恋姫♰無双 紀霊の章 (秋月 了)
しおりを挟む

反董卓連合編
1話 南陽 袁術


「はぁ~。終わらない」

 

「ははっ。わかりますよ。紀霊殿」

 

「申し訳ない。いつも手伝ってもらって」

 

「これがわれらのお役目ですし本来なら当家の長たちがすべき事ですから」

 

城の一室。そこでは一人の武官が複数の文官といくつも積まれた書類の山と格闘していた。

男は性を紀、名を霊、字を白麗。真名を識という男性である。

一応武官志望の客将である。そう客将である。

そしてここ南陽を収める汝南袁氏の当主袁術の配下の中では彼は比較的新参者。

というよりつい最近入ったばかりの男である。

つい先日揚州での戦が袁家における初陣でありその前は幽州で義勇軍に所属していた。

しかし彼のかつての主、劉備玄徳はあまりに優柔不断であった事と

その主と共同代表を務める北郷一刀が友人で旅仲間で共に義勇軍に参加した

趙雲子龍に対して何度も口説き落とそうとする行動をとるなど目に余る行為が多く、

趙雲自身も辟易としていたのと精神衛生上いい場所とは言えなかったので

黄巾の乱終結後、袂を分かち、士官の旅を続けていた。

そして現在、路銀を稼ぐ為に袁家に仕官したわけだがはっきり言おう。

異常だった。当主は何もしないしその従者兼召使い兼軍師兼大将軍も何もしない。

結果その全てが紀霊の下に来ていた。

 

「俺、客将のはずなんだが。いいのかこれ?」

 

「いえ、全然よくないです」

 

「ですよね」

 

その場にいる全員が溜息をもらす。

 

 

 

 

 

 

 

俺は転生者だった。

いや少し違うな。転生ではない。俺死んでないし。

それは偶々だった。医大の論文の資料を探すために

パソコンで調べ物をしていた時にメールが来た。

メールには『あなたの考える恋姫最強キャラはどのようなもの?』という

題名と共にPDLが貼ってあるそれを見ていた。

疲れていたのと中々進まない論文の作成にストレスが溜まっていたし、

気分転換の意味も込めてキャラ制作を行った。

性別、容姿を設定し武器を設定し

二つ技能を選んだ。

選んだ技能は直接戦闘系統の軍才と武術の才だ。

全てを決定するとパソコンの画面が光り気が付いたら草原に立っていた。

自身が設定したキャラ、紀霊 白麗の容姿で。

恋姫夢想の世界に転生して今も紀霊として生きている。

そして今仕事をかたずけていた時一人の侍女が入ってきて当主である袁術殿が呼んでいるという。

玉座の間に向かい中に入るとそこには袁術様と張勲そして同じ食客の孫策殿がいた。

 

「およびと聞き参上いたしました」

 

「紀霊、遅いのじゃ」

 

「申し訳ありません」

 

あんたの仕事をやってたんだよとこの場で叫びたい。しかしここはぐっと抑える。

路銀を考えるともう少し欲しいところだ。今は我慢、我慢。

 

「孫策と共に賊を討伐して来いなのじゃ」

 

「承知しました」

 

「では下がってよいぞ」

 

「「はい(は~い)」」

 

孫策殿と共に下がる。

 

「あんたも大変ね~」

 

「そうですね」

 

「紀霊って確か私が袁術ちゃんの下についた少し前に入ったのよね?」

 

「ええ。揚州での戦が袁家における初陣です」

 

「ってことはそれほど時間がたってないわよね。目の下すごいわよ?」

 

「でしょうね。ここ三日はまともに寝ていないので。

とにかくその賊討伐に向かいましょう。兵糧等はこちらで賄いますので

兵の準備をお願いします」

 

「わかったわ」

 

孫策殿は自身の屋敷に向かっていった。

 

「さてこちらも準備をしましょうか」

 

俺は残りの仕事を文官たちに任せて自分の部屋に向かい準備をし

兵士数名と共に倉庫に向かい準備を整える。

 

「星、出陣の準備はどうだ?」

 

「ああ。愛紗と共にすでに終わらせてある。

しかしまた目の下がすごいことになったな」

 

「さっき孫策殿にも言われた。正直今すぐ寝たい」

 

「すまないな。私はどうしてもその手の仕事が苦手でな」

 

「知ってる。その代わり訓練引き受けてもらってるからな。

それにしても稟と風、香風がいた頃が懐かしい。

こんなことなら一緒に曹操殿ところで仕官しとくべきだった」

 

「はははっ。そう言ってくれるな。お前がついてきてくれたこと私は嬉しいぞ」

 

星はそう言って笑ってくれる。

 

「その笑顔が見れただけで俺は救われるよ」

 

これで救われている俺は案外単純な男なのかもしれない。

そう思いながらも出陣の準備を整える。

 

「すぐに出るぞ。途中で孫策殿と合流する」

 

「承知した」

 

馬に乗り部隊に合流する。

 

「愛紗」

 

彼女は性を関、名を羽、字を雲長。愛紗はその真名だ。

そう、あの三国志でも有名な関羽だ。

彼女もかつては劉備義勇軍に所属していたし劉備とは義姉妹の盃を交わしていた仲だった。

しかしここで北郷一刀が関わってくる。

義勇軍所属時代も彼女は北郷をご主人様と呼んでいた。

これは一刀というよりも劉備が呼び始めたのが最初なのだが

一刀はそれを愛紗にも強要した。

そのころから尻を揉まれただの口説かれて夜にベットに誘われただの

現代なら逮捕待ったなしのセクハラ被害を受けていた。

それでも一刀も男だし、全ては義勇軍のためだと、

我慢していたようだが星にも同じような事を言って口説いている

場面に出くわし、更にその被害が義勇軍内で横行していることがわかり、

このままでは義勇軍内の風紀に関わると劉備に相談した所、劉備自身は

 

「でもそれってご主人様に愛されてるっていう証拠だよね」

 

と劉備自身も満更ではない様子で特に注意する気はなく、

それで愛想をつかしたそうだ。

黄巾の乱が収束し義勇軍を解散する日、盃を劉備に返し、

再び旅に出ると言って同様に劉備や本郷の下を離れた俺と星についてきた。

それからは俺を主と仰いでくれている。

 

「識様!」

 

「準備は?」

 

「すでに整えてあります」

 

「なら出陣」

 

『おう』

 

ここにいる五百の兵士は全て義勇軍時代からの付き合いだ。

義勇軍事態二千人ほどだから25%が俺たちについてきたことになる。

と言っても残りの千五百人のうち劉備の下に残ったのはごく僅かだろうが。

そしてついてきた奴らの中には本郷にセクハラされただの

彼女を寝取られただのまたは自身の貞操に危機を感じたなど

そういう奴らはなぜかまとめて俺の下に来た。

 

「それにしてもなんで俺のところだったんだ?」

 

『だって紀霊様はそういうことはしないでしょ?』

 

「な、なるほど」

 

どんだけ信用されていないんだ、北郷。

また溜息をついて行軍を再開した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 反董卓連合

簡潔に言うと賊討伐は戦闘開始から五分ほどで終了した。

意気揚々というわけではないが出陣してみれば敵は何ということはない。

賊は百人にも満たない集団だったのだ。

これに孫策殿は完全に意気消沈。

俺も倒れそうになった。

作戦も決めることもなく攻撃を開始。五分ほどで戦闘終了。

賊は捕えるなり殺すなりして撤退した。

 

「とんだ時間の無駄だったわ」

 

「そうですね」

 

俺にとって幸いは孫策殿と交流を深められたことだろう。

とにかく報告に戻る。

 

「そうか。ご苦労じゃった。下がれ」

 

これだけ?普通なぜこうなったのかとか、詳細を聞くもんだろう。

腐敗ここに極まれりだな。

それから部屋に戻り残してきた仕事の続きを行う。

 

 

 

 

 

 

それから二日後。

 

「「「「「終わったー--------!」」」」」

 

全員が筆をおいて背伸びをして終わりを宣言する。

 

「よし、帰って寝るぞ」

 

「「「「はい」」」」

 

全員が追加が来る前に急いで部屋を出て帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな感じで日々を過ごして数週間。

都で変が起こった。

董卓が現皇帝、霊帝を無理やり退位させその後継者に献帝を即位させたのだ。

それに伴い何進や何太后、十常侍は殺され、粛清を謳い多くの都の将軍や宦官を

殺しており、宮中は血生臭い匂いが充満している。

さらに董卓は相国という漢においては最高位についているとも。

そんな話を今、孫策殿と袁術殿というより張勲殿より聞いていた。

 

「それで袁術殿はいかがなされるおつもりで?」

 

「無論董卓の悪行は見過ごせん。

しかし妾はめかけの娘なんぞの下には付きたくはない。

そこで妾は妾で動こうと思う」

 

「それがいいと思います。お嬢様」

 

マジかよ。勘弁してくれ。袁術の弱兵で関を突破できるわけがない。

行軍は遅いし、統率も取れていない。おまけに軍の頭である張勲は

袁術に言われるまで何もしない。

少々天然な所はあるが能力はあるのだ。特に防衛戦では特に能力を発揮する。

黄巾の乱でも南陽を責められた際にあの弱兵を巧みに操って

追い返している。決して無能ではないのだ。

要は彼女の思考の全てが袁術に対してのみ向けられているのだ。

横を見れば孫策殿も明らかに嫌な顔をしている。

そして

 

「でもいいの。袁術ちゃん?」

 

「なにがじゃ?」

 

「今から私たちが独自で動いても諸侯は当然袁紹の下に向かうわ。

それを勝手に動いちゃったら下手したら袁術ちゃんが悪者になりかねないわ」

 

確かにな。へたしなくても勝った側からは不穏分子扱いだ。

そして連合の戦力の全てが南陽になだれ込むだろう。

それは勘弁してほしい。

 

「ここは連合に参加しておいて面倒ごとは全て袁紹に任せて

いいところだけかっさらっちゃえばいいじゃない?袁術ちゃんの得意技でしょう?」

 

「総大将というのはそれはそれで面倒なものです。

失敗すれば全ての矢面に立たされるわけですし、

常に敵からは狙われる位置にいるわけですし。

そのようなものは袁紹に任せておけばいい」

 

「ふむふむ。何やらそちらのほうが良い気がしてきたぞ」

 

「そうよ。それでうまくいけば袁術ちゃんこそが相国になれるかもしれないわ」

 

「妾が相国!」

 

「相国…新相国美羽様万歳! やりたい放題万歳!」

 

「七乃、妾は相国になるのじゃ!」

 

「なりましょ〜♪ 美羽様、相国になったら蜂蜜水もごま団子も

桃まんも食べ放題に飲み放題ですよ!」

 

本当に単純な奴らだよ。本当に。

うまくいってもいないのに浮かれておだてられた言葉に浮かれちゃってさ。

まあ、わかってておだてたんだろうけど。

 

「では妾たちも連合に参加する」

 

「そうですね。それが一番いいと思います。

それで戦力ですが十万でいいでしょう。

孫策さんにはその半分をお願いしますね」

 

は?何を言っているんだ、この女は?

今の孫呉にそれほどの権力はない。

そんなのほぼ不可能だ。

 

「袁術殿。お待ちを。それはあまりに「お主にはしゃべっておらん。黙っておれ」ぐっ」

 

「紀霊!」

 

発言しようとすれば周りの老人から扇子が飛んできた。

あたりどころがわるかったのか。血が流れているようだ。

 

「それでどうするのですか?孫策さん。出来ないようなら足りない分は

私たちで用立てます。ですがその場合は揚州からも用立てることになりますが」

 

屑共め。孫策がそう言われれば断れない事を知っているんだ。

普段から何もしないくせしてこういう事ばかりに知恵を回しやがって

 

「わかったわ。五万でいいのね。必要な兵糧もすべて私たちで用意するわ」

 

「おお、そうか。では任せるぞ。紀霊もさがっていい」

 

「わかりました」

 

疲れた。

 

 

 

 

 

 

 

孫策殿と周瑜殿と三人で歩いている。

 

「紀霊。あなたその頭、大丈夫なの?」

 

「ええ感覚ではありますが見た目の派手さのわりに傷は浅そうです」

 

「そう。よかったわ。それとありがとう。孫呉のために止めようとしてくれて」

 

「いえ、当然の事をしただけですよ。それでは俺はこれで」

 

部屋に戻り薬を塗って布を巻く。

さて星と愛紗のところに向かうか。

二人は兵士の訓練をしている。

最近、俺たちの軍は五百から千に増えた。

今はその訓練をしている。

 

「星、愛紗」

 

「識様!いかがされ、どうされたのですか?その額は」

 

「まぁちょっとな。それより話があるんだ?」

 

俺たちは評定で決まった事を二人に伝える。

 

「なるほど」

 

「ならば兵士をもっと鍛えなければ」

 

愛紗、話を聞いていたであろう奴らの顔が青くなってるぞ。

 

「ほどほどにな」

 

「わかっています」

 

俺も少し体を動かすか。

 

「愛紗、星少し付き合え。俺も体を動かす」

 

「わかりました」

 

「では最初は私からだな」

 

「ああ、来い」

 

その後三人で何度も模擬戦をした。

やはり競い合うのは楽しいな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 御使いとの再会

袁術殿が連合参加の意思を示されて約十日後。

全ての準備が整い、連合軍の合流地点へと向かった。

到着後は袁紹は以下の顔良殿の指示で陣を敷く。

やはり注目を浴びるのは十万の兵士の内半分の五万が孫呉の旗である事。

 

「まぁ、注目をあびるのは当然だよな」

 

「そうですね。袁術殿の嫌がらせが完全に裏目に出てる」

 

「愛紗、それは言うな。聞いてるとなぜかむなしくなる」

 

「すまん。星」

 

「とにかく俺たちも天幕を張ろう」

 

天幕を張る作業を始める。

すると一人の女性から声をかけられた。

 

「お久しぶりです。識さん」

 

振り向くとそこにいたのは顔良殿だった。

ちなみに真名は斗詩。袁紹殿の配下で汝南袁氏の苦労人代表。

だが彼女はその苦労を楽しんでいる。ある意味最も尊敬するべき人かもしれない。

 

「お久しぶりですね。顔良殿」

 

「真名は交換しいますし、真名で構いませんよ。

それより袁術殿はどちらですか?」

 

「奥の一番大きくて派手な天幕にいますが」

 

そういって奥の天幕を指さす。

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

そう言って顔良は奥に向かっていった。

 

「識様先ほどの方は?」

 

「ああ。袁紹殿配下の顔良殿だ。

俺と星は義勇軍に参加する前は袁紹の下にいたからな」

 

「なるほど」

 

「その時も大変だった。袁紹の無茶に何度付き合わされて死にかけた事か」

 

「だから二人は袁術殿の客将になるのを嫌がっていたのか」

 

「ま、背に腹は代えられないしな。それに金払いがいいのは変わらんしな。

名門は無駄に誇りが高いからそれ相応の示しを示さないと配下が付いてこない。

金払いがいいのはその目的の一つだ」

 

「そうだったのですね」

 

それからしばらくして天幕を張り終えて休憩していると

 

「紀霊、妾は七乃と軍議に行ってくるぞ」

 

「いってらっしゃいませ」

 

「何言っているんですか?あなたも行くんですよ」

 

「え?」

 

「あなたは客将ですが今のわが軍では中心的人物でもあるんです。ほら、早き来てください」

 

「わかりました」

 

袁術殿についていく。

なぜこうなるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

袁紹陣地、軍議用天幕内。

 

軍議が始まった、そう思っている時期が俺にもあった。

今、中央にある大天幕の中には、袁紹と顔良達、美羽様と俺達、

曹操に孫策の名代である周瑜、公孫賛に劉備一刀に馬騰がいて

自己紹介までは終わったのだが話がいっこうに進まない。

理由はこの連合軍の総大将が決まらないのだ。

誰もが立候補せず唯一立候補したそうな袁紹殿も自ら名乗りでしょうとせず

うずうずしている。ほかの諸侯も自らの言動に責任を取りたくないのか

誰も立候補しないまま無駄に時間が過ぎていく。

 

「もう発起人である袁紹殿でいいんじゃないのか?

こんなことしてる場合じゃないだろ!? 董卓の圧政に苦んでいる人達がいるってのに、

こんなことしている場合じゃないだろ」

 

一刀の一言いうと待ってましたと言わんばかりに袁紹は立ち上がった。

それにしても一刀の奴、全く変わってないな。

自分を天の御使いと特別視して相手の立場を考えずにずけずけというところとか。

 

「言い方は気に入りませんが名が挙がったのでお引き受けしましょう。

皆さんもよろしいですか?」

 

誰もがうなずく。やりたいくせに仕方ないという感じの雰囲気を出している

がだれもがそれはわかっているような感じがした。

 

「それと一刀さんでしたか?名門でもない貴方がこの私に対して

随分と慣れ慣れしく物を言いますのね? 礼儀というものを知りませんの?」

 

袁家の人間はこういうところには敏感だ。

これは面倒なことになりそうだな。

ここは助け舟を出すか。

 

「まぁまぁ、袁紹殿。彼もこの場で緊張していたのでしょう。

ここは大目に見てあげればどうですか?それよりも軍議を進めませんか?」

 

「そうですわね。では寛大な私に免じて不問としましょう。

次は気を付けてください。一刀さん」

 

頼むから素直に空気読んでうなずいてくれよ。

そう念じるように一刀を見る。

それは諸侯も同じようでほとんどの諸侯が似たような視線を一刀に送っていた。

 

「わ、わかりました」

 

諸侯の視線に気づいたのかその場は収まった。

だが明らかに不満があるようだ。

本当に面倒な奴だ。

それからも軍議は続いて結果全軍で汜水関を責めることになり、

その先鋒を劉備軍が務める事となり解散となった。[

袁術殿と共に陣に戻る。

 

「おい、紀霊」

 

自分の天幕近くで

名前を呼ばれて振り返る。

 

「おや、お久しぶりですね。一刀殿。いやそれとも御使い殿と呼んだほうがいいかな?」

 

こちらに声をかけてきたところで張勲に目配せをする。

それに気づいた彼女は、

 

「さぁさぁ美羽様。戻って準備しましょう。紀霊さん、先に戻りますね」

 

この男に袁術殿を会わせるのは面倒だ。

さっきの軍議でも居並ぶ諸侯を見ながら鼻の下を伸ばしていたしな。

何を言い出すか、わかったもんじゃない。

 

「それで俺に何の用だ?」

 

「目的は一つだ。愛紗と星を返せ!」

 

「これは異なことをいう。彼女達は自分の意思でついてきたんだが?」

 

「ありえるか。彼女たちは特に愛紗は俺を慕ってくれていたんだ。

それをお前がたぶらかしたんだろう」

 

阿保を通り越して馬鹿なのか。セクハラされて喜ぶ奇特な人間なんて劉備くらいだ。

 

「そんなくだらない話をしている時間があるのなら作戦でも考えたらどうだ?

