ありふれた和平で世界平定(ディストピア) (LW)
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01 香織はもう諦めて、もっと凄い美人を口説く!

2nd season放送記念!
ありふれの檜山×ノイント物。


「アアアアアアァァァァァァッッッッッッ!!!!!!」

 

痛い痛い痛い、イタイイタイイタイッッッ!!!!!!

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「俺の腕、身体」

 

激痛と表現する事すら生温い痛み。

全てを塗り潰して、湧き続ける恐怖。

魔物に喰い殺された。生きたまま喰い殺された。

 

フィクションなら見掛ける事も有るシチュエーションだろう。

うぁっグロ!で終るシーンだ。

だが間違っても、実体験したいとは思わない。

 

「腕が、身体が有る」

 

激痛と恐怖に狂って、のた打ち回る内に正気に戻る。

魔物に喰われた筈の腕が、身体が有る。

喰われる処か、傷一つ無い。誰かが手当てしてくれたのか?

部位欠損の再生とか!香織でも無理なLvじゃ無かったか!?

 

「日本の、俺の部屋!?」

 

手当てしてくれた誰かを捜して、周囲を見渡す。

教会の治癒院か、臨時の野戦病院の類だと思っていた。

だが此処は、懐かしい日本の俺の部屋だった。

 

「ヲイヲイ、全部夢オチだったとか言わないよな?」

 

訳が解らない。

混乱する頭を落ち着かせて、状況を整理する。

俺は檜山大介。認めたくは無いが、ありふれたただの高校生だ。

だと言うのに他のクラスメイト共々、異世界召喚された。

異世界トータスでは勇者だの神の使徒だの呼ばれて、戦争に強制参加。

 

確かに天之河が代表して同意はした。

だが突然拉致られて、外国処か異世界。

此処で拒否ったら、処刑とか国外追放臭かった。

運良く国外追放で済んでも、異世界にいきなり放り出されるのは辛い。

魔物が居て、治安?ナニソレ美味しいの!?と言うガチの世界。

難易度高めのスタートだと思う。

 

「仕方無かった。筈だ」

 

戦争の参加を決めた俺達は、鍛錬を積み続けた。

それこそゲームのキャラのように、LvUPして行くのを実感する。

と言うかゲームだった。お約束のステータスやら魔法が有る。

 

そうして過ごす内に初の実戦!オルクス大迷宮。

俺は此処で、南雲を殺した。香織を手に入れる為だ。

 

上手くやったと思っていた。

撤退中に一発!ドカンとやって、南雲を奈落に突き落す。

これで香織は俺のモノ!そう思った。

 

だが香織は諦め無かった。南雲は生きて居た。

奈落から這い上がって、バケモノになって帰って来た。

アレはもう魔王!奈落の魔王だろう!?

 

それからはもう、泥沼だった。

南雲の生還を知った香織は、南雲に付いて旅に出た。

俺は香織を諦められずに、あのネクロフィリアのキチガイと手を組んだ。

それで王都の決戦でも色々やって、

やっぱりバケモノだった南雲にやられて、最期は魔物に喰い殺された。

 

本気で色々有った。これが全部夢オチ!?

それとも、最初からリスポーンで日本に帰れたのか!?

と言っても、これが夢オチだと信じていない。

魔物に喰い殺された記憶が、恐怖が!余りにリアルだからだ。

それともう一つ、変わった事が有る。

 

「香織はもう諦めて、

 もっと凄い美人を口説く!これだっっ!!!」

 

香織に対する執着が、綺麗にサッパリ消えていた。

俺は香織を手に入れる為、最終手段に出た。

香織を殺した。殺してでも香織を手に入れようとした。

だが香織は、俺のモノになら無かった。殺してもダメだった。

 

やれる事はもう、全部やったって感じだ。もう出来る事が無い。

そう思ったら、もうどうでも良くなった。

と言うか?あの魔王の女に手を出す気は失せた!と言っても良い。

 

 

「おはよう、白崎さん」

 

「おはよう、檜山君」

 

普通に挨拶出来た自分を誉めてやりたい。

と言うか困惑が顔に出ていないかが、懸念材料である。

 

状況を整理している内に、今日が平日だと気付く。

支度を済ませて登校。高校に顔を出す事に決める。

 

他にも日本に戻って来たクラスメイトは居るのか?

それを確かめる心算だった。

だが教室は予想以上に賑やかだ。

見知ったクラスメイトは居た。居た処か【全員】居る。

 

俺が殺した筈の香織が居る。

召喚される前と同じように、其処に居た。

それは俺の知っている香織で、幻だとは思え無かった。

 

「清水まで!」

 

他に清水も居た。

清水も死んだと聞いていたが、当たり前のように生きて居る。

こっちは困惑顔で、席でラノベらしき物を読んで時間を潰していた。

 

「問題はこっちだろうな?」

 

南雲が居た。魔王南雲だ。

アイツの顔を確認して、無意識に距離を取る。

だが其処に居たのは、召喚前のオタク臭い陰キャの南雲だった。

 

あの魔王とは、全くの別物である。

厨二臭い眼帯や籠手は装備していないし、髪も普通に黒かった。

何だ?日本じゃ一般人面して過ごす心算か!?

 

「は~い、HRを始めますよ~。皆さん席に着いて下さ~い」

 

愛子先生がやって来てHRが始る。

さて、これからどうする?着席してこの後の事を検討する。

 

状況を把握し切れていないが、動くべきだ。

動かない者に、得られる者は無い。

状況を放置すれば、魔王に何もかも奪われる。

南雲はトータスでハーレムを築いた。これ以上!魔王に美人はやらんっ!!

 

「八重樫と、園部辺りか?」

 

香織以上の美人と言ったら、クラスでは八重樫か園部だろう。

躊躇いは有る。魔王の御膝下で、ナンパなどしたく無いからだ。

だが他に当ても無い。

 

「ヲイヲイヲイ!

 これはリスポーンじゃなくて、ループ!!」

 

迷いながらダラダラ授業を受けている内に、昼休憩に入っていた。

其処で見覚えの有る悪夢を、目撃する事になる。

 

異世界召喚。

あの日と同じ異世界召喚の魔法陣が、教室の床で輝いていた。

 

漸く違和感の根元に気付く。

俺は日本に帰って来れた訳じゃない、戻って来たんだ。

詰りリスポーンでは無く、ループ系の展開。

くっ!高校は、用心してサボるべきだった!!

 

「ようこそ、トータスへ。

 勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ」

 

魔法陣の輝きが治まると、其処には見覚えの有る光景が広がっていた。

聖教教会の神殿。神山の頂上に在る大聖堂だった筈だ。

 

大聖堂に居るのは、白い法衣を纏った神官共。

今喋ったリーダー格の、爺さんの事も知っている。

俺達を召喚した諸悪の根源!エヒトと言う異世界の神様の下僕。

聖教教会の教皇イシュタルだ。

 

 

補足&解説枠。

本作は檜山×ノイントの、ノイント物です。

現在構想中の終着点は↓となります。

 

1/エヒト様大勝利ED

死亡フラグ回避の為、魔王南雲の誕生を阻止する。

ユエは魔人族に回収されて、エヒトの元へ!乗っ取り成功。

檜山は使徒となって、ノイントと世界を巡る事に。

 

2/エヒト様判定勝利ED

魔王南雲誕生。

南雲パーティーをスルーして、日本へ見逃す。

檜山はやはり使徒となって、ノイントと世界を巡る事に。

 

3/原作準拠ED

王都決戦で、イレギュラーとの戦いを決意するノイント。

南雲はヤヴァイから、手を出すのは止めろ!と檜山。

使徒の使命を果たそうとするノイントを、力づくで止める檜山。

次にノイントが目覚めるのは、エヒトが討伐された後!と言う展開。




檜山は口では【白崎さん】ですが、
内心のテキストは【香織】です。

終末のハーレム×蜘蛛ですが、なにか?
とかも構想しましたが、ありふれで行く事に!銀髪は好い☆


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02 フラグメント

ノイント初遭遇と、ステータスプレート配布回です。


「詐欺師の答弁だな?」

 

イシュタルの爺さんの説明を聞くのは二度目だが、

改めて聞くと、どう考えても詐欺師の答弁である。

 

まず俺達を異世界に召喚したのは、エヒトと言う神様の仕業だと明言している。

イシュタルの爺さんや他の神官共は、日本へ帰還する方法何て知らない。

全てが神様の掌って事だ。

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願い、無下にはしますまい」

 

日本に帰れない。戦争に参加しろ。

パニックになるクラスメイトを天之河が纏めようとするが、

【戦争に勝てば日本へ帰れる】と、明言していない。

無下にすまい。と言っているだけだ。

考慮したけど、やっぱり却下☆と言う理屈が通るヤツだ。

 

それを今暴露するべきか?→止めた方が良い。

俺達は今、初見の世界に居る。初期Lvで常識的知識も無い。

俺は周回中で常識知識が少しはマシだが、

肝心のLvは多分1だ。厳しい事に大差は無い。

何の後ろ盾も無く、異世界を生きるのは辛い。

 

と言うか此処で戦争参加を拒否したら、

即座に処刑!と言うルートも在り得る。

此処での暴露にメリットは無い。

戦争参加を装って、まずは訓練でレベリングした方が良い。

 

「戦おう。

 人々を救い、皆が家に帰れるように。世界も皆も救ってみせる!!」

 

と天之河が纏めに入っている訳だが、二度目の俺は気付いていた。

異世界召喚の魔法陣は、天之河の足元を中心に輝いていた事を!

この後解る事だが、天之河の天職は勇者。

そして魔法陣は、天之河の足元から展開していた。

詰り俺達は、天之河の異世界召喚に巻き込まれたかもしれないって事だ。

 

「面白そうだが、無いな」

 

この問題を暴露したらどうなる?

