知らないゴミ集積場の管理室 (敗残兵のモブ)
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呆れ底辺に至らん

ギスオン二次増えねぇかなぁ……


 1.会議室

 

 自室で掲示板を見ながら片手間に経験値稼ぎをしていたら近所の村人が入って来たので挨拶したらキルされて死体に唾を吐かれた。

 呆れ底辺に至らん、ヤサは先日ご本人から直々にお菓子と共に転がり込んできたのでクラン総出でPKを敢行。リスキルまで持ち込めた所でサブリーダーに呼び出された。

 用件は本日の暗殺対象の選定。呆れて物も言えなかった。

 

 キャンキャンと泣きながらサブリーの言い分を聞いてみると、近接職一派である彼女の部下の冷たい目線を無視して配下のモブ一号が嫌そうな顔をして、

 

「ログインしてない方が悪い」

 

 といって出て行こうとした。

 俺は部下の首を落とした。

 モブ一号などという謙虚なんだか謙虚じゃないんだか分からんゴミは放っておいて、俺はサブリーに弁解する。

 キルされたこと、唾を吐かれ足蹴にされたこと、身に覚えがなかったこと、クランに残っていたのが全員生産職だったこと、サブリーのログイン時間は把握していたが伝えるのが面倒くさかったこと、最後のとこで殴られたが、概ね理解してくれた様だ。

 最後に近接職一派のモブが聞いてくる。

 

「本当に身に覚えはないんですか?」

 

 もちろんと答えつつ思い出す……そういえば引っ越しの挨拶の時に自己紹介を聞いた折、「クラン運営に村人いないと大変ですもんね(笑)」とブラックジョークを交えつつユーモアに返したら面白い顔をしていたなと。

 

 どうやら声に出していた様だ、俺は処刑された。

 

 

 2.クランハウス

 

「だからクラマスのブラックジョークは、ジョークになってないって言ってるじゃないですか……」

 

 モブ一号に呆れられている。

 あの後三回ほど処刑されて念入りに村人と言うのを禁じられた後、日課の掲示板巡りをしている。

 と言っても実際に掲示板を見ているのはリアルの俺であり、ゲーム内の俺も経験値稼ぎをしていたため話半分どころか四分の一すら聞いておらず、曖昧に返事をする。

 

「うん? うん……」

 

「相変わらずっすね……」

 

 俺の返事は適当だ。なんせ話を聞く余裕が一切無い。いつもこんな感じだからクランメンバーは「掲示板やめろ」だの「生産職舐めんな」だの言ってくるが、クラン公約に従い活動している俺に直接何かをしてくることはない。

 ちなみにクラン公約は「自由であれ」だ。

 

「なんで俺こんな適当すぎるクランに入ったんすかね……」

 

 モブ一号がなんか言っている。数少ない名前を覚えているクラメンであり、名前のインパクトもあってクランに入りたい動機は微かだが覚えている。

 確か「自動承認で一番デカそうなとこ」であったはずだ。細部は違うだろうが自業自得であることは間違いない。

 その旨を簡潔に伝えると、

 

「クラマスの聞いてない様でちゃんと聞いてるとこ気持ち悪いっす」

 

と忌憚なき意見を頂いた。

 なら話しかけてくんなよと、よっぽど殺してやろうと思ったが、話が気になる方に流れていったので思い留まる。

 

「そうだ、例のPKer、逃げたらしいっすよ、やっぱ数だけ揃えても生産職じゃ厳しいんすかね?」

 

 それは無いだろう。リスキルから逃れられた原因はおそらくクラメンが飽きて帰ったからだと思われる。

 現にクランハウスには暇を持て余した生産職が経験値稼ぎに勤しんでいる。近接職が使う武器をあーでも無いこーでも無いと試行錯誤をしている様だ。

 俺は名前も知らないクラメンに声をかける。

 

「で?言い訳なら聞くが?」

 

「散々な言いようだな!?あんた!?」

 

「ちょっ、えぇ……自由を体現してるクラマスに問い詰められてんの?俺たち……」

 

