東方回顧録 (まっまっマグロ!)
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『化け物の愛』

もこたんインしたお!的な話です


藤原妹紅はここにいた。

 

誰にも気づかれない竹林の奥深く、静かに暮らしていた。

 

彼女のことは誰も知らない。

知っているのは人里に住み自分のことを理解してくれるただ一つの存在、「上白沢慧音」と憎き「蓬莱山輝夜」と、その取り巻きだけだ。

 

 

ある理由で、自ら進んで『老いることも死ぬこともない程度の能力』を手にいれたが、今では子の能力が恨めしい。

 

「人に忘れられここに来たのに、ここでも忘れられるのかな…」

 

一日に何度も口ずさむ台詞をやっとのことで吐き出す。今の自分は生きているのか死んでいるのか分からなかった。

 

死ぬことはないのだから、こんなことを考えても仕方ないのだが、それでもそう感じる。人との交流を失った今の自分はなんのために呼吸をしているのか分からなかった。

 

そうこう考えているうちに日が沈む、彼女が来る時間だ、

 

 

「やっぱりここにいたか、妹紅…」

 

来た

 

「ほら、今日は人里で色々買ってきたぞ。今日はこれでご馳走でも作ろう。」

 

白と青の混じった長い髪を靡かせ重たそうな袋を担いできたのは「上白沢慧音」だ。人里で寺子屋で童たちに歴史を教えているらしい。私は人里にいかないので「らしい」でしかないのだ。こうやってたまに私のもとに来てくれて、食料を持ってきてくれたり、最近あった話をしてくれる。私が「死」なずにすんだのは、慧音のお陰だ。

 

「またこんなところに座り込んで、体を壊してしまったらどうする。」

 

少し節介焼きだが、私のためだと思うと嬉しかった。

 

「ほら、早く妹紅の家に行くぞ。日が沈んでしまう。」

 

「ごめん慧音、少し考え事をしていただけ。」

 

そう言って私は動き出す。私の家とは言えない掘っ立て小屋へ…

 

■■■

 

「それでな、その時チルノのやつがな…」

 

慧音は今楽しそうに今日あった話をしている。私のことを話していないのと、「チルノ」という人はかなり頭が悪そうだということは分かる。

 

その時慧音が箸をおき静かに私を見る。

 

「妹紅…お前は私といて楽しくないのか?」

 

突然だった、

 

私は慌てる。

 

「ッそんなことないよ。慧音は独りの私を案じてくれて来てくれるし、食料もくれるし、話もしてくれる…とても感謝してるよ!」

 

慧音はまだ私を睨み付けるように見ている、

 

「礼は言ってくれても一緒にいて楽しいとは言ってくれないのか?」

 

慧音の一言にはっとする。確かに慧音には感謝もしてる、それこそ一生かかっても返せないくらいの恩恵を慧音から受け取っている。しかし、楽しいと心の底から感じ、それを言葉にしたことはなかった。

 

私は何を言えなかった。

 

その様子を見て慧音がもう一言私に言う。

 

「妹紅、…私はお前に礼を言ってほしくない。

ただ『今日も楽しかったよ。』といって欲しいんだ。」

 

私は意味が分からなかった。

 

慧音が静かに続ける。

 

「私が妹紅に初めて会ったとき、お前は虚ろな目をしていて私は死んでいるのではないかと思った。生まれてきてから、絶望しか味わってこなかったようなお前に少しでも楽しいということを経験して欲しいんだ。」

 

慧音は下を向いた。長い上の隙間から大粒の涙が落ちるのが見えた。

 

私は口を開こうとするが、この事を慧音に伝えてよいものかと考える。そうして伝えなければならないと思い再び口を開く。

 

「慧音、私もね生まれて十数年楽しく生きてきたんだよ。貴族の家に生まれ、周りにもいい人たちに囲まれて楽しく生きてきたんだよ。

…けどねその楽しかった日々を『アイツ』に壊されたんだ。それからは地獄だったよ。」

 

私は慧音に伝える。『あの出来事』が原因で父親が自害したこと、『禁薬』を盗み、永遠の命を父の仇を打つために使うと決めたこと、永遠の命を手にいれたために人に忌み嫌われようが関係ないと心に決めたこと。

 

ここで私は一呼吸置いた。そして続ける。

 

その後、暫く元々住んでいた屋敷に住んでいたこと、数年経つと私の姿が変わらないことを周囲の人たちが気味悪がり出したこと、兄たちは庇ってくれていたが、心ない人たちによって『悪魔を庇った罪』として殺されたこと、屋敷に火をつけられみんな死んだこと、それから町や村を転々としたがその先々で『化け物』として恐れられ、石を投げられたこと、家を焼かれたこと、磔にされたこと、打ち首にされたこと、それらから逃げて、山奥に住み静かに暮らしたこと、百年近く一人で暮らしたこと。

 

私は全てを話した。そして続ける。

 

「…どう?これが私の歴史、人に忌み嫌われ、逃げて生きてきた私の歴史よ。慧音にこの気持ちが分かるの!?」

 

私はいつの間にか泣いていたらしい、頬に冷たい感覚が走る。

 

慧音はゆっくりと顔をあげ、口を開く。

 

「わかるぞ。私も元々人間だ、妖怪に襲われ半妖となってしまったがな、親に捨てられ、人々に忌み嫌われて生きてきた、だからお前の気持ちも痛いほどわかるぞ。」

 

慧音はそう言って私を見る。先程の責めるような目ではない温かく、見守るような目だ。

 

だが、私は止まらない

 

「ならなんで!?それなら慧音も人が憎いでしょう?怖いでしょう?なのになんで普通に人里にいれるの?」

 

私は声を荒げる。

 

「人を愛しているからだ。」

 

慧音は静かに伝える。

 

「私は半分『化け物』だが半分は人だ、その人の部分が『人を愛せ』といってくるのだ。」

 

慧音の言葉が胸に刺さる。説得されたからではない、裏切られたからだ。

 

「なら私は無理だね。完全に『化け物』だからね。心のなかに人がいるなら、人と仲良くしなよ、私みたいな『化け物』のことなんかほっといてさ!」

 

裏切られた。理解してくれていると思っていた『上白沢慧音』は『人』だったのだ。

自分を忌み嫌い理由もなき暴力を降り続けた『人』だったのだ。

 

 

『上白沢慧音』が顔をしかめて声をあげる。

 

「お前も元々人間だったのだからお前のなかにもあるはずだ『人』が!」

 

私は声を荒げながら答える。

 

「ないよ。私の中の『人』はあのときに捨ててきたたからね。私は『化け物』なんだよ人に忌み嫌われて殺される化け物なんだよ!」

 

『上白沢慧音』が私を静かに見ながら諭すように言う。

 

「妹紅、それならば質問を変えるとしよう。妹紅、お前は私のことが好きか?」

 

私は少し考えて答える。

 

「さっきもいった通り感謝はしているよ」

 

慧音は私の答えを聞き、答える。

 

「感謝と言うのは人にしかできない。なぜか分かるか?…他者との関わりを持つからだ。人は他者との関わりを持ち生きている。関わりのなかには様々なものがある。『愛』や『友情』などだな。『感謝』だってそうだ他者との関わりがなければ持たない感情だ。だから妹紅、お前のなかにも『人』が残っているのだ。『愛』を知らずとも『感謝』することを忘れていない『人』の部分が残っているのだ。」

 

慧音の言葉を聞きながら、私は考えた。なんだか流された気もするが私にも慧音と同じように『人』の部分があるように思えた。そして思ったことをふと口にする。

 

「慧音、私はまた人に愛されることができるかな?」

 

慧音は微笑み私の問いに静かに答える。

 

「あぁもちろんだ。ただし、愛されたいならまず自分が愛することだな。」

 

そう言って慧音は続ける。

 

「私は人を愛しているのと同じように妹紅のことも愛しているぞ。」

 

私は驚いた。私は先程慧音に対し暗に好きではないと言っていたのだ。それなのに慧音は私に対し愛していると言ってくれた。そして私は微笑んだ。

 

「慧音、愛してもらうには先にこちらから愛さないといけないんでしょ?私は慧音に対して『愛してる』って言ってないから愛してもらえないんじゃあないのかな?」

 

少し意地悪を言ってみた。慧音も微笑み返して言う。

 

「あぁそうだ。しかし物事には始まりと言うものが必要なんだ。宇宙が無から生まれたのと同じように愛も最初は無なんだ。誰かの愛を誰かが受け取り返すことで愛は始まるそうしてそれが広がっていくのだ。まさしく宇宙のようにな。」

 

私は頷き、慧音に向かって言う。

 

「それなら、もらった愛にお返ししなくちゃね。慧音、ありがとう。私も『愛してるよ』」

 

慧音も頷き私に向かって言う。

 

「そうだぞ、妹紅。ただもらった愛を返したら、新しく誰かにあげなければならないぞ。愛は広げなければならないのだからな。だから妹紅はまず渡す人を見つけないといけないな。」

 

そうだったな。愛をもらっては渡す。これが『人』としての愛の形ならば私も『人』としていきるために誰かにあげなくちゃな。けどそのためには人と会わなくちゃいけない。

 

「慧音、どうしたらいい?愛を渡す相手が見つからない…。」

 

慧音に伝えると慧音は少し考えて口を開いた。

 

