キューティ☆バーニィのプロレス実況!(※にわか) (ウェットルver.2)
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KAWAIIは正義? キューティ☆バーニィ!

 1975年2月某日

 アメリカ合衆国南部 フロリダ州 ビューティフル・ローデス宅

 

 

 日々のトレーニング、美容を終え、バスローブ姿でソファーに座る女傑がいる。

 ビューティフル・ローデス。この時代におけるアメリカ南部のアイドル超人であり、超人評議会チャンピオンでもある。

 

 アメリカの超人プロレスラーと言えば「テリーマン」や「ジェロニモ」を思い浮かべるものもいるだろうが、それはあくまで1980年代の話。

 特にアメリカ南部に限れば、代表的な超人プロレスラーは彼女ビューティフル・ローデスであった、と口にしても過言ではない。「キン肉マン」ことキン肉スグル………に相当する女子プロレスラー「キン肉マンレディー」が台頭する頃には、ファイト・スタイルの変更によりウェイトを増やしすぎて肥満体に、キン肉マンの世界での「ビューティ・ローデス」よりも巨漢な女性になってしまったが。

 さらに言うと、ダイエット法をまとめたビデオを撮影していた頃よりも、その口調は(ストレスによるものか)荒々しくなってしまっているが。

 

 この時代においては未だ、ビューティフルの二つ名に恥じない美女であり、プロレスラーとしての仕事もCMやドラマ出演を含め、非常に多岐にわたる女傑であった。

 

 であれば当然、金銭的余裕もあり、(当時にしては最新の)無線型のテレビリモコン対応テレビを国外から購入するだけの資金もある。そんな彼女がニュース番組を視聴している最中、色鮮やかな画面の向こう側に映ったものは、

 

『決まったあ~っ!

 ザ・テリーマンガールの代名詞“テキサスコンドルキック”!

 華麗なるビューティフル・ローデス、そのブロンド・ヘアーを花のように散らしながら眠りにつく! さながら白雪姫かぁ~っ!?』

 

 自分の負ける姿だった。

 チャンネルを変え、別の番組に目を向ける。

 さすが世界初の無線テレビリモコン、日本製の“ズバコン”*1だ。チャンネル調整は難しいが、のんびりソファーに座りながらテレビを見るのには困らない。

 赤いキノコじみたフォルムも実にキュート。そう気を紛らわしながら、ビューティフル・ローデスは次のチャンネルへの調整を終える。

 

『本日フロリダ州の予選大会にて、ザ・テリーマンガールがビューティフル・ローデスに勝利いたしました。「第19()回超人オリンピック」通称“ビックファイト”にむけて快進撃を続けるテリーマンガール、南部代表への歩みを進め、若手正義超人としての活発な笑みを―――』

 

 チャンネルを変えて、CMが流れる。

 

『え、ミーみたいなスーパーガールになりたいだって?

 そんなユーにはイッツ、「テキサス☆サンオイル」!

 これからの夏に肌へ優しく、ギークガールも太陽に負けないタフネスが手に入るぜ!』

 

 砂浜で悪行超人役らしき覆面のアシスタントを投げ飛ばし、豪快に頭からサンオイルを被る、ショート・ブロンドのテキサス・ブロンコ。

 

『こいつでユーも、セカンドシーズンから! ナイス・ガールだ! HAHA!

 ………いや今二月だろ、冬だろ、いくらなんでも早くねーか!? え、肌焼くのを今からするやつもいる? そうなの?』

 

 ああ、なんて晴れやかな笑顔なのだろう。

 ブラウン管テレビにむかって、キュートなリモコンを………投げない。

 わかっている。わかっていたのだ。

 あの爽快な笑みこそが、私の苛立ち、怒りの答えだと。

 世間が求めている美は、このビューティフル・ローデスの美しさではない。

 ケアの行き届いたヘアーやスキン。スリーサイズ、バストサイズ、体重などという数値だけを見ている可愛いボーイや初心なガールではたどりつけない、バランスだの曲線だのと言語化できる単語ひとつでは説明などしきれない、究極に等しい女性美。

