんな条件ださないよね? 」

 

「タルブ?」

 

「封聖省のお偉いさん。あの太ってる人。総長がタ ルブ・タブーヒって名前だって教えてくれたんだ~ 」

 

「アイツの名前タルブって言うのか………と言うかそ の名前を付けた親の顔を見てみたい」

 

全くである

 

「話逸らさないでよ~…リベールに未練が無いなら 何であんな条件だしたのさ」

 

「………」

 

あんな条件……それはリベールに何かあれば逐一ケ イジに報告すると言う条件

 

「……いや、リベールと言うか……クローゼが気にか かってるよね?」

 

「………」

 

目を閉じて口を開かない。聞いてはいるようだが、 答えようとはしない

 

「…クローゼ、泣いてたよ。最近は数は減ってたけ ど…それでも三日に一回は夜に一人で泣いてた」

 

「………」

 

「…ねぇ、僕はよくわかんないけど立場ってそんな に大事なの?」

 

「…先に行くぞ。お前も早く来いよ」

 

逃げるように機内に戻るケイジ

 

「…全く、クローゼもケイジも意地っ張りで……

 

その分じゃ今はリーシャがクローゼよりリードして るのかな?」

 

そう呟いた後に、シャルはケイジを呼びに来た理由 を思い出して、慌ててケイジの後を追って行った

 

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『やりたい放題』

~とある帝国の辺境~

 

「…さて、ここで間違い無いんだな?」

 

「ええ。エレボニア帝国フェード子爵領……ここで 間違い無いわ」

 

俺の問いにティアが答える

 

「そんなの後でいいよ!早く行かないと!」

 

「そうですよ!早く行かないとリースさんが!!」

 

シャルとリーシャが俺とティアを引っ張って行こう とするが、何分俺は体格差、ティアは無駄にデカい 脂肪を持っているため、そう簡単には動かない

 

「ケイジ、何か不愉快な事考え無かった」

 

「イヤ?ベツニ?」

 

というか言ったか、じゃなく考えたか、って…

 

さて、とりあえず何故こんな状況になったか説明し よう

 

~昨日~

 

「ただいま~………って何やってんの総長?」

 

アルテリアに戻ってすぐに総長の執務室に行くと、 先に入ったシャルが開口一番そんな事を言い出した

 

「シャル、何が………そんな馬鹿な…」

 

続いてリーシャが入るがシャルと同じく固まった

 

……何があるんだ?

 

自分の好奇心に負けて俺も中を覗…く……

 

「総長が……真面目に書類をやっている……だと……? …」

 

「お前達揃いも揃って失礼だな」

 

当たり前だ!

 

「そ、総長!どうしたの!?風邪!?それともイン フルエンザ!?」

 

「違うよシャル!!きっと天変地異の前触れだよ! !……どうしましょうケイジさん!!?」

 

「諦めろ」

 

「お前達ちょっとそこに正座しろォォォォォォ!! 」

 

――――――

 

「本当の事を言っただけで何故殴られる しかもシャルとリーシャは正座だけだし

 

…何この理不尽。男女差別はんた~い」

 

「もう一発殴られたいか?」

 

「すいませんでした」

 

完璧な日本仕込みの土下座を披露する

 

「ハァ、全く…だが良い所に帰って来てくれた」

 

「………はい?」

 

「任務だ。しかもかなり急を要するな」

 

「………はい!?」

 

………と、言う訳でここに至る

 

ちなみに今回は総長の隊の飛行士メンバーを借りて いるのでメルカバの墜落の心配は無かった

 

「ちょっとシャル、落ち着きなさい… とにかく作戦をもう一度説明するわよ」

 

そう言ってシャルとリーシャを落ち着かせて、再び メルカバの会議室に集まる

 

「…目的はリースとクロスベル市長のマクダウェル 氏の娘さんの保護。それとここの領主のシーク・フ ィードの検挙だ。『検挙』な?間違っても殺したり 廃人にしちゃダメだぞ?」

 

『その言葉、そっくりそのままバットで打ち返すよ (わ/します)』

 

そんな馬鹿な

 

「歩くトラウマ製造機が何ふざけたこと言ってるの かしら…」

 

「そうだよね~」

 

「待て。リーシャはともかくお前ら二人だけには言 われたくない」

 

「「私達が何をしたと?」」

 

「ティア…お前はつい数カ月前の事すら覚えてない のか?」

 

お前カニバリズムの教団の所で男の大半を不能に追 い込んだんだぞ?

 

「さて、ナンノコトヤラ」

 

「目、泳いでる泳いでる

 

後シャルは…ほら、技がもう……魔王じゃん」

 

「ケイジのせいだよ!?後技が魔王ってどういう意 味!?」

 

「……とにかく、早く行きませんか?」

 

仲間はずれにされたと思ったのか、ちょっと涙目な リーシャだった

 

――――――

 

とりあえず、ティアの立てた作戦はこうだ

 

先ず、俺とリーシャが屋敷に侵入し、私兵を撹乱。 その間にティアがリースとマクダウェル市長の娘さ んを救出、最後にシャルが一発ぶちかましてさっさ と脱走

 

……以上です

 

とにかく、撹乱の方法は俺に任された訳で…

 

「…ケイジさん、見つけました。今シークが食事中 らしく、私兵は全員中央の庭園に集まってます」

 

「了解…サンキューな」

 

「えへへ…」

 

とりあえずリーシャの頭を撫でる

 

…ラッキーな事に、シークとやらは食事中に家族以 外の奴を家に上げるのをよしとしない奴らしい

 

帝国貴族には稀にそういう変なこだわりを持つ奴が 多いらしいが…今回は助かった

 

「行くぞ、リーシャ」

 

「あ、はい!」

 

と、言う訳で中央庭園

 

「いや~…いるわいるわ。シークってのは本当に子 爵か?これどう見ても伯爵レベルじゃねぇと維持で きねぇ人数だぞ」

 

私兵の山が庭園に集まっていた…軽く500人はくだ らねぇな

 

「さて…」

 

「…行きますか?」

 

リーシャが準備完了だと言わんばかりに剣を抜く

 

…そうかそうか。準備はできてるか

 

「………」

 

「…あの~…何で私は猫みたいに掴まれてるんです か?」

 

何でかって?

 

「決まってんだろ?…………逝ってこい♪」

 

「…やっぱり?」

 

投~擲~!!

 

「こんなデジャヴはイヤあああぁぁぁぁぁぁぁ!! !(泣)」

 

リーシャは真っ直ぐに私兵達の中心へと飛んでいく

 

………狙ったとはいえ、我ながら恐ろしいコントロー ルだ…

 

「何者だ!?」

 

「貴様…我等をグース猟兵団と知っての仕業か!! 」

 

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇん!!(泣)」

 

案の定追いかけられ始めるリーシャ…うん

 

満 足 ♪

 

…さて、こっちはこっちで準備しますかね…

 

「何でいつもいつも私ばっかり…!」

 

『お、おい、何かあの娘の雰囲気が変わったぞ…』

 

『は、ハッタリだ!!相手は所詮小娘だ!!元服も していない小娘に我等が負ける訳にはいかん!!』

 

…さっきから何か喋り方が古臭いな

 

後、二人目。それ割と死亡フラグだ

 

「小娘って……言うなぁぁぁぁぁぁ!!(泣き怒り )」

 

『ぎゃああああああ!?』

 

『隊長!味方がゴミのごとくぶっ飛ばされて行きま す!!』 『見て下さい!人がゴミのようです!』 『バ〇ス!!』 『お前何言ってんだ!?』

 

おい三人目。お前が何故そのネタを知っている

 

「後私はもう元服(15歳)してるんじゃぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁ!!!」

 

『『『嘘ォォ!!!?』』』

 

「…………!!!!」

 

『わかった。わかったから血の涙流してこっちを見 ないでくれ』

 

リーシャ………本当に背の低いのと胸が小さいの気に してたんだな……

 

「…『天光満つる処に我は在り、黄泉の門開く処に 汝在り…』」

 

「殺す!!細胞の一片残らず殺してやるぅぅぅぅぅ ぅぅぅぅ!!(血涙)」

 

『隊長!夜叉です!夜叉がいます!』

 

『…ああ、終わったな』

 

『『『隊長ォォォォォォ!?』』』

 

隊長、ナイス判断だ

 

「『出でよ!神の雷!!』」

 

―インディグネイション!!

 

とりあえず、俺はこのカオスに終止符を打つ為にリ ーシャに向かって雷を落とした

 

――――――

 

~その頃の牢屋~

 

「…何か外が騒がしいわね…」

 

「……多分ケイジ達だと思います。 …総長…また始末書が面倒な組み合わせを…」

 

「……ってリースさん!?」

 

「や、エリィさん。半年ぶりくらいですね」

 

「あ、はい…じゃなくて!!どうして牢屋(こんな 所)に!?」

 

「いや、エリィさんを助けようと…」

 

「思いっきり捕まってるじゃないですか!?」

 

「………私には…ご飯を無駄にする事がどうしても出 来なかったんです…!!」

 

「あ、もう大体わかりました。要するに食事中に乗 り込んじゃって豪華なご飯があって暴れるとご飯が 食べられなくなるから本気出せなくなったんですね ?」

 

「何故その事を…エリィさん、貴女まさか超能力と か使えますか?」

 

「使えません。そりゃああれだけ目の前で食への執 着を見せられたら誰でもわかりますよ…」

 

「あのステーキは是非ともオニオンソースでいただ きたかった……!!」

 

「こんな時までご飯ですか……ってオニオンソース ?リースさん、そこはおろしポン酢でしょう?」

 

「……奇妙な事を仰いますね。ステーキにはオニオ ンソース。これは天地がひっくり返っても変わらな いただ一つの法則です。確かにポン酢もおいしいで すが。ただしにがトマソース、お前はダメです。私 はお前だけは認めない」

 

「リースさんこそ奇妙な事を言いますね…ステーキ みたいにジューシーなものにはあっさりしたソース こそが至高なんです。誰にもこの理論は崩せません 。 …にがトマソースについては同意しますが。何でお 祖父様はあんな苦いものを平気で食べられるのかし ら…」

 

「……どうやら、お互い譲る気は無いみたいですね 」 「はい」

 

「いいでしょう。ならば今日は朝まで生討論です。 絶対にオニオンソースこそが究極だと認めさせます 」

 

「上等です!おろしポン酢こそが至高…これが世界 のルールです!」

 

この討論はティアが二人に拳骨を落とすまで続いた

 

「…いつか必ず決着つけますよ…?」

 

「望む所です…!」

 

「…二人共、また拳骨落とされたいの?」(超イイ 笑顔)

 

「「心の底からゴメンナサイ」」

 

「………アレ?また僕の出番カット?」

 

…この小説で一番不憫なキャラってもしかするとシ ャルなのかもしれない

 

「……えっ?嘘!?本当に終わるの!?ちょっ!! 泣くよ?泣いちゃうよ?それでも……ってまtt

 

 



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『王都の異変』

「よぉ、ティア~。そっちは終わったか~?」(キ ラキラ)

 

黒こげになったリーシャを担いでメルカバに戻ると 、すでにティアが離陸準備をしていた

 

「無駄にイキイキしてるわね… 終わったわよ。アホ二人、無事に保護したわ」

 

「そーかそーか…ってアホ?」

 

ティアが面倒くさそうに指を指す方向を見ると…

 

「だから何度言ったらわかるんですか。ステーキの ジューシーさにはほんのり甘い醤油ベースのオニオ ンソースです」

 

「いえ、おろしポン酢です。ジューシーにはあっさ りで対抗してこそ、両方の旨味が引き立つんです」

 

なん…だと…?

 

「救出した時からずっとあの調子なのよ…ケイジ、 収拾つけてくれない?」

 

「ああ。これは見過ごせねぇ…

 

 

テメェ等ぁぁぁぁ!!ステーキはシンプルに白醤油 とわさびがベストなんじゃぁぁぁぁ!!」

 

「そっち!?更に煽ってどうするのよ!?というか 選択がマニアック!!」

 

「「その発想は無かった!!」」

 

「え!?それで落ち着くの!?何!?私が何かおか しいの!?」

 

わかってくれたようで何よりだ

 

――――――

 

「……さて、マクダウェル市長の娘さんだな?」

 

「え?はい、そうです」

 

その後、マクダウェル市長の娘さん…エリィと話を する事に

 

…書類に必要なんだよ。すんごい面倒くさいけど。 すんごい面倒くさいけど!

 

「とりあえず何で帝国貴族なんかに捕まってたんだ ?」

 

「え~と…わかりません」

 

「んじゃ適当に子爵がロリ巨乳好きだったからと… 」

 

バキッ

 

「殴りますよ?」

 

「や、殴られてから言われても…」

 

「それに私16です。結婚できる年齢なんですけど 」

 

「16…いや、やっぱ低いだろ。ティアの口ら辺まで しか無いし」

 

「ティアさんが高すぎるんです!!」

 

ティア…大体168センチくらいか?高いのかコレ?

 

え?俺?この前測ったら183だったけど

 

「じゃ、アレだ。誘拐された心当たりとかは?」

 

「……多分、クロスベルの政治情勢が原因だと思い ます」

 

「……なるほどな」

 

クロスベルはアルテリア法国が自治を認め、宗主国 が帝国と共和国の二国もあるという厄介な状況にあ る

 

その為、宗主国はこぞってクロスベルの統治を主張 しあい、長年水面下の争いが続いている

 

「……確か、今のクロスベルの議長は帝国派のハル トマンだったな?」

 

「…はい」

 

…つまり今回のは市長を脅してクロスベルの政治部 分を完全に帝国が掌握しようってわけか

 

後今更だが俺が目の前にいても大丈夫って事はそう いう事もされてない、と

 

「じゃ、後はティアが色々聞くと思うから…素直に 答えろな?」

 

そう言って俺は部屋を出る

 

「…どうだった?」

 

「やっぱりクロスベル問題の件だな。…後、あっち 系は大丈夫だ。心も覗いてみたが俺に対する怯えと かは一切無かった」

 

つーか殴られたし。空気を和まそうとしたのに何て 仕打ちだ

 

「そう…後、シャルが帰って来てるから宥めてあげ てね」

 

「…何故に?」

 

「『何で僕だけ出番無いのさ~!!』って言って凄 い拗ねてたから」

 

メタ発言禁止

 

「…それに、その所為かは知らないけど…シークに 散々撃ち込んで動けなくした後に…アレ、ぶち込ん だらしいわ…」

 

「マジでか…死んでなきゃいいけども…」

 

「トラウマは確定ね」

 

無邪気って…恐ろしいな

 

その後シャルを宥めていると、今度は何故かリーシ ャの機嫌が悪くなっていった

 

……解せぬ

 

そしてエリィはまだ帝国に留学中らしく、駅まで送 ってから別れた

 

――――――

 

「……ただいま」

 

「リースぅぅぅぅぅぅ!!」

 

帰って来るなり、総長が全力でリースを拉致って行 った

 

「………は?」

 

「あ~…リーシャは初めて見るのか。あの人基本的 に書類が関わるとポンコツだから。面倒なくらい子 供だから」

 

「書類仕事全部私に押し付けてる人の言えるセリフ かしら?」

 

「キオクニゴザイマセンナァ」

 

「声が震えてるわよ」

 

まぁそんなどうでもイイ事は永遠に置いといて…

 

「とりあえず俺達はもう一度リベールに戻るぞ」

 

「ふぇ?何で?」

 

「いや、ちょっと前にリベールに空中都市が出現し たって知らせがあってな…」

 

『!?』

 

お前ら…さては一度も外見て無かったな?

 

「多分だが…アレはゴスペルとやらと同じ物の類だ 。下手すれば国単位で導力停止現象が起きる」

 

「!!」

 

そうなれば間違いなく帝国が何らかのアクションを 起こす。仮に俺が鉄血のオッサンと同じ立場だった ら絶対に放っておかない

 

「だったらどうやってリベールまで行くの?」

 

「忘れたか?俺達だけが使える力があるだろう?」

 

「まさか…」

 

「そう………譜で、メルカバを飛ばす」

 

――――――

 

~リベール王国・王都グランセル~

 

街が燃える

 

突如として侵入してきた“身喰らう蛇”の執行者達に よって王都は蹂躙されていた…

 

~グランセル城・空中庭園~

 

「ふむ…あれが女王宮のようだ」

 

遂に執行者達は女王宮の手前まで来てしまっていた

 

「…どうでもいいよ。早く終わらせよう」

 

「相変わらずお前は第二位以外には興味を示さねぇ な…」

 

執行者は五人。怪盗紳士、痩せ狼、幻惑の鈴、殲滅 天使、そして…影奏

 

「ホラ…油断するから面倒な事に…」

 

女王宮からも親衛隊が出てくるが、影奏の影の攻撃 により、一瞬で制圧される

 

そしてエステル達が着いた頃には…

 

「…ほう、君達か」

 

執行者達にクローゼ、そしてアリシア陛下が捕らえ られていた

 

「無駄よ。ヨシュア…あなたの穏形ならあるいは私 達の隙をつけただろうけど…」

 

「そうだね…でも、隙を作るのは僕がする必要はな さそうだ」

 

ヨシュアがそう言うと、突如閃光のような速さで誰 かが横から奇襲を入れる

 

そこに現れたのは…シード中佐

 

「やあ、みんな、遅くなったね

 

――陛下、殿下。遅くなってしまい申し訳ありませ んでした」

 

「…いえ、よく来てくれました」

 

そして、間髪入れずに鳥の鳴き声が聞こえたかと思 うと、突如としてジークが現れ、ルシオラを下がら せ、その隙をさらに誰かがこじ開ける

 

「間に合ったか…」

 

「おいおい…」

 

「リ、リ、リ…

 

リシャール大佐っ!?」

 

「…まだ、甘いよ?」

 

「それは…どうかな?」

 

そして影を介してアリシア陛下を連れ去ろうとする 影奏に西洋剣が振り下ろされる

 

「……まだいたのか」

 

「もっといるかもしれないね?」

 

「シオンさん!!」

 

「陛下、殿下…すみませんでした。そしてご無事で 何よりです」

 

クローゼの言葉に、黒髪黒目の青年…シオンは笑っ て答えた

 

「《剣聖》を継ぐ二人……そして《漆黒の牙》と腕 利きの遊撃士たち……更には《白烏》の後継者か」

 

『……ええ!?』

 

「…あ、そう言えば初めましてだったね。王国親衛 隊大隊長代理、シオン・アークライトです。よろし くね」

 

そう言って微笑んではいるが、隙が無い

 

というか…

 

「(いい人オーラがでてるわね…)」

 

「(あのドSの後継者とは思えないな…)」

 

割とエステルとヨシュアのケイジの評価は酷かった

 

「…ちょっと遊びすぎたかしら」

 

「市街地の方も手を打たせてもらって

 

――――――

 

東街区は原作通りカノーネと元情報部が制圧した

 

そして…

 

~西街区~

 

「………」

 

グランセル城に通じる道。そこにリクは立っていた

 

…作戦では、情報部の奴らがここに西街区の全猟兵 を集める事になっている

 

後は…

 

―――体は剣で出来ている

 

血潮は鉄で 心は硝子

 

只、俺が奴に劣っていないと証明するために

 

―――幾たびの戦場を越えて不敗

 

只の一度も敗走はなく

 

只の一度も理解されない

 

只、俺が俺であるために

 

―――彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う

 

故に、生涯に意味はなく

 

只、あの背中に追いつくために

 

―――その体は、きっと剣で出来ていた

 

「……王室親衛隊、大隊長補佐『代理』、リク・ク レシャナ」

 

―――――無限の剣製(アンリミテッド・ブレード・ワークス)

 

あの敗戦の後、エステル達と別れてすぐにリクはカ シウスに特訓を頼んでいた

 

…これが、その特訓の成果にして、英霊エミヤの能 力の真骨頂

 

「……会って早々に悪いんだが…今はお前らに費やし てる時間が無いんだ

 

………消えろ!!」

 

その瞬間、猟兵達を囲むように、そして間を縫うよ うに地に突き刺さっていた全ての剣が爆発した

 

そして、執行者が退いたことにより、執行者による 王都襲撃事件はなんとか食い止められた



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『水面下の攻防』

~グランセル城・女王宮~

 

「も、申し上げます!!」

 

エステル達が話し合いをしている時に、突然王国軍 仕官の一人が女王宮に転がり込んできた

 

「どうした?何かあったか?」

 

「さ、先ほどハーケン門と連絡が取れたのですが…

 

国境近くに、帝国軍の軍勢が集結し始めているのだ そうです!」

 

『!!』

 

「(……なぁ、これって…)」

 

「(うん。原作通りのイベントだと思うよ…けど、 ケイジ来るのかなぁ…彼は原作知識持ってないから …)」

 

「(…アイツの事だからリベルアークが出てる時点 でこっちにくるだろうよ)」

 

「(珍しいね?君がケイジの事でコメントするなん て)」

 

「(ハッ…奴の無駄に強い悪運だけは認めてるから な)」

 

「(全く……素直に認めてるって言えばいいのに…) 」

 

――――――

 

「……ハーケン門と帝国の国境に帝国部隊が集まっ てるわね

 

…どうするの?」

 

「…迷彩使って近くに降ろそう。見つかると面倒だ からな」

 

了解(ヤー)

 

「…俺一人で行く。どうせカシウスのオッサンとケ ビンがやらかすだろうからお前らはそっちに合流し てくれ」

 

「「「了解(ヤー)」」」

 

――――――

 

~ハーケン門・北側~

 

……あれは蒸気機関?この世界にもあんなもんあっ たのか…

 

「――だが、この戦車があればこそ、市民達の不安 も和らげられるし、貴国の窮状を救うことも叶いま しょう。どうか、ご理解いただけませんか?」

 

「くっ…」

 

アイツは…確かゼクス少将…いや、中将か

 

つーか爺さん…アンタ交渉事とか全く向いてないん だから無茶すんなや…

 

…仕方ねぇな

 

「少し待って頂けますか?」

 

「…!お主!」

 

「(とりあえず話は後で。爺さん交渉事とか向いて ないんだから下がってろ)」

 

「(く…頼んだぞ)」

 

「(イエス・サー)」

 

「貴公は……」

 

「『王室親衛隊大隊長兼、王国軍大佐』、ケイジ・ ルーンヴァルト。…お久しぶりですねゼクス・ヴァ ンダール中将」

 

「……百日戦没以来ですな。再び会えて光栄です。 《白烏》殿」

 

ゼクス中将が《白烏》と呼んだ事で、帝国軍に少し だが動揺が走る

 

…新兵が混ざってんのか?このオッサンの部隊が名 前だけでビビるとは思えないが…

 

「ここまでご足労頂き大変申し訳無いが、ここは『 穏便』に退いて頂きたい」

 

「……それは脅しですかな?」

 

「人聞きの悪い。ただのしがない小僧のお願いです よ」

 

そう言って微笑みを浮かべるものの、右目は既に写 輪眼を展開する

 

「…だが、我々もそう簡単には引けないのです。貴 国の窮状、ひいては我が国の南部の異変を止めるた めに―――」

 

「……お気遣い、とても嬉しく思います」

 

涼しい声が聞こえてくると同時に、俺の背中に冷や 汗がどっと溢れる

 

……ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバ いヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤ バいヤバい

 

即刻で逃げようとするが、運悪く声が聞こえたのは すぐ後ろ

 

当然、腕を掴まれて逃げられない

 

……目が!目が!「月夜ばかりと思うなよ…?」って 言う某守銭奴の如く黒いんだけど!?ハイライト完 っ全に消えてるし!!今までの比じゃねぇんだけど !!

 

「(…何でお前がここにいんの?」

 

「(ふふ…私王太女になったから…… それと、もう逃がさないから……!!!)」

 

ナンテコッタイ

 

とりあえず、ここから先をクローゼに任せて一歩下 がる

 

その時に後ろにいたエステルとヨシュアを見たが… …スッゴい笑顔でサムズアップしてやがった

 

…お前ら絶対いつかシメる。というかヨシュア、お 前結局捕まってんじゃねぇかコノヤロー

 

…まぁとりあえずクローゼに任せるか。失敗したら 失敗したで戦車全部ぶっ壊せばいい話だし…

 

*凄く簡単そうに言ってますが普通はムリです

 

「…どうやら、交渉相手が変わったようですな」

 

何故かホッとしたような表情を浮かべるゼクス中将

 

「(…ケイジ、もしかしてあのまま何も無かったら …)」

 

「(俺の勝ちだったな)」

 

「(…やっぱり?)」

 

「(あんま気にすんな。クローゼの経験を積めるチ ャンスとでも思っておけばいい)」

 

「(相変わらず自由人だね…)」

 

それが俺だからな

 

「お初にお目にかかります。わたくしの名はクロー ディア・フォン・アウスレーゼ。リベール女王アリ シアの孫女にして先日、次期女王に指名された者で す」

 

「!!こ、これは失礼致した。自分の名はゼクス・ ヴァンダール。エレボニア帝国軍、第3師団を任さ れている者です」

 

「(…あのおじさん、有名なの?)」

 

「(そうだね。『隻眼のゼクス』。帝国でも五本の 指に入る猛者だよ)」

 

「(ま、帝国版カシウスのオッサンって考えればい い)」

 

実際英雄視されてる地域もあるし。何か知らんが俺 を悪者にしてる地域もあるけど

 

「して…王太女殿下がどうしてこのような場所に? モルガン将軍や《白烏》殿と同じように我々に抗議 するおつもりですかな?」

 

…さて、ここからが本番だ

 

こう言っちゃ悪いが…たかだか軍の中将程度、看破 してもらわなくてはリベールに未来は…無い

 

「いえ、そのつもりはございません。帝国南部の方 々もさぞ不安な思いをなされている事でしょう」

 

「………」

 

「ですが、考えて頂きたいのです。このまま貴国の 軍隊が我が国に入って来た場合の問題を。ただでさ え混乱しているこの状況で、『他意は無い』、と言 っても貴国の軍隊がリベールを堂々と進む状況を… 」

 

「………」

 

今、少し俺の顔はにやけていると思う

 

…心配はいらなかったみたいだな……最善手だ

 

他意は無い、と強調し、さらにリベールに入って来 たと言うことで遠回しに百日戦没の件を引き出して いる

 

「せっかくの貴国の善意が誤解されてしまうのは、 こちらにとっても望む所ではございません」

 

「……で、ですが…」

 

「勿論、目下わたくし達はこの異常現象を解決する 方法を最優先で模索しております。また、件の犯罪 組織についても自力で対処出来ている状況です」

 

「………」

 

「不戦条約で培われた友情に無用な溝を作ってしま わぬよう…ここはどうかお引き取り願えませんか? 」

 

「………むむ…」

 

完全にやりこめた。そう思った時…

 

「残念だが、それはそちらの事情でしかない」

 

そう言って前に出てくる見覚えのある面倒くさい顔 。というかオリビエ

 

「お初にお目にかかる。クローディア殿下。エレボ ニア帝国皇帝ユーゲントが一子、オリヴァルト・ラ イゼ・アルノールと言う」

 

……今考えてみれば、俺帝国皇子に逆さ吊りして鼻 から水飲ませてたよな

 

………あれ?マズくね?

 

後ろでエステル達が騒いでいるが…まぁ、置いとこ う

 

……というか…アルノール…?

 

………………あ゛

 

「(クローゼクローゼ)」

 

「(どうしたの?)」

 

「(あれリシャールさんが用意しようとしてたお前 の縁談相手)」

 

「(……………え゛)」

 

「…《白烏》殿はどうやら覚えていてくれたようだ ね」

 

「ええ。侵入者と間違えて斬っては外交問題になり ますので」

 

自分に出来る限りの最高の笑顔を浮かべる。何故か オリビエは顔を青くして冷や汗をかいていたが

 

「ま、まぁその事は別に気にしなくていい。だが… 今回の事態は見過ごせないな」

 

一瞬で交渉口調に戻るオリビエ。ここら辺は経験の 差だな。

 

…クローゼまだ固まってるし

 

仕方無いのでクローゼとチェンジする

 

…どうせこっから出来レースだし…

 

「今、帝国でどのような噂が囁かれているかご存じ かな?」

 

…聞いてないが予想はできる

 

「大方、あの突然出現した変な渦巻きが王国軍の新 兵器だ。王国はそれを使って復讐を企てている…っ てところでしょう?」

 

『!!!』

 

「フッ…その通りだ。今《白烏》殿が言ったような 噂がまことしやかに流れているのだよ」

 

「そ、そんな…誤解です!」

 

クローゼは必死に弁論するが……やっぱり経験不足 だな

 

「無駄だクローゼ」

 

「でも…!」

 

「こっちには無実を証明する証拠が無い。証拠無き 弁論は全て詭弁だ」

 

「……っ…」

 

裁判然り、警察の捜査然り…証拠が見つからない限 り、有罪判決など下らないし、犯人検挙など出来る はずもない

 

大言壮語は聞くだけなら美談だが、それができると 証明できなければただの妄言だ

 

「出来ないのであればこちらもそれなりの対応をさ せてもらうしか無いわけだ」

 

「そして噂の通りなら条約違反として正当防衛もや むを得ない………って訳ですか」

 

「…あくまで噂通りなら、ね」

 

「いい加減にしなさいよ!!」

 

あ~面倒くさいな~と思っていると、突然エステル がキレた

 

そして前に出ようとするが…

 

「はいちょっと黙ってようね~」

 

「え?ちょっ………」

 

シオンが俺のやろうとしてる事を読んで、先にエス テルを止めてくれた

 

「(ナイスシオン!)」

 

「(気にしないで。ちなみにこれも原作イベントだ から…)」

 

「(マジでか。俺いらなくね?)」

 

シオンとアイコンタクトで会話する

 

……どうせ遊撃士協会の立場使ってアレがリベール の兵器じゃ無いって言うつもりだろうが…だから証 拠が無いんだっての

 

「…もういいかな?」

 

「ええ。ご迷惑をおかけしました」

 

「フガフガフガ~!!(無視するな~!!)」

 

「エステル…ちょっと黙ってようか」

 

「………(ヨシュアまで…)」

 

エステルがorzになった所で交渉再開。異論反論は 一切認めない

 

「今言った事が大半の理由だが、それにだ。

 

…この異常現象を止める方法が果たして君達にある のかね?」

 

「(………ある?)」

 

「(ここで私に振るの!?)」

 

どうやら無いらしい

 

「…無いのであれば我々としても手をこまねいてい るつもりは無い。幸い戦車に積んでいるのは火薬式 の大砲でね…」

 

……あの浮遊都市は落としてやる。その代わり、リ ベールの統治権を寄越せって事な

 

「丁重にお断りします。大砲如きで落とせるならと っくに落ちてますので」

 

「フフ…やってみなくては分かるまい。いずれにせ よ…君達には我々の善意と正義を退けるだけの根拠 も実力も無いのだろう?」

 

「………ならば、証明すれば宜しいですね?」

 

「……ほう?」

 

あんま使いたくはねぇが…適当な飛行船を譜で浮か せばいい

 

「あの浮遊都市を攻略する、その可能性があれば、 問題など無いのでしょう?」

 

「…ふむ。確かにその可能性があれば一時撤退もや むを得ないだろうね」

 

芝居がかった動作で首をすくめるオリビエ

 

「……いいだろう。君達が可能性を提示できるので あればこちらは撤退を約束しよう。『黄金の軍馬』 の紋章と皇族たる私の名にかけてね」

 

はい言質とった!!

 

「『その言葉、しかと聞きましたぞ』」

 

『!』

 

どっかで聞いたような声と、俺の声がハモる

 

そして全員が上を見ると……リベールが誇る白き翼 がこの導力停止現象下で、悠々と空を舞っていた

 

そしてそのまま着陸し、カシウスのオッサンとティ アが出てきた

 

「これが現時点で我々が提示できる可能性です

 

…どうぞじっくりとご覧あれ」

 

「父さん…!」

 

「カ、カシウス・ブライト!?どうしてこんな所に …それよりもその船は何なのだ!?」

 

「ゼクス中将。だからこれが我々の提示する可能性 ですよ。そして何故飛べるのかは国家機密なのであ しからず」

 

「ぐっ…」

 

俺がそう言うと、ゼクス中将は渋々引き下がる

 

…突っ込んできたら戦車についてネチネチつついて やろうと思ったが…まぁいいや

 

「ふむ…これが噂の『アルセイユ』か… そして貴殿がカシウス・ブライト准将かな?」

 

「お初にお目にかかります。殿下

 

…何やらどこかでお会いしたような気も致しますが 」

 

「おや、奇遇だな。准将。私もちょうど同じ事を感 じていた所でね」

 

「それはそれは…」 「全く…」

 

「「ハッハッハッハッハッ」」

 

よく言うぜ全く…初めっから出来レースだったくせ に…

 

「じゃあ、そういう訳で……撤退の程、よろしくお 願いしますね?」

 

「ああ。私も誇り高きエレボニア人だ。約束は守ら せてもらうよ」

 

「ああ、後、ゼクス中将。少しお話が…」

 

「………何か御用かな?」

 

おおう、不機嫌…

 

「すみませんが、『アルテリア』の人間としてお聞 きしたい事が御座いまして…」

 

「!!?」

 

まぁそりゃビックリするわな。リベールとアルテリ アの両方に関わってるのは俺くらいしかいねぇだろ うし

 

「詳しくはカシウス殿の横にいる彼女に…」

 

「………わかった」

 

そうして、帝国軍は撤退して行った…

 

……燃費の悪い蒸気機関の導入、そして迅速すぎる 事態への対応…

 

ギリアス・オズボーン………《鉄血宰相》、か

 

全く…人生そう簡単には行かないもんだな

 

――――――

 

「…結果だけ言うと、ゼクス中将は白。彼は彼で領 地を見る暇が無くて多くの貴族達に土地を貸してい たみたいね」

 

「まぁ何と言うか…予想通りなんだけどな」

 

「…で?結局?」

 

「乗せられましたが何か?」

 

「やっぱりね…ああ、私達も乗るから。というか乗 ってるから」

 

「…マジで?」



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『白き翼にて』

『……なるほど、事情はわかった』

 

「まぁ、そういう訳なんで…とりあえず許可貰えま す?」

 

『いいだろう。任務として受け付けて置く。後アレ はシャルに預けてあるから好きな時に使うといい』

 

「うげ…ありがたいけどありがたくねぇな…」

 

『ホイホイ怪我をするお前が悪い』

 

「まぁそう言われると返す言葉も無いんですが…」

 

『…とにかく、無事で帰って来い。近頃は騎士団内 部の反乱分子も活発になっているからな…私だけで は抑えられんぞ』

 

「わかってますよ…」

 

――――――

 

「ケイジ……ちょっと来て」

 

浮遊都市突入は明日と言う事になり、アルセイユで 食事をし終わって寝ようとすると…

 

突然クローゼにそんな事を言われて手を引っ張られ た

 

「ちょ…どこにい「うるさい!!」

 

突然怒鳴るクローゼ……今までこんな状態のコイツ 見た事ねぇぞ

 

「………」

 

「…クローゼ?」

 

「黙ってついて来て!!」

 

冗談が通じそうな雰囲気では無かったので、大人し くクローゼについていく

 

そしてクローゼの部屋に入った瞬間、その場で抱き つかれた

 

「………」

 

「…おい、クローゼ」

 

「しばらく…このままでいて…」

 

「………」

 

「お願い…」

 

そのまま十分は経っただろうか

 

少しばかりクローゼの抱きつく力が弱くなったので 、距離を取る

 

「……あ…」

 

「……それで、一体私に何の御用ですか?クローデ ィア王太女殿下」

 

あえて今まで使った事の無い敬語を使って突き放す

 

「…っ…!!何時も通りに話して!!」

 

「…しかし「王太女命令!!」……わかった」

 

逆らったら泣きそうな勢いだったので断れ無かった

 

「……いい加減離してくれねぇか?」

 

「…絶対、ダメ」

 

部屋に入ってからずっとクローゼに手を握られてい る為、どこかに行くに行けない

 

しかも嫌じゃ無くてダメって…

 

「……離したら…また、勝手に行っちゃうでしょ…」

 

…何かデジャヴ

 

「行かねぇよ」

 

「行く!!ケイジが私との約束を守った覚えがない !!」

 

「…行かね「この前も!」

 

「その前も!!そのまた前も!!いつでもケイジは 私に何も言わないで!!」

 

「………」

 

何かに取り憑かれたかのように叫ぶクローゼ

 

「…ねぇ、ケイジにとって私って何?私との関係っ て何なの…?」

 

縋るように、何かを期待するように俺を見るクロー ゼ

 

………俺、は……

 

「…………」

 

「…答えて………答えてよ……!!」

 

「………ただの兵士と、その主だ」

 

……悪いな…クローゼ…俺は…

 

「………ッ!!」

 

パシッ

 

「………」

 

はたかれた……?

 

「馬鹿!!いつもいつも!!私の気持ちなんて二の 次にして!!」

 

パシッ

 

「いつもいつも私を置いて危ない事ばっかりして! !」

 

パシッ

 

「そんなに私は頼り無いの!?そんなに私は弱く見 えるの!?」

 

パシッ

 

「いつも側にいてくれたのはお祖母様の命令だった から!?ただの憐れみ!?」

 

パシン

 

「そんなに私は弱く無い!!いつもいつも守っても らわなきゃいけないほど、弱くなんてない!!」

 

パシン…

 

「もっとちゃんと私を見て!!王太女でも姫でもな い『ただのクローディア』を見てよ!!」

 

ペチッ

 

「護る対象じゃ無くて、ただ、あなたのクラスメイ トで……ただのクローディアを……私を見てよ……!! 」

 

ペチ……

 

とうとう力を失い、俺に倒れ込むように抱きつくク ローゼ

 

…少しずつ、俺の胸元が冷たくなっていく

 

「……俺はもう、リベールの軍人じゃ無い。アルテ リア法国封聖省、星杯騎士団守護騎士第二位……ケ イジ・ルーンヴァルトだ」

 

「………」

 

「…俺は、俺らは所詮教会の狗だ。命令されりゃそ れがどんな奴だろうと食いちぎりに行く、正真正銘 の狗なんだよ」

 

「………」

 

それがどうした、と言わんばかりに抱きつく力を強 めるクローゼ

 

…わかって無い。お前は何もわかって無いんだよ

 

「当然そんな事してりゃ恨みなんざ吐いて捨てるほ ど買う。それこそキリがねぇんだよ」

 

今までに滅した奴らの親族なり関係の深かった奴ら が復讐しに来た事なんて数え切れないほどある

 

……ソイツらを倒せば倒すほど、また俺は誰かの恨 みを買う

 

死ぬ前に恨み事を言われるだけならまだマシだ…恨 みが恨みを呼び、怒りが怒りを飲み込む。 それこそまるで無限地獄のように…

 

……そんな中に、クローゼを……まだ綺麗なままのコ イツを巻き込むわけにはいかない。巻き込みたくな い

 

「……俺の存在自体が疫病神みたいな物だ。だから… 」

 

「離れない」

 

もう俺に関わるな

 

そう言おうとしたその瞬間にクローゼに先手を取ら れて俺は言葉を飲んだ

 

「誰が何と言おうと…私はもう、絶対にケイジから 離れない。離れたくない」

 

「………」

 

「恨み事?それが何なの?ケイジが全部悪いわけじ ゃない 復讐?それこそケイジには何の関係も無い。ただの 逆恨みじゃない

 

それが私に影響を及ぼすならそんなもの、全部はね のけて見せる。……王太女の立場が邪魔だって言う なら、私はそんなもの喜んで捨てる」

 

「!?」

 

「……まぁ、流石にそんな簡単に放り出せるような ものじゃ無いけど……

 

ケイジの側にいれるなら、私は何もいらない。それ だけで私は幸せになれるから」

 

「…クローゼ、我が儘言うな。俺とお前は住む世界 が違う。…お前まで(こっち)に来ることはない」

 

(そっち)とは違って(こっち)は入ってしまえば二度と戻ること など出来ない。ヨシュアの件なんざ特殊も特殊だ

 

「………お前はただ勘違いしてるだけだ。お前の側に は俺くらいしか親しくて年の近い男がいなかった… …その所為で親愛に近い思いを恋愛だと勘違いして るだけだ」

 

「………」

 

「だからクローゼ…………

 

もう、俺の後を追うな。それがお前の為に「……違 うよ」…?」

 

違う?何が?

 

「この気持ちは勘違いなんかじゃ無い……初めはケ イジの言う通り、もしかしたら親愛を勘違いしただ けなのかもしれない。でも……今は自信を持ってあ なたを愛してるって言える」

 

「………っ!」

 

何だ……何でこんなに締め付けられるような感覚が くる……?

 

「この気持ちはきっと変わらない。例え何度生まれ 変わっても……私は絶対にあなたを選ぶ。そう思え るから…」

 

「………」

 

「……だから、ケイジ。私の気持ちは、永遠に変わ らない」

 

「………!?」

 

「………んっ」

 

突然クローゼが顔を上げたかと思えば、背伸びして 、キス…された

 

「……これが、私の気持ち。返事は今すぐに何て言 わないから…」

 

顔を赤くしながら、駆け足で部屋を出て行くクロー ゼ

 

「…………」

 

全く…どうしろってんだ…

 

こうならない為に何度も見つかる度にアイツの側か ら消えてたはずなのに…何でアイツは…

 

「……全く、本当に人生ままならないもんだな…」

 

エステルといい…クローゼといい……全く、女っての はつくづく強い生き物だよ

 

「……強すぎるっての」

 

窓の外を見ると、満月が白く白く輝いていた

 

 



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『突入』

『……それで、あの浮遊都市自体は“輝く環”じゃな い。 あくまであの都市に導力を行き届かせるための古代 遺物で、その子機とも言うべき導力の供給手段があ の黒いオーブメント…

 

《ゴスペル》だった訳だ』

 

「そうですか…」

 

『そこであの環を封じる為には………って聞いている か?』

 

「そうですか…」

 

『………お前の秘蔵のたい焼きセットとその素…リー スと食ってしまったんだが許してくれるか?』

 

「そうですか…」

 

『……重傷だな。……一体何が?』

 

――――――

 

「レーダーに反応あり…!ステルス化された敵影が 5つ、急速接近しています」

 

「――主砲展開用意!最大戦速のまま強行突破する !」

 

アルセイユの中にいたエステル達だが、突然アラー トが鳴り響いた

 

当然、リベルアークに乗り込もうとするエステル達 への妨害である

 

「イエス……少し待って下さい!!船首付近に謎の エネルギー反応!……これは………ルーンヴァルト大 佐です!!」

 

『………………………………………………………………

 

はい!?』

 

――――――

 

「あ~…やってらんねぇな…やってらんねぇよ…」

 

昨日一日中モヤモヤして、結局一睡も出来なかった

 

その所為でものっそい眠くてちょっと無理言って寝 かしてもらってたってのによぉ……

 

雲の隙間から赤い飛空挺が5機現れる

 

いつもなら普通に敵なんだが……今回はちょっと違 う

 

「テメェ等の所為で……結局一睡も出来なかっただ ろうがァァァァァァァァ!!」

 

――サンダーブレード!!

 

半ば八つ当たり気味(実際は100%八つ当たり)に 譜術で一機落とす

 

「せっかくようやくウトウトしていい感じだったっ てのにどうしてくれんだコノヤロー!!」

 

――アイストーネード!!

 

それからとにかく無我夢中で敵機を落としていった

 

「……彼は本当に俺達と同じ人なのか?」

 

「……何と言うか……本当に申し訳ない」

 

「……何だかんだで総長とアイツは人外レベルやか らなぁ…」

 

唖然とするミュラー、凄く肩身が狭そうに謝るユリ ア、半ば諦めた表情のケビン

 

そしてその時…

 

ズガァァァン!!

 

「うわっ!?」

 

「な、何!?何が起きたの!?」

 

「フハハハハハ!!!俺の眠りを妨げた事を後悔し ろやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

明らかに悪役なセリフを言いながら逃げ回る赤い飛 空挺に譜術を撃ちまくるケイジ

 

果たしてどちらが悪役なのか……その判断は読者の 皆様にお任せします

 

「フハハハハハ!!アッハハハハハ!!」

 

もう本当にお前誰だよってくらいテンションが異常 なケイジ

 

…これが徹夜のテンションか!!

 

そこで、最後の一機になってしまい、玉砕覚悟で突 っ込んでくる

 

……が、そこはやっぱりリベール王室親衛隊と星杯 騎士団のお墨付きのドS

 

一切容赦も手加減も加えるはずが無く…

 

――エクスプロード!!

 

火属性の上級譜術を容赦なくぶっ放す

 

敵機を中心にして核爆発の如き大爆発が発生する

 

当然敵機は落ちる…………が、しかしだ

 

敵機が玉砕覚悟で突っ込んで来ていた為、何だかん だですぐ側まで近づいて来てしまっていたのだ

 

そんな時に大爆発なんか起こしてしまったものだか ら…

 

ズガァァァン!!

 

「……………あ゛」

 

アルセイユ、被爆 (原因…ケイジのエクスプロード)

 

『ケイジィィィィィィィィ!!』

 

「白烏ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「あ~…やっちまったなぁオイ、やっちまったよ~ 」

 

リベルアーク上空についたものの、アルセイユは味 方の手によって少しずつ高度を下げる事になった… …

 

――――――

 

「……ねぇレーヴェ…」

 

「…どうした?」

 

「僕達、方舟まで用意する必要あったのかな?何か 勝手に落ちて行ってるけど…」

 

「……言うな。悲しくなる。 俺なんて…俺なんてドラギオンまで用意してたんだ ぞ…」

 

「……ゴメン」

 

剣帝と道化師は、同時に深くため息を吐いた

 

――――――

 

~リベル=アーク市~

 

「………あっぶね~」

 

手近に手すりがなけりゃ普通にお陀仏だったな…

 

「流石にやりすぎたか……」

 

タタタタタ…

 

『やりすぎじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

ドガッ×4

 

「あぶろっ!?」

 

「本当に何してくれてるの!?リベールにとっても 私達にとっても命運かかってるのよ!?」

 

「お前は本当にいつもいつも…フォローをするこっ ちの身にもなれ!!」

 

「死ぬかと思いましたよ!?もう心の中で走馬灯が 流れてたんですよ!?」

 

「あんたねぇ…ちょっとは色々考えなさいよ!!」

 

「ちょっと待て!!最後のはエステルだけには言わ れたくない!!」

 

「あんですって~!?」

 

普段からひたすら人生突っ走ってる猪娘にだけには 言われたくない!!

 

「ケイジ聞いてるの!?本当にあなた馬鹿なの!? 死ぬの!?」

 

「ちょ!落ち着けクローゼ!締まってる!首締まっ てるから揺らすな!!」

 

――――――

 

「―――被告、ケイジ。何か申し開きはあるか?」

 

「ちょっと待て!?何で突入早々に味方一人潰そう としてんの!?」

 

何このどっかのラノベで見たような光景!?まんま 異〇者審問じゃねぇか!?

 

しかも裁判長がユリ姉とか何て俺に優しくない設定 だ!!

 

カン

 

「判決―――私刑!!」

 

「何故に!?」

 

まさかのリンチ!?この面子に袋叩きにされるとか 死ぬ以外の光景が思いつかないんだけど!?

 

「ちょっと待って下さいユリアさん!!」

 

おお、クローゼ!!お前だけは信じてたぞ!!

 

「そんな簡単に殺ってはいけません!!せめて拷問 してから私刑にすべきです!!」

 

「畜生!!女神もクソもねぇ!!」

 

結局、探索を急がなければいけないと言う事で、処 刑云々はうやむやになった

 

……本当に死ぬかと思った…

 

そしてクローゼは本当に俺の事が好きなんだろうか …なんかわからなくなってきた…

 

――――――

 

「…それで、結局どうなったんだ?」

 

「聞いてなかったの?」

 

「誰の所為だと思ってんだ……オイコラクローゼす っとぼけんな、こっち向けこっち。あからさまにそ らすな」

 

とりあえずクローゼとユリ姉が顔をあらぬ方向に向 けてるので、強制的に方向修正

 

…その間にリーシャから聞いた探索方法はこうだ

 

・探索は二グループで行う

 

・連絡はオリビエの持っていた古代遺物を、アルセ イユの通信機に合わせてそれぞれのグループに一つ ずつ渡しておく

 

・グループ分けは、6人班と5人班で、まずエステ ル、ヨシュア、リク、オリビエ、シェラさん、ケビ ン

 

そして俺、クローゼ、リーシャ、シャル、ジンさん

 

・何か見つけ次第残り両方に連絡、そして二グルー プが合流する

 

…とりあえずはそんな手筈らしい。因みにエステル 達のグループはかなり前に出発したとか

 

………あ、アルセイユの破損自体はそんなに重傷じゃ なかったそうです

 

『こちらエステル、居住区らしき所に来たんだけど ……空賊達を保護して協力をとりつけたから一応報 告するわ』

 

「…俺達、今更行く必要なくね?」

 

「ダ~メ♪」

 

え?逃がさない?あ、そうですか…



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『虐さt……』

あれから数時間……

 

「……ここが、《中枢塔》(アクシスピラー)……」

 

「大きい……」

 

エステル達が解放したレールハイロゥでアクシスピ ラー前駅に辿り着く

 

…いや、確かにクローゼのご先祖の件とかグロリア ス突入とか色々あったんだけどな

 

リク曰わく、「俺達が介入しなくても変わらない」 だそうで…

 

決して作者の手抜きじゃないのであしからず

 

「やっと来たわね」

 

「全員無事みたいだね」

 

「…お前らが早すぎるだけだっての」

 

俺達も介入したとはいえ、グロリアス攻略までの時 間が二時間ってどんだけだよ…

 

「……で?やっぱりここが?」

 

「ええ、教授達がいる場所よ」

 

中枢塔……アクシスピラー

 

その名の通りこの都市の中枢部って訳か

 

そして、突入前の最後の休憩となった

 

「(……ケビン)」

 

「(何や?)」

 

「(ヨシュアのアレ……もう処置は終わったのか? )」

 

「(ああ、アレか…とりあえず一通りは終わったで 。後はヨシュア君の心の強さと状況次第や)」

 

「(…そうか。ならちょっと手伝って欲しい)」

 

「(ええけど…何やるん?)」

 

「(何……ただ俺の眼を治すだけだ。

 

………不本意だけど。本っ当に不本意だけど!!)」

 

「(………何やらされるんや?俺)」

 

――――――

 

「……なるほど、『変若水(をちみず)』か。確かにそれやった らどんな傷、病も治るやろうけど…」

 

「ああ……治るだけならいいんだがな…」

 

変若水。前世で言う日本の霊薬で、若返りの薬とも 言われている

 

…だが、この世界では古代遺物扱いで、なおかつ教 会内だけだが、最高の薬として知られている

 

ただし使用に関しては騎士団総長か司祭の許可が必 要だし、守護騎士…と言うか聖痕を持ったやつしか 効果が無いとか言う無駄に厳しい制約があるが

 

……しかもこの薬、本っ当に厄介な性質がある

 

それが…

 

「まさか一人一人副作用が変わるとかなぁ…ほんま にやってられへんで」

 

「全くだよ…」

 

そう、副作用が全くわからない。わかるのは副作用 は確実にあるって事実だけ

 

しかもその副作用がまた…こう、人のプライドをこ とごとく打ち砕くようなものばかりなのだ

 

……因みに、総長は幼児化(年齢的にも)、ジュリ オは性転換、おまけにリーブはキス魔だったらしい

 

しかも性格系以外は記憶にきっちり残るってのも憎 い。そして効果は約二時間

 

それでも俺達のプライドを打ち砕くには充分なのだ が

 

「……ケビンはどんなんだった?」

 

「………めっちゃ甘えん坊になってたらしい。目が覚 めたらリースに膝枕されとった

 

…目が、生暖かかった。死にたくなった」

 

すんごい虚ろな目をして語るケビン

 

…本気で飲みたくなくなってきた…でも飲まないと 天照も須佐能乎も使えねぇし、何より視界が遮られ るしな…

 

「…一思いにいかなだんだん嫌になるで?」

 

……………

 

「……南無三!!」

 

「おお!?」

 

とにかく一気に飲んでさっさと終わらす!!異論は 認めない!!

 

ゴクッゴクッゴクッゴクッ………

 

……………?飲み干したのに変化が無い?いや、すぐ に左目は開いたんだが…

 

…まさか、副作用無しで済んだ?マジで?ヒャッホ ーイ!!

 

…ん?ケビン?お前肩震わせてどうした?

 

「どうしたケビン?何かあったか?」

 

「い、いや………クク……お、おまっ、お前…ククク… 」

 

そう何かを堪えるようにしながら黙って俺に鏡を差 し出す…というかよく鏡何て持ってたな

 

そして貰った鏡を覗き込むと……

 

「…………な、ななななななななななな…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんじゃこりゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「アハハハハハハハ!!もう無理!!もう無理や! !アハハハハハハハ!!!」

 

――――――

 

「あ、ケイジ!!もう!どこに行っ………て……?」

 

「ケイジさん!探してたんで…………すよ……?」

 

「……オイ何だ。言いたい事があるならはっきり言 えコノヤロー」

 

俺を見るなり一瞬で固まるクローゼとリーシャ

 

……気持ちは痛いほどわかるけど。俺も知り合いが 急にこんなんなってたらそうなるだろうし

 

「………ケイジ、まさかコスプレ趣味があったなんて ……」

 

「違ぇよ!!」

 

「大丈夫ですケイジさん!!なんとか許容してみせ ますから……頑張りますから……!!」

 

「許容すんな!頑張るな!俺にそんな趣味はねぇぇ ぇぇぇぇぇ!!」

 

結果だけ言おう。俺に狐耳と尻尾(九本)が付きま した

 

……流石変若水……俺の尊厳的な何かを的確に砕いて きやがる……!

 

それから二十分二人を説得し続けてようやく誤解が 解けた…

 

「薬の副作用……そんな薬あるのね」

 

「でも確かに左目が開いてますし…ケイジさんがそ んな自分の利にならない嘘を吐くとも思えませんし …」

 

わかってくれて何よりです

 

さて…

 

「とりあえずアクシスピラーに乗り込むんだろ?さ っさと行こうぜ。今なら《グロリアス》すら粉々に なるまで破壊できる気がする というか何でもいいから全力でぶっ壊したい」

 

「…何かケイジは連れて行っちゃダメな気がするん ですけど」

 

「あはは…」

 

よしよしエステル、ヨシュア。お前ら後で死後の桓 公コース~全身バラバラ車裂きコース~を痛覚つき で実感させてやるから…カクゴシトケヨ?

 

…とにかく、アクシスピラーに侵入組は…エステル 、ヨシュア、俺、クローゼ、オリビエ、リク、シャ ル、ジンさん、シェラさんになった

 

――――――

 

塔の前に何か獣っぽい兵器が出てきたが、サンダー ブレード一発で焼け焦げた

 

全く脆い…俺のストレスがこんなもんで発散できる と思うなよ…!

 

「クカカカカカカ…!!」

 

「何故だか今のケイジは下手な敵より恐ろしく思え るんだが…」

 

「気にしないでジンさん…僕はもう諦めたから…」

 

「…シャル、あの状態のケイジさんを止める手段っ て無いの?その内また囮にされそうで怖いんだけど …?」

 

「クローゼ」

 

「無理」

 

「…らしいよ?」

 

「もうちょっと考えてよ!?」

 

――――――

 

何だかんだで行き止まりに行き着き、横にあった扉 を出ると、外だった

 

「随分高い所まで来たわね…」

 

「んなもんどうでもいい…さっさとストレス解消相 手(敵)を出せや…」

 

「コイツ本当に誰よ?もう冷静とかそんな面影微塵 も無いんだけど」

 

「多分尻尾と耳が消えるまであの調子だと思います …でもこの尻尾……凄く気持ちいい…♪」

 

クローゼ、モフモフしてんじゃねぇ。それは俺だっ てやりたいんだ!!

 

…でも出来ない。何故なら尻尾は背中側だから…

 

そうして俺がさっさと端末みたいな物に近づこうと した時だった

 

……キィン

 

『!!』

 

「ほぉ…流石は《白烏》…気配は完全に隠していた はずなのだが」

 

そんな声がしたと思えば、何か無駄に派手な演出で 変な仮面野郎が現れた

 

…………敵キター!!

 

「オイリク…」

 

「ああ、奴は…」

 

「わかってる………変態だろ?」

 

「違う!!」

 

全力の反論が返って来た

 

全く…何が不満だったんだ…

 

…というかクローゼさん?何でアイツが現れた瞬間 に俺の背中に隠れて袖を握ってんですか?

 

……ちょっとキュンと来たじゃねぇかコノヤロー

 

…これがギャップ萌えという奴か!!

 

「フフ、これはまた大勢で…そしてまさか我が姫と 好敵手まで共にいるとは…」

 

「フッ…これはまた芝居かがった演出をしてくれる じゃないか」

 

…なるほど、好敵手ってのはオリビエか

 

「ケイジ、あの仮面男は…」

 

「さっきので大体わかった…オリビエの同類だろ? 」

 

「……概ね間違って無いから訂正しにくい!」

 

ほれみろ

 

「私が拘る理由はただ一つ…そこに盗む価値のある 美しい物があるかどうかだけだ」

 

俺がエステルと会話していると、知らない間に話が 進んでいた

 

「ふむ…一体それは何だい?」

 

「フフ…それは諸君の『希望』だ」

 

…………は?

 

「痛い痛い痛い!痛いよ~~。ここに信じられない くらい痛い人がいるよ~~」

 

「本当に君は今日、色々ぶっ込んでくるね」

 

うるさいぞヨシュア。この世界、地味になったら負 けなんだ

 

「……私はその希望が潰えようと構わない。希望が 輝く、その極みを見てみたいのだ!」

 

そう言うと、何か杖みたいな物をこっちに向ける変 態仮面

 

すると…

 

ドガッ×2

 

機械兵器が二機、俺達の背後に落ちて来た

 

「くっ…!」

 

「さぁ、見せてくれたまえ!希望と言う名の宝石が 砕け散る時の煌めきを!!」

 

「ならば逆に証明しよう…愛があれば希望の灯火は 永遠に燃え続けるという事を!」

 

「そして美しい女性はそれだけで正義だと言う事を !!」

 

あっ、てめっ、リク。お前何最後に地味にでしゃば ってんだ

 

…つーか

 

「…あ~、前置きはもういいのか?」

 

「「「…………………………へ?」」」

 

前に出てたバカ三人が揃って声を上げる

 

まぁそりゃ…三人共足が腿まで凍りついてりゃそう なるわな

 

「ちょ!?ケイジくん!?味方に一体何を!?」

 

「いや、何か大体オリビエの所為ってのがわかって 来たからつい…」

 

「何故私まで!?」

 

「いや、敵だし」

 

「何で俺まで!?」

 

「いや、最後に出しゃばられてイラッときたし」

 

「それ何て理不尽!?」

 

因みに機械兵器は三人の足を凍り付かせた時に切り 刻んだ

 

「…さて、ここにお前らの処け……ゲフンゲフン」

 

「ちょっと待て!今処刑って言いかけただろ!!」

 

「チッ…まぁ、言いかけたけど?」

 

「開き直った!?」

 

おっと、つい本音が…

 

「ケイジ、楽しんでるわね…」

 

「彼は生粋のドSだからね…」

 

そこのバカップル。お前らは後で車裂きの幻術(痛 覚付き)だと言う事を忘れるな。俺は忘れない

 

「さて…何が出るかな♪何が出るかな♪フフフフン フン、フフフフーン…」

 

「……うわぁ、三人の目が虚ろになってきてるぞ…」

 

「多分諦めて悟りを開いたんだと思いますよ…」

 

…おっ、これは…

 

「シャル~、こっち来い」

 

「僕?」

 

トテトテとこっちに来るシャル。俺はクローゼに袖 を握られてるので攻撃できないからな

 

…さっき機械兵器切り刻んでから戻ったら泣きそう になってたし…

 

「えっと…―――――――――――を、――――で」

 

「……いいの?」

 

「俺が許す」

 

「は~い♪」

 

そう言うと、素早く銃を二丁抜き、三人に向けて構 えるシャル

 

…その銃口の先には、桃色の譜力が収束していく

 

「お、おいケイジ……それってまさか………」

 

震える声で俺に聞いてくるリク

 

…ふっ、流石にお前は気付くか…

 

「そのまさかだ!!」

 

「あ、終わった…終わったよ……助からねぇ………」

 

某ボクサーの如く悟りの境地に至ったリク

 

「ちょ!?リクくん!?諦めてはダメだ!!ほら、 あの花の盾を…」

 

「無駄。アレはシールドの類は全部抜いてくるから …魔王の奥義だから…」

 

「僕魔王じゃないもん!!」

 

リクの発言に怒ったのか、止まりかけていた譜力の 収束がまた元のスピードに戻る

 

「お、お嬢さん?争いは何も生み出さないと思うの だが…」

 

「ごめんね?特に恨みは無いんだけど…一応僕従騎 士だから逆らえないんだ♪」

 

オイ、さらっと責任押し付けんな

 

「……この前の幽霊騒ぎ…本当に怖かったんだよ…… !!」

 

そして思いっきり私怨じゃねぇか

 

「…星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ!!」

 

「「ちょ、タイム!!」」

 

「アハハ……アハハハ……」

 

……リクが何か取り返しのつかない所までイってる ような気がして仕方ないんだが…まぁいいや

 

「スターライト……ブレイカー!!!」

 

「「「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」

 

そうして、変態仮面と愉快な仲間達はお星様となっ た……

 

…うん、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満 ッ ッ ッ 足 ♪

 

P,S, 耳と尻尾はSLB発射の時に消えました

 

…ヤッタネ!



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『vs 影奏』

「シャル、回収は?」

 

「できたよ~…あの仮面は消えちゃったけど…」

 

「…ついにシャルが元祖を越えたか…まさか人を蒸 発させるとは…」

 

「違うよ!?…そういう意味じゃなくて、多分受け きって逃げたって事」

 

「…やはり変態だったか」

 

「どうしてその結論が出たのか僕の目を見てきっち り話して欲しいな…!!」

 

――――――

 

~前回のあらすじ~

 

シャル、パねぇ

 

「「殺す気かあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

あの騎士団の魔王砲撃事件(「失礼な!!」byシャ ル)から約三十分

 

ようやくリクとオリビエの目が覚めたかと思えば、 即座に俺に詰め寄って来た

 

「目が覚めるまで待ってやってたのに…いきなり文 句とは」

 

「原因お前だお前!!」

 

「本当に死ぬかと思ったよ!それこそアルセイユが 墜落した時以上に!」

 

「……オリビエ、ちょっと今のについて僕とOHANA SHIしよっか?」

 

「…いや、遠慮しておくよ……ハハハ…」

 

全力でシャルと距離をとるオリビエ…まぁ、当然の 反応か

 

「二人とも目が覚めたみたいだし、早く進みましょ 」

 

「そうだな」

 

とりあえず、バカ二人は無視してさっさと進む事と なった

 

――――――

 

「…なるほど、これは面倒だな」 次の階へと進む階段。その階段が………『二つ』あっ た

 

「どういうことだ…?」

 

「どうしたリク?」

 

「…いや(原作だと階段は一つのはずだ。あの正面 のやつな)」

 

…なるほどな。なら、もう一方は…

 

「(一つ聞いときたいんだが…原作にリーブって奴 は出てくるか?)」

 

「(………いや、俺の記憶が正しければ出て来ない… というか聞いた事がない)」

 

それなら、話は早い

 

「……パーティーを分けるぞ。エステル、お前達は お前達で行け。俺達はこっちを行く」

 

「……わかったわ。確かにここで考えていてもキリ がないしね」

 

「……そっちも気を付けて!」

 

「ああ…お前らもな」 最後に、ヨシュアと拳を軽くぶつけてそれぞれが分 かれて行った

 

・A…エステル、ヨシュア、ジン、シェラ、オリビ エ

 

・B…ケイジ、クローゼ、リーシャ、シャルロット 、リク

 

――――――

 

「………!ストップだ!!」

 

順調に進んでいた俺達だったが、俺は何か違和感を 感じて止まった

 

「どうしたの?何かあった?」

 

「……シャル」

 

「了解」

 

シャルが誰にも当たらないように銃弾を一発放つ

 

すると…

 

「……やっぱり直ってやがるな」

 

「……罠か」

 

「……ですね」

 

多分仕組みと様式から東方の術だとは思うが…

 

「リーシャ、判るか?」 「……多分ですが、極東の呪術だと思います。符で 行使するタイプじゃ無いみたいなので、術者が近く にいると思うんですが…」

 

………こう気配が無いとどこにいるかすら分からない って訳か

 

…にしてもこのクソだるい罠のかけ方、そのくせ的 確な仕掛け……

 

「『影奏』か…」

 

『フフ、正解だよ《白烏》』

 

突然、どこからともなく声が聞こえる

 

やっぱりな…

 

「コソコソ隠れてないでたまには出て来たらどうだ ?」

 

『魅力的なお誘いだけど遠慮しておくよ。単純な戦 闘力で君に勝てるとは思わないしね』

 

…チッ、相変わらず厄介だな

 

これが簡単に挑発に乗るような奴ならいくらでも手 が打てるが、コイツのように冷静な隠密タイプは本 当にやりにくい

 

『フフフ…君達も災難だねぇ。こっちの道を選んで しまったばっかりに僕に狩られる事になるんだから …』

 

「…勝手に決めないで下さい。私達は負けるつもり はありません」

 

『なら、まずはこの結界から抜け出す事だね』

 

クローゼが影奏に言葉を返すが、どこ吹く風

 

そして、地面が黒く変色したかと思うと、そこから 奴の影………わかりやすく言うなら分身のようなもの が出てくる

 

『…執行者NO,ⅩⅠ、『影奏』ライ・フィリアス ……せいぜい頑張って僕を楽しませて欲しいな』

 

「…えらく舐められたモンだな」

 

「落ち着けリク。挑発に乗ったら死ぬぞ」

 

「………来ます!!」

 

影との闘いが始まった

 

――――――

 

――キィン…ザシュ

 

「…チッ」

 

キリがない。真っ先に脳裏に浮かんだのはその言葉 だった

 

斬っても斬っても所詮は影…大元の『影奏』を叩か ない限りコイツらは無限に現れる

 

それに…その肝心の『影奏』が見つからない。さっ きから写輪眼をもフルに使ってるのに尻尾すら掴ま せない

 

……コイツの特性は影を操る事だけだと思っていた が…訂正する

 

コイツ…穏形だけならヨシュアより上だ

 

…さて、見つからない、終わらない、突破口が無い の三拍子だ。どうすっかな…

 

――トン

 

そんな事を考えながら影を斬っていると、背中に小 さな衝撃が走った

 

「…リーシャか」

 

「……見つかりました?」

 

「いや…尻尾すら掴ませてくれねぇな

 

…そっちは?」

 

「ケイジさんと一緒です…」

 

申し訳なさそうに言うリーシャ

 

…リーシャがわからないなら、リクやクローゼに聞 くだけ無駄だな

 

なら…仕方ない

 

「…リーシャ、お前全力で『影奏』を探したとして …何分で見つけられる?」

 

「………五分、いや、三分あれば」

 

「……自信は?」

 

「あります」

 

…そこまで言うなら問題ない

 

「…なら、お前は探索に集中しろ

 

何、お前が探している間は俺がお前を護ってやる」

 

「!!………はい///」

 

リーシャと敵の攻撃を流しながら隅へ移動し、敵が 来る方向を絞る

 

…逆に言えば逃げ場がなくなるが、それは仕方ない 。どの道これでリーシャが奴を見つけられなければ ………詰みだ

 

「……『我に宿りし蒼き羽』…!!」

 

背中に、蒼く輝く羽を展開する

 

そして展開と同時に周囲の影を氷槍で一掃した

 

…これで、少しは楽になる

 

チラッと横目でリクとクローゼを見ると、ほぼ全て の影が俺の方に集中していたようで、割と余裕そう だ

 

現にちょくちょく外側から援護射撃をしてくれてる みたいだし

 

「……さて、五分と言わず十分だろうが一時間だろ うが…護りきってやるよ…!!」

 

俺は刀を握り直して、再び影の軍団と向かい合った

 

 



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『幸せの価値』

パキパキパキパキ…

 

「「…………散れ!!」」

 

あれから二分。クローゼとリクとシャルとで合流し てリーシャの護衛をしている

 

…その分、影が全部こっちに集まってキツくなった が…来ちまったもんは仕方ない

 

「………」

 

「リーシャ!!まだわからないのか!?」

 

「あまり焦らせるな…焦って気配を読み違えたら本 末転倒だ」

 

流石にキツくなって来たのか、リクが余裕を無くし てきた

 

……クローゼに関してはもう喋る余裕すら無いみた いだ。必死で防いでいるが…限界だな

 

……………まだか…リーシャ…!!

 

「…………ケイジさん!!」

 

「見つかったのか!?」

 

「はい!!」

 

返事をしながらも、リーシャはある一点を見つめて いる

 

そこか……

 

『……やれやれ、バレたみたいだね。

 

…でも、そう簡単には抜けさせ無いよ』

 

すると、影の数がさっきの十倍にまで増える

 

……部屋中が影で埋まっている感覚だな…

 

「リク!」

 

「わかってる…!」

 

リクはすでに宝具発動のために集中し始めている

 

…俺も、やるか

 

「…『我が身に宿りし蒼き羽』…」

 

今まで何度か使った詠唱…しかし、これは言うなら ば序文

 

本当の詠唱は他に続く…!

 

「『其は不解の絶氷、蒼海にて煌めく天の鎖』…」

 

影……いや、俺達を除く部屋の全てが凍りついてい く

 

影達も全身までは凍っていないものの、足が完全に 凍りついているので動かない

 

……影奏のリアクションが無いのが気になるが…

 

「『我が手に来たれ凍結の魔剣。彼の者達に終焉の 安らぎを』………」

 

影が全て、全身凍り付くと同時に俺の手に刀身が氷 のように透明で、それ以外は全て純白の壮麗な西洋 剣が出現する

 

そしてそれを逆手に持ち直して…思いっきり床に突 き刺す!!

 

「……『デュランダル』!!!」

 

突き刺した剣が辺り一面を白く染め上げ、光が晴れ た時には、室内であるにも関わらず氷の塵がまるで 雪のように舞う

 

「…………そこ!!」

 

リーシャが針のようなものを投げる

 

そしてそこに向かって……

 

「…『天地乖離す(エヌマ)…………………開闢の星(エリシュ) !!!』」

 

リクの『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ) 』が針を呑み込 む勢いで放たれる

 

そして、しばらくして土煙が晴れてくる…

 

「……終わったか?」

 

「………気配はしませんが…」

 

…確かに、気配はしない

 

「………」

 

シャルは油断なく銃を構えて警戒を解かない

 

そのシャルの勘を信じて剣を構えていると…

 

『………アハハハハ……ザッ……本…に君…ちは楽しま… …ザザッってく……ね…』

 

ボロボロになった人形のような機械が土煙の中から 現れた

 

『なっ!?』

 

『驚い…ザッ…かい?』

 

イタズラが成功した子供のような笑い声をだす機械

 

土煙が完全に晴れて、その機械の近くに昔見た影奏 の髪の色と同じカツラや、機械の義手、義足などが 転がっていた

 

……まさか

 

「お前……まさか……………

 

……全身、機械か?」

 

遠くで操作しているなら、リーシャが符を見つける はずだし、影奏の能力をあんなリアルタイムで使う 事などできるはずが無い

 

ならば…後は発想を転換すればいい

 

リーシャが符を見つけられなかった理由は?リアル タイムで能力を行使できた理由は?

 

その結果、辿り着いた答えが……影奏そのものが機 械であったという事だった

 

『……流石だね。この僅かなヒントで答えに辿り着 くなんて』

 

「……声がクリアになってるが?」

 

『ああ、気にしなくていい。本当に最期が近いって だけさ』

 

…なるほど。死に際くらいは言葉を遺させてやろう ってか

 

『それに…これで君に恨み事を言えるしね』

 

皮肉気にそう言う影奏。だが……機械音声に近いは ずであるのに、はっきりわかるほど…声が震えてい た

 

「…一つ、聞きたい事がある」

 

『何だい?』

 

「お前は…“被害者”か?それとも“志願者”か?」

 

……もし、この答えが“被害者”だった場合、俺は結 社を決して許さない

 

元医療関係者として、そして何より、命を追った者 として

 

『…“志願者”だよ。 ……僕は幼い時に帝国で誘拐に遭ってね

 

その後、どこかの帝国貴族に奴隷として売られた。 そこから僕の地獄が始まったのさ…

 

日々、過酷な労働に身を粉にし、それが終わった所 で得られる食事は腐りかけのパン一切れに冷めて油 分が浮いてる豆スープ一口。

 

…当然、そんな食事でそんな生活に耐えられるはず もない…貴族達にしてみれば僕達は使い捨ての機械 人形だったんだ』

 

「………そんな」

 

場を沈黙が支配する

 

ただ、呟いただけのクローゼの声が場に響き渡るほ どに

 

俺達は、ただ、過酷な影奏の半生を聞く事しか出来 なかった

 

「……逃げようとは、思わなかったんですか?」

 

『どこに逃げろって言うんだい?帝国人でもなく、 ましてや知り合いなんて一人もいない。戸籍も無け ればお金も無い。

 

…そんな状況で、どこに行けと?』

 

「………」

 

『…全ての国が君の国のように一枚岩じゃ無いんだ 。自分の利益だけを考えている者、他は完全に排さ ないと気が済まない者、領民を奴隷と考えている者 …そんな事しか考えていない人間は山ほどいる

 

……良かったね?姫君。君の周りには信頼できる味 方がいる。』

 

『話が逸れたね…

 

大人でも耐えられなかった労働に、当時子供だった 僕が耐えられるはずもなかった…

 

数ヶ月後には過労と栄養不足で動けなくなり、路地 裏にゴミみたいに捨てられたんだ』

 

「…それで、結社に拾われた」

 

『その通り。ただ、その時にはもう僕の体は限界だ った

 

動くどころか、話す、頷く…もっと言うと、まばた きすら出来ない状況だった

 

そんな時…あの人が現れた』

 

―――このまま死を待つのと、ほんの少しだが生き る可能性に縋るのと…どっちがいい?

 

『…耳を疑ったよ。もう死を変えようの無い運命だ と諦めていた僕にとって女神の言葉に等しい言葉だ った。諦めていた運命が少しでも変わる。変えてく れる。

 

当然、僕は力を振り絞って頷いた

 

…そして、目が覚めると、もう僕の体はこの身体( 機械)だった』

 

………第六柱か

 

確かに、奴らの技術力に第六柱の応用力があれば出 来ない事も無いだろうが…

 

「……影奏、いや、“ライ”」

 

『!!……フフフ、まさか再びその名前で呼ばれる なんてね……何だか、不思議な気分だよ』

 

「……お前は…幸せだったか?」

 

今のライに、俺が聞きたいのはこの事だけ

 

理不尽に両親と引き離され、生身の体を失い、恐ら くはほぼ全ての娯楽も楽しみも失って、執行者とし てただ人を殺し続けながら……それでも、幸せだっ たのか

 

『……フフフ、そんなの決まってるじゃないか』ラ イの答えは……………

 

『僕は幸せだったよ。他の誰が何と言おうとも、ね 』

 

“是”だった

 

『非人道的だとか、命の冒涜だとか…色々言う輩は いるだろうけど、それでも、僕の心は変わらない

 

……僕は、幸せだった。二度目の生を受ける事が出 来て 運命は、変えられると証明できて 自由に、自分の意志でこの世界を歩き回れて ……確かに、僕は幸せだった』

 

「…なら、俺が言える事は無いな」

 

『今更だね。今更君が僕の中に踏み込めるなんて思 っていたのかい?』

 

「違いない…つーかお前最期の最期に優しいな」

 

『人間最期くらいは善人ぶりたくなるものだよ?』

 

「そうかい」

 

まるで数年来の親友のように言葉を交わす俺とライ

 

『……気をつけなよ?次の相手は僕みたいに遊びは しない。きっと、全ての力をかけて君を“殺しに”く るよ?』

 

「ああ、わかってる」

 

…わかってる。次がアイツだって事くらい…

 

『……忠告はしておくよ。奴は……アガ『……貴様が死 ぬだけなら一向に構わぬが、(おれ)の情報を敵に漏らす のは感心せぬな』 パキィン…

 

「…!!」

 

そんな声が聞こえたかと思うと、突然目の前のライ が一瞬で凍り付き、砕け散った

 

………ら…い……?

 

俺を含めて、この場にいる全員が何が起きたのか理 解していない…それほどまでの速さで起きた出来事 だった

 

『ふむ……貴様等に(おれ)のヒントを与えてやった代償 だ…“一人”、貰っておくぞ」

 

パキィ…

 

俺の背後で、何かが凍る音がした

 

恐る恐る振り向いて見ると…

 

「………………え…?」

 

「リ………………………………

 

リーシャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

胸から氷の槍が生えているかのように突き刺さっている、リーシャがいた



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『理の万華鏡』

「…………え……?」

 

「リ…………………………

 

リーシャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

リーシャの胸に、氷の槍が突き刺さっていた

 

リーシャはそのまま、重力に逆らわず、その場に崩 れ落ちて行く…

 

「リーシャ!?リーシャ!!」

 

「しっかりして!!」

 

「オイ!!しっかりしろ!!お前はこんな所で死ぬ 奴じゃ無いだろ!!?」

 

リクが必死に倒れたリーシャを揺するが…今はそれ はしてはいけない!

 

「退けリク!!」

 

リクを引き剥がしてそのままリーシャを槍が抜けた り動いたりしないように横向きに寝かせる

 

「……はっ…はっ…はっ…はっ……」

 

呼吸が浅い…!!肺は間違いなくやられてやがる… !

 

そのまま一気に槍を引き抜き、抜いたそばから傷口 を凍らせて一時的な応急処置をするが、無情にも足 元にはかなり量のの血溜まりが出来ていた

 

「………ケイジ……はっ…さん……」

 

「喋んな!!後でいくらでも聞いてやるから!!」

 

「オイケイジ!!リーシャは助かるんだよな!?助 かるんだろ!!」

 

「黙ってろ!!今そのための方法を考えてんだ!! 」

 

焦るな……落ち着け……考えろ……!!

 

だが、そんな間にも、リーシャの出血は増えていく

 

…出血の所為で凍らせた所がすぐに溶けてやがる… !

 

『フハハハハハ!!足掻け足掻け!!実に滑稽な人 形劇よ!!』

 

リーブの……いや、リーブの皮を被った『ナニカ』 の声が聞こえる

 

……仕方ない。出来る事ならやりたくはなかったが…

 

「……シャル、クローゼ。出来るのならリク。今か ら俺に一瞬も隙間無く回復のアーツをかけ続けろ」

 

「こんな時に何を…!!」

 

リクは怒りの表情で俺を見るが、俺は真剣にリクの 目を見続ける

 

「…リク」

 

「……チッ、やればリーシャは助かるんだな!?」

 

「命に替えても」

 

「なら、この際何だっていい!!その代わりに絶対 にリーシャは助けろ!!」

 

そう言ってアーツの準備を始めるリク

 

………当たり前だ。もう二度と…俺の前で人を殺させ やしねぇ…

 

「………ケイジ、まさか……」

 

シャルが恐る恐る聞いて来る

 

「……そのまさかだ」

 

「じゃあ…リーシャは……」

 

「…それはリーシャの意志次第だ」

 

「でも…」

 

「大丈夫だ。もしリーシャが拒否した時には……俺 が何とかする」

 

「………わかったよ」

 

俺がそう言うのを聞くと、再びアーツに集中する

 

……ここまでやってんだ。

 

絶対に、死なせない…

 

俺は、そう決意して、力が全く入っていないリーシ ャを抱える

 

「『我が身に宿りし蒼き羽』…」

 

第一段階…聖痕の発動

 

だが、本番はこれから

 

「『汝、我と相容れず 汝は我の器に入らず 我は汝を受け入れず』」

 

少しずつ、俺の羽が蒼い光に変わっていく

 

「『我は汝を拒絶す 汝を受け入れし者は他にあり』…!!」

 

羽が完全に光に変わる

 

…それと同時に、物凄い虚脱感が襲ってくるが…ア ーツのおかげか、まだなんとか耐えられる

 

……アーツがかかってなかったら今頃血達磨だしな

 

「『汝を受けし者は我が眼前にあり

 

…蒼氷を司りし絶海の剣!! その威光を以ちて彼の者の深遠に刻まれよ!!』」

 

俺の言葉に反応するように、聖痕の光がリーシャの 中に入って行く…!

 

「……あ……あああ………あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁ!!!」

 

「っ!!」

 

リーシャが俺の首筋を抱きつくように掴む

 

苦しいのだろう、俺の首筋から血が流れる。それほ どまで強い力でしがみつかれていた

 

「リーシャ!?」

 

リクがとっさにこちらに駆け寄ろうとするが…

 

「来るな!!今異物をこの中に入れると聖痕が暴走 する!!」

 

「ッ…!!」

 

俺の言葉に足を止めるリク

 

…まだだ。まだなんだ…何もしなくても、このまま ならリーシャは聖痕の暴走に身体が耐えられなくな って死ぬ

 

もう時間が無い…現に、今すでにリーシャの背中に 聖痕の羽が展開している…後数分もすれば、間違い なく暴走する

 

…だからこそ、ここに俺がいる

 

写輪眼を発動し、すぐに万華鏡写輪眼まで発動させ る

 

……これは、誰かの模倣じゃない。誰かの能力を使 うためじゃない

 

これから発動させるのは…俺の、俺自身の万華鏡

 

「………『宮比神』(アメノウズメ)!!!」

 

日本神話において、八百万の神々を大笑いさせ、天 照大神を引きずり出した女神

 

その名を冠する俺だけの万華鏡

 

……ただ皆で笑っていられるように

 

……それを妨げるものを、障害を打ち砕くために

 

ただ、“護る”…その願いだけを込めた。その到達し た先が…この力

 

因果も時間も運命も何もかも無視して、一人につき 一度だけ、全ての悪影響を完全に取り除く奇跡の瞳 術

 

…それは、例え“死”であろうと関係ない

 

全ての悪影響を無視して最善の状態を導くのだから

 

そして…リーシャが光に包まれた…

 

――――――

 

暖かい

 

私がまず感じた感覚はそれだった

 

まるで、遠い昔の記憶に残っている、お母さんに抱 かれた時のような感覚…

 

そんな感覚に、全てを任せようとした時だった

 

『死なれては困る。 ようやくリーブ以来の私の使い手に巡り会えたのだ

 

…何が何でも、此方側に戻って来てもらう』

 

そんな、凛々しい女性の声が聞こえたかと思うと、 私は光に包まれた

 

―――――――

 

「…………」

 

そっと、リーシャを地面に寝かせて、俺は前へと歩 き出した

 

シャルとクローゼはすでにリーシャの側についてい る…リーシャはアイツ等に任せれば大丈夫だろう

 

「……待てよ」

 

「…何だ?」

 

「……俺が行く。流石に今回のは許せねぇ」

 

「………知るか」

 

リクの言葉を根本から斬り捨てて階段に向かう

 

「てめ…………ッ!?」

 

それに怒ったのか、リクが俺の胸倉を掴んで俺の目 を見る

 

そして……何故か驚いた顔をした

 

「……離せ。今はお前に構ってる暇はねぇんだよ」

 

「………」

 

唖然とするリクを放っておいて、俺は一人で階段を 上って行った

 

―――――――

 

「……ケイジ!?」

 

クローゼは、一人で先に進もうとするケイジを見て 、後を追いかけようとする

 

…が

 

「…………止めとけ」

 

「!?」

 

突然、リクに止められ、不満を露わにするが、リク の信じられないものを見たような顔に言葉が止まっ た

 

「…………何があったんですか?」

 

「………初めて見た。アイツが本気でキレた顔を

 

…正直、アイツの目を見ただけで自分が死ぬ姿が見 えた」

 

「………!」

 

「何を言っても何をしても……今のアイツは止まら ない。止められない。

 

理性じゃなく本能的に直感で…心の底からそう思っ た」

 

クローゼは、ケイジの進んで言って階段を、ただず っと見つめていた



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『時と氷』

「………」

 

ただ、階段を上り続ける

 

その目に映っていたのは、純粋な怒り

 

純粋すぎるほどの怒りが、ケイジの中を支配してい た

 

――――――

 

「………来たか」

 

階段を上がりきると、仮面野郎の時と同じような所 に出て、そこに奴がいた

 

「………」

 

「しかし…(おれ)の力を更に他の者に譲渡するとは…そ の所業は許し難いな」

 

「……………」

 

「…何か言ったらどうだ?弁明があるなら聞いてや らん事もないぞ?」

 

奴が何か言っているが、全く耳に入って来ない

 

…奴がリーシャを…仲間を傷付けた

 

その事実があれば…十分だ

 

「……オイ、貴様「うるせぇ」…!?」

 

油断しきっている奴の正面に縮地で移動して、その まま顔面を殴り飛ばす

 

まだだ…こんなもんじゃねぇ…!!

 

「ガッ…」

 

そのまま奴の飛んだ先に先回りして移動し、再びぶ っ飛ばす

 

「…グッ!…ガッ!ガァッ!!」

 

「まだだ…まだこんなもんで収まる訳ねぇだろうが ァァァァァァァ!!」

 

その行程を何度も何度も繰り返す

 

「舐め…るなぁっ!!」

 

「!!」

 

奴が手を翳すと、その翳した方向が凍り付く

 

…直前に気付かなけりゃやられてたな

 

「……ぐっ…まさか貴様が“この身体”に一切の躊躇い なく攻撃できるとはな…!」

 

「………たかがそのためだけに、リーブの身体を乗っ 取ったのか」

 

「いや、初めはこやつの聖痕を狙ってだ。身体を徐 々に侵食する所までは(おれ)の予定通りであったのだが …よもや貴様のような塵芥にその聖痕が奪われよう とは……

 

いや、今はあの小娘か」

 

そう言っておぞましい笑みを浮かべる奴

 

…違うな。よく見れば何もかもが違う

 

だとすればアイツ等は…ジェイドさんは…

 

「しかし塵芥、貴様よく(おれ)がリーブとやらでは無い と気付いたな?」

 

「…確かに、お前のリーブのフリは完璧に近かった …けどな

 

よく見てみりゃ何もかもが違った

 

あのバカは奇襲はしても絶対に苦々しい顔しかしな かった あのバカは人を殺して平気でいれるような奴じゃ無 かった あのバカが戦闘をする時に氷人形(ゴーレム)なんざ使った事は 一度としてなかった

 

そして何より…アイツは正々堂々とするのを誇りと していた」

 

「………」

 

「…自分の思い込みの強さが嫌になるぜ…あの事件 の実行犯がリーブだと思い込んでいた所為でこんな 簡単な違いにすら気付かなかったんだからな」

 

「……クハハ

 

クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ !!!!!!!!」

 

「……何がおかしい」

 

「これが笑わずにいられようか!!恩人をずっと仇 と思い込んでいた挙げ句、それが間違いだったと! !クハハハハ!!滑稽!滑稽よ!!」

 

バカみたいに爆笑する奴

 

「ああ、そうだな」

 

「クハハハハ………………

 

は?」

 

バカ笑いが止まった瞬間、奴の左腕が千切れ飛んだ

 

「なっ!?ガアアアァ!!」

 

「確かに俺はバカだった…でもな、お前がリーブじ ゃないとわかった以上、それ以上その身体で何もさ せねぇ」

 

「き、貴様ァァァァァァ!!」

 

「…とにかく、貴様の名だけは聞いておいてやるよ 」

 

「貴様に名乗る名など持ち合わせてはおらぬ!!」

 

「そうか…なら当ててやるよ

 

“アガレス”。それがお前の名だろ」

 

「!!!」

 

驚愕の表情で俺を見る奴…もといアガレス

 

「農業を司る神であり、悪魔に堕ちた貴様の能力は 風、水、土。風と水で氷、水と土で金属の錬成。さ らに氷によって貴様の上位属性である時の凍結…… って所か」

 

「………」

 

何も答えない所を見るに…図星か

 

「……よもや…塵芥の分際で(おれ)の名に辿り着くとはな …」

 

「…よく考えりゃ簡単な話だったよ。まず人に害を 為すという所で悪魔の類とわかる そしてリーブの聖痕を狙った目的は貴様の核であり 、時を司るための媒体でもある『氷属性』の強化。 そこでまず悪魔の中でも数体に絞り込める。 ……氷属性の悪魔自体がそれほど多くないしな

 

後は人を操るなんざ高位の悪魔にしかできる筈がな い。それに貴様の能力と関係して考えれば…それが 答えだ」

 

まぁ、ティアに悪魔の辞典と聖典を読まされなかっ たら気付かなかっただろうが

 

「フム、よくぞその程度のヒントで(おれ)に辿り着いた 。面白いぞ人間よ。褒めて使わす」

 

「貴様に褒めて使わされても全く嬉しくないな」

 

「だが、しかしだ…(おれ)の腕を斬り飛ばした事はそれ でも万死に値する……この際だ。(おれ)自らの手で貴様 をあの世に送ってくれよう 何、すぐに貴様の連れも同じ所に送ってやる」

 

「……フン、俺はあいつらとは同じ所に何て逝けね ぇよ 逝くつもりも無いしな

 

………悪魔相手に本当に今更だが…貴様を“外法”と認 定する」

 

「ほう…?」

 

「リーブの姿で罪を重ねた所業……その魂を以て償 ってもらおうか……!!」

 

「ふん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰に向かってそのような口を聞いている?」

 

「……なっ!?」

 

すぐにアガレスの懐に入り込もうと足に力を入れた が、その足が全く動かない

 

素早く目線を下に移動させると……俺の足が凍りつ いていた

 

…まるで、さっき俺が発動させた『デュランダル』 のように

 

「何を驚いている。先程貴様自身が言ったではない か。(おれ)の力は『氷』……『時』をも操作する『氷』 であると」

 

「ぐっ………!!」

 

どうにか抜け出そうと足に譜を込めて動こうとする が、びくともしない

 

……クソっ!油断した!アガレスの正体を見破った 程度で勝手に奴が動揺しているものと思い込んでい た!!

 

「では……貴様の見破った能力通り、貴様には永遠 の凍結をくれてやろう」

 

ピシピシピシピシ…

 

氷が、徐々に俺を侵食していく

 

俺は…それをただ見ているだけしかできない

 

「ではな…識の神を宿せし者よ」

 

「クソ…クソォォォォォォォォォォォ!!」

 

「………A bonum tantibus(良い悪夢を)」

 

―――Carcerem glacies(氷の牢獄)

 

俺の目の前が、黒に染まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

「…………」

 

「クローゼ?どうしたの?」

 

「うん…何か嫌な予感がして……ごめんね。気のせい だったみたい」

 

「ならいいけど…」

 

「(ケイジ…?)」

 

 

 



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『白銀』

「……………また、か」

 

気が付けば、俺はいつか来たような真っ白な空間に いた

 

…来た瞬間全部思い出すとか…とりあえずポチはぶ っ飛ばす

 

「………」

 

3…2…1…

 

『おっ久~~!!』

 

「おすわり」

 

『わん!』

 

「気をつけ」

 

『わん!………え?』

 

「おらぁっ!!」 『あがぺっ!?』

 

何か無駄に登場シーンでテンションが高くてイラッ としたので強めに殴ってしまった

 

……まぁいいか

 

『いきなり何するのさ!!酷いよ!!酷すぎるよ! !』

 

「黙ってろ犬畜生が」

 

『ご機嫌ななめ!?なんか扱いが前にも増して酷い !!』

 

前からお前の扱いはそんな感じだ。そして機嫌が悪 いのは当たり前だろうが

 

『そりゃそうだよね………あれだけ大口叩いて、左腕 を斬り飛ばして戦力半減した相手にやられたんだか ら』

 

急に真面目な顔で真面目に話し出すポチ

 

…というか

 

「…心が読めるなら初めからそう言え」

 

『初めから言っちゃったら君、無理やりにでも心閉 ざす方法作ろうとするでしょ?』

 

…まぁその通りなんだが

 

「………ポチ」

 

『このシリアスな時にポチって止めて欲しいんだけ ど… なんか雰囲気が…』

 

「……俺は…死んだのか…?」

 

アガレスの氷に包まれた所までしか覚えていない

 

……いや、奴の術中に嵌った時点で死んだんだろう がな…

 

『……仮死状態、って言うのが一番しっくりくるか な? より正確に言うなら永久凍結状態だね…時も含めて 、ね』

 

永久凍結…?

 

「という事は…俺はまだ生きてる?」

 

『一応。それに君が死んだら(わたし)も消えちゃうし』

 

あの話本当だったのか…

 

『ちょっと待って!?今の今まで信じてなかったの !?』

 

ポチが騒ぎ出すがそれどころじゃねぇ!!

 

さっさと戻って…

 

『…戻ってどうするの?』

 

「決まってるだろ!!アイツを『今さっき完敗した 相手に勝てるの?』!!」

 

『ましてや今君は永久凍結状態…戻ったところで何 も出来ないし、そもそも意識を保っているのかどう かもわからない。…そんな状態の君を送り出すなん て出来ないよ?』

 

「…なら、どうすればいい?俺が戻らなかったらア イツは次に間違いなくリーシャやクローゼ、シャル 、リクを狙う。その後はエステル達だ…それなのに …俺に黙ってここで寝てろって言うのか?」

 

『そうだね』

 

「……っ!!テメ『君のその考え方は確かに正しい けど…世界は君が思ってる以上に優しくないんだよ ? …人間にしろ悪魔にしろ…欲望なんて尽きる事は無 い あれが欲しいこれが欲しいアイツがいなくなって欲 しいアイツと一緒にいたい…そんな思いが叶ったら 叶ったで次はあれ、その次はこれ、それからあれ… 何度も何度も何度も何度もそんな欲望の連鎖を見て きたんだよ。(わたし)は』

 

ポチが請うように、縋るように言う

 

その言葉の一つ一つに、悲しみ、哀れみ、嘆き、諦 念…色んな感情が入り混じっていた

 

『君の考え方は確かに立派だよ?でも…その考え方 だと最後には絶対に壁にぶつかる。大切な人同士が 争ったり、大切な人が大切な人を殺したり… そんな状況、君は耐えきれるの?』

 

「………」

 

『もうたくさんだよ…人の想いを背負い続けるのは … (わたし)と君は一心同体…だから君の想いが(わたし)の中に流れ 込んでくる

 

…苦しいんだよ。何もかもを背負うのは!!』

 

何かに怯えるように、力無くその場に座り込んでし まうポチ

 

「………悪いな」

 

『………あ…』

 

座り込んでいるポチを優しく抱き締める

 

……いや、ポチじゃねぇか。今“気付いた”

 

「………お前、俺の聖痕だな?“虚ろなる神(デミウルゴス) ”」

 

『!!』

 

びくりと身体を跳ねさせるデミウルゴス…長ぇな。 ウルでいいか

 

『どうして…』

 

「お前の話聞いてりゃ教会関係者なら誰でも気付く だろうよ」

 

“虚ろなる神”…デミウルゴス

 

『七の至宝』(セプト・テリオン)の一つであり、 幻属性を司る古に喪われた筈の銀の至宝

 

…そして、人と同じ心を持ってしまったばっかりに 自らの手で自らの存在を消してしまった、いや、消 さなければならなかった悲しい存在

 

消えたはずの伝説の存在が何故俺に宿ったかは知ら ないが…

 

「確かにお前の言う通りだ。俺の信念が危ないなん てのは前から知ってる」

 

『なら…』

 

今なら何でコイツがあんなに縋るように言っていた のかよくわかる…コイツはただ、俺に自分と同じよ うになって欲しく無かっただけなんだ

 

「それでも…俺の心は変わらない。変えられない」

 

今までこの考え方で走って来た

 

…当然、その道中で見捨てた奴、障害としてこの手 で殺めた奴…それこそ数え切れない程いる

 

今まで俺の身近な奴以外はきっぱり切り捨てて来た …今更生き方を変えるのはそいつらに対する侮辱だ

 

…少なくとも、俺はそう思う

 

「誰かに言われてはいそうですか、って簡単に変わ れる程安い人生は送ってねぇんだよ」

 

『………』

 

「俺と同じような人生送ったお前ならわかるだろ? お前はその時、誰かに言われて変われるような軽い 思いで生きてたのか?」

 

『……そう…だね』

 

そう小さな声で答えると、ウルは俺の手に自分の手 を重ねる

 

『けど一つだけ約束して…絶対に、(わたし)と同じように はならないって…』

 

「…わかった。だから…」

 

『わかってる…言ったでしょ?(わたし)と君は一心同体だ って』

 

「…そうだな」

 

いつもの調子に戻り始めるウル

 

「…さて、さっさと戻って奴をぶっ飛ばすぞポチ」

 

『あれ?さっき(わたし)の名前完全に判明したよね!?な のに何で結局ポチ!?』

 

「うるせぇな…色々考えたんだよ俺も。ミルとかウ ルとか……んで最終的にやっぱりポチがしっくりく るかなって」

 

『何でさ!?(わたし)の名前の一文字も入って無いよ!? 訂正を要求します!!』

 

「だが断る」

 

『何で!?』

 

あ~もう、全く…

 

「じゃあウルで」

 

『女神様…割と本気で初めて貴女に感謝します…』

 

オイ、お前仮にも女神の至宝だろ。それでいいのか

 

……まぁ、ともかくだ

 

「行くぞウル……力、貸してくれるな?」

 

俺がウルに手を差し出すと…

 

『…(わたし)は常に貴方と共に。マイマスター』

 

ニヤリと笑って、迷う事無くその手を取った

 

そして、目の前が光に包まれる…

 

――――――

 

「ふぅ…全く、人間風情が(おれ)の手をここまで煩わせ るとは…」

 

アガレスは、溜め息をついて自身の“左腕”に触れる

 

…悪魔とは言え、今は人の身を仮の宿としている。 回復に時間が掛かるのは仕方のない事だった

 

しかし、その腕もようやく完全に修復し、最大の障 害であったケイジも、今や二度と溶けない氷の中

 

――今度こそ、完全なる時の氷が(おれ)のものになる

 

アガレスの頭の中はそんな想像で一杯になっていた

 

そしていざ足を進めようとした、その時…

 

ピシピシピシ…

 

背後から何かにヒビが入るような音がする

 

まさかと思い、振り返ると……

 

「『時は流れ、氷は流れる。因果変わらず、我縛ら れず』」

 

パキィィィィィン…

 

「ふぅ……」

 

『脱出成功♪』

 

「き、貴様……どうやって(おれ)の氷を…」

 

「あ?簡単な話だ。時と氷の因果を軽く“弄った”」

 

「なっ!?……」

 

(わたし)がサポートしてその程度の事が出来ない訳無い でしょ?』

 

「…“虚ろなる神(デミウルゴス) ”………!!!」

 

まるで仇を見るかのように、ケイジ……いや、ケイ ジの内に在るウルを睨むアガレス

 

しかし、当の本人達は全く動じない

 

「さて…」

 

『それじゃあ…』

 

「『第二ラウンドを始めようか…!!』」

 

氷から出て来たケイジの髪は、ウルと同じように白 銀に輝いていた



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閑話『異世界リリカル滞在記』いちっ!