汜水関攻めの先鋒なんだろう」

 

「なんだと」

 

怒ってる、怒ってる。

 

「裏切り者の分際で」

 

「違うな。俺はお前を裏切ったんじゃない。見限ったんだ」

 

「同じようなものだろうが」

 

「全然違うな。裏切るとは約束・信義を破り敵に味方して、元来の味方にそむくという事だ。

そして見限るとは見込みがないと考えてあきらめてやめるとか

愛想をつかして、関係しないようにするという意味だ。

要は俺達はお前には今後の俺たちの理想を叶えることが見込みがないと判断したんだ。

わかるか?」

 

「くそっ」

 

「おい、剣を抜くのはいいがそれ相応の覚悟を持っておけよ。目撃者は多いぞ。ここは」

 

一刀はそこで初めて周りを見回す。

そこにいたのは槍を構えた俺の部隊の者たちだった。

 

「はっ。天の御使いである俺と一客将のお前、どちらの言葉を信じると思う」

 

開き直ったな、こいつ。

まぁいいが。

 

「だからどうした。天の御使いの効果があるのは劉備軍の中だけだ。

所詮、お前は無位無官だろう。それはさっきの袁紹のお前に対する対応で理解できたはずだが?」

 

まぁ、袁紹がそれに気づいていたかは知らないが。

 

「もういいか。俺もここまでの行軍で疲れてるんだ。

さっさと陣に帰れよ。愛おしい。愛人衆が待ってるだろうよ」

 

周りからはクスクスという声が聞こえる。

そりゃそうだ。あれだけ大声でべらべらとしゃべったにも関わらず

俺に全く相手にされていないのだ。

そりゃわらわれるだろうよ。

 

「くそっ、覚えてろ」

 

「はい、はい。明日に忘れてるだろうけど覚えとくよ」

 

怒り心頭で一刀は帰っていった。

 

「何しに来たんだ。あいつ」

 

俺は天幕に入り眠りについた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 汜水関

汜水関攻略が始まった。

先鋒を務めるのは劉備軍。

しかし数の差は歴然でありどうすることもできないだろうというのは

目に見えていた。

どうするのかと見ていればどうやら誘い出すようだ。

 

「なるほど、華雄を誘い出すのか。俺でもそうするだろうな」

 

「はい。ですが私はあまり好きではありません」

 

「そう言うな。愛紗。劉備殿の軍は数が少ない。

正攻法で攻めても勝ち目などあるまい。

これは仕方がないことだ」

 

「星。しかしな」

 

「落ち着け、愛紗。今はどうでもいい。それよりどうやら備えたほうがよさそうだ」

 

「どうした?識」

 

「劉備は華雄を抑える気がないらしい。突破させるようだな」

 

「なるほど。そのまま袁紹殿の本陣を襲わせようという考えか」

 

「しかしそんなことをすればへたをすれば我々が」

 

「その前に華雄を打ち取ってしまえばどうとでもなるということなのだろう。

そもそも諸侯は袁紹を象徴程度にしか思っておらん。

そこまで影響が出ることは愛紗も本気では思っておらんだろう?」

 

「それはそうだが」

 

「無駄口をたたくのはそれまでにしろ、二人とも」

 

「伝令です。紀霊でのはすぐに本陣の救援に向かってください」

 

「承知した。紀霊隊。本陣に向かうぞ」

 

「「「「「おう」」」」」」

 

隊を率いて本陣に移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

その本陣は混乱していた。

顔良と文醜を筆頭に防衛を行うがまともに動けていない者が多く、

立て直しもまともにできていなかった。

 

「斗詩早く立て直さないと姫のところまで行っちまうぞ」

 

「わかってるよ。でもこの状況じゃ」

 

「顔良様!本陣に向かってくる部隊あり。銀の袁の旗、袁術軍です」

 

「救援が来た!」

 

「顔良殿!文醜殿!ご無事ですか?」

 

「おお、アニキ~。助かったぜ!」

 

「ここは俺達で押さえます。今のうちに立て直しを!」

 

「わかりました。頼みます」

 

「紀霊隊。敵を抑えるぞ!」

 

「「「「「おう」」」」」」

 

紀霊を先頭に敵軍に突っ込んだ。

その華雄隊はただまっすぐに敵に突っ込んでいる。

 

「華雄様!敵部隊が来ます。数はおよそ千ほどです。

銀字で袁と黒字の紀の旗を確認しております」

 

「銀字に袁なら袁術だな。そして黒字の紀は紀霊か。相手にとって不足はない」

 

両軍はぶつかった。

華雄と紀霊が大将同士でぶつかる。

 

「これは華雄殿お久しぶりです」

 

「うむ。黄巾の乱では世話になったな。あの時は劉備の軍にいたが今は袁術の配下か?」

 

「ええ、劉備、正確には天の御使いとそりが合わず袂を分かち今は袁術殿の下で

客将をしています。さてこのままあなたを野放しにすれば非常にまずい。

一戦どうでしょう?」

 

「ふむ、いいだろう。我が名は董卓軍の将、華雄! 世に謳われた華雄の戦斧、

その身で味わうがいい!」

 

華雄との真剣勝負の火ぶたが、切って落とされた…。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 一騎打ち

「「はぁぁぁぁぁぁぁ」」

 

俺の槍と華雄の戦斧、金剛爆斧がぶつかる。

 

「紀霊、中々やるな」

 

「そちらこそ」

 

槍で突けば華雄が戦斧で弾き今度は華雄が戦斧を振り下ろす。

そうして攻防を繰り返していた。

そんな中でも華雄の隙を見い出す。

華雄は戦斧を振りおらすときが一番隙ができる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ」

 

来た。戦斧の振り下ろし。

タイミングをミスれば待っているのは死だが行ける。

振り下ろしを紙一重で躱し、槍を突き出した。

 

「うぐっ!?」

 

だがそれは華雄も躱そうとするが間に合わず腹に当たり落馬する。

そして華雄に槍の穂先を向ける。

 

「俺の勝ちです」

 

「華雄将軍! これ以上は―――「来るな!」 し、しかし」

 

「ああ、私の負けだ。後は好きにするがいい」

 

「最後に言い残すことはありませんか?」

 

「部下たちを頼む。私に勝ったのだ。誰もが従うだろう。

いいな。貴様ら!この先は私ではなく紀霊殿に従え」

 

「華雄様・・・・・・・『承知しました。われら一同これより紀霊殿に従います』」

 

「わかりました。あなたの部下、千人の命はこの紀霊 白麗が預かります。

それともう一つ聞きたいことが、本当に董卓は都で悪行を働いているのですか?」

 

「それはない。それらは全て袁紹がばらまいた狂言だ」

 

「そうですかわかりました。では最後です。御覚悟を。

いえ、この言葉はあなたには不要ですね」

 

槍を突き刺し腰の剣を抜く。

 

「華雄将軍、覚―――「今だ皆、矢を放ってくれ!」」

 

誰か声と共に聴きなれた風切り音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

時はさかのぼり華雄と紀霊が一騎打ちを始めたころ。

 

「お兄ちゃん!」

 

「鈴々。なぜこんなところにいるんだ。華雄と戦う手はずだったろう?」

 

「それが鈴々が戦う前に紀霊が来て一騎打ちを始めちゃったのだ」

 

まずい。これで紀霊が勝てば俺たちはただ陣を混乱させただけになってしまう。

 

「とにかく急いで汜水関を押さえれば「はわわ、それはもう遅いです。

すでに孫策さんと袁術さんの部隊が攻撃を開始して孫策さんの部隊が

取りつき始めています。今から行ってもできることはありません」

なら偶然を装って華雄を討ち取れば「それはダメなのだお兄ちゃん!」なんで?」

 

「ご主人、様一騎打ちは武人にとって神聖なものでそれ自体が戦の花なんだよ

それを邪魔するのは絶対に許されないんだよ」

 

華雄に手を出そうにも、紀霊のやつが負けて敗走してくれないと不可能。

華雄を捨てて?水関を落としに行くにも孫策と袁術の部隊が既に向かってるから、

一番乗りも出来ない。何だよこの状況、八方ふさがりじゃないか。

俺は天の御使いだぞ。それがこんな事。

 

「決めた。こうなったら、強引にでも華雄を倒しに行く。朱里、雛里。

部隊の中でも腕のいい弓兵をを二十人ほど選別してくれ。

それが終わったらどっちかついてきて。鈴々は、俺達の護衛を

頼む。…乗り気じゃないのは分かってるけど、今は耐え忍んでくれ」

 

「ご主人様、私の話聞いてた!? 一騎討ちに水を差すのはダメなんだよ」

 

「桃香、俺達は戦のない世を作るために戦ってる。それを実現するためには、

どうしても力は必要になるんだ。……だから、ごめん。今回は名よりも実を取りに行く」

 

準備できました、という朱里の報告を受け、鈴々と朱里と弓兵達を連れて出撃した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり矢による攻撃に華雄はとっさに目を閉じた。

しかしいくら待っても痛みが来ない。

目を開ければそこに立っていたのは紀霊だった。

見れば矢が背中や腕、足に刺さっている。

それを確認したと同時に紀霊が華雄のほうに倒れてくる。

華雄はそれを受け止め、その姿を見ながら茫然としていると、それぞれの部下達が近付いて来る。

 

「華雄将軍、ご無事で?」

 

「識様!」

 

「私は大丈夫だ。それよりも紀霊が」

 

「誰だ!一騎打ちを邪魔したのは!」

 

「矢が飛んできた方向に劉備の旗と丸に十字の旗を確認しました!恐らくは」

 

御使いです、と古参の部下の一人が言う前に星が槍を持ち直し馬に乗る。

 

「おのれ、御使い。神聖な一騎打ちを汚すか。

私と共に来い。「落ち着け、星」しかしだな、識」

 

「今はこの事を張勲に知らせろ。後は任せるともな」

 

「はっ」

 

一人が馬に乗り張勲のいる方向に向かっていく。

 

「紀霊、なぜだ?なぜ助けた」

 

「あなたと戦っていたのは俺だ。その決着がつく前に誰かにかっさらわれるのが癪だった」

 

「私はお前に負けた。われらは紀霊殿に降伏する」

 

「わかった。愛紗、星、あとは任せる」

 

「「承知」」

 

「とにかく今は傷の治療を天幕まで向かいます」

 

「頼む」

 

華雄が降伏したことで本陣付近の戦闘は停止。

同時刻、孫策率いる呉軍の将、程普と黄蓋、太史慈が汜水関を占領。

連合側の勝利に終わった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 行動の代償

汜水関攻略に乗り出した袁術軍と孫策軍は汜水関に取りつき

梯子を使って壁を上り壁上にいる董卓軍と戦っていた。

私はそれを後方から指示を出して見ていた。

すると後方から味方の兵士が走ってきた。

 

「張勲大将軍様、大変です!」

 

「どうしました?そんなに慌てて」

 

「紀霊隊長が矢で撃たれました」

 

「は?」

 

信じられなかった。だってあの紀霊さんだ。

黄巾のころからその名は有名だったし何より周りには黒髪の山賊狩りや幽州の青龍刀と呼ばれる

関羽雲長や神槍、趙雲子龍がいるので私にはにわかに信じられなかった。

しかし紀霊さんは真面目な方。

とても嘘を部下に言わせるとは思えなかったしわざわざ危険な戦場まで来て

笑えない、へたすれば現場が混乱しかねない冗談を言う理由はない。

 

「詳しい状況を、話して貰えますか?」

 

「はっ、紀霊隊長からもそのように仰せつかっております」

 

兵士達から、紀霊さんが怪我を経緯を聞かされた。華雄将軍と一騎討ちをして、

痛手を負わせたこと。勝利の寸前で劉備さんの所の兵士が矢を放ち、

華雄さんを討ち取ろうとしたこと。

紀霊さんが華雄さんを庇い、助けたことで怪我したこと。

そして華雄さんが降伏したこと

すべを聞いた私は紀霊さんの容体を聞く。

 

「現在は天幕にて治療を受けているとの事ですが詳しくは私も」

 

「わかりました。紀霊さんには治療が終わり次第、

汜水関に来るように伝えてください。後無理をしないように注意することも」

 

「はっ」

 

あえていつもと変わらぬ調子で返答した。汜水関はもう間もなく落ちるだろう。

汜水関を越えれば、次は虎牢関を攻略するための軍議が開かれる。

劉備さん、私は彼と違って優しくありませんからね…?

 

 

 

 

 

 

戦処理を終えた愛紗と星は天幕に向かう。

 

「識/識様」」

 

「おう、星、愛紗」

 

「戦処理は終わりました。それでお怪我は?」

 

「大したことはない」

 

「軍医よ、どうなのだ?」

 

「矢の刺さり方が浅かったので傷自体は問題はありません。

しかしお聞きした限り出血が多かったのでそこは注意すべきかと」

 

「な、大したことはないだろ?少しは信じろよ」

 

「そうだな。だがあまり無茶はするな。私はお前を失いたくはないぞ」

 

「そうです」

 

「悪かったよ、星、愛紗。そういえば汜水関は落ちたのか?」

 

「はい。先ほど落ちたようです。張勲殿より無理せずに汜水関に入ってほしいと

連絡が来ております」

 

「わかった。すこし休んだら汜水関に向かうか」

 

 

 

 

 

 

しばらくして汜水関に入った俺はそのまま軍議が開かれる大天幕に入る。

待っていれば諸侯が集まってくる。

どの諸侯も俺の包帯姿を見て驚いていた。

 

「ではこれより、虎牢関攻略「すいません袁紹さん、ちょっと待って頂けますかぁ?」

何ですの、張勲さん? 邪魔をするのでしたら、ここから出て行って下さらない?」

 

「いえいえ、これは。連合軍の為にも話しておかないといけない事なんですよぉ。

ねぇ、天の御遣いさん?」

 

その瞬間一刀は気まずそうな顔をする。それは劉備も同様だった。

 

「お尋ねします。なぜ華雄さんと紀霊さんの一騎打ちを邪魔したんですか?

そしてなぜ紀霊さんごと矢で攻撃したんですか?

まさか紀霊さんが華雄さんと一騎打ちしていたことを知らなかったとは

言いませんよね」

 

私の一言で、諸侯達の視線が劉備さん達へと突き刺さる。

 

「そんなこと俺は「ちなみに複数の紀霊さん貴下の兵士が丸に十字の牙門旗を確認しています。

そんなこと知らないとは言わせませんよ」くっ」

 

張勲が一刀の言い訳を先んじて止めた。

大方自分は知らない。部下が勝手にやった事だろうとか言うつもりだったんだろう。

 

「その場にいた兵達の報告によると、紀霊さんが一騎討ちで勝利を

収めようとした時に、劉備さんの軍の部隊が手柄を奪おうとして

矢を放ったそうじゃないですか? おかげで、今はうちの制度上客将とは言え、

うちの大事な戦力である紀霊さんが矢傷を負ってしまったんですよ?

それについてはどうお考えですか?」

 

「それはそいつが勝手に前に出たからだろう。俺たちは華雄を討ち取ろうとしただけだ」

 

「先ほども言いましたが複数の兵士による証言と見分であなたが紀霊さんごと

討ち取ろうとしていた事はわかっています。

そもそも戦において一騎打ちを邪魔することは決していけない事です」

 

「まったくだわ。あなたにどのような思惑があったのかは知らないけど

あなたのしたことは二人の武人の誇りを土足で踏みにじったも同じ事よ」

 

これは意外だった。

まさかの孫策殿が張勲を援護するとは。

 

「伯符のいうとおりね。

紀霊が静かにしていることをいいことにうやむやにするつもりだったのかもしれないけど

本来ならここにいる事自体おかしなことよ。よくこの場に何食わぬ顔で来れたわね」

 

おお、さらに曹操殿まで。

諸侯達の視線も、より一層きついものへと変わっていく。

でも一刀は分は間違ったことはしていないのにみたいな顔をしていた。

 

「では責任を取ってくださいね。具体的に言えば私達の軍が負った損害について、

何かしらの形で賠償してもらいたいんですけど?」

 

ま、当然と言えば当然だわな。

 

「ちょ、ちょっと待てって! 北郷だって知らない事はあるんだから、

今回はお咎めくらいで良いじゃないか!? それとこの戦が終わるまで、

こいつらは私の下でちゃんと面倒見るから、今回の件は多めに見てやってくれないか?」

 

ここで公孫賛殿がかばいに入る。

これには一刀もあからさまな安堵の表情を浮かべる。

だが甘いよ、公孫賛殿。袁家の軍師がそんなことで収まるわけがない。

 

「別にそれでも良いですよぉ? その代わり、伯珪さんが賠償して

下されば良いだけの話ですから。でもうちは貴女のとこと違って、

そこそこ大きな勢力ですので、その分お金もかかるんですよ。

なので、最低でも伯珪さんのとこの三年分の予算くらいは一括で払って

頂きますけど、それでも劉備さんを庇うつもりですか?」

 

「うっ!? …ごめん桃香、北郷、さすがに民の生活がかかると、私でも庇いきれない…」

 

「…白蓮ちゃん」

 

ほらぁ、変にかばうから。

 

「まぁ、お二人には悪いですが武人云々は天の国出身者にはわからないのであれば

置いておくとしても味方を撃ったことは事実です。

それに対してどう責任をお取りになられるおつもりですか?」

 

ここで張勲が少し妥協しつつも避けようがない事実を一刀に突き付けた。

そもそも知らないで済ませる問題じゃないのだ。

ここまで追い込まれればもはや言い訳出来ないだろう。

と思っていたら机を思いっきり叩いた。

 

「そもそもそいつは俺達を裏切って関羽と趙雲をたぶらかして逃げた裏切り者だ。

それにもかかわらず偶々矢に当たったからと言ってなぜここまで責められないといけない。

そしてそんな奴をなんで俺たちが気を配らないといけないんだ」

 

こいつ開き直りやがった。

一刀のこの言葉に諸侯は一斉に俺や張勲を見る。

仕方がないか。

 

「その件は張勲殿には詳しく話していませんでしたので俺から説明させてもらいます。

俺は黄巾の乱が起きていた頃、確かに劉備殿が起こした義勇軍に参加しておりました。

しかし義勇軍内でも比較的新参で対して何も出来ず何もしないにも関わらず、

義勇軍内で劉備殿と同等の権限を持ち、さらに風紀を乱し続ける御使い殿や

それらを一切咎める事もせずなあなあにしようとする劉備殿に不満がございました。

それにより私は乱の終結後袂を分かちました。

また関羽殿と趙雲殿の件についてですが

私と同様の不満を感じており、私同様に袂を分かった次第にございます」

 

「要は見限ったわけね」

 

「曹操殿のおっしゃる通りでございます」

 

「嘘をつくな!」

 

「必要でしたら関羽、趙雲、さらにあなたに不満を持ち共にこの地に

来た部下たちをこの場に呼んで証言させましょうか?

色々いますよ。尻や胸を触られただの、口説かれただの、

夜に閨に誘われただの、彼女もしくは妻を寝取られただの」

 

これには諸侯がごみを見るような目で一刀を見る。

諸侯の八割が女性なのだ。完全に女の敵扱いだった。

ここで今まで静観を決め込んでいた袁紹が口を開く。

 

「どうやらこの場に相応しくない方が紛れ込んでいらっしゃるようですわね。

一刀さん、今すぐ出て行っていただけます?

そして二度と自身の天幕から出ないように命じますわ」

 

「待ってくれ!」

 

「聞こえませんでした?あなたのその耳は飾りですか?

本来ならばこの場で打ち首もやむなしでしょうに。

それともそれがお望みなので?」

 

「しかし」

 

「もうよろしいでしょう?顔良さん、文醜さん。

申し訳ありませんがそこの鼠を追い出していただけます?」

 

「「御意」」

 

こうして一刀は天幕の外に追い出された。

 

「それと劉備さん。今回の件の追及はここで終わらせていただきますわ。

ですが何らかの形で袁術さん、ひいては紀霊さんに償ってください」

 

「わかりました」

 

「では軍議を再開しましょう」

 

意外な袁紹のリーダーシップぶりに驚きつつ、軍議は再会された。

しかしこの驚きがすぐに落胆に代わることを俺たちはすぐに知ることとなる。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 虎牢関

会議は終了し、連合軍は虎牢関に進軍した。

華雄についてはそのまま袁術殿預かりとなり、

袁術は全て俺に任せるとの事だった。

そして華雄隊の生き残り約千人が俺の配下に加わった。

しかし土壇場で裏切られても困るので連合解散までは天幕を用意し

武装解除したうえでそこに拘束している。

まあ、形だけだ。その気になれば簡単に抜け出せるだろう。

そこは色々説得した。

勿論正攻法で。決して無理やりな方法はとっていない。

俺は御使いとは違うからな。

とにかく今は虎牢関に向かっている。

 

 

 

 

道中は特に問題が起こることもなく虎牢関に到着した。

陣を形成して翌日、攻撃を開始した。

今回袁紹自ら先鋒を務める。

俺たちはそれを後方から眺めていた。

悠々と進軍をしていく袁紹軍。

だがそこに工場兵器の類は見受けられなかった。

 

「攻城兵器もなしにどうやって責めるんだか?」

 

「理解できん」

 

「ま、手並み拝見と行こうぜ。愛紗」

 

すると虎牢関の扉が開く。

 

 

 

 

 

先頭に立つのは呂布の補佐をする陳宮という子供だ。

 

「聞け――――い、弱賊ども!最強を名乗る物はこの世に数いれど!

まことの最強は天下にただ一人!ここにおわす呂奉先こそ、まさしく古今未曾有!