クラスの人気者のイケメンが、一気にクラスの悪役になるかもしれない。

逆にイケメンを陥れようとしたって事で、俺が吊るされるかもしれない。

興味は有るが、デメリットが酷くメリットが無いに等しい。

クラスがバラバラになって、戦力もダウンする。

大迷宮攻略前に、完全にアウト!解ってはいたが、イケメン補正がヤヴァイ。

 

 

「ぐっ!振り出しか!?」

 

詳しい話しを別室で聞く事になった。

前回は、メイドさんのおもてなしを受けたアレである。

おもてなしは好いが、爺さんの話しは無駄に長い。

確かトータスの歴史関連だったか、

ガチの教会関係者らしく、神様万歳な話だった気がする。

スキップ推奨だ。二度も聞く気がしない。

 

テンションが下降していると、即行で結果が出た。

移動中のクラスメイトと、見事にはぐれた。

記憶を頼りに彷徨って、大聖堂に蜻蛉返りだ。

 

「シスターか?」

 

振り出しに戻る。戻ったが、次のイベントは起こっていた。

静謐な大聖堂で、跪き祈りを捧げる人影を捉える。

人影は黒い修道服姿。場所的にシスターだろう。

 

日本ではすっかり萌えジョブのシスターだが、

実物の黒い修道服は、想像以上に昏い。墓場の喪服のような昏さだ。

シスターってのは、こうも不吉な代物だったか!?

 

「フラグメント」

 

俺に気付いたシスターが立ち上がる。

立ち上がって振り向くと、確かにそう呟いた。

フラグメント。

旗とか条件の?それはフラグの方だったか。

 

「檜山大介。

 まだ組んでも居ないが、勇者のお仲間って事になる。アンタは?」

 

「ノイントと申します。

 エヒト様に仕えるシスターです」

 

振り向いて、シスターがフードを下げる。

フードの下は、死神的な髑髏でも驚く心算は無かった。

神山に髑髏が闊歩しているのは問題だが、想定範囲内!と言う事になる。

 

だが想定は覆される。

シスターの素顔は、圧倒的な銀髪美人だった。

確実にAPPは18!最大値を記録☆

実は地上に舞い降りたヴァルキリーだと言われても、納得の容姿である。

 

「ヒヤマダイスケ。

 それがフラグメントの名前ですか、覚えて置きましょう」

 

このシスター、死神処かヴァルキリーである!

余りのAPPに圧倒されて硬直していると、

ノイントが俺の名前を、刻むように口にする。

 

ぐっ!APPが高いと、それだけでサマになる。

とても初対面の取り巻きの一人の名前を口にする仕草じゃない。

 

「フラグメントって言うのは、何の事だ?」

 

どう考えてもキーワードはコレだ。

渾名?と言うより、何かの役職名か!?

 

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっ」

 

割り当てられた個室のベッドで悶える。

異世界トータスの、二度目の二日目の朝だった。

 

ノイントの回答は、要領を得なかった。

迂遠な語りは、やはり教会関係者だと実感させられる。

 

その後は前回と同じだった。

ノイントの案内でクラスメイトと合流して、

神山の景色を堪能しながら下山。滞在先のハイリヒ王国へ入国した。

 

ハイリヒ王国の国王やら何やら、

お偉いさんとの顔合わせも、前回通り愛子先生と天之河メインで対応した。

その顔合わせで結構可愛い感じの王女様とも会った訳だが、

超絶美人のノイントと出逢った後では、何の食指も働か無い。

 

最後に歓迎の晩餐会になったが、特筆する事は何も無かった。

就寝時間になると、一人づつ個室が割り当てられた。

豪勢な話だ。で、夜は明けて翌朝って事になる。

 

「今日のメインイベントは、ステータスプレートか。

 これは避けられ無いな」

 

ステータスプレートは文字通り自身のステータスの表示と、

トータスでの身分証明にもなる代物だ。受け取り必須である。

 

====================================

檜山大介 17歳 男 レベル:1

天職:神官戦士

筋力:110

体力:80

耐性:60

敏捷:110

魔力:120

魔耐:120

技能:

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信仰・洗礼・祝福・巡礼・苦行

不浄耐性・恐怖耐性・魅了耐性・言語理解

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で、配布されたプレートに表示された俺のステータスが↑だ。

色々とツッコミ処が有るんだが!?

まず天職:神官戦士って何だ?前回は確か【軽戦士】だった筈。

それに初期ステータスもかなり違う。

全体的にバランス良く高く、勇者の天之河より高数値な項目も有る。

このステータス!殆ど魔法戦士系じゃ無いのか!?

終いにこの■で塗り潰されたのは何だ?バグか、バグなのか!?

 

「天職が神官とか☆」

 

配布担当の騎士団長のメルドさんも、初めてのケースだと言う始末。

俺が困惑している内にもプレートの配布は進み、問題の南雲の番が来る。

 

====================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解

====================================

 

来た!南雲のド平凡な器用貧乏ステータスッ!!

前回はこのステータスを見て、散々笑い者にした案件である。

 

「な、何かな檜山君」

 

しかしどうやったらこの器用貧乏ステータスが、あの魔王に変貌するんだ!?

確か魔物の肉を喰って生き残れたら成れる!って話だったか?

試したくネェェェッッッ!!!!!!

 

「まっ強く生きろよ?」

 

「えっあぁ、うん」

 

ポン、と肩に手を置いてそう応える。

何を言われるかと身構えていたらしい南雲は、呆然としている。

勿論未来の魔王様をイジメたりしない。それは自殺行為だ。

 

「技能検証とレベリングを始めるか、精々死なないように」

 

 

補足&解説枠。

ノイント初遭遇と、ステータスプレート配布回です。

 

天之河の足元の魔法陣

原作展開。恐らく異世界召喚されたのは天之河一人。

異世界召喚時にこれに気付いて、

かつ黙殺したクラスメイトが何人居るかな?と想像すると、

この後の天之河のピエロ具合が、更に酷くなる☆

 

フラグメント

直訳で【破片】【断片】【断章】。

原作ではハジメが【イレギュラー】と呼ばれていますが、

本作では檜山が【フラグメント】と呼ばれる事になります。

 

原作のラストで敗北したエヒトが、

自身が敗北した結末を覆す為、必要なフラグを召喚した!と言う設定。

 

APP

TRPGで容姿、または外見的な魅力を表すステータス。

キャラメイク時に3D6のダイスで決定。最大値は18、最小値は3になる。

 

TRPG

ゲームのプレイに友達が【必須】なリア充ゲーム。

必要な物は紙とペンだけ!と言う謳い文句は有名ですが、

某TRPG紹介動画で、必要な物【友達】。

とコメントが付いていたのは爆笑しました☆

 

神官戦士

本作の檜山の天職。原作では軽戦士。

エヒトの力でループした周回檜山は、その影響を受けています。

神の力の適正が生えました。→天職が神官戦士に!

 

魅了耐性

香織を諦める要因にもなった技能。

耐性がありながらノイントに惚れる辺り、

檜山本来の弱耐性が窺える展開☆

 

ステータス/技能

本作では基礎技能を非表示にしています。




次回は檜山の強化回。

しかし檜山!友達が居ないです。イベントが起きないっ!!
クラスメイトもそろそろ出したい処☆


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03 死亡フラグと呼ばれているのでは?

檜山強化/パーティー編成回です。


「早朝から毎朝トレーニング!

 檜山。お前がこんなに真面目なヤツだとは知らなかったぜ」

 

「だあぁぁっっ!!!

 付いて来るんじゃねぇっっ!!!」

 

背後から坂上が追走して来る。この脳筋がぁぁっっ!!!

どうしてこうなった!?

 

異世界トータスに召喚されて、

勇者とその仲間としての活動が始った。

まずは実戦前の訓練期間と言う事で、

メルドさんや騎士団に、色々と指導を受けている最中だ。

 

と言っても俺は二度目で、何故かステータスも前回より高いスタート。

何かと余裕は有る。其処で俺は、早朝に自主トレを追加した。

毎朝神山の神殿までのランニングコース。勿論ただのトレーニングじゃない。

ノイントとエンカウントする事を狙っての行動だった。

 

ノイントは聖教教会のシスターだ。

しかも神山の神殿から、殆ど出歩く事が無いらしい。

俺達は麓のハイリヒ王国に滞在しているのに、接点が無い。

 

神山は聖教教会の総本山で、一般解放何てしていない。

だが修行や巡礼目的なら、入山出来るらしい。

 

「是非ともエヒト様の御許で修行させて下さいっ!!」

 

勇者の仲間の修行!って事でゴリ押しした。

神様万歳の低姿勢で行けば、大抵何とかなる。

ノイントを口説く為なら、何て事無い。

 

だが早朝のトレーニングは、脳筋の坂上に気付かれた。

坂上も早朝からトレーニングをしていたのかもしれない。

くっ俺のステータスを舐めるなよ?

脳筋如き振り切って、俺はノイントに逢う!

 

「素晴らしい心掛けですな」

 

全力で脳筋を振り切って、神山を登りきる。

頂上の神殿で、御参りするのもいつものパターン。

しっかし今朝はハズレ!

上機嫌な面でニコニコと俺を出迎えたのは、イシュタルの爺さんだ。

 

爺は要らんから、ノイントを出せノイントを!

と言いたい処だが、この爺さんは聖教教会のトップ。

教会所属のノイントと仲良くなるのに、媚びを売って損が無いのは解っている。

 

「感心です。

 今朝も来ていたのですか?」

 

「修行だからな、当然だろう?」

 

今朝はハズレかと思ったが、爺さんの後ろから本命降臨☆

よっしゃあぁぁぁっっ!!!ノイントに逢えたっっ!!!

