やっほー、ニュース・クー! (スイヨウ)
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運び屋の活動記録
海軍第77支部→


翼付き美少女の翼の付け根を撫でたい。



「……いつもより少ないですけど、これで全部ですか?」

 

 東の海にある海軍第77支部より少し離れた空き地にて。

 気絶し、縛られた男達がこれでもかと詰め込まれた網を見て首を傾げる少女に、紫色の奇抜な髪型をした男──プリンプリン准将が口を開く。

 

「そうだ。つい最近ガープ中将がいらっしゃってね。その際に減ったらしい」

「ふぅん……まぁ、金額は変わらないからいいんですけどね。にしても、合計1500万ベリーですか……誰か強い賞金稼ぎでも出たんですか?」

「ああ。ロロノア・ゾロという剣士がね」

 

 世間話を一つ二つ交わしているうちに準備が整ったらしく、厳重に拘束された網の持ち手が少女に渡される。

 重みを確かめるように引っ張った後、海軍の正装とは少し違うが、白を主体とした装飾の多い軍服の背にある穴からばさりと翼が広がった。その姿は白い服に銀色の髪、その端正な顔立ちとも相まって、御伽噺に出てくる天使のようにすら見える。

 が、プリンプリンに動じる様子はない。この支部ではよくある光景なのだ。

 

「あ、プリンプリンさん。またスイーツのお店行きましょうね。紹介してくれたあそこ、気に入っちゃいました」

「それは良かった。また休日が重なった時にでもご一緒しようか」

「はい。……では、行きますね」

 

 体の半分ほどもある白い翼をはためかせ、海賊の入った網を持って飛んでいく少女を見送り──飛んでいった方向へ熱視線を送る部下に溜息を一つ。

 

「……いつまで呆けているんだね」

「……はっ、すみません」

 

 振り向いた彼の顔は見覚えがない。彼女に大きく心を動かされた様子も含め、おそらくは新兵だろうとあたりをつけたプリンプリンは支部へと歩き出す。

 慌てて付いてきた部下から、予想通りの質問が飛び出した。

 

「あの、准将。彼女はいったい……?」

「“運び屋”だよ。船より速くアレらを届けてくれる、ね」

 

 部下が納得したように頷いた。

 海軍支部には、それなりの頻度で海賊──もしくは海賊の死体が届けられてくる。いわゆる“賞金稼ぎ”の仕業である。

 懸賞金の掛かっている海賊を無力化し、海軍へ突き出す。生きたままなら懸賞金通り、死んでいても7割は貰えるというこのビジネスは、腕の立つ者からすればかなり手軽な資金源になっているらしかった。

 海賊が減ることは本来の目的である治安の改善に繋がるため、海軍的にも助かっているのだが……問題は、その頻度にあった。

 

 海軍支部の設備が整っていないわけではない。だが、何十人、酷い時は何百人もの海賊を収容しておける施設などあるわけがなかった。

 かといって支部の外に放置していては逃げられかねないし、本部への輸送は時間がかかる。といっても、結局は何度も本部と支部を往復するしか無かったのだが。

 

 そんな面倒くさいがどうしようもなかった状況を改善してくれたのが、あの少女であった。

 ハネハネの実を食べた羽人間──本人はせめて鳥人間にしてくれと文句をよく言うが──であることを活用し、飛ぶことで荷物を素早く届ける彼女の存在は一部の海軍支部にとって救世主にも等しく、噂ではファンクラブもあるとかないとか。

 

「そんなものが……どこで入会できるんですか?」

「私に申請したまえ」

 

 ちなみにこのプリンプリンは会員No.3である。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 海軍第77支部から受け渡し地であるマリンフォードへ気絶した海賊達を運ぶ途中。

 もうすっかり慣れた風圧の中で、羽の少女──エアは、昔を懐かしんでいた。

 

「馴染んだものだよねぇ……最初は、あんなに嫌だったのに」

 

 悪魔の実を食べてしまったせいで5歳の時に海へ捨てられ、死にかけていたところを偶然通りがかった海軍に救われて。

 水を吐き出しながら彷徨った死の淵で覚醒したのは、前世の記憶だった。走馬灯のように流れてきたため、一瞬何が何だか分からなかったが。

 

 そうして初めて分かったのが、ここは漫画の世界だということ。せいぜいが主人公と世界観くらいしか知らなかったが、海賊が跋扈する危ない世界であることは知っていたものだから、息を吹き返しても暫くは落ち着かなかった。主に、これからのことが不安すぎて。

 保護された先の海軍だといつ戦いに巻き込まれるか分からないし、かといって治安最悪な中で一般人としても生きたくない。海賊としては論外。そもそも、明日を生きるお金すらない。

 

 そうやって頭を悩ませていた少女に突然答えを出してしまったのがその海軍船のボスであったクザン──現大将、青雉だった。

 

『その羽が上手く使えんなら、荷物運ぶの手伝ってくんない? お駄賃出すからさ』

 

 まだ5歳の少女に投げかけるにはちょっとアホすぎる言葉だったかもしれないが、前世の記憶持ちになってしまった少女には何より助かる言葉だった。

 

『その方向で今後も働かせてください!!』

『えっ? いいけど』

 

 どこかで聞いたような台詞を吐く少女に、あまりにも軽いオッケーが送られる。

 それが“運び屋エア”の始まりであった。

 

「あ、やっほー」

「クー」

 

 こちらに気付き、羽が当たらないくらいの距離まで近寄ってきたニュース・クーに声を掛ける。人の言葉とかがある程度分かるらしい鳥へ、鞄の専用ポケットへ入れていたパンの耳をポイと投げれば、慣れた様子で嘴でキャッチし、そのまま食べ始める。

 

 成長するにつれよく分からないほど上がっていった身体能力と能力制御で、今ではこんなことすらできてしまう。昔は風に吹かれて飛ぶのもままならなかったのに。慣れとは偉大なものである。

 

「さ、目的地まであとちょっとだ」

 

 戦いはしたくないし、襲われるのも嫌。でも、安定して稼ぎたい。

 そんな我儘な自分に応えてくれる環境と能力があって本当に良かったと思う。

 しかも、人の役に立つお仕事! 前世でも経験したことのないくらいのやり甲斐に、夢中になってしまっている。

 記憶が戻った当初は泣くくらい嫌だったけど、今はもう平気。

 

「じゃあね、ニュース・クー!」

 

 私、今日もお仕事頑張ります。

 

 




[普通に原作読んでても覚えてないキャラの紹介コーナー]

・プリンプリン准将
ナミ編、アーロン戦の前にゴザ(金が無くてアーロンに潰された村)を助けに来た海軍第77支部所属の准将。なお、アーロン配下に船を沈められて消息不明になった模様。
支部と本部の差は階級三つ分とのことなので、海軍本部少佐クラスの強さはあるようだ。といっても「多少なり名の通った精鋭部隊」というように、集団戦が本質のようだが…。

登場時点のたしぎ(ローグタウン)が曹長で、フルボディも大尉(ヨサクとジョニーを瞬殺したり、海賊団を一人で殲滅するなどそれなりに強い)であることを考えると、指揮する部隊が陸上だとそれなりに強いor彼本人がそれなり以上に強いと思われるので、今作品では前者と後者のハイブリッドとして上方修正を受けている。多分クリークとはタイマンでも集団戦でも勝てるくらい。懸念はギン程度。当時のギンの強さはいまいち分からない…。
チュウに秒殺されているため強い印象はないが、あの船破壊はヒナとかでもどうしようもない気がする。スモーカーなら謎のバイクでどうにかなるかもしれないけど。


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→マリンフォード

キャラ改変のタグが必要かどうか永遠に悩みながら書いた。



 海軍本部元帥“仏”のセンゴクは困惑していた。

 出勤した海軍本部内がやけに騒ついているのだ。

 

「これは、一体……? 君。何があったのかね?」

「元帥! その、ガープ中将が……」

 

 状況を知ろうと近くを通りがかった海兵に声を掛け、出てきた名前を聞いて眩暈がした。またあの男が問題を起こしたのかと思うと胃が痛くなる。

 深呼吸を一つして、より詳細な内容を聞こうとし──頭が真っ白になった。

 

 視線の先には、件のガープ。

 それも両手に書類の束を抱えている。

 

「ガープゥゥ!? 貴様、頭でもおかしくなったのか!?」

「なんじゃセンゴク、朝っぱらから騒がしいのう」

 

 ガープが、仕事をしている。

 数十年の付き合いでもほぼ見たことがない姿にセンゴクがショートする。復帰するには暫く時間がかかりそうだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「……それで? その孫みたいな少女が来るから仕事をしていたと?」

「うむ。あの子はわしをできるお祖父ちゃんだと思っておるからの」

 

 結局一時間ほど大騒ぎしてようやく落ち着いたのが今である。

 真面目くさった顔で言うガープにドン引きしながら、センゴクは状況の整理に努めていた。

 どうやら随分前に海軍が拾った少女の保護者の一人らしく、久々に会えるということで良いところを見せようと張り切っていたらしかった。

 

「孫のようなもの、か………………本当に、海賊じゃないんだな?」

「しつこいわ! むしろ海軍に貢献してる素晴らしい孫よ! というかお前も知っとる筈じゃぞ。エアって名前の子でのう……」

 

 興が乗ったのか、ドヤ顔で少女のことを語り出すガープを尻目に記憶を辿るセンゴク。

 エア、という名前自体には聞き覚えがあったため、詳細自体はすんなりと思い出せた。

 支部の問題であった賞金首の輸送問題を解決した少女で、他には──。

 

(支部とインペルダウンの連名で感謝状を、などという謎の企画書が上がってきた子か……)

 

 ──思い出してやっぱり胃が痛くなってきた。

 貢献という意味では問題が無さそうだったために了承はしたが、結局オーダーメイドの仕事着を贈ったりと随分露骨な贔屓になっていったため、途中で止めたものだ。

 

「それで、ボガードの奴がわしからエアを……おいセンゴク、聞いとるのか?」

「ん? ああ。貴様が仕事をするというなら、ポケットマネーを出してでも毎日呼ぶべきかと悩んでいて聞いていなかった」

 

 途端に慌て始めるガープを適当に受け流していると、まだ若い海兵がノックと共に入ってくる。

 

「失礼します! ガープ中将、運び屋が到着しました!」

「すぐに行く!」

 

 書きかけの書類と報告に来た海兵を吹き飛ばしながら爆走するガープに始末書を書かせることを決めながら立ち上がり、窓を開ける。

 何人もの将校が入れ込んでいるらしい少女をひと目見ようと思っただけで他意はない。

 

「──なるほどな」

 

 白い翼と銀の髪をはためかせ、明らかに海軍を意識した軍服もどきを着ている姿は人気が出るのも頷ける美しさと可憐さがあった。

 海軍にも美人は多いが、誰も彼も腕っ節が強い。そういう意味で、庇護欲がかき立てられる小動物的な女の子というのは好かれるのかもしれない。

 

 少女を見るだけのつもりが、海軍の男性の好みまで考察していたセンゴクの視界に、もじゃもじゃ頭がちらちらと覗く。

 見ないでも分かる。人の横に来るなり大欠伸をかましている男の名は──クザン。

 

「センゴクさんもあの子にご執心ですか?」

「そういうわけではない。ただ、興味はある……そういえば、あの子を拾ったのはお前だったか」

「ええ。男一人だと無茶があるんで、おつるさんとかに手伝って貰いながら保護者やらせて貰ってますよ……ま、あんまり必要とされた事はありませんから、そういう自覚は無いんですけどね」

 

 肩をすくめてそう答えるクザンだったが、視線は彼女から離していない。口ではこう言っていても彼なりに彼女の親であろうとしているのだろう。少なくとも、センゴクはそう感じた。

 フッと笑みを漏らし、窓から離れる。

 

「お前にその自覚が無くても、彼女は分からんだろう。会いに行ってやったらどうだ?」

「……そうします」

 

 ほんの少しの逡巡の後、軽い足取りで執務室を出て行くクザンと入れ違いになっておつるさんが入ってくる。

 ────大量の書類と共に。

 センゴクは今、猛烈に嫌な予感がしていた。

 

「全く……あの子が来たってだけで騒ぎすぎだよ、アイツらは。

 ……ああ、センゴク。クザンとガープを行かせちまったんだろう? いつもの感じだと、半日は帰って来ないからねぇ……アイツらの分はアンタがやりな。もちろん、溜まってた分も含めてね」

 

 ドサリと重厚な音がして、書類の束が積まれていく。

 ──始末書を書かせる奴が一人増えた。

 ペンを一本へし折りながら、センゴクは書類達との格闘を始めたのだった。

 




ワンピースって絡ませたくなる良キャラが多すぎると思うの。


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アラバスタ→

本作に恋愛要素は今のところありません。



 偉大なる航路、アラバスタ近海の上空にて、四つの翼が空を舞っていた。

 

「やっぱり、誰かと空を飛ぶのっていいね」

「ええ。静かで綺麗なこの場所を共に楽しめる……翼を持つ相手とだけ、というのが難点ですが」

 

 緩やかな飛行の間に言葉を交わし、笑い合っている二人。

 片方、白い翼があること以外は至って普通の銀髪美少女が“運び屋”エア。

 片方、翼以外も含め、完全に鳥──“隼”と化しているのが、アラバスタ最強の戦士たるペルであった。

 

 世にも珍しい飛行系の能力を持つ二人組は仕事の関係で出会い、お互いの趣味──空の話で盛り上がり、気付けば一緒に空を飛び合う仲となっていた。

 

 なお、二人とも誰かを乗せて/掴んで飛ぶことはあるが、それだと本人達が気持ちいい速度で飛ぶことはできないため、こうして互いに遠慮をせず速度を上げられる相手が新鮮だったというのもある。

 

「あーあ、海賊じゃなければペルさんにも飛べる人を紹介できたのにな……」

「……エアさんは、海賊と繋がりがあるのですか?」

 

 一緒に空を飛び終わった時間、雰囲気的にはピロートーク(悪意ナシ)に近しい会話の中、エアからするりと出てきた言葉にギョッとする。

 ペルの中では臆病さと優しさが多分に含まれているエアと海賊が結びつかなかったのだ。

 

「そうだよ? マルコっていうパイナップルみたいな頭の人で……」

「も、もしや白ひげ海賊団の……?」

「うん。仕事で飛んでる時に、下で戦ってたみたいでさ。なんか凄い振動が身体に伝わったと思ったら気絶しちゃったんだよね」

 

 ペルはあまり海賊に詳しいとは言えないが、その特徴に当てはまる二人には心当たりがあった。

 “四皇”に位置する白ひげ海賊団の船長、白ひげ。

 その白ひげ海賊団の一番隊隊長を務める“不死鳥”マルコ。

 予想だにしない繋がりに、努めて冷静であるよう心がけながら話の続きを促す。

 

「落ちた後はどうなさったのですか?」

「えーっと、医務室で寝かされてたみたいで。最初は海賊に捕まったと思って怯えてたんだけど、落とした当の本人は『巻き込んじまってすまねえな』って笑ってるし、周りの人は『運が無いな』なんて励ましてくるし……なんか、思ったより怖くないなって」

「……それで?」

「私と同じように飛べるっていうマルコさんと友達になって、電伝虫交換して、終わり?」

 

 頭痛がしてきた。彼女の言葉を疑うわけではないし、白ひげ海賊団が悪だと断じる気もない。海賊が決して悪とは限らないのはアラバスタの英雄、サー・クロコダイルでよく知っていた。もっとも、ある理由からペルは彼を信頼しきれていないのだが。

 

 それはさておき、今回は知り合うまでの経緯が経緯であるし、ペルにはもう一つ懸念があった。

 

「エアさん、ちなみに、海軍の方へは……?」

「…………言ってないよ」

 

 フイッと視線を逸らされ、溜息を吐く。そんな事だろうと思った。

 世界会議も含め、海軍との折衝役になることが多かったペルは、目の前の少女が海軍内でも割と人気があることを知っていた。

 そのため、例え事故だとしても、白ひげが彼女を落としたなんて知れればもう少し騒ぎになっていることも分かっていたのである。

 