『異界の地より、女神を守護せし二の騎士が、銀の 姫を率て、一の世界へと舞い降りる

 

二の騎士は銀の姫を用い、後に金の死神と会い見ゆ

 

その騎士、悲劇を携えし強者なり

 

その姫、騎士に忠誠を誓いし強者なり』

 

………

 

キーワードは、『異界』、『女神』、『二の騎士』 、『銀の姫』、『金の死神』、『一の世界』、『強 者』

 

『異界』、『女神』という言葉があるように、我々 とは相容れぬ危険分子の恐れあり

 

至急、探索を開始されたし…

 

尚、この予言は希少技能の持ち主曰わく、「よく当 たる占い程度の的中率」との事

 

何も無いという可能性も考慮しておくべし

 

~とある司祭の『予言に基づく報告書』より、一部 抜粋~

 

~星杯騎士団本部・宝物庫~

 

「…ったく、ティアの鬼め……トランプが駄目だって 言うからU〇Oにしたっつーのに…」

 

「まず仕事をサボることを考えないで下さいよ…… というか何で私まで…」

 

「黙れ半ニート。ちょっとくらいは働け」

 

「……ニートじゃ……無いって言い切れない…!!」

 

orzの状態になって落ち込むリーシャ

 

……エリィ救出から数時間。メルカバを譜に適応さ せるために俺達は通常業務に戻っていた

 

だから俺もいつものようにリーシャとシャルと大富 豪をしてたのだが…

 

――――――

 

「よし、革命!!」

 

「残念だったねシャル…革命返し!!」

 

「ええっ!?」

 

「だが断る…革命返し返し!!」

 

「んにゃあああ!!!」

 

「「へ~い!」」

 

悶絶するリーシャ、ハイタッチする俺とシャル

 

…しかしコイツどこまで運悪いんだ?さっきからず っと大貧民じゃねぇか

 

そんな事を考えながら、次のゲームに進もうとする と…

 

「あなた達、何をやっているのかしら…?」

 

魔王…いや、魔皇が降臨なさった

 

「「ティ…ティア…」」

 

「二人共いい御身分で…仕事は全部すっぽかして遊 んでるなんてね…

 

これは没収!!」

 

「あ!!」

 

「や~め~ろ~よ~!か~え~せ~よ~!」

 

「何か文句が?」

 

「アリマセン」

 

「「弱っ!?」」

 

うるさい。だったらこの状態のティアに逆らってみ ろ。間違いなく串刺しにされるぞ

 

「仕方ないな…」

 

トランプ取られたしな…

 

「全く…始めから普通にしてれば…」

 

「仕方ないので『第一回、チキチキU〇O王者決定 戦を始めます!!」

 

「何でよ!?」

 

…結局、U〇Oは没収され、シャルはティアと書類( 終わってなかったため)、俺とリーシャは罰として 宝物庫の掃除をさせられることに…

 

「これはどこに置けばいいんですか?」

 

「あ~…それはとりあえずそっちに…」

 

「はい!………きゃっ!?」

 

リーシャが何かにつまずいた

 

………ガンッ

 

「〇×◇☆£!?」

 

「あ、す…すみません!!」

 

何かが俺の頭にぶつかる…どうやらつまずいたんじ ゃなく蹴飛ばしたらしい…

 

そして…

 

ピカ!!

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

何故かリーシャが蹴飛ばした石が光り出し、俺“だ け”を光が包む

 

…なんとなく、今更どうしようも無い事を悟ってし まった俺は…

 

「リーシャァァァァァァァァァ!!てめっ……帰っ て来れたら覚えてろよォォォォォォォォ!!」

 

「ごめんなさーーーーーい!?」

 

とりあえず、リーシャにお仕置きする事を心に誓っ たのだった…

 

――――――

 

「………ろ!……お……」

 

うるせぇな……

 

「起きろ!!」

 

「痛っ!?」

 

腹に割と強めの衝撃を受け、飛び起きる

 

何事かと周りを見渡すと…

 

「おい兄ちゃん。黙って人質になってくれや」

 

なんかムサいオッサンが十人位集まってました

 

つーか人質?誰が?

 

………俺?

 

「大丈夫大丈夫。管理局の嬢ちゃんが大人しくして くれれば無事だから」

 

「とにかくこっちに来い。ケガしたく無かったらな 」

 

「…テメェら、舐めてんじゃねぇぞ?」

 

『あん?』

 

~~割とガチめにOHANASHI中。ちょっと待ってね ♪~~

 

「ふぅ……」

 

『………………』死~ん

 

とりあえず平和的に説得(物理的に)完了

 

…オッサンは何故か持ってたロープで簀巻きにして 転がしておく。運が良ければ誰かに見つかって軍に 引き渡されるはずだ

 

……運が悪かったら獣のエサだろうけど。周り森だ し

 

さて、どうすっかな…周りを見る限り木しかねぇし …完全に西ゼムリア大陸じゃねぇな。こんな土地見 た事ねぇし

 

…とりあえずリーシャは帰ったらMに目覚めるまで 調きょ………教い………………………OHANASHIだな

 

とにかく、森を出るために動き出そうとした時だっ た

 

「時空管理局です!!抵抗を止めて大人しく……」

 

突然、金髪紅目の同い年位の女が空から降りてきた

 

しかも何故か驚いている

 

「…………大人しく?」

 

「……ハッ!お、大人しくして下さい!!」

 

そんぐらい呆ける前に言い切ろうぜ…

 

「…これは貴方が?」

 

「そうだけど?」

 

「……貴方は一体?」

 

めっちゃ疑わしい目で見られる。地味に傷つくな… 美人なだけに特に

 

「見ての通り教会の者です」

 

「見ての通り…?」

 

そこツッコんだらアウト

 

「…なるほど、聖王教会の騎士の方でしたか」

 

…………はい?

 

「いや、俺七耀教会の者なんだけど…」

 

「七耀教会?」

 

「「…………はい?」」

 

会話が噛み合わねぇ…

 

「……え~っと…とりあえず仕事と名前を教えてもら えますか?私は時空管理局執務官、フェイト・T・ ハラオウンです」

 

…時空管理局?何かどっかで聞いた事があるような ないような………?

 

*ケイジは基本的に前世の情報を覚えていません。 シャルのSLBも『そんなんあったな~』くらいの感 覚です

 

「……あの~…仕事と名前を…」

 

「あ、悪い」

 

どうやら結構な時間考えてたらしい。なんか涙目に なり始めてた

 

……というか仕事、なぁ

 

「…全部言わないと駄目か?」

 

「言えないんですか?」

 

「いや、長いから…」

 

「出来れば全部でお願いします」

 

そう真面目に言う金髪…もといハラオウン

 

まぁそう言うなら…

 

「七耀教会、星杯騎士団守護騎士第二位兼星杯騎士 団第二師団師団長兼リベール王国軍大佐兼リベール 王国王室親衛隊大隊長…ケイジ・ルーンヴァルトだ 」

 

「…え?………え?」

 

だから言ったのに…

 

「…まぁ、肩書きの方で一回か二回は言ってやると して…

 

とりあえず、コイツ等放っておいていいの?」

 

「…………あ゛」

 

とりあえず、なんだかんだでハラオウンに着いて来 て欲しいと言われたので、着いて行く事になりまし た

 

「えっと…る、ルーン……ヴァルトさん?」

 

「言いにくいならケイジでいいぞ?」

 

「じゃあケイジ。私もフェイトでいいよ」

 

「わかった。フェイト………なして顔を赤らめる?」

 

「いや……今まで家族以外の男の人にあんまり呼び 捨てで呼ばれた事って無かったから…」

 

「マジデカ」

 

どんだけ箱入り娘なんだよ…

 

…あ、ちなみにあのオッサン達は犯罪者だったらし い。何でも宝石店を襲った強盗なんだと

 

…もうちょい絞っといた方が良かったか?…主に俺 の精神衛生上に

 

「…ケイジ?何か顔が怖いよ?」

 

「おっと…」

 

ヤバいヤバい。ついつい思考がいたぶる方向に…

 

―――――――

 

「…………」(゜∇゜)

 

よくわからんが転送装置とか言うものに乗せられて 、光が晴れたら大都会だった

 

……え?さっきまで森の真っ只中だったよな?自然 一杯のマイナスイオン全開だったよな?

 

………え?

 

「ふふ、ここが私達が暮らしてる街…第一管理世界 ミッドチルダの首都クラナガンだよ」

 

「…聞いた事ねぇな」

 

少なくともゼムリア大陸にそんな地名は無い。とい うかここまで発展してない

 

それに、さっきオーブメントを見てみたが…やはり と言うか、起動して無かった

 

そしてそのオーブメントを入れていたポケットに小 さな石も入っていた

 

………はい。そうですよ。古代遺物です。『異天の輝 石』って古代遺物でした

 

これ…確か発動もしないけど封印も出来なかった奴 じゃ…

 

「ほら、着いたよ。ここが私の執務室のあるビル」

 

そんな現状整理をしているといつの間にか目的地に 着いたっぽい

 

…大丈夫か?俺車の中で生返事しかしてないぞ?

 

「ほら、早く行こう?慣れない土地に疲れたでしょ ?」

 

「ん?ああ…」

 

「(……私、嫌われたのかな…?)」

 

実は車の中でもそっけない返事しか帰って来なくて 、若干へこんでいたフェイトであった…



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閑話『異世界リリカル滞在記』にっ!

「いい?絶対私がいいって言うまで入って来ちゃダ メだからね?」

 

「はいはい…」

 

そのセリフ何回目だよ…

 

今は部屋まで行くためにエレベーターに乗ってるん だが…もう同じ事十回は聞いてるぞ

 

そしてエレベーターが目的の階に着く

 

そして俺は降りてすぐの所にあるドアを、フェイト がキーを解除した瞬間に…

 

「お邪魔しま~す」

 

「イヤァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

開けた瞬間、フェイトの渾身のビンタによって吹き 飛ばされた

 

……ダ〇ョウ倶楽部的なノリじゃ無かったのか……?

 

最後に俺の目に映ったのは、とてもフェイトの部屋 とは思えないほど様々なモノが散乱したゴミ屋敷( 仮)だった…

 

―――――――

 

sideフェイト

 

「やっちゃった……」

 

あの後、自分の出せる限界の速さで部屋を片付けた

 

とりあえず、ケイジが部屋に突撃しちゃったからつ い思いっきりビンタしちゃったけど…

 

け、ケイジが悪いんだよ?私何回も入らないでって 言ったもん!

 

…私、誰に言ってるのかな…?

 

とにかく、ケイジをソファに寝かせて、頭を私の膝 に乗せる

 

それにしても…大佐って言ってたよね?

 

こっちで言うなら一佐…はやてより上の階級か

 

この前三佐になったってすごく自慢してたし

 

でも…

 

「流石に嫌われちゃったよね……」

 

勝手に連れてきて、すぐにあんなことしちゃったし …それに車の中でも何か不機嫌で「ああ」しか答え てくれなかったし……

 

……ってアレ?何で私こんなに嫌われたか嫌われて ないか気にしてるんだろ…?

 

…………あまり気にしても仕方ないよね。疲れたし…… 私も寝ちゃおう……

 

side out

 

――――――

 

「…………ん…」

 

不意に目が覚めて、目だけ開けると、知らない天井 だった

 

…そういやリーシャのアホの所為で『異天の輝石』 が発動したんだったな…

 

というか…頬が痛い。なのに何故か頭は柔らかい感 触

 

とにかく体を起こすと、今まで俺が頭を置いていた 場所にフェイトが座っていた

 

……思い出した。ダ〇ョウ倶楽部のノリだと思って 突撃したらフェイトにシバかれたんだ

 

……うん。俺が悪いね!

 

「………」

 

ムニ~

 

「………むぅ~…」

 

けどやっぱり気は晴れないのでフェイトのほっぺた を両側に引っ張ってみた

 

…思いの他、伸びるな

 

というより思いっきり引っ張ってんのに起きないっ て……どんだけ疲れてんだよコイツ…

 

とりあえずフェイトをソファに寝かせて毛布を掛け 、シャワーを借りてから部屋の探索にかかる

 

……人の家に行った時って何かガサ入れしたくなる よな?

 

*よい子は真似しないでね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何もねぇな…」

 

とりあえずフェイトの部屋には読めない本と食材と 書類の山しか無かった

 

…いや、読もうと思えば読めるけど…因果とか何や ら色々ねじ曲げて…

 

それより問題はこの書類の山だ…何この量!?俺で もこんなんなるまでサボった事ねぇぞ!?

 

…そりゃ疲れるわ。何されても起きないはずだわ。 俺なら絶対まる一日寝続けられる自信あるな

 

…ただ、これまだ無記入の書類が残ってるんだよな

 

………仕方ないな。いつまでこっちにいる事になるか わかんねぇし…何よりニートになりたくないし

 

俺は写輪眼を発動し、文字のパターンを認識し始め た…

 

――――――

 

「………んぅ…」

 

もう朝…?

 

もう少しねていたいけどそういう訳にもいかないの で、体を起こす

 

…あれ?何で私ソファで…ってそうだ

 

ケイジがうちに来てたんだっけ…

 

「………あれ?」

 

でもそのケイジがいない…先に起きたのかな…?

 

そう考えていると…

 

ガチャ

 

「オイフェイト……って起きてたか …早く顔洗うなりシャワー浴びるなりして来い。酷 い顔してるぞ」

 

「うん…」

 

そんなの気にしなさそうなケイジに言われるなんて …そんなに酷い顔なのかな…?

 

とにかく、私は早くシャワーを浴びることにした…

 

「…いい匂いがする?」

 

シャワーを浴びてすぐにリビングに戻ると、ケイジ がご飯を並べていた

 

「ん…?思ったより早かったな。ちょうどいいから 手伝ってくれ」

 

「いいけど…これ…誰が作ったの?」

 

シャーリーは今本局で長期のお仕事のはずだし…

 

「なんだお前まだ寝ぼけてんのか?ここに俺とお前 しかいない以上俺が作ったに決まってんだろうが」

 

「…………え?」

 

「その反応割とガチで傷付くんだけど!?」

 

だって…白い御飯に味噌汁、紅鮭に小松菜のおひた しに湯豆腐…

 

こんな完璧な和食の朝ご飯、私は作れないよ…

 

なのに男のケイジが余裕で作ってるって…何か認め たくない!

 

「バーロー、医療キャンプ育ち舐めんじゃねぇぞ。 大人子供関係なく食事は当番制だったんだからな」

 

なるほど…でも、私の女としてのプライドが…ね?

 

…ちなみに、ケイジのご飯はものすごく美味しかっ たです

 

うぅ…私もうお嫁に行けない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれ?ケイジ。ここにあった書類知らない? 」

 

「何で俺が知ってるんだよ…」

 

それもそうかと思って、とりあえず先にパソコンを 立ち上げる

 

そしてやって無かった報告書のファイルを開くと…

 

「………あれ?」

 

報告書が出来上がっていた

 

他のやって無かったはずのファイルも開いてみるが 、全部終わってた。それも完璧に

 

まさか…!

 

私はリビングでソファに座ってコーヒーを飲んでい るケイジに目を向けた

 

「ケイジ」

 

「ん?」

 

「もしかして…代わりに書類やってくれたの?」

 

「……さて、ナンノコトヤラ」

 

絶対ケイジだ。だって声が変にカタコトだったもん

 

「…ありがとう」

 

「……俺がやった訳じゃねぇよ」

 

ケイジに笑ってお礼を言うと、全く何も無かったか のように再びコーヒーを飲み始めた

 

報告書が無くなったので私はパソコンを閉じ、ケイ ジと一緒にコーヒーを飲もうとした時…突然アラー トが鳴った

 

ケイジはビックリしたのか、コーヒー吹き出してる ……後でちゃんとシミ抜きしないと…

 

「な、何の音だ!?敵襲か!?」

 

「後でシミ抜きはしといてね? アラートだよ」

 

「アラート?」

 

私はとにかく回線を開く

 

『ミッド郊外に突然次元漂流者と思われる人らしき 生体反応が出現。至急向かって下さい』

 

「了解しました」

 

本局の受付の人と手早く会話をして、地図を受け取 る

 

……この座標…

 

「次元漂流者って何だ?」

 

「ケイジみたいな人の事だよ…自分の意志じゃなく 、偶然時空を渡っちゃった人の事」

 

「それが何で危険なんだ?」

 

「文化がこの世界より極端に高かったり低かったり するとパニックになっちゃう人が多いんだ。そうな る前に事情を説明して、無事に元の世界に帰すのが 私達の役目」

 

「へぇ~」

 

興味があるのか無いのかわからない返事をするケイ ジ

 

でも…今回はそれだけじゃない

 

「それに今回は場所が悪い…違法魔導士の集団が潜 伏してる場所なんだ」

 

ちなみに、今日私が制圧にかかるはずだった場所だ から…なんとしても助けないと…

 

「なるほどな…で?どうやってそこに行くんだ?」

 

「飛行許可がでてるから空から…ってケイジも行く の?」

 

「いつまで此処にいることになるかわかんねぇから な…手伝える事は手伝うさ

 

それに……ニートはごめんだ」

 

「あはは……」

 

何ともケイジらしい理由に苦笑いしか出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えばケイジって飛べるの?」

 

「いや、飛べ……………ない事もないか(女神とか関 係ない世界だし、俺ら(騎士団)とも関わりの無い 世界っぽいから問題無いか…?…無いな)」

 

――『我に宿りし蒼き羽』

 

ケイジが何か小さな声で言うと、突然ケイジの背中 から蒼い羽(?)が出てきた

 

…………羽?…羽!?

 

「えぇぇ!?」

 

「ホラ、早く行くんだろ?」

 

「というかケイジ!?その羽何!?」

 

「企業秘密。ホラ行くぞ」

 

「(ケイジに出来ない事ってあるのかな…)」

 

そう思った私は悪く無いと思う



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閑話『異世界リリカル滞在記』さんっ!

~郊外・旧工業エリア入り口~

 

「この辺りのはずなんだけど…」

 

現場の前に着いた俺達だが、どうやら知り合いとの 合同任務だったらしく、誰かを探しているフェイト

 

俺はその横で普通に腕組んで立ってる…だってフェ イトの知り合いの顔知らないし

 

……というかこの絵面…まんま金持ちの令嬢とSPだ な。今の俺の格好が黒いスーツだから特に

 

……いや、目立つんだよあのフード付きローブ。フ ェイトの部屋に行くまでの視線がヤバかった…

 

「フェイトちゃーん!!」

 

「あ、はやて!!」

 

そんな感じにボーっとしてると、背の低い茶髪の女 がこっちに走って来た

 

「久しぶりや~!元気やった?」

 

「うん。はやても昇進おめでとう」

 

「いややな~、電話でも言ってくれたんやし、何回 も言われたら照れるやん」

 

………話が、すすまん!!

 

会話を止めたいのは山々だが、俺にガールズトーク に入っていく勇気はない!!

 

さて、どうしようか…と、何だかんだ考えていると 、茶髪が俺の存在に気付いたようで…

 

「ところでフェイトちゃん…こっちの男の人誰や? もしかして彼氏か?」

 

「え!?ち、ちちち違うよ!!別に私とケイジはそ んなんじゃ…///」

 

何を爆弾落としてくれとるかこの狸は…

 

全く…フェイトなんか顔真っ赤にして否定しまくっ てんじゃねぇか………

 

………地味に心に刺さる。そこまで嫌われるような事 した覚えねぇんだけどな…

 

「ケイジ・ルーンヴァルト。何かよくわからんがお 前らで言う次元漂流者ってやつらしいぞ?」

 

「何で疑問形?…うちは八神はやて。あ、八神が名 字ではやてが名前な。はやてでええよ」

 

「じゃあ俺もケイジでいい。ルーンヴァルトってい いにくいだろ」

 

「あはは…じゃあよろしくなケイジ」

 

「おう、よろしく頼む………狸」

 

「うん………ってちょっと待てェェ!!初対面でいき なり狸!?」

 

チッ、流石に勢いでごまかせなかったか

 

「いや、何となくポンポコ臭が…」

 

「何やソレ!?そんな臭いがこの世に存在するんか !?」

 

「いや知らんけど」

 

「アンタが言ったんやないか!?」

 

「きっと誰かが言ったさ」

 

「丸投げ!?もうちょい自分の言葉に責任持ちぃや !!」

 

「ヤ」

 

「一文字で拒否られた!?……全く、こんな美少女 前にして狸とか…」

 

「美少女…?」

 

とりあえず目の前の狸を見る………

 

「…………ハン」

 

「鼻で笑われた!?」

 

「寝言はフェイトくらいデカくなってから言えちび 狸………二つの意味で」

 

「ムキーーーーー!!!」

 

コイツ……何かリーシャと同類な感じがする。主に イジりやすい所が

 

「二人共………早く行こうよ……?」

 

横でオロオロしてるフェイトは何か癒やしだった

 

―――――――

 

何やかんやで中に突入して、暫くは何も無く順調に 進んでいた

 

だが、少し奥に入った瞬間

 

『イヤァァァァァァァァ!!』

 

……すんげぇ知ってる声なんだけど。一気に色々や る気が萎えたんだけど

 

……というかアイツの運どうなってんだ?何か任務 の度に敵のど真ん中で孤立してる気がするんだが…

 

*大体ケイジの所為です

 

「フェイトちゃん!!」

 

「わかってるよはやて!!早く助けないと…」

 

何か二人が慌ててるが…正直全くその心配はいらな い

 

放っておけば勝手に逃げ切ると思う

 

「ケイジ!!」

 

「わかってる…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰ってのんびりするか」

 

「「何で(や)!!?」」

 

だってもう先読めるしさぁ~~。色々面倒だし、よ くよく考えたらこんなのんびりできる機会なんてそ う無いんだよな~~

 

「ケイジの知り合いかも知れないんだよ!?心配じ ゃないの!?」

 

いや、知り合いなのは確定だけどな…………心配?何 ソレ食えんの?

 

「大丈夫大丈夫。放っておけば勝手に逃げ切るから 」

 

「もしもの場合ってもんがあるやろ!?」

 

「むしろそうなったらアイツ半チートだしな…」

 

逆ギレして暴走するから

 

『待てやコラぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

『来ないでェェェェェェェェ!!』

 

…ヤベェな。奴に見つかる前にさっさとずらからね ぇと

 

不幸の権化みたいに運の悪い奴のことだ。絶対面倒 事持ち込んでくるだろ

 

……そもそも俺が此処にいるのもアイツの所為だし

 

「早く帰ろうぜ~…もう何か面倒臭い。働きたくな い」

 

「ケイジここに来る前ニートにはなりたくないとか 言ってたよね!?今の完全にニートの発言だよね! ?」

 

「俺常に未来を見てるから。過去の事は気にすんな 」

 

「…一見良いこと言ってるけど内容最低だよ!?」

 

チッ、惜しいな

 

そんな中身の無い会話をしていると………

 

「イヤァァァァァ……………ってケイジさん!?」

 

「げっ…」

 

「会って第一声が『げっ』って本当に酷い!!」

 

フェイト、このアホはこのくらいの扱いでちょうど いいんだよ

 

「ケイジさ~ん!!!」

 

そんな会話は露知らず、リーシャが俺に向かって全 力で走ってくる………後ろに強面のオッサンを大量に 引き連れて

 

……一瞬「来るな」って思った俺は悪くない……はず

 

「ケイジさ~~ん!!」

 

そしてある程度まで距離が近付くと、その勢いのま ま俺に飛び付こうとジャンプするリーシャ

 

「感動の再会やな……」

 

「うん………」

 

そして俺はそんなリーシャを…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オッサン達に向かって投げ返した

 

『「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」』

 

「うっすらこうなるとは思ってたけどォォォォォォ !!」

 

……というか何故にオッサン達まで驚いてんだ?

 

「甘ぇ。金平糖に砂糖と黒蜜とガムシロップかけて 食うくらい甘ぇ」

 

「そんなもん食べたら糖尿病にマッハでかかるな」

 

黙れちび狸

 

「こんな時くらい優しく抱き留めてくれてもいいじ ゃないですか!!」

 

『そうだそうだ……!!』

 

リーシャ……さっきまで全力で逃げてたのに息切れ 一つしてないとか……

 

オッサン達体力の限界来てるじゃねぇか

 

そしてオッサン達。お前ら本当にテロリストか?と いうか何故リーシャの味方してんの?

 

「そのオッサン達全員捕まえて来たら考えてやる」

 

「っしゃオラァァァァァァァァァ!!」

 

『え?ちょっと嬢ちゃん!?』

 

俺がそう言った瞬間、リーシャは素手でオッサン達 の意識を狩り始める………女って怖ぇな。クローゼ然 り、ティア然り

 

フェイトとはやてはポカーンとしてるし。まぁ、見 た目中学生くらいの女の子がオッサンを素手でなぎ 倒してたらそうなるわな

 

ま、とりあえず……

 

「――天光満つる処に我は在り、黄泉の門開く処に 汝在り…出でよ、神の雷…」

 

「ケ、ケイジ…?その魔法陣みたいなのは…?」

 

なんとか気を取り直したのか、フェイトが俺に聞い てくる

 

「ん~…お仕置き兼トドメ?」

 

「………ふぇ?」

 

『おい、ちょっとなんか空が暗く……』

 

『まさか、ケイジさん……(ガタガタ)』

 

――インディグネイション!!

 

『ケイジさん(坊主)の鬼畜ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!』

 

…正直、かなりすっきりした

 

「絶対オーバーキルだよね……………………(ガタガタ ガタガタガタガタ)」

 

「あかん!!フェイトちゃんがブレイカーのトラウ マ思い出してもうた!!」

 

……フェイト、お前に一体何があった



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閑話『異世界リリカル滞在記』よんっ!

「お~いリーシャ~。無事か~?」

 

とりあえず、オッサン達諸共黒こげになったリーシ ャに声をかける

 

「…………」

 

へんじがない。ただのしかばねのようだ

 

「ほ、ほんまに大丈夫なん?あの娘えらい真っ黒に なってもうてるけど…」

 

「大丈夫大丈夫。いつものことだから 基本任務の度にああだから」

 

「あんたいっつも何やってんの!?」

 

はやてが割と本気でツッコむ

 

「見てみぃあのフェイトちゃん!!トラウマ蘇って 怯えとるやないか!!」

 

はやての指差す方向を見ると…

 

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナ サイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメン ナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメ ンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴ メンナサイ……………」

 

………うん、見なかったことにしよう

 

そうして、俺はリーシャを背負って、フェイトを抱 っこしてフェイトの執務室に向かった

 

…はやて、お前せめてどっちかくらい運べや…!

 

――――――

 

「ケイジ、準備はいい?行くよ!」

 

「…………はぁ」

 

どうしてこうなった…

 

フェイトの執務室に戻ってすぐ、強制的にフェイト を

 

こっち 現実に戻らせた

 

「全く……何のトラウマだか知らねぇけどビビりす ぎだろ」

 

「だってぇ……」

 

「あ~…泣くな泣くな。俺が悪かったから…」

 

「ううぅ……」

 

…何この可愛い生き物。めっちゃ小動物な雰囲気や ん。めっちゃ可愛えやん

 

…………失礼、パニクった

 

でも実際キュンときた。周りにいないタイプだから 特に…

 

え?リーシャ?俺はロリコンじゃねぇ。それと出会 いを考えろ。一歩間違えたら俺死んでたからな?

 

「あ~もう…わかったわかった。お前の言う事何で も一個だけ聞いてやるから泣き止め」

 

「………ほんと?」

 

「本当本当」

 

「じゃあ……模擬戦しよ?」

 

「……………は?」

 

そんな訳で、模擬戦することになった

 

「はやて!はやての言う通りケイジがお願い聞いて くれたよ!」

 

「良かったなぁフェイトちゃん」

 

…テメェの仕業かちび狸ィ……!!

 

そんな訳で今…

 

「はぁッ!!」

 

「ほい」

 

「やぁ!!」

 

「よっと…」

 

とりあえずフェイトの攻撃を避けてます

 

つーかフェイトの武器…急に鎌から剣に変わったけ どどういう理屈だ?

 

「ねぇケイジ…!真面目に、やってよ!!」

 

「一応真面目にやってるつもりなんだが……」

 

「だったら、何で…攻撃しない、のっ!!」

 

いや、真面目に避けてるだけなんで…

 

「ケイジも攻撃しないと模擬戦にならないよ……」

 

………はぁ

 

こういう奴って大体折れないんだよなぁ…

 

「…………後悔、すんなよ?」

 

「………え?」

 

とりあえず、フェイトの攻撃を避けて、伸びきった 手を掴んで投げ飛ばす

 

フェイトは地面に叩きつけられるが、何が起きたの かわかっていないのか、すぐに起き上がらない

 

「……氷結の槍、鋭く疾く駆け抜けろ!!」

 

――フリーズランサー!!

 

氷の槍が八本、フェイトに向かって飛んで行く

 

「――ッ!!」

 

直前に我に返ったのか、体を捻ってギリギリの所で 避けられる

 

……が、そこは計算通り

 

俺は槍を放つのと同時にフェイトに向かっていたの で、ちょうどフェイトが槍を避けた瞬間に剣を振る う

 

――直撃

 

そう思ったのだが…

 

『SONIC MOVE』

 

そんな電子音が鳴ったと思えば、突然フェイトの姿 が消えた

 

………後ろか!!

 

ガキィ

 

振り向きざまに斬り払うと、ちょうどフェイトの剣 と鍔迫り合いになる

 

「…すごいね。雷だけじゃなく氷まで使えるんだ」

 

「その気になれば風とか水、土、火、光、闇も使え るぞ?」

 

“音”は俺には無理だったけど

 

「それは……ちょっと困るかな…!」

 

「だろうな…でも…別に使わなくても勝てる」

 

「…それ、どういう意味?」

 

少し怒った口調で話すフェイト…まぁ、怒らせるた めに言ったんだけど

 

「お前に剣で負ける気がしないんだよ……単純な筋 力差もあるだろうが………何より“遅い”」

 

コイツと戦ってて思った事………それは、フェイトの 一番の武器が“スピード”だという事

 

しかしここではあえてそのスピードを“貶す”

 

誇りにしているものを貶されて普通黙ってる奴はい ないからな…

 

……模擬戦でこんな話術を使うのも変な話だが…残念 ながらこれも駆け引きだ

 

模擬戦だからと言って手を抜くつもりは毛頭ない

 

そしてフェイトが俺と距離をとる

 

「……バルディッシュ…リミットブレイク」

 

『SONIC FORM』

 

フェイトが何か呟くと、光に包まれていく

 

その光が晴れると、何というか………ムダにエロい格 好のフェイトがそこにいた

 

……え~と…

 

「…………露出狂?」

 

「違います!!」

 

物凄い勢いで否定されたが………男の前で堂々とそん な格好されたら…なぁ?

 

「これが私の全力……これでも遅いかどうか…試して みなよ」

 

そう言うと、さっきまでとは比べ物にならない速さ でこっちに向かってくるフェイト

 

……なるほど。こりゃ確かに速いな

 

ワザととはいえ…地雷踏んだか?

 

……仕方ないな

 

―――万華鏡写輪眼!!

 

――天照

 

「……ッ!?」

 

天照を炎遁・迦具土命で操作し、俺の周囲に小さく ドーム状に広げる

 

…因みに、俺の天照は炎と雷の二種類ある。雷は自 然に出せるが…炎は意識しないと出せない

 

……初めて使えた譜術が雷系統だったのにも関係あ るのかな?

 

そうすると、フェイトは黒炎に当たる寸前に急停止 する

 

そしてそれを俺は見越していたので…

 

「……チェックメイト」

 

フェイトの首筋に白龍を突きつける

 

「………はぁ、降参だよ…」

 

それを見たフェイトは、武器を下ろして降参したの だった

 

―――――――

 

「…それにしても、作戦とはいえ流石に酷くないか な…?」

 

「だから悪かったって……」

 

模擬戦が終わってからずっとこの調子である

 

…どんだけ根に持つんだよ…

 

さっきから横目でチラチラこっちを見てるし

 

「………あ~!わかったわかった!!模擬戦以外でお 前の言う事聞いてやる!!これで許せ!!」

 

「うん!」

 

満面の笑みで嬉しそうに返事をするフェイト………こ の悪女め

 

「じゃあ俺シャワー浴びてくるわ……」

 

言い忘れてたが、ここ管理局の本局らしい。流石に 訓練スペースはそう簡単には作れないんだそうだ

 

「行ってらっしゃい♪」

 

めっちゃ嬉しそうなんだけど…

 

後で何やらされるんだろうか………鬱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~♪………あ、そう言えばこの時間……い、急が なきゃ!!」

 

―――――――

 

「………広いな」

 

更衣スペースでもう広いよコレ

 

「…さっさと入るか」

 

いつまでもここでボーっとしてるのも何なのでとり あえず服を脱ごうとすると…

 

ガララ…

 

先に誰か入ってたのか、ドアが開く音が聞こえる

 

何気なしに出てきた人を見ると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茶髪をサイドポニーにした“女”がいた

 

…………え″

 

待て待て待て待て待て待て!!俺ここに入る前に三 回くらい確認したよな!?ここ“男子専用”だよな! ?

 

…昔、学園で寝ぼけて男女のシャワー室間違えてク ローゼに殺されかけて以来念入りに確認するように なったから間違いない!!ここは男子シャワー室だ !!

 

「「…………」」

 

「……………き」

 

…あ、嫌な予感

 

「キャアァァァァァァァァァァァァ!!?」

 

ズガァァァン

 

「はるぷれそっ!?」

 

サイドポニーに思いっきりひっぱたかれる

 

…ズガンて。ビンタでズガンって効果音が出るなん て初めて知ったぞ…

 

それでも意識を飛ばさなかった俺はある意味すごい と思う

 

「…………君、どうしてここにいるのかな?」

 

「……いや、男子シャワー室だから」

 

「局員にはこの時間帯は女子しか使えないって通達 されてるはずだけど…?」

 

知らんがな。俺局員じゃねぇし

 

俺はそう言おうとしたが…

 

「とりあえず……………………

 

O HA NA SHI な の …」

 

俺が口を開く前に、目の前がピンク一色になり、そ のまま意識を失った…



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閑話『異世界リリカル滞在記』ごっ!

「玲に伝えてくれ……俺が死んだら、次の筆頭はお 前だ。黒狼衆はお前に託す、と」

 

「死んじゃダメぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「というか玲って誰ですか!?黒狼衆って何なんで すかー!?」

 

「リーシャとフェイトちゃん離れぇ!!50J行く で!!」

 

ドンッ!!

 

「……さて、最後の戦だ。すまねぇな、淡華………愛 紗…」

 

「ケイジィィィィィィィ!!?」

 

「何死亡フラグ乱立させてるんですかーー!!!? 」

 

「フェイトちゃんにこんなに心配させておいて他の 女の

 

であろう 子 うわごとを言うなんて……OHANASHIなの… 」

 

「ちょ!?なのはちゃんそれはアカン!!今度こそ ほんまに死んでまうって!!」

 

「お~は~な~し~な~の~!!」

 

「はやてちゃん!!心電図が危険域です!!」

 

「あ~もう!!かまわんリイン!!駄目で元々や! !300J行ってまえ!!」

 

「はいです!!」

 

ドンッ!!!

 

――――――

 

「……………ここはどこだ?」

 

目が覚めたら、明るいのに真っ暗だった……って何 か最近この気絶パターン多いな

 

「…………ケイジ…?」

 

「………フェイトか?」

 

上からフェイトの声が聞こえる……って事はまた俺 フェイトの膝を枕にしてたのか……

 

「なぁ、俺どれくらい「ケイジ~~~!!」わぷっ !?」

 

「良かったぁ~!良かったよぉ~~!生きてて良か ったよぉ~~~!!」

 

ちょっと待て!!俺一体どこまで危なかったんだ! ?というか何されたんだ俺!?

 

………駄目だ。目の前がピンクになった所までしか思 い出せん。コレ以上思い出そうとすると何か頭痛い し…

 

…というかフェイト!!早く解放してくれ!!お前 自分の体系考えろ!!息が…息が!!

 

…結局、フェイトに解放されたのはリーシャが部屋 に入って来てからだった

 

……この世界に来てからやたらと死にかけてる気が する そしてGJリーシャ!!これからなるべく敵のど真 ん中に放り投げないように善処するよ!!

 

あの後さっきの茶髪ポニーにめちゃくちゃ謝られた んだが…悪いの俺じゃね?

 

というか特に謝られる理由がわからないんだが…

 

――――――

 

「そんな訳で、今スペルビアって次元世界に向かっ てるんだよ」

 

「いや、どんな訳だよ」

 

知らない間に任務に駆り出されてた件

 

因みに俺、ずっと危篤状態だったらしい…よく生き てたな

 

「とにかくリーシャ、今北産業で説明してくれ」

 

「ケイジさんDEAD OR ALIVE こっちの世界の教会から何か通信がくる はやてさんが受けてフェイトさんやなのはさん共々 私達が駆り出された←今ココ」

 

「なるほど、拉致られたか…」

 

「「「何でそうなるの(なるん)!!?」」」

 

何か三人娘が驚いてるが、俺からすればリーシャが ネタを理解し始めた事に驚きなんだが…

 

「まぁ、そんな事はどうでもいいから置いとくとし て…」

 

「いいの!?拉致ってどうでもいいってレベルなの !?」

 

この17年で拉致られる事に慣れましたけど?主に クローゼとジルで

 

「……で?何て内容の任務だ?」

 

わざわざ飛空挺的な物まで用意してんだ…まず任務 なのは間違いないだろ

 

「任務やのうて依頼やねんけどなぁ……

 

…捕り物や」

 

「捕り物?」

 

とりあえずフェイトに淹れてもらったコーヒーを飲 む

 

「うん。聖王教会とは別の宗教広めようとしてるみ たいでな……それにかなり質の悪い宗教みたいなん や」

 

「ふ~ん」

 

…どこの世界でも教会ってやつのやることは変わら ねぇんだな…

 

まぁ殺しと捕縛って違いはあるが

 

「ふ~んて……まぁええわ。その教団…名前が“グラ トニアス教団”で、指導者の名前はクライフ・ロス ・ルイクローム」

 

「ブーーーーー!!」

 

「み゛や゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「あ、スマン」

 

思わずコーヒーを吹いてしまった

 

……グラトニアス教団!?クライフ!?名前とかま るまる全部一緒じゃねぇか!?

 

「は、はやて?まさかとは思うが…その教団『カニ バリズム』だったりしないよな?」

 

「え!?何で知ってんの!?」

 

マジか………絶対アイツだろ…

 

「ねぇ二人共……『カニバリズム』って何!?」

 

フェイトが首を傾げて俺達に聞いてくる

 

…来たよ。この本当に答えづらい質問

 

…些か気が引けるがここははやてに説明を…

 

「いやぁ…うちもわからへんねん。『カニバリズム 』って何なん?」

 

「お前も知らねぇのかよ!?」

 

しれっと俺に聞いてくるはやて

 

…こんなアホちび狸に任せようとした俺が馬鹿だっ た…!

 

「……いや、お前らは別に知らなくてもいい事だし… 」

 

「教えてくれてもええやん」

 

「そうだよ。知識はあるに越したことはないよ?」

 

これだけは絶対にいらない知識だと思う

 

けど何か言わないとダメな気がしなくもない…!

 

「………どうしても知りたいのか?」

 

「「「うん」」」

 

「絶対後悔すんなよ?」

 

「「「しない!」」」

 

…仕方ない。俺はちゃんと聞いたからな

 

「簡単に言うなら共食い………人が人を食う。人であ る以上最大の禁忌って言ってもいい所業だ」

 

「「「……………………………え?」」」

 

一気に顔が青ざめる三人娘

 

まぁそうなるよな…俺も初めてそういう系の話聞か された時は吐きそうになったし

 

「因みに…その『グラトニアス教団』と『クライフ ・ロス・ルイクローム』………俺が元の世界で壊滅さ せて滅した」

 

「………ケイジくんの世界の人って事?」

 

恐る恐る聞いてくるなのは。まだ少し気分が悪そう だ

 

「恐らくはな…だけど何故奴がここにいるかはわか らない」

 

「ケイジとかリーシャみたいに事故やないんか?」

 

復活早いな

 

「いや、絶対にそれはない」

 

「いやに言い切るなぁ……根拠はあるんか?」

 

「根拠は二つ……まず俺とリーシャは『異天の輝石 』って古代遺物(アーティファクト)……まぁお前らの言うロストロギア で此処に来た。古代遺物は世界に一つずつしか存在 しない…まぁ、存在そのものは全部聖書に載ってん だけどな」

 

だから古代遺物を回収して、『これの名前はコレ』 ってわかる訳だし

 

それに…

 

「そうやったんか…もう一つは何なん?」

 

「…ああ、ぶっちゃけこっちの方がわかりやすい

 

……アイツは俺がこの手で殺した“外法”だからだ」

 

…俺がそう言った瞬間、場の空気が凍りついた



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閑話『異世界リリカル滞在記』ろくっ!

「………ケイジ…」

 

「殺したって……」

 

「…………」

 

三人がそれぞれケイジの発言について考え込む

 

……あの後、ケイジはすぐに部屋を出て行ってしま ったので、追求すら出来なかった

 

「………」

 

「……それで、あなた達はどうするんですか?」

 

「「「!!」」」

 

不意に、近くから声が聞こえて、その方向を見ると 、リーシャが立っていた

 

「リーシャ…」

 

「…あなた達は今ケイジさんが人を殺している事を 知りました …その事を踏まえて聞きます。あなた達はこれから 私達をどうするつもりですか?」

 

「「「…………」」」

 

三人は何も答えない

 

当然と言えば当然か。今まで笑っていた相手がいき なり犯罪者…しかも殺人犯だと言われて冷静になれ るはずはない

 

「殺人は……悪い事なんだよ…?」

 

それでも、辛うじてなのはがリーシャにそう言う

 

だが、リーシャは全く動じる事なく

 

「知ってますよ?…ですけど、殺人が必ずしも悪だ なんて誰が決めたんですか?」

 

「!?」

 

そう、言い切った

 

「「………」」

 

「…そうですね、たとえ話をします

 

ある所に、身よりの無い子供を沢山保護してる人達 がいました しかしその保護と言うのは見かけだけ。中身は子供 達を奴隷のように扱う非道な団体でした 毎日の食事はパン一切れだけ。動けなくなれば路地 裏に捨てられる ……この時点で、悪は団体ですか?子供達ですか? 」

 

「団体に決まってるよ!」

 

フェイトがそう答えると、残りの二人も頷く

 

「そうですね。では……その奴隷のように扱われて いた子供達が、反乱を起こして、団体を皆殺しにし ました

 

………さて、悪いのはどっちですか?」

 

「「「………」」」

 

「あなた達の言う『殺人は悪』で言うなら悪いのは 子供達でしょうね ……あなた達は、遠回しに子供達に大人しく死ねっ て言っているんですよ」

 

三人は、リーシャの言葉に黙り込む…いや、黙り込 む事しか出来なかった

 

「他にもありますよ?少し宗教的になりますけど… とある所に、残虐神崇拝の宗教団体がありました。 その団体は子供達を次々と誘拐し、生贄と称して非 道な人体実験を行っていました …それを知ったある人が、その団体に乗り込み、団 体を一人残らず殺しました」

 

「「「……ッ!!」」」

 

「その時、その人が見つけた子供達は30人。その 内29人は人体実験の結果、普通の生活はおろか、 人として暮らす事すら出来ないくらいの異形に変わ り果ててしまっていました…救う手だてなど無く、 そこでどうにかしなければ一般人も危ない…その人 は29人の被害者の子供達を殺しました

 

……さて、その人は悪ですか?」なのは達は、やは り何も答えない。答えられない

 

…今まで、三人はそこまで究極論に出会った事が無 かった

 

いつだって、悪者は誰だとはっきりしていた

 

唯一例外と言えるのは闇の書事件くらいだろう

 

「…因みに、前半のは作り話ですが……後半は事実で す。ケイジさんの…」

 

「「「!!」」」

 

「まぁ話を聞いていただけですけど…ついでに言う と残りの一人は今ケイジさんの部下です

 

それに…私も元暗殺者ですし」

 

次々と発覚するハードな事実に、三人は少し唖然と なってしまっている

 

「…あなた達が私達を悪と言うなら別にそれでいい です……ただ、その時はケイジさんがどうであろう と、私は…一切容赦しません」

 

「「「……!?」」」

 

三人はリーシャが出す異様な威圧感に思わず後ずさ る

 

…殺した事がある者と、無い者…本気の命のやり取 りを最前線で繰り返して来たリーシャの殺気に、犯 罪者相手とはいえ非殺傷と言うシステムの中で自分 の手を汚す事なく生きてきた三人が耐えられる道理 は無かった

 

「…とにかく、言う事は言いました。後はあなた達 で決めて下さい

 

……フェイトさん。ケイジさんに少しでも疑問を抱 いたなら……

 

早めに諦めた方がいいですよ?」

 

「!!」

 

フェイトは、その言葉に過剰に反応する

 

「(私、は………)」

 

「(殺す事が全部悪い訳やない…か……)」

 

「(…………難しいの…私達は…)」

 

そして、リーシャもまた部屋を出て行き、その部屋 は静寂に包まれた

 

――――――

 

「………」

 

「ケイジさん」

 

「…リーシャか。お前余計な事はしてないだろうな ?」

 

「…してませんよ?………あんまり」

 

「………はぁ… まぁいい。こんな所にクライフが来ているのは恐ら くは俺のミスだ。奴を滅しきれなかった俺のな

 

……だからこそ、今此処で奴を滅する。今度こそ、 魂諸共跡形もなく」

 

「………」

 

「…お前はアイツ等についとけ。奴相手なら俺一人 の方がやりやすい」

 

「わかりました…気をつけて下さい」

 

「わかってる」

 

そう言うと、ケイジはスペルビアの大地に降り立ち 、そのまま姿を消した

 

 



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閑話『異世界リリカル滞在記』ななっ!

「……ここか」

 

スペルビアの辺境、そこに、この世界でのグラトニ アス教団は在った

 

そのたたずまいや意匠はカルバードにあった館と何 ら変わりなく、完全に見た目はレストランだった

 

「………さて、行くか」

 

ケイジは、認識阻害を発動し、誰にも気づかれる事 なく館に入って行った…

 

――――――

 

「……レストラン?」

 

「うん」

 

スペルビアに入り、現地での情報収集も終えて、突 入前の最後の作戦会議を行っていた

 

「えっと……こっちだとあのレストランができたの はつい最近みたいだね。それに、ちょうどその時期 くらいから…誘拐が始まってる」

 

「誘拐やて!?」

 

「うん…誘拐される人は決まって女の子。それもリ ーシャくらいの子からちょうど私達くらいの年まで 」

 

「…ちょっと待って下さい。あなた達私の事何歳だ と思ってます?」

 

「「「………12くらい?」」」

 

「私は16です!!ちょうど昨日が誕生日でした! !」

 

「「えっ……?」」

 

はやてを除く二人がリーシャの顔から少し下を見て 驚く

 

「………巨乳なんて……身長高い人なんて…みんな滅び てしまえばいいのに……!!」

 

「わかるでリーシャ……その気持ちは痛いくらいよ うわかるで…!!」

 

二人より発育がよくなく(それでも並以上だが)、 尚且つチビチビと影で言われているはやてにとって は人事で無かったようだ

 

「……ま、まぁそれはともかく…教団の方に関しては 徹底的に隠蔽してるみたいで情報は集まらなかった よ」

 

「……うん、ありがとうなフェイトちゃん なのはちゃんの方はどうやったん?」

 

「にゃはは…フェイトちゃんと変わらないよ。レス トランが出来たくらいに連続誘拐事件が始まったっ てたことくらい」

 

「レストランのオーナーとかの噂は無かったん?」

 

「それが…誰も見た事が無いって…」

 

「ん~~~…」

 

はやては少し悩んだ様子を見せてから、リーシャを 見る

 

「………はぁ。ありますよ。ケイジさんが作った資料 が」

 

「ほんまか!?」

 

「まぁ、『完全に向こうでの事件を纏めただけだが …』って言ってましたけど …それでもいいなら配りますが?」

 

「「「是非!!」」」

 

―――――――

 

~グラトニアス教団、及びカルバード東方人街連続 誘拐事件について~

 

・事件概要

 

東方人街の教会より、不審な誘拐事件の報告が、星 杯騎士団本部へ為された それを受け、騎士団は東方人街に“吼天獅子”と従騎 士一名を派遣。調査を続行し、教団の本質の特定に 成功 “吼天獅子”は別任務の為、騎士団へ帰還。従騎士一 名はそのまま捜査を続行 そして、従騎士の報告により、かなりの緊急性と異 端性が認められた為、騎士団は急遽“氷華白刃”を派 遣、これの殲滅に成功した次第である

 

尚、異端者『クライフ・ロス・ルイクローム』(以 下『クライフ』と呼称)は“氷華白刃”の働きにより 滅する事に成功 グラトニアス教団は壊滅、異端そのものに関わって いなかったマフィアはカルバード軍が逮捕

 

…以上が、当事件の概要である

 

・事件詳細

 

本件の異端者の元帝国貴族クライフは魔道具と思し き道具を入手、それにより教団を設立、カニバリズ ムにはしったものと思われる(クライフに貴族時代 の記録が一切無く、また家族、友人も現在は存在し ない為、詳細は不明)

 

帝国貴族解任後、カルバード共和国にてクライフは レストランを経営。その裏でマフィアを雇い、東方 人を誘拐 但し、東方人街では犯行を実行せず(“銀”の存在に よる)

 

誘拐した被害者は、魔道具により屍人形とするか、 カニバリズムの被害者となるかに別れる

 

被害者は推定84名。内13名は“氷華白刃”が保護。更 に屍人形30名を“女神行き”とした

 

クライフは“氷華白刃”が滅すも、魔道具そのものは 行方不明である

 

・被害者について

 

主な被害者は誘拐された者で、その全員が女子。更 に、12~18歳に限定された東方人であった

 

…情報の正確性は、“氷華白刃”の眼による尋問に基 づく為、高い

 

…以上、封聖省に報告するものである

 

担当者…星杯騎士団守護騎士第二位付きの従騎士 メシュティアリカ・アークス シャルロット・セルレアン両名

 

PS;わかってるとは思うが、“氷華白刃”は俺の渾名 後、上の二人は俺の部下で、リーシャをシャルに見 せてたから表記がシャルなだけだ

 

―――――――

 

「……わからん。クライフ以外の人らしき名前が全 くわからん!!」

 

「大丈夫です。私も何人かわかりませんから」

 

「「それダメだよね!?」」

 

なんだかんだで、結局殴り込みと言う結論に至る魔 王御一行なのだった…

 

――――――

 

「ディバイーン…バスター!!」

 

「ハーケン……セイバー!!」

 

「……もうどっちが悪者かわかりませんね」

 

「……言わんといて…」

 

あの後、すぐになのは達はレストランに突撃

 

一応スペルビアは管理世界であった為、管理局権限 で調査しようとしたが…案の定教団側がこれを拒否 。あまつさえ、なのは達を口封じに殺したしまおう とした

 

……死亡フラグとも知らずに

 

「…というかこれ…私達全くいらないんじゃ…」

 

「せやな…なのはちゃんとフェイトちゃんやったら 力技で制圧できるやろな…」

 

流石は管理局が誇る魔王と死神と言うべきか…次か ら次へと文字通り吹き飛ばしている

 

…途中、逃げようとしている者もいたのだが…一切 の容赦が無かった。本当にどっちが悪者なのかわか らない

 

「……あ、あれがオーナーの部屋かな?」

 

「多分そうだと思う…」

 

そしてフェイトが扉を開けると…

 

「………貴様、貴様ァァァァァァァ!!」

 

「今度こそサヨナラだ…いい“悪夢”(ユメ)、見れ ただろ?」

 

「クソがァァァァァァ!!」

 

パキィン……

 

聖痕を展開し、クライフをもの言わぬ氷に変えた、 “瞳を紅く変えた”ケイジがいた



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閑話『異世界リリカル滞在記』はちっ!

~なのは達の突入から少し前~

 

「ボス!!」

 

クライフの部屋に黒服の男が慌てて入ってくる

 

「…どうした。ノックも無しに」

 

「も、申し訳ない。ですが管理局の執務官と捜査官 がまた……」

 

「そうか…“また”か…」

 

心底面倒だと言う様子でため息をつくクライフ

 

また、という事はこれまでも何度か来たのだろう

 

…だが、そうであるにも関わらず、現在管理局には クライフの名前以外のデータが一切無い

 

それが意味する所は…

 

「丁重にお帰り願え

 

…ああ、永遠の沈黙を約束させた上でな」

 

「イエス・ボス」

 

――――――

 

「ふぅ…」

 

黒服が部屋を出て行った後、クライフは深い溜め息 を吐いてソファに座った

 

…前世…と言っていいのだろうか。訳のわからない 内に生意気な青年に殺され、気付けばこの世界に立 っていた

 

初めこそ戸惑っていたが、慣れてしまえば問題ない 。むしろ、ここはクライフにとっては好都合であっ た

 

――女神の信仰がない。それどころか、まず信仰と 言うものが特にない

 

それすなわち――クライフの理想が実現できる可能 性があること

 

…信仰の内容が内容故、余り大きく広めることは出 来ないが、同志さえいれば簡単に実現できる

 

この世界に来たばかりのクライフはそう思っていた のだが…

 

やはり、何事もそう甘くはない。クライフのいた世 界…スペルビアは管理世界だった。

 

…あったのだ。七耀教会と同じような教会組織が。 聖王教会と言う凄まじく大きな宗教組織が

 

…これまでの努力は実を結び、ようやく組織と言え る程の大きさにはなった

 

…今度は、この組織を守りながら大きくしなければ ならない…!

 

「全く…人生そう簡単にはいかないものだな…」

 

そう呟いてより深くソファに身を委ねた時だった

 

「全くだな」

 

「!?」

 

パキパキパキパキ!

 

突然、聞いた事のある声が聞こえたかと思えば、即 座にクライフの足元が凍りつく

 

「……これは…」

 

忘れるはずもない。この能力、あの声、いるはずの ない場所に現れる手口…!

 

「……よォ、久しぶりだな。クライフ・ロス・ルイ クローム」

 

「“氷華……白刃”……!!」

 

忘れるはずもない。自分を殺した相手…

 

アルテリア法国星杯騎士団、守護騎士第二位…“氷華 白刃”がそこにいた

 

「何故…貴様がここに…」

 

「俺が聞きてぇよ…お前、どうやってここに来た? 何故生きている?」

 

「……知らぬ」

 

わかるはずがない。自分とて気付いた時にはこの地 に立っていたのだから

 

「ふ~ん…素直に吐いてもらったとこ悪いんだが… 俺はお前の事これっぽっちも信じてないんだわ

 

……だから“視せてもらうぞ”」

 

そして、“氷華白刃”の瞳を見せられた瞬間、クライ フの意識は闇に沈んでいった

 

――――――

 

「………………手がかりはなし、か…」

 

ケイジは、クライフの眼から彼の記憶を覗いた後、 そう呟いた

 

…結局、ケイジがわかったのはクライフの腐りきっ た思考だけ。ゼムリアに帰る方法は解らず終い

 

「………う…うぁ…」

 

「……ようやく目が覚めたか」

 

どうやらクライフも目が覚めたようで、微かだがケ イジに視線を向ける

 

…しかし、首から下が氷に包まれているため、磔に された死刑囚のようになってはいたが

 

「………貴様、貴様ァァァァァァァ!!」

 

自分が今どうなっているかに気付いたのか、クライ フが激昂する

 

「今度こそサヨナラだ…いい“悪夢”(ユメ)見れた だろ?」

 

「クソがァァァァァァ!!」

 

パキィン

 

そして今度こそクライフはその命を閉ざした

 

そして…その一部始終がフェイトに見られていた…

 

――――――

 

「ケイジ、美味しい…?」

 

「……ああ」

 

俺は今、この上なく戸惑っていた

 

…フェイトは、つい数時間前に俺が“人を殺した”瞬 間を目撃した…なのに、まるでそんな事など無かっ たかのように普通に俺に接している

 

…こう言ってはなんだが、正気とは思えない

 

俺はてっきり、すぐにでもここを追い出されるもの だと思って服を元々着ていたローブに着替え、部屋 を出ようとした

 

…その時に、玄関でバッタリ出くわしたフェイトの 第一声が「もうご飯だよ?」だった

 

…それから普通に夕飯を出され、特に会話も無く今 に至る

 

てっきり「出て行ってくれ」的な何かがあると思っ たんだが…

 

「……いいのか?」

 

「?何が?」

 

「俺を追い出さないで」

 

そう言うと、何がおかしいのかフェイトはクスリと 笑った

 

「ケイジは私に何か危害を加えるの?」

 

「……さぁ、どうだかわからないぞ?何せ“人殺し” だからな」

 

更にフェイトが笑う

 

「ケイジは大丈夫だよ」

 

「…何を根拠に」

 

「女の勘…かな?」

 

「いや、かな?って聞かれても…」

 

俺女じゃねぇし

 

「……ねぇ、ケイジ。クローンって…どう思う?」

 

「?クローンか?」

 

クローンなぁ…

 

………少し考えていたが、ふとフェイトを見ると、何 故が震えていた。それも、何かを怖がるように

 

…クローン、ねぇ…

 

「要するに、一卵性の双子だろ?」

 

「………え?」

 

「オリジナルとクローン……性格以外は何も変わら ないんだから一卵性の双子とか三つ子みたいなもん だろ。倫理云々言う奴もいるが…オリジナルがいな かったり、認めてたりしたら何ら問題ないと思うぞ ?」

 

「………オリジナルの、代わりに…なれなくても…? 」

 

「代わり?無理に決まってんだろ。性格から何から 完全に同じ人間なんて存在しねぇよ。バカかお前は 」

 

「うん…そうだね……………私は………バカだ……!!」

 

「っ!?ちょっ、フェイト!?」

 

何故か突然号泣しだしたフェイトが俺に抱きついて くる

 

一瞬テンパったが、すぐに引き剥がしにかかる

 

…しかし……

 

「……お願い、お願いだから………もう少し、このま まで……!!」

 

…そう言って泣き続けるフェイトを、俺は無理やり 離す事は出来なかった

 

――――――

 

「「…………む!!」」

 

「?どうしたですか?はやてちゃんにリーシャさん 」

 

「いや、何か不愉快な電波を…」

 

「いや、何かラブコメな雰囲気をやな…」

 

「?二人共何言ってるんですか?」

 

「「そうですよね~~」」

 

八神家に居候する事になったリーシャの方はこの上 なく平和だったそうな…

 

――――――

 

「すぅ………すぅ………」

 

「ガキかコイツは…」

 

あの後、泣き疲れたのか俺に抱きついたままフェイ トは眠ってしまった

 

「ホラ起きろ…風邪引くぞ…」

 

「んぅ~………うにゅう……」

 

ダメだこりゃ。全く起きる気配がない

 

「仕方ねぇなぁ…………って何かこんな役回りばっか りな気がする…」

 

いや、ホントに

 

そうしてフェイトをおぶってフェイトの寝室に運ん でいる最中…

 

「………ケイジ………大好きぃ……」

 

「…………」

 

そして俺はフェイトをベッドに寝かせ、そっと部屋 を出る

 

「……全く…クローゼといい、フェイトといい……俺 みたいな“ロクデナシ”の何がいいのやら…」

 

…守護騎士を受けた瞬間から、まともな死に方がで きるとは思っていない

 

……誰に知られる事も無くくたばって、誰に気付か れる事も無くひっそりと戦場で死んでいく…

 

あの時…守護騎士を拝命した瞬間、俺はそう決めた はずだ

 

「……参ったな…全く…気付いたら雁字搦めにされて る気分だ…」

 

俺はフェイトの寝言を聞かなかった事にして、寝床 のソファに戻った



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閑話『異世界リリカル滞在記』きゅうっ!

「はぁ……はぁ……」

 

「あんまり声を出すな…気付かれるぞ」

 

「う、うん……」

 

「いけるか?」

 

「うん……私は大丈夫。大丈夫だから早く……

 

早く逃げよう…!!」

 

走る走る。ただ走る

 

足を止めるな。限界まで気配を消せ。奴に気付かれ るな…!

 

俺となのは、はやては今、管理局の本局って場所で 逃げ回っている

 

「…………」

 

ヒュヒュヒュヒュ

 

「っ!……もう追って来やがったか…」

 

認識阻害も掛けてるのになんて疾さだ…

 

「にゃああ!?かすった!今かすったのぉぉ!!」

 

「バーロー!口じゃ無くて足動かせ!アレに捕まっ たら死ぬぞ!!」

 

「せやでなのはちゃん!今のあの娘に捕まったら―――」

 

ズドォォォン!!

 

「はやてェェェェェェェ!!?」 「はやてちゃんんんんんん!!?」

 

まるで「こうなるで」とでも言わんばかりに散って 行くはやて

 

何もこんな時にまでお笑い魂を発揮しなくても…… !

 

「はやてちゃん!はやてちゃん!!」

 

「止めろなのは!!今はやてを助けるのは無理だ! !」

 

「そんな……」

 

『………はやて』

 

『な、なんや……?どうしたんや?何か相談あるん やったらうちがじっくり…』

 

『…………邪魔。プラズマザンバー…』

 

『……え?嘘やんな?友達に向かってそんな物騒な もん……』

 

『………なのはは撃ったよ?』

 

『いや、ソレ昔の『ブレイカー』

 

ズドァァァァァ!!

 

「「…………」」

 

「……はやてちゃん…はやてちゃんの分まできっと逃 げ切ってみせるから……!」

 

「成仏しろよ…!」

 

というかなのは。お前昔に何をした…

 

……さて、とりあえず今、魔王ならぬ死神に追われ てます

 

理由はわからん。どうしてこうなった……

 

―――――――

 

~その日の朝~

 

「ケイジ……起きて。朝だよ」

 

「………」

 

「うぅ……起きない… どうしよう…はやてが手がかりを見つけたのに…」

 

朝、フェイトはケイジの寝起きの悪さに悪戦苦闘し ていた

 

…何を隠そうケイジは低血圧低血糖低体温の三つ揃 った青年である

 

………要するに、この上なく朝に弱いのだ。それはも う夜行性動物ばりに

 

「ケイジぃ~……起きてよぉ~…」

 

「………」

 

ひたすらケイジが寝ているソファの前でオロオロす るフェイト

 

端から見ているとどこの新婚夫婦だと言いたくなる 様子である

 

「………ん……」

 

「!ケイジ!朝だよ起きて!!」

 

ケイジにほんの少しだが反応があったのを見て、こ こぞとばかりに毛布を剥がしにかかる

 

「………うるせぇな…こっちは眠いんだから寝かせろ …」

 

「ダメ!もう朝だから起きて!」

 

「うるせぇな…だから寝れる時くらい寝かせろや……

 

“クローゼ”……」

 

「…………」

 

ケイジがそう言った瞬間、フェイトの目からハイラ イトが消えた

 

「………バルディッシュ」

 

『y…yes sir!!』

 

フェイトの妙なプレッシャーに圧されてバルディッ シュが逆らえない…まぁ逆らった所も見たことない が

 

「………」

 

『s…sir…?』

 

「大丈夫だよバルディッシュ。ちょっとケイジを二 度と動けなくするだけだから…」

 

『Please stop that!?』(止めて下さい!?)

 

バルディッシュの説得も虚しくフェイトは剣を振り 下ろす――

 

「不穏な気配っ!?」

 

――が、間一髪気配に気付いたケイジが跳ね起き、 フェイトの剣はソファに突き刺さった

 

「………お前何してんの!?何してくれてんの!?」

 

「ケイジ………………………大人しくキラレテ…?」

 

「お前本当にフェイトか!?」

 

――――――

 

「…わからん。さっぱりわからん」

 

とりあえず撒けたようで、一息つく

 

……リーシャにフェイトを気絶させてでも止めろっ て頼んだんだが…いけっかな…?

 

「ケイジくんがフェイトちゃんに何かしたんじゃ無 いの!?」

 

「いや、朝起きたら(叩き起こされたら)もうあん なんだった」

 

「嘘なの!!」

 

「嘘言ってどうするよ…つーか静かにしろや。あん ま大声だしたら…」

 

「ミィツケタァ…」

 

「「来たァァァァァァ!!」」

 

リーシャの野郎ォォォォォォォ!!止めろって言っ ただろうがァァァァァァ!!

 

そんなことを考えているものの、体は勝手に走り出 す。どうやら本能的に恐怖を刷り込まれたようだ

 

シュタッ

 

「ケイジさん!」

 

役立たず、帰還

 

「何ノコノコ戻って来てんだ役立たず」

 

「酷っ!?というか絶対無理ですよ今のフェイトさ んを止めるの!!何か周りの空間が歪んでますもん !!」

 

……フェイト、空の聖痕持ってんじゃね?

 

「いや、正直お前はどうなってもいいからフェイト 止めてくれ」

 

「いやいや無理です!!」

 

「ケイジくん危ないの!!」

 

そうなのはが言うので後ろを見ると、すぐそこまで 金色の斬撃が迫っていた

 

「「嘘ォォォォォォ!?」」

 

「ちょ!?ケイジさんどうにかして下さいよ!?」

 

「くっ…仕方ない。これは最後の手段だったが…」

 

ガシッ

 

「え?」

 

「リーシャバリアー!!」

 

「薄々はやるなって気付いてましたけどまさかこの タイミングとは思わなかったァァァァァァァァァァ ァァ!!」

 

そしてリーシャにフェイトのハーケンが直撃する

 

「ふぅ……危ない危ない」

 

「ケイジくん…鬼畜なの…」

 

なのはが何か言ってるが気にしない

 

…しかし、ハーケンを防いだだけでフェイトを撒け た訳じゃない。となると…

 

「そして伝説へ!!」

 

やっぱりリーシャを投げるしかない訳で……

 

「ケイジくん本物の鬼なの!!人間じゃないの!! 」

 

「うるさい魔王。リーシャにはギャグ補正っていう 素晴らしい能力が備わってくれていたらいいのにな ~」

 

「それ完全なる願望だよね!?しかもメタ発言! それと私魔王じゃ無いもん!!」

 

でもフェイトのパソコン使った時に軽くネットいじ ったら大見出しに『管理局の魔王(エースオブエース) 大活躍!!』 ってあったぞ

 

「私魔王じゃ無いもん!!普通の女の子だもん!! 」

 

「ちょ!?お前ポカポカこっち叩いてる暇があった ら足動かせ!!」

 

ホラ!!リーシャがフェイトになぶられてる間に逃 げようとしてたのにもうボッコボコにされて捨てら れてんじゃねぇか!!

 

「フフフ………ケイジ、モウニゲバハナイヨ…?」

 

「いやお前本当に誰だよ!?あの大人しい犬属性の フェイトはどこにいった!?」

 

「ワタシガフェイトダヨ?マッタク…ケイジハモノ ワスレガハゲシインダネ」

 

「嘘だ!!」

 

少なくともフェイトは人語を話していたはずだ!!

 

「ダイジョウブダヨ………ケイジガウゴケナクナッテ モワタシガイッショウオセワシテアゲルカラ…」

 

「まさかの介護前提!?というかお前俺に何するつ もりだ!?」

 

「ソンナノ……ハズカシクテイエナイヨ…」

 

「コイツ変態だァァァァァァァァ!!」

 

前に模擬戦した時から「露出狂?」とは思ってたけ ど!!ここまで救いようが無いとは思わなかった! !

 

「私魔王じゃないもん!!」

 

「お前はしつこいな!!………ってアレ?」

 

気がつけば前の少し離れたところになのはがいた

 

…………レイジングハートを構えて

 

……え?何これ?前門の魔王(なのは)、後門の死神(フェイト)

 

アレ?詰んでね?

 

「フフフ……ケイジ…モウニガサナイ…!」

 

『Plasma zamber』

 

「魔王じゃ……ないもん!!」

 

『Starlight』

 

「「ブレイカー!!」」

 

俺の脳裏に今までの記憶が甦っていく

 

……ああ、これが走馬灯ってヤツか…

 

そう理解した瞬間、俺はピンクと金色に呑まれた

 

………俺が何をしたって言うんだ…!!

 

「………ハッ!?ケイジ!?どうしたの!?何があっ たの!?」

 

「………フェイトちゃん、覚えて無いんだ…」

 

「なのは!!誰がこんな酷いことを!?」

 

「(いや、やったのフェイトちゃんなんだけど…) 」

 

そう言いたいのは山々だったものの、心底ケイジを 心配している様子のフェイトには言うに言えないな のはだった

 

「ケイジ!ケイジ!!しっかりして!!」

 

「……ユーノくんにでも愚痴聞いてもらおうかな…」

 

同時に、フェイトの発するピンクのオーラにげっそ りしているなのはだった…



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閑話『異世界リリカル滞在記』らすとっ!

「痛たたた…」

 

「ケイジ大丈夫?気分は悪くない?ちょっと休憩す る?」

 

「お前は俺のオカンか………大丈夫だって」

 

俺オカンいないけど

 

あの前門の魔王、後門の死神事件(命名俺)の後、 何とか意識を取り戻した俺、リーシャ、はやてはな のはとフェイトを伴って聖王教会と言う場所に来て いた

 

なんでもここに“予言”を出す能力を持ってる人がい るらしい……予言て。何か嘘臭せぇなぁ…

 

……というかあの事件で初めて三途の川見た。何故 かはやてとリーシャが真ん中ら辺でシンクロしてた ので死ぬ気でこっちに引きずり戻したが

 

ちなみにはやてとリーシャはそのことを覚えていな いらしい

 

「……何か目立ってませんか?」

 

突然リーシャがそんなことを言い出すが…まぁ目立 ってんな

 

「当たり前やろ。こんな美人が四人集まっとるんや で?」

 

「四人?美人二人に狸が一匹、猫一匹だろ?」

 

「狸は酷ない!?うちは人間や!!」

 

「は?」

 

「即否定はホンマに酷い!!」

 

「猫…ペット扱いですか…」

 

「美人…///」

 

「フェイトちゃん…もう面倒臭いから早く正気に戻 って欲しいの…」

 

何故か物凄いカオスな状況になってしまった。解せ ぬ

 

――――――

 

「………広いな」

 

「………広すぎないですか?」

 

「「「あははははは…」」」

 

あれから二十分くらい聖王教会の敷地内を歩いてい るが、未だに建物すら見えない

 

「まぁ、本来は車で移動する距離やからな~」

 

「じゃあ車で来れば良かったじゃねぇか」

 

「しゃあないやん。うちらまだ17やねんから」

 

「17……です……と………?」

 

リーシャがフェイトとなのはの胸を凝視する

 

「私は女神様なんて信じない…!!」

 

「ど、どうしたの!?」

 

「リーシャ目が怖いよ…?」

 

リーシャが怨念の籠もった目つきでなのはとフェイ トの胸を見る

 

「ケイジ、ほれ」

 

「ん……何をとち狂ってんだお前は」

 

スパーン

 

「ふにゃっ!?」

 

とりあえずはやてが差し出してきたハリセンでリー シャの頭を思いっきりシバく

 

「痛いです!これ以上成長が遅くなったらどうして くれるんですか!!私ははやてさんみたいにはなり たくないですよ!?」

 

「いや、知らんけど」

 

「リーシャ、喧嘩売っとんのか?売ってんねんな? よっしゃええで。その喧嘩買ったらァァァァァァァ ァァァ!!」

 

「うるさいです!!二つの意味でちび狸の癖にぃぃ ぃぃぃぃぃ!!」

 

「うるさいわツルペタロリ娘!!永遠にそのままで 成長せぇへんかったらええんや!!」

 

「「………………!!」」(泣)

 

「「……傷付くんだったら黙ってたらいいのに…」」

 

睨み合ったまま涙を流すバカ二人……本当に何やっ てんだよ…

 

「えっと……あまり大きくても良いことないよ?」

 

「「それでも無いよりはマシなんや(なんです)! !」」

 

……そこまで本気になられると、ちょっと、引く

 

そんな時…

 

「あ、あれが聖王教会だよ」

 

聖王教会の建物がやっと見えたのだった

 

……それでも、後五キロくらいはあるが

 

――――――

 

「カリム~来たで~」

 

「いらっしゃいはやて。予言はしっかりコピーしと いたわよ」

 

「ありがとうな~」

 

「どういたしまして…高町一等空尉にハラオウン執 務官もお久しぶりですね」

 

「「はい」」

 

「まぁ、堅苦しいのは無しにしましょう。今お茶の 準備をしますね」

 

それからは完全なるガールズトークに移る四人。し かしカリムが割と重大な事に気付いた

 

「…そう言えば予言に出てた騎士と銀の姫はどこに ?」

 

「ああ…あの二人やったら多分訓練場ちゃうか?」

 

はやての言葉にカリムは頭の上にクエスチョンマー クが大量発生する

 

「ああ、説明が悪かったなぁ…ケイジはなんか知ら んけどここの騎士達に懐かれたっぽい。一人の騎士 を一瞬で倒したら囲まれてな~。そんまま訓練場直 行や」

 

「もう一人もそれに付いて行ったんですよ」

 

「ええ~…」

 

詳しく言うなら、

 

なのは達がナンパされる → 断られる → ケイジに恨みの矛先が → とりあえずフルボッコ → お前強いな!

 

…である。ケイジはそれを見事に纏めて全員を引き 連れて訓練場へ向かって行った

 

…何という無駄なカリスマ。ある意味流石はカリス マスキルAと言うべきか

 

「じゃあ早めに彼のところに行った方がいいんじゃ ない?」

 

「……せやな」

 

「…?」

 

カリムは、どこか歯切れの悪いはやての返事に首を 傾げた

 

はやての視線は、フェイトをじっと捉えていた

 

――――――

 

「そこだぁ!!!」

 

「奇襲してんのに声出すとかアホかお前は…という かバレバレだ」

 

「ぐはぁ!」

 

『モブ!!』

 

『畜生、モブがやられた!』

 

アイツの名前モブって言うのか……もうちょっとマ シな名前付けてやれよ。モブ親

 

「個々で行っても勝ち目はありません!!みんなで 一斉に行きますよ!!」

 

『いた仕方なし、か…みんな!!嬢ちゃんに続けェ ェェ!!嬢ちゃんが先頭ならちょっとは攻撃が甘く なるはずだ!!』

 

『応!!』

 

「…ん?なんだリーシャか。なら手加減は要らない な」

 

「……ケイジさん、それ何ですか?」

 

ケイジの目の前には何かバチバチいってる球体が浮 かんでいた

 

「ん?コレか?見よう見まねでコピーできっかな~ と思ってインディグネイションを収束してみた。や ろうと思えば出来るもんだな」

 

『まさか…』

 

『ハラオウン執務官の………嬢ちゃん?』

 

「………雷怖い雷怖い雷怖い雷怖い雷怖い雷怖い雷怖 い雷怖い雷怖い雷怖い雷怖い雷怖い雷怖い……」ガ タガタガタガタ

 

『嬢ちゃん!?』

 

どうやらリーシャにはトラウマものだったようだ… 哀れリーシャ

 

「……ま、あれだ。とりあえずリーシャは置いとい て」

 

『オイ!!』

 

「……ぶっちゃけ試した事も無いから手加減出来る かどうかは保証しない。リーシャに付いて行ったお 前らの自己責任って事で…」

 

『……え?ちょ…マジで…?』

 

「はいど~ん」

 

『ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…』

 

「鬼畜やな」 「鬼畜ね」 「魔王なの」

 

「「………え?」」

 

「…はやてちゃん、カリムさん…今の発言に付いて 後でOHANASHIなの」

 

「……お揃い………///」

 

本当にカオスな状況だった

 

――――――

 

『異界の騎士、希望を得んと聖なる王を据えし堂に 入る

 

騎士は金言を得て、天を異えし輝石によりて、銀の 姫と共に光となりて消ゆ

 

全てを動かす鍵となるは、奇跡の言霊となるであろ う』

 

――――――

 

「……何この訳わからんポエム」

 

リシャールさんでももうちょいマシなもん書くぞ

 

「予言や」

 

「…は?」

 

「だから予言や」

 

じゃあ何か?これが手がかり?

 

「…とにかく、これを見るに騎士はケイジのこと。 銀の姫はリーシャのこと。それに金言っていうのは この予言で間違いないと思うんだけど…」

 

「マジでか」

 

「問題はこの輝石言うのと奇跡の言霊ってやつやな 。全くわからんわ」

 

………輝石?言霊?

 

「……あ」

 

『?』

 

「リーシャ、こっち来い」

 

「?はい」

 

そうリーシャに言うと大人しく来る

 

そして俺はずっとポケットに入れてあった“異天の 輝石”を出す

 

「何やそれ?」

 

古代遺物(アーティファクト)。お前らで言う所のロストロギアでな。 コイツの名前が“異天の輝石”」

 

「なんやて!?」

 

「「!?」」

 

三人がかなり驚いている…まぁそうか。答えを俺が ずっと持ってたんだからな

 

「それに言霊ってのは………!!」

 

“異天の輝石”に譜を込めると、突如として輝石が光 を放つ

 

それは少しずつ俺をリーシャを包んでいく

 

「…ケイジ」

 

名前を呼ばれてその方を向くと、フェイトが泣きそ うな顔で俯いていた

 

「……また…会えるよね…?」

 

「…さぁな。でも……」

 

――縁があったら、また会えるだろ

 

そう言ってフェイトに微笑むと、フェイトはこっち を向いて満面の笑みで俺の頬にキスをした

 

「………うん!!」

 

…そうして、俺とリーシャは元の世界に帰って行っ た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの~リーシャさん?そろそろ首から剣を離して くれると嬉しいなぁ~~って……」

 

「……何か?」

 

「ナンデモナイデス」

 

何故か帰ってから暫くリーシャが黒ーゼ並みの威圧 感を放っていた…

 

そして、その日以来、男性局員のお誘いをバッサリ 断り続けるフェイトの姿が見られたそうな



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『氷華』

ガギィ

 

ギャリィ

 

ギィィィン

 

斬る。ただただ斬り続ける

 

斬らなければ斬られる……ただその一念だけを頭に 置いて

 

『右から三本!』

 

「わかってる!!」

 

ギィン

 

ウルのサポートもあって今の所一つもナイフは喰ら ってない

 

……というか今までと比べて体が軽い。まるで憑き 物が取れたみたいだ

 

……ある意味憑かれてるけど。神さんに

 

『まぁ聖痕はある意味憑き物だからね~』

 

「心を読むな。またポチに戻りたいか」

 

『心の底からごめんなさい』

 

…本当にコイツがいるとイマイチ雰囲気がなぁ…

 

正直な話状況としてはかなりマズい

 

向こうは無限にナイフを錬成して射出できるが…俺 は人間だ。当然体力には限りがある

 

…いくらウルが俺をサポートしていると言っても、 純粋に悪魔には体力面で劣るだろうな

 

全く…身体は人間、スペックは悪魔って…なんつー チートだよ

 

『…どうするの?隙を作って一撃を打ち込むしか勝 ち目は無いよ?』

 

「…わかってる。それをどうするか今考えてんだよ 」

 

…今は聖痕の力は使えない…当たれば多分一撃必殺 になるだろうが…もし外せばその後がどうなるか全 く予想できないからな

 

かと言って今は何故か譜術も使えない…多分ウルの 所為だとは思うが

 

「…ウル、縮地は使えるのか?」

 

『…譜は単純な身体強化くらいなら使えると思う。 サポートの術とかは無理だけど』

 

「上等だ」 迫りくるナイフを白龍で弾きながらどこぞの慢心王 よろしく氷で創られた椅子に座っているアガレスを 睨み付ける

 

アガレスは余裕の表情でこっちを見ており、笑みす ら浮かべている

 

「ウル……回復頼むぞ?」

 

『……どうせ止めても聞かないんでしょ?わかった よ』

 

ウルの了承も得た所で、一瞬ナイフの雨が止んだ時 にアガレスに初めにしたように縮地で奴の懐に潜り 込む

 

すると…

 

「……甘いわ塵芥が。(おれ)に同じ手が二度も通じると 思うたか」

 

「……………ぐっ…!!」

 

俺の手を読んでいたアガレスが隠し持っていたナイ フを俺の腹に深々と突き刺した

 

「ふははは……所詮塵芥は塵芥よな…同じ手以外の策 すら思い浮かばぬような矮小な頭脳で…(おれ)に勝てる と思うたか!!」

 

一瞬意識が持っていかれそうになったが…しっかり 残った

 

手も動くし力も入る…

 

「…確かに、俺達人間はちっぽけな存在だよ…」

 

「ふん、死に際に来てようやく己が身分をわきまえ たか!!」

 

アガレスが傲岸不遜に言い切るが……違うな

 

「けどな…ちっぽけな存在でも二人、三人…何人も 集まれば巨大な力になる」

 

「………!!」

 

「それは町だったり国だったり…規模も違えば目的 も違う。時には人間同士でぶつかる事もある… けどな…人間全員必死こいて今を生きてんだよ…! !」

 

「……要するに、何が言いたい…!」

 

「そうだな…簡単に言うなら…」

 

アガレスから約三歩ほど距離をとり、白龍を鞘に納 める

 

当然血が床に撒き散らされるが…

 

全部……刺された瞬間“だけ”出た血だ!!

 

『治療、完了したよ♪』

 

「人間舐めんな。クソ悪魔!!」

 

「なっ!?」

 

驚愕するアガレスに縮地で詰め寄り、連撃を叩き込 む

 

そこから抜刀し、斬り上げ、跳躍。先回りして更に 地にアガレスを叩きつけ、降りた瞬間に斬り払う

 

――鳳仙花

 

『ケイジ!!これが最初で最後のチャンスだよ!! 』

 

「んなもん……これを考えた時からわかってんだよ !!」

 

奴の慢心につけ込んだ最初で最後の奴の決定的な隙 …ここで掴まねぇと…負ける!!

 

鎖で繋がれたリーブを解放するには…ここしかない …ここしかねぇんだよ!!

 

再び縮地で吹き飛ぶアガレスの先に回り込む

 

今度は吹き飛ばすような事はしない…一度目に破ら れたことが今度は通じるなんて甘い事は考えちゃい ねぇ!!

 

打撃に所々斬撃を交えつつ、アガレスの命を狩りに かかる

 

……反撃などさせねぇ…状況を確認する暇なんて尚更 与えはしねぇ…

 

墜とせ…刻め…ここで決めなきゃ負けなんだ…

 

何より…奴に、これ以上…もうこれ以上…

 

「リーブの誇りを…魂を…

 

これ以上汚すんじゃねぇェェェェェェェェェェェェ !!!」

 

今まで散々超近距離で攻めていたアガレスを弾き飛 ばす

 

『「(あめの)………」』

 

その弾き飛ばしたアガレスが倒れる前に俺は縮地か らの抜刀術でアガレスの腹を逆袈裟に斬り抜く

 

『「羽々斬(はばきり) !!!」』

 

そして斬り裂いた傷が少しずつ背中や腕、顔などあ らゆる部分に同じ傷が現れる

 

…『一度だけ斬った』という因果をねじ曲げ、『一 度』を『何度も』と世界に認識させる

 

つまり…今、俺はアガレスに『一瞬』で『抜刀術』 を『数千回』叩き込んだことになる

 

…当然、リーブの身体…つまり人間の身体であるア ガレスに数千回の斬撃が耐えられるはずもなく、四 肢は斬り飛ばされ、首だけは皮一枚で繋がっている 状態である

 

…そして

 

『「これで……終わりだ!!」』

 

既に虫の息のアガレスにトドメとばかりに抜刀術を 喰らわせる

 

そして、白龍を鞘に納めると同時に身体の軽さは消 え、立っている事も出来ずにその場に膝を付いた

 

『お疲れ様』

 

「……終わったん…だよな?」

 

『うん…』

 

そう、ウルと話す

 

「………まだだ塵芥ァァァァァ!!」

 

『「!?」』

 

突然背後からアガレスの声が聞こえたかと思って振 り返ると、足だけを再生させたアガレスが立ち上が り、こちらを睨んでいた

 

「塵芥ごときがこの(おれ)を…魔を率いる将であるこの アガレスを討つなどあっていい訳がない!!ないの だあああぁぁぁ!!!」

 

死に体とは思えない物凄いスピードで俺に向かって くるアガレス

 

…その両足には無理やり埋め込んだのか、ナイフの 刃だけが足の先に付いていた

 

『っ!…ケイジ!!』

 

「………ぐっ」

 

避けようにも、ウルの憑依(?)が無く、しかも身 体に力が入らない今……どうしようもない…!!膝立 ちにするだけで精一杯だ…!!

 

ウルは……間に合わない、か

 

………ここまでか。まぁ、此処までアガレスも弱って る…リクの『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ) 』なら今のア ガレスくらい消し飛ばせるはずだ…

 

そして俺は、その場で膝立ちのまま、目を…閉じた …

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………?

 

いつになっても痛みが来ない…?

 

不思議に思い、ふと目を開けると、アガレスが足を 振り切る直前…俺の首の真横で、足が止まっていた

 

そして突然飛び退いたかと思うと、何故かその場に 仁王立ちする

 

『「………??」』

 

全く訳のわからない光景に、ウル共々首を傾げてい ると、アガレスの背中に、蒼銀の聖十字が出現した

 

……って聖十字!?蒼銀の聖十字…まさか!?

 

『……あ゛~…全く、人様の身体勝手に使いやがって …レンタル料取るぞコノヤロー』

 

「………」

 

『…ん?どしたケイジ。んな有り得ねぇモン見たよ うな顔しやがって』

 

…この人を食ったような話し方、駄目な大人の見本 みたいな性格…

 

「リーブ……なのか…?」

 

『おう。みんな大好きリーブさんですよ』

 

そこに立っていたのは紛れもなく本物のリーブ・サ ンクチュアルだった

 

『にしてもお前身長伸びたなぁ~…もう俺よかデカ いんじゃねぇか?』

 

「…そりゃあれから十年だからな…」

 

『あれ?何泣きそう?泣きそうなの?』

 

「うるせぇ…」

 

本当に駄目な大人だ…

 

『……さて、積もる話は沢山あるだろうが…そう悠長 にやってる時間も無い』

 

「………え?」

 

急にリーブの声が真面目なそれに変わり、リーブは 真っ直ぐに俺を見ている

 

『今のお前は守護騎士なんだろ?……なら、もうわ かってるはずだ』

 

「………」

 

確かに、わかってる

 

今俺がやらねぇといけない事くらい

 

だが…それを受け入れたくない…我が儘だろうが何 だろうが…とにかく、認めたく無かった

 

『ケイジ……

 

 

俺を……斬れ』

 

「…………っ!!」

 

しかし…当のリーブがそれを許さない

 

『俺が悪魔を抑えられるのは後少しだ………その前に 、一思いにやっちまえ』

 

「………」

 

できるかよ…

 

口には出さないが、俺にとって…アンタは誰より“親 ”“家族”って関係に近い男なんだ…

 

一度失った温もりが目の前にあるのに…それをみす みす見逃せってのか…?

 

「………」

 

『……はぁ、なら…ケイジ。お前は何の為に騎士にな った』

 

「!!」

 

『お前は騎士の儀で何て答えたんだ?お前の騎士に なる意味はなんだ?』

 

騎士の儀……星杯騎士団で騎士になるための儀式

 

騎士の誓いという一種の目標や掟を自分で決めて、 それを声に出して女神の前で誓う

 

『“汝…誰が為にその剣を振るうか?”』

 

「……“護る為、その為に俺は剣を振るう”」

 

『なら……その信念を貫いてみせろ

 

……俺の誇りを護ってくれや』

 

「!!」

 

『ケイジ…』

 

「ああ…ウル、頼む…」

 

『………うん』

 

再び、身体が軽くなって行く

 

俺は立ち上がり、白龍に手を添える

 

『……それでいい。さぁ…来い!!』

 

俺は、仁王立ちで構えるリーブを…

 

「………あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

ザン!!

 

抜刀術で、斬った

 

そして…『天羽々斬』が発動する

 

『………じゃあな。ドラ息子』

 

「!!」

 

リーブが、本当に塵と消える、その瞬間

 

そう呟いた…そんな気がした

 

……もしかしたら、俺の願望が聞こえさせた空耳か もしれない……けど、それでも…

 

「……昔は言われる度に否定してた癖によぉ……

 

今更、息子呼ばわりしてんじゃねぇよ……………

 

――クソ親父が……!!!」

 

ウルのサポートが切れて、俺はその場に仰向けで倒 れ込む

 

『ケイジ………』

 

「本当に……人生ってのは厳しいもんだな……

 

ったく、本当に…」

 

『…そうだね』

 

霞んだ視界で見上げた空は、どこまでも蒼く、蒼く 広がっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼き氷華は天に昇り、昏き魔将は地に墜ちる

 

それでも…回り出した歯車は止まらない

 

物語は既に、一時の終焉に向かっているのだから…

 

 



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『小休止』

side リク

 

「……気を付けて下さい。いくら気配が無くなった とは言え油断は禁物です」

 

ケイジが一人で次の階層へと進んでから約二時間半 。リーシャも意識を取り戻し、上からの物音と戦っ ている気配が消えたため、全員で警戒しながら進ん でいる

 

「わかってる……」

 

「あ、外に出るみたいだね」

 

そうして、シャルが外への扉を開ける

 

するとそこには…

 

ド真ん中で仰向けにぶっ倒れているケイジがいた

 

「っ!?ケイジ!!」

 

たまりかねたのかクローゼがケイジに駆け寄ってい く

 

…………え?怒らないのかって? アレ見て怒るってただのKYじゃね?どう見てもク ローゼはケイジの事好きだろ

 

……オイ、今『キャラが違う』って思った奴。大人 しく出て来い。今なら『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム) 』で許し てやる

 

「……うるっさい。耳元で騒ぐな…」

 

……どうやらケイジもこっちに気付いたようで面倒 くさそうに返事をする

 

…あ、クローゼが思いっきり抱きつい……アイツ投げ やがった。それでいいのかお前

 

「痛いじゃない!!」

 

「……なんだクローゼか」

 

「なんだじゃない!!私心配したんだよ!?」

 

「へ~(棒読み)」

 

「反応薄っ!!」

 

…アイツ芸人志望なのか?さっきからボケっぱなし だが

 

…というか何かが変だな……何かアイツらしくないと いうか…

 

そんな事を考えながら俺達もケイジの所へ向かった

 

side out

 

「…なんだ。お前ら全員来てたのか」

 

「戦闘の気配が無くなったからな」

 

「それにリーシャも起きたしね~」

 

ケイジ、リク、シャルがそれぞれ言葉を交わす

 

「リーシャ…何か違和感は無いか?」

 

「いえ、ありません。少し身体が重いくらいですけ ど……何かしたんですか?」

 

「あ~……説明面倒だからパス。後でティアかシャ ルにでも聞いてくれ」

 

「それで……リーシャを重傷にした奴はどうなった んだ?見た所いないみたいだが……」

 

「………」

 

リクの言葉に黙り込むケイジ

 

……無理もない。つい数分前の出来事なのだ つい数分前に……親代わりのような人を殺したのだ から

 

「……?ケイジ?」

 

「……ああ。俺が“滅した”」

 

「………そうか」

 

それで会話が途切れてしまう

 

「「(………き、気まずい……)」」

 

つい最近まで犬猿の仲(大体の原因はリクの一方的 な毛嫌い)だった二人には共通の話題などあるはず も無かった

 

「………というかお前はいつの間にさも『自分の定位 置だ』と言わんばかりに俺に張り付いてんだ…」

 

「いいじゃない♪」

 

現在の状況…身体を起こして座っているケイジの背 中にクローゼがしなだれかかっている

 

…どう見てもリア充にしか見えません。ごちそうさ まです

 

「……」

 

「あれ?リク何も言わないの?いつもエステルとヨ シュアとかアガットとティータがじゃれてたら『リ ア充爆発しろォォォ!!』って叫んで剣投げてたの に」

 

「俺そんな事してたか? いや…なんとなく今あの二人に声をかけたら物理的 に殺される気がしてな……シャルは?」

 

「奇遇だね…僕も一緒だよ…」

 

大正解である。今あのピンクの空間を邪魔しようも のなら黒ーゼと化したクローゼに消し炭にされるだ ろう

 

……現に今、空気を一切読まずに突っ込んで行った リーシャが見事にボコボコにされている

 

しかもその間もクローゼはケイジの背中から離れな いという徹底ぶりである

 

…それにしても、ケイジと出会って以来リーシャの 運は悪い意味で振り切っているとしか思えない。主 に投げられたり、いじられたり、投げられたり

 

「「((本当に……色々可哀想な娘だなぁ…))」」

 

そっと、クローゼに気付かれないようにリーシャに 合掌するリクとシャルだった

 

――――――

 

「………ん、悪いな。もう大丈夫だ」

 

そしてそれから約二十分、クローゼとシャルがケイ ジに治癒アーツを使ってようやくケイジは動けるよ うになった

 

…ちなみに、結局クローゼは一瞬たりともケイジの 背中から離れなかった

 

「(しっかし……ウルが出てこないな…聖痕を解放し た時しか出て来れないのか?)」

 

「ケイジさん?本当に大丈夫なんですか?」

 

「ん?ああ。あまり本気は出せねぇが剣術とか譜術 なら問題ない」

 

「なら早く次の階に行こ!!エステル達絶対先に進 んでるよ~!!」

 

「そうだな…少し急ぐか」

 

ケイジ達は、今いるバルコニーのような場所の端に ある階段へと足を進めた

 

後書き



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『仲間』

「………あ!あれ出口じゃない?」

 

「そう慌てんなよシャル…」

 

「ケイジがボロボロなだけでしょ?」

 

否定はしない。何故ならクローゼに肩を貸してもら ってようやく階段登ってる状況だから…

 

「まぁ、諦めろ。自業自得だろ」

 

「リクゥ……」

 

お前そんなキャラじゃねぇだろうが…!