「この竹林の奥に薬師がいただろう?怪我人や病人がいたらそこまで送り届けるのはどうだ?そうしたら妹紅愛を渡す相手が見つかるし、もしかしたら噂が広まって、妹紅を受け入れてくれる人が増えて、いつか人里で私と暮らせる日が来るかも知れないな」

 

道案内か…この奥にある『永遠亭』には『用事』のために何度も行っていて道も分かる。そうしたらいつか慧音の言う通りに人に愛されて人里に住めるようになるかもしれないな。そうなったら私の愛を一身に受け止めてくれる人と…愛を育んで…。

 

そうこう考えていたら顔が熱を帯びているのに気がついた。

 

「慧音、明日から『迷いの竹林の案内人』として頑張って見るよ。」




お疲れさまでした。

長かったですよね。なので解説等は要望があったら書きます。
文章書くのは初めてなので読みにくかったりすると思いますが、意見等ありましたらその都度訂正しますので言ってください。

感想は誰でもかけるので好きに書いてください。


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地獄の素敵な巫女の昔話

もこたんの話でやめる予定だったんですけど、書きたいものができたので書きます。




「おかーさんー♪」

 

境内に元気な声が響く。どうやら親子らしい。その証拠に二人とも同じような巫女装束(例のごとく腋が大きく開いている。)を着ており、仲睦まじく笑みが飛び交っている。

 

「おー霊夢。ただいま。いい子にしてたか?」

 

大きい方は博麗○○。この時代の幻想郷を守る博麗の巫女だ。女性にしては広い肩幅、袖から覗かせる手の甲には無数の噛み傷や切り傷そして何かとても固いものを殴り続けたように骨が潰れてしまっている。そして彼女の頬には大きな切り傷がひとつ真一文字。それらは彼女が仕事としている妖怪退治の際についたものだ。

 

一目見れば、大の男でも物怖じしそうな風貌をしながらも、優しい声で元気な声に応える。

 

「うん!」

 

小さい方は博麗霊夢。次代の博麗の巫女として修行中である。年はおおよそ5才から6歳子供として一番元気がいいときだ。

 

実はこの日、○○は湖の近くで起きた異変を解決しておおよそ一週間ぶりに帰ってきたのだ。未だ小さい霊夢が喜びを全身に表しながら、母親の胸に飛び付くのも分かる。

 

「そうかそうか、それは良かった。霊夢、いいこでお留守番したご褒美に今日は宴会をするぞ!」

 

○○はそういうとニカッと笑う。

 

いつからそうなったかわからないが、博麗の巫女が異変を解決すると、宴会を行うのが常となっていた。そこには博麗の巫女の親しい友人はもちろん、異変の主犯の妖怪たちまで巻き込む大きな宴会となるのだ。

 

「やったー!♪」

 

もちろん未だ小さい霊夢は酒を飲むことはできないが、様々な者達が集まり、楽しく談笑したりする宴会が霊夢は好きだった。

 

■■■■

 

「それでは異変の解決を祝って…」

 

「「「カンパーイ!」」」

 

おかあさんの音頭にあわせて大きな声がこだまする。今日は楽しいえんかいなんだからさわがなくちゃね♪

 

今日えんかいに来ているのは、おかあさんの巫女装束なんか色々作ってくれる香霖堂の店長さんの『こーりん』と私が生まれる前からおかあさんと知り合いで異変解決のときに色々手伝ってくれる『ゆかり』、そしてその式?部下?手下?の『ランさん』そしておかあさんのことを記事にするために来て、今おかあさんから話を聞き出そうとしている『あやや』だ。そして私の知らない人たちがたくさんいる。年は私より少し上かな?

 

しばらくすると、水色の髪をした女の子が近づいてきた、後ろにいる黄緑色の髪をした女の子は心配そうに見ている。

 

「アタイはチルノ!あんたは誰?」

 

いきなり水色の髪をした女の子が話しかけてきた。黄緑色の髪をした女の子はなんだかオロオロしている。

 

チルノだったっけ?相手が元気に自己紹介してくれたのだからこっちも返さなくちゃね♪

 

「よろしくチルノ!私は霊夢!次の博麗の巫女なんだよ。ところであなたは妖怪?」

 

私はチルノの背中に生えている羽を見ながら聞いた。するとチルノは、

 

「アタイは『こうり』の妖精だよ!アタイはさいきょーだから本気を出せばここの気温を-K(ケルビン)ぐらいにはできるよ!」

 

チルノは胸を張りながら言う。-K ってどれくらいすごいのかわからないけどなんかすごそうだな~。

 

ここでようやく後ろの黄緑色の髪をした女の子がチルノの耳元で呟く。

 

「チルノちゃん、Kにはマイナスはないよ~。」ボソボソ

 

チルノは驚いた顔をして黄緑色の髪をした女の子の方を見る。

 

「えっ、そうなの大ちゃん?存在しない温度を作れるアタイってやっぱりさいきょーね!」

 

チルノちゃんはさらに大きく無い胸を張る。私は黄緑色の髪をした女の子にひとつ尋ねる。

 

「あなた、大ちゃんって名前?」

 

すると女の子は悲しそうな顔をしながら首を横に振る。

 

「うん。よろしくね、霊夢ちゃん♪」

 

「よろしくね、大ちゃん♪」

 

こうしてチルノちゃん達と知り合った私は他にもいろんな妖精や妖怪と知り合った。リグルちゃんやみすちーちゃんなどみんな私より背が高くおねぇさんみたいだった。

 

 

■■■■

 

みんなと一杯遊んで疲れたからおかあさんのところへいく。

 

「どーん♪」

といいながらおかあさんの胡座の上に座る。私だけの特等席だ。

 

「おぉ霊夢来たな♪」

 

おかあさんはそういいながら私の相手をしてくれた。

 

「○○」

 

不意におかあさんの名前を誰かが呼ぶ。

 

後ろを向くとゆかりがいた。

 

「少しいいかしら?」

 

口元を扇で隠しながら、優しそうに微笑んでいた。

 

「どうした?今は霊夢と遊んでいるんだが、後にしてくれないか?」

 

おかあさんは私と遊んでいるのを邪魔されているのが気に入らないらしく、不機嫌そうに言う。

 

「おかあさん、いってきていいよ。ゆかり、大切なお話なんでしょ?」

 

私はゆかりに向かって尋ねる。ゆかりが口元を隠していたずらそうに言うときは大体大切なあ話があるときだ。こんなんだから『胡散臭い』何て言われるのにね。

 

「よくわかったわね霊夢、これからお母さんと大切なお話があるの。少しだけお母さんを借りてもいいかしら?」

 

「いいよ!大切なお話なら仕方ないよね。」

 

私は自分でも言うのも変だが、聞き分けのいい子だ。おかあさんをとられるのは少し嫌だけど仕方ないよね。

 

「霊夢を連れて行ってもいいか?」

 

お母さんが突然口を開く。

 

「今回の異変の話だろ?霊夢も後何年かしたら博麗の巫女として妖怪退治に参加しなければならないだろう。今のうちから異変について詳しく知るべきだと思うが、紫はどう思う?」

 

「そうねぇ~、もう少し落ち着いてから霊夢には色々知ってもらおうかと思ったけどいい機会かもね♪」

 

こうして私も二人の話し合いに参加することになった。

 

■■■■

 

「今回の異変、○○はどう思う?」

 

神社の裏につくとゆかりはおかあさんに聞いてきた。

 

「どうもなにも、悪戯程度にしか人に危害を加えてこなかった妖精や、元々力の弱い妖怪達が急に暴れたんだろう?しかも本人達は記憶がほとんどないらしい。私が思うに、妖精や妖怪達に人を襲わせた『黒幕』がいるはずだ。つまり今回のの異変は未だ終わっていないというのが私の考えだ。」

 

「あなたもそう思うのね。妖怪達は嘘をつくことがあっても妖精は嘘をつけない、だから私もその考えに賛同するわ。そうなると問題は、誰が『黒幕』なのか。ってところね。」

 

「この幻想郷に他人の体を操るような妖怪はいなかったはずだが?」

 

「そうよ。けどね、『他人の感情』を操ることのできる妖怪はいるのよ。」

 

「誰が『黒幕』か解っているみたいだな。誰なんだ?」

 

「『ルーミア』よ。彼女の『闇を操る程度の能力』なら他人の負の感情を大きくして操ることもできるはずよ。しかも彼女は少し長く生きすぎた。能力が強くなりすぎて、制御できなくなっている。」

 

「ッ!そうか、あいつか。あいつならできるかもな。」

 

おかあさんは下を向き拳を強く握る。

 

私は二人の話に着いていけなくて首をかしげる。するとゆかりが、顔を近づけて、

 

「霊夢、分かりやすく言うと、今回の異変はルーミアによって引き起こされたものなの。今日の宴会に来ているチルノ達はルーミアに操られて暴れていたの。」

 

おかあさんは下を向き苦しそうな顔をする。

 

「紫、私はあいつを倒さないといけないのか?」

 

「そうねぇ~、今のあのは説得されたぐらいじゃあ聴かないわよ。」

 

「そうか、なら私はルーミアを消さなくてはいけないのか?」

 

おかあさんの言葉に私は驚く。

 

「おかあさん!ルーミアを殺しちゃうの!?そんなのゼッタイダメ!!」

 