今朝はガチの、御参りが出来そうだ。

 

俺は神山への早朝ランニングが終ったら、

毎回神殿で御参りをしている。その内容は、

【ノイントと仲良くなれますように】

【五体満足で居られますように】【日本に帰れますように】とかだ。

特に最初のが叶うなら、

相手が神様だろうが悪魔だろうが、諸悪の根源だろうが構わない。

 

「フラグメント。

 もう実戦が近いのでしたね?」

 

「あぁ、オルクス大迷宮って処で魔物退治だ。

 冒険者の真似事をするらしい」

 

ノイントが口にする俺の渾名。

フラグメントと呼ばれる理由は、未だに解らないままだった。

だがノイントに渾名で呼ばれるのは俺だけ!

今はそれで良しとして置く事にした。

女が意味不明の渾名で呼ぶのは、日常風景である。

 

「教皇猊下。

 フラグメントに託そうと思います」

 

 

「これってレアモノじゃね?」

 

ノイントがイシュタルの爺さんと何か話を進めて、奥の部屋に案内される。

其処は見る限り武器庫だったが、

天之河の聖剣がサーガの如く鎮座していた武器庫とは違って、

博物館の骨董品でも眺めている気分になる。

 

だけどそれは違った。

絶対に只者じゃネェェェッッッ!!!!!!と解る代物!

 

「はい、聖遺物です。

 銘は【祈りの剣】」

 

それは一振りの剣だった。

ジャンル的には【処刑剣】と言うヤツだろう。

剣先が平たくて、突きが出来無い。

不良品でも模造刀でも無い。斬撃特化の剣!と言う事になる。

 

ひたすら斬撃で罪人の首を狩り続けた。

処刑剣とは、そう言う武器だ。

しかも聖遺物!どんだけ生き血を吸って来たんだよっ!?

もう魔剣だろ!?ヤヴいオーラを放ってる気がするしっっ!!?

 

「何でこんな(ヤヴァそうな)代物を?」

 

「餞別です。

 神官戦士のフラグメントなら、使い熟せるでしょう」

 

本気でこんなヤヴァそうな代物を?

ノイントが言っているのは、神官戦士の【信仰】の技能の事だろう。

信仰の技能は、神官系の天職の基礎技能。

信仰心を集めて、ステータスに自己ブーストする技能だ。

 

オタクの南雲が愛読しているだろうラノベなら、

中盤辺りで敵に回った神官系のキャラが、

信者の信仰心を集めて中ボス化するアレである。

そんなに強いなら、勇者何て要らないだろ!?自分で戦えよ!ってヤツ。

 

ノイントが言うには、この剣自体が聖遺物!信仰の対象となる。

詰り、後ろにゾロゾロと生贄用の信者を連れ歩く必要は無い!と言う事だ。

 

「確かにステータスが、ブーストしてる感じだ」

 

「問題は無いようですね?」

 

ステータスは確かにブーストしている。

俺が知っているオルクスの魔物相手なら、遅れは取らないだろう。

 

と言っても、文字通り俺が知っている範囲の話だ。

オルクスの攻略者。魔王南雲の情報では、

上層100層。下層100層の、全200層で構成されているらしい。

特に南雲が墜ちた下層からが本番!ナイトメアルート☆

奈落の捕食者共に、俺の力が通用する保証は無い。

それにそもそも!この程度の力で、

あの魔王に届く事は絶対に無い。絶対にだ。

 

「なぁノイント。

 オルクスから戻ったら、出られ無いか?」

 

例え魔王に届かなくても、大幅な生存率UPには違い無い。

気付いた頃には調子に乗って、ノイントにデートのお誘いを実行!

凄い微妙な顔をされた。まだデートのお誘いは早かったか!?

それともシスターはデート禁止!とか言うパターンか!?

 

「宜しいのですか?

 フラグメントの故郷では、死亡フラグと呼ばれているのでは?」

 

 

「今まで済まない。ワビを入れさせてくれるか?

 南雲は、俺が護るっっ!!!」

 

「檜山君っっ!!!」

 

オタクな南雲は、やはりチョロかった。チョロインレベルである。

俺が今までのイジメの件で謝ると、あっさり謝罪を受け入れた。

報復も無い。実に平和的だった。

これが魔王なら、確実にチート武装の報復が来るだろう。

 

現代無駄知識の武装をしていたノイントの誤解も解いて、

無事!デートの約束をした後日。遂に実戦訓練が始った。

前回同様ホルアドへ向かう。其処にオルクス大迷宮が在る。

大きなターニングポイント!俺に取っても、南雲に取ってもだ。

 

ホルアドに着いたら、パーティーを組む事になる。

まだ初見だから、天職を意識した構成の指示は無い。

まずは自分達で考えて、自分達で苦労しろ!って言う騎士団の方針らしい。

 

と言う訳で俺は南雲に謝罪して、パーティーを組む事にした。

辺りではクラスメイトが、

香織や八重樫辺りが、俺の謝罪を聞いて特に驚いている。

と言うか驚いているのは、クラスメイトの殆ど全員だった。

 

勿論この謝罪は、純粋な代物じゃない。

これは、魔王南雲の誕生を阻止する策略だ。

魔王南雲が生まれたのは、俺が南雲をオルクスの奈落に墜とした事が原因!

なら俺が、南雲を奈落に墜とさなければ済む話だが?

代わりに何か、アクシデントが起きる可能性も有るだろう。

 

だから俺は、直ぐ近くで南雲を護る事にした。

オタクの南雲はチョロイから、上手く行くと思った。

問題無く南雲とパーティーを組む事に成功する。

 

「僕も、混ぜて貰えるかな?」

 

「清水君!

 勿論構わないよ?檜山君は ――― 」

 

「あぁ、俺も構わない」

 

計画通りの好スタート!

だが此処でどう言う訳か、清水がパーティーに名乗り出て来る。

清水は南雲と仲が良かったか?

清水は南雲と同じくボッチ系だったが、特に仲が良かった印象は無い。

 

前回清水は、魔王南雲に殺されている。

銃殺。魔王自慢の銃でズドン!

魔王南雲相手に、全力で逆らった結果だ。

魔物に生きたまま喰い殺された俺より、まだ楽な死に様である。

 

「あら、それなら私達も行くわ。

 構わないでしょう?」

 

「どうして俺に訊く?」

 

清水の参戦を聞いて園部と、取り巻きの菅原と宮崎も名乗りを上げる。

これで六人!パーティーメンバーは揃った。

今のは明らかに清水狙い。

園部は清水と、何か接点が有ったか?

確か高校で席が隣りだった気はするが、それだけだ。

やはり仲が良かった印象は無い。

 

前回の話なら、一応接点は有る。

確か清水と園部は、パーティーを組んでいた筈だ。

だが前回の話を出しても、やはり意味は無い。

 

それに重要なのは、南雲の護衛だ。

清水が誰と仲が良くても、別にどうでも良い。

 

 

補足&解説枠。

檜山強化回。現地Lvの強化です。

 

神山の修行

神山には例のエレベーターが有りますが、

アレは王国の高官と、緊急用!と言う本作設定。

勇者は王国のVIPです。

 

祈りの剣

形状の採用で迷った一品。

大型の魔物相手なら、貫通効果の有る槍にしようかと迷いましたが?

檜山は元軽戦士なので、使用経験の有る剣に決定。

因みに槍の名前は【裁きの槍】と言う予定でした。

 

死亡フラグ

帰ったら○○しよう!と言うお約束。

ノイントが死亡フラグを知っていたのは、

使徒として、地球(日本)にも降臨した経験が有るから。と言う設定。




次回は清水の回想回。
ルーザーコンビ始動です☆


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04 ちっぽけ何かじゃ無い

清水回想、ダイジェスト版です。


「アアアアアアァァァァァァッッッッッッ!!!!!!」

 

「悲鳴!?」

 

誰かの悲鳴が聞こえる。断末魔の声。

酷い拷問でも受け続けているかのような、悲痛な声だ。

その上聞き覚えが有る気もしたけど、ピックアップは閃かない。

他人の不幸に構う余裕が無いからだと思う。

 

僕は南雲に撃たれた。撃たれて死んだ筈。

ゼロ距離で額を撃ち抜かれた。脳に風穴が!ってヤツ。

クリティカル回避で、ブレインスルーショットとか?無い無い☆

 

「それに此処は、日本の僕の部屋?

 幻覚オチ?それとも最期の走馬燈!?」

 

それでも僕は冷静に、自分の部屋らしき場所を探索した。

PCを起動させて、

動画サイトで初見の推しアニメを堪能し終えた辺りで、

これがリアルだと認識する。此処は日本の自宅だ。

 

「日本に帰って来た?

 それとも逆行展開!?」

 

日本に帰って来ただけなら、僕が生きて居るのはオカシイ。

南雲に撃たれた傷が無い。

奇跡的にブレインスルーショットだったとしても、これは無い。

死がトリガーになって、日本に帰って来た?

デスルーラでリスポーン?だけど試す気にはなれない。

 

「これから、どうする?」

 

今日が平日なのは把握している。

いつもなら、もう登校を始めている時間だ。

異世界召喚何て言う非日常を経験した後から、呑気に登校しろと?