天下無双の達人なのです!」

 

「………………」

 

「呂布!出てきた。」

 

「へ……あれが呂布?なんかボーっとした奴だな。」

 

「さあ、呂将軍!袁紹の弱兵どもを蹴散らし、我が董卓軍の恐ろしさを思い知らせて下されー!」

 

「うん………………ちんきゅ………………出る。」

 

「御意なのです!呂将軍御出陣!者ども、深紅の呂旗を掲げよー!」

 

「「「おおーーーっ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呂布を先頭に敵軍が突撃してくる。

袁紹軍もそれを迎え撃つようだ。

しかし両軍がぶつかった瞬間、

袁紹軍の先頭の兵士十数人が吹っ飛んだ。

 

「マジかよ。今、何人吹っ飛んだ?」

 

「わかりません」

 

「少なくとも十人は吹っ飛んだな」

 

「ああ」

 

星の言葉に頷きながら戦闘を見ていた。

結局袁紹軍は撤退。

呂布に蹴散らされるだけ蹴散らされての敗北だった。

 

 

 

 

 

 

 

それからも袁紹軍は何度も虎牢関攻略に挑むが結果は同じでただ時間のみが悪戯に過ぎていった。

そして今日再び軍議開かれている。

今日は当主と軍師のみが呼ばれているので俺は留守番だ。

 

「さてどうなるかな?」

 

「どのような策を行おうが呂布が出てこられれば策ごと吹き飛ばされかねん。

無意味な気もするがな」

 

「だが、このままここに集まったままというわけにもいきません」

 

「ふむ、ではどうするのだ?愛紗。あの呂布を蹴散らす方法があると?」

 

「それは」

 

星の言葉に愛紗は黙ってしまう。

それだけ呂布という人物の力は強大だった。

 

「呂布一人をどうにかすればいいのならどうにかできるがそのあとがな」

 

「どうにかできるのですか?」

 

「ああ。袁術殿の協力があればな」

 

「まさかと思うが数で押さえようとは思っていないだろうな?」

 

「まさか、それじゃあ袁紹と同じだろう」

 

「ではどうするつもりなのだ?」

 

「ま、任せておけ」

 

俺が得意げに笑うが二人は困惑したような顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

その日の午後、袁術殿に呼び出されて袁術殿の天幕に来ていた。

天幕には袁術軍配下の武官たちが集まっていた。

 

「私たちは勢力を六つに分けて交代で虎牢関を責め続ける事になりました」

 

なるほど、数の優位を活かして間断なく攻めて、相手を疲労させようという作戦か。

疲労がたまれば兵士は逃げ出すだろうし、

うまくいけば虎牢関を撤退せざるを得ない状況になるかもしれない。

そもそもそれしか手がないだろう。だが

 

「しかし呂布はいかがするのですか?あの女が出てくれば策など意味を成しませんが?」

 

一人の将が口をはさむ。

まあ、当然の懸念と言えるだろうが。

勿論その場の人間すべてが黙ってしまう。

ここで言うか。

 

「よろしいか?」

 

「どうしました?紀霊さん」

 

「一つだけ策がございます」

 

「では話してみてください」

 

「はい」

 

考えていた策をこの場で話す。

 

「いかがでしょう?」

 

「そうれしかありませんね。では呂布が出てきた際は紀霊さんの策で行きましょう。

皆さんもよろしいですか?」

 

『はっ』

 

こうして策は決行されることに決まった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 対呂布

虎牢関

 

「全軍突撃ー---」

 

張勲の号令の下全軍が突撃を開始する。

二日前から始まった虎牢関への全軍による間断なしの攻撃。

董卓軍は必死に攻めているが遠目にも疲労がたまっているのがわかる。

すると虎牢関の扉が開いた。

 

「来ました。呂布です」

 

「わかりました。紀霊さん指示を」

 

「今はそのまま突撃してください。その後呂布が近づいた

時に恐れたように左右に分かれて呂布のみを進ませるのです」

 

指示通り将たちは進む。

そして呂布と激突する少し前に兵士たちは左右に逃げるように別れた。

その割れた先に袁術殿が見えるように位置を取りそれが見えた呂布は疑うことなく進む。

そしてその後続の兵士数人を槍で突きさ殺し間を作って分断した。

 

「恋殿!行くのです!」

 

陳宮は袁術軍の囲みの突破を図りつつ叫んだ。

馬鹿め、これが策とも知らずにいや違うな、信じているのだ。

呂布の強大な力を。何かしら策があるのもわかっているのだろうが

それら全てを粉砕することができると。

だがそれが失敗だ。

 

「今だ。銅鑼を鳴らせ」

 

指示に従い兵士が銅鑼を鳴らす。

すると呂布が操る馬の足元に太い縄が数本現れた。

これはもともと夜のうちに埋めておいた縄だ。

これに馬の脚をひっかけさせて転ばそうという策だった。

案の定馬は足を取られて転ぶ。

急なことで呂布も投げ出されて地面に前から落ち胸を強く打ち付けた。

 

「捕えろ」

 

周りにいた女性兵士十数人で呂布にのしかかり捕えようとする。

それでも呂布は起き上がろうともがいていた。

 

「マジかよ。すげー力だな。仕方がないか」

 

腰の竹筒の中の水を数滴、布にたらし鼻と口を押え眠らせた。

使ったのはこの時代にある薬草を使って吸入麻酔薬を作った。

苦労したがどうにか出来た。

 

「よし、眠ったな。しばらくは眠ったままだろうがしっかり拘束しておけよ」

 

「はっ」

 

「他は虎牢関に突撃!袁術殿に虎牢関突破という勝利を献上するぞ!」

 

『おおーーーーーー』

 

全軍で虎牢関に突撃を開始する。

陳宮は今だ突破しようとしているがどうやら撤退を決めたようだ。

 

「お見事でした。まさかあの飛将軍をとらえるとは」

 

「いえ、これも袁術殿がひきつけてくれたおかげでございます」

 

「ふふん。どうじゃ、妾の名演技は」

 

「はい。お見事でしたよ。お嬢様」

 

「では俺達も攻城戦に加わります」

 

「うむ、まかせるのじゃ」

 

「星、愛紗、行くぞ。虎牢関を取る」

 

「「承知」」

 

俺を先頭に千の部隊を突撃させる。

俺たちは袁術殿の部隊を追い抜き、陳宮の部隊に迫る。

 

「呂布の残党は捨て置け。このまま虎牢関への一番乗りを目指す」

 

『おおー----』

 

「あかん。陳宮が追い抜かれてもうた。あれじゃは間に合わん。はよ扉しめぇ。敵が来るぞ」

 

「させるかよ。速度を上げるぞ」

 

『おお』

 

扉を閉め始めるが遅い。そのままの勢いで虎牢関に入った。

 

「各所を制圧しろ」

 

「ああ。あかんわ、入られた。撤退、撤退や。ここで命散らすな」

 

そう指示し撤退した。

 

「負う必要はない。このまま袁術殿を迎えるぞ」

 

そうして扉をあけ放ち袁術殿に伝令を送る。

なおどうやら陳宮も捕えられたようだ。

 

「ご苦労じゃった。紀霊」

 

「はっ」

 

「後呂布の事じゃが妾たちのほうで見ておく」

 

「お任せします」

 

「では紀霊も休め」

 

「はっ」

 

俺たちは立ち上がりそれぞれの場所で休む。

 

「よろしかったのですか?識様」

 

「いいよ。別に俺達じゃ、捕えたままには出来んだろうからな

正直華雄だけで精一杯だ」

 

「それはそうですが」

 

どうせ逃げ出すだろうし。

 

「それにしてもまさかあのような手で呂布を抑えるとはな」

 

「武人としてはいささかふがいないがな。

勝てない相手に真正面からぶつかる必要はない。

その為の奇策だ」

 

「確かに」

 

そして夜、案の定、呂布は陳宮と部下を連れて逃走した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話 洛陽

連合軍は洛陽が見える位置についた。

しかし洛陽はその扉を開けたまま動きがない。

 

「逃げたな」

 

「でしょうね」

 

「だろうな」

 

城壁には人が見えないことからそう考えた。

諸侯も同じ考えのようだが誰が入るかもめているようだ。

 

「念の為に一人送ってみるか。おい」

 

「はい」

 

「洛陽を見てきてくれ」

 

「はっ」

 

「それといくつか頼みがある」

 

部下の一人が洛陽に向かう。

 

しばらくして部下が戻ってきた。

 

「どうだった?」

 

「はい。洛陽内に董卓軍の姿はありませんでした。

住民に話を聞けばどうやら数日前に洛陽を脱出し西に逃げたようです」

 

「西か。涼州に帰ったか。それとも別の何かがあるのか?

わかった。それで例の物は?」

 

「はい。こちらに」

 

渡されたのは漢中の地図と税に関する記録などだ。

ま、杜撰な管理だろうからどこまで事実かわからないがないよりましだ。

 

「さて、あとは待つだけだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくしてようやく袁紹軍を先頭に洛陽に入る。

そして現在、治安維持と炊き出しを行っていた。

もう少しすれば南陽に帰るだろう。

 

「ていうか。なんで張遼殿がここにいるの?」

 

「虎牢関から脱出した後にな。曹操殿の夏侯惇殿に見つかってしもうて捕まってしもうた」

 

「そ、そうか」

 

少々間抜けだが仕方がないか。

 

「でもすごかったで。まさかあの恋が捕まるとはな。あれで負けは決まってしもたわ。

それで一つ聞いてもいいか?」

 

「なんでしょう?」

 

「華雄は元気か?」

 

「ええ元気ですよ。今は治安維持の為に街を見回ってるはずです」

 

「そうか。生きてるなら良かったわ」

 

「それにしても暇ですね」

 

「そうやな」

 

炊き出しの流れを見ていると兵士の一人が走ってくる。

 

「失礼します。洛陽の近くに黄巾党の残党と思われる

黄色い布を巻いた連中が現れました」

 

「あの連中、まだおったんか」

 

「のようですね。わかった。すぐ討伐に向かう」

 

「よっしゃ、うちもいくで」

 

「お願いします。関羽、趙雲。

黄巾の残党が現れたそうだ。討伐に行くぞ」

 

「承知」

 

部下を引き連れ討伐に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

討伐自体はものの数分で終わった。

戻ってみると不機嫌な袁術殿がいた。

 

「どうされたのですか?」

 

「ああ、紀霊さん」

 

張勲殿の話を聞けばどうやら正式に揚州刺史に任命されたが

相国になり損ねたらしい。

それよりも不満なのがどうやら劉備と一刀が正式に徐州刺史に任命されたことが

面白くないとの事だった。

 

「妾たちに比べれば何の役にも立っていないくせに徐州の牧じゃ」

 

これはしばらくもめるだろう。

はぁ、休みが欲しい。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

徐州編
10話 下邳城


反董卓連合から、一ヶ月の時が過ぎた。南陽はいつも通りだが

北はそうでもないようだ。

洛陽では献帝陛下にかわり新たな皇帝が即位した。

さらに冀州の袁紹が公孫賛を破り幽州を手に入れたらしい。

その公孫賛はどうなったかわからないが。

袁紹はさらに青州や并州にも勢力を伸ばし、河北四州をほぼ手中に納めた。

また南でも孫策が黄祖を攻めた。

勿論袁術殿の許可は得ている。

袁術殿は相変わらずなまけた毎日だ。

事あるごとに蜂蜜水を飲んでぐうたらな毎日を送っている。

あれでよく太らないものだ。

そんなある日俺は袁術殿に呼び出された。

 

「紀霊さん、今し方戻って来た使いから、

呂布さんと交渉の席を設けられたって報告がありましたよ〜。それで向こうは

どうやら、兵を養うための兵糧が底を尽きそうになっているとかぁ」

 

よし、この一か月の地道な努力が実を結んだ。

 

「わかりました。それでいかほどでしたか?」

 

「四千人分だそうです。すでに六千人分を用意してますから持って行ってください。

それで兵士はそれほど持っていかれますか?」

 

「俺と華雄の隊二千で向かいます」

 

「わかりました。ではお願いしますね」

 

それからしばらくして、連れて行く騎馬隊の準備と兵糧の準備が

完了した。袁術殿が関わらなくなると、とたんに仕事が早くなるんだよな。

良いことだけど。

 

「よし! 紀霊隊、行軍開始!」

 

手綱を引き、馬を歩かせ始める。相手はあの飛将軍とまで謳われた

呂奉先、そう簡単な交渉とはいかないかもしれない。

最悪、決裂して戦にでもなったら全滅は免れられないだろう。

心して交渉に臨まないといけないな…。

 

数日の行軍ののち俺たちは下邳城にたどり着いた。

州境は特に問題なく超えられた。

どうやら劉備たちは南の州境にまで手が行っていないらしい。

城門を守備している兵士に自らの身分を明かし、兵士が確認を取った後、よ

うやく城の中へと入れて貰う。こちらです、と董卓軍の装備を身に付けた

兵士に案内された場所に向かうと、赤毛で二本のくせ毛が特徴の女性と、

その隣に小さな女の子がいた。確かに呂布と陳宮だった。

 

「お久しぶりです。呂布殿、陳宮殿。袁術軍が客将の一人、紀霊と申します。

此度はこのような交渉の席を設けて頂き、ありがとうございます」

 

「ん、良く来てくれたのですぞ。知っているようですが礼儀として名乗らせてもらいますぞ。

ねねは陳宮、そしてねねの隣におられるのが呂布殿です。

こちらもそろそろ兵糧が尽きそうだったから、助かったのです」

 

「そうでしたか。…では、率直に聞きます。貴女方は今、何人分の兵糧が必要ですか?」

 

「四千ほどですが、そんな量―――「すぐに用意できますよ」何ですとー!?」

 

「今回の交渉においてこちらは六千人分の兵糧を用意しました。

同盟を組んでいただけるのならばすぐにでも城内に搬入させていただきます」

 

「……でも、袁術は信用出来ない」

 

そりゃそうだろうな。なにせ連合に参加し、最も手柄を上げた人物の一人だ。

今更信用しろと言われても無理である。

たぶん今、呂布の中には言い表せない思いが渦巻いているだろう。

それは俺に対しても同じだろうけど。

 

「…なら、先に兵糧をお渡しします。もちろん、毒などは一切

入ってはいません。それに関しては、俺の命に替えて約束致しましょう。

ですがもし、たった一人でも身体に異変が起きたのなら、俺の首を差し出します。

これでも、信じて貰えませんか?」

 

「華雄と話をしたい」

 

「わかりました。すぐに呼んでまいりましょう」

 

一旦退室し外で待つ華雄を呼びに行く。

共に戻れば三人で話をしたいとの事だった。

再び部屋を出て外で待つ。

しばらくして呼ばれたので中に入る。

 

「…ちんきゅー」

 

陳宮に声を掛けると、一度だけ頷いた。

 

「了解なのです! 紀霊殿、我らは貴方に力をお貸ししますぞ!」

 

「良かった…ん? 今、貴方って言いました?」

 

「……袁術は、やっぱり信じられない。でも、お前は信じる」

 

「そういうことなのです! ですから、我らはこれより

紀霊殿の指揮下に入らせて頂きますぞ!」

 

予想以上の結果だった。

 

「そうですか。じゃあ、二人からの信頼を預かるのですから、

俺の真名を二人に預けておきましょう。俺の真名は、識と言います」

 

「……恋は、恋」

 

「ねねは、音々音ですぞ。ねねと呼んで下され!」

 

「じゃあ改めて…恋、ねね、これからよろしくお願いします」

 

想定した中では最高の結果と言えるだろう。

華雄も俺に従ってくれるし自軍の強化できるのはいい。

後で知った事だが恋はこんな可愛らしい容姿をしているのに、

食べる量は軽く十人前は食べるという。いや鈴々も似たようなものだったな。

それでも何ともまあアンバランスな事実を知ったのは、他でもない…。

 

 

 

 

 

一刀side

 

桃香が徐州の州牧に就任し新たに麋竺と麋芳、そして孫乾が仲間に加わった。

それぞれ雷々、電々、美花という真名を交換した。

そしてこの一か月で徐州の生産高や産業の状況を把握するためだけに消費された。

でも、おかげで色々知ることが出来た。朱里からの報告によると、

ここの生産力は平原よりもはるかに高く、鉄や銅の産出が可能だとい

うこと。人口も多く、交通の便も良いことから、

力を蓄えるのに適した豊かな土地だということだ。逆に言えば、

それだけ治世が難しく、狙われやすいという事を意味すると、雛里は言っていた。

 

「なら、速急に軍備の拡張をしなくちゃいけないな」

 

「…だが北郷、拙速な徴兵は民が不満を抱く元となる。

上手くやらないと、すぐつぶれてしまうぞ?」

 

この一か月で一番変わった事と言えば公孫賛、白蓮が仲間に加わった事だ。

正直白蓮の加入は助かってる。

影は薄いけど州牧だった経験で地味に生かしてくれてる。

 

「う〜ん、そうか…。朱里と雛里の意見は?」

 

「私達の意見としては、内政をして国力を充実させつつ、

徐々に軍備の増強を図るしかないかと…」

 

二人がそう言うなら、やっぱりそうするしか無さそうだな。

 

「でもさ、その二つを同時に進行させて行くのって、すごく難しくないか?」

 

「それはそうですよ。背反する二つの命題を、達成させないといけませんから…」

 

「軍備とは、即ち兵。兵というのは、基本的には非生産階級ですから、

兵を増やせば生産力は必然的に落ちて行きます。さすがに、簡単なことではありませんよ…」

 

やっぱりそうだよな。そして今のうちには軍備の責任者に任命できる人材がいない。

これが一番の懸念点だ。どうしても愛紗と星がいればと考えてしまう。

そうなるとますます紀霊の奴が忌々しくなってくる。

 

「…今は、難しいとか言ってても仕方ない。

とりあえず俺と桃香と朱里は、内政に力を注いで、雛里と白蓮と鈴々は、

軍備の方に力を注いでくれ。電々たちはそれぞれの補佐を任せるよ。

定期的に報告しあって、それによって微調整を加えて行くって感じで行こう。

それで…良いかな?」

 

「問題ないと思います」

 

「よし! じゃあそれを基本方針に―――」

 

「報告いたします! 何者かが国境より領内に侵入! 現在は、

彭城より南方に位置する下邳城へと進行しております!」

 

「数は?」

 

「およそ二千。ですが持ち運んでいる兵糧の量は六千を超えます。

また紀と華のも確認しました」

 

またあいつか。つくづくあいつとはいやな縁があるらしい。

ん、待てよ。下邳城って確か。

 

「皆、出陣準備だ! 俺達にとって良くない方向に働く可能性がある!

そうなる前に、危険の芽を摘んでおこう!」

 

「ご主人様、相手は二千程度ですよ? 全員で行かなくても…」

 

「いや、ある程度の主力は必要になると思う。今紀霊のやつが向かっている場所には、

俺の知ってる史実通りなら呂布がいるかもしれない所だ。断定は出来ないけど、

最低でも全軍で出ていかないといけない。

後朱里にも来てもらう。雛里と桃香には念のためここに残っていてくれ!」

 

「了解だよ、ご主人様♪ 鈴々ちゃん、ご主人様を守ってあげてね? 

朱里ちゃんも、ご主人様達に力を貸してあげて?」

 

「わかったのだ。桃香お姉ちゃん。お兄ちゃんのことは、鈴々が必ずや守るのだ」

 

俺達は一万五千の兵士を連れて、下邳城へと軍を進めた。連合の時は、

苦汁を嘗めさせられたんだ。この借りは、必ず返してやる。そう決心して出撃したが、

この出撃が自らの首を絞めることになろうとは、この時は思いもしなかった…。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話 紀霊VS徐州軍

彭城から一刀たちが出陣して南下していた頃、

下邳城では今も物資運び込みが行われていた。

 

「それにしてもこれだけの物資をよく都合つけられたのです」

 

「それだけ恋には味方になってほしかったんだよ」

 

「恋殿は飛将軍と言われる大陸最強ですから。

まぁ、あなたの策には一杯食わされましたが」

 

ねねの言葉も歯切れが悪いな。

 

「識様。北よりこちらへ突撃して来る砂塵が確認出来ますが、いかがしますか?」

 

見張りをしていた愛紗が俺たちのほうに走ってきた。

 

「勢力は?」

 

「砂埃が激しく今は不明です」

 

「わかった。迎撃準備急いで。ねね、この城に防衛設備は?」

 

「大したものはないのです。あったとしても」

 

「いや、待った。全軍に出撃準備を出してここは恋と華雄の突破力を活かそう」

 

「それがいいのです。野戦でなら恋殿が力を発揮しやすいのです」

 

「わかった。ならそれで行く。愛紗、兵に敵の特定急がせろ」

 

「はっ」

 

「全軍、作業を一旦中断。出撃準備。敵を追い払うぞ」

 

『はっ』

 

 

 

 

 

城外に出た俺たちは部隊を整えて敵を待ち構える。

すると部下の一人が報告に来た

 

 

「紀霊将軍、砂塵の正体が判明しました! 牙門旗を見るに、張飛、公孫賛、

孫乾の三人の様です!あと二種類の麋の旗と丸に十字のも確認しました。兵数は、一万程かと」

 

「ご苦労様」

 

「おかしい。なぜ孫権殿が劉備の軍勢にいるのだ?」

 

「ああ、違う。たぶんあれは孫乾公祐殿だ。前徐州牧の陶謙殿の懐刀で

徐州の実務は彼女が仕切っていたから袁術殿の使者で何度か会ったことがある。

二つの麋の旗は麋竺と麋芳の二人だな。

連合に陶謙殿の名代として来ていた」

 

「色々と情報をお持ちなのです」

 

「ま、これくらいは常識の範囲内だ。それより仕掛けて来るな」

 

「はい。本来ならば使者を出しこちらの目的を問うのが常識なのでしょうが」

 

「恐らく一刀の一存だな。多分あの軍勢で俺を叩き潰そうと考えてるんだろうよ。

連合の時あいつの恥を暴露して立場めちゃくちゃにしたからな」

 

「その件は聞いているぞ。あれは私たちの一騎打ちを邪魔したのが悪いのだ」

 

「そうなんだが、あいつは罪を罪と認識してないところがあるからな」

 

「どういうことなのです?」

 

「簡単に言ってしまえば俺は天の御使いだから何をしようと許されるって本気で思ってる」

 

「馬鹿なのです」

 

「ああ、馬鹿だ」

 

「馬鹿」

 

おおっとねね、華雄、恋の三人にも不評だな。

間違ってはいないが。

 

「とにかく迎え撃つぞ。俺が左翼の孫乾と麋竺達を華雄が公孫賛を頼む。中央は恋に任せる」

 

「任せろ」

 

「わかった」

 

それぞれの配置についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

諸葛亮SIDE

 

 

敵はこちらに対応する形で三方に軍を分けた。ここまでは私の考え通り。

 

「鈴々の部隊を一番数を多くして持ちこたえさせよう。

その分白蓮たちの部隊の数が少なくなるけど頑張ってもらうしかない」

 

「ご主人様。やはりここは使者を出しあちらの目的を問うべきです。

今からでも遅くはありません。一度兵を引くべきです」

 