私は大きな声をあげておかあさんに言う。ルーミアはお母さんが異変解決に行く度に私の面倒を見てくれていた。いつも笑顔の彼女が私は大好きだ。今回は来てくなかったけど、きっと忙しかったからだ。ルーミアはきっと犯人じゃないんだ。

 

おかあさんが膝をつき私の目を見て言う。

 

「霊夢、お母さんもルーミアが大好きだ。できることならあいつのことを信じてあげたい。でもな、今回は駄目なんだ。状況が悪すぎる。」

おかあさんは私の目を見ながら諭すように言う。

 

私は悲しくなり空を見上げながら大きな声をあげてなく。するとおかあさんが私に抱きついた。そして耳元で小さく「ゴメン」とだけ言った。

 

「紫、今日は引いてくれないか?霊夢と一緒にいてあげたい。」

 

おかあさんがゆかりの方を見て言う。その顔は今にも涙が溢れそうだ。

 

「そうしてあげたいのは山々なんだけど、もうひとつあなたに言いたいことがあるの。」

 

「用件だけいってくれ。そうしてくれないと、私も保てそうにない。」

 

「ハァ、わかったわ。」

 

ゆかりはため息をつくと、今までにないくらい真剣な顔をして言った。

 

「人に信頼されなさい。それだけよ。」

 

そういうと、ゆかりはスキマの中に帰っていく。

 

■■■■

 

しばらく二人で泣き。収まった頃にこーりんが来た。

 

「あぁ、いたいた。こんなところにいたのか。紫さんだけ帰ってきていつまでも帰ってこないから心配したじゃあないか。もうすぐ時間だし宴会を閉めたいんだが幹事の君がいないと閉まるものも締まらないよ。」

 

おかあさんは涙を袖でぬぐいこーりんに笑いかける。

 

「霖之助、その洒落は分かりにくいし面白くない。」

 

おかあさんがそういいながら立ち上がると宴会の会場である境内に向かって歩きだした。

 

するとこーりんが何やら耳打ちする。

 

「~~」ボソッ

 

するとおかあさんの顔がみるみる紅くなり、こーりんの胸ぐらを掴み持ち上げる。

 

「うるさいなッ!乙女には泣きたいときがあるんだよ!」

 

そういいながらこーりんを投げ飛ばすと、おかあさんは何事もなかったように、

「それじゃあ霊夢、行こうか。」

 

といい、私はそれに元気よく返事する。

 

「うんっ!」

 

■■■■

 

「よし、それじゃあ皆、それぞれ気が済んだらできるだけ早く帰ってくれ。このままじゃあ『博麗神社は楽園ではなく地獄だ』とか言われないからね。」

 

そういうと眠そうに目を擦りながらチルノちゃん達が帰っていく。

 

「じゃあね、チルノちゃん達~!」

 

チルノちゃん達が振り向き応える。

 

「じゃあな~霊夢。今度あったときはさいきょーのアタイが色々教えてあげるからな~!」

 

そして大ちゃん達を初めとして皆一言ずつ言って帰っていった。

残されたのは私とおかあさんと、ボロボロのこーりんだけだ。

 

「霖之助、もう少し付き合ってもらうぞ。」

 

そういいながらおかあさんはこーりんを引っ張っていく。

 

私はお片付けでもしようかな♪

 

■■■■

 

『素敵な楽園の巫女様』に引っ張られながら彼女はこちらを見らずに僕に尋ねる。

 

「霖之助、どこまで聞いた?」

 

「どこまでって…うわっ」

 

そこまで言いかけて僕は縁側に座らされる。彼女の片手には一升瓶が握られている。まだ飲む気か…。

 

「もう一度聞くぞ、どこまで聞いた?」

 

「なにも聞いてない。僕は紫さんだけ帰ってきて不思議に思ったから君たちを探しにいったんだ。そうしたら二人抱き合って泣いてるから入るタイミングを探っていたんだ。」

 

僕は真実をのべる。そう僕がつくと二人は泣いていた。時々聞こえる霊夢の「ルーミア~」ということからあの子が関わっていることはわかったがそれ以外は全くわからなかった。

 

「そうか…。」

 

彼女が少しだけ安心したように言う。そんなに聞かれたくなかったのか。

 

彼女は自分のグラスに酒を注ぎそのまま一気に飲み干して再び僕に尋ねる。

 

「なぁ霖之助、今回の異変、どう思う?」

 

なるほど、今回の異変はよくわからない点がいくつかある。

 

「そういうことか、妖精が悪戯をして、妖怪が人を襲う。いつも通りの異変と言えばそうだが、僕としても気になる点はあるよ。」

 

そういうと、彼女は僕の方にグィッと近づいてくる。顔近いし酒臭い。

 

「例えばどの辺が?」

 

「そうだな、まず一つに妖精の悪戯は大概他愛もないことだ。道に迷わせたり、驚かせたりするくらいだ。一番ひどくてもチルノが旅人を凍らせた時くらいだね。けど今回は明らかに殺しにかかっているような襲い方をしている。実際人里では何人か亡くなっている人もいる。……ところで僕には酒をくれないのか?」

 

彼女は僕が話している間もずっと飲んでいる。僕に飲ませる気はないのであろう。すると彼女は少し嫌な顔をして自分の袖に手をいれる。

 

「できれば飲ませたくなかったんだけどね…。」

 

そういいながらグラスを取り出す。まさか本当に飲ませてくれるとは思わなかった。彼女に酌してもらい一口飲む。うん…うまい酒だ。

 

「続きは?早く話してくれ。」

 

彼女は口を尖らせながら文句を垂らしている。

 

「そうだったね、あともう一つ、今回の異変でチルノに襲われた人に話を聞くことができたんだ。『いきなり現れて、いきなり氷の刃を飛ばしてきたから持っていた鎌を振り回して威嚇した』と言っていたよ。ついでにチルノにも同じように尋ねてみたんだ。すると、『人が急に現れて襲われそうで怖かったから氷の刃を飛ばした』って言っていた。君ならこの意味が分かるだろう?」

 

僕は彼女に尋ねてみる。彼女は口に手を当てながら考えて、問いに応える。

「チルノが人を恐れた?」

 

「あぁそうだ。普段悪戯をして人を見下しているはずのチルノが人にたいして恐怖を感じたんだ。これは少しおかしいと思わないか?」

 

「そうねぇ。チルノが人を恐れるとは思わないわ。」

 

彼女は未だに口に手を当てながら考えている。

 

「そこで僕はひとつ考えた。今回の異変は他人の恐怖心、つまり心の『闇』を操り妖精達を操ったかなり強力な妖怪がいるかもしれない、とね。」

 

僕はそう言う。彼女も既に解っているはずだ。今回の異変について『あの子』が関わっていることも、この異変を放っておくと幻想香が大変になることも…。

 

「やっぱり、霖之助もそう思うか。なら霖之助にもうひとつ聞くぞ…」

 

そう言い、彼女は悲しそうな顔をして僕の方を向く。

 

「私はどうしたらいい?」

 

「『どうしたらいい?』か、いつぶりだろうね、君がそんなことを僕に聞くのは。」

 

小さいときはよく聞いたものだ。「こーりん~、どうしたら強くなれるの?」いつものように聞いた言葉も彼女が強くなるにつれて聞かなくなった。

 

「誤魔化さないで答えてくれ。私はどうしたらいいか解らないんだ。」

 

彼女は泣きそうになり唇を震わせながらもう一度聞く。

 

「僕が言えるのはひとつだけだ、君は『博麗の巫女』であり、その仕事は幻想卿の秩序を守ることだ。」

 

僕はそう応えると彼女から瓶を奪い2杯ほど一気に注いで飲み干す。これ以上素面ではいられない。こんな重たい話は酒と一緒に飲み干さないとやってられない。

 

彼女の方を見ると、何か決心したようだ。

 

「霖之助、私は霊夢もルーミアも幻想卿も失いたくない。私は欲張りなのか?」

 

彼女はそう言うと、僕にしがみつく。

 

「こーりん、助けてよ。私にはもう何を信じていいかわからないんだ。」

 

久しぶりに彼女にあだ名で呼ばれ少し吃驚する。

それと同時にいつも力強く威風堂々としている彼女が弱々しくまるで子供のように僕に抱きつく彼女に何か守ってやりたいと思ってしまった。自分よりも遥かに強く最強の人間として幻想卿の権力の一角に立つ彼女にたいしてそう思ってしまった。

 

僕は彼女の頭に手を置き撫でながら口を開く。

 

「自分だけを信じなよ。他人は裏切っても君自身は絶対に裏切らない。君の思うベストの結果を目指してベストの努力をすること、それが君にとって一番大切だと思うよ。紫のためでも幻想卿のためでもなく自分自身のためだけに頑張ってくれ。そうすることが一番素敵な未来になるはずだ。君はどうしたいんだ?」

 

「…ルーミアと霊夢と一緒に幻想卿で、いや博麗神社で笑って過ごしたい。」

 

彼女は目に涙を浮かべながら応える。その声は涙に震えていた。

 

「そうか、分かった。それじゃあ君のなかにそうするための方法はあるかい?」

 

彼女に尋ねてみる。僕のなかにはひとつだけあるが彼女はどうだろうか。

 

「ある…。しかし、成功するとは思わない。」

 

彼女も僕と同意見らしい。ただ条件をつけなければならないな。

 

