ギャルゲーマーとギャルゲの主人公 (神のみはいいゾォ)
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始まり
好評なら続く…かも?
俺は今猛烈にこの場から消えたい衝動に駆られていた。
なぜならば、
「お願いします」
「お、お願いします!」
1人のみ知らぬ少女と昔からの顔なじみの男から土下座されているからだ。
「……うん、まず…なに?」
とりあえずは聞こう。話くらいはね。うん。
「実は━━」
そう言って話し始める顔なじみのメガネ。
なるほど、カクカクシカジカと。ふむふむ。
「帰るわ」
「ちょっと待てぇ!」
「ま、待ってください!」
踵を返し帰ろうとする俺の足にすがりついてくる2人。
各々で左右別々で掴んでくるから転けそうになったわクソが。
「離せやアホタレ!大体そんなバカみたいな話信じれるかい!」
「それがガチなんだよ!マイフレンド!」
「こんな時ばっか友達を出してくんなメガネが!」
このメガネの男、桂木桂馬。
こいつから聞かされた話。まあ端的に言うと女の子とキスして取り憑いてるお化けを女の子の中から弾き出して捕獲しなきゃいけないと、出来なきゃ首が飛ぶ(物理的に)と。それを俺に手伝えと。うん。
「ふざけんな…!」
「頼む…!頼むから…!お前も知ってるだろ!ボクはリアルには興味が無いんだ!」
「お生憎…!俺もだよ…!」
足にコアラのように縋り付き泣きながら懇願するメガネを無視しながらそのまま歩き出そうと、
「と、止まって下さいー!」
今度は名も知らぬ少女が背中にコアラ抱っこしてきやがった。
いきなりの重みに体制が崩れそうに……おい!首に腕がちょうどよくはまっとるがな!死ぬ!
「あがががが!」
ここが地獄か。
「ふはははは!これで完璧な布陣となった!よろしく頼むぞ我がマイベストフレンド!」
「はあぁぁぁぁあ……死ねやお前」
「が、頑張りましょうね!
あれから根負けしてしまった……そう根負け"してしまった"俺はなし崩し的に手伝いをすることになっていた。
俺の意思はどこに消えたよ。
「てか、お前さんは誰なのよ」
「あ、私ですか?そう言えば自己紹介がまだでしたね!【エリュシア・デ・ルート・イーマ】です。よろしくお願いします!」
え、エルシ、デ?ルー……なんだって?
長すぎやろ。何人やお前。
「気軽にエルシィって呼んでください」
「あ、うん」
「よし、無駄な自己紹介タイムはもう終わったか?じゃあ早速役割分担なんだが━━」
そう言って話に割り込んできたメガネ。
こいつはいつもほんとにもうね。一言多いって言うかなんて言うか。イラつくやっちゃなー。
「……俺は後でお前を殺す」
「え?」
▼
【
身長は169cmの体重58kg。得意科目は無し。無し無しの無し!強いていえばお昼ご飯を食べることくらいだ。
そんな俺はと言うと、
「というわけで高原歩美を攻略する!」
「……帰っていい?」
ただいま空き教室にてメガネからよく分からん話を聞かされようとしていた。
なんかー、メガネが言うにはー、『ボクはギャルゲーマーだから。プレイヤーだから。主人公ではないから』と言われた。
『お前のその目元が隠れるほどに伸ばされた前髪はどう見てもギャルゲの主人公!故にボクのギャルゲ知識を元に攻略手順作り、それをお前に実行してもらう!』とのこと。
つまりリアル女を落とすというギャルゲの主人公(俺)を操作するプレイヤー(メガネ)ということらしい。
要は俺はメガネの駒と言うことだ。くたばり散らかせ。
「一応幼なじみだから手伝ってやるっては言ったけどこれは聞いてない」
「今さらNOは通用しないぞ!お前には俺の命を助ける使命がある!」
「自分勝手極まれりだなおい」
自信満々に言ってるが話してることはクソだぞ。
俺を巻き込むなボケが。
「で、でもこれで駆け魂を捕まえることが出来るんですよね」
「そうだ!」
「……俺の犠牲の元にな」
このメガネ、いざ行動するのが俺ということになって元気になってやがる。
このメガネとは昔からの近所付き合いのあるやつだ。
俺の両親がともに海外を拠点に仕事してるということで幼いながら1人で過ごしてきた訳だがとりあえず困ったことがあれば桂木家と、"あともう1人の幼なじみの家"をよく頼ってた。
このメガネもだが俺の幼なじみははっきり言って人付き合いがもうド下手くそで色々大変だったもんだ。