 

「………」

 

「…リーシャさん?」

 

「………」プイッ

 

そして何故かさっきからリーシャがこの状態です

 

……今までどんなにからかっても敵のド真ん中に投 げてもこんなんなかっただけに……なんかものっそ い怖い

 

「リク、ヘルプ」

 

「リア充爆発しろ」

 

「なんでさ」

 

何故にここにきてそれ?

 

――――――

 

「…何だここ?」

 

「闘技場?」

 

それからようやく出口に着くと、外見が完璧に闘技 場な場所に出た

 

「にしても…誰もいねぇな」

 

「気配もありませんね…」

 

リーシャでも気配を掴めないとなると…本当に誰も いないか

 

今は俺が探っても信憑性ないしな…

 

そんな事を考えながら闘技場の中心へと足を進めた

 

その瞬間…

 

ガシャン

 

『!?』

 

突然、入って来た側の扉が完全に閉まった

 

シャルがすぐに扉を見に行くが…

 

「…ダメ!完全に閉じ込められた!」

 

「…チッ、ヤバいな」

 

やはりと言うか、開かないらしい

 

それに…

 

「…ど~もお出迎えも来たみたいだな」

 

「そうですね…」

 

俺とリーシャがそう言うのとほぼ同時に、左右から 大量の機械人形(オートマタ)が出てくる

 

「…こんなお出迎え、誰も望んでねーっての…」

 

リクがそう軽口を叩くが…正直、かなりマズい

 

俺はポンコツ状態だし、リーシャは聖痕の影響で上 手く動けないだろうし、クローゼが出ると俺は多分 立ってられない

 

唯一自由に動けるのはリクとシャルだけなんだが… シャルはSLBのタメがまだ出来てない。それにリク はなんやかんやで経験不足だ

 

……こうなったらまたイザナギで…

 

そう思って前に出ようとしたが、リクとシャル、そ れにリーシャに遮られた

 

「ケイジ…また一人で何とかしようとしてたでしょ ?」

 

「………」

 

「図星なんだね」

 

ぐぅの音も出ない。何コイツの勘。未来予知できん じゃねぇか?

 

「全く…大体ケイジさんは何でも一人でしようとし 過ぎなんです!少しくらい私達も頼って下さい!」

 

「リーシャに同意よケイジ。ケイジは放っておくと どこまでも一人でやろうとするんだから…今回もそ の前もまたその前も…」

 

「うっ…」

 

「……ケイジ何でも出来ちゃうものね~…私達なんて 必要ないものね~…」

 

「すんませんでしたクローゼさん。だからその突き 刺さる視線を止めて下さい」

 

本当に心に突き刺さって来るんで

 

……よくよく見ると、リク以外の三人が同じように 俺を見ていた

 

…何コレ。新手のイジメ?

 

最後の望みを託してリクを見るが、「自業自得だっ て言っただろ?」とか言いやがった

 

「……でもな、確かにお前は一人で何でもやろうと し過ぎだ。さっきの件にしてもそうだ。全員で行っ てりゃお前がそんな怪我を負うことは無かったかも 知れない」

 

「………」

 

「……無言は肯定と受け取るからな。 それに…お前は俺達を舐めすぎだ。お前はこの中で 一番強いだろうさ。でもだからと言ってお前一人で 全部やる必要も無いし、お前一人で俺達全員を護ら なきゃいけない訳でもない。今のお前がやってる事 はただのエゴだ」

 

「………」

 

確かに…俺はコイツらは護る存在だと思っていた。 そして…いつからかそれが当たり前だと思っていた

 

護る事が俺の存在意義であり、俺の生きる理由だっ たから

 

「俺はもう、お前に何も出来ずに負けた俺じゃない 。それはシャルやクローゼ、リーシャ…は知らない がみんな同じだ。 何より…俺は借りを作ったままにしとく気は無いん でな。返せる時に返させて貰うぜ?だから………

 

そこでのんびり座って見ときやがれ」

 

そう、リクが言った直後、辺り一面が剣の丘に塗り 替えられていく

 

――無限の剣製(アンリミテッド・ブレード・ワークス)

 

いつの間に詠唱を終えたのか…全く分からなかった

 

そして、リク、シャル、リーシャの三人が前に出る

 

「今まで、私達はケイジさんに甘えてたんだと思い ます」

 

「確かに任務の時もどんなに難しい事でもケイジな ら出来るんだろうな~って思っちゃってたしね」

 

「俺達だって今まで遊んでた訳じゃねぇんだよ」

 

「ちょっと前までリクは邪魔しかしてなかったけど ね~」

 

「…余計なツッコミはいらん。それとその事につい ては本っ当にゴメンナサイ(90°頭下げ)」

 

「あなたプライドとか無いんですか?」

 

「人並みにはあるわ!!」

 

…なんか色々台無しだ

 

「あ~もう!とりあえず俺達が言いたいのはな!! 」

 

『黙ってそこで待ってろバカ!!』

 

………ここまで言われて、わざわざ意地を張る必要も 無いだろうな…

 

ったく、本当に…バカばっかりだろうが。ここにい る全員

 

「……そこまで啖呵きったんなら一体も通すなよ? 今の俺だと機械人形でもポックリ逝くぞ?」

 

『上等!!』

 

「というかそんなの私がさせると思う?」

 

「そういやそうだな」

 

「今私の事忘れてた?」

 

「ソンナコトナイヨ~」

 

「…全く」

 

何とか隠し通せたようだ

 

そしてしばらく三人の暴れる様子を見ていたが、急 にクローゼが

 

「…みんな成長してるでしょ?」

 

そう聞いてきた

 

「…そうだな。初めは全員普通より少し強いくらい だったのにな…」

 

「ここにいるのはみんなケイジに影響されて強くな ったんだよ?勿論私も、ね」

 

「…そうか」

 

「みんなただ護られるだけは嫌だって…その一念で 強くなったんだよ。 だから…少しは私達も頼ること。わかった?」

 

「…善処する」

 

「もう!はぐらかさないの!」

 

怒ったように言うものの、クローゼの顔は笑顔だっ た

 

…そしてそれから約三十分後、結局一体としてこち らに通す事なく、三人は全ての機械人形(オートマタ)を破壊した のだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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『剣帝と白烏』

「まだ出口に着かないのか?」

 

「もうすぐだろ」

 

そう言いながら階段を五人でかけ上がって行く

 

…さっき上から大きな音がした。もしこれがレーヴ ェとエステル逹がやり合ってる音だとすると…

 

「あれだよ!!」

 

「急ぐぞ!!」

 

ーーーーーー

 

バン!!

 

「ここは…」

 

勢いよく出口の扉を開けると、リーブの時のような 広い場所に出た

 

「屋上…みたいだね」

 

「ということは…」

 

辺りを見渡せば、どういう訳かアルセイユで待機だ ったはずのみんなとそしてレーヴェが今までより大 きく、攻撃的なデザインの機械人形…敢えて名付け るなら竜機二体と戦っていた

 

「…そういやこんなイベントあったな」

 

「え?これイベント戦なのか?」

 

「イベント戦と言うか…レーヴェ戦の後にこんなん あった…気がする」

 

「自信無いんかい」

 

『というかさっさと手伝えやぁぁぁぁぁぁ!!』

 

「「ハッハッハ」」

 

ここにいる全員の魂からの叫び。因みに俺とリクを 除く三人は既に戦闘に参加している

 

…それでもまだ壊せない竜機マジチート!!

 

そしてリクはエステル逹のところに行かせ、俺はレ ーヴェの方に行く

 

「…ケイジか」

 

「何だ?俺が来たらマズいか?」

 

「…フッ。今ここにおいては最高の援軍だ」

 

そう言ってニヒルに笑うレーヴェ。しかも無駄にイ ケメンだからやたらとその仕草が似合う

 

…でも今コイツが味方になってるってことは…

 

「ヨシュアに負けたか」

 

「…よくわかったな」

 

「何だかんだでわかりやすいからなぁ…お前は」

 

因みに今は俺とレーヴェVS竜機一体。それ以外は 全員もう一体の竜機を相手している。

 

…ちょっとはこっちに回して欲しい件

 

「仕方ないだろう。竜機(ドラギオン)の一体一体がかなりの戦闘 力を持っているんだ。むしろ一人で凌げていること がラッキーなんだ」

 

「さりげ自慢乙」

 

「お前本当に少しは自重しろ」

 

何故これがネタだとバレたし

 

そしてそれは無理だ。一回くらいその余裕を崩して みたい

 

「…なぁレーヴェ」

 

「…何だ?」

 

ようやく何時もの声のトーンに戻ったと思ったのか 、溜め息を吐きながら返事をしてきた

 

「とりあえずこれだけは聞かせてくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねぇねぇ今どんな気持ち!?ヨシュアに負けて今ど んな気持ち!?NDKNDK!?」

 

「ワクワクするな。というかやっと真面目になった と思ったらそれか…」

 

「だって今までドシリアスだったしさ~。ちょっと くらいここらでボケたって良いじゃねぇか。にんげ んだもの。」

 

「みつ○か。そしてメタ発言は止めろ。そしてケイ ジ、お前本当に自重しろ」

 

何でレーヴェはここまで冷静なんだろうか…リーシ ャ辺りなら面白リアクション連発なフリだったんだ が…

 

「それよりケイジ、早くあの便利な黒炎でドラギオ ンを焼いてくれ」

 

「あ、それ無理」

 

「なん…だと……?」

 

薄々思ってたが、やっぱり期待してたか。

 

「お前何だかんだでその瞳の能力使いまくっていた だろう!何故この肝心な時に使えないんだ!?」

 

「ア…リーブと殺りあった時に体力ほとんど使いき ったからだけど?」

 

レーヴェにアガレスって言ってもわからないだろう から言い換えておく

 

「何で自慢気に言った!?別に戦闘出来なくなって も構わないから二体を焼いてくれ!」

 

「フフン、残念だったな!!今天照使ったら多分立 つ余力すら残らねぇぞ。さぁどうする!?」

 

「どうするじゃない!!むしろお前がどうするんだ !?」

 

「…さぁ?」

 

「お前ちょっとそこに直れェェェェェ!!」

 

お、ようやく余裕が崩れた

 

『真面目にやれ!!』

 

とりあえずみんなが怒りそうなので、そろそろ真面 目に戦うことにした

 

ーーーーーー

 

「さて…真面目に戦うにしても…堅いなコイツ」

 

さっきから何度か斬りかかってみてはいるが、一向 に壊れる気配がない

 

「現時点での結社の技術の粋を集めた代物だからな 。集中爆撃でもされない限りは壊れないはずだ」

 

「それ何て無理ゲ?」

 

爆撃でないと壊れないとかおかしいだろ

 

「しかしまぁ、そんなコイツにも弱点はある」

 

「それを早く言え!!」

 

今までの俺の真面目な努力を返せ!!

 

「そう怒るな」

 

「良いから早く言え!!」

 

「打撃だ。いくら頑丈だとは言え所詮は機械。打撃 を与えて機械そのものをショートさせれば動きは止 まる」

 

打撃…か。なるほど。確かに精密機械ほど衝撃に弱 いが、それがコイツにも通じるとはな…

 

「…って結局解決してねぇじゃん!!俺逹二人共獲 物剣じゃん!!」

 

「だから今それをどうするか考えているんだ」

 

「ムカつく!!今はお前のその余裕が本当にムカつ く!!」

 

思いっきりレーヴェを殴り飛ばしたい。けど今は一 応味方だからそれは出来ない…!

 

くっ…!このモヤモヤをどうすれば…!

 

…………ってちょっと待て。『精密機械の弱点』?

 

「オイレーヴェ!!ドラギオンの弱点ってそのまま 精密機械の弱点なのか!?」

 

「?ああ、その筈だ。耐久性の高さ以外は精密機械 と変わり無いはずだが…」

 

よっしゃビンゴ!

 

「なら三分稼げ!」

 

「…わかった」

 

何も聞かずにすぐに行動に移るレーヴェ。こういう 時のコイツは本当にありがたい

 

「…『天光満つる処に我は在り、黄泉の門開く処に 汝在り』」

 

何も機械をショートさせるには打撃を与えなければ ならない訳じゃない

 

働いている電圧の数倍の電圧を瞬間的にでもかけて やればすぐに回路がショートする

 

……なら、天災である雷が精密機械なんかに当たれ ばどうなるか?

 

答えは簡単。急激に数千、数万倍の電圧がかかるた めに回路が熱暴走し、機械そのものが勝手に自壊す る

 

「『出でよ、神の雷』!!」

 

だったら人工的に雷を起こすまでのことだ!!

 

ーーインディグネイション!!

 

ーーーーーー

 

「レーヴェ、エステル達は?」

 

「この場所の地下…『根源区画』にいるはずだ。ワ イスマンもそこにいる」

 

状況はそんなによくはないか…

 

「今から行ったら間に合うか?」

 

「恐らくは無理だ…だがな」

 

レーヴェはニヤリと笑うと、自分の操るドラギオン を呼び出す

 

「……相手は至宝だ。少しくらいは手助けがあって もいいとは思わないか?」

 

「そりゃもちろん」

 

俺はニヤリと笑い返し、レーヴェと共に『根源区画 』へとドラギオンを駆った



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『因縁』

「まだかレーヴェ!?」

 

「もうすぐだ!」

 

ドラギオンを駆って既に数十分が経つが、未だに『 根源区画』が見えてこない

 

……いくら何でも深すぎだろ…ヨシュアが自分に打ち 克てればいいが…

 

もしもの場合は……

 

「見えたぞ!『根源区画』だ!」

 

レーヴェの指差す方向を見れば、確かに底らしき光 っている場所が見えた

 

…って

 

「オイオイ、いきなり大ピンチじゃねぇか!!」

 

何か禍々しい目の模様と、動けない様子のエステル 達

 

なるほど。あれが魔眼か

 

それにワイスマン(?)の周りにいかにも強力そう な障壁が展開していた

 

…あれは……“輝く環”の力か!

 

「レーヴェ!」

 

「わかっている!しっかり掴まっていろ!!」

 

そうレーヴェが言うのと同時にドラギオンのスピー ドが更に加速する

 

『ククク…やはりお前は殺すには惜しい…… ゆっくり調整し直してから再び“聖痕”を刻み込んで やろう… 幸い“元第三位”というこの上ない実験材料もあるこ とだしな……』

 

そんなワイスマンの声が聞こえてくる

 

……この様子だとヨシュアは打ち克ったみたいだな

 

「……やれやれ…。もはや悪趣味と言うより病気と言 った方が良さそうだな」

 

「いや、もうキチ〇イの域だろ」

 

そしてようやくドラギオンが『根源区画』に到着す る

 

「あ…」

 

「レーヴェ!ケイジ!」

 

そして俺はすぐにドラギオンから飛び降り、レーヴ ェはそのままドラギオンごと“輝く環”の障壁に突撃 して行った

 

俺は飛び降りた勢いを殺さずに魔眼の模様に縮地で 近づき、切り捨てた

 

「!体が…」

 

「“魔眼”の拘束が破れた……?」

 

その直後、エステル達を拘束していた赤い光が消え る

 

「お前ら無事か?」

 

「おかげさまで何とかね……」

 

「助かったぞ」

 

「それにしても……まるで狙ったようなタイミング だったねぇ。流石はケイジだと言ったところかな? 」

 

ヨシュア以外の三人…エステル、ジンさん、オリビ エが俺に礼を言う。ヨシュアはどうもレーヴェの言 った『ハーメルの真実』の真偽の方が気になったら しく、そちらに集中している

 

エステルとジンさんもすぐにレーヴェの話に聞き入 っている

 

「お前は聞かなくてもいいのか?」

 

「………薄々だが自分の中で結論は出していたからね 。彼の話とほぼ一致しているよ。 ……そもそもの犯人がワイスマン教授だとまでは至 らなかったけどね」

 

……まぁコイツはバカじゃないしな。疑問は持って て当然か。

 

『……離れろ………この痴れ者がッ!』

 

「ぐぅっ!!………フフ、もう遅い……!」

 

パキィィィィィン

 

「レ、レーヴェ!?」

 

ワイスマンの空間攻撃に吹き飛ばされるレーヴェと 、衝撃で大破するドラギオン

 

……だが、その剣はしっかりと“輝く環”の障壁を砕 いていた

 

「レーヴェ!」

 

「俺に構うな……!

 

道は拓いた……後はお前達が切り拓け……!!」

 

「……………くぅっ」

 

一瞬駆け寄りそうになったヨシュアだが、レーヴェ の言葉に何とか思いとどまる

 

「……レーヴェの言う通りだ」

 

「ケイジ………」

 

「今、お前がやるべき事はなんだ?倒さなきゃなら ない奴を前にしてレーヴェのところに行く事か?違 うだろ」

 

「………………」

 

「レーヴェは俺に任せて……全部の因縁に決着つけ てこい。レーヴェに説教すんのは後だ」

 

「……そうだね。そうだよね。もう会えない訳じゃ ないだしね………ケイジ」

 

「ん?」

 

「レーヴェをお願いしてもいいかな?」

 

そんなヨシュアのお願いを俺は鼻で笑って

 

「任された」

 

ーーーーーーーー

 

「……レーヴェ」

 

「ケイジか……決着は?」

 

もはや動く事すら億劫なのか、レーヴェが俺にそう 聞いてくる

 

「まだだ。今ちょうどヨシュア達が戦ってるところ だよ」

 

「そうか……」

 

少し満足したように目を閉じるレーヴェ

 

「これで少しはカリンに顔向け出来るな……」

 

「またそのカリンさんとやらか。本当にベタ惚れだ なお前」

 

「フッ……俺の人生で最初で最後の愛した女だから な。恐らくあの世(あっち)で怒られるとは思うが…」

 

もう死んだ気で話しているレーヴェ…だがしかし! そうは問屋が卸さんのですよ

 

ヨシュアに任されたしな

 

「さてレーヴェ、そんなお前に問題です」

 

「?」

 

あの世(あっち)でカリンさんに怒られるのと、現実(こっち)でヨシ ュアに怒られるのと……どっちがいい?」

 

「!?」

 

初めはかなり混乱していたレーヴェだったが、俺の 言いたい事を理解すると目を閉じたまま微笑んで

 

「そうだな……確かにカリンには会いたいが………や はり怒られるならヨシュアの方がマシそうだな」

 

そう生きる意思をはっきりと示した

 

「だろうな。話聞いてる限りなんとなく怖そうだし 」

 

「普段は普通にいい女だぞ?」

 

「はいはいノロケ乙」

 

そんな軽口を叩きながら俺は万華鏡写輪眼を発動さ せた

 

ーー宮比神(アメノウズメ)



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『銀の軌跡』

「そ……そんな…“輝く環”が……き、消えてしまった だと……

 

馬鹿な……そんな馬鹿なああああっ!!」

 

そう叫んで、ワイスマンは杖を掲げて姿を眩ました

 

「逃げたか……!」

 

「あんな奴どうだっていいわよ!それよりも……! 」

 

「レーヴェ!!」

 

ワイスマンが逃げてすぐにヨシュア達がレーヴェの ところに駆け寄っていく

 

「レーヴェ!しっかりして!」

 

「……ヨシュアか…」

 

「レーヴェ…!意識があったんだね!今すぐに手当 てを……!」

 

「いや、その必要はない」

 

そう言うとしっかりと自分の足で立ち上がるレーヴ ェ

 

「レ、レーヴェ!?大丈夫なの!?」

 

「ああ」

 

「いやはや驚いた……あんな攻撃をモロに受けてピ ンピンしているとはな」

 

「ケイジが何かしたのかしら?」

 

「でもシェラ姉、ケイジって『譜術』が使える代わ りにアーツが使えないって言ってたよ」

 

「別に平気だった訳ではないのだがな……

 

実の所俺自身何が起きたのかよくわかっていないん だ。致命傷を受けたと思って最期のつもりでケイジ と話していたはずなのだが……」

 

どうやらレーヴェはケイジの台詞を最期の直前の質 問だと思っていたようだ

 

「……良かった…レーヴェが無事で……」

 

ヨシュアがへなへなとその場に崩れ落ちる。どうや ら安心した反動で力が抜けたらしい

 

「フッ……成長したかと思ったが、やはりまだまだ 子供だな」

 

「余計なお世話だよ……それにその子供に負けたの は誰だっけ?」

 

「む………」

 

和やかな空気がその場に流れるが、不意にヨシュア が

 

「…ねぇレーヴェ。これからどうするの?」

 

「そうだな…」

 

「え?レーヴェはヨシュアと一緒にいるんじゃない の?」

 

「初めは僕もそう思っていたんだけどね……事ここ に至って問題があるのに気付いたんだよ」

 

そう聞いてもエステルは?を頭上に大量に出現させ る

 

「……俺は表に出過ぎた。情報部の件に古龍の件、 それに今回の騒動……如何にリベールが寛容な国だ とは言えお咎め無しとはいかないだろうな」

 

「そんな……」

 

レーヴェの過去を知ったこともあって、エステルは 悲痛な表情を浮かべるが、対照的にレーヴェは微笑 すら浮かべていた

 

「気にするなエステル・ブライト。遅かれ早かれ俺 は目的が成ったら罪を償うつもりだった。それが少 しばかり早くなっただけだ」

 

「でも…」

 

「それに俺はすぐに捕まるつもりは無い。その前に ケイジに恩を返し、今までの俺が関わった人や殺め た人に謝罪をする必要があるからな

 

だから俺は一先ずケイジの所に厄介になるさ。リー シャ・マオのように協力者と言う形で恩を返しなが ら謝罪をしていくために」

 

レーヴェの言葉に少ししんみりする皆だったが、エ ステルが大切なことに気付いた

 

「………そう言えばケイジはどこに行ったの?」

 

『………………あ」

 

ーーーーーーーー

 

~同時刻・中枢塔(アクシスピラー)某所~

 

「馬鹿な……そんな馬鹿な……こんな事態……『盟主』 の予言には無かった……」

 

傷を押さえながら通路をさまよい歩くワイスマン

 

その顔はひたすら憎々し気に歪んでいた

 

「……ま、待てよ………た、試されていたのは……私も 同じだったと言うことか…… くっ…戻ったら問い質さなくては……」

 

「悪いけど、それは無理やね」

 

「!」

 

通路の反対側からケビンがゆっくりと姿を現す

 

「ケビン・グラハム……いつの間にこんなところに… …」

 

「ケビンだけじゃねぇさ」

 

ケビンとはまた反対側からケイジが現れる

 

……謀らずして騎士二人に挟まれる形となったワイ スマンだが、余裕は崩さなかった

 

「フン……教会の騎士風情がぞろぞろと……そこを退 け。貴様らのような雑魚に関わっている場合ではな い……」

 

そして魔眼を発動させるワイスマンだったが、ケビ ンは聖杯の紋章を掲げて防ぎ、ケイジに関してはそ もそも魔眼を向けてすらいなかった

 

「……なっ!?いくら騎士団とは言え新米騎士に魔 眼を防げる訳が……」

 

「……貴様の握っている情報が全てだとは限らない ぞ?」

 

「あ~、スマン。ちょいと三味線弾いてたわ。俺は 騎士団の第五位。それなりに修羅場は潜っとる」

 

……実際は『外法狩り』の渾名の通り、それなり何 てものではないのだが

 

「ぐっ………第二位(ケイジ)は囮だったと言う訳か……!」

 

「ま、それでも本調子のあんたに勝つのは難しかっ たけど……」

 

「今の満身創痍の貴様になら付け入る隙がいくらで もあるからな」

 

「……なに……」

 

ワイスマンが何かを言う前に、瞬時にケビンがボウ ガンを構え、矢を放つ

 

それはワイスマンの右足を貫き、ワイスマンに片膝 を付かせた

 

「くっ…」

 

「……俺らの本当の任務は“輝く環”の調査やない」

 

「元封聖省の一員にして、現“結社”の『使徒《アンギス》』…最 悪の破戒僧、ゲオルグ・ワイスマン……貴様の始末 だ」

 

冷たい目でワイスマンを見据えるケイジとケビン

 

しかしワイスマンは尚も余裕を崩さない

 

「クク……なるほど、そう言うことか……だがこの程 度の攻撃でこの『白面』を滅するなど……」

 

パキキキキ……

 

「!……な、なんだ…」

 

突然ワイスマンが崩れ落ち、更にワイスマンの身体 が白い結晶に変わっていく

 

「し、『塩の杭』……かつてノーザンブリア北部を 塩の海に変えた禁断の呪具……私一人を始末するた めにこんなものまで持ち出したのか!!」

 

ワイスマンは何か『塩の杭』に思い入れがあったら しく、心の底から忌々しそうに叫んでいた

 

「……そいつは上の都合だから知らねぇが…貴様はや り過ぎた。いくら教会が中立でも見過ごせなくなる くらいに、な」

 

「まぁそう言うことや。…大人しく滅びとき」

 

「おのれっ………狗があああッ!!!」

 

その叫びを最後に、ワイスマンは完全に塩と化した

 

「……狗、か。確かにその通りだな…」

 

「……あんまり気にし過ぎたらあかんで?総長の準 備が終わったら全部変えられんねんから」

 

「……そうだな」

 

「ほら行くで。エステルちゃんとか姫殿下とかが待 っとんねんから」

 

「………そうだな」

 

ケイジは、通路の奥を横目で一瞥すると、ケビンを 追いかけて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あらら、気付かれちゃったかな?

 

まぁいいか。今回の僕は見届け役。何が起きても全 てをそっくりそのまま『盟主』にお伝えするのが僕 の任務だしね」

 

ーーーーーーーー

 

「急げ!予想以上に崩壊が早いぞ!!」

 

リクを先頭に、全員がアルセイユが停まっている『 公園区画』に向かって走る

 

……空賊達の船は中枢塔(アクシスピラー)の近くに停めてあったらし く、途中で別れた。多分今頃離陸準備にかかってい るだろう

 

俺は最後尾で走っている……というより走っている 内に最後尾になってしまった

 

……正直、着いていくので精一杯だ……!こんなとこ ろで宮比神(アメノウズメ)の影響が来るとはな…

 

「くっ…」

 

「ヨシュア!?」

 

突然ヨシュアが足を止める

 

それにエステルが反応し、すぐに駆け寄るが…

 

「先に行けエステル!ヨシュアは俺に任せろ!」

 

「でも…!」

 

「いいから行け!!」

 

少し強い口調で言うと、渋々先に行く

 

そして俺はヨシュアに声を掛けた

 

「…立ちくらみか?」

 

「うん……」

 

チッ……こんな時に“聖痕”が消滅した影響が……

 

「でも大丈夫…走れるから……!!」

 

「…なら、早く行くぞ。もうかなり先頭から離され てる」

 

ヨシュアの目から無理はしていないと判断し、俺達 は再び走り始めた

 

「ケイジ!早く!」

 

少し先で、クローゼが自分が危ないにも関わらず、 俺達を待っていた

 

…そして、後少しでクローゼと合流する。その時だ った

 

「…!!ヨシュア!!」

 

「え…?うわっ!?」

 

思いっきりヨシュアをクローゼがいる方へ投げ飛ば す

 

その直後に俺が今いる柱とクローゼとヨシュアがい る柱を繋ぐ道が崩れ落ちた

 

「ケイジ!?大丈夫!?」

 

「ああ、大丈夫だ!早く先に行け!」

 

「ケイジはどうするの!?」

 

「…確か少し手前に行きではロックされてた非常用 の通路があった!俺はそっちから回る!!」

 

「………絶対……絶対に戻って!」

 

「……わかってる!」

 

「待ってるから……『アルセイユ』で!!」

 

そう言って、クローゼはヨシュアと先へ走って行っ た

 

そして俺はクローゼ達が行ったのを見届けると、深 く息を吐いてその場に座り込む

 

……本当は全部嘘だ。ロックが解除された通路を見 つけたと言うのも………後で追い付くと言うのも

 

実際はもう走るどころか立ち上がる余力すら残って いない…クローゼとヨシュアの前では気力で何とか 立てていたが

 

「……フッ、ろくでもない死に方をするとは思って たが…まさか10代で死ぬとは思わなかったな…」

 

そして俺は、柱が崩れるのと共に、空に身体を預け た

 

ーーーーーーーーーー

 

「離してユリアさん!」

 

「駄目です殿下!!」

 

「…アルセイユ、離陸(テイクオフ)

 

「!?」

 

「ミュラー!もう少し待てないのかい!?」

 

「……これ以上は……」

 

「お願いします!!もう少し、もう少しだけ!!」

 

「殿下……わかって下さい………私達とて一人でも多 くの人を無事に地上に送り届ける義務があるのです ………!」

 

「……………」

 

「……アルセイユ、離陸(テイクオフ)

 

『………………イエス・マム…』

 

「約束……したのに…………アルセイユで会おうって… ……約束、したのに………………」

 

「………クローゼ」

 

「いや………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! !」

 

そして、その後ケイジがクローゼ達の前に姿を現す ことは………無かった

 

Next to the 3rd…



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空白期~rebellion of saint king ~
『騎士団の異変』


~リベル・アーク崩壊より二ヶ月後~

 

~アルテリア法国・某所~

 

「はぁ………はぁ………はぁ…………」

 

長い廊下を走る走る走る走る

 

金色が物凄い勢いで何かから逃げていた

 

「いたぞ!!」

 

「お前達は向こうから回れ!挟み撃ちにするぞ!」

 

「くっ……」

 

金色の進んでいた方向から新たに数人の男達が現れ る

 

それを見た金色は再び反対側に駆けていく

 

「あ!異端者が逃げた!追え!!」

 

駆けていく金色を見た指揮官らしき男は部下に金色 を追うように命令する

 

「(異端者はどっちだよ…!)」

 

その様子を横目で見ながら、金色ーシャルは一人ご ちていた

 

ーーーーーーーーーー

 

「ようやく追い詰めたぞ。この異端者めが…」

 

同時刻、また別の場所では銀髪の青年ーレオンハル トが数十人の男達に追い詰められていた

 

「既に貴様らの仲間…メシュティアリカ・アークス やシャルロット・セルレアン、リーシャ・マオ…更 には守護騎士(ドミニオン)第一位(セルナート)第五位(ケビン)第九位(ワジ)とその部下 達も捕縛した

 

後は貴様だけだ!『守護騎士《ドミニオン》第二位代理』レオンハ ルト・アストレイ!!」

 

「…フッ、例え勝てなかったとしても何もせずに諦 めるつもりは毛頭無いのでな」

 

指揮官の勧告にあくまで否定の姿勢を見せるレーヴ ェ

 

そして剣を抜き、構えて男達ー聖杯騎士達にその切 っ先を向け

 

「それに何より……ヨシュアにもらったこの(アストレイ) …ケ イジにもらったこの命…そう簡単に絶やすつもりは ない!」

 

そう言うと、レーヴェはその場で剣を一閃し 、騎士達に向かって駆け出した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~同時刻・カルバード共和国より北東~

 

~西ゼムリア大陸東沖、北東に約8000セルジュ~

 

~ジャパング皇国・とある庵~

 

「ケイジ殿~!ケイジ殿~!」

 

「何だ朝っぱらから……ってナガノブか。何の用だ ?」

 

「大陸からの船から文を預かってござる!」

 

「文?…………………フッ、来たか」

 

「?何が来たのでござるか?」

 

「何……ついにウチの総長が重い腰を上げただけだ

 

ナガノブ…悪いが船を一隻用意してくれ」

 

「それは構いませぬが……行き先は何処でござるか ?」

 

「大陸……アルテリア法国の近くだと尚良いな」

 

「承知致した!」

 

墜ちた翼は新たな風を受け、再び羽ばたく

 

今だ尚、銀の軌跡は終わらない



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『帰国』

「…………で、結局皆捕まった訳だけど」

 

「……何で俺はあんな無意味に恥ずかしい台詞を言 いまくってしまったんだろうか。 ………恥ずかしい。本当に恥ずかしい。もういっそ穴 があったら埋まりたい」orz

 

「ちょ、レーヴェ!?

 

ティア!今のレーヴェに捕まったとか負けたとかは 禁句だよ!」

 

「ちょ、レーヴェさん!落ち着いて!お願いですか ら剣でお腹を割こうとしないで下さい!!」

 

「ええい、止めてくれるなリーシャにシャル!」

 

切腹しようとするレーヴェにそれを一生懸命止めよ うとするシャルとリーシャ。そして何だかんだでい つも通りのティア

 

「知らないわよ。捕まった方が悪い」

 

「さようなら~~!現世!!こんにちは~~!来世 !!

 

カリン~~!!今行くぞォォォォォ!!」

 

「「ちょっとォォォォォ!!!」」

 

「あっちはカオスやな~…ある意味こっち側の牢屋 で良かったと思うべきなんか?」

 

「それはケビンの受け止め方次第。そんな事よりお 腹空いた」

 

「お前俺の分だけじゃ飽きたらず看守と警備騎士と 総長にアッバスの分まで食った癖にまだ食う気か! ?」

 

「?あれ前菜(オードブル)じゃなかったの?」

 

「どこの世界に毎食フルコース出す監獄があると思 ってんのや!?」

 

「……総長、ここ以外の牢屋が何故かカオスなので すが…」

 

「いいじゃない。僕は見ていて面白いけど?」

 

「ワジ…そう言う問題では無いだろう…」

 

「まぁ落ち着けアッバス。ワジの言う通り面白いじ ゃないか。応援が来るまでゆっくり見ていようじゃ ないか」

 

「……ダメだこの上司達。早く何とかしなければ……

 

というより応援とは……?」

 

「ん?説明していなかったか?

 

……まぁ、ここにいる全員が良く知っている奴だ」

 

「……はぁ…」

 

ーーーーーーーー

 

「…………………」 (゜ロ゜)

 

いきなり失礼、テンパった

 

いや、だってさ………騎士団の本部がもぬけの殻…い や、廃墟状態なんだぜ?

 

そりゃさすがの俺も(゜ロ゜)ってなるさ

 

「……なぁ、おじさん。俺これからどうすればいい のかな?」

 

とりあえず、近くを通りかかったおじさんにアドバ イスをもらう事にした

 

「え?いや……好きなようにすればいいんじゃない かな?」

 

「黙れハゲ。好きなようにできるならこんなところ でお前みたいなハゲに話しかけねぇよ。そんな事も わかんないのかハゲ。そこで黙ってハゲ散らかって ろハゲ」

 

「うぅ…………」orz

 

とりあえずおじさん……もといハゲを叩きのめした 事に満足し、本題を聞きにかかる

 

「オイハゲ。ここにいた人達はどこに行ったんだ? 」

 

「ハゲてない!ただちょっと生え際が後退してるだ けだ!」

 

人はそれをハゲと呼ぶ

 

「お前の都合は心の底からどうでもいいわ。で、結 局どうなんだ」

 

「私にとっては一大事なんだが…… ここに強盗…多分猟兵団だろうけど、それが入った らしくてね。今日お祈りしようと思って来たらこの 有り様さ。全く…酷い事をする奴らもいたもんだ」

 

そう言って肩をすくめるハゲ

 

………猟兵?いや、猟兵ならまずアルテリアに入る前 に騎士団が蹴散らすだろ。『赤い星座』とかなら尚 更総長含めて常に三人以上は守護騎士(ドミニオン)が控えている 本部には攻めて来ないだろうし

 

……被害と代償を考えないレベルのアホなら別だが

 

まぁ結局話をまとめると…ミスりやがったな総長

 

…………仕方ない、さっさと助けにいきますかね

 

「サンキューなハゲ。お前は今からハゲのおじさん にランクアップだ」

 

「やった!………ってハゲにおじさんがついただけじ ゃん!むしろランクダウンじゃん!」

 

チッ…気付きやがったか…このハゲただのハゲじゃ ないな……!

 

ノリツッコミができるハゲだ…!

 

「ノリツッコミができるハゲだとは…どうやらおじ さんにまで昇格させる必要があるようだな」

 

「むしろ私はどうして初対面でここまでボロクソに 貶されているのか小一時間問い詰めたいんだが…」

 

「それは勘弁。という訳でさよならだおじさん。縁 があったらまた会おう」

 

「二度と会わない事を願っているよ」

 

おじさんは冷たかった……やはり呼び方はハゲに戻 しておこう

 

とりあえずおじさんに背を向けて、封聖省に歩を進 める

 

………あ、そうだ!

 

「なぁハゲ」

 

「あ、呼び方ハゲに戻ってしまったんだね…………な んだい?」

 

「流石にお祈りで髪は元には戻らないと思うんだ… 」

 

「君は最後までそれか。それに大きなお世話だ!」

 

「それに俺寝るとこ無いんだけど」

 

「知らねーよ!それは私もだよ!」

 

「ちょww その年でホームレスとかマジワロスww 働けニート!!」

 

「今の私とほとんど立場が変わらない君には言われ たくないわァァァァァァァァ!!」

 

失礼な。六歳から働いているいたいけな青年だぞ俺 は

 

このノリのいいハゲのおじさんが数日前まで法王だ ったなんて、その時の俺は知る由も無かった



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『再会~俺この言葉にいい思い出無いんだけど~by ケイジ』

~封聖省~

 

「……なんつーか、チョロいな」

 

認識阻害を使ったらなんの障害もなくあっさり侵入 できた

 

……ただ、騎士団の本部じゃないからある程度は仕 方ないが…騎士の数が少なすぎる。しかもほとんど 全員が新人レベルの奴らだ

 

…ホラ、今俺の目の前でアホ面下げて欠伸してやが るし。普通気付かないにしても違和感くらい感じる だろ

 

「オイ、聞いたか?騎士団が粛正にあったって噂」

 

「ああ?所詮噂だろ?だって聖杯騎士団だぞ聖杯騎 士団。正騎士の人達は勿論、守護騎士の人達なんざ 人外だよ人外」

 

とりあえずこの新人はいつか徹底的にしごいてやる と心に決めた

 

「でもよ~…流石にこの人数の少なさは異常だって 」

 

「確かにな~。そういや法王様が配流されたらしい ぞ。何か今の自称聖王が大声で部屋の前で喋ってた 。何でも総長に恨みがあったんだとか」

 

と、そこまで聞いたところで何人もの新人騎士が集 まってきたのでその場を離れた

 

……ま、とりあえず…まずはバカ共を助けに行くとし ますか

 

ーーーーーーーー

 

「何度も言うが………いい加減この氷解除してくれな いか?」

 

「何度も言いますがダメです。………今のレーヴェさ ん下手な厨二より厄介ですから」

 

「ええい!HA・NA・SE!!」

 

「お願いだから元のレーヴェに戻ってくれないかな ………」

 

「全く……皆揃って誰かさんの悪い影響ばかり受け て…」

 

レーヴェはリーシャの氷によって簀巻きにされ、リ ーシャとシャルはそんなレーヴェに呆れ、ティアは 就職先間違えたかな…と若干諦めモードに入ってい た

 

「ケビン、お腹空いた」

 

「お前さっきから何回同じ事言うとるんや!?とい うか一分に一回飯の事聞くんはやめい!」

 

「いや、だって朝と昼の間のご飯がまだだから」

 

「お前一日に何食食べてるんや!?」

 

「基本は七食。最低でも五食は譲れない」

 

「通りで俺の貯金がいつまで経っても貯まらんわけ や……!」

 

ケビン・グラハム。リースの食費の大半が彼の元に 請求書として送られる男

 

………ちなみに、その請求書の大半はケイジがリース に奢らされかけた分である

 

「………仕方ない」

 

「やっとわかってくれたか………ほんなら昼まで大人 しくーー」

 

「ケビン、何か作って」

 

「材料はおろか調理器具も火も無いここで何を作れ と!?」

 

いつでもどこでも誰とでも、自分のペースは崩さな いリースであった

 

「カオスだね」

 

「カオスだな」

 

「言ってる場合ですか」

 

さっきよりはだいぶマシになったとは言え、まだま だカオスな状況に溜め息を吐くアッバス。心なしか 背中から哀愁が漂っている

 

そんな時だった

 

「………あれ?シャル。貴女アホ毛跳ねてるわよ?」

 

「え?……………あ、ホントだ。ティア、ブラシ持っ てない?」

 

「むしろ持ってると思ってるの?」

 

「ですよね~」

 

当然、牢屋に入れられる前に没収されている

 

「……………あれ?じゃあレーヴェ、どうやって剣を 持って入れたの?」

 

「気合いだ」

 

「私小さい子供じゃ無いからね?」

 

「シャル、そんなの見ればわかるよ?」

 

「リーシャは身長は年長の学生(平均13歳)だけ どね」

 

「アホ毛引き抜かれたいの?」

 

「ごめんなさい」

 

「…………お前ら何やってんのさ」

 

「あ、ケイジ。いや~久しぶりにアホ毛が跳ねちゃ って…」

 

『…………………………………………………………………………………… ……………………………………え?』

 

「え?何その反応」

 

いつの間にか牢屋の中にケイジが入って来ていた

 

そして、第二師団の三人娘がいち早く復活し、ケイ ジの肩をあり得ない握力で掴む

 

……普段のケイジなら何だかんだで逃げていただろ う。…しかし、逃げられなかった。何故ならわざわ ざ牢屋の中に入っていたから

 

そして、三人娘のスピードがその時だけ光の速さだ ったから……

 

「ケイジ……」

 

「今までどこで何をやっていたのか…」

 

「きっちり話してもらいましょうか………!」

 

「………………え?ちょ、まーーーー」

 

~お取り込み中。暫くお待ち下さい~

 

「もう!!生きてたなら連絡してよ!!」

 

「本当に心配したんですからね!!」

 

「心配していたのにその仕打ちか…」

 

「レーヴェ?何か言ったかしら?」

 

「いや、何も

 

……………ケイジ、生きてるか?」

 

「………………」

 

へんじがない。ただのしかばねのようだ

 

ーーーーーーーーーー

 

「…………総長、俺ちゃんと連絡してたよな?ついで にティア達にも話しといてくれって言ったよな?」

 

ティア達の折檻を受けて、三途リバーを全力で逆走 して何とか現世(こっち)に戻って来た

 

それで今は諸悪の根源の総長を問い詰めているとこ ろなんだが………

 

「すまん。きっちりかっちりまるっと全て忘れてい た」

 

「オイコラクソ上司」

 

そのせいでかわいいいたいけな部下が一人死にかけ たんだぞ!!

 

「まぁいいじゃないか。面白かったことだし」

 

「そりゃ見ている分には楽しいだろうよ。アンタら は楽しかったでしょうよ」

 

される側の身になって見やがれアホ上司が…!

 

「ああ、この上なく楽しかったが?」

 

「何で総長が開き直ってんの!?

 

……総長、昔の人はこう言った。『いじめられてい る人がいじめだと思えばそれはいじめだ』と」

 

「いじめ、カッコ悪いな」

 

違う!!いや、あってるのはあってんだけど俺が言 いたいのはそういう事じゃ無い!!

 

…………あれ?結局俺は何て言おうとしてたんだ?何 かわからなくなって来た

 

「…………ねぇ、やることないんなら早く脱出しない ?」

 

『…………あ』

 

ワジの一言で本当の当初の目的を思い出し、脱出し た

 

P.S. 武器はあらかじめ回収して置きました

 

後、10人に完璧な認識阻害をかけるのは割ときつ かったです



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『今までと、これからと』

~前回のあらすじ~

 

脱獄成功!

 

………と、言うわけで脱出完了

 

…でもさ…………

 

「いくらイラッときたって言っても封聖省半壊させ るのはやり過ぎだと思うんだけど…」

 

「何言ってんのよ。やられたら倍にして返すのは常 識じゃない」

 

ティア……お前だけは冷静だと信じていたのに…!

 

「今まで色々邪魔されてたしね~…これくらいなら 仕返ししても女神様には怒られないよ」

 

「これくらいならって半壊してんじゃねーか。物理 的に」

 

「…………よくわからんが、明日には直っているんじ ゃないか?」

 

いや、レーヴェ、結社と他の奴らの技術を比べちゃ 駄目だ。あれ公式チートだから

 

それにあそこ見ろ。総長とアッバスがそろばん片手 に泣いてるから。あれ多分ガチ泣きだから

 

「………………なぁアッバス。これ結局は完全修復する のに…」

 

「………ええ、間違いなく一億ミラはくだらないでし ょう…」

 

「……………………………また、しばらくタダ働きか」

 

今、総長のサボり癖の真実を見た気がする…

 

「まぁまぁ、そんなに落ち込んだって仕方ないじゃ ないか。プラス思考で行こうよ」

 

「言っておくがお前の給料も引くからな」

 

「そんなバカな」

 

「ドンマイワジ!」

 

「ケイジ、お前もだぞ?」

 

そんなバカな

 

………この時、シャルとティア、リーシャの訓練を五 割増しにしようと心に決めた

 

ーーーーーーーー

 

~アルテリア郊外・南側~

 

「……じゃ、あっしはこれで……」

 

とりあえず安全圏まで来たので、面倒なことに巻き 込まれる前に逃げようとしたが…

 

「「「待たんかい」」」

 

ガッデム

 

「今までの説明がまだなんだけど?」

 

「いや、説明しようとしたらティア達にフルボッコ にされたんだけど」

 

「それはそれ、これはこれ」

 

納得がいかない…!

 

「で、説明は?」

 

「めんどい」

 

「……殿下に差し出されたいの?」

 

「……………………くっ、汚い。流石ティア汚い…! でも俺はそんな脅しには………」

 

「リーシャ~、ちょっとこれリベールの殿下のとこ ろに届けて来て~~」

 

そういうティアの手には多分俺の事を伝えるための 手紙と婚姻届(俺の欄は印鑑含めて記入済み。因み に保護者の欄には総長の名前が)……………………………

 

「きっちりかっちりしっかりまるっとお話しします のでそれだけはホント止めて下さい!!!!」

 

「どんだけ必死なのさ…」

 

「何がケイジさんをそこまで必死にさせるんですか …」

 

クローゼはまだいい。お前らは黒ーゼの恐ろしさを 知らないからそんな事が言えるんだ………!

 

「…で、説明は?」

 

「長いからダイジェスト風に言うぞ?

 

まず俺が生きてたのはカシウスのオッサンと古龍(レグナート)に 助けられたから んで、俺が生きてるのを秘密にしてもらってからカ ルバード経由でジャパング皇国に行ってた」

 

「…………なんで生きてるのを隠したんや?」

 

「この反乱を起こすためだ」

 

『!!』

 

総長以外の全員が驚いている………俺以外の誰にも言 ってなかったんかい

 

「説明くらいしといたら良かっただろうに………」

 

「敵を騙すにはまず味方からってな」

 

全く反省する気ねぇなこのスットコドッコイ

 

「まぁ事情はわかったわ」

 

それは重畳

 

「とりあえずその話はここまでにしようや。今はと りあえずこの状況をなんとかせな…」

 

ケビンの一声で周りの空気が一気に張り詰める

 

「………『紫宛の家』は?」

 

「無理や。真っ先に封鎖されとる。他の福音施設も 同じや」

 

「ワジ、クロスベルはどうなの?」

 

「我関せず、だね。多分敵にはならないけど味方に もなってくれないと思うよ」

 

「それにこの面子でクロスベル入りすることが難し いだろう。あそこの大司教は騎士嫌いで有名だから な」

 

皆があれこれ議論している。けど…

 

「悪いがもう拠点は確保してる。……………気は進ま ないが」

 

「…………まさか…」

 

「ケイジ……」

 

やっぱりティアとシャルは気付いたか

 

「……………ああ。『桜花の宿』……あの場所が俺達の 拠点だ」

 

今、『革命(revolution )』の狼煙が上がり始めた

 



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『桜花の宿』

~アルテリア郊外・東側~

 

~福音施設『桜花の宿』~

 

『桜花の宿』……第二位庇護下の福音施設。

 

しかし、福音施設の風習であった『必ず教会関係の 職に就く』というのを嫌った俺が建てた教会の記録 に無い福音施設

 

……まぁ、俺が秘密裏に福音施設を建てたいって言 った時は総長に「お前本当に十代か?」って目を丸 くされたが

 

…………だって嫌だろ。生まれと育ちでその後の人生 全部決まるなんて。少なくとも俺は絶対に嫌だ

 

まぁ、そういう理由で、『桜花の宿』の存在は教会 には知らせていないし、知られてもいない。俺と総 長が全力で秘匿していたから

 

正直、この場所を知っているのはここにいるメンバ ーくらいだ

 

………………え?説明が長い?

 

当たり前だろ……現実逃避だし

 

「ケイジ兄ちゃん!!おみやげは?」

 

「無い」

 

『え~~~~~~!?』

 

「お前ら言っとくけど俺別に毎回旅行してる訳じゃ 無いからな!?」

 

どうも皆さん、ケイジです

 

今、絶賛『桜花の宿』の子供達に捕まってます

 

………皆、知ってるか?子供って物凄いパワフルかつ フリーダムなんだぞ?

 

……まぁなんだ。帰って来るのが久しぶりだったせ いか俺達の姿を見た瞬間、ティアもシャルも放って おいて俺の所に来やがった。何故だ

 

「ほら兄ちゃん!早く中に入ってよ!」

 

「わかったわかった、だから引っ張んなって…」

 

そして俺は子供達に家の中に引っ張られて行くのだ った

 

ーーーーーーーーーー

 

「なんちゅうか………」

 

「嵐のようだったな」

 

『桜花の宿』に着いた瞬間ケイジが拉致(?)られ たのだ。ケビンとレーヴェの言う事ももっともであ る

 

「アハハハハハ…」

 

「まぁ、あの子達は本当に自由に過ごしているから ……」

 

「………ティアとシャルはここの事知ってたの?」

 

「僕とティアは初めの方は泊まってたりしてたから ね~」

 

「そう…………………それより、何か食べさせてくれる と嬉しい。このままだと空腹で私のストレスが大変 なことになる」

 

「ホンマぶれへんなお前」

 

いつでもどこでもマイペース。それがリース・アル ジェント

 

「ゴホン…………それで、ここの責任者は結局ケイジ なのか?」

 

再びカオスな空気に行きかけたところでレーヴェが 修正する

 

「名目はそうね。けどケイジも常駐できる訳じゃ無 いし、私達もいつも来れる訳じゃ無いから私達やケ ビン、ワジ、総長とかも時々顔を出してたわね」

 

「大人がいなくて生活は成り立ってたんですか?」

 

「さっきも言ったけど、泊まってたりしてたからね ~。料理とかはその時にケイジとかティアが教えて たよ」

 

因みにケビンは教える側、シャルとワジは教わる側 であった

 

「それに当時はケビンすら成人してないわよ」

 

「せやな。ケイジが14の時やから…俺が19の時やな 」

 

*アルテリア法国の成人は20歳です

 

「本当にあの人ぶっ飛んでますね…」

 

リーシャの言う事もあながち間違いではない。14 歳でこんな事を考えるのはケイジくらいだろう

 

そして、ちょうどその時だった

 

「…………あの、どちら様ですか?ここに何か用でも …」

 

アルテリアの街の方向から水色の髪の少女がティア 達に話しかけてきた

 

…警戒心バリバリで

 

「あ、ティオ」

 

「……シャルさん?それにティアさんも…お二人が同 時に来るなんて珍しいですね」

 

「私達だけじゃないわ」

 

「ケイジもいるよ~」

 

「お兄ちゃんも?」

 

『お兄ちゃん!?』

 

ティオの爆弾発言に一瞬でパニックになる一同(テ ィアとシャル、ケビンを除く)

 

………総長とワジはさっさと家に入って行った。つい でにストッパーとしてアッバスも

 

「あ、すみません。自己紹介がまだでしたね。

 

ティオ・ルーンヴァルトです。いつも義兄が(多分 )迷惑をおかけしております」

 

『……………………………………………』

 

「ティオ、シャル。耳塞いでおきなさい」

 

「「もうやってます(るよ)」」

 

「……やっぱり慣れってすごいわね」

 

ケビンの時も同じような事があった為、この三人の 反応は早かった(ケビンは家に逃げて行った)

 

『えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ ぇぇぇぇ!!!??』

 

そして、レーヴェ達の叫びがアルテリアの空に消え て行った…



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『宗教革命~狼煙~』

「……………それで、結局誰が教会を掌握したんだ? 」

 

あの後、子供達は運良く帰って来たティオに任せて 部屋を一室開けてもらった

 

……まぁその前に一発しばかれたが

 

ただ、今回の件………あまりにも手際が良すぎる。こ の面子が一日経たずに追い込まれるとは……

 

「あれ?ケイジは初めからこうなるってわかってた んじゃ無いの?」

 

「いや、計画通りに進んでたなら俺達がここに来る ことはなかった

 

…反乱分子を炙り出して、それを押さえた後の上位 の腐った司祭階級の処断が目的だったからな」

 

俺がそう言うと皆が総長の方を向き、総長は黙って 頷く

 

「……で、もう一度聞くが…今回の首謀者は誰だ?」

 

「それは………」

 

「正直私達にもわからないのよ」

 

リーシャとティアが困ったように言う

 

「俺らもや。むしろ今でさえまだ状況がようわかっ とらんしな」

 

「……任務から帰って来たら総長達が追われていて 、味方したら異端者だって…」

 

「ワジ達はどうなんだ?」

 

「僕たちにもさっぱりさ。偶々アッバスが報告に行 くのに着いてきたらいきなり攻撃されたからね」

 

「恐らく、俺が総長派だと知っていての事だろう。 俺の姿を見るなり襲って来たからな」

 

「手掛かり無しかよ………」

 

いきなり手詰まりじゃねぇか

 

そうして、暫く沈黙が続いたが……

 

「……………その事は私から説明しよう」

 

今まで黙っていた総長が突然立ち上がり、その沈黙 を破った

 

「まず、事が動いたのは一ヶ月前。ちょうどケイジ の殉職の噂が流れていた時だ」

 

なんつー縁起でもない噂が…まぁ仕方ないって言え ば仕方ないんだけど

 

「教会にいきなり多額の寄付金が飛び込んで来たん だ。それこそ一生遊んで暮らせるほどの金額の寄付 金が」

 

「誰がそんなお金を?」

 

「まぁそう慌てるなシャル。 ………当然、あの守銭奴のバカ共は飛び付いた。中に は直接面会して更に金を巻き上げようとした奴まで いたようだ」

 

「……腐っているな」

 

レーヴェが心底嫌そうな顔でそう呟く

 

「……今さらだろ。侵される事の無い権力はいつか 必ず地に堕ちる。その堕ちきったタイミングが偶々 俺らの代だったってだけだろ」

 

「盛者必衰、か」

 

「そういう事だな………話を続けるぞ。

 

その数日後辺りから、騎士団…いや、封聖省の空気 が変わった

 

あのバカ共が何やら裏でコソコソし始めたんだ」

 

マジかよ……あの飲み物すら自分で食堂に取りに行 かずに部下に取りに行かせるようなあいつらがか… ……

 

「ああ……その時はバカ共が金策に走っていると思 って放っておいたんだが…襲撃された日にとんでも ない情報が手に入った。上位司祭の買収、従わない 有力な騎士や司教への強制服従の暗示や洗脳、そし て……守護騎士の暗殺」

 

『!?』

 

守護騎士暗殺!?何の武力も持たない奴らがどうや って!?

 

「…………殺されたのは?」

 

ワジが恐る恐る聞く

 

「六位と十二位。十二位は任務中に猟兵団『西風の 旅団』の強襲を受けて。六位は先日の反乱の時に混 乱に乗じてだ」

 

「………それにしても、流石にあのバカ共がそんな面 倒くさい罠を考えるとは思えないんだが…」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

「そうだろうなって…」

 

「まぁ落ち着けケイジ。あらかた原因はわかってる 」

 

原因?

 

「これは多分ケイジ以外は知ってるだろうが……ち ょうどバカ共の行動が始まった時に法王が配流され た

 

そして…新たな法王…………今は聖王か。そいつが今 回の件の首謀者だ」

 

なっ……!

 

「法王が………敵…」

 

「要するに敵はアルテリア法国そのものや言う訳か ………」

 

「流石に今回はヤバイね………国一国が相手とかいく ら僕達でも………」

 

急に静まり返る皆。

 

…国が相手、なぁ

 

「…………だから、なんだ?」

 

『!!』

 

「まぁ確かに実力はこっちが上でも数では圧倒的に 負けてるな。けどあっち側には守護騎士がいないん だろ?」

 

「確かにそうですけど…」

 

「それに話を聞く限り、聖王とやらに本心から付い てるのは腐った上位司祭だけなんだろ?だったら騎 士は暗示さえ解いちまえば味方になるだろうが」

 

幸いこっちには守護騎士四人+αに正騎士一人、従 騎士三人がいる。洗脳を解くくらいわけない

 

「それに…あのサボり魔の総長がこんだけ頑張った んだ。何か策も考えてあるんだろ?」

 

「フフ……流石に鋭いな。勿論あるさ。取って置き がな」

 

ほれみろ

 

そして、総長が俺の言葉を引き継ぐ

 

「国が相手?上等じゃないか。だったら国ごと全て ひっくり返してやればいい

 

…………さぁ、『宗教革命(ジハード)』の始まりだ」

 

そう言い残して、総長はニヤリと笑った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ

 

「………………………」

 

「ん?ティオ?何かあったのか?」

 

「…………………って」

 

「ん?」

 

「やっと出れたと思ったら放置とは…………死んだフ リをしていた時といい、良い度胸ですねお兄ちゃん 」

 

「いや、出番無いのは俺のせいじゃ…」

 

「問答無用です」

 

「もがっ!?………………………………………………………………… ……………………………」

 

「………お兄ちゃん?」

 

「…………」

 

バタッ

 

「………流石はヨナが作ったチョコレート……ほぼレ シピ通りに作らせたはずなのにお兄ちゃんを昏倒さ せる程の攻撃料理以上の効果を発揮するとは…」

 

「…………」

 

「……………お兄ちゃん?」

 

「………」

 

「…………息を…していません…!」

 

『救急車ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

この日、顔すら出てきていないヨナ少年が総長派の 面々に危険人物認定されたとか…



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『宗教革命~強襲~』

ーーAM4:30

 

~アルテリア法国・封聖省~

 

「敵襲!敵襲!!」

 

「第七師団と第十二師団は聖堂へ!第六師団は本庁 警護へ回れ!!残りは私と侵入者の発見、迎撃に向 かうぞ!」

 

「Ja《ヤー》!!」

 

響く警報、轟く怒号。以前…数ヶ月前より遥かに動 きの遅い騎士達……

 

指揮官の正騎士はその全てに内心舌打ちしていた

 

……敵はほとんど真っ直ぐに本庁に向かっている。 それはわかっている。わかっているのに止められな い

 

…騎士団の練度が下がっているのはわかっていた。 だが、第一師団や第五師団、それに第二師団がいれ ばまだ立て直せるレベルであった

 

だが、そんな時にクーデターが起きた。法王は配流 され、守護騎士達に加えて第一師団、第五師団、更 には第九師団までが騎士団を離れた

 

……そのせいでこの騎士は暫定的に守護騎士の座に 就けたのだから本人は複雑な気持ちではあったのだ が

 

「師団長!」

 

「っ!………ああ、済まない」

 

騎士の一人が自分に話しかけたことで我に帰る

 

ーーー今の自分は守護騎士。この座に据えてもらっ た恩は返さなくてはいけない

 

………例え、その主が好きになれないような人物であ っても

 

そう気を取り直す

 

「よし!(みな)私に続け!可及的速やかに侵入者を……… 」

 

『貴方が指揮官ですか』

 

突然どこからともなく声が聞こえ、警戒する指揮官

 

しかし、姿は愚か気配さえ掴めない。なのに声は聞 こえる……

 

指揮官を含む騎士達の不安を煽るには十分すぎるフ ァクターだった

 

『貴方に恨みはありませんが……そちらに付いた以 上、容赦はできません

 

…申し訳ないですが…少し眠っていて下さい』

 

「何を言って…」

 

そう言葉を発した騎士が振り向いた瞬間に目に入っ たものは、先程まで自分達に指示を出していた指揮 官の氷像だった

 

ーーーーーーーーーーー

 

「…ケイジさん、聖杯騎士団の無力化はあらかた終 わりました。玉座の道以外の場所にいる騎士はレー ヴェさんやケビンさんが相手してくれてます。一般 の職員や修道女(シスター)さん達もワジさんが避難させてくれ てます」

 

「騎士達含めて死人は?」

 

「0です」

 

「そうか……あらかた総長の計画通りだな」

 

総長の計画は至極簡単。全員での封聖省強襲だった

 

……初めに聞いた時は説明が簡単過ぎて全員で総長 を吊し上げたが、詳しい説明を聞くと総長にしては 珍しくちゃんと考えてられていた策だったので採用 したのだ

 

その内容は、まず、リーシャが指揮官を無力化、そ してレーヴェとケビンが他の場所を警護している騎 士の足止めをし、ワジが避難を担当。時間は警戒が 一番弛む夜明けの直前

 

そしてこの作戦で唯一納得がいかない所………聖王強 襲。担当、俺一人

 

つい総長を天照で焼こうとした俺は悪くない。

 

そしてその後に総長の役割を聞いたら良い歳のクセ に『ひ・み・つ☆』とか抜かしやがった総長を再び 吊し上げた俺は悪くないんだ!

 

………まぁ、聖王とやらの正体が何となく予想付いて るから嫌なだけなんだが。俺アイツ大っ嫌いなんだ よね

 

「リーシャ、ところで総長は?」

 

「えっと……確か私達がここに着く前にはどこかに 行ってましたよ?」

 

あのババァいつかシメル

 

…とりあえず、現実逃避してても仕方ないので渋々 玉座に向かう事にした

 

………やれやれ、気が重いなぁ…



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『下剋上』

「駄目だ!第七師団とも連絡が取れない!」

 

「こっちも同じだ!」

 

「くそっ……一体何がどうなっているんだ……!」

 

玉座へ続く廊下。その所々で騎士達の叫びが聞こえ る

 

それは一様に苛立ちだったり、戸惑いだったり…と にかく全てがこの混乱を表すものだった

 

………全く、ここまで弱体化してるとはな。これじゃ 総長の訓練がどこまで厳しくなる事やら……

 

そんな事を考えながら俺は慌てずに玉座へ歩を進め た

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「全く、騒がしい………何を騒いでおるのだ………」

 

暗闇に包まれた玉座の間。その中心にある玉座に肩 肘を付いて座っている男……聖王がそう独り言を呟 く

 

巨大な、しかしどこか神々しいほぼ透明なステンド グラスの向こうには、屈折した満月が輝いている

 

月はもうじきに沈んでしまう……その直前の最後の 輝き

 

それが静謐な玉座の空気と相まってどこか異世界の ような雰囲気をその場に醸し出していた

 

「このような月の綺麗な晩に、実に無粋なことだ

 

………そうは思わぬか?『氷華白刃』よ」

 

「………月ももうじき沈む。お前の王位も一緒に沈む んじゃねぇのか?」

 

どこからともなく、聖王の正面にケイジが現れる

 

その距離、実に五メートル。この時点でケイジはか なりのアドバンテージを得ていた

 

「…………フン。我の王位が沈む?面白い戯言を申す な。騎士団を追われた塵芥めが」

 

……正確にはケイジが帰って来た時点で既に総長派 は追放されていたため、ケイジは追われてすらいな いのだが

 

それはともかく 閑話休題、この圧倒的不利に全く聖王は動揺してい ない

 

更に、逆光で聖王の表情が見えないこともあり、ケ イジの背に冷や汗が流れる

 

……おかしい。昔の奴ならさっきの挑発に激怒した はずだ。この数ヶ月で克服できるようなモンじゃな かったんだが…

 

「……して、我に何の用だ?我に恭順の意を示しに 来たか?」

 

「…冗談抜かせ。お前だってわかってんだろ?

 

俺はあの国以外に仕える事は無い。未来永劫、例え あの国が滅ぼうともな」

 

「リベール、か……いや、正確に言うなら……かの国 の姫君か………!」

 

聖王が全てを言い切る前に、ケイジの刀が一閃する

 

それは確かに玉座を斬ったが………聖王は悠々と更に 後ろに堂々と立っていた

 

「やれやれ……血の気の盛んなことだ。そんなに自 分の物に触れられるのは気に食わないか?」

 

「………人を物扱いするんじゃねぇ。 …誰から聞いた?」

 

「フム、 例の樽豚だ。はした金をくれてやったら 頼んでもおらぬのに勝手に諸々喋りおったわ」

 

「奴か……」

 

確かに、あの欲の塊ならやりかねないか…

 

「して、この聖王に刃を向けるとは……覚悟は出来 ておろうな?」

 

「……………」

 

俺はその問いには答えず、再び抜刀術で斬りかかる ……まぁ、あっさり避けられたのだが

 

「……全く、猶予を与えれば即座に斬りかかる……機 と言うものを理解しない、とんだ狂犬……いや、狂烏(くるいがらす) よな」

 

「長ぇし語呂も悪いんだよ…………悪いが、お前みた いに気に掛ける家柄も無ければ無駄なプライドもね ぇんだよ

 

………で、どうしてお前がここにいる?お前は破門さ れたはずだが?………元守護騎士第三位、『

 

ヴァニットロード 空帝 』ジュリオ・アレクサンドル」

 

さっきの抜刀術で玉座から離れ、聖王の顔が照らし 出される

 

その顔は、少しばかり古傷のようなものができては いるが、確かにジュリオの顔であった

 

「今は『聖王』と呼ぶがいい

 

………貴様、いつから気付いていた?」

 

ジュリオが怪訝な顔で聞いてくる。どうやら見破ら れるとは考えていなかったらしい

 

「………まずはあまりにもタイミングがちょうど過ぎ る点。俺の殉職の噂が流れると同時にお前は上級司 祭にミラを流し始めた

 

……これで、相手がある程度はアルテリア法国とい う国を知っているとわかる

 

そして、聖杯騎士団への対応が早すぎる点。王に就 いた直後にアクションを起こしたことで相手が秘匿 されているはずの聖杯騎士団の事を知っているとわ かる

 

そして、俺が聞いた『聖王が総長を恨んでいた』と いう会話。総長の事を知っていて、尚且つ恨んでい るわかる

 

………この三つに当てはまり、今生きているのは…ジ ュリオ、お前だけだ」

 

「ククク……見事、とでも言っておくとしようか。

 

……では、氷華白刃。貴様を“外法”と認定しよう」

 

唐突にそんな事をポンと言ってのけるジュリオ

 

“外法”、ねぇ………

 

「ちなみに、お前の言う“外法”とは何だ?」

 

「フン…決まっておる。我に逆らい、我の言葉を真 とせぬ逆賊だ」

 

全く……どいつもこいつもまるで自分が女神になっ たような気になりやがって……

 

ウルの存在があるから一概にいないとは言い切れな いが、俺は女神を信じていない

 

……でも、価値がないとは思わない。何かにすがり たい、祈らずにはいられない……そんな人達には女 神というものが必要だろうからだ

 

しかし、稀にコイツのように自身が神に成り代わろ う、人を自分の支配下に置こうと企むバカ共が出て くる

 

……そんなバカ共を俺は認めない。認めたく無い。 そうなった後の一つの悲惨な結末を知っているから

 

もう二度と、繰り返させはしない

 

「“外法”なぁ………上等だよ。傲慢王。貴様を王から 引きずり下ろすにはちょうどいい称号だ」

 

「ほう………あくまで我に刃向かうと申すか」

 

「…………カルバードの更に東北。そこにある島国… 貴様は知っているか?」

 

「む?」

 

「そこには面白い奴が居てな……とある一領主の家 臣であったにも関わらず、実力だけでその国を統一 したんだ。何の権力にも頼らずにな」

 

「……何が言いたい?」

 

しびれを切らしたジュリオが顔を歪める

 

俺はニヤリと笑って更に続ける

 

「何……対照的だと思わないか?家柄とそれに伴う 財力を奮って王座に就いたお前。自らの力だけを信 じて、自力で王まで駆け上がったソイツ……はてさ て、実際に戦ってみたらどっちが勝つだろうなぁ? 」

 

「我は何が言いたいのかと聞いておる」

 

少しずつ冷静さが剥がれてきたジュリオ

 

「いや、ただの昔話だ。ソイツが国を得た状況に似 ていると思ってな

 

知ってるか?東方じゃ権力が上の奴を力で蹴落とす 事を『下剋上』っていうんだと」

 

そして俺は刀の切っ先をジュリオに向ける

 

「正々堂々、力ずくでテメェをその座から引きずり 下ろす…………この『下剋上』、成らさせてもらうぞ 」

 

「面白い…その力、この聖王が呑み込んで見せよう ぞ!」

 

俺の刀と、ジュリオの西洋剣ー以前と違って長剣ー がぶつかり合い、闘いが始まった



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『終焉』

「……………!」

 

「どうした?『氷華白刃』ともあろうものが情けな いぞ?」

 

ジュリオが剣を振るう

 

ただその場で剣を振っている…ただそれだけ。それ だけなのだが、俺のすぐ近くの空間が歪み、刀身が 突然出現し、俺に襲いかかる

 

「フハハハハ……!完全に以前とは立場が逆転して いるではないか!これぞ我が力!!世を統べる“空” の力よ!!」

 

…………好き勝手抜かしやがって

 

そう心のなかで悪態を吐いてみるが、以前として状 況は悪い

 

俺は奴の手の内を知らないが、奴は元守護騎士。俺 の手は知り尽くしていると思った方がいい

 

……ったく、不利にも程があるだろ

 

そして例によって譜術も打ち止めだ。どうせ無効化 されるのはわかっているしな

 

「…………!」

 

「おっと。惜しいではないか。後一歩踏み込まれて いたらわからなかったな」

 

「言ってろ」

 

隙を見て縮地で一気に近付き斬りつけるものの、先 程から全く当たらない。

 

………まただ。何だこの違和感…

 

今まで繰り返して来た抜刀術なのに、さっきから全 て(・・)後数センチの所でかわされている

 

………目測を誤った…?いや、白龍の長さや距離感は 身体に刻み込んでいる。だとすれば奴が何をしてい るかだが………

 

奴の攻撃は『聖痕の欠片(スティグマピース)』によるものと考えていい だろう。…さっきからの攻撃は恐らく『空間の収縮 』

 

突然刀身が出現するのは空間が縮められたことで作 用した屈折現象…それなら説明が着く

 

…!収縮か………なら試してみるか…

 

ーー『天照』!!

 

「!!」

 

ジュリオがピクリと反応したかとおもえば、 その手前の空間を黒炎が焼き尽くす

 

「フ……ハハハ!!頼みの綱のその瞳も通じぬよう だな!」

 

「…ふぅ……」

 

ジュリオが何か言っていたが、気にせず写輪眼を解 いてジュリオを見据える

 

「……?」

 

ジュリオは何故俺が写輪眼を解いたのかわからない ようで唖然としていた

 

「ようやく理解したぞ。お前の『空間の大きさ、距 離を操る能力』」

 

「!!」

 

どうやら当たりらしく、顔を歪めるジュリオ

 

しかし、すぐに余裕を取り戻す

 

「フン、確かに貴様の言う通り我の能力は『空間を 任意に操作する力』だ。だが、それを聞いた所で貴 様に何ができる?」

 

「…………」カリッ

 

俺はジュリオの言葉には返さず、指を噛んで血を垂 らす

 

ーー式神召喚

 

ジャパングで得た技術の一つ、式神召喚。

 

契約した動物なりなんなりを任意のタイミングで呼 び出す技

 

………まぁぶっちゃけアイツがうるさいからどうにか したかっただけなんだが

 

そして煙が晴れ、そこから出てきたのは………

 

『……あれ?ここどこ?と言うか何このしりあすり ぃな雰囲気?』

 

九本の尻尾を携えた子狐だった

 

「無理矢理横文字使おうとすんな。発音明らかにお かしいだろうが」

 

『あ!ケイジ!』

 

俺を見るなり頭の上に乗ってくる狐…………聞いちゃ いねぇ

 

「………そのような子狐モドキを喚び出して一体どう するつもりだ?」

 

物凄い白けた目でこっちを見るジュリオ………止めて くれ。今割りと後悔してる所だから

 

『モドキ言うなー!!これでも九尾なんだぞー!霊 格高いんだぞー!』

 

もう皆さんお気付きの方も思います

 

そうです。シリアスブレイカーで有名なウルです。 この狐。

 

「はいはい、もうさっさとやるぞ」

 

『久しぶりに出たのに淡白な!?』

 

「ウル」

 

『…………ぶ~~~~…』

 

渋々ながら俺の言う事を聞くウル

 

そして俺の頭の上にいたウルが消え、俺の姿が銀髪 の狐耳に九尾の尾が付いたものに変化する

 

…………はい、どう見てもあの頃のリクを越える厨二 ですねコノヤロー(超投げやり)

 

…だからやりたくなかったんだ。だからテンション 低かったんだよ。何か文句あるか

 

『でもこれで若変水《をちみず》飲み放題じゃん!やったね!』

 

「何故に自分から恥をかきにいかなきゃならないん だ。と言うか心を読むなって何回言ったらわかるん だ」

 

『わからない!と言うかわかる気がない!』

 

「ふざけんな腐れ狐」

 

「………もうよいか?」

 

あ、ジュリオの存在忘れてた

 

「全く……少しは楽しめるかと思って待ってやった が…期待外れもいいところであったな…」

 

はぁ……わかってねぇな

 

『「試してみるか?」』

 

「………は…?」

 

一瞬でジュリオの後ろに回り込み、肩を叩く

 

…俺が敵の目の前でのんびりウルと話していた理由 …

 

それは、ジュリオが警戒に値するような敵ではなく なったから

 

……別に油断してる訳でも驕っている訳でもない。 ただ純然たる事実としてその結論があるだけ

 

「俺がこの数ヵ月、ただ単に姿を隠していただけだ と思ったか?」

 

「貴様…!」

 

ジュリオは空間延長で俺と距離を取る。

 

…が、それこそ俺が望むところだ

 

小太刀を引き抜き、その場で一閃する

 

すると、ただ振り抜いただけのはずの小太刀が砕け 散った

 

天一式(あめのいちしき)…『空断(からたち)』」

 

「………何を」

 

そこまで言ったジュリオから、突然血が噴き出す

 

ジュリオが自分の身体を見ると、先程ケイジが振り 抜いた軌跡と同じく真一文字の刀傷が身に刻まれて いた

 

「………刀身が触れている空気を、刃が斬ったと世界 に認識させ、それを延長させることで間合いを無限 に伸ばす」

 

『まぁ、まだ白龍だとコントロールできないし、普 通の小太刀じゃ砕け散っちゃうから未完成なんだけ どね』

 

余計なことを言うんじゃない

 

「やはり…………貴様は…………!」

 

ジュリオは、何かをいいかけたまま、後ろのステン ドグラスと共に、崩れ落ちる

 

そこから顔を出したのは月ではなく、燦然と輝く朝 日だった

 

~典礼省・とある会議室~

 

「!…………終わったか」

 

机の上に座り、煙草を燻らせていた女性ーーーアイ ン・セルナートが封聖省の方を見てそう呟く

 

ゆったりと話す彼女ではあったが、その周りには夥 しい数の屍が倒れていた

 

「………お前の息子はどうやらもう心配無いようだぞ 。だから安心して眠るといい」

 

誰に言うでもなくそう言うと、セルナートは立ち上 がり、煙草を靴裏で踏み潰す

 

「さて………これから忙しくなる…………書類はケビン に押し付けるとするか」

 

そう言って立ち去る彼女の背では、朝日が輝いてい た



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閑話『ケイジとレーヴェのワクテカQ&A』

「ケイジと~」

 

「レーヴェの」

 

「「ワクテカQ &A ~~~」」

 

「………ってだからワクテカしねぇんだよチクショォ ォォォォォォォォォ!!

 

ども、ケイジ・ルーンヴァルトです」

 

「俺に言うな。まだ正式タイトル決まってないんだ から仕方ないだろう

 

レオンハルト・アストレイだ」

 

「Q&A もめでたく第二回!!と言うわけでテンシ ョンは高めに行きたいと思います!ほらレーヴェ、 テンション上げろ!!普段のクールキャラ何て捨て ちまえ!」

 

「wktk 」

 

「……いや、棒読みでwktk (ダブリューケーティー ケー)って言われても……ん?」

 

『後ろ詰まってるから早くしなさい』

 

『レーヴェももっとテンション上げて!』

 

「よしケイジ。チャカチャカ行くぞ。テンションを 上げるのを忘れるな。喉の調子は万全か?」

 

「お前本当にカリンさん絶対主義だな………中の人ネ タですらないネタをバンバンだしやがって…」

 

「声優すらついていないお前には言われたくないな 」

 

「お前言ってはならないことをォォォォォォォォォ ォォォォォォォ!!」

 

「さて……この空間は本編とは一切関係ありません 。メタ発言、ネタ、その他諸々やりたい放題の空間 です。死んだ人が生きてたり、キャラが崩壊したり 、悪役でも仲良くなってゲスト出演したりしますが 、ご了承ください

 

それでは第二回Q& A …スタート!!」

 

「聞けェェェェェェェェェ!!」

 

ガチャ

 

「ケイジ………とりあえず落ち着いて」

 

「く、クローゼ………何故ここに……」

 

「…来ちゃった?(はぁと」

 

「いや、来ちゃったって………」

 

「それより………何で最近私に出番がないかとか、リ ーシャやらフェイトやらとの関係についてじっくり 聞かせてモラオウカナ…!」

 

「……え?ちょ、今本番中………」

 

ケイジがログアウトしました

 

「……なるほど、あれが巷で有名な黒ーゼか……」

 

『尺が危ないから早くいっちゃって』

 

「俺の時もだが本当に容赦ないな」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「…………………」死ーん

 

「…生きてるか?」

 

「ああ…………三途の川の船番殴って帰ってきた」

 

「本当にギリギリじゃないか。

 

……まぁとにかく一つ目に行こう」

 

『失明しない写輪眼をもらったはずなのにどうして 失明したのか?』

 

「どうなんだ?」

 

「これは単にペナルティみたいなもんだな。イザナ ギは一定期間の視力喪失、須佐能乎は全身の疲労、 アメノウズメ 宮比神は身体の内部へのダメージとか」

 

「ただの便利な眼じゃなかったんだな」

 

「まぁ使い方さえ間違えなければ便利だぞ?」

 

「リクは最低系か?」

 

「これは多かったな~」

 

「今はその頃の面影は微塵も残っていないがな」

 

「裏設定だと、最低系だったらしいぞ。でも感想で の意見をもらって急遽方向転換したらしい。当初は 今のジュリオの役(聖王)に放り込む予定だったと か」

 

「ある意味、読者の皆様が作り上げたキャラとも言 えるな」

 

『ケビンはケイジに押し付けられたリースの食費を 払ったのか?』

 

「お前そんな殺生なことを…………」

 

「いや、アイツの食費は騎士団の給金じゃ無理なん だよ…」

 

「ちなみにいくらだ?」

 

「(ピーー)ミラ」

 

「ケビン、強く生きろよ……!」

 

『執行者で転生者は?』

 

「とりあえず今の予定ではいないらしいぞ」

 

「と言うかまだ原作キャラですら出きってないのに 無理だろ」

 

「リクエスト次第、だな」

 

『何故前世の記憶が無いのにティアはわかったのか ?』

 

「これも多かったな~」

 

「全く……作者が説明下手なのがよくわかるな」

 

「これは記憶が無いって言うんじゃ無くて忘れたっ てのが正しいな。15位まではなんとかおぼろげに 覚えてたんだが……」

 

「他の奴等は覚えているらしいが?」

 

「他所は他所。うちはうち。正直シオンとリクは記 憶力チートだと思う」

 

『何故リクの能力が某正義の味方だとわかったのか ?』

 

「言われてみれば………どうしてだ?前世の記憶は覚 えていないんだろう?」

 

「ああ、これはシオンに教えてもらってた」

 

「なるほど」

 

『リーシャは原作通りのスタイルになるの?』

 

「「これ俺達に聞く?答えた瞬間命が無くなるのが 目に見えてるんだが?」」

 

『『…………………………………』』←顔は笑っているが目 が笑ってない

 

『早く次いって!!お願いだから!!』

 

『何故ライはリーヴがアガレスだとわかっていたの にレーヴェは知らなかったの?』

 

「そう言われてみれば謎だな…………実際の所なんで なんだ?」

 

「これは執行者のタイプの違いだな。俺やブルブラ ン、レンのように気が向いた時だけ結社に協力する タイプとカンパネルラやライのように積極的に任務 をこなすタイプ。

 

リーヴにはライがお目付け役と蘇りの実験結果報告 役としてついていたらしい。ついでに言うなら俺は ライがサイボーグだったことも知らなかった」

 

「結社にも色々あるんだな…」

 

『ティオはもうエプスタイン財団に出入りしてるの ?』

 

「バイト感覚で通ってるらしいぞ?この前『主任が めんどくさいです…』とか言ってため息吐いてたか らな」

 

「ケイジ、お前職業基本法って知ってるか?」

 

「俺一桁で働いてたけど?」

 

「…………義兄が義兄なら義妹も義妹か」

 

『ケイジとルフィナはどっちが強かった?』

 

「『千の腕』か…………奴には借りを作ったままだっ たな。で、どうなんだ?」

 

「ん~…模擬戦は37試合2勝3分32敗だな」

 

「ボコボコにされてるじゃないか…」

 

「うるせぇな!!2勝したんだぞ2勝!!」

 

「そんなに強かったのか?」

 

「強いと言うか………上手いんだよ。戦い方が。あの 人苦手な距離がなかったから…」

 

「…それは戦いにくいな」

 

『リーヴとウルの見た目を教えて』

 

リーヴ・サンクチュアル(享年39)

 

186cm82kg

 

黒髪黒目のオールバック。雰囲気は渋いオジサマ。 中身は豪快………と言うか自由なオッサン

 

服装は長Tシャツに黒いスラックス、黒に近い灰色 のコート

 

戦闘スタイルはナイフと聖痕を使うオールラウンド

 

“虚ろなる

 

デミウルゴス 神 ”

 

~九尾モード~

 

全長42cm3kg

 

毛並みは狐なのに白。要するに白狐で九尾。

 

ジャパング皇国でケイジの心を読んで弄って遊んで いた結果、たまたま死んだ狐を見つけたケイジに強 制的に憑依させられ、固定化。実は何気に気に入っ ている

 

~人モード~

 

151cm42kg

 

銀髪緋目のポニーテール。『大崩壊』以前からこの 姿だった

 

今は狐に憑依した影響か、狐耳と九本の尻尾がつい ている。マニアにはたまらないであろう姿である

 

何故かデフォルトで巫女服。破れない縮まないシワ にならない。本当によくわからないくらいハイスペ ック

 

ちなみにケイジと融合(?)するアレはリリなのの ユニゾンに近い。名前は検討中

 

「だそうだ」

 

「何故九尾なんだ?」

 

「俺も知らん。憑依したのは普通の狐だったはずな んだが…」

 

「終わった~~~~~!!!」

 

「今回は多かったな」

 

「ま、それだけ読んでくれてる方々が多いってこと で…………軌跡じゃランキングトップみたいだしな」

 

「……こんな駄文がか」

 

「感謝感謝。……さて、そろそろ尺も限界っぽいな 。ティアの顔がすごいことになってるし」

 

「そうか………

 

さて、今回はこれで終了ですが、疑問質問ささいな 要望なんでも構いません。気軽に感想に書き込んで やって下さい。作者がブレイクダンスしながら喜び ます」

 

「ついでにこのQ& A のタイトルも募集してます。 ………でないと毎回冒頭に叫ぶハメに………」

 

「それでは今回はこの辺で」

 

「「まったね~~~~~~!!!」」



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3rd 編~the darkness of heart ~
3rdプロローグ「テンションアガット~!」


「……………うん、OK。今日の分は終わりね。ご苦労 様」

 

「「「や、…………やっと終わった…!」」」

 

『七耀協会転覆未遂事件』……そう名付けられた事 件から約一年。騎士団は一応の落ち着きを取り戻し ていた

 

………でも、アレだけの事があったためにやっぱり後 始末と言うものがあるわけで………

 

「……って今日の分!?お前昨日は今日で終わりっ て言ってたじゃねぇか!」

 

「ティアの嘘つき!!僕ずっと今日で終わりって自 分に言い聞かせて頑張ってたんだよ!?」

 

「…………………………」

 

ちなみに無言で机に突っ伏しているのはレーヴェだ 。あれからわかった事だが…………レーヴェはこっち にはかなり疎かった。始めの頃なんか一枚に30分 かかってたからな…

 

やっぱリーシャが一旦帰っちまったのは痛いな……… アイツなんだかんだでレーヴェよりは書類出来たし

 

「私に言わないでよ………朝来たら総長に追加の書類 渡されたんだから………」

 

「「総長ォォォォ!!!」」

 

あのクソサボり魔がァァァァァァァァァァァ!!生 きてる事を後悔させてやらァァァァァァァァァァ! !

 

「シャル!!わかってんな!?」

 

「うん!正々堂々背後から気付かれないようにSLB (スターライトブレイカー)だよね!」

 

「それを世間では不意討ちとか闇討ちって言うのよ ………」

 

総長を闇に葬れるならなんだっていい!!

 

*お気づきの方もいらっしゃるとは思いますが、ケ イジは書類のストレスでテンションがブッ飛んでま す

 

「?ティア止めないの?珍しいね」

 

「………昨日、あまりの書類の多さに時間がかかって 夕飯食べそびれたの」

 

「?」

 

「それでお腹が空いたから外に食べに行ったんだけ ど………総長が豪遊してたのよ

 

それを見たら『ああ…もう地獄を見せるしかないな 』って…」

 

「超短絡思考!?」

 

「よく言ったティア。一緒に総長の娯楽を命ごとブ レイクするぞ」

 

「ええ。今回ばかりは全面的に協力するわ」

 

まさかのティアが味方についた。これで勝つる!!

 

横でシャルが「え?え?何かいつもと違う!?」と か言ってアタフタしてるが…今はどうグロテスクに 総長を愉快な変死体にするかを考える方が先だ

 

*何度も言いますが、みんなストレスでテンション がブッ飛んでます

 

「そうと決まれば…………オイレー…………ヴェ…?」

 

「…………」シャーコ…シャーコ…

 

……………やべぇよ。レーヴェが剣を邪悪な笑みを浮 かべながら研いでるよ。さっきまでの変なテンショ ンが一気にどっかいっちまったよ

 

「………どうした?あのクソババァを愉快に傑作に切 り刻みに行くんだろう?」

 

そこまでは言ってない

 

「…………フフフフフフ……この一年で溜まりに溜まっ た鬱憤………存分に晴らさせてもらおうか……!」

 

やべぇよ。完全に『ついカッとなってやった。今は 後悔している』のパターンだよ

 

「………………フフフフフフ…待っていろよクソババァ …!」

 

「オイレーヴェそろそろ………!?」

 

戻って来い、そう言おうとした瞬間、辺りが物凄い 光に包まれる

 

「な、何だこれは!?」

 

「ケイジ!?レーヴェ!?」

 

「二人とも!?」

 

どうやらこの光は俺とレーヴェだけにかかっている らしい

 

そこまでを認識した時、光がより一層強くなった



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『第五位』

~五年前~

 

『紫苑の家襲撃』及び“ルフィナの死”より数日後

 

~アルテリア法国・聖杯騎士宿舎~

 

ガチャ

 

「……………こっち向け。ケビン」

 

「……………………………………………………なんや、ケイジか ……」

 

寝台に腰掛けたままピクリとも動かないケビン

 

かろうじて返事は返してくるものの、当然顔は伏せ たまま。そして何より見た瞬間にわかるほどやつれ ていた

 

「…お前メシどころか水すら飲んでないらしいな。 その内死んぢまうぞ」

 

「……………本望や。むしろ…………………今すぐにでも 殺してほしいくらいや…」

 

……………………………殺してほしい、なぁ

 

それを聞いた俺は、無言で刀を抜き、ケビンの首元 に刃を添える

 

「…………………地獄への片道切符だ。死ぬなら勝手に 一人で死ね」

 

ケビンは手を刀に添えるが、その手に力は入ってお らず、自決するどころか手が離れたり添えたりを繰 り返している

 

「…………どうした?死にたいんじゃなかったのか? 」

 

「……………………」

 

「当ててやるよ……死ねないんだろう?自分の手で は」

 

「…………………ッ!」

 

その言葉にケビンは動揺する。分かりやすいな……… …

 

「………その癖して楽になりたいから殺してほしいだ ?調子に乗るな。甘えるな。お前にそんな事を頼む 権利も自由も無い。ましてや俺がお前の願いを聞き 届ける義理もない」

 

「……………………もう…………オレが騎士として………や っていく意味なんて無いんや…………………………それど ころか…………生きてる意味すらも…………」

 

「…ルフィナさんの事は報告で聞いた。けどな……… 上の判断は“不幸な事故”だ」

 

「!!?なんでや!?ルフィナ姉さんはオレが殺し たんや!!オレが…………………この手で……………!! 」

 

「………何にせよ、事故だと判断されたんだ。いい加 減受け入れて前を向け」

 

「…………そんなん…………嘘や………………オレは……オレ 、が………!」

 

「…………自分が生きてる意味を理解してる人間なん ざ一人としていない。だから誰でも迷うし、悩むし 、間違える。それでも、受け入れて前に進むから人 は人であれるんだよ」

 

「………………………」

 

再びうつむき伏せて黙りこむケビン

 

「…ハァ、もういい。それだけヘタレてるんなら遠 慮もいらねぇな」

 

「……………?………」

 

さすがにコレばっかりは簡単には言えない。……相 手を地獄に突き落とすのと同意だから

 

「ーーー従騎士ケビン・グラハム。本日をもって貴 公を“守護騎士(ドミニオン)”第五位に迎える。

 

…これは封聖省による決定事項であり、法王の承認 も降りている」

 

「………………………え…………」

 

「だから…お前が長い間空位だった第五位だったん だよ。よかったな?謀らずも上がお前の生きる理由 を作ってくれたぞ」

 

「……………なんや……それ………」

 

「良かったな?守護騎士昇進、これで俺や総長と同 格だ。………ああ、後渾名は考えとけよ?何か自分で 渾名をつけて名乗らなきゃいけない決まりらしい」

 

「そ、そんな事聞いとるんやない…!なんでオレが ……………ルフィナ姉さんを…………から守れんかったオ レが…」

 

……あんまりコレは言いたか無かったが…

 

「『ーーーそれは特に問題ではない。問題はルフィ ナ・アルジェントが極めて優秀な騎士だったと言う 事だ。聖痕が顕れなかったとはいえ、彼女の問題解 決能力は時に守護騎士すら凌駕していた。その“損 失”に見合うだけの働きを第五位には期待しておこ うーー』

 

…………枢機卿の樽豚閣下のクソありがたい戯れ言だ よ」

 

本当に……何度思い出しても腹が立つ…………人の生命 をなんだと思ってやがる……!

 

「……………………………………………

 

クク…………ハハハ………

 

なんやそれ………

 

なんなんやそれは…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひゃはははははははははッ!!」

 

「……………………」

 

俺は黙って目を閉じ、ケビンの言い分を聞く

 

………コイツの場合は、溜めていたモノを一度全部吐 き出させた方がいい

 

「クク………オレが!?ルフィナ姉さんを守りたくて 騎士になったこのオレが!?その姉さんを喰いもの にして守護騎士に選ばれるやと……!?

 

あはは、傑作や!傑作すぎて笑い死んでまうわ!」

 

ひとしきり狂笑(わら)い終えた後、再び顔をうつむかせて 黙りこむケビン

 

「…で?どうする?一応辞退はできるらしいぞ?ち なみに守護騎士拝命を一度だけでもきっぱり断った のは歴代でも俺だけだったらしいが」

 

…かつて俺が文献で読んだ王の話は正確に言うなら 拝命を渋っていた王の国に圧力をかけて半ば無理矢 理守護騎士拝命を“望ませた”らしい

 

つまり………辞退の権利はただの名目。上に目をつけ られた時点でケビンの第五位拝命は決定事項だ

 

「フフ……そうやろうな。“守護騎士(ドミニオン)”第五位………謹 んで拝命させてもらいます。早速今日から仕事回す ように総長に言っといてくれや………ああ、とびっき りハードなやつな」

 

「……そう言っておく」

 

ただ、一つ。俺が言える事は…

 

「ああ、それと渾名の件やけど………

 

“外法狩り”…そんな感じでいく事にするわ」

 

………ケビン、潰れんなよ………

 

ガチャ

 

「コレで良かったんスか。総長」

 

「…………ああ、すまないな、損な役回りをさせて」

 

「………別に。今はそれより早く粛清の下準備を進め てほしいんスけど……流石に今回の件で元々そう長 くない堪忍袋の緒が切れそうなんで」

 

「まぁそう言うな………こっちはこっちで信頼できる 奴等が少ないんだ

 

……………それで、ケビンは引き込めそうか?」

 

「五分五分。狗に成り下がるか、はたまた生き残る かはケビン次第っス」

 

「そうか………」

 

「というか総長の教え子なんだから直接引き込めば いいのに」

 

「バカ言え。そんな目立つ事ができるわけないだろ う」

 

そして四年後、『七耀教会転覆未遂事件』、別名『 聖王の乱』を経て、粛清は完了する事になる

 

そして、セルナート側には、成長したケイジとケビ ンの姿もあったのだった



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星の扉『ウルのきつねにっき』

~一年前~

 

~ジャパング皇国・ヤマシロのとある庵~

 

『「あ~~…………暇だ~~~…」』

 

リベル・アーク崩壊から約一ヶ月

 

気まぐれで参加したナガノブ・オダのジャパング統 一の軍に参加したんだが………速攻で統一が終わって しまった

 

理由は簡単………ここが現代で言う日本で、ナガノブ =信長で、俺がヤマシロに来たタイミングがちょう ど前世での本能寺の変だったから

 

『じゃあその時の回想をどうぞ♪』

 

あ、てめっ

 

ーーーーーーーーーーー

 

「あ~…何か面倒なタイミングで来ちまったな~… 」

 

はい、俺です

 

今、サカイを通って、首都らしいヤマシロって場所 に来てるんだが…

 

「燃えてるな」 『燃えてるね』

 

見事なまでに燃えてた。なんでさ

 

…………あ、そうそう。あの後すぐにウルが聖痕を発 動しなくても表に出てくるようになりました。非常 にウザいです

 

『どうするの?もともと美味しいもの食べに来たん でしょ?』

 

「………とりあえずまだ住民が残ってるかもしれない 。助けられるだけ助けようか」

 

『了解(^o^ゞ』

 

ウゼェ………

 

ーーーーーーー

 

「…………クク……よもやヒデミツごときにこのナガノ ブが討たれようとは………我が覇道もここまでと言う ことか……」

 

町に入ってなんか襲い掛かってくる奴らを適当にあ しらって奥に進んでいると、なんか悲壮感を醸し出 しているオッサンがいた

 

『あしらうとか言っときながら思いっきり峰打ちで ぶっ飛ばしてるあたり鬼畜だよね~』

 

「心読むなって何回言ったらわかるんだお前は」

 

お前あのオッサン見てからもう一回その台詞言って みろ。そして空気読め。このシリアスブレイカーが

 

「何者だっ!?」

 

ほら、いらんやりとりするからバレたじゃねぇか

 

「?お主らはどこの者じゃ?ヒデミツの手の者にし ては見かけぬ顔じゃ…」

 

ヒデミツって誰だ

 

「見ての通り教会の者だ」

 

『「見ての通り?」』

 

おいウル。何故お前までそっち側なんだ

 

『ノリ!』

 

「もう本当にお前自重しような」

 

そしてなんやかんやで脱出、その後速攻でヒデミツ とやらを討伐してナガノブが天下をとったとさ

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

『うん、ふざけまくってるね!』

 

「主にお前がな」

 

『それにしても暇だ~~』

 

聞けよ。俺の話

 

「まあまあ、平和なのは良い事でござるよ」

 

ナガノブがお茶を持って俺がいる縁側にやって来る

 

…あれからナガノブは俺に丁寧語を使うようになっ た。なんでも「命の恩人に敬語を使わない訳にはい かない」らしい

 

『ナガノブ~、何か面白い事無いの?』

 

「拙者、政務に追われる身の上にて…最近は少し世 俗には疎うなってござる」

 

『ぶ~~~~~~……』

 

ブー垂れるウルに苦笑いで返すナガノブ。というか ウルは声だけ聞こえてる状態なのにどんな顔してる かはっきりわかるな…

 

「あ、そうでござる。ケイジ殿」

 

「ん~?」

 

「例の件、セイメイが承ってくれたでござるよ」

 

よし!