 

 それこそが、ビューティフル・ローデス。

 

 美しさとは芸術品であり、自己表現であり、人生の結晶を意味しているのであれば。

 超人プロレスラーとしてのスランプはともかく、たったひとりの女としてのスランプだけは誤魔化せなかった。自分という芸術家、自分の肉体美という芸術品、戦闘スタイル、試合運びのすべてが、あんな美意識のいいかげんな小娘と比較されていることが。

 CMひとつを取ってもそうだ。

 かつてはビューティフル・ローデスの美しさを宣伝効果として求めた大企業ら、その半数以上が「活発で」「やんちゃで」「田舎娘じみた」テリーマンガールばかりを呼び、今となっては美容品のCMぐらいにしか自分が求められることはない。

 

 最初は、本当に最初の頃は。

 ジャパニーズのアートで見た、ドラゴンとタイガーの睨みあいのような対等のライバルとして、自分とは方向性のちがう女超人として認めることができていた。

 自分の象徴が「おしとやかで」「お茶目で」「だれよりも美しい」ことであるとするならば、女の美意識からの正面衝突など生まれるわけもなく、ライバルはライバルでも、純粋に超人プロレスラーとしての側面でしか競い合うことはなかったのだ。

 今になってみれば、これはどういうことだ。

 同じ会社のスポーツカーのCMでも、自分は都市部を優雅に走らせ、紳士にエスコートされる淑女として演じたが、それもほんの数か月の間だけ。

 テリーマンガールの場合は緑豊かな牧場の道を、荒野の中を、まるでカウガールが馬を乗りこなすかのように荒々しく走り回り、ドリフトさせ、次の新車ではレジャー感覚で釣り道具を車に運び込み、そのまた次の新車では………自分と大差のないシチュエーションで紳士を軽くあしらいながら、なぜかディスコに足を運ぶ始末!

 

 やんちゃは、やんちゃでも。

 “そういうやんちゃ”ではなかったでしょう、あなたは!?

 

 あわせて三か月?

 いや、六か月ほど(ワンシーズン)*2もCMを独占しているではないか!

 

「どういうことなのよ、これはっ……!」

 

 CMの出演料、契約の数を含めても、仕事をひとつ、またひとつとテリーマンガールに奪われていく実感が九月*3から、着実に自分の美意識を揺るがしている。

 昨日の試合だってそうだ。とどめのテキサスコンドルキックで様式美のように倒され、女超人として必要とされない自分を、超人プロレスラーとしても叩き伏せていく。

 超人オリンピックは望まぬわけではないが、あのテリーマンガールが己の実績を奪いながらアメリカ南部代表の座まで得る気なのだろうかと思うと、その座に興味は薄かったはずの自分が邪魔をしてやろうと、よりにもよって僻みを抱えてしまう。

 朝に起きて、鏡を見つめれば見つめるほど、嫌でもわかる心の歪み。見麗しさとは噛みあわない眉根の谷間が、くしゃりと潰されていく矜持を思わせて、なおのこと僻みに歯止めが利かなくなる。自分のマスクに、美しさとは程遠いものが刻まれてしまう。

 

 これまで積み上げてきたものが、磨きあげてきた美しさが、すべては大衆の玩具にすぎず、見世物にしかされず、いずれ忘れ去られるのではないか?

 

 そう焦れば焦るほど、確かに感じ取っていたはずの幸せが無意味に感じてくる。

 テレビの黒い画面に映る『私』から、ダイヤモンドのような輝きを失わせる。あれだけ熱心に、情熱的に守り続け、より高みを目指して辿り着いた理想の自分が、まるでサンドアートのように消えていく。

 

 微笑みのない表情も相まって、もはや捨てられたマネキンにしか思えない。

 いや、これでは、ただ見栄えがよいだけの「どこにでもいる女」のようではないか。

 

 ひとびとが求める芸術品とは、テリーマンガールのような勝者でしかないのか。

 己の美を崩してでも、超人プロレスラーとして勝利しなければ意味などないのか?