「……この事は秘密にしておきます」

「……今度、お勧めのスイーツ持ってきますね。東の海にある、めちゃくちゃ美味しい奴」

「代金は出しますから、コブラ様とビビ様、あとはチャカとイガラムの分もお願いします」

「はい。……あとは、ツメゲリ部隊の皆さんもですね」

「うん?」

 

 ちょっと初耳の関係性も聞こえてきた。

 彼女の仕事はあくまで国外との運送業であるため、国内の治安維持を主としているツメゲリ部隊とはあまり関わりがないはずだったのだが。

 

「ほら、クロコダイルさんからの依頼で、アラバスタ国内を行き来することが増えましたから……」

 

 話す時はいつも人の目を見ている彼女が、珍しく俯いたまま話す。

 クロコダイルについて話す時はいつもそうだった。人を悪し様に言うこともなく、忌避することもなく、ただ皆に平等に接する彼女の美点が、奴にだけは陰っていた。

 ──たったそれだけ。たったそれだけの理由で、王すら信頼するクロコダイルという人間を信頼しきれない自分がいた。

 

「──そうでしたか。では、アラバスタにある安くて美味しい食堂でも紹介しましょう」

「えっ、いいんですか!? やったぁ!」

 

 コーザさんとかに頼れる時は頼るんですけど、困ってる時の方が多くて……などと話し出す彼女の横顔をじっと見つめる。

 争いごとを避ける割に、面倒ごとに巻き込まれがちなこの友が、どうか不幸な目にだけは遭わないように──。

 口には出さないまま。笑顔を浮かべたまま。心の中で、そう祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

「それで、本日はどのようなご用で……?」

 

 アラバスタ最大のカジノ“レインディナーズ”にて。

 オーナーであるクロコダイル直々の歓迎を受けたことで、用意された席に座ったままビクビクしているエアに、クロコダイルが笑いかける。それはもう、愉しげに。

 

「クハハハハ……そう怯えるな、悪事を働いた気分になる」

「そりゃあ、あの人の所にとんでもないもん運ばせる人ですから……」

 

 それを聞いて更に愉しげに笑うクロコダイルに溜息が漏れる。

 知り合って最初に受けた仕事から、エアは彼にとんでもない苦手意識があった。

 ようやく笑いが落ち着いてきたらしいクロコダイルが、パチンと指を鳴らす。するとカラカラに萎びた海賊達が入った真っ白な檻が運ばれてくる。

 

「いつものだ。代金はこれでいいな?」

「はい、いつものごとく多すぎです。

 ところで、檻変わりましたよね? 前は鉄の檻みたいな奴だったと思うんですが……」

「ああ。ちょっとした伝で、安く手に入るようになってな」

 

 また悪い笑みを浮かべているから、これもきっと正規の手段じゃないんだろうなーなどと考えながら檻を掴む。重さ的には前より軽い。

 

「では、失礼しますね」

「ああ。

 ──あのフラミンゴ野郎にもよろしく言っといてくれ」

 

 出ました、これですよこれ。

 口には出さないが、内心では過去を思い出して相当気分が悪くなっていた。そのため、さっさと礼をしてその場を脱出していく。

 その背中を、不思議そうに見送る女がいた。

 

「随分と怖がられているけれど、何をしたのかしら?」

「お前が知る必要はない、ニコ・ロビン……と言いたい所だが、良いだろう」

 

 グラスに注いだワインを煽るクロコダイルは、ロビンから見ても随分機嫌が良さそうだった。故に、好奇心だけでなく、ご機嫌取りも含めての問いかけだったのだが──

 

「ドンキホーテ・ドフラミンゴは知ってるな? あいつの下に、奴が欲しがっていたモノ──マネマネの実の所在を書いた書簡を、お気に入りらしいアイツに運ばせたのさ。奴の顔を間近で拝んでやれなかったことが惜しいよ、クハハハハ!」

 

 悪辣すぎて、流石のニコ・ロビンもすぐには言葉が出てこなかった。

 

「…………そう、それは…………よかった、わね」

 

 彼女と絡んでから、随分好戦的になった雇い主。

 その被害を一身に受ける彼女に同情するべきか、変な影響を齎したことに怒るべきか。

 ニコ・ロビンは前者だった。




ドフラミンゴも陰謀大好きで、そういう能力を好む傾向にある。
なので、マネマネの実は欲しがっててもおかしくないなー、と思って捏造しました。

ドフィ「フッフッフ、アイツからの贈り物とは気味が悪いなァ!」
エアちゃん「私に言われましても」
ドフィ「………へェ、そうか」マネマネの実を奪った煽りされて半ギレ
エアちゃん「イラついたのは分かりましたけど覇王色で八つ当たりしないでくださいよヤダー!」

多分こんな感じ。


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→バラティエ

料理知識はあんまり無いので、作中の改善点などが変でもスルーしてくださると助かります。


 東の海にある海上レストラン“バラティエ”は、月末に一度だけ店を閉める日がある。

 オーナー・ゼフも含め、乗組員全員──そして、エアが参加する一大イベントがあるのだ。

 その名も──

 

「オーナー! これ、俺の新作です! 食ってください!」

「バカ言え、オーナーは先に俺のを味見すんだよ!」

「テメエら全員黙れェ! 嬢ちゃんのOK貰った奴だけって言っただろうが!」

「あの……甘いものも欲しいです」

 

 前世で言うところの、コンペである。

 

「おいバカ共、エアさんが困ってんだろうが! レディが何食べたいかくらい聞く知能を見せやがれ! 

 ──ほら、エアさん。麗しき貴女に相応しい、バニラと苺のパフェで御座います。召し上がる際は、お好みでチョコソースをどうぞ」

「ありがとう、サンジさん……」

 

 七分目くらいまで来たお腹をさすりながら、出てきたパフェをパクつくエア。

 このイベントが始まったのは、前世の記憶によりこの世界では割と上等な味覚をしていたエアが、それを見抜いたゼフによって新メニューの味見役に誘われたからだった。しかし、美味しい食事で感傷に浸ったエアが食後に発した一言が波乱を呼んだのだ。

 

『皆でメニューを持ち寄って、美味しいものを決めるコンテストみたいな感じにしても楽しそうですね』

 

 彼女に深い考えは無く、ただ前世で存在したことを少し漏らしただけに過ぎない。

 しかし、常連客かつ調味料や備品の運送をしているということでコックのほぼ全員と面識があり、なおかつ持ち前の愛嬌で可愛がられていたエアが言ったのが問題だった。

 良いところを見せたい男や、純粋に腕が上がったのをゼフに見て貰いたい男。純粋にお祭り騒ぎが好きな男など、様々な思惑が絡まりあってヒートアップ。

 ゼフが気付いた時には既に実行間際だったのだ。

 

「あ、ゼフさん。このカルパッチョは美味しかったです」

「……確かに、ソースは良い。盛り付けを改善しとけ」

 

 もちろん、ゼフであればそれを止めることもできただろう。それなりの労力はかかるが。

 ただ、エアいわくコンペで出てきた料理が思った以上に多彩だった。

 故にバラティエ全体の向上に繋がると考えたゼフが正式にイベント化させたのだ。それも、彼女が仕事でバラティエに来る日に。

 

「これは……美味しいんですけど、スープにしては具材が多くて重いです」

「なるほど、参考にするぜエアちゃん!」

「おいカルネ!聞き終わったんなら交代しやがれ!」

 

 エアとしても、前世よりは平均レベルの落ちたこの世界で美味しい料理を食べ続けられるというのはかなり魅力的だった。それに、この身体は随分燃費が悪い。お金に困っているわけではないが小市民的な感覚が抜けないエアからすると、支払い無しで大量に食べさせて貰えるのはお得感があったのだ。

 そういうことで今日までこの味見役を務め続けているのである。

 

「嬢ちゃん、今日はどうする。泊まっていくのか?」

「そうですねー……食べすぎましたし、夕飯とか朝食もここで食べたいし」

「だ、そうだ。サンジ、用意しといてやれ」

「お任せを。レディ、此方へどうぞ」

 

 コンペが長引くこともあり、何か用事がある日以外は泊まっていくことが多いエア。

 その世話をするのは、専らサンジの役割だった。

 食事が終わり、一段落した夕方過ぎ。もう陽も落ちてきた頃に、彼女を連れて船内を歩く。

 

「客室です。足りないものがあれば、そこの電伝虫で俺をお呼びください」

「うん。サンジくん、いつもありがとね」

「俺以外に任せるのは少し不安ですからね。それに、麗しいレディの為です。これくらい苦もありませんよ」

 

 そう言いながら、他のメンツを思い出してげんなりとする。

 ここバラティエには気風が荒い者が多かった。募集のチラシだったり、バラティエ内部の雰囲気だったりに問題があるのだが──何はともあれ、不快感を与えず世話をするというのに向いている人間が少ないのだ。

 その点、ゼフの教育を受けていて、女好きといえども尊重を第一にできるサンジは適任だった。というか彼を除くとゼフしかいなかった。

 

 一通り備品の位置と注意事項を伝え終わり、部屋を出て煙草を咥えようとしたサンジの顔に陰かかかる。

 

「ってェ、オーナー!? アンタなんでこんなとこ来てんだ!?」

「あァ? 見れば分かんだろ。コイツの味見だよ」

 

 最近は彼女専用となっている客室の前。デザートらしきショートケーキの皿を片手に立っていたのはゼフだった。

 

「いやいや、味見って。あんだけ昼は時間……が……」

「俺は味見側で作っちゃいねえだろ」

 

 そういやそうだった、と頭をかきながら、それでも意外さに驚きを隠せなかった。

 口に出しこそしないが、サンジの中でゼフというのは超高スペックな料理人間として記録されている。だからこそ、この時間に試作と味見をしているということにはびっくりしたのだ。彼が研鑽をしないことではなく、どこまで上を目指すのかという観点での驚きだが。

 

「テメェに言うのもなんだが、俺はデザート系の技術はまだまだ磨く余地がある。折角俺以外にも舌が肥えてる奴が来てるんだ。使わない手はないだろ?」

「そりゃあ、そうだが……」

「なら話は終わりだ。そこを退きな」

 

 尚も納得できなそうなサンジを押し退けて部屋へと入っていくゼフ。

 閉まったドアを不満げに数瞬見つめて、溜息と共に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 エアの船室から一通り感想を聞き終えたゼフが退出していく。

 時刻を見れば、既に九時過ぎ。入浴も終えているし、少し早いが後は寝るだけ。

 そう思ってベッドに寝転がる。そして、いつもの癖で一日を振り返って一言。

 

「やっぱりあの二人、似すぎじゃない?」

 

 言うまでもなくゼフとサンジである。

(エアが知らないだけで師弟関係だからなのだが)料理と酒のチョイスや好みが似通っていて、(これも受け継がれたものだが)女性を尊重する傾向が強く。

 そして何より、弱みを見せたがらない。

 

「素直に食べ合えばいいと思うんだけど、そうもいかないんだろうなー。ま、私は美味しい思いできるから良いんだけどさ」

 

 ──男の意地というものは、大体女性に筒抜けである。

 




[普通に原作読んでても覚えてないキャラの紹介コーナー]

・カルネ
パティと共にバラティエ最古参のコック。
腕が太くてトイレで鼻毛抜いてたのがパティで、サングラスかけてる方がカルネ。
食あたりミートボールはめちゃくちゃ好き。


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→ドラム王国

どんなタグ付ければいいのか毎回悩みます。住み分けは大事なので。
ただ、結局分からないのでやめてしまうんですよね。この住み分けタグ必要じゃない?とか思ったら教えてください。


 年がら年中雪で覆われているドラム王国。

 エアはこの国に来るのがとんでもなく苦手だった。

 

 一つ目の理由は寒さ。

 服を傷付けない、かといって窮屈にならないように。そういう意識の元に作られた羽穴のせいで、寒気が思いっきり吹き込んでくるのだ。そのため、背中の方が常に寒い。

 

 もう一つ目だけで行きたくない気持ちが分かる人の方が多いだろうが、彼女的にはそれは大きな問題ではなかった。何しろ、彼女の飛行速度は本気を出せば相当なものである。故に、ドラム王国に近づいてから届け先に行くまでの期間であれば、身体が冷える前に届け終わって帰れるのだ。

 

 問題は二つ目──Dr.くれはと会うことにある。

 

「次! 2階南東の部屋に運びな!」

「はいぃ……」

 

 Dr.くれは、驚異の138歳。

 エアの目からは全然そうは思えないのだが、自己申告では動くのも大変らしい彼女に言われるがまま、運送してきた薬品類の配備までを手伝ったのが縁で事あるごとに頼られるようになってしまったのだ。

 今回もそれである。この寒さの中でも流行ったとんでもない風邪がいたそうで、解熱剤などを使い切り、発注量もとんでもなくなってしまったそうなのだ。

 

「……エア、そっちのはおれが持ってくよ」

「平気だよ、チョッパー。どうせこれが全部終わるまでは次から次へ指示が来るし……」

 

 その過程で彼──トニートニー・チョッパーと仲良くなることができたのだけがせめてもの幸せだったと言えるだろう。多分に漏れず、エアももふもふで可愛い生き物は好きなのである。

 

「でも、気遣いは嬉しいよ。ありがとね……って、なんで逃げるのさ」

「そんな腕開きながら来たら誰だって逃げるよバカヤロー!」

 

 素早く扉の影に隠れ──半身以上を覗かせながら此方を伺うチョッパーに、ほうと息を吐く。

 抱きしめてもふもふするのは失敗したが、いつものごとくリアクションが良いため、これはこれでエア的に満足だったのだ。

 

「こらアンタら! サボってんじゃないよ!」

 

 ちょっとした気の緩みを見抜かれ、叱責が飛んでくる。

 Dr.くれは、今外だよね? 