 

「情報収集って事で、仕方無い」

 

他に出来る事も無い気がして、結局登校する事にした。

もう見慣れた筈の高校には、異様な光景が広がっていた。

だけど異様だと認識しているのは、僕一人なのが濃厚。

 

教室は始業前の喧騒で満ちていた。

何事も無い平和な朝。争いの無い平和な日常。

魔物何て居ないし、戦争に強制参加させられる事も無い。

平和な日本の高校。見厭きた筈の、懐かしい光景だった。

 

「帰って、来たのか?」

 

自分の席に着席する。

正気を保つ為に、無意識に日常を演じていた。

押しのラノベを取り出す。だけどラノベのページが進む事は無かった。

 

「おはよう、清水。

 珍しい。清水ってラノベ、読むんだ?」

 

あぁ、そうだった。僕は教室でラノベは読まない。

同じ愛読者の南雲が、クラスでイジメられているのを知っているからだ。

南雲はオタクだの、根暗だの言われてイジメられている。

ラノベの読書がイジメのトリガーになる事を恐れて、

僕は教室で読書を控えていた。だけど、

 

「ありふれた趣味だよ。

 好きな事を隠すのがバカらしくなった。それだけの事」

 

「ふぅん。

 良いんじゃないかな、ソレ」

 

隣りの席の園部に声を掛けられるのも、話しをするのも珍しい。

まして園部の笑顔を目撃するのは、更に珍しい。

しかもその笑顔が僕に向けられるのは、

経験値の高いメタルなレアモンスターが、逃走しない程珍しい。

 

たった今教室でラノベを読んでいるのは、

イジメグループの檜山達が、怖くなくなったからだ。

原因は言うまでも無い。魔王南雲!アイツに殺されたから。

 

魔王と比べれば、檜山達はザコモンスターに過ぎない。

極度の恐怖で、耐性が出来た感じだ。

此処がトータスなら、

きっとステータスプレートに【恐怖耐性】とかが生えていると思う。

 

 

「ちょっ何なの!?」

 

「園部っっ!!!」

 

異世界召喚前の、平和な光景が広がっていたから油断した。

油断して、まんまと異世界召喚の魔法陣に捕まった。

次に広がったのは見覚えの有る神山の神殿と、勇者を迎える神官。

僕達は、またトータスに召喚された。

 

「清水?」

 

「あぁ、ゴメン」

 

「謝らないで、

 私を助けようとしてくれたんでしょう?」

 

僕は咄嗟に、隣りの席の園部を助けようとした。

園部の手を取って、突然教室に展開した魔法陣から脱出しようとした。

だけど間に合わ無かった。園部の手を離す。

 

その後は僕も知っている光景が続いた。

教皇イシュタルの詭弁と、天之河の偽善者トーク。

でも僕が口を挟める事は何も無い。

現状日本に帰る手段が無い以上、勇者とその仲間!と言う手札を捨てるのは厳しい。

結局戦うしか無い。何の準備も無く、

魔物が闊歩する異世界に、放り出されるよりマシだと思う。

 

「これから、どうなるのかな?」

 

「戦争に参加するフリをして、戦闘訓練を積むしか無いんじゃないかな?

 手に職って事。日本より格段に危険なトータスで、身を護る力は必須になる」

 

「清水はこんな時でも、しっかり考えているんだね?

 私は不安で、これからどうしたらって思ってるだけなのに」

 

「それで、普通のLvだと思うけど」

 

異世界召喚された夜。

割り当てられた個室に、園部が訊ねて来る。

高校では女子の一グループを作る程の、コミュ力の園部が力無げだった。

流石の園部も異世界に来て、これからが不安何だと思う。

二度目の僕が随分頼りに見えるらしい。前回は、誰かに頼られる事何て無かった。

 

「清水!どう?」

 

「まぁ、問題無いんじゃないかな?」

 

それから、園部と過ごす事が増えた。

一人で過ごす事が通常運営の僕に取って、それは新鮮なルートだった。

翌日になって配られたステータスプレートにも、異常は無い。無い筈だ。

 

====================================

清水幸利 17歳 男 レベル:1

天職:闇術師

筋力:40

体力:50

耐性:40

敏捷:120

魔力:200

魔耐:150

技能:

闇属性適正・闇属性耐性・魔封結界・サクリファイス・魔獣使役

毒耐性・疾病耐性・恐怖耐性・言語理解

====================================

 

前回と比べて、明らかにステータスが高くなっていた。

技能も前回より多くなっている。周回プレイだから?

その割には、Lvは1に戻っていた。

 

「清水」

 

「園部。眠れないの?」

 

「うん、

 明日からとうとう実戦だと思うと、ちょっとね?」

 

戦闘訓練を積む日々を過ごして、遂に明日から実戦!

ホルアドのオルクス大迷宮に潜る。

ホルアドで一泊してから、と言う流れだ。

 

ホルアドでパーティー編成もする事になったけど、

僕は南雲が居るパーティーに入った。

動機は決まっている。魔王誕生を阻止するのが目的だ。

 

あのベヒモスやトラウムソルジャーの襲撃。

殿に残った南雲を援護すれば、撤退が間に合うかもしれない。

そうすれば南雲が奈落に墜ちる事もなくなって、魔王も生まれない筈。

 

不用意にドロップアイテムに手を出した檜山も気になるけど、

異世界に来てから、檜山は大人しくなった。

少なくとも、南雲をイジメている様子が無い。

隠すのが上手くなった。と言う事も無いらしい。

リーダー格の檜山が大人しいから、他の三人も大人しいモノだった。

 

だから檜山が公衆の面前で、南雲に謝罪したのは驚いた。

クラスメイトの誰もが驚いたと思う。

この檜山の改心に付いて、僕はとある予想を立てた訳だけど?

今は良いだろう。宿泊先のサロンで佇む園部に近づく。

 

「心配は要らない。

 大迷宮では、僕が前に出る。園部は後方警戒と援護に徹してくれれば良い」

 

「清水!本気なの!?

 闇術師って、後衛向きの天職でしょう!?

 それで前に出る何て!正気!?」

 

確かに闇術師は後衛職。だけど、僕は敏捷が高い方だ。

俗に言う【回避盾】が行けると思っている。

 

「僕は英雄願望持ちの身の程知らずだからね?

 前に出る。

 勇者じゃ無いから世界を、人類を護るとは言わない。

 だけどパーティーの一人や二人なら、護れると思う」

 

 

「護って、くれるの?」

 

結局、そう言う事何だと思う。

明日から私達は、命懸けの探索を始める。

ついこの間まで平和な日本で過ごしていたのに、魔物とだって戦う。

戦い。実戦。命の奪い合い。死ぬかもしれない現実。

 

そんな明日が待っているのに、

清水は私を、仲間を護ると言っている。

 

「身の程知らずだから、勇者じゃないから。

 ちっぽけだから、やれると思う」

 

そう言った清水は寂し気で、挫折感を強く滲ませていて―――

だけど私には、酷く届いた。

 

「ちっぽけ何かじゃない。

 清水は、ちっぽけ何かじゃ無いよ」

 

 

補足&解説枠。

清水逆行のダイジェスト回になります。

 

ブレインスルーショット

人間の脳には右脳と左脳の間に隙間が有って、丁度其処が額の位置。

運良くその隙間に弾丸が貫通すると、額に風穴が開いても生還するらしい。

しかしハジメのドンナーでブレインスルーショットが起きたら、

その威力で脳が、容易くミンチになりそうです☆

 

デスルーラ

ゲームオーバー(全滅)時にセーブポイントに戻る仕様を、

移動手段として活用する最終手段。

全滅時にセーブポイントからやり直す仕様の場合は、実行不可。

実行可能な場合もアイテムロストやレベルダウンなど、

厳しいペナルティが課せられる事が多く、多用は厳禁となる。

 

清水逆行

エヒトが檜山を逆行させた際に、

同じ【日本人】と言う枠組みで巻き込まれて逆行。

本作では清水が、正しく【イレギュラー】と言う立場になる。

 

回避盾

通常の盾役(タンク)とは異なり、

ヘイトを稼ぎながらも、攻撃を回避し続けるタンク。

基本的に紙装甲。回避に失敗したら即死!と言うパターンも多い。

 

園部優花

清水の、最後の良心的ポジション。

英雄願望持ちだった清水は、ハジメに敗れて挫折!

分相応に小さく纏って、小康状態を保っています。




次回は、野郎同士で月下の語らい☆
オルクス突入です。


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05 園部を日本に帰してやりたい

今回は、野郎同士の月下の語らいです☆


「どうでも良いが、意外だ。

 実戦前の約束。主人公キャラか!?」

 

「それは違う。まして主人公でも無い」

 

実戦前夜。

何と無く宿泊先を徘徊していたら、サロンに清水と園部が居た。

二人は何かシリアス顔で話していて、

暫くして園部が微かに笑顔を浮かべながら退室。

どうやら清水は、上手くやったらしい☆(憶測)

 

「まぁ丁度良い。

 確認させて貰うけど、【戻って】来たのか?」

 

戻って、か。間違い無くこのループだか逆行だかの件だろう。

それを認識していると言う事は、清水も!

 

「まぁな?」

 

「なら、檜山が黒幕?」

 

「自分も信じて無い事を、態々訊くなよ。

 んな事が出来るなら、もっと盛大にやり直してる」

 

もうその気は失せたがもっと前なら、

香織を手に入れようとして、派手に逆行したかもしれない。

まぁ何にしても、この件の首謀者は俺じゃない。

好き勝手にやり直し何て、都合の良い事は出来無い。

 

「それなら何を?

 檜山は、明らかに前回と違う行動を取っている」

 

「同じ行動を取って、同じ失敗を繰り返せってのか?

 それはただのマヌケだろ!

 まずは魔王の誕生を阻止する。これは絶対だ」

 

「あぁうん。それは解る」

 

清水も魔王に殺されてるからな、此処はあっさり同意して来る。

利害の一致ってヤツだ。考える事は同じらしい。

 

「なら、まずはオルクスだ。俺達で南雲を護衛する。

 それで良いな?」

 

清水が無言で頷く。

良し良し。一人より二人の方が、出来る事が増える。幸先が良い。

 

「逆行の記憶は大きなアドバンテージになる。

 他にも何か目的が?」

 

「他の目的?

 【凄い美人を口説く】だな」

 

「【日本に帰りたい】ではなくて?」

 

「日本でやり残した事でも有るのか?

