報告集『栄冠なき英雄達』 (趣味全開人生)
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その名はPOCU
報告書001『希望の大地:前編』


未だに混乱が消えぬ新興国エスペランサ共和国を侵食するように、麻薬と人身の売買で富を成しその勢力を強める犯罪王エンリケス。

彼の築いた難攻不落の要塞に囚われ、売り飛ばされて慰み物にされるのを待つ女性達。

共和国軍は精鋭部隊を送り込むが…



20XX年Y月某日 中東:ティエラ・ジ・エスペランサ共和国・山岳エリア

 

 

 

 

 

峡谷の遥か下に流れる大きな川に突如として炎をまとった金属片が無数に降りかかり、沈んでいく。そして山肌の小さな黒点から煙を引きながら飛び上がる飛行物体。

 

『こちらシューター01、攻撃ヘリがやられた!敵は携帯式対空ミサイルを装備している!』

 

 

エスペランサ共和国陸軍のマークが描かれたUH-60ブラックホークにスティンガーが直撃、爆炎を纏いながら山肌に激突し炎上する。

 

『作戦中止!撤退しろ!』

 

 

 

残存するヘリの無線機から指揮官の声が響くが、反転し撤退するヘリに容赦なくミサイルが次々と喰らいついていく。

 

 

その後たった1機生き残ったヘリが基地に帰還、こうしてエスペランサ共和国陸軍による『作戦』は失敗に終わった。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

数時間後 某国

 

 

「なるほど、大体の事情は理解しました。犯罪王に攫われた女性達が商品として売り飛ばされる前に救出しようとしたものの、敵が予想以上に重武装化している上に攻略が難しい地形の為、救出部隊は要塞に辿り着けずに壊滅したと」

 

オフィスでモニター越しに相手を見つめる『組織』の司令官。

 

 

 

『はい、そうです。そこで装備・人員共に質が優れているあなた方の力をお貸し頂きたいのです』

 

向こう側に映る、洒落た口ひげが印象的な男の軍服はエスペランサ共和国陸軍のそれだった。

 

 

 

「分かりました、送っていただいたデータを基にこちら側で作戦を立案し必要な部隊を送ります。作戦の遂行にあたり貴国の施設を使わせて頂く必要がありますのでそのあたりの調整をお願いしたい」

 

 

 

司令官の言葉にモニターの男が喜色を浮かべる。

 

 

 

 

 

『感謝します。救出が成功した暁には何らかの返礼を――――――』

 

 

「いいえ、我々はあくまでも我々自身の理念・信念に基づいて活動しているに過ぎません。見返りは不要です。直ちに準備に取り掛かりますのでこれにて失礼いたします」

 

 

戸惑いの表情を見せる男に『必ず助け出します。その点は信じて頂きたい』と念を押し、通信を切る。

 

 

 

「参謀部、仕事だ。データを送るから直ちに作戦を立案し実行してくれ…そうだ、技術試験部隊も動員して構わん。例のプロジェクトで派遣されているアレか?勿論だ、許可するぞ」

 

オフィスの電話で部下に指示を飛ばす司令官。デスクの片隅で買ってきた手羽先がすっかり冷めてしまっていたが、司令官にとってそれは些細な事だった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

数日後 アラビア海

 

 

 

陽光に照らされる蒼い海に伸びる白い航跡。

 

 

『組織』の指揮下にある強襲揚陸艦の格納庫では、AV-8E ハリアーⅢ攻撃機を万全の状態にすべく整備員達が慌ただしく動いていた。

 

 

「あたし達の仕事にパイロットの命がかかっているよ!気合入れてやるんだ!」

 

『組織』への移籍以前から数十年も現場に立ってきた熟練の風格をまとうツナギ姿の女性が檄を飛ばすなか、格納庫の熱気を見守る艦長と航空部隊指揮官。

 

 

 

「配属されたのがお前の艦で良かったよ。良い整備クルーを抱えている」

 

航空部隊指揮官であることを示すワッペンが縫い付けられたジャケットが特徴的な男が隣に話しかける。

 

 

「ああ、みんなよくやっている。……お前の所のパイロットは大丈夫なのか?かなり危険な作戦になるが」

 

士官学校で共に青春を過ごした時の口調で返す艦長。

 

 

 

「心配いらん、優秀な奴らを選んだからな。あそこの砲術スタッフには負けんよ」

 

指揮官がそう言いながら舷側エレベーターの開口部から見えるズムウォルト級を視線で指す。

 

 

「頼もしいな。無事に帰ってきたら士官食堂の手羽先メニューを奢ると伝えてくれ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

同時刻 エスペランサ共和国

 

 

 

陸軍基地の会議室で席につきモニターを眺める兵士達。例外なく漆黒の装備を纏った彼らの視線の先には本部からリアルタイムで送られる映像が映し出されている。

 

 

 

『今作戦の目的は大きくわけて2つ。1ヶ月後の闇オークションに売り飛ばされる予定で囚われている女性達の救出、これが最優先事項である。そして彼女たちを誘拐した犯罪王…サバス・ブエノ・エンリケスの抹殺だ。お前達には救出の方を担当してもらう』

 

 

 

通信機越しに響く司令官の声。続いて犯罪王が山岳地帯に築いた『要塞』と周辺の地形がスクリーンに広がる。

 

『まず、要塞だ。豪邸と広大な飛行場で構成されている。更にエンリケスが麻薬及び人身の売買で築いた莫大な富が惜しみなく投入され、高度な防空システムが整備されている。これがかなり厄介で防空レーダーも良いやつを使っている』

 

スクリーン上の要塞を示すマップに対空車両を意味する赤い点が数十ほど書き足され、その脇にフェーズドアレイレーダーを装備した警戒施設の写真が添えられる。

 

 

 

『航空機が接近すれば直ちに気づかれるだろう。SEADで迅速に防空システムを制圧し輸送ヘリで部隊投入…というわけにはいかん。当然ながら人質の安全が確保されない状態で絨毯爆撃など以ての外だ』

 

更にこの防空システムは電子妨害にも強いらしく長時間は妨害出来ないことも付け加えられた。

 

 

 

画面は要塞周辺の地形を映したものに切り替えられ、要塞から伸びる一筋の道路が赤く強調される。

 

『そこで救出部隊は制圧部隊と共に陸路で要塞に向かう事になる。これが要塞に行ける唯一のルートであるわけだが…最大の難所がこの橋だ』

 

 

 

向かい合う2つの絶壁を貫くように架けられた鉄橋。無人機が撮った写真には橋の上で警戒する2両の戦車が写っている。

 

『こちら側から戦車で要塞に向かう事は不可能だ。地形の制約があるからな。だが、向こう側は要塞まで輸送機で運び、そこから伸びるルートで橋に戦車を配備できる。ハッキリ言って強行突破は不可能というわけだ』

 

 

続いてエスペランサ共和国軍から提供された映像が流れる。

 

 

 

 

『こちらシューター01、攻撃ヘリがやられた!敵は携帯式対空ミサイルを装備している!』

 

ヘリの機首カメラで撮影されたと思しきその映像には、山肌から伸びたミサイルが前方の機を直撃する様子が映し出されていた。

 

 

 

『共和国軍はヘリ部隊で防空システムの目が届かない峡谷を通って橋を制圧、その後に対戦車装備も含め重武装の部隊を下ろし、そこから陸路で要塞に向かう筈だった…だが、ヘリが峡谷を通ってくる事は想定済みだったというわけだ』

 

低速なヘリでは橋に辿り着く前に道中で待ち構える携帯式対空ミサイルに喰われる。

 

 

『そこで、この難所を制圧する為にこの部隊に来てもらうことにした』

 

切り替わったモニター映像を見た兵士の数人が納得したように頷く。

 

 

 

『橋を攻略したら要塞から人質を救い出す』

 

 

映像が再び要塞に戻り、『組織』の部隊が侵攻するルートを示す赤い矢印が要塞に向かって数本ほど伸びていく。

 

 

『橋が落ちてから要塞側にその事実が伝わるのは早いだろう。救出部隊は先行して要塞に潜入し内部協力者と接触、迅速に人質を救出して脱出しろ。要塞の制圧と標的の抹殺は別の部隊に命じてある』

 

 

 

兵士達から質問がない事を確かめ、間を置くと司令官はゆっくりと、しかしハッキリと命じた。

 

『では、これよりオペレーション・トレノを開始する。諸君らの健闘を祈る!』

 

 

 

 

――――――次回に続く

 




如何だったでしょうか?

今回はミーティング中心だったので少々物足りなかったかもしれませんね。


どのようにして難所である橋を攻略するのか?そのヒントがありますので良ければ探してみてください。



最後に二次創作を作るにあたって私が独自に加えた要素に関する簡単な設定を紹介したいと思います。それでは、また次回!





【オリジナル設定集】



・エスペランサ共和国

正式名称はティエラ・ジ・エスペランサ共和国。国名はスペイン語で『希望の大地』を意味する。

作中時間の約20年前に建国された中東の新興国家で、建国時の混乱に起因する内乱が長く続いた事から国の立て直しと治安の回復が急がれる状態。

なお農業エリアにおける食糧の盗難・横流し及び警察力の不足による治安の低下が大きな問題となっており『農作物警備隊(略称:CST)』と『ブラックマンバ・セキュリティ(略称:BMS)』が同国に派遣されている。

【※CSTとBMSはベナトル氏の作品に登場する組織です。】


公用語は英語とスペイン語。かつて、欧州・南米で力を振るった覇権国家の影響下にあった事から中東の文化と西方の文化が入り混じったユニークな国でもある。





・AV-8E ハリアーⅢ

AV-8B ハリアーⅡの設計をベースにして開発された発展モデルで少数がPOCUに配備されている。原型機からの主な変更点は以下の通り。

・軽く丈夫な素材でエンジンを軽量化

・複合材料による機体の軽量化(エンジンと併せて燃費改善)

・機体の大型化(原型機より一回り大きい)

・最新のアビオニクスへの換装

・操縦の一部自動化による安全性の向上

・フライ・バイ・ライトの採用

あくまでも攻撃機であり、同じSTOVL機のF-35Bと比べると戦闘機としての能力では負けるがVTOL能力を活かしたトリッキーな戦い方が出来るため重宝されている。


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報告書002『希望の大地:中編』


エスペランサ共和国の裏社会を牛耳る犯罪王エンリケスに囚われた女性達を救出すべく『組織』はオペレーション・トレノを発動する。


しかし、エンリケスの要塞へと続く唯一のルートを塞ぐ要所である橋が彼らの前に立ちはだかる。




20XX年Y月某日 中東:ティエラ・ジ・エスペランサ共和国・陸軍基地

 

 

山岳地帯を走破可能な四輪駆動車両に次々と『組織』の兵士が乗り込む中、将校がひとりの男を連れて先頭車に向かう。

 

 

「彼が例の?」

 

運転席の兵士が将校の後ろに控える、エスペランサ共和国陸軍の戦闘服に身を包んだ男を見やる。

 

 

「そうだ、エリアス・アロ・ラミレス中尉。前作戦の生き残りで…囚われた恋人を救いたいと言って同行を希望している」

 

 

「そうですか、なら失敗出来ませんね」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

山岳地帯へと向かう国道に沿って走る車両の中で揺られながら大尉はラミレスの方を見やる。

 

 

「向こうで無事を確認する時に必要だが、囚われた恋人の名前は?」

 

「アリシアです。アリシア・ロレンソ・マレス」

 

 

そう言いながらスマートフォンを開き、見せてくれた画像はラミレスが同年代の女性と抱き合いながら笑っているモノだった。

 

「アリシア・ロレンソ・マレス…だな。顔も確かに覚えた」

 

 

画像とは対照的に不安と焦りが浮かぶラミレスの表情を眺め、闘志をみなぎらせる大尉。

 

 

 

しばらくして山へと続く道を塞ぐ検問で停止し、『BMS』と書かれた防弾ベストが目を引く兵士が運転手の方を見る。

 

短いやり取りの後にゲートが開き、兵士が道の脇へと下がった。

 

 

「さて、いよいよ殴り込みといきますか」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

遥か下に峡谷を望む山肌でクーラーケースからペットボトルを1本取り出し、冷たい中身を喉へと流し込むモヒカンヘアーが特徴的な戦闘員。その腕にはエンリケスの組織に属することを示すタトゥーが彫られていた。

 

「先輩、今日も平和っすね」

 

 

 

数日前に複数のヘリ相手に一方的な勝利を収めた余裕からか、すっかり油断しきっている様子だ。

 

そんな後輩の様子を咎めることもなくパラソルの影でビーチチェアに横たわるスキンヘッドの男。

 

 

 

すると、どことなくジェットエンジンの轟音が響いてくる。

 

「この時間帯なら定期便だろうな」

 

 

 

その言葉通り、上空を大型輸送機が通過していく。

 

 

 

 

 

彼らが異変に気付いたのはそれから数十秒後の事だった。

 

「………このエンジン音、いつもと違うぞ」

 

 

上空を飛んでいるのは間違いなく犯罪組織が定期的な物資輸送に用いている機体だ。だが、それをいつも聞いてきた耳が違和感を告げる。

 

 

 

 

―――――――――次の瞬間だった。

 

 

狭い峡谷を武装した航空機が複数、猛スピードで駆け抜けていったのは。

 

 

「!?」

 

 

僅かな操縦ミスで峡谷の絶壁に機体もろとも突っ込むにも関わらず、正確な操縦によって峡谷のカーブに沿いながら飛ぶ姿に見とれていたふたりは数秒後にそれが敵襲であると気づき通信機を手に取る。

 

「……繋がらない!?まさかあの機体にジャミングされた?」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その異変は橋の上でも起こっていた。

 

「本部、応答してくれ!……クソッ!」

 

 

定期連絡の為に開いた通信が繋がらず悪態をつく男。

 

「戦車の通信機がイカれたのか?いや…スマホも繋がらねえ。一度本部に戻って確認を――――」

 

 

 

次の瞬間、峡谷の方からジェットエンジンの音が聞こえてきたかと思うと左右を絶壁に挟まれながら複数のハリアーが飛来、橋のやや上方でホバリングして男やその部下達を睨みつけた。

 

その主翼の下に積まれたガンポッドの砲口が自分達を向いているのに気付いた男が思わず口を開いた瞬間、全機で合わせて2000発をゆうに超える25mm砲弾が橋の上にあるものを容赦なく粉砕する。

 

 

『こちらアサシン01、橋は制圧した。繰り返す、橋は制圧した』

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

『こちらアサシン01、橋は制圧した。繰り返す、橋は制圧した』

 

 

ハリアー部隊の隊長から入った通信に拳を握りしめる大尉。

 

「聞いたな。要塞に潜入するぞ、内部協力者との無線は常時オープンにしておけ」

 

 

 

戦車の残骸を避けながら橋を通過し、車内の緊張が高まる。

 

 

「そろそろ降りるぞ、準備しろ」

 

 

 

道の端に車両を停め、周囲を警戒しながら要塞へと向かう兵士達の前方にひとりの男が現れた。

 

「大尉、前方に間男を発け――――」

 

「待て。………“暗闇の中で!”」

 

 

大尉が大声で発した言葉に向こうが頷き、『光が射すのを待つ!』と応える。

 

 

 

「内部協力者だ、撃つな」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

要塞の裏口から入り込む兵士達。その前方で内部協力者のひとりが周囲を警戒しながら先導する。

 

 

「この建物の中だ……今、何人かが警備にあたっている筈だ、素早くやらないと潜入に気付かれる」

 

 

「わかった、さっき貰った建物内部のマップデータによれば地下5階……だな?」

 

大尉が確認するような口調で尋ねる。

 

 

「ああ。幸運を祈る」

 

 

技術兵がセキュリティシステムをハッキングし、警報システムを無力化した事を告げると大尉の両眼がMCUガスマスク越しに地下へと続く階段を睨みつけた。

 

「これより突入する。武器を構えろ」

 

 

部下達の準備が終わったのを確認し、大尉の口から号令が放たれる。

 

「奴らに慈悲は一切無用だ、いいな。……突入!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「純愛保護のお時間だ!!!」

 

 

「〇ね間男!」

 

 

 

兵士達が容赦なく火器をぶっ放し、犯罪組織の戦闘員達が次々となぎ倒されていく。

 

 

「奴ら、バリケードに逃げていきます!」

 

そのバリケードで戦闘員が軽機関銃をセットしようとするが、ミニガンで武装した重装兵が得物を構える。

 

 

「〇ねえええぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

圧倒的な発射速度で大量の7.62mm弾を撃ち込まれ、僅か数秒で粉砕されるバリケード。

 

 

 

 

「よし、これで最後か!」

 

それでも警戒を怠らず、女性たちが囚われているエリアの扉を潜る大尉。

 

 

 

やがて独房の扉が並ぶ廊下に辿り着き、部下達がスペアキーで次々と独房の扉を開けていく。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

いきなり扉が開けられ、身構えるアリシア。

 

 

突如として現れた兵士の表情はMCUガスマスクに覆われて見えなかったが、悪意は感じられない。

 

「助けに来た。名前は?」

 

 

「アリシア。アリシア・ロレンソ・マレス……」

 

すると兵士が「大尉!居ました!」と大声で上官らしき人物を呼び、やがてそれらしき男が現れた。

 

 

 

「良かったな、無事だぞ」

 

大尉が後ろの方を向くと、そこには忘れられない顔があった。

 

 

 

「――――――――エリアス?」

 

「アリシア!」

 

 

驚きのあまり唖然とするアリシアとは対照的に嬉しさのあまり目に涙を浮かべるラミレス中尉。

 

「良かった、アリシア……無事で」

 

 

 

そこに申し訳なさそうに割り込んだ大尉が脱出を促す。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

エスペランサ共和国陸軍基地

 

 

『こちら救出部隊!人質を救出し、内部協力者共々要塞からの離脱を完了しました!』

 

 

 

通信機から聞こえてくる声に喜びが滲んでいるのを確かめた指揮官は満足げに頷き、そして横目でオペレーターを見やった。

 

「予定通り要塞制圧戦に移行する――――ここからが本番だ!」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

要塞・飛行場

 

 

 

地対空ミサイルを搭載したジープの運転席で戦闘員が電子タバコを咥える。

 

「ったく、相変わらずやかましいな」

 

 

輸送機のエンジン音で昼寝も出来やしない――――そんないつも通りの愚痴をこぼした瞬間、いきなり地平線から複数の大型機が現れた。

 

 

「!?」

 

 

 

そして彼は一瞬で理解した。

 

「防空システムの目から逃れる為に山肌ギリギリの低空飛行でここまで飛んできたっていうのか!?」

 

 

 

(だがしかし、何の為に――――?防空網の目を潜り抜けられたとしてもあの高度では爆撃もミサイル発射も出来んぞ?)

 

しかし大型機の後方にある扉が開放された瞬間、答えは示された。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

漆黒の輸送機からLAPES方式で投下されたT-90戦車の砲口が地対空ミサイルを睨み、片っ端から砲撃で粉砕していく。

 

 

その先頭をゆく車両に乗り込んだ指揮官が戦況マップを確認し満足げに頷く。

 

「順調だな、防空網を片付けたら後方に控えている空挺部隊に連絡だ!」

 

 

 

飛行場に戦車砲の轟音が響き渡っていく――――

 

 

 

 




如何でしたか?


次回はいよいよエンリケスへの制裁タイムです。しかし呆気なくやられるのは面白くないと思いますのでド派手にやります。お楽しみに!

最後に今回のラストあたりに登場した輸送機の簡単な設定を紹介したいと思います。それでは、また次回!