「それじゃだめだ。ここで手を抜けば奴らは付け上がって彭城すら取られるぞ。

実際に愛紗と星を奪われただろう?紀霊はそういう奴だ」

 

紀霊さんはそういう方でないと思いますが。

そもそもその原因はご主人様でしょうに。

なんで私はあの時残ってしまったのでしょう。

義勇軍だった頃、そして平原の相だった頃はまだご主人様や桃香様もまともだった。

それが今はこのありさまだ。

私や雛里ちゃんの話は一向に聞いてくれないし、

内政に関してはサボってばかり。

人員配置も適当にしか見えない。

今回だってまずあちらに使者を送って目的を問いただしてしかるべきでした。

私はそう進言したけど、やっぱり話は聞いてもらえなかった。

どうもご主人様は紀霊さんが関わると頭に血が上り周りが見えなくなってしまわれる。

結果がこれでした。

さてどうしましょう。

 

 

 

 

 

 

識SADE

 

 

左翼の俺たちは麋竺、麋芳、孫乾の隊とぶつかった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ」

 

数人を槍の槍先の付け根についている斧で切り殺した。

今更だが俺の武器は斧槍だ。槍の穂先の付け根に斧がついている形状をしている。

昔は偃月刀を使っていたが今はこれを使っている。

 

「雷々たちが相手だ---」

 

「電々も行くよー---」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「「うひゃぁぁぁぁぁぁぁ」」

 

麋竺、麋芳の二人が襲い掛かってきたので一瞬で吹き飛ばす。

うん。弱すぎ。なんでこんなのが先陣なんだ。

やる気はあるんだろうけど。

 

「麋竺様、麋芳様がやられたぞ」

 

「撤退、撤退」

 

敵はあっという間に総崩れになって逃げだした。

だが一人だけ逃げない人がいる。孫乾だ。

 

「ご苦労だったな。孫乾・・・・・いや美花」

 

「ご期待に添えて何よりですわ。識様」

 

「ああ」

 

孫乾、いや、美花はその場で膝をつき拱手の礼ををした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話 決着

これは紀霊が南陽を出る数日前にさかのぼる。

 

「この書状の内容は本当か?」

 

「はい。わが主、孫乾様の意思をそのまま記したものでございます」

 

その日、俺の私室に一人の密使が来ていた。

相手は孫乾公祐だった。

なんでも徐州を挙げるという。

手紙の内容は新しく州牧になった劉備と御使いが無能すぎるから

変わってほしいとの事。

 

「そこまで徐州はひどいのか?」

 

「ひどいと言いますか、全く治世が行き届いておりませぬ。

御使いとか言う男は政務をサボってばかりで結局その全てを

孫乾様と諸葛亮様、鳳統様の三人で行っているのが実情です。

それでやっと生産高と産業の状況を把握が来たばかり。

このままでは早晩袁紹か曹操に攻められても何もできません」

 

「それで俺達に徐州を取ってもらおうと?」

 

「正確には紀霊様にです。孫乾様は徐州をあげるからそこで天下に名乗りを上げてほしいと」

 

「わかった。しかし、どのみち俺が取って代わっても俺じゃ曹操には勝てないぞ。いいのか?」

 

「はい。その後の事は全て任せるとの事です」

 

「わかった。この話受ける」

 

「ありがとうございます」

 

こうして孫乾と紀霊の間で密約が成立した。

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は元に戻る。

 

 

 

 

 

 

「しかし麋竺達が来た時は驚いたぞ」

 

「あの子たちは隠し事ができないので、知らせていませんでした。

それにあの子たちに負ける程度ならば天下に名乗りを上げるには値しませんわ」

 

「なるほど、それで俺は合格か?」

 

「はい。わが軍への対応力、そしてその武勇。お見事でございます」

 

「そうか」

 

「では私も下がらせていただきます。内応は近いうちに」

 

「ああ」

 

孫乾は下がっていった。

 

「しかし驚いたぞ、識。いつの間に孫乾殿と内通を?」

 

「南陽を出る数日前にな。さて左翼は追い払った。

作戦通り中央を横から叩くぞ。愛紗は?」

 

「少数部隊を率いて追撃している」

 

「予定通りだな。行くぞ星」

 

「承知。と言っても飛将軍相手に押され気味のようだがな」

 

「ははっ。確かに」

 

中央のほうは恋の部隊に完全に押されており、

あと一押しといったところだろう。

 

「行くぞ、お前ら!突撃ー---」

 

『おおー---』

 

中央軍に突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃中央軍では

 

「まだやる?」

 

「り、鈴々はまだまだ平気なのだ」

 

「わかった」

 

傷一つ負っていない恋対して傷だらけで満身創痍の張飛が立ち会っていた。

 

「恋殿~~~~~~。紀霊殿が敵の横っ腹を突いたのですぞ。

敵は後退を始めましたです。紀霊殿はそのまま本陣に向かいましたぞ」

 

「わかった。あなたたちの負け。降伏して?」

 

「くっ、まだまだなのだ」

 

張飛は丈八蛇矛で恋を突く。

しかし恋は冷静に方天画戟で打ち上げた。

その拍子に勢いに負けた張飛はしりもちをついて倒れる。

そしてその鼻先に戟を向けた。

 

「これであなたの負け」

 

こうして張飛も捕えられた。

 

 

 

 

 

 

諸葛亮SADE

その本陣では。

 

 

「申し上げます。左翼公孫賛様華雄に敗北。撤退しました」

 

「右翼。麋竺様、麋芳様、孫乾様の隊が敗走しました」

 

さっきから凶報しか入ってこない。

さっきからご主人様の声が荒々しくなってきていた。

すると本陣が騒がしくなってくる。

 

「なんだ」

 

「御使い様。お逃げを。敵が本陣に」

 

「くそっ、逃げるぞ。朱里」

 

「でも、まだ鈴々ちゃんが」

 

「俺が死んだら意味ないだろう。急ぐぞ」

 

本気で言っているのですか?

確かに私たちが捕えられればこの戦は負けです。

ですがそれ以前にやることがあるではないのですか?

そそくさと逃げようとするご主人様、いえ御使いに私は愛想をつかした。

 

「そんなに逃げたいのならおひとりでお逃げください。私は残ります」

 

「何を言っているんだ?お前も一緒に逃げよう」

 

「いいえ。負けたのは軍師の私の責任です。全ての責任は私が取ります」

 

「くそっ、勝手にしろ」

 

数人の部下を連れて出て行った。

さて私も動きましょうか。

私は天幕を出て叫んだ。

 

「大将の北郷一刀は逃げました。もう戦う必要はありません。戦をやめてください。

袁術軍の皆さん。我々は降伏します」

 

「わかった。全員武器を捨てて手を頭の後ろに」

 

「紀霊さんの指示に従ってください」

 

全員が武器を捨てる。

 

「諸葛亮殿。先ほど大将が逃げたと言っていましたね。それは本当ですか?」

 

「はい。先ほど紀霊さんが本陣に突入したと同時に逃げました」

 

「わかった。諸葛亮。お前にも来てもらうぞ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

下邳城に帰還した俺たちはまず孔明から話を聞いた。

 

「なるほど」

 

「要は御使いの暴走という訳か」

 

「はい。その結果私は御使い殿を抑えられずに」

 

「敗北したという訳か」

 

「はい」

 

「わかった。公孫瓚と孫乾は敗走中央の軍や本陣の守備部隊も逃げ出した。

このまま彭城を取るか。だがその前に孔明」

 

「はい」

 

「俺たちの軍に加わらないか?」

 

「え?」

 

「このまま俺たちがお前を解放しても行き場がないんじゃないのか?

どのみち、今の一刀はお前たちの話を聞くとは思えない。

ならこのままここで軍師として働いたほうが楽じゃないのか?」

 

これは本心だった。

話を聞く限り一刀は二人を活かせていない。

俺も武一辺倒だが今の一刀よりは活かせるはずだ。

それに孔明は一刀をこれまでのようにご主人様と言わずに御使い殿と呼んだ。

無意識かはわからないが愛想を尽かしているのだろう。

黙っている孔明をただ待った。

 

「わかりました。どのみち軍師として話を聞いてもらえないのなら

あそこにいても意味がありませんし

私をここで使っていただけませんか?」

 

「俺としては孔明の頭脳には期待してる。

見ての通りねね以外に頭脳労働が得意な奴はいなくてな」

 

「はい」

 

「それと一度は返還したがこれからはこれまで通り識でいいからな」

 

「はい、識様。私の事も朱里とよんでくだしゃい。ああ、かんじゃった」

 

「気にしないさ。これからも頼むぞ」

 

「はい」

 

こうして俺には新たな助っ人が加わった。

 

「申し上げます。孫策殿が謀反」

 

「失礼します。孫策殿より使者が参られました」

 

一難去ってまた一難。どうやら俺に休む時間はないらしい。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話 紀霊の同盟

「思ったよりうまくいったわね」

 

「紀霊がいなかったからな。連合でも実質紀霊あっての袁術軍だった」

 

「それだけ紀霊に頼っていたということじゃな。それで策殿。袁術はどうした?」

 

「逃がしたわ」

 

『え?』

 

瞬間、周りにいた人間は黙ってしまった。

 

「姉さま!なぜ逃がしたのです」

 

「いいのよ。別にもうあれに私たちに歯向かう事は出来ないわ」

 

「なぜそう思うのですか?」

 

「そもそもそれをするだけの兵士がいないじゃない。

地位も名誉も金も失った袁術に何ができるっていうのよ」

 

「確かにそれはそうですが」

 

「それよりも急いでこの地の防衛を急いで。紀霊が呂布を連れて帰ってくるわ」

 

「いやここは使者を出そう」

 

「冥琳、何か手があるのね?」

 

「紀霊は今、下邳で飛将軍呂布と同盟の交渉をしているはずだ。

当然徐州軍がそれを止めるために襲い掛かかるだろうが

紀霊が負けるはずがないから返り討ちになるだろう」

 

「ならなおの事袁術殿を討っておかねばまずかったのではないか」

 

「いえ、その心配はございません。黄蓋殿」

 

「なぜじゃ、冥琳。主が襲撃され逃げてきたのじゃ。

それにこたえるのが臣下のというものじゃろう?」

 

「そうか祭は余り紀霊と会った事ないわね」

 

「確かに紀霊とは炎蓮様の最後の戦場でしかあった事はないが」

 

「紀霊は袁術軍の客将よ」

 

「あそこまでの働きをするものが客将じゃと!」

 

「ええ、本人もそう言ってたし連合の軍議でも張勲もそう言ってたわ。

このひと月で変わったことはなかったし間違いないわね」

 

「なるほど客将なら袁術殿に加勢することはないわね」

 

「粋怜の言うとおりよ。その証拠に袁術ちゃんは北ではなく南に逃げた。

元から紀霊に頼る気はないのよ。

むしろこれ幸いとこちらを強襲してくるかもしれないわ」

 

「納得じゃな。それで使者をか」

 

「そういう事、それに私としてはこれからも紀霊とはいい関係を築いていきたいし」

 

「姉さま!」

 

「あら蓮華もそうでしょう。何度か南陽で仲良く話しているのを見たわよ」

 

「そ、そのようなことはありません」

 

「なによ。照れなくてもいいじゃない」

 

「それくらいにしてやれ。雪蓮」

 

「はっはっは。蓮華様にも春が来たようですな」

 

「もう祭まで、茶化さないで」

 

「何々。蓮華姉さまに何が来たの?」

 

「シャオには関係ないわ」

 

「はいはい、それくらいにしてあげましょう」

 

「姉さまが最初に言い出したことでしょう!」

 

孫策が止めても今だ孫権は怒ったままだった。

だがここで孫策は真剣な顔をする。

 

「それは謝るわ。でも冗談抜きで紀霊とは仲良くしておきたいのよ。

場合によっては血盟を結ぶ必要を考えるほどにね」

 

「そこまでじゃろうか?」

 

「紀霊の下にはすでに関羽、趙雲、華雄と武に秀でた武人が集まりつつあります。

さらに呂布もその傘下に入るでしょう。

そして遠くない未来、徐州を手に入れる。

そうなれば今北の勢力争いに一石を投じる存在になります。

仮に曹操もしくは袁紹に徐州を取られても紀霊ならば

いくつか逃げる方法を残しているでしょう。

あれは大陸中を渡り歩いてきたようですから」

 

「確か袁紹、劉備、その後に袁術ちゃんだったかしら。

その前にも益州で劉璋に仕えていた時期もあるようだし」

 

「鞍替えしすぎではないか?そのようなものと血盟を結ぶべきか?信用に値しないが」

 

「全て客将としてですから、問題ないかと考えております」

 

「そうね。それは紀霊を召し抱えきれないその勢力が悪いわ」

 

「策殿がおしゃるのならわしは構わぬ。それで使者は誰が行くのじゃ?」

 

「それなんだけど穏、行ってきてくれる?」

 

「わかりましたぁ~」

 

「文書は後で渡すわ。お願いね」

 

「はい~」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで俺と同盟を結ぼうというわけだな」

 

「はい~。孫策様としてはこのまま同盟を結んで紀霊さんと共に戦いたいと考えているようです」

 

「なるほど話は理解した。軍師やほかの者と相談したのち返答したい。

部屋を用意させたのでそこでお待ちいただけるか?」

 

「わかりましたぁ~。ですが私としても早くお話を持ち帰りたいので」

 

「承知している。今日中には返答する」

 

「では、失礼しますねぇ~」

 

陸遜は部下の案内の元、謁見の間を出て行った。

その場にいる人間で今回の事を話し合う。

 

「さてこういう話もあるのだがどう思う?」

 

「私は賛成です。孫策さんが味方になるのならば南を気にしなくて済みますし

戦略的に考えても在りかと」

 

朱里は賛成派か。

 

「私は反対だ。客将とは言え、助けて貰った恩人を

裏切る者など信用には値しない」

 

華雄は反対派だな。

それから全員がそれぞれの意見をだしていく。

全体的に見て賛成派のほうが多い。

反対派の意見としては華雄とほぼ同じような意見であり

逆に賛成派は戦略的観点から見た意見があった。

 

「わかった。俺自身ここで孫策殿と事を構えるのは得策とは言えないし、

戦略的な観点から見ても朱里の言うとおりだと思う・

今回はこの話を受ける」

 

全員が

というか俺がこの組織の代表なのか?

いや確かに今の華雄は俺の部下だし愛紗や星も立場上は俺の部下だ。

それに恋やねねも俺に指揮下に入ると宣言してくれている。

あ、これ俺しかいないのか。

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせして申し訳ない。陸遜殿」

 

「それほどお待ちしていませんから大丈夫ですよぉ~。

それでいかがしますか?」

 

「結論から言わせてもらえば同盟のお話は受けさせてもらう。

返答を認めた。受け取ってほしい」

 

「ありがとうございます。ではでは私はこれにて失礼させていただきますねぇ~」

 

陸遜は帰っていった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話 董卓参入

彭城。

 

 

誰もが黙ったまま会議室は異様な空気を漂わせていた。

原因は先日の下邳での戦。

劉備軍1万2千に対して紀霊軍、六千と圧倒的に数的優位を保ち、

さらに作戦通りに事を進めていたのにもかかわらず結果は惨敗。

しかも主力であった張飛をはじめとした部隊は未帰還のまま。

また、軍師の孔明もまた未帰還のままだ。

戻ってきたのも半分にもならない四千弱。

もはや絶望的な状況だった。

本来ならばここで一刀がその原因を究明し次に生かすべきなのだが

自身がそそくさと逃げだした手前偉そうなことを言えるはずもなく、

うつむいたまま黙ったままだ。

 

「と、とにかくこのまま黙ってても仕方がないし切り替えていこうよ。

雛里ちゃん。私たちはどうするべきかな?」

 

結局鳳統にまる投げの劉備の励ましだったがそれも事実であり、

このまま黙っていても仕方がないと全員が無理やり気持ちを切り替える。

 

「とにかく紀霊さんの下に使者を送るしかありません。

この状況で鈴々さんや朱里ちゃんたちが帰還しないのであれば、

もし生きているのならば捕虜になったと考えるのが妥当です。

交渉して何とか返還してもらうしかありません。

ですが我らは連合で紀霊さんに対して賠償責任が生じています。

それの上乗せですからかなり厳しい物になる事は間違いないかと」

 

「いやそもそもその賠償だって、正当性がない」

 

そういう一刀に全員がそちらを見た。

 

「そもそもあいつは裏切り者だ。それをなぜ俺たちだけが

悪者にならないといけない?それに今回だって目的も告げずに

勝手に徐州に入ってる。それに対して討伐軍を出した。

どこに攻められる筋合いがある?」

 

「本来ならそうなのですが、それは州境の段階での話です。

州境を超えた時点でこちらがそれを止めて目的を問いただしていない以上、

下邳は無法地帯扱いととられています。

さらに戦闘開始時に詰問の使者も送っていないという事ですから

その主張は向こうに対してどこまで効果があるか」

 

「なら孫策さんと手を結ぶのはどうかな?」

 

「孫策と?」

 

「うん。孫策さんと組んで挟撃すれば何とかなるんじゃないかな?」

 

「ありだな。よし、すぐに孫策に手紙を送ろう」

 

八方塞がりな状況に唯一にしてほんのわずかに見えた一筋の光。

一刀が勝手に進めた手紙だったがそれは最悪の結果で帰ってくる。

そして、

 

「月、やっぱりボク達は、あんな腐れち○こ太守の下にいるべきじゃないわ!

恋やねねや華雄もいるんだし、説明すれば何とか分かって貰えるかもしれない!」

 

「で、でも詠ちゃん、分かって貰えなかったらどうするの?

もうご主人様の所には、戻れなくなるんだよ?」

 

「そ、その時は、ボクの全てに掛けて、月を必ず涼州へ返してみせる。

だから、あの男一度と話してみよう?」

 

その日数人の女性が彭城から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

建業

 

 

その孫策は建業を中心に揚州の掌握に頭を働かせていた。

元々揚州の豪族は孫策派が多く、揚州の掌握にはそこまで時間がかからなかった。

しかし未だ問題は多い。

一つが降伏した旧袁術軍をどうするか?

弱兵ぞろい袁術軍をこのまま呉軍に入れても何の役にも立たない。

かといって使えるレベルにまで鍛えようとしてもそもそもその気概がないので

ついていけず脱落してばかりだ。

完全にお荷物状態だった。

そしてもう一つが袁術の御用商人をどうするかだった。

袁術が正式に揚州牧に任命されたことで袁術は本拠を南陽から

この揚州に移していた。

それに伴い御用商人も揚州に移ってきており、

すでに完全に根を下ろしているのだ。

 

「はぁ~~~~、土地を取り戻してもままならないものね」

 

「そういうものだ。とにかく一つずつ解決していくしかない」

 

「そうね。唯一の安心は紀霊と同盟が結べたことね」

 

「しかし、血盟については断られたのだろう?」

 

「少し違うわね。お互いが落ち着いたらゆっくり話そうと書かれているわ」

 

「そうか」

 

「それよりも問題はこっちね」

 

「劉備からの手紙の事か」

 

「正確にはあの変態御使いね」

 

簡潔にまとめると、手紙にはこう書いてあった。

『徐州のに下邳に袁術軍の残党が逃げ込んで占領している。劉備は下邳を取り戻すためで、

孫策達は袁術軍の殲滅を行うため。双方目的は違うけど利害

関係は一致しているのだから、袁術軍残党の討伐を手伝え』と。

 

「ねえ、冥琳。これ私たちに何の利益があるの? てか、あの男は私達のことを嘗めてるの?」

 

「相応の謝礼はすると書かれているが、こちらの調べでは奴らは治世が行き届いていない。

下邳と彭城周辺は治安がいいが下邳は紀霊がいるおかげだろうし、

実質劉備たちが治安を維持できているのは彭城だけ問う事ね。

それに紀霊への賠償も支払えていないようだし」

 

「なら私たちに利益はないってことで無視ね。・・・・ハイ決定」

 

孫策は手紙をくしゃくしゃに丸めて放り投げた。

投げられた紙はきれいな放物線を描き、屑籠に入った。

 

「さて、少し気分転換にお昼でも行きましょう。ちょうど時間もいいころ合いだし」

 

「わかった」

 

二人は町へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

下邳城

 

 

 

 

 

その日、紀霊の下に来客が来ていた。

 

「これは霊帝陛下に献帝陛下」

 

紀霊を筆頭に二人の前で拱手の礼を取る。

 

「出迎えご苦労様。確かあなたとは洛陽であったわね」

 

「はっ、数年前に洛陽の御前試合で」

 

「そう、あの時の」

 

「失礼ですがなぜこのようなところに?」

 

「そこからは僕が話すよ」

 

「あなたは?」

 

後ろに控えていた眼鏡をかけた少女が歩み出てきた。

紀霊は立ち上がり訳を聞く。

 

「ボクは賈駆。こっちは董卓。訳あって死んだことになっているけど

この間まで劉備の下で保護されていたんだ」

 

「存じています。まさか陛下も一緒だとは思いませんでしたが」

 

「そう。それでここに来たのはあなたに保護を求めようと思ったからなの」

 

「大体は予想が付きますが。とりあえず陛下にお部屋を。ねね、頼む」

 

「わかったのです。一番上等な部屋にご案内するのです。ささ、こちらへ」

 

霊帝と献帝はねねについていく。

 

「お二人はこちらに。詳しい事情を聞かせていただけますか?」

 

「わかったよ」

 

「はい」

 

二人を別室に案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別室には董卓、賈駆、俺、趙雲、そして双方を知るものとして案内を終えたねねとが

朱里がそろっていた。

 

「さて詳しい話を聞かせてもらえますか?あとその服装についても」

 

どう見てもメイド服だよな。

なんでそんな物を着ているんだ?