 見聞色の覇気でも使ってるのか、シンプルに妖怪なのか。とりあえず怖い。

 そんな不満を垂れ流すことはなく、あと二時間ほど働かされ続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「チョッパー、それが終わったら休憩しな」

 

 指定された薬品の調合を終え、試験管に詰めたところでDr.くれはが声を掛けてくる。

 自分の中ではもっと進められるという意識があるが、逆らう気はない。もう何年にもなる付き合いで、Dr.くれはの人を見る目は外れないことを知っているのだ。

 

「……ねぇ、ドクトリーヌ」

「なんだい」

「エアって……なんで、俺を怖がらないんだろ」

「しょげてると思ったらそんな事かい」

 

 馬鹿らしいとでも言うように酒をボトルでラッパ飲みしながら、ヒッヒッヒと笑う彼女の目がチョッパーをじっと見つめる。

 なんだか全てが見透かされるような気がして落ち着かないチョッパーへ、少し下がった声色が飛んできた。

 

「あの子はね、良くも悪くも誠実なんだよ。だからアンタにも誠実に対等に話すのさ」

「誠実……に悪いとかあるのか?」

「もちろんさね。何が理由か知らないが、あの子はどんな相手にも本心を全て話すし、偏見を持たない。美徳と言えば美徳だが、同時に人間らしくもないのさ……アンタより、よっぽどね」

 

 それ以上は無いというようにつまらなそうに酒を飲み出す。

 聞かされたチョッパーとしては、短い人生(トナカイ生?)経験では大半が理解しきれない話に首を傾げながらも、理解できた一つに深く頷く。

 

(そうか……エアは全部を見せてくれてるんだ。だから言葉を疑う気にならないし、嫌な気持ちになることもあんまりない。変なヤツだな、と思う以外の悪感情を抱かないんだ)

 

 じゃあ、と声を上げかけたチョッパーを、くれはの鋭い視線が射抜く。

 

「言っとくが、あの子みたいにしようだなんて考えるんじゃあないよ」

「な……なんで? そしたら、おれも嫌われずに」

「あのねぇ」

 

 心底呆れたといった様子で、Dr.くれはがチョッパーに向き直る。怒られるかと思って少し身体が強張ったが、すぐに違うと分かった。声色が、叱るときのそれではない。ごく稀にいる、手の施しようがない患者に対するような──。

 

「普通に生きる奴がね、一切の隠し事をしないなんてできるわけがないんだ。それができる時点であの子はどっかが壊れてるのさ。おそらくは、怯えか何かが根底にあるんだろうが……」

 

 心の病気はアタシの専門じゃあないからね、と呟いて酒を煽るが、口の中は満たされない。気付かないうちに、空になっていたのだ。

 チョッパーとしては詳しく聞きたかったが、ついぞそうすることはなかった。それほど瓶を見つめる横顔は悲しそうだったから。

 

(……ねぇ、ドクター)

 

 このドラムに桜を咲かせようとした、自分を救ってくれた偉大な男を思い出す。

 彼ならば、きっとエアが抱える“病気”すらも治してみせたのではないか、と思う。でも、彼はもう居ない。彼の意志しか残ってはいない。

 ──だからこそ、自分が諦めてはいけない。

 

「……ドクトリーヌ、おれ、万能薬になるから。ドクトリーヌだって治せない病気も、治せるように」

 

 一瞬呆気に取られたような顔をしたDr.くれはだったが、数瞬の間を置いて豪快に笑い出す。

 

「イーッヒッヒッヒッ! 半人前が何言ってんだい! そんな夢をほざく前に、まずは目の前の患者を治せるようになってみな!」

 

 暫く笑っていたDr.くれはが不意に立ち上がる。

 そしてチョッパーの方に歩いてくると、一冊の本を押し付けた。

 

「丁度いいから読んでおきな。最近書かれたばっかりの、心に関する医術書さ。汚すんじゃあないよ」

「……うん!」

 

 力強く頷いて本を手に取る。

 表紙に一つあった丸い滲みは、見なかったことにした。




Dr.くれはは妖怪だと思います。


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ウォーターセブン

感想・評価ありがとうございます。励みになります。



 水の都、ウォーターセブン。

 普段から騒がしさが絶えないこの街だが、今日は一際賑わっていた。

 それもそのはず。アイスバーグ自らが手掛けた海軍専用の超巨大護送艦が完成しようとしているのだ。我らが市長の作品をひと目見ようとする人間が殺到していて、それに人員の半分ほどを割かなければいけなくなってしまっていることも含め、あちこちがてんやわんやだった。

 

 しかしアイスバーグに不安はない。こうなることを見越した秘書──カリファの助言で、最後の運搬を手伝うとびっきりの人員を雇い入れていたからだ。

 

 ただ、誤算が一つ。いや、嬉しい誤算ではあるのだが。

 雇い入れた少女──エアの能力を認めてはいたが、アイスバーグも「デカめの家具とか大砲を空輸してくれたら助かるな」くらいの印象であり、建設レベルで必要な物は大人しくクレーンを使う予定だった、のだが。

 

「んぎぎ……流石に錨は重いですね……」

「ンマー……凄い力だな。いや、ほんとに。どういうパワーしてんだ」

 

 まさかの重量物取り付けまで行うものだから、アイスバーグもンマーと開いた口が塞がらなかった。横のカリファも流石に唖然としている。

 

「ありゃあ、確実にワシらよりパワーはあるが……その重量を支えられるほどの羽というのも中々不思議じゃぞ」

「確かにな。普段見てるのの倍は大きくなってるってのは能力だとしても、羽っつーのは羽ばたいて浮くためのもんだ。なのにアレ、普段より少し早いレベルの羽ばたきしかしてねーぞ」

 

 カクとパウリーは驚きながらも、その分析に熱中していた。まぁ、結論は“分からない”となってしまうのだが。

 結局、最後の作業まで手伝いきったエアを皆で胴上げするなんて騒ぎを迎えつつ、船は無事完成。市民全員のアイスバーグコールも受け終えたところで、ようやく解散の流れになったのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「はー、働いた後の冷たい水はいいですねえ……」

「嬢ちゃん、ビールはもっと良いぜ? ほら、一口やるよ」

「パウリー、アルハラです。やるならアイスバーグさんにしなさい」

「ンマー……もう結構飲んだんだが?」

 

 当然のように行われた打ち上げ。会場はブルーノの酒場だったのだが、表に出してないだけでかなり喜んでいたメンツが早々に泥酔。酒を遠慮しているエアやカリファ、飲み過ぎないようにしているアイスバーグへ我先にと絡み出すなんともカオスな場所と化していた。

 

「なぁ嬢ちゃん! あの錨、浮力考えたら絶対持ち上がらねえと思ったんだが……一体どうしたんだ!?」

「タイルストンさん顔近い! 酒臭い!」

 

 ぶつかる勢いで突っ込んでいったタイルストンを手で押し留めるエアに、視線が集中する。原理としては役に立たないのかもしれないが、物作りを生業としている彼らにとって是非とも解き明かしたい謎ではあったのだ。

 無言の視線に気付いたエアが困ったように笑ってから口を開く。

 

「えっと、私のハネハネの実は羽を生やす能力です」

「ンマー、そう聞いてるな。随分デカい羽が生えてた」

「はい。私に接してるものなら何にでも羽を生やせます。上限はありますけどね」

 

 その言葉に、ほぼ全員が謎が解けたといったような表情になる。タイルストンは分からなかったようだが。

 

「それじゃあ、エアさんは錨にも羽を生やしてたと?」

「はい。大きい羽だと目立っちゃうし、ぶつかっちゃうかもしれないので。極小の羽を大量に生やすことで結構楽してました。それでも重かったし、全部動かす分精神的には疲れたんですけどね」

 

 ちなみに人にも生やせますよ、などと言いながら指先から二対の羽を生やし、パタパタと羽ばたかせるエアに熱い視線を送るカリファは見ないようにしたパウリーは、思った疑問を口に出す。

 

「んじゃ、なんで羽穴から羽生やしてるんだ? 服から生やせばいいだろ」

「そうすると、バランスが取りにくいんですよね。服で引っ張る分はどうしても伸びちゃいますし」

『クルッポー。やはりパウリーは馬鹿だな。そんな事にも気付かないなんて』

「なんだとテメェ!」

 

 ルッチとパウリーが乱闘を始め、ルルとタイルストンが野次を飛ばす。

 カリファは辛抱たまらないといったようにエアの羽を触り、予想通りのフワフワさに顔を緩ませ、エアはくすぐったそうに身を捩り。アイスバーグは店主のブルーノと雑談で盛り上がっている。

 

 それらを少し離れたところで眺めながら、絡もうとしていた一般客があまりの乱雑さに退避していくのを呆れた目で見ていたカクだったが──ふと、疑念が浮かぶ。

 

(他の物にすら影響を及ぼす能力──超人系(パラミシア)で?)

 

 そうだ。そもそも、悪魔の実の能力で“人”に影響を及ぼすものは少ない。諸事情で能力を調べたハナハナの実などは当てはまるが、あれは“生やす”という能力に特化しているからである。ハネハネはそもそも人を対象とする能力ではないし、過去の能力保持者がそうであった記録も残っていない。あくまで、自分に羽を生やすだけの能力であったはず。

 

 “覚醒”。

 CP9として長らく活動してきたカクは、極めた能力者だけが至れるその領域を知っている。

 彼女の能力が、おそらくそれに分類されることも。

 

(念のため、報告しておいた方がいいかのう)

 

 海軍に協力していることの多い立場であるゆえ、危険性は低い。

 しかし、覚醒した能力者の戦闘力は総じて高い傾向にあるのだ。彼女の戦闘力は未知数だが、警戒はしておく必要があるだろう。

 

(…難儀なものじゃな)

 

 任務となれば感情を排して動くカクだが、決して良心を捨てているわけではない。

 むしろ世界の為にやっているという意識、大義のために小義を切り捨てるといった多大な良心があるからこそ、非道な内容ですらも顔色を変えずできると言っていい。

 しかし、それでも──友人を警戒対象として報告するというのは、気分がいいものではない。

 

「──杞憂であって欲しいのう」

 

 ぽつりと溢した言葉は誰に聞かれるでもなく、カクと共に夜の闇に溶けて消えた。

 




[いつもの紹介]

・タイルストンとルル
ガレーラカンパニー所属の結構強い船大工。
ロープを使うパウリーが突出して有名なので忘れられがち。
謎の毛をニュッと潰しては生やしてるのがルル、暑苦しい大男で竜骨折りとかいうベアハッグしてたのがタイルストン。

・カク
CP9の中では一番人間味があると勝手に思っている。
おそらく情には厚いが、任務のために押し殺せるタイプ。ワンピースキャラの中でも凄い好きです。

※タイトルを一部変更しました。


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→女ヶ島

評価・感想・誤字報告ありがとうございます。


 凪の海にある女ヶ島にその本拠を置く国家、アマゾンリリー。

 代々九蛇海賊団の船長が皇帝を務めてきたこの国は世界的に有名である。

 ──なにしろ、国民が女性だけなのだ。

 男性が入ろうものなら問答無用で死刑という法があり、実際に流れ着いた海賊が哀れにも殺される事が過去にあった。もっとも、海賊であるが故に大きく取り上げられはしないのだが。

 

「マーガレット! まだ彼女は来てないわよね!?」

「ええ。予定だとそろそろの筈なのだけれど……」

 

 しかし、女だけで全てを自給自足している……というわけではない。食糧や服、武器程度なら(原始的ではあるが)賄えるものの、海賊として活動するための船や、外界と最低限の接触を持つための電伝虫など、必要な物は多岐に渡る。少なくとも、時折航海する九蛇海賊団──しかも貿易ではなく商船などへの攻撃──だけでは賄えない。

 では、誰がそれを持ってきているのか。

 

「来たわ! 彼女よ!」

 

 水平線の彼方からそれなりのスピードで飛んでくる少女──エアを、まず最初に発見したのはリンドウだった。狙撃手の面目躍如、といったところである。

 彼女が来訪を叫んだ瞬間、集団からわっと歓声があがった。

 

「九蛇の皆さーん! 広場を空けてくださいねー!」

「来たわ! 皆、下がりなさい!」

「ザハハハ、待ちくたびれたわ……!」

「ええ、本当に!」

 

 呼びかけ通りに並びながらも、興奮は隠せず。

 今回は何があるかと目を輝かせる九蛇の面々の眼前に、エアが降り立つ。──三つの、大きな木箱と共に。

 

「取り決め通りだ! クジが当たっていたやつは品出しを手伝え! 他は、貢献度順に並んで待つ! 破ったものは購入禁止と罰則だぞ!」

 

 キビキビと指示を飛ばすキキョウに逆らう者は居ない。熱狂の渦に包まれながらも、軍隊さながらの整然とした動きで彼女らはショッピングを始めた。

 

 そう、女ヶ島の月一イベント、輸入品のショッピングである。

 

 ある運送屋が提案し、皇帝が実施して、今では島民のほぼ全員が参加するようになった一大イベントであった。やはりいつの時代もショッピングが好きな女性は多いのである。

 貢献度での順番による平等性を設けたところ、国民全員のやる気が目に見えて違ってきたためにニョン婆がうるさく言うこともなかったという。

 

「ふむ、エアよ。ご苦労じゃったな」

「あ、ハンコックさん」

 

 騒ぎの中心から少し離れたところで木陰に座り、休憩していたエアの耳に聞き慣れた声が響く。現アマゾンリリー皇帝たるボア・ハンコックその人が、いつの間にか近くまで来ていたのだ。

 

「わらわが混じっては、あの者達も楽しみきれぬと思ってな。それに……今回も、持ってきたのじゃろ?」

「もちろん。はい、これ」

 

 あのハンコックが部下に気を遣い、あまつさえ可能な限り気配を抑えるという、ニョン婆が見たら泣き出すような光景を展開しているなか、エアが大きめの鞄から取り出したのは──厳重に封がされた瓶が何本か入った箱だった。

 ハンコックがキラキラと目を輝かせながら、そのうちの一本を抱きしめる。

 

「待っておったぞ、わらわのにごり酒!」

 

 余談だが、彼女は辛めの料理、特に火鍋が好きである。そこで、一年ほど前に無事友人という関係を勝ち取ったエアが、ワノ国より仕入れたにごり酒をプレゼントしたところ──どハマり。度々持ってくるようせがむようになったのである。

 

「今すぐに呑みたいところじゃが……夕餉までは我慢、じゃな」

 

 ひとしきり喜びを示した後は、名残惜しそうに見つめながら箱の中へ。その一連の動作さえ絵になるのだからズルいな、などとぼうっとハンコックを見つめていたエアの手に、ハンコックがそっと何かを置いた。

 首を傾げながら、その何かを見る──蛇モチーフの、首飾り? 

 

「あの、ハンコック、これ……」

「……友に贈り物をされたら、返すのがマナーじゃと聞いてな」

 

 恥ずかしそうにそっぽを向きながら小さい声を出すハンコックいわく、普段の贈り物に対するお返しらしくて。

 

「……ハンコック」

「…………なんじゃ」

 

 まさか気に入らなかったりでもしたのだろうか、と思うくらいには反応の薄いエアへ、思わず不安げな表情を浮かべたまま振り返ったところで──熱烈なハグが飛んでくる。

 

「ありがとう! めちゃくちゃ嬉しいよ、これ!!」

「そ、そうか……」

 

 どうやら静けさは、喜びが爆発する前の溜めだったらしい。満面の笑みを浮かべてスキンシップを図るエアをどうどうと宥めながら、でもその表情には同じく笑みがあって。

 やがて騒がしくなってきた二人に気付いた九蛇海賊団も巻き込み、陽が落ちるまで女ヶ島全体が盛り上がっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「それで、ハンコック姉様。どうだったの?」

「どう……とは」

 

 一通りのイベントが終わり、城の最上階──自室へと戻ってきたハンコックを、妹のサンダーソニアが出迎える。

 今回、ハンコックが初めてできた友に贈り物をするからと相談したのがこのサンダーソニアであり、なんならハンコックよりも成功の可否を気にしていた人物でもあった。

 暗く沈んでいないからおそらくは成功したのだと思い、いや、願いつつも、話しかけた姉から返ってきたのは沈黙だけ。

 まさか、という思いでおそるおそるハンコックの顔を覗き……撃沈。

 

「…………♪」

 

 サンダーソニアは知っている。

 アクセサリーを贈るにあたって、自分が付けているピアスと同じデザインのものをハンコックが選んだことを。

 

 サンダーソニアだけが見た、ハンコックの緩みきった笑顔。

 それは、ある麦わらの海賊が訪れるまで、サンダーソニアの“姉様が見せた美しい表情ランキング”不動の一位を保ち続けたという。





ハンコックは対人関係初心者だという偏見をもとに書きました。
「解釈違いだぞコノヤロウ!」という方は自分の解釈でハンコックを書いてください。

よし、これでワンピースss増えるな……

[紹介コーナー]

・リンドウ
とんでもない服着てるけど面倒見が良さそうな九蛇海賊団の狙撃手。

・マーガレット
ヒロイン枠か!?と思わせるも、秒で出番が消え、ハンコックに全てを持っていかれた人。私は好きです。

・キキョウ
めっちゃイケメンな感じの纏め役。ハンコックが捕まったりすると、一部の戦士を率いてゲリラ軍的なのを作ってそうな見た目(偏見)。


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→スカイピア

過去一原作から遠ざかりました。
少し短めです。


 

 ジャヤの真上に存在する、幻の島──空島。

 地名としてはスカイピアと呼ぶそこでは、“神”と崇められる男が居た。

 故郷を焼き滅ぼして来たらしいこの男は、スカイピアを統治していた神と交戦しかけ──何者かの介入により、一時撤退。次にスカイピアへやってきた時には、交戦ではなく対話という形で神──ガン・フォールを納得させ、まさかまさかのシャンディアとの交渉役に。