 

 結局は。

 美しさなど関係なく。

 試合での勝利こそが、私を売る、最大のセールスポイント………なの、か?

 

「いえ、いやよ、そんなの私が許せないわ。

 しっかりしなさいビューティフル・ローデス、ああでも、あのテリーマンガールさえどうにかできれば、返り咲くことも夢ではなくて……だから、いえ、ダメよっ………!」

 

 せめて、料理番組でも見ようか。

 なにか美味しいものでも食べて、気分を紛らわそう。

 どこかでディナーを楽しむのもいいかもしれない。そんなバラエティー番組でも見れば、ちょっとは気がまぎれるはずだ。

 

 そう思い、改めてリモコンの電源ボタンを押して。

 

 

 

『こっ……これだあっ!!

 そうです、ビューティフル・ローデスは美しいんですっ!』

 

 

 

 聞いたこともない実況者の声が、ブラウン管から、

 

「えっ?」

『たとえ敗れるとしても、その優雅さは変わらないっ!

 見ましたか? ジャパニーズ・ジュードーで言うところの“受け身”です!

 テリーマンガールの………ええと、なんかヒザが痛そうな必殺技を受けてなお、「ばたーん!」なんて斃れ方はしない、やらないんですっ!』

『名前、“テキサスコンドルキック”ですねー』

 

 鳴り響いて、きた。

 

『ビューティフル・ローデス、羽根をもがれた白鳥か?

 いいやちがう、足を折られてもなお羽ばたこうとする白鳥だ!

 コンドルの一撃を受けてなお、白い翼を広げ、ようと、両手を動かして立ちあがろうとしてっ………ああっ、ダメだ、K.O.! だがしかし! その名に恥じない勇姿をもってして、リングという名の舞台に花を飾る!

 「ちくしょう(ファッキン)持っていけテリーマンガール!」

 そんな超人レスラーの魂の叫びすらださずに、花を手向けるように倒れました!

 もはや舞踏会の貴婦人! 素晴らしいです!!!』

『これでテリーマンガール、超人オリンピックに一歩近づきましたー。

 やー、やはり美しさだけでは勝てませんねー?』

『いいえ、いいえ! 彼女は勝利しましたよ?』

『ホワイ?』

 

 ふと新聞紙を広げて、番組名を確認する。

 

「………()()()()()。【キューティ☆バーニィのプロレス実況】?」

 

 

『これほどの戦いの最中で己を貫くほど、簡単にできないことはないんです。

 ジャパニーズのコメディアンを御存知ですか? 彼らはどれほどの恥辱を受けたとしても、観衆の笑顔を守るためには胸を張って立ちあがるのです。

 それとビューティフル・ローデスを一緒にするのは違う? いいえ、敗北という恐怖が死神のように近づいてきてもなお、己の美を最後まで誇れる女がどこにいますか?

 

 ここにいます(ショー・マスト・ゴー・オン)

 

 おおっほぉう!? テリーマンガール、それを察してのことでしょうか?

 勝者としての笑みを絶やさず、痣の目立つビューティフル・ローデスをカメラの死角に隠せるような位置と角度で立ち塞がり、さながら淑女を守るガンマンのように「銃を撃つ」ジェスチャーを決めております!

 かっこいいよアンタ!

 私目線では最高の試合でした! やっべエッッッモ』

 

『おー。同じ南部出身のライバル超人へのリスペクトでしょうかー?

 なるほどこれは名勝負です、消化試合なんかではありませんねー。

 ………いやマジですみませんでした、そりゃ~人気だわローデス……』

 

 なんだこれは。

 実況と呼ぶには勝者贔屓がなさすぎる実況者が、声色のキュートさをかなぐり捨てるかのような暑苦しいマシンガン・トークで、たぶんそこまでテリー考えていないような……いや考えているのかも?? と思わせるような……解釈を肉付けしていく。

 そんな少年に淡々と話しかける解説役も、こちらの耳が痛くなるような内容を呟きながらも相槌を打ち、少年の暑苦しいハートを冷まさず、あげくビューティフル・ローデスの人気を認めるような言動すらしている。解説どこいった?