【オリジナル設定】


・IL-300

東側の輸送機メーカーを中心にインドをはじめ複数の航空機メーカーが共同で開発した超大型輸送機で主力戦車を輸送する事も可能。

主力戦車をLAPES方式で投下できるように設計されており、POCUではこれを活かした奇襲が有効かどうかをテストしている。



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報告書003『希望の大地:後編』

エスペランサ共和国の裏社会を牛耳る犯罪王エンリケスに囚われ、商品となるのを待つばかりだった女性達を救出した『組織』。


いよいよエンリケスの要塞を制圧し始めるが――――




20XX年Y月某日 中東:ティエラ・ジ・エスペランサ共和国・山岳エリア

 

 

 

 

要塞を難攻不落の城たらしめた強力な防空システムを構成するミサイル発射機や防空レーダーが片っ端から戦車砲弾を撃ち込まれ木端微塵に爆散する。

 

 

強力な機甲戦力に攻め込まれる事を全く想定していなかった要塞の防衛部隊は漆黒のT-90戦車に悉く駆逐され、既に壊滅していた。

 

 

 

「ほとんど片付いたようだな、掃除を済ませたら空挺部隊に知らせるぞ」

 

戦車部隊の指揮官が満足げにそう言った瞬間、轟音と共に戦闘機が上昇していった。

 

 

「………は!?」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

数分前 要塞地下・極秘エリア

 

 

 

「そうか、既に地上の滑走路は制圧された…か。まさかコイツを使う日が来るとはな」

 

 

共和国内で「悪魔」と呼ばれ恐れられる男、サバス・ブエノ・エンリケスは飛行服に身を包んだ姿で大型の戦闘機――――ミグ31を見上げていた。

 

「マッハ2.8で逃走するコイツに追いつける戦闘機などそうそうあるものではない。あったとしても奴らは持っていまいよ」

 

 

 

「バカンス先」では部下が既に「別荘」の準備および海外資産の一部現金化を進めていることだろう。

 

前席で準備していたパイロットが搭乗を促す。

 

 

 

 

「コイツを飛ばす為だけに山を掘ってトンネル式滑走路を作ったのは正解だった」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

猛スピードで上昇し要塞から離れていくミグの姿に数秒ほど唖然となった指揮官の表情がハッと我に返ったように動き始める。

 

「こちらランサー、要塞から逃走する機体あり!地上とは別の滑走路を利用した模様、チラッと見ただけだがアレはおそらくミグ31だ」

 

 

 

 

 

その知らせに『組織』本部のオペレーターが顔色を変えて振り向くが、司令官は顔色ひとつ変えずモニターを見ていた。

 

 

「狼狽えるな、逃走ルートは概ね予測した通りだ。アラビア海に展開している艦隊に連絡。切り札を使うぞ」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

アラビア海 駆逐艦ズムウォルト級

 

 

白波をたてながら航行する最新鋭駆逐艦の要となるレールガン、その砲口は遥か彼方の目標を睨んでいた。

 

 

 

 

 

ズムウォルト級:CIC

 

 

 

「向こうの軍から送られてくるデータに異常はないようです」

 

副長が艦長に報告する。

 

 

 

「うむ、彼らはエンリケスとの間で逃走中の際に領土および領空を通過する間、手を出さないという密約を結んでいたようだが、問題あるまい。手を出すのは彼らではないのだからな」

 

 

一呼吸おいて艦長の口から命令が発せられる。

 

 

 

 

「レールガン発射用意!状況を報告せよ」

 

 

 

 

 

「データリンク、異常無し!」

 

 

「レールガン砲身、異常無し!」

 

 

「特殊弾体、装填完了!」

 

 

「電力、チャージ完了!」

 

 

 

オペレーター達から次々と報告が入る。

 

 

 

「よし……レールガン、発射!」

 

 

「レールガン、発射!」

 

 

 

 

砲口から雷の尾を引きながら砲弾が弾き飛ばされ、遥か彼方へ消えていく。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

要塞を脱出し機首を西へと向けたミグのエンジンがひときわ大きく唸る。

 

 

「結局、追撃してくる戦闘機はいなかったな。追い付けずに悔し泣きする奴らの顔が見たかったが残念だ」

 

 

 

 

後席で高笑いするエンリケスに前席のパイロットも思わず笑いだす。

 

 

「ええ、ボス。連中は想像以上に腰抜けだったようです。……お、レーダー波を照射されていますな」

 

 

 

 

パイロットの声に緊張感が無いのもそのはず、普段から『逃走ルート』上の国の役人にドル束を握らせてきた見返りが今まさに履行されているのだ。

 

 

「まあ、見なかったフリをする約束とはいえ全く仕事しない訳にはいかんだろうよ。ポーズだと思って無視してよかろう」

 

 

 

 

――――――――次の瞬間。

 

 

 

すぐそばで巨大な爆発が起こり、火球がミグの機体を呑み込む。

 

 

 

エンリケスの声にならない絶叫は彼の肉体ごと炎に飲まれて消滅した――――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

アラビア海 駆逐艦ズムウォルト級・CIC

 

 

 

「現地のレーダー部隊より連絡、新型の超長距離空域制圧弾は目標に命中した模様!」

 

 

オペレーターの報告にCIC内の士官達が歓声をあげる。

 

 

 

 

「航空機に直接、砲弾やその破片を当てるのではなく広範囲の爆発に巻き込む…………上手くいくとは」

 

 

副長が驚きを隠せない表情で呟く中、艦長は満足げに頷いていた。

 

 

 

 

 

「友軍レーダーの情報があったとはいえ、遥か彼方の標的を一発で仕留めるとはな。砲術長、よくやった」

 

 

大仕事を終え、緊張の汗で濡れたキャップを脱いだ砲術長の肩に艦長の手が置かれる。

 

 

「今夜は食堂で手羽先大盛セットを奢ってやる」

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

数日後 エスペランサ共和国 高級ホテル

 

 

 

上等なスーツやドレスに身を包んだ客が見守る中、ステージで中東の伝統的な踊り子の衣装に身を包んだアリシアが華麗に舞う。

 

その美しい舞に客席から大きな拍手が響き渡る。

 

 

 

舞台裏の楽屋に戻り、タオルで顔の汗を拭うアリシア。

 

「良かったよ、アリシア」

 

 

楽屋の入り口に立つ軍服姿の男――――ラミレス中尉。

 

 

 

 

バルコニーに出たふたりの頭上で満月が美しく輝く。

 

「楽屋まで来るなんて珍しいじゃない、エリアス。どうしたの?」

 

 

「ああ…暫くこの国を離れることになってね。ちゃんと話しておこうと思ったんだ」

 

その表情は寂しげでありながらも、固い決意が見て取れた。

 

 

 

「僕はまだ弱い。だから、もっと強くなる為に外国に留学する事にしたんだ」

 

バルコニーの手すりに置かれたラミレスの手にアリシアのそれが重なる。

 

 

 

「留学が終わるまでずっと向こうに?」

 

 

「いや、年に1回くらいは休暇を取って戻ってくるよ」

 

 

 

 

次の瞬間、ラミレスの身体を細い腕が包み込んだ。

 

「絶対に会いに来てよ?」

 

 

「もちろん」

 

 

 

ふたりは額を重ね、今ある幸せを噛み締めるのだった。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

――――数年後 組織の基地

 

 

 

司令官用オフィスの壁に掛けられたコルクボードに固定された幾つかの写真。

 

 

 

その中には、青く輝く海を背景に誓いの口づけを交わすラミレスとアリシアを写したモノがあった。

 

 

 

 

「構わん、やれ。間男に遠慮は要らん」

 

インカムで現場に指示を飛ばしていた司令官がボードの前で立ち止まり、しばしそれを見つめる。

 

 

 

結婚式を写した一枚の隣には新しい命を迎えて幸せそうに笑うふたりの一枚が並んでいる。

 

 

 

 

 

――――――――よく、言われる。金も名誉も欲しない我々は一体何の為に戦っているのか、と。

 

 

 

 

「――――――――誰もがこのような笑顔で居られる、そんな世の中にする。それだけで危険を冒すに値するさ」

 

 

 

 

 

彼らは今日も何処かで闘っている。

 

 

己の汚らわしい欲で愛を破壊し引き裂こうとする悪を討つべく。

 

 

愛し愛される喜びと幸せに満たされた日々を送る人々の平穏を終わらせない為に。

 

 

 

 

彼らの名はPure Love Protection Organization Combat Unit 、又の名をPOCU――――純愛保護機構戦闘部隊という。

 

 

 




如何だったでしょうか?


原作のコミカルなPOCUをちょっと違う側面から、イメージを壊さずに彼らの物語を描く事が出来ていたら幸いです。

エスペランサ共和国での物語はこれで終わりになりますが、また新しい物語を描いていけたらと思います。



最後に、作品を貸してくださったベナトルさんに感謝の意を表します。

それでは、また新しい物語でお会いしましょう。



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問われる正義
報告書004『熱砂の国:前編』



前回の作戦から数ヵ月後。世界は小規模な争いが続きつつも大きな戦乱はなく平和とは言えないまでも比較的穏やかな日々を過ごしていた。

しかし、POCU本部が置かれているヤマ大国を起点に大きな動乱が起こる。




 

 

 

――――――――ヤマ大国・軍港

 

 

同国の防空レーダー施設からもたらされたその一報は湾内で警戒にあたっていたクラーレン共和国海軍・ヤマ駐留軍所属の駆逐艦に届けられた。

 

 

 

 

駆逐艦:CIC

 

 

「レーダー施設からのリンク情報によれば、この港に5機の航空機がマッハ1で接近、針路が変わらなければあと20分でここに到着するとの事です」

 

 

「迎撃準備、警戒を怠るな!」

 

 

 

艦長の号令で慌ただしくなるCIC。しかし、次の瞬間レーダーが更なる危機を告げる。

 

「何だ!?」

 

「航空機から飛行物体が合計10機分離――――速度、マッハ3!」

 

 

 

超音速で艦艇を貫く一撃必殺の長槍――――超音速対艦ミサイル!

 

 

駆逐艦や港に停泊していた各艦艇のVLSから次々と対空ミサイルが打ち上げられ、遥か彼方へと飛び去っていく。

 

レーダー上で、味方のミサイルが敵ミサイルを示す赤い光点めがけて接近するも次々とすれ違い、空しく消えていった。

 

 

それを固唾をのんでクルーが見守る中、追加で打ち上げられたミサイルが赤い光点と重なり、双方とも消える。

 

 

「や、やったか!?」

 

クルーのひとりが思わず声を漏らすも、「油断するな」と艦長に窘められた。

 

 

 

「まだ1発しか落とせていない!全力で迎撃しろ!」

 

2発目……3発目………そして迎撃ミサイルが尽きる。

 

 

 

「諦めるな、CIWSで迎撃するぞ!」

 

駆逐艦のCIWSが天を仰いだ次の瞬間、空に複数の光が見えたかと思うと対艦ミサイルが超音速で突っ込んできた。

 

 

 

CIWSが吼え、必死にミサイルの軌道を追いかけるが中々当たらない――――――縮まる距離――――クルーの額に噴き上がる汗――――

 

 

ギリギリの所でCIWSの20ミリ砲弾がミサイルを撃ち抜き一瞬だけ駆逐艦がオレンジ色に染まった。

 

 

 

艦艇を沈められるだけの炸薬がもたらす破壊力から完全に逃れる事は出来なかったのか、艦橋の窓は砕かれるかヒビが入り、レーダーも被害を受けたもののクルー達は自分達の幸運に感謝した――――が。

 

 

残り6発のミサイルが天空から一気に艦艇を刺し貫く銛となって港に停泊していた艦船に容赦なく牙を突き立てていく。

 

 

 

「何てこった、あれじゃあ相当死んでるぞ!」

 

艦橋に上がったクルーの1人が信じられないと言わんばかりに燃え盛る港を見つめる。

 

 

 

――――――――

 

港を襲撃した敵機は海面ギリギリの低空で編隊を組んで帰路についていた。

 

 

 

「こちらパンサー01、任務は完了した。これより帰投する」

 

 

『ご苦労。奴らに対する強力なメッセージになった事だろう』

 

 

 

満足げに頷いているであろう上司の声を最後に沈黙した通信機から隣の編隊機に目を移す。

 

「このままあと数百キロは低空だぞ、気を抜くな―――――」

 

 

 

次の瞬間、上空から浴びせられた機関砲弾が部下の機を貫く!

 

 

部下の機はそのまま海面に突っ込み、爆発音と共に立った盛大な水柱が指揮官機を濡らした。

 

 

 

「―――――――――来たか……!」

 

 

指揮官が上を見上げると同時に、どこまでも広がる蒼空において自らの存在を示すかの如く漆黒の塗装を纏った戦闘機が複数機、上から襲い掛かってくる。

 

そして、機体には鮮やかな赤文字の『POCU』が。

 

 

 

「全機、散開!Su-33だ!」

 

 

 

――――――――

 

 

Su-33 コックピット

 

 

 

『白昼堂々、随分とやってくれたじゃないか?』

 

獲物を前に酸素マスクの下で唇をなめるパイロット。

 

 

 

『何処の連中だ?ドニエステルの残党?PLD?レギオン?』

 

『傭兵連盟やP&D社の回し者かもしれんぞ』

 

 

 

『それは然るべき部署に任せればいい。我々は我々の任務を果たすだけだ』

 

 

無線機が部下の言葉で賑やかに喋り出すのを窘めた隊長の両目が海面から飛び上がってくる敵機を見据える。

 

 

 

『この不届き者どもを狩り尽くすぞ、純愛保護機構戦闘部隊の名にかけて』

 

 

 





如何でしたか?今回はベナトル氏のPOCU世界観を取り入れてみました。


これから、より一層この世界観を鮮明に表現出来たらと思います。


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報告書005『熱砂の国:中編』


POCUが本部を置くヤマ大国の港が国籍不明機の攻撃を受け、クラーレン共和国海軍の艦隊に甚大な被害がもたらされる。

そして攻撃を加えた不明機は逃走を図るものの、POCUの航空隊に道を阻まれた。




 

 

――――――――――ヤマ大国・領海上空

 

 

『敵は単座型フランカー!詳細な形式は不明』

 

部下の報告どおり、流麗な曲線はフランカー系列のそれだった。しかし、隊長の中の勘が目の前の敵機に疑念を感じとる。

 

 

 

(確かにフランカー系列だが………何だ、この違和感は?)

 

 

 

後ろについた敵機をコブラ機動で前へと押し出し、機関砲で撃ち抜く。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

不明機・コックピット

 

 

『ミラーがやられた!』

 

部下の悲鳴に舌打ちする指揮官。

 

 

 

『キムに続いてミラー………油断するな、こいつらは手練れだ!チェン、ホウジョウ!単機での戦闘は禁止、私と編隊を組み、互いの後ろをカバーしろ!』

 

 

そう命じつつ、ホウジョウ機の後ろについたSu-33を背後から攻撃する。

 

 

 

――――――――――

 

 

Su-33・コックピット

 

 

『おわ!?』

 

すぐ右を機関砲弾が追い越し、反射的に左へと舵を切る。

 

 

 

『くそっ、あと少しで墜とせたのに!』

 

そう毒づくと同時に無線が入り、隊長の声が響く。

 

 

『単機で深追いするな!必ず後ろを僚機に見張らせろ!』

 

 

敵味方の飛行機雲が入り乱れ、互いに攻撃を妨害し攻守が入れ替わっていく中で最初に痺れを切らしたのは敵だった。

 

 

 

――――――――――

 

 

不明機・コックピット

 

 

少しずつゼロへのカウントダウンを刻む燃料計に目をやったチェン中尉がコブラ機動でSu-33の背後を取り、引き金に人差し指をかける―――――が、失速した瞬間を他の33に突かれ、機関砲弾で機体をズタズタに引き裂かれる。

 

 

 

そして数的劣勢に陥り一気に包囲された指揮官の機体にミサイルが浴びせられ、呆気なく砕け散った。

 

『バルツァー大尉!』

 

 

次は私だ――――――そう判断した北条中尉は脱出装置のレバーを引く。

 

 

 

 

――――――――――

 

Su-33・コックピット

 

 

『残り1機!後はこいつを―――――』

 

敵機をロックオンするのと、HUDの中で敵機のキャノピーが弾け飛ぶのは同時だった。

 

 

続いてシートごと射出されたパイロットのパラシュートが開き、ゆっくりと海面へ下りていく。

 

 

『判断が早い。良いパイロットだ』

 

 

 

無線から敵パイロットに称賛を贈る隊長の声が響く中、イーデン・ウィルキー中尉は救難隊に敵パイロットの救助を要請するのだった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

ヤマ大国での事件は国連にも伝わり、世界が注目する事となった。

 

 

しかし、この時世界はまだ気付いていなかった。

 

 

ヤマ大国の事件は、全ての人間がその在り方を問われる大きな動乱へと繋がる序章でしかない事に。

 

そして、POCUにとって『純愛を護る』という理念を問われる大きな試練になる事に。

 

 





『希望の大地』編では、あくまでもPOCUの日常的な内容をイメージして書いていましたが、今回はPOCUの在り方に関わっていく長編にチャレンジしたいと思います。

現在進行中の『熱砂の国』はそのプロローグ部分にあたります。


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報告書006『熱砂の国:後編』



POCUが本部を置くヤマ大国の港が攻撃を受けた事件で世界が揺れ動く中、様々な勢力が動き始める。


その一方、POCUでは捕虜となった不明機パイロットの尋問が行われていた。



※今回は戦闘シーンありませんが、次回の話で武装JKにチャレンジします。


 

 

 

 

――――――――ヤマ大国・POCU施設

 

 

 

公衆衛生監視課が使用するフロアの一室に近づくスーツ姿の職員。

 

 

 

「お疲れ様です」

 

「はい」

 

 

部屋を警備する職員を労ったその青年がドアを開けると、そこには椅子に腰かける女性が居た。

 

 

 

「北条 沙紀さん…ですね」

 

 

 

 

東洋系の顔立ちをしたその人はウェーブを描きながら背中まで届く髪をかき上げ、「イエス」と頷いた。

 

 

「私はスコット・ドーソン。今日は貴方に色々とお聞きしたい事があります」

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

「所属や目的については話してくれないんですね?」

 

 

「ノー、それは私の立場では話せない」

 

 

 

参ったと言わんばかりの表情で尋ねるスコットに沙紀は無表情で応じた。

 

 

「やれやれ……一応あなた方は民間の施設や船舶は攻撃していないので処刑の対象になる可能性は低いとは思いますが、所属を明らかにして頂かないと攻撃の全責任を問われる事になりますよ?」

 

 

「いずれ分かる。どちらにせよ今はどう頑張っても無理」

 

 

 

肩をすくめて立ち去るスコットの背中を沙紀が目で見送る。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ヤマ大国・POCU本部

 

 

 

「やはり国連は直ぐには動けないのですか?織田一佐」

 

POCU司令の問いに頷く軍人。砂漠地帯の迷彩で彩られた日本国自衛隊の制式野戦服にはロービジ塗装の日本旗と国連旗のワッペンが貼られていた。

 

 

「はい。ご存じの通り、我々ヤマ大国派遣軍は国連の承認を得た任務の範囲を逸脱して戦闘を行う事は出来ません。これは日本国自衛隊だけでなく各国軍も同様です。申し訳ない」

 

 

 

 

「分かりました。元より我々で片をつける準備はしてありますのでご心配なく。それよりもこの国の防衛に専念してくださると助かります」

 

 

 

――――――――

 

 

 

「今回も私達の出番みたいですね、司令」

 

廊下を歩いていると、隣からそんな声が飛んできた。

 

 

 

「そのようだな。場合によっては大々的に戦力を動員する必要がある。改めてヤマ大国派遣軍に参加している各国軍の指揮官や国連のオブザーバー、UMAPと調整するよう指示を出しておいてくれ。ドニエプル共和国派遣艦隊の司令官にもな」

 

 

 

 

「はい、直ちに」

 

 

銀髪に緋色の瞳が特徴的な副官はハキハキとした声で返事し、スマートフォンで各部署に指示を出し始めた。

 

 

 

(今回の件……大きな嵐になりそうだな)

 

司令官の胸で芽生える不吉な予感。それはやがて的中する事になる――――

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

ニューヨーク・国連本部ビル

 

 

 

オフィスの窓から外を眺めるひとりの男。

 

 

「人類は正義の名のもと安寧を得ようとしてきた。しかし、人類は法と正義よりも面子と利権を取り続けてきた――――実に愚かなことだ」

 

 

大雨に打たれる都市を眺めながらワインを口に運び、しっかりと味わう。

 

 

 

「悪は徹底的に滅ぼされなくてはならない。そして、その為には問答無用で悪を滅ぼす力が必要だ。そうは思わんかね?POCUの諸君――――」

 

口元が笑みで歪むものの、その瞳に感情はなかった――――

 

 

 

 

 






今回は戦闘シーンが無かったので少々物足りなかったと思います。

前述したように次回は武装JKに初挑戦しますのでお楽しみに!


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報告書007『反逆の乙女:前編』


世界が揺れ動く中、日本のとある村では数人の女子高生が己の身に降りかかる理不尽な運命に抗うべく反逆の狼煙を上げていた。




 

 

――――日本・某農村地域

 

 

 

夜闇に包まれた校舎に近づく男達。

 

卑しい顔つきをした彼らが校門前まで接近した瞬間、設置されていたクレイモア地雷の起爆ワイヤーに足が引っ掛かり数百個の鉄球の雨をマトモに浴びる羽目になった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

校門のトラップが起動し侵入者を殺害したのを確認する少女。

 

 

半袖シャツにスカートといった夏季仕様の制服にエルボーパッド、ニーパッド、軍用のハイカットヘルメットにヘッドセット、暗視ゴーグルといった装備を組み合わせた特徴的な容姿をした少女――――石火矢 一羽(いしびや かずは)はヘッドセットのマイク部分を指で押さえながら無線をオンにした。

 

 

「聞こえたと思うけど校門に侵入者が現れた。全員クレイモア地雷でズタズタになったけど」

 

 

 

『了解、こちらも警戒を強めておく』

 

クラスメイトの冷静沈着な声が返るのを確かめながら、一羽は数時間前の事を思い出した――――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「……は?」

 

村の老人達から聞かされた言葉に一羽は耳を疑った。

 

 

「うん、隣村の男衆を君達の身体でもてなしてやって欲しいんだ」

 

「お友達も一緒だから大丈夫よぉ」

 

 

 

沸き上がる怒り――――しかし、それを遮るように老人達は続けた。

 

「あのな、お前たちが断ったら俺らの田んぼは水を止められるわけよ?」

 

 

 

「そんなの――――どう考えてもおかしいでしょう!?この無茶苦茶な要求を受け入れて傷付くのは私達であってあなた達ではない!」

 

一羽が怒りを滲ませながら抗議するも、老人達はマトモに取り合わない。

 

 

 

「うーん……」

 

「難しいねぇ~」

 

 

 

 

――――魂が腐っている、と一羽は嫌悪の表情を浮かべる。

 

理不尽さと闘わず、それどころか守るべき子供を進んで差し出そうとする卑劣な行いに走ってでも生き延びようと必死なくせに自分が汚れている事を素直に認めず、あくまでも非は子供の方にあると言いたげな振る舞いに堪忍袋の緒が切れ、ちゃぶ台をひっくり返す。

 

 

 

「てめえ、大人しく言う事を――――」

 

一羽を取り押さえようとした老人の一人が頬を強かに殴りつけられ、吹っ飛ぶ。

 

 

 

こうしちゃ居られない――――そのまま走り出す一羽。

 

 

 

 

 

 

――――――――自宅に逃げ帰った一羽が玄関を開けるや否や、祖父と目が合う。

 

 

「爺ちゃん!ごめん、言う事は聞けない!」

 

 

そのまま殴り倒そうとするが、片手で拳を受け止められてしまう。

 

「くっ――――」

 

 

 

しかし、返ってきたのは予想外の返事だった。

 

「一羽、わしらはお前の味方だ――――婆さん、トラックの鍵をくれ」

 

 

 

すると縁側で煙草を吸っていた祖母が鍵を投げてよこした。

 

「武器弾薬と装備、食糧は手配してあるよ」

 

 

 

「一羽、すまん。この村のクソみたいな風習を止めるには奴らがお前達に実際に危害を加えようとする様子を証拠として押さえる必要があった。来い――――」

 

そのまま自宅の裏手にあるガレージに向かうと、そこには祖父が農作物を出荷する時に使う軽トラックが停められていた。その荷台から知っている声が聞こえてくる。

 

 

 

「二菜(にな)ちゃん!無事だったんだ!」

 

「一羽!」

 

 

荷台の奥には二菜以外のクラスメイトも数人乗っているのが見えた。

 

「一羽、既に仲間が高校の校舎に物資を運び込んでおる。――――おそらく村は電波妨害を使ってお前達の端末を使えなくするだろう。通信は物資の中にある無線機を使え」

 

 

 

「軍用規格だからね、素人が作ったような妨害装置なんて問題ないくらい使えるから安心おし」

 

祖父の言葉を補足する形で続けた祖母がニヤリと笑う。

 

 

 

「どうせ県庁は動かないだろうし、村の連中も外部の人間を入れない為に村を封鎖するだろうから衛星通信で助けを呼んどくよ」

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

学校のグラウンドに到着したトラック。その荷台から降りた一羽達は校舎の最上階にある、防弾ケースや段ボール箱が大量に置かれた教室に案内される。

 

 

そして祖父に示されたケースを開けるとそこには害獣や農作物泥棒の撃退で何度か使用した、カラシニコフUSA製の突撃銃が納められていた。

 

 

 

「助けが来るまでここで頑張ってもらうしかない。――――負けるんじゃないぞ」

 

 

「――――ありがとう、爺ちゃん。何て言ったら」

 

 

 

その言葉を遮るように首を横に振る祖父。

 

「礼は勝ってからだ」

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

見張りを交代し教室に戻った一羽が暗視ゴーグルを外すと、男子が全員『かわいい』と呟く可憐な顔立ちが露わになった。

 

 

「ただいま」

 

「お帰り、一羽」

 

 

整備している銃器から目を離さず、出迎えの言葉を口にする水井 二菜(みずい にな)。

 

 

 

「クレイモアで何人かミンチになったけど、それ以外は変わらずって感じ」

 

二菜の隣に腰かけ、チューブ状の食糧を胃に流し込む。

 

 

 

 

「隣村の奴らがこれで諦めるとは思えない――――今はしっかり休んでおけ」

 

 

 

 

――――籠城戦はまだ始まったばかりだった――――

 

 

 

 






――――如何でしたか?