 俺は無い。美人を口説く方が重要だろ」

 

「思い切りが良過ぎる。

 確かに僕も、無いと言えば無いけど」

 

「それでも帰りたい。か?」

 

「言葉にするなら、故郷だから。

 日本の方が平和だから、過ごし易いからって事になる」

 

ふと邪推が胸を過る。

他に目的は無い。と清水は言うが、

確かに目撃した園部の微笑みが、邪推を象って零れた。

 

「【園部を日本に帰してやりたい】。とかは無いのか?」

 

 

「本気何だな。

 闇術師ってのは、後衛職だろう?」

 

「園部にも言われた。だけど立派な戦闘職だ。

 南雲は生産職で、女子も後衛職。

 此処は男の戦闘職が、前に出るシーンだろう」

 

「まぁ否定はしない」

 

オルクスの探索が始った。

六人づつのパーティーで大迷宮を探索して、地下に続く順路を開拓する。

上層だけでも100層だ。分担した方が早い。

 

「当然の結果だ」

 

「確実に掘り出し物だな?」

 

と言っても、こんな浅い階層で苦戦する筈も無い。

充分に訓練は積んだし、

65層までは人類の踏破階層で、事前に見取り図も手に入る。

何より俺達に取って、オルクスの攻略は二度目だ。

更に祈りの剣の性能がヤヴァイ。ノイントは流石である。

 

「凄いよ!檜山君っ!!」

 

「まさか檜山が、意外だわ」

 

後方メンバーの視線が熱い。

しかし園部は、清水の活躍が見たいだけでは?

 

「清水!」

 

「任せろ」

 

次の魔物が早々に姿を現す。コボルトの群だ。

祈りの剣の高性能さに調子に乗って、一人で戦い過ぎたか?

息を整える時間が欲しい。此処は少し、清水に任せるか。

 

「棘舞【サイレントソーン】」

 

清水が前に出て何か魔法を放つと、コボルトの群が崩れ落ちた。

崩れ落ちてそのまま悶え苦しみ出して、やがて静かになる。

 

「エゲツネェなぁ、ヲイ」

 

「この魔法は効果の割に、コスパが良い。

 毒耐性の無いザコ相手なら、効果が望める」

 

名前からして、棘だか針だかを飛ばす魔法だろうとは思う。

だが俺は視認出来無かった。清水の解説では、

影のような黒い棘の魔法らしい。それを薄暗い迷宮内で使った事になる。

魔物相手に情けも容赦も要らないが、何とも殺意マシマシである。

 

清水は戦闘方針に付いて回避盾がどうこう言っていたが、

防御無用の無双風景を披露していた。清水もまだ、苦戦何てしないって事だ。

 

「毒耐性って言うと―――」

 

「ゴーレムとかアンデットには、確定で効かない。

 フレッシュゴーレムなら、行けるかもしれない」

 

「フレッシュって、殆どアンデット扱いじゃないのかな?」

 

「だからかもだよ。

 後は金属製の、ロボットとかだ」

 

「トータスで、ロボット何て居るの?」

 

「ならオートマタで、これなら居るかもしれない」

 

「オートマタか、ロマンだよネ☆」

 

清水と南雲が、オタクトークで盛り上がっている。

ヲオイ清水!蚊帳の外の園部が、ヤヴァイ感じだぞ?

 

「ヲイ!園部ッッ!!!」

 

「ッッ!!?」

 

楽勝ムードで、気を緩め過ぎた。

後方から別のコボルトが襲い掛って来る。奇襲だった。

ターゲットは園部だ。

後衛組は突然の出来事に硬直していたし、南雲は間に合わない。

俺は信仰を使ってブーストダッシュで決めようとした訳だが、

 

「操影【シャドウサーヴァント】」

 

清水の魔法の方が速い!そして今回は、俺の目でも見えた。

影が伸びる。清水の影が意志が在るかのように伸びて、

園部に奇襲を仕掛けたコボルトの、影を斬り裂いた。

影を斬り裂かれたコボルトは、影と同じ末路を辿って柘榴になった。

 

「無事か?

 だから後方警戒を頼んだ訳だが」

 

「ごめんなさい。私が―――」

 

「いや、園部が無事で良かった」

 

「清水」

 

うん、今度の蚊帳の外は俺達である。

空気を読んで、他の連中と周囲の警戒に入る。

 

「うん。これが、

 【お前等!結婚しちゃえよ☆】ってヤツなのかな?」

 

「知らん」

 

 

「清水。何をしているの?」

 

「技能検証。試したい事が有る」

 

オルクスの探索は続く。

最も優先すべき身を護る戦闘技能は、充分検証したと思う。

少なくとも次の30層のゲートまでは、戦闘で後れを取る事は無いだろう。

なので特殊技能の検証に入りたい。

 

「それって、さっき倒したコボルトでしょう?」

 

「あぁ、威力を調整して瀕死に止めている」

 

「えっまだ生きてるの?」

 

「検証だから」

 

今目の前に倒れているのは、探索中に撃破したコボルト。

そのコボルトを一体だけ、棘舞で瀕死に止めた。

【魔獣使役】の技能を検証しようと思う。

 

この技能は、文字通り魔物を従える事が出来る。

前回はウルの町で、スタンピードを起こした要因にもなった技能だ。

 

「良し、手応え有り」

 

上手くコボルトを使役出来た。

前回と変わりは無いらしい。問題無く【格下】の魔物を従えられる。

確率の幸運では無く、実力を問われる技能だ。

 

「暗黒回帰【ネガティブヒール】」

 

「清水って、回復魔法も使えるんだ?」

 

使役したコボルトを運用する為、回復魔法を施す。

因みにこの魔法は、闇属性の回復魔法だ。

確かにHPは回復するが、回復だけなら光属性の方が効率が良い。

暗黒回帰【ネガティブヒール】は、

アンデットのダメージも癒す事が出来る負のヒールである。

 

そもそも通常のヒールは、

アンデットを始めたとした負の存在を傷付けてしまう。

暗黒回帰【ネガティブヒール】は、そんな負の存在を癒す特殊なヒールだ。

と言っても今回癒すのは、通常のコボルト。

特に問題無く、コボルトは復帰を果たした。

 

「凄い。これで頼もしい味方が!って事?」

 

「いや、それは無い。

 知っての通り、僕達は充分に強い。

 肉壁になる機会は有っても、通常のコボルトが戦力になる事は無い」

 

「それならどうして?」

 

園部の疑問は当然だろう。

だけどコボルトの使い道は他に有る。

まずコボルトは獣系の魔物で、嗅覚が優れている。

戦闘より索敵向きだろう。斥候役と言う訳だ。

 

「清水の言う通りだったな?

 まさかザコのコボルトにこんな長所が」

 

「言っただろう?斥候向きだと」

 

それ以来、コボルトを先頭に立たせた。

自慢の嗅覚で、コボルトは真っ先に襲撃に気付いた。

 

「これってトラップ?」

 

「罠にも気付いたの?」

 

「良し良し、良い調子だ」

 

その上このコボルトは、仕掛けられたトラップも看破した。

迷宮内の違和感を感知出来るらしい。これは素晴らしい誤算。

 

「何だか随分頼りになった気がする。

 名前。付けてあげたら?」

 

「名前か」

 

園部からの提案。

短い間に、随分と仲間意識が芽生えたらしい。

 

それにしても名前か。

実は僕は、名前を付けるのが好きだったりする。

と言ってもペットに付ける名前では無い。

名無しのヒロインに付ける名前だ。

 

そう!これは趣味のゲームの話。

多くのゲームをプレイすれば、名前の無いヒロインと出逢う事も有る。

そして、プレイヤーに選択が委ねられる事も!

大抵のヒロインは名前を付けると、とても喜んでくれる。

僕は、そんな名付けイベントが大好物だった。

 

「なら【フェリエル】だ」

 

【フェンリル】だと有名過ぎるから、適当に弄った結果だ。

同じ狼系でも遙かに格下のコボルトには、過ぎた名前だろう。これで良い。

 

「フェリエル?」

 

「何か嗅ぎ付けたな?

 これはアレかもしれないな」

 

名付けが終った後も探索は続く。

斥候を務めるフェリエルが、鼻をヒクヒクさせていた。

これは何かを嗅ぎ付けた合図だ。僕はそれに心当たりが有る。

 

「行こう。臨時収入の時間だ」

 

 

補足&解説枠。

オルクス大迷宮探索パート。まだ低層です☆

 

フレッシュゴーレム

数多く存在する○○製ゴーレムの、バリエーションの一つ。

フレッシュとは、死肉製ゴーレムの事。殆どアンデット。

製法がゴーレム系統なだけ。アンデットにしか見えない。

 

オートマタ

自動人形の事。オートマトンと言う場合も有。

オートマタは個人的な押しヒロイン種族☆大好物です。

 

コボルト

最近のファンタジーでは、定番ザコモンスターはゴブリンですが?

私の推しザコモンスターはコボルトです。




次回は資金調達の採掘です。
何を採掘するのか?解る人は中々のファンタジー通と見ました☆


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06 はぐれなメタル

今回は採掘と捕獲です。


「此処の壁、色が蒼い」

 

「鉱脈だ。稀少金属コバルトの。

 ファンタジー風に言うと、腐食銀【コバルト】」

 

フェリエルの案内で発見したのは、やはりコバルトの鉱脈だった。

コボルトの設定は、トータスでも有効らしい。

 

「腐食銀【コバルト】?」

 

「名前の通り、腐食した銀だと言われている」

 

コボルトは穴倉に棲息する魔物だが、

コボルトが出たら、銀脈が近くに在る!と言われる程。

それだけコボルトは、銀脈に棲息している確率が高いらしい。

そしてコボルトが棲息する銀脈で、コバルトは採掘される。

コボルトには銀を腐食させる能力が有る。そう信じられた。

 

と言うのがコボルトとコバルトの設定だ。

僕達は異世界に来て居る訳だけど、こうも設定通りの展開になるとは!

 

「と言う訳で臨時収入だ。

 採れるだけ採って行こう☆」

 

「採掘するの!?」

 

と言っても素人の僕達が採掘する訳じゃない。

経験は勿論、道具も無い。これは如何にも無謀な挑戦だろう。

まさか武器で掘る訳にも行かない。工夫を雇うのも無い。

実戦訓練の必要経費以外の、プライベートで動かせる資金が無い。

必要な資金は、随伴する騎士団が管理している。正にお子様扱いである。

 

「フェリエル!」

 

「あぁそっか、フェリエルに」

 

採掘はフェリエルに任せる事にする。

後は待つだけで、稀少金属が手に入る。一財産ゲットだ。

 

「呑気に採掘していて大丈夫なの?