 

『勝っても負けても「美しさを貫く」ビューティフル・ローデス。

 彼女の信念を揺るがすほどの強さには至らず。テキサスの暴れ馬、額の汗をぬぐいながらマイクパフォーマンスを終え、歓声を集めながら去っていきます。

 「試合に勝って勝負に負ける」、そんな言葉もあるのだと噂で聞きますが、真にビューティフル・ローデスを倒すにはテリーマンガール、まだまだレッスンが必要でしょう。彼女の今後のレッスンの成果に期待が高まりますが、ビューティフル・ローデスの魂へのリスペクトも忘れない彼女の誇りにこそ着目したい。

 ありがとう、テリーマンガール。ありがとう、ビューティフル・ローデス。

 勇猛なるテキサス・ブロンコ、揺るぎなきフロリダのヴィーナス、方向性のちがう女超人の再戦がまた次のシーズンで観戦できることを私は待ち望みます!

 ふたりともサイコー!!!』

 

 カメラが切り替わり、実況席を映しだす。

 椅子をくるりとまわして振り向き、腕時計をコツコツと鳴らす超人らしき少女が、ずっとリングを見つめて両手の拳を握り続ける……のであろう少年に目を向ける。

 

『あー、以上、プロレス・ワード解説のチャック・ザ・ガールとぉ~?』

『……はっ!?』

 

 よほど感慨深かったのだろうか。完全に番組の進行を忘れている。

 女性超人の声に反応して飛びあがり、少年は慌てて椅子をまわした。

 

『じっ、実況の「キューティ☆バーニィ」こと。

 バーナード・“バーニィ”・ラビットソンでしたー! また見てね~!』

『しーゆーあげいん~』

 

 

 ばたばた、ぱたぱたといった擬音がでていそうな長袖を振り回し、視聴者にむかって必至に右手を振る少年のなんと健気なことか。あるいは、なんとも初々しさを感じらせる心の余裕のなさか。

 超人の少女は気だるげな態度で手を振るも、少年と異なり気品を感じさせる。

 しばらくして、数日後にペンタゴナとチャーボ・ペロリの実況をやることが予告された。同じ局で。同じ実況と解説で。

 なぜか、顔写真つきで。やはり気だるげながらも真面目な表情を見せている解説に対して、両手の人差し指で頬を指すようにし、ウインクを決めながら舌を唇の左側から出している実況のCut(ie)(かわ(いい))……愛嬌と媚びのある表情のインパクトが凄い。

 え? 名前バーナードだから“男”よね? いいのそれ??

 

「………ふふっ」

 

 再放送が終わり、番組の宣伝も終わり。

 見慣れた料理番組のオープニング・テーマ・ソングが耳に入る。

 

「なによ、それ。

 負ける超人をそんなに持ちあげて、どうするのよ?」

 

 ソファーから立ちあがる。

 あれだけ重苦しさを感じた自分が、ほんのすこし軽いような気がする。

 

「女に媚びを売るわけじゃあないんだから。

 もう寝ましょう。余計なことをしないで………」

 

 テレビの電源を消すことを思い出して、リモコンのボタンを改めて押す。

 黒い画面でも際立つ白鳥は、ゆっくりとリビングを後にして行った。

 

 

 

 

 

 

 のちのアメリカ遠征において、キン肉マンレディーに同行した「ミート君」が記憶にないほどの美麗な淑女を相手に、その腰を抜かすほど驚愕することになるのだが。

 ミート君の物語と、“バーニィ”の物語が交差する日は決してないだろう。

 きっと。たぶん。

 

 ミート君の正気がピンチかもしれないけど。

 

 


 登場人物&余談

 

☆バーナード・”バーニィ”・ラビットソン(オリキャラ、転生者)

 小動物系男子。(超人限定で)男女逆転社会に近い漫画【キン肉マンレディー】の世界での、昭和の美人レポーター枠。転生者ではあるが、漫画・アニメ【キン肉マン】シリーズすべては憶えきれない。