「○○、生きて帰って来てよ。さもないと、…」

 

「さもないと?」

 

「君のことを忘れてやる。」

 

そう言って笑う。すると彼女も笑い、

 

「一方的な交渉は嫌いなんだ。こちらも代わりの条件を出させてもらうぞ。」

 

「なんだい?」

 

「私が生きて帰ったら死ぬまで面倒を見てもらうからな。」

 

言い終わるが早いか彼女は頬を赤く染め下を向く。

 

「そうか、分かったよ。だから生きて帰ってくれ。」

 

そう言うと、彼女は顔をあげて子供のような笑顔を見せる。

 

「ありがとう。」

 

そう言うと、彼女は眠ってしまった。

 

『一生面倒を見ろ』か…。面倒な約束をしてしまったな。僕は君の夫でも何でもなだろうに。そう言うことは婚約でもするときに言わないと勘違いする男が出てしまうぞ。…僕みたいに。

 

「さて、僕ももう寝るかな。」

 

そう言って二つのグラスを手に取りひとつにまとめ、一気に喉に流し込む。

 

「絶対に死なないでくれよ。」

 

「おかあさんもう寝ちゃったの?」

 

急な声に僕は振り向くすると、そこには霊夢がいた。

 

「あぁ今日は色々忙しかったみたいだからね。すぐ寝てしまったよ。」

 

「そうなのかー。こーりん、今日は帰るの?」

 

霊夢に問われる。○○も寝てしまい、霊夢は卿一人だ。霊夢自身も今日は辛い思いをしているはずだ。それなら答えはひとつだ。

 

「いや、今日は泊まっていくよ。お母さんも寝てしまったし、霊夢が寝るまで一緒に遊ぼうか。」

 

そう言って霊夢に微笑む。

 

すると霊夢は向日葵のような笑顔を僕に向けた。

 

「ありがとう、こーりん」

 

こうして博麗家の夜は更けていく。

 

■■■■

 

「こーりん、起きろ~!」

 

僕はその一言で飛び起きる。日頃忙しくない生活を送る僕にとってこの時間に起きるのは苦痛だ。

 

「はいはい、おはよう、霊夢。」

 

「おはよー、こーりん!」

 

挨拶をしたら僕は顔を洗うため外に出る。

 

顔を洗い居間に向かうと二人が座って僕が帰ってくるのを待っている。

 

「おはよう、霖之助。」

 

いつも通りの彼女だ。昨日の弱く儚い彼女はもういない。それだけで少し嬉しい気分になる。ただひとつ気になることがある。

 

「○○、何で上座が空けられているんだ?」

 

何気ない疑問をぶつける。もてなされるべき客なら普通のことだろうが、僕と彼女の間にはそのような堅苦しいものは無いはずだ。しかも、僕が戻ってくるまではしに手をつけず待っているなんて、天変地異でも起きるのではないかと僕は今一度空を見上げる。

 

「なにも間違ってないぞ。お前の席は今日からそこだ、霖之助。」

 

どうも気味が悪い。しかし僕は気にせず上座に座り朝食を頂くことにした。

 

■■■■

 

朝食を食べ終わり、僕が帰ろうとすると、彼女が飛んできた。

 

「霖之助、帰ってしまうのか?」

 

何かに絶望したかのような顔で僕に言う。

そう思っていると彼女が続ける。

 

「約束はどうしたんだ?一生面倒を見てくれるんだろ?」

 

彼女がそう言うと、僕は理解した。

 

「あぁ覚えているとも。けどな、それは君があの子と戦って生きて帰って来たときの話だそれまで僕は約束を果たす義務はないはずだよ。」

 

そう言うと、彼女は黙ってしまい、

 

「分かったよ。だけどな、生きて帰ったら本当に一生面倒を見てもらうからな、絶対だぞ!」

 

「あぁもちろんだとも。だからそれまでは今まで通りの生活を送るんだよ。精一杯霊夢を愛してあげなよ。」

 

そう言って僕は神社をあとにする。人里の外れにある神社から僕の店まで飛べば30分とかからない。しかし二日酔いでまっすぐ飛べる自信がないので歩いて帰ることにする。

 

■■■■

 

おかしい、さっきから目線を感じる。こんな山奥に人が来るはずがない。参拝者何てものがここに来るはずがない。

 

…となると、あの人か。

 

「紫さん、いるんですよね?」

 

僕は藪の方を見ながら尋ねる。

 

「はろろ~ん。残念、こっちよ」

 

後ろの方から突然人が現れる。僕は驚かない。慣れているからな。

 

「で、用件はなんですか?」

 

少し強い語気で尋ねる。すると紫さんは口元を扇でかくしながらクスクスと笑う。

相変わらず胡散臭いな。

 

「用件って言うほどではないのだけれどね、そういえばお二人、昨日の夜は激しかったわね♪」

 

激しいこともなにも僕と彼女はそう言う関係ではない。僕は落ち着いて反論する。

 

「昨日もなにも、僕たちは夜に激しいことをするような関係ではありませんよ。」

 

そう言うと彼女はまたクスクス笑いながら口を開く。

 

「かまかけたつもりだったのだけれども、ダメみたいね♪」

 

この人と話しているととても疲れるから嫌だ。僕みたいな趣味にいきる人間は気楽に話せる相手の方を好む。

 

そんなことを思っていると、さっきまでのおふざけとはまるで違う鋭い眼光を僕に向け訪ねてくる。そして僕はそれに対して応える。

 

「○○との約束、本気かしら?」

 

「えぇ、もちろん。約束ですからね。彼女が生きて帰って来たら彼女と霊夢の面倒を一生見るつもりですよ。」

 

「あら、本気だったのね。それじゃあ、あなたがした方の約束はどうするの?」

 

「『○○のことを忘れる』でしたよね?それはしませんよ。彼女のことを忘れるなんてできるわけないですからね。」

 

「あら、それは理不尽すぎない?あなたは約束を守らされるのに彼女は約束を守らなくてもいいの?それはいいことだとは思わないわよ。」

 

そう言うと、首に衝撃が走る。遠退く意識のなかで後ろを見ると藍さんが申し訳なさそうな顔をして立っていた。

 

■■■■

 

気がつくと布団のなかで目が覚める。回りを見自分の家のようだのようだ。とりあえず、なぜ自分がここで横になっているのか分からなかった。

 

藍さんが隣にいるのに気がつく。

 

「藍さん、どうして僕がここで寝ているか知っていますか?」

 

「理由か?それなら用事があるので博麗神社へ行く途中で、意識を失って倒れている君を私が見つけたんだ。」

 

藍さんはさらに続ける。

 

「目立った外傷もないし、どうせ二日酔いで倒れたんだろう?」

 

藍さんがそう言うとそのような気がしてきた。

 

昨日の夜何があって○○と何を話して、今朝あったことも覚えている。恐らく記憶の方は大丈夫のようだ。

 

約束のことも忘れている様子はなかった。

 

■■■■

 

続く。

 

 




すみません。長くなりますので前後半とします。


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楽園の素敵な巫女の昔話

後半です。

少し遅くなりましたが、公開はしてません。


「おかーさん!」

 

私はおかあさんに抱きつく。そして、昨日から気になっていたことを聞いてみる。

 

「昨日ゆかりが言ってた『信頼されなさい』ってどういうこと?」

 

おかあさんは一言「そんなことも言っていたな…」と言うと、

 

「霊夢、ここに来る怖い人たちを知っているか?」

 

おかあさんの突然の問いに少し戸惑いながら応える。

 

「…うん。」

 

それを聞いて、おかあさんは頭を撫でてくれる。

 

「あの人達はな、お母さんのことが嫌いらしい。」

 

おかあさんは静かにそう言うと、悲しそうな目をして私の顔を覗き込む。

 

「何で?おかあさんは悪い妖怪を退治してくれるんでしょ?どうして嫌われるの?」

 

「妖怪を退治するからだ。人は元々妖怪を恐れ、どうすることもなく生きてきた。しかし、私は妖怪と同等の力を持ち、戦うことができる。」

 

おかあさんはそう言う。でも、私は納得できない。

 

「それは理由になってないよ。強いのなら、人に頼られるんじゃの?」

 

私の言葉におかあさんは微笑む。しかし、どこか寂しそうな微笑みだ。

 

「そうだな、力がある人は頼られる。でもな、私は力があるだけじゃなく様々な妖怪達と仲がいいだろう?紫をはじめとして、文やにとりとかな、だからなんだ。だから、人は私を恐れるんだ。力があり、妖怪と仲がいい。そんな人たちを人は嫌うんだ。」

 

おかあさんがそう言うと、私の頭のなかにひとつの疑問が生じる。

 

「でも、その話が『しんらい』とどう関係があるの?」

 

私の言葉におかあさんは「そうだったな」と言い続ける。

 

「まず始めに霊夢、『信頼』と『信用』の違いは分かるか?」

 

「同じじゃないの?」

 

そう言うと、おかあさんは私に目を見て言う。

 

「少し違うな。違うといっても誤差くらいだがな。けどその違いが大きな意味を持つんだ。」

 

おかあさんの言葉に私は頭を抱える。

 

「どう違うの?」

 

「まず、『信頼』とは信じて頼ると書く。そして『信用』とは信じて用いるつまり使うという意味だ。私は里の人たちに『信用』はされているが、『信頼』はされていない。この意味が分かるか?」