初の武装JKモノですが、細かい事は考えずに悪漢を火力で吹っ飛ばす感じで行きたいと思います。



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報告書008『反逆の乙女:中編』


村の生存の為に村の若い娘たちに性接待を強要する老人達。

そんな醜い大人に反逆した女子高生達は武器を手に取り、強姦魔どもを圧倒的火力でミンチにする!



 

 

 

――――――――学校・正門防衛ライン

 

 

 

 

 

腕に取り付けたスマートフォン型端末の画面に表示されたマップに浮かび上がる赤点。

 

 

「もう周辺のクレイモア地雷原を突破してきたの?」

 

 

石火矢 一羽(いしびや かずは)は舌打ちし、AK-Alpha突撃銃を構えた。

 

 

 

 

 

『一羽ちゃん、念のために少し下がって欲しいのです』

 

独特な話し方をする友人の声がヘッドセットから聞こえ、その言葉に従う。

 

 

 

 

『それじゃ爆撃を開始するですよ!』

 

 

 

 

上空を飛行する複数のマルチコプター型ドローンから旧ソ連製ロケットランチャーの弾頭部分が投下され、男達の絶叫が響く。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

「いゃっほー!痛快なのですよ!」

 

 

メタルフレームの眼鏡が特徴的な少女、森川 三月(もりかわ みつき)がガッツポーズと共に快哉をあげる。

 

 

「このKMC製の最新ドローン、一回動かしてみたかったのです」

 

 

 

 

「三月はメカ関係好きだからね~」

 

最新ドローンに興奮する三月を微笑ましく見守るように笑う四谷 柚子(よつや ゆず)。

 

 

 

「さぁーて!レイパー共は肥料にでもなって自然の役に立つのですよ!」

 

三月の指がキーボードを叩き、ドローンから更に弾頭が切り離される。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

五色 桜(ごしき さくら)は、一羽とは反対方向の裏門防衛ラインで侵入者を待ち構えていた。

 

 

 

「あんた達になんか負けないんだから…っ!」

 

口角から涎を垂らしながら襲い掛かってくる男達の眉間を突撃銃で正確に撃ち抜いていく桜。

 

 

「っ!弾切れ!」

 

 

身体を反転させて走りながらリロード、再度振り向いて再び射撃を開始する。

 

 

 

「あんた達の脳みそ、頭じゃなくて下の方にあんの!?」

 

嫌悪感を露わにしながら次々と撃ち抜いていくが、理性が下半身に食い荒らされたかのごとく狂った男達の突撃は止まらない。

 

 

 

「くっ――――」

 

勢いに圧されかけたその瞬間、男達の頭が次々と正確な狙撃によって弾け飛ぶ。

 

 

 

 

『援護が遅くなってすまない、三月も柚子がドローンへの弾薬装填を済ませたら来るそうだ』

 

 

体育館の屋根の方を見るとドラグノフ狙撃銃を構えた水井 二菜(みずい にな)の姿が見えた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

二菜は精密機械のごとく男達の頭部をライフル弾で撃ち抜いていく。

 

 

スコープに捕捉した次の瞬間には眉間に照準が定まり、次の瞬間にはスコープの中で血飛沫が舞った。

 

 

 

はじめは勢いに任せて突破しようとしていた男達も二菜の迅速かつ正確な狙撃が作り出す鉄壁の前に恐れをなして反転、逃走を試みる――――――――が、上空から三月の操作するドローンが容赦なく爆撃、彼らの大半はミンチと化した。

 

 

 

『ひとまず敵は撤退したのですよ!自分がドローンで監視するんでしばらく休憩にするのです』

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

「疲れたね~」

 

シャンプーの香りを漂わせながら柚子が話しかけたのは桜だった。

 

 

 

「もう色々しんどいや…一羽んとこの婆ちゃん、応援を呼ぶって言ってたけどいつ来るわけ?」

 

そう言いながら柚子の胸に顔をうずめる桜。

 

 

 

「あらあら~二日目でもうギブアップ?頑張ろうよ」

 

「違うよ!充電してんの」

 

 

 

 

そんなふたりの様子を離れた所から見つめる一羽。

 

(爺ちゃんはもう助けを呼んでいる筈。早ければ明日の朝には来る…と思いたいけどね。強気な桜も色々と限界みたいだし――――)

 

 

 

いくら銃器の扱いに長けていても、彼女たちは戦場とは無縁の子供だった。そして、その限界は早くも迫ってきていた――――――――

 

 

 

 

 

再び柚子と桜の方を見ると、気のせいか桜が「バブバブ」と言っているような気がしてならなかった。

 

「桜ちゃん、いい子いい子~」

 

 

(…………人をダメにするやつだね、アレは。それに成長早いしヤバい)

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

自律飛行モードで哨戒にあたっていたドローンが異常を検知したのは日付も変わって数時間が経過した頃だった。

 

 

警報音と共に飛び起きた三月がパソコンのキーボードを叩き、カメラ映像を拡大する。

 

 

「みんな!奴らが正門の方向に集まってきているです!迎撃準備を!」

 

 

 

「大変だけど乗り切ろうね」

 

飛び起きた柚子が真剣な顔で待機していたドローンにロケットランチャーの弾頭を装填していく。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

正門を抜け、十数メートルの地点で突撃銃を構える一羽と桜。

 

 

「人が寝てるときに来るんじゃないわよ!」

 

 

 

 

ゆっくりと押し寄せてくる男達を次々と撃ち抜く桜。

 

「とにかく撃って撃って!こいつらイカレてる!」

 

 

 

 

『援護を開始する!持ちこたえろ!』

 

『ドローンで爆撃するのです!巻き込まれないように気を付けるのですよ!』

 

『装填は任せてね~』

 

 

 

 

 

ホロサイトに標的を捉え、引き金を引く。咆哮する突撃銃。ヘッドギアを着けていてもやかましく響く銃声。

 

 

 

彼女たちを奮い立たせていたのは、人間の尊厳を絶対に渡さないという強い意志だった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

それでも疲労は押し寄せ、やがて限界が目の前までやって来る。

 

 

 

夜明け前の明るくなった空、その下にはおびただしい数の男たちの死体。それでも、数こそ減らされはしたものの押し寄せる男の群れを全て倒すには至らなかった。

 

 

 

男の数がまばらになった今こそ学校の陣地を放棄して逃げるチャンス――――だったが、それも体力のほとんどを消耗した現時点では不可能だ。

 

 

 

「三月、聞こえる?」

 

 

『……はい、聞こえてるのです』

 

 

 

桜の方をチラリと見ると、彼女も一羽を見つめていた。

 

「弾薬、だいぶ減ったし全員やるのは厳しいと思う――――だから、私達を爆撃して。もう走れないからそっち行く前に追いつかれるかも」

 

 

 

自分でも何を言っているのか、その重みが分かっていない――――という自覚はあった。けれども、それは玩具にされて使いつぶされて殺されるという恐怖に比べれば大した事ではないように思える。

 

 

 

『………分かったのですよ。ちょっとそっちにドローン向かわせますから』

 

 

 

 

やがて上空にドローンが見えた。

 

 

「――――桜、怖い?」

 

 

 

隣の桜に話しかけると、クマが出来た目が力なく見返してくる。

 

「疲れすぎて、分かんないわよ」

 

 

 

 

もう色々と麻痺してきた――――――――そんな感想を抱き、再び上空を見るがドローンに動きはない。

 

「――――三月?」

 

 

 

すると、ヘッドセットから三月の歓喜に満ちた声が返ってきた。

 

『ドローンが新しい反応を見つけたのですよ!もう少し持ちこたえ――――』

 

 

 

次の瞬間、数十メートル向こうまで近づいてきた男達に対戦車ミサイルが飛び込み、爆炎があがる。

 

 

 

「――――!?」

 

 

 

 

 

数秒後、ヘリコプターのエンジン音が風に乗って届いてきた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

地面スレスレを飛行しながら学校に接近するスーパーハインドの編隊。

 

 

「援護対象を確認、学校に押し寄せてくる野郎共は全員レイパーだ。遠慮なくぶちかませ」

 

 

 

編隊長の号令のもと機首の20mm機関砲が唸り、男達が地面ごと耕されていく。

 

 

 

 

やがて圧倒的な火力により男達が残らず地面とかき混ぜられたのを確認し、着陸したハインドから次々と漆黒の戦闘服を纏った兵士達が降り始めた。

 

 

 

 

 

そのひとりが呆気に取られている一羽の前に立ち、手を差し伸べてくる。

 

 

「君の爺さんから聞いた。よく頑張ったな、後は我々に任せてくれ」

 

 

 

 

MCUガスマスクに覆われた顔は見えないが、一羽にとって頼もしく感じられる存在である事に変わりはなかった。

 

 

「――――あなた方は?」

 

 

「――――ああ、俺たちは――――」

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

――――隣村・村長宅

 

 

「純愛保護機構戦闘部隊だと!?」

 

 

 

肥え太った身体を震わせながら怒りの声をあげる村長。その瞳には恐怖よりも性奴隷とするべく飼育させてきた少女たちが自分に逆らった上に厄介な存在に介入された状況への怒りが宿っていた。

 

 

「せっかく“奴ら”に商品を販売する話も上がってきた所だというのに!」

 

 

 

そして目の前で顔を真っ青にして震えている秘書に車を出すよう命じる。

 

 

 

 

 

 

――――続く

 

 

 

 






まだまだ文章力が足らないな~と感じる回でした。もっと色んな小説を読んで勉強しなきゃ…



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報告書009『反逆の乙女:後編』


『村の水源確保の為に、隣村の男衆に若い娘を差し出す』という悪習に抗った女子高生達は無事にPOCUに救い出された。

しかし、POCUの介入を知った隣村の村長が逃亡を図り――――!?




 

 

 

 

――――――――1日前・POCU某基地

 

 

 

 

「人身売買だと?日本の農村で?」

 

 

報告を聞いた基地司令が眉をひそめる。

 

 

 

 

「はい、なんでも農耕に必要な水源を止められたくなければ若い娘を差し出せ、だそうで。売買対象となった子供達は武器を手にして抵抗しているそうです」

 

 

「――――なんと。周りの大人達は何をしている?これまでに通報が無かったのは何故だ」

 

 

 

 

部下が報告書のページをめくり、該当する内容の所で手が止まる。

 

 

「外に助けを求められないよう、妨害電波が発信されており民間の無線は使用できないようです。今回の通報は軍用無線の周波数で来ました」

 

 

 

 

 

ガンッ!

 

 

 

机を叩く音が執務室に響く。

 

 

 

「直ぐに救出の準備を整えろ。司令官には私から報告しておく」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

――――――――現在

 

 

 

道路を疾走する高級車。その後席で必死にスマートフォンを叩く村長。

 

 

「くそ…!出ない!何で出ないんだ!」

 

 

 

 

“商品開発”にあたって製品の性能を実証する環境を提供していた相手は全く応じてくれない。

 

 

 

――――その時、村長の背中に冷たいものが走った。

 

 

 

「!?」

 

 

殺気がした方を向くと、そこには漆黒のヘリの姿が――――

 

 

 

「スピードを上げろ!奴らだ!」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

スーパーハインド・コックピット

 

 

「機長、標的です!」

 

「人身売買の首謀者か――――だが…」

 

 

 

カメラの映像で標的の周辺を見回した機長の言葉が止まる。

 

 

「今攻撃すれば周囲の民間人にも当たる――――」

 

 

 

と、そこへ無線機のコール音が響く。

 

 

『こちらバリオニクス01。こちらは密集地用の装備を持っている、任せろ』

 

 

 

その通信と共に、ジェットエンジンの音が響いてきた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

村長はPOCUが民間人を巻き添えに出来ない事を悟り、笑みを浮かべていた。

 

 

「その情の深さが仇になったな!このまま逃げ切らせて貰うぞ」

 

 

 

 

――――――――次の瞬間、上空から飛来したミサイルが村長を車共々叩き“潰した”。

 

 

『お前らみたいな奴が出てくるのも想定済みなんだよ、外道が』

 

 

上空で発せられたその言葉は、肉片となった村長には届かなかった――――

 

 

 

 

 

 

 

「こちらバリオニクス01。無爆薬対地ミサイルは標的に命中、周囲の民間人の被害はゼロだ」

 

 

EOTSからHMDに送られてくる映像には後席部分だけミサイルが突き刺さった高級車の姿が映し出されていた。

 

 

 

「それにしてもF-35は凄いもんだ。こんなにスマートな仕事が出来るんだから」

 

 

 

 

『バリオニクス01、無駄口叩いていないでさっさと帰投しなさい』

 

 

向こう側のオペレーターはユーモアが足りないようだ――――パイロットは心の中でそうぼやきながら操縦桿を倒し、機体を基地へと向けた――――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

――――数日後

 

 

 

「遺伝子操作だと?」

 

 

司令官に提出された報告書。その内容は驚くべきものだった。

 

 

 

「はい。村の犯罪勢力を掃討した後の調査で判明しました。あの子供達はデザインベイビーの実験体だったようです」

 

 

 

事実、救出した女子高生達は同年代の少女に比べて妙に成長の度合いが早い印象があった――――あれは『そう作られていた』のだ。

 

 

 

「地方の小さな自治体にそんな大掛かりなプロジェクトを実行する予算も技術力も無い筈だ。奴らに協力した組織が居る――――だが、そもそも何の為に?」

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

――――その頃、POCUの計らいでリゾート地に保護された一羽達はビーチを散歩していた。

 

 

 

 

「ウチの村もあの村も行政の手が入って当分は県知事直轄になるみたいなのです」

 

 

先ほどスマホのニュースで見た内容をそのまま皆に伝える三月。

 

 

 

 

 

「村の解体と県への編入も含めて色々と動いているようだ」

 

 

「もともと人が少なくて運営が行き詰まってたみたいだし、そうなるよね~」

 

 

内容を補足した二菜に柚子の言葉が続く。

 

 

 

 

 

 

「あんな村、無くなって当然よ!せいせいするわ」

 

 

桜の言葉に皆が頷く。

 

 

 

 

 

「――――――――そんな訳で私達は自由。これからどうしようか?」

 

 

そして最後に一羽が皆に問う。

 

 

 

 

 

「何だかんだでもう普通の生活には戻れないよね~」

 

 

「むしろ自分達のスキルを活かして食べていく方法を見つけるのですよ!」

 

 

「私は皆に付いていくだけだ」

 

 

「少しは主体性ってやつを持ちなさいよ……」

 

 

 

 

――――あれだけ色々と暴れたのだ。もう普通の生活は厳しいかもしれない。

 

 

 

それでも――――

 

 

 

 

「――――皆とだったらどんな道も怖くないよ」

 

 

 

一羽の笑顔に皆もつられて笑う。

 

 

 

自分の生き方を自分で決める。そんな本当の人生がようやく始まったのだ――――――――

 

 

 






ひとまず武装JK編は今回で終了です。


ただ、今回きりで一羽達の出番が終わるのは惜しいのでまた何らかの形で登場させられたらと思います。



次回以降は再び世界の騒乱に舞台を移して物語を進めていきますのでお楽しみに。


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報告書010『不穏な影:前編』



謎の勢力によるヤマ大国軍港襲撃以来、揺れ動く世界。

そんな中でも変わらず悪党の掃滅に力を注ぐPOCUだったが、水面下で大きな動きが――――




※作中の中国語はグーグル翻訳を使用している為、不正確である可能性があります。

あくまでも雰囲気を出す為のものと思って頂ければ幸いです。




 

 

 

――――――――日本国管轄大陸行政区・某都市

 

 

 

郊外のスラム地区にある廃ビルの一室で商品として監禁される女性達。

 

 

 

 

食事とトイレ以外は外されることのない縄が彼女たちの手首や足首に痛々しい痕を残していた。

 

 

 

 

「你!(お前!)」

 

1人で彼女たちを見張っていた男が、その中のひとり――――この状況下にあって冷静さを失わない女性に話しかける。

 

 

「你的身材很好(いい身体をしているな)」

 

 

スーツの上からでも分かるモデル並みのプロポーションに男が唾を呑み込む。

 

 

 

 

 

 

「即使是二手物品的價格也很高(中古品でも高い値段が付く)」

 

 

手に持った突撃銃を床に置き、その女性の前へと歩み寄る男。

 

 

 

 

 

 

「不要抗拒(抵抗はするな)」

 

 

スーツの前を開き、シャツのボタンを外していく音がする度に周囲の女性達が怯えた表情を浮かべる。

 

 

 

 

――――次の瞬間、女性は密かに拘束を外していた両手で男の側頭部を掴み、その首をへし折った。

 

 

 

 

「全く、なっていないわね」

 

 

 

 

 

 

 

「はい、全てこの部屋に集められています。見張りはひとり居ましたが、片づけました」

 

 

女性達の拘束を解きながら、インカムマイクで本部と交信する女性。

 

 

「――――え?彼らが既に動いている?」

 

 

 

 

 

――――次の瞬間、銃声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

――――数分前

 

 

 

夜の闇に包まれるスラム街の中でも一際目立つ廃ビルの入り口を警備するギャングをボウガンのスコープで捉えた兵士が引き金を引く。

 

 

 

「屋上も含めて見張りは片付けた。いいぞ」

 

 

 

次の瞬間、複数の人影が建物の影から影へと移動しつつ廃ビルへと近づき始めた。

 

 

 

 

短い会話とハンドサインのみで意思を疎通し、静かに、かつ迅速に廃ビルに入っていく人影。

 

MCUガスマスクで覆われた顔から表情は読み取れなかったが、荒事には慣れていると言わんばかりの余裕が感じられた。

 

 

 

 

「事前情報通り、警備はザルだったな」

 

「油断するな、迅速にギャング共を始末するんだ」

 

 

 

ギャングが酒盛りしている部屋へと近づくにつれ、誰も言葉を発しなくなる。

 

 

「――――突入!撃ちまくれ!」

 

 

 

 

半ば壊れたドアを蹴破り、AKライフルの銃声を轟かせる兵士。後続も次々と突入し銃声とギャングの悲鳴はますます大きくなっていく。

 

 

 

 

「逃跑!逃跑!(逃げろ!逃げるんだ!)」

 

運よく逃げおおせたギャング達が裏口へと殺到、そのまま外へと飛び出した次の瞬間――――――――予め待ち伏せしていた重装兵のミニガンと対峙した。

 

 

 

「啊………啊啊…………(あ……ああ…………)」

 

重装兵とミニガンの放つ威圧感に圧され、怖気づくギャング。そんな彼らに慈悲が与えられる事は――――無かった。

 

 

 

「〇ねえええぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

圧倒的な速度で大量に叩き込まれた7.62mm弾の雨がギャングをズタボロに引き裂き、肉片に変えるのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

 

だが、その隙を突くように別ルートから逃げた生き残りが車で重装兵の後ろを過ぎ去っていく。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

オンボロのエンジンを必死に吹かせながら走る車の中でギャング達は悪態をついていた。

 

 

 

「該死的你! 我以為我會賣掉那個女人並得到很多錢!(くそったれ!女を売って大金を手に入れようと思ったのに!)」

 

 

 

「我只想強姦所有那些女人(あの女ども、一度でいいからヤリたかったぜ)」

 

 

そうこうしている間にも車は狭い道を抜けてスクラップが散乱する無人の荒野へと出る――――その時だった。

 

 

 

 

 

突如として周囲のスクラップの山が次々と赤い目玉を光らせる――――否。漆黒の塗装が施されたT-90戦車の特徴的な赤外線ライトがまるでギャングを上から睨み付ける双眸の如く光ったのだ。

 

 

そして、その砲口は全てギャングを見下ろしている。

 

 

 

「哇哦哦哦!!!!(うわあああああああ!!!!)」

 

 

 

 

周囲から容赦なく叩き込まれる砲弾の嵐に、オンボロだった車は当然耐え切れず瞬く間に鉄屑の細かい破片へと変わり果てた。

 

それでも砲撃は終わらず、二十数発の砲弾が叩き込まれた後には何も残らなかった――――――――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「謝謝你!我對人質安全返回充滿感激之情(ありがとうございます!人質を無事に取り返してくれて感謝の気持ちでいっぱいです)」

 

 

 

漆黒の兵士達が廃ビルから助け出した女性達を出迎えたスーツ姿の男が感謝の念を口にする。

 

 

 

「如果您有機會參觀我們的城市,我們很樂意歡迎您!(あなた方がこの市を訪れることがあれば我々はあなた方を歓迎しましょう!)」

 

 

 

 

しかし、漆黒の兵士は静かに首を横に振って答えた。

 

 

「這是我們的使命,你不介意(これが我々の任務です。気にしないでください)」

 

 

 

 

そのまま漆黒の装甲車に乗っかり、去っていく兵士達の姿に男――――市長は静かに呟いた。

 

「“純愛保護機構戦闘部隊”,多麼高貴(“純愛保護機構戦闘部隊”、なんと気高いことか)」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ヤマ大国・POCU本部

 

 

 

「アジア大陸での任務、ご苦労だった。暫く休暇を取れ」

 

現地の部隊に労いの言葉をかけ、通信機を切る司令官。

 

 

 

 

「お疲れ様です、司令官」

 

銀髪に緋色の瞳が特徴的な副官が一冊のファイルを手に入ってくる。

 

 

 

「ああ、君もご苦労。少し休むといい」

 

「では、お言葉に甘えさせて頂きます」

 

 

 

執務室で1人になった司令官はデスク上のファイルを開き、表情を曇らせる。

 

 

 

 

 