 しかも今度はその足でシャンディアと交渉し、“大地”の分割統治を認めさせる大偉業を達成。その功績と、介入した何者か──ここまで来たらお気付きだろうが、エアもドン引きする有能さを発揮し、僅か2ヶ月で正式な神の座を手に入れたこの男こそが、神・エネルであった。

 

「ふむ……やはり本という文化は青海の足元にも及ばんな。特に思想や帝王学の本だが……ああ、ご苦労。対価はこやつらに用意させてある。ヤマ」

「エア様、こちらの箱にお納めしております」

 

 ヤマと呼ばれた巨漢が、ガシャリと音を立てて木箱を並べる。

 それをエアが軽く検分し、頷いた。

 

衝撃貝(インパクトダイアル)斬撃貝(アックスダイアル)炎貝(フレイムダイアル)水貝(ウォーターダイアル)音貝(トーンダイアル)映像貝(ビジョンダイアル)熱貝(ヒートダイアル)──はい、全部ありますね」

「ヤハハハハハ! 神たる私自ら揃えたのだ! 手抜かりなどあるまいよ!」

 

 高らかに笑うエネルに、エアが苦笑で返す。

 最初、彼と遭遇した時に満ち溢れていた傲慢さは既に薄く、今は各国の王にも負けぬ王気を放つ男となっていた。その変わりようには、彼の部下すら何があったかと原因であるエアに問い詰めるほどであったのだが──

 

『えっと、君主論を渡しただけなんですが……』

 

 という、あんまりな返答だったために部下一同がずっこけたという。

 しかし、エアもその気持ちがわからないわけではない。さる冒険家との縁で空島の様子を見に来て出会った神、ガン・フォール。彼に頼まれた地上の書物を運びに来た際、運悪く(むしろスカイピアの民からすれば幸運だったのだが)エネルに出くわした。

 最初は雷などというふざけた相手に即撤退を決めたのだが、彼曰く『その翼は、空島に住むに相応しい』と興味を持たれた事でタイミングを逃し。物珍しかったのだろう、そのまま手持ちの物を一つ一つ確認され──エネルがその本に出逢ってしまったのだ。

 

 “民と国”。著者は第12代アラバスタ国王であるネフェルタリ・コブラ。

 地上でも類を見ない名君が書き起こした政治論を、圧倒的なまでの頭脳で余さず理解しきり──その思想に、感銘を受けた。受けてしまった。

 

 後は簡単だ。神(空島では王の事を神と呼ぶ)になるという目的はそのままに、良い神とは何かを追い求めるようになったエネルは、ひとまず武力的抗争を捨て、平和的手段で神の座を取りに行ったのだ。

 

『さて、手始めに無為な争いを終わらせてやるとするか。いずれこのエネルが統治する土地が戦火に包まれているなど、笑い話にもならんからな! ヤハハハハハ!」

 

 その過程でシャンディアとの和平を結ぶ──エネルからすれば手に入れようと思えば交易でいくらでも手に入りそうな大地に神側が拘る必要は無いと思っただけなのだが──お互いが納得できるラインを完璧に突いたことで、長く続いた因縁を軽く終わらせてしまったのだ。これにはガン・フォールもにっこり。笑顔で神の座を渡し、かぼちゃジュースを作りに隠居老人である。

 

 何はともあれ、生来の傍若無人さを王の気まぐれ程度へと緩和させたエネルに最早障害など存在しない。

 スカイピアを始めとした空島のいくつかをその能力でもって繋げ、名実共に“神”エネルの称号を手に入れたのである。

 では、そんな彼が今何をしているかというと。

 

「ふむ、エアよ。この書簡を世界政府とやらに届けてくれ」

「え……クザンさんからなら届くのかな……ちなみに、内容をお聞きしても?」

「加盟国とやらへの参加申請だ。天上金とやらを払うのは業腹だが……足がかり的にはやるべきだと考えてな」

「えっ」

 

 丁度いい友人をパイプ役にし、地上に対してある程度の権力を持とうとしていた。

 エネル、地上進出である。

 

「いや、あの……それ返事を持ってくるのも私になりますよね?」

「ヤハハ、もちろん」

「……電伝虫を持ってきますね」

 

 電伝虫……音貝より便利だがどうも慣れぬのよな、などと渋い表情になっているエネルを放置して、帰り支度を始めるエア。彼のことが嫌いなわけではないが、苦手ではあった。だって、近くに居たら確実に何か巻き込まれるから。

 

「エアよ、次は二ヶ月後だ。その時までに貝は用意しておく」

「分かりましたよ……では、失礼します」

 

 ぺこりとお辞儀をして、空島の出口へと飛んでいくエアを見送っているエネルだったが、不意にポンと手を打ち、残念そうに俯く。おそるおそる、ヤマが声を掛けた。

 

「エネル様、どうかなされましたか……?」

「いや、私としたことが、エアにもう一つ頼み忘れていてな……一度、著者たるコブラ殿と対談をしてみたかったのだが。まァ、次来た時に頼めばよいか」

 

 “神”や“天”の文字に拘るせいで天竜人に目を付けられたり、世界政府に困られたりしながらも自らの信じる方向へ進むエネル。

 いずれ“空神”の名を持つことになる彼の偉大な日々は、これからも続いていく。

 





次回から本編に入っていくので、少し投稿が送れます。


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本編
→フーシャ村近海→


更新が遅いなどと言いながら普通に更新。
多分短めのをちらほら上げていく形になります。


 東の海(イーストブルー)にて、バラティエよりかなり東の海上を、翼の生えた少女がふわふわと漂っていた。

 “運び屋”の異名を持つ少女の名はエア。

偉大なる航路(グランドライン)から東西南北、どこの海へでもモノを届けます』というキャッチコピーのもと、この海にやってきた──のだが。

 

「うーん、やっぱりこの辺りは迷うなぁ……」

 

 つい数時間前に運悪く嵐に巻き込まれてしまったのだが、その際に地図の入った袋を失くしてしまったようなのだ。仕事と自宅の都合からマリンフォードへの永久指針を所持しているため、帰りに困ることはないのだが……荷物を運びきれないというのは、どうにも気分が悪い。ましてや今回の依頼は海兵として前線で働く父親から、息子への誕生日プレゼントである。まだ一週間ほど猶予があるとはいえ、早めに届けてあげたかったのだ。

 そういう理由で、記憶を頼りに海上を彷徨っていたのだが……

 

「うーむ、どうすっかなー」

「!?」

 

 上空からでも見えるほど大きな渦潮が発生していたと思ったら、それに小舟が飲まれてかけているのを発見してしまった。幸いにも乗っているのは一人だったため、自分でも運んであげられそうなことに安心しつつ、舟へと近付く。

 

「すげー! お前、なんで羽生えてんだ!?」

「悪魔の実だけど……えっ君なんでそんなお気楽なの? 今飲まれかけてるよね!?」

 

 小舟の主であったらしい麦わら帽子の青年が、目をきらきらとさせながら羽へ伸ばしてくる手を慌てて避けつつ、腕をひょいと掴む。

 

「ほら、行くよ!」

「うひょーっ! 飛んでるーっ!」

 

 瞬間、激しい水飛沫と共に小舟が波へ飲まれていった。間一髪間に合ったことにホッと胸を撫で下ろしていると、下の青年が快活に笑う。

 

「いやー、助かったぞ! 泳げねーのに溺れるとこだった!」

「どういたしまして。君はもっと危機感持った方がいいかもね……それで、どこに行く予定だったの?」

 

 どうやら、今死にかけていたことを全く気にしていないようだった。なんとも既視感のある図太さである。

 何はともあれ、ここで放置するわけにもいかない。ひとまず、彼の行き先を尋ねてみたのだが。

 

「考えてねぇ!」

「えー……なんで海漂ってたの?」

 

 この有様である。

 

「そりゃあ、おれは海賊だからな!」

「海賊? えー、私海賊助けちゃったの? このまま捨てた方がいい?」

「それは困るっ!」

「冗談だよ。はぁ……全く、今日は運がないなぁ……君、名前は?」

「モンキー・D・ルフィ! お前は?」

「エアだけど、待って? モンキー・D…………えっ」

 

 思わず、ルフィを二度見するエア。よくよく考えれば、確かに血の繋がりを感じる。行動とか発言とかアホっぽさとかetc……とにかく、既視感の正体が判明した。マリンフォードで「孫が海賊になるなどと言っておって……」などと愚痴っていたガープに「海軍の良さを説き続けたら分かってくれるんじゃないですか?」なんて言ったことも思い出す。ガープさん、もう手遅れみたい。

 

「じゃあ、一番近くの島まで運ぶから……暴れないでね。暴れたら落とすよ」

「おう! ……で、エア。その羽も悪魔の実なのか?」

「ん? そうだよ。ハネハネの実」

「へぇー! それがあれば船が壊れても安心だな! なぁ、エア……」

 

 ここで、とんでもなく嫌な予感がしたエア。具体的には仕事とセンゴクから逃げてきたガープに押しかけられた時とか、怒りのあまりマグマをゴポゴポ言わせながらクザンを探してる赤犬大将を見てしまった時とか、それくらいに。

 だから続きの言葉を聞きたくなかったが、両の手は塞がっているので、彼の言葉を止める手段はない。

 

「お前、俺の仲間になれよ!」

「嫌ですっ!」

「えー」

 

 そもそも、どうしてその結論になったのか、とか色々言いたいことはある。が、ひとまずは彼に効きそうな言葉を選ぶことにした。

 

「それに、私を仲間にしたら、多分ガープさんが怒るよ」

「げっ、じいちゃんと知り合いなのか!? それはこえーな……でもよぉ……」

 

 効果はあったらしいが、諦めてはいない。

 あの羽は魅力的だもんなぁ……などと頭を悩ませてるルフィを掴んでいるのが、もうアホらしくなってくる。

 ──もう、さっさと島に着いて放り出すか。

 そんな結論と共に、もう一対の翼を腰から生やす。

 

「ルフィくん」

「ん?」

「舌、噛まないようにね」

 

 返答は待たず、合計四つの翼で大きく羽ばたく。同時に空を足で蹴り、加速。二秒後には到達した最高速度で、瞬く間に宙を駆けていく。すると、十秒も経たずに島が見えてくる。

 後は彼を放り出すだけだが……ガープ中将の孫だというし、多少雑でも問題ないだろう。そう思いながらチラっと下を見て──急ブレーキ。

 

「いや何その腕!?」

 

 10mほど伸びた腕の先で、空気抵抗を受けてとんでもない顔をしているルフィの姿に一瞬思考と動きが止まる。しかしルフィの方は急には止まれない。慣性の法則が働いたまま、とんでもないスピードで島へと突っ込んでいき──なぜか金棒を振り上げていた女へ、衝突。思わずエアが手を離したのもあり、一緒になって森へと突っ込んでいった。

 

「…………ル、ルフィくーん!?」

 

 一瞬理解が追いつかなかったのだろう。自分の手と森を交互に2回ほど眺めた後、慌ててルフィが消えていった方向に飛んでいくエアを見送る男達──アルビダ海賊団の心は一つだった。

 

 ──なんか、ヤベー奴らが来た。

 




感想・評価・誤字報告ありがとうございます。


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ゴート島→シェルズタウン

やっぱり本編のキャラが増えると会話文が多くなりますね。


 エアが必死になって探そうとしてすぐ、無傷のルフィが意識の無いおばさんを引きずってくる。

 

「あー、びっくりした。エア、突然離すなよ!」

「ごめんなさい! ……それで、その方は……生きてる、よね?」

「ああ。気絶してるだけだぞ」

 

 一安心。事故で人を殺してしまいましたなどシャレにならない。

 次いで、おばさんの取り巻きらしい人に謝ろうとして──気付く。

 

「あれ? さっきの人達どこ行ったの?」

 

 周囲の人影は眼鏡の地味な少年一人分だけで、さっきまで居た男達など影も形もなかった。ルフィも首を傾げている。すると、一人残っていた少年が喋り出す。

 

「アイツらなら逃げましたよ。僕も、アルビダも置いて」

「アルビダ? その名前、どこかで……っと、ごめんね。先に君の名前を聞いてもいいかな」

「コビーです。金棒のアルビダはこの海域じゃそれなりに有名な海賊で……」

「あー、そうだ。プリンプリン准将が追いかけてた人だ。確かそんな名前を言ってた」

 

 思い出した、と言わんばかりに頷くエアへ、泡を食ったようにコビーが話しかける。

 ルフィは相変わらず首を傾げている。

 

「もしかして、エアさん達は海軍の方なんですか!? でしたら、お願いします! 僕を海軍に入れてください!」

「俺たちは海賊だぞ」

「なんで海賊が東の海の守護神と知り合いなんですか!?」

「いや海賊なのは彼だけね。私は違うから。ていうか、あの人そんな大層な異名があったのね」

「では、なぜ彼と一緒に……」

「なぁエア、おれ腹減ったぞ」

「あぁ、もう! 順番にやるから待って!」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「じゃあ、コビーくんは海釣りに出たとこをアルビダに捕まって、そっからはずっと雑用をさせられてたと」

「エアさんはシェルズタウンへの運送の途中で渦潮に飲まれかけたルフィさんを見つけて、助けてからこの島に来たと」

「このメシうめぇな! エア、おかわり頼む!」

 

 3人はアルビダ海賊団が残していったアジト、そこにあった食材をエアが調理したものを食べながらお互いの情報交換を済ませていた。一名は食事に夢中なので話はあんまり聞いていない。

 

「はい、お代わりね。……ひとまず、私とコビーくんはシェルズタウンに行きたくて、ルフィくんは船が欲しいと。各々の目的はそんなところで合ってる?」

「はい」「あと、エアを仲間にすることだな! お代わり!」

「それは却下。お代わりはこっち。問題はどうやってシェルズタウンに行くのか、ね」

「僕が作った小舟なら、そこに浮かべてますが……」

 

 三回目のお代わりを要求したルフィにもう切り分けないまま焼いた肉を手渡し、コビーが作ったという船を見に行ったのだが。

 

「なんだこれ、棺桶か?」

「あ、ここ釘が取れかけ……もう、木片の集まりね」

 

 流石にこの船で海に出るのは……というレベルの代物でしかなかった。

 アジトを探し回っても、小舟などは無い。

 

 ──だからこれは、どうしようもないことなのだ。人助けなのだ。ルフィくんはともかく、コビーくんを置き去りにするわけにはいかないから。

 

「あの、すみません……流石に重い、ですよね。あ、多分あっちに飛ぶと島が見えてくると思います」

「うっひょー! やっぱ空を飛ぶのって気持ちいいなぁ! エア、さっきのばびゅん! ってなる奴はやらねーのか?」

「やらないよ……」

 

 コビーの案内のもと、男二人を掴みながら空を飛んでいるエアは、酷く憂鬱だった。

 まず街に入れば奇異の目で見られることは確定であるし、自由奔放なルフィに至っては何をしでかすか分からない。まかり間違って海賊仲間とでも見られようものなら──

 

『海賊に情けなど要らん!』

 

 ──赤犬大将を思い浮かべてしまってかなり気分が悪くなる。やっぱりルフィだけでも捨てていこうか。

 

「あ、エアさん、ルフィさん! 見えてきましたよ! あれがシェルズタウンです!」

 

 つられて視線を向けると、一際高い海軍支部が目立つ街並みが見えてくる。

 ようやく終わるのか。さっさと人が居なさそうなとこに二人を下ろして、依頼を終わらせて、帰ろう。

 

 ──後年、ルフィとの出逢いについて聞かれたエアは、毎回決まってこう答える。

『“人が居なくて海軍支部からも離れた空き地”なんて怪しい場所に、なんで降りたんだろう』と。

 

 

 

 

 

「──おい、なんだありゃあ。俺ぁ、あの処刑場には立ち入り禁止って言ったよな?」

「はっ」

 

 海軍支部の司令室で、処刑場の上空を飛ぶエアと二人を見てしまった男が椅子に座ったまま、敬礼をする海兵へ指令を出す。

 