 

「少しだけ。」

 

「そうか、ならもう少し分かりやすく言うぞ。里の人たちは私のことを『妖怪が出たときに自分達を守る道具としては信じているが、守護としては信じていない。』ということだな。」

 

おかあさんがそう言うと、私はひとつの言葉を思い出す。

 

「『化け物神社』だから?」

 

「そうか、聞いていたのか…」

 

そういいながらおかあさんは少し寂しそうな顔をする。そして、

 

「そうだ、人は昔から、自分達と違うものを排除してきた。この話は竹林の案内人をしている娘の方がよく知っているだろうな。そして私も力を持ち、妖怪と仲良くするから排除されている。」

 

「それなら何で、おかあさんは妖怪を退治するの?里の人に嫌われているなら、妖怪を退治しなくてもいいんじゃないの?」

 

私の言葉におかあさんは少し怒りを見せた。

 

「霊夢、そう思うかもしれない。けどな、私は人として、人を妖怪から守らなくてはいけない。それが紫との約束にもなるしな。例え報われなくても、この役割を放棄することはできないんだ。」

 

言い終わる頃には、おかあさんの顔から怒りは消え、代わりにおかあさんは寂しそうな顔をしていた。

 

■■■■

 

それからの日々はいつも通りだった、何もない日は、おかあさんと縁側で日向ぼっこをする。時々ゆかりが来て私に修行をつけてくれる。

 

たまに里から怖い人が来て、おかあさんがボコボコにする。

たまに妖怪が集まって宴会を開く。

 

そうして、1ヶ月が経った頃、里に異変が起きた。

 

詳しいことは遠すぎてわからないが、人里だけが夜みたいに暗くなっていた。するといつも来る怖い人たちを来た。

 

「博麗の巫女!町に妖怪が現れて、人を襲っている。頼れるのはお前しかいない。頼む!」

 

私はその言葉にムッとする。

 

「頼れるのはおかあさんしかいない?信頼しなかったのはあなた達じゃないの?おかあさんを化け物呼ばわりして今さら『助けてくれ』?寝言跳ねて言いなさいよ!」

 

男達はその言葉に一瞬たじろぐが再び口を開く。

 

「後生だ。今は剃れどころじゃないんだ。多くの人が死んでいる。人を妖怪から守るのが巫女の役目だろ?」

 

「今まで粗末にしてきたのに、自分達に利益があるとわかった瞬間に手のひら返すように擦りつくの?」

 

私がそう言って、男達が何も言い返せず睨みあっていると奥からおかあさんが出てきた。

 

「霊夢、そう言ってやるな。人は限りある命だ。その儚い命のために一瞬を懸命に生きるから美しいんだ。」

 

そう言って、私の頭に手を置く。

 

「お前ら、妖怪の特徴は?」

 

男達は一瞬遅れて返事をする。

 

「真っ暗でほとんど見えないが、金髪で黒い服を着ているのは見えた。少し前まで湖の近くで見かけていたやつだと思う。」

 

きっとルーミアだ。おかあさんの方を見ると、「ついに来たか…」と男達には聞こえないような声で呟いた。

 

「とりあえず案内してくれ、すぐに向かう。」

 

男達はすぐに動き出す。そしておかあさんもそれについていく。おかあさんが鳥居の辺りに着くと、振り向き、

 

「霊夢、いってきます。」

 

と言った。いつも通りだ。それに私はいつも通り応える。

 

「いってらっしゃい♪」

 

■■■■

 

僕は異変の中心にいた。

 

妖怪(ルーミアだと思われる。)から逃げながら逃げ遅れた人たちの手助けをしている。慧音先生の話によると男達が彼女を呼びにいったらしい。そうこうするうちに住人たちの避難は一段落した。僕はその足で慧音先生の元へ向かった。

 

慧音先生と合流し現状を報告し合う。

 

「妖怪の入ってきた北側の町はひどい有り様です。恐らく3割程亡くなったかと…」

 

「そうですか、寺子屋のある南側は発見が早かったので、そこまで甚大な被害が出ているわけではないのですが、逃げ遅れた人襲われたり、家が壊されたりであまりいい状況とは言えませんね。」

 

先生の報告を聞き少し安心する。自分が見てきた町は特にひどかったから人里が壊滅するのでは、などと思っていたから思っていたよりも被害は少ないらしい。それでも人が亡くなっている以上安心しきる訳にはいかない。ならばやることはひとつだけだ。

 

「先生、とりあえず、半妖の私たちにできることはひとつですね。」

 

「はい。博麗の巫女が来るまでせめて私たちで妖怪の足止めをしなければなりません。」

 

どうやら彼女も同意見らしい。意見の一致を確認すると、共に妖怪の元へと飛び立つ。

 

■■■■

 

「これは酷いな。」

 

私が人里にたどり着くとそこは地獄に等しかった。人々は逃げ惑い、親の死体に泣きつく子供、子の死体にすがり付く親、建物は壊され、所々喰い千切られたような跡のある死体もある。現状が解っても私が彼らにしてあげれることは今のところない。一刻も早く異変を解決し、この惨劇を終わらせないといけない。

 

私が死体や泣き崩れる人たちを他所に異変解決へ向かおうとすると、「鬼」「悪魔」「薄情者」「貴様に人の心はないのか?」などと言われる。石も投げられる。いつも通りだ。慣れてもやはり辛いものがある。

 

しかし私の役目は「異変を一刻も早く終わらせ、犠牲者を最小にする」ことであり、「人々の救助」ではない。私は「すまない。」と一言、その場にいた人々に言い。飛び立った。

 

■■■■

 

私が異変の中心に到着すると、見知った二人が倒れている。

 

「霖之助!先生!」

 

二人の名を呼び、駆け寄る。ひどい傷だが気を失っているだけだ。半妖の二人なら死ぬことはないだろう。

 

二人の無事を確認し上空を見上げる。

 

そこに彼女はいた。

 

金髪を腰まで伸ばし、黒い服を着ている。

ルーミアだ。

ケラケラ笑っているが、その目には生気はない。自我を失っているのか。

 

「あら、○○じゃない。どうしてこんな所にいるの?私と遊んでくれるの?」

 

彼女は言う。私は睨み付ける。

 

「この異変はお前の遊びだと言うのか?」

 

「そうよ。ここには様々な闇がある。他人を恨む人、妖怪を恐れる人、そして妖怪を倒す力を持つ貴女を恐れる人。そんな人の闇が私を呼ぶの。『闇がほしい』って言うの。」

 

彼女の言葉にため息をつく。

 

「確かに人の心には闇がある。しかしな、闇がるから光があり、光があるから闇がある。そうなっているんだ。どちらかがどちらかを呑み込んではいけない。そうなっているんだ。お前ならわかるよな?」

 

彼女は相変わらずケラケラ笑っている。

 

「もちろんわかっているわ。けどね、ここには貴女がいる。それだけで人々は恐れ、戸惑い、憎しんでいるわ。だから、私は強くなれた。強いものが弱いものから奪って何が悪いの?そうなっているんでしょ?」

 

「だから、貴女のことも奪うわ。私の強さで。」

 

そう言って彼女のての先から黒い弾幕が飛んでくる。私はそれを避け、彼女をきつく睨む。

 

元々妖怪は人が恐れるように創られたものだ。人よりも遥かに強く、さらに、長い寿命を持つ。そんな妖怪の一撃は、人に対して、必殺の一撃となる。掠めるだけでも大きな怪我となりうるのだ。しかも人の必殺の一撃は妖怪に対しては大した攻撃にならない。

 

だから私にできることは、彼女の攻撃を総て避け、ゼロ距離での最大出力の大技をぶつけることだけだ。逆に言えば、そうしなければ、妖怪に対してまともにダメージを与えることもできない。

 

この世界は不平等だと心のなかで思う。

 

「全力で来てね。私だって貴女を簡単に壊したくないから。」

 

そう言いながら、無数の弾幕を飛ばしてくる。

 

「全力で来いよ。私もお前を殺したくはない。」

 

……少女(?)戦闘中

 

私は地に膝をつく。弾幕はなんとか避けきれている。しかしこちらが放った攻撃はルーミアにダメージを与えることはできない。

 

彼女の笑いは戦いの最中も途切れることなく聞こえる。今もそうだ。

 

「もう終わりなの?私はつまらないの嫌いなの。だから貴女の子と壊していい?」

 

彼女は余裕の表情を見せる。私は悟った。

 

(私じゃ倒せないな)

 

元々力を持つ妖怪は人を襲わない。襲ったとしても、最低限にとどめる。理性があるから。しかし力のない妖怪は理性を持たないため、欲望のままに人を襲う。こう言えば恥ずかしいことなのだが、私が今まで倒してきた妖怪は、下級のものばかりだ。とは言っても、地力は人を遥かに凌ぐため、私のなかでは死闘を繰り返してきた。しかし、今のルーミアは違う。

 

自我を失い欲望のままに人を襲う。しかもかなりの力を持っている。

 

「紫、いるか?」

 

私は紫を読んでみる。こうなれば、私の力ではどうすることもできない。幽かな希望をもって紫を読んでみる。しかし返事はない。どうやら、今はいないらしい。

 

「親友が大変なのに、自分は昼寝か…」

 

私は悪態をついてみるが、返事はなかった。

 