「――――――――この所、軍事に転用可能な民生部品の発注が異常に増えているな」

 

 

いずれも複数の代理人を介して取引されており、発注者へと辿り着けないように途中で痕跡が消されている。

 

 

 

 

 

「この前の日本での任務といい、一体何が起ころうとしているんだ?」

 

 

 

 

 





悪党を圧倒的火力で消毒するゲーム、どっか作ってくれないかな~と思う今日この頃です


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報告書011『不穏な影:中編』



ヤマ大国に置かれたPOCU本部の施設では、『とある残骸』の調査が行われていた。

その結果、ある事実が明らかとなる――――




 

 

 

ヤマ大国・POCU本部・技術開発局エリア

 

 

 

厳重な警備が敷かれた倉庫の中に置かれた残骸。

 

 

既に調査の大半が終わっているのか、スタッフの数はまばらで慌ただしさも感じられない。

 

 

 

 

そんな中、残骸を見つめていたメカニックの中年女性が足音に反応する。

 

 

 

「――――わざわざ司令官自ら来てくださるとは」

 

敬礼するメカニックに答礼する司令官。

 

 

 

 

「調査、ご苦労。何か分かったか?」

 

 

そう言いながら司令官が見下ろしたのは、先日ヤマ大国の軍港を攻撃してきたフランカーの残骸だった。

 

 

 

 

 

「そうですね。先に結論から言いますとコイツはフランカーもどきです」

 

 

「何、フランカーもどき、だと?」

 

 

 

 

 

 

メカニックが部品のひとつを拾い上げ、司令官に見せる。

 

「このレーダー部品――――純正品のフランカーには付いていないやつです。どのメーカーのヤツかはハッキリと分かりませんが、少なくとも米欧の規格に合わせて作られているのは確かです」

 

 

 

部品を元の位置に戻し、説明を続ける。

 

「主翼の複合材は、アメリカとかで使われているやつです。エンジンは純正のやつとは微妙に大きさが違うしタービンブレードの材質も違います。細かい仕様は違いますがKMC製フランカーと似ている部分もありますね」

 

 

 

 

 

 

 

しばらく考え込む司令官。

 

「そうか………引き続き頼む」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

POCU本部・公衆衛生監視課(PHMD)エリア

 

 

 

 

 

 

「日本のあの子達ですが、受精卵の段階で多少弄られていますね。それ以外は普通の人間でした。クローンじゃないのは確かです」

 

 

 

銀髪に緋色の瞳が特徴的な副官に手渡した報告書の内容を簡潔に説明する担当官。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。デザインベイビーと聞きましたから驚きましたが。クローンじゃなくて良かったです」

 

少しズレた眼鏡を直しながら報告書を見直した副官の目がある箇所で止まる。

 

 

 

「………銃器の取り扱いに長けているようですね?それに学業の成績も良好。適正さえあればウチで働く事も出来るかもしれません」

 

 

 

 

 

娼婦として適した身体に調整されており、そればかりが目立っていたが兵士としての素質も十分にある――――そこに何者かの意思を感じる副官だった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

某リゾート地・ホテル

 

 

 

 

TVニュースで流れるPOCUへのインタビュー映像。

 

 

「焼却!」「斬首!」

 

 

「戦車で奴の首を吹っ飛ばしてやる」

 

 

「自慢の30mm機関砲で挽き肉にしてやりますよ」

 

 

「そりゃもう機銃でギッタギタよ」

 

 

 

 

 

 

やたら不穏なワードがそのまま放送される事には突っ込まず、手羽先にかじりつく石火矢 一羽 (いしびや かずは)。

 

 

 

 

「く~!頼もしいであります!やっぱり火力は正義なのですよ!」

 

眼鏡のレンズを光らせながら鼻息を荒くする森川 三月 (もりかわ みつき)。

 

 

 

 

 

「なんか最近は火力に目覚めてるみたいだね~」

 

明らかに危険な方向に目覚めつつある友人を止めようともせずノンビリしたコメントを出す四谷 柚子 (よつや ゆず)。

 

 

 

「少しは突っ込みなさいよ…」

 

呆れつつ、隣の友人を見る五色 桜 (ごしき さくら)。

 

 

 

 

「ん?火力主義ならPOCUでは日常らしいぞ?佐事足(さじたり)さんみたいな人がゴロゴロ居ると聞く」

 

三月を止めようともせず、それどころか援護射撃する水井 二菜 (みずい にな)。

 

 

 

 

「火力………か」

 

一羽は改めて口にし、その言葉に自分が魅せられている事に気付くのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

――――某所

 

 

 

 

砂漠地帯の地下に建設された軍事施設は多数の兵士や作業員で活気づいていた。

 

 

 

「テロ組織に動きがあります。男の大半が傭兵として出稼ぎに出ている手薄な村を探っているようです」

 

 

軍用タブレットで隣の男に情報を見せる副官。

 

 

 

 

 

「無人機で追跡した結果、連中の本拠地も判明しております」

 

 

 

「そうか、テロリストを無人機で掃討した上で本拠地を徹底的に叩け」

 

基地の司令を務める男はそう命じた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――同施設・航空機ハンガー

 

 

 

 

 

「どうやらテロリスト掃討作戦があるみたいだが、俺らの出番は無さそうだな。相棒」

 

フライトスーツの上にジャケットを羽織った男が手に持ったコーヒーを飲む。

 

 

 

 

その眼差しはフランカーによく似た戦闘機を捉えていた――――――――

 

 

 






如何でしたか?今回はベナトル氏が創作した世界がどんなものかを文章で表現する、という事を中心に考えて書いてみました。(まだ全部は表現出来ていませんが)



あと、ウチの武装JK、将来的には火力第一主義の武装社会人にしようかなと思っております()



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報告書012『不穏な影:後編』


ヤマ大国のPOCU本部で次々と不穏な事実が明らかになっていく中、同国の辺境で謎の勢力が動き始める――――



 

 

――――POCU本部

 

 

 

「――――司令官!緊急事態です!」

 

 

 

血相を変えた将校が司令官の執務室に駆け込んでくる。

 

 

 

 

 

中佐の階級章を付けた男から書類を受け取る副官のリー・ベクター。

 

その手に持った書類を見た瞬間、表情が険しくなった。

 

 

 

 

 

 

――――曰く、ヤマ大国の辺境で女性や子供しかいない村を襲撃し略奪と暴行、誘拐を働いていたテロリストが謎の武装勢力に殲滅されたとのこと。

 

 

「我々がマークしていたテロリストだ……誘拐された被害者はどうなった!?」

 

 

「はい、彼らは密かに救出されており無事です。問題はその後です」

 

 

 

 

 

 

 

そう言いながらリーは問題のページを開いて司令官のデスクに置いた。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「被害者を救い出した後、民間人も巻き添えになるのを承知で拠点を砲撃したのか……こうならないよう、偵察を重ねてから救出するつもりだったのだが」

 

 

厳しい顔になる司令官。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこの村は農作物が育たず経済的にも困窮していた為、人身売買に手を染めたようです。ですが、“彼ら”にとっては人の不幸で食べている時点で殲滅対象だったのでしょう」

 

 

 

テロリストのしてきた事は決して許されるものではない――――だが、人身売買という悪事に手を染めるほど飢えていたのも事実。人身売買で得た利益で生活こそしているもののテロ行為に直接関与していない人間まで“彼ら”は殺してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……報告、ご苦労。対応を考えねばな」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

「はい、謎の武装勢力に関する調査ですね。確かに承りました、司令官」

 

 

モニターに向かって敬礼する幹部。そしてモニターが消えると横に控えていた兵士に視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

「さて…聞いた通りよ。直ぐに調査を始めて」

 

 

「はい、直ちに」

 

 

 

 

 

POCUとは意匠が異なるグレーの戦闘服に身を包んだ兵士が退室し、部屋にひとり残された幹部は一息ついた。

 

 

 

 

 

 

「厄介な敵が現れたわね――――最悪、私も出る必要がありそう」

 

 

幹部――――上芭 巳栖嶺(うわば みすね)は本部から送られた資料に目を通しながらそう呟いた。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

POCU本部:公衆衛生監視課エリア

 

 

 

 

先日、ヤマ大国の軍港を襲撃したフランカー“もどき”と交戦したSu-33パイロット、イーデン・ウィルキー中尉はある人物を訪ねていた。

 

 

 

 

厳重に警備された個室の扉をくぐり、中に入るとその人物は居た。

 

 

 

 

「――――こうして顔を合わせるのは初めてだな?ミス・サキ・ホウジョウ」

 

 

 

 

 

 

黒髪のウェーブが背中まで届く東洋系――――日系人寄りの顔だちをした女性。

 

 

先ほどまで貸与されたタブレットで読書していたのか、付けたままになっている眼鏡は知的な雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 

 

「イーデン・ウィルキーだ。この前あんたと戦ったSu-33に乗っていた――――今日は同じフランカー乗りとして聞きたい事があってな」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

「へえ、そうなのか!中の電子機器が変わっても操縦感覚は変わらないんだな」

 

 

「そりゃガワは同じよ?エンジンとかは多少違うけど原型機からそれほど差があるわけでもないの」

 

 

 

 

 

 

同じフランカー乗り同士、通じるものがあったのか大いに盛り上がるふたり。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、本当は色々聞いてこいと言われたことあるんでしょ?聞かなくていいの?」

 

 

眼鏡の奥から不思議そうな視線を向けてくる沙紀。

 

 

「ああ、仕事の事を聞くよりもパイロットとして話してる方が楽しいからな。それに……悪人には見えなかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、ドアの外で控えていた警備が面会時間の終了が迫っている事を告げる。

 

 

 

 

 

「――――残念、時間切れだ。また来るよ」

 

 

 

「ふふ、楽しみにしているわ」

 

 

 

 

 

ドアの外に消えていくウィルキー中尉を見送るその視線はどこか寂しげだった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

ニューヨーク・国連本部ビル

 

 

 

廊下を歩く男に秘書が足早に駆け寄り、何かを耳打ちする。

 

 

 

「――――そうか、あと何回か成果を挙げておこう。急いでは事を仕損じるというからな」

 

 

 

 

その自信に満ちた不敵な笑みが一体どこに向けられたものなのか――――それを知るのは男ただ一人だった――――――――

 

 

 

 

 

 







遂に、謎の武装勢力が本格的に動き始めました。


ここからPOCUはその正義を問われ、答えを出さなければならなくなります。




彼らに何が起こるのか。そして、彼らはどのような答えをもって自らの正義を示すのか。

お楽しみに!





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報告書013『プロジェクト・オーダー:前編』


水面下で準備を進めてきた謎の武装組織が遂に本格的な活動を開始する。


その声明は大いなる混沌の始まりを告げる狼煙だった――――







 

 

ヤマ大国・POCU本部

 

 

 

基地各所の大型モニターでは各国のニュースが英語で同時翻訳されながら流れていた。その内容は全て謎の武装組織から送られてきたメッセージだ――――

 

 

 

『我々はプロジェクト・オーダー。世界に秩序をもたらす者である』

 

 

 

屈強な肉体を包む野戦服に赤いベレー帽を纏った、向こう側の司令官らしきヨーロッパ系の男性が厳然とした表情で言葉を発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『世界には紛争が溢れ、人々が直ぐに手を差し伸べるべき弱者の苦痛と涙が至る所にある』

 

 

映像が暗転し、戦争で焼け出された難民や瘦せこけた子供の映像に切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『更に、生き延びる為に自らの尊厳を売り渡し恥辱にまみれる者』

 

 

どこかの街で売春婦として客を待つ少女たち――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しかし、世界はこのような人々を救うべく直ちに行動できるだけの力を持ちながら…それを行使しない!』

 

 

再び男の映像に切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『よって、我々は行動しない世界に代わって直ちにあらゆる非合法勢力を殲滅すると共に今まで弱者の存在から目を背けて安寧を貪ってきた世界に対し罰を下す』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一呼吸ぶんの沈黙が流れる。きっとテレビ局のスタッフ達にとっても人々にとっても永遠に近い時間だったであろう――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その裁きの刃を受ける事を望まぬならば、我々に恭順せよ。そうすれば安寧と秩序を与えよう。――――我々はプロジェクト・オーダー。世界に秩序をもたらす者である』

 

 

 

 

 

そこで映像は終了し、続いて各国政府の代表又は高官のコメントが流れる。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

数十分後、POCU本部ビルの大会議室にはPOCU側の司令官以下各幹部、そしてヤマ大国派遣軍の高級将校らが集っていた。

 

 

「プロジェクト・オーダーの声明は既にお聞きになりましたか?」

 

 

司令官の問いに派遣軍の将校達からそれを肯定する声が返る。

 

 

 

 

 

 

「ええ。彼らが掲げているのはテロリストの論理であり危険な存在です。しかし――――各国が思うように身動きが取れないのは痛いですな」

 

 

日本国自衛隊の代表である織田一佐が忌々しげに第一声を発した。

 

 

 

 

 

 

「カーネル・オダ、日本の政府はどう対応するつもりですか?」

 

 

別の国の将校が織田に問いかける。

 

 

 

 

 

「沈黙――――それが今の方針です」

 

 

 

 

 

大義名分を掲げながら、実際には利権を貪る為に行動しているのではないか――――そういう疑いをかけられればキリはない。

 

 

そして、実際にそうする国は過去にあったし現在も絶えない。

 

 

 

 

 

 

 

「国際社会の承認を待たずにプロジェクト・オーダーをテロ組織と認定して打撃を加えるような事があれば、国際社会に不安を与え政治の世界で猜疑心が強まるのは明らかです。最悪戦争に繋がっても不思議ではありません。

 

 

故にプロジェクト・オーダーが世界の秩序を乱すテロリストだったとしても自衛の域を超えた戦闘行動をとるには国際社会の同意を得るのが望ましいでしょう」

 

 

 

 

 

 

最初から分かり切っていたこと――――そう言わんばかりにため息をつく各国の将校。

 

 

 

 

「その国際社会の合意形成と承認に時間がかかるのは承知のこと。問題はその間ずっと彼らが待ってくれるわけではない、という事です」

 

 

 

 

「迅速に動けば国際社会の混乱を招き不要な揉め事を起こしかねない――――しかし合意形成と承認のプロセスを踏めば彼らに時間を与えてしまう、か」

 

 

 

 

 

しかし、次の瞬間――――

 

 

 

 

「そこで、我が国の首相からヤマ大国派遣軍とPOCUが合同で大規模演習を実施するのはどうかという提案があります」

 

 

織田の言葉に各国の将校達が目をぱちくりさせる。

 

 

 

 

 

「もっとも、急な提案なので準備の為に各弾薬類をPOCU本部に運び込んだ辺りで急遽中止という事も有り得ますが」

 

 

 

 

 

 

その言葉でPOCU側の席に座るリー・ベクターがハッとなり司令官の方を見る。

 

――――司令官も同じ答えに至ったようだ。

 

 

 

 

――――アウトサイド・ガーデン合意によって各国の政治的なしがらみとは無縁なPOCUならばプロジェクト・オーダーに迅速に対処できる。日本はそれを望んでおり、弾薬類を融通する事でせめてもの誠意を示す――――

 

 

 

 

 

「なるほど“合同演習”ですか。我が国も参加しましょう」

 

 

 

「そうですな。どうせなら他国との弾薬共用も見越した内容で調整しましょう」

 

 

 

 

織田――――そして日本国首相の本意を察した各国の将校が暗黙の賛同を示す。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

大まかな調整を終えて各国の将校が戻った後、司令官はオフィスで椅子にもたれていた。

 

 

 

 

 

 

「世界から大きく期待されてしまいましたね?」

 

 

 

リー・ベクターが司令官のデスクにコーヒーを置く。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう――――それにしても今回の相手は厄介だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

――――数時間後

 

 

 

 

某所・会議室――――

 

 

 

「日本め、なかなか姑息な手を打ってくるではないか」

 

 

プロジェクト・オーダー(略称:P.o)の司令官が忌々しいと言わんばかりの表情をする。

 

 

 

「その点ですが世界への警告も兼ねて日本の首都圏を攻撃するよう“上”から指示が下りています」

 

 

部下の言葉にP.o司令官の口元がつり上がる。

 

 

 

 

 

 






如何でしたか?次回はプロジェクト・オーダーによる東京攻撃が行われます。


そして、ベナトル氏の創作した組織の1つであるUMAPが登場予定!是非ともお楽しみに!




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報告書014『プロジェクト・オーダー:中編』


本格的な活動を開始し、テロリスト及び犯罪勢力の掃滅と並んで弱者を放置してきた世界への懲罰も宣言したプロジェクト・オーダー(以下、P.oと省略)。


そんなP.oを危険視しつつも政治的なしがらみで迅速に行動を起こせない世界各国の中で日本がアウトサイド・ガーデン合意を利用してPOCUに対処を依頼。


日本の動きを察知したP.oは報復として東京攻撃を画策し――――!?





 

 

――――日本国・茨城県小美玉市・百里飛行場

 

 

 

ベルが鳴り響き、パイロット達がソファーから飛び起きたかと思うと格納庫に向かって駆け出す。

 

 

『スクランブル!!』

 

 

スピーカーがベルと同等の音量でそう告げる。

 

 

 

 

格納庫では少し上を向いたカナード翼が特徴的なF-15SJ戦闘機の周りを、整備員が走り回ってパイロンに取り付けられた熱線追尾式空対空ミサイルから次々と安全ピンを取り外している所だった。

 

 

 

 

 

 

梯子を駆け上がりコックピットに飛び込むと同時に振り返ってエア・インテークの前方に障害物が無い事を確かめる。

 

 

エンジン始動用モーターを起動させ、HMDが取り付けられたヘルメットを被り酸素マスクを装着。

 

 

 

 

 

 

 

 

梯子を上がってきた整備員の手を借りてショルダー・ハーネスを締め、Gスーツのホースを接続する。

 

 

接続を確認しパイロットが親指を立てると整備員は頷いて降りて行った。

 

 

 

 

 

コックピットの各計器を起動・チェックし右手を風防の上に出して二本の指を立てる。エンジン始動の合図だ。

 

 

重々しい回転音と共に回転計の針が上がっていく。

 

 

そして一定の数値に達したのを確認しエンジンに燃料を入れる。

 

 

 

 

 

エンジンの内燃焼室に噴射された燃料が着火し、轟音が響く。

 

(よし、次は左エンジンだ)

 

再び右手を風防の上に出し、今度は指を三本立てる。

 

 

 

 

 

やがて左右のエンジンが無事にかかり機体のシステムに異常が無いのを確認すると、風防の外に両手を突き出して親指を外側に向ける。

 

 

機体前方に立つ整備員が誘導パドルを左右下に広げ、『タクシー・アウト待て』と合図する。

 

 

その間に他の整備員が車輪止めを外していった。

 

 

 

 

やがて整備員が右手のパドルを高々と上げて『出発よし』と知らせてくる。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

管制塔と交信しつつ誘導路を通って滑走路に並んだ2機のF-15SJイーグルがアフターバーナーの轟音を響かせながら地を蹴り、あっという間に大空へと消えていく。

 

 

その後方では更に1組の編隊が離陸を控えていた。

 

 

 

 

 

 

 

この日、東京は――――否、日本は恐怖の一日を過ごすことになる。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

先行して飛び立った編隊はレーダーサイトが捉えた不明機と対峙していた。

 

 

 

 

『タリホー!(敵機を目視で確認!)』

 

 

編隊長の通信に2番機のパイロットが目を凝らす。

 

 

 

 

「な――――――――」

 

 

 

 

 

レーダー上に映った機影は2機。しかし、その目に映ったのは――――

 

 

 

――――4機編隊のダイヤモンドが2つだった。

 

 

 

 

 

 

フランカー系列の特徴的な曲線が美しいそれらの機体からすかさず短距離ミサイルが放たれ、発射煙が青空を横切っていく。

 

 

 

 

 

「――――!?」

 

 

 

 

警告無しの攻撃――――!

 

 

 

 

直ぐに回避を試みるも、2番機に複数のミサイルが突き刺さり爆発。

 

 

第一撃を回避した編隊長機にも続けざまにミサイルが放たれ部下の後を追う事になった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

――――百里飛行場

 

 

 

 

「急げ!フル武装でどんどん上げろ!」

 

 

 

司令がそう命じるや否や、基地全体が騒がしくなり次々とF-15SJが編隊を組んで上がっていく。

 

 

 

 

「くそ、まさか例のプロジェクト・オーダーとかいう連中か!?」

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

――――首相官邸

 

 

 

 

「国連に話は伝えてあるか?」

 

 

「はい、自衛の範囲内で武力行使を行う旨を伝えました」

 

 

 

 

首相の問いに電話の向こう側で外相が頷く。

 

 

「いいか、我々の行動で国際社会に不安を与えぬよう誠意ある説明を頼むぞ」

 

 

 

 

 

電話を切り、窓の外を見る。

 

 

 

――――先ほどUMAP(国際機動平和維持部隊)から連絡が入り、市内でP.oの人員と思しき武装した兵士達が次々と偽装したトラックから展開し無差別攻撃を開始。ほぼ同時刻に偽装貨物船から武装ヘリが離陸し破壊活動を行っていると知らされた。

 

 

 

それだけで元々小心者である首相の胃は悲鳴が止まらなくなった。

 

 

 

 

 

 

「何で私の時にこういう事が起こるんだ………」

 

 

それでもシェルターへの避難を断ったのは彼なりの矜持だった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

東京の市内で突撃銃を乱射し、対戦車ロケットを撃つ兵士。

 

 

 

そんな彼らに105mmライフル砲弾が叩き込まれ、UMAP所属の16式機動戦闘車が兵士達の盾となりながら戦場に現れる。

 

 

 

「奴らを1人たりと生かして返すな!」

 

 

指揮官の号令と共に兵士達の突撃銃や機動戦闘車の105mmライフル砲が吼え、敵を次々と薙ぎ払っていく。

 

 

 

 

――――と、その時。

 

 

 

少し離れた場所で共闘していた陸自の16式に対戦車ミサイルが叩き込まれ爆炎が上がる。

 

 

 

「上空、武装ヘリ!」

 

 

 

 

UMAP隊員が携行式地対空ミサイルを構えた瞬間、別方向から飛来したミサイルが武装ヘリを木端微塵にし残骸が地へと落ちていく。

 

 

 

「すまない、遅くなった!」

 

 

 

その通信と共にUMAPのマークが塗装されたUH-60J兵員輸送ヘリを護衛するOH-1改攻撃ヘリがローター音を響かせながら攻撃に加わる。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

――――東京湾上空

 

 

 

「敵機撃墜!」

 

 

 

F-16改のパイロットがHUDの中で四散するフランカーもどきを確認し、次の目標を探そうとした瞬間――――正面からミサイルを叩き込まれる。

 

 

 

 

爆発と共に黒煙が広がり、それを突き破るように現れたフランカーもどきを下方から引き裂く20ミリ機関砲弾。

 

 

 

 

仲間の仇を討ったF-15SJ――――そのパイロットは後方にフランカーもどきが集まるのをミラーで一瞥し回避を試みるが――――振り切れない。

 

 

 

 

時にアフターバーナーを吹かしつつ急旋回も織り交ぜて敵機を振り切ろうとするも、向こう側も手練れが揃っているのか中々離れてくれない。

 

 

 

「くっ――――」

 

 

 

 

背中に冷たいものを感じた次の瞬間――――後方のフランカーもどきに次々とミサイルが着弾しミラーが爆炎で明るく輝く。

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

自らを救ったミサイルが飛来した方向を凝視すると、海面ギリギリを飛行する漆黒のフランカーが複数機、その翼に赤い「POCU」の文字が見える。

 

 

 

『こちらPOCU航空部隊所属、スコミムス隊。これより航空自衛隊を支援する』

 

 

 

 

 

 

 






如何でしたか?次回はスコミムス隊を大暴れさせますのでお楽しみに!