 他の皆は、大迷宮を探索中なのに」

 

「少し道に迷った事にすれば問題無い」

 

「清水。

 お金に目が眩んで無い?」

 

「金は大事だろう。金=行動力。

 金が有れば出来る事が増える。選択肢が増える!と言う事だ。

 今は探索の費用も生活費も王国持ち。

 これでは国からの依頼を断り辛いし、

 断って費用を取り上げられたら、干上がって死ぬ。

 金は、活動資金は絶対に必要だ」

 

「うぅ、社会常識が重いっっ!!!」

 

結局は召喚当初の問題に戻ってしまう。

だが!もう僕達は無力な異邦人では無い。戦う力が有る。

自分で身を護れるし、恐らく自分で働いて金も稼げる。

行動を自分で選べる!

必ずしもハイリヒ王国に、聖教教会に従う義理は無い!と言う事だ。

 

「その為の採掘?」

 

「そう!この手に自由を掴む。

 職業選択の自由って事」

 

勇者の仲間とか言うブラック企業は退職して、

冒険者でも始めよう!ファンタジーの弩定番である。

何よりあの教皇はアウト。信用出来無い。

上司にしたくない人間の見本Lvだと思う。

 

「フェリエル?」

 

「そう全てが上手く行かないか」

 

命令通り採掘を続けていたフェリエルが、警戒モードに入る。

命令終了前の行動変更。警戒モードへの移行。これは襲撃の兆しだ。

 

「中ボスのお出ましか、それともエクストラクラスか?」

 

「大きい」

 

鉱脈の奥から現れたのは、大型のコボルトだ。

主人公とヒロインの相乗りが出来る程の巨体だった。

当然ながら乗れる事と、乗せてくれるかどうかは別問題である。

 

コボルトロード(仮)は、既にテリトリーを侵した僕達に殺気を放っている。

敵対認定確定!と言った処だ。

或いは同族のコボルトを使役しているのが、気に入らないのかもしれない。

フェリエルにも同様の殺気を放っていた。

 

「悪いけど、コバルトは頂いて行く。

 気に入らないなら、戦うだけ」

 

 

「何かテンション↑↑だな?清水」

 

「すっかり置いて行かれた感が有るよね?」

 

と言う割には、檜山も南雲も文句一つ無く戦闘態勢に入る。

既に文句を言って、どうにかなる状況では無い事を悟っているからだ。

 

「奥から、また」

 

園部の悲痛な声。

眷属と言った処だろう。奥から通常サイズのコボルトが、次々と姿を現す。

取り巻き付きのボス戦!と言う事か。

 

「錬成→【ダウンフォール】」

 

取り巻き付きのボス戦では、

大抵の場合、素早く取り巻きを処理してボスに挑む事になる。

南雲はそれを良く解っている。南雲の錬成で、即席の落し穴が出来る。

取り巻きのコボルトが面白い位に嵌って、行動が阻害される。

 

「曲がって!」

 

動かない的に園部と、菅原と宮崎の攻撃が突き刺さる。

特に園部の攻撃は、ホーミングシュートと言う投擲術だ。

文字通り投擲したナイフが、側面からホーミングしてコボルトの耳辺りに刺さる。

骨の薄い側面を、正面から狙った攻撃。ナイフは脳まで達している筈。

 

「ボス戦に手加減は要らねえっ!!

 【信仰】!力を貸せっっ!!!」

 

沈黙した取り巻きを突破して、檜山が斬り込む。

技能を使用したらしい檜山の動きが、いつもとは違った。

自己ブーストなのか、巨体のコボルトロードをズバズバ斬り裂いている。

そしてあの祈りの剣の性能も、相変わらず規格外だ。

ゲーム基準で言うなら、明らかに登場時期が早い。

 

「極天蝕【エクリプス・ゼロ】」

 

檜山が前線でヘイトを稼いでいる内に、いきなり大技を放つ。

危険を察したコボルトロードが、

檜山から強引に離れて退避しようとしたが、それは悪手だった。

檜山を下がらせる手間が省けた。

 

闇で光を遮断して、偽りの蝕を生み出す冷凍魔法。

コボルトロードの退避は間に合わず、片足が蝕に囚われて砕け散った。

片足で済んだのは称賛に価する。だけど足の部位欠損は致命的だった。

 

「おらあっっ!!!」

 

片足を喪った激痛に怯むコボルトロードに、檜山が追い打ちを掛ける。

勝敗は殆ど決したと言って良いだろう。後一太刀で、コボルトロードは沈む。

 

「ナンノマネダ、ニンゲン」

 

「喋った!?」

 

僕は檜山の、最後の一撃を止めた。

そして片言ながら口を開くコボルトロード。

園部は驚いていたが、そう言う事も有るだろう。その方が都合が良い。

 

「ナサケヲカケルツモリカ、コロスマデモナイトデモ?」

 

「此処で殺すより、

 これからもコバルトを作り続けてくれた方が、都合が良い。

 採り尽くすのはアウト!と言う事だ」

 

「流石は清水。エゲツネェ」

 

エコだと言って欲しい。

森の木を全て伐採するのは、アウトなのと同じだ。

コボルトロードはこちらの理屈を理解出来無かったようだが、

今回は退き下がった。勝者の特権である。

 

「危な気無く圧倒出来た。良い塩梅」

 

 

「清水?」

 

「どうやら伏兵らしい。何か居る」

 

大量のコバルトを手に入れて、上機嫌で探索に復帰する。

だが斥候を務めるフェリエルから、警告の報告が上がる。

どうやら伏兵が居るらしい。伏兵!待ち伏せを仕掛ける新しい魔物。

 

「コイツはっっ!!?」

 

「うわっグロッ!?何なのコレ!!?」

 

フェリエルが看破した伏兵は、ゲル状の魔物だった。

金属を思わせるメタルカラーで、ウネウネと蠢いている。

園部はアウトらしく、顔色が悪い。

 

「うおおおぉぉぉっっっキタ――(゚∀゚)――!!

 ファンタジーの超弩定番のスライム!しかもコイツ、はぐれなメタルか!?」

 

「えっ本物!?」

 

「えっどうしてそんなに盛り上がってるの!?」

 

何かはぐれなメタルっぽいスライムなので、そのまま呼称する。

だがはぐれなメタルの割には、逃げる気配がしない。

異世界のメタルは逃げないのか!?何て素晴らしい展開!

と思っていたら、はぐれなメタルが襲い掛って来た。

何と言うレア行動!あのはぐれなメタルが、である。

 

「狙いはコバルトか!?」

 

はぐれなメタルの狙いは、どうやらコバルトらしい。

コバルトを納めた道具袋を、必要に狙って来る。

はぐれなメタルと言う位だから、稀少金属が好物なのかもしれない。

何と言うグルメ!コバルトを食べる心算か!?

 

「だがこれはチャンス!」

 

コバルトを文字通り餌にして、はぐれなメタルを踏み留まらせる。

使うのは当然【魔獣使役】の技能だ。リアルで1/256だろうと成功させる!

 

「良し!手応え有ったあああぁぁぁっっっ!!!!!!」

 

「おめでとう!清水君☆」

 

「何なの?この盛り上がり!?」

 

見事1/256を釣り上げた。

魔獣使役は確率技能では無いが、気分的に1/256である。

 

「良し!名前は【メタリア】だ☆」

 

結局コバルト(一欠片)を食べているらしいメタリア。

随分御機嫌に食事中らしく、こちらのリアクションに応えは無かった。

 

 

補足&解説枠。

採掘とメタル回になりました☆

 

コボルトとコバルト

コバルトに関する設定は、作中の通り。

清水の知っていた別作品の設定が、

トータスでそのまま有効化されていた設定です。

 

VSコボルトロード

資金を手に入れて自由を手にする。

自由の為に戦う!お約束です。英雄願望持ちの清水は、テンションが↑います。

 

はぐれなメタル

得られる経験値が高い事で有名なメタルモンスター。

似のメタリックカラーのゲル状のスライム。

原作の可愛い系では無く、リアルスライム系。

はぐれなメタルが推しなので、

似た感じのスライムをそう呼んでいるだけ。と言う設定。

 

捕獲率が1/256なのは超有名☆

幸運か時間を使い果たさないと、仲間には出来無い。

本作では運要素の確率捕獲では無いので、鬼畜度は温い。

後は出現率の問題。こちらの方がレア設定。

 

原作では最弱モンスターとして登場したスライム。

しかし他作品のリアルスライムは、

奇襲が怖い。酸がヤヴァイ。物理がアウト!と中々の難敵として描かれています。




元は普通のスライムを出す心算でした。
しかしいつの間にか、メタルなアイツが出ていました。
あの原作で、一番の推しモンスターなのです☆

次回は30階層ゲート解放戦。レイド戦です。


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07 トータスの平和と、日本に帰還する第一歩だ!

今回は30階層ゲート解放戦。レイド戦です。


「結局、メタリアだけだったか」

 

「残念だよね?」

 

「空気が重いわ。無駄に探索時間も使ったから」

 

清水は例のメタリックカラーを仲間にした事で、調子に乗った。

調子に乗って、メタル狩りとやらを提案して来た。

要はレベリングだ。メタル専門の。

清水に南雲が同調!仕方無いからメタル狩りを始める。

 

だが例のメタリックカラーは現れ無かった。

流石は噂のレア・モンスターである。清水の悔しがり様が、半端では無い。

時折今でも「くっ最低3体揃えばフル装備が!」とか呟いている。

 

「来たか。道中問題無かったようだな?」

 

「おぉ檜山!お疲れさん」

 

「あぁ、こんな低層で遅れを取るかよ」

 

その後は大迷宮の探索も順調に進んで、30層の合流地点に到着した。

オルクス大迷宮上層30階層。

其処に一つ目のゲートが在る。此処のゲートを解放すれば、

入口近くのゲートポイントから、ショートカットが可能になる。

オルクス大迷宮の、第一攻略目標だ。

 

「南雲君!怪我は無い?」

 

「大丈夫だよ、白崎さん。

 檜山君も清水君も、凄かったから」

 

「あら、それは是非拝見したかったわね?」

 

30層のゲートの手前まで、最初に到達したのは天之河の勇者パーティーだ。

俺達のパーティーは、メタル狩りで時間を浪費して二番手だった。

 

「あれ?え~と、その子はナニ!?」

 

「スライムだ。はぐれなメタルっぽいスライム。

 名前はメタリア」

 

「あっそれ私も知ってる!