まぁ想像はつくが。

 

「これはあの腐れち○こ太守に着させられてたんだ。

着の身着のままで来たから着る服がないからこのままだけど

決して僕たちの趣味じゃない。そこは勘違いしないでほしい」

 

「それは存じています。というか、そこまで言ってません」

 

お、女の子が堂々とそんなち○ことか破廉恥な言葉を。

いや、そこはいいか。

 

「とにかく、事情を聞かせてもらえますか?」

 

「良いけど、でもまず先に、ボク達がどういう経緯で保護されたか

僕らがを、念のため説明しておいた方が良い?」

 

「それは省いていただいて結構。大体の予想はつきます」

 

「そう、じゃあ面倒な説明は一気に省いて、さっさと本題に入らせて貰うわ。

端的に言うと、月の身と貞操に危機を感じ取ったからよ」

 

ああ、やっぱり。

 

「あなただけではなくて趙雲も同じ顔をするという事は大方察しがついたと思うけど

私がそれを確信したのは、あんた達とあの腐れち○こが戦った時よ。

あいつは、恋がいることを予想していたのに敵の戦力を大幅に見誤って、

結果的に一万近い兵士達を駄目にした。

その時点でまず、軍事的手腕が無いことは証明されたわ」

 

そうだろうな。しかも部下を見捨てて一人でそそくさと逃げたんだ。

どうしようもないだろう。

それにしても恋がいたのを予想していたにも関わらず、あんなにお粗末な采配だったのか……。

 

「次は政務に関してね。ボクが見る限りでは一応やってはいるんだけど、

基本的に朱里と雛里、諸葛亮と鳳統の二人に頼りっぱなしで

どちらかと言うと本人は、さぼってどこかに抜け出してる時間の方、が圧倒的に長かったわ。

一番上に立つ人間が決断しないといけないような案件とかも、

優柔不断なのか全然判断が下せない。要するに、

しかも自分たちが入ってきて元々の徐州にあった基盤を利用せずに自分達中心で

勝手にやっちゃったから基盤がボロボロになっちゃって一からやり直しになって

この一か月でやっと生産高とか産業の状況を把握できたばかり。

政治的手腕もないってことね」

 

遅すぎない?近くには曹操や袁紹がいるんだぞ。そんな悠長なことをしてれば確実に

攻められても何も出来ず、蹂躙されて終わりだ。

南の州境に見張りの兵士がいないのはてっきり北や西を警戒しているんだと思っていたが

そこまで手が回っていなかったのか。

 

「そんなあいつとあんたを比べたら、正式な下邳の城主ではないとはいえ、

あんたの方に身を寄せた方がまだ多少は月も安全だし、

結果的にそれがボクの安全にも繋がるっていう答えが自ずと出て来たわけ。分かった?」

 

「なるほど、身の危険にに関してはわかりました。それにしても細かく見ているんですね?」

 

まるで嫁の行動を見張る姑みたいだな。

 

「当り前でしょ! 月とボクを保護した人間が、

どういう人物なのかくらいは見極めさせて貰う権利があるわ!」

 

「それは、そうですね」

 

賈駆のいう事は尤もだ。保護してもらった恩があるとはいえ

その恩人が無能なら二人のように逃げ出しても無理はない。

それが政治的重要人物である董卓や陛下ならなおさらだろう。

 

「なら次は貞操の危機という観点から説明していただけますか?

まぁ、大方の察しはついていますが」

 

「そうね。まず何といってもぼく達を見る目がいやらしいし、

いつも女の尻を追いかけまわしてばかりだったわ」

 

それから賈駆の口からは一刀の醜態が出るわ出るわで聞いているこっちが

恥ずかしくなるようなことばかりだった。

 

「決定的だったのは何も知らない霊帝を張忠の目を盗んで口説こうとしてたりもしていたわ」

 

今何と言った?

 

「ちょっと待ってくれ。一刀が霊帝を口説いていたのは置いとくとして、

いや、置いといたらいけないんだが、あの十常侍の張忠が生きてるのか?

董卓殿に殺されたと聞いたが」

 

思わず立ち上がってしまった。

 

「落ち着きなさい。張忠は良くも悪くも何もしないわ。

ただ全身全霊をかけて霊帝陛下を甘やかしているだけ」

 

「そうですか」

 

一度座りなおす。

 

「しかし、陛下にまであれの魔の手が及んでいたとは」

 

「そうよ。そこで私たちはさっさと見切りをつけて恋やねねや華雄がいる、

あんたのほうに鞍替えしたってわけ」

 

「なるほど。こちらも彼の女性を見る目がいやらしいのは重々承知しています。

何せ、連合の時もそうでしたから」

 

特に呉の人たちを見る目はすごかった。

なんせ、呉の女性陣は露出度が高いからな~。

 

「そうなの!? ほら月、やっぱりあんな腐れち○この下から去って正解だったのよ!

それとあんたに聞いておきたいことがあるわ」

 

「なんでしょう?」

 

「あんたはどうなの?考えてみればあんたも男でしょう。

もしやあんたもあの腐れち○こみたく、ボクの月のことを

やらしい目で見てたりするんじゃないでしょうね!? 答えなさい!」

 

「まず明確に宣言しますが、俺の直属部隊の人間はあれの直属の被害者の集まりです。

関羽や趙雲を含めてね。そんな人間を率いる以上、

そのあたりは気を付けているつもりです。

失礼ですが董卓殿や賈駆殿の容姿は大変見目麗しいと思います。

ですがそのあたりの節度は弁えています。

それとだな、俺をあんな変態と一緒にするな。不愉快極まりない」

 

つい素の口調が出てしまった。いきなり喋り方が変わったものだから、

目の前の二人も驚いている。

 

「そ、そう、それは悪かったわ……。でもあんたにその気が無い以上、

ここにいる限り月の貞操の危機は訪れないと言っても過言じゃないわね。

ふふふ、これでボクの月に手を出す人は誰もいない……」

 

何か最後、危ない一言が耳に入って来た気もするが、

ここはあえて聞かなかったことにしておこう。主に、自分のために……。

 

「まあ、だいたいの事情は分かりました。では、最後に一つだけ。

本当に、戻らなくても良いんですね?」

 

「ボクには、月を守り通すっていう使命がある。あそこにいたら、

月のことを守れない。だから……戻らないわ」

 

今の賈駆はさしずめ、姫を守る騎士と言ったところか。

それほどまでに、強い意志を彼女から感じた。

 

「そうですか……。では改めて、二人のことを歓迎させて頂きます。

それと、これから俺のことは識と呼んで下さい。仲間として迎え入れた以上、

堅苦しいのは嫌ですので」

 

「それなら、私達も真名をお預けします。私の真名は、月です。

識さん、これからよろしくお願いします」

 

「ボクの真名は詠よ。今はこんな恰好してるけど、これでも軍師だから。よろしく頼むわね」

 

「ええ」

 

その後、軍内での二人の立場はどうするのかを話し合った結果、

月は文官として働き、詠は軍師をすることが決まった…。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話 公孫賛 伯珪

公孫賛SIDE

 

今日も今日とて軍議が開かれている。

勿論前向きな軍議ではなかった。

今の劉備軍は一刀の暴走状態に振り回されている状態だった。

無理な徴兵に重税。民の不満は増す一方だ。

それを止めようとする人間はいない。

誰もが怖がってしまい、委縮しているのだ。

 

「はぁ」

 

軍議が終わり、自室に戻る途中、溜息をつきながらもじもじとしている雛里を見つけた。

 

「どうしたのだ?雛里」

 

「あ、白蓮さん。実はこれを」

 

「ん。なんだこれは?」

 

「とにかく読んでみてください」

 

中身を見ればそれは孫策からの返答が書かれた書簡だった。

内容は意訳すれば『あなたのような変態と関わる気はございませ~ん。

徐州の事に徐州牧であるあなたたちで何とかしてくださ~い。

それと我々は紀霊と同盟を組むことにしたので二度とあのような無礼極まりない

手紙を送ってこないでください』と書かれていた。

 

「この書簡をご主人様に見せれば絶対に怒ると思うんです。

それでも見せないといけないし今後を考えると少し厳しいですし。

どうしたらいいかって」

 

今の雛里は委縮しきっている。

元々極度の人見知りで恥ずかしがり屋なところがあるが朱里がいないのが大きい。

それに加えて一刀の今の状態が拍車をかけていた。

あれ、もしかしなくても詰んでるのではないか?

 

「それで雛里はこれからどうするんだ?」

 

「一度これを見せてみようと思います。

それでご主人様が思いとどまってくれるならいいんですけど

もし思いとどまってくれないのなら下邳に向かうつもりです」

 

まずい。非常にまずい。もしここで雛里が下邳に行ってしまえば

天然で理想家の桃香に目も当てられない暴走状態の一刀を私一人で

止めないといけなくなる。尚且つこの軍の頭脳を失うことになる! 

それだけは、それだけは、何が何でも避けないといけない!

私には、そんな中でやっていける自信はない!

想像するだけで胃が痛くなってくる。

私の精神衛生的にもそれだけは避けなければならない。

私も腹をくくろう。

 

「なら私も説得を付き合おう。そして説得が無理ならば、

私も部下を連れてここを出る」

 

「え!白蓮さんまで一緒に来なくてもいいんじゃ」

 

「良いんだ。元々転がり込んできた身なのに、まだ大して役に立ててない。

このまま穀潰しになるよりかは、その方がはるかにマシだ。

それに、雛里の護衛も必要だろ?」

 

言えない。いや言えるわけがない。ともに残ってほしいなんて

今の雛里を取り巻く状況を考えると言えなかった。

「白蓮さん、ありがとうございます! 三人で力を合わせて、ご主人様を説得しましょうね?」

 

「お、おう!」

 

やめてくれ。そんなつぶらな瞳で私を見ないでくれ。

輝かせた瞳でこちらを見る雛里に私は胃が痛むのを感じていた。

今は、昼時から一刻半ほど過ぎた時間だ。この時間なら、北郷は桃香と共に

政務に励んでいるだろうから、ちょうど良いだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

私たち二人は桃香の執務室の前についた。

うう。胃が痛い。説得を手伝うと言った手前、やはり緊張する。

それは雛里も同じようでさっきから動きがぎこちない。

だが私たちの緊張とは裏腹に部屋の中からは嫌な音が聞こえてくる。

その音の正体が想像できた私たちは音をたてないように気を付けながら扉を開ける。

みえたのは二人分の下着と衣服。そしてベットの軋む音と桃香の喘ぎ声。

私はすぐに扉を閉めた。と同時に何かが消えた気がした。

 

 

「雛里、二人は今、性務が忙しくて手が離せないそうだ。

書簡は私の方で何とかしておくから、二人は荷物を纏め始めてくれ」

 

「……………」

 

ああ、雛里の顔がすごいことになっている。主に失望方面で。

私が必死に考えていたのは何のためだったのだろうという考えがひしひしと伝わってくる。

 

「とにかくここは私に任せて急いで準備してくれ」

 

雛里は一度頷いて持っていた書簡を私に渡して私室に向かっていった。

 

「さらばだ。桃香、北郷。今まで世話になったよ」

 

書簡を扉の前に置き、自分も部屋から離れ、兵舎に向かう。自分に付いて来た兵士達を呼び出し、

付いて来たい奴だけ付いて来いと言う前置きをしてから、事情を説明した。

兵士達は私の話を聞き、どこまでも付いて行く覚悟は出来ていると言ってくれた。

兵士達に出立の準備を急がせ、私も私室へと戻る。

着の身着のまま転がり込んできたせいもあってか、

私の部屋にはこれと言ったものはない。あっても精々、剣と鎧に兵法書。

何と可愛げのないことかと、自分が恨めしく思う時もあったが、今この時だけは好都合だった。

 

「白蓮さん。いらっしゃいますか?」

 

「ああ、すまない。もう、良いのか?」

 

「はい」

 

雛里を連れて兵舎に向かい城外での部隊訓練を装って城を出る。

 

「これで本当にさよならだな。北郷、桃香。世話になった」

 

「さよならです。桃香様、ご主人様」

 

私たちは下邳に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

識SIDE

 

 

 

 

 

 

 

下邳の統治が行き届いてきた。

 

「下邳周辺の生産高と流通の流れは安定し、民の協力もあり生産高については

上昇傾向にあります」

 

「また、産業についても成果が上がりつつあります」

 

この地を劉備から奪って一か月。ようやく安定してきたという朱里や董卓の報告をきいて

治世に安心しつつ、次の手を打つ。

 

「本来なら税の徴収権はないのだが」

 

「そこは献帝陛下からいただきました」

 

さすが董卓いや月。行動が早い。

まぁ、都にはすでに新しい帝がいるにはいるが退位を宣言していない為、

未だ正式な皇位は献帝陛下にある。

要は説得次第で好き勝手出来るわけだがそれをした結果が黄巾の乱だ。

同じ轍を踏むほど俺は馬鹿じゃない。

 

「わかった。指示した検知と戸籍制作のほうはどうなってる?朱里」

 

「すでに終わっております。税の徴収も可能になります」

 

「税の徴収は四公六民にする。何より民には安定した生活をしてもらいたい」

 

正直、月と詠の加入は大きい。

袁術殿が領地を失ったことで多くの文官が職を失い、

俺の下に流れてきた。

これによって政治における手足は手に入れたが頭脳が朱里とねねしかいなかった。

月と詠が入ってくれたことで頭脳面でも問題は処理されつつある。

 

「次に軍事方面はどう?愛紗、ねね」

 

「はい、識殿が提案された遺族見舞金制度のおかげで順調に志願兵が集まりつつあるのです。

しかしよくこれだけの見舞金を用意出来ましたな」

 

「もともとこの城に放置されてた金だよ」

 

運がよかったな。偶々、荷物を置いた場所が地下への扉で

偶々鍵がさびててそこで偶々大量の金が出てきたんだから。

計算すれば向こう二年は遊んで暮らせるくらいの金額だったからな。

本気で驚いた。

俺はそれを四つに分けて一つは治世の資金に一つは軍資金にまわして

もう一つはさらに細かく分けて兵士や幹部たちに渡した。

そして最後の一つはに貯金している。

 

「まぁ、ねねとしてはあるのならいいのです。金に綺麗も汚いもないのです」

 

「そうだな。それで愛紗、調練のほうはどうなってる?」

 

「部隊訓練のほうは星が鍛えてくれているので問題ありません。

新兵の調練は予定より少々遅れていますが調整すれば何とかなるかと」

 

「わかった。今後も任せるからその調子で頼む」

 

『はい』

 

こうして軍議が終わる。

ああこうして考えてみると俺、まともな軍議に参加するのって始めたな気がする。

なぜか感動してきた。

 

「軍議中に失礼します」

 

一人の兵士が駆け込んできた。

 

「どうした?」

 

「城門に公孫賛と名乗る方が兵士を連れて来ており紀霊様と面会を求めておられるのですが」

 

「は?」

 

おいおい、今頃使者か?対応遅すぎない?

 

「とにかく会おう。通してくれ。兵士の方にはそのまま待機してもらうように言ってくれ」

 

「わかりました」

 

しばらく待っていると公孫賛殿が鳳統を連れて入ってくる。

 

「お久しぶりです。公孫瓚殿。今日はどのようなご用件で?」

 

さてさて今回はどんなことを言ってくるのか。一周周って少し楽しくなってきている。

 

「単刀直入に言わせてほしい。私たちを雇ってくれないか?」

 

『は?』

 

今雇ってほしいと言ったか?

いやいや、そんなわけがない。俺の聞き間違えだろう。

 

「失礼ですが聞き違いがあったようなのでもう一度お願いできますか?」

 

「え、あ、ああ。私たちを雇ってほしいんだ」

 

聞き違いじゃなかった。

マジかよ。ふつうこの間攻めたところに来るか?

嫌来てくれる分にはうれしいんだが。

 

「事情を聞かせてくれますか?」

 

「ああ」

 

事情を聴けば一刀が暴走状態にあるらしい。

そのくせ政務はサボってばかりで何かあれば劉備と睦あっているとか

大体が俺らの下に来た旧劉備軍の者たちと同じ理由だった。

理解はできるが。

 

「事情は理解しました」

 

正直言ってしまおう。鳳統を拒む理由はない。

彼女の能力を考えれば多少の負債を抱えてでも欲しい人材だ。

だが正直言って公孫賛がどれだけの能力を持っているのかがわからない。

州牧だったのだからある程度できるのはわかるが。

 

「それで公孫賛殿は何ができますか?」

 

「元は幽州の牧だったから政務も軍務も、兵士の調練だって一通りある程度できるぞ」

 

「ある程度ですか?」

 

「むう。そうだよ。悪かったな、ある程度で。

どうせ私は、どこにでもいる普通な女だよ……ふんっ」

 

そう言うと、拗ね始めてしまった。星達は見慣れているようで、

苦笑いを浮かべていたが、俺はちょっと違う。彼女は政務が出来て、

軍務が出来て、おまけに兵の調練まで出来ると来た。

政務か軍務のどちらかに偏る将が圧倒的大多数を占める中、

こういうオールラウンダーな武官がいてくれるというのは、

軍にとっても非常に有益なことだ。両極端になりつつある今の内なら尚更。

北郷も、勿体無いことをしたもんだ。

 

「素晴らしい」

 

「へ?」

 

「何かに突出するわけではない代わりに、どのような仕事でも卒なくこなしてくれる。

これはとても素晴らしいことですし、誰しも皆が出来ることじゃありません」

 

「で、でも、私は星のように腕が立つわけでもなければ、

朱里や雛里のように頭が良いわけでもないんだぞ……?」

 

「確かにあなたは星のように先人に立ちその武による活躍で見方を鼓舞したり、

朱里達のように策を練り確実に敵に対して大打撃を与える事は出来ないのかもしれない」

 

そこで公孫賛は落ち込んでしまう。

 

「しかし、あなたは一つの事に特化した将にできないことができる。

例えば武官と文官の間で起きるであろうすれ違いの調整だ。

政務も軍務は両極端な位置にあるから調整が難しい。

どちらかに力をかけすぎればどちらかが衰退する。

その力調整をあなたは両方できるからこそそれらがわかる。

どうだろうか公孫賛殿、こちらからお願いする。

我らの下で働いてくれないか?」

 

「私のほうこそ喜んで」

 

本人も、思ってた以上に褒められたのが嬉しかったのか、

今度は一人だけ照れ笑いを浮かべている。……今まで、どれだけ評価されてなかったんだ?