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報告書015『プロジェクト・オーダー:後編』



世界に対してテロリスト及び犯罪勢力の掃滅及び各国への武力行使を宣言した武装組織プロジェクト・オーダー(以下、P.oと省略)は日本国の首都・東京への攻撃を実行に移した。


UMAP(国際機動平和維持部隊)及び自衛隊が応戦する中、POCU航空部隊所属のスコミムス隊が戦場に現れる――――!!




 

 

「東京湾上空に展開している空自の戦闘機部隊に告ぐ!」

 

 

スコミムス隊に命を救われたF-15SJのパイロットが通信機で周囲の味方に呼びかける。

 

 

 

 

 

 

「POCU航空部隊が救援に来てくれた!今のうちに態勢を立て直すぞ!」

 

 

その声に応えるようにバラバラになっていた戦闘機隊が再び集結し編隊を組んでいく。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

『よくも仲間を!』

 

 

 

後方に迫るフランカーもどきのパイロットらしき声が通信機から聞こえてくる。

 

 

 

 

機体を左90度バンクさせ、操縦桿を一気に引っ張るとそれに応えて機体が急旋回した。

 

 

ミラーを覗くと敵機もぴったりくっついてくる。

 

 

 

「腕が立つようだな!だが――――」

 

 

瞬時に操縦桿とラダーペダルを巧みに操作してコブラ機動に入る。

 

 

 

 

『なっ――――』

 

 

 

 

 

立ち上がった機首が重力に引かれて前へと倒れ、先ほどまで後ろにいた敵機が視界に入る。

 

 

「伊達に純愛の為に戦っちゃいない!」

 

 

 

 

トリガーを引き、機銃弾がフランカーもどきを引き裂いていく。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

少し離れた空域で乱戦状態に陥るP.oと空自の戦闘機。

 

 

 

後ろの敵機を何としても振り切ろうと急上昇、急降下、急旋回を繰り返す機体、その後ろから離れまいと必死に食らいつく機体。

 

 

しかし、敵味方が入り乱れたこの空域で同士討ちを恐れて誰もがトリガーを引くのを躊躇する――――そんな場に漆黒のSu-33が飛び込んでいく。

 

 

 

瞬時にフランカーもどきを捉え、次々とトリガーを引いていくその手に迷いは無かった。

 

 

 

爆散した敵機に目もくれずイーグルを追いかけ回している機に上から襲い掛かり、ミサイルを叩き込んだかと思うと次の瞬間にはF-16改が追跡している機を斜め後方から機銃で撃ち抜いていった。

 

 

 

 

 

「この状況で敵機だけ正確に落としているのか…!?」

 

 

瞬く間にスクリーンから敵機の表示が消えていく様子に空自パイロットはただただ驚愕するばかりだ。

 

 

 

 

 

「これが…スコミムス隊か」

 

 

その様子はまさに他の者を寄せ付けぬ空の王者だった――――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

「複数の機で奴らを取り囲んで撃ち落とせ!」

 

 

P.o航空隊を率いる指揮官の号令に従い複数のフランカーもどきがSu-33を追いかけるが、決定的な所で決して後ろを取ることは出来ず、ひらりひらりと躱されていく。

 

 

 

 

「馬鹿な――――数ではこちらが上だぞ!しかもこうして囲んでいるというのに――――」

 

 

 

するといきなり、そのSu-33は急降下を始めた。

 

 

 

 

『逃がすか!』

 

 

P.o側のパイロットのひとりが機を急降下させて追いかける。

 

 

 

 

 

 

雲を突き破り海面が見えた瞬間、視界でSu-33が180度バンクを取ったのを確認したパイロットの脳裏に疑問が広がる。そして次の瞬間――――

 

 

一気にスピードを緩めたかと思うと海面に機首を向けた状態でコブラ機動を繰り出した――――

 

 

 

 

『ば…馬鹿な!?』

 

 

急降下を続けるフランカーもどきのコックピットでパイロットが真上を見ると、そこには機首をこちらに向けるSu-33の姿が。

 

 

 

そのまま機銃弾を叩き込まれたフランカーもどきが爆散、その煙を突き破るように上昇したかと思うとSu-33はそのまま次の敵機にミサイルを叩き込む。

 

 

 

そんなスコミムス隊の技量を前にしてP.o側の指揮官は完全に勝機を見出せなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

「――――これがスコミムス隊……!作戦失敗だ!全機ただちに撤退しろ!」

 

 

 

 

P.o航空隊に対して発せられたその通信は、誰が東京湾上空の制空権を手にしたかを知らしめる合図となった――――――――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

航空隊が東京湾上空の制空権確保に失敗するや否や、東京の市街地で戦闘を続けていたP.oの兵士達は次々と敗北を認め白旗を掲げていく。

 

 

 

 

 

こうしてP.oによる東京攻撃は失敗した。しかし――――

 

 

 

 

 

「奴らの目論見は成功したようだな――――」

 

 

マヤ大国のPOCU本部で日本のニュースを見た司令官が苦々しい顔をする。

 

 

 

 

「攻撃による社会の混乱、買い占め、物価高騰、為替レートの変化………日本が被った経済的なダメージは人的被害のそれに匹敵する」

 

 

「はい。世界との交易が生命線である日本にとっては大きな打撃ですね」

 

 

司令官の言葉に同意するリー・ベクター。

 

 

 

 

 

――――そんな時だった。将校が慌てた様子で入ってきたのは。

 

 

 

「どうした、緊急事態か!?」

 

 

ノックもせず飛び込んできたのだ――――只事ではないだろう。

 

 

 

 

「司令官!向こうから……プロジェクト・オーダーから会談の申し出が!」

 

 

 

「――――――――会談……?」

 

 

 

 

 






如何でしたか?



次回はプロジェクト・オーダーのトップとPOCU司令官が直接対峙します!


あとお色気要素にもチャレンジしますのでお楽しみに!


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譲れぬ信念
報告書016『対峙:前編』




プロジェクト・オーダー(以下P.oと省略)による東京攻撃自体はPOCUの加勢もあり日本側が防衛に成功するが、日本は攻撃の影響による経済的なダメージを受けてしまう。


そして、それこそがP.oの狙いだったと気付く司令官。そんな彼にP.o側から会談の申し込みがあり――――!?




 

 

 

――――――――マヤ大国・某ホテル地下

 

 

 

地下駐車場の奥にあるVIP用エレベーターの前に現れる司令官。その後ろには2人の女性が居た。

 

 

 

 

「失礼します。招待状はお持ちでしょうか」

 

 

スーツ姿のPOCU隊員が『お偉方の秘密のパーティー』の警備員を演じる。

 

 

 

 

「ああ、ボディチェックを頼む」

 

招待状を見せた司令官が両腕を広げた。

 

 

 

 

 

 

 

ベテランの隊員が若手のひとりに手伝うよう促し、司令官の身体に触れていく。

 

 

そして若手隊員は司令官に付いてきた客人のひとり――――モデル並みのプロポーションを誇る肢体をチャイナドレスに包んだアジア系の女性を前に内心動揺していた。

 

 

 

 

 

 

 

「大変申し訳ないのですが、チェックをさせて頂きます」

 

 

「いいわ。お仕事ご苦労様」

 

 

どこか妖艶な雰囲気を秘めた笑顔で応じる女性の腰に手を当ててチェックする――――

 

 

 

(お、落ち着け、これはあくまでも安全の為のチェック、仕事――――)

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも肌が露になった脚の内側をチェックする時は心臓が破裂するかと思った――――

 

 

 

 

「は、はい。大丈夫です。安全へのご協力ありがとうございます」

 

 

「ふふ、大丈夫よ。そんなに固くならなくても」

 

 

 

 

 

 

シベリアン・ロシア出身の父親から受け継いだ190センチ超えの巨体にも関わらず、目の前にいる自分よりも30センチは低い小柄な女性に圧倒される――――

 

 

 

(大人って凄い………)

 

 

成人して数年しか経っていない青年には彼女の放つ色香は刺激が強すぎたようだ――――

 

 

 

 

「そこの君、護衛として付いてきてくれ」

 

 

「――――は、はい」

 

 

 

 

女性のよろしくね?と言わんばかりの悪戯っぽい笑みは青年にとって拷問だった――――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

エレベーター内部で司令官がチャイナドレスの女性の方を向く。

 

「会談に招いていただき感謝しますわ、司令官。今回の件は我が社としても看過できない事態でしたから」

 

 

 

 

 

 

「いえいえ、P.oの兵器が貴社の技術を盗用しているのですから、貴社としては身の潔白を証明したいのは当然のことです。喜んで協力しますよ、ミス・王。それに万一の時はあなたの技術をお借りすることになるかもしれません」

 

 

 

女性――――王 美玉(ワン・メイユー)は気品ある笑みを浮かべて一礼する。

 

 

 

 

 

 

「KMCが築き上げた信用が破壊されれば、貴社と取引している我々としても困りますから協力するのは当然です。ただ――――この場ではあくまでもPOCUの一員を演じてください。P.oは自らに刃向かう相手には容赦しないようですから」

 

 

スーツ姿のベクターが念押しする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――それと、この街の周辺にある各都市で爆弾が次々と見つかっています。爆弾処理に精通した部隊をフル動員して解除させています。何者が仕掛けたかは不明ですが、この会談に合わせたタイミングを見てP.oである可能性が高いです」

 

 

「奴ら――――会談しようと言っておきながらこれか」

 

 

 

 

 

そしてVIPフロアに到着して扉が開いた瞬間、エレベーターが故障した。

 

 

 

 

 

「――――やはり、な。部隊を準備しておいてよかった」

 

 

 

 

 

今頃、ホテル従業員に扮した工作部隊が電源設備の復旧を始めているはずだ。

 

 

 

 

「――――囚われの檻の中で会談か。貴重な体験ができそうだ」

 

 

 

 

 

 

用意された会議室の扉を開けると、テーブルの奥の椅子に腰掛けるスーツ姿の男と視線が合った。

 

 

 

「――――お前がプロジェクト・オーダーを統括している責任者か?」

 

 

 

その問いに、年を重ねて禿げ上がった頭とは対照的に強い意志を秘めたグレーの瞳、精悍な顔つきが印象に残る男は頷いた。

 

 

 

 

 

「いかにも。私がプロジェクト・オーダーを率いているサミュエル・テーヌだ」

 

 

 

静かな自信を秘めた笑みを浮かべる男を司令官は静かに睨み付けた――――

 

 

 

 

 






如何でしたか?


次回はサミュエル・テーヌと司令官の信念がぶつかり合います。



現実に絶望し力で世界を変えようとする敵を相手に司令官はどのような答えを出すのか――――お楽しみに!


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報告書017『対峙:後編』


ビルの高層階に閉じ込められた状況で、プロジェクト・オーダー(P.o)を率いる男サミュエル・テーヌと対峙するPOCU司令官。


果たして対峙する両者の行方は――――!?




 

 

「先ず、君を招いた目的を明確にしよう」

 

 

自信を秘めた笑顔を浮かべながら話を切り出すテーヌ。

 

 

 

「我々は君達と共に戦いたいと思っている」

 

 

 

 

その提案はさすがに予想外だったのかベクターがチラリと司令官の方を見る。

 

 

「―――我がPOCUとお前達が共に戦う、だと?」

 

 

テーヌを睨みつける司令官。

 

 

 

 

「いかにも。我々プロジェクト・オーダーが目指すのは強固な秩序によってもたらされる安寧だ」

 

テーヌが席から立ちあがり、その場を歩く。

 

 

 

「我々が世界を従える事で人々は暴力や犯罪に対する恐怖から解放され、安寧を享受できる。その為ならば悪魔と呼ばれ恐れられることなど大した事ではない。君達もそうだろう?」

 

 

決して揺るがぬ信念がそこにはあった。

 

 

 

 

 

(――――――――)

 

 

アントイーター作戦で自らを救ってくれた司令官が心変わりしないだろうか?

 

そんな不安を秘めながら横目で司令官を見るベクター。

 

 

 

そんな彼女に『信じろ』と司令官は目線で応じた。

 

 

 

「我々に対する恐怖は我々への服従に繋がり、人々は決して我々に逆らおうなどどは考えなくなるだろう。そうなれば我々が正しく統治する事で世界に安寧と秩序がもたらされるのだ」

 

テーヌの迷いない言葉が続く。

 

 

「それは、たとえ自らが汚れても正義を為そうとする君達にも理解できる筈だ。さあ、手を組もうではないか」

 

 

 

 

 

「――――断る」

 

 

 

 

その一言に暫し固まるテーヌ。

 

「………今の私の話が理解できなかったのか?」

 

 

「理解した。その上で断ると言ったのだ」

 

 

 

 

 

テーヌの顔から笑みが消え無表情になる。

 

 

「我々は純愛保護機構戦闘部隊、と名乗っている。その意味をお前は理解していない」

 

 

 

「人は大切な人と互いに愛し合い、与えあい、分かち合って当たり前の幸せな人生を生きていく――――それを破壊しようとする者を排除するのが我々POCUの使命だ」

 

 

 

 

「それは我々も同じ筈だが」

 

そう口を挟むテーヌ。しかし――――

 

 

 

「お前達のような連中と一緒にするな」

 

ハッキリと拒絶の意思を示す司令官。

 

 

 

「お前達がやろうとしているのは、恐怖で人々を従わせる事だ。たとえ暴力や犯罪の恐怖から守られたとしても、代わりにお前達に怯え続ける事になる。そこにあるのはただただ恐怖ばかり――――愛などない」

 

 

 

「愛が無ければ安らぎも無い――――そのような世界に価値など無い。たとえどれだけ罵られようが、我々POCUはそれを断固として否定する」

 

 

 

司令官は決して譲らぬと言わんばかりの強い信念がこもった表情でテーヌを見たのち、ベクターに優しい笑みを見せた。

 

 

(司令官――――あなたを信じて良かったです)

 

笑みを返すベクターの後ろで美玉(メイユー)が何かに気付いたのか『伏せてください!』と声を上げる。

 

 

 

 

司令官がベクターに覆いかぶさり床に伏せた瞬間、爆発音と共に壁の一部が剥がれ落ち、外の空気が流れ込んでくる。

 

 

「残念だよ。こうなったらこのビル共々吹き飛んで貰おうか」

 

 

いつの間にかパラシュートを装着したテーヌが穴から夜闇へと消えていく。

 

 

 

 

その時、司令官の端末が鳴り響いた。

 

「こちら、司令官だ――――」

 

 

 

『司令官!このビルの底に大量の爆発物が――――あと1時間で起爆します!』

 

 

 

その時になって司令官はこの街の周辺にある都市に爆発物が仕掛けられた意図を理解した。

 

 

(このビルの爆発物を解体させない為に爆弾処理に精通した部隊の手を塞ぐのが目的だったのか!)

 

 

 

『しかも使用されているのは強力な爆薬――――爆発すればビルは完全に崩れ去ります!更に起爆装置はそちらのVIPフロアにあるようなんです!』

 

 

 

――――つまり、VIPフロアに閉じ込められた司令官、ベクター、メイユー、隊員の4人しか起爆装置を解除できない。

 

 

 

 

「ミス・王(ワン)。あなたの技術をお借りする事になりそうだ」

 

司令官の言葉に頷くメイユー。

 

 

 

 

「向こうの部隊から爆弾のデータを貰えませんか?」

 

その言葉に頷いた司令官が部隊に命じて送らせたデータをメイユーの端末に送る。

 

 

 

「――――そちらの隊員をお借りしても?」

 

 

「もちろん。我々の命を預けますよ」

 

 

 

 

強く頷いたメイユーは隊員と共に部屋を走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「ここの天井裏です!」

 

 

「はい!」

 

 

メイユーの指示した天井扉を開ける隊員。

 

 

そして梯子を駆け上がる――――

 

 

 

 

――――起爆装置の位置に思わず隊員が唸った。

 

 

「ミス・王、位置が高く私の手では届きません」

 

 

 

隊員に続いて上がってきたメイユーはビルを支える鉄骨の高い位置に仕掛けられた起爆装置をその目で確かめる。

 

 

 

「私を肩車してください。それなら私の手が届きます」

 

「はい!」

 

 

 

 

ショルダーバッグを首にかけ、その中からペンチを取り出して一本一本を慎重に切り始めるメイユー。

 

 

 

「――――あと30分。これなら余裕をもって解体できそうですが油断しないでください」

 

 

 

メイユーの言葉に少し安堵した隊員は、その時になって自分の両横に広がる光景に気付いた。

 

 

 

 

――――滑らかで柔らかい肌の感触。

 

 

 

――――もう一度、確認しよう。滑らかで柔らかい肌の感触。

 

 

 

 

チャイナドレス故に肌が露わになった脚、それに挟まれている――――

 

 

 

 

 

――――ドクン

 

 

 

一気に大きくなる心臓の鼓動。

 

 

 

 

――――ドクン

 

 

 

 

(お、落ち着け――――まだ爆弾解体は終わっていない)

 

 

 

メイユーがパチン、パチンとコードを切る音と自分の鼓動が重なっていくのを感じる。

 

 

 

そのまま10分ほどして解体が終わった事が告げられる。

 

 

「――――終わりました。戻りましょう」

 

 

「は、はい――――」

 

 

 

 

当分、この事は忘れられない――――そんな思いと共に隊員は先に降りていくメイユーに視線を送るのだった。

 

 

 

 

 






如何でしたか?次回は司令官がビルに閉じ込められている間に本部で起こった事件を描いていこうと思います。


P.oの襲撃を受ける本部、基地警備隊を率いる和泉 昌一中尉は本部を守り切れるのか!?お楽しみに!


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報告書018『襲撃:前編』


POCU司令官がプロジェクト・オーダー(P.o)のトップ、サミュエル・テーヌと対峙しているのと時を同じくして、POCU本部ではもう一つの事件が起こっていた。



 

 

 

――――ヤマ大国・POCU本部ゲート

 

 

 

「――――司令官、無事ですかね?」

 

 

基地警備隊の兵士が上官に心配そうに尋ねる。

 

 

 

 

「あの司令官がそう簡単に死ぬ訳がないだろう。副官やKMCから派遣されたエージェントが一緒に居るから任せておけばいい――――俺たちの仕事は司令官が帰ってくるこの基地を護ることだ」

 

警備隊を率いる和泉 昌一中尉が部下の肩を叩く。

 

 

「――――はい!」

 

姿勢を正し敬礼する兵士に答礼し、他の場所を見回ろうとしたその時。

 

 

 

 

エンジン音と共に所属不明のジープが数台走ってくるのが視界に入った――――車両の侵入を防止するバリケードの前で急停止する。

 

 

そして中から戦闘服に身を包んだ兵士達が次々と降りて発砲してくる!

 

 

 

「敵襲!各自、無理せずに遮蔽物で身を守りながら迎え撃て!」

 

 

 

 

土嚢を遮蔽物にしてGR556アサルトライフルで応戦する和泉。

 

 

向こうもジープをバリケード代わりに攻撃してくるからか、中々仕留めきれない。

 

(こりゃ長引きそうだな…!)

 

 

 

 

――――その時、本部ビルの窓から漏れていた照明の光が一斉に消えた。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

公衆衛生監視課エリア

 

 

 

数分前に電気が消えた瞬間、北条 沙紀は本能的に食事の皿からプラスチックのフォークを取り襲撃に備えた。

 

 

 

近付く足音――――物陰に隠れ、息をひそめる。

 

 

やがて扉が開かれ――――意外な言葉が飛んでくる。

 

 

 

 

「北条中尉、お迎えに上がりました」

 

物陰から姿を現すと、そこには暗視装置を装備した数人の兵士が居た。

 

 

 

「どうぞ、お使いください」

 

手渡された暗視装置とアサルトライフル、防弾ベストを着用する沙紀。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

ゲート前で応戦し続ける和泉のスマホが鳴る。

 

 

「こちら和泉だ!どうした?」

 

 

 

『中尉、基地の電源設備を制御する装置が破壊されました――――工作員らしき敵は射殺しましたが、直ぐに復旧させるのは厳しそうです!』

 

 

「分かった、引き続き基地内を捜索して侵入者が居ないか確認しろ!必ず2人か3人以上でチームを組み、各個撃破されないようにするんだ」

 

 

『了解です!』

 

 

 

通信機が沈黙し、再び銃声だけが響く――――

 

 

「いいか!ここを守り抜き、絶対に奴らを入れるな!あと無茶して突撃しようなどとは考えるなよ!」

 

 

 

 

周りの兵士にそう命じた後、再びスマホを手に取り、基地に居るはずの非番の士官に連絡を入れる――――

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

左胸にPOCU航空部隊のネームパッチを着けたフライトジャケットを羽織りながらスマホを手に取るイーデン・ウィルキー中尉。

 

 

画面は基地警備隊を指揮する和泉からの着信がある事を告げていた。

 

 

 

「はい、こちらPOCU航空部隊所属イーデン・ウィルキー中尉です」

 

 

『基地警備隊の和泉です。基地内に侵入者が居る可能性があります――――お一人なら私と合流して基地を見回るのを手伝ってくれますか』

 

 

「了解!」

 

 

 

 

拳銃を手に物陰から周囲を警戒しつつ、廊下を進むイーデン。

 

 

そして階段を下りた先の角で――――人影を見つける。

 

 

 

「「動くな!」」

 

 

 

ほぼ同時に発せられた声で、相手が和泉だと察した。

 

「何だ、和泉中尉でしたか――――」

 

 

 

安堵するイーデンを突如として和泉が押し倒し――――GR556の発砲音が響く。

 

自分の後ろに敵が現れたのだ――――

 

 

和泉の銃撃で相手が物陰に引っ込んだ隙に急いで角の陰に滑り込む二人。

 

 

 

(――――まさかプロジェクト・オーダーか?)