そうやって桂木母に面倒見られながら桂木メガネを面倒見てきたこの十数年なわけだが、こいつが俺を友達と言う時は大抵ろくなことがなかった。いつもは無視するくせに都合よく友達って言ってきて、何度その手に持つゲームを壊してやったか。
今日だってそうだ。
いつものように屋上で授業をサボりつつラノベ読んで時間潰して放課後になってから家帰って何するかなと予定を立てながら廊下を歩いてたところでメガネと少女、エルシィが突撃訪問してきて『ボクを助けろ我が友』とか言われるし、気がついたら土下座してるし……もう、怖い。お前怖い。
「━━というわけなんだが……あれ?聞いてる」
「ん?あー……へっ、何言ってんだよお前。聞いてるわけないじゃん」
「お前なぁ…!」
いや怒りたいのこっちなのですがねおい。
とまあそんな感じで俺はお化け捕まえ隊、ゴーストバスターの一員になりましたとさ。
つまり俺は面倒事に強制的に巻き込まれたんですね。分かるとも。
感想やら評価やらしてくれ…モチベをくれ…。
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初めての攻略
次からは数話に分けさせてもらうぞ…!
翌日のこと。
「な、何!?何よそれは!!」
グラウンド前で【FIGHT!A・YU・MI!】と書かれた旗を降ってる俺に指を指して叫んでくる1人の陸上女子。
名は【高原歩美】。廊下で突撃!隣の晩ごはんのヨネスケバリに突撃してくる性別を持った暴走機関車だ。まず廊下を走るな。
そんな俺の周りには横断幕やらパネルがずらりと並べられていてそれはそれは壮観だった。俺の背中には悲壮感。
それらにはどれも高原歩美を応援づける言葉が書かれていて、もう痛々しい。やってる俺すらも痛いと思うもん。もう心を無にしてやるしかない。まさに無我の境地。
「オタク陰キャ…!なんなのさ!この恥ずかしい横断幕たちは!」
そう叫びながら詰め寄る高原歩美。
俺だって聞きたい。なぜ俺はこんなことをしてる?てかなんで俺息してる?なんで俺生きてんだ?宇宙の真理に近づいたようなそんな感じがするな。
てか気にしてないけどオタク陰キャって悪口だよな。みんなからそう言われるけど……略してオクタンとかにしてくれんかな。
「無視すんなー!」
現実逃避をしてる間につかみ掛かられた。あ、怖い。あ、でも顔赤い。あ、でもやっぱ怖い。あ、でも以外とこう見ると可愛い。……いや、怖いな。
「ん?んー……〈ケー、この後はどないすんのよ〉」
ケーとは桂馬のケー、俺がいつもあいつを呼ぶ時のあだ名だ。
そんなケーに俺は語り掛けた。当然周りにケーはいない。
頭がおかしくなったかって?頭がおかしいのは大分前からなってるさ。
耳に取り付けたBluetoothイヤホン。それを使って通話してる。俺の髪は男の中だと長い方だからな。髪で耳が隠れるからちょうどいいらしい。
〈なんかこう、無難に返答しておけ。難しいこと考えずに、ここはそこまで重要なイベントじゃない〉
やがて返ってくるケーの返答。
なんやそれ。丸投げかよ。お前仕事する気ある?こうやって俺が頑張ってる間にお前またギャルゲやってんだろ?分かるとも。
とりあえず、
「あー、まあ、大会近そうだし……応援?」
「いつもいつも廊下で吹き飛ばすのは悪いと思ってるわよ…!何!?これはそれの復讐!?」
おっと俺の完璧な返答に高原歩美さんは横断幕等をちぎっては投げちぎっては投げ……もっと俺に優しくしてくれ。お前とあのバカメガネの間で俺苦労してんだから。
「次やったら殺すよ!」
「……」
一通り周りのものを投げつけ終わった高原歩美はそう言いながら部活に戻って行った。その背中を見つつ頭を搔く。こんなこと続けていくのか。嫌だな、フツーに。
「よし終わったようだな」
「こ、これでいいんでしょうか…?」
近くの茂みから顔だけをのぞかせる2人。そこにいたのか。今度そこに小便かけてやる。
「ああ、昨日の放課後にも言ったようにこれでいい。とりあえず今は出会いの数をこなすんだ。親密度は出会いの数に比例する。花を咲かせるまで水をやり続けろ」
へー、でもそれ"ゲームで"だよね。ここリアルだぜ?マイナススタートだぞおい。
「てな訳でだ!明日からもこれを続けていくぞ」
「は、はい!」
「……いや、実行すんの俺なんだけど」
そうは言うが2人は明日の弾幕の文字を話し合い始めた。俺の話聞けー?