 「おはバニー☆」とかをノリノリで言える。

 でも英語圏だから「Good Rabbing!」とか言ってる。

 

 用語については素人なのに「かわいいアホだから」(※おねえさんがたから視聴率を稼げるから)という理由で超人レスリングの観戦中にスカウトされたため、内心ちょっと事務所とマネージャーに思うところがある。どうせならアホみたいな歌詞の電波ソングでも20世紀のアメリカに叩きつけてやろうか、くらいには(昭和感あるセクハラに)ヤケクソになっている。叩きつけた。ヒットした。なんでだよばーか(マイケル・ジャクソンに謝れ)

 

 

☆チャック・ザ・ガール(オリキャラ)

 チャックさがる。ダウナー系で本職の解説担当。

 実はバーニィの番組に出演するまで仕事が全然こなかった。ダウナー系は時代が早すぎたんや。

 

 彼がスカウトされて以降、わざと勉強せず用語を言わないバーニィの努力を察してたまにケーキとかあげる。でも電波ソングの件は正気を疑った。耳が麻薬依存症になるかのようなピコピコ感が怖かった。

 

 

☆スカウトしてきた現在のマネージャー(オリキャラ)

 全体的に可愛い系男子に失礼なひと。男女逆転するとただのセクハラ親父。 

 

 

☆ビューティフル・ローデス(原作キャラ)

 当時はまだ摩耗も劣化もしやすいレコードやカセットテープ、ビデオテープが主流なので、そのあたりは複数枚買った。あとでCDとかブルーレイとかの技術革新で画質がよく長期保存が見込めるものまで出たころにはデータ保存のやりかたまで憶えた。

 やってることが日本のオタクじゃねーか。

*1
※この二年後に赤外線リモコン採用型のテレビが発売される。

*2
再放送六か月分をのぞく。本放送六か月分。

*3
アメリカにおける、日本の四月のような事始めの月。




 某氏のツイートが面白かったので、ちょっと昔に書いたものを出してみました。
 キン肉マンは本編もレディーも好きだけど、レディーのほうを描いた漫画担当のかたの絵がとても好きなので新連載とかの情報ないかなーとか今でも待ってます。
 レディー本買いたかった……


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アイドル? 実況者? ぼくはバーニィ!

 Harrow everyone! Good Rabbing!

 My name is Barnard“Burny”Rabbitson!

 Davidsonじゃあないんだぜ、「うさうさバーニィ」で憶えてね!

 でもって芸名は「キューティ☆バーニィ」! 可愛いだろー。可愛いんだぜ!

 

 まあ、ぼく男だけどね。

 可愛い(KAWAII)は正義、ぼくのモットー!

 

 それじゃあ、えー、時は1975年。

 あのマイケル・ジャクソンがまだ兄弟で音楽活動をしていた頃。*1

 まだ人種差別が色濃く、……いや今でも根深いうちではあるかもしれないけれど、まだ色濃く、南北戦争以来、ふたたび人権問題が問題視されるまでは遠い時代でのこと。

 名高き愛の正義超人「キン肉マン」が現れるよりも昔、超人レスリングといえばアメリカ合衆国こそが国際的なメジャーリーグだと言っても過言ではなかった。……いやいや超人オリンピックとかあるけど、あっちはほら国際的な催事だからね。うん。

 もちろん第二次世界大戦が終わって30年、高度経済成長期を迎えた日本を相手にヘイト感情が高まりつつある合衆国内において、のちのキン肉マンの来訪がどれほどの衝撃を与えたのかは言うまでもないだろう。

 それまでの間は、「日本=敗戦国」とか貿易黒字の問題とか、……あとベトナム戦争関係で憲法九条を利用した外交とかも相まって「日本=ずるいやつ」みたいな印象もあった中、「日本が好き!」とか言えるやつは珍しかったわけだ。

 

 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズとか、対日感情の推移が分かりやすい映画だぜ? このあたり、興味があったら映画鑑賞してみてね。

 

 なので、日本の国民性や文化への理解なんて、のちの「テリーマン」の最初の対応くらいが、「まだ一般的なうちだ」と表現しても過言ではなかったのである。

 

「うへぇ! また日本人が悪役のヒーローコミック?