 

「じゃあ早速行くとしようか」

 

『?どこか行くの?』

 

「……ああ。

 

ウルを除霊しに」

 

『さらばだっ!!』

 

一瞬で体のコントロールを奪い、逃げようとするウ ルだが、再びコントロールを奪い返して押さえつけ る

 

『酷いよケイジ!!私のお陰で二回生き延びたのを 忘れたの!?』

 

「それはそれ、これはこれ 」

 

『嫌でござる嫌でござる!!拙者まだ逝きたくない でござるぅぅぅぅぅぅぅ!!』

 

「拙者の言葉遣いを真似ないでほしいでござる」

 

その後、偶然林で狐の死体を見つけ、セイメイにウ ルを移してもらったのだが…

 

「…………何故に九尾?」

 

『知らないよ!!』

 

何故かウルが白狐で九尾になっていた

 

『移すだけなら移すだけって言ってよ!!女神行き にされるかと思ったんだよ!?』

 

俺の膝の上で騒ぐウル。というか人モードのウル小 っせぇなぁ……ティオを一回り小さくしたくらいか

 

あ、ナガノブはセイメイの所まで俺を案内してから すぐに帰った。何か忙しいらしい。なんか「猿と権 六め……事あるごとにいがみ合いおって……!」とか 怨念こもった声で言ってたし

 

「いや、知らんがな」

 

『むぅ~~~~~~~!!!』

 

ヤバい。ウルが拗ねた。

 

コイツこうなるとしばらく機嫌治らないからな……

 

狐と言えば………油揚げか?油揚げなのかコノヤロー

 

そして何故か狙ったかのように今日の昼飯は稲荷寿 司。確か作りすぎて縁側の近くの涼しい所に………あ ったあった

 

「ほれ、コレやるから機嫌直せ」

 

『………?こ、これは……!!

 

稲 荷 寿 司 !!!』

 

一瞬で全ての稲荷をかっさらわれた

 

……………今、ウルの動きが全く見えなかったんだが… …

 

『~~~~~~~~~♪♪♪』

 

「……………ま、機嫌直ったみたいだし良しとするか 」

 

『?何か言った~~~~?』

 

「いや?何も?」

 

『そう?』

 

そう言って再び稲荷をもきゅもきゅ食べるウル

 

その姿に何か癒されたのは内緒だ。絶対調子に乗る から

 

………ま、たまにはこんな日もいいな

 

「ウル、晩飯は何が食いたい?」

 

『山菜稲荷!』

 

「お前俺に二食連続で酢飯を食べろと?」

 

『ぶ~~……じゃあきつねうどんで我慢してあげる よ』

 

「お前お揚げへの執着半端ねぇな」

 

「………………………………むぅ」キュピーン

 

「?どうしたんだいティオくん?」

 

「いえ、何か私のポジションが盗まれそうな気がし まして…………」

 

「??よくわからないけど、悩み事なら相談に乗る よ?」

 

「調子に乗らないで下さい。気持ち悪いです」

 

「…………………」orz

 

『『『(本当に容赦ないな…………)』』』

 

バッサリ具合とドS具合は義兄に似てきたティオな のであった



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星の扉『ある日のジェニス王立学園』

~二年前・ジェニス王立学園~

 

キーンコーンカーンコーン

 

「……………はい、じゃあ今日はここまでにします」

 

教師の言葉と共に、教室の雰囲気が一気に弛む

 

友達と話しをする者、そのまま机に突っ伏す者、部 活に慌てて向かう者…その反応は様々である

 

………ある特殊な二人を除けば

 

「「ッ!!」」

 

授業終了の合図と共に全力で教室から出ていくケイ ジ。そして鬼の形相でケイジを追いかけるクローゼ

 

クラスの皆はもう恒例行事と思っているらしく、す でに道は開いていた

 

「またなのね……」

 

「もはや放課後の恒例行事だからなぁ……」

 

ジルとハンスが溜め息を吐くと同時に、学園にケイ ジの断末魔が響いた………今日は新記録である

 

ーーーーーーーーーーー

 

「全くケイジはいっつもいっつも………」

 

「…………………………(泣)」

 

二人が生徒会室に入ると、ケイジがクローゼに説教 されていた

 

……完全に嫁と尻に敷かれている夫の図である

 

そしてケイジが二人を見つけると、

 

「(二人共!!HELP!!)」

 

「(諦めなさい)」

 

「(ケイジが悪い)」

 

「(この裏切り者どもがぁぁぁぁぁぁ!!)」

 

以上、アイコンタクトでの会話である

 

何とこの間、一秒にも満たない

 

「ケイジ!聞いてるの!?」

 

「はい!」

 

「「(完ッ全に夫婦喧嘩の絵面なんだよなぁ……) 」」

 

しばらくは生暖かい目で見守っていた二人だったが 、ジルがおもむろにハンスを連れて隅に移動する

 

「…………で?結局どうなの?クローゼは見ての通り ベタぼれだけど…」

 

「見たらわかるだろ?進展ナシ。本当に鈍感にも程 があるぜ……あいつ、下級生に大人気なのにも気付 いて無いみたいだしな」

 

「ウソ!?結構露骨にアピールしてる娘もいるじゃ ない!?」

 

「ああ。その全てをスルーしてやがる」

 

「…………ドンマイ、クローゼ」

 

恋愛は惚れた方の負け。その意味がよくわかった二 人はクローゼに向かって合掌するのだった

 

~男子side~

 

「生きてるか~?」

 

「………………」

 

へんじがない。ただのしかば「勝手に殺すな……」

 

「生きてたんなら返事しろよ………」

 

「というか判定が生きてるか死んでるかの二つって ……」

 

「こまけぇこたぁ気にすんな!」

 

何言っても無駄だと判断したのか、溜め息を吐いて ベッドに座るケイジ

 

「全く…早く気付いてやらないとクローゼが不憫だ ろ」

 

「…気付く?何に?」

 

「お前本気で言ってんのか!?」

 

「?ああ!」

 

「(ようやく気づいたか…)」

 

「最近クローゼの攻撃に殺気が混ざってる気がする な」

 

ハンスが吉本芸人顔負けのズッコケを披露する

 

「どうしたハンス?」

 

「……もういい。黙れリア充。爆発しろ。というか モゲロ」

 

「何故に!?」

 

この頃のケイジは、男女の感情の機微にはとことん 鈍かったのだった…

 

~女子side~

 

「………………………」

 

「クローゼ……そろそろ機嫌直しなさいよ…」

 

クローゼはベッドで枕を抱き締めたまま動かない。 これはジルが見る限り、目の前の親友が拗ねた時に 見せる反応そのものであった

 

「(珍しく本気で怒ってるわね…) そんな意地張ってると他の誰かに取られるわよ?」

 

「それは嫌!!!」

 

一瞬でジルの目の前に来て叫ぶクローゼ……それだ け好きなら早く告れば良いのにとジルは思った

 

「なら機嫌直しなさい。今日はどうしたの?」

 

「……いつもと同じ」

 

「ああ…」

 

ここで言ういつもとは

 

昼飯をクローゼと約束

 

→後輩に誘われる

 

→「(……まぁ、いっか)」

 

→クローゼが弁当を持って戻ってくる

 

→ケイジが後輩(女子)に囲まれているのを発見

 

→黒ーゼ召喚

 

である

 

「そりゃ初めの方は『仕方ないなぁ』くらいに思っ てたよ!?でももう三ヶ月なんだよ!三ヶ月!一年 の四分の一だよ!二人で食べようって言っても全く わかってくれないんだよ!?」

 

「どうどう…………」

 

「うぅ~~~~~~~~~~!!」

 

半泣きのクローゼを何とか宥め、あの鈍感リア充野 郎にどうやったらクローゼの気持ちに気付かせる事 が出来るのかを考えるジルであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もういっそのこと襲っちゃえば?むしろヤっ ちゃいなさい」

 

「ム、ムムムムムムムムリだよ!!///」

 

この初なクローゼが一年後に超積極的ヤンデレ系肉 食女子になるとは、この時は誰一人として予想する 事が出来なかった…



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星の扉『白烏の雛』

~四年前~

 

~グランセル空港~

 

「(ここがリベール…)」

 

僕…シオン・アークライトは新兵試験を受けるため にここまで来た

 

理由は簡単。これから故郷《クロスベル》を襲うであろう災厄を僕 には黙って見ていることができないから。そのため に少しでも強くならないといけないと思ったから

 

………まぁ、親や幼馴染みには思いっきり反対された けど。

 

え?何で未来の事がわかるのかって?実は僕、転生 者ってやつなんです

 

何でも僕の人生があまりにも平凡すぎて面白くない から、思いっきり人生を楽しんだらどうだ?って神 様らしき人に言われて…

 

「おっと……時間が無いや。急がないと…!」

 

試験の時間が迫っているのを思い出して、僕は急い で集合場所のエルベ離宮へ向かおうとした ……その 時

 

ドンッ

 

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

余所見しながら歩いていたのが悪かったのか、同年 代くらいの男の子にぶつかった

 

「いや、こっちも余所見してた……大丈夫か?」

 

「あ、うん。僕は大丈夫」

 

お互いに顔を合わせると、男の子は僕の腰の剣を見 て

 

「新兵試験受けに来たのか?」

 

「あ、うん。……でも何で?」

 

「いや、街中で剣持ってんのは普通はそうか遊撃士 、はたまた犯罪者だろ」

 

それもそうか

 

「というか急いだ方がいいんじゃないか?もう時間 ギリギリだぞ?」

 

「え?………うわっ!?」

 

時計を見ると、本当にギリギリだった

 

そして、僕はもう一度男の子に謝って、エルベ離宮 へ急いだ

 

「余所見してたとは言え、俺にぶつかるか…………い つも通りサボろうと思ってたけど……気が変わった 」

 

そう言って男の子はニヤリと面白そうに笑った

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

試験の受付には何とか間に合った

 

「それではこれより、新兵採用試験を始める!」

 

ようやく始まるみたいだ。

 

それにしても……軍隊に採用試験があるなんて珍し いよなぁ

 

聞いた話だとリベール女王様の御意志で必要以上の 戦力は持たないようにしているらしいけど…

 

「それでは、モルガン将軍からの挨拶を承る!」

 

いらない事を考えていたらどうやら話が進んでいた らしい

 

その後、威厳のある老人…モルガン将軍の話を聞い てから試験が始まった

 

ーーーーーーーーーーー

 

「…次!350番から359番!入れ!」

 

『はい!』

 

一つ目の試験は面接。一番最初にやるのは珍しいけ ど…やっぱりリベールらしく、人格を尊重するらし い

 

この面接は、特に何も無く終わった

 

ーーーーーーーーーー

 

「あ~…アイツは爺さんの方に行ったか…」

 

「アイツ?」

 

「ああ、言って無かったか?街で面白そうな奴を見 つけたって」

 

「だから珍しく自分から戻って来たのね……… 非常食買い込んで損した(ボソッ)」

 

「お前俺を何だと思ってんの!?」

 

「サボり魔」

 

「…………否定…………できん……!」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

次の試験は実技らしいんだけど

 

「え~~~~~あー、マイクテスマイクテス…」

 

何故かさっきぶつかった人が試験官の位置にいるん だけど…

 

「テステステステステステステステステステステス テステスうえっ……ゲホッ…噎せた…!」

 

何やってんのさ……

 

「えー、はい、じゃあこれから皆さんには殺し合い をしてもらいます」

 

何言ってんのさ……

 

スパーン

 

「あたっ」

 

男の子の横に静かに立っていた栗色の髪の見るから にクールビューティーな女の子がハリセンで男の子 の頭を思いっきりしばく

 

「いってぇな!何すんだティア!」

 

「久しぶりにスムーズに試験が進むと思ったら…… たまには真面目にやりなさい」

 

「いいじゃねぇか!減るもんじゃあるまいし!」

 

「時間が減るでしょ時間が…」

 

あの……二人共、マイク入ったままだから丸聞こえ なんですが………

 

あ、モルガン将軍の拳骨が落ちた

 

「いってぇ~~~~~~!!!」

 

「~~~~!何で私まで…!!」

 

「全く、このアホ共めが……皆、先に説明した通り だ。二人一組となって模擬試合をする。ワシが呼ん だ番号の者は前に出ろ!」

 

そして、モルガン将軍の手腕によって、試験は『普 通』に進んで行った

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーシオン・アークライト…エルベ離宮〇〇〇室ま で

 

試験終了から一日。結果の張りだしを見た僕が見た のは、合格でも失格でもなくそんな訳のわからない ことだった

 

まぁ、その通知通りにエルベ離宮に行く僕も僕かも 知れないけど…

 

コンコン

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

部屋に入ると、あの時の男の子とモルガン将軍がい た

 

「あの~…僕何かしましたか?」

 

「いや、そう言う理由で呼んだのではない」

 

「あ~…爺さん、だからしゃべり方がキツイんだっ て。シオンがガチガチじゃねぇか」

 

「む……」

 

自覚があったのか『しまった』という顔をするモル ガン将軍

 

というか今あの男の子…モルガン将軍の事爺さんと か呼んでなかった!?

 

「…………君は一体…」

 

「ん?ああ、そういや名前言って無かったっけ。ケ イジ・ルーンヴァルトだ。よろしく!そして親衛隊 にようこそ!」

 

「…………………………………え?」

 

あまりの出来事の連続に僕の頭の情報処理能力がス トップした

 

……………え?ケイジ・ルーンヴァルト?リベール?

 

それにあの人何て言った?親衛隊?誰が?僕が?

 

「?爺さん、なんかフリーズしたぞコイツ」

 

「はぁ……全部一気に言い過ぎだ馬鹿者」

 

「え?」

 

「きゅう……………」パタッ

 

「え!?何で倒れんの!?おいシオン!………シオー ーーン!?」

 

これが、僕、シオン・アークライトと“白烏”ケイジ ・ルーンヴァルトとの出会いだった

 

~一ヶ月後~

 

「ハッハッハッハッハ!!全力で逃げるか防ぐか避 けるかしねぇと死んじまうぞォォ!!」

 

『ギャアアアァアァァァァァァァ!!』

 

『隊長ォォォォォォォ!?今度は一体何がァァァァ ァ!?』

 

『クローゼの野郎ォォォォォォォ!!…あ、野郎じ ゃねぇや。俺のたい焼き勝手に全部食いやがってぇ ぇぇぇぇ!!」

 

『姫様ァァァ!?ティアがいない時に限って何やっ てくれてんですかァァァ!?』

 

……同時に、僕と親衛隊の皆の苦難の日々の始まり でもあった

 

………………この後、姫様の手作りのたい焼き20コで 機嫌を直したケイジを切り殺したくなった僕達は悪 くないと思います

 

そして、ケイジの訓練(何故か僕だけ個人修練もあ った)を乗りきっていたら、いつしか僕にも『白烏 の雛』という二つ名がついていた

 

 



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星の扉『ミッドチルダのとある一日』

「暇だな~…」

 

「暇だね~」

 

そうは言うものの、どこか楽しそうなフェイト

 

…何が楽しいのかはさっぱりわからないが

 

とりあえず冷蔵庫を探る……………お、シュークリー ム

 

「フェイト~シュークリーム食うか~?」

 

「食べる~」

 

家主の許可も降りたのでシュークリームの箱をテー ブルまで持って行く

 

「つーか何でお前こんな急に暇になったんだ?管理 局ってのは人材不足だって言って無かったか?」

 

そう、この暇な時間は本当にいきなりできたのだ

 

今日起きて暇潰しにフェイトの仕事を手伝おうとし たら「え?仕事ならしばらく無いよ」ってのたまい やがったから…

 

「流石に管理局も過労死させないようにしてるよ。 一ヶ月働いたら、一ヶ月の書類整理。その余った時 間は休みって感じかな?私の場合は三ヶ月分やって たけど……それも昨日で終わりだし」

 

意外だ。割りとしっかりスケジュール管理されてん だな…アバウトだけど

 

「ん?じゃあその書類整理は?」

 

「ちょっと前に一晩で全部やっちゃったのは誰だっ け?」

 

「……………………」

 

何も言えねぇ

 

この数日でわかった事……フェイトは職業病(ワーカーホリック)

 

つまり、遊びを知らない

 

=この世界の遊びスポットが全くわからない

 

要するに……結局暇ですね、ハイ

 

「あ~…何か面白い事ないか?」

 

「私と模擬戦戦る?負けた方は勝った方の言うこと 聞くってルールで」

 

「お前また俺の理性をガンガン削る気か!?」

 

今までに三回模擬戦して、三回勝ったが……何故か 俺が言うことを聞かされている

 

や、だって負けた時にフェイトがこの世の終わりみ たいな顔すんだよ。その度に回りにいる局員が俺を 睨んでくる………もうね、どうしろってんだコノヤロ ー

 

……ちなみに、今までのお願いの内容は全部添い寝 。一回目に全力で断ったんだが……目が覚めたら抱 き枕になっていた。

 

理性と本能の戦いに勝った俺、本当に頑張った

 

「じゃあ私と一戦ヤる?」

 

「待て。今何かイントネーションがおかしかったぞ 」

 

何て事言ってんのこの金髪は

 

「じゃあ私と一戦ヤる?」

 

「何で一回スルーしたのかはわからんが…女の子が そんな事言っちゃいけません。俺はお前をそんな風 に育てた覚えはない!」

 

「いや、ケイジに育てられた覚えもないんだけど… 」

 

そりゃそうだ。同い年だもの

 

「大丈夫だよ。私17だし。もう結婚できるから。 でも……初めてだから……優しく、ね?」

 

「俺も17なんですけど!?男子は18からなんだが !」

 

「え?じゃあ……18になったらイイの?///」

 

「誰か~!通訳呼んで下さ~い!この娘の頭の中が 俺には理解出来ませ~ん!」

 

「………何やってるの?」

 

通訳《なのは》襲来。いつの間に…

 

「なのは!ケイジがわがまま言ってヤってくれない んだよ!」

 

「わがままってなんだわがままって」

 

「(やる?……………何を?)とりあえずやってあげ ればいいと思うの」

 

「お前絶対色々わかってねぇだろ」

 

「ソ、ソンナコトナイヨー」

 

「オイコラこっち向け。俺の目見ながらもう一回言 ってみろ」

 

「ケイジ!浮気は許さないよ!」

 

「お前の頭の中で俺とお前の関係どうなってんの! ?そもそも付き合ってすらねぇんだよ!」

 

「……………」orz

 

「ケイジくん……流石に言い過ぎなの」

 

………え?俺が悪いの?

 

それから、なのは秘蔵のシュークリームを食べたの がバレてSLB(スターライトブレイカー) 食らいました

 

………目が覚めたらやたら艶々したフェイトに膝枕さ れていたが…………大丈夫だよな?まだ俺守ってるよ な?

 

~その頃の八神家~

 

「よし!初めてトップに……」

 

「甘いでリーシャ!行けト〇ゾー!!」

 

「え!?あぁ~~~!!」

 

「更にサ〇ダーですぅ~~~!!」

 

「嘘ぉ!?」

 

「トドメは赤コ〇ラだ!」

 

「………………………(泣)」

 

「「「イェーイ!!!」」」

 

「……またビリ。もうさっきからずっとずっとビリ… 」

 

「よしよし…」

 

「主、少しは手加減をされては……さっきから見て いる分には不憫で…」

 

「シグナムさぁ~ん…」

 

「何言っとんのや。勝負事に手加減はNGやろ?」

 

「む………それもそうですね」

 

「シグナムさん!?」

 

こっちは、異常なほどほのぼのとしていた

 

というかはやて。お前仕事はどうした

 

「グリフィスくんに押し付けてきた!」

 

あ、そっすか……



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『白き幻王』

「……………」

 

「ケビン…」 「ケビンさん……」

 

魔槍ロアの発動によってルビカンテを滅したケビン

 

………だが、未だにその表情は、隣にいるレーヴェ同 様強ばっていた

 

「気を抜くな。まだ終わった訳じゃない」

 

「そや。まだ多分レーヴェとリーシャ、リクの時と 同じように………」

 

その瞬間、地面に不気味な法陣が現れ、ナニカがそ れから出てくる

 

「「なっ……!?」」

 

「………!!」

 

「薄々は気付いていたが…」

 

「ここでくるんかいな……………ケイジ(偽)!!」

 

リースとリクは驚き、ヨシュアがその気配に身構え 、ケビンとレーヴェはゆっくりと武器を構える

 

法陣から出てきたナニカは、グリモアが擬態したケ イジであった

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ……はぁ……」

 

「おかしいだろ………あの悪魔の数倍は手強かったぞ …!」

 

何とかケイジ(偽)を退けたケビン達

 

だが、やはりダメージは大きく、リースを含む全員 が地面に座り込んでいた

 

キィィィィン

 

そしてケビン達の目の前に金色に輝く宝石のような 石が現れる

 

ケビンが前に出て手を伸ばすと、二つの石はケビン の手の中に収まった

 

「あ………」

 

「フン……今の奴が持ってたんか…」

 

『フフ…上出来だ。ケビン・グラハム』

 

『!』

 

ケビンが呟いた時、どこからともなくかすれた声が 聞こえてくる

 

すると、さっきと同じような法陣の中から、今度は かなり奇抜な格好をした人物が現れた

 

『《ーー次なるは獣の道。新たなる供物を喰らい、 汝が印を発現させるがいい。さすれば煉獄の炎はさ らに猛り、我が王国は真の完成に近づく》 ……まさに伝えた通りだったであろう?」

 

「…………」

 

『ふむ……黙りか。それもまぁよい。これで太陽の 娘と白き幻王が解き放たれる。そちらの駒も一通り 揃い、ようやく本格的な遊戯盤が用意できるという ものだ ………まぁ、幻王には剣帝同様《枷》を着けさせても らうが』

 

そう言うと、再び奇抜な格好の人物は法陣の中へ沈 んでいった

 

「…………」

 

「成る程……通りで思うように体が動かないわけだ 」

 

「……ケビン、あの…」

 

「ま、色々あるとは思うけど……とりあえず話は後 にしとこう」

 

そう言ってケビンは振り返り、他のメンバーにさっ きの石を見せる

 

「あ……」

 

「『太陽の娘』と『白き幻王』……みんなお待ちか ねの大本命や………皇太女殿下とか特にな」

 

「そうだな……まずは二人を解放するとしよう。細 かい話はそれからでも遅くないだろう」

 

そうしてケビン達は、『隠者の庭園』へと戻るのだ った



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『おいでませ影の国』

「………」

 

ヨシュアとクローゼが封印石を淡く光る石碑の前に 翳すと、封印石がひとりでに浮かぶ

 

そして、それは徐々に人の形になり、そのままゆっ くりと地面に降りた

 

「もう……何なのよ今のは……」

 

「……目が痛ェ……」

 

「エステル……」

 

「!ヨシュア、大丈夫!?」

 

「……は?エステル?」

 

エステルはヨシュアの声で慌てて体立ち上がるが、 ケイジの方は思いもよらない名前にポカンとしてい る

 

しかし、一瞬後に二人して正気を取り戻すと……

 

「「…………ここどこ?というか何この状況?」」

 

物凄いシンクロ率である

 

「あはは……まぁ、君達が戸惑うのも無理はないよ 」

 

「……俺達とて説明された今でも半信半疑なのだか らな」

 

「いや、半信半疑って言われても………………!」

 

ケイジはヨシュアの後ろにクローゼを見つけて、少 し固まる

 

そしてクローゼは俯いたままゆっくりとケイジに近 づいて…

 

そのままケイジの胸に顔をうずめた。

 

無論、両腕はケイジをホールドした状態で

 

「ク、クローゼ?」

 

「良かった………本当に良かった…!!」

 

「ちょ、オイ!」

 

そのまま泣き始めたクローゼにテンパるケイジ

 

「ケビン……あの二人」

 

「いや……リースが思っとるような関係やない……ま だな。どっちか言うたら殿下の片思い状態や……」

 

「そう……………ケビン?」

 

「大丈夫や……ちょっと避けとこか。邪魔したらア カン雰囲気やし……」

 

「………うん」

 

そして、ケビンはリースに支えられながら書架の方 へと向かう

 

「どうしてクローゼさんはあんなになってるんです か?」

 

「リーシャ…何か雰囲気怖いわよ? いや、ね?どうもケイジがあの後全く連絡してなか ったみたいなの。だからクローゼはケイジが死んだ と思ってたみたい。あの後暫く魂が抜けたみたいに なってたらしいし…」

 

「祝賀会を開かなくちゃならなかった時も出てこれ るような精神状態じゃなかったらしいしね……とい うか僕や他の皆も騎士団関係者以外はケイジが生き てる事、初めて聞いたしね」

 

「いや、エステル。ヨシュア。実際はそんなもんじ ゃなかったぞ?一時期は本気で王太女の位を下ろす って案が出たくらいだ。 ……シオンやカシウスさんの助けがなかったらどう なってたことか……」

 

「リクは何かしなかったの?」

 

「………あいにく、俺には政治方面の才能がなかった らしくてな。未だに親衛隊の書類をユリアさんの助 けを借りて捌くので精一杯だ…」

 

「「ああ……ドンマイ…」」

 

「哀れみの目はやめてほしいんだが…」

 

「それにしてもリク君、性格変わったよね~~」

 

「まぁ……今からしてみると確かに酷かった自覚は あるな……」

 

「今はカッコいい感じだけど、昔は何か気持ち悪か ったしね!」

 

「……………ぐふっ」

 

『(バッサリだ~~~~!!)』

 

「?リク君どうしたの?」

 

「無自覚でリクくんのメンタルを折るとは…………ア ネラスくん、恐ろしい娘!!」

 

「何を訳のわからん事を言っているのだ阿呆」

 

「あ、待ってミュラー!!そのまま引っ張ると僕の キュートな首がぐぇっ!?」

 

『皆~、もうケビン達行っちゃったよ~?』

 

『狐が喋った!?』

 

そうして、ケビン達に従う形で他のメンバーも全員 (約一名は生死の境をさ迷いながら)書架へと移動 するのだった

 

ーーーーーーーーーーー

 

「…………グス………ヒック…」

 

「………………」

 

え?待て待て待て

 

え?放置?この状況で?マジで?

 

「……………(レーヴェ!助けて!Help!)」

 

「……………(この際だ。いっそ姫を受け入れてやっ たらどうだ?)」グッ

 

助けてっつってんのにかなり検討外れの答えを返す レーヴェ。

 

誰か~!あの澄ました顔したバカの親指折ってくれ ェェェェ!!300ミラあげるから!

 

「(据え膳食わぬは男の恥、女をリードするのも男 の甲斐性)」

 

「(いや知らんけど!?)」

 

「(…………ってカリンが言ってたような言ってなか ったような)」

 

「(せめてそこはっきりさせろや !!つーか本当 にアバウト!理由がアバウト!というかお前そんな キャラだっけ!?)」

 

「(………………じゃあな)」

 

「(待て待て待て待て待て!!見捨てないで!割り とガチめなお願い!)」

 

「(大丈夫だ。2~3時間したら戻ってくる)」

 

「(どういう意味の大丈夫だァァァァァ!!ってレ ーヴェ!?レ~ヴェ~~!!)」

 

行っちまったよ。あのカリコン(カリンコンプレッ クスの略)

 

「………グス………グス………」

 

……どないせぇっちゅうねん

 

「あ~…とりあえず泣き止めって…お前に泣かれる と調子狂うんだよ…」

 

「……………グス…」

 

「…ったく…」

 

「………あ……」

 

泣き止む気配の無いクローゼの頭を撫でる

 

……昔、割りと泣き虫だったクローゼを泣き止ませ る為に使ってた方法だけあって、少しは効果があっ たらしく、本当に少しだがクローゼのグズりが治ま った

 

「……さて、そろそろ離してくれると助k「嫌!」… オイ」

 

「離してくれ」の辺りから俺に回されてる腕に入る 力がより一層強くなった

 

「……いや、俺も事情説明聞いて無いし「嫌!」い や、だから事情説明「嫌!」だから事情「いや」せ めて説明「いや……」わかった!!わかったから泣 くなって!!」

 

次第にクローゼが泣きそうになるので、仕方なく説 明は後でレーヴェかケビンに聞くことにする

 

「……ただ、本当に離してくれると助かるんですが… 」

 

さっきから胸元が冷たいんで……

 

「………いや……だって…離したらまたどこかに逃げち ゃうもん……私の手の届かない場所に行っちゃうも ん……そんなの……いやだもん……!」

 

………何この可愛い生き物。お持ち帰りしてもよかと ですか?

 

………………………………………ハッ!?俺は一体何を!?

 

というか完全に駄々っ子モードだな。学園に入って からは一回もなかったのに……

 

こうなったクローゼには何を言っても聞かない。と いうか思考が完全に幼児化するので何するかわから ない

 

そんな訳で、暫くされるがままになっていた俺なの であった



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『現状確認』

「………で、とりあえずケビンが無駄に厄介なモンに 俺達を巻き込んだと」

 

「概ねその通りだ」 『否定はできないね』

 

「お前ら二人して人を疫病神扱いすなや」

 

『……あれ?二人?我《わたし》は?』

 

あれから少しして、書架で横になっているケビンと レーヴェに説明を聞いていた

 

どうやらケビンは聖痕を解放したらしく、意識は辛 うじて保っているものの、体が一切動かないらしい

 

…全く、聖痕の闇の面しか使えないのに無理して使 おうとするから…

 

「お前もほとんど使いこなせて無いやろうが」

 

『ホントだよ!天羽々斬(あめのはばきり) しか使えてないじゃん !」

 

「心を読むなネギ頭」

 

『あれ?また無視!?』

 

「それにしても……何かこっち来てからやたらと体 が重いんだけど……何?重力十倍とかそういう設定 ?」

 

「どこの龍玉やねん…」

 

何故お前が知っている

 

「影の王とやらが言っていたのだが……俺とお前に は『枷』を着けたらしい」

 

「枷?」

 

「ああ…恐らくはこの身体能力の低下もその枷の一 部なのだろう」

 

「また面倒なことを……」

 

これ多分ジャパング行く前の身体能力だな。今のヨ シュアより少し高い程度か

 

「いや、お前らそのままやったら二人でここ制覇で きるやろ?」

 

「「………はぁ?」」

 

「いや、だってお前らチートやん。特にケイジ」

 

「………」( -。-) =3

 

「………」┐( ̄ヘ ̄)┌

 

「その『何言ってんのコイツ』みたいな表情と仕種 のお前らが何ぬかしとんのや」

 

「冗談はその頭だけにしとけよ?ネギ・グラハム」

 

「全くだ。ふざけているのはその不自然に尖った髪 型だけにしておけ。ニラ・グラハム」

 

「お前らホンマに大概にせぇやァァァァァァァァァ ァァ!!」

 

『………………………グスッ』

 

その後、キレたケビンは放っておいて、枷の内容を 確認することとなった

 

……ウル?稲荷寿司渡したらご機嫌でもきゅもきゅ してたぞ?

 

「あ、ストップだレーヴェ」

 

「どうした?」

 

「いや、クローゼが全く離れないから……ユリ姉呼 んできてくれね?」

 

クローゼのヤツ………駄々っ子モードが終わったと思 ったら何故か寝ちまったんだよ…

 

しかもどういう訳か絶対に離れないから……書架ま で運ぶのに苦労したぜ

 

というか今現在進行形で俺の膝の上で夢の中だし

 

「「……………………」」

 

「え?何で二人とも黙んの?何か変な事言ったか俺 ?」

 

「………………」ハァ

 

「ちょ、レーヴェ!?何故溜め息残して去ろうとし てんの!?」

 

「大丈夫だ。2~3時間後に戻ってくる」

 

「だから何が大丈夫だ!?」

 

「というかお前オレをこの二人の間に残して行く気 か!?」

 

「自分で動けばいいだろう」

 

「動かれへんから言うとんのやろがァァァァァァァ ァ!」

 

結局、レーヴェは一人でどこかへ行き、俺は仕方な くクローゼが起きるまで頭を撫でながら待つのだっ た

 

因みにウルは満腹になったのか、俺の頭の上で丸ま って寝ていた

 

「………(何でコイツらはナチュラルに甘々な雰囲気 を作りよるんや………

 

リースぅぅぅぅぅぅぅぅ!!早よ戻って来てこの雰 囲気ぶち壊してくれェェェェェェ!!)」

 

………リース達が戻って来た時、ケビンの顔はげっそ りしていた…



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『ケイジの剣術』

~リシャール解放後~

 

「待ちたまえ!何故私の解放シーンを…」

 

「あー…ウル」

 

『キングクリムゾン!!』

 

……と、言うわけでリシャールさんの解放後、とり あえずレーヴェと模擬戦をすることに

 

「クローゼ」

 

「ん~?」

 

まだ寝ぼけてやがるなコイツ。まぁいいけど

 

「蒼燕今持ってるか?」

 

「あるよ~」

 

そう言ってどこからともなく蒼燕を取り出すクロー ゼ

 

……どこから出したかは気にしないでおこう

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

で、泉の近くの広場に来てるんだが…

 

「ギャラリー多いな……」

 

そのまま着いてきたクローゼにジンさん、アガット 、アネラス、リク、リシャールさんにヨシュア。そ れと名前は知らんが紫の女子

 

「まぁ、あまり気にするな。全員味方だ

 

………それより、蒼燕《ソレ》…使うのか?」

 

「ああ。何か出し惜しみしてる余裕もなさそうだし な」

 

本気出さずに死にましたじゃ話になんねぇし

 

「そうか……………ヨシュア」

 

「?」

 

「よく見ておけ…………あれが双剣術の一つの完成形 だ」

 

「…………え?」

 

「んな大袈裟な…」

 

「謙遜は止めろ。お前の剣はそう言う価値があるん だ……そろそろ始めようか」

 

「そうだな…………ッ!」

 

レーヴェが剣を構えたのを確認してから、縮地でレ ーヴェに斬りかかった

 

ーーーーーーーー

 

「いきなり斬りかかった!?」

 

「あれじゃ反撃してくださいって言ってるようなも んだぞ!?」

 

いきなり攻めにかかったケイジに驚くアネラスとア ガット

 

「…………いや、あれでいい」

 

『え?』

 

「どういう事なんですか?リシャール大佐」

 

「ヨシュアくん、だから私は大佐じゃ…………まぁい い。あれが二刀でのケイジの戦い方だ……まぁ見て いたまえ」

 

再び皆がケイジの方へ視線を戻すと、案の定レーヴ ェに弾き返されていた

 

弾き返されていたのだが……

 

「………距離が開かない?」

 

「フフ………目の付け所はいいよリク。だがそれだけ じゃない」

 

「……速度も速くなってますね」

 

「それだけでもねぇ。威力も上がってやがるな」

 

「その通り。ケイジの剣術は自分から仕掛けに行っ て、返された力を全て自分の力として相手に返す… …言うなれば強制カウンター」

 

「なるほど…」

 

「共和国で後の先を取ってくる武術家はいたが…… 先の後を取るなんて聞いた事がないぞ」

 

「それは多分、あの戦法に武器が耐えられないから だと思います」

 

『?』

 

「あの刀……蒼白塗燕龍大小拵《そうはくぬりえんりゅうだいしょうこしらえ》 だからできるんだ って前に聞いた事があります」

 

「蒼白塗燕龍大小拵!?」

 

「うぉ!?急になんだアネラス!?」

 

「あ、ゴメンリク君…でも、あの刀……下手すると国 宝級だよ」

 

『マジか!?』

 

皆が白龍と蒼燕の価値に驚く中……

 

「(あれが双剣術の完成形の一つ……)」

 

「(まだ、足元すら見えてねぇのかよ……!!)」

 

ヨシュアとリクだけがケイジとレーヴェの剣舞に見 入っていた

 

ーーーーーーーーーーーー

 

動きが確認できた所で刀を納め、模擬戦を終えた

 

レーヴェはそのままヨシュアと稽古をするらしい

 

「お疲れ様。……動きはどうだった?」

 

泉で水を飲んでいると、クローゼと紫の女子が来た ……本当に誰だ?

 

「ダメだな…譜は使えんのに譜術は発動しないし、 全体的に身体能力が落ちてる。写輪眼も制限みたい なのがついてる」

 

「レオンハルトさんは?」

 

「レーヴェも大体俺と一緒だな。身体能力が落ちて る上に分け身が使えないらしい」

 

「やっぱりですか…」

 

クローゼと紫が少し残念そうにする

 

それにしても…

 

「で、そこの紫。お前誰だ?クローゼの知り合いか ?」

 

「「……………え?」」

 

空気が固まった

 

……え?俺のせい?俺のせいなのか?

 

「ケ、ケイジさん?私ですよ私!!」

 

「……私私詐欺の人?」

 

「違ぁぁぁぁう!!」

 

必死の形相で否定する紫

 

「じゃあ誰だよ……紫髪の知り合いなんてリーシャ とレンくらいしかいねぇぞ俺」

 

「そのリーシャです!!」

 

「…………は?」

 

再び固まる空気。今回は俺は悪くない

 

「…………いやいやいやいや、ナイナイナイナイ」

 

「全否定!?」

 

「リーシャはもっと全体的にちみっこかった!!1 年でそんな育つ訳あるか!!」

 

主に胸!!アイツはティアと風呂入る度に血の涙流 すくらい貧乳だったはずだ!!ティアのテンパりよ うが半端なかったから今でも覚えてる!!

 

*覗いた訳ではありません。

 

「育ったんですよ!気を循環させまくってたら!」

 

「嘘つけ!クローゼが東方の文献でそんなん見つけ て頼まれてやった事あるけど全くもって一ミリすら 育たなかっ「ケイジ……?」スミマセンゴメンナサ イモウシマセン」

 

「全く………(これでもDはあるのに……)」

 

あぶねぇ……死んだかと思った……!!

 

「素質的な問題です!私には育つ素質があったんで す!」

 

「リーシャ、喧嘩売ってるの?」

 

「黙ってて下さいDサイズ!!」

 

「EにDの気持ちがわかるかァァァァァ!!」

 

「こっちはずっとGの差にうちひしがれてきたんで す!!」

 

女の戦い勃発。……ッたく、世の中の男全員が巨乳 好きって訳じゃないだろうに……

 

『……ケイジ、あれリーシャだよ』

 

「起きてたのかお前。つーかマジで?」

 

『うん!気の方法教えたの我《わたし》だもん!』

 

この腐れギツネ…………

 

「重心が安定しなくなったら敵のど真ん中に狙って 投げられなくなっただろうが……!!」

 

『え?何で我《わたし》怒られてるの!?ってギブギブギブギ ブ!!握らないで握らないで!中身が出る!内臓的 な何かが出ちゃう~~!!』

 

ウルを潰さないギリギリの力加減で握る……暴れ方 がウナギみたいだな

 

「あの~…」

 

「上等だアホギツネ……今日の晩飯はリアルきつね うどんだ」

 

『イヤァァァァァァァァ!!』

 

まぁ食いたくないから殺らないが

 

「ケイジ」

 

「ん?」

 

ウルを放して振り向くと、リースがいた

 

『た、……助かった………ありがと~~リ~ス~~! !(泣)』

 

「え?ど、どういたしまして?」

 

流石にリースもガチ泣きのウルには戸惑ったらしい

 

…………というかウル。お前今握られてた相手の頭に 普通に乗るな。ちょっとは遠慮しろ

 

「で、どうしたんだ?」

 

「ケイジのらしき扉が何個かあったからついてきて ほしい」

 

「わかった……ウル、行くぞ」

 

『うぅ……バカケイジ…』

 

ウルが子狐状態でペシペシ叩いてくるが全く痛くな い

 

「じゃあ行くか」

 

「「私も行く(行きます)!!」」

 

お前ら、今まで殺りあってたのに何で息ピッタリな んだ

 

「………リース?」

 

「大丈夫。想定内」

 

流石リース。直感がシャル並みなだけはあるな

 

「(ケイジが行くなら私も行くって言うのは目に見 えていたから…)」

 

………実際は勘でも何でもなかったりする

 

そして、俺達は『方石』の力によって扉の所まで転 移するのだった

 

その時は、まさかあんな事になるなんて思っていな かった……



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『扉巡りの旅』

ーー汝、雛を拾いし白き烏、我が前に引き連れよ。 さすれば扉を開かん

 

ーー汝、白狐を連れし銀の騎士、我が前に引き連れ よ。さすれば扉を開かん

 

ーー汝、白き姫と彼女に仕えし救国の士、我が前に 引き連れよ。さすれば扉を開かん

 

……上三つはまだいい。一部黒歴史的なものもあっ たが問題ない

 

でもな……

 

ーー汝、金の閃光と出逢いし氷華の後継者、我が前 に引き連れよ。さすれば扉を開かん

 

「リース、これはダメだ。早く次行こう」

 

「今のところこれで終わり。それと、その案は却下 」

 

いや、ダメだってコレェェェェェェェェェ!!嫌な 予感しかしねぇんだよ!!主に俺の生命的な意味で !!

 

「この条件に合うのはケイジしかいない。金の閃光 って誰か知らないけど」

 

「確かにこれ俺なんだろうけどさ…」

 

金の閃光って間違いなくアイツだろ?……………まだ 死にたくない

 

「リーシャ、金の閃光って誰かわかる?」

 

「わからないです……クローゼさんは?」

 

「私もわからないかな」

 

よし!何故かは知らんがリーシャはアイツの二つ名 を知らない!(ガッ)このまま扉さえ開かなければ …(ズリズリ…)

 

そこまで考えた所で、ようやくリースに引き摺られ ていることに気付いた

 

「ってリースさん!?俺さっきから行きたくないっ て言ってますよね!?」

 

「ケイジの都合は聞いてない。少し前の扉で料理の レシピが出てきた。私は食に関して妥協しないと決 めている」

 

「いや、知らねーよ!?」

 

人の命を何だと思ってんだお前!?俺の命<料理か !?

 

「ほら早く。ハリーハリーハリーハリー」

 

「ちょっ待っ……………うおっ!?」

 

結局、リースに扉に放り込まれた………

 

ーーーーーーーーーーー

 

「「申し開きは?」」

 

「………………………」(汗)

 

扉から出た瞬間、目からハイライトの消えたリーシ ャとクローゼに捕まった

 

「まさか私がはやてさん達とゲームしてる間にあん な甘々空間を作ってるなんて……!!」

 

リーシャは…………正直恐くない。まだクローゼの威 圧感の足元にも及んでねぇし

 

問題は……

 

「フフフフフ……ケイジ?私の知らない所で何やっ てるのかな?かな?」

 

「落ち着けクローゼ。もはや中の人すら一致してね ぇぞ?」

 

「嘘だっ!!!」

 

「だから違うって「何か文句が…?」全くありませ ん」(土下座)

 

クローゼ…いや、黒ーゼだ。ヤバい。本っ当にヤバ い。顔はニコニコしているが俺にはわかる

 

……過去に前例のないくらい怒り狂ってらっしゃる… ……!!

 

「……それで、当然私にもあの人にしたりされたり したことをそっくりそのまましてくれるよね?」チ ャキ

 

「……いや、オーブメント構えて細剣《レイピア》俺に向けなが ら言う台詞じゃ…(サクッ)ちょ!?刺さった!今 刺さったぞ!?」

 

「返事はハイかYES しか要らないんだけど?」

 

一択じゃん、それ。しかも脅迫だし

 

それでいいのか次期女王!?

 

「で……返事は?」

 

「………………」(滝汗)

 

「へ・ん・じ・は!?」

 

「………さらばだっ!」

 

「あ!待ちなさい!!」

 

俺の大切なナニカを懸けたリアル鬼ごっこ、スター ト

 

…ちなみに、リーシャは適当にしばいたら正気に戻 った。チョロいな

 

「ツカマエタァ……!」

 

「げっ!?ってギャアァァァァァァ!!」

 

「………あ、やっと報酬出てきた……………!?これは… …」

 

ーーーーーーーーーーー

 

「………………………」死ーん

 

「…………おい、生きてるか?……ん?『犯人はクロー ……』」

 

「よし、生きているな」

 

「ボケる気力があれば大丈夫だろ」

 

リクにレーヴェ……少しは心配しろや

 

ムクッ

 

「最近耐性が付いてきたことに喜ぶべきなのかそう じゃないのか……」

 

「「復活はやっ!!」」

 

二時間か……新記録だな

 

「他の奴らは?」

 

「石碑の所だ。どうやらお前の入った扉から封印石 が出たらしくてな」

 

…………………………………………え゛

 

「今頃解放してる頃じゃねぇか?………ケイジ関連な らシオンだと思うんだが…」

 

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバ いヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤ バいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバ いヤバい!!!!

 

もしアイツが来ようモンなら俺の命が風前の灯火な 所に春一番が吹く状態くらいヤバくなる!!

 

そして、俺は全力で石碑の所へと向かった

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「貴女ですか?ケイジをたぶらかしたのは」

 

「たぶらかした?人聞きが悪いですね。私は自分の 気持ちに素直になっただけですよ?そもそもあなた はケイジの何なんですか?」

 

「幼馴染みですが?」

 

「へぇ、『ただの』幼馴染み。それなのにケイジの 対人関係にまで干渉するのはプライバシーの侵害で すよ?」

 

「ご心配なく。今更『その程度の事』を気にしたり されたりするような『貴女との関係みたいに』薄っ ぺらい関係ではありませんから」

 

「「……………………!!!」」

 

「ねぇヨシュア、一体何が起きてるの?」

 

「そうだよお姉ちゃぁん…目を塞がないでよぅ」

 

「「ダメ。レンやティータにはまだ早い」」

 

「「むぅ~~~~…」」

 

…………………遅かったか…(遠い目)

 

『はわわわわわわわわわ………』

 

「………何だこの威圧感は……」

 

「ケイジ………お前………」じと~

 

「リク、何を勘違いしてるのかは知らねぇが俺は何 もしてねぇぞ?」

 

「本当か?」

 

多分

 

…そしてふと周りに目を向けると、右にあの二人の 間に入ろうとして殺られたのか、完全に伸びている リーシャ…………だった物体A

 

そして左を見るとレンやティータを守っているエス テル達

 

……レン?お前いつの間に来たんだ?

 

『ケイジが気絶してる間』

 

「うん、よくわかった…………けどウル、次心読んだ ら一年間稲荷抜きな」

 

『え!?何その理不尽!?』

 

さて、現状整理現状整理………うん

 

「俺は何も見ていない」

 

『『『待てェェェェェェェェェェェェェェェェェェ ェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!』 』』

 

「うわっ!?ちょ、何をするヤメ(ry」

 

ビックリするくらい流れるような素晴らしい連携で 簀巻きにされてあの爆心地《しゅらば》に放り投げられた

 

……テメェら…死んだら絶対化けて呪い殺してやるか らなァァァァァァ!!

 

「ケイジ…」

 

「これはどういう事か……」

 

「「キッチリキカセテモラウカラネ……?」」

 

その後、俺は確かに地獄を見た



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闇の扉『咎』

~第六星層・周遊道入り口~

 

俺が三途の川を全力で逆流してから数時間後

 

「…………ん?」

 

「どうしたケビン?」

 

「いや、何か変な扉みたいなん見付けたんやけど」

 

あの後、出てきたフェイトに事情を説明して協力し てもらう事になったんだが……どうもクローゼとウ マが合わないらしい。未だに喧嘩してるしな

 

まぁ、それ以前に俺があの場にいると何されるかわ からん

 

なので、とりあえずケビン、リース、俺、ヨシュア で第六星層に入ったんだが……

 

「何だこれ?」

 

「…………確かに扉っぽいけど」

 

「禍々しい……としか言えませんね」

 

何か黒いし模様が不気味な扉?を見つけた

 

ーーーよくぞ来た。異邦者よ……

 

「「!?」」

 

「……お前はやっぱり扉なんか?」

 

ーーー然り……されどただの扉に有らず。闇に葬ら れし負の記憶なり……

 

『…………』

 

負の記憶…………

 

「お前の条件は?」

 

ーーー我が開くは只一度。加えて入るは只一人………

 

無知なる氷華、我が前に引き連れよ。さすれば扉を 開かん…

 

「!!」

 

「氷華……」

 

「……ケイジしかおらんな」

 

ーー然り。無知なる氷華よ。これより先は咎の記憶

 

「………咎?」

 

ーー覚悟を固めし時、我を開くがよい ……

 

そう言うと、扉は輝きを失った

 

「ケイジ、咎って……」

 

「…………わからない。罪や後悔なら腐るほどあるつ もりだが……」

 

『咎』なんて大層なモン背負った覚えはない

 

「………どうするの?」

 

「無理に今開く必要もないやろ。ともかく先に…」

 

「………いや、悪いが、開かせてもらう」

 

リースとヨシュアは特に反対もなさそうなので、ケ ビンを見る

 

「ケイジが見たいんやったら見ればええ。覚悟とか 言っとったから時間開けた方がいいて思っただけや しな」

 

「……悪いな」

 

そして、俺は黒い扉を開けた

 

ーーここに記憶と、悲しみを与えん

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

むかしむかし、あるところに、とても仲のよい二人 の男女がいました

 

男は、とても頭が良く、また武術にも精通していて 、村の人達にも信頼されていました

 

また、女は鴉の濡れ羽のような綺麗な黒髪で、とて も器量よしの人気者でした

 

……そして、時が経ち、大人になった二人は当然の ように結ばれました

 

二人はとても幸せで楽しい毎日を過ごしていました

 

しかし、そんな時、二人の暮らす村に悪い猟兵団が やって来たのです

 

猟兵団は仕事に失敗した帰りらしく、半ば自棄にな って村人を襲いました

 

村人達も当然反抗し、男を筆頭にして猟兵団に立ち 向かいました

 

しかし、流石に力の差は歴然で、男はとうとう捕ま ってしまいました

 

そして、男に剣が降り下ろされようとした時、奇跡 が起こりました

 

男の背中が突然光り、その光を見た猟兵達がいきな り倒れ始めたのです

 

そして、暫くして、猟兵団は全員気絶して、村に平 和が戻りました

 

………しかし、男と女は村を追い出されてしまいます 。村人達が男の得体の知れない力を恐れたからです

 

そして、人里離れた川のほとりで、二人は暮らし始 めました

 

しかしある日、恰幅のいい綺麗な服を着たお爺さん が来て、男に自分達の国に来るように命令してきた のです

 

男は怒ってお爺さんを力ずくで追い返そうとしまし たが……

 

ーーキレイな嫁さんだな。嫁さんは大事にしないと なぁ

 

そうお爺さんが言うのを聞いて、仕方なく男は女と 一緒にお爺さんの国に行きました

 

そして再び時が経ち、男と女に子供が出来ました。 二人は大層喜び、とても幸せでした

 

………しかし、それからが悲劇の始まりだったのです

 

子供が生まれた翌日、男にとても危険な任務が下り ました

 

しかし、男は難なくその任務をこなし、無事に任務 を終えました

 

ーー帰ったら、今まで苦労かけた分、休暇を取って アイツらと旅行にでも行こう。息子に俺達の国を見 せるのもいいかも知れない

 

そんな事を考えながら、家の扉を開けると

 

女が床に倒れていました

 

男は慌てて女に駆け寄り、抱き起こします

 

……女は、既に冷たくなってしまっていました

 

ーーどうして!!どうしてコイツが!!どうして俺 じゃなくコイツがこんな目にあう!!

 

男は、一晩中女を抱いたまま泣き叫びました。男が 泣いたのは、その時が初めてでした

 

次の日、男は赤ん坊の泣き声で目を覚ましました

 

男は驚き、飛び起きて泣き声のする方へ行ってみる と、なんと無傷の赤ん坊が地下の倉庫の中で毛布に くるまって泣いていました

 

男は、赤ん坊を抱きしめて女に感謝しました。何で この子が生きているのかを理解したからです

 

そして数日後、男は女がどうして死んだかを突き止 めました

 

女は、男が今まで任務で捕まえてきた犯罪者の残党 に、男への復讐として殺されたのです

 

男は、残党を探しだし、その全員をその手で殺しま した

 

そして、男が復讐を終えた時、男は突然怖くなりま した

 

ーーアイツと同じ事がこの子にも起きるかも知れな い

 

それは男には耐えられる事ではありません

 

男はそれから不眠不休で赤ん坊を護りながら必死に 考えました

 

出た結論は、その子を自分から切り離す事でした

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

『ゴメン……ゴメンな………俺がこんな人間だったば っかりに………』

 

『こんな事になるくらいなら……あの時死んどけば よかったのかも知れねぇな……』

 

『ゴメンな……こんなロクデナシが父親で……こんな ロクデナシと繋がりを持っちまったばっかりに……… 』

 

男は想いを隠します。一緒に暮らしたいという想い を

 

男は悲しみを封じます。妻を失った悲しみを

 

『なぁ、お前が大人になって……もし真実を……アイ ツの存在を知ったなら…………』

 

男は………決意をします

 

『せめてアイツの墓参りはしてやってくれ……この ロクデナシで、クズで、最低の父親《バカ》からの最初で最 後のお願いだ」

 

生涯、実の息子に恨まれ続ける事を。

 

妻を死なせ、忘れ形見をも捨てた、その“咎”を抱え 続ける事を

 

『……じゃあな。元気で幸せに生きろよ………!!』

 

その時が、男が人生で最後に泣いた瞬間でした

 

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『わからぬ過去』

「………………」

 

「お、出てき………!?」

 

俺が扉から出ると、待っていた三人に何故か驚かれ た

 

「……何だ?」

 

「いや、何ってお前……」

 

「ケイジ、気付いてないの?」

 

「?」

 

リースに除きこまれてそう聞かれる

 

………気付く?何に?

 

「ケイジ。目」

 

「目?…………!」

 

言われてから目の下を触ってみると、冷たい何かに 触れた

 

……………え?

 

「涙………」

 

何故だ?……何故あの訳のわからない扉を見ただけ なのに涙が………

 

「…………ケビンさん」

 

「ああ、わかっとる……一旦拠点に……!?」

 

ケビンの驚く声に振り返ると、あの黒い扉が消えか けていた

 

「なっ!?」

 

ーー我が開くは只一度のみ…………この記憶、努々忘 るる勿れ……

 

そんな言葉を残して、黒い扉は消えていった

 

カラン…

 

「?……これは……」

 

俺は扉の跡に残っていた何かを拾う

 

それは、古い黒い煙管だった

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「ケイジ……」

 

「お帰りなさい……」

 

「「OHANASHI しよっか?」」

 

『そんなだから気持ちに気付いてもらえないんだよ ……』

 

拠点に戻ると、ウルを抱えたクローゼとフェイトに 囲まれた

 

……けど、今はそんな事を気にしてられない

 

この煙管……どこかで……

 

そのまま俺は泉の近くの広場に向かった……今はと にかく、一人になりたい

 

ーーーーーーーーーー

 

「ケイジ……?」

 

「……何だか、いつもと雰囲気が違う…?」

 

クローゼとフェイトはいつもと様子が違うケイジの 様子に面食らっていた

 

「…私はミッドに来た時のケイジしかわからないけ ど……いつもあんな感じなの?」

 

「いつもはもっと明るい……あんなケイジ初めて見 るよ……」

 

流石に二人も牽制を止めて話し合う。喧嘩するほど 仲が良いと言うが……二人の間に敬語が無くなって いた

 

『………………悲しい?いや、何か違う……』

 

「ウルちゃん?」 「ウル?」

 

『ケイジが、泣いてる……』

 

「「え?」」

 

ウルの言っている事がわからずに、つい聞き返す二 人

 

(わたし)はケイジと一心同体……まではいかないけどそ れに近い関係だから、少しだけ精神が一方的だけど 繋がってるんだ。近くにいれば、ケイジの心がわか る程度だけど』

 

「それって……」

 

『うん。今ケイジとすれ違った時に気付いたよ

 

ケイジが、泣いてる。表には出さないけど…心の中 で。』

 

ウルの言葉に場が静まり返る。ケイジの涙を直に見 ているケビン達は特に

 

「………ッ!!」

 

『わわっ!?』

 

「ちょっと…!クローゼ!?」

 

そして、我に帰ったクローゼがフェイトにウルを押 し付けて走り出した

 

………恐らく、いや、確実にケイジの下へと

 

「………行っちゃった………」

 

『………良かったの?フェイトは行かなくて』

 

フェイトの腕の中をもぞもぞ動きながらウルが質問 する

 

それにフェイトは複雑な顔をするが、溜め息を一つ 漏らすと…

 

「行きたいよ。今すぐにでも。誰より先に、誰より 早くケイジの所に行って言葉を掛けてあげたいよ。 でも、悔しいけど……私は彼女(クローゼ)より……ここにいる誰 よりケイジの事知らないから……きっと、今行って も、何も言えない。何もケイジに届かない。“話し 合わなきゃ何もわかりあえない”けど、“どうしても 通じあえない事もある”。そんな時……必要なのはき っと“一緒にいた時間の長さ”」

 

だから、とフェイトは一旦息をついて

 

「ケイジが元気になるなら、私じゃ無くても構わな い。悔しいけど……本当に悔しいけど…今ケイジに言 葉を届けられるのはクローゼだけだと思うから…だ から、私は行かない。私が行っても…邪魔しちゃう だけだから」

 

ケイジを諦める気は全く無いけどね。…そう括って フェイトは慈愛に満ちた微笑みを浮かべた

 

『『(………一途っ!!)』』

 

ーー私は、ケイジが好き(それはあの子も変わらな い)

 

ーーだからこそ、あんな姿は見たくない(ケイジに は、笑っていて欲しいから)

 

ーーだから、私は走る(私は原因を探る)

 

ーーーー“今”、私に出来る事を

 

 



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『確かな今』

「(……いた…………!!)」

 

隠者の庭園の奥にある泉。そこの淵で、ケイジは静 かに座っていた

 

その背中にいつもの騒がしさが微塵もないのを見て 、クローゼはケイジに声をかけられないまま、ゆっ くり近づいて行く

 

「…………今は、出来るだけ一人にして欲しいんだが 」

 

「!……気付いてたなら反応してよ。びっくりした よ」

 

振り向かずにクローゼの接近に気付くケイジ

 

「クローゼか……悪いが今はあまりじゃれる気分じ ゃねぇんだ……一人にしてくれ」

 

全く微動だにせずにクローゼを拒絶するケイジ

 

「…………………」

 

しかし、クローゼも退かない。ここで退けば、何か が二度と戻って来ない気がしたから

 

だからこそ……一歩、また一歩とケイジに近づく

 

そして、背中からそっと抱きついた

 

「あ……」

 

「………前も言ったと思うけど……絶対離れない。離 れたくない」

 

「……………」

 

「ケイジが隣にいてくれたらそれだけでいいの。私 はそれだけで幸せだから」

 

そう言ってケイジの背中に顔を埋める

 

……まごうことなきクローゼの本心。ケイジがリベ ールを立って以来、ずっと抱いていたほのかな想い

 

「………………で」

 

「?」

 

「………何でお前はそこまでして俺に拘る……血も繋 がってない、ましてや身元も得体も知れない。お前 から離れようとするロクデナシに………」

 

その真っ直ぐさがケイジには眩しかった。眩しすぎ て……辛かった

 

ヨシュアでは無いが、自分の暗い部分が晒し出され ているような気がしたから

 

だからこそ離れようと、関わるまいと………住む世界 が違うと自分に言い聞かせてきた

 

………なのに、離れても離れても追い付いてくる。逃 げても逃げても、何度でも見つけられる

 

何故こんな(ロクデナシ) を追って来るのか……それがどうし てもケイジには解らなかった

 

「そんなの、どうだっていい」

 

「………………………は?」

 

「昔の事なんて、私は何があったか知らないし、知 ったとしても私にはどうしようもない。だから私は “今”、ケイジの側にいるのが何よりも幸せなの。だ から私は“これからも”貴方の隣にいたい。ただのク ローディアとして、ただのケイジの側にいたいの」

 

「クローゼ……」

 

クローゼがケイジに回した腕の力が強くなる

 

……離さない。絶対に。

 

そんな気持ちをはっきりと表すかのように

 

そして………ケイジがクローゼの手と自分の手を重ね ようとするが、決心がつかないのか、手を近づけた り遠ざけたりを繰り返す

 

そんなケイジの手を、クローゼは優しく包んだ

 

「…………!」

 

「ケイジが迷った時は、私が手を引いてあげる。ケ イジが悩んだ時は、私も悩む。一緒に笑って、一緒 に泣いて、一緒に怒って……そんな関係になりたい から……」

 

「………………」

 

「過去だけが未来を決めるの?過去が無かったら先 に進めないの?違うでしょう? ………ケイジならもうわかってるよね。だって私にそ う教えてくれたのは貴方(ケイジ)なんだから」

 

そう言うと、クローゼは完全にケイジにその身を預 ける

 

「だから………私と“今”を生きよう。貴方の過去も、 未来も…………全部纏めて抱き締めるから」

 

「……………フッ」

 

「…?……キャッ!?」

 

バッシャーン

 

突然笑みを浮かべたケイジが目の前の泉に飛び込ん だ

 

「…………ぷはっ……もう!いきなり飛び込まないでよ !!」

 

「ははっ………悪い悪い。つい、な」

 

ケイジは泉に浮かんだまま、クローゼに返事をする

 

「もう……」

 

ブーたれるクローゼだが顔は笑顔だった。ケイジに 先ほどまでの暗さが無くなっていたからだ

 

暫く無言がその場を支配する

 

「……クローゼ」

 

「何?」

 

「……教えてやるよ。俺の過去を。お前の知らない 俺の記憶を

 

……………お前の知らない、百日戦没《このよのじごく》を」

 

 



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月の扉『白烏の唄~前章~』

「七番テント!右大腿骨開放骨折!左脇を撃たれて いて血が吹き出ています!内臓に傷はありません! 」

 

「三番テント!右足の至るところを撃たれています !こちらも内臓に傷はありません!」

 

「今はこっちは無理だ!もうじきジェイドとケイジ が終わるはずだから七番優先ですぐ回せ!」

 

「「はい!」」

 

そこは、確かに地獄であった

 

日に日に増す戦没での怪我人。そして治した側から また戦場に戻って死なれるという徒労感

 

………しかし、ここは医療キャンプ、ましてや外科医 療の実験部隊である。例え無駄だとわかっていても 助けなければならない

 

「………手術終了。寝台天幕まで運んで下さい」

 

「はい!」

 

「ケイジくん!!七番テント!急いでくれ!」

 

「わかりました!状況は!?」

 

「移動しながら話すよ!」

 

……止めよう。今はとにかく救える命を救えばいい

 

そう頭を切り替えて、俺は麻酔医についていった

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

レミフェリア公国所属、第三外科医術実践研究推進 部隊

 

それが俺が門戸を叩いた医療NGOのような部隊であ り、今、最も地獄の側にいる部隊であった

 

「…………………………」

 

目の前には帝国人、王国人の区別無く顔に白い布を 乗せられ、地に横たえられた人達がいた。中には俺 と同じくらい……俺より幼い子もいた

 

……また、誰かが死んだ

 

紛争だから仕方ない………そう言ってしまえばそれま でだが…………割り切れない。割り切れない何かが俺 の中でとぐろを巻くようにうねっていた

 

「………やはりここに居ましたか」

 

「ジェイドさん……」

 

声がしたので振り替えると、コーヒーを二つ持って いるジェイドさんがいた

 

「飲みなさい。いくらリベールが温暖な気候だとは 言ってもこの季節の夜は冷えます」

 

「………………はい」

 

そう言ってコーヒーを受け取る……温かい

 

「……割り切れませんか?」

 

「……………」

 

「確かに、この仕事は矛盾だらけです。助ければ、 また戦場に出る。そしてまた怪我をしては死ぬかこ こに運ばれてくる………今度は他の人間(みちづれ)を連れて、ね 」

 

その通りだった。実際何度も何度も怪我をしてはこ こに運ばれてくる人もいる

 

そして、治した人が再び怪我をして、今度は死んで いく人も何人も見た

 

「………正直、私も甘く見ていました。こんな悲惨な 現場だと知っていれば………あなたをこんな場所に迎 えなかったでしょうに」

 

「それは言わないで下さい」

 

これは俺が望んだことだ。他の人に責任は感じて欲 しくない

 

「………ジェイドさんは、どうして医者に?」

 

いきなりの質問に少しポカンとするジェイドさんだ ったが、すぐにいつもの笑みを浮かべた

 

「理由ですか………そうですね、私の場合は『知りた かった』からでしょうか」

 

「知りたかったから?」

 

「ええ。恥ずかしい話ですが………私には『人の死』 というものが理解できないんです。こんな状況にな っても」

 

「!」

 

「ですから……医者の存在についてならリーブに聞 いた方がいいですよ?」

 

「えぇー…………」

 

あの常時酔っぱらいのテンションの厨二野郎に?適 当にはぐらかされそうな気しかしないんだけどな~

 

「そう露骨に嫌な顔をしない。一応あなたの師匠で しょうに」

 

「あのアホから学んだのは外科医術だけです」

 

俺元々薬剤師で通すつもりだったのに……

 

というか執刀医になれる人間が俺とジェイドさんと 厨二だけって鬼畜だと思うんだ…

 

「……とにかく、機会があれば聞いてみなさい。少 しは役に立つと思いますよ」

 

「…わかりましたよ」

 

「ああ、明日は少し早めに起きて下さい」

 

「え?どこかに行くんですか?」

 

「まぁ、行ってからのお楽しみですね」

 

そう意味ありげな言葉を残して、ジェイドさんは去 って行った

 

「……ジェイド」

 

「!……リーブですか。あまり驚かさないで下さい 。心停止するかと思ったじゃないですか」

 

「けろっとした顔で皮肉かます奴がよくいうぜ……… …………で、ケイジはどうだった?」

 

「あなたの想像通りです…………表には出してません が相当参ってますね」

 

「やっぱりか………」

 

「全く……心配なら自分で確かめに行ってどうにか すればいいのに……」

 

「うるせーよ。変人マッド鬼畜眼鏡」

 

「ハッハッハ………リーブはどうやら命がいらないよ うですねぇ」チャキ

 

「ゴメンナサイ。謝りますんでその槍しまって下さ い。マジで」



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月の扉『白烏の唄~後章~』

「…………で、結局どこに行くんですか」

 

ジェイドさんに夜明け前に無理矢理起こされた

 

……………だから俺低血圧なんだって。早起きとかマ ジで苦手なんだってば

 

「フフ………ですから秘密です」

 

「……三十過ぎのオッサンが可愛らしく言っても「 何か言いましたか」スミマセン」

 

槍はヤメテ……

 

「全く……ホラ、見えてきましたよ」

 

「!……あれは………」

 

到着したのは、最近この辺りに布陣した帝国軍の部 隊の陣地だった

 

ーーーーーーーー

 

「ジェイド・ハルファスと申します。この度は会談 の席を設けて頂いてありがとうございます」

 

「……………ケイジ・ルーンヴァルトです」

 

「ああ、これは丁寧な挨拶を………ゼクス・ヴァンダ ールと申します。皇帝より少将の位を任された者で す」

 

最近派遣された帝国軍の内、位の高いヴァンダール 少将の陣地に来たケイジとジェイド。

 

予め高位階級の軍人に許可を取れば下位の軍人は従 わざるを得ない事を知っているからの判断だった

 

「しかし…………『レミフェリア公の懐刀』と呼ばれ た貴殿が新医術の実験部隊にですか………世の中何が 起きるかわかりませぬな」

 

「フフ…………昔の話です。今はしがない一医者です よ。それより、本題に…………」

 

その後は、特に目立った事もなく(ジェイドの腹黒 さが垣間見えたくらい)、ヴァンダール少将隊と不 戦協定、医療行為の許可協定を結んでキャンプに帰 る事になった

 

ーーーーーーーーーー

 

「いや~、相手が話のわかる人でよかったですねぇ 」

 

「よくいいますよ……半分脅し入れてた癖に………」

 

ジェイドは終始『許可が出なければ、レミフェリア は帝国に以降の医療技術の公開はしない』的なニュ アンスを入れていた……これが脅しじゃなくて何な のだろうか

 

「まぁ、ああでもしないと我々のような部隊は立場 が危ういんですよ。手術中に強襲を受けて患者共々 ポックリ……なんて嫌でしょう?」

 

「まぁ、それはそうですね………………!!?」

 

和やかに会話していた二人だったが、キャンプが見 えてきた辺りで凍り付いたように立ち尽くしてしま う

 

キャンプから、黒い煙が立ち上っていた

 

「ジェイドさん!!」

 

「ええ!急ぎましょう!!」

 

二人は、全力でキャンプに向かって駆けて行った

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「これは…………」

 

キャンプに戻った俺とジェイドさんの前に飛び込ん できたのは、破壊されたテントや食糧庫、そこかし こに倒れている人………悲惨な光景だった

 

「……………」

 

ジェイドさんが倒れている人に近付いて触診する

 

「………ジェイドさん」

 

「……………」フルフル

 

力無く首を横に振る…………やっぱりか

 

「………とにかく、生き残った人達を探しましょう。 リーブがいたはずですから確実に何人かはどこかに 隠れている筈です」

 

「わかりました」

 

そして、俺達は手分けして生き残りを探し始めた

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「リーブ!!」

 

「!……んだよケイジか…驚かすなっての」

 

探し始めて約三十分、外れの森の入口の所でリーブ と数名の医療スタッフ、三人ほどのリベール軍人を 見つけた

 

「状況は?」

 

「見ての通りだよ。コイツら連れて脱出すんのが精 一杯だった…………ほらよ」

 

「………っとと」

 

投げられた白い長刀と蒼い小太刀を受け取る

 

……蒼白塗燕龍大小拵。俺が城を出る一月前にあの (ジジイ)から速達で届いた刀

 

こっちに来てからは自衛手段ということでリーブと ジェイドさんにしごかれてたから俺もそれなりには 戦える

 

「これからどうすんだ?」

 

「とにかく、レミフェリアに戻るにせよ、コイツら を安全な場所に送ってからだな…………そういやジェ イドはどこ行ったんだ?」

 

「ああ、ジェイドさんならーーー」

 

パァン………ッ

 

突然、キャンプ跡の方から銃声が聞こえた

 

………あそこにはまだジェイドさんが………

 

「ッ!!」

 

「おい!!待て!!…………クソッ、聞いちゃいねぇ 。お前ら!とにかくリベール軍人の陣地に行け!リ ベールなら確実に保護してくれるはずだ!」

 

そう考えた瞬間、俺は弾かれたように走り出してい た

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「くっ……………油断、しましたか……!」

 

ジェイドが足を引き摺りながら小屋の影に移動し、 そのまま座り込む

 

どうやら、足を撃たれてしまったようだ

 

「ジェイドさん!」

 

「!?ケイジ!?何故ここへ!?」

 

そこに、慌てた様子で駆けて来るケイジ

 

「こっちから銃声が聞こえたからまさかと思って… …」

 

「とにかく中に入りなさい!!そんな目立つ場所に 居たらいい的です!!」

 

いつになく厳しい声でケイジを影に入れようとする ジェイド。おそらく彼が動ける状態だったならば引 きずり込んでいただろう剣幕だ

 

その剣幕を感じ取ったのか、ジェイドに従って入ろ うとした…………

 

その時だった

 

パァン……ッ

 

「!!?」

 

「…ゲホッ…!」

 

バタッ

 

倒れるケイジ。そして次から次へと溢れ出す血

 

「オイ!!今の音は………!?」

 

そして少し遅れてリーブが到着し、息を呑む

 

「リーブ!!すぐに手術を!!今ならまだ出血は少 ないはずです!」

 

「……無理だ!!さっきの強襲の時に消毒済みの道 具が全部オシャカになっちまった!!」

 

「ですが黙ってケイジが死んでいくのを見るよりマ シです!私達のような大人が生き残ってこんな少年 が死に行くなど………冗談ではない!!」

 

いつもの冷静さが微塵も感じられないジェイド

 

「……………フゥーーー……」

 

そして、リーブは深く息を吐き、覚悟を決めた顔で 回復アーツをケイジにかけ続けるジェイドに向き合 う

 

「……ジェイド。そのまま回復アーツを俺にもかけ るようにして、ケイジを押さえててくれ」

 

「一体何を…………!」

 

非難の目をリーブに向けるジェイドだったが、リー ブの顔を見て何かを悟る

 

「……信じていいんですね?」

 

「ああ………必ず、ケイジは(・)救う」

 

そして、ジェイドがケイジの四肢の関節を的確に抑 え、アーツの詠唱を再開する

 

「……よし、やるか」

 

そして、リーブの掌がケイジにかざされた時に、ケ イジは意識を手放した

 

「…全く、手間かけさせやがって………」

 

「そう悪態つかなくてもいいでしょう。今はそれよ り………目の前の敵です」

 

「ハハハ!フラッフラのナリして何言ってんだお前 !」

 

「あなたこそ。私以上に倒れそうな顔してますよ? 」

 

「違ェねぇ。ま、俺達がぶっ倒れるのは………」

 

「「ここを襲ったクソ野郎共を殲滅(そうじ)した後だがな( ですがね)!!」」

 

大人達は、一人の子供の命の為に、目の前の敵に向 かって行く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ん……」

 

太陽の光でいつものように目を覚ます

 

もう朝か………俺なんで地面で……!!

 

そこで、俺は昨日の事を思い出した

 

「たしか…………俺は腹を撃たれて………………………そう だ、ジェイドさんは………リーブは………!!」

 

体を動かそうとするが、上手く動けない。それでも 、ふらつきながらも小屋の外に出る

 

「!………これは……」

 

そこには、沢山の帝国兵の亡骸が転がっていた

 

槍、ナイフ、槍、槍、ナイフ、ナイフ、ナイフ、槍 、ナイフ…………

 

傷口から素早く死因を判断する………槍はジェイドさ ん、ナイフはリーブだろう。それも全て一撃で仕留 めていた

 

そしてしばらくは同じような光景が続く

 

そして…………

 

「………ッ!!」

 

見慣れた白衣が二つ、地面に倒れているのを見つけ る

 

すぐさま自分の体が動かないのも忘れて駆け寄ろう とするが、案の定すぐに倒れてしまう

 

「二人共起きろよ………何時かは知らないけど朝だぞ 」

 

頭をよぎる嫌な予感を振り払うように二人に話しか ける

 

「ジェイドさん………いつもの黒い冗談だったらいく ら俺でも怒りますよ」

 

返事はない。少しずつ嫌な予感が強くなっていく

 

「リーブ………いつもの冗談なんだろ?また俺をから かおうとしてんだろ?」

 

やはり返事はない。だんだんと嫌な予感が振りきれ なくなっていく

 

「もういい!!もう十分だ!!驚いたから!!今ま でで一番驚いたから!!だから…………………

 

返事、しろよ……………してくれよ……!!!」

 

漸く二人の側に着き、リーブを仰向けにする

 

リーブの顔は、とても満足そうな、何かをやりきっ た顔だった。その顔のまま…………冷たくなっていた

 

「………………………」

 

わかってた。本当はわかっていた

 

「…………うぁ……………………」

 

返事がないという意味を。二人がこんな質の悪い冗 談は言わないということを

 

………わかっていた。けど………認めたくなかった

 

二人が、『死んだ』と言う事実を

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァ ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!! !!」

 

俺は、その場で狂ったのではないかと思うほど叫び 続けた

 

 

………何故か、涙は出なかった

 

それから少しの間の事を俺は憶えていない

 

 



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月の扉『白烏の唄~終章~』

「……………ここは……」

 

 

目が覚めると、何故か俺はベッドで寝ていた

 

 

「…俺は確か………ッ!!」

 

 

頭が動き出すと、すぐに全てを思い出す

 

 

誰一人立っていない戦場、治療したはずなのにそのまま倒れている怪我人達、手術着のままで体の一部が吹き飛ばされている仲間達、そしてーー

 

 

 

 

 

ーー血塗れで倒れているジェイドさんとリーヴを

 

 

 

「~~~!!」

 

 

それを思い出した瞬間に猛烈な吐き気に襲われる

 

 

……今まで、多くの人の治療に関わり、その分人の死と言うものも経験したが、心のどこかではここではないどこか遠い所で起きたことのような感じだった。例えるなら、TVの救急医療番組の特番を見ているような感覚だったのだ。自分の周りや自分自身は大丈夫だと何の根拠も無いのに勝手にタカを括っていたんだ

 

 

それが、現実に起きた。起きてしまった。数時間前まで一緒に笑っていた人達が、たった一日で全員が帰らぬ人となってしまった

 

 

その事実を認めようとする気持ちと、拒絶する気持ちが頭の中でぐちゃぐちゃになって異常に気持ち悪い。それに何故か尋常じゃない寒気も感じる

 

 

そんな感覚に必死に耐えていると、静かに扉が開いて優しげな雰囲気を纏った女の人が入ってきた

 

 

「あら、目が覚めましたか。気分は……あまり良くなさそうですね」

 

 

「………………」

 

 

何か答えようとしたのだが、口を開いたら出てはいけないものまで出てしまいそうな気がして話せなかった

 

 

「フフフ、無理はしなくていいですよ。今はゆっくりお休みなさい」

 

 

女の人の言葉に甘えて、今は休もう

 

 

そう思って気を少し緩めた瞬間に、俺は意識を失った

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

俺がここ…マーシア孤児院に保護されてから早一週間が経った

 

 

俺を見つけた張本人でここに連れてきた、先日の女の人……テレサさんの夫のジョセフさんによると、俺はどうやら無意識にマノリアにたどり着いたあげくに風車小屋の前でぶっ倒れていたらしい。それでマノリアの人達に助けられてどうしようかと悩んだ結果、こう言うときには子供とはぐれた親が真っ先に訪ねる孤児院に預けようと言う事になり、ジョセフさんに任せたそうだ

 

 

そして、ようやくそれなりに動けるようになった頃、ジョセフさんがまた新しい子供を見つけて保護してきた

 

 

……すみませんジョセフさん。そいつ、俺にとっての地雷なんです……

 

 

「……ケイジ?」

 

 

「………………」(汗)

 

 

そこにいたのは、最後までアリシアさんと一緒に俺を説得しようとしていた我が幼馴染みだった

 

 

「……ケイジだよね?」

 

 

「落ち着けクローゼ。流石に死ぬから!息が……っ!!」

 

 

俺の姿を確認するや否や、仮にも鍛えていた俺が一切反応できないようなスピードで俺の胸ぐらを掴みあげるクローゼ。……お前絶対人じゃねぇよ……

 

 

「何でここにいるの!?何でお城から出て行っちゃったの!?おばあさまもみんなも怒ってたんだよ!?」

 

 

「ちょ……ゆら……すな……って!……!!」

 

 

息ができない+脳シェイク=三途の川への片道切符

 

 

「あ………ご、ゴメン」

 

 

「……………」

 

 

死ぬかと思った。マジで

 

 

……というかそこの夫婦。ニコニコしてないで止めろよ。「仲よしだね~」じゃねぇんだよ。三途の川渡りかけたんだぞ!?逆側の岸でジェイドさんがインディグネイションの詠唱してるの見て命懸けで帰って来たけどな!!

 

 

「そ、それでケイジはここにいるの?」

 

 

「それはこっちの台詞だ。クローゼこそ何でここに?ユリ姉はどうした?」

 

 

確かクローゼには護衛としてユリ姉が張り付いていたはずだ。こんな状況なんだから特に。

 

 

戦争中に王族から護衛を外すなんてまずありえないからな

 

 

……そんな事を考えて、さっきから一言も発しないクローゼを見ると、服をきつく握って涙目になっていた。何でさ

 

 

「グランセルに帝国の人が攻めてきて、それから逃げてる途中にユリアさんとはぐれちゃって……それで、どうしたらいいかわからなくなって……」

 

 

ぐすぐすと鼻を鳴らして泣き始めてしまうクローゼ

 

 

……ったく

 

 

「泣くなよ…」

 

 

「だって…」

 

 

「大丈夫だ。俺がお前を守ってやる。お前を泣かせる奴は全員俺が叩っ斬ってやるよ」

 

 

「え…」

 

 

「だから泣くんじゃねぇよ…結局ユリ姉に怒られんの俺なんだぞ?」

 

 

少しふざけるように肩を竦めながら俺はクローゼにそう言う

 

 

すると、クローゼは俺の芝居がかった仕草がおかしかったのか、泣き止んだ

 

 

 

「ふふ…わかった。でも…」

 

 

「…あ?」

 

 

「ちゃんと私の事、守ってね?」

 

 

 

そう、笑った

 

 

……そうか

 

 

リーヴ。ようやくわかったよ。お前が口癖みたいに言ってたことの意味が

 

 

「……ああ、約束だ」

 

 

 

『この人だけは何があっても護る……そんな人に出会えよ、ケイジ。人の意志ってのはバカにできないぞ?護りたいものが側にいるだけで、俺達人間はどこまでも強くなれる。忘れるなよ?護りたいものは俺達の枷じゃない。俺達の可能性なんだ。特に俺やお前みたいなバカにとっちゃな』

 

 

お前の言う通りだよ……護るものが、護りたい人がここにいる。それだけで……信じられないくらいに、力が湧いてくる

 

 

「俺が、お前を護ってやる。絶対に」

 

 

「うん……///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、ボースの西にある山脈の麓に滞在していた、帝国軍のレイストン要塞急襲部隊が突如失踪。連絡がつかない事を怪しんだゼクス・ヴァンダール少将が直々に安否確認に言った所、山脈は氷で閉ざされており、侵入が不可能。遠目で確認した部隊のキャンプは氷に閉じ込められるようにして破壊されていたという

 

 

後にその山脈は、“霧降り峡谷”と名を改める事となる

 

 

 

 

そして、“白烏”の名が広まるのも、ちょうどその事件の後からだった



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未来の扉『聖杯騎士団騒動記①』

お久しぶりです!


多分年内最後の更新かと……理由はバカテスを上げなきゃいけないのと、受験だから……(泣)


「よっと……ったく、何個あるんだよこのクソ重たいダンボール。もう十個は運んでんぞ」

 

 

「文句言わないの」

 

 

「でもティアー。コレ本当に重いんだよ~(泣)」

 

 

大晦日。年の暮れであるこの日、ケイジやティア達は騎士団の本部にある大聖堂で片付けを行っていた

 

 

ただの大聖堂と侮るなかれ、実はこの聖堂、全ての七耀教会の総本山であり、またアルテリア法国のシンボルでもあるために民の本当に自主的な寄付とボランティアで増築が積み重なった結果……グランセル城と同程度の規模にまでなってしまっているのだ

 

 

「にしてもイジメだろコレ。何だよ『大聖堂……担当、第一、第二師団』って。第二師団総勢四人+αだっての」

 

 

ちなみにリーシャは旅行?中です

 

 

「だから私達は倉庫だけの担当なのよ」

 

 

「「その倉庫が広すぎるんだよ!!」」

 

 

*ブライト家(屋内)くらいの広さです

 

 

「レーヴェはレーヴェで『む!ミッションスタートだ!』とか訳のわからんこと言って上手いこと逃げやがったしよ~。やってらんねーよ。まぁ、レーヴェは後でシメるけど」

 

 

「まぁまぁ……コレ終わったら大聖堂を五日間好きに使っていいって言われてるし……総長なんて今からお酒買い漁ってるわよ?」

 

 

「宴会程度じゃ割に合わねーよ……ん?」

 

 

軽く溜め息を吐いたケイジだったが、すぐに何か思い付いたように悪い笑みを浮かべる

 

 

「?ケイジどーしたの?」

 

 

「……なぁ、此所って確か一般市民立ち入りOK だったよな?」

 

 

「当たり前でしょう?アルテリアのシンボルよ?まぁ年末と年始は聖遺物の片付けとか騎士団が騒いだりとかで危ないから立ち入り禁止だけど……」

 

 

それをティアに確認したケイジはすぐさま通信機を手に取った

 

 

「あ、もしもし総長?俺だよ俺……いや、詐欺じゃねーから。つーか給料のほとんどが酒と煙草に消えるアンタから取るモンなんて皆無だろーが。いやな、年始って大聖堂貸し切りなんだろ。一日欲しいんだけど………ああ、ーーーをやりたくてな……え?総長もやんの?まぁいいけどな。……ああ、サンキュ」

 

 

それを見ていた二人は……

 

 

「これはまた……」

 

 

「面白そうな気がするよ~♪」

 

 

その後は三人とも、終始悪い笑顔で掃除していたらしい(こっそり帰って来ていたレーヴェ談)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

「………で?用って何だよ。俺年始めにリシャールさんと模擬戦やってたんだけど」

 

 

「僕に聞かれても……僕も通信でいきなり呼び出されたからね」

 

 

「リク達もなの?あたし達もよ」

 

 

「私に至っては有無を言わさず転移させられたの……」

 

 

「オレに至っては未だに訳わかってないんやけど……同じ騎士団やのに」

 

 

翌日、元旦の朝五時。上からリク、シオン、エステル、なのは、ケビン、そして喋っていないがヨシュアの6人が大聖堂の前の広場に集まっていた。勿論ケイジの呼び出しである

 

 

「あら、皆。早いわね。明けましておめでとう」

 

 

そして、何故かそこにキリカが現れる

 

 

「あ、キリカさん!明けましておめでとう!そして久しぶりです!」

 

 

「私はおめでとう以前に始めまして、ですね」

 

 

エステルを筆頭に年始の挨拶を返す6人

 

 

そしてそれを聞いてからキリカはおもむろに人数を数えだした

 

 

「……うん、聞いていたメンバーは全員いるみたいね」

 

 

「え?メンバー?」

 

 

「ええ。それじゃあルール説明を始めるわよ」

 

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。ルールって何の事ですか?」

 

 

流石に着いていけなかったのか、ヨシュアが尋ねる

 

 

「だからそれを今から説明するのよ。コホン……いい?今からあなた達にやってもらうのは、題して『絶対に笑ってはいけない七耀教会24時』」

 

 

「「さらばだっ!!」」

 

 

「はいはい、逃がさないわよ」

 

 

不穏な言葉を聞いたリクとシオンはすぐさま脱走を試みるが、一瞬でキリカに捕獲される。流石泰斗流免許皆伝

 

 

「ぐぅっ!あの野郎!俺らが逃げるのを予想してキリカさんに案内任せやがったな!?」

 

 

「嫌だ!お尻の感覚が痛覚だけになるのは嫌だ!」

 

 

全力でもがく二人だが、相手はキリカである。勿論びくともしない

 

 

そんな二人を見た残りの四人の心は一つ

 

 

『(今から何させられるの!?)』

 

 

「はい、じゃあルール説明に移るわね」

 

 

「そこの暴れとる二人はスルーなんか……?」

 

 

「今から24時間、あなた達にはこの大聖堂の見習い神父、シスターとして働いてもらいます」

 

 

「いや、見習いも何も僕の隣の人現役の神父なんですけど」

 

 

「働いている途中で笑わせられるポイントがあるけど、あなた達は絶対に笑わないこと。笑ったら罰ゲームがあるわ」

 

 

「「総じてスルー!?」」

 

 

「あ、あの……罰ゲームって一体……」

 

 

ケビンとヨシュアが軽く心にダメージを負ったところで、なのはがオズオズとキリカに尋ねた

 

 

「あら、いい質問ね。じゃあそこのアホ神父で試してみましょうか」

 

 

「いや、アホ神父って……」

 

 

『ケビン、アウトー』

 

 

キリカがボタンらしきものを押すと、あのお馴染みのSE と声が流れる

 

 

すると……

 

 

「このヘタレ甲斐性無しのネギニラ頭ーー!!」

 

 

「ぎゃああああああ!!!」

 

 

 

「………と、こんな風に軽くお尻をハリセンでシバかれるわ」

 

 

「軽く!?」

 

 

「ハリセンじゃなかったよね!?明らかにアレ法剣だったわよね!?というかアレリースさんでしょ!?」

 

 

「まぁ安心しなさいな。大聖堂に入ってからがスタートだから、今ならあのネギの恥態を笑っても大丈夫よ」

 

 

『(笑えねー……)』

 

 

「じゃあ早速行きましょうか。さっきも言ったけど、制限時間は大聖堂に入ってから丁度24時間。それまでは私が案内を務めます」

 

 

それを聞いた6人は瞬時に走り出す。入ってからがスタート……それ即ち、入らなければスタートしない!

 

 

しかし、そうは問屋が卸さない

 

 

「あ、そうそう。ケイジから伝言よ。『逃げたらインディグネイションな』」

 

 

『殺す気(か/なの)!?』

 

 

「本人曰く、『ギャグ補正が働いてくれるはずだから大丈夫……………多分。きっと。maybe 』だそうよ」

 

 

「どこまでも神頼みじゃねーか!!」

 

 

「ギャグ補正働かなかったら死ぬんですか!?」

 

 

「まぁ、とにかく……逝くの?逝かないの?」

 

 

『字が違うだろ!?』

 

 

 

6人に選択権はなかった




唐突ですが、アンケートを取りたいと思います


実は、無駄に碧の方のヒロイン勢にフラグ立てすぎたせいでロイドのヒロインが行方不明になってしまい……


なので今から挙げるヒロインから一人を選んで欲しいです


では……



1、ティオ……安牌だけど実はロイド処刑フラグ付き


2、フラン……一番差し障りないかも


3、イリア……クロスベルのファンに追いかけ回されますね(笑)


4、セシル……血が繋がってないから合法!


5、リーシャ……ケイジを諦めさせるか否か、それが問題だ


6、いっそオリキャラ増やしちまいなYO



ちなみに上記に無いヒロインは相手が決まってます。御了承下さい



期限は一月二十日までにします


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未来の扉『聖杯騎士団騒動記②』

「さて、先ずはここの管理人に挨拶に行くわよ」

 

 

6人を連れて入ってすぐ、キリカはそう言った

 

 

「管理人って……ケイジか?」

 

 

「さぁ?そこは私も知らないわ……っと、着いたわよ」

 

 

少しだけ他の扉よりも大きな『管理人室』と書かれた扉を開けて中に入るキリカ。6人も大人しくそれに続く

 

 

「失礼します。例の6人を連れて来ましたわ」

 

 

中に入ると、仮眠用なのか寝台と、聖書であろう本が大量に置かれた本棚、そして執務用の机……そこでゲンドウスタイルで座っているセルナート

 

 

「「…………!」」

 

 

元ネタを知っている転生者二人が吹き出しそうになるが、なんとか堪えたようだ

 

 

だが……

 

 

「やぁ、皆元気そうだね」←ヘリウム声

 

 

「「「ぶふっ!!」」」

 

 

『ケビン、リク、シオン、アウトー』

 

 

「オレだけピンポイントすぎへんか!?………いたっ!!」

 

 

「ゲンドウスタイルでそれはないだろ………うぐっ」

 

 

やはりというか、セルナートを知っているケビンと転生者二人がアウトとなる

 

 

「せこい………このピンポイントさはせこい……!」

 

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 

なのはが若干心配そうにするが……

 

 

「フム、君は優しいのだな。そんなどうしようもないネギをも心配するとは」

 

 

「あ、いえ、そんな事は………」

 

 

「ネギ言うな!」と言うケビンのツッコミは完全にスルーである

 

 

「いやいや、謙遜しなくてもいい。その優しさは君の美点なのだろうからな」

 

 

「い、いやぁ~///」

 

 

「………ところで、18にもなって魔法少女を自称するのは恥ずかしくないか?」

 

 

「なんで知ってるのぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」

 

 

『リク、シオン、なのは、アウトー』

 

 

「これは無理だろぉぉぉぉぉぉ!!………うっ」

 

 

「なまじ元ネタを知っていたばっかりにぃぃぃぃぃぃぃ!!…………っ!」

 

 

「なんで心と体にダブルでダメージ受けなきゃいけないのぉぉぉぉぉ!!………あうっ!」

 

 

「これは………辛いね」

 

 

「明らかに黒歴史をほじくりかえされたっぽいわね……」

 

 

とりあえず、なのはとの付き合い方を変えようかどうか本気で悩むバカップルであった

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「開始早々酷い目に遭ったの…………」

 

 

「全くや………」

 

 

「疲れるのはまだ早いわよ?まだ23時間23分残っているのだから」

 

 

早くも数名が疲れているが、そんな事はお構いなしにキリカはどんどん歩を進める

 

 

「ほら、着いたわよ。ここが今日貴方達が使う執務室。とは言っても御飯の時くらいしか使わないだろうけど」

 

 

執務室には6つのデスクが置いてあり、それぞれに名前が彫られてあった

 

 

そして、書かれてある名前通りに6人が座ると、キリカは「朝ごはんを用意する」と言ってすぐに部屋を出て行ってしまった

 

 

「…………なぁ、シオン」

 

 

「うん。間違いないよ。これは……」

 

 

二人は顔を見合わせて頷くと、すぐに机のチェックを始める

 

 

それに残りの四人も訳がわからないままに二人の真似をし始めた

 

 

「……何かあったか?」

 

 

「オレは何もないで?」

 

 

「ボタンが一つ」

 

 

「私もなの」

 

 

「あたしは鍵が……」

 

 

「僕も同じだよ」

 

 

「そうか……俺は開かない引き出しが2つだ」

 

 

そう皆で報告しあうと、とりあえず黙りこんでしまう

 

 

「ボタン、押してみーひん?」

 

 

「そうだな………」

 

 

「じゃあ私からいくの」

 

 

なのはがボタンを押すと、何処からともなくリュートの音色と歌声が聞こえて来る

 

 

「こ、これはまさか……」

 

 

「いや、確定だろ」

 

 

 

パカッ

 

 

「やぁやぁハニー達~。楽しんでるか~い?」

 

 

『………………』

 

 

突然壁の一部が開いたかと思うと、サンバの格好(女性用)をしたオリビエが大量の花と共に現れる

 

 

そして、無言6人を完全にスルーして一曲しっかり弾き語りするオリビエ。オリビエは弾き語りを終えるとリュートを背中に背負い、何処からともなくマイクを取り出すと……

 

 

『全員、アウトだよ』

 

 

『ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』

 

 

『あ、野郎共は二回アウトね』

 

 

「「「「理不尽!!すっごい理不尽んんんんんん!!」」」」

 

 

そしてオリビエは全員がしばかれてる中、一人優雅に髪をかきあげる

 

 

「フッ…………いつもは基本的に虐げられて、これもユーモアだと我慢してたけど……いざそれが無くなるとなかなかに寂しいものだね」

 

 

『え?じゃあオリビエもついでにアウト。あ、野郎は二回だったか?じゃあ二回アウトな』

 

 

 

「……………………え゛」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アッーーーーーーーーーーーーー!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、オリビエはオリビエだった




とりあえず中間発表~!!


一位、ティオ………5票


二位、セシル・フラン………3票


三位、なのは・はやて………2票


四位、イリア、オリ…………1票


最下位、リーシャ………0票




何故か応募していないリリカル票が上位に……


しかしティオが強い。流石安定の幼女


リーシャはダメって声が多いですね。やったねリーシャ!ある意味大人気だよ!


まだまだ投票待ってます~!







……え?今年は投稿しないんじゃなかったのかって?