 暗殺ギルドなのに一日中クランハウスで経験値稼ぎをしている俺は、近接職一派からも、同じ派閥である生産職一派からも人望は皆無である。

 このギルドの生産職はアクティブであり、生産職でも自分の作った武器片手に暗殺へ繰り出すこのギルド特有の現象といえよう。

 

「いやいや、クラマスがまともに会話しようとしないからでしょ」

 

「普通にコミュ障でもないのに適当に会話終わらそうとするなら誰だってそうなるわ」

 

「クラマス、これを機にクランメンバーと少しくらい仲良くなってくださいよ、新規メンバーなんて俺のことをクランマスターだと思ってる節があるんすよ?」

 

 そんなこと言われてもな……自動承認(人力)クランであり、そこそこの規模になってるこのクランは出入りが激しく、名前を覚えるのも一苦労だ。

 

「お前はどう思うんだ、モブ二号」

 

「クラマス、俺はモブ二号なんて名前じゃないよ……」

 

「……そうか、モブ三号、お前は?」

 

「仲良くしようと言う気が微塵も感じられない……」

 

 思い切って番号制にしてみてはどうだろう?

 

「顔と番号が一致せずに終わりっすね、まだ名札付ける方が現実的な感じっす」

 

「……それだと囚人みたいじゃ無いか?」

 

「番号から離れてください……」

 

 窓から夕陽が差し込んでくる。俺は珍しくクランメンバーと駄弁りながら一日を過ごした。

 

 3.サブリー襲来

 

「いい加減にしてください!」

 

 今日も朝から掲示板巡りをしながら経験値稼ぎをしていると、サブリーが話があると詰め寄ってきた。サブリーの部下も一緒だ。

 

「毎日毎日無駄話もせずに経験値を稼いで!暗殺ギルドなのに恥ずかしく無いんですか!」

 

 恥ずかしいもクソも俺は生産職であり、クランハウスにこもって近接職を援助することに何か不都合があるのだろうか。

 そもそも無駄話をしないのは長所にはなり得ても短所にはならんだろ。

 

「それは……くっ!」

 

「サブリーダー!負けないで!今こそびしっと言ってやってください!」

 

 サブリーの部下……たしか名前はリィリアだったか?……はふわっとしたことを言った。明らかにこちらに部があることに気付いてる様だ。

 試しに揺さぶってみる。

 

「モブ四号、落ち着け」

 

「クラマス!?私の名前を勝手にモブイチ先輩に統合しないでください!私にはリィリアというれっきとした名前が……」

 

 俺はこの女が苦手である。理由は俺がクランメンバーの名前を殆ど覚えていないのを知っているらしく、名前を呼ぶと「へぇ……」だの「ふぅん」だの言って茶化してくるのだ。

 俺は局所的記憶喪失を用いて掻い潜ることにした。

 

「リーリアン?今俺は忙しいから後にしてくれとそこのサブリーに伝えてくれ」

 

 サブリーのはさっきからうーうー言いつつ言及する内容を考えている様で、余裕がなさそうだ。何しにきたんだよ。

 

「く、クランマスターとしての自覚をこう……!」

 

 ……このクランを創設した理由は、俺はしがらみのないクランを、サブリーは多少売れてる俺の名前を借りたくて合意の元作った物だ。

 どうやらサブリーは、俺に多少なりとも責任感があると思っていたらしい。いや、お前最初何もしないけどいい?って聞いたら、満面の笑みで頷いたじゃねーか。

 

「でも!でも……!」

 

 サブリーは予想以上にデカくなったクランの運営に思うとこがある様だ。俺もここまでデカくなるとは思わなかった。

 

「ま、なんとかなるさ」

 

「いや、今まさに近接職一派と生産職一派がバチバチに喧嘩してるんですけど!?なんとかなってないよ!」

 

 ……どうやら俺の知らぬ間にクランに亀裂が入っていた様だ。

 そういえば生産職一派の首魁と目される俺が謎の人物に暗殺される事件が何日か続いたことがあった。不思議に思って無視してたら何もしてこなくなったがこれのせいだったのか。