「──撃ち落とせ」

「はっ? ですが、まだ彼らが賊かどうかは──ぐわぁっ!」

 

 海兵がその続きを言い切る前に崩れ落ちる。

 指示を出した男の右腕──その代わりのように生えている斧からは、鮮血が滴っていた。

 

「俺の命令に従えない奴は要らん。

 ──さっきの命令を聞いた奴は、今すぐ屋上に行って奴らを撃て」

 

 

 

 

 

 

 

 人の近寄らない広場を見つけたエアが“これで醜態を晒さずに済む”といった心地で緩やかに地上へ降りていく最中──保護者に鍛えられた感覚が、敵意を感じ取った。

 

「っ、離すよ!」

「えっ?」

「コビー、捕まれ!」

 

 エアがルフィとコビーの手を離した瞬間、3発の銃弾が身体を掠める。

 咄嗟に身を捩って傷は避けたものの、明らかに敵意を持っていた。

 撃たれた方向は、支部。

 

「突然撃ってくるなんて正気じゃないでしょ……! っ、また!」

 

 滞空しているエアに向けて、それなりの精度で弾丸が迫ってくる。今度は余裕があったために問題なく躱すが、穏やかではいられない。

 

(目立つ空中ではこのまま狙われ続ける、か)

 

 ひとまずは銃撃を避けるため、ルフィとコビーを落とした場所に自分も降りたのだが──明らかに捕まっているっぽい人が一人いて、ルフィが話している。

 

「……おい、なんだお前ら。突然落ちてきやがったが……」

「お前、なんで縛られてんだ?」

「ルフィさん! そいつ、海賊狩りのゾロです! 聞いてた特徴が一致します……!」

「そのゾロとやらがなんで縛られてるのかとかなんで普通に話してるのとか聞きたいけど、狙われてるっぽいから──」

「そこまでだ!」

 

 エアの台詞が終わらないうちに、基地の方向から海兵が迫ってくる。

 全員、銃を装備して。

 

「お、なんだお前ら。やんのか?」

「あーもう、どうしてこうなったかなぁ……!」

「海軍さん! 僕たちは一般人で……あ、ルフィさんは違うのか」

「お前ら本当になんなんだ?」

 

 ルフィとエア、コビー、そしてゾロが思い思いの反応を繰り広げているなか、銃口を向けていた海軍達の奥から一人の巨漢が姿を現した。

 

「テメェら……海軍大佐であるモーガン様の命令に従わないって事は、死んでもいいって事だよな?」

 

 明らかに海軍としては失格な事を言いながら右腕の斧に触れる男に、エアは絶望した。

 




感想・評価・誤字報告ありがとうございます。
※モーガンが名乗りをあげるよう一部修正しました。


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シェルズタウン・上

ちょっと駆け足気味です。



 エアは絶望していた。困惑していた。激怒していた。

 良い父親であろうとする海兵の依頼を請け負っただけのはずが、何故こうも面倒事ばかり起きるのか。

 きっとこのレベルの相手なら戦いにすらならないし、いっそ全員殴り飛ばしてしまいたい──と思いつつも、後ろを向く。銃口を向けられ、明らかに怯えているコビーと、縛られた男──コビーいわく、ロロノア・ゾロ。

 この名には聞き覚えがあった。数ヶ月前、プリンプリン准将が言っていた優秀な賞金稼ぎだ。正義感が強いだけでなく、東の海では最高峰の強さと思慮深さを持つ男が、人の見極めでやらかすとも思えない。

 

「なーんか、色々ウラがありそうだよね……はぁ、こういうの、私の役目じゃないのになぁ」

 

 溜息を一つ吐き、前に出ようとして──ルフィに、肩を掴まれる。

 

「……どうしたの?」

「戦うんだろ?」

「うん。逃げてプリンプリン准将──知り合いの海軍を頼ってもいいけど、コビー君とそこのゾロって人まで助けて逃げるには無茶があるから。見捨てるのも、寝覚めが悪いし」

「でもお前、戦いたくないって顔してるぞ?」

「……!」

 

 身体が強張る。表情に出さないようにしたつもりなのに、見抜かれていた。

 そんな自分に安心する、屈託のない笑みを浮かべるルフィが、銃口から庇うように前へ出た。

 

「構え────撃て!」

「効かないねぇ……ゴムだからっ!」

 

 後ろにいる私達ごと撃ち殺すという意思が感じられる銃弾を、その身で受け止め──否、弾き飛ばす、その後ろ姿は。

 

「…………そういえば、主人公(ヒーロー)だったっけ」

 

 少女がずっと昔から憧れ続けたモノに、そっくりで。ちょっとだけ、見惚れてしまった。

 

「あの、エアさん!」

「……なんだ、コビーか。どうしたの?」

 

「お願いが、あるんです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃て、撃つんだ!」

「うおっ! おい掠ったぞ!」

「おれは撃たれても大丈夫だからなぁ」

「お前はな!」

 

 エアがコビーと二、三言交わして飛び立った後の処刑場では、棒に縛られたままのゾロと、棒ごとそのゾロを抱えるルフィという珍妙な状況になっていた。

 

 というのも、あの後ルフィは前にいた海兵を何人か蹴散らしていたのだが、思わぬ事態が起きたのだ。モーガンの指示により、海兵がルフィではなく、ゾロを狙い出したのである。

 

『おい、あの麦わら帽子だけじゃなくてロロノアも狙え。この際纏めて殺した方が楽だ』

『……! おい、テメェの息子とおれの約束はどうしたんだ。三十日耐えたら生かすって話があっただろ』

『あ? 息子だぁ? ……バカなこと言ってんじゃねえ。この町は俺の町で、お前を裁く権利は俺にある。あのバカ息子の約束なんざ関係ねえよ』

 

 

『──そうか』

 

『おい。あのガキから聞いたが、お前仲間を探してるんだってな』

 

『おれァこんな所で死ぬわけにはいかねェ。

 ──だから、条件だ。この戦いが終わったらお前の仲間になってやる。未来の大剣豪だ、腕の方は問題ねェだろ。代わりに、あのメガネと羽女が戻るまでおれを守れ。アイツらが刀を取って戻ってくりゃあ、アイツらなんざおれ一人で倒せる。……どうだ?』

 

『……なぁ、お前、なんで捕まってたんだ?』

 

『あ? ……あの海軍大佐の息子が飼ってる狼を斬っちまったんだよ』

 

『なんで?』

 

『……ガキを襲おうとしてたからな』

 

『そっか。

 ──さっきのやつ、約束だぞ』

 

『ああ。おれは約束は守る』

 

 

 例えルフィは殺せなくとも、ルフィのように銃弾を無効化することもできないゾロは蜂の巣にできる。そういう観点で、二度目の一斉射撃を命じたモーガンだったが──

 

『んぎぎ……っ、よし、抜けたァ!』

 

 ゾロを拘束していた柱ごと引き抜くという荒業を持ってルフィがゾロを救ったのだ。

 しかし、実力的な意味でいえばモーガン以上であるルフィでも、流石にゾロ(と柱)を庇いながら戦うというのは無理がある。

 

「ゴムゴムのォ……ロケット!!」

「大佐! 奴ら支部の方向へ逃げていきます!」

「役立たずどもが……! 俺が追う! 後からついてこい!」

 

 ひとまず処刑場の外まで飛び出したルフィだったが、ふと立ち止まる。

 

「どうすっかなー……この後のこと何も考えてなかった!」

「マジかよ」

 

 いかにも困ったという顔をするルフィに対し、ゾロが呆れた表情のまま、唯一動く指先で海軍支部の建物を指差す。

 

「ひとまず海軍支部の方まで走れ。そうすりゃ──」

「ロロノア・ゾロさーん!! どの刀ですか──!!」

「──ほらな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 モーガンが部下を引き連れて追いついた時には、既にゾロの拘束は解けていた。

 固まった体をバキバキと鳴らして、ニィ、と笑う姿に、モーガン以外の海軍が後ずさる。

 

「おい、船長。アレ、どっちがやるんだ?」

「にしし、おれに任せとけ!」

 

 モーガンを指差す二人の話し声に、本人が額に青筋を立てた。

 

「テメェら、どこまでも俺をコケにしやがって……死ねェ!」

 

 血管が浮き出るほど力を込めた右腕を溜め、振り抜く。

 並みの使い手ではないことが分かる鋭い風切り音と共に、斧がルフィに迫り──事もなげに躱される。

 そのまま急接近してくるルフィに対し、モーガンは振り切った体勢のまま。

 

「ゴムゴムのォ────バズーカッ!」

 

 砲弾の如き両の掌底がモーガンの腹部を捉え、そのまま吹き飛ばす。

 とうに意識の途絶えたモーガンは何の因果か、支部の屋上──自身を模した巨大な像にぶつかってその勢いを失う。

 ぶつかられた像は、既に原型を留めておらず──彼の末路を示すように、粉々に砕け散っていた。

 




どうしても序盤は情報が小出しになりがちなので読者さんを戸惑わせがちですが、感想欄でのネタバレはあまりしたくないため、ぼかした返信も多くなります。ご了承ください。
あと、日刊ランキング1位ありがとうございました。ちょっとまだビビってます。

ちょっとした疑問で、アンケートを挟みました。特に続きには関係しませんが、ご回答頂けるとありがたいです。


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シェルズタウン・下

シェルズタウンのエピローグ的なものなので短いです。


 シェルズタウンのレストラン、food fooを出て、ルフィとゾロは港の方に向かっていた。

 絶食していたゾロとただただ大量に食うルフィの食事を店主持ち(涙目だった)で終え、コビーとも別れ、いざ次の島へと港に来たのであるが──

 

「そういや、エアの奴はどこだ?」

「あの羽生えた女か。小舟用意してくれたのもアイツなんだろ? なら、待ってりゃ来ると思うが」

「いやー、どうだろ。仲間にならないって言ってたしな」

「じゃあなんで一緒に行動してたんだよ……」

 

 食事の前から姿が見えないエアのことをぼやきながら出航の準備をしていたところで、ふとゾロに大きな影が降ってくる。

 白い羽が一つ肩に落ちて、その正体が分かった。

 

「──間に合ったね」

「お、エア! お前も来るのか?」

「いや、行かないよ。言ったでしょ、仲間にはならないって。見送りだよ見送り」

「えー」

 

 ぶーぶーと唇を尖らせるルフィに呆れつつも、緩む口元が抑えきれなかった。仕事上、大量の人とは会ってきたし、その中には人たらしも勿論いた。けれど、その中でも彼は格別だと思う。

 

「コビーにも言ってたみたいだけど……友達、でいいでしょ」

「しょうがねーなー。おれは、友達と仲間両方が良かったけどな!」

 

 別れが惜しくなる前に、背中をポンと叩いた。やっぱり、自分でも知らないうちに随分と彼のことを気に入ってしまったらしい。

 

「モーガン大佐の身柄を確保するよう、海軍に連絡してきたから。ずっとここにいると、ついでに捕まえられちゃうよ?」

「そりゃまずい! よしゾロ、船出の準備だ!」

 

 逃げるぞー! と楽しげに叫ぶルフィに堪えきれず、フッと笑みが漏れる。何から何までガープさんにそっくりだけど、自由さだけは確実に彼の方が上だった。

 

「ルフィさん、ありがとうございました! この御恩は一生忘れません!」

「全員敬礼!」

 

 いつの間にか近くまで来ていたらしい海兵達が、町民達の少し後ろでルフィを見送る。あるものは敬礼をして、あるものは喜びと感謝を表しながら手を振って。

 到底海賊とは思えない船出にクスっと笑って──空へと飛び立っていった。

 

「……いいのか? 仲間にしたかったんだろ」

「にしし、ちょっと残念だけど、いいんだ! 友達にはなったしな! 

 それに──また、会える気がすっから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリンフォードの住宅街、その中でもそれなりに大きな家。いつも通り、最低限の仕事だけをして青雉──クザンは、家に帰ってきた。

 海軍本部大将にもなると家一つですらある程度の格が求められるということに辟易していたのが懐かしい。最初は広すぎて不便さすら感じたものだが、同居人が一人増え、それの面倒を見ようとガープ中将、おつるさんといった面々が来るようになってからはそれも感じなくなっていた。

 

「クザンさん、おかえりなさい」

「──お、エアちゃんか。ただいま」

 

 最近はその同居人──エアも、仕事に夢中のようで、家を空けることが多くなっていた。必然的に訪れる人も(最盛期よりは、だが)減っていた。寂しさが無かったと言えば嘘になる。

 

「悪いんだけどさ、夕飯用意して貰えたりする?」

「今日は普通に帰ってくるっておつるさんから連絡を貰ってましたから、既に用意できてますよ」

 

 流石はおつるさん、と心の中で呟きながら、キッチンとダイニングを行ったり来たりするエアを見つめる。

 

「なんだ、随分機嫌が良さそうじゃないの」

「そうですか? 今日の依頼はトラブル続きで、もうすっかり疲れましたよ」

 

 そう言ってエアが口を尖らせるも、すぐに笑みに変わった。

 トラブル続きなのは事実だし、疲れたのもそうだ。だが、確かに──

 

「一つだけ、良い出会いもあったんです」

「──そうか。そりゃあ、良かったな」

 

 

 




<嘘予告>

『我々は多少なり名の通った精鋭部隊…君らが、もし大人しく…』
『チュッ、敵を前にお喋りかい?』
『ーーする気は、無いようだね』

次回、プリンプリン准将率いる海軍vsアーロン一味vs麦わらの一味

感想・評価・誤字報告ありがとうございます。

3/2追記 諸事情により1日空きます
3/5追記 嘘予告になりました。


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アラバスタ→ウイスキーピーク

絶妙に筆が乗らないのでプリンプリン准将の話はカットします。後々纏めて外伝的な形で出します。嘘予告でごべーん!
今回よりアラバスタ編に突入します。


 

 偉大なる航路(グランドライン)に出て、最初に記録指針(ログ・ポース)が指す七島の一つ“サボテン島”。

 サボテンの形をしていることから名付けられたサボテン岩以外には特に見所もない寂しいこの島は、四年ほど前に、突如新たな街が誕生したことで有名になった。

 酒と音楽の町────ウイスキーピーク。

 

「絶対何かあるよねぇ……単なる町にあの人がこうも寄付をするとも思えないし」

 

 アラバスタに居を構える七武海で、民からは“英雄”と持て囃され、国王コブラからの信頼も厚い男──クロコダイルからの依頼を受けたエアは、グランドラインを逆走……逆飛行? していた。

 荷物はジュラルミンケース。届け先はウイスキーピークの町長、イガラッポイ。内容は寄付。ご丁寧にも依頼の場で見せてくれた中身は、大量の札束。側で何故か同情の視線を向けてくる秘書さんいわく、1000万ベリー。街への寄付だと言うが、めちゃくちゃ嘘っぽかった。

 

「──運び屋さん。こっちよ」

 

 一際高い建物の屋上に居るシスターらしい女性が声を掛けてきてようやく、ウイスキーピークの真上まで来ていたことに気付く。

 どうやら荷物のことを知っているようなので、町長の関係者らしい。

 

「どうも。クロコダイルさんからの荷物で……町長さんの屋敷ってどこだか分かります?」

「ええ。貴女を案内するように言われていてね」

 

 マンデーと名乗る彼女に従って歩いていると、ふとサボテン岩が目に付く。遠目からだと棘のように見えていたが、どうやら幾千もの十字架らしい。

 気になるものの、明らかに厄ネタの気配がするので口を噤んでいると、前を歩く彼女が笑い出す。

 

「あの十字架が気になるかい?」

「……えぇ、まぁ」

「あれはね、偉大なる航路に入ってきた船乗りの墓だよ。双子岬からここに来るまでで難破して、ほぼ全滅してるような船の奴が時折流れ着く。ソイツらの仲間を毎度そこら辺に弔ってやってたら街を埋めちまうからね」

 

 にしては多すぎるような気もするが。これが普通なのだろうか? 