……………受験生ってさ、ストレスたまるんだ……


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未来の扉『聖杯騎士団騒動記③』

「流石に理不尽過ぎるやろ……」

 

 

「オリビエの野郎……なんちゃって皇子のくせに……」

 

 

「あはは……じゃあ次いくわよ?」

 

 

オリビエ襲来に不満タラタラの男性陣であったが、気を取り直してエステルが二つ目のボタンを押してみる

 

 

すると、天上から何かが降りてきた

 

 

「え?何 ?」

 

 

「スクリーン……映像かな?」

 

 

「あ、映ったの」

 

 

映し出されたのは、導力車が雨の中を走っている映像だった

 

 

「?何よこれ。普通に車が走っているだけよね?」

 

 

「ミスで映し違えたんじゃねぇか?」

 

 

そう言いながらも映像が終わらないので普通に見続ける6人

 

 

そして、それから一分ほどすると、突然導力車の前に一人の男性が両手を広げて飛び出してきた……ミュラーだ

 

 

「ちょ!?」

 

 

「ミュラーさん!?」

 

 

しかし間一髪、ギリギリで導力車が止まる

 

 

そして突然アップで映し出されたミュラーはキリッとした顔で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は死にましぇ~~~~~ん!!」

 

 

 

『全員アウトー』

 

 

「「これ反則だろぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

 

 

「こっちにもこのドラマあるのぉぉ!?」

 

 

「こんな物語読んだことあるぅぅぅぅ!!」

 

 

「ミュラーさんのキャラじゃないぃぃぃぃ!!」

 

 

開始から約二時間。すでにお尻がヒリヒリし始めた6人だった

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「……で?この鍵どうするの?」

 

 

「どうするって……開けるしかないよ高町さん。開けなかったら多分朝御飯抜きになるし」

 

 

「じゃああたしのヤツからいくわよ」

 

 

緊張した面持ちでエステルがリクの引き出しに鍵を差し込むと、カチャリという音と共に引き出しが開いた

 

 

その中には……

 

 

「ハンドベル?」

 

 

「みたいだね……じゃあ僕も開けるよ?」

 

 

ヨシュアもエステルに続いて引き出しを開けると、これまた同じようなベルが出てきた

 

 

「……鳴らす?」

 

 

「しかないやろ。じゃあエステルちゃんの方から頼むわ」

 

 

ケビンが言うとすぐにエステルがベルを鳴らす

 

 

すると、すぐに出入口のドアが開く。そこには……

 

 

「お、お呼びですか……?」

 

 

恥ずかしそうにしながらモジモジして、スカートの裾をキュッと握った、メイド服姿(アネラス監修)のアリアンロードがいた

 

 

 

「眼福じゃあああああああ!!」

 

 

「いや、それ以前に何でアンタがここにおるんや“鋼の聖女”!?」

 

 

約一名バカ(リク)が暴走したがスルーである

 

 

ちなみにケビンはケイジと一緒の任務中にたまたま目的が同じだったアリアンロードと協力したことがあるので、アリアンロードとは顔見知りである

 

 

「わ、私もこのような侍女の真似事などする気はありませんでしたよ!!『正月くらい敵味方関係なく騒ごう』と白烏に誘われて来てみたらいつの間にかこうなったのです!」

 

 

そう言って6人を睨むアリアンロードだが、いかんせん涙目で顔が赤いせいか全く覇気がない。むしろなんなら可愛らしいくらいである

 

 

「(ねぇリク。あの人誰?)」

 

 

「(ん?ああ、お前3rdまでしか知らないんだったな。簡単に言うなら倒さなくちゃならない中枢塔(アクシスピラー)のレーヴェって思っとけ)」

 

 

「(ドチートじゃないか……)」

 

 

そんな人物がここにいることが凄いのか、そんな人物にメイド服を着せるケイジが凄いのかわからなくなったシオンであった

 

 

 

 

「……つーことはアンタも被害者かいな……」

 

 

「うぅ……まさかあんなマイナスイオンを放っていた少女が酒に睡眠薬を盛るなんて……戦わないと言っていたのに……」

 

 

ちなみにそのマイナスイオンを放っていた少女は睡眠薬が入っていたことを知らない。全てはドS 二人の策である

 

 

「まぁあれや……強く生きや?」

 

 

「何故でしょうか……優しくされると泣きたくなるのですが……」

 

 

「……とりあえず次いこうか」

 

 

「……そうね」

 

 

カオスになってきた三人を無理矢理正気に戻し、今度はヨシュアがベルを鳴らす

 

 

すると、やはりドアが開いて……

 

 

「……………」

 

 

『『………………』』

 

 

 

「………………」

 

 

『『…………………ブフッ』』

 

 

女装したレーヴェがいた

 

 

『全員アウトー。アリアンロードとレーヴェもアウトー』

 

 

「「マジでふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 

「何してるのさレーヴェぇぇぇぇぇ!!?」

 

 

「お前いつものクールキャラどこにいったんやぁぁぁぁ!!」

 

 

一同の渾身の叫びと尻を叩かれる音が部屋に響く

 

 

「「なんで俺(私)まで!?」」

 

 

「ついでだからさ☆」

 

 

「って白烏貴方キャアア!!?」

 

 

「ケイジ貴様後で覚えぇぇぇぇ!!」

 

 

何故か普通にその場にいたケイジにシバかれるメイドs。そして物凄く恍惚とした表情でメイドsの尻をシバくケイジ。カオスである

 

 

「ってケイジ!アンタ本当にいい加減にしなさいよ!」

 

 

「そうなの!私まだ仕事が残ってたの!」

 

 

「黙ってろヨシュコンに仕事病(ワーカーホリック)。ここに俺がいるのは案内役が交代したからだよ。キリカさんがカルバードから呼び出し喰らったらしくてな……」

 

 

仕置き棒を肩に置いてふぅ、とため息を吐くケイジ。6人+2人は非常にイラッとしていた

 

 

「ってレーヴェ、お前何してんの?」

 

 

「見てわからないか?この上ない屈辱なんだが。というかお前がさせているんだろうが」

 

 

「誰が野郎にメイド服なんか着せるか。……まぁ、趣味は人それぞれって言うしな……」

 

 

「待て。俺は今屈辱だと言った筈だ」

 

 

「大丈夫だ。レーヴェはレーヴェだから。今まで通りに接してやるから。……だから俺の半径2メートル以内には入らないでくれないか?」

 

 

「憐れみの目で見るな!距離を取るな!俺はノーマルだ!普通の男だ!そんな特殊な趣味はないんだぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「好きな女性のタイプは?」

 

 

「カリン」

 

 

「本当にブレねぇなお前……」

 

 

「…………」

 

 

「アリアンロード。その『え?』という視線を止めてくれないか?ヨシュアの目からハイライトが消えているんだが……」

 

 

「私の事はリアンヌと呼びなさいと何度言えば……」

 

 

「レーヴェ……ネエサンヲウラギッタノカナ……?」

 

 

「落ち着けヨシュア。今のお前はカリンがキレた時を彷彿とさせるんだ」

 

 

そう言うレーヴェは軽く震えていた

 

 

そして、ヨシュアがレーヴェに折檻を始めようと言う時に、懐中時計を見ていたケイジが

 

 

「時間だな。回収部隊~!」

 

 

そう言ってボタンを押すと、壁がパカッと開き、そこから出てきた某ザッフィーと某シグナムが入ってきて、そのままメイドsを引きずって行った

 

 

「………これでよし」

 

 

「「「(今の誰!?)」」」

 

 

「(なんであの二人がここにいるの!?)」

 

 

「「(何であの二人チョイスした!?)」」

 

 

 

全ては子狸のせいである

 

 

「さて、じゃあ早速働いてもらうぞ~」

 

 

「ちょっと待ってよケイジ。朝御飯は?」

 

 

「ハッハッハ、シオンくん。決まってるじゃないか………リースに喰われた。今日の朝飯全員分……」

 

 

 

「……………」

 

 

そこにいた全員の腹の虫がむなしく鳴いた



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未来の扉『聖杯騎士団騒動記④』

「とりあえず朝一の仕事は掃除だ。俺は管理人室にいるから終わったら呼びに来てくれ」

 

 

「掃除って……ここ全部?」

 

 

「ガンバ!」

 

 

『『ふざけんなぁぁぁぁぁ!!』』

 

 

大聖堂の本堂に6人の絶叫がハウリングするほどに響いた

 

 

「お前ここ……一個師団全員で頑張ってようやく一日で終わる広さやぞ!?」

 

 

「うるせーな……変態スペックのお前らなら3~4時間あれば終わるだろ」

 

 

『『無理だよ!というかお前にだけは変態スペックとか言われたくないわ!!』』

 

 

全力でツッコむ6人。確かにこの6人でかかっても勝てるかどうかというようなスペック持ちに言われたくはないだろう

 

 

「チッ……仕方ねぇな。なら倉庫だけでいいよ倉庫だけで」

 

 

「それぐらいなら……」

 

 

どこぞの空中庭園くらいの広さからブライト家本宅くらいの広さになったのでひとまずは胸を撫で下ろす6人

 

 

……それでも大概なスペックなのだが

 

 

「……ってオイ、確か今年の倉庫掃除って確か第二師団……」

 

 

「じゃ!終わったら呼びに来てくれ!」

 

 

「待てコラ逃げんなやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

どうやら結局ケイジ達は掃除をサボっていたようで……

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「よっと……思ったより整理されてたね」

 

 

「というか中身の大半が入れ替えられとるな……これやったら別に逃げんでもよかったやろうに……」

 

 

倉庫の整理は二時間半と比較的早く終わった。どうやら重いものや危険なものはあらかじめ撤去されていたようだ

 

 

……勿論その裏には第一師団のみんなの涙と汗が迸るドラマがあったのだが

 

 

「何かあると思って警戒しとったけど無駄骨やったか?」

 

 

「……いや、そうでもなさそうだよ」

 

 

『『は?』』

 

 

全員の目がヨシュアに向く。そのヨシュアの手には一冊のノートが握られており、それを見たリクの目がカッと開かれる

 

 

「そ、それは………伝説の『ジャ○ニカ弱点帳』!!」

 

 

「名前からして嫌な予感しかしないの……」

 

 

「……しかも名前の所に『てぃお』って書いてあるのがまた……」

 

 

『ティオ』ではなく、『てぃお』である。ここ重要

 

 

「それにね……これ、ノートなのに何故か再生ボタンがついてるんだよ……」

 

 

『『(根拠は無いけど……すっごい嫌な予感がする……)』』

 

 

どうやらこれまでのやり取りは6人に軽いトラウマを植え付けたらしい

 

 

「……とにかく、再生するよ」

 

 

そして、ヨシュアが再生ボタンを押すと……

 

 

『ーーリリカルマジカル!』

 

 

『『ブハッ!』』

 

 

「何で私の黒歴史ばっかり知ってるのぉぉぉぉぉ!!?」

 

 

『なのは以外アウトー』

 

 

そりゃ目の前の人物の声であんな恥ずかしいセリフを言われると笑ってしまうだろう

 

 

 

 

 

「うぐ……高町お前……黒歴史何個持ってんだよ……」

 

 

「まだ大丈夫だもん!18歳はまだ少女だもん!」

 

 

「無理でしょ……」

 

 

ちなみにケビン以外の5人は全員17~19歳である

 

 

「そ、それを言ったらリクくんとかシオンくんの服だって厨二なの!」

 

 

「「軍服だからどうしようもないよ。ケイジ以外は」」

 

 

「う~……ケ、ケビンさんのも……」

 

 

「これ一応聖具の古代遺物(アーティファクト)やからなぁ……簡単に言うたら万能防弾防刃防魔ベストやし。命には変えられへんやろ?」

 

 

「……わ、技名を叫ぶのは……」

 

 

『『その言葉熨斗付けて返してやるよ』』

 

 

「うわあああああん!!」

 

 

堪えきれなくなったなったのか、走り去ろうとするなのは。しかし、ドアに手をかけた瞬間に突然大きなタンコブを作って気絶してしまった

 

 

『『………………は?』』

 

 

フリーズする5人。そしてそこに一枚の紙が落ちてきた

 

 

「え、えっと……『脱走は禁止です。次はないですよ?』……?」

 

 

『『…………………』』

 

 

「……とりあえず、ケイジに報告しに行こか」

 

 

「……そうですね」

 

 

そうして、約一名の心に深い傷を、他の5人に底知れぬ恐怖を与えた掃除がようやく終わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「確か管理人室でよかったよな?」

 

 

「そやで」

 

 

なのはの介抱をエステルに任せ、男子四人で報告しに向かう

 

 

そしてケビンが管理人室の扉を開ける

 

 

「おーいケイジー。掃除終わっ……」

 

 

そしてフリーズした

 

 

「ケビン?どうしたん……」

 

 

ケビンに声をかけて中を覗いたリクも同じくフリーズする

 

 

 

部屋の中では……

 

 

 

「ふぅ……ようやく捕まえた」

 

 

「フフフ……ケイジ?もう逃げられないからね?」

 

 

「むー!むー!!」

 

 

仮眠用のベッドの柱に四肢を手錠で拘束され、クローゼとフェイトに馬乗りにされているケイジがいた

 

 

「む!?……プハッ…オイそこのバカ二人!助けて!マジで!!」

 

 

「「……………」」

 

 

絶対に助けてもらう側の態度じゃない

 

 

「ここまで本当に長かった……!お祖母さま、曾孫の顔は直に見られますからね……!」

 

 

「リンディ母さん、プレシア母さん……フェイトは今日、女になります!」

 

 

「何冗談にならないこと言ってんの!?ふざけんな!俺まだ独身貴族を満喫したいんだよ!俺の自由権を主張します!!」

 

 

「「恋愛って自由なんだよ?」」

 

 

「知らねーよ!!ケビン!リク!このバカ二人止めてくれ!」

 

 

「「お邪魔しました~」」

 

 

「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!!早まるな!!カムバッーーク!!」

 

 

素早くドアを閉めてヨシュアとシオンに向き合う二人

 

 

「……何があったの?」

 

 

「いや……ちょっとな」

 

 

「ちょっとって何さ?」

 

 

「いや、年貢の納め時というか自業自得というか……」

 

 

『これが……ケイジの……///』

 

 

『クローゼ、最初は私だよ?///じゃんけんで決めたの忘れてないよね?』

 

 

『仕方ないね……約束は約束だし……』

 

 

『お前ら何俺の預かり知らないところで恐ろしい契約結んでんの!?ちょっと待てフェイト。落ち着け。話せばわかる。だから跨がるな服を脱ぐな顔を近付けるな!クローゼも止めろよ止めて止めて下さい!!この小説15禁だから!!このままだと間違いなく18禁入るから!ってちょっとマジで助けてティアえもーーん(ストッパー)!!』

 

 

『『さぁケイジ、種の貯蓄は充分かな?』』

 

 

 

「「「…………………」」」

 

 

「?」

 

 

絶句する三人。そしてどういう訳か全くわかっていないシオン

 

 

「……ねぇ、リク」

 

 

「何も言うなヨシュア。俺らは何も見ていないし聞いてない。あぁ、別にリア充滅べとか全く思っちゃいねぇよ……」

 

 

「いや、血の涙流しながら言われてもな……」

 

 

「何の話?」

 

 

「「「お前(君)にはまだ早い」」」

 

 

シオン・アークライト。未だに赤ちゃんはコウノトリが運んでくると信じている純粋すぎる17歳である(全てはケイジのせい)

 

 

「……あれ?お前ら何やってんの?掃除は?」

 

 

「いや、終わったけどケイジがやな……」

 

 

「俺が何?」

 

 

「いや、だからケイジが…………え?」

 

 

何故か中で搾り取られているはずのケイジが目の前でたい焼きを頬張っていた

 

 

「………え?………え?」

 

 

「中に何かあんのか?………は?」

 

 

ケイジが中を覗こうとした瞬間、ヨシュアとリクの見事な連携で簀巻きにされる

 

 

 

「え?何?何で俺縛られてんの?」

 

 

「ごめんケイジ。僕らも命は惜しいんだ」

 

 

「まだ死にたくねぇんだ……そして爆発しろリア充」

 

 

よくよく見てみると、ヨシュアとリクはものすごく冷や汗をかいており、その後ろの管理人室の扉からはなんとも言えない禍々しいオーラが漂っていた

 

 

そしてケイジはその中に速攻で放り込まれた

 

 

そこにいたのは……

 

 

「フフフ……ケイジ、焦らすのも行きすぎるとダメなんだよ?」

 

 

「そうだよ。もうお預けはいらないよ?幻術で逃げようなんて……許さないからね?」

 

 

 

「………………」

 

 

 

その後、ケイジがどうなったのか知る者はいない(全員後が怖くて逃げたため)








最近こういったメッセージを何個か頂いたので……









コラボ……だと……?かまわん!好きなだけ持っていけぃ!


P.S. 一言断りは下さい。そして話を上げたら報告も頂けるとうれしいです


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未来の扉『聖杯騎士団騒動記⑤』

「おーし……じゃあ次、集会行くから……」

 

 

「ケ、ケイジ?あんた何かやつれてない?」

 

 

何かを悟りきったような遠い目をするケイジに、流石に心配したのかエステルが声をかける

 

 

「気のせいだ」

 

 

「そ、そう?」

 

 

「ああ、全部気のせいだ。……俺はまだ大丈夫だ……人生の墓場になんて行ってたまるかよ……ケイジ・テスタロッサ・ハラオウン・アウスレーゼなんて絶対ゴメンだ……」

 

 

「「「(何があったんだろう……?)」」」

 

 

女性陣+シオンが疑問に思う中、ヨシュアがケイジの肩に手を置く

 

 

「まぁ、その…元気だしなよ」

 

 

「…………」カチッ

 

 

『ヨシュア、アウトー』

 

 

『『何で!?』』

 

 

「ムカついた」

 

 

「ちょ、酷……っっ!!」

 

 

ヨシュア、ドンマイである

 

 

「……まぁ、あれだ。本堂行ってこい。今日集会あるから……」

 

 

「ケイジはどうするんや?」

 

 

「空き部屋で寝る……徹底してトラップ張ってから……」

 

 

「賢明な判断やな」

 

 

そして6人は本堂へ向かった

 

 

……ちなみに、ケイジはクロフェイはきっちり返り討ちにしていたそうな。ドSの根性と言うか何と言うか……

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「人多いね……」

 

 

「これでも一応一国の騎士団やからな。守護騎士(オレら)付きの従騎士はともかく、一般の騎士はそれなりにおるんや。今ここにおんのは第一師団だけみたいやけどな」

 

 

本堂にある椅子はすでにほとんどが埋まってしまっている。それほどに人の数が多かった

 

 

だが6人は知らない。今回は第一師団も仕掛人だと言う事を……

 

 

『おい、聞いたか?今日の集会ゲストが来るんだってよ』

 

 

『聞いた聞いた。どっかの国の元軍人だろ?物凄いカリスマがあるんだってよ』

 

 

「へぇ……騎士団ってこんな事もやるの?」

 

 

「いや、集会自体は総長の気紛れで不定期開催やけど……ゲストなんか聞いたこともないわ」

 

 

ちなみに大体はセルナートが言いたい事を言って終わるだけである

 

 

「どうでもいいけど、早く座りたいの」

 

 

「そうだね……じゃあ席を探そうか」

 

 

「前の方が割と空いてるぞ」

 

 

そして、唯一6人分の席がまとまって空いていた所に座り、しばらく待っていると、鐘が鳴って場が静かになる

 

 

すると、横の扉から金髪の男性が現れた

 

 

「(……ってリシャール大佐!?)」

 

 

「(何やってんだあの人!?)」

 

 

そう、ゲストとはタマネg……もといリシャールだったのだ

 

 

リシャールはそのまま中央の聖壇の前に立つと、凛とした表情で口を開く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諸君、私はロリが大好きだ」

 

 

*全員アウトですが、引き続き演説を続けます

 

 

「諸君、もう一度言う。私はロリが大好きだ」

 

 

『(二回も言うな!)』

 

 

「幼い女の子が好きだ。未発達な体躯が好きだ。舌足らずな口調で呼び止められるのが好きだ。袖をくいっと引かれて上目遣いで見られるのが好きだ。ロリに大好きと言われて抱きつかれるのは嬉しいものだ。成人していて尚ロリ体型を保った女性を見ると心が震える。エターナルロリータを見た時など絶頂すら覚える。ロリかと思ったらショタだったのは悲しい事だ……成長してロリでなくなった女性は悲劇の塊だ

……諸君、再度告げる。私はロリ……ロリータが大好きだ」

 

 

「(何で最後だけ思い出したようにロリータって言った!?)」

 

 

「(というか真顔はヤメテ……)」

 

 

恐ろしい事に、リシャールはこの台詞を完璧な真顔で言い切っていた。そして一応彼の名誉のために言っておくが、彼にロリコンの趣味はない。多分

 

 

……某赤毛とは違うと信じてあげよう

 

 

「諸君はどうだ?ロリータに心を動かされはしないか?」

 

『『ロリータ!ロリータ!ロリータ!ロリータ!』』

 

 

『うわぁ……』

 

 

6人はドン引きである

 

 

「最前列のハゲだけ異様に熱いわね……」

 

 

「あんなん騎士団におったっけ……」

 

 

騎士達の返答を聞いたリシャールは満足そうに頷く

 

 

「よろしい。ならばロリータだ」

 

 

『(意味がわからない……)』

 

 

「ロリータとは?」

 

 

『『愛で、見守るもの!!』』

 

 

「合言葉は?」

 

 

『『YESロリータNOタッチ!!』』

 

 

「よろしい!ならば着いて来い!我等の意思をもってロリコニアを建国するぞ!革命だ!」

 

 

『『イエス・ロリ!!』』

 

 

そして全員が猛烈な勢いでどこかに走り去って行った

 

 

 

「あいつら……疲れとんのかな……」

 

 

「多分そうだと思う……昔のリクよりマシだけど」

 

 

「オイコラどういう意味だ」

 

 

リクが青筋を立ててシオンに詰め寄ろうとすると……

 

 

『リク8回、シオン7回、エステル9回、ヨシュア7回、なのは6回、ケビン11回アウトー』

 

 

『『やっぱりな!!』』

 

 

その後、本堂に尻を叩く音が虚しく響いた

 

 

……ちなみに、最前列でヒートアップしていたロリコン達の星杯手帳にはアルテリアに来たばかりのロリーシャの写真が挟まれていたそうな……

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

さて、リシャール来襲(?)の後、6人は執務室……はたぶん無理なので管理人室に戻るために廊下を歩いていた

 

 

「き、きついの……」

 

 

「もうお尻の感覚が……」

 

 

まだ半日残っているのだが、すでに限界が近いようだ

 

 

「……今のうちにトイレに行ってくるよ。なんかこの先そんな暇無さそうだし」

 

 

「そうね……この先座るのも苦労しそうだもんね」

 

 

そして結局トイレ休憩となり、ケビンとヨシュアだけが部屋に戻ることとなった

 

 

「ヨシュアくんは大丈夫なんか?」

 

 

「元結社の暗殺者なめないで下さいよ。僕は隠形を使って潜む時に一日二日潜み続けることなんてザラだったんですよ?」

 

 

「そういえばそうやったな」

 

 

そしてケビンが管理人室のドアノブに手をかけると……

 

 

『……なっ!?リーシャお前どうやって!?』

 

 

『元伝説の凶手なめないで下さい。あの程度のトラップならどうということはありませんよ」

 

 

『嘘ォ!?入口どころか天井の裏から窓の外に地下、壁の中に部屋の中まできっちり仕込んだ筈だ!現にそこのバカ二人は磔で気絶してんだろうが!』

 

 

『フフフ……今の私に不可能なんてありませんよ(元々私が最後の約束でしたけど……二人とも抜け駆けなんてズルいです)』

 

 

『くっ、かくなる上は逃げ………って何この手錠!?すんげぇ嫌なデジャヴなんだけど!?』

 

 

『という訳でケイジさん………』

 

 

『ちょっと待て落ち着け。お前まだ15だろ。俺は犯罪者になるつもりはない』

 

 

『つい先日16歳になったので大丈夫です……デキたら責任取ってくださいね?』

 

 

『は?……ちょっと待てだからこの小説全年齢目指してんだってェェェェ!!』

 

 

 

「「………………」」

 

 

「ふぅ……ってケビンにヨシュア?入らねぇのか?」

 

 

「いや……な?」

 

 

「たった今入れなくなってね……」

 

 

「は?」

 

 

「……ケイジの死因って絶対後ろから刺されるか腹上死かやと思うんやけど」

 

 

「多分そうなるでしょうね……」

 

 

「?」

 

 

事情を飲み込めていないリクを他所に、遠い目をするケビンとヨシュアであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

何とか全員を上手く誤魔化し、お昼時ということで今度は食堂に向かうことにした6人

 

 

だが、そこに

 

 

「あ!エステル見つけた~!」

 

 

シャルがエステルに抱きつき、その奥からご機嫌のティアとぐったりしたウルが現れる

 

 

「え?シャル?どうしたの?」

 

 

「ティアに言われてエステル達を探してたんだよ」

 

 

「ケイジはもう今日は行動不能でしょう?」

 

 

そう言ってかなり黒い笑みを浮かべるティア

 

 

『『(元凶コイツか!!)』』

 

 

もしかしたら第二師団のヒエラルキーの頂点はティアなのかもしれない

 

 

『その対価に(わたし)がクローゼに売られたんだよ……撫で回されて疲れた……』

 

 

そう言ってティアの頭の上でぐて~っとしているウル。今の狐にはシリアスブレイカーの面影など微塵もない

 

 

「それで、何で俺達を探してたんだ?また案内役の交替か?」

 

 

「残念ながら違うわ。終了のお知らせよ」

 

 

『『……………………は?』』

 

 

あまりの唐突さに嬉しさよりも疑問が先に来る6人

 

 

「理由は簡単よ。今回の企画を立てたケイジが行動不能。まぁ、これは当初の予定通りだったのだけれど……」

 

 

「オイ、今恐ろしい陰謀の一角をサラッと言いやがったぞコイツ」

 

 

「まさか総長が去年の分の書類を終わらせてなかったとは思わなかったのよね」

 

 

そう言ってため息を吐くティア。安定のスルーに流石のリクもさめざめと泣き出してしまった

 

 

「アッバスはそういう所厳しいからね~。多分総長のお正月無くなるんじゃないかな?」

 

 

「(総長……どんだけサボっとったんや……)」

 

 

「そういう訳で遊びは中止。まぁ私は面白かったからいいわ」

 

 

「じゃあエステル、フェイトとティオと一緒に今度遊びにいくね?」

 

 

そう言って第二師団組はさっさと去って行った

 

 

 

『『……………え?終わり?』』

 

 

「嬉しいハズなのに……」

 

 

「なんか……しっくり来ない……」

 

 

若干のモヤモヤを残しながら、地獄は終わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『請求書

 

人事費、材料費、その他諸々を合わせた合計……三億ミラ也』

 

 

「ふっ………今年一年タダ働きか……」

 

 

そして、費用を全て押し付けられたセルナートの今年も終わった



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『本当の意味の約束』




クリスマス中に上げるつもりだったのに……


誰だハーメルンにアクセス制限させた奴は!


「………これが、お前の知らない百日戦没の裏側だ」

 

 

泉の水に体を預けて浮かびながら、ケイジはクローゼに言う

 

 

「あの時レミフェリアから来た医療チーム8組の内、6チームは全滅してる。それだけ見れば俺達のキャンプが襲われたのも悲劇ってもんじゃなかった。

それでも……俺はどうしても割りきれなかった。正直、今でもまだ引き摺ってるよ。あの事件と同じ、いや、それ以上の悲劇も何度も見たし、経験した筈なのに……まだ、振り切れねぇんだ。俺があの時銃弾なんか喰らわなかったら……俺があそこにいなけりゃ、俺が、俺さえいなければリーブとジェイドさんは死ななかったってな」

 

 

クローゼは泉の淵に腰掛けながらケイジの話を静かに聞いている。それを見たケイジは遠慮なしに話を続けた

 

 

「それだけじゃない。俺に関わって不幸になった奴はたくさんいる。

 

……例えばレーヴェ。あいつは罪を償うために死ぬより辛い道を歩いてる。頭下げに行って顔を腫らしたり頭に包帯巻いて帰って来た時だって何度もあった。……その選択肢を選ばせたのは俺だ

 

 

……例えばティア。あいつは俺がいなけりゃ今も兄貴と平和に暮らしてたかもしれない。あいつから兄貴を奪ったのは俺だ。多分あいつは俺を殺したいくらいに憎んでるだろうな

 

 

……例えばシャル。あいつを地獄から更なる地獄に叩き落としたのも俺だ。今のあいつの性格も俺が強要したようなもんだ。俺は結局あいつを助けられてないままなんだ

 

 

……例えばリーシャ。俺と出会わなかったら聖痕(あんなもん)を押し付けられる事もなかった。普通に足洗って普通に生きていけるはずだった。死にかける事もなかっただろうな

 

 

例えばフェイト。俺と関わらなければこんな得体の知れない場所に来る事もなかった。あいつはあいつの世界で平和に生きていけた。あいつを巻き込んだのは他でもない俺だ

 

そして……クローゼ。お前もだ。俺がいなけりゃお前はこんな危ない事件に巻き込まれる事もなかった。普通に姫として、次期皇太女として、普通に結婚して立派な女王として生きていけたはずだった」

 

 

ケイジの言葉を、クローゼは目を閉じて聞く。今までのクローゼなら怒っていてもおかしくないような言葉であったが、クローゼは動かなかった

 

 

「俺は自分が疫病神だと思った。だからこそ距離を取った。壁を作った。もう大事な奴が泣くのは見たくなかったから……だから、自分からは絶対に近寄ろうとしなかった」

 

 

そして、クローゼはゆっくりと目を開く

 

 

「今は、どう思ってるの?」

 

 

穏やかに、顔に微笑みさえ浮かべながらクローゼは言った

 

 

「変わらないって言ったら?」

 

 

「サンタクスノヴァ♪」

 

 

ケイジの背筋に寒気が走った

 

 

「下手な冗談は要らないよ。ただ、ケイジの正直な気持ちを教えて?今はどう思ってるの?」

 

 

クローゼの真っ直ぐな視線に、ケイジは少し考えた後に口を開いた

 

 

「そうだな……正直、わからない」

 

 

「わからない?」

 

 

「ああ……俺には全部振り切るなんざ出来そうにない。ただ、今までみたいに壁を作ろうなんざもう二度と思えそうにねぇんだ」

 

 

ケイジはそう言うと泉の底に足をつけ、そのままゆっくりとクローゼに近付いていく

 

 

そして……そのままクローゼを抱き締めた

 

 

「…………あ……」

 

 

「そう思えるようになったのは……多分お前のおかげだ。俺に仲間の大切さを教えてくれたのも、俺が強くなると決めたのも、俺が他人との関わりを完全に断とうと思えなかったのも……きっかけは全部お前だった

 

クローゼ。俺がお前を護る。あの時の約束を本当の意味で実行する。お前の身だけじゃなく、心も。だから……」

 

 

そしてケイジはクローゼから少し身を離し、目を見つめる

 

 

「こんな俺でも、貴女の側にいていいですか?」

 

 

その言葉にクローゼの目から涙が溢れ出す。ずっと望んでいた、ずっと待っていた言葉をようやく聞けた気がしたから。追いかけて、取りこぼして、追いかけて、取りこぼして。ようやく掴んだ幸せだから。ようやく、ケイジがそこにいてくれるのだから

 

 

クローゼの返事は決まっている

 

 

「っ!………はぃ……!!」

 

 

肯定。それ以外はあり得ない

 

 

クローゼはケイジの目を見つめた体勢のまま、何かを求めるように目を閉じる

 

 

ケイジもそれに答えるように徐々にその距離を短くしていき、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を、しているのかなぁ?」

 

 

「抜け駆けしすぎじゃありませんかねぇ?」

 

 

 

……その距離はゼロにはならなかった

 

 

クローゼがその声を聞いて即座に目を開けると、目の前には魔力刃と氷の大剣が。……後数ミリズレていたらケイジかクローゼの命はなかっただろう

 

 

これには流石にクローゼも怒り、振り向いて邪魔者に文句を言おうとして……言えなかった

 

 

クローゼが振り向いた先には、男女問わず魅了するであろう女神ような笑顔を浮かべた、しかしながらドス黒いオーラを纏ったフェイトとリーシャがいたのだ

 

 

 

「確かにケイジを元気つけて来てとは言ったよ?でも私いい雰囲気になれとは言ってないはずなんだけどなぁ」

 

 

「私が気絶してる間に何をしてくれてるんですか?」

 

 

「え?いや、あの……」

 

 

あまりのドス黒いオーラに何も言えなくなるクローゼ。しかも恐ろしいことにそのオーラはピンポイントにクローゼだけに向けられているため、ケイジには伝わっていない。恐るべし乙女の底力

 

 

……魔力刃とか大剣とかの時点でその努力は結構無駄になっているのだが

 

 

「さてと……クローゼ。とりあえず向こうで魔王(なのは)式のO☆HA☆NA☆SHIしようか」

 

 

「すごく嫌な予感がするから断っていいかな……?」

 

 

「大丈夫です。痛いのは一瞬ですし、記憶にも残りませんから。ただ体にトラウマを植え付けるだけですから」

 

 

「色んな意味で不安になるよ!?」

 

 

「心配要らないよクローゼ。なのはも『HA☆NA☆SHI合えばわかり合えるの!』って言ってたから」

 

 

「なのはって誰なの!?めちゃくちゃ怖い人ってことしかわかってないよ!?」

 

 

 

「「さぁ、逝こうか」」

 

 

「字が違うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 

 

そしてクローゼは連行されて逝った。アーメン

 

 

 

一人残されたケイジは、再び泉に浮かび、空を見上げる

 

 

「(……そうだな。今の俺がいるのはクローゼのおかげだけじゃない。フェイトは何だかんだ限界だった俺に安らぎをくれた。リーシャは護る事の本当の意味を教えてくれた。他の奴らと、誰よりあの三人がいたから俺はここにいる。

……ったく、一人でも大変だってのに……)」

 

 

ケイジは泉に浮かんだまま、目を閉じる

 

 

「……悪くないな。護るものが増えるってのも……ああ、悪くない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

「……ケビン」

 

 

「ああ、わかっとる。俺、お前、エステルちゃん、レーヴェの誰も思い当たらんと来たら……『あの娘』しかおらんやろ」

 

 

「いずれにせよアイツは解放しなければならなかったという訳か……」

 

 

「やな」

 

 

 

 

 

 

 

『《影の王》が告げるーー

 

 

これより先は虚ろに呑まれし時の庭

 

 

人形と蔑まれし惑いの金閃を伴い、文字盤に手を触れるがいい』









クリスマスだしちょっと甘めです(笑)



ついでにオリキャラ勢のクォーツ紹介!


ケイジ

中心……幻属性3ー5


・霊耀珠(幻)

オリジナル。AGL、SPD30%、DEF-40%。取り外し不可

ライン1
・風耀珠
・紅耀珠

ライン2
・黒耀珠
・水耀珠
・蒼耀珠
・必殺の理


備考…アーツは使わないので物理重視。蒼耀珠は譜術の威力Upのため。霊耀珠の取り外し不可が少しマイナスか



リク


中心…空属性2ー3ー4


・必殺の理

ライン1
・紅耀珠

ライン2
・水耀珠
・風耀珠

ライン3
・龍眼
・黒耀珠
・移動2

備考…ド物理。エアや無限の剣製はクラフトなのでアーツには振らなかった



シオン

中心…縛りなし2ー6

・金耀珠

ライン1
・紅耀珠

ライン2
・蒼耀珠
・風耀珠
・黒耀珠
・琥耀珠
・天眼


備考…結構補助型。紅耀珠と琥耀珠が相殺しているが、アーツの種類は豊富



フェイト

中心……風属性2ー6

・風耀珠


ライン1
・蒼耀珠

ライン2
・紅耀珠
・黒耀珠
・水耀珠
・封技の理
・範囲


備考…防御?なにソレ美味しいの?(範囲でランサーやブレイカーの範囲がup )



ティア

中心…空7

・金耀珠

ライン
・蒼耀珠
・黒耀珠
・琥耀珠
・範囲
・風耀珠
・銀耀珠


備考……アーツ(譜術)特化型。ティア一人で術攻撃から回復、サポートまで事足りる。EP とCPの使いすぎには注意(譜術はEP 50~200とCP 5~30で発動)


シャル


中心…時3ー3ー3

・黒耀珠


ライン1
・紅耀珠
・風耀珠

ライン2
・金耀珠
・銀耀珠

ライン3
・蒼耀珠
・範囲


備考……オールラウンド。しかしEP が銀耀珠で底上げしているものの若干低めなのが欠点


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『時の庭園』

「……という訳や。俺ら全員に心当たりがないのと、『金』って言うたらフェイトちゃんしか思い浮かばんかったんやけど……」

 

 

「……………」

 

 

帰って来たケビンから事情を聞くと黙り込んでしまうフェイト。その顔色は優れない。今にも倒れそうなほどに青白くなってしまっている

 

 

「……どうやらフェイトちゃんで当たりみたいやけど……並々ならぬ事情があるみたいやな」

 

 

「……はい」

 

 

か細い声で小さく肯定するフェイト

 

 

「まぁ、時間は無い訳やない。行く覚悟が出来たらオレかリースに言ってくれや。そこからパーティ組んで攻略するからな」

 

 

「……いえ、大丈夫です。すぐに行きましょう」

 

 

その言葉に少し驚くケビン

 

 

「って言われても顔色悪いでフェイトちゃん。ちょっと時間置いた方がええんちゃう?」

 

 

「いいんです。いつかはちゃんと決着を着けなきゃいけないことだから……それが早くなっただけ。それに、伝えたいことがあるから。もう一度……ちゃんと伝えなきゃいけないことがあるから」

 

 

そこに“あの人”がいるという確証はない。だがフェイトには何故か“あの人”がいるという半ば確信めいたものを持っていた

 

 

伝えなければならない。もう一度。『私は私だ』と

 

 

「……そっか。ならオレからは何も言わん。準備出来たら外出る魔方陣の前に集合や。他に行く面子はオレが声かけるわ」

 

 

そう言って準備に動こうとするケビン

 

 

「あ、ちょっと待ってケビンさん。パーティって五人ですよね?」

 

 

「?ああ、せやけど……」

 

 

「なら……一人、私が選んでもいいですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「で、次はこのメンバーか」

 

 

金色に輝く碑石の前でリクがそう呟く。碑石の前にはケビン、リース、フェイト、そしてケイジとリクが揃っていた

 

 

この碑石も現実では蒼耀石だったはずだが、今は金耀石の碑石に変わっていた

 

 

「せや。ホンマはレーヴェとオリビエをと思っとったんやけどな。……何故かレーヴェとケイジは一緒に出られへんみたいやし」

 

 

少し前にケビン、リース、ケイジ、レーヴェ、エステルで探索しようとした時、方石が起動しなかったのだ。更には魔方陣まで使えないという始末だった

 

 

「ごめんなさいケビンさん。私の我が儘で……」

 

 

「いやいや、これは言うなればフェイトちゃんの扉みたいなもんやからな」

 

 

しゅんとなるフェイトをケビンが慌ててフォローする

 

 

「ま、これも奴らの言う『枷』の一つだろ……で?ケビン。今回のは何なんだ?」

 

 

「ああ、そういやお前とリクには言うてなかったなぁ。『これより先は虚ろに呑まれし時の庭。人形と蔑まれし惑いの金閃を伴い、文字盤に手を触れるがいい』や」

 

 

それを聞いたケイジは少し考えるような素振りを見せる

 

 

「……それで、その時いたケビン、エステル、レーヴェの誰も思い浮かばなかった、と」

 

 

「正解や。念のためにオリビエやティータちゃんにも聞いたけどハズレやった」

 

 

「んで?フェイト。お前は心当たりがあったのか?」

 

 

ケイジがフェイトの方に向きそう聞くと、フェイトはしっかりと頷いた

 

 

「うん。詳しくはまだ言えないけど……間違いなく私だよ」

 

 

「そうか……」

 

 

「……とりあえず、話はそこまでにしとこや。下手したら魔獣が集まって来るかも知れんしな。……フェイトちゃん、その碑石に手ぇ翳してくれ」

 

 

「あ、はい」

 

 

そしてフェイトが碑石の前に立ち、文字盤に手を翳す

 

 

「……ケイジ」

 

 

「何だリク?」

 

 

「これから先に何があってもフェイトを拒んでやるんじゃねぇぞ?……まぁ、お前に限ってそれは無いと思うけどよ」

 

 

「?それはどういう……!」

 

 

ケイジの言葉を遮るようにして、五人は光に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……」

 

 

「ここは……」

 

 

光が晴れると、五人はまるでRPGのラストダンジョンのような怪しい雰囲気を醸し出している館の前に立っていた

 

 

「ッ!!」

 

 

「……フェイト?」

 

 

「………“時の庭園”……」

 

 

「?」

 

 

「私の……私が、始まった場所……そして、母さんが……」

 

 

「………ストップだ。来るぞ…!!」

 

 

リースが声をかけるも、自分の肩を抱いて震えるフェイト。そんなフェイトの頭にケイジが手を置いて、フェイトを正気に戻す

 

 

それとほぼ同時にケイジ達の目の前に禍々しい魔方陣が出現する

 

 

「あまり自分を卑下してはいけませんよ。フェイト」

 

 

「そうだよ。もっと自信持ちなっていつも言ってるだろ?」

 

 

魔方陣から出てきたのは猫耳と犬耳……否、狼耳の女性二人。フェイトはその二人を見ると驚きに大きく目を見開く

 

 

「リニス!?それにアルフ!」

 

 

「久しぶりです。大きくなりましたね、フェイト」

 

 

「アタシはそんなに久しぶりじゃないけどね」

 

 

フェイトに微笑むリニスとアルフ。しかしリニスの手には杖が、アルフの手には籠手のようなものが装備されている

 

 

「リニス……」

 

 

「……すみませんフェイト。あまり長くは話していられないみたいです」

 

 

そう言って杖を構えるリニス

 

 

「……そこのツンツン頭や黒髪のニーチャンは気付いてるかもしれないけど……アタシらは本物じゃない。アタシらは分身みたいなものらしいよ。だからフェイト……思いっきりかかってきな!!最初で最後の主従ゲンカだよ!!」

 

 

リニス同様、アルフも構えをとる

 

 

「リニス……アルフ……」

 

 

「伝えたいこと、話したいこと……貴女がその全てをぶつけるべき相手はこの場所の最奥にいます。貴女がそこに辿り着くためには私達を打ち破るしかありません

……選びなさい、フェイト。私達に倒されてこの世界で永遠に空虚を抱いてさまようか、私達に勝って“彼女”への道を拓くか!!」

 

 

そう言うと、リニス達の背後から機械人形(オートマタ)が三体現れる

 

 

「……私にも、譲れない想いがあるから。決意があるから。だから……二人共、そこを通らせて貰います」

 

 

そう言ってバルディッシュを構えて一人で飛び出そうとするフェイトだったが、ケイジとリースにゲンコツを落とされて思わずその場にうずくまる

 

 

「~~!?何するの!?」

 

 

「バカ野郎。全部一人でやろうとすんな。……俺らも混ぜろよ。仲間だろ?」

 

 

「まだイマイチ貴女の事情はわからない。けど貴女が前に進みたいなら私達は全力でサポートする……それとケイジ。貴方にそのセリフを言われても中身が無い気がするけど?」

 

 

「はてさて何の事やら」

 

 

そんなケイジとリースのやり取りに、フェイトはクスリと笑ってしまう

 

 

「そうだったよね………うん、みんな。私に力を貸して」

 

 

『応!』

 

 

「……覚悟は出来たようですね。ならば初めから本気で行かせて貰いますよ!!アルフ!」

 

 

「おうよ!使い魔の底力……とくとその目に焼き付けなぁっ!!」

 

 

アルフが駆け出し、リニスが詠唱を始める

 

 

戦いの幕が、上がった



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『成長の証』

「ケイジはリニス……杖の方をお願い。私はアルフを倒す。三人は機械兵器を!」

 

 

フェイトが指示を飛ばし、ケビン、リース、リクは三体の後ろからも続々と出現する機械兵器の方へ向かう

 

 

しかし、ケイジはその場で目を閉じて立ったままだった

 

 

「……それでいいのか?」

 

 

「……うん。そう分けた方が相性もいいから」

 

 

「そういう意味じゃねぇよ。……何かあるんだろ?あの猫耳と」

 

 

「………」

 

 

図星だった。フェイトはリニスと話したかったのだ。これまでの事、友達がたくさん出来た事、好きな人が出来た事……姉のような存在だったリニスに話したいことはたくさんあった

 

 

「……行ってこい」

 

 

「でも……」

 

 

「行かなかったら後悔すんのはお前だぞ?」

 

 

そう言われたフェイトは少し悩み、すぐに顔をあげた

 

 

「そうだよね。ありがとうケイジ……行ってきます」

 

 

「おう」

 

 

フェイトが魔力弾の弾幕を避けながらリニスの方へ向かうのを見届けると、ケイジはすぐ側まで来ていたアルフの方へ向き直る

 

 

「待たせて悪かったな」

 

 

「いや、構わないよ。それより……アンタがフェイトの言ってたケイジかい?」

 

 

「そっちにケイジって名前の奴がいなけりゃ俺だろうな」

 

 

「へぇ……ちょうどいいや。アンタがフェイトに相応しいかどうか……アタシが見極めてやるよぉっ!!」

 

 

「血気盛んだなぁオイ。……んじゃあ、狼退治と行きますかぁっ!!」

 

 

籠手と刀がぶつかり合う。だがその瞬間に刀は弾かれたように籠手を弾き、衝突の勢いをそのまま小太刀……蒼燕に乗せてカウンター気味に振るう

 

 

普通ならそこで決着が付くような強制カウンターの一撃。だがアルフは凄まじい反応で蒼燕を紙一重でかわした

 

 

「危なっ!?アンタそれ質量兵器じゃないのかい!?」

 

 

「なんだそれ?」

 

 

「……一応聞くけど、それアタシに当たったら?」

 

 

「そりゃ斬れるだろ。刀なんだから」

 

 

「逮捕だタイホー!」

 

 

「何で!?」

 

 

こっちは何故か和気藹々としていた

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「……リニス」

 

 

「貴女が来ましたか……戦術的には不合格ですよ?」

 

 

フェイトを前にしたリニスは、杖を構えながらも優しい声音で話す

 

 

「うん。わかってる……でも、リニスとどうしても話したかったから」

 

 

そう言ってフェイトが構えを解くと、つられてリニスも構えを解いた

 

 

「話したかった?」

 

 

「うん……リニス。私、友達が出来たよ」

 

 

「そうですか……月並みですが、大事にしないといけませんよ?」

 

 

「うん。それでね……執務官になった」

 

 

「……管理局ですか。個人的にはあまりいい印象はありませんが……おめでとうフェイト。頑張りましたね」

 

 

「ありがとう……それでね、エリオとキャロって子達の保護責任者になったんだ。それに私もリンディさんって人の養子になってね。今はフェイト・T・ハラオウンって名前なんだ」

 

 

「そうですか……家族はよくしてくれていますか?」

 

 

「うん。とっても」

 

 

「なら私からは何も言いません。貴女が幸せなら、ね」

 

 

「ありがとう。それでね……それで…………あはは、いっぱい言いたいことはあるのに何から話したらいいかわかんないや」

 

 

フェイトは苦笑いし、リニスはそれに暖かい微笑みを浮かべる

 

 

主の娘と使い魔という差はあれど、そこには確かに家族の繋がりというものがあった

 

 

「そうですか……なら、構えなさい。フェイト」

 

 

「うん。『剣を交えれば相手の事は大方わかる』……リニスが教えてくれた事だもんね」

 

 

そう言って二人はそれぞれ杖と鎌を構える

 

 

そして……

 

 

「「フォトンランサー……ファイア!!」」

 

 

どちらからともなく、魔力弾を放つ

 

 

ほぼ同時に放った魔力弾の数は42と全くの同数。しかし操作は僅かにリニスの方が上なのか、リニスは的確にフェイトのフォトンランサーを撃ち抜いて相殺していく

 

 

「強くなりましたね……収束率、魔力運用、操作能力……全てあの頃とは比べ物になりませんね」

 

 

「私だって成長してるからね……っ!」

 

 

《Britz Action 》

 

 

リニスが魔力弾を相殺している隙に、フェイトはリニスにどんどんと近付いていく

 

 

そして、リニスが魔力弾を相殺しながらフェイトに攻撃するのにほんの一瞬隙が出来る

 

 

「っ!そこ……!!」

 

 

《Jet Zamber 》

 

 

そこをフェイトは見逃さない。推進力の高い魔法で一気に距離を詰めようとする

 

 

……が、リニスもそうそう甘くない

 

 

「弾幕で目眩まし……そして接近。私の武器が杖という事も考えての良い手ですが……少し教科書通りすぎ、ですね」

 

 

リニスが杖をフェイトの方へ向けると、フェイトは12個の光の輪に身体を拘束される

 

 

「バインド!?早いし……多すぎる!」

 

 

追加拘束(アドバインド)……設置式のバインドを重ねていただけですよ

……フォトンランサー・ディメンションシフト」

 

 

リニスがそう言うと、スフィアが多量に出現し、フェイトの周り360度を囲んでいく。それはまるで光の檻のようであった

 

 

「撃ち滅ぼせ……ファイア!!」

 

 

リニスが杖を降り下ろすと同時に、秒間1064発の魔力弾が四方からフェイトを襲う

 

 

それは一分ほど続くと、大量の煙を残してスフィアが消えていく

 

 

リニスは油断なく煙を見つめていたが、煙が晴れると同時に目を見開いた

 

 

「そんな……まさか……」

 

 

「ーーふぅ、オーブメント貰っといて良かったぁ……」

 

 

そこには、無傷のフェイトがいた

 

 

「一体……何をしたんですか……?」

 

 

導力魔法(オーバルアーツ)。こっちの魔法って言えばいいのかな?それの『Aークレスト』と『オーバルダウン』っていうのを使ったんだ。初めは『A ークレスト』を掛けただけだったんだけど、時間があったから『オーバルダウン』も使ってみたんだ。これ……言うなれば指向性のあるAMF ……いや、MRF(魔力拒絶領域)を作り出すみたいだね」

 

 

フェイトの危機を救ったのは、出発直前にティータがフェイト専用に完成させたオーブメントだった。

 

 

「まぁ、操作を間違って一瞬私の飛行魔法まで消えちゃったけど」

 

 

「くっ……なら、今度はそれを使う暇が無いくらい早く撃てばいいだけです!!」

 

 

リニスは悔しそうな顔で杖を握り直す

 

 

「うん、そうだね………でも、次は無いんだよ」

 

 

《Sonic Move 》

 

 

「っ!?」

 

 

リニスに詠唱をさせまいとフェイトは高速で近付き、剣に変形させたバルディッシュを振るう。リニスは詠唱を中断してそれを受け止めた

 

 

「ここに来て学んだ事は二つある……一つは、達人相手だと同じ手はまず通じないこと」

 

 

ケイジやレーヴェ、リシャール、ミュラー、ユリア、ジン。更にはエステルやヨシュア、シェラザードにアガット、アネラス、リク……その全員が同じ手にはすぐに対応してきた。

 

 

フェイトは鍔迫り合いのまま魔力を二人の間で炸裂させ、自分に有利な距離を作る

 

 

「二つ……常に上に行こうとしないと、すぐに皆に置いて行かれること!!」

 

 

ここにいる全員が常に強くなろうと努力している

 

それは今拠点にいるクローゼやリーシャだって同じ。今は戦闘面ではフェイトがリードしているが、気を抜けばすぐに追い抜かれるのは目に見えている

 

 

負けるわけにはいかない。実力でも……恋愛でも

 

 

「私は先に進む……だから、まずは昔は越えられなかったリニスを越える!!」

 

 

バルディッシュの先端に雷に変換された魔力が収束していく

 

 

「……フフフ、そうですね。ならば……越えて見せなさい!!」

 

 

リニスの杖の先にも同じように雷を帯びた魔力が集まっていく

 

 

そして、先に魔力の収束を終えたのは……リニスだった

 

 

「フェイト……貴女に贈るこの一撃。受け止めて……乗り越えなさい!!」

 

 

そして、魔力が籠った杖をフェイトに向けて思いっきり降り下ろす

 

 

「プラズマ……セイバー!!」

 

 

剣の形に収束された雷光がフェイトに迫る

 

 

だが……

 

 

「……サンダーシクリオン!!」

 

 

その剣は、フェイトが発動させた風属性最上位アーツによって相殺された

 

 

……本来ならばフェイトのクオーツの配置では使えないアーツ。それを可能にしたのは……フェイト自身の稀少技能(レアスキル)である魔力変換資質『電気』だった

 

 

「プラズマザンバーブレイカー……リニスが理論を作って私に教えてくれた収束砲撃魔法。でも……それじゃあダメだから。私がリニスを越えないと……意味がないから」

 

 

プラズマセイバーとサンダーシクリオンが相殺されたことで、雷を帯びた魔力や導力が空気中にばらまかれている

 

 

その魔力は全てバルディッシュへと集められていた

 

 

「そう、私自身がリニスを越えないと意味がない。だけど……」

 

 

「ええ。仲間……それは貴女の力で、一生の宝物です。それを借りるのは悪い事ではありません。絆も貴女の力の一部なのですから……」

 

 

リニスはただフェイトを見つめている。見つめながら……微笑んでいた

 

 

これが私の自慢の教え子だと。これが私の愛する妹分の片割れだと

 

 

「うん……なのはのスターライトブレイカー、ケイジのカウンターの相手の力を完全に利用する技、ティータに貰ったオーブメント、クローゼに教わったアーツ……その全部を一つにした、私だけの、私が出せる二番目に強い魔法」

 

 

ケイジの力を完全に利用するカウンターから思い付き、何故か使えたサンダーシクリオンを吸収させることで使えるようになった戦技(クラフト)

 

 

しかし、今はそれ以上に大気中に雷の力が充ち溢れているのだ。それを全て収束するのだから、下手をすれば“あの技”以上の威力だろう

 

 

何故最強の技を使わないのか?そんなものは決まっている。最強は最強に叩き込む。ただ、それだけ

 

 

そして叩き込む相手は……リニスではない

 

 

「フフフ……そうですね。最高の技はあのわからず屋に叩き込んであげなさい」

 

 

「わかってる……ねぇ、リニス」

 

 

「はい?」

 

 

「私ね……好きな人が出来たんだ」

 

 

その言葉に一瞬ポカンとするリニスだったが、すぐに暖かい笑みを浮かべた

 

 

「フフフ……そうですか……あのフェイトに好きな人が……そうですか……フフフ……」

 

 

「わ、笑わないでよ…」

 

 

「いえいえ、結構真面目に心配していたんですよ?親子揃って変な所で堅物ですし」

 

 

「もう……」

 

 

「あの事はもう?」

 

 

「うん。さらっと流されて受け入れられちゃった。バカって言われたよ」

 

 

「そうですか……どんな人なんですか?」

 

 

「頭いいのにどっか抜けててね?鈍感で、サボリ魔で、バカで、甲斐性なしで、後先考えてなくて、トラブルメーカーで、物凄く自由人で……」

 

 

それを聞いたリニスの頭にはどうしようもないダメ人間しか浮かばなかった

 

 

「……それでも、誰かのために本気になれる人。『フェイト・テスタロッサ・ハラオウン』っていう私自身を見てくれる人。不器用だけど……とっても優しい人」

 

 

「……そうですか」

 

 

しかし、フェイトが幸せそうな顔でその人の事を話すのだ。ならば、リニスが何か口を挟む必要などない

 

 

幸せの形は千差万別なのだから

 

 

「……そろそろ、終わりにしましょうか。向こうもそろそろ終わりのようですしね」

 

 

「うん……集え雷光……天をも呑み込み、全てを撃ち抜け救済の光……!!」

 

 

「さぁ……来なさい!フェイト!!」

 

 

「行くよリニス……これが私の、成長した成果の結晶!!

ヴォルテックセイバー……ブレイカァァァァァァァ!!!」

 

 

天雷を纏った光の一撃がリニスを呑み込む

 

 

自身が消えていく感覚の中で、リニスが最後に感じたものは……

 

 

「ありがとう……リニス、大好きだよ」

 

 

そんな、フェイトの声だった

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

砲撃の余韻で雷がまだ周りに残っている中、フェイトは静かに立ち尽くしていた

 

 

本物ではないとはいえ、もう二度と会えないと思っていた姉のような存在と本気で闘い……そして勝った

 

 

しかし、それによってフェイトが得たものは、模擬戦で勝利した時のような満足感ではなく、どこか空虚な感覚だった

 

 

今のフェイトをなのはやはやてが見ればさぞ驚いた事だろう。あの戦闘狂(バトルマニア)のフェイトが闘いに勝ったのに今にも泣きそうな表情をしているのだから

 

 

 

 

 

 

 

ーーザッ……

 

 

背後から足音がする。誰かが近付いて来ている

 

 

フェイトは近付いて来た人物の方を向き……そのままその人物……ケイジに抱き付いた

 

 

「……終わったみたいだな」

 

 

「……うん」

 

 

決着(ケリ)はつけられたのか?」

 

 

「……うん」

 

 

「そうか」

 

 

ケイジはそれ以上何も言わず、そっとフェイトの頭を撫でる

 

 

その感触がどうしようもなく優しくて、暖かくて……

 

 

「……………っ!」

 

 

フェイトはケイジの胸に顔をうずめたまま、静かに涙を流した














ヴォルテックセイバーブレイカー


クラフト・直線 CP130

気絶or封技100%


発動方法……サンダーシクリオンの準備中にSクラフト発動画面で□ボタン。するとサンダーシクリオンの発動時に自動的にサンダーシクリオンがヴォルテックセイバーブレイカーになる(Sクラフトと同じようにアニメーションあり)


こんな感じで妄想してみた


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『紫天』

作者命名『おまわりさんコイツです』回(笑)












「おーい!ケイジー!」

 

 

館のある方向からケビン達が向かってくる

 

 

あの後、フェイトは一頻り泣き、今は落ち着いたのか大人しくケイジの横に立っていた

 

 

「もう終わったんか?」

 

 

ケビンがそう言うと、フェイトは無言でコクリと頷く

 

 

「キッチリ決着(ケリ)をつけたらしい。大丈夫だ」

 

 

「……ケビンさんの方も?」

 

 

「おお、俺らは割りと早めに終わったからな。ちょっと先行って色々見てきたんや」

 

 

理由については真っ赤な嘘である。リースがケイジだけにフェイトを任せようとし、ケビン達を連れて探索に出たのだ。ケビン達が機械兵器に勝ったのはケイジがアルフに勝ったのとほぼ同時で、フェイトがプラズマセイバーを相殺したくらいの時だった

 

 

「で?どうなってた?」

 

 

「館の正面玄関の鍵が開いたわ。多分フェイトちゃんが勝ったからやろな。……で?どうするんや?すぐ行くか?」

 

 

二人はフェイトに視線を送る

 

 

「うん……でも、中がどうなってるかわからない。慎重に行こう」

 

 

そうして、三人は館の正面玄関へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ開けるぞ……」

 

 

リクが玄関の戸に手をかけ、ゆっくりと開く

 

 

ギィッ……っという微妙に嫌な音と共に扉が開き、中に外の光が入り込む

 

 

「なんやえろぉ暗いなぁ」

 

 

「……周りに照明らしきものもない。それらしきスイッチもない。……本当に玄関?」

 

 

「ここは半ば研究所みたいな場所でしたから……客を迎えるようには出来ていないんだと思います」

 

 

そこでしばらく目をならしていた五人だったが、突然玄関に照明が灯る

 

 

「!?」

 

 

「照明が……」

 

 

「……時の庭園の玄関に照明なんてなかったはず……」

 

 

「ーーここは幻が現実になる場所だよ?照明くらい作れるに決まってんじゃん!全くバカだなぁオリジナルは!」

 

 

そう声が聞こえると、リニス達が出てきた時と同じ魔方陣が目の前に現れる

 

 

その中からフェイトによく似た……いや、髪と目の色以外はフェイトと全く同じ女性が何か変なポーズをとりながら出てきた

 

 

「レヴィ!?」

 

 

「ふっふーん!どーだ!驚いたかオリジナル!雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)ただいまさんじょー!!」

 

 

『…………』

 

 

レヴィは物凄く楽しそうだが、フェイトとリク以外の三人はドン引きである。だって誰だかわからないんだもん

 

 

しかもリクはリクで『ああ、アホの子か』という生暖かい視線でレヴィを見ている

 

 

「レヴィ……なんで成長してるの!?プログラム体だから成長しないとか言ってなかった!?」

 

 

「論点そこ!?」

 

 

アホ発言を完全スルーのフェイトにケイジがツッコむ

 

 

「成長はしてないよ?プログラムだし。ちょっと情報をイジッただけ……って王様が言ってたよーな言ってなかったよーな」

 

 

「適当やな……」

 

 

「にしてもオリジナルも大変だね~!こんな重いもの引っ付けてさ。確かトップ93でアンダー67の「キャアァァァァァァァァァァ!!?」ってちょ危なへぶっ!?」

 

 

乙女の秘密を暴露しようとしたレヴィの顔にフォトンランサーが直撃する。その速さは正に神速と言えるような速さだった

 

 

「いたた……何すんのさ!?」

 

 

「こっちの台詞だよ!?ケイジに聞かれたらどうするの!?」

 

 

もうすでに全員にキッチリ聞こえてしまっている

 

 

「いーじゃん減るもんじゃないし。むしろ増えてるし」

 

 

「何で最近サイズがキツくなってきたこと知ってるの!?」

 

 

「だって今キツいもん」

 

 

 

 

 

 

「バカな……あの細さでGでも奇跡なのに更に増えてるだと……?」

 

 

「リク、鼻血鼻血。その内出血多量で死ぬぞお前。つーか何で一瞬でカップ計算まで出来るんだお前は……」

 

 

「ケビン、ちなみに姉様はFで私はE」

 

 

「何の話をしとるんやお前は」

 

 

もう何か色々カオスになってきて収拾がついていない。そんな時だった

 

 

「何を思いっきり恥を晒しておるのだ貴様はァァァァァァ!!」

 

 

「へぶぅっ!?」

 

 

誰かにドロップキックされたレヴィがきりもみ回転して吹っ飛んでいく

 

 

「レヴィ!?ってディアーチェ!?」

 

 

「うむ。久しいな子鴉の仲間よ」

 

 

「私もいます」

 

 

「お久し振りです。フェイト」

 

 

「シュテルにユーリまで……」

 

 

気付けば、紫天組が勢揃いしていた

 

 

「痛いよ王様!何すんのさ!」

 

 

「黙れレヴィ!!貴様の恥は王である我の恥だと前々から言っておろうが!!」

 

 

そしてレヴィに説教を始めるディアーチェ。カオスが更にカオスになった。何しに来たんだお前

 

 

「すみませんフェイト。レヴィが迷惑をかけました」

 

 

「え?ううん、ちょっと私の女としての尊厳が危なくなっただけだから……」

 

 

「それはちょっとって言っていいんですか……?」

 

 

ダメだと思う

 

 

「……え?なのは?お前なんで髪切ってんの?あれか?失恋か?」

 

 

そこにケイジが恐る恐る入ってくる

 

 

「違います。というか私はナノハではありません。星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)と申します」

 

 

「あ、ユーリ・エーベルバインです」

 

 

「…………What?」

 

 

~マテリアルズ説明中~

 

 

 

「なるほど、マテリアルズねぇ……」

 

 

「はい。私が理、レヴィが力、王は闇の王、ユーリは紫天の盟主を司っています」

 

 

「で、性格はほぼ正反対、と」

 

 

「そうなりますね」

 

 

「私は私自身がオリジナルですけど……」

 

 

ケイジがマテリアルズに対する知識を得た時……

 

 

「……と言う訳だ!我らの目的はそこの塵芥共を蹴散らすことだ!!本来の目的を忘れるでない!!」

 

 

ブチッ

 

 

「?何ですか今の音は?」

 

 

「さぁ?」

 

 

「オイコラ、誰が塵芥だちび狸2号」

 

 

『あ』

 

 

ディアーチェの傲岸不遜な物言いにケイジがキレてしまった

 

 

「ち、ちちちちび狸!?貴様!王たる我に対してそのような口のききかたは許さぬぞ!」

 

 

「だって俺別にお前に仕えてねぇしぃ~?」

 

 

「この上なくウザイ!?ならば貴様表に出ろ!我が闇の力の前に平伏させてやるわ!!」

 

 

「闇の力……?イタイイタイイタイイタイ、イタイよ~!ここに精神怪我した重症患者がいるよ~!」

 

 

「ムッキィー!!貴様!もう許さんぞ!」

 

 

そんな中身のない会話をしながらケイジとディアーチェは外に出ていった

 

 

「……王も無謀ですね。今の状態で戦いを挑むとは……」

 

 

「今の状態?」

 

 

「私達は完全にレヴィのサポート役みたいなんです。うまく体も動かせませんし……レヴィのようにすぐに出てこれなかったのもそれが原因です」

 

 

「簡単に言うなら、今私達は補助魔法しか使えませんので……

『さっさと闇に喰われて我に跪くがいいわ!行くぞ!エルニシアダガー!!』

『……何も出ないな』

『なっ!?そんな馬鹿な!?ええい、エルニシアダガー!ジャガーノート!』

『……フリーズランサー!』

『ぬおぉ!?貴様!無抵抗の女子(おなご)に対して攻撃するなど何事うぉぉ!?』

『女子?俺の前にはやたら態度のでかい狸2号が一匹いるだけだァァァ!!』

『ぬわぁぁぁ!?』

『サンダーブレード!ロックブレイク!タービュランス!スプラッシュ!フレイムバースト!』

『わきゃあぁぁ!?た~す~け~て~!!』

………と、こうなるわけです」

 

 

もはやイジメにしか聞こえない。カリスマブレイクにも程がある

 

 

フェイトは苦笑いしていたが、すぐに何かに気付いた

 

 

「……そう言えば、さっき言ってた目的って何なの?」

 

 

「おお!そうだ!僕オリジナルと戦うんだった!」

 

 

『え?』

 

 

「という訳で……ユーリ、シュテるん、結界ヨロシク!」

 

 

「はい」

 

 

「わかってますよ、レヴィ」

 

 

「ほら、オリジナル!早く構えて!」

 

 

「え?え?」

 

 

そうして、ワタワタするフェイトと唖然とするケビン達をよそに、フェイトとレヴィは結界に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「オイ、アンタら……」

 

 

「心配は無用です。決着が付けば自動的に解除されるようになってますので」

 

 

「そういう問題やないやろ!」

 

 

「……ああ、彼女の安全ですか?それこそ心配ありません。

ーーレヴィの役割は彼女の心に決着を付けさせることですから」



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『姉~始まりにして原因~』

「………ん……」

 

 

フェイトが目を覚ますと、辺り一面真っ白だった

 

 

白く、純白(しろ)い、宮殿の玉座の間のような空間の真ん中にフェイトはいた

 

 

「ここは……」

 

 

「ーーここはフェイトの精神世界。そして……私の精神世界」

 

 

背後から声が聞こえる。とっさに振り返ると、そこには蒼い髪を下ろしてたなびかせているレヴィがいた

 

 

「……レヴィ?」

 

 

「うーん……半分正解で半分間違い。確かに身体はレヴィなんだけど……中身が違うのよ」

 

 

そう言って薄く笑うレヴィの身体を借りた『誰か』

 

 

そして彼女はマントをちょこんとつまんで貴族のように恭しい礼をする

 

 

「久し振り……いえ、私からすれば初めましての方が正しいかしらね。フェイト」

 

 

「……まさか」

 

 

フェイトの中にある仮説が生まれる

 

 

絶対にあるはずのない、しかしそうとしか思えない仮説が

 

 

「アリ………シア………?」

 

 

口の中がひどく乾いて上手く言葉を発せない

 

 

それでもかすれ声で辛うじて言葉を紡ぐ

 

 

「そうだよ。私はアリシア・テスタロッサ。貴女の原初(オリジナル)で……お姉ちゃんよ」

 

 

そう、そこにいるのは『アリシア・テスタロッサ』

 

 

ある意味で全ての始まりであり、ある意味で全ての原因である人物がそこにいた

 

 

「貴女は……亡くなった筈じゃ……」

 

 

「そうね。私は死んだわよ。流石にこの世界でも私を成長した状態にするのは難しかったみたいでね……レヴィの身体と結界の力を借りてようやくここにいれるのよ」

 

 

「何で……」

 

 

「そうね……理由は色々あるけど、一番は貴女が心配だったからね」

 

 

「……心配?何を心配しているの?」

 

 

ようやく気持ちが落ち着いてきたのか、言葉が普通に戻ってくる

 

 

「そう……ねぇフェイト。どうして貴女は自分(フェイト)になろうとしないの?」

 

 

「………………え?」

 

 

予想外の質問と、鋭いアリシアの視線にたじろぐフェイト

 

 

「貴女はいつも心の何処かで『私はアリシアの代わりだ』って考えてる。ミッドにいた時もそう。闇の書の夢の時もそう。体が成長してからはそれがより顕著になった

……貴女は仕事を休まない。私が生きてたらもっと出来ると思っているから

貴女は頼みを断らない。私なら断らないと思っているから

闇の書の夢の時に私とほとんど同じ行動をしていたのもその現れ。貴女が心の何処かで……お母さんに認められるには私になるしかないと思っているから」

 

 

アリシアの言葉の一つ一つがフェイトの心に突き刺さる

 

 

全て、図星だった。今まで考えないようにしていた、フェイトの心を蝕む最大の呪縛

 

 

……『アリシアの代わりになれなかったお人形』。プレシアの言葉が縛り付けたフェイトの闇

 

 

「……やめて………」

 

 

「貴女は他人と関わるのを異様に怖がる。自分を通して私を見られている気がするから。

貴女がケイジさんに対して今一つ積極的になれないのもそう。自分に自信がないから

……貴女の行動の一つ一つに、『(アリシア)』の影が見えてしまうから」

 

 

「やめて!!」

 

 

今まで出した事の無いような大声で叫ぶ

 

 

しかし、アリシアは決してその目を逸らさなかった

 

 

「どうして?私は聞いてるだけよ。貴女がどうして自分になろうとしないのか。どうして『私』になろうとするのか

自分の本質をさらけ出すのがそんなに怖い?それともさらけ出す中身すらないの?私の真似でしか生きる意味は見つけられない?」

 

 

「やめろって……言ってるんだぁぁぁぁぁ!!」

 

 

激昂したフェイトがアリシアに斬りかかる。しかし、アリシアはそれを軽々とかわしていく

 

 

「母さんに愛されていた貴様に何が判る!!貴様と同じクセがあった時だけ母さんは笑った!貴様と食事の好みが違うと知った時母さんは目に見えて落ち込んだ!私が貴様と違うと判り始めてから母さんは私を遠ざけた!」

 

 

己の内に秘めていた思い。それを爆発させるように叫ぶ

 

 

「母さんが見ていたのは貴様だけだった!!母さんが愛していたのは貴様だけだったんだ!!私が貴様と同じ時だけ母さんは笑った!!私が貴様と違う時には母さんは泣きそうになった!!私は貴様の代わりだった!!」

 

 

「………………」

 

 

フェイトは泣きながら叫び続ける。喉が切れたのか、口の中に血の味が広がっても、それでもフェイトは叫び続けた

 

 

それとは反対に、アリシアは何も言わない。何も言わずにフェイトの攻撃を避け続ける

 

 

「母さんに愛されるためには、私は貴様になるしかなかった!!例え人形と蔑まれても、私自身を捨ててでも私は貴様になるしかなかった!!その辛さが……苦しみが……貴様に判るのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「ーーー甘えるな!!!」

 

 

アリシアが一喝し、魔力を爆発させる事でフェイトを弾き飛ばす

 

 

そしてそのまま高速でフェイトに接近し、その頬を思いっきり打った

 

 

「………え?」

 

 

突然の出来事に思わず気の抜けた声が出てしまう

 

 

アリシアは呆然とするフェイトの胸ぐらを掴み上げ、怒りの表情でフェイトを見据えた

 

 

「『貴様に判るのか』ですって!?判るはずがないでしょう!!判りたくもない!!だったら貴女は私の気持ちが判るの!?知らない内に事故に巻き込まれて!訳のわからない内に死んで!何の前触れもなく全てを失った私の気持ちが判るの!?私にだって友達がいた!約束だって残ってた!その全部が一瞬で絶たれた私の辛さが、苦しみが貴女に判るの!?」

 

 

そこまで言うと、アリシアはフェイトを離し……しっかりと抱き締めた

 

 

「…………ぁ……」

 

 

「私は貴女じゃない………それと同じで、貴女は私じゃないのよ……!

いつまでも自分の闇に囚われないで……そのままだと、お姉ちゃん悲しいよ……?」

 

 

フェイトを抱き締めながらアリシアは涙を流す

 

 

辛かった。フェイトがいつまでも自分をないがしろにするのが。いつまでも(アリシア)の幻影に縛られているのが

 

 

そして何より……フェイトが、妹が自分のせいで苦しんでいるのがアリシアには何よりも辛かった

 

 

フェイトに乗り越えて欲しかった。せめて今の自分があるのはこれがあったからだと思えるくらいに

 

 

たった一人の妹だから。大事な、大事な妹だから

 

 

幸せに、なって欲しいから

 

 

アリシアはフェイトを自分の胸に押し付ける

 

 

「フェイト、聞こえるでしょ?私とレヴィの命の音」

 

 

フェイトは言われるがままに目を閉じて耳を澄ませる

 

 

とくん、とくんと規則正しい、どこか優しい音がフェイトの耳に聞こえてくる

 

 

「私は今、ここで生きてる。だからここにいる。人が生きる意味なんて……きっと、それだけでいいのよ」

 

 

「うん……」

 

 

「だから、私の代わりに生まれてきたなんて思わないで。思ったところで私になれる訳がないんだから……だから、もっと自分に自信持ちなさい?フェイトは凄い魔導士だし、魅力的な女性なんだから」

 

 

「うん……!」

 

 

フェイトもまた、アリシアの胸の中で涙を流す

 

 

「……この後、お母さんに会うんでしょ?あんなバ母さんなんて難しい事考えないで一回ブッ飛ばしてから無理矢理言うこと聞かせちゃえばいいのよ」

 

 

「あはは……それは、ちょっとね」

 

 

「フェイトは優しいわねぇ。ま、一発くらいはビシッと決めてやりなさいよ?」

 

 

「うん」

 

 

「それで……必ず、必ず幸せになりなさい。貴女がしたい事して、着たい服着て、思った通りに生きて幸せになりなさい。それだけがお姉ちゃんからのお願い」

 

 

「うん……!」

 

 

アリシアが、少しずつ光となって消えていく

 

 

それに連動するように、フェイトは己の中から力が湧いてくるような感覚を覚えた

 

 

「これは……」

 

 

「もう時間みたいだからね。お姉ちゃんからの最初で最後のプレゼント。私の力を貸してあげる」

 

 

そう言いながら、アリシアは消えていく腕でフェイトをより強く抱き締めた

 

 

「忘れないで。貴女は貴女だという事を。貴女は私じゃない事を。だけど……私はいつも、貴女の側にいるという事を」

 

 

「うん……ありがとう……『姉さん』……!」

 

 

それを聞いたアリシアは、優しい微笑みを浮かべながら……光に、消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

パキィィィ……ン

 

 

『!』

 

 

結界がガラスが弾けるように割れ、その細かな破片が光を反射しながら舞い落ちる

 

 

その幻想的な光景の中、結界があった場所の中心にバルディッシュを持ったフェイトが一人立っていた

 

 

 

「……お見事です。無事、彼女と決着を付けられたようですね」

 

 

「うん……ありがとう。シュテル達はこのためだけに出てきてくれたんだよね?」

 

 

「結果的にはそうなりますね。現在私達には戦うための力がありませんから」

 

 

「私を救ってくれた時に比べればこれくらい何でもないですよ」

 

 

「それでも……ありがとう」

 

 

そう言って二人に微笑むフェイト。その笑みは今までのどこかあどけなさの残った可愛らしい笑みではなく、落ち着いた大人の魅力を放つ笑みに変わっていた

 

 

「レヴィと彼女は……還ったようですね」

 

 

「うん」

 

 

「それでは……私達もそろそろ還りましょうか」

 

 

シュテルの言葉と共に、出てきた時と同じ魔方陣がシュテルとユーリの足下に出現し、二人はそれに沈んでいく

 

 

「レヴィと……会えたら姉さんに。覚えていたらお礼を言っておいてくれるかな?」

 

 

「承りました」

 

 

「それでは……お元気で」

 

 

二人は軽く一礼すると、完全にその姿を消した

 

 

 

「……あの~フェイトちゃん?何やイマイチ状況がわからんのやけど……終わったいうことでええんか?」

 

 

「はい。多分先に進めるようになっていると思います」

 

 

凛としてケビン達に言うフェイト。それとほぼ同時に……

 

 

『あっ!コラ逃げんのかアホ狸!』

 

 

『ヒック……き、貴様……グスッ……な、泣かしてやるからなぁっ!!…えぐっ、次に逢った時には覚えておれぇっ……ズズッ……ユーリ~~!!』

 

 

そんな声が外から聞こえ、しばらくするとケイジが戻って来た

 

 

「チッ、逃げやがって……」

 

 

「お前ホンマにドSやな」

 

 

「いや、むしろ鬼畜だろ。鬼畜」

 

 

「うるせぇぞバカ共……ん?」

 

 

フェイトの雰囲気が変わったのに気付いたのか、ケイジはフェイトの目の前まで移動する

 

 

「ケイジ……」

 

 

「……フッ。なんか知らねぇがいい顔になったな、お前」

 

 

「惚れ直した?」

 

 

「アホ。調子乗んな」

 

 

いつもの掛け合い。しかし、それがフェイトにとってはこの上なく嬉しいものだった

 

 

何も変わらない……それはつまり、初めから『私』を見てくれていたということだから

 

 

だから……何も変わらない。この心地いい空間は

 

 

ケイジの事を『フェイト』が好きだということは変わらないのだから

 

 

「……ねぇ、ケイジ」

 

 

……いや、一つだけ。変わる事がある

 

 

「何だ………!?」

 

 

「ん……」

 

 

ケイジが一瞬フェイトの方を向いたのを見逃さず、フェイトは自分の唇をケイジの唇に重ねる

 

 

「………大好き♪」

 

 

「…………うっせ」

 

 

にこやかに微笑むフェイトに対して気恥ずかしくなったのか、ケイジは目線を逸らしながら乱暴に頭を撫でる

 

 

 

ーーもう、後手には回らない



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『前に進むその為に』

新年明けましておめでとうございます。


今年も宜しくお願いします






推奨BGM…LINKAGE (水樹奈々)






「……ここが最後の部屋か?」

 

 

ケイジが確かめるようにフェイトに聞く

 

 

あの後、特に大した障害もなく、五人は真っ直ぐにこの場所……いつも“彼女”がいた部屋の前に辿り着いていた

 

 

「うん……間違いないよ。ここがこの空間の終点だと思う」

 

 

落ち着いた様子で答えるフェイト。その顔にもはや迷いはなかった

 

 

フェイトは一歩前に出て四人に向き直り、全員の顔を見渡す

 

 

「ここを越えればこの空間はクリア出来るはずです……力を、貸して下さい」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「………来たわね」

 

 

「……母さん」

 

 

扉を開けた先には、黒い髪を後ろに流し、顔を仮面で隠した女性がいた

 

 

しかし、仮面以外は何も生前の彼女……プレシアと何も変わらない。フェイトが彼女を『母さん』と呼んだのもそれ故だった

 

 

「私は貴女の母親ではないわ……わかっているのでしょう?私が最期まで貴女を拒絶した事を」

 

 

「それでも……私が生きているのは母さんのおかげですから」

 

 

静かに微笑むフェイト。対するプレシアは仮面のせいか表情が読めない

 

 

「……それで?貴女は今更私に何が言いたいのかしら?」

 

 

「……私の想いは、あの時と変わりません。私は貴女の娘で、アリシア姉さんの妹……貴女の家族だと。そう言いに来るつもりでした」

 

 

フェイトがそう言うと、プレシアはぴくりと反応したが、すぐにため息をついた

 

 

「……くだらないわね。言った筈よ。貴女は私の娘ではないと」

 

 

吐き捨てるように言うプレシア。しかしフェイトに動揺は一切見られない。ただただ凛と、その場に立っている

 

 

「早合点しないで下さい。『そう言うつもりでした』と言った筈です」

 

 

「なら、何を言おうとしているの?手早く済ませてくれないかしら」

 

 

「今言ったところで、貴女はまともに取り合わないでしょう?」

 

 

「なら、どうやって私に貴女の言う事を聞かせようと言うの?」

 

 

挑発的なプレシアの言葉に、フェイトは迷わずバルディッシュをプレシアに向ける

 

 

「無論……実力で」

 

 

「フフフ……アハハハハ!!面白いわね……たかだか18の小娘が大魔導士と呼ばれた私を倒すですって……?」

 

 

プレシアは一頻り笑うと、自分の杖を横払いに薙ぐ

 

 

「いいわ……ならばかかってきなさい。貴女の未熟な力を、第一の守護者たるこの私に届かせてみせなさい!!」

 

 

「確かに私は未熟です……だけど」

 

 

フェイトから雷気が溢れ出す

 

 

「大切な人達が、私に力をくれる。だから私は負けない……負けられない!!」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「オイ、本当によかったのか?」

 

 

「……………」

 

 

リクはケイジに話しかけるが、ケイジはフェイトとプレシアの戦いをじっと見ているだけで答えない

 

 

……実は、ここに入る直前、フェイトは四人にある頼み事をしていた

 

 

『私一人で戦わせてほしい』、と

 

 

ケビンやリクは渋っていたのだが、リースとケイジがフェイト側に付いたために仕方なく認めたのだ

 

 

「……たとえ理に至った達人でも、そこら辺に落ちてる木の棒を持った素人に負ける時がある」

 

 

「は?」

 

 

突然ケイジはそんな事を言い出した

 

 

「なぁリク……本当に強い奴ってどんな奴だと思う?」

 

 

「?そりゃ色々あるだろ。技量とか、経験とか……」

 

 

「違ぇよ」

 

 

リクの意見をバッサリと切るケイジ

 

 

「……じゃあどんな奴だよ」

 

 

「俺はな、心の強い奴だと思う」

 

 

「心?」

 

 

「ああ。人の意志ってのはバカにならないぞ?どんだけ力が弱くても、どんだけ経験が少なくても……ソイツが腹括った瞬間にはもう強者なんだよ。『窮鼠猫を噛む』ってのはよく言ったものでな……追い詰められて、腹括って、生きて帰る。この世に覚悟決めた奴以上に強い奴なんて存在しない」

 

 

過去のトラウマを抉られながら、リニスやアリシアと逢い、そして今この場所にいる

 

 

「……今のフェイトが『窮鼠』だってのか?」

 

 

リクの言葉にケイジは答えず、ただ親子の戦いを見つめていた

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「……ずっと、気になっていたことがありました」

 

 

「……………」

 

 

プレシアの放つ無数の魔力弾を巧みに避けながら、フェイトはプレシアに話しかけていた

 

 

「貴女は私を嫌っていた……いや、憎んでいた。姉さん(アリシア)と全く同じ身体で、元気な私を」

 

 

「……だとしたら、何だと言うのかしら?」

 

 

「どうして、私を側に置き続けていたんですか?」

 

 

「!!」

 

 

ほんの一瞬だけ、プレシアの手が止まる

 

 

「……簡単な事よ。ジュエルシードを集めるため。それ以外に他意はないわ」

 

 

「違う。それはあまりにも矛盾してしまっている……ジュエルシードを集めるなら、未熟な私ではなくリニスに任せればよかった」

 

 

「貴女は忘れたのかしら?私は病に侵されていた。だからリニスとの契約を破棄したのよ」

 

 

「それは確かにそうでしょうね……でも、貴女は科学者だ。科学者は、確率でものを考える」

 

 

《Haken Saver 》

 

 

プレシアの魔力弾の間を、金色の斬撃が進んでいく

 

 

その斬撃の後ろをフェイトは駆け抜ける

 

 

「確率で考えるなら、リニスに任せた方が安全で確実だった。貴女の命もその気になればリニスがジュエルシードを集めるまでくらいは容易に延命できた。そのための術式があるのを私は知っています」

 

 

「……………」

 

 

「だからこそわからなかった。何故リニスではなく私にジュエルシードを集めさせたのか。何故延命術式を使わなかったのか」

 

 

「『愛する気がないなら早く捨てて欲しかった』……とでも言いたいの?」

 

 

プレシアは斬撃を打ち消そうと雷を放つ。雷は斬撃を相殺するが……フェイトの準備はすでに完了していた

 

 

「いいえ……過去の起こってしまった事に対して文句を言っても何にもなりません。私が聞きたいのはその理由だけ。今、ただ一つだけ引っ掛かっているそれを聞いて、私が貴女に決着を付けられれば……」

 

 

《Jet Zamber 》

 

 

「私は、本当の意味で『貴女という壁』を乗り越えられる気がするから……!!」

 

 

巨大な魔力刃がプレシアに襲いかかる

 

 

「貴女が仮面を付けているのは、貴女が何かを……心を隠しているから。だから……その仮面(ペルソナ)を壊して、貴女の本心をさらけ出させる!」

 

 

「……甘いわね」

 

 

目の前のプレシアの姿がブレて、フェイトが多数のバインドに拘束され、そこにプレシアの魔力弾が襲いかかる

 

 

フェイトが斬ったプレシアがいた場所のはるか上空。そこからプレシアはフェイトを見下していた

 

 

つまり、フェイトが斬ったプレシアは偽者(ダミー)。フェイトはまんまとプレシアの罠にかかったのだ

 

 

「私が本心を隠している……?よくそんな戯れ言を言えたものね。私があの時言った言葉が私の本心……それが全てよ」

 

 

魔力弾が次々と炸裂し、爆発する。その上からは異様なまでに巨大な魔力球がフェイトを押し潰すように迫っていた

 

 

「私の愛を信じなければ生きていけない哀れなお人形……下らない。アリシアになれないなら、消えてしまえばいいのよ……!!」

 

 

そして魔力球がフェイトのいる場所を押し潰して、大爆発を引き起こす。もうもうと立ち込める煙の中、プレシアはただ煙を見つめていた

 

 

「私にはアリシアが全てだった……アリシアがいれば他に何もいらなかった。だから、アリシアを甦らせようとした……その過程で出来た失敗作が貴女よ、フェイト。

……アリシアでない貴女に、愛情なんて与えるだけ無駄なのよ」

 

 

「ーー知りませんよ、そんなの」

 

 

プレシアの背後でフェイトの声がする。とっさに振り返ったプレシアだが、そのまま強い衝撃に身体を吹き飛ばされる

 

 

その隙にフェイトはバルディッシュに魔力を集める

 

 

「そんな決まり文句は聞き飽きました……私が聞きたいのは私を側に置いたその理由だけです」

 

 

「貴女……一体どうやって……」

 

 

「簡単ですよ。貴女が知覚できない疾さでバインドを解いた瞬間に離脱しただけです」

 

 

フェイトは所々に傷を負っているものの、致命傷にはほど遠いものばかりだった

 

 

「そんな無茶な……人が認識できないほどの速度を人が制御できる訳がない!!」

 

 

「ええ、前までの私なら不可能でした。でも……今は違う。姉さんが私をより疾くしてくれる」

 

 

フェイトは愛しげに自分の瞳に手を被せる

 

 

フェイトの瞳には、六芒星の紋様が浮かんでいた

 

 

「それは……アリシアの……アリシアの希少技能(レアスキル)……!!」

 

 

アリシアの希少技能(レアスキル)……『六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)』。

 

 

これがあるから、彼女はレヴィの身体能力を制御し、高速で動けたのだ。それを元々高速機動に適正のあるフェイトが手にすればどうなるか……答えは簡単。より速く、鋭く動けるようになる

 

 

今のフェイトの疾さは……もはや音速に近い

 

 

「この瞳があれば……私は誰より疾く空を翔べる。姉さんがくれたこの瞳が、私を更に上に導いてくれた!!」

 

 

《98……99……100。Breaker,Get Set 》

 

 

バルディッシュの機械音がフェイトに準備が整ったことを知らせる

 

 

「貴女が抱えた闇も、苦しみも、悲しみも………全部ここで、終わりにするから……!!