「紫さんはいないみたいだね。代わりに僕ではダメかい?」

 

「霖之助…」

 

霖之助が立っていた。ボロボロの体で血を流しながらも立っていた。

 

「僕なら人よりも頑丈だから大丈夫だ。でも、今の彼女を抑えるのは君しかいない。だろう?」

 

彼の言葉を聞き、私はそれを止めようとする。しかし彼の目を見て、それは妨げられた。

 

「どうしても言うなら、止めない。だけどなお前がいなくなったら困るやつがいることも忘れるなよ。」

 

「魔里沙のことかい?君は優しいんだな。あの子は大丈夫だよ。誰よりも強い心をもってここに来ている。僕を失ったところで変わらないよ。どこまでも進み続けられる。そういう心を持っているからね。」

 

彼の言葉にため息をつく。

 

「ゴメン、私の言い方が悪かった。お前がいなかったら私が困るんだ。これでいいか?」

 

私の言葉を聞き理解してくれたようだ。

 

多分…。きっと…。恐らく…。

 

■■■■

 

彼女は何を当たり前のことを言っているのだろうか?親友を失えば悲しいのは当たり前だ。しかし、困るとはなんだろうか?そう考えて、ひとつの答えを導き出す。

 

「約束のことは任せてくれ。必ず生きて約束を守るから。」

 

僕の言葉に彼女は驚いているようだ。恐らくこれが正解なのだろう。そう思っていると拳骨が飛んできた。

 

「もういい!この異変が終わったら全部話してやる。だからもうなにも言うな。そうしないとお前を封印したくなる。」

 

彼女の言葉に恐怖する。

 

「死亡フラグにならないことを祈るよ。」

 

僕はそう言い、上を見る。

 

「そんなことより今はあっちだ。」

 

ルーミアは退屈そうにケラケラ笑っている。

 

「終わった?ねぇ○○、貴女の心の闇美味しそうよ。何か悪いことでもあったの?」

 

ルーミアの言葉に彼女は怒りを見せながら「うるさい」とだけ言った。

 

「霖之助、ルーミアを引き付けてくれ。その間に私が何とかする。」

 

彼女は一言そういうと飛び立った。僕は了解とだけいい彼女の後を追った。

 

「君の体力を考えると、あまり長くは戦えないな。一刻も早く終わらせよう。」

 

「それには同意見だ。けどな、体力の限界はお前もだろう?」

 

一言交わし僕はルーミアの方へ近づく。

 

「邪魔しないでよ。今は○○と遊んでいるの。早く消えて。」

 

そう言いながらルーミアは弾幕を僕の方に飛ばしてくる。ここまでは作戦通りだ。後は彼女が上手くやればこの異変は終わる。

 

■■■■

 

霖之助の陽動にルーミアが乗った。後は私がタイミングを見計らって突っ込むだけだ。

 

私は静かにタイミングを見計らう。

 

今だっ!

 

ルーミアが自分から反対側を向いた瞬間に私は突っ込む。気づいたルーミアがこちらに向けて弾幕を打つ。何回か弾が体を掠めた。物凄く痛い。けど、突っ込むしかない。幻想卿のためにも、私とこーりんの未来のためにも。

 

ルーミアとの距離を詰め私は叫ぶ。

 

「ゴメン、ルーミア。『夢想封印』!」

 

■■■■

 

僕が見たのは、絶望だった。

 

彼女の一番の大技、『夢想封印』を受けながらもルーミアが伸ばした腕が彼女を貫く。

 

二人とも力尽き落ちていく。里中を覆っていた闇が晴れていく。僕は全力で彼女のもとへ向かう。しかし落ちてくる二人を抱き抱えたのは藍さんだった。

 

「藍さん、彼女は?」

 

僕の言葉を聞き、彼女は首を降る。僕は膝から崩れ落ちた。不思議と笑いが込み上げる。涙も溢れてくる。

 

「香霖堂さん、気を確かに持ってください。私は今から被害の確認などに向かいます。貴女はどうされますか?」

 

彼女の言葉を聞き、どうにか返事をしてみる。

 

「もう少しここにいます。彼女が起きるかもしれないので…。」

 

「そうですか…。私からはなにも言うことができませんが、気を強く持ってください。」

 

■■■■

 

しばらく待ってみたが彼女は目を覚まさない。それもそのはずだ、心臓のあったはずの場所を抉り取られているのだから、それに気づいたのは先程だ。

 

「惜しい人を失ったわね。」

 

不意な声に振り返り、声の主の顔を見てみる。

 

「何をしに来たんですか?」

 

僕の質問に扇で口元を隠しながら答える。

 

「私は、約束を守りに来たの。」

 

彼女の答えに僕は疑問を持つ。

 

「彼女と何か約束をされていたのですか?」

 

僕の質問に彼女が再び答える。

 

「いいえ。約束をしていたのは彼女と『貴方よ』」

 

僕は記憶の片隅から、彼女との約束を思い出してみる。

 

金を貸したり、妖怪退治のための道具を作ったり様々なことをしてあげてきたが、このタイミングで守る約束はひとつしかなかった。

 

「僕の記憶でも奪いに来たのですか?」

 

僕は軽く冗談を言ってみる。そうでもしないとやってられない。

 

「その通りよ。正確には、幻想卿にすむ総ての生き物から彼女に関する記憶を取り出す、って言った方が正しいのだけどね。」

 

彼女の言葉に驚くが怒る気力もない。

 

「どうしてですか?」

 

僕の問いに彼女も予想外らしい。彼女らしからぬ驚いた表情をしている。

 

「思ったより冷静なのね。クールな男はモテるわよ。」

 

彼女の言葉に少しイラついた僕は彼女を睨む。

 

「そう怒らないでよ。これは幻想卿のために必要なことなの。わかってちょうだい。」

 

「彼女の記憶を奪うなら早くした方がいいですよ。正気を取り戻した僕が貴女を殺しにいくかもしれない。」

 

僕は睨みを効かせながら強めに言う。しかし、今はこの場を動くこともできない。

 

「わかったわ。それじゃあ…」

 

彼女の言葉を皮切りに僕と○○に関する記憶が薄れていく。そしてそのまま、僕は気を失った。

 

■■■■

 

「こーりん、起きろー!」

 

大きな言葉に目が覚める。

 

「こーりん、ご飯はまだ?」

 

霊夢が僕に飛び付く。

 

「今から作るから待っててくれ。その間に魔里沙たちを起こしてきてくれ。」

 

「はーい♪」

 

霊夢がまぶしい笑顔を見せ、元気に駆けていく。さて、今日は何にしようか。

 

「私は和風がいいわ。」

 

突然の声に驚く。

 

「ッ!紫さんいたんですか。」

 

「今来たのよ。私は焼き魚と味噌汁がいいわ。」

 

彼女の言葉に頭を抱える。

 

「うちで食べていく気ですか?」

 

彼女は悪びれる様子もなく、いつもの胡散臭い微笑みを見せる。

 

「もちろん♪」

 

「わかりましたから上半身だけ浮くのは止めてください。気持ち悪いです。」

 

「はーい♪」

 

……少年調理中

 

朝食を作っていると霊夢が駆けてきた。

 

「こーりん、みんな起きたよ♪あ、ゆかりだ。おはよう。」

 

「霊夢、おはよう」

 

二人が挨拶を交わすなか二人が出てくる。

 

「魔里沙もルーミアも顔洗っておいで。朝ごはんもうすぐできるから。」

 

「はーい……」

「そうなの…かー……」

 

二人とも目を擦りながら何とか立っている様だ。

 

二人の支度も終わり、食卓を囲む。

 

「それじゃ、食べようか。いただきます。」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

僕は森近霖之助、人里の外れで道具屋をしている。ひょんなことから紫さんに博霊の巫女(修行中)の世話を頼まれた。さらにそこに昔お世話になった「霧雨店」の娘(家出中)を預かることになり、さらに神社の近くに倒れていた妖怪のルーミア(居候中)を住まわせることになった。

午前中は神社で彼女たちと遊びながら過ごす。昼になると、紫さんが霊夢の修業をつけにスキマから突然現れ、それを見届けて僕は魔里沙と香霖堂へ行く。このときルーミアは辺りを散策したり、寝たり色々しているらしい。そして夕方には再び神社に集まり、夕食を食べ、寝る。このようなサイクルのなかで僕自信忙しいながらも楽しい日々を送っている。

 

しかし、たまに何かを失ったような虚無感が僕を襲うのは何故だろうか。




お疲れさまでした。

もう少しサックリ終わらせるつもりだったんですけど、長くなってしまいました。

質問意見等お待ちしております。

それと、今後紫視点と先代巫女の生存ルート(恐らくこーりんとのいちゃラブ)をしようと思いますが、他に書いてほしいもの等ありましたら言ってください。全力を尽くします(単なるネタギレ)


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八雲紫の願い

前回長かったのでサクッと終わらせますね。

矛盾点などありましたら言ってください。
(30分位で作ったからぐちゃぐちゃです)


私は今から人を殺す。

 

他ならぬ親友を殺す。自分の都合のために殺す。

 

……この世界には強者と弱者とが存在する。今から簡単な質問をする。自分が強者として、強者と弱者とが存在する場合、どちらの味方をするか。

 

臆病者なら強者と答えるだろう。

偽善者なら弱者と答えるだろう。

 