 

その後、三人と真名の交換を済ませ二人の所属部署を決める。

結果、雛里を軍務寄りの軍師として白蓮をその補佐に着けた。

白蓮は俺が思っていた以上に幽州で補佐としていい感じに活躍してくれてる。

ほんとどれだけ評価されってなかったんだ。この人。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話 徐州戦

識SADE

 

 

徐州における俺達と一刀の勢力争いは完全に俺のほうに傾いていた。

一刀たちは今だ彭城周辺の治安を維持させるのが精いっぱいなのに対して

俺たちはあれから広陵群、そして東海国を領有した。

というよりも下邳の豊かさを聞きつけた豪族たちが臣従を申し出てきたのだ。

俺はそれを受け入れた。

さてそろそろとどめを刺すときだろう。

 

「俺たちはこれより彭城を獲る。それぞれ出陣準備だ」

 

『はっ』

 

それぞれが出陣準備を整え部隊を率いて集まる。

 

「出陣!」

 

『おう』

 

軍を彭城に進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

その彭城では慌てて防衛準備を整えていた。

孫乾はそれを指揮しながら見ていたがどう考えても間に合わないだろうと予想を立てる。

そもそも孫乾はすでに一刀を見限り識に味方している。

その為に情報を隠してここまで遅らせた。

 

「(これで、徐州は紀霊様のものとなるでしょう。その後の事が気になりますね)」

 

孫乾はこれからの事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「かかれー--」

 

「防げーーーー」

 

 

彭城本城攻略が始まった。

しかし最初から本城攻略なのだがこちらも攻城兵器を多用し責める。

俺はそれを本陣で馬に乗りながら見ていた。

 

「報告。投石器により楼閣が落ちました」

 

「報告。華雄様の隊が北門に取りつきました。

また公孫賛様、関羽様の隊がそれぞれ南門、北門に取りついております」

 

「こうもあっさりしていると少々拍子抜けだな」

 

「無理もありません。彭城の兵士はほとんどが逃げ出し残っているのは義勇軍時代から

劉備殿と御使い殿についてきた兵士だけ。数にすればおよそ千にも満ちていません。

むしろよく守っている言っていいでしょう」

 

「要は今一刀を守っているのは一刀に骨抜きにされたか。

末期の人間だけという事か」

 

「そういう事です」

 

俺は隣の馬にまたがる雛里を見た。

少々辛そうだ。

 

「つらいか?」

 

「いえ、そのような事は」

 

「別にいいさ。俺もかつては共に戦場をかけた仲間と戦うのはつらい。

だがそれを顔に出すな。傍目からは平然としているように構えとけ」

 

「はい」

 

こうなることはわかっていたことだ。

それを今更、後悔など。

 

「報告します。北門を破り、華雄隊突入しました」

 

「ご苦労だった。さがれ」

 

「はっ」

 

「これで決まったな」

 

「はい」

 

後は関羽がいいようにしてくれるだろう。

 

「星に城を任せて全軍で来たが何とかなったな。

雛里、戦闘が終了次第、被害状況をまとめてくれ」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

「皆ご苦労だった」

 

『はっ』

 

「特に華雄、本城一番乗り、見事だったぞ」

 

「光栄だ」

 

「さて、あと始末だ。何か言うことはあるか?劉備、北郷」

 

「・・・・・・・・・」

 

「くそ裏切り者が」

 

「悪いが少し席を外してくれるか?北郷と話がしたい」

 

「しかし・・・・・・・・わかりました」

 

全員が天幕を出ていく。劉備も連れられて天幕を出た。

 

「俺に何の用だよ」

 

「さて北郷、俺から聞きたいのは一つだ。お前何者だ?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話 正体

「北郷、俺から聞きたいのは一つだ。お前何者だ?」

 

「は?いまさら何言ってんだ?」

 

「しらばっくれるな。正直に答えろ」

 

二人の間に沈黙が流れる。

 

「はぁ~。わかった俺の負けだ。

確かにお前の言うとおりだ。俺は北郷一刀じゃねぇ。

俺の名前は于吉。お前と同じ転移者だ。

お前もそうなんだろう?」

 

「なぜそう思った?」

 

「もし違ったらお前からあんな質問でねぇだろうよ。

それに恋姫無双にも革命にも紀霊なんてキャラ出てねぇし。

予感は最初からあったよ。

そもそも史実の紀霊とは全然行動が違うし」

 

「そうか。それで本物はどこ行った?」

 

「知らねぇ。揚州で偶々見つけて衣服奪って幽州に来て劉備に取り入った。

俺、劉備が推しだし」

 

「その劉備に関しても疑問がある。なぜああも変わった?」

 

「そりゃあ俺が催眠をかけたからな」

 

「催眠?お前が得た技能か?」

 

「そうだよ。俺も突然メールが来た。

それで設定したときに選んだ技能が催眠と変装能力だったわけ。

それでこうやって劉備を操って俺の女にしたって訳。

ホントは関羽や趙雲にもかけたんだけどな。

精神的に強かったのか、かからなかった」

 

「すぐに催眠を解け」

 

「無理」

 

「は?かけたんだろう。なら解けるだろう?」

 

「解くことが出来ないんだって。解くには俺が死ぬしかないな」

 

無責任なこいつの存在が腹が立った。

最初は同協という事で助けることも考えたがやめた。

 

「最後に答えろ。お前以外に転移者はいるのか?」

 

「ああ、いた。俺が知る限り三人。呉の大橋、小橋姉妹。

魏の蔡文姫。それが俺の知ってる転移者だ。殺したがな」

 

「俺は呉で練師、益州で鮑三娘という転移者に会ってる。勿論殺したが」

 

「なら俺で最後だな。俺が知る限りこの世界に飛んできた転移者は北郷を除いて七人。

この戦いはお前の勝ちだ」

 

「そうだな」

 

それはある日急に頭の中に流れてきた言葉。

七人の転移者を討ち取り勝者になれ。

さすればこの世界をやるという。

まるっきり信じてなかったが。

まさか事実だったとはな。

 

「さぁ、ささっと終わらせようぜ」

 

「ああ。さらばだ于吉」

 

首を斬り飛ばした。

 

「終わったな。そして始まる」

 

 

 

 

 

 

 

外に出て北郷の死を宣言した。

湧き上がる喝采。

俺はどこかむなしかった。

そして俺は本城を下邳から彭城に移した。その軍議場。

 

「なんとではあれは本物の御使いではなかったと?」

 

「ああ。あいつ本人がそう言った」

 

「しかしいつ入れ替わったと?変わったようには思えませんでした」

 

「最初から北郷一刀を名乗って近づいたようだ。

そして劉備玄徳を催眠術の力で操った。

劉備が一刀に会って豹変したのはあいつに催眠術をかけられて

操られていたからだったんだ」

 

「なるほど」

 

「それで劉備は?」

 

「急に倒れて今は部屋で寝かせてるわ」

 

「そうか」

 

「あいつらの事はわかったのです。そのうえでこれからどうするのです?」

 

「ああ北郷の話はどうでもいい。

集まってもらったのはこれからの事だ。

さっき入った情報によれば袁紹が官渡で曹操に負けた。

袁紹軍は壊滅。袁紹、文醜、顔良、田豊は行方不明との事だ」

 

「なら河北四州は曹操の手に渡ったわけね」

 

「そうなるな。そのうえでこちらの動きについてだ」

 

「と言ってもほとんどとれる選択肢は限られている。今のうちの勢力で曹操に勝てるわけない。

それを理解したうえで戦を挑むか。後は逃げるか」

 

「ねねは逃げるに一票なのです。死んでしまっては何も残らないのです」

 

「私も逃げるべきだと思います。生きていれば再起を図る事は出来るはずです」

 

詠の示した選択肢にねねと月は逃亡を選択か。

そのほかの軍師組、武将組も頷いていることからも同意見だな。

 

「よし、俺たちはここからの逃亡をしあに入れて動く。そのうえでどこに逃げるかだが

俺はまず荊州がいいと思う」

 

「理由は何かあるの?」

 

「まず荊州の劉表殿とは個人的に懇意にしていたからな。劉表殿の下で

ある程度体制を整えたのちに益州に入る」

 

「私は益州についてはよくわかりませんが南蛮や羌族がいたはずですが」

 

「朱里の懸念は理解しているつもりだ。だが益州は多くの山々がその侵攻を防いでいる、

天然の要害と言える地だ。それにあそこには懇意にしていた人がいるしな」

 

「その人物って誰の事なの?」

 

「厳顔殿だ。巴群を預かってると聞いているし、そこには黄忠殿もいると聞く」

 

「今更だけど識って結構、顔が広いのね」

 

「それなりに長い時間旅をしていたからな。各州、色々な所を周った」

 

「そうなのね。それで劉璋はどういう人なの?」

 

「一言で言えば無能。周りの文官も無能ではないんだが自身の欲を優先しているからな。

はっきり言えば、腐敗の温情だ。あそこは」

 

「だからこそ、私たちが入りやすいともいえるわけですか」

 

「そういう事だ」

 

この後、全会一致で俺たちは益州に向かうことに決まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話 二重の契り

一刀改め于吉との戦から二か月。

俺は今、呉の拠点、建業に来ている。

今回来たのは正式な同盟締結のためだ。

お互いの領地が落ち着き始めたことで今回の事に至った。

だがこちらとは未だ問題は多い。

徐州全体に治世を行き届かせてその裏で逃亡準備を整えた。

麋竺、麋芳姉妹が仲間になったことで多くの問題が解決できたのは大きかったし

孫乾が仲間入りしたことで情報面での問題も解決した。

しかし戦の後、倒れた劉備は未だ目覚めず、下邳での戦いで捕えた張飛は

未だ説得に応じず牢屋生活のままだ。正直面倒である。

だがこれ以上引き延ばしもできないのでこうして建業に来たわけだ。

謁見の間で孫策殿と会っていた。

 

「よく来てくれたわね、紀霊。歓迎するわ」

 

「いえ、この度はお招きいただきありがとうございます」

 

「早速本題に移りましょうか」

 

「ええ。以前書簡にしたためた通り、私は呉との同盟に反対はしません。

ですが我々は徐州を捨てて益州に移る予定です。それでも同盟を希望されますか?」

 

俺にはこちらを見下ろす女の思惑が読み切れていなかった。

俺達を対曹操との緩衝材に使いたいのか。それとも味方を増やしておきたいのか。

だからこそここで俺たちの今後について漏らした。

その思惑を知るために。

案の定驚いていた。だがそれは思惑がうまくいっていない驚きではなかった。

 

「ええ。私たちがあなた達に臨むのは対曹操における共同戦線。

そしてその後の平和協定よ。あなたたちがどこに移ろうと同盟の話を切る気はないわ」

 

むしろそのほうが都合がいいという考えが読めた。

だがこちらとしてもうまみは大きい。

ただこの場はうなずくだけにする。

 

「それでは細かい事決めましょう」

 

結果、相互不可侵と軍事協力などもろもろの事が決まった。

 

「それで私としてはあなたとは対曹操における共同戦線後も

仲良くしておきたいのよ。具体的に言えば、孫家の家の者を

あなたの妻にと思っているの」

 

「俺も未婚のみですが関係を築いている女性はいるのですが?」

 

そう俺にはいわゆる彼女が二人いる。

それも二人。

まぁ、愛紗と星の事なんだが。

これは俺が建業に向かう前の事だ。

二人して告白してきた。俺は二人の告白を受け入れた。

この時代、一夫多妻は別に珍しくない。

特に武人や上流階級の家、例えば袁家がわかりやすいだろうか。

とにかくそういう家では家の存続のためにとにかく産めよ、増やせよの風潮がある。

また、娯楽の少ないこの時代なら性行為も俺たちの時代よりも感覚的におおらかな所がある。

だからこそというわけじゃないが男性にとっても女性にとっても

異性と付き合う=結婚し子供を作るがセットなのだ。

それは向こうも理解はしてくれるだろう。

受け入れるかどうかは別としてだが。

 

「構わないわ。あなたが何人の女の子と関係を築こうがうちから差し出す子を

ないがしろにしない限り、私から何か言うことはないわ」

 

どうやら受け入れてくれるようだ。孫策はだが。

 

「ただ紀霊も理解していると思うけどあなたにはできるだけ早く

子供を作ってほしいの」

 

「一応理由を聞いておきましょう」

 

「これは政治的な意味がとても大きい婚姻。

そしていずれ紀霊と相手の子との子供をシャオか

いればだけれど私の子供と婚姻を結んで血盟を結びたい。

そう考えているの」

 

「わかりました。そちらがいいのであれば私は否とは言いません」

 

 

「そう、なら紹介するわ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話 孫権 仲謀

注意、最後のほうだけ?微エロ?な構成あり。
恋姫無双のストーリーだけを楽しみたい人は飛ばしてください。
特に問題はないです。


徐州に戻って数週間後。

花嫁が来た。

何と相手は孫権殿だった。

この婚姻をまとめるうえで一番難儀したのは誰を嫁がせるかという事らしい。

まず年齢差は出来る限り近いほうがいいという事で姉妹の中で一番年が近いのは孫策なのだが

一家の当主であり一党の将であり卓越した武人でもある。

その彼女が揚州をようやく統一しこれからという時に身重の身体になることは好ましくない。

そもそも彼女がいなければ孫呉をだれが引っ張っていくという話だ。

また末妹の孫尚香は子供を生むには若すぎる。

それが孫家の言い分で、俺もあえてそれに異を唱える事はしなかった。

そんな消去法のような理由で俺の下に送りこまれてきたのが孫権だった。

現在婚姻の儀も終え、真名も交換し初夜を迎えるわけだがどうも煮え切らないのか、

気まずいのかお互い少し間を開け、背を向けて眠っていた。

 

「それにしてもよく、私たちの提案を受け入れたわね。

私たちは袁術を追い出して今の立場を得たのよ?」

 

「それは別に気にしてませんよ。

玉璽を得たくらいで有頂天になって勝手に皇帝を名乗るような馬鹿。

どうなろうと知った事ではありません」

 

「辛辣ね。後敬語もいらないわ」

 

「悪い。どうも調子が狂う」

 

「今までほかの家の者同士、よく言えば友という関係が

いきなり夫婦だもの。仕方がないわ」

 

「それよりもだ。俺としては聞きたいことがあってな」

 

「何?」

 

「よかったのか。俺で?」

 

「どういうこと?」

 

「そのままの意味だ、本来なら孫策殿の後を継ぐはずだったんだろ?」

 

「一家の娘である以上こういった政略結婚に巻き込まれるのは覚悟の上よ。

でも私は袁術のところにいた時からあなたに好意を持っていたわ。

だから私はあなたと一緒に慣れて幸せよ」

 

「そうか」

 

「それで本当に徐州を捨てるの?来る時に街並みを見たけど

かなり発展しているじゃない。もったいない気もするけど」

 

「ああ、ここは位置が悪すぎる。今、曹操は河北四州に目を向けいるが近い内徐州に目を向ける。

悔しいけど今の俺達にはそれを止める方法はないよ。

なら先んじて渡してしまって民への被害を抑えたいんだ」

 

「わかったわ。なら私もついていく」

 

「いいのか?」

 

「姉様にはあなたが徐州を退いたら一度帰ってくるように言われているけど

私にはそれは出来ないわ。妻として行動を共にする。これが私の覚悟よ。

安心して姉様には私が言う」

 

「わかった。そちらは任せる」

 

「ええ」

 

「とはいえ今は寝よう。それは明日以降だ」

 

「ちょ」

 

俺は寝台の端で寝ている蓮華を引き寄せる。

こういうのは男のほうから動かないといけない気がする。

いや、女子と寝ること自体、俺初めてなんだけどさぁ。

 

「悪いけど今はお前といる時間を感じさせてほしい」

 

少々どころではないはたから見れば気持ち悪すぎると自分でも思ったが、

こうでも言わないと勢いがつかない。

後は勢いに任せる。もうどうにでもなれ。

そうして勢いに任せて蓮華とキスをしてそのまま夜を二人で深く睦あった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話 覚悟

仕事をかたずけていると侍女が駆け込んできた。

 

「紀霊様。劉備殿がお目覚めになりました!」

 

「わかった。それでそんなに慌ててどうした?別に慌てるほどじゃないだろう」

 

「それがこちらと劉備殿の言ってることが嚙み合わないのです」

 

ああ、なるほど。

 

「わかった。とりあえず俺が行こう」

 

劉備が寝ているはずの部屋に向かう。

部屋の前には愛紗や星、朱里、雛里や月たち旧董卓軍の主だった人たちが来ている。

 

「どうした?」

 

「いや、入りづらくてな」

 

「お前にしては珍しいじゃないか。星。まぁいい、俺が入る。

ああそうだ。入る前に言っとく。たとえ真名を呼ばれても今回だけは許してやれ」

 

「どういうことですか?」

 

「とりあえず、言った通りにしてくれ。劉備殿入りますよ」

 

「はい」

 

中から声が聞こえて扉を開けて中に入り、

ベットに座る劉備に視線を合わせるように跪く。

 

「劉備殿」

 

「識さん。私はなぜここで寝ていたんでしょう?ここは白蓮ちゃんの城ですか?黄巾党は?」

 

「落ち着いて聞いてください。ここは徐州の彭城の城です。それと黄巾はすでに討滅されました」

 

「徐州?彭城?なぜ私はそのような所に?私は愛紗ちゃんや鈴々ちゃんや一刀さんと一緒に

桃園で盃を交わしていたはずなんですが」

 

そこから記憶がないのか。厄介なことしてくれたな、于吉。

 

「まずは俺の話を聞いてくれますか?」

 

「はい」

 

俺はこれまでの事を話した。

黄巾党との闘い。

その中で起こった軍内の問題。

反董卓連合での事。

徐州でのこれまでの事

そして劉備殿の身にあった事。

最初からかなり驚いていたが次第にショックを受けたように

顔が青くなっていく。

 

「ははっ、私の知らない間に私、大変なことしてたんだ。

もう何もなくなっちゃった。理想も仲間も信頼も全部」

 

自身の体の状況を心配する前に周りの事を心配するあたり

劉備殿らしいと思う。

隠すこともできたが俺はあえて隠すことをせずにすべて話した。

催眠状態の中で劉備殿は于吉と何度もやっているのだ。

聞いた話だけなので正確な回数はわからないが少なくとも

1日に十回はしていたと言う話もある。それをあの桃園の誓いの日から三か月間だ。

よほど種が薄くない限り確実に妊娠しているだろう。

隠しても時間の問題だし、要は遅いか早いかの違いでしかない。

 

「私、どう償っていけばいいの?」

 

劉備殿にとってはつらいところだろう。理想を掲げ、その理想の元、義勇軍を結成した。

だが自称天の御使いの詐欺師にあっさり騙され催眠を掛けられ道を踏み外した。

それは裏切りと変わらない。

その結果が今だ。催眠を掛けられていたからでは済まされない。

彼女はその結果に打ちのめされ二度と立ち上がれないかもしれない

だがチャンスは誰にでもあっていいと俺は思ってる。

 

「なら共に乱世を終わらせませんか?」

 

「え?」

 

俺は立ち上がった。劉備は顔を上げて俺を見る。

 

「あなたはあなたの理想を信じ、あなたの為に死んだ兵士たちを裏切った。

それは事実だ。もう組織の長には戻れないだろう。

だが俺に、いや俺達にその理想をみんなが笑顔で暮らせる世界を作るという理想を

継がせてほしい。もちろんその理想を完遂するまでに多くの血が流れるだろう。

多くの屍の山を築くだろう。それでもなお完遂することが出来ないかもしれない。

それでもだ。お前らも聞け!俺は今日、この日からこの大陸の王、皇帝を目指す。

腐りきった漢を滅ぼし、曹操を孫策を従え、この国を統一する。

覚悟を決めろ!思考を巡らせろ!覚悟が出来たら俺についてこい。

見せてやる。俺たちの理想を実現した未来をな!」

 

俺の宣言に誰もが黙る。そしてみんなが跪いた。

 

『ハッ!』

 

これでいい。これこそが俺の取るべき道だ。

俺が言った事は矛盾だ。

誰かが幸せになるってことは誰かが不幸になるってことだ。

大半はな。それでもここで俺が虚勢を張ることに意味がある。

あとは、

 

「それでお前はどうする?蓮華」

 

ただ一人、蓮華だけが立っていた。

そりゃそうだ。言ってみれば近い将来、この同盟を俺から破ると

本人から言っているのだから。

この話を蓮華は姉に報告するだろう。

だがそれがどうした。すればいい。

それでこの関係が白紙になっても別にいい。

それだけのものがおれにはあるからな。

 

「なぜ、それを私の前でそれを言ったの?姉様に報告するとは思わなかったの?

それを聞けば姉様が怒って攻めてくると思わなかったの?」

 

「したきゃすればいい。反董卓連合の時のように今度は大陸の全兵力が俺に向くだろう。

まさに出る杭を打つようにな」

 

「死ぬわよ」

 

「構わねぇ。こいつらの命預かって頂点に立とうって言ってんだ。

何を今更自身の命を、力を惜しむ理由がある!?」

 

蓮華は黙って俺を見る。

沈黙がその場を支配する。

 

「わかったわ。私もあなたの理想に手を貸す。その代わり絶対に理想を現実にしなさい」

 

「当然!」

 

その後正式に劉備が加入し張飛が劉備の説得に応じて紀霊軍に入った。

こうして紀霊軍は俺を中心に一つにまとまった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話 曹家徐州攻略

陳留の会議場

 

「河北四州の平定、ご苦労だったわね。霞」

 

「これも任務やしな」

 

「さて徐州の状況はどうなってるの?桂花」

 

「はい。先の戦により劉備軍は壊滅。劉備軍の残存兵力も完全に吸収し紀霊が

徐州を完全に掌握しました。また孫家と同盟を組んだようです」

 

「紀霊ならそれくらい出来て当然だわ。では御使いも軍内に入ったという事かしら?