【次の日】
「なんでまたいんのよー!弾幕やめろー!」
「……俺だって辞めたい」
【また次の日】
「バカヤロー!垂れ幕でも同じだよー!」
「……気分変えさせるために俺が提案したんだけどな…ダメか」
【またまた次の日】
「フン!」
「……反応してくれないはないで寂しいな」
「ちゃんと花は育ってくれてるんでしょうか。なんかどんどん嫌われてる気が…」
教室ベランダに集まった俺たち。今日も今日とて日課の応援を済ませて腰を落ち着かせていた。
「ゲームではな、『好き』と『嫌い』は変換可能なんだよ」
「ゲームでは……へッ!」
「うるさい!」
俺が鼻で笑ったら怒られた。だから怒りたいのはこっ(ry
「ケンカしたり嫌われたりするようなイベントもプラスになっていってるんだよ」
「では、今はほんとに嫌われてるわけじゃないと」
「ほんとでござるかぁ?」
「……」
俺の言葉に何も返さないケー。顔を見てみるとかなり苦々しい。
おいおいおいおい死ぬか俺?
そんなことを思いつつグラウンドに目を向ける。
普段はムカつくメスガキなんだが、こう見てみると普通に青春する女子学生ってか、頑張ってんのなと感心する。
それにしても、
「……髪括ってんだ」
部活で見る姿。気合い入れてるって感じなのかね。
そんな時だった。
「ちょおっとォ!歩美!こっち来なー!」
グラウンドに入ってきた3人組の人影。
あの感じからすると部活動の先輩とかか?
「はい!なんですか!?」
「なんであんたらが先走ってるわけ!?」
「2年はうちら3年が走るまで待機でしょ!」
はい出たクソルール!まじ訳分からんよねこの学生部活動の謎ルール!
昔野球の部活入ってた時そういう謎ルール押し付けてきた監督とか先輩たちとまじ喧嘩したからな。うんうん、懐かしい思い出だ。あれは若かったなぁ。
「先輩方は今日来られないかと!本番まで時間もありませんから!」
はあ、あいつ選手か。廊下でぶつかる時まじで足はえーなって思ってたけど。納得だわ。
「聞いた〜?本番だってー?」
「すーっかり選手気分ね」
選手気分ってか、選手なんじゃないの?
……馬鹿なのかなー。
「なんで私が補欠であんたが代表なのよ」
「たまたま1回いい記録が出ただけじゃん」
まあ、あんたらより高原歩美の方が足が速いから代表に選ばれるんでしょ。あと、いい記録は出たんだよね?
……馬鹿なのか(ry
「罰なら早くお願いします!ほんっとうに時間が無いので!本・番・まで!」
お、やったれやったれ高原歩美!そのまま顔面に拳叩き込め!ふんぞり返る先輩とかいうゴミは粛清だ!