私は違う。力を持つから何かに怯える必要はない。偽善を行ったところで私の評価を変える者もいない。

 

だから私は答える。「全てを受け入れる」と…。

 

……話を戻そう。私がこのは、親友だ。殺すと言っても、実際に暴力をもって殺すわけではない。ただ約束を守ってもらうだけだ。

 

時は遡り、私は悩んでいた。何を隠そう、私には今邪魔な者がいる。よりによって自分の親友を邪魔者と称するのにはは理由がある。

 

力を持つ彼女が邪魔だ。人の癖に中途半端に力を持つ彼女が邪魔だ。力を持つ癖にそれを誇示しない彼女が邪魔だ。強い正義感を持つ彼女が邪魔だ。その癖妖怪に愛される彼女が邪魔だ。その癖人に愛されようとしない彼女が邪魔だ。

 

妖怪は人よりも強くてはならない。そうなっているからだ。力で敵わない人が知恵を使い、一人の僅かな力を持つ『象徴』を中心に妖怪と均衡を保つ世界を私は望んでいた。しかしその『僅かな』力を持つ一人が世界の理を壊した。

 

「彼女は一人でも妖怪と闘える」

 

その事実だけで世界の均衡は大きく崩れ去った。妖怪は人を襲えないことに苛立ちを覚え、人は妖怪よりも『中心となるべき象徴』をより恐れ、『中心となるべき象徴』は一人で全てを守ろうとしていた。端的に言えば私の望む世界と逆に物事が動き出したのだ。

 

 

今はまだよい。彼女が生きているのだから。しかし、彼女の死後、ここはどうなるのか?

妖怪は無差別に人を襲い、人々は恐怖する。恐怖のなかで次が起きるのかと言えば、争いである。恐れた人々は、その心のスキマを人から奪うことで埋めていく。

 

だから私は彼女を消さなければいけない。

 

しかし、方法がない。私の能力をもってしても幻想卿に生きる数多の生き物の記憶と忘却の境界を操るのは困難だ。しかも彼女のことは多くの人が良くも悪くも脳裏に刻み込まれている。引き剥がすのは困難だ。

 

時は現在に戻る。宴会の最中、彼女に伝えたいことを伝え、もう宴会も終わっていた。

 

今は親友と、その思いの人との甘い一時だ。無粋なまねはしない。静かに見守るのだ。残された僅かな時間を、そうとも知らずに懸命に生きる彼女を見守らなくてはいけない。それが私が『親友』としてできる残り少な麗とである。これからは非情で胡散臭く、悪名だかい『幻想卿の管理者』として彼女を見なくてはいけない。そう思うだけで胸が締め付けられる。

 

その時、男の言葉が私に奇跡を与える。

 

『もし生きて帰ってこなかったら、忘れてやる。』

 

この言葉で私の計画に欠けていたピースが全て当てはまる。

 

後は簡単だ。

 

香霖堂が一人になったときにさらい、適当にけしかけ契約させる『もし○○が死んだら自分の○○に関する全ての記憶を消す』と。渋るだろうが、いい意味でも悪い意味でも単純な彼のことだ「彼女のことが信じられないのか?」とでもいえば契約してくれるだろう。

 

もし彼女が生きて帰ってくれば、それでよかったと笑顔で迎える。

もし彼女が死んでしまえば、彼女に関する記憶を失った香霖堂の記憶を幻想卿に生きる数多の生き物の記憶と共有させればいい。1から全ての記憶を書き換えることはできないが、一人でも彼女のことを完全に忘れてしまっている人がいるなら話は違う。利用できるものは全て利用する。それが私の『幻想卿の管理者』としての行動理念だ。

 

■■■■

 

そうして様々な下準備をしているうちにルーミアが暴れだした。

 

多くの人が襲われている。この状況を見逃す彼女ではない。そのうち来るだろう。私は最後の仕上げに取りかかる。

 

ようやく来た。

 

私の理想の幻想卿を、強者を、弱者を守るため私は冷徹になる。非情になる。そうしなければ耐えられないから。

 

■■■■

 

戦況はやはり○○の防戦一方だ。ダメージこそ少ないがかなり疲労している。

 

そんな彼女をみて、私は涙を流す。親友を見殺しにするようなことやはりできるわけがない。

 

何度も飛び出そうとした。しかし、出てはいけない。私は『幻想卿の管理者』なのだから。幻想卿のためだけに動かなければならない。そうなっているのだから。

 

……彼女に呼ばれた。親友って言ってくれた。私は彼女をスキマからずっと見ている。涙で顔を歪めながら見守っている。早く終わってくれと何度願ったことだろう。それも叶わない……。

 

……ここで意識が飛んだ。

 

■■■■

 

式の籃にたたき起こされ目を覚ます。

 

「籃、異変はどうなったの?」

 

私は焦る気持ちを必死に押さえながら籃に『幻想卿の管理者』として尋ねる。

 

「博麗の巫女は敗れ、亡くなりました。」

 

私は絶望する。

 

自分で望んだ結果のはずなのに、心が壊れるような音がする。

 

「そう、遺体はどうしたの?」

 

「今は香霖堂さんがどうしてもというので彼に預けてあります。」

 

そのあとに、「私もその方がよいと判断しましたので……」と続け、口を紡ぐ。

 

「わかったわ。貴女は橙をつれて被害の状況を確認してちょうだい。必要があるなら怪我人の治療なんかもお願い。」

 

「わかりました。」と彼女は答え、その場を去る。

 

私も動かなければならない。幻想卿を守るために。

 

■■■■

 

香霖堂のもとへ到着する。

 

話を伝えると、彼は殆ど放心状態のようだ。それならば話は早い。早くことを終わらせよう。そうしなければ私が耐えられなくなる。

 

彼から記憶を消去する。そしてそのまま、幻想卿に生きる全ての彼女に関する記憶を消すため妖力を練る。

 

その時ふっと思い出した。

 

外界に住む誰かの言葉だ、

『人は忘れられたときに本当の意味で死ぬ』

 

それならば彼女を私の中で生き続けさせよう。酷いことをしてしまった分。優しくしてあげなければならない。

 

それが私ができる『親友』として、『幻想卿の管理者』として一匹の妖怪としてできる最後のことだから……。

 

■■■■

 

これからどうするか、それについては考えてある。ルーミアの力だけでも封印できたのだから、おまけで約束を叶えさせてあげよう。

 

霊夢は香霖堂に預けることにした。それが彼女の願いの一部であるから。そして一応『博麗麗女』の肩書きがある以上霊夢は神社を無闇に離れるわけにはいかない。だから香霖堂も博麗神社で寝泊まりさせることにした。

 

香霖堂には「やりたくない」といわれたが、

 

「あなたしかいないのよ♪」

 

と上目遣いでお願いしたら快く受け入れてくれた。やっぱりかわいいは正義ね♪

 

それと霊夢には実践的な格闘術ではなく、遊びに近い霊弾の撃ち合いを近くの妖精たちとさせている。これからの幻想卿のため、悲しむ人が少なくなるにはこれがベストだと思うからである。

 

「相手の命までは奪わないこと。美しくあること。勝っても必要以上に相手から奪わないこと。……こんなものかしら。」

私は今、新しい幻想卿のためのルールを決めている。

 

彼女のような悲劇を起こさなくていいように……。

 

 



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森近霖之助の受難

例えば貴方の周りに貴方を愛してくれる人が1人でもいるとしたらそれは素敵なことでしょう。

しかし、人に愛されるというのは世界で最も簡単で、最も複雑な魔法であることを知ってください。

~Männchen~

 

■■■■

 

私は普通の人間ではない。

 

昔から宙に浮いたり、手から火を出したり人にできないようなことができた。

私は勉強した。不思議なことをもっとしたかった。不思議なものをもっと知りたかった。

 

私の先生は、偶々市場で見つけた魔法に関する古びた本と、昔父の元で修行し、今は独立して魔法の森の近くに店を構える「香霖」だけだ。

 

私は魔法使いになりたいが、お父さんは魔法を認めてくれない。だからこの間「頑固ジジイ」って言ってやった。その時は大きなげんこつが私の頭に飛んできた。

 

 

翌日、私は香霖の店「香霖堂」に行った。

 

「なぁ香霖、何で頑固ジジイは魔法を認めてくれないだ?」

 

「心配してるからだろう。それと魔理沙、頑固ジジイは止めなよ。旦那様、相当落ち込んでいたよ。」

 

「心配なんてされなくても平気だぜ。私は自分がしたいようにするんだ。頑固ジジイは私が思う通りになってくれないのが嫌なだけだぜ。」

 

「そうかな?僕は魔理沙のことを心配するよ。たぶんそれが家族としてあるべき姿だと思う。末っ子が問題児なのもそういうことだと思うよ。」

 

そう言いながら香霖は私の頭を撫でる。

 

「止めろよ!私は猫じゃないぜ……。」

 

そう言って帽子を深く被る。

 

「それはごめんよ。ところで魔理沙、僕が死んだら嫌か?」

 

「それは当たり前だぜ。誰だって身近な人が死ぬのは嫌なもんだぜ。」

 

「じゃあ魔理沙、今度は復習だ。人間から魔法使いになる条件はなんだったかな?」

 

「食事をとらなくてもよくなる捨食の魔法と寿命が長くなる捨虫の魔法を習得したら魔法使いになれるんだよな?」

 