かなり亀裂があるようだけど」

 

「いえ、御使いは処刑され首級は晒されたと。

街中では圧政を敷いた悪魔を討った英雄と噂されているようです」

 

「そう、あれは紀霊に追いつめられて以降、相当無茶な政治をしていたようだし、

そういううわさが出るのも仕方がないわ。

それで桂花、稟、風はどうするべきだと考えているの?」

 

「私は徐州を攻めて紀霊の力を削ぐべきだと考えます」

 

筆頭軍師である荀彧。真名を桂花は徐州攻略を提示した。

しかしそこに待ったをかける者がいた。

 

「反対です。官渡および河北での闘いを終えたばかりで兵も疲れています。

そんな状態で紀霊さん相手に生半可な今の状態で攻撃すべきではありません。

まずは河北四州の支配を盤石なものとすべきです」

 

「私も稟ちゃんに賛成ですね。紀霊さんの武力と統率力は確かに脅威です。

そして彼はあまり知られていませんが敵に対する容赦のなさは圧倒的です。

焦らずに確実に攻略するべきではないでしょうか?」

 

郭嘉と程昱である。それぞれ真名を稟と風という。

その二人は紀霊と共に旅をしていた経緯から実力をよく知っている。

それゆえに下手な行動を執らずに盤石の態勢を築くべきだと主張した。

 

「危険だからこそ徐州を平定したばかりの今討つべきよ。

あれは放っておいたらどんどん勢力を増していくわ。

弱兵ぞろいだった袁術の軍であの呂布を捕えた実力の持ち主を

自由にすべきではないわ」

 

両極端とも言える提案に曹操は思考を巡らせる。

双方が紀霊を曹操の覇道の障害と認識している。

 

(桂花は障害が力をつける前に潰すべき、

稟と風は万全な体制を整えて攻略すべきか。両方に利があるわね)

 

曹操は決断を下した。

 

「今回は桂花の案で行くわ。皆そのつもりで」

 

『はっ』

 

「稟、風も納得いかないかも仕入れないけどわかってちょうだい」

 

「「わかりました」」

 

曹操は行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曹操が動いたことを早い段階で俺たちはその情報を掴んでいた。

それは美花の成果である。

 

「敵の先鋒は夏侯惇将軍。およそ120000」

 

「120000!」

 

「やれやれ、わずか12000の我らに大盤振る舞いだな」

 

「のんきなことを知ってる場合ではないぞ星」

 

「わかってるよ、愛紗」

 

「敵はどこから攻めてきていますか?」

 

「はい、豫州方面からまっすぐに徐州に向けて進軍しています」

 

「朱里、何か策があるのか?」

 

「はい。ここは私に任せていただけないでしょうか?」

 

「勝てるんだな?」

 

「はい!」

 

朱里が自身を持って勝てると言ったのなら俺はそれを信じるだけだ。

 

「わかった。兵は」

 

「4000ほど」

 

「将は?」

 

「星さんと美花さん、あとは鈴々ちゃんを」

 

「わかった。朱里に任せる」

 

「はい」

 

朱里は翌日には三人と兵士を連れて出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

星率いる4000と夏侯惇率いる曹軍12000は平原でぶつかった。

正面からぶつかった両軍だったが勝敗は見るに明らかで

紀霊軍はすぐに撤退を開始した。

夏侯惇はそれを追撃。そのまま徐州入りを目指して追い回した。

結果補給線が伸び切りついには補給物資を守る李典と

離れてしまった。

さすがにまずいと思った于禁は夏侯惇を止めにかかった。

 

「春蘭様ー。早く行きすぎなの。真桜ちゃんたちと離れちゃってるの。

一度合流した方がいい気がするの」

 

「何を言っている。敵はこちらにおびえながら背を向けて逃げている。

ここで追撃せずしてどうする。追撃!」

 

夏侯惇、真名を春蘭。彼女は于禁の静止を振り切り追撃を再開した。

 

 

 

 

 

 

そんな春蘭の様子を近くの丘の上から朱里は見ていた。

 

「ここまでは策通りです。後は頼みます。星さん、鈴々ちゃん」

 

朱里は護衛の部下と共にその場を後にした。

 

 

 

 

 

日も沈み夜。あれからもなお追撃を掛けた春蘭は両脇から木々が生える一本道で追撃を停止した。

 

「敵も見えなくなったし今日はここまでだな。戻るぞ」

 

その時だった。あたりから火が燃え上がった。

それと同時に矢も浴びせかけられる。

 

「まさか伏兵!」

 

「だから言ったの。追撃しすぎだって」

 

「ええい。火を消せ!」

 

「ダメなの。もう火に囲まれてるの!」

 

「くそ、火を突破するぞ!我につづけー---!」

 

「無茶苦茶なのー----!」

 

春蘭と于禁は命からがら火の囲みを突破し逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、何も知らない李典は全身を続けていた。

 

「もう。春蘭様も紗和もどこまで行ってん」

 

二人の行動にイラつきつつも前進を続けていた。

すると前方で燃える炎が見えた。

 

「火事?いや、まさか火計か。まさか、あそこに春蘭様と紗和が!

あかん!あの燃えようやと二人が危ない。二人助けるで「そうはさせないのだ!」

なんや?」

 

「この一か月牢屋の中で何も出来なくて退屈だったのだ。そのうっぷん晴らしを

させてもらうのだ。行くのだ」

 

「鈴々にばかりいい所を取られるな。全軍突撃ー-!」

 

横合いから鈴々と星率いるの伏兵部隊の強襲を受けた。

慌てて迎え撃とうとする李典。

しかし火矢が放たれ、物資を担いでいた馬に当たり馬が暴れだし、

兵士は馬に踏まれたり蹴られたりして壊乱し収拾が付かなくなってしまった。

 

「もうあかん。全員撤退!陳留に帰るんや!」

 

李典も陳留に逃げ帰った。




どうも秋月です。
いかがでしたか?
今回は史実の博望坡の戦いを超大まかですがオマージュさせてもらいました。
え?全然違うって。いいんです。かなりの自己満足なので。
地形とかはわからんかったからここら辺は適当ですけど。
面白かったら幸いです。
これからもよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話 演説

紀霊軍にとって大勝利に終わった戦いから一夜明けた徐州の彭城。

その本城には大量の物資が運び込まれた。

 

「これはすごいな」

 

「はい。計十万人分の食料です」

 

「でかした、朱里。これで明日にでも出発できる」

 

徐州脱出を宣言して約一か月。紀霊が未だ徐州にとどまっていた最大の理由は

食料の確保に難航していた。

それを朱里が一気に解決してくれたのだ。

 

「さて始めるか。全員を集めてくれ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後全兵士と文官たちが整列して集まった。

目の前の壇上に俺が立ち、その壇上の横に愛紗や星、朱里たち文武のトップ達が

壇上を中心に左右に分かれて立つ。

静かにしゃべる。

 

「もう知ってると思うが曹操がこの徐州を狙っている」

 

兵士たちがざわつきだした。

愛紗が「静まれ!」と叫び、全員が静かになる。

 

「ありがとう、愛紗。さて、敵は強大だ。その数は先日の戦いで12万。

そしてその数倍がその後方で備えている。

曹操軍は強大だ。次の戦いを生き残ってもまた次が来る。

まるでそれはイナゴの群れのように」

 

まさにその通りだ。いきなり襲来して全てを奪っていく。

自分で言ってていい得て妙だなと思った。

 

「そして俺達にはそれに抗うだけの力はない!」

 

今日の戦いを勝利してもそれはその場しのぎでしかない。

物量に物を言わせてせめて来れれればどれだけ奇策を講じても

それは濁流の中に小石を投げ込んで少しの間波紋を起こす程度のものだ。

大局を動かすことは出来ないだろう。

それがなんとなくわかっているのか全員が黙って聞いていた。

 

「俺はここを、この徐州を捨てる。そして益州に向かう。

そこから俺は一からやり直す。

そして俺は曹操に勝つ。勝ってこの国を明るい国に作り替える。

無理を承知でお前たちに俺は命令する。

俺達と共に来いと!俺達と共に掛けろと!命令とは言ったが選ぶのはお前たちだ!

決めろ!今、ここで!」

 

誰もが黙っていた。ダメだったか。仕方ねぇか。

その時だった。

 

「勝利!」

 

『勝利!勝利!勝利!勝利!』

 

一人が叫んだ勝利という言葉。それに倣うように全員が持っていた槍を石附で地面を打つ。

 

「お前ら」

 

「紀霊様!我らはどこまでもついていきます。ご命令ください。付いて来いと、敵を討てと」

 

「そうです。われらはあなただからこそここまでついてきたのです」

 

『そうだ、そうだ』

 

うれしかった。思わず涙が出た。

 

「ありがとう」

 

『うおおおおおおおお』

 

全員が叫んでいたと思う。

しかし全員ではなかった。

 

「納得いかないです!」

 

「そうだ、そうだ!」

 

「俺達は残らせてもらう」

 

そういったのは徐州主出身の兵士たち百人ほどだった。

 

「故郷を捨てる事なんて出来ない。紀霊様がこの地を出るのなら俺はここで去らせてもらう」

 

「わかった。決めるのはお前たちだ」

 

その百人はさっさとその場を去っていった。

俺はこの後彼らを止めて離さなかったことを後悔することになる。

でもこの時はそれを知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話 曹操の徐州攻略

紀霊が演説している頃許昌では

 

「やっと着いたの」

 

「ひどい目にあったで」

 

夏侯惇をはじめ、李典、于禁たちが許昌に帰還した。

その姿は全員がボロボロで夏侯惇や于禁にいたっては服の所々が焦げていた。

夏侯惇はそのまま華琳の前にひざまずいた。

 

「敗北で終わったわね。春蘭」

 

「華琳様の兵をお預かりしておきながらこの失態。

合わせる顔もございませぬ」

 

「報告は聞いたわ。敵に引き付けられて火で囲まれて惨敗したそうね」

 

「はっ。どのような罰でもお受けいたします」

 

「いいわ、勝敗は兵家の常。それを咎めていては優秀な将は育たないわ。

次の戦でその恥をそそぎなさい」

 

「はっ」

 

「今日は部屋で休みなさい」

 

「はっ」

 

夏侯惇はその場を辞した。

 

「十万を超える軍勢なら春蘭が暴走してもどうとでもなると思っていたけど

これは私も紀霊を甘く見ていたのかもしれないわね。

いいわ。この期に徐州を攻略しましょう。

全軍を招集するわ。第一陣は春蘭、秋蘭、香風、。

第二陣は霞、季衣、流琉、柳琳。残りは第三陣に。各隊十万人ずつ動員しなさい。

私が第三陣を指揮を執るわ。準備に取り掛かりなさい」

 

『はっ』

 

全員が動き出す。もともと準備が整っていたようなものなのですぐに準備が整った。

 

「出陣!」

 

『おう!』

 

夏侯惇の合図で第一陣が出陣して徐州に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紀霊は曹操の第一陣が徐州に入ったという報告を美花から聞いていた。

 

「ぎりぎりだったな」

 

「はい」

 

俺たちは今徐州の南、下邳城に来ていた。

あの後賛同者全員とその家族を連れて大移動を開始し、現在は荊州牧劉表の州内通過の許可の

返答待ちだったんだが使者が帰ってこない。

 

「しかし、遅いな」

 

「襄陽まで行って戻ってくるんだもの。時間はかかるわ」

 

焦りを察したのか隣に座る蓮華が落ち着くように言ってくる。

 

「そうだな。少し焦っていたのかもしれない」

 

その時使者が帰ってきた。

 

「遅くなり申し訳ありません」

 

「どうだった?」

 

「はい、劉表様は紀霊様ならばと、通行を許可してくださいました。

さらに一時拠点として新野を貸し出すとも」

 

「そうか。わかった」

 

最悪だ。劉表は俺を取り込みたいんだ。

今の劉表陣営は蔡瑁が取り仕切っていると言っていい。

その蔡瑁だって指揮能力でも武勇でも他陣営の人間と渡り合えるかと言われれば

はっきり言って不可能だ。断言できる。なんだったら袁術や張勲に

いいように操られていたような奴だ。

本来なら黄祖が指揮を執るのだがその黄祖は先の呉との戦で討死している。

次席として黄忠もいたが彼女も敗退の責任を問われて荊州を追放されて

今は益州の厳顔の下に身を寄せている。

江夏水軍は完全に呉に下った。

そんな中で曹操の南方攻略の噂が流れている。

曹操にとって目下最大の敵は呉の孫策だろう。

荊州を手に入れる事で孫策を包囲し追い詰めたいと考えているだろうし、

それは劉表自身も分かっている。

だから俺達を緩衝材にしたいっていうのも分かるが非常に面倒くさい。

しかも荊州は今後継者問題の真っ最中だった。

後継者を劉表の前妻の息子である劉琦か現妻で蔡瑁の姉である蔡夫人の

息子の劉琮でもめているのだ。

しかもどちらの後継者にも問題がある。

劉琦は病弱で劉琮は幼すぎる。

どちらが付いたとしても曹操には太刀打ちできないろう。

そんなもんに関わりたくはない。なんだったらいっそ荊州を乗っ取ってしまおうか。

そう本気で考えていたりする。

 

「とりあえず、荊州の新野に向かう。朱里、雛里、全軍にそのように指示を」

 

「「はい」」

 

二人と入れ替わるように一人の兵士が駆け込んできた。

 

「ご報告します。徐州で戦が起こりました」

 

は?

 

「どういうことだ!いったい誰が動いた?」

 

「はい、それが・・・・」

 

兵士は言いよどむ。まさか

 

「まさか、あいつらか?」

 

「はい。殿の演説の際に徐州残留を表明した者たちです。

さらにそこに同様に徐州残留を決めた太守たちが加わり戦が起こったと」

 

くそっ、あいつらは俺のところから離れる時何かを決意した目をしていたが

そう言う事か。

 

「主戦場は?」

 

「琅邪郡です」

 

「わかった。報告ご苦労だった。下がれ」

 

「はっ」

 

「朱里、雛里」

 

「「はい」」

 

「聞いての通りだ。我々は急ぎ、荊州に向かう。急いで準備を整えさせろ」

 

「「はい」」

 

二人は駆けていく。

俺も準備を整え始める。

 

「なぜですか?なぜ、救援を出さないのですか?」

 

声を上げたのは桃香だった。

優しい彼女からしたらここで見捨てる選択をした俺が理解できないのだろう。

 

「だからこそです」

 

「あなたなら助ける事もできるはずです。それを「そんな事、言われなくても分かっている!」」

 

ああ、状況も相まって相変わらずのお人好しさにイラつく。

 

「彭城で俺の話を聞いてなかったのか⁉曹操軍は強大なんだ。勝てるはずがない。

そんな事彼らも分かっている。そんな彼らがなぜ曹操相手に戦を挑んだと思う!

彼らは俺たちが逃げる時間を稼ぐ為に決まっているだろう!

それを俺たちが戻って何の意味がある?

それはただ彼らの決意と覚悟と死を踏みにじる行為だ。

俺が彼らの覚悟に報いる方法はただ一つ。

生きてこの国を平和にする事だけだ。

決して引き返して彼らを救うために曹操と戦う為じゃない」

 

そうだ。引き返す事は出来ない。

俺はこの国を統一し平和な世にすると決めたんだ。

引き返していいはずがない。

 

「わかったらあなたも準備を」

 

「はい」

 

すまない、桃香。俺の怒りは半ば八つ当たりだ。

彼らを見捨てた罪は俺が一生背負う。

そして彼らに天から見せてやる。

平和で誰もが笑って最低限暮らせる世を。

平等とまではいかないまでも最低限理不尽な差のない世界を。

俺は決意を新たに荊州へ軍を進めた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

荊州占領編
24話 荊州


徐州彭城。

 

曹操率いる本隊が城に入った。

 

「先鋒の任、ご苦労だったわね、春蘭。琅邪郡での戦は聞いたわ。ひどい戦いだったと」

 

「はっ」

 

先鋒集団十万は琅邪郡で自ら足止めの為に残った者たちとぶつかった。

足止め、時間稼ぎの為に多くの者たちが文字通り我が身を惜しまず突っ込んできた。

結果、その全てを殺すことになった。

そして敵の狂気ともいえる行動に兵士が縮み上がってしまい行軍が思うようにいかず、

その結果、それ以降、戦もなく進んだにも関わらず当初の攻略計画よりも

大幅に遅れる結果となってしまった。

 

「それにしても、紀霊という男はよほど脅威ね。

その実力は求心力と魅力は劉備以上ね」

 

「花琳様。このまま、紀霊を追いますか?」

 

「い追わないわ。というより負えないというべきね。桂花、州の状況把握はどうなってるの?」

 

「はい、それが全ての資料が焼却されており、当初、放った間者が調べていた徐州の

内政状況を維持するには今すぐにでも取り掛からなければへたをすれば、

損ないかねないと言わざるを得ない状況です」

 

「そう、わかったわ。全く、紀霊はどうやら悪戯の才能もあるようね。

そういうわけで今は追撃をする余裕はあまりないわ。

春蘭、秋蘭。急いで全ての群に警備網を敷いて。

桂花、稟、風は急いで各郡の内政に関するすべての事を調べ上げて頂戴。

他の者もできる限り双方に協力するように」

 

『はっ』

 

曹操軍は部屋を飛び出し、行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、紀霊たちは荊州の新野に入り

そこから紀霊は愛紗、雛里を連れて襄陽の劉表もとに来ていた。

 

「この度はわれらを迎え入れていただきありがとうございます」

 

「よい、君には袁術の独断行動の件で何度も世話になったからな。これくらい構わんよ

それよりもすまないね。このような寝所に呼んでしまって」

 

「いえ」

 

「紀霊殿、お久しぶりです」

 

「ご夫人も、お元気そうで何よりです」

 

「すまないが二人で話したい。悪いがほかの者は部屋から出ていてくれ」

 

「「「「はっ」」」」

 

夫人を始め、紀霊の部下たちも出ていく。

 

「さて紀霊、今の荊州が抱えている問題なんだがね」

 

紀霊は来たと思った。

ここからどう動かすかだとも。

 

「私は次の荊州の主にはぜひ君にと思っているのだよ」

 

「は?」

 

予想外の発言に紀霊は思わず素っ頓狂な声を上げる。

 

「ご子息がいらっしゃるのでは?」

 

「二人ともそれぞれに問題があるからな。琦は病弱だし、琮は幼すぎる。

はっきり言って今の荊州は蔡家が好き勝手しているような状態。

それは何としても止めたい。協力してはくれんか?」

 

紀霊が黙った。

それを劉表は察したような表情をして、

 

「なに、すぐに返事をよこせとは言わないよ。

しかし私も病床の身。長くは待てないよ」

 

「わかりました。近い内に何らかの返答をいたしましょう。では失礼します」

 

「うむ」

 

部屋を出た紀霊は三人と合流して深夜に戻った。

その帰り道、

 

「なぁ、雛里、愛紗」

 

「はい」

 

「なんでしょう?」

 

「俺、劉表殿から荊州の刺史にと言われたんだがどうするべきだと思う?」

 

「「はい?」」

 

あまりな事に二人は素っ頓狂な声を上げた。

紀霊は自身と同じ反応に思わずクスっと小さく笑ってしまった。

 

「帰って対策練るぞ」

 

「「はい」」

 

三人は新野に帰った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話 北郷一刀

 

紀霊が襄陽に出向いていた頃、入れ替わる形で一人の男が新野に訪れていた。

そしてその男は、

 

「貴様!生きていたのか!」

 

「なんでここにお兄ちゃんがいるのだ!」

 

星と鈴々、その他旧劉備軍の兵士たちが男に槍を向けていた。

 

「え!なんなんですか?どうなってんの?」

 

その男は北郷一刀。本物の天の御使いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も知らない俺は少し市によってから新野城に入り、そのまま執務室に向かう。

そこに蓮華が走ってくる。

 

「識!」

 

「どうした?そんなに慌てて」

 

「生きていたのよ」

 

「生きていた?誰が?」

 

「御使いよ」

 

「はっ、なんでここで御使いが出てくる?」

 

訳が分からなさそうに言葉を返す俺はそこで前に殺したのが

北郷一刀本人ではなく于吉だったことを思い出した。

そしてそれを蓮華に話していなかったことも。

 

「しまった。蓮華には御使いの偽物の件、話してなかったな」

 

「偽物?どういうことなの?」

 

紀霊は事情を説明する。

そしてそのまま地下牢に向かって一刀を解放し、

一刀にも説明をした。

 

「大変申し訳ない。こちらの失態だ」

 

「いや、事情は分かりましたんで頭を上げてください」

 

客間に本人を連れて侍女に新しい服を用意させてそれを持って行き謝る。

聞けば今の一刀の立場は劉州牧の補佐官で

劉表が病に臥せっている現在、実質的な荊州の政治を執り行っているらしい。

そんな人物を地下牢に入れたとあっては俺の首が物理的に飛ぶ。

ここで死ぬ訳にはいかないのだ。

しかし一刀はそれを許してくれたそればかりか。

 

「先ぶれもなしに突然参ったのです。それにそういう事情なのなら仕方ありません」

 

めっちゃいい人だった。

 

「それで今日は如何様なご用件で?」

 

「ええ、現在、河東の塩が大量にこの荊州に流れてきているんです」

 

「どれくらい前からですか?」

 

「反董卓連合が組まれる少し後から、正確には南陽の袁家が滅びた後からです。

最近は鉄製品の質も落ち、ここに来る前に知ったのですが、

都で酒類の製造を禁止する噂も流れています」

 

「なるほど。悪いがここからはこっちの軍師の力も借りたい。呼んでもよろしいか?」

 

「ええ、もちろん」

 

それから朱里と雛里、さらに政治に詳しい月や詠も読んだ。

それから四人を交えて現在の荊州の問題を一刀が話した。

 

「四人はどう思う?俺はこれを曹操の攻撃だととらえているんだが」

 

「どうもこうも曹操の攻撃だよ」

 

「私も詠ちゃんに賛成です。今すぐ取り掛からなければかなりいけない状況です」

 

朱里と雛里もうなずいてる。これは決定だな。

二人の発言についていけてないのか一刀は頭に?が浮かんでいる。仕方ないか。

 

「一度状況を整理しましょう」

 

紙を取り出し筆に炭を付けて図を描きながら説明する。

 

「塩と大量流入と武器系統の質の低下。

さらに都での酒の製造禁止の噂。これは一つの流れが出来ています。

塩を持ってきてそれを襄陽の銭に変え、持ち帰る。

曹操の工作員が鍛冶屋や武器屋を勧誘して集めてさらに酒の製造禁止の噂を流す。

そうすることで荊州の塩業、鉄工業分野に大打撃を与える気なのでしょう」

 