なんてことを思っていたがそんなことが起きることなく、グラウンド20周という罰を早速実行してた。
「うー!嫌な先輩!こっちの世界にもいるんですね!」
「あ、そっちにもいるのね」
横であの光景を見ていたエルシィの叫びに反射に返してしまった。
……まあ、この子はアホの子っぽいけど悪い子じゃなさそうだしいいか。
そして、次の日。
「うわー!なんだあれ!」
グラウンドの方からそんな声が聞こえてきた。
「アドバルーンか。久々に見るなおい」
手のひらで鍔を作り浮かぶアドバルーンを眺める俺の横に二人はいた。
「羽衣が足りなくて3本しか作れませんでした。すみません…」
「1本でよかったのに」
「確かにこれを3本は多いな」
「うえ?そ、そうですか?」
1本でもかなりインパクトあるもんを3本とかお腹いっぱいになるわ。
「そ、それにしても明日はいよいよ大会ですね!」
「そっか。もうそんな時期か」
なんか、こんな今年初めてから時間が経つの早く感じるようになったな。俺もこの生活を楽しんでる節があるのか……いや、ないないない。
「そして、あの嫌な先輩たちを悔しがらせたいです!!とっても!!」
先輩になんか嫌な思い出でもあるのかな?
「これで大会に勝てば歩美様もかなたさんのことを好きになると思います」
「そうなってくれればいいけど…」
俺は別にそうなって欲しくないです。
そんな会話をしているときだった。
「「「ん?」」」
グラウンドから聞こえてきた悲鳴のような声。
それに反応した俺たちは目線をグラウンドに移した。
そこには、
「くっ……」
「あ、歩美!?」
「大丈夫!?」
「先生呼んできて!!」
足を抑える高原歩美の姿。それに慌てる他の部員たち。
ハードルが倒れてることから事故って怪我をした感じか。
「ねんざ!」
「どうして……大会は明日なのに…」
保健室に運ばれた高原歩美。
俺達もあとをつけて廊下から中の会話を盗み聞きしていた。
「うぅ…絶望的です」
少し離れたところでいつも持ってるほうきで掃除してるエルシィ。
てかなんでほうきを持ってるの?魔女さんだったの?
「ケガ…先輩…大会…ハードル…応援…」
顎に手を当て何か考えてるケー。
そんな中ふと思ったことを呟いた。
「それにしてもさっきは髪括ってなかったよな」
「っ!……なるほど。かなた!」
「あ?」
「見えたぞ。エンディングが!」
……ふむ。何やらケーくんは何かを掴めたらしい。良かったね。
ところで。
「何それ、決めゼリフ?」
「うるさいぞ!」
▼
「どうしたのよ、飛駒」
あれから時間が経ち、夜の時間。学校のグラウンドで当然周りには人がおらずこの場には俺と俺が呼び出した高原歩美がいた。
……いや、まあ離れた物陰にもう2人いるんだけど。
「しばらく私、運動場には用はないよ!」
そう言いながら近づいてくる高原歩美。
〈まだ動くなよかなた〉
動かんわ。動いて何になると。
耳につけたイヤホンから流れるケーの声にそんなことを思いつつ高原歩美を見つめる俺。
この先のことを思うと胃が痛くなるな。
「しかも呼び出しの手紙が乗ってたこれ!なにこれイヤミ!?」
そう言って突き出してきたのは果物がたんまり入ったバスケット。
「こんなん貰って喜ぶわけないでしょ!」
〈よし、普通に答えろ〉
普通に答えろって……また丸投げかよ。
まあ、会話くらいは俺に任せるってことか?
「まあ、それ食って明日は頑張れってことで……って」
あぶね。
俺の言葉を途中でバスケットの中の果物をなげつけてきた。
反射的にキャッチしたがこれは無防備に受けた方良かったのか?