 でも、余り可愛くない?本当にその子が!?」

 

「確かに」

 

「リアルスライムに、可愛さを求められても」

 

まぁ勇者様より早いと、天之河が煩かったかもしれない。

俺達のパーティーに、順位を気にするヤツは居ない。どうでも良い事だ。

 

「あれ、出遅れたかな?」

 

暫くして、他のクラスメイトのパーティーも到着する。

俺達のパーティーの直ぐ後に来たのが、中村のパーティーだ。

中村と仲の良い女子ばかりの仲良しパーティー。

魔術師ばかりで良く此処まで、と感心してしまう。

 

「天之河と檜山か、待たせたか?」

 

次に到着したのは、永山のパーティーだ。

中村のパーティーとは真逆の、体育会系脳筋漢パーティー。

やはり永山と仲の良い、部活仲間でパーティーを組んで居るらしい。

言うまでも無く、こっちは戦士ばかり。割と本気で暑苦しい。

 

「ふぅ、やっと到着かよ」

 

最後に到着したのは、寄せ集め臭い近藤パーティーだ。

俺が南雲イジメを止めてから、グループは崩壊した。

だがイジメを止めても、イジメグループが快くクラスに受け入れられる事は無かった。

グループは孤立して、行き場の無いボッチ系が集まってパーティーになった。

それが近藤パーティー。寄せ集めパーティーの所以だった。

 

「皆!無事に合流出来て何よりだ。

 事前情報では、この先にゲートポイントが在る。

 オルクス大迷宮の攻略には欠かせない、重要な攻略ポイントになる。

 だがその事前情報によるとゲートポイントの前に、

【ガーディアン】と呼ばれる大型の魔物が、居座っているらしい」

 

要は此処にも中ボスが居るって事だろう。

そのガーディアンとやらは、コボルトロードより強いのか?

 

「けれど必ず乗り越えられると信じている。

 行くぞ!これがトータスの平和と、日本へ帰還する第一歩だ!!」

 

 

「居たね?ロボットが、ゴーレムだけど」

 

「ゴーレムは別腹だろう」

 

天之河の号令で、30階層レイド戦が始った。

合流地点に鎮座する如何にもと言った大扉の先に、それは居た。

30階層のガーディアン。ジャイアント・ゴーレムのギガンテスだ。

 

ギガンテスは一応人型だが、足が無い。

釣鐘に腕と頭が生えた、浮遊する鎧のゴーレム。それがギガンテスの武威。

 

「スタートサポート!

 【信仰】→【祝福】!!」

 

如何にも硬く、如何にも重そうな豪腕。

ギガンテスの豪腕を警戒して、開幕からスタートサポートを掛ける。

信仰で得た恩恵を【祝福】の効果で共有する。

全体に恩恵を分け与える【祝福】は、大人数のレイド戦でこそ真価を発揮する。

 

「これは、良し!

 恵理は援護を!永山は続けっ!!」

 

天之河Pが永山Pを率いて、ギガンテスに突撃した。

中村Pは後詰の援護だ。

バカ正直過ぎる!如何にも堅牢なギガンテスの装甲が見えないのか?

案の定【祝福】の効果が有った上で、ギガンテスに攻撃が届かない。

 

「硬そうな釣鐘野郎だ。関節を狙う!」

 

天之河Pと永山Pが正面からギガンテスと交戦する中、

俺達は戦場を迂回して、側面からギガンテスの関節部を狙う。

重装甲系を相手取る時の常套手段だ。

 

「ちっザコ共がっ!!」

 

だがそうはさせまいと、ギガンテスは取り巻きを解放する。

ボムゴーレムだ。通称自爆ゴーレム。

見た目はただのストーンゴーレムだが、ダメージが蓄積すると自爆する。

面倒なのがゾロゾロと出て来た。この自爆兵を突破して、仕掛けなければならない。

 

「ザコだな!オレ達に任せろっ!!」

 

しかし近藤Pが華麗に踊り出て、ボムゴーレムの取り巻き部隊に喰らい付く。

取り巻きとの戦いの方が、楽勝だと判断して参戦したのはバレバレだった。

だが助かる事には違いない。取り巻きは近藤Pに任せて、ギガンテスに攻撃を続行。

 

「釣鐘野郎は金属ロボっぽいからな、どうせ弱点は【雷撃】だろ!

 【洗礼】!【雷撃付与】っっ!!!」

 

【洗礼】は自身の武器に、闇を除いた五属性のどれかを任意で付与出来る。

今回は【雷撃付与】だ。祈りの剣に雷撃が宿る。

 

「喰らえっっ!!!」

 

何度も何度も、ギガンテスを雷迅剣で斬り捨てる。

だがギガンテスは沈まない。効いていない訳じゃない。しぶといだけだ。

何度雷迅剣で斬られても、ギガンテスは踏み留まる。

 

「ちっ釣鐘がぁぁっっ!!!」

 

雷迅剣の連撃を前に、ギガンテスは怯んだ。怯んだように見えた。

だがそれは誤りだった。ギガンテスは後退すると、胸の装甲を開いた。

装甲が開くと、中から無数の槍がその姿を現す。

 

「メタリア!メタルシールドッッ!!!」

 

「錬成→【アースウォール】」

 

悪寒がした。死の影を感じた。

俺を捕らえようとする、死神の鎌を幻視した。

無数の槍が、ミサイルの如く投擲される。認識が追い付く前に退避していた。

後方では清水がメタリアを大盾に変化させて、

南雲が土壁を錬成して、後衛陣を護る姿が視界に映る。

 

「うわぁぁぁっっっ!!!」

 

それより外周では、ボムゴーレム達が自爆を始めていた。

近藤Pが連鎖的な爆発を前に、陣形を崩して行く。思ったよりも早い。

 

「今だっ!天之河っっ!!!」

 

「行って!光輝っ!!」

 

永山Pと中村Pが正面からギガンテスを押さえる内に、

天之河Pが、遂にギガンテスの背後を取った。

 

「うおおぉぉぉっっっ!!!!!!」

 

ギガンテスの背後から、天之河Pが決死の攻撃を加える。

怯むギガンテス。だが再び胸の装甲を開いて、天之河Pを捉えた。

 

「やらせるかぁぁっっ!!!」

 

再び開いた胸の装甲部分に、雷迅剣を叩き込む!

何度も何度も、ギガンテスが沈黙するまで叩き込む。

 

「どうだ!釣鐘野郎がっっ!!!」

 

ギガンテスが崩れ墜ちた。

投擲する筈だった槍を真上に撃ち出して、

落下して来た槍に、自ら貫かれて串刺しになった。ギガンテスは沈黙した。

戦いは終った。30階層ゲート解放戦は、勇者Pの勝利で幕を閉じる。

 

 

補足&解説枠。

30階層のガーディアンとのレイド戦です。

 

メタル狩り

経験値獲得が高くレベリングに効率的な、

メタルモンスターを重点的に狙って狩る事。

またはメタルモンスターを、効率的に狩る手段の事。

 

合流地点

ゲームなら、確実にセーブポイントが在る場所。

ボス部屋前の謎の空き部屋。控え室なのかもしれない。

 

近藤P

お察しの通り、最弱のパーティー。

寄せ集め。自分より弱い魔物としか戦わない。←賢い選択。

 

祝福

自身に与えられた恩恵(バフ)を、仲間にも施す技能。

任意に与える恩恵を選択可能。

恩恵を与える人数。与える恩恵の項目数で、消耗するMPが激変。多用は厳禁。

ボムゴーレムの自爆攻撃を前に、近藤Pが生き残れたのはこの技能のおかげ。

 

洗礼

【地】【水】【火】【風】【光】の、

全六属性中、五属性を任意に一つ付与出来る。

しかし六属性中、闇属性だけは付与出来無い。

結果、光属性の相手には優位に立てない。

また作中の雷撃付与の雷属性は、風属性の派生属性となる。

 

メタルシールド

メタリアが武装化して、大盾に変化した姿。

他にも鎧や兜。武器にも変化出来る。高性能枠。

 

武装化した際にもメタリアがサポートしてくれるので、

清水が本来装備出来無い重装備でも、取り扱う事が可能。




そろそろノイントが描きたい気分ですが、まだ不在のシーン。
帝国イベントまで出番が無い予定。と言う訳で、園部さんの出番です☆

次回はホルアドの休日。


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08 少しだけ周りにも目を向ければ、答えは見つかるんじゃないかな?

今回はホルアドの休日回です。


「メタリア!メタルシールドッッ!!!」

 

30階層ゲート解放戦。私はこの時、死を覚悟した。

30階層を護るガーディアンは強大で、

アレと平気で戦える清水と檜山は、凄いと思う。

 

そうこうしてガーディアンとの戦いが続く中、

ガーディアンの攻撃が、槍の雨が降り注いだ。

 

あっこれは死んだな?と、私は悟ってしまった。

これを防げる手段を、私は知らない。

逃げるのも無理。もう間に合わない。何でこんな事だけ、直ぐに解るんだろう?