「なるほど腹が立つほどいい手だ」

 

ここまで説明してようやく一刀にも理解が及んだようだ。大丈夫か?補佐官。

 

「河東の塩はかなり簡単に作れます。大量に製造して運び込んだのでしょう」

 

「その目的は戦費、人材の確保と襄陽の戦力削減」

 

「ほんと、頭に来るほどいい策ね」

 

全員が溜息をこぼす。ふと朱里が声を上げた。

 

「ちょっといいですか?一刀殿。なぜここまでわからなかったのですか?」

 

「俺が補佐官に着いてこの荊州を差配し始めたのは丁度紀霊殿が徐州に向かわれた少し前でした。

その頃から流民は南陽と長沙以外はほとんど放置状態でした。

腕のいい職人であろうと保護されず低賃金で重労働が現実です」

 

「自然職人名簿にも載らない。そこを突かれたか」

 

「そんな状態で都でちゃんとした仕事に付かないかと言われればためらいなく襄陽を離れるよね」

 

「俺もうかつでした。その後、劉表様がお倒れになられて急いで

法整備に市中警備と動いていましたが」

 

「裏を突かれたわけね」

 

「ええ、それに蔡瑁もいましたし」

 

「蔡瑁、正確には蔡夫人だな。あの女は妙に頭が切れるからな。

ある意味、現状もっとも厄介な存在だ」

 

「それにここまでになるまで誰も気づかなかったなんてありえない。という事はだ」

 

「ええ、俺も紀霊殿同じ事を考えていましたよ。

荊州内部、それも上層部に少なくとも郡の太守レベルに曹操の内通者がいる」

 

俺と一刀はまた溜息を付いた。

 

「とにかく対策を考えましょう」

 

「ええ。やられっぱなしは気に食わない」

 

六人で知恵を振り絞る。

それから対策は建てられた。

 

「とりあえず職人の方は戸籍の再調査をするしかない」

 

「ですね。問題は塩と銭の方です」

 

「河東の塩を買取禁止にするのはどうでしょう?」

 

「それは逆効果だよ。雛里」

 

雛里の案を詠が否定する。それに月が補足を入れた。

 

「敵の最大の目的は銅銭です。北は袁紹さんと公孫瓚さんの戦を始まりにして戦乱続きです。

ここ数ヶ月まともな銭が生産出来てないという話もあります。

貨幣不足を補うためにここ襄陽で塩を売り貨幣を得ています。

もし襄陽で禁止にしてしまえば問題が徐州全体に広がりかねません」

 

「なら各郡や州の役所で買い取るのはどうでしょう?」

 

「可能ですが危険でもありますね。

そうしたことは各長官の承認で可能ですが、彼らは都の命令で着任した者ばかりだ。

内通者がどこにいるのかわからない今、彼らを信用するのは危険です」

 

「それはそうか」

 

俺の意見も一刀に否定された。

なかなか難しいものだ。

お、そうだ。

 

「なら値段を書いた割り符を作るか」

 

「割り符ですか?」

 

「ああ、襄陽の市場で銅銭の代わりに割り符を使えるようにすれば、

商いを続けつつ銅銭の流出は抑えられる。

さらに金額が高額な時、商品が贅沢品に限るとすれば

商人は楽になるし贅沢品が売れて襄陽は潤う」

 

「「「「「!」」」」」

 

「問題は北にそれを買ってくれる人がいるかだな」

 

「売れるよ。贅沢品は戦の恩賞にもなるし市場に出れば金持ちは買う。

北で銅銭が不足していると言ってもある所にはあるんだよ」

 

「それに利点はまだあります。ただ単に商売をしに来た商人なのか

それとも曹操の息のかかった商人なのか見分けられます。

更に表向きはこの襄陽を発展させるための仕組みですと言えます。

そこでさらに内通者を見分ける事も可能です」

 

「なら、それで行きましょう。ありがとうございました、紀霊殿。

おかげで助かりました」

 

そう言って一刀は帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀は一人襄陽に帰った夜、一つの部屋に向かった。

 

「失礼します」

 

「入れ」

 

入室の許可を貰い部屋に入る。

 

「ご命令により新野に行ってまいりました」

 

「ご苦労様。それでどうだった?一刀」

 

「はい、詳細はここに」

 

「あなたの評価は?」

 

「劉表様の目は確かなものでしたとしか」

 

「そう、なら任せてしまいましょうか」

 

「はい、劉琦様」

 

「ふふっ」

 

夜は更けていく

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話 荊州占領緒戦

ひっさしぶりの投稿です。
よろしくお願いします。


新野を治め初めて一か月が過ぎた。

 

「どうもうまくいってないな」

 

美花が送り込んだ間者の報告を読みながら同じように報告書を見ている紀霊は

朱里と雛里につぶやく。現在、一刀を中心に先日決めた事を行っているようだが

どうもうまくいっていない。

 

「蔡瑁か、蒯越か。あるいは両方か。とにかくこの状況は良くないな」

 

「はい、これは恐らく」

 

「ああ、内応の約束が取り付けられている。それも中枢の奥深くまで」

 

「戦ですか?」

 

雛里はおどおどしながら紀霊に聞いてきた。

 

「少なくとも一刀はそう言ってきている。一度荊州の治世を洗濯したいと」

 

「洗濯ですか」

 

「ああ。だが甘いな。俺ならそうはしない。俺ならこのまま破壊する。

破壊の後に創造ありだ」

 

「そこまでしなければいけませんか?」

 

「朱里は反対か?俺の予想が正しければ蔡瑁は曹操を恐れている。

それに劉表の命も風前の灯火だ。恐らく年は越せない。

そこで劉表の後釜にまだ幼い自分の甥でもある劉琮を付けてその後見人になる気だろう。

そのうえで後々曹操が南勢を始めれば降伏してより良い地位に着く。俺達を手土産にな。

ま、曹操は河北四州の制圧に徐州の掌握と忙しい。

いくら軍師が有能つっても全てが片付くのは早くて12月、つまりは年内は無理だ。

今は十月。こちらももたもたしていると雪で戦どころじゃなくなる。

すぐに戦準備を始めろ。それと俺達を監視している蔡瑁の手の者を片付けろ」

 

「「はい」」

 

二人は出ていく。

紀霊は手紙を書き、美花に託す。

 

「これを一刀に。他の者には決して気取られるな」

 

「はい」

 

美花は部屋を出ていく。

もう一通の手紙を書くとそれを蓮華に渡す。

 

「これを孫策殿に頼んでいいか?」

 

「ええ、でも私でいいの?」

 

「本来はダメだろうな。だが孫策殿が話を断った場合、

説得できるのはお前しかいないだろうしな」

 

「そのまま帰ってこないかもしれないわ。それにあの話の事も」

 

「もしその気があるならこの場では話さないだろうな。

それに密告する気ならわざわざ徐州からここまでついてこない。

それに俺は自分の妻は夫を裏切るような女じゃないと信じてる」

 

「もう」

 

蓮華は顔を赤くして紀霊を見る。

紀霊はこういう事を素で言える。

 

(人誑しの才能って本当に恐ろしいわね)

「わかったわ。姉様には必ず話を飲ませる」

 

「頼む」

 

蓮華は部屋を出て翌朝には護衛と共に出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

襄陽の一室。

美花はそのまま新野を出て一刀の部屋に来ていた。

一刀は紀霊からの手紙を見て少し考えて答えを出した。

 

「話は分かった。でもこれは僕一人で話を決める事は出来ない。そうですよね劉琦様」

 

すると部屋の襖から一人の女性が出てきた。

美花は焦った。

下手をすれば裏切られたかもしれないと。

手紙を受け取った劉琦は内容を目を通す。

 

「なるほど話は分かりました。なら我らは沈黙を貫きましょう。

それと孫乾と言ったか。これを紀霊殿に渡してほしい」

 

そう言って劉琦はある手紙を美花に手渡した。

 

「それは父から紀霊殿に荊州を任せるという内容の手紙。必ず紀霊殿に渡しなさい」

 

「わかりました。では失礼いたします」

 

美花はすぐに部屋を出て新野に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呉、建業。

蓮華は謁見の間で孫策に紀霊からの手紙を渡した。

内容は今回の戦への不干渉。

その代わりに呉が交州を攻める際は援軍を出すという物だった。

 

「使われたわね。蓮華」

 

「はい」

 

「いつから紀霊に入れ込むようになったのかしら?」

 

「それは」

 

「夫婦だもの。それが正しいのかもしれない。

でもあなたはあくまで呉の人間である事を忘れてはいけないわ」

 

「はい」

 

「まぁいいわ。内容はわかったわ。今日中には返事を書くから

貴方はそのまま紀霊の妻として彼の傍にいなさい。

そして彼の動向を報告するように」

 

「はい」(姉様、ごめんなさい。それでも私は識に掛けているのです)

 

蓮華は謁見の間を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

自室で孫策は紀霊への返事を書いていた。

そこに

 

「雪蓮」

 

「何?冥琳」

 

「蓮華様の事」

 

「わかってるわ。蓮華は完全に紀霊の味方になってる。

勿論、紀霊だって私と同じような事を考えているに違いない。

それでも蓮華は紀霊の味方に付く。それは仕方がない事よ」

 

「ならこのまま、蓮華様を捕える事も出来たのではないのか?」

 

「それでどうするの?紀霊への交渉に使う?

無駄よ。紀霊は交渉の席にすらつかない。

平気で蓮華を見捨てるわ。そして蓮華もそれは理解している。

足枷にはならないと言って自分の命を絶つかもしれないわね」

 

「そうか、それほどのものか」

 

「ええ、そうよ。あの子は変わった。変えたのはあの子を紀霊の下に私よ。

紀霊と接する間に蓮華は変わらざるを得なくなった。

これは私の負けね」

 

孫策は本気で紀霊と仲良くしていたかった。

それは紀霊も同じだったが紀霊はその裏で色々と考えを巡らせていた。

それに孫策は一切気づいていなかった。

だから妹を紀霊の下に送り込みうまく運んで自身の盟友として共に

泰平をと考えていた。

知らず知らずのうちに孫策も紀霊に取り込まれていたのだ。

それも孫策自身も気付かないうちに。

 

「本当に化物ね」

 

「そうだな」

 

孫策と周瑜は自重するように笑った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27話 荊州平定とその裏

紀霊による荊州攻略が始まった。

指揮を務めるのは紀霊本人とその軍師として雛里が同行していた。

そして星、愛紗とその配下の兵士達計五千ほど。

対する荊州軍は蔡瑁、蒯越率いる本軍一万。

数の上では負けていた。

だが雛里が考案した策によって襄陽近くで行われた戦いはわずか一刻で決着がついた。

荊州軍一万は壊滅。

蔡瑁は逃亡、蒯越は星よって討ち取られた。

紀霊はその勢いで南下を進める。

だがただ南下するのではなく

荊州が置かれている状況を流布し、住民に危機感を煽りながら南下を始めた。

住民たちはその噂を真に受けて恐怖し、その責任を蔡家に問いただした。

結果、蔡家は住民からの信頼を失い、逆に紀霊たちは住民から受け入れられた。

そして紀霊は襄陽城に入城。

その政治を取った。

まず、曹操に内応していた者たちを全て処刑、または牢獄に送られた。

その中には蔡瑁の姉、蔡夫人も入っており、彼女も他の者同様、打ち首となった。

そして肝心の劉琮に関してだが当初はその責任を問われる事となったが

ここで劉琦が止めに入った。

 

「なにとぞ。我が弟の命、御救い下さいませんか?」

 

そう言って劉琦は劉琮の前で膝を付き助命嘆願を行った。

 

「我ら、姉弟は政治の世界から退きます。

例えこの先、何があろうと政治には関わりません。ですのでどうか」

 

「いいだろう。ただし、二人には我らの目の届く場所で生活していただく。

それとこれに署名を」

 

「はい」

 

差し出された紙には今後いかなる場合においても決して政治、軍事に一切関わらない事が

明記されていた。またこれを破った場合、命を差し出すとも。

劉琦は迷うことなくこれに署名した。

実をいうとここまでの流れはあらかじめ紀霊と劉琦の間で決めていた事だった。

例えどの様な結果になろうともその命がある限り、曹操に狙われて利用されるのは明白だった。

主に大義名分として。だからと言って死ぬ訳にはいかない。

そこで二人は一芝居うつ事となった。

劉琮の命を危険にさらし、それを劉琦が助命嘆願する事で

政治、または軍事に関わらない事を盟約化させたのだ。

これでたとえ、曹操が劉琦と劉琮を使って荊州を攻めようとしても

自ら退いたという事でその大義名分は失われる。

勿論、中央の権力を持つ曹操ならいくらでも大義名分を得る事が出来るがそれはそれだ。

可能性を一つ潰せた。これが紀霊たちにとっては大きかった。

そして助命された二人は黄承彦という荊州の大豪族の男の下で生きていく事になる。

この黄承彦は劉琮にとっては伯父にあたる人物だった。

そして荒れていく荊州に危機感を感じる一人でもあった。

勿論義理とはいえ妹を殺した紀霊に思うところはあった。

だがその思いは妹が行っていた所業と朱里の説得によって霧散した。

元々朱里は徐州出身だったがある事情から住む場所と両親を失い、荊州に流れてきた。

そしてある理由から朱里を気に入り、彼女に住む場所を与えたのがこの黄承彦である。

偶々彼にも朱里と歳の近い娘がおり、共に水鏡塾に通わせた。

それが今の朱里の下地となった。

その事もあり戦を雛里に任せて朱里は一人、黄承彦の下に向かい、彼を説得して見せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徐州平定を急ぐ曹操も紀霊が荊州を手に入れた事を知った。

 

「そう、荊州は紀霊の手に落ちたのね」

 

「はっ」

 

目の前の郭嘉の報告を聞いて曹操は一人納得していた。

 

「また出てきたわね。紀霊」

 

曹操としては今すぐ、攻めて、紀霊が地盤を構築する前に潰したかった。

だがそうはいかない事情があった。

徐州の平定にはあとひと月はかかると報告が来ており、

そして冀州の袁家討滅も終わっていない。

河北四州の内三州を平定したが未だ冀州の平定がうまくいっていない。

袁家の生き残りが幽州を奪還。

さらにアルタイ語系遊牧民族である鳥丸族が加わり今もそこで粘っているのだ。

更に行方をくらましていた袁紹が指揮に復帰。

それによって袁家は勢いを取り戻した。

彼女も決して無能ではなかったという事だ。

現在、夏侯姉妹、張遼を中心に攻略を進めているが

年内は難しいという報告も受けていた。

 

「しばらくは無理ね。これ以上、戦線は増やせないわ」

 

「申し訳ありません」

 

郭嘉は曹操に謝罪する。

計画が完全に振出しに戻るどころか、完全につぶされてしまったのだから。

それも盤面事ひっくり返すような形で。

 

「仕方がないわ。それよりも今の内から涼州の攻略案をまとめておきなさい。

それと青州を完全に平定するわ」

 

「「「はっ」」」

 

曹操は再び思考の海に自身を沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紀霊が荊州を攻略したという話は益州にいるこの人物にも話が入っていた。

 

「紫苑、荊州が紀霊の小僧が手に入れたそうだ」

 

「桔梗。それは本当なの?」

 

厳顔、真名を桔梗という女性が一人の女性に声をかけた。

彼女は黄忠。字を漢升。真名は紫苑である。

彼女はかつて、荊州の将だった。

だが今は呉による荊州攻略の際に、黄祖を失い、劉表に責任を問われて荊州から追放され

現在、友人である桔梗の下で厄介になっている。

桔梗は先ほど間諜が手に入れた情報を紫苑に聞かせていた。

 

「それで劉表様は?」

 

「それはわからん。だがその妻は打ち首となったようだ。

どうやら曹操とつながっていたようだな」

 

「州牧の妻が敵対者とつながるなんて」

 

「それもあり得んと言えないのが今の世よ。

だが子供たちは助命され黄承彦殿の家に転がり込んだようだな」

 

「そう」

 

「それでどうするつもりだ?」

 

「どうするとは?」

 

「今なら、荊州にも帰れるだろう。帰るのなら手助けはするぞ」

 

「無理だわ。荊州から来た時も思ったけど今の璃々には山越えは厳しすぎるわ」

 

「そうか。璃々嬢には厳しかったか」

 

「ええ、本人は荊州に戻りたいと思っているでしょうけど」

 

「住み慣れた故郷に戻りたいと思うのは当然の事じゃ。儂として返してあげたいが」

 

「わかってるわ。劉璋様の取り巻きを見張らないといけないものね」

 

「すまんな。また成都で良からぬ動きがあるというから行ってくる」

 

「あまり無茶をし過ぎ内で」

 

「わかっておる」

 

桔梗はそのまま部屋を出て行った。

紫苑はそれを静かにそれを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話 語り

荊州占領の後、劉表殿が亡くなった。

俺に「後は頼む」と言葉を残して。

荊州の体制作りは急ピッチで進める。

戸籍の再調査に生産量の算出、物流の管理。

更に今も残っているかもしれない曹操の手の者たちの排除。

やることは山ほどある。

それに一か月ほどを要した。

使える人材は、隠居や政治から離れた人間だろうとを一時的に呼び戻してフルで使い、

とにかく年内に全てを終わらせる事を目標に据えて行動し、

そしてかねてから考えていた作戦を実行した。

これによって黒だった太守たちは軒並み裁かれた。

そして新ためて俺や軍師たちの人選で俺をトップに据えた中央集権体制が確立された。

いずれこれを広げる事を視野に入れつつ稼働していくつもりだ。

 

「いやー。マジで疲れた」

 

年末も差し迫る中、一段落ついて久々の酒に口をつける。

 

「お疲れ様です」

 

「おう、一刀もどうだ」

 

俺は一刀にお猪口を差し出す。

 

「ありがとう」

 

一刀はそう言ってお猪口を受け取り注がれた酒を一気に飲み干した。

 

「いい飲みっぷりじゃないか」

 

「補佐をしていたら飲む機会はいっぱいあったからね。

紫苑さんや黄祖さんとも何度か飲んだし」

 

「そうか」

 

黄祖殿や黄忠殿にはぜひ荊州でその力を発揮してほしかった。

尤も黄祖殿は孫策に討たれて、黄忠殿は益州だ。

無い物ねだりしても仕方がない。

 

「それより桃香さんの事」

 

「ああ、聞いた。やっぱデキてたらしいな」

 

これは先日の事だ。仕事中にわけもなくイライラしていたり、

食欲がなくなったりめまいやふらつきがあると報告があった。

まさかと思い、医者が検診してみるとやはり出来ていた。

医大生なのにお前が検診しないのかって?

俺がやるとその知識をどこでって言われるだろう。

話がそれた。

この時代に中絶は難しく下手すれば命に係わる。

そこで桃香は産むことを決めた。

いくら父親に騙されたとはいえ、子供に罪はないのだから。

最悪、その手の施設を建設予定だからそこに預ければいいと考えている。

俺達に子供は無理だ。国で精一杯だからな。

 

「俺も協力するつもりです」

 

「何で?というのもおかしいかもしれないが何でお前が責任感じてんだ?」

 

一刀は責任を感じているような顔をしていた。

俺にはそれがわからなかった。

 

「だって俺が衣服を奪われなきゃ彼女だって「あほか」いてっ」

 

俺は軽くチョップを食らわせた。

 

「お前が衣服を盗まれなくてもあいつは劉備に近づいていただろうよ。

どうも劉備を好いていたようだからな。まぁ、普通に言えばいいのに

己の力に振り回された結果、収拾突かなくなっただけだ」

 

「でも」

 

面倒になってきたな。

 

「そんなの責任感じるならもういっそ妻にしてしまえばいい。

お前も男なら嫁の一人いても問題ないはずだ」

 

「それは」

 

どうも煮え切らないような態度の一刀。

 

「お前、変に似てるよな。あいつと」

 

「そうですか?」

 

「ああ、優柔不断なとことかそっくりだよ」

 

「うっ」

 

「しっかりしろよ。男だろう。俺なんか既に三人だぞ」

 

「すごいですね。孫権に関羽に趙雲」

 

「まぁな。ほとんど成り行きだがな。それでもそうしないと生きていけなかったのは事実だし、

後悔自体はしてない。」

 

孫家と同盟を組まないと下手すれば徐州軍と呉軍から挟撃を受けていたかもしれないし、

うま味は大きかった。一時は危なかったがこれで対等に戻れただろう。

 

「あとは益州だな」

 

「どう落とすつもりなんですか?」

 

「益州は荊州以上にガタガタだからな。まともなのが厳顔とその周辺しかいない。

ガタつかせるのは簡単だ。問題は」

 

「南蛮と羌族ですね」

 

「羌族に関しては恋も動員してでも叩き潰す。

噂だがかなり派手に荒らしているようだからな。

だが南蛮はわからん。どうも情報があいまいでな」

 

「そこは現地を見てからという事ですか」

 

「ま、そう言う事だ」

 

「そう言えばなんですが」

 

「ん?どうした?」

 

「黄巾の時、どうしてたんですか?」

 

「ああ、そうだな」

 

そこから俺は語った。黄巾の乱での事を。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。