 海を渡る間はほぼほぼ空を飛んでいたエアには、その辺りのことがとんと分からなかった。

 どっちにしろ考えない方がいい、とケースを持ち直したところで、先導していた彼女が止まる。

 

「ほら、この家だよ。……それじゃ、アタシはここで失礼するね」

「ありがとうございます」

 

 家の前で手をヒラヒラと振り、路地へと消えていく女性を見送って、深呼吸を一つ。

 四つ、ノックを繰り返した。

 

「……クロコダイルさんより届け物です」

「ああ、今戸を開けます」

 

 返ってきた声色は落ち着いた男性といったところで──どこか、聞き覚えのある声。

 その聞き覚えが、鮮明な形で思い出されるのと同時にドアが開いた。

 

「……イ、イガ」

「──よく来ましたね、運び屋さん! ひとまず中へお入りください!」

 

 言葉を遮るように大声を出したイガラムが、ハッとなって戸の外を見渡し、人影が無いのを確認して家の中に入る。緊張が二人を包む中、紙幣を捲る音だけが響いていた。

 

「──確かに、事前にご連絡頂いた通り1000万ベリーありますね」

「…………はい」

 

 イガラムさんが札束を数え終わる。

 ペルに会いに行くため、よくアラバスタを訪れるエアは当然、護衛隊長であるイガラムとも面識があった。なので、こんなところで町長を名乗っていることに驚き、叫びかけてしまったのだが……

 

(よくよく考えたら、クロコダイルさんがわざわざ寄付する街にイガラムさんが偽名で町長をやってるって絶対裏に何かあるよね)

 

 ということに気付いてからは、ニッコニコの笑顔を浮かべて乗り切る態勢にあったエアだったが、それをイガラムも察したのか、ぎこちない笑顔を向けてくる。

 

「でばっ……マーマーマ〜♪ ……では、こちらが返書です。クロコダイル様へ、どうぞよろしくお伝えください」

「は、はい……」

 

 お互いに礼をして、終わり。知り合いが居たことは見なかったことに。

 返書を受け取り、さっさと帰ろうとしたところで、目の前のドアが開く。

 

「Mr.8、今いいかし……あっ」

「あっ」

 

 目の前に居たのは、どこからどう見てもビビ王女だった。

 髪型や服装の雰囲気こそ変わっているものの、歳が近いということでコブラ王に何度か引き合わされて──友達と名乗れるほどには仲良くなっているため、見間違いではない。

 しかも、イガラムさんのことを怪しい呼び方をしていた。

 

 イガラムが溜息を一つ吐き、床板を剥がす。──地下に繋がっているようだった。

 

「……エア殿、申し訳ないが、ここまで見たからには知って頂きます。そして、口を噤む必要性を理解して貰わなくては」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──なるほど。そういう理由で」

 

 護衛隊長たるイガラムと、王女ビビ。国の重鎮とも言える二人は、クロコダイルさんが作っているB.Wという組織の潜入調査をしているらしかった。

 イガラムさんは分かるとしても、ビビの方は他に居なかったのかと聞くが、悔しげな表情と共にビビが唇を噛み締める。

 

「……クロコダイルの権威は日に日に増していっております。彼が“英雄”として崇められている以上、真の意味で信を置ける人のなんと少ないことか」

「ペルやチャカは顔も武名も売れすぎているわ。私も国内では有名だけれど……この町に響くほどの名はない」

「えぇと、それは分かったけど……逃走手段の用意はしてある?」

 

 二人の顔が渋くなる。やはり、と思った。

 秘密結社への潜入調査である以上、逃走手段を用意したことが知られてはまずい。最悪、裏切りの準備と判断される可能性まである。

 普段であれば、こんな危険な話からはさっさと逃げ出していたのだが──友人が関わっているとなれば、話は別である。

 

「……これ、私の電伝虫の番号ね。仕事の都合上、絶対に行けるとは言い切れないけど……この辺りの仕事を多く受けるようにはするから」

「……かたじけない」

「……その、エア……怒ってる?」

「怒ってはないよ。心配してるだけ」

 

 そもそも、二人が決めた事をとやかく言えるほど、自分はアラバスタに何かしてあげられているわけでもない。最近のアラバスタの情勢は小耳に挟んだ程度だが、随分悪いのも知っている。

 むしろ、こんな形でしか援助できない事の方が心苦しいまであった。だって、クロコダイルさんの能力と性格を考えれば、既に気付いた上で泳がせている可能性まであるのだから。

 

「じゃあ、長居しても怪しまれるだろうから、ここで……」

「ええ。ご助力、感謝します」

「────エア」

 

 階段を登り切る前に、ビビの声が背中を打つ。

 

「……全部終わったら、ケーキでも奢るわ」

「──でっかいやつ。ホールでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったの? 彼女、きっと気付くわよ」

 

「あァ。その為に向かわせたんだ。

 あの女の性格なら、連絡手段を持たせるなりして様子を見るに留まるだろうさ」

 

「それで? 護衛隊長の方は知らないけれど、ビビ王女が生きていると、アナタの計画としては困るんじゃないかしら?」

 

「元々、あの鳥が嗅ぎ回ってんだ。今更だろ。それに、あの王女にはまだ使い道がある」

 

「そう……悪い顔」

 

「クハハハ……そりゃ、褒め言葉だな。

 ────全て俺の物になる。この国も、あの能力も、な」

 




感想・評価・誤字報告ありがとうございます。


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→ウイスキーピーク・緊急

失踪してません!!!!!(説得力0)
スランプとかリアルの忙しさが重なってこうなってました。あとワンピース新情報出すぎて書くの怖くなってきた…

言い訳は以上です。アラバスタ編までは骨組みが書き終わってるので、多分投稿します。


 偉大なる航路の上空を、一対の翼を持つ少女が駆け抜けていた。

 その表情は焦燥に染まっていて、速度は常の数倍にもなる。

 

「ねぇ、ビビっ! ……ダメだ、繋がらない……っ」

 

 あまりの風圧にコードが千切れそうな電伝虫に呼びかけるが、動く様子はない。

 先程まではビビとイガラムに繋がっていたのだが、爆発音と共にあちらの電伝虫が通信できない状況になってしまったようだった。明らかにただごとではない。

 

「……! 見えたっ!」

 

 ようやく見えてきたウイスキーピークは、遠目からでも分かるほど戦闘の跡があった。もしビビが追われているなら、十中八九カルーに乗っているはずだから外に居る。もし、外に居なかったら──と、そこまで考えたところで見覚えのある空色の髪が目に付いた。オレンジ色の大きな鳥──カルーに乗り、二人の男女と対峙しているのは間違いなくビビだった。

 

「ビビ、こっち!」

「空から────エアっ!」

「ノーズファンシー……なにっ!?」

 

 何かを弾き飛ばすような構えをしていたボンバーヘッドの男からビビを遠ざけるべく、上空から滑るように舞い降り、ビビの手を掴み上げて再上昇。的を小さくするためにそのまましっかと抱きしめ、この場から退避しようとしたところで気付いた。

 

「クエ──ッ!?!?」

「あ、カルー忘れてた」

 

 既に攻撃を放っていたらしいボンバーヘッドが指で弾き飛ばした黒い何かがカルーに直撃する寸前、見覚えのある緑髪がその前へと降り立ち、それを斬る。

 

「だーっ! ハナクソ斬っちまった! ……って、あの時の羽女?」

「Mr.ブシドー……!」

「……あれ、ゾロくん?」

 

 緑髪で三本の刀を腰に差す男の名はロロノア・ゾロ。

 麦わらの一味の戦闘員であり、仲間のお願い(ナミの無茶振り)によってここまで駆けつけた援軍であった。

 予想だにしない増援に焦ったか、連続して飛んでくるハナクソを嫌そうな顔で斬り続けるゾロが、意外そうな面持ちで口を開いた。

 

「お前、なんでこんな所に居るんだ?」

「依頼。この子を届け……いや、守っての方が正しいかな」

「それ運び屋の仕事か? ……まァ、いい。さっさと行け。コイツらは俺が倒しといてやるよ」

「……いいの?」

「……あァ」

 

 もう一発飛んできた塊を嫌そうに斬り飛ばしたゾロが、こちらに背を向ける。

 ビビが何か言いたげな表情をしていたが、生憎エアにはそれを気にする余裕はなかった。

 

「……よろしく! カルー、こっち!」

「クエーッ!!」

「クソッ……王女を逃すな! バレンタイン! ……おい、バレンタイン?」

「キャハッ……本物の、“運び屋”……サイン、貰えば良かった」

「……気の抜ける奴らだが、借金が帳消しになるってんだ。さっさと終わらすか」

 

 背後で聞こえる喧騒を無視し、カルーとビビを連れて上空へと羽ばたく。

 その上でどこを目指すべきか考えを巡らせていると、不意にビビが叫んだ。

 

「エア、イガラムを……!」

「……分かった。どっち?」

 

 彼の生きている可能性、そこへ向かうことの危険性、ビビの願い。

 悩んだのは一瞬だった。すぐに高度を落とし、ビビに従ってウイスキーピークを飛ぶ。

 幸い、イガラムはすぐに見つかった。

 

「マ〜マ〜マ〜……ご無事でしたか、ビビ様!」

「イガラムっ……その人は?」

 

 無事だったことに喜んでいたビビだったが、イガラムの側に座っているオレンジ色の髪の女性に警戒を隠せない様子だった。先程まで襲われていたところだったので、無理もないのだが。

 にしてもあの女性、どこかで見た覚えがある。

 

「彼女は、昼間に来た海賊の一味だそうで。ビビ様を助けて頂けるよう願っていたところなのですが……」

「……どこかで会った気がするんだけどな」

「うん? ……エアじゃない! こんなとこで会うとは思わなかったわ!」

「…………あ、もしかしてナミ?」

 

 記憶を辿るとすぐに名前は見つかった。

 海賊専門の泥棒とやらを名乗っていて、盗みを終えて追われる彼女を何度か運んだことがある。もっとも、危険な依頼ばかりだったので心象はあまりよろしくないのだが。

 

「あなたも王女サマの護衛?」

「あなたも……ってことは、ナミも? ちょっと意外……」

「そう? だって一国の王女を助けるのよ?」

 

 お金を表すように指で円を作るナミに苦笑する。かなり久しぶりの再会だったが、変わらない様子だった。

 

「となると、依頼のダブルブッキングになっちゃったのか」

「あら、いずれ来る運び屋ってエアのことだったの? でも譲るのはやーよ。大金を手に入れるチャンスなんですもの」

「うーん……こういうのは依頼主のビビとイガラムさんに聞くべきなんだろうけど」

 

 右腕で抱き抱えているビビに目を向けると、こちらも困った表情でイガラムとアイコンタクトを交わしていたが、解決しそうな雰囲気はない。

 

「とりあえず、今ある危険をどうにかしてから考えない?」

「そうね、それがいいかしら。王女サマ達もそれでいい?」

「……ええ。助かるわ」

 

 ひとまず全員の合意を得たところで、議題は刺客の方へと移っていく。

 

「で、ビビ。さっきの男達は?」

「Mr.5ペア。BWの中でも指折りのエージェントよ」

 

 あのレベルで? と思うが、口には出さない。余計な茶々を挟むと無駄に長引くからだ。

 悪魔の実を食べて多少の実戦経験を積んだだけ──といった感じの強さである彼がトップクラスにいる組織であるなら、平均レベルは随分低そうに思える。部下の育成が苦手といったわけでは無さそうなクロコダイルが、その辺りを怠るとも思えない。と、すると。

 

(使い捨ての駒がとにかく多いのかな。国取りが目的だから、スケープゴートにする役目を多めに確保してるって感じか)

 

 そこまで考えて顔を顰める。分かっていたことではあるが、謀略に優れたクロコダイルに、アラバスタでの地盤と大量の駒、長い時間を掛けて練ってきた計画があるとなると、かなり手に負えない。こちらも備えはあるものの、最低限だ。

 どうするべきか、と考えるものの、良い答えは出ない。仕方がないのでひとまずは後回し。

 

「まぁ、ゾロなら倒せるでしょ。寝てるルフィが起きれば一番いいんだけどね」

「あ、やっぱルフィくんもいるんだ」

 

 つい最近懸賞金3000万ベリーとなった知り合いが来ていることは、ゾロが居ることからなんとなく予想が付いていた。

 

「言い方から察するに、ナミも麦わらの一味に入ったんだ。……最近海賊の知り合いが増えてって怖いよ」

「……まぁ、アンタってそういうアウトローな連中から好かれそうだものね」

「え!? 待って、どこが!?」

「ま、それは後で。……にしても、アイツら遅いわね」

 

 どこか呆れた様子のナミが呟いた言葉に慌てるエア。余談ではあるが、イガラムとビビもそれを聞いて思わず頷いてしまっていた。

 

 適当に誤魔化されて少し拗ねている様子のエアだったが、ナミにつられてウイスキーピークの方をチラリと見、あっと小さな声をあげた。

 

「どうしたの?」

「……なんか、ゾロくんとルフィくんが戦ってる」

「はァ!?」

 

 大通りの奥、煙の隙間に見えたのは鍔迫り合っている足と刀。麦わらと黒手拭い。

 

「全く、あのバカども……ちょっと引っ叩いてくるわ」

「あ、行ってらっしゃい」

 

 呆れたと言わんばかりに溜息を吐き、ルフィとゾロの方にドスドスと歩いていくナミを見送り、痛い目に遭うだろう二人に合掌。

 ──そして、場の空気に付いてこれていなかったビビとイガラムに向き直った。

 

「丁度よく三人になれたから。

 これからの動きについて、先に話しておきたい」




話自体は次で進む。


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ウイスキーピーク・交渉

コロナでボコボコにされてます(現在進行形)
そこまで重症ではないんですが、そのおかげで(?)暇ができたので次の話もそれなりに早く投稿する…はず。

今回から特に原作と離れていきます。


 ナミが引き連れてきた大量のたんこぶが生えているルフィとゾロ。アラバスタ組のビビ、イガラム。そしてニコニコ笑っているミス・バレンタイン(とボロボロのMr.5)。

 気まずい沈黙が流れる中、3グループの間を取り持とうと口火を切ったのはエアだった。

 

「全員揃ったからこれからの動きを纏めよう、と言いたいんだけど。

 ……そちらのお姉さんは、どうしてここに?」

「んー? そいつエアのファンだとか言ってたから、連れてきたんだ」

 

 全然意味わかんない、と呟くエアにミス・バレンタインが近寄る。

 そして、身構えるエアの片手を両手でしっかと握り締めた。

 

「サインください!!!」

「ぇー」

 

 実は、こうやってファンを名乗る人間に出くわすことは初めてではなかった。

 ただでさえ行き来が難しい偉大なる航路の島同士、しかも航路には海賊が居る可能性が大な現状、安定して素早く物を運べるというのはエアが想定している以上に有り難く、人気を集めていたのだ。本人はリピーターが増えた、くらいの感覚でしかないのだが。

 

 しかし、こうして敵対している相手から、というのは初めてだ。

 困惑しているエアを無視してペンを取り出そうと懐を探っているミス・バレンタインに、意識が戻ったらしいMr.5が怒鳴り出す。

 

「ゴホッ……お、おい……ミス・バレンタインッ!」

「何かしら。私、今ちょっと忙しいんだけど」

「お前、裏切る気か……!?」

「失礼ね。私がこの組織に所属したのは彼女に会うためよ?」

 

 なっ、とMr.5が言葉を詰まらせる。どうやら彼も初めて聞く話らしかった。

 

「偉大なる航路に行けば会えると思ったけれど……彼女の行動域に合わなくて、中々遭遇できなかったのよね。だから組織に所属して移動手段を得たわけ」

「そ、そんなふざけた話が……」

「キャハハハ、アンタより上のMr.2だって私と同じ人探しが目的よ? 