 勘弁してくれよ、最近こんなのばっかりじゃないか……」

 

 漫画雑誌をゴミ箱に投げ捨て、フード裏のポケットをまさぐる。

 そんなぼく、バーニィの私服は、兎を連想させるカートゥーン調のコスチュームだ。

 フードは兎、靴も肉球つき、ロジャーな感じとオズワルドな感じを足して、のちの日本のアニメ・漫画文化でもある「動物の擬人化」を思わせるフワフワ感ある仕立て。

 もちろん手袋だってあるよ? ちゃんと色は白!

 

 これ作るの、大変だったんだぜ?

 けっこう何作も作って、やっと想像通りの形になったってところなんだ。

 たまに図体のでかい男に襲われるけど、そこは、うん、友達のおかげで助かっているかな。別にホモとかSissyとかじゃないもん。可愛いのがすきなだけだし。

 

「世の中楽しいほうがいいのに。

 なんでこういう漫画や、そういう男が多いんだよ。

 男らしさってやつで相手を甚振るのも、憎しみもエンターテイメントってこと?」

 

「そんな最低の気分の時は~? ……もちろん、これ!」

 

 フードから取り出したるは、超人レスリングの座席指定チケット!

 超人レスリングで、わざわざ日本人を思わせる仮装をしてまで興行に徹し、「悪役」を演じようとする超人はいない。だって自分の個性関係ないじゃん?

 だから何度見ても楽しいのだ。身体的特徴が豊富な超人レスリングほどの、スリリングで漫画チックで毎回の試合運びが多様化する娯楽はなかなかない。

 

 うん、まあ、ここ、漫画の世界のパラレルワールドなんだけどね?

 

「ふっふっふ……ビューティフル・ローデスVSダイナマイツパイパー!

 スタンダードなヒューマノイド・スタイルの超人同士だけど、超人ならではの身体能力でのバトルってやつは本当に面白いんだよね!」

 

 人間レスラーでは不可能な技もできる、それが超人レスリング。

 みんなも御存じ「キン肉ドライバー」や「マッスルスパーク」だって、人間レスラーがやろうとすると大変だからね、ああいう技が飛び交うのは見ていて楽しいんだ!

 …………いちいち種類が多すぎて、ぼくには憶えきれないけど!

 

「そうと決まればレッツゴー!」

 

 ぽっぴぽっぴと靴を鳴らし、向かうは会場。

 今にして思えば、こういう「考えていることをぺらぺらしゃべっちゃう癖」が、結果的に今の仕事に繋がったのだろうなーとか、あのアブナイうちのプロデューサーに見つかったのだろうなーとか思わなくもないのです。

 だってほら、うれしさ勝って楽しさあふれてピョンピョン跳び回っていたら、スキップしてたから忘れちゃうじゃん? なーんか後ろに感じていた視線とかさあ!?

 思い出してみると結構怖かったかも、プロデューサーの尾行術!

 

「……あの子、男の子で、あの口調で、その格好しているのっ………!?」

 

 遠くで見つめるプロデューサー。

 その名は、……まあ、べつにいいですよね、紹介しなくても。

 あくまで本題がぼくの話ですから?

 ただ、プロデューサーに曰く、どうもぼくが時代をぶっこわせるほどの……アメリカ・アイドル業界の超新星だと直感したとかどうとか。「そんなことないですよね?」って当時は思ったけど、電波ソング爆売れしてから気づいたよ。

 1970年代のアメリカ合衆国に日本式の「男の娘(TRAP)」は斬新すぎたって。

 

「マジで? 天然のアイドルじゃないのっ!

 超人レスリング界のアイドル・アナウンサー……行けるかしら、いえ、まずは下調べから始めるべきよっ。どんな観戦するのか……見せてもらうわ!」

 

 頭が沸騰したおねーさんと化したプロデューサーは、なんとまあ、ぼくの近くの席のひとと交渉して席を譲ってもらうとか、そのくらいの無茶はしたようで。

 そんなことが起きているとはつゆ知らず、「なんか後ろの席がうるさいな?」としか思わなかったぼくは、思う存分に楽しんだってわけさ。

 

「決まったっ、ダイナマイツパイパーの必殺ホールド!