だから……貴女の本心を、私に聞かせてください!!」

 

 

プレシアは何とか離脱しようとするが、幾重にも掛けられた金色のバインドがそれを許さない

 

 

「雷光一閃!プラズマザンバー!!」

 

 

《Breaker 》

 

 

雷を纏った金色の閃光がプレシアを呑み込む。

 

 

その余波が収まり、プレシアの姿が見えてくると……仮面は、消えてなくなっていた

 

 

しかし、フェイトは尚警戒を解かない……プレシアの様子がおかしかったのだ

 

 

プレシアは何かに苦しむように両手で頭を押さえていた

 

 

「……?母さーー」

 

 

「うあああああっ!!」

 

 

突然の絶叫と共に、プレシアの身体が黒いナニカに包まれていく

 

 

「なっ!?」

 

 

「ウグォォ……ーーーーーーーーー!!!」

 

 

理解できない断末魔のような叫び声を上げ、ナニカがフェイトに飛びかかっていく

 

 

瞬時に避けられないと判断したフェイトは防御しようとバルディッシュを構えるが……ナニカの腕はバルディッシュをすり抜けてそのままフェイトの身体に叩き込まれた

 

 

「うぐぁっ!!」

 

 

「ーーーーーー!!!!」

 

 

止めだとばかりに振り上げられる黒い腕。フェイトは反射的に目をつむってしまった……その瞬間だった

 

 

「よく頑張ったな。フェイト」

 

 

「まぁ、後は任しとき~」

 

 

「……悪魔退治は星杯騎士(わたしたち)の本業」

 

 

そんな声が、黒いナニカの叫び声らしきものと共に聞こえる

 

 

「ケビン、お前聖痕(スティグマ)使って大丈夫か?倒れたらここに放って行くぞ?」

 

 

「その言葉そっくりそのまま返したるわ。ウルがおらんのに聖痕(スティグマ)使って倒れても面倒みーひんで?」

 

 

「……大丈夫。そんな時のためにレーヴェから変若水(をちみず)預かってるから」

 

 

「「よっしゃ倒れてたまるかァァァァァァァ!!」」

 

 

「……あのケビン、可愛いのに」

 

 

フェイトが目を開くと、そこには歪な三角形のような紋様を背に浮かび上がらせているケビンと、法剣を構えているリース。そして……背に白銀の翼のような紋様を浮かび上がらせているケイジが、堂々と立っていた



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『運命』

「みんな……」

 

 

フェイトは目の前に立つ三人を見る。後ろを振り返ると何かを詠唱しているリクもいた

 

 

「『織天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』……リクに感謝しとけ。アレの攻撃を防いだのはアイツだ」

 

 

「そう、なんだ……」

 

 

「さて……こっからは俺らの仕事だ。お前はリクと一緒に下がってろ」

 

 

そう言うと、ケイジは一歩前に出る

 

 

「ま、待って!!私も一緒にーー」

 

 

「駄目だ。今回ばっかりは分が悪ぃ……お前の母さん、まさかとは思ってたが……悪魔に憑かれてやがった」

 

 

「………え?」

 

 

ポカンとなるフェイト。ケイジはその頭に軽く手を置く

 

 

「だから……お前は待ってろ」

 

 

そして、ケイジはケビン達を追いかけるように走り出した

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ケビン」

 

 

「ああ……奴さん、えろぅ厄介な悪魔(モン)に憑かれとるなぁ」

 

 

一方、先行したケビンとリースはプレシアに憑いた悪魔と戦っていた

 

 

ケビンがアーツや時の魔槍で悪魔を穿ち、リースが法剣で悪魔の四肢を切り裂いていくが、その度に即座に再生してしまう

 

 

今はケイジの聖痕(スティグマ)の力でプレシア本体にはダメージがいかないようにしているが……プレシアとほぼ一体化している悪魔にはなかなか攻撃が通じにくいようだ

 

 

「……空の女神の名に於いて、選別されし七耀此処に在り。識の銀耀、その輝きを以て彼の者の真の姿を我に示したまえ……!!」

 

 

そこに聖句を唱えながらケイジが入ってくる。ケイジは既に写輪眼、更には聖母ノ祈リ(グレイスオブマリア)まで発動させていた

 

 

「……チッ、厄介な…」

 

 

「どうや?わかったんか?」

 

 

「面倒なんてレベルじゃねーぞ……まさか『怠惰の王(ベルフェゴール)』とはな」

 

 

「ベルフェゴールやと!?悪魔の中でもとびっきり強い奴やないか!!」

 

 

「『七罪』の一つ……『怠惰』を司る最上級の悪魔……!!」

 

 

ケイジが言った悪魔の正体に戦慄するケビンとリース

 

 

「……でも何でフェイトちゃんのオカンがそんな奴に?」

 

 

「憑かれた理由は知らねぇが……ベルフェゴールが憑いたってんならああなってんのも納得がいくだろ」

 

 

ケイジはフリーズランサー、ケビンはデスパニッシャーでベルフェゴールを串刺しにする

 

 

勿論、ケイジが『認識』を操作しているのでプレシアにはノーダメージである

 

 

「『人間嫌い』、それと『女性に不道徳な心を持たせる』……だよね?」

 

 

「ああ。本来なら上に『性的に』って付くが……そこはどうにか抑えたみたいだな」

 

 

リースがインフィニティスパローでベルフェゴールを撹乱し、その隙にケイジが鳳仙華、閃華、そして切り返しの瞬桜と次々に攻撃を叩き込む

 

 

しかし、破壊力が足りないのか、すぐにベルフェゴールは再生してしまう

 

 

そのままベルフェゴールは再生した腕をケイジ達に向かって振り下ろすが、『怠惰』の特性故か、攻撃はそれほど速くないので何とか避け続けた

 

 

「……面倒だな。あの再生能力」

 

 

「硬くはないんやけどなぁ……下手するとこっちの余力が先に無くなってまうで」

 

 

「……聖痕は?」

 

 

「「もう試した」」

 

 

ケイジの『天羽々斬』による多連同時斬撃も、ケビンの『魔槍ロア』による広域殲滅も、当たった側から回復されては本来の力を発揮出来ない

 

 

リーシャの『デュランダル』ならばあるいは何とかなったかも知れないが……無い物ねだりしていても仕方がないだろう

 

 

「……仕方ないか。あんまりやりたくないが……ケビン、リース。ちょっとだけ時間稼いでくれ」

 

 

「……何や考えがあるみたいやな」

 

 

ケイジがちらりと後ろを見ると、バルディッシュを構えているフェイトと、背後で多数の雷気を帯びた剣を造り出しているリクが頷いた

 

 

「ああ。これで決める」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

フェイトがバルディッシュに魔力を集める。その度にフェイトの周りにスフィアが作り出され、フェイトの周りを旋回する

 

 

……ケイジは『待ってろ』とは言ったが、『何もするな』とは言っていない。なら、今私に出来る事は……準備をする事だけ

 

 

ケイジがこっちに目配せをする。それに私と、私の隣で剣を造り続けているリクが頷く

 

 

「……今回、俺とアイツらはお前のサポートだ。良かったじゃねーか。あんな豪華なサポート陣聞いたことねーぞ?」

 

 

「うん……本当に感謝してる」

 

 

「感謝ならあのバカにしとけ。多分アイツなら多少無理すれば簡単にあの悪魔を滅せられるはずだろうしな」

 

 

「うん」

 

 

……実を言うなら、ケイジには『天照』や『神威』、『インディグネイション』以外に超速再生する敵を倒す手段が無い。なので今の枷付きのケイジには倒せないのだが……それは割愛

 

 

「……ま、結局これはお前の問題なんだ。お前が決着付けて、お前が納得する終わりでないと何の意味もねー」

 

 

……そう。この戦いはフェイトが全てを終わらせなければ何の意味も無い

 

 

フェイトはリクの言葉に頷くと、再びスフィアを作る事に集中した

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあっ……!」

 

 

「リース!!」

 

 

その頃、ケビン達は苦戦を強いられていた

 

 

ケイジが一旦離脱した事でプレシアにダメージ……致命傷が入るかも知れない大威力の攻撃が出せなくなり、それがわかったのかベルフェゴールが攻勢に出てきたのだ

 

 

回復力は並み以下にまで下がったのだが、それをものともしない程のパワーとスピードに、ケビン達は防戦一方だった

 

 

そして今、防御の上からでも吹き飛ばされたリースにベルフェゴールが追撃を掛ける

 

 

それにとっさに反応したケビンが間に割って入るが、当然の如く弾き飛ばされ、壁に叩きつけられる

 

 

ケビンは頭を打ったのか、そのまま動けない

 

 

そしてベルフェゴールは今度こそリースに止めを刺そうと……

 

 

 

「ーー是、射殺す百頭也(ナインライブスブレイドワークス)

 

 

突然ベルフェゴールの身体に閃光が突き刺さる

 

 

「……リク…!」

 

 

「リース!ケビンの所まで退け!!」

 

 

リクに言われるがまま、リースはケビンの所へ移動する

 

 

それを確認したリクは……

 

 

 

「ーーSo,I was pray……『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』」

 

 

最後の詠唱を終えた

 

 

その瞬間、無機質な壁に囲まれた部屋から、歯車が天を覆う果てなき荒野へと景色が変わる。その中にいるのはケイジ、リク、フェイト。そしてプレシアとベルフェゴールのみ

 

 

「我が深淵に宿りし白銀の刻印よ……其は女神が至宝なり」

 

 

景色が変わるのとほぼ同時にケイジが聖句を唱える

 

 

世界が塗り替えられた事で枷による制限も無くなったのだろう、その眼は万華鏡写輪眼に変化していた

 

 

 

「汝は我が手の上に在り。汝は我が深淵に在り。されば汝は我なり。我は求める、汝が輝きを以てその本懐を為せーー!!」

 

 

ケイジの聖句が終わると共に、ベルフェゴールが光に包まれる

 

 

その光が晴れると、ベルフェゴールのすぐ側にプレシアが倒れていた

 

 

……幻を司る至宝、《虚ろなる神(デミウルゴス)》。その本来の力は……『願いを叶える力』

 

 

その力を使ってケイジはプレシアをベルフェゴールから完全に切り離したのだ

 

 

ケイジはプレシアを縮地で回収し、プレシアという核を取り戻そうとするベルフェゴールをリクが抑える

 

 

「リク!!」

 

 

「応!I am the bone of my shord ……『天の鎖(エルキドゥ)』!!」

 

 

突然現れた鎖が意思を持っているかのようにベルフェゴールを拘束する

 

 

「ベルフェゴールは元は神話の神……神性を縛られるのはさぞかし辛いだろうな?」

 

 

そして、動きを完全に拘束されたベルフェゴールの正面には……フェイトがいた

 

 

その周りには、《六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)》によって完璧に統制されたスフィアがフェイトを中心にして旋回している

 

 

……これが、六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)の本領……『空間掌握』である

 

 

空間を把握し、掌握する事でどれだけ速いスピードでもコントロール出来る。どれだけ多くのスフィアだろうと完璧にコントロール出来る

 

 

その力によって、フェイトは自身の限界を越えた。以前は67基が限界だったスフィアの統制……今、彼女が展開しているスフィアの数は、なんと108基

 

 

そのスフィアの全てが、まるで一つの天体のように、フェイトを護る守護星のように旋回している

 

 

 

「アルカスクルタスエイギアス……疾風なりし雷神、今導きの下撃ちかかれ……其れは天を彩る星々の輝き。天を形成する明星の光。星よ……我が力となりて天を呑め。我が汝の天となろう。我が汝の光となろう」

 

 

長い詠唱と共に、スフィアが次々とベルフェゴールを取り囲む。もはやベルフェゴールの姿は見えない。そこにはただ、スフィアの塊があるだけだった

 

 

そして、スフィアが眩く光出す。その時を今か今かと待つように

 

 

「全天108星……今魔星となりて敵を討て!!」

 

 

《PhotonLancer Extreme Sift 》

 

 

瞬間、光が爆発した。否、爆発したかのように見えた

 

 

108基ものスフィアが密閉された中に向かって一斉に閃光を放ったのだ

 

 

およそ15秒にして、その発射総数は……11340発

 

 

それでもまだ、スフィアは消滅しない。逃がさないとでも言うように、姿すら見えないベルフェゴールを拘束し続ける

 

 

それを見るフェイトの手には……溢れる魔力を抑えるように帯電しているバルディッシュが握られていた

 

 

「もう、終わりにしよう……悲しい記憶も、苦しい記憶も。私の心の隅にいつまでも残っている醜い感情も。私は前に進むから。前に進みたいから……だから……」

 

 

《Plasma Saver 》

 

 

バルディッシュから伸びた雷の剣が、スフィアに突き刺さる

 

 

剣は徐々に大きくなっていき……スフィアの塊をも完全に呑み込んだ

 

 

「今、ここで……誰かの代わりだった私とは、生きる事に意味を求めた私とは……サヨナラだ!!」

 

 

剣の光が一層強くなっていく。それに比例するようにスフィアの輝きも強くなっていく

 

 

 

「ライトニングクルセイド……ブラストーーーーエンド!!!」

 

 

そして、全てが光に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

「……母さん」

 

 

フェイトに背を向けて立ち尽くしているプレシア。その近くではケイジが片膝を立てて座っていた

 

 

ケビン達は空気を読んだのか部屋から出ていっている。ケイジはどうやら動けないようで置いていかれたようだ

 

 

「…………」

 

 

「母さん」

 

 

「…………今更」

 

 

プレシアがようやくその重い口を開く

 

 

「今更、どんな顔をして貴女を見ればいいのか分からないわよ……。私に貴女の母を名乗る資格なんて無いわ」

 

 

拒絶。しかし、それは今までとは全く毛色の違う優しい拒絶だった

 

 

「私は……それだけの事をしたのだから……」

 

 

プレシアの足下にポツリと雫が落ちる。プレシアは、フェイトに背を向けたまま動かない

 

 

プレシアには、ベルフェゴールに憑かれていた時の記憶が残っている。フェイトにした事も、記憶に焼き付いているのだ

 

 

取り憑かれていたのだから仕方ない……そう言ってしまえばそれだけだろう。だが、プレシアにはそれが出来なかった。それだけは出来なかった

 

 

悪魔に取り憑かれたのも結局は自分の責任なのだ。それを全て無かった事にして何食わぬ顔でフェイトに接するなど……プレシアには出来なかった

 

 

そして、そんなプレシアを……フェイトは背中から、優しく抱き締めた

 

 

「………あ…」

 

 

「私は今、ここで生きてる。だからここにいる。人が生きる意味なんて……きっと、それだけでいいんです」

 

 

それはアリシアに言われた言葉。フェイトに生きる意味の無意味さを教えてくれた言葉。最初で最後の……姉からのメッセージ

 

 

「それと同じですよ。貴女が私を生み出してくれた。だから私は貴女を母と呼ぶ……だから、貴女は私の母さんで、私は貴女の娘です。ただ、それだけの事なんです」

 

 

「………こんな私でも……まだ、母と呼んでくれるの……?」

 

 

震える声で、プレシアはフェイトに言う

 

 

「……同じ事を言わせないで下さいよ。私は誰が何と言おうと貴女の娘です。それと同時に……貴女は誰が何と言おうと私の母さんなんですよ」

 

 

「っ……!!」

 

 

プレシアの嗚咽が徐々に大きくなる

 

 

「あり………がとう…………!!」

 

 

その時のプレシアの涙は、とても綺麗で……清らかなものだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ポゥ………

 

 

「!」

 

 

「……時間のようね」

 

 

突然、プレシアの体が蒼く光出す

 

 

「母さん……」

 

 

「そんな顔をしないで、フェイト。元々私は……もう現世には居なかったのよ」

 

 

少し暗くなるフェイトをプレシアが宥める。決して見れる事はないと思っていた母娘の絵が、そこにはあった

 

 

「少しの間だけど……貴女とちゃんと話ができて楽しかったわ」

 

 

「うん……私も」

 

 

「ケイジ君……だったかしら?貴女も好い人を見つけたみたいね……もっと早く彼に出逢っていれば私の運命も変わっていたのかしら」

 

 

「どうだろうね……ケイジは気分屋でバカだからね」

 

 

ケイジが少し遠くにいる事を良いことに言いたい放題のフェイト

 

 

プレシアの光が強くなっていく

 

 

「そうだ……一つ伝え忘れていたわね。貴女の名前の由来を」

 

 

「………え?」

 

 

「貴女は自分の名前をプロジェクトF.A.T.Eの名前からとったと思っているようだけど……それは違うのよ

貴女の誕生は正直予想外だった……確かにアリシアの遺伝子から貴女は生まれたけど、それは半分偶然のようなものだった。だからこそ……私は貴女にフェイトと名付けたの。神の悪戯で生まれた貴女が、クローンという逆境に負けずに、自分の意思で。自分の力で。誰かの代わりじゃない、自分だけの運命を切り開けるように……そう思って貴女を『運命(フェイト)』と名付けたの」

 

 

「!!」

 

 

今度はプレシアがフェイトを抱き締める

 

 

「貴女は誰かの代わりとして生まれたんじゃない……それは貴女が生まれた瞬間にいた私が保証するわ。だから、貴女は貴女の信じた道を進みなさい。私の娘なら出来るわね?フェイト」

 

 

「うん……!」

 

 

「フフ……出来る事なら貴女の花嫁姿も見たかったのだけれど……流石にそれは欲張りすぎかしらね

フェイト……頑張って幸せを掴みなさい?貴女も私の自慢の娘なのだから、ね?」

 

 

「うん……ありがとう……母さん……!!」

 

 

そして、プレシアは光となって消えていった

 

 

「……………」

 

 

フェイトはしばらくその場に立ち尽くしていたが、突然力が抜けたかのようにその場にへたりこむ

 

 

「うぁ……………」

 

 

今まで、自分の名前が嫌いだった。名前を呼ばれる度に自分はクローンだと、アリシアの『偽者(フェイト)』だと思い知らされているような気がしたから

 

 

「うぇぇ…………」

 

 

けれど、違った。他でもない母さんが、そう教えてくれた

 

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

 

だから、今なら。自分の名前を。自分自身を

 

 

 

『フェイト』を、少しだけ好きになれる。そんな気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ今の感じ……何か一気に疲れが増した気が………

いや、まっさかなぁ……いやいやナイナイナイナイ。………あ、やべ、落ち……」




















ライトニングクルセイド


Sクラフト


単体・気絶100%・三段階攻撃(ヨシュアの双連撃の三回ver.のSクラフト版と思って下さい)


フォトンランサー×11340、プラズマセイバー、大爆発の三段階攻撃。多分黒の作中最強(最凶)の技。彼の防御に定評のある白い魔王様でも、防御に極振りしたジンさんでも、鋼の聖女でも一撃で確実に落ちる


え?リリカル世界?星が2~3個一編に消えるんじゃないかな?


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Nフォースさんコラボ『星鏡の扉・愛知らぬ扉』

本当は上げる予定ではなかったのですが、消えたからって約束しておいて上げないのはモヤモヤしたので上げます



今回は初のコラボ回!!Nフォースさん……もとい望月さんが暁で連載中の『儚き運命の罪と罰』とクロスさせていただきました!


そして皆さんお待ちかねのテイルズキャラ出演回です!













『これより先は、残酷に消える運命の庭

 

儚き愛に生きた少年と出会いし金閃。そのこの世の姿、我が前に引き連れよ。さすれば異界の扉を開かん……』

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「異界の扉?」

 

 

「この世の姿……?」

 

 

時の庭園の玄関の近くにあったこの扉を見つけた五人は戸惑っていた

 

 

「……わかんねぇならとりあえず開きゃいいんじゃね?ここに関係があって金閃って言えばフェイトしかいないしな……オイ扉!コイツで合ってんだろ?」

 

 

「ちょっ!?降ろしてよ~……」

 

そう言うと、フェイトを猫掴みして扉に見せるように突き出すケイジ。任務の度にリーシャを掴んでは投げているからか、その動きは物凄くスムーズだった

 

 

《然り……されど入るはその者のみに非ず。汝もまた我の求めし者なり……》

 

 

「は?俺?」

 

 

「よし、行こうケイジ」

 

 

「え?ちょ、待てって……何で俺!?」

 

 

そして、ケイジはいつの間にか降りていたフェイトに引き摺られ、扉の中に入っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

崩れていく時の庭園。その中のとある部屋の中で、黒髪の少年が、剣を壁に刺して自身と自身が掴んでいるまだ幼い金髪の少女の命を辛うじて繋いでいた

 

 

しかし、長い髪を振り乱した女性が吐血するのにも構わずに少年の手を一心不乱に引っ掻いてその希望を断とうとする。女性の目は血走っており、とても正気とは思えない

 

 

……だが、突然女性は何かに気付いたように身を引くと、子供のように首を横に振る

 

 

そして、女性は今までの錯乱が嘘のように落ち着いた様子で少年に二言三言話すと、その手で壁に刺さっている抜き身の剣を掴み……その手を、放した

 

 

「私は人生の賭けに負けたのね……ごめんなさい、アリシア……フェイトも……」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「……何だ?今のは……」

 

 

「…………」

 

 

扉の中の神秘的な空間の中、ケイジとフェイトは絶句していた

 

 

「……違う」

 

 

「ん?」

 

 

「私の記憶と全然違う……おかしいよ。私虚数空間に落ちてなんかいない……それに、あんな人見たこともないよ……」

 

 

尋常でない冷や汗をかいて頭を抱えるフェイト。それを落ち着かせようとケイジが声を掛けようとした時だった

 

 

「ーーそれはそうだろう。入る前に忠告があった筈だ……『異界の扉を開かん』、とな」

 

 

「「!」」

 

 

部屋の中心に魔方陣が出現し、その中から先程記憶に出てきた少年が現れる

 

 

年は15、6といったところだろうか。まだ顔にあどけなさが残っているものの、鞘に納められていない剣のような鋭い雰囲気を纏っており、どこか近寄りがたい印象を受ける

 

 

「お前はさっきの……」

 

 

「あれは言うならばこことは限りなく近くて遠い世界の過去だ。俗に言うパラレルワールド……ひょっとすると起きたかもしれないIFの世界といったところか」

 

 

「貴方は……」

 

 

フェイトが少年の覇気とも言うべき威圧感に警戒しながら名前を尋ねる

 

 

それに少年はフン、と鼻を鳴らすと

 

 

「人に名前を尋ねる時はまず自分からという言葉を知らんのか?……まぁいい。僕はお前達の名前を知っているようなのでな。

リオン・マグナス……それが僕の名前だ。お前達の自己紹介はいらないぞ、ケイジ・ルーンヴァルトにフェイト・テスタロッサ……いや、こちらではフェイト・T ・ハラオウンか」

 

 

「!!」

 

 

教えていない自分達の名前を知っていた事に警戒を強くする二人。しかし少年は何処吹く風とでも言うように再び鼻を鳴らした

 

 

「何を驚いている?僕が限りなく本物に近い偽者である事くらいは既に判っているのだろう?ならば僕が知らない情報を頭に入れられた状態でいても何も不思議は無い筈だ」

 

 

「……貴方の目的は……?」

 

 

「……決まっている」

 

 

リオンは腰の剣……ソーディアン・シャルティエを抜き、更に懐から短剣を取り出す

 

 

ケイジと同じ変則二刀……違う点は得物が剣か刀かという事だろうか

 

 

そしてリオンはシャルティエをケイジに向け、ニヒルに笑う

 

 

「構えろ。ケイジ・ルーンヴァルト。この世界の僕の妹分を護れるかどうか……僕が試してやる」

 

 

リオンの体から闘気が溢れ出す

 

 

「……こりゃ最後の一枚とか言って渋ってる場合じゃねぇな」

 

 

ケイジは懐から一枚の札を取り出し、それに譜力を込める。すると、札は輝きだし、その光の中からウルが現れた

 

 

『………………zzz 』

 

 

……ただし、寝ている状態で

 

 

「起きろ駄狐」

 

 

『うみゅっ!?』

 

 

ケイジが白龍(鞘付き)でウルをシバくと、妙な声を出してウルが起きる

 

 

『痛いよ!?何すんのさ!?』

 

 

「んな事は今どうでもいい」

 

 

「良くないよ!下手すると(わたし)死んでたよ!?いや、死なないけど!ケイジの中に戻るだけだけど!!』

 

 

「うるせぇな………ウル、『氷位顕現』……いけるか?」

 

 

『……出る前に言ったと思うけど、一日単位で1時間が限界だよ?』

 

 

ケイジの声音に真剣味がある事に気付いたのか、ウルも真剣な声で応える

 

 

「それでいい」

 

 

『わかった!』

 

 

そう言うと、ウルの姿が消え、ケイジの髪が銀に染まり、白銀の毛の狐耳と九本の尻尾が生える

 

 

『氷位顕現』……ウルの力を最大限に活用し、“幻”の力を使いこなすために必要な技

 

 

リーブ……アガレス戦の時にケイジが見せた最後の切り札でもある

 

 

『尻尾の数が限界までのカウントダウンだよ!限界が来たら勝手に解けるから気を付けて!』

 

 

「わかった」

 

 

「……準備は終わったのか?」

 

 

「ああ……じゃあ、戦ろうか!」

 

 

次の瞬間、二人の剣は交差していた

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「凄い……」

 

 

フェイトは純粋に二人の剣劇に魅入っていた

 

 

リオンが攻めればケイジが防ぎ、その勢いのままにカウンターまで仕掛ける。ケイジが攻めればリオンが避け、動作直後の僅かな隙を狙っていく

 

 

勝負は全くの互角……いや、言い方が少し違うだろう

 

 

攻撃力と純粋なスピードは体格で勝り、縮地が使え、更に氷位顕現によって身体能力の枷を外しているケイジの方が上、技のキレや見切りといった技量や小回りのきいた機動力はリオンの方が上と、互いに自身のアドバンテージを十全に使い、一進一退の攻防を繰り広げているのだ

 

 

隙あらばケイジに加勢しようとしていたフェイトだったが、そんな考えが吹き飛んでしまう程、二人の剣劇は凄まじかった

 

 

「………」

 

 

知らず知らずの内に、フェイトは拳を握っていた

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「幻影刃!」

 

 

「閃華!」

 

 

交差は一瞬。だが、その一瞬に何度斬り合ったのか、聞こえてくる金属音は複数だ

 

 

「チッ……爪竜連牙斬!!」

 

 

「だからその技はカモだ!!」

 

 

一撃、二撃とリオンがケイジに攻撃を加える度に、ケイジの放つ剣閃が重くなる

 

 

レーヴェが『双剣術の一つの完成形』と称したケイジのカウンターはリオンにも確かに通じていた

 

 

「くっ…」

 

 

「瞬桜!」

 

 

「甘い!」

 

 

技後硬直を狙ってケイジが仕掛けるが、リオンは月閃光、そして斬り返しの月閃弧崩によって相殺される

 

 

すると、今度はケイジの技後硬直を狙ってリオンが猛攻を掛ける

 

 

「臥竜閃!崩竜残光剣!」

 

 

「チッ……」

 

 

自身が動く事で距離を保ちながら攻撃されてはカウンターもできない

 

 

どうにかその連撃を防いだケイジだったが……

 

 

「遅い!浄破、滅焼闇!!」

 

 

「がっ……!?」

 

 

背後からとてつもない衝撃と熱がケイジを襲い、吹き飛ばす

 

 

「闇の炎に抱かれて消えろ!!」

 

 

「そう簡単には消えてやらねぇよ……フリーズランサー!!」

 

 

吹き飛ばされたまま体勢を立て直し、詠唱。そして壁を蹴って宙返りした状態からケイジはフリーズランサーを放つ

 

 

「!?……ストーンウォール!」

 

 

一瞬驚いた仕草を見せたリオンであったが、すぐに高速詠唱でストーンウォールを発動させ、フリーズランサーを防いだ

 

 

「お前……どうして晶術を使える!?」

 

 

「晶術?違ぇよ……譜術だ!!」

 

 

二人の詠唱が同時に完了する

 

 

「デモンズランス!!」

 

 

「ホーリーランス!!」

 

 

光と闇の槍が衝突し、行き場を失った力が爆発する。煙が晴れるとその爆発が起きた場所でケイジとリオンは鍔迫り合いになっていた

 

 

「お前は……何を迷っている?」

 

 

「あぁ?」

 

 

「お前の剣は表面上は迷いがないように見える……だが、その奥では何かに迷っていると、そう感じる」

 

 

「…………」

 

 

「今のお前を見ているとイライラする……何故か昔の僕を見ているようだ。自分を犠牲にする事で何かを護ろうとした、独り善がりな僕と同じようでな」

 

 

リオンは一気に剣に力を込め、ケイジを弾いて距離を取る

 

 

「何を勘違いしているのかは知らないが……勝手に全てを決めつけていい気になるな!!」

 

 

「!?」

 

 

瞬時にケイジと距離を詰めたリオンがそのままケイジの防御を貫いて空中に斬り上げていく

 

 

「僕の前から……消えてしまえ!!」

 

 

そして、着地と同時に双剣を振り抜き、流れるようにシャルティエを駆け抜け様に一閃する

 

 

「魔神……煉獄殺!!」

 

 

「がっ………はっ………!!!」

 

 

そのまま床に叩きつけられ、空気を肺から吐き出してしまうケイジ一閃されて付けられた傷も決して浅くはない

 

 

部屋の隅で見ていたフェイトが何かを叫んで駆け寄ろうとするが、何の作用かフェイトの周りに結界のようなものが張られているためにそれは叶わない。叫んでいる声も聞こえないあたり、どうやら音も遮断されているようだ

 

 

「……所詮、迷いのある剣などこの程度だ。さらばだ…二度と会うことも無ーー」

 

 

「ーー天一式、『空断(からたち)』」

 

 

突然感じた嫌な予感に、リオンは振り向き様にシャルティエを振るう

 

 

何もない筈の空間に確かな手応えを感じ、そのまま振り切る。すると、途端に嫌な予感は無くなった

 

 

「……さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがってよぉ……」

 

 

「事実を述べたまでだ」

 

 

「ああそうだよ。まだ迷ってるよ。悪いかコノヤロー。今まで最善だと信じてやってきた事が全部あのアホ(クローゼ)に引っくり返されたんだ。そうそう簡単に受け入れて切り替えられるかよチクショー」

 

 

腹から血を流しながら、ケイジはリオンに言う

 

 

「……一つだけ忠告してやる。……仲間が道を正してくれたのならそれを受け入れた方がいい。自分でも今の道が間違いだと気付いているなら尚更だ。……それを受け入れなければ後悔するのはお前だ。僕のように、な」

 

 

「忠告どーも……でもなぁ、やっぱ年下にやられっぱなしってのは性に合わねぇんだわ」

 

 

そう言うと、ケイジは聖痕を開放する

 

 

もう尻尾も三本しか残っていない。だったら、残りの力を全て一撃に込めるしかない

 

 

それしか、今のケイジには勝機を見出だせないのだから

 

 

「ほぅ……面白い。なら僕もそれに付き合うとしよう」

 

 

リオンの周囲に黒い晶力の羽が舞う

 

 

「覚悟は出来たか?……いや、聞くまでもないな」

 

 

ケイジの足下から晶力の波動が巻き起こり、ケイジを巻き込んで空中へと昇っていく

 

 

「魔神剣・刹牙……」

 

 

そしてリオンも地を蹴り、ケイジの上まで跳んだ

 

 

「過去を……断ち斬る!!!」

 

 

トドメとばかりにリオンは腕をクロスした状態から、一気に双剣を振り払った

 

 

 

……が

 

 

ガキィィィン

 

 

「なっ!?」

 

 

「………捕まえた」

 

 

晶力の波に呑まれているはずのケイジが、小太刀…蒼燕をシャルティエと短剣の交差する根元の部分に割り込ませ、攻撃を防いだケイジ。薄く笑っているその姿にダメージを受けている様子は全く見られない

 

 

「お前……何をした!?」

 

 

「お前の攻撃から『ダメージを与える』って概念を消しただけだ」

 

 

無茶苦茶な論理にリオンの顔が驚きと動揺に染まる

 

 

「そんなふざけた事が……」

 

 

「出来るから俺はこうしてお前の攻撃を防いでるんだよ

……ま、アレだ。切り札は最後まで取っとくもんだ」

 

 

そしてそのまま鳳仙華の要領でリオンを逆に叩き落とし、地面に叩きつけられた勢いで少しバウンドした所を更に斬り払って吹き飛ばす

 

 

先程のケイジと同じように壁に叩きつけられる前に体勢を立て直したリオンだったが、地に足を付けた時にはもうケイジが目の前にまで迫っていた

 

 

「なっ……!?」

 

 

天二式(あめのにしき)……」

 

 

ケイジの手には白龍。しかし、白龍には銀色のオーラが纏われ、巨大な大剣の姿となっている

 

 

ケイジはそれを横だめに構え……縮地の勢いのまま、リオンを一閃した

 

 

「『白帝剣(はくていけん)』!!」

 

 

銀色のオーラがリオンを呑み込み、そこに込められている『天羽々斬』の力……多連同時斬撃がリオンを襲う

 

 

「ぐっ……あああああああ!!」

 

 

咆哮。そうとしか言えない声をリオンが上げる

 

 

それほどにケイジの一撃はとてつもないものだったのだ

 

 

そして、力の奔流が過ぎ去り、銀色のオーラが消えて後に煙だけが残った時、ケイジの目の前が真っ白になった

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

それは一人の少年の生涯の記憶だった

 

 

親すらも愛さなかった、愛されなかった少年が一人の女性を愛した。それが悲劇の始まり

 

 

その愛を実の親に利用され、更に少年は自身を追い込んでいく

 

 

その結果……少年は全てを失ってしまった

 

 

友すら持たなかった少年に初めて出来た友さえも、少年の実の姉さえも、少年は自分の意思を貫くために裏切った

 

 

全ては、愛した者の幸せのために

 

 

だが、それは何を生み出したのだろう。少年の友は、最後まで自分の名を叫んだ。少年の姉は、少年から目を逸らさなかった。他の仲間達も同じ。裏切ったというのに、最後まで自分の事を考えてくれた

 

 

ーー僕は、何をしていたのだろうか

 

 

海水に呑まれながら少年が考えたのはそんな事だった

 

 

自分がもっと強ければ、この運命も変わっていたのだろうか

 

 

もっと仲間達を頼っていれば、この運命も変えられたのだろうか

 

 

……他に、手段は無かったのだろうか。いつものようにスタンと口喧嘩をして、ルーティがそれを眺めて、フィリアとウッドロウが僕達の仲裁をして。マリーとジョニーはマイペース。チェルシーがウッドロウに構ってもらおうと必死で、コングマンは懲りずにフィリアに求愛する

 

 

そんな、未来は描けなかったのだろうか

 

 

「(……すまない、マリアン。僕は……)」

 

 

意識を失う直前、リオンの脳裏に浮かんだのは、皮肉にも愛した(マリアン)の泣き顔だった

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

膝をついたまま動けないリオン。最後まで倒れない所はやはりプライドの高さ故だろうか

 

 

それを見ていると、時間が来たのかケイジの氷位顕現が解け、ウルが頭から地面に落ちた

 

 

『うきゅ!?』

 

 

「こんな時くらいきっちり決められねぇのかお前は……」

 

 

「……フッ。僕の負け、か……」

 

 

膝をつきながらも尚ケイジを見据えるリオン

 

 

「お前……」

 

 

「何もいうな。見たんだな?僕の記憶を……」

 

 

ケイジは頷く

 

 

「……なら、話は早い。アレが自分の独り善がりで誰かを護ろうとした結果だ。僕の間違いはただ一つ……誰にも頼ろうとしなかった事だ。

人が一人で出来る事なんて限られている……だけど、僕はそれを認めなかった。認められなかった。僕だけがマリアンを護れるのだと思い上がっていたんだ……手を伸ばせばすぐそこに掴んでくれる仲間がいたのにも関わらずだ」

 

 

「………………」

 

 

リオンが真っ直ぐケイジを見据えながら話す。それは戒めるようにも、諭しているようにも見えた

 

 

「ケイジ!リオン!」

 

 

そこに、結界が解けたのかフェイトが慌てた様子で駆けてくる。そしてすぐに二人に回復アーツを掛け始めた

 

 

「……フェイト、僕に回復は要らない。どのみち後数分で消えるだろうからな」

 

 

「え?あ、うん………あの、そっちの私は……」

 

 

「ああ、元気は元気だ。絶賛指名手配中だがな」

 

 

「え!?」

 

 

酷く不吉な言葉に、思わず声が裏返ってしまうフェイト。それを他所にリオンは再びケイジに視線を戻す

 

 

「……さて、ルーンヴァルト。これだけはお前に言っておく……護るという事の意味を履き違えるな。自分の思うがままに生きてみろ。

僕はその二つが出来なくて後悔した。それこそ死んでも死にきれない程にな」

 

 

「……ハードな人世送ったんだな、お前」

 

 

「お前にだけは言われたくない気がするんだが……まぁいい。

お前は僕によく似ているんだ。だからこそ……僕のようにはなって欲しくない」

 

 

「……頭の隅には置いておく」

 

 

「フッ。それでいい」

 

 

リオンの体が光に包まれる

 

 

「ではな……二度と会うことも無いだろうが……精々頑張るといい」

 

 

そして、リオンは消えていった

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

ギィ………

 

 

「お、帰ってきたか」

 

 

「……お帰り」

 

 

「案外遅かったな」

 

 

扉の前では、ケビン、リース、リクの三人が待っていた

 

 

「何の記憶だったんだ?」

 

 

「ん~……よくわからん」

 

 

「は?」

 

 

ケイジの答えにすっとんきょうな声を出してしまうリク

 

 

「ただアレだ。ものっそい疲れ……てない?」

 

 

「……あ、ホントだ」

 

 

どういうわけか、ケイジとフェイトに疲れは残っていなかった

 

 

「……お、出てきたな……………何やコレ?」

 

 

扉から報酬が出てきたようだが、ケビンの手に握られていたのは見たこともない珠だった

 

 

「珠?」

 

 

「食べられる?」

 

 

「いや、無理やろ。硬いし。……どうする?フェイトちゃん」

 

 

ケビンが扉の鍵であったフェイトに聞く

 

 

フェイトは少し悩んだ後、ケビンの手にあった珠を受け取った

 

 

「折角ですし、持っておきますよ」

 

 

「そーか」

 

 

その珠こそが、後に《マスタークオーツ》と呼ばれることになる貴重品だとは、この時の五人には知るよしもなかった




~没ネタ~



「闇の炎に抱かれて消えろ!!」


「……………」


「……お前、何故僕に回復術を掛けているんだ?」


「……いや、思春期特有の病気かな~と」


「誰が厨二病だァァァァァァ!!」




~没ネタ②~


『………………』もきゅもきゅ


「……お前出てきながら何食ってんの?」


『クローゼに作ってもらったプリン』


「プリン……だと……!?」


『食べる?』


「し、仕方ないな。どうしてもと言うのなら食ってやらんことも……」


『じゃああげない』


「スイマセンっしたァァァァァ!!」





二つともリオンがヤバくなるので没りました(笑)


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『ちょっと一休み……』

今回は短め。まぁ挿入話ですしね。

めっちゃ迷ったんですよ……この話。


さて、この度Nフォースさんが銀の守護騎士と暁で連載中の『儚き運命の罪と罰』とのクロスで短編というかミニ連載を作って下さいました!そちらもよろしくお願いします!


さて、では短いですが、砂糖袋かブラックコーヒーを用意してご覧ください(笑)



















「……………ん、む……」

 

「あ、起きた?」

 

 

目を覚ますと、クローゼが俺を覗き込んでいた。

俺は……確かプレシアさんを正気に戻した後、ケビンやリクにその場に置いていかれて……

 

 

……うん。アイツら絶対シメる。

 

 

「……ここは?」

 

「拠点だよ。そう言えばケイジって書庫の方は来てなかったよね?ここはその書庫」

 

 

場所を聞くと、クローゼは普通に答える。ついでに起き上がろうとしたのだが、クローゼにやんわり起き上がるのを阻止された。

 

 

「クローゼ?起き上がれないんだが……」

 

「ふふっ、ダ~メ。怪我人は大人しく寝てなきゃ」

 

「いや、怪我なんて別にしてねぇんだけど……」

 

「それでも。ケイジが倒れたって聞いて心配したんだよ?」

 

 

一瞬、本当に泣きそうな顔になるクローゼ。……正直そんな顔されると断るに断れない。

 

 

「……他の奴らは?」

 

 

という訳で話を変えた。

 

 

「あ、うん。今はケビンさん、リースさん、レーヴェさん、オリビエさん、フェイトで探索に行ったよ。次の石碑の鍵がレーヴェさんだったみたい。フェイトも『ケイジの分まで頑張る!』って張り切ってたしね」

 

「へぇ~…」

 

 

……その実、フェイトはクローゼ…いや、黒ーゼの『ね?』という言葉と眼力に負けたのだが、それをケイジは知らない。

 

 

「その間俺は放置かよ……」

 

「あはは……ケビンさんの前例があったから。ケイジが倒れたのって聖痕(スティグマ)っていう能力の副作用なんだよね?」

 

「ん~……まぁ、そうだな。使いこなしてたらそんなにフィードバックは無いんだけど、今回は半分反則技で無理矢理『枷』ってやつを壊したからな~……」

 

 

実際、俺は聖痕解放くらいなら特にダメージは受けない。今回はウルが居ないのに至宝の力を使ったのと、無限の剣製(アンリミテッドブレードワークス)の固有結界内で無視した『枷』の分のフィードバックが回ってきたって所だろうな。

 

そして、地味に今まで起き上がろうとクローゼの手と争っていたのを諦め、後ろの枕に頭を預ける。その時にクローゼの顔が少し赤くなったような気がしたが……ま、気のせいだろ。

何故か、クローゼが俺の髪をすくように撫でてきた。

 

 

「……俺が頭撫でられたりすんの嫌い、って知っててやってんのか?」

 

「今初めて聞いたよ?」

 

「あれ?言ってなかったか?」

 

「言ってないよ……。たまにはいいじゃない。ちょっとくらい大人しく撫でられてなさい♪」

 

「ヘイヘイ……」

 

 

何でかは知らないが凄く幸せそうに笑っているクローゼ。

……全く、コイツだけは本当に調子狂わされるなぁ……

 

 

「……筋肉、付いたね」

 

「そうか?」

 

「うん。前はもうちょっとケイジの首筋柔らかかったもん。腕も太くなってるし」

 

「何で俺の首筋の固さ知ってんだよ……」

 

「え?だって……膝枕してるから。というか気付いて無かったの?」

 

「は?」

 

 

ひざまくら……膝枕!?通りでなんか枕にしては温かいな~とか思った訳だ……

ヤバい。顔が赤くなってんのが自分でもわかる。だからさっき俺が頭下ろした時にクローゼが赤くなってたのか。というかあれ気のせいじゃなかったのか。

 

何というか……ただただハズい。とにかくハズい。

 

そんな感じでちょっと「うあー!!」みたいな感じになっていると……

 

「ひゃん!?」

 

「!?」

 

「け、ケイジ……あんまり頭動かさないで……」

 

「わ、悪い。今戻すから……」

 

「ひゃっ!?」

 

「もうどうしろってんだよ!?」

 

 

その後、とてもじゃないがクローゼの顔をしばらくまともに見る事は出来なかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その頃の探索組~

 

 

「今や!フェイトちゃん!」

 

「はい!! プラズマザンバー……」

 

 

「ヤベェ! 一旦離れるぞブルブラン!ルシオラ!」

 

「わかっている!」

「ええ、わかってるわ」

 

「ってブルブラン!?何してんだ!?さっさと避けろ!」

 

「……フッ。避けたいのは山々なのだがね……足が震えて動けないのだよ……」

 

 

「ブレイカー!!!」

 

 

「「ブルブラぁぁぁぁぁぁン!!!」」

 

 

 

 

「……なんか、罪悪感が凄いんやけど……」

 

「安心しろケビン。俺もだ」

 

「フフフ……君達もシャルくんのアレを受ければわかるさ……アレ以来、ピンクの光を見るだけでこの世の全てがどうでもいいような気持ちにさらされるんだからね……」

 

 

「「……ウチの天然娘が本当に迷惑かけたな」」

 

 

 

 

結論:魔王の(SLB )はやっぱり砲撃にトラウマを植え付けていきました。

 








正直、クローゼの膝枕かフェイトの膝枕かで迷いました


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『医神達の聖墓』

前半戦終了ーー!!(受験の)


祝☆某K大特待生合格!!














《影の王》に代わり《氷天の騎士》が告げるーー

 

これより先は医神達の眠る丘

 

彼の魂を受け継ぎし銀の守護騎士を伴い、文字盤に手を触れるがいい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケ~イジ~♪」

 

「ん?フェイ……のわっ!?」

 

膝枕の精神的ダメージから復活したケイジとクローゼが書架から中央の広場に戻ると、そこには探索組を含む全員が集まっていた。

そしてその中の一人……まぁ、言うまでもなくフェイトなのだが……がケイジに飛び付いて抱き付くが、不意を突かれたケイジが人一人を支えきれる訳もなく、そのまま後ろに倒れこんでしまう。

 

「体大丈夫!? もう起きて平気なの!? 痛いところ無い!?」

 

マウントを取った状態でケイジの服の襟を持ってガクガク揺さぶるフェイト。当のケイジからの返答は無いが。……ちなみにクローゼはあまりのフェイトの早業に呆気に取られている。

 

「……? ケイジ?」

 

流石にケイジの返事が無いことに疑問を感じたフェイトだったが……

 

「フェイトちゃんフェイトちゃん」

 

「何ですかケビンさん?」

 

「ソレ、気ィ失ってないか?」

 

フェイトがケイジに視線を戻すと、後頭部に大きなタンコブが。

 

「……誰がこんなヒドい事を!?」

『『お前だよ!!!』』

 

全員の渾身のツッコミが庭園に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いきなり突撃してくるとか何なのお前? バカなの? 死ぬの? ……むしろ今ここでシバき倒してやろうかコノヤロー」

 

「ごめんなさい……」

 

後頭部の大きなタンコブを冷やしながら正座で座っているフェイトにハイライトの消えた目で説教をするケイジ。……端から見ても中々怖い光景である。

 

「全く……起きたら起きたで精神的にガリガリ削られるしよぉ、復活したら復活したで今度は肉体的ダメージってお前……」

 

「うぅ……」

 

普通に聞いている分にはただの愚痴なのだが、いかんせん目のハイライトが消えているせいで威圧感がヤバい。どれくらいヤバいかと言うとマジヤバい。

しかもこんな時に限ってストッパーになれる人物(クローゼ)は扉を開きに行っていて居ないのだ。フェイト……ご愁傷さまである。

 

「全くもってお前は前から色々と常識がだな……」

 

「ご主人様、替えの氷嚢です」

 

「あ、サンキュ。お前はまず一般常識と一般教養を…………誰だお前!?」

 

フェイトへの説教を一時中断し、たった今ケイジに氷嚢を手渡した銀髪ショート……いや、セミロング?の巫女服を着た九本の尻尾の生えたお姉さん系の美人を見る。……いや、九本の尻尾って時点である程度予想はつくのだが。

この際、遠くで「銀髪巫女の藍様だと……?」と劇画チックに驚いているリクはとりあえず無視しておくことにしよう。

 

「フフフ……よくぞ聞いて下さいました! 謂れはなくとも即参上! 軒猿陵墓から良妻狐のデリバリーにやって来ました!

……あ、何かドン引きしてません? ちょっと~?聞いてます~?」

 

ドン引きどころかゴミを見るような目でケイジは自称良妻狐を見る。しかし良妻狐も諦めない。流石シリアスブレイクに定評のある狐一族である。

 

「いや、もう前置きとか心の底からどうでもいいからさ……お前誰だよ」

 

「もう、せっかちなイケメンですねぇ……。はい、それでは(わたし)の方からご挨拶をば。(わたし)の名前は諸事情、Z的な規制等によって明かせませんが、それはもう由緒正しい、自分でもどうかと思うくらい霊験あらたかな狐耳のお手伝いさんです!」

 

名前がZ指定ってどういう事か、自分でもどうかと思うくらいの霊験って何なのか、何でそんな無駄にテンション高いのかなど、ツッコミ所は山ほどあるが、とりあえず面倒な事になりそうなので放っておくことに決める。

まぁ、自称良妻狐はツッコミが無いのに若干不服そうではあったが。

遠くで「見た目藍様で中身キャス狐だと……?」とか言って悶えているリクはやっぱり無視する。

 

「どうぞ気兼ねなくウルとお呼び捨て下さいね?」

 

『『(いや名乗ってんじゃねーか!!)』』

 

「やっぱり駄狐じゃねぇか」

 

「駄狐!?」

 

という訳で、良妻狐の正体はやっぱりウルだったらしい。当の本人(本狐?)はケイジの駄狐宣言に『ガビーン』と効果音が付きそうな程大げさにショックを受けているが。……相変わらず、いや、以前よりも数段パワーアップしたシリアスブレイカーっぷりである。

 

「お義父さん、ウルちゃんを俺に下さい!」

「誰がお義父さんだバカ」

 

サクッと蒼燕を頭に刺されて撃退されるリク。コイツもやっぱり相変わらずだった。

 

そしてウルのある一言に触発された者がまた一人……

 

ガシッ

 

「…………良『妻』狐……?」

 

「え? いや、それは、あの……その……」

 

顔を伏せ、黒いオーラを全身にみなぎらせながらウルの頭を鷲掴みにするフェイト。どうにも『妻』の一字が気に入らなかったようだ。むしろよくここまで何も言わないでいたと言うべきか……

一方、掴まれている側のウルは気が気でない。尋常ではない量の冷や汗を流し、尻尾を全てビンと毛立たせて全身を強張らせていた。まさかパッと電波で受信した台詞が地雷だとは思わなかったのだろう。

 

「少し……頭冷やそうか……」

「いやいやこれは言葉のあやってやつでですね!? 実際の所は(わたし)にそんな感情は無いと言いますか何か電波的なものを突発的に受け取ってしまったと言いますかそんな悪気の無いお茶目な狐の可愛い悪戯でしてーー」

 

 

 

~見せられないよ!~

 

 

 

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……」

 

『『(うわぁ……)』』

 

「……どういう状況なん?コレ。それとそこの巨乳の美人さんは誰や?」

 

ナイスタイミングと言うか何と言うか、そこにいた全員がドン引きするようなO☆SHI☆O☆KIの直後にケビン、リース、レーヴェ、クローゼ、リーシャの扉解放組が帰ってきた。

 

「お、お帰り~」

 

「おお、目ぇ覚めたんかいな」

 

「ちょっと前にな」

 

「……とにかく、状況を教えてくれないか?今北産業で」

 

「ウルが人化

ネタで『良妻狐』宣言

フェイトがO☆SHI☆O☆KI

今ココ」

 

「O.K. 把握した」

 

徐々にネタが理解出来るようになってきたレーヴェであった。

 

「……ウル、姿変わってない?」

 

「ああ、何かウルの魂が狐の体に馴染んできて、気付いたらああなってたらしいぞ?」

 

いとも不思議な話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁオリビエ、ちょっと『スキマBBA 』って叫んでみてくれないか?」ボソッ

 

「?いいけど……というかキミは大丈夫なのかい?頭から止めどなく血が出ているんだが……」

 

「いいからいいから」

 

「仕方ないなあ………スキマBーー」シュン

 

 

「………あるんだ、幻想郷」

 

 

オリビエは30分後に震えて帰って来ましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、次の石碑なんやけど……」

 

先程とはうって変わって真剣な雰囲気の広場。そこでケビン達は次の石碑の解放の話し合いを行っていた。

 

「やっぱり誰が鍵になる人物がおるみたいや。そんでその石碑の文やけど……『これより先は医神達の眠る丘』」

 

「!!」

 

「……やっぱりお前か、ケイジ」

 

ケビンの言葉に誰よりも早く、強い反応を見せたケイジ。そのケイジの顔は先程までのどこかやる気のない表情ではなく、物凄い剣幕に変わっていた。

 

「……おいケビン。冗談じゃねぇんだよな……?」

 

「は? そ、そりゃちゃうけど……。どういう意味や?」

 

顔を青ざめさせ、冷や汗ともつかない液体を滴らせたケイジに、ケビンも何か尋常ではないものを感じた。

 

そして、ケイジがゆっくりとその口を開く。

 

「……その場所はリベールの特S級の機密だ。それも、俺とアリシア女王、カシウスのオッサンにモルガンの爺さんしか知らないレベルのな。勿論、地図にも載ってねぇ」

 

『『!?』』

 

その言葉に全員が驚愕の表情を浮かべる。それはそうだろう、リベールの中心人物しか知らない、リシャール元大佐ですら知り得なかった場所がポンと出されたのだから。

 

「……着いてくるのは本当の意味で命を懸けられる奴だけだ。

その周辺の魔獣はすべからく手配魔獣並み。そしてその魔獣達が何故か近寄らない不思議な丘にある、医神と呼ばれた医療部隊達の……英霊達の墓。」

 

 

 

その場所の名はーー医神達の聖墓(ネクロ・アスクレピオス)



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『従騎士筆頭』

『……よかったのか? こんな普段来づらい場所で』

 

『……ああ。アイツらには、もう現実のゴタゴタとは無縁でいて欲しいからな』

 

ハーケン門から少し離れた、魔獣で溢れている森を抜けた先にある十字架がいくつも建てられている丘。その頂上にある二つの十字架の前に立っていた少年に、棒術具を持った男性が声を掛ける。

少年の方は、少し間を空けた後に返事をして振り返り、そのまま歩き始めた。

 

『ゴタゴタって……ここじゃただ単に墓参りしにくいだけだろうに』

 

『良いんだよ。……来づらいくらいが、丁度良い』

 

『?』

 

少年の言っている意味がいまいち判らなかったのか、男性は不思議そうな顔で少年を見る。少年は足を止めて、振り向かずに男性に話始める。

 

『いつでも行ける場所だと、俺はきっと……そこから離れられなくなる。それじゃ駄目なんだよ……。いつまでもあの人達に頼ったままだと、俺は……』

 

『…………』

 

拳を握りしめる少年に、男性は何も言えない。

……少年がこれから荊の道を歩もうとしているのはわかっていた。だが、止めない。止められない。決意の意味は違うものの、その道は男性も歩んだ道だから。人に言われて止められる道ではないとその身を以て知っている事だから。

……自分が、最愛の妻の命と引き換えにしなければ止められなかった道だから。

 

それに、少年にはもう選択肢は無いのだ。彼の証を顕している今、少年はもう……堕ちるしかない。

 

少年は知るだろう、この世の裏を。

少年は知るだろう、人という生き物の醜さを。

少年は知るだろう、この世界の本当の哀しさを。

 

その時ーー少年は、まだ『人』でいられるだろうかーー

 

『それに』

 

ふと呟いた少年の声に、男性は我にかえる。

振り向いた少年はーー目元は赤いものの、確かに微笑んでいた。

 

『ここなら……万が一にも焼けたりはしないだろ?』

 

男性は思う。この少年が全てを乗り越える事を。

男性は願う。この笑顔が失われることが無いようにーー

 

 

 

 

 

その丘の頂上にある、二つの十字架の内の片方の墓が掘り起こされていたことがわかったのは、少年が旅立った翌日の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり、この面子になったか」

 

転移陣の前。そこに集まっていたメンバーは……クローゼ、フェイト、リーシャ、そしてリクとヨシュア、ユリアだった。

 

「もう一度言うが……ここから先は冗談抜きでヤバい。少しでも命に未練があるんなら……」

「何回も言うんじゃねぇ」

 

ケイジが再び忠告しようとしたのをリクが遮る。その表情には少しばかり怒りが込められていた。

 

「この世に未練だぁ? 無いわけ無いだろうが」

 

「だったら……」

「でもな!」

 

再三ケイジの言葉を遮るリク。そしてリクはゆっくりとクローゼ達の方を指差す。

 

「そんな理由だけで仲間を見捨てる程腐ってねぇんだよ、俺達は!」

 

「………」

 

「ケイジ、今回は君が悪いよ」

 

「……ヨシュア」

 

今度はヨシュアが穏やかな表情でケイジに近づいてくる。

 

「君は自分の事になると途端に誰かを頼ろうとしなくなるからね。それがクローゼやリクの怒りをかっている事に気付きなよ」

 

「……彼の言う通りだ」

 

「ユリ姉……」

 

ユリアがクローゼの側から、目を閉じたままケイジに話しかける。

 

「確かに、私達はお前よりは武力に欠ける。姉としては何とも情けない話だがな……。

ただ、お前は今まで見てきたハズだ。絆の力が生み出してきた奇跡を」

 

「………」

 

「……私は」

 

そして次はリーシャ。おずおずと、だがしっかりとした目でケイジを見ながら言葉を紡ぐ。

 

「ケイジさんに闇の中から救ってもらいました。もし私が『銀』のままだったら今もきっと……」

 

「……」

 

「だから、そのご恩に今報いたいんです。ただのリーシャ・マオとして」

 

「リーシャ……」

 

「私達からは言わなくてもわかるよね?」

 

「……ああ」

 

穏やかに微笑むクローゼとリーシャは、何も言わない。言うべき事は、言いたい事はもう全て言ってあるから。

 

ケイジは、ゆっくりとメンバーを見渡す。その全員の目が静かに語っているのを感じながら。

 

ーー『生きて戻る』。その意思を感じながら。

 

「……そうだな。悪い。お前らはそういう奴らだったな」

 

「今気付いたのかよ?」

 

「再確認しただけだっての」

 

挑発するような言葉をしたり顔で言ってくるリクにニヤリとした笑みで返す。形はどうあれ、これがケイジとリクの絆なのだろう。

 

「……こっからは、本当の意味でキツい戦いになる。あの場所にいる人達の中に弱い人なんか一人も見当たらねぇからな。だから……皆、俺に命を預けてくれ。

ーー生きて帰るために」

 

『応!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったんですか? 一緒に行かなくて」

 

ケイジ達が行った後、人数の関係でその場に残ったヨシュアとユリア。

 

「ああ……私も、そろそろ弟の世話焼きから解放されたいからね」

 

「元々手がかからなかったんじゃないですか?」

 

「はは、違いない」

 

ヨシュアのからかうような言葉を笑い飛ばすユリア。

 

「……何、心配は要らない。今のケイジの周りにはたくさんの仲間がいる。もう変に無茶はしないさ

それに……私達が姉弟というのは、変わらないからね」

 

ユリアは優しげに、けれどどこか寂しげにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

見渡す限りの十字架。申し訳程度の魔獣避けの柵。そしてそんな場所に不釣り合いな程しっかりとした入り口の門。

背後には広大な森が広がり、陽の光は絶えず当たっているもののどこか寒々しい印象を受けるのはそこが死者達の眠る場所だからか。

 

そんな場所に……医神達の聖墓(ネクロ・アスクレピオス)の入り口に、今ケイジ達は立っていた。

 

「こんな場所がリベールにあったなんて……」

 

クローゼが驚きを隠せないといった様子で門を見る。恐らく、王太女の勉強でリベールの事を隅から隅まで調べていただけにその驚きも大きいのだろう。

 

「軍の訓練でもハーケン門をちょっと出た所までしか行かないからな……。サバイバル訓練で全部調べられてたクローネ峠下や霧降り峡谷じゃねぇだろうし……」

 

「私もこんな場所初めて見ました……。少なくとも共和国方面では無いですね」

 

「あんま場所を詮索すんな。一応は特S機密だぞ……」

 

あーだこーだとそこがどこなのかを詮索するリクとリーシャにケイジが釘を刺す。

……この場所は本当に、限られた者しか知らない秘境なのだ。先に挙げた軍のメンバーと、後は二人だけしか知らない。ケイジと同じ彼の部隊の生き残りと、死んだ者の妹しか。

 

「ーーそうね。あまり大勢にはこの場所は知られたくないわ」

 

『!』

 

門の前に、魔方陣が三つ。そしてそこからまず二つの人影が見える。

 

「正直、あまり知られて気持ちのいいものではないもの。あまり関わりの無い他人には特にね」

 

「む~……何か僕は場違いな気がするんだけど……」

 

そこから出てきたのはティアとシャル……騎士団組の二人だった。

 

「やっぱりお前か……ティア」

 

「ええ。何でシャルまで出てきたのかは知らないけど……」

 

「「まぁいいか」」

 

「何か酷くない!? ねぇ、酷いよ!?」

 

結局は成り行きに任せたケイジとティアであった。……シャルは微妙に涙目である。

 

「さて……魔方陣は三つ。ってことは……お前だろ? リタ」

 

「ーーよくわかったわね」

 

最後の魔方陣から人影が出て、その姿が露になる。

そこから出てきたのは、白衣ごと腰に布を巻き付けた、額にゴーグルを装着した背の小さめな女性だった。

 

「相変わらず小さいなぁ、お前……」

 

「これでもアンタと同い年よ……」

 

溜め息を吐きながらどこか不機嫌そうにケイジを見るリタと呼ばれた女性。

 

「レミフェリアの医学はどうだったんだ?」

 

「駄目ね。あれならリーヴ達が残した医術書を読んでた方が大分マシよ。……まぁ、基礎固めと本にあった術式の医学的裏付けは取れたわ」

 

「うむうむ。ただのお手伝いだったあのチビが立派になったもんだ」

 

「チビ言うな! ……ったく、私が技術が無かったんじゃなくてアンタが異常だっただけなんだからね? それに私も最後の方は執刀医に駆り出されてたわよ」

 

「人がいなかったもんな……」

 

他のメンバーを放って置いて、昔話に花を咲かせる二人。しかし、ティアの視線に気付いたリタはコホン、と咳払いして話を切る。

 

「さて……私達が出てきた意味、当然わかっているわよね?」

 

ティアが指を弾くと、ケイジの周りにだけ小さな霊的結界が出現する。

 

「今回、ケイジには戦闘に参加せずに大人しくしてもらうわ」

 

「クローゼ達の力で僕達を倒すんだよ?」

 

「……さぁ、アンタ達には恨みも面識も無いけど、ちょっと痛い目見てもらうわ」

 

ティアが、シャルが、リタがそれぞれ、戦闘体制に入る。

 

「シャル……」

 

「クローゼ、僕達はそのためにここにいるんだよ? だから……遠慮は要らない。僕達だって本気でいくから」

 

「ティアさん……」

 

「……リーシャ、今シャルが言った通りよ」

 

そして、クローゼ達も各々の武器を構える。

 

「フン、準備は出来たようね。なら……」

 

「星杯騎士団、守護騎士第二位が従騎士、メシュティアリカ・アークス」

 

「同じく、シャルロット・セルレアン」

 

「守護騎士第二位付き従騎士筆頭、リタ・モルディオ……従騎士の底力、とくとその身に刻みなさい!」



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『四人目』

「穢れなき汝の清浄を彼の者に与えん……スプラッシュ!」

 

織天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 

リタが素早く発動させた譜術を、リクが防ぐ。

 

リタの宣言の後、リクはリタ、クローゼはシャル、リーシャはティアとそれぞれ一騎討ちの状態に入っていた。

正確にはフェイトが三人の援護とフォローを六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)の空間掌握能力をフル活用して行っているために1対2が3つなのだが……それでも、その体でようやく互角なのだ。

 

「……チッ、さっきからその光る玉が鬱陶しいわね! 」

 

「あいにく、お前らと違って余裕が無いんでな! 使えるモンは何でも使うし、仲間にだって頼ってやるさ!」

 

その中でも、このリクとリタの対決はかなりの硬直状態であった。

本来、譜術を使う者達にとってリクのような防御技を持つ者は天敵である。だが、リタはその余りある技量と術の圧力によってリクに反撃の隙を一切与えていない。流石は筆頭、といったところか。

 

そして、この二人が考えることはそう変わらない。

 

「(あの銀髪の技だと術か全部防がれるみたいね……。いっそ大技であの花弁ごとやっちゃいたいけど、あの光る玉が邪魔なのよね……なら!)」

「(あのリタが俺の知ってるあのゲームの『リタ』なら、接近戦じゃねーと俺に勝ち目は無い。それに今はハラオウンのランサーのおかげで硬直してるが、このままだといずれアイアスごと持っていかれる……なら!)」

 

「「(一刻も早く、自分の得意な距離に持ち込んで一気に決める!)」」

 

そう、双方共に勝利条件が一致していたのだ。

リクは至近距離(ショートレンジ)、リタは長距離(ロングレンジ)という距離の違いこそあれ、お互いに隙を作らねば突破口が見えない。

 

「……ああもう! 金髪! アンタ後で絶対一発ぶん殴るから!」

 

「私!?」

 

「あー! こんなんなるならシオンに瞬動術教わっときゃ良かった!」

 

そんな感じで、互いに突破口を開けずに硬直していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、また隙が出来たわよ」

 

「………ッ!」

 

そして、場所は変わってリーシャとティアの戦いは、ティアの優勢で進んでいた。

リーシャはティアの緻密に計算された譜術とナイフのコンビネーションの前に翻弄されている。今のところ傷は負っていないがそれはひとえにフェイトのおかげであった。

……まぁ、それも当然と言えば当然なのかもしれない。

 

リーシャの戦闘スタイルは基本的に暗殺者(アサシン)の戦い方である。隠形で姿を隠し、敵に己を捕捉させずに戦闘を終える……それがリーシャの戦い方だ。

しかし、今回は既に姿を現しているところからのスタートだ。今までの戦い方と一線を画する必要があるこの戦いはどうしても後手に回ってしまう。

 

「聖なる槍よ、敵を貫け……」

 

「っ……はぁっ!!」

 

ティアが詠唱に入るのとほぼ同時にリーシャは距離を詰めようと地面を蹴るが、次の瞬間にはナイフが眼前に迫ってくる。

咄嗟に持っている大剣を前方に振り上げ、ナイフを弾いて事なきを得たが……

 

「ホーリーランスッ!!」

 

「くっ……!」

 

その時にはもう接近のチャンスなど無くなっていた。それどころか、譜術を避け、その逃げ道に放たれるナイフを避けるのに精一杯になっているのだ。

 

「甘いわね……。接近戦で私はリーシャに僅差で負ける。なら私は貴女に接近されなければいい。私はそれを実践しているだけ。……ただそれだけよ?」

 

「全員が全員ティアさん並みにそんな事出来るなら私みたいな戦い方の人は絶滅してますよ……」

 

「なら、貴女はそれが出来るんでしょう?」

 

「耳に痛いですね……」

 

何より、この戦い……リーシャにとってティアは相性が悪すぎた。

ティアの戦い方は一から十まで計算され尽くした理詰めの兵法だ。しかもティアは平行処理(マルチタスク)を使ってあらゆる計算外の事まで計算し尽くしている。いくらリーシャが抜け道を見つけようとも、隙を突こうとも、それが全てティアの掌の上の出来事なのだから尚の事質が悪い。

 

しかし、そんなティアにも確かに弱点は存在する。

 

「(ティアさんの詰め方は確かだ。けど……ティアさんは格下には正面から破られることを、格上には逆に無理矢理抜け道から抜けられる事を無意識に軽視する癖がある……!)」

 

それは、ここに来る前ティアに負けっぱなしだったリーシャにケイジがこっそり教えてくれたティアの癖。

……後者の方は明らかにケイジが力ずくで正面突破ばかりしていた弊害だと思われるが……まぁ今はいい。とにかく、ティアには癖がある。

そして、その癖に対して“格下”のリーシャがする事はただ一つ。

 

「(正面から……力ずくでティアさんの戦略(パラダイム)を打ち破る!)」

 

リーシャは知らず知らずの内に、自身の左胸に手を当てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁっ! はっ!」

 

「おっとっと……危ないなぁ」

 

そして、クローゼとシャルの戦いでは、クローゼが有利に戦いを進めていた。

フェイトのランサーのおかげで次々と飛んできていた譜力の弾を気にせずに即座にシャルに近付いたクローゼはそのままシャルにシュトゥルム……連続突きを繰り出すものの、シャルも伊達に従騎士を名乗ってはいない。手に持った二挺の装飾銃でクローゼの刺突をいなし、さらにはその勢いで飛び退いて即座に連続して銃撃を浴びせる。

だが、それはまるで当然とでも言わんばかりにそこにあるフェイトのフォトンランサーが相殺という形で全ての銃撃を防ぐ。そしてその隙にクローゼは再びシャルとの距離を詰める……そんなやり取りがもう十回ほど繰り返されていた。

 

「全くもう……いー加減離れて欲しいんだけどなぁ」

 

「離れたら貴女の思う壺でしょ?」

 

「そだよ~」

 

相変わらず気の抜けたようなシャルの声に毒気を抜かれそうになるが、そんな考えは剣を突くことで振り払うクローゼ。

この場に及んでまだ普段通りということは、まだシャルに余裕がある事を物語っているからだ。余裕が無くなっていたならば、シャルはかつてリーヴを相手にした時のように真剣になるはずなのだから。

それに……シャルの目は、その口調とは正反対にクローゼの隙を虎視眈々と探っているのだから。

 

「ん~……流石にチャージする時間はくれないか」

 

「それだけは絶対にあげない!」

 

背中にうっすらと冷や汗をかきながら即座に返事をするクローゼ。

こんな状況であの悪魔の破壊光線など撃たれようものなら、気力やその他諸々が根こそぎ持っていかれかねない。特にリクのが。

 

「絶対に撃たせないからね……!!」

 

「ク、クローゼ? 何か怖いよ……?」

 

シャルに勝つため、そして何より魔王の一撃を撃たせないため、クローゼはシャルに接近戦を挑み続けるのだった。

……フェイトの援護が若干強くなった気がするのは、気のせいでは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(二時の方向、リーシャに37個。六時の方向、リクに22個。八時の方向、クローゼに49個……。それでもやっぱりジリ貧だね……)」

 

三人が戦っている上空。そこでは目に六芒星を顕しているフェイトが三人のフォローのためにフォトンランサーを操っていた。

本当ならば恐らく四人の中で今のところ最も実力の高いフェイトが戦うのがベストではあるのだが、また援護という部分でもフェイトが最も優れていたためにこの割り振りになったのだ。

だが、その選択は半ば成功し、半ば失敗している。従騎士組の実力が想像をはるかに上回っていたのだ。そのせいでフェイトは三人のフォローに奔走することになってしまい、大技を放つ余裕が全く無くなってしまっていた。

六芒星の天眼という空間掌握能力の最高峰の力を持ってしても、五分以上の戦況には持っていけない。従騎士組の実力の高さはそこまでに至っていたのだ

 

「(まだ、戦況は動いていない……なら、無理にでも行動して動かすしか)……ッ!!」

 

瞬間、フェイトは直感で背後を振り返り様にバルディッシュを振るう。するとその振り返った先に確かな手応えと鈍い金属音が。

 

「……ふぅ。防がれたか……。上空には網が張られてないと思ったんだけどなぁ」

 

そこには、空を蹴るようにして空を移動している黒髪の男がいた。年はケイジやフェイトと同じくらいだろうか。その手には奇妙な形の赤い大剣と何故か木で出来た短剣を持っている。

 

「……貴方は?」

 

「うん? ……ああ、そういえば僕達初対面だっけ。

動き回りながらで失礼するよ。僕の名前はシオン。シオン・アークライト。そこにいるケイジの部下だよ。……直に元部下になるけどね」

 

そう言い終えるや、シオンは即座にフェイトの頭上まで翔び、回転しながらその勢いでフェイトに大剣を降り下ろす。

もちろんバルディッシュで防いだフェイトだったが、相当に重かったのか、フェイトは地面のすぐ側まで落とされていた。

 

「(重い……でもそれだけじゃない。何で今、六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)が発動しなかったの!?)」

 

そう。今、フェイトは確かに全方向に(・・・・)六芒星の天眼を発動させていた。それが発動していない。いや、発動しなくなったのだ。

今まで手に取るようにわかっていた三人の戦況がまるでわからなくなっている。更には、フォトンランサーまでが半分ほど制御も出来なくなっている。考えうる限り最悪の状況になってしまった。

 

「……うん。やっぱり君があの中でケイジを除けば一番強いみたいだね」

 

そして、いつの間にか地面に降りてきていたシオンがそんな事を呟く。

空にいた時は黒髪の男という事しかわからなかったその姿は、男にしては長い髪を後ろで一つに纏めた、中性的な顔の、けれど肩幅や体つきからはっきりと男だとわかる姿だった。

……シオンが何かしらしたのは間違いない。けれど、その何かしらが全くわからない。確かなことは六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)が封じられたという事だけ。

 

「本当はケイジ相手に腕試ししたいところだったけど……君も、相手にして不足は無い。お手合わせ願うよ。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンさん」

 

「……………」

 

フェイトは無言でバルディッシュを構え、シオンも同様に大剣を構える。

そして、どちらからともなく、二人は動き、その剣は交差した。

 

……戦況は、未だ五分。けれど、確かにリク達に不利な方向に進んでいた。



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『銀の氷鈴』

「くぅっ……!!」

 

「……エクレールラルム!」

 

次々と飛来する投げナイフを大剣を盾にして弾くリーシャ。そこにティアの詠唱が完成し、地面に不浄を焼き尽くす光の刻印が展開される。

リーシャは刻印の展開が完了する前にナイフを剣を下から上に向かって振り上げ、同時にその勢いを利用し、バック宙の要領で刻印の範囲外に飛び退く。リーシャが範囲外に出るのとほぼ同時に刻印が熱を含んだ光を放出するが、リーシャには直撃しない。

……だが、やはり完全には避けきれなかったのか、リーシャの左腕の袖が小さく焼け焦げてしまっていた。

 

「流石に身軽ね」

 

「…………」

 

避けられたと言うのに、事も無げにうっすらと笑うティアとは対称的にリーシャの表情は非常に硬い。

なぜなら、先程まで完璧に近いレベルで行われていたフェイトの援護が完全に止んでしまっているからだ。新たにシオンが参戦したことを知らないリーシャからすればフェイトが全面参戦しなければならない事態が他の組に起きたか、それともフェイト自身に何かがあったかとしか考えられないのだ。

加えて、リーシャ自身が間違っても優勢とは言えない状況である。ティアの戦略(パラダイム)を打ち砕く手が無いわけではないが、数は少ない。迂闊に破ってしまえばその手を防がれて、次からはその手に対する対処も構えられてしまう。文字どおりティアに同じ手は通用しないのだ。

 

かと言ってやみくもに攻めていって突破できる程ティアは甘くない。第二師団の従騎士は総じて中、遠距離向きの能力を持っているが、それでも騎士団内でも最強クラス。接近戦をしたくないなら近付けさせなきゃいいじゃない、を地でいくような人ばかりなのだ。それなんてチート? と言いたくなるが、実際そうなのだから仕方ない。ケイジといいレーヴェといい、第二師団だけ化け物の巣窟になっているのではなかろうか。

 

 

「ほら、気を抜いてると段々打つ手が無くなっていくわよ?」

 

「っ!!」

 

先程までとはうって変わってナイフとフォトンやナイトメアなどの初級譜術での物量でリーシャを追い詰めていくティア。表情は余裕そのものなのだが、詠唱やナイフを投擲する手は緩む気配が全く無い。余裕は持つが慢心や油断をしないタイプなのであろう。

 

「リーシャ……貴女もわかっているでしょう? 手を探すだけじゃ私みたいな相手だとどんどん不利になるだけよ」

 

「…………」

 

言われなくてもそんな事は痛いくらいわかっている。だがリーシャはそれでもまだ動けない。

 

「全く……この数ヶ月ケイジとレーヴェに特訓して貰ったんでしょ? その成果がそんな消極的な待ちなのかしら?」

 

「そんなこと……ありません」

 

全身に小さな傷を負い、所々には浅くない怪我を負いながらもリーシャは立ち上がり、ティアに反論する。

だが、リーシャが足に力を込めた瞬間にナイフが群れとなってリーシャを襲い、地面にはまたエクレールラルムの譜陣が広がる。リーシャに逃げ場は……ない。

 

「っ……爆雷符!」

 

だがしかし、リーシャもこんなところでは終わらない。ナイフを爆雷符で無効化し、己も譜陣の外へ逃げようとするが……それは叶わなかった。

 

「エクレールラルム!」

 

「きゃああああ!!」

 

譜陣の外へ出る二歩手前でエクレールラルムが発動し、その光と熱がリーシャを包み込む。しかし、ティアはそれだけでは手を緩めなかった。

 

「炎の刻印よ、敵を薙ぎ払え……フラムルージュ!」

 

光の刻印が徐々に姿を変え、焔を生み出す炎の刻印へと組み換えられる。

その刻印はやはりリーシャを呑み込み、その姿を完全に隠してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいか? 俺とかお前、レーヴェみたいなとりあえず近付いて殴るのがメインな奴はとにかく近付かねぇとただの囮役か役たたずだ』

 

『そんな身も蓋もない事を……』

 

『事実だろうがこのカリコン。……んで、そんな俺らに一番必要なもんは何だと思う?』

 

『えっと……経験とか、近付く速さですかね?』

 

『廊下に立ってなさい』

 

『何故に!?』

 

『……リーシャ。お前のその理論だと俺はとっくの昔に死んでいるぞ?』

 

『あ』

 

『ふぅ、仕方ないから廊下は勘弁してやる。……正解は勘だ』

 

『勘?』

 

『そ。避けるにしろ動くにしろ、とりあえずなら頭で考えてもいいが最終的には勘だ。俺らみたいに自分が突っ込んでいくタイプにはちんたら頭で考えてる暇なんざ無いからな』

 

『…………』

 

『ま、簡単に言えば、考えるな! 感じろ! ってことだな』

 

『だから身も蓋もない事を言うなというに……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……この程度だったのかしら? リーシャ」

 

燃え盛る目の前の地面を見つめながら、落胆の籠った声でティアが呟く。だが、その目は油断なくリーシャがいるであろう場所を見据えている。

そして、その声に応えるように炎の中でゆらりと影が揺らいだ。

 

「……『我が深淵に宿りし蒼俄の刻印よ』」

 

「!」

 

炎の中にいるリーシャの声が不思議と響く。その声が紡ぐのは……この世でたった12人のみが唱えることを許される聖句。

 

「『我が誓いを聞きてその身を剣と為し、其が剣を以て我に祝福を与えよ』」

 

「来るわね……!」

 

先程までとは一変して完全な警戒体制をとるティア。だが、これは過剰な警戒でも何でもない。それだけ『守護騎士』という者達はデタラメなのだ。

 

「(まさかこの数ヶ月の短い期間で聖痕を自分の意思で発動させられるまでになっていたなんて……総長やケイジでも一年近く、ケビンに至っては三年はかかってやっとだったのよ……!?)」

 

そう。ティアの驚愕の中にはリーシャの聖痕を掌握するまでの速さがあった。

記録にある限り、聖痕を掌握するまでの期間の最短記録がセルナートの10ヶ月と言えば、1ヶ月少しで自力発動までこぎ着けたリーシャの凄まじさがわかるだろうか。

ついでに言うなら、自力発動が出来た時点で掌握の7割は完了していると言われている。

……しかしながら、リーシャも完全に聖痕を掌握出来ているわけでは決して無い。あくまでその聖痕の力を何割か引き出せる程度である。……程度と言うにはあまりに大きすぎる力かも知れないが。

 

「『我は氷天の守護者。汝をこの手に掴みし者なり』……!!」

 

炎の中からピキピキという、何かに罅が入るような音がティアの耳に入る。

そして、その音は徐々に大きくなっていき……遂には、燃え盛る炎が氷の中に封じ込められた(・・・・・・・・・・・)

 

「なっ……!?」

 

「…………はぁっ!!」

 

驚くティアをよそに、リーシャの気合いの籠った声が聞こえた後、轟音と共に炎の氷が跡形もなく砕け散る。そしてその砕け散った氷の欠片が舞い散るなか、背中に雪の結晶のような刻印を展開したリーシャが堂々と仁王立ちしていた。

 

「お待たせしました、ティアさん。……さ、ここからが本番です」

 

先程までと変わらないリーシャの表情に、ティアは少しだけ背中に冷たいものを感じるのだった。



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『意思を貫くということ』

「対極にあるはずの炎まで封じ込める時の氷……やっぱり、リーブさんの聖痕よね」

 

「ええ……リーブさんがケイジさんの命を救うために、そしてケイジさんが私の命を救うために譲ってくれた。それが、この力です」

 

刻印ごと封じ込められた炎の氷の上で、自身の胸に手を置いて感慨深げにそう言うリーシャ。対するティアは先程までの余裕などなかったかのようにリーシャの一挙一動に目を凝らしている。

……今リーシャが封じたフラムルージュはティアの術の中でもかなり上位に位置する術なのだ。それが封じられたという事はティアは詠唱の長い術でしかリーシャにダメージを与えられないという事を意味している。

更に言うなら、今までリーシャを追い詰めていた下級譜術はもう恐らく通じないだろう。ティアに残された戦い方はナイフで牽制しながら上位譜術で叩くという、ティアの好まない物量作戦でいくしかないのだ。

 

「…………」

 

「っ! いきなりですね……」

 

そうと決まれば話は早い。即座にナイフを投擲してリーシャから今まで以上に距離を取る。あわよくばと思っていたナイフは防がれてしまったが大して気にはならない。

聖痕持ち……すなわち守護騎士相手に警戒し過ぎるという事は無いのだから。

 

「(取れる手段は……リーシャのスタミナ切れ狙いか、正面から叩くか。ただ、前者は限りなく無理に近い。その前に時の氷で私の術が全部封じられて押しきられる。だけど今のリーシャを押しきれる譜術はあれしかない……だったら!)」

 

距離を取ろうと走りながらそんな事を考えるティア。その後ろから逃がすまいとリーシャが追ってくるが、そこはナイフと譜術で牽制し、順調に距離を開いていく。

そして、一直線の道になっている丘を下りた先、左右を岩壁に囲まれた場所でようやくティアはリーシャの方を振り返った。

 

「(道が直線……ティアさんの事だから闇雲に来た訳じゃ無いだろうけど……その真意はわからない。だったら行くしかない!!)」

 

それにリーシャは一抹の不安を覚えながらも、最大速度でティアに迫る。

 

「穢れなき風、我に仇なすものを包み込まん……!!」

 

「我が舞は夢幻、去り行く者への手向け……」

 

ティアの詠唱が完了し、杖に光が纏われる。

しかし、一方のリーシャはまだ気を集め始めたばかり。明らかにリーシャは出遅れてしまっていた。

 

「イノセント・シャイン!!」

 

杖から解き放たれた光の神風がリーシャに牙を剥いて襲い掛かってくる。

……だが、その光景を目の前にしながら、リーシャの表情は尚涼しげだった。

 

「眠れ……白銀の光に抱かれ……封!」

「なっ!?」

 

リーシャの声が響くと同時に、神風が地面から突き出した無数の氷槍に貫かれ、そこから一瞬で氷の中に封じられていく。

それにティアが驚愕の表情を顕にするが、驚いたところで氷の侵食は止まらない。数秒後には神風は完全に封じ込められていた。

そしてリーシャは剣を構え……

 

「……滅!!」

 

一気に剣を突き出したまま高速で突貫する。その際に氷を突き砕きながら進んでいるためか、砕け散った氷がダイヤモンドダストのように降り注いで幻想的な風景を作り出している。

そして、その剣の先は真っ直ぐティアに……

 

 

 

「……読み合いはまだまだね、リーシャ」

 

突き刺さる事は、無かった。

リーシャの剣は後一歩というところで停止しており、そのリーシャの体は丸いリング状の光に拘束されていた。

 

「!? これは……!」

 

「そう。貴女が教えてくれた異世界の術……いや、魔法。確か『リングバインド』、だったかしらね」

 

そう、リーシャを封じたものはどこからどう見ても異世界(ミッドチルダ)の神秘、魔法だった。

 

「貴女が帰ってきた時に話してくれた術が気になったのよ。それであえて譜力で試してみたら上手くいったの」

 

「くっ……!!」

 

「さぁ、耐えてみなさい。……破邪の天光煌めく神々の歌声……」

 

ティアの譜歌がその場に響き渡る。そしてリーシャの足元には巨大で荘厳な譜陣が展開される。

リーシャは必死にバインドを解こうともがき、そして何とかバインドから逃れるが、その時にはもう遅い。

 

「……グランドクロス!!」

 

ティアの渾身の一撃が、裁きの十字架が力を持ってリーシャに襲い掛かる。

リーシャにそれを避ける時間など残されておらず、リーシャは光に呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

グランドクロスの光が収まった後、クレーターのようになってしまった譜陣の中心に倒れ伏して動かないリーシャを確認したティアはゆっくり息を整えていた。

 

終わった。その思いが頭に浮かんだほんの一瞬。隙とも呼べないような刹那の安堵。

だが、その一瞬が全てだった。

 

「…………!?」

 

その一瞬を読んだかのような背後からの衝撃。あまりの衝撃に一瞬意識を手放してしまう。

そのまま倒れ伏したティアが見たものは……聖痕を背中に宿したリーシャの姿だった。

 

「……ティアさんらしく無いですよ。あんな簡単に油断するなんて」

 

「な……んで……?」

 

朦朧とする意識の中、ティアは何とか言葉を絞り出す。

 

「? ……ああ、あれは私の氷人形(ゴーレム)ですよ。姿を隠すにはあの時しか無かったですからね」

 

「…………」

 

姿を隠す。リーシャの戦い方の基本だ。

だが、リーシャは戦闘開始した直後は既に姿を現した状態だった。本来の戦い方を出来ない状態に追い込まれていたのだ。

それを、リーシャは見事にひっくり返した。最後の最後に自分本来の戦い方で戦うように持っていったのだ。

 

慣れない戦い方に切り替えたティアと自身の戦い方を貫いたリーシャ。もしかすると、それがこの勝敗の分かれ目だったのかも知れない。

 

そんな事を考えながら、ティアは静かに意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

リーシャvsティア

 

リーシャの勝利

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

「むー……クローゼー! 隠れてばっかじゃ勝てないよー?」

 

そして、フェイトの援護が止んだ事はクローゼとシャルの戦いにも影響していた。

ここまでクローゼが優勢に進められていたのはひとえにフェイトのランサーの援護でシャルの銃撃を封じられていた事に起因していたのだ。それがシオンの乱入によって完全に途切れてしまった今、クローゼは一転して防戦一方になってしまっていた。

今は丘から少し離れた、遮蔽物の多い入口外の森で戦っているために何とか被弾0で済んでいるが、同時に反撃も難しい状況のため、クローゼが圧倒的に不利だ。

そして何より不味いのが……

 

「むぅ~~……」

 

シャルが段々と不機嫌になってきている事だ。

普段は天然ながらも常識人なシャルであるが、第二師団という色んな意味での魔窟に長期間いるせいか、一旦癇癪を起こすと手がつけられなくなるのだ。具体的に言えばどこであろうと魔王の切り札をぶっ放そうとしようとする。

……こんな場所であんなもの(SLB )なんか撃たれたら目も当てられない。

クローゼがその最悪の状況を想像してしまって冷や汗を流していた時……目の前の木々が炎の大剣によって一瞬で灰になった。

 

「……………………………………は?」

 

たっぷり間を空けてようやく出した声であったが、それでも何が起きたかわからないのか呆然とするクローゼ。その時間が命取りだった。

 

「あ! 見つけた~!」

 

「あ゛」

 

驚くほどあっさり見つかったクローゼ。それと同時にシャルの双銃が火を吹く。

そして対応がワンテンポ遅れたクローゼは反応出来ない。譜力の銃弾はそのままクローゼに直撃すると思われたが……

 

「密天よ、集え!」

 

「えっ?」

 

突如として大気が集まって壁となり、銃撃を弾く。

 

「全く、駆け付けた瞬間大ピンチとかどこの三流恋愛冒険小説ですか? 何? ピンチになる私可愛いとかそんな人なんです? それとも痛めつけられたい願望? まぁどっちにしろ(わたし)の半径1セルジュ以内に近付かないで下さいます?」

「何がどうなってその結論に行き着いたんですか!?」

 

本当に色々ありすぎて頭がついていかないクローゼだったが、それでも乱入者の言葉は聞き逃せなかったらしく律儀にツッコむ。流石は某マイペース野郎の幼馴染みである。

 

そこでようやく乱入者の方に目を向ける。そこにいたのは、銀髪のショートカットに九本の狐尻尾に狐耳を持った見覚えのある中華服の美女だった。

 

「貴女は……」

 

「嫌ですね~、そんな他人行儀な~。どうも、ご主人の命で援軍のデリバリーに来ました! 狐耳のお手伝いさんでっす!」

 

乱入者の正体はウル(シリアスブレイカー)だった。



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閑話『教えて! アルテリア放送局~出張編~』

「第三回」

 

「教えて!」

 

「「アルテリア放送局~!!」」

 

「と、いう訳でケイジとレーヴェのワクテカQ&A改め教えて! アルテリア放送局! 第三回の放送が始まりました~!」

 

「ようやく正式タイトルが決まったみたいだな」

 

「おう! これでようやく叫ばなくて済むようになった……!」

 

「……まぁ、お疲れ様とだけ言っておく」

 

「叫んでた原因は半分はお前のせいだからな!?」

 

「さて、何の事やら」

 

「(この野郎……)……さて、改めて教えて! アルテリア放送局、今回は隠者の庭園特設スタジオからお送りしまっす!」

 

「単純に出れなかっただけとも言うが……」

 

「そんなん今はいいんだよ! という訳でまずはアレの発表からです!」

 

 

 

『第一回チキチキ弟貴族のヒロインだ~れだ総選挙』

 

「はい、前々から募っていたロイドのヒロイン発表です!」

 

「……ロイドとは誰だ?」

 

「その内わかる……つー事で第三位から発表するぞ?」

 

 

第三位……セシル

 

 

「はい、セシルさんでした」

 

「ふむ、意見には『弟から異性に変わるって面白そう!』とか、『兄貴の面影求めちゃうんじゃないの?(ニヤニヤ』とかがあったみたいだな」

 

「まぁ、色々あるらしい。某サイトには弟貴族の筆下ろしするセシルさんの18禁画像もあるらしいしな」

 

「……いや、アウトだろう」

 

「趣味は人それぞれだぞ? んじゃ第二位!」

 

 

第二位……ティオ

 

 

「誰だァァァァァァ!! ティオ推した奴はァァァァァァ!! 叩き斬ってやるから出てこいやァァァァァァ!!」

 

「落ち着けシスコン」

 

「げぶっ!?」

 

「……意見では『安定の幼女』、『ロイドの処刑フラグに期待』、

『幼女可愛いよ幼女』、『シスコンよ泣き叫べ』など、第二位ながらも最も多いコメントを頂いたようだ。コメント付きでメッセージや感想をくれた皆に感謝する」

 

「いってぇ……普通ツッコミに鬼炎斬使うか? 俺じゃなかったら死んでるぞ……」

 

「俺は何故お前がほぼノーダメージなのかが疑問なんだが。お前本当に人間か?」

 

「ギャグ補正って便利だな!」

 

「……さて、第一位の発表と行こうか」

 

「スルー!?」

 

 

 

第一位……高町なのは

 

 

 

「はい、という訳で作者的にもまさかのリリカルからの登場でした~!」

 

「……意見では『他の女性を無意識に落として処刑されろ!』とか、『これで怖くて浮気できまい!』とかがあったが……『リア充砲撃されろ!』が桁外れに多かったな」

 

「……アイツどんだけ恨みかってんだよ」

 

「まぁ、という訳でロイドのメインヒロインは高町なのはに決定したようだ」

 

「作者のメッセージボックスが一ページ未開封で埋まるほどの沢山のメッセージ、そして沢山の感想ありがとう! メッセージの人もこれからも普段の感想を送ってくれたら作者のテンションが天元突破するぞ!」

 

「今回はこれだけで短いが、質問疑問はいつでも受け付けている。3rd終了くらいにまたやるだろう」

 

「じゃあ今回はこの辺で!」

 

「「また次回~!」」



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『シリアスって何だっけ……』

~前回のあらすじ~

 

狐、乱入

 

 

 

 

「…………」

 

「あれ?外しちゃいました?」

 

突然の事すぎて脳の処理が追い付いていないクローゼを見て、何をトチ狂ったのか「やっぱイマイチインパクトがたりないかな~」とか悩み出すウル。安心しろ。ウルの存在自体がインパクトの塊である。

 

「……はっ!? 何でここにいるの!? ケイジと一緒に閉じ込められてたんじゃないの!? というかそれならケイジはどこにいるの!?」

 

「だ~いじょ~ぶさぁ~」

 

「返事になってなぁーーい!!」

 

正気を取り戻したのかはたまたトチ狂ったのかはわからないが、とにかく現実に戻って来たクローゼが思いっきりウルの胸ぐらを掴んで前後にブンブンと振る。その時のウルの返事が気に入らなかったのか更に激しく揺らしているが、それでもウルはヘラヘラと笑っていた。……案の定カオスである。

 

「……え、えっと……クローゼ? そのコスプレ美人さんは誰なの?」

 

唐突に始まった漫才っぽい何かに流石のシャルも苦笑いしながらウルの事をクローゼに尋ねる。大人ver. のウルは何気に騎士団のメンバーの中でもケイジ以上に仲が良いシャルにも御披露目していなかったりするのだ。

 

「なんと!? わっちの事を知らないと申すか!?」

 

「もうしばらく黙っててよ……」

 

「だが断ります!」

 

「……………」

 

「なんだよ~。ちょっとボケ倒しただけじゃないですかよ~」

 

流石のクローゼもこのシリアス(だった)な雰囲気でボケ倒される事に若干の危機感を覚えたのか、(不本意ながら)鍛え上げられたストッパー技術を使ってウルの鎮圧を試みる。……が、少しばかり手遅れである。既に場は完全にウルのペースに乗せられてしまっている。

 

「ん~……ひょっとして、僕の知ってる人なの?」

 

「ひょっとしなくてもそうですね~。ヒントは(わたし)です☆」

 

「(何のヒントにもなっていないような……)」

 

「ん~……」

 

「ほらほら、わからないんですか? こんなキュートで可愛らしいお手伝いさんなんて世界中探しても(わたし)くらいしかいませんよ~?」

 

この狐、自重しない。

クローゼも半ば諦めたのか、こめかみに手を当ててため息を吐いている。シャルに関しては一緒になって楽しんでいた。シャルェ……

 

「ヒント2、狐」

 

「あ、ウルだ!」

 

「なん……だと……? 何故バレたんです!?」

 

「いや、ヒント狐って答えでしょう……?」

 

「ですよね~☆」

 

もう一度言おう。今宵の狐は自重しない。

 

「さて、話は色々逸れましたが……」

 

「「いや、十割ウルのせいだけど」」

 

「さっさとやること終わらせません? いい加減このノリ疲れるんですよね~……」

 

はふぅ、と息を吐くウルにイラッときた二人であったが、そう言えば戦闘中であったことを思い出し、それぞれレイピアと双銃を構える。

 

「……ちょっと色々ありすぎて忘れてたけど……」

 

「そう言えば交戦中だったね……」

 

「全く、二人共うっかりさんですねぇ」

 

ケイジがウルを駄狐と呼ぶ理由が少しばかり理解できた二人であった。

 

まぁ、そんな駄狐は放っておき、二人は少し距離を置いて対峙する。

その中心にはウルがいる。どうやらどちらかに味方するのではなく、審判役を買って出たらしい。何しに来たんだこの狐。

 

「両者共、準備はよろしいですね……?」

 

ウルの呼び掛けに無言で頷く二人。その間にはピリピリとした緊張感がはりつめており、開戦の瞬間を見逃すまいとしているのか、周りは風に揺れる森の音以外には存在しない。

そして、ウルが手を挙げるのと同時に二人は足に力を込め、スタートダッシュを……

 

「それでは……第一回、チキチキサイコロトーク大会を始めます!!」

 

きれなかった。両者共にズシャァァァと頭からずっこけたのだ。非常に痛そうである。

 

「ボケるなァァァァァァァァ!!」

「痛たた……鼻の頭すりむいた……」

 

青筋を立てるクローゼと涙目のシャルに、ウルはまばゆい笑顔で答える。

 

「いやぁ~、(わたし)ボケないと死んじゃう病なんですよね~」

 

「「嘘つけ!!」」

 

「何故バレるし」

 

当たり前である。

 

「まぁそれは置いといて……。(わたし)シリアスな雰囲気嫌いなんですよね~。ほら、アレです。何か見ててむず痒くなるんですよ」

 

「いや、知らないからね!?」

 

「という訳でサイコロトーク行きますよぉっ!」

 

「マイペース過ぎない!?」

 

クローゼとシャルの文句もなんのその。マイペースに満面の笑みで「何が出るかな♪ 何が出るかな♪ たらららんらんたたたたーん♪」とどこぞのお昼過ぎに出没するライオンのようにサイコロを放るウル。もはやクローゼとシャルには見ていることしか出来ない。

そして、しばらく転がるとサイコロが止まる。

 

「……出ましたっ! 4の話! 略して『4』!」

 

「「(4の話!?)」」

 

「え~、皆さんは縁起の悪い数字だと思われるかもしれませんが、(わたし)は結構この4って数字と深い繋がりがあるんですね。(わたし)が4と始めて出会ったのは4歳の時……」

 

「「本当に4の話始めた!?」」

 

もはや二人のツッコミが追い付いていない。というかツッコんだ側からどんどんボケているために処理しきれていない。

 

「ほら、次はシャルの番ですよ~」

 

「ほえ?」

 

ウルに手招きされるシャルだが、本人はクローゼとウルを交互に見ている。恐らくだが何となくサイコロトークが面白そうという興味とクローゼに悪いという良心との間で揺れているのだろう。

しばらくはそれを繰り返していたシャルであったが、小さく頷くと……

 

「もうどうにでもな~れ♪」

 

「シャル!?」

 

シャル、陥落。クローゼが裏切られたと今にも叫びそうな表情でシャルを見るが、シャルがクローゼの方を見ていないのでどうしようもない。

ふとウルの方を見ると、某新世界の神になる! な人が某えるを出し抜いた時のようなドヤ顔を決めていて、それがまた何となくイラッとくる。

 

「……ふっ、勝った。という訳でいきますよシャル~」

 

「バッチこ~い!」

 

そして完全に自分の勝利……勝利? を確信したウルはシャルのサイコロを放り投げようとする。が、シャルがサイコロは自分で投げる! と言い張ってサイコロを奪い取ろうとしてきたため、ちょっと意地になったウルはサイコロを取られまいとなんとか防ぐ。

しばらく取る取らせないの攻防を続けていた二人だが、その内にウルが周りを見たことのない法陣に囲まれていることに気付いた。

 

「あれ? この法陣何です? 見たこと無いですけど……あっ」

 

「ゲット! ……ホントだ。何だろこれ?」

 

周りを見渡していた二人だが、ほぼ同時にあるものを見つける。見付けてしまう。

二人の視線の先には、レイピアを持ってぷるぷると肩を震わせながら、涙目でウル達の方を睨むクローゼがいた。

 

「えと……クローゼ?」

 

「あのー……クローゼ? いや、クローゼさん? クローゼ様?」

 

「…………二人共」

 

「「はいっ!?」」

 

「いい加減に……しなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」

 

「「え? ……ギャアァァァァァァァァァァァァ!!」」

 

森の中に、一人と一匹の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クローゼ&ウルvsシャル

 

クローゼの一人勝ち

 

決まり手……怒りのサンタクスノヴァ

 

敗因……だいだい狐のせい








一言だけ言わせて下さい





ど う し て こ う な っ た


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『天よりの幻創』

「来たれ爆炎! 焼き尽くせ! バーンストライク!」

 

「チッ……!」

 

空から出現した炎弾を、リクは横に転がりながらなんとかかわす。術の効果が切れるや否やすぐさま立ち上がり、干将・莫耶を構えて反撃に移ろうとするが、それを許すほどリタは甘くはなかった。

 

「黒耀の輝き、快速の槍となり敵を討つ……!」

 

黒い譜陣を展開し、既にリタは追撃の準備に移っている。

それを見たリクはとっさに干将・莫耶をリタに投げつけていた。

 

「デモンズランス!」

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!!」

 

闇の槍が魔力の爆発に呑まれ、辺りが爆風と煙に包まれる。

リタは顔を袖で覆ってその爆風を防いだのだが……

 

「……案外粘るわね。全く、面倒くさい……」

 

煙の晴れた視界の先、そこにリクはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……クソッ、譜術って……あんなに厄介な、もんだったか……? っ痛……」

 

物陰に隠れ、先程のデモンズランスかバーンストライクで負ったのだろう腕の傷をアーツで治療するリク。息は荒く、厳しい劣勢であることを物語っているようにその表情は固い。

それもその筈。今までリクがリタと互角に戦えていたのはフェイトの援護でリタの上級譜術が封じられていたからということに尽きるのだ。

上級譜術が封じられていたから、リクの織天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を破る手段がリタにはなかった。だからこその互角。だからこその膠着だった。

現にフェイトからの援護が止むとすぐに織天覆う七つの円環(ロー・アイアス)はフレイムドラゴンによって打ち砕かれている。

 

「(技術も経験も差は歴然だ。近付こうにも奴の詠唱から発動までのブランクが短すぎる! かと言って俺に近付かなくても使える技は弓位だし、弓にしても向こうに姿を見せるハメになっちまう……。一か八かはあまりにも分が悪い。……打つ手は……!!)」

 

何かを感じ取ったリクが前に飛ぶ。その直後、つい先程までリクが背を預けていた断層で出来ていた岩壁が吹き飛んだ。

 

「(な、何だアレ!?)」

 

「あーもー! さっさと出て来てぶっ飛ばされなさいよ!!」

 

どこか苛ついた様子で大股でずかずかと歩いて来るリタ。リクは間一髪のところで土煙が晴れる前に今度は墓石の影に隠れていた。……手を合わせて般若心経を唱えながら。

しかし、苛ついたリタにとってそんなものは知ったことではない。この空間が偽物(コピー)だと知っているのもあってかグランドダッシャーやブラッディハウリングで広範囲大規模破壊を繰り返していた。

 

「(ぬあぁぁぁぁ!!)」

 

「ほらほら! とっとと出て来いやぁぁぁ!! こっちはティアとシャルの尻拭いしなきゃいけないのよ!」

 

次々と破壊されていく丘。必死の形相で逃げるリク。憂さ晴らしとばかりに上級譜術を惜し気もなく連発するリタ。一種の地獄絵図がそこにはあった。

 

「宙に放浪せし無数の……ああ! 面倒くさい! 以下省略! メテオスウォーム!!」

 

いかにも面倒だと言わんばかりに術を放つリタ。しかし何の因果か隕石の一つが真っ直ぐリクを押し潰すように降ってくる。

勿論全力で逃げようとしたリクだが、右足が動かない。右足を見ると。崩れたのだろう瓦礫の間にリクの右足が挟まっていた。

 

「……あ、これヤバい……」

 

迫る隕石を目前に、リクの目の前は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リクが目を覚ますと、視界の先には星空が広がっていた。

ゆっくりと起き上がり周りを見渡すが、石碑のような白い彫像が散乱し、かなり遠くにこれまた白い建物があるだけで他には何もない。

そして何より……寒い。とても生物が住めるような環境ではないくらいに。

 

「ここは……どこだ……? あの世、なのか……」

 

そう言葉に出した瞬間、リクは全身の力が抜けたように仰向けに倒れる。

思い出すのはリタの言葉

 

『ーーティアとシャルの尻拭いしなきゃいけないのよ!』

 

これが指すこと……それは、リーシャとクローゼは勝ったということだ。

「(また、俺だけ何も出来なかったのか。また、俺だけ何の役にも立たなかったのか。

 

ーー俺は、また負けたのか」

 

滲み出たのは後悔。虚無感。そして悔しさ。

何故もっと早く自分が弱いことを認めなかったのだろうか。何故もっと早く努力を始めなかったのだろうか。何故、何故、何故……

後悔などするだけキリがない。考えるだけ力が抜けていく。ただ、涙だけが止めどなく溢れてくる。

負けた。ただ、それだけ。されど、それが全て。今回の負けの代償が命だった。ただそれだけのこと。

そして、リクが全てを諦めようとした、その瞬間だった。

 

『ーーいいえ。貴方様はまだ負けておられません』

 

「!?」

 

突然、直接心の中に響いてくるかのように声が聞こえてきた。

 

「お前は……」

 

『力を、お望みでございますか?』

 

リクの言葉には反応を示さずに力が欲しいかと問いかけてくる声。リクはただ目を閉じてその声に答える。

 

「……力があっても、命がなけりゃどうしようも無いだろうが。使えない力で何をしろってんだよ……」

 

『先程申し上げましたでしょう? 貴方様はまだ負けておられません。つまり、命を失ってもおられないのですヨ?』

 

「……!!」

 

リクの目に、光が戻る。

生きている。まだ負けていない。まだ、勝つ可能性が絶えていない。

何もかもを失ったと考えていたリクの目に力が戻るのには、それだけで十分だった。

 

『さて、今一度お尋ねします。貴方様は力をお望みでございますか?』

 

「……ああ」

 

『それは、何のために?』

 

「何のため……」

 

その問いにリクの言葉が詰まる。

……思えば、自分は何で強くなろうとしていたのだろう。

原作キャラと仲良くなるため? ケイジを泣かすため?ただ最強という称号が欲しかったから?