 ……まぁ、いいわ。目的の人物には会えたから、BWとの契約はここでお終い。

 さ、エアさん! これにサインしてください! できればミキータって名前も入れて!」

「あ、うん……」

 

 ミス・バレンタインはそう言い切ると、傘にサインをして貰えるようエアの方へと向かう。

 若干引きながらもサインを終えたエアも、サインを貰って子供のようにはしゃいでいるミス・バレンタインを見て警戒心が薄れてきた。

 

「ファンって事だったけど、ちなみにどうして? さっきの口ぶりだと、会ったことも無いはずなんだけど……」

「運送業に多少なりとも関わってる人間でエアさんを知らない人なんて居ないわ! どんな依頼でも失敗しない伝説だもの!」

「え、えへへ……そこまで言われると照れるな……」

 

 褒め言葉へ恥ずかしそうに頬を染めるエアへ、更に興奮したようにミス・バレンタインが語り出そうとする。が、そこをナミがグイと二人を引き離して遮った。

 

「はい、そこまで。アンタらがその調子じゃ、話が進まないでしょう」

「まだ話し足りなかったのに……」

「う、ごめんナミ」

 

 不満げなミス・バレンタインと反省した様子のエアが落ち着いたところで、話はビビの行方──BWの真相、クロコダイルへと話が移っていく。

 

「……それで、そんな大物が相手だったってワケ? あー、やめやめ。折角偉大なる航路に入ったってのに七武海なんかに目付けられたらたまったもんじゃないわ」

「そんな大物相手に裏切っちゃったの!? ……私も暫くは身を隠さないといけないわね」

 

 ボスの正体を知り、この話は無かったことにしようとナミが言い出す。それは仕方ない。彼女の立場になってみれば、ここで七武海と争うのは避けたいだろう。しかしそれではエアが困る。

 

「……ねぇ、ルフィくん」

「お? なんだ、エア」

 

 クロコダイルの強さについて呑気に喋っていたルフィがこちらを向く。その瞳の奥に、どこかわくわくを感じるのはエアだけだろうか。

 

「ビビのこと、アラバスタまで連れて行ってくれない?」

「いいぞ」

「何頷いてんのよバカ!!」

 

 笑顔で頷いてくれたルフィの頭をナミが蹴り飛ばす。へぶっ、と情けない声をあげて倒れ込んだルフィを尻目に、ナミが呆れた表情でこちらを見てくる。

 

「悪いけど、王下七武海なんかと関わってらんないのよ。アンタには何回か助けて貰ったけど、それとこれとは……」

 

 話を遮るように、エアが一本指を立てる。

 

「即金で1000万ベリー」

「…………え?」

 

 ピシリ、と固まったナミに対し、エアが2本目の指を立てた。

 

「“アラバスタまで送り届けるだけ”でいい。そうしたら追加で1000万ベリー」

「2000万ベリー…………」

 

 突如提示された大金に、先程までの姿勢を覆しそうな様子を見せるナミ。

 そこへ突然のことに固まっていたビビが慌てて口を挟んだ。

 

「待ってエア! 貴女にそんな金額を出させるわけにはいかない……それに、彼らに頼まなくても貴女が運んでくれれば……!」

「それじゃダメなの。

 ……その行動は、きっとクロコダイルさんに予想されてるから」

 

 エアには予感があった。この行動がクロコダイルに全て仕組まれたものではないか、という予感が。

 

 そもそも、エアがウイスキーピークを訪れ、ビビ達を助けるための緊急連絡先を確保したことだって始まりはクロコダイルからの依頼なのだ。であればビビ王女をここで殺せないことはわかっていたはずである。

 自分のファンだというミス・バレンタインを刺客の1人にしたことで、その予測は確信へと変わった。

 

「クロコダイルさんは、何らかの理由で私にビビ王女を助けさせたかったんだと思う」

「エア殿、その可能性は私も考えました。ですが、それだとビビ様が海軍に保護される可能性も……」

「国が危険なのにビビがじっとしていられるはずがない。それに、最悪ビビが戻らなくてもよかったんだよ」

 

 そうだ。ビビが戻らなければ、クロコダイルを追い詰める存在はいない。たとえ海軍がやってきたとしても、巧妙に隠蔽されているであろう計画を抑え、なおかつ長い間信頼を積み重ねてきている彼を裁くことは難しいだろう。

 大将格であれば話は別かもしれないが、七武海の中でも信頼があるクロコダイルを証拠もなく取り押さえることは現在の制度を揺らがせかねない。あの赤犬さんですらも、最低限の証拠は抑えてから動くだろう。

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「私がこのことをビビに伝えれば、ビビは何がなんでもアラバスタへ向かおうとする。そして、きっと私も」

 

 ここで疑問となるのが、なぜエアを使ったかだ。

 ビビをアラバスタへ連れてきたいだけならただ放置してやればいい。そうすれば勝手にクロコダイルの存在を掴み、アラバスタへ帰ってくれるだろう。

 そこへわざわざエアを絡ませたのは、そこにも狙いがあるということではないだろうか。

 

「このまま私とビビとイガラムさんでアラバスタへ向かっても、おそらくクロコダイルさんは止められない。

 

 ──だから、彼の予測の外にいるであろう人たち。ルフィくんに手伝って欲しいの」




基本矛盾がないように設定は練ってきたつもりだけどちょっと不安。でも書きたいことがあるから頑張れる……


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ウイスキーピーク→マリンフォード

さくっと書いたので短め。


 

「……にしても、本当に付いてくるの?」

 

 偉大なる航路上空にて。

 無事に交渉を纏め、イガラムとビビをゴーイングメリー号に乗せて貰ってきたエアは、本拠地であるマリンフォードへ帰る途中だった。

 しかし、その腕の中にはレモン色の髪をした女性──ミス・バレンタイン改めミキータが抱えられている。

 

「ええ、もちろん。忙しい中マリンフォードに戻らなくちゃいけないくらいには人手不足なんでしょう? なら、私だって何かの役に立つかもしれないわ、キャハハハ!」

 

 にしても空を飛ぶって気持ちいいわね、などと呟くミキータをエアは意外そうな目で見つめていたが、ゆっくりと視線が軟化していく。思っていたよりは信用できる人なのかもしれない。

 

「……見えてきたよ」

 

 眼下には見慣れた街、眼前には聳え立つ海軍の基地。

 海軍の総本山、マリンフォード。

 

 その威容にごくりと唾を飲み込んだミキータは、ウイスキーピークで聞いた話を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これ、約束のもの。……道中の襲撃に気を付けてね』

『ベリー分の働きはするわ。エア、アンタはこの後どうするの?』

 

 アラバスタ行きについて全員の承諾を得た後のこと。

 緊急時のために持ち歩いていた1000万ベリー相当の拳大なルビーをナミに渡した時、何気なくナミが問いかけてきた。

 見れば、出航の用意をしていたはずのビビ達まで手を止めてエアに視線を送っている。

 

『戦える仲間を連れてくる予定だよ』

『仲間? アンタ、一人で活動してるんじゃなかったのね』

『うん。主に偉大なる航路で、護衛代わりに動いてくれている人が居るので』

『護衛代わり、ねぇ。七武海相手でも平気なの?』

『……海軍中将や大将に揉まれてた元海軍だから、ね』

 

 その言葉へ、まず真っ先に反応したのはミキータだった。

 

『ちょっと待って!? 私は長年エアさんを追いかけてるけど、そんなの聞いたことないわよ!?』

『可能な限り隠してるからだね。荷物目当てに襲われる時、こちらに戦力がいるとバレると適正戦力で襲われる。けど私一人だと思ってくれれば油断するから』

 

 それもそうかと言い分には納得するが、組織の情報網を使っているはずの自分が掴めていないというのは相当な隠蔽度合である。それも、元海軍だというなら尚更だ。強ければ強いほど名が売れているはずなので、おそらくは然程名前が広まっていない、階級が低い時代に引き抜いているのだろう、と予想は付く。

 だが、偉大なる航路の中、エアと二人だけで海賊相手に荷物を守れるような強さとなると上の条件に合わなくなってくる。

 

『それで、エア。そいつの名前はなんて言うんだ?』

 

 考えを巡らすものが何人かいる中で、ルフィが純粋な興味からその人物についての質問を放つ。全員の注目が集まる中、エアが口を開いた。

 

『彼の名前は────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 運び屋のアジトにて、豪華そうなソファに座る長身の男が一人。

 赤みがかった髪へ黒帽子を被っているその男は、入り口から入ってきた二人の女性──エアとミキータを見て、ニヒルに微笑んだ。

 

「……久々の出番か?」

「うん。アデルちゃんには悪いけど、ちょっと緊急の要件が入っちゃったんだ。

 ……よろしく、シュライヤ」

 

 男の名はシュライヤ・バスクード。

 別の世界線では“海賊処刑人”と呼ばれる賞金稼ぎであった彼の左胸には、白い翼のバッジが輝いていた。





やっと出したかったキャラが出せた!!!
何回も見たのでキャラは掴めてるけど、悲しいことにU -nextでデッドエンドが有料になってたので見返せない。なんか口調とかでミスが生まれたらそっと教えてくださると助かります。

この後いつもの人物紹介と、次回更新について書きます。本編のみ興味があるという方は飛ばしてくださって平気です。

・シュライヤ・バスクード
映画『デッドエンドの冒険』に登場した海賊処刑人の異名を持つ凄腕の賞金稼ぎ。サボとエースを足して2で割ったような見た目をしている。
食い意地が張ってたり家族想いだったりと主人公っぽい属性が盛られているところに闇が覗く、好きな人はとことん好きなタイプのキャラ。私は好きです。ワンピの二次書くならこいつは絶対出す、という人物だった。
史実の彼の話は映画のネタバレにもなるので控えるが、ニュース・クーの彼はかなり違うルートを辿っている。後々本編か外伝で明かしていく予定。

次回はアラバスタの戦いをしっかり練れたらになりますので、少し時間がかかります。


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マリンフォード→アラバスタ

まさかの投稿。リハビリは済ませたので、文章は大丈夫なはず……。
もう書けないと思ってたけど、ワンピss見てたら書けそうな気がしてきてしまいました。素晴らしき作者の皆様、ありがとう………。

文章の感じも少し変わりましたが、ストックしてたプロットに従って書き直しました。


 

 マリンフォードからアラバスタまで戻る三つの人影は、同じ空を飛んでいるニュース・クーが目を丸くするほどのスピードを出していた。

 

「キャハハハ! これ、さいっこうね!」

 

 そのうちの影の一つは、元バロックワークスのオフィサーエージェントであり、運び屋の過激なファン。ミス・バレンタイン改めミキータ。

 はしゃぐ彼女の背中にはエアによく似た一対の白翼が生えていた。

 

「いやー……浮くのには慣れてるんだろうけど、ここまで羽を使い熟すのが早いとはね。割とセンスいいシュライヤだって一ヶ月はかかったのに」

「キャハ、風の流れを意識するのは一緒だもの!」

 

 キロキロの実で重心を操作し、外付けのハネハネで速度を増す。

 ハネハネを他人に付与してきたことはよくあるが、ここまで噛み合いの良い悪魔の実があるのかと瞠目するほどにミキータの扱いは達者だった。

 

「ま、僥倖だろ。元々運び屋業務が増えすぎてたんだ。やる気があって即戦力な人材なら迎え入れていいと思うぜ?」

「良いこと言うじゃない、えっと……シュライヤだったかしら。これからは同僚として……」

「いや気が早すぎるって。ミキータさんがウチに入りたいってのは助かるけど、とりあえず今はアラバスタが先ね」

 

 エターナルポースを見せるように振るエアが、気の抜けた苦笑を止め、真剣な表情へと変わる。

 

「基本方針はビビと現王……コブラさんを守ること。この二人が居なくなるとその後がどう頑張っても上手くいかないから、最優先ね」

「ハッ、つくづく運び屋の仕事とは思えねえな。ま、了解」

「しょうがないでしょ。……敵はクロコダイルさんは多分確定、でも基本戦闘は避けてね。()()使()()()()()()()()()()()()だと、タイマンなんて自殺行為だから」

 

 かつて見た戦闘能力を思い出したのか、憂鬱そうに溜息を吐き出すエア。

 白ひげに負けて腐っていた時からどんな心境の変化があったのか、ここ数年でクロコダイルは新世界に居た時の覇気を一部ではあるが取り戻していた。

 

「ま、それはいいけどよ。計画を止めつつ、戦闘は避けるなんて上手くいくものかね?」

「たぶん。クロコダイルさんが時間を掛けてるのは、民の信頼を得たいから。だとすると、極力武力行使は控えたいはず」

「キャハ、なるほどね。素早く計画をミンチにして、出てきたクロコダイルを囲んで叩くってわけ」

「そう。シュライヤとルフィくん、アラバスタに仕えてるペルさん……あと、なぜかアラバスタまで来てるらしいスモーカーさんで」

 

 戦力を指折り数えるエアが出した最後の名前、スモーカーに真っ先に反応したのはシュライヤだった。

 

「スモーカー? あいつは確かローグタウンで……いや、命令違反はいつものことか。にしても、海軍連れて来れるならもうちょい強い奴でも良かったんじゃないか。アイツじゃクロコダイルの相手は荷が重いだろ。お前が誘惑すれば青キジくらい連れて来れないか?」

「スモーカーさんにもクザンさんにも私にも失礼。……私だって連れて行けるならガープさんとかブン投げたいけどさ。そうするとクロコダイルさんって計画を延期すると思うんだよね」

 

 エアの懸念はそこが大きかった。

 アラバスタという大きな街で凶悪な海賊が英雄呼ばわりされていることを10数年の間、一度も海軍が怪しまなかったとは思えない。

 おそらくは何度か調査を重ね──その全てを隠し通された。

 

「クロコダイルさんって、勝てない相手に正面から立ち向かう人じゃないから。ガープさんとかクザンさんが来たら、英雄のフリして反乱を鎮めると思うんだよね。それでまた元の睨み合いに戻して、海軍の目が外れたら不穏分子を動かす。一度反乱が起きたなら、二度目を起こすのは簡単だろうから……」

「つまり、相手がこっちをナメてる間に叩く必要があると」

「大体そういうこと。ヒナさんにお願いして後詰の人員くらいは用意しておいたけど、計画の破綻まではクロコダイルさんの盤面にいる人間でどうにかしたいんだよね」

「バロックワークスにいた頃から用心深さは分かっていたつもりだけど……こうして敵に回してみると最悪ね」

 

 そう。準備できる場があった謀略家などというあまりにも面倒すぎる相手だからこそ、ここまで迂遠な手段を取るしかないのだ。既にこちらはチェックメイト寸前なのだから。

 

「──と。話しているうちに見えてきたな、アラバスタ」

 

 そうこうしていると、遠目でもすぐに分かる砂の国が見えてくる。

 高度を落とし、着陸のために減速しながら向かう先は王都アルバーナ……ではなく、レインベース。

 

 ウイスキーピークからマリンフォードに向かい、根回しをして今度はアラバスタへ。

 往復含め、3人がアラバスタに着くのはちょうど14日目になるところだった。故に、仕込みをする時間はない。

 

「ルフィくんがエターナルポースを割ったりとか、ドラム王国に寄ったりだとか色々トラブルはあったみたいだけど。確か昨日の電々虫ではナノハナに入ってたはずだから……」

「本拠地であるレインベースに行くと。だが、クロコダイルと鉢合わせてその後は?」

「それなんだけど、私だけ鉢合わせたい。クロコダイルさんの想定は、たぶんビビに私が協力することだと思うから。今は予想外のルフィくん達を相手にする準備をして、居ない私を警戒してる。でもわざわざ私をこの件に関わらせてるから、場所が知れたら多分アクションが来るんじゃないかな……だから、シュライヤは麦わらの一味と合流、ミキータはこの私書を持ってアルバーナへ」

「了解」

「キャハハ、ある意味“運び屋”加入後の初仕事よね! 任せてちょうだい!」

「じゃあ、そういうことで……」

 