 ええと、なんだっけ、なんだっけ……とにかく関節極まった側の肘とかが青くなっちゃうやつ~っ! ローデスこれ受けて大丈夫なの!?」

 

「ああ~っ!?

 ローデス、捕まったと思ったらすり抜けた~っ!

 なんかこんなの見たことある! 子供が鳩捕まえようとして追いかけて捕まえられなかった、みたいな、なんかそんな感じの! いや白鳥でしょ、ローデスは!」

 

「おおっ空中で翻って……キックが背中にシュ~ッ!

 そのまま反動で舞いあがるぅ! ふわりと羽ばたいて、ほわー、ほわーっ!?

 めっちゃ綺麗なパフォーマンスじゃんっ、こんなの初めて見た!」

 

 って、感じで楽しんで、試合が終わった頃。

 ……え、どっちが勝ったかって? そりゃあビューティフル・ローデスだよ?

 今のアメリカ合衆国のチャンピオンだし。チャレンジャーに負けはしない。まだ。

 

「あなた、プロレス実況に興味ない?」

「え?」

 

 プロデューサーに声をかけられたぼくが、ほいほいとついて行って、話を聞いて、にわかでもOKだから実況してくれ、顔と声が魅力的だしいけるいける、むしろ初心者むけのプロレス実況をぜひとも放送させてほしい、とまで言われて乗り気になって。

 しばらくして、「あれ? この世界って超人限定で男女逆転しているんだから、女子プロレスの実況やる男の娘ってつまり『男子プロレスの実況をやる美少女』ってことじゃ……?」と気がついた頃には、とっくに契約をして違約するわけにはいかず。

 

「―――Good Rabbing!

 『キューティ☆バーニィのプロレス実況』、はーじまーるよー!」

「こちら、解説のチャック・ザ・ガールです、よろしくお願いします。

 ……バーニィ、ちゃんと自己紹介。」

 

「あっ、ひゃいっ、ぼくバーナード“バーニィ”ラビットソンです! 実況ですっ!

 全国のおにいさま、おねえさま、よいこのみんな、バーニィって呼んでね☆

 今回の試合はビューティフル・ローデスVSザ・テリーマんきゃっ!?

 ………舌噛んじゃった…………」

「………なんかもう頑張れバーニィ」

 

 全力で平常心を崩さずに!

 カメラの前で緊張しながら笑顔を振りまいたのでした。

 結果的に見晴らしのいい実況席で仕事ができたから、いいけどね! でも!

 

「うぇへへ、じゅるっ、計画通りよ!

 あの無防備なアホさ加減、放送事故ひとつとっても最高に可愛いわっ……!」

 

 後ろでよだれ垂らしていたプロデューサー(おねえさん)は!

 あとで絞めました! 絞めても幸せそうでした! どうすればいいのぉ!?

 


登場人物&余談

☆ダイナマイツパイパー

 原作ではダイナマイトパイパー。必殺技は「パイパーキーロック」。

 キン肉マンレディーでは原作の彼をモデルとした超人はいたが、名前がなく、この作品オリジナルの名前。

 

 ワイルドな女傑。試合後にバーニィの実況番組を見て「あっ、こいつアイツかあ!」と盛りあがったりした。

 教壇からだと生徒の素行がよく見えるてきなあれで顔も声も覚えている。後ろの席にいたプロデューサーのやばい顔も気づいている。

 

☆プロデューサー

 ショタコン。

 

☆チャック・ザ・ガール

 第一回放送から素人に実況任せるとかマジ??

 え、そのほうが数字とれる? 正気です?

(数時間後)

 電話が鳴りやまない? 内容は?

 …………ウソだろ、ショタコンしかいねーの?

*1
この頃は「ジャクソンズ」として活動。ティーンズバンドだった。



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