 モブ一号がクラマスに間違われる〜などと言っていたのもこの一環か、俺に向かって直訴してたらしい。知らんわ。説明しろよ。

 

「仕方ない、か」

 

「く、クラマス!?ついに動いてくれるんですか!?」

 

「え?動かないけど?」

 

「は?」

 

 4.クランマスターの嫌がらせ

 

 割と勘違いされがちだが、俺は掲示板を見ながら作業できるのが好きなだけで、経験値稼ぎをしたがっているわけではない。

 ここ最近のクラン騒動、どうやら近接職生産職両方に煽っている勢力がいるらしく、おそらく他所のクランの妨害工作だろう。

 とかなんとか言って適当にサブリー達を説得した俺は、クランメンバーに嫌がらせをすることにした。

 

「でさー、そん時にモンスターが……」

 

 歩きながら話していたゴミがドアノブを掴むと同時に血反吐を吐きながら自殺した。そう、自殺である。

 

「えー、それ……はっ、え?」

 

 一緒に歩いていたゴミは困惑している。それもそうだろう。自殺したくて自殺したわけじゃ無い。

 俺はデサントだ。しかも意外とレベルが高い。なんせ掲示板を巡りながらずっと経験値稼ぎをしてるもんだから自動経験値稼ぎみたいになっているからだ。

 ドアノブには面白い戒律が仕込んである。捻ったら刃物が鍵穴部分から突出、ドアノブ自体が外れる様になっており、うまいこと行けばお腹に刺さって自決するといった具合だ。

 この様なトラップ……もとい俺の遊び心がクランハウス随所に散りばめられている。

 俺は経験値稼ぎの傍ら、クランハウスを巡って思いがけない自殺を図るクランメンバーを見て心の中でせせら笑っている。

 クランは阿鼻叫喚だ。何せ無差別攻撃なので近接職・生産職共に被害者が出てる。罠にかかるたびに相手派閥の恨みを募らせていく様相は圧巻であった。

 俺は笑いを堪えきれなかった。自室に戻って高笑いを上げる。自分の思い通りにことが運ぶことのなんと楽しいことか

 

「くく……くはっ!あーはははっ!!!」

 

 5.数日後

 

 ところが俺の天下は長続きしなかった。

 

「裁判を開始します」

 

「意義あり!」

 

「黙れ」

 

「くっ……!」

 

「なんで被害者ヅラできるんだ……」

 

「俺たちクラマスのこと勘違いしてたのかも……」

 

 どうやらあまりにも近接職一派、生産職一派ともに被害者の数が多かったため、不審に思った両一派の代表が合同の捜査チームを結成、まんまと犯人に目星をつけたと言うわけだ。

 ……まあ証拠を消すのに手を抜いたのは認める。なんせ数が必要だったから一々隠してたらキリがなかったからだ。それでも見つからなかったのは俺を警戒対象から外してたからだろう。

 

 だが、俺のおかげで分かったこともある。俺の罠に面を喰らった外部工作員が全員自分のクランに帰ったたため、扇動する役者がいなくなったのだ。そう考えれば、俺はこの事件に終止符を打った立役者ではなかろうか?

 

「情状酌量の余地があると言いたげな……お前何人殺したと思ってるんだ……」

 

「ほぼ全てのクランメンバーが死んでいる中、クランハウス彷徨って死んでないのクラマスだけじゃん、てか人気のないとこからたまに高笑い聞こえてたし」

 

「判決を言い渡す」

 

 ……待て!そもそもこの件に関してはお前がクランマスターらしくしろと言ったからじゃないか!

 裁判長ごっこをしているサブリーに直訴すると、サブリーは大きく息を吸い込み俺に向かって、言う

 

「クランメンバーを皆殺しにするクランマスターがどこにいるかー!」

 

 俺は処刑された。

 

 

 これは、とあるVRMMOの物語。

 魔族の系譜、隠しきれませんでしたね。

 

 GunS Guilds Online



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