 

そんな事を考えながら陰から少し顔を出した瞬間、フル装備の兵士に紛れてフライトスーツ姿の女性が走り去るのが見えた。

 

 

 

「――――サキ!?」

 

そんな声が出ると同時にこちらを警戒していた兵士が銃口を向ける。

 

 

 

再び角に引っ込むと同時に壁で弾が跳ね返る音が響いた。

 

 

 

 

「逃がすか!」

 

角から身を乗り出した和泉の銃撃で敵の一人が倒れる。

 

 

 

それを見て敵は沙紀の脱出を優先したのか、足止めに二人ほど残して他は一斉に走り出した。

 

 

「――――足止めしようというのか?させるか!」

 

拳銃に持ち替え、正確な射撃で一人倒す和泉。

 

 

そして手榴弾を向こう側の物陰に投げる――――爆発音

 

 

 

しかし、仕留め損ねたのか走り去る足音が響いた。

 

 

 

「追います!付いてきてください!」

 

和泉の言葉にイーデンが頷く――――

 

 

 

 






如何でしたか?


基地警備隊の武装を考慮して、「無理せず、しかし基地はしっかり守る」感じで書いてみました。


次回も引き続き、和泉中尉を活躍させますのでお楽しみに!



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報告書019『襲撃:後編』


司令官および副官の不在、周辺都市への部隊派遣によって手薄になったPOCU本部を突如としてプロジェクト・オーダーの部隊が襲撃する。

その襲撃の本命は捕虜となった兵士――――北条 沙紀の救出だった。




 

 

 

緊急電源に切り替わり、非常灯で赤く染まった廊下を走る和泉とイーデン。

 

 

「暗視装置のネックは肉眼と比べて視界が狭いことです――――周辺の警戒を厳に!」

 

 

「了解です」

 

 

 

足音を追いながら徐々に外へと近付いているのを感じる和泉。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

北条 沙紀は、先ほど聞こえた声に聞き覚えがあった。

 

 

『――――サキ!?』

 

 

 

 

――――あれはイーデン・ウィルキー中尉の声だ。

 

 

ついこの前、同じフランカー乗りとして楽しく話をしたばかりだ。

 

 

 

 

『ねえ、本当は色々聞いてこいと言われたことあるんでしょ?聞かなくていいの?』

 

 

『ああ、仕事の事を聞くよりもパイロットとして話してる方が楽しいからな。それに……悪人には見えなかった』

 

 

 

世界に絶望してプロジェクト・オーダーに入った自分にとって彼は邪魔な存在――――敵だ。しかし、飾らない笑顔が脳から離れない。

 

 

 

 

彼と話していた時、世界に対する絶望や憎しみを忘れられた――――そう思った事に気付いて首を横に振る沙紀。

 

 

 

そうこうしているうちに、警備が手薄なゲート付近まで来た――――

 

 

 

「見張りが居ます――――今から呼びますので、来るまで見つからないようにしてください」

 

P.o兵の1人が通信機を操作しヘッドセットのマイクに呼びかける。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

そのゲートでは4人のPOCU兵士が警備にあたっていた。

 

 

 

「不気味なくらい静かだな――――他のゲートじゃ激しい銃撃戦だと聞いているが」

 

兵士のひとりが同僚に話しかける。

 

 

 

「こういう時って、むしろここが狙われそうなもんだ。油断せず構えとこうぜ」

 

同僚の返事に『ああ』と頷いた次の瞬間――――

 

 

 

エンジン音と共に数台のセダン、バンが全速でこちらに向かってくる!

 

 

「全員よけろ!」

 

 

思わずそう発し、POCU兵士達が左右によけたかと思うとセダンから降りた数人のP.o兵がバリケードに向かって銃撃してきた。

 

 

 

「くっ――――迂闊にバリケードから顔を出すなよ!頭ぶち抜かれるぞ」

 

同僚たちにそう呼びかけ、通信機を操作する兵士。

 

 

 

弾切れ――――マガジンチェンジの隙を突こうと顔を出した兵士が直ぐに引っ込み、バリケードに弾が当たる音が響く。

 

 

「射撃開始のタイミングをずらして、マガジンチェンジをしている時も仲間が常に撃っている状態を作っている――――手練れだな」

 

 

 

こうして、左右にばらけたPOCU兵士が迂闊に動けない状況が出来上がったのを確かめたP.o兵のひとりがヘッドセットで味方に合図を送ると同時にゲートの反対側で待機していた救出チームがバンに向かって走り出す。

 

 

「逃がすか!」

 

バリケードから少し身を乗り出したPOCU兵士の銃撃で敵兵のひとりが倒れる――――次の瞬間、二の腕を弾が掠る。

 

 

 

「くっ――――このままじゃ捕虜が」

 

反射的に引っ込めた身を再び乗り出そうとした兵士の腕を掴む同僚。

 

 

 

「無茶するな!死んだら元も子もないぞ」

 

 

救出チームを乗せたバンがゲート前から立ち去る――――そのタイミングで後を追ってきた和泉とイーデンが現れる。

 

 

 

「逃がさん!」

 

 

逃走しようと走り出したセダンの1台が和泉の銃撃でタイヤを撃ち抜かれ電柱へと激突――――爆発炎上する。続いて2台目がひっくり返り火だるまになる。

 

 

 

更に3台目――――を仕留めようとした瞬間、反転してこちらに突っ込んでくるではないか!

 

 

 

運転席に狙いを定め引き金を引く――――弾切れ――――反射的に拳銃に持ち替えて可能な限り多くの弾を撃ちこむ。

 

 

そして横に跳んだ次の瞬間、和泉が立っていた場所を猛スピードで通過したセダンがそのまま建物の壁に激突して爆発した。

 

 

 

 

 

横に跳んで地面に倒れた姿勢のまま夜の冷えた空気をめいっぱい吸い込んで白い息を吐く和泉。

 

何度かそれを繰り返し、発した一言は――――

 

 

 

「――――よし、生きているな」

 

 

 

上半身を起こし、周囲を見回すと敵はもう引き揚げたのか静寂がそこにあった。

 

遠くから聞こえていた銃声もしない――――ヘッドセットで基地警備隊のメンバーに呼びかける。

 

 

 

「こちら和泉だ。今の敵の状況を連絡してくれ」

 

 

それに対する返事はいずれも『敵は引き揚げた』というものだった――――

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

――――数日後

 

 

「AAP(Allied and Associated Powers)およびその友好国家との合同演習?」

 

 

和泉が思わず部下に訊き返す。

 

 

 

「はい、今回は弾薬共有など後方の兵站業務も演習の要点らしいですよ」

 

ゲートを次々と通過するトラックにはいずれもAAP参加国かその友好国の所属マークが記されていた。

 

 

 

「へえ……プロジェクト・オーダーに屈しない、というメッセージを発信するわけか。それにしてもやけに――――」

 

 

「やけに?」

 

 

 

部下が訊いてくるが、和泉は『考えすぎかな、忘れてくれ』とはぐらかす。

 

 

(――――量が多いじゃないか。演習でもこんなに使わないぞ?)

 

 

 

演習の真の意図を何となく察した和泉の胸中は穏やかではなかった――――

 

 

 

 






如何でしたか?


今回は敵が手練れの集まりという設定なのであまり無双させるわけにもいきませんでしたが、和泉中尉含めて基地警備隊メンバーの意地を見せつける感じになったかなと思います。


次回は司令官とリーちゃんのデート……ではなく息抜き回です。お楽しみに!


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報告書020『束の間の休息』


プロジェクト・オーダーとの衝突が避けられなくなり、その準備に追われるPOCU司令官。


激務に追われる彼に副官のリー・ベクターが出した提案は意外なものだった。




 

 

POCU本部に次々と入っては荷物を下すトラック。その様子を本部ビルの高層階から見下ろす司令官。

 

 

「AAP(Allied and Associated Powers)およびその友好国家から提供された弾薬のリストです」

 

 

 

リストを受け取り、しばし目を通したのち頷いた司令官は手に持ったものをリーに返し再び下を見下ろした。

 

 

 

 

そんな彼の厳しい横顔を見たリーは何かを考えるような表情になった――――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

――――数日後

 

 

 

「…………え?」

 

 

タブレットで今日の予定を確認した司令官が何も書かれていないスケジュール表に唖然となる。

 

 

 

「リー、これは一体?」

 

 

 

困惑した表情を見せる司令官とは対照的にリーは笑顔だ。

 

「司令官。ここの所、働きづめだったでしょう?優秀かつ信頼できる事務スタッフを他組織から引き抜き採用して司令官の決裁が不要、あるいは比較的重要度が低く代理の者に司令官の名義を貸しても問題なさそうな業務は彼らに任せる形にしました」

 

 

 

唖然となった司令官の腕を取るリー。

 

 

「そうと決まれば、さっそく息抜きしましょうか」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

外の新鮮な空気を久々に吸いながら緑あふれる都市公園内を歩くふたり。

 

 

 

司令官は執務室で書類の山を片付け、疲れたらシャワーしてベットで眠る日々が続き、余暇もトレーニングで潰していた事もあって自分がいかに狭苦しい世界に閉じこもっていたかを実感していた。

 

 

 

「たまには良いものだな」

 

そんな呟きを聞き逃さなかったリーが嬉しそうに笑う。

 

 

 

「あそこの屋台でホットドッグ売ってますよ!買ってきますね」

 

思春期の少女のような快活さを見せながら屋台に走っていくリーの笑顔がやけに眩しい――――司令官はそんな感想を抱くのだった。

 

 

 

 

良質な小麦を使ったフカフカのパンに、腸に上等な挽肉を目いっぱい詰め込んだプリプリ食感のウインナーを挟み、そこにケチャップとマスタードをかけたシンプルなホットドッグを一口かじると、やわらかいパンの食感に交じってウインナーの弾力感と弾ける肉汁、ケチャップの酸味とマスタードの辛味が合わさって懐かしい味が広がっていく。

 

 

 

「…………美味いな」

 

 

「いつも栄養バーとドリンクで済ませてるでしょう?こういうのもっと食べないと」

 

 

 

 

そう言いながら紙ナプキンで司令官の口元を撫でるリー。

 

「ああ、すまんな」

 

 

 

 

想像以上にリーに苦労をかけているようだ――――自らの視界の狭さを痛感する司令官だった。

 

 

 

「司令官、勘違いしないでくださいね?」

 

いきなりそう言われ、目をぱちくりさせる司令官。

 

 

 

「苦労しているのはむしろ司令官の方でしょう?司令官が息抜きしてくれないとこっちが不安になりますよ」

 

 

思ったよりお見通しか――――そんな事を考えていると、リーが頬を膨らませた。

 

 

 

「司令官の事はそれなりに知っていますけど、ちゃんと言葉にしてくれないと伝わらない事もありますからね?」

 

 

「それもそうだな――――場所を移したいがいいか?」

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

芝生の上に腰を下ろしたリー。その隣には芝生に寝転がる司令官。

 

 

 

顔を見上げると、いつもは自分より目線が低いリーが大きな存在に見えてくる。

 

 

 

「――――今まで俺が屠ってきた敵は、自分さえ良ければ他者はどうなっても構わないという外道ばかりだった」

 

 

自分でも驚くほど弱々しい声だ。

 

 

 

「だが、プロジェクト・オーダーはそういった敵とは違う。やり方こそ決して相容れないものだが強者が力に物を言わせて弱者を好き勝手にいたぶる事を絶対に認めない、そういう外道を消し去る、という本物の信念がある――――本物の信念が人をどれだけ強くするかは君も見てきただろう?」

 

 

 

 

リーは司令官を責めもせず、憐れむこともせず、優しい眼差しで見つめてくる。

 

 

「かなり厳しい戦いになるだろう。POCUに犠牲者が出てもおかしくはない」

 

 

 

 

強い責任感の裏に隠し持っていた不安が露わになる――――

 

 

 

と、その時だった。リーの手が司令官の手に重なったのは。

 

 

「それでいいんですよ、司令官。あなたは決して部下をゲームの駒扱いしない人ですから」

 

 

 

 

身体を抱きしめられているかのような安らぎが胸に広がる――――

 

 

 

 

――――争う声が聞こえてくる。

 

 

 

「――――ん?」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

「なあ、遊ぼうぜ?」

 

 

 

大柄なチンピラが数人、学校の制服を着た少女ふたりを取り囲む。

 

 

 

 

「私たち、用事があるんです。通してください!」

 

凛とした表情で明確に拒絶の意思を示す少女。

 

 

 

 

「身の程を弁えろよ?雌の分際で偉そうにモノを言いやがって。黙って従ってりゃいいんだよ」

 

そう言いながらチンピラが少女の襟首を掴みナイフを取り出した次の瞬間、チンピラの頭を銃弾が貫通した。

 

 

 

「身の程を弁えろ。獣欲を満たす事しか頭にない豚如きが人間扱いされるなどと思うな」

 

拳銃を構えたまま冷たい声でそう告げる司令官。

 

 

 

 

――――絶叫と共に走り去るチンピラを一瞥し、少女ふたりの方を向く司令官。

 

 

「大変だったな。手遅れにならなくて良かった」

 

 

 

 

少女たちの安堵した表情――――そこに自らの戦う意味を改めて見出した司令官の表情に迷いはなかった。

 

 

感謝の言葉を残して去っていった少女の背中を見つめながら自然と言葉が出てくる。

 

 

 

 

「黙って従ってりゃいい――――か。クソくらえだね」

 

先日対峙したサミュエル・テーヌへの怒りを新たにするその表情にリーも安堵した表情を見せる。

 

 

 

 

「もう迷わなくてもいいみたいですね、司令官」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

日もすっかり暮れ、ライトアップした公園を歩くふたり。

 

 

 

先ほどから言葉を交わしていないが、自らを見上げるリーが少女のような表情を見せてくれるのが嬉しくもあり照れくさくもある。

 

 

と、その時。

 

 

 

 

前後に不穏な気配がする――――見回すと、先ほどのチンピラの生き残りが大勢の仲間を引き連れてやってきたようだ。

 

 

 

「――――司令官!」

 

 

「ああ、ゴミはきっちり片付けるぞ!」

 

 

 

リーが差し出してきたマシンピストルを手にして構え、背中を向けあう。

 

 

 

 

「後ろは任せろ、リー」

 

 

「司令官の背中は私が守ります」

 

 

 

 

――――次の瞬間、銃声と共に次々となぎ倒されていくチンピラ。

 

 

 

果敢にもバットを振り上げて突っ込んでくる者も居たが、毎分600発の火力はそんな蛮勇すらも容易く捻じり伏せてしまう――――

 

 

 

その時、あと一人という所で弾が切れてしまう――――!

 

 

 

「司令官、しゃがんで!」

 

予備マガジンを投げてよこしながらこちらに銃を構えたリーの意図に気付き、しゃがんで射線を空けると同時に司令官に襲い掛かろうとしていたチンピラの頭が爆ぜる。

 

 

 

「リー!よけろ!」

 

マガジンチェンジした銃を向け、リーがよけた向こう側のチンピラに全弾ぶちこむ司令官。

 

 

 

 

 

「――――これで全部のようだな」

 

 

周囲に広がる血だまりと大量の死体を見回しながら訪ねる司令官に『はい』と答えるリー。

 

 

 

「最後の最後に散々な1日になりましたね?」

 

 

 

笑いながら肩をすくめるリーにつられて笑顔になる。

 

 

 

「まあ、刺激的な1日だったな」

 

 

 

 

 





如何でしたか?ずっと司令官がリーに甘える形にしようかと思いましたが、互いに信頼しあっているパートナーとしての雰囲気も出してみたかったのでこういうオチになりました。


またデート回は書くつもりですので、その時は今回とはまた違った感じにしてみようと思います。



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報告書021『暗躍:前編』


完全にPOCUと決裂したプロジェクト・オーダー(P.o)は、国際社会の連携を崩すべく反プロジェクト・オーダー陣営の一員である日本・ヤマ大国・ソリダリテ民主共和国・アルタニアを繋ぐシーレーンへの攻撃を開始。


サウデスト帝国に近い空域でPOCU・米軍・プロジェクト・オーダーの航空部隊が衝突する!




 

 

 

 

――――北インド洋上空

 

 

 

米空母およびPOCU所属クレムリ級空母から発艦したF-35部隊とP.oのフランカーもどき改めPo-35トールの編隊が入り乱れて激しい空戦を繰り広げていた。

 

 

 

トールの1機がPOCU所属マークを付けた漆黒のF-35に機銃弾を撃ちこみ、損傷を与える。

 

 

『こちらバリオニクス06!主翼にダメージを負いました…撤退します!』

 

 

「バリオニクス06、こちらバリオニクス01。死ぬなよ!」

 

 

 

 

そうしている間にもバリオニクス06を攻撃した敵機が主翼に米軍マークがロービジで描かれたグレーのF-35にミサイルを叩き込み、撃墜した。

 

 

「くっ……負けるわけにはいかない!制空権を明け渡せばプロジェクト・オーダーの連中はシーレーンを航行する船舶を攻撃し放題なんだ!」

 

 

 

 

トールの1機にミサイルを叩き込み、更に後方に迫ったもう1機をコブラ機動で前へと押し出して機銃で撃墜する。

 

 

 

 

しかし、レーダー画面では西から次々と新たな光点がやって来ている。

 

「なんて数だ!アメリカ海軍のF-35も既に2割がやられている……このままでは!」

 

 

 

 

――――その時、西から迫りつつある敵編隊の北側から突如としてミサイルを示す反応が次々と現れあっという間に敵を示す光点を消し去ってしまった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

プロジェクト・オーダー編隊・隊長機

 

 

「ば、馬鹿な!?」

 

 

 

トールのコックピットに座る隊長が目にしたのは、海面ギリギリを飛行するトムキャットの編隊だった。

 

 

 

「レーダーに見つからないように海面ギリギリを飛行しつつ我々の増援に密かに近づいて一網打尽にしたというのか!」

 

 

 

 

増援が全滅――――しかし、それは隊長を絶望させなかった。

 

「全機、我々の増援は壊滅した――――しかし、新たな敵機は骨董品のトムキャットだ!捻り潰してやれ!」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

POCU航空部隊所属:イリテーター隊

 

 

 

「どうやら敵さんは俺達を旧式のポンコツだと舐めているようだな」

 

レーダー上の敵機が数機ほどこちらに向かってくるのを確かめた隊長がそう呟くと部下から通信が入った。

 

 

 

『一気にやっちゃいましょうぜ、隊長』

 

 

『愛しの猫ちゃんを馬鹿にされちゃ黙ってられません』

 

 

士気旺盛な部下の声にニヤリと笑った隊長が息を吸い、口を開く。

 

 

 

 

「よし、敵さんに教えてやれ。俺達の猫ちゃんを見くびると痛い目見るぜ?ってな――――――――イリテーター1より全機、危険領域の敵勢力を排除せよ!」

 

 

部下達から次々と『了解!』の返信が返ってくるのを確かめ、隊長の手がエンジンのスロットルレバーを一気に押し出した。

 

 

 

漆黒に塗られたトムキャットがエンジンを唸らせ、バーナーの炎を煌めかせながら天空の戦場へと殴り込んでいく――――!

 

 

 





如何でしたか?


次回はPOCU、プロジェクト・オーダー、米軍共に更に増援を投入して空戦を繰り広げる中、思わぬ再会を果たす『ふたり』を描いていきます。お楽しみに!





【オリジナル設定集】





・Po-35トール


プロジェクト・オーダーの主力戦闘機であり、シベリアン・ロシアのSu-35Sフランカーをベースにしている。

基本設計こそフランカーの流れを継いでいるが米欧の部品が各所に使用されている他、KMC製フランカーに使われた技術が反映されている。





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報告書022『暗躍:中編』


北インド洋上空で激突するPOCU・米軍・プロジェクト・オーダーの航空部隊。各勢力の増援も投入され、空は更に燃え上がる!



 

 

 

――――インド洋・イリテーター隊

 

 

アフターバーナーの轟音を天空に響かせながら戦場へと突入するトムキャットがすれ違いざまにプロジェクト・オーダーの戦闘機・トールをヘッドオンで撃墜し、可変翼を広げながらドッグファイトに加わる。

 

 

 

「敵は手練れ揃いだ!全力でかかれ」

 

 

『了解!』

 

 

 

 

その時、トムキャットの1機に後方からトールが襲い掛かる!

 

 

 

 

「おおっと!いきなりかよ」

 

 

操縦桿を思い切り引き、機首が上を向いたかと思うとエンジンが静かになる――――操縦桿を思い切り横へと引く――――捻るように機体の軌道を変え、下へと落ちていく。

 

 

 

そして、トムキャットが落下し始めたところをトールが通り過ぎていく。

 

 

 

「なっ――――」

 

驚愕して後ろを振り向いたトールのパイロットが見たのはエンジン出力を再び上げて息を吹き返したトムキャット、そしてそこから自分の方へと伸びてくるミサイル煙だった――――

 

 

 

蒼穹に炎の花が咲くのを確かめたトムキャットが再び獲物を求めながら舞う。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

――――インド洋上空・POCU航空部隊増援チーム

 

 

複数の部隊で構成される増援部隊。その中にはイーデン・ウィルキー中尉のSu-33も居た。

 

 

『イリテーター隊が戦闘に参加、既にトールを5機撃破!』

 

 

オペレーターの少々興奮した声がスピーカー越しに耳を震わせる。

 

 

 

 

(――――――――今のところウチは善戦しているが、米軍の損失も計算すると拮抗している。ここが正念場というわけだ)

 

 

 

 

と、そこにオペレーターから更に通信が入った。

 

『増援チームのSu-33小隊は直ちに米軍の支援に入れ!向こう側の増援にかなりの手練れが居る!』

 

 

 

 

『聞いたな!行くぞ』

 

「了解!」

 

隊長の指示に従い、操縦桿を捻るイーデン。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

インド洋上空・米軍航空部隊

 

 

 

僅か10機のトールに次々と叩き落されていく米軍のF-18、F-35。

 

 

 

『こちらソード5!敵がケツに――――』

 

パイロットが叫ぶ中、F-18の後方にミサイルが命中し通信が途絶える。

 

 

 

『くそったれ!墜ちろ、テロリスト野郎が!』

 

F-35がトールの1機にミサイルを発射するが、その機は機首を起こしたかと思うとそのままスピンしながらミサイルをかわしF-35の背後を取った。

 

 

 

 

『落ちなさい』

 

パイロットがそう呟き、トリガーを引くと同時に機関砲弾がF-35を容赦なく蜂の巣にする。

 

 

 

 

続けて次の獲物を品定めしようとした瞬間、後方から迫る気配に気付く。

 

 

 

 

「ちっ――――POCUか!」

 

 

 

操縦桿を捻り、敵のSu-33とドッグファイトに突入する。

 

「今度は落とされないわよ」

 

 

パイロット――――北条 沙紀はそう呟いた。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

Su-33 コックピット

 

 

 

イーデン・ウィルキー中尉の視線の先にはキャノピーを挟んでグレーに塗装されたトールの姿があった。

 

 

 

 

「良い部品はスコミムス隊に優先的に回されてるからな――――持ってくれよ!」

 

連日の出撃でガタが来た機体を労わるように呟きながら操縦桿を捻るイーデン。

 

 

 

 

「ぐっ――――」

 

Gがかかり、身体が押し潰されるような感覚に襲われる――――

 

 

 

しかし、視界の中でトールは正面に捉えるどころか逆にススス、と視界の上方へと滑っていく。

 

 

 

「こなくそ!」

 

 

 

限界まで機首を引き上げ、無理やり後方へとついたイーデンがヘルメットマウントサイトの照準をトールに合わせた次の瞬間、灰色の機体が機首を起こして後方へと消えていった。

 

 

 

(コブラ機動――――!)