 散開、と言おうとしたエアの喉から漏れたのは、声ではなく苦しげな息漏れ。

 ──金のフックが、腹部を絡めとるようにしてエアを地上に引きずり下ろそうとしていた。

 

「作戦、どおりに……」

 

 思わず動きを止めようとした二人にそう伝えた直後、恐ろしい力で砂漠に背中から叩き落とされる。衝撃にげほげほと咳き込みながら見上げた先……砂埃の奥には、見覚えのある長身。

 

「クハハ……まさか見知らぬ木端海賊に大切な王女サマを任せるとは思わなかったが。やはり自らも来たな、“運び屋”。上のはツレか?」

「ぐ……クロコダイル、さん…………っ」

 

 全身からパラパラと砂を散らすクロコダイルが、悠然とこちらを見下ろしていた。

 




話も進んだけどほぼ説明回。
話を広げすぎたようにも見えますが、多分あと3話くらいでアラバスタ終わらせてホールケーキアイランドとかワノ国とかの配達記録書きたいな。あとプリンプリン准将の華麗なる戦闘録。


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アラバスタ・上

スピード投稿。やりたいことを詰め込んでいくスタイル。


 

 アルバーナ近郊の砂漠で墜落させられたエアは、クロコダイルに捕まったまま、抱え込まれるようにして運ばれていた。

 

「……それで、これはどこに続いてるんです?」

 

 羽を生やせば拘束からは脱出できるだろうが、追撃から逃れられる状況ではない。

 そのため大人しく連れられていたエアだったが、行く先がいかにもな隠し扉の先となると流石に躊躇があった。

 

「アラバスタ王国が秘密裏に守ってきた場所さ。後を追ってきた海軍を始末するだけのつもりが、まさか上空でお前を見つけられるとは。クハハ、運が悪かったな」

 

 慌てて周囲を見れば、近くの芝生に見知ったジャケットの男が転がっている。スモーカーはクロコダイルに挑んで負けた後のようだった。

 

「王国最強の兵士も既に沈んだ。麦わらはお前が頼りにするのも分かる良いルーキーだったが……干からびた今、砂に紛れて風化していくだけだ」

 

 そう言うクロコダイルにも、やはり消耗が見られた。湿った髪、口元の血、微かに傾いた体幹……多少のダメージは受けたようだったが、それだけのようだった。

 そのままカツ、カツと石階段を降りていった先には、墓室のような空間が広がっていた。

 血まみれで座り込んでいた男──コブラ王が真っ先にこちらに気付く。

 

「きみは……っ! クロコダイル、なぜその子を……!」

「コブラ、お前は王の鑑だが……頭は微妙だな。この海だらけの世界でコイツほど恐ろしい能力者はいない。……想像したことはあるか? コイツが荷物などではなく、兵器を飛ばしたらどうなるか」

「……まさか貴様、プルトンを」

「残念なことに、手がかりとなるポーネグリフはそこの女が上手く隠蔽したようだがな。まァ、それ以外にも利用価値は数えきれないほどあるのが分かっただろう?」

 

 クロコダイルが顎でしゃくった先には、秘書として見覚えのある女性がこれまた血塗れで倒れていた。

「従わない奴に価値は無い」と続けた言葉はきっと自分への脅迫も兼ねたのだろうが、不敵に笑って返してみせる。

 

「……別に、私は協力しないって手もあるんだよ?」

「残念だが、そのためにビビを生かしてある。お前が頷かないとなりゃ、周囲から拷問にでも掛けていくさ。……クハハ、尤も、その顔を見りゃそこまでする必要も無さそうだが」

 

 一瞬で表情を青ざめさせたエアに対し、勝ち誇ったような笑みを見せるクロコダイル。

 くつくつと喉の奥で笑いながら、ポーネグリフの周りに手を付き、周囲を砂に変える。当然、後にはゴトンと音を立てて砂に埋もれたポーネグリフだけが残った。

 

「……早速仕事だ。これに羽を生やして、地上まで──」

 

 そこまで言ったところで、何かに気付いたらしく、階段をギロリと睨む。舌打ちすら漏れ出た。

 

「チッ……スモーカーにさっきの男はまだいいが…………あの麦わら、まだ生きてやがったか」

「おい押すな、ここ階段だぞ!」

「転がっても俺はゴムだから効かねぇ!」

「お前が大丈夫でも俺達が……うおっ!?」

 

 言い合いをしながら、一纏めになって転がり落ちてきた3人組に対し、黙って……いや、少し面白そうな表情で葉巻をふかすクロコダイル。

 

「ワニ〜! 殴りに来たぞ〜! ……って、あり? なんでエアがいるんだ?」

 

 真っ先に姿勢を立て直したルフィが威勢よく吠える。

 

「俺が捕まえたのさ。……にしても、麦わら。お前のタフさは認めてやるが……全員、戦力差がまだ分からないか?」

「うるせぇ! 俺が勝つ!」

「そこであっさりダウンしてるうちの社長を放っちゃいけませんしね」

「麦わらと共闘も腹が立つが、今はお前を倒す方が先決だ」

「よく分かった。……お前ら全員、砂に還してやろう」

 

 フックを黒く染めるクロコダイルに、血濡れの拳を構えたルフィがまず躍りかかった。

 全身の砂を流動させてあっさりと避けられるが、クロコダイルが反撃に移る前にスモーカーの十手が文字通り飛ぶ。

 

「ホワイト・ブロー!」

「小賢しい!」

 

 擦りでもすれば他の攻撃を喰らいかねない十手は流石に面倒なのか、クロコダイルもフックを使って慎重に弾く。

 スモーカーとルフィがそのまま連撃を続けるが、フックで防御、流動で回避をしながらにもクロコダイルにはまだ余裕があった。

 背後に回って攻撃を仕掛けてきたシュライヤの足刀をノールックで放った砂漠の宝刀(デザートスパーダ)で相殺しようとして──打ち砕かれ、脇腹に一撃を喰らう。

 

「グッ……テメェ、覇気使いか」

「未熟だがね。アンタに通用するようでよかったよ、っとォ!」

 

 三方向からの同時攻撃にクロコダイルが選んだのは、全身を砂に変えての消失。

 

「その程度で良い気になられちゃ困るなァ……」

 

 三者の攻撃が空振ったタイミングで再び姿を現し、狙ったのは──スモーカー。

 

「戦場では一番弱い奴を狙う……定石だよなァ」

「……っ!!」

 

 黒く染まった砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)が三つ飛び、スモーカーの胴体を切り裂く。

 元からのダメージもあったのか、倒れ込んだスモーカーは苦しげに呻くだけで起き上がらない。

 

「ケムリン!」

「麦わら、目ぇ離すな!」

侵食輪廻(グラウンド・デス)!」

 

 大地を枯らす一撃が大理石を伝い、3人に伸びていく。

 が、寸前で全員の身体が浮き上がった。

 小さな羽が勝手に羽ばたき、コブラとニコ・ロビン含めた全員を浮かして渇きの力から逃がしていた。当人であるエアは、クロコダイルが全身を砂に変えた隙に階段近くまで逃げ切っている。

 

「チッ、ハネハネか……ッ!?」

「──衝撃貝(インパクトダイアル)

 

 舌打ちを一つして苛立ちを露わにするクロコダイルが、エアに気を取られた瞬間だった。

 体技“剃”で一瞬で距離を詰めたシュライヤが、目を見開いたクロコダイルがアクションを取るより早く、(ダイアル)の一撃。

 堪らず膝を突いたクロコダイルへ追撃をしようとするが、すぐに立て直しての三日月形砂丘(バルハン)にバックステップで距離を取り直す。

 

「ナイス援護」

「うん。でも、私ここで……」

「おう、後は任しとけ」

 

 戦闘の場ではあまり力になれない、というか、できれば居たくない。

 シュライヤとこつんと拳を合わせて、自らに生やした羽で階段のあった空間を駆け上っていく。

 背後からクロコダイルの怒声が聞こえた気がしたが、努めて無視して地下室を抜け出した。

 

「向かう場所は……えっと、ビビの手助けかな?」

 

 クロコダイルがああやってコブラ王まで誘拐しているのに国王軍が動いてないということは、今まさに反乱の真っ只中ということになる。

 ミキータかビビ、もしくは他の麦わらの一味との合流を目指し、エアは広場の方へと飛んでいった。

 



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アラバスタ・中

お待たせしました。


 

「う……結構やってるなぁ」

 

 消え掛かっていた前世のトラウマを刺激する光景に口元を押さえる。

 エアがやってきた場所、広場は戦火に包まれていた。

 

「とりあえず、ビビかイガラムさん、あとはコーザさんとか……? いいや、とりあえず高いところから探そ」

 

 戦闘を止める発言力がありそうな人物を脳内でリストアップしながら飛び立つ。仕事柄目は良く、遠くのものでもよく見える。人探しなんて得意中の得意だ。

 ──だから今、時計塔の下から飛び出した人影にも見覚えがあった。

 

「ビビと……ミキータ!?」

「キャハ、エアさん! 良いところに!」

 

 爆発のような音と共に日傘をさしたまま打ち上がってきたミキータが、小脇にビビを抱えていた。よく見れば、塔の中にサンジも見える。

 

「なんで空を!?」

「時計塔の上に行きたいの!」

「上って……いや、了解!」

 

 上に何があるのかと思わず聞き返しそうになったが、文字盤が開き始めたのを見てとりあえず異常は察したエアがミキータに翼を授ける。

 加速力を失いかけていたミキータが羽ばたきを一つ。傘を閉じ、空へと速度を上げていく。

 

「キャハ、これよこれ。王女サマ、しっかり掴まってちょうだいね!」

「ケロケロ、ちゃんと狙うわよMr.7!」

「Ok、ミスファーザーズデイ!」

「──まずい、狙撃手ペア!」

「ちょ、ちょっと待って……流石に細かい軌道変更はまだ無理よ!?」

 

 瞬間的に速度を増した二人へ気付いたのか、狙撃手ペアが時計台から二人を狙い出す。

 思わず顔を青ざめさせるビビとミキータだったが、その横をもう一対の白い翼が駆け抜けた。

 

大風羽(だいふうう)!」

「人が飛んで……ケロ!?」

 

 ミキータ達より早く文字盤と高度まで辿り着いたエアが取った行動は、羽ばたき。

 時計塔の横幅と張り合う大きさに広げた翼を素早く動かし、風圧で狙撃手ペアを吹き飛ばす。二人が壁に激しく打ち付けられてノックアウトした頃にミキータ達が時計台の中へと入り──そこで気付いた。

 

「あ、Mr.7に潰されて導火線も消えてる……」

「えっ…………」

「あ、でもこれ時限式よ! エアの出番!」

 

 ミキータ達が上がってきた意味が消失している。

 一瞬ものすごく微妙な空気が流れかけるが、ビビがすぐに時限式に気付いた。

 しかしこれも能力でハネを生やし、遙か上空へリリース。大爆発が上空で起きるのを確認して一息。

 

「何が何だかよく分かっていないけど……次にやって欲しいことは!?」

「もう一回私を降ろして! 急いで皆を止めなきゃいけないの!」

「いやいや、降りてどうするの! 下は戦場だよ!?」

「だからこそよ!」

「そんな危ないことさせられないよ!」

 

 無茶な提案をするビビに反論するエア。ヒートアップしそうだった二人を止めたのは、何か考え込んでいたらしいミキータの一言だった。

 

「キャハ……エアさんが抱えればいいんじゃないかしら?」

「……それよ! エア!」

 

 何か思いついたような顔をしたビビの次の言葉に、エアの表情が引き攣った。

 

「その翼、できるだけ大きくして!」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 最初にそれに気付いたのは不安げに時計塔を眺めていたナミだった。

 地上の全員が目を覆うほどの風を伴って、それは空中に現れた。

 

「皆、上見て!」

「マジか……」

 

 ナミが指さした先──空に浮かぶのは、広場を埋め尽くさんとするほどの巨大な翼。

 横の大きさだけならばかつて見たクリークのガレオン船に匹敵するその大きさに、サンジのぽっかり開いた口からタバコが落ちた。

 

「戦いをやめてください!」

 

 同じ衝撃を受けたのだろう。音が一気に減った広場にビビの声が響く。

 大きな翼の中心──エアに抱き抱えられるような形でビビはいた。

 

 同時に、地上の一部が崩壊する。

 吹き飛ばされてきたコートの男は見間違えるはずもない。アラバスタの英雄だった、内乱の首謀者。溢れそうになる涙を堪えて、ビビは言葉を紡いだ。

 

「悪夢はもう、終わりましたから……!」

 

 二言目を絞り出した時には、もう戦いの音は止んでいた。

 ポツポツと降り始めた雨に打たれながら、ビビは懸命に声を上げた。

 

「今降っている雨は、また昔のように降ります……!」

 

 静まった戦場に、コーザが、イガラムが、コブラ王が現れる。

 もう武器を持っている人物は居ない。今ここに、アラバスタの内乱は終わったのだ。

 

 緊張が解けたのか、脱力するビビを再度支えてほっと一息を吐き出す。

 

「ふぅ……長かった依頼も、これで完了かな?」

「……いいえ。この国が復興するために、エアにはまだいっぱい運んで貰う物があるんだから」

「確かに。まずは、あそこでぐっすりな人たちからかな。シュライヤもルフィくんたちも、動く気がないほどぐっすりらしいから」

 

 莞爾として笑うビビに笑顔を返して、二人は仲間のもとへ降り立った。

 




アラバスタ内乱は完結です。あともう一話、宴会を挟んだらまた運び屋記録に戻ります。
一年も失踪してたせいか何をどこまで描写したかが怪しいので、添削してくれた身内に聞かれたことを載せておきます。

Q、クロコダイルはどうなった?
A、原作通りのタフさを見せたルフィ、排撃貝を持っていたシュライヤ、海楼石の十手で隙を作ったスモーカーにより敗北しました。スモーカーが隙を作る→シュライヤがリジェクトする→ルフィが暴風雨の形ですね。しかしクロコダイルにボコられて、皆軒並み瀕死。
スモーカーの扱いが悪い?そりゃ、モクモクしちょるから………ごめんね、スモーカー推しの皆。

Q、なぜ爆弾を一つしか用意しなかった?
A、強さを取り戻してるので、防がれてもアルバーナ全体に流砂を発生させて全員生き埋めにすればいいという脳筋思考を持っていたためです。本作のクロコダイルは王で満足しきれないクロコダイルだったので、「計画は途中までやっているし完遂まで動く。しかしメインはプルトン」という考えです。なので国の損耗も原作より許容量が大きいです。

Q、なぜスモーカーは原作と違ってアラバスタで戦ってるの?
A、エアの根回しで、黒檻のヒナとプリンプリン“本部大佐”が人工降雨船の発見に回っていたからです。

Q、エアがいた意味は?
A、原作読み返すとよく分かりますが、あんまりないです。ただビビの声が届く理由にしました。原作のあれもドラマチックでものすごく好きなんですが、運び屋のお話なので。ちなみにシュライヤの方が活躍度は高い(酷)

Q、ペルが居ないのは何故?
A、エアが大砲をどうにかしてくれそうだったので、コブラ救出のために葬祭殿へ向かったため。この作品だとペルはクロコダイルと戦っています。覇気が使えなくてもできることはあるからネ。負傷者の移動とか、戦闘後の皆の救出とか。

Q、他に原作との違いは?
A、クロコダイルの強化に伴いMr.1が微強化を受け、獅子歌歌後も戦う羽目になったゾロのダメージが大きく、塔に来れてません(今作だとどうでもいい)。
ツメゲリ部隊が事前にペルから運び屋を通した海軍(スモーカー)参戦の連絡を受けているため、クロコダイルと戦わずに反乱軍鎮圧に向かっており、生存してます(今作だとどうでもいい)。
サイクロンテンポでウソップの股間が爆発せずに済みました(どうでもいい)。
ビビの声が原作より早く届いたので、若干死者が減っています。


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