〈……〉
何も言われない。なら取っても良かったのね。よしよし。
そんなことを思っている間も果物は投げ続けられた。
「この脚を見て言え!この足で大会に出られると思ってるの!?」
〈よし、行け〉
ここか。
ケーからの合図も出た俺はその口を開いた。
「思うけど?」
「え?」
「だってケガしてないじゃん」
「っ!」
その言葉に動きが止まった高原歩美。
その顔は少し青ざめていた。
「あの時のお前ならハードルで転んだくらいでそこまでの怪我しないでしょ」
「は、走ったことも無いくせに!スピード考えてよ!」
ハードルはやったことあるけど、それは今言わない方がいいか。これくらいの判断は俺でもできる。俺は空気読める子。
「まあ、確かに全力疾走とかだったら危ねーわな。でもさ、あの時全力で走ってなかったじゃん」
「っ……な、なんでそんなこと…分かるのよ…」
「髪、括ってなかったじゃん」
「っ!」
その言葉にハッと頭を抑える高原歩美。
「全力出す時は髪括ってんでしょ?もしかして……もしかしなくても最初からコケるつもりだっただろ」
「……」
そう言うと顔を俯かせながら突いていた松葉杖から手を離し、地面に倒れる松葉杖と一緒にケガしていた左足を地面に下ろした。
「これでよかったのよ」
そして、高原歩美はポツポツと語りだした。
「これで先輩たちも大会に出られる。先輩たちの言う通りだよ。先生の前でたまたま走れちゃって選手になれちゃってさ……ずっと練習してたのに全然タイムは出ないし、私なんか……私なんか出ない方がいいんだよ」
そこまで言った高原歩美はその目から何かがこぼれ始めたのが見えた。
「なんで走れなくなっちゃうのさ。こんなに練習してるのに…!」
「……」
「もういいの。ビリになったりしたら……おしまいだもん」
……なるほどな、エルシィから聞いてた心のスキマってのはこういうことか。
全く、なんでこうもうだうだと考える奴が多いんだろうか。
「終わったか?」
「え?」
「愚痴タイムは終わりか?」
「っ!」
〈ちょ、お前…!〉
とりあえずうるさいからイヤホンの音は切っとこう。
髪は邪魔だから後ろに全部どかしとこう。
「先輩がなんだ、タイムがなんだ、まずやってみろよ。今持てる自分の力出し切ってやってこいよ」
「っ!……でも私なんか…!」
「まずその考えが俺は嫌いだ。私"なんか"。先輩の方が。知るか。いいか、俺は楽しそうに部活で走ってたお前のことをいいなって思ってたんだよ」
「え?」
これは本音。
「だから俺はお前を応援してたんだよ、毎日」
これはこじつけ。
「っ」
「廊下で俺にぶつかってきたあの元気は?走ってる時に見たあの笑顔は?お前はなんのために走ってんだ?」
「!……楽しかったから」
俺の言葉にぽつりとこぼしたその言葉。
その言葉を聞いた俺は久しぶりに笑顔が浮かんだ。
「そうか。じゃあもう答えは見つかってんだろ」
「え?」
「楽しめばいい。のびのびと。大会で高原歩美ってのはどんなやつかを見せつければいい。順位とかなんざ気にすることもない。ただ走ってこい。少なくとも"俺は"応援してる。だから自分に自信ないなら俺のために走ってこいよ。俺の中じゃ歩美はもう1番になってるんだからよ」
「………!」
ふぅー久々に語ったな。ちょっと喉が渇いた。後でケーにコーラを買ってもらおう。そうしよう。
……っと。なにやら飛来してきたものを掴み取る。これは……果物?
「な、何キモイこと言ってんのよ!あんたがその変な応援するから━━!」
とそこまで言った高原歩美は動きを止めバスケットの中に視線が釘付けになっていた。
ああー、そういや俺の自腹でスパイク買ったんだっけ?……いやまじ高かったな。
そんなふうに物思いにふけっていると、
「ん?」
「……」
顔を俯かせた高原歩美が目の前にまで来ていた。
「あ、明日も応援……来てくれる?」
「……まあな」
「そっか、ありがと」
「……え?」
高原歩美がそう言って俺は困惑した。
身を乗り出した彼女はそのまま顔をこちらに近づけてきてそして━━
「ぶっちぎりだな」
「そうだな。ってなんでボクもここに来させられてるんだよ」
「わあー歩美様、速いですね」
あれから次の日の大会、俺はケーとエルシィを連れて大会を見に来ていた。
「キスの件は俺聞いてない。罰だと思え」
「うぐ…でも、来る必要はなかっただろ」
「……あいつと約束はした。なら来るだろ」
「忘れてた…こいつそこら辺のとこ義理堅かったんだ……」
あの後、家に帰っても顔が熱かった。メガネ許すまじと怨嗟を抱きながら寝ました。
……それにしても、
「恋、か…」
「なんだよそんなしんみり」
「……別に」
俺もいつかわかる時は来るのだろうか。恋や愛というものを。
▼
「歩美すごーい!」
「ふっふっふ、どうだ!」
次の日の教室、なかなかに騒がしかった。
もう高原歩美の話題で持ち切りだった。
俺はいつも通りラノベを片手にコーラを飲みながらのんびりと、
「見て飛駒!新聞乗っちゃったよ!私!」
「ご!」
背中に衝撃が!空襲か!