「正解。」

 

そう言って香霖はまた頭を撫でてくる。もう抵抗する気も失せてきた。

 

「けどそれが頑固ジジイとなんの関係があるんだ?」

 

「そうだったね。魔理沙は魔法使いが人に劣るところがあることを知っているかい?」

 

「そんなのあるわけないぜ。半妖や半獣と違って恐れられることも少ない、魔法が使える。人間に劣るところなんてないと思うぜ。」

 

「少し胸が痛むけど、まぁいい。知っているだろうけど僕はそこら辺の人よりもよっぽど長い時間を生きてきた。その分多くの人の死を見届けてきた。友人、商売仲間、商売敵、これまで関わってきた人の多くが僕よりあとに生まれて僕より先に死んだ。それはとても辛いことだ。もし君が魔法使いになるんなら、君が今まであってきた人達よりも長生きをしなくてはいけない。人の死というのはとても辛いものなんだ。魔理沙、わかるよね。」

 

「香霖、私はお前が思うほど弱くないぜ。人が死ぬのはとても怖い。けどな、私はそれでも魔法使いになりたいんだ。人にできないことを、自分にしかできないことをしたいんだ。分かってくれよ。」

 

「もちろん、魔理沙の気持ちもわかる。だけどね、旦那様の気持ちも僕は痛い程わかるんだ。だから、魔法を使うなとは僕からは言わないよ。けどね、魔法使いにはならないで欲しいんだ。君が人との別れに悲しむ姿は見たくないんだ。」

 

「分かったよ。お父さんに心配かけるようなことはしない。けどな、魔法は絶対に止めないからな 。」

 

「うん、そうしてくれた方が僕も嬉しいよ。」

 

そう言って香霖は私を自分の膝の上に乗せた。物心つく前からの私の場所に。

 

「魔理沙、魔法を学ぶにあたってひとつだけアドバイスするよ。」

 

「「使えそうなものは使えなくてもいいから取り敢えず持っておくんだ」だろ?」

 

香霖は少し驚いた様な顔をして、また頭を撫でてくる。どうやら私のことを猫か何かと思っているようだ。

 

「あぁ、そうだね。後、商売人として一言言うと、どれだけ使えそうなものでも人から借りたものは必ず返すんだよ。それができない人はそれ以降、全く信頼されなくなるからね。わかったかい?」

 

「わかったぜ。借りたものは死んでも返す。だろ?」

 

「あぁ、そうだ。必ず返すんだよ。」

 

それからしばらく香霖と話して私は香霖につれられ家に帰った。

 

■■■■

 

魔理沙を家まで送った僕は旦那様の部屋に呼び出された。

 

「旦那様、霖之助です。入ります。」

 

「あぁ、入ってくれ。」

 

扉を開け中に入ると旦那様がパイプを吹かしていた。

 

「まぁ座ってくれ。後、いい酒が入ったんだが、飲むか?」

 

「あ、頂きます。」

 

そういうと旦那様は部屋の奥からグラスと深い琥珀色の液体が入った瓶を取り出す。

 

「ウィスキーですか?少し色が濃いですが……」

 

「あぁ、そのなかでも外の世界で作られた『バーボン』と言うもので水で割ると旨いらしい。今氷と水を持ってくる。」

 

そう言って、旦那様は部屋を出ていった。

 

旦那様が戻り、酒を注ぐ。

 

一口飲み味わってみる。なるほど、香りが強いな。それにウィスキーに比べて少し癖が強いがそれもうまく感じる。アルコールが強く喉を焼く感じが心地いい。

 

「美味しいですね。」

 

「そうだろ?この間来た客がくれたんだ。」

 

そう言って、微笑んでいた旦那様の顔が引き締まる。

 

「……それで、話というのはな、」

 

「魔理沙のことですか?」

 

「あぁ、今日お前と話したお陰で魔法使いになりたいというのは言わなくなった。礼が言いたいんだ。」

 

そう言いながら旦那様は座ったまま頭を下げた。

 

「いえ、自分も言はいたいことを言っただけで礼を言われる程ではありませんよ。」

 

「そう謙遜しないでくれ。それと、ここでひとつ頼みたいことがあるんだ。」

 

「面倒事でなければいくらでもいいですよ。他ならぬ旦那様の頼み事ですからね。」

 

「そうか、それでは……。」

 

そう言って旦那様は大きく息を吸う。

 

「……魔理沙をお前に預けたいと思う。」

 

「……えっ?」

 

「今日、色々と考えてみたんだ。そうして、あの子にはしたいことをさせてあげようと思ってな。」

 

旦那様は昔から続く道具屋の長男として、今まで自分のしたいことを見つけることもなくこの店を継いだと言っていた。

本当に親バカな人だと思う。

 

「それでも、なぜ自分なんですか?魔法の研究はここにいながらもできることでしょう?」

 

「そうなんだがな……私は今まで魔理沙を霧雨店の末永い発展のために、人並みの幸せと不幸を味わいながら生きてほしいと思っていた。だから魔理沙の魔法の勉強を許さないで来た。その手前今ごろになって魔法を許すのがどうしてもできないんだ。」

 

旦那様はそう言い、「情けない」と言いながら頭をかく。

 

「……そこで、私は一芝居打つことにした。」

 

それから旦那様から芝居の中身を告げられ、僕も程よく酔ってきたので帰ろうとすると。

 

旦那様に袖を捕まれている。旦那様の顔は真っ赤だ。

 

「まぁ待て、男同士、商売人同士積もる話もあるだろう。」

 

そう言って、僕たちは最近の経営状況から話は始めた。(後半は旦那様の『如何に魔理沙が大事か』という話であった。)

 

■■■■

 

あれから一月程たった。旦那様もそろそろ作戦を決行したことだろう。内容は知らないが、あの人のことだ、無駄なことはしないと思う。

 

「どーも、清く正しい謝命丸文の文々。新聞です。」

 

外から明るい声が聞こえる。何か特ダネでも見つけたのだろう。

 

「どうしたんだい?朝早くから元気だが。」

 

「あ、霖乃助さん。特ダネですよ、特ダネなんです。特ダネなんですよ。」

 

爽やかな笑顔で嬉々として話している。こういうときは関わらないのが一番だ。適当に流してしまおう。

 

「あぁそうかい。じゃあね。」

 

そういいながら戸を閉めようとする。しかしそうは問屋(新聞屋)が卸さない。

 

「霧雨店の話ですよ。聞きたくないんですか?」

 

にんまりと笑う顔を見て僕はあきらめた。

 

「わかったよ。聞くから、早くしてくれ。」

 

「実はですね、霧雨店のご息女の魔理沙さんが家出をしたそうです。今は知り合いの家に居候しているらしいです。」

 

僕はため息を漏らす。

 

「それは知っていたよ。というより、そうなることを知っていたと言うのが正しいのだが、」

 

「さぁ、話は聞いたよ。早く帰ってくれ。君が長居したら、翌日には幻想郷中に僕のよくない噂が流れることになるからね。」

 

そう言って戸を無理矢理閉めた。

魔理沙の家出は一月前には分かっていたことだが、やはり不安ではある。

 

収まらない不安を抑えるため僕は久しぶりに煙草に火をつけた。

 

■■■■

 

もうあんな家に帰ってやるか。そう言い聞かせながら私は人里を歩く。しかし、ここに居座り続けるていると、いつかあの親父に会うかもしれない。そう考えると、早く逃げ出したかった。

そういうわけで私は新しい居候先を決めなければならない。条件は

 

一、信頼できる人であること

一、親父が行かない様なところにすんでいること

一、家に戻りなさいと言わない人であること

一、出来れば「魔法の森」に行く手段を持つこと

一、出来れば魔法をいやがらないで知識を持つこと

 

……自分で考えてアホらしくなってくる。こんな良物件あるわけない。そう考えていると、いきなり黒髪の少女が現れた。背中の翼を見る限り人ではないことが解る。

 

「今日は、霧雨魔理沙さんですね 。少しお話を聞いてもらってもよろしいですか?」

 

いきなりそんなことを聞かれた。

 

「取り敢えず名乗ってくれ。それがマナーだろ。」

 

そう返すと少女は少し慌てた振りをして。

 

「あややや、そうでしたね。私は謝命丸文と言います。鴉天狗でして、文文。新聞という新聞の記者をしております。清く正しい謝命丸と覚えてください。」

 

「お前のことは分かった。で、話って何だ?」

 

鴉天狗に関してはなまじ知識ではあるもののいい噂は聞かない。私は少し退きながら尋ねてみた。

 

「はい、実は先程香霖堂という貴女のお家に縁のあるお店に行ったんですけど、そこの店主の霖之助さんが貴女の家出を事前に知っていたようなことw……「そうだった忘れてた、香霖は条件を満たす最高の物件じゃあないか!!」

 

私は謝命丸文の言葉を遮り叫ぶ。

 

そうと決まれば、香霖の元へ行くだけだ。

 

 

「ありがとうな、謝命丸。お蔭で助かったぜ。」

 

「あややや、何が助かったのかは分かりませんが、助かったのなら、それはよかったです。それとわたしを呼ぶときは、あややと呼んでください。」

 

私は謝命丸の言葉を半ば聞いて香霖堂に向けて走り出した。

 

 

私の魔法使いとしての修行はまだ始まったばかりだ!



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