……どれも、何かが違う気がする。少し前の自分であれば迷いなく一つ目を選んでいただろうが。

そして、気付いた。自分の本当の願いに。

 

「……誰かを、大切な奴らを護るため」

 

『……おや?』

 

今気付いた。何故原作キャラに好かれようとしたのか。何故ケイジにアレほどの敵対心を抱いたのか。

 

「そうだよ、羨ましかったんだ。誰かに大切に思われるアイツが。誰かを大切に思えるアイツが。大切なものを護るために何もかもを投げ出せるアイツが」

 

前世では、親がいなかった。母は生まれた時に亡くなってしまい、父は事故で呆気なく。祖父母は既に亡くなっていて。

学校では親無しと罵られ、里親には哀れみの目で接しられ、いつしか人との関わりを自ら断つようになり。

その時に憧れたのは、いつも本の中の『主人公』だったのだ。

 

「誰かに護られるのは別にいい。でも、護られるだけでいたくない。隣に立って、護り護られでいいから……前に進みたい。強くなりたい」

 

『……それが例え、最強と呼ばれるものでなくとも? 貴方様のお連れ様方のようなオンリーワンでない紛い物でも? 実体の無い幻想であってもでございますか?』

 

「構わない。最強なんて聞こえはいいけど、実質孤独なだけだ。それに……」

 

『それに?』

 

声が尋ねるのに、リクは不適にニヤリと笑う。

 

「紛い物だろうが幻想だろうが……オリジナルを越えて、実際に生み出せばそれは本物だろ?」

 

『ーーYES! 貴方様の覚悟受け取りました! そういう事なら、喜んで力を貸すのでございますよ♪』

 

そして、再びリクの視界が白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーー天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

 

目前に迫っていた隕石が空間ごと粉砕される。

ーー今のでリタには気付かれた。だが……何も問題は無い!

 

「……自分で勝手にだが封印してたエアまで使ったんだ。これで勝たなきゃ……本当に負け犬だろうが!!」

 

そしてリクは詠唱を始める。

 

ーーI am the bone of my imagine .

《体は幻想で出来ている》

 

ーーPride is my body, and soul is my blood.

《四肢には誇りを。巡る血には魂を》

 

ーーI have longed for all bonds.

《ただ、見上げ、憧れるだけの日々》

 

ーーUnaware of courage . Nor aware of gain.

《勇気無き言葉に、伝わるものがあるはずもなく》

 

ーーWithout pain not to understand whom. Reach out to someone.

《担い手はここに一人。観客に手を差し伸べる》

 

ーーI have no regret. Make meaning in this life.

《悲しむ前に、前に進め。それこそが我が信念なのだから》

 

So, as I pray ーー

 

ーー『天よりの幻創(アンリミテッド・イマジン・バース)



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『緋色の力』

「ゲホッ……。何なのよ一体……」

 

リタがメテオスウォームを辺り一面に放った直後、突然巻き起こった砂塵によって、リタは視界を塞がれていた。

 

「(視界がきかないから確証はないけど……いるわね。あの風の中心に)」

 

リタは既に気配でリクの姿を捉えている。攻撃しないのは、ただ単に砂塵が激しいために口と目を開けられないからだ。もし今口を開いたならば先程のように咳き込むことは間違いないだろう。

そうなれば気分が悪くなるだけでなく、譜術も発動できないのだ。

 

……さて、なんにせよ、勝負はこの砂煙が晴れた時。そう思っていたリタだったが、その目論見は脆くも崩れ去ることになる。

砂塵の中心にあった気配が突然動き出したのだ。それも、今までとは比べ物にならない速さで、真っ直ぐにリタへと向かってくる。

 

「(なっ!?)」

 

予想外のことに一瞬硬直したリタだったが、すぐに正気に戻ってリクの動きに合わせて腰に巻いていた帯布を解いてそれを振るう。

中国武術……軌跡風に言うなら東方武術の一つである布槍。高速で振るわれたそれは何かに当たる感触と共に甲高い金属音を響かせた。

そして……二人の接触と同時に砂塵も晴れていた。

 

「……チッ、不意討ちの最速の抜刀術でも防がれんのかよ。しかも布槍。金属音出すとかどんだけ極めてんだよ……」

 

「……何アンタ? 今まで手ェ抜いてたの? 私にケンカ売ってるとみなすわよ?」

 

「いや? 今までも今も変わらず全力だぜ? 俺に力をセーブする余裕なんてねぇからな」

 

砂煙の晴れた先。そこで姿を見せたリクは、銀だった髪を朱……いや、緋色に染め、腰にベルトを回して刀に手を掛けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(チッ……あれでも駄目か)」

 

一方、リクは内心かなり焦っていた。

今リタに放ったのはリクの知る限り最速の剣技……抜刀術・『葬刃』だったのだ。それが防がれたということは、もはやリタを速さで上回ることが不可能であることを意味している。

 

『何か一つで勝てないことは百も承知でございましょう? なら、全部試してどれかがそれなりに上回ればいい話でございます!』

 

「あぁ、そうだな! 結局いつも通りだってことだろうが!!」

 

どういう訳か、頭の中に響いてくる無駄に丁寧な口調の声に、そう返すリク。

特定の分野で勝てないことなんて初めからわかっていた。だが今は『天よりの幻創(アンリミテッド・イマジン・バース)』がある。今なら五分の戦いができる。

誇張でも傲慢でもなく、ただ純然たる事実として、そのことをリクは感じていた。

 

リクは刀を消し、慣れ親しんだ干将・莫耶を投影して、リタに突貫する。

 

「またその剣!? ただの突貫じゃ私には通じないわよ!!」

 

リタは素早く詠唱を始める。そして、リクとの距離がまだかなり残っている中、その詠唱が完成する。

 

「熱くたぎりし炎、聖なる獣となりて不道を喰らい尽くせ……フレイムドラゴン!!」

 

リタの譜力によって生み出された炎の龍が真っ直ぐにリクに向かって襲い掛かる。

つい先程、リクの防御の切り札であった織天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を灼き尽くした炎の龍に対してーーリクは、左手で握った干将で、その龍を斬り払った。

 

「んなっ!?」

 

「ボーっとしてると……」

 

驚くリタをよそに、リクは干将を振った勢いのまま一回転する。

ーーイメージするのは、ケイジのカウンター。相手の一撃をより強く!

そして回転したリクが今度は右手の莫耶を振るうと、そこからリタの放ったものより一回り大きなフレイムドラゴンが出現する。

 

「……タイダルウェイブ!!」

 

だが、いつの間に詠唱を終えていたのか、荒れ狂う大波が炎の龍を呑み込んで鎮圧する。それだけではなく、その余波がリクに襲い掛かってくる。

余波とは言ったものの、水属性最強レベルの譜術だけあってその威力はフレイムドラゴンと同等かそれ以上だ。織天覆う七つの円環(ロー・アイアス)では防ぎきれないのは間違いない。

 

だが、リクはそれでも詠唱の体勢に入る。

 

「I was the bone of my imagine ……織天廻る七つの神盾(ロー・アイギス)!!」

 

出てきたのは七枚の花弁ではなく、七つの武骨ながらもどこか神聖な雰囲気を醸し出している七枚の盾。それらが次々と組み合わさって一つの巨大な大盾を作り出していた。

 

猛る荒波と戦神の盾が衝突し、その衝撃が空間をも揺るがす。そして波が引いた後には、無傷のリクが緋い髪から水滴を滴らせて佇んでいた。

 

「アンタ……その双剣、さっきまでそんな能力持ってなかったわよね」

 

「……さぁ? 使ってなかっただけかもしれないぜ?」

 

鋭い視線でリクを見据えるリタに対して、ふざけたように茶化すリク。案の定リタの琴線に触れたようで、リタの額に青筋が浮かぶが、何とかリタは怒りを鎮める。

 

「……嘘ね。シスター兼研究者なめんじゃないわよ。アンタの剣に何か能力ついてたならなんとなくわかったはずだもの。今はちょっと剣の形がさっきのと同じだったから気を抜いちゃったけど……」

 

「女神の恩恵でわかりましたーーってか?」

 

「いや、私達(だいにしだん)女神なんか信仰してないし。色々都合がいいから所属してるだけ」

 

「それでいいのか神職者……」

 

薄いどころか皆無だったケイジ達の信仰心にもだが、自分の能力がある程度見破られたことに溜め息を吐くリク。

 

『あらら、早くもネタバレしちゃいましたね~。どうするのでございます?』

 

「(……隠しても無駄な気がするしなー)……ま、いいや。多分大体お前の想像通りだよ」

 

肩を竦めて仕方ないという風に溜め息を吐くリク。その様子にリタはニヤリと口元を歪ませる。

 

「ってことは、アンタの創った剣に何らかの能力を付加する能力、ってことで良いわけね?」

 

「……お前どんだけ頭いいんだよ」

 

事実、リタの言うことはほぼ正解である。

天よりの幻創(アンリミテッド・イマジン・バース)』は無限の剣製によって造り出された武器に特定のスキルを付与する能力である。

例を挙げるなら、先程の干将・莫耶への譜力吸収、増幅反射の能力付与、織天覆う七つの円環(ロー・アイアス)への全角度防御と硬度上昇の能力付与だ。

しかしながらこの能力にはかなり厳しい特徴がある。実はこの能力、無限の剣製と違って錬鉄だけでなく設計から素材の設定まで全てを頭の中で組み立てなければならない。

更に、設定や設計が強力、複雑なものであればあるほど体力、魔力の消耗も激しくなり、計算に頭脳の大半を集中させなければならないため、諸刃の剣とも言えるのだ。

今はケイジとウルのようにリクと頭の中に響く声が役割を分担して何とか使えているが。

加えて、能力を付与するためにはかなり具体的かつ強烈なイメージが必要なのだ。それらが与える精神的疲労は尋常ではない。

つまり、天よりの幻創(アンリミテッド・イマジン・バース)は多用できない。今のリクでは後2~3回が限界であろう。

 

『それで、どうするのでございますか? 打つ手なし、とまでは行きませんが、厳しいことに変わりはございませんヨ?』

 

「(わかってる……賭けになるが、やるしかないか)」

 

『賭け……でございますか?』

 

「(ああ……)」

 

そしてリクは干将・莫耶を消し、無手になる。

 

「(……? 諦めた……? いや、目の光は消えていない……)」

 

リタは警戒体勢に入り、リクの動きを注視する。

……だが、それは悪手であった。

 

「……無罪の剣よ! 七光の輝きを以て降り注げ!!」

 

「!?」

 

リクの足元に出現するはずのない『譜陣』が出現する。そしてその詠唱は譜術の最高峰……上位古代語惑星譜術のもの。……リタが修得出来なかった二つの内の一つだった。

 

「プリズムソードッ!!」

 

「ッ! ヴァイオレントペイン!!」

 

空から降り注ぐ虹色の光の剣と、地から湧き出た黒い闇の槍がぶつかり合い、爆発する。爆煙が辺り一面を包み込み、二人の視界を奪う。

なまじ譜力が一面にばらまかれてしまっているために、リタもリクの気配を探ることができない。文字通り、煙が晴れた瞬間に勝負が決まる。

 

……はずだった。

 

 

「設計……錬鉄……研磨……付与……付与……。全工程完了(オールグリーン)。」

 

『目標捕捉……合いました!! 』

 

「穿て、錬鉄の神槍……実無き幻想を無に禊げ!!」

 

『拍手~♪』

 

偽極・金剛杵(EX・ヴァジュラ)!!」

 

そして、リタの視界は白一色に染められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが終わったのを空気で悟ると、限界が来たのかリクはその場に仰向けに倒れこむ。

 

「……あ~、もう二度と戦いたくねぇ~……」

 

『それは無理でございますよ?』

 

 

 

 

リクvsリタ

 

リクの辛勝



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『雛は若き烏となりて』

サブサブタイトル、シオンの能力説明回















リーシャ、クローゼ、リク。この三人はこの戦いの中で一つの限界を超え、大きな成長を見せた。

リーシャは三代に受け継がれることとなった氷の聖痕を部分的にとは言え開放し、リクは『天よりの幻創(アンリミテッド・イマジン・バース)』という自身のオンリーワンの能力を覚醒させた。クローゼは…………まぁ、うん。

とにかく、第二師団のメンバーとの戦いは、三人の能力なりメンタルなりを大きく向上させる結果となったのだ。

……だが、それでも。今戦っている者の中で誰が一番強いのかと言えばーーフェイトだ。

師と、相棒であった狼との戦い。全ての始まりである姉との戦い。そして長くフェイトの心の闇として巣食っていた母との戦い。それらを経験し、そして乗り越えたフェイトは、他の三人が成長した後でも、心身の両面で頭一つ抜きん出た実力を誇っていた。それこそ、並みの相手であれば瞬殺出来てしまうほどに。

 

つまり、何が言いたいのかと言うと……

 

「…………」

 

「……ふぅ、少し拍子抜けかな」

 

そのフェイトを以てしても、白烏の後継者(シオン)には未だ届かなかったということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

若干不満そうにしながら空を飛んでいるフェイトを見据えるシオンを、フェイトは息を荒げながら睨み付ける。

身体中に切り傷をつくり、満身創痍のフェイトに対し、未だ無傷のシオン。それは圧倒的な実力差を示しているかのようで、フェイトの心の中の悔しさと焦燥感を煽っている。

……だが、フェイトがシオンを睨み付けている真の理由はそれではない。その理由の全てはフェイトを見据えるシオンの瞳にあった。

シオンの瞳に刻まれた六芒星の刻印(・・・・・・)。先程までフェイトの瞳に宿っていた、フェイトの、ひいてはアリシアの希少技能。

六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)。フェイトが姉から譲り受けたはずだった瞳が、フェイトの瞳ではなくシオンの瞳に宿っていたのだ。

 

本来、希少技能というのは魔力変換資質などを除けば大体のものがその人物固有の先天性技能、つまりオンリーワンの能力である。

例えば、リクの天よりの幻創。例えば、ティアの第七音素適正。これらはケイジの写輪眼のようなコピー能力を用いてもコピー不可能であり、また努力や鍛練で身に付くこともないのだ。

それなのに、シオンはそれをあっさり覆した。コピー不可能なはずの能力を使い、あまつさえ本来の使い手にその能力を使わせない。

名付けるなら、『能力喰らい(スキルイーター)』といったところだろうか。

 

「気に入らない、って顔だね」

 

「……そりゃあ、ね。自分の大切なモノを奪われても笑って許せるほど私は優しくないから」

 

「まぁそれが当たり前だし反論できないんだけど……なんだかなぁ」

 

シオンはどことなく気まずそうに頭を掻く。流石に視線は油断なくフェイトを捉えているが、その眼にもどこか申し訳なさが滲み出ていた。

 

「……うん、能力は今は返せないけど、御詫びに僕の能力の一つを明かすよ」

 

「!?」

 

思ってもいない提案にフェイトは目を見開く。

それもその筈、シオンは今、『能力が知られていない』という情報戦によるアドバンテージを自分から捨てると言ったのだ。情報一つで戦況がガラリと変わるレベルの戦いであるために、フェイトの驚きも大きかった。

同時に、シオンに見くびられているという気持ちが湧き、怒りも覚えたが。ちなみにシオンは半ば模擬戦感覚であり、『自分だけ相手の情報知ってるんじゃアンフェアだよね』という思考での発言のため、見くびっているとかそういう事は一切無い。良くも悪くもシオンは紳士なのであった。

 

「僕が始めに持っていた木刀があったよね?」

 

「木刀……? あ!」

 

確かに、戦い始めた時シオンは短剣のような木刀を持っていた。

だが、戦闘開始から一撃目を与えられた時にはもうシオンは今持っている赤い歪な形の大剣しか持っていなかったはずだ。

 

「あの短剣の名前は……『ミストルティン』」

 

「!!」

 

その名前はフェイトにとって聞き覚えのある名前だった。なにせ親友の使う石化槍の魔法と同じ名前だったのだから。

そして、同時にフェイトには疑問に思う点もある。

 

「……短剣? 槍じゃないの? それにどうして貴方が六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)を使えるの?」

 

前者は単に親友の詠唱との違いから。そして後者こそが本命の疑問だ。

自身が六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)を使えない理由は、能力を石化されたからだと考えれば説明が付く。だが、どうしてもシオンが使える説明には結び付かない。

 

「ミストルティンは……北欧神話で悪神と呼ばれるロキがある神様を殺すために使った宿り木の武器。別に槍、と決められた訳じゃない。まあ槍だったって言うのが一般的だけどね。それと後の質問については……ネロ」

 

『なんだ? 奏者よ』

 

どこからともなく少女の声がしたかと思うと、シオンの頭の上に雀サイズの燕がちょこんと現れる。

 

「小さい……ツバメ?」

 

『む。小さい言うな! 余は皇帝ぞ! 余は凛々しい男や綺麗な、または可愛い女は大好きだが余を小さいとかちんまいとか言う者は大嫌いだ!』

 

「え、えぇっと……その、ごめん。機嫌直して、ね?」

 

『子供のように接するなぁ! 』

 

小さい体躯を頑張って持ち上げ、翼を精一杯広げてウガー、と威嚇するが、全く迫力がない。むしろ何と言うか背伸びしている子供を見ているようで微笑ましい。

フェイトは「エリオとキャロ元気かなぁ……私とケイジで保護責任者登録したけど大丈夫だよね?」とか考えながら暖かい目でネロを見る。

……転生者には何かが憑いているものなのだろうか。ケイジ然りリク然りシオン然り。

 

『むぅー!! 余は怒ったぞ! 奏者!早くこの牛娘をやってしまえ!』

 

「牛娘!?」

 

翼をバタバタさせて怒っていたネロが光の粒子になって消えていく。どうやらフェイトのツッコミはスルーされたようだ。

 

「あはは……。さて、ハラオウンさん。さっきの質問の答えだよ。僕のミストルティンは石化よりも宿り木という特性が強い。そしてその効果は……『相手の能力の一つを石化させ、その能力を解析して僕の知識とする』」

 

シオンはそう言うが、未だにフェイトにはピンとこない。それだけでは能力をコピーできる理由にはならないからだ。

シオンはそんなフェイトの内心を読んだかのように微笑む。

 

「勿論、それだけじゃない。僕が君の能力を使えてる流行は……ネロだよ」

 

「ネロが……?」

 

「そう。朱纏(しゅてん)……君達でいうユニゾンに近いかな? それで使えるようになるスキル……『皇帝特権』。自分がこうだと主張することで主張したものにおいて一流になる、この上なく強力な我が儘皇帝の我が儘スキル。これが君の能力を使えてる理由だよ」

 

『奏者!? 誉めたいのか貶したいのかどっちなのだ!?』

 

まぁ、ミストルティンで解析した能力にしか使えない欠陥スキルだからねー、と付け加えるシオンに、あれ? これ余はいじめられているのか? と半泣きになっているのが声だけでもまるわかりなネロ。空気がイマイチ締まらないのはシオンが天然なのか、ネロがいじられキャラだからなのか……。

 

『と、とにかく奏者よ! 早くその牛娘をやるぞ! 牛娘を愛でるのはその後だ!』

 

「(!? なんか寒気が……)」

 

フェイト、貞操の危機である。主に百合的な意味で。

 

まぁそれはともかく、今の問答の間にフェイトの息は整い、体力も若干ではあるが回復している。

ネタバレはしたものの、六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)が使えなくなり、シオンに使われたということで生じた混乱も今はない。なら、戦況は五分に戻せるはず。

 

「じゃあ、ハラオウンさん。ネロの要望もあったことだし、再開しようか」

 

シオンの言葉に、バルディッシュを構え直し、シオンを見据える。が……

 

「今までも全力だったけど……ここからは、本気の全力で行かせてもらうよ」

 

「…………え?」

 

シオンがそう言った直後、フェイトの視界から……いや、フェイトの五感から、『シオン』という存在を司る全てが掻き消えた。

咄嗟に辺りを見回すフェイトだが、一度消えたシオンは見つからない。

そして……

 

キィン

 

「「!!?」」

 

澄んだ金属音と共に、シオンと黒がフェイトの目の前に現れる。

 

「君は……」

 

「ーーふぅ。オイオイシオン。フェイト相手とはいえ『圏境』まで使うか? それに峰とは言え首狙いの一撃……下手すりゃ死んでるぞ?」

 

そこにいたのは、結界に封じられていたはずの人物。髪とは真逆の白い聖衣を翻した、『至った』者達の内の一人。

 

「……まさか、ここで来るとはね……ケイジ!」

 

「弟子の始末をつけるのは、師匠の役目だろ?」

 

「だったら、弟子は師匠を超えるのが役目だよ」

 

「言ってろバカ弟子」

 

ケイジ・ルーンヴァルト、参戦。



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『師弟~前編~』

い、忙しいぜ……

最近固い文学作品ばっかりやってたから、固くなってないか不安でしかたありませんが……












「……願ってもない手合わせだけど、勝負の合間に割り込まれるのはいい気はしないね」

 

「そいつぁ悪かったな。結界が消えたのがたった今だったんで、いまいち戦況とか気にしてなかったんだわ」

 

少々非難がましい視線を向けるシオンに、クツクツと笑いながら飄々とした態度で受け流すケイジ。もちろんケイジに反省の色なんてない。ただ、その目だけは一切の感情を映していなかった。

 

「ケイジ……」

 

「……下がってろ、フェイト。シオンの相手は俺がやる」

 

「私も一緒に………っ!!」

 

膝立ちの体勢から立ち上がろうとするフェイトだが、力が入らないのか、立つことができずにそのまま前にこけたように倒れ込みそうになる。ケイジが受け止めるものの、そこから自力で立つ様子は見られない。

 

「……え?」

 

「血ぃ流しすぎだ。そんだけ斬られりゃ無理もないがな」

 

そう言うと、ケイジはフェイトを優しく広場の隅に座らせる。

 

「弟子の不始末は師匠がケリをつけるもんだ。ま、ゆっくりそこで待ってろ」

 

そしてケイジはフェイトの頭を軽く撫で、シオンの方に戻って行く。フェイトにはかける言葉も見つからず、ケイジを見送ることしか出来ない。

 

「……………」

 

フェイトに出来ることは、ただケイジの無事を祈ることだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな、待たせた」

 

「いや、大丈夫だよ」

 

大太刀……白龍を肩に担ぎ、軽い足取りで歩いて来るケイジに、赤い歪な大剣……原初の火(アエストゥス・エウトゥス)を下段に構えたシオンが応える。

一見するとシオンだけが警戒して臨戦態勢を取っているように見えるが、実際はそうではない。むしろそんなことであればシオンは迷いなくケイジの不意を討っていただろう。実際は、攻めようとしても構えとは裏腹に隙が無さすぎて攻め入れないのだ。

 

「にしても……お前と戦るのはいつぶりだ?」

 

「色々あったしね。……多分、一年半ぶりくらいじゃないかな?」

 

「俺がアルテリアに行く前だったしな……。そんなもんか」

 

いつものように軽い感じで会話を交わす二人だが、明らかにシオンの様子がおかしい。ただ会話しているだけなのに、剣を持つ手が汗にまみれ、いつもの優しげな笑みはなりを潜めている。

まるで、あらゆる余裕を失ったかの表情で、ケイジを見据えていた。

 

「……まぁ、話は一旦止めとこうや。ギャラリーも集まって来たしな」

 

「そうだね……」

 

視界の端に集まってくるクローゼ達を捉えたケイジがそう言い、右手を前に半身になって白龍をシオンに向けて構える。

対するシオンも、原初の火(アエストゥス・エウトゥス)を腰だめに構え、姿勢を低くして下半身に力を込める。

 

そして、次の瞬間……二人は、ちょうど広場の中心で剣を交えていた。

 

「相っ変わらず速いのに単調な動きだなオイ……!」

 

「仕方ないだろう……速さを求めてたら勝手に最短距離を詰めるようになってたんだからね!」

 

削りあうような金属音をたてながら、同時に同じ方向へ走り出す。そして走りながらも互いに攻撃の手は緩めない。何合、何十合と剣戟を交わし合いながら広場を走り抜けていき、そして端まで着くと再び鍔迫り合いの状態に戻る。

 

「へぇ……剣速は速くなったみたいだな」

 

「毎日毎日、何万回と振り続けてるからね!!」

 

シオンは力ずくでケイジを弾くと、即座に剣を腰だめに構え、ケイジが地に足を着ける前にそのまま一閃する。

剣閃はしっかりとケイジを捉えた……が、全く手応えがない。

 

「甘ぇよ」

 

「幻術……!!」

 

目の前のケイジがゆらりと歪んだかと思えば、横から刀の一閃がシオンに叩き込まれる。シオンはコピーした六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)でケイジの奇襲を察知することでダメージを受けることは免れたが、状況的にも位置的にも最初の状態に戻ってしまった。

だが、今度は余計な問答などは一切ない。離れるや否や、シオンは剣を構えてケイジに向かって行く。

 

「氷月!!」

 

「狙いがブレてる」

 

「鋭月!!」

 

「脇が甘い」

 

冷気を纏った切り上げから、返す刃での切り下ろし。普通の軍人程度ならば反応すら出来ないほどの剣速の攻撃を、ケイジはまるで片手間に稽古を付けているように軽くいなす。

それでもシオンは攻撃を出し続け、ケイジが僅かに体勢を崩したところに隙ありとばかりに渾身の力で叩きつける。

地面から土煙が舞い、一時的に視界が隠れてしまうが、タイミング的にはケイジに避けられるはずがない、と周りを警戒しながらも土煙が晴れるのを待つシオン。

 

だが土煙が晴れた先に、ケイジの姿はなかった。

 

「ーー俺はここだ!」

 

「ガッ!?」

 

後頭部に物凄い衝撃を受けたかと思えば、その瞬間にシオンは地に叩きつけられていた。

 

六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)には弱点がある。上の視界は意識しなければ見えないっていうな」

 

「……ケイジクラスの人がそう簡単に飛ぶはずがないって思ってた僕のミスかな……」

 

口の端から血を流すシオンを、ケイジは冷ややかに見据える。

 

「……何を焦ってやがんだ? お前」

 

「……焦ってる? 僕が?」

 

「以前のお前なら、あんな力ずくの攻めなんざしなかった。あんな無理矢理に勝負を決めようとはしなかった。もちろん、俺はそんなことは教えちゃいねぇ。……お前があんな行動を取るのは何かに焦っているときだけだ」

 

「…………」

 

図星だったのか、完全に黙りこんでしまうシオン。少し俯いているせいか、髪の毛の影になってしまってその表情はわからない。

 

「……ケイジにはわからないさ。明日には故郷がなくなってしまうかもしれない不安なんて。いつ故郷が戦場になるかわからない不安なんてね」

 

「…………」

 

絞り出すような声でポツリと呟くシオン。その声は少し震えていて、今にも泣き出しそうな印象さえ受ける。

 

「お前の故郷は……確かクロスベルだったか」

 

「うん。……帝国と共和国、それにアルテリアが宗主国になってる……いや、もはや帝国と共和国に占領されてる場所さ。軍を、武力を持つことさえ許されず、あるのは非武装の警察だけ。警察に武力行使が許されるのはかなり限られた状況だけ。更には罪を犯した者を捕まえても、帝国人だから、共和国人だからというだけで無罪放免。市政は民主主義という名目で宗主国達に好き勝手に操られるだけ……。ただでさえそんな状況だったのに、最近は更に悪化してる」

 

「……………」

 

「僕はそんな故郷を救いたい! クロスベルは自分達の国だって、自分達の故郷だって胸を張りたい! だからこそ、僕は力を求めてリベールに来たんだ!! 故郷を守るための力が欲しかったから!!」

 

そんなシオンの独白をケイジは目を閉じながら聞いていたが、やがて目を開くと、二枚刃の手裏剣のような模様(・・・・・・・・・・・・・)を両目に浮かべてシオンを見る。

 

「バカかお前は」

 

「なっ!?」

 

ケイジの余りにも配慮のない言葉に、シオンは口をパクパクさせているだけだった。どうやら怒りのあまり、かける言葉すら見つからないようだ。

 

「そんな力だけ持ってどうするつもりだ? 革命でも起こすのか? 帝国と共和国を相手に戦争でも起こすのか?」

 

「それは……」

 

「止めとけ。そんな独り善がりで中途半端な英雄願望は自分も故郷も潰しちまうだけだ」

 

「だったら……だったらどうしろって言うのさ!? 政治も武力も経済も!! 何もかもを奪われた状態で……一体どうやって独立を勝ち取ればいいんだよ!?」

 

「…………」

 

「僕らにはもう……玉砕覚悟で戦うしか道が残されて無いんだよ!!」

 

懇願するような、何かを吐き出すようなシオンの叫び。けれども、それは同時に子供の叫びのようでいて、また全てに絶望した大人の悲観のようでもあった。

だが、その叫びは、ケイジにとっては幼児の癇癪にしか聞こえなかったようだ。

 

「……どうやら、本当に周りが見えなくなってるらしいな」

 

「え……?」

 

準備運動(ウォーミングアップ)は終わりだ……。立て。全力でかかって来い。お前の本来の戦い方でかかって来い。じゃねぇと……死ぬぞ?」

 

そして、ケイジは小太刀を……蒼燕を、抜いた。



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『師弟~後編~』

いつからだろう。僕がクロスベルの独立を目指すようになったのは。

 

 

『…………』

 

『可哀想に、あの子まだ小さいのに……』

 

『両親が《事故》でいきなり居なくなっちゃうなんてね……』

 

 

いつからだろう。僕が力を求めるようになったのは。

 

 

『い、今……何て言ったんですか……?』

 

『だから……あれは事故だ。たまたま車と車の間に暴走車が突っ込んで来て、たまたま近くにあった燃料に引火して、たまたまご両親の車が大爆発した。そんでたまたまもう二つの車の帝国貴族と共和国議員は無事だった。原因は貴族サマの飲酒運転』

 

『…………』

 

『ま、要は不幸が重なった事故って訳だ。坊やには悪いが……よくある不幸だよ』

 

 

いつからだろう。僕が笑顔の仮面を着けるようになったのは。

 

 

『な……!?』

 

『フフフ……もう逃げられませんよ? 警察局長?』

 

 

いつからだろう。僕が人に心を許さなくなったのは。

 

 

『はじめまして。ーーです。これからよろしくね?』

 

『……シオン・アークライト』

 

『……何と言うか、笑顔なのに無愛想ね……』

 

『好きに言えばいいよ。僕の知ったことじゃないし』

 

『そう? まぁ、これからよろしくね、シーくん?』

 

『……シーくん?』

 

『シオンだから、シーくん。……嫌だった?』

 

『別にどうでもいい』

 

『本当に無愛想ね……』

 

 

いつからだろうーー

 

 

『ねぇ、シーくん』

 

『何?』

 

『私ね……留学するの』

 

『……………』

 

『私はクロスベルのために何かしたい。でも私に出来ることがまだいまいちわからない。……だから、私は色んな国に行って、自分に出来ることを見つけてくるつもり』

 

『ふぅーん……』

 

『反応薄いわね……』

 

『いいよ。ーーはーーのやりたいようにやればいい。僕も応援するしね』

 

『シーくんはやりたいこととかないの? 色々興味なさそうだけど』

 

『やりたいことならあるよ。ただ、とても遠くて厳しいけどね。……でも、そうだな、まずは……』

 

 

彼女の側では、自然に笑えるようになったのは。

 

 

『近くの大切な人を護れるようになりたい、かな?』

 

 

彼女を、彼女の笑顔を護りたいと思うようになったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「炎月!」

「閃華ーー」

 

シオンの、剣に炎を纏わせた一撃を、ケイジの居合い抜きの一閃が迎撃し、その威力が相殺される。

だが、蒼燕を抜いたケイジの攻撃はそれだけでは終わらない。相殺された攻撃の反動のまま身を逆回転するように捻り、また遠心力をも利用して蒼燕を振り抜く。

 

旋風(つじかぜ)!!」

 

「ぐうっ……!」

 

その一撃をシオンはなんとか原初の火を手元に引き戻すことで防ぐが、威力の乗った一撃に5メートルほど押し返されてしまう。

先程までも劣勢であったが、それが更に悪化したような状況に、流石のシオンもたまらず舌打ちする。

 

「ホラ、防いでばっかじゃその内もたなくなるぞ?」

 

「攻める隙をくれないのは君のせいだよ……ねっ!」

 

休む間もなく切り込んでくるケイジの一閃を紙一重で避けるシオン。

これがシオンの見つけた唯一のケイジの対処法……『回避』である。回避してしまえばケイジは強制カウンターを発動出来ず、ただ普通に攻撃を続けるだけになってしまうのだ。

……これが攻略法と言えないのは、自分から攻撃不可であり、ケイジの体力切れという限りなく可能性の低い事象を待つしかないからであるのだが。

しかしながら、現状ではそれしかシオンに打つ手はない。大剣士であるシオンの攻撃は総じて威力の高さと引き換えに速度を犠牲にしている。そこらの剣士と比べるなら圧倒的にシオンの剣速の方が速いと言い切れるが、今回の相手はケイジなのだ。恐らく、容易に見切られてカウンターの餌食にされてしまうのがオチだろう。

ケイジには枷があり、今はそれを無理矢理外しているのだと知らないシオンにはそれくらいしか出来ないのだった。

 

「月龍……閃!」

 

「鳳仙華!」

 

しかし、やはりというか全てを避けきるのは不可能だったようで、ただ攻撃され続けるくらいならせめて攻撃の主導権は握ろうと動き出したシオン。だが斬り上げ、斬り落としと全く同じと言っても過言ではない動きで技を相殺しあってしまう。

 

「それ、元は俺の鳳仙華のパクリだろ。そんなのが俺に通じると思ったか?」

 

「人聞きの悪い。せめてオマージュって言って欲しいね」

 

「どっちも大して変わらないだろうが」

 

「いやいや、違いは大きいよ?」

 

そんな軽口を交わしながらも、空中では既に何十合と剣と刀が斬り結びあっている。恐らく、彼ら二人以外には金属音しか聞こえていないだろう。それほどまでに苛烈で、速い斬り合いなのだ。

そして、二人の足が地に付く直前、二人は同時に距離をとるように弾き合う。そして……

 

花散る(ロサ)……」

 

「天二式……」

 

シオンは剣気を纏った剣を、ケイジは斬撃を纏った刀を、互いが互いの技を構えて相手に向かって一歩を踏み出す。

 

天幕(イクトゥス)!!」

 

「白帝剣!!」

 

そして次の瞬間には、距離など関係ないとばかりに二人は鍔迫り合っていた。

 

「……シオン。お前は多分正しいよ。俺だってクロスベルの今に思うところが無い訳じゃない」

 

「……ケイジ、それは同情かい? なら悪いけど聞く気は無いよ」

 

僅かに眉を潜めて不機嫌になるシオン。そんな会話をしながらも得物に込める力を緩めないのは流石というべきか。

 

「同情じゃねぇ。宗主国……アルテリアの総意だ。あの自治州は色々と歪みすぎている。それこそ犯罪の温床になるくらいにはな」

 

「そこまでわかってるなら、早く手を打って欲しいね……!」

 

「だがなシオン。これだけは自信を持って言ってやるよ……お前のやり方は間違いだ」

 

正しいと肯定した直後の否定。これにはシオンも訳がわからないのか、目でケイジに続けるように促す。

 

「お前は武力で、ただ『独立』という事実だけを勝ち取ろうとした」

 

「それのどこが悪いのさ……!!」

 

そう、『独立』こそがクロスベルの悲願。支配と抑圧から脱出し、クロスベルだけの法と自由、そして権利と誇りを取り戻す。そこに悪い点など一切有りはしない……有りはしない、はずだった。

 

「……お前、その後のことは考えたのか?」

 

「え……?」

 

「今のクロスベルの収支の八割は『貿易と交易』だ。それも帝国と共和国への輸出入が大半のな。そこに何の対策もないまま独立なんてしてみろ。クロスベルは失業者と浮浪者で溢れかえり、生き地獄と化すぞ」

 

「クロスベルにはIBCがある」

 

「もしIBCが資産を凍結させたらどうするつもりだ?」

 

「…………」

 

苦し紛れの反論も、ケイジの前では瞬時に切って捨てられる。

そう、クロスベルには今独立出来るだけの地盤が無いのだ。クロスベルの市長はともかく、議長は明らかな帝国派。議会は毎回帝国派と共和国派が分かれて争い合う場になっている始末。輸出入の大元は宗主国に握られ、軍も持てないために戦力など皆無に近い。

そんな中も外もボロボロな国が独立したところでどうなるか? 答えは簡単、一瞬で地図からその名が消えるだけだ。

 

「……っ!! だったら……だったら僕らはどうすればいいんだよ!? これから先もずっと宗主国に搾取されろって言うのか!? 権利も誇りも奪われたまま、ただただ自分だけを守ってろって言うのか!? ふざけるな!! 僕らは宗主国の奴隷じゃないんだ!!」

 

悔し涙を流しながら、烈火の如く怒るシオンを、ケイジは変わらず冷静な目で見返す。その余裕がシオンにはどこか悔しくて、何も出来ない自分が情けなくて……より一層、シオンの目から涙が溢れる。

そんなシオンに、ケイジは穏やかに語りかける。

 

「仲間を作れ」

 

「仲間……?」

 

「ああ。ここにいる奴らは悪く言えば他国の人間。宗主国のアルテリア所属だって俺が言い張っても結局は部外者だ。下手すると全く介入できない可能性だって低くない。だから……お前はクロスベルで、お前の故郷で仲間を作れ。今お前に必要なのはそれだ」

 

「……………」

 

全く予想していなかった言葉だったのか、シオンの目が点になっている。ケイジはその隙にシオンの剣を弾いて距離を取ると、白龍と蒼燕を鞘に納める。

 

「……ま、柄にも無い説教はここまでだ。つーかこれ以上は俺が恥ずかしくて死ねる」

 

「……フフっ、そうだね。確かに……ケイジの柄じゃないや」

 

「ほっとけ」

 

そしてシオンも原初の火を腰だめの状態に戻す。その表情はどこか憑き物が落ちたかのようにさっぱりしている。どうやら師匠(ケイジ)の解りにくいアドバイスに何か思うところがあったようだ。

 

「……さて、説教も終わったことだ。とりあえず罰として……一回死んどけ」

 

そうケイジが言った直後、シオンの肩から腰にかけて焼け付くような痛みが襲う。

……見えない程の速さの抜刀術。技でも何でもなく、ただ一瞬枷を完全に外しただけの、全力の縮地を使っただけの力業。それなのに、必殺の一撃にまで昇華された名もなき一閃。

 

「(……ああ、全く……本当に……敵わないなぁ……)」

 

今までの戦いが手加減されて成り立っていたことを痛感しながら、シオンは意識を闇に沈めた。



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『若烏と怒れる女神と急展開』

「…………」

 

残心の状態から戻り、刀を軽く一振りするケイジ。そして地面に倒れ伏すシオン。

それを見た、二人の戦いを見ていた他の仲間たちがケイジの側に駆け寄る。

 

「ケイジ!」

 

「怪我は無いの?」

 

「無い。むしろ怪我なんざする訳無いだろ。俺はシオンの手の内知り尽くしてんだぞ?」

 

「まぁ、なんにせよ無事で良かったです……」

 

「リーシャ、お手」

 

「しませんよ!? というかまさかの犬扱い!?」

 

「あはは……」

 

「ちょっと真面目になったと思ったらすぐふざけるんだな……」

 

「全く……」

 

いつも通りに所々ふざけながら話すケイジに毒気を抜かれるクローゼ達。リーシャは弄られ、フェイトは苦笑い。リクとクローゼは心配して損したとばかりに溜め息を吐いていた。

そして、そんなメンバーを置いて、ケイジは刀を持ったままシオンの近くに寄る。

 

「オイコラバカ弟子。とっとと起きろー。もっかい刺すぞー?」

 

「サーイエッサー! 起きたから! 起きてるから!!」

 

『『……………はいィィィィィ!!?』』

 

何でもないようについさっき肩から腰をバッサリやったシオンを脅すケイジに、これまた何でもないように刀が首筋に添えられる直前に反射的にガバッと起き上がり、座ったまま敬礼するシオン。リクを除く何が起こってこうなっているのかが全くわからない三人娘は少し遅れて絶叫した。

まぁ、そりゃそうだろう。端から見ていれば死んだ人間が生き返ったようにしか見えない。しかも傷痕すら残っていない状態でだ。思いっきりホラーである。

 

「うるせーな、たかがシオンが蘇生したくらいで」

 

「いやいやいや! 普通は蘇生なんてできないからね!? すっごく大事だからね!?」

 

「えーっと……リク? これどういう状況?」

 

「お前なぁ……。ああ、忘れてた。お前はお前で大概天然だったな……」

 

投げやりなケイジに、少しばかりは超展開に慣れているクローゼがツッコむ横で、何故三人娘がポカーンとしているのか心底わからない様子のシオンを見てリクが溜め息を吐く。

戦闘終了早々にカオスな空間が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは僕のスキルというか能力というか……『三度落陽を迎えても(インウィクトゥス・スピリートゥス)』って言うんだけどね。物凄く簡単に言えば自動救命能力だよ」

 

三人娘が落ち着いた後、シオンによるネタばらしが始まる。早速というか大元の説明から始めたシオンだが、どうやらイマイチわかりにくかったようで三人娘は頭の上に?マークを浮かべ続けていた。

 

「えーっと……」

 

「簡単に言えば、致命傷を負った時に一日一回だけ自動で治癒するんだよ。だからシオンは首ちょんぱとかトマトがグシャッ的な展開じゃなければ一回だけ生き返れる」

 

「「ああ、なるほど」」

「うう……」

 

リクの補足もあってようやく納得した様子のフェイトとリーシャ。クローゼは痛い話は苦手なのか若干顔色を青くしていたものの、二人と同じように納得はしているようだ。

話は変わるが、実はこの『三度落陽を迎えても(インウィクトゥス・スピリートゥス)』こそが、シオンが十代にしてケイジの後継者と言われるまでの実力を持つまでに至った理由だったりする。ケイジは戦場での実戦と騎士団の任務で実戦を積み、その結果今の実力を得たのだが、百日戦没の後に仕官したシオンには実戦を積む機会なんてものはなかった。軍の訓練は当然のことながら生き死にに関わることまではしないし、殺気も感じられない訓練の中で得られる経験など、言い方は悪いがたかが知れている。

そこで役に立ったのがこのスキルだ。シオンはケイジとの鍛錬で文字通りの『殺しあい』をすることで、一足飛びに経験と技術を磨いていったのだ。……まぁ、未だにケイジには一勝すら出来ていないのだが。

 

シオンの説明を聞いて、ほえーと呑気な声を出していたリーシャだったが、その後に何かに気付いたように首を傾げた。

 

「あれ? ということはシオンさんってまだ倒せてないってことになるんですか?」

 

「言われてみれば……」

 

「あははは……とりあえず落ち着こうよ。武器下ろしてくれないかな?」

 

リーシャの疑問を聞いたケイジ以外の全員がシオンに武器を突きつける。シオンは冷や汗を尋常でないくらいかきながら両手を挙げて敵意がないことをアピールする。

 

「じゃあ何でお前はまだここにいるんだ? 他の奴らは光って消えてったんだが?」

 

「ああ、それはね。僕はティアさん達みたいに君達と戦うために呼び出されたんじゃないからさ」

 

その言葉を聞いた瞬間、四人がシオンの肩や腕をガッと掴む。全員が全員少し俯いて表情を見えなくしているために物凄く怖い。握っている力がめちゃくちゃに強いこともその怖さに拍車をかけている。

 

「え、えっと……どうしたの? リク、リーシャちゃん、フェイトさん、殿下?」

 

「……要するに」

 

「私達はあなたの『戦いたい』ってだけの理由で……」

 

「無駄に苦戦を強いられる羽目になったということですね?」

 

リク、リーシャ、クローゼが顔を上げて眩しいくらいの笑顔でシオンに話しかけるが、その笑顔はシオンにとっては恐怖しか与えない。シオンは頬をひくつかせてケイジに視線で助けを求めるが、ケイジはただ無言で手を合わせて黙祷するだけだった。

 

「……ってちょっと!? そんな簡単に部下を見捨てないでよ!!」

 

「諦めろ。俺だって命は惜しいんだ」

 

「少しくらい頑張ろうって気は!?」

 

「惜しい奴を亡くしたなぁ……」

 

「まさかの助ける気皆無!?」

 

そんな中、シオンの右肩の圧力が強くなる。ギギギッと錆び付いた機械のような動きで振り返ると、そこにはハイライトの消えた目でありながら女神と見紛うような笑顔のフェイトがいた。

 

「な、何でしょうかフェイトさん、いや、フェイト様?」

 

「つまり、私とシオンが戦ったのってまるっきり茶番だったんだね」

 

「え゛」

 

六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)盗られたのも、私が負けそうになったのも……全部、全部茶番だったんだね」

 

「いや、負けそうというか完全に負け……!?」

 

シオンの肩にかかる力が更に強くなる。

 

「フッ……ふふふふふふフフフフフフフ……」

 

「あ、あははははは……」

 

「少し、O☆HA☆NA☆SHIしよっか?」

 

「(ああ、短い人生だったなぁ……)」

 

シオンの目の端に、何かがキラリと光った。

 

 

戦いたい ノリで実行 ダメ絶対

~しおん心の俳句~

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「おーい、生きてるかー?」

 

約30分後、ボロボロの状態ですごくスッキリした様子のフェイトに引きずられてきたシオン。ケイジがシオンをつついて生死確認をしているが全く反応がない。ただのしかばねのようだ。

 

「全く、耐久力のない……」

 

「いや、ハラオウンとか殿下の折檻の後に意識保てるのってお前くらいだと思うんだが」

 

「えっと。お話はその辺りにしておいていただきたいんですが……」

 

呆れた目でケイジを見るリクの横に、金髪の、法衣を着た大人しそうな女性が苦笑いしながら立っていた。

 

「「っ!?」」

 

「そ、そんなにあからさまに敵視されるのはショックです……」

 

近くにいたリクとリーシャが咄嗟に飛び退くと、女性は目に見えて落ち込み出す。それに戸惑う四人だったが、その中でケイジだけが溜め息を吐いた。

 

「何してんですか……ミントさん」

 

「うぅ……ケイジくん……私はあなた達を案内しに来たんですよぅ……」

 

涙目の女性……ミントがケイジに泣き付くのをポカーンと見ていた四人だが、ケイジは一人冷静にミントをあやす。

 

「んで、何でミントさんなんです? アンタ戦闘力皆無でしょうに」

 

「えっと……私は戦いに来たわけじゃ無いんです」

 

「?」

 

首を傾げるケイジ達を前に、ミントは持っていた杖を振るう。すると、ケイジとミントの足下に魔方陣が広がった。

 

「!?」

 

「「ケイジ!!」」

 

突然の出来事に咄嗟に手を伸ばすクローゼとフェイト。だが、その伸ばした手は虚しく空を切る。

 

「…………」

 

「ケイジ……」

 

残されたのは、手を伸ばしたまま立ち尽くすクローゼとフェイト、そして唖然としているリクとリーシャ、相変わらずうつ伏せで突っ伏しているシオンだけ。

ケイジの姿は、その空間から消え去っていた。



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『初代』

「…………ここは……」

 

いきなり譜陣に巻き込まれて、光が晴れたその先は、見渡す限り一面真っ白な空間だった。

上下は理解できる。足下には確かな床の感覚もある。だが空間の全てが白で構成されているためかいささか気持ちが悪い。そんな空間。

そして、ここに来る原因となったミントはおろか、クローゼやフェイト達もいない。この空間にいるのは……ただ、二人(・・)だけだった。

 

「……よう、久しぶりだな」

 

ケイジがゆっくりと後ろへ振り向くと、そこには自分とほとんど瓜二つのー違いは髪をオールバックにしていることと身長だけーの人物がいた。

 

「ミントならいねーぞ? アイツは本当にただの案内役だ。ま、攻撃手段が杖でぶっ叩くだけしかない奴に戦えってのも酷だしな」

 

「……リーヴ」

 

カラカラとまるで十年ほど前のように笑うリーヴ。その目はアガレスに体を乗っ取られていた時のような濁った目ではない。磨きあげられた黒曜石のような輝きを持っている。

そう、今目の前にいるのは、紛れもなくリーヴ・セレスティアルその人なのだ。

 

「ん? どした? んな死人を見るような目ェしやがって……って俺死んでんのか」

 

「……………」

 

リーヴが明るくおどけてみせるも、ケイジは目を伏せたまま動かない。そんなケイジを見たリーヴはふざけるのを止め、優しい顔でケイジを見る。

 

「……ったく、ガキがいっちょまえに責任感じやがって……んなもん感じる必要はねぇのによ……」

 

「……ごめん、なさい」

 

「あん?」

 

絞り出したような声で謝るケイジを、リーヴは訝しげに見る。

 

「あの時、俺が勝手にジェイドさんのところに行かなかったら、二人は死なずに済んだんだ。いや、俺があの医療キャンプに行かなかったら、そもそもそんな事も起こらなかった……」

 

「…………」

 

ポツリポツリと語られるケイジの独白を、リーヴは黙って聞く。

 

「ずっと思ってた。何で俺だけが生きていたんだって。俺なんかより生きるべきだった人はもっと別にいたはずなんだ。……なのに! 俺が、俺だけが!」

「そこまでだ、クソガキ」

 

尚も慟哭のような独白を続けようとするケイジを、リーヴは厳しい声で止める。その顔に映っている感情は ……怒りだった。

 

「お前は俺を……俺達をバカにしてんのか? 誰がどうでもいい奴なんざ命懸けて助けるかよ。俺達はお前を、お前だから助けたんだ。その事に後悔なんざ微塵もないし、ましてや間違ったなんざ全く思ってねぇ。百回お前がああなってたら百回同じ事を繰り返す自信だってある」

 

「でも……」

 

「でももだってもねぇんだよ。んなもしもの話なんざ聞きたくねぇ。現実に、俺達がお前を助けて、その結果お前は生きてここにいる。その事実があれば十分なんだよ」

 

「…………」

 

そこまで一人で言い切ると、とうとうケイジは何も言えなくなってしまう。そのケイジがすこし顔を赤くして俯いているのを見ると、リーヴは玩具を見つけた子供のようにニヤリと笑った。

 

「ん~? 何? 照れたの? 照れてんの~? 何回も助けてやるとか言われて照れちゃったのか?」

 

「うるせぇ。テンションがウザい」

 

「おやおや、照れ隠しがツンデレだな。このツンデレボーイめ!」

 

「やかましいぞ変態中年」

 

「誰が変態だコルァ」

 

さっきまでの重々しかった空気がリーヴによって一掃される。この辺りの切り替えの巧さは年の功と言うべきだろうか……

 

「にしても、お前も大概罪な男だよな~」

 

「いきなりなんだ変態不良中年」

 

「何か俺の罵倒レベルアップしてね? いや、だってよ~、リベールの姫様に金髪巨乳の美人さん、んでもって紫髪の年下可愛い系。やったねケイジ! よりどりみどりじゃねぇか! マジでどうやっておとしたんだよ?」

 

「黙って消えろ変態不良人間のクズ中年」

 

「ちょ、おま……仮にも命の恩人相手に酷くね?」

 

「気にすんなって言ったのはお前だアホ」

 

気にしなさすぎである。

リーヴはおかしそうに笑っていたのだが、そこで突然真面目な表情に変わった。

 

「……んで? お前はいつまで彼女達から逃げてるつもりだ?」

 

「…………」

 

リーヴの一言で、ケイジの顔に微かに浮かんでいた笑みが完全に消え去る。

 

「……何の話だ?」

 

「すっとぼけんなよ。お前が誰にも本心を許してないことくらい見てたらわかんだよ」

 

「…………」

 

「沈黙は肯定だと取るぜ?」

 

的確なリーヴの詰めに、小さく舌打ちするケイジ。

 

「お前、怖いんだろ? 誰かと深く繋がるのが。そしてその繋がりを絶たれるのがな」

 

「……ああ、そうだよ。その通りだ」

 

リーヴ相手に隠し通すのは無理だと悟ったのか、ケイジはあっさりと認めた。

 

「全部お前の言う通りだ。怖いんだよ、人と深く関わるのが。その繋がりを利用されて裏切られるのが……」

 

「……『聖天堂の乱』、か」

 

「!?」

 

聖天堂の乱……ケイジが驚いたのはその単語のせいではない。それをリーヴが知っていたことに驚いたのだ。なぜなら、聖天堂の乱はリーヴの死後に起きたのだから。

 

「オイオイ、この空間ナメんなよ? 何だかんだで俺も本物じゃねぇんだ。お前の記憶くらい多少はわかってるさ」

 

その言葉に納得したのか、ケイジは小さく頷いて話を続ける。

 

「誰かと深く繋がらなけりゃ、繋がりさえしなければ、俺は躊躇しないですむ。誰も傷付かずに全部終わらせられる。繋がりさえなければ……俺が死んで悲しむ奴もいなくなる。都合の良いことだらけなんだよ。だから……繋がりなんて、俺にはいらない」

 

感情を灯していない無機質な目で語るケイジ。その表情はまるで機械のようで、また全てを悟りきったようで……その様子は、とにかくリーヴの勘に障った。

 

「繋がりなんていらない、なぁ……バカだろお前」

 

「……あ?」

 

「繋がりのない人間なんてこの世にはいねーぞ。親子、友達、知り合い、全く関わりのない奴にだって赤の他人っていう繋がりがある。人類皆兄弟ってのはよく言ったもんだ」

 

「…………」

 

リーヴの言葉を聞いても尚、反応の無いケイジに、リーヴはわざとらしく大きなため息を吐く。

 

「どうやら、言ってもわからないらしいな……」

 

「……!?」

 

次の瞬間、ケイジの頬先を何か鋭い物が掠めていく。頬先が切れ、血が頬をつたって初めて、ケイジは何かが掠めたことに気づいたようだ。

一方、リーヴは対象的に余裕綽々という表情で、コートのポケットに手を入れている。

 

「オラ、来いよ。口で言ってもわからねぇなら体でわからせてやらぁ」

 

リーヴの周囲に冷気が満ちる。

初代にして、氷結系の頂点。『氷華白刃』が、『白烏』に今牙を剥く……



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『堕ちた末に』

10月21日、話数を削除しました













ある少年の話をしよう。

 

少年は全てを失った。友を、仲間を、繋がりの全てを失った。

少年は現世(うつしよ)を嘆いた。こんな寂しい世界に意味などあるのか、と。自分に生きる意味はあったのか、と。

少年は神などという曖昧な存在は全く信じていなかった。が、死後の世界は全てを失った日以来信じるようになった。

死んだら、皆にまた会える。殺した人達にも、謝ることができる。

そんな夢物語を信じなければ、少年は自分を保っていられなかった。

 

だが、そんな少年にも、一筋の繋がりが残されていた。

その時の少年にとって、その繋がりは何よりも大切な繋がりであった。

だが、世界はその繋がりを許さない。少年はその繋がりから離れざるを得ない状況に陥ったのだ。

少年は、自分を犠牲にすることを選んだ。

 

そして少年は新天地で新たな絆を、繋がりを紡ぐ。

相棒ができ、ライバルができ、仲間ができ……そして、妹ができた。

その一方で、少年は他人の命を何度も奪っていた。元凶の大人だけではない。時には、被害者のはずの子供達の命を奪うはめになることもあった。

少年は、少しずつ壊れ始めた。

 

そして、ある時、とある騒動が起きた。

少年と親しい友人が、少年の所属する組織に対して反乱を起こしたのだ。

少年は、友情を利用され、裏切りという返しを受け、友殺しという結果を得た。

少年は、人を信じないようになった。

 

やがて少年は青年となり、また、青年の大切な繋がりもかつてとは比べ物にならないほどに多くなった。

自分を友と呼ぶ者がいる。師と仰ぐ者がいる。兄と慕う者がいる。そして……自分に好意を向ける者がいる。

現世に不満など微塵もない。それどころか、日々を楽しいと思うことができている。

だが……だが、それでも。青年は、心のどこかで『自分の死』を願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右、左、左、右、右。そうして、ケイジはリーブの放つ『見えないナニカ』を直感と写輪眼を行使して紙一重でかわしていく。

それでもやはり完全には避けきれていないのか、服や顔の所々には小さな切り傷が出来てしまっていたが。

 

「人との関わりを断って生きていけるとか本気で思ってんのか!?」

 

「出来る出来ないじゃねぇ……やるんだよ!」

 

口の方では気丈に返すケイジだが、闘いの方では全くと言っていいほどリーブに接近できずにジリ貧な状況を強いられている。譜術の詠唱すら不可能なリーブの弾幕を破る術は今の所……ない。

リーブの放つ弾幕は、一見固有な能力や術に見えるが、その実は純粋な技術である。某有名漫画の言葉を借りるとするならば、『居合い飛刃』とでも名付けたところか。

そう、リーブは突き詰めて言うならば単に氷のナイフを乱射しているだけなのだ。それでケイジを完全に押し込める圧力を作り出しているのだから、流石という他ないだろう。

 

だが、ケイジもいつまでも押し込められているほど弱くはない。聖痕で生み出した斬撃のオーラを纏うように展開し、ナイフの弾幕に突っ込んで行く。

ナイフは、斬撃のオーラに呑み込まれて消滅し、ケイジは弾幕を辛うじて抜けるが、その先に待っていたのはナイフをホルスターに入れたまま構えているリーブだった。

 

「しまっ……!」

 

「遅ぇよ……豪殺、居合い刃!!」

 

リーブの渾身の一撃がケイジの腹部を捉え、吹き飛ばす。ケイジは吹き飛ばされた先で咳き込みながら立ち上がるが、リーブがその頭を押さえて立ち上がらせない。

 

「関わらないように、《する》……?」

 

「……ああ、そうだよ!!」

 

ケイジは体をひねってリーブの手からかかる圧力を別の方向に逃がし、ひねった勢いでリーブの顔面にむけてアクロバティックに蹴りを繰り出す。リーブはあらかじめ予測していたのか、見事な捌き方でケイジから距離を取った。

 

「どうせ消えていく繋がりなら、始めからない方がいい。人は……利用し、裏切り、去っていく生き物だからな」

 

「お前……」

 

人でありながらも人という種を見下したようなケイジの言葉に、リーブは目を鋭くする。

 

「……聖痕、か」

 

「……ウルは関係ねぇよ。俺の個人的な考えだ」

 

そう言うと、ケイジは翼を展開する。

その翼は、今までのようなどこか機械的な形状ではなく、完全に天使のそれとなっており、手に握る白龍は斬撃のオーラを帯びて淡く光っている。更に、どこから取り出したのか、ケイジの体や頭には純白の鎧兜が装着されていた。

 

「……っ!」

 

「…………オオおォォォぉぉォォぉァァああア!!!」

 

そして、ケイジだったものが白龍を振るう。すると……

空間そのものが、裂けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「ちっ……遅いな……」

 

そしてその頃、残されたメンバーは中央広場で静かに待っていた。

シオンは座りながら目を閉じて落ち着いているものの、リクは時折懐中時計を見ては舌打ちし、リーシャはあわわはわわと目を泳がせている。クローゼは一見冷静に見えるものの、その実はウルを抱き締めながら単に放心しているだけ。フェイトに至っては先ほどからあっちへ行ったりこっちへ行ったり忙しなく動いている。少し落ち着け女性陣。

しかし、そんな時間も長くは続かない。

 

突然空間に切れ目が生じ、そこから何かが飛び出して来る。瞬時に戦闘態勢に入る五人だったが、そこから出てきたものを見ると言葉を失った。

 

『『……!?』』

 

「いっつ……何か呼び起こしちゃいけねぇもん起こしちまったっぽいな……」

 

そこから出てきたのは、どういう訳か片腕を失っているリーブと、天使だったのだ。

 

「あんたは……!」

 

「ん? ああ、あん時の……」

 

リクはリーブに殺気を向けるが、リーブの方は全く相手にしていない。今リーブにとって注意を払うべきなのは、目の前の天使と化したケイジだけなのだ。

 

『あれは……まさか……!?』

 

『流石に気付くか、幻の至宝は」

 

「ウルちゃん?」

 

腕の中で体を強張らせるウルに気付いたクローゼがウルに声を掛けるが、ウルは天使を見たまま固まってしまっている。何が起きたかわかっていない五人に声を掛けたのは、意外にもリーブであった。

 

「お前ら、幻の至宝の消失の逸話は知ってるか?」

 

『え?』

 

「……幻の至宝が、人々の願いの無限さと欲望の汚さに絶望して、自ら消滅を選んだってやつですか?」

 

他の四人は知らなかったようだが、クロスベルという幻の至宝と縁の深い土地出身のシオンはすらすらと答える。

 

「ま、正解だ。だが、実はその逸話には教会関係者しか知らない続きがあってな……。『絶望に身を堕とした幻の至宝は、特に汚い欲望を抱えた者を殺して回った』らしい」

 

『『!!?』』

 

リーブの言葉から推測するならば、目の前の天使はその『絶望に身を堕とした幻の至宝』となる。そして、今クローゼの腕の中にウルがいる以上、幻の至宝というワードで思い当たるのはただ一人……ケイジだけしかいない。

 

「まぁ、言いたいことは山ほどあるだろうが……今は頼む。あのアホを止めんの手伝ってくれや」

 

その言葉が合図になったかのように、今まで周りを見渡していた天使は刀を構えてリーブ達に突撃した。








リーブ・セレスティアル
ATK…9868
DEF…9971
ATS…0
ADF…8219
SPD…52
DEX…80
RNG…6

・イベント限定プレイヤーキャラ。ATS が0のため、攻撃系アーツに一切の意味が無いのがネック。
だが、他のパラメーターが軒並高水準なので、中距離では無類の強さを誇る。
因みに、上記はクォーツ補整なし(笑)

ライン…2ー2ー3ー3

中心……(水固定)水耀珠

第一ライン…修羅
第二ライン…風耀珠
第三ライン…移動3、琥耀珠
第四ライン…必殺の理、黒耀珠


虚ろなるケイジ
HP…200000

術技
初期……鳳仙華、スプラッシュ、タービュランス
HP75%以下……プラスで閃華、サンダーブレード
HP50%以下……瞬桜、上位譜術
HP25%以下……インディグネイション(ナイトメアのみ)

幻の聖痕の暴走に呑み込まれたケイジ。ウルが制御していないせいか、攻撃のダメージが一定しない。(0~8000)
HP が50%を切った瞬間、割り込みで白帝剣を発動させて全員のHP を1にするので、ダッシュで回復しよう


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『幻華繚乱』

復帰初投稿!

推奨BGM…コネクト/ClariS

かけるタイミングは……お任せします(笑)













「アァアアアァァアーー!!」

 

「右から来るぞ!!」

 

「アダマスガード!」

絶対堅固の七の華(ロー・イージス)!!」

 

リーブの指示により、アーツとクラフトでケイジの剣を弾くシオンとリク。もちろん、剣を弾かれて隙を見せたケイジに何もしないほどリーブは甘くはない。氷のナイフで牽制しつつ応急的な氷の義手を剣の形状に変えて距離を詰めていく。それに数瞬遅れてフェイトとリーシャが続き、クローゼが二人をラ・フォルテでブーストする。

 

三人の攻撃はケイジの鎧に直撃し、甲高い金属音を周囲に響かせる。だが、その攻撃は鎧に少しばかり穴を開けただけに終わってしまい、更にはその穴もすぐに塞がれてしまう。

 

「思った以上に固い……」

 

「それ以上に鎧を直しちまうのが面倒だ。あれをどうにかしねぇとダメージなんざ入りゃあしねぇ」

 

フェイトがポツリと呟くと、それに便乗するようにリーブが顔をしかめてそう言う。どうやら、リーブはダメージで気絶なり戦闘不能なりに追い込むつもりのようだ。

 

「おいオッサン! アレは何がどうなってんだ!?」

 

「オッサン言うなチャラガキ! アレはケイジだよ。ああなった理由は……そこの狐が一番知ってんじゃねぇか?」

 

『…………』

 

リーブに指摘されたウルは無言のまま答えない。沈黙は肯定の証とは言うが、今回はその通りのケースなのだろう。

 

『あれは……(わたし)のせいだよ』

 

「……ウルのせい?」

 

『正確には幻の至宝の怨念、かな。皆(わたし)が自壊した理由は知ってるよね?』

 

ウルの言葉に、各々が肯定の言葉を返す。流石に少し前に聞いたことを忘れはしないだろう。

 

『あれね……シオンが言ったのも、リーブが言ったのも、正解じゃないんだ。

ーー怖かったんだよ。幻の至宝なんて言われて、願いを叶える女神の遣いなんて言われてたけど、所詮(わたし)は意思を持っただけの道具だった。毎日毎日、あれがしたい、これが欲しい、誰かに勝ちたい……そんな欲しか感じられない願いを叶えるだけだった。

でも、それだけなら(わたし)は良かったんだよ。それが(わたし)の役割だったし、その人達の笑顔を見れれば嬉しかった。それには何の不満もなかったんだよ。

怖かったのは、願いを叶える代償だった。(わたし)の記憶が、その代償だったんだよ。……それが、(わたし)には堪らなく怖かった。毎日毎日記憶が、思い出が、全部消えていくんだ。昨日まで世間話をしていたはずなのに、その人の名前も性格も、何もわからなくなっていく。全部無くなるんだよ。思いも、つながりも、そして多分、自分という存在さえも。

恐くて怖くて仕方なかった。それに耐えられなくて(わたし)は自壊の道を選んだんだ』

 

ウルの独白に、全員がその重さに絶句する。ケイジはリクの『天の鎖(エルキドゥ)』によって何とか足止め出来ており、今のところウルの独白を邪魔するものは何もない。

 

『多分、ケイジも同じなんだ。どうせ全部無くなるなら、自分だけが消えればいい。大切なものを傷付けたくなくて、でも記憶が消えていくのを止められなくて。だから、誰かに自分の側にいてほしくなくて。なのに一人は寂しくて……。何が正しくて、何が正解なのかがわからなくなっちゃってるんだよ』

 

記憶が消えていく。それはどれ程の恐怖なのだろうか。

そこな何かがあったことは、あったことだけはわかる。なのにその中身は全くわからない。知らない誰かが、自分を知っている。自分の知らない自分の思い出を他人としか思えない人に知られている。

それがどれほど恐ろしいことで、どれほど苦しいことなのか。そんなものは体験した者にしかわからない。

 

けれどーーそれが、その選択が間違っていることはわかる。

 

「……違うよ」

 

『え……?』

 

「ねぇウルちゃん。貴女がどんな思いで自壊したのか私はわからない。苦しかったのは、怖かったのはわかるけど、それだけだよ」

 

腕から飛び降りてしゅんと項垂れていたウルを、クローゼはもう一度抱き上げる。

 

「けどね、それだけで切れるくらい『つながり』って、『絆』って脆いものなの? 無くしたいからって切れるくらい、『仲間』って軽いものなの? 違うよね?」

 

『…………』

 

クローゼの問いかけにウルは答えない。答えられない。

何故なら、ウルは逃げたからだ。苦しかったから。死にたかったから。自分で自分を追い詰めて、相談もせずにただ楽になりたかったから全てを終わらせたからだ。

 

「私はそうは思わないよ。ケイジは私から離れようとした。けど、私は彼に追い付いた。離したくても離れないものが、切りたくても切れないものが『絆』だと、私は思う」

 

「……うん。だから……退けないんだ。ここで退いたら……もう二度と胸を張って仲間だって言えなくなるから」

 

クローゼとフェイトが、ケイジに向き直る。

 

『クローゼ……フェイト……』

 

「……どうしようもなく遠くて、手が届かないなら諦められます。でも、もう手を伸ばせば届くんです。向こうが手を伸ばせないなら、こちらから伸ばしてあげれば、その手が掴めるんです。

私はそれでケイジさんに救われました。今度は……私の番です」

 

『リーシャ……』

 

リーシャが、クローゼとフェイトのすぐ前に立つ。

ケイジを縛る鎖が解かれ、突撃しようと身構えるが、今度はいつの間にか距離を詰めていたリーブがケイジを氷で捕縛する。

 

「ま、僕達の言うことは無いみたいだね」

 

「やることは決まってるからな」

 

シオンは原初の火を、リクはエアを取り出しながらリーシャの更に前に立つ。

 

『みんな……』

 

「守りたいの。失いたくないの。だから戦う」

 

「手を伸ばせば届くんだ……だったら伸ばさないわけがない!」

 

フェイトとクローゼとリーシャが走り出す。それと同時にリクはエアを振るい、シオンはアーツを放つ。ケイジの鎧に罅が入る

そして先行したリーシャが渾身の突きで鎧を砕く。鎧が砕けると、リンクしていたのか兜までもが弾け飛ぶ。

露になったケイジは、無表情だった。無表情で、涙を流していた。

 

「辛いなら……苦しいなら……何で私達に言わないのよ!!」

 

「言うだけじゃ伝わらない……なら、体に叩き込む! 昔私がしてもらった見たいに!」

 

フェイトとクローゼがケイジに接近する。その両手には武器はない。ただ、拳を握り、それを引いて振りかぶる。

 

「「仲間(わたしたち)を……舐めるな!!」」

 

一閃。仲間全員の怒りを体現したような拳が、ケイジの体に突き刺さった。

 

だが……それだけでは、ケイジを止めるには及ばない。二人の拳が突き刺さる直前に氷が解かれていたのだが、そこから現れた部分は既に鎧が復活していた。それに従い、ケイジの鎧が元に戻りだしたのだ。

 

「っ! まだーー」

 

「ーーいや、後は任せろ」

 

ゆっくりと立ち上がるケイジを見て再び構えようとする一同だが、背後から聞こえてきた声に動きを止める。

 

「息子の不始末は親の責任。世の常識だ。だったら俺がケリ付けるしかあるめーよ」

 

「オッサン……」

 

「後は、俺の役目だ」

 

風車の先を繋いだような紋章をその目に浮かべ、リーブはゆっくりとケイジに近付いて行く。

そして、リーブが何かを呟くのと同時に、リーブとケイジは再び光に巻き込まれて……消えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フワフワと宙に浮かぶような感覚。けれども、暖かい何かに包まれているような心地よさ。それらの感覚に身を任せながら、ケイジは何処とも言えぬぼんやりと光を放つ空間に漂っていた。

 

「(ここは……。それに、俺は一体……)」

 

うっすらと目を開き、周りを見渡すケイジだが、すぐにその目を閉じて穏やかな微睡みに再び身を委ねてしまう。

 

「(……まぁ、いい。どうせ俺は全てを捨てようとしたんだ。このまま誰にも知られずに朽ちていくのも仕方ないだろ……)」

 

全身の力を抜き、流れに逆らわず、ゆっくりと意識を落とそうとする。そうしている間にも、確実に己の記憶は流れ出るように消えていっているのだろう。徐々に頭が軽くなっていくのは己の犯した罪の記憶と罪悪感まで消えているからだろうか。だが、それもまた、彼にとっては何とも言えない感覚を与えるものだった。

 

「……それでいいのか?」

 

ふと、そんな声がどこからともなく聞こえてくる。

 

「……こんなことが、本当にお前の望んだ結末なのか?」

 

「良いも悪いもない。もう疲れたんだよ」

 

「何にだ?」

 

「英雄だの守護騎士だのに祭り上げられるのが、だ。俺はまだガキなんだよ。何でもかんでも押し付けられちゃたまったもんじゃない。……そろそろ、休ませてくれよ」

 

思いがけずに出たであろうその言葉は、恐らくケイジが人生で初めて吐いたであろう弱味だった。

『英雄』。たまたまその身に聖なる証を刻んだが故に、その力で復讐を果たして国を救ってしまったがために手に入れてしまった称号。彼がそう呼ばれたのはまだ10にも満たない時だった。

彼を人は称賛するだろう。歓迎するだろう。そして敵には畏れられるだろう。国を救ったという事業は歴史に名を残すことになるだろう。だが、逆に言ってしまえばそれだけなのだ。

英雄に弱味を見せることは許されない。英雄が負けることは許されない。英雄が戦わずに死ぬことは許されない。戦争という人を軽々と殺め、傷付ける魔窟を生き延びた少年に与えられたのは休息でも悲しみを吐き出すためのインターバルでもなく、そんな押し付けだったのだ。

もちろん、それがリベールだけの騒動ならばアリシア女王が何としてでも祭り上げさせなかっただろう。だが、ケイジは聖痕を宿していた。宿してしまっていた。そうなってしまえば、アルテリアが大人しくするはずもない。結果、ケイジは多少緩和されながらも派遣という形でアルテリアに行くこととなってしまう。

そこからの惨状は、言うまでもないだろう。

 

「疲れた、なぁ……甘えてんじゃねぇぞクソ野郎」

 

「…………」

 

突然、穏やかだった声が怒りの籠ったそれに変わる。それでもまだ、ケイジは目を開けない。

 

「確かに英雄なんてろくなもんじゃねぇだろうさ。ましてや守護騎士なんざその上を行く。けどな、その道を選んだのはお前自身だろうが! 中途半端に決意して、中途半端に抱え込んで、そんで中途半端に放り出してんじゃねぇ! 一旦抱え込んだなら最後まで責任持って抱えきれや!」

 

「……抱え込んだ覚えはねぇ。勝手に向こうが抱え込まれただけだ」

 

「それでもだ! いいか!? その腑抜けた目かっ開いてよく見やがれ! 記憶がねぇなら脳みそ引きずり出して何がなんでも思い出せ! 表じゃお前の仲間が戦ってんだよ! 勝てねぇって、傷つけられねぇって思いながらも必死こいて戦ってんだよ!! 全部お前のためだ! お前に死んでほしくないから、お前を護りたいから戦ってんだ!!」

 

ゆっくりと、ケイジの目が開かれる。光の伴わないその目には、風車のような赤い目をした男性が自分の胸ぐらを掴んでいる様子が映っていた。

 

「それでお前はいいのか!? お前は護られるために今まで力を得てきたのか!? 違うだろ!!」

 

「(……俺は……)」

 

ケイジの目に、光が戻り始める。

 

「約束したんじゃねぇのか!? 護りたいから戦ってきたんじゃねぇのか!? お前の人生はその程度で捨てられるもんなのかよ!?」

 

「(……俺は)」

 

四肢に力が戻る。自然と、刀に手が伸びる。

 

「護りてぇもんがあるんだろう! ーー惚れた女の笑顔くらい護って見せやがれ!!」

 

「(……俺は!)」

 

男性の……リーヴの目の風車が廻る。ケイジの目に、二枚の手裏剣が現れ、廻り始める。

 

「記憶が無くても……」

 

「……それを取り戻す手段なら、ある」

 

「「だったら……後は使えばいい!!」」

 

ーー天岩戸(あまのいわと)

ーー宮比神(アメノウズメ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パキィィンと、何かが割れるような音がする。それと同時に、澄んだ金属音が響き、リーヴと、そして刀を構えたケイジが互いに弾き合うようにして光の中から飛び出してきた。

 

「け、ケイジ……」

 

「……悪ぃ、迷惑かけたな」

 

堪らず駆け寄ってくるクローゼ達を一瞬見ると、ケイジは視線をリーヴに戻す。

 

「もう少しだけ待ってくれ。……まだ、やらなきゃいけないことが残ってんだ。……ウル」

 

『……ケイジ、(わたし)は……』

 

どこか躊躇いがちなウル。罪悪感か何か……とにかく、ケイジに対して引け目のようなものを感じているのだろう。その声にはいつものような陽気さは微塵も感じられない。

今考えれば、ウルの陽気さは云わば仮面のようなものだったのだろう。

 

「いいから、来い」

 

『でも……』

 

「お前がはた迷惑な駄狐だってことは最初からわかってんだ。今更なんだよ。……いいから来い。アレ、今完成させるぞ」

 

『……うん!』

 

ウルの姿が消え、ケイジの背に翼が現れる。『氷位顕現』……だが、その翼は以前のような機械的な形ではなく、本物の天使のような純白の双翼だった。

それはまるで、『白烏』の名を体現するかのようで。舞い散る光で煌めく白い羽が、幻のように儚く揺れていた。

 

「……もう、言葉はいらねぇみたいだな?」

 

「ああ、お陰様でな」

 

リーヴはニヤリと口元を緩ませ、ケイジもそれにつられるように小さく微笑む。

そして……二人は、蒼と銀のオーラを纏った。

 

先に動いたのはリーヴ。無数のナイフを壁のように展開し、それに続くように自身も義手を剣に変えて走り出す。

 

「今まで散々ほざいてきたなら……死人の壁くらい越えてみやがれ!!」

 

ナイフがケイジに雨の如く降り注ぐ。その光景はもはやケイジの姿が見えなくなるほどだ。

そのままリーヴはまっすぐにケイジへと突き進み。射程に捉えると迷いなく剣を突き出す。

殺った……リーヴがそう確信した瞬間。ケイジの姿が、消えた。

 

「!?」

 

「ーーはぁっ!!」

 

背後から聞こえた声に、リーヴは咄嗟にその場に倒れ込む。その上を銀閃が通りすぎると、今度はリーヴがケイジを蹴り飛ばして難を逃れる。

 

「簡単にはいかねぇか……」

 

「んな簡単に決められたら俺の立つ瀬がなくなるだろーが」

 

その答えにニヤリと笑うと、今度はケイジから突撃する。リーヴはその勢いの付いた一撃を軽々といなすが、ケイジはそれを利用して更に威力の上がった斬撃を繰り返す。

そして……その内の一撃が、リーヴのガードをすり抜けた。

 

「なーーがっ!?」

 

「甘ぇよ。何のために今までクソ正直に斬ってたと思ってんだ」

 

リーヴのガードをすり抜けた理由。それはウルの力を使った斬撃の偽装。詳しく言うなら、ケイジの斬撃と視覚に映る斬撃をズラしたのだ。

顔色一つ変えずに渾身のペテンを行ったケイジに、リーヴが気付かなかった、それだけのことだ。だが、理に至った者達にはそれが致命的な差となる。

 

「これで終いだ……!」

 

斬撃の踏み込みから、返す刀でリーヴを宙に打ち上げる。それに追随するようにケイジも飛び、そのまま刀にオーラを纏う。

一閃。二閃。三閃。三度刀を閃かせると、その刃は無数に別れ、桜の花弁ほどの小さな斬撃の塊と化してリーヴを切り刻む。

 

「……幻華繚乱」

 

未だ宙に浮かされているリーヴに対し、地に足を付けたケイジは、そのまま刀を振るい、納刀した。

 

「ーー銀桜(ぎんおう)(つい)

 

そう、呟いた瞬間、宙に留まっていた斬撃のオーラが弾ける。

降り注ぐオーラの残雫はその名の通り銀の桜のように、妖しく煌めいていた。

 

そして、リーヴがケイジのすぐ後ろに、光となって消えながら落ちてくる。

そして、二人の姿がすれ違う刹那……

 

「ケイジ」

「じゃあな」

 

「ーーよくやった」

「ーー親父」

 

この二人に、それ以上の言葉は必要ない。根本が似ているこの二人は、やはり同じように不器用なのだろう。

だが、互いに不器用だからこそ、通じるものもあるのだ。

互いにしかわからない。だが、それでいい。それがいい。ついぞ親子として在れなかった自分たちだ。そんな親子だけのやり取りがあってもいいだろう。

 

リーヴは光と消え、ケイジは振り返らず、真っ直ぐ仲間達の所へ足を進める。

そして、他のメンバーより一歩前に立つクローゼとフェイトの側で立ち止まると、頭を掻きながら「あー」だの「えー」だのうなりはじめる。

やがて、覚悟を決めたのか、ケイジは真っ直ぐ二人に向き合った。

 

「…………ただいま」

 

少し顔を赤くしながら斜め上を向いてのケイジの言葉に、クローゼとフェイトは顔を見合わせる。そしてどちらからともなく笑い合うと……

 

「「おかえりっ!」」

 

満面の笑みで、飛び付くように抱きついたのだった。























桜の花言葉……『精神美』『優美』『あなたに微笑む』。つまりはそういうことなんでしょう。

ちなみに、ゲーム的に言えばここでケイジのクラフトが一新されます

ケイジ・ルーンヴァルト

クラフト
#幻・鳳仙華
#幻・閃華
#幻・瞬桜
#天一式・空断……CP40、直線(細め)、威力通常攻撃の三倍
#天二式・白帝剣……CP80、大円(敵指定)、威力通常攻撃の三倍、即死30%、混乱50%
#天三式・羅生門……CP80、自己、完全回避&カウンター(倍返し)一回、STR・SPD50%アップ3ターン

Sクラフト
#天終式・幻華繚乱~銀桜の終~

単体、気絶80%、威力はCP200の状態だと通常攻撃の25倍

自らに仇なす敵を斬り刻み、銀の桜は咲き誇る



といった具合ですね。ちなみに通常攻撃の~倍はSTRアップ状態だと、その状態での攻撃の~倍となります。
鳳仙華などは基本性能は変わっていません。威力が上がったくらいですね。

ついでに、この話で『何でケイジにやる気が戻ったんだ?』と思った方。ある意味、それで正解ですよ。誰にもわからないけど、この二人にはわかる何かがあった……そんな風に感じてくれたらなーと(笑)


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『小休止②』

学園祭ってこんな忙しいんだね……














オリビエ・レンハイムこと、オリヴァルト・ライゼ・アルノールの朝は一杯のミルクティーから始まる。

オリビエ自身が厳選した茶葉を使い、朝一で購入した新鮮なミルクをたっぷりと注ぐ。仕上げに角砂糖を一つ二つ入れてかき混ぜれば至高の一杯が出来上がり、至福の時間が過ごせるのだ。

その習慣は隠者の庭園という閉鎖された空間に来ても変わらない。仕入れの方法は多少変わってもその習慣は続けていた。

 

……今、この時までは。

 

「「はい、あーん」」

 

「ねぇミュラー、悪いけど今日はミルクティーじゃなくてコーヒーをお願いできるかい? ああ、ブラックでね」

 

「全く、貴様は……。まぁいい。俺も丁度口の中が甘ったるくて仕方なかったところだ」

 

「いや助けろよ!? あ、嘘。助けてくださいお願いします!!」

 

テーブルから身を乗り出してヨーグルトのスプーンを差し出すクローゼとフェイトを押し返そうとしているケイジを見ながら、オリビエとミュラーはそんな和やかな会話を交わす。ケイジとしては必死のことなのだろうが、端から見ればどう見てもいちゃついているようにしか見えないから不思議だ。現に少し向こうではリクがパルパルと嫉妬の念を送っており、ティータやエステルはそれに感化されたのかそれぞれアガットやヨシュアに迫っている。リース? あれが他人に食べ物を譲る訳がない。

 

「ハッハッハ、助けるもなにも満更でもなさそうじゃないか」

 

「どこがだよ!?」

 

見方によっては草食獣を襲う肉食獣に見えなくもない。

 

「まぁ、今までの報いが来たと思って観念することだね。もう彼女たちを拒絶しないと誓ったんだろう?」

 

「うっ……」

 

と、このように今までのことを引き合いに出されると弱いケイジである。

リーヴと己に決着を着けたケイジではあったが、やはり今までの態度が態度だったためにやはりどこか引目がある様子だ。なので、医神達の聖墓から帰ってきた後はクローゼ達のなすがままにされていたのだが……どうにも羞恥心の方が勝ってしまったのだった。

 

「いやさ、たまにとか人目のあまりない所とかならまだ我慢するぞ? でも周りに人が大量にいる上に知り合いばっかとかどんな拷問だよ……」

 

「ラブラブだね」

 

「ぶっ飛ばすぞこのお気楽放蕩皇子が」

 

額に青筋を浮かばせて怒るケイジだが、何分いつの間にか移動していたクローゼとフェイトに両側から抱き付かれてあーんされているために威圧感も何もあったものではない。

そしてリクから真っ黒なオーラが立ち上ったのは言うまでもない。

 

「……しかし、彼女達から逃げていたのは確かなのだろう? なら、その分の埋め合わせをしてやるのも男の甲斐性ではないのか? それが多少なりとも好意を抱いている相手ならば尚更だ」

 

「うっ」

 

今まで沈黙を貫いていたミュラーの言葉のナイフがケイジに突き刺さる。普段物静かなミュラーの言葉はオリビエのそれと違って重みがあったらしい。

ちなみに、リーシャはと言えば後ろの方で二度寝(意味深)している。かなりぐっすりのようだ。

 

そしてケイジが諦めて口を開こうとした瞬間、両腕が軽くなった。

 

「……まぁ、確かに気持ちはわかるけど。流石に自重しなさいな」

 

「殿下もです。もう少し淑女としての慎みを持ってください」

 

二人を引き剥がしたのはそれぞれシェラザードとユリア。その後ろにはケビンにレーヴェ、リシャールの姿が見える。どうやら探索組が帰ってきたらしい。……ケビンは後ろでやらしくニヤニヤ笑ってはいたが。

 

「やー、お楽しみのとこ悪いなぁ」

 

「死ねネギ野郎」

 

「ちょっ、流石にひどすぎへんか!?」

 

日頃の仕返しとばかりにケイジにふっかけるケビンだったが、即帰ってきたケイジの純度100%の毒についついツッコミを入れてしまう。哀れなりツッコミ体質。

そんなケビンを完全にスルーすると、ケイジはその後ろで腕を組んで立っていたレーヴェに話しかける。

 

「で、どうしたんだ? 次はお前らで攻略するって言ってなかったか?」

 

「ああ、俺達もそのつもりだったが……少々都合が変わってな」

 

レーヴェは組んでいた腕を解き、ゆっくりと目を開けると、ケイジに向き直った。

 

「次の舞台はレイストン要塞……間違いなく、リベールの英雄達が相手になる。ならば、お前、ヨシュア、そしてエステル・ブライトは外せないだろう」

 

ーーかの、《剣聖》に挑むのであれば、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ妬ましい。パルパルパルパル……」

 

「少し頭冷やそっか?」

 

「おぶっ!?」

 

パルパルしていたリクは、その後アネラスに鎮圧されたのだった。



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『鉄壁の要塞』

「レイストン要塞……ま、『鉄壁の要塞』とか言われても仕方ないわな」

 

「ああ。リベール建国以降ただ一度として敵軍の手に落ちたことのない場所だ。……身内である私が占拠したのは除いて、だが」

 

「あーもー! 大佐、ネガティブ禁止! 今は仲間なんだから気にしない!」

 

「だから大佐じゃないと何度言えば……」

 

「むしろ大佐は俺だよアホ。だからアホの子なんだよお前は」

 

「あんですって~!?」

 

周遊道の紅色の石碑にリシャールが触れると、そこはかつてリシャールとケイジ、そしてエステル達が水面下の攻防を繰り広げたレイストン要塞だった。

その場所を見て感慨深くなったのか、どこか悔いるようにリシャールが呟く。が、エステルとケイジの掛け合いによってそのしんみりした空気は吹き飛ばされるのであった。同行しているケビンとヨシュアは苦笑いである。

 

ここに来るまで、若干今までの不満が爆発しているクローゼやフェイトと一悶着あったのだが、今は置いておこう。案の定ワガママが爆発しかけたとだけ言っておく。ちなみに、この場所と繋がりのあるユリア、リクが居ないのは上記の二人を押さえるためである。シオン? 方石の定員オーバーで現在は徒歩で帰還中だ。

ついでに言うと、ウルもケイジの中に引っ込んで出てくる様子がない。どうやらリーブとの戦闘での負担を一身に背負ったらしく、しばらくは戦線復帰が見込めないだろう。

 

「……しかし、やはり不気味だな」

 

「リシャールさんもですか? 僕もです。ケイジも気づいてるよね?」

 

「まぁ、ここまであからさまだとな」

 

レイストン要塞の中庭を歩きながらそんな事を話すケビン以外の男性陣。その会話にケビンは無言で頷くが、エステルは頭に疑問符を浮かべる。

 

「え? そうかな。前に行った時とあんまり変わらないと思うんだけど……」

 

「それがもうおかしいんだよ」

 

「え?」

 

ケイジの返しを聞いて更に疑問符を浮かべるエステルに、ヨシュアは苦笑いしながら言葉をかける。

 

「エステル、今までこういう場所には何がいたっけ?」

 

「え? 軍の人ならいっぱいいたけど……」

 

「違うよ。この世界でって意味」

 

「それはもちろん魔物……そうか! 魔物が全くいないんだ!」

 

「正解」

 

良くできましたとばかりに微笑むヨシュアを見て、顔を赤くして逸らすエステル。そのラブコメな雰囲気をみたケイジは密かにぺっと唾を吐いた。

 

「リア充爆発しろ」

 

「正直その台詞ケイジだけには言う資格ないと思うんやけどなぁ」

 

「ケビン、サッカーをしよう。俺がキッカーでお前がボールだ。ボールは友達! 怖くないよ!」

 

「そんな歪みきった友達関係いらんわ! ごめんなさい冗談です」

 

「まぁまぁ……二人とも落ち着きたまえ」

 

サッカーをしようと言っているのに何故か拳を握るケイジと平謝りのケビンをリシャールが仲裁する。ケイジ達の方も半分遊び心でやっていたのかすぐに元に戻った。

 

「……しっかし、何もおらんとはなぁ。こういう場合って大体……」

 

「罠か、要らない気を回さなくても勝てるような奴を置いている時……ってやっぱり来たよ……」

 

噂をすればなんとやら。ケイジ達の前にもはや見慣れた魔方陣が現れる。そこから出てくるのは白髪の老将と20代中盤であろう若い男性……モルガン将軍とシード中佐だった。

 

「やっぱアンタかジジィ……」

 

「ふん、まだジジィと呼ばれる程に老いてはおらんわ! ……久し振りだな、リシャールよ」

 

「……はい、ご無沙汰しております、将軍」

 

いかにもめんどくさいと言わんばかりにため息を吐くケイジに青筋を立てながら、その隣で姿勢を正すリシャールを一瞥する。更にその近くではシードとエステル達が再開の挨拶を交わしていたが、この三人には特に気にすることではなかった。

 

「しかし……相変わらず厄介事に巻き込まれておるな。貴様はそういうものを引き寄せる体質でも持っておるのか?」

 

「そんな体質あったら全力で切り刻んでやるわ。どっちかと言えば俺の周りが勝手に厄介事に巻き込まれてやがんだよ」

 

「結局、巻き込まれておるではないか」

 

「……そんな、馬鹿な……!」

 

「自覚はなかったのか……」

 

思わぬ結果であったのか、ケイジは劇画チックな顔で驚く。

 

「……さて、冗談はさておき。どうやら一皮剥けたようだな?」

 

「……まぁな。そうしないと許してもらえなさそうな奴がいたもんでね」

 

だが、そんなギャグテイストな会話も一区切りつき、モルガン将軍はほんの少し顔の険を緩めると、ケイジにそんな言葉をかける。ケイジはそんなモルガン将軍に対して恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「ふ、素直な貴様というのはなかなかに面白いものだな」

 

「うっせ」

 

「ふむ、時間があればカシウスの子たちにも声を掛けたいところであったが……どうやら時間のようだな」

 

「「!?」」

 

そうモルガン将軍が呟いた瞬間、モルガン将軍とシード中佐の周囲に二人のものよりは小さな魔方陣が複数現れる。その時の二人の位置はちょうどケイジ達を挟んでいるような形であり、魔方陣はケイジ達を囲むように現れている。

その中からは、王国軍の兵士が現れた。

 

「この配置は……!」

 

「どうやら、綺麗にはめられたみたいやな……」

 

「ま、油断してた俺らも悪いがな」

 

咄嗟に五人で円を作るように背中合わせの状態を作る。この辺りは流石の連携と言えるが、何分非常に状況が悪い。何せ囲まれており、更には数でも負けているのだ。

 

「ふ、貴様らには酷だが、この程度の不利ははね除けてもらわねば困る」

 

「『至高にして最強』……あの方に挑むには、それくらいの力を見せてもらわないとね」

 

『至高にして最強』。リベール国内、しかも軍部の上層においてそれが指すのはただ一人。

 

「さぁ、リシャール、ケイジ、そして英雄の雛達よ」

 

「私達からの言葉はただ一つだ」

 

「儂を」

「私を」

 

「「越えていけ!!」」

 

「……さて、覚悟はいいか? 確かにあの人に挑むのに、この程度でくたばってりゃ話にならねぇ。

堂々と正面からぶっ潰して堂々と先に進んでやろうぜ!!」

 

『『応!!』』

 

シード中佐の号令と共に、兵士達が襲い掛かる。モルガン将軍を筆頭に、親衛隊達が雪崩れ込んでくる。

《剣聖》への挑戦権を得るため、ケイジ達は己の武器を今一度強く握りしめた。














結構今更ですが、アンケートは20日を〆切とさせてもらいます。


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『愛国』

「おおおおおおぉぉあああ!!!」

 

「チッ、ボサッとすんな!」

 

「きゃ!?」

 

「うおっ!?」

 

大喝と共に突撃してくるモルガン将軍の標的であるエステルとリシャールをケイジが蹴り飛ばす。それによってモルガン将軍のハルバードは空を切って地に突き刺さり、その地さえもが砕けて辺りに破片を撒き散らす。

そんな一撃が直撃していればどうなったか……。それを想像したのか、エステルは冷や汗をかきながらケイジに礼を言った。

 

「あ、ありがと……」

 

「すまない、感謝する」

 

「礼はいいから速く向こうに加勢してこい。流石に二人だけじゃキツそうだ」

 

前者は単純に反応できず、後者はシードの指揮の怖さを知っているがために警戒しすぎて反応が遅れてしまっていた。

だが、ケイジはそんな二人には目を向けず、モルガン将軍を見ながら後ろに親指を向ける。そこにはシードの指揮によってヨシュアとケビンを攻めている王国軍兵士達、そしてもちろんシードの姿があった。

 

「でも……」

 

「……流石に君でも将軍を一人で相手にするのは無茶だ!」

 

「ゴタゴタうるせぇ。そんなに心配なら向こうさっさと片付けて手伝いに来い」

 

目の前で見た将軍の強さに、心配をするエステルとリシャール。あくまで持論を変えないケイジ。そんな中、先に折れたのはやはりヨシュアが気になるのであろう、エステルであった。

 

「……絶対に、やられるんじゃないわよ!」

 

「誰に言ってんだ? 早く行け」

 

「……すまない!」

 

「みすみす儂がそれを許すとでも思っておるのか? 甘いぞ小童共!!」

 

だが、やはりモルガン将軍は甘くない。エステルとリシャールの進路を塞ごうと、再びエステルに向かって突撃する。エステルがかわせば道を塞ぐことができ、避けなければ一人脱落となる。モルガン将軍にとってはどちらに転ぼうと問題はない。……はずだった。

 

「許させるに決まってんだろうが!」

 

「ぐっ……。貴様ぁ!!」

 

その突撃を止めたのは氷の弾幕……ケイジのフリーズランサー。それらをモルガン将軍が凌いでいる間にエステルとリシャールはシードの方へと走っていった。

 

「細々と……ええい鬱陶しい!!」

 

「だったら真正面から斬り込んでやろうか?」

 

「!」

 

フリーズランサーを凌ぎきり、ケイジを探すと既に己の懐に入られていた。そのまま蒼燕を振るうケイジ。だが、そこは『武神』の異名をとるモルガン将軍である。瞬時にケイジの腕を掴んで斬撃を止め、蹴りで距離を取ろうとする。

しかし、ケイジもケイジで甘くない。掴まれた腕を掴むモルガン将軍の腕に白龍の柄を叩きつけ、蹴りに合わせてバックステップを踏むことで蹴りの威力を殺した。

 

「ふん……やるな。流石は『白烏』と言ったところか?」

 

「仮にもリベール最強クラスらしいんでね」

 

どこか楽しそうにハルバードを握り直すモルガン将軍。反対にため息を吐きながら白龍を肩に担ぐケイジ。まるで正反対の二人だが、その身に纏う闘気、オーラは双方共に尋常でないプレッシャーを撒き散らしている。

 

「ふん。所詮は最強『クラス』止まり。儂の敵ではないわ」

 

「なら爺さんは最強なのか?」

 

「当たり前だ。実力がどうであれ、儂は常に儂が最強だと思うて戦ってきた。それこそ新兵の時からな」

 

両者共に睨み合いながらそんな口論を繰り広げる。その空気通りに両者の武器に込められる力は緩むことはない。

これはただ睨み合っているだけではないのだ。情報戦と共に互いに会話で気を逸らさせようとしている。どちらかがほんの僅かでも気を会話に向ければもう一方は即座に仕掛けるだろう。これはそんな水面下の戦いなのだ。

 

「世の中には二種類の人間がいる。片方は、一度決まったことは即座に仕方ないと割りきって行動出来る者。そしてもう一方は最後の最後、行動の直前、下手をすればその行動をしている最中ですらも迷ってしまう人間だ。

……儂は後者だった。後者だったからこそ、儂は自分自身を最強であると決めつけたのだ 」

 

「……自己暗示か」

 

「その通り。そしてその暗示は絶大だった。一心不乱に斧を振るい、気が付けばこの地位と『武神』という異名を手に入れておった。……数知れぬ仲間と引き換えにな」

 

そう語るモルガン将軍の顔はどこか後悔の念がにじみ出ているようで、ケイジには苦しそうに見えた。

 

「……後悔、してんのか?」

 

「まさか。そんなものは奴等に対する侮辱だ。それだけはせぬ。してはならぬ。共に戦い、国を想う一念の元に命を散らした英霊を汚してはならぬ!