……ああ、いや、高原歩美だったわ。なんだただの暴走機関車か。
「……あ、あれ?なんで私あんたなんかに話しかけてるんだろ…」
知らん!俺が聞きたい!
どうやら駆け魂というお化けを取り出したやつの恋愛中の記憶は無くなるらしいな。それはまあ好都合ではあるが……。
「高原」
「え?」
「おめでとさん」
「……うぇ!?あ……う、うん。どうも…」
そんな歯切れの悪いまま高原歩美は自分の席へと戻って行った。
ケーは相変わらずゲームしてるし、てか、エルシィは?
あいつどこいったんだろうな。
そんなことを思っていた時、教室がざわめき出した。みんな何故かケーの方に詰め寄っていってる。
なんだなんだと前を向くとそこには。
「本日転校してきました、桂木エルシィです!お兄様の桂馬共々よろしくお願いします!」
「ブフォ!」
思わず俺は口の中のコーラを吹き出した。
基本原作沿いで行きますんでよろしくお願いします。
あと、感想やら評価やらして俺のモチベをくださいな。わりと、ガチで。
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金持ちとオムそばパン
あー今日は笑った笑った。
そんなことを思いながら放課後の廊下を歩いていた。
あのエルシィがケーの妹としてこの学校に来たというのは腹抱えものだった。苦々しい顔をしていたケーの様子を見ながら食べる昼飯は美味かった。
そんなことよりだ。この前の高原歩美の取り憑いたお化け…駆け魂だっけかを駆除したということで俺はもうお役御免かと思ってたけど、あのエルシィが学校に来たということは……そういうことなのか?
それだったらそれでまたケーに押し付けられそうな気がするから面倒だな。
高原歩美の件を手伝ったのだって俺の知りたいことを知れるかもって思ってやっただけだし、結局よく分からんかったけど。
「さて今日は帰ったら何するか…」
今はケーやエルシィとは一緒じゃない。
そんな四六時中一緒にいるわけないでしょ。
そんなこんなでこの後の予定を頭の中で組みたてながら校舎の外へと出る。
そのまま校門へ向かいながら歩いている時、
「ん?」
目の前に見えた2人の人物。
「帰るわよ、森田」
「はい、お嬢様」
1人の男と制服に身を包んだ金髪のツインテールの女子生徒。
その2人が高級車に乗り込んでいる光景。
「あれは……」
その女子生徒の方。なぜかは分からないが見ていると懐かしさが蘇ってきた。
初めまして……のはずなんだけどな。
「……ふむ」
ま、今はいいか。
その車が走り去るその光景を見送りながら俺も家へと歩を進めた。
▼
「改めて見ると大きな学校ですねー」
隣を歩くエルシィがそう言いながら学校を見ていた。
エルシィが転校してきた翌日の昼休み、俺はケーとエルシィと3人で外を歩いていた。
「ここが体育館ですか」
「田舎だし土地も余ってるし、中等部も一緒だからな。隣には大学まであるぞ」
ケーの言葉に俺も驚いた。学校のこととか興味なかったから知らなかったわ。
そりゃでかいわけだ。
「それにしても…」
そう言いながらエルシィは当たりをキョロキョロ見回していた。
「女の人が多いんですね」
「もともと女学院だからな。中、高合わせても男は200人くらいしかいないんじゃないか?」
そんな少ないのか。よく知ってるな。
「対して女子は1000人近くいるぞ」
「1000人!?」
多すぎぃ!なんやその比率。5:1とか頭おかしいな。
「若い女性が集まる場所。駆け魂の絶好の逃げ場です……」
「女が多いと好都合なのか?男の中には逃げないのかよ」
「駆け魂は女の中にしかいません」
「なんで?」
「隠れた女の子供として転生するからです」
……えぐくね?怖すぎ。