 

 

相手の動きを見抜き、自らも同じ機動を取って再び相手の後ろを取る――――

 

 

 

 

――――しかし、予想外だったのは敵機が更にクルビット機動を繰り出してきたことだった。

 

 

 

「――――!!」

 

 

 

ほとんど反射的に操縦桿を引き、クルビット機動でこちらを向いたトールと正面から向き合ったまま機関砲を撃ちあう!!

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

意識を取り戻したイーデンが真っ先に感じたのは、火の温かさだった。

 

 

 

即座に起き上がると、焚き火の傍に座る下着姿の女性が視界に入る――――

 

 

 

「――――おはよう、イーデン」

 

どこか妖艶で、嬉しそうな笑みを浮かべる女性――――北条 沙紀にイーデンも思わず笑顔になる。

 

 

 

「経緯はどうあれ――――また会えて嬉しいよ、サキ」

 

 

 

 





如何でしたか?


次回はサウデスト帝国のジャングルに迷い込んだイーデンと沙紀の少し甘い時間を描いていこうと思います。お楽しみに!




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報告書023『暗躍:後編』


空戦で相打ちとなり機を捨てたPOCU航空部隊パイロット、イーデン・ウィルキー中尉は敵であるプロジェクト・オーダー(以下P.oと略)のパイロットである北条 沙紀中尉と共にサウデスト帝国のジャングルに迷い込む。




 

 

 

――――サウデスト帝国・某ギャング組織

 

 

 

「プロジェクト・オーダーとPOCUが武力衝突してくれたお陰で我々も動きやすくなりました」

 

幹部の1人がボスに話しかける。

 

 

 

「どうです?久々に活きのいい女でも攫ってマワしましょうか」

 

 

いやらしい顔をする幹部にボスも同じような笑いを浮かべる。

 

 

「それも悪くないな。POCUとプロジェクト・オーダーが潰しあってくれれば俺達はカネも女も奪い放題、好き放題できる」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

サウデスト帝国・ジャングル

 

 

 

 

目の前にはたき火、向こう側にはロープに吊るされた2人分の飛行服――――毛布の中を見ると下着一枚だ――――そしてたき火の傍らには暖をとる下着姿の沙紀がいる。

 

 

 

 

「君が助けてくれたのか、サキ――――ありがとな。ところでここはサウデスト帝国か?」

 

 

「ええ、それもテロ組織のアジトがあるジャングルよ」

 

 

 

参ったな――――そう呟くイーデン。

 

 

 

 

「はい、ご飯」

 

栄養バーを差し出してきた沙紀の方を見て、下着に包まれた豊かなモノから反射的に目をそらす。

 

 

 

「あ、ありがとよ」

 

 

「あら、大きいのは好きじゃなかった?」

 

イーデンの反応を楽しむようにクスクスと笑う沙紀。

 

 

 

「い、いや、そんな事は――――って言わせんな」

 

イーデンは赤面しつつ栄養バーをかじるのだった。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

その頃、イーデン・ウィルキー中尉が機を捨てて脱出したこと、その位置からテロ組織が跋扈するサウデスト帝国のジャングルに迷い込んだ可能性があることはPOCU本部の知るところとなり、救出作戦が練られていた。

 

 

 

 

 

 

エイジャン連邦共和国・POCU臨時借用飛行場

 

 

 

航空基地の駐機場に停められたKF-21、F-35、ハリアー、A-10。漆黒の塗装が施されたそれらはいずれも兵装パイロンにミサイルや爆弾類を満載しており一大拠点を軽く更地にできそうな雰囲気を纏っている。

 

 

 

「なんつうか殺意すごいっすね」

 

 

警備兵のひとりがパイロットに話しかける。

 

 

 

「まぁ全機フル武装は伝統芸能みたいなもんだからな」

 

 

警備兵とパイロットがそんなやり取りをしている中、駐機場の片隅では数機のYF-23が出撃命令を待っていた。

 

 

「魔術師の奴らまで来ているとは――――頼もしいな」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「なあ、サキ」

 

 

温かいスープが入った金属製コップを空けたイーデンが沙紀の方を見る。

 

 

 

「何があってプロジェクト・オーダーに入ったのか聞かせてくれ」

 

 

 

 

沙紀はその言葉に意外と言わんばかりの表情を浮かべ、やがて口を開く。

 

 

「――――私、どうしても曲がったことが許せないんだ」

 

 

 

 

たき火に照らされた表情には、真っ直ぐで正義を追い求める強い信念が宿っていた。

 

 

「ギャングやテロリストが我が物顔で好き勝手やって、沢山の人達――――特に女の人が酷い目にあっているのに政治だの大人の対応だの言って力があるのに何もしない世界が嫌で、この道を選んだの」

 

 

 

たとえ、間違っていると罵られたとしてもね――――そう締めくくる沙紀。

 

 

 

「――――その気持ちは間違っていないよ。俺はサキを否定しない」

 

 

イーデンを見つめる沙紀。

 

 

 

 

 

「俺はたまたま運が良かったから、いい子ぶって誰かの為に力を使おうとしないクソみたいな連中が力を持つこの世界でも人間の可能性に賭ける選択が出来た――――――――けれども、世の中を信じられずそういう道を選んだのだとしても責められない」

 

 

「――――――――――――――――――」

 

 

 

 

しばらく時間が流れる。

 

 

 

「――――初めて言われた。そういうの」

 

沙紀の表情は穏やかだった。

 

 

 

 

「今まで敵対してきた人たちは皆、この理不尽な世界をちゃんと見ようともせず、それに絶望した私の気持ちに寄り添おうとすらせず一方的に間違っていると罵ってきた。けれどもあなたは私の気持ちに寄り添ってくれた――――嬉しいわ」

 

 

そう言うと、ブラジャーのホックを外して上半身が完全に露わになった。

 

 

 

 

「あなたには決して曲げられない信念があるのでしょう?――――――――きっと私達はまたぶつかる。だから後悔したくないの」

 

 

イーデンの逞しい胸板に手を添える――――彼の体温が伝わってくる。

 

 

 

「あなたを抱きたい。全部、身体で覚えていたいの」

 

 

 

 

 

イーデンの両手が沙紀の肩に添えられる――――大きく固い手から伝わってくる体温が心地よい――――

 

 

 

 

 

イーデンの瞳に映る自分の表情が自分でも思ってみなかったほど、女の顔をしていることに気付いた。

 

 

そのまま彼の首に腕を回し、額を重ねる。

 

 

 

「今だけ言わせて――――愛している」

 

 

 

 

POCU本部で初めて出会い、敵兵としてではなく1人の人間として接してくれた日――――幾度も尋問名目でやってきては談笑する日々――――本部を脱出した時に感じた心の痛み――――再会した時の心躍るような気持ち――――そんな感情の奔流が走馬灯のようによみがえる。

 

 

 

沙紀は自分に触れてくるイーデンの温もりを忘れまい、と両腕で彼を包み込んで自らの身体と重ねるのだった――――――――

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

――――12時間後・午前3時

 

 

 

 

ぐっすり眠って体力が回復――――昨晩の筋肉痛はまだ残っているが――――したイーデン・ウィルキー中尉がシグナル発信装置を修理し発信する。

 

 

「よし、シグナルを発信した――――もうすぐ救援が来るだろう」

 

 

 

沙紀の方を見ると、ちょうど乾いた飛行服のジッパーを上げるところ――――胸元に昨晩つけたキスマークが残っている――――だった。

 

 

 

「お別れね、イーデン」

 

 

互いに抱擁をかわす2人。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

上空を飛行する数機のMig-21戦闘機にはいずれも地元の大規模なギャング組織のエンブレムが塗装されている。

 

 

 

《暇だな――――ん?》

 

パトロール隊を率いるベテランの隊長が前方に違和感を感じ取る――――

 

 

 

 

 

 

 

――――POCU航空部隊所属・アベリ隊

 

 

 

《前方に敵飛行隊を確認 アベリ1より全機 奴等に魔術を見せてやれ》

 

 

《了解、隊長》

 

 

 

交信が終わるや否や、数機のYF-23が前方のMig-21編隊へと襲い掛かり先頭の隊長機にミサイルを叩き込む。

 

 

 

 

 

 

《何だ!レーダーには何も映っていないぞ!?》

 

混乱し周囲を見回すが、夜闇に隠れた敵機を探し出すのは至難――――そうしているうちに後方からミサイルを叩き込まれた。

 

 

 

《奴ら魔法でも使っているのか!?》

 

 

 

ジグザグに動きながら敵機を探すギャング側のパイロット。その時、いきなり背中に静かにナイフを突き刺すような殺気を感じてミラーを見る――――驚愕しながら後ろを向くと夜闇にYF-23の平べったい機体がうっすらと浮かび上がっていた――――それがパイロットが最期に見た光景となり機体もろとも機銃弾でズタズタにされる。

 

 

 

 

《アベリ1より救出隊へ。パトロールは叩いた。繰り返す、パトロールは叩いた》

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

『全機、直ちに離陸せよ!』

 

その号令と共に次々と滑走路を蹴って空へと駆け上がる漆黒の戦翼たち。

 

 

 

『必ずウィルキー中尉を救い出すぞ!』

 

 

 

 






如何でしたか?次回は火力モリモリなのでお楽しみに!



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報告書024『共同戦線』


プロジェクト・オーダー(以下P.oと略)のパイロットである北条 沙紀と甘い一夜を過ごしたPOCUパイロットのイーデン・ウィルキー。


そして救難シグナルをキャッチしたPOCUによる救出作戦が開始される!





 

 

 

パトロールに出ていた戦闘機隊が全滅したことでギャング組織の拠点は大騒ぎになっていた。

 

 

『出せる兵力は全部出せ!POCUだ!』

 

 

ボスの声がスピーカーから響く。

 

 

 

「まわせー!」

 

 

「先に離陸する!道を空けろ!」

 

 

 

基地から次々と戦闘機やヘリが飛び立ち、夜明けの空へと舞い上がっていく。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

高空を飛行する漆黒のF-35。

 

 

「こちらルゴプス01、EOTSのセンサー情報を連携します」

 

 

『了解、ルゴプス01はそのまま早期警戒任務を継続せよ』

 

 

「ルゴプス01、コピー」

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

「先行しているルゴプス01からの情報だ、蹴散らすぞ」

 

 

POCU航空部隊の先陣を切るバリオニクス隊のF-35。その姿はクリーン形態だったルゴプス01とは対照的に主翼下にミサイルや爆弾類を満載しており荒々しい野獣を思わせた。

 

 

そして、それは後方を飛行するKF-21やハリアー、A-10も同様だった。

 

 

 

「アベリ隊とぶつからなかったミグの編隊がこっちに向かってくる。サクッと蹴散ら――――」

 

 

 

『聞こえるか、POCUの航空部隊』

 

 

 

国際周波数で突然割り込んできた通信。

 

 

 

『こちらプロジェクト・オーダー所属、第1航空団。今回は交戦の意思はない――――露払いは我々に任せろ』

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

「道は違えど、クズ共を残らず消し去るという信念は同じ。彼らの道を阻むクズは残らず墜とせ」

 

 

『了解!』

 

 

 

 

制空迷彩でボディーを彩ったSu-57のような戦闘機――――『オーディン』で構成された編隊がギャング組織のミグに捕捉されることなく悠々と背後を取り、ミサイルを発射する。

 

 

 

レーダーに映らないオーディンの存在を知覚できなかったミグ編隊は回避も反撃も出来ないまま次々とミサイルに喰われていくのだった――――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

上がったミグ編隊が全滅したことでギャング組織のボスは顔面蒼白になっていた。

 

 

 

『ば、馬鹿な………!?』

 

 

裏社会ではそれなりに名が知れたパイロットが蟻の如く蹴散らされた――――!?

 

 

 

 

その時だった。航空機のエンジン音が基地に響いたのは――――

 

 

 

次の瞬間には多数の航空機から投下された爆弾が次々と基地を直撃、その1発がボスの居る作戦室を直撃しそこにいた人間を塵も残さず吹き飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

もうもうと黒煙を上げる基地――――それでも焼け残った倉庫から対空戦車が瓦礫を押しのけながら現れ対空射撃を行う――――次の瞬間にはA-10のアヴェンジャー砲で地面ごと粉微塵にされる。

 

 

 

「クソが!これでも喰らえ!」

 

 

 

辛うじて原型を留めていた管制塔から携行式対空ミサイルが発射され、エンジンを直撃する――――

 

 

 

「やったか!?」

 

 

 

 

 

撃墜を確信したギャング――――だが、次の瞬間にはそれが絶望の表情に変わる。

 

 

 

片肺になってもなお悠々と飛び続けるA-10の機首が管制塔を向く――――それが彼らが最期に見た光景となった。

 

 

 

 

アヴェンジャー砲が吼えた次の瞬間には、既にボロボロだった管制塔上部は中にいたギャングもろとも木っ端微塵に粉砕されたのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

極秘トンネルからゴムボートで川へと逃げたギャング達。

 

 

 

「まさかあんなに強いなんて……!」

 

 

「とにかく逃げるぞ、見つかったら容赦なく消される」

 

 

 

航空機が飛行できないような狭い峡谷なら安全に逃げられる――――そう思っていたギャング達は水流の音に交じってジェットエンジンの唸り声がすることに気が付いた。

 

 

「――――――――――――」

 

 

 

 

上空を見ると、そこには――――ホバリングするハリアーの姿があった。

 

 

 

「は……ハハ……」

 

 

ギャングのひとりが引きつった笑みを浮かべる――――

 

 

 

 

そしてガンポッドの機関砲弾が全弾撃ちこまれた後には、さっきまでゴムボートとギャングだったモノだけが残された。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

――――POCU・ハインド編隊

 

 

 

『こちら司令官、ギャング組織の掃討作戦は完了し障害は排除された。これよりイーデン・ウィルキー中尉を救助せよ』

 

 

「了解しました」

 

 

 

 

と、その時。

 

 

 

 

『こちらルゴプス01、北方から大量の航空機と地上車両が接近中!』

 

 

 

『こちら第1航空団、北から接近する反応は我々P.oではない』

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

POCU本部・作戦司令室

 

 

 

「我々がギャング組織を掃討したことでサウデスト帝国の裏社会に空白ができた――――ということか」

 

 

 

最大のギャング組織を壊滅させたPOCUの部隊を潰せば名を上げられる――――そう考えたのだろう。

 

 

「まずいな――――我々に敵わないと理解するだけの知能すらない連中だとは思わなかった。航空部隊に機関砲で掃討させるか」

 

 

 

司令官がそう考えた次の瞬間、モニターに新たな反応が出現した。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

Su-30SMをベースにした戦闘爆撃機『スルト』の編隊が次々と北から押し寄せてくる新手に爆弾を投下、辺り一面が爆炎に覆われる――――

 

 

そして生き残りには30mm機関砲から放たれた砲弾が容赦なく叩き込まれる。

 

 

 

たったそれだけで新たに現れた敵の士気は悉く打ち砕かれ蜘蛛の子を散らすように逃げていく――――

 

 

 

「こちら第3航空団、脅威は排除した。それと――――我々のヘリがそちらに向かうが、目的はあくまでも我が方のパイロットの回収だ。交戦の意思はない」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

シグナルが発信されたポイントの近くに着地するPOCUのハインド――――そして、少し離れた場所にはP.oのブラックホーク。

 

 

 

それぞれのヘリに向かうイーデンと沙紀――――2人は最後まで互いを見ることはなかった。次に出会った時は敵同士――――その時に愛おしさで腕を鈍らせない為に。

 

 

 

 

 

 

やがてPOCUが見守るなか、ブラックホークが離陸し空へと消えていく――――

 

 

 

「さて、我々も帰るか」

 

 

 

気持ちいい朝日の光を浴びながらハインドのエンジン音が唸り、上昇する。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――兵員室の窓から海を眺めるイーデン。

 

 

 

「――――――――――――」

 

 

 

敵のパイロットと一晩とはいえ愛を育んだ男の心中は本人にしか分からない――――

 

 

 







如何でしたか?



次回はリーちゃんの焼肉回を書こうと思います。お楽しみに!




【オリジナル設定集】





・Po-57 オーディン


プロジェクト・オーダーの次世代主力戦闘機であり、シベリアン・ロシアのSu-57をベースにKMC製J-20戦闘機の技術を用いて強化した改良モデル。原型機と比べてレーダーや電子戦能力が大幅に強化されたほか、表面加工もより洗練されたものとなっている。

制空任務中心の運用を想定しているが、対地・対艦用の長距離ミサイル運用能力も持つ。





・Po-30 スルト


Su-30SMをベースにKCM製J-16の技術を投入して改良した戦闘爆撃機であり、プロジェクト・オーダーの主力アタッカー。

兵装搭載量が大きく増加しており、原型機が8トンなのに対して本機は12トンである。(現実のJ-16と同じ数値)


アタッカーではあるものの、フランカー系列の高い機動性も受け継いでおり空戦も問題なくこなす。




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報告書025『焼肉戦争』


お久しぶりです。約半年もお待たせしてしまい申し訳ございません。

今回は以前予告しましたようにベクターちゃんの焼肉回を書かせて頂きます。




 

 

 

――――ミストルテ国・ゴーストタウン

 

 

 

 

――――今日はとことんツイていない。

 

 

POCU司令官はゴーストタウンとなった旧市街地でテロリストに不意を突かれ、こうして同行した部下、国連高官以下数名の職員と共に廃墟の遮蔽物に身を隠しながら呟いた。

 

 

 

なんという事はない、紛争が落ち着いて再開発が進んでいる国の視察を終えた後に現地在住の日本人が経営する焼肉店を副官のベクターと共に訪れる――――筈だった。

 

 

 

だが、現政権に反発する旧政権側の軍人で構成されたテログループが国連高官の視察計画を掴み、人質にすべく待ち伏せしていた――――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

ミストルテ:POCU本部

 

 

 

『――――この度、ヤマ大国が国号をミストルテに変更する事が決定しました』

 

 

ニュースから流れる音声を聞きながら書類を見直す白銀の長髪が特徴的な女性。

 

 

 

心無しか今日はご機嫌に鼻歌を歌っている。

 

 

 

 

『今日は焼肉に連れて行ってくれるんですよね?』

 

今朝、視察に出発する前に司令官に念押しするように確認したのを思い出す。

 

 

 

『ああ、視察が終わったら行こう。好きなだけ頼んでいいぞ』

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

POCU本部・飛行場

 

 

 

滑走路に着陸する漆黒のKF-21。誘導路からパイロンに進み、エンジンを停止した機体のキャノピーが開く。

 

 

そしてタラップがかけられ、パイロットが降りてくる。

 

 

 

「お疲れ様です、調子は如何でしたか?」

 

整備兵がパイロットからヘルメットを受け取る。

 

 

 

「ああ、問題なく扱えた。F-35も扱いやすかったがこちらも良い機体だ」

 

部隊の統廃合で、ルゴプス隊のF-35をアルバート隊の予備機材にし、代わりにKF-21が配備される事が決まった時はどうなるかと思ったが案外なんとかなるものだ――――そんな事を考えながらパイロットは空を見上げた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

そのニュースが飛び込んできたのは突然の事だった。

 

 

 

『旧政権派の将兵らがゴーストタウンで確認されました。現在視察中の国連高官は同行者共々行方が知れず――――――――』

 

 

 

戦地での使用を想定した頑丈なタブレットが大きな音と共に床に落ちる。

 

ベクターはタブレットを落としたまま固まっていた。

 

 

 

 

「………やきにく………」

 

これまで見た事もないような絶望した表情になるベクター。

 

 

 

――――次の瞬間にはインカムで全部隊に緊急事態を宣言していた。

 

 

「緊急事態!!ゴーストタウンを視察中の司令官を迅速に救助する!動ける航空部隊は直ちに出撃準備、準備ができた隊から発進せよ!」

 

 

 

 

 

 

――――POCU本部・飛行場

 

 

各隊が慌ただしく準備するなか、即応待機中で既に出撃できる状態にあったディロフォ隊のF-15 S/MTDがエンジンの唸りを響かせながら滑走路へと向かう。

 

 

 

『離陸後、最大推力で向かうぞ。副官殿の焼肉デートは我々が護る――――断じて中止などという悲劇は認めん』

 

 

 

次々とエンジンを轟かせながら蒼空へと上がっていくイーグル。

 

 

 

 

そして準備が完了した他の航空隊も離陸を始める――――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

超音速巡航でディロフォ隊を追い越したアルバート隊のF-35がゴーストタウンを機首のEOTSセンサーで偵察し市内を移動するテロリストの部隊を捕捉する。

 

 

 

そして司令官のGPS反応を微弱ながら捕捉、全部隊と情報を共有する。

 

 

「こちらアルバート1、司令官の現在位置を捕捉した。妨害がひどく多少の誤差はあるがこの建物で間違いない」

 

 

 

と、そこへベクターからの通信が入る。

 

『こちらベクター、アルバート隊は引き続き偵察を続行し情報を最新に保て』

 

 