……まぁ、変わったのは儂自身だろうな」

 

「何が変わったんだ?」

 

「何……戦う理由が増えただけよ!」

 

突如、モルガン将軍が地を蹴ってケイジに突貫する。しかし、ケイジはそれを読んでいたのかスウェーでかわすと僅かに当たらせた蒼燕にかかる力を利用して回転し、後ろからモルガン将軍の首を刈りにいく。

 

だが、それでもまだ決まり手とはなりはしない。

後ろから迫る刃を、モルガン将軍はしゃがむことで回避する。それと同時に滑り込むように方向転換し、ケイジに向けて再び斧を振りかぶる。だが、その斧を降り下ろさずに将軍は後ろへと飛び退いた。

数瞬後に先程まで将軍のいた場所に地面から火柱が立ち上る。ファイヤーウォール……炎の壁をかわした将軍は今度はその火柱を目眩ましにするように駆けていく。

 

「負けられぬのだ! 国を想って散った友の為に! 『武神』の名を背負った故に! そして何より儂が愛したリベールの為に!!」

 

「……負けられねぇのは俺だって同じだ!!」

 

正面から迫る将軍を、ロックブレイクで空に突き上げる。が、将軍はそれすらも利用して重力を加えた降り下ろしを数瞬前までにケイジがいた場所へと叩き付ける。

砂埃が舞い、視界が完全に塞がれる。その中で将軍は自身にひしひしと向けられている剣気と闘気を感じ、視界が悪い中で無闇に動くのは危険だと考えたのか、身を低くして斧を構えて防御の姿勢をとった。

 

「…………!!」

 

「ぐぬっ……!」

 

そして、その判断は正しかった。刹那の差で、ケイジの渾身の抜刀術がモルガン将軍の()に直撃する。甲高い音を響かせて流れていくケイジの姿を見て、モルガンは即座に反撃に移ろうとするが……立ち上がった瞬間、ケイジと違う方向から剣気が立ち上っているのを知覚した。

 

「奥義……」

 

「リシャールゥゥゥゥ!!」

 

「桜花斬月!!」

 

神速の居合い抜きが、中途半端な体勢で棒立ちになってしまっていたモルガンにクリーンヒットする。

やられた、とモルガンは素直にそう思った。今までケイジがずっと一人でモルガンの相手をしていたところからがすでに囮だったのだろう。それ以降、リシャールはずっと気配を消して潜んでいたのだ。そして、今までにないほどのチャンスが訪れ、モルガンは逸った。逸ってしまった。その瞬間をリシャールは見逃さなかった。

 

体から力が抜けそうになるのを、気合いで込め直す。意識が飛びそうになるのを、根性でどうにか手繰り寄せる。

ーーまだ、逝けない。今のモルガンをこの世界に繋ぎ止めているのはその強い意志だ。

 

「う、おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「「!?」」

 

負けない。負けられない。負けたくない。言うなれば子供の喧嘩のような単純な理由。友の為、国の為と色々言っていたものの、結局モルガンの思いはこの一点に尽きるのだ。

 

モルガンは縦横無尽に斧を振るいながら駆け回る。一見無茶苦茶な動きに見えるのだが、その動きは間違いなく計算され尽くした動きである。リシャールもケイジも全く動くことができず、ただ専守防衛をすることしかできない。

 

機獣乱舞。モルガンを『武神』たらしめたモルガンの最終奥義。触れれば弾け飛び、肉を両断され、その生に終焉をもたらす獣の舞い。

だが……リベールに育て上げられた若い翼は、それすらも越える。

 

「…………!!」

 

「ぐうぁっ!!」

 

止めとばかりにケイジの死角から迫り、斧を振るう。だが、ケイジはそれを見えていたかのように完璧なタイミングでモルガンの斧の横に手を置きながら回り込むように飛び上がり、隙だらけかつがら空きのモルガンの背に一文字の傷を負わせる。

そして、嵐は止み、モルガンは地に伏せた。

 

ふと目をヨシュア達に向けてみると、どうやらあちらも決着が着いたようで、シードが地に膝を着いている。

 

『白烏』と『武神』の戦いは、『白烏』に軍配が上がった。



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『銀の鳳凰』

「ふん……負け、か。儂も歳には勝てなんだか」

 

「ついさっきまで『ジジイじゃない』って言い張ってた人が何言ってんだ」

 

地に伏せ、少しずつ光と化していくモルガンに、ケイジはそんなキツい一言を放つ。それを横で見ているリシャールは変わらないなぁ、と呟いて苦笑いだ。

 

「『枷』の付いた貴様に、リシャールと二人がかりとは言え敗れたのだ。これを老いたと言わずして何と言うか。……儂の全盛期ならば余裕で勝っておったわ戯けめが」

 

「敗者の遠吠え乙」

 

「貴様本当に戻ったら覚えておれよ?」

 

「ははは……閣下、落ち着いて下さい。ケイジ君も煽らない」

 

「「ジジイ(こやつ)が悪い」」

 

「あははは……はぁ」

 

相変わらず頑固な意地っ張り二人に溜め息を吐くリシャール。シード君、カシウス准将、頑張って下さい……と心の中で祈っておく。将校だって大変なのだ。

 

しばらく無言の睨み合いを続けていたバカ二人だが、モルガンはふん、と鼻を鳴らすとケイジに真剣な顔を向ける。

 

「だが、儂を下したところで終わりではない。……とうに気付いておるのだろう? この先で待ち構える者の正体に」

 

「いや、さっき爺さん達が半分言ってたからな?」

 

「む……。そのことはよい」

 

モルガンはわざとらしく大きな咳払いをする。

 

「この先で待ち構えるのは正しく『リベールの英雄』。生半可な力では叩き潰されるだけだ。況してや貴様は『枷』を嵌められておる。それでも立ち向かうか?」

 

「……愚問だぜ、爺さん」

 

ケイジは、モルガンの問いにニヤリと口角を吊り上げる。

 

「俺は『白い翼』の名を……リベールの象徴を背負ってんだ。その俺が折れる訳にゃいかねーんだよ。『英雄』だろうが『鉄血』だろうが、俺の世界を壊そうとするなら全力で叩っ斬ってやるさ」

 

そんな台詞を聞いたモルガンも、ケイジと同じようにニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ふっ、『白き隼に仕えし烏と燕。忠を示して銀の鳳凰とならん』、か」

 

「なんだそれ?」

 

「リベールに伝わる古い神話だ。言い伝えではこの烏がリベールの守護神となり、燕が国々を渡る外交官となり、リベールは成り立ったと言われておる。……ケイジよ、貴様は確かに強くなった。だがまだ足らん。今のままではいつまでも貴様は烏だ。……カシウスの奴を打ち破り、見事銀の鳳凰となってみせよ!!」

 

「……応!」

 

力強く応えるケイジに、モルガンは満足そうに頷く。そしてリシャールの方を向き、一言二言伝えると、いよいよ光が強くなっていく。

 

「……ああ、そう言えばケイジ。陛下から貴様と殿下に言伝てだ」

 

「?」

 

「『そろそろ私も歳です。ですから、早く曾孫の顔が見たーー」

 

そんな中途半端なところでモルガンは光と消えてしまった。

 

「おいジジイ!? あんた今ものっすごい爆弾発言かまそうとしなかったか!? 仮にも皇太女にそんな軽い発言しちゃっていいの!? いやこの場合アリシアさんか!? 何考えてんだあの婆さんはぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ちょ、落ち着……強っ!? エステル君! ヨシュア君! 早く来てくれたまえ!」

 

一旦暴走したケイジを抑えるに、一行はかなりの時間を要したそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか…………ん? 何かお前達疲れてないか?」

 

『『気にしないで』』

 

「そ、そうか? ならいいが……」

 

奥に進み、司令室。そこに目的の人物はいた。

その人物は何故か疲れた様子の一行を心配するが、エステル達は思い出したくもないとばかりに投げやりに返事を返す。

 

「……ふむ、エステル。ヨシュア。どうやらここに来て随分と腕を上げたようだな」

 

「えへへ……でも、まだまだよ。もっともっと強くなっていつかお父さんを一人でブッ倒してやるんだから!」

 

「そうだね。まだまだだよ……本当に」

 

褒められて嬉しそうなものの、慢心はしていない様子の子供達に、男は笑みを浮かべる。

 

「クク……それでいい。お前達はどんどん上を目指せ。まだまだ発展途上なんだからな。

……ケビン神父。ウチのバカ娘とヘタレ息子とチキンな部下が世話になるが……よろしく頼む」

 

「あはは……こっちこそお願いしたいくらいです。特に娘さんにはえらい世話になって……」

 

「いやいや、まだまだ未熟者なので、ビシバシお願いしますよ。……リシャール」

 

「……はい」

 

そして、今まで朗らかに浮かべていた笑顔とは打って変わり、真剣な顔でリシャールの方を見る。

 

「答えは見えたか?」

 

「ええ。……しかし、それを言葉にして返すのは、この場において無粋というものでしょう」

 

「クク……そうだな。なら、剣で語ってもらうとしよう。……さて、ケイジ」

 

そして、男の目が向かうのは、最後の一人

 

「その目を見るに、どうやら吹っ切ったようだが……わかったのか?」

 

「ああ。泣かれちまったけどな。……あれだけされたら、もう見てみぬフリも出来ねぇよ。アホ親父のらしくねぇ説教も喰らったしな。腹は括った」

 

「ふっ。なら俺が言うことは何もないな。ここではお前の枷は外すように出来てある。遠慮なく、全力で来い。俺も加減は出来そうにないしな」

 

「……はっ。余計な気遣い感謝するよ。不良中年」

 

その次の瞬間、ケイジと男から、それぞれ銀と赤の力の奔流が立ち上る。

東方では功夫(くんふー)、気。西方では闘気(オーラ)。名前は変わるかも知れないが、理に至った者のみが出せる圧倒的な覇気を惜しみ無く撒き散らす。

エステル達は彼の二人との格の違いを感じ取ったのか、身動ぎ一つも出来ずにいる。ヨシュアやケビンは辛うじて武器を構えてはいるものの、仕掛けるなどとてもではないが出来ない。

 

そして男……カシウスは一回転して棍を振るい、ケイジは白龍を横凪ぎに振るう。それだけで大地が揺れ、大気が震えるが、完全に取り込んだのか覇気の奔流は消え去っていた。

 

「……さて、まだまだ言いたいことは残っているが……それはまた今度だ」

 

カシウスの目が真っ直ぐに五人を捉える。自信に満ちた、しかし慢心など微塵も存在しない真っ直ぐな目は、カシウスが強者であるという確かな証拠だった。

 

「今、惜しみ無くからお前らに言うことはただ一つ。

 

 

『俺に勝ってみせろ』……以上だ」

 

カシウスが棍を握りこみ、ケイジが納刀した刀の柄に手を掛ける。

戦いは、刀と棍の奏でる金属音と共に幕を開けた。




























たまたま見つけたやつをやってみた


貴方のことを好きな人が考えていること

1、「ケイジが大好き///」

2、「ケイジを押し倒したい……///」

3、「ケイジとエ……エ●チしたい……///」


……クロフェイやないか……((((;゜Д゜)))

P,S. ガチです


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『剣聖の試練』

澄んだ金属音と共に、周囲に凄まじい余波の爆風が吹き荒れる。

ケイジとカシウス。白烏と剣聖。理に至り、その理すら越えんとする者同士の激突は一撃でそこまでの余波を導いていた。

 

「今ので一人くらい……エステルくらいは落とせると思ったんだがな」

 

「ふざけんな。俺が向かっていくの予想して、カウンター出来ないように抑え込む感じに棍を合わせてきたのはどこの不良中年だよ」

 

こんな軽い会話を交わす間に、数十合は刀と棍を交わし合う。その度に澄んだ金属音とは不釣り合いな衝撃が空気を震わせるが、二人はそのやりとりをさも当たり前のように行っていた。

 

ケイジの唐竹割りの斬撃をカシウスは半歩下がることでかわし、そのままケイジの身体の中心……鳩尾を狙って突きを繰り出す。

攻撃後の技後硬直を狙い、更に突きという避けやすいが、初動が早く防御しづらい攻撃。通常ならばまず避けられるはずのないその一撃を、ケイジは刀を振るった勢いを利用して右方向へと半身になりることで回避した。それだけでなく、左手で伸びきった棒を掴み、右手に持つ白龍を逆手に持ってカシウスに斬りかかろうとしたところで……ケイジは攻撃を止め、棒を持ったまま跳躍する。

瞬間、動きを止められていたはずの棒は大きな円を描くように振るわれる。遠心力によって振り回されたケイジは、されど絶妙なタイミングで手を離してヨシュア達の近く、初めの位置とほぼ変わりない位置へと降り立った。

 

「ふぅ……一撃くらい入れさせてくれないか? これでも親としてのプライドがだな……」

 

「寝言は寝てから言え。痛いのは嫌いなんだよ」

 

「当てさせるつもりは毛頭ない、と……」

 

『………………』

 

言葉を交わすのは……交わせるのは、ケイジとカシウスのみ。その他のメンバーはあまりのハイレベルなやり取りに言葉を失ってしまっていた。

それはそうだろう。どこの世界にコンマ一秒のズレも許さずに相手の動きを読んで先回りし、そしてその動きが読まれていることすら読んで行動する者がいるだろうか。多くとも両の手で数えられるほどしかいないであろう。その内の二人が織り成す武の極致に、四人は言葉を発することが出来なかったのだ。

 

「ボーっとしてたら一瞬で持ってかれるぞ」

 

『!』

 

「いくらあの不良が強いと言っても、俺達には越えるしか道は残ってねぇんだ。やるしかねぇだろ」

 

「……そうだね。その通りだ」

 

ケイジの言葉に正気を取り戻したのか、ヨシュア達は自分の武器をそれぞれ構え直す。

それを見たカシウスは、口元に小さな笑みを浮かべた。

 

「そうだ。向かってこい。俺はここだ。俺という壁はここにあるんだ。恐れるな。呑まれるな。時代を変えてきたのはいつだって諦めの悪いバカ達だ。

……俺というリベールの『古い時代』を越えて、お前達の『新しい時代』を創ってみせろ!!」

 

カシウスの纏う闘気(オーラ)が一層強くなり、次の瞬間にはカシウスの姿が掻き消えていた。

 

「なっ!?」

 

「ボーっとすんなって言ってんだろうが!!」

 

四人が気付いた時には、エステルの目の前でケイジの刀がカシウスの棒を叩き落としていた。

『雷光撃』……カシウスの凄まじい身体能力から繰り出される神速の打撃は、辛くも同じく神速を持つケイジによって防がれた。

 

「やはり……速さではお前に劣っているか」

 

「それ以外じゃあ圧倒してやがる癖に……エステル!」

 

「わかってるわよ! はぁっ!!」

 

気合いの声と共に、エステルの渾身の一撃が降り下ろされる。当たればそれなりのダメージは……と言ったところだが、やはりというかエステルに手応えはない。エステルを嘲笑うかのようにカシウスはケイジの拘束から抜け出し、軽々とエステルの一撃をかわしていた。

 

「ハッハッハ。まだまだ甘いなエステル」

 

「ぐぅっ……他の人に言われても次はってなるけど、お父さんに言われるのはものっすごくムカつく……!!」

 

「チッ、一撃くらい当てろやポンコツ脳筋娘」

 

「あんですってぇー!?」

 

父と仲間にからかわれて怒り心頭なのか、額に青筋を立てて叫ぶエステル。なんとも哀れである。

 

「ハッハッハ。まぁ、間違っちゃいない……なっ」

 

カシウスが笑いながら棒を振り上げると、鈍い金属音が鳴り響く。その音を響かせた正体は、今まで気配を殺していたヨシュアであった。

 

「雑談の最中に不意討ちは酷くないか?」

 

「こうでもしないと父さんに一撃すら入れられそうにないからね」

 

「ケイジ、息子が冷たいんだが」

 

「良かったな。あんたの教育の賜物じゃねぇか」

 

カシウスがわざとらしく泣き真似をすると、その隙を見逃すかとばかりにケイジ、ヨシュア、リシャールの三人が同時に斬りかかり、ケビンはアースランスを発動させる。だが、やはりカシウスはそれすらも予測していたのだろう。バック宙でかわしながらメンバーを手玉に取る。

 

「やはりな。お前達なら躊躇い無く殺りにくると思ったぞ。……躊躇いが無いところに心は傷付いたがな」

 

「そのまま身体ごと消えさっちまえばいいのに」

 

「たまには優しさを見せて欲しいんだが!? 泣くぞ!? 」

 

あくまでからかうスタイルを崩さないカシウスに、流石にイラつきだしたのか、今まで以上に辛辣な言葉を吐くケイジ。言葉には出さないが、それは他のメンバーも同じだろう。

何しろ、あれだけ手段を使い尽くしたと言うのにも関わらず、未だにカシウスには傷一つ付けられていないのだ。いくらカシウスが攻めに転ぜず防御に専念しているとはいえ、これは気分の良いことではない。

 

ヨシュアとリシャールが同時に仕掛け、ケビンがアーツで援護しながら、エステルが時折強烈な一撃を叩き込む。されどカシウスは同時攻撃を軽々と捌き、アーツの発動範囲外に逃れ、嘲笑うように紙一重でエステルの棒を回避する。

 

「まだまだ甘いな」

 

「そうかい。なら、こいつはどうだ?」

 

「!」

 

だが、そこに叩き込まれたケイジの一撃はそうはいかない。同じ理の境地に至った者の一撃は流石に不安定な体勢で完全に回避しきるのは難しかったのか、手元に手繰り寄せた棒で防御する。

 

「ふぅ……危ない危ない」

 

「……ディープミスト」

 

ケイジの宣言と共に発動したのは霧を生み出す譜術。カシウスの棒から重さが無くなると共に、辺りが霧に包まれる。

 

「(……気配が読めない。というよりはケイジの譜力とやらが辺りにばらまかれているせいかところ構わずケイジの気配がすると言ったところか……)」

 

普段ならば気配を読むことで相手の位置を知ることが出来るカシウスであっても、気配の塊とも言える譜術の立ち込める空間ではそれができない。

かと言ってこの状況下で動くのは罠にかかりに行くようなものだ。罠を食い破る自信はあるが、それではカシウスが面白くない。戦意を折るのは下策なのだ。

 

その中で、唐突に自分に向かってくるより強い気配をカシウスは感知した。

恐らく、エステル辺りが待ちきれなくなってしまったのだろう。未熟な上に少し堪え性のない性格の娘だ。致し方ないとは思いながらもカシウスはきっちりとカウンターを合わせる。

そしてカシウスの手には、きっちりと手応えが返ってきた。……脆い、氷を壊したような感触の、だが。

 

「!?」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

烈昂の気合いと共に、エステルが渾身の一撃……『金剛撃』をカシウスに叩き込む。

今までかわし続けられた分、恨みもこもった一撃が良い音を響かせて、確かにカシウスの右肩に直撃する。

 

ケイジ達の仕掛けたことは簡単だ。ケイジの気配が立ち込める霧の中に氷人形(ゴーレム)を盾にしてエステルを投入する。ただそれだけだ。

普通からすれば恐らく気付くことすらなく氷人形(ゴーレム)に斬られていたであろうが、そこは《剣聖》とすら呼ばれるカシウスだ。わずかな気配の差にも気付き、適切な対処を……適切すぎる対処をとった。とってしまった。

氷人形(ゴーレム)の持つほんのわずかな譜力を読み、カシウスはそれを潰す。そうして出来たカシウスの技後硬直をエステルが狙い打ったのだ。

 

「やたっ! 」

 

「調子に乗んな。“まだ”一撃だ」

 

「そうだね……」

 

少し舞い上がりかけるエステルをケイジとヨシュアが抑え込む。

 

すると、霧の中心から竜巻が巻き起こり、速攻で霧が吹き飛ばされる。

 

「……フフ、流石にお前らを舐めすぎていたようだな」

 

声音に嬉しさを満面に込めながら、カシウスは高速で棒術具を振るいながら笑う。

 

「見の姿勢に徹していたことは謝ろう。ケイジにしか大した警戒を見せなかったこともな。……だから、この先は一切容赦をしない。文字通り……俺を、越えてみせろ」

 

先程以上の速度で棒術具を振るうと、霧は完全に払われてしまう。

 

本当の死闘は、ここから始まる。

























お父様がナイトメアモードに入られましたー


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外伝『絶対に笑ってはいけない特務支援課①』

さぁ、今年もやりました(笑)



注)①時系列気にしなーい
②知らない設定が出てきてもスルーしよう
③一応予定の設定です。もしかしたら変更されるかも……

以上が許せる方、ゆっくりしていってね!













「あれ? エリィにシオン。こんな早くにどうしたんだ?」

 

クロスベル。貿易都市として知られる数ある自治区の中でも屈指の経済力と影響力を持つも、エレボニア帝国とカルバード共和国に挟まれているという立地のせいで政治的に非常に厳しい街。

そんな街にもやはり新年は訪れるものだ。その年明け、正月の早朝五時。特務支援課……クロスベル警察の部署の一つの前で、支援課のリーダーであるロイド・バニングスは同僚のエリィ・マクダウェルとシオン・アークライトが立っているのを見つけた。

 

「ロイド? 君こそどうしてここに?」

 

「俺か? 俺は年始の見回りのことを相談したいって課長に呼び出されたんだけど……」

 

「私達は新年会をしようってティオちゃんに呼び出されたのよ。ロイドに連絡はいってないの?」

 

「え? そんな連絡はもらってないけど……」

 

食い違う連絡に、互いに顔を見合わせて首を傾げる。そんなところに、少し低めながらも陽気な声が響いてきた。

 

「ーーお? おーいロイドー!」

 

「? ああ、ランディになのは」

 

二人揃って大きく手を振り、ランディことランドルフ・オルランドとなのは……こちらではナノハ・タカマチが駆け寄ってくる。この二人もシオン達と同じく特務支援課のメンバーであり、この五人に課長のセルゲイ・ロウが特務支援課のフルメンバーであるのだ。

 

「お前らもフェイトちゃんに呼ばれてきたのか?」

 

「フェイト? いや、僕達は……」

 

「なんだ違うのか? 俺となのはちゃんはフェイトちゃんに呼ばれてきたんだが……」

 

「うん。昨日の夜いきなり通信が来た時はびっくりしたけどねー」

 

にゃはは、と朗らかに笑うなのは以外が違和感に首をひねる。だが、ひねったところで気付くものでもなかった。

シオンやなのはは前回のことで気付きそうなものだが、恐らくケイジの影が全く見えないことで油断していたのだろう。懲りない奴らである。

 

「ーーごめんね、ちょっとおくれちゃった」

 

「あ、フェイトちゃん」

 

そんな優しげな声と共に、フェイト……フェイト・T・H・ルーンヴァルト(ルーンヴァルトの方は自称)が現れる。導力車に乗っていたところを見ると、恐らくケイジのいるウルスラ病院にでも行っていたのだろう。確かケイジの当直だったなー、とシオンは呑気に頭の中で考えていた。

 

「またケイジくんのところ?」

 

「うん。ちょっと予定の確認とかね」

 

何も考えていないのであろう、なのははのほほんとフェイトと会話している。

 

「フェイトちゃーん、そろそろ呼び出した理由を教えてほしいなー。……もしかして、告白だったりする?」

 

「あはは、寝言は寝てから言おうね?」

 

にこやかな笑顔で毒を吐くフェイトに、一同は揃って苦笑いする。

確かに、普段からケイジLOVEを態度と行動で公言しているフェイトにそんな冗談をかますランディもランディなのだが、それにしてもあんまりな仕打ちである。普段は心優しいフェイトの毒に、流石のランディもさめざめと泣くしかなかった。……哀れである。ミレイユさんに慰めてもらえばいい。

 

「それで、ティオや課長は遅いな。もう30分になるぞ?」

 

「え? セルゲイさんとティオなら来ないよ?」

 

「え?」

 

あっけらかんと言い放つフェイトに、ロイドがぽかんとした表情を向ける。

……この辺りから、シオンとなのはを悪寒が襲い始める。

 

「だって、このメンバーを集めたのはケイジだもん」

 

「ケイジ先生が? なんでだ?」

 

この辺りから、シオンとなのははクラウチングスタートの構えをとる。そしてフェイトの目に六芒星が浮かび上がる。

 

「ふふ、それはね。ケイジが『もう一回やってみようか』って言い出したイベントでね……」

「「さらばだっ!!」」

 

そして二人は一斉に走り出す。己が明日をその手に掴むため、脇目もふらずに全力で。

捕まれば死。逃げ切れば平穏無事な正月の平和な素晴らしき日々が待っている。ならば今全力を出さずして何時出すのだ!! 、と走り出した二人だが、惜しむらくは脇目をふらなさすぎたという点だろう。奇跡的に二人は同じ方向に走っていた。

 

「上手く逃げ……え?」

「これで何とか……にゃ?」

 

一旦後ろを確認しようと振り向いた際に、ようやくお互いに気付いたようだ。そして次の瞬間、仲良く二人揃って仰向けにひっくり返っていた。

 

「え?」

「へ?」

 

「ねぇ、二人とも。ケイジから伝言預かってるんだ」

 

背中にかかる重みに恐る恐る振り返ると、なのはの上に腰掛け、シオンをバルディッシュで押さえつけたフェイトがイイ笑顔を振り撒いていた。

 

「『だいまおうからは にげられない』……だって♪」

 

「「嫌だァァァァァァァァァァァ!!! もうお尻の感覚が無くなるのは嫌だァァァァァ!!」」

 

悲痛な叫びを残しながら、二人はフェイトに引き摺られて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『絶対に笑ってはいけない特務支援課24時』。はっじまっーるよっ♪」




絶対に笑ってはいけないシリーズ法

第一条

逃げたらインディグネイション


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外伝『絶対に笑ってはいけない特務支援課②』

「うん、じゃあ中に入ろうか」

 

シオンとなのはを縄で簀巻きにした後、フェイトは清々しい笑顔でそう言った。

 

「いや、あの……まだあまり状況が理解出来ていないんですけど……」

 

「え? あ。そういえば説明まだだっけ?」

 

エリィがおずおずと手を挙げて質問するのに、ロイドとランディも同意するように頷く。それにフェイトは首を傾げるものの、すぐに納得した表情に変わる。

 

「そうだね……簡単に言うと、『笑ったら罰ゲーム』を24時間くらいやってもらうってイベントかな?」

 

「笑わなければいいのか?」

 

「うん。原則はね」

 

「じゃあさフェイトちゃん。笑ったらどんな罰ゲームがあるんだ?」

 

「うんうん。やっぱり気になるよねー」

 

その質問を聞いたフェイトはコートのポケットからボタンらしきナニカを取り出すと、躊躇いなく押す。するとお馴染みのSEが流れ出して……

 

『ロイド、アウトー』

 

「俺ぇ!?」

 

「こんの……シスコン変態弟貴族ー♪」

 

「ぎゃあああああああああ!!?」

 

コールの直後、某癒し系金髪少女がハリセン……っぽく見える木製バットをロイドのケツにフルスイングする。とてつもなく楽しそうに罵倒しながら。

フェイトは、理不尽な仕置きに悶絶するロイドを手で示しながら、変わらず笑顔を残りのメンバーに向ける。

 

「……とまぁ、こんな具合にかるーくお尻を叩かれるね」

 

「「軽く!? どう見ても事件だけど!?」」

 

「「……いや、前回の見本よりは……」」

 

「「何があった前回!?」」

 

と、叫びっぱなしの初参戦メンバーではあるが、逃げられないのは既にわかっている。こうなれば、笑わずに何とかするしかないのだ。そう、二人は腹を括った。

 

「じゃあ、改めて……中に入ったらスタートだよ♪」

 

そして二人with簀巻き&悶絶組は、地獄(支援課)の門をくぐったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……普通ね」

 

「……普通だな。何故かデスクがソファがあったはずの場所に5つ置かれているのを除けば」

 

以上、支援課に入ったエリィとロイドのセリフである。その言葉通り、入り口からすぐのところに名札付きの机が5つ置かれていた。

 

「ああ……やっぱりか……」

 

「シオン?」

 

「みんな。とりあえず机の中を開けて、何か入ってないか調べてくれないかな?」

 

シオンの早くも疲れた様子をいぶかしむメンバーだったが、大人しくそれぞれ調べてみる。

調べずに24時間耐え続ける、という手もなくはなかったのだが、あのドS(ケイジ)のことである。そういったことになった場合何かしらのむごい手段を打たないはずがないのだ。例えばジャポ○カ弱点帳を映像で流すとか、有無を言わさず強制アウト(複数回)とか。

 

「……何があった?」

 

「赤いハンドベルが一つ」

 

「導力ディスクが2枚ね」

 

「黒いハンドベルなの」

 

出てきたのは、シオン、エリィ、なのはの机であった。

 

「……どうする?」

 

「……正直、スルーしたいの」

 

もちろん、そうはいかないわけで。

 

「仕方ない。ディスクからいこうか」

 

首を傾げるメンバーを他所に、シオンとなのははため息を連発させながら手際よくディスクを入れていく。

 

そして、降りてきたスクリーンにはドレスアップしたフェイトが写っていた。

 

「あれ……アルカンシェルの舞台か?」

 

「リーシャの伝手まで使ったんだね……」

 

そんな感想はさておき。しばらくして音楽が流れ出すと、フェイトが歌い出した。

曲は某ブライトなストリーム。完全に元ネタを意識した曲であった。

 

「う、上手いな……」

 

「ええ。プロになっても食べていけそうね」

 

「金払えって言われても文句はねぇな」

 

フェイトの歌声に手放しで称賛するメンバー達。……まぁ、中の人が中の人だからね。

そして最後のサビが後一節で終わるという時だった。

 

『弟貴族はー泰斗キッークー♪』

 

『『…………え゛』』

 

『ロイド、泰斗キックー』

 

「だから何で俺ぇ!? ってか泰斗キックって何!?」

 

見事に犠牲となったロイドが叫ぶ。

そりゃあそうだろう。彼には『弟貴族』という言葉にまるで見に覚えが無いのだ。おまけに罰ゲーム(最上級)である。文句の一つや二つ言いたくもなるだろう。

 

「説明しよう!」

 

『『うわぁ!?』』

 

そんな中、突然白衣を来たケイジが現れる。白衣を着ていることからどうやら病院から直接出向いてきたらしい。というか当直はどうした。

 

「泰斗キックとは、文字通り泰斗流のキックである!」

 

『『ふざけんな!?』』

 

「まぁぶっちゃけジンさんのキックだわ」

 

「「殺す気か(なの)!?」」

「「「そもそもジンさんって誰!?」」」

 

「雷神脚ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

「ぎゃあああああああああ!?」

 

あれこれ言っている間に仕置き完了である。

ピクピクしてるロイドを放置して、メンバー達はケイジに詰め寄った。

 

「何で二回目やるかな君は!?」

 

「やりたかったからに決まってんだろ」

 

「O☆HA☆NA☆SHI、しよっか?」

 

「うるせぇぞ魔法少女(笑)」

 

「このリア充が!!」

 

「くたばれ負け犬」

 

「当直はどうしたの!?」

 

「ああ、ティアとリタに押しつけてきた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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その頃、リタとティアは……

 

「平和ねー」

 

「そうね。平和ね」

 

「これだけ平和だと、何か娯楽が欲しくなるわねー」

 

「そうね。働きっぱなしはストレス溜まるものね」

 

「「…………………………………あのドS、いつかコロス!!!」」

 

病院にて、ケイジの残した書類と闘っていましたとさ。

……チームだからこそできる荒業である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……で? 文句は終わりか?」

 

『『ハイモウイイデス……』』

 

一方、ケイジの方は詰め寄ったメンバーを全員精神的にボロクソに言い負かしてイキイキしていた。

 

「……にしても、泰斗流はやりすぎじゃないか?」

 

「え? ジンさんは快諾してくれたぞ? 『やっと出番が』とか言って」

 

「早くカルバード編出したげて!」

 

シオンが電波を拾ったのをスルーして、ケイジは二枚目のディスクを入れる。

そしてスクリーンに写ったのはニットにマフラー、コートという冬の装いをしたクローゼがいた。それと同時にまた音楽が流れ始める。今度はきっと君が来ないと見せかけて……なクリスマスバラードだ。

 

「また音楽か……」

 

「まぁそう言うなって」

 

映像はPVのストーリー仕立てのようになっており、ひたすら待っていて、諦めて帰ろうとしたクローゼのところへケイジがサプライズと共に来る。そして二人が抱き合うといったものだった。

 

「オイコラ。自慢か? 自慢なのか? 爆ぜろリア充このドS野郎!!」

 

「お前には言われたくないんだが……」

 

「「このリア充!!」

 

「お前らにはもっと言われたくないんだけど!? ……もうちょっと見てろって」

 

ケイジの言葉に全員が渋々スクリーンに目を向けると、少しずつカメラがズレていっていた。

その先にいたのは……何故かガチ泣きしているオリビエだった。

 

『きっとランディ泰斗キック』

 

『全員アウトー、ついでにランディ泰斗キックー』

 

「だからオリビエはひきょーーうっ!?」

「何でガチ泣ーーにゃっ!?」

「一国の皇子にネタをーーきゃっ!?」

「って何で俺だけ極刑なんーーぐっ!?」

「龍閃脚ゥゥゥゥゥ!!!」

「いぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ランディが若干ヤバめな状態ではあるが、まぁ問題はない。

やはりオリビエは支援課にとってもインパクトが強かったらしい。というよりガチ泣きのオリビエというのが想像できなかったのだろう。

ちなみに、ジンはケイジとハイタッチをすると悠々と去っていった。

 

「いやー、オリビエ強いな。あらかじめボコボコにして泣かしといてよかったぜ」

 

「君達それでよく親友でいられるね」

 

「ほら、よく言うだろ? 『友達はボール』って。蹴り倒して何が悪い」

 

「いや、よくわからないがそれは絶対違うと思う」

 

ロイド大正解である。間違っても友達は蹴るものではない。

 

「……まぁ、早く次を終わらせようぜ」

 

「あ、ストップ。ランディ、そのベルは鳴らすな」

 

息も絶え絶えになりながら、早く地獄を終わらせようとしたランディが赤いハンドベルを握るが、それをケイジが止める。

 

「? 何でだ?」

 

「詳しくは言えないが……止めとけ。ロクなことにならないぞ?」

 

どこか焦った様子のケイジに、ランディの口角がニヤリとつり上がる。

ーー間違いない。これはケイジにとって不利になるベルなのだ。

そう判断したランディは、黒いハンドベルにも手を伸ばし、同時に鳴らす。すると、一拍置いてSE が鳴り、そしてコールが……

 

『ロイド、ランディ、泰斗キックー』

 

「「……は?」」

 

訳がわからない、とばかりにランディと、そしてロイドが咄嗟にケイジを見る。そのケイジは、ニヤリと二人の方を邪悪な笑顔で見返していた。

 

「あーあ。だから言ったのに。それは泰斗キックのショートカットだ。鳴らせばキック。わかりやすいだろ?」

 

そして、憐れな男二人の悲鳴がクロスベルに響き渡った。











絶対に笑ってはいけないシリーズ法

第二条


理不尽? いいえ、ケイジの趣味です


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外伝『絶対に笑ってはいけない特務支援課③』

とりあえず、今年はこれで笑ってはいけないを終了させてもらいます。いや、ネタがね(笑)

次回から本編に戻ります。突発シリアス注意です。
























「さて、それじゃあそろそろお仕事しよっか」

 

病院に大型導力二輪車(バイク)で帰って行ったケイジを律儀に見送った後、フェイトは五人に対してそんなことを言い出した。

 

「仕事って……今日は支援課の仕事は休みだって聞いてるよ?」

 

「えと、そういう名目で連れ出せって言われてるから」

 

「ああ……また、お尻の痛みと戦わなくちゃならないの……」

 

なのはは親友が明らかにドSに毒されていること、そして自分を助けてくれないという現実を呪う。隣にいたロイドが慰めているが、「フェイトちゃん、どっちかと言えばドMだったのに……」とか結構危ないことを言っている辺り、なかなか危険である。

 

「と、言うわけで。アルカンシェルに行こうか」

 

「フェイトちゃん、容赦ねぇな……」

 

そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、依頼の内容はなんなんだ?」

 

アルカンシェルの前に着くと、ロイドが不意に思い出したようにそう呟く。

 

「えっと、まず始めに導力ラジオの収録があるから、その手伝い。それでその次にドキュメンタリー番組の収録兼記者会見があるから、それの警備だね」

 

「ラジオの収録と警備?」

 

「そうだよ」

 

変わらず笑顔なフェイトが若干恐ろしいものの、ロイド達は意を決してアルカンシェルへと入っていく。

アルカンシェルの中はいつもとは違って音楽も流れていなければ舞台特有の人が跳ね回ることによる微弱な震動もない、とても静かな空間が広がっていた。そして、玄関のカウンターの所を見ると、見知った顔がこちらに駆け寄って来るのが見えたのだった。

 

「リーシャ」

 

「いらっしゃい、みなさん」

 

側まで来ると、フェイトとはまた違う柔和な笑顔を見せるリーシャ。稽古終わりにシャワーを浴びた直後なのか、若干髪が湿っているのが見てとれる。

垂れてくる髪が鬱陶しいのか、リーシャが髪をかきあげて後ろに流す。その仕草がとても色っぽく、ランディはおろかロイドまでが見とれてしまっていた。

ちなみに、シオンは一足早くエリィに目を塞がれている。

 

「ふんっ」

 

「痛っ!?」

 

突然、なのはがロイドの足の小指を的確に踏みにじる。思わずなのはの方を見るロイドだが、当の彼女は拗ねたようにそっぽを向いていた。

 

「?」

 

「ふんっ」

 

「え? 何? 前が見えないんだけど?」

 

「シオンは見ちゃダメよ。刺激が強すぎるわ」

 

「……? えと……なんでこんなにカオスに?」

 

「あはは……リーシャ、ちょっとは気を使おうね?」

 

「?」

 

そんなこんなでカオスな状況になりながらも、フェイトがなんとか場をおさめてリーシャを加えた一同はホールに入っていく。

ホールの中は真っ暗で、光が一切入っていない。演劇用のホールなのだから当然と言えば当然なのだが、今は演劇の最中ではない。

 

そんなことを不思議に思いながらしばらく前へと進んで行くと、一階席に全員が足を踏み入れた辺りで突然スポットライトが舞台に降り注いだ。

 

「料理が美味しくなったなら」

 

「野菜の流通も増えてくる」

 

「「お料理、がんばるぞー!」」

 

『全員、アウトー』

 

『『『待てやぁぁぁぁぁ!!』』』

 

演劇ホールなだけあって、尻を叩く音が大変よく響く。

スポットライトに照らされたのは、エプロンを着たケイジとティオの二人だった。……ただし、ティオは明らかに無気力である。

 

もちろん、外野に待てと言われて待つ二人ではない。何せ、巷ではドS兄妹の名を欲しいがままにしている二人である。

 

「はい、本日も始まりましたー『お料理、がんばるぞー』のコーナーです。司会は俺、ケイジ・ルーンヴァルトと」

 

「ティオ・ルーンヴァルトでお送りします」

 

「さて、本日のゲストを早速紹介しましょう!」

 

簡単な挨拶が終わると、舞台袖から誰かがゆっくりと歩いてくる。

 

「リベール独身料理コンテスト12年連続優勝、リベール料理祭第17回、18回、23回優勝、彼氏にしたい女性士官14年連続優勝の肩書きを持つ……」

 

ピンと背筋を伸ばし、迷いのない足取りで舞台の中央に向かうその人物は……

 

「ユリア・シュバルツ准佐です」

 

そう、ユリアだった。

支援課一同の驚きの声をよそに、ユリアは舞台の中心に立つと、至って真面目な顔で支援課の方を見る。

 

「全国のアラサー女性諸君。婚期、諦めないで」

 

『全員アウトー』

 

「今ここで言うことか!?」

「吹くよ! そりゃあ吹くよ!」

 

ロイドとシオンがツッコミを入れるが、だからといって罰が無くなる訳でもない。二人仲良くしばかれてしまうのだった。

 

「さて、ユリ姉。今日のレシピはなんでしょう?」

 

「ああ。今日は……まぁ、作ってからのお楽しみ、ということにしようか」

 

客席で尻を押さえている支援課のことなど一切気にしないように番組を進めるケイジ達。その辺りは流石血が繋がっていなくても兄弟姉妹というだけあって無駄に高度な連係を見せる。

 

「では……まず、鰹節を削ります。ケイジ」

 

「はいよー」

 

「そしてその間に白米を器に盛ります。ティオ」

 

「ラジャーです」

 

次々と作業は進んでいくが、今出ているのは鰹節とご飯である。ご飯が丼に盛られているので丼ものであるのは間違いないだろうが、まだどんな料理になるかは予想がつかない。

 

「出来たぞユリ姉」

 

「お姉ちゃん、こっちもOKです」

 

「うむ。では……めんつゆを用意します」

 

ユリアはおもむろにめんつゆを取り出すと、それを開ける。周囲にまさか……という雰囲気が蔓延するが、やはりというか、ユリアはめんつゆをご飯にかけるとその上に鰹節を振りかけた。

 

「さぁ、ぶっかけご飯の完成だ」

 

『ロイド、ランディ、アウトー』

 

「男メシ……っ!」

「休みの日にたまにやるやつ……うおっ!?」

 

まさかの男メシ完成である。耐えきれなかったのか、二人が吹き出して餌食となってしまった。

 

「おっと! ここで出ました伝家の宝刀ぶっかけご飯!」

「お姉ちゃんはこれで3年連続優勝しましたからね。味は保障されてます」

 

『全員アウトー』

 

『『『料理なめんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!』』』

 

アルカンシェルに、スパァンという小気味いい音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったぁ……」

「本当に変化球ばっかりぶっこんで来やがって……」

 

ケイジ達が撤収した後、すぐにスタッフらしき人達が現れてセットを用意し始める。今では、完全に記者会見場が出来上がっていた。

それからしばらくすると、アルカンシェルの客席に記者達が続々と集まって来る。ロイド達も移動しようとしたのだが、気付いたら周りが記者だらけになっていたために動けなくなっていた。

 

そして、照明が落ちる。舞台の幕も同時に開くが、中は暗闇でまったく見えない。

 

『彼が、その人物と出会ったのは、彼が仕事と家庭の間で板挟みになり、精神的に追い詰められていた時だった』

「……ええ、彼には感謝しています。今の私がいるのは彼のお陰と言っても過言ではありません」

 

ナレーションの後、支援課もよく知っている人物の語り声が流れる。その声は、クロスベルが誇る遊撃士、風の剣聖アリオス・マクレインのものだった。

 

「アリオスさんの会見……?」

「ドキュメンタリーとしては、確かに色々経験ありそうだけど……」

 

真面目すぎて、怪しい。一同の心境はそれで一致していた。

だが、予想に反して番組は順調に進んでいく。ナレーションがアリオスと『彼』の関係を語り、アリオスがいかに『彼』に感謝しているのかを感慨深く語る。予想の斜め上な雰囲気に呆気にとられる支援課メンバー。

そして、とうとう終了予定の5分前になってしまう。

 

「ーーでは、最後にアリオスさんから感謝の言葉で締めくくりたいと思います」

 

「……私は、貴方に救われました。貴方が私の心の中での英雄です。だから、皆さんにも叫んでほしい、この言葉を」

 

アリオスはそこで一旦言葉を切る。そして、誰かがーー恐らくアリオスがーー舞台の真ん中に立つと、肉声で皆に「準備はいいか?」と訪ねると、深く息を吸い込む。

 

「ーーいんじょーーい!!」

『『みっしぃ!!!』』

 

『全員アウトー』

 

突然の大合唱の後、舞台の照明が一斉につく。

そこに写し出されたのは、ノリッノリでキレッキレにみっしぃダンスを踊る……顔だけ出るタイプのみっしぃの着ぐるみを着たアリオスだった。

 

『『…………』』

 

恐らく、言いたいことは一杯あるのだろう。支援課メンバーで顔を見合わせると、一致していたその言葉だけを紡ぎだす。

 

『『みっしぃを彼って呼ぶなよ!!?』』

 

アルカンシェルの舞台に、彼らの絶叫と悲鳴が吸い込まれていった。



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『勝とは』

いきなりシリアス















「さぁ……行こうか!!」

 

「! 全員気ィ張れ! 来るぞ!」

 

カシウスが気合いのこもった一喝の後、その姿をくらました。いや、姿を消したのではなく単に凄まじいスピードで移動し続けているのだ。現に、ケイジの紅い瞳は忙しなく動き続けている。

そして少しその状態が続いていたものの、突然カシウスと同じようにケイジも姿を消す。その一瞬後、激しい打突音と共にケイジとカシウスが先程までリシャールが立っていた場所に姿を現した。

 

「一人」

 

「ぐっ……!!」

 

鍔迫り合いになっている二人。そのケイジの後ろの壁際には、リシャールがぐったりと力なく壁にもたれかかっていた。

 

「リシャールよ、まだまだ甘いな」

 

「油断は……してなかった……これが、単純な……今の力の差……!!」

 

「リシャール大佐!」

 

かろうじて立ち上がっている状態のリシャールにケビンがティアラルをかける。それによってリシャールは危なげなく立ち上がれるようになるが、完全にダメージは抜けきっていないようだ。

今、起きた出来事は数多あったフェイントさえ除けば簡単なことだ。リシャールをかばおうとしたケイジのガードをこじ開けてカシウスがリシャールに刺突を叩き込んだのだ。ただ、その一連のやりとりが常人には反応できない速さの中で行われていただけで。

 

「ほらほらどうした? ケイジに護ってもらってばかりでは俺には勝てんぞ?」

 

「チッ……好き勝手言ってくれるなこの不良中年が」

 

「ハッハッハ、不良神父がそれを言うか? 同じ不良同士仲良くしようじゃないか」

 

どうやらカシウスは余裕の体を見せることにしたらしい。からかうような口調でケイジにそう返す。

 

「……ヨシュア、エステル。お前ら自衛は出来そうか?」

 

「僕は大丈夫。ようやくだけど、目が慣れたよ」

 

「た、多分大丈夫……だと思う」

 

いつになくエステルの言葉にキレがないが、まぁそれは仕方ないと割りきるケイジ。なんせ今まであまり見る機会のなかった父親の本気なのだ。それが大陸指折りの実力者のものであったなら尚更動揺は強いだろう。話で聞いていても、実際を見ればなかなか平常心ではいられないものだ。

 

「リシャールさん、ケビン」

 

「……ああ、任せたまえ」

「わかっとる」

 

最後にリシャールとケビンに声をかけ、ケイジは瞬動で飛び出していく。それに応えるようにあちらこちらで鋼のぶつかる音が聞こえる。だが、それも長くは続かず、弾き飛ばされたような後退り方でケイジがケビン達の元に戻ってきた。

 

「チッ……やっぱキツいか。力じゃ完全に差がある」

 

「当たり前だろう。そもそも、お前はパワーで押すタイプじゃない。だが、俺の元はパワータイプだ」

 

そう、タイプ別に分けるとするなら、ケイジはパワーを犠牲にしたテクニック&スピードタイプ。カシウスはパワーに重点を置いたバランスタイプだ。だが、他の部分が拮抗しているがために突出している部分の戦いとなるのだが、それではケイジはカシウスと相性が悪い。足りない力を補うためのカウンターがカシウスには通じないからだ。

正に万事休す。その言葉が脳裏にちらつき始めた時だった。

 

「……お前達、まさかもう手がないとか考えていないだろうな?」

 

『『!』』

 

カシウスがエステル達に向けて言葉を放つ。その声に含まれていた感情わ落胆だった。

 

「戦う前にはあれだけ威勢のいいことを言っていたが……少し劣勢になるとそれか? 何故だ? リベールの危機ではないからか? それとも、俺が自分の知っている者だからか? 」

 

「そ、そんなわけ……!」

 

「ならば、お前達から『俺を倒して勝つ』という気概が感じられないのは何故だ」

 

エステルの反論をカシウスがピシャリと閉じてしまう。

 

「ヨシュア。お前は始めから俺の攻撃をいなすにはどうするかしか考えていなかったな? リシャール。お前はそもそも俺には敵わないと考えているだろう。ケイジ。お前は仲間を助けることばかりに気が行き過ぎだ。ケビン神父。あなたはこの世界の真実に最も近い場所にいるはずだ。なのにあなたが弱気でどうする。

そして、エステル。俺の気に呑まれてどうする。俺がお前より強いのはわかりきっていたことだろう。そもそも、お前の敵がお前より弱いことなどあったか? そうでなければ、お前は、お前達はどうやってそれらを乗り越えてきたんだ?」

 

図星を突かれたのか、一人としてカシウスに言葉を返せる者はいない。皆、心の何処かで思っていたからだ。

『カシウスこそが、リベール最強なのだ』、と。

 

「……一つ、いいことを教えてやる。『自分を信じない者が、何かを為すなどあり得ない』」

 

「!」

 

「そしてもう一つ。『勝利を信じない者に、女神は決して微笑まない』」

 

『『!!』』

 

「自分を信じない者に何ができる? 勝利を信じない者に何が起きる? 言っておくが、奇跡は待っていて起きるものじゃない。諦めず、投げ出さず、最後まで意地を張り通した者にだけ起こせるものだ。

もし、お前達が俺に勝つことが奇跡だと言うのならば、既に勝つ気概のないお前達に何が起こせると言うのだ!! 」

 

カシウスの烈吼に何も返すことが出来ない。だが、エステルとケイジは武器を握る手にかなりの力がかけられていた。

それを見つけたカシウスは、全身に凄まじいほどの闘気をみなぎらせながらニヤリと笑う。

 

「お前達に勝つ気がまだ残っているというならば、この一撃、凌いでみせるがいい!!」

 

カシウスが闘気を開放する。すると、その闘気が生きているかの如く形を作り、跳躍し、回転しながら向かってくるカシウスに纏われる。

その闘気が形を作ったものはーー神鳥・鳳凰。

 

「ーー奥義! 鳳凰烈波ぁぁぁ!!!」

 

闘気の爆発が、空間を埋め尽くした。



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『負けず嫌いの英雄』

爆発の煙が辺りを包み込み、凄まじい熱気がその場を満たしている。

カシウスの奥義、鳳凰烈波。闘気によって鳳凰を具現化し、それを相手に叩きつける技。本来ならば炎や熱とは関係ない技であったが、今回は凄まじい空気抵抗の摩擦熱によって擬似的に灼熱地獄を作り出していた。

 

「……耐えきったか」

 

ポツリとカシウスはそう呟く。土煙で遮られた視界を棍で凪いで晴らすと、その先にはそれぞれの得物を持ってしっかりと地面を踏みしめて立っている五人の姿があった。

先頭にリシャール。その一歩後ろにエステルとヨシュア。その後ろにケイジとケビンが続く。だが、カシウスがそれを認めた一瞬後、リシャールがゆっくりとその場に膝をついた。

 

「くっ……」

 

「リシャールさん!」

 

「来るな!」

 

膝をついたリシャールを見て、慌てて駆け寄ろうとしたエステルを、声だけで制止する。そうしながらもリシャールの目はカシウスから離れない。殺気こそこもってはいないが、抑えきれずに溢れ出る剣気がカシウスに叩きつけられていた。

 

「倒れた私に構わず、()を見ろ! 目を離すな! 私達の数段上の相手なのだ、ただただ目の前の相手に集中したまえ!」

 

「でも……」

 

「……ふっ、恥ずかしい話だが、私にはこれ以上は無理なようだ。だからこそ、君達の盾となることをかって出た。私には『カシウス准将が最強だ』ということは打ち消せても、『私がカシウス准将より強い』という概念は持てそうにないらしい。口では言えても、心の何処かで敵わないと思ってしまっている」

 

自嘲するように笑みを溢すリシャール。だが、その眼光は衰えることなくカシウスに向けられ続けている。力で負けても、心までは負けず。今のリシャールの心意気が存分に示されていた。

 

「だが、君達は違う。ずっと准将に憧憬に似た絶対感を抱いていた私とは違う。……後を、頼めるか?」

 

「リシャールさん……うん!」

 

リシャールの言葉に、エステルは一層強く棍を握りしめる。そんなエステルに、ケイジが音もなく側に寄ってきた。

 

「……エステル」

 

「?」

 

「俺とヨシュアでオッサンの隙を作る。そこに、お前の全力を叩き込め」

 

その言葉に、エステルは内心驚愕する。それはケイジに、そしてヨシュアにカシウスへの決定打を任されたのと同意だったからだ。

思わず横にいるヨシュアを見てしまう。ヨシュアは視線だけをエステルに向けると、小さく頷いた。同じくケビンにも目を向けるも、同じように返される。

 

「……いいの?」

 

「自信が無いなら今すぐ言え。その時はその時でどうにかする。だがな……俺達はお前がやるのが一番良いと思って言ってんだ。それだけは忘れんな」

 

前を見る。そこにはダメージで動けなくなっているものの、頑なにカシウスに剣気を向け続けるリシャールがいる。その姿を目に収めたまま、エステルは自らに問いかける。ーー出来ないのか? いや、違う。まだやってない。何もやりはじめてすらいない。やる前に諦める? 冗談にしても笑えない。

ーーやる。やってみせる。

 

「やってやるわよ! あの不良中年に好き勝手言われたまま黙ってられるもんですか!」

 

吹っ切れたように声を上げるエステルを見て、小さく口角を上げるケイジ。

ぽん、と手をエステルの肩に置くと、視線はヨシュアに向ける。ヨシュアが頷いたところを見ると、どうやらあらかじめ何かを決めていたようだ。

 

「チャンスは一度だけ。それも一瞬だ。逃すなよ? 」

 

「モチのロンよ!」

 

エステルの威勢の良い返事を聞くや否や、ケイジとヨシュアは同時に前へと飛び出していく。そしてカシウスへと残像を囮にして背後から切りかかるヨシュアだったが、それはあっさりとカシウスに弾かれてしまう。

 

「作戦会議は終わったか?」

 

「うん。父さんが余裕を見せてくれたおかげでね」

 

「こいつは手厳しいなぁ……」

 

笑顔で皮肉を言うヨシュアに、カシウスの頬が少しひきつる。当然、その間のヨシュアの連撃は全て受け流しながら。

 

「俺も手は抜けないとて、お前達の勝利を願っているんだ。作戦会議くらい待つさ」

 

「滅茶苦茶負けず嫌いのくせに何を言っているのさ」

 

「はは、それもそうだが、俺もそろそろ年だからな。いい加減引退してまったりと暮らしたいんだよ」

 

「ははは、寝言は寝てから言えやオッサン」

 

そしてそこに、二刀を抜いたケイジが入り込んでいく。ヨシュアと合わせて合計四刀。だが、それでもカシウスは崩れない。一時は急に激しくなった剣撃に慌ただしくなったものの、すぐに立て直してしまったのだ。

 

「寝言ではないぞ? 割と本気だ」

 

「笑えねーよ」

 

「そもそもお前が聖痕なんて面倒なものを発現させなければよかったんだがな……」

 

「そんなこと、五万を越えたくらいから数えんの止めたわ。そんぐらい考えてるわ」

 

軽口を叩きあいながらも、その攻防は激しさを増していく。その中で、ケイジはカシウスの反撃の刺突を受けきれずに弾かれてしまう。……ように見えた。

弾かれながらケイジは刀を弓を引き絞るように構える右手で持った刀の先。その標準を合わせるように左手を前に出し、弾かれた勢いが止まると、即座に訥喊していく。

その構えは、カシウスが、ヨシュアが、それどころかそこにいる全員が見たことの無いものだ。それもそのはずである。何しろ、ケイジがその技を視たのはこの世界に飛ばされるわずか二日前だったのだから。

 

「覇王……」

 

「……っ!」

 

「断空剣!」

 

身体中の力を全て一点に集中させ、一気に解き放つ技法、《断空》。それが生み出す爆発的な破壊力を受けたカシウスは後方へと吹き飛ばされていく。

 

「ぐっ! ……やってくれるな!」

 

「……ちっ」

 

嬉しそうなカシウスの声に、残心を終えたケイジが舌打ちする。それもそのはず、カシウスは実質無傷であったのだ。

倒せるとは思っていなかったものの、多少はダメージを与えられるのではないか。その目論見すら散々に打ち破ってくるのだ。そりゃあ、舌打ちの一つもしたくなるだろう。

だが、隙は作った。

 

「いっくわよー!!」

 

「なっ!?」

 

慣性によってカシウスが飛ばされていくその先に、先ほどまでケビンの近くに立っていたはずのエステルがいる。それだけではなく、既に闘気を練り上げて待ち構えている。

エステルの棍が、カシウスの背を捉える。一撃、二撃、三撃。次々と加えられていく攻撃は加速し、激しさを増す。

 

「桜花……無双撃!!」

 

そして止めとばかりに上下の振り上げと振り下ろしを加えてカシウスを叩きのめす……だが、その連撃を終えた直後、エステルは横からの一撃に対応出来ずに吹き飛ばされてしまう。

 

「あぐっ……!?」

 

「甘いぞ……! この程度で俺が屈すると……!」

 

多少は傷を負ったものの、まだまだ十分闘える。それをエステルを逆撃することで示したカシウスだったが、周囲が黒炎に囲まれていたことに気付くと言葉を失う。

更に、完全に黒炎に囲まれると全力の隠形を使ったヨシュアの不可視の斬撃がカシウスに襲いかかる。

 

「ぐっ……! だが、まだだ!!」

 

「!?」

 

斬撃を繰り出すほんの一瞬の気配を頼りに斬撃を防いでいたカシウスが、ついにヨシュアの隠形を打ち破り、その姿を捉える。

 

ーー百烈撃

 

神速で繰り出される連撃に、始めはなんとか防御していたヨシュアも耐えきれずに打ち付けられる。黒炎の壁に叩きつけられそうになるヨシュアだったが、その一瞬前に黒炎が一部だけ消え去る。それを見逃すカシウスではなく、その隙間をヨシュアの影に紛れて通り抜ける。

 

だが、脱出を果たしたカシウスの前に待ち構えていたのは、聖痕を開放したケイジだった。

 

「天終式」

 

「くっ……」

 

「幻華繚乱・銀桜の終!!」

 

斬撃の花弁が、カシウスに向けて一斉にかかっていく。カシウスも必死に花弁を叩き落としてはいるが、何しろ相手はものではなく概念の結晶である。流石に抑えきることは出来ず、徐々に全身に切り傷を増やしていく。

そしてカシウスは斬撃の止んだ一瞬の間に大きくその場から引く。その際に背中が花弁によって切り裂かれるが、避けたものを考えると大したことではない。カシウスが離れた直後、今まで立っていた場所には斬撃の具現化である銀の桜が堂々とそびえ立ったのだから。

 

「……っ、まさか避けられるとはな」

 

「ははっ、それが人の出す技なのであれば、避けられない道理はない!」

 

これで決めるつもりだったのか、驚愕の表情を見せたケイジだったが、すぐに立ち直るとカシウスに向かっていく。初撃を受け止めたカシウスは、今度は自分の番だとばかりにケイジを押し返していく。

そして、とうとうケイジもカシウスの連撃の前に吹き飛ばされてしまう。決め手は百烈撃の繋ぎに繰り出された雷光撃。不意をついた神速の一撃には流石に着いていけなかったようだ。

 

だが、それらを受けきり、跳ね返しても尚、ケイジ達の猛攻は終わらない。

ケイジを跳ね返したカシウスのすぐ側には、全身からスパークしたような闘気を撒き散らすエステルがいた。

 

「くぅっ……またお前か……!」

 

「おあいにくさま! 負けず嫌いはあたしもなのよ!」

 

雷光撃の残心を残したまま動けないカシウスの回りを、エステルが円を描くかのように回り始める。闘気によってブーストされた脚力は、やがて竜巻を巻き起こす。

 

「こんな竜巻程度で……ぐっ!?」

 

力づくで竜巻から逃れようとしたカシウスだが、腕を振り上げた瞬間に激しい痛みが腕に走った。

腕を痛めたわけではもちろんない。原因はもっと別のところにあった。カシウスの腕に突き刺さっていたのは、銀色に輝く桜の花弁だ。そう、ケイジの銀桜である。それがエステルの巻き起こした竜巻に巻き上げられて、斬撃の嵐と化していたのだ。

それを確認したと同時に、カシウスの腹部に鈍い痛みが襲う。それは今までと同じように連撃で続くと、やはり激しさと速さを増していった。

 

「絶紹……太極輪ーー!!」

 

エステルの全身全霊を込めた奥義が、カシウスを滅多打ちにする。やがて、竜巻を残したまま出てきたエステルは、全ての力を出し尽くしたのかその場にへたり込んでしまう。

 

「……はぁ……はぁ……これで、流石に父さんでも……」

 

「……だ」

 

「!!」

 

竜巻から小さな声が漏れ聞こえたかと思えば、その竜巻が瞬く間に霧散してしまう。舞い散る銀桜とともに姿を現したカシウスは、その身がボロボロであることにも構わずにエステルへと闘気を向ける。

 

「まだ、俺は負けていない……!!」

 

親子で受け継がれた性質か、カシウスもまた負けず嫌いだ。それが、このような場であったとしても、自身が心の何処かで負けを望んでいたとしても、気持ちが、体が、魂が。負けという事象を認めはしないのだ。

 

再び立ち上がるエステルに、カシウスがなりふり構わず訥喊していく。後5メートル。それだけ近付けば棍が届く。そんな距離まで来てーーカシウスは、両脇からの衝撃に棍を取り落とした。

瞠目し、目を向ける。右にはヨシュアが、左にはケイジが。それぞれ自分の得物を振り抜いた体勢で佇んでいた。

そして再び前を向く。自分と同じくらいにボロボロであるにも関わらず、娘は自身に鋭い闘気を向けている。

カシウスは、自身の手に力が入らないことを再度確認すると、フッと笑みを溢し、全身から力を抜いた。

 

「……見事だ」

 

リベールの英雄が、剣聖と呼ばれた男が、静かに自身の負けを認めた瞬間だった。



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星の扉『覇王』

注意!
今回は見る人によっては非常に気分の悪くなる内容が含まれております。
簡単に言えばグロ注意!











暗い、昏いどこかの部屋。辺り一面が得体の知れないナニカで埋め尽くされたその部屋の奥。そこで白衣を翻しながら何かを一心不乱に操作している男がいた。

男が操作している物の周りには資料と思わしき紙とコーヒーの空きカップが酷く散乱している。恐らく、男は研究者であるのだろう。先程からブツブツ呟いている言葉もどうやら化学の専門用語らしい。丸眼鏡をかけ、神経質そうに機械を忙しなく動かすその姿はマッドサイエンティストという呼称がふさわしいようだが。

その男が目線を上げたその先、液体で満たされた容器の中に、ゴボリと音を立てて気泡が沸き立つ。それを見た男の顔は、続けて機械に付いたディスプレイに移った瞬間、歓喜の色を露にした。

 

「できた……出来たぞ! ついに完成だ! 僕がやったんだ! 誰にもできなかったことを僕はやったんだ!!」

 

これ以上の悦びはないと言わんばかりに男は狂喜する。そしてひとしきり騒ぎ終えると、目の前の容器をいとおしげに撫でる。その容器の中では、いつの間にか幼い少女が膝を抱えたような姿で浮かんでいた。

 

「さぁ、僕が君の父だよ、古代の覇王。早く成長して、早く目覚めておくれ。君は戦う為に生まれた存在だよ。戦って戦って戦って……そうして僕に恩を返してくれ。僕に栄光を捧げておくれ……」

 

男の目は既に少女には向いていない。近い未来、少女が自分にもたらすであろう栄光だけが、男の濁った目に映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~レクルスの方石事件の二ヶ月前~

 

「……D∴G教団の生き残り?」

 

昼時のためか、ガヤガヤと騒がしいアルテリアの大通りを見下ろしながら、ケイジは手に持ったバケットサンドを噛み下し、目の前に相席しているセルナートに聞き直した。

今二人がいるのはアルテリアにあるオープンカフェである。珍しく休憩が被ったためか、ケイジは昼飯を奢ってやるというセルナートの言葉に釣られてそこに来ていたのだ。普段は騎士団専用の小さな食堂で済ましてしまうケイジだったが、奢りというのならば是非もない。そうして店で一番高価なサンドウィッチを頼んだ後、いきなり振られた話題が今の内容だったのだ。

D∴G教団。悪魔信仰のカルト集団であり、かつて騎士団と結社、そして遊撃士というまさかのコラボで殲滅されたはずの集団である。そこでケイジは一人の少女を引き取っており、とてもではないが忘れられない事件の一つとなっていた。

 

「まぁ、少し毛色は違うらしいがな」

 

「? どういう意味だ?」

 

「どうにも、今回のターゲットは教団の中でも異端視されていたようだ。何せその目的が覇王の復活だったらしい」

 

「……覇王?」

 

聞き慣れない言葉に、眉間にしわを寄せる。その姿にセルナートは苦笑すると、無理もないと言葉を続けた。

 

「シュトゥラの覇王。古代ゼムリアより更に前、世界が七つに別れていた時代に世界を統一した、と言われる王さ。そのシュトゥラがゼムリアと名前を変え、古代ゼムリアが始まったとさえ言われている」

 

「ふーん」

 

聞いておいてこの反応である。セルナートの額に青筋が浮かび上がるが、そこは年長者としてのプライドか、なんとか抑えて話を続ける。

 

「だが、目的は違っていてもやっていることは大差ない。未来ある子どもを犠牲にし、意味もない研究を続けているだけの狂信者に過ぎん。故に教皇直々に外法認定を下された」

 

「ハゲの直々かよ。大変だな」

 

「他人事ではないぞ? なんせこの任務、お前が担当するんだからな」

 

それを聞いた瞬間に嫌な顔をするケイジ。それを見たセルナートは少し溜飲が下がっていたりする。

 

「ケビンは?」

 

「別件だ」

 

「ワジは?」

 

「呼び戻すのに時間がかかる」

 

「他は?」

 

「私とお前以外は今アルテリアにいないな」

 

「拒否権は?」

 

「教皇命令に加え総長命令だ」

 

「……すいませーん! 最高級霜降りビーフのバケットカツサンドをもう一本追加で!」

 

「あ、ちょ、お前それ一本5000ミラ……!」

 

そんなこんなで、ケイジは覇王信仰者の始末を命じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここだな」

 

アルテリアから鉄道を乗り継ぐこと約半日。帝国領ノルド高原のすぐ側にその狂信者の隠れ家は存在していた。

鉄道の入国審査などは毎度の如く気配遮断でパスしたケイジである。恐らく鉄血宰相辺りには気付かれていそうなものだが、良くも悪くもあれは自分の害にならない限りは手を出してこない、もしくは面白がって放置するため、今はそれはいい。

さて、問題は潜入である。バカ正直に正面から入っては最悪裏手から逃げられる可能性すらある。惜しむべくはティア達を残してくるにあたってウルを生け贄にしたことであろうか。

だが、無いものは仕方ないのだ。諦め半分で気配遮断を使ってから結局正面から突入するのだった。

中に入ると、そこは薄暗く、だけれども何故か埃っぽくは一切ない空間が広がっていた。写輪眼で暗さを誤魔化しながら進んでいくと、どうやら地下へと続く階段があるらしい。一階には何もなく、一見廃棄された倉庫のようであったのだが、そんな印象は地下へと足を踏み入れた瞬間、その考えは吹き飛んだ。

 

「……胸くそ悪ぃことしやがって」

 

そこにあったのは、ホルマリン漬けにされた大量の『かつて人であったモノ』だった。それは人を構成する各パーツといった比較的大きなものから、どこかの神経だけを抜き取ったもの。更にはあえて断面が見えるようにしたものと多岐にわたる不気味な光景だった。

もっと言えば、それらは総じて一般的な成人よりも小さいものだった。これが意味することはもはや言うまでも無いだろう。

それらの一つ一つに心の中で祈りを捧げ、その光景を忘れないように焼き付けるが如くゆっくりと進んでいく。すると、今度は完全な人の形を保った人が浮かぶ容器の群れに差し掛かる。だが、これもまた不気味な光景であった。何せ、それら全ての顔が同じだったのである。

恐らく、クローン技術。人をモノのように生み出す許されざる所業。それによって産み出されたのが彼女達なのだろう。いたたまれなくなったケイジが先へと足を踏み出そうとした瞬間、クローン達の目が一瞬にして全て同時に開かれ、ケイジは背後から空を断つような鋭い一撃を食らって壁に叩きつけられた。

 

「ごはっ……!」

 

空中で何とか体勢を変えたために背中を打っただけですんだが、それでも肺の中の空気が衝撃で押し出される。その一撃が放たれた方向へと目を向けると、そこには感情の一切を断ち切ったような鉄面皮の女性……先ほどのクローンの一人が、拳を突き出した体勢で立っていた。

 

「今のはアンタか……」

 

「…………」

 

血の混じった唾を吐き捨てながら、ケイジは女性に声を掛ける。が、女性に反応はない。碧銀の髪を後ろに流し、肉付きのよいスタイルの誰もが振り返るような美人だが、いかんせん無表情が過ぎるせいか台無しになっていた。

そして女性は返事の代わりとばかりに再びケイジに肉薄する。だが、ケイジもみすみす攻撃を食らうような腕はしていない。刀の刀身を利用して女性の拳を受け流すと、その隙を見せた女性に一閃を放つ。それは予想通りに女性の肩口から腰を一辺に切り裂く……なんて都合のいいことはなく、一閃を加えようとした直前に危険を感じたケイジは横へと飛び退いた。すると、その一呼吸後にケイジのいた場所へ女性を巻き込んで拳が突き刺さる。それを加えたのは、やはり女性と全く同じ顔をした女性だった。

自分と同じ存在に対して凄まじい一撃を放った女性は、もはや動かないモノと化した女性を一瞥すると、やはり感情の無い目をケイジに向けた。

 

「……チッ。悪趣味な。見てて気分悪くなる」

 

「彼女達は失敗作で、兵士さ。使い捨てにされるのは致し方ないだろう?」

 

コツ、という硬い音を打ち鳴らして、いつの間にか多数の女性達が隊列を組んでいた間を抜けて、白衣の男がケイジの前に現れる。

 

「黒幕の覇王信者ってのはお前か?」

 

「ふむ、些か事実に相違があるようだ。確かに僕は覇王の復活を目論み、そして実行していた身だが、しかして覇王信者という訳ではない。むしろ、覇王が僕を信仰する、というのが正解と言えよう」

 

まるで歌劇の主演にでもなったように大仰に手を広げ、演説して見せる男だったが、ケイジはそれが気に入らないのかわずかに眉をしかめる。

 

「要領を得ないな。簡潔に話せ」

 

「せっかちだな。まぁ、いい。望み通り簡潔に言おう。僕は覇王の父親なのだよ。彼女が戦い、その結末に得た栄光は僕のものとなる。すなわち、僕は世界で最も神に近い人間となり、ゆくゆくは神として崇め奉られる身となるのだよ!」

 

「覇王ってのは……そこの人達のことか?」

 

「ははは……まさか。彼女達は失敗作。覇王のなりそこない。いわば用済みの絞りカスだ。せっかく覇王の遺伝子を埋め込んで適応させて上げたというのに、精神が壊れてしまった操り人形だ。こんなモノ以下の存在にも役割を与えたのさ。覇王の尖兵、死して尚戦う兵器というね」

 

熱に浮かされたようにペラペラと言葉を吐き続ける男に対し、ケイジは顔を俯かせたまま微動だにしない。それを知ってか、男はますます舌を躍動させる。

その場に知り合いがいれば気付いただろう。その場にかつて敵対した者がいても気付いただろう。だが、その場にいるのは浮かれた男と感情の壊れた子ども達ばかり。その様子を注視する者はいない。

故に気付かなかった。ケイジが、真の意味で怒っていたことに。

 

「……で? 遺言はそれで終いか?」

 

「は? 何を言って……!?」

 

男が気丈に笑っていられたのはそこまでだった。黒い業火が男と子ども達の周りを囲んで押し潰し始める。命令を受けていない子ども達は為す術もなく、容易に業火に呑み込まれていった。

そして業火は男を残した全てを呑み込み、獅子の顎の如く男の前で制止する。

 

「……あ……あぁ……!!」

 

男からすれば悪夢そのものだろう。自分の研究成果が一瞬で無に帰したのだから。そして絶望しただろう。今まさに死神が鎌を自分の首に突き付けているのだから。

 

「……研究は楽しかったか? 罪の無い子ども達を亡き者にしたことは? 未来の希望を纏めて摘んで、過去の栄光にすがるのは至福だったか?」

 

男は答えない。答えられない。今更ながらにケイジの全力の殺気を受けていたことに気付いたのだ。もはや彼に自由など、ない。

 

「ああ、答えなんざ聞いちゃいねぇぞ。お前が今更何を言ったところで子ども達は帰って来ねぇ。精神が壊れただけならまだマシだった。だけど容姿まで弄くられちゃそうもいかねぇ。まして、何百も同じ容姿の人間がいたんじゃ親は見向きもしねぇんだよ。経験則だ。よく知ってる」

 

ケイジの脳裏に、水色の髪の少女を始めとした子ども達が浮かび上がる。

人間は勝手な生き物だ。それは彼の20年という人生の中でよくわかっている。それ故に、許したくはなかった。……自分の欲望のために未来そのものと言える子ども達を壊した目の前の男を。

確かに、結果的に子ども達を殺したのはケイジだ。それは本人も自覚している。だが、もはや彼女達に幸せなんて道は残されていなかった。

ーー叶うのならば、彼らに来世のあらんことを。

そう願って、ケイジは炎を彼女達に仕向けたのだ。それが善か悪か、そんなことは決まっていた。

 

「子ども達を……命をその手に掛けたんだ。地獄で未来永劫苦しみ続ける覚悟があってやったんだろうなァ!?」

 

男の返事を待つまでもなく、獅子が男を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

目の前には、少女の浮かぶ容器があった。

この少女こそが、今はこの世にいない男が作った古代の覇王。子どもに細胞を適応させるのではなく、一から覇王として作り出された存在だ。

そして、そんな少女の命はケイジが手元のボタンを押せば簡単に絶たれてしまう。絶たれてしまうのだが……この十数分、ケイジにはそれが出来ていなかった。

頭に浮かんでは消えていく金色の女性。そして今しがたその手に掛けた碧銀の女性達がケイジの手を止めていたのだ。

そしてーー

 

 

 

 

 

 

 

報告書

 

第二位氷華白刃により、帝国領付近に居を構えて外法を繰り返していた者の殲滅に成功。

尚、本事例は純粋な行為を外法と認定されたものであり、アーティファクトは使用されていない。よって、結果のみを簡潔に記すこととする。

 

外法認定内容:子ども達を素体とした覇王の復活実験(未成功)

 

結果:被験者は快復不可能と医師でもある第二位が認めたため、女神送り。また、首謀者は殲滅。第一位紅耀石により裏付け済みである。生存者無し、死者は100余名。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほら、あいさつしろ』

 

『は、はい。えと……あいんはるとです。よろしくおねがいちまっ!?』

 

『あーあー、盛大に噛んだな』

 

『うぅー、とおさまぁ……』

 

『父様言うなっての。せめて兄様にしろ。……で? ティアさんどうよ? あいさつできんかったが』

 

『可愛いから許す!!』

 

『お前本当にブレねぇなぁ……おいシャルー! 全員叩き起こせー! アインの合流祝いすんぞー!』




微妙にやっつけ感がありますが、それは今回の仕様です。
なので、今はそんなエピソードがありました、という感覚に留めておいて下さい。


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『栄光を掴む者』

お久し振りです

でもまだ課題あるんだよね……(泣


「見事だ」

 

そう一言だけ残し、どこか驚いたような、だけれどもどこか嬉しそうな様子で、カシウスは光と消えていく。

それを見て、ケイジ達はようやくかの英雄を倒したことを実感した。

 

「フ……まさか、俺がお前達相手に地に伏せる日がこんなに早く来るとはな。俺も老いた、ということか」

 

「冗談はその馬鹿面だけにしとけよ不良中年」

 

「お前たまには俺に敬意払っても罰は当たらないんじゃないか? 年上で上官だぞ、俺は」

 

「知らねーよ、んなもん。……まだ戻る準備が終わってないんだよ。今オッサンに抜けられると困る」

 

「!!」

 

ケイジの言葉に、カシウスはハッとした表情を見せる。が、その一瞬後にはキリッとした顔へと戻っていた。

ケイジの真意を見極めんと、カシウスはケイジへ視線を向ける。ケイジもそれに応えるように、カシウスの目をまっすぐ見据えた。

 

「そうか……。ようやく、ようやくか」

 

「前例が見つかったんだ。後は無理を通すだけ……いつものやつだよ」

 

「そうか……」

 

感慨深げに何度も頷くカシウス。だが、当人達以外にはそれがどんな会話であるかわからない。それでもカシウスの今までに見たことがない程に破顔している様を見れば、かなりの慶事であることはわかるのだが。

 

「ここから消えて、覚えているかはわからんが……心待ちにしているぞ」

 

「ああ」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

そこまで会話し、終わったとばかりに目を閉じるカシウス。だが、その様子には流石にエステルが待ったをかけた。

 

「なんだ、エステル」

 

「なんだじゃないわよ! いきなり現れていきなり消えてくとか、ちょーっと薄情すぎるんじゃないの!?」

 

じとっ、とカシウスを見据えるエステルだが、どうしようもない喜色が見てとれる。その姿はまるで尻尾を振って『褒めて!』とねだる子犬のようだ。

カシウスはそれを見て苦笑するが、やがてその表情を改める。

 

「お前はここで満足しているのか?」

 

「え?」

 

予想とは全く異なる返事に面食らった様子のエステル。だが、カシウスは言葉を止めない。真っ直ぐにエステルの目を見ながら粛々と語り続ける。

 

「確かに、お前達は俺に届いた。それでも届いただけだ。ケイジやケビン神父、リシャールの力を借りてな。

……あくまでお前達はまだ、届いただけだ。追い付いただけなんだ。俺という一つの壁に。なのに、そこで満足しているのか? 足を止めてしまうのか? 違うだろう。まだお前達は仲間の力を借りてようやく届いたまで。ならば次はお前達自身の手で追い付き、追い越してみせろ。それまでは俺も越えるべき壁としてあり続けてやる。

……できるな? エステル、そしてヨシュア」

 

「モチのロンよ! 絶対に参りましたって言わせてやるんだから!」

「はは……うん。いつか必ず追い越してみせるよ、父さん」

 

エステル達の返事を聞くと、間髪入れずにカシウスはケビンとリシャールへと目を向けた。

 

「神父、リシャール。すまないが……」

 

「わかってます。元々俺のせいっぽいですし、責任もって全員送り返させてもらいますわ」

「ええ。それにここにはレオンハルト殿やケイジもいます。どうかご安心を」

 

「すまない。よろしく頼む」

 

そこまでをいい終えると、カシウスは今度こそ目を閉じる。やがて光が強くなり、カシウスの姿を包むと、光が消えた頃にはカシウスは露と消えていた。

 

「……行ったか」

 

ポツリとケイジが呟くと、全員が武器を納める。一息吐いて、行き止まりのその場に背を向けた時、唐突に拍手の音が聞こえてきた。

 

ーーーーーーーー

 

「(? ……なんだ……?)」

 

それとは別に、ケイジの耳に旋律が流れてくる。だが、目の前に禍々しい魔法陣が現れると、そちらに意識を向けざるを得なくなってしまう。

 

『フフ……剣聖をも退けるか。どうやら見込み以上に成長したようだな』

 

「……何のようや。影の王」

 

冷たい声で、ケビンは目の前の相手を威嚇する。ふざけた道化のような格好をした人物、影の王。それが今、ケビン達の目の前にいたのだ。

 

ーーーズェーーーートゥエーー

 

「(また……!)」

 

ケイジの頭の中に響く旋律が大きくなる。

 

『フフフ、残念ながらケビン神父。此度は貴方に会いに来たのではないのだよ』

 

「何やと……?」

 

『今回、私は案内役として来たに過ぎないのでね。他言は伏せさせてもらうよ』

 

そう影の王が言い終えた時だった。ケビン達の足下に巨大な陣が現れる。ケビン達は咄嗟にその場から飛び退き、離れようとするが……

 

ーートゥエーーーーリュオーーズェーー

 

「ぐっ!?」

 

『ケイジ!?』

 

頭の中に響く旋律が、ケイジの三半規管を狂わせる。その結果、体勢を崩してしまったケイジはその場に崩れ落ちてしまう。

急いでヨシュアが救出しようと足を切り返す。

 

「ケイジーー!!」

 

「ぐっ……!」

 

雷光の如く走るヨシュア。しかし、伸ばされた手が掴まれることは、無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ちていく。ただ、堕ちていく。

堕ちていく毎に、頭の中で響き渡る旋律は大きく、力強く聞こえてくる。

 

ーートゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ

 

それは、譜歌。

 

ーークロア リュオ ズェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ズェ

 

俺の記憶の中に、それを歌える人間は二人しかいない。

 

ーーヴァ レィ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リュオ トゥエ クロア

 

一人は、腹心であり、片腕であり、親友とも呼べる女性。彼女が歌えることは、騎士団の多くの者ですら知っている。

 

ーーリュオ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ ズェ レィ

 

だが、知る者こそ少ないが、もう一人。もう一人だけ、譜歌を歌える人物がいたのだ。

 

ーーヴァ ネゥ ヴァ レィ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レィ

 

このことを知っている者は、もはや教会でも一握り。守護騎士の一部しか知り得ない、教会の闇に葬られた事件の首謀者で、教会の闇の被害者。

 

ーークロア リュオ クロア ネゥ トゥエ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ

 

彼女の兄で、彼女と俺を結びつけるきっかけとなった人物にして、俺の兄貴分でもあった人物。

そして……俺が騎士団に居続けた理由の一つ。

 

ーーレィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ

 

その名は……

 

 

 

「……来たか」

 

栗色の毛を後ろで結い上げ、顎には豊かな髭をたたえた男がゆっくりと閉じていた目を開ける。

 

「ああ……久し振りだな」

 

「うむ。本当にな。……約束を果たしてくれていたようで嬉しいぞ」

 

「ヴァン」

 

「だが、どうやら俺には拒む権利はないらしい」

 

ヴァンと呼ばれた男は、側に刺していた巨大な剣を抜き取ると、それを自然体で構える。隙はなく、単純故に最も動きやすい構えだ。

それを見たケイジは、一瞬目を伏せるとすぐさま刀を抜く。

 

「聖天堂の件以来か。こうして剣を交えるのは」

 

「そうだな」

 

「では……正騎士、ヴァンデスデルカ・アークス、参る!」

 

そうして、戦いが始まった。




次回からまた月の扉です


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月の扉『聖天堂の乱・壱』

七耀歴1193年。『ハーメルの悲劇』を口実としたリベールとエレボニアの武力衝突は、七耀教会の仲介により和睦という結末で終結した。

両国は講和条約を結び、教会の指示でエレボニアはリベールに対して正式に謝罪すること、及びリベールの復興に協力することが命じられた。たが、リベールはその内後者の条件を拒否、復興の資金の寄付という形で帝国の国内参入を防ぐ。そしてリベールからエレボニアへの条件は主に無し。一方的に攻撃されたとして、精々が講和条約にある相互不可侵、そして相互貿易の多少の便宜くらいであった。

そして教会への仲介料としてエレボニアからは多額のミラと七耀石が払われる。リベールも七耀石を対価として納めようとするが、教会は帝国からの寄付で十分だとこれを拒否した。ミラは復興に使わねばならないため、リベール側としては対価として差し出せるものが他にはなかった。頭を悩ませていたリベールに、教会は譲歩として一つの条件を突きつける。

曰く、『ケイジ・ルーンヴァルトの身柄の受け渡し』である。建前としてはレミフェリアの最新医術を伝達してほしいとのことだが、紛争でのケイジの活躍から、当時の星杯騎士団守護騎士第二位・リーヴの聖痕の継承を嗅ぎ付けたことで身柄を求めたのはほぼ間違いないだろう。

そして、アリシアⅡ世はこの申し出を即時に棄却する。この申し出はリベールの法律で禁止されている『人身売買』にあたるとして、理路整然とした演説を行った。これにより、『身柄引き受け』の件は一時なりを潜める。だが、教会はこれ以降のリベールの対価支払いの申し出をあらゆる理由を以て全て受け取らなかった。これにはアリシア女王も困り果てる。対価を払わなければ不義理となってしまい、周辺諸国からの印象が悪くなる。ひいては貿易にも悪影響を及ぼすかもしれない。貿易が主な収入源となっているリベールにとって、それは非常に良くない事態だ。

追い詰められたアリシア女王は、最終的に『人員派遣』としてのケイジ・ルーンヴァルトのアルテリア出向に許可を出した。その際、様々な条件が付けられたが、代表的なものは以下である。

一、ケイジ・ルーンヴァルトはあくまでリベール王国民であり、その国籍並びに軍席はリベールにある。

一、リベールの国難において、ケイジ・ルーンヴァルトはあらゆる任務、雑務を差し置いてリベールに戻る権利を有する。

一、ケイジ・ルーンヴァルトの各権利において、アルテリアは犯罪行為を裁くこと以外、干渉出来ない。

一、ケイジ・ルーンヴァルトは一年の内、80日(休日は元より自由日のため含まない)間の帰省の権利を有する。

一、万一ケイジ・ルーンヴァルトがアルテリア法国内において著しく人権を侵害された場合、その証拠の提出と同時に、即時に人材派遣の任を取り消し、リベール王国へ帰還するものとする。尚、この場合においてのみアルテリア法国は一切の反論が出来ない。

 

これら、アリシア女王がかなりの葛藤を経て制定した条件を元に、ケイジは教会へと足を踏み入れることとなる。教会はケイジに権利を与え、教会に服従させようと目論んだが、リーヴへの義理立てから承諾した守護騎士第二位の叙任以外は全て拒否されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ケイジ・ルーンヴァルト卿。汝の功績を讃え、七耀教会司教の名乗りを許可する」

 

「謹んでお断りする」

 

きらびやかな広間。ステンドガラスから七色の光が差し込むこの場で、俺は昇進の話を即断で断る。

周りからはざわざわと否定的な声が溢れ、そして目の前の高位の僧は目を丸くして見開いている。まるでありえないものを見るかのようなその目、俺が断るとは夢にも思っていなかったのだろう。

 

アルテリア法国に身を置いてから、俺にはこのような昇進の具申が数多くあった。例えばアルテリアで始めて外科手術に成功した時だ。これならまだわからないでもなかったのだが、酷いときは医務室で教皇を治療したから、なんて下らない理由の時もあった。それら全てに一貫しているのは俺を権力と地位でアルテリアに縛ろうという意思である。

星杯騎士団内ではそうでもないのだが、封聖省などの国の中枢に来てしまうとそれがひどい。何かあれば俺を昇進させようとここに呼び出してくる。……そういう行いをする人間に限って、大体騎士団のブラックリストに載っているわけだけれども。

 

「話はそれだけで? ならば私は帰らせて頂く。まだリベールへの報告書が出来ていないので」

 

唖然としている幹部達に背を向けて、俺は仰々しい扉を開き、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「終わったか」

 

封聖省から外に出ると、独特な衣装を纏った大柄な男がそこにいた。栗色の長髪を後ろで縛り、神と同色の髭を蓄えているせいか、中年のような雰囲気を醸し出してはいるが、この男は実はそこまで年寄りではない。

 

「ヴァンか」

 

「普段はそれで構わんが、場所を考えろ。ただでさえ封聖省(ここ)は戒律やら上下関係には厳しいのだぞ」

 

「へいへい、悪うございましたよ正騎士アークス殿ー」

 

「お前は全く……」

 

そう言いながらもケイジの側へとやってくるヴァン。正面からケイジの頭に手を置く姿はさながら親子のようだが、何度も言うがこの二人は親子ではない。ケイジが10歳、ヴァンが20歳である。

逆に言えば、僅か20で正騎士であり、中年に見えるヴァンが凄いのだ。

 

ちなみに言うと、ヴァンは教会からのケイジの教育係兼お目付け役であったりする。もっともヴァン自身が総長派と呼ばれる立ち位置の人であるためにあまり本来の目的は達成されていないが。

 

「それで、今回は受けたのか?」

 

「受けるかあんなもん。俺をこき使う気満々なのが見えてんだし」

 

「……それで私や総長やらが書類仕事増やされていることもわかってほしいんだがな」

 

「管轄外ですー」

 

「私とて怒るときくらいはあるのだぞ?」

 

微かに青筋を浮かべるヴァンがそれでも怒りはしないのは、ケイジの境遇を慮ってだろうか。怒りごと吐き出すようにヴァンは大きく、深い溜め息を吐いた。

 

「……まぁいい。お前が断ることはある程度予想していたことだ。それより腹が減っただろう? たまにはどこかで食べていくとしようか」

 

「ヴァンのおごりで?」

 

「お前の方が給金は上だろう……」

 

そんな軽口を叩きあいながら、ケイジとヴァンは店を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、総長から泣いて頼まれたお前の従騎士の話だが」

 

「とうとう泣いたのかあの人」

 

「ああ、腹を抑えてガチでな」

 

昼食の後、そのまま深めの話に入る二人。一見無警戒な行動に見えるがここは個室が用意されている高級料理店である。ケイジは当初直感が働いて入ることを渋ったのだが、ヴァンが奢るということでノコノコ着いていったのだ。ただより高いものはないのである。

 

「お前が従騎士を断り続け、こちらで選んだ者も三日ともたずに泣き帰るせいだろう。いい加減諦めてちゃんと選んだらどうだ」

 

「やだよ面倒くさい。第一そっちが選んだって言っても選んだのはジジイ共だろうが。全員目が腐ってやがったぞ」

 

「だから自分で選べと言っているんだ。お前は守護騎士第二位、しかも本来繰り上がるはずだった者を二人押し出しての就任だ。ジュリオを三位に、トマスさんを特務零位に押し退けていながら仕事をしないのを見過ごせはしない」

 

星杯騎士団において、過去に守護騎士の位階が被ることはなかったのだが、ケイジ(リーヴ)とトマスにおいてはそれが起こってしまった。そこでできた特務零位だったのだが、今度はそこに本来入るはずだったケイジが第二位、本来第二位だったはずのトマスが特務零位に入るという事態が上層部の一部の意思で決まってしまったのである。

予想外だったのはケイジが全く第二位の職務(書類仕事)に手を着けなかったことだろうか。それを補完し、あわよくば枷にしようと次々とケイジの元に従騎士候補が送られてきたのだがそのことごとくをケイジが送り返してしまったのだ。まぁ、子供にボコボコに負かされ、その上疲れきった体で毎日書類仕事をさせられれば大概の人間は途中で投げ出すだろうが。

 

「それで、どうせまたそんなことだろうとこちらで従騎士を選んだんだが……」

 

「また泣いて帰る大人が一人増えるのか……」

 

「…………」

 

「…………? なんだよ、アンタにしちゃあ珍しく歯切れが悪いじゃねぇか」

 

「いや、その、な」

 

物凄くばつが悪そうな顔で、ヴァンは頭をガシガシと乱す。そのらしくない仕草を見て、ケイジは面倒ごとかと目を細めた。

 

「…………なのだ」

 

「ん?」

 

「……の……となのだ」

 

「いつもみたいにはっきり言えよ」

 

「…………私の妹なのだ」

 

「…………」

 

今度はケイジが絶句してしまう。何故なら、ヴァンがシスコンの極みという位の妹大好き愛してるという妹馬鹿なのだ。恋愛禁止ではない教会の中で、老けているとはいえ、見た目のいいヴァンに浮いた話が無いのはこのせいとも言えるだろう。

 

「いや、私は反対したのだぞ? だがティアが私に子供扱いされることを嫌がってしまってな? いや、背伸びしたティアも可愛いのだが、流石に守護騎士の従騎士は危なすぎる。ティアが天才過ぎて11で従騎士であることも兄としては複雑なのだが、何よりティアが危ない目に遭わないかが心配で心配で私は……!!」

 

「うん、アンタが俺が二年で固めた想像の更に上を行くシスコンだったってことは物凄くよくわかった」

 

「ケイジ、頼むぞ。なんとしてもティアを危険な目に遭わせるな! それが無理なら辞めさせろ! でないと私は、私は……!!」

 

「いや、俺アンタの妹見たことすら無いんだけど……てかそんなに嫌なら申請しなけりゃ良かったのに」

 

一応危険な職ではあるため、申請には上司と身内の許可がいる。アークス家はヴァンと妹しかいないと以前に聞いていたため、ケイジは小さく溜め息を吐いた。

 

「馬鹿者! ティアに『お願い、兄さん』と上目遣いで言われて断れるだろうか!? いや断れない!!」

 

「断言しちゃったよ……」

 

「しかも後から恥ずかしくなって部屋でぬいぐるみを抱えて悶えていたのだぞ!? もうこれが可愛くて愛らしくてティア超可愛いよティア!!」

 

「駄目だこのシスコン。早く何とか……腐ってやがるな、遅すぎたんだ……」

 

そんなこんなで、ヴァンの妹……メシュティアリカ・アークスがケイジの従騎士候補として派遣されることが決まった。



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