 

「清水?」

 

「園部。動くな、じっとしてろ」

 

だけど私は死な無かった。まだ生きてる。

清水が、

いつの間にか身長よりも大きな盾を構えた清水が、私を護って盾になっていた。

ガンガン盾に槍が当たる金属音が、酷く現実的だった。

隣りでは南雲が土の壁で、同じく妙子と奈々を護っているのも見える。

 

「範囲攻撃か、面倒だな」

 

清水はこんな状況でも臆する事無く前を、ガーディアンを見ていた。

あの時の宣言通り、清水は前に出ている。

私にはそんな清水が、とても大きく頼りに見えていた。

 

「うっひゃぁぁっっ、ナグモ君やっるうぅぅっっ!!!」

 

「助かったよ南雲君!ありがとうネ☆」

 

「それは良いから、大人しくして!?」

 

うん、隣りが騒がしくて色々と台無しだった。

でもそれから、どうにかしてガーディアンの討伐は成功する。

問題のゲートを解放すると、プレートの一番下に備考が追加されていた。

 

====================================

備考

オルクス大迷宮踏破記録★☆☆☆☆

====================================

 

オルクス大迷宮の踏破記録!

この★が30階層のゲート解放の印なのかな?

残りの☆は、未開放のゲート?

この先60階層とか90階層にも、ゲートが在るとか?

なら四つ目と五つめの☆はナニ?

オルクス大迷宮って、100階層じゃないの!?

 

「結局、何処まで続くの!?」

 

解放したゲートで、今日は一旦ホルアドに戻る事になる。

これからはこのゲートで、30階層から探索出来る。

無理をする必要は無い。と言う判断らしい。

 

「清水。どうかしたの?」

 

「園部か」

 

宿泊先の、騎士団御用達の宿屋に戻る。

休暇の過ごし方は人其々だ。宿屋で休む子や、元気に町に繰り出す子も居る。

 

私は前者だった。まず身体を休めたい。

宿泊先は騎士団御用達の高級な宿だった。お風呂が在る。

異世界ではお風呂が在る宿屋は高級扱い!

でもメルドさんに頼んで、クラスの女子で団結してお風呂付きの宿屋を選んだ。

探索の後は、入浴しない何て在り得ない。

 

「上手く行かないモノだと思ってな?」

 

「綺麗―――」

 

入浴を終えて、風に当たろうとサロンに顔を出す。

するとサロンには清水が佇んで居て、何か難しい顔をしていた。

何が有ったのか訊ねると、清水は懐からそれを取り出した。

 

それは蒼い光りを宿した貴石だった。蒼い宝石の指輪。

綺麗なコバルトブルーの指輪で、意識していなくても目を奪われてしまう。

 

「それで、その指輪は?」

 

「例のコバルト。そのまま鉱石として売るより、

 宝石としてカットした方が、高く売れそうだろう?ブリリアントカットとか」

 

「宝石のカット何て出来るの!?」

 

「南雲に頼んだ。アイツは錬成師だから、得意分野だろう?

 でも流石に、手間と集中力の消費が半端無かったらしい。

 とても財テクには使えない非効率的結果だ」

 

そして残ったのが、試作品となる目の前の指輪らしい。

残念だと思う。財テクの話では無くて、

こんなに綺麗な指輪が、日の目を見る事無く死蔵されてしまう事が。

 

「南雲は将来、宝飾デザイナーに成れるかもしれない。

 園部?」

 

「あっ聞いて無かった。何?」

 

すると清水は、コバルトブルーの指輪を握らせて来る。

えっこれってどう言う事!?と放心している内に、私を置いて話しは進む。

 

「それは園部に渡そう。

 園部はパーティーの仲間。戦果の分配を受け取る権利が有る」

 

「でも、私は―――」

 

「受け取り辛いか?それならお約束で」

 

今日は本当に、こんな事ばかり。

清水は私の掌から指輪を一度受け取って、

躊躇う事無く、私の左手の薬指に嵌めた。何を?指輪をだ。

 

「それはプレゼントって事で☆」

 

ちょっ!?これはやり過ぎでしょうぉぉぉっっっ!!!!!!

でも私は余りの展開に脳がフリーズして、指輪を返し損ねてしまう。

未だにコバルトブルーの指輪は、私の指で輝いている。

 

流石に南雲もアーティファクトは作れないから、

アミュレットやタリスマン的な効果は何も無い。それが残念だ。とか、

清水は呟いていた気がしたけど、私の耳に届く事は無かった。

 

 

「指輪をプレゼントして、指に嵌めた?

 ダウトだろう」

 

ホルアドに滞在中のクラスメイトの中で、既に噂になっていた。

【園部が指輪を贈られた】と。

堂々と指輪を嵌めて居たら、それは目立つ。

園部がクラスで、目立つ奴だと言うのも大きかった。

端的に言って、クラスカーストの上位者!と言うヤツだ。

直ぐに好奇心旺盛な、クラスメイトの餌食になった。

 

しかも指輪を贈ったのは、同じクラスメイトだ。

カップル成立などとはLvが違う。プロポーズか!?と騒ぎになっている。

 

園部の様子は俺も確認した。

余りの展開に脳がフリーズしているのか、反応が悪い。

この反応の悪さを、周囲が勝手に補填してしまっている。

クラスメイトは花畑を耕している。と言う状況だった。

 

「アレは、本当に何の効果も無い指輪何だ。

 ただの売却用でしか無い。そんな指輪を相手に、園部は目を輝かしてた。

 プレゼント位!したくなるだろう?」

 

「このゲーム脳が!それはゲーム内の話だ。

 指輪をプレゼントと言ったら、日本ではプロポーズがデフォルトだろ!

 正気に戻れ。此処は異世界だが、俺達は日本人だ」

 

「ぐっなら、回収した方が?」

 

「色々行き違いが遭ったが、指輪を受け取ったのは園部だ。

 此処で指輪を回収するのは、園部を疵付ける」

 

 

「って、何を上から目線で☆」

 

項垂れる清水を置いて、宿屋を出る。

清水は明らかにしくじった。だがそれで気付いた事も有る。

俺は、ノイントに土産物の一つも用意していない!と言う事実にだ。

 

あの清水が、ワンオフの指輪をプレゼントだと!?

対する俺はホルアドまで来て、何もしてネェッッ!!?

これはマズイ!そう悟って、清水に対抗してホルアドの宝飾店に突入した。

 

「ぐはっハルマゲドンクラス!?」

 

初めて見る宝石は、最終戦争的に高額だった。

俺が出せる支給金では、まず買えない。

清水が金を稼ぐ話をしていたが、状況を理解した。

 

「あっ檜山君?」

 

「白崎!さん」

 

厳しい現実を理解した処で、香織と遭遇する。

咄嗟に【香織】と呼ば無かった自分を、誉めても良い。

 

「ちょっと驚いたかな?檜山君はどうして此処に?」

 

「そ、それは―――」

 

香織は女だから!と言う免罪符でクリア出来る問題だが、俺は違う。

男の身で一人!宝飾店に行くのは目立ち過ぎる。

だが浮気がバレたかのように慌てるのも、何か違う。

 

「今、噂になってるだろう?清水と園部が。

 だから俺も、土産物の一つも用意しようかと」

 

「あぁ、優花ちゃんと清水君のあの噂かぁ」

 

咄嗟に何のフォローも浮かば無い。

もう殆どノンフィクションである。別に隠し事じゃネェ死☆と開き直る。

 

「それで、檜山君もプレゼントを贈りたい人が居るの?

 どんな人?良ければ相談に乗るよ!?」

 

「いやでも、宝石はアホらしく高いし!

 俺じゃ手ェ出せネェよ」

 

「あぁ確かに宝石は値が張るよね?でも―――」

 

と言って香織は手を広げる。広がった先に在るのは、

宝石が収まるショーケースでは無く、観光客向けの土産物コーナーだった。

 

「少しだけ周りにも目を向ければ、答えは見つかるんじゃないかな?

 それでも本物の宝石をプレゼントしたかったら、もう頑張るしか無いと思う」

 

観光客向けのアクセサリーなら、俺の財布でも対応出来る。

ガチの宝石は残念だが、今は手が出せない。

上から目線で語った後でアレだが、清水に相談しよう。

 

「そうか、そうだな?」

 

その後は香織と、土産物コーナーを物色した。

何とかノイントに似合いそうな土産物を、ゲットしたと思う。

だが清水のコバルトの指輪には、敵わない。何か負けた気がする。

 

「白崎さん。もうとっくにバレてるかもしれないけど、

 ついこの間まで、俺は白崎さんの事が好きだった」

 

「檜山君!?」

 

「でもまぁ、色々遭って諦めたよ。

 南雲が羨ましかった。本当に」

 

「えっと、態度に出てた。とか?」

 

「バレバレだから。まぁ早い処上手くやると良い。

 遅れると、ハーレムが出来た後になるから。

 今日は助かった。ありがとう」

 

「ちょっ!?檜山く~~んっっ!!?」

 

今日の礼を伝えてから、香織に背を向ける。

ポロッと本音が零れたが、まぁ良いだろう。きっと大差は無い。

俺が魔王を仕留めるからだ。魔王南雲!俺はお前の誕生を許さない。

 

 

補足&解説枠。

ホルアドの休日回でした☆

 

ブリリアントカット

ダイヤを最も美しく魅せる。と謳われたカット。58面体。

錬成でカットするのも、理論上は可能!と言う設定。但し高難易度。

 

クラスカースト

教室内の発言力や、影響力を身分制度に例えたピラミッド。

友人の多いイケメンや、コミュ力の高い美少女が頂点を担い易い。

元ネタで一番偉いのは【神官】。ハイリヒ王国と同じ穴である。

 

ゲーム脳

ゲームのプレイ、クリア、最速最適最強など、

ゲームに適応した判断/行動を下せる脳の事。または人物。

リアルでゲーム脳判断を下すのは、基本的にNG!マナー違反になり易い。




異世界は娯楽が少ないので、
買い物帰りに宝飾店に道草する敷居の低さ!と言う設定。

次回は転移トラップ回です。


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