「アルバート1、了解……アルバート1より各機へ、この作戦の成功は我々にかかっている。気を引き締めてかかれよ」

 

 

 

 

 

 

その頃、地上ではテロリスト部隊の指揮官が標的である国連高官の引き籠る建物を双眼鏡で確認し口元を吊り上げていた。

 

 

もうじき後方で待機させていた航空隊や地上の予備隊がここに来る筈だ。そうすれば優勢はこちらのもの――――奴らも諦めて降伏するだろう。

 

 

 

 

と、その時だった。ジェットエンジンの轟音が響いたのは。

 

 

「お、やって来たか――――」

 

 

 

 

 

 

――――POCU所属レックス隊のA-10がアルバート隊の示した攻撃目標を視認する。

 

 

 

「こちらレックス・リーダー、攻撃を開始する――――ゴミ共には地獄がお似合いだ」

 

直線翼が特徴的な機体をバンクさせ、地表めがけて急降下していく――――

 

 

 

 

 

「――――――――黒いA-10!?ま、まさか――――」

 

 

その瞬間、国連高官に同行するメンバーに見慣れない男が居た事を思い出すテロリスト指揮官。そして、今になってそれがPOCU司令官だった事に気付く。

 

 

 

敵に回してはいけない存在を怒らせてしまった――――その後悔は直後に降り注いだ30ミリ機関砲弾の雨によって指揮官や周囲の部下もろとも木っ端微塵になった。

 

 

 

 

ただでさえ地上の兵士から恐れられるA-10、それもPOCUの機体がやって来た事でテロリストはパニックになって散り散りに逃げていく。指揮官を失い無秩序に逃げ惑う姿は哀れですらある。

 

 

 

しかし、そんな彼らを上空から見つめる存在があった。

 

 

『目標を確認、対地攻撃を開始します――――』

 

 

 

漆黒のAC-130Uが機体の左側面に設置された砲を地上へと向ける。

 

 

『慈悲など無い、クソ野郎共を吹っ飛ばせ』

 

 

機長が檄を飛ばし、砲手達がそれぞれの砲に弾薬を装填していく。

 

 

 

 

そして砲は逃げ惑うテロリストを睨み、火を噴いた――――

 

 

 

 

 

 

――――ゴーストタウン郊外から中心部へと急行するテロリストの予備隊。

 

 

 

「くっ――――先行していた部隊と連絡が取れない、気を引き締めてかかれ!!」

 

 

と、そこへエンジン音が響く。

 

 

 

 

「――――――――味方、か?」

 

 

音がした方を見つめる――――そして漆黒のハリアーが見えた。

 

 

 

 

 

「こちらヴェロキ1、攻撃目標を確認。確実に始末するぞ、絶対に逃がすな」

 

部下に指示を飛ばし、地上部隊の先頭にいる戦車にミサイルの照準を合わせてマーベリックを発射する。

 

 

 

そして数秒後には戦車の砲塔が爆発音と共に天高く舞い上がった――――

 

 

 

 

 

 

――――――――テロリスト航空部隊・Mig-21

 

 

『こちら地上部隊、敵航空機の攻撃を受け被害甚大!!助けてくれ!!』

 

地上部隊から悲鳴じみた通信を聞かされ、顔をしかめるパイロット。

 

 

 

 

「こちら航空部隊、直ちに助けに向か――――」

 

その時、レーダーが敵航空機の反応を示した。

 

 

 

 

 

 

 

――――POCU所属・トルボ隊

 

 

 

「こちらトルボ1、状況を開始する――――副官殿の焼肉デートを邪魔する奴らに明日を生きる価値など無い」

 

 

その号令と共に前進翼が特徴的な機体――――Su-47がミグ編隊へと襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

――――囮として先行させていたミグ21の部隊が次々とレーダー画面から消えていくのを確認するパイロット。

 

 

「囮共には悪いが、俺達は上空で偵察中のF-35をいただく――――かかれ」

 

 

隊長の号令と同時に数機のミグ29が急上昇――――しようとして先頭の機体にミサイルが直撃する。

 

 

 

 

 

驚くパイロットの視線の先にはカナード翼が特徴的な漆黒のF-15 S/MTDの姿があった。

 

 

「今は味方部隊を守り抜くことを優先しろ、帰還のことを考えるのはその後だ。――――全機最大推力であたれ、悲劇なき世界のためにクズ共を始末しろ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

同時刻、テロリストの本部――――

 

 

 

 

「何、目標の拘束に向かった部隊が壊滅――――高官と一緒にPOCU司令官が居ただと!?」

 

旧政権軍の将軍に与えられる迷彩服とベレー帽を身に着けたテロリストの頭領が狼狽える。

 

 

 

「本部を引き払うぞ、直ちに必要な物資だけ持って脱出だ!!」

 

 

その時、周囲をパトロールしていた航空隊がレーダー上から消えたとの知らせが入る。

 

 

 

 

 

 

「引き続き、他のパトロールも潰す――――アベリ1より全機、魔術を見せるぞ」

 

 

漆黒のYF-23は静かにテロリスト側の航空隊を刈り取っていく――――

 

 

 

 

そして空の護りを失ったテロリストに止めを刺すべく、ギガノト隊が現れる。

 

 

「ギガノト1から全機、石器時代に戻せ――――副官殿の楽しみを奪おうとした外道共は皆殺しだ」

 

 

多数のSu-34を従えたB-1Bに搭乗する指揮官から隊員らに号令が下ると共に多数の巡航ミサイルが一斉に発射され、テロリストの本部を地面ごと耕していく。

 

 

 

 

 

――――ゴーストタウンに着陸するPOCU所属のスーパーハインド。

 

 

そして護衛を引き連れて飛び出したベクターはほどなくして司令官を見つけ、笑顔になった。

 

 

 

 

「助けに来てくれたのか、ベクター」

 

 

ベクターは安堵の表情で出迎えた司令官の手を引いてそのままヘリへと向かう――――

 

 

 

 

「――――ベクター?」

 

 

「行きますよ、焼肉!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

市街地の中にある焼肉店の煙突から煙が立ち上る――――隣接する広大な駐車場の片隅にはスーパーハインドが駐機している――――

 

 

 

店内に漂う肉の力強い香り。そして満面の笑顔で肉を頬張るベクター。

 

 

 

「やっぱり人のお金で食べる焼肉は最高です!」

 

 

 

「………………」

 

 

 

人より焼肉の心配かよ――――と呆れつつも満更でもない表情で肉を口に運ぶ司令官であった。

 

 

 

 

 






如何でしたか?今回は難しい事は考えず、焼肉の為にベクター氏が圧倒的火力でテロリストを粉砕する感じにしてみました。


次回は物語の本筋に戻り、当分はテロリストとの闘いを書いていこうと思います。



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報告書026『鋼の意思:前編』


プロジェクト・オーダーの活動がなぜか沈静化し、再びいつものように悪党を狩る日々が訪れた――――

そんなある日、ひとりのアイドルがPOCUに助けを求める。



 

 

 

ミストルテ:POCU本部

 

 

 

『みんなー!!!りりるの歌を聴いてね!!』

 

日本国で撮影された映像の中で可憐なアイドルの女性がファン達に向かって元気いっぱいに呼びかける。たちまち客席側からステージを震わせるような歓声が返ってくる。

 

 

「ふむ、日本は至って平和……と。ハイメイジェンはどうかな」

 

 

司令官がテレビのチャンネルを切り替え、映像が変わる。

 

 

 

 

『――――間もなく改号式典が始まります――――この式典をもって、エイジャン連邦共和国は正式にハイメイジェンと呼ばれるようになります』

 

 

ニュース映像の中でハイメイジェンの新たな国旗が掲げられた式典会場をバックに報道するキャスター。

 

 

 

「確かKMCがここに本部機能を移転するんだったな。いや…既に本社設備の建設は完了しているから後はネットワーク上の権限移譲を経て正式な本部になるんだったか」

 

ニュース映像を見ながらKMCとの取引手順変更に係る書類が表示されたタブレットに目を落とす司令官。

 

 

 

「はい。発注の際のメールアドレスや郵送先住所も変わりますので暫くはいつも以上に発注ミスに注意する必要があるかと」

 

手に持ったタブレットで情報を確認しつつ答えるベクター。

 

 

 

 

と、その時。

 

 

オフィスの電話が鳴った。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

その電話は、突然の来客を告げるものだった。

 

 

『客はこちらの女性の方です――――なんでも助けて欲しいとか』

 

 

PCに表示された監視カメラ映像に映った顔に司令官が既視感を覚える。

 

 

 

その客――――20代前半の可憐で整った顔立ちをした東洋系の女性を凝視する司令官。

 

「ベクター、この女性どこかで見なかったか?」

 

 

 

「――――――――もしかして……メイクは違いますが、さっき見たアイドルの子、りりるちゃんでは?」

 

そう言われて再びモニターに表示された女性の顔を見る。

 

 

 

「確かに彼女だ――――通せ。話が聞きたい」

 

 

 

 

――――応接間に通された女性。

 

 

「私のプロデューサーさんを助けてください!!」

 

 

悲痛な表情と共にそう切り出す女性。

 

 

 

 

――――なんでも、大手プロダクションの社長がプロデューサーへの資金援助や便宜を条件にりりる――――安里 莉里(あさと りり)と寝たいという要求をしてきたそうだ。

 

それに対してプロデューサーは強い権力を持つ社長に対して毅然とした態度で断り、その日から姿が見えないというのだ。

 

 

 

「――――この件、確かに引き受けました。直ちに調査させます」

 

そう言う司令官の言葉は力強かった。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

BMS(ブラックマンバ・セキュリティ)本社

 

 

「はい、こちら調査部――――だ、代表!?」

 

調査部の男がスマホを持ちながらもう一方の手でPCのキーボードを叩く。

 

 

 

「はい――――日本でこの男について調査するのですね。はい、直ちに」

 

通話を終えた男が部下を呼び、詳細な指示を飛ばし始める。

 

 

 

 

――――BMS最上階オフィス

 

 

 

「さて――――あのクソ野郎、どう料理してくれようか!」

 

POCU司令官経由で聞いた標的の極悪ぶりに青筋を立てる女性――――上芭 巳栖嶺(うわば みすね)。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

数日後:POCU本部

 

 

 

BMSから上がった報告をPCで確認する司令官。

 

 

「むう……」

 

予想以上の情報に唸る司令官の横からPC画面を覗き込むベクター。

 

 

 

「――――なんですか、これ…いくら芸能界の大物とはいえ大掛かりですよ」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

日本:某所

 

 

 

山岳地帯の道路を走る1台の高級車と複数の護衛車両。

 

 

その車列はやがて山に掘られたトンネルに入り、巨大な鉄製の扉の前で止まる。

 

 

 

門を警備する兵士達――――戦闘服を纏う、欧州系やアフリカ系の屈強な男達が車両をスキャンし、運転手にIDカードの提示を求めた。

 

 

やがて問題ないと判断したのか、門が重々しい音と共に開き、その先へと車列が進む。

 

 

 

 

施設の奥で停止した車両から降りた恰幅のいい中年男性がスーツ姿の護衛を伴って更なる奥へと歩を進める。

 

――――途中のエリアで牢の中から10代~20代の女性達の泣き声や怯える声が聞こえてきたが中年男性はそれを全く気にしていないようだった。

 

 

 

そして目当ての部屋に辿り着き、扉を開けると椅子に縛り付けられた傷だらけの青年の姿がそこにあった。

 

 

 

 

「やあ。りりるちゃんを差し出す気になったかね?プロデューサー君」

 

 

 





如何でしたか?今回は久々に事情酌量の余地がない悪党をボッコボコにする展開でいきますので次回もお楽しみに!!


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報告書027『鋼の意思:後編』


自らがプロデュースするアイドルにして恋人である莉里を護る為、枕営業の話を持ち掛けてきた社長の暗殺を図ったプロデューサー。

しかし、彼は失敗し莉里をおびき寄せる餌にされていた――――



 

 

 

椅子に縛り付けられた傷だらけの青年――――プロデューサーを見下ろしながら上等な葉巻を吸う中年男性――――社長。

 

 

「ここに忍び込む時にうちの護衛を何人か殺ったらしいね。だが――――無駄だ。おとなしくりりるちゃんを差し出してくれれば大事に可愛がってやろう。拒否するなら見つけ出して知り合いと何人かでマワしてやる」

 

 

その言葉に怒りを込めた眼差しを向けるプロデューサーだったが、拷問担当の傭兵に椅子ごと蹴飛ばされた。

 

 

 

「私に尻尾を振らなかったこと、存分に後悔させてやる」

 

 

 

そんな高笑いと共に部屋を去る社長。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

――――数日後

 

 

日本:POCU日本支部

 

 

 

壁面の巨大モニターに映る地図。そこには山岳のルート上にPOCUの部隊を示すシンボルが配置されている様子が映し出されていた。

 

 

「豪邸がある山岳地帯の周辺を封鎖しました。本部や他支部からの増援部隊も所定の配置についています」

 

 

 

中央のメインモニターの左右に隊員のボディカメラ映像や上空を偵察するドローンの暗視映像が表示され、現場の空気感が指揮所にも伝わってくる。

 

 

 

状況は整った――――そう判断した指揮官は頷く。

 

 

「よし……上芭さん、聞こえますか」

 

 

『こちら上芭。今回は参加させてくれてありがとう――――あのクソ野郎、どうしてもこの手でやらないと気が済まないのよね』

 

 

「ええ――――宜しくお願いします。予測通りに事が運べば出番が来る筈です。そのままスタンバイを」

 

 

『了解!』

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

社長は獲物であるりりる――――安里 莉里の水着写真を眺めながら舌なめずりしていた。

 

 

――――この女性に目を付けたのは数年前、とある南の島だ。

 

 

元気で活発――――そして男を惹きつける体つきをしたこの若い女を食べたい、と思った。その為に手段を選ばずゴロツキをけしかけて彼女が当時真剣に交際していた恋人を殺しもした――――がギリギリの所で逃げられてしまう。

 

 

だが、運命と言うべきか数年後にあの時の女に似たアイドルを見かけた――――そして他人の空似ではなく取り逃がした本人だと確実な情報を手にした。

 

 

「私はねえ、欲しいものは絶対に手に入れないと気が済まないんだよ――――」

 

 

 

 

――――と、その時。

 

 

大きな音と共に豪邸が揺れた――――!!

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

超低空飛行で地面スレスレを飛んで豪邸に接近したスーパーハインドの編隊に傭兵達が慌てふためいて銃撃を加えるが、20ミリ機関砲の掃射を浴びて次々と弾けていく。

 

 

と、そこへパイロットに通信が入る。

 

 

『パイソン7、こちら指揮所。無人機が対空兵器を持った奴を見つけた、気を付けろ!』

 

 

「指揮所、こちらパイソン7。了解した」

 

 

 

焦る様子もなく対空ミサイルを抱えた敵を的確に捉え、機関砲の嵐を浴びせていくパイソン7。

 

 

 

そして数分後には辺りには赤い染みしか残らなかった――――

 

 

 

『パイソン隊、こちら指揮所。歩兵部隊を降下させろ』

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「奴らだ!!食い止めろ!!」

 

 

バリケードの陰からアサルトライフルを連射する傭兵達。

 

 

 

「おい、やべえ奴がいるぞ!!」

 

彼らの視線の先には――――今作戦の為に派遣された重装兵の姿が。

 

 

 

そして手に握られたミニガンが吼え、傭兵達がバリケードもろとも吹き飛ばされる。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「こんな馬鹿な……!?これほどの力を有しているというのか!?」

 

 

慌てふためきながら護衛と共に逃走用の車両に乗り込む社長。

 

 

 

「幸い逃走用のルートのひとつが空いています!」

 

運転席の傭兵が心から安堵したように社長に報告する。

 

 

 

「そうか、直ぐに出てくれ!近くまで来ている!!」

 

 

 

シャッターが開き、そこから飛び出すように出発するセダン。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

社長が『予想したルート』で逃走したとの報告が指揮所に届き、心の中で口角をつり上げる指揮官。

 

 

「上芭さん、出番です」

 

 

『オッケー!確実にやるから心配しないで、オーバー』

 

 

 

その返事と共に通信が切れる。

 

 

 

「大丈夫だとは思うが、あのルートの遥か向こう側で待機している部隊にも連絡を入れろ。奴が明日の朝日を拝むことなど絶対にあってはならんからな」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

静かな山道を駆け抜けるセダン。

 

 

 

「よし……空港に到着したらひとまずハイメイジェンに飛ぶぞ!」

 

 

社長がそう言った瞬間、左側に眩しい光を感じた――――

 

 

「な――――?」

 

 

 

振り向いて、目を剥く。

 

 

――――漆黒の装甲にPOCUの赤い文字が綴られた16式機動戦闘車が数台追いかけてくるではないか!!

 

 

 

「ば、馬鹿な!?ここに来ると予測して潜んでいたというのか!?」

 

 

 

山道のカーブを巧みなハンドル捌きで速度を落とさず通過するセダン――――だが、それは後方から追いかけてくる16式も同じだった。

 

 

「もっとスピード出せんのか!?」

 

 

「無茶言わんでください!これが限界です!!」

 

 

 

――――と、その時。追撃していた16式の先頭車に異変が起こる。

 

 

 

「――――なんだ?明後日の方向に砲を向けて――――」

 

 

 

 

その瞬間、16式の105mmライフル砲が吼えたかと思うとセダンの前方に着弾しバラバラになったアスファルト片が飛び散る。

 

 

「ま、マズい――――」

 

思わずブレーキで減速――――それを見逃さず16式の機関銃タレットが火を噴き、穴だらけになったセダンが横転した。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

16式の車長席から降りた上芭 巳栖嶺。

 

 

 

拳銃を抜いて横転したセダンに近付くと、上芭から見て反対側の方から奇跡的に軽傷で済んだ社長が這い出てくるところだった。

 

 

 

足音に気付き、身体をこちらに向ける社長――――その口から悲鳴が漏れる。

 

すかさず股間に拳銃弾を数発ほど撃ちこむ。

 

 

 

絶叫――――続いて足にも数発。

 

 

 

「ひいいいいい………!!!!お願いです、どうか……!」

 

 

「アンタが散々食い散らかした女の子達もそうやって助けを求めたと思うのだけど、一度でも応えたことがあったかしら?」

 

 

 

だが、社長は何も答えず泣き叫びながら首を横に振るばかりだ。

 

 

「――――――――」

 

無言で拳銃を構え、額に照準を合わせる上芭。

 

 

 

社長の恐怖に満ちた表情が銃声と共に凍り付き、やがて血だまりが広がっていく。

 

 

 

「――――こちら上芭、標的を始末した。繰り返す、標的を始末した」

 

 

『こちら指揮所、ボディカメラで標的の死亡を確認しました。生き残りからの事情聴取とその後の後始末はこちらでやります――――お疲れさまでした』

 

 

 

 

「ありがとう、これより帰還する――――スッキリしたわ、オーバー」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

――――数ヶ月後

 

 

 

「みんな――――!!今日はりりるに会いに来てくれてありがとうー!!大好きだよ!!」

 

 

ファンの大歓声と共にステージを去るりりる――――莉里。

 

 

 

 

と、そこに歩み寄る青年。

 

 

「相変わらず最高のパフォーマンスだったよ、莉里」

 

 

「――――プロデューサーさん、もう包帯取れたんだ」

 

 

 

あの後、保護されたプロデューサーは病院に運び込まれ治療されたが――――顔や身体には拷問の傷跡が残ってしまっていた。

 

 

「ああ、この通り元気さ。それよりツアー完遂お疲れ!ご褒美は何がいい?」

 

 

 

暫く考え込んだ莉里だったが、その口から出てきたリクエストはプロデューサーを驚かせた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

――――ホテル・客室

 

 

 

レストランの豪華な料理を堪能した莉里と共に同じ客室に入ったプロデューサーは莉里に続いてシャワーを浴びていた。

 

 

 

――――緊張で胸が高鳴る。

 

 

 

 

このシャワーを止めて浴室を出たらもう後戻りするわけにはいかない――――

 

 

 

ふと、このお願いをしてきた時の莉里の決意したような眼差しを思い出す。

 

 

――――このまま有耶無耶にして逃げてしまえばきっと後悔する――――

 

 

 

 

莉里の気持ちに真正面から向き合うと決めたプロデューサーは意を決してシャワーを止めた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

バスローブに身を包んで浴室を出ると同じくバスローブ姿でベッドに腰掛ける莉里がこちらを見つめてきた。

 

 

その隣に腰掛ける――――緊張した息遣いと鼓動が聞こえてくる。

 

 

 

 

「プロデューサーさん――――」

 

近距離で見つめてくる莉里。

 

 

 

「ずっと一緒にいてくれる?」

 

 

その言葉が嬉しくて、静かに、しかしハッキリと頷く。

 

 

 

「――――ああ。僕のほうこそ莉里の側にいさせて欲しい」

 

嬉しそうな表情になった莉里が顔を寄せて額を合わせてくる。

 

 

 

背中に腕が回されるのを感じた――――こちらも莉里の背中に手を回し、身体を抱き寄せる。

 

 

 

バスローブ越しに感じる柔らかくて温かな感触――――

 

 

 

気持ちが昂り、どちらからともなく唇が重なった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

炎が燃え盛るひと時が過ぎ、息切れするプロデューサー。身体から大量の汗が滴る。

 

 

 

――――こうして向き合っている莉里も同じようだった。

 

 

 

「――――――――」

 

 

 

莉里の身体を抱き寄せ、その柔らかく温かい感触を嚙み締める。

 

 

「愛している、莉里」

 

 

 

その言葉に莉里も幸せそうな笑みを浮かべ、額をくっつけてきた。

 

 

「私も愛しているよ――――〇〇」

 

 

 

一部の人しか知らないプロデューサーの本当の名前を呼ぶ莉里。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

久々の休暇でミストルテを訪れ、ホテルのプライベートビーチを歩く2人。

 

 

穏やかで幸せそうな表情を浮かべる彼らの左手にはそれぞれ薬指に銀色のリングが嵌められていた。

 

 

 

 

気持ちいい潮風がビーチを駆け抜け、足が止まる。

 

 

すると莉里がプロデューサーに身体を寄せてきた。

 

 

 

そしてその肩にプロデューサーの手が触れ、優しく、しかししっかりと抱き寄せる。

 

 

2人の視線の先には蒼く美しい海、そして空が広がっていた――――

 

 

 






いかがでしたか?


ぶっちゃけ書きたいやつを書いただけなのでストーリー性はあまり無いですが楽しんで頂けたなら幸いです。



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