駆け魂さんよ、もっとこう手心というか…。
てか、
「お前らはいつまで俺に着いてくんの?」
「え?」
「いいだろ別に」
ゲーム画面から目を離すことなくぶっきらぼうに言うケー。
目を見て物を言え。
「駆け魂は1匹だけじゃなかった。だったらまたお前に手伝ってもらうことになる。なら一緒に動いてた方がいいだろ」
「いや、もう俺はやらんよ?」
「お前に拒否権はない」
「……ここでお前死ぬか?」
「わ、わわわ!喧嘩はダメですよ!おふたりとも!」
ケーのゲームを叩きわろうとしたけどエルシィに止められて握ってた拳を渋々とおろした。
全く、エルシィに感謝しなさいよ、ケーくん。
そんなことをしてると、
「待ちねぇ!待ちねぇ!パンはいっぱいあるよハングリー児童たち!」
そんな大声が横から聞こえてきた。
そっちに視線を移すとそこには売店があった。
【外パン】と言うやつか。
「今日は火曜日!お待ちかねの【具ッドチューズデイ】さ!全てのパンの具材が10%増量だよ!」
くだらんダジャレ。だが嫌いじゃないぜ、ばっちゃん。
「あれは…」
「外パン」
「外パン?」
エルシィの声に反射的に返してしまった。くそ、会話に混ざらないようにしてたのにアホの子成分が俺の口を滑らせる。こいつ!デキル!
「まあ、うちの学食たけぇからな。ああやって売店のパン買ってんだ。ちなみに1番人気はオムそばパン」
「なんですか?オムそばパン…」
「焼きそばパンを卵で包んだやつだ。ソースがオリジナルでうめーらしい。俺は食ったことない」
「おいしそう…」
俺も今度買うか。ちょっと言ってて気になった。
そうして他愛ない話をしていた時、
━━ドロドロドロドロドロドロドロドロ……
「っ!」
「ん?」
「あ?」
エルシィの頭に着けてるドクロのアクセサリーからそんな音が鳴り響き光出した。
「き、来ましたよ!駆け魂サイン!」
あ、それセンサーなんだ。ケーはもう見たのか気にも止めてない。
……ああいう子供向けのおもちゃあったよなー。
「こ、これはいきなり近いですよ」
「なんで俺たち隠れてんの?」
「一応だ。一応」
即座に近くの木陰に移動する俺たちは、気の影からこっそりのぞきこんだ。
「なに?人混みん中にでもいんの?」
「いや、あそこじゃない気もするが…」
そうしてると目の前にひとつの影が映り込んできた。
腕を組み、仁王立ちするその姿。
「静かに!そこの庶民たち!」
「あ」
それは昨日の放課後、見かけたあの女子生徒だった。
「森田、前から気になってた、あの人だかりはなんだ?」
「外パンでございます。金に不自由な民のために設けられた慈善の施設ですな」
「ふぅん……変なものが売ってる。オムそばパンだと」
そこまで言ったその女子生徒はひとつもらおうなんてこと言いながら売店へと向かっていった。
あ、1万円札出してる。
あ、お釣りないのか。
あ、1万で買えるだけ買ってる。
あ、オムそばパン無くなった。
……わぁお、豪快な金の使い方。もったいね。てかあんな華奢なからだでそんなにパン食えんのか?
そんな光景に他の生徒たちもパンが無くなったことに苦言を呈していたが、
「喚くな庶民、私のように金持ちになれ」
その言葉を残しその場を去っていった。
……お前が金持ちなんじゃない。お前の親が金持ってんだろばーか。
おっと貧乏人の嫉妬が…。
「で?駆け魂の持ち主は?」
「あの娘です…」
「はああああああ……」
ケーとエルシィの会話に俺はクソデカため息をついた。
神のみをまた1から見直しながら書いてるけどやっぱおもろいね。
どこかしらでオリジナル要素入れたいけどどうするか…。
感想、評価待ってます。
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